エリアの守護神~THE GUARDIAN DEITY in THE AREA~ (フリュード)
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プロローグ
新しく投稿しました!
『いつか皆でサムライブルーのユニフォームを着ようぜ!』
小学校の頃、あの人・・・・逢沢 傑さんは初めて選出されたU-12の日本代表のユニフォームを見せびらかしながらそう言って俺たち4人と約束をした。
サムライブルー・・・日本代表のユニフォームを着ることは生半可な事じゃないとは知っていた。けど、それでもサッカー少年たちはサムライブルーのユニフォームを着たい、日本代表になりたいと思っていた。
(うらやましい…)
染谷 昂輝(そめや こうき)はそんな中の一人でもあった。
染谷のポジションであるGK(ゴールキーパー)はサムライブルーのユニフォームではないのだが、日本代表になりたいと思う気持ちは染谷の中ではすごく強かった。
(待ってろよ傑さん。俺もいつか追い付いて、そして日本代表のユニフォームを着てやる!)
染谷は4人とじゃれあいながら傑を見てそう強く思った。
そして数年後・・・・
『Uー15 日本サウスアメリカ交流カップ 日本対ブラジル いよいよキックオフです!』
(・・・・とかテレビではそう言ってるんだろうな)
染谷は試合前だというのに、冬も近くなりアップで温めた体を冷やさないようにしながらくだらない事を考えていた。
染谷はあの時の約束通り、まだ世代別ではあるが、左胸に日の丸を背負ったUー15日本代表ゴールキーパーのユニフォームを着て、腕には傑さんが付けていたキャプテンマークを付けて、試合に臨んでいた。
・・・ただ、約束をした当人は一年前に不慮の事故で亡くなってしまったが。
(見ているかい、傑さん。俺もついにここまできたよ!見舞いに行けなかった分、頑張って活躍して傑さんを安心させてやる!)
最期を看取れなかった染谷は空を見ながら天国で見守っているであろう傑さんに誓い、試合の準備をし始める。
そんな染谷自身も4人で約束した後、約束した4人の内の2人が外国へ引っ越してしまい、それに続くように染谷も小学5年の時に親の事情で愛知県に引っ越してしまった。
けど、いつか4人と代表で会えることを信じ、引っ越し先・愛知で有名なJ1クラブ、名古屋フローリアスのアカデミーに入り、染谷は一生懸命頑張ってきた。
おかげで身長とともに技術もメキメキと上達し、Uー13の時から世代別日本代表にお世話になっているが一度も皆と代表で会っていない。
風の噂では、外国に引っ越した2人、
『い、いつか代表で会おうね!』
小学生のとき、愛知に引っ越すことをお世話になった逢沢家の人に話したら、泣きながら代表で会うことを約束した同級生で傑さんの弟で、同級生である
(しかし、これでもう三度目か。次の世代別代表で駆に会えるかなぁ・・・)
U-13・14・15と選ばれている染谷。必ず代表入りした後に代表のメンバー表を見るがそこに駆の名前は無かった。それでも約束の為に染谷はずっと待ち続けていた。
「どうしたんすか?キャプテン?」
考えているのを不思議に思ったのか、1コ下のスタメンの子が俺に話しかけてきた。
「ん?いや、何にもないよ!(試合前に何考えているんだ!)」
「は、はい。分かりました。今日もお願いしますね!」
「おう!」
物思いにふけていた染谷は慌ててそう答える。その子もそれで安心したのか自分のポジションに戻っていった。
「ふふっ、君も考える時があるんだね」
「世良、それじゃ俺がいつも考えていない奴って思われるじゃないか」
クスクス笑いながら染谷の方に向かってくる少しタレ目の男に染谷は少し悲しい表情をしながらそう言った。
タレ目の男、
世良と染谷は初めて選出されたUー13から一緒に世代別代表をしてきた、所謂腐れ縁である。
ジュニアユースの大会でも世良が所属する湘南のジュニアユースと染谷の所属する名古屋のジュニアユースは戦ったことがある。
「まっ、もうじきキックオフだ。いつもの通りたのむぜ司令塔さんよ!」
「そっちこそスーパーセーブ頼みますよキャプテン」
染谷は世良の肩を叩きながらそう言うと世良は笑いながらそう言い、自分のポジションに戻っていった。
そして、試合開始のホイッスルがなって試合が始まった。
そして、この試合、GK・染谷は世良に言われた通りスーパーセーブを連発したが、ブラジル代表の硬い守りに攻撃陣は阻まれ、結局0ー0で引き分けとなった。
これはそんなGK、染谷昂輝の物語である!
珍しいゴールキーパーが主役です。作者もハンドボールでキーパーをやっているので分かるんですが、ゴールキーパーも非常に重要なポジションです。キーパーが上手かったら点も取られないし、相手のリズムも止められる。何より止めた時の快感が最高ですね!
うんちくたれてしまいましたが、今後ともよろしくお願いします!
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第1話
新年があけてから暫く経った1月半ば、愛知県の某練習場にて。
「よーし、午前の練習はここまで!」
コーチがそう言うと、皆は足早にロッカールームへと引き上げた。
冬休みに入り、世代別代表、JFAプレミアカップ、全日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯全日本ユースサッカー選手権と重要な大会を終えた染谷たち名古屋フローリアスUー15の3年生はUー18ユースへの昇格をかけたセレクションへ向け汗を流していた。
・・・が、一人を除いては。
「ぐへー疲れたなぁ~」
染谷は午前中の練習が終わったとたんにゴールの後ろへ行き、肌寒い中で目を瞑り仰向けで倒れていた。
・・・ピト。
「おおっ!?何だ!」
するといきなり感じた冷たさに染谷は驚きのあまりビクッと体を震わせ、体を起こした。
「お疲れ様ッス!こーくん!!これ、水ッス!」
「おっ、ありがとな!」
声をする方を見ると、緩いくせっ毛に赤いヘアバンドをした子が水を持って来てくれた。染谷はお礼を言い、座り直してから水を貰い飲み始めた。
水を渡した子はオレの隣に座った。
彼は
染谷と同じGKで、染谷の一コ下の後輩である。本当ならUー14でGKをしているのだが、Uー14の大会での活躍を首脳陣が聞き、冬休みからUー15の練習に参加しているのだ。
「サンキューなショウ!後でジュース奢ってやるよ!」
「えっ、こーくん良いの?ありがとう!」
染谷がそう言うと枝村は目を輝かせながら言った。
(まったく、こいつに犬耳と尻尾があったらブンブン振り回す勢いだなこれは・・・・)
犬みたいな反応をする枝村の状態に染谷は苦笑をして見ていた。
「昂輝、あまり甘やかすなよ~そいつ余計つけあがるからよ!」
不意に上から聞き慣れた声。上を向くと、イケメンに分類されるだろうキレイな顔に茶髪のショートヘアーの男が立っていた。
「ひどいッスよリョウ君!その言い方は!」
『はははははははは!!!』
枝村は今にも泣きそうな表情で行った。本当に14歳なのかと思うくらいの子供っぽい枝村の姿を見て2人は笑っていた。この光景は冬休みに入ってからいつもの光景であった。
枝村を弄った茶髪の男は
染谷と同い年で名古屋Uー15のトップ下を任されていた。Uー15の日本代表にも選ばれており、世良と中盤のコンビを組んでいた。
華麗なテクニックで敵をかわしたり、目が覚めるような豪快なシュートで点をとったり、俗に言う『天才』だ。GKである染谷としては非常に頼りになる存在であった。
名古屋をジュニアユース三冠王者へと導いた立役者の一人でもある。
「ははは・・・んで、いつ引っ越すんだ?後、行きたい高校は決まったのか?」
佐伯がひとしきり笑うと急に真剣な表情になって染谷に言った。見ると枝村もこちらを見ている。その表情は悲しげだった。
「んー・・・卒業式まではこっちにいるよ。まぁ、高校はまだ決まってないから、早くしないと先生に怒鳴られてしまう」
染谷はそんな2人をみて苦笑し、空を見ながらそう言った。
今や染谷は『名古屋の若き守護神』とまで言われ、ユースを飛んでトップチームへの帯同の噂も出ていた。
U13~U15の世代別日本代表選出に加え、JFAプレミアカップ・全日本クラブユースサッカー選手権・高円宮杯全日本ユースサッカー選手権の三大ジュニアユース大会において優勝するという所謂『三冠王者』へと導き、大会MVP・ベストイレブンに選出されたほどの才能の持ち主なのだ。
・・・・が、あることが原因でユース昇格もトップチーム帯同も水の泡となってしまった。
故郷・神奈川への2度目の引っ越しが決まってしまったのである。
「また戻って来ることはないのか?昂輝だけが残るって言うのも・・・」
佐伯はそう言うが、染谷は首を横に振る。
「無理だな。そもそも
染谷はそう言った。
首脳陣や監督は
それは選手も同じ反応だった。けど、皆も行くことを許してくれた。その代わり「名古屋以外のユースに入るな!」と言う約束をつけられた。
無論、染谷自身名古屋以外のユースに入る気は無いらしくそれには力強く頷いていた。
「そっか・・・・」
染谷の言葉を聞いた枝村はそう言いうつむいてしまった。
「っ・・・Jリーグに入ったら日常茶飯事だぞ!チームを離れるのは」
それを見て染谷は心が痛んだが枝村の両肩に手を乗せて宥める。
「それに大丈夫だ!必ずこのチームに戻ってくる!約束する!」
染谷はガッツポーズを決め自身に満ち溢れた表情で2人に言い切った。
「まっ、そうだな。それに高校サッカーはユースでは学べないことを学べるからな」
佐伯は納得し、目を瞑り微笑みながらそう言った。
「あっ、後神奈川に行ったら祐介によろしく頼むわ!」
続けて佐伯は染谷に両手を合わせて頼み事を言った。
祐介・・・『
Uー15でも一緒にプレーし、佐伯佑のプレーを見たがとても上手くて、視野の広さをいかしたプレーで攻撃の目を摘んでいた。
傑さん・駆と同じ鎌倉学館中学校に通っていたので、プレーも傑さんに似ていた。
「分かった。祐介君に会ったら言っておくよ」
染谷は笑顔で快く承諾した。
すると、俯いていた翔が顔を上げた。その目には涙が浮かんでいた。
「絶対約束だよ!必ず同じ赤いフローリアスのユニフォームを着てプレーしよ!」
枝村は泣きながらそう言って指切りを要求してきた。
(ホントガキっぽいなこいつは。プレーは一流で普段は真面目な少年なのになぁ・・・)
染谷は苦笑しつつ、枝村と指切りをした。
「約束だからね!」
指切りをした後、枝村は涙をごしごしと拭きながらニッコリと笑顔をみせた。
「こら~簡単に行かせちゃ駄目だろー!」
その声を筆頭にUー15の選手全員が、染谷の周りを囲み始めた。
「えっ?えっ?何?」
突然のことに驚く染谷。すると・・・
「昂輝が安心していけるように毎日胴上げじゃ~いくぞぉ!」
皆が染谷の身体を持ち、胴上げを始めた。
「ギャアァァァァァ誰かァァァァァ!!」
染谷はちょっと泣きながら、口では助けを求めていたが、内心感謝していた。
(・・・・ありがとう。これで心置きなく帰れる。)
染谷は皆に感謝の言葉を心の中で述べた。しかし染谷にはもうひとつ悩みが残っていた。
(高校どうしよう・・・)
胴上げは午後の練習開始15分前まで続いた。その後、昼食をさっさと食べて(佐伯と枝村は先に食べ終わっていた。)午後の練習を始めた。
その後、脇腹が痛かったのは言うまでも無い。
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第2話
漸く昂輝の高校が決まります!
第2話です!
くっつけましたよ!
ー染谷家。
「ただいまぁ・・・」
くたくたになった昂輝はげっそりとした表情をしながらゾンビのような歩き方で家の中に入った。
「あら、お帰りコウ」
最初に笑顔で迎えた人はババ・・・ゲフン、昂輝の母・
「何か言ったコウ?」
「いえ、何も言っていません。決して何も言っていません。ですから右腕を逆方向に曲げないでくれぇぇぇぇぇ!」
気のせいか黒い笑いをした直子が昂輝の腕を折ろうとしている。
「すいませんすいません!!!!」
「言葉には気を付けなさいコウ」
昂輝は謝ると直子は関節技を解いてくれた。昂輝は右腕をおさえてその場で座ってしまった。
(クッ、オレとしたことが途中から口に出ていたとは・・・しかしこっちもくたくたなのに、失言一つで関節技キメるのはやめてほしい。)
右腕を押さえながら昂輝は直子を睨む。
「まだ何か言いたそうね?コウ」
直子は笑うが目が笑ってない。これはヤバいと昂輝の直感がそう叫んだ!
「いやなにも無いよ母さん!あっ!オレスゲー汗かいた からシャワー浴びるね!」
昂輝は汗をかきながら笑顔でそう言ってその場から逃げるように直子の横をすり抜けて、玄関のすぐ横の和室に行き荷物を置いて、 シャワーを浴びる準備をする。
所要時間5秒。
(フッ、我ながら早いな・・・・)
額の汗をぬぐいくだらない事を考え昂輝は一人ほくそえむ。
「何ブツブツ言ってるの昂輝?きもっ!そしてお帰り」
「やかましいわ理奈!・・・・ただいま」
後ろから聞こえてきた悪口(とおかえり)に反応し、声の主の方を向きながら昂輝は言い返す。
案の定悪口を言ったのは、昂輝の双子の妹・理奈
こうやって双子で軽口(?)を言い合うのは昔から変わらないことである。
「ふぅん・・あ、後で父さんから話があるって」
明らかに面白くなさそうな顔をした後、思い出したように理奈が言った。
「そうか、じゃあシャワー浴びたら話聞くわ。そう言っておいてくれない?」
面白く無さそうな顔はスルーして昂輝はそう言うと理奈は2階にある父さんの部屋へと向かっていった。
「・・・たく、口が悪くなかったら普通に良い女なのによ」
昂輝はそう愚痴りながら、シャワーを浴びに浴室へと向かった。
理奈は流石に双子なだけあって、顔はそっくりだが理奈は肩にかかるくらいの黒のロングヘアーなのでそれで見極められることが多い。
それに普通にしていれば双子の兄から見てもかわいいとは思うし、性格は明るく中学校でも皆に人気がなのだが、
お陰で生まれてこのかた喧嘩をしない日などありもしない。
そんな理奈だが、実を言うと駆と付き合っているのだ。 何でも中1の時、神奈川の逢沢家へ泊まりに行った時、近くの公園に駆を呼び出し、告白していたのを隠れながら見ていた。2人とも両思いだったらしく(特に駆から顔を真っ赤にして理奈について教えてほしいと小学生の時に言っていたので駆が理奈の事が好きなのは知っていた。)、駆も顔を真っ赤にしながらもOKをだし、付き合い始めたのだ。(この光景は家族の皆が見ていたみたいで、 皆にはやしたてられ、家族公認カップルとなったのだが )今でも電話で話しているらしく、理奈の笑い声などが聞こえてくることが多い。
「・・・(羨ましいな。いつかあいつと・・)・・・ハッ!!?」
シャワー中、昂輝はボーっとしていたのだがすぐに我に返りシャワーを済ませた。
シャワーを浴び終えてから着替えた後、すでにご飯の準備ができており、昂輝を除く3人は椅子に座っていた(父、理奈、直子)。
染谷も空いている椅子に座った。
「・・・さて、全員揃ったとこでお前ら2人に聞きたい事があるんだ」
座った後、昂輝の前に座っている親父・
「進学先の高校の事?」
染谷がそう言うと、「そうだ」と昂太郎は頷きながら言った。
「それで、お前らはどこの高校に決めたんだ?決めてないようだが・・・」
親父はそう言って子供たちの方をみた。いつもは優しいのにここぞと言うときの親父の目が怖い。
「私は昂輝と一緒の高校ならどこでも良いよ!高校決めるの面倒くさいし」
理奈はあっけんからんとした感じでそう言った。
「おい!進路一つでお前の未来が決まるんだぞ!?進路先くらい自分で「そうか、分かった」ってオイィィィィ!納得するな親父!」
昂輝はテーブルを叩き昂太郎に文句を言った。
「まぁ静かにしろ。それでコウは何処へ行きたいんだ」
親父は昂輝の方を見て言った。横から安堵した声に昂輝は顔がゆがむ。
(・・・まぁ、理奈は中学校の時もサッカー部のマネージャーだったし、マネージャーが出来る所も選んで考えていると奴は思うのだが・・・やめてほしい)
理奈を睨みながら昂輝はため息を吐いた。
「まだ決まってないけど、候補は3つあるかな」
頭をガシガシと掻いた昂輝はそう言った。
候補の3つの高校とは神奈川の雄として名高い鎌倉学館と葉蔭学院、そしてこの前駆に電話で聞いたとき、駆と奈々が行くといっていた江ノ島高校だ。でも、もうひとつ気になる高校があるのだがそれはまた・・・・
3つの高校の名前を昂太郎に言うと昂太郎は「そうか」 とまた頷きながら言った。
「江ノ島って駆くんと奈々ちゃんが通うって言ってた高校じゃない」
すると、昂太郎の横に座っていた直子が昂輝に言ってきた。気のせいか目が輝いている。
「う、うん・・・そうだけど・・」
昂輝はそう言うが嫌な予感しかしない。特に直子があの状態だと尚更だ。
そしてその予感が的中してしまった。
「そう!なら2人とも江ノ島に入りなさい!」
直子が目を輝かせながらそう言ってきた。その発言に3人は目を丸くさせた。
「ちょ!?母さん勝手に「良いじゃない別に!それにサッカー部あるんでしょ?」あ、あるけど・・・でm「じゃあ良いじゃない!それに駆くんとサッカー出来るし!決定!」・・はい」
「でも!「何?理奈は昂輝とはならどこでもいいんでしょ?昂輝が江ノ島行くって決めたから良いじゃない! それに駆くんがいるからこれから毎日ラブラブ出来るじゃない」・・うん」
「でもな直k「あなたは黙ってて」・・・・」
3人とも撃沈(理奈は赤面状態、父はどこぞのボクサーのように真っ白になっている)。
母は強し。その言葉に限る。
(・・・・けどまぁ、駆と出来るからそれで良いか。けど・・・・)
昂輝はそう思いながら、すっかり冷めてしまった晩飯にありつけた。
かくして昂輝は江ノ島高校に(強制的に)入学することが決まったが心にはまだモヤモヤしたものが残っていた。
「・・・・」
昂輝は食べた後、すぐに自分の部屋に行った。 ・・・・が、ベットにダイブせずに机に置いてある高校のパンフレットを見た。
東京蹴球学園のパンフレット。
「・・・・はぁ」
染谷はそれを見て、少しため息をはいた。
ここの監督、ペドロ監督にもこの前電話がかかってきて、ここでやらないかと言われたのだ。
『コウキ君。君が神奈川に引っ越すト聞いてネ。どうだ。蹴学でやる気はナイか?』
(どこからその情報が出てくるんだよ・・・)
ペドロ監督の言葉を思い出し昂輝は溜息を吐く。
東京蹴球学園、通称蹴学はサッカーのための、いわば プロサッカー選手養成学校みたいなものなのだ。
寮もあるし、設備も整っている。しかも来る人達は皆、ユース昇格を蹴って来る人や中学時代名を馳せた人達ばかり来いてる。
噂では有名なレオナルド・シルバも入学することが決まったらしい。 シルバさんとは傑さん関係で仲良くなり、今ではレオさんとアダ名で呼ぶようにはなった。 レオさんにも「コウキ、蹴学に来ないカ?」と誘われたのだがまだ保留にしてあるのだ。
(あ・・・レオさんだな?あの人に引っ越すこと伝えたからなぁ)
ふと昂輝はシルバに引っ越す事を教えたのを思い出し、ようやくなぜペドロ監督がアタックを仕掛けてくるのか分かった。
(神奈川に越すことが決まったのに、1人寮に入るのは親不孝ものだ。それに駆と同じ学校でやりたいのもある。けどユースレベルの設備、強力な助っ人・レオさんに加えすごい人達がいるなかでやるのも良いのかもしれない)
昂輝は駆と一緒にやるのと更なるレベルを目指す・・・2つの感情に板挟みになっていた。
(・・・もう提出期限も迫ってる。駆と戦うのも良いのかもしれない。友達である前に、ライバルでもあるんだ!)
