時空神の青年は世界を回す (nite)
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自己紹介

新しく連載小説を始めさせていただきます。昔に投稿していたものの完全改変になります。タグにも書きましたが時系列はバラバラですので話数カウントはなしです




初めまして…でいいだろうか。時空神のミキ・クレイルだ。

読者の諸君、先に言っておくが俺は時空神だから君たちのことも知覚しているからな。あまり迂闊なことは言わない方がいいぜ?

さて、主に今回は自己紹介をしろって言われてるんだ。だから少しばかり俺のことについて話させてもらう。でも三人称視点で語り部を主がしてくれれば俺がわざわざ説明する必要はないと思わないか?主っていうのは作者のことで…まあ絶対神ってことになるんだが…流石の俺もこいつから逃げるのは簡単じゃないから従うしかないんだけどよ。

んじゃまあ軽めに自己紹介と行こうか。さっきも言ったが俺は時空神っていう役割を担っている。簡単に言えばマルチバース上に存在する様々な時空の調査をすることが仕事だ。要は探索者ってことだな。時空が崩壊しそうな時とか神が暴走したり神同士が喧嘩したりしたときに止めるのも俺の役目だ。なぜかと言うとそれができるのが俺くらいしかいないから。

年齢は…一応肉体年齢は二十二歳くらいなんだが、色々あって東京で人生やり直しとかさせられたことがあるから精神年齢は結構いっているはずだ。俺も途中から数えるのをやめたから一応対外的には二十二歳ってことになっている。

因みに既婚者だ。なんなら子供もいるぞ。日本…ないし地球に住んでいる君らじゃよく分からないだろうけど俺の力と嫁の力が混ざってできた子供なんてのもいる。折角だから嫁のことも紹介しておこう。

 

「やっほーミキ。あれ、これ今何かしてるの?」

「ああ、ゼロのやつが小説を書くだとかなんだとか言うからそれの資料的なやつだ」

 

彼女が俺の嫁であるサナだ。本名はサターナ・クレイル…なお旧姓はナブリスだ。

鮮やかな水色の長い髪が背中の真ん中くらいまで垂れていて、身長は俺より少し小さいくらいの百六十二センチだ。俺は百七十八だから…少しってほど少しの差でもないか。サナは魔法使いであり、現代の大賢者と呼ばれている。色んな時空に行って色んな魔法体系を知って何かと魔法を覚えてきた俺からしても天才と呼ばれる希代の魔法使いだ。

 

「このボイスレコーダーに向かって喋ればいいの?」

「なんかいい感じに頼む」

「えーっと…こんにちはサナです。日頃は研究とかしてます。あとミキが暴走したときのストッパー役でもあります。ミキのこと、皆さんよろしくお願いします」

 

なんかめっちゃお母さんみたいなコメントだったな。

俺が暴走したときっていうのは悪戯で俺がやりすぎたときってことだ。断じて神たちみたいに暴れて世界に傷をつけるとかはしていない。

 

「で、どこまで紹介するつもりなの?」

「取り敢えず俺のことを知ってもらえばいいかなって感じ。仲間もいっぱいいるから一気に紹介しても覚えきれないだろ?」

「でも私はいいんだ」

「正妻だからな」

 

あー…言い忘れていたが俺の嫁は一人じゃない。実のところサナを含めて三人いる。最初はサナしか愛さないつもりだったんだが…半ば脅迫のようなことをされて嫁を増やしている。ちゃんとその二人のことも愛しているから読者らは安心してくれ。機会があれば紹介するよ。

 

「でもミキのことって…それだけで多くない?全部のこと一気に紹介したらそれだけで小説大半埋まっちゃうんじゃないの?」

「だから俺のことも少しずつだな。今後の物語を話していくうえで確実に必要な俺の能力と武器と魂に関して話す予定だ」

 

予定だ…というか今ここで説明するんだけどな。

まず俺の能力。名前がついているというわけじゃないんだが俺は【空間模倣】と呼んでいる。どんなものに対しても模倣できるっていう能力だ。制限はないのでひたすら技を覚えて手数を増やすのは俺の戦い方の一つである。一応模倣したばかりのものはオリジナルより劣るが、何度か使っている内にオリジナルと同等の強さになることが多い。

んでだ、この模倣に関して俺は時空神として色んな時空に行った。その結果君らがラノベと呼んでいるあれの人物にも会って技を盗んでいる。まあ全部でもないけど。

例をあげるなら…どこかの黒の剣士のスターバーストストリーム、爆裂少女のエクスプロージョン、永遠を生きる魔女のイクスティンクション・レイとかそのあたりだ。やはり強い技はコピーしたくなるのが性である。

能力についてはこんな感じだな。んで次は武器だ。

俺の武器は剣、特に二刀流なんだが…ぶっちゃけなんでも使える。神なので神器っていう類のものも持ってるがその時点で剣以外にも銃とかハンマーとかあるので察してくれ。

武器それぞれに名前が付いているが取り敢えずいつも使ってる二振りだけ紹介しておこう。銘は光桜剣(こうおうけん)、そしてだ。どちらも桜に関しているが…それはまあおいおい説明する。今はこの二振りを主に使っているってことを覚えていてくれればいい。白金色の刀身に桜色のラインが入っているのが光桜剣で、淡い桜色の刀身が桜花だ。

そんで魂に関してなんだが…これは宗教的な概念でもあるから日本人には分からないかもしれないけど、すべての生物が持っている魂というものを俺はいくつも持っている。別に多重人格ってわけじゃないぞ?というか多重人格であっても魂の数は一つだしな。

 

『ミキ様ー、呼びましたー?』

『呼んだぞヒカリ』

 

魂の数もすごいことになっているので取り敢えず代表してヒカリを紹介しておく。その名の通り光そのものが魂となっている。正確に言えば光の魔力の魂って感じだな。彼女のおかげで俺は光属性に対して非常に高い適正がある。

他にもいっぱい魂がいるが、それの紹介もまた別の機会にさせてもらおう。サナの言う通り全員を紹介していたらそれだけで小説が一個丸々埋まってしまうことになる。魂のやつらはたくさんいて、そいつらは俺に話しかけてくることがあるということを分かってくれていればいい。

 

「街のこととかそこらへんは?」

「それも追々…サナは何か話しておきたいことはないか?」

「え?うーん…これってミキが主人公の話?」

「そうだな」

「じゃあ特に言うことはないかな」

 

もしそうじゃなかったら何を言うつもりだったのだろうか。心を読むくらいならば容易にできるが、まあわざわざそんなことをする理由はない。

さて、粗方前提条件的なことは話してしまったわけだが…俺の立場について最後に追記しておこう。こういう小説ではあるまじきことかもしれないが、俺は最強である。自称じゃないぞ?全時空を合わせたうえで最強だということは他の神からも認められていることだ。奥の手が強力すぎるってだけなんだけどな。

 

「ミキが最強なのは分かるけど慢心しないでね、ってずっと言ってるよね?」

「慢心なんかしてないさ。楽しんでるだけだよ」

「一緒!!あまり心配かけないでよ?」

 

とまあこのようにサナがストッパーになってくれるので俺も思う存分遊べるというわけだ。絶大なる妻への信頼ってところだな。それにさっきも言ったがサナはこの世界で大賢者と呼ばれていて俺が教えた超級魔法なんかも連発してくるのでストッパーとして優秀だという理由もある。

さて、取り敢えず俺の現時点での自己紹介はここらへんにしておこうか。次回は俺の時空神になった経緯についてあれこれ教えるからな。




作者及びミキからすれば頂点の神こと私です。作者自体がデウスエクスマキナ的なものだと思ってください


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時空神への経緯

あ、おかえり。二話も読んでくれたってことはそれなりに興味を持ってくれたってことでいいのかな?うん、そう思っておこう。折角俺が主人公だっていうのに読まれないまま数多の小説の中に消えるっていうのも空しいからな。

さて、前回言った通り今回は俺がなぜ時空神になったのかということだ。前回は言わなかったことだが俺は神であると同時に人間でもある。元々人間であり、神の力を貰ったのだ。というわけで突然の回想シーンどーん。

 


 

それはこの世界における六年前。まだ俺が定住もせずに旅をしていた時だった。とある街で休憩がてら公園で座っていた時、どこの誰かも知らない男性が話しかけてきたのだった。

 

「やあ、君がミキで合ってるね?」

「そうかもしれないし違うかもしれないな」

 

まだその当時は神器ではなかった光桜剣を男の首元に突きつける。たまに街の中であっても問答無用で襲ってくるような輩がいたので咄嗟の判断のことだった。旅をしながら移動し続けているのに俺の名前を知っていることは最上級に怪しいことだからでもあった。怪しき者は罰するの精神じゃないとすぐに死ぬ世界なんだ、ここは。

 

「うんまあ君がミキなのは知っているうえで話しかけた。どう反応するのか気になってね…君に興味があるファンだよ」

 

男の首に剣先を向けたまま男の姿を観察する。見た目は普通の町人と言った感じで戦闘慣れしている様子はなく、冒険者らしくもない。だがこういう輩は特に盗人や乞食だったりするのだ。そもそもこんな怪しさ満点に話しかけてきたやつがただのファンなはずがない…というのは当然の思考だろう。

 

「ふむ…間近で見るのは初めてなわけだけど…うん…いい素質だ」

「はあ?用がないならさっさと去ってくれ」

 

その街の公園は中々に居心地がよく何か食事でもしようかと思っていたところにこの怪しい男。さっきまではしばらくいようと考えていた公園が既に立ち去りたい場所になっていた。ここで俺が動かないのは偏に男を警戒してのことだ。敵に後ろを向けたら危険というのは勿論のことだが、俺が移動するのを待って周囲に仲間を待機させている可能性もある。俺が先に動くのは得策ではないと考えたのだ。

そしてその考えを読んだかのように男は言った。

 

「仲間なんかいない。本当は連れてきたい子が一人いたんだけど少し急用でね…僕らの仕事は突然のことが多いんだ」

「じゃああんたもさっさと帰った方がいいんじゃないか?」

 

俺の心を読むかのような発言に対して俺は表情一つ変えずに応じる。話を聞く限りではこの街の守衛でもしていそうな内容だが、ずっと旅を続けていた俺は男が戦いに慣れていないということも肉弾戦にそこまで強くないということも見るだけで見抜いていた。魔力も全然感じなかったしな。

 

「いやいや、僕は色々事情があってそこまで急務になることはない。ゆっくり話そうじゃないか」

 

男の一つ一つの言動にイラっとする。ファンだというのであればもっとこちらを立ててほしいものだ。というかファンならさっさとどっかに行け。

当時はまあそんなことを考えていたものだが…ちなみに今でもこの男の言動にはイラっとする。多分喋るだけで相手を苛つかせる能力でもあるのだろう。

 

「僕は君をスカウトしに来たんだ」

「スカウト?」

「ああ、僕らと一緒に働かないかなってね」

 

突然話しかけたうえで仕事のスカウト。実のところ冒険者業をやっているとこういうことは珍しくない。なんせ冒険者業というのは道中で手に入れたものを売って旅をするもので、金を稼ぐという夢があるならまずおすすめできないし、国家の騎士団や傭兵と同じくらい危険な仕事だ。なんせ地球でよくファンタジーの創作物として見られるスライムやらドラゴンやらが普通にいる世界だからな。

当然その仕事に不満を持つ人も多くいる。冒険者業をやっている人はそうじゃないと生きていけない人が大半だからだ。家を追われたとか破産したとかそういう事情を抱えた者が大多数を占める。因みに俺は故郷がなくなったからという理由があるが…これは別の機会に話そう。

要は冒険者には不満が多いので転職をしたいと考えている者も多いのだ。だからスカウトだってそう珍しいことではない。珍しいことではないのだが…読者の諸君が考えている通り悪い仕事を斡旋しようとする者もいるのが現実だ。多くあるのは「実は盗賊の片棒を担いでましたー」って仕事だな。

 

「アットホームな仕事でホワイトだよ」

「何言ってんだ?」

 

なお俺の世界にアットホームだとかホワイトだとかいういわゆる英語と呼ばれる言語は存在しない。当然そんな異国の言葉など理解できないし、なんならこの世界の言語は日本語でもない。俺はまあ東京に行くこともあるし能力を使えば一瞬で言語理解することなど容易なので翻訳して読者に伝えてるってわけだ。

 

「あー、優しくて平和ってことだよ。ごめんね、最近見た場所での決まり文句みたいなものなんだ」

 

よくよく考えてみればこの男が言っていた場所とは東京よしんば日本のどこかということであり、それが決まり文句なのだとしたらその地域はきっと負のオーラがすごいことになっているだろう。

 

「自己紹介をしよう。とはいえ僕に名前はなくて…ゼロとでも呼んでくれ」

「ゼロ、ね…」

 

さっき言った通り英語は存在しないのでゼロという単語もまたこの世界には存在しない。しかし何か特別な意味があるのだろうということは男の口ぶりから察することができた。

 

「んで、職業は?」

「神さ。僕は絶対神という仕事をしている」

 

はい、既に当時の俺は混乱しています。いやまあ混乱というか困惑の方が近いだろう。なんせ職業を神などと言う男が目の前にいるのだから。薬をやっているか、もしくは頭のおかしい宗教勧誘人だと考えるのはおかしくない。なおこの世界にも違法薬物はあるし宗教もある。そんで日本と同じく問題になることも多い。

 

「驚くのも無理はない。だから証明してみせよう。その剣で僕を貫いてみるといい。〈絶対に僕に攻撃は当たらない〉からね」

「ほう?」

 

遠慮なくゼロを貫こうとした。死んでしまったら死んでしまったで俺はスッキリするし本当に当たらないとしたらそれはそれで興味があるからだ。そう、これに興味がある時点で俺は既にゼロの策に嵌っていたのだろう。

剣をそのまま首に突き出す。しかし不自然に曲がりまっすぐ突くことができず掠る気配もない。俺は剣をゼロの腕や足、胴体に向けて斬りつけたがしかしなぜか当たらない。剣を収めて殴ったり蹴ったり…最後には至近距離で魔法も使ったが一度も当たることはなかった。

 

「はぁ…はぁ…どういう手品だそりゃ?」

「手品、というかこれは権能っていうのさ。絶対神の僕だけが使える絶対的な権能さ。そんでもってこういう権能を君にも分けてあげようと思ってね。まあ仕事はしてもらうけど」

 

権能という言葉は多分この世界にも存在しているのだろう。しかしながら聞いたことのない言葉だったので理解することはできなかった。だが当時の俺では想像することもできないほどとてつもない何かなのだろうということはなんとなく感じていた。

 

「力の代償は?」

「最初に聞くのがそれなのは実に合理的だ。合理的な人物でもないと神なんてやっていけなくて…」

「答えろ」

「おお怖い。代償は君らの魔法と同じ仕組みで、権能を使うときは神力を使うことになる」

 

魔法の仕組みは日本でもよく用いられる設定である魔力を消費して魔法を発動するというものだ。同じ仕組みだと言われれば理解するのも簡単だった。

 

「仕事は君がどんな神になるかにも寄るね。僕は君に神の力をあげるだけで君がどんな神になるかは知らないから」

「全知全能ってわけじゃないんだな」

「僕の権能を使えばある程度全知全能を気取ることもできるけどね。基本的に神ってのは自分の力しか使えないものさ。さあ、どうする?」

 

結論から言えば俺はこのタイミングで了承して神の力を得る。そして時空神の力を得た。

当時の神界の状況を説明すると魔神と呼ばれる神と同じく権能を擁した上位存在のせいで神の数が減ったのでその補給をしようと本来はあり得ないことだが、生きている人間を神にしようとゼロが人材を探していたらしい。神というのは生物の信念から生まれるものなので人為的に神を作り出すと言うのは初の試みだったらしい。

しかしここで問題発生。時空神なんていう役職は存在しなかった。そりゃなんちゃって全知全能なゼロもこれには驚いたものだ。

 

「ちょ、ちょっと待て。なんだその権能は!?」

「あー…これが神の力か…なんとなく分かったぞ」

 

当時俺が感じ取った権能は【空間模倣】ただ一つ。なぜ時空神なのに【時空移動】という権能を持てなかったのには理由があって、時空というもの自体は時の女神が管理していたからだ。彼女もまた知り合いなのでどこかで紹介するとしよう。

 

「その役職はまずい…いや待て…これはある意味都合がいいかもしれないな」

「どういうことだ?」

 

神の力が本当だと言うことを知った俺は剣を鞘に戻して訊ねた。権能のせいで攻撃が当たらないのは相変わらずだったしな。

 

「僕は神のまとめ役みたいなものなんだけど、そんな僕でも勝手に神の役職を作ることはできないんだ。でも君のその役職は捉えようによっては結構自由に動けるんじゃないか?」

「知らんよそんなの」

 

聞かれたところで神の仕事とか知らんし答えられない。とはいえゼロの目が怪しく光っていたので多分あまり俺には利益のないことなんだろうなと感じていた。

 

「君はまだ生まれたばかりで神力は回復しないのを感じているだろう?神力ってのは他者からの信仰で増えるからね。だから君にはとある世界で有名な神様をつけてあげよう。そうすれば神から力を分けてもらえるはずだ。あとこの世界での君の目的は達成してから神の仕事は手伝ってくれ。力に慣れる必要もあるからね」

 

俺のこの世界での目的、それは俺の故郷を襲った相手である魔王への復讐だった。現在はその目的は達成されているので魔王討伐に関してはまたどこかで話すよ。

 

「さあ!君は旅を続けたまえ!僕は僕でやることが増えてしまったからね。またあとで…補助係の神を連れてきたときにでも会おう!」

 

そうやってゼロは消えた。ゼロは時の女神よりも上位存在なので時空移動も簡単らしい。

 

「うん、楽しくなりそうだ」

 

俺は自分の力を確認して楽し気に笑った。

 


 

回想終了。うーん、懐かしい。この世界では六年前だけど俺の体感で言うならもう合計で百年くらい前の話なんだよなこれ。

 

「ん?ミキ、何読んでるのそれ?」

「あ、これ前に言ったゼロが書いた小説。一緒に読む?」

「読む読む!」

 

サナが来たんで今日はここまでだ。またな!




前回のあとがきで作者=ゼロみたいなこと言ったんですけど実際のところは分身というか作者の代わりに色々してくれるのがゼロです。ゼロが小説書いてることになってるけど、実際は自分が代筆してるんですねぇ…分霊箱的なあれです


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魂のこと

【自己紹介】にて登場した光ちゃんについて名前をヒカリちゃんに訂正しておきます

ミキ「どの光について話してるのか分からなくなるからな」


おう久しぶり。もしかして三話から読み始めるような破天荒なやつはいないよな?話数カウントはしないみたいだが絶対に最初から読んだ方が良いからな?俺は忠告したぞ?後から感想とかで「話分からん」みたいなこと言われても対応しないからな?まあ対応のしようもないが。

さて、今日は魂の話をしよう。前回ゼロから神の力を貰った時の話をしたが、その時ゼロがなんて言っていたか覚えているか?掻い摘んで話せば、まだ生まれたての神は自分自身の神力がないのでどこかの有名な神にサポートしてもらうって話だ。

このサポートっていうのはインストラクターとかアドバイザー的な立ち位置じゃない。なんせ神から神に力を受け渡し、しかもそれに慣れる必要があったからな。中途半端なサポートじゃだめだったってことだ。んじゃどうするんだってなるんだが、ここでこの話のタイトルである魂の話に繋がってくる。

 

『出番ですかー?』

『おう。今そっちに行く』

 

つうわけで場所移動。行先は魂の中だ。

はい、移動完了。文面だと何やってるか分からないだろうから少し説明すると、自分の中というのを強く意識したまま眠ってるだけだ。よく自分の中の力を感じてパワーアップみたいな描写がアニメとかにあるだろ?それをしながら眠ってるだけだ。まあ魂構造が複雑じゃないとこういうことはできないから今読者の君たちがやっても全くできないだろうけどな。

さて、ここが魂の中だ。正確に言えば魂とかそこらへんの色々を内包する空間だ。白とは言い切れないくらいのグレーな壁に囲まれていて、地面もまた同じ色。この壁は広げようと思えば広げることができる。

というか魂の中なら基本的に俺の思い通りになる。机とか椅子を出すくらいなら一瞬で可能だ。ここで暮らしていたいところではあるが、残念ながらそれでは体の方が死ぬのでどうしようもない。神とはいえ元々が人間なので普通に餓死はあり得てしまうのだ。

 

「ミキ様、こんにちはー」

「おうヒカリ。他の奴らを集めておいてくれた?」

「すみません…集合率が悪くて…」

 

一応読者のみんなに紹介するためにヒカリに他の魂たちを集めておくように言っておいたんだが…まあ俺の言うことを聞かない魂とか自由な魂とかいるので今に始まったことではない。ヒカリを責めるつもりもない。

 

「そこにいるのが集まってるやつらか?」

「はい!」

 

見た感じいるのは七人くらいだろうか。大体半分くらいなので…ある意味ちょうどいいかもしれない。ほとんど話しかけてくることもない魂たちが残りの半分なので紹介するならこれくらいがいい塩梅だ。早速一人目から紹介しよう。まずはヒカリから。

 

「私がヒカリです!ミキ様の光の魔力として色々補助をしています!魂の中からでも外に魔法を撃ってミキ様を助けるくらいのことはできます!…これでいいんですか?このボイスレコーダーに意味があると思えないんですけど」

「あとでゼロが聞きなおして文章に起こす用だ。気にしないでくれ」

 

ヒカリは純粋な魔力に意思が宿ったタイプの魂だ。ヒカリの魔力量は俺の魔力量と比例しているので昔に比べれば大きくなっている。とはいっても未だに中学生くらいの身長でしかないのだが。白く少し輝いている髪はヒカリの名に恥じないきれいさという中学生らしくない面も持ち合わせている。そもそも魔力の塊のおかげで見た目は結構簡単に変わるんだけどな。

はい次。

 

「そして私がヤミです。ヒカリと大体同じことしてます」

「簡潔でよろしい」

 

もう一つはヤミだ。俺の主な属性は光なんだが、闇も主属性レベルで使える。昔俺が病んでしまったときに生まれて当初は俺のことを闇落ちさせようとしていたが今では普通に俺のことを手伝ってくれている。別に闇属性だからと言って病んでるとかどす黒いとかはないぞ。ヒカリもヤミも良い子だ。

はい次。

 

「天照大神です。ゼロ様からサポートのために配属された神ですが、今はミキ様のことを慕っているつもりです」

 

こいつが本命、天照だ。日本に住んでいればどこかで一度は聞いたことがある神だろう。日本では宇迦之御魂…いわゆるお稲荷さんと同じくらい有名な神様だろう。なんでこんなビッグネームが俺のことをサポートしているかと言うと、一番天照が適任だったからに過ぎない。

神力を分け与えるということは、ある程度多くの神力を持っている必要がある。となればそこらへんの付喪神ではその役を担えない。となれば神力が多い名前のある神を連れてくる必要があったわけだが…日本は神様がいっぱいいるし有名な神様を、ということになり天照が選ばれたわけだ。

神の世界となる神界への移動は魂の中からでも簡単だし、天照の仕事はもうあまり日本ではないということで基本的に俺の中にいる。出会った頃はどこかの有名な神なのかなと思っていたが、日本に転移できるようになってから天照のビッグネームに驚いた。尚よく勘違いされることだが、天照は女神だ。まあ神なんて複数からの考えによって姿も変わるので日本国民の多くと古事記に書かれている内容を書き換えれば天照は男神になることだろう。

はい次。紹介したい魂は紹介したけどまだ残っているので。

 

「私はミカだよ!ミキの女版さ!よろしくぅ!」

「うざい」

「えぇ…私とミキの思考回路は同じだよ?」

 

こいつがミカ。俺よりも少し身長が低くて体つきが女性というだけでそれ以外は基本的に俺だ。最初から俺の中にいたヒカリ曰く俺の可能性なのだとか。どうやら俺は生まれるときに少しばかり魂に歪みが存在していて、何かが違えばそのまま死んでいたかもしれないらしい。しかし俺は男性として魂が固定されたおかげで死なずに済んだと言う。ただ女性としての魂も残ってしまって今のミカになった。

俺が変成魔法だとか変身魔法を使って女性になった時はミカに表に出てもらっている。そっちの方が女性らしくできるからだ。サナが言うには俺とミカは雰囲気は同じだけど違和感があるみたいだ。

はい次。

 

「私はマイ…喜神です。主様の眷属兼ミキの妻です。よろしくお願いします」

 

はい今、妻を眷属にしているなんてと思ったやつ。いるのは分かってるんだからな。元々俺の眷属になっていた喜神が妻になっただけだ。マイが眷属をやめたくないと言ったのでそのままにしているだけであり疚しいことは何もない。眷属としては俺のことを主様と呼び、妻としては俺のことをミキと呼ぶのは二つの立場を持っているマイの矜持なのだとか。

マイは喜神…言うなればキシンなのだが、他に魂に機神と鬼神がいる。どっちもキシンだ。今はいないけどどこかで紹介することになると思う。鬼神はともかく機神は従順だからな。

はい次。

 

「私が初之神…名前はウイ!一応ミキの眷属っぽいことになってるよ」

 

ミカと同じくらいの身長の黒髪な喜神どころか天照よりも神力が濃い彼女は神界の中でも最古の神とされている。つい最近まで妙な時空に取り残されていたのだが俺が救出してそのまま魂になっている。補足しておくと神というのははっきりとした肉体がないので簡単に魂になれるのだ。別に死んだわけではない。

ウイはその名の通り初物の神なので大体新しい概念が生まれるときは彼女の権能が働いている。時間によって物が消えていくという世界の理だけではいつか何もなくなってしまうからだ。ここで遊んでばかりだけど結構全時空にとって大切な存在である。

はい次。

 

「私は封です。色々と封印の力を使ってミキ様を援護してます。よろしくお願いします」

 

薄灰色の髪をした中学生くらいの少女が多分一番戦闘において役に立ってくれている。封はとあるやばいほどの怨念が籠った木を浄化した際に残った結界をどうにか有効に使えないかと試行錯誤した結果生まれた魂だ。別に人工の魂というわけではないのだが、俺が何もしなければ生まれなかった魂ではある。そのおかげか封はとても献身的だ。

封印と結界というのは根本的に違うので封は結界解除はできないが、封印解除はどんなものであっても無条件で解除できる。

はい次。

 

「私がセイです。あまりミキ様の役には立てていませんがよろしくお願いします」

 

と言っているがめっちゃ役に立ってくれている。力を行使せずとも魂にいるだけで俺のことを守ってくれている。なんせセイというのは聖の力だからだ。もし俺が毒を飲んだり呪いを受けたときに勝手にセイが浄化してくれるのだ。

今は淡く光る金髪の少女だが、元々はどす黒い髪色だった怨念の魂だったりする。何度も怨念の彼女と対話して浄化していった結果なんやかんやあって聖となったのだ。なんやかんやの部分は忘れたころに説明するだろう。

 

「取り敢えず集まったのはこれくらいですね…」

「うん、まあこれくらいだろ普通」

 

残りの魂はどっかで顔を出すだろう。その都度紹介していくからあまり気にしないでくれ。主要メンバーは今ここにいる魂たちプラス機神なので多分紹介するのもほとんど機会はないだろうしな。

一気に三話も使って俺のことを色々と説明したせいで多分既に死んだ目で小説を読んでいる人もいることだろう。説明回が続くと流石に疲れるからな。

というわけで次回は戦闘でもしよう。俺の仕事を紹介しないといけないからな。ん?これ説明回か?まあいいや。また会おう。



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時空神の役割

説明回第四回目だ。すまんな。でも今までと違って血湧き肉躍る戦闘もあるだろう。多分。

今回は俺の日頃どんなことをしているのかについて実演する。多分実際にやりながらの説明の方が分かりやすいだろうからな。

 

「ミキ仕事ー?」

「いえす。ゼロに指定された時空に行ってくるわ」

 

サナに挨拶をして時空転移。俺は拠点のどこからでも時空転移はできるのだが、まあ家の中でやるってのもどうかと思うのでちゃんと外に出てから時空転移している。因みにこの世界では家の中も土足スタイルが主流だが、うちの街では大体は日本スタイルだ。やっぱり汚れは少ない方が良いよね。

ゼロから指定される時空は時空座標という数字で連絡される。時空魔法を理解してないとどういう意味なのかも分からないからここには書かないが…お前らの世界で研究・考察されてる次元概念とはまた違う形だからあまり気にしないようにしてくれ。

さあ、今回指定されたのはこの時空。出現したのは森の中。初めて行く時空において俺が最初に現れる場所は俺には想定できないがランダムではない。その時空の中で一番力が薄いところに現れるようになっている。壁が薄い方が通りやすいっていう理論は時空単位で考えても成立するんだぜ?

俺がこの時空でするべきなのは異常の調査と時空の調査だ。ゼロ曰くこの時空は変な異変が起きているらしいということ。ついでに時空自体も初めて行くとこだから調査してきてねーというなんとも適当な指示だ。まあ俺の上司ってゼロしかいないし、ゼロの部下らしい部下も俺だけだから気が楽なのだろう。

 

『周囲に敵なし!』

『なんなら動物とかもなし!』

 

ヒカリとヤミから周囲の報告を聞く。二人は魔力の塊なので魔力を飛ばして周囲の状況を知ることができるのだ。勿論GPSのような正確なものではないが、二人が基本的にずっと索敵しているので不意打ちを受けることはあまりない。

この世界は…魔力っていう概念はあるっぽいな。魔法も問題なく使えるみたいだし、木々や空の様子を見ても俺の時空とあまり差異はなさそうだ。しかしゼロが指定してきたということはただのありきたりな世界ではないのだろう。それに力が一番薄いということは一番発展していないということでもある。この世界に人間がいるかは分からないが集落をまずは探すべきだろう。

 

「んじゃ手っ取り早く飛びますか」

 

天族としての翼を生やす。日本でよく天使と呼ばれているキャラが背中に生やしているあれだ。俺は空間模倣と全属性適用のおかげで天使にだってなれるのだ。というか悪魔とか、なんなら竜人とかにだってなれる。魔法ってすごい。

うーん、高く飛びあがっても周囲に広がってるのは森ばかり。仕方ないので取り敢えず方向を決めてまっすぐ飛んでみるか…

…おい森終わんないぞ。

…絶対これじゃん!ゼロが言ってた異常これじゃん!

えー、掻い摘んで説明すると、一時間程度ジャンボジェットの三倍くらいの速度で飛んだんだが一度も森は途切れなかった。世界が広がって空や森が形成されている以上必ず気候という概念はこの世界にもあるはずである。しかしながら眼下の森は俺がこの世界に来たときに見たものと同じ青々とした葉を広げている。尚道中で集落っぽいのを見つけることもできなかった。海がないっぽいしもしかして動物はいないのかもしれない。まあ別に海がなければいけないという条件でもないのだが。

 

「でも調査つってもどうすればいいんだこれ?原因がどこかにあるのか?」

『ミキ様、一度下に降りてみては?』

「…せやな」

 

封の提案に俺は同意して地面に降りる。森の中の景色は俺がここに来たときと変わらず、多分この森で迷ったら一生同じところに戻ってくることはできないだろう。

一応原始的な方法で環境を把握しておくか。えー…方位磁針、反応しない。磁力、なし。重力、地球と同じ。大気構成、地球と同じ。魔力、俺のとこと同じ。

木々が永遠に生えていること以外は普通。むしろ困る。でもゼロが異常としてこの時空を探知したのならば元々はこんな森じゃなかったのだろう。うーん…木を切ってみるか。

別時空の俺専用の保管庫から時空魔法で斧を取り出す。何の変哲もない普通の斧だ。多分地球で買った千五百円くらいのやつ。

 

「そーいっ!」

 

全力で斧を幹にぶつけ木を切り倒す。木材は…知らない品種だけど毒があるとか魔力があるとかそういうものではなく普通の木のようだ。地球に輸入しても普通に植林され材木として使用されることだろう。

折角だからできることは全部してみるか。今度は保管庫から武器を一つ取り出した。

紅い刀身に赤い柄、そして刀身を包み込む圧倒的な炎。これが俺の神器の一つ、神器・梅紅(ばいべに)だ。めちゃめちゃシンプルな炎の剣だが、その火力は一撃である程度の広さの海を蒸発させることができる代物である。火力故に普段使いはできないものの、俺の神器の中ではトップクラスの火力を持つ。

 

「すぅ……ふっっ!!」

 

技名もなくただ全力で魔力を込めて梅紅を振る。それだけで俺の目の前の森は一瞬にして燃え尽きてしまう。範囲外だった木々にも多くの火が燃え移っており、しばらくすればこの森は超広範囲で火事が起きるだろう。しかし本当に何事もなく燃えたせいで何の原因も分からなかったな。

 

『いえ、ミキ様!何か来ます!』

 

ヒカリの忠告と共に地面が震える。そりゃ上空を飛んでも見つからないはずだ。だって、犯人は地中にいるのだから。

 

「グオオオオオオオ!!」

「元気でよろしい!」

 

地中から出てきたのはでっかい化け物ツリー。どうやらこの森は全部こいつから伸びた木で構成されていたようだ。それに空間的な歪みも感じるので多分認識修正も使ってるなこいつ。そりゃいつまで経っても森から出られないはずだ。どうせ森から出ようとしたらなんとなく森に戻るように認識を変えて、そして森の中で死んだ者を栄養にしていたのだろう。果物やキノコがなく、動物もいなかったのはそれが原因だと考えられる。

こいつがそのままだとこの時空自体が崩壊する可能性がある。森は少しずつ大きくなっているだろうから、最終的にはこの世界のすべての生き物がこいつに食われて、こいつも餓死して全生物消滅とかいう最悪な未来が待っている。

 

「つうわけでてめえには死んでもらう」

「グオオオオオオ!」

 

俺が先ほど広範囲を燃やしたからか俺のことは既に敵として認識しているらしく、すぐに太い木の根が伸びてきた。大きさの割にめちゃくちゃ早い。こいつ、一体どうやって生まれたんだ?

魔法で障壁を出して根を止める。しかし相当な攻撃力があるようで適当に作った障壁では完全に止めることができなかった。やはり普通に生まれるような生物ではない。もしかしてどこぞの迷惑な神がここに種でも落としていったのだろうか。だとすればそいつは断罪せねばなるまい。

動きが遅くなった根っこを捉えることなど容易だ。まあ別に動き遅くなってなくても狙えるけど。

 

「燃えろ!」

「グアアアアアア!」

 

あ、鳴き声のパターン変わった。ただ明らかに弱点そうな炎を根っこにつけてあげただけなのに。さっきまでの何の飾り気もない状態に比べると断然きれいだぞー。

うん、致命傷っぽい。燃えた根っこは地面の中へと戻っていった。火を消す方法は知っているのか。地面に戻っていった根っこの代わりに三本くらい太い根っこが現れた。果たしてあと何本あるかな。

 

『接近するからお前らバックアップ頼む』

 

身体強化…うーん、アクセラレーション…よし、行ける。

 

「ふっ!」

「グワアアアアアア!」

 

梅紅を背中の鞘に戻して保管庫から光桜剣と桜花を取り出す。そしてそのまま飛んでくる根っこを切り伏せながら急接近。今の俺は根っこと同じくらいのスピードだ。弾くことくらい造作もない。

 

「よお、でかぶつぅ…」

「グアアアアア!」

「炎をプレゼントだ!」

 

二振りを保管庫に戻してからもう一度梅紅を抜く。今度は先ほどのように闇雲に放つ炎じゃなく、明確な意思を持って放つ炎だ。ただの植物風情がどれだけ耐えられるかな?

 

「燃え尽きろ!天地開闢ううううううう!」

 

全力の炎。一瞬にして大樹を飲み込みそのまま空の彼方まで炎の柱が突き刺さる。

炎が消えればそこには切り株の部分だけを残して燃え尽きた化け物がいた。どうやらこの世界では死んでも消えたりはしないようだ。死んだあとの処理なんかも時空によって違うから面白い。

しばらくすれば周囲の森が一気に枯れ始めた。やはりこの木々は全部この化け物と繋がっていたらしい。これで異変の調査は終了だな。ゼロに報告してしまおう。

大体一連の俺の仕事はこんなもんだ。時によっては人に会ったり神を退治したりしている。神様版の何でも屋って表現が正しいだろうか。うん、それでいい。




ミキ「化け物がいたから燃やしといた」
ゼロ「世界終焉シナリオしなくてよかったね☆」


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メイド

さあ、今日も始めて行こう説明回。おっと、文句を言うなよ?現在は大きな事件だとかなんだとかっていうのは全部終わってるからな。まあ今後何か事件が起きる可能性は全然あり得るんだが…まあ期待しないで待っててくれ。そっちとこっちだと微妙に時間の進み方が違うからそっちで何か起きたときに介入するってのも難しいもんでね。

今回はタイトルにもある通りメイドについてだ。実はうちにはたくさんのメイドがいてな。ただまあ経緯含めて主力のメイド全員を紹介するってのも中々に時間がかかるので…今回は回想じゃなくてそのまま過去に視点を戻して小説にするとしようか。えっと…今から大体二年くらい前の話だ。時系列的には俺が目標にしていた憎き魔王を倒したあとだ。当時はまだ時空魔法で時空移動ができない未熟な頃だから日本なんかは知らないぞ。

そんじゃ過去を見る魔法を使用!

