東方友煙記(完結済) (まっまっマグロ!)
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本編
博麗霊夢の場合


煙草の煙はつかみ所がなくただただ流れていくだけだ、まるで彼女のように

 

一一一一一一一一一一

 

幻想入りしてしばらく経った。することもないので、博麗神社にでも行こうと思う。

 

一一一一一一一一一一

 

縁側に座り煙草に火をつける。吐いた息は白い煙を纏ってゆらゆらと風に流されていく。

 

「あら、久しぶりに来たのね。」

 

客間の奥から袖が独立しているという独特な巫女装束を着て、その上から白い前掛けを掛けた少女が出てきた。その手にはお玉が握られている。恐らく夕食の準備をしていたのだろう。

 

少女の名は博麗霊夢と言った。

 

日本のとある山奥にある、忘れ去られたものたちが呼び寄せられる地、魑魅魍魎が住み着く場所、幻想郷においてその均衡を保つため妖怪としての命を全うする妖怪をに制裁を与える「ハクレイの巫女」であると彼女は言っていた。

 

ときに妖怪を、ときに神を、ときに人を裁く彼女は笑うこともなく、怒ることもなく、ただただ悪しきを裁くための機械のようでった。

 

「まぁな、たまには来ないと落ち着かないからな。」

 

地味な色の甚平に身を包み、黒く平凡な髪型をし、煙を吐き続ける彼は相模友人(さがみともひと)。

 

1年と6ヶ月13日前の午前1時15分22秒に幻想郷へとやってきた。幻想郷では彼のように外から流れ着く人間のことを「外来人」と呼び、ときには元いた場所へ、いるべき場所へ返し、ときには妖怪の餌として手厚くもてなしている。

 

しかし、彼は戻ることもなく、食われることもなく、1年半にも及ぶ期間を平然と過ごしていた。

 

普段は神社の西にある人里に住み、そこで万屋として生計を立てていた。

 

「来たばかりの頃はここに座ってただぼーっと1日が流れているのを見てたわよね。」

 

彼は外来人にしては運が良く、妖怪に襲われる心配が比較的少ないこの「博麗神社」に流れ着いていた。外来人の多くは妖怪の多い森や、更に運の悪いものは妖怪の住処へと流れ着き、そのまま餌となる。

 

そして流れ着いてから1週間、彼は人里へいくこともなく、ただ縁側から見れる景色を眺めながら煙草を吹かせていた。

 

当時、霊夢から「直ぐに逃げ出さないなんて、変な外来人ね」と言われていたことを思い出しながら彼は煙草を横においた器に押し付けた。

 

「あの頃は何をしたらいいかわからなかったからな。」

 

「それが今では外来人からランクアップしてニコ中のプータローですものね。」

 

霊夢は手で口元を隠しながら笑う。笑った顔は「ハクレイの巫女」でも「幻想郷の守人」でもなく、ただの十代の少女であった。

 

「笑うなよ。俺は今でもこの状況が信じられないんだよ。」

 

彼は頭を掻きながら面倒臭そうに、笑う霊夢を忠告した。

 

「目の前に世界一の美少女がいること?」

 

霊夢は平然とした顔で返す。

 

「ちげーよ、この幻想郷にいることだよ。……わかっていってるだろ?」

 

「当たり前でしょ。私が世界一なの周知の事実なのよ。」

 

「……」

 

「……何か言ってよ。独りでボケても虚しいだけよ。」

 

「いや、お前といたら調子が狂うと思っただけだ。けど、それが今ではなんとなく心地がいいんだ。」

 

「……貴方、やっぱりズルいわね。」

 

「知ってるよ。ズルくないと力のない人間は生き残れないんだ。……お前が教えてくれたことだよ。」

 

「感謝してる?」

 

「あぁもちろん。ここに来て最初にあったのがお前で本当によかったと思っているよ。」

 

「それなら許す。」

 

「それはどうも。」

 

「ところで、貴方が吸っている煙草って美味しいの?」

 

「これか?」

 

「そうよ。貴方がここに来てからいつも吸っているみたいだけど。」

 

「……そうだな。……俺は旨いとは思わないな。」

 

「美味しくないの?それならどうして?」

 

「落ち着くんだ。煙を吸うとき、煙が肺に入ったとき、煙を吐き出すとき、その時間はゆっくり流れてくれる。」

 

「ふーん。お茶みたいなものかしら?」

 

「そんなもんだな。一本吸うか?」

 

「嫌よ。臭いし、それに私はまだ煙草を吸っていい年じゃあないのよ。」

 

「宴会の度に酒をがぶ飲みして潰れる奴が言う台詞か?」

 

「いいじゃないの。」

 

「まぁいいけどな。」

 

「今日は泊まっていくの?」

 

「そのつもりだ。明日の朝にはここを出て紅魔館へ行くつもりだ。」

 

「紅魔館へ?何しに行くの?」

 

「少し咲夜さんの手伝いにな。」

 

「なるほどね。そろそろご飯にするから吸い終わったらお風呂入ってきてね。」

 

「お袋みたいな言い方だな。」

 

「いいじゃあない。日頃適当に生きているんだからこういう日くらいはしっかりしなさい。」

 

「わかったよ。」

 

「それとね……」

 

「ん?」

 

「……今夜は優しくしてね。」

 

「わかってるよ。」



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霧雨魔理沙の場合

12/7 魔理沙の口調を一部訂正しました


煙草の煙は無責任だ。それを知りながら吸う俺はさらに無責任だ。

 

一一一一一一一一一一

 

紅魔館へ向かうため、魔法の森を抜けていく。その途中、魔理沙に会った。

魔理沙と共に魔法の森を歩いていく。もちろん煙草を吸いながら。

 

一一一一一一一一一一

 

「お前、それ臭いから止めろよ。」

 

「嫌だ。お子様の魔理沙にはこの良さがわからないんだよ。」

 

「言いやがったな。一本寄越せ、私が大人なところを見せてやる。」

 

「わかったよ。きつくなったらすぐ捨てろよ。」

 

「わかってる。」

 

「ほらよ。茶色いところをくわえて、白い方の先に火をつけるんだぞ。」

 

「そんなのお前を見てるからわかってるんだよ。」カチッ

 

「……」

 

「……おい」

 

「どうした。」

 

「つかないぞ。」

 

「火を近づけたら息を吸うんだよ。そうしたら中まで火が着く。」

 

「……知ってたよ……。」

 

「わかってるよ。」

 

「……」カチッ スゥーッ

 

「むせないか?」

 

「……これくらいの火大丈夫だ。いつものマスパと比べたらこんなの天日干しした布団より温いな……。」

 

「涙目で言っても説得力ないぞ。ほら、貸せ。」

 

「……うん。」

 

「ありがとな。お蔭で火をつける手間が省けた。」

 

「って、なんでお前が吸ってるんだよ?」

 

「これか?だって持ったいねーだろ?」

 

「けど、それって……所謂……それって……。」

 

「間接キスか?気にするなよ。親子くらい離れてるお前に興奮なんてしないからな。」

 

「なんでそういうことを平然とやってのけるんだよ。」

 

「そこに痺れるか?憧れるか?」

 

「そんなわけないだろ。少しは恥じらいの気持ちを持ってってことだ!」

 

「お前にそれを言われてもな。それに『利用できるものはとことん利用しろ』って言ったのお前だろ?」

 

「それはそうだけど……。」

 

「それなら、この煙草お前が責任もって最後まで吸うか?」

 

「でもこれ、お前が口つけて……。」

 

「だから、親子くらい年離れてるのにそんなの気にするなっていってるだろ?それとも魔理沙ちゃんは間接キスくらいでドキドキしちゃうくらい乙女なのか?」

 

「わかったよ。吸ってやるよ。私が、責任もって、お前が口つけた煙草を……最後まで……吸って……やる……。」

 

「なんでそう考えるかな?」

 

「いいだろう。私は花も恥じらう乙女だぞ。」

 

「わかった、わかった。ほら。」

 

「おう。」

 

「……」

 

「……なぁ。」

 

「どうした?」

 

「煙草って美味しくないな。」

 

「俺もそう思うよ。」

 

「ならどうして吸うんだよ。」

 

「格好つけたいからだよ。そのために外見から入ったんだよ。」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、だから魔理沙と同じだな。」

 

「どこがだよ。」

 

「魔理沙だって形から入るタイプだろ?」

 

「それはそうだけど……。」

 

「それでいいんだよ。どんなに中身がいいやつでも外から見てダメな奴はとことんダメだからな。」

 

「……煙草も格好悪いぞ。」

 

「わかってるよ。」



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紅美鈴の場合

 

赤い火は揺れ動く。風に流されながら思わぬ方向に揺れ動く。強い意思をもって揺れ動く。

 

一一一一一一一一一一

 

魔理沙の案内のお蔭で特に危険もなく紅魔館に到着した。待ち合わせまで時間もあるので門に寄りかかりながら煙草に火をつける。

 

一一一一一一一一

 

「また吸ってるんですか?」

 

「好きにさせてくれよ。」

 

「そんなものを吸っているから強くなれないんですよ。」

 

「俺は強くなりたい訳じゃあないんだけどな。」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ。」

 

「わからないですね。」

 

「何がだ?」

 

「だって、この幻想郷って力こそ全てって感じじゃあないですか。それなら何で霊力もない、力もない貴方はここに残ったんですか?」

 

「帰れないんだよ。」

 

「嘘ですね。」

 

「……」

 

「……沈黙は肯定と受けとりますよ。」

 

「それでいいよ。」

 

「それでは教えてもらえませんか?」

 

「何を?」

 

「はぐらかさないで下さい。貴方がここに残った理由ですよ。」

 

「……言ってもいいのか?」

 

「ええ、もちろん。」

 

「お前に会えるからだよ。」

 

「そうだったんですね。」

 

「驚かないのか?」

 

「嘘には驚きませんよ。」

 

「気付いたのか。」

 

「私の能力を忘れましたか?貴方の言霊には本『気』を感じとることができませんでしたからね。」

 

「そんな能力あったんだな。」

 

「はい。何故か忘れられてますけどね。」

 

「体術ばかり使うからだろう?」

 

「まぁそうなんですけどね。結局私の能力って弾幕ごっこでは分かりにくいんですよね。」

 

「周りが暗くなったり、氷を飛ばしたり、魔導書を持っていたり、時を止めたり他のやつらは分かりやすいのにな。」

 

「そうなんですよ。お嬢様や妹様の能力は印象に残りやすいですし、私だけ異様に地味なんですよ。」

 

「そうだな。」

 

「……酷いですね。」

 

「そう落ち込むなよ。俺は地味なやつも好きだけどな。」

 

「ん?本当ですか?」

 

「あぁ。アメスピべリックとかechoとかわかばとかチェとか目立た無いけどいい銘柄はいくらでもあるんだよ。」

 

「また、煙草の話ですか?」

 

「そうだよ。」

 

「変わらないんですね。」

 

「そうだな。人はいくらでも変われるけど、変わらないからこそ得られる魅力ってのは大切だと思うぞ。」

 

「そんなもんですか?」

 

「そんなもんだよ。独り残らず流行りのものを身につける世界ってのは死ぬほどつまらないものだと思うよ。」

 

「……」

 

「例えば、流行ってるからって言って、全ての男が茶髪の長髪の細マッチョになったら気持ち悪いだろ?」

 

「そうですね!やっぱりゴリマッチョの方がいいですよね!」

 

「……」

 

「どうしたんですか?」

 

「いや、何でもない。」

 

「それよりそろそろ時間じゃあないですか?」

 

「あぁ、そうだな。じゃあそろそろいくか。」

 

「煙草の火は消していってくださいね。」

 

「わかってるよ。」

 

「それでは、お仕事頑張ってくださいね。」

 

「わかってるよ。」

 



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パチュリー・ノーレッジの場合

彼女は本のムシだ。そのムシにムシのように嫌われる俺は一体なんなのか。

 

一一一一一一一一一一

 

咲夜さんから依頼の内容を聞き。大図書館に向かう。今回の仕事は司書の補助らしい。屋内なので煙草は吸えない。(ガキが二人、それに喘息持ちもいるからな)

 

一一一一一一一一一一

 

「そこ、臭いから退いて。」

 

「開口一番にそれか……」

 

「いいでしょ。貴方がいると本に臭いが移るし、喘息の発作が酷くなるのよ。」

 

「ならなんで俺を呼んだんだよ。」

 

「貴方が適役だからよ。魔理沙は本を盗むし、霊夢はがめついし、人里の便利屋は軟弱だからよ。」

 

「そこまでして選んだお手伝いさんにいきなり「臭い」か……」

 

「貴方も認めているでしょ?」

 

「まぁ、煙草臭いって言われるのには慣れてる。」

 

「ならいいじゃない。」

 

「慣れていても、落ち込みはするぞ。」

 

「そうなのね。」

 

「そうだよ。」

 

「貴方の吸ってる煙草って何なの?」

 

「これか?」

 

「何が目的で吸ってるの?臭いし毒にしかならないはずよ。」

 

「ここに来たとき、俺は絶望ばかりだった。」

 

「それがどうしたの?」

 

「そんなときに、持っていた煙草に火をつけるたんだ。すると、全てがバカらしくなった。」

 

「どういうこと?」

 

「そのままの意味だよ。俺が昔生きていた世界ではな、俺みたいな奴は害悪としか扱われなかったんだ。」

 

「どうして?」

 

「生産しないからな。俺は見ての通りやる気もなにもないぐーたらだ。けどメシは食うんだよ。」

 

「確かに、そのような人はあまり必要とされないわね。」

 

「でもな、それは俺の世界で皆が行き急いでいたからなんだよ。全ての人が社外の歯車として生きることを望み、そうやって生きることに価値を見いだしていたからな。でも、ここは違った。」

 

「そうね。幻想郷では人々は幻想郷のためというより自分のために生産しているものね。生産した人だけがその利を得て、生産できない人はなにも得られない。」

 

「煙草を吸ってるとな、そういうのが今までにないことのようで楽しくなってきたんだ。」

 

「そういうものなの?」

 

「あぁ、前の世界では『俺なんていなくていいや』て考えていたのに、ここでは『俺はいなくてもいいんだ』って考えるようになったんだよ。」

 

「よくわからないわね。」

 

「俺の世界では自ら命を絶つ人が大勢いた。」

 

「意味がわからないわ。せっかく神に頂いた命なのだからその命を全うすべきではないのかしら。」

 

「吸血鬼に雇われ、悪魔を使役する君が神について語るのか……」

 

「いいじゃない。それよりも続きを話してちょうだい。」

 

「そうか。何故自ら命を絶つのかと言うと、歯車として生きれなくなったからだ。」

 

「よく意味がわからないわね。」

 

「あるものは歯車として生きることに疑問を感じて自ら命を絶つ。あるものは歯車として生き続けることに絶望を感じて自ら命を絶つ。そんな世界だった。俺の古くからの友人も何人か命を絶つことを選択した。」

 

「辛いわね。」

 

「そうでもないさ。あいつらは自分で自身の限界を見極めたんだ。そのことを責める気はないさ。誰も責めてはいけないんだよ、死んでしまった人のことを……。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「私の部下さーん♪お茶が入りましたよ。一緒にサボりましょう。……あれ?」

 

「小悪魔、貴方も空気が読めないわね。」

 

「まぁいいじゃないか。外で一服させてもらうよ。」

 

「今日はここまででいいわ。面白い話も聞けたし。小悪魔、貴方も今日はあがりなさい。」

 

「はーい♪」

 

「いいのか?まだ時間はあるはずだが。」

 

「いいのよ。その代わりまた来て外の話を聞かせてちょうだい。」

 

「わかったよ。」

 

 

 



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十六夜咲夜の場合

 

満月は完璧な存在を意味するらしい。満月の名を持つ彼女もまた完璧な存在である。しかし満月は同時にこれから訪れるであろう崩壊も意味するらしい。

 

一一一一一一一一一一

 

今回の依頼を終え、外で一服する。やはり屋敷内は禁煙らしい。時計を見るとそろそろ夕食の時間だ。直に咲夜が俺を呼びに来るだろう。

 

一一一一一一一一一一

 

「そろそろ夕食の時間です。食堂にお越しください。」

 

「もう少しゆっくりさせてくれよ。今火着けたところなんだよ。」

 

「知りません。お嬢様がお待ちですので早くしてください。」

 

「あと五分だから。」

 

「わかりました。それでは私は五分間貴方を見張ることにします。」

 

「ただ立つのも辛いだろ?」

 

「そうですが……、貴方が出来るだけ早く食堂に向かわせるのが私の役目ですから。」

 

「大変だな。」

 

「いえ、お嬢様のためならなんでもしますよ。それが私ですから。」

 

「いいよな、お前は。」

 

「何がですか?」

 

「お前を含めて、幻想郷にいる人たちは何か目的を持って生きているだろ?それが羨ましいんだよ。」

 

「そうですか?貴方もあるじゃないですか、生きる目的。」

 

「ん?」

 

「泥水をすするような真似をして必死に命を繋ぎ、毎日無駄金を叩いて毒を吸うという目的があるじゃないですか。」

 

「酷い言われようだな。」

 

「事実ですよ。『食事と煙草を買うお金さえいただければなんでもします。』という看板は伊達ですか?」

 

「まぁそうだけどな。因みに煙草には体にいい成分も含まれているんだぞ。」

 

「例えば何ですか?」

 

「煙草を吸うとな、口内炎ができにくくなるんだよ。」

 

「は?本当ですか?」

 

「らしいぞ。詳しいことは知らないがな。」

 

「口内炎が……」

 

「どうしたんだ?」

 

「いえ、最近、口内炎に悩んでいるものですから、少し気になっただけです。」

 

「そうなのか、なら1本吸ってみるか?」

 

「いえ、今からお嬢様とお会いするので、煙草の臭いがするのはちょっと……」

 

「もしかしたら口内炎がなおるかもしれないぞ。」

 

「……」

 

「どうする?どっちにしろ、俺が吸い終わるまで待ち続けるのは退屈だろう?」

 

「それでは1本いただきます。苦しかったらすぐ捨てますよ。」

 

「いいよ1本くらい。」

 

「……それでは……いただきます。」

 

「ほらよ。」

 

「……」カチッ スゥー

 

「おー、どっかのアホな魔法使いとは違うんだな。」

 

「なんの話ですか?」

 

「いや、こっちの話だよ。」

 

「それにしても、これ何かフルーツの香りがしますね。」

 

「香りつきのやつだからな。俺は苦手だけど最初はそういうのが吸い易いかと思ってな。」

 

「いつもの貴方が纏ってるような匂いがしないので吸い易いですね。」

 

「それはよかった。口内炎治るといいな。」

 

「はい。すみませんがその煙草どこに売ってますか?」

 

「俺の持ってる煙草は大体香霖堂においてあるよ。箱を見せたらすぐわかるだろうよ。」

 

「ありがとうございます。私の身体のことを気にかけてくださって。」

 

「いいよ。(……俺も香霖から広告料貰えるしな。)」

 

「何か余計なこと言いました?」

 

「いや、何も。」

 

 



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レミリア・スカーレットの場合

 

運命を見る少女は敗北を知りながら自らの勝利を信じて戦った。ある男は敗北を知りながらいつかの勝利を信じてその勝負を捨てた。

勇敢と無謀とは表裏一体である。彼女はそれとも戦い、無謀という結果を得た。男はそれすらも捨ててしまった。

 

一一一一一一一一一一

 

夕食がすみ、帰ろうとする。しかしレミリアに呼び止められ、今は彼女の部屋にいる。

煙草が恋しい。

 

一一一一一一一一一一

 

「とりあえず座っていいか?」

 

「ええ。」

 

「で、話って何だ?」

 

「貴方のこれからのことよ。」

 

「今まで通りとはいかないのか?」

 

「そうね。最近、貴方の運命が見えたわ。……死ぬわよ。」

 

「そうか。」

 

「驚かないのね。」

 

「驚かないさ。それが俺に与えられた運命というなら静かに受け入れる。第一妖怪だらけの幻想郷にすみ、力をと持たない俺が長生きできるとは思わない。」

 

「人間の癖に生意気なことを言うのね。少しは抗おうとか思わないの?」

 

「思わない。まず長生きしたくてここにいる訳でははない。一度捨ててしまおうと思った命をたまたま拾ってしまっただけだ。楽しく生きれれば長かろうが短かろうが関係ない。」

 

「あまり生意気なことを言うなよ小童が。」

 

「そういうつもりはない。俺には抗うための力がないと判断しただけだ。」

 

「それが生意気だというんだ。人間なら醜く生き抜いてみろ。運命を打ち砕くくらい言ってみろ。お前の好きなマンガとやらの登場人物たちもそういうんだろう?」

 

「だから俺には力がないんだ。妖怪と戦う術も、自然に抗う術も持ち合わせていない。そんな俺がどう生き残るというのだ?」

 

「抗え。私が昔したように。醜く天に向かって生きたいと言ってみせろ。やがて失う命と知りながらも、無謀と言われようとも必死に戦ってみせろ。」

 

「だから俺には力がないんだ。お前には力があったから、そうだろ?」

 

「力がない?それなら同じく何も才能持たない人間を見てみろ。あいつは吸血に立ち向かい、鬼と戦い、神にまで抗ってみせた。何度もピチュりながら最後にはそれらに勝ってきた。」

 

「無理なんだよ。俺には……。」

 

「もういいわ。好きにしなさい。そして醜く死になさい。弱者として、自らの運命に抗うことさえしなかった弱虫として、それ相応の醜さを見せつけながら死ぬといいわ。」

 

「……。」

 

「……。もし……、貴方が貴方が弱虫として私に未来永劫笑われるのが嫌なら、またここに来なさい。」

 

「……。そうだな……、お前に笑われるのだけはごめんだからな。……また来る。」

 

「減らず口ね。」

 

「……わかってるよ。」




続かないです。


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フランドール・スカーレットの場合

狂気な少女は涙を流した。何を悲しんで泣くのだろうか。何を望んで泣くのだろうか。

 

一一一一一一一一一一

 

後日、レミリアと俺の今後について話し合い、一応抗ってみることに決めた。その帰りに屋敷の中で迷子になってしまった。テンプレだな……。

 

一一一一一一一一一一

 

「じゃあ、ここは紅魔館の地下でお前の部屋というわけか。」

 

「お前じゃないよ、フランだよ。」

 

「わかった、わかった。ここはフランの部屋だな。」

 

「そうだよ。」

 

「そうか……。」

 

「そういえば、お兄さんは何でここに来たの?」

 

「レミリアと話があったんだよ。その帰りだったんだ。」

 

「じゃあ、迷子なんだね。よしよし。」

 

「頭を撫でるな。」

 

「いいじゃん。」

 

「よくないんだよ。俺の自尊心とか自制心とかが崩壊しかねん。」

 

「『じせいしん』ってなーに?」

 

「ニヤニヤしながら尋ねると友達なくすぞ。」

 

「大丈夫だよ。私友達いないから。」

 

「そうなのか?」

 

「うん。私ね、ものを壊しちゃうんだ。みんなが大切にしているものも全部。だから仲良くしてくれる人いないの。」

 

「確かにな。大切なものを壊す人とは仲良くななれないな。」

 

「お兄さんまで……酷いな。」

 

「でも、だからここにいるんだろ?」

 

「うん……。壊さないように隠れたの。誰にも会わないように……」

 

「ならいいんじゃないのか?」

 

「どうして?私怖いんだよ。人間を食べるし、何でも壊すし、たまに病んじゃうときもあるし……それに……人間だって食べるんだよ。」

 

「それでもそんな自分を嫌って人を傷つけないように最大限努力したんだろ?」

 

「それは……そうだけど。」

 

「それならいいんだよ。フランは俺と違って自分を客観的に見ることができた。そうして人のものを壊さないように努力してきた。違うか?」

 

「……。」

 

「俺はな、頑張っている人が好きだよ。」

 

「ありがとう。お兄さん優しいんだね。」

 

「長く生きてると、困っている子に世話を焼きたくなるんだよ。」

 

「でも私、500年くらい生きてるよ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……俺の自尊心を破壊するのは止めてくれ。」

 

「『じそんしん』ってなーに?」

 

「ニヤニヤしながら聞かないでくれ。」

 

「はーい♪」

 

「それじゃあ、外に案内してくれないか?」

 

「もういっちゃうの?」

 

「日が暮れちまったら危ないからな。」

 

「うん……。」

 

「心配するな。また来るからな。」

 

「本当!?」

 

「あぁ本当だ。そのときは遊んでやるよ。」

 

「じゃあね、私『お人形さん遊び』がしたい。」

 

「あぁもちろんだ。たくさん遊んでやるよ。」

 

「私壊さないように頑張るね。」

 

「あぁ。」



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レティ・ホワイトロックの場合

寒空の下吸う煙草は確かに旨い。なぜ旨いのかは知らないが確かに旨い。彼女はこの旨さを知っているのだろうか?

 

一一一一一一一一一一

 

幻想郷に冬が来た。例年通りの冬になるらしい。俺は知り合いたちと雪見酒を楽しみ帰る。

冬の煙草は旨い。

 

一一一一一一一一一一

 

「どうも~。こんばんは~。」

 

「ん?レティか。」

 

「そうですよ~。冬ですよ~。私ですよ~。」

 

「これはまたテンション高いな。」

 

「冬ですもの。楽しいに決まってるじゃない。

 

「お前のお陰で酒も煙草も旨い。ありがとうな。」

 

「あらあら、疎まれることはたくさんあるけど、感謝されるのは珍しいわね。」

 

「そうか?俺は好きだけどな。」

 

「えっ、いきなり告白ですか!?」

 

「ちげぇーよ。酒飲みは雪見酒を楽しみ、喫煙者は旨い煙草を楽しむ。俺はそんな冬が好きなんだよ。」

 

「あらあら、ざ~んねん。それなら今年の冬は少し長くしてあげようかしら。」

 

「止めてくれ。寒いのは嫌いなんだ。」

 

「訳のわからない人ね。」

 

「そうでもないぞ。俺は桜は好きだが春の湿度は嫌いだ。海は好きだが夏の暑さは嫌いだ。紅葉は好きだが秋のもの寂しさは嫌いだ。人間なんてそんなものだ。」

 

「まぁ、人間は一年中同じように活動するものね。けど、羨ましいわよ。」

 

「何がだ?」

 

「色んなことを知っているからものの嫌いなところと同じように好きなところを知ってるもの。私は冬しか動けないから冬しか知らないのよ。」

 

「そうでもないさ。俺の知り合いには『春はリア充が増えるから嫌い。夏はリア充が海に行くから嫌い。秋はリア充が仲間誘って山に行くから嫌い。特に冬はスキー、クリスマス、バレンタインと意味のわからんイベントが多いから嫌い。』なんて言うやつもいたぞ。」

 

「それでもその人は私よりもたくさんものを知ってる。春の桜も夏の海も秋の紅葉もね。」

 

「そんなものか。」

 

「そんなものよ。私は色んな知識を持っている人が羨ましいのよ。」

 

「なぁレティ、煙草吸うか?知識が増えるぞ。」

 

「止めておくわ。それには嫌なことしかないって誰かが言ってたから。」

 

「そうだな。それなら一緒に飲むのはどうだ?」

 

「そうね。久しぶりに雪見酒もいいわね。」

 

「それなら博麗神社に行くか。霊夢もそろそろ目が覚めただろう。」

 

「神社に行くのは止めましょう。」

 

「どうしてだ?」

 

「私嫌われているのよ。去年も『あんたがいたら寒いのよ』って言われて殺されかけたわ。」

 

「それは災難だったな。じゃあどこか店に入るか?」

 

「そうね。それならいい店があるのよ。出すものは少し変わってるし、店主は頑固者で変わり者だけど。」

 

「それならそこに行くか。俺も久しぶりに八ツ目鰻が食べたいしな。」

 

「レティ、一本吸うか?」

 

「そうね。百聞は一見に如かずよね。」

 

「そうだな。」



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橙の場合

彼女は八雲の名を貰えなかった。しかし主のために、またその主のために力をつける。

彼女が名をもらえるのはいつだろうか。

 

一一一一一一一一一一

 

今日の飯をとるため山に入った。しかしどうも俺は山菜に嫌われているらしい。ろくに山菜もとれず、気がつくと目の前に一軒の家が見えた。

中から少女が現れる。確か名を八雲橙と言ったはずだ。

 

一一一一一一一一一一

 

「私はただの橙。残念ながら八雲の名前はもらえてないのよ。」

 

「そうだったか。それは失礼したな。」

 

「それにしても、どうしてここにたどり着いたの?普通はたどり着かないはずニャンだけど……」

 

「山で山菜を採っていたらここに辿り着いたんだ。」

 

「あニャたって実はお惚けさん?」

 

「そうかもしれないな。この間も紅魔館で迷ってしまったし……」

 

「それは残念ね。ここは『マヨヒガ』迷い人にせめてもの慈悲を与える場所。」

 

「ここがマヨヒガなのか……」

 

「知ってるの?」

 

「伝承に過ぎないがな。旅人が迷い混んでつく場所で、帰れることも帰れないこともあるとか、この中のものをもって変えれば幸せになれるとか、その程度だ。」

 

「幸せにニャれるのはあニャがち間違いじゃニャいかもね。実際ここのものを盗んでいった魔法使いが異変を解決のヒントを得てたし……」

 

「魔理紗か……。それなら俺も何か貰っていくかな。とりあえず山から出たいし。」

 

「そうは行かニャいわよ。ここのものが欲しかったら、私に勝つことね。」

 

「俺はお前と戦う術がないのだが、どうしたらいい?」

 

「ニャっ!?弾幕ごっこも出来ニャいのに山に入ったの?」

 

「そうだが?」

 

「あニャたって本当にお惚けさんニャのね。返してあげたいけど。『ここは任せたぞ。』って藍さまに言われてるし……。じゃあ、あニャたの持ち物の中から交換するって言うのはどう?」

 

「残念ながら持ち物は煙草くらいしかないな、山菜は採れなかったからな。」

 

「煙草ってあニャたがいつもくわえてる臭いやつ?」

 

「あぁそうだな。猫にこの臭いはキツいよな。実家の猫も俺だけになつかなかったし……」

 

「それはあニャた自身の問題だと思う。猫は構いすぎる人にはなかなかなつかないから……下手に優しくしようとすると逆に嫌われるかも……」

 

「そうか……よかった。煙草のせいじゃあないんだな。ところで、安心ついでに一本吸っていいか?」

 

「んー……臭いのは嫌だから外で吸ってよ。」

 

「けど俺は出られないんだよな?どうしたらいい?」

 

「わかった。そこら辺に落ちているもの1つ持っていっていいから。適当に歩いていたら出口が見つかると思うよ。」

 

「ありがとう。お陰で煙草を渡さずにすんだ。」

 

「ニャニャっ!?」

 

「じゃあな。昔から猫は虎の心を知らずって言うんだよ。」

 

「次あったら何か貰うからね!」

 

「あぁそうだな。ネギでもあげるよ。」



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アリス・マーガトロイドの場合

煙草を吸うと訪れる幸福は何物にも変えられないものがある気がする。後に来る不幸も考えずに煙草を吸うと悩みなどない気がしてくる。

 

一一一一一一一一一一

 

人里で人形劇があるらしい。そこの手伝いを任された。仕事をしなければ生き残れない。

 

一一一一一一一一一一

 

「入ってちょうだい。」

 

「あぁ。」

 

「で、今回の依頼のことだけど、この着ぐるみを着て里でチラシを配ってほしいの。」

 

「そのピエロみたいな着ぐるみでか?」

 

「そうよ。目立つし、風船とかお菓子を配ると子供も集まってくるだろうし。」

 

「なるほどな……。でもそれは俺みたいな無愛想な男がしなくてもいいんじゃないのか?」

 

「いいじゃない。ピエロって基本無口でしょう?それに作ってみたら大きすぎて男の人しか着れないのよ。」

 

「それで俺か……。まぁ納得したが……。それを着るのか……。」

 

「嫌なの?」

 

「女子供ならまだしも、大人の男がそれを着て里を歩くのはな……。」

 

「何でもするのが貴方の店のモットーでしょう?」

 

「わかってるよ。やれと言われたら無傷で済むことは何でもするのが俺の店だ。……やるよ。」

 

「じゃあ早速着てちょうだい。細かい調整とか必要だし。」

 

「わかった。」

 

…………

 

「こう見ると、貴方が中に入っていると考えるとなかなかシュールね。」

 

「ハイハイ、シュールシュール……。でも流石だな。ごわごわしているかと思ったら意外と動きやすいな。」

 

「でしょう。今回のは自信作なのよ。」

 

「あぁ流石だよ。でもどうして着ぐるみじゃなくて普通にピエロっぽい服を作らなかったんだ?」

 

「そっちの方が面白いからよ。貴方が着たときにね。それに貴方、上手に笑えないじゃない。」

 

「笑えないのは認めるが、面白そうからでこんなもの作るなよ。」

 

「いいじゃない。私としてはたくさんの子供に見てほしいだけよ。」

 

「そうか……。お前、変わっているけどいいやつなのかもな。」

 

「変わっているけどいい人なのは貴方も同じでしょう?いつも無愛想だし、煙草吸ってるし、何が言いたいのかわからないし……。でも……」

 

「ん?」

 

「幻想郷で力もないくせに妖怪とかとたくさん接点があって生き残れているのは、貴方がいい人だからだと思うわ。」

 

「そんなものか?」

 

「そうよ。私達は基本的に長生きだから、人付き合いには一層気を付けるのよ。これから100年単位で付き合わないといないからね。だから信用できない人とはなかなか付き合おうとは思わないわ。隙間妖怪みたいに胡散臭い連中もいるけどね。」

 

「なるほど。」

 

「その点、貴方は信頼できるのよ。仕事は投げ出さないしね♪」

 

「わかったよ。やればいいんだろ?これを着て、里で恥ずかしいを姿をさらせば。」

 

「あら、そんなつもりじゃあなかったんだけど……。やってくれるなら、ありがたくお願いするわ。」

 

「わかったよ。」

 

「それじゃあ、今からピエロっぽい動きの練習をしなきゃね。」

 

「わかってるよ。」



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プリズムリバー三姉妹の場合

誰かに求められるのは素晴らしいことだ。求められ、人は存在する意義を得る。最も大きな存在意義を失った彼女たちは誰に求められ存在していくのだろうか。

 

一一一一一一一一一一

 

図書館で本を借り家に帰ろうとすると、どこからか不快な音が聞こえる。音の元を探ろうと歩き回っていると古い洋館が見つかった。

 

一一一一一一一一一一

 

「なんだお前たちか……」

 

ル「なんだとは何よ。私たちだってそれなりに頑張って演奏しているのよ!」

 

メ「まぁまぁ落ち着いて。それにしてもお久しぶりですね。白玉楼でのコンサート以来ですかね?」

 

「そうだな。最近静かだと思っていたのはお前らのお陰か。」

 

リ「さっきから失礼ね。これでも私達有名なのよ。」

 

「そうだったな。一部の人間にはウケがいいらしいな。」

 

メ「この時代、音楽は技術よりもノリと勢いですよ。」

 

リ「それとコネだね。」

 

ル「なに言ってるのよ!私達は純粋に技術と勢いだけでやっているの!コネなんてないんだから!」

 

リ「それはコネを作ってくれるような人がいないからね。」

 

ル「またそんなこと言って。私たちだって直にそこら辺の夜雀みたいに人気者になってやるんだから!」

 

メ「まぁまぁ二人とも落ち着いて。……ホントに騒がしいんだから……。それにしてもどうしてこんなところまで来たんですか?」

 

「あぁ、紅魔館に用事があってな、お前らが演奏する音が聞こえたんだよ。……それにしても二人のこと放っておいていいのか?」

 

メ「いいんですよ。いつものことですから。そんなところまで聞こえていたんですか?それなら少し音を小さくした方がいいかしら……。」

 

「いや、いいよ。お前の音はまだ元気になるからな。それよりも……。」

 

メ「あぁ、ルナねぇですね……。あの人の音は人を落ち込ませますからね。やっぱり音を下げましょうか?」

 

「騒がしいのがお前らだからな、仕方ないとして受け入れるよ。それにお前らのノリ事態は嫌いじゃないからな。」

 

ル「本当!?ならさ、今度また白玉楼でコンサートするから来てよ。」

 

「久しく顔を出してないから行くとするか。」

 

ル「やったぁぁ!!それならさ、人里でね、ビラ配ってよ!目立つように着ぐるみなんか着てさ!」

 

「それは嫌だ。もう二度としたくねぇ。」

 

メ「やったんですか?」

 

「あぁ、人形遣いからの仕事でな。翌日からの里の連中の俺を色物を見るような目が……。」

 

メ「どんな格好でしたんですか?」

 

「…………ピエロ…………。」

 

メ「……お気の毒ですね……。」

 

リ「けど一回したんならもうなれたでしょ?」

 

「あんなこと二度としないと心に決めたよ。」

 

ル「えー、してくれないの?」

メ「私からもお願いします。今度のコンサートは成功させたいんです。」

リ「私からもお願いするよ。貴方のピエロ姿見たいし。」

 

「わかったよ。やるからその上目遣い止めろ。」

 

ルメリ「「やったー!」」」

 

「その代わりだ、コンサートは絶対成功させろよ。」

 

ル「当たり前よ!ねぇメルラン!」

 

メ「モチロン全力を尽くします。ねぇリリカ。」

 

リ「うん、やれるだけのことはやるよ。」

 

「よし、後、ピエロ姿は今回限りな。わかったか?」

 

ルメリ「「「はーい。」」」



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魂魄妖夢の場合

 

己を磨き続ける。半人前と呼ばれるのを恐れて。

剣を振り続ける。半人前と呼ばれるのを恐れて。

主のそばに添い続ける。一人前と呼ばれたくて。

そして彼女はいつか言うだろう。「私に斬れぬものなどあり得ない。」と

 

一一一一一一一一一一

 

虹川のコンサートも終わり。白玉楼で一服。すると向こうから妖夢が足音を鳴らしながら詰め寄ってきた。

 

一一一一一一一一一一

 

「何でこんなところで煙草なんて吸ってるんですか!?今すぐ消してください!」

 

「いいじゃねぇか。好きに吸わせろよ。俺がいた世界ではな、喫煙者が好きに煙草を吸えるようになっていたところを無理やり「体に悪いから」の一点張りで否定してきたんだぞ。喫煙席に座っていたのに「臭いから出ていけ」って言われたのはいい思い出だよ。」

 

「そうなんですか……。って、それとこれとは関係ないです。今すぐ消してください!」

 

「じゃあ聞くぞ?何でお前はこの一本の煙草消させて、俺の至福の時間を奪おうとするんだ?」

 

「臭いからです。それ以上でもそれ以下でもありません。」

 

「そうだろう?結局お前も喫煙者から権利を奪うんだな。たった1つの理由で。」

 

「じゃあどうしろというんですか?もしみょんなことを言うのならこの楼観剣の錆にしますよ。」

 

「認めるんだよ。」

 

「えっ?」

 

「『一人前』の人間はな、自分が不快だからとか言う理由だけで他人の認められた権利を奪おうとはしないんだよ。もし、そんなことをするやつがいるなら、そいつは『半人前』だと思うぞ。」

 

「一人前……半人前……。」

 

「お前はどっちなんだ?一人前か?半人前か?」

 

「わ、私は……」

 

「そうだったな。お前は半人前だったな。それなら仕方がない。俺は『半人前』の無理な理論のせいで権利を奪われて煙草も吸えないからな……帰るとするか……。」

 

「ま……待ってください。」

 

「ん?どうした?」

 

「仕方がないので貴方の権利を尊守することにします。私が『一人前』でよかったですね。」

 

「あぁ、そうだな」

 

「これも私が『半人前』でなく『一人前』だからなんですからね。覚えておいてください。」

 

「あぁそうだな。お前は『一人前』だよ。」

 

「……エヘヘ」

 

「『一人前』と言えば、こいつもそうだな。」

 

「?」

 

「俺のいたところでは、煙草が吸えるやつを『一人前』と見るような習慣があったんだよ。」

 

「そうなんですか!?」

 

「どうする?」

 

「吸えば、『一人前』、ですか……」

 

「あぁそうだ。吸えば『一人前』だ。」

 

「わかりました。やってやるです。」

 

「よく言ったな。ほら。」

 

「……」カチッ スー

 

「どうだ?」

 

「……」

 

「……」

 

「……無理です!!目は痛いし、臭いし、噎せる感じがダメです。」

 

「そうか……。やっぱりな。」

 

「やっぱりってなんですか!?」

 

「お前は『半人前』が似合うってことだよ。」



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西行寺幽々子の場合

まのはなよ

さいてくれるな

このいまは

わかこころには

まよいあるゆえ

 

悪魔の花(西行妖)よ、今だけは咲かないでくれ。私の心には全てを壊してまで咲かせる勇気がないから。

 

魔(間)の花(華)よ

咲いてくれるな

この今は

我が心には

迷いある故

 

間(会話の空白)に咲く言の華よ、今だけは咲かないでくれ。私には彼を惑わせる決心がないから。

 

一一一一一一一一一一

 

妖夢との一悶着の後、そのまま白玉楼で夕飯を頂くことになった。今は夕食を食べ終え、一息ついている。

 

一一一一一一一一一一

 

「そういえば。」

 

「ん?どうかしたか?」

 

「貴方、内の庭師で遊んだらしいわね。」

 

「あぁ、妖夢のことか……。反応が面白いからついな。」

 

「その気持ち、分かるわよ。あの子には苛めたくなるようなオーラがあるものね。」

 

「あぁ、あぁいうのは見つけると、つい遊んでしまうんだよな。」

 

「ところで、1つのお話をしましょう。」

 

「ん?なんだ?」

 

「昔々あるところに、素直なお爺さんがいました。そのお爺さんの隣には幸運を与える白犬を飼っているお爺さんがいました……」

 

「それって『花咲か爺さん』だろう?幼稚園で何回も聞かされたよ。」

 

「こういうときは黙って聞くものよ。『一人前』ならね♪……ある日お爺さんは自分にも幸運を分けてもらおうと、白犬を借りることにしました。しかし強欲な隣のお爺さんはその犬を手放そうとはしません。そこで半ば強引ではありますが、仕方なくその犬をお爺さんのいない間に借りることにしました。そして早く返さなければいけないという焦りからお爺さんは少し強い口調で犬に当たるようになりました。すると、犬が自ら釜戸の火の中に飛び込みました。犬は断末魔を上げながら燃えていきます。お爺さんはどうすることもできず、泣き崩れてしまいました。」

 

「いつまで続くんだ?」

 

「もう少しよ。……隣のお爺さんが帰って来ました。お爺さんは犬がいないことに気付き大声で呼びます。そこにお爺さんが来て理由を説明しました。しかしお爺さんはこの泥棒めが!!の一点張りで聞く耳を持ちません。お爺さんはせめてもの償いとして犬が燃えた灰をお爺さんに渡しました。しかしお爺さんはいらないとだけ答えて地面に叩きつけました。そして風が吹き灰が空に舞います。するとどうでしょう!?近くに生えていた枯れた桜の木に花が咲き乱れたではありませんか。そこにたまたまお殿様が通りかかりました。殿様は桜の木を大層気に入り咲かせたものは誰か?と訪ねました。すると強欲な隣のお爺さんがはいはいと殿様の前に躍り出ました。そして、隣のお爺さんは家が一杯になる程の褒美を受け取り、幸せに余生を過ごし、お爺さんは、今まで通り、貧しい暮らしを続けましたとさ。おしまい。」

 

「何が言いたいんだ。」

 

「これが私が見た『花咲か爺さん』の真実よ。 」

 

「教訓も何も無いな。あるとしたら、『二兎追うものだけが二兎を得る』くらいか。」

 

