僕は料理が好きだ。レシピを考えたり、自分の料理を他人に振舞うのが。だが、僕が通っている遠月学園は料理学校の中でも最高峰と呼ばれるに相応しい学園。無事に卒業することが出来れば将来は約束されたようなものだと言われているほど。
そして遠月学園で生き残るのはとても難しい。特別試験などが行われ、篩に掛けられる。個人的に自分はとても料理がうまいとは言えないと思うから。普通に暮らしている分には美味しい部類に入るかもしれないですが、この遠月学園においては上には上がいる。
それはとても身近に……僕には遠月学園に入学した頃からとても仲良くしてもらっている同級生が五人いる。今でもはとても有名な五人組ですね。
第一席 司瑛士・第二席 小林竜胆・第三席 女木島冬輔・第四席 茜ヶ久保もも・第五席 斎藤綜明。遠月学園に通っていなくても知っているような有名な人たち。本当に何でこの五人は僕のことなんかを気にかけているのか自分も分からない。
僕には抱えているものがある。それはとても体が弱いこと。僕は生まれつき病弱な体ですぐに体を壊してしまう。それは今でも治らない。五人もこの事を知っているからこそ気にかけてくれるのかな…。それだったら悪いな。僕のせいで皆の重要な時間を奪ってしまっている。
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今日は運悪く体調が悪くて遠月学園に行くことも出来なかった。別に珍しいことでもないから個人的には「またきたかぁ」ぐらいにしか考えていなかった。こういう時は一先ず寝るのが一番だと決まっている。
誰かの呼ぶ声が聞こえてくる。重い瞼を少しずつあけていく。そしてぼやけた景色しか見えないが、そこには誰かが僕に向かって何かを呼びかけている。
「おい、大丈夫か!?」
「う、うん……ああ、皆だったんだね」
「皆だったねじゃねぇよ。すっげぇ心配したんだぞ!」
「なんで?」
「今日の学校に欠席するし、連絡を取ろうとしても全然取れないんだもん。だから、ももは天草くんと一緒に登校した方がいいって言ったのに」
確かに数日前に茜ヶ久保さんは皆で居た時に「天草くんは体調が悪い日が多いし、無断で休まれたらとても心配になるから一緒に登校しよう」と提案してくれた。でも、さすがにそこまで五人に迷惑を掛けたくないので断った。
「あ、また心配掛けちゃったんだね。毎度毎度、心配を掛けて本当にごめんね」
「別に拙者たちのことはどうでもいいのだ。お前さんが無事であるのであればいいが」
「詩乃は僕たちのことを気にする必要はないよ。僕たちが詩乃のことを気にかけるのは僕たちが好きでやっているだけだから」
そういう訳にはいかない。五人ともが遠月学園で五本の指に入るほどの実力者がこんな僕なんかに時間を割いてもらうのはとても悪い気がしてしまう。
「天草はそんなこと気にしなくていいんだよ。司が言ったように私たちがお前のことをただお節介を焼いているだけだからさ」
「お前は大人しく体を治すことに専念しろ」
「ももは天草くんが一緒じゃないと学校生活が全然楽しくないから早く治して」
「拙者もお主からは色々と影響を受けるところが多いからな」
「私たちはお前のことをお前よりも買っている。お前は気付いていないだけで私たちにすごい影響を与えているんだぜ」
「…え、…そんなことあるはずないですよ、僕と皆では出来上がる皿のレベルが違いますからね」
「まあ、簡単に言うと僕たちは詩乃と一緒がいいんだよ」
司は優しい笑顔を浮かべながら天草に対していった。
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