 


 

「ミキー…掃除大変だよぉ…」

「魔法使えばすぐだろ」

「そんな便利魔法は持ってませーん」

 

くそ野郎こと魔王を消し飛ばしたあと。旅を終わらせて定住すべく家を作った。旅の仲間は何人もいるものの、全員が生活できるほどの大きさで家を作ったのだ。今までも旅の間はずっと食事なんかを共にしてきたから同じ建物に住むということ自体は問題なかったのだが、その規模故に管理が大変になるという問題があったのだった。なぜ作る途中で気が付かなかったのか。

尚家の大きさと敷地の影響でどこかの街の中に建てることができなかったので建てたのはとある平原の中である。当然魔物なんかも寄ってくるが今更苦労するような相手でもないので心配はない。

 

「私たちも別に出かけないわけじゃないしさ、誰か管理してくれる人でも連れてきたらー?」

「それもありか…」

 

思い浮かぶのは執事とかメイド。

俺たちは家を手に入れたとはいえ知らない土地やら知らない遺跡やらの探索は今後も続けていくという結論に至っている。なのに家の掃除なんかに時間を奪われていては本末転倒だ。確かに誰かを雇うのもありかもしれない。

 

「家事…少なくとも掃除を代わりにしてくれる人がいいな…」

「誰かいい人いる?旅の途中で会った人たちの中にいれば時空魔法で会いに行けるんじゃないの?」

「まだ時空魔法での転移に慣れてなくてそれはできないんだ。だからまあここからすぐ行けるところしかないが……サナ、ちょっと天界行ってくる」

 

天界、それは神の尖兵ともいえる天使が生活している場所である。そして俺は何の因果かそこで天界序列二位としての立場があるのである。

 

〈ちょっと未来から補足失礼するぞ。先日の時空探査で生やした翼があったと思うんだが、実際のところあれは天界で生活する者なら皆が持ってるものだ。魔法で生やした翼なのになんで天界序列なんていう凄そうなものに入れるのかというと、魂関連としか言えない。まだ紹介できてないだけだ。そんじゃ続きどうぞ〉

 

なので俺は天界にいる天使の誰かを使用人として連れてこようと考えたのだ。なぜ天使なのかと言うと、機動力があり、それなりに戦闘力もあり、なおかつ結構暇だからだ。特定の仕事が割り当てられていない天使など日々適当な趣味に時間を使っているに過ぎない。使用人にはうってつけだ。

 

「行ってらっしゃーい」

「カイトたちには俺は使用人探しに言ってるって伝えててくれ」

「りょうかーい」

 

カイトは俺の親友であり旅の仲間だ。同じようにこの家に住んでいる。多分どこか別のところの掃除をしているだろう。

俺は魔法で翼を生やして空へと昇る。通常高く飛ぶだけでは天界など行けるはずもないが、特殊な魔法を使いながら専用のこの翼で飛ぶことで天界へと至ることができるのである。魔法ってすごーい。

はい到着。数十秒で到着するから場面転換も必要なかったな。

雲の上にある白い街。天国の光景を想像しろって言われたらなんとなくで思い浮かぶであろう光景がそのまま天界になる。まあここは死後の世界ではないけど。

 

「ミキさん!いい武器作ったから見てってよ!」

「すまん!今日の目的は別にあるんだ!」

 

一応俺は天界でもある程度活動をしているのでそれなりに知名度がある。先ほどの商人は鍛冶師でもあり、天界の希少な鉱石を元に武器を作ってくれる武器鍛冶師である。なおこれは天界で言うと趣味の範囲だ。なのでお金は必要なく、物々交換でのやりとりとなる。

趣味が鍛冶だとか鍛錬だとか守衛だとか、そういう人間の街と同じような役割を持った人々が集まって天界というのはできているのだ。今日はその中からお世話だとか掃除だとかが趣味な天使を探す。

天使が天界の外に出てもいいのかという疑問については、全く問題ないとしか言えない。別に天使がここから別の世界に行ってはならないという決まりはないからな。因みにこの天界は一つの時空として定義づけされているらしく、移動方法により色んな時空に行くことができる。俺の時空魔法を極めて行けば特殊な魔法なしでも天界に転移することができるようになるだろう。

 

「掃除好きな人はいないかー?なんか世話係とかでもいいぞー」

 

適当に街を歩きながら適当に人材を探す。誰かいい条件の人が引っかかってくれたらいいのだが…

 

「あー、ミキさん」

「ん?メレか」

 

サナと同じくらいの身長で、白い髪のセミロングの女性の天使メレだ。天界では比較的関わりが多い方の天使であり、関係を聞かれたらちゃんと友人と答えられるだろう。さっきの武器屋のおっちゃんは知人だ。そういえばメレの趣味は…

 

「私は家事全般得意ですよ」

「めっちゃ適正」

 

メレの趣味、それは奉仕活動である。掃除とか子供の世話とかそういうの全部やるのだ。しかも悪人(天界では悪人はそうそう出ない)がいたときは箒とかで撃退することもある。まさに俺が探していた人材と言えるだろう。

とはいえメレ自身が何の用で俺が声をかけていたのか分かっていないようなのでそこらへんを詳しく説明する。メレに来てもらえれば一番助かるんだけどなぁ…

 

「なるほど…それって私でいいんですか?」

「できればメレがいいって思ってるくらいだ。頼めないか?一応報酬も希望があれば応えるが」

「ふむ…家ってミキさんたちの家ですよね…ミキさん、その話お受けします。先に戻っていてください。準備したら行きますので」

 

よっしゃ。一人目で快諾。メレが専属でいてくれるならばもう安心だ。俺たちもメレに任せきりじゃないように仕事はするつもりだしな。

 


 

そして一日後。家を叩く者がやってきた。一応家の人たち皆を呼んでおく。

 

「皆様、初めまして。私はメレと申します。今後はここでメイドとして働くことになりましたのでよろしくお願いします」

 

昨日に比べて更に丁寧さが増した話し方に少々驚いてしまう。というかもっと驚くことがその服であり、完全にメイド服なのだ。昨日会ったときは普通の天使の服だったのに一体どこで手に入れてきたのだろうか。

 

「こちらの服は知り合いに作ってもらいました。使用人がマスターたちよりも目立つのはよろしくないと思いまして」

 

確かに天使の服は目立つ。なんせ純白の服なのだ。この世界では真っ白な布というのは中々手に入らない高級品であり、そんな服を着ていれば目立つことは間違いないだろう。その判断は正しかったかもしれない。

 

「マスターって?」

「マスターはミキさんのことです。一番上の存在ですので、私はマスターの部下ということになりますね。勿論サナ様たちへの奉仕も致しますので心配しなくても問題ありません」

 

一応この仲間たちの中で一番強いのは俺だ。それにメレを直接雇いに行ったのも俺だ。だから俺がマスターとなるのも分かる。あまりされない呼び方なので少々気恥ずかしい。

 

「私で時間を頂くのも申し訳ありませんので皆様はお戻りいただいて構いません。マスターは少々お時間を頂きます」

「おう、今後についてだな」

 

サナたちが元の場所に戻っていく。そして俺はメレを迎え入れてダイニングにある椅子に座らせる。メレは既にメイドとしての心構えを身に着けているのか座るのは遠慮がちだったのだが俺が命令して座らせた。既に主と召使いとしての関係が構築されているのはどうなんだろう…

 

「んでまあ報酬については…」

「いえ、給料などは大丈夫です。元より私はあまり私物がありませんので」

「えぇ…」

 

何も払わないというのはこちらとしては少しばかり心苦しいのだが、メレはマスターから頂くのはと言い続けるので結局俺が折れることになった。給料を無理やり渡そうとして拒否されるのはどういうことなのだろうか。

 

「ただ一つ望むとすれば私の部屋を一つ頂きたいです。天使はあまり眠る必要はありませんが、休息は必要なので」

「ふむ、じゃあ取り敢えず家の隣に小屋でも作るよ」

 

家自体は魔法を使えばすぐにできる。時空魔法で空間把握能力を上げれば設計図などがなくとも完璧な家を完成させることができるのだ。昔必要になるかもしれないと身につけた建築関連の知識が役に立ってよかった。

 

「それでは早速仕事に移りますね。私の仕事は家事全般でよろしいですか?」

「基本は掃除。料理とか周辺環境整備もしてくれたら嬉しいかな」

「かしこまりました」

 

そのままメイド服のメレが掃除を始めた。とはいえ拠点は大きいので一人では時間がかかってしまうだろう。もう少しは人員を増やした方が良いだろうか…

そう思ってサナに相談してみたらすぐに答えは返ってきた。

 

「ミキ、そういえば擬人化魔法っていうの開発してなかった?あれ使ってそこらへんの魔物テイムしてみたら?補助メイドなら教育すればいいでしょ」

「なるほど。ありだな」

 

俺はちょくちょく魔法の開発をしている。というのも俺の時空魔法の時点でこの世界には存在しない魔法属性なので自分で魔法を開発して実用的にするしかなかったのである。その中で体の構造にアクセスして疑似的に人間と同じ姿にする魔法を開発したのだ。形としては土をゴーレムにして使役する魔法と似たような感じ。

俺は早速外に出る。できる限り人間形態に近ければ消費魔力も少なくて済むのだけど…あ、スライム。あいつでいいや。擬態するスライムもいるし多分大丈夫なはず。

こちらから攻撃しない限りは攻撃してこない魔物のスライムに近寄って捕まえる。なんか知らないけど捕獲するだけだと反撃とかされないんだよね。そんでそのまま擬人化魔法。スライムの体が光った後、数秒したらそこには一人の女性が立っていた。まあ女性の体をしたスライムだけど。

 

「あれ…?」

「成功だ。スライムの割には結構自我があるんだな」

「スライムは基本的にちゃんと自我はありますよ?」

 

しっかり二本足で立ちながらキョロキョロするスライム。

すごいゆったり生活しているから希薄な自我しかないと思っていた。それこそゴーレム的な存在にしてメレが扱えるようにできればいいと思ったのだが、普通にメイドとして働かせることができそうだ。尚擬人化魔法で思考に影響を与えることはないので敵対している魔物は擬人化してもこちらを攻撃してくる。というか攻撃的なやつには擬人化魔法は効かない。

スライムに色々説明中…

 

「なるほど。まあいいですけど」

「攻撃してこないよな?一応テイムしようかとも思ったけど」

「んー…心配ならテイムしていただいてもいいですよ。スライムの体じゃできなかったことができるようになってそれだけで私の好感度は結構高めですけど」

 

一応テイム。テイムと言っても契約式の魔法で攻撃してこないように縛るだけだけど。

ついでにこのスライムの名前はスラにした。すごい分かりやすいだろ?別に追加人員をスライムだらけにするつもりもないので大丈夫だろうと安易につけた名前だ。

 

「じゃあ早速メレから教えを受けてくれ」

「分かりました」

 


 

おかえり。今の光景はとある時空の魔法である≪次元決戦演算(ディメンション・グラディエイト)『前日譚』(リコール)≫を使った過去視だ。基本的に今後も過去を見るときはこの魔法を使うからな。どこの時空の魔法かは…君らのグーグルやらなんやらで調べればすぐに出てくると思うぞ。

んで話がすごいぶっとぶが俺の三人目の妻というのがこのメレである。順番としてはサナが最初で次にマイ、そんでメレと結婚している。俺はサナしか愛するつもりはなかったのにどうしてこうなった。

 

「懐かしいですねぇ」

「この時のメレって今より固かったよな」

「この時はまだ雇われの身という意識が強かったので…マスターもぎこちなかったですしね」

 

実はメレは隣で一緒に過去を見ていた。折角なので呼んでおいたのだ。スラに関しては別件で仕事をしているのでこの場にはいない。

現在はメレとスラ以外にもたくさんのメイドがいる。その中でメレはメイド長、スラは副メイド長として活躍している。特にメレに関しては更に技術が上がり腕が何本もあるメイドや触手を使えるメイドよりも早く家事をこなす。

 

「ミキさん…」

 

…メレが俺のことをマスターではなく名前で呼ぶときはメイドとしてではなく妻としての振る舞いに切り替わったタイミングだ。どうやら過去を見たおかげか少々気持ちが高ぶっているらしい。

妻に求められたのでまた次回会おう。そんじゃ。




ミキ「俺たちの世界には英語がないことを前に言ったと思うが、天界は時空的に地球とも繋がってるから英語が一応あるんだ。だから地球に転移したことなくてもメレを雇った時点で英語を知ってるんだぞい」


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空間模倣

なし崩し的に前回は妻のことを紹介してしまったが、ちゃんと三人とも愛しているから安心してくれ。そもそもサナが俺には大切なものを増やしてほしいって考えを持っているから最初の妻であるサナが新しい妻を作ることに抵抗がないことが原因だ。

さて、今回はサブタイトルにある通り俺の権能である【空間模倣】について説明していくぞ。ここで一つ注意なんだが、この小説のタグにある超クロスオーバーというものが今回めちゃめちゃに絡んでくるからな。本当はクロス先にある時空のこともタグに書いた方が良いのだが、如何せん対象の数が多すぎるせいで書けなかったんだ。だから集約してこのタグになっているので気になる人は気になるなぁ…って思いながら読んでくれ。

 

「というわけで技能実験を始めまっす」

「ぱちぱちー」

 

拍手をしてくれるサナ。実際に見てもらうのが手っ取り早いということで実験ということにしたのだ。

俺の拠点がある街の周囲に広がる平原に出て実験を開始する。観覧者はサナとメイドの一人であるテクターだ。彼女は人型古代戦闘兵器の解析型で、環境のチェックをしてくれる。結構派手なこともするので観測機として必要だったのだ。身長は小学校五年生くらいの黒髪少女である。機械少女なので成長はしない。

 

「それで何をするの?」

「改めて色々別時空の技を使うんだ。記録を取ってないのもあるしな」

 

本来はその時空に存在しない魔法だとか技能だとかは使うだけで時空に影響がある場合がある。だから記録を取り問題ないかを解析するのだ。そのためのテクターである。

 

「そんじゃテクターは解析準備」

「…完了しましたマスター」

「んじゃ行くぞ」

 

さて、目の前にサナがいるので思考加速をしつつ先に少しばかり【空間模倣】について説明しておこう。

この権能は俺の数ある権能の中の一つであり、その名の通り空間ごと模倣し使えるようにする。アニメとかで魔法をコピーする力を持ったキャラとかいるだろ?あれの上位互換だと思ってくれていい。例えば特定の能力でしか発動できない技があったとする。だが俺はその能力を持たずとも技を模倣できるのだ。故に俺は大体どの時空に技でも使うことができる。まあ使えない技もあるけどな。

 

「んじゃ取り敢えず魔法から行くか。んー…エクスプロージョン!」

 

俺の正面、結構の距離を開けた先で大爆発が起きる。言わずと知れた爆裂魔法だ。詠唱に関しては使い慣れたものなら破棄できる。ただし権能の関係上、物語の中で詠唱破棄されない技は俺も破棄できない。そこらへんも含めて【空間模倣】なのである。

 

「敵性生物の消滅を確認。三体ほど、グロウタイガーが巻き込まれています」

 

流石精霊だろうが神だろうが吹き飛ばす爆裂魔法だ。爆裂圏内にいた魔物は一瞬で消え去ったようである。メイドでもない魔物に慈悲はない。

テクターの動作チェックにはもうちょい色々やったほうがいいかな。

 

「次……恋符・マスタースパーク!」

 

手元から極太レーザーが放たれ、俺の前方を丁度横切ろうとしたゾウみたいな魔物を消し飛ばした。本来この技は八卦炉という道具が必要なのだが、それくらいの制約であれば【空間模倣】は無視できる。というかこの魔法の使用者の魔力のチャージという目的でその道具は使われているので十分な魔力を持っている俺なら使わなくても使える。

 

「んで…打ち砕け!山脈震撼す明星の薪(アンガルタ・キガルシュ)!」

 

本来はある程度のチャージが必要な超級の魔法でも即使用が可能。まあこれも俺の多大な魔力量のおかげだけどな。オリジナルもとある神の必殺技なのだが、堂々とパクっている。まあ神様同士あっちと会ったこともあるしなんなら本人の前で使ったこともある。なんか悲しそうにしてた。

 

「テクター、どうだ?」

「…はい、ちゃんとチェックできてます。新規データの準備も完了してます」

 

ここまで使った三つは既に記録してる魔法だ。テクターの動作チェックとして既存のデータと相違がないかを確認したのである。

問題ないという報告なのでこっからは記録をとってない魔法を使っていくとしよう。

 

『封、ちょっと結界張っといて』

『了解です』

 

少々危ない魔法なので封に結界を張ってもらう。封印と結界は違うので封が自由に操れるものではないが、そもそも俺の中にいる魂なので結界くらいは普通に張れる。

 

「んじゃいくぞー…極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア)!」

 

威力抑えめに放つ滅びの魔法。この魔法普通に時空に影響与えてくるので結界を出さないとヤバいのである。なんで今まで記録していなかったかというとそれが理由で、出力がでかすぎて記録できなかったのだ。テクターを改造してなんとか記録できるようになっているはずだ。

 

「…記録完了です」

「よっしゃ」

 

成功に安堵する。

この魔法、とある時空の魔王が使うのだがそいつとはあまり喧嘩したくない。どちらも攻撃が規格外すぎて本気を出すとそれぞれ時空を三つくらい消し飛ばすことになるだろう。あれ、神でもなんでもないのに強すぎだろ。

 

「次行くぞ」

「はい、大丈夫です」

「…トゥマーン・ボンバ!」

 

上空に大量の魔法陣が展開される。そしてその真下で大爆発が起きる。

本来は何人もの術者と大がかりな装置が必要な魔法も俺一人で発動させることが可能だ。というかそもそも俺が一人で発動できないような魔法は一般人だと何人いようとも発動させることはできないだろう。尚俺一人だと発動できない魔法自体は存在する。魔力の質的な問題でサナの補助が必要になるのだ。

 

「チェイン・キャスト、記録完了」

「よろしい。魔法はこれくらいで大丈夫?」

「はい、細々したものは別の機会でもいいかと」

 

今日は読者諸君に日頃の俺の仕事以外の生活を見せるためにやっているので細かい魔法はなしだ。クリーナップとか身体強化レベルⅩとかそこらへんのそこまで広範囲に効果がないやつらはあとでサナと一緒にまとめて記録することになるだろう。

 

「マスター、次は魔法以外です」

「ほい来た」

 

魔法以外でも俺は戦えるのでそこらへんの記録もしていく。これもまた他の時空から模倣してきたやつらだ。

ただし魔法以上に使えない技は多い。なんせ身体的特徴を利用した技も多く存在するからだ。例えば腕とか足が多い生物の技は俺も魔法で増やさないと使えないし、ゴムゴムの~とかももちろん無理だ。ただし身体硬化とかは魔法じゃなくても体内の気を操ればなんとかなるのでそこらへんの技なら使える。

 

「すぅ……ジ・イクリプス!」

 

忘れてた剣技その一。振る回数が多すぎるせいで微妙に使いづらいので後回しになっていたのだ。一応このスキルって奥義に分類されていたはずなんだが…まあ奥義が使いづらいというのもよくある話か。

 

「しゅー…雷の呼吸、一の型・霹靂一閃!」

 

忘れてた剣技その二。実のところこれの派生は記録しているのだが、ただの霹靂一閃は記録していなかった。なぜかって?俺にとっては派生したところで負荷が変わらないので元のやつを使う機会がなかったからだよ。一応時空跳躍で師匠と呼ばれる人のところにも行ったんだよ?

俺が使うと確実に雷が起きるのだが、これは魔法ではなく身体強化系に含まれるので魔力は消費しない。分類で言えば霊力を消費していることになるのかな?魔力が使えない場所でも呼吸法で炎とか雷とか出せるので意外と助かっている。

 

「…英雄の一撃!」

 

数秒のベルの後の発破、通称アルゴノゥト。英雄を憧憬することによってチャージする英雄への切符…なのだが俺にはこれを上手く使いこなせない。なんせ尊敬する相手はいようとも憧憬する相手はいないからだ。ただ空間模倣で切り取っただけのチャージではまともな威力も出ない。今まで記録していなかった理由はそれだ。

あとこの技はスキルの側面があるので俺は魔法とは認識していない。本家本元では精神(マインド)と呼ばれる魔力みたいなものを消費するのだが…俺が使うと霊力を消費する。この差はよく分からないけど、ヒカリ曰く精神(マインド)は俺らの世界で見ると魔力よりも霊力に性質が似ているからではとのこと。

 

「剣技だと流石に敵を巻き込まないねぇ」

「巻き込もうと思えば巻き込めるけどな」

 

サナの意見に答える。魔物を巻き込まないのは広範囲の剣技を使ってないからであり、剣技だけで大地を割る技もあるのでそういうやつを使えば巻き込める。まあそういう類のやつは既に記録しているので記録しないけど。

 

「これで終わりー?」

「いやもうちょい…」

 

ただあとはしょうもないものを使うので見せる理由もないか。読者諸君には俺がどういう条件で空間模倣しているのかなんとなく分かってくれただろうし今日はここまでだな。

あとはサナと細々とやるので…次回をお楽しみにってやつ?



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宝物庫

どうも皆さんこんにちはこんばんは初めましての方は初めましてミキです…ってやるとちょっとユーチューバーっぽいか?小説だから関係ないし、こんな中途半端な話数でやることじゃないって?そりゃそうだ。

ここは俺が管理している俺だけの時空、通称宝物庫だ。先日俺が時空神の仕事を見せるときに梅紅を取り出した保管庫ってのがあっただろ?あれの直系に当たる時空で、保管庫は日常的に使うやつを入れており宝物庫は完全に倉庫になっている。まあ宝物庫っていうのはただのだだっ広い空間であり、保管庫っていうのはその宝物庫時空の中にある一区画のことなんだけどな。厳密に言うと保管庫と宝物庫は同じ空間である。

荷物を整理するときによく使うものは取り出しやすいところに片付けるだろ?あれを時空単位でやっていると思ってくれればいい。

ただ先ほども言った通りここはとにかくだだっ広い。俺一人では到底きれいに片付けることはできない…しかし宝物庫は常に整理されている。メイド?ああ、メイドに任せてもよかったけどここにはもっと適正がある管理者がいる。

そういえばどこぞのありふれた職業の魔王も同じ宝物庫と呼ばれる倉庫を使っているがあっちよりも性能は上だ。名称については偶然の被りである。いくらでも物が入る倉庫の名称なんてそう多くはないだろう。

 

「ミキ様ー、こんにちはー」

「来たかツク」

 

オレンジとピンクがグラデーションになっている髪の彼女はツク。付喪神だ。付喪神だからツクって名前は安直すぎないかって?メイドたちも大体似た感じで種族からつけてるよ。

さて、ツクが何の付喪神かと言うと、俺の神器の一つである光桜剣である。俺の持つ武器には基本的にどれでも意思が宿っている。俺は武器霊って呼んでいるけど、実際は大半は付喪神である。俺の持つ神力が強すぎて本来は物を動かす力すら持たない付喪神が力を持ってしっかりとした意識のある魂に昇華しているのだ。尚武器以外にも防具とかただの道具にも付喪神はいるぞ。

 

「小説のための案内…ですよね?」

「そそ。俺が一人でやってもいいけど折角なら武器霊も紹介した方が良いかなって思って」

「皆さんもよろこびますよ!」

 

昔、それこそ江戸時代とかの浮世絵に妖怪として唐笠お化けなんかが描かれたものがあるだろ?あれも正体は付喪神で、長らく使われなかった道具の付喪神が暴走した姿が唐笠お化けなんだ。そう、道具たちはあまりに使われなかったら暴走することがあるのである。故に武器を含めて宝物庫にいる霊たちは使ってもらう、ひいては認識してもらうことを喜びとするのである。小説で紹介することもどうやら彼ら、彼女らにとっては幸福なことらしいとは俺もつい最近聞いたことだ。

 

「どこから行きますか?」

「まずは保管庫メンバーを紹介しようか」

 

ツクの案内で歩き出そうとしたら、急に背中に重みが。

 

「旦那様ー、私たちは紹介してくれないんですかー?」

「そうですよ。私たちはツクさん以上に一緒にいるのに!」

「あー、悪い。お前らから先に紹介しようか」

 

俺は保管庫に入れている武器とは別に大体常に携帯してる武器がある。俺の時空でも東京でもだ。

武器霊が相当な力を持った場合、武器霊自身の力を自在に操れるようになって武器の大きさや形状をある程度変更することができるようになるのだ。俺の持つ武器の中では三本だけで、ツクは小さくなることは苦手らしいので携帯していないが残りの二つは基本的に身に着けることにしているのだ。魔法が使えない場所だと保管庫から武器を取り出せなくなるからな。

 

「銘は雷桜槌(らいおうつち)、名前はニイカ。元々はミョルニルだったミキ様の神器のハンマーです」

「銘、名ともに春落(しゅんらく)。元々は神殺しの剣だった旦那様の神器の短刀です」

 

簡潔な説明ありがとう。この二つ、二人が常に持ち歩いている武器だ。雷桜槌は腰の右側に、春落は腰の後ろに身に着けている。

そして説明にもあった通りこの二つは元々は別の武器だった。北欧神話の神トールの神器であるミョルニルと、全ての神に仇なす呪具である神殺しだ。紆余曲折あって二つは現在共に俺の神器となっている。小説の数行で説明できるほど短い話でもないのだ。その中で春落は俺のことを旦那様と呼ぶようになったが、春落は俺の妻ではない。呼び方が旦那様というだけである。

 

「んじゃ行こう」

 

さて、この空間と武器霊の関係についてもう少し詳しく説明しよう。

武器霊というのは皆がこの三人のように姿を現すことができるわけではない。むしろできない数の方が多数だ。しかしながらこの宝物庫には多くの武器霊は姿を現しているのである。その原因にはこの宝物庫には常に十分な魔力や神力が流れていることが起因している。

この宝物庫には装備品以外にもたくさんのものが仕舞われている。その中には多量の魔力を含む魔石とか、存在するだけで世界を危険に晒す装置とかもあるのである。その結果この宝物庫には常に力が弱い武器霊でも活動できるほどの力が溜まっているのである。因みにそんなものを保管していてもこの空間が無事なのは、それ以上にやばいのがこの空間にあるからである。そしてそれは保管庫エリアにいる。

 

「あそこが保管庫エリアですね」

「まあ見た目はただちょっとした区切りを作ってるだけだけどな」

 

宝物庫の道具たちに勝手に入らないように言っているだけで、保管庫は特に壁とかがあるわけではない。分かりやすいように色がついた絨毯だけ敷いている。そしてそこには俺が特によく使う武器が集まっているのだ。今日はこの武器たちを紹介するためだけにここに来たと言っても過言ではない。梅紅のときはその場で説明したが、毎回新しい武器を出すたびに説明するのも面倒だからな。

 

「ミキ様こんにちはー」

 

俺の神器の武器霊たちは春落を除いて全員が俺のことを様付けで呼んでいる。若干書き分けがし辛いが…頑張れゼロ。

 

「じゃあ皆も一人一人自己紹介してくれ。最初はフラメから」

「銘は梅紅、名はフラメ。元は炎剣だったミキ様の神器です。よろしくお願いします」

 

名乗りの仕方は何も指示していないが皆同じ方法だな。

そう、実はあの梅紅にも武器霊は宿っていたのだ。尚あの時はセリフは文面に出てなかったけど一応喋ってたぞ。ただあまり内容に関係しないことだったから文章化しなかったのだ。それに武器霊のことをあの時に同時に説明するとなると明らかに必要な文章が増えるからな。

 

「頑張れば魔法くらいは燃やせます!」

 

属性関係なくである。水魔法が剣の炎で燃え尽きるというのはよく分からない現象だろうが、魔力を燃やしているのでこの世界では起こりうることなのだ。まあ魔力を燃やすということ自体が神業なので殆どそのようなことは起きないのだけど。

 

「銘・名ともにピアル。魔銃のピアルだよ、よろしくね!」

 

彼女は剣ではないが俺の神器の一つだ。魔力で弾を充填し、強力な一発を放つという仕組みになっている。強化パーツを別に用意しており、それを使うと通常時の五倍ほどの威力で攻撃を放つことができる。尚通常時でもトラックくらいは余裕で貫通する威力がある。

最悪の場合ピアルを投げると大爆発を起こす。その時武器霊のピアルは量産している別のピアルの中に移動する。ここらへん俺もピアルも原理が分かっていない。

少なくとも言えることは俺の神器の中で唯一不壊属性じゃないってことだな。神器になれば基本的に壊れないように不壊属性が付与されるのだが、ピアルにはそれがないのだ。

 

「銘は桜花、名はサクラ。ミキ様の二振りのもう片方です」

 

桜花だから名前がサクラだっていうのは安直?でもこれは俺が名付けたんじゃなくて、サクラが先に名乗ったんだ。

振れば桜の花弁が舞うきれいな剣だ。尚桜花は俺が俺の世界で手に入れた武器だ。その時から桜花という名前は付けていた。つまり桜が俺の世界にもあるということだ。不思議な話だろ?なんせ桜と同じ品種の別のものというわけではなくて、正真正銘日本の桜なのだから。どうやら過去にどこかの神様が持ち込んだらしいということをゼロに教えてもらったことがある。

さて、一番最後、明らかにやばい剣というのはこれだ。

 

「銘は全断剣グランド、名はシャナレ。最高戦力です。よろしくお願いします」

 

石だろうが鉄だろうが概念だろうが時空だろうが何でもかんでも断ち切れる剣、それが全断剣グランドだ。まずもって神であろうと普通の奴は持つこともできない。俺が手に入れたときは星断剣という名前だったのだが、俺が使っているうちに意思が宿ってシャナレが効果を使えるようになったからな。

この剣は持っているだけで効果がある。それに力が強いおかげで宝物庫ではなくとも実体化してシャナレが剣を使えるので例え俺に異常があった場合はシャナレがこの宝物庫の時空に穴をあけて俺のところまで来てくれる。そしてついでに言うと絶対神であるゼロにダメージを与えることができる剣の一つでもある。

ただし勿論消費する魔力は尋常じゃない。星断剣の頃は一振りするだけで気絶間近まで持ってかれていたからな。全断剣になってからはある程度消費量が抑えられて、また俺の力も増大したおかげで何度かは振れる。それでもそう何回も使えない。なのでいつもは装備中に悪影響を全部無効化してくれる存在として役に立ってくれている。

 

「これで全員だな」

「ミキ様、私たちは今後も使っていただけるんですよね?」

「もちろんだ。まあ宝物庫の武具たちも使ってあげないといけないけどな」

 

因みに俺は空間模倣によって無限剣製ができるので剣を投げるとかそういうときは作った方で代用している。なので俺が使っている間に武具たちが俺の手から離れることはまずない。武器を失うというのはそれ即ち死ぬことなのでな。

武器の性質は大体名前通りである。これからの武器たちの活躍に注目だな。尚俺はこれから武具たちのメンテナンスをするのでここでお別れだ。んじゃまたな。



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仲間×→子供

投稿されてから気付きました。予約投稿ミスりましたすみません…


今日もやってくぞ…いやうん、ちょっとゼロのやつが予約投稿をミスったみたいで水曜日に前回のやつが投稿されちまった。多分ゼロも前書きで謝ってると思うけど、俺からも謝っておく。混乱させちまって申し訳なかった。基本的にこの小説は毎週末にしか投稿しないのでそこらへんよろしく。

さて、今日は実のところ暇だ。ゼロのやつがミスってもう一本書かないといけないからこうして出てきたんだが、特に書くことも考えてなかったんだよなぁ。一応魔王討伐パーティの名前の紹介でもしようかとも思っていたんだが、ゼロに急に小説書けって言われたせいで今日は皆出払ってるしな…

 

「マスター、セン様がお呼びでしたよ」

「あ、そう?スラ、センはどこにいる?」

「現在は闘技場の方で戦闘訓練をしています」

 

スラから連絡があったのでセンの元へ。センというのは俺とサナの娘であり、肉体年齢で言うなら大体九歳くらい。え?年齢の計算が合わないって?そりゃそうだろう。ちょっとセンは特別な子でね…

街の中に作った俺たち用の戦闘訓練場へ移動する。街の人々が使うための戦闘訓練場は別にある。俺たちは基本的に皆戦闘力が規格外なので、戦闘訓練だけで街が滅びかねないのだ。なので特別製の戦闘訓練場を用意したというわけである。【久遠第四加護(クー・リ・アンセ)】とかいうどこかの時空のエルフっぽいやつらが作り出した超級の封印魔法を重ね掛けしているので例え核爆弾を何個近くで爆発させようとも訓練場にダメージが入ることはないし、その逆も然りだ。尚これは結界ではなく封印なので封によって強化とか解除とかをノータイムでできる。

 

「あ、パパ!お待ちしてました!」

「おお、子供たちが勢ぞろい」

 

どうやら今日は子供の紹介をすることになりそうだ。この話のタイトルを書きなおしておこう。

俺の子供の中の長女、セン。黒い髪の、見た目は九歳くらいの少女である。俺の子供の中で一番の謎の塊である。というのもセンは俺とサナの子供ではあるが、サナの体の中から生まれたわけではない。俺の有り余る霊力や神力などの力とサナの有り余る魔力が混ざって生まれた精霊みたいな子なのだ。最初は肉体もなく、時間が経つと体内の力が尽きて消えてしまう存在だったが、まあ俺なので普通にセンに肉体を与えました。具現化魔法なり創造魔法なり、肉体を作る魔法なら色々あるからな。

精神が大人びているのは最初っからだ。黒髪で実の子供ではない九歳くらいの大人びた少女と言うと、似たような子がどこかのフルダイブ世界にもいる。イメージはあの子とそんなに変わりない。あっちとは非常に仲良しだ。ただセンの方が好戦的かな。

 

「何の用だ?」

「かくれんぼをしたいと思いまして、パパは全力で私たちを探してください!私たちも全力で隠れるので!」

「ほお、全力でね…」

 

尚ガチでやると俺は時空魔法と併用した空間探知によってこの街の中であればどこに誰がいるのか一瞬で分かる。まあ流石にそこまではやるつもりはない。そうだな…身体強化と翼を使って高速移動しながら探すのが限界かな。子供たちは皆特殊な魔法を使えるので一般人相手ならば一日かけても見つからないだろうが…さて、俺相手にどれだけ逃げれるかな。

 

「んじゃ三分やろう。行ってこい!」

 

子供たちが走り出した。封に訓練場の封印が光を通さないようにしてもらう。これでここから外は見ることができない。

そんじゃ三分間舞ってやる、と思ったのだが一人だけ訓練場から外に出てない子がいた。

 

「モモ、行かないのか?」

「皆に追いつけないから…」

 

ちょっと水色混じりの黒髪なモモ。こっちは正真正銘サナが生んだ子供だ。センとは違ってちゃんと赤ちゃんの時から育ててきた。ただその分、他の子たちはどういうわけかちょっと育った状態で生まれてくるせいでモモは三女なのに一番幼かったりする。尚俺の子供たちは全員で五女までいる。

 

「モモはオリジナルの魔法が色々あるだろ?試すチャンスだし、やってみようぜ?」

「でもパパは全力で探すんでしょ?」

「まあな」

 

正直あいつらは適当に探したところで見つけることができない。そこらへんの旅人相手なら圧倒できるくらいの戦力があるので、かくれんぼでもその強さは発揮されるだろう。

 

「…頑張る…」

「おう、行ってこい」

 

モモが走っていった。ちゃんと身体強化魔法を使っているあたり流石俺とサナの子供である。モモが隠れる時間も合わせてあと一分追加で待つか。

…話は済んだかね。

さて、三分経ったので五人を探しに行こう。一応ルールとして建物の中は禁止で、街の外壁の上まではセーフということになっているので探す範囲は結構広い。そういえば言ってなかったが、この街は広さで言うと東京ドーム四つ分くらいある。え?どれくらいか分からないって?俺も分からん。大体USJの半分くらいって言った方が伝わるだろうか。

 

「んじゃ早速…身体強化」

 

さて、そんじゃ行きますか。

子供たちが隠れることができる場所はそこまで多いわけではない。というのも治安の観点からできる限りこの街に路地裏は作らないようにしているからだ。最初の頃は俺が建物を魔法で作っていたので、人口が増えて大工たちが家を建てるようになっても俺が作った規定に沿うと隙間はあまりなくなるのである。

路地裏の窓、交差点でも、旅先の店、新聞の隅…いやいないけど。多分屋台の店主とかに訊けばある程度搾れるとは思うけどそれはしない。もし一時間以上見つからなければ視野に入れよう。

 

「うーん、でもまあ公園とかそこらへんかなぁ」

 

さっきも言ったがこの街にはあまり隠れることができる場所がない。公園に置いてある遊具とかそこらへんが妥当だろう。少なくとも一人くらいは隠れていると思うんだが…

 

「あらいない」

 

公園の遊具、特にトンネルのようになってるやつとか大きめのやつとか色々と探ってみたが誰もいなかった。流石にそこまで安直な場所に隠れているわけないか…あっ。

 

「ハルカ見っけ」

「ふえ…きゃあ!」

 

木から落ちた。どうやらこの娘、木の上に隠れていたらしい。公園から外に出ようとしたら気が付いた。

 

「いたた…父様、気付いてたんですか!?」

「たまたま」

 

少し赤色に光を反射する髪を持つこの子は次女のハルカ。歳は今年で八歳である。さてでは問題、この子は俺とどういう関係でしょう?

…正解は、養子でしたー。昔とある島に捕まっていた彼女を助けてそのまま養子にしたのである。というのも彼女はハーフドラゴンであり、今は制御できるので見た目は人間と変わらないが最初は体に鱗が出ている少女だったのだ。そのせいで見世物にされそうになっていたのを俺が助けたと言うわけ。ハルカ曰く少なくとも人間の方の親は死んでおり、ドラゴンの方はどこにいるか分からないという。全く、困った親である。

 

「見つけたときってどうすればいいんだ?」

「私は訓練場で待ってるので、他の人を探してください!」

「了解」

 

どうやら最後まで鬼は俺だけのようだ。まあ多分それぞれでかくれんぼをやっても見つからないから俺が鬼の役目をさせられていることは察しているので鬼が増えようとそこまで影響はないだろう。ハルカはまだハーフドラゴンとしての実力は成長段階なので頑張ってほしい。

さて、一応似たようなことをしているやつがいないか木の上を確認したが誰もいなかった。しかしこれでなんとなく指針が定まったぞ…

…あ、いた。

 

「ハイエル、やっぱり屋根の上にいたな」

「お父様相手では無理でしたか…」

 

子供たちの中でも一際丁寧な口調の娘は俺とメレの子である。メレは天使なのでハイエルにも勿論天使の翼がある。それを使って他の子たちじゃ来れないほどの高さの場所まで来たのだろう。尚現在地点は街の中で一番高い時計塔の更に上である。地味に光屈折魔法も使っていたので近付かなければ視認することは難しいだろう。

ハイエルは六歳だ。そんで五女、つまり末っ子ということになる。精神年齢的にも肉体年齢的にもモモより上だが、一応生まれた順というか、受け入れた順に子供たちは並べているので一番最後に生まれたハイエルは末っ子ということになる。因みにモモ以外の四人は俺が魔法で肉体年齢を調べた値なので、生まれてからの数え年だとハイエルはまだ一歳にもなっていない。

 

「というか他の子たちとやるときもここに逃げてるんじゃないだろうな?センが全力で魔法を使ってギリギリ届く距離だぞ?」

「流石にいつもはもうちょっと低いところに行ってますので大丈夫です」

 

ハイエルが丁寧な口調なのは、メレが教えたから…というかメレから吸収したからだ。どうやらメレは最終的にハイエルをメイドにしたいみたいなんだけど…流石に娘をメイドにさせる気はないからな?

 

「んじゃあと三人か」

「よかった、最初じゃなかった…最初は誰だったんですか?」

「ハルカ」

「なるほど」

 

凄い納得された。もしかしていつものかくれんぼでもハルカは比較的すぐ見つかってしまうタイプなのかな。まあ木の上なんて、たまたまでも気が付ける場所に隠れるくらいなので多分そこまでかくれんぼが上手じゃないのだろう。

うーん、ただハイエルが俺くらいしか来れない場所にいるとなると他の三人も全力で俺しか行けないような場所に行っている可能性があるな…

…お、見っけ。

 

「モモ、よくここまで隠れたな」

「あう…見つかっちゃった…」

 

モモが隠れていたのは屋台エリアの裏にある果物置き場の山の中。どうやら店員に話をして隠れさせてもらっていたようだ。人を使うとは…こやつやりおる。

ただモモが身じろぎをするたびに少しずつ山が崩れていったらしく、足が見えてしまっていた。流石にそこまで大きくない果物の山なので限界だったのだろう。モモじゃないと隠れると言えるほど身を中に入れることはできないだろうから、モモだけの特別な隠れ方だな。

 

「モモは三番目だ」

「やっぱりセンお姉ちゃんとメイちゃんは強いなぁ…」

 

まだ誰が捕まったか言っていないがモモは残り二人という情報だけで誰が残っているのか分かったようだ。まあセンは俺含めて仲間たち全員が英才教育をしているし、センは…ちょっとばかしずるいのだ。

さて、先にどっちが見つかるかな。

…これもしかして探している間も小説になってるのか?そこらへんゼロの匙加減なんだが…

…よし、やっと見つけた。時間がかかったな。

 

「パパ、流石です!」

「いや、うん。むしろセンの方がすごいと思うよ」

 

普通に探しても見つからなかったのでまたハルカのように木の上とかにいるのかと上を見ていたら、センが街の外壁にある見張り台の屋根裏に張り付いていたのだ。見張り台は部屋ではなくトンネルのような形になっているので一応ルール上は問題ない。

 

「きつくなかったか?」

「重力低減、身体強化、それに粘着も使いました」

 

センはなんというか才能の塊みたいな娘だ。俺やサナができることは大体なんでもできるという時点で結構やばい。まだ魔力量がそこまで多いわけではないので大規模魔法は使えないが、小手先技としての魔法は多用できる。今回は屋根裏にくっついていたけど、多分他にも隠れ方があるんだろうな。

 

「最後はメイか…」

「やっぱりメイが最後に残ったんですね。私たちもメイを見つけたことはないので頑張ってください!」

 

センたちが見つけたことがない?飛んだり登ったり張り付いたりできるセンたちが?

