ワンピース世界の赤っ鼻に憑依しました (エタエタの実の飽き性人間)
しおりを挟む

1話

続けるか分からないです。


  ONE PIECEという漫画にバギーというキャラがいる。超人系悪魔の実である「バラバラの実」を食べたバラバラ人間だ。登場初期は、主人公一味のかませ犬のような立ち位置だったが、物語が進むにつれて存在感を増していった。

 

 その理由は彼の経歴にある。

 

 海賊王ゴール・D・ロジャーの元クルーで、四皇である赤髪のシャンクスと兄弟分。その後自身の海賊団を立ち上げバギー玉という街一つを消し飛ばす威力を持つ強力な爆弾を開発する。紆余曲折あり、インペルダウンに投獄されるも、元ロックス海賊団である伝説の海賊シキ以降初の脱獄に成功し、海賊派遣組織を立ち上げ七武海に上り詰めた。

 

 最悪の世代であり、第五の海の皇帝とも呼ばれる麦わらのルフィと幾度も交戦し、時には共闘する関係を持つ。数多の海賊から慕われるカリスマ性と、その圧倒的な経歴、運、リーダーシップにより鷹の目ミホークとサー・クロコダイルを従え「クロスギルド」という会社を設立。海軍将校に懸賞金をかけ、世界の秩序を大きく乱し、最終的には四皇の地位に登り詰めた稀代の大海賊である。

 

 そんな彼だが、実力はそこまで高くなく、その評価と実態が大きくかけ離れていることもあり、一部のキャラクターからは軽視される傾向がある。

 

 しかし、言うまでもなくバギーという男のポテンシャルは非常に高い。バラバラの実を食べた能力者であり、覇気以外の斬撃はほとんど無効化することができる。また、その他の攻撃についても体を分離させることで避けることが可能な上、覚醒をすれば自分以外をバラバラにできる能力は非常に強力である。

 

 原作では、覇気を使う描写が無かったバギーだが、そのカリスマ性から覇王色の覇気が目覚める可能性は高く、能力自体も見聞色や武装色の覇気と相性が良い。

 

 敢えて言おう、バギーは四皇に相応しい海賊であると。

 

「…だからと言って、バギーに憑依するのは話が違うだろ…」

 

 そうやって独り言ちていると、赤い髪が映える少年が話しかけてきた。

 

「どうしたんだ、バギー? ブツブツ独り言なんか言って」

 

「シャンクスか、俺様は今忙しい。用がないならほっといてくれ」

 

 原作では未来の四皇になる男によくこんな口が利けるなって? 気づいたらこいつとは同じ船に乗っている同期だったんだ。変に下に出すぎるのもおかしいだろ? 俺だって初めは緊張したさ。幸いシャンクスの性格は、原作と同じように細かいことは気にしない大らかなものだ。俺みたいな奴でも、平等に接してくれるのがその証拠だ。それに、この口調にはもう一つ理由がある。

 

「そんな冷たいことを言うなよ、バギー。それに何もやってないように見えるぞ」

 

「こんのハデバカやろォ! どう見ても考え事してるだろうがよ!! オメェの目は節穴かってんだ!!」

 

「わははは!! そう怒るな、レイリーさんが呼んでるから声かけただけさ。なんかやったのか?」

 

「レイリーさんが? 身に覚えがねェな。一体何の用だ?」

 

「さぁ、俺は何も聞かされてないからな。んじゃ、確かに伝えたぞ!」

 

 そう言うとシャンクスは甲板の方に歩いていった。…先程話したもう一つの理由ってのがこの口調だ。何故かこの身体に憑依してから、喋ろうとすると原作バギーの様な話し方になってしまう。

 

 ちなみにさっきは、悪態をつくつもりは一切なかった。実際には、「いやいや、少し考え事をしていたんだ。それより何か用があるのか?」と、話したつもりだった。

 

 今のところこの変な現象の所為で、俺とバギーが入れ替わったことに気づかれていないみたいだから別にいいんだけどな。それよりも、レイリーさんと言うのは、俺が今所属している海賊団の副船長だ。普段は、暴走がちなロジャー船長を宥める役割や、サボる船長の代わりに船を仕切っているから忙しいはずなのにどうしたんだろう。

 

 そんな風に考えながら、副船長室に向かいだす。まあ、行ってみれば分かるだろ。

 

「レイリーさん、なんか用があるってシャンクスの奴から聞いたんだけど」

 

 扉の前に着くと、ノックしながら中にいる人物に声をかける。落ち着いた低い声が扉の向こうから帰ってきた。

 

「おう、バギーか。中に入ってくれ」

 

「一体なんだ? レイリーさんが俺様を呼ぶなんて珍しいな」

 