「そうでもないわよ。」

 

「ん?」

 

「物事はいろんな見方をしないと中々真の意味にたどり着けないものよ。」

 

「短歌と一緒ってことか?」

 

「そうね。いろんな角度で見ないと、本当に伝えたいことは見えないものよ。」

 

「なるほどな。……それにしても……」

 

「どうしたの?」

 

「さすがに長すぎだ。もう少し簡潔に纏められただろう?」

 

「私は会話の間が嫌いなのよ。何を話していいかわからない時間がね。」

 

「それを楽しむのも会話の楽しみだと思うがな。」

 

「わかってないのね。物事にはうらの意味がある前提で考えないと、いい女を逃すわよ。」

 

「難しい話だな。」

 

「そうかも知れないわね。」




花咲か爺さん長すぎましたね……


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八雲藍の場合

藍しゃまの口調安定しないな……。


人間は今まで『怒り』という感情とともに歩んできた。『怒り』は人間の一部と言っても過言ではないだろう。

しかし人間は怒りを否定的なものとして捉える。なぜだろうか。

 

一一一一一一一一一一

 

家で煙草を吹かしていると客人が訪ねて来た。彼女は紫の式で橙の使役者のはずだ。

 

一一一一一一一一一一

 

「失礼する。」

 

「ん?どちら様?」

 

「八雲藍だ。そちらとは宴会で何度か顔を会わせたはずだが。」

 

「紫の式か……。で、今日は何の用事だ?無縁塚なら行きたくないと伝えてくれ。」

 

「そうではない。今回は私の私用で来たまでだ。紫様には何の関係もない。」

 

「そうか。で、何の用だ。」

 

「先日私の式の橙が世話になったらしくてな。その礼をしに来たのだが。」

 

「橙か……。そういえばこの間マヨヒガであったな。」

 

「そうだ。それで、自分が何したか覚えているか?」

 

「煙草を吸っていいと言われたから吸っただけだな。」

 

「……あまり減らず口を叩くなよ。」

 

「わかったよ。弄り甲斐があったからな、少しからかっただけだ。」

 

「あぁそうだな。」

 

「それがどうした?」

 

「何か言うことはないのか?」

 

「過保護すぎやしないか?子供が喧嘩したからって相手の家に殴り込みに行くような親がいるか?」

 

「過保護ではない。私は橙が可愛そうだから貴様に謝ってほしいと態々いいに来ただけだ。」

 

「それが過保護だろう?子供の責任は親が果たすべきだが、子供には子供の義務があるはずだ。」

 

「ほぅ、それでは私は何をすべきだと?」

 

「見守ればいいんだよ。子供ってのはな、元々みんなと仲良くなれる不思議な力を持ってるんだよ。大人が下手に干渉しなければ子供は純粋なまま育ってくれるんだよ。」

 

「そういうものなのか?」

 

「そんなものなんだよ。」

 

「世の中の穢いものの塊のような貴様に言われても全く有り難みがないな。」

 

「そういうな。こっちは向こうの世界でお前みたいなモンスターと闘って来たんだよ。」

 

「ん?あちらには妖孤が未だに残っていたのか?」

 

「似たようなもんだ。半端に知識を身につけた獣が一番怖いんだよ。」

 

「クスクス」

 

「何だ?何かおかしいこと言ったか?」

 

「いや、半端に知識を身につけた獣というのはお前たち人間のことだと思ってな。」

 

「そうかもしれないな……。俺らが猿のままだったらお前らは力を失ったり隠れて過ごしたりする必要もなかったんだよな。」

 

「あぁそうだな。しかし私達には人間の恐怖心が具現化したものも多くいる。必ずしも人間がいなければよかった……と言えないのも事実だ。」

 

「難しい話だな。」

 

「そうでもないさ。お前らがいたから私たちがいる。私たちがいたから今のお前たちがいる。それだけさ。」

 

「そうだな。」



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バカルテット+1の場合

リグル、ルーミア推しの人ごめんなさい


素直なやつは嫌いだ。他人のことを考えないから。

素直なやつは嫌いだ。他人をすぐに信じるから。

素直なやつは嫌いだ。俺にないものを持っているから。

素直なやつは嫌いだ。嫌な自分が見えるから。

 

一一一一一一一一一一

 

湖で魚を釣る。煙草代を捻り出すには食費を抑えなければならない。

 

一一一一一一一一一一

 

チ「あっ!煙草の人だ!何してるの~?」

 

「見てわからねぇのか?今日の飯をとってんだよ。」

 

チ「へー、それより遊ぼう!」

 

「聞いてなかったのか?俺は今日の飯をとってんだよ。」

 

チ「そんなことより遊ぼう!」

 

「ダメだな……。今日は大妖精と一緒じゃあないのか?」

 

チ「大ちゃん?大ちゃんとはね、今ね、かくれんぼをね、してるの。」

 

「あぁそうか。それなら今頃お前のことを探しているんじゃあないのか?」

 

チ「何で?」

 

「かくれんぼしてるんだろう?それなら鬼が探すんじゃあないのか?」

 

チ「何言ってるの煙草の人?アタイが鬼に決まってるじゃん。」

 

「それなら皆を探さないといけないな。」

 

チ「何で?」

 

「何でって……、かくれんぼしてるんだろう?」

 

チ「そうだよ。でも今私が遊んでるのは煙草の人だよ。」

 

「……。」

 

チ「……?」

 

「いや首をかしげるな。」

 

チ「……??」

 

「今お前は大妖精とかくれんぼをしてるんだよな?」

 

チ「うん!」

 

「けどお前は皆を探していないよな?」

 

チ「うん!」

 

「それなら皆は今何をしているんだ?」

 

チ「皆は今かくれんぼしてるんだよ。バカだな~煙草の人は。」

 

「……ゴメン、俺が悪かった。じゃあ皆は今チルノに見つからないようにずっと隠れているんじゃあないのか?」

 

チ「あぁそういうことか!もう少しうまく説明してよね!」

 

「……あぁ俺のせいだな。」

 

チ「それなら許す!けど罰として大ちゃんたちを一緒に探してね。」

 

「わかったよ。で、探す宛はあるのか?」

 

チ「知らないよ。」

 

「闇雲に探すのか……。」

 

一一

「ハトチャンマッテー」

「アフラック」

「アヒルジャン」

一一

 

大「あれから二人がかりで約一時間森のなかをさ迷い、ようやく全員見つけました。」

 

チ「大ちゃん誰に話してるの?」

 

大「何でもないよチルノちゃん。」

 

チ「ふーん……変な大ちゃん。」

 

「で、これからどうするんだ?」

 

リ「私は煙草の人と遊びたい。」

 

チ「私も!」

 

ル「私もー。」

 

大「三人とも煙草の人が迷惑だよ。」

 

ミ「いいんじゃない?三人とも言い出したら聞かないタイプだし仕方ないと思うよ。煙草さんには申し訳ないけどね。」

 

大「いいのかな?」

 

ミ「いいんじゃあないの?煙草さんってなんだかんだ言ってもやってくれる人だし。」

 

大「そうなのかな?」

 

ミ「いいんだって。たまには他の人とも遊びたいしね♪」

 

「ちょっと待てお前ら。俺はな魚を釣りに来たんだよ。放せって!」

 

チ「いいじゃん。どせ暇なんでしょ?」

 

「お前、俺の話聞いてたか?」

 

チ「何のこと?それよりも遊ぼう!」

 

「わかったよ。わかったから放してくれ。」



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上白沢慧音の場合

煙草の煙は漂い続ける。誰に言われるまでもなく、上へ上へ昇っていく。そんな人になりたいと思った時期も私にもありました。

 

一一一一一一一一一一

 

慧音に寺子屋に呼ばれた。それだけだ。

 

一一一一一一一一一一

 

「で、何のようだ?」

 

「実はお前に頼みたいことがあるんだが……。」

 

「何だ?人里のためにできることなら喜んで手伝うぞ。」

 

「そ、そうか。それなら今度の寺子屋での特別講師をお前に頼みたいんだが……。受けてくれるか?」

 

「どうして俺なんだ?特別講師ならもっと適任がいるだろ?霊夢や霖乃助はどうだ?」

 

「いや、今回は『特別な力を持たずとも妖怪と巧くやっていくプー太郎』がテーマなんでな。お前が適任だと思ったんだ。」

 

「そのテーマ完全に俺を狙っているだろ?それにプー太郎と呼ぶな。せめて『里の何でも屋』とか『里の万屋』とかあっただろ。」

 

「テーマは今決めた。でもな、特別な力を持たずとも様々な妖怪と交流をもつお前を尊敬している子供がいるのも事実だ。そこでお前に頼んでいるんだ。」

 

「ガキの前に出て俺の生活について語ればいいんだよな?」

 

「やってくれるのか?」

 

「気が向いたらな。しかし、俺にそんなこと話させたら煙草の話が大半を占めるぞ。半日くらいボーッと煙草を吹かしているだけの日もあるからな。」

 

「それに関しては安心しろ。ここにお前の歴史を纏めたものがある。勿論子供に対して有害と判断したものは省いてあるがな。」

 

「こんなもの作っていたのか……。」

 

「私が愛するのは歴史と人間だからな。親しい仲の人の分は既にいくつか作ってある。……どうだ?」

 

「お前がストーカーだと言うことはわかった。」

 

「何でだ!?これでも一月くらいかけて作ったんだぞ。物陰に隠れてお前の行動を見守ったり、寝ている隙を付いてお前の歴史を覗いたりイロイロしてきたんだぞ。」

 

「だからストーカーって言ったんだよ。何だこのページ。『今日は香霖堂で煙草を買った。いつもと違い3級品だ。プー太郎だから金がないんだろう。』って完全にお前の感想じゃあねぇか。『しかもプー太郎だから金がないんだろう。』って大きなお世話だ。」

 

「そのページの右下に赤丸がついているだろう?」

 

「あぁ。」

 

「それは子供に対して有害だから当日は読まないでくれよ。」

 

「そうじゃあねぇだろ。何でこんなことまで書いてあるんだよってことだ。」

 

「だっ、だってそれもお前の歴史だろ?それなら書くべきと私が判断したんだ。」

 

「しかもここ一ヶ月の起床時刻と睡眠時刻、食事の中身まで書いてあるじゃねぇか。」

 

「それもお前の歴史に変わりはないだろ?」

 

「お前は俺のお袋か!恐ろしくて外にも出られないじゃねぇか。」

 

「そうしたら、その本に『今日は一度も家を出なかった。やはりプー太郎だ。』と言うページが増えるだけだ。」

 

「何でそこまでするんだよ?」

 

「私は人里に今生きているどの人間よりも長生きするからな。何があってもその人たちのことを忘れないためにもこうして形あるもので残したいんだ。」

 

「……そうだっのか。」

 

「あぁそうだ。幻想郷縁起に載らない様なところまで残したいんだ。それが化け物として生きてきた私を受け入れてくれた里の皆へできる限られたことだからな。」

 

「わかったよ。やってやる。」

 

「特別講師をしてくれるのか?」

 

「こんなもの作らせてしまったからなそれ位しないとな。これが俺にできる限られたことだからな。」



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因幡てゐの場合

ウサギの足は幸運を呼ぶらしい。では彼女はどうやって自身を幸せにできるのだろうか。

 

一一一一一一一一一一

 

人里で買い物をしていると、前から小柄な方のウサギが歩いてきた。永遠亭の置き薬の販売に来たのだろう。

 

一一一一一一一一一一

 

「永遠亭の置き薬だよ~。八意印の置き薬だよ~。効き目バッチリ、安全安心の置き薬だよ~。動脈硬化に喘息、脳卒中にも効くよ~。」

 

「おい。」

 

「ん?お買い上げかい?おすすめは動脈硬化に効く薬だね。」

 

「いや、薬の謳い文句に悪意を感じたんでな。少し尋ねようと思っただけだ。」

 

「悪意もなにもないよ。わたしゃあんたに健康でいてほしいだけだよ。」

 

「……お前……。」

 

「そのついでに弄れる何て一石二鳥じゃないか。」

 

「だと思ったよ。」

 

「けど、健康でいてほしいって思っているのは本心さ。いるかい?」

 

「止めておく。人生わずか50年って言ってな、どうせ長生きしないんだからその中でやりたいことをするのが人として最高の生き方なんだよ。」

 

「そんなもんか。けど健康に気を付けたらあんたも妖怪になって長生きできるかも知れないよ。」

 

「妖怪になってまで長生きしたくねぇよ。それなら蓬来人のように今の姿のまま永遠に行きてぇな。」

 

「わからないよ。幻想郷の賢者様も元人間って噂もあるくらいだからね、もしかしたら……があるかもよ。」

 

「その話本当か!?」

 

「噂に過ぎないよ。居酒屋で酔っぱらいが話しているような話さ。」

 

「そうか……。」

 

「ん?何か気になるのかい?」

 

「何でもないさ。ただそんな話もあるのかと思っただけだ。」

 

「あんまり年長者を甘く見ない方がいいと思うよ。」

 

「調子にのって大怪我を負った間抜けを敬いたくないな。」

 

「あれは若気の至りと言うやつさ。あの頃があるから今があるのさ。まぁそんなことより……」

 

「ん?」

 

「……長生きしなよ。あんたが死んで泣くやつはあんたが考えているのの倍はいるからね。」

 

「拾った命だ簡単に手放す気はないさ。ただ……。」

 

「『しがみつく気もないがな。』だろう?」

 

「あぁそうだ。」

 

「それが甘いんだよ。どうせ適当に生きるんだから、死ぬときくらいスッと死にたいだろ?そのための薬さ。」

 

「なるほどな。」

 

「それにあんたはいい人だからね、おまけくらいするよ。」

 

「相変わらず商売は巧いよな。で、」

 

「ん?」

 

「その薬はいくらなんだ?」

 

「お代はいいよ。その代わり……」

 

「ん?」

 

「御師匠さんが片付けしたがっているからそれを手伝ってほしいのさ。」

 

「なるほど、そのときの俺の給料は薬で払わせろと?」

 

「人聞きが悪いな、働いて寿命が貰えるんだから、安いもんだろ?」

 

「そうなのか……。で、いつだ?」

 

「それは御師匠さんに聞いてから知らせに来るよ。」

 

「わかった。できるだけ早く頼むな。」

 

「はい、毎度あり。」



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鈴仙・優曇華院・イナバの場合

地上の月兎は月を見て涙をこぼす。故郷を思い涙をこぼす。過去を悔やみ涙をこぼす。今を恨み涙をこぼす。

 

一一一一一一一一一一

 

永遠亭へと向かう。途中大きい兎に出会う。涙を流す彼女は儚く美しい。

 

一一一一一一一一一一

 

「何かあったのか?」

 

「あら、何しに来たの?」

 

「永遠亭に向かう途中だ。」

 

「そういえば、あなたが来るのは今日だったわね。」

 

「あぁ。」

 

「それなら永遠亭まで案内するわね。」

 

「頼む。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「あのね。」

 

「どうした?」

 

「泣いていた理由、聞かないの?」

 

「聞いて何か得があるなら聞く。」

 

「私の気持ちが晴れる。これでどう?」

 

「それでいい。道中ずっと気にかかるのも煩わしいからな。」

 

「ありがとう……。貴方ってやっぱり変わっているわね。」

 

「よく言われるよ。なんなら座るか?」

 

「そうするわ。」スワル。

 

「それじゃあ、話してくれ。何かあったんだ?」スワル。

 

「月を見ると思い出すのよ。ここに来たときのことを。」

 

「逃げて来たんだったかな?」

 

「そうよ。私は地上の人間を恐れて、月を裏切ってここに逃げてきたのよ。」

 

「後悔してるのか?」

 

「勿論よ。あそこにいる友人も恩師もすべて裏切ってきたのだから……。」

 

「それなら俺も同じだ。ここに来るとき、慕ってくれていた後輩を、世話してくれた先輩を、唯一無二の親友を、家族を裏切って来たからな。」

 

「けど貴方は不可抗力でしょう?私のように進んで裏切った訳じゃないでしょう?」

 

「そういえば、俺がここに来るときの話はしてなかったな。」

 

「えぇ。それが?」

 

「ここに来る前、俺は死のうとしていた。ビルの屋上に立ち、最後の月を見ながら煙草を吹かしていたんだ。そうしたら、後ろから声がしたんだ。『死に場所を探しているなら付いてきなさい。』ってな。」

 

「それが隙間妖怪ね。」

 

「あぁそうだ。それから神社に飛ばされ、霊夢に拾われ、魔理沙と出会い、様々な異変と遭遇するうちにお前らと会ったって訳だ。」

 

「それが裏切りとどういう繋がりがあるの?」

 

「俺はここに死にに来たんだ。そのつもりだったんだ。それまで『俺はミンナヲ看取ってから死んでやる。』とか息巻いていたのにな。」

 

「そんなことがあったのね。」

 

「それでも俺は後悔しない。ここに住むことで生きる意味を初めて知った気がするからな。お前は後悔するのか?」

 

「後悔なんかしたくないわよ。でも……。」

 

「……俺からは気にするなとしか言えないな。例えお前が後悔しても時を戻すことはできない。『月の時計』でもそれはできないことだ。それならできることはただひとつだと思うぞ?」

 

「何?」

 

「今を楽しむんだよ。どうせ消えない罪だ。それなら罪を悔やまず前を向けよ。少し説教臭いがこれが一番だと思うぞ。」

 

「そういうものなの?」

 

「そういうものさ。但し、罪の償いをした後でだけどな。」

 

「そう……。でも償いって何をすればいいの?」

 

「俺もお前も元いた場所には帰れないからな、罪の償いようがないんだよ。」

 

「屁理屈ね。」

 

「わかってるよ。」



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八意永琳の場合

最近、主人公が説教臭くなってるんだよな……。


朧月が見える。もう何十年も見てきたが見飽きない、美しい月だ。しかし億もの年月を過ごせば美しい朧月さえも見飽きてしまうのだろうか。

 

一一一一一一一一一一

 

レイセンの案内もあり、迷うことなく永遠亭にたどり着いた。

 

一一一一一一一一一一

 

「あら、お待ちしてましたわ。思っていたよりも早いのですね。てっきり遅くなると思っていましたのに……。」

 

「どういうことだ?」

 

「いや、貴方のことだからどうせ道に迷っているのかと思っただけよ。」

 

「悪かったな、方向音痴で。」

 

「で、どうして迷わなかったのかしら?妹紅は今頃姫様と遊んでいるはずなのだけれど……。」

 

「兎に案内してもらった。」

 

「あら、不思議の国のアリスみたいで愉しそうね。」

 

「あまりからかわないでくれ。」

 

「そうね、時間も惜しいし。」

 

「早く案内してくれ。」

 

「わかったわ。」

 

「ところで、今日の仕事は掃除でいいんだよな?」

 

「えぇ、冬の間ここまで来る人も少ないからあまり整頓してないのよ。」

 

「ところで喫煙所はあるか?」

 

「ないわよ。診療所をなんだと思っているの?」

 

「そうか……。」

 

「むしろここは煙草を吸うような人が来るべき場所よ。ここですったら元も子もないじゃない。」

 

「それもそうか……。」

 

「着いたわよ。」

 

「……。」

 

「……。」

 

「……これは酷いな。」

 

「冬の間中のゴミが溜まっているものね。」

 

「この紙切れは必要なものなのか?」

 

「勿論必要よ。もしかしたら、その紙から新しい薬が生まれるかもしれないのよ。」

 

「この空き瓶の山は必要なものなのか?」

 

「当たり前じゃない。試作品をどこにしまうのよ。」

 

「この食べ掛けの餅は必要なものなのか?」

 

「餅に生えたカビから新しい抗体が見付かるかもしれないし……。」

 

「この紙切れは必要なものなのか?」

 

「ほら、いつか……きっとメモ用紙に多分使えるかもしれないし……。」

 

「片付けるか?」

 

「お願いします。」

 

「とりあえず、要るものと要らないものとに分けるか……。」

 

「全部必要ね。」

 

「……。」

 

「……ごめんなさい。」

 

「薬の試作品と、それに関するメモは必要なもの。それ以外は必要なし。わかったか?」

 

「……はい。」

 

「とりあえず外で1本吸ってくる。」

 

「わかったわ。終わったら呼びにいくわね。」

 

「そうしてくれ。」

 

~~~~~~~~~~~

 

「……。」フーッ

 

「終わったわよ。」

 

「あぁそうか。」

 

「何を見ているの?」

 

「月だよ。今日はいい具合に霞が掛かっている。」

 

「そうね。」

 

「必要なものはわかったか?」

 

「何とかね。」

 

「八意先生も頭がよすぎて大変だな。」

 

「そうかしら?」

 

「あぁ、頭がいいからものの使い道が直ぐに思い付いてしまう。思い付かなくても、『いつか必ず役に立つ』と考えてしまう。損な性格だよ、貴方は。」

 

「そう言うつもりはないのたけれどね。物事を棄てきれないのは昔からの性分よ。どうしようもないわ。」

 

「昔のことも棄ててしまえばどうだ?」

 

「無理よ。あそこは私の一部だもの。棄てようとしても棄てきれないわ。この紙切れと同じよ。ここに私はいる、でもこの中にも私はいるのよ。」

 

「そうかもしれないな。」



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蓬莱山輝夜の場合

昨日『誤字大杉www 』というコメントをもらう夢を見ました。


望む世界があるのなら手を伸ばせばいい。

欲しいものがあるのなら手を伸ばせばいい。

それでも手に入らないのであればあがけばいい。

 

一一一一一一一一一一

 

仕事も終わり帰ろうとすると、八意先生に主に挨拶しろと言われた。

 

一一一一一一一一一一

 

「入るぞ。」

 

「どうぞ~。何しに来たの?」

 

「いや、八意先生にお前に挨拶してこいと言われてな。」

 

「あらそうなの?まぁ堅苦しいの抜きにしてゲームしましょう。」

 

「止めておく。遅くなると帰れなくなるからな。」

 

「帰りの案内なんてそこら辺にいる因幡達にさせればいいじゃない?」

 

「わかったよ。で、何をするんだ?」

 

「そうね……。最近流れてきたスト2何てどう?」

 

「スト2か……。もうここに来るのか。」

 

「知ってるの?」

 

「勿論だ。言っておくが俺は強いぞ。」

 

「あら、それは楽しみね。」

 

~~~~~~

 

「ところで、」

 

「何?」

 

「いつもこんな風にゲームしているのか?」

 

「まさか。私は楽しいことがしたいだけよ。ゲームはその一貫。」

 

「永遠の命を持てば殺し合いも娯楽ということか。」

 

「遠からず近からずといったところね。」

 

「どういうことだ?」

 

「死なないとはいっても元は普通の人間よ。殺されればそれはもう死ぬ程痛いわよ。私にその痛みを楽しむ趣味はいわ。」

 

「だとしたら何でいつまでも殺し合うんだ?」

 

「楽しいからよ。」

 

「さっきの話とどう違うんだ?」

 

「私は退屈な日々が嫌いなの。あいつといたら絶対に退屈しないの。だから一緒にいるだけよ。」

 

「面倒くさいやつだな。会いたいと言えばいいのに……。」

 

「そんなわけないでしょう?隙あらば私を殺そうとするやつに会いたい?」

 

「俺は嫌だな。けどお前自身、同じ時を刻むあいつと共にいたいと感じてるんじゃないのか?」

 

「……。」

 

「図星か?」

 

「そうかも知れないわね。けど……。」

 

「ん?」

 

「それを認めたところで私とあいつの関係は変わらない。今までと同じ、殺したり殺されたりまた殺されたり……。今までの関係が一番心地いいのよ。誰にも奪わせたりしない。」

 

 

「奪われても、奪い返すんだろう?奪ったやつを殺してでも。」

 

「当たり前よ。私を殺しに来るやつを助けるなんて滑稽な話でしょう?」

 

「そうでもないさ。それがお前にとって最善ならばそうすればいい。」

 

「そうかもね。」

 

「あっ、」

 

「どんなもんよ♪インド人に関取で勝とうなんて甘いのよ♪」

 

「いいだろ、好きなんだから。」

 

「それでも勝てなきゃ意味ないでしょう?」

 

「まぁな。」カチッ

 

「館のなかは禁煙よ。」

 

「堅苦しいことはなしっていったのはお前だろう?」

 

「それもそうね。」

 

「やっぱり、米兵の方がいいのか?」

 

「そうかもね。」



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藤原妹紅の場合

昨日地元の煙草屋にいきました。アメスピのオーガニック(赤)があって物凄いテンションの私がそこはかとなく物凄い日記です。


右向け右

左向け左

回れ右

素晴らしい世界だね。

 

一一一一一一一一一一

 

久しぶりに神社で宴会があった。煙草を吸おうとすると非難されたので近くの木陰に避難した。

 

一一一一一一一一一一

 

「なんだあんたか……」

 

「俺で悪かったな。」

 

「そう言うなよ。私だってあんたが来てくれてよかったよ。」

 

「どうしてだ?」

 

「あんたとは色々話せるからね。普段聞き手になることが多いからね、なかなか話し手になれないのさ。」

 

「そうだったな。」

 

「あんたは自分のこと話すの?」

 

「必要だと思ったらな。」

 

「そうなんだ……」

 

「聞きたいのか?」

 

「少しね。」

 

「聞いてもいいことはないと思うぞ。」

 

「それならいいや。」

 

「どっちなんだよ。」

 

「いいじゃないか。話したくないことは聞く方も楽しくないんだよ。」

 

「そんなもんなのか?」

 

「そんなもんさ。話したい人が話したい内容を話したいときに話す。これが一番聞き手としては楽なのさ。」

 

「聞き手が慣れているやつはさすがだな。」

 

「誉めるなよ。」

 

「こんなやつ誉めたくねぇよ。」

 

「そう言うなよ。」

 

「そういえば、最近あいつとはどうなんだ?」

 

「どうもこうもないさ。私が喧嘩吹っ掛けてあいつに殺される。そして生き返る。それだけさ。」

 

「相変わらずでよかったよ。」

 

「よくないよ。喧嘩する度に殺される身にもなってみろよ。」

 

「そう何度も殺されることはないからわからないな。」

 

「それもそうだな。」

 

「……止めないのか?」

 

「止めないさ。これが私の生きる意味だ。」

 

「有意義というやつか?」

 

「そうさ。誰にも邪魔されたくないね。私がここにいる意味の全てがそのためにある。」

 

「奪われたくないのか?」

 

「当たり前だろ?もし奪われても、奪ったやつを殺してでも取り返す。それほどまで大切なんだよ。」

 

「クスクス」

 

「いきなり笑うなよ。気持ち悪い。」

 

「いや、悪い。やはり似た者同士だと思ってな。」

 

「どういう意味だよ。」

 

「最近あいつと話してな、お前と同じようなことを言っていたからな。つい面白くて……クスクス」

 

「なんだよそれ、気持ち悪いな。」

 

「いや、似た者同士だからこそ争えるんだろう。」

 

「ほう、その心は?」

 

「俺の世界ではな『争いは同等の相手としか起きない』って言うんだよ。例えばお前がおとなしい性格なら争おうとは思わないだろ?」

 

「そんなもんかね?」

 

「そんなもんだよ。世の中って言うのはな思ったより単純なんだよ。」

 

「不思議と説得力があるんだよな。」

 

「誉めるなよ。」

 

「一応誉めてるんだよ。」

 

「そうか、それはありがとうな。」

 

「素直に礼を言うなよ。」

 

「礼を言うのは世の常だろ?みんなそうしてるぞ。」

 

「……世の中ってのは単純なのかもね。」

 

「そうだな。」



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伊吹萃香の場合

すいません。

予定が立て込みすぎてなかなか執筆出来ませんでした。

因みに翡翠葛の花言葉は『私を忘れないで』らしいです。


酒飲みの少女は今夜も酒を飲む。

月も見ず、花も見ず、音も聞かず目の前の盃をただただ空けていく。

 

一一一一一一一一一一

 

前回の続き。宴会に戻ると小さな鬼が横に座ってきた。

 

一一一一一一一一一一

 

「なんだ、萃香か……。」

 

「なんだとは大層な挨拶だねぇ。せっかくの酒が不味くなるだろう?」

 

「年中酔っぱらっているやつが酒の味を理解しているのか?」

 

「何が言いたいんだい?」

 

「たまには何か肴を摘まみながらゆっくり飲むのもいいんじゃないのか?」

 

「それなら何か肴になりそうな話をしてくれ。」

 

「わかったよ。どんな話がいい?」

 

「煙草以外ならなんでもいいぞ。あれだけは好きになれん。」

 

「わかったよ。それなら……翡翠葛って知っているか?」

 

「知らないねぇ。葛の仲間か?」

 

「あぁそうだ。幻想郷の外の世界にあった植物だ。」

 

「どんなやつなんだい?」

 

「一言で表すなら奇妙なやつだ。背丈は10間にもなり、その花は青い。」

 

「10間はなかなか高いかもしれないが、青い花は珍しくないだろうに。」

 

「そこらの青とは違う。自然ではなかなか見ない翡翠色の花を咲かすんだ。」

 

「そんな花があるのか。見てみたいねぇ。」

 

「見ない方がいいぞ。」

 

「何でだい?」

 

「翡翠葛はマメ科の植物だ。」

 

「は?そんなにもったいぶって話した内容が豆の話かい?」

 

「俺が話したいのは豆の話じゃないぞ。」

 

「じゃあなんだい?鬼に豆の話をしたくらいなんだから覚悟はできているだろう?」

 

「美しいものには棘があるって言う話と……」

 

「と?」

 

「お前は食えないやつだって言う話だ。」

 

「その心は?」

 

「小さな豆から生える巨木。ジャングルのなかでも異彩を放つ翡翠の花。お前らしくないか?」

 

「ほほぅ、お前さんも私のことをはぐれものだと言うのかい?」

 

「違うのか?地下で満足していた鬼も多かったろうに、それでも地上に出たがるやつははぐれものと同じじゃないのか?」

 

「違うね。私は地上で暴れたかったのさ、力比べがしたかったんだ。それは鬼とは違うのかい?」

 

「それなら奇襲でよかっただろ?宴会なんて開かずに。嘘をつくお前ははぐれものと違うのかい?」

 

「人に吐かれる嘘は嫌いだが、私は嘘を吐くさ。」

 

「それも嘘だろ?そんなやつが鬼退治されるときに『鬼は人を騙したりはしないのに……』何て言うのか?」

 

「……負けたよ!お前さんの勝ちさ。」

 

「……いつ勝負したんだよ……」

 

「いいじゃないか。私は楽しかったよ。」

 

「ならその楽しい気分のまま飲むか?」

 

「そうだね。今日は楽しい酒盛になりそうだよ。」

 

「それは良かった。」

 

「お前さんも飲むだろう?私の酒が飲めないとは言わせないよ。」

 

「止めておくよ。鬼と飲み比べをするほど俺は馬鹿じゃないんでな。」

 

「そうかい、それは残念だね。」

 

「地上にいればいつか飲めるさ。」

 

「そうさね。今度は竹林で月でも見ながら飲むかね。」

 

「お前も風流がわかってきたな。」

 

「今度は外の話をしてくれるかい?」

 

「あぁ、お前が見たことないもの、聞いたことないものなんでも話してやるよ。」




20話を越えて、皆さんがどのような話が好きか1度訪ねてみたいと思います。

1、のんびり系(魔理沙、妖夢など)
2、シリアス系(笑)(レミリア、うとんげなど)
3、その間系(籃、永琳など)
4、作者の作る話は何でも好きだぜ

コメントでもメッセージでも返信してくださると助かります。

今後の話の進み方に関わります。


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森近霖之助の場合

煙草を語り合える友がいると言うことは実は素晴らしいことなのかもしれない

 

一一一一一一一一一一

 

久々に香霖堂に顔を出す。

 

一一一一一一一一一一

 

「久しいな。」

 

「そうだね、僕の性格上そとで会うことは少ないからね。」

 

「それもそうだな。ところで、最近店の方はどうだ?」

 

「強奪と窃盗の常習犯がいることを除けば概ね調子いいよ。」

 

「それは良かった。あいつらのことなんて元々計算に入っているんだろう?」

 

「もちろんさ。そうじゃなかったら今頃ここはただの物置になってるよ。」

 

「ところで、何かいいもうけ話ないか?」

 

「最近なら無縁塚とかどうだい?あそこならいろんなものが落ちているし、外の人間の君ならその価値がわかるんじゃないのか?」

 

「なるほどな。で、拾ったものを香霖堂に渡せばいいのか?」

 

「人聞きが悪いな。情報提供料さ。それにちゃんと買い取りもするよ。」

 

「そうかい。ところで、あれは水煙草か?」

 

「よくわかったね。水煙草、嗜好品と僕の能力では出た。」

 

「葉がないんだろう?」

 

「よくわかったね。」

 

「水煙草は他の煙草と大きく違うからな。」

 

「そこまで詳しいのなら、君はその葉を持っているのかい?」

 

「いや。葉を作るのも、手入れも面倒くさい。俺はこの紙巻きで十分だ。お前もそうだろう?」

 

「そうだね。僕もこのキセルで満足しているよ。」

 

「ということはこの水煙草は不用品ということになるな。」

 

「そうだね。誰も使う予定がないのだからね。」

 

「それなら、俺が格安で引き取ろうか?こういうのは家に置くだけでインテリアとしても十分だ。」

 

「そうはいかないよ。これは僕が見つけたんだ。もちろん、所有権も僕にある。それに、これがあれば店の雰囲気も華やかになると言うもんさ。」

 

「こんな物置みたいな店に雰囲気もなにもないだろう。」

 

「そういう君だって、掘っ立て小屋にインテリアもくそもあるかい?」

 

「霖之助は吸わないんだろう?」

 

「そういう君だって吸うつもりじゃあないんだろう?」

 

「どうせ、紅魔館で調べてから使おうとか思っているんだろ?」

 

「きみがそう考えているから、そのような意見が出るんだろう。僕はそんなつもりはないよ。何故なら、その書物はここにあるからね。」

 

「ほう、では聞こう。水煙草の葉はどうやって用意すればいいんだ?」

 

「材料さえあればさほど難しくないよ。……ただひとつ、足りないものがあるんだけどね。」

 

「それは?」

 

「煙草の葉さ。フレーバーとやらと、固めるための蜜は用意できるが幻想郷では煙草の葉をまとめて手にいれる手段がないんだ。」

 

「わかった。そこは俺がどうにかしよう。」

 

「あてがあるのかい?」

 

「俺の交遊関係をなめてもらったら困るよ。」

 

「それなら頼めるかい?」

 

「……」スッ

 

「……」

 

「……」

 

「その手はなんだい?」

 

「俺の職業を忘れたのか?」

 

「……ハァ、僕が使っていないときは自由に水煙草を吸える権利。これでどうだい?」

 

「了解。この案件は里のよろず屋が引き受けました。」

 

「頼むよ。」

 

「任せとけ。」



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メディスン・メランコリーの場合

一寸先は闇とは言い得て妙だと思う。

 

闇を認知するのは光があるから。

 

一歩後ろは光だ。今に満足なら戻れば良い。そうでないなら闇に飛び込み新たな光を探せ。

 

一一一一一一一一一一

 

霖之助との約束を果たすべくとある場所へ向かう。その道中一体の妖怪と出会う。

 

一一一一一一一一一一

 

「何か捨てに来たの?」

 

「誰だ?」

 

「ここは無名の丘。名もない赤子を捨てる場所。殺されたくないのなら、今すぐ戻りなさい。」

 

「俺はこの先にいる妖怪に用があって来たんだ。引くつもりはない。」

 

「この先の妖怪って幽香?幽香に用事があるの?」

 

「知っているのか?」

 

「うん。幽香のお客さんなら通してあげるよ。」

 

「ありがとう。……名前は?」

 

「私はメディスン。よろしくね。」

 

「メディスンか、よろしく。」

 

「幽香の用事って何?」

 

「新しく育ててほしい花があるんだ。そのお願いに行くんだ。」

 

「きれいなお花?」

 

「あぁきれいだよ。」

 

「スーさんよりも?」

 

「どうだろうかな?」

 

「きっとスーさんの方がきれいだよ。スーさんはとってもきれいだもん。」

 

「そうかな?」

 

「おじさんはスーさんが嫌いなの?」

 

「いや、俺も鈴蘭は好きだよ。けどもっときれいな花はたくさんあるんだよ。」

 

「おじさんの好きな花は何?」

 

「俺はなんでも好きだよ。ユリの儚さもバラの優雅さもタンポポの強さもなんでも好きさ。」

 

「浮気性なんだね。」

 

「そうなのかもしれないな。」

 

「認めるの?」

 

「認めるさ。俺は懸命に咲こうとする花が好きさ。そこに美しさも醜さもない。」

 

「スーさんも?」

 

「もちろんさ。懸命に咲く花を嫌うわけないだろ?」

 

「おじさんっていい人なの?」

 

「そうだな。」

 

「認めるんだ……。」

 

「俺は懸命に生きているからな。嫌う人はいないだろ?」

 

「やっぱり変な人かも……。」

 

「メディスンは一生懸命生きているか?」

「うん。スーさんのお世話したり頑張ってるよ。」

 

「それならいいんだ。」

 

「おじさんは一生懸命に生きてるの?」

 

「そう見えるか?」

 

「見えない。」

 

「外れだな。俺は今日を楽しくいきるのに懸命なんだよ。」

 

「ふーん。」

 

「メディスンも大きくなればわかるさ。」

 

「そうなのかー。」

 

「あぁ、きっとそうさ。」

 

「ねぇおじさん。知ってる?」

 

「ん?」

 

「スーさんって毒があるの。みんな嫌いなの。それでも好き?」

 

「あぁ好きさ。例えば今俺の足元に咲いてる鈴蘭は何のために毒を持つのか知ってるか?」

 

「食べられたくないから?」

 

「そうだな。生きるために毒を持つんだ。それはいけないことなのか?」

 

「ううん。スーさんだって一生懸命生きているんだよ。そのために毒を持つのはしょうがないことだよ。」

 

「そうだな。人も、妖怪もそうさ。生きていくには少しくらい毒がないとダメなんだよ。わかるか?」

 

「どういうこと?」

 

「……煙草を吸わせてくれないか?」

 

「ここに捨てないならいいよ。」

 

「ありがとう。」カチッ

 

「ねぇ、おじさんは幸せ?」

 

「あぁ、幸せだよ。というより、幸せがまた来てくれたってところだな。」

 

「それはスーさんのおかげだよ。」

 

「そうかもしれないな。」




次回も花言葉ネタが続きます。


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風見幽香の場合

煙草の煙は恐らく俺の知らぬところで迷惑をかけているだろう。

俺は恐らく気づかぬうちに誰かを傷付けているだろう。

俺は笑って誤魔化すだろう。

あいつは恐らく俺を傷付けていることに気付いていないだろう。

笑顔が如何に美しかろうと笑って誤魔化される俺ではない。

 

一一一一一一一一一一

 

メディスンと別れ太陽の畑へと向かう。

 

彼女は俺を見て、美しく笑った。

 

一一一一一一一一一一

 

「あら万屋さん、何をしに来たのかしら?」

 

「いや、お前に新しく育ててほしい花があるんだ。」

 

「なんの花かしら?貴方が態々来るのだから余程美しい花でしょうね。」

 

「まぁな、俺はちゃちな頼み事はしないんだよ。」

 

「どんなお花なのかしら?」

 

「淡い藤色の花だ。形は夕顔ににているかな。」

 

「あら、本当にきれいなお花みたいね……懐かしいわね。」

 

「なにがだ?」

 

「貴方が来たばかりの頃、煙草の葉を育ててほしいと言いに来たことがあったわね。」

 

「そうだったな。」

 

「もちろん、そんなつもりでお花を育てるつもりはないし、力づくで追い払ったわね。」

 

「そういえば、そうだったな。」

 

「それにしても、今回はなんで煙草の葉が必要になったのかしら?」

 

「勘違いしないでくれ、俺は純粋な気持ちで煙草の花が見たくなっただけだ。」

 

「ようやくお花の素晴らしさに気づいたのかしら?」

 

「まぁ、そんなところだ。ところで幽香。」

 

「何かしら?」

 

「煙草の花言葉を知っているか?」

 

「さぁ、知りたくもないわ。」

 

「この花には様々な花言葉があるんだがな、そのなかで共通しているのは『信頼』と『孤独』だ。」

 

「信頼と孤独……。相反するもののようだけど、どうせあなたのことだから何か考えがあるんでしょう?」

 

「まぁ、そうだな。信頼と孤独は一見、相反するものだがな、俺はそう思わない。」

 

「その心は?」

 

「人はなぜ信頼する?俺は孤独が怖いからだと思う。人と親密になるにはそれだけ自分から歩まなければならない。では、なぜ人は孤独になる?そもさん。」

 

「説破。貴方が言いたいのは歩み寄るのが怖いから。でしょう?人は誰しも自分の心の範囲をもつ。そこに歩み寄られることも自ら歩み寄ることも恐れる。これでどうかしら?」

 

「あぁ、その通りだと思う。自分から自分の国に入られるのは怖い。しかし、入れないと他人を頼ることも、頼られることもない。そのような矛盾、パラドックスの中で人は生きているんだ。」

 

「それがどうかしたのかしら?」

 

「決して自分から踏み込むことはせず、いつも一歩引いたところから、決して人を信じすぎることもないお前ももう少しこちら側に来てもいいんじゃないのか?」

 

「疑問に疑問で返すのね……。そこは言い切った方が男らしくて素敵よ。」

 

「お前には敵わないな。」

 

「誉め言葉としてとっておくわ。」

 

「あぁ。」




長かった(三話)花言葉シリーズも終わりました。


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小野塚小町の場合

サボる、語源はサボタージュ。サボタージュ、語源は木靴(サボ)で不当な扱いに対して抗議すること。

 

そういえば『サボ』っていう革命軍のキャラクターがどっかの漫画にいたな。

一一一一一一一一一一

 

霖乃助に外の道具を売り付けるため、無縁塚へ道具を拾いに来た。

そこには赤い髪のサボり魔な巨乳こと、死神の小野塚小町が木陰で寝息をたてていた。

 

一一一一一一一一一一

 

「小町、またサボりか?」

「zzz ……」

 

「なんだ、ただの屍か。」

 

「死神に対して屍ってどんな冗談だい?」

 

「なんだ、起きてたのか。」

 

「いや、今起きたのさ。それにしても久し振りだねぇ、あんたがここに来るなんて。」

 

「ここはあまり好きじゃないんだよ。」

 

「そりゃあ、あんたの知り合いもいるかもしれないからねぇ。」

 

「そうだな。だから、ここにはあんまり近づきたくないんだよ。」

 

「でもここに来たってことは吹っ切れたのかい?」

 

「そんなところかな。こっちには生活がかかってんだよ。今更恐いなんて言ってられねぇよ。」

 

「結構結構。どこかの賢者さんも言ってただろう?幻想郷はすべてを受け入れる。それは残酷なことだってな。」

 

「今になってその意味が理解できるようになったよ。」

 

「そうかい。あたいは未だにわからないけどな。」

 

「おい、……まぁ、外来人じゃねぇと理解できねぇかもな。」

 

「ほう、それならあんたに教えを乞おうじゃないか。」

 

「……」スッ

 

「なんだい、その手は?」

 

「俺はお前に教えてあげる。お前は俺に教えてもらう。OK?」

 

「三途の川の船頭のあたいに金を払わせるってあんたも大概命知らずだねぇ。」

 

「いいだろ。俺は三途の川の船頭じゃなくて小野塚小町に話してるんだよ。」

 

「あんたも逞しくなったねぇ。霖の字の影響かい?……これで足りるかい?」

 

「幻想郷のせいだよ。……あぁ、十分だ。」

 