ふむ…もしかして…

 

「確かここらへんで…ああ、やっぱり」

 

時空魔法の転移で建物と建物の隙間、人用の入口がなく上も塞がれてるため小動物しか入れないような小さい穴しかない人が数人入れるだけの空間へ。

 

「これズルじゃね?」

「建物の中じゃないのでセーフです!よくわかりましたねお父さん」

「センたちが見つけられなくて、メイが入れる場所だとここかなって」

 

メイは俺とマイの子供だ。身長はマイに似て小さく同年齢のハイエルよりも二回りくらいちっちゃい。そんでもって神様と神様の子供なのでメイも神様だ。その役は、接続神。あるものとあるものを接続する権能持ちだ。今回はこの空間と外を接続して入れるようにしたのだろうけど、空間同士ではなくとも概念同士とか概念と空間とかそういうものでも接続できる。

因みに、時空魔法は子供たち全員が使える。本来は俺だけのものなんだが…まあサナに流れるくらいなんだから子供たちに遺伝するのは当然か。多分いつかメレとマイも自前で時空魔法を使えるようになるだろう。今は俺が付与してあげているので二人も時空魔法は使える。子供たち及びその二人が使えるのは精々同時空内での転移とちっちゃい倉庫を作るくらいだ。

 

「さて、一応一時間以内に全員見つけることができたな」

「流石パパ」

「さすパパ」

「父様はすごいですね」

「お父さん、なんでも権能使えるから当たり前といえばあたり前なんですけど…」

「お父様、今日は目立った魔法を使っていないのでやっぱりすごいのでは?」

 

うーん、子供たちに褒められるの嬉しい。いつかは反抗期も来るんだろうなぁ…

子供たち全員を紹介したけど、遊んだのは一時間くらいなのでまだまだ時間はあるな。今日はこのまま娘たちと遊ぶ時間にするか。

んじゃまあ、最後に子持ちの父親よ。子供と遊ぶのも忘れるなよ。



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放浪旅①

ミキ「放浪旅は不定期な話だ」


おっすオラ〇空。

というわけでどうもミキだ。え?誰か知っている人が通ったって?まさかぁ。

今日は拠点ではなくどこか知らん森の中にいる。別に仕事で別の時空に来ているとかじゃなく、普通にいつもの時空のどこかの森だ。なぜこんな状況になっているのかというと俺の趣味が原因である。

俺の趣味は武器集め、それと旅だ。最初は魔王討伐のために強制的に旅に駆り出さたが、今では逆にたまに旅をしないと落ち着かなくなってしまったのだ。なので放浪旅をこの世界でしているというわけ。帰ろうと思えばいつでも拠点には帰れるし、時空上でピンを打っておけばいつでもここに戻ってこれるしな。尚俺の時空転移は知っているところじゃないと転移できないし、ポイントしておかないと転移できない。全く知らないところに無理に転移しようものなら…体がバラバラになるかもな。

 

「お、ライオンもどき」

 

俺が拠点を置いている大陸とは別の大陸に現在はいるので知らない生態系と知らない魔物が出てくることも多い。それでもスライムってどこにでもいるから不思議だよな。ドラゴン〇エストでもスライムって終盤まで派生しながら残るからスライムとはやはり不思議な魔物だ。

ライオンもどきは剣で一閃してしまえば一瞬で絶命する。多分見た感じ火属性の魔法が使えたと思うのだけど…魔法を撃つ前に死んでしまったな。一応魔法は見ておけば模倣できるようになるから一応見ておいた方がいいのだが、あまり有用だとは思えないんだよなぁ…

 

「おや?囲まれてね?」

 

いつの間にかライオンもどきに囲まれていた。まあそこまで警戒するような相手ではなく、例え急に目の前に現れたとしても反応できるから索敵すらしていなかったが…流石に油断しすぎたか。でもこいつらに群れるだけの知性はあることは確認できた。

 

「「「がうっ!」」」

「うーん…普通の火の玉」

 

こいつらはこの世界で生まれたただの魔物なので魔法体系は勿論この世界のものだ。この世界では魔法には等級で表すようになっていて、こいつらが使うのは火属性初級魔法ファイヤーボールだ。まあ囲まれた状態で使われたら流石にちょっとだけ面倒。

さて、今までの小説をちゃんと読んでこの世界の設定について覚えている人は不思議に思ったことだろう。なぜ魔法の名前が英語なのか。実のところいつもは言語翻訳しているが、魔法の名前はそのまんまだ。英語はこの世界に存在しないというのになぜか。

この世界、魔法の名前は英語なのだ。ただこの世界の人からするとこの英語たちは意味を読み取ることのできない特殊文字扱いされている。なので俺がファイヤーボールと言ったところで指し示すのは初級魔法のことで、火の玉のことを表す言葉ではないということだ。どうやら過去にこの時空に来た誰かさんの置き土産らしい。桜も咲いているわけだし、多分日本人もアメリカ人も来たのだろう。転生だか転移だか知らんが、まあラノベではよくあることとも言えよう。

 

「しっ!」

 

回転切りで全部の火の玉を切り裂いてそのまま…

 

「合作【パーフェクトスパーク】」

 

全方位にレーザーを放って攻撃。そのまま俺のことを囲んでいたライオンもどきは全員絶命した。

今の魔法はオリジナルで、とある世界の氷精と白黒魔女が戦っているのを見て作った魔法だ。全方位に撃つことも、逆に魔法陣で囲むことで全方位から攻撃することも可能。我ながら使いどころが多くて気に入っている魔法だ。作った日に俺の親友の一人へ初見で使ったところ容易に回避されたのでいつか改良しようと思っている。

 

「うーん、森にライオンって生息域間違ってるだろ。いや魔物に生息域もくそもないけど」

 

一応魔物たちも生まれたあとは食事やら繁殖やらをする種もいるので、多いとか少ないとかはあるのだが、確率的には砂漠に水の魔物が生まれることもある。この世界で魔物が生まれるというのは分かりやすく言えばポップだ。魔力が集まると魔物が生まれる。単純だしありきたりな理だろ?一回全断剣でその理をなくしてみたところ魔力溜まりができたあとに強い魔物が寄ってきて大変なことになった。この世界では結構合理的な理だったらしい。

 

「あ、森を抜けるな」

 

俺ができる限り声を出しているのは武器霊にも魂にも話しかけるためだ。心の中で話すとき、魂と話そうとすると魂にしか伝わらず、剣に話しかけると剣にしか伝わらないので心の声では片方を放置してしまうことになる。なので声に出してどちらにも伝わるようにしているのだ。

 

「森を抜けたら平原か。遠目でも魔物が見えるのはいいな」

 

森だとやはりいつの間にか囲まれているという状況になりやすいので目視だけで周囲の状況を探ることができる平原ほど活動しやすいものはない。だから拠点もその街も平原に作ったわけだしな。

 

「ここらへんに街ってないのか?」

『あちらに大きな感情の気配があります!』

「じゃあそっち行ってみようか」

 

マイは感情の気配を探ることができる。このおかげで救助活動の時とかに誰がどこにいるのかをすぐに発見できるのでありがたい。ただ流石に死んでしまうと感情なんてものはなくなってしまうので死体の場所は分からない。その代わり死んですぐなら魂の場所が分かるぞ。

 

「え、キリンもどき?」

 

またしても知らない魔物。今度はキリンもどき。もしかしてあの森とこの平原は昔サバンナだったのだろうか。

尚シルエットはキリンなのだが…色が気持ち悪い。なんせ全身緑色なのだ。日本の感性に慣れている俺からすると気持ち悪くて仕方がない。なんでこんな色で生まれてしまったのか。

 

「おらっ!」

 

雷桜槌を大きくしてキリンもどきの首をへし折った。うん、一撃で絶命してる。地球だと長い首は草食動物として必要な進化だったらしいが、襲う側としてはその進化は致命的だろう。ブラキオサウルスくらい盛大に体を大きくする進化じゃないと弱点にしかならないぞその首。

 

「こいつらも群れるのかっ!」

 

もしかしてこの魔物、生まれたときからサイズ固定か?群れの中にいる個体に身長差がほとんどない。

取り敢えず雷桜槌で一掃。群れていたところで完全に重なるわけでもないのでハンマーで横から殴れば全部死ぬ。この世界の魔物は死んでから一定時間経ったら自然に消滅する。でも部位とかを採取するとそれは消えない。不思議だなぁ。

 

『スッキリです』

「うんまあニイカがいいならいいのだけど」

 

流石の俺も全無視で進めるわけではないのでどうしても魔物が目の前に現れると吹き飛ばさないといけなくなる。威圧して追い払ってもいいのだが、武器を使わないとそれはそれで武器たちから文句を言われるのでそういうわけにもいかないのだ。魔物が出てこなかっただけなら言い訳もできるが、俺が追い払ったとなると武器たちは不満というわけだ。

 

「お、あれか」

 

見えたのはそれなりの大きさの街。俺の街に比べると断然小さいが、街と言えるくらいには発展しているようだ。

 

『喜びの感情もありますので無法地帯ではなさそうですよ』

 

マイはその街が安全かどうかを感情から判断することができる。喜びや楽しさ、安心などの感情だと平和であり、恐怖や逃げたいという気持ちなどがあると危険という感じだ。街の雰囲気っていうのがあるだろ?あれを正確に測りとれると思ってくれればいい。

 

「失礼するぞー」

 

大きめな街だが外壁に門番はいなかった。大きい街だと強い冒険者や旅人も多くいるのでそこまで警戒しなくても大丈夫という判断なのだろう。ちなむと俺の街にはちゃんと門番がいるし、守衛団もある。ちょっと俺の街は特殊なので悪いことを考える奴が多いのだ。

空間把握でもすれば一瞬で街の全容を掴めるがそんなことはしない。俺は今日調査ではなく旅をしにきているのだ。こうやって知らない街を自分の足で歩いて情報収集なんて楽しみを自らなくしていこうとは思わない。

こういうときは基本的に店を見れば街のことは大体分かる。

 

「らっしゃい」

 

入ったのは武器屋。不愛想な感じの店主だが、置かれている武器はどれも中々の業物だ。頑丈な岩とかドラゴンの鱗などを叩こうとしない限り折れることはないだろう。使われている素材は鋼鉄なのでレアなものではないものの、職人として素晴らしい仕事をしていると分かる。

折角なので剣を一本購入して店を出た。ちゃんとした仕事人がいるということはこの街はいい街だな。マイからの報告で既に安心はしていたものの、自分で確認するとやはり実感は大きい。

 

「ん?今この国の王が来てるのか」

 

ポスターを発見。そこには国王が訪問するという旨が記載されており、日時を見るに現在進行形で国王はここにいるらしい。

尚俺は現在なんという国にいるのか分かっていない。それにこの街の名前も知らないしな。行き当たりばったりに進み続けているのでどこかでこの星を一周することになるかもしれないが、正直この星の大きさは知らないからな。一応宇宙に行ったことはあるが、この星を一周したことはないのでどれくらいの大きさなのかは分からないのだ。ただどうやら地球よりは大きいらしいことは分かっている。

 

「国王か…面倒だな…」

 

正直言って俺はあまり国王に会いに行きたくはない。しかし折角なら見に行きたいという気持ちも少なからずあるのである。知らない国の知らない王を見ないのは勿体ないだろうとは思うものの、俺の力云々で面倒なことになるのは嫌なのだ。

 

「というわけでスルー安定」

 

俺はこれが小説になることを知っているのでイベントは起こした方がいいんだろうなとも思うけど、でも読者のために俺が面倒なことをするのもねぇ?それってエンターテイナーというよりもピエロの役目だし、俺は国王イベントには触れません。

なんなら小説あるあるのフラグ回収をしないように《ディメンション》という魔法で街のどこに国王がいるのかを把握する。うん、この距離なら出会うことはないだろう。

 

『主様、本当にいいんですか?』

『何がだ?』

『あの国王、噂だと神の力があるとかなんとか言われてますよ?』

 

そうやって情報を伝えてきたのは機神のテクナ。前の魂の紹介のときに紹介できなかったが、彼女は機械の神であり情報収集が得意だ。権能は電磁操作といって遠隔で機械を動かせるものなのでこの世界ではあまり意味がないが、その分常に周囲に電波を広げて情報収集をしてくれている。尚女性。

 

『俺が国王イベントはスルーするって話はついさっきしただろ?』

『でも本当に神の力であればそれはどうにかしないといけないのでは?』

 

神の間の諍い事は最終的に俺の仕事となる。気まぐれな神が力を人間に与えてやっているときもあるし、神が無理やり力を奪われている可能性もある。前者の場合は俺は何もしなくてもいいのだが、後者の場合は解放するのが俺の仕事だ。

さて、今回はどうかと言うと…

 

『神力も感じないのに行けと?』

『主様、無視もよくないですよ』

 

…面倒なのでスルー。

いやだって口伝で伝えられてきた噂なんて十中八九嘘だろ。神特有の力である神力を一切感じない以上国王が神の力を持っている可能性は極めて低い。少なくとも無理やり奪った力であれば漏れるはずなのだから俺の管轄にはならない。

それでも国王が神だと崇められているのなら…相当優秀だということになる。

 

「うん、無視」

 

そして俺は街を出た。俺の放浪旅は大体こんな感じで進んでいく。



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都市ルクス

ハハッ…あ、これまじでだめなやつか。

やあ読者諸君。いつもいつも奇抜な挨拶をしている奴を見るのは正直うざいと思うが、毎回毎回同じ挨拶というのも飽きるから妥協してくれ。小説の中の人物からお願いされるなんて滅多にない経験だしいいだろ?

 

「記録始めたの?」

「おう。準備してるとこを見せる理由はないからな」

 

俺の隣にはサナがいる。そんで現在は俺たちの街を歩いている最中だ。

この街は俺たちが建てた拠点を中心に発展していったもので、先日も話したが相当な広さがある。そういえば紹介も何もしてなかったなと思ったので今日はサナとデートしながら街を紹介していくぜ。非リア充の皆は血涙を流しながらついてきてくれ。

この街の名前はルクス。名前の由来は俺が光属性だったからだ。ルクスというのは地球で使われている照度の国際単位のことであり、電球とかに書かれていたりする。まあこの世界にはない言葉なのでこの世界でルクスというと確実にこの街のことを指す名詞となってしまったが。

 

「んでサナどこ行きたい?」

「んー…あ、図書館に寄っていい?借りてた本を返さないといけないから」

「了解」

 

この街にある図書館は一つだけ。ただしその大きさは相当でかい。蔵書数だとこの世界で一番だ。俺は本を読まなくともテクナの情報とかから分かるので行くことは少ないが、サナにとってはお気に入りの場所の一つとなっている。サナは本を読むのが好きだからな。研究者体質とも言う。

 

「すぐ返してくるから待ってて!」

 

そう言ってサナは図書館に入っていった。サナは俺よりも容量が少ないとはいえ時空倉庫を持っているのでそこに入っているのだろう。どれくらい入っているかは分からないが、今までの経験上数分はかかるだろう。

図書館といううってつけの場所だしこのルクスについての歴史を軽く紹介しよう。

最初は俺たちの拠点しかなかった。時空間移動はできないにせよ高速移動方法は確立していたので住み心地で選んだからな。故にどこかの街の中ではなく完全に独立した一軒家(大きさは全然アパートくらいだったにせよ)に住み始めることになった。

拠点以外に作った施設も俺たちのために作ったものだった。武器を整備するための鍛冶場や戦闘訓練場、倉庫などだ。食料に関しては俺が適当な街で買ってきたものを倉庫に入れていたから問題はなかった。サナの魔法があれば時間経過くらいは無視できるしな。

俺たちが使う建物以外が建ち始めたのは、とある商人がここに行商するようになったことが原因だ。一番近い街からはそれなりに距離があるのだが、そもそもこの世界では相当な距離がある旅というのはありがちなものであり、その行商人も普通にここに来たのだ。拠点やらなんやらである程度広さがあったから村と勘違いしたのだと言っていた。その時に俺たちが結構な量を買ったからか、その後何度も来てくれるようになったのだ。するとその行商につられるように旅人やらがこの場所に来るようになって人が増えて行った。鍛冶場とか訓練場は自由に使っていいようにしていたからな。

ここに人が多く来ることを知ったその行商人はここに固定の店を作った。そうなると人が増えるのはすぐだ。今では多くの商人や旅人がこの街を訪れるし、住人も多い。因みに最初の行商人は俺のメイドが懇意にしているおかげでこの街でもトップクラスの大きさとなっている。

 

「ただいまー」

「おかえり。そんじゃ行こうか」

 

丁度良くサナが帰ってきたので並んで街を歩く。

今歩いているのは学徒エリア。図書館をはじめ、大型訓練場(俺たちが使うものではなく一般公開されているもの)や魔導研究所、大学校などがある。大学校とは日本で言うところの中学から高校までを一括りにしたような学校で、剣術や魔術、算術、読み書きなどを幅広く教えている。小学校というのはないが、学童のようなものがあるので素養は十分にある。ついでに孤児院もこのエリアにあるので例え孤児だとしても一人で生きていくだけのスキルを身に着けることが可能だ。

 

「そういえば最近研究所で新しい魔法ができたんだって」

「へー、どんなやつだ?」

「初級魔法で物を浮かせるやつだってー」

 

ウィンガーディアム…いやいや。

この時空には存在していなくとも別の時空を見れば大抵の魔法というのは存在する。ただしそれぞれ魔法体系が違うのでこの時空でも使えるように新しく開発しないといけない。俺は空間模倣があるしサナはその才能によって別の魔法体系でもある程度使えるので研究所の成果が俺たちに活かされるというのはあまりないが…でもこの時空的に言うなら進歩なのだろう。

 

「あ、あれ食べたい!タイヤキ!」

「ほぉ、タイヤキを開発したとこが現れたか」

 

しばらく歩くと今度は商売エリア。ここでは日用品や武器に加えて出店なども豊富だ。学徒エリアの隣にあるのは、学生には買う必要があるものが多いことが理由である。尚飲食店に関してはエリア関係なく存在している。出店もここが一番多いというだけで他のとこにもあるしな。

 

「ムグムグ…うーん、ちょっと生地が柔らかすぎるかな?」

「そうだな…店主!もっと火力を上げて一気に焼いた方が美味いぞ!」

「了解よぉ!ミキさん!」

 

タイヤキを売っていた店主のおっさんに声をかけてから歩く。タイヤキは前に俺がここで適当に作って売ったから広まったものだ。長らく生地の開発や中身の開発に時間を要していたようだが、とうとう完成したようだ。今後は客のフィードバックも元にしながら美味しくなっていくことだろう。まだ完璧ではない状態で店を出した理由は他に先を越されないようにするためだろう。商売エリアの裏では商人たちの熾烈な争いが絶えないのだ。

 

「そういえば欲しい素材があるんだけど…」

「なんだ?」

「ドラゴンの逆鱗!ドラコくんとかラミちゃんとかから剥ぐわけにはいかないし、アドちゃんは逆鱗持ってないし…」

「無理やり剥がないと手に入らないからなぁ…」

 

ドラコは俺の式神、ラミはドラゴンのメイド、アドはアンデットドラゴンのメイドの名前だ。擬人化魔法を使えばアンデットだろうと普通の人間と変わらない姿で活動できるのでアドも普通のメイド服を着て仕事をしている。

ドラゴンの逆鱗は貴重な素材であり、逆鱗を剥ぐのはドラゴンを死に際まで追い込むことと同義になるので身内に対してするわけにはいかない。ただ他の箇所の鱗よりも硬いため何かと使い道がある。扱うには相当な腕前が必要だがサナには関係ないだろう。薬の材料にでもするのかな。

 

「ミキ、宝物庫の中に入れてないの?」

「素材系に関しては俺よりもサナの方が持ってるだろ?サナが持ってないなら俺も持ってないよ」

「うーん…」

 

ドラゴンは高い知能を有しており、基本俺は対話できる存在は何であろうと積極的に狩ろうとはしないのでそういう類の魔物の素材はあまり持っていないのだ。ドラゴンの普通の鱗ならラミに頼めば何枚も渡してくれるだろうが、正直普通の鱗は巷ではレア素材だろうがこの街ではコモン素材なんだよなぁ…

 

「流石に狩りに行くしかないんじゃないか?」

「じゃあ手伝ってねミキ!一人でドラゴンはちょっと辛いから!」

 

ドラゴンは魔法にも物理にも高い防御力がある。特に魔法に関しては生半可の魔法では弾かれるくらいだ。サナの魔法であれば普通に貫通できるだろうけど、まあ手伝う分には何も問題はないので了承しておく。

 

「ほいお茶」

「ありがとー」

 

街の中心の噴水広場で休憩。俺もサナも一時間走り続けても息切れすることはないが、普通に喉は渇くからな。ついでに言うとずっと歩き続けるっていうことは精神的な負担にもなるので休憩は必要だ。

ここは大きな噴水が特に目立つ上に、俺の手によって夜はライトアップもされるので所謂デートスポットと化している。近くに公園も設置したので子供も多いし、この広場はこの街全体の縮図と言っても過言ではないだろう。

この街には現在相当な数の種族が住んでいる。狐の獣人、犬の獣人、天使、悪魔、機械、魔物…完全他種族国家みたいになっている。多分この時空で見ても最高戦力だしこの街。人類最強ゲーマーよりも先に達成しちまったってことだな。

 

「ミキは行きたいところないのー?」

「そうだなぁ…」

 

サナの質問に考える。

正直言ってこの街全ての情報は解析型の戦闘兵器たちによって収集されているので俺が態々移動してまで確認するようなことはない。それに幾度となくこの街は歩いているので行ったことのない場所というのも存在しない。となれば欲しいものとかやりたいことを基準に考えるのがいいのだろうけど…

 

「サナが行きたいところで」

「ミキそればっかりじゃーん!」

 

いやだって仕方ないじゃん。時空魔法によって大抵のものは手に入るようになった今ではサナと一緒にいられればそれでいいわけだし。

 

「じゃあ魔法屋」

「それ私が行きたいだろうって思って提案してるよね?」

「もちろん」

「もー!」

 

魔法屋とは特殊な道具の中に特定の魔法を込めたものを売っている店であり、使用者の魔力を使わないため老若男女問わず魔法が使えるという店だ。研究材料としても使いやすいのでサナの行きつけの店となっている。

 

「ミキってあまり役に立たないね」

「これ役に立つって言うのか?」

 

妻から不当な評価を頂きました。甚だ遺憾でございます。今後の対応を検討していきますってな。

 

「んー…ならもう仲良く並んで歩くしかなくない?」

「俺は別にそれでも幸せだが…」

「えへへぇ…じゃあそうしよう!」

 

ベンチから立ち上がってそう宣言するサナ。

小説というのはただの友達から始まって最後にデレラブパートじゃないかって?でも俺視点だとそのイベント終わってるんだよな。それに俺もサナも寿命という概念がないので多分ノリはずっと変わらずこのままだし。

取り敢えず俺たちは住宅街を歩く。俺の勧誘によってこの街に移住したという人も多いのでこの辺りは特に知り合いが多く住んでいる。特に獣人とか天使とか悪魔の面々は全員と面識があるしな。天使や悪魔は本来この世界の生物ではないので俺が時空魔法で連れてくるとかしないといけないのだ。他時空の存在をこの時空に連れてくるのにも少し制約があるので仕方ない。

 

「はい到着」

「眺めよくした甲斐があったよなぁ、ここ」

 

少しだけ丘にしたところの公園に到着。この公園は俺が作ったものだ。というかこの丘も俺が作ったものである。

元々平原に拠点を作ったのでこの街は全体を通してほとんど高低差がない。実際商業地区などはその方が何かと便利なので問題はないのだが、たまには眺めがいいところを見たいと思って俺が無理やり丘を作ったのだ。子供が遊べるような遊具などはてっぺんに設置しているが、この丘全体が子供たちが遊べるような開けた空間になっている。住宅街だからな。

因みに俺の子供の中でここで遊ぶのはモモだけである。他の子たちは空飛んだり壁貫通したりするので公園よりも街中で遊んでいる方が向いているようである。

 

「えへへぇ…少し眠くなってきちゃった…」

「んじゃそこで眠っとけ」

「はーい」

 

それだけ言うとサナは寝転がって寝息を立て始めた。無防備な姿ではあるものの、今のサナの悪意を持って攻撃しようとする者がいた場合即座にサナに反撃されて消し炭となるだろう。寝ながらでも警戒するのはこの世界では結構必須のスキル。

サナが眠ってしまったので俺も一緒に寝ることにしよう。多分このまま夕方まで昼寝になるだろうから今日はここでお別れだな。また次回会おう。そんじゃおやすみー



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ゼロ

ごほん、やあ皆。僕だよ、ゼロさんだよ。

今後のことも考えて先に注釈をしておくと、僕が地の文として登場しているときは三人称視点だと思ってくれて構わない。ただ完全な三人称って難しくて…適当な視点で進めちゃうとミキに察知されちゃうから僕が力を使わないといけないんだよごめんね。

あと今後出てくる三人称視点での小説はミキみたいに毎回挨拶しないし僕の私情を挟んだりしないから安心してほしい。むしろミキは何で毎回皆に挨拶してるんだろうね。しかも著作権に引っかかりそうなことばっかり…書いているこちらの身にもなってほしいよ。

あ、あと今回は僕の一人称で進めるよ。ミキが仕事に行ってて小説を書く暇がなかったから仕方なく僕が今回書いていると言うわけさ。だからあまり表現とか上手じゃないけど許してね。執筆の神でも文字の神でもないからさ僕。

 

「ゼロ様、そろそろ私を呼んだ理由を教えてもらえると…」

「ああごめんねトキネちゃん。注釈を書いてただけだよ」

 

現在僕が普段いる神域に一人の女神がいる。神って本当は一柱って数えるんだけど、君たちが思っているよりも人間味があるし普通に一人って数えるよ。

 

「それが日本に適当に投げているっていう本ですか…」

「そうそう。新しい趣味だよ。神が書いてる本だから人間たちからすると神話とか信託みたいなものなんだろうけど…まあそんな大層なことを書く予定はないからね。今日君を呼んだのは皆に紹介するためさ。神たちの中で一番ミキと仲がいいのは君だろ?」

「まあ、そうだと思いますけど」

 

ミキの前だと普通の少女なんだけど、なぜか僕の前だと事務員みたいになっちゃうんだよねぇ…僕が最高神だっていうのもあるだろうけど、でも彼女だって僕の次に偉い神様なんだよ?因みにミキは三番目に偉い。いやまあ神様序列って偉いというよりも権能的に強いと判断したものだけど。

 

「えっと…私はトキネ、時音と書きます。時間と時空を司る時の女神で、名前はミキにつけてもらいました。日本の皆さんよろしくお願いします」

 

やっぱ事務員みたいな喋り方だ。素で話してるときはミキの番のサナちゃんみたいな喋り方なので、ちょっと僕は距離を感じる。

彼女は次元回廊ってところでいつもは仕事をしていて、時空の管理をしているよ。ミキは僕の直近の部下ではあるけど、実際には彼女の仕事を手伝っているような状態だ。まあそもそもミキが三番目なので彼に指示を出せるのが僕かトキネちゃんしかいないから仕方ないね。

 

「ゼロ様は挨拶したんですか?」

「したに決まって…いやでも自己紹介はしてない気がするな…」

 

えーっと、ううん…

改めて、僕はゼロ。絶対神であり神の中で一番すごい神だ。時空軸っていうのがいくつもあって、それは数多の時空がくっついているものなんだけど、それの絶対時空軸っていうののトップ。この時空軸の隣には確定時空軸ってのがあって…ああ、そうか。地球の尺度で言うなら銀河系みたいなものだと思ってくれればいい。一つの時空が惑星だ。うん、多分これである程度理解してくれるはず。

この時空軸にも序列があって、この絶対時空軸が一番上。存在質量が大きいって言っても分からないか…とにかくこの時空軸は他の時空軸よりも大きいのさ。それで僕の【絶対】の権能に似てる【確定】の権能持ちの確定神がトップなのが一個隣の時空軸。

 

「言葉で時空の説明しようとしても難しいね」

「ミキが途中で諦めたので仕方ないかと。私もゼロ様も時空なんて感覚で見てるので説明なんて無理ですよ」

「だよねぇ…」

 

多分一番わかりやすいのが銀河系だからそれでイメージしてて。

そんで創作系でたまに世界を超える話があるでしょ?地球と異世界の移動とかああいうの。あれは言うなれば地球と月の移動。そんで更にそれを内包するでかい時空がありましたーっていうのが太陽系。それとは別に単独の惑星とかもいっぱいあるからイメージはそんな感じ。

ほら、この小説って時空の話があるから他の創作系のやつとの設定の齟齬があると僕にクレームが来ちゃうんだよね。僕が正しいのにクレームを言われても困るから先に説明してるというわけ。ああいう世界で「世界は全部で七つ…」とかなんとか言っても、実際僕らからするとそれって太陽系みたいな枠組みの中での数でしかないよーってこと。

 

「それ理解できますかね」

「理解してもらわないと困る!クレームとか低評価とかされたら僕泣いちゃう」

「いい薬なので皆さん、疑問に思ったこととか不満なところはドンドン言ってください」

 

トキネちゃんが攻撃的。ミキには少女なのに僕には他人行儀…一応僕上司なんだけどね。

 

「何やらトキネが困ってるってんで来たぞー」

「あ、ミキいらっしゃーい」

 

仕事終わりのミキが神域にやってきた。僕の神域に来れるのはミキとトキネちゃんだけなのでこれで全員。ミキの中にいる他の神様の魂は別のところにある神界に置いてかれてます。彼女たちも仕事があるのでミキがここにいるときは自分の仕事をしてるよ。

 

「おいゼロォ、トキネ困らせんなよぉ」

「別に困らせてはないさ。勝手に困ってるだけだよ」

「思ったよりクズ発言で驚いてるぞ俺」

 

僕に文句言われても知らん!そもそも僕の仕事って存在してるだけで達成されるから暇なんだよ!趣味について部下に相談して何が悪い!

 

「それ日本で言うところのパワハラだからな。労働基準法に基づいて神界監督署に訴えるぞ」

「彼らじゃ僕を裁けないだろ…」

 

色んな時空を参考にしながら神が作ったルールっていうのがある。その中に不当な仕事などを含めた色々なものを取り締まるのが神界監督署。ただしそこのトップはやはり僕だし僕がルールを変えてしまえるので彼らじゃ僕を裁けない。というか裁く方法がない。

ミキとトキネちゃんも同じく僕の権能がほとんど効かない存在なので彼らじゃ裁けない。トップの腐敗をどうにかするために作られる組織がその目的を果たすことができないなんてどういうことなのだとツッコミたくなるだろうけど…僕を裁くなら全断剣でも用意しないと無理だろう。つまりミキなら僕を裁けるということだ。まあ抵抗するけど。

 

「ミキ、私もう帰っていいかな」

「いいんじゃねえのか?そもそもこいつが暇してるのは俺ら悪くないし。というかトキネが俺らの中で一番忙しいし」

 

トキネちゃんは常に時空軸内の時空を監視しておかなければならない。なんかあって時空が崩壊しそうな時に止める役だ。正確に言うとその時空の進む時間をゼロにしてその間に修繕する担当。ミキの話だといくつかの世界に虚数エネルギーだとか終焉の力だとかで時空をどうにかできてしまう存在がいるらしいのだけど、それはミキがなんとか取り持っている。恐ろしい相手との必要な関わり方は妥協だよね。

 

「あ、そうそうミキ」

「んあ?今日の仕事は滞りなく終わったぞ」

「そっちは心配してない。というか君が仕事で失敗したことなんかほとんどないだろ。そうじゃなくて、来週の小説の話」

「趣味の話かよ…」

 

ミキはどうも面倒くさいかのような態度だが、しかし僕はミキがそれなりにノリノリで書いているのを知っている。僕が何も言わなくとも止めるまでミキは書き続けてくれるだろうことを確信している。ミキは結構僕と気が合うんだよね。

 

「次回は…」

「ちょっと待てそれここで言っていいのか?今も記録してるんだろ?」

「大丈夫、消しとくから。次回は■■と戦■でよろしく」

 

記録しているって言っても本に書いてるとか映像を録画してるとかそういうものではなく、もっと概念的な記録をしているけど僕やミキであればそこに割り込んで修正するくらいは簡単だ。

…あれ?

 

「ちょっと待って何で全断剣出したの!?」

「お前に指図されるのが気に食わないので介入させてもらったぜ。ざまぁ」

 

全部塗りつぶすつもりだったのにミキが介入してきたせいで絶妙にネタバレになってしまった。僕はネタバレしない主義なんだけどなぁ…

僕は万知だけど全知ではないし、有能だけど万能でも全能でもない。ここから先の未来に何が起きるのかは僕も知る由もないのだ。というか未来予知というジャンルに関してはその系統の神の方が強い。あくまで【絶対】という権能は僕が望む事象を絶対的に引き起こすというだけであり、しかもそれだって例外はあるのだ。全断剣で介入されたら絶対も何もないしね。

なので僕が何かを教えることはできない代わりに読者の皆にも今後のことは内緒にしていたのだ。まあミキのせいで既にちょっとその目論見は崩されているけど。

 

「ミキ、ちょっと仕事手伝ってー」

「うい。んじゃゼロまたな」

 

トキネちゃんがミキを仕事に誘ってこの神域から出て行った。トキネちゃんの仕事には時空に関する技能が絶対必須な上に相当量の神の力も必要だ。だからこそトキネちゃんはナンバーツーなわけだし、トキネちゃんの仕事は僕かミキしか手伝うことはできない。まあこの時空軸では。

隣の時空軸には別に時の女神が存在してる。時空軸を移動することは僕であっても難しいのだけどミキが飛び越えて行ってしまったからあっちの彼女にも名前がある。ミキって基本的に範疇を超えてくるから読者の君たちが見守ってくれるとありがたい。

それでは僕もそろそろ失礼するよ。それじゃ。



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仲間と戦闘

前回はゼロに主観を持っていかれたが、今日は普通に俺の番だ。

サブタイトルを見れば分かるけど今回は仲間と戦闘訓練をしつつ紹介をしていく。本当は子供たちと遊んだ時の話数のタイミングで紹介する予定だったのに、ゼロが予約投稿の日付を間違えるから…ブツブツ…

まあいい。今日紹介する仲間は所謂魔王戦パーティって呼んでるメンバーだ。読んで字のごとく、魔王と戦うときに仲間として共闘したメンバーだな。近距離、中距離、遠距離のバランスがいい感じに取れているから結構形としてはシンプルだぞ。

あとサナも魔王戦パーティだけど、サナの紹介は飛ばすぞ。

 

「んで次は俺か」

「そうだぜカイトくん。さあ来い!」

 

というわけでサナの戦闘はさくっとカットして次は太刀の青年と対峙する。赤と白が混じった髪で、身長は俺と同じくらい。なお歳は俺と同じ。

名はカイト。本名はカイト・クレイナ・カトゥルー。カイトが名前で、クレイナが姓、カトゥルーが部族名である。名前は日本語に訳せないので似たような発音で書いてるぞ。

カイトはとある辺境の部族の出身であり、その特徴は異常なまでの俊敏性である。魔法を使えばカイトよりも早く動くことは可能だが、純粋な身体能力では格段に差がある。大太刀を使っているのにただの剣を使っている俺よりも早いのだ。

しかもカイトの大太刀は刀身の幅が三十センチくらいあるのだ。それは太刀ではなく大剣なのではと思っているのだが、ちゃんと刀身は少し反っているいるしカイト自身が太刀だと言い張るので多分太刀なのだろう。

 

「ふっ!」

「甘い!」

 

急接近してきたカイトの刃を弾き飛ばす。先ほども言ったが魔法さえ使うことができればカイトの攻撃に対応することは容易だ。ただ魔法剣士というタイプがこの世界に少ないのは確かなので猛者であることは間違いないだろう。

カイトが魔法を使って身体能力を上げれば最強なのではと思うだろうが、残念ながらカイトが自分自身に魔法を使うことはできない。カイトは身体強化魔法は使えないのだ。その代わり…

 

「フロストエイジ!」

「ちっ」

 

こいつは氷の魔法を使える。というか元々は水魔法が使えるのだ。

カイトが言うにはひたすら海辺で波を相手に訓練していたら水魔法が使えるようになったというけど…いや悪いが俺もその場面を見てないから分からないんだよ。俺だって知らないことくらいある。

氷魔法は水魔法の発展形だな。空気中の水蒸気を冷やして水にしていると考えると、更に冷やして氷にするというのは簡単に想像できる。実際の魔法の理論は違うので冷やしているわけではないけど、水魔法を氷魔法に昇華させるのも当然とも思える。

これもまた先ほど言ったことだけど、この世界には魔法剣士なんていうのは稀だ。しかしながら俺の仲間、魔王戦パーティ以外の名前も含めて皆魔法が使える。俺が教えたから。この世界のバランスなんてしったこっちゃねえよ。

 

「アイスメイク…ランス!」

 

俺も氷の造形魔法で対抗する。これもまた別の時空から模倣してきたもの。造形魔法とか想像魔法とか創造魔法とかっていうのは模倣を繰り返して魔法理論を完全に理解することができれば本家本元よりも色々なことができるようになるので素晴らしい。

 

「コールド…」

「おら」

「ぐええ」

 

大振りで近付いてきたので全力で腹を蹴り飛ばした。吹き飛ばされた後、そのまま訓練場の端っこで動かなくなる。

よし、俺の勝ち。戦闘訓練で体術を使ってはいけないというルールはないので、俺の蹴りを警戒していなかったカイトの負け。

 

「サナ、カイト回復しといて」

「はいはーい」

 

サナは基本的にどの魔法も使えるので回復魔法だって当然のように使える。こういった模擬戦形式での戦闘訓練をするときはサナが救急要員としていることが多い。

 

「次シオン!」

「はーい」

 

次に出てきたのは薙刀を構えた女性。こちらは白オンリーの長い髪で、身長はサナと同じくらい。胸は可哀そうなことに貧相だが、まあ戦うことを基本としたこの世界ではあまり大きい胸は邪魔になるのでそこまで本人は気にしていない。

名前はシオン。本名はシオン・バレッカ・ケトァル。名前の構成はカイトと同じであり、カイトとは違うものの結構似たような地域の部族出身。こちらも俊敏性が売りである。名前の表記、日本語だとめっちゃ難しいのだけど。

武器は薙刀。カイトとは違って一目で薙刀だと分かるフォルムなので文句もなにもない。

なぜ二人とも日本の武器を使っているのかと言うと、同じものがこの世界でも作られただけに過ぎない。一応部族特有の武器らしいぞ。実際に俺は初めて見たときに独特だと感じたしな。むしろ日本のことを知った時に同じ武器があったことの方が驚いた。

 

「よろしくねー」

 

シオンの性格はサナと似たようなもの。しかしシオンの方が幾分か好戦的。サナなら話し合いで終わらせようとする問題に対して武力で終わらせようとするくらいには好戦的である。最近は少し落ち着いたのだけどね。

 

「せいっ!」

 

シオンの薙刀を剣で弾き飛ばす。カイトもシオンも俊敏は異様なのだが、残念ながら力が足りないせいで結構簡単に弾くことができる。二人の難題だな。

 

「パラライズ!」

「効くかよ!」

 

シオンの放った雷撃を雷桜槌で吹き飛ばす。

そう、シオンは電気属性なのである。時空によっては雷魔法が風属性の上位とか応用とかに置かれることもあるが、この世界では電気属性で一つであり風属性が雷を起こすことはできない。

カイトと違ってシオンは電気一つなのだが、一応昇華として雷属性みたいなものになっている。過剰な電気が熱を発生させるせいで着弾した場所を燃やすことがあるのだ。

 

「ボルト!」

「おらっ!」

 

ただし俺とは非常に相性が悪い。俺と、というか雷桜槌と。この武器は属性が名前の通り雷と桜なので生半可な電気は全部吹き飛ばすことができるのである。このハンマーを吹き飛ばせるほどの威力を出せるようになればまだ分からないけど…

 

「てい」

「ぴぎゃあ!」

 

またもや蹴り。俺の蹴りはちゃんと身体強化をしているものなので威力は相当だ。俺は元々光属性なわけだし、言うなれば…

 

「光の速度で蹴られたことはあるかーい?」

「痛いよう…」

 

カイトと違って気絶するほどではなかったようだが、致命傷を負ったら負けのルールなのでシオンの負けである。俺は真の男女平等主義者なので女性にも平然と蹴りをいれます。

薙刀って正直あまり武器向きではないよなぁ…形状として慣れるまでは振り回されること間違いなしだし、刀身自体は短いせいで当てるのも難しい。俺は素質としてどんな武器でも扱えるけど、薙刀はあまり進んで使うつもりはないな。

 

「次が俺だな!」

「お前が一番相手したくねえんだよ…」

 

次に出てきたのは茶色の髪の服の上からでも分かる筋肉をつけた男。

名前はダイ。姓はない。火山の近くの街で飼いならした鳥の魔物を使って郵送業をしていた男である。鳥とは言え大きさが象くらいあるのでなんも問題ない。尚現在その鳥は適当に世界を飛び回っているらしい。あと別にこのダイは大冒険などしたことないので注意。

使う武器はハンマー。筋肉からも分かる通り全力のパワーファイターなのである。流石の俺も剣でハンマーを弾くのは難しいので回避するか、俺もハンマーに持ち替えるしかないので厄介なのだ。そりゃ全力の魔法ならハンマーも弾けるけど、多分それをしたらダイの体も弾け飛ぶので。こう、四方八方にグロさマックスで。

 

「ふんっ!」

 

ダイの攻撃を回避。攻撃が当たった地面はひび割れている。ひび割れはこの訓練場の機能としてすぐに修復されるが、やはり当たりたくないなと再度思わせられる威力だ。

ただ完全なパワーファイターなので予備動作を見切れば回避自体はそこまで難しくない。

 

「ヴォルケイノブラスト!」

「うおっと」

 

ダイが地面を叩きつけると何本もの火柱が上がった。火柱があがるところに一瞬魔力が集まるのでちゃんと見極めれば回避は簡単。

ダイは火属性の持ち主だ。元々火山住みだったからか火山関連の魔法を多く使ってくる。パワーファイターの脳筋が魔法使うなと言いたい人もいるだろうけど、この世界ではたとえボディビルダーのような人であっても魔法は使える人は使えるのだ。体は器にすぎないってわけだな。

 

「ヴォルケイノストーム!」

 

そういえばな話だが、流石にこいつは蹴りじゃ倒せない。多分訓練場の結界を吹き飛ばすくらいの威力で蹴らないとダメージにならないだろう。なので…

 

全反撃(フルカウンター)!」

「ぐふぉぉ!」

 

よし終わり。肉体派には魔力が効きやすいっていうのは通例だな。原因はそいつが持っている魔力が少ないせいで魔法抵抗が低いからなんだが…まあ魔力量が少ない読者に教えたところで益もないな。

ダイは無駄に技に魔力を込めるので全反撃(フルカウンター)は非常に効果的だ。

 

「次、私」

「はいよ」

 

ダイの回復をまたもやサナに任せて次に出てきたのは短髪の黒髪。その手には弓、そして腰には銃を装備している。

名前はナミ。本名は確かナミ・ハレイト。凄腕の弓使いでガンナーだ。

先日の武器紹介の時に俺は魔銃ピアルを紹介したと思うのだが、この世界には銃が存在する。ただし技術発展的な理由で地球のものよりも威力は劣る。その代わりに魔力による魔法併発が可能で、それを含めると地球のものよりも威力が上がる。なんせ最低威力がグレネードランチャーみたいなことになるからな。

なのでナミは弓と共に銃も使う。そんな銃があるなら弓なんて意味ないだろと思うかもしれないけど、如何せんそういうわけにもいかない。弓には弓特有の軌道があるし、銃弾にはできず矢にしかできないようなこともある。

俺もスナイパーライフルだけでいいのではと思うこともないのだが、遠距離担当として譲れないらしい。

 

「ブラスト」

 

回避。ナミの属性もダイと同じく火である。ただ別に火山住みじゃなかったから火山系以外の魔法も普通に使ってくる。因みに威力の話で言うと火山系も火系もそこまで変わらない。

 

「…」

 

無言で弓を放ちながら、合間に銃を撃ってくるナミ。同時に二つも使うのはとても使いづらいと思うのだが、ナミは平然とやっているので気にしないことにする。尚俺の場合は弓を使いながら普通に手で魔法を放つので銃は使わない。

 

「…」

 

無詠唱で火魔法を撃ち続けるナミ。ナミは無口なのだ。

まあこのまま撃ち続けられてもどうしようもないので接近しよう。黒の剣士と同じく魔法も銃弾も斬るという荒業で!