「そうか? まあ、普段は忙しいからな。そんなことよりバギー、噂で聞いたんだが、最近お前修行してるらしいな」

 

 その事についてか。確かに俺は自分がバギーに憑依したって気づいた時からトレーニングを始めた。原作のバギーの様に強運が有るとは限らない。元ロジャー海賊団クルーって事実もどこから漏れるか分からないから、自衛の為に鍛え始めた訳だ。幸い、身近に強い人間がいくらでもいるから身体の鍛え方なんか聞いて将来に備えてるって訳だ。

 

 ちなみにバラバラの実は既に食っていた様で、試しに腕を引っ張ってみたら見事に取れてしまった。

 

「あー、その事か。なんだよ、レイリーさんも俺様が強くなれねえって言いてえのか?」

 

「もちろんそういうことじゃないぞ。バギー、お前が本格的に鍛えようってんなら師匠をつけてやろうと思ってな。1人だと大変だろう」

 

「ほんとか! ありがてえ! 最近身体を鍛えるのにも飽きてきたんだ。教えてくれるってんならちょうどいいぜ!」

 

「そうかそうか。お前も喜んでくれるか。…よし、入ってこい。」

 

 レイリーさんがそう言うと、副船長室の扉が徐ろに開かれ金髪をオールバックにした大男が部屋に入ってきた。

 

「…」

 

「ゲッ!!! バレット!!!! …さん。」

 

「…チッ、なんで俺がこんなガキの面倒見なきゃいけねぇんだよ」

 

「そう言うな、バレット。俺も忙しいし、ロジャーは最近調子が悪い。いつでもお前の相手をしてる訳にはいかない。」

 

「俺に押し付けようってか?」

 

 バレットがそう言うと、部屋には緊迫した雰囲気が漂い始める。鋭い目つきでバレットが目の前の男を睨みつけると、レイリーは降参する様に両手を挙げた。

 

「そう怒るなって、バギーが強くなったらロジャーがまたサシでやってやるってよ。 バレット、確かにお前は強いが少し一人よがりな所が見える。悪かねぇが、もう少し落ち着いてもいいんじゃねえか?」

 

「うるせえ、俺は最強にしか興味がねぇんだよ。

 …さっきの話本当だな?このガキを強くしたらロジャーと闘れるってのは」

 

「ああ、最低でも覇気を使えるようにしてくれ。最近シキの奴が鬱陶しいからな。…戦争が起きるかもしれん。戦力が1人でも増えると助かる。」

 

「ま、ま、ま、待ってくれ! レイリーさん!! もしかして俺の師匠って…」

 

「そうだ、バレットに頼もうと思っている。同じ悪魔の実の能力者だしな!」

 

「そんな!!? バレット…さん相手だったら死んじまうよ!」

 

「大丈夫さ! バレットも手加減してくれる! …多分。」

 

「確証ないのかよ!!!!」

 

 冗談じゃない。ダグラス・バレットはその強さ故に鬼の跡目と呼ばれるほどの男だ。レイリーさんとも互角にやり合っている程の実力者だし、それに強さにしか興味がない冷酷な男だ。下手したら殺されてしまう…!こうなったら…

 

「バレットさん! アンタも俺みたいな弱え奴鍛えても時間の無駄だろ!?なんか言ってくれよ!」

 

「ごちゃごちゃうるせえぞ、クソガキ。確かにてめえを鍛えるのは時間の無駄だがロジャーと闘れるってんなら話は別だ。ボコボコにしてやるから行くぞ。」

 

 

「ヒィッ!? レイリーさん! やっぱ殺されちまうよ!」

 

「ワハハ!」

 

「笑ってんじゃねえーよ!!! ハデバカやろォ!! 」

 

「とっとと来い」

 

 脳天にとんでもない激痛が走ったかと思えば、蹲った瞬間に襟を掴まれ引きずられてしまった。…ああ、儚い人生だったぜ。

 

 その後、気を失うまでタコ殴りにされた。ちなみにシャンクスはその様子を見て腹を抱えて笑っていた。…あの野郎絶対後で泣かしてやる。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2話

「おい! クソガキ! …あの根性なしどこ行きやがった」

 

 俺は今、この世界に来てから1番の危機を迎えている。何故なら、その強さ故、後の冥王と呼ばれる男と互角に渡り合い、海賊王ゴール・D・ロジャーの跡を継ぐという意味で「鬼の跡目」とまで呼ばれているダグラス・バレットに追われているからだ。

 

