ロンメルの受難 (ゆっくり霊沙)
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天下布武の章
小学校に入学したと思ったら戦国時代に飛ばされていました・・・死にそう


「終わった……」

 

 そう呟いたウマ娘の名前はロンメル……15歳

 

 6月の未勝利戦でスリーアウト(3戦連続9着以下)が成立してしまい2ヶ月間の出走停止処分がURAから通達された

 

 これに伴いトレーナーからチームの除籍を言い渡され途方に暮れていた

 

「くよくよしていても仕方がない。少し走ろうか」

 

 トレセン学園のコースはチームに所属していないと使うことができないのでロンメルはロードワークを行う

 

 雨がしとしとと降り始め国道を走りながらどうすれば勝てるのかを考えていると……ピカッと辺り一面が光に包まれた

 

 ゴロゴロドゴーン

 

 雷がロンメルに直撃

 

 ロンメルはここで本来ならば死という永遠の眠りにつくハズであった……しかし三女神様は安らぎを与えることはせずにロンメルに試練を与えた

 

 

 

 

 

 

 

 天文18年6月(1549年)

 

 ロンメルが気がつくと家の中に居た

 

「ここは……」

 

「ひぃ! だ、誰だ……よ、妖怪だぁ!」

 

「妖怪?」

 

 目の前には怯える男女がおり、男は裕福そうな見た目で、女性も小綺麗な着物を着ている

 

 怯えた男は刀を持ち出して斬りかかろうとしてきたが、ロンメルは怯えながらも話をしようとどこの犬養首相だよという説得で刀を向けられながらもとりあえず話し合いとなった

 

 混乱も一周回ると冷静になる心理である

 

「私から名乗ります……ウマ娘名をロンメル、名前は砂山東狐(すなやま とうこ)と言います。15歳です!」

 

「平野長治……妻のお鈴だ」

 

「ここは何処で何年でしょうか?」

 

「尾張の国、津島だ。天文18年の春過ぎだ」

 

 ロンメルは尾張の国という昔の地名と目の前の男女の服装、家の作りからここが昔の日本であると仮定した

 

「ウマ娘という種族をご存知ありませんか?」

 

「ウマ娘だ? 知らねぇな……妖怪にも種類があるのか?」

 

「妖怪って……いや、妖怪で良いです。私は東京という場所からやって来まして、気がついたらここに居たのです」

 

「東京? 東の京だぁ? 聞いたこと無いな」

 

「妖怪(ウマ娘)と人間が共存する場所でして……雷にみまわれた際にここに来てしまったかと」

 

「……そのしっぽ本物か? 動かしてみろ」

 

 ロンメルはしっぽを左右に振り、本物であることをアピールする

 

「こちらからあなた方に危害を加えるつもりはありませんのでどうか刀を納めてはくれませんか」

 

 男はゆっくりと納刀するが、いつでも抜刀できる体勢で構えている

 

 とにかくロンメルは自身が安全であることをアピールし、とにかく媚びた、土下座した、すがり付いた

 

 この三連コンボにさすがに平野も害は無いと思ったのか話を詳しく聞くことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず迷い人ということは理解した。ウマ娘なるものは聞いたことが無いが、役に立つというのならば置いておいても良い。まず現状を話そう」

 

 天文18年といえば管領の細川晴元が三好長慶による反乱により京から将軍を連れて逃亡、三好家による畿内統治が始まり、尾張では約20もの織田家による分裂統合が発生しており、守護大名の斯波氏の権威が失墜して以来尾張は蠱毒の様な形相であったが、津島を抑えていた織田弾正忠家の織田良信・信定父子、現当主の織田信秀と代を重ねるごとに勢力を増し、その武力で美濃の斎藤家、三河の松平家、駿河の今川家と渡り合う勢力に成長していた

 

 のだが、信秀の息子信長がうつけ者(馬鹿)で歌舞いて城下を練り歩き、親衛隊の武家の次男や三男達を周りに侍らせて歩くものだから今後の織田家は暗いと思われると言われた

 

 津島十五家と呼ばれる名家であり、津島の商業を支えていた者の1人が平野長治であり、妻は十五家筆頭の堀家の娘といえばこの人がどれだけ偉いかわかるだろう

 

 分かりやすく言うと知事が斯波氏でその部下が織田家

 

 津島十五家は地方の大企業で平野はそのグループ会社の社長みたいなイメージ

 

 で文字は昔の文字過ぎて読めないが、四則算特に九九を暗算できる事は評価された

 

 この時代九九ができれば数学者扱いで、それだけで食っていける技能である

 

 それにウマ娘であるロンメルは人の何倍ものパワーがあり、人の何倍も速く走れる、物を運べることを大きく評価された

 

「凄いな流石妖怪だ……武芸の方は何かあるかな」

 

「いや、平和な時代だったので身に付けていません」

 

「なるほど……なら小者として食事は食わせるし、家の店でしっぽや耳を隠して働いてもらおうか。武芸は私が教えよう」

 

 ということで働く代わりに雑用や帳簿の計算をやることになった

 

 他の小者達にも紹介され、怯えられながらも仕事を一緒にしていくこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが戦国時代に来て1ヶ月が経過した

 

 まず髪の色が金髪なので墨で黒く塗り、耳を頭巾で隠し、しっぽも服を工夫して着ることで隠していた

 

 他の小者達からやることを教わりつつ、私からは四則算を教える

 

 ついでに平野様に頼んで算盤を作ってもらった

 

 算盤が有れば更に大きな計算を素早くできるし、ロンメルも算盤を小学生の頃習っていた為地面に設計図を書いて平野様に見せると直ぐに有用性を理解して竹や木材で職人に作ってもらった

 

 平野様曰く

 

「良い拾い物をした」

 

 とのこと

 

 平野様から文字の読み書きや槍の扱い方を教わるが、ロンメルはどうやら武芸に関しては天賦の才があったらしくみるみると吸収し、奥方に薙刀も教わったが1ヶ月で2人よりも強くなっていた

 

 ウマ娘のパワーが有ればこそであり、技量はまだまだであるが、力押しで勝てる為、試合稽古ではなく素振りを見てもらいダメ出しするやり方に変わる

 

 そして一番驚いたことは馬という生物に出会った事だ

 

 平野様の所でも飼育されている馬はウマ娘をそのまま動物に落とし込んだ生き物であり、良い馬を持つのは一種のステータスだと言われ、移動、合戦、開墾、引き荷と生活に欠かせない動物であると紹介された

 

 逆に平野様は私が馬を見たこと無いことに驚いていたが……

 

 

 

 

 

 

 

 平野様の付き添いとして町に出ている時、信長様の御一考と遭遇した

 

 馬に乗って瓢箪片手に町中を確かに練り歩いている

 

 町行く人々は道を開けて通りすぎるのを待つ

 

 するといきなり1頭の馬と私が目が合うとその馬が暴れ始め、乗っていた主人を落として私に向かってくる

 

「東狐!」

 

「……うせろ!」

 

 私は右手を前にして威圧すると馬は大人しくなり、私にすり寄ってきた

 

「お帰りなさい」

 

 そういうと馬は主人の元に戻っていった

 

 その様子を見ていた信長が興味を持ったらしく

 

「娘、名を何と言う」

 

 と聞いてきた

 

「ロンメル……東狐とも言います」

 

「ロンメル……ずいぶん歌舞いた名だ! 気に入った! 名を覚えたぞ」

 

 そう言って信長様は何処かへ行ってしまった

 

 平野様はこの光景を見て肝が冷えたと……

 

 

 

 

 

 

 

 平野様からお使いを任されたのが信長様に名前を覚えられてから1ヶ月後のこと

 

 京まで荷車を引いて針を売り、そのお金で染料の茜や茶を購入し、それを大湊で売って更にそのお金で紅花や伊勢海老を買えるだけ買って戻ってくるように言われた

 

 お金は2貫を渡された(約20~30万円)

 

 これは小者として2ヶ月働いた賃金とも言われ、これをいかに増やせるかで商才を見極めようという平野様のお考えであり、ロンメルは裏側に気がつくとどれだけ稼げるか頑張ってみることにした

 

 まず津島の座で針を買えるだけ買い込み、美濃経由で京を目指す

 

 道中関所があったのでそれを山道の獣道を高速で移動し迂回、針が荷なので束ねて背中の籠の中に居れておけば大丈夫な為空の荷車を引きながら近江の目加田の座に到着

 

 針を一部売却し、酢と味噌、麹を荷車に積んで購入してまたダッシュ

 

 で、酢、味噌、麹を各々樽に入れて運搬

 

 そのまま京の座に到着して針を含めてこれら全てを売却

 

 京は応仁の乱にて廃れており、座で茜と茶葉を購入したら石山までダッシュ

 

 石山の座で茜と茶葉を売却して紙を購入、それを堺にまで持っていき堺の座で紙を売却

 

 堺の座で銅を購入したら山道を通って大湊にまで運ぶ

 

 道中山賊と思われる集団に遭遇したが、荷車を引いても私の脚力の方が勝りそのまま突破、大湊に到着したのがその日の夜だったので宿で一泊し、大湊の座で銅を売却して紅花や伊勢海老を購入

 

 伊勢海老は生なので売るなら急がなくてはならないので、海産物が高く売れる京までダッシュ

 

 昨日あった座の店主に今度は伊勢海老と紅花を売り付ける

 

「生きた海老とは……何処のだ?」

 

「大湊の海老です」

 

「大湊!? 昨日の今日で行ける距離じゃねぇだろ」

 

「協力者が居まして3人係で手分けして買い物をして道中で落ち合い、各々の物資を交換して売っているのですよ」

 

「お、おうそうか……生きた立派な海老だから1匹100銭でどうだ!」

 

「200銭!」

 

「125銭!」

 

「175銭」

 

「150銭!」

 

「まいど!」

 

 樽から大量の伊勢海老を出し売却すると紅花と合わせて50貫まで化けた

 

 座の店主に茶葉をあるだけ買いたいと言って50貫分の茶葉を購入して、それを再び大湊まで運び込む

 

 大湊の座の店主に京の座の店主同様に驚かれたが、茶葉を購入してもらい、伊勢海老と紅花を買って津島に戻る

 

「おつかれさん、どうだった色々回ってみて」

 

「京の廃れ具合は凄まじいですが、堺に行ってみましたら凄く栄えていました。石山の町も凄かったです」

 

「今日仕入れてきてくれた伊勢海老と紅花を差し引いてお駄賃は30貫だ。俺なりに色々と考えたんだがお前をここで縛り付けておくより色々日ノ本を巡って見聞を広げた方が良いと思う。荷車はやるからその30貫を元手に色々試してこい」

 

 平野様はそう仰った

 

 僅か2ヶ月、されど2ヶ月……平野様はお古の武具も譲ってもらいいつでも戻ってきて良いからと言われロンメルは放浪の旅に出る

 

 各地で転売を繰り返しながら資金を稼ぎ、鹿児島まで移動するのだった

 




天文18年8月


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薩摩→尾張

 鹿児島に到着したロンメルは宿で一泊し、旅を続けようとしたところ鹿児島の町で外人と出会った

 

 名をフランシスコ・ザビエル

 

 スペインから来た宣教師である

 

 片言ながら日本語を話すザビエルと忍室文勝というお坊さんの宗教論争を見物していただけなので遠巻きに見ていただけであるが、久しぶりに外人を見て興奮した

 

 その後鹿児島の町の道場に弟子入りをし、刀の扱い方について学んだりした

 

 刀の扱い方についてある程度学んだロンメルは鹿児島を飛び出して種子島に向かった

 

 種子島にて鉄砲の技能を身に付け、50貫支払って自分の火縄銃を購入し、整備を含めて習う

 

 そうこうしているうちに天文18年1549年は過ぎていった

 

 

 

 

 

 

 天文19年(1550年)

 

 鹿児島に戻ったロンメルは道場に顔を出すと塚原卜伝なる人物が道場を開いたことを知り、旅の途中で剣聖の話は聞いていたのでどんな人物か興味が湧き、弟子入りを志願

 

「頭巾を取らず服を深く着こなして弟子入りとは馬鹿げておるな……礼儀無くして武道は身に付かず……出直してきなさい」

 

 と言われたのでロンメルはどうしようか悩んだ末にありのままの自分で弟子入りを志願することにした

 

 宿の女将さんはロンメルの姿を見て仰天し、町行く人々もロンメルの姿を見て驚いた

 

 金髪、馬の耳、馬のしっぽが生えたその姿に人々は恐れおののき、妖怪だの怪物だのと言い合った

 

「ふふふ、フハハハハ! 本来の姿を見せろとは言ったが! 妖怪が教えを乞うとは思っても見なかったぞ! 名を何と言う」

 

「ロンメル! 又の名を東狐」

 

「論目流か! 確かに礼儀を受け取った! 存分に学ぶといい」

 

「ありがたき幸せ」

 

 こうしてロンメルは塚原卜伝の弟子となり約2年間道場で修行を行った後、免許皆伝を貰い、尾張へと帰還するのであった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが道場で修行している間に島津の武将と仲良くなった

 

 ロンメルは酒豪であり、ぐびぐび飲んでも全く酔わない体質らしく島津忠良なる人物と飲み比べや妖怪の居た世界はどんな世界なのか、九九の簡単な覚え方、算盤の作り方を教えたところ大変気に入られていろは歌や合戦のやり方、人の育て方、なんだか良くわからない琉球からもたらされた芋の作り方を知らないかとも言われ見たら薩摩芋だったり(約50年早いです)歳は違えども仲良くなった

 

 そのまま山賊狩りに誘われ塚原卜伝の他の弟子と薩摩兵と一緒に初チェストしたりもした

 

 人とあまりに違う怪力に刀を水平に斬ったところぐちゃり嫌な音と共に山賊が5人ほどぐちゃぐちゃになった事からやはり妖怪だの化け物だの言われたのはご愛嬌

 

 その時刀が折れたので山賊の刀を奪い取りそのままチェスト

 

 結果15人斬りと初めての人殺しなのにピンピンしている自分にロンメルは

 

「あぁ、ヤバイな」

 

 と呟いた

 

 このヤバイなとはもう戻れない位置まで戦国の世にドップリ浸かってしまったこと、殺人への嫌悪感が少ないことの2つの意味だった

 

 指揮をしていた島津忠良殿からは

 

「無我夢中なるのも良いが少し冷静にならざるは死ぞ」

 

 と言われてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 天文21年1月(1552年)

 

 薩摩を出たロンメルは四国方面を回って尾張へ帰還

 

 薩摩芋の種芋を持っていき平野様の元へ行くと平野様からこの2年半で起こった出来事を教えてくれた

 

 安祥城という織田の中でも三河への拠点が今川の攻撃により陥落したり、知多郡の水野家が降伏したりと織田は徐々に追い詰められているらしい

 

 その織田弾正忠家も織田信秀様が病気となり、信長様が執務代行を行っているが長くはないとも言われた

 

 ただ良いこともある

 

 美濃の蝮こと斎藤道三との婚約同盟が成立していることにより美濃方面は当面の間は安泰

 

 更に津島、熱田という大規模(戦国換算 堺や石山などは超大規模)な港町を有していたことによる税金は織田弾正忠家の財政にゆとりを与えていた

 

 とりあえず薩摩芋を平野様に渡し育て方も教え、ロンメルは薩摩での出来事を平野様に話し、平野様に今後どうするか訪ねられたので、交易で稼いだ金で私塾を開こうと思っていると話した

 

「私の見た目妖怪じゃないですか。一応舐められない程度には武芸も磨きましたので算術や剣術、種子島(火縄銃)の技術や文字の読み書き等を教えればなぁと思いまして」

 

「良いじゃないか。せっかくだ支援しよう。建物は借金が嵩んで潰れた商家を使うと良い」

 

「ありがとうございます」

 

 ということでロンメルは私塾を開くこととなった

 

 そして姿を隠すのを辞めた

 

 金髪に馬の耳としっぽを隠さずに町に出て立て札片手に私塾を開くことをアピールして回った

 

 津島の町は軽いパニックになった

 

 妖怪が現れたと町の人々は恐れおののき、騒ぎを聞き付けた武士の方々が次々と現れ

 

「妖怪が出たと聞いたが!」

 

「お侍様あいつです!」

 

 私を取り囲む

 

「何の妖怪だ?」

 

「馬の妖怪らしいが」

 

「女だな」

 

 等と言うが

 

「私は確かに妖怪だ! 妖怪が私塾を開くのはいけないことか?」

 

 と問うと

 

「どんな妖怪かわからんが倒せば名を残せるのでな……倒させてもらうぞ」

 

 と次々に挑みかかってきた

 

 この手の輩は薩摩でも毎日の様に有ったので安物だが真剣を抜刀し、挑みかかってくる侍達を相手取った

 

 最初は1対1であったが、腕利きの奴らが敵わないとわかると2対1、3対1と徐々に増えていった

 

 ロンメルは殺さない様に丁寧に立ち向かいながら刀を弾き飛ばしたり、槍の柄を斬ったり、蹴りで悶絶させたりしながら大立ち回り

 

 結局ロンメルをその場に居た誰も倒せないまま一刻が過ぎ、うずくまった男達の中心にロンメルが佇んでいる光景が出来上がった

 

「薩摩の男の方が強かったぞ~、もっと気合い入れろ」

 

 野次馬達も女の姿をしているのに多数の男達を圧倒する姿から鬼ではないかと囁かるようになる

 

「あ、私塾を開くので読み書き算盤に腕っぷしが強くなりたい奴も来な! 相手するから」

 

 そう大声で叫んでロンメルはその場を去ろうとしたが

 

「実に面白かっぞ」

 

 と馬に乗った侍がやって来た

 

 信長様だ

 

 ロンメルは頭を下げ地面に片膝を付ける

 

「妖怪、名を何と言う」

 

「ロンメル! 又の名を東狐!」

 

「……お前2年前の娘か?」

 

「覚えていてくださりましたか」

 

「……妖怪だったのだな」

 

「正確にはウマ娘という種族になりますが」

 

「馬娘かなるほど……面白い、お前俺の部下になれ」

 

「お断りします」

 

「なに?」

 

「手順を踏まざるは道理に反する故に……世の中には順序があります信長様、身元も良くわからない妖怪をいきなり家臣に加えるのは無用な敵を作ります。故に合戦で活躍したらその時は仕えることをお許しください」

 

「……くく、ハハハ! 面白い女だ! 妖怪とは皆こうなのか?」

 

「いえ、私も妖怪の国から出た当初は右も左も分からぬ小娘でありましたが、戦国の世を旅し、塚原卜伝様に弟子入りして色々と学び今の私がありまする故に……私の方が異端でしょう」

 

「なるほどな……よし、お主らロンメルに鍛えてもらえ、ちゃんと対価を払ってな。ロンメル、私塾を開くのであろう? 誰でも入れるのであるのならこ奴らを鍛えてやってくれ」

 

 と親衛隊の面々を押し付けられました

 

 こうしてロンメルの私塾が始まった

 

 

 




戦国編はこんな感じにかるーくやってこうと思います


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信秀死去

 私塾を開いて直ぐに部屋の扉を一部除いて外して外からでも授業風景が見えるようにし、親衛隊の皆さんへの教育を始める

 

 この人達家も侍の家系だけど家を継げない次男以下の人々なんで一応最低限の教養はある

 

 ただ算術関係は駄目なので一から教える

 

 なぜ算術を覚える必要があるのかとか武芸を教わりに来ているのだぞとか言われるが

 

「まず信長様の下で武芸で活躍するのは良いけど自分の領土や給金のやりくりをするのに自分で算術位できないと下に馬鹿にされるし、算術ができれば年貢や税の計算で信長様の役に立てる。兵の数を把握できれば算術を駆使して敵味方の損耗から作戦を立てられる。私も作戦に関しては手探りな部分があるけど互いに切磋琢磨すればやれることが増える! 武芸一辺倒では出世に響くぞ~」

 

 とにかく信長様の役に立てることを強調する

 

 コイツら全員信長様の魅力にとりつかれて付いてきているヤンキーの親分と子分の関係に近いのでとにかく親分に誉められたいのだ

 

 武芸も勿論教えるが、私も島津忠良様に教わった集団での戦い方や趣味だった現代将棋や囲碁を教えて皆で研究し合う

 

 信長様も父親の信秀様が病気のため代わりに政務を行っていることから子分達を率いて町を練り歩く事があまりできず、空いた時間をそのままロンメルの私塾で時間を潰している感じなのでその時間でとにかく彼らに詰め込む

 

 まずラジオ体操から始まり部屋の掃除、学科をやって食事を一緒に作り、午後から走り込みや素振り、試合形式の稽古、集団行動も教えていく

 

 小学校でやる内容と塚原卜伝から教わった稽古、効率的な現代の筋トレとウマ娘として研究し続けてきた速く長く走る方法を教えていく

 

 それを町の人々に見せることにより入門希望者が徐々に現れ、賃金を払い食事を作る女性を募集し、町で揃う材料を元にレシピをロンメルは寝る時間を削って作り、それを公開した

 

 更にロンメルは京から落ちぶれてきた貴族に声をかけ教養の先生として呼んだり、学生同士での学び合いを推奨したり、武芸大会や算術大会等を開いて競争を煽ったりもした

 

 妖怪が私塾を開いたという噂から旅人から色んな人が見に来て、時折私に挑んで返り討ちにし、弟子にしてと繰り返していると3ヶ月で塾の人数は300人を超えてしまった

 

 ロンメルは津島十五家の方々に頭を下げて融資してもらい更に広い建物を建て、学校を開校した

 

 忙しくてロンメルは貴族の先生を追加するため京で物乞いをしていた貴族達に職を与え、親衛隊の皆さんに部下を持つ練習と体育の教官をしてもらったり、平野様の手伝で算術ができる人を集めたりとロンメルは走り回った

 

 働いた

 

 

 

 

 

 そうこうしているうちに信秀様が亡くなり、葬式で信長様がお香を遺骨に投げつけるという暴挙に出たという噂を聞いて直ぐに戦の召集かかかる

 

 今回の戦は信秀様ご存命の頃には可愛がって貰っていた山口親子が今川方に裏切り、それを討伐するという戦いである

 

 那古野城に親衛隊の面々は呼び出され、町の衆や農民達も参加し、織田方800余りが集まる

 

 信長が大将の戦いはこれが初めてであるが、四家老の内藤勝介や蜂屋般若介がサポートする

 

 ロンメルは黒色の軽装な鎧で身を固め、大太刀(1メートル20センチ)を片手に参戦する

 

 この太刀は薩摩で山賊相手に戦い途中で刀が折れた話を島津忠良にした際に薩摩の鍛冶屋に作らせた特注品であり、薩摩芋の育て方のお礼として受け取った物だった

 

 重さも1.5kgと普通の刀の2倍近くの重さがあり、それはそれは目立つ

 

 更に耳や髪色も隠していないので余計に目立つ

 

「妖怪殿のお手並み拝見しますぞ」

 

「おや、平手殿お久しぶりです」

 

 ロンメルに話しかけてきたのは平手政秀という信長の次席家老であり、信長から爺と呼ばれるほど信頼されていた人物で、私塾を建てた際に信長と授業をよく見に来てくれた人物で、妖怪で女のロンメルをちゃんと対等に扱ってくれる希少なお方でもある

 

「さて手柄を立てますか」

 

 

 

 

 

 

 

 敵方の山口親子は1500の兵を動員し、赤塚に陣を構え、そこに織田方が突入する形で戦が始まる

 

 最初は弓により矢戦が行われるが、ロンメルは矢戦をやっている場所から持ち前の脚力で迂回すると側面に回り込む

 

 槍戦が始まった瞬間に後退した山口方の弓隊に突入した

 

 横一線……ロンメルの大太刀が振るわれた瞬間に鈍い音とゴリっとなにかが砕ける音、そしてビチャビチャと水の音が響き渡る

 

 雑兵がロンメルが軽く一振しただけで5人ほど横に吹き飛び、雑兵同士がぶつかった勢いで死んでいく

 

 骨が折れ、皮膚を突き破って臓物を辺りに撒き散らしながら死んでいく様に驚愕と恐怖によって足がすくむ

 

 押し倒された雑兵を踏みつけながら更に奧へと斬り込んでいく

 

 全身返り血で汚れたその姿はまさに鬼であり、山口方は鬼が出ただの、化け物が居る等と一部で狂乱状態になる

 

 この時ロンメルは足軽組頭を5名、弓組頭を7名、弓大将1名、山口方の重臣小森某を撲殺

 

 その他雑兵50名余りを撲殺か踏み殺しており、ロンメル単体で山口方の1部隊が壊滅する始末

 

 ただ突撃の衝撃も消えてしまったのでロンメルは小森某の首を素早く小刀で切断すると髪で腰に結んで足早にその場から撤退していった

 

 これがロンメルの初陣であり、伝説の序章山口方50人斬りである

 

 距離を取ったロンメルは戦場に散らばった弓を回収し、遠方から弓を放っていく

 

 嗜み程度だったこともありなかなか当たらないが矢が無くなるまで放ち続け、撹乱を続けた

 

 約2時間で戦闘は修了し、織田方は30騎あまり(馬に乗ることを許された人 つまりそこそこ偉い)の損害だったのに対して山口方は倍兵力でありながらの60騎あまりの損害を出し今川に泣き付くことになる

 

 一応痛み分けとも引き分けとも言える結果となるが、一部の兵に織田には鬼が居るという強烈な恐怖を植え付けることとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより武功を表する」

 

 ロンメルは末席ながら陣に入ることを許され、小森某の首を渡し、首実検が行われ、武功を発表された

 

「ロンメル、よくやった。末席だが家臣にと言いたいが、まだ武功が足りぬな……次も手柄を挙げた時は母衣衆を1つ創設する。その長に命じてやる。励めよ」

 

「は!」

 

 母衣衆とは信長の親衛隊の名称であり、まだ作るとしか言われていない部隊である

 

 信長がロンメルに武功が足りぬと言ったのは単独で突撃したものだから小森某のみ討ち取ったと思われており、50人斬りその事もロンメルは言わなかったので織田方の他の雑兵の手柄となった

 

 馴染みの顔も何名か亡くなってしまったので後日その家々を回り線香を供えた

 

 

 

 

 

 

 

 数日後の夜、こんこんと戸を叩く音がし、扉を開けると信長様が小姓を数名引き連れてやって来た

 

「邪魔をするぞ」

 

「の、信長様!? どうしましたか!」

 

「武功を挙げたにもかかわらず功労が少ないと思ってな……お主女だよな」

 

「はい。女ですが」

 

「抱いてやる」

 

「……はい?」

 

「抱いてやると言ったのだ」

 

「いや、しかし出生もわからないですし、妖怪ですよ!?」

 

「結構、面白いではないか。妖怪に傷を付けた男とな」

 

 ロンメルは断ってせっかく安定してきた生活を捨てる気にもなれず、仕方なく抱かれることとなった

 

 信長は

 

「子は産めるのか? 産んだとしたら耳としっぽは生えるのか?」

 

 と行為中に聞いてきたが、ロンメルは

 

「男の場合は必ず人の形で産まれますが、女の場合は人かウマ娘かに別れます。こればっかりは運かと」

 

「ふむ……まあよい」

 

 何が良いのかわからないが、小姓達に見られながら行為をするというハードプレイを初めてで味わうこととなる

 

「うむ、良かったぞ。また来る」

 

 と信長様は言って井戸で行水をしてから帰って行った

 

「仕える人間違えたかなぁ……でも薩摩の人々でわかったけど私を女として見てくれる人居なかったしなぁ……」

 

 この行為で一発で必中するとはロンメルは思っていなかった

 

 功労も含めてここまでがロンメルにとっての赤塚の戦いであった……




ロンメルは信長を知りません

ウマ娘の歴史と現実の歴史が違うからです

信長みたいな人はいましたがたぶん武田はウマ娘の大名になるのでしょうね

赤揃えとかウマ娘の集団になりそう


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萱津の戦い

 ロンメルが学校運営で忙しく働いている頃、徐々に信長様の敵というのが分かり始めた

 

 まず清洲織田氏(大和守家)……もとを辿ると信長の上司というか本家にあたる家で力関係が今は拮抗している状態です

 

 信長的には邪魔でしかありません

 

 岩倉織田氏(伊勢守家)は清洲織田氏(大和守家)ともとを辿ると同じ織田家なのですが応仁の乱にて分裂、尾張上四郡(丹羽、葉栗、中島、春日井)を有する家です

 

 ただ当主の織田信安は信秀の弟が幼い時に補佐していた繋がりから信長との仲はまだ良好なため今すぐ敵になるということはない(1年後は知らない)

 

 弟 織田信行……末森城城主であり、信長の母でもある土田御前からこちらの方を期待され、織田弾正忠家家臣達も信行を担いだことにより反信長を掲げ敵対

 

 有力家臣である柴田勝家や信長の筆頭家老林秀貞やその弟林通具も信行を担ぐ始末……特に林秀貞は普通に出陣拒否とかしてる(日常の業務は行うが……)

 

 今川……これが最大の敵

 

 駿河・遠江・三河三国の主であり信秀の死により尾張にも侵食を始めている(例山口親子)

 

 一応尾張全域を支配すれば尾張は豊かなのと津島、熱田というドル箱があるので今川と一応拮抗することが可能だが、今川にとって現状尾張征服はリーチ寸前

 

 だって今川は今川義元を中心に纏まっているのに対して織田は家内や家族と内乱に明け暮れているので誰がどう見ても今川優勢であり、王手3手前でギリギリ逃げ回っているのが織田の現状である

 

 ちなみに次の三国同盟(武田と北条との同盟)で二手前、斎藤道三の死で王手になる模様

 

 つまり? 

 

 全方位敵! 

 

 一応味方もいる

 

 美濃の斎藤道三は信長を買っており同盟を継続しているし、津島十五家や熱田衆なんかも味方である

 

 織田一族だとほぼ唯一味方なのが織田信光様だったり……

 

 他に味方になりそうなのは独自勢力の水野家があったりだする

 

 まあそれでも四面楚歌な状態は変わらないけどね

 

 そんな状態な事を学校運営の書類を作りながら融資に来ていた平野様より聞いたロンメルは顔面蒼白になり、ヤバい家の家臣になろうとしていることを理解した

 

「まぁこれでもマシだと思うがな。東北及び越後は天文の乱により再び応仁の乱以上の混乱に見回れていたし、越後の龍(上杉謙信)と甲斐の虎(武田信玄)が激突しそうだし、畿内は一応三好が権力を握ったが将軍がいまなお抵抗を続けている。中国は山口家の崩壊と尼子の内乱で混乱が続いている。九州は大友一強であるが、それでも磐石とは言いがたい。安定しているのは関東の北条と東海の今川位であろうな……まぁその両家も外敵を多数抱えているがな」

 

 とのことだ

 

 乱世であるが、ロンメル自身とある考えの元に動いている

 

 名を残したい

 

 ウマ娘世界ではスリーアウトをくらうような落ちこぼれウマ娘であったが、この世界でならばウマ娘は存在しない

 

 心行くまで暴れまわり世界に名を刻めば面白いことになりそうだという考えを持っていた

 

 初めは役に立ちたい等の優しい理由であったが……徐々に変質しつつある

 

 約2年半……ロンメルは戦国の世に適応しつつあった

 

 

 

 

「ふんぬぅぅぅぅ!」

 

 ズボ

 

「おお! さすが妖怪様だ!」

 

「動かせなかった幹を根っこごと引っ張り出しただぎゃ!」

 

「すごいだぎゃ!」

 

 ロンメルは学校の授業の合間に近くの村に出向き、開墾の手伝いや畑仕事、稲刈りを手伝いながら子供や部屋住みの人々に学校に来て貰うように募集をしていた

 

 人が増えれば経営は安定し、学や武を身につけた人が増えればそれだけで国力は上がる

 

 ロンメルの精力的な活動に妖怪であっても心を許す人々が増えてきたのも事実であり、そうした方々はロンメルを妖怪様と敬った

 

 校庭の一角に作られた薩摩芋の畑も収穫期を迎え、来年の為に全て種芋にする準備をしていると合戦の召集がかかる

 

 清洲織田家(本家)が信秀の死によって織田弾正忠家(分家)が弱体化したと見るや奇襲を仕掛け松葉城と深田城を落とし、両方の城主を人質にする戦が発生し、これに激怒した信長が兵の召集をかけた

 

 学校の学生達にも召集の話は直ぐに届き、先生方や小さい子供達、女子生徒を除いた全てが戦に参加

 

 前回参加できなかった人々も今回の戦には間に合い前回よりも多くの兵が信長方に集まった

 

 信長の叔父で唯一とも言える味方の信光も合流し、兵を幾つかに分けた

 

 ロンメルは分けられた兵の中に混じり、松葉城攻めに参加

 

 木でできた柵を学生を集めて丸太を持って突撃し、柵を破壊

 

 そのまま城内にて乱戦になるが、ロンメルの持ち前の怪力と技量で雑兵を圧倒

 

 松葉城で指揮をしていた本丸に単独で突入し、河尻与一という武将とその周りに居た兵を皆殺しにした

 

「論目流殿! 大丈夫だぎゃ!?」

 

「な、なんだぎゃ!?」

 

 本丸は凄惨な状況になっており、体がグチャグチャになった者や壁にめり込んで潰れている者、真っ二つにされた者等様々な死に様であり、ロンメルは首を切り取って部屋の角に並べていた

 

「遅かったですね。終わらせておきましたよ」

 

 ロンメルはそう言うと大量の首を大きな布でくるむと部屋から出て行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信長と信光率いる本体も勝利し、ロンメル達が落とした松葉城、別動隊が落とした深田城により清洲織田家の部隊は孤立

 

 そのまま松葉城と深田城から打って出て本体と合同で清洲織田家の部隊に突撃し、3方面から囲まれた清洲織田家の部隊は包囲状態で乱戦に突入、最中織田三位という武将も討ち取られたことで坂井甚介(織田本体にいた柴田勝家と中条家忠の2名による共同撃破)、河尻与一(ロンメルが討ち取る)、織田三位の3名の主力武将が討ち取られたことで清洲織田家の部隊は壊滅し、一部の兵が清洲城に逃げた以外はほぼ討ち取られた、信長の圧勝で幕を下ろす

 

 清洲方は120騎ほどが討ち取られたほぼ再起不能状態に陥り、更に清洲城下も放火され史実であればやや信長有利の引き分けであったところ、信長、信光の勝利で終わる

 

 この包囲戦でもロンメルは5つの首を取り、松葉城の戦いも合わせて約30人ほど討ち取ったこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 

「よくやったロンメル……誉めて使わす」

 

「ははー、ありがたき幸せ」

 

 前回と今回の戦で手柄を挙げたロンメルは茶母衣衆(ちゃほろしゅう)という親衛隊の設立を許可され、その長にロンメルを使命した

 

「30ほどの首を取り、政務にも精通し、数学者(九九や割り算ができるので)でもあるお前を登用しなければ俺は本物のうつけになる。こい! ロンメルまずは尾張を統一するぞ! 力を貸せ」

 

「分かりました。妖怪である私を恐れずに接していただきありがとうございます。信長様を支える1人になりましょうぞ」

 

 早まったかもしれないと思いつつも、ウマ娘である自分をここまで評価してくれる人はこの時代居ないと考えての忠誠宣言である

 

「少し早いが今後を見据えて赤母衣衆と黒母衣衆も同時に作る。最も余はどれも平等に見ておるがな……学校はこれからも続けろ。これより人材はどんどん引き上げねば足りぬからな」

 

 今回の戦も勝利とはいえ小姓衆にも何人か死者が出ておりそれを補填するためにも信長は学校に預けている親衛隊や学校出身の侍達を引き上げる準備を着々と行い始める

 

 ちなみに褒美としてロンメルは10石の領土を頂いた

 

 そこを実験農場として扱うことに決めてロンメルが覚えている知識と貧農の方を雇い、その人達と話し合って田畑を育てることにし、まず10石分の田畑を四角くし、耕しやすく植えやすい様に畑作りから始め、教師の貴族の方が鶏に詳しいこともあり、養鶏も始めてみた

 

 この当時鶏は時を告げる鳥として神聖視されているが、鎌倉時代から養鶏はされており一部の貴族達や侍、農民達は養鶏を秘伝技術として継承していた

 

 貴族の方に頼み込み、平野様にも頼み込んで養鶏を始めた理由は3つ、鶏糞を肥料の材料として使いたいから、骨を骨粉として使いたいから、肉や卵を食べたいからという理由であり、鶏糞の肥料についても貴族の教師の方が教えてくれた

 

 とりあえず30羽ほど集められたので、教えて貰いながら繁殖の方法や育て方、羽化の方法を学んでいくと温度が大切と言われたが、暖めるために木材を燃やしたりしてその熱風を距離をとっての暖めるか温泉の近くの廃湯を使うくらいしか考えつかなかったが、学生達に意見を募集したら鍛冶屋や炭焼きの廃熱を使えば良いのではという意見を頂いたので村の炭焼き職人に頼んで人工羽化装置を作って色々と試してみることにした

 

 

 

 

 

「茶母衣衆の人材ってどうするんですか? 妖怪先生に頼めば入れてくれたりしません?」

 

 とある学生がロンメルに聞いてきた

 

「まず元から親衛隊の人達は入れるつもりはありません。そのまま母衣衆になれると思うので……求める人は信用できる人でしょうか。集団行動がちゃんと出来て文武両道ならなお良いですね。身分が低くても構いませんし」

 

 この話は学校全体に瞬く間に広まっていった

 

 ロンメルは使えそうな者を100名ほど選抜し、更にそこから絞り込んで30名にまで削った

 

 とりあえずその30名を仮の茶母衣衆に任命し、鎧を茶色で統一して茶母衣衆が完成したのだった

 

 




母衣衆はもう少し後にできる組織で、前田利家が黒母衣衆筆頭だったことが有名ですかね


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妊婦に無理をさせるのですか

「……つわりも治まったなぁ」

 

 生理が来なくなり、つわりも治り、お腹が膨れてきた11月頃、信長様から始めての茶母衣衆としての命令が下る

 

「種子島(火縄銃)を茶母衣衆全員に行き渡らせよ。次の戦いで使うゆえに」

 

 とのことだ

 

 火縄銃は現状ロンメルが種子島まで出向いて作って貰った1丁と平野様経由で仕入れた3丁をロンメルは保有しているが、1丁50貫(600万円)もする超高級品を30名に行き渡らせるには無茶であるがやるしかない

 

 学校の資金に手をつけるわけにはいかないので、信長様から貰った250貫を元手にロンメルは近畿を名物転がしをし、鍛冶屋を目指している学生達を動員して火縄銃の複製をして貰うことにした

 

 火縄銃に携わる職人を名物転がしで稼いだ金で堺衆に繋ぎを作り、火縄銃の職人を紹介して貰い、何度も職人の家に頼み込んで尾張へと引っ張ってきた

 

 職人の要望は作った銃を必ず30貫以上で買うといものでロンメルはこれを快諾し、職人に学生達に火縄銃の作り方を教えて貰いながら尾張での鉄砲量産化が始まることとなる

 

 そのまま堺や根来、国友等を巡ってどうにかこうにか35丁ほどの火縄銃を入手して尾張に帰還

 

 火薬や弾は平野様達津島十五家の方々から購入する運びとなり、どうにかこうにか運用までこぎ着けた

 

 妊婦なのに無理したロンメルは数日寝込むこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 木銃で構えの練習や弾込め、実物を使って掃除の練習を学生や茶母衣衆候補生にさせながら年を越し、天文23年(1554年)になる

 

 学生の数は800まで増えており、信長様に言って周囲の土地を借りて建物を増設

 

 今では平屋10棟に鍛冶屋2棟、800メートル走ができる校庭と道場が3棟、射撃場と弓道場、馬小屋や家畜小屋に薩摩芋や米、野菜の実験農場が30石分ある広い学校へと増築された

 

 これはロンメルが運営はしているが、津島衆や織田家、熱田衆等の協力で成り立っているのでロンメルは雇われ校長みたいな立場であり、理事は津島十五家、熱田衆の上役、織田家重役で、理事長は信長様みたいな組織図となっている

 

 学費はなるべく安くし、給食から学食に変更、学生のための近場に宿舎も用意したりとロンメルの記憶にあるトレセンでウマ娘に必要なスペースを無くし、この時代に必要な物へと置き換えて造られていった

 

 ロンメルのお腹が大きくなり、臨月に差し掛かった2月

 

 情勢が動いた

 

 少し時間を遡り整理していこう

 

 まず織田弾正忠家と今川は信秀時代より三河を狙うライバル同士であったが、信秀の晩年は今川義元に押され西三河、知多半島の水野氏(もともと織田家寄りの家)を今川の傘下にする和議を結んでいる背景があったのだが、信秀が亡くなり、信長が当主になるとこの和議を破棄、その瞬間に山口親子が今川に流れ、水野氏が織田にすり寄る動きが発生した

 

 山口親子討伐に動いたのがロンメルの初陣であった赤塚の戦いであり、今回は織田家に戻ろうとする水野家討伐のために今川が動き、現在水野氏の本城諸川城を今川が包囲する形になっている

 

 これを助けるために織田家としては援軍を送りたいが、信長の居城の那古野城と諸川城の間にある寺本城が突然の今川に寝返り織田家と水野氏の連絡路を遮断

 

 更に前の萱津の戦いにて敗れた清洲織田家が不穏な動きをしており信長も出るに出れない状態に陥ってしまった

 

「そこでお前を呼んだ」

 

 臨月でお腹が張って苦しいなか信長様に呼ばれた理由は自慢の足と武力で美濃の斎藤道三の元へ書状を届けてほしいとのことだった

 

 内容は斎藤家から援軍を那古野城に入れて清洲織田家を牽制、その隙に信長本体が出陣して水野氏を助けるという大胆な作戦であった

 

 最初断ろうとも思ったが、信長曰く他に3名ほど同じ内容の書状を持たせて美濃に送ったのだが、安全策にと妖怪であるロンメルを送り、道三への顔見せをしてこいとのことだった

 

「義父も妖怪の噂を耳にしていたらしく一回会わせろとのことだ。これから美濃への連絡も考えると足の速いお前が適任だろうと余は思ったまでだが……いかがするか?」

 

「わかりました。ただ身籠っているのでいつものようには走れないので速度は出ません。明日には届けますがそれでもよろしいでしょうか」

 

「構わん。明日に届くのであれば十分だ」

 

「わかりました。では」

 

 信長様から書状を受けとると頭巾を被り、軽く身支度をしてから行商を装い美濃に入った

 

 

 

 

 

 

 

 

 関所を織田の家紋入りの書状を見せることで直ぐに突破し、美濃の稲葉山城へと到着した

 

「何奴!」

 

「織田弾正忠家より書状を道三殿へ渡すように言われている者だ。手紙を見せるゆえに城内に入れて貰いたい」

 

「拝見いたす……失礼した。案内する」

 

 門番から城内の小姓に引き継がれ、案内されること10分

 

 本丸のとある部屋に案内された私は武器を渡し、体を触られた後道三殿と面会する

 

「頭巾をとられよ」

 

 ロンメルは頭巾を取るとバサッと髪の毛が垂れ、馬耳が露になる

 

「ほほう……噂では聞いていたが本当に妖怪の様だな……鬼と聞いていたが違うようだ」

 

「ウマ娘という種族でございます」

 

「ウマ娘か……確かに馬の娘だな! 腹の子は誰のだ? 信長か?」

 

「はい、信長様の子であります」

 

「あやつただ者ではないと思っていたが妖怪を孕ますとはなんて男だ! ガハハ! さすがは義息子と言ったところか」

 

「こちらが信長様より預かった書状になります」

 

「うむ確かに……別の者からも聞いておる。援軍は安藤(美濃三人衆という有名な方の1人)と1000の兵を詰めさせる。信長には安心して背中を任すように伝えてくれ」

 

「わかりました」

 

「して、何か特技は有るか?」

 

「剣術と火縄銃を少々……後は算術でしょうか」

 

「その身で剣術も火縄銃も辛かろう。算術を見せてはくれぬか」

 

「わかりました。適当な1000までの数字を言ってください。すぐに足しますゆえ」

 

「暗算か……よし」

 

 ロンメルのレベルになると算盤を使わなくても1万までの足し算なら暗算できるが、安牌を取って1000までとした

 

 道三も元々油売りだったことから銭を扱うことが多く、算術は得意であり約1時間ほど連続計算をしたり、九九を披露したり、割り算を行ったりした

 

「面白かったぞ。次は万全な状態で城に来い。待っているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが美濃から尾張に戻って数日後、安藤守就率いる1000名の兵が那古野城に到着したため、召集がかけられ戦となった

 

 ロンメルは信長から今回の戦は城で待機を言い渡され、茶母衣衆をロンメルが気にかけてきた鈴木千秋(ちあき)という16歳の男に指揮を任せ、茶母衣衆や他の織田の兵を見送った

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが那古野城で待機している間に信長は熱田で一泊し、信光と合流した後荒れた海を無理やり渡海し、諸川城に到達

 

 この前に林兄弟(兄は筆頭家老です)がこの戦を不服として出陣拒否する事態が発生するが、信長は気にせずに出陣

 

 諸川城にて夜営し、翌日諸川城の水野信元と対談した信長の信光は軍儀を開き三方向による同時奇襲を行うことになる

 

「余も鉄砲を扱う! 鉄砲が扱える者は余に続け」

 

 翌日の2月25日信長は自ら鉄砲(火縄銃)を扱い弓の届かないところから攻撃を続けた

 

 茶母衣衆だけでなく学校にて火縄銃の扱い方を習っていた者達は織田家から支給された火縄銃を扱い約100名ほどが射ち手、その直ぐ後ろで掃除と弾詰めを行う者に分けてのライン方式を採用し、一方的に攻撃を続けた

 

 薄暗くなったところで今川方が降伏して信長の勝利で終わる

 

 ただ信長が可愛がっていた小姓が多数討ち死にしてしまい、涙を流して信長は悲しんだ

 

「時代は鉄砲だな」

 

 この戦で信長は鉄砲の有用性を改めて理解し、茶母衣衆を鉄砲母衣衆に改名し、人数を拡張するようにロンメルに帰還後求めることとなり、ロンメルは出産後、戦で活躍した茶母衣衆と学生達を全員鉄砲母衣衆に組み込まれ、ライン方式にするとはいえ人員の半数の火縄銃を確保しなければならず、さらにいきなり30人から200名に増えた母衣衆の管理とやることが山積みになり頭を抱えるのだった

 

 

 

 

 天文23年(1554年)3月1日

 

 戦後処理の書類を自宅で整理している最中に陣痛が始まり、産婆を呼ぼうとするが、痛みのあまりに声が出ず、誰にも発見されぬまま双子を出産

 

 幸い自然分娩でなんとかなり、小刀でへその緒を切断し、胎盤を引っ張り出し、一息ついたところで小者が気がつき慌てて産婆を呼び寄せてお湯で子供を洗い流した

 

「双子ですか……不吉の現れでございまする。女子は一旦寺に預け、別の方に育てて貰うのが吉かと」

 

「妖怪の国では双子は吉兆の証です。大丈夫です私が育てますので」

 

 戦国時代双子は不吉の現れとされ、別々に育てるか寺に預けるか、はたまた殺してしまう場合もあった

 

 ロンメルはこれを良しとせずに産婆の言葉を否定し、妖怪の国ではと嘘をついてこれを断った

 

 子供が生まれた旨を信長様に言ったところ直ぐに飛んで来て

 

「……髪がどちらも黄色いな。黄坊(きぼ)と黄衣(きころも)だな」

 

 と名前を付けていった

 

「こやつらは嫡子ではなく分家とする故に家督は継がせぬ……良いな」

 

「はい」

 

「……女子は人であったか……余の血が強かったか?」

 

「かもしれませんね。ウマ娘が産まれないことも多々あるので気にしてはいけませんよ信長様」

 

「うーむ、しかしお主抱き心地は良かった。まだ種を巻いてやろう」

 

「流石に今は孕まないので月ものが来てからにしてください」

 

「うむ! 子供は沢山いた方が賑やかで良いからな! また子供の顔を見に来るぞ」

 

 信長様は兄弟と仲がよろしくなく、母親にも嫌われ、爺と慕っていた平手様も家族とゴタゴタがあり自害してしまい拠り所が少なかった

 

 その為ロンメルの子供達を大層可愛がり、ロンメルは毎年のように孕むこととなる

 

 だいたい双子か三つ子だったため畜生腹と呼ばれることとなるのだがそれは後のお話

 

 

 

 

 

 

 



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今川義元

 今回の戦で側近や母衣衆候補が多数に亡くなってしまったことで信長は学校から人材の登用を積極的に行った

 

 藤吉郎という学校での成績が飛び抜けていた者が信長様の小姓へとなったり、成績上位者が軒並み信長様が引っ張っていき、200名ほどが卒業となった

 

 卒業者には卒業証書を発行し、算術や文字の読み書き、一定の武術を修めた事をロンメルが認めましたよという物で、これが有れば織田家でもある程度使えますよという証明書でもある

 

 卒業証書を貰った人材が織田家で即戦力として機能し始めると商人達も証書を貰った人材を欲しがり、信光様や今回戦で織田とベッタリになった水野様、更には美濃の斎藤道三もこの制度は良いと認め、多方向に一定水準以上の人材を送り出す機関となる

 

 ただ基本織田家が支援していることもありよそに行っても親織田派を形成するので織田家にとってデメリットが全く無いのだ

 

 減った学生を補充すべく美濃や清洲方面にも人材募集をかける

 

 積み上げられた書類の山に悲鳴をあげるロンメルだが鉄砲母衣衆の幹部に賃金を支払って学校業務の手伝いをさせることで過労死になるのをなんとか防ぐのだった

 

 ただこの幹部達はこのデスマーチを経験し続けることで組織運営を学び、武将として活躍していくこととなる

 

 

 

 

 

 

 人材が同族同士の内乱で分散してしまっている信長だが、丹羽長秀、森可成、藤吉郎や犬千代等の若い世代や絶対忠誠を誓っている幼い頃から私生活を共にした馬廻り衆、学校から排出された優秀な人材のお陰でなんとかなっていた

 

 こんなに人材が居ないのは弟の信行の方に有力な家臣が行ってしまったというのがある

 

 柴田勝家とか

 

 とにかくこういった理由から信長は実力主義を推奨したと思われる(古い家臣が居ないから仕方ないね)

 

 ただ同じ頃甲相駿三国同盟が締結されており、今川は後方の憂いを絶つことに成功していた

 

 

 

 

 

 

 

 やることが多くて死にかけているロンメルをよそに7月頃また情勢が動く

 

 清洲城にて全織田家の上司である尾張守護の斯波義統が織田信友の手により暗殺される事件が発生

 

 息子の斯波義銀が信長のもとに転がり込み助けを求めた

 

 これに対して信長は今攻め時ではないが、攻めなければ義が無いとされるため弟の信行に付いていた柴田勝家を説き伏せ弔い合戦を主導させた

 

 この時期信行に付いていた柴田勝家とは関係が悪化していたのだが、守護の弔い合戦となれば話は別であり、かかれ柴田のなの通り大活躍清洲織田家がほぼ再起不能になるほどの打撃を与えたた

 

 この一通りの事件を安食の戦いとされ、信長は出陣しなかったものの、尾張統一の大義名分を獲得した重要な事件だった

 

 その頃ロンメルは何をしていたかと言うと

 

「本当に速いな。名馬よりも速く駆けるとは」

 

 斎藤道三の稲葉山城にて馬と競争が行われ、ロンメルが圧勝していた

 

 その他にも剣術や火縄銃の射撃を披露し、その腕前を道三は

 

「酒呑童子に劣る者なからず。武だけで古今無双の豪傑なれど知も高い。まだまだ伸び代がある底なしの怪物」

 

 と評価した

 

 これに

 

「美濃にいるどんな名馬よりも速く駆ける馬の耳としっぽを持つ金髪の女の妖怪の名を論目流」

 

 と書物に書き残し、これが初めてロンメルの名が織田家以外から出てきた歴史書物であり、尾張の妖怪とイコールにされ、尾張の妖怪=ロンメルという形になる

 

 

 

 

 

 

「に、鶏の繁殖がようやく可能になった……1年近くかかってしまった……」

 

 鶏の繁殖と薩摩芋を増やすことに成功しようやく食用まで漕ぎ着けたロンメルは肉料理を推奨し、味噌焼きや塩焼き、たまり醤油なるものを寺社が知っていると聞き、ロンメルは教えて貰うために今川領土の駿河まで旅して教えを乞いだりもした

 

 勿論今川に信長の家臣が来ているとバレて一悶着

 

「貴様が尾張の鬼だな……話は聞いているぞ」

 

 と40歳位の侍と数名の供回りに寺社前の広場にて囲まれた

 

「用件はなんだ? 今川を密偵に来たのか?」

 

「密偵……あ!」

 

「なんだ?」

 

「醤油が有るかもしれないと聞いて誰にも言わないでここに来ちゃったわ……たぶん尾張で大騒ぎになっているかも……」

 

「醤油? 醤油とはなんだ?」

 

「私も噂しか聞いてませんが玉味噌を作る過程で出るたまりをたまり醤油と呼ぶらしいのですが、私が知っている醤油と違うかも知れませんが醤油は醤油……それを使えば料理が一段と美味しくなるのですよ!」

 

「お、おう……そうなのか……それがこの寺社にあると?」

 

「私の鼻が正しければここで味噌を作っているハズなのでたまり醤油もあるのではないかと思いまして……鎌倉の寺社には確実にあるらしいので」

 

「食の為にここまで来たと? 敵地にか?」

 

「食の為と言いますが食がなければ人は育ちませんよ! 上手いというのは体に必要な栄養を取れている証拠! それが血となり肉となり体を作るのですよ」

 

「鬼は物知りなのだな」

 

「鬼ではなくウマ娘ですよ……ほら」

 

 頭巾を取り耳を見せる

 

「ほぉ……確かに馬の耳だ」

 

「で、住職教えてくださいますか? 50貫用意したのですが」

 

「50……」

 

「住職」

 

「……ここは今川様が治める土地ですゆえ敵方の織田家に渡す技術はございませぬ」

 

「……残念です。じゃあたまり醤油を売ってください」

 

「……それでしたらまぁ」

 

 ロンメルはたまり醤油を買うとその侍や供回りの人達にもたまり醤油の入った瓢箪を渡した

 

「敵であろうとも戦場で万全の状態で戦いましょう!」

 

「……気遣い感謝する」

 

「一応名前をお伺いしても……私はロンメル、又の名を砂山東狐と言います……ロンメルと呼んでください」

 

「岡部元信だ。……敵へも気遣いをし、供回りにも配慮するその姿勢気に入った。論目流殿、一度親方様に会わぬか? 太原様もお主の事を気になっているからな」

 

「敵方の大将に会わせていいのですか? 妖怪ですよ? 化かして討ち取るかもしれませんよ?」

 

「それはしないだろう。だったら既に私と戦っているだろうに」

 

「……わかりましたお会いしましょう」

 

 

 

 

 

 

 ここで今川家と織田家(信長)についての違いについて軽くまとめてみよう

 

 ロンメルが見てきた信長の方針としては兵は銭で集める

 

 物流と銭の流れを読むことができ先進的な考えを持つ信長は代替わりして直ぐに熱田や津島にて商売の自由を与えることで豪商達を味方に付けること、そこからの税で膨大な資金力を保有している信長はその銭で火縄銃や武器そして兵までも集めて常備兵を作り上げた

 

 ただ兵は居るが指揮官が他の織田家と分散しているので司令官不足に悩まされているのが欠点

 

 対して今川は仮名目録で与親、寄子制度の強化し、絶対服従のピラミッド社会を作り上げ、流民を兵に転換することで数万の兵を動員可能としたのが今川義元である

 

 欠点は流民を抱え込むことにより限界が来たらどこかと必ず戦わなければならないかそのまま自分の兵を養うことにより自壊してしまうという大きな欠点があった

 

 そもそも守護大名から戦国大名に転換していったのは流民問題という当時の社会現象を力で解決できる者を民衆が求めた結果であり、武田信玄は流民を鉱山の労働力にしたり、日本住血吸虫病で普通に田を作ったら死んでいく奇病の補填に送り込んだりしてすり潰し、上杉謙信は国民の食い意地を守るために関東遠征を行ったりしていたりする

 

 北条さん? あそこは色々と例外だから

 

 一向宗? 難民が宗教にしがみついたのが石山本願寺以外の一向宗で加賀一向宗や三河一向宗なんかが良い例かな(最悪な例とも言う)

 

 石山本願寺? あそこは完全に指導部が制御している戦国大名と同じくくりだから

 

 その絶対的なピラミッド構造は先進的とも言え、乱戦でなくても普通に機能する仮名目録を作った今川義元と太原雪斎はやはり凄いとなる

 

 そんな2人がロンメルの目の前に居た

 

 

 

 

 

 

 

 

「顔を下げぬか」

 

「信長様の家臣故に下げませぬ」

 

「ふふ、なかなかの忠誠心の様だな」

 

 義元は周りに居た家臣達が刀に手を掛けたのを見て扇子で納めるように合図した

 

「馬の耳にしっぽが本当に付いているのだな……確かに妖怪だ」

 

「坊、ここは拙者が……論目流とやらに問うが天下とは何ぞや」

 

「天下ですか」

 

「左様、天下を治めるために各地の大名が死闘を繰り広げている。拙者は天下三分の計こそこの乱世を終わらせる方法だと思うが」

 

「……私が元居た世界の話になるけれど……同じ民族同士で国を分けると外敵が来たときにバラバラに支配されてしまいますよ」

 

 ロンメルは書き物が欲しいと言って義元様に願うと紙と筆を渡された

 

 ロンメルは簡単な世界地図を描く

 

「もし私の居た世界とこの世界が並行世界であるのならば地理は同じと思います。私が居た世界にも富士山はありましたし、中華も日ノ本もありましたので……」

 

 ロンメルは南蛮と呼ばれる国が恐らくここら辺と欧州の場所を指差した

 

「かの国は日ノ本と違い多数の民族と多くの国が存在します……いわば大きくなった日ノ本と同じ乱世が続いておりますが、国としては統一されています。それらは王と呼ばれます。中華では多数の王を従えると皇帝と呼ばれるようになりますが、今皇帝がいるのは中華とこの欧州の国だけです。日ノ本はどれだけ統一しても王にしかなれません。王は皇帝に逆らう力はありますが王未満では各個撃破されておしまいでしょう。確かに国を安定化させるために天下三分の計は良い考えだと思いますが長い目で見ると国を割るのは得策ではないかと」

 

「妖怪の世界にも日ノ本はあったのか?」

 

「はい。といいますかウマ娘という種族と人が共存してきた歴史なのでこの世界の歴史は宛にはできませんが……」

 

「なるほど……妖怪の世界の日ノ本は誰が治めていたのだ?」

 

「天皇陛下でございます」

 

「天皇か……しかし天皇や貴族は武家社会になってから権力は地に墜ちて久しいが」

 

「欧州の国々ではその繋がれてきた長い歴史が物を言います。武家社会になって300年と1000年以上の長い歴史ある天皇家では後者が王と見られます。どれだけ権力が無かろうと」

 

「天皇家が作る世が天下だと言いたいのか?」

 

「いえ、そもそも天下統一は過程段階でしかなくその後が一番大切です。乱世になった原因は幕府が弱すぎたこと、守護大名の力が強すぎたのが原因です。多くて100万石……それも3国以上の国を持った大名が居た場合幕府が強くなければ割れてしまいます」

 

「なるほど」

 

「妖怪の世界の話になりますが、私達の世界にも武士は居ましたし、上手く統治すれば250年は平和の時代を作ることは可能でした。ただ永遠に続く国はありません。外国……南蛮やその他の国による外圧に負けて再び内乱となり武士の時代は終わりました」

 

「それほどまでに南蛮や外国とやらは強いのか?」

 

「平和になれば武力は要らなくなりますが今世界は大航海時代に突入しつつあります。日ノ本も早急に統一し、外敵に備えなければいつ元寇の再来が起きても不思議ではありませんよ」

 

「ならばこの今川義元が天下を取って見せようぞ」

 

 そう義元は家臣の前で宣言し、家臣達は喝采をあげる

 

「論目流とやら、このままなにもせずに返すのも惜しい……勝負をせぬか?」

 

「勝負ですか?」

 

「左様、お主の武功はここまで聞き及んでいるが底が見えん……そこで1本勝負を挑ませて貰おう」

 

「条件は?」

 

「木刀にての一騎討ち……木刀が手から離れ地に落ちるか参ったと言った方が負けだ。勝ったら今川領内に来たことは不問とするが、負ければ余の下につけ」

 

「……」

 

 ロンメルは少し考えた後に

 

「わかりました。お相手致します」

 

「うむ、相手は余の嫡子氏真にさせよう」

 

「今川氏真です。よろしく」

 

 義元の斜め前に座っていた若者が挨拶をした

 

 見た感じイケメンで引き締まっており、運動ができそうな感じであった

 

「よろしくお願いいたします」

 

 ロンメルはここで初めて頭を下げた

 

 家臣達はざわついたが義元は楽しそうに扇子をヒラヒラと扇いだ

 

 

 

 

 

 鍛練所に場所を移し、木刀を貰い軽く振るう

 

「手入れの行き届いた良い木刀だ」

 

 今川氏真と対面し一礼、構えを取る

 

「はじめ」

 

 速攻

 

 ロンメルは地面が抉れるほど深く踏み込み、氏真に対して突きを繰り出す

 

 氏真は驚いた顔をしながらもこれを木刀の腹を上手く使い流す

 

 ロンメルは片手で側転し体勢を立て直すとそのまま斬りかかる

 

 10手ほど斬り合ったのち鍔迫り合いとなりロンメルの怪力で押し込んでいき、ふと力を抜く

 

 抜けた瞬間に体勢が崩れた氏真の足を払い、地面に尻もちをした状態にして木刀を首元に添える

 

「参った」

 

「勝者論目流」

 

 無事ロンメルは勝利することができた

 

 その後酒盛りとなり、ロンメルの酒豪ぷりに流石妖怪とよばれ、今川家臣達にもロンメルは認められるのだった

 

「馬の妖怪論目流、今川領内にて岡部が見つけ、今川館にて氏真と一騎討ち。妖怪には一歩及ばず論目流が勝つが見事な試合なり。織田方なのが実に勿体ない逸材なり」

 

 と評価された



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清洲崩れ

「何処へ行っていたロンメル」

 

「ちょっと今川館まで行っていました」

 

「そこへ行って何をした」

 

「義元の嫡子氏真と剣術勝負をし、その後酒盛りをしました」

 

「勝ったのだな」

 

「はい」

 

「ならばよし。何か考えがあってのことだろう。何を得られた」

 

「本来の目的は料理に使える調味料の確保なのですが、教えてくれませんでしたのでこちらでも作ろうと思います。材料は見当がつきましたので……それと義元が天下を狙うと発言しました」

 

「……ほぉ、詳しく話せ」

 

「義元の師である太原雪斎は天下三分の計を行うつもりで甲相駿三国同盟を締結したようですが、私が煽ったことで天下統一を目標と定めると明言しました。この話は武田や北条に流れると思われますのでどの様な影響が出るかは未知数……ただ、天下を取るのは今川義元ではなく信長様ですがね」

 

「ふふ、よく言うわ……ロンメルこの書状を持って清洲城へ行き、信友を殺してこい。奴の役割は終わった。清洲に拠点を移すためにトドメをお前に任せる」

 

 書状には信光が信友に手を貸すという信光本人が書いた偽証であった

 

「叔父上に一芝居して貰った。もっとも叔父上も欲張りで城2つと尾張下四群のうち二群ほど渡すことになったがな」

 

「よろしいので?」

 

「熱田、津島そして清洲の町を抑えていれば問題ない。ロンメルやれるな」

 

「必ず遂行して見せましょう」

 

「よし、では去れ」

 

「は!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 天文23年(1554年11月2日)

 

 信長から受け取った書状を模写し、鉄砲母衣衆からロンメルに忠誠心の高く頭が回る者を数名選抜し、書状を清洲の城に届けるように指示し、そのまま城内に入れ、城内をわかる範囲で探らせる

 

 夜城から出て落ち合った母衣衆数名の記憶を頼りに城内の構造を紙に描いていく

 

 信友の居ると思われる場所に目星をつけたロンメルは闇に紛れて城壁を越えて侵入、そのまま屋根裏に忍び込み、時を待つ

 

 ロンメルと別れた母衣衆は城壁に火薬を設置し爆発、これを合図とする

 

 まず異変が発生した場合立場の低い者と当番の者が現地へ行き何が起こったのかを確認する

 

 それを上司(足軽大将クラス)に話し、上司が城内の大部屋に集まった家臣達に話し、そこで一旦話し合われ、最後に信友に報告される

 

 これは信友の能力がそこまで高くないことと重臣である坂井大膳の力が大きいことがあげられ、坂井大膳が緊急事態の時は対応するというシステムが出来上がっていた

 

 この話はロンメルが個人的に雇っている忍達に清洲の町の情報を集めさせていた時にたまたま知れた情報で、ロンメルはその情報を教えてくれた忍を後で甲賀の里まで行って引き抜きを行い直臣に加えるほど重宝することとなり、名を半乃助(はんのすけ)といい、この後起こる清洲崩れの功労者として信長から町田の名字を授けられる

 

 ちなみに鉄砲母衣衆筆頭に任命されたためロンメルも数名の家臣を持つことになるのだが、半乃助が最初の家臣である

 

 閑話休題……信友に坂井大膳が伝えに行くところをロンメルは襲撃し、信友と坂井大膳に刀を抜かせる前に自慢の剣術で首のみを跳ね、首をもって堂々と部屋を出る

 

 襖を開け大部屋に出てロンメルは叫ぶ

 

「逆賊織田信友及び奸臣坂井大膳は妖怪ロンメルが討たせて貰った! 主君及び忠臣を討った大悪党なり! こやつらと同じ様になりたい者は刀を取れ……相手をしてやる」

 

 2つの首を部屋の中央に投げる

 

 男達はその首を見て自身の主君であった者だと理解し、城内にいつ侵入されたのかわからず思考が止まる

 

「の、信友様! おのれ妖怪! ここで成敗して?」

 

「遅い」

 

 刀に手を掛けた男の胸にはロンメルの愛刀の大太刀が突き刺さっており、大量の血液を撒き散らしながら絶命した

 

「首を跳ねぬだけ有り難いと思え……次は誰だ」

 

「や、やぁぁぁ!!」

 

 数名がロンメルに斬りかかるが、ロンメルは1人を掴むとおもいっきり振り回してそのまま投げた

 

 押し潰された者はもがくが、ロンメルが投げた人物ごと思いっきり踏み抜く

 

 ボキッぶちゃぶちゃ

 

 肋骨が折れ上の人物を貫通し、下に居た男は圧死する

 

 もちろん上にいた男も激痛と内臓を潰されて苦しみ、絶叫をあげながら死んでいく

 

「次は誰だ」

 

 その様子を見ていた他の男達は顔を真っ青にし、頭を下げた

 

「頭を下げた者の命は取らぬ。問おう織田弾正忠家に使えるかこの場を去るか……ここで死ぬか。閻魔とは話をつけている。喜べ地獄で逆臣の家臣として苦痛の限りが待っているぞ。死ぬに死ねない極楽だ。なに、私は優しいからな。ここで死ぬ選択肢をしたら一族ごと地獄で会わせてやろう」

 

 その言葉で心が折れたのか大の大人達は振るえながらか細い声で忠誠を誓いますだの許してくださいだのと言い始めた

 

「ならば城から早く去れ」

 

 ロンメルがそう言うと蜘蛛の子を散らす様に人々は我先へと城から逃げ出した

 

 ロンメル伝説2つ目の清洲崩れである

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「以上の経緯で清洲城を取りました」

 

 そう信長様や家臣達が居る場で話すと信長様は爆笑し

 

「そうかそうか! 実に面白い! 閻魔と話した感想はどうだ?」

 

「閻魔様なら目の前にいるではありませんか」

 

「余が閻魔だと? クハハハ! 閻魔か! 良いな良いな」

 

「まぁ信長様なら魔王がお似合いかもしれませんがね」

 

「魔王か気に入ったぞ! これからは魔王信長と名乗ろうか」

 

「お戯れを」

 

「丹羽は硬いなぁ」

 

 信長様は一通り笑った後ロンメルの功労に入る

 

「逆賊信友と坂井大膳は討ち取った。これで清洲は手に入れ

 織田弾正忠家は尾張下四群を手中に納めたことになる。当面は清洲に拠点を移し内政を重視、国を富ませる。良いな」

 

 今回の功績でロンメルは10石だった領地が200石まで増やされ、銭も学校の校長と鉄砲母衣衆筆頭と合わせて300貫の役職手当てで貰える様になり、今回活躍してくれた町田半乃助を家臣に加えるなどが褒美となった

 

 あと夜にまた呼ばれて仕込まれた

 

 

 

 

 

「はい、まず半乃助君は私の家来ではありますが、黄坊が分家を立ち上げたら黄坊の家臣として動いて貰いまーす」

 

「はい?」

 

「いや、妖怪や女に仕えるより髪の毛の色は違うけど同じ人間で男の黄坊に仕えるのが筋でしょ」

 

「ま、まぁ女に仕えるというのは世の習わし的には少数でございますが論目流様は妖怪なので例外かと」

 

「何事も例外で押し通せる世の中じゃないからねぇ……半乃助君は家族とかどうするの? 呼ぶ?」

 

「いえ、元々孤児ですので身一つで成り上がる所存」

 

「了解了解。とりあえず200石だけど20石分の給料出すわ。物納と銭どっちが良い?」

 

「では銭で」

 

「了解」

 

 

 

 天文24年(1555年)

 

 この年清洲を掌握した信長は内政に力を入れる

 

 この年は戦も起こらずに信長も信長の敵対勢力も内政や一揆、反乱鎮圧で大忙し

 

 ロンメルは学校の運営をしながらも自分の領地の200石の田畑にて農業実験を繰り返す

 

 ロンメルは一時期流行った稲作ゲームをしていたことで塩水選が米の収穫に大きな影響を与えることを知っていたが、比率がわからず種籾と桶と水と塩を用意して塩:水の割合で1:1から1:10までの比率の塩水を作り、種籾の選別をしたり、正条植えを行うためにロンメルが学生達と考え出した枠回しと呼ばれる木でできた六角柱状の柱を転がすことで等間隔に植えやすくしたりして収穫量を増やそうと試みた

 

 更に冬の間に牛糞を使った肥料で土作りをしたり、鶏糞と人糞を材料にした肥料を使ったりもした結果、1:1、1:2は塩害になったが、それ以外は豊作、特に1:5と1:6は大豊作と呼べる位の収穫量となった

 

「薩摩芋も大豊作、大豆と野菜も肥料のおかげか豊作で、食べ物には困りませんな」

 

 雇っている貧農の方達も全体的に豊作で一安心

 

 ロンメルは貧農の方々を小作人として改めて雇いいれた

 

 彼らの息子達は無償で学校に通わせ、着々と地盤を固めるロンメルであった

 

 ただロンメルは米だけ食べると栄養が偏ってしまうので様々な作物を作ることを推奨した

 

 特に自然薯は痩せた土地の方が発育が良いことをどこかの番組で知っていたロンメルは竹の節を貫通させ長い筒をパイプ代わりに種芋と目印棒、地中に埋めたパイプでうまいこと育ててみたり、里芋、コンニャク芋を植えたりと薩摩芋も合わせると芋ばっかりだな……

 

 この他にも野菜も育てて鶏の卵や鶏肉、罠にかかった鹿や猪も小作人や雇っている忍の方々と一緒に食べることで結束を強めたり、栄養バランスが改善されて彼らは逞しくなっていった

 

 ロンメルはこの年は四つ子を出産し、全員男だった事、髪色が茶色だった事から信長様が

 

「茶一、茶次郎、茶三郎、茶四郎でよかろう」

 

 というあんまりなネーミングセンスにドン引きしたが、信長様は本気で良い名だと思ったのか彼らと黄坊と黄衣含めて可愛がるのだった

 

 ただこの時ロンメルも信長も知らなかった

 

 佐久間信盛や丹羽長秀等の重臣(丹羽長秀は信長の馬廻り衆をやっていたくらい信長に近かった人物)が改めて忠誠を誓ったり、滝川一益が家臣に加わった一方、林兄弟や織田信行等の内側の爆弾と斎藤義龍、織田信安等の外敵の爆弾が連鎖的に爆発することを

 




稲作ゲーム≒天穂のサクナヒメ


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稲生の戦い

 爆弾が爆発したのは斎藤義龍による弟達の暗殺から始まる

 

 元々仲がよろしくなかった道三と義龍

 

 道三は弟達に家督を継がせようと画策しているという報告から義龍は先手を打ち家臣達の協力のもと暗殺を決行

 

 この暗殺は成功し、道三はなんとか逃げ延びるが家臣達の殆どが義龍についてしまう

 

 これが天文から弘治元年に切り替わって直ぐ(10月下旬頃)に発生

 

 更に信長の弟の信行が達成へと改名(わかりづらいので信行のままです)この改名は守護代の織田大和守家当主の通字を意識したもので守護代の代行を行うと宣言した様なものであり、更に弾正忠も信行が名乗ったことで織田弾正忠の当主であると言い始めたに等しいのだ

 

 これに林兄弟が支持を表明し、林兄弟に任せていた城がそっくりそのまま信行側に落ちてしまう

 

 更に岩倉織田家である織田信賢も便乗し、尾張統一リーチだった信長は一転して窮地に陥ってしまったのだ

 

「余が何をしたっていうんだぁぁぁ!」

 

 信長ガチギレ

 

 ただ絶叫してもこの状態が変わることは無いので1つ1つなんとかしていく

 

 まず資金源である豪商を味方につけるべく減税や立地の良い場所に支店を出しやすいような政策を行い豪商達を味方につけていく

 

 ロンメルや数学を習っていた学生達の中には豪商のご子息も居たのでこれを使い豪商達を説得

 

 一部を除き豪商だけでなく中堅の商人達も味方につけることに成功し、資金が途絶するという最悪の事態は避けることになる

 

 

 

 

 

 弘治2年(1556年4月)

 

 雪解けと共に斎藤義龍は2万の軍を出し、道三の3千と対峙

 

 この動きに信長は軍を出して救援に向かう

 

 鉄砲母衣衆も全員動員され火縄銃を担いで美濃を目指す

 

 この時信行は清洲城を奪おうと軍を出すが、信長が電光石火の如く軍を動かすのに対して信行の軍事行動は愚鈍であった

 

 いや信行も遅くは無いのだが信長が早すぎて軍を出す頃には信長は城に戻ってきてしまっていた

 

 援軍に向かった信長は美濃に到着後既に道三側が負け、道三が討ち取られていること道三の末っ子である斎藤利治から知ると

 

「殿はこの信長が行う」

 

 といって部下と逃げてきた斎藤利治を先に引かせた

 

「信長様、ここは我々が」

 

「ロンメル諄いぞ! ……船にて火縄をつけて待機しておれ」

 

「は!」

 

 信長の意図を理解したロンメルは鉄砲母衣衆を火縄銃同士による誤爆を防げる間隔を空け船上で待機させる

 

 義龍の追撃部隊がやって来たと同時に信長が持っていた火縄銃で先頭に居た騎兵を撃ち抜きそのまま船に飛び乗る

 

 川に入って動きが鈍ったところを鉄砲母衣衆による集団射撃を行い、追撃部隊を敗走させる

 

「引け! そのまま清洲に帰還する」

 

 信長は道中斎藤利治から受け取った書状を見て涙を流し、書状を丁寧に折って胸にしまう

 

 これが有名な国譲り状である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう殿はやらん」

 

「本当にやらないでください。私を含めて肝が冷えましたよ」

 

「悪いな、道三殿との最後の別れだったのでな」

 

 清洲城の一室にてロンメルは信長に抱かれながら愚痴を言い、信長は笑いながらピロートークをする

 

「ただ道三殿が居なくなったことにより美濃は敵に回った。幸い今川は太原雪斎が死に、三河での国人一揆の鎮圧でてんてこ舞いだ。……今川が動けるようになるまでに尾張統一を急がなくてはなるまい」

 

「は!」

 

「それと鉄砲母衣衆をお前に預ける。これからはロンメル隊として動け」

 

「よろしいので?」

 

「母衣衆として200抱えるのはどうかという頭の硬い者が多数居てな、ならば分離させるのが良いと判断した。これからの母衣衆は赤母衣衆9名、黒母衣衆は10名に絞る」

 

「わかりました」

 

「足軽大将に命じる故にこれからも励めよロンメル」

 

「わかりました」

 

 こうしてロンメルは母衣衆から外れ鉄砲足軽大将になる

 

 

 

 

 

 

 

 足軽大将になったロンメルは孤児や未亡人達を各所から拾ってきて自宅に住まわせた

 

 孤児達は将来の部下に、未亡人達は孤児達やロンメルの子供達を育てるためや労働力として働かせた

 

 その間に鍛冶屋として独立した元学生を呼んでスコップ、猫車、備中鍬、千歯扱きをお金を払って作って貰ったり、学校の生徒数が1000名を超えようとしている中秋に入ると信長と信行の対立が激化双方砦を築く等の挑発行為を行い遂に戦となる

 

「で、どれぐらい兵が集まった?」

 

「……800程です」

 

「信行にはいくら集まった?」

 

「……1700程です」

 

「……倍以上じゃないか!! 余どれだけ嫌われてるんだ!!」

 

 織田家に忠誠を誓う者は静観を決めたり、林兄弟や柴田勝家等の多くの重鎮更には清洲衆の一部も信行につき、信長は馬廻りばかり……

 

「どうして……」

 

 悪童時の奇行が原因なので信長の身から出た錆なので何も言えない家臣達(この家臣達もその信長と一緒にヤンチャしていたので更に何も言えない)

 

 滝川一益なんかの後から仕官した組は仕えたところがいきなり滅亡寸前で/(^o^)\状態だし

 

「やってやろうじゃないか!」

 

 信長激怒しながらもこの戦を戦い抜くことを決意

 

 兵を動員して稲生の戦いが幕を開ける

 

 

 

 

 

 戦いは信長隊800、700の林通具(林の弟の方)が、1000を柴田勝家が各々指揮し、信長は挟まれる形で戦をすることとなる

 

「かかれぇ! かかれぇ!」

 

 かかれ柴田の名が広がっているように猛将柴田勝家が信長を序盤は圧倒するが

 

「行けロンメル」

 

「は!」

 

 林方面を担当していたロンメルを柴田隊に配置換えし、鉄砲隊は副官の鈴川千秋引き続き林隊を牽制する

 

「どうやら清洲衆の中にはとびっきりの馬鹿が複数名居たらしいな」

 

 ロンメルは清洲城の大広間で見たことがある敵の顔を見つけ、馬に乗っていたが周りの雑兵を蹴飛ばして馬に当て、落馬したところを討ち取った

 

「妖怪が出たぞ! 討ち取れ!」

 

 それを見ていた者達がこぞってロンメルを討ち取ろうと馬を動かしこちらに向かってくる……が、馬達はロンメルを目視すると立ち止まってしまう

 

「これどうした動け!」

 

 武士達は馬を動かそうと躍起になるが、馬は尋常でない汗を流し、一歩、また一歩と後退する

 

「失せろ!」

 

 ロンメルがそう言うと馬達はご主人を振り落として逃げ去っていく

 

「コラ! 待たぬか!」

 

「辞世の句は読めたか?」

 

 スパンと叫んでいた者の首を大太刀で跳ねる

 

「今回ばかりはあまり殺したくは無いのだが……歯向かう奴は殺すしか無かろう」

 

 雑兵達が私を囲んで槍を向ける

 

「せー」

 

 のと掛け声をかけようとした足軽組頭をウマ娘の脚力によって繰り出される尋常でない速度の突きで槍を避け、そのまま胴体に一突き

 

 そのまま天に掲げて血の雨を降らす

 

 振り抜く勢いで足軽組頭を地面に叩きつけると脇差で首を跳ねる

 

「お、おらには無理だぎゃ!」

 

「化物だぎゃぁ!」

 

 槍を構えていた雑兵達その光景を見て戦意喪失し、逃げ出す

 

 20名程が逆方向に一斉に逃げ出そうとするものだから一部で混乱が生じる

 

 その流れは柴田隊の動きを一瞬止めた

 

 本陣近くに接近していた柴田隊、その瞬間に信長様は大声で叫んだ

 

「逆臣共! 織田の当主は誰ぞ! 織田弾正忠家当主はここぞ!」

 

「謀叛人信行に大義無し! 大将なれど戦に出てこぬのがその証拠ぞ! 貴様達は謀叛人に荷担した大馬鹿者として末代まで語り継がれるであろう! 先代信秀様に認められた信長様を裏切った者達としてな!」

 

「今一度誰が正当な当主か考えてみろ大馬鹿者達が!!」

 

 信長のその言葉に今回の戦が織田家にとってはただの身内での争いであり、得をするのは斎藤と今川といった外敵のみ

 

 柴田勝家はその言葉にハッとし

 

「織田弾正忠家のためを思うならばこの馬鹿げた内紛を止めるのが先決……退けぇ! 退けぇ!」

 

 柴田隊は信長の言葉により撤退、残った林隊は信長の本陣に突入

 

「信長様お退きください」

 

 と滝川一益が進言するが

 

「余に続けぇ!」

 

 と信長自ら突撃していった

 

「信長様! 皆の者! 信長様を死なせるな!」

 

 大混戦となりロンメルも橋本十蔵、角田新五、大脇虎蔵、神戸平四郎といった武将を含む50騎ほど討ち取りる戦果をあげるが、一番手柄は

 

「逆臣林通具討ち取ったり!」

 

 なんと信長自ら敵の大将である林通具を槍で討ち取る大戦果

 

 これにより林隊は崩壊し、総崩れとなり450人が討ち取られた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「余が今回は一番手柄だな! 皆精進せい!」

 

「大将自ら大将を討ち取るなんて聞いたこともありませんよ」

 

「なら余が初めてじゃな!」

 

 丹羽長秀の言葉に信長はニカリと笑ってそう答えた

 

「ロンメルはどうした?」

 

「論目流ですか……あちらをご覧ください」

 

「た、助けて信長様ぁぁぁ」

 

 先ほど戦場から逃げ出した30頭ほどの馬達に囲まれてわちゃわちゃしていた

 

「ワハハハハ! なんだあれは! 馬の妖怪が馬に囲まれて困惑しておるわ!」

 

 ロンメルは髪をモグモグ甘噛みされたり血だらけの全身をペロペロ舐められたり、頭を垂れボスと認める行為を取っている馬も居た

 

「馬の妖怪だから馬に好かれるのか?」

 

「かもしれませぬな」

 

「だずげで信長様!!」

 

「捨て置け! 余は疲れた、清洲に帰る」

 

 ロンメルはなんとか馬の包囲網を突破して自宅へ逃げたが、馬達は自宅まで着いてきて結局30頭飼育することとなる

 

 後日信行は籠城していたが母親の助命懇願により信長に許され、林の兄や勝家等の重臣達も許された

 

 味方同士による内乱の場合許される事が多く、信長が身内に激甘だからという訳ではない

 

 こうして稲生の戦いは幕を下ろしたのだが次なる一手が信長を襲う

 

 

 

 

 

 

 

 兄信広(織田信秀の長男)が謀叛を企てました

 

 作戦は斎藤義龍が信長の領土近くまで出撃し、それに対応するために信長出陣、その隙に信広が清洲城を奪うという完璧な作戦

 

 唯一の弱点は

 

「ということを信広様が企てて居ますが」

 

「信長様に伝えるわ」

 

 町田半乃助率いる忍衆がこの情報をいち早く知り、ロンメルに伝え、そのまま信長が知ることになる

 

 同様の情報を滝川一益経由でも知った信長は信広呼び出し

 

「ごめんなさい許してください」

 

「もうするなよ」

 

 謀叛をバレたので土下座して許しを乞う兄の姿が完成し、信長はそれを不問とした

 

 ちなみにこの織田信広というのは竹千代(徳川家康)と人質交換にされたことで有名

 

 こうして一連の一族による謀叛劇は終息し、残りの尾張の敵対勢力は岩倉織田氏のみとなる

 



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二次成長

「お? お?」

 

 稲生の戦いの前後でロンメルの身長と胸が一気に大きくなった

 

「22で本格化……いやこれは一部で噂の二次成長ですか……帰ったとしてももうレースには出れないか……」

 

 食欲が最近増してるなぁと思ったらウマ娘特有の二次成長に入ったらしく元々160ちょっとだった身長は180を易々と超え、正確にはわからないが190と少しの気がする(192cm)

 

 体重も大幅に増えたが全身ほぼ筋肉で割れた腹筋にガチガチの太もも、唯一柔らかい胸は西瓜の如くたわわに実った

 

 前よりも更にパワーが増したが、脚の速さは若干落ちてしまい、元の世界に戻ってももうレースには出れないのではないかと思うようになった

 

「戻り方もわからないし、もう子供達も居るからこの世界で生きていくって決めたし……よし、まずは鎧を新調しよう」

 

 ロンメルの成長っぷりに信長だけでなく他の家臣達も驚き

 

「妖怪なだけあって背の高さも大きくなったな! 大女だな!」

 

「信長様、暗に醜女って言ってませんか?」

 

「そう聞こえたか? まあ余は物好き故にそれでも抱くがな」

 

「酒豪の大女とか妖怪の国でもあんまり居ないですけどね」

 

「まあ余は魔王だし! 妖怪を3度も孕ませた男じゃ! また膨らんできたな」

 

「ほぼ毎年孕まされて居る気がするのですが」

 

「家族は多い方が良いぞ……仲が良ければ更によいがな」

 

「信長様……」

 

 兄弟に連続謀叛されている信長は家族愛に飢えており私だけでなく正室の濃姫や生駒吉乃と子作りを勤しんでおり、濃姫には子供ができなかったが生駒吉乃は懐妊し来年の夏には生まれる予定だ

 

 ちなみにロンメルは来年の春くらいに生まれる予定である

 

 

 

 

 

 

 

 

 学校の卒業生が各所で活躍し始める

 

 それは織田家であったり商家であったり鍛冶屋だったり、農民でもそうだ

 

 これら全員が読み書き算盤を習得しており、農民なら正条植えのやり方や塩水選のやり方、肥料の作り方から救荒食物の育て方等を覚え、卒業記念品として薩摩芋や里芋、大和芋等の救荒食物の種芋を分け与えた

 

 商家は帳簿の付け方、商売のいろは、更には現金掛け値なしといった未来でも通じるやり方を教え、鍛冶屋は日用品を作る者、武器を作る者、火縄銃を作る者と別れてはいたが、基礎は教えているので職種転向は可能にしてある

 

 最後に武士のグループは行軍訓練だったり、槍、刀、火縄銃の扱い方や初歩的な作戦を学び、巣だって行った

 

 巣だって行ったのだが

 

「論目流殿の下で働きとうございまする」

 

 学校での勉強を通じて妖怪である私の下につきたいという物好きも毎年何名か現れ、彼らを雇いいれてロンメルは初歩的な家臣団を形成していったが、200石と300貫の給金で賄える人数も限りがあるので、新事業を開発することにした

 

 養蜂を始めたり、養蚕を始めたり、パンを作ってみたり、平野様経由で手に入れた木綿の栽培を始めたり……色々やりくりして小作人家族も含めて30名、孤児未亡人20人、ロンメルに仕えたいと言った20名(鍛冶屋や商人含む)、町田半乃助率いる忍衆10名の80名と子供達6人をロンメルは養っている

 

「人員過多だなぁ……どうしたものか」

 

「手っ取り早くは武功をあげることで領土を更に貰うことですが」

 

「半乃助確かにそうなんだけどたぶん適正の所領は400石くらいなんだよね。飢餓になったら破綻するんだよね……」

 

「でもやることはやっていますよね。食堂を作り、論目流様の領内に住む者はそこで集団で3食取っていますが……2食にしても良いのでは?」

 

「健康的な肉体を作るには3食食べた方がよいのですよ半乃助、事実去年から見違えるほど逞しくなりましたからねあなた達」

 

「論目流様が一番大きくなりましたがね」

 

「これは種族ゆえに仕方がないのです」

 

「新事業に貯蓄の金を使いましたが蓄えていた方がよかったのではないですか?」

 

「金を生む為に初期投資をけちれば還ってくる金も少なくなりますからね……幸い商人部門を専攻した者達や鍛冶屋部門を専攻した者によってここで作り出される物は直ぐに売れていくので……しかし、パンはやはりあまり食べられませんか」

 

「いや、しかし芋あんパンは飛ぶように売れていますが……よく思い付きましたね」

 

「パンはふっくらさせるためにパン酵母という物を酒の麹で代用することで作った苦肉の作だし、砂糖を使った甘い餡子の代わりに比較的甘い薩摩芋を潰して餡にして詰めた者だけど……」

 

「どうかしましたか?」

 

「米には敵わなくても麦を使った料理が広まれば救荒食物としての麦の需要も大きくなる……けど二毛作にすると土地が痩せるしなぁ……肥料が大量に生産できないから下手に土地に無理させると痩せちゃうし……」

 

「地道にいきましょう。幸い手伝ってくれる者は沢山居ます」

 

「半乃助ありがとね……」

 

 ロンメルはなんとかやりくりをしながら領地経営をし、その情報を他の困っている織田家の家臣団にも共有した

 

 収穫物の計算や売買関係に学校出身者が大活躍し、更に学校に入学希望者が殺到することとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 弘治3年(1557年2月)

 

 白髪と茶髪の混じった双子の女の子が産まれた

 

「葦毛だ……ただウマ娘ではないね」

 

 大雪と小雪と信長から命名される

 

 ロンメルは金髪だが、ロンメルの母親は葦毛、祖母は栗毛、更に信長の黒髪の4種類の色がロンメルから生まれる可能性がある

 

 ロンメルは4年間で8人産んだことになり、すっかり畜生腹という渾名が定着し、双子だろうが四つ子だろうが寺に入れずに等しく育てる姿に信長以外には呆れられた

 

 そして5月信長の嫡男となる奇妙丸が産まれる

 

 ロンメルの身分が不確かなため奇妙丸は直ぐに濃姫に養子と言う形となり、信長の正式な跡継ぎとなる

 

「すまぬなロンメル……」

 

「いえ、信長様それが普通です。お気になさらず」

 

 とある日の夜信長がロンメルの家に小姓を引き連れてやって来て嫡男の件をロンメルに謝った

 

「お主は余に仕え、奇妙にはお主の息子達を側に置かせる」

 

「……いえ、距離を置かせましょう。あまり近すぎても一門衆がこの度の織田家が割れている間に少なくなってしまった事から近くに置けば権力闘争の駒にされかねません。私の息子達は別の家を立てさせるくらいにしませんと」

 

「それで良いのか?」

 

「武士じゃなくても食いっぱぐれる事の無いように育てますよ。一農民としても生活できるようにね」

 

「ふふ、わかった。だが余の息子は息子、娘は娘だ。髪色で政略婚には仕えぬが、嫁ぎ先は吟味しようぞ」

 

「それは勿論」

 

「……それはなんだ、蕎麦切りか?」

 

「これですか? 蕎麦切りか?」

 

「はい。まだ寒いので暖かい蕎麦で体を暖めようかと」

 

「余にもくれぬか」

 

「少々お待ちを」

 

 ロンメルは台所に立つと慣れた手付きで料理を始め、醤油ベースのスープに温泉卵と里芋、コンニャク、ごぼうを入れて信長様に出す

 

「拙者が毒味を」

 

「入らぬ」

 

 小姓の1人が毒味をしようとしたが、信長は拒否し、温かい蕎麦を食べていく

 

「うむ旨かった……流石ロンメルだ」

 

「ありがとうございます」

 

「ではまた時間ができたら来る。子供達を頼んだぞ」

 

「は!!」

 

 小姓の方々にも蕎麦を振る舞い、食べた後信長は家から清洲城に戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロンメルこんな物が南蛮より手に入ったのだが使えそうか?」

 

 平野様から学校で働いていた私に弩を渡してきた

 

 威力は火縄銃に劣り、射速性は和弓に劣り、コストパフォーマンスでは印地(石を振り回して投げる道具)に劣るなんとも中途半端な武器であるが、ロンメルは自身がウマ娘であることから大昔に一時代を作ったウマ娘の帝国で弩が使われていたなぁと思いだし

 

「これ騎兵に持たせれば強いかもしれませんよ?」

 

「騎兵にか?」

 

「事前に準備しておけば騎馬の上でも射撃することが可能ですし、火縄銃を騎馬上で射つにはまず騎馬をならす必要がありますし、和弓は熟練した者しか騎馬上では放つ事ができないのに対して訓練過程を短くできるという利点があります。ただ騎馬だけの100騎近くの兵を運用しないと効果は薄いかと」

 

「確かに100騎もの騎馬から射撃された上で直ぐに逃げるを繰り返せば戦力にもなるか……」

 

「しかしこれも日本の気候や使いやすく改良する必要がありますね……学生達に改良案を募集させてみますか」

 

「よろしく頼む」

 

 弩又の名をクロスボウは火縄銃と同時期に入ってきたのだが上記の通りそれぞれ取って変わる存在が居たことにより流行らなかった

 

 しかしロンメルは短期間に足軽を弓兵に変換できる、敵は矢を使う事ができないといったメリットに後から気がつき、細々と改良を続けていくこととなる



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浮野の戦い

 ある日清洲城に書類整理の手伝いに出向いていると藤吉郎とばったり会った

 

「お久しぶりでございますなロンメル殿、しかし大きくなりましたな」

 

 藤吉郎だが、信長に使える小者であるが普請奉行、台所奉行等を率先して行い頭角を現していた

 

「藤吉郎じゃないお久しぶり! 学校に居た頃が懐かしいね」

 

「はい。しかしロンメル殿は今じゃ足軽大将でしたか、出世しましたなぁ」

 

「藤吉郎も学校卒業してから城仕えとして大活躍と聞いているよ。この前台所奉行として薪の値段を今までの3分の1にまで減らしたり、清洲城の塀を迅速に直したらしいじゃない。流石学校1の天才」

 

「いやいや、武功を立てられていない拙者はまだまだ……」

 

「武功だけが功績じゃないよ。裏でしっかり城を回す人が居ないと城は脆い。それに城についてよく知ることができれば自身が城持ちになった際に下を上手く使えるからね」

 

「城持ち……」

 

「使える者は妖怪でも使うのが織田信長様だ。藤吉郎も頑張っていれば報われると思うから一緒に織田家を盛り上げていこう!」

 

「はい!」

 

 秀吉は後年ロンメルの事をこう評価している

 

「信長様ご存命の頃より大立ち回りを続け、身1つで出世し、学校に通わせて貰えたご恩により今の秀吉有りけり。それはそれは強烈な憧れの対象でござった。身分が低い者にも腰が低く、偉ぶらず、粛々と仕事をこなす様をよく見習ったものだ」

 

 と……

 

 

 

 

 

 

 戦が無いので内政に力を入れているが、ロンメルは他国と米相場の値段の違いに気がつき、調べてみると甲斐や信濃が高く、尾張、関東の武蔵、下総は安いことに気がついた

 

 そこでロンメルは差額を利用した米転がしを実行、無理の無い範囲で借金もして特産物を購入し、それを関東で転売、売れたお金で米を買い込む

 

 季節が10月……収穫期なのでいつも以上に相場が下がっており、120石ほど買い込むことができ、それを凶作で困っている武田領で高く売りさばく

 

 この時私の馬30頭もつれていき荷台に10個ずつ俵を乗せ、合計300俵を運ぶ

 

 道無き道を進み、関所を飛ばし、武田領にて売り払うと購入金額の1.8倍にもなったため、交易品を購入

 

 これを3回ほど繰り返す頃には笑いが止まらない程の大金となり、十一の借金(10日で1割り増し)を返してもロンメルの手元には650貫近くが残る

 

「ただこれはもうできないな」

 

 たまたま道中山賊が居ないルートだからよかったものの、山賊に襲われたりしたら大損だし、米屋に1日に3回も通った為顔も覚えられてしまったので今度行ったら北条氏に通報されかねない

 

「まあでも650貫も有れば色々な道具が作れたり他の作物を交易で手に入れることができる……大太刀も新調しなきゃな……無理して使ったから手入れしてても切れ味が落ちてきているし」

 

 ロンメル愛刀の交換を決意、尾張1の鍛冶師に大太刀を打って欲しいと100貫渡して依頼した

 

 100貫も貰った職人は大興奮、失敗を何回かした後3か月後にロンメルの元に大太刀が届く

 

「この大太刀の名前は影月……打っているとき月光で浮き上がった影を切断しているように見えたのでそう命名しました」

 

「影月……良い刀だ。ありがとうございます」

 

 ロンメルは名刀影月を手に入れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄元年(1558年8月)

 

 ロンメル黒髪の3つ子を出産

 

 勿論父親は信長で男2人に女1名だった

 

「なぁ妖怪は妖怪を産まないのか? 少し期待していたのだが」

 

「うーん、産まない人は本当に産みませんから……信長様の血が強すぎるのかもしれませんが」

 

「そうか? それはそれで良いな! うむこやつらは余に似ているな!」

 

 そう言って信長は五郎、六助、鶴と名前を付けると食事を取り談笑する

 

「大太刀を新調したと聞いたが」

 

「はい。前の大太刀はあそこ(神棚みたいな場所)に飾り、今の大太刀はこちらに」

 

「……重いな」

 

「前よりも力が増えたので重くしました。打撃でも殺せる自信があります」

 

「……おお! 見事な作りぞ」

 

「ありがとうございます」

 

「……のう、ロンメル、お前は余を裏切らぬよな」

 

「いきなり何をいうのですか……信長様が死ぬまで見届けますよ……妖怪ですから」

 

「そうか……ずっと側に居るとは言わないのだな」

 

「それは濃姫達が居ますゆえに……私は子供達のために戦い続けなければいけません」

 

「いや、お主の才は泰平の世こそ輝く物であろう。米の収穫量を跳ね上げ、様々な事業で益を出しておろう」

 

「いえ、私は戦国の世でなければ才を使いきれませぬ。平和な世で産まれましたが、ここまで人殺しの才があるとは思いませんでしたので……」

 

「そうか……」

 

「お父上様!」

 

 だっだっだっと黄坊が走ってくる

 

「お父上様! お久しぶりでございます」

 

「おお! 礼儀正しいな! 信行みたいじゃな」

 

「やー! 信行おじさんお父上の敵!」

 

「はは! 敵じゃない。もう余の家族だ。もう争ったりはせんからな」

 

「そうなの? あのね! あのね! 名前書けるようになったの! おだきぼうって!」

 

「そうかそうか! 黄坊は利口じゃな」

 

「母上に色々教わるの! 強くなってお父上の役に立つの! ねー! 黄衣! 黄衣!」

 

「黄坊なに? あ! お父上だ!!」

 

「お主ら見ないうちに大きくなったな」

 

「あたしもお父上の役に立つの! そろばん? 習って役に立つの!」

 

「黄坊も! 黄坊も!」

 

「そうかそうか! 励め励め! そして色々な事をして学べ! 知るは力ぞ」

 

「「はい!」」

 

 わーきゃーと言って走り回る2人を見て信長は

 

「あ奴らの為にも天下を平定せねばな……しかし、本当に利口じゃなあ奴ら」

 

「普段は悪ガキですよ。馬小屋にいつの間にか入って遊んでいたり、近所の子供と石合戦に参加していたり」

 

「はは! 余の子供らしいわ! 色々痛い目を見ながら成長していくものだ。死ななければ良い。これからも頼んだぞロンメル」

 

「は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 それからまもなく信長は尾張統一の為に岩倉織田家を倒すために兵をあげる

 

 このために信秀の死後独立勢力となっていた織田信清に信長の姉犬山殿を嫁がせて勢力を組み込み、浮野の地にて合戦が発生

 

 勿論ロンメルも参加し、柴田勝家、丹羽秀永と連携して序盤から岩倉織田家を圧倒

 

 特にロンメル率いる鉄砲隊と弩を渡していた弩隊による連携攻撃により敵右翼を壊走させ、右翼側から中央に斬り込んだ

 

 ロンメルが先陣を切り、約100人を殺害したところで信清隊が戦場に到着し、そのまま包囲しようと動いたところで敵は壊滅

 

 ただこの包囲作戦をしているときに流れ矢が信清に直撃して絶命

 

「悪いな、ロンメル様の密命でな」

 

 信清暗殺は尾張統一の邪魔でしかないと判断したロンメルの独断であり、部下の忍衆を動員し、半乃助の指揮のもと戦場の混乱に紛れて暗殺に成功した

 

 信清が暗殺されたことで岩倉織田家はなんとか本拠地の岩倉城に逃げ延び籠城の構えを取る

 

 信長はそのまま城を包囲し、数週間後岩倉城は落城、関係者を追放し、織田信清の領土も吸収したことで信長は尾張統一を達成した

 

 ただ、包囲中に弟の信行が再び謀叛を計画していると柴田勝家から密告があり、信行を呼び出して殺害

 

 この信行美濃の斎藤家だけでなく今川とも通じようとしており、信長も許すことができないと判断したのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「信行なぜ、なぜだ……なぜ再び裏切った……」

 

「信長様……」

 

 清洲城の寝室にてロンメルを呼び出し信長は落胆している姿を晒していた

 

 尾張を統一したのに浮かばれなく弟を殺さざるえなかったことに酷く悲しんだ

 

「信長様、戦国の世は弱いのは罪なのです。信長様は信行様が付け入れる隙があると思われるほど弱く見えた。ただそれだけなのです」

 

「弱いは罪か……ならば余は強くあろう。斎藤も今川をも打ち倒し天下に号令をかけるのだ!」

 

「そのいきでございます」

 

「ロンメル、今回の武功により300石を追加し、戦目付に任ずる。これからも余の為に働け」

 

「は!!」

 

 ロンメルは500石を持つ戦目付へと昇進した。これは現在の母衣衆と同列であり、ロンメルは小隊長から中隊長へと抜擢されたこととなる

 

 これをもってロンメルは上級武士の仲間入りとなった



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そうだ京都へ行こう

 以前までは米転がしという禁断の技を使わざるえなかったロンメルだが、知行が増えたことで領土の経営が安定化した

 

「他の領土と比べると2倍近くの収穫量になっているから肥料の力はやっぱり凄いな」

 

「しかし、今年はイナゴが発生したのが痛かったですな。あれさえなければ2.5倍の収穫量は固かったかと」

 

 年末、半乃助や領内に住む小作人の代表や家臣達を集めて来年の目標を確認していた

 

「とりあえず尾張は統一したからまた内政に入ると思うけど三河忩劇が沈静化したため今川の進行も考えられる。忍衆は三河、駿河、遠江の米相場を調べろ。軍事行動の前には値段が上がるゆえに。無茶をして命を落とすなよ」

 

「「「は!!」」」

 

「領内は広くなった分小作人を追加で10組程(約50人)の家族を連れてくる。それと牛の数を増やし牛糞の肥料を増やせるように手配する。新領土は土地が痩せているから土壌改良を重点的に行う。スコップと備中鍬によって深くまで耕せるようになったので頑張れば来年も今年ぐらいの収穫量になると思われます」

 

「それは良いだぎゃ! 増えた分だけこっちも潤うだぎゃね」

 

「妖怪様が主になってから餓えとは無縁になっただぎゃ! おっかあのおべべも新しくできただぎゃ」

 

「それとこの前平野様経由でこんな物手に入れたんだ」

 

 ロンメルは種が入った袋と芋の入った袋を見せた

 

「なんですかそれは?」

 

「種の方が東洋人参と玉ねぎ、この芋は馬鈴薯……東洋人参は大陸からの商人が、玉ねぎと馬鈴薯は南蛮の商人が持ってきたらしくそれの一部を購入したんだ」

 

「これも救荒食物だぎゃ?」

 

「半分はそうだけど馬鈴薯は料理の仕方によっては米に代わりに主食として食べられている地域もあるから、腹の足しになると思うよ」

 

「料理が美味しくなるのは良いことだぎゃ」

 

「肉、魚、野菜、米を満遍なく取ることが体にはとても良いからね。婦人方にはこれらを使った新しいレシピも教えるからよろしくね」

 

「「「はい!」」」

 

「頼むでおっかあども! 俺らの腹はお前さんらに握られてるからな」

 

 食堂を利用、洗濯のまとめ洗い、子育ての集団化……ロンメルは負担を減らすのを徹底的させ、男達は小作人だけじゃなく家臣希望の者達にも農作業をさせて働かせた

 

 体をいっぱい動かしてしっかり飯を食うそうすると肉付きが全然違くなり、結果として足腰がしっかりしているので槍や刀の扱いも練習すれば上手くなる

 

 勿論達人クラスは槍や刀ばっかりやっているが、家臣候補の人達は農業や商業についても詳しくなって食いっぱぐれないようにするのがロンメルの目標だし、ロンメルが万が一戦死しても黄坊を含めた息子達娘達を立てて欲しいと願っているので、息子達に教える為にも農業や商業のいろはを叩き込んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 永禄2年(1559年2月)

 

「尾張も統一したので将軍様にお会いして尾張統一の報告を行う。80名で上京する」

 

 と信長様から号令が急遽かかり、母衣衆やら馬廻りやら幹部候補達が召集され、敵地美濃を突破し、六角領も通過して京に入る

 

 道中3組程山賊が出たが、ロンメルと下方貞清、母衣衆達でほぼ掃討し、ロンメルは15名、下方貞清は20名、前田利家は5名討ち取った

 

 で、将軍に会いに行き、信長様は面会を許され、尾張統一の報告を行う

 

 京は長い間の戦火により治安は崩壊しており、ロンメルは複数回京に出入りしていたので知っていたが、初めて京を見た面々はその荒れ具合に華やかな京のイメージが幻滅してしまった

 

 物乞いをする貴族、山賊や荒くれ者、野武士のたまり場、孤児や老人が壁にもたれ掛かり、そこら中に死体が転がっている

 

 幕府のお膝元がこれなのだからどれだけ幕府の権力が無いかを物語っている

 

「これが……京か」

 

「利家、どうした」

 

「論目流か……帝も将軍も居る京がこれなのだなと」

 

「私の国だと死体が転がっていることも無ければ孤児達があんな風に路上で物乞いをしなければならないことも無かった」

 

「妖怪の国の話か」

 

「まさにここは地獄だな。閻魔も呆れるよ」

 

「だな……妖怪の国の方が発展し、人の国が荒廃しているとはなんとも皮肉だな」

 

「もっとももうこの世界に迷い混んで10年もたった。25だよ私……元の世界に戻っても居場所は無いからね。ここで頑張るしか無いんだ」

 

「論目流……」

 

「おーい! 論目流! 信長様がお呼びだ!」

 

「わかりましたすぐに向かいます。じゃなね利家」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「そなたが妖怪か……」

 

「頭巾を取りましょうか将軍様」

 

「良い、人とは違う雰囲気を感じる……尻の膨らみは尻尾か?」

 

「はい」

 

 ロンメルは信長様に呼び出されると将軍様に面会するように言われ、大太刀を幕臣に預けて面会している

 

「女なのだな」

 

「そうですね」

 

「だが、その肉付きはなかなか……太刀を見せよ」

 

 幕臣に命令した将軍はロンメルの大太刀を握る

 

「妖刀の類では無いな……しかし100は斬っている……うむ血をよく吸い込ませてある名刀だな」

 

 この義輝将軍は何か見えているのか雰囲気だとかで斬った人数まで当ててくる

 

 妖怪なのはそっちじゃないかと言いたくなる

 

「剣術の師はおるか?」

 

「塚原卜伝先生です」

 

「なに? ト伝先生か! 同門じゃないか! どこまで教わった」

 

「奥義以外は……一之太刀は見せて貰えませんでしたが」

 

「そうか……先生の許可も無く教えることはできぬが……立ち合え、実戦で見せるのは良かろう」

 

 そう言うと立ち合いとなった

 

 剣豪将軍の渾名があるように将軍義輝は気に入った人物が居るとよく立ち合いを行っている

 

 そんな将軍なので政治音痴に思われるかもしれないが、各地を放浪した時期に国の争いを治め、石山本願寺と越前朝倉を和睦させたり、第三次川中島の戦いの仲裁をしたりと普通に政治力はあったりするが、自身の兵力が全く無いので歪んだ権力のみで統治しようと奮闘しているのでそれが他から見たら滑稽なのだろう

 

 ロンメルと将軍は構えるロンメルは自慢の突きで勝負に出るが、次の瞬間ロンメルは反対方向に吹き飛ばされていた

 

「かは!?」

 

「今のが一之太刀だ」

 

 全く見えなかったその一撃恐らくロンメルが踏み込んだ瞬間にカウンターをしたか、それよりも速く木刀を振るったか……

 

「参りました」

 

「うむ、そなたの突きもなかなか危なかったぞ。だが面白い物は見れた……褒美に奥義以外の技を纏めた書物をやろう。恐らくト伝先生は人と作りが違うそなただけの奥義を作れと言うことなのだろう。励め論目流」

 

「はは!」

 

 それと将軍様から何か役職を送ろうと言われたので

 

「妖怪が政治に関与したら録な歴史が無いので蝦夷地にでも飛ばしてください」

 

「じゃあ正八位下の蝦夷地守護兼妖怪大将の地位を与える……名字等はあるのか?」

 

「一応砂山と名乗っていますが」

 

「これより名字を怪異と名乗れ」

 

 となんか北海道の守護の地位と妖怪大将なる役職、扇子と書物、名字を貰った

 

 なのでロンメルの正式名称は怪異正八位下蝦夷地守護東狐論目流となる……長いわ! 