 

「…!」

 

急接近されても焦らずに銃を構えるナミ。ムーンサルトで蹴り飛ばす。

そんでそのまま横腹を蹴り飛ばす。はい、おしまい。

ん?この爆弾…

 

「ぬぐおおっ!」

 

先に有効打をいれたのは俺なので俺の勝ちなのは間違いないが、ナミは置き土産で爆弾を置いていたらしい。なんとも厄介な女である。

ともあれ全員に勝利することに成功した。それぞれ課題を見つけたと思うのでそこを重点的に反復するよーに。

 

「…銃弾を斬れるのはこの世界だとミキだけ」

「他の世界にはいるから。頑張れ」

 

俺の仕事の手伝いでこいつらを別の時空に連れて行くこともあるのでできないことはできるようになってもらわないといけない。

仲間の紹介はこれくらいだな。それでは次回…

 

「私の出番はないの?」

「回復してたじゃん!」

 

サナが文句を言ってきた。カットしたけどちゃんとサナとも戦ったぞ。

よしつっかかられる前に退散!終了!




ミキ「あとがきは避難場所」
サナ「逃げられました。が、私も追いつきました」
ミキ「こえーよ。あとがきに出没すんな」
サナ「ミキにできるんだから私にもできるもん!」


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旅立ちの日

現在から十六年前のこと。当時、ミキ八歳。

彼の出身である村はとても小さい村であり、農業と採集と狩りによって日々生活していた。一年中穏やかな気候であり雪が積もる場所ではなかったためそんな生活でも十分に日々を生きることができていた。

この村では六歳くらいから仕事の手伝いを始めることになる。生まれながらにして多めの魔力を持つミキはその才能を生かして八歳ながらにして大人たちに交じり狩りをするグループに所属していた。

その日はちょうどミキは狩りに出ていた。あまり頻繁に狩りをしてしまうと周囲の生態系が崩壊して動物たちがいなくなってしまうことを知っていた大人たちは狩りを一週間に一回と決めていたのだ。

戦うことが楽しかったミキは大人たちの誰よりも早く狩りへと出発した。父親から貰った鉄の剣と木の盾を両手に装備して。

 

「せいっ!よし、これで三匹」

 

今日の狩猟相手はイノシシのような形の動物。イノシシと同じく最高速は子供では逃げ切れないものの曲がることができない。なので木の陰に隠れながら攻撃すれば一方的に倒すことができる。

また、ミキも力をつけてはいるもののそれでも八歳なので三匹の肉が持ち歩く限界なのだ。狩ったイノシシはその場で裁いて可食部だけを持って帰る。

その日は中々イノシシが見つからなかったせいでいつもよりも深く森の奥まで来てしまったようだ。しかし精神が強かったミキは不安になることもなくいつもより急いで村へと帰った。

異変に気が付いたのはその帰り道の途中である。

 

「誰もいない…?」

 

大人の誰よりも早く森に来たミキではあるが、狩りにかかった時間を考えると既に何人も大人たちが森の方へと来ていてもおかしくはない。しかし帰り道の途中では誰一人として遭遇することはなかった。

 

「あれは…!?」

 

村の方面、上空。村から上がるはずもない量の煙が上がっていた。

ミキは焦燥に駆られて持っていたイノシシの肉を捨てて森の中を走った。二年の歳月で培った森の中の疾走術は遺憾なく発揮され、ものの数分で村まで帰ってくることができた。

しかし、ミキが走り出した時点で既に、全ては終わっていたのだった。

 

「なんだ…これ…」

 

目の前に広がる燃えている村に茫然とする。朝、ミキのことを送り出してくれた門番はその武器が折れた状態で事切れていた。

ミキは警戒しながら村の中を進む。誰がやったのかは定かではないが、門番や大人たちを殺した者はもう移動してしまったのかいないようだった。

自分の家へと急ぐ。この状況では無事ではいられないだろうという無意識の確信をもって。

 

「…」

 

屋根は燃えているものの壁はボロボロになっているだけで燃えてはいなかった我が家の扉を開く。そこには母を庇う形で槍が刺さっている父と、その甲斐も空しく父諸共貫かれている母の姿があった。息は、もうない。

 

「ワカバとエダは…それにミノルは…」

 

ミキには一人の妹と一人の弟、そして義理の妹が一人いたのだった。家の中に三人の姿はない。

警戒しながら周囲を捜索したものの、三人の姿を見つけることはできなかった。誰かに連れ去られたのか、それともミキが判断つかないまでボロボロにされたのか。

何にせよ、ミキはその日、家族を全員失ったのだった。

 

「ぎぎ」

「魔物!」

 

誰か生きている人はいないかと捜索しながら村を歩いているとゴブリンが建物の影から現れた。その手には血に濡れた剣を持っている。そしてその剣は…

 

「それは父さんのものだ!」

 

持っていた鉄の剣でゴブリンに切り込む。狩猟用に送られた剣ではあるが、れっきとした真剣なので魔物を殺すこともできる。魔物相手の実戦など初めてではあったが、ゴブリンの手にある父の剣を見て我慢ができなかったようだ。

父の剣を自慢するかのように持ち上げていたゴブリンの腕を斬り飛ばす。そのまま身体をゴブリンにぶつけてタックルを敢行し、ゴブリンを吹き飛ばした。しかし腕を斬られて死ぬほどゴブリンは脆くはない。

 

「はあ!」

 

子供ながらの全力の剣戟でゴブリンの体を裂いた。

ゴブリンが一体しかいなかったことが幸いか。もし二匹以上いたならば斬ったあとの油断でやられてしまっていただろう。

ゴブリンから奪い返した父の剣を手に取る。

 

「…もうここにはいられない」

 

村を歩き回ったが生存者はゼロ。狩りの実力があると言えども一人でこの森の中を生きていくには年齢も経験も浅すぎる。

その結論を出したミキは村から、最寄りの街があるという方向へと歩き出した。街までの距離も、道のりも、ましたや街の名前も知らないが、今のミキにはそこしか頼れる場所はなかった。

 

「旅をして、この村を襲ったやつを特定しないといけない…」

 

狩りの鉄剣、父の形見の剣、そして木の盾。初期装備にしては随分と心許ない装備で、少年は歩き出した。

 


 

「って感じで村を出たってわけだな」

 

俺は最近入ったメイドに向けてそう説明した。新人メイドは大体最初は俺の出生を気にするので説明するのは恒例みたいになっている。今まで何度説明してきたのだろうか。

 

「マスター、最初から心強すぎません?」

「確か八歳ですよね…?」

「まあ精神力に関しては自信があったな」

 

六歳の頃から動物を狩るなど正気ではないだろう。ここは日本ではないので幼くとも働くというのは結構あるのだが、六歳で手伝う仕事は大体能力とか採集とかの安全な仕事だ。今考えると戦いたいと俺が言ったとはいえそれに許可を出した大人たちは中々クレイジーだ。

 

「昔話は終わり!ほら、仕事に戻りな」

「ありがとうございましたマスター」

「失礼します」

 

つい先日メイドに加わった犬の獣人である姉妹が持ち場に帰っていった。

 

「マスター、言ってくだされば私たちから説明しますのに」

「こういうのは自分で言うから臨場感があるんだろ。実体験に勝る参考資料はないぞってな」

 

スラが提言をしてくるが、それを断る。こういう昔話は自分で話すとずっと決めているのだ。それに俺、暇なこと多いし。

あ、そういえば昔話を記録して今日の小説にしておけばよかったな…あれ、記録されてる?ゼロか?いつの間に…いや、でも手間が省けたから良しとしよう。

 

「そうだスラ。狐の巫女さんが人員不足を嘆いてたから手が空いてるやつを送ってやれ」

「了解しました」

 

今日の小説は埋まったのでもう俺は仕事モードだ。それじゃ皆また会おう。



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メイド変遷

今週も元気にこんにちは。ミキさんです。

そろそろ挨拶のレパートリーがなくなってきて困ってまいりました。もうちょっと東京の芸人でも見ようかな…オリジナリティを求めたいところだけど、完全なオリジナルとかもう無理だからな…新しい言語でも開発するしかないなこれ。

まあいい。今日は特に予定がないから書くことを探しながら一日を過ごすぞ。記録を取ったはいいけど特に何かあるわけじゃないからな。毎週イベントが起きるとか異世界だとしてもありえねえよ。

 

「おはようございますマスター」

「おはようメレ」

 

因みに今はめっちゃ朝だ。朝の六時くらい。いつも俺はこれくらいに起きるんだが、その時間に合わせて誰か一人はメイドが挨拶しに来る。誰が来るかは俺も知らない。メレと一緒に寝たときは誰も来ないからメイド内で情報共有されているのだろうけど、実はそこらへんはよく分からない。

 

「今日のご予定は…」

「なし!まあ大部屋に基本いると思うよ」

「分かりました」

 

大部屋というのはその名の通りでかい部屋であり、中央にめっちゃ大きいテーブルを置いてある。仲間たち全員で並んで食べても余裕があるくらいの大きなテーブルだ。食事とか会議とかで使う部屋でもあり、また拠点内の様々な部屋に繋がる部屋でもある。

 

「おはようございますマスター」

「はいおはようさん」

 

大部屋に行ったらフラがいた。フラは花の精霊であり、スラと並んで副メイド長でもある。メイド長はメレだが、副メイド長はスラとフラの二人いるのだ。

フラは元は花の魔物だったりする。魔物が精霊になるなんておかしいと思うだろ?俺も思ったが起きてしまったのだから仕方ないだろう。存在の昇華って俺は呼んでるけど実際よく分からん。フラは把握してるみたいなんだが話してくれないんだよな。

 

「おはようございますマスター」

「はいおはよう」

 

大部屋にスラも入ってきた。このメイド三人は基本的に寝る必要がないので大体の時間起きている。というか俺のメイドは大抵人間じゃないので寝る必要がない。いつも誰かしらメイドは活動している。

うん、今日はメイドを紹介する回にしよう。ちなむと仲間の数や魂の奴らの数以上にメイドはいるので全員は無理だ。拠点じゃないところで活動してるメイドもいるし、昼間は寝ているメイドもいるので。言ったかどうか忘れたけど、執事はいない。

 

「マスター、おはようございます」

「おはようございますマスター」

「二人ともおはよう」

 

さっきから同じ文面が並ぶけど許してくれ。メイドたちは俺への呼び方が統一されているので仕方ないのだ。

キッチンにいるのは人型古代戦闘兵器のテクノと雪女のユキ。何週か前に戦闘兵器のテクターを紹介したと思うが、古代戦闘兵器たちは名前の先頭〈テク〉をつけている。判別しやすいからね。

テクノは戦闘型ではあるけど、俺が色々改造して教えたので万能型みたいになっている。感情の存在は元々の機能なので俺が付け加えたものではない。全機を調べたわけではないが、基本例外なくどの機体にも感情システムは組み込まれているらしい。

 

「今日はなんだ?」

「本日の朝食はパスタです」

 

食材は俺が色んな時空から持ってきてこのキッチンの冷蔵庫の中にいれている。宝物庫の中にいれてるとメイドたちが出せないのでね。

ただこの冷蔵庫も馬鹿でかい。なんせ俺が作った魔力式冷蔵庫なのでね、一般的な冷蔵庫を横に三つ並べた大きさがある。しかも結局一部に空間魔法での拡張をいれているので見た目以上に入る。

 

「んじゃ俺も…」

「マスターはお待ちしていてください!あなたがやったら私たちの仕事がなくなるじゃないですか!」

 

テクノから文句を言われたので大人しく大部屋に戻る。

基本的に拠点の中のことに関してはメイドに任せきりにしないというのは仲間内での共通認識である。メイドに任せてばかりで堕落するのを良しとしない精神だな。

とはいえそれだとメイドの仕事がなくなるので、見つかるとメイドに怒られる。流石に自室の掃除などは何も言われないけど、暇なときに大部屋の棚の整理とかしてると怒られるのだ。まあそもそも汚れや乱れが気になるような状態になることがないので最近はそれでも怒られることは減ってきているのだけど。

 

「あー…メレ、他のやつらは?」

「カイト様とシオン様は既に外出しております。サナ様は研究室に。それ以外の皆様はまだ就寝中です」

 

カイトとシオンの二人は多分訓練場にいる。あの二人は部族出身だからか朝が早いのでしばしばこうして朝早くに訓練に行くことがあるのだ。

また、サナは研究者体質でもあるので徹夜で魔法の開発とか薬の開発をしていることがある。多分今日はそのパターン。俺が無理やり寝かせないとサナは寝ようとしないのでちょっと困りものだ。

 

「んじゃご飯の時間になったら呼んでくれ。少し外の空気吸ってくる」

「分かりました」

 

メイドたちには俺への直通の連絡手段を渡している。と言っても、小さい道具に魔力を込めると俺に知らせが届くという簡易的なものだ。多種族で構成されているメイドたちが全員使えるようにするにはここまで簡略化する必要がったので仕方ない。

俺は外に出る。すると外にもメイドがいた。

 

「あ、おはようマスター」

「ほいほい」

 

そこにいたのは赤いロングの髪を靡かせているメイド、吸血鬼のキュラ。俺の配下には等しく光属性が与えられるのでキュラは日光を浴びても灰になったりはしない。ただ生活習慣自体は吸血鬼らしく夜行性なので、キュラは夜時間の担当だ。

 

「そろそろ寝るのか?」

「ええ、寝る前にマスターに会えたから嬉しいわね」

 

キュラはメイドの中で珍しく俺に敬語を使わない。強制しているわけでもないので別に俺は気にしていない。それもキュラの特徴でありパーソナリティなのだ。

 

「花に水を?」

「ストが急用で行っちゃったから代わりにね」

 

ストというのは幽霊のメイド。擬人化魔法を応用して幽体と実体を自在に使いこなす少女だ。彼女は寝る必要がなく、また俺の光属性のおかげで浄化されることもないので一日中動き回っていることが多い。浮いているので伝令だとか配送だとかの役割担当だ。

 

「仕事終わったから私は寝るわねー」

「おう」

 

キュラが俺の隣を通って拠点の中へと入る…瞬間に俺の首に嚙みついた。

 

「んくっ…んくっ…ふう、美味しかった。それじゃおやすみー」

 

吸血鬼なのでご飯は血である。吸血鬼は日本ではたまにトマトジュースだとかで代用している描写がされることもあるが、キュラは普通に血じゃないとだめだ。というか代用するなら態々トマトジュースじゃなくても普通のご飯でいい。

俺の生命力は自分で言うのもなんだが尋常ではないので血を飲まれても問題ない。吸血鬼に血を吸われると眷属になるとかいう伝承通りにそういう能力もありはするのだが、そもそも俺は状態異常は消し去るしなんなら跳ね返すので支障はない。

 

「あれは…マナミかな」

 

遠くの方でメイド服を着た天使が飛んでいるのが見える。実はうちのメイドにはメレ以外にも何人か天使がいるのだ。そもそもこの街の住人に天使がいるから当然だよな。

天使と悪魔って基本的に対比されるし、実際仲は悪いのだけど、この街はそれ以上の多種族で構成されているので天使と悪魔が雑談している姿もよく見かける日常だったりする。そんでもってそういう街の光景の縮図がそのままうちのメイドに当てはまる。

俺が考え事をしていたら、後ろからテクノに話しかけられた。

 

「マスター、どうされました?」

「いや、いい感じなことを読者に語り掛けてただけだ。朝ごはんできた?」

「はい、呼びに来ました」

 

どうやら朝ごはんが完成したらしい。朝からパスタ、とも思うけど朝食用に重くならないさっぱりとした味付けのパスタなので苦ではない。

因みにパスタという料理はこの世界に存在しないので日本の麺を買ってこっちに持ってきている。本場のパスタ麺を買うこともできるのだが、俺の行動範囲が基本的に日本なので態々行くことはしない。そもそも俺はヨーロッパの方へ行ったことがないので一度飛行機を使わないと転移もできないんだよな。

まあ予想はつくだろうけど、地球への時空転移をしてたどり着いたのは日本だった。それなりに日本は力が濃いのだけどなぜ開いたのかと言うと、君たちが異世界召喚とか異世界転移とか異世界転生とかのジャンルを作りまくったせいで実際に異世界ゲートが開きやすくなってるみたいだった。正直言ってオタク魂やべえ。

 

「いただきます」

 

まだ誰も起きてこないので一人で朝食…というのは寂しいので強制的に妻でもあるメレも一緒に食事をとらせた。サナが何の研究をしているのか知らないので無理に呼びに行くと爆発するかもしれないので呼びに行けないし、マイは魂の中で寝ているので呼べなかった。

 

「いつでもメレは呼べるから気が楽でいいな」

「サナさん以上に私はミキさんの予定に合わせることができますからね」

 

仲間たちは基本的に自由なのだけど、サナの場合は学校とかに呼ばれることがあるからな。まあ俺も呼ばれるけど。

こっから沢山のメイドを更に紹介しようと思ったけど、残念ながら今日からしばらく俺は仕事なのでそれはできない。多分来週はゼロかサナが何か書いてくれると思うのでそれでよろしく。

あ、パスタは美味しかったです。




メイドの仕事担当区分け(メイド長による選別)

・拠点内…家事全般とミキたちの世話。メイドが一番働きたい場所
・街内…清掃やイベントの時の警備など
・戦闘班…有事に戦闘する。ミキと戦って評価を貰わないとなれない
・伝達班…荷物の運送や情報伝達をする。高速で移動できることが条件
・教育班…新人教育をする。たまに孤児院とかにも行く

他にいくつか小さい区分けがある


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サブタイトルを入力

んー、これでいいのかな?あ、記録できてる。

やっほー、日本の皆。もしかしたら日本国外の人も見ているかな?サナだよ。

ミキが未だに仕事から帰ってきてないから今週は仕方なく私が記録してあげることにした。私は時空の力を持ってるけど神じゃないからゼロさんに連絡できないし、トキネちゃんも忙しいだろうから代わりに私。

とはいえ何か書くこともないんだよねぇ…私の研究記録をここに書いたところで魔法体系が、というか魔法という概念自体が違うから意味が分からないだろうし…

ちょっと待ってね……先週はメイドたちで、その前はミキの幼少の話かぁ……あまり参考にならないや。

そうだ。じゃあ私がこの世界の食生活について教えてあげよう。この世界特有の食べ物とか料理もあるからね。日本語だと発音が難しいから似たような音のカタカナ表記で紹介するよ。

 

「というわけでユキちゃん、行こう!」

「…分かりました」

 

折角なら料理担当のメイドも連れて行けば詳細に分かるはずということでユキちゃんを連れて行く。まあ別に料理担当ってのが決まっているわけじゃないけど、ユキちゃんはその雪女の力のおかげで食品を劣化させずに料理できるので料理に回されることが多いというだけだ。

街も拠点も大きいし、仕事も多いけど、メイドの数がいつの間にかすごい数になってしたので一人や二人私用で連れだしても業務に問題はない。ミキが無駄に増やすのはどうなんだといつも思っているけど、まあ役立ってもらってるから良しとしよう。この子たち給料とかもらってくれないし。

 

「じゃあまずはここから」

 

拠点のすぐ近くのカフェ。拠点近くのエリアは街となる前の店が残っていることが多くて色々な文化と店が混在しているので実は拠点の周囲の店だけでこの世界の文化は大抵押さえることができる。素晴らしい街だね!

 

「…」

「ありがとうございます」

 

この世界では日本と違って料理を持ってくるときに声をかけることはしない。むしろなんであんな毎回声をかけるんだろう。初めて日本の料理屋でご飯を食べられたときに驚いて返事をしてしまったのは黒歴史。

一つ目はイチゴみたいな果物を乗せたシンプルなケーキみたいなやつ。ただしスポンジなんてないし、そもそもこれは硬い。

 

「サナ様、これはブランを乗せたクラッテャルですね」

「硬いよねこれー」

「生地はパンと同じ製法ですので」

 

果物の名前とか料理の名前とかは日本人だと発音すら難しいだろうから諦めてもらうけど、味の感想は頑張って伝えます。

と言ってもパンみたいな生地とあまり甘くないクリームとイチゴみたいな味がするブランを組み合わせただけなので難しい味でもない。味の想像ができない人はフランスパンと砂糖をいれていないクリームとイチゴを一緒に食べるといい。大体あんな感じ。

この世界にも牛乳はあるよ。牛じゃないから牛乳とは言わないんだけど、成分も味もほとんど一緒。ミキが成分調査で正確なデータを出してくれたから間違っていないはず。

 

「次は…ケルティだっけ」

「はい。ブランの皮を細かくしてベレィの実と共に煮込みジェリャにしたものを、バンカとテェキャンを混ぜたクヮンタにかけたものですね」

 

もう日本人の皆には全く意味が分からないと思うので私が補足すると、ジェリャっていうのがジャムみたいなやつで、クヮンタが焼き菓子なので、ジャムをかけたラスクみたいなやつだよ。

クラッチャルに比べると甘いからこっちのほうがスイーツらしいかな。

この世界には映えなんてないのであまり見栄えを気にした盛り付けではないけど、ちゃんと整えるとお高めのカフェのスイーツくらいにはなるよ。ベレィっていう果物が地球に似たものがなかったから説明できないんだけど、結構なレアな果物だから他のところだと手に入りにくいんだ。この街だからこそこんな街中のカフェでも出されるってわけ。

ユキちゃんの説明は日本人には全く伝わらないから連れてきた意味がなかったかもしれない。やっぱり言語が違うものを無理やりカタカナにしてもだめだね。

 

「ユキちゃん、ケルティを日本で作るとして簡単に説明すると?」

「えーと…柑橘系の果物のジャムを果物のエキスを混ぜたクラッカーにかければ似たようなものにはなるかと」

 

てっきりカヌレとかにかけるのかと思ったけど、ユキちゃん曰く味に関してはクラッカーの方が近いらしい。

私実はクラッカー食べたことないから分からないんだよね。ミキが買ってこないから。自分から買おうって思うこともないから一度も手に取ったことがない。

 

「日本語に翻訳するの難しいね…ミキはいつもどうやってるのかな」

「マスターはこちらの言語は出来る限り使わないようにしているらしいですよ。固有名詞は仕方ありませんけど、魔物の名前とかは見た目で日本人に分かりやすい適当なあだ名をつけているようです」

 

あー、だから放浪旅の時に魔物の名前知ってるくせに〇〇モドキって言ってたのか。納得。

なるほど…これが読者に配慮するってやつか。私は研究のために正式名称で報告書やら論文やらを書くことが多いから適当に分かりやすくするっていうことが苦手なんだよねぇ…

 

「次が…ベキェリャク…えっと…うーん…」

「タルトもどきですかね」

「それだ!」

 

ただよく見るタルトとは違って四角だし、果物とかは生地の下にある。先に果物とかを型にいれてから生地の流し込んで焼くからこうなるらしい。なんで焼いた後に乗せないんだろう?

 

「それは元々ベキェリャクが暑い地域のものだからですね。すぐに悪くなるので先に焼いてしまおうという考えらしいです」

「ドライフルーツとかあったんじゃないの?」

「貴重な果物をわざわざ乾かすことはしなかったのでしょう。収穫から調理までほとんど時間をかけなかったといいます」

 

ユキちゃんは物知りだねぇ。私は魔法研究ばかりだから歴史とか文化とかはあまりよく知らないんだよね。

 

「色々来ているので先に食べませんか?」

「あ、そだねー」

 

クラッテャルは少し食べたけど、ケルティもベキェリャクも食べてない。そこまで大きい机じゃないので落ちちゃいそうだしさっさと食べちゃう。

さっきも言ったけどクラッテャルはそこまで甘さが強くない硬いスイーツ。なのでこれは手で持ってかぶりつくのが定番の食べ方だ。うん、美味しい。

ケルティもラスクみたいなやつだから手で持って食べる。ジェリャが落ちないように食べるのが少し難しいけど、落ちそうになったら魔法で補助して落ちないようにして食べる。うん、美味しい。

ベキェリャクはタルトみたいなやつだからこれはフォークを使う。フォークって名前じゃないけどフォークはこの世界にもあるよ。地球のやつに比べると先端が鋭すぎて凶器になっているので一般的じゃないけど。この店のフォークはちゃんと先端が少し丸められているので安全。うん、美味しい。

 

「サナ様、感想それでいいんですか?」

「だってそれ以外思いつかないもん」

 

ミキだってきっと同じような感じに食べるはず。だから何も問題はない…多分。

 

ミキの追記:もし食事をメインにした話ならちゃんと孤独のグルメくらいの食レポはするぞ。

 

うーん、いつもよりも文字数が少ないけど、ミキはいつもどうやって文字数を増やしてるのかな。

これくらいで終わっていいのかな。いいよね。だって紹介する食べ物の名前も料理の方法も日本語に直すの大変なんだもん。

来週はちゃんとミキが書いてくれると思うからよろしくー。

えっと…終わらせ方は…こ




ミキ「サブタイトルを入力し忘れてるぞ」
サナ「え」


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放浪旅②

今日の俺はどこか知らない平原にいる。前回の街からはそれなりに離れたところなので面倒ごとに巻き込まれることはない…と信じたい。

あ、申し遅れましたミキでございます。

ここには鳥の魔物が大量発生している。近くに街がないから誰にも被害は出ていないようだが、大量発生が原因で生態系が崩壊してしまうとこちらとしても困るのである程度間引いている最中だ。

 

「トゥマーン・ボンバ!」

 

広範囲戦略級魔法をぶっ放す。鳥の魔物は防御力が低いのでこの魔法によって発生するガス爆発で簡単に撃滅が可能だ。この世界での魔法はあまり広範囲高威力というのが存在しないので別の時空の魔法を借りることになってしまったのは癪ではあるが、まあ有用なものを放置する必要もないだろう。

はい、終わり。数えるのも面倒なほどにいた鳥の魔物が十匹くらいまで減っていた。数が少なくなってから調べたところ、大量発生の原因は気候変動らしい。本来は何回かに分けて生まれる魔物が一気に生まれてしまったらしい。そう、この魔物は鳥らしく卵生なのである。

魔力によって自由に生まれる魔物と、生殖により生まれる魔物があり、大量発生する魔物は専ら後者である。前者は相当な魔力溜まりでもできない限りは起こらない。

 

『ミキ様、誰にも見られていませんか?戦略級魔法は大抵遠くからでも見えますけど…』

『大丈夫だろ』

 

一応トゥマーン・ボンバの魔法式は低空に展開したのでこの平原にいない限りは森が邪魔して見えないはずだ。もし誰か見ていたとしても、数人だろうから世迷言として処理されることだろう。

目撃者を全員洗脳だとか記憶処理していたら面倒なのでね。尚ルクスの周囲でやるときは自重せずとも「またか」って住人は流してくれるので問題ない。

 

「…俺どっちから来たっけ?」

 

飛びながら魔法を撃っていたので方角が分からなくなってしまった。この平原は結構円に近い形であり、森に囲まれているため一度方向を見失うとどちらから来たのか分からなくなってしまうのだ。

 

「…こっちでいいや」

 

武器霊や魂の意見を聞く前に自分で決めて移動を始める。もし戻り道だったなら…まあまた気付いたときに方向を変えればいいだろう。

しばらく歩けば平原は途切れて森になる。この世界は国はあるものの未開拓な土地というのは大量にあるので自然が色濃く残っていることが多い。この国の国王は特に開拓を進めようとはしていないのか街も少ないようである。

鳥の魔物以外にも色々な種類の魔物が襲ってくるけど基本的にノールックで魔法による撃滅をする。メタルスライムみたいな魔物がいればいいのだが、そういうレアな魔物はこういう森ではまず出現しないので仕方ない。

俺はあまり街道を歩かないのでこうしてたくさん魔物に襲われることになる。別にわざと歩かないようにしているわけではないのだけど、気になるものがあればすぐに道から逸れるし元の道を戻ることもしないので結局関係ないところを歩くことになるのだ。拠点には時空魔法でいつでも帰れるしね。

 

「おや、あれは…」

 

しばらく歩いていたら前方にて旅人の姿を見かけた。男女二人っきり…ってことはカップルだな。間違いない。

この世界には冒険者がいる。そんでもって冒険者ギルドみたいなのもある。ただしよくある等級とかは存在せず、基本的に魔物の討伐と素材の採取の二つを生業とする。ついでに言うと冒険者ギルドに登録することもない。旅人が旅の途中で手に入れたら自由にギルドで換金できる。

そもそも魔法の素質というのが限られた人物にのみ現れるのでパーティを組もうにも難しいことが多いのでソロの冒険者も多く、男女のペアの場合は限りなく百パーセントに近い確率でカップルだ。そうでもないとわざわざ旅に女性を連れて行かない。

 

「ぐああっ!」

「あなたっ!」

 

どうやら二人が歩いていたのは街道のようだ。しかし運が悪く森から出てきた大きい狼に腕を噛まれて血が出ている。確かあの狼は本来はさっきの平原で鳥の魔物を狩って生活していたはずだ。森の中に生活圏が移動したせいで鳥の魔物が減らなかったんだな。

さて、ここで俺は助けるべきなのだろうか。彼らとて死ぬ可能性があることを容認したうえで旅をしている。そうでないならもっと前から死んでいるはずだ。そんな彼らを絶対に助ける必要性は…ない。

申し訳ないが俺はあまり生き死にに興味がない。転生とか消滅とか終焉とかの理を知っているし、蘇生魔法くらいは色んな時空で開発されているので魔法体系を調整すればいくらでも使える。そもそも神目線がある以上目の前で旅人が死んでしまったとしてもそれは運命だったと言うほかない。

 

『とか言って、結局助けますよね?』

『ミキ様が助けないわけないですよね』

『ミキ様は優しいので放置しませんよね?』

『主様はいい人だから助けるはず…』

 

魂のやつらと武器霊のやつらから猛抗議が来たので助けることにします。元々助けるつもりだったぞ?本当だ。

 

「アンナ!君だけでもっ!」

「置いていくことなんかできないわよっ!」

 

アンナと呼ばれた女性が震えながらも剣を取り出して男性を守るように狼に相対する。やはり旅人歴は長いのだろう。

とはいえあの震え具合だとそう時間もかからないうちに狼のエサとなってしまうのは間違いない。というわけで…

 

「ホワッツァ!」

「えっ…?」

 

横から全力で狼を蹴り飛ばす。距離さえとって女性が男性を回復する時間を得ることができれば彼らも問題なく逃げることができるだろう。

俺はそのまま慣性で森の中に突っ込む。どのみち街道が危ない状態ならば誰かが討伐しに来るだろうから俺が殺してしまっても早いか遅いかの違いでしかない。

 

「狼野郎、用意はいいか?」

「グウウウウ」

 

大きな体は防御力も高いらしい。普通の魔物であれば全身の骨が砕けるくらいの威力で蹴り飛ばしたはずなのだが平然と立ってこちらを睨んでいる。とはいえ蹴りがノーダメージとはいかなかったらしく自分から飛び掛かってくるようなことはしないらしい。

知恵があるようだし、今までも街道の茂みに隠れて冒険者を襲っていたのだろう。これで人間を襲わないのなら擬人化魔法でメイドにでもしようと思うのだが、残念ながら人間を襲う魔物はNGである。

 

「ラスターカノン!」

 

光属性の上級魔法を撃つ。レーザータイプの高速型魔法なのだがそれ以上に狼は早いらしくすぐに避けられてしまい、魔法はそのまま背後の木々をボロボロにしながら数メートル先で止まった。

狼というと群れで動くことが基本で、この狼の魔物も群れでいるはずなのだが時間が経っても誰も来ないということは一匹狼なのかな?俺が知っている生態よりも能力が高いみたいなので多分変異種だろう。

 

「しっ!」

「グワウ!」

 

俺の振るった光桜剣を狼は牙で受け止めた。確かに光桜剣は何でも斬れるというわけではないのだが、それでも岩くらいは余裕で真っ二つにできる業物だ。それを受け止めるとなるとこの狼、相当な強さである。これは俺が殺してしまわないと被害が甚大になりそうだな。

 

全剣射出(フルソードオーバードライブ)!」

「ギャウンッ!?」

 

面倒になったので俺の宝物庫の中に入っている様々な剣をまとめて連続射出することにした。回避できない面の攻撃をしてしまえば狼とてダメージが入るだろう。この技のイメージはどっかの英雄王のあれである。分からん人は調べてみてくれ。

数十秒ほどなんとか逃げようとする狼を中心にひたすら剣を射出し続けた。森は崩壊し土は捲れあがっているが、なお狼は健在だった。とはいえもう立ち上がる力も残っていないようだけど。

 

「はい、お疲れさん」

 

そのまま俺は光桜剣で首を切り落とした。これで無事お仕事完了である。

街道に戻ると二人の旅人はいなくなっていた。軽く数十メートル飛んで確認してみても見える所にいないのでちゃんと回復して歩いて行ったのだろう。

折角だからこの街道を通ってみるか。さてさて、どこに辿り着くのかな。



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神を落とす物

どうもどうも。毎週お馴染みのミキさんです。果たして何人がリアルタイムでこれを読んでいるのでしょうか。

今日は今までと打って変わって自室にいる。というのも春落が顕現してくっついてくるので出かけられなかったのだ。今週は記録できそうなことがほとんどなくて、明日には投稿しないといけないという現状で仕方なく今記録している。

 

「旦那様、もっとくっつきましょうよー」

「寒いと言いたいのは分かるが、ならもうちょい暖かい恰好しろよ」

 

因みに俺の部屋はめちゃめちゃに適温だ。寒いでも暑いでもない適切な温度に常に保たれているので例え一日中裸でも風邪をひくことはない。

しかしながら外は寒い。読者の君らとほとんど同じようにこちらも季節が流れているのでこちらも現在冬だ。こっちにはミカンがないし炬燵もないから買わないとなぁ…

 

「旦那様、私のこの恰好はアイデンティティであり誇りでありあなたへの想いです。変えれません!」

「いや、パターンが色々あるだろ…」

 

春落は基本的に常にウェディングドレスみたな恰好をしている。流石にロングスカートとケープではないのだけど、何がモチーフかと問われると誰もがウェディングドレスだと即答できるくらいには基調となっている。あと前にも言ったと思うけど、春落は妻ではない。

尚こちらの世界にはウェディングドレスはない。結婚は国によって形式が違うし、自由なので決まった格好がないのだ。ドレスのような服を作れるほど一般市民は収入が多くないので仕方ないな。

この街ルクスでも結婚形式は自由ってことにしている。ただ結婚への資金補助はあるので比較的一般市民でもドレスとかを着れる人が多いのが特徴だな。これでも街の代表なので統治はしてるんですよ?

