暁のスイーパー 〜ガンスミスに花束を〜 (さんめん軍曹)
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復活せよ!錆びついたワン・オブ・サウザンド


こんばんは、さんめん軍曹です。
本編が続いていながらスピンオフを作ってしまいました。

同時進行で更新していこうと思っていますので、よろしくお願いします!


 

 

「う〜ん…」

 

ここは横須賀鎮守府の地下にある射撃場。

10レーンもある広々とした空間には、先程からただ1人銃を撃ち続けては悩んでいる様子の人間がいた。

 

「長い間全く撃ってなかったからなあ…。ヘソ曲げても仕方ない、か」

「よう篠原。何をそんなに悩んでるんだ?」

 

後ろから声をかけてきたのは冴羽獠。とある事情から代わりに横須賀鎮守府の提督をやっている、裏の世界でNo.1のスイーパーだ。

 

「あぁ。実はな、久々に俺の銃を引っ張り出して手入れでもしようかと思ったんだが、どんだけ掃除しても、どんだけサイトを調整しても弾が右に逸れるんだよ」

 

篠原と呼ばれた男は、台の上に置かれた"スミス&ウェッソン M1917"を指差しながら少し困ったように言う。

 

「ほーん。どれ、ちょっと撃たせてくれ」

「ほれ」

 

篠原は振り向きながら、持った銃を手の中で回転させてグリップを獠に向けた。

 

「そいじゃひとつ…」

 

人型の的に照準を合わせ、まずシングルアクションで6発。

次にハーフムーンクリップを用いて.45ACP弾を3発ずつ込め、シリンダーを戻す。

また狙いを定めてダブルアクションで6発撃った。

 

「どうだ?」

「うんにゃ。こりゃ鉄くずも同然のシロモノだな。トリガーが重いし、あちこちに錆が出来ててよく暴発せずに済んでるなって感じ」

「そう言ってくれるなよ。こいつがただの銃じゃないのはお前も知っての通りだろ」

 

S&W M1917。45口径オートマチック用の弾丸を、専用のハーフムーンクリップで装填する一風変わった銃だが、この個体にはさらに特別な仕様が備わっていた。

 

「確かにこの銃は素晴らしい。俺の357マグナムや、海坊主の44マグナムに負けず劣らずのマンストッピングパワーを備えておきながら、本体は細身で扱いやすい」

「そうだ。更に…」

「更にこの銃は、工場で生産される数ある製品のうち、1000挺に1挺出来ればいいと言われているワン・オブ・サウザンドだ」

「うむ。M1917の中でもこいつは特別だ。俺は今まで大事に扱ってきたんだが、あの空白の2年間のせいでこうなっちまった」

「このまま腐らせとくのは実にもったいないな」

「そうだな。…心当たりならある」

「ほう」

 

獠はシリンダーから弾を抜き、提督へ返した。

 

「シカゴだ。シカゴにガンスミスがいる」

「信用できるのか?」

 

獠が心配するのも無理はない。このリボルバーの特殊性から、下手な人間に触らせるとせっかくのワン・オブ・サウザンドが台無しになってしまうのだ。

 

「問題ない。年齢は若いが、かなりいい仕事をする」

「ふうん。シカゴねぇ…」

「裏の世界の住人なら聞いたことはあるだろう。ガンスミス・キャッツの名をな」

「…!」

 

ガンスミス・キャッツ。

アメリカ・シカゴでは名の知れた、2人組の少女が経営している銃工店だ。しかしその裏では賞金稼ぎ(バウンティ・ハンター)として活動しているらしい。

 

「どうやら知っているようだな」

「凄腕のハンターらしいな?片方は幼いガキだが、もう片方は…もっこりちゃ〜ん♡♡♡」

 

篠原提督はズッコケた。

 

 





いかがでしたでしょうか?
提督を主軸に、シティーハンターとガンスミスキャッツを混ぜてみたいと思って作ってしまいました。
勢いって怖いですね()
本編共々よろしくお願いします!


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AIR FORCE ONE


こんにちは、さんめん軍曹です。

あと一巻でガンスミスキャッツを読み終わりますが、はやる気持ちが抑えきれないので投稿しちゃいます()

それではどうぞ!!


 

 

 

ここはアメリカ・シカゴの郊外。

大通りから少し外れたところの道路沿いにその銃工店はあった。

名前はガンスミス・キャッツ。

本日休業の札を掲げているが、中からは銃声がひっきりなしに聞こえていた。

 

「ふぅー…」

 

彼女の名はラリー・ビンセント。表上はこの銃工店の主だが、裏では名うてのバウンティ・ハンター(賞金稼ぎ)として活動をしている(と言っても、現在は休業状態であるが)23歳の女性だ。

 

「ハァイ、ラリー。調子はどう?」

「ミニー・メイじゃない。今日はお店は休みよ」

「そんなつれないこと言わないでよ。せっかく2人でモーニングを食べようと思ったのに」

 

扉を開けて入ったのはミニー・メイ。彼女はラリーの相棒で、その筋では爆弾魔(ボム・フリーク)として有名だ。見かけこそ13歳に見えるが、本来はなんと19歳である。

 

「あんた、ケンはどうしたのさ」

「今日は家でゆっくりするって。久々なんだからご飯くらい一緒に食べようよ」

「はいはい。片付けたらすぐ行くわよ」

「それから、ラリー宛に国際郵便が届いてるわよ」

「国際郵便…?今時手紙なんて珍しいわね」

「日本からだって」

 

怪訝に思いつつも銃を片付けてダイニングへ向かったラリーは、テーブルの上にある国際郵便の封を開けようとして差出人の名前を見た。

 

「差出人の名前がない?不審だわ…」

「まさか爆弾だったりして」

「はは…まさかね」

「冗談よ冗談。火薬のにおいや変な膨らみもないから、爆弾は入ってないわ」

 