「なるほどねぇ。まぁ、幻想郷で生きていくなら、特にあんたみたいに妖怪相手に商売するなら、それくらい逞しくないといけないね。」

 

「それはどうも。一本いるか?」

 

「おっ、ありがたいねぇ。頂くとするよ。」

 

「そういえば、お前、こんなところにいても大丈夫なのか?」

 

「なにがだい?」

 

「仕事は?」

 

「大丈夫さ。今日はやる気がしないからね。無理して働くよりもこうして休みながらする方が効率がいいのさ。」

 

「羨ましいよ。」

 

「ん?」

 

「俺のいたところではそんな言い訳通用しなかったからな。」

 

「そいつは残念だねぇ。あんたんところの上司も四季様くらい融通が効けばよかったろうに。」

 

「まぁ、そうかもな。ところで、『同時に振り返るゲーム』でもするか?」

 

「なんだい?その詰まらなそうなゲームは?」

 

「合図と同時に振り返るだけの遊びさ。けど意外と面白いんだぞ。」

 

「そうかい。それならあたいが合図を出すよ。」

 

「合図は『えーんまさまはとーんちき ゆーづーきかないとーんちき』で統一されてるからな。」

 

「そんなルールがあるのか?」

 

「まぁな、元々この遊びは現世の罪から目をそらし、融通の効かない閻魔様に悪態を吐くっていう落語がもとになっているからな。」

 

「なるほどねぇ。それじゃあ始めるよ。」

 

「『えーんまさまはとーんちき ゆーづーきかないとーんちき』…………あ、四季様。おはようございます……」ダラダラ

 

「無言で微笑まれると、非常に怖いんとすけど。え、今の言葉ですか?いやいや、本心な訳ないじゃないですか……。ちょっと、悔悟の棒をそんなに振りかぶらないでください!」ピチューン



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四季映姫の場合

他人を許すのは強さであると誰かが言った

 

しかし、許さないのも己のなかにある強さゆえのものだと思う

 

一一一一一一一一一一

 

長い小町への説教のあと、四季様がこちらを睨み付ける。逃げ場はない。

 

一一一一一一一一一一

 

「ところで……」

 

「なんだ?」

 

「貴方は何故ここに来たのですか?」

 

「香霖堂に売る道具を探しに来たんだよ。そこで寝ている小町とあった。」

 

「そうですか。」

 

「何かあったのか?」

 

「いえ、小町の話ではいつも通り一所懸命に働いているところに貴方が現れて連れ去られたとのことでしたので、確認をと思いまして。」

 

「安心してくれ、お前の考えている通りだから。」

 

「はい、浄玻璃の鏡で確認したので聞く必要もなかったんですけど、念には念をと思っただけです。初めから貴方は疑ってませんよ。」

 

「それならよかった。」

 

「それでは、隣失礼しますね。」スワル

 

「仕事はいいのか?」

 

「はい、もうノルマは達成したので。」

 

「じゃあ何で座ったんだ?」

 

「貴方が以前話していた外の司法機関について少し話を伺いたいと思いましてね。」

 

「そうか。俺はどこまで話したんだ?」

 

「外では裁判官と呼ばれる私と似た立場の人間が複数人で判決を下す。というところまでですね。」

 

「不思議か?」

 

「ええ、外にはしっかりとした法もあり証拠なども十分に揃えられると聞きます。それなら判決を下すのは一人で十分なのではないのでしょうか?」

 

「そうかもしれないな。」

 

「ですよね。なら何故態々無駄に人数を登用するのでしょうか?」

 

「それは人間が完璧ではないからだよ四季様と違って外では過去の過ちを全て見ることはできない。それに、四季様みたいな能力もないからな。一人て他人の人生を動かせるほどの力を人間は持ってないんだよ。」

 

「私の能力は能力と呼べるような代物ではありませんよ。人がその道のなかで積んできた善行、悪行を自分の中の判断をもとに判決を下すだけです。私が悪だと感じれば善行であっても悪行になりますし、善だと感じれば悪行であっても善行になってしまいます。」

 

「自信がないのか?」

 

「もちろんありますよ。これまで閻魔として誤った判決を下したことは一度もありません。」

 

「それならいいんじゃねぇの?」

 

「しかし、私の偏見で許されるべき魂が許されない様なことがあるのでは……」

「そんなこと考えてもしょうがないたろ?生きてりゃ誰だって大なり小なり間違いは犯すんだよ。それよりも犯してしまった間違いを悔い改めることが大事なんじゃないのか?閻魔様。それにな……」

 

「それに?」

 

「それに、閻魔の言うことは絶対なんだよ。誰も逆らいはしねぇよ。」

 

「まさか、地獄行き確定の貴方から懺悔について教えを頂くとは思いませんでした。貴方の地獄行きも少し考え直さなければなりませんね。」

 

「よろしく頼むよ。」

 

「もっと善行を積んでから言ってください。」

 

「わかってるよ。」




しばらく風神録には入りません。


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罪袋の場合

存在が罪

 

一一一一一一一一一一

 

里を歩いていると変態にあった

 

一一一一一一一一一一

 

「何してんだ?」

 

「何だ、万屋か。」

 

「で、今日はどこにいくつもりなんだ?」

 

「今日は紅魔観にいくつもりさ。」

 

「聞くまでもないだろうが、何しにいくんだ?」

 

「何っておぜうさまのところに決まってるだろ。『うー☆』さえしてもらえれば俺は例え火の中水の中さ。いや、逆に門番で中国こと美鈴さんに蹴り入れられるのもありだな……」

 

「死ぬ思いまでして、したいもんなのか?」

 

「我々の世界では殺されることさえご褒美だ。これ、常識な。」

 

「どんな常識だよ。」

 

「幻想郷では常識にとらわれてはならないのですよ!」

 

「目を☆にしてまで言うことか?」

 

「まぁ、いいだろ。」

 

「そんなもんか。」

 

「ところで、万屋はどこかに用事があるのか?」

 

「あぁ、今日は守矢の方にな。小さい方の……」

 

「ロリ神様がどうしたんだ!?」

 

「何でも食いつくな……。」

 

「当たり前じゃないか!!『あーうー』してもらえるなら俺は死んでもいい!!」

 

「相変わらず命が軽いな。」

 

「で、ロリ神様こと諏訪子ちゃんの用事とは何だ?」

 

「外の世界の話をしてくれ。それだけだ。」

 

「諏訪子ちゃんも外からきたのに、外の話を聞きたがるのか?珍しいもの好きのおぜうさまとかあややならともかく……」

 

「さぁ?神様も案外退屈してるのかもしれないな。」

 

「そうか、俺ならあんなことやこんなことして退屈させないのにな。グフフフ……」

 

「死にたいなら是非ともそうするべきだな。」

 

「我々の世界では殺されることさえご褒美だ。これ、常識な。」

 

「あぁ、そうだったな。」

 

「ところで、1本もらっていいか?」

 

「まぁ、いいが。自分のは?」

 

「いつの間にか無くなってたんだよ。紫様の屋敷を探して幻想郷中を旅していたことは覚えているんだけどな、途中からすっぽり記憶がなくなっているんだよ。気がついたら太陽の畑のど真ん中でブリッジしていた。」

 

「どこら辺探していたんだ?」

 

「幻想郷の西の端だな。」

 

「へー、どうでもいいけどな。」

 

「とりあえず万屋。1本くれよ。」

 

「わかったよ。ほら、」

 

「ありがとうな。」

 

「ないなら買えばいいのにな……。」

 

「たまには気分変えてみたいものなんだよ。」

 

「そういうもんか?」

 

「そんなもんだ。」

 

「俺にはよくわからないな。いつまでも変わらないものの方がよっぽど安心して吸えるからな。」

 

「たまには変化をつけないとやっていけないんだよ」

 

「……ところで。」

 

「ん?」

 

「口もないのにどうやって吸ってるんだ?」

 

「御都合主義ってやつだ。」

 

「なるほどな……」




読みにくいですよね


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リリー・ホワイトの場合

落ち込むとき、慰められることすら疎ましく思う。

 

自分を理解できるのは自分自身だけである。

 

一一一一一一一一一一

 

春の木漏れ日の中煙草を吹かす。空白の時間だが、その空白さえ生きていく上では大切だと思う。

 

一一一一一一一一一一

 

「春ですかー?」

 

「リリーか……」

 

「そうですよ~。春ですよ~。私ですよ~。」

 

「そうだな。もう春なんだな。」

 

「何かあったのですか?」

 

「いや、俺の知る人がまた一人居なくなっただけだ。少し一人にしてくれないか?」

 

「一人はダメですよ。それに春は別れの季節。出会いがあれば別れがある。それが春ですよ。」

 

「それなら、俺はまた誰かと出会うのか?別れのために。」

 

「そうですよ。」

 

「俺が嫌だと言ったら?」

 

「人も妖怪も出会い、別れ、また出会い……。そうやって生きていくのですよ。それから逃れることはできないのですよ。」

 

「辛いものだな。」

 

「……石の話をしましょう。」

 

「どうしたんだ?」

 

「地球から産み出された岩は川によって流されます。岩は川を転がる最中に他の岩などとぶつかり合い、丸くなり海へと流されていくのです。人の人生と同じですよ。」

 

「人は他人と関わりを持つことでその性質をより丸く変えていくということか?」

 

「そうですよ~。人は他人と関わることで、その性格の角をなくしていき、やがて老いる頃には丸く滑らかな性格になっていくのです。」

 

「なるほどな。」

 

「と言うことで、あなたもいろんな人と出会い別れることでいい人になってくださいね。」

 

「……けど、おかしくないか?」

 

「どうしたんですか?」

 

「お前の話の通りなら、年を取るにつれて性格が丸く、小さくなっていくことにならないか?つまり、器の小さい人間になっていくんじゃないのか?」

 

「……えーっと、それはですね……だから……」

 

「いいよ。お前の言いたいことはわかってたから。」

 

「そうですか?」

 

「あぁ、少しだけ遊ばせてもらったよ。」

 

「あなたはひどい人ですね。」

 

「よく言われるよ。」

 

「あなたはずるい人ですね。」

 

「よく言われるよ。」

 

「あなたは……ずるいですよ……。」

 

「……そうかもしれないな。」

 

「別れは辛いですか?」

 

「あぁ。」

 

「別れの春は嫌いですか?」

 

「いや、春は出会いの季節でもあるからな。ただ別れるだけなら辛いかもしれない。けど、新しい出会いもあればそれを乗り越えられるのかもしれない。その証拠に今日お前と会えた。そして、落ち込んでいた俺を励ましてくれた。」

 

「やっぱりずるいです。」

 

「あぁ、そうだな。」




JASRACが面倒くさいそうなので改訂しておきます


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ミスティア・ローレライの場合

屋台という空間は異質である。初めて顔を会わせるもの同士が酒をのみ交わし、笑い合い慰め合う。

 

恐らく他にはなかなか見ないものであろう。

 

一一一一一一一一一一

 

夜、酒が飲みたいので屋台に寄った。

 

一一一一一一一一一一

 

「いらっしゃい。あら、煙草さんじゃん。」

 

「俺はいつまで煙草さんって呼ばれ続けるんだ?」

 

「ん~、煙草を止めたらかな?」

 

「なるほど、俺は一生万屋とは呼ばれないんだな。」

 

「そうかもね。何にする?」

 

「酒と……つまみは何かあるか?」

 

「一通り揃えてるつもりよ。」

 

「なら、たこわさ。」

 

「はいよ。酒は何か希望はある?」

 

「外の酒はないんだろう?」

 

「外のやつはさすがにないね。一番のおすすめは『雀の涙』よ。」

 

「ならそれを、冷で」

 

「はいよ。」

 

「店は長いのか?」

 

「まぁ、煙草さんの生きてきた年数ぐらいはしているだろうね。」

 

「思ったより長いんだな。」

 

「まぁね。はいよ、冷とたこわさ。」

 

「売上は?」

 

「まぁぼちぼちってところね。よく来るのは妹紅くらいだもの。」

 

「そうか。」

 

「やっぱり、妖怪の店ってのは敬遠されがちなのかもね。」

 

「そうかもしれないな。」

 

「お宅はどうなの?」

 

「うちは調子いいよ。最近、不思議な力が働いているかのように仕事が入ってくるよ。」

 

「それはよかったね。」

 

「まぁ、妖怪相手が多いけどな。」

 

「幻想郷じゃあそんなものかもね。」

 

「まぁ、金がもらえるなら文句は言わないさ。……冷やのおかわりと、他に何かないのか?」

 

「うーん、うちは八ツ目鰻屋だからね。鰻料理ならなんでもできるよ。」

 

「それなら、蒲焼きと唐揚げ。いけるか?」

 

「任せといて。……はい、先に冷ね。」

 

「どうも。それにしてもこの酒、旨いな。」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ。」

 

「幻想郷の酒は癖が強いのが多いからな。」

 

「酒は癖が命よ。癖のない酒はただの水よ。」

 

「そうなのか?」

 

「少なくともここに棲む連中はそんなのばっかりよ。……はい、蒲焼きと唐揚げね。」

 

「なるほどな。……いただきます。」

 

「……。」

 

「……唐揚げ旨いな。衣は軽くサクッとしていて、しかし身の方は柔らかく油が出てくる。一緒に出てきた柚子塩も柚子の風味がきいていて鰻特有の脂から来るしつこさを消している。普通、鰻は蒲焼きのように醤油などをもとにしたタレで味付けをして網で焼く。それは鰻は本来脂っこくて食べていると飽きてくるからだ。しかし、この唐揚げはそのしつこさがない。ミスティア……」

 

「どうしたの?」

 

「身の方にも柚子で味付けしたか?」

 

「えぇ、身の方には柚子胡椒を少しね下味はそれと塩ね。」

 

「なるほど、身の方にも柚子を、しかも柚子の香りがさらに強い柚子胡椒で下味をつけることで八ツ目鰻の泥臭さも消したというわけか……。まさに柚子のダブルパンチ!!しっかりと脂の旨味があるのにそのしつこさを全く感じない。」

 

「説明ありがとうね。」

 

「本当に旨いな。」

 

「あんなにしゃべる煙草さんって初めて見たかも……。」

 

「そうかもしれないな。」

 

「また来てちょうだいね。」

 

「あぁ、また来るよ。」




書いてて腹減ってきました(午前二時)


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姫海棠はたての場合

鴉天狗は空を駆ける。自分が自分であることを知らしめるために。

空を駆けることを忘れた鴉天狗は何を残すのか。

 

一一一一一一一一一一

 

はたての家に行きました。

 

一一一一一一一一一一

 

「あら、何しに来たの?貴方が来るなんて珍しいわね。」

 

「昨日、海棠の花を見つけてな。」

 

「それで、私に合いたくなったのかしら?」

 

「いや、最近会ってなかったからな。」

 

「そういうことね。何か手土産はあるの?」

 

「霖之助のところから酒を持ってきた。これでいいか?」

 

「えぇ、十分よ。」

 

~~~~~~~

 

「だーかーらー、私があいつに負けてるわけがないっての!!」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「そうでしょ!あんたもそう思うでしょ!」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「自分の方が少し年上だからっていい気になって私の新聞にケチつけるんじゃないわよ!」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「ちゃんと話聞いてるの!?」

 

「あぁ、そうだな。」

 

「それなら、よし!許してあげる。」

 

「それはよかったな。」

 

「それにね、私の名前わかってる!?」

 

「姫海棠だろう?」

 

「そうよ、姫海棠よ!妖艶で艶麗で温和な姫海棠なのよ!」

 

「妖艶と艶麗は知らないが、温和ではないと思うぞ。」

 

「何言ってるのよ!?私は、あの人のことを考えない馬鹿と違って、優しいのよ!温和なのよ!」

 

「それもそうだな。」

 

「それなら、よし!!許してあげる。」

 

「あぁ、助かるよ。」

 

「それなのに、あの馬鹿は、人のことを引きこもりだとか、根暗だとか言いたい放題言いやがって……」

 

「……。」

 

「私だってね……私だって頑張ってるのに……。皆に真実を伝えられるように頑張ってるのに……。」

 

「……。」

 

「頑張ってるんだもん……。それにしても、煙草!!」

 

「ん?終わったか?」

 

「あんた、臭いのよ!吸うんなら家主に一言いってから吸いなさいよ!!」

 

「いいじゃないか。お前の愚痴を聞く身にもなってくれ。」

 

「何よ。私の話が退屈なの?」

 

「さんざん怒鳴られて、次は泣かれて……。静かに飲ませてくれないのか?」

 

「いいじゃない。あんたも私も普段一人酒が多いんだから。人と飲むときくらい楽しく飲みなさいよ。」

 

「楽しく飲むのは構わんが……。」

 

「そうね。少し話し疲れたわね。」

 

「しばらく静かに飲ませてくれ。」

 

「ええ、いいわよ。私もその方がいい気がしてきたし……。」

 

「……。」

 

「……少し眠くなってきたわね。」

 

「寝るか?遅いから俺も帰るとするか。」

 

「……帰るの?それなら文か椛に送るようにいった方がいい?」

 

「いや、いい。もう日が昇り始めているからな。」

 

「……そう?それなら私はもう寝る……zzz」

 

「こんなところで寝たら風邪引くぞ」ウワギカケル

 

「……zzz」

 

「『美人の眠り』ってところか……」




というわけで、『美しい花には刺がある』話でした。因みに姫海棠は薔薇科の植物らしいです。

あと、時系列には突っ込まないでください。


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サニーミルクの場合

太古の人々は太陽が人間を導いてくれると考えていた。

 

幻想郷では通じないらしい……。

 

一一一一一一一一一一

 

はたての家から帰る途中森で迷子になってしまった。

 

一一一一一一一一一一

 

「……で、犯人を見つけたわけだが……。」

 

「何よ。」

 

「あと2匹はどうしたんだ?」

 

「他の二人は別の場所であなたを待っているわよ。」

 

「なるほど、3重でいたずらをするつもりだったわけか……。」

 

「それがどうかしたの?」

 

「いや、お前ならまだしも他の2匹の能力でどういたずらするつもりだったんだ?」

 

「……それは……個人で……考えることじゃない?」

 

「何で疑問系なのかは知らないが。考えてなかったのか?」

 

「うっさいわね。関係ないでしょ。」

 

「いや、お前のお陰で容易く帰れることがわかった。」

 

「何よ!私よりあいつらの方が頭いいんだから!あなたは絶対帰れないんだから!」

 

「けど、音を消すだけの能力と相手の場所がわかるだけの能力でどんないたずらをするつもりなんだ?」

 

「それは……個人で……考えることじゃない?」

 

「何も考えてなかったんだな。」

 

「……。」(>_<)

 

「わかったから、目に涙をためるな!」アセリアセリ

 

「泣いて……ないもん……。」

 

「そうだろ?サニーは強いから泣かないよな?」アセリアセリ

 

「……うん……。」

 

「よーしいい子だ。」ナデナデ

 

「子供扱いしないでよ……。」

 

「子供扱いなんてしねぇよ。頑張ったから誉めてるだけだ。」

 

「それを子供扱いって言うのよ。」

 

「そんなもんか?」

 

「そんなもんよ。」

 

「ところで……。」

 

「どうしたの?」

 

「火、おこせるか?」

 

「当たり前じゃない。私を誰だと思ってるの?」

 

「それなら煙草に火をつけてくれないか?」

 

「何で妖精の私が煙草に火なんてつけないといけないのよ?」

 

「どういうことだ?」

 

「まずその灰、地面に落ちるとその毒素が地面に広がって草や虫が弱ってしまうの。次にそのフィルター、それは自然に存在するものじゃないから落ちても分解されないの。そして最後にその煙、その煙は毒や一酸化炭素を含んでいて植物の葉が痛んでしまうの。私たち、自然のそのものである妖精が自然を壊してしまうようなものを認めるわけないでしょ?」

 

「よく噛まずに言えたな。」

 

「バカにするんじゃないわよ。私は天才だから、これくらい余裕なのよ。」

 

「流石だな……。」

 

「フフン。そうでしょそうでしょ。」

 

「あぁ、俺だったらそこまで考えられなかったな……。」タバコミツメー

 

「……そんなに煙草吸いたいの?」

 

「……まぁな。けど、お前がそこまで考えていたんだから俺はそれに逆らわないさ……。なんたって天才の言うことだからな、従うしかないさ。」

 

「まぁ、そこまで言うんなら許してあげないこともないわよ。」

 

「本当か?……でも、いいのか?」

 

「天才の私が言ってるんだから、いいの。……ほら、煙草貸しなさい。」

 

「あぁ、ありがとうな……」クスクス

 

「何がおかしいの?」

 

「やっぱり太陽がサイキョーだって思っただけだ。」

 

「ふーん、変なの。」

 

「そうかもしれないな。」




本当は「ナイムネハリーノ」とかも考えてたんですけどね……


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霧雨店の親父の場合

アンジャッシュって面白いよねー


父は子を支える。

押してはいけない。

引っ張ってもいけない。

傾かないように手を添えてやるだけだ。

 

一一一一一一一一一一

 

必要なものがあったので霧雨店へと行く。

 

帰りに呼び止められた。

 

一一一一一一一一一一

 

「おい、万屋。」

 

「ん?」

 

「ここ最近、魔法の森に若い魔法使い見習いが出るらしいからそっちの方に行くときは気をつけて行けよ。」

 

「はいよ。けど、魔法使い見習いってことは人間なんだよな?」

 

「だろうな。」

 

「人の子が魔法の森に入って大丈夫なのか?」

 

「さぁな。しかし、魔法使い見習いを名乗るのだからそこらの木っ端妖怪なら相手にならんのだろう。」

 

「そういうもんかね。」

 

「力も持たん癖に妖怪相手に商売するお前もどうかしてるがな。」

 

「まぁ、そうだな。そういえば……」

 

「どうした?」

 

「その見習いとやらは煙草の臭いが嫌いらしい。もし、仲良くなりたいなら煙草をやめてから会いにいった方がいいかもな。」

 

「よしてくれよ。なんで俺が魔法使い見習いと仲良くなりたがるんだよ。」

 

「万が一の話だ。もし、仲良くなりたいと思う日が来たら思い出してくれ。」

 

「そうだな。しかと覚えておくよ。」

 

「そうしてくれ。」

 

「ということは、お前も仲良くなりたいんなら煙草をやめないといけないな。」

 

「あんなじゃじゃ馬と仲良くなるよりも一人で煙草吸っていた方がよっぽど俺のためになるさ。」

 

「……。」

 

「まぁ気を落とすなよ。たかが魔法使い見習いをじゃじゃ馬と呼んだだけだろう?」

 

「……あぁ、そうだな。」

 

「そういえば近い先に魔法の森の方で仕事があるな。」

 

「そうなのか?」

 

「あぁ、そのときにでも魔法使い見習いがどれだけ可愛いかくらいは見てくるとするかな。」

 

「そうか。」

 

「で、親父さんにそのときの様子でも話してやるよ。」

 

「なんで俺が魔法使い見習いの様子なんて知る必要があるんだよ。」

 

「なら、代わりにどこか飲みに行くか?」

 

「そうだな。ただ、男同士の酒のつまみは仕事と美人の話と決まっているんだが?」

 

「そうだな。そのときには魔法の森で見かけた金髪の絶世の美女の話でいいか?」

(魔理沙はじゃじゃ馬だから美人とは……。アリスは綺麗だし親父さんも食いつくだろう。)

 

「それでいいな。」

 

「そう言ってくれると思ったよ。」

 

「ところで、その美女は健康なのか?どんなに美しくても、健康で気立てのいい女の方でないとその美しさが半減してしまうからな。」

 

「あぁ、健康だよ。それに心配りもできている。まぁ、ときには無茶(俺にピエロの着ぐるみを着せる)もするけどいい女だよ。」

 

「飯は食えているのか?」

 

「そこは問題ないと思うぞ(アイツ飯食う必要ねぇし)。」

 

「そうか、ところで部屋の掃除とかはできているのか?」

 

「まぁ、(人形で)散らかってるところもあるけど、基本的には清潔だと思うぞ。」

 

「そうか……。それならよかった。」

 

「満足したのか?」

 

「あぁ、また今度酒の席で聞かせてもらうぞ。」

 

「任せておけ。」



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秋姉妹の場合

人に最も近く、最も生活に関わる神である。

 

……まぁ、地味だけどね……

 

一一一一一一一一一一

 

神社へ向かうため、山を登る。

 

途中神様に会いました。

 

一一一一一一一一一一

 

穣「お、いいところに来た!」

 

「ん?」

 

静「火ある?」

 

「あるぞ。オイルライターの火とガスライターの火とマッチの火、どれがいい?」

 

穣「同じでしょ!」

 

「これが違うんだよ。」

 

静「どう違うの?」

 

「説明し始めたら長いぞ。」

 

静「そんなに?」

 

「そうなだな。字数で表せば1000字くらいになるな。」

 

静「それは長すぎね……」

 

穣「どうでもいいから。マッチ貸して。」

 

「芋でも焼くのか?」

 

静「食べてく?」

 

「あぁ、そうするよ。それとマッチだったな。」

 

静・穣「ありがとう。」

 

~~~~~~~~~~

 

「旨いな。」

 

穣「でしょう。実りの神様が育てたんだから不味いわけないわよ。」

 

静「けど、落ち葉があったから美味しく焼けたんでしょ?」

 

穣「芋が良かったの!」

 

静「落ち葉があればこそでしょう?」

 

穣「芋!!」

 

静「落ち葉。」

 

静・穣「煙草さんはどっちだと思う?」

 

「あぁ、旨かった。けど、秋に色付いて、落ちた落ち葉で秋に実った芋を焼いていると、秋の暮れを感じるよな。」

 

静・穣「……」

 

「どうした?」

 

静「秋が……終わる?」

 

穣「秋が……終わってしまう。」

 

「どうしたんだ?」

 

静「秋が終わってしまうの。これほど悲しいことはないわよ。」

 

「そうかもな。まぁ、秋はどこか物寂しいものだと決まってるんだよ。仕方ないさ。」

 

静「辛いわね。」

 

「いいじゃないか。また1年経てば秋になるんだ。それまで待つしかないさ。」

 

穣「寂しいものよ。秋には信仰され、崇められているのに……冬になったらそれもないのよ。」

 

「……秋の収穫の季節だけ信仰されても収穫には間に合わないだろ?紅葉も同じたろ?」

 

穣「そうだけど……。そんなことする人間がどこにいるのよ。」

 

「いないな。」

 

穣「でしょう?冬には力を失って静葉と静かに過ごすしかないのよ。」

 

「人は身勝手だからな。仕方ないのかもしれないな。」

 

穣「そうよ!不作だからって私のせいにするのよ。豊作が続けば土が悪くなるからたまには不作にしないといけないのに……」クトクド

 

静「けど、人にとって秋の実りは冬を越せるかどうかに関わるから神経質になるのかもね。」

 

「まぁな、元々不幸なことを押し付けるための神様だからな。」

 

静「不作なら豊穣の神様が、地震があれば土の神様が、嵐が来れば空の神様が……という感じよね。」

 

「そうだな。」

 

静「けど、それが八百万の神様の宿命よ。一人に押し付けるよりもよっぽど神様のためになってるわよ。」

 

「それもそうだな。」

 

静「ところで……」

 

「ん?」

 

静・穣「美味しい焼き芋は誰のおかげ?」

 

「もちろん、俺の火のおかげだよ。」



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鍵山雛の場合

幸か不幸か判断するのに人の一生は短すぎる。

 

一一一一一一一一一一

 

山を登る。息が続かない。

 

一一一一一一一一一一

 

「あら、久しぶりね。何してるのかしら?」

 

「山の上の神社に用事があってな。」

 

「仕事?熱心ね。」

 

「煙草代を稼ぐためだよ。」

 

「そんなにいいものなの?私からしたら厄の塊でしかないのだけれど……。」

 

「やくはやくでも『ご利益』のやくだよ。吸ってて気持ちがいいんだからいいだろ?」

 

「やくはやくでも『お薬』のヤクだと思うわよ。今のあなたの話を聞いて確信したわ。」

 

「薬ならいいのにな……。」

 

「同じ薬の字でも読み方は『ヤク』なのよね。」

 

「中毒性と体への悪影響なら酒も同じだろ。」

 

「酒は長寿の長よ。」

 

「それなら煙草も同じだろ。吸ってないとやってられないときだってあるんだよ。お前だって飲まないとやってられないときくらいあるだろ?」

 

「まぁね。未だに私のことを勘違いしている人もいるでしょうしね……。そう思うと飲まないとやってられないかもしれないわね」

 

「感謝はされても人に疎まれる覚えはないってことか?」

 

「えぇ。厄神様っていう呼び名がいけないのかしら。」

 

「疫病神、もしくは祟神みたいだもんな。」

 

「山の上のロリっ子とは違うのよ。」

 

「『厄いわね。』って言うのもやめたらどうだ?厄を移しているように捉えられかねないしな。」

 

「それじゃあ、何て言うのよ。その台詞は私のアイデンティティなのよ。」

 

「『貴方の厄、引き取ります。』とかはどうだ?」

 

「廃品回収みたいね……。」

 

「それもそうだな。」

 

「どうにかならないものかしら……。」

 

「どうにかしたいものだがな……。」

 

「まず第一に流し雛なんて誰か知ってるのかしら?」

 

「少なくとも俺のいた世界でしているやつは見たことないな。」

 

「まぁ、忘れられたからここにいるのだけどもね……。」

 

「それもそうだな。」

 

「ところで……。」

 

「ん?」

 

「貴方、厄がたまっているわね。貴方の厄、引き取るわよ。」

 

「これじゃないな。」

 

「私もそう思ったわ。」

 

「それじゃあ、今まで通りでもう一回頼む。」

 

「貴方、厄いわね。」

 

「こっちの方がいいな。」

 

「そう思う?」

 

「あぁ、そっちの方が雛らしいよ。」

 

「……そう。それなら今まで通りでいった方がいいのかしら?」

 

「そうだな。何よりも雛らしいのが一番だな。」

 

「それならよかったわ。ところで貴方……。」

 

「ん?」

 

「かなり厄いわよ。いろんなところで恨みを買ってる覚えはない?」

 

「里の万屋がどこで恨みを買うんだよ。」

 

「そう?それならいいのだけど……。」

 

「……。」

 

「……私の恨み高くつくわよ。」

 

「恨まれないように気を付けるよ。」



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河城にとりの場合

愛されたくとも愛されてはいけない。

 

愛したくとも愛してはいけない。

 

恋したなら近づいてはいけない。

 

あの人の本性が見えるから。

 

一一一一一一一一一一

 

山を登る途中で喉が乾いたので川に立ち寄り水を飲もうとする。

 

一一一一一一一一一一

 

「やー盟友。こんなところで会うとは思わなかったよ。」

 

「初対面だろ?いきなり盟友とか言われても反応に困るんだが……。」

 

「ゴメンゴメン。私は谷河童の河城にとり。よろしくね、新しい盟友さん。」

 

「初対面の河童に盟友と言われても反応に困るんだが……。」

 

「そうかい?私にとって人間は皆盟友なんだよ。」

 

「それは好ましいがな……。」

 

「それに、貴方がもし嫌な人なら話しかけもしなかったよ。」

 

「それはどうも。河童のお眼鏡にかなってよかったよ。」

 

「河童を怖がらないのかい?普通の……まぁ、つまり私の盟友になり得なかった人達は河童と聞いた瞬間に怯えて逃げていったよ。」

 

「残念ながら、俺は交友関係が広いんだよ。吸血鬼や鬼と知り合いなのに今更河童に怯えてられないよ。」

 

「ん?貴方仕事は?鬼様や吸血鬼と知り合えるんだから、妖怪退治か何かかい?」

 

「残念ながら万屋だよ。俺には霊力も何も無いんでね。」

 

「万屋……霊力も無い……妖怪と知り合い……。」

 

「どうかしたか?」

 

「貴方、もしかして外来人の万屋かい?」

 

「そうだが。」

 

「まさかここで会えるとは思わなかったよ!貴方、最近天狗様が噂している万屋だね!」

 

「噂の程は知らないが外来人の万屋で間違いはないよ。」

 

「貴方、力も何もないのに妖怪相手に商売してるんだってね。文が言ってたよ「最近、生意気な外来人がいる」ってね。」

 

「そんな風に言われていたのか……。」

 

「まぁ、天狗様からしたらいい新聞のネタだろうね。もう少し登ったら警戒しなよ。文が飛び込んでくるかもしれないしね。」

 

「精々警戒しておくよ。あいつらの速さなら俺は何も出来ずに吹っ飛ぶだろうけどな……。」

 

「本当に噂通りだね。ここまで脅されても引き返そうとは思わないのかい?」

 

「仕事だからな。」

 

「やっぱり、いい男だね。今後100年は私のなかでとびっきりの盟友として記憶しておくよ。」

 

「それはどうも。」

 

「冗談なんかじゃあないさ。肝も座ってるし器もでかい。貴方からはとびっきりの尻子玉が採れそうだよ。肝も旨いかもね。」

 

「やめてくれ。それに、俺は全身煙草臭いから旨くないぞ。」

 

「それは私が食べてみて決めることさ。食べ物は少し癖がある方が旨いんだよ。尻子玉は干せば臭みも消えるしね。」

 

「冗談に聞こえないんだが……。」

 

「冗談さ。こんなとびっきりの盟友は喰うよりも生きていた方が楽しいからね。」

 

「精々長生きするよ。」

 

「そうしておくれ、貴方を亡くすには早すぎるからね。」

 

「精進するよ。」




今更な話ですが、評価バーに色が着いた!!と喜んでたらいつの間にか緑からオレンジに変わっていて自分自身信じられない気分です。

元々、評価バーに色がつくはずつがないと思いながら執筆してきましたので人生で2番目くらいに驚いています(一番は「落ちるから受けるな」と言われていた大学に合格したとき)。

高くも低くも評価してくださった皆さんのお陰です。本当にありがとうございます。

これからも皆さんのご期待に添えるよう精進していくのでこれからも是非よろしくお願いします。



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犬走椛の場合

頭が一杯のときは居間で煙草を吸いなさい

 

心が落ち着かないときは寝室で煙草を吸いなさい

 

余裕のあるときは浴室で煙草を吸いなさい

 

一一一一一一一一一一

 

山に侵入していると白狼天狗に見つかりました。

 

一一一一一一一一一一

 

「止まれ!斬ると動く!」

 

「……」

 

「……」

 

「……?」

 

「……動くと斬る!」

 

「……」

 

「……ごめんなさい。反応してください。間違えたのは謝りますから……。」

 

「山の神社から何か聞いていないのか?一応諏訪子からの依頼なんだが。」

 

「聞いていない。天狗に話が届いていない以上、お前を山への侵入者と見なし排除する。」

 

「俺が生き残る道は?」

 

「尻尾巻いて逃げる。若しくは、諏訪子様に確認がとれれば。」

 

「巻く尻尾がない場合は?」

 

「首が飛ぶ。」

 

「諏訪子に確認する手段は?」

 

「今、文様が確認に向かわれている。」

 

「文か……。あいつのことだからわざと遅れてくるぞ。」

 

「それはあの方の性格上仕方のないことだ。」

 

「煙草、吸ってもいいか?」

 

「かまわない。」

 

「最後の煙草かもしれないかと思うと急に虚しくなるな。」

 

「最後の煙草なら、しかと味わわないとな。」

 

「そうさせてもらうよ。」

 

「……」

 

「……退屈じゃないのか?」

 

「いや、これが私の仕事だ。」

 

「そうか。」

 

「あぁ。」

 

「……」

 

「……暇だな。」

 

「それはお前だけだ。俺は今を楽しんでいる。」

 

「喫煙者め……。」

 

「そう言うなよ。文のことだからもう少ししたら着くだろう。」

 

「そうだな。」

 

「……。」

 

「……。」

 

ピュッ

 

「何だ?」

 

「安心しろ、万屋。ただの矢文だ。恐らく文様からの伝達だろう。」

 

「……なんて書いてある?」

 

「『侵入者である万屋は確かに守矢神社におわす洩矢諏訪子様の命によりここに参上したものであり、上のものが山内で不信な動きを行わない限り天狗から手を加えないものとする。』だそうだ。」

 

「許されたってことでいいのか?」

 

「そうだな。これで山の天狗はお前を客人として正式に迎え入れることとする。尚、不信な行動を起こせばすぐさまその首が飛ぶので、注意されたし。」

 

「よかった。」

 

「本当によかったですよ~」ヘナヘナ~

 

「お疲れさま。」

 

「本当に疲れましたよ。定常作業とは言っても知り合い相手では緊張しますからね……。」

 

「慣れないのか?」

 

「慣れてはいますよ。ただ、知り合いの首は跳ねたくないだけです。」

 

「恐ろしいことを言うな……。」

 

「でも、文様の手紙に『依頼はなかった』とかいてあったら私は貴方の首を跳ねないといけなかったんですよ。」

 

「本当に危なかったんだな。」

 

「本当ですよ。……落ち着きついでに一本もらっていいですか?哨戒中は必要なものしか持てないので……。」

 

「あぁ。」

 

「ありがとうございます。……緊張のあとの一服はいいものですよね。」

 

「そうだな……。」



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射命丸文の場合

もし翼があるなら、自由に飛びたい

 

一一一一一一一一一一

 

山を登っていると、予想通り絡まれた。

 

一一一一一一一一一一

 

「あややや、また吸ってるんですか?身体に悪いですよ。」

 

「いいだろ。好きで吸ってるんだから。」

 

「そうは言いますけどね、貴方に死なれたら私としては少し困るんですよ。」

 

「新聞のネタがなくなるからか?」

 

「あややや、わかりますか?次の新聞の一面も『迷走!里の万屋、妖怪の山で迷子!』に決まってるんですよ。だから簡単に死んで欲しくはないんですよ。」

 

「それなら、諏訪子への確認を早急にしてくれれば良かったのにな。」

 

「そうは行きませんよ。あれはあれで面白いものも見ることができましたしね。貴方のマジビビり顔とか椛のサボり姿とか……」

 

「椛が俺を斬らないとわかっていて遅くしていたのか?」

 

「さぁ、何となくですよ。まぁ、あの子は真面目な割りに甘ちゃんですからね。……私に対してもあれくらい甘甘にして欲しいものです。」

 

「本当になに考えているかわからないやつだな……。」

 

「そう思っているといいですよ。」

 

「やめておくよ。お前に甘さを見せたら一生付きまとわれそうだ。」

 

「それは残念ですねぇ。何だかんだ言っても貴方はネタの玉手箱ですからね。」

 

「お前を衰えさせることができるならそれで満足だが……。」

 

「残念ながら天狗はネタを見つけると、年齢一切関係なく風神のごとき速さで幻想郷中を飛び回りますよ。」

 

「だと思ったよ……。」

 

「ところで……。」

 

「ん?」

 

「貴方からとてつもないゴシップの臭いがします。何か隠していませんか?」

 

「何もない。」

 

「年長者は甘く見ないことですよ。私はそこらの天狗よりも勘が働きます。何かあるのは間違いないでしょう。」

 

「気になるか?」

 

「もちろんです。私は鴉天狗ですよ。」

 

「やめておけ。誰かの怒りを買って幻想郷が大変なことになりかねん。」

 

「……幻想郷を巻き込む大混乱ということは八雲紫様が関わっていると考えて間違いないですかね。」

 

「さぁな。」

 

「紫様と言えば……以前、貴方と愛人関係にあるという記事を書いた際に態々妖怪の山に訪れてまで記事の差し押さえを行ったことがありますね……。それは関係あるのですか?」

 

「文……」

 

「答えてくれるんですか!?」

 

「一つだけ教えてやる。……好奇心旺盛なのは、鴉天狗としての性分なのかもしれん。しかしな、好奇心はときとして己を殺すことだけは忘れるなよ。」

 

「……それは私に言ってますか?」

 

「いや、昔の自分に言ったのかもしれないな。」



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東風谷早苗の場合

奇跡は望む人にしか来ない。

 

一一一一一一一一一一

 

ようやく神社にたどり着いた。

そこには風祝が俺の到着を待っていた。

 

一一一一一一一一一一

 

「万屋さん、お待ちしてました。諏訪子様がお待ちですよ。」

 

「あぁ、それにしても何で俺を呼んだんだ?お前らなら外の様子にも精通しているだろう。」

 

「さぁ、あの方は私達には計り知れないお方なで……。何かあの方なりの考え方があるのだとは思いますよ。」

 

「分からないものだな。」

 

「我が神社の神様は常に先を見ておられるのですよ。我々の幻想入り然り、エネルギー革命然り。」

 

「先を見ているのならその先の問題点に気づいてくれればよかったのにな。」

 

「あれは鴉の暴走ですから。諏訪子様も神奈子様も予測できるものではなかったのだと思います。」

 

「そんなものなのか。」

 

「そんなものですよ。」

 

「ところで、信仰の方は落ち着いたか?」

 

「はい、なんとか。御二柱も全盛期とまではいきませんが、力を取り戻しつつあります。」

 

「それはよかった。」

 

「はい。外ではいつ消えてしまうのか心配で心配で……。」

 

「まぁいいじゃないか。今はいい方向に向かっているんだ。それを喜ばないと。」

 

「そうですね。いつか力を完全に取り戻した御二柱と外の世界へ戻ってみたいものです。」

 

「ここから出るつもりなのか?」

 

「まさか!幻想郷での生活は外とは比べ物にならない程刺激的なものです。簡単には手放しませんよ。外へ行くのははちょっとした観光程度のつもりです。」

 

「それはよかった。」

 

「私がいなくなったら寂しいですか?」

 

「当たり前だろ。友人がいなくなって寂しくないやつなんていないさ。」

 

「そう言ってくれると嬉しいです。」

 

「本当に全てが順調だよな。幻想入りして、分社を建てて、信仰も戻って、山の勢力の一角となって、エネルギー開発も手掛けて……」

 

「そうですね。自分でも怖いくらいですよ。」

 

「……お前は何もしていないのか?」

 

「当たり前じゃないですか!?能力で信仰を集めても神社のためにはなりませんよ。」

 

「やろうと思えばやれるのか?」

 

「まぁ、そうですけど……。絶対にしてませんからね!」

 

「そうだな。信じてるよ。」

 

「まず第一に奇跡というのは信じるものにしか訪れないのですよ。だから、もし私が「信仰が増えればいいな~」と思っても他の人が「何か神様を信じてみたいな~」と思わない限り奇跡は起きないのですよ。」

 

「……?」

 

「分かりやすく言えば『とあるシリーズ』の『自分だけの現実』みたいなものですよ。」

 

「なるほど、他人の領域には踏み込めないってことか。」

 

「そう言うことです。どんなに私が信じていても他人の思考に関与することは難しいのです。それこそ飾蜂さんでもないと……。」

 

「以外とややこしいんだな。」

 

「そんなことはありませんよ。」

 

「ん?」

 

「信じるものは救われるのですよ。他人を信仰させたいなら行動あるのみなのです。」

 

「なるほどな。」

 

「というわけで、我が守矢神社を信仰しませんか?」




主人公の名前決定しました。

『相模友人(さがみともひと)』です。

以前皆様に質問した際に答えて下さった方もいらっしゃったんですが、結局私自身で決めてしまいました。

質問に答えて下さった方々、申し訳ありません。

因みに名前を呼ばれる機会はないと考えています(ほとんど万屋か煙草さんです)。


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八坂神奈子の場合

力だけで全てを押さえようとしたこともあります。

 

無理だと気づいたのは全てを手に入れたときです。

 

一一一一一一一一一一

 

諏訪子と話す前に神奈子に呼び出された。

 

吸いたい。

 

一一一一一一一一一一

 

「悪いね。態々来てもらって。」

 

「いや、依頼ならばどこでも誰でも駆けつけるのが俺の店の信念なんでね。」

 

「金さえもらえれば……だろう?」

 

「当たり前だろ。金がないと煙草も吸えないし、酒も飲めない、あと飯も食えないしな。」

 

「煙草がいの一番に出たか。」

 

「飯は釣りでも狩りでもなんとかなる。しかし、煙草は買う他にないんだよ。」

 

「なるほどねぇ。あんたも苦労してるんだね。」

 

「苦労と言われるほどではないさ。最近は依頼も多くて収入も安定している。来たばかりの頃では考えられない程にな。」

 

「人間からの依頼は?」

 

「……」

 

「少ないのかい?」

 

「人間以外の知り合いが多いからな、警戒されているんだと思う。」

 

「まぁ、神の話し相手を生業とする人間をまともと思うほどできた人間は少ないだろうねぇ。」クックック

 

「笑うなよ。依頼したのはそちら側だろう?」

 

「あぁ、そうだったな。」

 

「で、諏訪子よりも前に呼び出した理由は?」

 

「ん?あんたと世間話をしようかと思っただけさ。」

 

「それはよかった。で、神奈子から見て俺はまともだと思うか?」

 

「何当たり前のことを聞いてるんだい?」

 

「気になっただけだ。」

「私たちからすればこの上なくまとも、人間から言わせればこの上なく異端。これでどうだい?」

 

「だろうな。」

 

「人間は異端を追い出す。そして異端とされた者たちがやがて妖怪や神となる。」

 

「妖怪はそうだろうが神は違うだろ。」

 

「そうでもないさ。この国は八百万の神が護る国さ。何が神になるのかわからないのさ。」

 

「そんなもんか?」

 

「化け狐だって化け狸だって神になる国だ。少し絵が上手いからという理由で神になってもおかしくないのさ。」

 

「そういえばそうだったな。」

 

「そして、邪に堕ちたものは人であろうと神であろうと妖になってしまう。そういう国なのさ、ここは。」

 

「俺が妖怪になると?」

 

「あんたは神にはなれないだろ?かといって邪に堕ちてもいない。暫くは人のままさ。」

 

「もし、なりたいといったら?」

 

「止めておけ。なったところで後悔するだけだ。寺子屋の娘や竹林の娘は例外だ。」

 

「もしもの話だ。もしも、人が妖怪になったとして、戻る手段は?」

 

「ないね。人は一度道をはずせば戻ることはできない。例え償いをしたとしてもだ。」

 

「そうか……。話を聞いてくれてありがとうな。」

 

「いや、こちらも楽しい話が聞けたよ。……仲良くしてやれよ」

 

「そうだな。」



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洩矢諏訪子の場合

守りたくとも守れなかった。

 

チャンスがあるなら全てを守る力が欲しい。

 

一一一一一一一一一一

 

神奈子にようやく解放され。諏訪子の元へと向かう。

 

吸えない。

 

一一一一一一一一一一

 

「入るぞ。」

 

「いいよー。特になにもないけど……ゆっくりしていってよ。」

 

「とりあえず、一本いいか?」

 

「いいよ。客なんだから遠慮なんかしなくてもいいのに……。」

 

「そうはいかないさ。俺は客人なんだからな。」

 

「訳がわからないわね。」

 

「自分達のグラウンドたから整備する人間と借り物のグラウンドだから整備する人間とどっちが正しいと思う?」

 

「どっちも正しい。だから奪い合いが始まる。でしょう?」

 

「そうだな。トンボを奪われてベンチに戻るときの先輩とか監督の目が痛いんだよな……。」

 

「思い返しているところ悪いけど、話をしてもいい?」

 

「あぁ、そうだったな。で、何の用事なんだ?」

 

「貴方は頭はいいの?」

 

「首都の大学で物理を選択するくらいにはな。」

 

「理系ね。」

 

「そうだな。まぁ、変なことばかりしていたけどな。」

 

「核融合に関しては理解してるの?」

 

「一応、一通りの流れは理解しているつもりだ。」

 

「なら話は早いね。」

 

「地霊殿に行けばいいのか?」

 

「そういうこと。話が早いと助かるよ。」

 

「ところで……」

 

「ん?」

 

「何でそんなに一生懸命なんだ?幻想郷に核エネルギーの導入は早すぎると思うんだが……。」

 

「何でだろうね。強いて言うなら早苗のためかな。」

 

「償いのつもりか?」

 

「そうね。早苗は私たちが巻き込んでしまった。だからせめて神社の格を上げて早苗を守る力になってあげたいんだと思う。」

 

「守れなかったからか?」

 

「詳しいんだね。」

 

「それなりにな。知り合いに物好きが多いものでね。」

 

「そうだね。あのとき、私は国を守ることができなかった。だからせめて早苗は守りたい。……私達を守ってくれたからね。」

 

「神奈子もか?」

 

「多分そうだろうね。神奈子は素直じゃないから絶対に言わないだろうけど。」

 

「なるほどな。」

 

「で、引き受けてくれるかい?」

 

「言ってるだろ?万屋は金さえもらえれば何でもするんだよ。」

 

「ありがとう。」

 

「どういたしまして。」

 

「変な話だね。」

 

「何がだ?」

 

「奪われた神と奪った神、決して相容れないはずなのに一人の人間のために必死になって、こうして人間を頼るなんてさ。」

 

「そうでもないさ。神様でもどんなことをしても守りたいものはある。人より力があるんだから少しくらい強欲になっても許されるさ。」

 

「……フフッ、変な人間だよ、あんたは。」

 

「よく言われてるよ。」




タイトル変えます。


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ルナチャイルドの場合

太古の人々は月が人間を導いてくれると考えていた。

 

幻想郷では通じないらしい……。

 

一一一一一一一一一一

 

山から帰る途中道に迷ってしまった。

 

鴉天狗か妖精の仕業に違いない!