 

「…神の力を感じますね。何かしてるんですか?」

「ん?明日投稿する小説の記録をしてる」

「でしたら!私のことを書きましょう!旦那様との愛の物語です!」

 

いや、どちらかと言えば復讐と憎悪の物語だろう…とは口には出さない。春落にとっても過去のことはデリケートなので記録するだけにしよう。

もしかしたら今日は文字数がすごいことになるかもなぁ…え、話数を分けないのかって?この小説では一貫した物語は分けないことにしているのでね。長らくお付き合いください。

 


 

俺が春落、いや神殺しに会ったのは数年前のことだ。俺が神になって街ができ始めた頃だな。

当時から俺は暴走した神とか邪神とかを討伐して回っていたのだが、ちとばかし火力不足でな。一応色んな時空の神殺しを成した人物の戦い方を見て回ったんだが…あれって世界に顕現してる下位の神たちだから時空軸を管理するような神には効果がないんだよね。

それで俺は神の間でも伝承としてしか残っていない神殺しなる武器を探し始めたんだ。形状についても刀だとか鎌だとかナイフだとか色々言われてたけど、見れば分かるだろうって適当に探してた。因みに正解はナイフだったぞ。

神殺しはとある時空の青年が持っていた。その青年は既に死んでいたが、その胸元には神殺しが置かれていた。刺されていたわけじゃなくて、青年が持っていただけだから死因に神殺しは関係ない。

見るだけで嫌悪感が湧いてくる武器なんて初めてで、見た瞬間にこれだなって思った記憶がある。持つのも怖かったくらいだ。

でも俺は勇気を出して手を伸ばした。で俺が武器に触れた瞬間…右腕が全部吹き飛んだ。

やべえって思った。神殺しの力が事実だったってことよりも、触るだけで吹き飛ばす溜め込まれた力に恐れをなした。でも俺は諦めん。そんなことで諦めていたら武器コレクターを名乗れないのでね。

再生魔法で腕を戻してから俺は神殺しを無理やり宝物庫の中にいれた。一瞬でも触ることができれば無機物であれば自由に宝物庫にいれることができるのだ。

 

『…』

「神殺しだよな」

『…』

 

宝物庫に俺も入って神殺しに話しかける。でも何の返答もなかった。最初から神力を全部なくして普通の人間の状態で話しかければよかったと後悔したもんだが…どのみち神の気配を感じて反応しなかっただろう。

 

「俺はお前を使いたい。一体お前に何があったのかを知りたい」

『…』

 

こうやって武器と対話すること初めてではなかった。他にも憎しみを持つ武器っていうのは存在し、そういうやつらは大抵返事をしてくれないのでね。

ただ神殺しはその中でも厄介なやつだった。二か月は何も話してくれなかったのは神殺しが初めてだった。

 

 

「旦那様は色々と自己紹介してましたけど、私は神のことを全く信用してなかったので」

「まあそうだろうな。でも黙っているのも疲れないか?」

「私にとっては神と対話することの方が疲れますので。そもそもで触れない武器に神々は次第に私を放置するようになるので…それを待っていたんですけど…」

「はっ。何年でも諦めねえよ」

 

 

二か月後、やっと神殺しが声を出した。とてつもなく不快そうな声で。

 

『なんなんだお前は。ずっと話しかけてきて』

「理由なら再三言っただろ?お前の力が必要だから使わせてくれ。今のままじゃ持つことすらできない」

 

神が行使する力すべてを弾いてしまうようで、俺が魔法をかけて浮かせようとしても拒絶されてしまう。なので神殺し自身に意思を持たせないと俺は神殺しの力を使えないのだ。

 

『うるさい!神は嫌いだ!お前も消えろ!』

「消えねえ!お前がどうして神嫌いなのか知らないけど、絶対に俺の武器になってもらうからな」

 

今思うと当時の俺は強情だったな。まだタイムリープとか限定転生とかをしてなかったから精神年齢が実年齢だったからなぁ…現在は肉体と精神年齢がかけ離れてしまってすごいことになっている。

ともかく、俺は神殺しに毎日話しかけた。時には触ろうとして、そのたびに腕を吹き飛ばされた。こりゃ本当に無理かと思い始めたとき気が付いたことがあった。

触って吹き飛ばされる範囲が段々小さくなっていったのだ。初めて触った時は腕全体が吹き飛ばされたが、数か月後には手首までの範囲になっていた。力が弱まっている気配はないのでもしかしたらと思って俺はある魔法を使った。

 

『何をする気…』

「精霊召喚!」

 

俺の宝物庫の中では力が満ちているおかげで武器霊が自由に活動できるって話はしたと思うんだが、神殺しは一度も顕現せずに武器の中に閉じこもっていた。だがもし少しでも俺のことを認めてくれているのなら召喚に応じてくれないかと期待したんだ。

 

『…まだ、だめ』

「だめかぁ」

 

結果はだめでした。

ただこの日から態度が軟化して、喋り方も高圧的というよりも女の子らしくなっていった。武器霊の声って顕現してないときって性別が分かりづらいから、その時初めて神殺しが女性の霊だということを知った。

 

『諦めなさいよ。いい加減』

「いいだろ別に。なんだかんだ話しかけたら応えてくれるようになって俺は嬉しいぞ」

『それは…だってあなたがずっと話しかけてくるから…』

 

初めての精霊召喚から一ヶ月後。俺はまた挑戦してみることにした。

 

「できればでいいんだがな」

『神力が一切混じっていない霊力をいっぱいくれるなら考えてあげる』

「よし来た…精霊召喚!」

 

俺が精霊召喚を行使した。すると神殺しが光って…

目の前には黒と白が混ざった服を着た女の子が立っていた。

 

 

「当時はまじで暗殺者みたいな服だったよな。あれはあれで似合ってたけど」

「今でも着ようと思えば着れますよ?武器霊の服は本人の意思で自由に変わりますから」

「性格も今より断然怖かったしな」

「それは…そもそもここまで旦那様に惚れ込んだのは春落になってからですし…ううっ…」

 

 

「…どう?」

「ほう…」

 

俺は神殺しの姿を見る。神に対して潜在的な恐怖を与える効果でもあるのだろうか、見るだけでなんとなく腰が引ける感覚があるのだが、それをなんとか理性で押し込んで神殺しに近付いた。

 

「改めて…ミキ・クレイル。時空神だ」

「神殺し…神の前に姿を見せるなんて初めて」

「そりゃ光栄だ」

 

この日から神殺しは宝物庫の中を自由に歩き回るようになった。そうなると他の武器との交流も生まれ、そこから変わるのは早かった。

一週間で時は訪れた。

 

「…あなたに使われても、いい」

「え?」

「だから、あなたなら私を使ってもいいって言ってる」

 

一瞬聞き逃してしまいそうになったが、もう一度言葉を聞いたときはガッツポーズをしたものだ。神殺しの力はすべての神に対して特攻持ちであり、きっと俺と相性が良いだろうなと思っていたからだ。

なぜ神殺しがそんな結論になったのか聞いてみると、どうやら他の武器霊から俺の武器への扱いの良さとか武器への労りを教えてもらい、ついでに今まで俺がしてきたことも聞いたらしい。多分俺も神を殺す側だってことが琴線に触れたんだろうな。

 

『持って』

「おう」

 

武器霊が消えて神殺しだけが残る。そして俺はそれを掴み取った。一瞬だけ反発する感覚がしたがすぐに消え、神殺しを手にすることができたのだ。

その日から俺は神討伐の時は神殺しを持っていくことにした。どこ神も神殺しを見るだけでそれが己を殺すことができる武器であることを悟って逃げようとするのだが、一撃でも当たればそれだけで体の大部分が吹き飛ぶ武器と、転移能力持ちの俺から逃げることなどできず、俺の神討伐の進度が上がっていった。

神を殺している間の神殺しは本当に楽しそうだった。狂ったように笑っていることもあったし…怖いねぇ。

 

「いっぱい神を殺せて楽しい」

「そりゃよかったよ。さて、そろそろお前がなんで神を殺したがっているのか聞いてもいいか?」

 

それなりにコミュニケーションも取るようになっていたある日、俺はそんなことを聞いた。武器のことを知るのは使いこなすには必要な過程だからな。

 

「…私は元々普通のナイフだった。普通の青年が私の持ち主だった。その人には大切な彼女がいた。でもその子は愉快犯の神に殺された。その子を守ろうとした青年もまた殺された。その時私は青年に持たれてて、青年が死ぬ間際までずっと彼女のことと神が憎いということを考えていた。だから私も神が憎い」

 

人間が死ぬ間際というのは一番周囲への影響力が強くなる。もし死ぬ間際に持っていた何かに対して思いや願いを込めるとそれだけで強い力を持つアイテムになる。神殺しはその方法で生み出された武器だったのだ。まあそれだけで神を殺す権能を生み出したのは相当レアケースだけどな。

 

「俺はどうだ?」

「あなたは…あなたは憎いってほどじゃない。好きじゃないけど、信用はしてる」

「ありがたいこって」

 

その日から更に態度は軟化した。神殺しは、神のことを知らなかっただけなのだ。

 

「ミキ様、私はただの食わず嫌いだったと思う?」

「そういうわけじゃねえよ。神なんて自分勝手なやつが多いからな」

 

ゼロみたいな中央の神はそうでもないのだけど、末端の神は自分勝手なことが多い。会社として考えると珍しく、中央がまともで末端が腐っている形だったんだ。

だから神を憎むのも無理はない。なんせ人々の前に現れる神なんてそんな腐った末端の神ばかりだからな。末端の神でも腐らずにまともな奴はいるんだが、そういうやつは姿を見せずに裏から見守ることが多いので、結局姿を見せる神は腐ったやつばかりだ。

 

「でも、どうだ色んな神を見て。やばいだけじゃない神を見て」

 

俺は中央の神を見せに行ったことがあった。本来は神器ではない武器は神界には入れないのだが、どうも神殺しはそこらへんの神のルールは全無視できるみたいなので普通に持ち込めた。

 

「…ミキ様ほどじゃない。信頼できる神はあなただけ」

「おお、お前からそんな意見を聞いたのは初めてだ。ありがとよ」

 

 

「この時点で結構絆されてたよな」

「そもそも武器っていうのはずっと持たれてるとそれだけで持ち主に対して信愛を抱きやすいんです。旦那様はずっと私に寄り添ってくれていたので…あなたのことが少しずつ好きになるのは武器として当然です」

「でも武器の中にはずっと持たれていても持ち主に反発するやつもいるけどな」

「それは持ち主に対して相当嫌悪している武器です。私は…旦那様のこと、もう全く嫌っていませんでしたから」

 

 

転機が訪れたのは神殺しを俺が見つけてから一年後くらいの頃。

俺は知らなかったのだが、宝物庫の中で神殺しは他の武器霊にとある相談をしていたらしい。以下その時のやり取り。

 

「あのツクさん」

「どうしましたか神殺しさん」

「私、もっとミキ様の力に…なりたいんだけど…」

「…あのミキ様の腕を吹き飛ばしていたあなたがそんなことを言うなんて…ちょっと感動…」

「?」

「ああえっと…ならミキ様の神器になればいいんじゃないですかね。名前を貰うといいですよ。あなた自身にその気がないなら神器になることはありませんし、その気があるなら名前を貰った時点であなたの中の何かが変わるのを感じると思いますよ」

「神器に…名前…」

 

その後神殺しは俺のところに来て名前を欲しがった。当時の俺は再三名前をもらうと繋がりができてしまうって言ったんだけど、むしろそれが良いと言われて俺は神殺しに名前を付けた。

ここで言う名前っていうのは銘のことだ。別の神器で言うならばツクの方ではなく光桜剣の方だ。

 

「そうだなぁ…神殺し…新しい力もあるといいか?となると…神落とし…神落…俺の属性も加えて…春落。よし、お前は春落だ。いいな?」

『っ…はい!』

 

その瞬間神殺しの体が光って…

 

 

「神器への昇華ってどんな感じなんだ?」

「胸の奥から新しい力が湧いてくる感じで、同時に旦那様とのつながりがはっきりとするんです。あと、名前を受け入れるときにガラスが割れるような衝撃が一瞬ありますね。多分殻を破ったみたいな感覚なんでしょうけど。あと、まあこれは私の場合ですけど、旦那様への想いが溢れる感じで。多分心の奥で溜まっていた気持ちが出てきたんでしょうね」

 

 

光が収まった時、そこにはウェディングドレスを着た神殺し、春落がいた。

 

「おっとー?服が変わるのは分かるが、なぜにウェディングドレス?」

「…私の想いです。ミキ様に、旦那様にお仕えしたいという気持ちの表れです!」

 

これが春落が生まれた瞬間だ。

 


 

「ウェディングドレスを着る割には求婚はしてこないよな」

「だって私にとっては旦那様は実際の夫というよりも仕える主なので…」

「メレという前例があってもか?」

「あってもです。メイドと武器のあり方は違うんですよ」

 

俺は誰かの従者になったことがないのでそこらへんの感覚は分からないな。似た立場で価値観が違うっていう思考回路は分かるけどな。

 

「それにしても…旦那様、結構端折りましたね。私が一回折れかけたところとかなくていいんですか」

「だって折れかけたから俺が修繕したってだけじゃん。日頃の手入れと変わらんだろ」

「もうっ、日頃の手入れとは違う感覚があるんですよ…旦那様を意識したのはあの時からだったのに」

 

武器じゃない俺には分からない幸福感があるらしい。種族の差って大変だな。

さて、こんなことを書いていたら六千文字を超えてたから今日はこの辺で終わりだな。再三言うけど春落は妻ではない。

 

「でもポジション的には愛人ですよ」

「あー…まあたまに添い寝するくらいだな」

 

やめろ読者。そんな目で見るな。俺が寝ていたら春落が顕現してベッドに入ってくるんだ仕方ないだろ。拒まない俺にも悪いところはあるけどさ。

あー、はいはい終わり終わり!




ミキ「色んな時空に神殺しなる武器は存在するけど、俺の春落は唯一のもので別作品から拾ってきたわけじゃないってことを追記しておくぞ」


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時空最高峰の魔法使い

やあ、今日も元気なミキさんだよ。

今週も特にイベントらしいイベントがなかったので放浪旅でもしたろうかと思っていたんだが、現在俺はサナに絡まれている。

 

「先週のやつ見たよ!なんで私との出会いより先に春落ちゃんのやつするの!?順番おかしくない!?」

「あー、まあそうかもな」

「私たちも春落ちゃんは愛人ポジなのを認めてるからいいけど、やっぱり順番ってものがあると思うんだよね」

 

サナはどうやら先週の話に不満があるそうだ。妻たちに順番はつけていないのだが、一応サナが正妻なので多分その点で怒っているのだと思う。まあ確かにな。

あと春落は別に愛人ではない。

 

「今日は私!いいね?!」

「へいへい」

「なんでそんな嫌そうかなぁ…」

 

嫌というわけではないけど、内容に関して他の人に指示されたくないというのがあるのでね。それにサナとの出会いはあまり公にしたくない的な気持ちがあるんだよなぁ…

 

「私との思い出が大切なのは嬉しいけどちゃんと見せて」

「あいよ」

 

まあサナの言い分も非常によく分かるので過去視といきましょうか。春落と同じ感じで進めるぞい。というわけではい回想~

 


 

サナと出会ったのは俺が村を出てから二か月後くらいのこと。狩りのために貰っていた俺の剣は破損し、今では光桜剣となった剣を手に入れた頃。

人間の中では珍しかった多い魔力を使って魔法の練習をしていた時のこと。遠くから女性の叫び声が聞こえたので俺は走り出していた。狩りをしていたからか五感が結構鋭いんだよな俺。それに俺が知らない間に村の人が全滅してたっていう過去があるからどうしても見逃せないんだよね。

 

「グラアアア!」

「ぴゃああ!」

 

そこにいたのは大きな狼から逃げている一人の女性。四足歩行じゃなくて、人狼みたいな感じで二足歩行している狼な。でも人狼みたいな見た目というだけでちゃんと魔物。

 

「助けはいるかー?!」

「助けてー!」

 

なんだかんだ逃げるだけなら大丈夫そうな様子だったので一応声はかけたけど、ちゃんと助けは必要としていた。

というわけで俺は走って女性と魔物の間に入り込む。

 

「ブラスト!」

 

初級魔法でありながら結構大きく爆発する魔法を腹にぶち込む。まだまだ俺の魔法制御が未熟だからかあまり衝撃を与えることはできなかったが注意をこちらに引き付けることには成功した。

爪による斬撃を回避、回避、隙を突いて狼の股下を潜り抜けながら斬りつける。体が大きい魔物だと股下が死角となりやすい。

背中に回ったらそのまま剣を振り上げて切り裂く。魔物は声をあげるがこちらを向く前にまたもや背中を切り裂いて、ついでにファイアをぶち込む。焼けた皮膚に剣を思いっきり突き刺したら…

 

「ブラスト!」

 

体内爆発。如何に強靭な肉体であっても臓器に直接攻撃を加えれば無傷では済まない。

何度か魔法を剣伝いに打ち込んだら魔物は倒れた。俺の勝ち。

 

「ううぅ…助かりました、ありがとうございますぅ…うう…」

「それはいいんだが…武器はどうした?」

「私魔法使いなので…」

 

この世界では魔法の才能が予め決まっている。俺の場合は光属性と初級の火属性しか使えなかった。そんな世界だから魔法だけで戦うというのは不利な状況になりやすい。俺の場合は岩石のような魔物相手だと魔法では傷を与えることができないだろう。

なので例え魔法主体の戦い方をしている人でも剣の一つくらいは持っているのが一般的だ。弓やムチなどを使う人もいつでも使える短刀の一本くらい持っていなければ危険だと思う。

 

「その…私、剣使えなくて」

「振るくらいはできるだろ?」

「力が弱くて…」

 

確かに冒険者をするには少しばかり頼りない細腕だ。一度だけある街で魔法使いを見たことがありその人は女性だったが、もう少し腕は太かったはずである。武器が何にせよ筋肉がないと危険な世界なのだ。

 

「そんなに魔法に自信があるのか?」

「…私は、全属性適正です」

「全属性!?」

 

この世界に基本属性というものは定まっていないが、パッと思いつくだけでも何種類もある属性のすべてに適正があるなど破格も良いところだ。

確かに全属性の魔法を使えるのであればどんな敵が出てきてもそれに合わせて属性を変化させることで対処できるだろう。ただ…

 

「ということは、魔力が切れたな?」

「ううぅ…」

 

魔力が切れれば全属性の魔法使いだとしても、それはただの人になる。魔法以外の武器を持っていないならそれは冒険初心者にも劣る。

 

 

「今じゃある程度剣は使えるようになったよな」

「うん。まあそもそも今の私は魔力切れなんてそうそう起こさないけどね」

「俺よりも魔力総量多いもんな…」

 

 

俺は魔力回復の薬を渡すことにした。折角助けたと言うのに身を守る術がないと普通に次の街までの途中で死ぬからだ。

 

「名前は?」

「サタ…いや、サナだよ。姓は、秘密」

「ミキだ」

 

そっちが秘密にするならこっちも姓は秘密だ。まあ俺のクレイル家は俺しか残っていないので隠したところで何かあると言うわけではないが。

対してサナは明らかに何かある。そもそも全属性の魔法使いだ。どこかの国で宮廷魔法使いをしていてもおかしくはない。きっと家で何かしらいざこざがあったのだろう。風貌もきれいだしかわいいのでどっかの令嬢かもしれない。

 

「んじゃ俺はもう行くから…」

「あ、ちょっと待ってください!」

「ん?」

 

俺が移動を開始したらサナもついてきた。

 

「なんだ?」

「次の街までついて行ってもいいですよね?」

 

サナの突然の申し出に少しばかり嫌悪感を抱きながら答える。

 

「は?構いはせんがお前の分の色々は準備しないぞ」

「分かってますよー」

 

サナが持っている鞄はそこまで大きくはない。剣を振れないというくらいだからあまり大きなものは持てなかったのだろう。

ただ食料は俺一人分しかないので分けてあげることはできない。自分で肉でも狩ってきてくれ。

 

 

「でも結局分けてくれたよね」

「だってお前食べられるのが分からないって乾パンモソモソ食ってたんだもん。見ていて寂しくなるわ」

「ふふっ、でもそれってミキが優しいからでしょ。助けてくれたことも合わせてあの時既に若干ミキのこと意識してたよ」

 

尚俺は全く意識していない。

 

 

その後次の街に着くまでサナは旅に同行した。俺が前衛でサナが後衛という戦い方は非常に効率が良かった。俺一人だと実力不足な相手であっても二人なら余裕で倒すことができたくらいだ。

また、旅の間はそれぞれに魔法・剣を教え合った。サナはそもそも剣を使うための体を作るための運動から始めたが、俺は魔法は使えていたのでサナに光属性の魔法を教えてもらった。そのため俺は光属性なら上級まで使えるようになったのだ。まあ魔力が足りなくなるので使う機会はほぼないだろうけど。

そして次の街に到着したとき、サナが言った。

 

「ここでミキとはお別れだね」

「ああ、そうか。そうだな」

 

次の街までという条件で始まった旅だ。

旅の途中で邂逅したときは敬語だったサナも今では自然な口調で話してくれるようになった。ずっと一人旅をしてきた俺にとっては初めての仲間だったのだ。物寂しさを感じるのは当然だと言えよう。

 

「えへへぇ、またね、ミキ!」

「ああ、またな」

 

まあ旅をしていればどこかで会うことになるだろう。そう思って俺はサナと別れたのだった。

 


 

「うーん、やっぱりこのころのミキはドライだねぇ。優しいけど、淡泊っていうか」

「そりゃそうだろなんせ当時八歳だぞ」

 

日本で言うと小学二年生くらいだ。村での狩りなどを通して精神的にも肉体的にも歳不相応な成長をしていたにせよ、八歳の子供が一人で旅を始めたのだ。知らない人に対して警戒するのは当然だと言えよう。

まあ当時のサナは七歳だったのでどっこいどっこいだけど。

 

「この時本当に一回別れたんだよね」

「ああ。再会するのは随分あとだな。カイトとシオンが仲間に加わってからか」

「そだねー」

 

サナはなぜか俺のことをたまに話していたらしく行った街で俺の噂が広まっているなんてこともあったけど、まあそれもいい思い出だ。当時は本人が近くにいなかったので怒れなかったしな。

 

「えへへ、本当に懐かしいなぁ。別れたあと私ちょっと泣いちゃったんだよね」

「そうなのか?」

「うん、子供ながらに好きって気持ちがあったからね。実家で色んな人に会わされたけど、好きな人はミキが初めてだったから。泣いちゃったときは自分が何で泣いてるのか分からなかったけどね」

 

多分それ吊り橋効果。いやまあ妻にしている俺が言うことではないけど。

サナはどうも七歳ながらに少女漫画みたいな感情の動き方をしていたらしい。対して俺は寂しさはあれど普通に割り切って旅を続けたので対照的すぎる。村が焼かれたこともあって精神的に余裕がなかったんだよなぁ。

 

「そんな私がもう二十一歳かぁ」

「俺は二十二歳だ。そんでもって肉体年齢はこれからも変わらず二十二歳」

「永遠の十八歳の方がよかったかな」

 

サナとなんだか晩年みたいな会話をする。成長(クルスト)の魔法を使えば肉体年齢は変えられるのであまり気にすることではないけど、俺たちは老けずに周りは老けていくというのがなんとも言えない気分になる。

 

「…ミキ、今って何時?」

「朝の十時だ」

「この時間に愛し合うってのはどう?」

「魅力的だが流石にどうだろうか」

 

目の前のサナが突然色気を出し始めた。どうやら色々と思い返していたら気持ちが募ってしまったらしい。

 

「はい、扉のカギ閉め~」

「アロホモーラ」

「嫌なの?」

 

…よし、愛し合うか。




ゼロ「霊力や魔力や神力などの合計総量はミキの方が多いけど、魔力だけを見るとサナちゃんの方が総量が多いよ」

作者「個々の物語をしているときにミキは最終的に欲情しがちですが、それはミキが弱いのではなく妻たちの努力の結果です。鈍感なミキにも分かりやすいような求め方を身に着けた結果なのです。元より積極的な性格ではないサナやメレは内心恥ずかしがっています。なのでミキが弱いわけではないのです(重要)」


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大切な武器

やあ、呼ばれてないけどミキさんだよ。

今日は宝物庫から色々と武器を取り出して手入れの時間だ。

俺の時空倉庫っていうのがこことは違う時空を一つ生み出して俺だけのものにするっていう仕組みだから時間を止めることも可能ではあるのだけど、宝物庫の中で武器霊を含めた色々が活動するためには時間を止めていられない。

なのでまあ使わなくても劣化するのでこうしてたまに手入れをする時間を設けているのだ。

というのも、俺が持つ武器というのはどんなものでも大抵時間が経つと武器霊が宿るようになってしまって、ずっと放置すると不満そうにするのだ。

 

「不満というわけじゃないですよ。ただ残念だなぁって思うだけで」

「それを不満そうにするって言うんだ」

 

俺の隣でそう口にするのはサクラ。俺の神器、桜花の武器霊である。

俺の持つ武器は大抵武器霊が宿っているが、その力の強さはマチマチだ。保管庫にいれている武器は全員普通の時空でも行動できるが、あまり使わない魔剣などは宝物庫の中でしか顕現することができない。俺が力の供給をすれば別だが、基本はサクラのように俺の部屋で顕現することはない。

 

「旦那様」

「どうした春落」

「最近武器の話が多い気がしませんか?メレさんやマイさんの話はしなくていいのですか?」

 

同じく顕現していた春落が質問をしてきた。

どうやら春落はサナ以外の妻であるメレとマイはいいのかと言っているらしい。とはいえメレとの出会いの話は既にしたし、マイに関してはもっと俺個人に関することを話す必要があるのですぐにできないのだ。

 

「と言うか最近小説を書くのが遅いのではないですか?毎回投稿日の前日に書くのやめません?」

「一週間のうちに何もないとどうしようもないだろ」

 

既に読者の皆は気が付いていると思うが、この小説は一週間のうちの一日の中の数時間を文字にしているものだ。なので一週間のうちに小説になりそうなイベントがないとどうしても日常的な物語になってしまう。

 

「もし一週間のうちにいっぱいイベントが起きたらどうするんですか?」

「その時はその時だ」

 

時空神とはいえ未来視はできないので何が起きるかは分からない。というか俺が時空神という多空間同存在のせいで時空が不安定になってしまうのだ。

分かんないって?分かられると逆に困る。

 

「ミキ様、今日は剣だけですか?」

「そうだな。俺の武器の中で一番種類があるのが剣だからな」

 

俺の宝物庫の中には剣以外にも槍とか弓とか銃とかミサイルとか色々入っている。地球にはないような核融合式レーザーなんてものもある。それを全部手入れしようと思うとそれこそ時間を止めた空間でする必要がある。まあ別にしてもいいのだけど、俺は出来る限り皆と同じ時間を過ごしたいと思っているので時間を止めるとかスキップするつもりはない。

なのでこうして普通の時間の流れの中で俺は剣を宝物庫から取り出して手入れしているのだ。

 

「旦那様ー、私たちの手入れはいつですかー?」

「お前らはいつも最後だろ。待ってろ」

「早くしてくださいー」

 

春落から催促されるけど俺は焦らない。むしろ春落たちはどうしても少し大切に手入れしたいので時間をかけたいのだ。

出来る限り色んな武器を使おうと心掛けてはいるけども、耐久性や切れ味などの性能面から保管庫にいる武器たちを主に使うことになってしまうのだ。特に俺は神だとか魔神だとか悪魔だとかと敵対することが多く、そういうやつらの武器に対してただの鉄剣とか使うとすぐに折れてしまうので仕方ない。

多く使う武器は時間をかけて手入れするというのは当然のことなのでいつものメンバーは時間をかけることになっている。

 

「ミキー」

「ん?シオンか」

 

俺が手入れをしていたら扉が開いてひょこっとシオンが顔を出した。

 

「訓練用の武器が折れちゃった」

「そうか…ちゃんとしたやつと簡単なやつどっちがいいか?」

「簡単なやつだって頑丈でしょ。そっちでいいよ」

 

俺たちはそれぞれで自分専用の超業物とも言えるような武器を保持しているのだが、訓練でそれを使うわけにはいかないので訓練用にある普通の武器がある。ただ俺たちの筋力も中々のものなのでこうして折れてしまうことも少なくない。

ちゃんとしたやつっていうのはそのまま普通に作られた武器のことだ。鍛冶は俺もできるので簡単にポンポン作っている。俺が時間をかけてちゃんとした武器を作るとそれだけで聖具、物によっては神器となってしまうので気楽に作らないといけないのだ。

尚気楽に作ってもたまに武器に強めの意思が宿ってしまうのでその時は宝物庫行である。

 

「I am the born of my sword…はい、適当にもってけ」

「ありがとー」

 

折れてもいい武器というのは何も鍛冶をしないと手に入らないわけでもない。

とある赤い外套の弓兵の魔法を使えばいくらでも武器は手に入る。投影しているもの自体が中々の業物なのでこっちはこっちで折れにくい。それにあくまで魔法生成物なので意思が宿ることはない。

 

「I am the born of my sword…こっちもやる。置いとけ」

「了解ー、それじゃあね」

 

シオンは武器を持って走っていった。鍛錬相手は…カイトかな。スピードファイターのシオンと互角に戦えるとなるとカイトくらいだ。サナでも追いつけないことはないのだけど、そもそもサナは武器主体じゃないからな。

 

「ミキ様、手入れ!」

「分かってますよ」

 

サクラに怒られて武器の手入れを再開する。

武器の手入れをしていると心が落ち着く。地球の日頃から刀を使うような達人さんたちなら分かると思うけど、日頃使っている武器が手入れによってきれいになると自分もきれいになるような感覚になるのだ。

まあ武器じゃなくとも日頃から使っている様々なアイテムの手入れというのはその人の心も洗うからな。スポーツで使うアイテムだとか、料理に使うアイテムだとかの手入れを欠かさずやる人は根が良い人が多いと思う。勿論全員とは言わないけど。何事にも例外は存在する。

その後もしばらく手入れを続けて終わった頃には夜だった。でも達成感もあるし欠かさずにやらないとな。




ミキ「そういえば地球の皆はクリスマスか。こっちにはクリスマスのイベントはないけど俺たちはパーティをするから来週はその話だな」


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クリスマス

今日も元気だ、セルライトが光る。

やあミキさんだよ。因みにセルライトは光るようなものじゃないので光ることはないよ。

先週投稿した日はクリスマスイブだったな。こっちとそっちは時間の流れ方が微妙に違うからまだこっちは同日になっていないし、なんなら年越しの時期ではないのだけど、地球に合わせてパーティをする。

妻とデートしないのかと思うかもしれないが、俺には三人妻がいるのでパーティをしてしまった方がいいのだ。流石に聖夜に一人だけ特別扱いすると他の二人から怒られる。

 

「マスター、飾りつけが終わりました」

「ほいありがとう。フラに花の量産をストップするように言っておいて」

「了解です」

 

ちょうど今飾りつけが終わった頃だ。フラには花の精霊である力を活かして花を生み出して貰っていた。彼女が出した花というのは枯れにくいのだ。

ここのパーティは本物志向だ。なんせツリーだってダイがどこからか伐採してきたものだからな。この世界には針葉樹と呼ばれる類の木はあまりないのだけど、全くないというわけではないのでそれを使用する。地球の木よりも遥かに硬くて太い。

ツリーに飾り付けるのは女性の担当。高いからまずサナが空間魔法を使って圧縮して背を縮ませてから飾りつけをしている。地球のLEDって便利だよなぁ…こっちは化学兵器はあるけど、その科学力が日常生活まで広まってないので生活自体は原始的だ。まあ魔法はあるけど。

さて、女性陣が飾りつけをしている間に俺は別にやることがある。それは街の整理だ。

最初は俺たちだけでパーティをしていたのだが、どこから聞きつけたのかいつの間にか街でも宴会みたいなのをすることになっていたのだ。騒がしいのは好きなのでいくらでも騒いでいいのだが、ルクスって相当大きな街なので誰かが主導しないと宴会ではなく騒動になってしまうのだ。

なので俺が主導している。俺らのパーティの方はメイドたちによる有り余るマンパワーを用いれば俺が手伝わなくても終わるからな。

 

「ミキさん!これ!」

「あー、はいはい」

 

ついでに言うと、街の準備の間に商人たちから度々ものを受け取るのだ。飲み物とか食べ物とか、そういうの。そこらへんは宝物庫とは別の、時間経過をしない設定をした空間の中に保存する。あとでキッチンの冷蔵庫の中にでも接続してぶち込もう。

 

「マスター、今日の開始は日没でよろしいのですね?」

「いいよ。街がそれよりも先に始めちゃうから。メレにはそろそろ戻ってきてもらうように伝えといて」

 

メレは別の天使メイドであるマナミを連絡係として派遣する。

翼があるメイドって連絡係として優秀なので、こういうときに派遣する要員として非常に助かっている。天使以外にも悪魔とか、吸血鬼とか空を飛べるメイドはいるのでそれなりに人員は豊富である。

メレには街の見回りに行ってもらっている。俺らのパーティも盛大にはするけど、やはり街の規模でやるパーティとは規格が違うからな。他にも元聖女とか元巫女とかを見回りに行かせている。人当たりがいいからね。

うーん、街の方は始まるまであと一時間といったところかな…

そういえば的な話なのだけど、この時空はそもそもとして宇宙論から違う。流石に天体が平面とかいうことではないのだけど、太陽みたいに見えるやつは実際には魔力の塊だとか、この俺が今いる星の公転周期と自転周期が地球と違うという点で宇宙論が異なっている。

あの太陽、核分裂による放熱じゃなくて、魔力爆発による放熱で照らしてるんだよなぁ…まあ紫外線っていうものがないので助かるけど。

え?じゃあどうやって大気が形成されたのかって?そりゃあれだ、世の不思議ってやつだよ。多分大気も魔力で支えられてると思うぞ。

 

「ミキー、クッキーの型出してー」

「既にキッチンにあるだろ?」

「もっと色々種類が欲しいんだよ私は」

 

サナがエプロンを付けてこちらに走ってきた。サナは飾りつけじゃなくて料理をしてるんだよな。特製のお菓子を作ってくれるんだってよ。勿論これは惚気だ。地球の非リア充への当てつけでもある。

 

 

特に記載することもなかったのでパーティの始まりまでカットしたぞ。街の方も別に問題とか起きなかったしな。

 

「「「「かんぱーい!」」」」

 

パーティ開始。尚メイドはメイドで別に小パーティをしているらしい。まあこちらにも給仕としてのメイドが何人か残ってるけど。なんか交代しながら参加するとかなんとか…

パーティ料理は様々だ。ピザとかサラダなどの地球の料理もあるし、石みたいな硬さの麺っぽいやつもある。ダイは好んで食べるのだけど、正直言ってダイ以外は手を付けていない。ダイの故郷の料理らしいのだけど…ダイはゴロン族出身なのか?

他にもポーション的な飲み物とかもある。ビールもある。こっちの世界じゃアルコールの規定とかないのでね。子供の頃から魔力酔いなんかもあるのでアルコールに態々規定は作らないのだ。

というかそもそも国が多いので規定とか作らない。もしかしたらどこかの国では規制されてるかもな。

 

「ミキ、どう?似合う?」

「ああ、めっちゃかわいいぞ」

 

サナはいつの間にかミニスカサンタになっていた。こっちにサンタはいないので、地球で買ったか自分で作ったかどちらかだろう。

シオンとかナミとかそれ以外の女性たちもミニスカサンタになってる。恥ずかしそうだ。

サナはこういう特殊な恰好はあまり恥ずかしがらずに着るんだよな…どうもビキニ以上の布面積がある服なら大丈夫らしい。

 

「ミキさん、これを」

「え?ああ、うん」

 

なぜかメレからトナカイの角を渡されたので被る。カイトから笑われた。

よく見るとメレも笑いをこらえているようだ。そんなに俺を笑いものにしたかったのか?よろしい、ならば戦争だ。

俺はメレの被り物を雪だるまの顔面に付け替える。ふむ、白い天使の白い顔面…面白い。

 

「ちょっと!酷いですよ!」

「どの口が!」

 

別に束縛魔法はつけてないので簡単に雪だるまの頭は外れた。尚この雪だるまの顔面は地球で手に入れたものだ。でも何で手に入れたか思い出せねえんだよなぁ…

 

「いいじゃないですか、ミキさんは何つけてもおかしくないですもん!」

「ほう、俺の服が奇抜と申すか」

「特殊な服も持ってるじゃないですか」

 

まあそれは否定しない。宝物庫の中には全身タイツとか、モナーみたいなやつとかも入ってる。いつ使うのかって?いつだろうねぇ?