ラリーは恐る恐る手紙を開封し、中の文章を読んだ。

要約すると、

『久々に現場復帰したが銃が使い物にならないので、日本へ来て整備して欲しい』

との事だった。

 

「M・S……まさか!」

「誰?」

「あたしが駆け出しの頃に組んだことのある日本人よ。彼は2年前に殺されたって聞いてたけど…」

「名前は?」

「マサト・シノハラ。元傭兵で、最後はアドミラルをやってたらしいわ」

「アドミラル…?」

「日本は今、シンカイセイカンって未知の化け物と戦ってるようなの。相手には普通の銃弾じゃ効かなくて最初は敗戦手前だったんだけど、カンムス?って言う存在が現れてからは五分五分みたい」

「随分詳しいのね」

「一時期話題になってたの知らない?」

「全然。最近あまりテレビ見ないし」

「全く…」

 

深海棲艦がうようよいるこのご時世に海を渡るのは危険極まりない事であるが、手紙によるとどうやら彼と仲の良い空軍の1人が専用機で送ってくれるらしい。

 

「うーん、どうしてかしら…」

「何が?」

「アドミラルをやっている彼がどうして殺されたのか。そしてなぜ今になってあたしに手紙をよこしたのか…」

「そうねー…」

 

しばらく考え込むラリー。

 

「あのさラリー」

「ん?」

「行ってきたら?日本」

「んー…メイは?」

「あたしはパス。日本なら前に行ったし、なんならあたしは家庭持ちだからねェ」

「うーん…まァたまには良いか。何があったのか気になるし」

 

 

そして数日後、スコット空軍基地。

右手にビジターセンターが見える門で歩哨に立つ兵士が辺りを見ていると、スコット・ドライブからシルバーのフォード・クラウンビクトリアが1台やってきた。

 

「IDを見せて下さい」

エアフォース(アメリカ空軍)のゴードン・ミッチェル中佐だ。日本へ連れて行く客人を乗せている」

「では、お連れの方も身分証の提示を」

「はいこれ。私はラリー・ビンセント。シカゴでガンスミスとバウンティ・ハンターをやってるわ」

「確認しました。では、よい旅を」

 

2人の身分証を確認すると、兵士は持ち場へと戻っていった。

ゴードン中佐はコラムシフトを操作してアクセルを踏み込み車を発進させる。

 

「しかし驚いたわ」

「どうした?」

「まさかマサトが空軍にも顔が効くなんて」

「簡単だよ。彼がまだ傭兵だった頃に合同で作戦を組んだことがあってね」

「へえ。彼が生きてることは知ってたの?」

「いや、正直知らなかった。だから彼から連絡が来た時は大変驚いた。嬉しかったがね」

「どうして彼は今も死んだことになってるのかしら?」

「軍の内部で腐敗があるらしくてな。その勢力に目をつけられないために、今はMP(憲兵)のフリをしているらしい」

「そしたら今アドミラルの席に座ってるのは誰なのよ」

「そこまでは聞けなかったな。ただ、凄腕のスイーパーとまでは言っていた」

「日本で凄腕のスイーパー…噂には聞いたことあるけど…まさかね…」

「っと、着いたぞ」

「専用機って…まさかこれ?!」

 

ラリーが驚くのも無理はない。何せ目の前には、F/A-18F スーパーホーネットが離陸準備をしていたのだから。

 

「冗談じゃないわ!民間人が何の訓練もなしに乗れるわけないでしょ!!」

「ブリーフィングとちょっとした訓練はするさ。第一、君は路上で何度も派手なカーチェイスをしているだろう?」

「車と戦闘機じゃ訳が違うわよ!」

「いいじゃないか。今更帰るとは言わせないぞ。もうビザも用意してあるんだからな」

「そんな無茶な…」

 

こんな無茶苦茶な展開に対し、この先が思いやられるラリーだった。

 

 

数時間後、太平洋上空。

 

 

「酷い目にあった…」

「どうだ?空の旅は」

「離陸のGで危うく今朝食べたスクランブルエッグをぶちまける所だったわ」

「おいおい勘弁してくれ。コックピットはミキサーじゃないんだぞ」

「そりゃこっちのセリフよ!帰りは普通に船で帰りたいわ」

「まあそう慌てなさんな。空中給油もバッチリ済んだし、ヨコタまでものの数十分で着く」

「でも、どうして空軍が海軍の戦闘機なんか持ってるのよ」

「強いて言えば俺の好みだな。なに、話はつけてある」

「あっそ…」

 

もはや突っ込む気力を無くしたラリーだが、それも束の間。突如起きた爆発と黒煙で辺りは真っ暗になった。

 

「なになに?!どうなってるのよ!」

「どうやら敵襲らしい!噂のシンカイセイカンだろう!」

「安全じゃなかったのーっ?!」

「それ以上喋ると舌噛むぞ!!」

「きゃあああああああ!!!!!」

 

周りで爆発しているのはおそらく高射砲の砲弾だろう。そう当たりをつけたゴードン中佐はバレルロールをした。

だが敵も狙いは正確なようで、速度が高いはずのスーパーホーネットを狙って次々と撃ってくる。

中佐はすかさずインサイドループで回避。右へ左へバンクを繰り返しているうちに、レーダーに敵機の反応があることに気がついた。

 

「ほーん、敵さんのお出ましか。ひとつドッグファイトと行きますか…ねっ!」

 

言うが否や、いきなりブレイクで方向を変えると、ダイブアンドズームで幾つか撃ち落とす。

 

「まだまだァ!」

 

ハイ・ヨー・ヨーでさらに数機。

だが、敵も負けじとこちらの後ろにピッタリくっついてきた。

 