染谷は苦虫を噛んだ顔をしながらそう思った。
小学生の時駆は驚くべきスピードでサッカーを上達していった。さすが傑さんの弟と感心するのと同時に戦いたいと思う気持ちも沸々と沸き上がっていた。
傑さんの弟というのもあるがアイツには"何か"がある。 兄には持っていない何かが。 そういうのを自覚した途端、戦いたいと思う気持ちが出てきた。
(・・・・かと言って親不孝なのもダメだ。親に迷惑はかけたくない・・・・)
昂輝は蹴球学園に行くことを諦めて寝ようとしたとき。
コンコン。
「コウキ」
「・・・!?親父?」
ドアを叩く音がして、同時に入ってきたのはなんと昂太郎だった。昂輝は慌てて蹴学のパンフレットを隠した。
「な、なに親父?」
昂輝は汗をかきながら言った。
「すまんがまた下へ来てくれ」
先ほどと同じような真剣な表情である昂太郎はそう言って下へ降りていった。
昂輝は昂太郎に着いていって、またリビングへ行くと直子と昂太郎が夕食時と変わらない位置の椅子に座っていた。
「とりあえず座って」
昂太郎と同じようになぜか少し微笑んでいた表情の直子に言われ、昂輝は椅子に座った。
「それで、今度はなに?」
昂輝は2人に聞いた。もう10時過ぎと夜遅くなのに呼び出すなんておかしいと思ったからだ。
「昂輝。このパンフレットは何だ」
そう言って昂太郎が見せたのは昂輝のところにあったはずの東京蹴球学園のパンフレットだった。
「!!!?ど、どこでそのパンフレットを!」
昂輝はそれを見て困惑した。さっきまで手元にあったはずなのに、何故昂輝の手元にあるのかビックリしたからだ。
「先生から昂輝くん、ここも受けたそうだと聞いていてな。今日お前が練習に行っている間に学校に行って貰ってきたんだ」
「蹴学の監督にも推薦もらっているらしいじゃない」
両親がそう言ったのに昂輝は驚いた。いやそれよりも・・・・
「母さんって江ノ島行けって言ってなかった?」
昂輝は直子に言うと直子は笑顔で舌をだして「てへっ♪あれは嘘だよ♪」とムカつく声でいった。ウゼェ。
「お前は行きたいんだろ?だったら行けば良いじゃないか!」
なんと昂太郎が蹴学に行くことを許してくれた。
「えっ!?でも・・・・」
「まさかコウ、行ったら親不孝ものだって思ってない?」
「うっ・・・」
直子に思っていたことを言われ昂輝は何も言えなくなってしまった。
「やっぱり思ってたのね・・・・良いコウ?コウが行きたいならそれで良いじゃない!それに今まででもそうしてきたじゃない。名古屋のアカデミーの時だってそうだったでしょ」
「そうだぞ。それに父さんたちはいつでもお前の味方だ!苦しくなったらいつでも帰ってきてもいいぞ!」
「親父・・・・母さん・・・・」
笑顔でそう言ってくれた両親の言葉に昂輝は俯く。
(ヤバい。目から涙が・・・・)
昂輝は目から涙が流れてくるのを感じた・・・
「・・・・でも約束が一つ。3年間ゼッケン1番&正GKを守りとおすことだな」
「・・・・・・は?」
感動しているときに出てきた昂太郎の言葉に昂輝は出そうだった涙は一瞬で引っ込んだ。
「あらそうね。サッカー留学するくらいならそれぐらいの意識の高さじゃないとね」
「いや違うぞ直子。意識の高さ云々じゃない。命令だ」
「いやいやいや何言ってるの親父。なんつー無茶な命令を!」
勝手に進んでいく話を止めるように昂輝は慌てて昂太郎に言った。
「何言ってんだはこっちの台詞だ。サッカー留学で行くくらいならこれくらいでいかんと。それに3年間控えなんていやだろう?」
「そ、そうだけど・・・・でm「つべこべ言うな。やれ」・・・分かりました」
昂太郎に説き伏せられて昂輝は蚊が鳴く様な声で承諾をした。
「頑張ってねコウ」
「あぁ、ありがとう母さん、親父」
昂輝は蹴学行きを許してくれた両親に礼を言った。
「おう!約束、絶対に守れよ!」
「言われなくても、全員蹴散らしてやらぁ!」
昂輝は叫ぶように強くそう言い、昂太郎に誓った。
こうして昂輝は東京蹴球学園へ入学することが決まった。
(待ってろよ駆!いつか決勝の舞台で戦おうぜ!)
昂輝は心の中でそう思った。
「・・・・ちなみに理奈は?」
「理奈は江ノ島よ!これだけは譲れない!駆くんとの恋愛をみたいもん!!」
昂輝は直子に聞くと直子は口に手を当て笑いながらそう言った。
「まったく、ほどほどにしとけよ直子?」
「はぁい☆」
昂太郎がため息をはきながら言うと、直子は笑顔で少女っぽく言った。
「「はぁ・・・・」」
昂輝と昂太郎は頭をがっくりとうなだれながらため息をはいた。
(正直言うとオレも見たいがな・・・・)
なんだかんだ言って野次馬根性丸出しの昂輝であった。
高校が決まりました!
今回は家族回ということで名前表記を変えました。
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第3話
春休み。東京蹴球学園の寮『蹴学寮』の前。
「ここが蹴学の寮・・・・ワクワクしてきたぜ・・・・」
染谷は電車と歩いて3時間にある蹴球学園の寮の前に来ていた。
染谷は蹴球学園に決めたのはよかったが、その後が大変だった。
利奈は昂輝が蹴球学園に行くことに驚き「じゃあ私も行く!」と言い出すし(結局両親によって説得されて江ノ島高校に通うことが決まった。) 、フローリアスUー15のチームメイトに蹴球学園に行くことを報告したらみんな揃って「はぁ?」とキレイにハモっていたし、受験(と言っても推薦を受けているので面接だけだったが)を受けるために東京蹴球学園のある東京まで電車を使い、3、4時間かけて行ったし、散々だった(合格通知が届いたときは嬉しかったけど)。
けど卒業式で染谷は皆から色紙と花束、それに皆からのプレゼントでなんと染谷が欲しかったキーパーグローブをプレゼントしてくれたのだ。
それに両親からもサッカーシューズをプレゼントしてくれて、染谷は泣くことを抑えることが出来なかった。
みんなの思いを胸にオレは神奈川へ引っ越し、最低限の荷ほどきをしてから蹴学内にある寮へ移るための荷物をつくって、バタバタしているうちに神奈川を旅立ち、今度は愛知より早い2時間程度で東京蹴球学園の寮に着いたのだ。
「入寮日は書いてないからすぐに来たんだけど・・・・しっかしでかいなぁ、まぁ玄関に行こっと」
染谷は想像していたのよりデカイ寮に圧倒されながらも玄関に向かっていった。
玄関に入り、染谷は事務室の人に名前を言うと事務室の人は「ああ!今年入ってくる新入生ね!ちょっと待ってね!案内するから」と言われ、事務室の人が鍵をもって現れると鍵を染谷に渡した。
染谷の部屋は「201」号室である。鍵を貰った後事務室の人に案内されて自分の部屋につくと、事務室の人は帰っていった。
染谷は貰った鍵で扉を開けて部屋の中を見ると、どこにでもあるような部屋だった。
「なんだ、デカイと思ったら案外普通だな・・・・でもここからオレの高校生活が始まるんだな♪ウッ~ワクワクしてきた!」
部屋に入って、隅っこに荷物を置くと染谷はこれから始まる生活に心踊らせていた。
ピンポーン。
すると入って早々チャイムが鳴ったので染谷は早速玄関に行き、扉を開けると。
「ヘイ!久し振りダネ!コウキ!」
そこにいたのは今巷で有名なあのレオナルド・シルバだった。
「あれ?レオさん「レオで良いヨ、コウキ」・・レオ、もうこっちに来てたの?」
「うん。昨日
「はは!流石にブラジルの秘宝は違うねぇ~」
「からかわないでヨ!コウキ」
「はは!サーセン」
二人は笑いながらも会話を交わしていた。普通の人から見ればあり得ないことなのだが、染谷とシルバが友達だからこそなし得ることである。
「・・・・しかし、コウキが来てくれるとは思わなかったよ」
シルバは染谷の部屋に入って、色々話しているうちに不意にそんなことを言ってきた。
「え?来ないって思ってたんですか?」
「うん。神奈川だからボクの予想だト・・・・傑の弟って・・「駆?」そうそう!駆のいる高校に行くと思ったよ!」
「あ~やっぱり?」
染谷の心理を読んでいたかのようなシルバの発言に染谷は笑いながらも話を続けた。
「確かに駆のいる高校にいこうと思ったけど、こっちの方が設備が良いしね。それに駆と戦ってみたかった」
「駆と?そこまで拘る理由ガ?」
シルバは不思議そうに聞いてくる。
「うん。駆には何かがあるんだ。小学生の時にも誰にも教えられてないのに「兄ちゃんにたった今教えてもらった!」って言ってラン・ウィズ・ザ・ボールをやるくらいだ」
「それは兄弟との何かのアイコンタクトとか・・・あ、そうは言ってもスゴいねそれ」
「そうなんすよ。だからこそ俺は戦いたいんだ」
染谷はそう言って、窓の方を見た。
(・・・へぇ、コウキも駆の事気になってるんだな。まぁボクも別の意味で駆に興味を持ってるけどね♪)
シルバはそう思いクスッと少し笑った。シルバががそう思うのも全中神奈川予選を見た時に駆の傑を思わせるドリブルで最後に2、3人抜いたのを見たからで、その時にシルバはここに入学することを決めたのだが、染谷は知るよしもない。
「ねぇ、コウキ。ヒマだからボクのシュート練習付き合ってくれない?」
「来て早々ですが、良いですよ!どこでやるのですか?」
「あぁ、それなら・・・・」
二人は話しながら(染谷は着替えて、グローブとシューズを持って)グラウンドへ向かった。
蹴球学園サッカーグラウンド
「うほぉ、芝だよ」
染谷はジュニアユースに匹敵する綺麗な緑のグラウンドを見て興奮した。
「早速だけどやろうか」
するとどこから持ってきたのかサッカーボールが入ったカゴ(あとで聞いたら勝手に取り出したとか)を持ってシルバが現れた。
「うん!」
そう言って染谷は笑顔で芝を踏みしめながらゴールへと向かった。
「ハハハ」
シルバも笑いながらもかごを持って、所定の位置に行きシュート練習を始めた。
数時間後。
「疲れたぁ~」
染谷は顔をしかめその場に倒れこんだ。
全力でプレーをしたためシャツが汗まみれになっていた。それにシルバのシュートの威力が強くてグローブ越しからでも分かるほど手が痛いのが染谷にはわかった。
(けど練習になった。やっぱりレオとするのはたまらんわ)
息が整わない中、染谷はにっこりと笑った。
「やれやれ(しかし、コウキのプレーはいつみてもすごい。打った瞬間には打った方向へ飛んでるし、何より無理にシュートをキャッチせずに弾いたりするところもスゴいな。お陰で半分以上は止められたよ)」
シルバは汗を拭い苦笑しながら言うが、真剣な表情でそう思い改めて染谷のすごさを実感した。
「オオ!スゴいシュートとセーブの連発ダッタヨ」
「あ、ペドロ」
すると笑いながら拍手をしながらカッターシャツの袖をまくった外人がこちらへ向かってくる。シルバは知ってるようだ。
「レオ、あの人って?」
「知らない?蹴球学園の監督。ペドロだよ」
「え?まじで!?(電話の時に確かに片言だったから外人なのかなって思ったのだが本当に外人だったんだ)」
シルバの言葉に染谷は驚いた。
「お疲れダヨ、レオ。後ハジメマシテコウキくん。私が蹴球学園の監督のペドロだ。ヨロシク」
そう言いペドロは手を出し、染谷に握手を要求してきた。
「初めまして、染谷 昂輝です。よろしくお願いいたします」
染谷は緊張している所為か少し硬い挨拶をして握手を交わした。
「それよりも上手かったネコウキくん!」
「い、いえ・・そんな(照)」
ペドロの言葉に染谷はちょっとだけ照れながら言った。
「もしかすると、一年から正GKかもしれないカラそのつもりでね」
「!!!っ、ハイ!」
染谷は嬉しくていつもより大きな声で返事をしてしまった。
「ちょっと張り切りすぎだよコウキ」
「あっ、ごめん・・・(でもレギュラーか~うれしいな!)」
シルバに少し叱られたが染谷はペドロに言われたことがスゴい嬉しくて、生返事になってしまった。
「それじゃ、お先に失礼します!」
「あ!明日から練習に参加してネ!その時に自己紹介もするからそのつもりでネ!」
「わかりました!」
染谷はそう言って、ペドロに褒められた所為か軽い足取りでボールカゴを持って帰っていった。
「・・・・ペドロ。本当にコウキを?」
染谷が帰った後、二人は染谷のことで話していた。
「そのつもりだ。それに見ていたが、あの反射神経・ボールの弾く方向・跳躍力・・・どれをとっても大場や他のGKよりも飛び抜けてうまい。流石Uー15正GKと言うとこカナ。それにレオが一番彼のスゴさを実感したでしょ」
「そうだね」
二人はそう話していた。染谷 昂輝が蹴球学園の正GKとして大会に出るのも夢じゃない。
そして染谷は明日から始まる練習に期待とワクワク感を寄せながら1日を過ごした。
感想・要望ドンドンお待ちしております!
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第4話
「うはぁ・・・・すげえ」
翌日、染谷は青の長袖練習着(名古屋ジュニアの時に着ていた赤い練習着もあるが、目立つのでやめた。)と白のゲームパンツに着替え、昨日行った芝のグラウンドへ行くと軽く30人はいるであろうたくさんの1年がいたので染谷は感嘆の声を上げた。
そんな1年の中にはジュニアユースの時に着ていたであろうクラブの練習着を着ているものがちらほらいた。
(広島のジュニアユースや大阪のジュニアユースもいるな・・・全員大会であったやつばかりだ)
その1年は多分染谷と一緒に来年度入ってくる奴である。当然その中には染谷も知っている奴もいた。
「上級生のほうには・・・うおっ!千葉の坂東さんに大阪の幸村さんだ!おぉ~こんなすごい人たちとやるんだ!」
ジュニアユースで有名だった人を見つけては騒いでいた染谷。すると。
『おい。あいつ名古屋の染谷じゃ?』
誰かが言ったのを皮切りに周りは染谷を見てはひそひそ話をし始める。
『ほんとだ。でも何故アイツがここに』
『何でも監督が口説いたらしい』
『マジかよ。あっ!だから俺らの他のジュニアや中学サッカーのGKは口説かなかったのか』
(うわぁ・・・噂してるよ。こっちとしてはイヤなんだよなぁ・・・てかこんな時にレオが来たら!!)