俺らのパーティはこんな感じで進んでいく。騒がしいのは好きだ。




作者「一年が長くて、寿命は地球と変わらないので、地球基準で言うとミキの世界の人々は五十年ほど長生きです」

ミキ「途中で言ったけど、こっちじゃまだ年越しの時期じゃないから年末のイベントはまだ起きないぞ」


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初詣

やあ皆。新年あけましておめでとう、ミキさんです。

今日は日本に来ているぞ。折角の和服を着れるタイミングを逃す理由はない。

 

「ミキ、どう?」

「ミキさん、いかがですか?」

「ミキ、これはどうでしょう」

 

妻の三人が和服を見せてくれる。うーん、かわいい。

マイは身長が低くて、中学生みたいだけど、それはそれで似合っている。七五三などと言ってはいけない。

初詣にはこの三人と一緒に来ている。カイトたちには日本の文化がそこまで浸透していないので、日本によく来る俺たちじゃないと楽しめないのだ。

尚俺も含めて四人が着ている和服は俺が作ったものだ。

参道を歩きながらサナが呟いた。

 

「毎年言うけどさ、神様が神様に参拝するのっておかしくない?」

「まあ、そこらへんは気持ちの問題だからな」

 

俺とマイが苦笑する。

やろうと思えば神に直接殴り込みをすることだってできるが、まあ日本の神にとってはこの時期は大切だから邪魔をしてはいけない。

敬虔な教徒が多い宗教なら日々の信仰だけでなんとかなるのだが…日本は無宗派が多いうえ、神道はほとんど日本にしか伝わっていないものなので、日本の神は結構皆瀕死なのだ。

学問系の神たちは、年の初めと受験シーズンがチャンスだって言ってた。合格するかどうかは本人の積み重ね次第だからどうしようもないけど、試験中のケアレスミスに気が付きやすくするくらいの加護はくれるらしいぞ。

 

「私の分社もどこかに作ったら日本人が参拝してくれるでしょうか」

「してくれるぞ。日本人は、神社であればそれが何の神なのかあまり気にしないし」

 

喜神であるマイがそんなことを言う。本人は気が付いていないみたいだけど、日本には既にマイの分社がある。日本にはマイが祭られている神社はそこだけなので、分社とは言わないのかもしれないけど。

時空神である俺だって同じ場所に分社を建てている。信仰が神力になるのは俺も同じだからな。ちょっと広めの敷地に、俺の神社を含めて何社か並んで立っている。管理しているのは、俺のことを知っている巫女さんと神主さんだ。今も僅かながらそこから力が流れてきている。微量すぎてマイも気が付かないのだろう。

そこの看板には、俺のことを旅の神ということにしておいた。ギリシャ神話のヘルメスみたいな内容にしてある。あと、有識者に見られたときに詮索されないように宇迦の御霊の神社も立っている。お稲荷さんのことだ。木を隠すなら森の中ってな。

 

「人が多いねぇ」

「何しろ出雲大社だからな」

 

俺たちは現在出雲大社にいる。ぶっちゃけどこでも良いと言えば良いのだけど、せっかくならということで毎年ここに来ているのだ。お邪魔してるよって気持ちを込めて、出雲大社に祭られている大国主には神力をプレゼントしている。

大国主は神話の時代に、日本を作ったことで知られている。確かめた限り、強ち間違いでもないらしい。俺の魂にいる天照の繋がりで、俺も大国主とはそれなりの知り合いなのだけど、思ったより気さくだった。

 

「えっと、ミキさん、手を繋ぎませんか?」

「ミキ、私も手を繋ぎたいです」

 

メレとマイが甘えてきた。

二人と手を繋ぐことは吝かではないのだけど、そうなるとサナが一人になってしまうのだけど…と思ってサナを方をちらっと見ると、俺を見て微笑みながら

 

「私は大丈夫だよ。はぐれないようにね」

 

と、正妻の余裕らしきものを見せるのだ。家に帰ったら存分に甘えてくるので、気持ちが冷めているわけではない。

 

「やっぱり参拝するところは人が多いね」

「だな。サナ、手を繋がないとはいえくっついとけ」

 

美女三人に囲まれる俺。

俺の顔立ちは日本とアメリカのハーフみたいなものなので、多分他の人からは外人に見えているだろう。一夫多妻の国もあるから、そこまで変じゃないはず。少なくともハーレム主人公みたいなことにはなっていないはずだ。

しばらく並んで、やっと出番が来た。ご縁は今のところ求めていないので、面白いことが起きるように六百六十六円をいれておいた。まあ大国主ごときの神では俺の運命をどうこうすることはできないけど、ゼロよりも上の俺たちが認知できていない存在もいるかもしれないし、何が起きるか分からんのでね。希望することは悪いことじゃあない。

 

「ミキ、変な額入れたでしょ」

「バレた?」

「分かるよ。お金の自由落下に追いつけないと思ってる?」

 

動体視力の話だ。戦闘が多い俺の世界じゃ一般人でも百メートル先の板に書かれている普通の大きさの文字くらいは読める。

歩きながら折角なのでとくじを引く。御神籤と漢字では書くのだけど、選んでるのは神様じゃない。

 

「ふむ、中吉」

「大吉だー!やったー!」

「小吉でした」

「…中吉」

 

どうやらメレが一番今年の運勢が悪いらしい。逆にサナは絶好調…サナってこういうときの運が強いんだよな。運の神ってのも存在するんだが、別に誰かを贔屓しているわけではないので、幸運な人って結構神からしても不思議な存在だったりする。

紙に書かれている個別の内容を読んでみると…旅は良好、引っ越しはするな、失せ物は見つからない…え、見つからないってはっきり言われたんだけど。こういうのって遠回しな表現するもんじゃないのか?

サナたちの内容もそこまで酷い内容ではないようだ。むしろ中吉の俺よりも小吉のメレの方が良いことが書いてあった。

まあここに書いてあることはそう当たることはない。だから、安産だって書いてあるからって三人ともにじり寄ってくんな。

 

「そろそろ男の子も欲しくない?」

「私はいつでも大丈夫ですよミキさん」

「神の子供は特殊だけど…ミキのためなら頑張ります」

 

頑張らんでいい。俺たちは皆寿命がないんだからゆっくりな。

願掛けする理由がないので結んだりはせずに、引いた籤は宝物庫の中に入れておく。宝物庫の中には武器以外にも色々なこういう適当なものも入っているのだ。財布みたいなものだ。

 

「ここらへんに霊験あらたかなところってないの?」

「ここらへんか?」

「うん、観光しようよ観光」

 

サナの提案で少し周囲を観光することにした。

ふむ、神力を辿ることで本当の意味で力がある場所に行くこともできるのだけど、そういうところは大抵人が通らない山の中なので、和服を着ている俺たちには向かない。まあ俺たちなら和服を着たままでも山の中を走り抜けるくらいのことはできるのだけど、流石に日本でそんなことをすると一般人に通報されかねないので自重しておく。

となると…近くの神社かな?色々とあるけど…

 

「どんなところがいいんだ?」

「ミキが神様っぽくなれるとこ」

「どんなところだそれ…」

 

じゃあ…稲佐の浜にでも行くか。あそこは日本の神にしか関係のない場所だから、正確には俺には全く関係のないところだけど、行ってみればなんとなくサナも気を感じることができるかもしれない。サナも微妙に神の力が流れているからな。

日本国内なら大体の場所に転移できるようになっているので、人目が少ない場所に移動して人避けの魔法を使ってから転移。バスで移動してもそこまで時間はかからないのだけど、人に揉まれるのも面倒なのでね。

 

「…あれが入口ですか」

「そうだな。日本の十月にはあそこを通るらしい」

 

尚俺の魂の中にいる天照も日本の神なので、十月にはここまで来ているらしい。でもその割にずっと魂にいるよなって思ったら、どうやら御霊を分けて行かせているらしい。

 

『私は、その…ミキ様と一緒にいる方が大事なので』

『自分の仕事もちゃんとやってくれよ?』

『分かってます!』

 

まあ天照は既にほとんどの仕事を終わらせてるからこそ、俺のところにも来れるので、多分そこまで忙しくないのだろう。ただ、仮にも日本国土を統べる神のはずなので疎かにはしてほしくないんだけどな。

 

「ミキー、ミキもあれ通ったらー?」

「あぁ…俺が通ると神界に飛びそうだからやだ」

「ミキさんの時空魔法ってたまに邪魔になりますよね」

「そう言うな」

 

まあ別に飛ばないように制御することくらいはできるのだけど、そもそもとして俺って日本に限らず様々な時空の神に恐れられているのであまり掻き乱したくないのだ。地上に顕現して遊んでる神には問答無用で凸します。顕現してなくても、遊んでる神には突然に凸します。

 

「…」

「マイ、何か気になるのか?」

「あそこ…ちょっとだけ感情が流れ込んでるのが見えます」

 

どうやら喜神の何かのパワーにより、感情の流れが見えるらしい。

あそこの先には神界があるはずなので、もしかしたら入口にガン待ちして信仰を受け取っている奴がいるのかもしれない。

…見に行ってみるか。掻き乱しはしないけど、あまり神界の入口で待機する行為はよくないのでそれを注意するという理由があるので別に凸ってもいいはずだ。

 

「ミキ?」

「ちょっと行ってくる」

 

鳥居の中に集中、時空魔法を発動、権能開放、座標固定…転移。

 

「うわあっ!」

「宇迦じゃねえか」

 

いたのは俺が日本に分社を増やした宇迦の御霊だった。性別不詳だけど、まあ神には基本的にそこまではっきりした性別は存在しない。神話によっては同性同士でも子供産んでたりするのでね。

 

「急に来られるとびっくりするんだけど」

「神界の入口にガン待ちしてるやつがいるってマイが言ってたから」

「あぁ…ちょっと一部の神社が崩落しちゃったみたいで、いつもより信仰が少なかったから…」

 

どうやらお腹が空いていたらしい。神格が高いから仕方ないのかもしれないな。

取り敢えず注意だけして帰った。

 

「おかえりー」

「誰がいました?」

「狐」

 

多分日本の神で説明するときは、狐というだけで宇迦だって分かるだろう。日本人に対しては宇迦って言っても伝わらないだろうしな。

神界に突撃するのは、まあ実のところ稀なことでもない。毎年大体一度くらいは顔を出すのだ。神のナンバースリーとしての責務的な娯楽である。




ゼロ「神はあり方によって性別が変わるよ。天照ちゃんみたいな多くに知られている神は、その多くの思念によって女性となっているよ。マイちゃんはミキの隣にいるためにかわいらしくいようとしてるから女性だよ。尚僕はどっちでしょう?」


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感情の神

やあ。ミキさんだよ。

たまにはシンプルな挨拶をしてもいいと思うんだ。なぜなら新鮮な挨拶をしてもいいと思うからだよ。

さて、前回は神にリア凸をしたので、神繋がりということで俺の嫁のマイについて話そう。

まず、マイという名前は俺がつけたものだ。そんでもって、マイは最初から喜神というわけではなかった。むしろその逆の存在だったな。

 


 

その日の俺は仕事をしていた。時空探査じゃなくて、時空のやばい奴らを撲滅する仕事の方な。

んで、その日は神界のとある場所にいた。討伐対象は邪神だった。

邪神っていうのは、日本だとよくネタにされがちな存在だけど、神からすると冗談にもならない存在だ。普通の神に、何かしら悪い色々が溜まったら邪神へと変質する。邪神となった神は、その本能の赴くままに周囲を破壊する。

俺が神じゃなかったときは、討神ってやつが邪神討伐もしていたのだけど、邪神は大抵周囲の神の権能を弱めるので普通の神だと相性が悪い。なので、俺が戦闘もできる神として活動するようになった頃、邪神討伐の仕事が回ってきた。

 

「そろそろ、かな」

 

当時はまだ神殺しがなかったので、光桜剣と桜花を装備して歪んだ時空を進む。

なんならまだピアルも雷桜槌もなかったし、梅紅じゃなくてただの炎剣だったので、神器はこの二振りしかなかったのだ。当時は色々と苦労も多かったんだぜ?

時空を歪ませたのはもちろん邪神だ。神界の一部を、そのまま邪神の神域とすることによって討伐される可能性を少なくしているらしい。邪神が神域を作るというのは初めて見たのでとても慎重に行動していた。

 

「…いた」

 

見えた。暴れるでもなく、ただボーっとしている。こちらにはまだ気が付いていないようだ。

この時点で俺は、異質な邪神だということに気が付いていた。邪神は基本的に移動し続けながら破壊を続けるので、この何もない空間で佇んでいるというのは本来はあり得ないことだったからだ。

邪神は人の姿をしていない。RPGのラスボスみたいな風貌で、マンション二階分くらいの大きさがある。時空を巡ればそれくらいの大きさの敵はいくらでもいるけど、邪神ってそれ以外にも色々と厄介な性質があるので面倒なことは変わらない。

とはいえ邪神であることには変わらないので、俺は武器を構えて邪神に近付いた。邪神は周囲の時空を歪ませるので、遠距離攻撃が効かないのだ。全断剣みたいなやつで斬れば問題ないけど、全断剣で遠距離攻撃しようとすれば、それだけで俺の神力がすべて持っていかれる。

 

「ま、先手必勝だな」

 

ボーっとしているのであれば好都合。瞬殺を狙う。

 

「秘奥が零、千変万化!」

 

光桜剣で近付いて叩き斬る。

千変万化は、どの武器でも使うことができる奥義であり、尚且つ武器によって出る技が違う。光桜剣の場合は、剣戟の間合いが少し伸びて桜が舞う。

邪神は攻撃された瞬間に防御膜を張って俺の攻撃を受け止めた。火力が高い攻撃ではないので、難なく止められてしまう。火力は高くないけど技の出が早いので当たると思ったんだがな…

少し距離を取って反撃に備える。が、邪神は反撃はしてこなかった。

 

「神力不足、か?」

 

邪神だって行動のエネルギーは神力だ。もしかしたら神域を作った影響で神力が不足しているのかもしれない。だからこその休憩中だった、ということだろうか。

ともかく、俺は再度アタックを仕掛ける。

 

「投影…」

 

魔術によって一振りの槍を呼び出す。それを構えて一気に突く。

邪神はそれも防御膜によって弾いた。投影した武器は脆いので防御膜に当たった瞬間に砕け散った。流石に神とやり合うには投影魔術は向いていないな。

にしても、防御膜が思った以上に堅い。他の邪神も防御膜はあるのだが、ここまで堅くはない。それこそ、攻撃のための神力を防御に回しているような…

 

「…破道の三十一・赤火砲!」

 

ゼロ距離で詠唱破棄した攻撃をぶつける。これも防御膜で防がれる。

遠距離ではなく中距離なら攻撃は当たるので…

 

「黒魔改・イクスティンクションレイ!」

 

とある世界で神を屠ったとも言われる魔法を撃ってみる。しかしこれも邪神に防がれた。

ここまで攻撃を防いでいるというのに、俺に攻撃してくる気配は一切ない。

 

「うーん、やりがいがないな」

 

まるでサンドバックを殴っているような感覚だ。

俺の攻撃で何かしら反応があればいいのだが、残念ながらそれもない。防御膜で俺の攻撃を防いだあとはまた動かなくなってしまうのだ。

やはり神域だからだろうか。

 

「この神域を塗り替えたろうか」

 

当時の俺にはまだ神域っていうのはなくてな。

本来は神が代替わりするときに神域を引き継ぐのだが、俺には先代がいなかったので自分で作る必要があったのだ。しかしまだ天照しか魂にいなかった俺には少々難しいものがあってな。

だが神域を塗り替えるくらいのことは魔法でもできる。固有結界を使えば一時的に神域を塗り返せる。本来はそこまでの威力がないが、俺の時空魔法を併用すればなんとか可能なはずだ。

 

「ま、固有結界と言えばこいつだろ…I am the born of my sword……so as I pray,Unlimited Brade Works!」

 

固有結界発動、内容は無限剣製。

元から様々な武器を使用することができる俺にはこの魔術はピッタリだ。何度も繰り返し使用したことで、オリジナルの魔術とほぼ同等の効果を得ることができるようになっている。

 

「さて、神域は一時的に解除されたわけだが…?」

 

神域を失ったというのに、邪神は動かなかった。試しに投影した槍を飛ばしてみる(固有結界内は自分の領域なので時空が歪まない)と、先ほどと同じように防御膜でガードした。

 

「どういうつもりだ?」

 

俺の魔力は相当な量なので一日くらいはここを保持できる。なので持久戦にしてもいいのだけど、それでは何も解決しないような気がした。

俺は武器を保管庫に収納して、邪神に近付いた。十メートル、五メートル、一メートル…触れるような距離になっても、邪神は攻撃をしてくる素振りを見せない。油断させておいて、攻撃をしてくるようなタイプではないみたいだな。

 

「お前、何が目的だ?」

 

邪神には知性がないとされている。知性がないというよりも、理性がないの方が正しいか。

話しかけても反応はない。だが、なんとなく邪神はこちらを見ているような気がする。うーん、何を伝えたいのだろうか。

 

「何の神だったんだ?」

 

邪神の生まれ方に関しては、実はよく分かっていない。邪神への変わり方は言われているが、誰も邪神に変わったタイミングを見ていないのだ。まあ消えた神のことを辿れば邪神だろうということにはなってるんだがな。

俺は問いかけながら邪神に触れた。特に攻撃の意図もなかったからか、防御膜は張られていない。触らせてくれてるっていうのも変な話だ。

 

「お前、誰だ?」

 

ただの邪神ではないことは確信した。今までの邪神とは、明らかに性質が異なる。

防御力は高いので、倒すことは大変だ。しかし、攻撃してこないのであれば、何か別の方法があるかもしれない。俺は別に殺しを楽しむタイプではないのでね。

 

「何かしたいことがあるのか?」

 

攻撃をしてこないのには絶対に何か理由があるはずだ。それこそ、何かをしたいとかな。

 

「…」

「何も喋らないか」

 

邪神が喋るときは奇声しかあげないし、理解できるような行動をすることはない。

ただ、なんとなくこいつには何かできるような気がする。

 

「…もし何かしてほしいことがあるのなら、伝えてくれたら嬉しいんだけどなぁ?」

「…」

「意思を伝えて…いや、それもいい。悪いようにはしないから、俺がすることを受け入れろ」

 

そして俺は邪神に魔法をかける。人の姿ではない邪神を、人の姿へ。

俺の十八番となる、擬人化魔法だ。受け入れてさえくれるのであれば、人の姿になっても暴れはしないだろう。基本誰にでも使える魔法だが、邪神にも使えるのはここで初めて知った。

 

「…さて、どうかな」

 

邪神の体が光った。多分擬人化魔法も防御膜で守れるだろうけど、それを受け入れたってことは、俺には攻撃の意思がないことを読み取ったか。邪神には理性がないって言葉はまず取り消さないといけないだろうな。

光がなくなると、そこには一人の少女が立っていた。黒い髪に黒いドレス。背丈は完全に子供だ。

神っていうのにも体の成長がある。子供の神は、大抵生まれたばかりの神だ。子を司るだとか成長を司るだとかの神は小さいこともあるんだけどな。

 

「さて、人の姿になった気分はどうだ?喋れるか?」

「…ええ。何が目的?」

「殺さなくとも、邪神がいなくなるのであればそれでいい。擬人化魔法を受け入れてくれた時点で、何か期待してるんだろ?」

「途中で攻撃をやめたから。期待しても、いいのでしょ?」

 


 

これが俺と、マイの元である邪神の出会いだ。

 

「えへへ、懐かしいですね主様」

「そうだな。これから邪神が喜神になるまで、そして俺の嫁になるまでで相当時間が空くからな」

 

実はマイは今も邪神の姿になることができる。

過去の回想の中で、俺は邪神は神が変質した姿だと説明した。しかし、それだけではなかったのだ。

神である以上、邪神と呼ばれる存在である以上、変質した存在ではなく邪神という名の神が生まれてもおかしくなかったのだ。負のエネルギーを溜め込んで生まれた存在じゃなかったから暴れなかったんだな。

 

「…えっと、その目線はなんですか?」

「たまには…見てみたいなって」

「…ミキのお願いなら、仕方ないですね」

 

マイの姿が変わる。きれいな色の服が、黒に染まっていく。

その子立っていたのは、マイと身長や体つきは変わらないものの、見た目はあの時の邪神となった。

 

「あの、これでよろしいのですか?」

「うん、その姿もかわいいな」

「あうぅ…」

 

邪神という神を消してしまうと、結局新しく生まれてしまうので、俺はマイを邪神の状態で別の神の属性も付与したのだ。色々と試した結果、生まれたのが喜神だったというわけだな。マイって名前は喜神としての存在を安定させるためにつけた名だ。

というわけで、姿や性質が違うだけで、どっちもマイである。感情の受け方は異なるらしいのだけど…

 

「邪神としての私は、既にあなたに惚れ込んでいるので。もう戻ってもいいですか?」

「いいよー」

 

光を放ち、収束すると、そこにはいつものマイが立っていた。

 

「ミキ、過去の話をするときはいっぱい愛してくれると他の二人に伺ったのですが…」

「大丈夫。そのつもりだ」

 

俺はマイをお姫様抱っこして取り敢えず、一緒に寝ることにした。



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魔神

読者の皆こんにちは、俺だよ。

さて、前回は邪神のことを話したので、今日は魔神について話そうではないか。

魔神っていうのは、邪神とは別ベクトルでの神との敵対者だ。狂神のようにどっかの時空に降りて暴れていることもあれば、神に直接攻撃を仕掛けてくることもある。

邪神とは違う点として、まず魔神にはそれぞれ個別に権能がある。その権能たちは、神側にはいないことが多い。また、魔神はちゃんと理知的だ。理知的に神に攻撃をしてくるのだ。邪神相手とは違って、戦いが乱戦かつ過激になりやすいので注意が必要である。

 

「というわけで魔神代表を連れてきました。全能魔神のゼノさんです」

「えっと、こんにちは。ゼノです」

 

まあ魔神くらいは街にも住んでいるんだけどな。

全能の権能持ちである魔神のゼノだ。見た目はマイと同じくらいの小さい女の子である。ただし持っている神力の量は途方もないので、威圧感や存在感は異常なほどにある。

 

「何を話せばよろしいのですか?」

「魔神の生態についてー」

「私たちも分かっていないことを話せとおっしゃるのですか」

 

ゼノはあくまで全能なだけで全知ではない。ついでに言うと、全能と言えど全能ではない。死者蘇生だとか、全知になるとかいうことはできないのだ。全能の権能はどちらかと言えば俺の空間模倣に近い。

 

「えっと…魔神は魔神界なるところで生まれて、色んな時空に行ってそこを神域にしようとします。それをミキ様が撃破します」

「うむ。まあ俺じゃないこともあるけどな」

 

色んな時空の歴史を見れば、英雄と呼ばれるような人たちが魔神を討ち取ったという過去もある。落雷魔神みたいな、一つの事象に特化しすぎて応用が利かないような魔神には、人の身でも十分届きうるのだ。

 

「そして、そもそもの魔神の存在理由は神に仕えることでした」

 

そう、ここが驚きポイントである。

魔神は基本的に問答無用で神に敵対する。出会えばどちらからともなく間違いなく戦闘が始まるくらいだ。

しかし、そんな魔神がなぜ生まれたのかというと、それは神を補佐するためだ。俺も詳しくは分かっていないのだが、昔は魔神がちゃんと神の補佐として働いていたこともあるらしい。神が持っていない権能を持っているのは、これが原因だな。

だが、それがどこかで途切れて魔神と神は敵対するようになってしまった。魔神には文献っていう文化がないので、過去を調べるのは相当に労力を使う。未だに不明な点も多い。

 

「私も最初はミキ様に敵対してましたもんね」

「ゼノと戦った時が一番激しかったよ」

 

ゼノと戦ったときは、俺だけでなく複数の神の力と仲間たちの力を借りてようやく撃破したという過去がある。全断剣一本で決着がつくような戦いであれば楽なのだが、実のところ全断剣は使い勝手が悪いのでワンサイドゲームということには中々ならない。

全能らしく、時空移動や物質の生成、生命の誕生くらいは片手間にできるので総力戦にならざるを得なかったのだ。

 

「今ではミキ様ラブの忠臣ですよ」

「眷属って言え」

「でもまだ眷属の契約は結んでないじゃないですか」

「だって全能魔神と眷属契約したら、その瞬間にゼロとの戦闘が始まるんだもん」

 

ゼノは、俺の従者ではあるものの、眷属という繋がりはない。

ゼロが俺の戦力強化にビビっているからだ。絶対の権能と、全能の権能だとどちらの方が強いのかはよく分からないけど、俺の眷属になると俺自身も強化されるので、そこを怖がっているのだろう。

 

「ショーレさんが羨ましいです」

「あっちは一般的な権能だからな…」

 

ショーレというのは、方向魔神の名前である。ベクトル魔神とも言える、様々な事象のベクトルを変える権能を使える。どこかの学園都市にいる第一位と同じ感じだな。脳内演算などの処理が必要ない分、ショーレの権能の方が強いかな。

ショーレは俺の眷属である。魔神を眷属にすること自体は神と魔神の元々の関係を見れば当然のことなので、そこでゼロから怒られることはないのだけど、ゼロから魔神を暴走させるなと強く厳命されている。

 

「今この街にいる魔神は…」

「ゼノ、ショーレの他に、逆進魔神のスン、即死魔神のタント、狂気魔神のシーレイ、表操魔神のマチ、時空魔神のシヨ、性転魔神のアディだな」

 

大体名前からどんな権能かは分かるはずだ。

眷属なのはショーレのみで、残りは皆住んでいるだけである。どんな種族も受け入れるルクスでは、魔神でも安心して過ごせるぞ。

 

「皆さんとの出会いは掘り下げないのですか?」

「何話必要だと?」

「…それもそうですね」

 

魔神との戦いは基本的に熾烈なので、そんなダイジェストに書けるようなものでもない。

ただ俺の魔神に対する意識が変わったのは、ここにいるゼノとの出会いの後なので、その戦いはどこかで書くこともあるかもしれないな。予定は未定です。

 

「ですが…ここにショーレさんを呼んでもよかったのではないですか?ミキ様の眷属でしょう?」

「まあそれはそうなんだが…全能魔神の方が、こう読者に対して威圧感があるだろ?」

「なんで読者に威圧してるんですか…」

 

まあ流石に文字越しじゃ威圧されないか。

たまにはホラーテイストの文章でも書いてみようかね。今までの冒険の中で、そういう怪奇現象的なものには何度も遭遇してるし。今の俺の目標は、読者を特殊な状態に陥らせることだ。

 

「ああそうだ。読者の皆さん。ミキ様は酷いんです。魔神は多く住んでるんですが、その多くは女性なんですよ。女性ではないのは、男性のタントさんと中性のアディさんだけなんです」

「別に酷くはないだろ。女性を集めたくて集めているわけではないんだし」

「私は、サナさんたちほど嫉妬せずにいられる質じゃないんですよ」

 

ゼノは、出会った頃は俺への不信感マックスだったのにも関わらず、今では随分と俺に対して信頼を寄せてくれている。

 

「信頼じゃなくて愛情ですよ」

「心を読むな」

「ならレジストすればいいじゃないですか」

 

…ゼノは全能なので、心を読むくらいは容易にできる。

 

「ミキ様のことが好きって女の子は周囲にいっぱいいるのに、ミキ様は見て見ぬふりをしているんです」

「ちゃんと応えてやってるだろ?」

「でしたら夜中に抱くくらいはしてください」

 

それは妻にしかしません。

というかこの小説は強い年齢制限はしてないんだから、あまりガイドラインに引っかかるようなことを言うんじゃない。まあ別に困るのは、この小説を地球に投稿してるゼロなんだけどな。

とはいえ、あまり違反するのもよろしくない。神々の規定を取り締まるのが俺の仕事なので。

 

「まあ冗談はいいとして」

「ガチトーンだったじゃん」

「…冗談はいいとして、ミキ様にキスくらいはされたいですね」

 

ガチトーンだったと思うんだが。

まあいい。そんでもって、キスくらいなら問題ない。力の譲渡に効率がいい方法だし、キスくらいならサナたちからも何も言われない。

というわけでゼノにキス。

 

「っ!!!!!!!」

 

ゼノが顔を真っ赤にして硬直した。この子、全能魔神とかいう魔神の頂点的な立ち位置なのに、こういうことには滅法弱いんだよな…

まあいい。代表者のゼノが固まってしまったので、今日はここで終わりにしよう。

 




作者「別にミキは浮気をしているわけではありません。これがこの人の通常です」


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呼ばれてないけどジャジャジャジャーン。

今週は俺の武器、光桜剣と桜花について話をしようと思う。いつもここで、どうでもいいオープニングトークみたいなのをいれるけど、それをしない方がいいということにやっと気が付いた。

ということで、ツクとサクラも呼んでおいたぜ。

 

「こんにちはー」

「こんにちは」

 

ツクはちょっとほんわかしている。サクラは空気がキリっとしている。

どちらも桜属性なのは間違いないけど、こういったところで違いが出てくる。

 

「私たちの話ですねー、どこの話ですか?」

「手に入れたときか、お前らの能力が伸びたときか、どっちがいい?」

 

武器を手に入れたのは、俺が一人旅を始めてからそれなりにすぐの時期だ。その時は、まだ神器じゃなかったし、切れ味も普通の剣だった。

それが神器に昇華されたのは、俺が魔王をぶっとばして、神としてちゃんとした仕事をするようになってからだ。とある戦闘中に力が解放されたのだ。ベタだと思うだろう?でもな、思いがけない力っていうのは、そういう危機的状況の方が発揮されるもんだぜ。

 

「では今の話をしましょう!」

「今?」

「サクラちゃんは、今の自分の方が好きですからねー」

 

…どうやら今日は回想はなさそうだ。

俺はいつもこういう、個人にスポットライトを当てるときは、出会いとかターニングポイントを話すのだが、どうやら二人とも、現在の自分たちの方が語りたいらしい。

 

「昔の、ミキ様に対してツンツンしていた私は嫌いなんですよ…」

「サクラちゃんはツンデレでしたからね。今はもうデレデレですけど」

「言わなくていいわよツク!」

 

ふむ、黒歴史ってことか。

つまり、黒歴史を開放しろということだな!

 

「全然違います!鬼ですか!」

「神だよ」

「そういう話じゃありません!」

 

サクラからの猛抗議。俺のジョークも効かないとは…

いやまあね、黒歴史が誰にでもあるのはそうだし、知られたくないのは分かるよ。でもね、小説のネタとしてはこの上なく美味しいネタだと思わないかね。

 

「じゃあミキ様の黒歴史も公開してくださいよ」

「ふむ。俺の黒歴史はいつでも、過去視の魔法で見れるからな。それに、神様になれば、子供時代の俺の黒歴史などかわいいものよ」

 

神になって精神が落ち着いたってわけじゃないけど、様々な時空を見て、自分の小ささを実感すれば、黒歴史など歯牙にもかけないようなものだと言うことに気付くわけだ。海を見て、自分はなんて小さいんだろう、って考えるのと同じだ。

 

「ツクちゃんだって、黒歴史は知られたくないわよね!」

「えー…私は、いつも自分に誇れる生き方なので、サクラちゃんの期待には沿えませんよー」

「この二人の神様嫌い!」

 

(´・ω・`)

ツクも神様であり、他の武器たちに比べるとちょっと視点が違うのだ。他の武器に宿っている意思は、武器霊と括れるのだけど、ツクは付喪神なのでね。

 

「ミキ様、今の話をしましょう!ね!?」

「あ、うん、ソウダネ」

 

サクラの圧がすごい。

仕方ないので、今の話をするか…

 

「桜属性って不思議だよな。お前らしか持ってないし」

「そうですね。竜属性や天属性よりも希少だと言えます」

 

桜属性は、草属性とは別物である。何か特徴があるのかと言われると、実のところ強い特徴はないのだけど、強いて言うならそのすべてに浄化効果が乗る。

邪竜と呼ばれていた魔物も、桜の大木の中で一週間ほど眠らせればすっかり毒気が抜けた竜になった。その子は現在俺の式神である。

 

「というか、桜というのはミキ様の印でもあるんですけどね」

「でもそれっておかしくないか?桜の神っているんだぞ?」

 

俺の眷属になると、桜マークのアクセサリーみたいなのが与えられる。方向魔神のショーレは髪飾りだし、別時空軸にいる、とある縁結びの神はブレスレットだった。

しかし、俺とは別に桜を司る神だっているのだ。日本の八百万の神精神のせいで、神界にはやたらと細かく神がいるのである。

 

「でも、その人だって許可してるんですよね」

「ああ。不服そうではあったけどな」

 

俺の桜属性によって生み出される桜は、その神の権能範囲外らしく、俺の桜とそいつの桜は別物だということは分かっている。

 

「ミキ様の属性が桜である件って解決してましたっけ?」

「いや、解決してない。なんでだろねー」

 

魔王を倒して、仲間も増えて、街もほとんど発展しきってから始まったこの小説だが、それが必ずしも全部終わっているとは限らない。

色々と問題は残っているのだ。尚、この小説が完結するまでにそれが解決されるのかどうかは不明である。

 

「まあ良いのです。ミキ様のことはじっくり解決していきましょう」

 

そういえばレベルの話ではあるけど、俺は不老長寿であり、その特性はサナたちにも引き継がれている。なので、別に無理に急いで伏線を回収する必要はないのである。

 

「桜、いいですよね。咲かせましょうよ」

「え?うーん…じゃあそこらへんに咲かせるか」

 

俺の桜はたとえ真冬であっても咲かせることができる。そういう特性なのだ。

というわけで俺は二振りを装備して、外に出た。街の外、開けたところだ。魔物がいたので、そいつを標的にして…

 

「桜千年大木!」

 

桜属性の技を発動。魔物は桜の木に飲まれていった。あれで浄化されるかどうかは分からん。

この桜は、俺が魔力を流している間は魔法の桜だが、俺の魔力が消えるとただの桜になる。浄化の力もその時に消える。

俺は今回、技を使ったらすぐに魔力供給を切ったので、多分浄化されないと思う。どのみち、魔物が浄化されても消えるだけだ。

 

『桜!きれいです!』

『私たちの象徴ですねー』

 

うむ、今回も見事な満開だ。やはり桜はこうでなくてはな。

俺は桜を見ながら、そんな感想を抱いた。



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初物世界

やあやあミキさんだよ。

気がついたら随分な話数になってたから、そろそろ挨拶もいらないかもしれないけど、いつまでも動画投稿者スタイルは崩さないぞ。この話を最初に読むような変態もいるかもしれないからな。

さて、俺は言わずもがな時空神なわけで、その力は神界ナンバースリーと呼ばれるほどだ。そんな俺だが、力が大きすぎるせいで失敗してしまうこともある。

 


 

俺はいつも通り魔法の研究をしていた。時空魔法って未知な部分も多いから、新しい魔法とかを生み出しやすいんだよね。

色んな時空に〈時空魔法〉と呼ばれるものがあるけど、それらはすべて俺の時空魔法の劣化版に過ぎないので、どうしても新しい魔法は自作するしかないのである。行ったことのない時空にほぼノーコストで転移できるのは、上位互換らしいだろ?

さて、そんな俺だが、役職は時空神である。時空を司る神なのだ。まあ俺の上にトキネっていう空間全てを司る神がいるので、実のところ時間の可逆性転換とかはできないのだけど、時空を司っているのだ。

 

「…異世界って作れないかね」

 

当時の最初の発想はこれだ。時空移動ができるのなら、時空生成もできるはずであると。

どこかの時空では、とある神が百個くらいの時空を纏めて一つにしてたり、とある眼帯男が指輪の中に別の世界を作ったりしてたが、そういうものではなくオリジナルの時空をそのまま作りだしてしまおうという話だ。

どっかの神が、宇宙を何度も作り出して遊んでたりするけど、あれは不完全だったりする。誰ものにも干渉されない世界というのが完全たる時空なのだ。まあ俺ならそんな時空でも全断剣で斬ることで干渉できるけど。

 

「でも詠唱もイメージも思いつかんなぁ」

 

基本的に俺は、俺の時空の魔法体系に沿って魔法を作っている。他の時空の魔法体系でも作れるのだが、やはり慣れている方がいいよね。

取り敢えず行き当たりばったりで時空魔法を発動。

 

「うーん…至高の果て…凄惨たる黄泉…新参の思い出…」

 

なんか上手い具合にいかないかと、頭の中に浮かんだ時空を構成するものを並べていく。

時空と言えども果てはある。空間と空間の間には何かしらの別のものがあるので、黄泉という言葉で固定して、過去はないので新しい形として時空記憶を生成する。

 

「遥かなる天…広がるは蒼穹…落ちる界雷…」

 

空は高く、青く、環境は地球に近いのが過ごしやすい。

ついでとばかりに、生物がいた方がいいなと詠唱を継ぎ足す。。

 

「生まれ行く輪廻…混ざる原点…流れる砂粒…」

 

と、ここで俺の周囲が歪み始めた。どうやら時空形成に上手くいっているようだ。

ここから、更に詠唱を加速させていく。

 

「固定する存在、繋がるは歯車、定型に嵌らず光は昇る!」

 

魔力が高まり、更に俺の周囲が歪んでいる。それと同時に、急速に俺の魔力と神力が持ってかれていく。どうやら時空生成は魔法の範囲内ではどうしても収まらなかったようだ。

俺が詠唱を続けていると、突然トキネが転移してきた。

 

「ちょっとミキ!それ禁忌!ストップ!」

「え、なんで?」

「それやられると時空間が崩壊するから!」

 

と、言われても、俺の魔法は既に発動している。ここで止めると、多分この時空が吹き飛んでしまう。

 

「無理。諦めて」

「ああもうっ!」

 

俺の魔法にトキネの神力が混ざった。時の女神が直々に時空魔法の制御を手伝ってくれるようだ。

 

「あとで怒られろっ!」

「悪かったって…」

 

トキネに怒声をもらうけれど、しかし詠唱は止まらない。そして、最後。

 

「無垢なる世界!」

「ミキ!条件付けして時空範囲の狭めて!今の時空配置に無理やりこの作られた時空が入ると崩壊するから!」

 

噛みあっている歯車同士の間に、新しい歯車を無理やり詰め込むみたいな状態らしい。確かにそれは崩壊するな。

とはいえ、俺は時空神なので自分の時空を持てない。神域も特殊条件なので作れない。天照は既に日本があるし、マイたちは時空を持つには少々力不足だ。

となると…

 

『私!私が持つ!』

『了解』

 

ウイが自己主張してきたので、それに便乗することにする。ウイは古代の神なので、現代だと自分の世界や神域を持っていないのだ。俺が作った時空をそのまま、ウイのものにしてもらえばいいだろう。

 

「初なる世界の果てに!」

 

一気に俺の手元から光が溢れる。

 

「行くぞっ!創世!」

 

 

気が付いたら、俺とトキネは何もない平原に立っていた。一応鑑定魔法で見てみると、少なくとも未だにどの時空にも存在していない植物で構成された平原らしい。

 

「もうっ、ミキ。創世禁止!それ本来は絶対神とかの領域だからねー?」

「はい、すんません」

 

口調は軽いけど、トキネはガチ怒りである。

まあ最悪の場合は、俺の友達の無効化持ちに創世自体をなかったことにしてもらえばいいと思っていたので、セーフだ。安全策くらいは前もって準備している。

 

「わーい、私の世界だー!」

 

ちょっと離れたところに、いつの間にか魂から出ていたウイがはしゃいでいた。どうやら、自分の世界を持てたことが嬉しいらしい。

 

「この時空は…今までのどこの時空軸にもない世界だね。私の管轄外…ミキ時空軸の時空ってことになるのかな」

「おお」

「そこ!喜ばない!」

 

どうやらこの時空は俺とウイが好きなようにできるらしい。それは…非常に素晴らしいな。

 


 

俺にとってはメリットなのだが、トキネとゼロに滅茶苦茶に怒られた。つまり、時空神としては失敗なのである。最悪、神界が吹き飛んでいたかもしれないので、この反省は仕方ない。

そんな俺が作った時空は、現在は初物時空という名前で、俺とウイの管轄のもと存在している。意思ある生物は生まれるのだが、人間という概念は初物として生まれないので、俺が把握している住人は二人である。別の時空から連れてきたサイボーグっ子と初物時空で生まれたダンジョンボスの姫様の二人だ。

もっと色んな時空を作ることができれば、もっと楽しいことができるだろうと思うのだけど、残念ながら今の俺は一時的な固有結界的な創世しかできない。

まあ、時空生成というだけで強すぎるんだけどね。ハハ。



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眷属

俺、時空神のミキ!

こっちは最初の方で名前が出たのに、ずっと放置されてきた式神のドラコ!

 

「僕の紹介しなかったのはご主人のせいでは…?」

「気にしない気にしない」

 

タイトルにある通り、今日は眷属紹介回だ。それなりに最初の方に、俺には式神がいる云々の話はしたと思うんだが、今日になるまで一度も紹介してこなかったからな。

折角だということで今日紹介したいと思う。

まずは一人目、ドラゴンのドラコだ。マルフォイじゃないぞ。

 

「えっと、黒竜のドラコです。こんにちは」

 

俺の式神の中の、唯一の男性である。別に女性ばかり集めているわけじゃないんだけど、なぜか男性はドラコしかいない。

 

「女誑ししてるからでは?」

「…」

 

さて、そんなドラコくんだが…

 

「女誑しは否定しないんですか?」

「俺が、いつ、女誑しをしたと?」

「ミキはいっつも女の子連れてくるー!無自覚女誑しー!」

 

外野のサナ、黙ってなさい!

 

えー、コホン。そんなドラコは、純ドラゴンだ。この世界で生まれた、由緒正しきドラゴンである。

今の人の姿は、毎度お馴染み擬人化魔法によるものだ。時空によっては、ドラゴンが自力で人の姿になれる世界もあるらしいけど、俺の世界ではそんなことはないので、普通に擬人化魔法を使う。あー、でも、自力で擬人化魔法っぽいやつを覚えて、人の姿になれるドラゴンは存在するんだよなぁ…

 

「僕は一応王竜です」

「その割に弱いよな」

「あなたが!基準を作るな!」

 

怒られてしまった。

では次の式神。

 

「えっと……気焔(きえん)です。よろしくお願いします」

 

神狼の気焔だ。

名前は俺が付けたもので、元々は神力が使える大きな狼だったのが、俺が名前を付けたあとは炎の力を使えるようになった狼である。尚元々は天照の神獣です。

 

『ミキ様に寝とられました…』

『言い方』

 

元の白い髪に、名づけの後に増えた赤いメッシュのような髪が特徴的だ。

身体能力はやはり狼らしく、とても足が速い。腐りやすいって意味じゃないぞ?