「敵さんもなかなかやるなァ!」

「良いから早く終わらせてよ!!」

「ラリー!」

「今度はなに!?」

「"コブラ"は好きか?!」

 

スーパーホーネットの速度を上げて、敵機との距離を開いて行く。

 

「私の愛車は"キングコブラ"よ!!」

「気に入った!それじゃこいつをプレゼントしてやるよ!………ここだァ!!!」

 

コブラ。戦闘機が機首を上げ、ほぼ垂直になる姿が蛇のコブラの威嚇する姿勢に見える為にそう名付けられた。

通常ではかなり高い技術が要求される上にSu-27やF-22 ラプターなどに限定されるマニューバ(機動)であるが、ラリーの目の前にいる男はそれを難なくやってのけた。

敵機は自機を追い抜く形で前に行く。

そして機首を水平に戻すと、ミサイルであっという間に撃ち落としてしまった。

 

「………」

「ラリー?」

「は、はは、は…」

「ちょっと道草を喰っちまったが、まもなく日本本土だ」

 

中佐が指で示した先には、確かにうっすらと山のようなものが見えた。

 

「……ねえ」

「どうした?」

「シンカイセイカンって、普通の銃弾じゃ効かないのよね?」

「そうらしいな」

「じゃあ、さっきはなんで機関砲やミサイルで撃ち落とせたの?」

「…たまたまじゃないか?」

「いや…もしかして…」

 

その刹那、撃ち落としたはずの敵機が後ろに現れた。

 

「…おい、嘘だろ…」

 

しかもさっきよりはるかに数が多い。

 

「これってもしかして、やばいやつじゃ…」

 

あっという間に周りを囲まれたスーパーホーネット。

ラリー達はこのまま深海棲艦の基地へ連れて行かれた。






いかがでしたか?
なんかこう、アメリカっぽい感じを出してみたかったのですがなかなかうまく行きませんね…
ドッグファイトは気合入れて調べましたが、違和感があっても脳内補正でお願いします(他力本願)

さて、深海棲艦の基地に連れて行かれたラリー達、一体どうなるのでしょうかね…

次回もご期待ください!


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DANGEROUS ZONE


こんにちは、さんめん軍曹です。
久しぶりの投稿になりまして非常にお待たせしてしまいましたorz

やっと書き上がったので、早速ご覧ください!!


 

 

「いったいなんなの、ここは…」

「シンカイセイカンと言うからには海底に基地があると思ったが、どうやら地上にもあるらしいな」

 

とある島の洞窟。その奥に設けられた監獄の中に、ラリーとゴードンは閉じ込められていた。

 

「しかし呆れたもんだ。空対空ミサイルも機関砲も役に立たないなんてな…」

「全くもってその通りだわ。この分だとあたしの銃もダメね」

「まあ、ここに連れてこられる時にビーコンを起動したから、日本側の誰かが信号をキャッチしてくれることを祈るだけだな」

「当てになるかしら…」

 

未知の化け物を相手になす術がないラリーたちは、ただ天井を見上げるしかなかった。

 

 

場所は変わり、付近の海中。

 

「…ねえ」

「何でちか」

「微弱だけど気づいた?」

「救難信号なのね?」

「うん。深海棲艦がいるっぽい島から」

「ただ事じゃ無さそうでちね。鎮守府に報告を入れるでち」

 

 

数時間後。

 

「喉が渇いた…」

「お腹も空いたわ…」

「くそっ、いつまで続くんだ…」

「わからないわ。でも今は耐えるしかない…」

 

 

そして同じ頃、横須賀鎮守府にて。

 

「それは本当か?」

「機体まではわからないけど、アメリカ軍機からの信号で間違いないと思うのね」

「となると人質がいる可能性があるって事だな…よーし」

「出撃なのね?」

「ねえねえ獠ちん」

「ん?」

「鈴谷もたまにはついてっていいかな?」

「いいんじゃないか?」

「獠。もしかしたら…」

「わかってるさ篠原。例のお客さんの可能性があるって事だろ?」

「うむ。ヘリの操縦は任せてもらっても?」

「いいぜ。俺は海から行く」

 

 

しばらくして、夕暮れの海上。深海棲艦のいる島に向かって数機のMH-6 リトルバードが飛んでいた。ラジオからはジミ・ヘンドリックスのCrosstown Trafficが流れている。

伊19はギターの音に合わせて口笛を吹いていた。

「〜♪」

「えらくご機嫌じゃないか伊19!」

「当たり前なの!通常兵器で深海棲艦にどれだけ歯が立つか、この手で試せる時が来たのね!!」

「試すのはいいが無駄撃ちはするなよ!そいつのおかげで資源をごっそり持ってかれたんだからな!!」

 

リトルバードの外側でシートベルトをつけて座っている、伊19と呼ばれた艦娘がその手に持っているのは、.50BMG弾を使用する対物ライフルのバレット・M95だ。

同社のM82と比べるとオートマチックではなくボルトアクション式であり、マガジンがグリップより後ろにあるプルバップ式で全長が短いので取り回しがいい。

彼女は弾倉を取り出し、弾を確認するともう一度差し込んでボルトを操作した。

 

「妖精さんに無理言って特別に作ってもらった、対深海棲艦用のアーマーピアシング弾。これがどんな威力なのかとっても楽しみなの」

 

そう言いながら、うっすらと島が見えてきたので彼女はゆっくりとスコープを覗いていった。

 

 

島の海辺では重巡リ級が辺りを見回っている。

 

「ン?アレハナンダ…」

 

リ級がふと水平線を見てみると、黒い点がこちらへ近づいてきていた。

 

「!テキシュウカ!!」

 

踵を返して緊急事態を知らせようとしたが、腹に何度か強い衝撃が走る。

 

「ガハッ…!」

 

一瞬何が起きたかわからないリ級だったが、腹を見てみると大きな穴が空いていた。

 