「ヘイコウキ!おはよう!」
そのひそひそが染谷にまで聞こえてきた。こんな時に来たら・・・そう思った矢先、シルバが来てしまった。するとさっきよりもヒソヒソする人が多くなってしまった。
『えっ!レオナルド・シルバだと!?いやそれよりも!』
『染谷と知り合いだと!?』
『流石U-15日本代表正GKはちがうな』
「・・・・」
シルバが声を掛けてきたために余計目立ったので染谷は元凶であるシルバを少し睨んだ。
「なんかコウキのことすごい噂してるね」
シルバは染谷に睨まれてもどこ吹く風な感じでそう言った。
「レオの所為だよ」
「はは!気にしない気にしない!」
シルバはそう言うが、染谷の気持ちは目立った所為で沈んだままだった。
「皆揃ったようですネ。それでは集合!」
するとペドロ監督が現れたので皆一斉に集合する。
「えー今回は新入生もいるので軽く自己紹介をしてもらおうと思います。それでは新入生の方マエに出テキテ下さい」
そう言われたので、染谷は前に出てくる。シルバも前に出てくる。
「それではアナタからお願いしますネ。ビックマウス期待してますヨ。あ、前に出てきてくださいネ」
するとペドロ監督は染谷を指差した。
(まじかよ・・・・)
目立ちたくない染谷は苦い顔をする。
「僕も期待してるよ(笑)」
シルバも染谷が苦い顔をしているのを気付きながらもそうはやし立ててくる。
「・・・フウ」
染谷は一呼吸して皆の前に出てくる。
「始めまして!名古屋フローリアスジュニアユース出身の染谷昂輝です。ポジションはGKです。オレGKと言うポジションにおいてここにいる誰にも負けないと言う自信があります!」
『ざわ・・・・』
染谷がそう言うと周りがざわつき始める。ちなみに後ろではシルバが腹を抱えて笑いをこらえていた。
「さ・・・3年間がんばっていくのでよろしくお願いします」
染谷はそう言い終えると顔を真っ赤にして、そそくさと元いた場所であるシルバの隣に戻る。シルバはまだ腹を抱えて笑っていた。
「くっくっく・・・笑わせてもらったよコウキ」
「笑わないでよぉ・・・けど言いたいことは言えたからいいや」
シルバの発言染谷は顔を真っ赤にしながらもすぐ落ち着きを取り戻してそう言った。
「(・・・ふっ、そうでなきゃなソメヤ君)つぎ!」
ペドロは笑いながらも、自己紹介を再開した。
「さテ、新入生が入ってくるのデ今年度から当初のとおり・・・・」
(ふーん・・・今年からインターハイ予選に出るのね)
自己紹介が終わったあと、ペドロ監督の説明を聞いていた。聞いていると染谷達が入ってくる来年度からインターハイ予選に出るらしい。でも2・3年のメンバーだけでもいいところまで行くと思うと染谷は思う。
「もしかしたら僕たちが来るのを待つためにインターハイ予選でなかったとか?」
するとシルバが小声で染谷に言ってきた。
「それはないと思いますよレオさん?」
「だから『さん』はいらないって・・・・でも今の戦力じゃインターハイに出ても優勝は出来ないって感じているじゃない?」
「まぁ、それもあるとは「以上でワタシカラの伝達は以上デス」おっ、終わりそうだな」
「だね」
二人は会話を終えて監督のほうを見た。
「それでは練習に入りマス。アップした後練習に入ってください。解散」
ペドロがそう言ったら皆解散して各自アップをし始めたので、染谷とシルバもアップを始めた。
「そういや、後2人留学生が来るんだ。春休み中には来るって」
「え?そうなの?」
「うん。来たらコウキにも紹介するね。僕の知り合いだから」
「はは。それは楽しみにしてるよ」
2人は楽しく会話をしながらアップをした。
シルバ視点
バシィ!!!!
『おおおっ!!!』
練習が始まり、キッカーが放つシュートをコウキが止めるたびに周りから歓声が上がる。それはフィールドプレーヤーのみならずキーパーからも感嘆の声が上がる(特に3年生の大場は正キーパーを奪われるのではと言う思いから微妙な顔をしていた)。
「すごいなあいつ」
コウキを見ていた僕に話しかけてきたのは僕と同い年の
さっきも話しかけてきてコウキ以外の最初の友達になったばかりだ。と言うよりさっきからみんな気さくに話しかけてくるので全員と友達になったと言ってもいいか。
「ふふ。リョウ。コウキならあれぐらいのことは当然だと思うけどね」
「そうなのかレオ?」
リョウが驚きながらそう言うが、驚くのも分かるかもしれない。
何せさっきからゴールの四スミに打ってくるシュートをコウキは止めているのだから(正面や中途半端なコースはしっかりと止めている)。
それに厳しいコースのシュートは無理につかまずにはじき、誰もいないところ(特に敵のプレーヤーがいないところ)にはじいているのだから驚くのも無理はない(因みにこのプレースタイルはコウキが尊敬する名古屋のトップチームの守護神のプレースタイルと自分のスタイルを融合したものらしい)。
「クスクス。それに一回U-15で一緒のチームになった事あるから分かるんじゃない?」
「それはそうだがあの時とは比べもんにならん位に上手くなっている」
僕の問いかけにリョウはそう言った。
コウキは中2のときに飛び級でU-15に選ばれたことがあるのだが、コウキの上の代にはコウキのユースの先輩で背が高いキーパーがいたから結局出場機会もなしのまま終わったって悔しそうに言ってたから覚えている。多分あのときからすごい練習を重ねてきたのだろう。
僕がそう言うとリョウは「でなきゃあんなに上手くならんからな」と納得したらしい。
それに僕もコウキのことをこれでもすごく認めている。さすが傑が認めたGKだ。技術から見ても他のGKより突出しているし、既にトップクラスの位置にいる。
「次!レオと涼!」
すると僕たちの番になったので準備をしてから練習をやり始めた。
シルバ視点 終了
「よーし!今日の練習はここまで!」
夕方。長い練習が終わり、皆寮に引き上げる中で染谷は一人座り込んでいた(ちなみにシルバは先に帰っていった)。
「終わったああ~~~疲れた」
練習が終わると染谷はいつかで見たように仰向けで倒れていた。
「流石名古屋の守護神。止めまくってたね」
すると、後ろから声が聞こえたので振り向くと染谷がジュニアユース時代と日本代表時に会った事のある選手がいた。
「おう霧島。久し振りだな」
染谷がそう言うとその選手、
霧島は大阪のジュニアでセンターバックをしていた選手でありで、運動量も豊富でかつボールを奪うなどディフェンスの心得を知っており、染谷がU-15のときも一緒にプレーをしている。
「てかお前もここに?やっぱり幸村さんか」
「うん。そうだね」
染谷はそう言うと霧島は染谷の隣に座りながらそう返す。
先ほど言った幸村というのは蹴学のレギュラーである
「それにしても幸村さんだけでなく皆上手いし流石全国・世界から有望選手を集めてきたってとこだね」
「どっちみち、オレは全員蹴散らして正キーパーの座を勝ち取るだけだがな」
霧島の発言に染谷は頷きつつも自信満々に言い放った染谷の発言に霧島は笑いながらも「そうだね」と言った。
「僕はセンターバックの層が厚いし、ベンチに入るかどうかも分からないけどレギュラー取れるようにがんばろうかな」
「ははは!その意気だぜ!んじゃ、帰るか!」
「だね」
そう言い、染谷たちはその後も話をしながら寮へと戻った。
「こんにゃろ~~~自己紹介であんな事言いやがって~~~」
「いたた!やめてくださいよ板東さん!それに風巻さんも!!」
その夜、新入生の歓迎会があり染谷は先輩たちに今回の自己紹介についていじられていた。
「ふふっ。コウキいじられてるよ」
「助けには行かないのか?」
そんな染谷を笑いながら見ていたシルバに川崎はそう言ったのだが、「見てて面白いもん♪」とシカトをかました。
(く・・・あいつめ)
シカトを決め込んだシルバに染谷は睨む事しかできない。
「ははは・・・楽しそうですねタクさん」
「何が楽しそうや。それじゃあリュウもあの中に入るか?」
「それは勘弁です」
そんな光景を見て霧島と幸村の大阪コンビは苦笑しながら見ていた。
「うりうりうり~~~」
「ぎゃああああ~~~」
全然イジりの手は止まってはくれず、歓迎会が終わるまで終わることがなかった。
でも嫌な気もしなかったし、それに漸く染谷も蹴学の一員になったかなと思った。
そして良い雰囲気のまま練習を続け、そして新学期および新年度を迎えた・・・
感想・批評共々覚悟で待っております。
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県総体編
第5話
「ん~こんぐらいかな?」
今日は入学式。染谷は届いた制服を鏡で見ながらチェックしていた。
蹴学の制服はまさに真っ白な制服である。どこかのお金持ちの学校みたいな制服であった。
(そういや駆達は元気かな?確か江ノ島も今日入学式って言ってたな。電話していないしな・・・)
ふと思った染谷は窓の方を見た。駆とは神奈川に引っ越して以降電話をしていない・・・・そう思うと染谷は途端に寂しくなった。
プルルル・・・・
そう思っていると携帯電話が鳴ったのでなんだと思い携帯電話を取って、通話状態にする。
「もしもし?」
携帯を耳に当て染谷はそう言った。
『コウ!久し振りだね!』
「おっ!駆か!久し振りだね!」
電話の相手は駆だった。染谷は駆と久し振りに話すので笑顔になり、興奮した気持ちで話をし始めた。
「江ノ島も今日入学式だよな」
『うん!そっちも入学式なんだよね』
「そうだな。しっかしー良いよなお前と理奈。毎日デート出来るし」
『そ、そんなこと無いよ(照)~~』
「ははは(ちっ、リア充が)」
染谷の返しに駆は照れながら答えるのに染谷は笑いつつ内心で舌打ちをした。
『あれ?今舌打ちしなかった?』
「いや、してないよ。そっちもサッカー頑張れよ!」
駆に舌打ちしたのが聞こえたのかそう言ってきたので染谷は冷静にそう返した(内心染谷は凄い慌てていた)。
『うん!そっちも頑張ってね!あっ!セブンには変わらなくていいかな?』
「そ、そんなことしなくて良いよ!じゃ、切るぜ」
セブン・・・美島奈々に変わるといったときは流石に気持ちを抑えることが出来ずに慌てた感じで染谷はそう言った。
『あっ!ちょ・・・』
プッ。
通話を切って染谷はさっさと荷物をまとめる。でも染谷の顔は真っ赤になっていた。
(最悪だ。奈々に変わるってだけでこうなるとか。それ以前に入学式しょっぱなからこの感じは嫌だ)
染谷は顔を真っ赤にしながら恥ずかしい気持ちでいっぱいだった。
実をいうと染谷は幼なじみの美島 奈々の事が好きなのである。だが顔を合わすだけでいつもこんな感じなのでなかなか告白できずにいた。
ピンポーン。
「はーい」
するとチャイムが鳴った。相手は知っているので制服を軽く見てからカバンを持って靴を履いた後、ドアを開けた。そこには染谷の思った通り霧島とシルバがいた。
「おはよう!リュウとレオ!」
染谷はすぐさま気持ちを切り替え、笑顔で挨拶をした。
「おはよう!コウキ」
「おは!コウ」
シルバと霧島も同じく笑顔でそう返した。
3人は挨拶を交わした後、寮を後にして学校へ向かう。学校は寮から15分のところにあるので3人は徒歩で向かった。
「おお!綺麗だね!」
「全くだ」
「フーン・・ここが学校ね」
学校についた染谷たちは校舎を見て皆それぞれの気持ちを言葉に出した。蹴学はまだ開校して3年だからか校舎は真新しく感じた。
『あっ!いたぞ!レオナルド・シルバだ!』
『染谷と霧島の世代別代表コンビもいるぞ!』
そんな時、校舎を見ていた3人の名前を呼ぶ声が聞こえた。3人は声のした方を見ると、沢山の取材陣がこっちに向かってきていた。
「「「げっ!???」」」
3人は取材陣を見た瞬間顔が引きつった。そのとき思ったことは3人とも一緒。
(((・・・逃げよう!!!)))
そう思い逃げた3人だったが、結局校門前で捕まってしまった。
『シルバくん!この学校に来た理由は?』
『染谷くんや霧島くんもユースを蹴ってこの学校に来た理由を!』
「あぁ、それは・・・・」
「え、えっと~~それは・・」
「はわっ!?えっと・・」
ガンガン質問してくる取材陣にレオは慣れていたのか笑顔で答えていたが、染谷と霧島は困惑していた。
染谷と霧島は代表やジュニアユースで取材はされて来たのだが、こんなに激しく来るのは初めてだった。おかげで2人とも終始混乱していた。
「・・・今から入学式なので写真だけにしてくれませんか?」
レオはそんな2人を見かねて取材陣にそうお願いしてくれた。取材陣は渋々応じてくれて、「じゃあ3人並んでくれませんか?」とカメラマンが言ってきた。
「は?オレも入るの!?」
「つべこべ言わずにやるよ!コウキとリュウヤ!」
染谷が反論するのに対しシルバはそう言って中心で2人の肩を組んで笑った。
(はぁ・・・仕方ないか)
ため息をはき、仕方なく染谷も笑ってシルバと肩を組んだ。霧島も同様の行動をした。
その後カメラマン達による撮影会で始業ギリギリまでかかり、かなり時間を取られてしまった。
「くっ・・・・ギリギリだったよ。何だよあのクソ取材陣が」
教室に入った後、染谷は大分イライラしていた。理由はあの取材陣の所為で始業までの時間をゆっくり出来なくなったからだ。
「もうコウキ。いつまでその話をしているの?」
染谷の愚痴に霧島は苦笑していた。因みに染谷と霧島は同じクラスだった。他にも染谷の知っているやつはいた。
ギリギリでクラスに入った後、入学式となり(半分寝ていた)、その入学式が終わって現在ホームルームに入る間の休み時間だった。
「そーだぞ。てか逆に羨ましい」
「そーだそーだ!」
染谷の愚痴にクラスメイトは揃って染谷に言ってきた。
(くっ、お前らは取材受けてねえからそう言えるんだよ)
染谷はそう愚痴をこぼすが、霧島も同じ立場なのに悪い感じでは無かったので口には出さなかった。
「よーし、ホームルームだ!席につけ」
先生が入ってきたので皆は自分の席に座り、ホームルームが始まった。
「へぇ~学校ってあんな所なんだね」
「そーだよレオ。てかサッカーのために作られた学校なのに授業あるんだな」
「当たり前だよコウキ!」
放課後、染谷は霧島とシルバと一緒に寮へ向かっていた。その後グラウンドで練習をするからだ。
「しかし何で校舎の方に芝のグラウンドつけなかったんだ?」
「そりゃ体育するためでしょ!?」
「怒るなってリュウ。ははは」
「何?タイイクって?」
「ああ、それはね・・・・」
3人は楽しそうに話していると。
「へい!レオ。後コウキとリュウヤも!」
「よう!コウキ!」
「よっ、リュウ」
と、後ろから声が聞こえると共に染谷の肩を誰かがつかんだ。染谷は後ろを向くと染谷の肩をつかんだのは風巻だった。
レオは2人の留学生、リカルドとジェンバと話していた。霧島は幸村と話していた(時々リカルドを交えて話していた。このセンターバックトリオは仲が良い。)
「何スか涼さん?まさかまた練習後にまたオレに実験体になれと?」
「おっ、よくわかったな!今日は4の字固めに何のコンボが良いのか・・」
「いやいや!やめてくださいよ!身が持たないっす!」
「ハハハ!冗談だって!」
「本当ですか?」
染谷たちは楽しく喋りながら寮へ向かった。
「・・・・」
練習が終わり、後はもう寝るだけとなり染谷は消灯時間までベットで電気を消して寛いでいたが、表情はすぐれなかった。。
染谷の表情がすぐれなかった原因は練習後のペドロ監督の話だった。
『ワタシはこの一年間で君たちをインターハイ・選手権が優勝出来るように鍛えマス。そのためにワタシはキミ達に一試合毎にノルマを課します。それが例え決勝でも。そうでなけれバ到底大会には優勝出来ないしプロにもなれません。キミ達は私の言うこと聞いてくれたら必ズ優勝します』
ここまではよかったのだ。ただ最後の方は少し嫌だったが。問題はその後だった。
『優勝することやプロになるようにサッカーをしていくことがキミ達の仕事であり私の仕事でありますから』
『・・・・!!!』
仕事という言葉を聞いた瞬間、染谷は頭に血が上がったが何とか押さえていた。だが誰もその事を咎めるものはいなかった。
(仕事という言葉に誰も思わないのか・・・・)
染谷は少し悲しい気持ちになった。(実際はリュウや誰もが同じ気持ちだったが何か言えばサッカー部退部だけでは済まないと思い誰も言うことは出来なかった)。
染谷はサッカーが大好きだった。この学校に入ったのも純粋にサッカーが上手くなりたかったから入ったのであり、仕事の為に入ったのではない。だからこそ染谷はペドロ監督の発言が許せなかった。
「今に見てろよ・・・・絶対レギュラー取って間違ってないことを証明してやる!」
熱い思いを胸に秘めて染谷は翌日に備えるため、目を瞑り、眠り始めた。
感想・評価まっています!
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第6話
「おああああ!!!!」
バシィッ!!!