 

 

 

 

 

 

 

 

「良かったな妖怪大将」

 

「いや? 妖怪が他に居ないから大将にされただけで何の権威も無いですからね」

 

「いや旗に書けるだろ妖怪大将」

 

「信長様茶化さないでください」

 

 信長様だけでなく他の者からも妖怪大将だの将軍にこてんぱんにされたのだの言われた

 

「よーし! 怒った! お前ら一騎討ちだ! 影月の錆びにしてやる!」

 

「やっべ!」

 

「利家です! 利家が一番言ってました」

 

「お、お前ら! 俺を売るのか!」

 

 流石に遊びすぎたのかロンメルと利家は信長様から拳骨をもらい、とぼとぼと尾張に帰るのだった



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前田利家無職になる

「論目流殿恥を承知でお願いしたく……俺を雇ってはくれぬか」

 

 前田利家母衣衆筆頭に任命されるほど出世していたがとある事件を起こして無職となる

 

 永禄2年(1559年夏頃)

 

 それは信長お気に入りの拾阿弥が多方面にちょっかいというか馬鹿にした態度を取っていた事から始まる

 

 というのもこの拾阿弥信長のセフレである

 

 顔が信行に似ていたこともあり大層可愛がっていた

 

 さらにこいつ同朋衆出身であり、教養人として採用されたエリート(ロンメルの世界で言うなら六大学の法学部出身くらい)

 

 学校側でも貴族を雇って教養の勉強を教えてはいるが、信長も自前の教養を教えられる人物を確保しておこうとことで信行の死後、信行の家臣であった拾阿弥が信長の小姓まで出世した経緯がある

 

 さらにさらにこの拾阿弥質が悪いことに血筋を辿ると源義円にたどり着く

 

 この源義円という人物は源義経の同母の兄でありとてつもなく由緒正しい血筋なのだ

 

 そうしたエリート坊っちゃんこと拾阿弥にロンメルも色々馬鹿にされており、信長の元案内をお願いしたら馬小屋に連れていかれてここで待てと言われ、数時間待たされたあげくおかしいと思い信長様を自力で見つけて聞いてみたらそんな事を頼んだ覚えは無いとのこと

 

 馬の妖怪なのだから馬小屋にいろという意味で馬鹿にされたり、信長様の寝床に入った際帰りに脇差が盗まれており、厠の中に捨てられるという嫌がらせをされていた

 

 ロンメルだけでなく丹羽殿や滝川殿も笄(髪をかきあげてマゲを作るための道具)や脇差を盗まれており拾阿弥に良い感情は持っていなかったが、信長様のお気に入りということで我慢していた

 

 そんな拾阿弥が目を付けたのが子分時代から目をかけられ、順調に出世していた利家である

 

 日頃から嫌みや嫌がらせを行い、喧嘩となったのだが信長の仲裁で事なきをえたが、それで何をやっても良いと勘違いしたのか利家の妻まつ(12歳 既に出産済み 従兄妹の関係 最後以外アウト 最後だけセウト)の親父の形見である笄を盗み、踏みつける等を目の前で行い、キレた利家が信長が居る目の前で拾阿弥を斬殺

 

 信長視点セフレ同士(利家も抱かれています)の痴情の縺れとも言えなくもないが、身内に甘い信長からもアウト判定の死罪を宣告される

 

 流石にそれは可愛そうだと森や柴田、丹羽やロンメルの連名で助命懇願をしたことで死罪は撤回され知行没収の上で追放処分となる

 

 この一連の事件を笄斬りと呼ばれ、エリートコースを進んでいた利家は一転して無職となり、12歳の妻と長男を養わなくてはならず途方にくれ、学校の先生生徒の間柄で交遊が続いていたロンメルに泣きついた

 

 ロンメルなら匿ってくれなくても仕事を紹介して貰えるだろうという打算も込みである

 

 が

 

「信長様からたぶん利家に泣きつかれると思うが無視しろって命令が出てるんだよね」

 

「そ、そんなぁ」

 

「いや、でもねまつちゃんやお子さんのことも有るから私が雇うのは無理だけど私の部下の半乃助に雇われるという形にしようか」

 

「いいのか!?」

 

「私は直接雇ってないし、半乃助には10石プラスで所行を増やすからその10石でやりくりしなさい。半乃助経由で仕事も斡旋するから……算盤忘れてないよね?」

 

「無論! もう算盤を使わなくても暗算で計算できる」

 

「よし、とりあえず便利屋として働いて貰うよ。うちは色々な職種があるからね養鶏、養蜂、養蚕、パン作り、食堂、農作業、子育てに内職複数……武芸指導もして貰おうか」

 

「貯蓄も底を着き路頭に迷って居たところだ。何でもやる! 二言はない!」

 

「よし! 半乃助聞いてたよね」

 

「は!」

 

 屋根裏から出てきた半乃助に驚く利家だったがロンメルと半乃助は普通に会話を続ける

 

「少し所領を増やすからそれで前田殿の働きに応じて分けなさい。あなたも将来的には忍衆だけでなく将として働いて貰わなくてはならないので部下の扱い方を学んでおきなさい……利家、住む場所は当面の間借家を貸すからそこに住みなさい。金が溜まり次第もっと良い場所に住んで良いから」

 

「ありがとうございます! 論目流殿!」

 

「私は半乃助に新しい部下ができた報告を聞いただけ、それがたまたま利家だっただけだから」

 

「このご恩一生忘れませぬ」

 

 こうして利家はロンメルの領内に住むことになった

 

 

 

 

 

 

 

「という体にしました信長様」

 

「まあそれが妥当だろうな」

 

 信長様的には拾阿弥の度の過ぎた嫌がらせも耳にしており、いつか誰かがやらかすとは思っていた

 

「お咎め無しというわけにもいかぬからな。そうなると家臣に示しがつかぬ。学校で雇っている貴族連中にも影響が出るゆえに重めに言って家臣達に止めさせ、罰を軽くする……双方の顔を立てねばならぬのが国人の辛いところよ」

 

「しかしあやつ(前田利家)がやらかすとは思ってなかった……母衣衆筆頭だぞ、重臣の次位に偉いのにあの馬鹿は……ロンメル、あやつに政治のいろはも叩き込め、あのままでは将としては使えぬからな」

 

「まってください信長様、私も将のいろはなんてわかりませんよ」

 

「そこはなんとかせい! お主ならできる」

 

「無茶振りだぁ!」

 

 信長とイチャイチャ? しているころ利家もようやくまともな寝床ができて来てそうそうに子作りを開始するのだった(こういうところやで利家ぇ……)

 

 ちなみに利家20歳、信長25歳、ロンメル25歳と信長と同じ歳であったり……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 この頃の動きとしては信長の後に長尾景虎(上杉謙信)が上洛

 

 軍神として戦上手……いや神がかり的な軍事センスの持ち主なのだが政治もこの人出来るのがポイント

 

 上洛時貴族や幕府に貢ぎ物いっぱいしてそれを扱って貰うことで広告塔になってもらい、商人達に買わせるイメージ戦略の先駆けをしたりする、複数の鉱山も管理下に置いていることから金持ちであった

 

 金持ちなのだがお米が足りなくて関東に攻めいったりしているのはご愛嬌

 

 この上洛に影響を受けたのが今川義元で本当は永禄2年に上洛と言う名の尾張攻めをしたかったのだが、長尾景虎が来たことにより断念

 

 大義名分がこの時上洛くらいしかなかったので万が一事が上手く進んで本当に上洛できた時に長尾家とぶつかるのは不味いと判断したからだ

 

 ちなみに更に詳しく言うと今川は鎌倉派、信長は室町派と鎌倉方を立てるか室町の将軍を立てるかの代理戦争的な側面もあり、過去に話した今川は難民を抱え続けると破綻するという話をしたと思うが、そろそろそれのタイムリミットが近づいていた

 

 ある程度は三河争乱で口減らしができたのだが、三河を取ったことで更に人口を抱え込んでしまったことになり、豊かな尾張を攻め取ら無ければ今川領という全体が破綻するという恐ろしい事が発生してしまうのだ

 

 この年の他の出来事は本願寺が朝廷に3万貫の献金をしたり大友宗麟が九州探題に就任して外国と貿易を始めたりしたり

 

 とにかく流民難民を多く抱え込んだ今川のキャパはオーバー寸前であり、運命の一戦が近づいていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄3年(1560年)

 

「信長様、忍衆より今川領内での米及び馬の相場が上がりました。軍事行動の予兆かと」

 

「今川は今年に入り幕府と連絡を遮断した。上様は大層お怒りだが、今川の力と足利の一族に近いことから切れずにいる。しかしなぜ今年だ? 三河争乱があった為遅れたのはわかるが……」

 

「恐らく流民の抱え込みにより国として養える数に限界が近いのでしょう」

 

「……となると奴は熱田と津島が狙いか」

 

 二大商業都市を占領することが出きれば今川は駿河の名産を尾張を経由して大量消費地の畿内に送る事が出きる

 

 更に今年は気温が例年よりも低く冷害の恐れすらあったことで義元を焦らせた

 

「3万の動員をかける! 撤退は許さん。尾張を取るまでが戦ぞ」

 

 義元がそう号令を発している頃ロンメルは漏れ出た情報を信長に届ける

 

「動員準備の段階で2万5000から3万、戦闘員だけでも1万5000はいるかと」

 

「であるか……義元め、長期戦か負ければ国が滅ぶぞ」

 

 信長の読みは当たっていた義元は尾張制圧完了まで不撤退を指示し、上洛という名目で尾張の完全制圧を目論んでいたので尾張さえ取れれば何でも良く、逆に尾張が取れなければ国が滅ぶ一世一代の賭けに出た

 

 勿論ベットは今川の未来

 

 対する信長は

 

「津島と熱田が今川に付かぬように手配しろ」

 

「は!」

 

 伊勢神宮は独自勢力が居るため迂闊に手出しできないので信長は味方である津島と熱田を固めることに注力する

 

「学徒出陣の用意もしておけ」

 

「は!」

 

 信長も今ある全てを全ベット

 

 運命の一戦まであと1ヶ月

 



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桶狭間の戦い

 永禄3年(1560年6月5日)

 

 今川が準備を終え尾張に向けて出陣

 

 対する織田は籠城を主張する者と一か八か打って出るべきだと言う者で二分していた

 

 既に前哨戦として織田は鳴海城を囲むように5つの砦をコの字の形になるように築いていた

 

 北から丹下砦、善照砦、中城砦、丸根砦、鷲津砦である

 

 このうち鷲津砦と丸根砦は今川方の大高城との連絡路を遮断するために作られた砦であり、戦いの鍵となってくる場所である

 

 今川領内に築かれた砦の5つが陥落する前に今川軍を止めなければ織田領内に侵入されてしまい、そうなると独自勢力となっている伊勢神宮は今川が優勢と見るや裏切る可能性が大きく、信長は今川と尾張の狭間で撃退させなければならなかった

 

 その為籠城は論外であるのだが、重臣達の意見は3万という軍勢は長期戦の為に大量の物質を消費してしまう

 

 冷害の可能性が高い現段階で長期戦となれば今川は引かざる得ないだろうというのが予想である

 

 これを柴田や佐久間、丹羽等が支持し、馬廻り衆達は反発したが、重臣達の方が発言力があり緩やかに籠城へと意見が傾き出した6月12日早朝……丸根砦、鷲津砦が今川方より攻撃を受ける

 

 丸根砦を攻めているのは松平元康(徳川家康)であり、大高城への兵糧を送る任務を完了して返す刀で攻勢に出ていた

 

「信長様! 砦の兵を引き上げ籠城を行いましょうぞ! さすれば5000は集まり勝負になりまするゆえ」

 

「……重臣も3万の軍勢を前には知恵の鏡も曇るか……もうよい!」

 

「「「信長様!?」」」

 

 信長は軍儀から退出し、家臣達は織田はここまでかと落胆した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滝川、ロンメル情報を纏めよ」

 

「津島十五家は信長様に味方するべく準備を完了しています。熱田は馬廻り衆で熱田神宮宮司の千秋季忠が熱田筆頭の加藤を説き伏せ織田方に味方すると熱田神宮にて信長様のことを待っております。学徒出陣の準備も完了しており召集をかければ1200名の生徒と教員が参戦致します」

 

「今川の動向でございます。沓掛城の今川義元本体に動きあり、ゆっくりと大高城に向かっているとの事」

 

「釣れた! 動くぞ! 熱田神宮にて待つ! 着いてこれぬ者は置いて行く」

 

「「は!」」

 

 信長は敦盛を舞っている間にロンメルはその足で津島の学校に直行し、出陣を発表

 

「合流地点は熱田神宮! この一戦で織田の趨勢が決まる! 命を掛けよ」

 

「「「おぉぉぉぉぉ!!」」」

 

 津島衆、学徒を引き連れロンメルは熱田神宮に向かい、熱田神宮に到着する頃には織田の兵力は3000まで膨らんでいた

 

 この動きを察知した義元は軍を各地に分散させ善照砦から来るであろう信長を半包囲からの殲滅ができる体制を整えつつあり、義元に油断は無かった

 

「余と勝負じゃ信長」

 

 義元はこの時信長が奇襲を仕掛けてくることも読んでおり、戦上手な兵を分散させたことで本体を囮とした

 

 その本体は海道一の弓取りと評価されている策士今川義元

 

 信長は善照砦に入ると高所故に今川の動きをある程度知ることができた

 

「奇襲に反応するのが今川義元ぞ」

 

「奇襲を行ってくるのが織田信長ぞ」

 

 

 

 

 

 

 

「信長様、熱田衆をお使いください」

 

「千秋季忠すまぬ」

 

「いえ、信長様の為に死ねるのであれば本望でございまする」

 

 信長が取った作戦は二段奇襲

 

 奇襲を二回行うことにより今川義元の本体を探し出し、そこに奇襲をかけるというものであった

 

 勿論最初の奇襲を行う者は死ねと言っているのも同意儀であり、熱田衆が信長に見せた忠誠の証であった

 

 可愛がっていた子分の千秋季忠は確実に死ななければならなかった

 

 熱田神宮宮司である彼が死ぬことにより今川義元は伊勢神宮よりも熱田攻略を優先しなければならないのだ

 

 宮司を討ち取るということはそれだけでその町は支配を受け付けない

 

 長期戦になれば破綻する義元にとって熱田掌握が手間取れば尾張掌握全体が長期化するのが必然であり、そうなれば三河争乱の再発、いや尾張と三河が同時に国人一揆が発生する可能性すらあり、そうなれば今回の遠征事態が全て無駄になる可能性すらあった

 

 信長も保険をかけており、奇妙丸及びロンメルの子息を別々の場所に隠し、この戦が負けた場合国人一揆に発展した時に担がれやすい様に整えていた

 

 ロンメルの息子達は津島衆に、奇妙丸は柴田勝家が守っている

 

 こうして千秋季忠率いる熱田衆約300が今川方に特攻、これに奇襲を警戒していた義元は素早く反応し壊滅させる

 

 信長の計画通り義元は千秋季忠を討ってしまったことで大高城を拠点に尾張侵攻計画を変更して分散させた兵も含めて尾張侵攻を優先させた

 

 この計画の変更が義元の致命傷となる

 

 この計画の変更により今川本体は鳴海道を進まざるえなくなり、この道は沼地が多く大軍が通るには不向きな道であった

 

 更に

 

「何? 雨が降りそう……これ以上この道を進めば雨で更に道が悪くなった場所を行軍することになる……となると甲冑や武具を着た者が足を取られ溺死する可能性もあるな……引き返すわけにもいかぬ。桶狭間山にて休憩といたそう」

 

 急な計画の変更、天候の悪化、進路の変更……全て要因が信長に味方した

 

「信長様! 槍の不揃いな部隊を見つけました! 中央より2隊後ろの部隊です!」

 

「嘘なら磔、本当なら城をやろう」

 

「本当です! 鎧の質も良いものばかりでありました!」

 

「ならばよし! 場所は桶狭間山! 全軍狙うは義元の首のみぞ! 他は捨て置け……かかれぇ!」

 

 雹混じりの大雨の中信長は善照砦から今川本体のいる桶狭間山に近づき、雨が上がった瞬間に奇襲を仕掛けた

 

 雹混じりの大雨の為足音及び姿を見失った今川の各分隊は義元の本体に危機が迫っていることに誰も反応できなかった……いや1名だけその危機を読んでいる者がいた

 

「全ては三河奪還の為に」

 

 松平元康である

 

 彼は水野氏に通じており、水野氏経由で織田の情報を知りながら握りつぶしていた

 

 義元が死ねば三河の岡崎城に戻さなければ織田を止める者はいない

 

 三河にさえ戻れれば幾らでも策を講じる事が可能であり、この時を千載一遇の機会ととらえた元康は義元が死ぬことを望んだ

 

 勿論信長が殺られる可能性もあるので元康は丸根砦から中城砦に向かって進軍するふりをしており、大雨で停滞したが、予定どおりの行動をしていたと言い訳を用意していた

 

 それよりも義元が分散配置させた分隊が全てすり抜けられた事が大問題であり、責任はそちらにあるという材料も用意していた

 

 この分隊を全てすり抜けて進めた原因は義元の計画の変更が一番大きいが滝川とロンメルが合同で雇っていた忍衆による活躍が大きい

 

 事実ロンメルは半乃助以外長期契約止まりであった忍衆みなに土地を与え家臣に組み込む事となる

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは兄上では美濃は任せられませぬは……才が違いすぎる」

 

 斎藤利治は信長の馬廻り衆と一緒に一兵士として参戦しており、信長の戦場、天候、敵の動き、味方の忠誠心までも利用した戦略のスケールの大きさに圧倒されていた

 

 槍を振るい敵を倒しながら必死に信長に着いていく

 

「この人ならば本当に天下を見れるかもしれませんね」

 

 利治は胸の高鳴りを抑えられずにいた

 

 

 

 

 

「利家」

 

「あいよ!」

 

 ロンメルは背中を利家に任せ、今川の槍隊に突撃していった

 

 槍隊は寸分狂わぬ連携でロンメルを叩き潰そうとするが、大太刀の腹で槍を下にずらすとそのまま踏み込んで6名の体を影月で両断する

 

「ひゅー! さすが論目流! 俺も負けてはいられないぜ」

 

「利家あんたは勝手に参加している立場ってことを理解してよ」

 

「うっさい! 首をあげなければ信長様は俺の事を見てくださぬ! 功を持って罪を消すゆえ」

 

「あっそ!」

 

 ロンメルは槍隊が崩れた隙間からロンメルの家臣(家臣にしてくれと頼み込んできた1人)である服部一忠達を突っ込ませ、ロンメルは義元を探しながら敵陣の更に奥に斬り込んでいく

 

 義元本体の第一陣千人は信長の奇襲により大多数が混乱の中討ち取られ、第二陣も全体を緻密に連携しながら守っていた今川方をロンメルが風穴を開けたことで崩壊

 

 第三陣今川義元の目の前まで来ていた

 

 義元は籠から降りて抜刀、義元とは知らずに近くにいた織田の兵士を斬り捨てた

 

「余自ら刀を振るうのは何時ぶりか……くっくっく、最後は信長と一騎討ちと洒落こもうかのう」

 

「……それは出来ない相談ですゆえに」

 

「……お主か妖怪。まさかここで会うとはのう」

 

「戦場故に一騎討ちとはいきますまい」

 

 ロンメルが指を鳴らすと音もなく近づいた服部一忠が義元の脇腹を刺した

 

「ぐう!? ……気がつかないとは鈍っていたか」

 

「一忠離れろ、それ以上近づけば斬り捨てられる」

 

 脇腹に刺さった槍を義元はへし折ると大量の出血をしながらも私をじっと見つめる

 

「のう、妖怪、余はどこを間違った?」

 

「強いて言うなら……焦った事だ。三河を焦って取ってしまった事だ」

 

「三河……争乱……か」

 

「無理に流民を抱え込み過ぎた。三河の民を抱え込んだことで時期を決めることができなかった……雨季に決戦を挑んだのが敗因だ。あと数年待つことが出きれば今年の冷害で三河は勝手に自壊し、織田は美濃に目を向けなければならなくなっていた……」

 

「そうか……焦り……か……師が居なくなり……焦った……か」

 

「これ以上苦しませるわけにもいかぬであろう。介錯する」

 

 ロンメルがそう言った瞬間に横から誰かが義元の首を跳ねた

 

「毛利良勝! 今川義元討ち取ったり!!」

 

 その光景にロンメルは冷めた目で少し見た後、近くに迫ってきていた松井宗信隊に単独で突撃し、松井宗信とその馬廻り全てを討ち取る

 

 その一角だけ血の池ができており、その場に佇むロンメルを見た敵味方関係無く恐れおののいた

 

 

 

 

 

 

 

 桶狭間の合戦又は桶狭間の戦いと呼ばれるこの戦による信長隊の損害は最初に壊滅した熱田衆と本戦を合わせて900ほどに対し、今川方は2700名近くが戦死してしまい今川義元、松井宗信、久野元宗、井伊直盛、由比正信、一宮宗是、蒲原氏徳等の有力な将だけでなくそれを支える馬廻り衆、一門衆、侍大将、奇親衆等を多く失ってしまう

 

 今川の強みはピラミッド型の支配体制であり、その上の部分がごっそり居なくなってしまったのだ

 

 今川は急速に弱体化していくこととなる

 

 対する信長も今まで付き従って着た馬廻り衆を多く失い、学生達や教員も100名程が亡くなった

 

 が、ロンメルが整備してきた人材育成機関学校……織田学校は失った人材を補てんするに足りるほどの人材を輩出し続け、半年で損害を回復することとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロンメル、そなたが第二陣を崩したおかげで第三陣に到達できた。更に松井宗信や数多くの武将、一門を討ち取った功績により……鳴海城城主とする。旧5砦を含めた1万石をそなたにやる。ただし校長職は解任とする良いな」

 

「は!」

 

 ロンメルは城主となり、岡部元信が徹底抗戦を続け焼け野原となった鳴海城を貰うことになる

 

 更に校長職を解任され、織田学校から人材を引っ張りだすのも難しくなりしかも鳴海城は元今川領なので民の掌握から始めなければならず頭を抱えるのだった

 

 

 

 



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ロンメル城主となる

 永禄3年(1560年8月)

 

 領の引き継ぎが進み、ロンメルや小作人、家臣達はロンメルの旧領は来年には没収となることによりひとまず新天地鳴海城への下見に参った

 

「思っていた通り……焼け野原か」

 

 合戦により田畑は青田刈りや放火の被害にあい周辺地域の住民は食い物に困る始末

 

 信長様から貰った褒美で頂いた金銭で兵糧米や薩摩芋を大量に購入し、ボロボロになった城の改築の人夫として雇い、彼らに食事と僅かながらの給金を与えることをこの時計画し、

 

「城か……とりあえず色々試したり重臣方に聞いたりしながら改築していくしかないな」

 

 ロンメルは忘れているかもしれないが元々はトレセンの学生である

 

 そんな彼女に城作りのノウハウなんか無い為、重臣方に聞いてみたところ丹羽殿が手伝ってくれることとなった

 

「まずどのような城にしたいか教えてはくれぬか? そこまで大きな城でもないので詰め込みすぎると城として機能しなくなるぞ」

 

「はい、なので色々と考えてみたのですが、私は鉄砲隊を組織しているので鉄砲を上手く扱える城にしようと思います」

 

 ロンメルは図面を広げた

 

 まず正面口は緩やかな坂の上に門と垂直に曲がる様にもう一つ門を置き坂の横に鉄砲と矢を放てる矢倉を設置し門と門の間に鉄砲窓を設置する

 

「本当は石垣にしたいが高いから土を盛って壁は土壁にして屋根を置くことで火縄銃が雨で撃てないのを防ごうかと……矢倉も土壁で囲み粘土瓦で火矢で燃えないようにしようかと」

 

「結構な値になるぞ」

 

「入り口は仕方ないと割り切ります。南北の入り口はこれでいこうかと」

 

 ロンメルが丹羽に説明したのは本当に偶々であるが枡形門と呼ばれるキルゾーンを作り出す恐ろしい門で鉄砲が主流となる戦国末期に流行るのだが、それを先取りした形となる

 

「堀は空堀で6メートルくらいでしょうか……本当は水堀にしたいですが増水した時に城が飲み込まれてしまうかもしれないので」

 

「あぁ、やめておいた方が良かろう」

 

「二の丸に向かう道に馬出しも作って二の丸内に鉄砲工房と馬小屋や武器庫を作り、本丸に屋敷と食糧庫、倉を幾らか作る感じでしょうか」

 

「それなら問題なかろう。ちなみにどれぐらいの兵を詰めさせられる予定だ?」

 

「最初の改築で2500、再改築で5000を詰められる様にしたいですね」

 

「再改築とな?」

 

「はい。5つの旧砦を連結させて海まで続く町一体型の城になれば良いなと考えています」

 

「町一体型……大規模な工事となろうな」

 

「まぁ今川が弱体化しているうちに強化させなければ東の守りとして私が居るので……3年後には着工したいですね」

 

「資料は俺にも回してくれ。俺も城を作る時の参考にしたいゆえに」

 

「勿論です」

 

「しかし難しい場所の城を任されたものじゃな鳴海の町や周囲の村は先日の合戦でほぼ壊滅しておるゆえにろくに税の取り立てもできぬぞ」

 

「もとより今年の税は期待してませんよ」

 

 ロンメルが手に入れた領土1万石の領土の内訳は鳴海城下町、小さな港、6この村となる

 

 まずロンメルは村や町の代表を集め開口一番にこう言った

 

「私は妖怪であるゆえに既存の物から外れた行いもするがまずは町や村を建て直すために今年の税は無税とする。食糧もなんとかする。変わりに町では楽市を実施するが徳政令の禁止と学校の設置を約束しよう。町から借りた金は必ず返す。人材を育成して商家を増やす……来年以降も商いに対しての税は低くし、今川方からの荷に税をかけたりもしないと約束しよう」

 

 町の衆は驚いた

 

 楽市の実施により他方から商人がやって来るのは痛いが、織田学校から輩出される優秀な人材の噂は今川方でも聞こえており、それが町にできれば学生やその家族を相手にした商売もできるし、徳政令の禁止は借金の踏み倒しを防げるので信用商売において商人にとっては大きなメリットである

 

 更に今川方からの荷税をかけないというのは今川領内から織田領内に物を売るときに大きなメリットであり、商人達は鳴海の地を経由すれば大きな利益を得られることが確定しているも同然であった

 

 今川は戦力的には先の合戦で衰えたが文化力は栄えている尾張に並んでおり、味噌や塩、鰹や鰯等の海産物、茶等の特産品に芸術品が多くそれらを転売するだけでも大きな利益となることは明らかだった

 

「農村は人夫や道具を出す故に早急に田畑の回復に勤め、私の旧領で成功した農法を伝授した者達(小作人達)を代官として送る。彼らに農法を良く聞き、道具の使い方に慣れるように。今年は無税とするが来年は3割、再来年以降は4割を税とする。今年の冬は食べ物がなくて困るだろうから城の改築の手伝いを申し付ける。食事と僅かではあるが給金も出す」

 

 村長達もざわつく

 

 今の時代税は安くても5分、高いと8分というところもあるのだがそれを4分とずいぶんと安くしてくれるという発言に歓喜の声をあげる

 

 更に冬場の人夫にも給金がつくということで喜びを表した

 

「私も現地に赴き開墾作業を手伝ったりするゆえによろしく頼む」

 

 とロンメルは商人や農民達に頭を下げた

 

 妖怪、しかも城主が1農民、商人に頭下げるのは前例が無いことで彼らを驚かせた

 

「とにかく私は鳴海の地を授かった以上鳴海の地を発展させる使命がある。新参だがこの地に住む皆に力を貸してほしい」

 

 この言葉の後言った事を紙に書き起こして血印をロンメルは押し、誓約書とした

 

 翌日から小作人達を各農村に派遣し、ロンメル各地を回って村の衆に挨拶をしていった

 

 始めて妖怪を見た彼らは一様に驚くが、要望を親身に聞くその姿勢に心を許していった

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは津島、熱田、清洲だけでなく石山や本願寺まで出向いて資金集めと商人集めに奮闘した

 

 平野様や津島十五家の皆さんな熱田衆はロンメルの事をよく知っていたのですぐに承諾、清洲も一部商人が今川との転売による利益を狙って暖簾分けした店を出店

 

 鳴海に出店しようと動いた者は現金掛け値なしを実行している元学生達が多く、ロンメルの教え子達でもあり彼らは恩返しの意味も込めて協力してくれた

 

 一方堺や石山からは港を拡張しないとどうしようもないと言われ、鳴海に行くなら途中にある津島や熱田に寄った方が良いので利点が少ないと言われた

 

 これを解消するためには港を大きくしなければならないが人手が足りない

 

 ロンメルはどうしようか悩んでいると堺の商人が雑賀衆を使ってみてはどうかと言われた

 

 傭兵集団の雑賀衆であるが紀伊の地は海にも面しておりある程度の海軍の整備も行っていた

 

 ロンメルは雑賀衆に堺商人の紹介で面会し、雑賀衆は傭兵契約かと思っていたところ海軍衆を作り、一帯での商戦の保護、雑賀衆が鳴海で商売する際の特権も与え、家臣として働いてほしい旨を伝えた

 

 雑賀衆は吟味した後に鈴木孫三郎という20代前半の人物を棟梁とした30名が移住することが決まる

 

 30名の中には鉄砲鍛冶も混じっており、場内に鉄砲鍛冶屋を作ると伝えると鉄砲の有用性を理解しているようで何よりだと言われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルには一門衆が居ない為織田学校出身者達や外部の者で家臣団を形成した

 

 まず忍衆頭の町田半乃助、織田家鉄砲隊の副隊長であった鈴川千秋、今川義元一番槍の功績で信長から別途報奨を貰った服部一忠を重臣とし、家臣だった元学生の20名を侍大将級に引き上げ、ここに鈴木孫三郎も入る

 

 その下に忍衆、雑賀衆(以後鳴海海軍衆)、初期の小作人達(武士に引き上げた上で算術や読み書きを教えていたので代官に抜擢、主に内政官として登用)

 

 更に下に200名程の城兵となる

 

 城兵達には城の改築もまだなのにいち早くできた学校に叩き込み1から鍛え直しを行う

 

 農兵や雑兵、町にいる浪人を集めれば1000名は固いと見ている

 

 彼らが役に立つかというと疑問だが、火縄銃よりコストの低い弩の量産ができるロンメルは弓より習熟度が低くて済む弩を使い、簡単に弓兵を増やせる利点から農民達に鹿狩りと称して弩の訓練をさせることになる

 

 村にも害獣対策用と弩を配り、練度向上に一役買った

 

 

 

 

 

 

 

 

「村の修復で雇った人夫はそのまま城の改築と港の大型化、造船所の建築で使うとして……」

 

「大変です大将! 三河勢がこちらに攻めてきています」

 

「数は」

 

「100ほど、偵察か近隣を荒らすのが目的かと」

 

「血祭りにあげる……利家、半乃助着いてこい」

 

「おうよ」

 

「は!」

 

 度々三河の皆さんが攻撃にやって来るが、皆殺しにしてこちらに手を出せばどうなるか教え込む

 

 冬になると三河方から使者が来て戦っている体でにらみ合いにしてくれという文が届いた

 

 ロンメルはこれを承諾し、以後攻めてくることはあっても相撲大会や模擬戦だけをして帰る

 

 帰り際に酒を降るまい親睦を深めるという奇妙な関係を構築することとなる

 



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清洲同盟

 永禄4年(1561年1月)

 

 工事中の鳴海城に変わり鳴海城下町の学校の客間にて松平方の代表本多正信とロンメルは密会を行っていた

 

「初めましてロンメルです」

 

「こちらこそ初めまして正信です」

 

 挨拶もそこらに話し合いが始まる

 

 松平は今川義元が討たれた混乱により三河の収拾をつけるため元々三河領主の息子であり人質であった松平元康が新当主今川氏真の命令により三河の岡崎城に入った

 

 元康は岡崎に入って早々に義元の敵討ちを氏真に進言し続けたが重臣、一門も多く失って建て直しに奮闘していてそれどころではないと却下し続けた

 

「敵討ちもしない弱腰な当主はいらない。三河衆よ時は来たぞ」

 

 と独立を宣言し、織田と今川双方に喧嘩を売る

 

 織田的にはめんどくさい三河よりも美濃攻略に動きたいが、三河情勢を考えロンメルを最東の鳴海城に配置し、監視を続けてきた

 

 松平的には織田とも争ってますよというポーズをしていたのだが、ロンメルが本気で迎撃して死者400という無視できない数となり、先の交渉で双方命のやり取りは無しというルールを決め、今回は更に踏み込んだ交渉となった

 

「まず松平としては織田にここ以上の三河進攻をしないで貰いたい。鳴海の町周辺の領有は諦めるゆえに不可侵を結びたい」

 

「こちらはそれでも構わないが、民が割れるとそちらも困るだろうから鳴海経由であれば織田、松平双方に税をかけないことにせぬか?」

 

「荷税を無くすと」

 

「松平は三河以東の今川に集中したい。こちらは北の美濃に集中したい。双方に利があると思う。同盟ともなれば物流を良くし、飢饉状態の三河に米を売り付ける為に尾張から商人の出入りが増えよう。この流れを利用すれば岡崎の町にも銭が落ちよう」

 

「しかし、それでは織田方の物質量に松平方が負けてしまうのではないか?」

 

「それを防ぐには何か売れる物を作られよ……三河には木綿が所々で栽培されていると聞いている。それを保護し、大規模にすれば特産品となろう」

 

「敵方の当家にその情報を渡しても良いので?」

 

「良いも何も私が知っている情報をあなた達が知らない分けないでしょうに……木綿は現状大陸からの輸入に頼っているけど日明貿易が大内氏の滅亡で途絶えた今密貿易しか木綿の輸入ができない。こちらは食糧を、そちらは衣類を双方得をしなければ駄目でしょうに」

 

「立派な心がけですな」

 

「商いの基礎ですから、損して得を取ることと、双方の利益はね。さてさて織田の一家臣でしかない私では局地的な不可侵しか約束はできませぬ。それでよいですかな」

 

「それで頼みまする。妖怪大将の名は尾張だけでなく東海の地に響いておりまするゆえにあなた様との約束があれば善きと」

 

 正信との密会は双方利のある提案で終わる

 

 ロンメルは村や町の復興に尽力できるし、松平は織田の東の要とも言えるロンメルから不可侵を約束することに成功

 

 更に交易の約束も取り付け、鳴海の地は徐々に回復していくこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 

「という会話を松平の家臣と行いました」

 

「良い。東の事はお主に任せておるゆえにこれで美濃に集中できる」

 

 清洲の寝室にて抱かれながら報告を行う

 

「更に踏み込んでもよろしいでしょうか」

 

「申してみよ」

 

「これを気に正式な婚姻同盟に繋げませんか……私の娘である黄衣を嫁がせては」

 

「お主子供は政略に使わぬと申していたではないか」

 

「……では他に良い案は」

 

「徳を出そう」

 

「よろしいので?」

 

「お主の子供達は政略に使わぬと約束しておるからな」

 

 信長は髪色が違う息子達娘達を政略に使わないと黄衣や黄坊が生まれた時に約束しており、それを信長は口約束とはいえ覚えていた

 

「……それを聞いて安心しました」

 

「どうしてその様な事を申した」

 

「鳴海の地を統治する上で三河との連携は必須。信長様が約束を忘れているようでしたら三河の松平殿に黄衣を、西三河の水野殿に大雪か小雪のどちらかを嫁がせ、3家の結束の策を考えていましたが……信長様が覚えていてくださり私は嬉しいです」

 

「余を試すとは妖怪らしくなってきたじゃないか……松平に伝えて申せ、春になり次第協議に入ると」

 

「は!」

 

 信長は元康に配慮して長女(ということになっている)徳姫を松平元康の息子竹千代(元康の幼名と同じ)を提案協議の末永禄4年(1561年6月)に同盟が締結されることとなる

 

 織田と松平は親の代から争っていた敵同士であったことで反発も大きいと思われていたが、ロンメルが松平家臣団の説得や説明会を幾度となく開き、食糧の援助も合わさり一部の頑固者以外は納得

 

 頑固者達はロンメルが反論ある者はかかってこいと言って武力にてわからせた

 

 この時松平元康様にも面会することができ

 

「今川の時に妖怪の噂はよく耳にしていた。こうして会うことができたのは感慨深い」

 

「お初にお目にかかります松平様」

 

「元康でよい」

 

「では元康様」

 

「論目流殿の同盟締結への尽力誠に感謝いたす」

 

「いえ、それを言うなら水野様のお力のお陰です」

 

 水野一族には三河の松平方との繋ぎをして貰い、好物、酒が好きかどうか等の贈り物の相談、説明会の場所の提供など尽力してくれた

 

 元々織田に近く、それでいて松平にも恩がある国人衆の水野にとって織田と松平の同盟が締結されれば外敵が存在しなくなり約10万石の所領も相まって織田松平双方に協力すれば戦国の世を乗り越えられるのではと思っていた

 

 更に水野家当主水野信元は戦国の世では珍しい良い人であり、義や恩、縁を大切にする人だった

 

 彼とロンメルの尽力により同盟締結派の家臣が多くなり、元康は清洲城にて信長と面会し同盟締結へと至る

 

 今回の共同作業でロンメルは水野信元と仲良くなり、鉄砲や武具の購入を津島や熱田ではなく鳴海の町でしてくれたり、鳴海方面の関所を無くしてくれたり(物流が流れやすくなる)と手を貸してくれた

 

 借りっぱなしも悪いので飢餓で苦しむ水野領に食糧の援助を行ったりとズブズブの関係になっていく

 

「しかし斎藤義龍も亡くなられたらしいな」

 

「はい、それにより斎藤家の結束も亀裂が入るかと」

 

「美濃を手に入れれば織田家は100万石をも超える一大勢力となりましょうぞ」

 

「はい、ただその為にも松平様との協力は不可避……今後ともよろしくお頼み申す」

 

「あいわかった! 本家は当面今川勢力を三河から駆逐することを優先するゆえによろしくお頼みもうす」

 

「信長様に伝えておきます」

 

 

 

 

 

 

 

「忠勝」

 

「は!」

 

「論目流殿は殺れるか」

 

 元康は本多忠勝を呼び殺れるかどうかを問いた

 

「相討ち覚悟で有りましたら殺れます」

 

「そなたでも相討ちか……敵にならないだけでも良しとするか」

 

「殿、次の一手はいかがいたしますか」

 

「論目流殿にも言ったが三河統一を急ぐぞ。幸い叔父殿(水野信元)から援軍を頂けた。これに三河衆を集めれば4000はなろう……当家が独立して混乱の極みの今川に国分裂の策を行った来年には遠江にて国人一揆が発生するだろう」

 

「さすれば三河どころの話ではなくなりますな」

 

「さよう。そして三河を統一すれば反乱で疲弊した遠江の制圧も容易かろう。遠江を押さえれば駿河制圧も狙えるからな……さすれば儂も東海一の弓取じゃ!」

 

「義元様に最高の手向けとなりましょうぞ」

 

「松平のな! ハッハッハッ!」

 

 

 

 

 

 

 永禄4年(1561年11月)

 

 鳴海城の大規模な改築が終わり、港の大型化も済んだことで津島や熱田の二大商業都市と連携が可能となり、船で三河や遠江、駿河や関東から流れてきた商品が荷税がかからない為ここを拠点に津島や熱田、伊勢方面に商売がしやすいと商人達が集まること集まること

 

 商人達が来れば生活するために銭を町に落とす

 

 その一部を税として集めることができれば母数が大きいと税も大きくなる

 

 その金を町や村、流民を集めて荒廃した地に村を作らせたり、肥料確保や軍馬飼育、労働力確保のために家畜にも投資したりと金をどんどん回した

 

「妖怪様は凄いな……金を回すことでどんどん金を呼び込んでいる。口が悪い者は金遣いが荒いと言うがとんでもない! 使うべきところを見定めてやっているから無駄が無い」

 

「そうだぎゃ! 妖怪様は凄いだぎゃ! おら達も代官達に文字と算術教えて貰って商人と作った物や道具、肥料を交渉できるようになったのは大きいだぎゃ! 学がなんぞやと思っていたが学があれば金を増やせるだぎゃ! 金が増えれば餓えないですむし、美味しいもの食べれるようになった」

 

「妖怪様の代官達が来てどこの村も大豊作! 税が安いから他の作物も育てられるし、それらは食っても良いし売っても良いからな! 倅を学校で学ばせて町で野菜や漬け物を売れば金になる!」

 

 そんな妖怪様ことロンメルは1月に信長とヤッてまた懐妊し、子供を産んでいた

 

「初めて1人だ……いや、双子なんかに慣れててこれが普通なんだけどさ」

 

 信長に手紙で報告したところ美濃との小競り合いで忙しくて来ないが名前が書かれた書状が入っていた

 

 八太郎らしい

 

 黄坊から男の数が8番目だかららしい

 

「母上おめでとうございます」

 

「黄坊か」

 

「はい!」

 

 黄坊は7歳なのに既に身長が140近くあり、この時代の大人の女性と変わらないくらいの大きさになっており、言動も悪ガキだったのに今じゃ子供達の中でガキ大将をしているくらい統率力というかカリスマを備えていた

 

「一門が増えることは良いことです。父上の手伝いも早くしてみたいところですが、今は勉学や鍛練に励み弟や妹の面倒を見て今一度初心に帰り、頑張ります!」

 

 もうなんか7歳の発言とは思えないくらい立派である

 

 黄坊達には特に教育係は着けないが学校にて大人達に混じって勉強しているのが良かったのか友達(数個年上)の商人の家に行っては商いの手伝いをしたりして小遣いを稼ぎ、その金で食べ物を買って友達達に配ったりして従えていた

 

「僕は織田の一族ではあるが母上が妖怪だから異端だ。いつ一族から捨てられるかもしれないからな! 商いやって食っていけるようにしないとならん」

 

「息子ながら本当に7歳か?」

 

 黄坊もヤバイが黄衣はもっとヤバイ

 

「ワハハハハ!」

 

「狼様が来たぞ!」

 

「狼様! 今日は何を?」

 

「鹿狩り!」

 

 どこからか拾ってきた日本狼4匹を従えながら(最終的に30匹まで増える)馬に乗って弩片手に鹿狩りや猪狩りをしたり、海に行って釣りや素潜りをしたりとやりたい放題

 

 野生児に育ってしまったが友達も多く、村の衆からも害獣を駆除してくれるので有り難がり狼様と呼ばれている

 

「母上! 今日は熊鍋にしよう! 熊狩ってきた!」

 

「どうやって狩ったの!?」

 

「鈴川に手伝って貰って狼に熊を誘き寄せてさせて逃げている間に鈴川の手下が弩や鉄砲で狩ったよ!」

 

「黄衣は安全な所にいたんだよね?」

 

「うん! 小熊と戯れてた」

 

 ほらと絶命した小熊を狼達が運んで来た

 

「……怒るのが正しいのか呆れるのが正しいのか……鈴川! 黄衣を甘やかすなってあれほど言ったでしょうが!」

 

「ですが、狩りだと黄衣様がここらでは一番お上手なので熊なんかは狼達の手伝いが無いとこちらまで被害が出るので」

 

「賊にでも目をつけられたらどうするの!」

 

「あいにく狼を4匹も従えている者を攻撃しようとする賊は居ないかと……」

 

 ちなみに1つ下の茶一達も茶一達で色んな方向で問題児であったりするのだがロンメルは子育て難しいと思いながら今日も書類と格闘するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 ちなみに利家君は美濃との小競り合いで武功をあげて信長に許されて半乃助の家臣から信長の家臣に戻るのだった

 

 半乃助は利家を犬と呼び、利家は半乃助を忍者と呼び会うくらい仲良くなっていたため、信長の家臣に戻っても交友は続くのだった



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ウマ娘

 永禄5年(1562年)

 

 28歳となったロンメルのお腹はいままでの倍以上に膨らみ、政務に支障が出る程であった

 

 ロンメルは政務を織田学校出身の行徳定春という者を奉行衆筆頭にし、商人達から次男以下の武士になりたい者や鳴海学校卒業者達を集め奉行衆を作り、ロンメルが政務ができない時は彼らに行政を行わせた

 

 判事は判事衆を鳴海の地に来たときに作っていたので、織田の法に従って裁き、ロンメルが居なくても回る仕組みができていたので手を加えなかった

 

 行政と判事が機能していたし、軍事は松平と水野が同盟状態の為増やす必要が薄く、美濃攻めの準備として週3日くらいに合同訓練を行い、それ以外の日は町の衆や村の手伝いに兵を回した

 

 学校も混乱状態の今川から逃げてきた公家を保護し、教員に採用したりし、教養を教えて貰いながら鳴海学校も織田学校に負けじと拡張を続けた

 

 9月になるとロンメルは5つ子のウマ娘を出産した

 

「妖怪様が妖怪をお産みになられた」

 

 噂は直ぐに尾張中に響き渡り、小競り合いが続く美濃戦前を佐久間信盛と柴田勝家に任せてその日のうちに信長がすっ飛んできた

 

「信長様早すぎませんか? いつも翌日ですよね?」

 

「妖怪が産まれたと耳にしてな! どれ! 本当か」

 

「はい。黒髪は信長様似でしょうな。どの子も耳としっぽが有ります」

 

「おお! そうかそうか! 余の種では妖怪は孕まないと思っていたがロンメルの血の方が今回は勝った様だな」

 

「名前どうしますか? ウマ娘はそのうち天より名前を授かりますが」

 

「なに? 天から声が聞こえるのかお主達は」

 

「そういう種族故に……」

 

「坊主達が聞いたら卒倒物だぞ……まあ良い。馬の妖怪だから過去の名馬の名前が良かろう。長女は阿久利黒、次女は望月、三女は磨墨、四女は生食、五女は薄墨にしようぞ」

 

「わかりました」

 

「気になったのだが妖怪の場合家督はどうするのだ? 長男よりも妖怪の長女の方が強いのか?」

 

「いえ、妖怪でも最初に産まれた子が家督を継ぐ歴史になっていました……大昔信長様が疑問に思ったことで大陸の巨大帝国が内乱となり崩壊した事があったので妖怪……ウマ娘で有ろうと人間であろうと最初に産まれた子が家督を継ぐことになります」

 

「そうかそうか……黄坊も元服したら織田の名字を使わせるが将軍より貰ったお主の怪異の名字と合わせ怪異織田という分家を作るぞ。余の妖怪の子供達もお主みたいに文武に長けた立派な武将になれば良いが……いや、そうだ! 将軍にこの事を知らせよう! 将軍もお主の事を気に入っていたからその妖怪の子供にも役職をくれるかもしれぬからな」

 

「役職ですか? この子達に?」

 

「お主普段は切れ者なのにたまに世間知らずになるな……まあ良い。役職を拝命すれば武家において優位になれる。それがいままで存在しない役職であれば物差しが無く無職の者よりは確実に優位を取れ、役職を持っている者も敬意を表する。この尾張の地では信長の娘として守れるが、織田領から一歩でも出れば守ることはできない。妖怪として退治されないためにも幕臣になっておく事は重要ぞ」

 

 確かにロンメルは幕府から怪異の名と妖怪大将の役職を貰ってから討伐しようとする輩はめっきり減った

 

 赤ん坊のロンメルの娘達を心無い輩が襲撃してこないとも言えないので信長の提案に乗り、数名の馬廻りを連れて再び上京することとなった

 

 社会見学と称して茶四郎から上の男どもと絶対に着いていくと言って聞かない黄衣も連れての総勢40名程が今回の上京選抜隊だ

 

 美濃領土から行くのは今は危ないので幕府に従っている北畠氏の治める伊勢中部まで船で移動し、そこから三好の領土を通り京に居る将軍の下に行く事が決まる

 

 鈴木孫三郎率いる怪異鳴海水軍の関船(鳴海の造船所で作られた物)で伊勢まで移動し、伊勢の北畠具教と面会が実現した

 

「信長殿の手紙と幕府からの手紙でこちらを通る事を知っておった故に持て成しをするためにここに呼んだ」

 

 霧山御所にロンメル達が伊勢に到着すると北畠の家臣達に案内され、1泊させて貰えることとなった

 

 北畠家当主の北畠具教は将軍の兄弟弟子であり、ト伝から手解きを受けていたのでロンメルにとっても兄弟子にあたる

 

 ロンメルの事は妖怪が数年前に将軍と面会した、織田家は妖怪を従えている、数々の合戦で大手柄を立てたという断片的な情報が伝わっており、特に武勇に関してが伝わっていた

 

「聞いたぞ今川家臣の松井宗信殿を討ち取り鳴海の地の城主となっているらしいな。俺は商いに興味が無いが、商人達が良き妖怪領主と呼んでいたからずいぶんと慕われているらしいな」

 

「皆さんの力が有ってこそです」

 

「謙遜は良い、どれ1つ手合わせ願いたい」

 

「私で良ければ北畠様のお相手になれれば」

 

「木刀を2本用意しろ! 外にて稽古をつけてくる」

 

 子供達に応援されるなか北畠具教様と対戦を行い、結果10本行ったが4本しか勝つことができなかった

 

「強いな……合戦の決まり無しであるなら俺は相討ち覚悟でなければ止められまい。将軍様が気に入るわけだ」

 

「北畠様は一之太刀はお使いにならないので?」

 

「あれは稽古で使うような物ではない。将軍様は気に入った人に使っては大怪我をされていると聞くがな……受けた事があるのか?」

 

「はい、前に会った時に」

 

「ならば良いか……もっとよく見ろ。さすれば透き通った世界に到達することができる。俺はそれこそが一之太刀だと思っている」

 

「透き通った世界ですか?」

 

「俺も極限状態の時でしか無理だ。だから稽古だと見えない。将軍様はそれが常時できるから俺よりも太刀の腕は上だな」

 

「ありがとうございます。鍛練を続けてみます」

 

「おう、励め……コツは呼吸だ」

 

「呼吸ですか?」

 

「肺に目一杯空気を取り込むのだ。上手く言えぬが無駄を省いて行けばその境地に立てるだろう」

 

「は!」

 

 ロンメルは北畠具教にアドバイスを貰い、翌日には霧山御所を出発し、三好領に入る

 

 三好領は当主の三好長慶が弟達と息子を次々に失い、憔悴から病気になっていたことで衰退気味であったが、山賊等も出ず入らずに京にたどり着いた

 

「将軍様お久しぶりでございます」

 

「おお怪異か久しぶりだな! 大きくなったな……この度は妖怪の子供が産まれたと聞いたが」

 

「はい、こちらに」

 

 将軍の前に赤ん坊達を並べた

 

「おお、本当にそなたと同じ耳としっぽを持っておるな……他の子供は違うのか?」

 

「はい、私の横に居りまする息子と娘も私が腹を痛めて産んだ子でございます」

 

「おお、もうこの様な大きな息子達が居るのだな名をなんと申す」

 

「は! 黄坊でございまする。横に座るのが妹の黄衣、横に茶一、茶次郎、茶三郎、茶四郎と続きます」

 

「そなた年は幾つだ」

 

「今8つでございます」

 

「8つでそれだけ大きな体とは実に羨ましい」

 

 黄坊は1年が経過して150cmほどの大きさになっていた

 

「黄金色の髪は母譲りというわけか……そなたは武道は嗜んでいるのか?」

 

「嗜む程度には母に教わり剣術と弓術を、前田利家という信長様の家臣に槍を、鈴木孫三郎に火縄銃を教わっておりまする。茶一達も同様です」

 

「そうかそうか! 励め」

 

「は!」

 

「本題に戻ろう……妖怪達が討伐されないように役職が欲しいとの事だったな」

 

「はい。お礼の品としてこちらを」

 

 ロンメルは将軍に火縄銃50丁(生産数の増加により値下がりして1丁50万円程)を贈与した

 

「火縄銃か」

 

「はい、将軍様は武力を求めていると聞いていましたので少しでも役にたって貰えればと思いまして」

 

「良い。お主のできる範囲ギリギリの品というのは理解したからな……妖怪の長女の名をなんと言う」

 

「はい、阿久利黒です」

 

「ならば阿久利黒を妖怪中将、その他を妖怪四天王の役職を与える。良いな」

 

「はっ!」

 

 その後将軍様と立ち合いを行い、ロンメルは尾張へと帰っていった

 

 途中伊賀により半乃助達の出身である伊賀衆に挨拶し、人材の引き抜きをしていった

 

 下忍20名、中忍4名を雇い、ロンメルは再び伊勢中部から船に乗って鳴海の地に戻るのだった

 

 帰って早々にロンメルは忍び育成の村を流民や孤児で作らせ町田半乃助の所領にし、半乃助に忍びの育成と軍馬の増産を任せた

 



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中美濃平定戦 前編

 永禄6年(1563年)

 

 美濃の膠着した戦線に動きがあった

 

 犬山城を守っていた城兵が突如裏切り犬山城が美濃の斎藤家に降伏する事件が昨年発生した

 

 西美濃から攻めていた信長は犬山城が陥落したことにより美濃の戦略を大きく転換する必要に迫られていた

 

 軍儀にはロンメルも呼ばれ、どの様に美濃を陥落させるか頭を悩ませていた

 

「西美濃からいままで通り攻略するのが良かろう。豪族達も徐々にであるが織田に降る者も増えておるゆえに」

 

「柴田殿、それは考えが無さすぎるぞ。美濃三人衆らの激しい抵抗でこちらの犠牲が増えるばかり……ここはまず犬山城を奪還し、中美濃からの侵攻に備えるべきかと」

 

「いや、少しの間戦を控えるべきだ。損害が多く兵が回復しきれてない。武器も多く失ってしまっている。1年程は戦を控えるべき」

 

 上から柴田勝家、丹羽長秀、滝川一益が発言していく

 

 ロンメルは地図をじっと見て打開策を考える

 

 すると評定の末席に居た木下藤吉郎が挙手をし、発言する

 

「皆々様、まずは犬山城を奪還して防衛をすると言うのが間違い、今犬山城は中美濃への表門が開いていると考えるのがよろしいかと」

 

「どういう事だ猿」

 

「は、柴田様、まず犬山城を早急に攻めるのは丹羽様意見と同じでありますが、そのまま木曽川を北上し、鵜沼城、猿啄城を攻略、中美濃の扉を瓦解させます。そのまま堂洞城、加治田城、関城を落とすことができれば中美濃を制圧したことになり、東美濃と西美濃を分断できまする!」

 

「なるほど分断することができれば美濃の斎藤家の求心力は地に落ちる! 時間はかかるが悪くない策だぞ藤吉郎!」

 

「ありがとうございます丹羽様」

 

「よし、猿の作戦で行こう。まずは中美濃への足掛かりとして小牧山に城を築く。そこに拠点を移し、来年以降に本格的な美濃攻略といこう!」

 

「は!!」

 

 方針が定まった織田家は美濃攻略の為の準備を始める

 

 ロンメルは鍛冶屋から流れ作業を導入した弩と矢の量産を指示、勿論普通の弓、槍、刀、火縄銃も鍛冶屋の数を増やすことで増産させ、港から入ってくる材料と合わせて鳴海は商業都市から武器工場や鍛冶屋が多数存在する複合都市へと昇華していくこととなる

 

 

 

 

 

「母上、弩の改良を致してみました! この棒を下に下ろすことで運から矢が下に降り、装填時間の短縮となります」

 

「そうかそうか! 茶四郎は面白いことをよく思い付くね」

 

「えへへ」

 

 子供達と遊びながらも政務をこなしていくロンメルは旧5砦を連結させた大堀作りと矢倉の増築を行い城塞都市開発も開始、更に6つに増えた村に税の引き下げを条件とした正確な検地を実行し、国高を自領だけだが正確に把握し、人口も含め掌握した

 

 ロンメルは信長から1万石の所領と言って渡された鳴海の地はロンメルが行っている養蜂や養蚕、養鶏、塩の専売、鳴海の町の税、6村から回収する穀物や芋の収入を合わせると実質国高は5万石にも膨れ上がっていた

 

 そんなロンメルは鳴海が栄えていると知ってやって来た流民を吸収し、美濃攻めの兵を確保していく

 

 ロンメルは黄坊から茶四郎までの息子達を集め、こう言った

 

「来年の中美濃平定戦をお前達の初陣とするが、その前に人殺しになれて貰わないといけない。半乃助」

 

「は! 既に用意を」

 

 ロンメルは鳴海の町に出た殺人犯、放火犯、山賊を捕まえ、それを磔にする時の槍突きを息子達に行わせた

 

 黄坊、茶一、茶次郎、茶四郎は罪人であることから容赦なく磔を行い、茶三郎のみ戸惑いながらも磔を完遂した

 

 茶三郎は磔後体調を崩し、数日寝込むが、数日後

 

「神というものを見た……恐れることは何もないと知った! 母上、もう大丈夫であります」

 

 茶三郎はその後罪人の処刑役を積極的に買って出て打ち首でも首の皮一枚残す斬首技術は称賛された

 

 合同訓練の紅白合戦や卓上模擬戦、戦将棋の比率を増やし、黄坊達はロンメルの期待に応えるため軍事技術を吸収していくこととなる

 

 

 

 

 

 

「ロンメル様、清酒と芋を使った酒、大筒が完成致しました」

 

「そうか!」

 

 ロンメルは5年以上前から織田学校で研究を続けてきた清酒と芋焼酎、大筒が鳴海学校にて引き続き研究を続けてきたことにより、ようやく形となった

 

 清酒や焼酎で傷を洗えば矢傷や切り傷が膿むことを抑えられるので破傷風による死者を減らせるとロンメルは昔呼んだ歴史物の小説で得た知識を活用し、なんとか実現まで漕ぎ着けた

 

 酒は大きな利益となるためこの技術は織田学校にも共有され、薩摩芋や馬鈴薯を使った焼酎と清酒の一大生産拠点へと数年で整備され、莫大な利益を織田にもたらすこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄7年(1564年2月6日)

 

 美濃の稲葉山にて竹中半兵衛による少人数により城の乗っ取りというクーデターが発生する

 

 信長は直ぐに半兵衛に書状を送り稲葉山城を渡す代わりに美濃半国を与えるというものだったがこれを半兵衛は拒否

 

「民のため、斎藤家の為に行った乗っ取りでございまするゆえに城はすぐに龍興様に返還するゆえにご遠慮いたす。美濃を奪いたくは武力にて取っ手来るようお頼み申す。こちらも全力で相手するゆえに」

 

 と返信を貰い、信長は大笑い

 

「そうかそうか! 忠臣とはこのこと……ではこちらも予定通り中美濃攻めと参ろう!」

 

 信長の号令により8月には動員が完了し、ロンメル率いる怪異家は鳴海衆と流民から引き上げた者達で構成される約3000の兵が集まっていた

 

 町田半乃助、鈴川千秋、服部一忠、鈴木孫三郎といった主だった武将を始め、大筒10門、鉄砲1000丁、槍500本、弩や弓1500といった内訳であり、白兵戦の時は全員が装備している刀で斬りかかることになっていた

 

 鉄砲の数は織田本体の次に多く、ロンメルが鳴海の地をいかに発展させたかが織田家臣達にわかる明確な指標となった

 

 ちなみに鳴海城の留守は行徳定春が500の兵で詰めている

 

 信長のいる小牧山城を出発した

 

 部隊は森可成、佐々成政、池田恒興、丹羽長秀、ロンメル、そして織田本体の総勢1万3000

 

 この1万3000による犬山城攻めが開始される

 

 犬山城には斎藤方1000が詰めていたが

 

「半乃助」

 

「は!」

 

 ロンメルは半乃助達忍衆を使い搦手を開門させると一斉に城内に殺到

 

 ロンメルが先陣を斬り、最前線で鬼神の如く戦う姿に怪異隊の士気も高く犬山城は僅か4時間で陥落

 

「よくやったロンメル。犬山城は拠点にするのは不向き故に木曽川を渡った先の伊木山に砦を築き拠点とする。犬山城は池田恒興、森可成が残り兵を集めておくのだ! ロンメルは木曽川を渡った後そのまま北上し明王山にて陣をはり、猿啄城を監視、落としてしまっても構わぬ」

 

「「「は!」」」

 

 信長は伊木山にて砦の建築に入ると木下藤吉郎が虚言を使い犬山城のすぐ北の鵜沼城を降伏させ、ロンメルは明王山に入るとそこから10門の大筒が火を吹いた

 

 木でできていた壁の至るところに大穴を開け、忍衆がそこから焼酎等の酒類を使い城壁に火を放った

 

「母上、黄坊、茶一以下弟達で猿啄城を攻略してきまする」

 

「わかった!」

 

 二の丸が焼け落ちたことで本丸のみとなった猿啄城に大量の弓と鉄砲が襲い掛かる

 

「大筒放て!」

 

 ドゴンと二の丸から本丸に大筒が放たれ鉄砲や弓も合わさり城内は死傷者で溢れかえる

 

「よし! 茶次郎!」

 

「行くぞ野郎共!」

 

 大木を削った大杭を野郎300人が抱え茶次郎の号令で門に突撃する

 

 城からの抵抗も無く門は破壊され、城内にて掃討戦が始まり、城主が討ち取られたことで降伏

 

 こちらも1日での落城となった

 

「「「えいえいおー! えいえいおー!!」」」

 

 鳴海衆達は城を2つもあっという間に落としたことで多いに自信をつけ、黄坊は首2つ、茶一は首4つ、茶次郎、茶三郎、茶四郎はそれぞれ首1つあげ、最高の初陣となる

 



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中美濃平定戦 後編

 永禄7年(1564年9月)

 

 鵜沼城、猿啄城が即日陥落、森可成と池田恒興が攻めていた鳥峰城には城主が居なかったことでこちらも即日開城し、信長は伊木山の砦築上よりも拠点を猿啄城に移した方が早いと判断し本体を猿啄城に移動

 

「よくやったロンメル! 織田家の誇りぞ! 妖術でも使ったか?」

 

「いえ、大筒や鉛玉、矢大量に放ち敵を弱らせてから城門を破壊しました。その後は流れで」

 

「よいよい! 息子達も大活躍だったと聞く」

 

「はい、全員首を挙げました」

 

「それは見事! 流石余の息子だ! 褒美として織田の名と元服を許そう! 簡易だが今やるぞ」

 

 信長は城の広間にて息子達を呼び寄せると髪を剃り、元服を行った

 

 黄坊は織田一政(おだかずまさ)

 

 茶一は織田忠輝(おだただてる)

 

 茶次郎は織田右恵(おだうけい)

 

 茶三郎は織田左恵(おださけい)

 

 茶四郎は織田前秋(おだまえあき)

 

 と各々改名を許され、一政は10歳、忠輝達は8歳で元服となったが、信や長の字を名乗ることは許されず、織田一門ではあるが嫡子ではないと明白にした

 

「うむ! お前達は背が大きい故に歳は若いが元服しても問題なかろう! より一層奮起し、余の力となれ」

 

「「「は!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 島峰城が落城したことにより東美濃との連絡路が遮断され、中美濃の斎藤方は窮地に追い込まれていた

 

 現状を打開するため関城城主長井道利が加治田城、堂洞城と連携を計り、中濃三城盟約を締結

 

 各々の城主同士の一門から人質を出して連携する動きをしたのだが、盟約は加治田城城主佐藤忠能が既に織田に裏切っていたことで瓦解

 

 佐藤忠能の裏切りは丹羽長秀が調略し、関城と堂洞城の中間にあった加治田城が裏切ったことで両城は連携ができなくなっていた

 

「ロンメル、お主は斎藤利治と共に小貝川(関城近くの川)に陣を引き、関城から堂洞城へと救援の軍が来たら対処せよ」

 

「は!」

 

 ロンメルは斎藤利治の部隊と合流し、その日のうちに小貝川近くでは陣が引きずらいと判断し、筑波山にて陣を引いた

 

「半乃助」

 

「は!」

 

「忍衆を使い小貝川上流を堰止めしておくように」

 

「は!」

 

 ロンメルは地図を広げ斎藤利治や足軽大将以上の家臣達達を集め軍儀を開く

 

「斎藤殿、龍興(美濃斎藤家当主)は援軍として来ると思うか?」

 

「来るでしょう。ただ若さ故に経験が少なく、策も少ないでしょうな」

 

「既に忍衆は放っているから動きが有ればわかるでしょう。龍興の援軍が来るようであれば小貝川沿いにて決戦を致す」

 

「決戦ですか? しかし信長様からは関城より西の監視及び足止めと聞いておりますが」

 

「敵の数はわからぬがこの山道は多くの兵を布陣できる場所が限られている。小貝川を挟んで対峙となれば大量の鉄砲を有効的に使えまする。更に複数の策も用意してある」

 

「複数の策ですか?」

 

「策が多い方が勝つ……別に全ての策が決まらなくても良いのです。1つか2つ決まれば勝ちですのでね」

 

「わかった。斎藤利治は論目流殿の策に乗ろう」

 

「ありがとうございます」

 

 ロンメルは忍衆や村民を買収し、情報収集に励み、約1ヶ月後関城に斎藤龍興率いる援軍4000が関城に入ったという情報を入手したロンメルは陣を小貝川近くに移した

 

「右恵、左恵」

 

「「は!」」

 

「各々に500の別動隊を預ける。川を渡り合図があるまで伏せていろ」

 

「は!」

 

「母上」

 

「左恵なに?」

 

「関城城下に放火をお許しください。釣って参ります」

 

「わかった。左恵は釣り後にそのまま本体に合流。右恵だけでは心許ないので鈴木(孫三郎)に200の別動隊を作る! 鈴木! 聞いていたな」

 

「おうよ大将わかったぜ」

 

「では各人奮闘するぞ」

 

「「「は!」」」

 

 

 

 

 

 永禄7年(1564年11月1日)

 

 前日の夜に川を渡った左恵の部隊は関城城下を明け方急襲、放火と破壊を行い城兵が出てきたのを確認し小貝川を渡る

 

 そのまま左恵はロンメルに上流に移動すると言うと関城よりも更に北に移動する

 

 城下を焼かれた長井道利は龍興と協議の上で出陣

 

 小貝川中流に移動した

 

「織田の隊か……数は2000ほどか?」

 

「龍興様の援軍と関城兵合わせて5000ほど、数で勝るこちらが有利かと」

 

「うむ! 皆の者小貝川を渡り織田を倒せ」

 

「「「おぉ!!」」」

 

「鉄砲隊引き付けろ……放て!」

 

 バババババと約400丁の鉄砲が火を吹いた

 

「怯むな! 鉄砲は次弾が遅い!」

 

 バババババと斎藤龍興が鼓舞していると次弾が放たれる

 

「なに!?」

 

 更に弩と弓隊による掃射も開始され、川を渡っていた斎藤兵はバタバタと倒れていく

 

 うろたえる斎藤兵に装填が終わった初撃を放った鉄砲隊400が再度攻撃を開始する

 

 手順は簡単である鉄砲隊1000を400、400、200に分け、400の部隊2組はロンメル本体に、200は鈴木に任せ、2組に分けて連射させた

 

 ただそれだけでは装填時間が稼げないので弓隊1500による掃射を行わせ、鉄砲隊の装填時間を稼いだ

 

 川を渡るということは足が取られるので動きが鈍くなり、更に時間が稼げる

 

 本体の兵数を低く見せることで力攻めに作戦を絞らせたのだ

 

「合図を出せ!」

 

 ロンメルは法螺貝を吹くと伏せていた右恵と鈴木の部隊、正面のロンメル本体と合わせ3方向からの挟撃となった

 

 そして挟撃隊は武将を討ち取る毎に斎藤龍興討ち取ったりと言わせ虚言と3方向からの挟撃により斎藤軍は大混乱

 

「退け! 退けぇ!」

 

 斎藤軍が撤退をし始めたその時

 

「狼煙をあげろ!」

 

 ロンメル本体は徐々に後退して斎藤軍に川を渡らせると狼煙を上げて上流に居た半乃助が堰を切った

 

「「「「鉄砲水だぁ! うわぁぁぁ」」」」

 

 増水した水により川辺に居た斎藤軍の大多数は流されるか足を取られて溺死したり、撤退する味方に巻き込まれて圧死する有り様であった

 

 更に

 

「伏兵だ!」

 

 狼煙の合図で旗を立てさせ伏兵が更に居るように見せることで包囲を完成させた

 

「無念……ここまでか」

 

「龍興様、我ら関城兵が死兵となり突破致す! 西美濃まで落ち延びてくだされ!」

 

「長井道利すまぬ」

 

 龍興は自身の鎧を脱ぎ捨てて雑兵の鎧に着替えると戦場の混乱に紛れて運良く旗だけが立っていた場所から包囲を抜けた

 

「一兵たりも逃がすな!」

 

 大将が逃亡したことにより斎藤軍は崩壊し、鉄砲や弓によって次々に討ち取られた、増水した川に阻まれ撤退もできず

 

「斎藤利治殿! トドメの突撃を致す!」

 

「わかった!」

 

 ロンメルと斎藤利治本体の突撃により斎藤軍は全滅

 

 生き残ったのは1割という大損害を受けてしまうこととなる

 

 この混乱で関城城主長井道利も戦死

 

 一方その頃左恵隊は半乃助隊と合流し、手薄になった関城を奇襲

 

 搦手から一気に力攻めすると城兵が少なかったことにより降伏

 

 一連の戦いを関、小貝川の戦いと呼ばれる事となる

 

 この戦いは織田右恵と織田左恵の名を響かせ、左恵は後に上杉謙信亡き後に軍神と呼ばれるようになる

 

 本隊で戦っていた織田一政、織田忠輝、織田前秋も鉄砲や弩を操り手柄をあげ、ロンメルはその策の数々を妖術と呼ばれ恐れられることになるが、ロンメルはこの策の数々は島津忠良から習ったものを自身で昇華させたものであると驕ることは無かった

 

 

 

 

 

 

「信長様急ぎ伝令、小貝川にてロンメル、斎藤利治隊が斎藤龍興、長井道利の軍と決戦、ロンメル、斎藤利治隊の圧勝でございまする! 関城も織田左恵殿が陥落させ西美濃との連絡路が遮断致しました」

 

「で、あるか! よし、堂洞城に降伏を促せ……猿!」

 

「は!」

 

「お主の口で堂洞城を開城させよ」

 

「御意」

 

 斎藤龍興が小貝川の決戦で敗北したというのは美濃中に即日広まり、美濃三人衆は斎藤利治に従うとして降伏、堂洞城もこれ以上の抵抗は無意味と城主岸信周が自刃を条件に開城

 

 永禄7年(1564年11月20日)をもって中美濃を織田家が掌握した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「美濃制圧も後一息、ロンメルよくやったぞ」

 

「ありがとうございます信長様」

 

「とりあえず褒美として織田一政、織田忠輝、織田利秋に1万石、織田右恵、織田左恵に2万石を鳴海に隣接する形で与える。怪異織田家当主ロンメルはそれらの土地の補佐とし、怪異家8万石を発展させい!」

 

「わかりました」

 

 小牧山城の寝室に呼ばれたロンメルは抱かれた後褒美を先に言われた

 

 後日ある評定にて正式に下知が下るが、信長は寝室に呼んだ時に先に教えてくれる

 

 30歳となったロンメルはまだ若々しく、20代前半にしか見えなかった

 

「今回の戦猿がとても役にたった。お主の教育の賜物だろう」

 

「彼は学生の時から頭が切れる者でしたので、正直遅いくらいです」

 

「今回の戦で猿は侍大将に昇進させた。更に佐久間や柴田が失敗した墨俣の地に城を築くのを任せた故に成功の暁には城主と致す」

 

「とても良いお考えかと」

 

「あと、斎藤利治がお前の与力になりたいと言っておったが」

 

「美濃が平定されれば美濃斎藤家を継ぐお方を与力にするわけには……」

 

「いや、これは奇貨として余は受けるつもりじゃ。今回の戦で右恵、左恵の力が増した。そうなると怪異織田家の次期当主織田一政の立場が危うくなるかもしれんからな。後ろ楯として機能させよ」

 

「わかりました」

 

「それと一政は弟達の活躍にどの様な反応をしておったか?」

 

「弟達が皆無事に帰ってきてくれて泣いて喜んでいました。あと亡くなった馬廻りや供廻りの者の家に行き、弔っています」

 

「そうかそうか。器が広いな」

 

「器の大きさは一政が一番大きいでしょうね。右恵や左恵も兄があってこそ今回の手柄だと口を揃えて言っていましたし、左恵の関城攻略も一政の指示で半乃助と合流するようにしたらしいです」

 

「ほう、家長となるものはやはり違うのぉ」

 

「領土経営もしっかり学ばせます。ご安心を」

 

「頼むぞロンメル」



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兄弟村育成ゲーム 将軍暗殺

 永禄8年(1565年冬)

 

 中美濃攻めの功績で怪異織田家は8万石の所領を獲ることとなった

 

 主に尾張の東側側であり約30村がその中で生活していた

 

 特に目だった町も無く、強いて言うなら大高城跡があるくらいか

 

 ロンメルはとりあえず元服組の息子達と黄衣を呼び出し

 

「黄衣以外は貰った所領から私が選んだ1村を拠点として村の開発を行わせる。黄衣も私が選んだ村にて代官をせよ」

 

「母上、代官補佐は勿論着けますよね?」

 

「うん。農業に精通した者を代官補佐とするからとりあえず村を治めてみなさい」

 

「縛り等はありますか?」

 

「特に無いけど村が終わりそうなら適正無しとして所領を私が召し上げる。いいね」

 

「「「は!」」」

 

 ロンメルは息子や娘達に競争させる形で新領土の発展をさせることにした

 

 外敵も特に居ないので内政に注力できるゆえの策だった

 

 まず長男の一政はガキ大将として培った人脈を使い家臣達の子供や商人の倅等を集め、持ち前のカリスマで村人をすぐに従え、一丸となって開発を進めた

 

 次男の忠輝は普通にやったんじゃ一政に勝てないと思い、ロンメルや半乃助から馬や牛を借り、家畜の力を借りて廃村を吸収しながら農地を大規模にし、田畑の大型化を行った

 

 反対意見も出たが忠輝の調停力に優れており、村人の話を聞いた上で損が少なく利益を大きくなるように動いた

 

 三男の右恵は学友とその親に協力を仰ぎ、無難に村人に無理をさせること無く代官補佐の指示のもと農地改革を行い

 

 四男左恵は代官補佐に村を任せふらりと三河の方に向かってしまい

 

 五男前秋は持ち前の内政能力を遺憾なく発揮し、溜め池を作ったり様々な道具を作り村人達に歓迎される

 

 水車を使った脱穀装置や立った状態で田んぼの草刈りと土のかき混ぜができる装置(大らちと呼ばれる機械に近い)を開発、鍛冶屋等を誘致し、装置の販売で大金を稼ぎ、それを使って更に村を発展させた

 

 一方黄衣は

 

「うーん、ここの土地だと田んぼを無理して作るよりも芋や養蜂、養蚕、家畜に力を入れた方が良いね! あ、三河で広がってる木綿栽培も良いかも」

 

 なんと稲作を放棄し、他の産業にシフト

 

 芋や蜂蜜で酒を作り家畜の販売や肥料作り、木綿の導入と形に捕らわれない変則的な村の運営に代官補佐からロンメルに報告されるが

 

「やらせてみなさい」

 

 とGOサイン

 

 黄衣は半乃助の部下で畜産に精通している者を雇ったり、ライバルである前秋にも協力を要請し、酒造の設備を整えると本格的な酒造を開始

 

 その酒造で作った酒を一政の商人達の販売ルートに乗せることで村人達の生活レベルが跳ね上がる成果を出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 村を放棄したと見られていた左恵は駿河の今川館に居た

 

「お前は馬鹿か? 織田の息子が町に居ると聞いて仰天したぞ」

 

 目の前には今川氏真と今川家臣団が座っていた

 

「いや、なに母上から村を預けられ発展させよと命令されたのでな。答えを探しに発展している今川領にやって来たまで」

 

「母上? もしかして論目流か?」

 

「そうですが氏真様は母上とお知り合いで?」

 

「なんと論目流の息子か!」

 

「おお、論目流殿の息子殿とは」

 

 氏真も家臣団の皆もざわつき始める

 

「論目流殿は元気か」

 

「この前も中美濃攻めで城を陥落させるくらいには元気ですよ」

 

「そうかそうか! クックックッあの妖怪はもうこれ程大きな息子が居るのだな」

 

「大きいと言うが俺はまだ9つの小童だ。元服はしているがな」

 

「9つ? 嘘を申すなお前のような大きな9つの小童が居るものか」

 

 左恵は四つ子の中では一番大きく160近く身長があった

 

 最も兄弟で一番大きいのは一政だが

 

「本当だ。俺より大きな兄も居る……話は逸れたが遠州錯乱大変そうだな」

 

「誠に厄介よ」

 

 遠州錯乱は遠江で起きていた国人一揆であり、今川義元亡き後に今川の衰退が始まると見るや国人達が一斉に蜂起した事件である

 

「まぁ義元公の仇敵の息子である俺が何も手土産も無しに来るのもあれだと思ったからな。これで勘弁してくれ」

 

 左恵は風呂敷から飯尾連龍の首を取り出した

 

「こ、これは憎き飯尾! これをどうして」

 

「城下に降りて来てたから氏真様がとにかく憎んでいると聞いたからな。油断しているところを毒殺した後に頃合いを見て首を取ってきた」

 

「クックックッ……妖怪の子も妖怪と言うわけか……やめだやめ! こいつと争えば親妖怪がここまで攻めてくるわ……それにあやつ(ロンメル)は幕府から妖怪大将という役職を拝命しておる。将軍様のお気に入りだ」

 

「あ、まだここまで情報が伝わってないのか……将軍義輝様は暗殺されたぞ」

 

「な、なに!?」

 

「真か!?」

 

「いったい誰に」

 

「三好の確か……松永久通だったか」

 

 永禄8年(1565年6月)に三好三人衆と松永久通が天下に響く大悪行将軍暗殺を実行

 

 義輝公は愛刀を畳に刺し100名もの雑兵を斬殺したが、畳を持った雑兵に押し潰されその上から雑兵もろとも槍や刀で刺され亡くなられた

 

「衰えたか……一之太刀も永遠とできぬものだな……いや、鍛練が足らんかったか……北畠か論目流ならば完成するのかもな一之太刀は……うぐぅ!」

 

 御所には火が放たれ灰燼となり、義輝の主だった家臣達も皆討ち死か自害し、室町幕府は空座となっていると左恵は今川家臣団に報告した

 

「京はその様な有り様なのか!?」

 

「あぁ、将軍様の親類も徹底的に殺害して回ってる。このままでは……!? 室町の序列3位は今川家ではなかったか?」

 

「吉良は既に力無く、となると今川家が幕府を継ぐ……」

 

 氏真は幕府崩壊の影響を真剣に考え、そして結論を出す

 

「いや、駄目だな。京に辿り着くことができん。遠江、三河、尾張、美濃そして近畿……全てを打ち倒していくには亡き父の頃でなければ無理だ。今の私では所領である遠江の統治もできていない始末だからな」

 

「氏真様……」

 

「我々家臣団が不甲斐ないばかりに……」

 

「良い。左恵殿飯尾の首と幕府の情報感謝する。何か礼を」

 

「礼なら駿河で腕の良い陶磁職人を紹介してくれ。俺は領地経営を学びに来ただけだ」

 

「あいわかった! 岡部、左恵殿を」

 

「は!」

 

「氏真様、母上に何か伝えておく事はあるか?」

 

「……もしもの時は頼む友よと伝えてくれ」

 

「わかった」

 

 駿河にて陶磁職人の弟子数名を雇った左恵は所領の村に戻り牛や馬の骨を使った陶磁の開発を行う

 

 左恵はロンメルに所領を飛び出したことを叱責されるが、氏真の現状を聞くと怒るのをやめた

 

「左恵、皆心配したんだ。兄弟皆に謝ってこい」

 

 左恵は勝手に今川領まで行った話をすると一政は笑った後に拳骨、忠輝、右恵、前秋には怒られ、黄衣には顔面をぶん殴られた

 

 大雪と小雪には泣かれ、他の下の弟と妹達はよくわかっていないようだった

 

 その後左恵は代官補佐や領民にも土下座して謝り、連れてきた陶磁職人達を中心に焼き物の村にしていく

 

 そこで作られた茶器は美しい白い茶器に鮮やかな職人が絵を描くことで堺等で高値で取引されることとなる

 

 左恵は氏真様のお許しで職人を引っ張ってきた事から氏真焼きと白い絵の付いた茶器は言われるようになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 将軍が亡くなったことで大きく影響を受けたのは織田信長と上杉謙信である

 

 上杉謙信はこれまで幕府や朝廷工作に使っていたお金が無駄になり、激怒したが、内乱と武田、北条の北上により動くことができず、仲の良かった義輝の仇討ちに動くことができなかった

 

 信長は奈良を脱出した将軍の弟足利義昭(この時は足利義秋だが)に上洛を要請し、六角、斎藤、織田の連合軍で三好の駆逐を行いたかったのだが、六角が将軍排除に動き、斎藤も形勢が不利な中で織田と一旦和睦したのだが即座に破り織田に攻撃

 

 信長は敗北するがすぐさま体勢を整えると木下藤吉郎の墨俣築城が成功し、永禄8年の年末には美濃を掌握することとなる

 

 西美濃平戦、稲葉山城攻めとも呼ばれる一連の戦いにはロンメルは召集されなかった

 

 理由としては功績を挙げすぎており他の家臣達からの嫉妬が酷いことに信長が気にしたこと、ロンメルが身籠っていたので無理をさせられなかったの2つがある

 

 ロンメルも10月頃に双子の姉妹を産み、髪色が黄色だったことから黄器と黄紙という名が信長より付けられた

 



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婚姻

 永禄9年(1566年)

 

「美濃平定をしたことで武田と近くなった故に同盟を結んだ。武田から姫を2人貰ったのだが、奇妙の正室に松姫を、黄坊いや一政の正室に信玄の庶子の朝姫をくっつけるのはどうか? 余の息子が婚姻の1つも無ければ箔がつかないだろうに」

 

「……それ政略に絡んできませんか?」

 

「いや、奇妙と松姫は婚約に留めておるが、一政と朝姫は婚姻させる。政略であれば奇妙だけで事が済むが武田方に無理を言って通して貰った」

 

「妖怪の世界だと基本自由恋愛ですが、この戦国の世ではどうしても政略が絡んできますか……一政の件は了承しました」

 

「あとは黄衣の方か」

 

「誰か良い人は居ませんか?」

 

「黄衣は政務や内政をこなせることがわかっているからな……外部とは婚姻させられない」

 

「……あ、でしたら平野様の次男の平野長景と婚姻させるのはどうでしょう? 両家とも繋がりがありますし、次男なので婿とすればあちらも納得するでしょう」

 

「なるほど妙案だな。平野の次男は何歳だ?」

 

「今年で10歳かと」

 

「よし、それでいこう。とりあえず顔合わせを両名行うぞ」

 

「は!」

 

 

 

「婚姻ですか」

 

「早くない?」

 

「いや、怪異織田家は全く親族がいないから婚姻は早い方が良い。一政も黄衣も今年で12でしょ……他の人も元服をする頃だし丁度良いでしょ」

 

 ロンメルは一政には朝姫、黄衣には平野長景と婚姻するようにと伝えると

 

「まぁ会わないことにはなんとも言えないが……側室は自分で決めて良いか?」

 

「平野の次男……あぁあの子か」

 

 と一政はどうやら好きな子が居るらしく、黄衣は長景が誰か思い出していた

 

「庶子とはいえ他の国からやってくる子だから仲良くしてね」

 

「まぁ仲良くはするつもりだが」

 

「黄衣は……もう少し大人しくして欲しいな母親としては」

 

「型破りな村を許可したのは母上だよ! 米が無いから加工品で勝負してるんだから……あ、周辺の村も巻き込んで良い?」

 

「黄衣の直轄の村以外は米作を続けさせるんだったらある程度は弄っても良いけど、黄衣の村は一応一政と忠輝の領土の中間だから一政と忠輝の許可を得てからにしてね」

 

「一政兄上……」

 

「やめろ気色悪い! お前が媚びるとろくなことになった試しがない……村の提携は良いが、母上そうなると黄衣の村はどうするんだ?」

 

「別にどうもしない。黄衣と平野長景が一緒に住む屋敷ができるくらいで統治も続けさせる……というか村1つ3年はまともに統治できなかったら統治能力が欠如していると思ってるから頑張りなー。容赦なく信長様に言って領土の増減させるからね」

 

「ちなみに母上の中で今一番統治が上手いと思っているのは誰ですか?」

 

「前秋、黄衣がトントン、一歩下がって一政と忠輝、次いで右恵で最後左恵かな? 左恵は最近頑張ってるから右恵と逆転するのも時間の問題かもしれないけど……右恵は並み以上にはできるけど何かに特化しているわけでもないし……器用貧乏な感じがするんだよねぇ……右恵もわかっているけど下手にやると迷惑がかかると思ってるのか段階を踏んで改革してるし」

 

「前秋と黄衣に現状負けてるかぁ」

 

「母上、これ言って良かったの?」

 

「別に? 聞かれたら教えてるし現状の評価を客観的に見て判断してるだけだからね……まぁとにかく一政は好きな子を側室にしても良いけど朝姫も大切にすること、黄衣は長景を虐めないこと……良いね」

 

「「はい!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 村の発展をさせている兄弟達は次第に1村だけでは発展が難しいと判断し、ロンメルに周囲の村も巻き込む許可を求め

 

「どんどんやって良いよ」

 

 と次々に許可を出した

 

 半乃助の忍衆や鈴木達元雑賀衆の海軍衆も巻き込み造船所を建築したり、大きな牧場を建てたりしていった

 

「となると連結するための道をなんとかした方が良いな……道幅を広げ、馬が通りやすい道を作るか」

 

 前秋は他の者よりもいち早く街道整備に取り掛かり、それに遅れまいと街道整備の競争に入った

 

 商人達はこの開発競争に惜しげもなく投資し、街道沿いに店を建てたり、宿を建てたりして賑わいを見せた

 

 その噂を聞きつけた三河や遠江の流民達が押し寄せ、これをどうやって捌くかが次の課題となった

 

 一政、忠輝、黄衣は楽市を作らせ闇市にならないように統制しながら市場を作り、そこで生まれる雇用で流民を捌く

 

 左恵、前秋は新しい村を作らせて黄衣が成功させた米を作らなくても食っていける仕組み作りを組み立てた

 

 右恵は鳴海学校の分校を作り、そこに流民を入れていった

 

 学校というより職業訓練所的な意味合いの強いが、そこで木綿や絹の加工を行う紡績業務に人を集中させることで流民を捌いていった

 

 ロンメルは誰も兵にしなかったことに疑問を持ち、全員を集めてその旨を聞くと

 

「「「金にならん」」」

 

 と答えた

 

 生産性が全くない軍は外敵が居ることで成り立つが、外敵がほぼいないここで流民を使った士気の低い軍を作るのだったら職業軍を作った方が良いし、今回の競争はあくまで与えられた村をどれだけ発展させられるか、それに付属する形で自身が与えられる予定の領土を発展させれば良いという考えなので軍を作る意味合いが薄かった

 

 まぁそうだろうなと思っていたロンメルは息子達が軍を作らないので鳴海衆を中心とした軍を作っており、主兵装は弩で時点で槍、数が1000丁以上は維持できない鉄砲は数的にはその下であり、騎兵と続く

 

 総勢5000ほどが怪異織田家の最大兵数であり、今のところ拡張予定は無かった

 

 ロンメルは更に鳴海城の改築も第二段階が終了し、更に拡張した第三段階に移っていた

 

 第三段階が終わると全長約15キロにも及ぶ土壁や空堀が完成する

 

 ロンメルは第四段で完成とし、第四段で土壁を石垣にし、鉄砲や大筒矢倉を幾つも建て、村を囲うことで食料生産も行える様にしていた

 

 井戸も何十ヶ所もあり、兵糧攻めをされても海路にて補給を可能にし、その様から難攻不落の城まで改築するに至った

 

 ロンメルは後日信長にやりすぎだと拳骨されることとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

「朝ですよろしくお願いします」

 

「織田一政だ。怪異織田家の嫡男で織田本家の分家となる。よろしくな」

 

「は、はい」

 

 武田の侍女達はロンメルを見て本当に妖怪が存在したのか、お館様に伝えなければとこそこそと話しているし、一政や黄衣の金色の髪を見て妖怪の子とこそこそと話す

 

 が、朝姫は

 

「話に聞く獅子のようですね!」

 

 と興奮気味

 

 信長を少しやらわかくした感じのイケメン一政に朝姫はもうメロメロ

 

 一政と同じ年ということもありロンメルは朝姫と一政を2人きりにさせて退室した

 

 退室した後侍女達を集め

 

「武田に情報を流すのは構わないけど一政に嫌がらせをするようであれば妖術にて殺すよいな」

 

 と脅しておいた

 

 朝姫には一政を支えるために侍女達と一緒に学校に通って貰った

 

 侍女達は困惑したが、鳴海学校は基本男女平等、身分の上下もあまりない

 

 女が政務の真似事などは馬鹿げていると侍女達は反発したが、恋で盲目となっていた朝姫は一政の助けになろうと頑張った

 

 頑張りすぎて算盤の成績が学年1を半年で取るくらい頑張った

 

 侍女の反発にも耳を聞かずに頑張る朝姫の姿に徐々に侍女達も学校に馴染んでいき、学友と恋仲になっていった

 

「そのコミニティーに馴染むのが手っ取り早いからね……仮想敵国でもハニトラを仕掛ければコロッと転ぶ。これであの侍女達は信玄に都合のよい情報のみを送るだろうよ」

 

「恐ろしいお方ですなぁ論目流様は」

 

「半乃助、忍衆のご子息を使った恋罠(ハニトラ)をして悪かったな」

 

「いえいえ、侍女と言えど武田方は格式がしっかりしていますのでそこと繋がりは下賎と言われる忍衆にとって糧となりまするゆえに」

 

「そうかそうか……」

 

「政略に子供を使わないと言いながらずいぶんと暗躍しておりますなぁ」

 

「まあね。さて次の策は今川を盛り返させようか」

 

「しかしそれは三河を刺激しませんか?」

 

「なあに、商人が武器を少し安い値で今川に売るだけだ……鈴木、左恵」

 

「「は!」」

 

「商人に扮して駿府に入れ、左恵の統治評価は一旦棚上げにする。鈴木、左恵……血に飢えているであろう?」

 

「大将はやっぱり妖怪だわな……どこと戦えば良い?」

 

「武田と戦ってみなさい。バレないように名前を変えてな。左恵、氏真殿にこの書状を……威力偵察程度で良い。死ぬなよ」

 

「は!」

 

 ロンメルは忍衆から武田が数年以内に今川に侵攻しようという意見が台頭してきていると耳にしていた

 

 その為先手をうち、氏真に恩を売るために戦才が飛び抜けている左恵と補佐に鈴木を付けた

 

 左恵と鈴木は氏真にロンメルからの書状を渡した後偽名を使いながら今川領に潜伏しながら駿府の川衆や流民を吸収し、村を作り兵を鍛えながら時を待つことになる

 

 



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信長上洛

「平野様、この度は黄衣と婿殿である平野長景様と婚姻をお許しいただきありがとうございます」

 

「いや、論目流殿は私を飛び越えて偉くなられた……この平野長治、論目流様の家臣に加えていただきたく参った。この度の婚姻をもって怪異織田家に平野家は臣従致す」

 

「平野様頭を上げてください」

 

 ロンメルはこの世界に来て間もない頃に助けていただいた平野様に多大な恩を感じていたので今回の婚姻も織田家と繋がることで平野様の出世の手助けになればよいと考えてのものだったのだが、平野様は臣従を提示してきた

 

 家格は織田家の分家であり、幕府から役職を貰っていたロンメルの方が圧倒的に高くなっていたが、ロンメルは平野様を家臣に加える気は全く無かったのだが

 

「この平野長治論目流殿に賭けてみたくなりもうした! 恐らくこのまま信長様が勢力を拡張していけば論目流殿は重臣となるのも時間の問題……さすれば国の1つでも得れるでしょう。今の津島十五家として津島の1豪族として終わるのも良いですが私は論目流殿に賭けてみることにした! 既に信長様には話を通している」

 

 ロンメルは頭を抱えながらもこれを承諾し、平野長治に商人との接伴役をやって貰い、時期を見て奉行衆筆頭に就任して貰う運びとなった

 

 ちなみに黄衣と長景の仲は最初は黄衣に振り回され続けたがそのうち慣れて互いに歩調を合わせられる良い夫婦となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 永禄10年(1567年9月)

 

 ロンメルは信長の許可を取り鳴海城にて黒髪が特徴的な六男五郎と七男六助が9歳になったので元服となった

 

 五郎は織田利行(おだとしゆき)

 

 六助は織田勝成(おだかつなり)を名乗ることが許された

 

 まだ歳が若いのと学校にて勉強中の為村開発の儀はやめておいた

 

 収穫期を迎えたことで左恵以外の息子と黄衣を呼んで統治能力を測った結果を発表した

 

「結果発表~いぇぇい!」

 

「「「……」」」

 

「テンション低いぞお前達」

 

「時々使う南蛮語は私達息子達の前だけにしてくださいよ母上」

 

「ぶー、まぁ良いわ。まず評価点はお米石高と税収を合算した数値を私が治める6村の平均を100と比較して数値化しました!」

 

「左恵がいないが?」

 

「左恵は特別任務を与えているので途中離脱しています。まぁ左恵も合格点は超えているから心配しないでね……では第6位……右恵72点!」

 

「俺かぁ」

 

「流民対策に学校の分校を作ったのは評価が高いけど失敗を恐れて無難に動いた結果良くも悪くも村の成長は普通といった感じ……ただ村人に一切無理をさせなかったから村人からの評価は高かった。紡績工場を稼働に持っていけなかったからこの順位。今後はとりあえず1万石、5村を統治するように」

 

「は!」

 

「第5位……ここに居ないけど左恵79点」

 

「「「おおー」」」

 

「評価としては最初に村を放棄して駿河に行ったのは下策だと思ったけど、その後氏真焼きという特産物を3年で作ったことで3年目の税収が跳ね上がった結果この順位。ただ農地改革が不十分だったから石高はあまり上がらなかったかな」

 

「よし次いこう4位忠輝102点」

 

「100超えた!」

 

「おお!」

 

「家畜の力を利用して農地の大型化を行い、それによる不平不満を最小限に抑えたのは高く評価する。家畜から出た糞尿を肥料に加工して売却することにより副次収入も発生していたのも評価点。近くに楽市を作り流民対策もしっかりできていたのでこの点数になったと予測するよ。よく頑張った」

 

「ありがとうございます」

 

「第3位一政110点」

 

「ほっ」

 

「商人達を早期に集めることで村に投資を行えたのが高得点、最新の農法や商人経由で手に入れ育てることに成功した桃や栗はこの期間には間に合わなかったけど来年からは収穫できそう。ただ村の強引な拡張により老人衆と対立してしまったのはいただけない。今回は私が間に入って治めたけど次は無いからね……忠輝と一政も1万石からスタートしようか。家臣を雇うのも側室を設けるのも2人は自由とします。ただ無理をしていると思ったら私が介入するのでよろしく」

 

「「は!」」

 

「第2位……黄衣275点」

 

「275!?」

 

「ふぁ!?」

 

「やりぃ!」

 

「稲作を捨てるという一見不正解な様な行動だったけど、水の問題上水田にするのは不向きということで芋の量産、牧場作り、養蜂、養蚕、木綿栽培と幅広くやりつつ、芋焼酎や蜂蜜酒でだいぶ稼いだね。それを売るための楽市で流民を捌きつつ利益を稼いだのは見事、牧場で家畜も育ててから肥料を自前でできたのも大きかったね。とにかく酒が大きな利益を出したので275点……黄衣にも1万石の統治を任せるから旦那さんを立てながら頑張るんだよ」

 

「はい!」

 

「最後に1位は……前秋595点」

 

「5、500!?」

 

「嘘だろ……」

 

「まず米の収穫量が私の領より1.5倍もありました。肥料とかそういうのだけじゃ説明がつきません。どうやった?」

 

「水田の草刈りをしながら土をかき混ぜる機械を作りました。あと水分調整をこまめにしたり、害虫対策として冬になる前に田畑を焼いて虫を卵の段階で駄目にしました。これが効いたのだとおもいます」

 

「前秋、やり方を纏めて本にしなさい。複写して各農村に配る」

 