 何故こんな事になってしまっているか説明すると長くなるが、一言で言うと俺の所属しているロジャー海賊団の腐れ副船長ことシルバーズ・レイリーに騙されたからだ。鍛えるって名目で毎日バレットの野郎にボコボコにされ、いい加減休まないと死んでしまう。そう思った俺は、覇王色の覇気を応用して見聞色の覇気を打ち消すことでバレットの奴を撒いているのだ。

 

 そう、バレットから修行(一方的に殴られるだけ)を受けた俺は生命の危機に際して、覇王色の覇気を覚醒させた。原作のレイリーが言っていたように、危機感や恐怖心によって覚醒したんだ。ただし、俺の覇王色は今のところうちのクルーを気絶させることは疎か、怯ませることさえ出来ていない。

 

 普通に考えたら、そんな覇王色の覇気なんて意味ないだろ? しかし、俺は原作のシャンクスの語った、覇王色を利用した見聞殺しの設定を読んで、覇王色の覇気は他の覇気を打ち消す力があるのではないかと推測した。その予想が当たったかは知らないが、バレットが見聞色で俺の動きを読んでいる時に覇王色の覇気を意識すると注意が逸れる事に気づいた。その応用で今逃げてるって訳だ。

 

「ちきしょうめ、副船長の所為で踏んだり蹴ったりだぜ。わりーが、今日はこのまま逃げさせてもらうぜ。」

 

「へぇ、面白いなその技。あのバレットさんを撒けてるのか」

 

「ぎゃはははは! 見直したかこのハデ野郎。俺様を誰だと思っていやがる! …ってシャンクス!? てめぇ! いつのまに!」

 

 さりげなく独り言に返事をされ、煽てられた所為で気づかなかったがいつの間にか、身を潜めていた樽の上からシャンクスが覗いてきていた。

 

「わははは、やっと気づいたか。ところでそれどうやってるんだ?」

 

「ハデバカやろォ!! 誰がオメェみたいなやつに教えるかってんだ! あと気づかれるからどっかいけ!」

 

「そんな事言うなよ、バギー。俺とお前の仲だろう?」

 

「誰がテメェと仲良しこよしだってェ!?」

 

 焦りからシャンクスを邪険にする態度が口調に反映されたのか、いつもよりバギー節が強く出てしまっている。本当は「俺の奥の手はそう簡単に教えられないぞ」くらいの気持ちで言ったんだけどな。

 

「よォ、こんなところに隠れてやがったか。」

 

 その時、恐怖を掻き立てるような恐ろしい声が、騒いでいる俺の後ろから聞こえてきた。俺とシャンクスの2人を覆って隠すような巨大な影が燦々と照る日差しを遮る。

 

「ば、ばばばバレット、さん…。き、奇遇だな…」

 

 ブリキ人形の様に、身体がガチガチに固まってしまっていたので首だけ後ろに回した。バラバラ人間じゃなきゃ、動けないところだ。

 

「テメェのその妙ちきりんな技はもう効かねえ。大人しくしろとは言わねえ、観念しやがれ」

 

「ば、バカな…! 俺様の見聞殺しにもう慣れたってのか…? 派手にやばすぎるだろ…」

 

 俺が恐れ慄いていると、能天気な声がバレットとの会話に混ざってきた。

 

「へー、その技見聞殺しって言うのか。面白そうだな、バレットさん! 俺もバギーと一緒に鍛えてくれよ!」

 

「あァ? なんで俺がそんなめんどクセェことしなきゃなんねぇんだ。ただでさえこのガキに覇気を使わせなきゃなんねぇし。」

 

「だったら尚更俺がいた方が役に立つぜ! 俺はもう覇気を使えるし、バレットさんのことだから殴ってばっかで覇気の使い方、教えてないんだろ?」

 

「ほう、お前ならそいつに覇気を使わせられるのか?」

 

「おい勝手に話を進めるなよ! シャンクス! どう言うつもりだテメェ!」

 

 バギー語に変換されてしまっているとは言え、純粋な疑問だった。俺がボコボコにされている様子はこいつも見ていたはずだ。なんせ、以前俺が気絶するのを腹抱えて笑ってやがったからな。

 

「バギー、お前はもう覇気のコツを掴みかけてるんだろ? でもあと一歩のところで覚醒に至っていない。そのコツを俺が教えてやるって話だ」

 

「だからそれをやってテメェにどんなメリットがあるって聞いてんだ、俺様は!」

 

「さっき話していた見聞殺し、俺にも教えてくれよ。それが俺のメリットさ。」

 

「あぁん? テメェにゃ無理だな。あれは俺様だから出来んだよ。」

 