『ナイスキーパー!!』
「はぁ・・・はぁ・・・」
4月半ば。県総体(インターハイ)東京都予選まで後1ヶ月切った今日、染谷は風巻が打ったシュートを止めたところだった。
染谷は自分のサッカーをすると誓ったあの日以降好調をキープし、練習試合でも先発で出てほぼレギュラーの座を勝ち取ったと染谷の中ではではそう思っていた(実際監督も最初から染谷をレギュラーにしようとしていたが)が、試合で見ていたり練習でシュートを止めているうちに、染谷は気付いたことがある。
(シュートの威力は同じなのに春休みと比べ物にならないほどにコースや動きが全然違う・・・)
染谷は風巻にボールを返した後そう思っていた。
蹴学はシルバ・リカルド・ジェンバが来てから3人は蹴学の選手たちにプレーイングコーチ(プレーをしながら選手に教えるコーチのこと)をしており、それともう一つペドロ監督が持っていたサッカー持論『超絶的パスサッカー』を蹴学の選手たちに叩き込んでいて、それのおかげかここ1ヶ月の選手の動きが確実に違うのを見てとれたのだ。染谷は他校のシュートは止められるがここ最近の風巻やジェンバのシュート、それにシルバのシュートも染谷の動きを読み始めているのか止めるのも少しきつくなってきた(他のキーパーというとシュートを全然止めれていない。FP(フィールドプレーヤー)の成長に追いついていないのだ笑)。
(ペドロ監督、仕事って言ってたから腹が立ったけどだてに海外でコーチングを学んでいただけのことはあるな。しかしやばいな・・・どうしたらシュートを止められる?・・・)
染谷はだんだんその思いが頭の中でグルグル回ってきた。
「・・・・・」
悩んでいる染谷をシルバは厳しい目で見ていた。
その後、染谷はシュートを入れられては考え、シュートを入れられては考えるという悪循環にハマりすっかり調子を落としてしまい今日の練習は終わった。
「・・・・はぁ」
夜遅く。消灯時間も過ぎ、すっかり寝静まったと言うのに染谷は寮の中の庭にあるベンチに座り一人ため息を吐いていた。
あの後、キーパーコーチに聞いてみても、『コウキは今のスタイルを維持していけばOKだよ!』と今の状態の染谷としては役に立たない言葉しか貰えず、なら自分で考えるしかないと染谷は庭のベンチに座り考えていたがさっぱりいい案が出てこない。
今の染谷のキーパースタイルというのは染谷が中1のときに現在名古屋のトップで正GKを任されている過去に日本代表にも選ばれたことのある『
「なにを悩んでいる。コウキ」
そんな悩んでいる染谷に上から少し怒りを孕んだ声が聞こえた。染谷は上を向くとそこにはシルバがいた。
シルバ視点
(何やっているんだコウキ。さっきからイージーなミスを繰り返している)
僕は練習をしながら練習でシュートをはじききれずにゴールに入ってしまい、そのたびに悔しそうにしているユウキの姿を見て、苛立ちと怒りを抑えながら思っていた。
「どうしたんだろ?」
霧島がコウキを見て心配そうに言っていた。
ふと僕は脳裏に傑の言葉がよみがえった。
『コウはいいキーパーだけどとことん悩んだりしてそれがプレーにも影響するからそれが無かったらいい選手だけどな』
(たしかに傑の言うとおりだ。センスやプレーは認めるけどあの性格を何とかしないとナ・・・)
「リュウ。このことは僕に任せて」
「うん・・・レオ君が一番長い付き合いだと思うし。おねがい」
「分かったよリュウ(後でコウキに説教してやるか)」
僕はこの後の行動をたててからリュウにそう言った。
だが、この日に限って予定がかみ合わず、消灯時間が過ぎてしまった。それでも僕は探していると、庭のベンチで項垂れているコウキを発見した。
(練習のときよりも重くなってない?けど言いたいことは言わないとね)
そう思い僕はコウキの所へと向かった。
シルバ視点 終了
「レオ・・・何か用?」
「コウキ。どうして昼間はあんなにミスを犯していた。それに何か悩んでいたそうだが」
染谷はそう言うとシルバは気をかけたときと変わらない声色で答えた。
(これは正直に言ったほうがいいな。シルバの事だからたぶん理由聞くまで部屋に返してくれないだろうし)
染谷は心の中で苦笑してから話そうと決心をする。
「ははは・・・じつは・・・」
そう言い、染谷はシルバに悩んでいた理由を話した。染谷が話している間シルバは真剣に話を聞いていた。いつもあっけんからんとしていて面白いシルバなのに、こういう一面もあるので染谷にとってはありがたい存在だし実際シルバのことを兄のように慕っている。
(とか言いつつもレオも蹴学を優勝させると言う仕事を果たすためにここに入学したうちの一人なんだよね)
理由を話しているときに染谷はそう思っていた。
これは染谷がうわさで聞いた話だが、シルバの獲得にはウン十万と言うプロの契約金と変わりない額をシルバに提示して、『契約』したと聞いている。
この話を聞いたとき、染谷は『目的に腹が立ったし、契約についても何事も金かよ・・・』と思ったが『プロになればこういうのは当たり前になってくるし、シルバほどのスターならそれくらいは当然か』とほんの少しは思っている染谷もいた。
それ以前にシルバは染谷のライバルであり友達でもあるので、染谷はシルバは大体のことは分かっているから何も言わないことにしている。
染谷の話が終わると、シルバは「やっぱり」と言った。染谷はなんだ気付いてたのかと苦笑する。
「傑から性格の事聞いていたけど・・・少し悩みすぎじゃない?まずその性格を直さないと」
「うぐ・・・」
シルバの鋭い一言に染谷は何も言えなかった。染谷自身も幼い頃からこの性格というのを分かっているのだ。こんな事になったのも性格の問題だなと染谷は少なからずは思っていた。
「そうだよ!それにコウキは一年の星でもあるからがんばっていないと」
するといきなり霧島が出てきて染谷に励ましの言葉をかけた。これには染谷とシルバは驚いたが、聞いてみれば染谷をどうしたら立ち直らせるか考えてくれていたという。
「(うはぁ、サンキューリュウ)」
染谷は霧島の優しさが嬉しくて目頭が熱くなる。。
「それにシュートが決まる確率も僕たちがプレーイングしてもまだ半分いくかいかないかだよ。正GKがそんなんでどうする!」
シルバが染谷に励ました。
「GKがそんなんじゃだめだ!」
霧島も染谷にそう言った。
「・・・・そうだな。くよくよしてたって何も始まらないしな」
2人に励まされた染谷は目を閉じそう呟く。
「そうだよコウキ。・・・てかコウキの性格の所為で前にも似たような状況でくよくよしてなかった?」
「・・・・(そうだった・・・・確か中2のときに飛び級でU-15に選ばれたときも全然試合にも出してもらえずにくさってたら傑さんに怒られたんだっけ。)。」
シルバに言われ染谷は昔、傑に言われたことを思い出す。
『未来を担うGKがそんなでどうする。悔しいのであれば人一倍練習をすることだ。それにたとえベンチにいてもオレならこの状況はこうするって頭の中で戦っているんだ。そんなこともせずにただ試合に出たいといっているのだったら代表には要らん!』
(・・・そうだ。それ以降ベンチにいてもただ見るだけじゃなく頭の中で戦うようになったし、もうあんな悔しい思いをしないように人一倍練習をするようになって名古屋の三冠王者の偉業を支えることが出来たんだ)
染谷は過去に傑に言われたことを思い出し、そう思った。
「ありがとう!おかげで何とかなったよ」
ようやく立ち直った染谷は2人に礼を言った。
「ははは。それはどーもコウキは大事な友達だからね。ただ自分なりに励ましただけだよ」
「どういたしまして」
シルバと霧島の2人は染谷の礼にそう言った。
「よーし!明日の練習がんばるぞ!」
染谷はそう大声で言った。しかし直後に霧島に「消灯過ぎてるから大声出すな」って叱られたのは言わないでおこう。シルバはただ笑っていた。
「よっしゃあああ!!!」
バシィ!!! ビシィ!!! バチィ!!!
翌日の練習、昨日の2人の励ましですっかり調子を取り戻した染谷は今まで以上にシュートを止めまくっていた。
「ふふふ・・・すっかり調子を取り戻したね」
シルバは染谷が好セーブを連発しているのを見てそう言い笑っていた。
「今日のコウキはすごい止めるな。こりゃ俺も頑張らねーとな!」
「だな!!」
風巻の発言に皆同意して、いっそうチーム内の雰囲気が良くなった。
(そうだな、自分のプレーをすれば自然と雰囲気が良くなってくるし調子も良くなる。今は仕事のことで考えるのはやめて自分のプレーをすることに徹していこう!)
染谷はそう思い練習をしていた。楽しそうな表情に昨日の悩みはすっかり消えていた。
インターハイ予選もすぐそこまで来ていた。
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第7話
「ふーん・・・・」
「どうしたのコウキ?新聞なんか読んで」
インターハイ予選も後2週間にひかえたある日の教室でスポーツ新聞を読んでいた染谷が珍しかったのか霧島が声を掛けてきた。
「ん?いやちょっとな。おっ、倉知さん昨日の試合で活躍したんだ!」
「えっ?どこどこ?あっ!ホントだ。でも凄いよね倉知さん」
霧島が興奮しながら言っている。ちなみに倉知さんとは今ヨーロッパのブンデスリーガのフランクフルトで活躍しているMF倉知 快人のことで、サッカー選手の憧れの存在である。
「だよな!フランクフルトでしっかりと成績をあげてるからな。そこんところは尊敬するな」
「だよね!良いなぁ~僕もヨーロッパで活躍したいなぁ~」
「頑張らないと無理だな」
「むむむ!今に見とけよ!」
「はっはっは、期待しておくよ」
霧島にそう言いながら染谷はふと思った。
『・・・・いつかオレたちもヨーロッパで活躍していく事も考えないといけなくなるんだろう』
まだプロにも入っていない16歳のガキがそんなことについて考えるのはどうかとは思うが、染谷の近くには今すぐにでもヨーロッパのサッカーリーグに通用できる人たちってのは見てきた。
シルバや傑、さらには世良や鷹匠・飛鳥など日本や世界の次世代を担う選手なのはその類いである。世良やシルバに至っては外国のクラブチームで活躍していた経験がある。
世良は海外でプレーしたいと言うのを聞いたことはあった。そういう人もいる一方日本で言うJリーグとかの国内リーグで結果を出してから海外にわたる選手もいる。
どちらも一概に駄目や良いとか無いし、実際海外でプレーしたいと言う世良にたいしては凄いなと染谷は思う。
つまりは・・・・
「気持ち次第なんだろうな」
染谷はそう結論付けた。
「何が気持ち次第なの?」
霧島はよく分からないので不思議そうに聞いてきた。
「そうだ、リュウにきいてみようか。実はな・・・・」
染谷は霧島にさっきまで考えていたことを話していた。気づけば、さっきからクラスメイトが染谷の席に近付き、染谷の話を聞いている。
「んーー実際そうだと思うよ。まぁ、まだそういう選択に迫られた訳じゃないから分からないと言うのが本音かな」
話を聞いた霧島は難しい顔をしながらそう答えた。
(まぁそうだよな・・・)
染谷は当たり前の反応に苦笑する。まだ16歳の子供にはまだ早い話だったのだ。
「けどコウキ達の実力ならヨーロッパでも通用できるくらいの実力はあると思うよ」
「よしてくれよ。それにオレはプロに入りたいとは思うけどそのあとはまだ考えていない」
「えええ!?それは買い被りすぎだよっ!!」
クラスメイトの発言に染谷と霧島はそう言い返した。
「それならばお前らはプロに行きたいとは思わないのか」
お返しと言わんばかりに霧島はそう言い返した。するとクラスメイトはおとなしくなった。
「う~ん。まだ控えにも入れないオレたちだからなぁ・・・・」
「そうだよなぁ。だからお前ら二人が羨ましいんだよな」
「ジュニアでも有名だった2人だからな。暫くは応援する側かな。ははは・・・・」
皆口々にそう言うが染谷はその発言に腹が立った。
皆そうは言っているがそう言ったクラスメイトの中には横浜や浦和・千葉などの有名なクラブのジュニアでプレーしていた人もいるのを染谷は知っていた。戦った相手だから知っているやつが沢山いるのだ...
「そんなこと言うな!そんな弱気ならレギュラー取るぐらい勢いで行かないと、この先後輩にもポジション取られてずっとこんな感じだぞ!」
染谷は皆に怒鳴った。皆は怒るかもしれないがそれでも溢れてくる感情を染谷は押さえることはできなかった。
「こ、コウキ・・・・」
霧島は突然の怒鳴りにすこし青ざめている。
「・・・・・」
クラスメイトは染谷の怒りに口を閉ざしたままだ。
染谷は怒鳴った後少し落ち着いたのでもう一回口を開いた。
「・・・・怒鳴ってごめん。自分で言うのもなんだけど確かにオレ達が今は上手いから控えに入っているのもあるとは思う。けど、お前らもこの学校に来ているということはスカウトに発掘されたやつか自分のプレーに自信を持っている奴らだってことだ」
「たしかにそうだけど・・・・」
染谷の話を聞いてクラスメイトは弱々しく言った。
「なら自分のプレーを信じて戦っていこうぜ!」
「コウキ・・・・」
「コウキ・・」
クラスメイトと霧島はそう呟くように言った。
「オレはお前らと一緒にプレーしたいし、国立に行きたい!応援としてじゃなくてプレーヤーとして皆と戦いたい」
「・・・・・」
染谷の話をクラスメイトは黙って聞いていた。
(・・・こういう熱い所があるからコウキは良いんだよね)
霧島は熱く話す染谷の姿を見てそう思った。
(日本代表で一緒に戦った時もどんなときでも声を出し続けていたし、毎日残って自主練習もしていた姿は本当にスゴいなと思った。
コウキは最初から才能を持っていたわけではないと言ってた。小学校は背も低くてキーパーとしては大成しないと言われてたらしいけど、血のにじむような努力と身長がぐんぐん伸びるのも相まって日本の次世代を担うGKと言われるようになった。そんな努力をしてきたからこそ今の皆が許せないんだろうね)
霧島はそう思い染谷とクラスメイトの方を見た。
「よっしゃあああ!!!頑張っていこうぜ!」
『オオ!!』
いつの間にかクラスメイトの顔もやってやろう感満載の顔になって染谷と一緒に盛り上がっていた。
「フフフ・・・こうでなきゃね」
霧島はそう呟き、皆のもとへ入っていった。
コウキたちが教室で盛り上がっている頃、教室の外では会話を聞いていたものがいた。
「・・・・・」
ペドロ監督だった。会話を聞き終えた彼は職員室へと戻っていった。
「・・・サッカーが好きなら、ネェ」
戻る最中、ペドロはそう呟いた。
『ここまでサッカーをやって来たのはサッカーが好きだから、もしくは楽しいからだと思う。なら好きなら好きなことのように自分の可能性を広めていこうぜ!そして楽しくサッカーをしていこうぜ!』
コウキがそう言った後、クラスメイトは今までにない盛り上がりを見せ、雰囲気もよくなった。
「やはり彼は蹴学に必要なやつだ。それにワタシはどんな思いでやっていたとしてもチームが優勝すればなにも言わない。それが私や彼らのプレーヤーとしての価値を高めるのに必要なことだからな。クックック・・・・」
ペドロは笑いながらそう言い職員室へと戻っていったのだ。
「今日の練習はここまで!」
インターハイ予選を一週間に控えた今日の夕方、練習が終わると選手たちはいつものように寮へと帰っていった。
流石蹴学へスカウト・入学する選手だけあって練習が終わってもまだ練習できるだけのスタミナが残っているようだ。何故ようだという表現にしたかというと、その中にはもうへとへとだと顔に出ている選手がいるからである。
「だぁ~疲れた」
染谷もそのうちの一人である。
染谷は練習が終わるとその場で倒れ込んでしまうのだ。
この光景が毎日続くので最初のほうは引き気味に見ていた選手たちは今じゃその光景に笑いながら帰っていくというのが練習が終わった後の名物(?)になっているのだ。
この間染谷が倒れている時に風巻さんや坂東さんにプロレス技かけられており天国に逝きそうになったから倒れこむのはやめようと染谷は思っているのだが、一日の練習の疲れがどっと来るのでやめたくてもやめられないと言うのが現状である。
「また倒れ込んでる。いい加減やめないとまた風巻さんたちにやられるよ?」
「るせっ!やめたいけどやめられないんだよぉ・・・」
倒れている染谷に近付いてそう言った霧島に染谷は起き上がった後そう言った。
「ハハ。それって中毒?」
「ちゃうちゃう!決してそんなのではない!」
霧島と一緒に来たシルバの発言に染谷は全力で否定する。
(くっ…これが同級生だったら消してやりたいのに…)
染谷は何やら物騒な考えを持ち始めている。
「でもコウキって何で倒れこむまで練習とかやるの?」
「それはなリュウ。オレのスタイルはいつでも全力でやることなんだ!練習で全力のプレーをしないと試合でそのプレーが出来ないからね」
霧島の発言に染谷は胸を張りながら言った。
「練習で全力を出さなければ試合では出せない」・・・それが染谷の信念である。