「グッ…クソッ!!」

 

どんどん近づいてきたヘリコプターに向かって何発か砲撃するが、痛みのせいでなかなか当たらない。

そして銃声が聞こえる前に、リ級の頭は消し飛んだのである。

 

 

「うーん…」

「どうした?」

「リ級でも数発なのね。やっぱり魚雷や砲弾には劣るのね」

「よくこれだけの距離で当てられるな…しかも動きながら」

「それも提督と獠ちゃんのお陰なのね。イクが射撃大会に出たら金メダルでオセロが出来ちゃうの」

「そりゃあ大したもんだ…」

 

 

 

 

「…ねえ」

「どうした?」

「何だか外が騒がしくない?」

 

格子の外に向かって耳を凝らしてみると、確かに敵の動きが慌ただしくなっているようだ。

 

「確かに騒がしいな。一体なんだろうか」

 

慌てた様子で現れた深海棲艦と見張りの深海棲艦が何やら話している。

 

「!」

「何かあったか?ラリー」

「今、銃声が聴こえたわ」

「本当か」

「ええ。多分バレットね」

「ライフルか。しかし通常兵器では…」

「そうね。誰だかわからないけど、このままじゃ私達と同じ目に合うわ」

「ヘリの音も聞こえるな。もしかしたら俺達を救援しに来たのかも知れない」

「このままではやられちゃう。どうしたら…」

「オイ!」

 

話し終わった見張りの深海棲艦が声をかけてきた。

 

「オマエラハココニイロ。オリヲデヨウナンテカンガエルナヨ!」

 

言うな否や、化け物は地上へと走り去っていった。

2人は顔を見合わせる。

 

「出るなと言われると…ねえ」

「出たくなるのが性ってもんだよな」

 

そう言うとラリーは懐から小さなケースを取り出した。

 

「あいつら、私たちをただの人間と思ってろくに身体検査もしなかったのが運の尽きね」

 

 

「ねえ大井っち」

「どうしました北上さん?」

 

付近の海では北上や大井、陸奥などの艦隊が深海棲艦を掃討していた。

 

「なんだかイクっち、すごく張り切ってると思わない?」

「確かに…」

「どうしてだろうねぇ」

 

確かに伊19が空からライフルを撃ちまくっている様子を見るに、いつもより士気は高いようだ。

2人がどうしてか考えていると、陸奥が横から口を挟んできた。

 

「今回救出する人に関係があるんじゃないかしら?あの子は獠を越えるために日頃から銃の腕を磨いているけど、カスタムにも興味があるみたいだしね」

「へえ。スナイパーならではだねぇ」

「しかしあの子、あんなに撃って弾薬は大丈夫なんでしょうか?」

「あとで資源の残りを見た提督が泣いてそうだねー」

「あらあら…」

 

後日、言うまでもなく提督が膝から崩れ落ちたのは別の話。

 

 

「うっへぇ、伊19のやつ撃ちすぎだっての」

 

その頃、獠は艦娘達(特に伊19)が派手に戦っている中で、警備の手薄な場所を見つけて島に上陸していた。

彼の目の前に広がっていた光景は、まさに死屍累々と言った様子だ。

 

「こんな所で文句を言ってる場合じゃないな。どこかに入り口があるはずだ…」

 

獠は辺りをゆっくり見回す。すると、茂みの影に洞窟のような穴がぽっかりと空いているのが見えた。

 

「…あった!早いとこお姫さんを見つけなくちゃな」

 

そう呟くと、彼は自らの気配を消し暗闇の中へさっと溶け込んでいった。

 

 

「開いたわ!」

 

獠が基地へ侵入した時、ラリーは懐から取り出したピッキング用のツールを使って扉の鍵を開けることに成功していた。

 

「さすがガンスミス。手先が器用だな」

「褒め言葉はいいわ。とっととここから出ましょ」

 

扉をゆっくりと開け、2人は監獄から抜け出す。

彼女は扉をくぐり抜けると、ふと自分が開けたばかりの錠前を見つめた。

 

(ミスティ…)

 

何を隠そう、ピッキングの技術はラリーの元仲間であるミスティから教わっていた。

その少女は現在、諸事情により彼女らとは離別してしまっている。

 

「ラリー!何をモタモタしてるんだ!」

 

ゴードンの呼ぶ声で我に返ったラリーは、急いで彼の元に戻った。

 

「ったく。さっさと出ようって言ったのはお前さんじゃないか」

「ごめんごめん」

「いったい何を考えてたんだ?神妙な顔をしていたが…」

「ちょっとね。それより、いくらなんでも警備が手薄すぎない?」

「確かに。敵の姿どころかアリの1匹見当たらんな…」

「ぞっとしないわね…」

 

その時、背後で微かに物音がしたのを彼女は聞き逃さなかった。

 

「誰?!」

 

振り向きざまに自身の愛銃であるCZ75を抜いたラリーは、そのまま音の正体へ銃口を向ける。

 

「!!」

「ダッソウシャハヨウシャナクコロス」

 

視線の先には深海棲艦がこちらへ砲を構えていた。

奴らに対して通常兵器では歯が立たないのは先刻承知だ。今にも発射されそうな連装砲に対して、ラリーは久々に少しの恐怖を感じた。

 

「ぐっ…」

 

もはやこれまでと諦めかけたその時、1発の銃声が鳴る。

そして、目の前でドサリと倒れ込む化け物。

突然の事で訳がわからないまままた後ろへ銃を向けると、そこには硝煙を上げるコルトパイソンを構えた1人の男が立っていた。

 

「やれやれ。危ないところだったぜ」

 

 





さて、いかがでしたか?