 言い忘れていたが俺は今11歳だ。つまり俺とタメであるシャンクスも11歳であり、この歳で覇気を使えることに驚いたがまさか覇王色までは覚醒していないだろう。そう考えるとやはりバギーの身体も驚異的な才能が眠っているな。いくら死にかけたとしても、この歳で弱いとは言え覇王色の覇気を覚醒させたのだから。

 

「なんだと! やってみなきゃ分からねーだろ!」

 

「まあ、俺様は覇気の使い方を教えてくれるってんなら文句はねえがな。」

 

俺とシャンクスが言い争っているとバレットは舌打ちをし、踵を返した。

 

「…ちっ。興醒めだ。今日は勘弁してやる。覇気は弱い肉体には宿らない。少しは鍛えているようだが、まだまだ脆くて弱え。引き続き、稽古はするぞ。赤髪のガキも好きにしろ。考えてみれば1人も2人もすぐに片付くからな。」

 

「ほんとか、バレットさん!? …グフフフ、久しぶりの休みだぜェ」

 

 喜びを露わにした声が漏れ出た。それも仕方ない。バレットに見つかった時は一巻の終わりだと思ったのだ。思わぬ幸運に、久しぶりの休日に何をしようか頭の中で算段を立て始める。その横でシャンクスが何か言っている様だったがバギーは気づかなかった。

 

「…ま、このままバギーに置いてかれる訳にはいかねーしな。俺も負けてらんねえぞ…!」

 

 本人は気付いてなかったが、バレットの連日の扱きに耐えていたバギーはロジャー海賊団内部でもその素質を見直されていた。武装色の覇気も能力も使っていないとは言え、バレットの一撃は重い。一般的な海賊や海兵であれば、その一撃で容易く命を落とすほどに。バギーは始めからそんなバレットの攻撃を喰らっても気絶するだけですみ、回数を重ねるごとに避けたり、耐えたり出来る様になっていたのだ。一撃目をなんとか対処しても続く攻撃で気絶するため、バギーにその自覚はないが確かに成長していた。

 

 シャンクスはそんなバギーを見て、触発されたのだ。先程は覇気を使えると大口を叩いたが、実は見聞色も武装色もその存在を知覚しているに過ぎない。年齢を考えるとそれだけでも凄いことだが、兄弟分とは言え、強さではどこか下に見ていたバギーの思わぬ成長ぶりに焦りと、好敵手と競えることに喜びを感じていた。そこで、自身もバギーと同じ修行を積もうと考えたのだった。

 

 そんなことを自身の兄弟分が考えているとは露知らず、バギーは降って湧いた幸運に思いを馳せるのだった。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

3話

感想書いて下さった方、ありがとうございます!

嬉しすぎて今考えてるネタも思わず話しちゃいそうなので、返信を書けず申し訳ありません…。

何とか続けていきますので応援してくださると嬉しいです!


 シャンクスに覇気を感じとるコツを聞きながら、バレットに2人がかりで挑んでは殴られる修行に耐えること半年、バギーはついに覇気の存在を感じ取れる様になった。加えて能力も、前まではバラけた身体を二つ以上動かすことが出来なかったが、慣れたのか頭、胴、腕、脚の四つの部位をバラバラにして動かせる様になってきた。

 

「くらえ! バラバラ砲!」

 

 シャンクスがバレットの気を引いている間に切り離してバレットの背後に待機させていた片腕を勢い良く飛ばす。武装色の覇気は纏わせることは出来ないものの、ONE PIECE世界で毎日限界まで鍛え上げた筋力と能力のおかげで、人1人昏倒させることは容易い威力だ。

 

「蚊が止まったかと思ったぜ!!!」

 

 バレットはそんな一撃を脳天に直撃させても、微塵も堪えた様子なく振り向いた勢いで拳を突き出す。

 

「あぶねえっ! バラバラ緊急脱出!!」

 

 砲弾の様な勢いの拳圧を胴体だけ取り外し、避ける。その隙に、追撃しようとするバレットに後ろから武装色を纏わせたシャンクスが襲い掛かる。

 

「隙あり! …ゲフゥ!」

 

「ぎゃああ!! …何すんだ!! ハデバカやろう!」

 

「ツメがアメェな。見聞色の覇気を使わなくても予想できたぜ」

 

 バギーを追撃すると見せかけて、奇襲を想像していたバレットは身を屈めることで攻撃を躱し、シャンクスは飛び掛かった勢いのままバギーと追突していた。思わずバギーがシャンクスに詰め寄る。

 

「いやあ、悪い悪い。まさか避けられるとはな、わははは」

 

「笑って誤魔化すなオメェ!」

 

「呑気に話している場合か?」

 

 そう言うとバレットは再び2人に襲いかかる。慌てて応戦するバギーとシャンクスだが、徐々に動きが鈍くなる。そんな3人を船室の窓から眺めている人物達がいた。

 