 

一一一一一一一一一一

 

「で、犯人を見つけたわけだが……」

 

「反省はしてるわ。」

 

「それならよかった。で、今回もサニーの思いつきか?」

 

「そうよ。私とスターがこんなアホなこと考え付くわけがないじゃない。」

 

「それもそうだな。」

 

「で、私はどうされるの?」

 

「煮る気も食う気もない。」

 

「そう?それなら帰らせてもらうわよ。」

 

「そうだな。」

 

「それじゃあね……」フリカエリー、トビーノ

 

「ちょっと待ってくれ!」

 

「ん?」フリカエリーノ……

 

「キャッ!!」キニドーン

 

「……やっぱりな……」

 

「痛たた……」

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫に見える?」

 

「至って健康そうで何よりだ。」

 

「本当にそう見えるなら永遠亭まで案内してあげるわよ。」

 

「それは勘弁してくれ。増々帰れなくなるからな。……で、大丈夫か?」

 

「これくらいもう慣れたわよ。」

 

「慣れるくらいぶつかって来たんだな。」

 

「……」

 

「……」

 

「で、」

 

「ん?」

 

「何の用よ。急に呼び止めて木にぶつけさせる位なんだから余程の用事なんでしょう?」

 

「償いとして道案内を頼もうと思ってな。」

 

「それくらいなら大丈夫よ。……さぁ、早く帰りましょう。」

 

「助かるよ。」

 

~~~~

 

「ところで……」

 

「なに?」

 

「リーダーの交代はしないのか?」

 

「何でそんなことを聞くの?」

 

「いや、サニーの作戦はどこか抜けているからな。たまには別のやつが指揮を執ってみてはどうか、と思っただけだ。」

 

「そうね。確かにサニーの作戦はどこか抜けているし、いたずらも中々成功しない……。けど私が指揮を執るなんてことはありえないわ。スターも同じね。」

 

「何でだ?」

 

「表に立つのにふさわしくないのよ。私は自ら進んでいたずらをするような性格じゃない。表に立つのはやる気があって、行動力があって、どこか抜けている方がいいのよ。」

 

「ん?やる気と行動力はわかるが抜けているやつって言うのは?」

 

「リーダーが完璧な存在なら周りは頼ってしまう。それは組織とは呼べないのよ。誰もが役割をもって、責任をもって、行動を起こして初めて組織と呼べるのよ。」

 

「なるほどな。しかし、よく考えているものだな……。」

 

「まぁね、私はこうやっていろんなことを考えているのが好きだから……。」

 

「そこら辺の妖精とは違うんだな。」

 

「本質は同じよ。ただ私が好きなものがみんなと違うだけ。」

 

「本当に妖精らしくないやつだな。」

 

「貴方もまともな人間には思えないわよ。」

 

「そうだったな。」




主人公の名前『相模友人』にはちゃんと元ネタがありますよ。


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茨木華扇の場合

人のためを思うなら注意すべきである。

 

一一一一一一一一一一

 

神社での弛く長い一時。桃色の(説教の)鬼に邪魔された……

 

一一一一一一一一一一

 

「また吸っているのですか?」

 

「華扇か……。」

 

「霊夢でも待ってたのですか?」

 

「いや、今日はただの暇潰しだ。近々下に行くことが決まったからな。」

 

「下って旧地獄のことですか?」

 

「そうだが、やっぱり嫌か?」

 

「そうですね。旧地獄はその名の通りまさに地獄ですからね。人間がそこへ向かうのは好ましいとは思いません。」

 

「止めないのか?」

 

「止まるのなら止めますよ。」

 

「止まらないさ。」

 

「そう思ってましたよ。」

 

「約束は守る男なんだよ。」

 

「……何で?」

 

「ん?」

 

「何で止まらないの?」

 

「昔、約束を破っちまったからな。その償いだよ。」

 

「償いをする必要はないって言ってなかった?」

 

「償えないものは仕方ない。けど、償えるものは全力で償わなくちゃいけないと考えている。まぁ、俺の勝手な思い込みだけどな。」

 

「命の危険に晒されても?」

 

「約束を破っちまったときにそいつを大変な目に会わせちまったからな。」

 

「後悔なのね……。」

 

「そういうことかもな。けどもし、そいつが何事もなかったら俺はここにいなかっただろうな。そういう意味では後悔してないかもな。」

 

「どういうこと?」

 

「……約束を守らなかったらあんなに悩むこともなかったんだよ。そして、死にたいと思うこともな……。律儀に人の仕事までしてたんだから可笑しいよな。」

 

「……私なら貴方を導けると思う?」

 

「無理だと思うぞ。人に偉そうに人生について語っていた俺が自分自身を見失っていたんだ。誰にも、どうすることもできなかったさ。」

 

「よかったと思ってるの?」

 

「言ったろ、後悔はしていないって。」

 

「そうじゃなくて……。」

 

「幸か不幸かで問われれば俺は間違いなく幸せだよ。だから心配すんな。」アタマナデル

 

「……うん。」

 

「まぁ、幸せかどうかなんて人が死ぬ瞬間に己の人生をどう思うかだ。後、40年くらい待ってろ。」

 

「貴方は幸せだったって言えるの?」

 

「言ってやるよ。空に向かって大きな声でな。」

 

「それならよかった……。」

 

「だろ?」

 

「貴方のことだからどれだけ不幸でもそう言うんでしょうね。」

 

「望まない死に方さえしなけりゃ誰でもいい人生だったって言えるさ。」

 

「本当に変わった人ね。」

 

「よく言われるよ。」

 

「誉めているのよ。人間にしておくのが惜しいくらいにね。」

 

「やめてくれ。冗談でも恐い。」

 

「あら、知らないの?」

 

「何をだ?」

 

「私はね嘘つけないの。」

 

「へー、知らなかったな(棒)。」




何かとフラグが多かった風神録編が終わりました。

このまま一気に最終回迎えられるくらいの状態ですが、最低でも地霊殿までは書こうと思っています。

まぁ、その後どうするかは何も考えてないんですけどね……


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黒谷ヤマメの場合

地霊殿では登場順を少し入れ換えます

キスメとヤマメ
燐とさとり

ご了承ください


 

恨み殺され、社会から捨てられ、そうして人は弱くなっていく

 

一一一一一一一一一一

 

地底の入り口へ地上を散策中のヤマメに頼んだ。

 

好んで地上に出るとは不思議な妖怪もいたものだな

 

一一一一一一一一一一

 

「土蜘蛛が地上に何の用だ。」

 

「いきなり失礼ね。私はただ散策していただけさ。」

 

「土蜘蛛が現れたら恐いだろ。地下に封印された妖怪は恐ろしいと聞いているからな。」

 

「今時そんなことするような輩は地下にもいないでしょ。人に恐れられなくなって消える心配がなくなった。しかも、年間5万以上の死体が外から送られてきて食事にも困らない。これで満足しないやつがいるかい?」

 

「満足していてもイメージというものがあるだろ。」

 

「そのイメージとやらがどれ程恐ろしいものかわかっているつもりさ。……少なくとも私はね。」

 

「俺もわかっているさ。一度の失言、一度の暴言、これでどれだけ人に疎まれてきたことか……。」

 

「私も地下に追いやられたからねぇ。わからないもんではないのさ。」

 

「お前はまだいいじゃないか。地下に追いやられても今に満足なら。」

 

「何かあったのかい?」

 

「社会的に殺された?とでも言うのか……。」

 

「訳ありか……。聞いてもいいかい?」

 

「いいが……楽しくないぞ。」

 

「それならやめだね。これから暗い穴を通ろうというのに暗い話なんて聞けるかい?」

 

「だろうな。」

 

「話したいなら地下にいる勇儀のところに行きな。あいつならどんな話でも酒の肴にしちまうからね。」

 

「そうさせてもらうよ。ところで……」

 

「ん?」

 

「ヤマメの話を聞かせてもらおうか。」

 

「暗い話になるけどいいのかい?」

 

「いいさ。煙草でも吸いながら話し半分に聞くからな。」

 

「それは失礼だと思わないのか?」

 

「思わないな。相手が話したくないことは聞かないか話し半分に聞くのがいいって知り合いが言っていたもんでね。」

 

「いい人じゃない。何で貴方の知り合いなのか理解に苦しむよ。」

 

「どうでもいいだろ。で、話すのか?」

 

「話してやるよ。」

 

「楽しませてくれよ。」

 

「面白いのは期待するなよ。話をするのは下手なんだからな。」

 

「そうするよ。」

 

「私はね、大昔に封印されてから人間を恨んできた。力もないくせにこんなことしやがってってね。でも、ここで起きた異変のときに霊夢たちに負けたんだよ。そのときは地上も変わった、私を受け入れてくれるかもしれない。って思ったんだよ。まぁ、無駄だったけどね。」

「悔しいか?」

 

「そうでもないのよ。わかってたはずのことだからね……。」

 

「悔しいのか?」

 

「……そりゃあ悔しいさ。後ろ指差されて逃げてきたのに……。時代が変わっても人は変わらないのかね……」

 

「そう簡単に変われるのなら、俺も苦労してないさ。」

 

「悔しいかい。」

 

「いや、俺を捨ててきたあいつ等の方が俺を失った大きさを感じて悔しがっているだろうな。」

 

「神経が図太い上に性格が悪いとは……貴方は手遅れかもね。」

 

「わかってるよ。」




あらすじの欄でも説明させて頂いてますが漸夜様の東方職人録にてコラボさせていただいたことに決まりました。

私は苦手なので書けませんが読者から見て主人公の相模友人がどのように映っているのか知りたくて参加させていただくことに決めました。

投稿は年末頃になるそうなのでぜひ見てください。


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キスメの場合

桶は身を隠すことができるからから好きだ。

 

桶は外を見なくていいから好きだ。

 

桶は私を守ってくれるから好きだ。

 

私は桶が好きだ。

 

桶は私が好き?

 

一一一一一一一一一一

 

ヤマメの案内で絶賛下降中。

(都合上ヤマメは少ししか出ません)

 

一一一一一一一一一一

 

「……。」

 

「……。」アタマカクシテシリカクサズ

 

ヤ「……。」

 

「ヤマメ……これが何かわかるか?」

 

ヤ「認めたくないけど私の友達の釣瓶落としのキスメさ。おーいキスメー、出ておいで。」

 

「……。ヤマメ……そこの人誰?」

 

ヤ「それは本人に聞きな。私はさきに降りるからね。」

 

「……。」

 

「……貴方は……誰?」

 

「俺は地上の万屋で相模友人。まぁ、煙草さんとか万屋さんとかで呼ばれることの方が多いがな。」

 

「……万屋さん?」

 

「あぁそうだ。で、お前の名前は?」

 

「……キスメと言いますです。……一応釣瓶落としなのです。」

 

「キスメか。よろしくな。」

 

「……はい。よろしくなのです。」

 

「キスメは何でここにすんでいるんだ?」

 

「……人を食べちゃうからなのです。……だから……人に恐れられて地下に閉じ込められたのです。」

 

「ん?ヤマメはそんな妖怪はいなくなったって言っていたがお前は違うのか?」

 

「……それは理性がある強い妖怪の話なのです。……力のない妖怪は本能に従って人を食べるのをやめられないのです。」

 

「俺を食べようと思わないのか?」

 

「……私は力のない妖怪のなかでも強い方なので……満月の夜みたいに妖力が強くなるとき以外は理性が働くのです。」

 

「それは良かった。食べられずにすむんだな。」ナデナデ

 

「ふにゃー」

 

「ん?気持ちいいか?」

 

「……なんと言うか落ち着くのです。……これまでの人間とは違う優しい感じがするのです。」

 

「それは良かった。」

 

「……万屋さんは不思議な人間なのですね。」

 

「最近よく言われるよ。ところで……」

 

「何ですか?」

 

「何で桶を被っていたんだ?」

 

「…………万屋さんが怖かったからなのです。」

 

「もしかして人見知りなのか?」

 

「…………はいなのです。…………と言うよりも人間に封印されたときのトラウマとでも言うのでしょうか……」

 

「なるほどな。」

 

「……けど、怖くないとわかったから今は大丈夫なのです。」

 

「それは良かった。いつまでも怖がられていたら嫌だしな。」

 

「……万屋さんはいい人なのですね。」

 

「そうか?」

 

「……はいなのです。……なんだかヤマメみたいに私の面等を見てくれそうな気がするのです。」

 

「やめてくれ。俺は一人面倒見るだけで手一杯なんだよ。」

 

「……それは誰なのですか?」

 

「教えねぇよ。」




内気+人見知り=(幼女モードの)羽入


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水橋パルスィの場合

恨まれ役なら慣れています。

 

人に恨まれるのには慣れていません。

 

一一一一一一一一一一

 

旧地獄の入り口に着きました。

橋がありました。

パルスィがいました。

 

一一一一一一一一一一

 

「パルスィ、久しぶりだな。」

 

「そうね。で、何しに来たの?ここは貴方が来るべき場所じゃないわよ。」

 

「地霊殿に用事があるんだよ。諏訪子の依頼でな。」

 

「妬ましいわね。」

 

「どうした?いつものか?」

 

「何でそんなに余裕なのかしら?ここは旧地獄よ。わかってるの?ここには……」

 

「恐ろしい妖怪が沢山いるって話か?それなら聞き飽きたよ。」

 

「なら何で来るの?死ぬかもしれないのよ?」

 

「仕事だからだろ?他に理由があるか?それにここには知り合いもいる。不安になる要素があるか?」

 

「……。」

 

「……なんだ?妬ましいを通り越して呆れたような顔をしているが……。」

 

「よくわかったわね。勇気ある行動は妬ましく思えるけど。無謀な愚行は妬ましくもなんともないわ。」

 

「酔狂か?」

 

「むしろ茶番にもならないわ。死にに来たのなら喜んでここを通すわ。けど、そうじゃないなら帰りなさい。」

 

「そうはいかないんだよ。通してくれよ。」

 

「本当に妬ましいわね。」

 

「またそれか?」

 

「仕事のためなら死をも恐れないその心意気、この幻想郷で生き残る話術、交渉力、そして今まで生きてきた運。どれも妬ましいわ。」

 

「そんなことないさ。俺は一度死んでいるんだからな、もういつ死んでも悔いはないだけさ。妬まれるようなものは何も持ってないつもりだ。」

 

「そんなことないわよ。その証拠に貴方は里で浮いているらしいじゃない。」

 

「何で知っているんだよ。」

 

「さっき登って行った土蜘蛛が言ってたわ。」

 

「ヤマメか……。で、それになんの関係があるんだよ。」

 

「人の恐れは、嫉妬から来ることもあるのよ。特に貴方のはそう。妖怪と共に生きていける人間がうらやましい、妬ましい、怖い……。」

 

「隣の芝が青く見えるのと同じだろ。実際、幽香なんかも里に来ているだろう?」

 

「それは客として来たから迎えているだけ。貴方は自分から妖怪を客として探している。……酔狂ね。」

 

「そう言うなよ。」

 

「事実でしょ?」

 

「そうだけどな。」

 

「何も考えていないようなところ、本当に妬ましいわ。」

 

「俺からしたら妬ましい妬ましいって言っているお前がうらやましいけどな。」

 

「どういうこと?」

 

「人を妬むって言うのはそいつの長所を認めていることなんだよ。あいつには勝てねぇってな。俺は負けず嫌いだから認めたくねぇんだよ。妖怪相手に勝とうなんて考えはとっくに捨てたけどな。まぁ、人の長所を素直に認めて羨ましがることができるお前が俺は羨ましいってことさ。」

 

「……」

 

「……」

 

「気が変わったわ。貴方のことを殺したくなったから喜んでここを通してあげるわよ。」

 

「ありがとな。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当にずるい人……。」ボソッ

 



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星熊勇儀の場合

待っていてくださった人がいらっしゃいましたら、お待たせしました。


私にもっと力がなければ楽しく過ごせたのかもしれない。人と楽しく酒を飲み、笑い、喧嘩をしながら過ごせたのかもしれない。

 

一一一一一一一一一一

 

「あんたが勇儀か?」

 

「そうだが……。あんたは?」

 

「万屋だ。ヤマメにあんたのことを聞いて来たんだが……。」

 

「ヤマメの知り合いか。それなら歓迎するよ。で、何か私に用事かい?」

 

「話をしに来たんだ。昔のな。」

 

「酒の肴になるような話なら大歓迎だが?」

 

「なんでも肴にしちまうようなやつだと聞いていたんだが?」

 

「クックック……。違いない。聞いてやろうじゃないか。」

 

「助かる。」

 

「酒は飲めるんだろう?一緒に飲み明かそうじゃないか。」

 

「鬼と飲み比べをするほど愚かじゃないさ。」

 

「それならゆっくり飲んで行きな。素面でするような話じゃないんだろう?」

 

「そうさせてもらうよ。」

 

~~~~~~~~~~

 

「ガッハッハ」

 

「笑いながら聞く話でもないだろ……」

 

「いや~悪い悪い。しかしだな、酒を飲んでいるんだから何でも楽しいに決まっているだろ?」

 

「そうかもな……」

 

「そうそう。辛いときは杯を空にする、杯が空になったら酒を注ぐ、杯に酒があるなら杯を空にする。これが一番さ。」

 

「途中から酒飲むのが目的になってるぞ。」

 

「酔ったら嫌なことなんて忘れるもんさ。違うかい?」

 

「違いないな。」

 

「そうと決まれば……ほら、ぐいっと行け。そのためのぐい呑みだろう?」

 

「そうだな。」

 

「お、いいねぇ。」

 

「……ところで」

 

「どうかしたかい?吐くなら厠に行きな。」

 

「吐きはしないから安心しろ。星熊には辛い話はないのか?今なら俺にも肴にできそうだ。」

 

「今さら、星熊はないだろう。酒を交わしたそのときから、その二人は親友であり、兄弟であり、親子でもあるんだからな。」

 

「親子は少し違うだろ。」

 

「違わないさ。酒には不思議な力があるのさ。新たな絆を結び、仲間を萃め、傷を癒してくれる。体の傷も……心の傷もな……。」

 

「本当に癒えているのか?心の傷は人に話すのが一番いいんだよ。ほら、話してみろ。」

 

「そんなに聞きたいなら、話してやろうかね。」

 

「短めに頼むぞ。長い話は聞いてる俺が寝ちまうからな。」

 

「注文が多いやつだな。手っ取り早く話すなら。裏切られたんだよ。人間にな。」

 

「辛かったか?」

 

「辛いと言うよりも自分が恨めしかったよ。馬鹿力のせいで畏れられ、その結果まともな勝負すらもしてくれなくなった。正面から堂々と喧嘩も出来なかったからな。」

 

「鬼も大変なんだな……。」

 

「人間だけが大変だと思っている方が間違いさね。」

 

「それもそうだな。」



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火焔猫燐の場合

貴方が私を死ぬまで愛すというのなら、私は貴方が死んでからも愛し続けることを誓います。

 

一一一一一一一一一一

 

二日酔いで頭が痛いがなんとか地霊殿に到着した。

 

一一一一一一一一一一

 

「お燐じゃないか。どうしてここにいるんだ?」

 

「どうしてもこうしてもここが私の家だからよ。……先に言っておくけど、煙草のお兄さんが考えているような理由で博麗神社に居座っていた訳じゃないよ。」

 

「それならいいんだが……」

 

「で、地霊殿に何の用だい?半端な人間が来る場所には思えないんだけど……」

 

「山の神様の頼みでな、核融合の様子を見に来たんだが……。案内してもらえるか?」

 

「あー……また守矢か……。まぁ、いいよ。お兄さんのことは私も十分わかっているつもりだし、守矢の依頼とあっちゃあ断れないからね。」

 

「助かるよ。」

 

「で、お空になんかあったのかい?」

 

「お空?」

 

「あ、お空ってのは私の親友で核融合を任されている地獄鴉のことね。」

 

「そうか……。核融合自体には何の問題もないらしい。ただの定期検査ってやつだって言ってたぞ。」

 

「それならよかった……。」

 

「心配か?」

 

「当たり前じゃない。お空はあたいの唯一無二の親友よ。」

 

「親友か……。大切にしないとな。」

 

「昔の話?」

 

「忘れちまうくらい昔の話さ。」

 

「ふーん。興味ないからいいや。」

 

「適当だな。」

 

「そんなものでしょ。あたいは地獄のことと死体のこととで頭が一杯なの。お兄さんの昔話なんて興味ないよ。」

 

「それもそうだな。ところで……」

 

「何?」

 

「死体って何のことだ?」

 

「お兄さんはあたいが火車だって知らなかったっけ?」

 

「聞いてないな。ここで会うまでただの化け猫かと思っていたからな。」

 

「化け猫には違いないさ。あたいはその中でも死体の運搬専門の火車って言う妖怪なのさ。」

 

「そーなのか。」

 

「これまた適当な返しだね。興味なかった?」

 

「火車と聞いて安心しただけだ。火車なら俺の命は取らないだろう?」

 

「よく知ってるね。お兄さんって変なところに詳しいんだね。」

 

「親友がそういう変なところに詳しかっただけさ。」

 

「その親友について知りたくなってきたよ。」

 

「興味ないんじゃないのか?」

 

「妖怪は変わったものとか、非日常が大好きなのさ。」

 

「人間もそういうのは好きなやつが多いな。」

 

「お兄さんもそうかい?」

 

「20年前にここに来ていたら、俺は目を輝かせて走り回っていただろうな。」

 

「お兄さんが目を輝かせているのって想像できないね。」

 

「そういうなよ。俺も昔はオカルト大好き少年だったんだからな。」

 

「ますます想像できないよ。」

 

「そう言うなよ。少し未来のことなんて誰にもわからないんだからな。」

 

「そうだね。あたいもまさか火車になれると思っていなかったからね。」

 

「なんくるないさーなんだよ。……基本はな。」



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古明地さとりの場合

腹を割って話をしましょう。私の前ではどんな建前も意味がありません。

 

貴方の全てを教えてください。

 

一一一一一一一一一一

 

お燐の案内でとりあえず館の主の元へと来た。

 

一一一一一一一一一一

 

コンコン

 

「鍵はかかってないので勝手に入っていいですよ。相模さん。」

 

「初対面だろ?」

 

「はい。しかし私には全てわかる……というより、わかってしまうのです。貴方の名前も、住まいも、どこから来たのかも、何を愛煙しているのかも、貴方が何故幻想郷にいるかも。」

 

「そうか、じゃあ俺が何をしにここに来たのかもわかっているんだろうな。」

 

「勿論です。罪滅ぼしですね。」

 

「そうだな。罪滅ぼしだな。」

 

「過去に起こした悲しい出来事を自らの過ちだと思っているんでしょうね。」

 

「だろうな。」

 

「忘れようとしても消えないのでしょうね。」

 

「それはわからないな。」

 

「トラウマというものはとても厄介で一度心に焼き付くと中々消せないものなのです。」

 

「だろうな。物事は時間でしか解決できないと言うしな。」

 

「けど、時間ですら解決を放棄するようなトラウマもあります。今回のトラウマはそれのようです。」

 

「そんなことまでわかるのか?」

 

「いえ、これは私の経験と勘からの考察にすぎません。今回のような心の傷は放置していてもいつか治る気がしただけです。」

 

「そうか……。傷の主は昔のようになれると思うか?」

 

「なれないでしょう。大きな傷というのはすぐ開くものです。何をきっかけに爆発するかわからないような爆弾を持ち歩くようなものだと思います。」

 

「大変なんだな……。」

 

「ええ、恐らく辛い人生を送るでしょうね。」

 

「お前にも……」

 

「……。」

 

「何か辛い経験はあるのか?」

 

「なぜ、そう思いますか?」

 

「何となくお前の言葉が自分に言い聞かせるような言い方だったんでな。」

 

「中途半端に人の心に踏み込もうとすると痛い目を見ますよ。」

 

「だろうな。」

 

「それでも聞きますか?」

 

「聞いて俺が得するならな。」

 

「得なんてありませんよ。徳のない人間に相談なんか時間の無駄だとは思いますけどね。」

 

「だろうな。俺でも俺自身に相談なんて頼まれてもしねぇよ」

 

「それは本心ですね。」

 

「俺は嘘をつかねぇよ。」

 

「その言葉事態が嘘なのですけどね。」

 

「バレてるんだな。」

 

「私は貴方の全てがわかると言ったはずですよ。」

 

「隠し事もできないな。」

 

「ええ、貴方の建前も本音も全てわかります。」

 

「……」

 

「昔の話ですね。」

 

「あぁ、建前は大事なものと交換して手にいれたものなんだよ。そう簡単には返して貰えないさ。」

 

「聞いてほしそうなので一応聞きますが、何と交換したんですか?」

 

「肉まんか、ベルトだったと思うんだが……」

 

「やはり万屋さんは変態さんなのですね。」



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教授の場合 (番外編)

岡崎教授だと思った?

思った人、静かに手をあげなさい。


教わり、学び、教え、生きてきました

 

一一一一一一一一一一

 

レポート出したら呼び出しくらいました。テヘッ

 

一一一一一一一一一一

 

コンコン

 

「失礼しまーす。岡山奇実彦先生いらっしゃいますか?」

 

「ん?あー、相模くんか。そう言えば呼んでいたね。忘れてたよ。」

 

「忘れないでくださいよ。俺、悲しくて泣いちゃいますよ。」

 

「まぁまぁ。」

 

「で、話ってなんすか?成績は悪くないと思うんですけど……。」

 

「いやね、君の書いた宇宙ヒモに関してのレポートが良くできていたからね、それでね……」

 

「すんません。俺、大学残る気無いんで。やりたいこともありますしね。」

 

「やっぱりね。君はそう言うと思っていたんだけどね、どうしてもと言うなら無理は言わないよ。」

 

「すんません。」

 

「けどね、君がね、教師なんてなれるなんて思わないんだけどね。」

 

「なりますよ。そのためにこの大学に来たんすから。」

 

「自由奔放、講義中に寝る、課題は中々出さない、煙草も酒もパチンコもする、そんな人間が教師として生きていけるのかね?」

 

「生きますよ。俺はいろんな教師に会い、教わってきました。中にはクソみたいな教師もいましたけど……。それでも俺はそれでも教わってきたことをこれからの世代に託したいと思ったんです。」

 

「そういうものなのかね……」

 

「そういうもんですよ。それに、俺みたいなやつが担任なら学校が楽しくなると思うんすよ。」

 

「そこまで考えているのならね、止めないよ。君はやろうと思うことしかね、やらない人間だからね。けどね……」

 

「どうしたんすか?」

 

「後ろに託すという意味ならね、学者としても知識を残せると思ったんだけどね。」

 

「それじゃあダメですよ。俺は生きる意味も教えたいんすから。」

 

「生きる意味ねぇ……」

 

「はい、もっと未来を見て生徒には生きてほしいんです。優しく、厳しい。そんな先生になりたいんです。」

 

「君は、優しすぎるんだよね。もう少し巧い損得勘定をね、覚えないといけないと思うんだよね。」

 

「そうすか?」

 

「うん、今の学校現場はとてもシビアってことは君も知ってるよね?」

 

「それはもちろん。」

 

「怒れば体罰。怒らなければやる気がない。成績が落ちれば教師の責任。安月給を貰えば世間に叩かれる。そんな世界で君はやっていけるのかい?」

 

「やりますよ。俺の人生で一番したいことなんですから。」

 

「はぁ……。仕方ないね、君のことは諦めるよ。」

 

「すいません。」

 

「その代わりに一つやって欲しいことがあるんだよね。頼まれてくれるかい?」

 

「いいですよ。」

 

「この研究室に入りたがっている二年生がいるんだけどね、その子がね中々優秀なんだよね。だから、その子がね、ここに来たときにね、色々指導する係に就いて欲しいんだけどね、いいかい?」

 

「いいっすよ。で、誰ですか?初対面の女の子はちょっと緊張しますけど……」

 

「大丈夫、大丈夫。君の知り合いだから。」

 

「はぁ……」

 

「実はね、もうこの部屋に呼んであるんだよね。……君、入ってきなさい。」

 

コンコン

 

「失礼しまーす。すいません、私、何かやらかしましたか?」




もう50話ですね。長いようでものすごく長かったです。

節目が番外編でごめんなさい。


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霊烏路空の場合

教わり、学び、教えて生きてきました。

 

一一一一一一一一一一

 

灼熱地獄は熱いので、地霊殿内の一室を借りて講義をしています。

 

一一一一一一一一一一

 

「復習するぞ。」

 

「はーい。」

 

「太陽は何を核融合してエネルギーを得ているんだ?」

 

「空気!」

 

「そうじゃなくて……空気中の?」

 

「空気は空気でしょ?」

 

「じゃあ空気は何からできていた?」

 

「空気と水蒸気。」

 

「窒素って知ってるか?」

 

「ちっそは知ってるよ。それが多いと中々燃えないんだよね。」

 

「じゃあ、酸素は?」

 

「さんそは、めっちゃ燃えるやつ。」

 

「次は、二酸化炭素。」

 

「木を燃やしたら出るやつ!」

 

「水素は?」

 

「爆発するやつ。」

 

「アルゴンは?」

 

「……」

 

「忘れたのか?」

 

「ちょっと待ってて、もう喉まで来てるから。」

 

「大丈夫だ。教えてないからな。」

 

「それ、酷くない!?」

 

「いいだろ。因みにアルゴンは空気中に最も多く含まれる希ガスだ。」

 

「希ガス?」

 

「燃えないってことだ。」

 

「なるほど。」

 

「次に、お前はどうやってエネルギーを得ているんだ?」

 

「核融合!」

 

「何と何を融合しているんだ?」

 

「空気?」

 

「空気中の?」

 

「……」ウーン

 

「原子の中で一番小さいのは?」

 

「ちょっと待ってて……水兵、リーベ、僕の船、七曲りシップス、クラークか?……」

 

「わかったか?」

 

「スイヘーかスイのどっちかということならわかったよ。」

 

「どっちも違うが……惜しいぞ。あと少しだ。」

 

「わかった!スイヘーリだ!」

 

「水素な。」

 

「スイヘーリはいつ出るの?」

 

「一生出てこないと思うぞ。」

 

「そうなんだ……」

 

「悲しそうな顔するな。……それはともかく、水素と水素が融合して、何になる?」

 

「スイヘーリだ!」

 

「……出てこねぇって言ったよな?」

 

「けど、スイヘーリもきっとあるよ。」

 

「それは勝手に見つけてくれ。」

 

「少し重たいすいそ!」

 

「そう。それが二重水素だ。」

 

「へー。」

 

「二重水素が2つ核融合を起こして三重水素になる。そして三重水素が2つでヘリウムだ。わかったか。」

 

「スイヘーリがここまでで出てこないことはわかったよ。」

 

「スイヘーリはないって言ったよな?」

 

「それは煙草さんがスイヘーリを見たことがないからだよね?」

 

「そうだが。」

 

「それならあるかもしれないじゃん。見たことがないっていうのは存在しないってことにはならないよね? 」

 

「お前がそう思うんならあるんだろうなお前ん中ではな。」

 

「きっとあるよ。なくても私が作る。」

 

「なんでスイヘーリに拘るんだ?」

 

「昔本で見たんだ。新しい元素が見つかればいろんなことの役に立つって。だから私がそうなりたいんだ。それって悪いことかな?」

 

「いや、いいことだな。見つかるまで頑張ってみろ。」

 

「うん。」

 

「じゃあ、最後の質問だ。もし核融合が暴走したらどうする?地上侵略は不正解だからな。」

 

「じゃあ、水をかけて温度を冷やす。」

 

「正解だ。お前くらい素直なやつが羨ましいよ……。」

 

「でしょう。」ニヒヒヒ

 

「そうだな。」

 



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稗田阿求の場合

明日を生きたいです。

 

短い人生を長く生きたいです。

 

矛盾してますよね?