ようやくの獠とラリーの邂逅、そして深海棲艦を相手に彼らはどう立ち向かうのか…

後半の一部のデータが破損して消えてしまい、非常にがっくりしましたがなんとか持ち直すことができました…

では、次回お会いしましょう!


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Checkout 〜獠とラリーの危険な脱出劇〜【前編】


こんばんは、さんめん軍曹です。
やっと獠ちゃんとラリーの邂逅にこぎつけることができました()
ここから彼らはどうやって島を脱出するのか。
今回はその前編となります。

それではご覧下さい!!


 

 

「あなた、誰なの?」

「通りすがりのヒーローといったところさ」

 

ラリーの問いかけに、獠は澄ましたように答える。

 

「コルトパイソン…。噂は本当だったみたいね」

「おやおや。俺を知っているのかい?」

「噂だけね」

「光栄だね。このあとディナーでもどうだい?」

「あら。女性を誘うなら、まずはその銃口を下ろしてからにしてほしいわね」

「出来ることならそうしたいところだが、そういうわけにもいかなくてね」

「…このまま撃つつもり?」

「どうだか。試してみるかい?」

 

不敵な笑みを浮かべる男を前にして、彼女の頬を一筋の汗が伝う。

横で2人のやりとりを見ていたゴードンはこんなことをしている場合じゃないと口を挟もうとした。

 

その時だった。

 

「ジュウセイガキコエタゾ!」

「コッチダ、イソゲ!」

 

ラリーの後ろから多数の深海棲艦が姿を表す。

奴らの声に驚いたラリーは振り返るが、この状況を予見していた獠はすぐさま、

 

「隠れろ!!」

 

と叫ぶと同時に飛んで、彼女を陰へ押し倒した。

 

「いたた…」

「大丈夫か?」

 

敵からの銃撃が激しい中、パイソンで数発応戦しながらラリーを抱き起こす獠。

 

「私は大じょ…へ?」

 

自分の尻にくすぐったいような、妙な違和感を覚えてふと見ると、逞しい左手が彼女の尻を撫で回していた。

 

「いっ…?!」

「フム。どうやらもっこりヒップちゃんは無事なようだ」

 

信じられない!

その気持ちを拳にありったけ込めた彼女は、目の前の男の顔面に思い切り右ストレートを喰らわせる。

その威力は凄まじく、191.4センチメートルもある巨漢を吹っ飛ばして向かいの壁にめり込ませた。

 

「あんたこんな時に何考えてるのよ!最っ低!!信じらんない!!!」

 

怒りで我を忘れたラリーはつかつかと歩くと、通路で倒れている男の赤いシャツの胸倉を引っ掴んだ。

 

「何が通りすがりのヒーローよ!!ただの変態じゃないのよ!!」

「らりーひゃん、おひふいへ…」

「これが落ち着いてられるかっての!」

「オマエライイカゲンニシロ!!」

「「あっ」」

 

深海棲艦からの鋭いツッコミで我に帰る2人。

 

「しまったぁー…」

「ホンットサイテー…」

 

獠は持っていたパイソンを地面に落とし、無抵抗のサインを示した。

その様子を、獠たちのいた反対の陰から見ていたゴードン。

半ば呆れていた彼だが、床に落ちていたラリーの銃がふと目に入る。どうやら先程獠に押し倒された弾みで落としたらしい。

もう1度獠たちと化け物の位置関係をこっそり見直したゴードンは、意を決して陰から躍り出た。

 

「ラリー!」

 

叫ぶや否や、相手の頭上にある照明に向かって数発発砲。

火花を派手に散らして電球が割れると、その破片がばらばらと敵に降り注ぐ。

その一瞬の隙を見逃さなかった獠は、持ち前の身体のバネを活かしたパンチと回し蹴り、そして肘鉄などで深海棲艦たちを圧倒していった。

 

「ふぅ。間一髪だったな」

「ほぼアンタのせいじゃないの…」

「助かった。ええと、おたくの名前は…」

「ゴードンだ」

「あんたが篠原の言ってたパイロットか。冴羽獠だ」

「マサトは元気か?」

「相変わらずの悪運だぜ」

 

空軍中佐とスイーパーは握手を交わす。

 

「さて、外で俺の仲間達が待っている。急いでここを出よう」

「もちろんだ」

「言われなくてもそうするわよ」

 

次々と出てくる深海棲艦を始末しながら、出口へと向かう獠たち。

 

「ちぃっ!しつこいぜ全く!」

「ねえ」

「どうした?」

「あなたの銃、どう見ても普通のリボルバーなのにどうして奴らに効くの?」

「話すと長くなる。その話は鎮守府へ帰ってからだ」

 

先を急ぐ3人の前に、ようやく外の光が見えてきた。

 

「やっと出口だわ」

「油断するなよラリー。まだ敵はいるかもしれないんだからな」

「わかってるわゴードン」

 

一同はそのまま外へ出るが、獠がすぐに2人を静止する。

 

「待て。気配がする」

「ええ。うじゃうじゃいるわね」

 

ラリーが言うな否や、3人に向けて複数の投光器が当てられた。

月明かりに慣れていた獠たちは、あまりの眩しさに顔をしかめる。

 

「ムダナテイコウハヤメテブキヲステロ!ソウスレバイノチダケハタスケテヤル!」

 

出口を囲う大勢の深海棲艦。

はたから見ても多勢に無勢の状態であるが、獠は1人余裕の笑みを浮かべていた。

そして、前へゆっくりと歩みを進める。

 

「ちょ、ちょっと!?」

「大丈夫さ。こいつらに俺を撃てやしない」

 

あくまでゆっくりと時間をかけて近づく獠に、化け物どもは後退る事しかできなかった。

 

「トマレ!トマラナイトウツゾ!!」

「やれよ。楽しませてくれ」

 

獠の気迫に圧倒される深海棲艦。

彼らが目の前の男に向かって砲火を浴びせようと引金を引こうとした時、変化は起きた。

辺り一面に地響きのような音がこだまする。

 