「は!」

 

「評価の続きだけど、水車を使った脱穀機をはじめ、いち早く街道を整備したこと、楽市と連結した販売網の構築を始め、溜め池を作ったり等水回りの整備にも勤めた。よって私が管轄する領土よりも5倍以上の収益を叩き出す結果となった。あと椎茸の栽培とかどうやったの?」

 

「あれはボタ木にボタ汁(椎茸の胞子を水に溶かした物)を塗って運が良ければ育つという方法で成功率は3割程ですが元は取れると判断して行いました」

 

 この時代5、6キロ椎茸が取れれば城が立つと言われるほど高級品であり、いろんな料理に使える椎茸は需要が多くありながら栽培方法が確立されていなかったので値段が高いこと高いこと……

 

「約4貫目(15キロ)も収穫できたことで収益が跳ね上がった。結果約600点とした。前秋、お前には2万石を与えるので更に発展させなさい」

 

「は!」

 

「試験は終了とするが、与えられた領土を更に発展させよ。ただ次は兵の整備も進めるように……信長様からの命令で上洛軍の第二陣に選ばれた。現在六角討伐には参加しないが京入りには参加するので領土に戻り黄衣以外は全員出陣の準備を始めろ」

 

「「「は!」」」

 

 ロンメルの号令で出陣の準備が始まる

 

 

 

 

 

 

 10日後に怪異織田家として5000の兵が集まると平野長治を守将とし500名を残して鳴海城から出発し、稲葉山城改め岐阜城を経由して六角討伐が終了した東近江にて信長本隊に合流した

 

「怪異衆召集に応じ着陣致しました」

 

「ご苦労。息子達も元気そうでなにより」

 

「ほう……尻尾が生えておる。確かに妖怪の様じゃな」

 

 初めて会った次期将軍の足利義昭にいきなりそう言われた

 

「兄上はなぜ人ならざる者に名字と役職を与えたかわからぬが、余のためには働くのであれば兄上が与えた役職はそのままと致すのでせいぜい役に立て」

 

「は!」

 

 と超上から目線で言われ、息子達も頭に来ていたが黙って頭を下げた

 

 その光景にホッホッホッと義昭は笑うのだが、それが更に癪に触るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信長が史実よりも1年ほど早い上洛をしていた頃、京では三好三人衆と松永久秀親子が対立

 

 東大寺付近で激突し、東大寺が焼失

 

 松永久秀親子は信長が上洛してくると知るといち早く臣従

 

 抵抗姿勢を崩さない三好三人衆に対して

 

「ロンメル、蹴散らしてこい」

 

 と命令

 

 ロンメル達怪異衆は大和国にて三好三人衆と激突する

 

「者共私に続けぇ!!」

 

 ロンメルは魚鱗の陣を敷き、鶴翼の陣にて待ち構えていた三好三人衆の部隊を中央突破、中央が早々に壊滅したことにより左右の部隊も混乱し、ロンメル本隊と一政率いる部隊に分け右翼を猛攻

 

 左翼は逃げ延びたが右翼はほぼ全滅し、三好三人衆の約8000の兵は死者2500名を出す大敗を喫した

 

 ロンメルの率いる怪異衆は5000と数が少なかったものの、鳴海学校出身者や日頃から鍛えている者が多く弱兵と呼ばれる尾張兵でも練度が高い精鋭兵だったこと、大将のロンメル自ら先頭で突撃するので士気も高い

 

 ロンメルは突撃時100人斬りを達成し、突破した時には全身に返り血と臓物が鎧にこびりついてどす黒く変色していた

 

 ただ三好三人衆はこの戦いをなんとか逃げ延び、四国に逃げ帰ったのだった

 

 

 

 

 

 

「義兄上上洛おめでとうございます」

 

「おお長政よく来た」

 

 京では北近江の大名浅井長政が信長にお祝いを言いにやって来ていた

 

「お市は元気か?」

 

「はい! 元気すぎて侍女達が困るくらいには」

 

「そうかそうかあやつらしいな」

 

「そうそう今日は妖怪殿を見に来たのですが……聞きましたよ先日大和にて三好三人衆を少数で大敗させたと」

 

「うむ、ロンメルは余の最も斬れる懐刀だ。余が戦ってきた殆どの戦に参戦しており、功績を上げ続けた。奴がいる限り背後は磐石じゃて」

 

「背後とは?」

 

「とぼけおって……武田じゃ。三河の家康もおるが、清洲までの東海道最後の砦としてロンメルの治める鳴海の大要塞がある。全長3里半だと……更に大きくする予定もあるらしい。町や周囲の村も囲うほどの大堀じゃて……武田が来ても食い止めよう」

 

「それは1度見てみたいものですな……おや? 誰か来たようですな」

 

「信長様、三好三人衆の撃退完了致しました」

 

「おおロンメルか! 丁度よいところに此度はどれ程斬り殺したのだ?」

 

「ざっと100ほど……骨のある者は全くいませんでした」

 

「そうかそうか。お主の剣術は更に磨かれているようでなによりだ」

 

「信長様、そちらの方は?」

 

「おお、紹介しよう義弟の浅井長政じゃ」

 

「長政です。妖怪殿の噂はかねがね」

 

「あぁ、お市様の……長政殿よろしく頼みます」

 

「失礼かもしれませんが……頭の頭巾は」

 

「あぁ、耳を隠さないと恐がられるのでね。隠しているんですよ。取りましょうか?」

 

「是非」

 

 ロンメルは頭巾を取ると耳が露出する

 

「おお! 確かに馬の耳だ」

 

「こ奴は並みの名馬より速く走り、どんな力自慢よりも怪力だ。それでいて知恵も回るぞ」

 

「知恵もですか」

 

「裏で何かしておるであろう。ここには徳川は居らぬ言うてみい」

 

「は、駿府に武田が侵攻の動きがありますので私よりも軍略に優れる四男の織田左恵と怪異家水軍衆棟梁の鈴木孫三郎を潜伏させています。狙いは今川壊滅後に今川家臣団の吸収」

 

「な!? それでは徳川殿に不義理では」

 

「知らないと思いますが今川氏真殿と私は友と呼び会う位の仲、一騎討ちも行っております。そんな彼を助けるために微力ながら力を貸しているのみ」

 

「本音は?」

 

「どう頑張っても今の今川が武田に勝てる見込みは無いので今川家臣団を引き抜けるだけ引き抜き人材不足の怪異家の糧になって貰えばと……」

 

「腹黒であろう」

 

「なかなかでありますなぁ」

 

「まぁこ奴の思考は織田の利になることばかり故に好きにさせておる。東方の守りの要ゆえにな」

 

「今回はそんな妖怪殿を連れてきて良かったのですか?」

 

「武田とは同盟を結んでおるゆえに直ぐには動かないであろう。将軍義昭に見せるためにも連れてきた……が予想より暗君の様じゃな」

 

「はは、仮にも将軍に対して義兄上も手厳しい」

 

「まぁ神輿は軽いに限る。適度に管理下に起き利益を吸い出すだけだ」

 

「あ、そうそう長政様、国友を紹介してはいただけませんか? 鉄砲は国友が一番故に」

 

「おお! そうかそうか国友の名も売れているのだな! 良いぞ帰りに北近江に義兄上と一緒に参られよ」

 

「ありがとうございます」

 

「世話になるぞ長政」

 

「お任せあれ」



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今川家臣団

 浅井長政

 

 幼名を猿夜叉丸と言い六角の倍以上の軍勢をはね除ける活躍をしており戦上手であったものの外交などは父久政に握られており権力の分散がされていた

 

 これは信長を頂点とした絶対的な権力を集中している織田とは対照的である

 

 対照的と言えば浅井家は家臣団の発言力が高いことも織田家と対照的である

 

 信長のトップダウン方式の織田に対して家臣団にも配慮しなければならない浅井家……これが後の悲劇の始まりになるとはこの時まだ誰も知らなかった

 

 

 

 

 

 

 永禄11年(1568年1月)

 

 国友に寄って信長は美濃に、ロンメルが鳴海に帰って数日後

 

 足利義昭の居る六条本圀寺が三好三人衆によって襲撃される事件が発生する

 

 報告を聞いたロンメルは直ぐに美濃の信長と合流し、強行軍で京に向かうが、到着した時には事件は終息していた

 

 将軍を守ったのは信長の家臣になっていた元道三の家臣で野心家であると言われて放浪の旅をしてたどり着いた毛利から散々な扱いをされるわ、外様だからと冷飯ぐらいを10年近く朝倉にされるわと苦労人明智光秀と古今伝授等の教養人で武芸も戦もできる戦国のスーパーマン細川藤孝(後の細川幽斎)他数少ない幕臣と5000の兵が2万の三好三人衆と斎藤龍興率いる浪人衆をはね除け、援軍に駆けつけた北近江衆の浅井軍が到着したことで三好方は撤退

 

 なお真冬&大雪での強行軍だったことで織田軍は戦ってもないのに数名の死者が発生した模様

 

 ロンメルは事件発生から3日後に信長本隊を置いて単独で京に到着したが既に敵は退いた後であり、将軍に謁見すると

 

「なぜもっと早くに来なかった! そなたの足は飾りか! 妖怪とは名ばかりよのう!」

 

 と罵倒された

 

 頭に来たロンメルは後から到着した信長にこの事を報告し、ロンメルは学校繋がりで保護していた貴族の親族を使い朝廷工作を開始

 

 見返りは求めずに酒、米、干し椎茸、陶磁器、着物等を朝廷に贈り物として帝や貴族に送った

 

 信長は直接的な銭でなければ良いと言われ、以後見返りを求めない贈り物を続ける

 

 一方拠点である六条本圀寺を攻撃された義昭はもっと防御に適した御所を作るように信長に要請

 

 信長は城作りのスペシャリスト松永久秀に京に御所作るように命令した

 

 これが後の二条御所である

 

 ロンメルはこの二条御所建設に従事し、松永久秀から城作りのいろはを教えられることとなる

 

「松永様はなぜ義輝様を殺されたのですか?」

 

「こらこら儂は殺してはおらん。殺ったのは息子だ」

 

「そうですが指示をしたのは貴方でしょ……将軍様とは2度も稽古をつけて貰いましたし、出生も妖怪の国な為にはっきりしない私のために役職と名字を与えてくださいました。なぜあの人は死ぬ必要があったのかを首謀者の貴方に聞いておきたくて……」

 

「義輝公は将軍としての器は確かに有った。それこそ中興の祖になる可能性も十分に有った……じゃが義輝公は時勢を読むのが苦手じゃった。三好長慶様が守っておったのにそれに歯向かい続け、長慶様が亡くなられた後も反抗をやめようとしなかった……儂はお主が信長様を愛しておるように儂は長慶様以外には忠義を持たぬ。義輝公は長慶様が遺された物を全て破壊する様に動いてしまった。だから殺めさせた。ただそれだけのこと」

 

「そうですか……」

 

「妖怪殿は儂と似ておる。もしも信長様に何か有った場合儂をも超える怪物になるであろう。……最もその時には儂はこの世に居ないであろうがな」

 

「松永様……」

 

「儂からの助言じゃが今の幕府に近づき過ぎるでないぞ。朝廷工作もしておるようじゃが幕府にあまり刺激しすぎるのはよろしくない……そなたは義輝公より役職を頂いて居る身ゆえあの馬鹿(義昭)が解任しない限りその役職は力を持っておる……長々と話して疲れたわい。茶にでもしようぞ」

 

 蝙蝠だの将軍殺しだの言われ、ロンメルの兄弟子でもある義輝様を殺した首謀者であるのに、ロンメルは松永久秀の考え方に共感を覚え、忠告を守り幕府から距離を置くこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが長期間鳴海を離れている間に武田が三国同盟を破り駿河へと侵攻を開始

 

 今川方は武田の調略により戦わずして壊滅

 

 氏真はこの報告を聞き駿河から遠江に逃げ延びるのだが、約2年間潜伏していた左恵と鈴木孫三郎が作戦を開始

 

 今川に恩を感じる者や武田が本国以外を奴隷のように扱うという情報を流した上で一揆を煽り、約1万の駿河農民や各寺社勢力が決起

 

 駿府に進んでいた武田本隊と甲斐の連絡路を遮断

 

 更に農民達を煽ることで武田の補給線を攻撃し始めた

 

 これに怒った信玄は反転して一揆鎮圧に動きだし農民の虐殺を行う

 

 左恵と鈴木は神出鬼没のゲリラ戦と呼ばれる手法で少数を率いて攻撃を続け、北条が出陣してくる時間を稼いだ

 

「あれが最強武田の騎馬隊か……潮時だな。鈴木、指揮権を譲渡して俺達は鳴海に帰るぞ」

 

「は!」

 

 左恵と鈴木孫三郎は状態が劣勢になる前に駿河を脱出

 

 その後一揆衆は約半年間抵抗を続けたが敗北し、一揆の手助けをした村人や商人等間接的な者も含めて3万人が虐殺されることとなり、駿府の荒廃は決定的となった

 

 駿府の象徴だった今川館も財宝もろとも焼失

 

 北条の援軍が駿府に到着したのは翌年(1569年)の1月であり、両者にらみ合いの後に一揆鎮圧で物資を多く消費していた武田が撤退

 

 この一連の戦で今川の崩壊は時間の問題となり、徳川が西遠江、武田が駿河の半分、北条がもう半分を分け合う形となり、今川は東遠江を所有するだけとなる

 

 その東遠江維持も難しいとなると氏真は

 

「もう良いであろう。皆の者今まで大義であった。今川家は今日を持って解散とする。私は妻と北条に身を寄せる故に徳川でも武田でも私と一緒に北条に行くのでも、感状は書く故に申せ……私の力が無いばかりにすまぬな」

 

 と氏真は今川家の解散を宣言し、東遠江も徳川領となった

 

 今川家臣団は様々な家に別れる形となるが、鳴海の地に向かう者も居た

 

「ここが……鳴海か? 昔とはだいぶ違うな」

 

「最後に来たのは桶狭間以来ですから9年前になりますな」

 

「9年か……長いようで短かったな」

 

 ロンメルが不在中であったが今川から怪異織田家を頼りに来た者は朝比奈泰朝、朝比奈信置等の朝比奈一族と岡部正綱、岡部元信等の岡部一族がロンメルの下に着こうとしていた

 

 朝比奈一族は代々幕府や朝廷に交渉を任されており、今川の外交官的存在である

 

 岡部一族は武功に優れ、人望の厚い人であったため由比正純等の後日他の旧今川家臣団が続々と集まる

 

「お初にお目にかかります朝比奈泰朝様、岡部元信様」

 

 一族衆の代表として鳴海城を任されていた長男一政以下弟達と家臣団が列なる

 

「左恵から氏真殿に宛てた手紙をお読みいただけたのでしょうか」

 

 ロンメルは今川家臣団を吸収するために将来1万石以上の領土と雇うためにそれぞれ一族衆で5000貫の給与を与えるという破格の条件を提示していた

 

 それだけ彼らの一族には価値があると思っていたのだ

 

「破格の条件感謝致します。更に氏真様の了承が有れば一政殿の子供と氏真様の子供を婚約させ、その子供に怪異家の当主を継がせるというのは本当ですか」

 

「ああ、母上や信長様にも了承されておる。それだけ今川家臣団を買っている証拠として貰いたい」

 

 一政はロンメルと一政兄弟の血印状を岡部と朝比奈に見せた

 

「ま、真か」

 

「論目流殿の性格はわかっておろう……武田や徳川は裏切り者北条も今川から分裂し、敵対しておった家じゃ、なら最初から敵対していたが誠意を見せてくれたここ(怪異織田家)に仕えるのが良かろう」

 

「そうだな。一政殿、ご兄弟の皆様もどうかよろしく頼みます」

 

「うむ! 前秋」

 

「は!」

 

「朝比奈様や岡部様達が住まう館を急ぎ作らせよ」

 

「兄上わかりました」

 

 こうして朝比奈一族と岡部一族、後から合流した由比正純等旧今川家臣団が臣従し、怪異家で不足していた経験豊富な武将が揃っていくこととなる

 

 



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伊勢攻め

 永禄12年(1569年)

 

 織田本隊が京周辺を制圧し、ロンメルは松永久秀と細川藤孝と共に二条御所の仕上げをしている頃、別動隊を率いて北伊勢を攻めている者が居た……

 

 そう滝川一益である

 

 滝川一益は別動隊を任されるくらいに出世しており、伊賀にいた一族を集めて滝川隊を編成、伊勢を織田支配下にするため猛烈な勢いで侵攻し、北伊勢の国人衆約四十八家だか五十三家だかよくわからない乱立する者達を一掃、ついでに寺領も攻め込み焼き付くしていった(後の比叡山延暦寺焼き討ちの数百倍ヤバイです 北伊勢の歴史的資料が殆どこの時に焼失しています)

 

 南伊勢でこの動きを見ていた北畠具教はこの惨状に激怒、織田と敵対を表明するが、北畠具教の実弟の木造具政が織田に寝返る事態が発生

 

 彼の言い分としては

 

「いや、新しい将軍様は織田を支持してるし、織田が本気になれば畿内と尾張、美濃合わせて7~10万の兵が動員できる。対してこっちはどんなに頑張っても8000が良いところ……現実を見てくれ兄上」

 

 とのこと

 

 歴史ある北畠の血が絶えない為の苦肉の策でもある

 

 弟の寝返りに激昂した北畠具教は弟木造具政が籠る木造城を包囲

 

 滝川はこの動きに木造城を支援し、織田信長に救援を要請

 

 信長は直ぐに滝川一益の要請に応え約7万人もの兵を動員し、伊勢攻めを行うこととなった

 

 二条御所建設に関わっていたロンメルにも召集がかかり、怪異織田家からも5000の兵が織田本隊に合流した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 怪異織田家軍儀にて

 

「おお! 岡部殿、朝比奈殿お久しぶりですな! 参戦ありがたく存じます」

 

「いやなに我らは論目流殿に臣従した身故に馬車馬のごとくお使いくだされ」

 

「岡部殿の軍略に朝比奈殿の外交術が有れば怖いものは無い! これより軍儀を開始する」

 

「「「は!」」」

 

「まず怪異織田軍の目標は田丸城の陥落。平城故に怪異織田軍5000だけで落とす。半乃助」

 

「は! 城兵の数はおよそ800、田丸直昌が守っております」

 

「田丸城は昔に作られ、更に政治的意味合いの強い城ゆえに堅城とは言いがたい。よって一気に攻め落とす」

 

「降伏勧告は」

 

「既に滝川殿が何度もしていますが駄目でしたので不要。作戦は夜襲にて搦手及び北門を襲撃する。門か壁を破壊でき次第本隊を中に入れ白兵戦となろう……白兵戦では私と私が鍛えた馬廻り衆にて本丸への道を切り開く。最後は囲んで大筒と鉄砲で威嚇した後今一度降伏を促し、蹴るようであれば焼き討ちとする」

 

「母上、俺に搦手を任せてくれ」

 

「では私が北の門を」

 

 左恵と忠輝が立候補したので

 

「左恵は半乃助を、忠輝には岡部殿をそれぞれ副将として着ける。無理は絶対にしないように」

 

「「は!」」

 

「母上、僕に面白い物を今回使用しようと思います。正門も同時に攻撃させてください」

 

「海軍衆に運ばせてたあれか? 本当に使えるのか?」

 

「実験は村で何度もした。この織田前秋にお任せあれ!」

 

「わかった前秋に大筒隊と500の兵を任せる。正門も可能であれば抉じ開けろ」

 

「は!」

 

「では今晩攻撃開始とする。各員奮闘せよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日のうちの深夜

 

 数百本の火矢が田丸城に放たれたことで田丸城攻めが始まった

 

 忠輝は鉄砲隊と弓隊で矢倉の兵を早々に射殺すると北の門を破壊するため大木を木槌の代わりとして数度ぶつけることで門を抉じ開けた

 

 門破壊に忠輝が躍起になっている頃左恵は搦手より侵入し、食糧庫に火を放つと左恵は北門の忠輝隊を援護するために城壁に登り、そこから鉄砲や弓、弩等で援護した

 

 そうして北門が破壊されたと同時くらいに

 

 ドゴンドゴンと大筒よりも激しい爆発音が響いた

 

「木砲でも数が揃えば立派な攻城兵器だ」

 

 前秋が用意していたのは木砲50門

 

 平城であるため正面を弓や投石を竹を束ねた盾で防ぎながら発射までの時間を稼いだ

 

「次射用意……放て」

 

 ドゴンドゴン

 

 木砲から打ち出された粘土と鉄粉で固めた砲弾は土壁を破壊するには十分な威力であり、城壁の一部が崩れた

 

「一政兄上!」

 

「よし! 者共俺に続け!」

 

 崩れた城壁から服部一忠や織田一政を先頭に斬り込みを開始

 

 城壁がこんなに容易く崩れると思っていなかった城兵達は混乱し、持ち場を離れて逃げ出す者も現れた

 

「よし! 朝になる前に二の丸も攻め込め! 私に続け!」

 

 奇襲による力が二の丸前で止まるとロンメル率いる馬廻り衆が突撃を開始

 

 次々と二の丸に侵入され、混乱が広がっていく

 

「雑魚に構うな! 本丸を目指せ!!」

 

 ロンメルは先頭で大声をあげながら突撃を防ごうとする者共を斬り殺し、前進を続ける

 

「本丸の門が見えた! もう一押しだ!」

 

 ロンメルは本丸の門に到達し、周囲の雑兵を踏み殺し、斬り殺し、首を跳ねて本丸の中に放り込む

 

「大筒隊、鉄砲隊射撃開始」

 

 本丸めがけて大筒と鉄砲による射撃が開始され、日が登り、9時過ぎまで撃ち続けられた

 

「撃ち方やめぇ! 矢文を放て」

 

 ロンメルは使者を送るのは危ないと判断し、矢文を送った

 

 矢文の内容は、城主及び城兵の命はこれ以上取らないことと武装解除、城主田丸直昌の田丸城からの退去の3つを条件とし、これを田丸直昌は了承

 

 北畠氏が伊勢神宮の守りの要として整備してきた田丸城が1日も経たずに陥落した情報は織田信長と大河内城にて籠城する北畠具教にも伝わった

 

「流石妖怪殿だ。噂に違わぬ武勇誠に天晴れ」

 

「父ちゃん不味いよ南伊勢の豪族が次々に離反していく!」

 

「なに、天下の堅城ここ大河内城に8000もの兵で守っているのだ早々には落ちん……とにかく相手の出鼻を折り続けるぞ」

 

「わかったよ父ちゃん!」

 

 息子北畠具房がドタドタと皆に伝えに行く

 

「あやつ(北畠具房)ではお家は暗い……武芸の1つもできない、大食い……そして豆と米の区別もつかない大うつけだからな……降伏条件はあやつ(北畠具房)の隠居と織田から息子を養子としてそやつに北畠の家督を譲るでよかろう……その条件にするには今しばらく戦う必要が有るがな!」

 

 その後北畠方は滝川一益、明智光秀、丹羽長秀、柴田勝家等の織田方の将による奇襲攻撃を天候が味方したこともあり全て撃退する

 

 ただこの際に食糧庫を燃やされ攻めあえぐ織田にじり貧の北畠という構図が出来上がり、伊勢侵攻が始まって約1ヶ月半後、将軍足利義昭の停戦及び和平交渉の場が設けられ、北畠親子が大河内城からの退去、北畠具房の家督放棄、織田からの養子を貰う事となり、その養子として怪異織田家の八太郎を北畠側が希望し、将軍が了承したことにより怪異織田家で兄達からとにかく愛されていた八太郎が北畠に養子として向かうことになってしまった

 

「信長様! 家の子は政略に使わないと約束はどうしたのですか!」

 

「すまぬ、将軍からの要請じゃし、北畠側もロンメルの息子であれば納得すると言われ、北畠具教が烏帽子親を勤めて元服もさせると言ってきた故に断れなくてな……」

 

「あの暗君めぇ……」

 

「北畠具教はお主の剣術の兄弟子であろう。だから余計にその子供を欲したのだ……すまぬが伊勢安定化の為に飲んでくれ」

 

「……わかりました。なら他の娘や息子達の婚約や婚姻はこちらで決めますからね!」

 

 そう言ったロンメルは直ぐに水野信元殿に連絡を入れ大雪と嫡男信政殿と婚約させ、小雪は信長の弟で謀叛を起こして処刑された信行の息子津田信澄と婚約させた

 

「おい、お前の方が政略に使っておるではないか! それでは派閥ができるぞ」

 

「どのみち織田本家と怪異織田家では対立は私や息子達が生きている間は対立しないでしょうが、力を持った分家が本家を脅かすのは信長様自身がわかるでしょ。ならばどうするか」

 

「派閥の解体……いや、お主国替えを狙っているな」

 

「はい、今回水野殿や津田信澄を巻き込んだのはいつか鳴海の地や水野領を織田に返却し、遠くの代替え地にて暮らすための布石です。その為には怪異織田家はもう少し力が必要なのでね」

 

「そこまで考えておったか」

 

「あとはウマ娘の娘達をどうするか……第二第三の私になられても困りますからねぇ」

 

「1人は奇妙に着ける。残りは重臣に分け、遠くに分散するのが良かろう。妖怪の全滅だけは避けなければなるまいて」

 

「そうですね……」

 

 この婚約が後々の騒乱に効いてくるのだが、それは後のお話

 

 



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金ヶ崎の戦い 前編

 永禄12年(1569年冬)

 

 ここで一旦信長の支配領土と同盟関係を整理してみよう

 

 国人衆がまだうようよ居るため完全に支配している領土は無いものの、尾張、美濃、伊勢、近江の一部、大和、山城が支配領域である

 

 同盟関係は三河と遠江を支配する徳川、尾張と東三河の一部を支配する水野、北近江の浅井……武田? 駿河侵攻で徳川と揉めて同盟破棄よ

 

 朝姫は同盟破棄の影響で信玄から庶子なので見捨てられ、普通なら侍女もろとも処刑なのだが、ロンメルと一政が信長様に頼み込んで許して貰えた

 

 その後一政はハッスルして朝姫や町人農民出身の側室4名を孕ませていたりする

 

 しゃあない一政も性欲が爆発する15歳なのでね……

 

 今現在織田に敵対しているのは上洛要請をしているのに一向に上洛してこない朝倉家、上記の武田家、三好三人衆くらいである

 

 そんなイケイケ状態の信長と大喧嘩する者が1人……そう足利義昭である

 

 揉めた理由は元号を変えるか変えないか問題である

 

 永禄という元号は元々三好長慶が幕府を無視して改元した年号であり、室町幕府としては屈辱的な元号であった

 

 義昭は天災や戦乱等が多く起きているので縁起が悪いとして信長に相談したのだが、信長は

 

「いやいや、帝が崩御されたわけでもないのに元号を変えるのはいかほどか」

 

 と反論

 

 信長的には織田家が飛躍した永禄という元号はとても縁起が良く心情的にも改元する必要は無いと思っていた

 

 こうして意見がぶつかり合い最終的には義昭が朝廷を動かし改元を強行、翌年を元亀元年(1570年)とすることが決まる

 

 この時幕府が朝廷に幾らか献金したのだが、それは信長から幕府に与えられていたお金だということも考えると信長はどれぐらい不愉快な気持ちになったかは想像つかない

 

 このすったもんだで不機嫌になった信長は伊勢攻めの前から連日ロンメルを抱いてスッキリする程は苛立っていた

 

 もうこの時ロンメルは35歳である

 

 この時代だと大年増であり若くもない為これが最後の妊娠であると決めていた

 

 

 

 

 永禄14年【元亀元年に改元少し前】(1570年2月)

 

 ロンメルは男の双子を出産

 

 信長より元亀丸、永禄助と元号に合わせた

 

 ロンメルは男児10人女児11人の21人を産んだことになる

 

 ちなみにそのロンメルを孕ませ続けた信長はロンメル以外に28人の子供を産ませることとなり、ロンメルと合わせると59人の子供が居たことになる

 

 ロンメルは12歳になった五郎こと織田利行と六助こと織田勝成に村開発の儀を行わせた

 

 村は左恵と右恵の領土の村から出させた

 

 本来ならば一番所領が多い前秋から出させるのが筋なのだが、領土改革や農地改革を進めすぎて開発がある程度進んだ場所を2人に与えても意味が薄いと判断し、開発が遅れ気味の左恵と右恵の領土の村から出させた

 

 そうこうしていると信長様から命令があり、朝倉討伐の下知が将軍と朝廷から発せられた事が報告された

 

 信長は近畿や尾張美濃の周辺諸侯を集め幕府軍を編成

 

 朝敵にもされた朝倉方は越前を中心に加賀の一部と若狭を支配する大名であったのだが、寝返りからの領土分取りをしたり、将軍に力がないからと要請や要望を無視し続けたので多方面からヘイトを買っていた

 

 なのでこの幕府軍に反旗を翻すことは幕府や朝廷への宣戦布告でもある

 

 尾張の鳴海8万石を有する怪異織田家にも朝倉討伐に参加するように言われ、ロンメルは8000の兵を編成し、この中には7歳のウマ娘の娘達も参加していた

 

 ウマ娘の娘達は妖怪としてのロンメルの後継者であり、織田家からは戦働きを期待されていた

 

 それに答えるためロンメルも娘達にそれ相応の教育を施していた

 

 7歳なので本格化前であるが力は成人男性よりも既にあり、剣術はロンメルからしたら及第点、槍は前田利家からも及第点、弓や弩も及第点、鉄砲は良という評価だった

 

「いいかい今回は朝倉討伐だけど幕府軍として大義はこちらにある。5人とも初陣となるけど戦の雰囲気を感じるだけで良いからね。まぁ私達が出ばることもないと思うけどね」

 

「母上、それほど今回の朝倉討伐は簡単なのですか?」

 

「うん、既に信長様の使いで丹羽長秀殿や明智光秀殿、細川藤孝が調略に動いている。幕府軍は織田家や徳川家、近畿の諸侯あわせて3万8000に対して朝倉軍は全軍合わせても2万もいかないしそれを各城に分散して配置しないといけない。しかも大義がなく朝敵扱いの朝倉兵の士気は低いでしょうね」

 

「私達が一生懸命育てた騎馬隊、弩隊、槍隊、白兵隊、鉄砲隊が居ればどんな敵にも勝てます!」

 

 ウマ娘としては長女の阿久利黒が勇ましくそう言うが、育てたのはロンメルやその家臣達である

 

「私達と申するが、馬の調教、武器の調達、兵の召集をしたのは全て家臣たちのお陰だ。図に乗るな阿久利黒」

 

「し、失礼しました」

 

「よし、妖怪妖怪と言われているが私達はウマ娘。場を見て使い分け、威圧しへりくだる。先祖等も無いに等しい私達は武功、政治力にて活躍せねば直ぐに討伐される立場ということを理解せよ。良いな」

 

「「「は!」」」

 

 ロンメルは徳川様が援軍として織田家に合流するので怨みがある旧今川家臣団と領内整備に内政能力が突出している前秋と黄衣の旦那平野長景を鳴海城に残し、兵8000を率いて幕府軍に京にて合流

 

 朝倉討伐が開始された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 幕府軍は直ぐに若狭を制圧し、敦賀郡に入る頃には服従した豪族も含め軍が5万にまで増加、天筒山城、金ヶ崎城を次々に陥落させ、朝倉本拠地である一乗谷に向けて進軍している頃、織田本隊に衝撃的な情報が飛び込んでくる

 

「な、なに!? 浅井が裏切っただと!」

 

 信長は直ぐにそれが朝倉が幕府軍を混乱させるための罠だと切り捨てたが、次々に入る続報、更には浅井長政に嫁いでいた市姫から届いた鮎が決め手となった

 

「鮎……梁……罠!?」

 

 鮎を捕る時に梁という川の両岸を石等でせき止め一ヵ所開けておくことでそこに罠を仕掛けて捕らえる漁の仕方である

 

 信長は梁と罠をかけたメッセージに気がつくと

 

「全軍退却じゃ! 篝火を盛大に焚け! 撤退を悟らせるな!」

 

 信長は本陣に来ていた幕府の武将達にも撤退を命令すると自身は僅かな馬廻り衆と共に幕府方の要人と一緒にいち早く撤退した

 

 それこそ本陣に居なかったロンメルや同盟者の徳川隊にも伝えずに

 

 信長はその後朽木谷越えを行い幕臣達が近くに居たことで幕府に忠誠を誓っていた朽木元網を味方につけ京に撤退することに成功したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 一方置いてかれたロンメルは

 

「伝令! 浅井長政裏切りにより織田信長様撤退! 滝川一益隊、柴田勝家隊、丹羽長秀隊、森可成隊、佐久間信盛隊以下将兵皆撤退を開始! 殿は木下秀吉隊と明智光秀隊、池田勝正隊! 徳川隊は混乱しいまだ撤退を開始せずとのこと」

 

「……わかった。君も直ぐに撤退しなさい」

 

「は! これにてごめん!」

 

 ロンメルは食事中の息子達や家臣達を素早く集めるとこう言った

 

「我ら怪異織田家8000、信長様が撤退を完了するまで時間を稼ぐこととし、この地に留まる……まずは金ヶ崎城に入るぞ」

 

「「「は!」」」

 

 勝ち確の消化試合が一瞬にてお家存続の一大事となってしまった

 

 ロンメルは直ぐに殿隊の木下、明智、池田、そして混乱してしまっている徳川を呼び寄せ

 

「この戦……朝倉から潰すこととする」

 

 と第一声で言った

 

 殿隊は全部隊合わせると木下隊2000、明智隊2000、池田隊1000、徳川隊3000に対して怪異織田は8000と一番部隊数が多かった為殿隊の指揮系統を掌握した

 

「待て待て妖怪殿なにか策はあるのか?」

 

 徳川家康がそう答える

 

「半乃助」

 

「は! 朝倉隊約1万5000、これは朝倉が現在動員できる兵数の8割となります。各支城からも兵を引き抜いていると思われます」

 

「とのことだ。各地から集められたということはそれだけ寄せ集めということ……ならば指揮している者を潰すまでよ」

 

「指揮官を潰すと言うがそう簡単にはいきませぬぞ」

 

「左様、朝倉のことだ陣は奥に構えていると思われる」

 

「なに簡単なことよ……敵中突破を敢行する」

 

「な!?」

 

「無茶を申すな! ここは金ヶ崎城にて籠城したのちに撤退が良かろうて」

 

「南から浅井1万も向かってきている。弱いところから先に叩くのが鉄則。なに怪異織田家のみでも作戦は決行する」

 

「ならば某も参加しようか」

 

「木下殿誠か!?」

 

「ロンメル殿はやれると確信しておる。あちらは攻め手だと思っておる。攻撃されるとは思ってなかろう」

 

「……わかった私も参加しよう」

 

「明智殿助かります」

 

「……やれやれ、徳川隊も参加いたす。三河武士の名を轟かせましょうぞ」

 

「馬鹿な無茶だぞ。拙者は金ヶ崎の防衛に尽力いたす」

 

「わかりました……では作戦をご説明致します」

 

 池田が作戦会議から離席したのを見計らいロンメルは作戦を教える

 

 まず金ヶ崎城を餌とし、伏兵と別動隊を天筒山より向かわせ別動隊が金ヶ崎から狼煙を上げたと同時に朝倉の補給隊を攻撃、伏兵隊が側面から攻撃を仕掛ける

 

 金ヶ崎といわれる地形は山と海に囲まれているため軍が細長くなりやすい

 

 その混乱状態の敵に別の側面から敵本陣に斬り込みを行う

 

 その時に城兵も打って出て4から5方面による多重攻撃で潰すという策だ

 

「ならば朝駆けがよろしいかと」

 

 木下隊の竹中半兵衛の献策により時間は朝駆けと決まる

 

「早急に朝倉を駆逐次第塩津街道から北陸街道を突破し、京に帰還する。池田は囮として使う」

 

「池田殿は見捨てると」

 

「今回の作戦は朝倉を潰した後素早く後退できるか。池田殿は金ヶ崎にて籠城という愚策を継続するであろうが、我々はその時には金ヶ崎から撤退を完了させる。朝倉主力を失えば浅井も追撃は断念しようぞ」

 

「わかりました。校長いや、ロンメル殿、我らが別動隊を引き受けましょう!」

 

 秀吉が別動隊を志願し

 

「では徳川様と明智殿は我が方半数と共に金ヶ崎城から打って出るのを頼みます。我が方の指揮官は戦働きに定評がある左恵に致します」

 

「織田左恵です。皆様よろしくお願いします」

 

「伏兵隊は1隊500とし、一政、忠輝、右恵、利行、勝成の6部隊を作る。町田半乃助、服部一忠は利行の補佐を、鈴川千秋、鈴木孫三郎は勝成の補佐を頼む」

 

「「「は!」」」

 

「してロンメル殿はどうするので?」

 

「魚を誘き寄せる撒き餌が必要でしょう。500にて朝駆けを悟らせないために前日に部隊が移動が容易くなるように決死隊を編成する。阿久利黒、望月、磨墨、生食、薄墨妖怪としての初陣だ。楽しめ!」

 

「「「は、はい!」」」

 

「私が亡くなった場合及び何らかの理由で金ヶ崎に撤退できなかった場合は徳川殿に指揮権を譲渡する故に狼煙の合図頼みましたぞ」

 

「しかと引き受けた」

 

「では妖怪の軍略を朝倉にお見せいたしましょうぞ」

 

 




整理

天文23年(1554年3月1日)
1 黄坊→織田一政(おだかずまさ)
カリスマ持ちで人を焚き付ける
2 黄衣 姫 +平野長景
狼様 野生児

天文24年(1555年10月20日)
3 茶一 →織田忠輝(おだただてる)
調停力に優れる
4 茶次郎→織田右恵(おだうけい)
5 茶三郎→織田左恵(おださけい)
軍神の加護を得る
6 茶四郎→織田前秋(おだまえあき)
道具の改良が得意
最大の発明は大らち

弘治3年(1557年2月28日)
7 大雪 姫 +水野信政
8 小雪 姫 +津田信澄

永禄元年(1558年8月10日)
9 五郎→織田利行(おだとしゆき)
10六助→織田勝成(おだかつなり)
11鶴 姫

永禄4年(1561年11月15日)
12 八太郎→北畠具継(きたはたけともつぐ)

永禄5年(1562年8月29日)
ウマ娘
13長女 阿久利黒
14次女 望月
15三女 磨墨
16四女 生食
17五女 薄墨

永禄8年(1565年10月25日)

18 黄器 姫
19 黄紙 姫

永禄14年元亀元年(1570年2月20日)

20 元亀丸
21 永禄助


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金ヶ崎の戦い 後編

 元亀元年(1570年5月)

 

 朝倉の追撃隊1万5000を率いるのは真柄直隆という猛将と山崎吉家という知将であり、浅井が立ったことにより負け戦から勝ち戦へと変わり士気は跳ね上がっていた

 

 猛然と進む彼らの前に夕刻ロンメル率いる決死隊が姿を現した

 

「妖怪大将怪異正八位下蝦夷地守護東狐論目流! 賊敵朝倉の軍とお見受けした。幕命によりお命頂戴いたす」

 

 ロンメルがそう叫ぶとロンメルは馬よりも速く駆け出し朝倉の先頭に居た武将を愛刀影月で横一線、それに激怒した者達がロンメルに襲いかかるが懐に入られる前に斬り殺し、叩き殺し、踏み殺した

 

「我が名は阿久利黒! 妖怪副将阿久利黒である!」

 

「怪異家一門衆妖怪四天王望月!」

 

「同じく磨墨! 者共行くぞ!」

 

「同じく生食!」

 

「同じく薄墨!」

 

「「「「我ら妖怪四天王がお相手いたす!」」」」

 

「突撃……開始」

 

 阿久利黒の号令で母親のロンメルに続き馬廻り衆や決死隊に参加した精鋭が突撃を開始する

 

「槍で牽制し、懐に入れるな!」

 

「甘い!」

 

 ロンメルは槍を掴むと持ち手ごと横に投げた

 

 すると隊列を組んでいた者達も横殴りに倒され転倒

 

 ロンメルは奥へ奥へと進んでいく

 

「ひ、ひぃ! 鬼じゃ! 鬼がおる!」

 

「隊列を組み直せ! 妖怪といえど命は1つぞ!」

 

 

 

 

 

 はぁはぁ……

 

 ロンメルは全方位が敵の中身体中に返り血を浴び真っ赤に、真っ黒に染まっていた

 

 ロンメルは息を整え集中する

 

 鍛えぬかれた肉体はロンメルが動きたいように動いてくれる

 

 すうぅぅっと徐々に肉体の感覚が透き通っていく

 

 皮膚、筋肉、血管、血液の1滴に至るまで認知できているような気がする

 

 ストンとロンメルは何かが組み合わさるような感覚を覚えた

 

 敵が驚愕しているのだ

 

 まるでいきなりそこに現れたかのように

 

 糸が見える……ロンメルは糸に沿って大太刀を振るうと敵が綺麗に斬れていく

 

 鎧が紙切れのように肉体が斬れるのだ

 

 すうぅぅっと息をする

 

 相手が透けて見える

 

 白黒の世界に相手の血管や骨が見えるのだ

 

「これが……一之太刀……」

 

 呼吸が乱れた瞬間にあの美しい透き通る様な世界から現実へと戻される

 

「撤退! 撤退せよ!」

 

 ロンメルはそう叫ぶと朝倉の兵を吹き飛ばしながら撤退を開始する

 

「逃がすな! 討ち取れ!」

 

 ロンメルや阿久利黒達の足の速さに追い付けずにロンメルと娘達は金ヶ崎に撤退に成功するが、馬廻り衆、決死隊参加した精鋭達で生き残り金ヶ崎に撤退できたのは50人にも満たなかった

 

 ロンメル達の撤退に合わせ朝倉軍は軍を早め木ノ芽峠まで迫り、ロンメル達決死隊の被害状況が露となった

 

「1500じゃと」

 

「はい。先鋒隊とその真後ろにいた部隊が被害にあい足軽大将以上だと羽床定光、古源晴冬、亀ヶ森種森、曽田吉治、坂部甚三、高松村位、牟禮良顕、柳橋秀孝、羽柴教竜、立花一照様達がお討ち死に……士気も低下しており、逃げ出す者も出ております」

 

「督戦隊を編成しろ。この戦勝ち戦ぞ、逃げ出すものは斬り殺せ」

 

「は!」

 

「なかなか上手くいかぬものですな」

 

「あぁ、しかしあ奴らの動きからわかったが織田は逃げておる。ならば我らは速やかに金ヶ崎を奪還し、追撃せねばなるまい」

 

「そうですな」

 

 真柄直隆と山崎吉家の大将2人の判断により夜間行軍を行うこととなり細い金ヶ崎へと続く道に踏み入れることとなる

 

 

 

 

 

 

「妖怪殿ご無事で」

 

「ああ、なんとか。これで撤退を敵が確信し、兵糧攻めは消えた。金ヶ崎城は力攻めとなるだろう……」

 

「軍が縦に伸びましょうな」

 

「既に忍衆の情報により伏兵隊及び別動隊は所定の位置に到達したとのこと……後は時の勝負」

 

「いやはや流石論目流殿だ」

 

 そこに現れたのはこの場に居てはいけない斎藤家の家督を継いだ斎藤利治がそこに居た

 

「斎藤様なぜこんな所に!?」

 

「いやはや私が居れば美濃衆で多く構成されている明智隊と木下隊が勢いづくと思いましてね……結果特等席で良いものを観れましたよ」

 

「は、はあ……」

 

「私も次の突撃に参加します。どうぞ私と私の馬廻り衆をお使いください。精鋭揃いの猛者達ですので」

 

「ありがとうございます」

 

「母上!」

 

「どうした!」

 

「薄墨が矢傷を受けていて熱出して倒れた」

 

「臓物に傷は!」

 

「腕だからそれはない!」

 

「ならば熱湯にした水を器に入れ、それを容器ごと冷やし傷を洗い流せ! その後熱湯に着けた布で矢傷の部分を巻け」

 

「わかりました!」

 

「馬糞や尿で洗わなくて良いので?」

 

「そんなことをしたら死ぬわ! ちっ! 娘達は次の突撃には使えない。恐怖を覚えてしまったかもしれないから……斎藤様、次の突撃で仕留めますので頼みましたぞ」

 

「蝮の子として頑張りますよ」

 

「論目流様、急ぎ報告」

 

 半乃助の部下の忍びが報告に現れる

 

「なんだ!」

 

「少し早いですが朝倉軍最後尾が目標地点を通過中! 朝駆けの合図を」

 

「狼煙をあげよ!」

 

 伏兵隊と別動隊による同時箇所複数奇襲が始まった

 

 ロンメルは城門をあけると明智隊、徳川隊と同時に先鋒隊に襲いかかった

 

「よ、妖怪じゃ! 妖怪が再び現れた!」

 

 ロンメルが再び現れたことで再編された先鋒隊は戦わずして壊走、これに後ろに居た部隊も巻き込まれ足が止まる

 

 側面からは伏兵隊が猛攻を仕掛け大混乱となった朝倉軍を大将2人が必死に立て直そうと奮起する

 

 ロンメルは意識を自然体に身を任せ再び透き通った世界に突入する

 

 白と黒の世界、前に前にと敵兵を斬り捨て進んでいく

 

「督戦隊! 何とかして脱走兵を持ち場に戻せ! 数はこちらが有利ぞ!」

 

 正確には互角なのだが伏兵が少数と見破った真柄直隆は督戦隊を動か中段の部隊を混乱から立て直しかけたが

 

「な……妖怪だと」

 

 目の前にロンメルが居た

 

 ロンメルが居たことに全く気づかなかった真柄直隆は刀を抜く事なくロンメルに斬殺されてしまう

 

 ロンメルはそのまま単独でて細長くなっていた朝倉軍を突破し、木下隊と合流してしまう

 

「ろ、ロンメル殿!? まさか敵陣を突破してきたのか!?」

 

「……」

 

 ガクンとロンメルは膝から崩れ落ち昏睡してしまう

 

「者共ロンメル殿を守れ! 敵は大混乱ぞ! そのまま押し潰せ」

 

 

 

 

 

 

「真柄直隆様お討ち死に! 山崎吉家様背後も織田の兵に囲まれております」

 

「先鋒隊及び中段までの部隊も壊滅! 後方の部隊も戦意を喪失しております!」

 

「ここまでか……誰ぞ介錯を」

 

 山崎吉家も陣中にて自害したことで朝倉軍1万5000は壊滅

 

 生き残ったの僅かな兵は鎧を脱ぎ捨てて海から逃げようとするが、遠泳の経験など無い彼らは波に流されて次々に溺死していき玉砕という字の方が正しい事となる

 

 朝倉はこの1万5000という大軍が大敗し、有力武将がことごとく討ち死にしたことにより後々の合戦全てにおいて影響力を大幅に低下し、滅亡の最後までこの損害を回復できずに散ることとなる

 

 朝倉軍の大軍が1夜にして壊滅し、ロンメルが倒れたことで指揮を受け継いだ徳川家康はすぐさま撤退を指示

 

 迅速な移動で浅井本隊が到着する前に金ヶ崎を脱出し京に撤退する

 

 後に金ヶ崎の戦いと呼ばれるこの戦いはロンメル、木下、明智、徳川の名を天下に響かせ、木下秀吉と明智光秀は織田の有力武将へと認められ、徳川は織田に臣従していたと見られる動きから対等な同盟者と見られるようになる

 

 そしてロンメルは大妖怪と恐れられ越後の竜、甲斐の虎、尾張の大妖怪と呼ばれるようになる

 

 ……天下の笑い者となった朝倉だが、それよりも深刻なのは浅井である

 

「義兄上を甘く見すぎていたか……この浅井長政一生の不覚」

 

 織田からは対等な同盟者として見られていた浅井家は一変して将軍に刃向かう逆賊となり、朝倉も宛にできないことによりほぼ単独で巨大な織田に敵対することとなってしまう

 

 ロンメルは一之太刀の反動で倒れ、以後倒れないように訓練を続けるのだがこの戦国の世では一之太刀を完全に使いこなすことは無かった……



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野田・福島城の戦い 前編

 元亀元年(1570年5月)

 

 京に帰還したロンメルは体調を回復させると木下秀吉、明智光秀、池田勝正、徳川家康、斎藤利治等金ヶ崎の戦いに参加した諸将に礼を言って回った

 

 木下秀吉と明智光秀、斎藤利治の3名はロンメルを今回の件で全幅の信頼をよせ、徳川家康は旧今川家臣団を吸収した件を水に流した

 

 家康にとって今川家臣団は恨みの対象であり、特に岡部元信を凄い嫌っていたこともあり、それを召し抱えたロンメルにも悪感を抱いていたが、今回の見事な采配で敵にしてはいけないと思うようになる

 

 金ヶ崎の戦いの詳細な被害が京に到着してから判明した

 

 こちらは決死隊450人他全部隊合わせて800の合計1250名

 

 決死隊以外で一門や武将は亡くなった者は居らず、ロンメルは側近衆を生け贄に1万5000の朝倉軍を殲滅させたことになる

 

 ロンメルは決死隊に参加し生き残った者達全てを昇進させ、亡くなった者も遺族に普通よりも多くの弔慰金と感状を渡すこととなる

 

 京に戻ったロンメルは軍を再編させていると六角の再蜂起の知らせが入る

 

 六角の数はどこから集めたのか2万

 

 これに対して柴田勝家、佐久間信盛が激突、野洲河原の戦である

 

 これに勝利した織田家は六角残党を駆逐し、南近江一帯を完全に掌握

 

 中山道は浅井軍により封鎖中の為、東海道を通り本拠地の岐阜城へ織田家、徳川家は帰還

 

 信長は野洲河原の戦前に千草峠を通り岐阜へ帰還するのだが火縄銃にて狙撃されるという一大事が発生、犯人はすぐさま捕縛され斬首、信長はかすり傷を負ったものの命に別状はなく、難を逃れた

 

 

 

 

 

 

 

 岐阜城の評定にて

 

「ふぅ、何とか生き延びた」

 

「いやはや、流石ロンメル殿ですな。この木下秀吉感服いたしましたぞ。まさに無双!」

 

「まだまだ完成には程遠い……義輝公にはまだまだ及びませんよ……一之太刀必ず完成させて見せます」

 

「我々も大変でしたが柴田殿も流石ですな六角2万を撃滅するとは」

 

「ハッハッハ! 何のこの柴田勝家あれくらいな烏合の衆であれば恐れる必要も無いですからな!」

 

 この場に居るのは重臣達のみであり、佐久間信盛を筆頭に村井定勝、柴田勝家、森可成、丹羽長秀、滝川一益、木下秀吉、明智光秀、池田恒興そしてロンメルの10名だけだった

 

 信長が評定に現れると座りながら全員頭を下げた

 

「これより次の目標を決める……キンカン(明智光秀)図面を広げよ」

 

「は!」

 

 明智光秀が地図を広げる

 

 そこには細かく敵対勢力や味方の城と砦が書かれていた

 

「信長様発言を」

 

「キンカン認める」

 

「は! まずは中山道の回復を目標とするのが良いかと。現在東海道を使った大回りをしなければ京に進出することができなくなっています。なので刈安尾城、長比城をまず制圧し、浅井が出てくれば関ヶ原にて決戦を、出てこなければ北の横山城、佐和山城と次々に落とし、中山道を回復させます。浅井が出てくれば良し、出てこなければ支城を見捨てたことになるので浅井の土豪や国人衆への求心力は低下致します」

 

「よし、余の意見と合致した! それでいこう!」

 

「では長比、刈安尾城は竹中半兵衛が美濃を追われた際に身をよせておりましたので調略はこの木下秀吉が行いまする」

 

「猿(木下秀吉)任せる」

 

「は!」

 

「では猿の調略が完了し次第軍を進める! 別動隊は柴田勝家、丹羽長秀が編成し、佐和山城を牽制し、本隊が横山城を落としやすいようにせよ。関ヶ原にて決戦となった場合は背後から浅井軍を脅かせ良いな!」

 

「「「は!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鳴海城に戻ったロンメルは薄墨の容態を確認する

 

「大丈夫薄墨?」

 

「熱は下がりましたのでだいぶ楽になりました母上、膿まなくてよかったです」

 

「当面の間は寝ていなさい。傷口が開くと不味いから……侍女達に身の回りの世話をさせるようにしておくから」

 

「はい!」

 

「阿久利黒、望月、磨墨、生食」

 

「「「「はい!」」」」

 

「浅井討伐の軍に兄達と共に参加せよ。前回は首を取れなかったらしいが、次こそ頼むぞ」

 

「「「「は、はい!」」」」

 

 ロンメルは負傷者を鳴海の地にて療養させ、軍を再編し、畑仕事に影響のでない3000を今度は連れていくことにした

 

 ロンメルは鳴海に到着して数日のうちに金ヶ崎の戦いでの功労を行うと信長からの出陣命令を待った

 

「母上、急ぎの知らせが」

 

「何事だ前秋」

 

 鳴海の地を纏めていた前秋が悲痛な顔をして私の前に現れた

 

「母上、流民が例年より多くなっております。どうやら甲斐や関東から流れてきているとの事、急ぎ対象しなければ一揆が発生する可能性がありまする」

 

「一揆は不味いな……」

 

「職は何とかなるのですが食料が足りませぬ。一時備蓄してある食料の一部を放出する許可をください」

 

「わかった。ただ近畿では戦が多くなるゆえに近畿でも食料が不足すると見るが」

 

「3000の兵による遠征でしたら9ヶ月は大丈夫ですが、それ以上であれば金が嵩むと思ってくだされ」

 

「わかった。前秋、奉行衆と共に領内を頼むぞ」

 

「はは!」

 

 この頃には織田前秋はロンメルの代官として鳴海8万石を掌握しており、兄弟が居ない間に黄衣、奉行衆筆頭平野長治を補佐として領内改革を実施し、開発好景気ともいえるお金と物流の好循環を産み出していた

 

 そこから浮いたお金で鳴海城の城壁の改築に入る

 

 これが第四改築となり土塁から石垣への変更だった

 

 多数の矢倉、武器や食料庫、なにより村を6つも囲んでいることから食料供給にも余念が無く5万以上の軍勢が入れる巨大な城が完成となる

 

 やりすぎと怒られて尚ロンメルがこの城を完成させるに至った理由は信長様に万が一が合った場合最後に籠ることができる城が必要とロンメルなりに考えての築城であった

 

 なにより武田への守りとしても機能するこの城を今さら破棄する気も信長には無かったが、民と近すぎ妖怪様と人々から崇められていることに信長が危機感を抱いているため、ロンメルが前にも言った国替えは必ず実施しなければならないと思っていた

 

 そして遂に秀吉と半兵衛の調略により刈安尾城、長比城両城が無血開城

 

 織田軍が動き始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメル率いる3000はすぐさま織田本隊に合流すると中山道を通り横山城を急襲、これを陥落させる

 

「浅井は動きませんでしたね。信長様」

 

「うむ、長政は余の事をよく知っておる。出てくれば叩かれることも熟知しておろう……佐和山城からも出てくる様子は無いか……朝倉の援軍を待っているのであろう」

 

「しかし朝倉主力1万5000は壊滅した為今は援軍どころでは無いでしょう……早急に佐和山城を落とし、欲張らずに街道の回復に留めるのが先決かと」

 

「よし、佐和山城を守るのは磯野だったか……猛将故に力攻めは危険。ここは兵糧攻めにて落とすぞ」

 

 別動隊が佐和山城を包囲し、織田本隊は横山城、刈安尾城、長比城に軍を分けて浅井の出方を警戒した

 

 が、浅井は動くこと無く磯野が守る佐和山城は降伏

 

 ここに中山道が回復

 

 横山城は秀吉に与えられ浅井の監視役に命じられる

 

 ちょうどその頃松永久秀の伝令から緊急事態を信長は報告される

 

 三好三人衆挙兵

 

 摂津の中嶋に進出して野田と福島の砦を改築しているとのこと

 

 信長は別動隊を吸収すると京に入り、将軍義昭を担ぎ出して再び幕府軍を編成すると中嶋に急行した

 

 野田城及び福島城は淀川下流で西は海、それ以外を川に囲まれた天然の要塞であり、大軍をもってしても侵攻は困難だと思われる場所であった

 

「半乃助」

 

「は!」

 

「三好の動きは」

 

「兵数約1万3000が集結し榎並城を落城させ、現在三好義継が守る古橋城も落城させたとのこと」

 

 三好義継は元々三好家の主であり、三好三人衆の主君でもあったが松永久秀の手引きのもと信長に降っていたため攻撃対象となってしまった

 

「畿内にて兵はいくら集まった」

 

「ざっと3万程、内雑賀衆及び根来衆が2万、織田本隊と合わせると約7万の軍勢になりました」

 

「鉄砲は?」

 

「雑賀衆と根来衆が3000丁、織田本隊が4000丁、怪異織田家が1000丁、他部隊合わせて2000丁、合計1万丁有るかと」

 

「それだけあれば十分だな」

 

「この前に堺衆に鉄砲と弾薬を全て買い上げたのが大きいですな」

 

 京にて将軍出陣の準備を行っている頃、先鋒隊の前田利家が松永久秀と合流し、古橋城、榎並城を次々と奪還

 

 将軍が動くとわかると三好三人衆は中嶋に撤退し、籠城の構えを見せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信長本隊が中嶋近くに布陣し、松永久秀が浦江城を攻略させている頃、ロンメルの下に半乃助の部下が三好方の兵と密書を捕えたとして報告された

 

 内容は織田の本当の目的は三好攻めではなく石山本願寺であるという内容であった

 

 確かに天王寺の陣も含めると石山本願寺を包囲しているように見えなくもない

 

「密使が1人だとは考えにくい……しかしなぜ石山なのだ? 半乃助」

 

「以前信長様は石山と堺より銭の徴収を行い、各々2万貫(20億)を徴収され、信長様は石山本願寺に対して石山からの撤廃を求められておりました……これに応じなかった為今回攻めてきたと考えてもおかしくは無いかと」

 

「信長様に伝えるべきか……」

 

「母上」

 

「左恵どうした?」

 

「良いではありませぬか。相手は勝手に罠に掛かってくれるのですから」

 

 左恵は罠を張れば簡単にかかると判断した

 

 つまり釣り野伏せをここでもやるとのこと

 

「しかし、どこでやる? 開けたここでは伏兵も難しいぞ」

 

「一政兄上別に伏兵だけが釣りではございませぬ信長様は淀川の下流の福島城と枝分かれしている場所を塞き止めると思いますが、我々はそれよりも上流で塞き止めを行います更に良い場所に森がありまするゆえにここに潜ませましょう」

 

「天満森か」

 

「然様、ここであれば伏兵も隠せます」

 

「よし、左恵、伏兵1000はお前に任せる。一政、忠輝!」

 

「「は!」」

 

「弓、弩、鉄砲隊1500はお前達に任せる」

 

「「は!」」

 

「右恵!」

 

「は!」

 

「信長様へこの事を伝えに行け、後方は私が命に換えても守ると」

 

「は!」

 

「残り500は私と共に塞き止め工事を行い、川を渡るぞ……側面より奇襲する部隊とする」

 

「「「は!」」」

 

「では皆の衆用意に掛かれ!!」




姉川の戦いが消えてしまったので浅井はピンピンしてます


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野田・福島城の戦い 後編

 元亀元年(1570年9月)

 

 浦江城が数時間で陥落し、信長は淀川下流の塞き止めを開始

 

 塞き止めが完了すると野田城、福島城を取り囲むように櫓を築く

 

 丁度その頃対岸の中嶋城に足利義昭率いる軍が到着し、信長の動向を見守る

 

 12日織田軍総攻撃の日となり早朝からロンメルは川を塞き止めるために天満森の少し北にいた

 

「急げ! 急げ! 本願寺が挙兵するとしたら今日ぞ! 塞き止めを完了させよ!」

 

「母上」

 

「なんだ勝成」

 

「ここまで大きな川の塞き止めですが、外す時はどうするので?」

 

「火薬が大量に入った壺を幾つも用意してある。それを使い両岸より爆発して堤を破壊する」

 

「わかりました」

 

 信長に本願寺が不穏と報告したが、信長は本願寺が動く前にこの戦を終わらせるとし、怪異織田家は総攻撃より外され後詰めとして待機するように命じられた

 

 バババババ

 

「始まった」

 

 信長の号令で約8000丁もの鉄砲が火を吹いた

 

 根来衆の高い練度の射撃は城兵や門、土堀を撃ち抜いていく

 

 勿論三好方も雇った雑賀衆の一部を使い応戦するが鉄砲の数が違いすぎて話にならない

 

 鉄砲の発射音が途切れること無く放たれ、それに怖じ気付いた三好政勝が裏切り門を破壊して脱出

 

 総攻撃も間近と迫ったその時

 

 ゴーンゴーンと鐘の音があちらこちらから響き渡る

 

「論目流様、石山本願寺挙兵! 榎並城が既に襲われております」

 

「こちらには」

 

「約2万が向かってきております」

 

「頃合いか……堤を破壊せよ」

 

 淀川を渡ったロンメルは堤を破壊し、鉄砲水が石山の門徒に直撃

 

 約8000が流され海に叩き出される

 

「よし、天満森の援軍に行くぞ」

 

 

 

 

 

 

「鉄砲隊放て、弓隊弩隊も続け」

 

 一政、忠輝率いる怪異織田軍本隊は1500の兵で川を渡ってくる一向宗を防いでいた

 

「兄上ここも長くは持ちませぬ」

 

「……よし、右恵信長様に援軍を要請しろ」

 

「わかりました」

 

 右恵が信長に援軍を要請したことにより信長は城攻めどころではなくなり佐々成政、前田利家を援軍に向かわせる

 

 これにより踏みとどまっていた怪異織田軍は難を逃れ、約100名の死者を出すも川から一向宗を叩き出すことに成功する

 

 そして天満森方面から襲おうとした一向宗はロンメルの鉄砲水が直撃し、大幅に数を減らし、何とか渡りきった者達が見たのは大量の織田の旗だった

 

「よし! 馬、牛を放て!」

 

 火牛の計……それは遥か昔中国にて行われた策であり、尾に油を塗りたくった葦を尾にくくりつけて敵陣に放つものであり、左恵は兵糧や弾薬を運ぶために連れてこられた軍馬や牛を集め火牛の計を実行

 

 火に驚き馬や牛達は一向宗に突っ込み暴れまわる

 

「敵は混乱した! 弩及び弓を放て!」

 

 森の中に潜伏していた左恵の伏兵達が混乱する一向宗に隠れながら弓や弩で射ぬいていく

 

「頃合いだ! 俺に続け!!」

 

 左恵は一向宗が立ち直る前に突撃を仕掛け更に混乱させる

 

 ある程度かき回し、左恵は無理せずに再び潜伏、またチクチク弓や弩で射ぬき、時間稼ぎに徹する

 

「左恵様、佐々成政様、前田利家様の援軍が到着いたしました」

 

「よし、母上と挟撃したかったがこれ以上は無理か……北上し、母上と合流する」

 

 援軍部隊と交代した左恵率いる部隊は北上し、安全な場所から川を渡りロンメルの部隊と合流した

 

「さて左恵これからどうする?」

 

「榎並城を奪還いたしましょう」

 

「よし、半乃助」

 

「は!」

 

「一向宗に紛れ場内に侵入し搦手の門を開けることは可能か」

 

「お任せくだされ」

 

「よし、搦手から侵入する」

 

「は!」

 

 半乃助は部下を使い一向宗に紛れて表門近くに移動すると火事を起こし、表門に兵を集めた

 

 その隙に半乃助は搦手の門を解錠し、ロンメル、左恵率いる1500名の兵が榎並城に殺到

 

 城を奪還すると城門を固く閉じ一向宗の攻撃をはね除ける

 

 一方信長本隊は城攻めを辞め、佐々成政が負傷したため前田利家隊と怪異織田本隊で防衛していた天満森に到着

 

 一向宗を駆逐する

 

 その時浅井、朝倉、比叡山延暦寺が京に向かって進軍しているとの報告が入る

 

 信長は翌日全軍の撤退を決め、京に向かって撤退を開始

 

 殿は柴田勝家殿が勤め、ロンメルは奪還した榎並城を再び放棄し、織田本隊と共に撤退を完了させた

 

 

 

 

 

 

「ヒヤヒヤしたわ……とりあえず全員生き延びた様でなにより」

 

「本願寺とはこのまま戦闘になりましょうか?」

 

「今信長様が天皇陛下を動かして和睦を進めるらしいが、問題は朝倉と浅井連合軍だね」

 

「信長様の弟……俺達からしたら叔父にあたる織田信治様や信長様の信頼が厚い森可成、救援に駆けつけた青地茂綱殿が討ち死にと聞きましたが」

 

「ええ、3名は討ち死にしてしまわれた……ただ宇佐山城が落城を間逃れたことで朝倉、浅井連合軍も進撃できずにいる。比叡山に籠られると厄介だな」

 

「焼いてしまえば良いのでは?」

 

「寺社は世俗を離れているとして基本的に攻撃できないんだよ。だから信長様は本願寺と和睦をしたがってる……比叡山も同様なんだけど腐敗しきっているからねぇ」

 

「我々も織田本隊と共に朝倉、浅井連合の撃退に動いた方が良いのでは?」

 

「そう思ったんだけど伊勢長島が一向宗に占拠され、これまた信長様の弟織田信興が討ち死にして、滝川一益殿も命からがら伊勢から脱出したとのこと」

 

「……!? 八太郎は!! 八太郎は大丈夫なのか!?」

 

「北畠衆が南伊勢は守っているから大丈夫……信長様からの命令待ちになるけど多分伊勢長島一向一揆鎮圧かまた挙兵した六角残党の退治のどちらかになると思う」

 

「また六角挙兵したのかよ……鼠みたいな野郎だな」

 

「武田のこともあるし、信長様も頭が痛いだろうに……」

 

 ロンメルが京に滞在して3日後、信長から命令が下る

 

「母上、信長様からは何と?」

 

「六角残党を討伐次第鳴海の地に戻り武田の侵攻に備えよとのこと」

 

「よし! 六角の雑魚なら俺だけで十分だ」

 

「左恵落ち着け……よし母上、利行と勝成、それにウマ娘の4人と兵2500で残党狩りを、母上と他の兄弟は急ぎ鳴海に戻るで良いか?」

 

「……一応目付として鈴木孫三郎と鈴川千秋の2名を付けよう。よし! 左恵頼んだ!」

 

「任された!」

 

 ロンメルは500の兵で中山道を通り岐阜の町で1泊した後鳴海の地に帰還し、左恵は特に大きな損害を出すことも無く六角残党を解散に追い込み、首謀者であった六角義賢、義治父子を処刑し、伊賀の国を完全に掌握する手柄をあげる

 

 伊賀の忍び達や地侍から嫡子や姫を人質に取り、鳴海の地に住まわせ、服従させ、怪異織田家忍衆の拡張に成功する

 

 最初は嫌々従っていたが、下賎な者としてではなく、成果を出した者はちゃんと評価される仕組みになっている怪異織田家に数年後心身共に服従することとなる

 

 

 

 

 

 

 

「母上お待ちしておりました」

 

「前秋留守大義、変化は」

 

「武田に大きな動き無し、上杉と北条の牽制が効いていると思われます」

 

「よし、信長様から東の守りを固めよと言われたので城の改修を急がせよ。金は倍払うと言え」

 

「しかしそれでは領内への投資が滞り、流れが悪くなりまする。倍はやめて多少の増額程度に留めてください」

 

「……仕方がない。黄衣は?」

 

「村で陣頭指揮をしています。開拓も黄衣のお陰で順調です」

 

「そうかそうか……とりあえず警戒しながらも金ヶ崎から続いた戦の疲れを癒そうか」

 

「それがよろしいかと」

 

 1ヶ月遅れてやって来た左恵達を鳴海城にて労うと軍は解散となり、普段の生活に戻っていった

 

 12月には石山本願寺との和睦が成立し、敵は浅井、朝倉、比叡山、長島一向宗、三好三人衆と数を絞る

 

 激動の元亀元年がようやく終わるのだった



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奇妙の馬鹿野郎

 元亀2年(1571年冬)

 

 第一次信長包囲網と呼ばれる一連の攻撃を一族や家臣を幾人も犠牲にしながらも何とか乗り切り、反撃の機会を伺っていた

 

「まずは……伊勢長島の一向宗が邪魔じゃな……」

 

 と伊勢長島一向宗の殲滅を計画

 

 柴田勝家や佐久間信盛など家老クラスの重臣を集め5万の兵で攻撃したのだが、持久戦となり失敗

 

 撤退時伏兵に奇襲され柴田勝家が負傷するなど散々な結果に終わる

 

 この件で佐久間信盛の指揮能力に疑問が生じ、後々2つの出来事により佐久間信盛は追放処分という処置が下ることになるのだが、それは後のお話

 

 

 

 

 

「柴田殿大丈夫ですか?」

 

「これはこれは論目流殿某が不甲斐ないばかりに信長様を危険にしてしまい申し訳ない」

 

 ロンメルは負傷した柴田勝家殿の屋敷に赴き、怪我の見舞いにやって来ていた

 

「今回はこっぴどいやられ方をしてしまいました……鬼柴田の名が泣きまする」

 

「いやいや、これまでの武功がありますので1戦負けたくらいでは名声は揺らぎませんよ……これは信長様から頂いた書状です」

 

「殿から……グフ……そうか……」

 

 そこには早く傷を治し、復帰して活躍してもらいたい旨が書き連なっていた

 

 信長が必要としてくださっていることに感服した柴田勝家は涙を流し

 

「必ずや信長様のお役に立ちまする」

 

 と改めて忠誠を誓った

 

 少しの談笑後、ロンメルは柴田勝家に

 

「実は柴田殿にお願いがありまして」

 

「某に何でしょうか」

 

「我が娘望月を柴田殿の養子にしたいのですが」

 

「おお、論目流殿の妖怪の娘でしたな! そ、某で良いので?」

 

「はい、信長様より妖怪の娘達は家臣達に各々分散し、血を絶やすことの無いようにと言われておりまして……柴田殿なら適任かと思いましてね」

 

「そ、そうかそうか……わかりもうした。この柴田勝家、望月殿をお預かりいたす」

 

「ありがとうございます。あ、柴田殿が孕ませても良いですからね……お市様に似ていますし」

 

「お、お市様……こほん! いやいや某にお市様は……」

 

「クスクス、お市様が大好きなのですね柴田殿は」

 

「は、はい……昔お会いした時にその美しさに心を奪われてしまって……」

 

「クックックッ素直なお方だ。望月も柴田殿なら安心して任せられます。よろしくお願いします」

 

「わかりもうした! 大切に育て上げてみせまする!」

 

 望月は柴田殿の下に送られ、磨墨は丹羽長秀殿、生食は明智光秀殿と次々に送り出し

 

 薄墨を誰に送るかロンメルは悩んだ

 

 滝川一益殿か学校出身で繋がりもある木下秀吉か

 

「くじで決めるか」

 

 ロンメルは悩んだ末にくじで決めることとし、薄墨にくじを引かせた

 

「このくじで引いた方があなたの主人ね」

 

「え? 母上?」

 

 薄墨は困惑しながらもくじを引くと木下と書かれていた

 

「おめでとう、薄墨、これから木下の所で名一杯働きなさい。子供産んでも良いからね」

 

「母上、私まだ9歳なんだけど……」

 

 ロンメルは薄墨の下半身をバンバンと叩くと

 

「肉付きも良いから大丈夫でしょ。まあ流石に9歳を頂く人はいないと思うから安心しなさい」

 

「わ、わかりました」

 

「じゃあ最後に残った阿久利黒」

 

「酷くない? 一応ウマ娘の中だと私長女なんですけど」

 

「お前信長様の下ね。奇妙様を命に変えても守りなさいって言いたいんだけど信長様から妖怪の血が絶えてはいけないって言われているからなるべく生き残ってね」

 

「軽くない? 私だけなんか軽くない?」

 

 

 

 

 

 信長の下に行った数日後阿久利黒がなんか帰ってきた

 

「どうした? 阿久利黒? 奇妙様の下に行ったんじゃ無かったのか?」

 

「その奇妙様に迫られまして……母上の妖術で妊娠しないようにはできませんか?」

 

「ブフー!? あ、え? 奇妙様マジかぁ……ヤっちゃったかぁ……」

 

「母上……」

 

「阿久利黒、生理って来てる? 又から血が出るやつ」

 

「あ、はい8歳の誕生日に」

 

「来ちゃってたかぁ……最後になったのいつ?」

 

「2週間前だったかな……」

 

「あ……妊娠してないことを願いなさい」

 

 ロンメルは直ぐに信長の所へ行き、この事を報告すると奇妙が直ぐに呼ばれ

 

 拳骨から罵詈雑言で滅茶苦茶叱られた

 

 奇妙様もお年頃なので性欲が抑えられず、そこに美人で都合の良い女の子が居たらねぇ……

 

「奇妙、貴様しばらく謹慎処分といたす」

 

「はい……」

 

「あ、じゃあ私が預かって良いですか? みっちり鍛え上げます」

 

「よし! ロンメル殺れ! 殺す気で殺れ」

 

「ひ! ち、父上?」

 

「さぁ奇妙様、私と楽しいことをしましょうねぇ!」

 

「ち、父上! 父上ぇぇぇ!!」

 

 奇妙はロンメルに拉致られ、妹を襲ったことに怒っていた一政達とロンメルによりみっちりしごかれる事となる

 

 

 

 

 

 

 

 

「阿久利黒を襲った事は許せませぬが、流石信長様のご嫡子ですな。我らが教えた事をみるみる吸収していきまする」

 

「一政から見てもそうか……もしかしたら大化けするかもしれぬぞ奇妙様は」

 

「今は左恵と共に鷹狩りをしていますが」

 

「あぁ、左恵の鷹狩りか……これはきついぞ」

 

 左恵の鷹狩りは犬役を人がやるので恐らくその役目を奇妙様がやっているのだろう

 

「奇妙遅いぞ! 獲物が逃げる! よく見ておれ! こうやるのだ!」

 

「左恵殿! それは本当に人がやる動きではござらぬ! 死ぬ! 死んでしまう!!」

 

「ハッハッハッ! それぐらいで人は死なぬ! これよりも母上の鍛練の方が何倍もキツいぞ」

 

「ひょええええ!」

 

 仲良く? 左恵と奇妙が鷹狩りをしている頃ロンメル達はどんどんお腹が大きくなっていく阿久利黒の話になる

 

「母上、阿久利黒は大丈夫なのでしょうか。薄墨とは違い華奢に見える阿久利黒では出産に耐えられないのでは……」

 

「もしかしたら本格化が始まるかもしれない。そうなれば出産に余裕で耐えられるけど……12歳頃に普通はなるからなぁ」

 

「本格化とは何なのですか?」

 

「ウマ娘は本格化と言って大きく背や胸、尻や足等が大きく太く、長く短時間で伸びるのを本格化と言うんだけど……私も本格化は14の時だったから阿久利黒が余程早熟じゃない限り本格化しないで出産になるかも」

 

「俺、今から奇妙を叩き斬ってくる」

 

「右恵落ち着け」

 

「忠輝兄上! しかし」

 

「しかしではない。奇妙様を斬っても阿久利黒が安全に子を産めるとは限らん」

 

 右恵は不満そうにどしっと座り直す

 

「今は12月、織田は何とか持ち直したからねぇ」

 

 天皇からの勅命まで持ち出して信長は朝倉と浅井と和睦し、石山本願寺とも和睦、阿波から来た篠原長房とも講和したのが1年前、ただ現在三好義継、松永久秀と筒井順慶、畠山昭高が大和と河内を巡って対立し、三好義継、松永久秀が織田陣営から離脱する事件や信長が去年比叡山延暦寺に散々苦しめられた事から焼き討ちを実行

 

 比叡山延暦寺を焼いた事で信長は第六天魔王を名乗り、比叡山延暦寺を復興したければ魔王である余を退けて見せよという挑発であったが、元々魔王と言う名乗りを気に入っていたので第六天魔王と更にかっこよくなったとルンルンしながらロンメルに話した

 

「しかし、森殿は惜しい方を亡くしました」

 

「本当だ。死に急ぎやがって……」

 

 ロンメル並みに長く苦楽を共にした森可成の死は信長の片腕が捥がれたに等しく、比叡山だけでなく一向宗に対して敵対心を露にしていた

 

「念仏を唱えておけば良いものを……世俗を離れられぬ僧どもを駆逐せねばなるまい……ロンメル」

 

「は!」

 

「水軍の強化を命じる。長島の一向宗を絶つ為には水軍が必要となる。武田が侵攻を開始するまでに何とかせよ」

 

「わかりました」

 

 

 

 

 

 

 

「と、信長様からの無茶振りだ」

 

 ロンメルは水軍衆の長である鈴木孫三郎と今川水軍の関係者でもあった岡部元信を呼んでどうするか相談した

 

「的場でも呼びますか」

 

 的場源四郎……雑賀衆の鍋島的存在何でも出きる器用万能なんだけど上からあまり良い目で見られていない

 

「呼んじゃえ呼んじゃえ。石山本願寺と敵対したけどこちらに付きたい下の人も居るだろうしそういうのガンガン雇うから」

 

「あ、でしたら岡部正綱、岡部忠兵衛、伊丹康直の3名も水軍に詳しいのでお使いください」

 

 岡部正綱、岡部忠兵衛、伊丹康直の3名は正史であれば武田水軍や徳川水軍を育てる人物であり、今川水軍の系譜を受け継ぐ者であった

 

「後は……北畠に服従していた九鬼って水軍衆が有ったな。八太郎に連絡して接触するか」

 

 その他造船所の拡張を平野に指示し、とりあえず関船100隻を目指す事となる

 

 数日後

 

「こんちはー的場です。仕事があるって聞いて来ました。よろしくお願いします」

 

 なんか軽い兄ちゃんが来た




鈴川千秋 鉄砲母衣衆副官→怪異家重臣
町田半乃助 忍衆筆頭→怪異家重臣
服部一忠 怪異家重臣
行徳定春 怪異家奉行衆筆頭→鳴海学校校長
鈴木孫三郎 元雑賀衆→怪異鳴海水軍棟梁
平野長治 怪異家奉行衆筆頭
朝比奈泰朝 怪異外交衆筆頭
朝比奈信置 怪異外交衆
岡部元信 怪異鳴海水軍副棟梁
岡部正綱 怪異鳴海水軍
由比正純 怪異槍隊隊長
岡部忠兵衛 怪異鳴海水軍
伊丹康直 怪異鳴海水軍


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西上作戦 1

 元亀3年(1572年冬)

 

 パン

 

「ざっとこんなものです」

 

「おお、9割当てるとは……」

 

「腕を上げたな的場」

 

 的場を雇ったロンメルは早速色々やらせてみたところ奉行衆でも、水軍でも、鉄砲を扱わせても本当器用に何でもこなしてみせた

 

「じゃあ早速仕事として船を造る木材の調達をお願い! 関船を100隻造らないといけないからね」

 

「了解、奉行衆何人か借りますがよろしいでしょうか」

 

「奉行衆は税金の計算なんかで忙しいから学生で使えそうなの行徳に聞いて持ってきな」

 

「へいへい!」

 

 ロンメルは木材の手配等は行ったが、基本水軍衆に建造や運用は任せ、九鬼水軍を調略するべく伊勢に向かった

 

 

 

 

 

 

 

「母上! お久しぶりです!」

 

「おお、八太郎元気だったかな」

 

「はい! 父上に毎日稽古を付けてもらい精進しております! それともう八太郎ではなく北畠具継(きたはたけ ともつぐ)と元服致しました」

 

「そっか……もう10だもんね。手紙で知っては居たけど具継が元気そうで私は嬉しいよ」

 

「兄上や妹達は元気でしょうか?」

 

「ウマ娘の5人は各々重臣や出世頭に送った。あと奇妙様が阿久利黒を孕ませた」

 

「……はい? まだ9歳ではありませんでしたか阿久利黒って?」

 

「奇妙様のお戯れだよ。一応母子共に今は健康だけど出産の重責に耐えられるか……」

 

「奇妙様……母上、お咎め無しではないですよね?」

 

「勿論、こちらで預かりとして精神も肉体も罰として鍛えまくってるよ」

 

「母上の鍛練は厳しいですが身に成りますからな……本日は九鬼に用件があると聞きましたが」

 

「信長様が水軍の拡張を命じられたんだけど鳴海の水軍だけでは要望に答えられなさそうだから志摩で勇猛で知られる九鬼一族を頼ってみようと思ってね」

 

「良いお考えかと。でしたら今書状を書きますのでしばしお待ちを」

 

 八太郎いや具継は北畠の一員として部外者でありながらも精力的に家臣や国人を纏め、伊勢の発展に尽力しているようであった

 

 武勇はまだ初陣もしていないのでわからないが、政務だけであれば父北畠具教の力を借りなくてもしっかり行えているようで安心した

 

 血の繋がりを作るために北畠具教の兄弟の娘と婚姻することも決まっており、外様ではあったが北畠一門として南伊勢を何事も無ければしっかり統治できそうである

 

「北畠領内で一向宗の蜂起は起きなかったねそういえば」

 

「交渉には苦労しましたが互いに不干渉ということと信長様に敵対したのであって北畠と敵対するつもりは寺社共にないとのことなので……はい、母上できました」

 

「ありがとう」

 

「これを持っていけば九鬼の皆さんも話を聞いてくれると思います。ただあちらも国人衆なので気をつけてください」

 

「わかったわかった。具継ありがとう」

 

 ロンメルは書状を受け取ると九鬼一族が統治する志摩の国に入った

 

 

 

 

 

 

 

 

「織田の者が来ると聞いてたが、名高い妖怪様が来るとはな」

 

「九鬼嘉隆殿初めまして怪異正八位下蝦夷地守護東狐論目流……ロンメルとお呼びください」

 

「いやいや論目流様を呼び捨てにはできねぇ。様は付けさせてもらいますぜ……用件は織田への服従か?」

 

「服従というより協力でしょうか。織田傘下に入れば九鬼に投資ができますので今よりも大きくそして大量に船を運用することが可能です」

 

「それは魅力的だなぁと言いたいが少し遅かったな。滝川一益殿に誘われ既に我らは織田与している……恐らく長島一向一揆鎮圧に駆り出されるが、そこで活躍すれば織田の水軍と認められるからな」

 

「おお、そうでしたか。織田陣営に入ってくだされれば良いです。もし大筒や鉄砲等が必要でしたら鳴海に取り寄せください。毎日造っているので」

 

「造ってる? 受注生産じゃなくてか?」

 

「鳴海では様々な酒、武具、衣服、蜂蜜、椎茸等金になる物を多く取り扱っていますので堺には負けますが津島、熱田と連携し、鉄砲を毎日造れるようにしておりますので多少余りがございます。装飾は致しませんが質は保証しますよ」

 

 ロンメルが鳴海の地を貰ってから11年半で日の鉄砲生産数は10丁から20丁となり、大筒も毎日1門造られるくらいには製造ラインが整っていた

 

 鳴海も商業都市として栄え、今では熱田や津島を凌ぐほど成長していた

 

「おう! それは助かる。せっかく来たんだ酒でも飲んで楽しんでいってくれ! 歓迎するぜ論目流様よ!」

 

 滝川一益の調略により九鬼嘉隆は織田に付き、信長は伊勢湾一帯を掌握

 

 莫大な富が信長の下に税として入り、京までの中山道、東海道を抑えていることでこちらからも莫大な富が入り込んでくる

 

 そのお零れを貰う形で鳴海の地も更に潤うこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀3年(1572年3月)

 

 三好義継、松永久秀が明確に信長に反旗を翻し、昨年北条氏康が亡くなった事で北条氏政が家督を継いだ瞬間に武田と再び同盟を結ぶ

 

 この同盟で東駿河を北条氏政が手放したことで武田は駿河を掌握、安心して徳川のいる遠江に攻撃が可能になっていた

 

 更に上杉謙信の牽制として信玄は顕如を通じて加賀一向一揆を動かし、上杉謙信の目を西に釘付けにした

 

 更に更に、武田には将軍義昭から上洛要請が届いており、上洛の準備を開始したという知らせがロンメルの下に届いた

 

「あの暗君が……」

 

 この時信長と将軍義昭の仲は冷えきっており、武力を持って義昭を従わせている状態であったため、義昭はお手紙を諸大名に配り織田討伐を行わせようとしていた

 

 ロンメルは武田領の米価が変動したことにより何かしらの軍事作戦が開始されると判断し、信長に報告

 

 この頃信長は畿内の平定に忙しく浅井朝倉との小競り合い、各地で立ち上がる一向一揆鎮圧、三好三人衆と松永久秀の脅威、山陰山陽の道に股がる諸大名の反旗の鎮圧対応ととても東を対応している暇が無かった

 

「ロンメル、徳川と共同して武田を岐阜城手前で食い止めよ。1年時間を稼げればこちらも手が空く」

 

「でしたら東美濃も指揮権に組み込ませてください」

 

「良かろう。これよりそなたを東方方面軍大将とする」

 

「はは!」

 

 ロンメルは信長の命令により海軍増強を一時中断し、対武田を見据えた作戦行動を開始するのだった

 

 

 

 

 

 

 

「母上! 阿久利黒が産気付いた!」

 

「わかった……産婆を呼べ! 私も側に付く」

 

 対武田で忙しい中阿久利黒が産気づきロンメルは家臣達に指示を出した後、阿久利黒の側に付いた

 

 阿久利黒は汗を吹き出し苦しそうにしている

 

「辛い……辛いよ母上!」

 

「もう少しだからもう少し……頑張って」

 

 阿久利黒の手を握り呼吸を整えるように言い聞かせ、頑張らせる

 

 帝王切開等できるわけ無いので自然分娩に頼るしかない

 

「痛い痛い痛い!」

 

「頭が出てきたもう少し!」

 

「ひっひっふー! ひっひっふー!」

 

 頭が見えた瞬間に金髪のウマ娘だとわかる

 

「よしよし! 引っ張るよ」

 

 ロンメルは熱湯で手を洗い流し阿久利黒の又に手を突っ込み子供を優しく包むと一気に引っ張った

 

「ひっひっ! ひっひっ!」

 

 痛みで気絶した阿久利黒

 

 ロンメルは赤子を産婆に託すと阿久利黒の汗を布で拭き取る

 

「良く頑張った! 良く頑張ったよ!」

 

 阿久利黒は何とか無事にウマ娘を出産したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 まずロンメルは東美濃と鳴海を結ぶ街道の整備を早急に行い、馬車街道と呼ばれる馬車が4台通れる程の大きな道を整備し、鳴海からの補給路を作ると岩村城にロンメルが尾張学校時代から家臣を勤めた侍大将の黒川建光(くろかわ たけあき)を抜擢

 

 東美濃の兵2000で城の防備の補強を行わせた

 

 ロンメルは家臣達を集め対武田の戦略を練る

 

「半乃助」

 

「は!」

 

 半乃助が集めた情報では躑躅ヶ崎館に兵が集まっているとの情報と兵糧米等から逆算して約3万から2万5000を動員するだろうと予測を立てることができた

 

「まず信玄の目的が上洛か織田の権威失墜のどちらかだけど信玄が病を患っているのは周知の事実……よって上洛という大義名分による織田の権威失墜が狙いと私は考える」

 

「いや母上三河遠江の制圧の可能性も捨てきれません。甲斐は貧しい国故に旧今川領土を制圧することにより甲斐、信濃、駿河、三河、遠江に東飛騨、上野の大半の実質6国を有する巨大大名になるでしょう。そうなれば信玄が病で倒れたとしてもいつでも織田の基盤である美濃と尾張へ侵攻可能です。鳴海の地も最前線となり今のような内政計画が破綻致します」

 

「一政兄上しかし、将軍は武田に対しては上洛要請は出ていない。これは武田単独による軍事行動の可能性も高いぞ」

 

 事実この時点では義昭は近畿周囲にはお手紙を送っていたが信玄には数年前に送られ織田との関係が良好だったため握り潰した手紙しかない

 

「忠輝将軍ではなく顕如からの要請の可能性も無いか? 顕如と信玄は妻が姉妹で関係がある。本願寺救援の為の軍事行動の可能性も無きしも有らずだぞ」

 

 本願寺の関係が有った雑賀出身の鈴木が指摘する

 

 そうなると尾張を通り伊勢長島一向一揆と連結するという恐ろしい事実にたどり着く

 

「伊勢長島一向一揆との連結は不味い! あそこは10万の民衆を抱えているんだぞそれが尾張に向けて侵攻すれば東方方面軍だけでは耐えられない」

 

「半乃助、早急に伊勢長島が軍事行動の準備をしていないか調べてくれ」

 

「は!」

 

「となると東美濃への侵攻が一番確率が低く陽動と見ますか」

 

「前秋」

 

「は! 現在動員可能な兵数は岩村城の2000、佐久間信盛や平手汎秀、林秀貞、水野信元合わせて5000ほどですが、佐久間殿は織田家筆頭家老こちらより立場が上のため作戦行動に口を挟んでくる可能性が高いです。鳴海衆は1万ほど出せます」

 

「練度は?」

 

「鳴海衆は弱兵の尾張衆とは一味も二味も違うとだけ」

 

「勝負になるならばよろしい……私良いこと考えた。奇妙様を大将とし、補佐として怪異織田家で固めれば佐久間とて口出しはできまい。水野殿は血縁関係も有るゆえこちらの言うことに全面的に聞くだろう。林はそもそも戦働きには不向き故に口出しはしまい。平手汎秀は若武者故歳も近い奇妙様の護衛として動かせば良いか……もう一押しに津田信澄殿を担ぎ出そう。そうすれば文句も出まい」

 

 津田信澄は信長の弟織田信行の息子であり、ロンメルの娘小雪と婚姻していた

 

 ちなみに織田家の家督継承順は奇妙、茶筅丸、神戸三七郎の次の序列4位であり、信長がどれだけ配慮していたかわかる

 

「まず作戦としては鳴海から岩村城を絶対防衛線とし、両城を落とされない様にする。堅城な岩村城には兵糧4ヶ月分と鉄砲1000丁を送ってる。これだけあれば兵糧が尽きる4ヶ月は持つだろうし、岩村城が攻められた場合即座に5000の部隊で救援に向かう。大将は一政、副将忠輝、右恵、監視役に岡部元信お願い」

 

「「「「は!」」」」

 

「信玄の侵攻ルートは3つ東美濃、奥三河からの岡崎城の三河ルート、駿河、信濃からの遠江ルートの3つ徳川の方に武田本隊が向かった場合鳴海衆5000と尾張衆5000の1万を徳川の援軍として三河と遠江に入るよいか!」

 

「「「は!」」」

 

 こうして対武田の防衛を決める

 

 




織田一政の子供達

Ⅰ元亀元年(1570年5月)
Ⅰ作坊 嫡子
Ⅰ虎丸 庶子
Ⅰ霧丸 庶子
Ⅰ富士 姫 庶子
Ⅰ皐月 姫 庶子


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西上作戦 2

 元亀3年(1572年7月)

 

 武田侵攻が始まる少し前

 

 黄衣、大雪、小雪が次々に懐妊が発覚

 

 一政も相変わらずハッスルするわ忠輝、右恵、左恵、前秋もお嫁さんが欲しいとのことだったので家臣達や商人で良さそうなのを身繕い婚姻し、孕ませまくった

 

 武田侵攻はそれだけ命の危機であると体が訴えかけているかのように……本能が子孫を残すべく動いたのだろう

 

「平野殿、飛び道具の数を教えてください」

 

「は! 鉄砲は3000丁、弾薬は10万発分、弓8000張、弩1万張、矢が各々30万本と50万本」

 

「前秋、兵糧は何ヵ月持つ?」

 

「5万人が1年間活動できるだけの兵糧は確保しています」

 

「よし! さぁ信玄勝負といこうじゃないか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀3年(1572年9月)

 

 西上作戦開始

 

 秋山虎繁、高坂昌信の2部隊が東美濃に侵攻を開始したと忍衆から情報が入る

 

 この時信濃、美濃では武田の三ツ者とロンメルの忍衆が激しい諜報戦が行われており、誤情報や真偽不明の情報を町田半乃助が長年の経験から精度の高い情報を仕分けし、ロンメルに伝えていた

 

 これは忍衆を束ねる半乃助しかできない特殊技能であり、ロンメルは半乃助の判断に絶大な信頼を寄せていた

 

「武田の人数は」

 

「約3000、これならば岩村城は落ちないでしょう」

 

「よし、予定通り一政、忠輝、右恵、岡部元信に連絡、早急に撃退するように」

 

「は!」

 

「やはり美濃は別動隊による陽動、残りは奥三河か遠江のどちらに武田本隊が侵攻するか……徳川の救援要請がき次第すぐに動く」

 

「「「は!」」」

 

 家臣団に命令をすると戦の準備を始めさせ、警戒態勢のまま数日が経過した

 

「論目流様報告です! 奥三河の土豪衆が武田の調略で次々に寝返り、東三河の武節城を山県昌景率いる5000の兵が攻略とのこと」

 

「報告の続きです! 長篠城が陥落したとのこと! 岡崎城、吉田城、浜松城の3城への障害となりえる場所が残すところ二俣のみしか存在しなくなりました!」

 

「山県昌景隊は長篠城にて侵攻を停止しております!」

 

 次々に入る報告はどれも徳川領土に侵攻した山県昌景の報告ばかりでロンメルが求める報告は入ってこない

 

「し、失礼します! 朗報です! 岩村城救援隊! 武田別動隊と決戦となり快勝とのこと! 高坂昌信討ち死に、秋山虎繁は信濃に撤退したとのことです」

 

「よし! 美濃の防衛は成功した」

 

 岩村城の戦いは包囲された岩村城を助けるべく急行した救援隊5000が夜襲をかけ、岩村城からも挟撃するべく城兵が黒川の指揮の下に突撃し、精鋭武田軍に少なくない損害を与えた戦闘であり、信濃から美濃への直接攻撃の心配が無くなった重要な戦いである

 

 救援隊は岩村城で1泊した後、鳴海に戻り、鳴海本隊と合流した

 

「よくやった一政、忠輝、右恵、岡部殿」

 

「岡部殿の作戦がズバリでした。我々は個々の部隊指揮をしていたまで」

 

「いやいや、さすが論目流様のご子息戦上手ですなぁ! 我が一族も見習わねば!」

 

「一政や岡部殿達の活躍でとりあえずこれで当面の間美濃からの武田侵攻は無くなった。いや、武田本隊が美濃に侵攻してくる可能性が少ないけどあるか……半乃助」

 

「は! 武田本隊の場所が判明致しました」

 

「どこだ!」

 

「犬居城を攻め落としそこを拠点にしている様子!」

 

「伝令! 徳川から救援要請!」

 

「よしわかった! 元救援隊の面々は鳴海にて待機、徳川への援軍は鳴海衆5000、尾張衆、水野衆合わせて5000も動かすぞ! 水野衆は吉田城へ、他は浜松城に救援に向かう! 出陣だ!」

 

 ロンメルの号令の元出陣した徳川援軍1万は岡崎城を通り2日後には遠江に入った

 

 その頃武田軍は東遠江の天方城、一宮城、飯田城、挌和城、向笠城を次々に陥落

 

 馬場信春隊と武田勝頼隊が只深城を攻略しそのまま勝頼隊は二俣城攻略部隊の援軍に、馬場隊は信玄のいる部隊と合流すべく進むと二俣城救援に駆けつけた徳川家康本隊と遭遇戦となり馬場隊がこれを圧勝

 

 家康は脱糞し、命からがら浜松城に逃げ帰るという失態をしてしまっていた(一言坂の戦い)

 

 ロンメル達が家康と合流したことにより兵数は1万7000まで回復したが、武田軍の想像以上の強さに三河武士と呼ばれ精鋭揃いの徳川軍も恐怖を抱いてしまっていた

 

「織田の方々援軍忝ない! 本当に助かる!」

 

「信長様からの命令は時間稼ぎ、この浜松城に1万7000で詰めていれば例え武田軍とはいえ1年は持ちましょう。1年も時間が稼げれば織田本隊が近畿より駆けつけられます! 更にこちらには御曹司であられる奇妙様が付いております」

 

「うむ! この戦父上が来るまでの辛抱! 家康殿なんとしてでも遠江と三河を守り抜き武田の侵攻を食い止めましょうぞ」

 

 徳川家康としては二俣城に援軍を送りたかったのだが浜松からの進路を馬場隊、山県隊、勝頼隊の3重の陣で遮断されており援軍を送り出せぬまま時間が過ぎていく

 

 その間にも武田は東遠江の制圧に力を入れ浜松より東は掛川城と高天神城を残すのみとなり、ロンメルが浜松に入って1ヶ月が経過した

 

 

 

 

 

 

 

 元亀3年(1572年12月)

 

 二俣城が遂に陥落し、遠江の防衛線が崩壊

 

 武田本隊がいつ浜松を攻撃してくるかわからなくなったそんなある日

 

 浜松の城下町にてとある噂が広まっていた

 

 何でも信玄の病状が悪化し、堅城な浜松ではなく岡崎城と浜松城の間にある吉田城を攻略しようとしているとのことだった

 

「半乃助」

 

「は! 信玄の病状が悪化しているのは間違いないとのこと。かがり火や煙からしてそろそろ動き出すかと」

 

「よし!」

 

 ロンメルは徳川の評定に参加し、今後の方針を決めることとなった

 

「信玄の病状が悪化しているというのはこっちも服部を通じて理解している……となると二俣城を攻略して合流した信玄本隊の数は2万5000、高天神城や掛川城の城兵を召集すればこちらも1万8000となる。決戦は可能だ」

 

「しかし徳川殿、それでは時間が稼げません」

 

「わかっている! だがこのまま浜松城に籠り続ければ遠江の豪族だけでなく三河からの信頼を裏切ることとなるそうなれば我等親子は父や祖父の様になる可能性がある」

 

 徳川家康の父や祖父は家臣の裏切りにより命を落としており、豪族の力が強い三河では奥三河が敵に落ちた以上東三河と西三河だけは絶対に死守しなければ家康の家臣団が崩壊する危険性が有った

 

 つまり戦わずして徳川家が崩壊してしまうのだ

 

 更に信玄の病によって弱っているという情報は徳川家臣団に勇気を与え、籠城派から一気に好戦派が多数を占める様になっていた

 

 問題なのはこの好戦派に織田方にも佐久間や平手が賛成している点である

 

 奇妙様と津田様はロンメルを怒らせた怖さを知っているため籠城派になっているが佐久間の権力で押しきられる可能性も有った

 

 どうしたものかと悩むロンメル

 

 すると評定にこんな情報が飛び込んできた

 

「信玄は自身の病気の悪化に焦り、軍を急ぎ吉田に向けて進軍を開始致しました! 翌日には三方ヶ原を抜け、明後日には吉田城に到達してしまわれます! 殿ご決断を」

 

「「「殿!」」」

 

「論目流殿すまぬが籠城策は取り止めじゃ。酒井策を」

 

「は! 三方ヶ原の西は大軍が進むには困難な祝田の坂があります故に軍を長くして進まなければなりません。なのでここは鶴翼の陣をとり武田軍が半数程祝田の坂を通りすぎたところを襲えば武田本隊に大打撃を与える事ができましょうぞ!」

 

「ま、待ってください! それでは待ち伏せに有った場合徳川家康殿が危機的に!」

 

「殿は我が護る! 臆病風に吹かれたか大妖怪!」

 

 徳川一の猛将本多忠勝がロンメルを挑発するがなおロンメルは食い下がる

 

 そこに奇妙様を連れた佐久間が評定に入ってきて

 

「ロンメル、我等は徳川の援軍ゆえに徳川の意向を尊重すべし」

 

 と言われてしまった

 

「佐久間ぁ!!」

 

「織田家筆頭家老である儂に歯向かうとなれば織田家に対する反旗と致す! 論目流これは奇妙様からの命令じゃ!」

 

 ロンメルは涙を流しながら渋々承諾

 

 徳川織田連合軍は三方ヶ原に向かい出陣したのだった

 

 

 

 



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西上作戦 3

 元亀3年(1572年12月) 三方ヶ原

 

 鶴翼の陣中央やや左にロンメル率いる鳴海衆5000が布陣

 

 隊列は左より大久保忠世隊、榊原康政隊、ロンメル隊(鳴海衆5000がここ)、本多忠勝隊、徳川家康隊、佐久間信盛隊、石川数正隊、酒井忠次隊という布陣となった

 

 奇妙様は佐久間信盛が預かりとなり、ロンメルは津田信澄様を利行と勝成に護らせる

 

「嫌な予感がする……」

 

「母上もですか……俺もです」

 

「はは、拙者も」

 

 ロンメル、左恵、鈴木孫三郎の3名は今までに感じたことの無いような強烈な死の匂いを感じ取っていた

 

「朝倉の金ヶ崎の時もなかなかだったが……それ以上か」

 

「鉄砲隊も抜刀がすぐできるようにさせておきます」

 

「鉄砲は捨てさせろ……高いが命には変えられん……やられたな」

 

 ロンメルの目には風林火山の旗が沢山靡いているのが見えた

 

 中央に近いロンメルが見えたということは

 

「かかれ」

 

 武田軍との戦闘が既に始まっているということだった

 

 武田軍による待ち伏せであり、魚鱗の陣であった

 

「陣形を立て直せ! 後退しながらも戦線を崩すな!!」

 

 ロンメルは先頭で敵兵を斬り裂きながら大声で叫ぶ

 

 容赦なく弓や石が飛んでくるが斬り裂いた敵兵を楯に防ぐ

 

 ロンメルの相手は小山田信茂

 

 小山田の部隊に側面から本多隊が突入し、それを好機と見たロンメルは

 

「今だ押し込め!! 突撃!!」

 

 突撃を刊行

 

 全体的に徳川織田連合軍がまさかの優勢で序盤は過ぎたが

 

「突入」

 

 控えていた武田勝頼隊が本多隊の側面に突撃すると形勢が逆転

 

 武田勝頼隊はそのまま酒井隊に攻撃を行い右翼が崩れ始める

 

「不味い! 左恵!」

 

「なんでしょう!」

 

「奇妙様を安全な場所まで後退させよ! 佐久間と平手では危ない! 500連れていけ!」

 

「わかりました!」

 

 ロンメルは最前線で味方を鼓舞し続ける

 

「長槍隊前へ! 武田騎馬隊の突撃を防ぐぞ」

 

 ロンメルは馬ごと敵兵を斬り捨てる

 

 血を出血させながら暴れまわる馬の亡骸に槍隊の一部が動揺するが

 

「狼狽えるな! ここで崩れたら飲み込まれるぞ」

 

「田中義綱殿、中根正照殿、平手汎秀殿討死!」

 

「佐久間隊が撤退していきます! 右翼完全に崩れました!!」

 

「何が筆頭家老だ! 逃げ佐久間は逃げることしかできないのか!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 佐久間隊に居た奇妙は圧倒的な武田の前に次々と討ち取られていく味方を見てなんとも言えない感覚に陥っていた

 

「これが……戦か……これが負け戦か」

 