 

一一一一一一一一一一

 

日中、里を散歩していると阿求に会いました。

 

一一一一一一一一一一

 

「臭いです。どっか行ってください。」

 

「酷いな。」

 

「ただでさえ短命なのに、これ以上寿命を縮めさせないでください。」

 

「いいだろ。あと十数年の命なんだろ?」

 

「そうはいきませんよ。私は死ぬ前に転生のための準備期間が必要なのです。それを貴方の煙草を吸いたいという勝手な欲求のために邪魔される訳にはいかないのです。」

 

「そうか……。」

 

「辛いですよ。生きながらに死ぬことを望まれる人生も。」

 

「なるほどな。だが、それがお前の運命であり、生きる意味だろう?」

 

「それです!!」

 

「どうしたんだ?」

 

「私はこういう運命の星のもとに生まれたんだと諦めるのは簡単です。しかし、そこで諦めてしまっては稗田の名が廃れるというもんです。なので、少しだけ抗ってみることにしました。」

 

「大丈夫なのか?」

 

「もちろん転生のための準備はしますよ。今は優れた薬師もいますし、いつもより少し長く生きたいと思ったのです。」

 

「なるほど、それでこれ以上寿命を縮めたくないという訳か。」

 

「その通りです。短命な私からすると一日一日が大切なんですよ。」

 

「通算で200年位生きているのにか?」

 

「そうですけど、死ぬ度に交遊関係が消えるのは辛いですよ。あと、十数年経って今の私が死んで、次に転生したときにはもう貴方も霊夢もいないんですから。」

 

「月並みな言葉だが今が大切なのか?」

 

「いえ、将来が大切なんですよ。私は現世にいる時間が短いですからね。人の死に目にも、その人たちの老いる過程も見ることができないのです。」

 

「お前も苦労してるんだな。」

 

「人間は生きていれば必ず苦労はします。大切なのはその苦労に気づけるかどうかです。」

 

「苦労することが必要みたいな言い方だな。」

 

「もちろんです。苦労は人の根底を作るものの一つだと考えています。苦労を知らない天人の我儘っぷりを見ればわかるでしょう。」

 

「かもな。けど、苦労のせいで心を殺しちまうやつがいることを忘れるなよ。」

 

「忘れませんよ。……と言っても忘れられないんですけどね。」

 

「それならよかった。」

 

「この力がなくとも貴方のことは忘れないでしょうね。」

 

「そうか?」

 

「ええ、私の密かな野望の邪魔をした悪魔として、ですけどね。」

 

「それは酷いな。」

 

「けど、それほどにまで貴方の印象が強いのも事実です。人の身であり、しかも特別な力を何も持たないにもかかわらず魑魅魍魎と対等の立場で商売を行う。この事はしっかりと幻想郷縁起に記載します。」

 

「なんか照れるな。俺の記事が幻想郷縁起のしかも英雄伝の頁に載るっていうのは。」

 

「何を勘違いしているんですか?貴方が載るのは英雄伝ではなく、妖怪図鑑の方ですよ。」

 

「は?」

 

「貴方は幻想郷で最も妖怪に近い人間なんですからその事を肝に銘じて清く正しく生きてください。私が生きている間に英雄伝の内容を妖怪図鑑用に書き換えるのは些か面倒ですから。」

 

「……わかったよ。」

 



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比那名居天子の場合

私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も悪くない私は何も………………

 

一一一一一一一一一一

 

家に帰ったら家が壊れていました。

 

犯人は自首してきました。

 

一一一一一一一一一一

 

「私がやった。」

 

「報告ありがとうな。で、」

 

「で?」

 

「何でやったんだ?」

 

「博麗神社はもう手が出せないでしょ。もう一個の神社は山の妖怪全員を相手にするのは面倒臭いじゃない?だから新しく神社を作ろうと思ったのよ。」

 

「それでどうせなら人里にできるだけ近い場所を……ってところか?」

 

「そういうこと。それに……」

 

「ん?」

 

「神社を作るなら神様が必要じゃない?」

 

「そうだな。何か祀るものがないと寂しいし信仰も集まらないだろうな。」

 

「だから、聞いたところによると貴方は里の人から畏敬の念を抱かれているじゃない?」

 

「まぁ、正確にはビビられているんだかな。」

 

「だから貴方を安全祈願、商売繁盛の神様として祀ろうと考えたのよ。」

 

「は?」

 

「だって貴方は最近商売の調子もいいし何より妖怪に大きなコネがあるじゃん。それならそれを利用した方が楽じゃん。貴方なら直ぐに信仰が集まると思うわよ。」

 

「無理だろ。商売の調子がよくても俺自身に商売意欲がそれほど無いことは周知の事実だぞ。そんなやつを誰が信仰するんだよ。」

 

「そんなの問題じゃないわよ。貴方が里の商人なんかを妖怪に紹介すればいいの。……もちろんお金を貰いながらね。そうしたら貴方を見る目が恐れから尊敬の眼差しに変わるわ。そうしたら噂が流れるはずよ。『万屋には妖怪側と上手く商売するコネがある。しかもあいつと関わりがあれば知性を持たない妖怪から身を守るための護衛を強力な妖怪に頼める。』ってね。」

 

「そうしたら尊敬が信仰に変わるっていう算段か……。」

 

「その通り。それにしても我ながら完璧な作戦よね。」

 

「一つだけ落ち度があるとすれば俺に神様になる気がないことだな。」

 

「なんで!?不老不死なんだよ?神様なんだよ?」

 

「俺はな、人として生きている今が好きなんだよ。信仰を集めるために躍起になって他の神社の乗っ取りとかしたくないしな。」

 

「不老不死は全人類の夢だと思っていたのにね、変わった人間もいたものね。」

 

「その全人類の夢を叶えた感想は?元人間。」

 

「すっごく暇。」

 

「だから嫌なんだよ。」

 

「なるほどね。」

 

「だから、この話しは無しだ。」

 

「えー」

 

「不満か?」

 

「私はいつになったら自分の神社を建てられるのよ。」

 

「真面目に生きて不良と呼ばれなくなってから信仰集めに来たらいいだろ。」

 

「それは面倒だから嫌。」

 

「だと思ったよ……。」




緋想天→星蓮船→神霊廟→輝針城→心綺楼

の順で書くつもりですけど緋想天以降、特に神霊廟以降は原作知識が乏しく資料を見ながらの執筆になるので更新が遅くなる(もしくは途中で最終回とする)可能性があります。できるだけそうならないように努力はしますが予めご了承ください。

これからもこの作品をよろしくお願いします。

(そろそろもうひとつの作品も更新しなければならないと考えている今日この頃です。)


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永江衣玖の場合

私が悪いなら謝りますよ。

 

……悪くなくても謝りますけど……

 

一一一一一一一一一一

 

家ができるまで霖之助の家に泊めて貰うことにした。

暇なので居酒屋で酒を飲む。

 

一一一一一一一一一一

 

「隣よろしいですか?」

 

「俺の隣に座る女が居ないと思うなら座ったらいいさ。」

 

「それなら迷わず座らせて貰いますね。」

 

「遠慮ってものはないのか?」

 

「貴方の質問に私なりの答えを導いただけですよ。」

 

「そうか……」

 

「間違っていましたか?」

 

「いや、合ってるよ。合ってるからこそ凹むんだよ。」

 

「見栄を張りたいお年頃なんですね。」

 

「俺を何歳だと思っているんだよ。」

 

「えーっと、1300歳位ですかね?」

 

「残念ながら俺は人間だよ。」

 

「やっぱり……そうでしたか……。」

 

「あからさまに目を逸らすな。俺のことを妖怪と思っていたのか?」

 

「冗談のつもりで言いましたよ。人間と妖怪を見間違えるほど酔ってるつもりはないですよ。」

 

「それはよかった。で、」

 

「はい。」

 

「何か用があってきたんだろ?態々俺の横にすわりに来たんだからな。」

 

「用って程のことでもありませんよ。貴方の家を倒壊させた天人とは少々付き合いがあるものでしてね。あの子の働きぶりについて聞きたいと思っていたんですよ。」

 

「たまにふらふらと現れては人間離れした速度で家を建てている。これでいいか?」

 

「相変わらずのようで安心しました。」

 

「お灸が足りなかったかな……。」

 

「あら、あのときのことを知っているのですか?」

 

「まぁ、里に住んでいる割には人外の知り合いが多いものでね。スキマも博麗の巫女も昔から親しくしてるんだよ。」

 

「そうでしたか。それならあの子についても知っているのですか?」

 

「さぁな。けど、ああいうガキには昔から付き合わされているんでね。扱い方には慣れているさ。」

 

「あら、頼もしいですね。」

 

「そう言うなよ。俺は昔から振り回される側の人間なんだよ。」

 

「あら、頼りないですね。」

 

「そうコロコロと俺の評価を変えないでくれ。」

 

「頼りないかもしれませんけど信用はしてますよ。」

 

「それはどうも。」

 

「ところで、あの子の今後についてどう考えていますか?」

 

「家を建ててくれれば全て許すさ。けど、あの無鉄砲さも他人を巻き添えにしていく生き方も放ってはおけないからな……。」

 

「何だかんだ言っても優しいんですね。」

 

「甘すぎるって怒られていたんだけどな……。」

 

「優しさは強さですよ。」

 

「優しさは……甘さは弱さだよ。」

 

「そう言いながらも優しい貴方は仙人のようですね。」

 

「空を自由に飛べるようになってから考えるよ。」



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本居小鈴の場合

本を読むことは知識を得ること、知識を得ることは生きること、生きることは本を読むこと。

 

すばらしい人生です。

 

一一一一一一一一一一

 

鈴奈庵に呼び出されました。どうやら依頼のようです。

 

一一一一一一一一一一

 

「いらっしゃいま……あっ、万屋さん。よく来てくださいました。」

 

「久しぶりだな。で、今日の依頼は何だ?久しぶりの人間からの依頼だからなよろしく頼むよ。」

 

「はい、今日の依頼は本探しに行って貰いたいと思ったのです。」

 

「他の本屋に探しに行くのか?」

 

「いえ、貴方には無縁塚に行ってきてください。」

 

「新しい外の本が欲しいってことか?」

 

「そうです。最近、外の本がなかなか読めていないので……」

 

「飽きもせずによく読めるよな。」

 

「読書に飽きなんて来るわけ無いじゃないですか。一冊一冊にその著者の人生が詰まっているんですよ。」

 

「そんなもんなのか?」

 

「そんなもんです。どんな本も私にとっては著者の人生を描いた伝記のように思うのです。」

 

「小難しい話は苦手なんでこれくらいにしてもらえるか?」

 

「そうですね。それでは万屋さん、お願いできますか?」

 

「わかったよ。ところで何で俺なんだ?無縁塚なんて危ないところ霊夢とか魔理沙とかの方が向いてるんじゃないのか?」

 

「それはもちろんです。けど……」

 

「けど?」

 

「霊夢さんは拾った本を別の本屋に売りそうですし、魔理沙さんは面白そうな本があれば自分のものにしそうなので……。」

 

「そうか。」

 

「もちろん貴方のことは信頼してます。消去法ではないので落ち込まないでください。」

 

「わかってるよ。」

 

「そういえば、最近無縁塚に妖怪が出るらしいので気を付けてください。」

 

「メディスンのことか?それなら知り合いだぞ。」

 

「聞いた話では常に何か探し物をしているそうです。」

 

「探し物……テケテケか?」

 

「テケテケですか……。テケテケに関しては以前、外の世界の本で読みました。ちゃんと呪文言えますか?」

 

「呪文は効かないんじゃなかったか?」

 

「私が読んだ本ではそのような呪文は無いとありましたが、他の文献にはあるとも書いてあるんですよ。」

 

「どうなんだろうな。」

 

「新しい妖怪なので参考になる本が少ないんですよ。」

 

「難しいところだな。」

 

「そうですね。できることならそういう新しい妖怪についてまとめてある本も欲しいんです。」

 

「……ぬ~べ~は何刊まで読んだんだ?」

 

「全部読みましたよ。そういえば……」

 

「どうした?」

 

「ぬ~べ~が外の世界で実写化されたらしいですね。」

 

「誰から聞いたんだ?」

 

「この間、少し力の強い本があったのでその処理を紫さんにお願いしたんです。その時に聞きました。」

 

「楽しみか?」

 

「もちろんです。流れ着いたらすぐに霊夢さんとさんと一緒に河童のところに行って見るつもりです。」

 

「そうか……」

 

「どうかしたんですか?」

 

「期待せずに待っていた方がいいぞ。」




期待していたんですけどね……


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ナズーリンの場合

遅くなりました、ごめんなさい。


探し物があるなら一緒に探しましょう。

 

もし見つからなかったら一緒に踊りましょう

 

一一一一一一一一一一

 

無縁塚で、小鈴の依頼である外の本探しをする。茂みの奥でものを探す声と尻尾が見えた。

 

一一一一一一一一一一

 

「何だ、ナズーリンか……」

 

「私がいちゃ悪いのか?」

 

「いや、無縁塚に見知らない妖怪がいるという噂を聞いたからな。少し警戒していただけだ。」

 

「そうだったか……。で、その妖怪の特徴は?」

 

「特徴と言われても……無縁塚で探し物をしているという話しか聞いていないんだよ。」

 

「無縁塚……探し物……」

(あれ……私じゃないか!?)

 

「ん?何か心当たりがあるのか?」

 

「いっいや、そっそういう訳じゃないさ。」

(どうにかして話題を変えよう。)

 

「何か引っ掛かるんだがな……」

 

「とっところで、万屋は何をしにここまで来たんだ?」

 

「ん、俺か?俺は依頼で外の本探しに来たんだ。」

 

「万屋も探し物か。」

 

「お前もか?」

 

「まぁ、探し物というより宝探しだけどね。」

 

「まだ返せてないのか……」

 

「仕方ないじゃないか。あんな法外な値段……。あの古道具屋……一生恨んでも恨みきれない……。」

 

「大変なんだな……。」

 

「そうでもないさ。ご主人のサポートが私の仕事、例えどんなにダメなご主人であっても私のご主人だからな。」

 

「責任のある仕事だな……。」

 

「そうだ。あの人は腐っても毘沙門天の代理だからな。自身のことを最優先にしてもらわないと困る。」

 

「粗相もできないな。」

 

「一番粗相しているのがあの人だと思うんだが……」

 

「……そうかもな。」

 

「ところで、万屋は探し物が見つからないときどうしてる?」

 

「とりあえず心当たりを探すかな。」

 

「それはもうした。その後は?」

 

「本当にないのか確認するな鞄の中とか机の中とか物置の奥とか盲点だぞ。」

 

「とっくにしたよ。それでも見つからないとき、万屋は何をするんだ?」

 

「俺は部屋に籠って煙草を吸うな。」

 

「何でさ。見つからないんだろ?」

 

「見つからないからって肩肘張ってもどうしようもないだろ?息抜きが必要なんだよ。」

 

「息抜きして、どうするんだ?」

 

「いつか見つかるだろ。」

 

「すぐに必要なものなら?」

 

「きっとすぐに見つかるさ。」

 

「適当なんだな。」

 

「言っただろ?人生は息抜きと適当と少々の真面目さでできてるんだよ。」

 

「そして人は引きこもりになるんだな。」

 

「酷いな。」

 

「冗談さ。……あ、それと……」

 

「ん?」

 

「聖が万屋と話がしたいって行ってたぞ。暇があったら明日にでも顔を出してやってくれ。」

 

「もし、明日が暇ならな。」

 

「じゃあ、明日頼むぞ。どうせ暇なんだろ?」

 

「あぁ、わかったよ。」



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多々良小傘の場合

忘れ、棄てて人は生きていく。

 

一一一一一一一一一一

 

呼び出されたので命蓮寺へ向かう。

 

一一一一一一一一一一

 

「あれ?煙草さんじゃん。何してるの?」

 

「お前んところの和尚さんに呼び出されたから行ってるんだよ。」

 

「聖が?」

 

「そうだな。何か用事があるんだろう。」

 

「どうだろう。聖はああ見えて実はお惚けさんだからね。」

 

「あぁ見えてというか見たまんまだけどな……。」

 

「そう?私が始めてみたときの聖は怖かったよ。」

 

「何をしたんだ?」

 

「なにもしてないよ。ただ、お寺に来た人たちを怖がらせてただけだよ。」

 

「明らかにそれだろ。命蓮寺のというより聖の目標はなんだ?」

 

「妖怪と人の共存だよね?」

 

「だろ?だからお前が一本踏鞴として人を脅かして寺に人が来なくなるのが嫌なんだよ。」

 

「ふーん。」

 

「聖としては少なくとも寺の妖怪は怖くないってことを証明したいはずだからな。」

 

「難しいな。」

 

「そうか?」

 

「だって、私にとって驚かすことは食事と同じだもん。煙草さんが朝起きて歯を磨く前に煙草を吸うのと同じだよ。」

 

「そんなもんなのか?」

 

「そうだよ。癖というより本能に近いって聖が言ってたの。」

 

「なるほどな。で、」

 

「ん?」

 

「驚かすのは止めたのか?」

 

「止めようとは思ってたんだけどね……」

 

「何で過去形なんだ?」

 

「暫くして参拝客が増えたんだって。だから止めなくていいって聖が言ってた。」

 

「何でだろうな。参拝客が増えたから驚かすのを止めなくていい理由にはならないよな?」

 

「さぁ?私はとりあえず人間を捕って喰うような妖怪じゃないからね。危険じゃないってわかったのかも。

 

「そうかもしれないな。」

 

「それならいいんだけどね。」

 

「危険な妖怪のふりをしたらどうだ?」

 

「ふぇ?」

 

「だって危険じゃないものは怖くないだろう?」

 

「そうかな?それなら放生会のお化け屋敷は商売にならないんじゃない?」

 

「怖いは怖いだろうが怖さは半減だろうな。安全だってわかっているんならな。」

 

「う~ん……けど、その安全が壊されたときが一番怖いんじゃないの?」

 

「……」

 

「あれ?トラウマ?」

 

「大昔の話だよ。今は関係ないさ。」

 

「それならいいけど……」

 

「まぁ、危険と思われているものほど安全に気をつけているものだと思うぞ。」

 

「そうかもね。」

 

「つまり安全と思われているものほど危険かもしれないってことだな。」

 

「なるほど……わかんない。」

 

「つまり、安全と思っているものほど安全に気を配ってないってことだよ。川の上流の水を態々警戒して飲むやつなんていないだろ?」

 

「人って難しいんだね。」

 

「そうだな。人間はややこしいんだよ。」



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チルノの場合

ヒーローに憧れていました。

 

諦めたのは悪いいじめっ子に負けたときです。

 

一一一一一一一一一一

 

命蓮寺へ向かう途中、ボロボロのチルノがいました。

 

一一一一一一一一一一

 

「おい!大丈夫か!?」

 

「ん?煙草さんか……。大丈夫、あたいは強いからね。」

 

「ボロボロの体で言っても信憑性がないぞ。」

 

「そうだね。」

 

「誰にやられたんだ?」

 

「えーっと、知らないやつ。」

 

「どんなやつだ?着ている服は?帽子はあったか?」

 

「白い服で変な帽子被ってた。」

 

「変な帽子?」

 

「黒い長いやつ。」

 

「伸長とか性格とかわかるか?」

 

「小さくてワーワー騒いでた。」

 

「……それは俺の知り合いだな。今度あったら注意しておく。……立てるか?」

 

「大丈夫。あたいは強いからね。」

 

「そうだな。お前は強いよ。」

 

「へへーん。」

 

「なんで襲われたか覚えているか?」

 

「いつもみたいに大ちゃんたちと遊んでたら急に来て「悪巧みをしておるな!!そうだろう?そうに違いない!!」って言われて襲ってきたの。」

 

「大妖精達はどうしたんだ?」

 

「すぐに逃げた。」

 

「お前は逃げなかったのか?」

 

「なんで?」

 

「何か逃げなかった理由はあるのか?」

 

「だってあたいまで逃げたらあいつ追ってくるじゃん。そうしたら大ちゃんたちも襲われちゃうじゃん。」

 

「……そうか……逃げなかったんだな。」

 

「煙草さんどうかしたの?」

 

「いや、本当にお前は強いな。」

 

「当たり前じゃん。なんたって最強なんだからね。」

 

「最強は負けちゃ駄目だろ。」

 

「そうか、じゃああたいは最強じゃないのかな?」

 

「いや……最強だよ。俺の知る誰よりも強いよ。」

 

「へっへっへ……誉められちゃった。」

 

「なぁ、チルノ……」

 

「ん?どうかしたの?煙草さん。」

 

「どうやったらお前みたいに強くなれる?」

 

「んー……わかんない。あたいは生まれたときから強かったから強くなる方法はわからないな。」

 

「そうだったな……」

 

「煙草さんは強くなりたいの?」

 

「そうだな。でも誰かを傷つけるためじゃなくて守るために強くなりたいんだ。」

 

「あたいよりも?」

 

「さぁな。けど、お前が俺の大切なものを傷つけたらお前よりも強くなってお前を倒しに行く。」

 

「ん?」

 

「どうかしたのか?」

 

「煙草さんはもう最強じゃん。」

 

「は?」

 

「何かを守りたいっていう強い思いを持っている人こそが最強だって慧音が言ってたんだよ。で、あたいは最強だから大ちゃんたちを守りたいって思っているから最強なんだよ。最強になった煙草さんが守りたいものは何なの?」

 

「もう少ししたら教えてやるよ。」



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雲居一輪の場合

手巻き煙草始めました!!


雲は好きだ。

 

曇りは好きだ。

 

俺を輝かさないから。

 

一一一一一一一一一一

 

寺にはいると青い尼さんが雲と一緒に出てきました。

 

一一一一一一一一一一

 

「すみません。今姐さんは外出中なので中で待ってもらってもよろしいですか?」

 

「わかった。ところで……」

 

「はい。」

 

「聖の用事ってのはなんなんだ?」

 

「さぁ。私にもわかりません。けど、妖怪と分け隔てなく接し、商売をする貴方に悪い印象を姐さんが抱くわけありません。」

 

「そうだよな。それならいいんだがな……」

 

「恐らくこれからの人間と妖怪のあり方について話し合いたいのかもしれません。」

 

「そんな高尚な考えは持ち合わせてねぇよ。金をくれるなら誰であっても依頼を受ける。人であろうとなかろうとな……それだけだ。」

 

「それでもですよ。それでも人間は妖怪と聞くだけで警戒します。しかし貴方は警戒しない。何故ですか?」

 

「知り合いに妖怪が多いそれだけさ。ここに来て、霊夢に会って、異変を見ていくなかで多くの知り合いができたんだよ。」

 

「里の人間の方が妖怪と触れる機会も多いと思うんですけどね。」

 

「刷り込みだろ?小さい頃から妖怪について聞かされていたら怖くもなるだろうよ。」

 

「そうですか……。触れあえば悪くないと思うんですけどね。」

 

「まぁ、自分から妖怪のところに行ったら気が狂ったとしか思われないだろうな。」

 

「……」

 

「そういえば、お前も狂人だったな。」

 

「悪いですか?」

 

「いや、そうは思わねぇよ。それなら俺も狂人だからな。」

 

「そうでしたね。」

 

「後悔してるか?」

 

「まさか!?雲山と会わなければ姐さんにも出会うことはありませんでした。そして、幻想郷で尼をすることもなかったでしょう。」

 

「それはよかった。」

 

「……。雲山も私と出会えてよかったと言っています。」

 

「後悔してないならそれが一番だな。」

 

「はい。」

 

「後悔はしたくねぇからな。」

 

「でも、初めは悩みましたよ。これでよかったのかと。」

 

「いいんじゃないか?俺だって後悔はしてるさ。あのときああしとけば……ってな。それこそ夢を見るほどにな。」

 

「意外ですね。貴方の場合「なんくるないさ」とか言いながら気にしなさそうですけどね。」

 

「失礼だな。俺だって人間なんだから過去を振り替えるし、悩みもする。それこそ死にたくなるほどにな。」

 

「……そうでしたね。」

 

「……今となってはどうってことないさ。もう忘れたからな。」

 

「忘れたんですか?忘れたことにしたんですか?」

 

「さぁな。」

 

「……。ちょっと裏まで来いと雲山が言っています」

 

「頼むから拳骨だけで済ましてくれよ。痛いのは嫌いなんだよ。」



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村紗水蜜の場合

水辺に人影あれば突き落とせ

水面に人影あれば引きずり込め

 

そうやって生きてきました

 

一一一一一一一一一一

 

聖は未だに戻らない。

 

 

JK コスの美少女が来ました。

 

一一一一一一一一一一

 

「いらっしゃい。」

 

「あぁ、邪魔してるぞ。」

 

「ごめんね。聖が遅くなってるみたいで。」

 

「いや、あいつも忙しいんだろ?仕方ないさ。」

 

「そう言ってくれると助かるよ。最近忙しくてね、聖も色々と外で頑張っているみたいなんだよ。」

 

「俺も何度か里で見たぞ。それこそ目が回るような忙しさってやつだったな。」

 

「そうね。あんなに動き回られたら見ているこっちの目が回るよ。」

 

「違いないな。」

 

「本当に感謝しきれないよ。私たちのためにあんなに動き回ってくれるんだもんね……」

 

「そうだな。」

 

「一輪も私も聖に拾われてなかったらとっくに退治されてたと思う……。聖に拾われて、守ってもらってばっかり……。」

 

「守られるのは嫌なのか?」

 

「嫌なわけないよ。ただ……そのせいで聖が大変だと考えるとね……。」

 

「仕方ないことじゃないのか?」

 

「えっ?」

 

「あいつはお前たちを守るために……というより守りたいからここにいるんじゃないのか?それなら今のうちに迷惑かけておいた方がいいんじゃないのか?」

 

「迷惑かけるなんてできないよ。聖は私の……私たちの大恩人なんだからね。」

 

「そうか……。」

 

「それに、ここならわざわざ能力を使わなくても存在できるしね。」

「楽なのか?」

 

「もちろん。それに……今となっては人殺しをする気も起きないしね。」

 

「妖怪が人間を殺して心が痛むのか?」

 

「酷い言われようだね。私だって人並みの心はあるよ。」

 

「昔は?」

 

「その事に関してはだんまりでもいい?」

 

「生きるために必要なことなら誰も攻めないさ。吸血鬼は血を吸い、鬼は暴れ、俺は煙草を吸う。人に迷惑をかけないと生きていけない奴等だっているんだよ。」

 

「なるほどね。でもあなたのそれは今関係ある?」

 

「ないな。」

 

「ふふっ。だよね。」

 

「……悪いか?」

 

「いや、あなたを認めていいかどうかなんて道半ばの私にはわからない。けどね、私が歩もうとしている道のずっと先の最終コーナーに入っていると思う聖があなたに一目置く理由はわかった気がするよ。」

 

「それはどうも。」

 

「あなたは優しいんだよ。それにとても寛大な心の持ち主だということもわかった。たぶんあなたの近くに危害が及ばなければ笑って済ませるタイプでしょ?」

 

「よくわかったな。」

 

「誤魔化すのも下手。」

 

「……」

 

「昔、相当振り回されたでしょ?」

 

「まぁ、そうだな。」

 

「誰に?もしかして彼女?」

 

「妖怪だよ。」

 

「どんなやつ?私が知ってる妖怪?」

 

「いわゆる二人ミサキってやつだな。」

 

「足りなくない?七人じゃなかった?」

 

「数で言えば二割八分六厘にも満たないが狂暴さはときに数の差を凌駕する。」

 

「知らないや。恐ろしい妖怪もいたものね。」

 

「そうだな。」




くぅ~、疲れました(ry


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寅丸星の場合

強くなりたいです

 

威を借りたいです

 

一一一一一一一一一一

 

聖はまだ帰ってこない……

 

さすがに遅すぎる……

 

一一一一一一一一一一

 

「すみません。いつもはもう帰っているはずなのですが……」

 

「仕方ないさ、あいつも忙しいんだからな。」

 

「そう言ってくださると助かります。」

 

「どこで何していのるでしょうか……」

 

「心配しても仕方ないさ。いつか戻ってくる。」

 

「でも、途中で襲われでもしたら……」

 

「あいつに勝てるやつを探した方が早いな。」

 

「もしかしたら急な病に見舞われたのかも……」

 

「あいつは魔法も使えるんだろ?大丈夫さ。」

 

「……心配しないんですか?」

 

「それよりも宝塔の心配をしてた方がいいんじゃないのか?」

 

「冷徹ですね……」

 

「信頼してるんだよ。」

 

「そうは言いますけど……」

 

「お前は神様なんだからもっとビシャっとしてろ」

 

「ただの使いですし、弟子ですし、代理ですし、半人前ですし……」

 

「それでも本人に認められてここにいるんだろ?」

 

「それはそうですけど……」

 

「それなら胡座かいていればいいんだよ。人の上に立つものとしてな。」

 

「しかしですね……」

 

「上の人間が狼狽えていたら下の人間は混乱するだけだぞ。」

 

「……」

 

「それとも武神の弟子は自分を祀る寺の僧侶が帰らないだけで狼狽える小心者なのか?」

 

「違います。」

 

「なら狼狽えるな。」

 

「はい……」

 

「……ところで宝塔は見つかったのか?」

 

「はい、先日ナズが貴方と別れたあとに届けてくれました。」

 

「そうか…よかったな。」

 

「そうですね……」

 

「何かあったのか?」

 

「いえ……大切な宝塔を一度ならず二度も三度もなくすなんて……と思いまして……」

 

「そうか?」

 

「そうですよ!!私の立場を示し、私の力の大部分は宝塔によるものなのですよ。そんな宝塔をなくしてしまうなんて……」

 

「俺が言いたいのはそうじゃなくて……」

 

「じゃあなんですか!?なくしたのが宝塔でよかったとでも言うのですか!?」

 

「そうだろ?」

 

「なっ、何てことを言うんですか?」

 

「いいから落ち着いて聞け。」

 

「これが落ち着いて聞いていられますか!?もし昔の私だったらその頭を噛み砕いていますよ!!」

 

「じゃあ今から独り言を言うから聞き流せ。」

 

「……はい。」

 

「俺は昔から忘れっぽい質でな、よく煙草をコンビニの喫煙所とかに忘れていたんだ。その時は『なんでこんな大切なものを忘れるかな』とか思っていたんだよ。まぁ、大切なもんなんて人それぞれだしな。」

 

「その話がどう関係あるんですか?」

 

「お前は聞き流しているだけだろ?」

 

「うっ……」

 

「続けるぞ。そんなある日俺の大切な友人が消えてしまった。よく行方不明になるやつだったからそんなに気にしていなかったんだけどな……。」

 

「……」

 

「結局、10年経っても姿を現すことはなかった。……言いたいことわかるよな?」

 

「なくしたものが友でなくてよかったと?」

 

「まぁ、そういうことだ。一番大切なものはお前の一番近くにあるって言う少し臭い話だよ。」

 

「長い旅になりそうですね。」

 

「家で待ち伏せしてればいいんだがな。」

 

「物語で一番大切な部分ですよ、そこは……。」




青い鳥よりも黄色いハンカチが欲しいです。


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聖白蓮の場合

死ぬ程死にたくないです。

 

一一一一一一一一一一

 

聖があまりに帰ってこず、日も落ちてきたので今日は帰ることにしました。

 

星の妖精に会うこともなく帰りつきました。

 

一一一一一一一一一一

 

「お帰りなさい。今日は遅かったんですね。先にご飯にしますか?」

 

「とりあえず……説明を頼む。」

 

「お寺にお呼びしたのは良いんですけど、お客様を偉そうに呼び出すのは不親切かと思ったので私が伺うことになったんです。」

 

「その事を誰かに伝えたか?」

 

「いいえ。というより里の方で檀家を訪問していた際に思い付いたので誰にも伝えることができなかったのです。」

 

「それなら仕方ないな。」

 

「はい。」

 

「で、今回の用事とやらは何なんだ?」

 

「用事という程のものでもないですよ。世間話でもしようかと考えていただけです。」

 

「そうか。何か聞きたいことがあったのか?」

 

「そうですね……。単刀直入に申しますと、妖怪と仲良くなる手段を教えていただきたいのです。」

 

「それはお前の専門だろう?」

 

「そうです。しかし、私たちお寺に住むものたちは全て妖怪、もしくは人としての道を踏み外した者です。今お寺を信仰してくださる方々も星の能力を崇拝する者が多く、私たちの考えに心から賛同し信仰してくださる方々は少ないと感じています。なので……」

 

「力もないのに妖怪と巧くやっている俺に話を聞きに来たと?」

 

「その通りです!どうかご教授お願いできませんか?」

 

「俺は金をもらえるなら誰でも商売するだけだ。妖怪と人間の共存共栄なんて高尚な考えはないんだよ。」

 

「では何故妖怪を怖がらないのですか?」

 

「妖怪に詳しい友人と妖怪より怖い巫女と……それに妖怪と知り合いだからな、それほど怖いと感じたことは少なかったな。」

 

「八雲紫嬢のことですか?」

 

「半分正解だな。」

 

「半分……ですか?」

 

「詳しくはお前のところの船妖怪にでも聞いてくれ。」

 

「そうします……」

 

「で、他に何か聞きたいことはあるか?」

 

「それでは……貴方の昔の話を聞かせてください。」

 

「聞いてもいいことなんでねぇぞ。」

 

「構いません。貴方の半生に私の目標を達するためのヒントがあるかもしれないので。」

 

「……わかった。」

 

「ありがとうございます。」

 

「ただ、その前に晩飯食ってもいいか?」

 

「そうですね。すぐお持ちしますのでくつろいでいてください。」

 

「精進料理なんだろ?」

 

「もちろんです。仏の道を進むものとして当たり前のことです。」

 

「俺の家は神道なんだけどな……」



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高坂瑠美の場合(番外編)

明日大雨になーれ

 

学校が休みになるくらいの大雨になーれ

 

一一一一一一一一一一

 

とある町のとある川に架かる橋の下私とともちゃんは噂話をしていました。

 

皆も噂話好きだよね?

 

一一一一一一一一一一

 

ねぇしってる?相模先生辞めるんだって

 

何で?

 

先生この間さきちゃん怒ったでしょ?その事でさきちゃんのお母さんが先生のこと怒ったんだって。

 

さきちゃんのお母さん怖いもんね。

 

しかもPTAの会長だしね。

 

怖いね。

 

お父さんはこの町の議員さんだもんね。

 

怖いね。

 

先生最近暗かったもんね。

 

かわいそうだね。

 

あれってさ結構前のことじゃなかったっけ?

 

1か月前だね。

 

先生1ヶ月もさきちゃんのお母さんに怒られていたのかな?

 

かわいそうだね。

 

いい先生だったのにね。

 

そうだね。

 

あのことってさきちゃんが悪いよね。

 

そうだね。

 

彼氏と夜遅くまで遊んでたんでしょ?

 

らしいね。

 

それは怒られるに決まってるよね。

 

そうだね。

 

でも、あのときの先生の顔凄かったね。

 

怖い顔だったね。

 

私は怖い顔というよりも、怖がっていた顔だったと思うな。

 

私もそう思う。

 

先生ってあんまり自分のこと話さないよね。

 

そうだね。

 

生徒と仲のいい先生は自分の大学の話とかするのにね。

 

そういえばそうだね。

 

相模先生、何も教えてくれないね。

 

そうだね。

 

先生のこともっと知りたかったな。

 

私もそう思う。

 

相模先生、いつもクールだし、若いし格好いいと思わない?

 

私はそう思わないかな。

 

は?私はそう思うな♪

 

……

 

あなたはどう思うの?

 

……私もそう思う。

 

だよね。

 

……うん。

 

相模先生、彼女いるのかな?

 

どうだろうね。

 

でね、相模先生明日から病気でお休みするんだって。

 

そうなんだ。

 

たぶん、そのまま新学期になったら辞めちゃうんだろうね。

 

そうだろうね。

 

明日が来なければいいのにな。

 

何で?

 

そうしたら、先生が辞めなくていいじゃん。

 

そうだけど……

 

何で辞めちゃうんだろうね。

 

ねぇ。

 

何?

 

先生が辞めるとき私たち何かできたのかな?

 

私は何かしようとしたけど、子供には無理だって言われちゃった。

 

大人にはできるのかな?

 

どうだろうね。大人にもできなかったから相模先生いなくなっちゃうんだけどね。

 

日本なんか変えなくていいのにね。

 

変えられないから変えたいって言ってるんじゃないの?この間ネットで大泣きしながら言い訳している人見たんでけど結局日本を変えたいとしか言ってなかった。

 

具体性がないんだね。

 

だから大人に変えられないなら私は私の近くを変えたいと思うの。

 

そうなんだ。

 

だからお願いしたの。

 

うん。……本当にやるの?

 

もちろん。大人にできないことは子供にしかできないんだよ。

 

そうだね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「るみちゃん、ともちゃん話って何?」

 

「さきちゃん。雨に当たるからこっちに来なよ。」

 

「風邪引いたら怖いお母さんが怒っちゃうよ。」

 

 