常日頃から全力を出さないといざ試合の際に最大のパフォーマンスを出す事はできない。そう思った染谷はジュニアユース時代からその信念のもと練習にも全力を注いだ。しかし、染谷はGKとしての身長が無いため、全身のばねを最大限に使ってのセーブとなるため、体に溜まる疲労が他の選手よりも多くなってしまうのだ。
「ハハ。コウキらしいや。けどたまには流すことも大切だと思うよ」
「まぁそうなんだけどね・・・やろうと思ってもジュニアユースの時からこのスタイルでやってきたからなかなか出来なくてね」
染谷の説明を聞いたシルバの発言に今度は染谷が苦笑しながらそう答えた。
「まぁコウキらしいね。そういや今日ってインターハイ予選のメンバー発表の日じゃない?」
「えっ!?マジで!」
霧島が今日がメンバー発表の日だと思いだしそう言うと染谷はすぐに立ち上がり目を輝かせながら言った。
「落ち着こうコウキ・・・」
「あっ、うん・・・ならオレたちも行こうか」
ハイテンションになった染谷をシルバはなだめ、いつものテンションに戻った染谷。あたりも少し暗くなったので、3人で寮に帰った。
「いよいよか」
「だね・・・・」
「ふふっ。緊張しないのリュウ」
緊張している霧島にシルバはそう声をかけた。
夕食・お風呂と一通りやることをやった染谷たちは寮の中にあるミーティングルームに集まっていた。
「そうだぜリュウ。絶対選ばれるから」
「だといいけど・・・」
心配そうな霧島に染谷がそう言っているとペドロ監督が来た。
「集まったね。それでは今からインターハイ予選のメンバー20人の発表と対戦相手の研究をする。まずはメンバーの発表をしていきます。呼ばれたものからゼッケンを取りにくるように」
ペドロ監督がそう言った瞬間、染谷はゴクッと生唾をのみこんだ。
『やべぇ。緊張してきた。頼む・・・レギュラーになっていますように!親には・・・ううっ・・』
霧島にはああ言ったが染谷も実際緊張していた。1番とレギュラーをとらないと親に・・・・・思うだけでも寒気がしてきた染谷。
「「へっくしょん!!」」
一方神奈川の染谷家では両親がくしゃみをしていた。
「大丈夫母さんと父さん?」
「大丈夫だ理奈。そういや今日コウキのメンバー発表だって言ってたな」
理奈が心配そうに両親に言うと昂太郎はそう答えた。すると、昂太郎は思い出したように言った。
「ふふっ、そうでしたね。さて、あの約束は果たせるでしょうか・・・さもないとね・・ふふっ」
直子はそう言い、笑っていた。・・・が笑っているが目は笑っていなかった。明らかに目で殺せるくらいの迫力だった。
「はは。ソウダネー(絶対取れよコウキ。)」
昂太郎は顔を引きつりながらわらい、内心コウキを心配していた。理奈は母の笑みに顔を真っ青にしたが一体兄は難の約束をしたのだろうと思っていた。
ミーティングルーム
これからメンバーが発表されようとしていた。
「まずはGKから。呼ばれたものから取りに来てください」
ペドロ監督がそう言うと染谷は両手を握り祈っていた。
「1年染谷光輝、3年大場栄吉」
「は、はいっ!」
呼ばれた瞬間、染谷は立ち上がり大きな声を上げてペドロ監督のところへ行った。皆はくすくすと笑っていた。
「こうき~うるさいぞ~後でお仕置きな!」
「な、何でですか坂東さん!」
坂東がそんなことを言ってきたので染谷は顔を真っ赤にしながらそう言い返したら、今日一番といえるほどの笑いが起きた。
「くすくす。がんばれよ光輝。レギュラーだ」
「えっ?」
渡すときにペドロ監督がそう言うので染谷は渡されたユニフォームを見てみると、そこには『1』と書かれたキーパーのユニフォームが。
「・・・・えっ?」
つまりレギュラー。驚きのあまり染谷は言葉が出なかった。
「くそっ!・・・がんばれよ光輝」
すると、染谷の傍に大場が近付いてきて言葉をかけた。
「や、やったーーーーー!!」
嬉しいあまり喜びの声を上げた染谷だったが皆から「うるさいわ!!」と突っ込まれてしまい、顔を真っ赤にしながら染谷は元いた場所に戻った。
「やったじゃねェか染谷!」
「いででで!!!」
「ハハハ」
「もう!」
戻った染谷は1年に手荒い歓迎を受けた。シルバはそれを見て笑っていた。霧島は苦笑しながら何とか止めようとしてくれた。
その後もメンバー発表は続いた。シルバは
「次は研究に入っていく。初戦の相手、都立渋谷東だが・・・」
そう言って研究が始まった。蹴学は今年からインターハイ予選に入るので一次予選からである。予選初戦の相手、都渋谷東ははっきりいって弱いチームである。
『ふーん。ちょろいな』
染谷はチーム情報を見て内心と思った。
「それでは初戦のメンバーを発表しておく」
そう言いペドロ監督はメンバーを発表した。
GK 1 染谷
DF 2 唐木
3 加藤
4 リカルド
5 幸村
MF 7 坂東
6 川崎
8 喜多川
10 シルバ
FW 9 ジェンパ
11 風巻
「よしっ」
染谷はしっかりと自分の名前も出たので今度は抑えて、ガッツポーズをした。
「これで終わるが、何か質問はあるかね?」
ペドロ監督はそうみんなに言ったが誰も質問はなかったのでこのまま終わりになった。
「コウキ、君はちょっと残ってくれ」
「あ、はい」
染谷はシルバ達と一緒に帰ろうとしたときにペドロ監督に呼び止められたので、シルバたちは先に帰って染谷はその場に残った。
「なんでしょうか?」
「コウキ、1年唯一のレギュラーだが君には期待している。しっかりと自分らしいプレーをしてくれたまえ」
染谷はペドロ監督に聞いてみると、ペドロ監督はそう言い笑顔で染谷の肩に手をポンと置いた。
「分かりました!」
染谷はそう言うと、ペドロ監督はくすっと笑った。
「それだけだ。もう消灯まで後ちょっとだ。帰りなさい。」
「?はい。それじゃあおやすみなさい!」
「おやすみ」
染谷はペドロ監督に一言言って自分の部屋に帰った。
「・・・・」
染谷が出て行った後、ペドロはクスッと笑っていた。
「・・・はぁ、褒めたときの顔を見たら言うこともいえなくなってしまったよ」
ペドロはそう言っていた。何を言おうとしていたのかは分からない。
「蹴学というチームが完成するには彼の力が必要だ。せいぜいがんばってもらわないとね・・・」
ペドロは誰もいない視聴覚室でそう呟いた。
「さぁ、親にはまた明日でいいだろ。寝よ。よーし、インターハイ予選かましてやるぜぇ・・・」
そう言い染谷は電気を消して、布団にもぐった後すぐに寝息が聞こえ始めた。
インターハイ予選もすぐそこだ!
感想、要望をお待ちしております!
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第8話
「よーおはよう!」
「おはよー!!」
ゼッケンを貰った翌日は平日なのでシルバたちといつものように登校し、自分の教室に入った染谷と霧島は皆と挨拶を交わした。
「よいしょっと・・・しかし蹴学ってただサッカーする学校じゃないんだな」
「またそんな事言ってるよ・・・「いやいや!!分かってるからね!?」ふーん・・・でも本当にうちの学校ってサッカー選手だけじゃなくてサッカーに関すること全般を学ぶって言う子もいるよね」
「それそれ。確かスポーツマネジメントとか栄養管理とか・・・幅広いよな」
リュウの言ったことに自分の席に着いた染谷はそう言った。
就学は1年の時は400人近いサッカー選手やサッカー関係の仕事に就きたいという人が混ざって過ごし、2年からサッカー選手のコースや先ほど言ったスポーツマネジメントや栄養管理などサッカーに役立つことを学ぶコースに分かれて2・3年と2年間学んでいく。
どのコースに入ってもサッカーが出来ないということはないのでサッカー選手以外のコースに入ってサッカーをしている子も少なくはない。
「とは言いつつもオレはサッカー選手のコースだな」
「だね。僕もそうだね」
染谷と霧島は他愛のない会話をしながら朝の休み時間を過ごした。
昼休み・・・
「コウキとリュウ!一緒に飯食べに行こうぜ!」
「「いいぜ(よ)!!」」
4時間目が終わったあと、染谷たちは昼飯を食べに食堂に向かっていた。因みにここの食堂は生徒の懐にも優しく、味も一流レストラン並みに美味しいので染谷たちは毎度お世話になっている。
「そういやリュウ?ウ○イレ買った?」
「いや、まだ買ってない・・」
「おいおい・・・今度皆で買いに行こうぜ」
「ありがとう!」
皆で楽しく会話をしながら食堂に向かっていた。
「あっ!いたいた!!」
「ん?」
女の子の声がした方を向くと、前から金髪のロングヘアーでたれ目の美少女と言っても過言ではないほどの女の子が走ってきた。
「おいコウキ、お前の彼女?」
「(おぉ、胸が・・って、)いやいや違うからその嫉妬オーラをしまえ」
走るたびに揺れる胸に釘付けの染谷たちが女の子のことで揉めている内に女の子が染谷の前に立った。
「漸く会えた!ねぇ、君がレオレオの言ってたコウキ君だね?」
「レオレオ?・・・・・あぁ、それってレオのこと?」
染谷はレオレオと聞いてそんな友人いたっけ?と思ったがふとシルバが出てきたので聞くような感じでその女の子に言った。
「うん!そうだよ!」
女の子がそう言ったので染谷はほっと胸をなでおろすのと同時にこの女の子は誰なのか気になった。
「・・・」
しかし染谷がふと後ろを向いてみると、空気状態にされていて腹が立っていたのか明らかに不機嫌オーラと嫉妬オーラを漂わせていた男たちがそこにいた。
「あっ!ごめんね皆!別にのけ者にしていたわけじゃないの!」
女の子も気付いたのか後ろの男たちに謝っていた。それだけで男たちの不機嫌オーラは完全に消えた。
(はぁ・・・何だよそれ)
あまりにも現金な態度に染谷はため息をつくしかない。
「まぁ、ここにいるのもなんだし・・・食堂にいこ?」
唯一常識人だった霧島が機転を利かしてそう提案してきた。女の子も快く受けてくれてそのこと一緒に食べることになった。
道中・・・
「そういや名前言うの忘れていたね!忘れていたね!私は
「えっ!??」
食堂に向かう途中、彼女・舞衣がそう言ったので上級生だったのかと少し驚いた。
「に、2年生!?なら・・「別に上級生だからって敬語にしなくても良いよ!」・・へっ?」
一緒に来ていた同級生が何か言おうとしていたのを舞衣が何を言おうとしているか分かったのかそう言った。
「私そう言うのあまり好きじゃないからいつもどおりで良いよ!あっ!後「舞衣さん」じゃなくて「舞衣ちゃん」とかでいいからね!」
舞衣がそう言ったので同級生たちは同意しさっきまでと同じようにぺらぺらと話し始めた。
「しかし、何者なんだろね?舞衣ちゃんって」
「だな。後で聞いてみないとね」
染谷と霧島はそう言い、食堂へと足を向けた。
食堂・・・
「へぇ、レオと舞衣ちゃんって幼馴染なんだ」
「うん!えーとね・・・」
食堂に着いた染谷たちはたくさんの生徒でごったがえしていたが、運良く席が見つかりそこに座った(因みに霧島・染谷・舞衣の順で座っている)。
その後シルバと仲がいいのか聞いてみたら舞衣がブラジルにいたときにお世話になったらしく、その頃から仲がいいらしい。
「へぇ、それなら舞衣ちゃんってレオさんの“コレ”?」
染谷の前に座っていたクラスメイトが舞衣に小指を立てて言った。
「ちがーう!!」
「なんだよ・・・」
舞衣ちゃんが否定したのでクラスメイトはそう言い落ち込んでいた。
「なによー?さっきはあんなにコウキに嫉妬オーラ出してたのに今度は落ち込んでー」
『ははは!!!!』
舞衣がそう言うと周りから笑いが起こった。
「舞衣ちゃんここにいるってことは舞衣ちゃんもサッカー関係に携わったりしてるの?」
すると霧島が舞衣にそんなことを聞いていた。
「うん!まだ予定だけどこれから日本代表にはいるかな?」
「まじで!?」
舞衣がそんなことを言ったので染谷や他の皆は驚き同じことを言った。
「まじかよぉ・・・・」
「いいなぁ・・・・・」
「おおおおお・・・・」
「なになに皆揃って落ち込んでいるの?」
染谷や霧島と一部を除くほかの生徒が明らかに落ち込んでいるのを見ていきなりのことにあたふたし始める舞衣。
「ははは・・・ここにいるほとんどの人がジュニアや中学で名が通ってたけど世代別日本代表に選ばれてないからね。羨ましいんだと思う」
そんな舞衣に霧島が苦笑しながらそう説明をした。
「へぇー」
「女子なんてそんなに世代別なんてないから上手いやつがいきなりA代表なんてこともあるからな」
舞衣がそう言った後、染谷はそう付け加えるように説明をした。
「まぁ、そうなんだよね・・・ねぇ?コウキ君?」
「ん?何だい舞衣ちゃん」
すると舞衣は染谷に声をかけてきた。
「レオレオから聞いたよ~リトルウイッチィと知り合いなんてね!」
「へっ?・・・あぁ、奈々のこと?」
「あったりー!!」
舞衣はグッジョブサインを出してそう言った。
因みに染谷は奈々がなぜ『リトル・ウイッチィ』と呼ばれているのを知っているのかというと、ネットで調べたからなのだが英語で書いてある中で唯一分かったのが奈々の名前とリトルウイッチィという単語だけだったというのは誰にも言えない秘密だ。
「ふーん・・・流石ウイッチィのことが好きなだけあるね!」
「ぶっ!!!ちょ!なぜそれを!?」
「さぁ~なんでだろうね~」
「おのれ!誰から聞いたのかキッチリはいてもらうぞ!」
「きゃ~怖いよ~」
そう言って二人でここが食堂ということを忘れてしまい口論が始まった。
周りの野次馬は『痴話喧嘩か?』と思ったらしく興味津々で見ていて、途中から二人の話題についていけなくてぽかーんとしていた霧島達もすぐに立ち直り、何とか止めようとして必死になって止めようとしていた。
結局この後駆けつけた教師によってこの騒動は治まり、二人はこっぴどく叱られてしまった・・・
霧島視点
「くくく・・・なるほど。それでコウキはこの状態というわけね」
「うん。謝っても全然許してくれないの~」
授業も終わりいつものメンバーとそこに舞衣ちゃんも入って(舞衣ちゃんも寮に入っているらしい)、4人で帰っていたのだがいまだに昼のことで起こっているのか昂輝はまだ怒っていた。
「はぁ?あんな謝り方あるかぁ?『ごめ~ん』なんて」
「いいじゃん別に~でもコウキの赤面した顔かわいかったなぁ~~レオレオにも見せたかった」
「ふふっ。それは見たかったな」
「があああああ!!!うるさいわぁ!!!」
二人、特に舞衣ちゃんがいじるのでついに昂輝の堪忍袋の緒が切れた。
「うるさい!!!また迷惑をかけるつもりか!!!!」
「あっ、ごめん・・・」
「ははは♪怒られてる~」
また昼みたいになるのはごめんなので今度はそうなる前にしっかりと怒ると、昂輝も反省したのかうつむく。舞衣ちゃんはその光景を見て笑っていたから、こっちにも怒ることにした。
「舞衣ちゃんもこれ以上はやし立てない!昼の事だって舞衣ちゃんにも非があるからね!しっかりと今日のこと反省してくれる?」
「は~い・・・」
舞衣ちゃんそれで反省したのか舞衣ちゃんもうつむいてしまった。まぁ、これくらいじゃないとね。
「くすくす、まるでお母さんだねリュウは」
「もう、そんなこと言わないでよレオ君」
レオにそういわれたので僕はそう言い返した。因みに二人は寮に帰った後お互い謝ってレオの共通の友達となった。
霧島視点 終わり
「はぁ~やはり風呂は疲れが取れるなぁ」
「何爺さんみたいな事言ってるんだよコウキ・・・」
「はは♪コウキくんおじさんくさい~」
「ハハ、コウも言われっぱなしだな」
「・・・別にいいじゃん」
練習後、風呂に入った後の食堂で染谷たち、そして舞衣の4人で染谷の発言を3人でいじりながら食事をしていた。
「でもいつも見てるけどコウキ君って練習終わった後へばってるのにプレーはすごいんだね!」
「へへ、それほどでも・・・」
舞衣がそう言うので染谷は自然と笑みがこぼれた。
「舞衣ちゃん、あまり言うとつけあがるからやめたほうが良いよ」
「そうだね。コウはそう言うと張り切っちゃうからね」
「別にはりきらねぇよ!」
『ははははは!!!!』
(もういや・・・誰か助けて・・・)
沸き起こる笑いの中、染谷は内心そう思いながら時間が過ぎていった・・・
「はぁ・・・今日も疲れたよ」
食事の後染谷は自分の部屋へと戻り、就寝時間までまったりとしていた。
「あ、そういや両親にレギュラーになった事言ってない。電話をしなくては」
時間を見てまだ9時を過ぎたくらいなので両親も起きているだろうと思い、染谷は電話をしようと携帯をとろうとしたとき着信音が鳴った。
「へ?誰だ?」
そう言い、見てみるとスマホのディスプレイに知らない番号だったので、出るかでないか迷った末通話を押し、「もしもし?」と言うと
『もしもしコウ?久しぶり!』
「奈々!?」
電話の相手は奈々からだった。
感想・要望等お待ちしております。
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第9話
染谷に電話をかけてきたのは奈々だった。
「どうしたのコウ?」
「いや!何もないよ。それでどうしておれの番号を?」
染谷はすぐに気を取り直して奈々に聞いてみる。
「え?理奈から聞いたの。携帯を買ってもらってからコウの携帯番号なんて知らなかったから理奈に聞いて今かけているのよ。」
「あ~そう言うことね・・・江ノ高はどうだ?」