「奇妙様ここは危険です! 直ちに我が隊と浜松まで逃げましょうぞ!!」

 

「のぉ信盛……あれだけロンメル殿が反対していた理由がよくわかった。我等は出るべきでは無かった」

 

「今はそんなことを悠長に語っている場合ではござらん!」

 

「私は織田援軍隊の大将だ。大将が一目散に逃げてどうする……左翼は崩れてはおらぬ。まず徳川家康殿が退かなければ我等は退いてはならない。例え討死したとしても」

 

「……ごめん!」

 

 佐久間は僅かな供回りと共にこの戦から撤退するという愚かな選択をしてしまう

 

 奇妙様を置き去りにして

 

 これに焦った平手殿が奇妙様を安全な場所に連れていこうと動いたところを討ち取られる

 

「皆の者大義である。元服も済んでいない若造が指揮を取るのは不安かもしれぬが尾張衆の意地を見せよ」

 

 佐久間が抜け、平手が討死したことで指揮権が宙ぶらりんになったところを奇妙様が掌握

 

 駆けつけた左恵が補佐をする

 

「なんとしても徳川家康殿が脱出する時間を稼ぐのだ!!」

 

 奇妙隊は左恵の指示のもと後退しながらも戦線を維持

 

 石川数正隊の残党を吸収し、右から挟撃してこようとする武田軍に対して尾張兵は死兵となり勇敢に戦い抜いた

 

 奇妙様が死ねばどちらにせよ信長様に全員殺される

 

 信長様と武田兵どちらが怖いかと比べられ

 

「「「信長様の方がこわいんじゃぎゃ!!」」」

 

 数で勝る武田最強騎馬隊に槍で戦い、刀で戦い、石で戦い、取れた腕を投げつけ、心臓が止まるまで彼らは誰よりも勇敢に戦い続けた

 

 

 

 

 

 

 

「右翼の崩壊が止まった……よし、これより最終突撃を行う! 狙うは信玄の首のみぞ! 我に続け!!」

 

 右翼を完全に潰すために武田の各隊がやや右に寄った隙をつき、ロンメル率いる鳴海衆による突撃が開始された

 

「いざ、参らん!!」

 

 ロンメルは誰よりも速く敵陣に突撃し、敵兵を投げ飛ばし、道を作る

 

「と、止めろ! 妖怪を止めるのだ!!」

 

「一之太刀……受けてみよ!」

 

 視界が白と黒に変わる

 

 金ヶ崎のあの時の様に

 

 違うのは後ろは味方が居ること

 

 ザザザシュン

 

 ロンメルが振り払った一撃は8人の敵兵の命を奪い、臓物が武田兵に降りかかる

 

 その一部はなんと100mも吹き飛んでいた

 

 ロンメルは止まることなく敵陣深く深くに斬り込んでいく

 

 後ろの味方はドンドン討ち取られていくがロンメルは止まらない

 

「なんとしてでも止めるのだ」

 

 小山田は叫ぶがその時既にロンメルは小山田隊を貫通し、武田信玄に向かって直行していた

 

「論目流様!! 指揮権は俺が引き継ぐ! まずは小山田隊を壊滅させるぞ!!」

 

 最古参の重臣鈴川千秋がロンメルが抜けてしまった鳴海衆を纏め、ロンメルが貫通したことにより隊列が崩れた小山田隊に鳴海衆が殺到

 

 勢いを殺された小山田隊は鳴海衆に呑み込まれてしまう

 

「これ以上乱されるわけにはいかん!」

 

 小山田隊が呑み込まれるのを見ていた横の馬場信房隊と山県昌景隊が鳴海衆を挟撃する動きに出たため

 

「挟撃されれば終わりぞ! 後退し陣形を立て直す!」

 

「しかし論目流様が孤立してしまいまする!」

 

「殿を信じろ! 中華の呂布よりも強い大妖怪ぞ! 武田ごときに止められる訳が無かろう!」

 

 その頃ロンメルは武田信玄の居る本隊中段に居た

 

「お屋形様を護るのだ! あの化物を止めよ! 鉄砲隊放て」

 

 パパパンと鉄砲隊が味方もろとも射撃するという異常事態が発生していたが、ロンメルはそれを大ジャンプで避けるとそのまま回転しながら着地、踏み込んで鉄砲隊に一瞬で近づくと数名を斬り捨て、突破する

 

「馬廻り衆! 前へ!!」

 

 信玄の親衛隊が前を塞ぎ捨て身の覚悟でロンメルを止めにかかる

 

 数分の死闘の後ロンメルはこれも突破

 

 信玄の居る陣に斬り込んだ

 

「ぬ!」

 

「ふん!!」

 

 ロンメルは名一杯踏み込み、縮地のごとく距離を詰め、信玄へ後1歩というところで

 

「お屋形様!」

 

 1人の側近が身を投げてロンメルの攻撃を防ぐ

 

 その側近はこれまでの死闘で切れ味が落ちた太刀に自身の体を巻き付けこれ以上斬れないようにし、絶命

 

 ロンメルは地面に亡骸を叩きつけるが、刃こぼれしており、今にも折れそうになっていた

 

 即座にその亡骸が持っていた刀を抜き信玄とおもしき者に一太刀浴びせロンメルは武田本隊をも貫通してどこかへ消えていった

 

「ゴホゴホ……肝が冷えたわ……真田信綱……儂の為に身を呈しての忠義助かった。松原左馬助……儂の身代わりにすまぬ」

 

 松原という影武者は信玄の言葉に涙を流しながら

 

「拙者、お屋形様の身代わりにな、れ……て……本望……でござ……た……」

 

 松原もそう言うと絶命し、信玄は影武者を犠牲に生き長らえることに成功した

 

「先程の妖怪の名をなんと申す」

 

「怪異正八位下蝦夷地守護東狐論目流ですお屋形様」

 

「そうか」

 

 信玄はロンメルをこう評価した

 

「人では到底太刀打ちできぬ怪異の武士よ。ただ一点儂の命のみを求め何重もの障害を突破し、我が半身を奪うに至る……怪力無双の怪物よ」

 

 と……

 

 ロンメルは信玄の陣を突破しそのまま走り抜け、何とか浜松まで帰還し泥のように眠った

 

 ロンメルが信玄本陣に斬り込んだことにより家康含め多くの家臣達が脱出に成功

 

 殿は本多忠勝隊が勤め、鳴海衆、奇妙隊も浜松に退却するに至る

 

 武田の損害は700……うち150がロンメルによるものである

 

 対する織田徳川連合軍の損害は4000

 

 鳴海衆も約1000人の死傷者を出す大損害を受け、更に流れ矢により織田勝成が奇妙様を守って討死するという悲劇も発生した

 

 結果3時間の合戦で織田徳川連合軍の大敗である



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西上作戦 4

 元亀3年(1572年12月)

 

「う、うぐ……勝成……勝成……」

 

 ロンメルは勝成の首の前で号泣していた

 

 利行が討死した勝成の首を浜松まで持ち帰り、亡骸が存在しないという最悪の事態は間逃れたが、息子の死を嘆いた

 

「論目流……すまない。私が好戦を指示したばっかりに……」

 

「……奇妙様は最後まで戦い抜きました。あなたが謝るのはあなたを守って亡くなった勝成が浮かばれません。あなたは謝ってはいけないのです」

 

「しかし……いや、これ以上は何も言うまい」

 

「奇妙様、そして津田様」

 

 奇妙様の横に座っていた津田信澄様も耳を傾ける

 

「このまま戦で学べましたか。あなた方は今回が初陣……何を学べましたか?」

 

 まず奇妙様が答える

 

「戦場の恐怖と狂気、そして現実を思い知りました。戦場は決して華やかではなく泥臭く血生臭く……勇気有るものが死に、運が有るものが生き残る……そして己の無力さを」

 

 続いて津田様が答える

 

「情報の有無、敵ながら信玄は情報を操り、盤面を支配しておりました。某にはまだ無理故に支えてくれる家臣の必要性、死の恐怖に打ち勝つ勇気が必要だと思いました……武田への突撃時、某は人の波に呑まれ何もできなかった……勇気が某には必要だと痛感しました」

 

「……」

 

 ロンメルは静かに語り始めた

 

「将は臆病たれ、将は勇猛たれ、将は知恵を絞り、責任を取れ……矛盾をいかに克服できた者こそ誠の名将である。私は勇猛すぎる。徳川家康殿は臆病過ぎる……今回の戦で両名は多くの犠牲を払い学んだ。武田に二度目は無い……両者よく学べ。よく鍛練し、よく食べよく寝よ。犠牲者の死を背負い、振り返らずに前に進め」

 

「「は!」」

 

「よく頑張った」

 

 ロンメルは最後に2人を褒めた

 

 ロンメルは欠けてしまった愛刀影月と勝成の首を燃やし、浜松近くの寺に供養してもらった

 

「勝成さらば! 私は前に進み続ける」

 

 享年14歳……ようやく一人前の武将となった矢先の悲劇であった

 

 

 

 

 

 

 

 浜松城にて今後の軍儀が行われた

 

 あれほど盛り上がっていた交戦派も三方ヶ原の敗北で意気消沈し、籠城にて武田が何らかの理由で撤退する事を願うしか無かった

 

 鳴海に一度戻りたいロンメルも今ここから出れば家康が降伏してしまう可能性も有った為出るに出れずにいた

 

 とりあえず城の防備を固める方針が決まり、ロンメルが部屋から退室しようとした時家康殿が呼び止めた

 

 部屋に戻り1対1となる

 

「論目流殿すまなかった……論目流殿の意見を聞いていればこの様な事には」

 

「起きてしまった事は仕方がありません。次をどうするかのみ考えましょう」

 

「……そうだな」

 

 ロンメルと家康の間には旧今川家臣を巡って遺恨が有った

 

 家康は今川家に人質時代虐められていた過去があり、それを深く恨んでいた

 

 ロンメルは家康が岡部や朝比奈を登用した時に信長様にその者達は信用できないので雇わない方が良いと意見し、信長は人の家臣にケチを付けるなと言われ、それをそのままロンメルに信長経由で話されたので家康に対してロンメルはあまり良いイメージを持っていなかった

 

「互いに思うことは有るだろう。ここはワシとそたなしかおらん……」

 

「では、岡部一族や朝比奈一族を雇った私を恨んでいますか?」

 

「思うところは有るが恨んではおらん。論目流殿を恨むのは筋違いだからな」

 

「まあ家康殿が過去に何か有ったのは存じておりますが個人の恨みで大将が行動するのは……と思いました。だから岡部や朝比奈達旧今川家臣団は今回連れてきませんでしたし」

 

「配慮感謝しますぞ」

 

「さて、ではどうしますか? ずっとここに籠っていても状況は悪化していきますよ」

 

「では打って出るとでも!?」

 

「私の忍衆の情報ですと野田城の攻略に信玄は手間取っている様子……信玄が病なのは確実ですので東遠江奪還の作戦を立てませぬか? 将棋に見立てて少しでも気を紛らわさないと」

 

「そなたは強いな……もう前を向いている。ワシは今回あまりに多くの家臣を失った……ワシのちっぽけな秩序、意地と引き換えにして良い者達では無かった……」

 

「家康殿……」

 

「そなたも息子を、多くの家臣を失った……なのになぜそれほどまで前に向けるのだ」

 

「……私は異世界よりこの戦国の世に来ました。私が居た世界では戦は無く……平和で皆勉学に励み、死の恐怖を知らずに過ごしておりました」

 

「そんな世界の小娘が……小妖怪がポツンとこの世界に飛ばされ……様々な場所を旅し、世界を見て回り、この世界に骨を埋める覚悟し、信長様という強烈なカリスマ……英雄を見つけてしまった」

 

「だから考える。私がこの世界に飛ばされた理由を意味を……この狂った戦国の世を終わらせる手伝いをせよという事なのではないか? 側に寄り添い英雄を補佐する側近の役回りではないのか……或いはその偉業を後世に伝える役回りなのではないかと……」

 

「ほう? どうやって偉業を後世に残すのだ?」

 

「まずは書面にて既に合戦の内容を本に纏めどうすれば勝てるのか、どうすれば逆転できるのか等を考える教材としております。各学校及び鳴海城にて本の保管及び複製をしております。次に歌ですね」

 

「歌?」

 

「音楽は1人ができれば伝播していきます。信長様の正しい偉業を伝える歌を幾つか既に作られています。絵もそうです。合戦絵巻も多く作らせています。そして血ですね。これは私の子供達が繋いでくれるでしょう」

 

「書物、歌、絵に血か……なるほど……だがそれがなぜこの世界に来た理由になるのだ?」

 

「あくまで私は主役ではありません。信長様という主役を支える名脇役でなければなりません。あの方が天下を取るのが見たいのです。だから一旦立ち止まったりもしますが、前を向きます。向き続けます! それが私……ロンメルです」

 

「なるほど……心の支えが有る故か……」

 

「三河の家臣にとって徳川家康殿が心の支えなのです。あなたは前を向かなければならない。向く必要が有る故に」

 

「多くの家臣の屍が有ったとしてもか?」

 

「残された家臣の為にも」

 

「……ワシはそこまで今は強くはない……強くは無いが……必ず強くなってやる。家臣の為に、家族の為にも」

 

 その後ロンメルと家康は将棋を使い東遠江奪還の作戦を立てていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀4年(1573年3月)

 

 武田軍撤退を開始

 

「何故だ何故撤退を始めたのだ!?」

 

「三河制圧まで後少しだったのに」

 

「半乃助」

 

「申し訳ございません。まだ正しい情報が入ってきておりません」

 

「そうか」

 

 ざわつく徳川家臣と怪異織田家家臣達

 

 ロンメルは半乃助に情報を貰おうとしたが半乃助もわかっていなかった

 

 が好機なのは変わらない

 

「武田本隊がどこに居るかはわかるよな」

 

「は! 三河から信濃にゆっくり移動中とのこと」

 

「家康殿」

 

「ああ、これより東遠江奪還を開始する」

 

「し、しかし殿これは信玄が我々を誘き寄せる罠なのでは?」

 

「それを考慮しても今回の撤退はおかしい。信玄か武田軍が急遽甲斐に戻らなければならない理由があるはずだ」

 

 ロンメルはここで家康殿に献策する

 

「家康殿これから取れる策は3つ東三河の連絡路の回復、籠城をつづける、東遠江の奪還……長篠城の奪還は武田主力が近くに居るためできません」

 

「……よし! ロンメル殿は東三河の連絡路の回復を頼む、ワシは引き続き籠城を続け頃合いを見て長篠城か東遠江奪還に動く」

 

「わかりました。でしたら私は鳴海に戻り次第信濃侵攻を行います」

 

「では信濃侵攻に合わせこちらも失地奪還を開始する! 皆の者良いな!」

 

「は!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメル率いる4000と織田方の残った2000を纏めるとすぐさま東三河の連絡路の回復をするためまずは信玄が約2ヶ月陥落に時間がかかった野田城を僅か1週間で陥落させ東三河の連絡路を回復させた

 

 ロンメルは鳴海に帰還すると半乃助から衝撃の情報が入る

 

「なに? 信玄が亡くなった?」

 

「はい。奥三河の奥平貞能殿が武田信玄が死亡したことを確認し、それを徳川殿と殿に密使が送られておりまする。某も別口で信玄の死を確認いたしました」

 

「よし! では信濃侵攻を開始する」

 

 ロンメルは即座に1万5000の兵を再編すると前秋を鳴海城守将に任命するとロンメルは岩村城に移動する

 

 岩村城にて信長からの援軍として池田恒興5000が合流、岐阜城に寄った時に奇妙様は元服して織田信忠と名乗り、信忠を大将、副将に津田信澄、軍監にロンメルが着き信濃侵攻作戦が開始される



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信濃侵攻 1

 元亀4年(1573年5月)

 

 時系列が前後するが、ロンメルが鳴海に帰還後信長から主だった援軍の将が呼び出された

 

 現在信長は浅井朝倉の北近江戦線、一向宗の伊勢長島戦線、摂津の石山本願寺戦線、三好三人衆の山城及び摂津戦線

 

 少し前まではこれに松永久秀の大和戦線や比叡山戦線などがあったが、松永久秀は降伏、比叡山は焼き討ちにあい解体

 

 将軍義昭と信長の関係性も悪化しており、義昭がいつ挙兵するかわからないまでになっていたし、ロンメルと共に金ヶ崎で戦った池田勝正が将軍との関係悪化から信長を見限るのだが、それを親族により追及され、お家騒動が発生

 

 家臣の荒木村重、中川清秀は即座に信長に土下座したことで許されたが、摂津の池田家は追放及び降格処分となり、池田家の所領は荒木に預けられるというピタゴラスイッチも発生していた

 

 そんな最中な為信長の機嫌は最悪であり、佐久間と林、ロンメルは摂津で指揮を取る信長の所に呼び出された

 

 ロンメルだけ帯刀をなぜか許されていた

 

「佐久間、お主は何をやっているのだ? 信忠から聞いておるがなぜ戦場から余の嫡子いや後継者を残して逃げたのだ? 逃げ佐久間ではなくお前は臆病者の佐久間だな」

 

「くっ……」

 

「反論もできぬか……お主の事だ余の逆鱗が過ぎ去るのを待っているのだろう……許すわけ無かろう。お主は家老職をすぐさま辞し、切腹か高野山への追放どちらかを選べ。そして余の前に二度と現れるな」

 

「……ですが、信長様、我々のような実力を持ち信長様への忠義を持つものは早々おりませぬ! 苦楽を共にした我らとて全てが上手くいくことは有りませぬ。何卒一考を」

 

 ロンメルはそう言いきった佐久間に失望し、林は顔を真っ青にした

 

「ほぉ、なるほど」

 

 信長様は笑っていた

 

 それに安堵した佐久間

 

「佐久間……死ね」

 

「え?」

 

 その瞬間ロンメルが抜刀し、佐久間の首を跳ねた

 

「ひ、ひぃ……」

 

 林はうろたえ、ロンメルは飛んだ佐久間の首を掴むと信長様に差し出した

 

「要らぬ。捨て置け」

 

「は!」

 

「林、お主は好戦的意見を言っていたらしいな。余からの要望は時間を稼げだったハズだ。なぜ戦うことを選んだ。そして信忠を唆した」

 

「浜松城を素通りされた場合三河との連絡路が途絶えてしまい武田に打撃を与えること無く三河侵攻に移られた場合尾張が危険になると判断致しました。よって一撃を与えるべきだと信忠様に進言致しました」

 

「……結果は大敗か」

 

「面目もございません」

 

「まあそなたは最後まで信忠を守ろうと平手と共に動いていたのを考慮して罰は無しにしてやる。これからは戦に出すことも無いと思うが内務に励め」

 

「すみませんでした……」

 

「ロンメル」

 

「は!」

 

「勝成は見事な最後だったと聞いておる。天晴れだ。信玄の本陣に単独で突撃し、後一歩のところまでいったらしいな」

 

「信玄と思わしき人物に一太刀入れたのですが違ったらしいです。申し訳ございません」

 

「よい、お主はやれることをしっかりやった。甥の津田をよく守り、鳴海衆と共に勇敢に戦った……これまでの武功を考慮して今しがた空いた佐久間の尾張の領地をロンメル! お主にやる。そのまま東方方面軍として信玄亡き武田領の切り取りに励め。切り取り自由(切り取った領地はお前にやる)とする」

 

「は!!」

 

「援軍として池田恒興を派遣する。余は幕府を滅ぼしてくる」

 

 こうして筆頭家老であった佐久間は息子信忠や部下、同盟者を見捨て逃げた卑怯者として信長が死罪を言い渡し、即座に処刑が決行されたと織田家臣達広まった

 

 皆それは仕方がないと言い、族滅でないだけ恩情であると言い合った

 

 林は今回の件で家老職を辞して、一家臣として働くこととなる

 

 ロンメルは佐久間の家臣及び一族は吸収し、与力達は各々必要な織田家重臣や信長が引き取っていった

 

 旧佐久間尾張領地5万石は黄衣と同じ年の弟の死で憔悴してしまっていた利行、平野長治に怪異織田家式の領地経営方針に切り替え、関所を撤廃し、山崎城と山崎の町を中心に鳴海の町と連結する街道整備から始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

「さてまずは木曽氏の福島城攻めになるか」

 

「はい、信濃は現在馬場信春が軍監をしており、中山道のどこかで決戦となりましょうぞ」

 

 左恵が皆を代表して軍儀にて発言する

 

「山城だが兵糧攻めか井戸を枯らせば2ヶ月で落ちるがそこまで時間をかけてやるつもりもない」

 

「母上、ここは決戦の為にあえて包囲し、兵糧攻めにしましょう。中山道近くに構えておりますゆえに大軍の移動が可能。鳥居峠にて1度目の決戦といきましょう」

 

「鳥居峠は大軍が移動するのは不向き……釣りか」

 

「はい、なので鳥居峠をいかに越えさせ青木ヶ丘に誘い込むかが鍵になります」

 

「鉄砲は?」

 

「6000丁用意しました。大筒も150門ほど」

 

「よし! 武田騎馬隊も鉄砲には敵うまい……相手が最強なれどもこちらは火力で潰すまで」

 

 信玄が亡くなられど武田最強騎馬軍団や武田四天王は健在なため不用意な決戦は控えるべしとの声も上がったが、ロンメルは武田主力がこちらではなく同時期に行われる東遠江の方に向かうことに賭けた

 

 武田はどんなに頑張っても2万5000の兵しか動員できない為、2方面作戦となればどちらかを足止めにし、片方に主力を投入という形でないといけない

 

 馬場信春もおそらくそれを承知なので決戦が起こらない可能性もあるが、そうなれば一門衆の木曽一族を見殺しにするのと同意儀なので緊急で当主となった武田勝頼の求心力が低下する

 

 国人衆が多く、三河武士よりも難癖ある武田家臣を纏めるには常に勝つか引き分けなければならない

 

 信玄という偉大すぎる父親の偉業の数々が武田を滅ぼすこととなるとロンメルは睨んでいた

 

「左恵、鳥居峠への釣り隊大将に任命する。こちらは木曽包囲完了後主力を青木ヶ丘に向かわせる」

 

「は!!」

 

「信忠様下知を」

 

「うむ……これより武田討伐を開始する」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日には岩村城を出発した武田討伐軍2万は織田領近くの砦を即日に5つ破壊し信濃侵攻を開始

 

 2日後には木曽福島城を包囲し、兵糧攻めを開始する

 

「なに!? 織田も攻めてきただと!」

 

「はい! 徳川に長篠城を奪還されたばかりで東遠江にも攻撃を仕掛けられておりますが信濃の方は馬場がおります。我々は素早く徳川を蹴散らし織田を撃退するのが上策かと」

 

「うむ! それでいこう! 親父の死は既に勘づかれていたか……誰が洩らした」

 

「長篠城攻めで救援をせずに徳川に寝返った奥平かと」

 

「奥平め……織田撃退が済み次第第二次西上作戦を開始する! 良いな」

 

「は!!」

 

 

 

 

 

 その頃木曽福島城では大筒150門と多数の鉄砲により砲火にさらされ忠輝の調略により内応者が出る始末

 

 僅か3日で堅城な木曽福島城は陥落してしまった

 

 木曽一族は当主のみ切腹し、兵達は逃がし、ロンメルは木曽福島城を信濃侵攻の拠点にすることにした

 

「馬場隊はどうなっている?」

 

「はい、現在深志城にて8000の兵を集め待機しているとの事」

 

「福島城が落ちるのが早すぎてこれでは武田勝頼の求心力低下にはならぬな……一政」

 

「は!」

 

「兵1万で池田殿と協力して飯田城を落としてこい。大筒は全て持っていって良い。堅城でもないのでそこまで時間もかかるまい」

 

「わかりました」

 

「よし、左恵、釣りを仕掛ける深志城下町を放火し、挑発してこい」

 

「わかりました」

 

 釣り部隊が馬場を釣るため城下町に放火を始め、一政率いる別動隊が飯田城の攻撃を開始

 

 馬場は飯田城を助けるかロンメル率いる主力を蹴散らすかの二択を迫られた

 

「飯田城救援に向かうぞ」

 

 馬場はそう判断し行動を開始した

 

 左恵は馬場がこちらに来ないと判断すると早急に青木ヶ丘にて陣をしていたロンメルに伝達

 

 ロンメルは鈴川に木曽福島城の守りに2000名を預け飯田城に急行し、信濃の宮田村に先回りして陣を引いた

 

「なに!? 織田はなぜそんなにも速く移動できたのだ!?」

 

 これはロンメルが導入を進めた馬車によるもので、軍馬を大量に飼育しているロンメルは機動力向上のため馬車を前秋に作らせ物資運搬等に導入し技術を蓄積し、兵の運送を行うまでに拡張していた

 

 

 

 

 

 馬車連結させ、即席の障害物とすると左恵の号令で鉄砲による射撃が開始された

 

「く! 分が悪い……退け退け!!」

 

 傷が浅いうちに馬場隊は撤退し、それにより飯田城も戦意喪失し落城

 

 そのままの勢いで武田信廉が守る高遠城を1万8000の兵で攻撃し、矢倉で指揮をしていた武田信廉を鉄砲による狙撃で殺害

 

 城門を火薬の爆発でこじ開けると力攻めで150名の死者を出しながらも落城させた



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信濃侵攻 2

 元亀4年(1573年6月)

 

 ロンメルが信濃を侵攻し、約1ヶ月

 

 西信濃をほぼほぼ抑え、ロンメルは次の侵攻先を上原城か上田城、深志城のどれかに絞っていた頃、東遠江にて徳川大勝の知らせが届いた

 

「本当か」

 

「はい! 高天神城近くにて決戦となり、徳川方が武田を撃退し、追い討ちを仕掛けて武田は多数の死者を出しながら甲斐に退却、天方城、一宮城、飯田城、挌和城、向笠城全てを奪還し、そのまま駿河に侵攻したとのこと!」

 

「北条が武田の失墜を見て徳川と不可侵を結んだとの事、これで武田は北条から見捨てられ上杉、徳川、織田に囲まれた構図になります」

 

「よし、上杉に使者を水内郡、高井郡を割譲するので牽制を依頼してくれ」

 

「は!」

 

「となると早急に馬場隊の排除をしなければならなくなった」

 

「では俺に1つ案が」

 

「なんだ? 左恵」

 

「一政兄上の子作坊が武田の朝姫の息子であるので武田を作坊に継がせることで武田の国人衆をこちらに付かせましょう。動揺すれば馬場は甲斐に戻るかこちらと決戦しなければなりません。決戦場所は錦織寺近くはどうでしょう! 馬場が籠る深志城から甲斐の道を遮断することになるので必ず通らなければなりません」

 

「よし! それでいこう! 他の城はどうする?」

 

「全て無視で良いでしょう。打って出てくるのを誘います」

 

「よし、後方は忠輝隊、鈴川隊に任せる。先鋒は左恵任せるぞ」

 

「は!!」

 

「よし! 皆の者早急に信濃を追い込む」

 

「伝令、小県郡の真田より報告が」

 

「なに?」

 

「小県郡真田は織田の動きを傍観するゆえとのこと」

 

「傍観……攻撃しなければ敵にはならないとのことか……小県郡は無視、諏訪郡を確保すれば信濃侵攻を止める。後は武田が瓦解するのを待てば良いな」

 

「では決戦を」

 

「これより馬場信春と決戦を行う! 最強武田軍を倒し、最強の座を奪い取ろうじゃないか!!」

 

「「「おお!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは夜のうちに出陣すると先鋒の左恵は錦織寺を掌握し、甲斐との連絡路を遮断した

 

 馬場信春はこれを読んでおり錦織寺近くで左恵隊3000と信濃衆5000が衝突した

 

「火力はこちらが上だ本隊が来るまでここを死守するのだ!!」

 

 左恵は鉄砲隊を3組に分け掃除、装填、射撃を流れ作業でやらせた

 

「三段撃ちだ!!」

 

 1000丁もの鉄砲を保有していた左恵隊は鉄砲の数に言わせて武田自慢の騎馬隊と拮抗状態を作り出した

 

 そこにロンメル率いる本隊と池田隊が到着

 

 ロンメルは一政を別動隊1000名に分けると錦織寺を北上し、千曲川を渡って川沿いから信濃衆の側面より射撃を開始した

 

 ロンメル本隊は馬場信春本隊と激突

 

 池田隊は信濃衆を半包囲する形の陣形をとり、馬場信春が敗れれば信濃衆ごと壊滅し、ロンメル本隊が敗れれば池田隊もろとも敗走、一政別動隊は敵地に取り残されるという絶対に負けられない戦いとなった

 

 

 

 

 

 

 

「妖怪大将ロンメルはここぞ! 首を取りたい奴はかかってこい!!」

 

 ロンメルは先頭で指揮を取る

 

 既に39歳になり力と技術は最盛期であり、その一騎当千ぶりに武田の勢いが弱まる

 

「いまぞ!」

 

 槍隊に隠れていた鉄砲隊が前に出て馬場隊に射撃を喰らわせる

 

 本来ならば竹束で守るのだが斬り込んで来たロンメルの対応をするために隙ができてしまいバタバタと先頭にいた武田兵が倒れる

 

「斬り込め!!」

 

 ロンメルの号令ものと槍隊、抜刀隊が突撃を開始し、鉄砲隊は鈴木孫三郎が後ろに下げる

 

「我に続け!!」

 

 ロンメルが道を切り開き、そこから傷口を抉るように突撃隊が傷口を広げていく

 

「なんとしても突破口を塞げ! 包囲すれば我らの勝ちぞ」

 

 精鋭武田兵なだけあり、そこからなかなか崩れない

 

 じわりじわりと傷口が閉じ始めたその時

 

 パパパン

 

「うぐ!?」

 

 ロンメルが窮地と思い自身の隊を率いて更に裏に回った右恵隊が鉄砲を発砲

 

 それが運良く馬場の腹部に直撃した

 

「馬場殿! 退け退け!!」

 

「退いてはならぬ! ここで退いては……」

 

 不死身の馬場の負傷により隊が動揺した隙を付き、ロンメルは更に圧力をかけると数が多いこともあり馬場隊が崩れた

 

「右恵! 追撃は任せた! 信濃衆の殲滅に取りかかる!」

 

 ロンメルは面倒臭い国人衆を生きて帰す気は更々無く信濃衆5000の包囲を完了させると一気に圧殺した

 

【錦織の戦い】

 

 織田 約1万8000

 

 武田 約8000

 

 結果 織田の圧勝

 

 織田死傷者 約1200

 

 武田死傷者 約5900

 

 合戦の影響

 

 馬場信春はこの後鉄砲の傷が元で1ヶ月後病死

 

 信濃衆の当主、ご子息が多数討死したことにより信濃は国人衆がほぼ不在となり、合戦後休まず行われたロンメルによる強襲により佐久郡、諏訪郡、安曇郡、更級郡、筑摩郡が陥落

 

 上杉が水内郡、高井郡を掌握し、信濃で武田の影響力が残ったのは真田の埴科郡と小県郡だけであった

 

 ロンメルは直ぐに家臣達を配備し、信濃40万石のうち25万石を掌握

 

 武田による奪還隊も撃退し、信濃侵攻は終了となる

 

 残った信濃国人衆は一政と一政の息子作坊に忠誠を誓い、武田残党による一揆も尾張、美濃の豊かな物量により武田時代よりも生活の質が向上したことにより兵が集まらずに失敗

 

 武田は駿河と信濃を失い甲斐と上野の一部を有する中堅大名まで没落

 

 以後建て直しに躍起になるが無理な増税と金山の枯渇により急速に力を失っていくこととなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 元亀4年(1573年7月)

 

 信長は二度目の足利義昭の挙兵を即座に鎮圧し、足利義昭を京から追放

 

 年号を天正に変えた頃ようやく信濃が落ち着いたということでロンメルと信忠が京にいる信長と面会した

 

 上京は幕臣の屋敷が多く有ったため焼き払われ、再建が進められていた

 

「面を上げよ」

 

 ロンメルと信忠は顔を上げる

 

「信濃侵攻見事、徳川の動きを合わせれば武田の権威は失墜した。信忠、ロンメルよくやった」

 

「「はは!」」

 

「武田を抑え込み、将軍は追放、仏仏ども(本願寺や一向宗)も今は長島を除いて落ち着いておる……浅井朝倉にようやく本腰を入れて対処できるわ……信忠」

 

「はい!」

 

「余の代わりに美濃を纏めよ」

 

「は!」

 

「ロンメル」

 

「はい」

 

「東方のことはそなたに任せる。武田は最終的には滅ぼす良いな」

 

「は!」

 

「対朝倉は柴田に、佐久間の畿内軍は明智に、浅井は木下に、対本願寺は斎藤(利治)に、長島は滝川と分けた。それに余の本隊が潰す場所に各々向かう形とする。良いな」

 

「「は!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは直ぐに信濃に戻ると功労者に対して褒美を与えた

 

 主に土地の再配分である

 

 主要な者だと

 

 町田半乃助 4万石

 

 鈴川千秋 2万石

 

 鈴木孫三郎 2万石

 

 服部一忠 1万石

 

 岡部元信 2万石

 

 朝比奈泰朝 1万石

 

 と分配され、残りはロンメルの直轄領とし、一政達一門に分配した

 

 更にロンメルは真田と秘密裏を装いとある寺で密会を行い、武田から寝返るのであれば所領安堵及び吾妻郡、碓氷郡、利根郡、群馬郡の4郡を渡すという厚待遇を出したが武田に恩が有るため即答はできないと言われた

 

 ロンメルは武田信玄からも一目置かれた真田の軍略を取り込みたいと考えており、今回の信濃侵攻で真田も当主が真田昌幸に変わっており、その真田昌幸の次男とロンメルの娘鶴姫の婚約をしたいと願い出た

 

 婚約で有ればということでこれは了承され、真田とは不可侵に近い同盟を締結するに至り、信濃の掌握を完了した

 

 山だらけの信濃をの田にするのは効率が悪いとし、畑や果樹園に次々に変え、米を作らなくても生活できる基盤作りに注力した

 

 また信濃にも学校を2校開校し、錦織学校、飯田城を廃城にし、跡地に飯田学校を開校した

 

 これでロンメルは鳴海学校他2校の3校を有するに至り、優秀な人材発掘をスムーズに行える様になり、農業を教えることで飢餓を防ぎ、薩摩芋や馬鈴薯、各種野菜と果物の効率的な栽培、千曲川を使った水運も管理下に置いたこと、関所の廃止、楽市令による楽市の実施、徳政令の禁止等鳴海で成功したのを土地柄にあわせて実行

 

 特に養蚕業にも力を入れたことで信濃では優秀なシルク生地の生産地となっていく

 

 

 ロンメルが内政に力を入れた1年で浅井、朝倉は滅亡し、浅井の家臣団は木下秀吉が吸収、朝倉はほぼ族滅となり名門朝倉と北近江の浅井は滅亡となった

 

 信長は浅井長政の死を大層悲しんだが、失った家臣の多さから許すことはせずに自刃に追い込んだ

 

 浅井朝倉が片付いてほっと一息いれようとしたら朝倉領で大規模な国人及び一向一揆が発生し、信長が置いていた代官が殺害され加賀の国同様越前も一向一揆が支配する国となり、本願寺が和議を破り再び挙兵とハチャメチャ展開

 

 信濃でも一向宗と勝頼が組んで一向一揆を発生しようとしていたので税率を武田の7から8公2民を3公7民に変更

 

 そうなると一向宗を先導していた者が逆に吊し上げされる始末となりそれを勝頼が先導していたこともバレ一気に武田離れが進む結果となってしまう

 

 ロンメルはその間に街道を整備したり、宿場町を作ったり、馬車の駅を整備したり、山賊を皆殺しにしたりと民優先の政策を次々にしたので信濃の民衆は妖怪である私や怪異織田家に懐いた

 

 守護大名よりも力有る戦国大名

 

 昔の権威は凄くても武田の権威が失墜したことにより甲斐からも人は逃げ出し国力が更に低下する

 

 ロンメルは逃げ出した人々を吸収し、村や市を作り食べ物、着る物、金を産み出す

 

 金の流れを読めない者は没落していく

 

 ロンメルの力は武力ではなく経済力を使った経済制裁が行える点でもある

 

 金山の収入が減ったことにより武田の財源は収支の支の方が多くなり信玄が蓄えた貯蓄をどんどん吐き出す事となる

 

 



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伊勢長島殲滅戦 ウマ娘5姉妹

 天正2年(1574年6月)

 

 ロンメルはあることに気がつく

 

「やべ、水軍の事すっかり忘れてた」

 

 信濃侵攻の為物資を侵攻作戦に費やしてしまい、水軍の拡張に時間と物資が割けていないことに気がついた

 

 慌てて信濃から鳴海に戻り、前秋に確認をすると

 

「水軍衆で有力な武将も信濃侵攻に駆り出したので指揮官不在で全然進んでいません! 関船100隻どころか現在20隻ですよ」

 

 ロンメルがなぜ焦っているのか

 

 それは長島一向一揆鎮圧の長島を包囲するのに多くの船が必要なのだ

 

 信長から鳴海水軍も使うと言われていたのに大失態であり、ロンメルは時間的に間に合わないので信長の所に土下座しに行った

 

「ロンメルが失敗とは珍しいな……お主も妖怪妖怪と言われるが失態も1つはするか……仕方がない。今回は鳴海水軍は使わぬ。九鬼水軍で事足りる故にな……しっかし、1つの事に集中すると他を忘れる癖は直した方が良いぞ」

 

「すみません」

 

「よいよい、巻き返しは可能じゃ……ロンメル作戦を聞け」

 

「はい」

 

「次は長島を潰す。九鬼水軍を使い長島を完全に封鎖して兵糧攻めと致す。女、子供も含めると10万が長島に詰めておる……海上も包囲すれば3ヶ月と経たずに兵糧が切れるであろう」

 

「良いお考えかと……降伏は許すので?」

 

「許さん。2度も長島攻めは失敗しておるし見せしめも兼ねておる。この信長に歯向かえば女、子供を含めて皆殺しとな」

 

「子は宝ですが」

 

「いらん。家族を殺されて恨まない子は居ないであろう。親と同じ時に殺すのがせめてもの慈悲よ」

 

「なるほど」

 

「ロンメルも民を大切にする時が多いが一度敵になれば殲滅するではないか……朝倉しかり、信濃しかり……今回は長島というだけだ。下手に慈悲を与えて仏仏どもが復権しても困る」

 

「わかりました。怪異織田家は長島攻めはどうします?」

 

「息子達を出させろ。お主が今信濃を離れると残った国人衆が何をするかわからぬでな。内政に励め」

 

「は!」

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが信濃に戻り、信濃一向一揆(仮)に参加しなかった(参加しようとした者は農民に物理的に殺されたので存在しない)国人衆達に人質を差し出させて信濃の安定化を急がせている頃、一政達は長島に赴き北畠に養子に入った北畠具継(幼名 八太郎)と久しぶりに出会いめちゃくちゃ可愛がりながら長島一向一揆鎮圧に動いていていた

 

 織田軍の数なんと8万

 

 過去最多の兵力に鉄砲も2万丁持ち込み長島周辺の支城を次々に陥落させ、侵攻開始から約半月で長島を完全に包囲することに成功した

 

 一政達も支城を1つ落とす活躍をしており、流石妖怪の子供だと褒め称えられた

 

 ちなみに今回の長島攻めに参加していないのは畿内総監の明智軍と北陸の抑えの木下秀吉改めて羽柴秀吉の羽柴軍、本願寺の抑えの斎藤軍が動いていない

 

 全軍が動いてなくてもこれだけの兵数を動員できる信長の力に周辺諸国は驚愕し、北条なんかはロンメルの元に不可侵から同盟への切り替えを持ちかけこれを承認

 

 駿府では今川氏真が徳川と北条の同盟の証として城持ちに戻り、旧今川家臣を集めて駿府城を守っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「半乃助、朝廷工作はどうなっている?」

 

「はい、これまでの朝廷への貢ぎ物により妖怪に官位を与えるのはどうだという意見が高まってきておりますし、上様(天皇)は見返りを求めない物資の援助に感激しておりそろそろ何かしらの接触があるはず」

 

「幕府が消えた今私は再び無官と成った、信長様が居る間は良いが居なくなった後、種が違うからと過去の妖怪のように討伐されたらたまったものではないからな」

 

「そうですね。妖怪から人々を救いだす……これだけで大義名分となりましょうぞ」

 

「ただ下手に持ち上げられると第二の義経になりかねないから注意しなければ……」

 

「……論目流様1つよろしいでしょうか」

 

「なに?」

 

「信長様の下に忍び込ませている忍びからの情報なのですが……信長様は朝廷を変えるつもりです」

 

「朝廷を……変える?」

 

「関白や大臣は残せどそれ以下の貴族を解体し、才能のある農民、商人、武士による政権を実現し、信長様が政権を握り、天皇以下有力貴族を除き政権から朝廷を外す可能性が大かと」

 

「な……そんなことをすれば国が壊れる! 今までの仕組みを大きく変える等……」

 

 ロンメルは思い出す信長の性格や言葉を

 

「ロンメル、余はこの国を早急に纏め上げ他の国に負けない国にしなければならないと思っておる。今の体制では駄目だ。鎌倉は外敵に対して脆く、室町は力がそもそも無い……圧倒的な武力による天下……天下布武……余はそれをなさせばならぬ」

 

 ロンメルはこの時の信長の言葉を室町を終わらせ新たな幕府を作ると思っていた

 

「あ奴らの為にも天下を平定せねばな」

 

 それと同時に幼い一政や黄衣を見て言った上記の言葉も本心であろう

 

「信長様は……賢人政治を行うつもりだ……となると信長様は宰相になられるつもりか?」

 

 ロンメルは直ぐに頭を切り替える

 

 その話が本当であれば役職を貰うことは自殺行為であり、信長様に伺ってから役職を朝廷から貰いそれを新たな大義とするつもりだったがそれが不可能となった

 

「いや、そうか! だから私を東方方面軍の大将にしたのか!」

 

 一時信忠が大将であったが美濃を任された時にロンメルに大将は移行しており、信長から与えられた大将という役職が織田政権下であればロンメルを守る大義となる

 

「くっ……クックック……流石信長様だ。何手も先を見据えていらっしゃる……私では到底無理だ。流石は天下人だ! 私はあなた様の下で働けることが何より誇りでございます! ……半乃助」

 

「はい!」

 

「三ツ者、歩き巫女という武田諜報部隊を調略せよ。士分の用意と各々1万石を渡す用意があると」

 

「わかりました」

 

「クックック……あぁ! 私は信長様の下であればどこまでも輝ける! 輝いて見せる!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 天正2年(1574年9月)

 

 伊勢長島10万人の殲滅が完了したが、一向一揆最後の突撃により数少ない織田一門が討ち取られる惨劇が発生

 

 怒った信長は本当に1兵残らず女、子供見境無く鉄砲により射殺した

 

 長島は血で真っ赤に染まり最後は焼き払われた

 

 長島に遠征していた怪異織田軍も解散となり、鳴海や信濃に戻っていった

 

 そんな最中信忠から手紙がロンメルに届く

 

「ごめんなさいまた孕ませちゃった」

 

 ロンメルは呆れてため息しか出なかったが阿久利黒も本格化したためもう大丈夫だろうと判断し、不問とした

 

 その数日後柴田殿と羽柴殿からも手紙が届き

 

「「ごめん手を出したら孕んだ」」

 

「お前らなぁあ!!」

 

 柴田勝家殿によると望月は市姫に顔が似ており、手を出すつもりは無かったのだが……酒の勢いで出してしまったとのこと

 

 羽柴秀吉殿は

 

「あんな美人に手を出すなという方が無理じゃ」

 

 と開き直っていた

 

 薄墨しかり、望月しかり……美しく育ったらしいが早すぎるわ! 

 

 明智殿に預けた生食は明智殿の息子十五郎にメロメロらしいが、ロンメルの血を色濃く受け継いで一騎当千の強者に育ったらしくこの前長島一向一揆攻めの際に本願寺が救援するために動いたのを明智、斎藤連合軍が撃退したのだが、その時に初陣兼首を20個も討ち取って明智殿が唖然としたと手紙が来ていた

 

 丹羽殿に送った磨墨はよく寝て内政の手伝いをしていると聞いているので大人しいようだがこいつが一番淫乱なのをロンメルは知っているのでいつかやらかすと思って一番そういうのが無さそうな丹羽殿に送り込んだのだが……とりあえず今は大丈夫そうである

 

 嫌な予感は当たるもので柴田殿と羽柴殿から手紙が来た数日後越後から手紙が来た

 

「母上ごめん! 軍神に会いたくて会ってきた! 剣術勝負や酒のの見比べで勝負して勝ったから軍神に抱いて貰った! 一回母上にも会いたいから信濃に寄るわ!」

 

「あの馬鹿娘……」

 

 ロンメルガチギレし、城に有った大岩をかかと落としで真っ二つに割ったことから怒り岩と呼ばれ、ロンメルを怒らせるとこうなると家臣達が引き締まる事となる

 

 ちなみにウマ娘5姉妹は現在12歳である



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武田滅亡

 天正2年(1574年10月)

 

 ロンメルが現在拠点にしている信濃の上原城にやって来た磨墨にロンメルは拳骨をした後説教を行い、織田の外交状況や内部事情を語った上で磨墨がいかに軽率な行動を取ったか怒り、丹羽殿に謝り、ロンメルは磨墨を上原城の1室で蟄居処分とし、監視下に置いた

 

「磨墨は危険すぎて私の監視外に出せない。丹羽殿には申し訳ないが磨墨は実家預かりとしなければ駄目だ……もしこれで上杉謙信の子供でも孕んでいたら……とりあえず信長様にも報告をしないと」

 

 ただ今回の件を上杉に詫びたところ妖怪なのだから仕方がない

 

 久々に血が滾り楽しかった

 

 敵として出てきたら容赦はしないと好感触であり、ロンメルはそれでよいのか上杉と困惑

 

 信長も

 

「余に置き換えたら単身で今は同盟国だがいつ敵国になるかわからない場所に行き、姫と行為をして帰ってくるみたいなものだろ……引くわ……余でもやらんぞ」

 

 と信長自身の娘の行動にドン引き

 

「確かに磨墨は重臣の下に出すのは危険すぎるな。丹羽への褒美でもあったがこれでは心労、苦労の足枷となってしまう。ロンメルが預かり罰を与えるのが正しかろう」

 

 と蟄居処分を賛成し、磨墨のやらかしが大きすぎて信忠、柴田、羽柴の3名を怒る気力は無くなっていた

 

 

 

 

 天正3年(1575年3月)

 

 ロンメルが信濃統治のためにあっちこっち走り回っていると、信濃奪還の為の武田挙兵の報せが入る

 

 武田勝頼は敗戦による急速な領土縮小、怪異織田家、徳川家、上杉家の共同による経済制裁、力を無くした武田を見限る国人衆も増えてきており、疫病と干ばつのダブルパンチで武田が生き残るのは信濃を奪還するか北条を攻めるか、徳川を攻めるかの3択のどれかから米を奪わないと国が終わるという国の末期病を発症していた

 

 真田からも武田が法外な税の取り立てを行っているため助けてほしいと連絡があり、ロンメルは近々武田が挙兵するなと判断し、決戦に備えていた

 

 武田の財政難は深刻で諜報機関に金を出すのも渋っていたらしく、この頃二代目望月千代女なる若い女性忍衆棟梁及び三ツ者と歩き巫女がロンメルの調略に乗り降伏、初代望月千代女の首を差し出しての降伏だった

 

「約束通り全員の士分と各々1万石分の田畑を約束しよう。望月千代女だったか」

 

「はい」

 

「半乃助の側室となり子を産み、育てよ」

 

「は!」

 

「半乃助良いな」

 

「貸し1つですよ」

 

「今回の仕事の褒美として500貫出す。三ツ者も歩き巫女も半乃助が管轄することも許す。甲賀の者元人質衆と競い会わせ武田の情報を引っこ抜き、撹乱しろ」

 

「は!」

 

 三ツ者と歩き巫女を組み込んだことで忍衆1万人というこの時代だと忍びの里以外だとここまで巨大な諜報機関を持つ家は存在せず、近畿、畿内、東海道、関東と膨大な情報及び工作活動が可能となり、その力を遺憾なく武田は思い知ることとなる

 

 

 

 

 

 

 武田が侵攻を開始して数日

 

 兵糧が焼かれるのはザラ、火薬が爆発したり、矢が燃えたり、飲料水に毒が入れられていたり、中には同士討ちが発生したりと戦う前から兵が離散していき、勝頼は戦うこと無く撤退

 

 最初1万人居た兵は5000人まで減っていた

 

「左恵やれ」

 

「は!」

 

 左恵に兵8000を預け追撃を行わせた

 

 その活躍は凄まじく甲斐の山脈をものともせずに神速と言える速度で行軍し、毎日城か砦を落とし、白山城にて武田勝頼を捕捉すると猛追を開始

 

 ロンメルの血の滲む様な努力の末に完成させた騎馬鉄砲隊、騎馬弩隊の大々的な初投入であり、一撃離脱、先回り、待ち伏せを繰り返すことで武田の機動力を奪うと同時に出血を強いた

 

 白山城の戦いと呼ばれる合戦で蟄居を抜け出した磨墨が無双し、左恵の軍略と合わさり武田軍は壊滅

 

 躑躅ヶ崎館をも包囲し内部に突入したときには武田四天王と呼ばれた内藤昌豊、山県昌景、高坂昌信に武田一門、武田勝頼やその息子、娘達が揃って自刃

 

 武田は最後の決戦もままならずに信玄の死から約2年という短期間で名門甲斐武田氏は滅亡することとなる

 

 織田信忠の婚約をしていた松姫含め信玄の姫や室達は左恵が救出し、松姫はそのまま信忠の元に送られ、他の室や姫達は実家があるものは返し、滅亡したり縁切りされている者はロンメルが保護した

 

 大半の姫達は尼になったが、武田一門の姫の1人が武田の血を残したいと左恵に嫁入りを懇願し、左恵はロンメルの許可のもと承諾

 

 姫の名は鶲姫といい左恵とはじめはギクシャクしていたが子供を1人作ってからは仲良くなり最終的に男3人女8人を生むこととなる

 

 

 

 

 

 左恵が武田を短期間で滅亡に追い込んだことにより信長は左恵とロンメルを呼び出し

 

「左恵よくやった! 天晴れだ! これで東方の脅威は当面無くなった北と西に集中することができる」

 

「信長様の力となるのであればどこへでも行きます」

 

「そうかそうか! 流石余の息子だ……左恵武田滅亡の褒美として甲斐をやる! しっかり領地経営をしてみろ」

 

「は!」

 

「ロンメルは引き続き東方方面大将として北条、佐竹、上杉を監視せよ」

 

「はい」

 

「蟄居処分をほっぽりだして出陣した磨墨は蟄居処分は解くが信濃、甲斐から出ることは許さんと伝えよ」

 

「わかりました」

 

 武田平定によりロンメルは真田を同盟を改めて組み、吾妻郡、碓氷郡は真田に渡したのだが利根郡、群馬郡は北条が接収し、真田は北条に恨みを抱くこととなる

 

 真田との同盟は上杉への緩衝地を作ることであり、信濃北部の一部地域的のみ接するに留まる

 

 甲斐は武田の本拠地なだけあり武田にあれだけ重税でも忠誠を誓っている者が多く左恵はあの手この手で懐柔しようとし、上手くいかなかったので忠輝の力を借り武田旧臣や足軽から才能のある者を引っ張り、ロンメルが最初期に小作人として雇い、各地の代官まで昇格していた神馬慈、飯沼袖、垪和臨、小野木局の4名を左恵の与力とし、忠輝も左恵に任せた

 

 弟を支えることになった忠輝だったが全く気にすること無く左恵の副将として活躍していく

 

 左恵が引き上げた者の中に大久保長安等もおり、使える者を引き上げていった結果武田旧臣5割、鳴海学校出身者3割、国人衆1割、百姓上がり1割というなんとも歪な組織が出来上がったが、忠輝の調整能力によりなんとかなる

 

 家臣問題はなんとかした左恵だったが、甲斐にある風土病(日本吸血虫症)はどうすることもできず、頭を悩ませ続けた

 

 

 

 

 

 

 甲斐と信濃の殆どを手中に収めたロンメルはばかすか生まれる孫達と戯れながら両国安定化の為に走り回り1年が過ぎる

 

「……しっくりくる大太刀が無いなぁ……影月が恋しい……」

 

 2年前に折れた愛刀を懐かしみ、大量の名刀、良物をコレクションしていたが、手にこれといって馴染むのが無かった

 

 ロンメルの剣の腕は肉体と技術がこの時がピーク……いや肉体の衰えが始まっており、若い頃に無茶をしたせいか肩こりだったり膝に痛みを覚えるようになっていた

 

 ストレッチやマッサージは前からやっていたが、お灸、針治療等も取り入れるようになり、ロンメルは今度は老いとの戦いが始まる

 

「一之太刀も何かがまだ足りない……これが完成とは思えないんだよなぁ」

 

 ト伝が生み出し足利義輝、北畠具教、ロンメルの3名が繋ぎ発展させた一之太刀……ロンメルは蟄居から解放され案の定孕んでいた磨墨を呼び出して一之太刀を伝授した

 

 が、子供を孕んでいることもあり上手くいかず子供を産んでから本格的に教えると言い、ロンメルは利行に剣術を教え込んだ

 

 利行は勝成の死からなんとか立ち直ったが、人を殺すことができなくなってしまっていた

 

 軍の指揮をすることはできるのだが殺せない

 

 なのでロンメルは身を守るために利行に剣術の更に高みを教えた

 

 利行はそれを自己解釈し、守りの剣術を編み出していくこととなる



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御館の乱

 天正5年(1577年12月)

 

 ロンメルは約2年で起こった事を振り返っていた

 

 まず阿久利黒の第二子出産と望月、磨墨、薄墨の第一子出産があった

 

 磨墨以外はウマ娘であり、長男ではないことを羽柴や柴田の周りからは残念がられたが本人達は大層喜んだ

 

 阿久利黒の方からは最近信忠様は武田の松姫と仲良くイチャイチャしているとの報告が入っており、前よりは回数が減ってホッとしているとも報告された

 

 ドンだけヤりまくってたんだよと信忠の絶倫ぶりにロンメルはドン引きしたが、問題は磨墨である

 

「謙信としかヤってないから謙信の子供以外あり得ない」

 

 と謙信の男児が産まれてしまった

 

 天正4年の8月に黄虎丸と名付けられた男児が産まれたが、既に上杉家とは敵対関係になっていた

 

 というのも足利義昭が京を追放され頼ったのが毛利家であり、毛利に身を寄せていた将軍から上洛要請が謙信に入り、それを謙信が承諾したことで信長との同盟が破棄され、石山本願寺との和睦が天正4年5月に成立したことで加賀一向一揆とも和睦が成立、越前ルートでの京への道が開かれたのだった

 

 これに対応したロンメルは北条と共同で能登に侵攻していた謙信の背後を取り越後へ侵攻

 

 上杉に割譲していた信濃の水内郡、高井郡を奪還し、謙信と直接対決すること無く兵を引いた(第一次越後侵攻 天正5年3月)

 

 他には信忠に信長が家督を継がせたり、安土城が建設されたり、松永久秀が裏切ってそれを信忠に鎮圧されたり、紀州征伐が行われたりした

 

 そして12月の今、ロンメルは信長より関東御取次役を承り関東平定を行っても良いという御達しを受け取った

 

 北条はこの事実上織田政権内での関東管領就任とも言える役職の贈呈に反発し、織田家と急速に関係が悪化

 

 まだ戦とはいかないがロンメルは上杉と北条を同時に相手取る必要性が出てきてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは堺と連絡を取り合いアラブ種やマルワリ種とカチアワリ種といった外国の中型の馬多数を輸入し、軍馬の改良に着手

 

 木曽の馬と交配させ牧場を作り、織田家の軍馬を供給していくこととなる

 

 更に堺から衝撃の情報を手に入れた

 

 それは硝石の作り方であり、古い家屋の床下の土から硝石を抽出する方法であり、ロンメルはすぐさまそれを人工的により多く硝石を取れる方法が無いか探すように猿渡朱という鳴海学校出身の秀才に命令

 

 同時に火山から硫黄を回収や火薬の調合を含む怪異火薬衆を設立し、猿渡朱を筆頭に任命した

 

 火薬が安定供給されるようになるのは天正5年から約5年後の天正10年からであり、ロンメルはそれを怪異織田家の極秘機密とした

 

 ロンメルは信長様の事だから別の堺衆からこれを聞いており既に動いていると判断したのだが、その商人は織田家内での亀裂を作るためにわざとロンメルだけに漏らした情報であり、ロンメルはそれを知らないまま硝石量産化に動いてしまう

 

 

 

 

 

 

 

 

 天正5年9月には柴田勝家と上杉謙信が激突した手取川の戦いが発生

 

 望月が殿として孤軍奮闘するが柴田勝家率いる北陸軍は大敗し、ロンメルはすぐさま柴田勝家を助けるべく越後侵攻を開始したように動き牽制を行ったが、越後の本格侵攻は見送った

 

 

 

 

 

 

 

 天正6年(1578年3月)

 

 上杉謙信死去……この情報をいち早く知ったロンメルは信長に報告すると上杉に介入するように命令され、御館の乱が発生しそうになっていた上杉家に謙信の実子である黄虎丸を担ぎ出して介入

 

 謙信が酒の席で妖怪(ウマ娘)である磨墨と勝負し、交わったというのは越後では有名な話であり、黄虎丸の髪色が祖母であるロンメルと同じ黄金に輝く黄色だったこともあり信憑性が増してしまい上杉景勝や上杉景虎の両名に荷担したところで利益があまり無いと考えた家臣達が黄虎丸に忠誠を誓い、春日山城内で激闘を繰り広げる両名に対して外部からじわじわと侵食していった

 

 ロンメルは半乃助に上杉の忍衆である軒猿の超略を命令したのだが、既に軒猿は上杉景勝に忠誠を誓っており失敗

 

 ここに黄虎丸の援護の為に手取川で大敗した柴田勝家が復活して加賀侵攻を開始

 

 どんどんカオスになっていく北陸方面だったが、そんなある日とある人物が信濃にやって来る

 

「御初にお目にかかります妖怪大将論目流殿」

 

 ロンメルを訪ねたのは直江兼続という若い上杉の武将であった

 

「当家と敵対している上杉が何の様だ?」

 

「敵対とは違いますな……どの陣営も次の上杉家家督を誰に継がせるか躍起になっているのみでございます」

 

「謙信は織田との同盟を破棄し、敵対する本願寺と組んだが?」

 

「それはそれは互いをよく知らないから起こった不幸な出来事でございます。当家はこれまで将軍様を力で廃した者と織田を見ておりましたが……どうやら違うようで」

 

「違うとな? 何が違う」

 

「民の為、帝の為にいち早く乱世を終わらせる為に動いていると思いましたが……それであれば義で動く上杉にとっては織田と再び組む事が出きると考えております」

 

「妖怪の前でよく吠える小僧だ。上杉は何を差し出すのだ?」

 

「所領の全てを差し出す代わりに上杉景勝様を当主補佐にしていただきたい」

 

「当主補佐……あぁ、なるほど……景勝陣営は黄虎丸を当主にすることは了承していると」

 

「はい。我々はもし織田が北条や北陸大名と敵対した場合援軍を送る用意があります。謙信様が鍛えた越後の兵は甲斐の武田兵よりも勝ると確信しております。所領替えも呑みましょう。今は一刻も早くいこの不毛な家督争いを終わらせるべきですのでね」

 

「よし! よく吠えた! 怪異織田家及び織田北陸軍による越後侵攻は行わないと約束しよう。黄虎丸はまだ幼い。元服するまではこちらで預かりとし、当主不在の間は景勝殿が越後を任せる。これでどうだ?」

 

「互いの誤解が解けた様で何よりです。すぐさま私は主の景勝様に伝えてきますので……書にて印をお願いしたく」

 

 そう言って直江兼続は持っていた巻物の1つを取り出すとロンメルの前に広げた

 

「クックックッ……様々な状況でも何かしらの契約をするつもりだったな……よし、もう1つ条件を足そう。兼続、私の娘黄器と婚約を結べ、両家の繋がりとしよう」

 

「ね、願ったりかなったりでございます」

 

「流石にそこまでは読めていなかったか……まぁ黄器に何かあったら妖怪は族滅まで戦い抜くから覚悟しろよ」

 

「心に刻んで起きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

「勝手に上杉と停戦してよろしかったので?」

 

「なーに、今回の乱はまだまだ続く、今回の乱の介入でいよいよ北条が同盟を破棄する動きに出ているからな。上杉と和議を結び北条に備えるのが得策だと判断したまでよ。北条だけでなく伊達等も上杉の乱に介入しているからな。軒猿との諜報戦で忍衆を消耗させるわけにもいかないからね。一政、お前ももう24だろ? そろそろ家督譲るから準備しておいてね」

 

「わかりました」

 

「さーて忙しくなるぞ。信長様や柴田殿に連絡して加賀と能登で我慢してもらわないと……これで上杉も織田の包囲網から離脱したから徳川殿と連動で北条切り取りを行わないと! 物資の仕入れ、兵の徴兵いろいろあるから頑張るぞ!」

 

 ロンメルは次の目標を北条及び周辺諸国の佐竹、里見を含めた関東一帯の制圧に切り替えていた

 

 近畿から関東一帯を制圧すれば残るは東北と中国四国、九州だけであり、経済の中心地近畿と旧幕府(鎌倉幕府)や関東平野といった広い土地が手に入れば織田家とっても良いだろうと判断、関東が手に入れば信濃や甲斐、鳴海等を没収されても巨大な権益を確保となり、織田家の中で一定の権利を獲得しつつ地方の為政治中枢の邪魔にもならないだろうと判断していた

 

 更に関東の広い土地があれば家を複数個に分けて怪異織田一門を緩やかな連合体に落とし込めば最良と判断した

 

「その為には関東をなんとしても取る必要があるからねぇ……北条には滅亡してもらわなくちゃ」



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神流川の戦い

 天正7年(1579年3月)

 

 織田との和睦に成功した景勝の影響力は上杉家中で跳ね上がり、春日山城から景虎を追い出し、周辺豪族や国人衆の掌握を完了させた

 

 景虎側からも後から黄虎丸に上杉家督を譲り、景虎を関東管領とする折衷案が出されたが黙殺し、上杉景勝を援護するために北条に対して恨みを募らせていた真田を使い上野に侵攻を開始

 

 甲斐の左恵、信濃の一政、小県の真田による連携の取れた同時攻撃により上野の防衛線は瓦解

 

 北条との同盟は破棄となり、本格的な関東争乱の幕開けであった

 

 上野を制圧すると真田が欲していた2郡を割譲し、景虎の補給線を遮断

 

 これにより2月に御館の乱は景虎が処刑されて終了し、景勝は信長に謁見して臣従を約束

 

 佐渡、越後と越中の一部を安堵とし、北陸軍は越前、加賀、能登、越中の大半を有する巨大派閥となり、織田家筆頭家老柴田勝家の名声は天下に響き渡った

 

 信長は一向一揆残党がいてまだ安定化していない北陸を柴田勝家に任せ本願寺の本格的な攻撃を開始

 

 津田信澄を大将とし、本格的な攻撃を開始

 

 海上から九鬼水軍の鉄甲船や安宅船、大量の関船による海上からの砲撃、地上も支城が次々に落城し、残るは石山総本山のみとなった

 

 毛利としては何とか補給して石山に継戦してほしかったが2年前に木津川口の戦いで織田水軍が勝利していたことで毛利自慢の村上水軍は弱体化してしまい、山陰山陽も羽柴秀吉率いる中国方面軍が戦っており本国が危険になっていた

 

 丹波、丹後も明智光秀と細川藤孝率いる畿内軍が大手をかけている状況

 

 約700万石の石高に近畿の主要経済都市である堺、政治の中心地京等といった莫大な権力、財、兵力を保有する信長の前に第三次織田包囲網は瓦解寸前であった

 

 ちなみに怪異織田家は上野平定により真田領20万石を抜いたとしても現在書式上100万石、実石高(農地改革による米以外の作物含む石高だと)130万石を保有していた

 

 これは140万石近くを保有する北陸軍に次ぐ数値であり、動員兵力は4万人と最盛期武田軍以上の動員可能としていた

 

 対する北条は伊豆、相模、武蔵、下総の約130万石

 

 これに佐竹や下野の国人衆、里見等が北条と敵対していたのだが怪異織田家による上野侵攻により和睦し、一致団結して外敵怪異織田家に対峙する構えを見せた

 

 総兵力だと5万人以上にもなる

 

 無茶すれば8万人動員も可能だろう

 

 こちらはこちらで同盟国徳川の2万5000人もいるので勝負にはなるが、徳川としては北条とあまり事を構えたくは無いのが本音だろう

 

 今川氏真が元々北条に身を寄せていたので駿河統治の為に今北条と敵対するのはリスクが高いとし、徳川は北条と秘密協定を結んでいることが忍衆の活躍で明らかとなったが、ロンメルは徳川の考えもわかるのでこれを黙認

 

 となると出きることは兵の質の向上である

 

 既に有った馬車隊(補給及び兵員の輸送)と騎兵、新兵科の鉄砲騎馬兵、弩騎馬兵等の誕生により今までの戦闘スタイルとは違うため、適正があればガンガン新兵科に割り当てていった

 

 兵を雇うのも織田式の職業軍人制に変え、出が悪くなったとはいえ甲斐の金山は大きな収入源であり、鳴海という経済都市からの上がり、信濃の水運や道を整備したことによる宿場町からの上がり、前秋による農地改革により着実に成果が現れており、4公6民でも何とかなる税収を確保していた

 

 学校も順調に機能しており、人材も問題ない

 

 特に鈴木孫三郎や的場源四郎が紀州攻めにより降伏した旧雑賀衆の吸収を進め、多くの鉄砲鍛冶や練度の高い狙撃手を確保

 

 その中で早合という技術が流れ込み、装填時間の大幅な短縮を可能とする技術であり、ロンメルはすぐに怪異織田家に広まるように技術指導を依頼し、奉行衆に早合の弾倉の量産をすぐさま行うように指示を飛ばし、そうこうしているうちに半年が経過した

 

 

 

 

 

 

 

 天正7年(1579年9月)

 

 明智光秀が丹波及び丹後の制圧を完了し、明智光秀が丹波を、細川藤孝が丹後を獲得、明智と細川は婚姻により繋がっているので実質明智軍が丹波丹後を獲得したといっても良い

 

 また本願寺も降伏し、津田信澄が信長より誉められ、石山本願寺跡地により大きな城を作るように命令

 

 津田は大和の国を拝領し、織田家の親族衆としては甲斐、信濃、上野、尾張、美濃、伊勢、大和の7国を有する事となった

 

 信長は次の標的を伊賀に定め、伊賀攻めを行うと知らせを出した

 

 ロンメルはその頃信長に関東平定の為に援軍を送ってほしいと文を出していたが、伊賀を平定しないと畿内の安定化の為にもう少し待って欲しい(防御に徹しろ)という命令が届いた

 

 まぁ敵は待ってくれるわけも無く、上野に北条軍が侵攻を開始、厩橋城に入っていた城主東野良祐から急ぎ救援要請が入り、ロンメル自ら出陣し、鳴海衆1万、信濃衆1万5000、甲斐衆8000に上野衆7000が合流、更に真田5000も加わり4万5000の大軍となった

 

 対する北条は下野衆1万と北条本体3万の4万人を動員

 

 ロンメル率いる怪異織田本体が迫っているのを知ると北条は厩橋城の包囲を解き、武蔵の中山道にて陣を引いた

 

 ロンメルは北条最北端の三井城を大筒を200門も使った一斉攻撃により陥落させると真田隊によりすぐ南の金窪城を攻撃し、これも陥落

 

 両城と鳥川近くに部隊を3つに分けて陣を敷いた

 

 両軍にらみ合いの中翌日となり、金窪城に北条氏邦が奇襲を仕掛けようとした時

 

「待っていたぜこの時をよ!!」

 

 奇襲を想定していた鈴木孫三郎率いる鉄砲隊による伏兵が奇襲を仕掛けようとした北条氏邦に先制射撃を開始

 

 ここに時間差で別方面から来た北条氏直隊、北条氏規隊が鈴木隊の側面から攻撃しようとしたのを真田隊が更に側面から攻撃を開始

 

 全面対決が始まった

 

 ロンメルは一政に直ぐに鈴木隊を救援するべく鳥川を迂回し、本庄から攻めるように指示

 

 一政8000が北条の退路を絶つように動き始める

 

 ロンメルは神流川を渡り、北条氏直隊の背面より攻撃を開始

 

「どけどけ!! 磨墨様のお通りじゃ!!」

 

「一之太刀……!!」

 

 ロンメルと磨墨が先陣をきり、氏直隊の後方を粉砕

 

「ひ、ひぇぇ!! 妖怪がでたぁ!!」

 

「もう無理じゃ!」

 

「逃げる!!」

 

 北条氏直は現当主北条氏政の長男であり、後継者であったのだが虚弱体質であり、戦場で十全に力を発揮できないのが災いした

 

 混乱する北条氏直隊は脱走者が続出し、それを止めるために前に出た氏直は次の瞬間、磨墨の太刀により切り裂かれていた

 

「ぐは!? ……わ、私のぞ、臓物が腸が……あふれ……て……」

 

 切り裂かれた腹から内臓と血液が大量に噴出し絶命

 

 大将を失った氏直隊は周辺の部隊を巻き込みながら瓦解し、北条氏規隊が巻き込まれた

 

 壊走する味方の波に飲み込まれた氏規も制御不可能となり、僅かな供回りを連れて脱出

 

 そこの窮地を察した氏政隊がロンメル隊の側面から突っ込むが

 

「甘いんだよ」

 

 左恵率いる騎馬隊が神流川を渡り突撃

 

 獅子奮迅の活躍で北条氏政隊を撃退するだけでなく重臣数名が討ち取られる

 

 

 ロンメルはそのまま鈴木孫三郎隊に襲いかかっていた北条氏邦隊に攻撃を開始、同時期に鳥川を渡った一政率いる別動隊が背後より奇襲を開始し、完全に包囲が完成した

 

 北条氏邦は敵中突破による脱出しか生き残る方法は無いと考え、一政隊に襲いかかる

 

 一政隊を突破する頃には30騎程になっていたが、彼らに更なる絶望が待っていた

 

 左恵率いる騎馬隊が更に回り込んでいた

 

 残る30騎も全員討ち取られ、北条氏邦、北条氏照、大道寺政繁の3名が討死、北条下野連合軍4万のうちに3万人が死亡

 

 ロンメルは逃げる北条を激しく追撃し、小田原城まで追い詰めた

 

「小田原城は2万が監視し、残りは支城を全て落とす。別動隊は一政を大将に、忠輝、右恵、鈴川を付ける! まずは下野を落としてこい」

 

「はい!」

 

 別動隊2万5000は下野を約1ヶ月半で陥落させ、武蔵の反抗している国人衆を族滅させ、下総を攻めたりしながら小田原城攻めを継続した

 

 



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関東平定戦

 天正7年(1579年12月)

 

 小田原城を囲んで2ヶ月が経過した

 

 別動隊が下野、下総、上総を平定し、里見攻めを開始

 

 徹底的なゲリラ戦を展開する里見軍に苦戦しながらも忍衆の数で防諜能力も高い東方方面軍は1つ1つの村や拠点を潰していった

 

 この快進撃を見ていた小田家が降伏し、所領安堵及びご子息の人質を条件とした降伏を承諾した

 

 里見さえ潰せれば北条への海上からの兵糧運搬が困難になるため別動隊が鍵になっていたが、超巨大な小田原城にはまだ1万人以上の兵が詰めているので油断はできない

 

 一方できがあんまりよろしくなかったとはいえ嫡子や一門を多数失った当主北条氏政は断固とした徹底抗戦を意気込み、その熱意に動かされた者、冷めた目で見る者と様々であった

 

 ロンメルの方も全部が全部上手く行っていた訳ではない

 

 忍城という武蔵の国にある城攻めに失敗し、神馬慈が負傷して約5000の兵でいまだに落城せずに戦い続けていたり、甲斐にて旧武田残党が蜂起し、城が1つ陥落するという状態が発生し、左恵が反乱鎮圧の為に急遽帰国するということもあった

 

 佐竹も下野に侵攻してきたり、それを上杉の援軍が撃退したりと関東争乱は長期化の様相を呈してきた

 

 ロンメルは一刻も早い織田本隊の援軍要請を信長に送ったが、まだ伊賀平定に時間がかかっており援軍には迎えないとのことだった

 

 ロンメルは落胆したが、徳川が秘密協定を破棄して信長の要請で援軍1万5000を送ってくれる事が決まり、小田原の陣にて徳川家康と面会となった

 

 ただこの時徳川家康から聞いたのは信長が尾張と三河の間にある水野領を邪魔に感じており、ロンメルが関東平定で忙しくなっていた隙をついた形で水野信元に武田残党との繋がりがあるとして切腹をするように処分が言い渡されるという大事件だった

 

 これを小田原の陣で知ったロンメルは信長の行動に激怒し、忍衆を使い水野一族を信濃で匿った

 

 水野一族とロンメルの怪異織田家は婚姻関係であり、ロンメルの娘の小雪の長男を水野の家督を継がせる計画をしていた様だが水野信元は何も罰せられる行動はしておらず冤罪であり、ロンメルは抗議をするために安土城に向かった

 

 

 

 

 

 

 

 

「面を上げよ……久しいなロンメル。数年振りか」

 

「そうですね。数年振りとなりますね」

 

「用件は何だ?」

 

「水野の事でございます。武田に通じている等と言う出任せを使い今まで協力してくれていた水野を切り捨てる行為は義に反します故になぜその様な事をしたのですか!」

 

「尾張本国の安定化の為に極力外部の勢力を廃す必要があった……わかれ」

 

「いや、しかし切腹は納得がいきません。領地替えで済んだハズです」

 

「余の決定に指図するのか」

 

「水野は私の外戚でもあります。信長様にとっても親族でしょう。小雪の息子に引き継がせるのにも時間を掛ければ組み込む事が可能なのになぜ武力のみで行おうとしたのですか!」

 

「ロンメル……もう良い下がれ」

 

「いえ下がりません! 何を信長様をここ数年で変えてしまったのですか!」

 

「ロンメル、余はお前をこれ以上言えば処分しなければならぬ」

 

「何を信長様を変えたのですか……なぜ……」

 

「……変わって等おらぬ……余は天下人、1家臣が天下の政治に口出しするなどと部をわきまえよ! ロンメルこの度は忠言としておくが二度は無いと思え……水野領は三河は徳川へ、尾張は余の直轄地とする」

 

「……はは」

 

「下がれ!」

 

 

 

 

 

 

 

 とぼとぼと変わってしまった信長様に落胆しながら安土城内を歩いていると明智殿と出会った

 

「論目流殿、お久しぶりでございます」

 

「おお! 明智殿もお元気そうで……生食も元気でしょうか」

 

「はい、細川殿や千(利休)殿に茶道や歌道等を教わり文化人の才能も有るようで。勿論武芸も素晴らしいですよ」

 

「元気そうならなによりです。信長様はどうなされたのですか? いつもああいう風になられたのですか?」

 

「ここだけの話、最近の信長様は少し様子がおかしい事がある。どうやら体調が優れないとのことだ。頭痛が増えておりそれで短気だった側面が増長しているご様子……尾張は極力国人衆を排除したいと申しておりましたので、今回の水野氏の切腹もその一貫かと」

 

「信長様の体調が……そうですか……」

 

「論目流殿は体調はお変わり無いですか?」

 

「そうですね……今のところは大丈夫です。毎日体操を良くしているのが効いているのかと」

 

「体操ですか……教わってもよろしくて?」

 

「ええ、明智殿になら是非」

 

 ロンメルはそうか……信長様も体調が優れなくなってきたのかと変わってしまった理由の1つに慢性的な頭痛があるのだとしたら食生活を変えるように進言するべきなのだが、今言っても怒られるだけなので、明智殿に信長様の食事の味付けを少し薄めた方が良いと忠言したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小田原の陣に戻ったロンメルは戦中に陣を離れた事を皆に詫び、徳川殿と軍儀を再開した

 

 といってもロンメルが離れている間に家康殿が中心となり今後の方針が決まっていた

 

 小田原に籠る北条1万に対しては3万5000の徳川、怪異織田家本隊で引き続き包囲し、怪異織田家の鳴海水軍と徳川水軍合同で海も封鎖する

 

 鳴海水軍は信長に叱られてから数年の時間をかけて安宅船10隻、関船150隻、小早船沢山を用意しており、徳川水軍も合わせれば関隻は400隻を超える

 

 ロンメルは水軍のことは専門外なので鈴木や岡部達に任せ、小田原城への大筒200門による砲撃を続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

「堅城小田原はそう簡単に落ちん……武田にも上杉にも落とせなかったこの城を簡単に落とせると思うな妖怪が」

 

 北条氏政は怒り狂っていた

 

 家族愛に溢れる北条にとって息子と上杉景虎も合わせれば兄弟3名をも殺したロンメルの事を許すハズもなかった

 

「しかし殿、敵はこれまでの敵と違い退く気配が全くありません海上を抑えられると兵糧運搬に支障がでます! それこそ石山本願寺と同じ様になるかもしれません」

 

「癪だが里見水軍と連絡を取り、北条水軍と合わせれば500を超える船が集まろう。海上の防御を固めるのだ」

 

「た、大変です!」

 

「なんだ!」

 

「里見氏の本拠地安房国が陥落! 里見水軍は怪異織田家により船を破壊され、主だった将は処刑されたとの事!」

 

「な!? 里見は我が北条でも鎮圧できなかった家だぞ……それをそんな簡単に……」

 

「里見水軍の一部はこちらに逃れてきましたが、その数100もおりません」

 

「そうか……」

 

 北条氏政の苦難は続く

 

 

 

 

 

 

 

 天正8年(1580年6月)

 

 2月の荒れた海にて怪異織田徳川連合水軍と北条水軍による海上にて決戦が行われ双方100隻近くの船を失う壮絶な死闘の末数で勝る怪異織田徳川連合水軍が勝利し、海上封鎖が完了

 

 怪異織田別動隊は上杉と共闘して佐竹も撃破し、支城も抵抗を続けていた忍城も陥落させ、小田原の支城を全て陥落させた

 

 怪異別動隊も本隊に合流し、小田原を包囲する兵数は6万にも登った

 

 夜襲や鉄砲による威嚇射撃、海上からの砲撃を繰り返し、忍衆を使った流言で士気を落とした

 

 先の見えない包囲により城兵は皆疲れきり、内通者や脱出する者が出始め、甲斐の反乱鎮圧から戻った左恵による3の丸奇襲攻撃がトドメとなり内部から火の手が上がった

 

 これが内通者によるものか自暴自棄になった兵によるものか、ただの事故なのかわからないが、その火が小田原の火薬庫に引火し、大爆発を引き起こし、城は大炎上となった

 

 火は5日ほど燃え続け、北条一族や重臣達は自害、門を開き出てくる者は射殺したため殆どの城兵が炎に巻き込まれて焼死し、完全鎮火した10日後に小田原城にロンメルは入った

 

 ロンメル自身も長期の大軍による遠征で軍事費が枯渇してきており後2ヶ月粘られたら撤退するしかなかったのだが何とか北条を滅亡させることに成功した

 

 ロンメルは徳川殿に約束通り伊豆を渡し、ロンメル率いる東方方面軍は関東の大半を手中に納めることとなる



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本能寺の変

 天正8年(1580年7月)

 

 ロンメルは関東平定を完了したことを家臣達や家康と共に信長に報告すると、信長は

 

「で、あるか……良くやった。褒美として関東は任せる。ただ鳴海含め信濃、甲斐と関東8国では流石に多すぎる。よって2年後には鳴海と信濃は没収とし、5年後には甲斐も譲るように……東北の調略を進めながらロンメル、関東の内政に励め。東北は信忠に北伐をさせる」

 

「は!」

 

 現在織田家は伊賀侵攻を成功させ、伊賀の忍衆を織田本家に忠誠を誓わせたり、反抗的な国人衆の国替えを敢行、信長の権力は絶頂期となっていた

 

 織田包囲網が瓦解したことにより毛利も元将軍を追放し、どう和議を結ぶかの段階に入り、四国でも長宗我部元親の快進撃が続いていたが織田にはかなわないと思っており、こちらも従順の姿勢になり始めている

 

 織田勢力が全く届かないのは九州と東北のみであった

 

 ロンメルは関東に戻ると税率は四公六民を引き続き行うとし、楽市令、学校で農業を学んだ者達による農作業の指導、流民の吸収による新村の開発、街道の幅を大幅に広げ、橋を多く作り、馬車技術を民間にも解放し、物流の活性化……そして

 

「江戸開発を行う!」

 

 ロンメルは前の時代に住んでいた巨大な東京の町と同じ位置にある江戸に巨大都市を作る計画を作成し、小田原城を再建しながら堺の町を超える商業都市とするためロンメルが扱える資金を全て投入して内政を行った

 

 信長が貴族の地位を廃すという噂が徐々に広まった事で京を脱出する貴族が多数出たのでその方々を関東に移住してもらい、教職として文化の遅れた関東に文化の伝播を行った

 

 1国10高等学校、2大学を目標とし、寺小屋から高等学校、そして大学の導入を進めた

 

 約30年の蓄積してきた学校運営ノウハウと人員を使い、まず各国に高等学校を設置、場所は城を廃城としたり、大きな寺社の土地の一部を使うことで作り出し、寺社学校、農業高校、漁業学校、畜産学校等の専門学校と総合的に扱う高等学校、高等学校卒業生のみ入学可能な大学を作っていた

 

 久々にロンメルや家臣達は過労死しそうなくらい頑張り、怪異織田家の学校の卒業生を雇いまくり、人員の大規模補充をしたりしていると怪異織田家の家臣の数は2万人の文官、1万5000人の文武両官、2万人の武官、1万人の諜報官の6万5000人の部下を常時雇う体制を作り上げた

 

 そんな改革を実施しているため東北を調略しろと言われても全然手が回らず、東北はほぼ放置となる

 

 が、目敏い者はあちらからやって来てくれるもので、伊達家と最上家がこちらに挨拶に伺い、親族関係で蜘蛛の巣みたいなぐちゃぐちゃな血縁関係になっていた東北の利害調整をこちらに投げて来たのでそれどころじゃないわとロンメルはキレながらも5年以内に臣従か敵対を選択しろ、臣従すれば領土安堵、敵対及び無回答の場合は織田本軍を持って殲滅すると言っておいた

 

 関東争乱により関東全土が疲弊し、改革の真っ最中でロンメルは東北がどう動こうが無視するつもりであった

 

 半乃助達諜報官も近畿、中部、関東の諜報網構築と後進の育成、風魔残党と戦い続けており更なる組織拡張に向けて動いていたのだがこちらもこちらで手が回っていなかったので東北の諜報が上手く機能していなかった

 

 信長様からの命令もあるので攻め込むつもりは無かったが、立派な内政官に成長した利行の計算だと関東の改革完了は10年はかかり、江戸の町に至っては30年はかかるだろうと予想された

 

「とにかく人に職と食と金を与えよ。さすれば命がけの反乱を目論む者も消える。職人を保護し、改革を促し、物流を活性化させれば何とかなる!」

 

 豊かな未来を目指してロンメル達怪異織田家は邁進した

 

 

 

 

 

 天正10年(1582年6月)

 

 信長はその日本能寺にて九州討伐に向かうため安土から出て、京の本能寺にて茶会を開いていた

 

 信忠は二条御所跡地の二条殿にて九州に向けた軍儀を開き、織田家の次世代を担う信忠派と呼ばれる一派と今後の方針の決定を行っていた

 

 中国方面軍の羽柴秀吉率いる羽柴軍は毛利の臣従を完了させ、九州方面軍に改名し、長門に10万の軍勢が集結していた

 

 近畿方面軍の明智光秀は秀吉の援軍に向かうべく5万の大軍で備前を移動中

 

 北陸方面軍の柴田勝家は北陸の内政で精一杯であり、動員をかければ5万が集結可能であった

 

 紀伊に国替えとなった丹羽長秀は紀伊、和泉の2国及び四国監視の任についており動員兵数2万5000人

 

 石山本願寺跡地を改修した大阪城には津田信澄の軍1万が駐屯していた

 

 徳川家康はこの時京観光をしており、本国では優秀な長男信康が三河、遠江、駿河、伊豆4国を統治しており、動員兵数4万人

 

 伊賀の滝川一益常備兵1万(ロンメルの次の信濃国守内定済み)

 

 伊勢の北畠具継……動員兵数3万人

 

 信濃、甲斐、関東8国の相模、武蔵、安房、上総、下総、常陸、上野、下野という莫大な領土を有する怪異織田家、動員兵数10万人

 

 これが主な織田家の布陣であった

 

 尾張や美濃、大和、近江、飛彈、山城、河内、摂津の直轄地からは更に15万人の兵が動員可能であった

 

 ほぼ全ての者がこの時天下は信長の物になると思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜……本能寺の周辺が騒がしくなる

 

「何事だ」

 

 煩い音に信長は近くにいた森蘭丸に声をかける

 

「は、ただいま確認して参りま……うく!?」

 

「蘭丸!?」

 

 蘭丸の肩に深々と矢が刺さる

 

 信長は刀を手に取り障子を破ると周りを兵が囲んでいることに気がついた

 

「誰の兵だ!!」

 

「織田木瓜を確認! 織田家の者による犯行です!!」

 

「で、あるか……信忠であろうな……ははは! 良い男になったではないか! 朝廷廃案に反対しておったからな! 奴の犯行なら納得がいく」

 

「それだけではありません! 明智殿の旗印も確認できております!」

 

「明智……明智だと? 奴は備前にいるハズだ! 違うなんだ? 信忠ではないのか? 誰の軍だこれは!」

 

「信長様お逃げください! 我々が時間を稼ぎます!!」

 

「いや、無理であろう……この兵数に囲まれては無理だ……弥助! 弥助はおるか!」

 

「ハイ、信長サマ」

 

 黒人の家臣弥助を信長は呼び出した

 

「余の首を持ち、ここから脱出せよ。お主の怪力であれば僅かながらに可能性がある」

 

「信長サマ、ボクが盾二ナルノデお逃げクダサイ!」

 

「良い、余は足が最近悪くなってしまい走れん……人生50年……良い夢を見れた……願わくは余の夢が繋がれる事を願う……」

 

 享年47歳……信長本能寺にて散る

 

 一方二条殿でも謎の兵が館を囲もうしていた

 

「信忠様逃げますよ!」

 

「阿久利黒! すまぬ! 安土城に入れば城代の(斎藤)利治殿が居られる。皆の者安土にて落ち合おうぞ!」

 

「妖怪中将阿久利黒参る!!」

 

 館を囲もうとしていた兵を阿久利黒や森長可が暴れまわり血路を開くと馬に乗った信忠達は館から脱出

 

 謎の軍勢から命からがら逃げ延びることに成功した

 

 翌日には安土に到着した信忠は生き延びた家臣や利治等の安土城に詰めていた家臣に命令し、兵を集める準備に入る

 

「あの軍勢はなんだったのだ? なぜ織田木瓜を使用していた? なぜいるハズもない明智の旗印があったのだ?」

 

「忠義に厚い明智殿の犯行とは思えない。明智殿が主犯だった場合京を封鎖しているハズだからこんなに簡単に安土に逃げられるハズがない……父上は!!」

 

「わかりませんが本能寺の方面から火の手が上がっていたのは確かにです」

 

「……くっ! 当主として動くしかあるまい! 利治殿集められる兵数は」

 

「今日だけですと3000、1週間で1万でしょう」

 

「わかった。最悪我が居城岐阜城にまで後退する」

 

「「「は!」」」

 

「阿久利黒、着いて早々悪いが伊賀の滝川一益殿に連絡を取ってくれ、京が何者かに落ちた想定で動く。京を任されていた明智殿が留守の隙を見た犯行だ。明智殿5万をすぐに畿内に戻す必要がある。滝川一益殿に連絡次第丹羽長秀殿、北畠具継にも連絡をして京奪還軍を編成する。良いな」

 

「わかりました」

 

 

 

 



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ロンメルの死

 天正10年(1582年6月)

 

 信長の首は弥助の活躍により京を脱出し、堺の南蛮商人の元に転がり込んだ

 

「おや? 弥助殿! 傷だらけではありませんか」

 

「本能寺ニテ反乱! 信長様自害」

 

「な、なんと! ではその首は信長様のか!?」

 

「ハイ、コノ事実ヲ大阪城ノ斎藤殿二……」

 

 敵中突破した疲労や傷からそう言うと弥助は倒れてしまう

 

「弥助わかった! 誰ぞ大阪城に報告して参れ! 私は堺衆と緊急会合を行う」

 

 まず本能寺の変の情報を得たのは堺衆であった

 

 堺衆はこの情報を高値で翌日長宗我部へ売ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 長宗我部元親は本能寺にて信長が死んだ事を知ると四国統一の為兵を挙げた

 

 讃岐を防衛していた織田家に臣従していた諸大名は蹴散らされ信長の死から僅か2週間による電撃決着で四国が統一された

 

 長宗我部元親の挙兵と同時刻滝川一益の元へも信長の死の情報がもたらされた

 

「丹羽長秀殿、北畠具継と協力して京奪還を開始する安土に向かい信忠様の指揮下に入る。そして京に向けて軍を進める」

 

「それが……信忠様が信長様を討ったという情報も入っていますが」

 

「なに? どういう事だ」

 

「信長様と信忠様は朝廷廃止論で揉めており、信忠様が廃嫡されるという噂もありまして、そうなった場合次男信雄様が家督を継がれまするが」

 

「いや、信雄様に織田家を任せられるとは到底思わん。信忠様ぐらい能力が無ければ膨張した織田家を纏めるのは務まらんだろう。とにかく信忠様の元へ参陣しなければ」

 

 一益は直ぐに兵を纏めると信忠の居る安土城へと向かった

 

 丹羽長秀、北畠具継は滝川一益よりもたらされた信長様の死亡という衝撃的な情報に混乱したが、直ぐに兵を纏め、安土に向けて出陣した

 

 

 

 

 

 

 

 

 堺見物をしていた家康は本能寺にて変が起こり、信長様が無くなった事を南蛮商人から聞くと堺衆の尽力で海路にて三河まで脱出する様に進められた

 

 紀伊を経由し、伊勢で船を降り、そこから陸路で三河を目指す案であり、家康はすぐさまその案を承諾し、船に乗り込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 本能寺の変から3日後、明智光秀の元へ京に残してきた兵から本能寺の変を聞く

 

「な!? 信長様が死んだだと!?」

 

「堺商人が信長様の首を確認しており、確実かと」

 

「直ぐに反転せよ! 京に入る」

 

 明智光秀は軍反転させるとすぐさま京入りを指示

 

 明智軍の動きは素早く本能寺の変から7日後には京に入ることに成功した

 

 明智軍が動き出した2日後北陸の柴田勝家の元へも信長の死が伝わり

 

「の、信長様……」

 

「親父殿泣いている暇はありません! 直ぐに京もしくは安土に向かい信長の敵討ちか信忠様の軍へ合流しなければ当家が疑われるかもしれません」

 

「望月……どちらが良いと思う」

 

「安土の方が近く、行軍に日数はかかりません。先発隊と後発隊に分け先発隊は少数でも素早く信忠様の元へ参陣し、後発隊は兵を集めてから出陣となりますので1週間はかかりますが、1万は集まりましょう。筆頭家老である親父殿が直ぐに信忠様の元へ行くことが大切かと」

 

「よし、わかった! 望月は家に残り赤兎馬(柴田勝家のウマ娘の子)を守れ」

 

「いや、ここは赤兎馬も連れて安土へ行きましょう。旧臣というのは新政権の邪魔になることが多々ありますが、忠誠を再度誓うための人質は必要かと」

 

「赤兎馬を出すというのか! 儂の嫡子ぞ!」

 

「大丈夫です。このお腹に新たな生命が宿っています。次も必ず産みますので安心してください」

 

「新たな生命だと……また孕んだのか」

 

「月ものがここ最近来ていません。抱かれた時期を逆算すれば当たります」

 

「そ、そうか! そうか! ならば望月は北陸に残れ、体を大切にするのだ! 儂と赤兎馬は安土に向かう!」

 

「わかりました。ご無事の帰還をお待ちしております!」

 

「うむ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 北畠具継は本能寺の変が起こったことを知るとすぐに鳴海に早馬を出した

 

 鳴海では織田家へ領地の返却の準備が進められていたが、北畠具継からの情報を鳴海の代官をしていた朝比奈信置が聞くとすぐに小田原にいるロンメルの元へ伝えられた

 

 ロンメルが本能寺の変を知るのは本能寺の変が起こってから10日も経過していた

 

「の、信長様が死んだ……だと!」

 

「本当なのか!?」

 

「はい、ただ京に滞在していた信忠様は脱出に成功し、京奪還のために安土にて兵を集めております」

 

「半乃助!」

 

「もうしばらくお待ちを、こちらには何も情報が入ってきておりません」

 

「ちっ! 安土に兵3000で向かう! 信濃、美濃を通る頃には1万にもなろう! 的場」

 

「へい!」

 

「道中の宿の手配、兵糧の運搬を任せた」

 

「わかりました!」

 

「報告!」

 

「遅いなにをしていた!」

 

 入ってきた忍びに半乃助は怒るが

 

「京にて変化あり、明智光秀京奪還に成功」

 

「的場」

 

「へい!」

 

「信濃や美濃で兵を集めるのは無しだ、早急に安土に向かう」

 

「わかった。やっておく」

 

 ロンメルは涙を流しながら各所へ指示を出した

 

 更に右恵に東北への警戒を強めるように指示を出した

 

 ロンメルは自慢の足で先を進もうとするが

 

 グキ

 

「ぐ!?」

 

 上野を通行中にぎっくり腰になってしまい、馬車での移動となる

 

 ただ、馬車の震動により腰にトドメをさしてしまい走れないほど腰が逝ってしまう

 

 ロンメルはこれ以降走ることは無かった

 

 

 

 

 

 

 

 

 最後に本能寺の変を知ったのは九州方面軍の秀吉であった

 

 明智光秀が京を奪還した日から更に2日後に畿内の情報を知り、軍の大きさ故に動けなく、仕方がなく軍を解散すると3万の羽柴主力のみを率いて山陽を走り抜け本能寺の変から20日後に京へと到着した

 

 

 

 

 

 

 様々な動きがあったが、本能寺の変から1ヶ月後安土城にて緊急の重臣及び一族衆による会議が始まった

 

 場に居るのは一族からは織田信忠、織田信雄、織田信孝、津田信澄の4名、重臣からは柴田勝家、明智光秀、丹羽長秀、滝川一益、羽柴秀吉、北畠具継、池田恒興、中川清秀そしてロンメルの9名

 

 まず席次で北畠具継が家臣の席となっていたことから織田一門ではなく譜代家臣という立場が明確にされ

 

 継承権5位のロンメルの息子一政は部屋に入ることすら許されないという屈辱を味わった

 

 怪異織田家の代表はロンメルが優先された結果なのだが、一政は今回の結果を拗らせることとなる

 

 更にロンメルは腰痛の激痛に耐えながらの会議の為ろくに頭に入らずロンメルは始めに一政との交換を訴えていたのだが却下される

 

 そうした中二条殿会議が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 まず明智光秀の代わりに京の警備責任をしていた林秀貞が警備責任を問われ切腹と決められ、犯行の兵が雑賀衆や伊賀衆の残党であることが判明した

 

「問題は主犯が誰かわからないことだが、雑賀及び伊賀の処置が甘かった丹羽殿と滝川殿にも責任があるのではないか?」

 

 この発言をしたのは信雄であり、誰も思っていても言わなかった地雷を速攻で踏んだ

 

「「誠に面目もございません!」」

 

「丹羽殿と滝川殿は余の身を案じてすぐさま安土に集結したお方故に処罰は考えておらぬ。明智殿、論目流殿犯人に心当たりは?」

 

「は! 公方の関与が確認されておりますので将軍足利義昭の仕業かと思われます」

 

「明智殿の予想はわかった。論目流殿は何かあるか?」

 

「ち、朝廷かと」

 

「朝廷? なぜそう思う」

 

「ま、まず忍びの調べで京にて織田木瓜の旗印を作っているのが判明しております。忍びは信長様が出陣するゆえに旗印を作っていると判断したらしいのですが、それが公家に沢山有ったのか気になったと言っておりました……公方の関与は確かに有ったと思いますが、朝廷不要を唱えた信長様の排除で一番得をしたのは朝廷故に私は……朝廷が怪しいとおもいます」

 

 明智の公方論、ロンメルの朝廷論だけでなく初動が上手すぎた為長宗我部説や伊賀と雑賀の共謀単独説等様々だったが、結論は出ず

 

 家督を引き継いでいた信忠が父の仇かもしれない朝廷とは距離を少し置くことが決まり、領地の再分配が行われた

 

 本能寺の変により九州征伐と東北征伐は延期、北陸は引き続き柴田派が、羽柴派は中国4国、明智光秀は中国と畿内合わせて3国、滝川一益は信濃と甲斐に国替えで空いた伊賀は北畠具継と丹羽長秀の折半となった

 

 ロンメルは関東8国が安堵となり、とりあえずの領地は決まる

 

 ただ信長という強烈なカリスマを失ったことにより徐々に昔の三好政権の様な陰りが見栄始めた

 

 

 

 

 

 

 そして天正11年11月

 

 腰から脚に来たロンメルは全く歩けなくなり、床につく事が多くなっていた

 

 そして嘔吐が多くなり、腹部に激痛を感じていた

 

 自身の体の異常を感じ取ったロンメルは息子や娘、孫達を呼び寄せ

 

「関東開発が終われば蝦夷地を目指せ……蝦夷地の莫大な土地は関東と同じくらいの広さがある。今は誰も価値を気づいていない……一政」

 

「は!」

 

「怪異織田家を頼んだ……兄弟と協力して……天下を目指せ」

 

「「「!?」」」

 

「欲が出た……信忠様が存命中は支え続けよ……信忠様が亡くなればまた天下は荒れるだろう……」

 

「母上? ……母上!!」

 

 ロンメルは腸閉塞による栄養失調によって信長の跡を追うようにこの世を去った

 

 ……享年49歳

 



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蛇足

 ロンメルの死は瞬く間に全国に響き渡った

 

 小妖怪から信長の下で立身出世し、大妖怪として関東8国の主まで成長させたその手腕、数多の合戦での活躍、剣の極地まで至った努力……これ等の功績を称え信忠はロンメルに妖怪総大将の地位が送られた

 

 関東8国は一政が相続した後、弟達や家臣達と分割したが、ロンメル以上、信長とも引けを取らないカリスマ性を持つ一政の下で一致団結し、関東開発事業を引き継ぎ、邁進していくこととなる

 

 

 

 

 

 ロンメルの死から2年後 四国征伐を開始

 

 津田信澄を大将とした討伐軍8万が四国へ上陸し、一気に制圧し、長宗我部は土佐1国を安堵とし、他3国は織田家が接収し、津田信澄、斎藤利治、織田信雄が各々1国を貰う形となる

 

 その翌年には九州征伐が開始され、半年の戦の後に島津が降伏し、旧大友領の大半を羽柴秀吉が引き継ぎ九州探題に就任と九州5ヵ国への加増、元羽柴領は明智が入り、明智領は織田家が接収した

 

 将軍足利義昭は織田家の抵抗を諦め、将軍職を朝廷に返還すると隠居

 

 朝廷より征夷大将軍の任を授けられた信忠は将軍に就任、全国に惣無事令を発表し、争いを禁じた……が、東北の一部が従わなかったことにより東北征伐が開始、伊達と最上が先陣となり後詰めとして怪異織田家、徳川家が続き東北征伐が完了

 

 信長の死から6年で全国が統一された

 

 

 

 

 

 

 

 全国統一から2年後……信忠は心不全の為急死

 

 あまりの急死の為毒殺が疑われ次にまだ幼い三法師の扱いに信雄と信孝どちらが代理当主になるかで大揉め

 

 重臣同士でも意見が別れ大論争から戦へ発展

 

 応仁の乱の様に東西に別れて大戦が始まった

 

 徳川家康と織田一政はこの動きを静観、国力増強と家臣の掌握に力を入れた

 

 5妖怪と呼ばれる織田家重臣や信忠の下にいたウマ娘達が各々自分の主を出世させるため、家を守るために奔走し、中には生食と薄墨の様に戦場で直接対決をすることもあった

 

 畿内は大いに荒れ、四国は津田信澄、斎藤利治、長宗我部元親が共謀して織田信雄を四国から追い出したことで争いは治まるかと思えば丹羽長秀、柴田勝家の病没による後継者問題、九州にて大規模な国人及びキリシタン一揆、東北も最上と伊達の戦争と戦国時代に逆戻り

 

 更に信孝が毒殺されたことで混乱は頂点に達した

 

「……母上、あなたはこの光景を見なくて良かったですよ……これより怪異織田家は天下を取る! 各親族に連絡! 京に挨拶に来なかった者は逆賊として討伐すると」

 

 一政は徳川と伊達と同盟を結ぶと直ぐに上洛を開始した

 

 直ぐに津田信澄、斎藤利治、長宗我部元親、北畠具継、柴田家の望月が掌握していた諸公、上杉景勝が賛同し、明智光秀、羽柴秀吉も停戦して京に向かった

 

 上洛軍は15万を数え3代目将軍三法師に統治能力が無い為将軍職の代行を関東公方織田一政に譲る誓約をし、改めて惣無事令を発布……敵対する諸公を一門だろうが譜代だろうが容赦なく族滅、関東に築いた江戸城を本拠地とし、明智と羽柴の所領を縮小したり、他の家臣も国替えを行い100万石以上の領土を持つのは伊達家、徳川家、柴田家の3家のみとなり、一政の弟に分家を7家(北畠具継も合わせると8家)作らせ50万石クラスの大名にした

 

 信長の死から15年、再び天下は治まった

 

 この後成長した三法師改めて織田秀信が挙兵したがすぐさま鎮圧され、将軍職を一政が引きついた

 

 1600年の時の事である

 

 このため3代目の秀信までを安土幕府、4代目の一政からを江戸幕府と呼ぶ

 

 一政は1640年まで長生きたことで争いは完全に消えていった

 

 一政は武家諸法度や禁中並公家諸法度を作り、1国1城制や4公税率の徹底、尺度の統一、経済の活性化に尽力し、この世を去った

 

 5代目将軍は一政の孫の織田定正が引き継ぎ、正確な日本地図と蝦夷地開拓、大規模な河川の氾濫防止工事等を行った

 

 6代目将軍織田照宗は織田幕府による貨幣製造や樺太の開拓を推奨させ、満州の騎馬民族と激闘を繰り広げた

 

 7代目、8代目は照宗の治世を引き継ぎ外満州を制圧

 

 9代目将軍織田孫一は能力は普通であったが3大家老と呼ばれる平野前恵、斎藤獺祭、服部一益の3名による南方作戦と呼ばれる台湾及びフィリピンを植民地化及び強烈な同化政策を実行し、本国に組み込む

 

 10代目の頃には蒸気船の開発に成功し、東洋の産業革命が起こる

 

 幕府は11代目の織田沙汰の時に大政奉還し、幕府は終わり、西洋改革が始まり近代に移っていく

 

 その後は皆様のご想像にお任せしよう

 

 これにてロンメル第一章天下布武編を終わりとする



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狭間
狭間の空間


「……ここは?」

 

(お目覚めかな?)