「あいつら中々持ち堪える様になったじゃねえか。」

 

「ああ、バレットに鍛えさせるって聞いた時はどうなることかと思ったがなんとかなって良かったよ。こうなるって分かっていたのか? ロジャー」

 

「ガハハハハ!! そりゃおめぇ、ダメだったらそん時考えりゃ良いじゃねえか!」

 

 顎が外れそうな様子の金髪の男は、ロジャーに向かって目くじらを立てて詰め寄る。

 

「何も考えてなかったのか! …全く、あの2人が不憫だな。」

 

「まあ、そう言うな。………レイリー、お前バレットのことどう思う?」

 

「どうって…、あいつの戦闘が身勝手って話しか? まあ、あれだけの強さを誇るんだ。そう言うこともあるだろう。少し落ち着いてもいいと思うがな。」

 

 レイリーが、そう答えるとロジャーは、窓から離れ船室のテーブルに置いてあったグラスに棚から取り出した酒を注ぎながら呟いた。

 

「そうじゃねぇ、アイツはな、孤独なんだ。本当の強さってもんを知らねェ。孤独こそが強さだと考えてやがる。今はいいが、いずれその孤独故に身を滅ぼすぜ。」

 

「おい、それ俺の酒……、まぁいいか。だからあの2人の子守りをさせたのか?」

 

「あぁ、俺はいずれ死ぬ。まだ、仲間の奴らには言ってねえがバレるのも時間の問題だ。そん時に、バレットを引き留める鎖が必要だ。

 アイツの事だから俺が病気だと知ったら元気な内にっつって四六時中相手をしなきゃなんねぇ羽目になりそうだ。」

 

 そう話すロジャーの目には、暖かいものがあった。レイリーは、そんな姿を見て溜息を吐くと、再び窓の外に視線を移した。

 

 戦いは、既に終盤に差し掛かろうとしていた。バレットの追撃に堪えきれなくなったバギーが、バラバラの実の能力で体を6等分して翻弄しようとするも、胴体に直撃を受けてダウン。シャンクスはそんなバギーを見て焦り、勝負を決めようとしたところを隙をつかれ殴り飛ばされた。

 

「んぎゃあああ!!!!」

 

「ガハッ!!!」

 

 2人が目を回して倒れていると、バレットが近づいてきて2人の頭に水をかける。

 

「ぐああああ!! …ハデに敵襲だ!! …ん?」

 

「ぶはぁっ!!! ゲホッ、ゴホッ! ……優しく起こしてくれよ…。」

 

「そこで転がってると邪魔だ。とっとと、雑用にもどれ」

 

 2人にそう告げるとバレットは自身の部屋に戻って行く。また、トレーニングでもするのだろう。そんなバレットの後ろ姿を見ていると、徐ろにバギーがシャンクスに声をかける。

 

「…なぁ、おい。バレットさん少し丸くなったと思わねェか?」

 

「…あぁ。前だったらわざわざ起こしてくれなかった、と思う。」

 

「だよなぁ…。てかオメェ!さっきはよくもぶつかって来やがったな!」

 

「お前だって最後やけになって突撃しただろ! あれのせいであの後1人でバレットさんにボコされたんだそ!」

 

「なぁにぃおう!!!」

 

「やるか!?」

 

 売り言葉に買い言葉とばかりに2人が言い争っていると、クルーに注意される。

 

「おい! 見習いども! さっさと持ち場に戻らねーか!」

 

 2人ともしばらく睨み合っていたが、再度注意されると流石にこれ以上は不毛だと思ったのかそれぞれの仕事に戻って行った。

 

 

「あーあ、どうすりゃもっと強くなれんだろうなぁ」

 

 持ち場に戻り1人になると、不貞腐れた様にぼやいてしまった。だが、それも仕方がない。なんせこの半年、ひたすらバレットに殴られてばかりで自信を失いそうになっているのだ。

 

「覇気もまだ使いこなせねェし、やっぱなんかが足りねェんだよな…」

 

 もちろんこの半年、全く成長しなかった訳じゃない。覇気は知覚することができる様になったし能力を使った攻撃も修得した。しかし、一方で課題も山積みなのだ。

 

 身体を鍛えることで、その辺の海賊には負けない自信はある。能力はまだまだ使いこなしきれていないが、既に原作の初登場時のバギーよりも強くなった。覇気は知覚しただけとは言え、その影響で身体は頑丈になったし、勘も鋭くなっている。ただ、バレットと渡り合うには、少なくとも覇気を纏わせて攻撃を通じる様にしなければならない。

 