 

「そして私が銀杏(いちょう)です。よろしくお願いします」

 

こっちの、白い髪に黄色いメッシュが生えた子がもう一人の神獣の銀杏だ。こちらの名前も俺が付けたものだ。そして、こちらも天照の神獣。

どちらもほとんど同じ時期に式神になった。最初は、天照を探して俺のところまで来たらしいのだけど、天照が俺の中にいることを知ると、二人とも俺の式神になることを認めてくれたのだ。空を移動するにはドラゴンの方が速いのだけど、地上を走るときは狼に乗った方が速いので助かっている。

 

「でも、ご主人様は私たちに乗るよりも速く走れますよね?」

「ご主人は僕に乗るよりも高速で飛べるのでは…?」

 

助かっている。

式神の初期メンツはこの三人だ。ドラコが一番最初に式神になったのだが、そこからあまり期間を空けずに二人が式神になったので、式神初期メンバーと言えばこの三人ということになっている。まあ別に、式神になった順番が早い方が偉いとかそういうことはないので、あくまで分類上の話だ。

んで次。

 

金璃(かなり)ですわ。よろしくお願いいたします」

 

ちょっとお嬢様口調っぽいのが、俺の眷属の金璃だ。この子は式神ではなく、眷属である。

式神と眷属の違いは分かりづらいが、式神が一方的に使役するものであるのに対し、眷属は使役ではなくあくまで助力であるという点にある。まあ俺が使役しているようなものだから、あまり変わらないんだけどな。式神の三人にも拒否権は与えてるし。

 

「私の話をしてくださいまし!」

「ああごめん。金璃って、癖強いよな」

「癖の塊が何言っていますの?」

 

それはそうだけど。

金璃は雷獣である。雷と共にやってくるとかなんとかいうあれである。日本の伝承ではハクビシン的な見た目とされているらしいけど、実際のところは雷そのものみたいなものだ。

因みに金色のロングの髪なので、口調も相まってお嬢様感がすごい。実際のところはお嬢様でもない、ただの神獣だけど。

 

「神獣を()()()と言うミキ様には勝てませんわ」

「神獣くらいなら俺だって生み出せるからな」

 

言うて、神力を宿した獣というだけなので、俺でも生み出そうと思えば生み出せる。

なんなら俺は神力量もやたらと多いので、そこらへんのリスとかネズミに神力を込めるだけでも神獣になりうる。

 

「私はいつもミキ様の近くにいます。お呼びであったら、いつでも」

 

金璃はそう言って雷を残して消えていった。電気という性質上、大抵の壁は抜けれるのがやはり強いな。分厚いゴムの壁でもあればぶつかるんだけどね。

はい次。

 

「ショーレです…私の紹介必要ですか?魔神ってもうやったんじゃないんですか?」

「やったけど、一応ショーレも眷属だし。紹介しておいた方が良いかなって」

 

何話か前に話した方向魔神のショーレだ。こいつも眷属なので、一応紹介しておく。

はい次。

 

緋想(ひそう)です。ミキ様の神獣です」

 

猫の緋想だ。俺が作り出した神獣で、お試しで作ったのに、時空猫とかいう時空を超える力を持った神獣が生まれてしまった。アナザーエ…いや、なんでもない。

また、時空を超える力とは別に他人の感情を読み解ける力も持っている。これは、緋想という名前からついた能力だな。名前っていうのは、神獣にとっては結構大きな力の境目となるので、どんな力を得たいかによって名前の付け方も変わってくるので注意だ。

 

「僕って、何のためにいるんですかね…」

 

緋想は、いわゆる僕っ子である。そして、街中で猫の姿でおろちょろしていることが多い。一部の街人には、野良猫だと思われているかもしれない。

なんせ、時空を超える力というのはあまり利用頻度が多くないからだ。だって俺もサナもできるし。

そのせいで、緋想は結構自分の存在意義を見失って消沈してしまっていることが多い。ただ、そこは猫らしく撫でてあげると元気になる。

はい次。

 

視来(しらい)です。ムササビです」

 

どこかの神の神獣の視来だ。どこの神の神獣か分からなくて、とある邪神に捕まって操られていたところを助けて以来俺の神獣ということになっている。視来自身も、自分の主が誰か分からないということなので、ここに留めている状況だ。

ムササビの神獣というのは相当特殊なので、主も簡単に見つかりそうなものだけど、神は色んな時空に数多にいるので探すのも大変なのだ。俺も途中で探すのを諦めたくらいだし。

 

「私の紹介はそれくらいですか?」

「いうて千里眼の能力があるくらいだからなぁ」

 

結構遠くまで見える千里眼は、名前を付けてから発芽した能力だ。尚、名づけ親は例の如く俺である。

視来の千里眼は、ちょっとだけ未来も見えたりする。戦闘の時に役立ちそうなものだけど、視来自身の戦闘能力がそこまで高くないので、日常的にちょっとした事故とかを防ぐだけの役割になってしまっている。しかし、視来はその役割にそれなりに満足しているようだ。

俺の眷属は以上だな。もしかしたら今後も増えるかもしれないけど、まあそのときはその時紹介することにするよ。

 

「あれ、エンちゃんとか?」

「あっちは神としての眷属だから別ね」

 

サナから注釈が入ったけど、俺には他に縁結びの神のエンとかの眷属もいる。ただ、あちらの眷属の繋がりは今回紹介したのとは別の繋がりなので別途だな。

取り敢えず、今日は俺が満足したので終わりだ。

折角眷属たちが集まったので、合同訓練でもしようかね。




ミキ「式神と眷属をまとめて紹介した理由は、単なる文字数稼ぎだ」


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バレンタイン

やっほー、サナだよ。

投稿が日本の土日だから、ちょっとずれるけど、今日がバレンタイン!折角だから、ミキに頼んで私が記録することにしたの。

だって、ミキは一日中チョコを貰い続けるだけだもん。

 

「サナさんは、いつも通り最後に渡すんですか?」

「うん。だから、メレちゃん行ってらっしゃい」

「…はい」

 

私は今大広間にいる。そして、ミキも大広間にいる。

地球とこっちは時間の流れが違うけど、バレンタインの日はミキが流行らせたので存在する。チョコを渡したい人が多いから、今日はミキは基本的にずっとここにいる。

 

「えっと、ミキさん。今年も愛情を込めましたので…受け取ってください」

「ありがとう、メレ」

 

毎年、一番最初がメレちゃんで、最後が私になっている。妻だからという配慮なのかな。

研究は今日はお休みして、ここでミキが貰うチョコを見て行こうかな。

因みに、メレちゃんが渡したのはシンプルなハート形のチョコレート。でも、私が作ったやつよりも絶対に美味しい。メイド長には、流石に料理の腕で敵わない。

 

「マスター、チョコを渡しに来ました」

「マスター、チョコです」

 

次に来たのは副メイド長の二人。

基本的にメイドたちのチョコは美味しいので、私じゃ勝てない。だからいつも私は工夫をしているわけだけど…シンプルにチョコの味で勝負できるのは羨ましいと思う。私も料理習おうかなぁ…

ミキはお礼を言うと、そのチョコを宝物庫の中に入れた。あの世界は物質の時間の流れが特殊なので、入れてても溶けないのだ。

 

「ご主人様、チョコを渡しに来ました」

「ご主人様、私はドーナツを作ってみました」

 

お、次もメイドかと思ったら、式神の気焔ちゃんと銀杏ちゃんが先に来た。銀杏ちゃんはドーナツを用意したらしい。

ただのチョコだと、ミキも飽きてしまうので、こうして別の種類のお菓子を準備するのは良いアイデアだ。結局、色んな人が渡すので、誰かと被ってしまうことが多いけど、まあチョコだらけよりはマシだろう。

 

「ミキ様、権能無しで作ったチョコレートです。お願いします」

「何をお願いしてんだよ…ありがとな」

 

次にやってきたのはゼノちゃん。全能の権能を持っていながら、全て手作りで行ったらしい。

多分材料を目の前に、チョコを創造することもできるんだろうけど、それをしないのは、ゼノちゃんもミキに本気で恋してるからだろう。うーん、その気持ちの使い方グッド。

 

「マスター、血入りのチョコよ。受け取ってちょうだい」

「毎年言ってるけど、俺は血は飲まん。でもまあありがとな」

 

次に来たのはメイドのキュラちゃん。吸血鬼の個性を出すために、毎年チョコの中に自分の血を入れてくる。

これだけ聞くとヤンデレみたいだけど、キュラちゃんはいたって真面目であり、かつ普通の愛情だ。吸血鬼の血の盟約は非常に大切なものなので、血を使うチョコはミキにしか渡さない。

ブラスちゃんも来たけど、ブラスちゃんのは普通のチョコだった。血液を混入するのは恥ずかしかったらしい。吸血鬼の感性って興味深いなぁ…

 

「旦那様、私もチョコを作りましたので…」

「おう、ありがとう」

 

次にチョコを渡したのは春落ちゃん。いつもは保管庫の中にいる春落ちゃんだけど、ミキにばれないようにチョコを作っていたらしい。

まあ材料さえあれば宝物庫の中でも料理できるらしいからなぁ…

 

「ミキ様、私はクリームパンです」

「私はチョココロネー」

「チョコのチュロスです」

「ワッフルだよ、どうかな」

 

流れで、現実に来れる武器霊たちが色々とお菓子を渡している。なんだかメイドちゃんたちよりも種類が豊富じゃない?宝物庫の中の方がしっかりとした環境なのだろうか。

武器霊たちが渡したお菓子も宝物庫の中に入れるミキ。宝物庫の中から持ってきたチョコを、宝物庫の中に収めるのだから変な感じだけど、こういうのは直接手渡すからこその気持ちがあるから何も言わない。

 

「旅人さん、今年はお菓子を作りましたので、渡しますね」

「ありがとうピュティ」

 

次に来たのは、ウイちゃんの時空の住人の一人であるピュティちゃん。

多分まだ小説内で紹介してないかな…ピュティちゃんは崩壊する時空の唯一の生き残りで、最初は敵対もしてたけど、今はウイちゃんの時空の管理人みたいな立場になっている。

 

「ミキー、一応ミキにもチョコを渡しておくね」

 

次に来たのは私の親友のシオンちゃん。

小説内で紹介してないと思うけど、実はシオンちゃんはカイトくんの嫁である。なので、本命のチョコはカイトくんに渡すのだろう。でも、拠点の仲間に何も渡さないのは変だということで、一応のチョコを渡しているらしい。

大きさはチロルチョコくらいだから、本当に義理のチョコだね。

 

「サナちゃん。カイトがどこにいるか分かる?」

「んーと、外壁の上かな」

「ありがとー」

 

私は探知魔法でカイトくんの位置を調べて伝える。ミキには別のメイドがチョコを渡しているので、私に頼ったみたいだ。

 

「ミキ様、芸術性に重きを置いたチョコを作ってみました」

「これはすごいな。ありがとうショーレ」

 

次に来たのは方向魔神のショーレちゃん。権能を使って、随分とダイナミックなチョコを作ってきた。富嶽三十六景の神奈川沖浪裏みたいな荒々しさがある。

 

「パパ、チョコです!」

「パパ、チョコ作ったの」

「お父様、チョコワッフルを作りました」

 

次に来たのは、子供たち。センちゃんとモモとハイエルちゃん。

ハルカちゃんとメイちゃんはどこに…と思ったら、なぜかキッチンの近くでモゾモゾしてる。何してるんだろう…

 

「父様、二人でパウンドケーキを作りました!」

「チョコソースなので、多分甘いですよ」

 

二人が一緒にケーキを持ってきた。どうやら合作にしたようだ。

来年は私とメレちゃんとマイちゃんの三人で合同で作ろうかなぁ。ミキは私たちに順番を付けたくないみたいだから、まとめて一つにした方がミキも悩まなくていいだろう。

 

「…メイ、なんかケーキの中に権能いれた?」

「あ、バレました?食べたら中からプレゼントが出てきますよ。別のところにあるプレゼントボックスと接続しているだけです」

 

なるほど、そういう使い方もできるのか。そのまま入れたら汚れてしまうけど、食べきった時にプレゼントが別に出てくるのであればきれいな状態で渡せる。

私も時空魔法を使えばそれくらいできるだろうか…でも、空間の接続に関してはあまり私上手じゃないんだよなぁ…

 

「ミキさん」

「ミキ様」

「主様」

 

その後も、色んな人がやってきた。

魔法で浮いてるケーキとか、毒々しいケーキとか、動き回るケーキとかなんか色々あった。一応私も工夫はしてるんだけど、ここまで奇をてらったものではない。

そんなこんなで夜になった。流石に、この時間に渡してくる人はいないので、残っているのは私とマイちゃんの二人となる。

 

「では、先に渡してきますね」

 

マイちゃんが行った。

 

「ミキ、バレンタインデーです」

「ありがとうマイ。ニコチャンワッフルか」

「はいっ!私の喜びの権能も付与してますよ」

 

マイちゃんのワッフルはニコニコしていた。とてもマイちゃんらしいと思う。

さて、最後は私。

 

「ミキ」

「サナが来たってことは、最後か。今年もいっぱいだったなぁ…」

 

なんだか遠い目をしてミキが言う。

ミキは別にモテようとしているわけではなく、ただの女誑しなのである。なので、ミキとしてもチョコがたくさん貰えることに関しては意図したものではない。多分、宝物庫はたくさんのチョコでまみれていることだろう。

 

「はい」

「…シンプルだな」

「うん。でも、気持ちは込めたよ」

 

私が渡したのは、シンプルなハート型のチョコ。そのうえに、赤いチョコペンでハートが描かれている。

本当は媚薬でもいれて、このまま夜の部にでも…とか思ったんだけど、いざ渡そうと思ったら私の中の初心な気持ちが出てきて、結局このチョコを落ち着いた。愛してる人に渡すチョコに、変な細工したくなかったんだよね。

 

「ありがとう。大切に食べるよ」

 

ミキが宝物庫にチョコをいれた。これで、宝物庫の中にチョコはこれ以上入らない。

さて、そんな初心な気持ちでチョコを渡した私だけど、媚薬入りのチョコは既に作られている。そして、それは私の手の中にある。ミキには見えないように、後ろ手で隠している。

 

「サナ、まだ何かあるのか?」

 

今日のミキはちょっと疲れ気味。多分早く寝ようとするから、媚薬じゃ意味はない。そもそも、媚薬はミキに効かないので、媚薬をいれることで私が誘っているアピールするためだけのチョコだ。

…そのチョコ、私は自分で食べた!

 

「え、サナ?今の…」

「…ふえぇ、ミキぃ」

 

体が熱くなってきた。この媚薬は私の特製だから、とても効きやすい。

えへへ、お腹あたりも温かくなってきたし、ミキも目の前にいるし…えへへー

 

 




ゼロ「ちょっと!年齢制限かけてないんだから!」
ミキ「文句はサナに言ってくれ」
サナ「我慢できなくなっちゃった」ツヤツヤ


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メイドの集会

メイドたちの宿舎の中の、とある一室。

そこに、仕事終わりの複数のメイドの姿があった。

 

「お疲れ様です、皆さん」

「フラさんもお疲れ様でーす」

「お疲れ様ー」

 

ここは、メイド宿舎の休憩室。この部屋では、不定期的にメイドたちの集まりが開催されている。議題などは特になく、ただ雑談するだけのイベントだが、メイドたちには良い清涼剤になっているようだ。

 

「フラさんは今日はもう終わりですか?」

「終わりですね。リネさんも終わりですか?」

「はい、訓練も終わってます」

 

今フラと話しているのは、白狼獣人であるリネである。リネは、メイド部隊の中の戦闘班である。片手直剣と盾を主体とした戦いを得意としており、ミキに奴隷として買われたという過去がある。

 

「フラさんは、今日も街内の?」

「いえ、本日はマスターの周辺にいましたね。メレさんとスラさんが、マスターからの任務で離れていましたので」

 

この日、メイド長のメレは天界へ、フラと対を成すもう一人の副メイド長であるスラは近隣の森へ行っていたのだ。

ミキは基本的に自由に動くので、周囲に誰かいる必要はないと考えているが、ルクスの中にいるときだけはと、メイドたちが自主的にミキの周囲にいることにしているのだ。

 

「私もマスターの周辺での仕事がしたいです…」

 

そうぼやくのは、犬獣人の巫女であるシーバ。

巫女とは獣人系民族によくある風習であり、代表者のことである。犬獣人はその多くがこの街に住んでいることもあって、巫女であるシーバは街内の整備担当なのだ。

尚、巫女がメイドをやっていても、獣人たちは特に何も思わない。天使やドラゴンが既にメイドにいるのだから、今更獣人の巫女がメイドをやっていても何も言えないのだ。

 

「二人がいないときだけですから。いつもは街内にいますよ」

「フラさんって副メイド長なんですよね?なんで街内担当なんですか?」

 

そう質問したのはシーバの姉であるワワ。こちらも犬系獣人であり、しかし巫女ではない。

 

「メイド隊を指示できる者が拠点内に固まっているのは良くないからですね。それに、私は市内管理の方が向いています」

 

メレ、スラ、フラの三人は通信機器がミキにより支給されている。それを使うことで、例え時空を跨いだとしてもメイドに指示が出せる。しかし、それがいつでも可能とは限らない。故に、担当を決めているメレは敢えて管理職の三人を離れた位置に決めているのだ。

 

「フラさんだってマスターの傍にいたいでしょう?」

「それはそうですけど…でも、たまに甘えさせてくれますし」

 

メイドは結構な数がいる。それでも、ミキはメイド一人一人を大切にしているので、度が過ぎたお願いでもなければ了承するのだ。

ミキが忙しくなさそうにしており、また仕事中でないならハグくらいならしてもらえるので、メイドたちは元気なのである。

 

「そういえば今日もマスターにぎゅってされてましたね、フラさん」

「えっ!?見てたんですか?!」

 

いつも落ち着いているフラを慌てさせたのは、雪女のユキ。料理担当なので、基本的に拠点内にいるメイドだ。フラが、ちゃっかりミキに抱き着いていたのも、目撃していたらしい。

余談だが、メイドたちはハグのことを『ぎゅっとする』という表現の仕方をすることが多い。優しいハグじゃなくて、ちょっと強めに抱きしめてほしいという意思表示なのだとか。

 

「私もテクノも見てましたよ」

「ああぁぅぅ…」

 

一気に顔を赤らめるフラ。どうやら、見られているとは全く思っていなかったようだ。現在、拠点の中で人目につかない場所は個人の部屋の中くらいしかないので、大広間で堂々とミキと触れ合っていたフラは不用心だったと言える。

 

「いいなー、私もマスターとスキンシップしたーい。血を吸いたいわ」

 

そう言うのは、見た目が幼い吸血鬼のブラス。

メイド隊の中では新人であり、同じ吸血鬼であるキュラと違って、まだあまりミキの血を吸うことができていない。ミキのような力の強い人物の血を吸うと、それだけで強くなれるのだ。

 

「マスターの血、体がポカポカするのよね」

 

とはいえ、このロリ吸血鬼は、強くなる以外の理由もあるが。

 

「前に天使と悪魔の翼の両方で包んでみましたけど、すごいドキドキできましたよ」

「それ大きい翼持ってる人しかできないじゃなーい!」

 

ブラスは反抗の声を上げた相手は、天使が憑依している悪魔のスク。基本的に表に出ている魂は悪魔の方であり、その時は天使の力も使うことができる。

ブラスはまだ幼いので、ミキを包めるほどの大きさの翼がないのだ。最も、キュラのように成熟した吸血鬼であっても、ミキを包めるほど大きくはならないのだけど。

 

「でしたら魔法で包んであげるのはどうです?私は、精霊術で大きな花弁を作り出してベッドにしたことがありますよ?」

「だって、私の魔法は殺傷性が高いから…」

「ならそのコントロールの練習にもなりますね。マスターなら、ブラスさんの魔法でも傷つきませんよ」

「マスター相手に練習なんてできるはずないでしょ…」

 

ブラスは体型も相まって、家事ではなく戦闘班に担当として振り分けられている。そんな理由もあって、ブラスの魔法は攻撃性能が高いものばかりだ。そもそも、吸血鬼は群れるような生物ではないので、味方に対して使うような魔法を知らないのも無理はない。

対してフラは、精霊という自然に近しい存在を活かして、ミキに対して優しいアプローチができる。勿論、自然災害の如く攻撃に転ずる方法もあるので侮ってはいけない。

 

「むしろマスターは喜ぶと思いますよ。私がマスターに相手を頼むと、嬉しそうにするので」

「えぇ…強者の余裕こわぁ」

 

リネの提案にブラスは少し後ずさる。

リネだって弱いわけではない。街中のメイドではない人々によって結成された自警団の人々よりも格段に強いのだ。しかし、それでもミキからすると子供の遊戯の域を越えない。

ミキを戦闘で驚かせるには、最低でも地形を変えるくらいはしないといけない。

 

「じゃあやってみようかなぁ…」

「ブラスさん、無理はしない方がいいですよ。好きな人に攻撃することに抵抗があるのは当然です」

 

総じてメイドたちはミキのことが好きである。しかも、主従愛ではなく結構異性愛に近い。

メレのように、メイドからでもミキの大切な人になれると分かってからは、一部のメイドに火がついてしまった。しかし、そうでない者もいる。好きな人に積極的になれないのは当然のことでもある。

尚、当のメレ本人はミキと何度も模擬戦をしている。戦闘が苦手なマイを除き、他二人の妻は、ミキに並べるくらいには強い。

 

「いやっ!でもっ!私が弱いままだと、何も進まないもん!」

 

ブラスが意気込む。

メイドたちは、ミキのために動くと同時に、ミキに見てもらいたいという欲求で働いている。成長を自ら止めるような者に、ミキが興味を示さないことは既に共通の認識である。

 

「でもまあ、その前に私相手にやりますか?」

「フラさんが?確かにそれもいいかもね」

 

天使のメレ、スライムのスラ、花の精霊のフラ…種族だけ聞くと、あまり戦闘が得意なイメージがないが、この三人はメイドの三強である。ミキだって常に暇というわけではないので、その前にフラたち相手に練習した方がよいというのは合理的な判断だ。

 

「じゃあ明日の休憩時間にでも」

 

こうして二人は約束を結んだのだった。

こんな感じで、メイド内で成長するためにも、このメイド会は開かれているのだ。




作者「読者の皆さんは気が付いていると思いますが、ミキの名づけは結構適当です」
ミキ「フラワー→フラ、柴犬→シーバ、ミックス→スクのように名付けてるぞ。名前によって力が変質する可能性があるから、あまりその種族と離れた名前は付けてあげられないんだ」
ゼロ「ミキの名づけは一種の魔術になっている。名前を付けるだけで、魂レベルに作用させるのだからおかしな話だよまったく…」

メレ「マスターに一度だけ勝ったことがあります」(ミキは魔法縛り)
スラ「マスターに傷をつけたことがあります」
フラ「マスターを数秒拘束するくらいはできます」



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全断剣

やあ皆、久しぶり。ミキさんだよ。

先週、そして先々週はどちらも俺じゃなかったから、こうして話すのはそれなりに久しぶりのはずだけど…あ、俺は神様だからと言って時間感覚がおかしいとかいうことはないからな。普通の時間感覚だぞ。

さて、今日は俺の最強の武器である全断剣についてだ。

 

「私ですか」

「うん、話しておこうと思って」

 

シャナレが出てきた。シャナレは全断剣グランドの武器霊の名前だ。シャナレと一緒に解説していこうかな。

 

「まずは、全断剣の特性についてだが…」

「銘の通りですよ」

 

シャナレの言う通り、全断剣の特性はそのままで、【全てを断つ】という一点に限る。

物質だろうが、概念だろうが、時空だろうが断てるこの剣は、干渉もすべて無効化してくれる。

実のところ、振る必要すらないのだ。ただそこに存在するだけで、周囲の影響をシャットアウトできてしまうのである。

 

「シャナレがここにいるだけで、この部屋は一種の要塞だな」

「毒や麻痺はもちろん、精神干渉や時空変動も封じますからね。ミキ様は自由に使えますけど」

 

全断剣の力は、一種の権能である。神に対しても効果を発揮するのだから、権能という言い方は何も間違っていないはずだ。

そして、俺は自由に使えるというのは、俺だけにしか働かない。例え俺が許可をしようとも、ここではサナたちも魔法を使えなくなるのだ。

とまあ、問題がある権能だが、これだけではない。

 

「まあ、ここに存在するだけで魔力を持ってかれてるけどな」

「それは…どうしようもないんです。私の存在消費に関しては、ミキ様の回復量のほうが多いんですからいいじゃないですか」

 

これ、まじで燃費が悪い。俺やサナなら大丈夫なのだが、例えばそこらへんの市民に持たせたら、一瞬で気絶する。生命力変換は持ち主の意思によるものだから、死ぬことはないだろうけども、気絶は免れないだろう。

そして、そんな莫大な魔力を消費する全断剣が更に魔力を消費する行動がある。

 

「斬る、だな」

「制御もできるようになりましたねどね」ムフー

 

ちょっとだけドヤ顔なシャナレがかわいい。

全断剣は、存在するだけで働く権能があるといっても、剣であることには変わりないのだ。特に、銘に剣という文字が入っている以上は剣の概念から逸脱することはできないのである。

よって、この全断剣は振ることで最も強い効果を発揮する。

具体的には、その名の通り何でも断てる。冒頭で「振る必要するない」と言ったが、振ったら振ったで効果があるのである。

 

「一回見本としてここで振ってみるか」

「…時空の狭間に落っこちますよ?」

「大丈夫、すぐに戻せる」

 

シャナレが剣に戻り、俺は全断剣を構えた。

 

「せいっ」

 

俺は目の前を、一度だけ横に切り裂いた。何もない、強いて言うなら空気しかない場所をだ。

しかし、切り裂いた場所は、読んで字の如く切り裂かれたのである。切り口の奥には、白とも黒ともグレーとも言えないような色の空間が広がっている。これが時空の狭間だ。

時空の狭間には、普通は行くことができない。現代建築で例えると、時空の狭間とはエレベーターの外側みたいなものだからだ。

だが、全断剣なら余裕で行ける。というか、何も意識せずに振れば確実に時空の狭間行きの空間の裂け目が生まれる。

 

「はい、接着」

 

時空神の権能でくっつけておく。さながら糸で縫い付けるような簡易的な接着だが、時空神の権能ならばそれでも完璧にもとに戻る。

 

「えへへぇ、ミキ様に使ってもらえました」

 

まあそんな使いづらい権能持ちの剣だから、日頃使うことはない。こういうときにでも使わないと拗ねてしまうのだ。

武器霊にしか分からない感覚なのだろうけど、持ち主に使ってもらえないとストレスが溜まってしまうらしい。使われることこそが本懐なので、貴重だとか高価だとか気にせず使ってくれと言われている。

 

「うむ、威力は絶大だな」

「はいっ!」

 

嬉しそうに返事をするシャナレ。使ってもらえたのが、よほど嬉しかったのだろう。

うーむ、やはりもっと使わないとな…



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東京にて

やあ皆。元気にしているかい。ミキさんだぞ。

土曜日に更新がないのが不思議だと思っただろ?実のところ、俺は土曜日は東京に来ていたのだ。

サナと一緒にね。

 

「そして、東京で買い物をしたのである」

 

具現化魔法とか投影とか、ものを作り出す手段はいくらでもあるんだけど、やっばり買ったほうが長持ちするんだよね。

 

「つうわけで一つ目、盆栽」

 

これは…俺用じゃなくて、仲間のカイト用だ。

きれいに整えて、美しい形になるまで待ったあとに斬っている。盆栽を斬るなんて頭がおかしいとは思うのだけど、まあ当人の自由なので口出しはしない。

 

「二つ目、コンソメキューブ」

 

こちらはメイド用。まあ回り回って俺たちに出されるけど。

俺の世界は剣と魔法のファンタジーなので、どうしても化学調味料って存在しないんだよな。一応このルクスで研究させてるけど、まだまだ日本のものには及ばない。

この世界にはこの世界なりの調味料があるけど、それとは別に調味料は確保している。

 

「三つ目、魔術宝石」

 

裏ルートで手に入れた、宝石魔術用のルビーだ。これは東京じゃなくても手に入るというか、東京だとむしろ手に入れにくい一品である。

なので、サナが下着を買ってる間にヨーロッパまで転移して買ってきた。宝石魔術に使える宝石って、中々手に入れにくいものなので、こういうときに買っておかねば。

 

「四つ目、模造刀」

 

練習用。まあ、頑張れば模造刀でも斬れるけど。

俺が好んで使っている投影魔術は、そのイメージと記憶が大切だ。常に新しい記憶を保っておいた方がいい。

真剣はこの世界でも作られているが、模造刀を作る人はあまりいないのだ。魔物が当然のように闊歩している世界で、戦えない模造刀を必要とする人もいないのでね。

というわけで、模造刀は平和な日本じゃないと買えないのだ。

 

「五つ目、服」

 

色々。多分一式買ったと思う。

サナが結構おしゃれ好きなので、一緒に東京に行くと必ずと言っていいほどブティック巡りがスケジュールに入る。

下着は流石に見てないけど、それ以外の服とかはサナと一緒に見て買ったものだ。ファンタジー世界だと東京の服は浮くのだけど、ルクスは特異な街なので着ててもあまり違和感がない。

ルクスには様々な時空の文化が持ち込まれているので、大変なことになっているのである。

 

「最後、ポテチ」

 

因みにこれは今から俺が食べる。

味はシンプルにコンソメ。なんかたまに食べたくなるんだよなぁ…

 

『ミキ、私も食べたいです』

「マイも食べるか?いいよー」

「ありがとうございます」

 

マイは基本的に俺の魂にいるので、実のところサナと二人きりではなかった。

というか、小さい状態で春落や雷桜槌を装備しているし、魂にもいっぱい人がいるので、二人きりの場面などあまりない。

本当に二人きりになりたいときは、魂との繋がりを切って、武装をすべて宝物庫の中に入れる。

 

「むぐむぐ…サナさんに言わなくてよかったんでふか?」

「サナはポテチあまり食べないからな。メレは仕事中だし」

「いえ、そうではなくて。ポテチを買ったこと自体言ってなくないですか?」

 

…知らなきゃ問題ない。

元より俺のお金なわけだし、今更になってポテチ一個で色々言われるような立場でもない。

しかし、マイの心配は別のところらしい。

 

「メレさんが怒るのでは?収支計算はメレさんの管轄では?」

「…バレなきゃ犯罪じゃないんだよ」

 

そも、ポテチ一個でなんとかなるような経済状況ではない。

の、だけど…

 

「マスター、ちゃんと報告してください。こちらで帳尻を合わせるわけにもいかないんです」

 

俺は現在メレに怒られている。

マイがああ言ったあとの、数十分後のことだ。突然メレが部屋にやってきて、ポテチを見て怒り出したのである。どうやら、昨日東京で買ったものの収支が合わなくて困っていたらしい。

 

「分かりましたか」

「…へい」

 

実は、三人の妻の中で一番権力が強いのはメレだったりする。



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創世の使い方

作業中のミキさんだよ。やあ。

これが投稿されるのは土曜日なわけだけど、書いてるのはホワイトデーの前日だ。

サナがバレンタインのときの俺の様子を、小説として投稿してくれていたのだけど、ホワイトデーも同じようなことをするのは正直だるいだろ?

つうわけで、ホワイトデーは当日じゃなくて、前日の様子を記録することにした。

で、俺が今どこにいるのかと言うと…

 

「俺だけの空間。俺しか存在しない、ただの空間だ!」

 

白い床と白い壁だけがある、ストリートでファイトするゲームのトレーニングルームとか、大乱闘でスマッシュするブラザーズのゲームのテストルームみたいな場所だ。

ここで、俺はお返しの品作りをしている。俺に色々くれた女性陣全員に返すので、時間が足りない。そのため、わざわざ創世で時の流れがゆっくりな世界を生み出して作業をしている。

固定化せずに、一時的な固有結界のように創世をすればトキネに怒られないのだ。

一応女性陣には秘密なので、魂のやつらもここにはいない。

でも、一人だと精神が死ぬので、話し相手として魂の男性陣に来てもらっている。

 

「もらってるというか、俺たちに拒否権はないだろ」

「俺たちはここに閉じ込められているのと同義ですよ」

 

文句など聞こえない。

この小説が投稿されはじめた頃に、魂の一部を紹介した。そこでは女性しかいなかったのだけど、ちゃんと男性の魂も存在する。

俺がチョコを湯煎している間に紹介しよう。

 

「天使の魂の、テンジンだ」

「天人だ。ミキ様に捕まってここにいる被害者其の一だ」

 

俺が天使としての羽を出したり、天界に行ったりできるのはこいつの魂のおかげである。

今では俺一人でも天使にはなれるのだけど、最初はテンジンの助けを必要としていた。天使って魂構造から違うから、時空神としての影響があるまでは大変だったんだ。

白い髪と白い服に、長身なのがテンジンの特徴。あのセフィなんとかロスを両翼にして色変えた感じ。

 

「次、剣の精霊の残滓のツルギだ」

「剣です。俺はミキ様に捕まってここにいる被害者其の二です」

 

この世界で旅をしているときに、消えかかった精霊を助けたのが始まり。剣に関する色んなことが精霊力を使ってできるようになる。

銀の髪と黒い服が特徴だ。トレードマークとして剣を背負っているけど、ツルギ自身はあまり剣を振らない。

一人称が「俺」で、丁寧口調なのでよく知らないと違和感しかない。

 

「俺が暇になるんだからいいだろ」

「嫌とは言っていない。だがな、幻や月が自由行動なのには不満なんだ」

 

ゲンとムーンの二人には自由時間を与えている。俺が魔力を渡せば俺の魂の外でも活動できるからな。この二人はまた別に紹介しよう。

 

「だってあの二人はまだ新参だろ?古参が頑張らないと」

「四人全員で集めればよかったと言っているんです。俺は、そういう不平はどうなのかと」

「あの二人はしたいことあるって言った。お前らは言わなかった。以上」

 

一応俺も、何かしたいことはあるかと聞いたんだ。

ゲンとムーンはあると言ったのに、テンジンとツルギは言わなかったんだ。これは大きな差だと言えるだろう。

 

「っ……あ、ミキ様、湯煎は終わりでいいだろう」

「うむ」

 

溶けたチョコを型に流し込む。

 

創造建築(アイビス)、アイスメイク・フロア」

 

魔法で簡易的な冷凍庫を作る。チョコを固めるならこれくらいの温度がちょうどいい。

 

「チョコの次は…模型?なんだこれ」

 

俺が作った渡すものリストを見て、ツルギが呟いた。

全員にお返しでお菓子を作るわけではない。むしろ、比率で言うのならお菓子以外でお返しする人のほうが多い。

その理由としては、形が残る方がいいという人がいるから。

 

「サナさんとかはチョコなんですよね?」

「うん。身内は普通にお菓子」

「お菓子よりも手間がかかるんじゃないのか?」

 

お菓子よりも準備が大変だと思うだろう…しかし、残念!

俺には創造魔法やら具現化魔法やら投影魔術やらがあるのだ!むしろ手作りにこだわったチョコの方が断然心が籠もっている!

あ、もちろん魔法で作ったからと言って心を込めていないわけじゃないよ。これ、お返しの品だし。

 

「というわけで、投影!投影!」

 

強度が必要ない模型は、投影魔術で生み出す。

実用品が欲しいという人には、具現化魔法で生み出す。

「こういうのが欲しい」という曖昧な要望の人には、創造魔法で生み出す。

こうやって魔法を使い分けるのだ。様々な時空の魔法を使える、空間模倣の権能を持つ時空神だからこその、特権だ。

 

「んじゃ今から魔法で梱包資材出すから。二人は詰めてって」

「「…わかった」」

 

うむ、これで準備は完了だ。



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放浪旅③

やあ、ミキさんだよ。現在はどこかわからない山を登っている途中だ。

俺は旅をするとき、基本的に歩くことにしている。それは、登山するときも同じで、持ち前の翼や魔法で飛ぶことはない。歩いているほうが旅をしてるって感じがしていいだろ。

 

『主様、この山は雷鳴山って呼ばれてるみたい』

「ソースは?」

『さっき看板が立ってた』

 

…ふむ、見逃したか。テクナの指摘ななければ分からなかったな。

えー、現在は雷鳴山を登っている途中だ。

 

「雷が鳴るっていうには…平和な山だけどな」

 

俺の上には、青空が広がっている。雲も少しあるけど、雷が鳴ると思えるような雲はないし、曇りになることもないだろう。

それこそ、俺が魔法でも使わない限りこの山には雷が降りそうにない。

 

「となると…魔物かな。それとも伝承かな」

 

そもそも、山に雷が降りやすいってのはどこでも同じである。山の天気は変わりやすいとよく言うが、その方法で山に名前を付けていたら、この世の山はどこも雷雨山とか土砂降り山とかになってしまう。

常に同じ天気に固定されているみたいなことがなければ、天気を山の名前にしたりしない。

 

『雷獣ですかね』

「雷獣は今頃ルクスにいるよ」

 

まあ雷獣は一匹じゃないけどね。雷を纏っていたり、雷を操ったりする獣はどれも雷獣である。

雷獣という名前は人間が付けたせいで、雷自体を雷獣と呼ぶこともあるくらいだ。人の匙加減でいくらでも雷獣は増えるのである。

 

「とはいえ、雷を操る魔法を使うやつがいるなら戦ってみたいな…」

 

俺の眷属である金璃は、雷獣の格としては相当な上位だ。だが、雷獣なんてどれもそれなりに強い。戦う相手としては不足はない。

 

『それでも主様が圧勝するのでは?』

「縛りプレイだな。動かずに勝つとか、水魔法だけで戦うとか」

『ミキ様、なんだか実績コレクターみたいだな』

 

もとより、本気で戦うとなると、時空を何個も吹き飛ばすことになってしまうので、本気で戦える相手などそういない。

ほとんどの事象を絶対的に起こすゼロとかじゃないと、まともな対戦相手にならない。

 

「伝承だったとしたら…どこかに雷に打たれた巨木とかがあるかな」

 

必ずしも雷獣がいるとは限らない。

もしかしたら、近くの人が伝承をもとに名前を付けた可能性もあるのだ。雷に関する伝承などいくらでもある。

神木と呼ばれていた木が雷に打たれて裂けたときに、雷の伝承が生まれることもある。地球に行ったことが俺にとっては、高く成長しすぎただけと言えるのだけど、科学を知らないこの世界の人にとっては天罰にも見えるだろう。

 

『そういうときは、普通山頂にありますよね』

「だな」

 

雷使いがいるとしても、どうせ山頂にいるのだろう。

山に関するイベントなんて、基本的に山頂で起きるのだ。

 

「ぬ、魔物」

 

木々の隙間から、狼の魔物が出てきた。その体には雷が纏わりついている。

 

「ん?これが雷獣か?」

 

と思ったら、その後ろから更に同じように雷を纏った狼の魔物が出てきた。どうやら群れ全体が雷纏いらしい。

この魔物は見たことないけど、これがこの魔物の特性なのかこの山でのみ起きる事象なのか…

 

「取り敢えず…斬る!」

 

光桜剣を抜き、形状を変化させる。刃の長い刀だ。

 

「秘剣…燕返し!」

 

一瞬で三回斬った。一番前にいた狼は一瞬で肉塊へと変ずる。

 

「咲け、桜花!」

 

桜花を抜き、桜花吹雪を発生させる。この花びらには一枚一枚がカッターナイフのようになっていて、桜花吹雪が去ったあとには、体がズタズタになった狼が残っていた。生きている魔物は一体もいない。

 

「ふむ、死んでも雷は纏わりついたままか…」

 

この魔物の特性のときは、基本的に死んだら雷が消える。体に纏わりつかせるタイプの魔法は、体内の魔力で運用しているからだ。死んでしまって、魔力が動かなくなれば、雷は消える。

しかしそうならないということは…

 

「山の特性か」

『みたいですね。ミキ様、山頂へ向かいましょう』

 

光桜剣からツクがそう言ってくる。

ツク曰く、斬るときに雷の気配はなかったらしい。それはつまり、この狼自体に雷特性はないということになる。

 

「俄然面白くなってきたな」

 

俺は山を登る。俺の足なら、山頂まではすぐだ。

 

「おお?」

 

雷鳴山の山頂には、大きな狼が寝ていた。その体には、先ほどの狼の魔物と同じように雷が纏わりついている。触るだけで痺れてしまいそうだ。

俺は隠密を全力で使っているので、大きな狼に探知されることはない。

 

『あれは…強そうですね』

「ああ、楽しめそうだ」

 

俺は隠密を解いて、大きな狼に近づく。

大きな狼は俺に気が付き、目を覚ました。そして、こちらを警戒するように見ている。

 

「…喋れたりするか?」

「ウウウウウウ」

 

神格を持ったり、強大な力と知恵を身に着けた魔物は、たまに喋ることができるのだが、残念ながらそこまでの知恵は持たなかったらしい。

しかし、その体内の魔力は本物だ。近隣の街で暴れたりすれば、最悪人がいなくなる大惨事になってしまうだろう。

 

「ガアア!」

「来るのか?ならやってやろうか」

 

俺は梅紅を抜いた。

 

「燃えてみな!」

 

全力で振ってみた。その炎に狼は飲み込まれてしまうが…

 

「ウウウ」

「ほう。雷炎狼ってところか?」

 

炎は狼の毛を焼くことはなく、その体表面に纏わりついている。もしかして、魔力を体表面に纏わりつかせる特性でもあるのだろうか。

 

「トレース・オン…氷鷹!」

 

とある世界の魔剣鍛冶師が作った、氷の魔剣をぶっ放す。

狼は氷に飲み込まれるが、氷はその体表面に纏わりつくのみで、怪我を負わせることはなかった。とはいえ、氷が纏わりつくと動きが阻害されるらしいので、その点ではダメージを与えたとも言えるかもしれない。

 

「ふむ、氷は有効かもしれないな…トレース・オン」

 

俺はとある世界の剣士が使った、青薔薇の剣を複製した。オリジナルのものは電子データなので、宝物庫に入れることができなかったのだ。

 

「リリースリコレクション!」

 

空間模倣で、無理やりオリジナルと同じだけの効果を作り出す。電子データのコピーを現実にペーストすれば、簡単に模倣できる。

 

「ふむ、ダメージはないが…」

 

狼は氷に閉ざされた。しかし、その体表にダメージを与えた様子はなく、微妙に氷の中にも隙間があるらしい。

狼は、体表面の雷と炎を使って氷を吹き飛ばした。なるほど、そういう使い方もできるのか。

 

『あ、私の炎!』

「まあ、炎はただの炎だからな」

 

フラメが悔しそうにしている。

雷と炎が放たれたあとの狼の体表面には、何も残っていなかった。おや、雷も消えている…?