「…なんの音?」

「ヘリのようだな」

「おいでなすったか」

 

暗闇の向こうから数機のリトルバードが飛び出してきた。

 

『お待たせなのね!どうやら間に合ったみたいなの!』

 

突然のヘリの襲来に驚く深海棲艦たち。

ヲ級などの空母が艦載機を出そうとするが、間に合わず林の中からの砲撃によって倒されていった。

 

「やっほー冴羽っち。無事に会えて何より」

「遅かったじゃないか北上」

「ごめんよー。ここまで来るのに手間取ったわ」

「まったく。冴羽さんはいつも無茶するんだから」

 

ムッとした様子の大井が愚痴をこぼす。

 

「まあまあ、それはお互い様って事で」

「援護するこっちの身にもなってください!間に合わなかったらどうするつもりだったんですか!」

 

大井からの鋭い指摘に思わずたじろぐ獠。

 

「大体!前に言いましたよね?北上さんを泣かせる真似はするなとあれほど…」

 

大の男が戦場のド真ん中で少女からお説教される光景は、あまりにシュールだった。

「す、すごい勢いね…」

「あはは。まーあの子はあんな感じだからねー。根は優しいんだけどね」

「ところで…あなた達が提督の言っていたアメリカからのお客様かしら?」

「うむ。アメリカ空軍中佐のゴードンだ。君達がマサトの言っていたカンムスか?」

「その通りよ。私は戦艦陸奥。それで、この子は…」

「あたしは雷巡の北上。あっちで冴羽っちに説教してるのが妹の大井。よろしくねー」

「私はラリー・ヴィンセント。シカゴでガンスミスをやっているわ」

 

お互いに握手を交わす。

その頃には、ヘリコプターは着陸して提督をはじめその他の艦娘達が降りてきていた。

 

「みんな、詳しい話は後だ。もうすぐこの島に深海棲艦達がわんさかと押し寄せてくるぞ」

「俺はホーネットを取りに行かないと。ラリーはどうする?」

「悪いけど1人で行って。私は戦闘機に乗るのはしばらくごめんだわ」

「こりゃ手厳しい…」

 

ゴードンは腰のホルスターからコルトM1911A1を抜くと、スライドを引いて弾を込めた。

 

「俺はひと足先にヨコタへ行く。無事だったらまた会おう」

「気をつけてなゴードン」

「ああ、大丈夫さマサト。ラリーをよろしくな」

 

腰を低くしたゴードンは、そのまま森の中へ消えていった。

 

「さて、俺らも船へ行くとするか」

「え?ヘリに乗るんじゃないの?」

 

ラリーが疑問を抱くのも当然だ。

海から行くよりも、空から行った方が手っ取り早い。

 

「ヘリは残念ながら艦娘たちで一杯なんだ」

「はい?」

「獠ちゃん空はあまり得意じゃないの。それに船なら時間をかけてもっこり出来るし…」

「えっ」

 

ここで獠はラリーの両手を取る。

 

「ちょ」

「さあラリーくん!今から船へ戻って、もっこり国際親善と行こうじゃないか!!」

「なっ」

「善は急げだ、行くぞラリー!!」

「い、いやああああああああ!!!!」

 

獠は目にも留まらぬ速さでラリーの手を引いて駆け出していった。

 

「…あとで香さんに言わないといけないわね」

「その心配はないぞ大井」

「?」

「船には頼れる秘書艦がいる」

 

 

「さあここだラリーくん!早く乗ってもっこりしようじゃないか」

「ま、待ってよミスター冴羽」

「怖がることはない。大丈夫、俺に身を任せてくれ」

「そ、それより後ろ…」

「へ?」

 

獠はゆっくりと後ろを向くと、そこには100tハンマーを振りかざした鈴谷が立っていた。

 

「うりゃあああああ!!!!!」

 

ハンマーに叩き潰される獠。それを目の前で見ていたラリーはへなへなと尻餅をつく。

 

「危ないところだったね。だいじょぶ?」

 

鈴谷から差し出された手を取り、彼女はゆっくりと立った。

 

「まあ…ね。あなたもカンムス?」

「うん。あたしは鈴谷!」

「助けてくれてありがとう。私はラリー」

「いいってことよ。それより急がないと奴らが来ちゃう」

「ミスター冴羽!早くしないと置いていくわよ!」

 

潰されっぱなしの獠を尻目に2人は船へ向かう。

それとほぼ同時に、甲高い音を立てながらホーネットが飛び立っていった。

 

彼女らも脱出をすべく走っていたが、物事はそう上手くは行かなかった。

静かに係留されていた船が、突如大爆発を起こした。

その後、立て続けに轟音が響く。

 

「なっ?!」

「どうやら遅かったみたいだね。…獠ちん」

「ああ。プランBだな」

「プランB?」

「今来た道を戻るぞ。鈴谷も北上たちと合流して、先にここから脱出してくれ」

「本当にいいの?」

「ああ。海坊主に連絡を頼む」

「わかった。じゃあ後でね」

「…死ぬなよ」

「なにそれ死亡フラグ?ガラにもないこと言うじゃん」

 

そう言いながら彼女は、どこからか取り出したボストンバッグを放り出す。

 

「一か八かの大博打なんだ。それくらい言いたくなるさ」

「とか言いながら自身大アリな目してるけどね。まあいいや、またあとでね」

 

そう言うと、鈴谷は別方向へ走り去っていった。

 

「さて。広いところはあるか?ラリー」

「着陸する時に見えたんだけど、反対側に灯台の跡地があるわ」

「よし。そこへ向かうとするか」

 

バッグを担いだ獠とラリーは、今来た道を戻っていく。

深海棲艦はすぐそこまで迫っていた。

 

 






いかがでしたか?
今回はセリフが多めになっております。
獠たちは広い場所で、いったいどんな脱出をするのでしょうか?
次回もお楽しみに!