 今日の立ち会いでも、最初のバラバラ砲でダメージを与える事が出来ればもっと善戦出来ただろう。

 

「ちきしょー、やっぱ火力不足かー。…とは言っても原作の俺様の技はもうほとんど使えるしマギー玉は開発する環境がねえ。地道に武装色鍛えるしかねェか…?」

 

 考えれば考えるほど、その結論に至る。残念ながら覚醒すらしていないバラバラの実では新世界でもトップクラスの海賊にダメージを与える火力を生み出すことは難しい。

 

「シャンクスはいつの間にか覇気纏わせられる様になってたしな。知覚できる様になったらすぐって言ってたけど…」

 

 ブツブツと独り言を言いながら、持ち場の掃除を始める。体をバラバラにできるバギーは、腕の2本にそれぞれ箒と雑巾を持たせてそれ以外は座って考え事を続ける。サボっている訳ではなく、マルチタスクの訓練だ。バラバラの実の能力は動けなくなることを考慮に入れなければどこまでも自分をバラバラに出来る。では、原作よりも能力を使いこなせていないのは何故か。バギーはその原因を思考力だと考えた。

 

 原作のバギーは、今よりも大人で脳が発達していたことはもちろん、長年バラバラの実を使うことで思考力を磨いていたのではないか。そう思い至ってからは、日常の中でどんな場面でもバラバラの実を応用して過ごそうとしていた。例えばシャワーを浴びるときはより細かく分け、小さいサイズでの感覚を身体に覚え込ませたり、料理や洗濯の時はあえて遠くから手だけ動かして作業をさせたりしている。

 

 その甲斐あってか、能力の精度は日々驚くほどに上達している。素早い思考を求められる戦闘時でなければ全く別の場所に各パーツを配置して動かすことも出来る。残念ながら顔以外では視覚情報が無いので、今のところうまく活用できていないが。

 

「覇気にバラバラの実の能力、身体もまだまだ鍛え足りねェ。やることが目白押しだぜ、っと」

 

 天井の汚れも、バラした腕を浮かせて綺麗に拭き取ると、大きく背伸びをして修行で疲労した身体を労う。

 

「しっかし妙だぜ、いくら能力とは言えバラけた身体をこうも自由に動かせるのはよ。…あ、間違えた。」

 

 気を抜いた所為か、掃除させていた腕をそれぞれ右左逆に取り付けてしまった。いくらなんでも、このおかしな身体に慣れすぎたと自省してるとある事を思いついた。

 

「あ? これもしかしてハデにスゲェんじゃねェか…?」

 

 バラバラの実の新しい可能性に気づいたかもしれない。次から次へと湧き出るアイデアにバギーは胸を高鳴らせた。

 

「よし! 試してみるか!!」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

4話

「今日こそは1発ハデにぶちかますぜ! バレットさん!」

 

「朝っぱらからうるせえな。吠えてないで、やってみろ。」

 

「今日は気合が入ってるな、バギー」

 

 ──大海原を行く海賊船の上に、3人の人物が向かい合っている。いや、正しくは1人の大男に対して、2人の少年が対峙する形になっている。

 

 自身の腕を取り違えた後、バギーは自身の能力をより強力に扱う方法を思いついていた。そのため、昨晩はかなり遅くまで夜更かしをして、その考えを実践に落とし込んでいた。

 シャンクスは同部屋のバギーが何やら夜中にやっていることに気づいていたが、昼間の修行のこともあり疲れていたので放っておいた。

 

「ギャハハハ!!! 見てろよ! ハデにど肝抜いてやるぜ!!

…行くぜェ! シャンクス!」

 

「お、おう! なんだか知らねーけどなんか掴んだみてーだな!」

 

「あたりめぇよ! いつまでもやられっぱなしの俺様じゃねェ!!」

 

 構えもせず、立っているだけのダグラス・バレットに向かいバギーとシャンクスが二手に分かれて挟撃する。

 

(俺様のとっておきは、バレットがシャンクスに気を取られている間に見聞殺しで隙をついてぶっ放す!! まずは、いつも通り動き回って奴の気を逸らすぜ!)

 

 そう考え、より攻撃の手を激しくする。そんなバギーの様子に触発されたのか、シャンクスも苛烈な攻撃を加える。しかし、バレットは2人の様子を気に留めることもなく、余裕の表情で攻撃を受け流す。

 

「なんだ? 口だけか? だとしたらとんだ期待はずれだな。

いいか、俺は弱えお前らとじゃなくロジャーとやりたいんだ。いつまで経っても戦力にならない奴の相手をしているのは時間の無駄だ。」

 

「…っ!! テメェ…、言いやがったな!! だったら見せてやる! 俺の奥の手を!!