 

 ロンメルは真っ白い空間に至た

 

 そして目の前に優雅に紅茶を飲む女性が座っていた

 

「私は死んだハズ……ということは死後の世界というわけか?」

 

(少し違う……まぁそこに座れ)

 

 ロンメルは久しぶりの洋風の椅子に腰をかける

 

 そこで気がつく

 

 あれだけ痛かったハズの腰が全く痛くなく、あれだけ痛かった腹も痛くないのだ

 

「体が軽い……全盛期……いや、更に若くなったみたいだ」

 

(ほれ、鏡)

 

 ロンメルは謎のウマ娘から鏡を渡された

 

「わ、若返ってる! 15……いや、本格化も前の姿かな!?」

 

(そうだね。肉体年齢的には12といったところかな?)

 

「ちなみにあなたは誰ですか?」

 

(おや、失礼、私の名前はエクリプス……君の大先輩に当たるかな)

 

「へぇエクリプス……エクリプス!? イギリスのあの!?」

 

(まぁそれ以外が居るなら知りたいところだけど……さて、ここは狭間の世界と言ってね。特殊なウマ娘だけが入ることが許された世界だ)

 

「狭間の世界」

 

(そう。ここは様々な並行世界とつながる駅と思ってくれるとわかりやすいかな)

 

「なるほど……私はなぜ戦国時代に?」

 

(それは知らないよ。神様でも決めてるんじゃないか? 狭間の世界にこれるのは世界を渡ったウマ娘が死んだ時のみ……ちなみに私以外だとマンノウォーしかこの世界に踏みいった者は見たこと無いけど……まず共通するのは初めの1回目の世界はランダムだ。2つ目の世界はこの部屋にある扉を進んだ先にある。そして3つ目、元の世界に戻るには最低2回は扉を進んだ世界で何かを成さなければならない)

 

「何かを成す」

 

(君が通ってきた扉があるから見ようか)

 

 エクリプスさんは指を振ると白い空間にいきなり扉が現れた

 

【妖怪総大将 戦国を駆けめぐりし者 関東8ヵ国の覇者 ここに眠る】

 

(妖怪の総大将ですって凄い渾名ですね。戦国を駆けたのですか……私も三國志と呼ばれた世界を旅しましたが面白かったですよ。まぁ私はなぜか傾国の美女ならぬ建国の美女って渾名でしたけどね)

 

「ほへぇ中国版戦国時代みたいな感じじゃないですか。逆か中華からしたら日本版戦国時代と写るのかな?」

 

(まぁそこら辺は良いでしょう。元の世界以外は同じ扉をくぐることはできないですからね)

 

 ロンメルはドアノブを回してみるが何も起こらない

 

「本当だ」

 

(さて、ロンメルあなたは選ばれたウマ娘です。異世界で何かを成せばそれがあなたの力となります。技術、知識、知恵、技……時にウマ娘としてのレースに使うか疑問に思う何かも有るでしょう。そういうもの程レースに生きたりするものですよ)

 

 ロンメルの目の前に違う扉が現れた

 

(今あなたが行ける扉は1つの様ですね。どうします? ここの空間は僅かながらの安らぎを与えますが刺激がありません。年も取らず空腹にもならない……この紅茶も私の能力で作り出した物で腹の足しにはなりませんからね)

 

 エクリプスさんはティーカップを指でつつくとティーカップは消えてしまった

 

(ちなみにこの空間では何かを教えても身に付く事はありません。一度マンノウォーと持ちよった技術の交換をしてみようとしたのですがダメでした。どうしてかできないのですよ)

 

「ちなみに今の技術の名前は何て言うんですか?」

 

(これですか? 念ですね……まぁ説明しても身に付かないので無駄なので話しませんが……っと後輩に説明も終えたので私も次の旅に出ましょうかね。なるべく長生きできる世界だと嬉しいけど)

 

「え? もう行くんですか」

 

(何もないってとても退屈なのよ。私は刺激が無いとダメなの……じゃあまた会いましょう後輩ちゃん……ダメだなぁ威厳たっぷりで行こうとしても途中で崩れる……)

 

 ブツブツ言いながらエクリプス先輩は白い空間から消えてしまった

 

 ロンメルは久しぶりの元気な体での睡眠をたっぷり取った後

 

 自身の体を色々探った

 

 白い着物……以上

 

 どうやら生前最後に身に付けていた物を持っていけるらしい

 

「次からリュックサックでも作るか?」

 

 等と考えながらロンメルは目の前の扉に手を掛け、ドアノブを捻った

 

 真っ暗な空間がそこには広がっておりゆっくりと足を進めた



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鬼滅の章
鬼の世


「……ここは?」

 

 山の中それも山頂に近いのだろうか……空気が薄い

 

 ザァァァと雨が降るなかロンメルは山の中を歩いた

 

 とりあえず山頂に向かって歩いた

 

 ……歩くこと30分

 

 着ていた白い着物はびしょ濡れの泥だらけ

 

「これ結構高いんだけどな」

 

 等とブツブツ言いながら歩いていると山小屋を発見した

 

「ごめんください」

 

 ロンメルは山小屋を開け中を覗く

 

 囲炉裏がほのかに暖かい……人の居た痕跡も多くある……つい数時間いや数分までここに誰か居たな

 

 ロンメルはそう考察していると背後に嫌な感覚を覚えた

 

「!?」

 

 ロンメルは素早く避ける

 

 ロンメルが居た場所に刀が通過する

 

 目の前には天狗のお面を被った老人が居た

 

「達人だ……私と同格……いや? あちらが上か?」

 

 ロンメルは着物を瞬時に脱ぎ捨てると剣士の攻撃を避け続ける

 

 山は走り慣れている

 

 伊賀や甲斐、信濃を走り回った私にとってこのくらい等と思っても居られない

 

 まずこの山を私は知らないし雨で視界や音等も分かりにくくなっている

 

 盗人と思われたか? 

 

「待て待て待て、私は戦う気は無い。盗人でもない。迷い人だ……あぁ、耳やしっぽが気になるのか! 私はウマ娘という種族だ。まぁ待て話し合おう」

 

「……」

 

 剣士はいつでも斬り殺せる距離を保ちながらジリジリと距離を詰める

 

「鬼……ではないのか?」

 

「鬼ではない。ウマ娘だ。馬の妖怪と言えば良いか? 人には危害を加えないことを約束する! 怪しいと思えば斬っていただいて結構!」

 

「……入れ、話だけは聞いてやる」

 

 剣士は刀を納めると小屋に向かって歩きだした

 

 背を見せているのに視線を感じる

 

 距離を見誤れば斬り殺されるとわかっているため、ロンメルはゆっくり……ゆっくりと着物を拾い、小屋に入った

 

 

 

 

 

 

 

 

「名はなんと言う」

 

「ロンメル……怪異正八位下蝦夷地守護東狐ロンメル……いや、名字を怪異、名をロンメルとするのが正しいか」

 

「守護だの蝦夷だのいつの時代だ。今は大正だぞ……しかもカタカナも混じっているようだしな」

 

 目の前に座る天狗のお面を被る男性は鱗滝左近次と言うらしい

 

 どうやらこの世界には鬼という人を食らう怪異の者が居るのだとか

 

 鱗滝さんは鬼殺隊という鬼狩りの組織の現役を退き育手として後進を育成する立場なのだとか

 

「なるほど徳川殿が天下を取った世界か。信長様は本能寺にて自害したということは世のことわりがそうなのであろうな」

 

「それを知ってどうする」

 

「いやいや、少し気になったものでね……まぁ私は異世界からの迷い人なのでどうにかして生きたいのですが……ダメでしょうか? できれば鱗滝さんの立派な剣術も学びたいなぁ何て……」

 

「敵かもしれぬし、その様な信念も何もない奴に教えるほど儂は腐ってはおらぬ」

 

「住み込みでも良いので働くので教えてくださいよ」

 

「ダメだ」

 

「むう! ……と、肉体に精神が引っ張られるな。若いのも考えものか?」

 

「剣術は教えれぬが監視する意味でお前はここで暮らして貰わなくては困る。死にたくはないのであろう」

 

「ええ、まぁ」

 

「……鍛えたいのか?」

 

「ええまぁ」

 

「……この小屋より上の山を雨の日以外は使うことを許そう。山を登り、降りるのを繰り返すだけでも鍛練になると思うぞ」

 

「低酸素トレーニングかぁ。前の世界みたいに腰逝って体壊したくないし、この幼い時期にしっかり体作りするのも悪くないか……ちなみに雨の日は?」

 

「組み手ぐらいはしてやる」

 

「わーい!」

 

 こうして鱗滝さんの家にロンメルはお邪魔することとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 匂いでわかった

 

 こやつ……ロンメルが鬼ではないことは

 

 新たな敵対種族の出現や鬼の子供等も考えたがそんな事もなく

 

 儂が作った罠だらけの山を楽しそうに何往復も毎日飽きずにしている

 

 ロンメルは滅多に罠にかからない

 

 儂の様に鼻が良い訳でも目や耳が良い訳でも無い

 

「集中すると世界が透けるですよね……前の世界で会得した一之太刀って言うんですけどね……」ベラベラベラ

 

 奴は呼吸も未熟なのに儂らの一歩先の世界を見ている

 

 だから罠を石から矢や刃物に変え、巧妙にしても全然引っ掛からない

 

 儂が今まで育手で育ててきた子供の中でも才能、既に持っている技術は飛び抜けている

 

 だからこそ惜しい

 

 人ならざる種族なのが本当に惜しい

 

 こやつを剣士として育てればどれ程の鬼を討伐できるか、どれ程の人を助けられるのか……

 

 性格は好奇心旺盛ながら時に老練で腹黒いところもある

 

 それと喋るのが好きだ

 

 異世界とやらの事をベラベラと話す

 

 なぜか知らんが硝石の作り方や火縄銃の打ち方、城攻めの方法なんかはどこで仕入れたか疑いたくなるような話ばかりである

 

 それにウマ娘とやらの仲間は居ないのかと聞くと居ないと断言した

 

 異世界を放浪しているのは自分を含めて3人しか知らず、更に1人としか会った事もないのだとか……

 

 ウマ娘が沢山居た世界の事も聞いた

 

 とても平和で夢や希望の溢れる世界なのだとか

 

 そうなると奴が時折見せる刀を持っていないと起きない体の癖が気になる

 

 奴の言葉を借りるのであれば前の世界なのだろうが、戦国の世だったらしく人を何人も斬り殺していたのだとか

 

 ただそれは自身の快楽や糧ではなく生き残るためにしていたということも理解した

 

 と話す割には奴からは血の匂いが全くしない

 

 だから迷う

 

 儂は迷った挙句親方様に手紙を出すことにした

 

 奴……ロンメルに刀を持たせて良いものかと……呼吸を教えても良いものかと……

 

 未熟な儂をお叱りください親方様

 

 しかし、久方ぶりに才能という輝きを見てしまったのです

 

 富岡も一端の剣士となりましたのでどうかお館様のご意見をお聞かせください

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロンメル、これより木刀の帯刀を許そう」

 

「木刀ですか?」

 

「そうだ。本来であれば刀を渡すのだが信じきれていない故にな」

 

 鱗滝さんと出会って4ヶ月が過ぎた頃いきなりそう言われた

 

 それと同時に呼吸というのもや型を習った

 

 型は見て覚えろ、呼吸はお腹をバンバン叩かれながら違う違うと言われいきなり色々教えてくれ始めた

 

 著しく心肺に負荷をかけ鍛えることで血液の流れや筋力の向上、身体能力の強化、怪我などの止血、回復能力の向上、疲労回復、筋肉の超回復を促し、栄養等を無駄無く取り込む等を行う技法らしい

 

 通常の呼吸と区別するため全集中の呼吸と呼ぶそうだが、ロンメルは新たな技術にワクワクが溢れ出た

 

 なるほどだからこの様な空気の薄い山で全力疾走させるわけだ

 

 受け身の訓練等もしたがそれは互角故にただの組み手となった

 

 そもそも受け身なんかは前の世界で嫌というほどやって来た

 

 やってなかったら死んでいた場面が何回もある

 

 山を何往復もし、素振りをし、その間も特殊な呼吸を続ける

 

 何をするのもその呼吸をすることを徹底する

 

 強い筋肉を作るために

 

 強靭な肉体になるために

 

 びくともしない骨を作るために

 

「楽しい、楽しいなぁ! 沸々と沸いてくる! これが異世界の技術……私の剣術と呼吸が合わされば……いて!」

 

「邪念は捨てろ。集中しすぎると周りが見えなくなるのは悪い癖だぞ」

 

「すみません」

 

 時には滝を登れと言われたり、水と一体化しろと雨で増水した川に叩き込まれたりもした

 

 そんなこんなで鱗滝さんに出会って10ヶ月が過ぎた頃

 

「鱗滝さん誰ですか? 彼と娘さん?」

 

 竈門炭治郎と竈門禰豆子と出会った

 

 

 

 

 

 

 

 不思議な匂いのする人だった

 

 まず第一印象は馬の耳としっぽを付けた金髪の……俺と同じくらいの身長の女の子だった

 

 その人は怪異ロンメルと言い、妖怪なのかと聞いたらウマ娘という種族なのだとか

 

 妖怪ではないのだが妖怪の方が都合の良い時は妖怪であると言い、都合の悪いときはウマ娘だと言う……ちゃっかりしている

 

「炭治郎! 一緒に山を駆けるぞ付いてこい!」

 

「ま、待ってください!」

 

 ロンメルさんはとにかく足が速い

 

 俺が1往復するのに半日かかる山道をロンメルさんは4往復もしている

 

「まぁ種族の違いはあると思うけど慣れれば炭治郎も3往復は行けるって!」

 

 と軽い感じで言うが滅茶苦茶だ! 

 

 更に言うならロンメルさんは木刀を持ちながら走るのに俺は何も持たずに走ってるに追い付けない

 

 もう毎日ヘトヘトのクタクタになるが、ロンメルさんは俺が疲れて眠った後も木刀の素振りを続けている

 

 それでいて俺より早く起きて朝飯を作ってくれている

 

 本当にありがたい

 

 ……鱗滝さんから剣術を教わりながらロンメルさんに

 

「ロンメルさんも鬼殺隊を目指すのですか?」

 

 と聞いたら

 

「鬼殺隊にそもそもなれるか怪しい……私下手したら鬼と思われるかもしれないし……」

 

 とのこと

 

 じゃあなぜ鍛えるのか聞いたら

 

「自身の体が育つのが、呼吸という技法を身に付けるのが楽しくてしょうがない……それと身を守るために鍛えておいて損は無いでしょ」

 

 だと……鱗滝さん曰くだから刀を持たせない

 

 今のところ鬼殺隊に入れる予定も無いんだそうだ

 

 俺は少し勿体ないと思った

 

 それだけの力があればどれだけ人を助けることが出きるのではないかと

 

「炭治郎、私はこの世界の人ではないから家族や友人、守るべき者が居ないんだ。前の世界では子供が居たし、守りたいって思った人が居たから死ぬ気で頑張った……だけどね、その人はもう居ないんだよ炭治郎……この世にはね……」

 

 ロンメルさんは泣きながらそう話した

 

 申し訳なくなった

 

 それからも鱗滝さんに俺とロンメルさんは教わり続ける

 

 ロンメルさんは相変わらず木刀なのに俺は刀を持たされた

 

 ロンメルさんが全集中の呼吸を常時する中、俺は使う時に絞るしかできなかった

 

 ただ常時する努力は続けた

 

 ……俺がこの山に来て1年が経った時鱗滝さんからこう言われた

 

「ロンメル、炭治郎……お前達に教えることはもうない。後はお前さんらが儂の教えたことを昇華できるかだ」

 

 と言われた



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最終選別

「炭治郎はこの岩を斬れたら最終選別に行くことを許可する」

 

 目の前には人よりも大きな岩が炭治郎の前に鎮座していた

 

「ロンメル……話がある。着いてこい」

 

 炭治郎は鱗滝さんに待って貰うように叫ぶが鱗滝さんは振り返ること無く歩いて行ってしまった

 

 ロンメルはすぐに鱗滝さんの後を追った

 

 

 

 

 

 鱗滝さんは炭治郎よりも2倍程大きな岩に腰をかけた

 

「座れ」

 

 鱗滝さんは私を座らせた

 

「儂は正直お主を鬼殺隊に推薦したいと思っておる」

 

「それはそれは……」

 

「鬼殺隊は多かれ少なかれ鬼に恨みを持った集団だ。純粋な剣術のみを求めて入るような組織ではない」

 

「……」

 

「ただロンメルお前さん人が好きだろ……仲の良かった者、家族、血縁者……民が好きだろ」

 

「……わかりますか」

 

「1年半近く共にすればわかる……お前さんなら木刀でもこの岩を斬ることはできるだろう」

 

「まぁやろうと思えばできますが」

 

「……儂が教えた十の型は覚えたな」

 

「はい」

 

「正直に話そう。今の世は表向き争いの無い平和な世の中だ。それ故にお前さんの耳としっぽは目立つ……警察や憲兵に捕まれば人体実験の材料にされるだろう……歯向かえば国賊だ。だから儂はお主が生きるために鬼殺隊に入ることを強く薦めることにした」

 

「おお、あれだけ悩んで居たのによくその結論に至りましたね」

 

「あぁ、儂もこの考えに至るとは思っていなかった。ただ、鬼殺隊に入れば更なる剣術を学べるのもしかりだ。更なる剣術は確実に学べる……が、お前さんの好奇心が鬼にならないか不安でならない」

 

「鬼に……ですか?」

 

「あぁ、鬼となれば更なる妖術……血鬼術という技を身に付けることができてしまう。人の肉体を超越しているため力も上がる。傷も瞬時に治る……その魅力に取り憑かれてしまわないか心配でならない」

 

「過去に居たのですか? 鬼殺隊を裏切った者が」

 

「居たという記録は無いが居ないとも言いきれん。それだけの行為だ記録が消されている可能性が高い。鬼殺隊は平安から続く組織故に長い歴史の中で裏切り者がいた可能性は捨てきれん」

 

「なるほどなるほど。ちなみに鬼はどうやって倒すのですか?」

 

「日光に当てるか特殊な鉄で作った武器で首を切断することで倒すことができる」

 

「竈門禰豆子は鬼ですよね? なぜ殺さないのですか?」

 

「あれは特殊と判断した。奴が他の鬼と同じ人を食らう鬼であったのならばこの鱗滝左近次責任を持って腹を斬る」

 

「なるほどなるほど……ならば」

 

 スパンと木刀で大岩を真っ二つにする

 

「私は人を守るために鬼を倒そう。強くなるために鬼を倒そう。生きるために鬼を倒そう……3つも理由が有れば十分だ」

 

「よし、お主にこのお面と儂のお古だが日輪刀をやる……最終選別を必ず生きて戻ってこい」

 

「わかりました……ありがとうございます」

 

 ロンメルは青く光る刀……日輪刀と狐の厄除の面を貰い最終選別の行われる藤襲山へ旅に出た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは翌日には藤襲山に到着する

 

 そこは藤の花が季節外れにも関わらず咲き誇っていた

 

「天ぷら……ジャム……蜂蜜漬け……」

 

 なんて呑気な事を口ずさみながら階段を登りきると白髪と黒髪のおかっぱの男か女かわからない子供が待っていた

 

「ロンメル様お待ちしておりました。鱗滝左近次様より話は聞いております。少々季節が違いますが他の隊員候補の皆さんと同じ場で最終選別を行うと混乱が生じると思い特例処置とさせていただきます」

 

「本来であれば他の隊員と協力も行わせるために約20から50名程で最終選別を行うのですが、今回はお一人で最終選別を受けて貰います」

 

「鬼が嫌がる藤の花はここより先には咲いておりませんから鬼どもがおります。この中で7日間生き延びてください」

 

「それが最終選別の合格条件でございます……では行ってらっしゃいませ」

 

 ロンメルはおかっぱ2人に一礼すると山の奥に歩いて進んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヒッヒッヒッ久方ぶりの人肉……は? お前鬼か? いや、鬼ではないよな! 異形か! こりゃ旨そうだ」

 

「失礼あなたは鬼でしょうか」

 

「見ればわかるだろ! さっさと食われて死ねぇ!!」

 

 ロンメルは鬼の首を掴み握力と腕力にものを言わせてネジ斬る

 

 空中に頭を投げ、鬼の体を踏みつけると瞬時に四肢を日輪刀で斬りさく

 

「は?」

 

「本当に首だけになっても生きているのですね! いやぁ鬼らしい鬼にであったのが今回が初めてなので色々実験してみたくてね……藤の花が嫌いと聞きましたがどれくらい嫌いなのでしょう」

 

 ロンメルは懐に忍ばせていた藤の花を取り出して鬼の鼻に押し付ける

 

「ぎやぁぁぁ!! やめろ痛い痛い痛い!」

 

「痛いのですか! なるほど! 次はっともう腕が生え始めてますね! 頭からも体からも腕や足が生えてくるとは面白い……ですが何回斬り裂いても生えるのでしょうかね!」

 

「ひ、ひぃ! き、気違いかよ! やめろ! 悪かったやめてくれ……一思いに殺してくれぇ!! ギャァァァ!!」

 

 ロンメルはこの場で思い付く限りの拷問もとい実験を繰り返した

 

 悲鳴に釣られて鬼がやって来るが最初の鬼以外はすぐに首を落として殺害する

 

「なるほどなるほど! 首を斬ると砂や塵のように崩れるのですね……着ていた服は暖を取る時に使いましょう!」

 

「ごろ……しで……ご……ろしで」

 

「駄目ですよあなたは最後に日光に当たるとどうなるかの実験をしなければならないのでそれまで生きてくださいね」

 

 戦国時代を生き抜き、一向宗や敵兵を殲滅してきたロンメルに敵に対しての慈悲は一切無かった

 

 山の一角の木を切り払い、朝日に当てると鬼は

 

「ギャァァァ! 焼ける熱い熱い熱……」

 

 燃えて消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 7日間で30は鬼を斬り殺したがあることが解った

 

 それはそれは女の鬼の人体を分解していた時に女の鬼が

 

「ひ、人を食らった数が多い鬼ほど力が強い! そして鬼は群れない! あのお方が群れるのを禁じているからだ」

 

「あのお方とは? 鬼にも大将がいるのですか?」

 

「いる! あのお方から血を分け与えられると人から鬼に変わる! ……だからもう切り刻まないで……」

 

「さすがに食べたりはしないけど私は知識が足りないんだ。鬼の大将の名前は……確か……鬼舞辻無惨だったかな? ……ん? 何か鬼は鬼舞辻無惨の名前を言ってはいけないんだっけ?」

 

「そ、それは……」

 

「丸太と岩で擂り潰されるか鬼舞辻無惨の名前を言うかどっちが良い?」

 

 ロンメルの底知れない威圧感に鬼は顔面蒼白となり、涙を流しながらそれだけはおやめくださいと懇願する

 

「そうか、言わないか……なら挽き肉の刑だね」

 

 ロンメルは達磨にした鬼を丸太と岩で刷りおらしていく

 

「ギィヤァァァァ!!」

 

 結局その鬼は鬼舞辻無惨の名前を言わずに5時間にも及ぶ拷問の末に日の光を浴びて亡くなった

 

「ふむ……まぁボチボチか。しっかし私も残虐になった物だ。平和ボケしていた頃と比べるとずいぶん酷くなったな」

 

 もうかれこれ35年、ウマ娘の世界も合わせると50年

 

 現在肉体は13歳くらいではあるが、過酷な環境にドップリ浸かったロンメルは自身の持つ武力の才を精神力で押し止めていたが、一度理性のタガが外れると利の為にどこまでも残虐的になれる素質を持っていた

 

 持っていたからこそ戦国の世を渡りきったのであるが……

 

「鱗滝さんは私のこの残虐性にも気がついていたからギリギリまで木刀を渡していたのかな? まぁこれで試験は合格かな?」

 

 7日目の朝日を体一杯に浴びながらロンメルはそう呟いた

 

 

 

 

 

 

 

「お帰りなさいませ」

 

「そしておめでとうございます。ご無事で何よりでございます」

 

 白黒のおかっぱ2人が藤の花が咲く山の出入り口で待っていてくれた

 

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後階級を刻ませて貰います」

 

「階級は甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸となっており、現在の皆様の階級は一番下の癸でございます」

 

「階級が上がると何か違うの?」

 

「まず賃金が違います。階級に見合った賃金をお出し致します。乙の階級ともなれば家族をなに不自由なく暮らせる程にはお金を出しましょう」

 

「鱗滝さんから聞いたんだけど更に上の柱って階級はどうなの?」

 

「柱は各隊員を纏める者で階級を甲まで上げた者が十二鬼月の誰かを倒す。又は50体もの鬼を倒すとなることを許されます」

 

「柱になると良識の範囲で賃金は望んだ分が貰え、屋敷も望めば与えられます」

 

「ただし定員が9名と決まっているので現在柱になるには欠員が出るのを待つしかありません」

 

「なるほどなるほど……ありがとうございます」

 

「では玉鋼を選んでいただき、刀が出きるまで十日から十五日はお休みとなります」

 

「更に今からは鎹鴉をつけさせていただきます」

 

 カーカーと鴉が1羽飛んできてロンメルの肩に止まる

 

 首もとを指で撫でると気持ち良さそうにしている

 

「鎹鴉は連絡用の鴉でございます」

 

「喋れるように躾されており、時にはロンメル様の目として活躍されることでしょう」

 

「なるほどなるほど……」

 

「ではまずあちらから刀を作る鋼を選んでくださいませ」

 

 そこにはテーブルの上に無造作に置かれた30個ほどの玉鋼が転がっていた

 

「鬼を滅殺し、己の身を守る刀の鋼は御自身で選ぶのです」

 

 ロンメルは前に出て玉鋼を1つ選んだ

 

 それは鋼なのに熱く部分によっては冷たい不思議な金属であった

 

 

 

 

 

 

 

 隊服の寸法を測り終えると

 

「ロンメル様は1度鬼殺隊本部の産屋敷邸に来ていただきお館様にお目通りをお願いします」

 

「刀と隊服が出来上がってから鎹鴉を通じて案内致しますのでご安心ください」

 

 と言われた

 

 まぁこの容姿であるので興味が有るのかそれとも他に理由が有るのか……

 

 ロンメルは了承すると藤襲山を下山し鱗滝さんや炭治郎の居る狭霧山に戻るのだった



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日輪刀

「よく戻ってきた」

 

 ロンメルが狭霧山に戻ると鱗滝さんが出迎えてくれた

 

「炭治郎は?」

 

「あやつは未だに岩を斬る為に悩んでおる。今日も岩の前に居るだろう」

 

 鱗滝さんに会った私は鱗滝さんの刀を返した

 

「刀ありがとうございました。30ほど鬼を斬り殺したのに切れ味が全然落ちなくて驚きました……しかも刀を納刀するとうっすら水っけがつくのにも驚きました……世が世なら名刀いや、大業物とでも良いでしょうか。そんな刀をありがとうございます」

 

「鬼殺隊の日輪刀の技術は平安から受け継がれてきた物だ。普通の刀とは違う……ただ、これでも少し衰退してしまっても居る。最盛期の安土桃山時代と比べるとやや劣るとされておる」

 

「これ程の名刀でも劣ると」

 

「ああ。……だが、一度刀鍛冶の里に行ってみると良い。その蓄積された技術は量産品しか造らなくなった表の鍛冶屋とは一線を画す」

 

「それは是非とも行ってみたいですね……」

 

 ロンメルは鬼と対話して鬼舞辻無惨の名前を鬼達が生命の危機にも関わらず絶対に言わなかった事を鱗滝さんに話した

 

「鬼達は鬼舞辻無惨の名を口にすると呪いが発動し、殺される。鬼舞辻無惨による呪いは鬼の再生能力を奪い、そのまま再生することなく朽ち果てる……そんな呪いだ」

 

「私より無惨の方が怖いと思われたのかもしれませんが、いやなかなか……恐怖の上書きも難しい」

 

「あまり鬼を虐めるな。その油断が命取りといつかなるぞ」

 

「私だってそこまで馬鹿ではありませんよ。ただ鬼からの情報と確認作業は必要だったのでしたまでであって……」

 

「まぁ良い、食事しながらでも話をしっかり聞こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルが夕食の準備を鱗滝さんとしているとボロボロの炭治郎が山から降りてきた

 

「あ! ロンメルさん! ご無事で!」

 

「うん! 最終選別に合格してきた!」

 

「おめでとうございます!」

 

「ありがとう炭治郎……おお、見違えるほど体が出来上がってきたね。肺や心臓も大きくなってる……全集中の呼吸も形になってきたかな」

 

「肺や心臓もわかるのですか!」

 

「あぁ、私は集中すると世界が透けて見えるからね……うん、良い肉付きだ」

 

「俺の鼻みたいな感じでしょうか」

 

「炭治郎は鼻が良いからね……一之太刀は言葉で教えるものでも無いし……とりあえず私がここを発つまでに組み手をずっとやろうか」

 

「は、はい!」

 

 ロンメルはその翌日から炭治郎に木刀で稽古をつけた

 

 炭治郎はロンメルに紹介したい人が居ると言われて炭治郎が特訓している大岩の前にやって来て

 

「錆兎! 真菰居るんだろ! 話していたロンメルさんが帰ってきたんだ!」

 

 と叫んだが一向に現れない

 

 翌日も翌々日も、炭治郎が話す少年と少女は現れなかった

 

 

 

 

 

 

 

 凄い……錆兎よりも圧倒的に剣速が速い……こっちは真剣なのにロンメルさんは木刀……呼吸も一切乱れない! 

 

 炭治郎はロンメルとの稽古でロンメルの技量の高さを改めて感じていた

 

 構えた瞬間に放たれる威圧感……本気の殺気を当てられると俺は一歩も動くことができなかった

 

 地面が抉れるほどの踏み込み、そこから繰り出される一撃を首もとで寸止めされされて始めてそこに木刀があることに気がつく

 

 俺とロンメルさんの間には20歩ほどの間が合ったハズだ

 

 それを一瞬で詰めて技でも何でもないただの1振りを繰り出す

 

 死を覚悟するには十分すぎた

 

 走馬灯すら見えた

 

「一之太刀……見えたかな」

 

 ハッとした

 

 ロンメルさんが木刀を下ろすと同時に汗が吹き出る

 

「私はこの一之太刀を実際に見て、理解して、実戦を得て約10年の年月をかけて会得した……一之太刀、それ即ち視ることなり」

 

 俺は一之太刀に圧倒されて腰が抜けてしまった

 

 無駄という無駄を全て省かれ、後から来るその衝撃

 

 首が繋がっているのが不思議でならない

 

「ま、参りました」

 

「今日から私がここを発つまで何度も一之太刀を炭治郎に繰り出す。何かを掴めれば幸い」

 

「お、お手柔らかにお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 水の入った壺を背中に乗せて指立伏せをしていると

 

 僧侶みたいな格好をした男性が山を登ってきた

 

「あのー、狭霧山はこちらでしょうか?」

 

「はい、ここが狭霧山です」

 

「壺を背負って指立伏せ……キツくないのですか?」

 

「キツイですよ……これで2000終わり!」

 

「あ、そうそうロンメルさんこれ、貴方の刀です。お受け取りください」

 

「……あのーお名前伺ってもよろしいですか?」

 

「鋼崎です」

 

「鋼崎さんは私の容姿を見てもなんとも思わないのですか?」

 

 とロンメルが鋼崎の方を見るとひょっとこのお面が目の前に居た

 

 え? なんだこいつ……今まで見てなかったけど鱗滝さんといいこの人といいお面つけるの流行ってるのか? 

 

 等と思いながらもロンメルの言葉に鋼崎はこう答えた

 

「異形の者とは聞いていました。私は気にしません。私はただただ良い刀を打つのみ……使い手にはこだわりません」

 

「あー、なるほどそういう人かぁ」

 

 良くも悪くもこの人は職人だ

 

 ロンメルは鱗滝さんの小屋に鋼崎さんを案内し、刀を渡される

 

 色変わりの刀

 

 日輪刀の別言い方であり、持ち主の資質に合わせた色に変わる不思議な刀

 

 持ち主の練度によりその色の濃さ、深み等が変わってくる

 

 濃いほど熟練とも言えるらしい

 

 基本は育手の呼吸(鱗滝さんは水の呼吸使いなので普通ならロンメルも青色に変わると思われる)と同じ色になりやすいが、素質が違っていた場合は別の色にもなったりするそうな

 

 ロンメルが刀を抜刀すると柄の方から色が変わり始め

 

 青、紫、赤と3色に変わった

 

「おお! 色が分離しているのは始めて見た」

 

「深い青から深紅のごとき赤に変わり、真ん中は藤の様な紫とは……見事な」

 

 上が鋼崎さん、下が鱗滝さんの発言であり、その刀の綺麗さにロンメルは惚れ込んだ

 

 刀身は持ち手の方が冷たく、柄の先に行くほど暖かい

 

「炎の呼吸の適正も有ると見た……いやしかし見事だロンメル」

 

「ありがとうございます」

 

「ロンメルさん、刀は大切に扱ってください。大切に扱った上で折れたので有れば私の腕が悪かった。ただ大切に扱わないで折れた場合は私は二度と刀を造りませんのでよろしくお願いします」

 

「わかりました。この刀大切に扱わせて貰います」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鋼崎さんが帰った後直ぐに鎹鴉がやって来て

 

「北北東! 北北東、産屋敷邸二向ウ!」

 

 と言われたので修行で出掛けている炭治郎によろしくお願いしますと鱗滝さんにお願いし、ロンメルは産屋敷邸に向かった

 

 途中隠と呼ばれる黒い服を着た者と出会った

 

「お、おお、本当だ。馬の耳と尻尾が生えてる……本当に鬼じゃないんだな」

 

「はい、ご苦労様です」

 

 隠の者は最終選別には行けないと思ったり、最終選別で心が折れてしまったり、怪我で隊員としてはもう活動できない者が鬼殺隊をサポートするために活動しているのだとか

 

「ロンメル殿は普通にご飯を食べるんだな」

 

「ええ、食べますが?」

 

「いや、やっぱり異形の者だから食べる物も違うのかと」

 

「ウマ娘って種族なんですけど、私は異世界より渡って来た者で、生活するためにも鬼殺隊に入らなければいけなかったので……耳や尻尾がありますが人とほぼ同じ作りをしていますよ」

 

「じゃあ何が違うんだ?」

 

「一番の違いは筋肉の質……密度が違います。人よりも発達した筋肉を持っていますので人よりも怪力であり、持久力、瞬発力もある。また耳が発達しているので遠くの音を聞くこともできますよ」

 

「なるほどな……魚焼けたぞ」

 

「いただきます」

 

 隠の者と2日間案内され、別の鎹鴉がやって来て更に3日、また別の鎹鴉が来て2日ほど歩くと集落が見えた

 

「なるほどなるほど……鬼に察知されないように……まだ私も信用されてないのか道を覚えさせないように回り道、遠回りを幾つもさせられたか……さて、どんな話をするのでしょうね……」

 

 ロンメル産屋敷邸に到着



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産屋敷邸

 私は里の前に居た隠の人の案内で産屋敷邸の敷地に入ると殺気を感じた

 

「人の気配は君を除いて庭に9つ、殺気に溢れているのは7つか」

 

「わ、わかるのですか!」

 

「これでも一端の剣士だからね……屋敷の中にはもう少し居るけど彼らには殺気は無いようですね」

 

 ロンメルは砂利の敷き詰められた庭に足を踏み入れた

 

「枯山水とは見事な……さて、庭に見とれるのは良いけど殺気を納めてはくれないかい」

 

「馬の耳に尻尾……お前鬼だよな? 派手に殺してやるからな! それはもう派手に」

 

「いや待て日光に浴びながら消滅していないから本当に鬼なのか?」

 

「うむ! 鬼にしろ妖怪にしろ人に危害を加えるのなら滅するのみ!」

 

「あぁ、なんとも可哀想な子供だろうか……」

 

「あの~お館様が来てから判断した方がよろしいのじゃないですか?」

 

 殺気から困惑に変わる

 

 ロンメルを見て鬼と判断する者、日光を浴びても消滅しないことから鬼ではないのではないかと思う者、そもそも鬼ではなく妖怪の類だと思う者それぞれであった

 

「9名ということは柱と呼ばれる人達ですね……なるほどなるほど……凄い練度だ。筋肉は膨れ上がり、呼吸の乱れもない、常に全集中の呼吸をし、肺や心臓は普通の人の倍以上に大きい……特に目が見えてないそこのお方……あなたほどの剣士を私は1人しか見たことがない」

 

 ロンメルは腰から鞘に納まった刀を地面に置き争う気はないとアピールした

 

「鬼殺隊は隊員同士の斬り合いはご法度と聞いていたが違うのでしょうか? ……まぁ良いでしょう……」

 

 ロンメルは砂利の上に正座する

 

「質問は幾らでも受けよう。ただ不思議な感覚の人がやって来る……お館様という方じゃないか?」

 

 ロンメルはそのまま頭を下げた

 

 それを見ていた柱達は屋敷の方を見るとちょうど襖が開く音がした

 

 柱達も跪いた

 

「お館様の御成りです!」

 

「よく来たね……私の可愛い剣士達。お早う皆、今日はとても良い天気だね……うっすらとだけど空が見える。今日も空は青いようだね」

 

「時透無一郎君は始めての柱合会議、他の皆の顔ぶれも変わらず私は嬉しく思うよ」

 

「お館様におかれましても御壮健でなによりでございます。益々の御多幸を切にお祈り申し上げます!」

 

「ありがとう杏寿郎」

 

「恐れながら柱合会議の前にこのロンメルなる異形な者の隊士についてご説明いただきたく存じますがよろしいでしょうか!!」

 

「そうだね。驚かせてしまって申し訳ない……彼女は私が容認した人間だ。鬼でも何でもないよ。ただ足の速く、力の強い人だ」

 

「しかしお館様! 馬の耳や尻尾の付いた人間など聞いたこともございません。妖怪の類だとしても人に害する可能性があるのであれば殺すべきです!」

 

「そうだね実弥、でも人を害すると誰が決めたのかな? 人だって過ちを犯す人もいる。犯したことの無い彼女を容姿だけで決めるのは良くない」

 

「発言の許可を」

 

「なんだい? ロンメル」

 

「私は鬼に対して恨み等は無いですが人に対しては友だと思っています。私は異世界より来た為に誤解をされがちですが、私も人類であります。人が人を守って何が悪いのでしょうか? ……私は生きるために刀を振るいましょう。人を守る為に刀を振るいましょう」

 

「それで良いと私は思うよ。柱の皆はどうかな?」

 

「信用しかねます」

 

 全身に傷だらけの男と炎の様な髪をした男、目が見えない男の3名が明確に反対、派手に派手にとうるさい男とロンメルよりも小さい男、蛇みたいな男と女性2人は中立

 

「俺は賛成だ」

 

「ちょ! 富岡さん!?」

 

 半々羽織を着た男性は賛成した

 

「お館様の意見に反対するのは如何なものか」

 

「富岡! お前!」

 

「お前達と違う」

 

「はぁ!?」

 

 傷だらけの男と富岡と呼ばれた男が一触即発の状態になるがお館様がしぃーと人差し指を口につけると直ぐに納まった

 

 この忠誠心、統率力は流石である

 

 信長様は力と行動力、武力と持ち前のカリスマで家臣を統率していたが、目の前の方は言葉と雰囲気で皆を従えている

 

「なるほどなるほど、私はどうやら主君には恵まれているようだ」

 

「馬女! 無駄口を開くな!」

 

「良いんだ天元……ロンメル、君はまだ実績が無い。皆に認められるような実績が。まずは十二鬼月を倒しなさい。瞳に数字が刻まれた強い鬼だ。ここに居る柱はその十二鬼月を倒した者もいる猛者達だ。十二鬼月を倒せば皆も認めるだろう」

 

「わかりました。倒させていただきます」

 

「じゃあロンメルは下がって良いよ。任務に励むんだ」

 

「は!」

 

 ロンメルは屋敷から出ていった

 

 柱達は納得した者、納得しなかった者と様々だがとりあえずロンメルの動向に注視するに留めた

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルはその日から直ぐ様行動を開始した

 

 全集中の呼吸を常に行うことにより爆発的に増えたスタミナで関西から関東、東北、北海道と走り回り、小物の鬼を斬りまくった

 

 その数は1ヶ月で60を超え、東北に至っては鬼の活動が数日間沈静化するほどだった

 

 ただどれもこれも人を1人や2人食っただけの小物であり。血鬼術という妖術を使う鬼と出会ったのはロンメルが北海道に遊泳した時であった

 

 一目につくわけにはいけないのと鍛練のために津軽海峡線を泳いで渡り、北海道に到達してからこの様な噂を聞いた

 

 人食い熊が出てとある村が壊滅したらしいと

 

 ロンメルは直ぐに村についての情報を集めると次の様な事がわかった

 

 約30名程の村だったらしいが郵便屋が村人が食い散らかされているのを発見し、軍に報告

 

 遺体の人数の多さから複数の熊に襲われたと思うが、村人全滅というのは聞いたことが無く、体は殆ど残っていないが大半であった

 

 深夜に襲われたらしく寝室が血だらけになっていた

 

 とのことだった

 

「臭いな」

 

 ロンメルはその話がまだ2週間も経過していないこと、鬼で有ればそろそろ次の獲物を求めて行動する頃だと判断し、人口の少ない近くの村をピックアップし、鎹鴉に協力して貰い2つの村を監視した

 

 深夜となり、ロンメルは村に異変が無いことを確認すると鎹鴉の監視する村の方に走った

 

「鬼! 鬼! 発見! 発見!」

 

 ロンメルは鎹鴉の指示に従い鬼が居場所に向かうとそこで人を貪っている男が居た

 

「ん? なんだお前は」

 

「鬼狩りですよ。貴方が隣の村を壊滅させた鬼でしょうか?」

 

「あ、ああ! あいつらは病気の俺を殺そうとした! 移るからと隔離した! だから鬼になって復讐してやったんだ! 旨かったぜ……人の肉があれ程旨いとは思わなかった」

 

「30人も食べたのですか」

 

「正確には34人だがな……ちょうど今食べた男で35人だ」

 

「うーん、糧を得るために人を殺すことを咎めるところでしょうが、私も動物を食べますので命を食べること事態を悪いとは言えませんが……私も生きるために鬼を狩っているのでお互い様ですね」

 

「なんだ! やる気か! ……ギャハハ馬の耳に尻尾が生えてやがる! お前も俺と同じような化物じゃないか!! 人でこれだけ旨いんだから人外は更に旨いんだろうな!!」

 

「水の呼吸漆ノ型 雫波紋突き」

 

「ぐぎゃぁ!?」

 

 ロンメルの高速突きにより鬼は胴体を串刺しにする

 

「陸ノ型 ねじれ渦」

 

 そこから体を引き裂きながら2回転で首を落とす

 

「おおお!? さ、再生しない!? か、体が崩れる」

 

「じゃあね鬼さん……地獄に落ちろ」

 

 ロンメルは崩れかけた鬼の頭を踏み潰した

 

「……ここにいるのも不味いですね……行きますか」

 

 人食い熊の噂は直ぐに消えていった

 

 痛ましい事件として記録には残ったが、全滅してしまったことにより語り手がおらず記憶からは直ぐに消えていった

 

 ロンメルは北海道を拠点に鬼を斬る

 

 同時に北海道の大自然で鍛練を続ける



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血鬼術 継子

 血鬼術……それは鬼が使う妖術である

 

 その効果は様々であり、幻術を見せる者、血を変化させるもの、冷気を操る、身体的変化をもたらす、物質を生み出す等様々である

 

 ロンメルは初めてそんな鬼と遭遇していた

 

「ぜはぁーぜはぁー」

 

「鬼の癖に息が上がってるけど大丈夫?」

 

「う、煩いこの化物め!!」

 

 

 

 

 

 

 

 その鬼は貧しい屯田兵の娘であった

 

 武士だった父親に連れられて開拓の村に来たが、作物の育ちが悪く、飢餓状態に村全体が陥っていた

 

 娘は生きるために努力をしたが、ばったりばったりと栄養失調で村人達が亡くなるのを見て次は自分かと思った時……神に出会った

 

「娘……生きたいのか」

 

 頭に指を突っ込まれ、血液を注入された娘は鬼となった

 

 娘は死体を貪りながら力をつけると植物を操る血鬼術を会得し、村は飢餓から救われた

 

 飢餓では無くなったということは同時に娘の食べる物が無くなる事を意味していた

 

 食べる物が無くなり飢餓状態になった娘は家族を食べた

 

 そのまま村から逃亡し、山奥で動物を糧にしながらひっそりと暮らしていた

 

 たまにやって来る人間も食べ十数年、娘は立派な鬼となっていた

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどなるほど、血鬼術とはこの様な物なのですね」

 

 ロンメルは次々に生えてくる木々や蔓等を躱したり切り裂き、鬼をロックオンしていた

 

 鬼はロンメルを殺そうと木々で押し潰そうとしたり、竹で串刺しにしようとしたり、毒キノコを異常成長させて空気中に散布したりもしたが、全て躱された……まるで先を見ているかのように

 

「先を見ているわけではありませんよ……貴方の血鬼術は身体と繋がっていないといけないのですよ。手を地面につけているのは草の葉や根を伝い伝達させているから……その伝達の時に栄養素を送るためか瘤みたいなのが通過するんですよ。それを見ればどの植物が成長するかわかるのですよ」

 

「な……は? 地中の事が見えているとでも!?」

 

「私は見えるんですよねぇ見えちゃうんですよねぇ……毒キノコは呼吸を扱う鬼殺隊にとって相性は良いと思いますけど、剣圧で吹き飛ばせば問題ありませんし、胞子も見えてしまえば何て事はない」

 

「ほ、胞子がみ、見える!? 人じゃない! 化物! こっちに来るな!!」

 

「人でないとは失礼な。私は立派な人類ですよー……種族は違うかも知れませんけど。人と交われば子供ができますしね! ……さてそろそろ実験開始といきましょうか」

 

「ひ、ひいぃ! 死にたくない! や、やめ」

 

「大丈夫、楽には殺さないから」

 

 ロンメルは鬼の娘の四肢を切断し、傷口を抉り血を大量出血させ続けた

 

 約1時間も大量出血をさせると血鬼術の威力が明らかに低下した

 

「なるほどなるほど、血鬼術ってだけあって血液をエネルギー源にしているから血を大量に失い続ければ威力は落ちるのか」

 

 あれ程瞬時に木々を生やしていたのに、今では木の枝を僅かに伸ばすくらいしか鬼はできなかった

 

「……」

 

「喋る元気も無くなりましたか……そろそろ頃合いですかね」

 

 ロンメルは鬼の首を跳ねた

 

 首を跳ねると植物は一斉に枯れてしまい、周囲100メートルは禿げ山と化した

 

 どうやら栄養素を鬼が過剰に出していたことで成長していた草木は栄養源が無くなったことで枯れてしまったらしい

 

「ふぅ、鬼殺し完了……」

 

「ロンメル! 乙二昇進! 乙二昇進!」

 

 ロンメルは鬼を殺しまくったことで乙まで昇進していた

 

 隊服は交換が面倒なので癸のままだが立派な上級剣士に到達していた

 

 ただし今世と言えば良いか……この世界でロンメルは鬼に対して余り運が良いとは言えなかった

 

 どちらかと言えば悪運であるが、鬼に出会うのも鎹鴉の情報便りで、ロンメルが見つけた数は0である

 

 それは本来幸運と呼べる物なのだが鬼殺隊である以上というかロンメルの技術レベルを上げるには強い鬼と戦う経験というのが絶対に必要であった

 

「……そもそも人の少ない北海道で強い鬼と戦うという前提が間違いか……」

 

 ロンメルは既に全集中の呼吸・常中を会得しており、肉体は前の世界で最盛期であった38歳の頃よりも筋力も速さも強さだって大きく上回っていた

 

「……信長様が見たら何て言ったのかな……どうせ【であるか】って言うんだろうな」

 

 ロンメルの中で信長は世界を渡れどただ1人だけの主君であった

 

 産屋敷のお館様も主君にするに値するが、値するだけであり、ロンメルの忠義は今なお信長様に向いていた

 

 ただこの世界には信長様は居ない

 

 居ないのであれば新たな主君を見つけなければならない

 

 その新たな主君に産屋敷のお館様は当てはまっていたが

 

「やはり戦場を共にできる方と比べてしまうと……いやいや、鬼殺隊に居る以上主君はお館様なのだから迷うな私……」

 

 ロンメルは迷いながらも北海道の大自然で自己鍛練を繰り返し、成長の鈍化を感じた時北海道を旅立った

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは旅を続けながら藤の家紋の屋敷で補給を受けたが、ロンメルの姿を見て何ヵ所か拒絶されたりもしながら山で鹿や熊、猪を食べながら鬼を狩り続けその数150体を超え、甲に階級が上がった頃……ロンメルは産屋敷の館近くまで来ていた

 

 本格化が始まった

 

 肉体が大きくなるに従い食べる量も増え、産屋敷の館近くに鬼殺隊のお給料で借家を借り、鬼狩りを中断して肉体改造に取りかかった

 

 良く食べ、柔軟をし、刀を振るい、金で重りを購入し筋トレをして良く寝る……その間任務を中断する旨を産屋敷のお館様に鎹鴉を使って伝えた

 

 規律違反とも言える行為にそんな生活をして10日が経過した時

 

「たのもー!! ロンメル何をしている! 規律違反だ直ぐに任務に戻れ……!?」

 

 そこには全裸で大汗をかきながらスクワットをするロンメルが居た

 

 腹に50キロの重りを付けトレーニングを続ける

 

 その周囲に放つ熱気に炎柱こと煉獄杏寿郎は圧倒された

 

 ロンメルが鬼を150体近く倒している話をお館様から聞いていたが、弱い鬼ばかりで強い鬼と当たらない卑怯者だと煉獄は思っていたのだが、トレーニングをするロンメルの肉体を見てその考えは吹き飛んだ

 

 床は汗で水溜まりになっており、こちらの声かけにも集中して聞こえない

 

 しかし、煉獄も任務なのでロンメルの背中をひっぱたいた

 

「……あ、お客さんって柱の……声が大きい人」

 

「炎柱の煉獄杏寿郎だ! 任務放棄の規律違反をしていると聞いて連れ戻しに来た」

 

「あぁ、やっぱりダメですか……今肉体が本格化してきて徹底的に鍛えていたんですが……」

 

「それは鬼を狩ってからやれ!」

 

「なんか私強い鬼に全く当たらないんですよね……弱い鬼ばかりで……」

 

「お前はこの前人の為に刀を振るうと言っていた! 今も鬼によって苦しんでいる人が居る! そんな人々を守るために刀を振るうんじゃないのか」

 

「まぁそうなんですけど……今の私では下弦、上弦の十二鬼月と呼ばれる鬼を倒せるか疑問なんですよね……だから鍛え直していたんですが……頭打ち感が出てて」

 

「そんな急には強くはなれないだろう……うむ! そうだ! 俺の継子になれ」

 

「継子?」

 

「柱が直々に育てる隊員の事だ……幸い今俺に継子は居ない……成長に貪欲な姿に心打たれた……俺の継子になれ! ロンメル」

 

「確かに頭打ち感が有ったから願ったり叶ったりだけど……良いの? 貴方ずいぶん私に対して敵対心があったけど」

 

「ロンメルのあの異常な集中しながらの鍛練を見て心変わりした! 水の呼吸と炎の呼吸は混じり合わないとされてきたが……うむ! お前ならできるかもしれないな!」

 

「2つの呼吸とか肺破裂しそうで怖いけどやってみますか」

 

 こうしてロンメルは煉獄杏寿郎の継子となった

 

 煉獄の鍛練は火を多く使った

 

 サウナの中で訓練したり、蝋燭の火を紐を斬らない様に炎だけ消す訓練だったり、模擬戦も真剣で行い見て炎の型をロンメルは覚えていった

 

 同時に任務にも同行すると血鬼術を使う鬼に当たること当たること……

 

「煉獄さん悪運凄いですね!」

 

「いや、柱になると普通の隊員が対処できなかった鬼が回されるからな。必然的に血鬼術を使う鬼が多くなる」

 

「なるほど」

 

 ロンメル的には楽しくてしょうがない

 

 頭打ちだった技量も炎の呼吸を覚え始めたことで連動して全技量も上がるし、水の呼吸と炎の呼吸の良いところを融合したオリジナルの呼吸を作るのも楽しくて楽しくて……

 

 更に強い鬼と戦うことで闘争本能が刺激されてもう楽しくてしょうがない

 

 そんな生活をして半年……炭治郎が最終選別を突破した報告が届く



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鍛練 鍛練

「へぇ……炭治郎が最終選別を突破したか……」

 

「うまい! うまい! ……ん! 何か言ったか!」

 

「いや、同じ育手の弟弟子が最終選別を突破したんだよね」

 

「おお! それは良いことだ! 使える剣士が増えればより多くの鬼を倒すことができるからな!」

 

「ハッハッハッ! それもそうか!」

 

 その日ロンメルは小山位の大きな鬼の首を斬った

 

 大きすぎてどこが首だかわかったものでもないので細切りにしたら崩れたというのが正確か

 

「そうだ思ったのだが! 呼吸の仕方を変えたか?」

 

「全集中の呼吸は確かに身体能力を上げるのに適しているんだけど瞬間火力には繋がらないじわじわと肉体に合わせて成長するけど、私は更に呼吸の負荷を上げて片方の肺の細胞を破壊し、そしてもう片方の肺は回復を促す……それをしているから呼吸が独特な物になっているんだと思います」

 

「全集中の呼吸でも肺に相当な負荷がかかるのにそれ以上だとただ単に痛め付けているのと変わらないのではないか?」

 

「筋肉には一定以上の負荷をかけてから休ませることで超回復を起こします。肺も同様です。私は集中すれば細胞1つ1つや血管の先端に至るまである程度はコントロールすることが煉獄さんのトレーニングを得て、自己鍛練したことによりできるようになりました。現在私の体では超回復と破壊のサイクルが全身で行われていますよ」

 

 もちろん回復するためのエネルギーとして大量に食べなければならないが、ロンメルの肉体は人……ウマ娘という枠組みの中では一種の頂点に到達する方法を編み出した

 

 体重も増え165cm程の身長なのに体重は120キロにも到達していた

 

 ロンメルの鍛練方法は透き通る世界に到達した上で細胞1つ1つまで感覚をある程度研ぎ澄まして始めてできるほぼ人外の行動なので煉獄さんも羨ましそうに話を聞いていた

 

「世界が透き通ればさぞかし世界は綺麗なのであろうな!」

 

「まぁ一之太刀習得には才能があり、鍛練をかかさず、なおかつ死線を潜り抜けなければいけませんからね」

 

「それをしても直俺と真剣での勝負で互角なのはいかがと思うがな!」

 

「今は超回復を繰り返すことにリソース……力を割いているので互角なのですよ! 完全体になったら煉獄さんを圧倒しますからね!」

 

「そうか! それは楽しみだ」

 

 半年で柱の上位に居る煉獄さんと同じ場所には到達することができた

 

 だがまだ上がある

 

 肉体はまだまだ成長するし、炎の呼吸と水の呼吸の適正が同じくらい有った為に刀の色が青、紫、赤となっていたらしく覚えてしまえば後は新たな呼吸を作り出すことができれば更に上に行ける

 

 戦国の世では程よい出世欲だったが、ロンメルの成長に対する貪欲は凄まじかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから2ヶ月後

 

 炭治郎が鬼である竈門禰豆子を匿っていた事が柱達にバレ、なんか流れで禰豆子が人を殺した場合私も腹を斬ることになった……鱗滝さん聞いてないんですけど!? 

 

 煉獄さんにも何で弟弟子の事を詳しく教えなかったと怒られしょんぼりロンメル

 

 とりあえず炭治郎は任務で大怪我したらしいので蝶屋敷(蟲柱 胡蝶しのぶの屋敷兼隊員の病院)にて休んでいると聞いたのでお見舞いに行くことにした

 

「やっほー炭治郎! お久しぶり!」

 

「ああ! ロンメルさん!」

 

「うわ! 綺麗なお、お、お姉さん!」

 

「弱くて……ごめん」

 

「炭治郎お前誰だよ! こんな綺麗な人が知り合いなら紹介しろよ! 馬鹿! 馬鹿!」

 

「善逸紹介するから! 紹介するから!」

 

 ベッドの上で格闘する2人と猪の頭を被った男……

 

「お前ら病人じゃないの?」

 

 疑問に思ってたら隊服を着て白衣を更に上から着た女性が部屋に入ってきて

 

「静かになさってください! ……て! あなた……ロンメルさんですね。面会に来たなら一言伝えてください! あなたの容姿だと鬼と間違う隊員も居ますので!」

 

「すみません」

 

 しょんぼりロンメル

 

「あ、本当だ馬の耳と尻尾がある……この人も伊之助と同じ感じ!?」

 

「伊之助とは猪の被り物をしたあの人ですか?」

 

「そうそう!!」

 

「あ、違いますよ。これ本物の耳と尻尾です。触りますか?」

 

「ほへ!? よ、よろしいので?」

 

「尻尾はデリケートなので耳ですけどね」

 

 そう言ってロンメルは善逸という少年に耳を触らせた

 

「本当だ人の温もりがする……脈うつ音もする」

 

 ロンメルは頭を上げると炭治郎の方を向いて

 

「炭治郎私いつの間にか鱗滝さんに切腹に加えられてたんだけど……どういうことかな~」

 

「ええ! ロンメルさん知らなかったのに名前上げられてたんですか」

 

 この名前を上げられていたというのも炭治郎が鬼の禰豆子を匿っていたことで柱合会議の前に裁判となり、禰豆子の頑張りとお館様の計らいで即刻死刑とはならなかったが、禰豆子が人を殺した場合炭治郎が腹を切るのは勿論、鱗滝さん、富岡さん、ロンメルも連座で切腹すると名前がそこで上がったのだ

 

「まっ……たく聞いてないんですけど!? 炭治郎! 禰豆子しっかり見といてね! 私まだ死にたくないから」

 

「禰豆子は人を殺したりしません! 大丈夫です!」

 

「信じるけど頼むよ本当……あとお見舞いにこれ! 羊羹食べて! 置いておくから皆で食べて」

 

「ありがとうございます」

 

「……そういえば炭治郎は全集中の呼吸・常中はできるようになったのかな?」

 

「はい! お陰で下弦の鬼の攻撃で死ななくて済みました」

 

「下弦……詳しく聞いても良い」

 

 炭治郎達(善逸と伊之助)は那田蜘蛛山にて家族ごっこをしている鬼達と出会い衝突したらしい

 

 そこでは蜘蛛に関する鬼で構成されており、糸で人を操る、人を蜘蛛に変える、糸で直接攻撃してくる等様々だったらしい

 

 糸で先に入山していた鬼殺隊員十数名が糸で操られ、最終的に殺害されたり、下弦の伍の鬼と炭治郎及び禰豆子が戦闘に入り、一時は生死をさまようも父親から代々受け継がれてきたヒノカミ神楽という舞いが全集中の呼吸と合わさり、更に禰豆子の血鬼術により下弦の鬼の首を跳ねたとのこと

 

「となると弟弟子に十二鬼月討伐を先越されたかんじか!!」

 

「その後富岡さんが来て、傷だらけの禰豆子を見た虫柱の胡蝶しのぶさんと継子のカナヲさんに攻撃されたんですけど富岡さんと共に禰豆子を守りきって……」

 

「なるほどなるほど……お疲れ様炭治郎」

 

「ロンメルさんはどうなのですか?」

 

「あ、私炎柱の継子になったからそっちで修行を付けてもらってるよ……炎の呼吸も覚えたから後は水の呼吸と合わせた呼吸を開発中だよ」

 

「さ、流石です! ロンメルさん!」

 

「まぁね! ……炭治郎一之太刀はどう?」

 

「まだダメです……全然透ける事ができません」

 

「とにかく意識しておくこと、全集中の呼吸を続けて負荷をかければ到達できる可能性は高いからね……死線は鬼殺隊に居ればいくらでも転がってるし……」

 

「はい!」

 

「じゃあ機能回復訓練頑張れ」

 

 

 

 

 

 

 廊下に出たロンメルは胡蝶しのぶさんと出会った

 

「お見舞いですか」

 

「はい、胡蝶さんもお元気そうで」

 

「しのぶで良いですよ」

 

「ではしのぶさん……弟弟子達を頼みます。彼らは強くなりますよ。私が保証します」

 

「私よりも階級の下の人に保証されても困ります」

 

「あなたも人が悪い……もっと感情を表に出した方が良いですよ。疲れません?」

 

「なんのことでしょう」

 

「まぁ良いです……さーて、弟弟子に十二鬼月討伐を先越されちゃったんで、私も十二鬼月を殺処分してきますか」

 

「殺処分なんて怖いことを言うものじゃないですよ。安らぎに導くと言わないと」

 

「本心でもないくせに……クックックッじゃあねしのぶ……私が階級が上がらないことを願っているよ」

 

「ええ、ずっと甲で居てください。いじれるので」

 

 

 

 

 

 探せど探せど十二鬼月は見つからず

 

 8月に入ったある日……

 

 鎹鴉より任務中にて煉獄杏寿郎の戦死を聞く

 

「……あなたが一番先に逝くのか……」

 

 ロンメルにとって今世で始めての身近な者の死であった



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吉原遊郭

「悪いねロンメル呼び出してしまって」

 

「いえ、お館様のお呼びで有れば何時でも参陣致します」

 

「私を無理やり主君と思わなくても良いのだよ」

 

「何を言いますか。私はあなたを主君に値すると思ったから従っているまで……認めてなければ鬼殺隊から技術を持ち逃げしていた可能性すらありますからね」

 

「そうやって思っても無いことを言うんじゃないよロンメル」

 

 炎柱の煉獄杏寿郎が上弦の参に殺されたことで柱に空席ができてしまった

 

 お館様に呼ばれたのは継子である私が炎柱を継承するという話である

 

 お館様の病気は更に悪化しており、透けて見える身体の不調ヵ所が更に広がっていた

 

 そんなお館様の体調の中、炎柱の継承が行われ、ロンメルは炎柱となった

 

「お館様、炎柱は炎の呼吸のみを扱わねばならない等の縛りはありませんよね?」

 

「あぁ、勿論だ。好きなようにしなさい」

 

「わかりました」

 

「……結局十二鬼月は倒せなかったね」

 

「申し訳ございません」

 

「でもその代わりに鬼を250体も倒すのは普通の人にはできない立派な功績だよ。胸を張りなさい」

 

「は!」

 

 そう、ロンメルはまだ十二鬼月を討伐できていない

 

 煉獄さんと共に行動していた為、血鬼術を使う鬼と出会っていたがこれからは一般隊員が手に負えない鬼を回されることとなるので強い鬼であることに変わらないが、それがロンメルにとって手応えがある相手かはまた別である

 

「ロンメル、私はね鬼舞辻無惨が炭治郎と接触したことにより止まっていた運命の歯車が動き出したと考えているんだ」

 

「ほう……それはなぜですか?」

 

「勘と言えば良いかな……今代の柱は歴代の柱に比べても特に優秀だと思っているよ。勿論過去の柱が弱かったとは言ってないよ……嶼行冥を筆頭に皆下弦の鬼を五体満足で楽に倒せる位には強いからね……ロンメルも私の見立てではその域に居ると思うよ」

 

「クックックッ……お世辞は要りませんよお館様」

 

「お世辞ではないよ。本心からそう思っているんだ」

 

「そういうことにしておきます……さて、私も次の任務に向かいます。人を守るためにね」

 

「あぁ、無理をしないようにね」

 

 

 

 

 

 

 柱となったロンメルは一旦鬼殺隊の現状を確認した

 

「……これは……不味いな」

 

 緩やかな衰退とも言えば良いだろうか

 

 大正時代となり侍が消え、帯刀も許さない文化、更に剣術よりも銃を優先する軍……学校教育という子供を育てるための機関により更に小さな頃より鬼狩りに育成できない、剣に触れさせない環境の変化により鬼殺隊の一般隊員の質の低下が顕著になっていたのだ

 

「なるほどなるほど……教育を推進していた側からすると学校教育が足枷になるなんて思っても見なかったよ……」

 

 戦国の世で学校教育を政策の柱にしていたロンメルにとって凄く複雑であった

 

 かといって鬼殺隊の鍛え直しを大々的にしようものなら鬼の被害が拡大してしまうのでそういうわけにもいかない

 

「……炭治郎や蝶屋敷に居た善逸と伊之助をとりあえず誘ってみるか? いやしかしまだ私が教えるには実力が足りないか……」

 

 ブツブツと呟きながら鬼殺隊の資料や書物が纏められている図書館とも言える場所を後にしてロンメルは任務に向かった

 

 

 

 

 

 

 12月となり、寒くなってきた頃、ロンメルは音柱より十二鬼月クラスの鬼が潜伏している可能性が高いと連絡があり、花町の吉原遊郭に向かった

 

 夜も人の目が多い吉原遊郭では人混みでも目立つロンメルの容姿の為頭巾を被った上で屋根の上を跳び跳ねながら移動した

 

「ずいぶんと早かったなロンメル……なんだその格好は! 地味だな」

 

「宇髄さんお久しぶりです。万が一町の人に見られると困るので」

 

「まぁ普通の容姿がお前はド派手だからな! ……なかなか厄介な鬼が潜んでいやがる」

 

 音柱・宇髄さんから事前に鎹鴉から届けられた情報によると4ヶ月前に吉原遊郭に宇髄さんのお嫁さんで元くノ一の須磨、まきを、雛鶴の3名が潜入していたが、定期連絡が途絶えてしまったらしい

 

 そこで新たに炭治郎、善逸、伊之助の3名を変装させて吉原遊郭に潜入させ、嫁3名を探すように命令したとのこと

 

 また怪しい遊郭も3軒に絞り込んでおり、宇髄の忍びとしての優秀さが良くわかる

 

「十二鬼月と思った理由は?」

 

「巧妙に気配を消す能力、足抜け(遊郭からの脱走)の増加したにも関わらず逃げ切れた者の少なさ、そして過去にこの周辺で7名もの柱が消息を絶っていること……以上を理由に相当力を持った鬼が潜んでいやがる」

 

「なるほどなるほど……それは強い鬼だ」

 

「おいおいそんなににやけるなよ。強い鬼と戦いたがる戦闘狂と他の隊員から聞いていたがそんなに戦いたいのか?」

 

「いや、強い鬼と戦うのが好きではなく、それを倒した時に得られる経験、より強くなるインスピレーション……考えが浮かんでくるのが好きなんだ」

 

「成長に貪欲すぎるぞお前」

 

「褒め言葉として受け取っておきます」

 

「嫌味だ馬鹿……さてそろそろか」

 

 鎹鴉と雀が集まってきた

 

 鎹鴉達は異常無しと報告していたが、雀は大泣きしながらチュンチュンと喚いている

 

「そうかわかった」

 

「雀の言葉がわかるの?」

 

「こいつも訓練を受けた雀だ。鳴き声に法則性がある。どうやら遊郭に潜入させていた我妻善逸が消息を絶った……これ以上の犠牲者を出すわけにはいかねぇ。炭治郎と伊之助は遊郭から撤退させることにしよう」

 

「クックックッ……いや、彼らは強いし使えるからこの町に潜入させたままの方がいい気がする……まぁ勘だけど」

 

「いや、上弦だった場合足手まといにしかならねぇよ」

 

「そうかな? 使えると思うけど」

 

「ずいぶんと買ってるな」

 

「炭治郎は弟弟子だし色々仕込んでいるからね……さて、私も色々探ってみるから宇髄さんよろしくね」

 

「あぁ、正直お前さんの実力も未知数だが煉獄の話が本当なら煉獄と同じくらいの実力はあるのだろ? 期待しているぞ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日の夕方定期連絡の為に炭治郎と伊之助、宇髄さんと私が集まった

 

「あ! ロンメルさんも来たのですか!」

 

「あー! 馬女!」

 

「うん。柱にもなったしそろそろ十二鬼月の首が欲しいからねあと私はウマ娘、馬女じゃないよ伊之助」

 

「どっちでも変わんねえよ!」

 

「お前ら煩い……善逸が消息を絶った……これからは俺とロンメルで動く。お前らはこの町を離れろ……消息を絶った者は死んだと見なす」

 

「いいえ宇髄さん! 俺達は!!」

 

「恥じるな。生きている奴が勝ちなんだ。機会を見誤るんじゃない」

 

 そう言うと宇髄さんはどこかへ行ってしまった

 

「ロンメルさん俺達は戦います!」

 

「あぁ、私は炭治郎と伊之助が戦えると思ってる。2人ともずいぶんと鍛えたのがわかるからね」

 

「馬女! そんなことがわかるのか!!」

 

「私はね集中すると人が透けて見えるんだ。だから君たちがどれ程鍛えて血肉を付けたか良くわかる……頑張ったね」

 

「ロンメルさん……」

 

「馬女は強いのかよ! お前からは全く凄みを感じねぇが!!」

 

「さぁどうだろうね……クックックッ」

 

「あー! ずりーぞ濁すな!」

 

 ロンメルもその場を離れ身を隠す

 

 夜に備えて食事を取り、肉体の回復を促す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜……遊郭はいつもの様に賑わいをみせるが、ロンメルは座禅を組んで集中していた

 

「始まったか」

 

 ロンメルは戦闘音のする方向に向かって走り始める



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妓夫太郎

 戦とは魂が高揚する

 

 皆持てる全てを使い戦に挑む

 

 手柄を挙げるため、出世のため、生き残るため、家族のため、民のため、主君のため、義のため……理由は様々であるが、1度乱戦となれば階級の上下、身分の上下等は無くなり実力と運、戦に向けてきた準備の3つで全てが決まる

 

 戦術が悪い、時が悪い、油断していた……敗因は様々であるが勝つ時は3つの全てが完璧に近い方が勝つ

 

 ただそれだけである

 

 鬼という怪物との戦いも同じことが言える

 

 肉体をどれだけ鍛え、準備し、後は僅かな運で全てが決まる

 

 惡鬼滅殺の新たに刻まれた脇差を鋼崎さんから柱就任の時に貰い、今は前から使っている打刀と脇差の2本を帯刀し、任務をこなしていた

 

 そして今、ロンメルの目の前に十二鬼月上弦の陸が目の前に居た

 

 上弦の陸に帯が吸収し、姿を変える

 

「おい! そこのお前達! 店の前で何をやっている!! 人の店の前で揉め事を起こすんじゃねえ!」

 

 炭治郎が先行して戦っていた様だが騒ぎで遊郭の人々が物陰から見たり、怒って出てきてしまっている

 

「煩いわね」

 

 上弦の陸が怒りを露にしている

 

 不味いと思ったロンメルは直ぐに行動する

 

「炎の呼吸……陸ノ型 円炎」

 

 ロンメルは上弦の陸の攻撃を遠方より踏み込んで間合いを詰めると円を描くように全ての攻撃を叩き斬った

 

「ロンメルさん!」

 

「そこの人、危ないから早く逃げなさい……ここは戦場だ。死ぬぞ」

 

「ひ、ひ!」

 

「……! あんただね風変わりな鬼狩りは! 馬の耳に尻尾を付けた……ふうん、なかなかの美形じゃない気に入った。そこの男の目も綺麗だからあんたの亡骸と一緒に食べてやるよ」

 

「……炭治郎見えるかい? 目に集中するんだ……そしたら見える」

 

「はい!! 透けて見えます」

 

「良く頑張った……炭治郎もこちら側だ」

 

「何をごちゃごちゃと!」

 

「鬼に聞く……なぜ命を軽んじる? なぜ命を踏みにじる? なぜ相手を尊重しない? 何が楽しい……何が面白い……命を何だと思っている……人間だったお前にも痛みや苦しみ、悲しみを感じていたハズだ……なぜそれがわからない」

 

「ごちゃごちゃごちゃごちゃと煩いわね! 昔の事なんか覚えてないわ! あたしは今鬼なんだからね!」

 

「鬼は老いない! 病気にならない! 何も失わない! そして美しく強い鬼は何をしてもいいのよ!!」

 

「わからなくもない……が、私は武士だった者故に人側に立たせてもらう……私が生きるために」

 

「ほざけ!」

 

 血鬼術 八重帯斬り

 

 帯が八重に正面に展開し、それが各々ロンメルを切り裂こうと動き続ける

 

 スッパン

 

「は!? え」

 

「甘いんだよ」

 

 ロンメルは型を使用せずに上段からの振り下ろし、振り上げの2つの動作で帯を全て斬り裂いた

 

 ダン

 

 ロンメルが距離を詰める

 

「こ、この!!」

 

 帯が再び伸びてロンメルを襲うがロンメルは横に回転しながら全てを斬り伏せる

 

「貰った」

 

 グニー

 

「あ、あんたなんかに首を斬らせるものですか!」

 

 首を帯にして柔らかくそしてしなやかにすることでロンメルの斬撃を防ぐ

 

「残念想定済みですよ」

 

 ロンメルは腰から脇差を抜刀し、伸びきった帯の首を反対方向から刀で削ぐ様に切断する

 

「な!?」

 

「弱いね貴女」

 

 ボト ゴロゴロ

 

 首が落ち、体と泣き別れする

 

「あ、ああ! 首が!! 斬られた!!」

 

「これが上弦の陸? 弱すぎでしょ……さっさと消えなよ……それともまだやる? 首が落ちてるから無理かぁ」

 

「まだ私はやれるもん! 絶対あんたなんかに負けないんだから!」

 

「いや負けてるじゃん。首落ちてるし……」

 

 ロンメルは違和感に気が付く

 

 この鬼……体が崩れない

 

「まだ! 私はやれるもん! やれるんだもん!! わぁぁぁぁん!! お兄ちゃぁぁぁん!!」

 

「うぅううううん」

 

 斬ったハズの女の鬼の首から新たな鬼が生えてくる

 

「炭治郎逃げろ!」

 

 ロンメルは新たに生えた鬼の首を斬る為に突っ込む

 

 ガギン

 

「ぐう!?」

 

 ロンメルは初めて鬼に打刀を防がれた

 

 相手は2本の鎌でロンメルの刀を防いでいる

 

「堕鬼お前自分で頭をくっ付けろ。たく……世話のかかる妹だ」

 

(こいつ一瞬で女の鬼の頭を乗っけてから私の攻撃を防いだ!?)

 

 ガギンと刀を男の鬼が吹き飛ばすと追撃がやって来る

 

「まぁ見えてるんですけどね」

 

 ロンメルはそれを避けるとばく転をして距離を取る

 

「これは本気を出さないと危ないねぇ」

 

 ゴキゴキゴキとロンメルの肉体から音が響き渡る

 

 筋肉が膨張して1周りほど大きくなった

 

「おいおいお前鬼じゃないならなんだ? 人間ではねぇな」

 

「お兄ちゃん! こいつが私の首を斬った風変わりな鬼狩り!」

 

「そうかお前が妹を虐めるのか……そうかそうかそれは許せねぇなぁ」

 

 町の人達が騒ぎを聞き付けて野次馬が集まり出した

 

 炭治郎が必死に避難させようとしているが聞く耳を持たない

 

「愚民どもが……」

 

「お前……いいなぁ……顔がいい……整っていて肌もシミも痣も傷もねぇんだな……肉付きもいい。最初と比べて大きくなったのはありゃなんだ? 俺は太れねぇから羨ましい……あぁ妬ましいなああ妬ましいなああ! 死んでくれねぇかなあ!」

 

「お兄ちゃんこいつだけじゃない! 最低こいつを含めて5人鬼狩りがいる!」

 

「そうかぁそうかぁ可愛い妹が足りねぇ頭を必死に働かせて一生懸命やってるのに……取り立てるぜ! 俺はやられた分は必ず取り立てるぜぇぇえ! 俺は妓夫太郎だからなぁぁぁあ!!」

 

 妓夫とは遊郭にて客引きや金の取り立てをする男の役職名である

 

「となると堕鬼が花魁で妓夫太郎が妓夫か……クックックッセットで上弦の陸ってことか? ……愚民どもさっさと逃げろ! ここは戦場ぞ!!」

 

 次の瞬間2本の斬撃が飛んで来た

 

 ロンメルはそれを打刀で弾くと建物の一部が切り裂かれ崩れ落ちた

 

「き、きゃぁぁぁ!!」

 

 斬撃は誰の犠牲者も出なかったが、建物がいきなり崩れたことにより野次馬達は蜘蛛の子を散らすよう逃げていった

 

「お前わざと建物を斬ったなあ」

 

「ええ、そうでもしないと野次馬なんて身の危険を感じないと逃げないもの」

 

「へぇえ、随分な鬼狩りだな……柱だろ。名前は」

 

「ロンメル」

 

「ロンメルかあ……覚えたぜぇ」

 

「早く殺してお兄ちゃん!」

 

「わかってらぁ! お前は他の鬼狩りを倒してこい」

 

「約束だからね」

 

「ま、待て!!」

 

 炭治郎が堕鬼を追いかけ、ロンメルと妓夫太郎の一騎打ちが始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし! 人質や妻達は無事回収できた! 善逸、伊之助は早く避難しやがれ!」

 

「祭りの神(宇髄のこと)! 俺はやるぜ! あの帯女を倒さねえと気が済まねえ!」

 

「……」

 

「好きにしやがれ! 須磨、まきをお前らは遊郭から脱出し雛鶴と合流しろ。雛鶴の奴毒を飲んで体調を崩しているからな! 頼んだ」

 

「「はい!」」

 

「さぁド派手に鬼退治といくぜ!!」

 

 宇髄達が堕鬼の血鬼術により行方不明となっていた嫁達や遊女達を取り戻し、ロンメルに合流するべく動き出す

 

 

 

 

 

 

 

「お前違うな……今まで殺した鬼狩りの柱とは違う……お前生まれた時から特別な奴だったんだろうなぁ……選ばれた才能だなぁ……妬ましいなぁ一刻も早く死んでくれねぇかなぁ」

 

「クックックッ……確かに私は特別だが……生まれた時からは違う……どちらかと言えば落ちこぼれだ……同期の奴らはどんどん先に行くのに対して私はどんどん落ちていった……偶々神様が努力する場所を用意してくれて、死ぬほど努力をして、吸収して……今がある!」

 

 ロンメルはもう40年近く前の過去であるまだ何処にでもいる遅いウマ娘だった頃を思い出していた

 

 6月という未勝利の終盤にスリーアウト(9着以下3回、成立すると2ヶ月出走停止処分)をしてしまった駄バでしかなかったロンメルだが戦国の世を経験し、この世界では全集中の呼吸という技法を会得したことにより元々持っていた武の才能が開花していた

 

 今では柱にまで登り詰めるまで至る

 

 それはそれはまるで鯉から竜になるように辛く険しい濁流の滝を登っていった

 

 それがあるから今のロンメルがいる

 

 上弦の陸の攻撃を全く受け付けない技量を持った武人であった

 

「人生50年……私は命を燃やし続ける」

 

「あ? 20もいってねぇガキが何言ってるんだ? 死ねや」

 

 妓夫太郎の攻撃にロンメルは打刀による一刀流の剣技で対応するが時折見せるトリッキーな動きに脇差を抜刀術で一瞬出しては防いでいく

 

「何のつもりだあ!?」

 

「うーん、時間稼ぎ……貴方の首を斬るのは時間を掛ければいつでもできる……弱くはないし、今まで会ってきた鬼の中でも飛びっきり貴方は強いよ……ただそれだけ。私が勝てないとは思えない」

 

「あぁ、お前も頭が弱い感じか……じゃあ一撃でも入れてみろよ」

 

「これでいいかい?」

 

 ロンメルの一撃により妓夫太郎の腕が吹き飛んだ

 

「は?」

 

 

 

 

 

 

 

 わからなかった……今の一撃を感じることができなかっただと……いつ前から後ろに移動した!? 

 

「もう一度聞くが人間か? 妖怪の類いじゃねぇのか?」

 

「ある人は人と言ってくれたけど……妖怪に近いかもねぇ……怪異正八位下蝦夷地守護東狐ロンメル……いざ参る」

 

 ち! こいつも化物の類じゃねぇか……何で人間の味方してるんだ……しかし不味い最後の一撃は殺気も何も感じなかった

 

 しかもこいつ戦闘を全力で楽しんでやがる……楽しむほど技量が上だと言いてぇのか……妬ましいなああ妬ましいなああ

 

「ならこの技ならどうだよ!」

 

 血鬼術 跋扈跳梁

 

 至近距離の間合いならこいつが効くハズだ

 

 一撃でも入れば毒で殺れる

 

「残念、無駄だよ」

 

 炎の呼吸 陸ノ型 円炎

 

 このやろう球体状に斬撃を生み出して防ぎやがった

 

「やっぱり私はこれが一番あってる気がするなぁ」

 

「なんの! 話だ」

 

「一之太刀」

 

 スパン

 

「な!」

 

 嘘だろ俺が斬られた!? 首を!? 

 

 こいつ……今まで会ってきた柱と次元が違う

 

 ドクン

 

 なんだ……この感覚は……目の前の女の姿が違う侍に見える

 

 これは……無惨様の記憶!? 

 

「ふざけるなあ!!」

 

 首をくっ付けた俺は奴から間合いを取った

 

 汗が止まらねぇ

 

 なんだ……鬼になって初めて俺は恐怖しているとでも言うのか……

 

「そんなハズはねぇ!!」

 

 俺は攻撃を続ける



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赫刀

「やはり妓夫太郎と言ったか……お前、妹と同じタイミングで首を落とさなければ死なないな」

 

「ちぃぃ!」

 

 ロンメルは妓夫太郎が首を再びくっ付けたことによりカラクリを理解した

 

 妓夫太郎と堕鬼は二人で一つ……命が連結されている

 

「なるほどなるほど……ならばどうするか……」

 

 スパン

 

「また……かよ!?」

 

 妓夫太郎の首に大きな切れ込みが入る

 

 咄嗟にロンメルの攻撃を避けたが、あと少しで再び妓夫太郎の首は落ちていた

 

「糞がぁぁぁあ!」

 

「ロンメル遅れた! 無事か!!」

 

「宇髄さん! もう一体の女の鬼の首を落としてください! コイツら命が連動している! 片方の首を落としても死なない! 同時に落とさないと」

 

「わかった! 派手にやるぜ!」

 

 宇髄さんはロンメルに妓夫太郎を任せると炭治郎が追いかけている堕鬼を殺すべく動き始めた

 

 妓夫太郎も勿論妨害しようと鎌を投げるが、ロンメルが2本の鎌を叩き斬った

 

「嘘だろ! 俺の血で強化した鎌だぞ! 何でそれを斬れるんだよ」

 

「全ての物には軸が存在する……軸に合わせて効率よく叩き込めば物は簡単に斬れるんだよ!」

 

 丸腰の妓夫太郎を再び斬り付ける

 

 妓夫太郎は飛び血鎌という血鬼術で防ごうとするが、それすらもロンメルは斬り裂いた

 

「水の呼吸……拾弐ノ型 押水濁流鉄砲水」

 

 富岡が圧倒的静と受けの拾壱ノ型 凪を扱うのに対して対極の動と攻めによる濁流のごとく怒涛の剣技で相手の血鬼術を圧殺する技であった

 

 その威力は凄まじく炎の呼吸 玖ノ型 煉獄に匹敵し、太い水の柱が滝の如く横向きに直撃する

 

「ヒュゥゥゥウ」

 

 ロンメルの一息で拾壱ノ型は完成し、妓夫太郎を切り刻んでいく

 

 一瞬で筋が斬られ、再生する前に肉を削がれ、骨が折れ、四肢か切断される

 

 そして首へと到達する

 

「畜生! 何だこいつ! 化物じゃねぇかよ! こっち()側だろ!」

 

「生憎私は人側だ」

 

 首が再び宙を舞い、妓夫太郎はなんとか首をくっ付けるとダラダラと冷や汗をかきながらロンメルの方に新たに生成した鎌を構えて対峙する

 

「円斬旋回・飛び血鎌」

 

「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」

 

「なぜだなぜだなぜだ!! なぜかすり傷の1つもつかねぇんだあ!」

 

「それはね……君が正常じゃないからだね」

 

 妓夫太郎は目の前にいるロンメルの姿がまるで植物の様に思えた

 

 まるで殺気がない

 

 まるで精気がない

 

 枯れ木の様にすら思えてしまった

 

 それが更に恐怖を抱かせる

 

 鬼になってから初めて感じる死の恐怖

 

 全身の細胞が逃げろと叫ぶ

 

 スパン

 

「熱!? ……刀が真っ赤に……か、体がぁ再生しない!?」

 

 ロンメルの握る手からじんわりと出血していた

 

 握る力に手の皮が耐えきれなくなり手が割けて柄からポタポタと血液が落ちる

 

 しかし妓夫太郎が驚いていたのは刀身が3色から真っ赤に変わっていたのだ

 

 それはまるで太陽の炎の如く紅蓮であった

 

「馬鹿な……妹が無事であれば体が再生するハズ……」

 

「……刀が真っ赤になってる……何だこれ?」

 

「糞! どうなってやがる! 何をしやがったぁ!!」

 

「わからない……私にもわからない」

 

「畜生……畜生……ちく……しょう……」

 

 妓夫太郎の体が崩れ、血溜まりのみがそこにあった

 

「弱くはなかった。初めて私も本気を出した……肉体を全快にした状態で……ぐぅ!?」

 

 ロンメルの肉体が悲鳴を挙げた

 

 手だけでなく腕や足から内出血をし、慌てて呼吸を整えて止血する

 

「……元に戻った」

 

 日輪刀を再び見ると色がいつもの3色に戻っていた

 

「うーん、よくわからないけど鬼倒せたしよし!」

 

 その後堕鬼の所で炭治郎と戦っている所に駆けつけた宇髄が兄こと妓夫太郎との接続がいきなり切れて動揺した堕鬼の首を斬り約100年もの間変わらなかった鬼との均衡が遂に崩れた

 

 

 

 

 

 

「宇髄さん助けて」

 

「おいおい随分とまぁ派手に戦ったらしいな……の割には建物は壊れてないが」

 

「壊れないように立ち振舞ったからね……筋肉を膨張させてたから反動が来ちゃって……」

 

「肩かしてやる。動けるか」

 

「なんとか……炭治郎、善逸、伊之助は?」

 

「3人とも無事だ。俺の嫁3人もな」

 

「人的被害0で上弦の鬼倒せるとか……私強すぎない?」

 

「自惚れるなっと言いたいところだが実際お前が男の鬼を圧倒していたから被害が無かった……感謝する」

 

「……ふぅー、さて状況が変化したことにより無惨は何をしてくると思う宇髄さん」

 

「探ってくるだろうな鬼殺隊の本拠地を」

 

「恐らくお館様もその様に考えるでしょう。はてさてどうしたものか……」

 

「ただ炭治郎は重体だ。堕鬼の攻撃を諸に何度も受けて相当無理をしたらしい……気絶して隠に蝶屋敷に運んで貰った」

 

「そうですか……とりあえずお館様に今回の事の報告に向かいますか……イテテ」

 

「本当に大丈夫かよ」

 

 ロンメルは宇髄の肩を借りながらよちよちと歩き始める

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ゴホゴホ……よくやってくれたね! ロンメル、天元」

 

「は! お館様の容態も安定しているようで何よりです」

 

 お館様の容態は更に悪くなっており、もう立ち上がることすらできなくなっていた

 

「お館様、刀が真っ赤に染まった状態で鬼を斬ったところ再生すること無く崩れたのですが、何か知りませんか?」

 

「……すまない。刀が真っ赤に染まるのは聞いたことが無いね」

 

「そうですか」

 

「やり方はわかるかい?」

 

「握力を恐らく200kg以上の状態で激しく日輪刀を振るうことでなるかと思われます。体が治り次第再現実験を行います」

 

「頼んだよロンメル。それができれば上弦いや、無惨に対する鬼札となりうるからね」

 

「は!」

 

「体はどれぐらいで治りそうかい?」

 

「2週間で治してみせます」

 

「ゆっくり休むんだよ。無理はよくないからね」

 

「は!」

 

「天元はどうするかい?」

 

「今回の任務で大きな怪我もしませんでしたので任務を継続しようと思います。それと1つ提案が……鬼殺隊の練度低下を食い止めるために柱を中心とした大規模な訓練を提案致します」

 

「そうだね……無惨との決戦の為にも子供達を鍛える必要があるからね……ただ各地で出没する鬼を対処しないといけないから今は無理だね」

 

「出すぎた真似を致しました」

 

「いや、意見ありがとう天元。上弦の陸を倒したことで無惨は何かしらの行動に移るだろう。次の一手が鍵になるだろうね」

 

「では俺は各地を探り上弦と思わしき鬼を引き続き探します」

 

「私は休養後どうしましょう? 他の隊員の尻拭いを引き続きすればよろしいでしょうか?」

 

「じゃあ珠世という人物の護衛をお願いしたい」

 

「珠世……初めて聞く名前ですが」

 

「無惨の呪いから外れた鬼だよ。接触を試みているんだけどなかなかできなくてね。彼女の力が有れば無惨に刃が届くと思うんだ」

 

「わかりました。この話は私と宇髄さんで止めておきます」

 

「機密理解した」

 

「頼むね2人共……悲しみの連鎖は私の代で終わらせる」

 

「「は!!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 2週間後、肉体を回復させたロンメルは超回復を休養中繰り返したことで妓夫太郎との戦闘時とまではいかないが1周り筋肉で大きくなっていた

 

 それから関東を中心に珠世という鬼を探した

 

 捜索から約1ヶ月……採血をしている女医の話を聞き、巧妙に隠された空間を発見した

 

 風の流れと透けて見た世界により場所を特定し、ロンメルはドアを叩く



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珠世

 ドアをノックする音で愈史郎は屋敷に誰かが侵入したことに気がついた

 

 日中は日光の影響で血鬼術が効きづらくなり、発見されるリスクがあったが、東京から拠点を移してから1年もたたずに発見されるとは思っても見なかった

 

 愈史郎は直ぐに地下の研究室に居る珠世様に鬼狩りが来ていることを報告し、脱出をするように進言した

 

「無惨を殺すためにここで死ぬ訳にはいきません。脱出しますよ」

 

「いや、それをされたら困るんですよ」

 

(き、気がつかなかった!? 馬鹿な地下までの道中札が大量にあったハズだぞ! なぜに探知できなかった!?)

 

「見えない札みたいなの貼ってたでしょ。罠の可能性があったので全て斬り裂きました……まずは不法侵入を詫びた方が良いですかね珠世さんと……そちらの鬼の情報はありませんねぇ……まぁ良いでしょう」

 

 珠世様は目の前の鬼狩りがいきなり現れたことに驚きつつも

 

「ご用件は何でしょうか鬼狩りさん」

 

「まずはこちらを」

 

 目の前の鬼狩りをよく見ると馬の耳と尻尾が生えている

 

 それも取り付けた飾り物ではなく身体の一部として

 

「お前人間か?」

 

「一応人間とお館様は言ってくれてるけどウマ娘という種族なんだよねぇ……異世界人ってやつ?」

 

「馬鹿馬鹿しい。嘘をつくならもっとまともな事を言え」

 

「鬼が存在しているんだから人ならざる者が他にも居ても良いでしょうに……まぁ妖怪の類だと思いなされや」

 

 手紙を真剣に読む珠世様に対して愈史郎と鬼狩りは口論を続ける

 

「……本気ですか」

 

 珠世様が口を開いた

 

 その表情は困惑と驚きで染まっていた

 

「珠世様何が書かれていたのですか」

 

「鬼殺隊への協力要請ですよ」

 

「なに!?」

 

「鬼である珠世さんの事は産屋敷一族が永い年月言い伝えられていたらしいですよ……始まりの呼吸の剣士から当時の産屋敷当主に伝えられた事が……無惨の呪いを解いた鬼のことと無惨を倒すことに注力している鬼の話を……珠世さん。貴女の事ですよね」

 

「……はい。戦国の世の時にとある鬼殺隊の剣士の方が無惨をあと一歩のところまで追い詰めた際に私は呪いから外れることができました」

 

 無惨の呪いとは無惨の名前を言ってしまうと無惨の血の力により鬼の再生能力を奪った上で、巨大な腕が体から突き破りその者を握り潰して殺してしまう呪いだ

 

 それを珠世様は脱しており、珠世様から作られた俺はこの呪いが当てはまらない

 

 呪いは無惨がその鬼の行動を監視するのにも通じているため呪いを外した珠世様や俺は無惨に探知されることはない

 

「なぜこの時期に共同研究の依頼を? もっと前でも良かったハズでは?」

 

「上弦の陸を倒したからですよ……炭治郎は無惨と接触し、上弦の陸を倒した……数百年の均衡が崩れようとしているのです! ……それと私の目的の為にもね」

 

「目的?」

 

「私は何者かにより世界を渡る異能を持っているのですが、世界を渡る為には何かをその世界で成さなければなりません……それが無惨討伐だと私は考えました」

 

「その為に私の力が必要なのですか? 鬼殺隊の技術力も進んでいると聞いていますが」

 

「しのぶさんの事かな? 彼女も天才ですが、珠世さんの数百年蓄積された薬学には到底及びませんよ。……珠世さん、そして横の貴方も一緒に無惨を倒しませんか?」

 

「しかし、鬼を滅することを生業としている鬼殺隊に鬼である私が行くのはいかがなものか……」

 

「私とお館様が調整致します。上弦の陸を討伐したことにより私の発言力は上がりましたので無下に扱われることは無いと保障致します……どうせ鬼の大将の無惨のことですから生存するための何かとっておきがあるんでしょ」

 

「ええ、まぁ」

 

「お館様は次の一手に命をかけるつもりです。どうか協力をお願いいたします」

 

 目の前の鬼狩りは土下座をした

 

「……名前を改めて伺っても?」

 

「ロンメルと言います」

 

「ロンメルさん、わかりました。微力ながら無惨を倒すために協力致します」

 

「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 珠世さんの協力を取り付けたロンメルは無惨によって鬼にされたが呪いを解除したもう一人の男性(浅草の人)の協力も取り付け、ロンメルはそのまま蝶屋敷に向かい、しのぶさんに珠世さんとの共同研究を行うように依頼した

 

 しのぶさん頭に青筋が! 怒りマークが! 