 

~~~~

 

ガバッ

 

聖「どうしたんですか?」

 

「悪いな。起こしちまったか。」

 

聖「悪い夢でも見ましたか?」

 

カチッ、スゥーっ

 

「いや、少し昔のことを話しすぎただけだな。」

 

聖「早く忘れればいいんですけどね……」

 

「忘れないさ。記憶も俺の一部なんだからな。」




まず、暫く投稿休みます。

その理由としては

・ここから先、一気に完結までいくので話を小出しにするとオチが見えてしまう
・番外編が増えてしまうので東方好きのひとには面白くない話が増えてしまう可能性がある

ということなので完結まで話を作った後に一度に投稿しようと思っています。

神霊廟組、およびこころ、紫、スターサファイア、こいし、ぬえに関しては完結させた後に少しずつ書いていくつもりです。

今後ともよろしくお願いします。


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ルーミアの場合

予定変更です。

これだけ投稿しておきます。


暗い部屋

 

私は独り

 

貴方は一人

 

私も一人?

 

貴方も独り?

 

一一一一一一一一一一

 

暗い夜道を独りで歩く。

 

一一一一一一一一一一

 

「腹が減ったのか?」

 

「そうね。でも、貴方を食べたら巫女に殺されて、賢者に異世界に飛ばされそうだから止めておくわ。」

 

「そうしてくれると助かる。……食べるか?」

 

「なにこれ?」

 

「兎の干物だ。」

 

「頂くわ。……本当は人間を食べたいんだけどね。」

 

「腹が減ってる状態で贅沢言ってられないだろ。」

 

「そうね。」ガシガシ

 

「……」

 

「ところで……」

 

「ん?」

 

「人間はどうして光を好むの?人は太陽がでない日を悪魔が来ると恐れていると聞いたんだけど。」

 

「怖いからだろ?」

 

「人の心の中には必ず闇がある。違う?」

 

「闇を持つからこそじゃないのか?一種の同族嫌悪だと俺は思うがな。」

 

「人の心は小さな部屋。暗く狭い部屋。壁が厚い人もいれば穴が開いてる人もいる。その部屋を照らすために人は高いところにあるスイッチを押そうとジャンプしている。押すことを諦めた人も、フィラメントが切れてしまった人、スイッチを押すためにズルして高く飛ぼうとする人もいる。……そう思うの。」

 

「性悪説か……。」

 

「そうね。でも、これを唱えた2000年前の偉人は殺されたわ。」ソウナノカーポーズ

 

「怖いからじゃないのか?」

 

「そうね。」

 

「俺だって暗く狭い部屋に独りなら怖いかもしれない。けど、大多数の人は独りじゃないだろ?」

 

「大多数はね。でもここにいるのは忘れられたものたち。誰が人喰い妖怪に近づいてくれるの?」

 

「俺だろ?」

 

「……」

 

「……」

 

「ブフッ」

 

「笑うなら笑ってもいいが吹き出すなよ。」

 

「だって貴方にそんな臭い台詞似合わないもの。」

 

「そりゃあそうだ。」

 

「不思議な人間。」

 

「何がだ?」

 

「何で真っ暗な私の部屋を照らそうとするのよ。」

 

「何でだろうな。」

 

「貴方はいつもそう。人の部屋を照らそうとしすぎよ。」

 

「仕方ないだろ俺の部屋の電球は横向きについてんだからな。」

 

「ずれた人ね。」

 

「ここに来たお陰でその言葉が実は誉め言葉じゃないかと思えるようになれたよ。」

 

「あら、誉めたつもりなのだけど?」

 

「それはどうも。」

 

「私の見た感じ、貴方の電球はフィラメントが切れているみたいだけど灯りは灯るの?」

 

「エジソンを恨まねぇといけないな。」

 

「貴方の電球も困ったものよね。真下は照らせないくせに横向きなら真っ黒の部屋でも少し明るくできるものね。」

 

「仕方ねぇだろ。接触が悪いんだよ。」




急にお気に入りが増えてました。

驚いて理由を色々調べていたらランキングに載ったらしいです。

しかもこの小説を紹介してくださったかたもいらっしゃいました。


この小説を見てくださっている皆様のお陰です。本当にありがとうございます。


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後輩の場合~その1~(番外編)

集中投稿その1です。


そんな現実的な話してないでもっと夢のある話をしましょうよ。

 

一一一一一一一一一一

 

喫煙所で煙草を吸う。

 

繁った葉の隙間から溢れる木漏れ日が心地よい。

 

一一一一一一一一一一

 

「先輩、また吸ってるんですか?」

 

「別にいいだろ?こっちだって吸いたくて吸ってる訳じゃねぇんだからさ。」

 

「そうなんですか?」

 

「吸わねぇと死ぬから吸ってんだよ。」

 

「屁理屈はやめてください!」

 

「ハッハッハ」

 

「笑わないでください!!」

 

「……」

 

「……黙らないでください。からかっているんでしょう? 」

 

「バレた?」

 

「最初からわかってましたよ。先輩が『吸いたくて吸ってる訳じゃねぇんだからさ』って言ったときからバレバレですよ。」

 

「そうか……。練s」

 

「練習なんてしなくていいですからね!」

 

「で、どうしたんだ?」

 

「何がです?」

 

「何か用事があってきたんだろ?」

 

「最近先輩部室に来てないから、次いつ来れるかな~?って思って。」

 

「暫く忙しいな。今、教育基本法と指導要領の理科と総則を丸暗記してるところだからな。」

 

「そんなにがんばらなくても先輩なら受かるんじゃないんですか?」

 

「だとしても、覚えておいて損はないだろ?」

 

「そうかもしれませんけど……」

 

「なんだ?俺が部室に来なくて寂しいのか?」

 

「そうですね。」

 

「女心ってもんはわかんねぇな。」

 

「そうですか?先輩と変わらないですよ。」

 

「そうか?」

 

「少なくとも私たちは変なものが好きなんですから。」

 

「まぁ、そうだな。」

 

「思い出しました。」

 

「何をだ?」

 

「先輩への用事です。今度サークルで旅行にいくことになったんですよ。」

 

「どこにいくんだ?」

 

「長野ですよ。諏訪大社に行きたいって前々から思っていたので夏休みの期間を使っていくことにしました。……先輩も来ますよね?」

 

「残念ながら忙しいんでな。それに、諏訪神社なら地元だから帰郷したときにでもお参りしておくさ。」

 

「諏訪神社じゃなくて諏訪大社だから意味があるんですよ!しかも最近はかわいい絵馬もあるらしいですし。」

 

「無理だっていってるだろ。夏休みは試験勉強で忙しいんだよ。」

 

「そうですか……。じゃあお土産楽しみにしててくださいね。」

 

「じゃあな、ハーン。」

 

「先輩、「メリーって呼んでください。」っていつも言ってますよね?」

 

「いいだろ?あだ名なんて小恥ずかしいしな。」

 

「私が嫌なんですよ!」

 

「マエリベリーも言いにくいしな……。」

 

「だから、メリーって呼んでください。」

 

「だからメリーって呼ぶのは小恥ずかしいんだよ。もういっそ日本人らしい名前考えたらどうだ?それなら呼びやすいしな。」

 

「なるほど……。じゃあ……」

 

「ん?」

 

「仮名考えますから。その時は下の名前で呼んでくださいね!」

 

「……わかったよ。」



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後輩の場合~その2~(番外編)

集中投稿その2です


見上~げてごらん~。

 

私~がい~ます~。

 

一一一一一一一一一一

 

部室にいくと後輩が机に突っ伏してました。

 

一一一一一一一一一一

 

「なにしてんだ?」

 

「あっ先輩、ちーっす……」

 

「レポートが終わんねぇのか?」

 

「はい。」

 

「担当は?」

 

「岡山さんです。」

 

「内容はヒモ理論と相対性についてです。」

 

「難しくねぇよ。」

 

「先輩は頭がいいからそんなこと言うんですよ!」

 

「そうじゃなくて岡山さんは配布資料の内容をどれだけ自分で推敲できるかでレポート見てるんだよ。……プリントもらっただろ?」

 

「はい。トンデモ物理学ですね。」

 

「それは通称だろ?」

 

「先輩も知ってるんですか?」

 

「当たり前だろ。俺も去年その課題やってんだよ。」

 

「あの~、よければ~……」

 

「見せねぇぞ。」

 

「何でですか!?かわいい後輩がこんなに頼んでいるのに……。」

 

「『かわいい』後輩ならな。」

 

「かわいくないって言うんですか?」

 

「容姿的にはかわいいだろ。でもお前には後輩としてのあどけなさとかが一切ないんだよ。」

 

「ひどーい。そんなこと言うんだったらメリーに言いつけますからね。」

 

「小泉にでも言いつけてろ。」

 

「小泉って誰ですか?」

 

「ハーンのことだよ。」

 

「小泉……ハーン…………。なるほどですね。」

 

「ハーンって呼ばれるのは嫌いらしいからな。」

 

「けど、メリーはどっちかと言うと『八雲』の方が似合いますよ。……小泉ってなんか堅物なイメージです。」

 

「なるほど……一理あるな。じゃあ、下の名前はどうする?」

 

「マエリベリーのベリーから『紫』ってのはどうです?」

 

「むらさきって呼びづらくないか?」

 

「じゃあ、むらさきと書いてゆかりと呼ばせたらどうです?」

 

「なるほど……一捻りした感じがあいつらしいな。」

 

「ですよね!」

 

「じゃあ、あいつのことはこれから『八雲 紫』って呼ぶことにするか。」

 

「それ私もですか?」

 

「いや、メリーって呼び名は嫌いじゃないらしいし、お前はそのままでいいだろ。」

 

「わっかりましたー。」

 

「さてと……」

 

「帰るんですか?」

 

「明日、地元に戻るんだよ。」

 

「地元で受けるんですか?」

 

「まぁな。それで今日は必要なものを取りに来たんだよ。」

 

「やっぱり長野は行かないんですか?」

 

「一番詰め込む時期だからな。お前らと遊んでる暇はないんだよ。」

 

「先輩来ないと退屈ですよ。」

 

「お前ら、今回しつこくないか?俺が旅行に行かないことなんて何回もあっただろ?」

 

「そうなんですけどね……。なんか今回は一緒に来てほしいな~って思うんですよ。」

 

「そうか……」

 

「あっそうだ!!」

 

「どうしたんだ?」

 

「今日先輩の家で激励会しましょうよ。」

 

「レポートは?」

 

「あっ……」

 

「仕方ないから教えてやる。だから俺んちに来い。」

 

「ありがとうございます。じゃあ、焼酎と日本酒どっちがいいですか。」

 

「焼酎で頼む。」

 

「はーい。」



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相模友人の場合

集中投稿その3です


万屋もときには涙を流す。

 

昔を思い出したのか酒に溺れたのかは本人にもわからない。

 

一一一一一一一一一一

 

寺子屋で自然科学を教える。

 

といっても山や野原で遊んでいるだけだが……

 

一一一一一一一一一一

 

「万屋のおっちゃん、これ何?」

 

「リスが食べた松毬だな。リスは松毬の笠のところしか食べないからこうなるんだよ。」

 

「煙草さん、この虫何?」

 

「ん?見た感じカゲロウの仲間みたいだな。羽の大きさからしてウスバカゲロウかな。」

 

「薄、馬鹿、下郎?」

 

「ウスバ、カゲロウだ。羽が薄くて透けてるだろう?漢字で書くと薄羽蜻蛉だな。まぁ、アリジゴクの成虫だ。」

 

「万屋さん、変な歩き方する昆虫見つけた。」

 

「そいつはメクラクモだな。もしくはザトウムシだ。」

 

「目暗?座頭?目が見えないの?」

 

「一番前の足で地面を撫でるように動かすんだよ。その様子が目の見えない人が杖で安全を確認する様子に見えたらしい。」

 

「へー。」

 

「ちなみにそいつはダニの仲間だからな。」

 

「えっ?」

 

「正確には蜘蛛じゃないだけなんだがな。どちらかというとダニの方が近い。」

 

「こんなに蜘蛛っぽいのに。」

 

「おじさん!でかい雲!」

 

「入道雲だな。積乱雲でもいいがな。」

 

「なんで雲はできるの?」

 

「水蒸気が上に行って冷やされて水になってできるんだよ。」

 

「なんで上に行くの?」

 

「太陽の光が当たったら空気が暖かくなるよな。」

 

「うん。」

 

「暖かいものと冷たいものどっちが上にいく?」

 

「暖かいの。」

 

「そういうことだ。」

 

「特に入道雲は1ヶ所が急に暖められたときにできる雲だ。入道雲が出たらそのあとはどうなる?」

 

「雨が降る。」

 

「そうだな。」

 

……

 

「ねぇ先生。この魚何?」

「この木何?」

「どうして夏は暑いの?」

「どうして電球は光るの?」

 

……

 

「先輩、どうして来てくれなかったんですか?」

「先輩、どうして助けてくれなかったんですか?」

 

……

 

特別授業をしてから、たまにこうやって生徒たちと自然科学という名目のもと野山で遊んでいる。最初は生徒の保護者も心配になって様子を見に来ていたが、最近はあまり来なくなった。少しは信頼してくれたのだろう。

 

こうしていると昔を思い出す。

 

あることもないことも思い出してしまう。

 

そろそろかな。

 

……

 

「万屋さん、何してるの?」

 

「少しボーッとしていただけだよ。」

 

「万屋さん……」

 

「ん?」

 

「にやけてて気持ち悪いよ。」

 

「いいだろ。自分の中で結論が出たから楽しくてしょうがないんだよ。」

 

「ふーん。」

 

「万屋のおっちゃん!変な虫いた!!」

 

「わかった。今行く。……ほら、行くぞ。」

 

「うん!」



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八雲紫の場合

集中投稿その4です


そんな夢見る暇があるなら現実を見ましょうよ。

 

一一一一一一一一一一

 

決着つけに来ました。

 

一一一一一一一一一一

 

ここら辺だと聞いたんだがな……

 

「うおっ!」オトシアナ

 

「ようこそいらっしゃいました、相模さん。私の世界に。」

 

「八雲紫か……。」

 

「相模さん。今日が何日目かわかっていますか?」

 

「2年前の2年後……つまりちょうど1000年か……。」

 

「はい。あの日からちょうど1000年です。」

 

「長かったな。」

 

「それはもう永かったです。ところで……」

 

「ん?」

 

「約束は覚えていますか?」

 

「そうだったな。ほら、煙草だろ? 」

 

「それもそうですけど、もうひとつありますよ。」

 

「そうだったな。紫……これでいいのか?」

 

「はい♪」

 

「……」カチッ、スゥー

「……」カチッ、スゥー

 

「……恨んでるか?」

 

「まさか。仕方のないことです。1000年前……いや、10年前でしたね、とりあえずその時相模さんも私もあの子も全員が必然の中にいたと思います。決して避けることのできない歴史だと……」

 

「何があったんだ?」

 

「簡単ですよ。あの日、二人は妖怪に襲われ突如開いたスキマに二人で命からがら飛び込んだ……一人は間に合いもう一人は間に合わなかった……」

 

「そうか……」

 

「それにしてもこの煙草、あまり美味しくないですね。」

 

「あの日吸ってた煙草だよ。」

 

「そうですか……。1000年は永いものです。」

 

「10年だけどな。」

 

「そうでしたね……。」

 

「皆変わってしまったがそれでもな……」

 

「煙草の臭さは変わらない……でしょ?」

 

「そうだな。……お前の力でやり直せないか?」

 

「過去の改編をすれば今、ここで話している私たちが消えてしまいます。それに今の幻想郷も……」

 

「そうだったな。」

 

「はい、私がもとに戻ることは幻想郷を取り囲む結界が消えてしまうのと同意義。そうなればここで穏やかに過ごしていたはずの妖怪達も力を失い消えてしまいます。」

 

「受け入れられちまったのか……。」

 

「そうですね。幻想郷に受け入れられてしまいました。…あの日のことは何万年たっても忘れないでしょう。しかし今の生活も昔の生活と同じように好きなんですよ。」

 

「それはよかったな。」

 

「先輩は今が嫌いですか?」

 

「2年前より好きだよ。」

 

「10年前とは比べないんですね。」

 

「まだ比べられねぇよ。けど、いつか……な。」

 

「そういえば相模さん。」

 

「どうした?」

 

「お墓参りに行きません?」

 

「誰の墓に行くんだ?」

 

「もちろん3人のですよ。ついでに一緒に長野旅行に行きましょうよ。」

 

「わかったよ。」

 

「それではさっそく……」スキマ

 

「くっつかないのか?お前ならべったりくっついてくると思ったんだが?」

 

「忘れましたか?私たちにはもう一人いるんですよ?」

 

「そうだったな。」




お疲れさまでした。

これにて本編は一旦終了とさせていただきます。

そのうち、前日談、後日談、まだ投稿していないキャラクターについても投稿していきます。


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古明地こいしの場合

腹をわって話しましょう。建前を言ったら嫌いになりますよ。

 

貴方の全てを教えてください。

一一一一一一一一一一

 

家でゆっくりしていると戸が独りでに開きました。

 

一一一一一一一一一一

 

「泥棒か?」

 

「泥棒じゃないわよ。人形も使わないし。」

 

「誰だ?」

 

「あ、お初にお目にかかります。古明地こいしと申します。」

 

「これはご丁寧に……。って、古明地ってことは……もしかしてさとりの妹か?」

 

「お姉ちゃんを知ってるの?」

 

「まぁな。この間仕事で地霊殿に行ったからな。その時妹がいるって話も聞いた。」

 

「そうなんだ。改めてお姉ちゃんの妹のこいしです、よろしく。」

 

「よろしく。」

 

「お兄さんは誰?」

 

「俺は里で万屋をやっている相模だ。よろしくな。」

 

「よろしくね。煙草さん。」

 

「ん?俺が煙草吸っているって話したか?」

 

「だって今吸ってるじゃない。だから何となくそう呼んだのよ。」

 

「そうか……。まぁ、正解なんだが……。」

 

「釈然としないの?」

 

「釈然としないな。」

 

「釈然としないのか~」ニコニコ

 

「ところで……」

 

「何?」

 

「何しに来たんだ?」

 

「何も。」

 

「は?」

 

「何となく面白そうな向きに歩いていったら着いたのよ。」

 

「ここについた感想は?」

 

「思ったよりも面白くない。」

 

「日常に面白いものなんてそうそう転がっているもんでもないだろ。」

 

「そう?」

 

「そうじゃないのか?」

 

「私は目に見えるものなんでも楽しいよ。」

 

「そうか?」

 

「だって雲が流れているの見ているだけでも退屈しないし。クモの巣なんて綺麗だよ。」

 

「そうか。そうだよな。」

 

「ん?どうかしたの?」

 

「いや、俺もそういう人間だからな。」

 

「へ~。」

 

「こいし、理科は好きか?」

 

「理科?」

 

「簡単に言えば身の回りの不思議なものを知っていく勉強だな。」

 

「ん?」

 

「じゃあ、お空がどうやって熱を出してるか知りたいか?」

 

「うん!お空がどうやって温泉を沸かしてるのか知りたい!」

 

「理科はそういうことだ。雨が何で降るのか、どうやって人がものを見ているのか、何で空は青いのか……そういうことを知っていく勉強だ。好きか?」

 

「うん!」

 

「そうか、それはよかった。」

 

「釈然とするの?」

 

「釈然とするな。」

 

「釈然とするのか~」ニコニコ

 

「それ、楽しいか?」

 

「天丼は好きだよ。」

 

「俺はカツ丼の方が好きだな。」

 

「姉妹丼はお好き?」

 

「せめて親子丼で頼む……」

 

「親子が好きなの?」

 

「『親子丼』が好きなんだよ。」ハァ…

 

「釈然としないの?」

 

「釈然としないな。」

 

「釈然としないのか~」ニコニコ

 

「本当に好きだな。」

 

「ところで……」

 

「ん?」

 

「ラーメンは好き?」



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封獣ぬえの場合

ぬえってどんな口調だったっけ?


通りゃんせ通りゃんせ

 

行くも帰るも闇の中

 

前の見えぬ恐ろしさ

 

どうか明かして下しゃんせ

 

――――――――――

 

普通にぬえと会いました。

 

――――――――――

 

「あれ?万屋じゃん。何してるの?」

 

「今から酒盛りの時間だ。来るか?」

 

「止めとくよ。後が怖いからね」

 

「真面目にやっているようで何よりだな」

 

「そりゃどうも」

 

「帰るのか?」

 

「日が落ちるまで羽伸ばしてこいって聖に言われたからね。とりあえず彷徨いてるよ。」

 

「不思議なものだな……」

 

「何が?」

 

「都を大混乱に陥れた大妖怪の正体がこんなちんちくりんなんだからな」

 

「ちんちくりんは失礼じゃない?それに私の場合、実際の姿形は意味をなさないの」

 

「そういえばそうだったな。で……」

 

「何?」

 

「もう隠さないのか?」

 

「隠すもなにも、姿の見えない、意味不明なものを勝手に勘違いして化け物にしたてあげたのは人間じゃない」

 

「そう言うなよ。訳のわからないものは人間なら誰でも怖いんだよ」

 

「人間っていつもそう、わからないもの、知らないものが怖い。怖いから知りたい。けど、それでもわからないものは神秘として、謎として、奇跡として残す。本当に欲張りよね」

 

「俺は新しいことを知ると言うよりも、古いものを伝える仕事だからな、そこら辺はよく知らないな」

 

「行方不明、原因不明、正体不明、意味不明……」

 

「けど、すべてを知るのもつまらないだろ」

 

「全てを知ろうとするのは人間の定め。与えられた奇跡をもれなく享受するのが生き物の定め。与えられた奇跡を奇跡のまま維持し続けるのが妖怪の役目だとしたら、貴方はどうしたい?」

 

「すきま風の音を化け物の鳴き声、迷子を神隠し、悪夢を貘の仕業と考え続ける生活は無理だろうな」

 

「話が重いわね。止めにしましょうか」

 

「そうするか」

 

「ところで聖から聞けって言われたんだけど、」

 

「何だ?」

 

「今後の予定は?暇ならうちで修行させたがってるんだけど、来る?」

 

「修行は嫌だな。適当に用事があるとでも言っておいてくれ」

 

「本当は?」

 

「急ぎの用事はない。だが、そろそろ忙しくなるかもしれないな」

 

「何かあるの?」

 

「ちょっと遠出の予定だな」

 

「外に行くの?」

 

「さぁな。賢者様の命令だからな。逆らわさせてくれないと思うぞ」

 

「そりゃあ貴方も大変ね」

 

「だから聖にもいつか行くと伝えておいてくれないか?」

 

「しょうがないわね。頼まれてあげるわ」

 

「助かる」

 

「で、」

 

「何だ?集る気か?」

 

「違うわよ。……いや、違わないのかしら?」

 

「土産なら買ってきてやるから安心しろ」

 

「何買ってくるつもりなの?私の働きはお土産の内容によるわよ」

 

「そうだな……鉄の輪、八ッ橋、ワラスボ、あごだし、木刀……」

 

「貴方は修学旅行でも行くつもりなの……?」



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宮古芳香の場合

生きた屍に憧れた時期もありました

 

「死して尚も生きる」って何となくかっこいい気がしたのです

 

14才の頃の話です

 

――――――――――

 

小さな唐笠に呼ばれ墓場へ向かう

 

理由は未だにわからない

 

――――――――――

 

「だーれーだー」

 

「里の万屋だ。用事があってきた」

 

「万屋?」

 

「誰かと思ったら邪仙の付き人か……」

 

「芳香は娘々のお供だー。付属品っていうなー」

 

「そこまで言ってないだろ」

 

「で、用事ってなんだー?」

 

「ここに住む唐笠に呼ばれてきたんだよ。何の用事かは知らされてない」

 

「唐笠って……」

 

「知ってるだろ、青髪の……」

 

「小傘のことかー」くわんば

 

「あーそうだな、その小傘に呼ばれてきたんだよ」

 

「あいつは何考えてるかわからないからなー」

 

「お前が言うな」デコチョップ

 

「痛いじゃないか。やーめーろーよー。弱いものいじめはよくないぞ」

 

「はいはい」

 

ぴゅーーー

 

「風が出てきたな」

 

「風は嫌いだー。お札がとーれーるー」

 

「最近、曇りばかりで知らなかったな……」ウワノソラ

 

「おーふーだー」

 

「今日は満月だったんだな……」

 

「少しは相手をしてくれないのか?」

 

「悪かったな宮古芳香」

 

「構わないよ。君はあの姿が嫌いだって言っていたしね」ニカッ

 

「会話が成り立たないのが嫌いなんだよ。深夜のペンギンの周りに集まるやつらくらい嫌いだ」

 

「そうだったね。君はそういう人間だったね」

 

「人の好き嫌いは昔から多いんだよ。ガキの頃の知り合いは半分近く言葉が通じなく……ん、」(人差し指で口をおさえられる)

 

「人の癖に変に達観した振りをするのは君の悪い癖だ。我々からしたら君は赤子とそう変わらないってことを忘れないでくれよ」

 

「お前は20年も生きてないだろ」

 

「君は浅はかな人間だ。関節が曲がらないから、心臓が動いてないから、その程度のことで人の生死が説けるとでも思っているのか?」

 

「生物の定義は酸素を取り込み二酸化炭素を出すことだ、お前にそれができているのか?」

 

「君の定義なら蝋燭も生きていることになるな」

 

「もうひとつある。酸素と有機物からエネルギーを取り出し水や無機物を出すことだ」

 

「君が以前話してくれた『自動車』……だったかな?あれの仕組みはとても興味深かったな」

 

「外部からの刺激を電気信号に変えて行動へと還元することができる」

 

「そういえば、勝手に止まる車があったんだろう?実に興味深い話だね」

 

「負けたよ」

 

「はじめから勝負する気などない癖に減らず口だね」

 

「そうかもな」

 

「ところで……」

 

「本当のところ、生物の定義とはなんなんだい?さっきから君の問答の片手間に考えていたのだけど結局答えはでなかった」

 

「一つの言葉じゃ表すことができないらしい。有機物からエネルギーを取り出し、自らの体内で作り出した物質をもとに自分と同じ機能を持つ子孫、細胞を造る、っていうのが一番短いと思う」

 

「難儀だな」

 

「そうだな」

 

「しかし、君と私は似ている」

 

「突然どうした?脳でも腐ったか?」

 

「一度死に、邪仙のお陰で再び息を吹き返したこの宮古芳香と、生きながらに死んだような生活を送り、まさに死のうとしたときに賢者お陰で再びいきることにした君と、似ていると思わないか?」

 

「そうかもしれないな」

 

「ならば、宮古芳香も生物として扱われてもよいかもな」

 

「さぁな……ところで誰に聞いたんだ?そんな昔の話」

 

「芳香は忘れっぽいからな、いろんな人や妖怪がいろんなことを話しに来るんだ。そのとき聞いた」

 

「あいつも来たのか……」

 

「あいつと言うのが誰かは知らないが君の思うその人なら来たぞ。君が昔『パッフェ』とやらを食べたときの話もしてくれた」

 

「あのおしゃべり賢者が……」

 

「やはり君も可愛らしいところがあるんだな」ペタッ

 

「今すぐ忘れてくれ……頼むから」

 

「んー?」

 

「芳香か……」

 

「私の芳香さんになにかご用でしたか?」

 

「邪仙か」

 

「芳香さんは私の芳香さんなんですか誰にも渡しませんよ」

 

「わかってるよ」

 



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霍青娥の場合

あんまり面白くないです


四日前、友を見棄てた

 

三日間、親を見棄てた

 

二日前、師を見棄てた

 

昨日、子を見棄てた

 

今日、道に転がる石を蹴った

 

――――――――――

 

芳香と話している最中邪仙に邪魔をされてしまった。大方退屈していたのだろう。

 

――――――――――

 

「芳香さんで遊ぶのはよしてください。私の芳香さんなんですから」

 

「わかってるよ。話しかけられたから応えた、それだけだって言ってるだろ」

 

「いいえ、芳香さんの顔が普段より若干血色がよかったです。丸で恋する乙女のように」

 

「死体を愛する趣味はねぇよ。お前じゃあるまいし」

 

「芳香さんがかわいくないって言うんですか!?」

 

「認めるのと認めないのどっちが正解なんだよ……」

 

「芳香さんを貶すのは許しませんし、芳香さんを愛するのも認めません」

 

「もう勝手にしてくれよ……」

 

「だから、勝手にさせてもらってます。大方、風でお札がとれて一時的に生前の記憶が戻ったのでしょう」

 

「わかってたなら絡むなよな……」

 

「だって暇なんですもの」

 

「はぁ……」

 

「なんですか、その『話が通じねぇ……』みたいな反応は」

 

「その通りだろ」

 

「美人に話しかけられてるのですから、もっと嬉しそうにしても良いんですよ」

 

「残念ながら人妻を愛でる趣味はない」

 

「意外と独占欲が強いのですね」

 

「自分のものにならないものが嫌いなだけだ」

 

「強欲ですわね。その強すぎる欲はいつか身を滅ぼしますよ。」

 

 

「一人で七つの大罪を独占してるようなやつが言うセリフかよ。しかも曲がりなりにも仙人なのが余計に腹立つ」

 

「曲がりなりにも仙人ですもの。人間の綺麗なところも、穢れたところも貴方よりも多く知ってますよ。」

 

「じゃあ聞くが、物欲にまみれた仙人様はどうして仙人になれたんだ?」

 

「私が邪仙と呼ばれるのは、邪仙と呼ばれるのにふさわしい行動をとってきたからです。それと、仙人には仙人になるべくしてなっただけです」

 

「お前が仙人に向いているとは思えないがな」

 

「ならば、仙人らしいところを見せて差し上げますわよ」

 

「ほぅ」

 

「夢を見る男、現実を見る女と言いますが本当でしょうか?物欲にまみれ、征服欲にまみれ、色欲にまみれ、自己顕示欲すら溢れている。目標のためならば自らの評価を執り行うことすら忘れてしまう。本当に現実をみているのでしょうか」

 

「夢を見ようと、現実を見ようと勝手だが。現実を見てるから、夢を見ているからという理由で達観している振りをされるのは腹立たしく感じるな」

 

「貴方はどっち着かずですものね。半端な男は嫌われてしまいますわよ」

 

「斜に構えた感じが格好いいだろ?」



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物部布都の場合

勇者と愚者は紙一重

 

――――――――――

 

騒がしいので駆けつけると

 

白くて小さいガキが騒いでました

 

――――――――――

 

「飴やるから落ち着け」

 

「ガキ扱いするな!!」ウガー

 

「ガキ扱いするなって言った方がガキっぽいぞ」

 

「そうなのか?」

 

「嫌なことを言われてすぐ腹をたてるのは子供のすることだろ?大人なら心に余裕をもって穏やかに接するだろ?」

 

「ふ……ふむ、確かに御主の考えにも一理あるな」

 

「とりあえず、何があったのか教えてくれ」

 

「……飴はくれないか?」

 

「はいはい。ほらよ」

 

「飴は甘いの。幸せの味がするの」

 

「そうだな。甘いものは美味しいな」

 

「お主もわかるか?御主、いいやつじゃな」

 

「よく言われるよ」

 

「否定しないのは自惚れか?」

 

「事実だ」

 

「やっぱり変やつやもしれん」

 

「よく言われるよ」

 

「御主、面白いやつじゃな」

 

「それもよく言われる」

 

「本当におかしなやつじゃ」

 

「ところで……」

 

「ん?」

 

「何があったんだ?いくらお前が短気でも里で暴れたらお前らの太子様に迷惑なことくらいわかるだろ?それでも騒動を起こしたのは何でなんだ?」

 

「」サァー

 

「なにも考えてなかったんだな……」

 

「」コクコク

 

「何があったんだ?」

 

「寺の青いやつ……」

 

「一輪か?」

 

「名は知らん。でかいやつをつれたやつじゃ」

 

「あいつだな。で、そいつに何かされたのか?」

 

「里であったからいつもみたく挑発したら「今日は忙しいからまた明日ね」と言ってな、構ってくれないのじゃ!」

 

「……」

 

「なんじゃ?文句があるのか?」

 

「はい、みんなお疲れ。こっちは特に問題ないから家に帰っていいぞ」

 

「なんじゃと御主!まるで我が小さいことに腹をたてる小者みたいな言い方は止めんか!?」

 

「まさか違うって言うんじゃないだろうな」

 

「そうなのか?そう思っているのか!?」

 

「違いないだろ。ガキっぽい振る舞いをしているなら、お前はガキだ。たとえ1000年以上生きていてもな」

 

「ガキ扱いは嫌じゃな」

 

「そうか?」

 

「御主は子供の方がいいと言うのか?」

 

「子供は嫌か?」

 

「うむ。子供っぽかったら見下されるではないか。なにもわかってない、短絡的で短気そう思われるのを好む人間はおらんじゃろ?」

 

「そんなもんか」

 

「御主は子供っぽさ、ガキっぽさがいいと言うのか?」

 

「そうだろ?」

 

「なぜそういえる?」

 

「飴もらってニコニコしているだけですべてを許されるならガキも悪くないだろ?」

 

「御主、我のことをいってるのか!?」

 

「もしかして違うとでも思っているのか?」

 

「御主、嫌味なやつじゃな」

 

「それもよく言われるな」

 

「どれが本当の御主なんじゃ?」

 

「全部俺だよ」



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蘇我屠自古の場合

裏切られました。壊されました。

 

――――――――――

 

布都をいじっていると亡霊が現れました。

 

――――――――――

 

「なにやってんの?」

 

「楽しいことだよ」

 

「そのちっさいの、うちのなんで返してもらっていいか?」

 

「もちろんそのつもりだよ。持ち帰る気はないさ。」

 

「それなら問題ないね。いじり終わった頃にまた来るからそのときにでも返してくれ」

 

布「二人とも我を猫みたいに扱うな!」

 

「それは違うぞ」

 

「あぁ、そうだな」

 

「借りた猫はもっとおとなしいな」

 

「その通りだ、布都。貸した猫はもっと静かだ」

 

布「屠自古までそんなことを言うのか!?」

 

「仲が良さそうで何よりだな」

 

「そうか?私はこいつに裏切られたんだぞ?」

 

「もう許してるんだろ?」

 

「許したというより帳消しにしてやったんだ。こんな便利な体を貰えたしな」

 

「それは何よりだ」

 

「それに元々布都と私は同じ志を持つもの同志だ。長い目で見ればこうやっていた方があの人のためにもなるしな。……ということを自分に言い聞かせている」

 

「そこまでして自分に理解させる必要もないだろう」

 

「あの人には迷惑をかけたくないんだよ。わかるだろ?」

 

「生まれてこの方迷惑をかけられ続けたからな、迷惑かける側の心なんてわかんねぇよ」

 

「生意気だね」

 

「不思議だな。」

 

「何が?」

 

「最近、貶されてばかりな気がするんだ」

 

「あんたがけなされるようなことをするからじゃない?」

 

「そうなのか?」

 

「無自覚の悪ほど怖いものはないよ」

 

「無邪気と言え」

 

「無邪気なんて年じゃないでしょ?」

 

「男はいつまでたっても子供なんだよ」

 

「屁理屈ね」

 

「それもよく言われるな」

 

「はぁ……」

 

「苦労人ポジションは疲れるよな」

「それはお前も苦労人だったら使える言葉だ」

 

「俺は苦労人ポジションだろ?」

 

「自分で認められる苦労は苦労のうちに入らない」

 

「だろうな」

 

「それでもお前は『頑張ったから褒めてください』というのか?」

 

「褒めてくださいとまで言うつもりはないさ。それに俺は褒められることになれてないんだよ」

 

「ほぅ……。楽しい話か?」

 

「お前が楽しいなら楽しい話だろうな」

 

「聞こうじゃないか」

 

「高校に合格したとき、親に内申が高ければ推薦で行けたと言われた。校内のテストで一位になったとき、親に全教科満点取れなかったのか?と聞かれた。大学に推薦で合格したとき、親に海外の大学の方が経歴に箔がつくと嘲笑われた。教師になると言ったとき、親に勘当するぞと脅された。」

 

「反抗しようと思わなかったのか?」

 

「今、口にくわえてるこれが俺の精一杯の反抗なんだよ」

 

「ヘタレは嫌いだ」

 

「俺も気が強い女は嫌いだ」

 

「私は好きになった相手には尽くすタイプだぞ」

 

「好きじゃない男に対しても優しくしているなら考えてやるよ」

 

「お前は結婚できそうもないな」

 

「それもよく言われてるよ」



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小悪魔の場合

僕は青いやつよりも赤いやつの方が好きだったりします。


存在しないはずのものを存在しないと言い切ってしまうには世界は広すぎるし、ヒトは小さすぎる

 

――――――――――

 

お腹すきました。

 

里へと軽食を取りに行こうと思います。

 

――――――――――

 

「あれ?バイトさんじゃないですか」

 

「小悪魔、俺が図書館で働いたのは一度きりだ。バイトというには少なすぎるだろ」

 

「ふっふっふ、バイトさんは一度、パチュリー様のもとで働きました。これはすなわち、私の後輩、もっと言えば部下に、極論を言えば手下になったと言うことになります。すなわち!バイトさんは私のサーヴァントになったということです」

 

「契約の手続きは済みましたか」

 

「もちろんです。ここにその書類があります」

 

「持ち歩いているのかよ……」

 

「バイトさんをいつでも使役できるように必要なものは基本的に持ち歩いています」

 

「確かに俺の筆跡だな」

 

「もちろんです」

 

「いつ書かせたんだ?」

 

「そりゃあ、いつもはあるはずのない入門表に細工をして……」

 

「いかさまじゃねぇか」

 

「けどそれは間違いなくバイトさんの手で書かれたサインです。後は血判をとって私の血を飲ませれば……」

 

「つまり、手続きは完了してないんだな?」

 

「8割方完了してます」

 

「それは完了してないって言うんだよ」

 

「なんなんですか!?私のサーヴァントは不満なんですか!?」

 

「不満以外の何がある?」

 

「ぐぬぬ……」

 

「仕方ない、紅魔館にいくぞ」

 

「何をしにいくんですか?」

 

「パチュリーにこの契約書の有効性について聞きに行くんだよ」

 

「頑張ってください」

 

「お前も行くに決まってるだろ」

 

「止めましょうよ。紅魔館の手前の森にものすごく恐ろしい化け物がいたんですから」

 

「どんなやつだ?」

 

「二本足で立ち、体毛は薄く、体にたいして腕も足も短く、その腕力もさながら、不意討ち、罠、木登りなど高度な知性を持ち、近くにいた動植物を次々と食い荒らし、火を自在に操り、体液は濃塩酸に匹敵する劇物、体長は一メートル以上もある地上生物にしては大型なものです」

 

「そいつは観ておかないといけないな」

 

「信じるんですか!?」

 

「世界は広いんだ。そんな空想みたいな生き物がいてもおかしくないだろ」

 

「誰も見たことないような化け物でもですか?」

 

「誰も見たことないってことは、これから誰かが見るかもしれないだろ」

 

「そんなもんですか?」

 

「そんなもんだよ。オレンジの火をはくトカゲがいても、音速で走るネズミがいてもおかしくねぇんだよ」

 

「不思議な世界ですよね」

 

「そうだよ。世界はこんなにもつまらなくて、素晴らしくて、穢れてて、美しいんだよ」



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豊聡耳神子の場合

和をもって貴しとなす

 

意味は「変な争いしてねぇで俺に従え」です

 

――――――――――

 

幽霊につれられ、廟へと向かう。くわえた煙草からは俺の通った道筋を示すかのように煙が漂っていた

 

――――――――――

 

「とりあえず火を消せ。火付け役はこれ以上必要ない」

 

「わかってるよ」

 

「よく来たな。まずは礼を言わさせてもらう。今回の件、大事にならぬよう布都をなだめてくれたと聞いたぞ。助かった」

 

「昔からガキの扱いには慣れてるだけだよ。煩いのは嫌いなんだ」

 

「貴方もよく嘘をつくよな」

 

「大人は嘘をつくもんなんだよ」

 

「そして必要もない減らず口を叩く」

 

「大人は格好つけないと生きていけないんだよ」

 

「格好つけたがる年頃はとうに過ぎたはずだと思うんだが?」

 

「格好いいのと格好つけるのと格好つけたがるのは全部違うんだよ」

 

「ほぅ……では貴方は自身が格好いいと言うのか?」

 

「……格好つけたがってるんだよ」

 

「クックックッ……」

 

「笑うなよ……」

 

「これが笑わずにいれるか。格好つけたがりの格好悪い行く末など笑い種以外の何物でもない」

 

「お前にとっては笑いの種かも知れねぇけどな、こちとらありもしねぇカリスマを必死に捻り出してるんだよ」

 

「私の言い方が悪かったのなら申し訳ない。訂正しよう。一生懸命頑張るダサい男は嫌いではないぞ。」

 

「ダサいって……」

 

「ん?私なりに評価したつもりだぞ。貴方はいつも何かと闘っていて、強大な力をもつそれに挑み、いつもされるがままにされている。違うか?」

 

「違わないさ」

 

「私は負けたお前さんを見て格好悪いとは思わん。格好つけようと必死になって格好つけられなかった貴方は格好悪いものではないと思う。ただそれだけだ」

 

「格好つけられなかった男は格好悪いんだよ」

 

「それが間違っているのだ。国のために勇ましく闘った兵を誰が笑うか?誰にも笑えないんだ」

 

「お国のためなんて大義は俺にはねぇよ。守るとしたら……俺を守るために格好つけてるんだよ」

 

「ふむ、好いてる女子の前でみっともない姿はさらしたくないということかな?」

 

「勝手にそう思ってくれ」

 

「貴方に好いてる女子がいるのであればそれはきっといい女なんだろうな」

 

「そんなことねぇよ。俺はそんな人徳者でも人格者でもねぇよ」

 

「謙遜する人間は嫌いじゃない。しかし自身を卑下することで周りの人も卑下してしまうことにならぬよう気を付けろ。お前が自身を見下してどうなる?その程度の男に好かれた女子はどうなる?」

 

「……わかったよ。……俺ほどの男が好きになる女だからな、それはもう最高の女だよ……。……これでいいか?」

 

「言い切るとは大胆な男だな……」

 

「もう勝手にしてくれよ……」

 

「で、貴方の好きな女子とはどんな風なんだ?かわいい系か?クール系か?甘えたがりか?」

 

「何でそんなに食いつくんだよ……」

 

「乙女は他人の恋の話が主食なのよ」

 

「せめて口調は統一してくれ、どっちが本当のお前かわからん」



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二ッ岩マミゾウの場合

条件、人の命は金で買える

 

条件、人の命は金で買えない

 

結論、人の命は金で買えるが、値段は付けられない

 

――――――――――

 

商いをしていると金をどうしても借りなければならないときがある。

 

残念なことに借りるということは返さなければならないときが来る。

 

そして、もっと残念なことに返すときは借りたときよりも額を大きくして返さなければならない。

 

――――――――――

 

「相模の~、おるんじゃろ?借りたもん返してもらわんとこっちが困るんじゃが?」ドンドン

 

「今は居留守中だ。俺はいない」ガラガラ

 

「なんじゃい、おるんならはよ出らんか。危うくお前さんの家を売るところじゃったぞ」

 

「こっちもギリギリなんだが……」

 

「金がないにしても少しでも返さんと利子が大きくなるばかりじゃぞ。せめて利子分だけでも払っておいたが賢明じゃぞ」

 

「それはわかっているんだがな……」

 

「金がないなら、どこかで奉仕に出たらどうじゃ?若い男ならどこかで力仕事がもらえるじゃろう?」

 

「店を畳めと言うのか?」

 

「あくまで一時的なものじゃ。まとまった金を得て、儂に返して、また開けばよかろう」

 

「元々頭脳派なんだよ。力仕事は俺には合わない」

 

「そんな余裕がお主にあるのか?」

 

「ないな……」

 

「合法な利率でしか金は貸しとらんはずじゃぞ?そんなに時間もかからんじゃろう」

 

「じゃあ、ひとつ聞くぞ」

 

「なんじゃい?屁理屈なら聞き飽いたぞ」

 

「俺がこの店を辞めることの意味についてだ」

 

「うむ、なんとも屁理屈臭い切り出しじゃが聞いてやろう。お主を無下にするなと巫女や賢者殿に言われておるしの」

 

「この店は主に何でも屋、つまりよろず屋として機能している。そして、立地は里の外れ。人間が来るには少々億劫な場所だ。その結果、ここに来る客は多いとは言えない。しかし、確かに客は来る。里のよろず屋には行かず、態々遠いよろず屋に依頼を出すのか。わかるか?」

 

「『にーず』というやつかの?」

 

「そうだ。では、里のよろず屋にはなく、このよろず屋にある特色とは、客が求めるニーズとは?それは……」

 

「……それは?」

 

「妖怪と人間の架け橋だ。」

 

「架け橋?」

 

「そうだ。幸い俺は妖怪側にも、もちろん人間側にも顔が利く。そして、里の商いの中には妖怪が多くいる危険な場所に材料を取りに行かなければならないものもある。そういった場合、俺が里の人間から依頼を受け、その依頼を妖怪に俺が依頼するという仲介的な役割も担っている。さらにだ、そういった場合、得られた物品を妖怪の手で依頼主に届けさせる。勿論俺という監視役を立てて万が一が起きないようにはするがな。そして、依頼主は妖怪に対して僅かな報酬と引き換えに物品を妖怪から受けとる。こうすることで、妖怪の危険性について、里の人間が理解する機会が増え、妖怪も里に訪れやすくなるという寸法だ」

 

「妖怪と人間の共存か」

 

「これで説明は終わりだ。まだこの店を畳めと言うのか?」

 

「この店の有意性については理解することができた。ならば……」

 

「利子0か?」

 

「そんなアホな金貸しがあるか。お前が奉仕に出とる間、命蓮寺の連中にこの店を頼もうかと思っただけじゃ。あやつらもそういう話なら喜んで参加するじゃろう。特にあの僧がのう」

 

「妖怪というだけで警戒されるのではないか?」

 

「毘沙門天の弟子、もしくは遣いという肩書きがあれば喜んで依頼するものもおるじゃろう。」

 

「ぐぬぬ……」

 

「言ったはずじゃぞ。屁理屈は聞かんとな」




最近、『ニコニコ動画』等と言うのものに登録してみたのですが、なかなか楽しいですね。

『ロリコン』とか『小笠原道大』のやつとかかなり好きです(許可とか私がとるわけないのである程度伏せます)。

そんな感じの笑えるシーンと真面目なシーンがはっきりしている物語が好きです。

そんな話が書きたいです。


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わかさぎ姫の場合

人は無知だ。

なにかを守るためになにかを見失う。

なにかを産み出すためになにかを捨てる

 

そして、それに気付かない。

 

―――――――――

 

霧の湖で釣りをする。

竿に手応えがあったから思いっきり引き揚げる。

 

人魚がつれた。

 

―――――――――

 

「久し振り~」ヒラヒラ

 

「大丈夫か?」

 

「大丈夫よ。そんな安い餌に食いついたりしないもの」

 

「酷い言われ方だな」

 

「あら、空っぽのバケツを抱えて何を偉そうなこと言ってるのかしら?」

 

「はいはい、どうせボウズだよ」

 

「ボウズになるのも当たり前よ。貴方、ここにどんな魚がいるか知ってるの?」

 

「知らねぇよ」

 

「あのね、ここに魚はほとんどいないわよ。釣れないのは当たり前。ただし、化物みたいな魚はいるからそれが釣れなかったことをその安い餌に感謝すべきね」

 

「これだけでかいんだから何か釣れるかと思ったんだがな」

 

「紅い悪魔がお隣さんだなんて魚もお断りなんでしょ」

 

「そんなもんなのか」

 

「そんなもんなのよ。まず第一に怖がることを忘れた人間よりも動物の方がそういうことには鋭いのよ」

 

「なるほどな」

 

「ネズミは船が沈む前に逃げ出すし、リュウグウノツカイは地震が来る前に水面に上がってくるのよ」

 

「虫の知らせとも言うしな」

 

「そういうこと。人間も生物らしく自然を享受すればいいのに……。何で自然から逃げ出すのかしら」

 

「便利なものを作ってみたら便利になりすぎた。ただそれだけだろ」

 

「その便利さのために一体どれだけの土地が砂漠のなったのかしら?」

 

「一般的な砂漠化は人のせいではないだろ。元々雨が降らない土地なんだから干上がって当然。正式な意味での砂漠化は人間の仕業でもあるがな」

 

「それじゃあ、一体いくつの森が消えたのかしら?」

 

「それには反論できないな」

 

「元々反論する意味がないでしょ。言い訳にしか聞こえないわよ」

 

「理屈臭い、屁理屈……誉め言葉じゃないか?」

 

「どこがよ」

 

「つまり、質問者が考えていた質問に対する答えを論理的に確かな知識をもって反論できるということだからな。討論会なんかでは最高の誉め言葉だろ」

 

「日常生活は討論会じゃないのよ?」

 

「間違いは訂正するものじゃないのか?そんなんだからマイナスイオンとかプラズマクラスターとか水素水なんかが広まるんだよ」

 

「貴方、そういうの嫌いそうだものね」

 

「大嫌いだよ。マイナスイオンを全身に浴びたいならコンセントにシャー芯突っ込んでたらいいんだよ」

 

「マイナスイオンじゃなくて癒し効果位の言葉にしておけば文句も言われないんでしょうけどね」

 

「滝に癒しを求めても騒音でイライラするだけだ」

 

「貴方は幻想郷に来て正解だったわね。心からそう思うわ」

 

「そうだな。来れてよかったよ。いろんな人に出会えた。それだけで俺の運命が変わったからな」




え?コラーゲン鍋でお肌プルプルになった?

トランシーバー効果だよ!!


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赤蛮奇の場合

あいあむそーくーるがーる。

 

あんど、あいあむべりーきゅーと

 

――――――――――

 

甘味処で羊羮を買ってその帰り、赤いマントをはためかせ、彼女がやって来た

 

――――――――――

 

「ん?赤蛮奇か」

 

「私がいちゃ悪いか?私だって人里にすんでるんだ、いつか遇うさ」

 

「それもそうか」カチッスゥー

 

「……」ジー

 

「ん?どうした?」

 

「……」(身体中のポケットを漁る)

 

「忘れもんか?」

 

「忘れた」

 

「何を?」

 

「一本欲しい」

 

「お前、吸ってたか?まぁいいか、ほれ」

 

「礼を言う」(指先から火を出す)シュボッスゥー

 

「便利だな。」

 

「妖力があれば誰でも出来る。自慢するようなことじゃない」

 

「いやいや、小さいときから憧れてたぞ。指パッチンして火を出そうと悪戦苦闘していたこともある」

 

「……」

 

「……そういうのなんと言うか、格好いいよな……」

 

「……こういうことも出来る」

 

「おぉ、凄いな」

 

「私は妖怪だから、ただそれだけ。特に力も強い訳じゃないし」

 

「人間の俺には真似できそうにないな。……ところで……」

 

「ん?」

 

「お前、さっきからくわえてるだけじゃねぇか、吹かしてもいいことねぇだろ。肺まで煙入れねぇと」

 

「……よゆー」

 

「余裕って無理はしなくていいんだぞ」

 

「私は妖怪だから貴方よりも心肺機能も身体も丈夫。たとえ、煙草を煎じて飲んだとしてもよゆー。だって、指から火も出せるし……」スゥーーハァーー

 

「大丈夫か?」

 

「よゆー……ゲホッゴホッ」

 

「だから、無理はするなって言ったんだよ」背中叩く

 

「私は妖怪だから貴方よりも強い」

 

「無理して吸っても旨くねぇだろ。ほら、捨てていいから」

 

「私は煙草になんか負けない」

 

「何と戦ってんだよ……。ほら貸せ」

 

「はい」

 

「プライド高いのもいいがある程度に留めておけよ」

 

「この間、紅魔館のメイドにもらったやつは美味しかったのにこれは美味しくない。苦いし、辛い」

 

「こっちが本物だよ。香り高く、芳醇。舌に刺さる辛味も喉にかかる苦味も全部煙草の味なんだよ」

 

「本物、芳醇……」

 

「どうした?」

 

「なんかかっこいいわね。ワインを一口飲んでフランスの山脈を思い出してる人達みたい」

 

「馬鹿にしてないか?」

 

「してない。一口にそれだけのことを語ることが出来るのはそれだけそれを愛しているということ、それは純粋に凄いことだと思う」

 

「それはどうも。もう一本いるか?」

 

「貰うわ。本物とやらを味わいたいもの」

 

「ほら」

 

「ありがとう」

 

「どうだ?」

 

「苦いわね。けど、この鼻孔を擽るこの芳醇な香り、まるでドイツの高貴な軍人を思わせるわ」

 

「その煙草はアメリカの先住民のものを意識して創られたらしいぞ」

 

「……」

 

「不味いか?」

 

「そうね。未開人の粗削りで発展しきれてない……そんな味ね」

 

「まぁ、旨けりゃ何でもいいんだよ」




ばんきっきかわいいよ

ドヤ顔でキャスターワンを吸っているところに「同じウィンストンだから似たようなものだよ」って言いながらキャビンマイルドを吸わせて噎せさせて無言で睨むも、涙目でそんなばんきっきをニヤニヤしたいくらいかわいいよ


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今泉影狼の場合

月に向かって咆哮し、野山を風の如く走り抜ける。

 

銀の毛並みは鏡のごとく、月の光を反射し輝く。

 

――――――――――

 

永遠亭で薬をもらった帰り、妹紅の案内で竹林を歩く。

 

突然の物音に振り返ると、黒い影が駆け抜けた。

 

妹紅によるとそれは人狼らしく、紹介された。

 

――――――――――

 

「どうも今泉さん、里で万屋をやっている相模といいます」

 

「どうも相模さん、竹林で狼女をやっている今泉といいます」

 

藤「あんたたち、なんでそんなに他人行儀なのさ」

 

「だって他人ですし、ねぇ影狼さん」

 

「はい、友人さん」

 

藤「はぁ~。私はもう帰るから、あとは影狼に案内してもらってね」

 

「ここまで悪かったな、助かったよ」

 

藤「いいよ、趣味だからね」

 

「ちょっと!なんで、私が案内することが確定してるのよ!?」

 

藤「たまには人の役にたった方がいいわよ。弱小妖怪らしくね」

 

「ぐぬぬ……」

 

「ここまで助かった。礼は漬け物でいいか?」

 

藤「助かるよ。肉や筍はいくらでも手に入るけどそれ以外の野菜はなかなか手に入らないからね。じゃあね」

 

「あっ、ちょっと……」

 

「まぁまぁ、竹林の出口はそう遠くないんだ、少し付き合ってくれ」

 

「わかったわよ」

 

「なぁ、人狼」

 

「私は満月の夜だけ狼の姿になる狼女、毎晩一人だけ貪る人狼とは違うのよ」

 

「なるほどな……。で、」

 

「で?」

 

「どの狼だ?狼と一言にいっても多種多様だろう?」

 

「見た目の通り日本にいた狼よ。」

 

「……」

 

「何よ。マジマジと見て」

 

「次の満月はいつかと思ってな」

 

「変身した姿は見られたくないの。わかるでしょう?」

 

「ニホンオオカミか……剥製とクローン以外で見るのは初めてだな、色々とデータを録らないとな」

 

「聞いてる?」

 

「生理学の発展のための礎になりたいんだろ?わかってるよ」

 

「噂以上の変態ね」

 

「変態とは失礼だな。これはニホンオオカミと出会ったときの正しい反応だろ?」

 

「だから人間は嫌いなのよ。自らの社会を発展させるために払われる犠牲を一切省みない。リョコウバトはどうなった?オオウミガラスは?ステラーカイギュウは?」

 

「昔は確かに何も考えずに発展させてきたからな。でもな、そういった失敗を重ねて今では種の保存に動こうとしているんだから、過程は間違っていても結果はいい方向に向いているんじゃないのか?」

 

「スポーツ感覚で殺されたリョコウバトの前でもそう言えるなら大したものね」

 

「再びリョコウバトが空を飛ぶ日が来るなら何度でも反省するさ。」

 

「反省ならサルでもネズミでもするわ。電気ショックを与えればね」

 

「いいことを教えてやるよ」

 

「何かしら?」

 

「ヒトは過ちを反省して後世に伝えることのできる唯一の動物なんだよ」

 

「じゃあ、体に悪いことが判っている煙草をいつまでも後世に残しているのは何故かしら?」

 

「ヒトも動物だからな、100%じゃないんだよ」




なんとなくあらすじを変えてみました。



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九十九姉妹の場合

人は思いを、歴史を、伝説を音にのせ、伝えてきました。

 

そして、これからもそれは変わらない。

 

――――――――――

 

人里を歩いていると人だかりができていた。

 

気品のある音、伸びのある声。

 

聞き惚れていた。

 

――――――――――

 

「巧いものだな」

 

弁々「当たり前でしょ。私達、楽器本人が楽器を巧く扱えなくてどうするのよ」

 

「外では琴も琵琶も聞くことがなかったからな、新鮮だったよ」

 

八橋「へー、かわいそうね。こんなに美しい音を奏でられるものは他にないわよ」

 

「そうかもしれないな。現に聞き入っていたからな」

 

弁々「ウタは人間が作り出した最高の伝達手段よ。リズムがあるから覚えやすく伝わりやすいという面を持ちながらも、美しさという面をも持つのよ」

 

「なるほど。そういう見方もあるのか……」

 

八橋「そういう見方って音楽をなんだと思っていたの?」

 

「やかましい、ドンチャン騒ぎ、節操なし、それと……」

 

弁々「ストップ。もう十分よ」

 

八橋「うわぁ……そんなんじゃダメよ。音楽は素晴らしいものなんだから」

 

「どうも外の音楽は昔のものと大きくかわってしまってるみたいでな」

 

弁々「どう違うの?」

 

「人に何かを伝えるものというよりも、自分の賛同者を集めるためのものに換わってしまっているんだよ。あくまで俺の印象だがな」

 

弁々「どういうこと?」

 

「昔の音楽やウタは自分が見たもの、感じたものをリズムと音階を持つ言葉にして伝えるものなんだろ?」

 

八橋「さっき私達が言ったままね。」

 

弁々「まぁまぁ八橋。……で、外の今の音楽はどうなってるの?」

 

「何と言うか……聞く側の人間も体験したことのあるようなことを、耳障りのいい言葉とリズムにして共感してもらうためのもの……って言えば伝わるか?」

 

弁々・八橋「……」クビカシゲル

 

「……例えるなら『松島や あゝ松島や 松島や』という俳句があるだろ?これを今の感じで表すと……『松島の 海も空も 凄く綺麗』……ってな具合か?」

 

弁々・八橋「……??」

 

「俺が悪かった。端的に言うなら松島の風景が美しく言葉にできないっていう心情を詠った俳句が、言葉にできないはずの美しさを説明することで『そーだね』って言われるためのものに変化してるってことでいいか?」

 

八橋「何となくわかったわ。でもそれは仕方のないことなんじゃないの?」

 

「何がだ?」

 

弁々「昔は話を伝えるためにウタは拡がっていったの。でも、今となってはそれらは片手で探せる情報なのよ。事実を知るにウタは情報量が少ないのかもね」

 

「なるほどな」

 

八橋「何でも知ってる様に振る舞ってる貴方にも知らないものもあるのね」

 

「俺は全知全能の神じゃないんだよ。知っていることは知っているものだけだ。知らないもの、興味のないものも勿論ある」

 

弁々「ふーん。でも、私達は新しく一つ知ったわよ。ねぇ、八橋」

 

八橋「ねぇ」

 

「何をだ?」

 

弁々・八橋「貴方が芸術的なセンスに一切恵まれていないこと」

 

「全く興味がないんだよ」

 

弁々「それでも少しはかじってみるのも面白いと思うわよ」

 

八橋「折角先人が造ってくれたものなんだから少しは興味を持ってみるのも面白いかもしれないわよ」

 

「そうかもな」



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鬼人正邪の場合

人は人の上に立つことで生きていく。

 

上に立つことの許されぬヒト

 

上に立たれることのないヒト

 

幸福者とは?

 

――――――――――

 

九十九姉妹の演奏の後、家に帰るとやたら偉そうな小物がいました。

 

――――――――――

 

「ようやく帰ったか」

 

「お尋ね者様、どうしたんだ?地下を追い出されたか?」

 

「お、私を知ってるのか。ならば話は早い。手を貸せ」

 

「俺の手は煙草と酒で埋まっている。貸し出せる余裕はない」

 

「ならば体を貸せ。今は数が必要だ」

 

「なぜ俺に拘るんだ?半年前にも断った記憶があるんだが」

 

「弱小妖怪の地位を向上させようと思わないのか?」

 

「残念ながら俺はヒトだ。妖怪ではない」

 

「嘘だね」

 

「なぜそう言う?」

 

「妖怪はヒトを化かすから妖怪なのか?」

 

「妖怪はヒトを化かすものだ」

 

「しかし、化かすものがすべからく妖怪ではない。人も人を化かす」

 

「で、人を化かす俺も妖怪であると?」

 

「少し足りないね」

 

「何がだ?お前への配慮か?」

 

「妖怪はヒトを化かすものであり、化かす人の成れの果てでもある」

 

「嘘つきは妖怪の始まりか……」

 

「嘘つく人はヒトでなくなる。将来は二口女か?飛縁魔か?」

 

「嘘つきは天の邪鬼だ。心にもないことを言い続ける。嘘をつき続ける。」

 

「残念だったな。天の邪鬼は心にもないことを言い続ける訳ではない。心がいつの間にかにそうっなているんだ。心がそうなっているならば嘘にはならない。嘘とは事実ではないことを言うこと。心が嘘を信じたならば、それは事実になる。そう思わないか?嘘つきさん」

 

「嘘をついたことはない」

 

「ならば本心を語ったことはあるか?自分が思うことを自分の言霊に乗せて放したことはあるか?」

 

「……」

 

「自分の心を語ったことがない!?それは自分の心に嘘をついたのと同義じゃないのかい?」

 

「……」

 

「あんたの夢は、望みは、野望は何だい?これまでの友人の中に嫌いなヤツもいただろう?仕方なく付き合ってきたヤツもいただろう?したくもないことをさせられて自分に『仕方がない』と嘘をついたことはないか?笑って済まないはずのことを笑って済ましたことはないか?それでも嘘つきでないと言うか?」

 

「……嘘はついた」

 

「やっと認めたね」

 

「嘘をついたことを悔いたことはない」

 

「あんたはそれでも心に嘘をつくか」

 

「嘘は心に付けるもので心を浸けるものだ。そして突き抜けなければ誰かを傷つける」

 

「……もし……あんたが後1㎜でもこちら側に来るのならばもう一度ここに来る。それが弱小妖怪の味方『鬼人正邪』様だ」

 

「半年前にもそう言っていたな」

 

「私は過去は捨てる主義なんだよ」

 

「お前は嘘が下手だな」

 

「あんたよりも巧いよ。少なくとも自身を傷つけるようなヘマはしない」

 

「それもそうだな」




自分自身に嘘をつき、騙せる人は嘘発見器に引っ掛からないそうですよ。

私も嘘発見器を騙したことがあります。

貴方の心は貴方のものですか?

それとも

貴方の心に棲む貴方のものですか?


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少名針妙丸の場合

思いの外ヒトは大きく、小さい

 

そして、ヒトは小さく、大きい

――――――――――

 

博麗神社の縁側、日向ぼっこにはちょうど良い日が照り、風が吹いている。

 

――――――――――

 

「んー」セノビ

 

「日向ぼっこ?里の人たちはあくせく働いてるのに気楽ね」

 

「こんな陽気に浮かれないやつがどこにいる?こんな日は少し浮かれたくらいでちょうどいいんだよ」

 

「相も変わらず適当ね」

 

「人間、欲望に素直な方が得だぞ」

 

「身に染みてるわ」

 

「弱きものを助ける……だったか?」

 

「そうね。『力の弱いものたちに力を』って言われたわ」

 

「で、まんまと騙された訳か」

 

「格好つかないわね」

 

「格好つかないな」

 

「今考えれば間抜けな話ね。……今考えれば、ね……」

 

「しかし、お前のお陰で存在できるやつがいることも確かだろ?」

 

「私のせいで心に傷を負ったものがいることも確かよ。そっちの方が数も多いと思う」

 

「お前に傷つけられた……か……」

 

「違う?」

 

「違わないかもな……でも」

 

「でも?」

 

「人間ができることなんてたかが知れてるんだよ。誰かの心に住み着くなんて自意識過剰も甚だしい話だ」

 

「あら、貴方の心に誰も住み着いていないかのような言い種ね」

 

「そうかもな」

 

「じゃあ貴方を毎日のように眺めている金髪と青髪の御姉様方は貴方の眼中にもないってことかしら?」

 

「言っただろ?俺の心には誰もいないってな。誰かを愛することも誰かに愛されていることも認識することはないんだよ」

 

「恋することに嫌悪する子供のようね。人を愛することはすばらしいことだって知らないの?」

 

「知ってるつもりさ」

 

「じゃあ、何でそこまで愛されることを怖がるの?貴方はきっと貴方が思っているよりもまともで素晴らしい人よ」

 

「俺はきっと俺が思っているよりも人を傷つける男だよ。」

 

「貴方は貴方が思っているよりも傷つけてしまった人のことを考えて傷ついてしまう人よ」

 

「お前に俺の何がわかる?」

 

「天邪鬼が言ってたのよ『自分勝手な最低野郎だ』ってね」

 

「面倒臭いやつだな」

 

「そうね、天邪鬼は面倒ね。二人もいたら面倒も二倍ね」

 

「そうかもな」

 

「でも、必ず嘘をつくから扱いやすくもあるのよ。嘘つきな人間よりもね」

 

「嘘つきか……」

 

「そう。どんなに傷ついても、さも傷ついてないように振る舞い、煙草を吹かしながら天を仰ぐ人間よりもね」

 

「まるで……」

 

「まるで誰かさんみたいにね」

 

「きっと弱虫なんだろうな」

 

「きっと誰よりも弱いんでしょうね」

 

「きっと誰よりも甘ったれなんだろうな」

 

「そして、きっと誰よりも優しいわ」

 

「きっとそうなんだろうな」

 

「人は何よりも強い心と何よりも弱い心が共存しているわ。きっとその人は弱い心が誰よりも弱かったのでしょうね。そして、同時に誰よりも強い心も持ってしまっていた。誰よりも強い心のせいで心を傷つけるなんて皮肉な話ね」



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堀川雷鼓の場合

人々は太鼓を櫓に奉り囲み踊る。先行く人々を弔い、敬い、親しみ、愛し……

 

――――――――――

 

馴染みの居酒屋に顔を出す。聞くに、店を始めて10年が経ったらしい。

 

祝うべく、一升瓶と紫に頼み外から仕入れてもらった朱と黒の映える漆塗りの枡を手に持ち訪れる。

 

祝い酒と聞き、集まったのであろう酒飲みたちが既に盃を傾け、騒いでいる。

 

その中に一人、幻想郷に相応しくない透明なガラス製の大ジョッキを右手に、腰に左手を当て天井を仰ぎながらビールを飲み干す女がいた。

 

知り合いだと悟られたくはない。

 

――――――――――

 

「じゃあ親父さん、俺はこれで……」

 

「あれ?煙草屋さん何してるの?」

 

「はぁ……」

 

「何?迷惑そうな溜息なんか出して」

 

「迷惑だから溜息出してるんだよ……」

 

「へー……まぁいいや!飲めるんでしょ?こっち来なさいよ」

 

「出来上がってるな」

 

「お祝いなんだから、潰れるまで飲むのが礼儀ってもんでしょ?」

 

「そんな礼儀は知らん」

 

「そう?でも、少なくとも今ここにいる連中にとっては常識であり、礼儀よ」

 

「酒飲みの常識で話すな」

 

「何よ、自分だってお酒好きな癖に……」

 

「俺は静かに飲むのが好きなんだよ。どんちゃん騒ぎは性に合わん」

 

「それよりも」

 

「ん?」

 

「あんた店に入ってから私と目を合わせないようにわざと視線そらしてたでしょ?」

 

「そんなことねぇよ」

 

「ほら!また目逸らした!!」

 

「なに飲むの?焼酎?ウィスキー?ジン?ウオッカ?それと、ロック以外は認めないわよ」

 

「不思議だな、焼酎が水の隠語か何かに思えてきた」

 

「冗談よ。そんなこと、ビール片手に言うほど性根腐れてないわ」

 

「それなら安心した」

 

「まぁ、軽く飲んでいきましょうよ。今日はただで飲めるしね」

 

…………

 

「飲んだな……」

 

「あんた、意外と飲めるのね。知らなかったわ」

 

「人前で飲めることを見せびらかす必要もないけどな」

 

「それもそうね」カチッ

 

「吸ってたか?知らなかった」

 

「最近よ。ドラムセットを依代にして以来、生活が変わってきてるのよ。」

 

「ドラムを依代にしたのは憑喪神になった直後だろ?生活も何もないだろ?」

 

「言い方が悪かったわ。性格が変わってきてるのよ、物にだって魂はある。以前の私ならビールなんて飲まなかったわ。麦焼酎を生でチビチビ飲んでいる『誰かの』姿が好きだった。紙巻きじゃなくて煙管をくわえてる『誰かの』姿が好きだった」

 

「心を持つものはいつか変わるものだろ?自ら望んで変わったやつが変わったことを後悔したら誰がお前を好いてくれるんだよ」

 

「変われない心もあるのよ。変われない心が変わってしまった心を懐かしんでるの。」

 

「変わっちまったもんは変わったままさ。以前と完全に同じ形に戻ることは絶対にない」

 

「そういうものかしらね……」

 

「そういうもんさ。人も心も空気もな」



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秦こころの場合

舞踏会にはお面をしていきましょう。

 

家柄も顔も関係ない。

 

踊りたい人と踊りましょう。

 

鉄仮面さん。

 

目も鼻も口すらも隠している。

 

貴方はどのような顔で笑うのですか?

 

――――――――――

能というものを初めて見た。

 

やはり、古典芸能に疎いのだと改めて感じる。

――――――――――

 

「お疲れ様」

 

「珍しいお客様ね。新しいお客様が来ることは嬉しいことだわ。それこそ頬が弛み、落ちるほどに」

 

「頬が落ちそうな気配は一切しないがな」

 

「そう?」

 

「いつも通りの無表情だな」

 

「これでもいつもより口角は上がってるし、目は細めてる」

 

「分かりにくいな」

 

「でも、私はお面が変わる。口調が変わる」

 

「そうだな」

 

「でも、貴方の持つお面はピエロのお面一枚きり」

 

「そうか?」

 

「また笑ってる。貴方は笑っていれば何事も上手く転がると思ってる」

 

「違うか?」

 

「それは本当の笑顔の持つ力。でも、貴方の笑顔は仮面。目が笑ってない」

 

「生憎、笑うのは苦手なんだよ」

 

「知ってる。」

 

「知られていたか」

 

「貴方が笑えない理由を教えてほしい」

 

「なぜ?」

 

「笑えない理由を知れば、その理由を排することで笑えるようになれるかもしれない」

 

「理由は教えない」

 

「ならばどういう状況におかれているのか教えてほしい」

 

「珍しく食い下がるな」

 

「カメーンだって笑う。ならばお面も笑えるはず」

 

「カメーンの笑顔だって怖いだろう?」

 

「それでも無表情ではない」

 

「それもそうだな」

 

「で、」

 

「何だ?」

 

「教えてくれないの?」

 

「わかったよ。そこまで言われて断るのは大人気ないからな」

 

「私、1400歳。貴方、31歳……大丈夫?」

 

「わかってるよ。自分の年を忘れるほど老けてない」

 

「教えて」

 

「俺の心の状況だったな。……忘れ物をして言い訳をするときの気持ちって言えばわかりやすいか?」

 

「愛想笑いのことね」

 

「まとめるなよ」

 

「人というのはわからない。たかが数十年しか生きてないのに、巧く嘘がつけるわけがないのに嘘をつきたがる。「りすくまねじめんと」が下手。昔話でも言ってる「正直者が報われ、嘘つきは罰を受ける」と」

 

「目前の利益に囚われているから目前の危機にしか目が届かないんだよ。たかが数十年しか生きられないんだ。未来のことは二の次なんだよ」

 

「人というのはわからない。簡単に心を壊してしまう。そのくせ、こころが壊れたことを認めない、もしくは気付かない」

 

「そんなもんだよ。ヒトは弱く、強い。誰かが思っているよりもな」

 

「誰かって誰?」

 

「ヒトよりも強い誰かだよ」

 

「ヒトよりも弱いのによく言うわね」

 

「ヒトよりも弱いから人の弱さがわかるんだよ」

 

「また屁理屈捏ねてるのね」

 

「いつも通りだよ」




pixivも始めました

ツイッターも始めました


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蛇足
二年前の話


霞がかった月を見て煙を吐き人を恨む

 

吐き出された煙を見て社会を恨む

 

社会を恨む自分を見て自身を恨む

 

一一一一一一一一一一

 

すんでいるマンションの屋上、時計は既に朝の2時を指していた。

 

一一一一一一一一一一

 

「さてと……」

 

俺は吸っていた煙草の火をコンクリートに擦り付けて消す。紅い火の粉が飛び散った。

 

季節は既に桜も散って夏に入っていたいた。夏に月が見れるとは運がいい。

 

俺は呑んでいたウィスキーの瓶を置く。コンクリートとガラスの軽く高い音が響く。

 

俺は靴を揃え、遺書を置き、花を添える。近くの花屋で竜胆を買ってしまった。

 

メモを取りだし明日の予定を確認する。明日、俺がいなくなったら困るだろうなと思いながらほくそ笑む。相変わらず性格が悪い。

 

風が吹き抜け、スーツを揺らす。新しい年度に備えて3月に買ったがこんなにも早く着なくなるとは思っていなかった。

 

こんな時間なら皆夢の中だろう。子供ならヒーローになりきっている時間帯だ。

 

俺が死んだらどこへ行くのだろうか。天国か地獄か……。やっぱり地獄だろうな。

 

星の瞬きを見ながらもう一本取りだし火をつける。膝も笑っているしビビっているのだろう。

 

第三次世界大戦も終わり平和になったはずなのにな……。俺の周りに平和はなかなか来てくれないもんだな。

 

そういえば、霊って言うのは自分が生前いったことがある場所にしか行けないらしい。大学にいれば会えるだろ……。

 

死ぬ前に校長と教頭の頭ぶっ叩けば良かったかな……。何が「長いものには巻かれることも大切」だよ。胡麻すり供が……。

 

思い返せば人生茨の道だったな。大学4年の夏休みからだったっけな。

 

そういえばB○○K・○FFに本返してねぇな。

 

 

 

 

……まぁいいか。

 

 

 

 

 

「今晩は、相模さん。」

 

「誰だ?」

 

「しがない一匹の妖怪です。」

 

「俺の死体でも食いに来たのか?」

 

「そんなことしませんよ。それに……驚かないんですね。」

 

「若い頃に二人ミサキに絡まれていたからな。それに、今から死ぬんだから自暴自棄なのかもな。」

 

「二人ミサキに絡まれる人生は楽しそうですね。」

 

「愉しかったよ。……あの頃はな。」

 

「ところで」

 

「ん?」

 

「今日で丁度998年です。 」

 

「何がだ?」

 

「とある約束をしてから丁度998年経ちました」

 

「長生きなんだな。」

 

「妖怪ですからね。」

 

「なるほどな。」

 

「死ぬんですか?」

 

「そうだな。」

 

「死ぬのなら死に場所を与えましょうか?」

 

「何でそんなことをしてくれるんだ?」

 

「私が貴方に生きて欲しいと考えているからです。」

 

「妖怪に好かれるとは俺の人生も捨てたもんじゃないかもな。」

 

「そうですね。」

 

「連れていってもらえるか?」

 

「はい♪それでは改めて……」

「死に場所を探しているなら付いてきなさい。」

 

「言い直す必要はあるのか?」

 

「こういうのは雰囲気が大切なんですよ。で、どうしますか?付いてくれば誰にも迷惑をかけずに死ぬことができますよ。」

 

「……お前、俺の性格を知ってて言ってるだろ。」

 

「さぁ?只一つヒントを言うなら私は多くのことを知っていますが全知全能の神ではないってことですね。」

 

「なるほどな。」

 

「で、どうしますか?付いてきますか?ここで死にますか?」

 

「付いていくよ。」

 

「では、1名様御案内♪」

 

「ところでお前、名前は?」

 

「私は幻想郷の賢者、スキマ妖怪の『八雲紫』と申します。以後、お見知りおきを……」

 

ここで意識が途切れた。




以前から宣伝していた漸夜様の『東方職人録』へのコラボ話が、今日『東方職人録』にて投稿されました。

よろしければご覧ください。

そして漸夜様、こんなにもコラボしにくい作品は他にはないと思いますがコラボしてくださりありがとうございました。


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長野旅行(夜)

「蓮子、こんな時間にどうしたの?」

 

「ちょっと冒険をしようと思ったの。」

 

「どうしたの?」

 

「先輩が来なかったから土産話でもしてあげようと思ってね。」

 

「そんなことで私を連れ出したの!?」

 

「いいじゃん、いいじゃん。先輩へのお土産が鉄輪だけっていうのも寂しいしね。」

 

「そうだけど……。」

 

「それなら、早く行こうよ。」

 

「うん……。」

 