染谷は聞きたい事を聞いた後、奈々に江ノ高での生活はどうかと聞いてみた。
「うん!こっちは大丈夫だよ!あのね、前まではね・・・」
そう言い奈々は江ノ高での出来事を染谷に話しはじめた。
奈々たちが入学した当初はサッカー部がSCとFCの2つあった事と、そのサッカー部が1つになった事など江ノ高であったことを話していた。
「へぇ、荒木君が江ノ島にいたんだ。」
その中でも日本代表でも一緒にプレーをして、傑と中盤のコンビを組んでいた荒木竜一が江ノ高でプレーをしていたことには染谷も驚いた。
「うん!最初は太っていたから分からなかったけどSC対FCの試合でやせてきたことには驚いたよ!」
「はははっ、ホントにあの人は・・・」
染谷は奈々の話を聞いて苦笑する。染谷にとっては痩せているときの荒木しか見たことがないので荒木が太っていることを想像すると笑えて来るのをこらえた。
「それで駆はどうなんだ?」
「あぁ、ちょっとね・・・今癖を直している所かな。」
染谷が今度駆について聞くと奈々が言葉を濁しながらそう言った。
「癖?何が駄目なんだ?」
「コウは敵だからいえないかな。」
「何だよそれw」
染谷は聞こうとするが奈々は染谷が蹴学…敵校と言うことを理由に教えてくれなかったので染谷は少し残念な気分になった…
「それでそっちはどうなの?」
「ふふん。俺は1番貰えたよ!」
「凄い!流石コウだね!」
今度は奈々から染谷のことについて聞いて来たので染谷は胸を張りながらそう言うと奈々が喜んでくれた。
「ちょっとこっちはレオたちがいるからな。チームメイトも上手くなってきて止めるのもきついけど頑張っているよ。」
「へぇ。それなりに頑張っているんだ。」
「・・・何だよその言い方。」
奈々の素っ気ない返事に染谷が文句を言う。
「ははは!・・・なんか遠くに行っちゃったね。」
「そんなことは無いよ。レギュラーをキープしないとすぐに他の人にとられるからね。奈々も頑張ってるみたいだしそれでいいと思うよ。」
奈々がちょっと切ない感じで言ってきたので染谷はそう言っておいた。
「ふふっ。頑張ってね。」
「ああ。あっ、そうだ。」
染谷はあることを言おうとして一呼吸置いた。
「いつか、日本代表のユニフォーム着ようぜ!」
「!!・・うん!」
染谷がそう言うと奈々が嬉しそうに答えたので、染谷はその嬉しそうな声が聞けただけでも嬉しかった。
「それじゃ切るね。」
「あぁ、また今度な。」
「うん。じゃあね!」
そう言い奈々は電話を切ったので通話が終了した。
「ふぅ・・・緊張した。」
染谷は電話を切れたのを確認した後、布団にダイブした。
「・・・元気そうだったな。奈々。」
染谷はそんなことを呟いた。奈々が引っ越してから何度か電話をもらったが、まだ会った事は無い。正直早く会いたいという気持ちがあったがそれを堪える。
「・・・さて、まだ時間もあるし親に電話をしないとな。」
そう言い染谷はまたスマホをもち、親に電話をし始めた。1番をもらえたことを報告するために・・・
奈々視点
「・・・・ふぅ。」
私は携帯を机においた後、ベットに寝そべった。
「元気だったね・・・」
寝そべった後、私は一言そう言った。
コウとは小学校のときに一緒のチームでプレーしていた間柄。しかしあの時は背も低くて私はどちらかと言うとお姉さんみたいな感じで接していた。
けどその後のコウの活躍はアメリカでもネットニュースなどで欠かさず見ていた。
日本代表に選ばれたの事と、ユース大会でMVPに選ばれたことも知って私は嬉しかったのを覚えている。体も176cmと大きくなり、この数年でかなり成長したことに私は凄いと思った。
「・・・・かっこよくなってたなぁ。やだ、何言ってるんだろ私・・・」
私はそう言ったあと顔を真っ赤にし布団をかぶった。
先週買ったサッカー雑誌でレオともう一人の子と一緒に写っていたコウを見たら、体も大きくなり成長した写真が写っていた。
それを見たときから私は少しずつ意識をするようになった。
「うぅ~なんで・・・意識しちゃう。」
私は顔を真っ赤にして悶々としたまま眠りについた。
奈々視点 終わり
「はぁ~怖いよ母さん。」
親との電話を切った後、染谷は顔を真っ青にしながらもう一度ベットに仰向けになった。
両親に電話したら直子は喜んでくれた。が。
『フフフ・・・私としてはお仕置きしたかったけどね・・・それじゃ頑張ってね。』
そう言い直子は電話を切ったので、それを聞いた染谷は冷や汗が出たものの、レギュラーになれたから無くなっただけでも良いやと思い先ほどにいたる。
「よーし。明日から頑張るぞ!」
染谷はそう言い眠りに着いた。
「よーし!今日の練習はここまで!」
インターハイ予選も明日に控えいつもよりも充実していた練習もいつもより早く終わり皆引き上げる中で染谷はいつものように倒れては・・・・
「ふぅ。いい感じだったな。」
無かった。今日はいつもより早く終わったからなのか、ただ単にスタミナがアップしたかは分からないが今回は倒れる事は無かったのである。
「あれ?今日は倒れてないね。」
すると倒れていない染谷が珍しかったのか霧島が染谷にそう言ってきた。
「あぁ。まぁ単に早く終わっただけだとは思うからな。」
「ホントに?」
染谷はそう言うが霧島はまだ半信半疑である。
「なに?何故疑いの目で見る。」
「いや、最近残って走っているのを「ア~聞こえない。」・・・ほら、普通に努力したって言えばいいじゃん。」
「だって努力したよ~って褒めてもらいたい一心で言う奴がどこにいる?」
染谷は腰をくねくねしながらそう言った。
「・・・まぁ、これがコウキか。」
霧島はそう言って自己完結させた。
「・・・いよいよ明日だね。」
「大丈夫さ・・だけど。」
霧島が翌日に迫ったインターハイの話題を出したので染谷はちょっと心配なことを言った。
「けど?」
「うーん。蹴学の実力はいいとして「チームワーク」は大丈夫なのかなってところが心配だな。しっかりと練習しているから大丈夫だとは思うけどな。」
霧島が聞いてきたので染谷は顎に手を当てて言った。
「ふふっ。そのときは頼むねコウ。」
「まぁ、レオがいれば大丈夫だとは思うけどね。」
「だね。」
すると、シルバが2人のところにきてそう言ってきたので染谷と霧島は笑顔でそう言った。
「くすっ。そんな僕に期待されてもね。」
シルバはそんな2人に苦笑した。
その後3人で話しながら帰っていったが、まさかインターハイで染谷の不安が的中してしまうとはこのとき思わなかったのである・・・
感想・要望等お待ちしております!
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第10話
それではどうぞ!
インターハイ地区予選 選手控え室
「・・・では私からの伝達事項は以上だ。今日のノルマは前後半5点だ。分かったな。」
「イエッサー!」
ペドロからの指示に蹴学の選手は軍隊風に返事をした。
今日からインターハイ予選が始まり、染谷たち蹴学は予選会場である代々木球技場に来ていた。
「ふぅ・・・」
ペドロからの指示を聞いた後、他の皆がピッチに立つ準備をする中、染谷は控え室のベンチで一人深呼吸をしていた。
「コウ」
すると、赤と黒を基調とした蹴学のユニフォームにキャプテンマークを付けたシルバが歩み寄ってきた。
「ん?あぁ、レオどうした?」
染谷はシルバに声をかけられたことで気付いた。
「これから僕たちの始めての公式戦が始まるけど、君が言っていた心配ってのはまだ消えないかな?」
シルバは昨日染谷が言っていた心配について聞いてきた。聞くシルバの顔は余裕を崩さないが、聞くところを見るに心配しているのだろう。
「うーん・・・まだ消えないかな。けど、今もこうやって考えてると本当にそうなるかもしれないから考えたくないかな。」
そんなシルバに対し染谷は顎に手を当て考える素振りを見せたのちそう言う。
「(・・・まぁ、シルバたちがいるから大丈夫だよなぁ・・・・?)」
実際まだ染谷の心に、こびり付いた「もやもや」がまだ消えない。しかし染谷は今は考えないようにした。
「そうだね。それなら行こうか。皆待っているよ。」
「あぁ。行こうか。」
そう言い染谷とシルバは皆の下へといった。そして染谷たちはピッチの中へと足を踏んだ。
ワァア――――!!!!
『さぁ!出てきたぞ我らが蹴学!今大会が公式戦初出場!だがその顔ぶれは高校最強だぜ!』
フィールドに出た途端、大きな声援とマイクの声が聞こえてきた。
(実況がいるのか・・・確かあの人後藤さんとか言ってたな。)
フィールドに出た染谷は準備運動をしながら実況のほうを見ながらそう思った。
『この試合の実況をするのは蹴学マネージメントクラス2年のGGこと後藤五郎とあと一人跳びっきり可愛い子が来るぜえ!』
インカムマイクを身に着け、いかにもチャラチャラした口調が特徴的な実況、後藤がそう言っていた。
(絶対舞衣ちゃんだな・・・)
(舞衣だな。)
(舞衣ちゃんだね。)
今、染谷とシルバと霧島の三人の思いがシンクロした。
「はっはっは。いよいよ始まるか。」
染谷が準備をし終えると、同じく準備を終えた風巻が染谷に言ってきた。
「えぇ。軽く捻りましょう!」
「言うなお前!けどそれには同感だな。しっかりと止めていけよ!頼むぜ!」
そう言い風巻は自分の位置、センターサークル付近へと行った。
「頼むよ守護神。」
シルバも染谷にそう言いトップ下の位置へといった。
「・・・よしっ!」
2人の言葉を聞いた染谷は顔をたたいた後、ゴールマウスへと向かった。
『さぁ選手が所定の位置へと着いたぜ!それじゃ選手の紹介をするぜ!』
後藤がそう言い選手の紹介が始まった。
『まずはGK!なんと大胆にも高校1年を起用してきた!しかしそいつはただの1年じゃない!名古屋ジュニア時代最強のGKと呼ばれ、数々の賞を貰った最高のGK・・・染谷昂輝!』
染谷の紹介とした後、サポーターの拍手と声援が飛び交う。
(おお・・・緊張する~)
歓声を聞いた染谷はそう思った。ジュニア時代もこんなに歓声を浴びたことがなかったために緊張が漂い始める。
『さて次は・・・』
染谷の歓声が収まった後、後藤による選手紹介が進んだ。
東京蹴球学園フォーメーション
4-4-2
GK 1染谷
DF 2唐木 4リカルド 5幸村 3加藤
MF 7坂東 6川崎 8喜多川 10〔C〕シルバ
FW 11ジェンバ 9風巻
渋谷東高校フォーメーション
5-4-1
GK 1〔C〕島尾
DF 2佐治 3今枝 4遠藤 5大井 6浅井
MF 7芳江 8若井 14藤沢 10翔居
FW 9石井
「くっ、うるせえな。」
蹴学の声援に、渋谷東のエースである石井はそう呟いていた。
渋谷東が勝つわけが無い。誰もがそう思っていた。
「ピィー!!」
審判の笛で試合が始まった。
舞衣視点
「ふんふん。」
私は用事があり、遅れて代々木に着いた。
用事というのも日本代表に選ばれたので、日本代表監督に挨拶に行ったところだった。
「さて・・・もうあれから30分近く経っているし、どういうスコアになってるかなぁ。」
そう言い私は中に入り、まず最初にスコアを見た。
渋谷東0-5蹴学
「すご~い!5点差で勝ってるじゃん!けどあの戦力なら10点差はいけると思うけどな~」
私は不思議に言った。レオやリッキー・パティ。そしてコウキっちやほかのメンバーもいるというのに。
そう思いながら私は実況席へといった。
「遅くなってごめんね~」
「おっ!遅いよ舞衣ちゃん~」
後藤さんはそう言っていた。どうやらマイクは切っているようだ。
「GG~あの程度の高校なら10点差はいけるんじゃないのかな??」
私は何故このようなスコアなのか聞いた。
「がんばれー!!!」
サポーターも大きな声を上げて応援をしていた。
「うん。前半始まって5分にレオのロングシュートで1点取ってからマッキー・パティの連続シュートで5点取ったけど・・・なんだかぎこちないんだよねぇ皆。」
「ぎこちない?」
その次を聞こうとしたがサポーターの悲鳴で私とGGはピッチのほうに目を向ける。
『ああっと抜かれたぁ!危ない!』
開いたスペースを抜かれ、キーパーと一対一になった。
渋谷東の選手は右隅にボールを蹴ったが・・・
バチィィィィィ!!!
『染谷スーパーセーブ!!!これで一対一でとめたのは5度目です!流石最強のGKの名は伊達じゃないぜ!』
染谷のスーパーセーブに、GGが興奮を隠しきれずといった口調でそう言った。
(コウキっち凄い!ナイスセーブ!)
私はコウキを称賛しながらマイクの準備をし始めた。
舞衣視点 終わり
「はっ・・・はぁ・・・」
どフリーのシュートを何とかゴール横にはじき出し、染谷は立ち上がる。
相手の選手は驚きの顔をしていたが、すぐに戻りコーナーキックの準備をし始めた。他の選手も次々とエリア内に集まる。
「コーナーだ!気をつけろよ皆!しっかりと見てな!」
染谷はDF陣に指示を飛ばす。
ドカッ!
渋谷東の選手がコーナーからボールを蹴り、皆が群がる。
「うおおおお!!!!」
染谷は叫びながらボールの落下地点に相手の選手を弾き飛ばしながら行き、ボールをがっちりキープする。
『ナイスセーブ!コーナーの危機を逃れた!』
後藤はそのプレーにそう言っていたが集中していた染谷には聞こえなかった。
「カウンターだ!上がれあがれ!」
ドカッッ!
ボールをキープした染谷は前線にボールを送った。染谷が蹴ったボールを取ったのは風巻だった。
「・・・くっ。」
前線に送った後、染谷は悪態をついた。
「すまんなコウキ。」
そんな染谷を見ていたリカルドが染谷に謝ってくる。
「仕方が無いです。タクさんが横に動かされた後を狙われましたから。1対多数じゃ周辺視もクソも無いですから。けど点を取られなかったから大丈夫です。あとタクさんにMFの動きに惑わされないように言ってくれないっすか。」
「了解。」
リカルドはそう言い、自分の位置に戻っていった。
「・・・悪いのはDFじゃなくて攻撃陣ですから。」
染谷はリカルドが戻った後、表情を無くしそう呟いた。
その時のためにしっかりと練習を積んできた。そのおかげもあってか守備陣はリカルドを中心に連携が取れていた。
対して攻撃陣はとにかく連携が取れていなかった。5点取れたのは個人技で抜いて点を取ったというのが多く、パスをしたり連係プレーでの点が取れていない。
特にジェンバが強引に仕掛けボールを奪われたり、風巻がジェンバとワンツーをしようとしたがジェンバが勝手にゴール前へと走っていってしまい周りにバックアップがいない中、風巻はバックパスをしたがそれを奪われたり・・・
シルバや坂東、両サイドの川崎・喜多川がそれをフォローしようと何とか頑張っていたが、ジェンバの単独行動が得点に繋がることが無かった原因には違いない。
「・・・練習試合をしなかったからな。」
染谷はそう言いため息を吐いた。
パスサッカーもまだ練習している最中。
ペドロもこれまで練習試合をしていなかったことや今回前半点を取り、後半そのリードを守るという作戦をあらかじめ決めていたので低く点を設定していた。
結果ノルマは達成しているが内容があんまりだった。
明らかにパティが足を引っ張っていた。
練習はパスをするのだが試合ではそれとまったく違う動きをしているのが原因だった。
「・・・・」
染谷は色んなことを思いながら前を見た。
(キーパーから見て)左サイドの川崎がサイドを切り込むと見せかけて中にいるシルバにボールを渡す。
「お前には打たさない!」
一気に3人の選手がシルバに向かってくるが
「フン。」
そこはブラジルの至宝。いとも簡単にかわし、その後もフェイントでかわして前に出たGKを見てループシュートをし、この日3点目をとった。
『ゴーーーーール!!!!!レオがまた決めてハットトリック達成!これで6-0!突き放すぜぇ!!』
「またレオか・・・・しかもまたあそこから抜いてシュートを打つとか。自分で打ってるよあれ。」
前半でのシルバのハットトリックに実況はシルバのゴールに喜ぶが、またしても個人技での得点に染谷は素直に喜べなかった。
前半の5点中、3点がシルバの得点である。先ほどの3点目も川崎さんが事実上のアシストをしたが、まだ完成形のパスサッカーには程遠い。
ピッ、ピーーーーー!
渋谷東が試合を再開した直後にここで前半が終わる。
『さぁここで前半が終わった!蹴学前半はシュートの嵐で6点を取り、染谷のスーパーセーブで0点に抑えた!』
後藤が前半を振り返り、興奮した口調でそう言う。
『そして解説がとうとうついたぞ!アイドル、群咲舞衣ちゃんだ!!!』
『ヤッホー!!!皆!』
実況が舞衣ちゃんの説明をした。舞衣ちゃんも元気に挨拶をしたが染谷はそんな気分ではなかった。
「・・・・・(ゴゴゴゴゴゴゴ・・・)」
「びくっ!!!」
皆が染谷が放つ怒気を感じ、避けている。染谷の怒りの矛先は自己中なプレーをしていたジェンバだった。
今切れたらいけない・・・しかし、怒りだけは抑えきれないよう状態で控え室へと引き上げた。
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第11話
今年度もフリュードを作品ともどもよろしくお願いします!