シャンクス! 少し時間を稼いでくれ!」

 

 そう言うと、俺は足と頭と片手以外全てバラバラの実の効果で一度分解させた。

 

「…! はっ、ちゃんと期待通りのモン見せてくれんだろうな!」

 

「ったりまえだ!! 俺様を誰だと思ってやがる!! 泣く子も黙るバギー様だぜぃ!」

 

 シャンクスは、不敵に笑うとワクワクを隠せない様子で突撃して行った。後先考えず、全身の武装色の覇気を一点に集めて拳に乗せる。齢11歳だとはとても思えないほどの気迫が、バレットに降りかかる。

 

「ほう、覇王色の覇気か!!!」

 

 流石にこれほどの覇気を無視できないのか、バレットはここにきて漸く構えをとった。シャンクスから感じ取れる覇気がそれ程強力だったのだ。

 バギーはその様子を見ながら、バラバラにした自身の身体を再構築していた。

 

(スゲェな…シャンクスのやろう。いつの間にあんな派手に強く…! けど、俺様だって…!! 

集中しろ…! イメージするんだ! 原作のバギー玉の様な貫通力を! …だめだ…これじゃあバレットを倒せねえ、もっと強く!! もっと!!!)

 

 必死の形相でイメージを練り続けるバギー。彼の頭は今にも湯立つ様な熱気を放っている。普段から鍛え続けた思考力をフル回転させ、自身の限界を超えた能力を行使する。

 

「分解し過ぎて動かせねェなら、固定しちまえばいい。その分より細かく、よりデカくすればいいんだからよォ!」

 

 バレットは、その時目の前の襲い掛かってくるシャンクスよりもほんの一瞬、バギーの方へ意識を向けた。見聞殺しでバギーの覇気は今一つ分からなかったが、ここにきてその存在感に無意識にせよ意識を割かれた。

 それは紛れもない、バギーの王としての資質。原作では、道化として馬鹿にされていたバギーの、開花の瞬間だった。今まで威圧すら感じ取れなかったバギーの覇気が、シャンクスの覇気に呼応するかの様に高まってゆく。

 

「余所見している場合か! バレットさんよ!」

 

 そんなバレットの隙を、見聞色の覇気で読み取ったシャンクスは見逃さない。バギーの大技の予感を感じ、邪魔をさせまいと己の全霊をかけた一撃をバレットに見舞いする。

 

「おおおおおお!!!」

 

「グッ…!!! ガハッ!! このクソガキ共が!!!」

 

 バレットとバギーとシャンクスがこの修行を始めて半年。ここで初めてバレットに有効なダメージを与えた。それは、騒ぎを聞きつけて甲板に3人の戦いを見に来ていたクルー達を驚愕させるのに余りあった。

 

「がああああああああ!…ぐっ、バ、バギー、今だ!!!」

 

 バレットは思わず加減を忘れてシャンクスを殴り飛ばす。物凄い勢いで吹き飛ばされたシャンクスは叫び声を上げつつも、この好機を好敵手に伝える。

 

「あぁ!! ありがとうなシャンクス!! お陰で完成したぜ、バラバラキャノンだ!!」

 

 バギーは小さくなりつつも、その身体には不釣り合いな大きな大砲を携えていた。よく見ると、大砲はバギーの身体のパーツで出来ているが、その完成度は非常に高い。

 

「なんだ…!そいつは…!」

 

「俺の火力不足を補うにはどうすればいいか考えた結果辿り着いた技だぜ!

火薬を使わねえコイツはキャノン砲の様な爆発力を持ったまま、その反動を人体が耐えられるレベルまで落としてある! 今度のバラバラ砲はイテェぞ…!」

 

「グワハハハハハ!!! 面白い!! 受けてたってやるぜ! 赤鼻!」

 

「だぁぁあれが赤っ鼻だってェえええ!!? 覚悟しやがれ!! バラバラキャノン!!!」

 

 バギーがありったけの力を圧縮してバラバラキャノンの中で爆発させる。砲弾はその勢いを使って目にも留まらぬほどの速さでバレットへと向かう。

 その反動で、バギーはキャノン砲の形を維持しきれなくなり、細かくなった体のパーツが散らばってしまう。

 

「所詮は覇気も纏っていねえただの玉っころ! 俺の拳にゃ勝てねェ!!」

 

 バレットが覇気を込めた拳を思いっきり砲弾に叩きつける。それで、砲弾は粉々に砕けるかと思われたが、意外な事に拳とバラバラキャノンが拮抗していた。それどころか、バレットは確かに自身の拳が悲鳴を上げるのを感じた。

 

「そいつはどうかな? …その砲弾は俺様の身体の一部だ! そしていつまでも俺様が覇気を使えないままでいると思うなよ!」

 