 

 お館様からの命令ということもあり、なんとか説得を完了させたロンメルは蝶屋敷に4名(珠世さん、愈史郎さん、浅草の人とその奥さん)を案内し、共同研究が始まる

 

 最初鬼への増悪による殺気を放つしのぶさんに、それが珠世さんに向いていると感じた愈史郎さんによる騒動が発生したが、ロンメルの武力にて鎮圧し、約1ヶ月で複数の薬が完成する

 

 1つ目が鬼を人間に戻す薬

 

 2つ目が老化促進

 

 3つ目が分裂阻害

 

 4つ目が細胞破壊

 

 の4つの薬が完成する

 

 鬼を人間に戻す薬は浅草の人や竈門禰 豆子に使用する意図もあり、無惨を人間に戻せば大幅な弱体化を望めるという利点もあった

 

 2つ目の老化促進は無惨が人間に戻せなかった場合この薬を混ぜることで無惨が気がつかずに弱体化させることができる

 

 3つ目が分裂阻害は無惨は危機的状況に陥ると体をポップコーンの様に破裂して逃げるとのことなのでそれ対策

 

 4つ目の細胞破壊は老化と合わさることにより再生能力を大きく落とすことができると踏んだ為に完成した薬というより毒である

 

 これ等に加え浅草の人をロンメルが徹底的に鍛えたことで血鬼術に目覚め、奇襲時の一撃のみだが戦力として加算するに至る

 

「絶対に一撃を放ったら逃げるのですよ! 欲をだせば貴方も死にますからね」

 

 と念押しをした

 

 それに加えてロンメルは2人に更に2つの薬を頼んだ

 

 強力な鎮痛剤と造血剤を依頼した

 

「可能ですがなんでまた?」

 

「しのぶさん、私でも恐らく無惨と決戦となった場合怪我をすると思う。鎮痛剤と造血剤が有れば継戦能力の底上げができるからね……あんまりドーピングには頼りたくは無いんだけどそんな安いプライドよりも倒すことを優先したいからね」

 

「……わかりました。強力かつ副作用が少ない様に作ります」

 

「ありがとう」

 

 そして研究が続けられていると刀の里襲撃の報が入る

 

 壊滅は免れた様だが里の施設に甚大な被害が出たらしい

 

 襲撃したのは上弦の伍と上弦の肆であり、これ等は霞柱、時透無一郎と恋柱、甘露寺蜜璃及び居合わせた炭治郎、善逸、伊之助の3名の計5名の活躍により討伐に成功したとのこと

 

 これにより上弦の3名が倒されたことになり、更に人的被害が今回も少なかった(刀鍛冶の人が数名殺されたため)ので悲しいは悲しいが、数百年倒されてこなかった上弦討伐が急速に進んでいるという事実と、竈門禰 豆子が太陽を克服した鬼となったことによる無惨襲撃というお館様の予想が現実味を帯だしたという不安がロンメルの心に葛藤を産み出していた

 

 そして今、産屋敷邸では緊急の柱合会議が開かれていた

 

「あーあ、羨ましいことだぜぇ。なんで俺は上弦に遭遇しないかな」

 

 風柱 不死川実弥

 

「こればかりは遭わない者はとことんない。甘露寺と時透、その後の体の方はどうだ?」

 

 蛇柱 伊黒小芭内

 

「あっうん! ありがとう随分とよくなったよ」

 

 恋柱 甘露寺蜜璃

 

「僕も……まだ本調子じゃないですけど……」

 

 霞柱 時透無一郎

 

「お前らよくやった! この天元様が誉めてやる!」

 

 音柱 宇髄天元

 

「死なずに上弦2体を倒したのは尊いこと」

 

 岩柱 悲鳴嶼行冥

 

「今回のお二人ですが傷の治りが異常に早い。何かあったんですか」

 

 蟲柱 胡蝶しのぶ

 

「宇髄さん! 私ら抜かれちゃったよ! 私ら2人で1体倒したのに対してお二人は1体ずつだもん」

 

 炎柱 ロンメル

 

「その件も含めてお館様からお話があるだろう」

 

 水柱 冨岡義勇

 

 柱一同が揃う

 

「大変お待たせ致しました。本日の柱合会議……産屋敷耀哉の代理を産屋敷あまねが勤めさせていただきます」

 

「そして当主の耀哉の病状の悪化により今後皆様の前へ出ることが不可能となった旨……心よりお詫び申し上げます」

 

 全員があまね様に対して頭を下げ代表して最年長の悲鳴嶼さんが

 

「承知……お館様が一日でも長くその命の灯火燃やしてくださることをお祈り申し上げる……あまね様も御心強く持たれますよう……」

 

「柱の皆様には心より感謝を申し上げます」

 

 柱合会議が始まる



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運命の夜

 今回の緊急柱合会議の内容としては竈門禰 豆子が日の光を克服したことにより鬼舞辻無惨が目の色を変えて竈門禰 豆子を取り込み、自らも太陽を克服しようとするのがわかっていたため、それに伴う大規模な総力戦が近づいている……それを乗り越えるために、そして鬼舞辻無惨を討伐する千載一遇のチャンスをどの様にして掴み取り、殺す事ができるか……これに尽きる

 

「上弦の肆、伍との戦いで時透様、甘露寺様のお二人には独特な紋様の痣が発現したという報告が上がっております……お二人には痣の発現条件のご教示お願いたく存じます」

 

 痣……それは戦国の時代鬼舞辻無惨をあと一歩のところまで追い詰めた始まりの呼吸の剣士達(……)彼らには全員に鬼の紋様と似た痣が発現していたとのこと

 

 なぜ伏せられていたかというと痣を発現しないことを酷く悔やむ人が居たためと、これまで鬼殺隊が何度も壊滅的な打撃を被った際に伝承が曖昧となり、継承が途絶えてしまったので伝えなかったとのこと

 

「ただハッキリと残された言葉があります。痣の者が現れたら共鳴するように周りの者たちにも痣が現れる……始まりの呼吸の剣士の一人の手記にその様な文言がありました」

 

 そしてこの時代に最初に痣者となったのは竈門炭治郎であった

 

 彼は痣は発現したが発現方法がわからない様子とのことなので、甘露寺と時透の2人に教示をあまね様が依頼した

 

「は、はい! あの時は凄く体が軽かったです! えーっと、えーっと……ぐああ~ってきました! グッてしてぐぁーって! 心臓とかがばくばくして耳がキーンてして! メキメキメキって!!」

 

 甘露寺の言葉に皆ポカーンとした

 

 ロンメルは頭を抱えた

 

「申し訳ありません。穴が有ったら入りたいです」

 

 甘露寺が駄目なので時透が頼みの綱である

 

 時透は

 

「上弦の伍との戦闘を思い返してみると、思い当たること、いつもと違うことが幾つかありました。その条件を満たせば恐らくみんな痣が浮き出す……今からその方法を御伝えします」

 

 その条件とは心拍数200を超え、体温が39度以上の状態で戦闘可能な場合痣が浮き出るとのこと

 

「チッ! そんな簡単なことで良いのかよ」

 

「それを簡単と言ってしまえる簡単な頭で羨ましい」

 

「あ! 何だと」

 

「別に」

 

 不死川と富岡が少し言い争いをしたがいつもの事なのでスルーするロンメル

 

「では痣の発現が柱の急務となりますね」

 

「ただ一つ痣の訓練に関しては皆様に御伝えしまければならないことがあります」

 

「何でしょうか?」

 

「もう既に痣を発現してしまった方には選ぶことができません……痣が発現されてしまった方は例外なく(……)25の歳を超える事無く亡くなってしまいます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後あまね様と御子様方が退室し、次の話し合いが始まろうとした時、富岡さんが退室しようとする

 

「おい! 待ちやがれ! これからの立ち回り等を決めないといけねぇのになんでさっさと退室しようとしてやがる」

 

「俺はお前達とは違う……俺には関係無い」

 

「あぁ!?」

 

「関係無いとはどういう事なんだ。貴様には柱としての自覚が足りぬ。それとも何だ? 自分だけ早々と鍛練を始めるつもりなのか? 会議にも参加せず」

 

 不死川さんと伊黒さんが突っかかるが富岡さんは足を止めない

 

 しのぶさんも富岡さんを止めに入るが聞く耳を持たない

 

 パンと悲鳴嶼さんが手を叩く

 

「座れ、話を進める……1つ提案がある。竈門禰 豆子の太陽の克服及び上弦の肆と伍が倒されて以降、昨今鬼の出現報告が無くなった。そこで柱稽古の開催を提案する」

 

「柱稽古……私が提案していた大規模訓練のことですか?」

 

「左様……最終決戦とするためにも隊員一人一人の技術向上が鍵となる。皆1つ課題を設け、合格できるまで特訓させる……良いな」

 

「異存ありません」

 

「私もです」

 

「ああ、構わねぇよ」

 

 ロンメル、甘露寺さん、宇髄さんが直ぐに賛成を表明

 

「……申し訳ありません。私は不参加でもよろしいでしょうか。対無惨の薬品調合がいよいよ大詰めなので」

 

 しのぶさんは不参加

 

「俺には関係無い」

 

 富岡さんも不参加

 

「確かに質の低下は著しい。わかった」

 

「わかった」

 

 伊黒さん、不死川さんも参加を表明

 

「僕もやるよ」

 

 最後に時透も了承し、柱稽古開催が決定された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柱稽古の最終課題としてロンメルが置かれた

 

 内容としては呼吸の最適化

 

 という内容だったが、本命は一之太刀の伝授である

 

 透き通る世界に入る方法はあまね様に聞いたところ過去の剣士にも居たらしいため、複数方法が有るようだが、ロンメルには一之太刀でしか入る方法を知らないため一之太刀伝授ができれば合格とした

 

 そもそも2週間が経過して誰もここに到達していないので、色々と隊員の質が予想以上に悪いことを察したが、ロンメルはとりあえず痣を出現させることにした

 

 まず心拍数を上げる

 

 呼吸の負荷を上げ、胸が苦しくなるくらい心拍数を上げた後、全身の筋肉を破壊して再生させるために炎症を起こす

 

 すると体温が上がり、39度に到達する

 

 その状態で無理やり動く

 

 シュウウウウと呼吸音と汗が大量に流れる

 

 壊れては回復を繰り返す細胞を透き通る世界で眺めながら微調整をすることで、ロンメルの全身に花柄の痣が浮かび上がる

 

 それはまるで織田木瓜の様であり、顔の右頬に1つ、右肩に1つ、背と腹に大きいのが1つずつ、左足に1つと5つの痣が浮かび上がった

 

「……できた。ふぅ……」

 

 気を抜くと痣は消えたが、これでロンメルの寿命は25以下で死ぬことになる

 

「あと数年……この世界で成すべき事は見えている。ならば長生きはしなくて良いな」

 

 ロンメルは覚悟を決めていたし、この世界では子孫を残さないことも決めていた

 

 柱の皆と比べると鬼への恨みが薄い私が鬼狩りをしているのは生きるため……無惨を倒せば鬼狩りも解散となるだろう

 

 鬼狩りが無くなればロンメルは無職となる

 

 広くは無いが住む家と数年は生活できる蓄えはある

 

「後はどれくらい底上げができるかか……私は常時痣が出せるようにしておかなくてはいけないかな?」

 

 ロンメルは集中すれば痣が浮き出る様になるまで鍛練を続けた

 

 

 

 

 

 

 

「……見ているな」

 

 スパンとロンメルは刀を振るい小さな目玉の様な何かを斬る

 

 それはたまたま買い出しに里から街に降りていた時の事だった

 

 この街は藤の家紋の者達が集まってできた街であり、ロンメルのことも把握してくれているので、ロンメルが唯一姿を隠さずに買い物ができる稀有な場所であった

 

 そんな場所に鬼の下僕と思われる者が侵入しているということは

 

「お館様が言っていた最終決戦は間もなくだな……結局私の所に来る者は現れずか……悲鳴嶼さん相当難しい課題を課したな」

 

 なんだかんだで富岡も柱稽古に参加し、更に課題が増えたこともロンメルの課題に到達できる者が居ない理由でもあった

 

「……いや、待てよ。鬼殺隊の本拠地が直ぐそこのこの街で鬼の下僕が居ると言うことは……お館様が危ない」

 

 ロンメルは急ぎお館様の居る産屋敷邸に走った

 

 

 

 

 

 

 ドゴーン

 

 ロンメルが駆けつけた時に館から大きな爆発とキノコ曇が見えた

 

 爆風でロンメルは吹き飛ばされそうになるがそれを堪えて前に進む

 

「お館様……」

 

 ロンメルはあまね様から聞かされたお館様からの命令を思い出す

 

 

 

 

 

 

「ロンメル様、これまでの鬼殺隊への忠義感謝致します」

 

「いえ……お館様のご病気がいよいよ厳しいお話ですか?」

 

「いえ、最終決戦についてです」

 

「何か新たな進展が?」

 

「無惨がここ産屋敷邸を本格的に探し始めました。鎹鴉の報告で私達はあえてそれを放置しています」

 

「何故ですか?」

 

「ここ、産屋敷邸を最終決戦の地とするためです。ここであれば民への被害が少なくてすみますのでね……ロンメル様には言っておいた方が良いと旦那様からの命令が出ているので話しますが、もし無惨がここに侵入した際にこの屋敷を爆発し、無惨を傷つけ、戦闘を有利に致します。そこで娘2人、私、旦那様は死にます」

 

「……そこまでしなくてもとは言いません。覚悟を決められた目をしている。私からは何も言いません……」

 

「ご理解ありがとうございます」

 

「必ず無惨を斬り、この負の連鎖を断ち切ってご覧に入れましょうぞ!」

 

「よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

 

 

 

 あぁ、やったんだな

 

 ロンメルはそう思った

 

 お館様、あまね様、ご息女お二人……燃え盛る館から肉と血の焼けるような匂いがした

 

 ロンメルは思わず叫んだ

 

「掛かった!!」

 

 ロンメルは目撃する

 

 浅草の人の血鬼術により固定された無惨の姿を

 

 駆け付けたのは私だけでなく悲鳴嶼さんも直ぐそばに居た

 

「悲鳴嶼さん!」

 

「あい、わかった!」

 

 ロンメルの刀と悲鳴嶼の鉄球が無惨の首に届く

 

「やはり効かぬか」

 

 首を切断したが無惨は再生を始める

 

「「「お館様!!」」」

 

「こやつが鬼舞辻無惨だ!!」

 

 悲鳴嶼の叫びに遅れて駆け付けた柱達の目の色が変わる

 

 無惨は首を斬られ、爆破の隙をついた珠世さんが4種類の薬を混ぜた液体を無惨に吸収されて死ぬことを覚悟で突っ込み吸収させてもなお無惨は生きていた

 

 柱達が次なる一撃を繰り出そうと踏ん張った瞬間

 

 ベン

 

 と琵琶の音が響いた

 

 足元がいつの間にか扉に変わり

 

 落下していく

 

「クックックッ……最終決戦の場は無惨が用意してくれた様だねぇ」

 

 そこには鬼が溢れかえっていた

 

 下弦と呼ばれる鬼の力を無惨により無理やり与えられた鬼……いや怪物達がそこに居た

 

「あぁ、可哀想に……人の面影すらないのか……今楽にしてあげよう」

 

 ロンメルは一瞬で30もの鬼の首と思われる場所を切り裂く

 

「さて、運命の夜といこうじゃないか」



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無限城 黒死牟戦

「いろはにほへと ちりぬるを……」

 

 いろは歌を歌いながらロンメルは歩きながら鬼の首を切り落としていく

 

 一歩進むごとに筋肉が膨張し、全身に更に織田木瓜の痣が浮かび上がる

 

 全身から蒸気が放たれ刀は赫刀へと変わる

 

「あぁ信長様、私はここまで到達致しました。義輝様に今ならば勝てるでしょうか……煉獄さん、今ならばあなたを倒せるでしょうか……」

 

 ロンメルは凄まじい威圧感を放ちながら進む

 

 理性が吹き飛んで居るはずの鬼が一瞬たじろぐ程の威圧感

 

 味方であるはずの鬼殺隊の隊員は怯えながらロンメルの後ろを着いてくる

 

「おや? おやおやおや? 私の周りは危ないですから近くに居ない方が良いですよ」

 

「ひぃ! し、しかし柱のロンメル様に着いていかなければ弱い我々は死んでしまいます」

 

「大丈夫、あなた達が協力すれば雑魚鬼位は倒せる……そうだねぇ……2時間。2時間だけ耐えればなんとかしてあげるよ。私も周りを構っていられる程余裕が無くなるかも知れない……そうなった時、申し訳ないけどあなた達は足手まといでしかない。だから離れて欲しいのだけど」

 

 するとカアッカアッと鎹鴉が飛んできて

 

「胡蝶しのぶ死亡! 胡蝶しのぶ死亡」

 

 と報告が入る

 

 ロンメルの全身の血管が浮き出る

 

「そうか……どうか安らかに……そして今晩は上弦の壱さん」

 

「「「!?」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 き、気がつかなかった!? 

 

 ロンメル様が言うまで全く存在感がなかったぞ!? 

 

「な、なぁお前ら気がついていたか?」

 

「い、いや、全くわからなかった」

 

「認知した瞬間には、吐きそうだ……凄まじい殺気が!?」

 

 俺の名前は山城……階級は乙……柱から数えて3番目に強い剣士だが、今にも心が折れそうだ

 

 目の前ではロンメル様が戦い始めている……上弦の壱と

 

 侍みたいな目玉が6つもある鬼と互角に戦ってやがる……化物だ……両方とも化物だ!! 

 

「山城! ここから離れるぞ! ロンメル様は俺達に攻撃が来ないように立ち回ってる! 邪魔でしかないんだ! 俺達は!!」

 

「あ、足がふ、震えて……」

 

 足が上手く動かない……ヤバいヤバいヤバい! 動け! 一刻も早くこの場から離れなければ死ぬ!! 

 

 佐々木と田辺の2人が俺の両腕を掴んで一気に奥へ逃がしてくれた

 

「はぁ、はぁ……あ、汗が止まらねぇ」

 

「な、なんでロンメル様はあんな攻撃の中笑ってられるんだよ」

 

 ロンメル様は上弦の壱の攻撃の前に笑っていた

 

 笑いながら攻撃を続けていた

 

 恐ろしい速度の攻防は俺達には全く見えなかったが……

 

「み、見なければ……怖くても恐ろしくても……ロンメル様の勇姿を……俺達でも攻撃のチャンスが来るかもしれない……だから見るんだ!」

 

 その瞬間俺達が隠れていた壁の上半分が切り裂かれた

 

「「「ひいぃ!」」」

 

 どうやら上弦の壱の斬撃が飛んできた様だが俺達は腰が抜けてしまいもう動くことができない

 

「ロンメル様! ロンメル様! 勝ってください!!」

 

 情けないことに俺達は願うことしかできなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴女……名を何と言う……」

 

「怪異正八位下蝦夷地守護東狐ロンメル」

 

「正八位下……官位持ちか……室町の頃の役職であるな……なぜ今の時代に室町の官職を出すのだ……私を愚弄しているのか?」

 

「名字を怪異又は砂山……名を東狐及びロンメル……種族をウマ娘及び妖怪なり」

 

「妖怪……数百年生きてきたが妖怪等は始めて見たな……」

 

「貴方の番です……名を教えてください」

 

「継国巌勝……私が人で有った頃の名だ。今は黒死牟と名乗っている」

 

「黒死牟……」

 

「ロンメル……」

 

「「素晴らしい。透き通る世界がみえているな」」

 

 ロンメルは目の前の鬼が透き通る世界がみえていると感じた

 

 同様に黒死牟もまたロンメルが透き通る世界に踏み入れていることに気がついた

 

「ああ、練り上げられた威圧感、殺気……まるで芸術の様だ……私が知り得た中でこの領域に踏み入れていたのは私を入れても3名だけだった……1人はト伝先生、1人は足利義輝様、そして私だ……未だに発展途上なのが惜しいのですが、黒死牟……あなたは違う……1つの到達点にいる」

 

「数百年と生きてきてこの領域に踏み入れた人物はお前の他に1人しか知らぬ……なぜ室町の足利将軍の名が今出てくるのだ……」

 

「私は世界を渡る異能を持っているのです。戦国の世で暮らしていた頃にト伝先生の門下となり、義輝様に奥義を習った……それが一之太刀……貴方の言う透き通る世界です」

 

「ほう……興味深い話だ……ロンメル、お前を喰らえば私も世を渡る事ができるのか?」

 

「わかりませんが試してみます?」

 

「面白い……私の闘気を前に心拍が全く変わらず……いや、全身に痣を出し、刀を真っ赤に染める程の力を出してなお有り余る体力には感服すら覚える……ロンメル。鬼となり、あのお方に使っていただこう」

 

「生憎私は鬼になるつもりは無いよ……自身の持つ肉体でどこまでいけるか試したいからね」

 

「……愚かな」

 

「……命とは限りある故に美しいのですよ……まぁここら辺は貴方と私が絶対に交わらないことでしょうね」

 

「……ああ、では参ろう」

 

「簡単に殺されないでくださいね」

 

 次の瞬間両者の刃が混じり合う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 素晴らしい……種族が違うとしても練り上げられた筋肉、鍛え上げられた臓物、血液1滴に至るまで操作する集中力……これでまだ未完成と言うのか……

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月 宵の宮」

 

「水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦」

 

 初見で私の技を防ぐとは見事な

 

 過去に戦ってきたどの柱よりも強い……奴以来の剣士だ……数百年私は奴の影を感じながら生きてきた

 

 今、奴に最も近い剣士が目の前に居る

 

「月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月」

 

「炎の呼吸 陸ノ型 円炎」

 

 見事な……炎の呼吸と水の呼吸を同じ練度で扱う剣士等見たこともない

 

 肺が特殊なのか? 

 

 常人の3倍には大きな肺だ

 

 種族が違うことを加味しても人と同じ大きさの者が持って良い肺ではない

 

 心臓もそうだ……奴の胸が左が大きく見える程膨張した心臓

 

 骨密度も常人の10倍は有るであろう

 

 血管1つ1つが太く血流も並みの柱よりも特段早い

 

 素晴らしい逸材だ

 

 それ故に惜しい

 

 鬼となれば私をも超える存在となるだろう

 

 永遠に切磋琢磨し、奴をも超える事が可能だろう

 

 可能性が有った猗窩座が死んだ今、まともな上弦も私しか居ない

 

 それ故に目の前のロンメルを鬼にしたいと思ってしまう

 

「……なぜ笑う?」

 

 ロンメルは小さな切り傷はあれど戦闘能力に全く陰りは無い

 

「なぜって……素晴らしい剣技を今、この時に見て学ぶ事ができているからだ! 成長を感じられる! 更なる高みに行ける! これを笑わずに居られるかぁ!」

 

「戦闘狂め……だがそれも良い……」

 

「水の呼吸 拾ノ型 生生流転」

 

「月の呼吸 参ノ型 厭忌月 銷り」

 

 私の斬撃が届いた瞬間に水の呼吸の技で受け流した

 

 見事! 

 

 私の攻撃は血鬼術の影響もあり小さな刃が不規則に付いて回る

 

 更に小さな刃の大きさ、長さも1つ1つ変化する

 

 僅かな付けた傷も呼吸により直ぐに止血し、血の一滴も無駄にしない……

 

 ……痣の数が増えてきている

 

 戦いながら成長しているのは間違いない

 

 ただ同時に私も成長を感じられる……この感覚は久しくなかった

 

「……素晴らしい。やはりロンメルお前は鬼になるべきだ」

 

「……何度言われようと私は人として死ぬ! 長く生きる意味は無い」

 

「惜しい……惜しい……ならば少しでも長く私に喰らい続けよ……月の呼吸 伍ノ型 月魄災渦」

 

「炎の呼吸 漆ノ型 炎上爆雷」

 

 動作も無く放たれた私の攻撃に昔には無かった炎の呼吸の漆ノ型の技で直線上に有った全ての斬撃が消された

 

 そのままの勢いで私の腹に一筋の傷がつけられる

 

 焼けるように痛い、熱い

 

 その傷も再生が何故か遅い

 

「その日輪刀……ただの日輪刀ではないな!」

 

「真っ赤染まっているのは私の体温と力が反応しているから……これで斬られると鬼は再生しないらしいな……まぁ無惨には効かないだろうけど」

 

「なるほど……これでお前と私は一時的に同じ領域となったか」

 

「互いに怪我を負えば再生しない……侍なのであろう? まさかそれくらいの不利で逃げ出したりはしないであろうな」

 

「……ほざけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の攻撃に遠距離の攻撃は無い

 

 遠距離に見える攻撃も斬撃が飛ぶ訳でもない

 

 どれも刀の延長線上の攻撃でしかない

 

 対して黒死牟の攻撃は殆どが斬撃である

 

 私はこの攻撃を流しながら吸収を始めていた

 

 まずは呼吸を切り替える

 

「ホオォォォ」

 

 そして真似をする

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月 宵の宮」

 

 そこには確かに斬撃が飛び出した

 

「……なに」

 

「動揺したな」

 

 ロンメルの追撃により左太ももに薄く傷がつく

 

「……数百年……私と同じ呼吸をした者は居なかった……感動しているのか……私が……」

 

「月、炎、水……更に混ざり昇華しなければ」

 

「見せてみろ……高みとやらを」

 

 月の呼吸同士がぶつかる

 

 方や斬撃のみの三日月の様な綺麗な線が

 

 方や不規則な刃が付いた不定形な線が

 

 混ざり合う

 

 斬撃が飛び回り周囲一帯の柱や壁がドンドン斬り裂かれて崩れていく

 

「月の呼吸 陸ノ型 常世孤月 無間」

 

「月の呼吸 弐ノ型 珠華ノ弄月」

 

 ドンドンロンメルは今見た呼吸を吸収していく

 

 技を受ける度に月の呼吸をコピーしていく

 

 ロンメルは

 

「クックックッ……楽しいなぁ!」

 

 満面の笑みを浮かべていた

 

「もっと見せろぉぉお!!」

 

「どちらが鬼かわからぬではないか……高揚している……心地好い……それ故に惜しい……これ程迄に研鑽し、極めた肉体と技が……この世から消えるのだから……嘆かわしいとは思わぬか」

 

「ようやく殺し合いをする気になったか!! あぁ、思わないねぇ! まだ未完成な肉体では死ぬ気は無いからねぇ!!」

 

 血の鉄分が皮膚を硬化させる

 

 織田木瓜の痣だらけだった腕が真っ黒に染まる

 

「なんだその腕は……」

 

「知らん!」

 

 ロンメルの速度が更に上がる

 

 体からは水蒸気が上がり続けしゅううと音を立てて

 

「どうやら速度は上回った様だぞ」

 

 腕の次は足が黒色に染まる

 

 鋼の様な光沢をも備えてまるで本当に鋼の様になったかのようである

 

「……詫びよう……心のどこかで手加減をしていた様だ……死ぬなよ」

 

 次の瞬間予備動作無しの斬撃がロンメルを襲った

 

 ロンメルは上がっていた肉体の五感による感知能力で刃が届く瞬間に刀を振るい急所の一撃のみ外すが、肩、腹部、真っ黒に硬くなっていたハズの腕と足にも大きな傷がつく

 

 腹部は薄皮一枚で済み、臓物がこぼれることは無かったが、ダメージは大きい

 

「虚哭神去……この刀の名だ。これは私の肉体で造った刀だ……認めた者にのみこの太刀の姿を見せる」

 

 その太刀……いや、大太刀は3本に枝分かれした刀身に幾つもの目玉が浮かんでいた

 

「クックックッ……楽しくてしょうがないねぇ!」

 

「戦闘狂の相手は疲れるが……それも今宵は心地好い……いざ、参る」



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継承される月

「月の呼吸 捌ノ型 月龍輪尾」

 

 巨大な龍が横に広がるかのような斬撃をロンメルは

 

「水の呼吸 拾弐ノ型 押水濁流鉄砲水」

 

 とロンメル最大の物量攻撃で相殺

 

 ただし細かい傷が付けられる

 

(一撃一撃が今までと比べ物にならない……速度が上がった私を更に上から押し潰す気か!?)

 

 絶体絶命のピンチ……ここでロンメルは思い出すのは信長だった……

 

 

 

 

 

 

「ロンメル、お主は複数の事をやらせると1つの事が疎かになりやすいな」

 

「すみません」

 

「よいよい、責めているわけではない……あまり完璧を求めすぎるな……勿論完璧を目指すことは良いが区切りを設けなければ無限にもがき続けるだけだぞ」

 

「区切り……ですか」

 

「あぁ、そして自分だけで完璧を求めるな。人の手を借りよ……幸いにしてお主には学校という己の手足に成りうるものが有るではないか……楽をしろとは言わぬ。全てを上手く使え」

 

「不器用な私にでもできますかね」

 

「お主が不器用ならこの世の全ての者が不器用よ……ロンメル、余の覇道に手を貸せ」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

「完璧でなくても良い……今出きる最大限をぶつけるんだ」

 

 漆黒に染まった腕の上から更に真っ赤な血の痣が浮き出る

 

 血管が異常膨張した結果浮き出て見えるようになったからだ

 

「行くぞ黒死牟……炎、水、月の合わさりし呼吸よ!! 霸の呼吸……壱ノ型……月水爆」

 

 ボボボと異音を奏でながら刀が通った後が爆破していく

 

 音の呼吸に近しいものであるがそれとは違い、爆破後水滴が落ちる

 

 その水滴が刀に付着することで更なる爆破が産み出される

 

 それはまるで三日月の様に半円を描く

 

「月の呼吸 玖ノ型 降り月 連面」

 

 前面に対しての斬撃乱れ撃ち

 

 その攻撃が月水爆の引き起こす爆破に触れた瞬間、爆破が斬撃を伝い黒死牟を傷付ける

 

「霸の呼吸 弐ノ型 水導線」

 

 刀身から僅かに飛び散る水滴が斬撃に乗り、それが導火線となって爆破が連鎖する

 

 それは光の反射で色づき花火のように美しく爆ぜる

 

 それが部屋全体に広がり続ける

 

「月の呼吸 拾ノ型 穿面斬 蘿月」

 

 黒死牟は体を回転させ斬撃によるガードを行うことで爆破を防ぐがそれすらも爆破の糧となり、密集した斬撃により大爆発が発生する

 

「愚かな……爆破程度の攻撃では直ぐに再生する」

 

「炎の呼吸 捌ノ型 迦具土」

 

 炎の神の名前を持つその技は爆破の炎を吸い込み刀身を引き伸ばす

 

 その長さは8メートルを超え、大太刀の数倍の長さであり、そこからロンメルの高速の一撃が叩き込まれる

 

「月の呼吸 拾陸ノ型 月虹 片割れ月」

 

 上から複数の斬撃が地面に突き刺さるように振り下ろされる連撃が迦具土を防ごうとするが、炎は形を変えながら黒死牟の首一直線にうねりながら動く

 

「見事……それ故にただでは死なぬ! 拾肆ノ型 兇変 天満繊月」

 

 部屋全体を斬撃が覆う

 

 炎をもかき消そうとする

 

「弐之太刀」

 

 別名もがり笛とも呼ばれる首を落とすことに特化した技である

 

 ロンメルはこの土壇場で一之太刀を更に昇華させた

 

 体の動きを最適化した無駄の一切無い攻撃には殺気が存在せず

 

 黒死牟の目には人ならざる者に見えた

 

 それはかつて痣を出しても25を過ぎても死ななかった弟を連想するのに十分であった

 

「さようなら黒死牟」

 

 首が、体が、全身が火柱を上げながら黒死牟の体を爆発的に燃やす

 

 黒死牟は首を斬られてもなお再生しようとするが

 

「貴方の見せた月の呼吸11種の型は私が継承致します。どうか安らかにお眠りください」

 

 その言葉を聞いたのか黒死牟はこれ以上再生することは無く塵となって消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 私には弟が居た

 

 全く言葉を発しない弟は幼き頃母親のいつも左側にピッタリとくっつき離れようとしなかった

 

 母親が病で死んだ時、母親の左半身が不随となっており、それを助けるために弟は母親の左側に常に寄り添っていたのだと気がついた時には嫉妬で全身が焼きつく音を聞いた

 

 弟は私がどれ程鍛練を積んでも一本も入れることのできなかった父の配下の侍に何の鍛練もしていない弟が瞬きをする間に4撃をも与えて失神させた

 

 刀の持ち方、構え型すら知らなかった弟がだ

 

 弟はこの時すでに透き通る世界が見えていた

 

 遥か高みの天才という者を私は今まで部屋の隅に追いやられ寺に出されるしかない者だと哀れんでいた私は何と滑稽なのだろうか

 

 しかし弟は母の死と同時に家を発ちそのままの行方知れずとなった

 

 それから10年程私は平穏な生活を続け、妻子にも恵まれた

 

 変化が有ったのは戦場からの帰りに鬼と遭遇し、配下が殺され、私も後少しで殺される寸前に弟と再開したことだ

 

 弟は鬼狩りとなり、過去とは比べられないほど研鑽を積み、剣の腕は更に高まり、人格者へと成長していた

 

 私はどうしても弟の剣の腕を我が物にしたく妻子を捨て、家を捨てて鬼狩りへとなった

 

 弟は誰にでも呼吸や剣技を教えたが、誰一人弟の日の呼吸が出きる者は居なかった

 

 様々な日の呼吸の派生が誕生し、私の月の呼吸もその1つであった

 

 ただ、私の月の呼吸も他の誰もできなかった

 

 痣が出現したのはその頃だろうか

 

 痣者が次々と現れ、鬼殺隊の戦力は日に日に高まっていった

 

 しかし、誰も弟の域には到達できなかった

 

 私は鍛練を続ければいつかその域に到達できるのではないかという僅かな希望と悔しい思いで懊悩としていた頃……痣者がバタバタと死に始めた

 

 痣は寿命の前借りでしかないことがわかり、私に残された時間は残されていなかった

 

「ならば鬼になれば良い……鬼となれば無限の刻を生きられる」

 

「お前は技を極めたい。私は呼吸とやらを使える剣士を鬼にしてみたい」

 

「どうだ? お前は選ぶ権利がある。他の者とは違う」

 

 私は鬼の棟梁である無惨様に頭を下げ忠誠を誓った

 

 私の欲していた物……人を超越した肉体と僅かしか残されていなかった時間を無限の刻に変えてくれた

 

 私はこの時弟を超えたハズだった

 

「お労しいや兄上」

 

 80を超えた弟に再開した

 

 私は信じられぬ者を見た

 

 皆25を超えること無く死んで行くハズなのになぜこいつは死なないのだ

 

 と思ったと同時に老いて肉体は全盛期を過ぎた老人……鬼となった私が負けるハズはないと考えていた

 

 甘かった

 

 老骨であれどその一撃は最盛期と何ら劣らぬ技であり、私は嫉妬した

 

 神々に寵愛を一身に受けて生きている弟を見て憎く、そして殺気が沸いてくる

 

 しかし私は弟の次の一撃で殺されるだろうという確信が有った

 

 神の御技に他ならない

 

 焦燥と敗北感で五臓六腑が捻じ斬れそうだった

 

 次の一撃が来ることは永遠になかった

 

 弟は直立したまま寿命が尽きて死んでいた

 

 私は永遠の敗北者となった

 

 勝ち続けるために鬼となったのに

 

 このような醜い姿になってまで永遠の刻を選んだのに

 

 私には弟の下であるという事実が覆る日が永遠に来なくなった

 

 ロンメル……私の技を受け継いだ者だ

 

 彼女は弟とは違う

 

 痣を出したことで25を超えること無く死ぬだろう

 

 その才覚は私をも超えていたが弟には及ばない

 

 首を斬られ、燃えているのにも関わらず再生しようとする肉体

 

 生き恥

 

 私はただ弟の様になりたかっただけなのだ

 

 ……しかし、私は最後の最後でお前に勝った

 

 技を継承することができた

 

 ある時弟に私達の日の呼吸と月の呼吸は後継者が現れず継承が絶望的であるという話をしたことが有った

 

「兄上、私達はそれほど大それた者ではない。長い歴史のほんの一欠片……私達の才覚を上回る者がこの瞬間にも産声を上げている。彼らがまた同じ場所までたどり着くだろう」

 

「何の心配もいらぬ……浮き立つ様な気持ちにはなりませぬか兄上」

 

 長い年月間で日の呼吸の直系は私が殺して途絶えたのに対してロンメル、お前のお掛けで私の技は未来に託すことができた

 

 縁壱、私は初めてお前に勝った

 

 ……あぁいや、1人日の呼吸使いがまだ残っていたな

 

 引き分けか……最後の最後で良い夢を見ることができた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「グフ……」

 

 戦いの反動でロンメルは吐血し、体が自由に動かなくなっていた

 

「ろ、ロンメル様!!」

 

 隠れていた隊員達がロンメルの元に駆けつけ治療を開始する

 

「わ、私に構うな……無惨を倒せ……」

 

「貴方がいなければ無惨を倒せません! 何とかして回復してください!」

 

「無茶言うなよ……体のリミッターを幾つもの外したんだぞ……全身内出血して痛いんだぞ」

 

 そこへ悲鳴嶼と時透が到着する

 

「上弦の壱討伐見事」

 

「ロンメルさん大丈夫……そうじゃないね」

 

「悲鳴嶼さん、時透……上弦の壱は見事な武士だった……グフ」

 

「「ロンメル」さん!」

 

「2人に一之太刀の伝授をする……呼吸で目に集中するんだ……目の毛細血管の流を加速させ、瞳のレンズで光を目一杯吸収して……情報を全て取り込むことで一之太刀は開ける……世界が透き通る」

 

「わかった。無理をするな」

 

「ロンメルさん! 上弦の弐も死んだ……後は無惨だけだ」

 

「わかった……少しだけ休ませてくれ……回復に集中する」

 

「先に行く! お前達ロンメルの介護をしてやれ!」

 

「「「はい! 悲鳴嶼様」」」

 

「よし、先に行くぞ」

 

「悲鳴嶼さん」

 

「なんだ?」

 

「これを」

 

 ロンメルは血が付着した笛を渡した

 

「上弦の壱……黒死牟が残した物です。鬼を食べて強化していた隊員が確か悲鳴嶼の継子でいましたよね? 有ったら食べさせてください。必ず力になるでしょう」

 

「わかった。もう良い休め」

 

 ロンメルは悲鳴嶼達に後を託してしばしばの休みに入る



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ロンメルとは

「復活ッ! 復活ッ! 無惨復活ッ!」

 

 ロンメルは治療を受け、僅かな睡眠中に鎹鴉のその言葉で目覚めた

 

「治療感謝するお前達……もう良い逃げろ」

 

「逃げろって言ったって……」

 

「鴉」

 

「カァ!」

 

「皆を逃がせ……出きるだろ」

 

「デキル! デキル!」

 

「ロンメル様! 必ず生きてまた会いましょう!」

 

「「ロンメル様!!」」

 

「必ず会おう」

 

 ロンメルはボロボロの肉体を動かし戦場に戻る

 

 グラグラとこの空間がけたたましい音が響き始める

 

「何が起きている!? 無惨と誰かが戦闘しているのか」

 

 グラグラと空間が上下左右に動きだし空間がいよいよ崩れ始める

 

 すると下から凄い勢いで床が押され、天井を突き破り地上に排出される

 

「ここは……外か?」

 

「カァ! 夜明けマデ1時間半!」

 

 無惨は首を斬っても死なないので日の光に当てる必要がある

 

 遠くで戦闘音が聞こえる

 

「無惨だ……無惨と皆が戦ってる」

 

 ロンメルは再び足に力を込める

 

 足は再び痣が浮き出し

 

 僅かながらに回復した体を呼吸で治癒能力を無理矢理上げて再生を始める

 

(超回復訓練と同じだ……傷付いた肉体を回復させろ……)

 

 一歩……また一歩と戦闘がする方向に向かって走る

 

 そこでは皆が戦っていた

 

「時透!!」

 

 無惨の攻撃が時透に当たろうとした瞬間、私は彼への攻撃を庇った

 

「ガハ!?」

 

「「「ロンメル!!」」」

 

 無惨の触手な様な物でロンメルは斬られた

 

 右肩から左太ももまで深く

 

 血が出る

 

 バタリとその場で私は動けなくなってしまう

 

 それを悲鳴嶼さんが私を遠くに放り投げた

 

「無様だな。黒死牟を倒した柱が一撃で死ぬのだから……私の攻撃には人を鬼にする成分があるが、それを許容範囲外の量を接種すると人は死ぬ……あの柱はもう無理だろう」

 

「無惨! 貴様はここで殺す!」

 

「やってみろ」

 

 

 

 

 

 

 

 ドクン

 

 皆が戦っている

 

 ドクン

 

 私は何をしている

 

 ドクン

 

 地面に張り付いて動けないままで

 

 ドクン

 

 心音が聞こえる……なんだ? 

 

 ドクン

 

 無惨の言葉が本当ならば私は死んだハズ

 

 ドクン

 

 なのにまだなぜ意識がある? 

 

 ドクン

 

 心音はする

 

 ドクン

 

 音も聞こえる

 

 ドクン

 

 皆が戦っている

 

 ドクン

 

 そもそもだ……私はなぜ戦う? 

 

 ドクン

 

 家族も知り合いも家臣も主も居ないこの世でなぜ人を守るために戦う? 

 

 ドクン

 

 人は皆私を妖怪と恐れるのになぜ私は人を守ろうとする? 

 

 ドクン

 

 人は好きだ

 

 ドクン

 

 柱の皆も好きだ

 

 ドクン

 

 この世で新たな繋がりができた

 

 ドクン

 

 鱗滝さんから始まり柱の皆、炭治郎、善逸、伊之助……お館様、珠世さん……それに鬼殺隊の隊員達

 

 ドクン

 

 信長様……あぁ、私は主が欲しいのだな……主が居なければ……導いてくれる人が居ないと駄目なウマ娘なんだ

 

 ドクン

 

 私は特別なんかじゃない

 

 ドクン

 

 私は普通のウマ娘……ウマ娘故に力が強いから人を圧倒できるだけ……ただそれだけ

 

 ドクン

 

「馬鹿者」

 

 !? ……信長様!? 

 

「お主が今までしてきた努力と功績を否定するな! 余がそれは……それだけは許さぬ! 弱気になるな! 前を向け! 歩み続けろ!」

 

 信長様……

 

「大海を目指せロンメル! お主は強い! 余の一番の家臣が弱音を吐くな!」

 

 ……はい! 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ドゴン

 

 無惨の一撃により柱及び善逸、伊之助、カナヲの3名が戦闘不能となり、無惨が勝利確実かと思われた時

 

「ほう……あの量の血を吸収してまだ死なぬか……黒死牟を倒した柱よ」

 

「ロンメル」

 

「あ?」

 

「我が名はロンメル……信長様の一番の家臣なり」

 

「……鬼殺隊の隊員の中でも飛びきりの異常者のようだな……なぜ私に構う? なぜ私の邪魔をする」

 

「私は私が良いと思った行動をするまで! 恩、義……全てに感謝を……私の役割は無惨……貴様を倒すことだ!」

 

「そのボロボロな肉体でか? 笑わせる……膝にガタが来ているではないか」

 

「だからなんだ! 私の正義をぶつけるまで!」

 

「ならば私の正義で倒そう……私の方が正しいからな」

 

 ドクン

 

 ロンメルの全身が黒色に染まった上で赤い痣が大量に浮き出る

 

 刀は真っ赤の赫刀へと変わり恐ろしい速度で技を繰り出していく

 

「水の呼吸 壱ノ型! 弐ノ型! 参ノ型! 肆ノ型! 炎の呼吸 陸ノ型、漆ノ型! 捌ノ型! 月の呼吸 玖ノ型! 拾ノ型! 拾肆ノ型! 拾陸ノ型!!」

 

 繋げられるだけ技を繋げる

 

 そもそも別の呼吸を複数やる行為は普通ならできない

 

 現鬼殺隊員の中でも別々の呼吸を使い分けられるのは炭治郎のみであり、その炭治郎も適正の関係で水の呼吸よりもヒノカミ神楽の適正が高く、水の呼吸とヒノカミ神楽を混ぜた呼吸を使っている

 

 ロンメルみたいに技毎に呼吸を使い分け、それを繋げて一連の技にするというのは本来体や肺が持たない自殺行為である

 

 しかし、ロンメルは無茶無謀な行為を普通にやってのけた

 

 更には技の繋ぎとして霸の呼吸を織り混ぜることで技に爆破を付与し、無惨の攻撃を爆破で弾いていた

 

「醜い姿だなロンメル……体から毒によって膨張した肉塊、細かい傷により爛れた顔面……元々の尻尾や耳によりいよいよ人には見れぬな……どちらが鬼かわからぬ……虫酸が走る」

 

「……私にばかり注目して良いのか無惨」

 

 スパンと無惨の背中から出ている触手が斬られる

 

「……炭治郎!!」

 

「終わりにしよう無惨! この長年の負の連鎖を!!」

 

「炭治郎ぉぉぉおお!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 死の淵を垣間見た生き物はより強靭となることを私は知っている

 

 死を回避するために通常生きていく上で不必要だった感覚や力の扉が開かれるのだ

 

 扉を開けぬ者は死ぬ

 

 扉を開いた者は……

 

 炭治郎は死の淵で妹の力を借りず刀身を赫くした

 

 ロンメルは私の血を克服した

 

 どちらも扉を開いた訳か

 

 柱達も各々の力で刀身を赫くした

 

 だが

 

 及ばない……遠く及ばないのだお前達は……あの男(継国縁壱)には

 

 あの男の赫刀は、斬撃はこんなものではなかった

 

 確かにロンメルはあの男に今まで出会ってきた者の中で一番近いがそれでも遠く及ばない

 

 あの男の様な者が早々生まれるハズはない

 

 炭治郎は既にヒノカミ神楽の速度が低下し始めている

 

 ロンメルの限界を超えて体を動かしている故に時期に死ぬ

 

 私の勝ちは揺るがない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 残り50分

 

 ロンメルの限界は刻一刻と近づいていた

 

 痣が1つ1つと青くなっていく

 

 酸欠だ

 

 赤い血液にするための酸素が足りていない

 

 肺を酷使し過ぎたツケが出てきていた

 

 それでも残った肺の細胞を使い、超回復を肉体に強制させる

 

 ロンメルは全身肉離れの様な激しい激痛に耐えながら赫刀の条件である握力200キロを維持していた

 

 それでいて刀を振るい続ける

 

 炭治郎のヒノカミ神楽を邪魔しないように月の呼吸を使うと上手く技が噛み合う

 

 ヒノカミ神楽と月の呼吸は相反する様に見えて連携においては抜群の相性であった

 

 それ故に手負いで死にかけの2人でも無惨を何とか押さえ込んでいる

 

 無惨はどうやら気がついた様だ……珠世さんが命をかけて投入した薬の効果……老化の促進に

 

 既に無惨は九千年は老いている

 

 無惨の攻撃の精度が落ちてきている

 

 私の命が尽きるのが先か……無惨の弱体化が進むのが先か……

 

 そんな時、炭治郎がよろけた

 

「た、炭治郎!!」

 

 ロンメルは炭治郎の服を掴むと放り投げた

 

「ぐおぉぉぉぉ!!」

 

 ロンメルの全身に無惨の触手が突き刺さる

 

「ロンメルさん!!」

 

「終わったな」

 

 全身に6つもの穴を開けられたロンメルは炭治郎にニコリと笑みを浮かべると膝から崩れて地面に伏せた

 

「ろ、ロンメルさん!!」

 

 誰の目からもロンメルは助からないと思われた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は無惨を倒すことが叶わないのか? 

 

 まだだ、命がまだ尽きてない

 

 傷を塞げ……立て……くうぅぅぅ力が全く入らない

 

 視界がどんどん暗くなる

 

 死ぬのか……役目を果たせぬまま

 

 私が死ねば次は炭治郎や生き残っていた柱の皆、鬼殺隊の皆……いや、民までもが大勢死ぬのだぞ

 

 奮い立て……ロンメル……立つんだ……

 

「ロンメル……お前の名前にはドイツの偉大な元帥の名前が付けられているんだ」

 

 誰だ? 何だ? この記憶は

 

「その元帥はな……敵味方問わず英雄視されたんだ! 凄いだろ」

 

「お前はきっと世界を取れる! そして英雄になるんだ」

 

「美しい尾花栗毛のお前の血にはサッカーボーイ、オグリキャップ、ナリタトップロード、トウカイテイオー、ジャスタウェイと名馬の血が通ってるんだ……まぁサッカーボーイ以外は名種牡馬とは言えんが……それでもお前ならばそれらの名馬に負けない位の活躍をしてくれると俺は信じてるからな! 頼んだぞロンメル!」

 

 これは……私の前世の記憶? 

 

 そうか……やはり私も馬だったのか……聞いたことある名前がちらほら……そんな馬だったのか

 

「ロンメル元帥は敵味方問わず慕われた偉大な英雄だ! その名前に恥じることの無い生き方をしようぜ!」

 

 あぁ、私はそんな期待されていたのか

 

 ならば役目を果たさずに死ぬわけにはいかないなぁ

 

「シイイイイ」

 

 肉が盛り上がる

 

 体の肉を集め、血管を無理矢理止血し、繋がっている血管を太く、失った臓器を他の臓器でカバーする

 

「まだ私は死なない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 何だと!? 

 

 何故立てる! 

 

 奴は殺した感触が有った

 

 確実に臓器の2つか3つは持っていったぞ

 

 なのに何故立てる

 

 何故死なぬ!! 

 

 人の範疇を超えている

 

 妖怪の類いだ

 

 私が恐怖を感じている? 

 

 あの男以外にか! 

 

 歩く度に大量の血液と体液を垂れ流し、胃と腸に大穴を開けたにも関わらず何故死なぬ! 

 

 ハァハァ……!? 

 

 息切れ! 私が!? 体力の限界が近づいている!? 

 

 復活した蛇の柱もそうだ

 

 他の者も次々に復活してきている

 

 体が鉛の様に重い……腕が上がらない!? ……害虫どもが!! 

 

「さようなら無惨」

 

「零之太刀」

 

 それはロンメルが残ったすべての細胞を犠牲にした技であった

 

 相手に刀を突き刺し走る

 

 擦りきれる、引きちぎれる、潰れるようにしてすりおろしていく

 

 高速で地面と接することで抵抗が生まれ、皮膚を肉を臓器を血を飛び散らせながら無惨は磨り潰されていった

 

「はなせぇぇぇぇ!!」

 

 ロンメルの首が飛ぶ

 

 頭を失ってなおロンメルは走り続ける

 

 頭を失って約5分

 

 体が限界を迎え地に伏した

 

 無惨は磨り潰された状態で日光にさらされ焼けるように消滅していった

 

「終わった……無惨が死んだ……ロンメルさんが殺ったんだ……死してなお無惨を殺ったんだ……」

 

 緊張の糸が途切れた柱や炭治郎達は全員倒れた

 

 



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蛇足

 ロンメルの最後を見た皆の者は皆涙を流した

 

 最終決戦……無惨の消滅により完全に勝利した

 

 しかし、失った者も多かった

 

 まずはロンメル

 

 柱の皆が存在を疑問視したところから柱にまで登り詰め、最後まで謎の多い人物であった

 

 戦国の歴史書をよく読んだかと思えば倒れるまで鍛練を続け、任務に支障を出す問題児であった

 

 柱達は問題行動を叱咤したもののロンメルの実力は認めており、最終決戦は上弦の壱及び無惨を倒し、千年以上に渡る鬼の驚異を取り除いた張本人であった

 

 肉体を欠損し、腹に穴が幾つも空き、最後は首をも飛ばされた上で無惨を倒しきった

 

 絶命

 

 そして竈門炭治郎

 

 無惨に毒を注入され、ロンメルと挟撃を続けた最後の日の呼吸の継承者

 

 柱達と共に無惨を追い込み、酸欠で倒れそうになったところをロンメルに助けられたりとしたものの、ロンメルが復活するまでの時間を蛇柱の伊黒と共に稼ぎ、最後まで戦った

 

 ロンメルが無惨を倒した後呼吸及び心臓が停止し絶命

 

 柱では上弦の弐により殺された胡蝶しのぶ

 

 その他100名近くの隊員が殺されてしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「来てくれてありがとう。今日が最後の柱合会議だ。(悲鳴嶼)行冥、(不死川)実弥、(伊黒)小芭内、(甘露寺)蜜璃、(時透)無一郎、(宇髄)天元、(冨岡)義勇……本来であればロンメルとしのぶもこの場に居て欲しかったが、君たちが五体満足で生還してくれたことを喜ぼう。そして大勢の子供達が居なくなってしまったが……私達は鬼を倒すことができた」

 

「鬼殺隊は今日で解散する」

 

「「「御意」」」

 

「長きに渡り身命を賭して」

 

「世のため人のために戦って戴き……尽くして戴いたこと」

 

「「「産屋敷家一族一同心より申し上げます」」」

 

「顔をあげてください!」

 

「お館様我々に頭を下げないでください! 我々は我々の意志でしたまで!」

 

「礼など必要ございません!」

 

「鬼殺隊が鬼殺隊であれたのは産屋敷家の尽力が第一」

 

「輝利哉様が立派に務めを果たされたこと……お父上含め産屋敷家御先祖の皆様も誇りに思っておられることでしょう」

 

「ありがとうございます……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の話をしよう

 

 宇髄天元

 

 嫁3人と沢山の子供に囲まれ余生を過ごす

 

 痣が最終決戦で出なかったこともあり80まで長生きした

 

 

 冨岡義勇

 

 ロンメルの兄弟子であり、それをロンメルには伝えなかったが気にかけていた

 

 ロンメルが炎柱になったことは苛立ったが最終的には納得した

 

 元隠の女性を妻にし、産屋敷の援助もあったが痣を出していたため25歳の若さで亡くなる

 

 毎月ロンメルと竈門炭治郎の墓に死ぬまでお供え物を続けた

 

 子供にコミュ障は遺伝しなかった

 

 

 時透無一郎

 

 鬼殺隊解散後元々住んでいた山小屋に戻り仙人の様な生活をしていたが、フラりと町に降りた時に好かれた女性と結婚し、約5年間生活した後に痣の代償により死亡

 

 毎年最終決戦の日の翌日の日にロンメルと竈門炭治郎の墓参りを続けた

 

 

 悲鳴嶼行冥

 

 目が見えないながらも僧としての修行を改めて積み、鬼殺隊の墓を守る墓守兼住職となる

 

 墓参りにやってくる元鬼殺隊関係者と友好的に接し続けた

 

 ある時沙代という女性が寺に訪れた

 

 その女性はかつて悲鳴嶼と一緒に暮らしていた身寄りの無い子供の唯一の生き残りであった

 

 悲鳴嶼は鬼殺隊に入る前身寄りの無い子供達を寺で育てていたが、ある日鬼によって8名が殺されてしまう

 

 悲鳴嶼は唯一残った沙代だけは守らねばと奮闘し、素手で鬼が日の光を浴びて死ぬまで殴り続けて倒したのだが、その姿に恐怖し混乱てしまった沙代は

 

「あの人は化け物。皆あの人が皆を殺した」

 

 と虚言を言ってしまった

 

 悲鳴嶼は殺人の罪で投獄されお館様に助けられ鬼殺隊に入隊した過去が有った

 

 その沙代が自力で悲鳴嶼を探しだして寺に到着するや否や

 

 涙を流しながら土下座した

 

「私は何と愚かな事を先生にしてしまったのでしょう。先生が許してくれるとは思っておりません。ですが伝えなければと思いここに来ました……先生、本当にごめんなさい」

 

 悲鳴嶼はそれを許した

 

 過ぎた事だと

 

 沙代はその後寺に住み込みで手伝い目の見えない悲鳴嶼を支え続けた

 

 2人には子供はできなかったが、夫婦のように仲良く暮らしたとのこと

 

 悲鳴嶼は65歳でこの世を去った

 

 沙代は80近くまで生き、悲鳴嶼が残した鬼殺隊の墓守を引き継ぎ亡くなるまで綺麗に整備し続けた

 

 沙代が亡くなった後は悲鳴嶼の墓に一緒に入れられ、墓は産屋敷家が引き継いだ

 

 

 伊黒小芭内 甘露寺蜜璃

 

 2人は夫婦となるが伊黒が痣を最終決戦で出していたため残された時間は短かった

 

 しかし、その間に2人がやりたいことを悔いが残らないように沢山し、25で伊黒は亡くなる

 

 甘露寺は伊黒との間に残した2人の子供を女手1つで育て上げ、明るい性格で町内から人気者であり続けた

 

 子供が大きくなってから定食屋を開き大盛料理を提供し、皆を笑顔にしていった

 

 病気により78歳で亡くなるが、定食屋は子供達が引き継ぎ老舗となり現代でも子孫達が経営している

 

 

 不死川実弥

 

 弟玄弥と和解し、兄弟及び母親の墓を守りながら元藤の家紋の家の商人の家に就職する

 

 そこでそれぞれ妻をもうけて大家族を作った

 

 もう家族が別れないように家は隣であった

 

 ただ痣を出していたため25で亡くなる

 

 玄弥が兄の分長生きし、100歳の長寿で亡くなる

 

 産屋敷輝利哉の話し相手をよくしていたとの事

 

 

 産屋敷輝利哉

 

 ロンメルの功績を称え、一際大きな墓が建てられる

 

 その後大学卒業後産屋敷家の資産を運用して更に財を成し、元鬼殺隊関係者が路頭に迷わないように保護し続けた

 

 鬼殺隊解散後もお館様と呼ばれ続けた

 

 

 鱗滝左近次

 

 ロンメル、炭治郎と次々に弟子を失った事を嘆き悲しむが、富岡の家の近くに移り住み、おじいちゃんと呼ばれて富岡が亡くなった後も子供の面倒を見続けた

 

 晩年は狭霧山に戻り弟子達の墓の前でボーッとすることが多くなり、最後は炭治郎とロンメルの墓の前で亡くなっているのを悲鳴嶼が発見して供養された

 

 墓は狭霧山に埋められた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロンメルさん、貴女が無惨を倒してから100年が経過しました……もう鬼殺隊で生きているのも私だけとなりました。友の愈史郎もおりますが、貴女の功績を知る者が人では私で途切れてしまう事をお許しください……また来ます」

 

 風が吹く

 

 墓の前には短刀が突き刺さっていた

 

 その刃は100年が経過しても錆びる事なく赤紫青の三色に輝いていた



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狭間
狭間の空間


「……またここか」

 

(よー新入り初めましてだな! 俺の名前はマンノウォー! ビッグレッドの名前の方が知られているか? まぁ何でもいいや! いやー俺にもこの世界では初めての後輩かぁ! 嬉しいねぇ!)

 

 目の前には真っ赤な髪をした巨女が居た

 

 エクリプスさんから聞いていたマンノウォーその人である

 

「初めまして……ロンメルです。偉大な先輩と話せて光栄です」

 

「堅い堅い! もっとフランクでいこうぜーロンメル」

 

(あら、2人とも居たのね。私が今回は最後かしら)

 

「エクリプスさん!」

 

(ようババア! まーだ生きてんのかよ! 精神年齢500は超えたろ)

 

(煩いわねマンノウォー、貴女が居ると静かに紅茶も飲めないわ)

 

(出た出た紅茶を作り出す能力……これだからイギリス人は)

 

(あら? コーヒー大好きな貴女には紅茶は早いのではなくて?)

 

(好きじゃないだけで飲めるし!)

 

(クスクス、まぁせっかく集まったのだし情報交換といきましょ)

 

 ロンメルからしたらエクリプスさんは空気椅子をしながら優雅に紅茶を飲んでいる様に見えるのだが

 

(ババア空気椅子だぞ、椅子忘れてるぞ)

 

(あ? あらあら、失礼つい癖でね)

 

(ロンメルこのババア鍛えすぎてたまにおかしな格好になるから注意した方が良いぞ)

 

「あ、はい」

 

(じゃあ私から……私が行った世界は悪魔が蔓延る世界だったわ。強くはなれたけどこれといって特質すべきことは無かったかしら? 四肢欠損くらいなら治せるわよ)

 

(おお、スゲーじゃん。じゃあ俺な! 俺は宇宙世紀? て年代で超未来の話だったぜ! 戦争は楽しかったがこれといって覚えたってのは無かったな。肉体的成長は無しだ)

 

「じゃあ私ですね。私は鬼が蔓延る日本でした。呼吸法という技術があり、肉体をより強靭に、骨を折れにくく、筋肉を付けやすくする方法でしたが、魔法のような万能さはありません」

 

(呼吸か……良いなそれ。似たような世界があるかも知れねーな! そしたら行きてー)

 

(ロンメルさんに補足ですが、この世界では技術や物品の受け渡しはできないということをこの前言いましたよね。ですが私達には何かしらの共通点があると考えています)

 

(それを解き明かしたところで何があるんだ? ババア)

 

(まず私達が死ぬ時は異世界で何もできなかった時だと考えています。歴史に名を残す、強大な敵を倒す、技能を極める……それは単独でなくても良いわ。その世界の協力者と共同で行っても良いの)

 

(まぁ確かに俺も世界を8つ回ったが、単独で何かを成したことは無いな)

 

(逆に私は共同で何かを成したことは無いわ)

 

「私は……とりあえず2回とも共同で何かを成したことになるのでしょうか」

 

(まぁそれはどうでも良いの、私達が得た技能は別の世界でも普及させることができるわ。それこそウマ娘の世界でもね。できるかできないかは才能によるし、大抵劣化しているけどね)

 

「劣化……」

 

(まぁこれも良いでしょう……本題は私達3人の共通点です。例えば幼少期から強く速かったとか)

 

(まぁ俺には当てはまるからな!)

 

「あの……言いにくいのですが、私は劣等生も良いところで7戦0勝なのですが……」

 

(おお……もう……)

 

(じゃあこれは違うわね。後は……どこかで死んでいるとか?)

 

(あー、それはあるかも知れねーな。俺一回心臓止まったし)

 

(私は当時流行っていた疫病で死んだと思ったらここに居ましたし)

 

「あ、私は雷に直撃しました」

 

(じゃあ一度死んだという共通点があるわね……となると他にも当てはまりそうなウマ娘が居たりしない? それが新たな仲間となるかもしれないし)

 

(うーん、俺には心当たりはねぇなぁ)

 

「……あ、1人居ます」

 

(どんなウマ娘なの?)

 

(1989年のアメリカ三冠を走り抜けたサンデーサイレンスってウマ娘です。様々な逸話がありますが脱水症状で死にかけて、移動中の事故で死にかけて、虐待で死にかけて……だから運命に抗ったウマ娘って言われていました。45歳の若さで亡くなっていたハズです)

 

(ほー、俺の後輩にそんなウマ娘が居たのか)

 

(あり得るわね……)

 

「エクリプスさん、共通点を突き止めて何をしたいのですか?」

 

(今は無いかもしれないけど同じ世界に行くという可能性もあるわ。似ている世界に行く可能性も有るわ……だから情報の共有とはそれだけで大きな利益となるわ)

 

(例えば俺とエクリプスの一番似ていた世界ではポケモンという生物が居たりしたなぁ)

 

「ポケモンですか? ゲームの?」

 

(ゲーム?)

 

「はい、人気のゲーム……遊具と言えば良いでしょうかチェスとか人生ゲームとかの延長線……」

 

(あぁ、ゲームは俺達わかる。出身の時代よりも遥かに技術が進んだ世界に行ったことがあるからな)

 

「では、そのゲームにポケットモンスター……通称ポケモンというゲームが有ったハズです」

 

(まぁロンメルがわかるなら良いな。ポケモンの世界で成すべきことは共通している。チャンピオンになることだ)

 

「チャンピオン」

 

(そう……ただ違いが有って私はポケモンのエネルギーを取り込んで変身するという技術が有ったわ。マンノウォーはそんな技術は無くジムバッチを集めてチャンピオンに勝つことでその座を奪い取るというものだったわ)

 

(あの世界は楽しかったぜ。飯も旨かったしな)

 

「なるほど似ていて異なるけど共通する目的、目標が決まっているならわかりやすいですね」

 

(初動がだいぶ変わってくるからね。だからこうして会ったら初回を除いて入念に情報交換を行っているわ)

 

(前回はまる3日も情報交換したもんな)

 

(ロンメルの世界を詳しく教えてくれるかしら)

 

「あ、はい!」

 

 ロンメル、エクリプス、マンノウォーが各々の世界の情報を交換する

 

 そして2日後

 

 

 

 

 

 

 

(今回はこれぐらいで良いわね。呼吸というのは代償が無いから凄く良い能力ね。痣については考えなくてはいけないけれど)

 

「はい、ただ呼吸だけでも十二分に強いので良い能力だと思います」

 

(鬼は太陽の光か特殊な武器で首を斬らないと死なないんだったな……OK! 把握した)

 

「エクリプスさんの悪魔の世界についても興味深いです。回復系の異能も更に鍛えれば死者蘇生も可能では?」

 

(そうね。覚えた能力は世界を巡っても鍛えることができるわ。だからその世界の能力と組み合わせることで更に強力になることも有るわ)

 

「なるほど……」

 

(さーて、そろそろ別の世界に行こうかな! 俺は先に行くぜ)

 

「どちらの扉に?」

 

(そうだな……スポーツが盛んな世界だと良いな)

 

(じゃあ私も。平和な世界ほど目標は難しくなるから程よく荒れていると良いのだけど)

 

「私は少し考えてから行きます」

 

(おう、じゃあまたな!)

 

(また会いましょう)

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは出てきた扉を見る

 

【大正鬼狩り伝説 鬼の大将を討伐せしめし者 相討ちの末にここに眠る】

 

「皆……生き残った皆は末長く生きて欲しい……どうか穏やかな人生がおくれますように……よし!」

 

 ロンメルは3つ程の扉を見つめる

 

「うーん、柄とかで決めるのかな? ……血の匂いが強いのが荒れているのかもしれないな……腐敗した匂いがするこの扉は止めよう……嫌な予感しかしない……となるとこの黄色の扉か? よし、進もう……次は死に際にリュックを背負って死にたいな」

 

 ロンメルは黄色の扉を開けて先に進む



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暗殺の章
実験室の時間


 ガチャリ……ギギギギギ

 

 その扉はヌメっと湿気っているような、柔らかいような……なんとも言えないさわり心地であった

 

「さて、今回はどんな世界かなぁ」

 

 ロンメルはゆっくりと進む

 

 白い霧のような世界をゆっくりと進み

 

 気がついたら

 

「んん?」

 

 どこかの実験施設の中の様な近未来的な部屋の中の様だ

 

「……」

 

「……え?」

 

 部屋には私の他に男性が居た

 

 そしてガラスの様な板の向かい側には女性が居た

 

「……あれ? これはちょっと想定外なんだけど」

 

「ひ、人がいきなり現れた!?」

 

 女性は慌てて部屋から出ていき、ロンメルと男性だけがその部屋に残された

 

「……あのー、ここどこでしょう?」

 

「驚いた。私が一切察知できないとは……見た感じ子供だよね。どうしてここに?」

 

「扉を通ったらここに居たと言えば良いでしょうか……ここがどこか教えてくれませんか」

 

「そうだね……ここは人体を使って反物質を生成する実験を行っている研究所の実験体隔離場所と言えば良いかな」

 

「……反物質……ということは現代か近未来かぁ……うーん、難しい世界に来てしまったかもしれないなぁ」

 

 ロンメルがぶつぶつと独り言を話しているのを男はニコニコしながら聞いている

 

 ロンメルはこの短時間で透き通る世界に入っており、男の身体を隅々まで観察していた

 

 鍛えぬかれた肉体

 

 それでいてしなやかであるが、体の一部が先ほど聞いた反物質の実験により変化してきている様に見えた

 

「……参った降参、貴方凄いですね。殺気を隠すのもその肉体も、話術も相手を不安にさせない様に音程を調整している……私が変な動きをすれば殺すでしょ」

 

「そんなことはしないよ。私はこの施設から逃げる為のイレギュラーが現れてくれて面白いと思っているくらいだ」

 

「なるほどなるほど……」

 

『侵入者に告ぐ、抵抗の意志が無ければそこのベッドに横になり動くな繰り返す……』

 

「素直に従った方が良いよ。この部屋にはガスや電流、高温低温、音波や光のあらゆる物が凶器に変わるからね」

 

 男は優しく私に呟く

 

「わかりました……また会いましょう」

 

 ロンメルはベッドという名の拘束台に乗ると手足が固定されて自動で部屋の外に移動させられた

 

 男はニコニコとしながら手を振って

 

「バイバイ」

 

 と呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「柳沢主任、侵入者に麻酔を投与し、眠りにつかせました」

 

「ごくろう……侵入者が現れたのはあの密室の隔離施設にいきなりだったな」

 

「はい、外部からあの場所への侵入はセキュリティの関係上不可能なハズです」

 

「しかし、現にあの場所に奇妙な見た目の人間擬きが現れた……興味深い事例だが私の実験の邪魔になりかねないのであれば殺すしかない」

 

「柳沢主任、精密検査の結果人間では無いようです。筋肉の質が人間と異なり、他の臓器はほぼ人間に等しいですが、聴器官が作り物と思えた頭の上の耳に神経が通っており、尻尾にも骨が入っているのを確認しました。ただ血液等は人と同じであり、血液型もAB型の+と一致しました」

 

「確定で人外か……戸籍等は」

 

「勿論ありませんでした」

 

「そうか……使えるな」

 

「柳沢主任まさか侵入者も反物質生成実験に使うと」

 

「あぁ、人とほぼ同じであれば理論上可能なハズだ。なにより私の興味を引いた……理論上可能ではあるがサブプランも必要だ……人と臓器はほぼ同じと答えたな」

 

「はい」

 

「人を孕ませることも可能か?」

 

「はい、可能と思われます」

 

「よろしい。反物質生成の生物同士での交配がどのような結果になるか確認したい。この者にも実験を行う……手始めにATアーゼ リバランスフェイズ SOD阻害薬を40投入しろ」

 

「はい、投入します」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは」

 

「気がついたかな?」

 

 気がつくと私は再びあの男と同じ部屋に居た

 

 変わった事は拘束台が2つに増えたことだろうか

 

『目が覚めた様だな……モルモット2号。喜べこの施設に侵入したら本来抹殺するのが良いところだが、戸籍が無い為実験に使うことにした。モルモット1号と生活し、実験に協力しろ。拒否権は無い……以上』

 

 スピーカーから別の男性の声が流れ、なにやら私は反物質の生成実験を行われるらしい

 

「とりあえずおめでとう殺されなかったことと再会に」

 

「ありがとうございます」

 

「耳と尻尾は付け物じゃないようだね……人?」

 

「あー、えっと……ウマ娘っていう種族なんですよねぇ……この世界には居ないですか?」

 

「少なくとも私は知らないね」

 

「そうですか……あぁ、名前名乗りますね。私の名前はウマ娘名だとロンメル……現代日本の名前だと砂山東狐……他にも色々な名前がありますがとりあえずロンメルと呼んでください」

 

「私に名前は無い。ただコードネームは死神。しがない殺し屋だ」

 

「へぇー、殺し屋ですか。道理で非常に整った筋肉をしているのですね」

 

「服の上からでもわかるのかい?」

 

「はい、筋肉の質とか血管とか臓器の位置とか……透けて見えるんですよ」

 

「透けて見えるか……似たような事は私でも出きるけどなるほど」

 

「まぁこんななりなので……うーん、今度は本格化少し前か。胸も足の肉質も全然だ……鍛え直さないと」

 

「鍛えるのが好きなのかな?」

 

「ええ、まぁ好きですね」

 

「見てあげようか」

 

「本当ですか! ありがたい」

 

 そうこう死神と話していると先ほど逃げた女性が向かいの部屋に現れた

 

「殺し屋さんに……」

 

「ロンメルです」

 

「ロンメルさん、初めまして雪村あぐりです。お二人の見張り役をしますので殺し屋さんは改めて、ロンメルはよろしくお願いします」

 

 こうして私は奇妙な生活が始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 実験は死神さんの1ヶ月ぐらい後から始まったらしく、死神が行って問題なかった工程を1.2倍位の速度で実験が行われた

 

 激痛と体調が不安定化するが、全集中の呼吸による血液操作により痛覚軽減と体調を安定化させ、死神監修の下でトレーニングを始めた

 

 まず呼吸の再取得を数日で終わらせ、常中を行えるようにしている段階だ

 

 それをしながら基礎的な筋トレや柔軟を見てもらっている

 

 死神さんは教えるのが上手で、私が一瞬でも効率の悪い動きをすると補正してくれる

 

 それに雪村先生(雪村あぐりさんは日中は中学校の先生をしているため雪村先生とロンメルは呼ぶ……若返ったから肉体年齢的には年下なので)から小学生の頃からの授業を受ける

 

 戦国の偏った知識や大正ではろくに学ばなかった為にロンメルの学力は小学校低学年レベルまで落ちていた

 

 計算スピードや古文漢文みたいな一部は突出していたがそれ以外は壊滅しており、ロンメルは1から学び直していた

 

 死神さんはここでも教えるのが上手で雪村先生の補足をよくしてくれた

 

(雪村先生は本心からくる親切心で、死神さんは私に利用価値があるからと暇潰しにだろうか……クックックッ私は学ぶことができてとても楽しいよ)

 

 3名による奇妙な協力関係はロンメルにとって心地好くそして楽しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、ここに来て2ヶ月が経過しましたのでお二人に私の事を更に知ってもらいたいので色々暴露しまーす!」

 

「き、急に!?」

 

「ふふ、楽しみですね」

 

「私なんと異世界人です!」

 

「「それは知ってる」ます」

 

「ブーブー反応薄いですよ」

 

「いや、だってロンメルさん、ここに来た時いきなり密室に現れたのですよ。超能力とかワープとかじゃないと無理なので未知の力が働いたとしか……」

 

「殺し屋の私が不覚を取ったくらいだ。並みの技術では無いのだろ? それこそ青いタヌキ(ドラえもん)みたいな技術とか」

 

「あ、あれは私にもわかりません。ただ私は異世界を渡ることが出きる能力を持ったウマ娘なのです! ……まぁウマ娘としての能力的には下の下でしたけど……そんな私ですが最初に行ったのがなんと戦国時代でした」

 

「戦国かぁ、信長とかいたの?」

 

「私が居たら今より警備がザラで暗殺し放題だったかな?」

 

「死神さんは伝説の忍びになってそうですが、私は尾張に飛ばされて紆余曲折有って身を守るために剣術を学びました! それこそ薩摩まで旅をして……で、再び尾張に戻ってから信長様と再開して家来に……なんてなれるハズも無く雑兵スタートで手柄を上げて武士となり、領地を貰い、信長様に抱かれて子供を作り、死にそうになって一之太刀を会得して、死にかけて死にかけて……最終的に21人もの子供を産んで関東8国の主になって死にました」

 

「う、嘘臭い……」

 

「ちんちくりんがそんな事を言っても信用ないぞー」

 

「2人共酷い! で、次は鬼の居る大正の世界でした! そこで剣術を更に磨き、呼吸という技術を身に付け鬼の大将と相討ちで死にました……以上が私の行ってきた異世界の話です」

 

「何か信用できる技とかあるの?」

 

「そうですねぇ……」

 

 とロンメルが言うと一瞬でロンメルの場所が変わっていた

 

 雪村は目の前に居たハズなのに奥の壁と天井の隙間にへばり付いて居るロンメルを見て驚いた

 

 死神はふーんと興味を持ったようだ

 

「この様に呼吸を扱えれば身体能力は格段に上がります。これを全集中の呼吸と言います。更に呼吸を極めることで止血したり、細胞を活性化させて自然治癒力を上げたりすることもできます」

 

「道理で筋トレの効率が良いわけだ。超回復を自分で行っているだろ」

 

「あ、わかります」

 

「でもやり過ぎるなよ。ここだと食事は一定量しか出ないからそこまで筋肉を付けられないと思うし、無理をすればどこかで故障に繋がるからね」

 

「死神さん、わかってますよ。だから無理はしてませんよ……ただ全集中の呼吸を覚えておけば今回行っている実験の苦痛も楽になりますからね」

 

「なるほど」

 

「じゃあ15歳前後に見えるけど実際は何歳くらいなの?」

 

「60歳位でしょうね……まぁ身体がリセットされるので肉体年齢は14歳位だと思います。あ、ウマ娘には本格化っていう成長があって胸や足、身長が急成長する時期が有るので、それが私は15歳の時に必ず来るのでまだ本格化していない=15歳未満という計算で多分14歳だろうと思います」

 

「なるほどね……まぁ知識の偏り酷かったもんね社会とか壊滅していたし」

 

「申し訳ない」

 

 しょんぼりロンメル

 

 するとバチバチと電流がロンメルと死神に襲いかかった

 

『リラックスタイムは終了だ。拘束台に乗れ。実験を再開する』

 

「雪村先生また」

 

「またねロンメル」

 



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死神と雪村の時間

 ロンメルは反物質生成実験において適合者であり、不適合者であった

 

 ロンメルは全身を改造されているが、上半身……特に髪に変化があるだけで、死神の様に手足が触手に変化するということは無かった

 

 しかし、内臓は別である

 

 まず心臓と肺が全集中の呼吸のトレーニングにより膨張したのを更に強化するため血管の様な触手が張り巡らされた

 

 肺と心臓の血液循環を更に上げ、呼吸を行うのに適した身体を手に入れたことになる

 

 更に言えば副心臓、副肺とも呼べる新たな臓器が作られ始めており、徐々にではあるが人間……いや、ウマ娘を止め始めていた……

 

 髪は大きく変化していた

 

 集中すると髪が纏まり弾力のある触手の様な物に変化する

 

 私と死神さんの実験を担当している柳沢主任はこれを触手と呼んだ

 

 徐々に変わっていく肉体をロンメルはいかにウマ娘の枠組みを超えない様にするか呼吸による細胞調整で微調整を繰り返した

 

「ごぼっ!?」

 

 時に拒絶反応で吐血することも有った

 

 時に寒気や熱を出すことも有った

 

 ロンメルは反物質に適応するという面では適応したが、全身の反物質化は不適合だった

 

 ロンメルはウマ娘の生命線である足だけはありのままでありたかったからだ

 

「新たなエネルギーに身を任せれば楽なのに……なぜそれを止めようとするんだい?」

 

「それが変わってしまったらウマ娘では無く化け物へと変わってしまうからねぇ……いつか私は元の世界に戻るつもりだから人外に変わってしまうのだけは避けたいんだ」

 

「髪の毛から触手を垂らしてよく言いますね」

 

「あー! また触手に変わってた!! 調整が難しいんですよ……この触手」

 

「でも使いこなせれば武器となる」

 

「それは勿論」

 

 実験開始から半年……ロンメルの体を循環し始めた反物質のエネルギーは桁外れの代謝を可能にし、その強大なパワーを受け止めるため体組織は強靭で柔軟な物質構成に置き換わる

 

 死神は全身を使って受け止める方向に進化したのに対して、ロンメルは臓器を増やすことで対応した

 

 ロンメルはウマ娘であることを辞めることだけは絶対にしたくないと抵抗し、死神はどんどん人外になるように体を作り替えた

 

 そんな2人をいつもの様に雪村先生は見守る

 

 ただ真っ直ぐこちらを向いて……雪村先生は今日も平和に笑う

 

 死神さんと雪村先生の仲慎ましい姿の前に、ロンメルはここに飛んできてしまった罪悪感と野次馬精神を抑え殺し、2人に様々な事を学んでいく

 

 死神さんからは格闘術を学んだ

 

 ロンメルは今まで刀を持って戦う事を前提にしていたが、それが無いときはウマ娘特有の怪力で戦ってきた

 

 それでは無駄が多いと死神さんは暇潰しに格闘術を教えられ、ロンメルは死神さんと毎日の様に組み手をしてもらえるようになった

 

 全集中の呼吸・常中と一之太刀による透き通る世界を見て尚、死神さんにロンメルは勝つことができなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 1年が経過する頃にはロンメルは中学1年生レベルの問題なら解ける様に学び直し、ある程度の格闘術と触手操作術を会得した

 

 肉体はいまだに本格化はしておらず、前の世界の10分の1も肉体は成長していないが、全集中の呼吸・常中も、4種の呼吸も弱体化しているが形にはなった為よしとしよう

 

 いよいよ髪の毛が意識しないと触手が足れる様になってしまったが、鍛えれば何とかなると信じて調整を続けている

 

 死神さんと雪村先生とは更に仲良くなり、互いの生い立ち等を語り合った

 

 死神さんは自分の産まれた日も名前も無いのだと……

 

 劣悪なスラムで幼少期を過ごし、信用できる者は誰もおらず、親は子を売り、友も女も平気で裏切る

 

 正義とは汚職者達がかざす物であり、薬は廃人を作るための物、人間はゴミのように死ぬために産まれた物……そんな環境で育った死神はただ1つの真実……殺せば人は死ぬ

 

 だから死神は殺し屋になった

 

 それがたまたま天職であったのが死神の幸運だったところであり、死神も全てが全て天才であったわけでは無いが、頭の良い者は力と技で、力が強い者は知識で、両方強い者は人間的な魅力で殺していったのだと

 

「私は使い分けが上手かった……勿論その都度学習し、自分を磨いていったがね」

 

 戦闘能力だけであれば前の世界の無惨戦のロンメルの方が死神よりは強いだろう

 

 しかし、知識や技術、魅力、体の使い方等の総合能力であればロンメルよりも死神の方が圧倒的に高い

 

 それこそ無惨に匹敵すると思える

 

 ロンメルは人の身でありながら無惨に匹敵する能力とお館様の様な人を安心させる話術等の技術に素直に感服し、それと同時にこの反物質実験により人外となった際に無惨よりも数倍も厄介な化け物が誕生することに恐怖を覚えた

 

 だからロンメルは死神が暇潰しでも教えてくれる技術を貪欲に吸収したし、その思考が死神にバレていたとしてもすぐに殺されない確信が有った

 

 雪村先生が居たからだ

 

 雪村先生は外部の情報をくれるこの施設では1人しか居ない信用できる人物であり、死神雪村先生に好意を持っていた

 

 実験が進むに連れて感情が表に出るようにロンメルと死神はなっていた

 

 私はなるべく明るく過ごすことと呼吸により触手を安定化させ、死神は精神力で克服していた

 

 が、死神の感情が表に出るようになるといよいよ人を辞め始めたのだなとロンメルは感じた

 

 例えば雪村先生が少々過激な服を着てきた時前の死神なら普段と変わらない顔だったのに対して、鼻血を出しながらにやけているのを見てあぁ、感情を隠すこともできなくなったのかと変化を少し悲しんだ

 

 一方雪村先生は一応柳沢主任の婚約者となっているらしいが、実態は親の借金を肩代わりした代わりに様々なことにこき使われている奴隷の様な関係であった

 

 その為夜の8時から深夜2時までの間のロンメルと死神の監視を無償で行っているのだとのこと

 

 そして昼間は中学校の教師をしており、中高一貫校の椚ヶ丘中学の3-E組を担当しているとのこと

 

 そのクラスは劣等生が集められたクラスで、別校舎に閉じ込め本校の生徒達はE組の様にならないように頑張り、E組の生徒は差別を受けながら生活する

 

 1年生や2年生の生徒達も3年E組にならないように努力するのでやる気が継続する

 

 実に合理的だとロンメルは感じたが、同時に残酷であるとも感じた

 

 ロンメルは劣等生のウマ娘であるが武力と知略にてのしあがった過去や、種族故に差別され認められなくても最後の最後で誰よりも活躍した過去もあったので、学力だけで決められるそのシステムは残酷と同時に才能を潰してしまうのではないかと思った

 

 特に一分野に突出した天才等が埋もれてしまいかねない……

 

「ロンメルさんの考えは最もだよ。E組にも輝く才能の子はちゃんといるんだけど……私だとその子達に光を与えることはできなかったなぁ……今度新しく入ってくる子達こそ救ってあげたいと思うんだけど……柳沢さんが今年限りで教師は辞めろって……私は辞めたくないんだけどな」

 

 と雪村先生は愚痴をこぼす

 

 他にも雪村先生には自慢の妹が居るらしく役者をしていて主演ドラマや映画も既に出ている程立派な妹が居るとのこと

 

「雪村あかりが本名で、芸名は磨瀬榛名って言うんだけどね! 滅茶苦茶可愛いの! それでいて演技がとてつもなく上手くて……私の自慢の妹なんだ!」

 

 ただ写真は持ち歩かないらしく、子供から大人になる時期は皆の人目に触れずに休眠する時間が必要だから、その邪魔をしちゃいけないという雪村先生の信念故にとのこと

 

 そんな自身の事を語り合い、ロンメルがここに来て11ヶ月が経過した時

 

 ちょうど死神さんが1年この施設に捕らわれた時のこと

 

 雪村先生が死神さんに1年経過したということで人が付けるには大きすぎるネクタイをプレゼントした時のこと……

 

 月が7割消滅する事件が発生した



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感謝の時間

「殺処分……」

 

「望みを捨てずに助かる方法を探しましょう! 私に出来ることなら何でもします」

 

 雪村先生はロンメルと死神に危機が迫っていることを命令を無視して報告してくれた

 

 というのも柳沢主任が行っていた反物質生成実験には1つ大きな懸念が有った

 

 生物の老化による不具合だった

 

 細胞分裂の限界回数を超えた時……反物質生成サイクルへの影響がどうなるか

 

 これを柳沢主任達はマウスを使って実験を行った

 

 結果月面で行われた実験はマウスの細胞分裂が終わった瞬間、反物質生成サイクルは消滅せず、細胞を飛び出し外に向かった

 

 結果……連鎖的に月の物質を反物質に変えていき……月の7割が反物質のエネルギーにより消し飛ばされた

 

 その分裂サイクルを安全に停止するには分裂限界前に心臓を止めれば血液循環という反物質の流れが止まる

 

 止まれば分裂サイクルは安全に停止する

 

 ……このままではより質量の大きい人を起点とした生成サイクルが発生し……月の7割どころではない被害が発生するだろう

 

 その時は死神は来年の3月13日

 

 ロンメルは来年の4月13日であった

 

 死神が口を開く

 

「さようならですあぐりさん、ロンメルさん……私はここを脱出する……予定よりやや早いが計算上はこの独房を充分破れる」

 

「ダメ! 悪いことする気でしょ死神さん!! 私は……楽しいあなた達と一緒に居たい!!」

 

「死神さん諦めるのは早いんじゃ無いですか! 馬鹿な私には現時点でこの作り替えられた肉体の反物質エネルギーの解決方法に検討が付きませんがあなたが諦めなければ!」

 

「……もう遅い……?」

 

 ロンメルは死神の前に立ち塞がった

 

「ロンメルさん? そこを退きなさい」

 

「貴方は優しい人だ……私は何人もの鬼と何百人もの人を殺してきたが……貴方は怪物になってはいけない人だ……だから止める……ここで!」

 

「良いだろう……授業を始めよう」

 

 死神の全身が触手で覆われる

 

 対するロンメルは呼吸を整える

 

 両者体内に埋め込まれた自爆装置を体外に排出した

 

「「戦闘開始だ」」

 

 雪村先生はロンメルと死神さんにごめんなさいと謝ると部屋から退室し、ロンメルと死神による戦闘が始まった

 

 恐ろしい速度でロンメルの脇腹に死神の触手が鞭の様に打ち付けられる

 

「ぐっ!?」

 

 ロンメルの腹部は真っ青に内出血をするが、体内の触手が損傷箇所を修復していく

 

「ロンメルさん、あなたの弱点は人を辞めることを留まった事だ。表面状の痛覚が生きている以上私と戦うのは痛覚の限界値を超えた瞬間に事切れるだろう」

 

「ぺっ……だから?」

 

「全身を反物質のエネルギーに適合した私には勝てないのですよ」

 

 ロンメルも髪の触手で抵抗するが全て死神が触手によって叩き落とされる

 

「弱点その2……触手は精神状態で精度が変わってくる。動揺していればそれだけで触手の精度は落ちる……ロンメルさん、あなたの精神力はその年齢では別格に高い……この拷問とも呼べる実験にも耐えきり触手と適合したのだから……しかし私には敵わない」

 

 ベベチーン

 

 2発顔面に往復ビンタの様に触手による攻撃が入る

 

 呼吸により痛覚の限界値は上がってはいるが、今の一瞬で頬骨の一部が欠けたらしく脳が激しく揺らされた

 

 再生が始まっているが脳へのダメージが大きすぎた

 

 ロンメルは動きが一瞬止まってしまう

 

 その瞬間を見逃す死神ではなく大量の粘液がロンメルに付着し、壁に貼り付けられ、身動きができなくなってしまった

 

 髪も勿論動かないように固定されている

 

「決着は着いた……諦めなよ」

 

「行かないで死神さん……待って……」

 

「悪いとは思わないよ」

 

 ロンメルの顔にまで粘液がかけられロンメルは酸欠で意識を失った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気がついた時には施設は瓦礫の山になっていた

 

 ロンメルは折られた頬を擦り再生している事実にいよいよ前の世界の鬼の様になってしまった……ウマ娘を辞めてしまったと後悔した

 

 しかし、この施設の中では何かを成す事はできない

 

 つまり弱体化し鍛え直した約11ヶ月……実験を受けなければ本当の死(転生できない)になっていた可能性を考えるとロンメルは取れる選択肢が人を辞める事しか無かった

 

 表面上はウマ娘であることには変わらない

 

 意識をしていれば髪も普通に見えるし、姿は普通のウマ娘でしかない

 

 まぁこの世界でもウマ娘が居ない様なので異端ではあるが……

 

 瓦礫を退けて死神が進んだと思われる道を進む

 

 死神の技を受けてロンメルは自身との違いをまざまざと感じた

 

 思えば自惚れていたのかもしれない

 

 戦国の世も大正の世も最終的に最強になっていたから

 

 上弦の壱を倒し、無惨と相討ちという偉業を成し遂げたことでロンメルは自身が強いと錯覚していたのかもしれないと感じた

 

 更に実験により触手という新たな力を得たことで天狗になっていた

 

 格闘術が未熟でも多少の不利はあるかもしれないけど……最終的には勝てるだろう

 

 慢心、油断、驕り……知らず知らずのうちにどこか死神のことを見下していたのかもしれない

 

 人間とウマ娘……交わることで子を成せる生物であるがウマ娘の方が力が強く足も速い……ウマ娘の歴史はウマ娘が優位に立っていた時代の方が長かった

 

 それこそパワーバランスが崩れたのは鉄砲が普及し、戦術が確立したナポレオンの時代だ

 

 ……そんな昔話はどうだって良い

 

 人よりウマ娘の方が優等種族である

 

 こんな前時代的な考えを知らず知らずのうちに持ってしまっていた

 

 それを死神により僅か数秒による決着で補正された

 

 全てで負けている

 

 呼吸が使えるからなんだ

 

 一之太刀で透き通る世界が見えるからなんだ

 

 簡単に翻弄されて負けたではないか

 

 ロンメルの中では敗北感と感謝の念が同時に生まれていた

 

 今気がついていなかったら更に致命的な場面でミスをしていただろう

 

 私は弱い

 

 弱いから努力をする

 

 初心はそうだったじゃないか

 

 弱いから刀を握った

 

 傷だらけになりながらト伝先生の下で学んだじゃないか

 

 私の本質は弱者じゃないか

 

 それに気づかせてくれた死神には感謝するのが正当だ

 

「……ふぅ、よし!」

 

 ロンメルは足を進めた

 

 

 

 

 

 

 

 瓦礫の山を歩くとロンメルは事切れ亡くなっている雪村先生とそれを優しく抱き抱える死神の姿があった

 

「……死神さんが殺ったの?」

 

「……私が殺った様なものだ……助けられなかった」

 

 死神さんの顔は暗くてよく見えない

 

「これからどうするの」

 

「雪村さんが亡くなる前に約束をしました」

 

「約束?」

 

「あの子達……3-Eの生徒を見て欲しいと……私のように闇をさ迷っていると」

 

「……」

 

「私は雪村さんから見ること、見られることの嬉しさを学んだ……彼女が見続けてきた生徒を私が見続けようと誓いました……私は教師になります……」

 

「じゃあ私はその生徒になりたい。私は弱い……強くなりたい……そして生きたい」

 

「約束しましょう……あなたには私の全てを託せるくらい強くすると……その代わり私を支えてください。共に雪村先生が残したクラスを」

 

「必ず導きましょう」

 

 2人はこの場から離れた

 

 死神の体にロンメルは捕まり音速で移動し、どこかの山の中に突入した

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルの触手が聞いてきた

 

 どうなりたいと

 

「成長したい」

 

 と

 

 それからロンメルと死神は新しく服を作り、新たな生活が始まる

 

 死神の言葉は本当だろう

 

 雪村先生は死神による何らかの事故で亡くなったのだろう

 

 だから死神を私は信じる

 

 目の前の黄色いタコのような生物に変わった死神を見ながら

 

 精一杯やろう

 

 強くなろう

 

 成長しよう

 

 覚えることは沢山ある

 

「一から学び直しだ」



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暗殺教室の時間

「私が月を爆発した犯人です。来年には地球も爆発するつもりです。私の求める要求は2つ、私を椚ヶ丘中3年E組の担任ならやっても良いでしょう。そしてもう一つは私自身が私に対してのカウンター生物となるロンメルを椚ヶ丘中学3年E組にて育てることをご了承ください」

 

「ロンメルです。この生物に抵抗することができる唯一の存在です以後よろしく」

 

 死神とロンメルは各国首脳達がモニター越しに見ている会議室の中で堂々と嘘をついた

 

 そもそも死神とロンメルの実験のことを知っているのは合衆国と日本しか無く、実験により月が消滅したという事実が露見するのはなんとしても隠したいということと、超生物を誕生させてしまった手前、地球滅亡を回避するためにも死神とロンメルを殺さなくてはいけなかった

 

 そこで死神はロンメルを死神を現状殺すことができる確立が一番高い人物と各国に紹介することで下手に手出しできないようにした

 

 死神の言葉は真実として捉えられ、日本政府は各国から死神の暗殺の調整をするように言われ、秘密裏に合衆国に伺っても

 

「元は君の国の人間が起こした事だ。地球滅亡回避のために手の限りは尽くすが自国に3度目の核は撃ち込まれたくなければ全力を尽くすことだ」

 

 と言われてしまう

 

 日本政府は悩んだ末に死神の2つの条件を了承

 

 更にロンメルにはターゲットであるにも関わらず死神が生きている間は生活を保障しないといけないという屈辱的な条件で受け入れた

 

 ロンメルはプレハブ小屋と最低限必要な衣類と家具……生活スペースと毎月10万円の支援金、椚ヶ丘中学に通うために必要な道具一式が支給された

 

 プレハブ小屋は椚ヶ丘中学の裏山の更に奥の国有地に建てられ、ロンメルは走って40分(ウマ娘の速度 時速60~70キロ)くらいで校舎に着く様にできていた

 

 そのプレハブ小屋には多数の監視カメラと隠しマイクが設置されていたが、死神さんがジャミング装置を直ぐに作り、音声を遮断する効果の機械をロンメルに渡した

 

 死神とロンメルが施設から脱出して僅か数日のことである

 

 明日からいよいよ学校生活が始まるという日の夜

 

 ロンメルと死神はプレハブ小屋に集まって雑談をしていた

 

「いよいよですね」

 

「ええ、尻に火が着いた日本政府は有能ですね。手続きを殆ど政府の権限で無視すればこの様な工事もものの数時間で完了させる。ロンメルさん、通帳は大丈夫ですか?」

 

「ええ大丈夫です。カードも作りましたし、これで餓えることはありませんし、ここの広い土地は使っても良いとのことなので畑にして野菜でも育てますよ」

 

「ヌルフフフ何かを育てるという行為は脳の活性化にも繋がるので良いと思いますよ。何かご経験でも?」

 

「過去育てたことがあるのは薩摩芋、馬鈴薯、米、粟、稗、小麦、大麦、野菜……」

 

「米はこの山の様な土地では厳しいでしょう。麦や野菜なら問題ないと思いますよ」

 

「触手の練習にもなるし、色々やってみるよ」

 

「ヌルフフフそれが良い。何事も挑戦です……一番の問題は」

 

「学力だよねぇ……中学1年生レベルは雪村先生と死神さんのお陰で何とかなったけどこれから行く椚ヶ丘中学3年は進学校……私まだそのレベルに到達していないんだけど」

 

「仕方ありません。授業を受けながら先生が前日に問題集を作っておきますのでまずは授業よりもその問題集を解いておいてください。先生も授業中に無理に質問したりはしないので」

 

「助かります」

 

「日本政府と協議しましたが、これから行うのは暗殺教室……先生がターゲット、アサシンは生徒の皆さんです。暗殺を通した友情を育みましょう」

 

「……これから死神さんは先生って呼んだ方が良い?」

 

「はい。死神の名前は捨てました。これからは先生と呼んでください」

 

「わかったトレーナー」

 

「トレーナー?」

 

「ウマ娘はトレーナーの下でレースに出るための教育を受けるんだ! だから死神さんは私にとってトレーナーになって欲しいんだ」

 

「ヌルフフフまぁ良いでしょう……ただし、他の名前が決まったらその名前で呼ぶこと……ロンメルさんは暗殺以外に目標でもありますか?」

 

「そうですね……ウマ娘としても鍛えたいです。もし元の世界に戻っても弱くて遅いままじゃやなのでね……それと強くなりたい」

 

「勉強も、暗殺も、格闘術も、呼吸も、剣術も、話術も、ウマ娘としても……あらゆる面で成長したい」

 

「なるほど……貪欲ですね。教えがいがありそうだ」

 

「よろしくねトレーナー」

 

「ええ、改めてよろしくロンメルさん」

 

「……しっかし、姿すっかり変わったね。タコみたい」

 

「ええ、触手の力に全身が適応するとこうなるのですね」

 

「嘘、触手に願ったでしょ……そうだなぁ……弱くなりたいとか」

 

「ニャニャァ!? なぜわかったのですか!」

 

「当てずっぽうだったんだけどなぁ……マスコットキャラクターみたいで可愛くて私は好きだよトレーナー」

 

「ヌルフフフ……これから生徒達と対応する時もタコをトレードマークにしましょうかね」

 

「互いに頑張ろうね……先生」

 

「はい、ロンメルさん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 通学初日

 

 ロンメルと死神ことトレーナー……いや、先生は黒服の政府役人に連れられて椚ヶ丘中学3-Eのクラスに入る

 

「初めまして私が月を爆発した犯人です。来年には地球も爆発する予定です。君達の担任になったので、どうぞよろしく」

 

「この生物のカウンター生体兵器のロンメルです。ウマ娘という種族です皆さんよろしく」

 

 まず5、6ヶ所突っ込ませろ

 

 クラス全員がそう思った

 

 って顔してる

 

 戸惑い、動揺、困惑そんな感じだ

 

「防衛省の烏間という者だ。まずこここらの話は国家機密だと理解頂きたい。単刀直入に言う……この怪物を君達に殺して欲しい!!」

 

 皆唖然としている

 

「……何すか? そいつ……攻めてきた宇宙人か何かすか?」

 

「失礼な! 生まれも育ちも地球ですよ!」

 

 そりゃまぁ目の前に2メートル近くの黄色いタコみたいな生物が居たらそう思うよ

 

 ロンメルは腕を組んでウンウンと頷く

 

「ロンメルさん! 納得したかのように頷かないでください!」

 

「……詳しい事は話せないのは申し訳ないがコイツの言った事は真実だ。月を壊したこの生物は来年の3月に地球をも破壊する。この事を知っているのは各国の首脳だけ……世界がパニックになる前に秘密裏にコイツを殺す努力をしている」

 

「つまり! 暗殺だ!」

 

 烏間さんがナイフを振るうが死神さんは素早く避ける

 

「だが、コイツはとにかく速い!! 殺すどころか眉毛の手入れをされる始末だ! 丁寧にな!」

 

「満月を三日月に変えるほどのパワーを持つ超生物だ! 最高時速は実にマッハ20!!」

 

「つまり、コイツが本気で逃げれば……我々は破滅の時まで手も足も出ない」

 

 死神さんは不適な笑みを浮かべて

 

「それでは面白くないので私から国に提案しました。殺されるのはゴメンですが、椚ヶ丘中学校3年E組の担任ならやっても良いと」

 

「……コイツの狙いはわからん。だが、政府はやむなく承諾した。君達生徒に絶対危害を加えないことを条件にだ。理由は2つ、教師として毎日教室に来るなら監視もできるし、なにより約25名もの人間が至近距離からコイツを殺すチャンスを得る!!」

 

「成功報酬は100億円! 当然の額だ。暗殺の成功は冗談抜きで地球を救うことなのだからな。幸いな事にコイツは君達のことをナメ切っている。見ろ緑と黄色のシマシマになった時はナメている証拠だ」

 

「当然でしょ。国が殺れない私を君達が殺れるわけがない。最新鋭の戦闘機に襲われた時も逆に空中でワックスをかけてやりましたよ」

 

「その隙を君達には突いて欲しい。君達には無害でコイツには効くナイフと弾を支給する。無論君達の家族や友人には絶対に秘密だ。とにかく時間がない! 地球が消えれば逃げる場所などどこにもない」

 

「そういうことです。さぁ皆さん残された1年を有意義に過ごしましょう」

 

 暗殺教室がこの日始まった



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名付けの時間

「えー、先生のせいで印象が薄いかもしれませんが、馬の耳と尻尾は自前です。時速60から70キロくらいで長時間走ることができます。握力は250キロ出せます(前の世界での記録)。剣術には自信がありますが学力は低いのでよろしくお願いします」

 

(((こっちもこっちで化物が来た!!)))

 

((うひょー! 人外美人だ! すげぇー!!))