「おいパティ。」
ロッカールームに戻るないや染谷はすぐにジェンバに詰め寄った。
「んあ?何だコウキ。」
ジェンバは染谷の方を向き、だるそうに言い返した。それを見て染谷の怒りがマックスに達した。
「何だじゃねぇよ。何だあのプレーは。勝手なプレーをしてなんとも思っていないのか!ああ!?」
染谷が大きな声でジェンバに怒鳴った。
染谷はジェンバのダッシュ力は認めていたが、いつもは真面目に練習をしていたのに試合では相手を見下したように自己中なプレーをしていたジェンバに染谷はそれが許せなかったのだ。
染谷が怒鳴ると、入学以降なかった染谷の怒りに他の皆は驚いていた。ジェンバも驚いた表情をした後、ため息を一つ吐いた。
「別に良いじゃん?勝てたらそれで良いし俺はってうおっ!?」
ジェンバが最後まで言おうとしたが染谷はジェンバの胸倉を掴んだ。
「勝てば良いって何だ!ああ?俺からしてみればお前のようなやつは一番迷惑なんだよ。」
「なんなの・・・これだから日本人は几帳面って言われるんだよ。レオがパスを入れて俺が打つ。それで勝てるからそれで良いじゃん。」
染谷がそう言うと、ジェンバは染谷の怒りをものともせず胸ぐらをつかんだ染谷の手を振り払い、表情を変えずそう言った。
「何だその言い方は。俺たち日本人はただのコマ的な何かか。」
「あぁ。そうだ。」
明らかな人種差別発言に染谷がそう言うと、ジェンバは少し笑いながらそういった。
「はぁ~そうか。カメルーンのゴミはえらく自信家なんだな。かわいそうだな。そんなに言って結果が出なかったらダサいよな。」
「あぁ?何だその言い方は。」
「おいおい。日本人の文句言ってお前の母国の悪口言ったら切れるの?ますますかわいそうだわお前。」
「なんだと?」
「なにやってるんだ2人とも!」
売り言葉に買い言葉状態で一触即発状態になってきたので部員たちが2人を引き離した。
「何やってるんダ?」
そんなところにペドロ監督がロッカールームに入ってきた。
「実は・・・」
止めに入っていたキャプテンのシルバが事情を話し始めた。
「そうか、そんなことが。」
シルバから事情を聞いたペドロは表情を変えることなくそう言った。
だが、顔には出さないが怒りのオーラをにじませているのが全員には分かった。今ペドロはすごく怒っている。それが分かるほどだった。
「コウキ。パティが無礼をした。私が変わりに謝る。このとおり許してくれナイカ。」
『!!!!!』
すると、ペドロが染谷に頭を下げて謝ったのだ。絶対にない光景に皆は驚いていた。
「・・・パティ。コウキも悪いところはあるがお前が全体的に悪い。」
顔を上げたペドロはジェンバの方に向いてそう言った。
「はぁ?なんで・・・」
「君はこのスコアを見てなんとも思わないのカネ。」
悪いとも思っていないジェンバが言い返すとペドロはそう言い返した。
「私が仕込んだサッカーをすればあの程度の相手なら10点は取れたはずだ。それができなかったのはパティの勝手なプレーが原因だと思わなかったのか。」
「・・・・・・」
ペドロがそういうと、ジェンバは何も言えなくなった。
「・・・まだこの程度の相手なら攻撃・守備の連携が乱れても勝てるから大丈夫だから良い。だが金輪際勝手なプレーや個人の私情を持たないことダ。それはみんなにも言えることダ。分かったナ。」
『イエッサー!!!』
ペドロがそういうと部員全員が大きな声でそう言った。
「・・・」
ジェンバは何も言わずロッカールームを後にした。
「・・・後半のノルマも4点。前半みたいな展開はしないことダ。」
ペドロはそう言うと部員は再び「イエッサー」といい、ロッカールームを後にし始めた。
「コウキ、すまなかったな。」
皆が出て行った後、染谷とシルバとペドロの三人が残り、ペドロが染谷に再度謝ってきた。
「良いですよ。俺も血が上がってあんなことしてしまいましたし・・・」
「いや、あれぐらいしないとパティも聞かなかっただろうし。」
染谷は申し訳なさそうに言ったのに対し、シルバはそう言ってくれた。
「・・・しかし、FWまでパスサッカーに参加するのはやめた方が良いかと。」
染谷はペドロにそう提案した。
まだまだパスサッカーも完成には程遠い。
ペドロもいろいろ模索しながらここまで頑張っている。今回の試合もFWもサッカーに参加させようということで部員も一致したが、前半の攻撃を見ると、それではFWが前にいけないということが分かった。
「というか、FWはゴールを決めるのが本職なのになぜパスサッカーに参加させようと?」
シルバが気になっていたのか、ペドロにそう言ってきた。
「それはFWの選手がプロに入った後、MFになったりとポジションも変わるかもしれない。そのときのために参加させようと思ったのダヨ・・・けどあの二人を見るとね・・・」
シルバにそう説明したペドロがそう言い言葉を濁す。。
確かにジェンバはあの足を武器にしているから「センターフォワード」じゃなくても今後足を生かすためにも「ウィング」「サイドハーフ」で起用される可能性がある。
そうなると、中央へのクロスなどでパスは多少すると思うがあのパティがそんなことをするわけがない。
風巻はまだ可能性があり、本職以外にも上手にやりこなせそうな感じがするが、正直他のポジションはシルバなどスター選手がずらりと並んでいるので高校の間は変わる事は無いだろうし、本人もFW以外はしないと思うのが正直な気持ちだった。
結局のところポジションは今のところ変わらないので当初のプラン通り、FWはパスサッカーに参加させないほうが良いと染谷は思ったのだ。
「それよりも問題なのはパティが守備をしないことです。練習でも分かっていましたがあれだと守備にも1人いない分きついと思います。」
そんな事よりも重要な事態を染谷は2人に言った。
染谷がジェンバにキレた理由は勝手なプレーをした以外にジェンバがまったく守備をしなかったことだった。
ジェンバは攻撃に参加するだけで守備をしない典型的な守備をしないFWだった。
「それは心配要らないよコウ。そこは僕たちで何とかする。」
「そうか・・・なら良いけど・・・」
そんな染谷にシルバは宥める様に言った。
「・・・やはりこれはセオリーどおりFWには前線に残ってパスをもらう。これで良いな。」
「ええ。これのほうが得点力も上がるし、これで行こう。」
ペドロの発言に同じ意見だったのかシルバが答える。
「分かった。それならわれわれもピッチに出よう。」
そう言い3人はロッカールームを出ていった。
ジェンバの態度と言うのは漫画で見たとき腹が立ったのを覚えています。
確かに点を決めるのがFWです。しかし、FWの仕事はチャンスメイク・ポストプレー・プルアウェイ(裏への飛び出し)etc・・・さらにFWと言ってもCF(センターフォワード)・ST(セカンドトップ)・WG(ウィング)とポジション別に仕事も変わってきます。
ジェンバがバカやったお陰で風巻の活躍がそんなに出なかったのが可哀想でした。
ジェンバは今でもあまり好きなキャラではありません。
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第12話
渋谷東―蹴学 後半
「おおおおおお!!!」
ビチィ!!!ザシュッッッッッ!!!!
「おっしゃあああ!!」
シルバからの完璧なパスを風巻が豪快に蹴り、キーパーの手をはじいてゴールに突き刺さった。
『ゴォオオオーーーール!!レオの巧みなパスからのFW『ワイルドウルフ』こと風巻 涼が豪快なシュートで決めた!』
『ナイスシュート!!!マッキー!!!』
それを見て、実況の後藤が何度目かのゴールのコールをした。舞衣ちゃんも笑顔でそう言った。
後半20分
渋谷東―就学
前0 - 5
後0 - 7
計0 - 12
後半の蹴学は本来の力を見せ付けるように、後半開始20分で前半の5点を軽々と超え、7点を奪い、12-0と大量リードを奪っていた。
前線で残るようになったツートップのジェンバ・風巻の得点能力に加え、シルバのゲームメイクやリカルドを中心とした鉄壁DF陣。仮にロングシュートやDFが抜かれたとしても・・・・
バシィィィ!!!!!!
『止めたぁぁぁ!!!!GK染谷、エース石井の豪快なシュートを見事にセーブ!!』
石井が完璧だと思ったシュートも守護神染谷によって簡単に止められてしまう。
「嘘だろ・・・あのコースも止められるのかよ・・・」
染谷のスーパーセーブに石井が顔面蒼白でそう言った。
そうした就学の攻撃や守備に、前半にあった渋谷東の積極的な動きは見る見るうちに鳴りをひそめ、後半15分を越えたあたりには守るだけのサンドバッグ状態となっていた。
試合終了までの間、蹴学選手の強烈なシュートが絶え間なく渋谷東のゴールを脅かした。
ピッ、ピッ、ピーーーー
『試合終了!!!我らが蹴学、17-0という大量得点で初戦を突破しました!』
試合終了後、公式戦初勝利に後藤も嬉しさを隠さずにそう言った。
渋谷東 ― 蹴学
前 0 ― 5
後 0 ― 12
計 0 ― 17
ゴール
蹴学
L・シルバ 6点
P・ジェンバ 6点
風巻 涼 5点
蹴学の怒涛の攻撃に終わりを迎えたのは試合終了のホイッスルが鳴ったときだった。
就学が終始試合のペースを握り、17-0と言う残酷とも言える点差で試合は終わった。
「よっしゃー!初戦突破や!蹴学の公式戦初勝利!」
「ああ、そうだな!」
風巻を中心に歓喜に沸く蹴学。
「ありがとなコウキ!」
「はい!!!」
皆が集まる中、リカルドが染谷に礼を言ってきたので染谷は笑顔でそう言い返した。
この試合、5本以上のシュートが放たれたが幾度もシュートストップした染谷も勝利に貢献したうちの一人だ。
「・・・・・・」
「やっと・・・・・終わった・・・・」
対して走るだけのサンドバッグ状態が終わったものの足腰がたたないのか、立ち上がれずその場に座り口数も少ない渋谷東。
「・・・・・恐ろしいほどに両校の雰囲気が真逆な試合は見たことがないな・・・」
ベンチがフィールド上の選手たちのところに行く中、霧島はゆっくりと歩きながらそう呟いた。
霧島の言うとおり試合後の雰囲気が恐ろしいほどに対照的なのが印象的だった。
『あれが蹴学・・・』
『あれからどうやって点を取るのだよ』
観戦していた高校の偵察部隊が口々にそう言う。この試合はそれほどインパクトが強く、また『蹴学』を世に知らしめる一戦であった。
試合後 控え室
「後半の攻撃は良カッタ。次の試合もこのような試合をしてイクヨウニ。」
試合後、ペドロが今回の試合を振り返り、話をしていた。他にも前半と後半の反省など入念にチェックしていた。
染谷はというと頭にタオルを掛け、控え室の隅で俯きながら座っていた。
「ナイスキーパー。」
俯いている染谷に霧島が声を掛けてくる。
「あぁ、サンキュー。」
染谷はそう言い返すとその後また俯いた。それを見た霧島は微笑を浮かべた後自分がいた場所へと戻っていった。
(はぁ、疲れた~前半点を入れる傍ら、シュート数も多かった。けど後半からぐっと減って、いい感じに進んでよかった。)
何をしていたかというとタオルをかぶりながら染谷は考え込んでいたのだ。
「キ。・・・・・コウキ!」
「はっ!?・・・あぁ、レオか。」
シルバの声に染谷が気がつくと、既にシルバが着替えてかばんを持った状態だった。それを見た染谷はすぐに着替え始める。
「ナイスだったねコウキ。この調子で次もがんばってね♪」
「・・・結構腹立つ言い方だな・・・」
おちゃらけたシルバの言葉に染谷も着替えながらそう言い返す。
「よう~コウキ!!ナイスキーだったぜぇ~!!」
「いででででで!!!痛いっすよ風巻さん!!」
すると風巻が染谷に向かって肩に腕を組んで引き寄せて着たので染谷は悲鳴をあげる。
「ありがとな!お前が止めまくってなきゃこの試合どうなっていたか。」
「ちょ!?板東さん!?やめ、いやああああ!!??」
板東も言い寄り風巻のいじりに参加し始めた。
「い、いえ!俺がすべきことをしただけですよ!まだ試合はありますし、がんばっていきましょう!」
『おう!!!』
弄られながら言った染谷の言葉に皆が声をそろえて言った。
「ははは。みんなひとつになったな。」
リカルドがその光景を見て笑いながら言う。
「・・・・・ふん。」
ジェンバはハーフタイム時に染谷と騒ぎを起こしたせいか、気に食わない表情をしながら着替えを済ませた後、さっさと控え室を後にした。
試合後 その夜
「初戦突破できたね!」
「いや、あのチームなら当たり前だろうな。」
「ハハハ。言うねコウキ。」
試合後戻った選手はすぐにフリータイムとなり染谷・霧島・シルバは3人で集まり、まったりと過ごしていた。
「うーん、前半どうなるかとおもったけど後半から爆発したね。」
霧島は今回の試合を振り返ってそう言った。
「確かに。逆にシュートがめっきりと減って暇だったけどな。」
「ははははは!!!けど勝てたのだからいいじゃん!」
シルバはぶすくれた表情で言った染谷の発言に腹を抱えて大笑いする。
「まぁね・・・けどパティのやつ結局徹底して守備せずにずっと前線に残っていたな。」
染谷は試合中に思っていたことを言った。
後半が始まってからも風巻は前線で守備をしながらしっかりとゴールを決めていたが、ジェンバはFWに徹し守備をしないまま結局試合が終わるまで守備をすることはしなかった。
「あいつめ・・・ふざけやがって・・・」
染谷は再び湧き上がる怒りを滲ませながらそう言った。
ましてやハーフタイム時に日本人を差別する発言をしてきたのでパティに対しての怒りが溢れるばかりのものになっていた。
「まぁまぁ抑えてよ。仲間なのだから。ね?」
ハーフタイムでの乱闘騒ぎを見ていた霧島は染谷をなだめた。
「はは・・・(うーん・・・マズイな。パティの態度の所為でコウキとパティの仲が悪くなっている・・・これが試合に響かなければ良いのだけど・・・)」
シルバも心配そうに染谷を見つめていた。
シルバの心配をよそに蹴学は圧倒的な強さを見せ付け、1次予選を難なく通過した。
しかし、染谷が試合中に限らず、普段でもジェンバと喋ることは数えるほどしか無くなってしまった。
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第13話
一次予選を通過した染谷たち蹴学は続けて行われる二次予選、つまり決勝トーナメントに向けて練習をしていた。ただひとつ違うのは・・・
ドカッ!!
「うおっ!?」
ビシィ!!!