~~~~

 

「夜の神社と言うのは風情があっていいですな~。」

 

「そうね……。」

 

「どったの、メリー?」

 

「何でもない。ただ……」

 

「ただ?」

 

「……ううん。やっぱり何でもない。」

 

「ふーん……。変なメリー。」

 

ガサッ!!

 

「何かいる!?」

 

「風か動物でしょ?気にしない、気にしない。」

 

「うん……。」

 

「さてと……。先輩に電話してやろうかな。」

 

「何で?」

 

「何でって羨ましがるかなぁって思ってね。真夜中の神社、美女と二人っきり。こんなシチュエーション喜ばない男はいないよ。」

 

「美女と一緒にいるのが女じゃなかったらの話でしょ?」

 

「まぁね。……あれ?」

 

「どうしたの?」

 

「先輩でないな~。」

 

「何時だと思ってるのよ。とっくに寝てるんでしょ。」

 

「いや、男子大学生が夏休みの深夜2時に寝ているはずがない。」

 

「どうして言い切れるのよ。」

 

「先輩普段からこの時間起きてるんだもん。自堕落になる夏休みに普段より早く寝るはずがない。」

 

「何であなたが知っているの?」

 

「だって、たまに授業のこととかでこの時間帯に先輩んちに行ってるから……ね。」

 

「それなら、先輩に話しても羨ましがらないんじゃないの?」

 

「何で?」

 

「だって普段から深夜、密室、美女と二人きりっていうシチュエーションを楽しんでるんでしょ?」

 

「なるほど。つーか、美女とか言うな。」

 

「何でよ。」

 

「私ってそういうタイプじゃないし……何か小恥ずかしいじゃん。」

 

「私は事実を言ったつもりよ。」

 

「まず第一、美女って言うのはメリーみたいなふわふわ御嬢様系のことを言うの。私みたいなタイプは似合わないって。」

 

「確かに美女とは違うかもね。」

 

「でしょ!?私はそういうタイプじゃ……」

 

「美女というより美人の方が似合うわね。」

 

「だから、そう言わないでって!! 」

 

「クスクス……」

 

「今日のメリーはどうも調子狂うな……。いつも以上にいじってくるし……。」

 

「『いいだろ?俺にだってこういうときもあるんだよ。』」

 

「先輩のまね?」

 

「そう。」

 

「似てないな~。」

 

「そう?」

 

「先輩はもっとダルそうに話すんじゃない?『いぃだろ?』ってな具合でね。」

 

「お~。」パチパチ

 

「まぁまぁ。」

 

「よく先輩のこと見てるのね。」

 

「本当に今日のメリーは調子が狂うよ……。」



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長野旅行(昼)

前を向けば貴方がいる。

 

後ろを向けばあの子がいる。

 

一昔前の楽しかった頃の話ですよ。

 

一一一一一一一一一一

 

紫は旅行にいきたいらしいです。

 

一一一一一一一一一一

 

「行きましょうよ。」

 

「服はどうするんだ?この格好じゃ周りの目を引くぞ。」

 

「適当な服をここに用意してあります。」

 

「身分証明はどうするんだ?」

 

「ここに適当に作った保険証と免許証があります。下手に目立つことをしなければばれないはずです。」

 

「金は?」

 

「コツコツ貯めた貯蓄がここにあります。7桁はあるはずです。」

 

「……ハァ」

 

「諦めましたか?」

 

「日程は?」

 

「ここにあります。」

 

「ここの移動はどうするんだ?長野から京都、京都から佐賀は遠すぎるだろ。」

 

「スキマで。」

 

「寝泊まりは?」

 

「もちろんスキマでここに帰ってきます。」

 

「……ハァ」

 

「いい加減諦めてください。」

 

「わかったよ。お前には勝てない。」

 

「ものわかりがよくて助かります。」

 

「皮肉だろ?」

 

「もちろんです。」

 

~~~~~~

 

「着替えたぞ。」

 

「フフっ」

 

「なんだ?」

 

「昔と変わらないんですね。」

 

「飾りっぽい服は苦手なんだよ。」

 

「そうでしたね。」

 

「それじゃあ行こうか。」

 

「嫌がっていた割りにはノリノリですね。」

 

「お前からは逃げられないってことがわかったからな。」

 

「そんなことは置いておいて早速行きまさょうか。」

 

「紫。」

 

「何ですか?」

 

「外にいる間はその話し方やめてくれ。」

 

「何でって聞くまででもないですね。」

 

「あぁ、そうしてくれると助かる。」

 

「それじゃあ、いきましょう。」

 

~~~~~~

 

「着きましたよ、先輩。」

 

「そうだな。思ったよりも長かったな。」

 

「何言ってるんですか?先輩はずっと寝てたじゃないですか?」

 

「いいだろ?昨日もずっと本読んでたんだからな。それにあの電車揺れないから寝やすかったんだよ。」

 

「確かにリニアは振動も少ないですし寝るには最適ですけど……」

 

「メリーは電車のっている間ずっと寂しそうにしてたけど何かあったのかな~?」

 

「蓮子、あなたも寝るからでしょ?二人とも滋賀に入った辺りからずっと寝てるから退屈だったのよ。」

 

「まぁまぁ。そんなことよりとりあえず荷物置きに行かないか?重たくて堪らん。」

 

「何言ってるんですか?これからバスですよ。」

 

「バスか……。」

 

「宇佐見どうしたんだ?」

 

「いや、着いたと思ったのにまだまだ移動かと思うと……。」

 

「仕方ないでしょ?諏訪大社の近くに泊まりたいって言ったのは蓮子でしょ?」

 

「それはそうだけど……」

 

「……おい、乗るバスってあれじゃないのか?」

 

「蓮子!先輩!走って!!あれ逃したら一時間は来ないわよ!」

 

「待てってこっちは寝起きで体がだるいんだぞ。」

 

「知りませんよ。先輩が寝るからでしょ。」

 

「ほら、先輩。走って走って。」

 

「はいはい。」

 

 

~~~~~~

 

「す~わた~いしゃ~!」

 

「楽しそうで何よりだな。」

 

「相模さん、ここ禁煙ですよ。」

 

「はいはい。」

 

「来ちゃいましたね。諏訪大社。」

 

「いつもより楽しそうだな。」

 

「いいじゃないですか。楽しまなきゃ損ですよ。」

 

「そんなもんか?」

 

「そうですよ。そっかくの旅行なんだから楽しみましょうよ。」

 

「それもそうだな。」

 

「ほら、相模さん見てください。かわいい絵馬がありますよ。」タッタッタッ

 

「あんまりはしゃぎすぎると迷子になるぞ。」



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楽園の素敵なスキマさん

見たまま起きてるような

 

起きたまま夢を見てるような

 

地を歩きながら空を飛ぶような

 

そんな気分でした。

 

――――――――――

 

朱と白に包まれた少女が縁側で茶を啜る。

 

どこか儚げで空を見上げている。

 

――――――――――

 

ズゾゾゾ~

「はぁ~。やっぱり夏はこれよね♪縁側でお茶を啜る。……余計なのさえいなければね……」

 

「私がいてもいなくても、夏が来ようとも来なくとも貴方は一年中そうしてるでしょ」

 

「失礼ね。四季折々の恵みを享受し、お茶を啜り、幻想郷の平和を見守るのが博麗の巫女の勤めでしょ?」

 

「そんな交通整理のおじさんみたいな仕事を貴女に課した記憶はないわよ……それに」ヒョイ

 

「あっ」

 

「四季折々の恵みを享受するなら夏に御煎餅を食べるべきじゃないわよね」

 

「じゃあ、何をお茶請けに生きればいいのよ」

 

「浅漬けなんてどう?キュウリとかナスとか。塩気もあって美味しいかもしれないわよ」

 

「浅漬けね……」

 

「どうかしら?」

 

「ちょっとババ臭いけどいいかもしれないわね」

 

「心が枯れてる貴女にババ臭いなんて言われたくないわよ」

 

「いいじゃない。100倍くらい生きてるんだから十分ババァよ」

 

「あら、私は永遠の二十歳のつもりよ。貴女みたいに心まで枯れているつもりはないわ」

 

「へぇ、永遠の17才なんて言うと思ったけど、意外と現実を見てるのね」

 

「私の時計は998年前に止まったのよ。正確には998年と364日と……今ちょうどお昼だから、あと、12時間ね」

 

「細かいわね」

 

「だって忘れるわけないじゃない。私にとってのターニングポイントよ」

 

「紫がこれ以上妖怪じみた行動をとらないように祈るわ」

 

「そんなことはしないわよ。私は998年と364日と11時間……ごju……」

 

「永い!結論だけ述べなさい。そうしないと退屈であんたを退治しちゃうから」

 

「わかったわ。私はずっと妖怪なんですから、今更、妖怪の理について人間から教え乞うつもりはないわ」

 

「あっそ」

 

「つれないじゃない」

 

「今更あんたに妖怪らしさについて解説する気はないわ」

 

「いつも通りで安心したわ」

 

「私はいつも通りよ。あんたがいなくても、夏が来なくてもね。春が来ないのはもうこりごりだけど」

 

「強がりさんね。貴女は強い。肉体的にも精神的にも、強すぎるくらいにね。少しは甘えることを覚えるべきよ」

 

「無理よ。これが私だし、これが博麗の巫女だから」

 

「明日、一人男が来るわ」

 

「あんたのおやつ?」

 

「違うわよ。食べられない人よ。私にとって、そしてきっと、貴女にとっても」

 

「イケメンなら食べてあげるけど?」

 

「止めておきなさい。まぁ、見てくれはとにかく、かっこいいわよ」

 

「あんたがそこまで言うなら楽しみにしてあげる」

 

「心待にしているといいわ。あと……」

 

「何?」

 

「今日の真夜中、結界を緩めておいてちょうだい。ちょっとお出掛けしてくるから」

 

「真夜中と言われてもね何時間後かしら?正確な時間もいってくれると助かるわ」

 

「今が12時10分と42秒だから……あと、11時間49分18秒ね」

 

「わかったわよ。やればいいんでしょ?」

 

「そうよ。やればいいの」



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京都にて(昼)

夢のような時間は長くても2時間です

 

残りは現実の時間です

 

ーーーーーーーーーー

 

授業も終わり部室棟へ向かう。

 

一年前の夏のある日の夢のような時間の思い出

 

ーーーーーーーーーー

 

「遅くなったな」

 

A「3年生は授業も多いですから仕方ないですよ」

 

B「それに研究室に顔出さないといけないもんね」

 

A「それにしても少し遅い気がしますけどね」

 

B「そういえばそうですよね。『今日は他の人が実験室を占領してるからすることないし、顔だけ出してくるからそこまで遅くならない』ってメール送りましたよね?」

 

「……責めてるのか?」

 

A「まさか、そんなことありませんよ。ただいつもより遅いから心配していたんですよ。ねぇ、蓮子?」

 

B「そうですよ」

 

「はぁ……。で、俺は何をしたらいいんだ?」

 

A「そう言えば蓮子、最近隣の駅に新しい喫茶店ができたららしいわよ」

 

B「おっ、それはいいね」

 

A「そのお店、美味しいらしいし今度二人で行きましょうよ」

 

B「……えっと……そうしようかな?」チラッ

 

「……」

 

A「……先輩」

 

「ん?」

 

A「全席禁煙ですけど、よろしければ一緒にどうですか?」

 

B「私、大きいパフェが食べたいなー。一人で食べきれないくらいのやつ」

 

A「それ、いいわね。じゃあ先輩お願いしますね」フフッ

 

「わかってるよ」

 

~~~~

 

B「これいいんじゃないんですか?『カップル限定!!ダブルパフェ300円引き』らしいですよ」

 

A「それいいですね。先輩、頼みましょうよ」

 

「そうだな……」

 

B「で、」

 

「ん?」

 

A「先輩はどっちを選ぶんですか?」

 

「二人とも大事な後輩だ。選ぶことなんてできねぇよ」

 

B「だってよ、メリー」

 

A「先輩は本当にヘタレよね。ねぇ、蓮子」

 

「そういうなよ。おれもヘタレたくてヘタレてる訳じゃねぇんだからよ」ピンポーン

 

店員「はい」

 

「カップルパフェ一つ、ショートケーキ、あとティーソーダ。……お前らは?」

 

A「レモンティーで」

 

B「私はアイスコーヒーで」

 

「以上で」

 

店員「かしこまりました。しばらくお待ちください」

 

「すいません」

 

店員「どうかなさいましたか?」

 

「あと、灰皿もらっていいですか?」

 

店員「すいません。うちは全席禁煙となっておりますので……お煙草でしたら入り口横に喫煙所がございますのでそちらでお吸いになってください」

 

「不便な店だな……お洒落な店内、美味しい飲み物、旨い煙草……最高じゃないか」

 

A「この間言いましたよね?全席禁煙だって」

 

「それは聞いたけどな……」

 

B「駄々こねないでください。いつものクールぶっている姿が台無しですよ」

 

「クールぶってるって言うな。……仕方ねぇ、5分ぐらい外にいるわ」

 

A「早く戻ってきてくださいよ」

 

B「戻ってこなかったらパフェ二人で食べちゃいますよ」

 

「そうしてくれ」




さて、何から話しましょうか……

まず、お気に入り登録が100人到達しました
読者の皆様、お気に入り登録がしてくださった皆様、評価してくださった皆様、すべての方々のお陰です

これからもボチボチでよろしくお願いします

それと、今頃のはなしですが、紺珠伝出ましたね。月の話なのでこの物語には純狐様も星条旗ちゃんも変なTシャツさんも出てきません。あしからず。

投稿ペース上げられるよう頑張ります


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京都にて(夜)

起きてしまえばあの頃が夢になってしまうような気がして……目を醒ましてしまうと今が現実になってしまいそうで……

 

だから私は眠ります。独りで暗い隙間のなかで……

 

――――――――――

 

長野を満喫して賢者様はそこそこ満足したようです。

 

しかし、まだ足りないらしいです。

 

――――――――――

 

「相模さん、次は京都に行きましょうよ」

 

「京都まで何しに行くんだ?八ッ橋なら嫌いだから食べないぞ」

 

「大学に行くんですよ」

 

「行ったらバレるだろ。岡山教授はまだ大学で研究してるんだぞ?」

 

「夜にいけば無問題(もーまんたい)ですよ」

 

「行きたくないって言ったら?」

 

「ボッシュートになります」

 

「いつ行くんだ?」

 

「今からです」

 

「落とすのか?」

 

「はい♪」スキマ

 

――――――

 

「懐かしいな」

 

「そうですね。1000年振りですからね」

 

「俺は大学卒業してからもちょくちょく顔を出してたけどな」

 

「意外と義理堅いんですねね」

 

「人が義理と人情忘れちゃお仕舞いだよ。何だかんだ言ってヒトは心があってこその人だからな」

 

「あら、理系脳の割りにファンタジステイックなことを言うのですね」

 

「世の中にはSTS という言葉があってだな……」

 

「それは在学中に耳にタコができるほど聞きましたよ。」

 

「そうだったな」

 

「……着きましたね」

 

「部室棟か……。示し会わせてもないのに自然と歩いてたな」

 

「人と言うのは思い出に浸りたくなるものですよ」

 

「妖怪がよく言う」

 

「それもそうですね」

 

「秘封倶楽部は俺の卒業と同時に廃部になったぞ」

 

「二人も死者を出してよく半年も保ちましたね」

 

「俺に感謝してくれ。お前らを失った悲しみから意味もなく部室に入り浸るようになった振りをしてやったんだからな」

 

「振りなんですか?」

 

「振りだよ」

 

「振りなんですね」フフフ

 

「それと……」

 

「何ですか?」

 

「二人の鎮魂を願ってそこに石碑を建ててあるぞ」

 

「あっ、本当ですね。マエリベリー・ハーン……宇佐見蓮子……。残念ですけど寂れてますね……」

 

「まぁ、最初の頃は華とか置いてあったんだけどな。10年前のことになるからな……」

 

「フフ……」

 

「どうした?」

 

「ここに先輩の名前も彫ってありますよ」

 

「相模友人……本当だな……」

 

「よかった……」

 

「あぁ、まだ、3人でいられるらしいな」

 

「ええ、それに……」

 

「ん?」

 

「先輩、影が薄いから忘れられているかと思っていました」

 

「失礼なやつだな」

 

「昔からそうですよ」

 

「そうだったな」

 

「そういえば……久しぶりにやりませんか?」

 

「確か、昔と同じ場所に隠してあるぞ」

 

「伝統は受け継がれるものですね」グローブポイッ

 

「悪い伝統の方がよく伝わっているんだがな」グローブパシッ

 

「あら、こんなところに学生会のグローブとボールを隠し始めたのは誰でしたっけ?」ピュッ

 

「それくらい誰でもするだろ」ポス ビュッ

 

「一時期問題になってましたよね?」バヂッ ピュッ

 

「騒ぐことでもないのにな」パスッ ビュッ

 

「皆さん真面目なんですよ。……誰かさんと違って」ビチッ ヒュッ

 

「俺は真面目な大学生だったよ。……大学生にしてはな」パスッ ビュッ

 

「……」バヂッ

 

「ほら、早く投げ返せよ」グローブパタパタ

 

「もう少し手加減してください。手が痛いです……「



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下野伊予(下野さきの母)の場合

人は悪を見つける。

 

例え、悪が悪でなくとも、悪を見つけ、悪を裁く。

 

例え、裁く力がなくとも、悪を裁き、首を捌き、掲げる。

 

――――――――――

 

校長に呼び出される。

 

恐らく、『例の件』だろう。

 

――――――――――

 

「失礼します」

 

「あら、相模先生、こんにちは。」

 

「これはこれは、下野PTA会長様。今日はどういったご用件で?」

 

「先日、うちのさきが相模先生に脅されたと泣いていましたので、事実確認に参っただけですわ」

 

「で、本心は?」

 

「本心は隠すものですよ。それは相模先生の得意分野では?」

 

「それもそうですね。じゃあ始めましょうか」

 

「では、一昨日の放課後、さきに対して罵声を浴びせた、これは事実でよろしかったですか?」

 

「間違いありません。確かに一昨日の放課後会長さんの娘さんに対して大声で指導を行いました」

 

「その事に関して、何か言うことはございませんか?」

 

「ひとつあるとすれば、もう一度怒鳴り付けたいですね」

 

「罵声を浴びせることが生徒指導になるとお考えですか?」

 

「もちろん、感情的になっていたことは事実であり、私としてもよい生徒指導ではなかったと考える点は多々あります」

 

「ならば娘に何か一言言うべきでは?」

 

「ですから、私から娘さんに対して謝ることも、私の考えを訂正することもしません。指導の方法に関しては不十分であったと思う点もありますが……」

 

「では、自らの非を認めるのですね?」

 

「話は最後まで聞けよ。幼稚園で教わらなかったのかメガネザル」ボソッ

 

「何か言いましたか?」

 

「いいえ、何も」

 

「コホン、先生は指導に関して不備があったとおっしゃいましたね?」

 

「はい、言いました」

 

「自ら、過ちを犯したことを認めるんですね?」

 

「認めませんよ。まず第一に、娘さんが他校の男子生徒と繁華街で遊んでいた時間は深夜であり、指導を受けるべき時間帯です。さらにあの繁華街はここ数ヵ月、少年犯罪が増加傾向にあり、近辺の中学校、高校に対して、県警の方から指導を強化するように通達を受けています。」

 

「……例えそうであったとしても、児童生徒に対する体罰は禁止されています」

 

「それはもちろん心得ています。しかし、そこで示す体罰というのは罰として成立しないほど過酷なものかどうか重大な論点です。例えば、生徒が授業に集中しないため、5分間の起立を命じたとすればこれは体罰になりますか?」

 

「なります。肉体的、精神的苦痛を与えることが目的であるため、それは体罰です」

 

「正解は否です。確かに肉体的、精神的苦痛を与えたかもしれませんが、5分間の起立は授業を聞かない者への罰として妥当であると判断されるからです。このように犯した罪、そしてそれに対する罰、これら二つが釣り合ってこそ指導は意味を持つのです」

 

「前時代的考えです。学校は学問を修得すべき場所です。子供の人格形成は家庭に一任するのがよいのでは?」

 

「確かにそれが一番正しい形なのかもしれません。しかし、テメェみたくガキかわいさに怒れねぇような馬鹿な親がいるからこっちに余計な仕事が回ってきてるんだよ」

 

「本性が出ていますわよ。こっちは貴方の言霊が必要なのですから速くゲロって頂けると幸いですわ」

 

「ならば結論を言いましょう。お宅の娘さんは社会的によくないことを、端的に言えば、悪いことをしました。それは普通であれば警察の厄介になるようなことです。しかし、幸いにも今回はそのような事態にはなりませんでした。しかし、今後同じように社会的によくないことをした場合、いつか必ず最悪の結果を迎えてしまいます。そうならないために、私は人として少し厳しい口調ではありましたが、娘さんに対して適切な指導を適切なタイミングで適切な方法で行いました」

 

「……」

 

「文句がなければこれで失礼します」

 

「相模先生……」

 

「なんでしょうか?」

 

「京都の大学を卒業されたらしいですわね」

 

「はい」

 

「在学中、何でもサークル活動に熱を出されていたとか」

 

「そんな熱血的な活動を行うサークルではなかったですけどね」

 

「楽しかったのでしょうね」

 

「そうですね、いい思い出だったと思っています」

 

「さぞ素晴らしい仲間と大学生活を楽しんだんでしょうね」

 

「そうですね。楽しんでましたよ。少なくともあの頃は」



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九州の冬

人というのは誠に自分勝手だ。

 

弱者を見つけ、弱者を虐げる。

 

そのくせ、自分が弱者になったときのことは考えない

 

――――――――――

 

九州の冬

 

懐かしく、思っていたよりも冷える。

 

空は曇り、空気は湿っている。

 

――――――――――

 

「到着しました」

 

「ここか……」

 

「はい。相模さんと再会したビルの屋上です」

 

「二年半か。長かったな」

 

「色々ありましたからね。私も最終学歴が大学中退、高卒になるとは夢にも思いませんでした」

 

「妖怪も学歴を気にする時代なのか……難儀だな」

 

「リニアモーターカーが走り、太陽光だけで必要な電力を賄えるようになりましたからね。時代は移り行きます」

 

「宇佐見のばぁちゃんの話だったっけな?」

 

「はい。あの娘が生きた時代と今は変わりました。そして、私たちが産まれた時代とも変わりつつあります」

 

「俺は死んでよかったのだろうか?そう考える日がある」

 

「私は先輩には生きていて欲しかった。先輩のクールぶったキャラに相応しくない無邪気で無垢な笑顔が好きでした」

 

「俺はいつから笑えなくなった?いつから笑えるようになった?」

 

「先輩は作り笑いが下手です」

 

「そうか、まだ笑えてないんだな」

 

「先輩は人に気を使いすぎです。人のために笑って、人のために怒って、人のために怒られて……もっと自分のために生きることも出来たでしょう?」

 

「しょうがないさ。生きるのが嫌になったんだから」

 

「私たちのことは忘れてしまえばよかったのに……そう考える日があります」

 

「俺はあったヒトの顔は忘れないんだよ」

 

「適当に生きているくせに、適当になれない……、不憫な人です」

 

「昔からだよ」

 

「知っています。千年間、片時もあの日々を忘れたことはありません」

 

「あの日々が夢なら、あの出来事が夢なら何度もそう思った」

 

「現実です」

 

「もしここにいる俺が夢で目が覚めたら部室にいるのでは、そう思う」

 

「現実です」

 

「もしかしたら俺は今、ここから落ちている最中で走馬灯のようなものを見ているのでは、そう思っている」

 

「現実です」

 

「変わらないか」

 

「変えられないです」

 

「俺は今、どんな顔になってる?」

 

「泣きそうな笑顔です」

 

「この笑顔は本物か?」

 

「偽物です。目が泣いています」

 

「笑いかたを忘れちまったかな?」

 

「先輩は笑うとき人の目を見ていました。でも、今は俯いて笑うようになりました」

 

「空に向かっては笑えねぇよ」

 

「たまにはあの娘に笑顔を見せてあげたらどうですか?」

 

「向ける顔がないんだよ」

 

「案外すぐ許してくれるかもしれませんよ」

 

「案外、そこの物陰から出てくるかもしれないな」

 

「案外、笑いながら見ているかもしれませんね」

 

「案外、ここにいるのかもしれないな」

 

「……」

 

「案外、死んでないかもしれないな」

 

「辛いなら、帰りましょうか?」

 

「月だけ見て帰るよ。ウサギが見えるかもしれねぇからな」




余談ですが、夏の三角形は今でも見えます


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私も昔は大学生でした

夏の日射しが照りつける。

 

京都の盆地特有の蒸し暑さと同時に日射しによる痛さすらも感じる。こういう日は早く家に帰ってビールと枝豆で一杯したいものである。

 

丁度1週間前に誕生日を迎え、これまでみたく隠れながら煙草を吸う必要もない。居酒屋で年齢確認されても運転免許証を見せれば全てが解決する。

 

たった一つ年を取っただけで世界が大きく変わった。

 

大学2年生としてルームの配属を考え出すこの季節、俺は緩いことで有名な岡山教授のルームに入ることが内定している。

 

これは岡山教授の研究内容がいわゆる「トンデモ物理学」といわれる難解なもので学生からの人気がなかったので、希望者が今のところ俺一人であるからだ。

 

そして、気になるのは俺の前を弥次郎兵衛のようにフラフラと歩く段ボールが徐々に俺の方に近づいていることである。

 

困ったことに、俺が左に避ければ左に傾き、右に避ければ右に傾く。なかなかに感度のよい赤外線レーダーを取り付けているようだ。

 

残念ながら俺の手元にはフレアも赤外線ジャマーもない。

 

ここはアニメでの王道通り、誘導弾をギリギリまで引き付けることにする。

 

当たる寸前まで引き付け、引き付け、惹き付け……左に避ける。

 

その瞬間、段ボールが左に傾く。

 

予想通り。

 

左に傾いたのを確認した瞬間、右に急転回し、避ける。

 

完璧であった。俺がこの物語の主人公であれば段ボールを華麗に避け、先程までと同じように物理学教棟へと歩いていただろう。

 

 

しかし、現実は俺が主役ではなかったらしい。

 

右に避けた……完璧なはずであった。

 

段ボールを気にかけ、左を向くと、目と鼻の先に茶色の壁があった。その壁は、少しずつこちらに向かっている。

 

避けるのは無理だった。

 

「キャッ」という、段ボールのわりには高く可愛らしい声と共に想像以上の重力が俺にかかる。

 

「あいたたた」

 

可愛らしい声は段ボールのものではなかったらしい。段ボールにしては柔らかい感触が俺のからだの表の面、すなわち腹側に当たる。

 

甘い薫り、少しの湿気、そして何よりも俺よりも軽いようなのでとりあえず安心した。

 

「大丈夫ですか?」

 

危害を加えた相手を心配するなら先ずはお前が乗っている物体に気を向けるべきだろう。

 

「とりあえず降りてくれ」

 

重くて敵わん、とは言えなかった。

 

相手も乗っている物体の正体に気がついたらしく、慌てて立ち上がる。

 

側に転がっている黒いつば広帽子を拾い上げ、後ろ側を少し下げて被る。肩ほどまで伸びた黒髪、左耳の辺りの髪を一房に纏めている。赤い刺繍の入った白いワイシャツに赤いネクタイをしている。

 

見たことがある。そう思った。

 

恐らく一年生。物理学教棟の近くでときどき見掛ける女。授業のないときは心理学部の一年生とよくつるんでいるやつだ。

 

件のそいつは一年生でありながら教授の中で押し付けあいが始まっているとも聞いた。どうやら問題児らしく、度々その言動が俺の耳にも入って来ていた。

 

そして、そいつは謝ることも礼を言うこともなく、俺の顔を覗き込んでいた。

 

「やっぱり」と、言うと静かに問題児の口が開いた。

 

「白シャツジーパンで煙草の人ですね」

 

どうやら俺には不可解で不名誉かつ不愉快そして不思議な渾名が不親切な連中に付けられているらしい。

 

確かに、普段から服を選ぶのも買うのも嫌いで同じ白いワイシャツとジーパンを愛用している。そして、授業の合間や手持ち無沙汰なときには十中八九喫煙所にいる。

 

しかし、その渾名はどうだろうか。端的に特徴を示すのが渾名であるはずだ。そう思いながら、不名誉で不親切とあるピアノ奏者を思い出していた。

 

しかし、論点はそこではない。

 

「で、だ」

 

俺は口を開き、つば広帽子の女に話しかける。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

女は特に気にかけるようすもなく、俺に変な渾名を着けていることも詫びる様子もなく、まっすぐと、ツリ目がちな目を向ける。

 

こいつに言うべきことは幾らでもある。

 

ぶつかっといて言うことは無いんか?