(感想お待ちしております)


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Checkout 〜獠とラリーの危険な脱出劇〜【後編】


こんばんは、さんめん軍曹です。
前回では獠とラリーの邂逅を書きましたが、今回はどうやって島から脱出するのか。
書いてて非常に楽しかったです。

それでは本編どうぞ!


 

「ここか」

「ええ」

 

獠たちは先程船が係留されていた場所と反対側の岬へ来ていた。

 

「時間がない。早くこれを着るんだ」

「なにこれ?」

「脱出に必要な道具さ。もうすぐ迎えがくる」

 

そう言いながら普段着の上から素早くオーバーオールを着た獠は、布切れにヘリウムガスを注入していった。

ぷくぷくと膨れていった布切れの正体は、丸い形をした小さな気球だ。

 

「ちょっと待って。こんなの上げてたら敵に私達はここにいますよって言ってるようなものじゃない!」

「だから言ったろ?一か八かって」

「本当に無茶するわね…」

 

獠はしばらくガスを入れていたが、ある程度のところで見切りをつけてタンクと気球を切り離す。

そのまま空へ浮かび上がる気球を眺めていたラリーは、先程から抱いていた疑問を投げかけた。

 

「ねえミスター冴羽」

「獠でいいよ」

「なら獠。どうしてあなたはあたしを知ってるの?」

「会う前に君のことを少し調べさせてもらったんだ。本名はアイリーン。獲物はCZ75の1stモデルで、相棒のミニー・メイと銃工店を営んでいおり、愛車はフォード・マスタングのキングコブラ。もっとも、これは2台目で最初はシェルビーGT500に乗っていた」

「よくご存知で」

「歳は23歳。彼氏なし。普段はタイトスカートに黒のパンストを履いていて、愛用の下着はレース付きの…」

 

ラリーは無言でホルスターから銃を抜く。

 

「そしてバスト・ウエスト・ヒップはそれぞれ…」

「それ以上喋ると脳天に鉛玉ブチ込むわよ」

 

額に青筋を立てながら撃鉄を起こすラリー。

 

「じょ、冗談だってば」

「まったく」

「あ、武器はしまっておいた方がいいよ」

「どうしてよ」

「スカイフックって知ってる?」

「へ…?」

 

彼女はきょとんとする。

獠に詳しいことを聞こうとしたが、森の中からいくつかの気配と足音が聞こえてきたのでそれ以上の質問ができなかった。

 

「どうやらすぐそこまで来ているらしい」

「隠れた方が良さそうね」

 

どうにか隠れられそうな場所を探すが、周りにはほとんど影になりそうなものはない。

 

「これってもしかして」

「ん?」

「とんでもなくまずい状況じゃ…」

「まあね」

 

どんどん近づく足音。

 

「どっ、どうすりゃいいのォ…!」

「どうにもならなそう」

 

そして森から多数の深海棲艦が姿を現した。

 

「カンネンシタヨウダナ。ニンゲン」

 

多数の深海棲艦から砲を向けられる2人。

 

「さあてどうだかね。それより、ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「シヌマエニキイテヤロウ」

「お宅らの中に空母はいる?」

「こんな時に何聞いてるのよ!」

 

彼女は獠に抗議をするが、彼は気にするそぶりを見せずに囁いた。

 

「喋るな。舌噛むぞ」

「え?」

「で、どうなんだ?いるのかいないのか?」

 

彼は深海棲艦に向き直ると、もう一度質問をする。

 

「メイドノミヤゲニオシエテヤロウ。オマエラノカンムストタタカッテイルノデ、コノナカニクウボハイナイ」

「それを聞いて安心したよ」

 

暗闇の中から微かにプロペラの音が聞こえてくる。それは明らかにこちらへ近づいてきていた。

 

「ナ、ナンダ!?」

「時間切れだ。迎えが来た」

「迎えって…まさか!」

 

ラリーは、この時になってようやくスカイフックの意味を察した。

 

「やっと気づいたかラリー」

「待って…冗談でしょ?!」

 

次第に青ざめていく彼女だがもう遅い。

 

「クッ、ナニヲシテイル!ウテ!!」

 

深海棲艦たちは砲を向けようとするが、目の前にいる人間に撃つか空に撃つかで迷っていた。

そうこうしているうちに、暗闇から颯爽とMC-130が姿を現す。

 

「ま、待って。あたし、心の準備が」

「喋るなラリー!行くぞ!!」

 

上空の輸送機が通過すると同時に彼女に抱きつく獠。

 

「やっ、」

 

その直後、ハーネスがぴんと張ると共に衝撃を感じて2人の足は地面から離れていった。

 

「いやあああああああああ!!!!!!!」

 

ぐんぐんと空高く持ち上げられる2人。

 

「ニガスナ!ウテ!ウテェ!!」

 

地上の化け物たちは次々と発砲するが、ひと足遅かった。

砲弾は彼らにかすりもしない。

 

「ひいいいいいいいいい!!!」

「どうだい!空の旅は!!」

「いいわけないでしょ!!」

「俺は幸せだけどなあ!こうしてもっこり美女ちゃんと密着できるんだもの!」

「空は得意じゃなかったんじゃないのーーーーっ?!!」

「そこに美女がいれば空だって飛べるさ!!」

 

時間にしておよそ6分。しばらくの間2人は空中を漂っていたが、ウインチによって巻き上げられ、輸送機に収容された。

 

「ご苦労だったな冴羽殿」

「武蔵ちゃんでないの」

 

武蔵によって引き上げられた2人。獠はすぐにオーバーオールを脱ぐが、ラリーはぺたんと座り込んで放心状態のままだ。

 