「なにい! いつの間に覇気を纏わせられるように!! いやそれにしたっておかしい!! 何故俺の拳と拮抗を…!」

 

「派手バカやろーめ! 強さってのは、速さかける重さなんだぜェ!」

 

 豆腐でさえ、速く投げつけられると骨折するほどの凶器へと変貌する。

 ましてや、バラバラキャノンで使った砲弾はその衝撃波が周りに被害を与えるほどの速度で打ち出されている。足りない威力を発射口とエネルギーを伝える箇所を狭めて無理やり高めているのだ。当然火薬で打ち出していないとは言え、その反動は凄まじい。

 しかし、バギーはバラバラの実の能力をここでもうまく使っていた。即ち発射後、弾道に影響が出ない程度に速やかに砲台を分解させたのだ。元々極細やかに分解したパーツは発射の反動を吸収し、分散させていた。

 

「ド派手にぶちかませェ!」

 

「ぐ、ああああああ!!!!!!」

 

 拮抗していたバレットの拳とバラバラキャノンは、ついにバギーの方へと軍配があがる。先程シャンクスに殴られ、立て続けに高威力の技をくらっては鬼の跡目と言えど、防ぎきれなかった。

 

「よぉし! 追撃だ! …と言いたいところだけど、パーツが組み立てられねえ!?」

 

 ガビーン、と擬音が聞こえて来そうなバギーに、バラバラキャノンを食らって倒れていたバレットから笑い声が聞こえて来た。

 

「ククク、なんだてめーその姿は。漸く面白くなりそうだったのによ。」

 

「ば、ば、バレットさん!? 嘘だろ! あんだけやったのにまだ意識あんのかよ!?」

 

「バカヤロー、俺があれしきで気絶するかよ。………ただまぁ、良い一撃だった。お前も、そこの赤髪のガキもな。」

 

 バレットが顔を向けた先には、殴られた箇所を庇いながら足を引き摺って歩いてくるシャンクスがいた。

 

「い、いてててて。やっと一撃お見舞いできたぜ。それよりバギー! 何だあの技は! カッケェーー!」

 

「バ、バレットさん……。だぁ!! やかましい! シャンクス! 今感動的なシーンだろうがよォ!」

 

「んだよぉ、そう邪険にするなって。俺のおかげでバレットさんに攻撃が通ったんだろ?」

 

「んだとぉ!? テメェなんぞいなくても通ってたわ!!」

 

 バギーがシャンクスに小さい身体で詰め寄ると、シャンクスはバギーを片腕だけで抑えながら笑う。

 

「ナッハッハッハ、それにしてもその姿おもしれーなぁ。」

 

「んむきぃ!!! だぁれがチビだってェ!」

 

 2人が騒いでいると、バレットが話しかけてくる。

 

「おい、お前ら。聞け。」

 

「あ?」

 

「なんだ?」

 

「先ほどの戦いでお前らの成長ぶりは分かった。レイリーには俺が言っとくが、2人とも覇気を使うことができるまで育てるのが当初の目標だ。

明日からは好きにしていいがどうする?」

 

 そう聞かれると2人は顔を見合わせた。相談するといった風ではない。既に腹を決めている顔だ。

 

「バレットさんがよければ明日からも相手してくれ。」

 

「俺様もそれがいい。」

 

 そんな2人を見て、バレットは無意識に口の端を吊り上げる。バレット自身、半年間毎日のように突っかかる2人に心のどこかで絆されていた。それを誤魔化す様に、鼻で2人を笑うとそうか、とだけ呟いてどこかへ歩いていった。

 

 残された2人は、あの鬼の跡目、ダグラス・バレットから認められたことに喜びを隠せないでいた。ダグラスが2人に絆されていたように、2人も圧倒的な強さを持つバレットに尊敬の念を抱いていたからだ。

 

「なぁ、オイ! シャンクス!!」

 

「ああ! やったな! バギー!」

 

 どちらからともなく肩を組み、喜びを爆発させる。その様子を見ていたクルーも、見習いだった子供達が一端の海賊になったことを喜び、朝から宴を始めようとする。ここは海賊船、気分が乗ったら宴だと言わんばかりに騒ぎ始める。

 その騒ぎを聞きつけたレイリーが駆けつけた時には、既に収拾がつかなくなっていた。




誤字修正してくださった方、ありがとうございます!

感想を書いて下さった方や、評価をくれた方も、お気に入り登録してくれた方も、もちろん読んでいるだけの方でも本当に励みになります!
ありがとうございます!!

まだまだ書き続けるつもりですので、引き続きよろしくお願いします!


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。