と思っていたら、風が吹いて体毛が揺れた。すると、すぐに雷が復活した。

 

「なるほど、あれは雷というか、静電気なんだな。ただ、体毛の静電気が強すぎて雷と呼べるほどの力になっているのか」

 

多分この狼のオリジナルの特性は、魔法を保つことができる体毛だけだ。雷は、ただの副産物である。

 

「だからさっきの狼は、斬れば簡単に殺せたのか」

 

体毛の下には、柔らかい肉があるのだろう。そのため、雷さえどうにかなってしまえば簡単に斬れてしまう。

例えば電気が届かないくらい長い刀で斬るとか、遠距離で斬りつけるとかな。

さて、じゃあとどめを…

 

『ミキ!今すぐ帰ってきて!』

「え、今!?」

『今すぐ!』

 

えぇ…



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時空の狭間

あー…久しぶりだな。お前ら。ミキだ。

先週の投稿か?あー…誰も書く人がいなかったから書けなかったっていうのもあるんだが、日本に繋がる方法がなかったのも原因の一つだ。

少しばかり、俺が呼び戻されたあとの話をしよう。

 


 

「では、今から時空の狭間の調査をするぞ」

「いえーい」

「そういうテンションの話じゃないんだが…もういいか」

 

時空というのは不定形で、常に形は変わり続けており、確率的な変動もおこりうるような存在であり、物資であり、現象だ。

時空の狭間というのは、そんな変動し続ける時空の歪みであり、日本のもので例えると…ティッシュを横に引っ張ったときにできる、真ん中の裂け目みたいなやつだ。

時空と時空の間は多次元的な空間があって、普段は安定しているのだけど、何かしらの異変があって乱れると、この空間が時空へと影響を及ぼす。その結果の一つがこの時空の狭間である。

 

「時空魔法は?」

「全開で!」

 

普通、時空魔法を使うことができない者が時空の外に出ることはできない。しかし、この狭間を抜けると外に出れてしまうのだ。

しかし、この狭間の奥は俺でも吹き飛ばされてしまうほどの時空嵐が吹き荒れており、一般人なんかは一瞬で多次元的消滅をしてしまう。

そんなわけで、俺たち時空魔法を使える者は、時空の狭間を調査して、消さなければいけないのだ。

一応無理やり閉じることもできるが、あくまで応急処置にしかならないので、調査はしなければならない。勿論、原因が分かったらその修正もする必要がある。

 

「ゼノ、入口は見張っててくれな」

「はい。任せてください」

 

全能魔神であるゼノであれば狭間で調査することもできるけど、たまーにこの狭間にちょっかいを出そうとする馬鹿がいるので、ゼノには警備をしてもらう。

 

「じゃあ出発!」

「転ぶなよー」

 

因みに転ぶと時空魔法でも抵抗不可能な超次元な波に攫われる。一応俺の権能なら救出もできるけど、波に流されている間は身体が粒子になるような感覚の変化と再統合が行われるので、絶対に流されないようにするしかない。

ヤンキーを流したら、再統合したあとに大金持ちの御曹司が出てくることだってあるような波なのだ。サナがサナではなくなる可能性が高い。

 

「サナは全断剣持っとけ」

「はーい」

 

グランドを渡して保険にしておく。万が一流されたとしても、シャナレが助けてくれるはずだ。

俺も理滅剣を装備し、ついでに乖離剣も装備しておく。運命がまるっきり変わるような剣でないと太刀打ちできないのだ。

 

「さてと」

 

狭間の光景を文章にするのは難しいんだが………あれだ、簡単に言えば混沌だ。

物があるとか、特定の色があるとかそういうのではない。そしてここに入ると自動筆記が

 


 

残念ながら、当時の記録は文章や映像に残っていないんだ。

時空の狭間では身を守るために時空魔法を全力で使ってるから、投影魔術や記録魔法のようなイメージ力が必要な魔法は機能しなくてな…

ついでに言うと、未だに事後処理が終わってなくて…

 

「あれ、ミキ記録してんの?」

「ああゼロ。お前、先週記録しとけよ」

 

俺は今、トキネとゼロと一緒に、次元回廊に来ている。

 

「時空の狭間があるときに東京に繋げたら、東京が爆発するよ?」

「まあそうなんだけどな…」

 

ゼロでも無傷で東京に繋げられるわけではないのだ。

故に先週は投稿がなかったわけだ。来週はちゃんと投稿があるはずだから、また今度ってことで。




作者「ミキが帰ってくるまでもうしばらくお待ち下さい」


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雷獣・神獣

やっと落ち着いたぜ。ミキさんだ。

本当はあの雷の狼と戦いたかったんだが、もう一度行ったらいなくなっていた。山から群れごといなくなっているので、多分どこかに移動したのだろう。

そのため、今日は書けることがなくなったのである。戦いたかったんだけどなぁ…

というわけで、代わりに身内の雷獣で話を書くことにした。

 

「それで私なんですのね?」

「そうだ。金璃も雷獣だしな。それに、俺が戦いたかったあいつよりも強い」

 

あいつは野生の、言ってしまえば普通の魔物だ。条件さえ揃えば繁殖することだって可能だろう。実際群れがあったわけだし、もしかしたらあの中から大きい個体がたまに現れるのかもしれない。

それに対して、金璃は正真正銘の雷獣であり、神獣だ。一応子供も産めるらしいのだけど、繁殖はしないだろう。

 

「雷獣の子供って雷獣なのか?」

「私は知りませんわ。試してみますか?あなたならいくらでも受け入れますわよ」

「いや、遠慮しとく」

 

もう子だくさんだし。

 

「私はいつでも待っておりますわ」

「人間と神獣って、できるのか?」

「それも含めて試してみませんこと?」

 

因みに、神獣は人の形をとっているけれど、それは俺の擬人化魔法によるものではない。もとより、人間の姿になることができるのだ。

神はちょくちょく人間じゃないこともあるのだが、神獣は揃って人になれる。違いはなんなのだろうか。

 

「私の前で夫を誘惑しないで金璃ちゃーん」

「あら、失礼いたしましたわ」

「もうっ」

 

なおここは俺の部屋ではなく、大部屋だ。すぐそこでサナが本を読んでいる。

 

「それで、私はどうすればよろしいのかしら」

「あれを見せてやってくれ。壁抜け」

「…文章なのに、見せることができるのですか?」

「それは、俺が頑張るだけだから」

 

俺がそう言うと、金璃はすぐに電気となった。

今の金璃は、完全な電気だ。生命体ですらない。電気(金璃)は壁に近づいて、そのまま壁の向こう側に通って行ってしまった。これが、金璃の壁抜けである。

 

「これ、文章でちゃんと伝わっているのかしら」

「多分伝わってると思うぞ」

 

電気になって通るという性質上、ゴムでできた壁は通れない。全くの進行不可というわけではないのだけど、めちゃめちゃに時間がかかる。

これが金璃の特殊な能力でもある。雷獣だからこそ、体の構成を変えることができるのだ。元々雷だったのが動物になったから、こうして変質しても問題ないのである。

 

「でもミキもできるよねそれ」

「いや、俺はできないぞ。だって、これ身体変化系だから」

 

これを話したのも随分前のことになるが、俺の空間模倣は身体を変えることはできない。ゴムゴムの~とか、そういうのはできないのである。

 

「擬人化魔法と、そういう身体変化の違いは何なのでしょうか?」

「擬人化魔法は、あくまで器を変えているだけだ。それ以外のは器じゃなくて中身も変える必要があるから、だめだな」

 

厳密には違うのだが、例えるのならボウルに入った水だ。ちゃんと器と呼べるような、コップとかビーカーなんかに移し替えても問題はない。しかし、これがザルとかになると普通の水では零れ落ちてしまう。水にゼラチンでも加える必要があるだろう。

擬人化魔法と雷化の違いはそういうところである。

 

「それで、私と戦うんですの?」

「え?いや、別に」

「戦いたいとおっしゃっていたではありませんか」

「あれはあの狼と戦いたかったわけで、金璃は別だろ」

 

金璃が不満そうにしているので、取り敢えず撫でておく。うちの式神やメイドや眷属はこれで大抵おとなしくなるのだ。

 

「またミキが強制的に静かにさせてるー」

「強制的じゃないだろ」

「ほぼほぼ強制的でしょ。頭を撫でられたときに何も考えられなくなる衝撃をミキは知らないから…ブツブツ」

 

取り敢えずサナも撫でておく。

 

「ふわあぁぁ」

 

金璃が落ち着くまで、俺は二人を撫で続けた。



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別れの言葉

どうも、読者の諸君。ミキだ。

 

「投影…約束された勝利の剣(エクスカリバー)!」

 

ああ、すまないね。少々厄介なことになっていて、普通に立っていられないんだ。

 

「こっちも食らいな!リリースリコレクション、咲き誇れ花たち!」

 

俺の目の前には、巨大がボールが浮いている。表面は全部黒くて、時々こっちに向かって即死級の…

 

「ちょっ、熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!五芒星結界!」

 

技を撃ってくるので、回避と防御で手一杯だ。じゃあなんでこんなタイミングで小説に書いているのかというと、ここから先更新が難しいからだ。

こいつを倒すためにはそれなりに時間と準備が必要で…

 

「投影…金属器・アモンの轟炎剣(アモール・ゼルサイカ)!」

 

まあ、準備が必要だから執筆作業ができないんだ。サナやゼロに任せてもいいんだが…まあ俺が更新できないならいいかなってゼロが言ってたからな。

ともかく…

 

「<獄炎殲滅砲(ジオ・グレイズ)>!アイス・メイク…ランス!」

 

俺はしばらく顔を出せないってことだ。

一か月とか一年くらいで討伐できるだろうから、それまで気長に待っていてくれると助かるな。

 

追奏(カノン)!エクスプロージョン!」

 

一か月と一年は全然違うって?でも俺からしたらどちらもそこまで変わらないぞ。神様にとっちゃ十年だってほとんど誤差くらいなものだ。

俺が更新できない間はこの小説は未完ってことにしておくからな。まあこいつを討伐できたら戻ってくるよ。

 

「水魔法…水牢!」

 

落ち着いて会話もできないので…

 

「この瞬間、お前は永遠を手にする」

 

氷漬けにしておく。あ、あまり凍らねえ。

 

「リリースリコレクション…咲け、青薔薇!」

 

うーん、こっちも凍らないな。落ち着いて別れの挨拶をしたかったのだけど、こいつの攻撃が止まらないのでどうしようもない。

いやまあ少しくらい被弾しても即死はしないのだけど…

 

「おわっ、投影・アイディオン、九遠第四加護(クーリ・アンセ)!」

 

危ない、これは即死するタイプの攻撃。どこぞの錬金術師の可変式大盾とどこぞの天使の封印魔法でなんとかなった。

 

「ついでに行っとけ虚空第零加護(アーカ・シ・アンセ)!」

 

うーむ、魔力効率がえぐいな。

因みに、なんで俺が全断剣を使っていないのかというと、一発で斬れる相手じゃないからだ。俺の魔力はほぼほぼ無限なのだけど、その魔力を一発でほとんど消費するせいで何度か斬らないといけなさそうな相手には使えないのである。

別に使ってないからもしかしたら一撃で落とせるかもしれんが…失敗したときに死ぬのは俺なので無理はできない。

 

「だいもんじ!そんで凄皇裂空!」

 

効かねえや。やっぱ勇者程度じゃ当たらんなぁ…

あ、やべ



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再開

おっす、久しぶりだな。俺だ、ミキだ。

やっと長い戦いが終わったぞ。一応こっちの認識だと十五年くらいなんだけど…多分そっちなら一年くらいかな?いやー、読者が全員死んじまう前に戻ってこれてよかった。

因みに俺が戦っていたのは時間の流れが特殊な時空の中だから、俺が戦っている間にサナたちが年をとってることはないぞ。前に小説を投稿した日から…一週間くらいかな?

地球の時間の流れと、サナたちの世界、そして俺が戦っていた世界はどれも時間の流れが違うのが原因だが…戦闘のせいでたまに時間が戻ったりズレたりしていた影響で、こんな風に変なことになっている。

 

「ただいまー」

「おかえりなさいませ、マスター」

 

帰ってきたら普通にメレに出迎えられた。メレたちからすると、俺はただ一週間いなかっただけなので、特に変なことはない。

俺からすると十五年くらい振りなので抱きしめたいところではあるけれど…それは、まあ、あとでいい。

 

「おかえりミキ」

「ただいま」

 

長時間拠点からいなくなるときは前もって連絡をしているので、普通に出迎えてくれる。突然俺がいなくなったとしても…一週間くらいは放置される。正直、俺がどうにもならず持ってかれたときって、サナたちにもどうにもできないことが多いからな。

 

「あれ、ミキ、なんだか十五年くらい戦ってた?」

「きっしょ、なんで分かるんだよ」

「魔力の流れ的に?」

 

因みにサナにはバレる。俺の時空の力が流れている影響もあるのだろうけど、サナは俺の変化を勘で当ててくるので、多分そういう特殊能力なんだと思う。

少なくとも俺には分からん。

 

「もうっ、そういうときは呼んでって言ってるじゃん!」

「サナじゃどうにもならない相手だからよ…」

 

あまり説明しすぎると発狂しなねないので、あまり詳細を伝えることはできないけれど、俺が戦っていた相手は普通に次元をずらしたりなんだりしてくるような相手だったのだ。

例え時空の力を使うことができたとしても、サナの力だと存在をバラバラにされてしまう。トキネくらいの時空の力を操る能力がなければ戦うことすらできずに崩壊してしまうだろう。

 

「ちなみに、その戦っていた敵はどうなったの?」

「存在抹消と時空偏差での力の相殺をしたが…魂には逃げられてしまったから、またどこかに現れるかもな」

「大丈夫なのそれ」

「さあ?」

 

とはいえ、敵を構成していた力は俺が回収し、回収できなかった分は消滅させたので、時空をズラしたりなんだりはできないはずである。

あとは、あいつがどこでこの力を得たのかを調査する必要があるが…まあ一旦放置でいいだろう。魂だけでできることなど限られているし。

 

それに、一応ポイントは打っているので、追跡しようと思えば追跡できるのだ。魂を消してしまうと、全時空の総量が減ってしまうので、魂消去だけはあまりしたくない。

できれば管理したいのだけど…あとでゼロに相談しておこう。

 

「あれ、パパ、おかえりなさい」

「ただいまセン、元気だったか?」

「はい、元気です!」

 

うーん、我が娘を見て、帰って来たという実感を抱く。

さて、というわけで、毎週とはいかないかもしれないが、こうして投稿再開するから、よければ読んでくれ。それじゃ、またな。



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崩壊時空の取り扱い

やあ、ミキさんだよ。多分既にこの挨拶はしているよ。

小説の投稿を再開するっていうので、元々の読者さんはきっと最初から読み直すことになっているだろうと予想する。ごめんね。

今日は俺の仕事の一つについて紹介してやろうと思うんだ。というのも、崩壊する時空の取り扱いの仕方だな。

ではここから回想入りまーす。

 


 

時空魔法を使っていると、色々な時空を見ることができる。世界ではなく、時空単位で見ることができるので、世界がどんな状況になっているから確認しないと分からないが、崩壊しかけている時空というのは見るだけで分かるのだ。

 

「この時空…もう終わるな」

 

時空が崩壊するとはどういうことか。それは、存在の消滅を指す。

宇宙の崩壊とかそういうものではないのだ。本当に、その次元が消えるのである。言葉で表現するのは難しいのだけど…シャボン玉の泡が消えるのと似たようなものかな。

 

「確認するかー」

 

そうして俺は時空の中に入る。普通の神ならば禁止されている時空への侵入は、俺の場合は無許可で行える。まあ、時空に入る許可出すの、俺とトキネだし。

さて、俺が時空の確認をするのは主に二つの目的のためだ。

一つは、時空崩壊の要因となったものの探査。時空というのは普通に流れているだけでは崩壊しない。元々不安定な力で創世された時空か、圧倒的に力が足りていない時空でもないと自然崩壊しない。なので、それらに当てはまらない時空が崩壊する原因を探査するのだ。とはいえ、崩壊しかけの時空は中に入ったあとすぐに崩壊してしまうので、探査しても特定できないことの方が多い。

二つ目は、時空に生きる生物の保護。保護といっても別の時空に移動させて生かすとかではなく、アカシックレコードと人間が呼んでいる多次元情報管理機関に情報を集積するだけだがな。時空それぞれで全く異なる環境になっているので、基本的に崩壊した時空に生きていた生物というのはもう他の時空では見ることができないのだ。なので、レコードに記録して保管するのである。知っていれば、神の力で生むこともできるからな。

 

「うーん…砂!」

 

見たところまじで珪素なので、元々の環境は地球に似ているものだったと思われる。ただ、文明の影はなく、まるで砂漠のように一面の砂が広がっているだけである。

 

「【ディメンション】…【魔力探知】…【霊力探知】…」

 

色々と試してみたけれど、生命を見つけることができない。全部土に還ってしまったのだろうか。

天使の翼を生やして、空高く飛んでみる。この世界は魔力が全くなくて、それ以外の力が空気中にある様子もない。ここで魔力を使ったら、俺自身が生み出す魔力以外で回復する方法はないだろう。

 

『ヒカリたち、ちょっと供給多めで頼む』

『了解です!』

 

魔力供給を増やして移動開始。魔法を使っての超高速移動。

しばらく飛んでみるが、周囲から生命を見つけることはできなかった。それに、どれだけ行けども砂があるばかりで、建物の跡すら見つけることができない。

生命というのは賢いもので、基本的にどこかに生きているものなのだけど…たまにこういう完全に死んだ時空というのも存在する。もしくは、そもそも生命が生まれなかった時空か。

因みに、見てるのはその星だけで、時空単位で見ていないだろって思うかもしれないが…こういう時空って、もうこの星しか残っていないんだ。宇宙空間に出ても、真っ暗闇だろう。実際、この星は常に真っ暗である。光魔法を使って周囲を照らさなければ何も分からない。まあ暗視を自分につけることもできるんだが。

 

「【探知結界】…む?」

 

その時、何かを探知した。それは、超高速でこちらに向かって飛んできており、すぐに…

 

「うわっ!」

 

回避。冒険気分で光魔法を使っていては危ないので、自分へのバフに切り替えて、相手をよく見る。

見た目は人間だけど、背中には幾何学的な模様が浮いており、その力で浮いているようだ。生体魔法で認識してみると、どうやら半分人間の半分機械…いわゆるサイボーグ的な奴だと分かった。テクノの仲間かと思ったのだけど、どうやら違ったようだ。

 

「-/--/-/--/-/-/--/-/-/--/----/--//-/-/--/」

「おっと言語が分からん」

 

時空魔法、言語解析…この時空に過去ログから言語ログを抽出し、理解する。

 

「誰ですか、あなたは」

「おっと見た目に反して言葉が丁寧だった」

 

まあ確かに見た目は少女なので、いいのだけど…

 

「俺はミキ、調査に来た」

「調査?一体何の?」

「この時空の崩壊原因だ」

 

普通なら時空神に関する情報は一切喋らない。だが、こういうときは隠し事をしてもどうせ時空ごと消滅するので、正直に話す。腹の探りあいをしている時間は、実のところないのだ。

 

「時空の崩壊?一体それはなんなのですか?」

「この星が消滅するってことだよ。何か知ってるか?」

 

一応探査をしながらこの時空の過去ログを見ているのだけど…いまいち原因が分からないのだ。一万年くらい前までは普通の時空だったのだけど、急に崩壊が始まっている。

 

「…でしたら心当たりがあります」

「お?」

 

時空というのはこの星だけの現象ではないので、何も知らない可能性もあるのだけど、まさかの一発目のヒット。とはいえ、たった一つの事象で崩壊することもないので、多分全部ではないだろうけど。

 

「それは私がこの姿になった原因でもあります。ついてきてください」

「ふむ…聞いた俺が言うのもあれだけど、何も聞かないんだな」

「ここが終わっているのは、私も理解しています」

 

住人も、もう長くないだろうことは認識しているらしい。まあ、これだけ飛んで初めて見つけた一人がこれなので仕方ないのだろう。ちなみに、移動距離的には地球三周くらいはしている。

 

「名前は?」

「名前はありません。既に忘れました」

 

時空の崩壊は端から消えていく。それは、認識だとか存在、記憶もそうだ。多分、この世界の生物は最大でも数年の記憶しか残っていない。

だが、だとすればこの少女が原因を知っているのも不思議だ。まあ、ついていけば分かるだろう。

 

「ここです」

「ふむ、未知の事象」

 

たどり着いたのは、大きな大きな穴。砂を常に吸い込み続けているところを見ると、今も少し拡大しているのだろうか。

穴の近くに立ってみると…なるほど、吸い込まれるような感覚になる。どうやら、この穴自体に少し吸引力があるらしい。風も相まって、近くにある砂はずっと吸い込まれているということだろう。

 

「この穴はいつから?」

「知りません。しかし、この穴がすべてを飲み込むところを、私は見ました」

 

俺は時空魔法で過去を視る。砂ばかりを飲み込む中で、人や構造物、空間すらも吸い込んだようだ。

どうやらこの時空は、よくある端っこから消えていくタイプの時空ではなく、この穴によって徐々に崩壊していった時空のようだ。

だが、時空の中にある穴がものを吸い込んだところで、時空の総量は減らないはずだ。時空自体にもある程度質量保存則はあるので、穴が砂やら空間やらを吸い込んだところで、時空が崩壊することはない。

 

「ふむ…」

 

俺は穴に飛び込む。吸引力があるとはいえ、俺が魔法を使えば余裕で振り切れるほどの力なので、飛び込んで調査しても大丈夫だろう。

穴は蟻地獄のように、中心に向かって深くなっており、飲み込まれたものはすべて中央にあるだろう。

ブラックホールのようなものかと思えば、穴の中心以外は普通に立つことができ、しっかりとした地面の感触がする。砂の奥に確かな感触があるので、むしろこの世界で珍しい地盤ということにもなる。

 

「この気配は…なるほど」

 

中心に近づいたとき、すべてを理解した。

この穴は、時空の裂け目だ。何らかの要因でこの時空に裂け目が生じて、この世界のものが放出されていったのだろう。時空の外、いわゆる時空と時空の狭間にある空間は、質量というものはなくなってしまうので、一度放出したものを呼び戻すことはできない。

 

「だが、謎は残るか…」

 

時空の裂け目というのは簡単には作られない。極獄界滅灰燼魔砲(エギル・グローネ・アングドロア)的なやつを撃ったり、神羅万象を斬る能力で時空ごと斬ったりしない限り生まれないのだ。

俺なら時空魔法で簡単に裂け目を作れるけれど、それができるのは俺だけなので関係ない。

 

「おーい、ここに何があったか知って…む?」

 

穴の中心から戻ってくると、サイボーグ娘はいなくなっていた。

一体どこにいったのかと気配を探ると…後ろ。

 

「っ!熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!」

 

凄まじい爆撃。戦争でもそうそう見ることのないような火力が襲う。

非常に強固な盾である熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)ならばそれをすべて防ぐことができるが…それよりも。

 

「どういうつもりだ?」

 

サイボーグ娘が飛びながら俺を爆撃していた。ミサイルをはじめ、レーザーやガトリングのような武装も見える。

もしかして、元々この時空は科学力が発展していたのかもしれない。いや、そうでもないとサイボーグなんて生まれないだろう。

 

「++-+--+-++-+++-++--+」

「おっと違う言語」

 

先ほど理解した言語とは違う言語を話すサイボーグ娘。先ほどと同じ手順で読み解くと、それはこの世界で使われていた完全な機械語だった。

 

「侵入者、破壊」

 

サイボーグ娘の目は赤く光っており、先ほどまでの理知的な雰囲気を感じられない。

ふと、魂の状態を見てみると……この穴に吸われている。僅かではあるが魂に変質が生じているのが分かる。

 

「そうか、ここにいるせいで正気を失ったか」

 

俺が解析している間も爆発音は鳴りやまない。この盾がなければこうも解析することはできなかっただろう。

 

「ならどこか行こうな。投影…烈風!」

 

魔剣を投影、突風を巻き起こしサイボーグを遠くに吹き飛ばす。少なくとも、この穴の吸引力の外まで飛ばさなければ状態は改善しない。

とはいえ、魂の一部は既に放出されてしまっており、先ほど言った通り元に戻すことはできない。魂が変質してしまっているのはどうしようか。

 

「武装、変更」

「もうちょいかな…天竜の咆哮!」

 

ここなら僅かも吸引力を感じない。魂がこれ以上欠損することもないだろう。

とはいえ、正気に戻るのは時間がかかるので、それまで拘束しておく必要がある。

 

「縛道の九・撃!」

 

赤い光によってサイボーグ娘を拘束…できなかった。どうやら、威力が弱くて拘束するに至らなかったようだ。

やはり機械、力に関しては普通の人間の何倍も力があるらしい。

 

「なら少々痛いが我慢しろよ…縛道の九十九・禁!」

 

先ほどよりも強固な帯によって動きを完全に固定する。空に飛んでいたのも、地面に打ち付けることで固定。

帯だけでなく、杭などでも拘束しているので、流石のサイボーグでも力技で振り切ることはできないようだ。

 

「さて、これで…うわっ」

 

レーザーを避ける。

見ると、サイボーグ娘の口からレーザー銃が見えている。どうやら武装はどこにでもあるらしい。

 

「フェルーラ!」

 

紐を取り出して口に魔法で巻く。手足が使えない今、この魔法でも拘束可能だ。

俺はサイボーグ娘に近づいて、ディスタントミュートという魂に直接干渉する魔法で魂をいじくる。魂魄魔法も併用しつつ、欠けた部分をなんとかしよう。

サイボーグとはいえ元々人間なので、しっかりと魂はある。完全に消えてしまっているので再生では戻せないけれど、ある程度こねこねしてバランスを保てる。

 

「~~~~!」

「はいはい静かにしててねー」

 

よし、これでいいだろ。

取り敢えず記憶やしぐさ、人格などは変えないままに魂のバランスを保つことができた。少々感情の部分で差異があるけれど…感情というのは一時的な発露なので、あまり影響はないだろう。

動かなくなったので、口の紐をほどく。

 

「な、なんですかこれっ!」

「お前が暴れるからだろ」

「あ、あばれ…?いえ、早くほどいてくださいー!」

 

さっきまでと違って、随分と雰囲気が変わったな。やはり、感情が乗っているから受け取る印象も変わる。

大丈夫そうなので、術をすべて解く。

 

「ううぅ…」

「記憶は保持されているはずだから確認しろ」

 

さて、サイボーグ娘をなんとかしたので、元々の質問をする。

 

「あそこの穴、何があったか知ってるか?」

「え?知りませんね。私は比較的後期に生まれたので」

 

聞くところによると、穴がこの世界で認知されたころには、既に手遅れだったらしい。そもそも、時空の裂け目が原因となっているならだれにも解決することはできないけれど…

 

「既にそこの記録はこの世界から失われているし…特定はできないか」

 

時空崩壊の調査は失敗。生態系の保護も…できそうにない。

 

「そうだ。誰か生きている人は知らないか?いや、人じゃなくてもいいから何か生きているものは…」

「この世界で他の生き残りを見たことはありませんね」

 

だめかぁ…

うーん、人間とサイボーグのハーフって別に時空全体でみると珍しくないんだけど…いや、そうか。どう扱ってもいいなら、貰ってしまおう。

 

「なあ、このままこの世界で消えるのと、どうなるか分からないけど生きられるの、どっちがいい?」

「……それ、聞く意味あります?」

 

死んだ方がマシになることもあるけれど…きっと大丈夫だろう。それに、火力は申し分なさそうだ。

 

「よし、ならお前は初時空に招待ということで…この世界からはさっさと去ろう」

 


 

現在、初時空。かつて時空魔法で遊んでいるときに生まれた、トキネに怒られた時空だ。

そこで現在、サイボーグ娘改めピュティは管理人をやっている。俺が建てたログハウスに住んでいるのだ。

 

「ミキさん、どうしたんですか?」

「お前との出会いを振り返りながら仕事の説明をしていた」

 

崩壊時空はあのあと崩壊した。文字通り、消滅したのだ。

一応あのあともう少し調査したけど何か分かることはなかった。崩壊時空の調査で誰かに会うのも久しぶりだったのだ。それ以上を求めるのは難しい。

 

「そういえばミキさん、変な果物があったのであげますね」

「ありがとう」

 

ピュティから貰ったのは青いリンゴみたいな果物。まじで真っ青なので食欲はわかない。

今日の分はこれで終わりにして、初時空を次の話にするか。

えっと、これで魔法を切って



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初物時空の生成条件

これで魔法を使えば…始まったかな?始まったね。

よし、前回の続きだ。今回は初物時空について紹介しよう。過去に初物時空が生み出された経緯については説明しているので、忘れた人は読み返そう。

 

「ピュティ、これ食えるのか?」

「食べなきゃ分からないですね。ミキさん、何食べても死なないので毒味してください」

 

ピュティの感情問題だが、魂を変質させたほどの喜怒哀楽はないけれど、最終的にそれなりに感情の発露をするようになった。人間らしい反応で、こっちの方が俺は自然体でいられる。

 

「仕方ない」

 

青いリンゴを食べる。

硬っー!なんやこれ。何混じってんねん。顔面痛いって。

 

「岩じゃねえのこれ」

「いえ、きちんと木に実ってましたよ?」

 

模倣魔法でなんでもかみ砕く顎を手に入れることができれば食べれるだろうが…少なくとも既に食べる気力は失せている。

基本的に物質の硬度というのは、その物質の密度に比例している。構成要素も関わってくるが、結局それも原子密度による硬さである。この果実がここまで硬いとなると…もしかしたら、めちゃくちゃ肥沃な大地なのだろうか。

 

「でもこれ、種取り出せなくね?」

「うーん…もしかして、実のまま埋めるんでしょうか」

 

植物が実を作るのは、偏に増えるためである。俺たちの腹を満たすために実を付けているわけではなく、動物が果実を食べたときに種も一緒に飲み込むことで、運搬を動物に任せているのだ。そうして、いつか糞として出てきた種は、そこでまた新しく木になる。

そういうわけで、食べることのできない果実というのは、そもそも果実としての役割を果たしていない。

 

「もしかして、これ殻か?」

「ああ、なるほど」

 

果実に見えるけれど、実は殻なのであれば説明がつく。種自体を守るために、種子を殻に入れる生物も多いのだ。

 

「面白いから、これは保管庫に入れておいてくれ」

「分かりました」

 

保管庫というのは、ピュティが住んでいる家の中にある時空倉庫のことだ。俺の保管庫とは別である。

その中には、この世界で生まれた面白い生物を収納している。研究などに使うためだ。ちなみに、珍しいものという意味では、どれも基本的に無二のものなので、全部珍しい。

この時空はウイが管理している影響もあって、新しいものしか生まれないのだ。既存の植物の種を植えても、育ってくれないのである。多分そういう時空の理があるのだと思う。

 

保管庫の中に青いリンゴを入れてきたピュティが帰ってくる。入れたものに固有名はない。いちいちつけていても管理しきれないからだ。

 

「中でセリスさんが呼んでましたよ」

「む?行くか」

 

セリスというのは、この時空の住人のもう一人。この世界で生まれた、知性のある魔物の姫様である。

これ、本当に凄まじいことなのだ。違う時空で生まれたのに、俺たちと会話ができるのだ。生まれたばかりで言語を習得しているはずもなく、俺たちが近くにいるだけで会話能力を得たのである。

 

「来たわね」

 

因みに、前は大きな蜘蛛だった。今は普通の少女の姿をしている。別に擬人化魔法を使ったわけではなく、いつの間にかこの姿になっていたのだ。

色々と調べたのだけど、セリスは適応能力がずば抜けて高いらしく、すぐに周囲に適応できるらしい。俺たちがセリスを保護できたのも同様の理由である。

 

「この家の中、なんだかムズムズするのよ。何かいない?」

「ふむ?」

 

適応というのは、自己の変化だ。セリスは、周囲環境に何か変化があったらすぐに気が付くのだ。ムズムズすると言って調べれば、何かしら環境変化の原因があるのである。

いつもは外で見つけるのだが、どうやら今日は家の中らしい。この家の中は結界を張っているので生物は入れないはずだが…

 

「【気配探知】」

 

家の中に生物の反応はない。となると大気が変化したかな。

魔法だと大気の精密検査ができないので、こういうときは解析班を呼び出す。

 

「テクター」

「はい、マスター」

 

俺は時空魔法で人型古代戦闘兵器の解析型であるテクターを呼び出す。解析型のメイドは他にもいるのだけど、現在暇してたのはテクターだった。

 

「周囲環境のチェック。家の周囲百メートルも含めてな」

「分かりました」

 

テクターが装備を展開。気温、湿度、大気成分…のみならず、原子配列や分子運動などもまとめて調べてくれる。しかも検査時間、僅か五秒。

まだ解析型がテクターしかいなかったときに、俺がテクターを改造しまくった結果である。その影響でテクターは俺のことを少し怖がっているようである。

 

「…前回調査時との差異を表示します。どうやら、大気成分が変動しているみたいですね」

「酸素が減ってる?」

 

テクターの結果を見ると、酸素濃度が十パーセントしかない。俺は空気が要らず、セリスは適応で酸素はいくらでもよく、ピュティも酸素は少しでもあれば生きられる。完全な機械であるテクターも酸素は要らない。

要は、ここに今いる人たちでは酸素濃度が減っても苦しくならないのである。気づかないわけだ。

 

因みに、大気成分が地球と同じなのは、それを参考にしたからである。そもそも、地球に行くまで大気成分なんて知らなかったし。

 

「うーん、植物はあるんだけどなぁ…」

「外部環境も酸素が減少していますね。本当に植物、光合成してます?」

 

いやまあ、この世界なので光合成しない植物も生えてくるけれど…てか光合成しない植物のほうが多いけれど…

 

「家の中に観葉植物置いとくか」

「それがいいですね」

 

元よりそこまで酸素は必要ない人々なのだ。環境変動が起きない程度の植物さえあれば問題ない。

俺は時空魔法で植物を設置。折角なのでサボテンとかローズマリーとかコスモスとか…魔法の力でいつでも咲いている花々を設置する。

しばらくすると、セリスの揺れが収まった。どうやらムズムズは解消されたようだ。

セリスが設置された花を見ている間、ピュティは一つの花をじっと見つめていた。

 

「この花、なんですか?」

「これは蒲公英だな」

 

俺が設置した中でピュティが興味を示したのは黄色い花。日本で採ってきた蒲公英である。

 

「これ、この世界で見たことある気がします」

「ほお?」

 

この世界で生まれるものは、どの時空を見ても存在しないようなものばかりだ。そういう理なのである。

そのため、日本の蒲公英を見たことがあるというのはまっこと変な話ではあるのだけど…

 

「どこで見た?」

「すぐ近くです。こっちです」

 

ピュティに案内されてきたのは、家の裏。こんなところに蒲公英が?

実際にピュティが指さしたところには…確かに蒲公英だ。一応特殊な方法を色々試して物質構成まで見たけれど、確かにこれは蒲公英である。

 

「ここって既存のものもできるんですね」

「うーん…そうだなぁ…」

 

とはいえ、蒲公英なのは花の部分だけである。

俺は蒲公英の咲いている地面に向かって、梅紅を突きさして…発火!

 

「グギャアアアアア」

「せい」

 

地面から飛び出してきた魔物を全力で回し蹴りで吹き飛ばす。ふう、危機は去った。

 

「えぇ…」

「擬態系の魔物だな。とはいえ、擬態する対象が既存の植物だったのは驚きだが…」

 

擬態する魔物というのは、周囲の環境を参考にして擬態することが大半だ。現在のこの世界には蒲公英がなかったはずなので、擬態する対象が存在しないのだ。

もしかしたら、生まれた時から蒲公英に擬態するという特性があったのかもしれない。

 

「研究しなくてよかったんですか?」

「家の周囲の魔物を放置する必要はないからなぁ…」

 

まあ研究はまた見つけたらやろう。多分死んでないはず。

基本的にこの世界はこれを繰り返している。研究したところで同じ生物は生まれないし、そこまで意味はない。ただ、初めてのものというのは面白いので放置している。

ただまあ希望を言うなら街を作りたいなぁ…



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