「彼女、ずっとああだが大丈夫か?」

「すぐに気を取りなおすさ」

「ははは…はは…」

 

 

ラリーを武蔵たちに任せて獠はそのままコックピットへ行くと、操縦席には海坊主がいた。副操縦士は夕張が務めている。

 

「さんきゅー海ちゃん」

「フン。なにがプランBだ。もう少しマシな作戦を考えろ」

「まあそう言うなって」

『海ちゃん聞こえる!?』

「ああ。どうした」

 

撤退中の鈴谷から通信が入った。

どうやら追手がいるらしい。

 

『こっそり帰ろうとしたら見つかっちゃった!』

「大丈夫か」

『うちらは今んとこ平気だけど、さっきからこいつらしつこいんだよねえ!ちょっちヘルプお願いできない!?』

「燃料があまり無い。一回だけだぞ」

『さんきゅー!獠ちんたちは無事に拾えた?』

「ああ。このもっこり男が死ぬわけないだろう」

「ぬぁんだと?!」

『あっはっは!んじゃよろしくぅ!』

 

通信が切れると、海坊主は機体を左へ旋回させた。

 

「獠。お前は銃座に回れ。艦娘たちのサポートをしろ」

「はいはいっと」

 

実はこのMC-130はただのフルトン回収用輸送機ではない。

機体こそMC-130ではあるが、攻撃型のAC-130Hをベースに対深海棲艦向けに艦娘用の艤装を搭載している。名付けてAC-130Mだ。

本来GAU-12ガトリング砲のある場所には25mm3連装機銃を、ボフォース40mm機関砲は65mm/64単装速射砲を、そしてM102・105mm榴弾砲のある場所へは試製51cm砲をそれぞれ装備。

これは明石と夕張が共同でかつ2人の趣味としてやりたい放題に開発したものであり、今回が試験を兼ねた初の実戦投入である。

もはや艦娘たちの戦い方そのものを覆してしまうようなシロモノであるが、そこは気にしてはいけない。

 

獠がコックピットから戻ると、それぞれの銃座に不知火、摩耶、武蔵が座っていた。

 

「さて、君たちの出番だ。海上にいる鈴谷から航空支援の要請があった」

「うっしゃ!待ってたぜ!」

 

思わずガッツポーズをする摩耶。

 

「不知火はいつでも用意できています」

「空から奴らを攻撃するなんて初めてだ。本当にうまく行くのだろうか」

「なあに心配はいらないって。そろそろ見えてきたぞ」

 

 

「ぬわあああああ!!!」

 

同じ頃、付近の海上では鈴谷達が弾幕の張られた間を掻い潜って敵から逃げていた。

 

「もーほんっとにしつっこい!!」

「鈴谷さん!航空支援は要請したんですか?!」

「あったりまえ!そろそろ来るはずだからみんな頑張って!」

「ひ〜、避けるので手一杯だわ」

 

飛んでくる砲弾をするりと躱す北上。弾道を見切ってギリギリで避ける様子はまさに彼女の戦闘力の高さを表していた。

 

「よく避けられるわね…」

「これでも頑張ってる方だけどね〜」

「す、凄いのね…あら?」

 

陸奥が空を見ると、幾つもの光の筋が落ちてきているのが見えた。

 

「…流星群?」

 

のように見えたが、そうではない。

光の雨は瞬く間に敵の上へ降り注いだ。

次々と爆発炎上する深海棲艦たち。

空からの攻撃だとようやく察知したヲ級から艦載機が放たれるが、機銃と速射砲によってあっという間に撃墜されていく。

そして、敵の中心部には一定の間隔で51cm砲が炸裂し大打撃を与え、彼らの部隊はAC-130Mから放たれた砲弾によって速やかに壊滅。気がつくと鈴谷達の目の前には死屍累々の光景が広がっていた。

 

「凄い…あっという間…」

「なんていうか、気合入ってるねー」

「気合いというか、チートすぎるっしょ」

「か、帰りましょっか…」

 

圧倒的な大火力で敵を制圧し窮地の鈴谷達を救ったAC-130M。しかし、作戦後アーマーピアシング弾と共に消費した資源の総内訳を見た提督は静かに泣いていたという。

 

 

「へへっ!やったぜ大成功だ!!」

 

満面の笑みを浮かべる摩耶。武蔵や不知火も満足げな様子だ。しかしラリーだけは若干引き気味である。

 

「えげつない火力ね…」

「まあね。しばらくは奴らも大人しくしてるだろう。さて…」

「ん?」

 

獠はラリーの手を取り引き寄せる。

 

「うぇ?!」

「邪魔者は片付いた。これでゆっくり君ともっこり出来るな」

「ちょ、やめ」

「大丈夫、怖くないから」

 

彼女にキスをしようとする獠。彼の顔を掴み必死に逃げようとするラリー。だが屈強な男を前に、女性の力では歯が立たない。

 

「ひ、ひぃっ!」

「むーん…ぎょえっ?!」

 

あともう少しの所だったが、彼は摩耶からの踵落としを喰らったのでもっこりを果たせなかった。

 

 

「ありがと海ちゃーん!」

『へっ。気をつけて帰れよ』

「夕張っちもおつかれさーん」

『ありがとう!おかげで今回は貴重なデータが取れそうだわ』

 

ぐるりと旋回して本土へ戻っていく巨大な攻撃機。作戦成功を祝う花火のように大量のフレアが夜空に散りばめられていった。

 

 

 

 

 






いかがでしたか?
ぶっちゃけやりたい放題が過ぎました()
本来ならあり得ない事だらけですが、そこは獠ちゃんのもっこりパワーと妖精さんの努力という事で(((

それでは次回をお楽しみに!(書くのも楽しみですw)
※感想お待ちしておりますm(_ _)m


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