 

 クラスの大半が私に対しても驚愕する中、一部の男子は興奮を隠せないで居た

 

 烏間さんが私に対しても補足説明をする

 

「先ほども言っていたがコイツの名前はロンメル。自称超破壊生物のカウンター生体兵器だと言っているが、政府でもコイツにどの様な能力を持っているか把握できていない。コイツは生徒としてクラスに入るが、耳は帽子で隠せるが、尻尾が隠せないようなら学校行事は基本的に参加させないつもりだ」

 

「あ、烏間さん大丈夫です。尻尾なんですが保護色にすることで見えないようにする能力を手に入れたので耳は無理ですが尻尾なら見えないようにできますよ……ほら」

 

 そう言うとロンメルの尻尾がみるみると透明になり、風景と一体化した

 

 ロンメルは学校生活に支障があると尻尾や耳を何とか消そうと死神さんと相談した結果、触手の色が変化する性質を利用し、毛の色を変化させた

 

 触手ではない部分ではあるが、色を変えるくらいなら容易い為試してみたところすんなり上手くできた

 

 問題は消えているのではなく色を同化させているだけなので誤って踏まれると痛いというのと、耳は皮膚がどうやっても変色しなかったので空中に耳の一部が不自然に浮くという現象が起こってしまう

 

 これはもう帽子を被るしかないと判断し、尻尾も隠せないと思っていた政府はテストの時は個室にて事情を知っている理事長が試験官として対応するという特例を貰っていた

 

「この様にコイツに至っても政府は多くのことを知らないが同じターゲットを狙う以上協力関係を築いて欲しい」

 

 と烏間さんが締めてロンメルと死神さんの説明を終わる

 

「それでは皆さんまずはホームルームから始めましょうか。ロンメルさんは奥田さんの後ろ(最後列の窓際から3つ離れた席 停学中の赤羽業の左横の席)に座ってください」

 

「はい」

 

「それでは出席を取ります。磯貝君」

 

「は、はい!」

 

「岡島君」

 

「はい」

 

 ・

 ・

 ・

 

 

 

 

 

 キーンコーンカーンコーン

 

「はい、昼休みですね、先生京都へ湯葉刺しを食べに行ってきますので何か有れば電話してください。電話番号は黒板に書いておきましたのでね。では!」

 

 バビューンと死神さんは京都へ行ってしまった

 

「えっとここから京都までマッハ20だから」

 

「約1分で到着するんじゃない?」

 

「やベー速すぎ」

 

「試しにハンドガンで撃ってみたけど全然当たらないじゃん」

 

「木村しかたねーよ、マッハ20だせ、俺らが発砲してから1秒で何百メートルも移動できるんだから無理だって」

 

「そー簡単に100億は無理か……授業の妨げになる暗殺も禁止されたからな」

 

「でもよ100億だぜ! 100億! 1人ずつに割っても26人だから3.8億は固い! それだけあれば普通に生活していれば金に困ること無いからな」

 

「でもよ俺達エンドのE組だぜ……」

 

「そうそう」

 

 椚ヶ丘中学校3年E組……通称エンドのE組

 

 偏差値66、生徒定員570名

 

 創立10年でここまでの進学校に成長させたのはひとえに理事長の手腕があってこそであった

 

 E組を酷く差別することで残りの生徒は自主的にやる気を出し、勉学に励む仕組みだ

 

 なおE組は古くて汚い隔離校舎で本校とは待遇や内部進学ができない、学校行事は見せ物扱い等の様々な差別に耐えなければならない

 

 そんな環境なので腐る生徒が多いのが現状である

 

 雪村先生は彼らに希望を与えたいと願って亡くなった

 

 意志を継ぐのは私と死神さんしか居ない

 

「単独での暗殺は難しいから集団による暗殺に切り替えていこうよ! それに銃にまだ慣れていないからしっかり両手で持って反動を抑える! 少しずつやってこう!」

 

「ロンメルさん」

 

「……ケッ! 良い子ぶってんじゃねーぞ化物、お前も俺らからしてみればあの化物と同じなんだよ!」

 

「……えっと寺坂君だったかな? とりあえずやれることをやってこう! 私は100億には興味が無いから協力は惜しまないからさ」

 

「勝手にやってろ! 俺らは俺らで殺る!」

 

 寺坂君、吉田君、村松君、狭間さんの4名は教室から出ていく

 

(こりゃなかなか難儀だぞ)

 

 ロンメルは巨大な風呂敷をロッカーから取り出し、5合ものご飯が入る業務用タッパーに白飯と多量のおかずを乗っけて食べる

 

 その量を見た生徒達は食べる量まで化物かよと突っ込みを入れる

 

「ロンメルさんって大食いなんだ!」

 

「細身なのに意外!」

 

「えっと倉橋さんと中村さん!」

 

「名前覚えてくれたんだ」

 

「はい!」

 

「うわ! 唐揚げに大学芋に餃子にハンバーグ! 魚のフライもある!」

 

「スッゴ! これ手作り?」

 

「はい! 食べないとやっていけないですからね」

 

「ちょっと弁当箱持ってみて良い?」

 

「はい、どうぞ」

 

「重!! 何キロだこれ!」

 

「おかず合わせて3キロくらいですかね! 驚異の1万キロカロリーです」

 

「1万……」

 

「太らないの」

 

「太りますけどウマ娘という種族的に多く食べないと消費されちゃって筋肉が付かないんですよね。もし大食いのお店が有れば紹介してください! 時間制限があろうと食いきりますので」

 

「おお! じゃあ今度料理教えてよ! 代わりにお店教えるから」

 

「私も~」

 

「任せてください! 少々男っぽい料理ばかりになるかもしれませんが教えますよー!」

 

「え! 料理の話! 混ぜて混ぜて」

 

「原さんもどうぞどうぞ! おかず交換でもします?」

 

「えー! やったぁ! 凄いみんな美味しそう」

 

 ロンメルは自然に女子グループに溶け込んでいった

 

 

 

 

 

 

 

 食後ロンメルはグラウンドに行き少しトレーニングをする

 

 短距離や2キロを全力で走り込む

 

 全集中の呼吸を使えばこんな距離を走っても息切れすることは無い

 

 更に触手による副肺や副心臓のお陰で力が更に入る

 

「ふー! 走った走った」

 

「ロンメルさんって凄く足が速いんだね」

 

「えっと潮田さん?」

 

「渚で良いよ」

 

「渚君で」

 

「ロンメルさんは先生のカウンター生体兵器って言っていたけど先生とはどれぐらいの付き合いなの?」

 

「1年くらいかなぁ、詳しくは話せないんだけどその頃から私にとって彼は先生だったな」

 

「なるほど先生は元から先生っと」

 

「何書いてるの?」

 

「先生の弱点メモ……とりあえず先生の情報を書いていくんだ」

 

「先生の弱点か……いっぱい有るよ。それこそ弱点が服着て歩いてるくらい……昔の先生は人を道具のようにしか見てなかったんだけどある人のお陰で変わったんだ……」

 

「ある人って?」

 

「……ふふ、内緒、私トレーニングに戻るね! 午後もよろしく渚君」

 

 

 

 

 

 

 

 

 先生こと死神さんの授業が始まって数日が経過した

 

 まだ死神さんのことはダメージすら与えられていない

 

 ロンメルは触手の事を皆には隠して学校生活を行っている

 

 隠さなければ私を頼りきりになり彼らの意欲を奪いかねないからだ

 

 これは死神さんと協議した上で決めたことだ

 

 とある日のホームルームで全員による一斉射撃を行い、全弾避けられて当たっているのに我慢しているんじゃないのかという疑問を死神さんは持たれた

 

「皆さんには無害ですがこの様に」

 

 パンとハンドガンが発砲すると触手の1本が簡単に吹き飛び、ビチビチと跳ねた後静かになり、数秒で再生した

 

「私の細胞が効率良く壊せるように政府が開発した対先生特殊弾ですので効果は覿面です。ただ、君達も目に入ると危ないので先生を殺す時意外には使用しないように」

 

 これが皆の目の前で見せた先生の始めてのダメージであった

 

 ちなみにロンメルも髪を変質させると対先生特殊弾が通用してしまう

 

 それどころか皮膚から下は対先生特殊弾が入れば致命傷になりかねないくらい触手が張り巡らされており、普通の鉛弾に対先生加工をした状態で撃ち込まれれ、2つの心臓が10秒以内に破壊された場合普通に死ぬ

 

 この環境はロンメルに対してもリスキーな場所であった

 

 そしてその日の午後、昼食後の5時間目の国語の時間

 

「それでは皆さんお題に沿って短歌を作ってみましょう。ラスト7文字を触手なりけりで締めてください。書けた人は先生の所へ持ってきなさい。チェックするのは文法の正しさと触手を美しく表現できたかです。できた者から今日は帰ってよしとします」

 

「先生質問」

 

「……? 何ですか? 茅野さん」

 

「今更なんだけどさぁ、先生の名前何て言うの? 他の先生と区別するとき不便だよ」

 

「名前……ですか……名乗るような名前は持ち合わせてありませんねぇ……何なら皆さんでつけてください。でも今は課題に集中ですよ」

 

「はーい!」

 

 ロンメルは先生から出されている別の課題を解きながら少し短歌についても考える

 

 刹那かな

 

 人によりけり

 

 命なる

 

 美しきもの

 

 触手なりけり

 

 ロンメルはノートの隅っこにそう書いていると渚君が出来上がったのか先生に提出しに行った

 

 先生はピンク色の顔の為緑のシマシマより油断している

 

 というよりリラックスしている

 

 渚君は短歌の用紙にナイフを隠し、先生に接近しナイフを振るった

 

「言ったでしょもっと工夫しなさいと」

 

 渚君はふわりと先生に抱きつき

 

 寺坂君がスイッチを押した

 

 火薬の臭い

 

 渚君の首に付けられていた玩具の手榴弾が破裂した

 

 火薬によって威力が上げられているそれは渚君にとっても危険な代物であった

 

「しゃぁ! 100億いただき!」

 

「ざまあみろ! まさかコイツも自爆テロは予想していなかっただろうな」

 

 甘いな、その程度では死神さんは死なない

 

 ロンメルは騒ぐ皆を尻目に冷静に見ていた

 

 煙が晴れると死神の膜に覆われた渚君が姿を現した

 

 脱皮

 

 死神の奥の手の1つであり、脱皮をすることで細胞を硬化させて対先生特殊弾が効かない素材に脱いだ皮をすることができ、それで渚君を手榴弾の爆発から守った

 

 天井にへばり付いた死神さんの顔は真っ黒であった

 

「先生は月に1度脱皮をします。寺坂、吉田、村松……首謀者は君らだな」

 

「えっ! いや……渚が勝手に」

 

 死神さんは一瞬で外に出ると瞬時に戻ってきて表札を3つ落とした

 

 それは生徒各家庭の表札であった

 

「政府との契約ですから先生は決して君達に危害は加えないが……次また今の方法で暗殺に来たら、君達意外にはなにをするかわからない。家族や友人……いや、君達以外を地球ごと消しますかねぇ」

 

 脅しであるが、死神さんの力であればできなくもない

 

 自分で反物質の生成サイクルを暴走させれば可能である

 

 私には知識不足でできないが、死神さんの知識なら可能だろう

 

 その後寺坂君達は渚君を、渚君は自分自身を大切にしなかった事を怒られたが、アイデアと渚君の油断させる為の2段構えの暗殺と体運びは見事だと褒めた

 

「人に笑顔で胸を張れる暗殺をしましょう! 君達全員がそれができる力を秘めた有能な暗殺者だ! ターゲットである先生から君達へのアドバイスです!」

 

「……さて、渚君に問題です。先生は殺される気など微塵も有りません。皆さんと3月までエンジョイして地球を爆発するつもりです。それが嫌なら君達はどうしますか?」

 

「……その前に先生を殺します」

 

「なら今殺ってみなさい。殺せた者から帰ってよし!」

 

 クラスの皆が思った

 

(((殺れねぇよ。今殺っても表札と一緒に手入れされるだけじゃん)))

 

 茅野さんが唐突に閃く

 

「あ……殺せない先生……殺せんせーは?」

 

「ヌルフフフ良い名前ですね。では今日から私は殺せんせーです」

 

 終業のベルが今日も鳴る



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カルマの時間

「どうですかロンメルさん、クラスの雰囲気は?」

 

「悪くは無いですがまだまだ結束できていません。トレーナーいや、殺せんせーを暗殺するには個々の力も協調性もありとあらゆる事が足りなさすぎます」

 

 髪の触手でペンを持ち殺せんせーにプレハブ小屋で授業を習うロンメルはクラスの事を総評した

 

「今日は杉野君を手入れしましたが、E組になると部活も停止になるのは勿体ないですねぇ。彼みたいな才能を燻らせるのは特に」

 

 杉野君というのは野球部に所属していた生徒で、野球ボールに対先生弾を埋め込み、それを投げて当てることで暗殺しようとしたが、返り討ちに有ったらしい

 

 殺せんせーは杉野君が憧れているメジャーの選手の体を触手を使っていじくり回り、翌日杉野君にアドバイスをしたらしい

 

 そのメジャーの選手みたいに豪速球を投げるには肩の筋肉の配列が悪い為どんなに頑張っても豪速球は無理だが、手首や腕の筋肉のしなやかさと可動域は素晴らしい

 

 打たせて取るピッチングをするのならばメジャーの選手よりも活躍できると太鼓判を押した

 

「いい話だなぁ」

 

「ヌルフフフ! もっと先生を褒めなさい」

 

「……よし、終わった!」

 

「どれどれ……ふむ、連立方程式がケアレスミスが目立ちますねぇ」

 

「うぐ」

 

「英語も苦手かもしれませんが頑張りましょう」

 

「はーい」

 

「ただ社会に関しては3年の範囲に入っても大丈夫な様ですね。アンバランスですよ」

 

「社会は物事が全て連続的に繋がっているから一見関係なさそうな事件が他の出来事に絡んでくるから覚えやすいんだ」

 

「戦国時代の経験ですかね? ヌルフフフ」

 

「それも有るかな……て、信じてないんじゃ無かったっけ?」

 

「ええ、勿論信じてませんよ。ただ私みたいな超破壊生物が誕生している以上嘘のような本当の話が有っても良いと考えるようにもなりましたがね……じゃないとあの実験施設に入れないですし」

 

「まあ良いんだけど……今日は走りのトレーニングを見てくれるんでしょ!」

 

「ええ、とにかくフォームに無駄が多い。これでは競馬場の芝を走るには不適合です。山道や悪路等は素晴らしいでしょうがパンパンに乾いた芝でタイムを出すには工夫しませんと」

 

「はい!」

 

「ロンメルさんの今のタイムでもまずは調べましょうか! ヌルフフフ! 昨日ロンメルさんが寝ている間に東京、中山、阪神、京都のコースに似せた各々の特性を合体させたトラックを山の中に作ってみました。とりあえず芝も張りましたので走ってみましょうか」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルさんのタイムは1ハロンの最高タイムは12秒ジャスト

 

 これはまだ体ができていない状態を考えればなかなかの速度ですねぇ

 

 ただ、ロンメルさんの武器は無尽蔵のスタミナです

 

 無酸素状態活動時間が異様に長く、独特な呼吸により有酸素状態でも一定以上のパフォーマンスが発揮できる

 

 その為試しに3000メートルを測ったらところ3分3秒と菊花賞なら馬換算なら勝負できるスピードは有った

 

 ただ私が走りの無駄を無くし、本格化と呼ばれる身体能力が向上したらどうなる

 

 異次元の記録が出せるのではないか

 

「ヌルフフフ本格化と呼ばれる兆しは入ったとのことここから半年かけて本格化するとなると期待できますねぇ……」

 

 エネルギーは反物質のお陰でほぼ無限に有る

 

 肺や心臓の肥大化も目一杯動けるここなら時期に始まるだろう

 

 満足に1年近く動けていない状態でこれなのでロンメルの伸び代は沢山有る

 

「少なくとも競馬で言うならディープインパクトは超えてもらわなくてはなりませんねヌルフフフ」

 

 殺せんせーによるロンメルの改造が改めて始まった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 烏間さんが体育教師として暗殺教室に参加することとなった

 

 これで体育の時間は殺せんせーの無茶な授業ではなくなる

 

 反復横跳びで残像を3つ出しながらあやとりしろは流石に無茶である

 

 現在はナイフの素振りを行っている

 

 ロンメルは素振りをしながら呼吸による筋肉の破壊と超回復のトレーニングを開始していた

 

 触手による補強で前の世界に比べて筋肉の付きが良く、前回の地点に到達するのに3ヶ月もここでならかからないだろう

 

 研究施設では食事量が一定だったから無理だったが、山の幸と毎月10万の支給されるお金をやり繰りすれば……いけると判断

 

 米も農家が直売しているところで買い付ければ30キロ5000円で買える農家を見つけたので東京から千葉まで走って買い付けた

 

 リアカー転がして走ればトレーニングにもなるし、自転車をくっ付ければ案外速度が出ていてもバレないもので米90キロに芋や野菜をリアカーに大量に積んでプレハブの家に帰る

 

 それと農作業を始めたので殺せんせーが作ってくれたトラックの中に畑を作り、芋や野菜を大量に植えた

 

 閑話休題

 

 ナイフ訓練をしていると前原君がこんな訓練意味が有るのか烏間先生に質問し、烏間先生が前原君と磯貝君に2人がかりでナイフを当ててみろと言った

 

 結果は烏間先生の圧勝で、ナイフは一切当たらず、逆に2人同時に転ばされた

 

「この様に心構えが有れば素人2人のナイフくらいは俺でも捌ける。俺に当たらないようではマッハ20の奴に当てる確率の低さがわかるだろう」

 

 と烏間先生から指を指された殺せんせーは砂場に大阪城を作り、着替えて茶を立てて飲んで居た

 

「クラス全員が俺に当てられる位になれば少なくとも暗殺の成功率は格段に上がる。ナイフや狙撃……基礎の数々を体育の時間で俺から教えさせてもらう!」

 

 ナイフの素振りを再開する

 

 ロンメルは集中した結果、異常な量の汗をかいて足元に水溜まりができるほどだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の席の横の赤羽業君が停学から戻ってきたカルマ君は殺せんせーに近づくと握手に見せかけて殺せんせーにダメージを与えた

 

 この教室で他人が与えた始めてのダメージである

 

 カルマ君の暗殺スタイルは精神的に追い込んでから殺すというやり方で、6時限目の小テストの時には職員室で冷やしていた殺せんせーのジェラートを勝手に持ち出して食べることでおちょくり、動揺した殺せんせーがカルマ君に近づいた時には床に転がしていた対先生弾を踏ませることでダメージを与えた

 

「まーた引っ掛かった! 何度でもこういう手を使うよ。授業の邪魔とか関係無いし……それが嫌なら俺でも俺の親でも殺せばいい」

 

「でもその瞬間からもう誰もあんたを先生とは見てくれない。ただの人殺しのモンスターさ! あんたと言う先生は俺に殺されたこととなる」

 

 そう言うとカルマ君はテストを先生に投げて帰ってしまった

 

 なかなか癖の強いことで……

 

 ただカルマ君はこの短時間で2度も殺せんせーにダメージを与えた

 

 頭の回転が速いのだろう

 

「なるほどなるほど……これはどの様にサポートすれば良いでしょうね」

 

 ロンメルはニヤリと笑う

 

 

 

 

 

 

 

 放課後私はカルマ君を探しに町を探索していたところ魚屋でタコを購入しているカルマ君を発見した

 

「カルマ君みーっけ!」

 

「ん? E組の耳としっぽ生えてた子じゃん? なにか用?」

 

「おっとそれは秘密なの。しっぽは保護色にして隠してるんだ。耳は隠せないからこうやって帽子被ってるの……あと名前はロンメルね! 種族はウマ娘」

 

「人外ちゃんって訳か……で? なにか用?」

 

「んー、先生に対しての忠告というかアドバイス」

 

「アドバイス?」

 

「殺せんせーは君が思っている何倍も強いよ。手入れされてきなよ。今の暗殺では致命傷は与えられない」

 

「……なに? 渚から聞いたけどいままでダメージを与えたの俺が初めてらしいじゃん……俺お前のこと対先生のカウンター生体兵器って聞いたんだけど! あれれ? ダメージを与えてないお前が言っちゃう?」

 

「クックックッ……舐めるなよ小僧」

 

 ロンメルはカルマ君の後ろに立ち、頭に対先生ナイフを突き刺した

 

「……!?」

 

「私は多少の心得が有る。殺気を完全に消す事を心得ているから一瞬なら存在感を消せる……まあこんなのができても殺せんせーは殺れないんだけどねぇ……カルマ君、クラスメイトからの忠告です。人を信じてみましょう! 以上!」

 

 ロンメルは魚屋で買い物をしてそのままプレハブ小屋に帰っていった

 

「十分に化物じゃん」

 

 カルマの言葉は商店街の雑音で消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、殺せんせーに徹底マークされたカルマ君は様々な手入れをされた

 

 朝礼では昨日魚屋で買っていたタコにナイフを突き刺して

 

「殺せんせーと間違えて殺しちゃったぁ! 捨てとくから持ってきてよ」

 

 とおちょくったが、殺せんせーはそのタコを使って自衛隊の迎撃ミサイルの火力で作ったたこ焼きをカルマ君にプレゼントした

 

「その顔色では朝食を食べていないでしょ、マッハでたこ焼きを作りました。これを食べれば健康優良児に近づけますね! ヌルフフフ」

 

 と本気の手入れが始まった

 

 数学の時間はネールアートをされ、家庭科の時間ではハートのエプロンを着せられ、国語の時間は髪の手入れをされた

 

 カルマ君は徹底的に手入れをされ、放課後ロンメルは気になってカルマ君の後をつけると崖で渚君と何かを喋っている

 

「覗き見とは感心しませんねぇ」

 

「トレーナー」

 

「殺せんせーですよロンメルさん。カルマ君の様子が気になるようで……恋ですか?」

 

「やだなぁ青臭いガキに恋なんかしませんよ。クラスメイトがどの様に変化するか気になりましてね」

 

「ヌルフフフ、カルマ君はまだ何かを企んでいるようですから最後の手入れといきましょうか」

 

 殺せんせーはカルマ君と渚君の前に現れると会話を始める

 

「確認したいんだけど殺せんせーって先生だよね?」

 

「? はい」

 

「せんせいってさ、命を懸けて生徒を守ってくれる人?」

 

「勿論先生ですから」

 

 いやいや、そこまでできるのは殺せんせーとほんのごく僅かな覚悟ガンギマリの人くらいですよとロンメルは心の中で突っ込みを入れる

 

「そっか良かった……なら殺れるよ……確実に」

 

 カルマ君は崖からいきなり飛び降りた

 

 ロンメルはカルマ君の体の動きから飛び降りるということを察知し、走り出したが、殺せんせーの触手が私を止める

 

 それはまるで私に任せてくださいと言っているかの様だった

 

 次の瞬間殺せんせーの触手で作られたネットでカルマ君は守られた

 

「カルマ君、自らを使った計算ずくの暗殺お見事です。音速で助ければ君の肉体が耐えられない。かといってゆっくり助ければその間に君が手に持っているハンドガンで撃たれて終わりです。そこで先生ちょっとネバネバしてみました」

 

 ゴキブリホイホイのようにベタついてカルマ君は動きが取れなくなっていた

 

「ちなみに、見捨てるという選択肢は先生には無い。何時でも信じて飛び降りてください」

 

 そう殺せんせーは締めた

 

 崖の上に引き上げられたカルマ君はロンメルが見ていた事に驚いた顔をしたが、次には今回の暗殺が失敗したことで

 

「しばらくは大人しく計画の練り直しかな」

 

 と満足そうな表情で言った

 

 カルマ君の中で何かが変わったのだろう……それは良い成長であった

 

 ロンメルはその人が決めている選択から外れた行動をした時こそ最良の結果が出るのではないかと学んだ

 

 予想外とは恐ろしくも楽しいものであると学んだのだった



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薬の時間

 カルマ君の騒動の次の日の理科の時間

 

 奥田さんが殺せんせーに

 

「毒です! 飲んでください!!」

 

 と薬品を入れたビーカーを殺せんせーに正直に手渡した

 

「奥田さん、これまた正直な暗殺ですね」

 

 奥田さん曰く皆みたいに不意打ちとかは得意ではなく、化学は得意なので真心込めて毒を作ったとのこと

 

 ロンメル含め、皆が 

 

(奥田さん、それで飲むバカは流石に)

 

 と思ったが、殺せんせーは躊躇無く飲んだ

 

 水酸化ナトリウム、炭酸タリウム、王水……

 

 どれも人体に悪影響が出る毒物であるが、殺せんせーにとって顔を変えるくらいの効力しか無かった

 

「奥田さん、生徒1人で毒を作るのは安全管理上見過ごせませんよ!」

 

「はい、すみませんでした」

 

「放課後時間があるなら一緒に先生を殺す毒薬を研究しましょう」

 

「……は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜、いつものロンメルと殺せんせーがプレハブにて勉強とトレーニングを教えてもらう時間

 

「で、本当に奥田さんに殺せんせーを殺せる薬品を作らせたの?」

 

「ヌルフフフ、そんなわけありません。宿題と称して先生を強化する薬品を作ってもらいました。勿論人にも害はありません」

 

「ちなみに奥田さんが渡した薬品類(王水等)を私が飲んだらどうなるの?」

 

「実際にロンメルさんが飲んでいないので正確にはわかりませんが、激痛は感じると思いますが、触手と同化した器官……胃袋とかで毒素は抽出されて無害になるでしょうね。つまりダメージは受けますが回復の方が早いということです」

 

「なるほど、じゃあ私も毒は効かない感じかな?」

 

「効きはしますが自然治癒能力が高いと思った方が良いでしょう。なので薬とかも効きづらいですし、呼吸器官に影響が出る毒物などは触手の効力を貫通しかねませんからねぇ」

 

「奥田さんに宿題とした薬品はどんな効果なの?」

 

「ヌルフフフ、それは明日のお楽しみですよ。さて、今日のトレーニングはピッチ走法とストライド走法です」

 

「足の回転率をあげるか、歩幅が広いかの走法だよね?」

 

「はい、まずロンメルさんに教えるのに人の走り方もそうですが競走馬の走り方も参考にするようにしました。理想はスタート及び登坂でピッチ走法、直線や下り坂ではストライド走法が良いとされます。なぜかわかりますか?」

 

「うーん、加速と最高速度とかの違い?」

 

「はい、その通りです。ピッチ走法は加速性が高い反面疲れやすく、最高速度が長時間維持できません。ストライド走法は加速性能に難がありますが、最高速度はピッチ走法より出ますし、疲れにくい。現在のロンメルさんはややストライド走法よりの走り方をしています。でもそれだけではつまらない。ロンメルさんに最も適した走法を先生考えてきました」

 

 殺せんせーは私に約1500ページにも及ぶ本を渡してきた

 

「題してナンバ式ストライド走法がロンメルさんのパフォーマンスを最大限発揮できると思います」

 

「ナンバ式?」

 

「別名ナンバ歩きやナンバ走り等昔の日本人がしていた走り方です。ロンメルさんは無意識のうちにこのナンバ走りを自身に反映しているのですが中途半端としか言いようがない。これを更に精練することでより速く、疲れにくい走りをしていきましょう」

 

「はい! ところでナンバ走りってどんなのですか?」

 

「極端に言えば右足と右腕、左足と左腕が同じタイミングで走るやり方です。緊張すると手足が揃って歩いてしまうなんて経験がありませんか? あれです」

 

「あぁ、あれですか」

 

「おそらく修正には1週間もかからないと思いますし、この走り方だと足腰への負荷が少ない。より長い間活躍できることでしょう」

 

「なるほどなるほど……ナンバ走りにデメリットはあるの?」

 

「先ほど手足が揃うと説明しましたが、これは正確ではありません。その様に走れば前に進むより肩を動かしてしまうためエネルギーロスが発生します。上半身と腰、さらに足が無理無く連動する動きこそがナンバ走りの本質です。なので普段皆さんがしている走り方になれている人程ナンバ走りに変更すると誤ったナンバ走りをしてしまいがちですが、ロンメルさんはなぜか土台ができているのでそれを精練させれば良いです」

 

「たぶん戦国の経験からかな……周りの皆がナンバ走りだっけ? そんな風に歩いていたからつられそう走る様になって、大正でも修正されなかったから今に至る感じかな?」

 

「ヌルフフフ、とりあえず過去の経験としておきましょう。さて、コースに出ましょうか、先生の触手によるサポートでみっちりしごきますからね!」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 翌日奥田さんが先生からの宿題で作ってきた薬品は先生を液体化させるというとんでもない薬品だった

 

「奥田さん、君に作ってもらった薬品はね、先生の細胞を活性化させて流動性を増す薬なのです! 液状故にどんな隙間も入り込む事が可能に!! しかもスピードはそのまま!!」

 

 ロンメル心の中でどんな薬だよと突っ込まずにはいられない

 

 ただ先生に効果が有ると言うことはロンメルにも効果がある

 

 自身がその薬品を飲んだらどうなるのだろうかという疑問を持つ

 

「せ、先生騙したんですか!」

 

 奥田さんが殺せんせーに声をあげる

 

「奥田さん、暗殺には人を騙す国語力も必要です」

 

 殺せんせーは奥田さんが理科や数学は突出した才能が有るのに対しての国語に苦手意識があることを勿体ないと感じていたらしい

 

「どんなに優れた毒や薬品が作れても……今回のように馬鹿正直に渡したら、ターゲットに利用されて終わりです。人を騙すには相手の気持ちを知る必要がある! 言葉を工夫する必要がね」

 

「上手な毒の盛り方……それに必要なのは国語力です! 理科の才能は将来皆さんの役に立ちます。それを多くの人に分かりやすく伝える国語力を身に付けていきましょう」

 

「は、はい!!」

 

 こうして奥田さんの暗殺は失敗に終わった

 

 ロンメルは国語力の大切さ、突出していても他の能力が無いと力を十二分に発揮できないのだと学んだ

 

 それは刀の才能でもそうだ

 

 剣術はロンメルは卓越した能力を持っているが、刀が折れればそれで終わりである

 

 継続して戦闘可能な格闘術、刀を修復、修繕する能力、相手の戦闘力を把握して逃げれる対応力及び観察能力……

 

 もっと総合力が有れば無惨と相討ちではなく生き残れたのではないかとも思うようになった

 

「過去は過去、今は今……よし、更なるトレーニングをし、学ばなければ」

 

 ロンメルは更にやる気を出すのだった



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ビッチの時間

 5月……ロンメルと殺せんせーが椚ヶ丘中学にやって来て約1ヶ月が経過した

 

 ロンメルはまだ本気を出していないし、それについて烏間先生から小言を言われる

 

「ロンメル、お前は本気で暗殺するつもりはあるのか? プレハブにて音声をジャミングしてまで奴(殺せんせー)と会話は何を話している」

 

「それは秘密だからジャミングしているんですよ……烏間先生は断片的には私の事を知っているのではなくて?」

 

「まぁな。クラスの事が有るから伏せてはいるが監視役の俺があまりに不真面目だと判断すれば資金援助は停止させるからな」

 

「それは困る……私はまだ牙を研いでいる段階だ」

 

 ロンメルは対先生ナイフをおもむろに横に振るう

 

 すると10メートル先に有った木に大きな傷が付いた

 

「まだ私は肉体ができていない。あと1ヶ月も有れば10メートル先ならばこの対先生ナイフでも木を切ることが出きるだろう。それでもまだ私は100%の力が出せない」

 

「いつになれば本気を出せる?」

 

「計算上2学期中盤からになる。それまではターゲットである殺せんせーからまだまだ学ばなければならない。成果はとりあえずの成果は出そう。殺せんせーの警戒度は上がるけどね」

 

 ロンメルは不敵にニヤリと笑う

 

 その瞬間強烈な殺気が一瞬放たれたかと思えば、瞬時に殺気どころか存在感すら消えた

 

 烏間先生の肩をポンポンと叩くとロンメルはその場から立ち去った

 

 烏間先生はロンメルの能力評価を1段階上げるのだった

 

 

 

 

 

 

 ホームルームになると知らない外人の女性が殺せんせーにベタついていた

 

「イリーナ・イェラビッチと申します! 皆さんよろしく」

 

 烏間先生から補足が入る

 

「彼女は本格的な外国語に触れさせたいとの学校側からの意向だ。英語の半分は彼女の受け持ちとなる」

 

 めちゃくちゃ美人でおっぱいも大きい

 

 殺せんせーは顔をピンクにしてデレデレしているし……

 

(雪村先生にも過激な下着着て来た時は鼻血出して喜んでいたしなぁ……おっぱい大好きすぎでしょ殺せんせー……)

 

(まぁ学校の意向って言っているけど暗殺者だろうなぁ。外人なのに完璧に日本語を操っている時点で只者じゃないだろうし……さて、私はこの先生から何を学ぼうかねぇ……クックックッ……)

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヘイパス!」

 

「ヘイ暗殺!」

 

 お昼休み、皆と一緒に今日は暗殺サッカーをしていたが、イリーナ先生が早速動き始めた

 

「殺せんせー! 烏間先生から聞きましたわ! すっごく足がお速いんですって」

 

「いやぁそれほどでもないですねぇ」

 

「お願いがあるの! 一度本場のベトナムコーヒーを飲みたくて……私が英語を教えている間に買ってきてくださらない?」

 

「お安いご用です。ベトナムの良い店を知っていますから」

 

 すると殺せんせーはドシューと行ってしまった

 

 キーンコーンカーンコーンとチャイムが鳴る

 

 磯貝君がイリーナ先生に

 

「イリーナ先生、授業が始まるし教室に戻りませんか?」

 

 と聞くとイリーナ先生は

 

「授業? ……あぁ、各自適当に自習でもしておきなさい……それと気安くファーストネームで呼ぶのやめてくれる? あのタコの前以外で先生を演じるつもりも無いし」

 

「イェラビッチお姉さまと呼びなさい」

 

 皆が沈黙するなかカルマ君が

 

「で、どうするんだよビッチねぇさん」

 

「略すな!!」

 

「あんた殺し屋なんでしょ? クラス総掛かりで殺せないモンスター……ビッチねぇさん1人で殺れるの?」

 

「……ガキが、大人にはね大人の殺り方があるのよ……潮田渚ってあんたよね?」

 

 渚君に近づくといきなりディープキスを初めて最初はビクついていた渚君が次第にぐったりしてしまった

 

 キス1つで男性を悩殺する技術は流石プロである

 

「後で職員室にいらっしゃい。あんたが調べた奴の情報聞いてみたいわ……まぁ、強制的に話させる方法なんていくらでもあるけどね……他に有力な情報を持っている子は話しに来なさい。良いことをしてあげるわよ。女には男だって貸してあげるし……技術も人脈も全てあるのがプロの仕事よ。ガキは外野で大人しく拝んでいなさい」

 

「あと、少しでも私の暗殺を邪魔したら殺すわよ」

 

 屈強な男が3名、様々な機材を持ってやって来た

 

 殺すに込められた本物の殺気を初めて受けたクラスの皆は硬直すると同時にイリーナ先生のことを嫌いになったのだろう

 

 そんな負な感情を感じる

 

「クックックッ……殺せんせーは彼女をどの様な手入れをするのでしょうね」

 

 

 

 

 

 

 

 5時間目は皆がビッチねえさんビッチねえさんと連呼したことでイリーナ先生がキレて、ヴィチュとビッチ……BとVの区別がついていないということでVの正しい発音をするために歯で下唇を軽く噛むというのを1時間させられるという訳のわからない授業をさせられた

 

 まぁそんな馬鹿馬鹿しい授業を受ける必要も無いのでロンメルは殺せんせーに出されている課題を黙々と行い続ける

 

「へぇ、ロンメルって結構馬鹿な感じ?」

 

 それを席が横のカルマ君がロンメルが別の課題をしていることに気がついて茶々を入れてきた

 

「うん、とにかく遅れているから殺せんせーが別口の課題をしているんだ」

 

「どれどれ……中1や中2の内容ばかりじゃん」

 

「私のレベルはそんな感じ……だから先生私に質問しないでしょ」

 

「なるほどね」

 

「ちょっとそこ煩いわよ! 私は暗殺の準備に外に出るからあんたらはそのままでいなさい!」

 

 結局烏間先生が途中来て急遽体育に変更となり、射撃訓練となった

 

 殺せんせーはイリーナ先生に誘われて倉庫に移動し、それを皆ガッカリしながら見ていた

 

「な~んかガッカリだな殺せんせー……あんな見え見えの女に引っ掛かるなんて」

 

「烏間先生、私達あの女のこと好きになれません」

 

 片岡さんが皆を代表して烏間先生に告げる

 

「すまない。プロの彼女に仕事を一任しろとの国からの命令でな……だが、僅か1日で全ての準備を整える手際の良さ……殺し屋としては一流なのは確かだ」

 

 すると倉庫から実弾による射撃音が響き渡った

 

 ロンメルは透き通る世界で倉庫の中を覗いていたが、どうやら殺せんせーはさっきの屈強な男達をすぐにノックアウトさせて銃による射撃を体で受け止めていた

 

「あちゃー、イリーナ先生実弾使ったわ……あれじゃあいくら撃っても死なないよ殺せんせーは」

 

「ロンメルさんわかるの」

 

 渚君が聞いてくる

 

「この音は実弾の発砲音だし、見えるからね……倉庫の中」

 

「え? 倉庫の中を!?」

 

「ふふふ、私が集中すれば壁1枚くらいなら透かして見ることが可能だからね」

 

「透視ってこと?」

 

「うーん、超能力みたいな透視とはまた別かな。技術だからこれも」

 

 そうこう話しているとイリーナ先生の悲鳴とヌルヌルという触手の音が響き渡った

 

 皆が倉庫に向かうと殺せんせーが出てきて

 

「もう少し楽しみたかったですが、皆さんとの授業の方が楽しみですからね! 6時間目の小テスト手強いですよ」

 

 と皆に告げた

 

 するとその後からブルマと体操服を着たイリーナ先生が出てきて

 

「……ま、まさか僅か1分であんなことをされるなんて……」

 

 と言って倒れた

 

 渚君が

 

「殺せんせー何したの」

 

 と聞くと殺せんせーは真顔になって

 

「さぁねぇ、大人には大人の手入れがありますから」

 

 と悪い大人の顔で答えた

 

 皆が6時間目のテストに向けて教室に移動を始めるなか、ロンメルはイリーナ先生の横に座り

 

「屈辱かな? イリーナ先生? いや、ビッチ先生か……あの超生物を殺すには私達と協力した方が良いけど?」

 

「……見てなさい。プロとしてこの屈辱は必ず返す!!」

 

「おうおう、殺気だって……でもね、ビッチ先生、一度ロックオンされた殺せんせーは殺せないよ」

 

「……あんたロンメルだったわね。何か知ってるわね」

 

「さぁね、どうでしょう。ただ、イリーナ先生よりは私の方が強いかな。今のままじゃ」

 

 そう言ってロンメルは教室に急いで戻る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜 いつのもロンメルのプレハブ小屋にて

 

「ヌルフフフ、ロンメルさんのご飯は美味しいですねぇ」

 

「殺せんせーの方が美味しい料理作れるくせに」

 

「誰かに作ってもらうっていうのは愛情が籠っていて自分が作るとはまた別の味がするのですよ」

 

「まぁわからなくはないかな」

 

「イリーナ先生は後少しで落ちるでしょう。それは良い……ロンメルさん、烏間先生から何か言われたでしょ。例えば暗殺にもっと集中しろとか」

 

「まぁね。言われたよ」

 

「では1ヶ月も経過しましたし、どれだけ強くなったか確かめましょうか? 食事後外で」

 

「食後はキツイから料理作ったら少し殺ろうか。多少冷えても大丈夫だし、温め直しても良いし」

 

「では確認の時間と行きますか」

 

 油淋鶏とチャーハン、スープと唐揚げを揚げ終えたロンメルはラップを張り、蓋をしてから外に出る

 

「さてさて、この1ヶ月で先生もパワーアップしましたがロンメルさんはどれぐらい成長しましたかね」

 

「まだ皆に触手を見せるわけにはいけないからねぇ。さて、殺ろうか」

 

 殺せんせーの初速は時速約400キロくらいである

 

 これはマッハ1の4分の1程度の速さであり、ロンメルもこの速度であれば対応可能……無惨や黒死牟の方が初速、初撃に関しては速い

 

 まだ肉体が戻っていないロンメルでも触手による肉体強化をすれば同速を出すことが可能である

 

 対先生ナイフによる斬撃

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月 宵の宮」

 

 約10メートルに及ぶ斬撃に殺せんせーは触手でガードするが、切れ目が入る

 

 次の瞬間殺せんせーの触手が千切れ、ビチビチと2本地面に跳ねる

 

「これは驚きました。斬撃を飛ばす事にもそうですが、それが10メートルを超えても尚先生の触手を吹き飛ばす威力を持っていることに」

 

「このナイフじゃリーチが短すぎて全然本気で振るえないんだけどね……軽すぎて一撃が軽い。だから死神さんの触手が一瞬切れ目が付いた。本来ならば切れ目が付く間もなく吹き飛ばす予定だったんだけど」

 

「ヌルフフフ、それはそれは……喋っている間に包囲は完成しましたか?」

 

 ロンメルは殺せんせーに気がつかれないように髪の触手をとにかく細く、長くしてロンメルを中心に半ドーム状に伸ばしていた

 

 殺せんせーがこれ以上高くや遠くに逃げないように

 

「それは悪手ですねぇ」

 

 その瞬間包囲が突破される

 

「ぐっ!?」

 

「触手対触手の場合細くしてしまうと太い方の触手の威力に耐えられなくなります。それが見えない様に本当に細くすれば尚更だ。とっておきはこれくらいですか?」

 

「いや、それだけではないですよ」

 

 次の瞬間地面から触手が生えて殺せんせーを襲う

 

 ブチブチ

 

 殺せんせーは慌て避けたが2本の触手が千切られてしまう

 

「しっぽですか。髪だけでなくしっぽの毛も触手に出きるようになりましたか」

 

 ロンメルはここ1ヶ月でしっぽの毛を触手に変化させるトレーニングを隠れて行っていた

 

 上に注目をさせた状態で下からの攻撃

 

 更に触手にはあるものを持たせていた

 

「にゅにゃ!? 手榴弾!?」

 

 触手が枝分かれしてピンを抜く

 

 約300発の対先生弾がばらまかれる

 

 ロンメルは殺せんせーが爆発に驚き、リソースが対先生弾を避けるのに注力した瞬間に踏み込んで距離を一気に詰めた

 

 ロンメルお得意の高速突きである

 

 鬼とは違い殺せんせーはロンメルが手に持つ対先生ナイフを当てればダメージを与えられる

 

 更にとっておきとしてナイフを強く握る

 

 握力と体温による熱の伝達によりナイフが溶けて突きの勢いで薄く伸びる

 

「お見事です!!」

 

 しかし、それを殺せんせーはネクタイで絡めて受け止めると地面から生えた触手を殺せんせーの触手が切り裂いた

 

 そして首元に触手が置かれ

 

「チェックメイトです。ヌルフフフ成長を感じられて嬉しいですよ!」

 

 と殺せんせー余裕でロンメルを静止する

 

「クックックッ……流石死神さん。ただやっぱり触手を使った暗殺には不慣れと見た……同速だとどうしても判断能力が遅れるねぇ」

 

「それは先生の弱点なので早急に直さなければなりませんねぇ……ロンメルさんの触手も再生したことですし食事にしますか」

 

「はーい!」

 

 翌日烏間先生に殺せんせーから千切った触手4本を提出し

 

「とりあえず昨夜戦って見ました。今の私では4本が限界でした」

 

 と

 

 

 

 

 

 

 

 で、イリーナ先生はどうなったかというと翌日の授業でも授業をしなかったので皆キレて軽く学級崩壊が発生し、烏間先生が介入したことで事なきを得た

 

 その後烏間先生と何か話した後、午後に再び教壇に立ち

 

You're incredible in bed! (ユア インクレディブル イン ベッド)……ほら」

 

「……ゆ、ユーアーインクレディブルインベッド」

 

「アメリカでとあるVIPを暗殺した時まずそいつのボディーガードに色仕掛けで接近したわ。その時彼が私に言ったの……意味はベッドでの君は凄いよ」

 

「外国語を短い時間で習得するにはその国の恋人を作るのが手っ取り早いとよく言われてる。相手の気持ちをよく知りたいから必死で言葉を理解しようとするの……」

 

 つまりイリーナ先生は授業で外人の口説き方を教えると言い出した

 

「受験に必要な勉強なんかはあのタコに教わりなさい。私が教えられるのは、あくまで実践的な会話術だけよ……もし、それでもあんた達がそれでも私を暗殺者だと思えなければ素直にこの学校から出ていくわ……そ、それなら文句ないでしょ……あと色々悪かったわ」

 

 こうしてイリーナ先生はクラスに溶け込んでいった

 

 ただ皆イリーナ先生ではなくビッチ先生と呼ぶのでロンメルもこれからはビッチ先生と呼ぶことにしようと思うのだった

 



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テスト勉強の時間

 暗殺バトミントン

 

 それは木製で作られたナイフで軽いボールを突いたりしてやるバトミントンとバレーを混ぜた様な遊びである

 

 烏間先生が考案し、ルールはナイフの腹で当てる斬撃とナイフの先にで突く刺突の2種類がボールに触れる方法であり、斬撃で相手陣地に着弾させれば1点、刺突で相手陣地に着弾させれば3点、パスミス等で自陣に着弾すれば相手に1点入り、斬撃でトスして良いのは3回まで、刺突であれば何度でもトスをしても良いというルールであった

 

 斬撃と刺突以外の場所でボールに触れたら相手ボール、場所はテニスコートの半分を使う

 

 人数は3対3であり、その競技で無双する者が居た

 

 ロンメルである

 

 ロンメルにとってこの遊びは目を瞑ってもできる簡単な物であり、最初は手を抜いて遊んでいたが、倉橋さんや中村さんに

 

「手を抜いてるのバレバレ」

 

「ロンメルさん本気でやってよ」

 

 と言われたので軽く力を出したら、コートが狭いこともあってどんなシュートも対応してどんなミストスでも刺突で相手コート内にボールを突き刺すので人数を3対1にされ、目隠しをした上で戦うはめになり、最終的に烏間先生より殿堂入りと言われてしまうのであった

 

「しくしくしく」

 

「ロンメルさん強すぎ! ナイフの扱い方上手すぎでしょ」

 

「泣かないで! 手を抜いてたのも私達に合わせるためってわかったし……ごめんって!」

 

 この事でクラスの皆がナイフに関してはロンメルが数段上であることを認知した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「皆さんは今全校集会をしていますが……ロンメルさん、お久しぶりですね。編入の時以来か」

 

「お久しぶりです。浅野理事長」

 

 私は今、怪物と対峙していた

 

 

 

 

 

 椚ヶ丘中学には月に1度全校集会が行われる

 

 全校集会は昼休み明けの5時間目に行われ、E組の生徒は昼休みを返上して山の上の隔離校舎から本校舎体育館に移動しなければならない

 

 その際、他のクラスよりも先に整列しておく必要がある

 

 更にE組の差別はここでも行われ名指しで馬鹿にされたり、プリントが配布されなかったりする

 

 この行事にロンメルも本来ならば参加しなければならないが、耳を隠せない関係上免除してもらっている

 

 ただ今回はロンメルは理事長に呼ばれたので皆と共に山を降りて本校舎に来ていた

 

 そこで上記の会話となる

 

 浅野理事長……教育界の風雲児と呼ばれている人で3つの教育理念に基づきこの椚ヶ丘学園を創設した

 

 ・合理性に基づいた教育

 ・競争こそが成長の原動力

 ・実社会に通用する人材の育成

 

 である

 

 この理念に基づいた結果、今E組が使っている古びた廃校舎を使った私塾からスタートし、僅か10年足らずで全国有数の超進学校にしたカリスマ経営者でもある

 

 私はそんな人を昔見てきた

 

 その人は熾烈苛烈で人々を焚き付け動かし、自らも動いて皆に示し、あらゆることを成功させてきた

 

 晩年の信長様に近い

 

 その信長様よりも合理性だけならば更に先を行っているのが目の前に居る浅野理事長であり、ロンメルは怪物と呼ぶ

 

「私を呼び出して何か御用ですか? 浅野理事長?」

 

「用事が無ければ呼びませんよ。まぁ君と少しお話してみたかったという個人的な感情も有るがね」

 

 嘘だろう、目の底が座っている

 

 私に対して警戒しながらも自然体でいる

 

 今私が浅野理事長を殺そうとしても殺れない可能性が高い

 

 纏っているオーラと呼べば良いか……常人のそれと違う

 

「殺気が漏れていますよ。抑えなさい」

 

「これは失礼しました。強者を見ると殺れるか殺れないかで考えてしまう……悪い癖だ」

 

「ロンメルさんから私は殺れる相手に写ったのかな?」

 

「いいや、手こずると判断しました。殺れなくはないというのが正解でしょうか」

 

「なるほど……殺せんせーでしたか暗殺対象の先生の名前は」

 

「はい」

 

「なぜ貴女は彼と同じ実験をして完全なる人外にならなかったのですか? 貴女の信念は強さでしょう。矛盾していませんか?」

 

「私はウマ娘という種族ですが、それを超えてしまえば制御のできない強さだと感じています。現に殺せんせーは制御に失敗し、大切な者を失った……私にとっても大切な人を」

 

「雪村先生ですか……彼女は実に惜しかった。教育に対して誰よりも熱意があり、それでいて過酷な教員の職務を十全にこなせる肉体と一定水準以上の知識を身に付けていた。彼女はこの学校を任せることができる教師の素質を持っていた」

 

「でも雪村先生は落ちこぼれだろうと救いあげようとする優しさが合った。浅野理事長にはそれが無いように感じますが?」

 

「何を根拠に?」

 

「目ですよ。貴方は何かに絶望した目をしている。過去に数人そんな目の人を見てきた……貴方は諦めてしまっている。何を諦めたかは知りませんが……」

 

「君は面白いことを言うね。さて、そろそろ本題に入ろうか……君の暗殺報酬の話だ。もし仮に殺せんせーを君が殺し、地球を破壊しなくてすむ……君の体が爆弾とならなくなった場合高校はどうするのですか?」

 

「高校ですか……考えてませんでした」

 

「まぁE組なので内部進学は無いですし、隔離校舎でもないので貴女のことを隠すことはできないとだけは伝えておかなければと思いましてね。ただ人ならざる存在というのは興味が有りますので住むところに困れば連絡してください。それ相応の場所を用意しますのでね」

 

「まぁ実験施設でしょうね……まぁまずは生存を第一に行動しますよ。私に100億は興味は無いですがせっかく現代に来たのですから美味しい料理やお菓子、様々な技術を学びますよ」

 

「君は進学校の我が校よりも高専や工業高校等に行った方が良かったかもね」

 

「いや、殺せんせーの授業が受けられるのはここだけですし間に合ってますよ」

 

「時間を取らせた下がりたまえ」

 

「失礼しました」

 

 ロンメルが退室した後浅野理事長はボソリと

 

「なんとも悲しき生物だ。世界を救う救世主となるはずが、世界を滅ぼす巨悪となるとは……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テスト勉強の季節がやってきました

 

 中間テストまで残り2週間

 

 殺せんせーも気合いが入り

 

「学校の中間テストが迫ってきました! そんなわけで先生の分身が1人ずつマンツーマンでそれぞれの苦手科目を徹底して復習します」

 

 と27名全員分の分身を作り出し、苦手科目の鉢巻きをして復習を開始した

 

 ちなみに2人だけ鉢巻きが学科ではなく

 

「何で俺だけNARUTOなんだよ!」

 

 と寺坂君はNARUTO

 

「私日の丸ですか」

 

 日の丸に合格の文字が書かれた安っぽい願掛け鉢巻きをロンメルにはしていた

 

「寺坂君もロンメルさんも苦手科目(ロンメルはまだその学力に到達していない)が多いですからね」

 

 ちょっと前までは3人くらいの分身がせいぜいだったのに……殺せんせーも成長しているんだなと改めて実感した

 

 とりあえずロンメルに対してはテストに関係する基礎を学習する順番を入れ換えて教えてもらい、テスト問題の山勘が合っていれば全教科40点は超えれるかなぁというくらいには仕上がった

 

 勿論ロンメルは夜の学習も含めてこれである

 

 だいぶ詰め込んだので頭から湯気が出るくらい頑張った

 

 そしてテスト前日になると殺せんせーの気合いは凄まじく、1人に対して分身3人という物凄い物量作戦が行われた

 

 ロンメルはあまりに頭を使ったので飴を舐めながら授業に参加し、1時間終わる毎に買い込んだドライフルーツを口に掻きこんでいった

 

「うける! ロンメルさん頭から湯気出てる! ヤバくない」

 

「漫画みたい!」

 

「つ、疲れました……過去一疲れました……」

 

「殺せんせーもダウンしてるし」

 

「……さすがに相当疲れた様だな」

 

「なんでこんなに一生懸命先生をするのかねぇ」

 

 と先生が頑張る理由を聞くと

 

 殺せんせーは皆の点数が上がれば尊敬して皆暗殺したがらなくなり、噂を聞いた近所の美人巨乳女子大生にも勉強教えられるのではという邪念ばっかりな理由であった

 

 これに対して皆は

 

「いや、勉強の方はほどほどで良いよな」

 

「うん、なんたって暗殺すれば100億だし」

 

「にゅにゃ!? そ、そういう考えをしてきますか!!」

 

「俺達エンドのE組だぜ殺せんせー」

 

「テストなんかより暗殺の方がよっぽど身近なチャンスだし」

 

 この言葉はさすがに殺せんせーもキレた

 

「今の君達には暗殺者の資格はありませんねぇ」

 

 全員グラウンドに出るように指示され皆グラウンドに出る

 

 イリーナ先生に殺せんせーは聞いた

 

 プロの殺し屋として仕事をする時のプランは1つかと

 

 答えはNo

 

 予備のプランを綿密に作るのが暗殺の基本と答えた

 

 烏間先生に殺せんせーは聞いた

 

 ナイフを生徒に教える時に重要なのは第一撃のみかと

 

 答えはNo

 

 第一撃は勿論最重要ではあるが、第二撃、第三撃をいかに高精度に繰り出せるかが勝敗を分けると答えた

 

 つまり殺せんせーは自信の持てる次の手を持ちなさいということだ

 

 次の手があるから自信に満ちた暗殺者になれる

 

 が、今の皆は暗殺があるから良いやと勉強を低く捉えてしまっている

 

 それはよろしくない

 

 殺せんせーが誰かに暗殺されるか、殺せんせーが逃げてしまえば残るのはエンドのE組という劣等感しかない

 

「そんな危うい君達に先生から警告です! 第二の刃を持たぬ者は暗殺者を名乗る資格無し!!」

 

 殺せんせーはグラウンドを一瞬で綺麗にした

 

「先生は地球をも消せる超生物……ここら一帯を平らにすることなど容易い」

 

 殺せんせーは明日の中間テストでクラス全員が50位を取りなさいと言ってきた

 

 皆唖然としているが、ロンメルは大量の汗が出ている

 

(え? 私まだ中学1年後半から中学2年前半でいっぱいいっぱいなんだけど! 結構無茶して今回のテストは赤点ギリギリ回避かなぁくらいなんだけど……え? マジ!?)

 

 ちなみに50位というのはE組から他のクラス(2年時のクラス)に戻れるという救済システムのことで、テストが50位以下かつ元のクラスの担任が許可をすればE組から脱出することができるシステムである

 

 つまり殺せんせーは全員エンドのE組ではなく普通のクラスと同等の学力を……いや、それ以上の学力を手に入れていると言いたいのだ

 

 それがなせるとも殺せんせーは言った

 

 なおロンメルは深夜まで殺せんせーが作ったテストの山勘問題集を死ぬ気でおこない、一夜漬けを敢行した

 

 なおテストは2日あるので地獄は2日も継続するのだった

 

 ロンメル曰く

 

「前の世界の鍛練よりも精神的にキツかった。私が失敗したら皆も失敗だから……」

 

「いや、ロンメルさんは第二の刃を持っていますし、先生的にも無茶言いました」

 

「皆って殺せんせー言っちゃったじゃん! 湯気通り越して髪の毛変色して真っ赤なんだけど! めっちゃ熱持ってるし」

 

「知恵熱ですかね」

 

「ですかねじゃなくて!!」

 

 ロンメルは桶に水を張って髪の触手を冷やしながら勉強するのであった



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1学期中間テストの時間

 テスト当日

 

 ロンメルは本校舎の特別室にて1人で授業を受ける

 

 担当する教員は浅野理事長である

 

「では始めようか」

 

 ロンメルの初日のテストが始まった

 

 まずは国語である

 

 漢字の読み書きから始まり、古文、漢文を少々、お題の語句を使った俳句の作成、そして読解問題が続く

 

 一夜漬けにて覚えた漢字を使いこなし、古文、漢文もロンメルのもともと備えていた知識で普通に解ける

 

 古文と漢文は戦国時代において教養の1つとされており、雇っていた貴族の方に散々教わったので余裕で解けるが、ロンメルは気がつく

 

(範囲外の内容だぞ)

 

 明らかに使ってくる文法や漢文の難易度が高い

 

 殺せんせーとの予習で100としたら難易度的には150くらい違っている

 

 俳句もほどほどに読解問題に取りかかる

 

 ロンメル絶句

 

 一夜漬けした内容と明らかに違う範囲であり、教科書だと今解いているお話の次の話の内容が普通にあったり、殺せんせーが試しに昔見せてくれた高校入試問題の最後のチャレンジ問題……いや、それ以上の難易度である

 

 ロンメルは速読術を身に付けているため問題文はすぐに読み終わったが問題文の量も尋常ではない

 

 それが3つもあるのである

 

 こうなってくると作者の気持ちを読み解けば良いのか問題を作成した者の引っ掛けを考えれば良いのかわからない

 

「そこまで」

 

 なんとか全問解いたロンメルではあるが、確信した

 

 一夜漬けでは他の教科は無理であると

 

 国語と社会は進んでいるというか過去の経験が生かせる為なんとでもなるが他は無理である

 

「では数学を始めてください」

 

 問8まではなんとかクリアーしたが、もう問9からわからない

 

 たぶん皆はここも普通にクリアーしているのだろうが覚えきれていない

 

 触手により活性化した頭脳でもいきなりIQが上がる訳じゃない

 

 どちらかと言えば脳に関しては触手による影響が少ない器官である

 

 それは触手に脳の大部分が侵食された場合面積が頭蓋骨では収まりきらないのだ

 

 それこそ殺せんせーみたいな大きな頭が無いと収まらないくらないに

 

 だから頭脳に関してはほぼ地頭であり、呼吸と触手の補佐を受けてようやくここ椚ヶ丘中学の土俵に立てるくらいの実力でしかない

 

 殺せんせーという最高の教師の補佐を受けてこの実力なのに涙が出てくる

 

「やめ。ペンを置きなさい」

 

 英語が始まる

 

 スラスラと解けたのは英単語の読み書きとリスニング、日本語を英語に直す問題と長文1のみ

 

 長文2~5と最近起こった出来事の時事問題はもうお手上げ

 

 時事に関しては研究所に居て更にテレビなんて高価な物は無いためニュースも見れない

 

 一応殺せんせーからある程度の時事問題対策はしていたが全く当たっておらず、これだけで10点は引かれる計算である

 

「今日はこれまで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜家に来た殺せんせーに問題が大幅に変わっていることを告げると殺せんせーの表情は困惑に変化した

 

「え? 事前の資料ではここまでの範囲と」

 

「明らかに範囲外の問題が多数出てますよ! 昨日の一夜漬けの範囲は殆ど出ませんでした」

 

「にゅにゃ!? ということは皆さんも」

 

「恐らくそうでしょう」

 

「不味い不味い不味い……ひじょーにまずいことになりました」

 

「たぶん皆も落ち込んでると思うけど」

 

「と、とりあえずロンメルさんをなんとか明日までに化学をおさらいしておきましょう! 勿論社会もです! 2年の復習だといって過去の問題が出る可能性も高いですし、この様子ですと90点以上にするには問題製作者の裏をつく必要がありそうです! ロンメルさんはとにかく社会は今の能力でもある程度戦えるでしょうからとにかく理科です理科!!」

 

 ロンメルは再び地獄をみることとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 結果発表の時が来た

 

 皆の顔は暗い

 

 50位以上でないといけない試験で50位以上を取れたのはカルマ君だけであった

 

 ちなみにロンメルの成績は

 

 国語89点

 数学45点

 英語36点

 社会92点

 理科55点

 合計317点

 学年順位187人中102位

 

 社会は殺せんせーが修正した時事問題がドンピシャにはまり、雪村先生が1年前から、殺せんせーがその後をしっかり教えてもらった結果普通に解けた

 

 烏間先生が本校の先生に苦情の電話を入れる

 

「テスト2日前に出題範囲を全教科で大幅に変更するのは公平性を欠くと思うが」

 

 それに対する本校の先生の回答は進学校なので直前の詰め込みにも対応できるかを試すのも方針の1つであり、今回の変更も理事長自ら教壇に立ち、変更部分を教えあげたとのこと

 

 公平性を欠くと言うが本校ではちゃんと通達済みの事であり、本校舎に来られなかった貴方が悪いとされた

 

「……先生の責任です。この学校の仕組みを甘く見すぎていたようです……君らに顔向けできません」

 

 この場面を空気を読まずにカルマ君がナイフを投げて殺せんせーに近づく

 

「カルマ君! 今先生は落ち込んで!!」

 

 カルマ君はテストを教壇に広げる

 

 そのテストは全てが98点以上、数学に至っては100点であった

 

「で、どうすんのそっちは? 全員50位に入れなかったって言い訳つけてここからしっぽ巻いて逃げちゃうの? それって結局さぁ殺されるのが怖いだけなんじゃないの?」

 

 すると皆も

 

「な~んだ殺せんせー怖かったのか!!」

 

「それなら正直に言えば良かったのにね」

 

「ねー! 怖いから逃げたいって」

 

「にゅにゃー!! 逃げるわけではありません!! 期末テストであいつらに倍返ししてリベンジです!!」

 

 こうして暗殺教室3-Eはリベンジを誓う

 




暗殺教室の設定だとテスト1日で消化してるんですけど5教科を1日で消化するのはなかなかキツイですし、期末になると副科目の保健体育、音楽、技術家庭科、美術の4科目も追加されるので3日間やることに致します

少々差異が出ますがご了承ください


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修学旅行の時間 1

 テストが終われば楽しい楽しい修学旅行の時間となる

 

 椚ヶ丘中学が行くのは京都の2泊3日であり、1日目はほぼ移動、2日目は1日自由時間、3日目は午前自由行動で午後東京に帰る日程である

 

 プレハブ小屋にてロンメルは殺せんせーが買ってきた旅行雑誌を借りて現代の京都について調べていた

 

「八ツ橋、抹茶、京菓子……西京焼きに湯豆腐……京都ならではの名物が沢山……」

 

 ロンメルの中での京都は応仁の乱で荒れ果てていたイメージと信長様が建て直した復興した京都の2つのイメージがあったが、現代の京都には甘味が増え、食事のバリエーションが増えながらも時代に適応した料理が多数ある

 

「ロンメルさん、浮かれるのも良いですが、我々にはとある制限があるのですよ」

 

「なに? 殺せんせー」

 

「お金」

 

「あ……」

 

 そう国から支給されるのは10万円、殺せんせーとテストで時事問題で痛い目を見た結果捨てられていたテレビを殺せんせーが直し、ついでに捨てられていた家電製品一式を修理して貰ったが、どうやりくりしても食費と畑の維持費で7万近くは飛んでしまう

 

 更に消耗品や衣服等でもお金が飛ぶので残るのは5000円が良いところである

 

 つまり修学旅行なのに5000円しか自由に使えるお金が無い! という悲しい現実を殺せんせーより突きつけられた

 

「そんなお悩みのロンメルさんに朗報です! この椚ヶ丘学園ではバイトを全面的に禁止されていますが……磯貝君みたいにバレない様にやれば問題ありません」

 

「いや、磯貝君バレてE組に落とされたんだけど」

 

「いやいや、先生の内職をちょっと手伝ってくれませんかねぇ」

 

「あ、なるほど! 内職だったらバレないよね!」

 

「そうです! しかも我々には触手という強力な武器がある! 先生先月お金が無くなって痛い目見たので副業の内職を幾つか掛け持ちしています! ポケットティッシュに広告を入れる(1つ1円)、シール貼り(1つ1円)、シャーペンの組み立て(1つ1円)……これを触手の練習がてら手伝ってくれると先生とてもとても助かるのですが……どうですできた物の半額を渡すという契約で」

 

「殺せんせーお主も悪よのぉ」

 

「いえいえ、これは困っている生徒を助けつつ触手の訓練ですので何も悪いことはありませんよヌルフフフ」

 

「まぁ監視カメラと盗聴されてるからバレるんだけどね」

 

「まぁこれくらいならお目こぼしをしてくれるでしょう。ちなみに1つのバイトで大量にやるとおかしいことに気がつかれるのでコツは20個くらい掛け持ちして1ヵ所から3~5万稼ぐのが良いでしょう」

 

 こうして悪の大魔王殺せんせーによりロンメルも悪の片棒を担がされることとなる

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行の軍資金を殺せんせーと共謀で稼いだロンメルは班決めに参加する

 

 クラスで特に仲の良い倉橋さんや中村さん、料理仲間の原さんと組むのも捨てがたいが

 

「ねぇ、ロンメルさん一緒の班にならない?」

 

「おりょ? カルマ君が誘ってくれるなんて珍しいじゃん」

 

「いやだって面白そうじゃんやたらと京都の昔の歴史にも詳しいし、なによりなーんか隠してるの暴きたいし」

 

「何も隠してないけど?」

 

「ふーん、まぁ良いや」

 

「班の件はありがたく受けさせて貰うね!」

 

「全く3年も始まったばっかりのこの時期に総決算の修学旅行とは片腹痛い……先生あまり気乗りしませんねぇ」

 

 と言った殺せんせーの後ろには殺せんせーの普段の身長(2メートルほど)より大きな荷物が置かれていた

 

「「「ウキウキじゃねぇか!!」」」

 

「……バレましたか。正直先生、君達との修学旅行が楽しみで仕方がないのです」

 

 殺せんせー生八ツ橋を買い占めると張り切っているし、皆も浮かれ気分である

 

 ただここは暗殺教室

 

 普通の修学旅行になるはずもない

 

 烏間先生がグラウンドに皆を集めると

 

「来週から2泊3日京都の修学旅行だ。君達の楽しみを極力邪魔したくないが……これも任務だ」

 

「てことはあっちでも暗殺を?」

 

「磯貝君その通りだ。君達には京都での班別自由行動の2日目と3日目、京都の広く複雑な町並み……それを奴は班ごとに付き添って回る……狙撃手を配置するには絶好な場所だ。国から腕利きの狙撃手を既に手配してある。暗殺に成功した場合貢献度に応じて報酬が支払われる。暗殺向けのコース選びを頼む」

 

 

 

 

 

 

 カルマ君とロンメルは渚君、杉野君、奥田さん、茅野さんの班と合流し、杉野君が更に神崎さんを誘って7人班が完成した

 

 カルマ君と渚君は言わずもがな、杉野君は元野球部で、現在地域の硬式クラブチームでピッチャーをしている男子、奥田さんは殺せんせーを毒殺しようとした子、茅野さんは殺せんせーの名前を付けたり、巨乳死すべしと巨乳過激派、神崎さんはクラスのマドンナであり、真面目でおしとやか、更に美人……何でE組に入るのってくらい可愛い女の子である

 

 どこ回るかルートを決めていると殺せんせーが教室に入ってきて

 

「1人1冊です」

 

 と全ページ数2500ページ、付録マップ250枚、特典として紙工作金閣寺付きのしおり……辞書を渡してきた

 

「イラスト解説全観光スポット! お土産人気トップ100、旅の護身術入門から応用! 移動範囲内にある全寺社の歴史及び見所解説等々! 昨日徹夜して作りました」

 

「どんだけテンション上がってるんだよ!!」

 

 最近ツッコミのキレが上がってきた前原君がツッコミを入れる

 

「でも殺せんせー京都まで1分でいけるじゃん」

 

「勿論です。しかし移動と旅行は違います。皆で楽しみ、皆でハプニングに遭う。先生はね! 君達と一緒に旅できるのが嬉しいのです」

 

 殺せんせーだけでなくビッチ先生もテンションが上がっておりロンメルにとってウマ娘の世界以来の旅行らしい旅行を楽しむのであった

 

 

 

 

 

 

 

 東京駅集合なのでロンメル季節外れではあるがニット帽を被って耳を隠し、しっぽを保護色にすることで一般客に溶け込んだ

 

 ロンメル殺せんせーのバイトで10万円獲得、早速東京駅名物東京バナナとミルクケーキをホールで購入、駅弁も5つも購入し準備万端

 

 皆と合流すると

 

「ろ、ロンメルさん既に荷物が凄いね」

 

「なんか旅行後感が既に出てる」

 

「失礼な! 新幹線で全て食べます!」

 

 ロンメルの荷物は上記の買った物に、殺せんせーのリュックサックを1周り小さくした(それでもロンメルの身長やや大きいくらい)の巨大な荷物であった

 

「「「それもそれでどうよ……」」」

 

 ちなみに他のクラスはグリーン車で、E組は普通車

 

 学費の用途は成績優秀者が優先される仕組みであり、泊まる場所も他のクラスは高級ホテルに2名ごとの個室、対してE組は旅館で男女大部屋1つずつのみである

 

 本校舎の生徒がE組を見て君達からは貧乏の香りがするねぇと言っていると

 

「ごめんあそばせ」

 

 ハリウッドセレブみたいな格好をしたビッチ先生が現れた

 

 これにはE組の生徒みなドン引きである

 

 ビッチ先生曰く

 

「女を駆使する暗殺者はねぇ狙っているターゲットからバカンスに誘われることが多々あるの。ダサいかっこして幻滅されるわけにはいかないわ! 良い女は旅ファッションこそ気を遣うの」

 

 烏間先生がすっ飛んで来て

 

「目立ちすぎだ着替えろ。どうみても引率の先生の格好じゃない」

 

「固いこと言うんじゃ無いわよ烏間! ガキ共に大人の旅を」

 

「脱げ、着替えろ」

 

 烏間先生ガチ怒り

 

 哀れビッチ先生は持ってきた寝巻きに着替えさせられる

 

「誰が引率かわかりゃしない」

 

「金持ちばかり狙ってきたから庶民感覚がずれてるんだろうな」

 

 と野杉君の評価であった

 

 ちなみに殺せんせーは駅弁を迷いすぎて電車に乗り遅れるトラブルもあったが概ね新幹線の中は平和であった

 

「ロンメルさん律儀にしおりもってきたんだ」

 

「いやぁ、なんだかんだ言っても便利よこれ……旅先での遊び大百科なんてのもあるし」

 

「しおり読みながらお弁当食べるの器用だね」

 

「皆も食べる? ミルクケーキ?」

 

「いや、今食べたら昼食がきつくなりそうだから良いや」

 

「そう……」

 

「しっかし、どこにそんなに食事が入るのか」

 

「クックックッ食は体を作るのには必須だからねぇ。皆とは種族が違うから食べる量も違うのよ」

 

「すげぇ弁当5つ完食したよ」

 

「腹1分目くらいかな」

 

「まぁ確かにいつも持ってきているお弁当も凄い量だったし……ロンメルさんにとってこれくらい食べるのは普通なのか?」

 

「ねぇロンメルさん、飴いる?」

 

「お! カルマ君ありがと……!? 辛!? なにこれ!!」

 

「激辛練り梅キャンディ……対殺せんせー用の飴だけど余ってたから」

 

「いやいやいや! それを私に食べさせないでよ」

 

「リアクション大きいからロンメルさんイタズラすると面白いんだよぬ」

 

「な、なにをぉ!! いや! それより水、水!!」

 

「はい、ロンメルさん」

 

「ありがとう神崎さん」

 

 神崎さんから渡された水を飲みほし、カルマ君に反撃しようと企む

 

「大富豪やろうよ! ローカルルールありね」

 

「お、良いねぇ。どこまで適応?」

 

「あ、私飲み物買ってくる」

 

 ロンメル以外の女子達は飲み物を買いに離席する

 

 その間にカルマ君とロンメルが使用できるローカルルールを決め、3人が戻ってきたところで大富豪を開始した

 

 ロンメルとカルマ君が互いに徹底マークするので大富豪、都落ちによる大貧民をロンメルとカルマ君は繰り返し、高度な頭脳戦が行われ、お菓子による他人の買収が始るまで白熱したが、渚君が花札やらないと言ったことで終了となった

 

 

 

 

 

 

 

 

「「ゼヒューゼヒュー」」

 

「殺せんせーもロンメルもバスで車酔いするとは」

 

「大丈夫2人とも」

 

「あ、私はカルマ君とゲームしすぎて知恵熱出てるだけだから」

 

「「「どんだけ頭使ったんだよ」」」

 

「いやー、楽しかったよロンメルさん。盤外戦術ガンガンやってくるし」

 

「勝てれば正義なのでね」

 

「殺せんせーは寝室で休んでれば?」

 

「ご心配無く、先生一度東京に戻ります。枕忘れました」

 

「あれだけ荷物持ってきて忘れ物かよ!」

 

 神崎さんが無い無いと何かを探している

 

「どうしました神崎さん?」

 

「日程表が無くなってしまって……確かにバックに入れたんだけど……」

 

「神崎さんは真面目ですねぇ。独自に手帳に纏めてくるとは感心です。でもご安心を先生手作りしおりを持てば何の問題もありません」

 

「「「それを持ち歩くのが嫌だから纏めてきてるんだよ」」」

 

 ちょっとしたトラブルはあれど修学旅行初日はこれにて終わる

 

 グロッキーなので今日は休ませてとロンメル無念の早期就寝

 

 2日目に続く



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修学旅行の時間 2

 京都……それは暗殺の聖地である

 

 時の権力者が暗殺されることは勿論、その家族や一族、家臣達が暗殺されることは日常茶飯事であり、更には応仁の乱等の乱や変といった短期にしろ長期にしろ人の血がこびりついた都市でもある

 

「そういえば無惨もここで生まれたんだよなぁ」

 

「無惨って? ロンメルさん?」

 

「あ、いや、何でもない、1人ごと」

 

 更に京都には3つの鬼の伝説もあり、怪物達が蔓延っていた都市でもある

 

 そんな血塗られた都市で今回暗殺を目論むのは私達の先生である殺せんせー

 

 ロンメル達の班は暗殺名所巡りをしながらお土産等を買ったりして楽しんだ

 

 坂本龍馬暗殺の近江屋跡地や本能寺等

 

 ロンメルは本能寺に着いた際手を合わせて涙を流した

 

「あれれ? 泣いてるの? ロンメルさん」

 

「……思い出がここに詰まっていましてね……」

 

「そっか」

 

 カルマ君は深くは探らない

 

 ロンメルは気持ちの整理をつけると皆と同じく観光を楽しんだ

 

 特に朝から始まった班行動で最初に行ったコーヒー屋さん……甘くてスイーツやサンドイッチが絶品でコーヒー3杯にケーキ5個、サンドイッチ10個をペロリと平らげる

 

 そんなんだからお会計で少し後悔したのはナイショ

 

 そうこうしているうちに殺せんせーと回る時間が近づいてきたので暗殺に適した場所に移動することにした

 

 殺せんせーを殺すのに選んだのは祇園の裏道

 

 一見さんお断りのお店が多いため人通りも少なく暗殺にぴったりな場所であった

 

 ロンメルは気がついていた

 

「ひーふーみー」

 

「? ロンメルさんなに数えてるの?」

 

「あ、襲撃者の数、カルマ君、渚君、杉野君女の子をお願い」

 

「え? え?」

 

「ありゃ? バレてたか」

 

「うひょー良い女が2人も居るじゃねえか金髪(ロンメル)と黒髪(神崎さん)の」

 

「本当うってつけだよ! 何でこんな拉致りやすい場所歩くかねぇ」

 

 6人の高校生が現れた

 

「何? お兄さんら? 観光が目的っぽくないんだけど」

 

「男に興味はねぇ。女置いておうちに帰んな」

 

「あ、カルマ君、大丈夫。このレベルなら私1人でやるわ」

 

「やれんの? ロンメルさん」

 

「お? 嬢ちゃんなんだ? 俺と遊びたいのかな? ……」

 

 ドサッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な? ……ダチに何しやがったこのクソガキ」

 

 金髪ニット帽の女がダチの前に立ったと思ったらダチが膝から崩れ落ちた

 

 失禁しながら気絶してやがる

 

「腹部に1発、顎に1発、両足及び金的に1発……計5発蹴りと拳で決めさせてもらったよ。なーに手加減はしてるから安心しなよ」

 

「おい」

 

「ああ」

 

 他の奴が懐からスタンガンや警棒、木刀を取り出す

 

「田中の奴は油断してたが俺らはそうはいかねぇぜ!!」

 

 小菅と工藤がダッシュで襲い掛かるが

 

 金髪ニット帽の女は小菅の頭をジャンプして掴むとそのまま体重をかけて工藤もろとも押し倒した

 

「て、てめぇ!! が?」

 

「良い武器だ使わせてもらうよ」

 

 工藤から木刀を奪いやがった

 

 だが木刀持って油断したな

 

「死ねぇ!!」

 

 ドンと衝撃が襲い掛かる

 

 なんだ? トラックに跳ねられたみたいな衝撃は……柄で殴られた? 見えなかった……そのまま崩れる俺の腕を掴むとそのまま仲間に俺をボールでも投げるかのようにぶん投げた

 

「「ぐわ!?」」

 

「はい、死亡ね」

 

 木刀が俺の真横を通過する

 

 コンクリートが砕けて木刀が地面に突き刺さる

 

「ひ、ひぇ」

 

 俺らはその恐怖で気絶した

 

 

 

 

 

 

 

 

「カルマ君撮れた?」

 

「バッチリ」

 

「はい、正当防衛完了! 後は身分証漁って有れば写真撮って殺せんせーに報告で良いよね」

 

「まぁこんなんだし持ってないだろうね。身分証」

 

「顔写真だけ撮っておくか」

 

「いやいや、ロンメルさんもカルマ君も手慣れすぎでしょ」

 

「これくらい少し心得有れば誰だってできますよ」

 

「でもビックリした……コンクリートを木刀で搗ち割るなんて」

 

「コツさえ身につければ誰だってできるよ」

 

「木刀全く傷ついてないし」

 

「お土産の安物だけど手にフィットした! 戦利品として持って帰ろ!」

 

「いや、それ泥棒」

 

「大丈夫大丈夫目撃者皆しか居ないし、たぶん彼ら私の顔良く覚えてないから」

 

「どういうこと?」

 

「顔を認識しにくいように意識を別の場所に移していたからたぶん覚えられてないよ」

 

「す、すげぇ達人って感じかだった」

 

「ロンメルさんもしかして相当強い?」

 

「そういえばロンメルさん最初対先生用生物兵器って言ってなかったっけ?」

 

「……普段は協調性重視で私がメインで暗殺することが無かったからね。まぁそろそろ何かしらアクション起こすよ」

 

「ちなみにロンメルさんが本気で殺せんせーを殺しに行ったらどうなるの?」

 

「今だと奇襲込みで単独で触手4本が限界かな? もっといけても命は取れない」

 

「4本……」

 

「奇襲って言っても前やった時はタイマンだったし……まぁ皆がもう少し強くならないと協力して暗殺しようとしても成功率が下がる可能性もあるし……皆の成長速度だと2学期後半からは面白くなるんじゃないかな」

 

「へー、ずいぶん上から目線じゃん」

 

「だって……」

 

 その瞬間カルマ君の背後を取る

 

「君らとは年季が違うから……戦闘のね」

 

 ぷにっとカルマ君のほっぺたに指を指し、ロンメルは黒蜜ラテなる飲み物をポッケから取り出し飲み始める

 

「まずは強くなろうや。全てはそれから」

 

 ロンメルはニット帽を更に深く被り、通りを抜けていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルさんは不思議な人だ

 

 普段は皆と暗殺に協力してくれるし、適度にアシストしてくれる

 

 どこか世間話はズレで居るところがあるけど明るくて聞き上手だし、体育で烏間先生から教わることに対して質問すれば分かりやすく教えてくれる

 

 校庭でよく走っているが、それは人が出せる速度ではなく、時速70キロくらいで走っているのでロンメルさんも人じゃないんだなってその時思う

 

 あとスマホを持ってないから連絡ができない

 

 本人曰く烏間先生と協議中とのこと

 

 そして謎が多い

 

 種族はウマ娘って言うらしいが、この中だと落ちこぼれだったらしい……そもそもウマ娘って種族が居ること自体初めて知ったし、殺せんせーとの関係やロンメルさん自身の過去等は聞いても教えてくれない

 

 学校から帰ったら何をしているかすら僕らは知らない

 

 今も殺せんせーに近づいて狙撃暗殺のアシストをしているけど、足の運び方が僕らとは違う

 

 音が全くしないし、気配に強弱をつけることで先生の油断を誘ってる

 

 狙撃暗殺が失敗したらなぜか嬉しそうにしているし……

 

「渚君なにしてるの?」

 

「カルマ君……ロンメルさんの事を少し考えてた」

 

「あぁ、彼女のことね。不思議だよね……力が有るのに全く皆に見せようとしないし、ただどれだけ強いか検討もつかないや」

 

「烏間先生と戦ったらどうなるんだろうね」

 

「うーん、ロンメルさんの方が強いんじゃない?」

 

「どうして?」

 

「だって本人が対先生生物兵器って言ってるし……でもまぁ本気を全く出してないのは事実だよね」

 

「さっきの不良に絡まれた時に思ったんだけど……ロンメルさん対人戦闘に凄い慣れてるように見えたんだけどカルマ君はどう思う?」

 

「慣れてるねぇ。というか先読みしているような動きだったし……なにより木刀を握った後の動きが別次元に違った」

 

「確かにコンクリート突き破るのは凄かったけど」

 

「違う違う。確かにそれも凄いけど木刀を握った時の腕……一瞬だったけど膨れ上がってたんだよねぇ。制服でもわかるくらい異常に」

 

「ロンメルさんっていったい何者なんだろうね」

 

「だねー、まぁ少しずつ探るしかないだろうね。殺せんせーみたいに」

 

 

 

 

 

 旅館に戻った私達はゲームコーナーの対戦ゲームで遊んでいた

 

「うおおおおお!!」

 

「ふふ」

 

 叫ぶロンメル

 

 対するは神崎さん

 

『KO』

 

「だぁぁ! 神崎さんに勝てない」

 

「ロンメルさん5敗目!」

 

「神崎さんすげぇ! おしとやかに微笑みながら手付きはプロだ!!」

 

 茅野さんと杉野君が茶化したり驚いたりし、奥田さんが神崎さんに聞く

 

「凄い意外です! 神崎さんがこんなにゲームが得意だなんて」

 

「……黙ってたの……遊びができても進学校のうちじゃ白い目で見られるだけだし……ただ皆の前ならバレても良いやと思ったの……5勝したからロンメルさん約束した通り隠していること話してくれない?」

 

 ロンメルはこのゲームをする時、神崎さんと賭けをしていた

 

 ロンメルが勝ったら神崎さんはロンメルに京菓子を奢る

 

 神崎さんが勝ったらロンメルの好きな人を教える

 

 そんな賭けをしていた

 

「じゃあロンメルさんの好きな人暴露ターイム」

 

「気になる気になる!」

 

「いやー、負けた負けた完敗! 神崎さん強いねえ」

 

「ふふ、少しは特技が役立ったかな?」

 

「じゃあロンメルさんの好きな人教えて!!」

 

「あ、俺も気になる」

 

「カルマも気になるよな!」

 

「発表しまーす!! ……織田信長と殺せんせー」

 

「「「……はい?」」」

 

「だから織田信長と殺せんせー」

 

「いやいやいや、何で織田信長?」

 

 渚君が突っ込む

 

「信長様はね若い頃はちょっとお茶目で先を見すぎていて変人扱いされたけど私をしっかり見てくれたの。私を女として見てくれたの……私の愛した最愛の人なの」

 

(((う、うわぁ……電波系だったか……いや妄想系かよロンメルさん)))

 

「殺せんせーは先生として好きだね! ラブじゃなくてLikeの好きだけど……これで良い? 神崎さん」

 

「あ、ありがとうロンメルさん」

 

「まるで見てきたみたいだねロンメルさん信長の事を」

 

「うん、だって会った事があるもん。まぁこの世界の信長様ではないけど」

 

「この世界?」

 

「これ以上は友好度がたりませーん! さて、ちょっと外に空気吸いに行ってくるね」

 

 

 

 

 

 

 

 俺の通り名はレッドアイ……狙撃を専門とする殺し屋だ

 

 日本政府からの依頼でタコの様な生物の暗殺を依頼された

 

 暗殺人数35人の俺に殺れないターゲットは居ないと思っていたが、京都での暗殺は散々な結果に終わった

 

 パターン1 嵯峨野トロッコ列車の鉄橋での停車中の狙撃はターゲットが持っていた八つ橋で防がれて失敗

 

 パターン2 映画村の殺陣の観覧中の狙撃はターゲットが殺陣に参加して動きまくり誤射の危険が有るため狙撃できず

 

 パターン3 五重塔から産寧坂のお土産購入中のターゲット狙撃はターゲットのあぶらとり紙に防がれ失敗

 

 パターン4 祇園の裏道にて気を引いていた協力者達の間を狙撃したが協力者が持っていた木刀で防がれて失敗

 

 暗殺家業を初めて8年……プライドがズタボロだ

 

 俺のスコープに暗殺対象の血が映らなかった事は無い……それがレッドアイの名の由来だってのに……

 

 そうとぼとぼ歩いていると暗殺対象のタコが接触してきて成り行きで湯豆腐を食うことになった

 

「なんもかんもお見通しって訳か……こんな怪物が居たとはな。国が口止めするわけだ。……で、俺を殺す気かい? 良いぜ殺れよ。こんな商売やってるんだ。覚悟はできてる」

 

「いえいえ殺すなんてとんでもない。おかげで楽しい修学旅行になりました。お礼が言いたいだけです」

 

 タコは俺のアシストをするために生徒達は京都の地形や地理、見所や歴史、成り立ちを普通の修学旅行生よりも散々調べただろうと

 

「それはつまりこの町の魅力を知る機会がより多かったということです。人を知り、地を知り、空気を知る。暗殺を通して得たものは生徒を彩るでしょう。だから私は暗殺されるのが楽しみなのです」

 

 タコがそう言うと座敷の襖が開く

 

「殺せんせー地図だけだと何したいか分かりづらいよ」

 

「ロンメルさんナイスタイミングです」

 

 湯豆腐屋にロンメル合流

 

アンタ(暗殺対象)の生徒か……なぜ呼んだ?」

 

「いえいえ、少々特殊な生徒ですので呼びました」

 

「ロンメルです。スナイパーさんこんばんは」

 

「レッドアイだ。偽名ですまないが本名は仕事上言えなくてな」

 

「レッドアイさんよろしくお願いします」

 

「で? 何でこの生徒を紹介するんだ?」

 

「もし来年の3月以降も地球が存続していた場合貴方にこのロンメルさんの介錯を依頼したい」

 

「介錯? どういうことだ?」

 

「詳しくは言えませんが私が誰かに暗殺されなかった場合、彼女が次の地球を破壊する能力を得ることになります。勿論ロンメルさんの合意をした上でですが貴方にロンメルさんを倒して欲しい」

 

「なぜ俺なんだ?」

 

「貴方の狙撃の腕であれば彼女の心臓を撃ち抜く事ができる。

 知り合いの皆さんに殺されるのはロンメルさんは嫌だと思うので貴方に依頼したいのです」

 

「おいおい、本人の前で言う会話じゃないだろ……それになんだ? お前の能力は受け継がれたりするのか?」

 

「それは教えることはできませんねぇ……ただ今のままでは私を殺しても地球は終わる。私と彼女を殺して初めて地球は救われるのです」

 

「勿論私は来年以降も地球を存続させた上で生き残るつもりだし、その方法がわかったらレッドアイさんに連絡して止めてもらいますが……もし、それが不可能である場合来年の4月12日に私の暗殺を依頼します」

 

「……報酬は?」

 

「恐らく私の暗殺報酬に匹敵する金額がロンメルさんにも付けられると思いますのでそれでお支払いしましょう」

 

「……やめだやめだ。俺はアンタにいかに自分が未熟者か理解させられた。1つの色にこだわらず色んな色を見るために旅に出るよ。その暗殺依頼は受けられない」

 

「残念でしたねロンメルさん。ほら、先生の言った通りでしょ」

 

「クックックッまぁ私もこのまま死ぬ気は無いからねぇ……なんとしてでも生き残って見せるからね殺せんせー」

 

「ええ、協力は惜しみませんよ」

 

 レッドアイさんは湯豆腐を楽しんだ後帰り、ロンメルも旅館に戻ったのを確認した殺せんせーはポツリと

 

「雪村さんが残した物は必ず守る。ロンメルさん貴方の事も先生が必ず守る。絶対だ」



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修学旅行の時間 3 トレーニングの時間

 男子達が旅館の大部屋に集まり話し合いをしていた

 

 それは気になる女子ランキングである

 

「やっぱり1位は神崎さんか」

 

「で、2位はロンメルさんだよな」

 

「で、2人を班に引き込んだ杉野どーだった?」

 

「トラブルあったけど沢山喋れたし、少しは好感度稼げたと思うわ……」

 

「良かったじゃん杉野!」

 

「ただロンメルさんは謎が多すぎて逆にわかんねぇわ。好きな人織田信長と殺せんせーだって」

 

「殺せんせーはわからなくは無いけど何で信長?」

 

「いや、よくわかんねぇよ……」

 

 そこにカルマ君が登場し

 

「お、面白いことしてるじゃん」

 

 とカルマ君も参加

 

 ちなみにカルマ君の気になる子は奥田さんだった

 

「意外、席近いし、ロンメルさんの事気になってるのかと思った」

 

「だよなー、よく仲良く喋ってたし」

 

「掴み所が無いんだよねぇ彼女、少し深く質問すると直ぐにはぐらかすし……実力隠してるのが気にくわないってのもあるけど」

 

「あー、確かに暗殺に積極的に協力してくれるけど、本人にあまり殺気が無いんだよなぁ」

 

「そうそう」

 

「ロンメルさんの話はこれくらいにして、この話の内容は女子や先生には内緒……」

 

 そこで磯貝は気がつく

 

 窓に張り付き今の会話の内容をメモする殺せんせーの姿を

 

「あのタコメモして逃げやがった!!」

 

「殺せ!!」

 

 前原君の号令で皆武器を抜き暗殺に入る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 女子は女子で、ビッチ先生を含めた女子会が開かれていた

 

 ビッチ先生が

 

「女の賞味期限は短いのよ。平和なこの国で生まれたんだから全力で女を磨きなさい」

 

 と凄い真っ当な事を言うと皆は

 

「なんかビッチ先生の癖に生意気」

 

「嘗め腐りおって! このガキども!!」

 

 そんな事をしていると倉橋さんや矢田さんが

 

「じゃあさじゃあさ! ビッチ先生が落とした男の話を教えてよ!」

 

「あ! 私も聞きたい」

 

 と恋愛の話となる

 

 ロンメルは気がついていたが、周りの皆は殺せんせーがこの場に居ることに気がついていない様だ

 

 ビッチ先生が話し始め様とした時に気がついたらしく

 

「女の園に勝手に入ってくるんじゃないわよ! このタコ!」

 

「えぇ、良いじゃないですか。私も聞きたいですよ」

 

 そう殺せんせーが言うと周りの女子達は

 

「そーいう殺せんせーの方こそどうなの? 自分のプライベート全く見せないじゃん」

 

「そーだそーだ!! 人ばっかりずるい!!」

 

「殺せんせーも恋愛話無いわけ?」

 

「巨乳好きだし片思いくらい有るでしょ!」

 

 と集中砲火を食らう

 

 ロンメルだけは知っていた

 

 殺せんせーこと死神さんの初恋の相手は雪村先生であるということを

 

 良くも悪くも殺せんせーは雪村先生の残してきた者達を守ろう必死なのだ

 

 確かにエロ本や女子大生を眺めてニヤニヤする事はあるが、雪村先生が本命であった事は変わりはない

 

 初めは恋愛感情では無かったが、約1年見てきた身としては殺せんせーは疑いようが無く雪村先生を愛していた

 

 それこそ触れあったのが最後の1日だけだったとしても

 

「逃げたぞ追え!!」

 

「捕まえて吐かせて殺すのよ!」

 

 あぁ、雪村先生、今日も暗殺教室は平和です

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行が終わり、ロンメルは戦利品をプレハブ小屋に並べた

 

 まず菓子類、色とりどりの京菓子や様々な味の八つ橋、抹茶バームクーヘン等の箱が段ボールに入っている

 

 扇子や簪、高校生から奪った木刀等もある

 

「任天堂の花札やトランプも買えたし満足満足」

 

「ご機嫌ですねぇロンメルさん」

 

「殺せんせー!」

 

「さて、では早速今日も授業を行いますよ」

 

「はーい」

 

 修学旅行から帰ってもお構いなしに授業が始まる

 

 勉強の遅れをなんとかするにはこういう時間に勉強を少しでも進める必要がある

 

 勉強が一段落するとウマ娘としての勉強の時間である

 

 今回は殺せんせーが競馬場で撮影してきた競馬の空中映像を見てペース配分や駆け引きなんかを勉強する

 

「ウマ娘の話を聞くと競馬とは切っても切れない関係が存在します。人の1000メートル走でも良いですが、こちらの方がロンメルさんには有益だと判断しました。まず話を聞くにウマ娘必要な要素を纏めてみました」

 

 スピード……その名の通り最高速度

 スタミナ……体力等、長いレースでも高ければへっちゃら

 勝負根性……気力や根性

 瞬発力……加速性能

 柔軟性……フォームの可動域を広げたり適正距離を増やせる

 パワー……雨やダート、洋芝、坂等で必要、無いとスタミナが多く減る

 精神力……輸送の強さ、高いと周りに囲まれた時に動揺しない

 賢さ……レース中の読み合いに強くなり学習能力もここ

 

「以上の8項目でロンメルさんの事を先生なりに評価してみました」

 

 スピードB

 スタミナUA

 勝負根性US(計測不能)

 瞬発力US(計測不能)

 柔軟性S+

 パワーUS(計測不能)

 精神力US(計測不能)

 賢さB

 

「みたいな感じでしょうか。ごめんなさいねぇ計測不能が多くて……ただ加速性能は触手と呼吸の影響でとても高いと判断しました。勝負根性はロンメルさんが持つ内なる狂気は測りきれません。力ことパワーも馬よりも明らかに強い、精神力も一般人のそれとは大きく逸脱しています。逆にスピード、スタミナ、柔軟性、賢さは先生が測れるくらいには能力がわかっています。伸ばすならこれらでしょうね」

 

「なにより絶対的なスピード不足です。ただロンメルさん、本格化が始まりましたね」

 

「あ、わかります?」

 

「身長や体重、筋肉の質が大きく変化し始めました。先生の触手は騙せませんよ」

 

「ええ、だから体を整える必要があります。更に食事量を増やして筋肉の超回復を繰り返させ肥大化及び密度を上げる必要があります」

 

「では筋肉を効率よくかつ程よく破壊することと触手と呼吸法による回復行いましょう。ヌルフフフ、完全体になったロンメルさんとの暗殺は楽しそうですねぇ」

 

 更に殺せんせーの協力により小川を塞き止めたプールが作られ、少し寒いがプールトレーニングを開始した

 

 で、私の意外な弱点が判明する

 

「水に長時間浸かると髪やしっぽがふやけて動きづらくなるんだなぁ」

 

「そうですねぇ、ただ2時間以上水に浸かっていた場合に限ります。それ以下であれば粘液で水を弾く事が可能なハズです」

 

「確かにそうですね。プールトレーニングは効率が良いけど時間が限られますね」

 

「後はしっかり走り込みや筋トレをするしかありません。6月になれば雨で走り込みがしづらくなりますし、とにかく体作りが必須になってきますよ」

 

「はい!」

 

 ロンメル本格化開始

 

 大正の時代よりも効率的なトレーニングを行い、前の世界よりも早く力を付けていくこととなる



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自律思考固定砲台の時間

 修学旅行も終わり通常授業が始まる

 

 その前に、殺せんせーからプレゼントがロンメルに贈られた

 

「蓋を開けてみてください」

 

 プレゼントの蓋を開けるとスマホが入っていた

 

「……大きくない?」

 

「ええ、6.7インチのディスプレイに画面サイズは(幅×高さ×厚さ)72mm×166mm×8.9mm! 内蔵メモリは驚異の5TB! 重さは350gで、様々な電話会社の電波をジャックして通話やインターネットをすることが可能です! 防塵、防泥、防弾、耐斬撃、耐衝撃etc……そういえばロンメルさんが携帯が無かったと思ったので作ってみました。皆との連絡も困っている様子でしたので作ってみました! 先生とお揃いですよ」

 

 カラーは黄色く、充電コードも渡されロンメル2つの世界ぶりのスマホデビュー

 

「……殺せんせーこのポケモン図鑑とかって何ですか?」

 

「あ……お遊びで入れてみました……自動更新でポケモンの情報が入ってきます」

 

「カメラでわかる食べられる物シリーズや、全世界お料理の作り方1万選、症状でわかる体調不良の時の対処法、全世界の地図、自動翻訳機なんかはありがたいアプリだと思うけど……何で経営シュミレーションゲームや野球ゲーム、音楽ゲームなんかが入ってるの? というか先生の手作りでしょこれ! 音楽ゲームなのに知ってる曲全く無いんだけど」

 

「にゅにゃ! いいでしょ! 先生が作った全1000曲! 歌詞付き5段階難易度の音ゲーですよ!」

 

「無駄にかっこ良かったり美しかったりするし……て! 5TBって言ってるけど実質容量500GBじゃん! 他初期アプリで埋まってるし……なにこの悪魔召喚プログラムって」

 

「悪魔が召喚されるかもしれません」

 

「居ないだろ!! ……でもありがとうございます殺せんせー」

 

「ヌルフフフそれでは皆さんのグループに入りましょう。URLはこれです」

 

「ありがとうございます殺せんせー」

 

 こうしてロンメルは2世界ぶりのスマホデビューをするのだった

 

 ちなみにこのスマホの名前は【殺フォン】である

 

 閑話休題

 

 新しく貰ったスマホに昨日連絡網を使って烏間先生から一斉メールがあり、転入生が1人加わるらしい

 

 多少外見で驚くだろうと書かれていた

 

 野菜の水やりで時間ギリギリになってしまったが、クラスに入ると私の席の横になんか黒い長方形の箱が置いてあった

 

『おはようございます。今日から転校してきました自律思考固定砲台と申します。よろしくお願いします』

 

(そうきたか!!)

 

「えー、皆も知っていると思うが転校生を紹介する。ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ」

 

『よろしくお願いします』

 

 烏間先生が紹介するが皆

 

(((烏間先生も大変だなぁ)))

 

 と

 心が1つになった

 

 ちなみに殺せんせーは笑っていた

 

「お前が笑うな。同じ色物だろうが」

 

 と烏間先生が突っ込む

 

「言っておくが彼女は思考能力と顔を持ち、れっきとした生徒として登録してある。教室の後ろからずっとお前に銃口を向けるがお前は彼女に反撃できない」

 

「生徒に危害を加えることは許されない。この契約を逆手に取りましたか……なりふり構わなくなりましたねぇ……良いでしょう自律思考固定砲台さん! あなたをE組に歓迎します!」

 

 こうして自律思考固定砲台さんがクラスに加わった

 

 が、彼女の暗殺は私達にとって邪魔でしかなかった

 

 授業開始と同時に長方形の箱から機関銃2門とショットガン4門による対先生弾(人には無害)の攻撃が始まり、皆は机に伏せて身を守らなければならなくなる

 

 1度目の射撃は成果無しであったが、2発目は指を1本吹き飛ばし、3度目は至近弾2発と着実に殺せんせーを追い込む

 

 射撃毎に学習を繰り返し、内蔵されている高速3Dプリンターで新たな銃を作り強化されていく

 

 彼女の攻撃は殺気が伴わないため殺せんせーも難しい立ち回りを強いられている

 

 もし殺せんせーが殺られた場合……この銃口はロンメルに向く

 

 殺せんせーという後ろ楯があるからこそロンメルは生かされているのであって殺せんせーが殺されたら後ろ楯を失い私も死ぬ

 

 だから誘導する

 

 この新たな暗殺者を止めるために

 

 

 

 

 

 

 

 1日中続いた機械仕掛けの暗殺に私は皆と相談して放課後に特殊なテープで自立思考固定砲台さんをグルグルに拘束した

 

 幸い彼女はシャットダウンしていたのと皆も賛成してくれたのでスムーズに事は運んだ

 

 殺せんせーは確かに生徒に危害を加えることは契約違反であるが、ロンメルはその契約に含まれていない

 

 そもそもロンメルが殺せんせーと同じ反物質生成装置であることを知っているのは日本とアメリカの一部のみ

 

 他国の上層部は一切知らないのだ

 

 だから契約をした時もロンメルはあくまで対先生生物兵器であるとごり押しができた

 

「ごめんなさいねぇ自律思考固定砲台さん。今のあなたでは同じクラスで居ることにメリットが無いからねぇ」

 

 翌日は彼女は拘束されていた為平和な授業となった

 

 自律思考固定砲台さんは抗議したが、皆が敵の状態では抗議は虚しく流される

 

 ただこれで終わるハズがない

 

 そう覚悟していた次の日

 

 なぜか自律思考固定砲台さんの体積が2倍近く増えていた

 

『おはようございます!! ロンメルさん』

 

 なんか顔だけの液晶だったのが全身表示になってるし、ちゃんと制服着てる

 

「親近感を出すために全身表示液晶と体、制服のモデリングソフト全て自作で8万円!」

 

『今日は素晴らしい天気ですね! こんな日を皆さんと過ごせて嬉しいです!!』

 

「豊かな表情と明るい会話術等の膨大な追加ソフト及び追加メモリ……同じく12万円」

 

「先生の財布の残高残り5円!!」

 

 ロンメルは悟った

 

 殺せんせーたぶん給料日まで毎日夕飯は私の家で食べるんだろうなぁと

 

 ロンメルは家計簿を取り出して殺せんせー用の食費を追加し、自律思考固定砲台さんは皆から律と呼ばれるようになるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 律の学習意欲及び学習能力は素晴らしく、殺せんせーからのアップデートで協調性を身につけたことにより、一気にクラスの人気者になった

 

 途中寺坂君が

 

「愛想良くても所詮は機械、どーせまた空気読まずに射撃するんだろポンコツ」

 

 と罵倒し、律が泣いてしまう場面もあった

 

「あーあ、泣かせた」

 

「寺坂君が二次元の女の子泣かせた」

 

「何か誤解されるような言い方やめろ!!」

 

 と突っ込む

 

「良いじゃないか2D……Dを失う所から女は始まる」

 

 と竹林君はキメ顔でメガネクイッとしているがロンメルドン引きである

 

『でも皆さんご安心を、殺せんせーに諭されて私は協調性の大切さを学習しました。私のことを好きになって貰うように努力し、皆さんの合意が得られるようになるまで……私単独での暗殺は控えることにいたしました』

 

「そういうわけで皆さん律さんと仲良くしてあげてください! あぁ、勿論先生は彼女に様々な改造を行いましたが彼女の殺意には一切手を付けていないのでご安心を……先生を殺したいなら彼女はきっと心強い仲間になるハズです」

 

 とのこと

 

 その日も平和に暗殺教室は進み、放課後……ロンメルのプレハブ小屋に帰る

 

「二十日大根の料理ばかりですねぇ」

 

「仕方ないでしょ畑1から作ってとりあえず形になったの二十日大根くらいしか無いし」

 

「ヌルフフフそうでしたね。ただ様々な作物が成長しているようでなによりです」

 

「殺せんせーが作ってくれた地下室の巨大冷蔵庫があるから野菜は腐ることは無いけど保存方法考えないと」

 

「先生の伝手で売ることは可能だというのは言っておきましょう」

 

「でもそれ殺せんせーありきじゃん。来年以降はどうなるかわからないし」

 

「……ええ、そうですね」

 

「あと律たぶんこのままじゃいかないでしょ」

 

「恐らく作り主が分解するでしょうが、そこは律さんを信じましょう。彼女は持ち主の言いなりになるほど弱くは無いハズです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、殺せんせーが言った通り律はオーバーホールされて初日と同じ面積に戻っていた

 

『おはようございます皆さん』

 

 案の住ダウングレードして……

 

 またはた迷惑な射撃が開始されるのかと思い、覚悟すると出されたのは銃ではなく花束

 

 律は殺せんせーによって改造された985点の改造のうちほとんどをダウングレードされたり、オーバーホールされてしまったが、協調性の大切さは律が学習したことであり、メモリの隅に隠してオーバーホールを回避したとのこと

 

「つまり律さんは」

 

『はい! 私の意志でマスターに逆らいました』

 

 こうして本当の意味で律がE組の仲間となった

 

 28人による暗殺教室が今日も始まる



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イトナの時間 1

 6月に入りじめじめとした梅雨の季節が始まった

 

 全体的に湿気るとロンメルの髪としっぽはごわつく

 

 これは触手化による変化であり、薄い粘膜でカバーすることでなんとかなるのだが、そうするとごわつくのだ

 

「ロンメルさん湿気ると髪がストレートじゃなくなるんだ」

 

「毎日ドライヤーで乾かしてここに来るんだけど移動でどうしても湿気っちゃって……」

 

『ドライヤーを作りましょうかロンメルさん』

 

「ありがとう律、ただこの古い校舎だと乾かしても湿気るからあんまり意味ないかな」

 

 この古い山の上の校舎であるE組は雨漏れや軋みが酷くなっていた

 

 ちなみに本校舎ではエアコンがガンガン効いた心地よい勉強空間が提供されているらしい

 

 まぁ雨は雨でありがたいこともある

 

 畑に水をやらなくても良いのと不良馬場の練習ができる点だ

 

 この前も

 

「ロンメルさんのパワーは素晴らしい。上半身ばかりに目が行きがちですが下半身の肉付きは人間のそれとは比べ物になりません。そこに急激な成長で付いた筋肉は重馬場や不良馬場でこそ輝きます」

 

 つまりロンメルの最適正は土砂降りの雨によりできる田んぼ(不良馬場の更に酷いバージョン)と呼ばれる馬場であり、この状態でならスピード勝負よりもパワーと気力と根性がいかにあるかによって勝負が決まるので今のロンメルでもチャンスがあるとのこと

 

「まぁパンパンに乾いた良馬場で勝てるようになるのが最良ですがねぇヌルフフフ」

 

 と言われてしまった

 

 で、梅雨になると湿気を吸い込んだ殺せんせーの顔が膨張したり、頭に茸が生えたりと殺せんせーの謎すぎる生体に皆頭を抱えるがロンメルは知っている

 

「茸が頭から生えていたら受けますかねぇ」

 

 と数日前茸の菌を頭に蒔いていたのを

 

 あと最近あったことは前原君がC組の女の子とイチャイチャしていたら横から生徒会のA組の男子に女の子をかっさらわれるトラブルがあったらしい

 

 そこで女の子にも結構どぎついフラれかたをしたのを殺せんせーが見ていて報復を決行

 

 そのトラブルを近くに居た皆で報復の手伝いをして女の子とA組の男子は酷い目にあったのだが、それを烏間先生になぜかバレて雷が落ちたりした

 

 他にはビッチ先生の師匠であるロヴロという殺し屋がビッチ先生が殺せんせーの暗殺に不適合の為引き上げさせるという事件が発生し、ビッチ先生残留の為にロヴロさんとの勝負が発生

 

 勝負の条件はビッチ先生とロヴロさんが烏間先生を対先生ナイフ(普通の人体には無害)で先に当てた方が勝ちというもので、ビッチ先生は色仕掛けで最初殺そうとしたが失敗、続いてロヴロさんが烏間先生の暗殺を決行したが、最精鋭の特殊部隊でつい最近まで能力でトップに居た烏間先生の方が強く、年齢による劣化で第一線を退いていたロヴロさんを返り討ちにしたらしい

 

 で、ビッチ先生が2度目の暗殺は昼食時にワイヤートラップを烏間先生に仕掛ける

 

 それに成功させ馬乗りとなり最初は烏間先生がナイフを受け止めるが、なにかを喋った後諦めたかのようにナイフが烏間先生に当たる

 

 ロヴロさん曰くビッチ先生はワイヤートラップ等の高度な暗殺技術は持っていないとのこと

 

 つまりこの教室に来てから自力で習得した技であった

 

「ロンメルさん良く見ておきなさい。イリーナ先生は挑戦と克服で10ヵ国語を習得した挑戦と克服の達人です。ロンメルさん、あなたも諦めること無く最後まで抗えば可能性が生まれます……良く学び良く噛み締めて成長しましょう」

 

 苦手なものでも一途に挑んで克服していくビッチ先生の姿をロンメルは格好いいと感じた

 

 これまでロンメルは自身の長所を伸ばすことにより弱点をカバーすることを多くやってきた

 

 剣術、火縄銃の射撃術も茶道や礼儀作法も算術も農業も……他人からは多才で万能と思われたかもしれないが南蛮語ことポルトガル語や中国語は最後までわからなかったし、それらはわかる家臣を雇うことでカバーしたし、息子達がロンメルよりも様々な分野で突出した才能を持っていた

 

 人の繋がりで弱点をカバーしてきたが、殺せんせーは本当の意味でロンメルを自身の全てを教え込むつもりらしい

 

 死神の身に付けてきた技術を

 

 その為には苦手だからといって他人に頼るのではなくビッチ先生みたいに克服していく必要がある

 

 ビッチ先生ができるのだから私だってとロンメルは一層奮起するという出来事を得て、6月も中盤に差し掛かる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大雨の中1日が始まる

 

 今日は律に続き2人目の転校生がやってくることになっていた

 

「皆さんおはようございます! 今日は烏間先生から新しい転校生がやって来る事は皆さん知ってますね」

 

「あーうん、たぶん暗殺者だよね」

 

「律さんの時は少し甘くみて痛い目を見ましたので先生今度ば油断しませんよ……いずれにせよ皆さんに仲間が増えることは喜ばしい事です」

 

 ここで原さんが律に新しく来る転校生の事を聞いていないか確認すると少しだけ知っていたらしく、知っている情報を話してくれた

 

『はい、初期命令では私と彼の同時投入の予定でしたが、2つの理由でキャンセルされました。1つは彼の調整が予定より時間がかかったから、もう1つは私が暗殺者として彼に圧倒的に劣っていたから……私の性能では彼のサポートを務めるには力不足だと判断されたので重要度の下がった私からこの教室に送られました』

 

 皆は殺せんせーの指を飛ばした律がこの扱いなので、どんな怪物がやって来るのかと固唾を呑む

 

 次の瞬間教室の扉が開く

 

 そこから現れたのは白い服で身を固めた男だった

 

 彼はいきなり手品をして鳩を出して

 

「驚かせてごめんね。転校生は私じゃないよ。私は保護者……シロとでも呼んでくれ」

 

 ロンメルは彼を見て警戒度をガッツリ上げた

 

(や、柳沢……今さらなぜ奴が……反物質生成実験による月の7割消失の責任と研究施設倒壊の責任、更に死者まで出ていたのになぜ今さら奴が!!)

 

 ロンメルは見えていた

 

 透き通る世界により布1枚程度であれば透けて見えるし、臓器なんかも見える

 

 服の下に見慣れた顔

 

 繰り返された拷問の様な実験の数々はまだ良い……雪村先生を死に追いやった張本人だとロンメルは断定していた

 

 殺せんせーこと死神は自分が殺ったと言うが、殺すメリットが全く無い

 

 それこそ愛し合っていた2人がいきなり殺し合いをする必要が無いからだ

 

 ロンメルは自身が気絶していた間の事は知らない……知らないが、柳沢の高圧的かつ傲慢、横暴な性格を熟知していたロンメルにとって手品をして皆を驚かせる姿の柳沢ことシロを見て警戒しない方が不自然である

 

「ロンメルさんだね? 何を私に警戒しているのかい?」

 

「……」

 

 ロンメル着席する

 

 いつでも動けるように警戒しながら

 

「初めまして殺せんせー、ちょっと性格とかが色々と特殊な子でねぇ。私が直に紹介させて貰おうとおもってね……ん、皆良い子そうですな。これならあの子も馴染みやすそうだ」

 

 一瞬渚君か茅野さんをシロは見た様に見えた

 

 気のせいか? 