顔面に向けて飛んで来たシュートをかろうじて止める染谷。そのシュートを打ったのはジェンバだった。
ジェンバはフリーの状態だったにもかかわらず、染谷の顔面めがけて打って来た。
「ちっ」
ジェンバは染谷の顔面に当たらなかったのが不快なのか舌打ちをした。
「・・・・・」
明らかに不快そうな顔のジェンバを見た染谷は見てもなお、何食わぬ顔で立ち上がり定位置に戻る。
――ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・・
しかし、染谷の雰囲気が明らかに怒っているのが分かる。
『あ~あ・・・冷え切っているよ二人とも』
霧島はその光景を見て苦笑するしかなかった。
あれから染谷とジェンバの関係は悪化してしまい、口を聞かない状態になっていた。
霧島も他の皆も仲直りをしようとするも上手くいかず、お手上げ状態となっていた。
「ん~・・・ダイジョウブだと良いんだけど・・・」
ペドロ監督もさすがにまずいと思ったのか考えている状態だ。
ましてやチームの正GKとストライカーなので何とかチームに支障をきたさないようにしてほしい所であるが、今のままだと少々まずい所である。
「・・・・・あっ。良い考えが」
シルバも何か考えた後、何か思いついたのかペドロ監督に耳元で何かを話した。
「・・・それで直ルノか?そもそもそんなに変わったら逆ニ心配スルト思うンダガ」
シルバの考えを聞いたとき、ペドロ監督は半信半疑になった。それほど怪しいものであった。
「うーん、完全とはいかないけど何とかなるんじゃない?大丈夫!ボクがしっかりサポートするから!」
「やりたくナイだけじゃ・・・マァイイ」
シルバが笑顔でそう言うのでペドロ監督がしぶしぶ了解し、何かが決まったようだった。
土曜日、等々力スタジアム
『さぁ!インターハイ東京都予選 二次予選第一試合、多摩丘陵対我らが東京蹴球学園の試合を伝えていくぜぇ!!』
後藤がそう言うと観客の蹴学サポーターは「おおおお!!!」とわき上がる。
舞衣ちゃんは日本代表で用事があり、今日は来ていない。
次の土曜日、蹴学は二次予選の会場である等々力スタジアムに来ていた。
両チームの各選手アップも済ませてユニフォームに着替えた後、もう一度フィールドに出てこれから試合が始まろうとしているところだった。
しかしなぜか染谷が何故?見たいな腑に落ちない顔をしていた。
『さぁ、今から選手を紹介していきたい所だが今回は今までの試合と違う!!なんと、今回は1年GK染谷がキャプテンマークを付けてプレーをすることになった!!!何があったかは知らないが1年がキャプテンマークを付けるのは異例の事態だ!!』
事前に連絡が来ていた後藤も興奮して長い実況を見事かまずに説明した。
そう、先ほども後藤が行ったが今回の試合は染谷がキャプテンマークをつけることになった。
ベンチ前
「・・・・・なんで俺がキャプテンしないといけないんだよ、レオ?」
染谷はぶすくれた表情で本当のキャプテンであるシルバに聞いた。
「ふふっ。ジュニアユースでもキャプテンしていたから大丈夫でしょ」
「いや、俺が聞きたいのは・・・もう」
のらりくらりとかわすシルバに染谷は頭を抱えた。
染谷がキャプテンに任命されたのは昨夜のことだった・・・
~昨夜~
「えっ!?県総体の間俺がキャプテン!?」
いつものようにミーティングを行った後、ペドロが皆の前でそのことが発表され当の染谷はビックリした。
「ソウダ。とはいえいろいろなことはレオがフォローするからよろしく」
「いや、それ以前にそうなったのか理由を・・・・」
「ふぅ~頼むぜ染谷キャプテン!!」
「頼むぜ!」
『頑張れよ!!!』
ペドロ監督が勝手に話を進めたので染谷はまず、何故こうなったのか理由を聞こうとしたら風巻・板東を中心に部員から次々に声が上がる。
これには理由があり、染谷が皆から親しまれているのもあるのだが、シルバから実際に話がありこのようになったのである。
因みにこのことは染谷・ジェンバがいないときに話したので2人はこのことを知らない。
「涼さん!板東さん、皆まで・・・はぁ、分かりましたよ」
染谷は反対しようとしたが皆の盛り上がり様にため息を吐きながら渋々OKの返事をした。
「・・・・・」
染谷とともになにも知らなかったジェンバは染谷の主将決定に少し驚いた表情をしていた。そこにレオが来た。
「ふふっ。コウがキャプテンになったら少なくは君と喋るかもね」
「!!!・・・ふん。そうだとしても僕には関係ない」
そう言いジェンバはミーティングルームから出て行った。
「・・・いまは、ね」
ジェンバが出て行った扉を見ながらシルバはそう呟いた。
・・・このような事があったわけで染谷は県総体の間キャプテンをすることになったのだが、今ひとつ何故なったのか分からないままここまで来てしまったのだった。
「キャプテンになったからってやることは変わらないからいつも通りやれば良いんだよ」
「う~ん・・・そうだな」
シルバにそう言われた染谷は右腕に付けたキャプテンマークに左手を持っていき、試合に向けて気持ちを高めていく。シルバはそれを見て微笑んでいた。
『さぁ!今日のスタメンは蹴学はフォーメーションが少し変わっているぞ!!!!』
蹴学[4-4-2]
CF 9 ジェンバ
ST 11 風巻
OMF 10 シルバ
RMF 8 喜多川
LMF 6 川崎
DMF 7 板東
RSB 3 唐木
LSB 2 加藤
CB 4 リカルド
CB 5 幸村
GK[C]1 染谷
多摩丘陵[4-5-1]
CF (C)9 笹尾
OMF 10 藤尾
RMF 11 田形
LMF 7 加美田
DMF 6 山県
DMF 4 志田
RSB 17 宋
LSB 13 小松
CB 2 笹柿
CB 5 朝井
GK 1 森尾
『今日はマッキーを少し下げてややワントップ気味にパティが入っているぞ!これには何か意図が!?』
いつもの4-4-2フォーメーションを変えてきた蹴学に後藤はそう実況した。
これにはペドロの意図があった。それは試合中に分かる。
ピー!
そして多摩丘陵対蹴学の試合が始まった。
前半15分
蹴学―多摩丘陵
5-0
『さぁ、いつもの展開に持ち込んで大量リードだ蹴学!!』
試合が始まり15分が経過して、いつもの展開になった試合に後藤も内心ドキドキしながら実況をしていた。
ここまで蹴学はいつもの展開に持ち込んで大量リードを奪っている。しかし、いつもの攻撃とは違った。
小松のパスをカットした板東がフリーになっていたシルバにパスを出し、カウンターを仕掛ける。多摩丘陵の選手がボールをとりに行くが、ワールドクラスの技術を持つシルバに敵うわけもなく、多摩丘陵の選手を股抜き・シザース・ルーレットなど、鮮やかなフェイントでかわし中央を走っていく。
『さぁ、レオが他を寄せ付けないフェイントで中央突破を仕掛ける!』
後藤もそう実況している間、シルバはセンターラインを超えて少ししたところでサイドを走っていた喜多川にパスを出し、貰った喜多川はサイドを駆け抜ける。
多摩丘陵の大半の選手は攻撃に回っていたのでサイドが手薄になりチャンスだ。
『さぁ、絶好のチャンスだ!このままクロスを上げると前線にはパティ・風巻がいるぞ!』
追加点のチャンスに後藤も興奮しながら実況する。
サイドを走る喜多川の後ろには相手の選手が走ってきたのを見た喜多川はすばやくゴール前にアーリークロスをあげた。
『さぁクロスだ!追加点なるか蹴学!!』
喜多川のクロスに反応した風巻・ジェンバのFW2人にはマークがついていた。
特にワントップ気味であるジェンバにはマークが厳しかったが、クロスボールにジェンバが反応する。
「パティ!!」
風巻がDFを振り切ってボールを要求するが、マークがついていてもお構いなしにクロスボールをとったジェンバは強引にシュートを打とうとした。
ドカッ!!
しかし、DFが前に立ち進路をふさいだので、ジェンバが強引に打ったシュートはゴールの枠外に行き、チャンスが潰れてしまった。
『あぁ~チャンスでしたが、得点に繋がらない!強引過ぎるぞパティ!!』
後藤も得点に繋がらないことにがっかりしてからジェンバについて実況した。
「何やっているんだよ・・・そこはパスでマークがゆるい涼さんが打てば良かったじゃねえか」
ジェンバの強引な突破を見て染谷はぼそっと呟いた。
『しかし先ほどからシュートは全てFWが打っている!それもかなりの比率でパティが多い!これは作戦なのか!?』
後藤がそう言ったが、実はこの実況に先ほどの答えがある。
実はここまでのシュートは10本以上打っているが、うちMF・DF陣は一度も打っていない。シュートは全てFWが打っている。
それも大半がパティのシュートである。中にはDFをつけながら強引に打ったシュートも・・・当然入るわけも無く、得点の多くは風巻のシュートやごっつあんゴールである。
パティがワントップ気味になったのは、パティがシュートを外しまくっていく内にしっかりと仲間を使うことを覚えてほしいからだ。
ワントップと言うのは当然マークも厳しくなっていく。ジェンバから少し離れた1.5列目に位置する
その中でどのような状況では仲間を使うかどうかを学んでほしいと言うのが監督の狙いだ。
高校生の年齢ともなればそういう判断はついているのだが、いかんせんジェンバにはゴールにしか目が行っていない。
先ほどのシーンもクロスボールを流せばマークがジェンバよりも少ない風巻に渡りシュートして、1点は取れていた。そういう判断を付ければ蹴学はレベルが上げると監督は睨んだ。ジェンバがその狙いに気づくかどうかだ。
ピッ、ピーーーーー!!!
『ここで前半終了!5-0とリードはしていますが、パティの強引なシュートで得点が潰れるというシーンが多く目立ちました!!少し心配です!』
後藤も心配する中、前半が終わり選手は控え室に戻った。
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第14話
お待たせしてしまい申し訳ございません・・・それではどうぞ!!
「ヨシ、DF陣はヨカッタよ。後半もこの調子で行ってクレ」
『イエッサー!!』
選手が控え室に戻り暫くすると、ペドロ監督がやって来て選手たちに後半の作戦を話し始めた。
しかし、染谷はジェンバの前半のプレーには不満を抱いていたのか笑顔は無かった。
風巻にパスしていたら・・・と言うシーンが多くあったからだ。何故しないのか・・・その思いでいっぱいだった。
「・・・さて、ワタシカラハ以上だ。最後ニキャプテンから一言いただコウ」
「・・・分かりました」
監督からそう言われたので染谷は立ち上がり選手の前に立つ。
「DF陣は凄くよかったのでこの調子でがんばってください!・・・・けど反対に俺は前半の攻撃陣にはうんざりしている。特にパティの強引なプレーにうんざりしている」
『!!??』
染谷はぼかさず放ったストレート発言に選手は驚きの表情をした。
「・・・何だよその言い方。」
当然染谷の発言に反応したのはジェンバだった。
「パティ、お前は前半に何本シュート打って何本外した」
「さぁ?分からん」
「っ・・・お前は前半10本以上打った中で半分ぐらいシュートを打っている。その中でも強引にシュートして外すっていう光景が多くあった。涼さんのマークがゆるいのに気づいている?」
キレるのを我慢しながら染谷は言うがジェンバは気だるそうに聞いていた。その態度に染谷はふつふつと怒りがこみ上げてくる。
「・・・・・さぁ?俺はゴールにしか興味は無い。」
ジェンバはそう言ったのを聞き、染谷は今回もこみ上げる怒りを止められなかった。
「俺は勝ちたいんじゃ!!!分からんかボケ!」
「ビクッ!!!」
染谷は大声をあげた為、全員が驚く。流石のジェンバも他の選手同様の動作を見せた。
「・・・すまん。けど正直ゴールよりも「勝つ」って言うことが一番大事じゃないのか?今の独りよがりなプレーをずっと見せるならこの先勝つことも出来ないかもしれないぞ」
「・・・・・」
パティは何も言い返せない。
「お前は嫌かもしれないが、選手の国籍が日本でもどこでも『チームプレイ』は大事だ。皆の頭の中に無いといけないものがパティ、お前には無い。これは皆に言えること」
俺の話にパティのみならず皆が耳を傾ける。
「個人技で相手を抜き去る『個人プレー』も大事だ。けど仲間を使ってチーム全員で点を取る『チームプレイ』の方がもっと大事だ。サッカーと言うのはそういうスポーツだ!!だから11人でサッカーはするんだぞ!!!・・・大丈夫!これだけ凄いレベルの選手が揃っていたらそんな事簡単でしょ?後半はそれを意識して頑張ろう!俺からの話は以上で」
染谷は話を終えると、ペドロ監督が前に出てくる。
「さっき染谷が言った事を後半でしっかりと生かしていてイケ!分かったナ」
「イエッサー!!」
ペドロ監督の発言に選手たちはそう言い、もう時間なので皆出て行く。
(ふふっ、やっぱりコウキにキャプテンを任せてよかった。光輝にはキャプテンとしての資質があるからね。このままずっとやってくれたらいいのになぁ)
シルバはそう思いながら控え室を出る。
「・・・おい、コウキ。」
染谷もシルバと共に控室を出ようとしたら、ジェンバに呼び止められた。
「ん?なに?」
「・・・チームプレイって何だよ。」
ジェンバが染谷にチームプレイとは何なのか聞いてきた。
ジェンバは母国でサッカーをしていた時は個人でボールを蹴る事が多かった事や足が非常に速かったことから守備やチームプレーの大切さというものを理解していなかったから分からなかったと言うのもあるのだ
「・・・それはいろいろあると思うぜ。例えば自分をおとりにして、味方の攻撃を助けるとか、人それぞれだ。けどこれだけはいえるかな?」
「・・・・なんだ。」
「さっきも言ったけど『点』を取ることがFWの仕事。けど『一人』ではなく、『皆』で一点を取る。これがチームプレイだ。それを遂行するにはどうすればいいか。後はパティ次第だよ。そいじゃ・・・」
「あ、おい!!」
それだけを言い染谷は再度呼び止められないようにさっさと出て行った。
「くっ・・・何だよ。チームプレイって・・・わかんねぇよ。それを意識してたら、金になんのかよ・・・」
ジェンバがそう苦虫を噛んだ顔で呟いたが、誰もそれを聞く者はいなかった。
さまざまな思いを抱えながら後半へと入る。
ピーーー!!!
後半開始の笛が鳴ると風巻は後ろのレオにボールを戻し、FW陣は前へと行く。
『さぁ!後半開始だ!フォーメーションもいつもの4-4-2のダイヤモンド型に戻っているぞ!』
後藤もそう実況した。後半からはいつものフォーメーションに戻ったが、ペドロ監督からの指示でMF・DF陣のシュート禁止はまだ継続中だ。
「・・・・・」
シルバは周りを見ながらゆっくりとボールを運んでいる。
「いつまでも持っていると思うな!」
多摩丘陵の選手がボールを奪いに来たが、シルバは横から来た板東にパスをする。
『レオ、迷わず板東にパスをした!いつもはドリブルで仕掛けるが、パスをしたところを見ると後半もシュートをしないのか!?』
ドリブルをしないシルバを見て何も知らない後藤はそう言った。
ベンチ
(・・・・フフッ。ワタシが考えたDF『インダイレクト・ディフェンス』も徐々にこなしてキテいる。インターハイは無理でも選手権マデニは完璧にこなせるダロウ。)
試合を見守るペドロ監督はそんなことを思っていた。
インダイレクト・ディフェンスは、ペドロ監督が掲げた『超絶的パスサッカー』の中にあったDFである。DFが選手のパスコースの前に立ってパスを封じ、ボールを奪った後にパスコースを塞いでいたDFが一瞬にしてパスの選択肢に入ってくるという非常に厄介なDFで、ペドロはインターハイ予選開催までの間、重点的に練習をしていた。
(フフッ、しっかりと結果を残してクレレバ、ワタシとしてもいいほうに事が進む。がんばってクレよ・・・)
どす黒い野望みたいな感情を抱いていたペドロ監督は試合を見守るのであった。
後半20分
蹴学 5-0 多摩丘陵
前半に5点を取った蹴学はパス交換をしながら相手をのらりくらりとかわしていた。しかし、ただ単にパスをしているだけではないのが蹴学である。
「ぐぐっ・・・」
多摩丘陵の選手は長いこと蹴学のパスにつき合わされてきたのでボールを奪いに来た。
その所為か4-5-1の守備重視に敷いてあるフォーメーションが崩れ、MFが前によって来たのを見逃さなかった。
『さぁ、川崎から板東へ・・・あぁーと、敵陣へロングフィード!流石板東だ!前よりになったのを見逃さなかった!!』
後藤が実況した通り、板東がパスを貰うとすぐさま前よりになって空いた敵陣のスペースへとパスを出した。そのスペースには風巻とジェンバが来ていた。
『大チャンスになるぞ!!!』
突然の大チャンス後藤も興奮しながら実況する。
「よしっ!!」
板東からのパスを取ったのは風巻だった。その勢いのまま、一人かわしエリアの前まで行く。
それを見たジェンバはマークを引き擦りながらすぐさまエリア内へと超人的なスピードで前に突っ込んでいく。
「お前には出させない!」
前半ジェンバのシュートが多かったからか多摩丘陵の選手もジェンバにボールを出させないようにする。DFもジェンバの方へとよってきた。
「ヘイ・・・!!」
ジェンバが風巻と目が合った瞬間、体が動くようにパティの体は斜めへと動いていた。マークしていた選手とDFは引き寄せられるように一緒の方向へと動いた。
「うおおおおお!!!!」
一瞬のスペースが空いたのを風巻は見逃さず、ジェンバが走った方向とは反対側にあるゴールをめがけて豪快に右足を振りぬいた。
ズドン!!!
「なっ・・・・」
GKもジェンバを警戒してジェンバの方へと動いていたので、シュートに対応できずにボールはゴールに突き刺さった。
『ゴオオオオオオーーーール!!!!!パティが囮になったことで一瞬空いたスペースを見逃さずマッキーが打ったシュートは見事決まった!!!これで5-0!!!』
サポーターが沸く中、後藤も喜びながらそう言った。
「パティ!!」
風巻がジェンバに駆け寄る。
「・・・なんでお「サンキュー!!パティのおかげでシュートが決めることが出来た!!」・・・へっ?」
パスを貰えなかったからか、少し怒りを覚えていたジェンバは言おうと思ったが、風巻が笑顔でそう言ってきたのを聞き、間抜けな声を出した。
「お前が斜めに行ってくれたおかげで、シュートが決めることが出来た!ありがとう!」
そう言い、風巻はハイタッチをしようと手を出した。
「・・・・(ふん・・・これがチームワークって奴かねぇ・・・俺には合わねぇが・・・)あぁ!ドウイタシマシテ!」
そう言い二人はハイタッチをした。
そしてその試合ジェンバはその試合そういうプレーをしたのは一回だけで後は全部本来のプレーだったが、何かジェンバの中でほんの少し変わった・・・のかもしれない。
蹴学はこの試合も8-0で圧勝した。
控え室
「ヨクヤッタ。次の試合もこの調子で行ってくれ。」
試合後、ペドロ監督がこの試合について話していた。
「パティ!」
染谷はパティの方へ歩み寄る。
「・・・なに?」
ジェンバは疲れているのか少しだるい感じで返した。
「一回だけだけどチームプレイ出来たじゃん。この調子でやろうぜ!」
「・・・・・」
染谷は笑顔で言ったが、ジェンバは無言で着替えるとさっさと出て行った。
「すまんなコウキ。」
「レオ・・・レオが悪いわけじゃ・・・」
染谷はジェンバが出て行ったところを見ていたら、シルバが謝ってきた。
「まぁね・・・もうコウキもこれ以上突っかかるとそれこそチームワークに支障がきたすから今までどおり接してやってくれないか?」
「・・・はは。こっちも怒るのも嫌だし、一回チームプレーが見ることが出来たからもう怒らないよ。パティにも少なからずそういうのに意識があるって事だからこっちは良いし。」
「ありがとう。」
「そりゃどうも。」
染谷とシルバは笑顔でそういう会話を交わしながら着替えた。
ジェンバは以降アシストプレーは見せなかったが、以前のように突っかかることは無くなり染谷とジェンバは喋れるようになった。
蹴学も圧倒的な強さを見せつけ並みいる東京都の強豪を倒し、インターハイ予選の決勝まで進んだ。
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