物理学科の一年だよな?

名前は?

危ねぇだろうが!

重いなら手伝うぞ

 

しかし、俺の口から予想だにしなかった言葉が出てきてしまった。

 

そして、この一言が俺とこいつとあいつの運命を変えてしまったのかもしれない。

 

「おまえ、心理学部のやつと問題ばっかり起こしてるらしいな。何やってるんだ?」

 

何故、このようなことを言ってしまうのだろうか。確かに普段から気になる点ではあった。どれだけ素行に問題がある生徒がいてもここまで噂になることはこれまでなかった。未成年で煙草を吸おうが、交通事故を起こそうがその学科内で笑い話になる程度でしかない。ここは規模の大きな大学だ。噂話が大学中に拡がることはそう多くない。

しかし、こいつは違う。入学してわずか、数ヵ月で既に『問題児』というレッテルが縫い付けられている。外れないレッテルはタトゥーと変わらない。何処に行っても危険因子として見られ、弾かれ続けるだろう。

そこまでして得たい何かがこの女にはあるのだろう。そして、俺はそれを知りたい。

 

「白シャツジーパンで煙草の人さん、『神隠し』って知ってますか?」

 

「迷子の最終到達点だろ?残念ながら非科学的なものの存在を認知するほど俺は優しくないぞ」

 

昔調べたことがある。神隠しと呼ばれる現象と伝承について、様々な文献を読み漁ったがどの伝承も出典は「暗い山で独り遊んでいると山の神に拐われる」という、つまりは「一人は危ないから早く帰ってこい」という親心からの警告というものがほとんどであった。

 

神隠しに関する記録についても、江戸時代以前の山岳部の集落におけるものがほとんどで山で迷子になった子供が帰れなかったという結論が出た。

さらに調べると神隠しがあった村の山を挟んで反対側の村で突然子供が現れたという記録も残されている。

 

これ以上語る必要はないと思っていた。

 

「では、神隠しの頻発する長野県のとある神社の敷地内に別の時空、もしくは世界に通じている可能性のある空間の裂け目、すなわち結界があるとすれば」

 

俺は女がすべてを言い終わる前に、女の手を掴み、走った。

 

端から見たら変質者を想起するであろう。男が女の手を引き、人気の無いところへ連れ込もうとしているのだから。

 

俺の内心はそんな外から見る評価など気にしていなかった、気にする余裕がなかった。こいつはとんでもないことを口走ろうとしている。それだけが俺のニューロンを駆け巡った。

 

教棟の裏につき、アホなことを口走ろうとした阿呆を壁に押さえつける。

 

「名前は?」

 

また、想定外のことを聞いてしまった。警告しようとしていた。アホなことは止めろと注意するつもりだった。

俺の口と脳を結ぶ神経はどうやら正常に活動していないらしい。

 

「宇佐見蓮子です。理学部物理学科、一回生です。専攻は理論物理。白シャツジーパンで煙草の人さんは?」

 

困ったものだ。

 

何が困ったかと言えば、この宇佐見というアホ女の持つ肩書きについてだ。

 

何故こんなにも運が悪いのだろうか。段ボールを避けることができなかったのがそもそもの始まりだ。誰を恨めばいい?ガリレイか?ニュートンか?ゴルジか?カハールか?

 

それよりもだ。やはり俺の口は不調だ。そうこう考えているうちに勝手に動き始めていた。

 

「理学部物理学科理論物理学専攻、相模友人。二回生だ」

 

俺は後悔した。恐らく人生で最も後悔した一瞬であろう。小学生のときに勢いで告白して玉砕したとき以上に口が動いてしまった。

 

何故、このようなことを言ってしまうのだろう。何故、こいつの前ではこんなにも話してしまうのだろう。

 

堂々巡りの到着点はやはり堂々巡りの始まりである。

 

アルキメデスを恨むべきだったか。

 

「私たちは空間の裂け目を観測し、実際に異なる時空、もしくは世界に移転した経験もあります」

 

どうやら授業をまともに受けずに旅行ばかりしているからという理由で問題視されていた訳では無いらしい。

 

『禁忌』そう呼ぶのが最も相応しい、この時代の、この時代になったからこそ触れてはならぬ部分にこいつとその仲間は土足で踏み込んでいる。

 

こいつは危険だ。そう思わずにはいられない。触れるべきではない、してはいけない……

 

「御前、山にある鉄塔の金網乗り越えたことがあるだろう」

 

こいつは子供と変わらない。不思議だから、気になるから、知りたいから……それだけをエネルギーにして、それだけを規準にして、行動する。止めろと言われたら言われただけしたくなるそういう心理。警告を鵜呑みにするのではなくその真意を見定めたいと思う心理。そして得られた真理のみを信じる

 

「御前、根っからの物理屋だな」

 

そう呟いた。俺もそうだった。金網を何度も越えた。電柱を登った。溜め池に飛び込んだりもした。

 

大人の言うことを聞きたくないのではなく、何故危険なのか、何が危険なのか、どういった条件で危険なのか、それが知りたかった。

 

「先輩も同じ臭いがします。何故、結界を禁忌として扱うのか、本当に危険なものなのか、結界の先には何があるのか知りたくないですか?」

 

惹かれる。

 

魅せられる。

 

求めている。

 

真理を探したい。この世の観測者でありたい。

 

物理屋の血が騒いだ。

 

禁忌に触れることへの恐怖も感じたが、その恐怖が伝達しきる前に俺の足はサークル棟へと赴いていた。




たまには趣向を変えてみるのもいいと思います。


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2年前、幻想郷

夏の夜、身を投げようとしていた。それを妖怪に止められ、気がつくと神社にいた。

 

寝ている状態から身体を起こして辺りを見渡すが、やはり神社である。

 

足元の石畳、目の前の朱い鳥居、そして背後にある木造、瓦の屋根、『奉納』と大きくかかれた木箱。

 

……間違いなく神社である。

 

見慣れぬ光景に周囲を見回していると、境内の奥、神社の裏手から人が歩いてくる音が聞こえてきた。

 

肩越しに背後を見る。

 

「ここの住人の格好じゃないわね」

 

音の出所に視線を送ると、少女が立っていた。ここが神社であり、若い少女ということで巫女ということは何となくわかる。しかし、格好がどうも巫女らしくない。紅白を基調とする着物、ここまではよい。

 

だがその巫女は、白衣の上から紅いベストのようなものを羽織り、袴はミニスカートのように加工し、その丈は膝よりも高く、襟にはフリルが施され、そして何よりも袖が独立しており、肩を露出させていた。

 

「くだらない質問をしてもいいか?」

 

立ち上がり、少女の方へ身体を向け体についた砂を叩きながら尋ねる。

 

「何かしら?私に答えられる範囲なら答えるわよ」

 

少女はどうやらこの神社について、俺の措かれている状況について詳しいらしい。

 

「その格好、本当に巫女か?」

 

尻を叩きながら尋ねる。

 

少女は袖で口元を隠して笑っていた。

 

「変な男ね。紫がここに呼んだのも頷けるわ」

 

「楽しそうなところ申し訳ないが、お前は本当に巫女なんだな?」

 

改めて聞く。質問に答えてもらわなければ話も進まない。

 

少女は一歩、また一歩と歩き、賽銭箱の前に立った。

 

そして足を肩幅に開く。

 

「ここは博麗神社よ。そして、私はここの巫女、博霊霊夢よ」

 

腕を組んでまで偉そうなやつだと思った。

 

しかし、やはり巫女なのか。以前見たことのあるコスプレの巫女の方がより巫女らしい格好をしていたんだがな。

 

しかし、神社と同じく『博霊』を名乗っているということは神主は世襲で決められるのだろうか?そして、彼女はその娘ということになるのか?

 

「色々と失礼なことを考えているようだけど、れっきとした巫女よ。そして、ここには神主はいないわ。神職は私だけ」

 

俺は「そうか」とだけ呟き辺りを見回した。

 

あいつなら喜ぶだろうな。

 

そんなことを考えていると少女が詰め寄ってきた。

 

俺の顔をまじまじと見ながら「なるほど」と呟いた。

 

「あんた、今置かれている状況に何の疑問もないの?」

 

「正直に言えば疑問だらけだが、ここに死にに来たのからな……。そういった疑問に答えを出す必要もない」

 

彼女にとっては当たり前の疑問であろう。

 

俺に対する反応を見る限り彼女は俺のような突然の訪問者に慣れている。突然妖怪が現れ、気がつけば山の奥、多くの人間がこう尋ねたのだろう。

 

「ここはどこだ。」

「何が起きているんだ。」

 

俺がそのような疑問を持たないことが彼女にとっては疑問なのである。

 

「疑問に思うことはある」

 

近づく彼女の目に向かって答える。

 

「何かしら?」

 

少女は一歩下がり、俺の疑問に答えるつもりらしい。

 

「『八雲紫』はどんなやつだ?」

 

つい数十分前の、ビルの屋上での記憶。酒が入っていたこともあり、確実な記憶とは言えないが確かに覚えている。忘れるはずのない名前。

 

『八雲紫』

 

知らない名前ではない。

 

8年前の夏、俺とあいつが考えた名前。

 

彼女は自分の知ることのみを知ると言っていた。

 

つまり、彼女はこの名前を知っているということになる。

 

少女の方を見ると、御幣を俺の顔へと向けていた。

 

「残念ながらそれは私の知っていることじゃないわ。知っているのはあいつが妖怪で空間の裂目を利用することだけ」

 

「いつ頃からここに住んでいるんだ?」

 

「わからないわ。この郷を創ったっていう記録はあるから数百年はここに住んでいると思うわ」

 

矛盾が生じる。

 

あいつがいなくなったのは10年前、そいつが生まれたのは少なくとも数百年前。

 

どう概算しても数百年の差が生まれる。これは誤差というには大きすぎる。

 

あいつはそいつなのだろうか。

そいつはあいつなのだろうか。

 

「かなり悩んでいるわね。答えは出そう?」

 

少女が尋ねる。俺に向けていた御幣を戻し、今は御幣で左の掌を叩いている。恐らく退屈で手持ち無沙汰なのだろう。

 

「答えは出そうにないな」

 

率直に答える。

 

「緊迫感とかはないのね」

 

巫女は呟く。

 

人は自らのおかれた環境を受け入れ、諦めることでその環境に満足し、生きていく。

 

彼女はそのような経験がないのだろう。諦めることもなく、自身に与えられた殻を破りながら生きてきたのだろう。

 

俺とは違う。

 

敷かれたレールの上を走ることを強要され、そのレールを外れるようならば勘当を匂わせられる。

 

自由を求めて逃れた先にも自由はなく、レールに添って歩かされる日々。

 

『考えさせる授業』という大義名分のもと、学習要領からも逃れられぬ日々。

 

大河を泳ぐつもりの水槽のメダカというべきだろうか。

 

逃れることのできぬ、逃れた先にも待ち構える逃れられぬ壁。

 

そのような人生はこの巫女にはないだろう。

 

「お前は煙か」

 

呟く。風に吹かれるがまま流れ、登り続ける。他からの影響は流すくせに周りに影響を与え続ける。

 

巫女が羨ましく見えた。

 

「私は煙じゃないわ。煙はむしろあんたよ」

 

『博麗の巫女』は言い切った。

 

「自由に漂う振りをして、僅かな風にも吹き消される。何物にも染まらない振りをして、手で扇げば掻き消されてしまう」

 

『博麗の巫女』は静かに、力強く語る。

 

「何でそう言いきれる?顔を見て10分と経っていない筈だが?」

 

「なんとなくよ」

 

深く息を吐く。なんとなくで人の性格を決め付けてもらいたくない。

 

「でも」

 

博麗霊夢は口を止めずに語り続ける。

 

「私の『なんとなく』は何よりも頼りになるわ。現にそうして生きてきた」

 

「不思議なやつだな」

 

「私にとって今一番の不思議はあんたよ。紫を抜いてね」

 

八雲紫

 

どうも知りたがりの性根は治らない。

 

大学四年の夏から8年と数日。また、知りたいものができてしまった。

 

八雲紫について知ってから死んでも遅くはないはずだ。

8年前の話を聞いてからでも遅くないはずだ。




私事ですが、ケータイ買い換えました。


使いづらくてケータイを弄るのも嫌になる今日この頃です。


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幻想郷縁起 英雄伝 『相模友人』

幻想郷縁起をかかれている方をたまたま拝見したので自分も書いてみました。

不服不満あらばお申し付け下さい


本項は次の幻想郷縁起に掲載する予定である、人里のお人好し『相模友人』に関する記述である。八雲紫の検閲を通していないため、このまま掲載されることはないだろうが著者『稗田阿求』の主観が最も多く含まれているともいえる。参考程度に読むことを推奨する。

 

<里の何でも屋>

 

 相模友人 Tomohito Sagami(※1)

 

 職業 よろず屋、教師

 能力 舌を増やす程度の能力

 主な出現場所 人里、博麗神社

 

最近無縁塚に流れ着く外来人が増えた印象がある。八雲紫いわく、外の人間が我々『忘れ去られたものたち』について新たな理解を得始めたのが原因となっているらしい。そして、相模友人は多くの外来人が妖怪に喰われている中、運良く妖怪の餌にならず今日まで生き続けている。(※2)

彼は現在、人里の西の果てで何でも屋を営んでいる。何でも屋とは体の良い言い方であり、話し相手から寺での床下の異音調査まで本当に幅広い仕事を(妖怪や神、仙人を相手に)している。(※3)

彼は昼間に自身の営む万屋にいることが少なく仕事を頼む際には注意が必要である。店にいない場合には人里や博麗神社にいることが比較的多いようである。そこでも見つけることができない場合には日を改めなければならない。(※4)山の巫女はそんな彼のことを『ぴっぴを捕獲するよりは楽』だと話していた。

 

○性格

為人は極めて温厚であり他人と話すときは主に聞き手になることが多いようである。聞き上手であることもあり、彼にたいしてあからさまな敵意を持つ人間は私の知るところにはいない。

特に私は彼と気が合うようで、里や甘味屋で会えばついつい話し込んでしまう。つい先日も私の密かな野望について熱弁してしまった。多くの人妖が彼の話し上手、聞き上手であると感じているらしく、個性の強い人妖が多い幻想郷では彼が良い潤滑剤となっていると言える。

 

○仕事

 前述の通り、彼は安全な人里の中心ではなく、人里の西の果てで店を構えている。人里の中心から遠く、香霖堂が見えるほどの危険地帯であるため、人間はなかなか寄り付かず依頼者のほとんどが妖怪だという。彼になにかを頼みたいとき、急ぎの用事でない限りは彼が人里まで来るのを待つのが賢明である。

仕事ぶりに関しては10人中9人が『普通』と答える程度である。しかし、どのような依頼も決して断らず、決して投げ出さないところを見る限り、彼がいかに誠実な人間かが見てとれる。

顧客の多くが妖怪であり、滅多に人間の客が来ないので儲けはあまり大きくないらしい。(※5)

 

○能力

能力の詳細については今執筆している私も全く知らない。能力の名前についても数日前に八雲紫から聞かされたのみである。これがどのような能力であるのか知ることができるときはいつか来るのだろうか。

 

 

 

 

 

※1 印をもらおうとしたが『信用ならないから』と言われ、ミミズのような線を描かれた。聞けば外ではこれで事足りるらしい

 

※2 これについては様々な意見がある。季節が良かった、昼間でたまたま人が通りがかり拾われた、『たまたま運良く』安全な博麗神社に流れ着いたなど言われているが、真偽はわからない。

 

※3 本人いわく、一番辛かったのは寺の床下の異音調査だそうだ。

 

※4 この記事をかくため会談を行うために三度ほど店に遣いを送ったが一度として店にいなかった。そして、たまたま居酒屋にいたところを捕らえて会談までこぎ着けた。

 

※5 なぜ彼が毎日煙草が吸えているのかは人里の数ある不思議の中の一つである。

 

 



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日の溜まる縁側の

妖怪と知り合い、幻想郷に流れ着いてから日が三度昇った真夏日の昼下り。博麗神社の母屋から庭を臨む縁側に座り、煙草をくわえる。山地であることもあり、湿度も高く、日差しの強さのわりに痛みを感じることはないが、汗が止まらない。先日、博麗霊夢に案内され、人間が多くすむという里に行ったが、ここは周りを山々に囲まれた盆地らしく熱がこもるようだ。九州の方がまだ過ごし易いくらいだ。

 

ふと胸元に目をやる。Yシャツが汗でへばり付き、肌の色がはっきりと見てとれる。神社には巫女以外もう何年も住んでいないらしく男物の着物はない。昼に着たものはローラー式の脱水機にかけ、なんとか翌日に間に合わせている。人目を気にする必要がないので、シワなんかはどうでもいいが、毎日同じ服だというのは衛生的にも気分的にもよくない。いつか人里に行かなければならない。そのようなことを考えていると神社の方から人の足音が聞こえる。毎日のように神社を訪ねている霧雨魔理沙という少女がいるが、彼女ではない。彼女は人里の方から飛んでくる。初めて見たときは腰を抜かしたが博麗霊夢いわく、「あちらでの常識がこちらの非常識であり、あちらの非常識がこちらの常識」らしくそれを聞いて、今では理解したつもりである。

 

「考えるのはいいですけど、悩まない程度にしてくださいね」

 

先程まで足音が聞こえていた方から人の声が聞こえる。考え事をする際に独り言を言う癖はないはずである。顔にでも出ていたのだろうか。それもないだろう。今まで他人から「顔に出ている」と言われたことは一度もない。

 

「悩みごとが増えた顔をしてますね。心配せずとも独り言は漏れてませんし、顔にも出ていませんよ。そして、私は心も読めません」

 

声の主を見ると、珍妙な格好をしていた。桃色の髪に赤く、中華風とも和風ともとれる服を着て、若草色のスカートを巻いている。博麗霊夢と同じ、コンセプトはなんとなくわかるが、そのコンセプトが本当に正しいか確信が持てない。なんとなく中国らしい雰囲気は感じとることができる。そして、服装がきらびやかなことからある程度高い位にいることがわかる。しかし、宝石や冠などの装飾がない。王家やその関係者ではないのだろう。小間使いにしては派手すぎる。

 

「宗教家か?」

 

「4分の1正解です」

 

「2分の1は埋まった」

 

「お聞きしましょう」

 

「仙人様」

 

宗教家、つまり特定の宗教を流布することが目的ではないが、宗教に関わることは当たっているということだろうか。ならば自らを高みにあげることを目的とする道教の仙人ということだろう。

 

「これで2分の1正解になりました」

 

「もう半分は埋まりそうにないな」

 

埋まらない、定積分をして積分定数を忘れるような単純なミスをしている。そう感じる。重要かつ、見落としがちな何か。ジグソーパズルの最後のピースを探したが見つからず、探しても見つからず、見つけた最後のピースが無色透明だったときのような虚無さ、無力さ、無意味さ見つからないときの一撮み程度の気持ちの高揚、見つけてしまったときの理不尽さに対するそれを凌駕する怒り。そのような感じがする。

 

「いつか埋めるさ」

 

そう呟き、ボックスから煙草を一本とりだし火を着ける。悩むことすら馬鹿らしい。ここではそう感じることができる。何かに追われることもなければ、何かに従わなければらないこともない。生きるに値するだけ働くものが生き残れる程度の運を併せ持つことでたまたま生き残ることができる。そんな場所。

 

「ところで名前は?」

 

桃色の仙人が尋ねる。

 

「相模友人。あんたは?」

 

「茨華仙と呼んでください」

 

本名ではなさそうだ。仙人としての名だろうか。

 

そのようなことを考え、ここでの考え方に毒されているのがわかる。妖怪がいて、魔法使いがいて、仙人がいることに疑問を持たなくなっている。そして、博麗霊夢が言うにはここから西に言った先に吸血鬼が住む館があるらしい。今はおとなしいが数年前にこの郷を追い込みかねないほどの大騒動を起こしたこともあるそうだ。

 

関わりたくないものである。

 

「ところで」

 

茨華仙の顔を仰ぐ。立ちっぱなしだが、その姿勢は崩れていない。

 

「ここの人間に用があるなら、明日出直した方がいいぞ。巫女様はお昼寝の真っ最中だからな」

 

朝、掃除をして疲れたと言っていた。働いたのだから休憩をもらって然るべきだろう。俺もこうして昼の休憩をとっている。人生何事もバランスである。仕事と休息、ストレスと快楽、運動量と摂取エネルギー。どちらかが崩れれば全てが崩れる。ヒトは生きるには弱い。餌を捕る術を忘れ、自然に生きる術をなくしている。だから外部から力をくわえることで無理矢理均衡を保とうとしている。

 

「ここの巫女と私はまだ知り合ってませんから、用事もないですよ」

 

「じゃあ何のために?」

 

「あなたのために」

 

間髪入れずに答えられる。まるで、筋書きがすでに決められているかのように。

それにしても、俺の交友関係はいつの間にここまで拡がってしまったのだろうか。妖怪に死なせるには惜しいと言われ、巫女と魔法使いに懐かれ、仙人に説教をされている。十年前の俺なら目を輝かせていただろうか。

 

「あの娘のことを知るものはあの娘が知っているものよりもはるかに多いです。そして、あの娘の今後を気にかけるものはあなたが思っているよりもはるかに多いです。巫女として、一人の少女として、そして何よりも幻想郷の均衡を保つひとつの要としてあの娘に妙な虫がつくことを嫌うものはここに住むものの大多数であると言っても過言ではありません」

 

「何が言いたい?」

 

「下手に手を出して殺されぬよう、節度ある行動をとってください」

 

「わかってるよ」

 

突きつけられた忠告に対し、大きく煙を吐き、左の掌を見せて答えた。



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煙草を吸う話

久々に受けた人間からの依頼を終え、自宅の戸を開ける。目に光が入り、そちらの方を見ると、太陽は大きく西に傾き、既に山の影に飲まれようとしていた。夏が終わり、秋を迎え、冬が近づきつつあることを伝える。里で夕飯を食べてきたのは失敗だっただろうか。しかし、夕飯を終えた以上、後は寝るだけである。ならば問題はなかったのだろう。

 

家に入り、囲炉裏のそばに腰を下ろす。冬でもなく、寒さを感じる訳ではないが、思うところがあり、火を灯す。二年もたてばこれほど簡単に火を起こすことができるようになるかなどと自分の微かな成長に思いを馳せながら火を見る。

 

火が落ち着き始めたことを確認して袖から紙と葉を取り出す。

 

人差指、中指、親指で紙を丸める。窪みに葉を一掴み、二掴みと落としていく。しっかりと円柱になるように均一に均す。

 

末まで葉が詰まったことを確認し、親指と人差指を擦るようにして巻き上げる。糊が塗られた部分を残す。親指、中指、人差指で擦り、円に近づける。僅に残された、乾燥した糊が塗られた部分を舐めて湿らせる。

 

ゆっくりと最後の一巻。葉のつまり具合から喫味を想像する。今日は少し緩めに巻いてある。おそらく一口目は辛くなるだろう。そんなことを考えながら巻く。

 

ようやく仕上がる。ローラーを使わないのは最近始めたので少々ぶっ格好だが、味にはさほど影響しないだろう。

 

葉のつまり具合を見て、どちらをくわえるか定める。そして、少し灰を纏い白くなりつつある炭に巻いた不格好なそれを押し付ける。音がなることもなく、ゆっくりと先の方が紅く染まっていく。炭から外し、口にくわえ、いつもよりゆっくりと肺ではなく口で空気と煙を取り込む。いつもより少し辛い、舌を、鼻腔を焼くような感覚。いつも通りに吸わなくて良かったと、もう少し固くすれば良かったと様々な考えが脳を駆ける。

 

吸い込んだ煙を口内で冷まし、ゆっくりと肺に落とす。肺が煙で満たされ、一種の異物感を覚える。異物感に耐え、ゆっくりと鼻から煙を出す。香りを楽しみ、煙がゆっくりと溢れ出すように。

 

炭で火を着けたのは正解だったようだ。ガスの臭いもリンの臭いもしない、煙草そのものに一番近い香りと味。

 

ゆっくりと吸い込み、ゆっくりと鼻から煙を出す。肺がたまれば囲炉裏に落とす。

 

淡く、しかし確かに静かに流れる時間。

 

煙草をくわえたまま水瓶の方へ歩く。土間へ裸足で降りる。少しくらいいいだろうと誰に対するわけでもない罪悪感と謝罪の念に襲われる。

 

水瓶につくと煙草を外す。柄杓で一掬いし口に水を含む。口にこびりついていた違和感が拭われる。

 

明日は休みにしよう。たまの休みもいいものだ。

 

そう呟き煙草をかまどに擦り付け火を消した。




こういう話が好きです。
朝起きて、歯磨いて、顔洗って、朝食食べて、着替えて、登校や出勤するだけのような何気ない毎日の一コマを見るような話が好きです


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狐と猿

博麗神社の境内、敷石の上を静かに歩く。草履が石を擦る音が森の中を木霊していく。

 

「珍しい奴に出逢うものだな」

 

煙草を持たない左手で頭の後ろを掻く。仙人か賢者、もしくは巫女がいると踏んでいたが。

 

「珍しくもない奴に出会ってしまったものだな」

 

狐がいた。

 

嫌味ったらしく頭の後ろを掻きながら、一歩一歩と歩いてくる。大きな尻尾が左右に大きく振られ、身体の揺れと相まり、左右交互にその先を覗かせる。

 

「相変わらず嫌味な奴だな」

 

煙草を携帯灰皿に入れ、袖にしまう。わざと大きな動作で、肩で風を伐る不良のように、必要以上に大声で話す非常識人のように。

 

「私から云うべきことは多々ある。『やかましい』、『大きなお世話だ』、『たかが人間風情で』。しかし、貴様は残念なことに紫様の友人である。そんな貴方様に最大限の敬意と信愛を込め、三途の川の川幅を求める程度の頭脳を最大限使役して云うとすれば」

 

俺の肩程しかない身長を精一杯大きく見せようと尻尾を拡げ、背筋を伸ばし精一杯の威圧をする。それでもようやく顎に届く程度。あからさまな敵意を剥き出しにし、狐は中学生が吸うセブンスターのような、高校生が鳴らす爆音のバイクのような、可愛らしいともとれる微かな反抗心を、細やかな信愛を込めて口を開く。

 

「貴様ほどではない」

 

静かに、しかし力強く、自身を如何に尊大に見せるか。それのみを考えている。

 

狐がそう答え、尻尾が萎むことを知らず、膨らみ続ける様を見ながら、煙草を取り出す。マッチを擦り、火を眺める。リンが燃え尽き木材に火が移る。

 

木片に移った火をゆっくりと煙草の先に火を近づけ、静かに吸い込む。

 

大きく煙を吐き出す。

 

「奇遇だが……」

 

もう一度吸い込む。先程とは違い、短く強く。

 

「俺も御前にそう返すよ」

 

水と油、猿と犬、米と露。様々な表し型があるが、互いに噛みつき合い、互いに罵り合う。

 

知恵を持つものとは不便だと思う。如何に馬が合わないものとも、その嫌悪を表に出してはいけない。表面では「挨拶はする程度の仲」を演じなければならない。

 

「お前は、」

 

狐が語る。弱く、頂上に上り、西へと進み出した太陽を目で追いながら。

 

「紫様に愛されている。勿論、私の方が愛されている。だが、お前がここに来てから約二年。」

 

狐が唇を強く噛む。離れているが一筋の赤い流れが見える。

 

俺はくわえていたタバコを石畳の上に落とし、草履で強く踏み潰す。話が長くなる。そう思い、もう一本タバコを取り出し、火をつける。

 

「あまりにも短い、私が紫様に仕えた八百と数十年に比べると。しかし、お前は私同様に愛され、信用を受けている。力もない、口先だけで生き残っている人間風情に私が劣るというのか?数多の妖怪と争い、治め、この郷の秩序を守ってきた私にお前が劣るのか?」

 

知恵があるというのは難儀なものだ。何かと比べなければならない。自身の立ち位置を見るため、定めるため、見下すために自分より劣る何かと比べなければならない。

 

「千年だな」

 

狐に聞こえるギリギリの声で呟く。

狐とあいつが共に過ごした時間が八百と数十年ならばあいつが俺を思い続けた千年はどれ程重かったのだろうか。たかが十年、独りだった俺にはわからないことだと思い、それ以上口にすることはなかった。

 

「何か言ったか?」

 

狐が尋ねる。尋ね方を見るに、正確には聞くにだが、俺が言った内容までは聞こえていない様だ。

 

「いや、それだけ長い時間を共に過ごしたなら、お前と賢者様は余程の関係で結ばれているんだろうと思ってな。少し口に出てしまった。」

 

適当な言葉で濁す。濁した方がいい、そう思ったから、必要以上に首を突っ込む必要はないと感じたから。

 

「貴様はいつもそうだ」

 

狐の尻尾が膨らむ。怒りを剥き出しにしている。

 

「お前はいつも重要なことを言う。しかし、本当に重要なことについては口をつぐむ。触れられたくないことについては適当に誤魔化す。何を隠している?誰に対して嘘をついている?」

 

「嘘はいつも自分のためにつくものだ」

 

「それも嘘だ。お前の嘘はいつも誰かを、何かを隠している」

 

狐の尻尾が僅かに萎む。怒りではない、別の感情が表に出てきたのだろう。呆れ、好奇心、興味、何を求めているかはわからない。

 

「外の猿には舌が二枚あるものがいるらしいな。貴様は正しくそれだ。心と別のことを口に出す。」

 

二枚舌の猿。それを俺は知っている。

 

「残念ながらそれはキツネザルという種類の話だ。狐というのならお前もそうじゃないのか?いつも高慢な、裏意地はたらく狐として、ヒトを化かしてきたのならな」

 

僅な静寂。

 

俺は先程石畳に押し付けた吸殻を広い携帯灰皿に入れ、今吸い終わったタバコを石畳に押し付け、火を消してから携帯灰皿に仕舞った。




誤字かあれば報告ください。

とぅいったーにもいます。


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終わる話

夢を見た。

 

空、木、人全てが秋に、その先に待つ冬に備える、そんな日の夜、夢を見た。

 

「先輩、ぼーっとしてるなら先に旅館に行きますよ」

 

「先輩、課題を手伝ってください」

 

「先輩、九州って思っていたよりも暑くないんですね」

 

「先輩、」

 

夜よりも深い、艶のある黒髪。精一杯背伸びをして、漸く俺の身長に追い付く身長。隣によくいる女のせいで小さく見られるその乳房。俺を惹き付けたその瞳。俺の以外の人をも惹き付けてしまうその顔立ち、笑顔。

 

俺は夢を見た。

 

俺は何度かこの夢を見た。二人の少女、一人の俺。互いに、互いの理想を押し付けあっていた。その理想を、夢見てきた姿を互いが実現できると信じて。

 

幻想郷に来て最初の夢で少女は言った、「私と一緒に探求しませんか」と

二番目の夢で少女は言った「レポートを手伝ってくれたらいいことをしてあげますよ」と

三番目の夢で少女は言った「楽しい旅行にしましょうね」と

 

少女の夢は突然終わる。一つ一つの場面を繋ぎ会わせたかのように、自作の8mmフイルムのように、見るに値する美しい場面だけを切り出したように、目を背けたくなるような現実を切り捨てたかのように。

 

大学でたまたま出会い、趣味を同じくし、同じような志をもつもので集まり、語り、笑い、酒を飲み過ごし。少女は一足先に卒業した俺を追いかけ、俺は一年遅れて卒業する少女を待つ。

 

俺はその少女を知っていた。

目を背けたくなるような事実を知らないと嘘をつき、生きる希望をなくす理由にした。

目を背けたくなるような事実を知らないと嘘をつき、生きる希望を持ち続ける言い訳にした。

 

少女はいなくなった。それは事実である。

少女はいなくなったが、自身のいるべき場所を見つけ平穏に暮らしている。それは嘘だ。

 

俺は生きる意味を失っていた。それは事実である。

俺は死ぬ理由を探していた。それは嘘だ。

 

生きる意味もなければ、死ぬ理由もない。

 

無彩色の世界に色を付けるため、俺は自分に嘘をついた。

世界は俺の知らないものばかりである。

世界のどこかに、昔、妖怪や神と呼ばれ、恐れ、敬われ疎まれていたものたちの住む世界がある。

人智を超えた能力を持つ少女はそこで平穏に暮らしている。

そこでは怪奇の源となるものたちが暮らし、人と共存している。

そこでは怪奇が起これば少女がそれを鎮める。

少女が戦う際、公平を期すために殺し合いではなく特別なルールのもとに争いが行われる。

怪奇の源は怪奇を鎮める役割を持つ少女と怪奇の源たちをまとめる強大な力を持つ少女とを中心として社会を形成している。

 

そう、少女はどこか少女の住むべき世界で未だに生きている。

 

何故なら黒髪の少女の遺体は見つかったが、もう一人は、金髪の少女は見つかっていない。きっと金髪の少女はどこかで生きている。

 

そう嘘をついた。

 

 

「なんでも二人も死亡者を出しながらもそのサークルに残り、活動を続けたとか」

 

中年女性の声が響く。

 

嘘が壊れた。

 

それまでの鮮やかな色に染まった世界が消えた。

 

必死に創ってきた生きる理由をなくした。

 

…………

 

怪奇とはいつ現れるのだろうか。俺の前に現れてくれないだろうか。ウィスキーの瓶をコンクリートに叩きつけながら考える。

 

鉄製の柵に手をかける。マンションの屋上。落ちれば、失った生きる意味を探す必要もない。解放される。そう嘘をついた。

 

酔いで揺れる思考のなか、また考える。

 

「妖怪とはなんだ?」

 

妖怪は解明不能だった事象に対する恐怖を軽減するため、何かに責任を押し付けたかった昔の人々の弱さの集まりだ。

 

真夜中に大きな音がなれば鵺を創造し、

墓荒らしがあれば火車を創造し、

水難事故があれば河童を創造した。

 

小学生の頃、俺も昔は考えていた。同じような年頃の子供の姿をした妖怪たちを、遊んでくれる友達を創造していた。

 

もし、もう一度自分自身に嘘がつけるのなら、俺をそういった世界に連れていってくれないだろうか。




くぅ疲

解説なんか欲しいかたがいらっしゃいましたら、ご連絡下さい。何とかします


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その後の話

多次元への物体の移動は、否定的な目で見られることが多い。これはおよそ30年前に発見された公式によるものであり、多次元へ物体を送る際、その物体の大部分は消失してしまうためである。

そのようなことを語りながら、授業の終わりを告げるチャイムに耳を傾ける。生徒たちもこの音を心待ちにしていたようで、「では」の一言を言えば、学級委員が授業を締める挨拶を行った。

小さな町の少しだけ大きな中学校。今、俺はそこではたらく。町内に他に中学校がないためほとんどの児童はこの中学校へと進学する。

「先生、今日の授業は雑談が少なかったですね。」

このような皮肉がたまにある。

子どもたちにとって、授業の本筋から反れる雑談こそが面白い。特に理科、科学と言う分野はそもそも関連する知識が多く、教科書という書物について説明するについても、それぞれの知識について、前提的な知識について、関連する知識について話していれば一年では全く足りない。

「雑談してほしかったら速く授業を進めないとな。」

わざと意地悪らしく話する。雑談の時間、知識探求の時間、知識の定着の時間、テストの点数をとるための時間。それぞれの時間、内容は優先度を決めなければならない。残念ながら雑談やおまけの時間はおまけの時間でしかない。

「では、授業終わりや放課後の時間を利用してもいいですか?」

「あぁ」

「先生って暇なんですか?」

「暇ならもう少し栄養のあるものを食べてるよ。」

「養分の重要さと各器官のはたらきについて教えてくれたのは相模先生ではないですか?」

「法定速度とそれを確実に守ってる大人の割合について調べればいい。知ってることと実践することは違うからな。」

「ほら、また屁理屈を捏ね始めた。」

他愛ないやり取りである。いつものやり取り。いつもの会話。いつもの空気。話してみたいが、話しかけにくい教師2年連続1位は伊達ではない。

「相模先生」

少女というのは人の油断を突くのが得意なようだ。

「なんだ?小泉」

答える。夕日が教室に注ぐ。教室後ろの連絡黒板が橙色に照らされる。黒板の深い緑と合わさり、藍色のような風合いを見せている。東の空は位紫に彩られ、まもなく来る夜の世界が顔を除かせる。

「このクラスには小泉が3人いますよね?」

「そうだな、茜、翠、葵だったな。」

「後一人いたとしたら何と名前をつけますか?」

「黄(コウ)かな?」

何ともない会話。橙色も藍色も紫色も既に使われていた気がした。ただそれだけ。

姉妹でもない。親戚でもない。だが同じ名字を有し、色にまつわる名を持つ3人の少女。何かを忘れている。何かを失っている。不思議な感覚。小泉翠が小さく口を開く。俺の顎辺りに見えるはずの頭が消えた。3回、ゴムで木を叩く音がコツ、コツと狭い教室を木霊する。

「忘れたのか?やはりサルか。やはりサルの舌は2枚だな。」

少女の声色が変わる。少女の体重がこちらにかかる。

「舌が2枚あるのはキツネザルだ。そうだろう?狐」

適当に答える。目の前に黄色の壁が現れる。

「戻る気はあるか?」

「あっても言わねぇよ。なかったら言うよ。」

「そうか」

「あぁ」

「皆、心配している。特に霊夢はお前が帰ってからというもの縁側で茶を飲んでばかりだ。魔理沙も研究ばかりしている。紫様も寝て起きてこない。皆、心配している。」

「いつも通りで安心した。」

「戻る気はないのか。」

「2度も言わねぇよ。」

かけられていた体重から解放される。「では」の一言をいい、小泉翠は消えた。3人分の転出届を作成することに面倒くささを感じながら、どこに転出するかを説明できず、途方にくれた。

「外国に行きましたで説明つくかな。」

ゆっくりと息を吐き、冷えきった教室で一人座り込んだ。

 



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