 

「では紹介しましょう。おーい! イトナ!! 入っておいで!!」

 

 すると教室後ろの壁を破壊して入ってきた

 

「俺は……勝った……この教室の壁より強いことを証明された……それだけでいい……それだけでいい……」

 

 ずいぶんと変なのが来たとロンメルだけじゃなくクラス一同そう思う

 

 殺せんせーもリアクションに困って笑顔でも真顔でもない中途半端な顔になってしまっていた

 

 するとシロこと柳沢が

 

「堀部イトナだ。名前で呼んであげて下さい。ああ、それと私も少々過保護でね。暫くの間の彼の事を見守らせてもらいますよ」

 

 柳沢と話が読めない転校生のイトナ君……もうバリバリに嫌な予感がロンメルはしていた

 

 それにカルマ君がイトナ君質問する

 

「ねぇイトナ君、今外から手ぶらで入ってきたよね? ……何で土砂降りの雨なのに1滴も濡れてないのかな?」

 

「……」

 

 イトナ君はキョロキョロと辺りを見渡し、カルマ君にこう言った

 

「お前はこのクラスで2番目に強い……けど安心しろ俺より弱いから……俺はお前を殺さない」

 

 イトナ君は殺せんせーの前まで歩いていき

 

「俺が殺したいと思うのは俺より強いかもしれないと思った奴だけ……この教室だと殺せんせー、ロンメルお前らだけだ」

 

 殺せんせーを指さした後ロンメルの方を向いて指をさした

 

「強い弱いとは喧嘩の事ですか? イトナ君? 力比べでは先生と同じ次元には立てませんよ」

 

「立てるさ……だって俺達血を分けた兄妹だし、なぁ兄さん、姉さん」

 

「「「き、き、き、兄弟!?」」」

 

「……あー、なるほど察した」

 

「ロンメルさん?」

 

「イトナ君だっけ? 私を殺したい?」

 

「ああ、お前は殺す価値がある」

 

「私は腸が煮えくり返るくらいキレてる……おい、シロ。まさか私達以外にも処置をしやがったな!!」

 

「ろ、ロンメルさん?」

 

 皆の視線がロンメルに向く

 

 ロンメルは今まで見たこと無いような顔をしている

 

 皆は感じた……激怒であると

 

「怒ってもしょうがないよ姉さん……なぁ姉さん。俺はお前らを殺して強さを証明したい。殺ろう姉さん」

 

「良いでしょう……」

 

「こら! お二人とも私闘は先生許しませんよ」

 

「殺せんせー、奴は……奴らは何も学習せずに同じ過ちを繰り返そうとしている……私は許せない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルさんがここまで感情を露にするのは初めてだ

 

 それよりも気になるのがロンメルさんと殺せんせー、イトナ君が兄弟であるということだ

 

 これが本当なら殺せんせーとロンメルさんの繋がりが色々複雑になってくる

 

 方や月を破壊する超生物、方やそのカウンター生物……ロンメルさん達の過去に何かあったのかは明白だ

 

 本当は皆殺せんせーやロンメルさんに関係性を聞きたい

 

 聞きたいが、ロンメルさんがあの状態で聞きづらい

 

「じゃあ姉さん決闘しようよ。勝った方が兄さんと殺る権利を得る……」

 

「良いでしょう。ルールは?」

 

「放課後、この教室で殺ろう」

 

「……持ち物は?」

 

「指定しない。道具を使わないといけないほど姉さんは弱いの?」

 

「言ったな。では私は対先生ナイフだけを持とう。人間には無害だから良いよなぁ」

 

「いいよ。俺の方が強いし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは怒っていた

 

 怒っていたが冷静でもあった

 

 対先生ナイフの所持を認めさせた

 

 柳沢……兄弟……これらから導き出されるのは彼……イトナも触手を持っているということである

 

 殺せんせーも私も柳沢にしたら両者暗殺対象であることに変わらない

 

 いや、ロンメルという雪村先生が残した大切な生徒を失うというのは殺せんせーにとって耐え難い物であり、柳沢にしたら自分から全てを奪った者である死神こと殺せんせーから大切なものを奪いたい、壊したいという気持ちがあるのであろう

 

 だからといって触手を植え付けるということは強烈な痛みを感じ、強靭な精神力が無ければ安定化するまでは常に触手に主導権を握られる可能性がある危険なものである

 

 一方間違えれば破壊と殺戮を繰り返すモンスターが生まれてしまう

 

 ロンメルは再び私達の様な危険な存在を作りかつ殺せんせーを殺したら用済みとして殺処分にしようとしている柳沢の行動にキレていた

 

 ロンメルが激怒しているため皆は殺せんせーにイトナとロンメル、そして殺せんせーが兄弟であることを質問する

 

 殺せんせーははぐらかしているが皆ロンメルと殺せんせーの過去について気になって仕方がない

 

 そんなこんなで授業が終わり放課後となる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 机でリングコートが作られロンメルとイトナはこの中に入る

 

 シロこと柳沢が

 

「ルールは簡単、リングの外に足を着いたらその場で死刑……いや、ロンメルさんは私が引き取らせて貰うよ。そして殺せんせーとの殺し合いをできる権利をイトナは得る……どうかな?」

 

「私が勝ったら……データを寄越せシロ。私と殺せんせーそしてイトナの実験データを」

 

(((実験データ?)))

 

「……良いだろう」

 

「それと観客に危害を加えた場合も負けだ」

 

 クラスの皆や烏間先生、ビッチ先生、殺せんせーがこの勝負を見守る

 

 殺せんせーは最後までこの試合を反対したが、生き残る可能性が増える実験データを得れる機会は貴重だ

 

 イトナには悪いがこの勝負勝たせて貰う

 

「それでは暗殺開始」

 

 シロの号令で試合が始まる



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イトナの時間 2

 試合開始と同時にイトナの髪の間から触手が飛んでくる

 

 警戒していたロンメルはその触手を対先生ナイフで切り捨てる

 

 ビチャビチャと触手が跳ねる

 

 その場に居た全員が理解した

 

 イトナが触手を持っていることで殺せんせーとイトナの関係性を

 

 そして音速を普通に超える一撃を軽々防いだロンメルの実力に驚愕した

 

「どこで手に入れたその触手を!!」

 

 殺せんせーも激怒し、ロンメルの怒りの意味を理解する

 

「殺せんせー、こいつ柳沢だ」

 

「柳沢……お前か」

 

「おっと怖い顔をするなよ2人とも、しかし驚いたね。ナイフの使い方凄く上手いじゃないか。でも皆驚いているのはどういうことだい? まさか実力を隠して人間のふりでもしていたのかい? モンスター」

 

「確かに私はウマ娘という別種だ。しかし、殺せんせーや皆は私を人として扱ってくれる。モンスターではない」

 

「いいや、モンスターだね。殺れイトナ」

 

 触手が再びロンメルに向かって高速で突っ込んでくる

 

「月の呼吸 拾肆ノ型 兇変 天満繊月」

 

 リング内に収まる様に複数斬撃を繰り出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「な、なんだよあれ」

 

 俺、前原はクラスの即席リングで行われている攻防に驚きと恐怖を覚えていた

 

 まずイトナの触手攻撃に驚いた

 

 殺せんせー以外の触手使いの出現に俺だけじゃなくてクラス皆が驚いた

 

 ただそれ以上に凄い驚いたのはロンメルさんの方だ

 

 ロンメルさんは1歩も動いてないのに攻撃してくるイトナの触手を対先生ナイフで斬っている

 

 更に気がつくと床に大きな切り傷ができている

 

 あの柔らかい対先生ナイフでこんな傷ができるものなのか!? 

 

 ロンメルさんは俺達に実力を隠していた

 

 そりゃこんな神業みたいなのを見せられたら誰もが納得するしかない

 

 ロンメルさんが対先生生物兵器であることを

 

「おやおや、これはいけない」

 

 シロが何かをロンメルに向かって照射した

 

「光?」

 

 するとロンメルが一瞬硬直した様に見えた

 

 次の瞬間ロンメルの腹部にイトナの触手が突き刺さった

 

「「「ロンメルさん!!」」」

 

「大丈夫……皮膚が少し裂けただけだ……筋肉で受け止めた」

 

 ロンメルさんの服が破けて腹が露になる

 

 血がドバッと出るが、一瞬で血が止まる

 

「血が……え?」

 

「ほぉ、前々から気になるワードだったけどこれが特殊な呼吸か……止血もできるんだね」

 

 ロンメルさんの腹部は裂けたハズなのに直ぐに血が止まった

 

「おあいにく様……柔な鍛え方はしてないものでね!! 炎の呼吸 陸ノ型 円炎」

 

 幻でも見ているのか! 

 

 対先生ナイフから炎が吹き出してロンメルさんを覆っているように見える

 

 流石のイトナも手出しできてない

 

「!? イトナ後ろだ」

 

 次の瞬間ロンメルさんは瞬間移動したかのようにイトナの背後を取った

 

「チェックメイトだ!!」

 

「はい、そこまで」

 

 ロンメルさんとイトナの間に殺せんせーが割り込む

 

「これ以上は駄目です。本当の殺し合いになってしまう……先生として見過ごせません」

 

「俺はまだ負けてない!」

 

「いいえ、ロンメルさんに背後を取られた時点で負けでしょう……外部からの横槍もありましたしねぇ」

 

「おや? 外部からの手助けを禁止するルールは無いハズだよ殺せんせー」

 

「シロさん、それではロンメルさんがあまりにフェアではない……どうしても負けではないとするのならばこの勝負先生が持ちましょう」

 

「しかし、殺せんせーそれでは情報が!」

 

「ロンメルさん、大丈夫です。先生が必ず見つけます。ただ今勝負を継続すればロンメルさんが生徒で居られなくなってしまう……それはあの人(雪村先生)も望んでいない」

 

「……わかりました」

 

 机のリングから外に出たロンメルさんを俺らが大丈夫か声をかける

 

「大丈夫大丈夫。これくらい直ぐに治るから」

 

 とロンメルさんが破れた制服を腹に巻き付ける

 

「ろ、ロンメルさん下着見えてる」

 

「ああ? 見えて減るもんじゃないし別に良いよ」

 

「良くないですよロンメルさん!! とりあえずワイシャツを用意しましたのでこれを着てください」

 

「はーい」

 

 ロンメルさんはいつもの調子に戻ったけど、殺せんせーはシロの方を向いて

 

「シロ、いや柳沢……どういうことか説明して貰おうか」

 

「……今はその時では無いよ殺せんせー。イトナ出直しだ……イトナ?」

 

「俺が……負けた? 後ろを取られた? 俺が弱い?」

 

「まずい! イトナ!!」

 

「俺は強い!! この触手で誰よりも強くなったハズだ!!」

 

 イトナの触手が黒く変色した! 

 

 俺達にも向かってきてるぞ!! 

 

「黙れ雑魚が」

 

 再びいつの間にか背後を取っていたロンメルさんがイトナの首のやや上の後頭部に手刀を当てて脳震盪を起こしてイトナを気絶させた……みたいだ

 

「悪いね殺せんせー、皆さん。どうやらイトナはまだ学校に来れるような精神状態じゃ無かった様だ」

 

 シロさんはイトナを担ぐとクラスから出ていこうとする

 

「待ちなさい柳沢。貴方にはまだ聞きたいことが山ほどある」

 

「止めてみるかい? 殺せんせー……力ずくでも結構だが?」

 

「……」

 

 殺せんせーがシロさんに触れると触手が溶けてしまった

 

「対先生繊維で編んだ布だ。全身これで守っているから触ることはできまい」

 

「ヌゥ……」

 

「心配せずともイトナは直ぐに復学させるよ。3月まで時間が無いからね……私が責任をもって家庭教師を務めるよ」

 

 そう言うとシロさんはクラスから出ていった

 

 ロンメルさんが後を追おうとしたが、殺せんせーに止められた

 

「今は時ではありません。奴を追いかけても今は意味がない」

 

 と言われるとロンメルさんは机を元の位置に戻し始めた

 

 連れて俺らも席を戻し、一段落したところで殺せんせーの教卓を囲み

 

「ねぇ殺せんせー、ロンメルさんとイトナの3人の関係を教えてよ」

 

「ロンメルさんがシロのことを柳沢って言ってたけど誰なの?」

 

「いっつも自分のことになると先生はぐらかすじゃん!」

 

 と詰め寄られた

 

 殺せんせーが困っている様子を見てかロンメルさんが

 

「私と殺せんせーは柳沢によって人工的に作られた生物ってのだけじゃ皆納得しないでしょうね」

 

「確かにこの先を皆知りたい。何で触手に対してロンメルさんと殺せんせーは怒ったのか、殺せんせーの生い立ちや何を思って2人はE組に来たのか……」

 

「ヌルフフフ、残念ですが今それを話したところで無意味です。先生が地球を爆破すれば皆さんがそれを知ったところで塵になってしまいです。逆にもし先生を殺して地球を爆発するのを防げれば後から真実を知る機会も得れるつまり知りたければ行動は1つ殺してみなさい先生のことを」

 

 俺らと殺せんせーの間にあるのは暗殺者と暗殺対象の絆

 

 ロンメルさんもこれ以上は何も話さないだろう

 

 でもロンメルさんの技術は驚いた

 

 あれだけ強いならロンメルさんをメインに俺らがサポートに回れば殺せんせーの暗殺は格段に難易度が下がると思うんだけど……

 

 チラリとロンメルさんの方を見る

 

 椅子に座って深く呼吸を続けてる

 

「……とにかくまずは俺らの技術を付けるしかない」

 

 烏間先生にこの後皆で頼んで今以上に暗殺の訓練をして貰うことになる

 

 俺達は俺達の手で殺せんせーを殺して真実を見つけるんだ



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目標の時間

 夜

 

 殺せんせーとロンメルは夕飯を食べながら今日のイトナと柳沢について話していた

 

「ついに政府もなりふり構わなくなってきたかね」

 

「ええ、触手使いが現れることは想定していましたが……まさか子供を実験体にするとは」

 

「それもあるけど私の動きを一瞬止めたあの光はなんだろう?」

 

「あれは我々触手を持つ者は普段は柔らかい触手ですが、強い圧力をかけられると硬くなります。そうすることでマッハの風圧にも耐えるのですよ」

 

「なるほど……じゃあ圧力光線ってこと?」

 

「ええ、そうなります。先生が受けていたらロンメルさんみたく髪だけじゃないので相当動きが制限されたと思いますがね」

 

「はぁ……柳沢は曲がりなりにも天才だ。私達のデータも持っているから私達が認識していない弱点を付いてくるかもしれない」

 

「でしょうね。それまでにロンメルさんはウマ娘の走る技能、勉強、暗殺、体術とやるべきことは沢山ありますからねぇ」

 

「今回は私は触手を見せなかったけどバレた時にどう皆に言い訳するかも考えないと」

 

「まぁあの様子ですといつかは真実を話さなければならないでしょうねぇ……はぁ、過去の事は先生としての顔とかけ離れているので話したくないのですがね」

 

「皆の殺る気をそぐ可能性も高いし、ターゲットが実は殺せんせーだけでなく私もだと知った場合皆との接し方も変わるだろうしね」

 

「……まだロンメルさんを救える可能性のデータは見つかっていません。そもそも柳沢が生きていたことすら先生は気がつかなかった……日本のどこかでしょうが、日本も広い。先生のスピードだけでは解決できないとは……」

 

「殺せんせー……いや、死神さんには前に言ったっけ……異世界に行く条件」

 

「ええ、何か偉業を成し遂げるでしたね」

 

「言わないようにしてたけど恐らく殺せんせーを暗殺する事がたぶんそれが今回の偉業なんだと思う……そして暗殺後死ぬのが私のこの世界での役割」

 

「……」

 

「もしかしたら既に偉業は達成しているかもしれない……反物質を産み出す生物、全世界から狙われる者、地球を破壊する者……まぁただ……この世界は居心地が良い。通りすぎる人々は死の恐怖に怯えること無く生活し、化物も私と殺せんせーしか居ない。文明も栄えているから過ごしやすい……でも居心地が良いのは殺せんせーの授業だから。烏間先生やビッチ先生の授業も勿論素晴らしいけど……居心地が良いのは殺せんせーのおかげ」

 

「……なるほどロンメルさんあなたは1人で目標を決めるのが苦手でしょう。周囲の空気や強者の意見で目標をコロコロと変える……あなたは強いのに芯が無いのです。だから強い者やカリスマある者に芯をはめ込んでもらって始めて力を発揮するのです……良くない。ひじょーに良くない」

 

「クラスの皆さんは先生を目標とするだけでなく将来についてもぼんやりとですが考え始めている。ロンメルさん、どこかで生きるのを諦めてませんか? 良くないですよ!」

 

「……生き残ったとしても政府の監視下でしか生きられないって改めて理解してしまったからねぇ……目標かぁ」

 

「えぇ、目標です! 何か無いですか?」

 

 ロンメルはふと黒死牟との会話を思い出す

 

『貴方の見せた月の呼吸11種の型は私が継承致します。どうか安らかにお眠りください』

 

 継承……確かに私は技術を身につけた

 

 しかしそれを教えるということはしてこなかった

 

 戦国で学校を作ったのも、鬼殺隊に入ったのも全てはより学ぶため

 

 一之太刀を誰かに教えたことも呼吸を誰かに教えたこともしていない

 

 そして雪村先生を思い出す

 

『何で雪村先生は教師を目指したのですか?』

 

 ロンメルがそう聞くと

 

『夢……だったから……人を教えるのが好きってのもあるけど皆に夢を与えられるような人になりたかったの。で、夢を見るのは学生の時じゃないと難しいでしょ……だから私は教師になったの』

 

『夢を与える……』

 

『ロンメルさんも過去夢を与えてきたんじゃないかな』

 

 ロンメルは自分の手を見る

 

 その時ロンメルの手は血だらけで数多の夢を刈り取ってきたと思ってしまった

 

『ロンメルさんも夢を分け与えられるような大人になって欲しいな!』

 

「……雪村先生……殺せんせー、なら私の技術を誰かに教えたい。殺せんせー呼吸法を覚えませんか」

 

「にゅにゃ? まぁ良いですが」

 

 ロンメルは隙間時間に殺せんせーに全集中の呼吸を教える

 

 この会話が両者にとってのターニングポイントになるとは知らずに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イトナと柳沢襲来から数日後

 

 梅雨がようやく明けて夏の季節になり始めた頃、皆球技大会に向けてトレーニングをしていた

 

「健康的な心身をスポーツで養う。大いに結構!! ……ただ、E組がトーナメント表に無いのはどうしてですかね?」

 

「E組は本戦にはエントリーされないんだ1チーム余るって素敵な理由で……その代わり大会のエキシビションに出なきゃなんないの」

 

「エキシビション?」

 

「要するに見せ物だよ殺せんせー」

 

「全校生徒が見てる前で男子は野球部、女子は女子バスケット部の選抜メンバーとやらされるんだ」

 

「一般生徒の大会だから部の連中も本戦には出れない。だから皆に力を示す場を設けたわけ」

 

「本戦で負けたクラスもE組をボコボコにされるのを見てスッキリ、それとE組に落ちればこうなりますよって見せしめも兼ねてね」

 

「なるほど……いつものやつですか」

 

「でも心配しないで殺せんせー! 暗殺で基礎体力はついてるし! 良い試合して全校生徒を盛り下げるよ皆!」

 

「「「お!!」」」

 

 女子は学級委員の片岡さんが中心となりバスケの練習を始める

 

「ところで烏間先生ロンメルさん出れるの?」

 

「今回の球技大会、ロンメルは不参加だ。代わりに秋の体育祭は出れるように交渉している」

 

「ちぇー、残念」

 

「ロンメルさん凄いもんねバスケ」

 

「何で味方のエンドラインから山なりで相手ポストに毎回入れられるかねぇ」

 

「1回やり方わかれば体に覚え込ませれるからかな」

 

「それとドリブル速すぎて追い付けないし、そのままダンクシュートしたらポスト破壊したよね」

 

「う、ウマ娘故の怪力なのでゆるして!」

 

 女子は片岡さんが纏めているので問題なしと判断した殺せんせーは男子の強化特訓を開始する

 

「先生一度スポ根ものの熱血コーチやりたかったんですよ」

 

 と殺せんせーもやる気満々で

 

「殺投手は300kmの球を投げ!」

 

「殺内野手は分身で鉄壁の守備を敷き!」

 

「殺捕手はささやき戦術で打者を集中させない!」

 

 異次元野球をやっていた

 

「先生のマッハ野球に慣れたところで次は対戦相手の研究です。竹林君に偵察してきてもらい、ロンメルさんに野球部エース兼キャプテンの進藤君の投球をコピーしてもらいました」

 

「男子頑張れー」

 

「ロンメルさん2日で進藤君の投球フォームから球種、球質までそっくりコピーしたのに脱帽です」

 

「いや、竹林君のデータが良かったからだよ!!」

 

「イトナの一件からロンメルさんの化物っぷりが徐々に出てきたな」

 

「あぁ、全く隠す感じが無くなったよな」

 

 ロンメルは竹林君と研究した野球部の進藤君のフォームで140kmの球で投げ、男子の練習に付き合い、ミーティング等で要らなくなったら女子のバスケ練習に付き合う

 

 その甲斐あって男子は見事野球部を撃破し、女子は女子でバスケ部相手に大奮闘

 

 本校舎の皆にE組でもやるんだぞというのを存分に見せつけるのだった

 

 



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鷹岡の時間

 ペイントアートが菅谷君の提案で流行ったりして7月が始まる

 

 菅谷君は美術センスが高く、クラスの誰よりも絵が上手い

 

 私も腕にボディペイントをしてもらったがまぁ上手いこと上手いこと

 

「ロンメルさんは得意な絵とかないの?」

 

 と不破さんに聞かれたので紙に織田木瓜を描く

 

「これ織田信長の家紋じゃない?」

 

「これだけは私上手いので」

 

 ロンメルは全体的に絵は下手であるが、図面を引いたりするのは得意である

 

 そんなロンメルにとって思い入れの深い織田木瓜だけは綺麗に描ける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメル……暗殺対象の(殺せんせー)に対するカウンター生物兵器と上司は俺に説明した

 

 体育の授業の暗殺訓練では熱心に授業を聞き、技術を吸収している

 

 なにより

 

 ヒュゥゥゥ

 

 この独特な呼吸音、そして俺との戦闘訓練では明らかに手加減をしている

 

 自身より強い者を教えるという不思議な感覚がするが、ロンメルが成長した暁には奴に刃が届く

 

 身長や体格もも急激に高く、大きくなってきている

 

 放課後身体能力を独自に検査したところ既に蹴りだけで木をへし折り、柔らかい対先生ナイフで鉄板を切り裂き、100メートルを6秒以下で走る

 

 驚異的な身体能力だが、射撃はまだまだ甘く、クラスの中間をうろうろしている

 

 高速移動をしながら射撃地点を変え、待ち伏せを多用するでも良し、高い機動性を生かした奇襲も良しと持ち前の身体能力を十全に生かした射撃技術を身につければ全体的な暗殺能力の向上は間違いない

 

 なによりイトナ戦で見せた全方位に一瞬で傷を付けたナイフ術……いや、剣術は誰にも真似できない領域の技だ

 

「……上層部がロンメルについて何か隠しているのは確実だ。イトナ戦でシロのことを柳沢という男だと断定したことが奴との繋がりを示唆している……独自に調査を続けるしか無いな」

 

 俺はふと窓を見ると校庭に空挺部隊の同期であった鷹岡がここに来ているのが見えた

 

「上層部が暗殺者育成と暗殺者の手引きの両立はここのところ暗殺が失敗続きだった為に暗殺者育成を別の者に当てる言っていたが……鷹岡だったか」

 

 鷹岡……空挺部隊では中間くらいの成績であったが、教官としての部隊育成能力は俺よりも上であった

 

 ただ奴は

 

「烏間さん、同じ防衛省の者として生徒が心配です。あの人(鷹岡)は極めて危険な異常者ですから」

 

 と俺の部下で防衛省時代の鷹岡を見てきた園川(暗殺者の交渉や事務処理を担当している者)がそう言っていたのが気にかかる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺の名前は鷹岡明! 今日から烏間の補佐としてここで働くから皆よろしくな」

 

 デカイ図体をした男性が体育の授業終わりに現れて皆に挨拶した

 

 彼……鷹岡は持ってきたスイーツを広げて皆に食え食えとご馳走してくれた

 

「こ、高級店のエクレアやロールケーキ!」

 

「チーズタルトもあるぞ」

 

「このジュースめっちゃ高い奴じゃん!」

 

「い、良いんですかこんな高いの」

 

「おお! 遠慮するな! 俺は皆と早く仲良くなりたいんだ! それには皆で囲んで飯を食うのが一番だろ!」

 

 ロンメルはその言葉に同意する

 

 仲良くなるには同じ釜の飯食うのが一番手っ取り早い

 

 味について議論することもできるし、美味しいものであれば幸福感を共有することにもなる

 

「殺せんせーも食え食え! いずれ殺すけどな」

 

 皆にフレンドリーに接しているが

 

 ロンメルは殺せんせーにアイコンタクトをする

 

 殺せんせーもそれに頷く

 

((この男は怪しい))

 

 抑えきれていないのだ暴力の気配と狂気を

 

 殺せんせーはどこか抜けているところもあるが、生徒の危険の察知能力は人一倍強い

 

 自慢の嗅覚でその気配を殺せんせーは嗅ぎ分け、ロンメルは長年の経験則に基づいて判断した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鷹岡先生はダメですねぇ。愛が無い」

 

 夜給料が入ったのにも関わらず夕食をいつものように食べに来たの殺せんせーは第一声がそれであった

 

「愛? 皆とフレンドリーに接していたけど?」

 

「とぼけても無駄ですよロンメルさん。あなたも気がついているでしょう」

 

「ええ、まぁ……生徒を見ていない。この先にある殺せんせーを殺した後を見ているような……過程を飛ばして結果だけを求める者に見えました」

 

「ええ、良く見ていますね」

 

「これでも私様々な人を見てきましたからね」

 

「恐らく明日彼は動くでしょうからロンメルさん、先生は契約で他の先生にも手出しができない可能性が高い。だから皆を守ってあげてください」

 

「わかりました」

 

「うん! この天ぷら美味しいですね! 大葉ですか!」

 

「自生してたから取ってきたの。美味しくて良かったよ」

 

「エリンギの天ぷらも美味しいですね! おお! これは揚げおにぎり」

 

「中には野菜とお肉を混ぜた餡を入れてあるから美味しいよ」

 

「先生が教えたレシピを更にアレンジするとは!! 次の家庭科の時間は負けませんよ!!」

 

「望むところだよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日鷹岡は体育の時間に早速仕掛けてきた

 

「さて、訓練内容の一新に伴いE組の時間割が変更になった。これを皆に回してくれ」

 

「時間割? ……!?」

 

 新しい時間割を見た皆は絶句した

 

 1~3時間目までは普通の授業であったが、そこから10時間目(夜の9時)まで訓練になっていた

 

 ロンメルは似たような事を昔からやっているため普通にできるが、軍人でもない普通の中学生である皆にこれをやらせるのは酷である

 

「酷すぎませんか鷹岡先生、これでは皆の自由な時間が全く無い。皆できないですよ」

 

「おいおいロンメル、地球の命運がかかっているのにずいぶんとあまっちょろい考えだな。俺達の任務は殺せんせーを殺す事。それだけだ。普通の中学生の生活なんかしている暇は無いよ。理事長先生も許可してくださった正式な時間割を否定するとは父ちゃん的にはちょっといただけないな」

 

 鷹岡はロンメルの頭を掴み、腹に思いっきり膝蹴りを入れた

 

「ぐっ!」

 

「できないじゃない。やるんだよ……言っただろ? 俺達は家族で父親だ。世の中に……父親の命令を聞かない家族がどこにいる?」

 

「さぁまずはスクワット100回×3セットだ! 抜けたい奴は抜けても良いぞ。その時は俺の権限で新しい生徒を補充する。1人2人抜けて入れ替わってもあのタコは逃げ出すまい」

 

「なるほどなるほど……教育者としては3流みたいですね」

 

「ああん? まだ歯向かうかロンメル」

 

 顔面に1発殴られた後、頭を捕まれ顎に膝蹴りが入る

 

 顎が欠けるが触手の力で再生する

 

「ろ、ロンメルさん!!」

 

「大丈夫か!」

 

「大丈夫だよ」

 

「いいか、父ちゃんは誰にも欠けて欲しくは無い。お前らは大切な家族なんだ! 家族の皆で地球を救おうぜ」

 

「とか言って私達を見ずに出世と名声が欲しいだけだろ! グズが!」

 

「ああん」

 

 回し蹴りが腹部に入る

 

 内臓にダメージが入る前に触手細胞と筋肉によるガードでダメージを極限まで抑える

 

 イライラしてきたが、皆を守るためには私がダメージを受けるしかない

 

 下手に攻撃して壊れたら私は直ぐに殺処分対象になりかねないので

 

「まだわかってないようだな。お前にははい意外無いんだよ。お前らスクワット始めろ。ロンメル立て。父ちゃんの徹底教育が必要みたいだからな」

 

 すると烏間先生がすっ飛んで来て

 

「やめろ鷹岡!!」

 

 烏間先生は真っ先に私の所に来てくれて

 

「ロンメルさん怪我は無いか」

 

「だ、大丈夫です」

 

「大丈夫なもんか。あばら骨と顎をやった。まぁ手加減していたから内臓は平気なハズだ」

 

「鷹岡!!」

 

 そして殺せんせーも

 

「あなたの家族ではない。私の生徒です」

 

 殺せんせーは顔を真っ黒にして激怒しているが鷹岡も引かない

 

「文句があるか? モンスター……体育は教科担任の俺に一任されているハズだし、さっきの罰も立派な教育の範囲内だ。1年以内にお前みたいなモンスターを殺さなくてはいけないんだ。多少の無茶は仕方ないだろ……それともあれか? 少し教育方針が違うからと俺を殺すか? モンスター」

 

 スクワットが開始される

 

 勿論私も

 

 岡島君や倉橋さんが既に限界だ

 

 確かに皆は普通の中学生よりは体力があるかもしれないがスクワット300回をいきなりやれと言われてやれるハズがない

 

 倉橋さんが

 

「烏間先生ぃ……」

 

 と呟いてしまった

 

「おいおい烏間は俺達の家族じゃないぞ! お仕置きだなぁ! 父ちゃんだけを頼ろうとしない子は!!」

 

 そこを烏間先生が止めに入る

 

「これ以上暴れたければ俺が相手になってやる」

 

「言ったろ烏間、これは暴力じゃない。教育なんだ。暴力でお前とやりあうつもりはない。対決するならあくまで教師としてだ」

 

 鷹岡は対先生ナイフを取り出しナイフを1回でも当てれたら生徒の勝ち、ただ烏間先生が生徒を1人選ぶことと、使うナイフは本物の対人ナイフでなければならないとした

 

「俺に勝てたらお前の教育が正しかったとして訓練をお前に任せて出ていってやるよ! 男に二言は無い」

 

 と鷹岡は約束した

 

「寸止めでもお前らの勝ちにしてやるよ! 生徒を見捨てるか生け贄として差し出すか!! どっち道お前は酷い教師だなぁ!!! あっはっはっ!」

 

 全ての修復は終わっている

 

 言質は取った

 

 これでナイフがたまたま当たっても不可抗力、私の勝ちは揺るがない

 

 ロンメルは自分が選ばれると思っていた

 

 しかし、烏間先生が選んだのは渚君だった

 

 そして烏間先生はこう言った

 

「地球を救う暗殺任務を依頼した側として、俺は君たちをプロ同士だと思っている。プロとして君達に支払うべき最低限の報酬は当たり前の中学生活を保障する事だと思っている!」

 

 と

 

 もし渚君がナイフを取らなくてもその時は鷹岡に頼んで報酬の維持をしてもらうように努力すると付け加えた

 

 渚君はナイフを取った

 

 鷹岡との対決が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 私は烏間先生に小声で質問した

 

 なぜ私ではなかったのかと

 

「お前からは嫌な予感がした。寸止めではなく普通に当てる危険な感じが……時折感情の制御が効かなくなるんだなお前は……」

 

 と……触手を植え付けられてから感情を隠すのが難しくなっているのを感じていたが、隠していても一定水準以上の人にはわかるものだな

 

 渚君は少し微笑みながら自然に普段と登下校の時のように鷹岡に近づき、鷹岡とほぼゼロ距離に接近し、殺気も無くいきなり襲いかかった

 

 油断していた鷹岡は大きく体を仰け反り、重心が後ろに傾いたので服を掴み引っ張ることで鷹岡は尻餅を付くように倒れた

 

 渚君は顔を左手で覆いながら後ろに回り、そのまま密着してナイフの背を鷹岡の首に当てた

 

 ロンメルはとても驚いた

 

 確かに殺気を消すのは渚君は上手かったが、本物を持っても全く物怖じせずかつ殺気の出し入れが上手い為に相手を怯ませることができた

 

 ロンメルも殺気を完全に消すことはできる

 

 死神時代の殺せんせーに習って気配を簿かすこともできる

 

 しかし、渚君はそれを才能のみでやってのけた

 

 私はバッと殺せんせーの方を見る

 

 殺せんせーはうんうんと頷いていた

 

 殺せんせーは渚君の才能に気がついていた! 

 

「末恐ろしい……暗殺の才能がこの教室に眠っていたとは」

 

 鷹岡は逆上して渚君に襲いかかったが、烏間先生が顎を殴り鷹岡を倒して止めた

 

「俺の身内がすまなかった」

 

 と皆に謝った後、浅野理事長が登場し、鷹岡の授業は暴力でしか支配できないのでは教育者としては3流だと言い、倒れていた鷹岡の口に解雇通知をねじりこんだ

 

「暴力でしか支配できず。さらに負けた者はこの学園の教員に相応しくない。以後この学園で教えることはできない」

 

 と鷹岡を追放した

 

 鷹岡は糞糞と叫びながら荷物を抱え逃げ出し今回の騒動は烏間先生の続投で幕を降ろした

 

 それと同時にこの学園の支配者は理事長であることを再認知するのだった



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イトナの時間 3

 夏……夏と言えばプールの季節

 

 暑さも本格化し、夏特有のジメジメした暑さが暗殺教室の皆にも襲いかかる

 

 本校舎の面々はクーラーの効いた涼しい環境で授業を受けられるが、オンボロ校舎のE組では暑さがダイレクトに来るため先生も皆もぐでぇーとしている

 

 ちなみにロンメルも汗を大量に流していたがキリッとこらえていた

 

「皆さんロンメルさんを見習いなさい。この暑さでもいつものように真面目に勉強に取り組んでいますよ」

 

「「「いや、殺せんせーがだらけきってるから説得力ねーよ」」」

 

「暑くない……わけじゃないでしょロンメルさんよ」

 

「暑い……暑いけど暑さを言い訳に勉強や暗殺を疎かにするのはいけないと思うんだ」

 

「真面目だねぇ」

 

「でも今日はプール開きだから体育の時間が待ち遠しいよ!」

 

「倉橋、そのプール開きだが俺達E組にとっては地獄だぞ……なんせプールは本校舎にしかないから炎天下の山道を1㎞往復して入りにいく必要がある。特にプール疲れしてから帰る山道は力尽きてカラスの餌になりかねぇし」

 

「うー、本校舎まで運んでくれよ殺せんせー」

 

「いくらマッハ20の先生でもできないこともあるんですよ……でも気持ちはわかります。仕方ない全員水着に着替えてついてて来なさい。そばの裏山に小さな沢があったでしょう。そこに涼みにいきましょう」

 

 と殺せんせーは言うが、裏山の沢は本当足首が浸かるくらいの深さで水かけ遊びくらいしかできなさそうな小さな沢である

 

「皆さんをプールに連れていくのに残念ながら1日かかります」

 

「大げさな20分あれば着くぜ殺せんせー」

 

「おや? 誰が本校舎に行くとでも?」

 

 昨日まではなかったプールがそこにはできていた

 

 小さな沢を塞き止め、自然を生かしたプールである

 

 幅も広く25メートルコートが2本と皆が遊べるスペース、木陰で休憩できるベンチとテーブルまで付いていた

 

「「「ひゃっほう!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ろ、ロンメルさんなにやってるの?」

 

「ん? トレーニング」

 

「凄い速さで泳ぐね」

 

「あー、うん、まあね」

 

(((元水泳部の学年代表の片岡さんより速いじゃねーか! というか平泳ぎで何でクロールと同速なんだよ)))

 

 髪やしっぽから粘液が少し出して防水しているが持って2時間であるため家近くに殺せんせーが作ってくれたプールで毎日トレーニングしているが、毎日2時間以内という制限がつく

 

 粘液の分泌が2時間以上泳ぐと間に合わずに髪やしっぽがふやけてしまうからだ

 

 ピー! と笛の音がした

 

「ロンメルさん皆のプールなのでコースの独占をしてはいけません!!」

 

 ピー! 

 

「木村君! プールサイドを走ってはいけません!!」

 

 ピー! 

 

「原さん、中村さん! 潜水遊びはほどほどに!!」

 

 ピー! ピー! ピー! 

 

(((こ、こうるせぇ)))

 

 殺せんせー自分がプール作ったから王様気分になっちゃってやたらとマナーの厳しい監視員になってるわ

 

「もう! 殺せんせーも遊ぼうよ! 水かけちゃえ!」

 

「きゃうん!!」

 

(((きゃ、きゃうん!?)))

 

 すかさずカルマ君が殺せんせーが座る監視員の高い椅子を揺らすと

 

「わぁ! カルマ君やめてください! 水に落ちる!!」

 

 あーあ、皆にバレたよ殺せんせー……泳げないことが

 

 殺せんせーは泳げない……正確には泳ぐことができるが粘液でコーティングしてないとふやけてしまう

 

 ロンメルは肌が有るため髪やしっぽだけに集中すれば良いが、殺せんせーは全身のために粘液の分泌量も多く、直ぐにふやけてしまう

 

 ふやければ本来のパフォーマンスが全くできず暗殺の可能性も多いに上がる

 

 皆殺せんせーは泳げないことを前提に暗殺を行うようになる

 

 

 

 

 

 

 

 

 プール開きから数日がたち、プールが何者かに壊されるという事件が起きたが、殺せんせーが瞬時に直していつも通りのプールの授業が行われた

 

 これはおそらく寺坂君、吉田君、村松君の授業をよくバックレて暗殺にも消極的というかサボりをよくする者たちによる犯行だと思うが、犯人探しをしたところで時間の無駄なのでロンメルも普通に授業に参加する

 

 先ほどの3名に狭間さんを加えたグループを寺坂グループと皆言っている

 

 まぁどこのクラスにもいる不良グループである

 

 ただ寺坂君とはロンメルは喋らないが、吉田君と村松君、狭間さんとはロンメルも喋る

 

 吉田君は実家がバイク屋なので家にバイクコースがあり、私有地ということで吉田君もバイクを乗れるので併走したり、バイクの整備の仕方やパーツの事を習ったりしている

 

 村松君とは寺坂グループだと一番よく喋り、村松君の実家はラーメン屋でまぁ不味いのだが、村松君は実家を継いだら美味しいラーメン屋に立て直すのが夢なのでラーメンの研究を家庭科室でやったりしている

 

 その材料の買い出しをロンメルが関東を巡り、安い店や質の良い店から買い出して村松君や食べたり料理が大好きな原さんの3人でラーメンやそのサイドメニューの研究をよくしている

 

 ちなみにロンメルのチャーハンはとにかくパラパラでナルト、ネギ、チャーシュー、卵が組合わさり食通の殺せんせーを加えた3名の評価が

 

「滅茶苦茶うめぇ! いくらでも食えるぞこれ」

 

「チャーシューの味がチャーハンを引き立ててるし、ネギと卵がそれを邪魔しない……色合いも綺麗」

 

「ナルトがあることでピンク色と白色、チャーシューの茶色とネギの緑、そして黄色……とても食欲をそそりますねぇ……米は天のつぶですか! 福島まで取りに行ったのですか?」

 

「はい、チャーハンに合うと聞いていましたので取りに行きました」

 

 とチャーハンだけでなく餃子、小籠包、水餃子、ナムル、チャーシュー丼等を次々に開発

 

 村松君曰く

 

「このサイドメニューに負けないラーメンは相当ハードル高いぞ! 腕がなる!」

 

 と大張きり

 

 原さんは味玉にこっており、美味しいかつラーメンに合う味玉作りを研究していた

 

 狭間さんとは読書仲間で狭間さんからお勧めされる復讐物の小説やちょっとダークな小説等を読んでよく議論や考察をぶつけ合う中だ

 

 ちなみにロンメルは成り上がりや道中はどんなに暗くても最後はハッピーエンドの小説が好きである

 

 狭間さんもロンメルの好みに合ったのを教えてくれるので余計に熱が入る

 

 そんな3人だから殺せんせーやロンメル、原さんというワンクッションを挟むことでクラスの皆と比較的溶け込んでいるのだが、寺坂君だけは頑固にクラスと馴染もうとしない

 

 遂には殺せんせーと絡む皆がうざいと殺虫剤をばらまく始末

 

 殺虫剤を殺せんせーや皆、私も全身に浴びてしまう

 

「気持ち悪いんだよ! モンスターも、モンスターに操られて仲良しこよしのE組も!」

 

 と吐き捨てて出ていってしまった

 

 

 

 

 

 

「へっくし! へっくし!」

 

「おや、ロンメルさん風邪ですか?」

 

 夜の勉強をプレハブ小屋でしていると鼻水が止まらなくなった

 

 教えている殺せんせーも鼻水が大量に出ている

 

「なんか今日の午後から不調なんだよね」

 

「うーむ、熱はなさそうですね」

 

「風邪なんか今まで1度もひいたこと無かったんだけどなぁ」

 

「とりあえず先生が調合した風邪薬を処方しておきますね。鼻水は止まると思いますよ」

 

「殺せんせーは?」

 

「私は薬嫌いなので飲みません。自然治癒に任せます」

 

「風邪拗らせて死ぬみたいな馬鹿な事はやめてよ」

 

「大丈夫ですよ。さて、この問題を解きましょうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日寺坂君はあれだけの事をして普通に学校に来てまず殺せんせーにこう言った

 

「おいタコ、そろそろ本気でぶっ殺してやんよ! 放課後プールへ来い。弱点なんだってな水が」

 

 そして皆に

 

「テメーら全員手伝え! 俺がこいつを水ん中に叩き落としてやるからよ!!」

 

 しかし皆の目線は冷たい

 

 今まで皆と関わろうとせず、しかも皆との暗殺にも不真面目かつ参加もしない

 

 そんな人に協力しようとする物好きはいない

 

 寺坂グループの3人もここ数日で寺坂君と揉めたらしくもうついていけないと愚痴を言っていた

 

「皆さん行きましょうよ!! せっかく寺坂君が私を殺る気になったのですから!! 皆で暗殺して仲直りです!」

 

 殺せんせーは鼻水の粘液が止まらず……いや昨日よりも酷くなり、クラスの床を埋め尽くすほどびちゃびちゃお粘液を撒き散らしていた

 

 殺せんせーの為だと皆仕方なくプールに行くのだった

 

 

 

 

 

 

「よーし! お前らプール全体に散らばれ」

 

 対先生ナイフを持って皆をプールに入れるとプール全体に皆をバラバラにさせた

 

「なるほど先生を水に落として皆で殺る……しかし寺坂君、ピストル1丁では先生を落とせませんよ」

 

 寺坂君が持っているのはいつもの対先生弾を発射するピストルでは無いように思えた

 

 寺坂君が独自に改造したのかそれとも協力者でもいるのか……

 

 しかし、髪がふやける

 

 昨日の不調で粘液が大量に分泌してしまい、軽く浸かっただけなのに髪がぶよぶよにふやけ始めた

 

「覚悟はできたかモンスター」

 

「勿論できてますよ! 鼻水も止まったし」

 

「ずっとテメーのことが嫌いだった」

 

「ええ知っています。暗殺の後でゆっくり2人で話しましょう」

 

 寺坂君が引き金を引いた

 

 瞬間プールを塞き止めていた堰が爆発した

 

 私もとっさのことで対応が遅れ、激流に流される

 

「あぷ!? この先って確か!!」

 

 激しい岩場である

 

 溺れるか落下死が近づいてくる

 

 ロンメルの肉体は人に近い

 

 完全に変異していない為血を流しすぎれば死んでしまう

 

 勿論触手と呼吸により止血することはできるが、大量の水の中かつ岩に削られて体に大きな損傷ができた場合は触手は水を含み、呼吸は水を吸い込んでしまうのでできない

 

 つまりロンメルは慌てて動かせる触手を壁に掴もうとすると殺せんせーが慌てて助けてくれた

 

 陸地に置かれたロンメルは死ななかったことに安堵しつつも、殺せんせーが皆を助けるために速度を落として行動したために水を大量に含んでしまい……イトナが出現した

 

 全員をとりあえず水から引き上げたことに安堵した殺せんせーはイトナの触手に気がつくのに遅れ水に叩き込まれた

 

 しかもこの水普通じゃない

 

 髪のごわつきがただ水を含んだだけではなく弱っている……触手が

 

「昨日寺坂君がまいた殺虫剤……あれは触手から粘液を大量分泌させる成分がある。そして水には触手の動きを阻害する薬品を昨日寺坂君にプールに入れてもらった……さて、ロンメルさん、2つの薬品と水により動きが鈍った殺せんせーをイトナは殺せるでしょうか……ちなみに今回はイトナの触手の本数を減らして1本1本のパワーとスピードを上げたものとするよ」

 

「柳沢!!」

 

「おやおや助ける場所が悪いねぇ。生徒が1人今にも折れそうな木の枝に捕まってるよ。あの高さだ。下が水でも落ちればただじゃすまない。気が気でないだろうね。殺せんせーは」

 

「柳沢どこまでも外道な」

 

「さて、イトナ! そろそろ奴の心臓を殺れ! それでチェックメイトだ」

 

「待てよシロ!」

 

 すると寺坂君がシロこと柳沢の会話に割っては入り、殺せんせーとイトナの間に飛び込んできた

 

「イトナもだ! よくもテメーら俺を騙してくれたな」

 

「ただの連絡の行き違いさ。危ないよ寺坂君。なーに、君もクラスの皆とは浮いていたんだろ? いいじゃないか多少は」

 

「限度って物があるだろ! 一歩間違えれば何人も死んでたんだぞ! 許せねぇ! 来いイトナ! タイマンはりやがれ!」

 

「寺坂君!!」

 

「まぁ待てよロンメルさん、俺の指示だ」

 

「カルマ君」

 

「シロの目的は殺せんせーを殺すこと。生徒を殺すことじゃない。一見危なそうな原さんも殺せんせーが助ける機会を伺っている。ヤバくなったら自分の命より原さんを助ける……だから助けるきっかけを作れば良い。イトナは寺坂に注意が向いた。イトナも寺坂を殺すような威力の攻撃はしてこないハズだよ。まあ気絶するくらい痛いと思うけどね」

 

 バゴン

 

 イトナの触手が寺坂君の腹に直撃するが、寺坂君はワイシャツで触手をがっちり掴む

 

「くそ痛ぇが捕まえたぜイトナ!!」

 

「寺坂の奴昨日と同じワイシャツ着てたんだよ。だからワイシャツには昨日の殺虫剤の成分が染み付いている。それを直に受けたらイトナはどうなるかなぁ」

 

「くしゅん! くしゅん!?」

 

「ほら粘液が出るのが止まらなくなった」

 

「吉田! 村松! 飛び込め!! イトナに水をかけろ!!」

 

「「おう!」」

 

 寺坂君の号令で2人を筆頭に皆水に飛び込む

 

 イトナは大量に水を浴びてしまい触手がふやけてしまう

 

 殺せんせーは原さんを助け出してこれで両者有利不利は無くなった

 

「で、どうする? 俺らもあんたらに賞金持ってかれるの嫌だし、そもそも皆あんたの作戦で死にかけたし! ついでに寺坂もボコられてるし……まだ続けるならこっちも全力で水遊びするけど」

 

「……撤退だイトナ」

 

 柳沢とイトナは帰っていった

 

 この後皆寺坂君を責めたりはせずに強引ではあるがクラスの皆に溶け込もうと寺坂君も努力を始めた

 

 カルマ君の頭脳と寺坂君の行動力が噛み合うと触手を持つイトナですら倒せてしまう

 

 ロンメルは改めて役割分担の大切さ、長所を生かす大切さを2人から学ぶのであった



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1学期 期末テストの時間

 期末テスト……椚ヶ丘中学校では成績が全て

 

 前回はしてやられた暗殺教室ことE組は今度こそと皆力が入る

 

 勿論ロンメルもである

 

 国語と社会は全体でも上位に食い込めたが、英数理は散々な結果だった

 

「ヌルフフフ、ロンメルさんも基礎はできてきました。ようやくこの学校のスタートラインに立てたと思います。授業でも皆さんと同じ範囲をできるようになりましたからね」

 

「いや、今度は皆を引っ張れるようにしないと」

 

「ええ、真面目なロンメルさんならできると思います! 小学生の学力は雪村先生が、中学の範囲はこの私が……いや、高校の範囲も私が教えましょう!!」

 

「まぁ前回の地獄の詰め込みはもうやだからほどほどに詰め込むよ」

 

「ヌルフフフ、ロンメルさん地頭が良いですから十分に高得点が取れると思いますよ! ……さて、皆さんにはまだ言ってませんが今回の期末テストの目標は教科別もしくは総合順位でトップを取った人の分だけ私の触手を破壊する権利を獲ることにします」

 

「触手破壊の権利?」

 

「はい、ロンメルさんの場合は違いますが、先生の場合触手が1本破壊されることに運動量が20%ほど減少します。なので今回は各々得意な科目で勝負させようと思います。勿論全教科得点アップが良いですがね」

 

「なるほどなるほど……となると私は国語と社会で狙おうかな」

 

「いや、ロンメルさんは更に理科も狙えるでしょう。英語と数学も30点以上上がった場合……いや、1科目以上でトップかつ前回より合計点数が90点以上アップしたら先生あるものをプレゼントしようと考えています」

 

「有るもの?」

 

「ええ、先生の暗殺がより確実な物になるでしょう。ヌルフフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 期末テスト2週間前から始まった猛勉強

 

 殺せんせーも分身して皆に色々教え込む

 

 カルマ君はなんかやる気無いけど他の皆は殺せんせーや他のクラスを出し抜いてやろうとやる気満々

 

 烏間先生とビッチ先生が今回は理事長に確認して問題の大幅改変は行わないと言質を取ったため、範囲が前回よりもわかりやすくなった

 

 が、浅野理事長が動かなくてもA組の面々が動き出した

 

 というのも底辺のE組、BCDは横並びで特進クラスのA組と本校舎の中でも階級が存在する

 

 更にA組の中でも五英傑と呼ばれる椚ヶ丘屈指の天才達が音頭を取り、A組全体の学力向上の為に本校舎の会議室を貸し切り、自主勉強会を開いてるという情報が杉野君経由で教えられた

 

 ちなみに五英傑のメンバーは

 

 中間テスト総合6位

 帰国子女で英語は完璧 生徒会議長 瀬尾智也

 

 中間テスト総合5位

 暗記の鬼 生物部部長 小山夏彦

 

 中間テスト総合3位

 人文系コンクール総ナメの詩人 生徒会書記 榊原蓮

 

 中間テスト総合2位

 社会知識の豊富さはダントツ 放送部部長 荒木鉄平

 

 そしてラスボス

 中間テスト総合1位

 全国模試連続1位 理事長の一人息子 生徒会長 浅野学秀

 

 彼らの偏差値は平均偏差値66の学校の中でも飛び抜けての天才達であり優に78……いや80を超えると言われている

 

 ちなみに偏差値78あれば東京大学の医学部輩出数1位の高校に普通に入れるクラスである

 

 そんな全国の猛者を抑えて全国模試1位を取り続ける浅野君は更に上の天才である

 

 そんな彼らがE組を勝たせない為に本気でテスト対策に動いている

 

 理事長の指示ではなく自主的にである

 

 A組の人数は40人

 

 もし仮にA組が全員トップ50に入ったら10人しか枠に入れない

 

 今回はそれをやろうと彼らはしている

 

 そんな対策にも負けずに殺せんせーと一致団結して勉強していたE組の一部が放課後本校舎の図書室でA組の浅野君以外の五英傑に絡まれ勝負をすることとなった

 

 勝負の内容はA組とE組5教科でより多く学年トップ取った方が負けたクラスにどんな事でも1つ命令できる

 

 命令はテスト後に1つ発表する

 

 負けられないと皆に火が着いた

 

 ロンメルは殺せんせーが皆のテスト勉強で夜来ない時はモバイル律(律さんの分身)を殺フォンにダウンロードして勉強を教えてもらった

 

 そして運命のテスト当日となる

 

 

 

 

 

 

 

「やぁ中間テストぶり……いや、鷹岡先生の時以来だねロンメルさん」

 

「浅野理事長、今回もよろしくお願いします」

 

 ロンメルは特別室にて今回も1人で受ける

 

 ちなみに律さんは人工知能なので律さんが教えた替え玉を使うらしい

 

「さて、頑張りますか」

 

「それではテストを開始してください」

 

 

 

 

 

 

 

 英語

 

 問スターが大きなハンマーを振るいながら攻撃を仕掛ける

 

 リスニングは咆哮、単語ごとにハンマーを振るってくる

 

 とりあえずリスニングはビッチ先生のお陰でなんとかなった

 

 まぁ5問目は怪しかったけど部分点は取れただろう

 

 単語問題は問題なくクリアー

 

 文章作成問題に入る

 

 ハンマーを避けながら逆にこちらも攻撃を仕掛ける

 

 よし! 綺麗に入った! 

 

 手応えを感じながら文章作成問題を抜け、長文にはいる

 

 うわ! 殺せんせーが読んで欲しいって言ってた英語の小説ドンピシャじゃん

 

 これならとスラスラと解いていったが、最終問題

 

「ら、ライ麦畑で捕まえて……」

 

 しまったそれは読んでないぞ……う、うわぁぁぁ! 

 

 避け続けていたハンマーが直撃する

 

 なんとか部分点をもぎとったところで英語は終了

 

 

 

 

 

 

 理科

 

 暗記した魔法の記憶の矢で敵の装甲を剥がしていく

 

 時折長文問題が出てくるがこれは杖の柄を使って無理やり剥がしとる

 

「その物質特有の性質は別の物質と比べることで初めて違いがわかる。それ単体の性質を書いても正解は貰えない」

 

 触手を脳に接続して頭の回転数(伝達速度)を早める

 

 記憶から引っ張り出すのに時間を取られていては勿体ない

 

「化学式は物量! 生物の問題も覚えていれば問題なし! 最終問題は……ダニエル電池とリチウム電池の違い!」

 

 時間は……十分にある! 

 

 ダニエル電池とリチウム電池の性質の違いは問題ない! 

 

 手応えを感じながら理科終了

 

 

 

 

 

 

 社会

 

 社会はその出来事と関連して昔の事例やその出来事による影響等を覚えていると簡単にわかる

 

 無限に続く蜘蛛の巣みたいなのが社会である

 

 アフリカ開発会議の首相会談の回数……問題なし! 

 

 中東戦争のイスラエル陣営とイスラム陣営の支援国各3つ以上書きなさい……問題なし! 

 

 地図問題……これはロンドン……いや、空港があるってことはパリを参考にしたボツワナの首都ハボローネか! 選択問題でもないから落とす人多そうだなこれ

 

 余裕を持って社会終了

 

 

 

 

 

 

 

 国語

 

 薙刀を持った武者に問題が見える

 

 古文による中文3つに三島由紀夫の金閣寺、エーミールの少年の日の思い出……雑魚が

 

 一瞬で武者の鎧という引っかけ問題ごと切り裂く

 

「チェックメイト」

 

 金閣寺に火を放った犯人は誰でしょうと言う三島由紀夫が金閣寺の小説を書くきっかけという超マニアックすぎる問題もクリアーし、国語も手応えを持ってクリアー

 

 

 

 

 

 数学

 

 レベルが高い……問題式という弾幕を張っているのになかなか問題が倒れない

 

 時間の求め方、図形の面積、時々例題から察する米の収穫量の求めろ何て言うとんでもない物まで出てくる

 

 時間一杯まで悩んだが最終問題がわからずにテストが終わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 休みを挟んで3日後

 

 学年順位とテストの回答が戻ってきた

 

 いよいよ緊張の瞬間である

 

「それでは発表します……まずは英語から……E組1位……そして学年でも1位! 中村莉桜!!」

 

 ロンメルの点数は86点

 

 前回よりも50点もアップ

 

「続いて国語……E組1位は……ロンメル! 学年1位もロンメル!!」

 

 ロンメル満点の100点

 

「ただ国語はA組の浅野君と同点の同率1位ですね」

 

 現在A組とは1勝1引き分け

 

「五英傑って言われてるけど浅野1人倒せなきゃ学年トップは取れねーんだよな」

 

「えー、続いて社会……お見事! ロンメルさん満点」

 

「すげぇ! ロンメルさん2教科トップ!!」

 

「2位の磯貝も浅野超えだ!!」

 

「よっしゃ! これで負けは無くなった!!」

 

「では理科ですが……E組1位奥田愛美! 全校……1位! おめでとう!!」

 

「やった!!」

 

「よっしゃ! 3勝1引き分け勝ち越し決定!!」

 

 ロンメル95点同率3位

 

「最後に数学……E組1位は……竹林孝太郎! 学年……2位!」

 

「竹林よくやったよ」

 

「千葉も7位で大健闘じゃん!」

 

 ロンメル85点

 

 学年同率10位

 

 ロンメルの合計点466

 

 学年順位15位

 

 前回の317点から149点もアップの学年順位も87位上がる大健闘

 

「よっしゃぁ!」

 

 ロンメル立ち上がって喜びを爆発させた

 

「触手4本……それに」

 

「A組からこれ奪えるもんね!」

 

 A組に1つ命令できる権利で私達は椚ヶ丘中学特別夏期講習! 

 

 沖縄離島リゾート2泊3日を奪うつもりだ

 

「さて皆さん。5教科プラス総合点の6つの中皆さんが取れたのは4つです! 早速暗殺を始めましょうか。トップ3人……いや、ロンメルさんが2本に中村さんと奥田さんはご自由に」

 

「おい待てタコ! 5教科トップは3人じゃねーぞ」

 

「にゅにゃ? 3人ですよ寺坂君。国、英、数、社、理の全てあわせて……」

 

「はあ? アホ抜かせ国、英、社、理……あと家だろ」

 

 寺坂君、吉田君、村松君、狭間さんの4人が家庭科100点の答案用紙を教卓に並べる

 

「か、家庭科!? ちょ、待って!! 家庭科のテストなんてついででしょ!! なんでこんなのだけ何本気で100点取ってるんですか?」

 

「だーれも5教科とは言ってねぇからな」

 

「そうだよ殺せんせー5教科最強の家庭科さんだよ」

 

「そーだそーだ合計触手8本!!」

 

「ひ、ひいぃぃぃぃ!!」

 

「あと殺せんせーこれ皆で決めたんだけど今回のA組との賭けも含めた戦利品も使わせて貰います」

 

「磯貝君というと?」

 

「沖縄の離島で今回の権利を使わせて貰います!!」

 

 暗殺教室in沖縄の開催が決定した瞬間だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜プレハブ小屋にて

 

「しくしく、してやられました……まさか家庭科をやられるとは」

 

「詭弁だと撤回させれば良かったじゃん」

 

「いやしかし先生は嬉しいです。家庭科は受験で使わない分重要度が落ちる。その為教師の好みが反映されやすい。本校舎の授業を受けていない分五教科よりも100点取るのは難易度が高いとも言えます。相当彼らは研究したのでしょう。私は嬉しいです」

 

「盲点を付く自由な発想と一刺しのための集中力……暗殺教室に相応しい生徒達ですよ」

 

「触手8本とか本気でヤバいんじゃないの殺せんせー」

 

「ええ、しかし奥の手を残しているので殺されるつもりはありませんよヌルフフフ! ……さて、ロンメルさん2教科トップ及び149点もの点数アップおめでとうございます!! よって先生からのプレゼントです」

 

 それは打刀と呼ばれる日本刀だった

 

「対先生物質を練り込んだ先生が作った日本刀です。ロンメルさんの過去の戦闘に刀が変化する敵が居たと言っていましたね……触手を絡ませてみてください」

 

 ロンメルは刀を抜き、触手を絡ませると刀身が伸びまさに黒死牟が最後に使っていた【噓哭神去】のそれであった

 

「庭で試し斬りをしてみましょう」

 

 外に出て試しに月の呼吸を使ってみる

 

 すると黒死牟の様にエフェクトに追加の斬撃が乗る

 

 あの大きな斬撃に小さな無数の月の様な斬撃が

 

 炎の呼吸や水の呼吸も試してみる

 

 エフェクトの様な物に実体がある! 

 

 当たり判定が大きくなった

 

「ロンメルさん、あなたの暗殺には刀が必要だと前から思っていました。これで先生を殺してみなさい」

 

「はい!!」

 

 刀の名前は懐かしい影月の名に殺を足した【殺影月】とした




英86
国100
数85
社100
理95
合計466


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1学期 終業式の時間

 終業式……私は全校集会に出れないので理事長に呼ばれて理事長室に来ていた

 

「まずはテストおめでとうロンメルさん……国語と社会100点は見事だね。先生の教えが良かったのかな」

 

「はい、最高の先生ですので」

 

「その先生のタイムリミットまで残り8ヶ月と少し……どうだい? 殺れそうかい?」

 

「いえ、今しばらく力を蓄える必要があります」

 

「そうかい」

 

 理事長は席を立つ

 

「私はねぇE組はE組らしく底辺でなければならないと思うのだよ。悪い見本としてね……なぜだかわかるかい?」

 

「……なぜでしょうか」

 

「世の中には20%の働き者と60%の普通の者、20%の不真面目な者に別れている。これは働きアリの法則と言ってね」

 

 ロンメルの肩を叩く

 

「私はこの比率が嫌いでね」

 

「更に効率化するのですか?」

 

「ええ、95%の働き者と5%の不真面目な者……これこそが私の求める理想の数字だ。だから不真面目な者はそれ相応の待遇でなければならない」

 

「それがE組と」

 

「ええ、今回のE組による反逆とも言って良いテストの結果……これは他のクラスは屈辱と危機感を煽るのには最適だ。底辺がそこまで近づいているからね」

 

「なるほど」

 

「地球の損亡がかかる一大事でも私の教育は常に正しく機能している……が、それは底辺があってこそ成り立つ」

 

「……」

 

「君もあと1年……いや1年未満の命だろ。そんな悲しき生き物である君に1つ宿題を与えよう」

 

「宿題……ですか?」

 

「呼吸だったか、そのやり方を皆にわかるように紙に書きなさい。メリット、デメリットを含めて」

 

「どこでそれを……」

 

「これだ」

 

 そう言って1冊のメモ帳を渡してきた

 

「雪村先生が残したメモに君の事が書かれていた。遺族の雪村製薬の社長……彼女の父親から借りたのだよ」

 

「……なるほどなるほど。確かに雪村先生には話していたし、呼吸についても軽くなら教えました……で? 教える私のメリットは?」

 

「このメモ帳に君が欲しい物が書かれていた。特殊なシューズが欲しいと……足の裏に蹄鉄を仕込んだシューズを特注してあげよう。暗殺の手助けにもなるからね。せっかくだ対先生物質で作ってあげよう」

 

「………………」

 

「悩むことかい?」

 

「悩みますよ。人間の能力を飛躍的に上げることができます……が、1歩間違えれば取り返しのつかない技術ですから……正直この世界では殺せんせー以外に教えるつもりはありませんでしたよ」

 

「この世界では……か、まるで別の世界があるかの様な言い草じゃないか」

 

「ええ、ありますよ別の世界が……そうじゃなければウマ娘なんて種族がいるはず無いじゃないですか」

 

「おっと実例を出されては信じるしかないかな?」

 

「教える相手は限られる。E組の皆に教えることすら悩んでいるんですからね」

 

「それほどかい」

 

「とりあえず作成だけはしますが……殺せんせーと相談してから提出します」

 

「わかった。楽しみにしているよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「1人一冊です」

 

 終業式が本校舎で終わり、山の隔離校舎に戻った私達に殺せんせーが1万ページ超えの夏休みのしおりを渡してきた

 

「出たよ恒例過剰しおり」

 

「アコーディオンみてーだな」

 

 夏休みのしおりをちらりと見てみると椚ヶ丘周辺のカブトムシやクワガタ等の昆虫の分布図、トラップの仕掛け方、ヤンキーに絡まれた時の対処法、甲子園出場校(出場予定校)の戦力図、夏の間にやっておくべき勉強内容、自由作文にお勧めの本……今回の付属はクト◯ルフTRPGルールブック及び1名に3つのシナリオと紙で作るサイコロ10種だった

 

「なんでクト◯ルフ?」

 

「先生少しハマりまして」

 

「「「お前の趣味か!!」」」

 

「1つのシナリオは英語で書きましたから翻訳するのも勉強ですよ!!」

 

「「「宿題を増やすな!!」」」

 

「……さて、これより夏休みに入りますが、皆さんには大きなイベントが控えていますよね」

 

「「「沖縄離島リゾート2泊3日!!」」」

 

「はい、そこで皆さんが勝ち取った触手8本の暗殺楽しみにしていますからね!! ヌルフフフ……親御さんに見せる通知表は先ほど渡しました。これは先生からあなた達への通知表です!!」

 

 教室一杯の二重丸……それが私達への殺せんせーからの評価だった

 

「暗殺教室! 基礎の1学期これにて終業!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

【通知表】

 

 ロンメル

 

 五教科 10段階

 英語……8 スペルミスに注意

 国語……10 完璧 読書量を増やせると良き

 数学……7 式の簡略化が出来ると時間に余裕ができる

 理科……9 あと一歩 ケアレスミスと覚え間違いに注意

 社会……10 完璧 世界史が甘いので重点的に

 

 殺せんせーからの評価

 

 まだまだ体ができていない為に暗殺は控えめでしたが、皆さんと協力しての暗殺は積極的でしたので連携には困らないと思われる

 

 二学期からはメインでの暗殺を期待する

 

 烏間先生からの評価

 

 5段階評価

 戦略立案……1

 指揮・統率……3

 実行力……3

 技術(罠、武器、特殊暗殺等)……4

 探索・諜報……5

 政治・交渉……3

 

 一言

 ナイフの技術はイトナとの戦闘後隠すのを辞めたのか急激に成長した様に思える(実際どうだかは知らんが)

 

 射撃能力が伸びれば技術に5を与えていた(射撃単体の技術は2)

 

 ただ探索・諜報能力は高い機動性及び気配を消せる隠密性から5

 

 2学期から本気での暗殺を期待する

 

 ビッチ先生からの評価

 

 発音がまだまだ甘いが日常会話くらいなら問題ないレベルの英会話力

 

 フランス語をやたらと習いたがるのは何か理由があるのかしら? 

 

 髪の手入れを忘れずに! 

 

 女の武器ももっと磨きなさい

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み初日……ロンメルにとってその日は夏野菜の収穫を一斉に行う日であった

 

「きゅうり、なす、おくら、大葉、シロウリ、ゴーヤ、ピーマン、とうもろこし、トマト、枝豆! 高原キャベツも少しできたし、ニンニクに新生姜も……クックックッ戦国の時代では育てられなかった野菜が大量大量……秋の作物も順調に育ってるし……せっかくだから皆にお裾分けするか」

 

 皆とはE組だけでなくお米や野菜等を買っている農家の方や殺せんせー、烏間先生、ビッチ先生達もである

 

 まず朝の涼しい時間に収穫したので、箱に詰めて遠方から宅配をする

 

「いやー! 立派な瓜だこと!」

 

「おじさんにはお米買わせていただいてるからお礼ですよ」

 

「いやいや、こっちも余った米だったから買ってくれて助かるよ……そうだメロン取れたから貰ってくれや」

 

「良いんですか!」

 

「ああ! こんなに沢山の種類の野菜貰ったら何かお礼しなきゃ罰が当たるよ! 持ってき持ってき! 10個やるから家族で食いな」

 

「10個も良いんですか!」

 

「ああ、あんだけ米毎月買うってことは大家族だろうに……皆で食って夏バテに負けるんじゃないよ!」

 

「ロンメルちゃん、麦茶のんできーな」

 

「おばさんありがとうございます」

 

 遠くは福島、茨城や千葉を巡り

 

「おう! ロンメル良いところにスイカが取れたところなんだ持ってきな!」

 

「ロンメルちゃんさくらんぼとブルーベリー持ってきなよ」

 

 神奈川や静岡も巡る

 

「タコ大量だから持ってきなよ」

 

「サバやしらす持ってき!!」

 

「なんか物々交換になっちゃった」

 

 リアカーに果物や野菜、米、魚がクーラーボックスや段ボールに入れられて山盛りになって帰宅した

 

「E組の皆の所巡れなかった……明日皆の所巡ろ……いや? あと肉買えばバーベキューできるか」

 

 ロンメルは殺せんせーに電話する

 

『はい、ロンメルさんなんでしょうか?』

 

「明日E組でバーベキューやろうと思うんだけど野菜や魚、果物と米は私が出すから肉頼めない?」

 

『お任せを! 牛や豚、鶏を買ってきますよ』

 

「じゃあ皆も誘ってみるね」

 

 続いて烏間先生に電話する

 

『なんだロンメル』

 

「私生活だと私にさん付けないよね烏間先生……明日バーベキューE組でやろうと思うんだけど機材頼めないかな。暗殺交えるから……ね!」

 

『あいにくだが『え! バーベキューやるんですか! 俺いきたいです烏間さん』『私も』『たまには労ってくださいよ烏間さん』……わかった部下達も来るが良いな』

 

「勿論です! 野菜や果物、魚が腐るほどあるんで楽しみましょう」

 

『『『やった!!』』』『お前ら俺の電話から離れろ』

 

「烏間先生もOK、じゃビッチ先生や皆にも連絡をっと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 校庭に殺せんせーと烏間先生の部下の人達がバッチリ準備してくれた

 

「「「うお!! スゲー!!」」」

 

「皆1学期お疲れ! 家で野菜取れて物々交換したら色んな物が大量に揃ったからバーベキューすることになりました! 参加費はドリンクのみ! 盛大に食え!!」

 

「「「うぉぉぉ!!」」」

 

 急遽始まったバーベキュー殺せんせーが分身し、私と烏間先生の3名? が焼く係で皆にご馳走する

 

「なんだこのデカイタッパー達は?」

 

「あ、それ昨日作った漬け物とかナムル! 美味しいから食べて食べて」

 

「うお! うめぇ」

 

「岡島ずりーぞ」

 

「ヌルフフフ皆さんお米炊けましたよ! 飯ごうで炊いたのでお焦げが少々……皆さんは柔らかい部分を……先生がお焦げ貰いますね」

 

「殺せんせーずりーぞ!」

 

「私もお焦げ欲しい」

 

「ヌルフフフ役得です! せっかくですし皆さんも炊いてみましょう」

 

「うわ、原さんが暴走モード入った」

 

「焼いたそばから野菜が消えてく」

 

「バーベキューは飲み物よ」

 

「ワケわかんないこと言い出したぞ」

 

「烏間~私これ欲しい。焼いて~」

 

「自分で焼け」

 

「「「乾杯!! かぁー烏間さん先に飲みます」」」

 

「いいなぁ大人の人達は」

 

「ねー、ビール飲めて……ん? ロンメルさんその右手のは?」

 

「ビール」

 

「「「アウト! 何しれっと飲んでるの!!」」」

 

「まだ5杯目だよ! 私酔わない体質だから大丈夫大丈夫」

 

「コラぁ!! ロンメルさん未成年飲酒はダメでしょ!!」

 

「ケチケチしないの殺せんせー! ほーらグビッと」

 

「グビッっと……にゅ~にゃ~」

 

「あはは! 殺せんせー弱いもんねお酒」

 

(((初めて知ったぞその弱点)))

 

「あはは!」

 

 ごちんと烏間先生が私に拳骨する

 

「おいたが過ぎるぞ」

 

「てへ」

 

「たく」

 

「よーし! 次家庭科室借りて天ぷら作るけど食べる人!」

 

「「「はいはいはい!!」」」

 

「よこせ……全て私の物よ」

 

「原さんの暴走更に酷くなってるぞ」

 

「誰か止めろ! 俺らの天ぷらが無くなるぞ」

 

「ははは! 食いきれないほど作ってやる!」

 

 これは皆に私からのプレゼントだ

 

 殺せんせーの弱点、皆への労い……2学期……いや夏休み後半の沖縄から私は本気で殺せんせーを殺しに行く

 

 2学期からは触手も解禁して



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夏休みの時間

「シィィィィィ」

 

「ふむ、3000メートルラスト3ハロン33.9秒……良くなってきましたね」

 

「まずまずってところかな」

 

 本格化に合わせてタイムが良化している

 

 本格的に鍛えて約3ヶ月……肉体がようやく馴染んできた

 

 筋肉の量も増え、超回復トレーニングを含めてようやくG1で勝負できる領域に入ってきた

 

「ナンバ式ストライド走法も形になってきましたので次の段階です……ロンメルさん駆け引きを覚えましょう」

 

「駆け引き……ですか?」

 

「はい、大逃げ逃げ先行差し追込……それぞれメリットデメリットがありますどれにどんなメリットデメリットがあるかわかりますか?」

 

「逃げは先頭で走るから自分のペースで走れるってことかな? あと全力を出し切るからスタミナを全部使える」

 

「はい、正解です」

 

「先行差しは前後のウマ娘……馬を使ってマークしたり、動揺させたり技が使いやすい?」

 

「半分正解です……が、先行は他の馬にブロックされづらく逃げの次にレースの展開を握ることができます。逃げと先行の馬はコースロスが少なく済むのも特徴です。一方差しは後方からレース全体の流れを読む事ができます。圧力をかけることによりレース全体の流れを速めたり、有力馬をマークして最後の直線まで体力を温存させやすいのも差しです。追込は瞬間最高速度が一番強い馬でないと勝てません。馬の能力が突出していたり、レース全体を支配できるカリスマや威圧感、そもそもゲートが下手故に追込にならざる得ない等欠点ありきの脚質とも言えます……例外もいますがね……で、先生から見たロンメルさんの脚質は……ズバリ! 大逃げです」

 

「大逃げですか?」

 

「はい、圧倒的なスタミナで皆さんを磨り潰す……道中ペースを緩めて二段階ロケットするのでも良し……逃げは良いですよ」

 

「それ殺せんせーが逃げ馬が好きなだけじゃ?」

 

「にゅにゃ! そ、そんなこと無いですし!!」

 

「図星かよ……大逃げか、試してみる価値はあるね」

 

「ただし大逃げをやる場合大逃げしかできなくなります」

 

「なぜですか? 他の脚質に切り替えれば良いじゃないですか」

 

「大逃げは大逃げでしか使えないスキルが沢山あります。ロンメルさん、それを覚えていきましょう」

 

「はい!」

 

 ロンメルの脚質が大逃げに固定された

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み! 

 

 夏と言えば……地獄の特訓

 

 ロンメルは更なる肉体を求め山籠りを決行

 

 低酸素の場所で肺を更に鍛え全集中の呼吸の練度をあげにかかる

 

 瓢箪の代わりにペットボトルを代用品とし、どんどん息を吹き込んで破裂させていく

 

 そして走る! 走る! 走る!! 

 

 ロンメル自らが作った特殊なマスクを着用し、更に呼吸を困難な状態で走りまくる

 

 山にテントを張り勉強や理事長に言われた宿題をしていく

 

 殺せんせーと相談した結果、理事長なら全集中の呼吸のデメリットを理解した上で教育に役立てるでしょうと言われたので教えることにした

 

 そんな山籠りを1週間行い、無駄な肉を極限まで落とし、そこから大量に食事を取り、筋トレと超回復トレーニングで筋肉をつけていく

 

 

【挿絵表示】

 

 

 一段と大きくなった肉体、8つに割れた腹筋、顔よりも太い足……

 

「とりあえず形にはなったか」

 

 ゴワゴワの髪の毛を櫛でとかしながら鏡で肉体を写し、ポーズを決める

 

「さて……勉強しよ」

 

 

 

 

 

 

「にゅにゃ! ロンメルさんその肉体どうしたのですか!?」

 

 今日は殺せんせーに射撃を教わる日

 

 久しぶりに見たロンメルの姿に殺せんせーは驚愕した

 

「極限まで筋肉を削った後のマッスルメモリーによる回復、全集中の呼吸による超回復の促し、触手細胞による身体細胞の修復の置き換え……握力は500キロを超え、全身の筋力も大幅に上がった」

 

「す、素晴らしい! 良く頑張りましたねロンメルさん」

 

「ええ、殺せんせーを殺すために頑張りました……射撃を今日は教えてください」

 

「わかりました。みっちり教えてあげますからね! ヌルフフフ」

 

 水で落ちるペイント弾を使用し、殺せんせーが的を持ち、いきなり現れる的にロンメルは射撃していく

 

 射撃の際に動きが悪いと殺せんせーの分身がここが悪いと指摘してくれる

 

「ロンメルさんは射撃の際には呼吸を更に浅くした方が良いでしょう。全集中の呼吸だと射撃に必要なリラックス状態とは程遠い。あとロンメルさんは座撃ちの際にはあぐらの方が良いでしょう」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「こうですか?」

 

「そうですその方が安定する人もいるのです」

 

 射撃とは反動をいかに殺すかである

 

 正しい姿勢であればあるほど射撃の勢いを受け流して殺す事ができる

 

 パンパンパン

 

「ヌルフフフ、ロンメルさんの動体視力は触手の改造を受けた事によりマッハ20に対応していますからね! 射撃の際にもわかるでしょ。撃った瞬間にこの弾は当たらないとか、この弾は当たるとか」

 

「はい、見えてます」

 

「よろしい。射撃は自身の正しい姿勢がわかればあとは風や気候などの情報と弾道を計算……まぁ極論を言えば経験です。経験が有ればあるほど射撃は当たるようになりますから」

 

「はい!」

 

「よろしい、ではスピードをあげますよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8月に入り、沖縄での暗殺旅行の訓練と計画を煮詰める為に隔離校舎のグラウンドに皆集まった

 

「あれ? ロンメルさんは?」

 

「いや、まだ来てないけど」

 

「ごめんお待たせ」

 

「遅いぞロンメルさん……!?」

 

「「「!?」」」

 

 ロンメルの姿を見た皆の顔が仰天する

 

 一回り……いや、二回りほど大きく膨らんだ全身筋肉ロンメルを見て驚愕する

 

「ろ、ロンメルさん?」

 

「凄い筋肉……夏休み入ってまだ2週間だよ! 変わりすぎ」

 

「しっかり鍛えたんで」

 

「「「鍛えすぎだろ!」」」

 

「ほう、良い筋肉だ……一切の無駄が無い」

 

 そう言ったのはロヴロさん

 

 ビッチ先生の暗殺の師匠でもあり、日本政府が唯一持っている大物暗殺者を繋ぐ斡旋業者の大物とも言える人物だ

 

 彼自身も昔は大物暗殺者として世界に名を轟かせており、凄い人である

 

 6月頃にビッチ先生の進退をかけた勝負もしたっけ

 

 まぁそんな人が今回暗殺の臨時講師をしてくれることとなった

 

「射撃の基礎はできている。自分なりに姿勢を改良し、適した形になっているのもベストだ」

 

「走り方も音が出ない走り方ができ、更に皆よりも早く動ける……足が早いというのは近接から長距離暗殺、脱出の確率まで上げられる素晴らしい才能だ」

 

「ナイフのモーションの時もっと脇を絞めろ、次の一撃の威力が上がる」

 

 やはりプロなだけあり色々と有益な情報を教えてくれる

 

 ちなみにロヴロさんが一番評価したのは千葉君と速水さんだった

 

 千葉君も速水さんも主張が強くなく結果で語る仕事人タイプであるが、千葉君は空間計算に長けており、遠距離射撃は並ぶ者が居ないスナイパーである

 

 速水さんは手先の器用さと動体視力のバランスが良く、動く標的に当てる能力に長けていた

 

 両者が射撃に関してはロンメルの目標であり、ロヴロさんも彼らを自身の弟子にしたいと言うほど評価していた

 

 そんな中、ロヴロさんは渚君に【必殺技】を伝授していた

 

 彼から見たら渚君の暗殺者としての才能に気がついたらしい

 

 殺せんせーも前に

 

「恐らく暗殺者としては渚君が一番伸びるでしょう。天賦の際を持っている」

 

「確かに殺気を殺す技術や自身の命を賭けたりする胆力は見事だと思うけど」

 

「ヌルフフフロンメルさんも人を見る目が甘いですね。彼は油断させることが上手い。鷹岡が来た時もそうだったでしょ。彼の本質は油断からの一刺しですよ」

 

「なるほど」

 

 ロヴロさんと渚君の様子を盗み見ていた私も【必殺技】の発想は無く、確かに有益な情報であり、隠れてこっそり練習を始めた

 

 



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島の時間 1

 椚ヶ丘中学校

 

 特別夏期講習

 

 一学期において成績が最も優秀なクラスに沖縄二泊三日の夏期講習の権利を与えるものとする

 

 講習期間中の行動は自由

 

 ホテルと提携しているサービスについては、利用料金は学校負担とする

 

 ……つまり遊び放題、食べ放題、飲み放題! 

 

 東京から飛行機と船を乗り継いで6時間

 

「「「島だ!!」」」

 

 沖縄での暗殺教室が幕をあけた

 

「……で、なんでロンメルさんもグロッキーになってるの」

 

「カルマ君達と人狼ゲームしたんだって……修学旅行の時と同様に頭使いすぎてグロッキーだと」

 

「学習しねーな……」

 

「お、おお……頭が割れる」

 

「先生は船酔いで死にそう……」

 

「修学旅行初日の旅館で見たぞこの光景」

 

 

 

 

 

 

 

 修学旅行の時の班に別れて自由行動が始まった

 

 パラグライダーをやる班、イルカを見る班、海底洞窟巡り……昼食も含めて目一杯遊んだ

 

 遊びながら夜の暗殺に向けて準備を入念に行っていく

 

 殺せんせーと遊ぶ班以外は狙撃スポットの下見、トラップの設置、ホテルとの機材を借りるための交渉等やるべき事をやっていく

 

 そして夕方……貸し切りの船上レストランにて料理が出されたところから暗殺が始まる

 

「なるほどたっぷりと船で酔わせて戦力を削ごうと」

 

 磯貝君が代表して答える

 

「はい、これも暗殺の基本の1つですから」

 

「実に正しい! ですがそう上手く行くでしょうか? 暗殺を前に気合いの入った先生にとって船酔いなど恐れるにたりず!!」

 

 そうどや顔で殺せんせーが言うが、日焼けして全身真っ黒で前か後ろかもわからない姿で言われても説得力が全く無い

 

「表情どころか前後すらわかりませんよ殺せんせー」

 

「ややこしいからなんとかしてよ」

 

 と皆でケチをつけると殺せんせーは月に1回の奥の手の脱皮を使いいつもの綺麗な黄色に戻る

 

「あっ」

 

 殺せんせー自分のドジに気がつく

 

「バッカでー、暗殺前に自分で戦力を減らしてやんの」

 

「どうして未だにこんなドジ殺せないんだろう」

 

 

 

 

 

 

 結局船酔いでグロッキーになった殺せんせー、そして暗殺の会場になったのはホテルの離れにある水上パーティールーム

 

 そこでまず精神面から殺す暗殺が始まった

 

 三村君が編集した動画を見たあと8本の触手を破壊し、それを合図に皆で一斉に暗殺を始める

 

 殺せんせーは席に座り動画上映が始まる

 

 それはもう殺せんせーの恥ずかしい映像である

 

 例えば殺せんせーがエロ本の山の上でニヤニヤしながらエロ本を読んでいる映像だったり、女子大生を見かけてはメモを取っており、それをこっそり見ると大学名が書かれており、気に入った女子大生がどこの大学かわかるようにしているなど先生以前にクズである映像、牛肉チェーン店でやたらと紅しょうがを取ると帰ってかき揚げにして食っていたりと晒される悪行というかみみっちい事の数々……1時間

 

「死んだ……もう先生死にました。あんなことやこんなこと知られてもう生きていけない……」

 

 船酔いプラス精神攻撃……更に

 

「み、水!? 誰も水を流す気配など無かったハズ!?」

 

 満潮を利用した水のトラップ

 

 水が床に張るように小屋の支柱を短くして……

 

「さぁ本番だ! 約束だ殺せんせー」

 

 本命が始まった

 

 パパパパン

 

 8発の弾丸が殺せんせーの触手を撃ち抜く

 

 そして動揺した瞬間に小屋の壁が剥がれ、フライボードを利用した水の檻が完成する

 

 更に倉橋さんがイルカを手なずけ周りをいっぱい飛び回らせ、数人がホースにより水を散布する

 

 水圧の檻班、水散布班、千葉君と速水さんの本命のための掩護射撃として弾幕を張る班……そしてトドメの2人

 

 速水さんと千葉君の射撃ポイントが割れないように陸地の別ポイントに匂いを染み込ませたダミーまで作り、水中から顔を出して射撃が行われた

 

 殺せんせーに当たったと思われた次の瞬間、殺せんせーは閃光となり爆発した

 

 が、私には見えていた

 

 殺せんせーが当たる直前に体を思いっきり小さく縮め何か膜を作ったのを

 

 水中に浮く殺せんせーの顔が入ったオレンジと透明の野球ボール位の球体

 

「皆さんよくぞここまで先生を追い詰めました! これぞ先生の奥の手中の奥の手……完全防御形態!!」

 

「「「か、完全防御形態!?」」」

 

 透明に見える部分は高密度のエネルギーの結晶体らしく、殺せんせーの肉体を思いっきり縮め、余分になったエネルギーを肉体の周囲にがっちり固めたとのこと

 

 この状態になると殺せんせーは無敵モードで、例え核爆発ですら無傷で耐えることができるのだとか

 

「ただ、この形態も24時間経過すると自然崩壊します。その瞬間先生は体を膨らませエネルギーを吸収して元に戻ります。裏を返せば24時間先生は全く身動きが取れません」

 

 殺せんせーはこの形態中に高速ロケットで宇宙の彼方に捨てられるのだけを恐れていたが、そんなロケットが地球上に現在存在しないのも確認済みと用意周到であった

 

 つまり……完敗

 

 クラス全員の渾身の一撃が失敗した

 

 ロンメルは悔しかったと同時に安堵した

 

 この程度で死神は死ぬはずが無いと計画段階から悟っていたし、まだまだ殺せんせーに教わりたいことは沢山あったのでこれで良いとすら思えてしまった

 

 しかし皆は違う

 

 殺せんせーは世界の軍隊でもここまで追い込めなかった、誇って良いといつものように褒めてくれたが、落胆は隠しようが無かった

 

 

 

 

 

 

 

 ガツガツガツ

 

「ろ、ロンメルさんは元気だねぇ」

 

「夕飯食ったろ……まだ食うのかよ」

 

「なーに皆落ち込んでるんだよ。殺せんせーだよ? 殺せないから殺せんせー、奥の手はわかったんだから次の一手を用意するのみ」

 

「でもよ……疲れたわ本当」

 

「だな~……落胆もあるが凄い疲れた」

 

 ロンメルは気がつく

 

 一部のメンバーの呼吸が明らかにおかしいことに

 

「渚君よ……ちと肩貸しちゃくれないかい?」

 

「な、中村さん!! 凄い熱だ!!」

 

「明日こそ水着のギャル見るんだ! 想像しただけで鼻血ごば!? ……いや? ……あれ?」

 

「岡島!?」

 

 バタンバタンと呼吸がおかしかったメンバーが次々に倒れ始める

 

 この島には小さな診療所しかなく、当直の医者も夜は別の島に帰ってしまうらしい

 

 戻ってくるのは明日の10時以降

 

 岡島の事を支えたロンメルは額に手を当てる

 

「うひょー、ロンメルさんの胸が当たって……」

 

「38……いや39度ってところか……スタッフさん、すぐに布団を用意して、皆はマスクを!」

 

 明らかにおかしいが、とにかく対処療法をするしかないと医者の家系の竹林君と理系で薬学に少し知識がある奥田さんとチームを組み、大丈夫なメンバーとホテルのスタッフに指示を飛ばす

 

 すると烏間先生の電話に非通知の着信が入る

 

「何者だ? まさかこれはお前の仕業か?」

 

『ククク、最近の先生は察しが良いな。人工的に作り出したウイルスだ。感染力はやや低いが一度感染したが最後……潜伏期間や初期症状に差はあれど、1週間もすれば全身の細胞がグズグズになり死に至る。治療薬も1種類のみの独自開発でね……あいにくこちらにしか手持ちが無い』

 

 ボイスチェンジで声を変えた男が話してくる

 

 烏間先生は電話をスピーカーにして皆に聞かせる

 

 薬が欲しければ動けない殺せんせーをクラスで一番背が低い男女が持って山頂の普久間島リゾートホテルの最上階までに1時間居ないで持ってこいとのこと

 

 持ってこなければ治療薬を爆発すると付け加えて

 

『勿論外部との連絡や1時間を1秒でも遅れた場合即座に治療薬は爆発する。礼を言うよ。よくぞターゲットを行動不能に追い込んでくれた』

 

 まず普久間島リゾートホテルは普久間島の他の全うなホテルとは違い国内外のマフィアや暴力団、それらと繋がる財界の大物が出入りしており、私兵や厳重な警備のもと違法ドラッグや商談、ドラッグパーティーが連夜開かれているらしい

 

 警察はこのホテルをマークしているのだが、与野党問わず政治家とのパイプもあり迂闊に手出しできないのだと

 

 寺坂君はこんな要求突っぱねてすぐに九州や本土の大病院に送った方が良いと提案するが、竹林君が

 

「もし人工的に作った未知のウイルスならどんな大病院にも治療薬は置いていない。対処療法で応急措置はしておくから急いで行った方が良い」

 

 と提案

 

 しかし、身長の一番低い2人だと渚君と茅野さんであり、人質を増やすだけだと意見が別れる

 

 烏間先生もリスクを考えて発言できなくなっている

 

「良い方法がありますよ。病院に逃げるより、大人しく従うより……律さんに頼んで下調べは終わりました。反撃の時間です」

 

 殺せんせーは私達に反撃を提案した

 

 

 

 

 

 計画はこうだ

 

 普久間島リゾートホテルの正面には大量の警備員が居ること、フロントを必ず通る必要から気付かれずに侵入は不可能

 

 故に裏口を使う

 

 裏口は絶壁の裏にあり、まず侵入不可能な地形故に警備員が置かれておらず、律が電子パスワードを解析し、ロックを外せるとのことなのでそこから侵入が可能だ

 

 患者10名と竹林君、奥田さんの看護役2名の12名以外の15名とビッチ先生、烏間先生加えた17名+律さんによる奇襲により治療薬を奪取することこそが最適だと提案した

 

 烏間先生は危険すぎると提案を却下し渚君と茅野さんに行かせようとしたが、他のメンバーは行く気まんまんで、崖も普通に突破可能であった

 

「烏間先生、指揮をお願いします」

 

「烏間先生! ふざけた奴らにきっちり落とし前つけましょうよ」

 

「「「烏間先生!!」」」

 

 烏間先生も覚悟を決めた様だ

 

「注目! 目標山頂ホテル最上階! 隠密潜入から奇襲の連続ミッション! いつもと違うのはターゲットのみ! 1950より作戦開始」

 

「「「おう!!」」」

 

 ロンメルは殺せんせー暗殺に使えないかと持ってきた殺せんせーからもらった殺影月を背負う

 

「おいおいロンメル修学旅行の時の木刀なんで持ってきてるんだよ。置いてけよ」

 

 皆には修学旅行の時に高校生から奪った木刀だと説明していたが、抜刀するまでわからないだろう

 

「今回はあった方が良いと判断したからだよ寺坂君」

 

 すいすいと壁を登っていく

 

 戦国時代、鬼殺隊時代そして現代でも鍛えた登坂能力を遺憾なく発揮し、するすると山を登る

 

 一番に山を登りきったロンメルは殺フォンに入った律に非常扉のロックを解除してもらう

 

『ロックを解除しました』

 

「OK律」

 

 潜入ミッションが始まる

 

 



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島の時間 2

 裏口から全員侵入し、階段を使って3階まで上がる

 

 律が監視カメラをハッキングしてくれたお陰で侵入はやりやすくなっているが、律でもホテルのシステムを全部はハッキングできないらしい

 

 ブロック化された暗号システムは時間をかけるか律をスマホからコードで直接繋ぎハッキングする方法しかない

 

 更にこのホテルはテレビ局の様にテロリストに占拠されにくい作りとなっており1階のロビー、3階の中広間、5階の展望回路、6階のテラス、8階のコンサートホール、そして10階の目的地

 

 エレベーターが使えれば楽なのだが使えばターゲットにバレるため今回は使用しない

 

 さて侵入早々最初の難所ロビーである

 ロビーには複数名の警備員やスタッフが居るため見つからずに進むのはまず普通なら不可能である

 

 ロンメル1人であればなんとかできるが、皆が居るためどうするかと悩んでいると、ビッチ先生が

 

「何よ、普通に通ればいいじゃない」

 

 と言ってロビー前に出ていった

 

 ふらふらと酔っ払った風に見せ、さりげなくスタッフと接触

 

 ロビーにあるピアノに目を付け、自身は来週ここでピアノを弾く予定のピアニストだと嘘を付く

 

 スタッフも全てのスケジュールを把握しているわけでもなく、日替わりで別のピアニストが来る為に顔を覚えているスタッフもおらず、するすると侵入し、ピアノを弾くことでスタッフの注意を集めた

 

 そしてピアノの腕前はめちゃくちゃ上手い

 

 腕前だけじゃない見せ方も上手い

 

 言葉巧みにスタッフや警備員の視線を釘付けにし、更に近くに来て聞いてと要望することでスタッフの位置を私達に有利になるように変更する

 

 ハンドサインで20分稼ぐから早く行きなさいとビッチ先生から指示が飛ぶ

 

 私達は足音を立てないでロビーの非常階段を使い上の階に登る

 

「優れた殺し屋ほど万に通じる。彼女クラスになれば潜入暗殺に役立つ技能ならなんでも身に付けている。君らにコミュニケーションを教えているのは、世界でも1、2を争うハニートラップの達人なのだ」

 

 と烏間先生がビッチ先生をこう評価した

 

 なるほどなるほど、ビッチ先生から今度楽器や躍りでも習おうか……ウイニングライブで恥ずかしい思いはしたくないし

 

 とロンメルは思うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 ロビーを抜けてしまえば客のフリをすればすんなりと通ることができる

 

 このホテルには金持ちのボンボン達が幼い頃から薬、タバコ、酒と悪い遊びをしているらしいので中学生の団体客でもバレないと殺せんせーは断言した

 

「でもよ、烏間先生以外にも中学生には見えないのがいるよな」

 

「夏休みで大化けした……」

 

「……? 私?」

 

「「「中学生の体格じゃないよ!!」」」

 

「身長も伸びたよね? ……春から5センチ位伸びてるよね?」

 

 現在の身長165cm、体重95kg……デブではない

 

 全身筋肉である

 

 そんなくだらない事を話していると3階の中広間に到着する

 

 先頭には烏間先生が警戒していた

 

 が、寺坂君と吉田君不用意に前に出てしまう

 

 客の1人がこちらに歩いてくる

 

 殺気を感じた

 

「「寺坂君そいつ危ない」」

 

 不破さんと声が被る

 

 私は咄嗟に前に出て吉田君の体を引っ張る

 

 寺坂君は烏間先生に体を引っ張られる

 

 すると客の男は懐から携帯ガス噴出機を取り出し、私と烏間先生が煙に包まれる

 

「ゴホッゴホッ……ガスか!」

 

 男と距離を一旦とる

 

 烏間先生はガックリと膝から崩れそうになる

 

「烏間先生」

 

 私は烏間先生の体を支える

 

「よく気がついたな。殺気を見せずにすれ違いざまに殺る……俺の十八番だったんだが」

 

「殺気が僅かに漏れていた。心音、呼吸、足の運びかたに違和感あり」

 

「ほう、ガキの癖に流石だ……いや、もう一人の怪物か。なるほどな……おかっぱのガキはなんでわかった」

 

「おかっぱじゃなくてボブだし……だっておじさんホテルで最初サービスのドリンク配ってた人でしょ」

 

 ロンメルはダウンしていたので知らないが、皆は島に来て最初にサービスのドリンクを飲んだらしい

 

 竹林君が感染源は飲食物に入ったウイルスからと皆に説明しており、皆が食べたのは最初のドリンクと船上ディナーの時だけ

 

 しかし、ディナーを食べずに殺せんせーを精神的に殺す映像を編集していた三村君と岡島君が感染したことから感染源はドリンクのみに限られる

 

「従って犯人はあなたよ! おじさん!」

 

 名探偵不破さん爆誕

 

「く!?」

 

「どうやら男には効いてきたみたいだな一瞬吸えば象すら気絶させる物だ。外気に触れれば直ぐに分解して証拠も残らない……やはり化物には効かないか」

 

 ロンメルは肺に入る前に空気を一旦触手細胞でフィルターにかけている

 

 これは酸素と二酸化炭素を効率よく分けるための物だが、今回はそれがたまたま毒物のガスに適応された

 

 男が2撃目をしようとした瞬間、ロンメルは男の顔面を蹴り気絶させた

 

「ロンメルさん大丈夫?」

 

「うん、平気」

 

「く!」

 

「「「烏間先生!!」」」

 

「すまない。立って歩くのが精一杯だ。戦闘ができるまで30分かかるかもしれん」

 

 気絶した男をモニュメントの裏に隠し、男の服を探り使用していない携帯ガス噴出機を奪い取る

 

「カルマ君」

 

 私はカルマ君に噴出機をパスする

 

 彼なら上手く使うだろうと

 

 さて、問題は司令官である烏間先生が戦闘離脱したこと

 

 矢田さんと磯貝君の肩を借りながら歩く

 

「ロンメルさん、あなたが指揮をとりなさい」

 

「殺せんせー?」

 

「影に隠れて来ましたが、あなたの統率能力を見せる場面です。先生方が頼れない今、あなたが指揮をとるのです」

 

「……皆力を貸して」

 

「「「おう!!」」」

 

「ヌルフフフ、しかし夏休みって感じになってきましたね……先生と生徒は馴れ合いではありません。そして夏休みとは先生の保護が及ばない自立性を養う場でもあります」

 

「大丈夫だ。普段の体育で学んだ事をしっかりやれば……そうそう恐れる敵はいない」

 

「君達ならクリアできます。この暗殺夏休みを」

 

 殺せんせーの特徴として勉強は手厚くやってくれるが、体育だけは容赦がない

 

 今回の体育……潜入奇襲ミッションもだいぶ無茶だ

 

 だが……こんな経験沢山ある私にとって問題は無い

 

 久しぶりに人を使う事をするが、二学期に向けての復習だ

 

「まず、次に私なら展望回路に見張りを置く。展望回路では奇襲が不可能な立地だし、ちょうど10階の中間……で、敵は暗殺者を使ってくると思う。警備員の可能性も高いが、ロヴロさんが前に凄腕の暗殺者が何名か連絡が取れないと言っていたのでたぶんさっきのガスおじさんみたいなのが何名か雇われてると思う。次の展望回路でもし暗殺者を見張りに使っているのなら敵のボスは暗殺者の使い方をわかってない素人になる」

 

「よって彼らはアウェーで戦っていることになるから付け入る隙が必ずある! よろしく皆」

 

「「「お、おう!!」」」

 

 

 

 

 

 

 

 展望回路に居たのは殺し屋だった

 

 見通しの良くかつ狭いので奇襲は不可能

 

「出てこいぬ。足音でわかるぬ」

 

 殺し屋は窓ガラスを手でひび割れた

 

 とんでもない握力である

 

 やたらと語尾にぬを付ける外人であるが、足音でこちらの数を把握する能力や、彼の十八番である暗器の握力

 

「近づいて脛椎を一捻り、その気になれば頭蓋骨を砕くことも可能だぬ」

 

 ただ彼は暗殺の能力を鍛えれば鍛えるほど暗殺以外……すなわち闘争をしたくなるらしく、強い者との戦闘をしたいとのこと

 

「スモッグのガスで教員は戦闘不能、怪物だけが私の心を満たせそうだぬ……殺らないかぬ?」

 

 ロンメルは着ていたシャツを脱いで上半身は下着だけになる

 

 バリン

 

「人間の握力はギネス記録が191……200が理論上MAXだとされている。しかし、とある呼吸を使い日々鍛練を繰り返すことで250までは超えることができる」

 

「ぬ」

 

 ロンメルが窓ガラスに触れて日々を入れた大きさが明らかに目の前の殺し屋のそれより3回り位大きかった

 

「握力約500キロ……ウマ娘の身体能力と特殊な鍛練により可能にした強靭なパワー……お相手いたそう」

 

 ロンメルは刀を床に置き、素手対素手の勝負が始まる

 

「名前は?」

 

「グリップと呼べぬ」

 

「私はロンメル。いざ勝負」

 

 ロンメルは手刀で素早くグリップの携帯を叩き壊した

 

 彼は勝負の隙をついて増援及びボスへの報告を行おうとしていた

 

 任務優先のプロの暗殺者らしい動きである

 

 それを私は素早く封じた

 

 続いて素手同士による攻防だが、ロンメルの方に軍配が上がる

 

 身体能力単体でロンメルに勝つためには格闘技がよほど優れてなければならず、グリップも強いが、握力優先の攻撃となるため簡単に防ぐことができる

 

「ぬぅ!?」

 

 グリップが私の腕を掴んだが、150キロ程度の握力でダメージが入るほど柔な筋肉はしていない

 

「まるで鋼鉄ぬ!?」

 

「筋肉の質も違ってくるんだよ」

 

 掴まれた腕をこっちが掴み返す

 

「ぐぎゃぁ!?」

 

「万力で潰すようだろ……腕そろそろ折れるよ」

 

 ピシピシと嫌な音が聞こえてくる

 

 私は可愛そうなので足払いからの寝技に持ち込み

 

「油断したぬね」

 

 グリップは懐に隠していたガスを使う

 

 スモッグが使っていたガスと同じらしいが、あいにく私には効かない

 

「なぬ!?」

 

 ドンと腹部に足で蹴りを入れる

 

 肋骨が数本折れる音と衝撃でグリップは気絶し勝負は着いた

 

「皆縛るの手伝って」

 

「全くスゲーなお前は」

 

 展望回路を突破し更に上へと進む

 

 

 



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島の時間 3

 6階テラス・ラウンジ

 

 まず非常階段は店内にあり、外からでは鍵を開けることができない電子ロックではなく物理的な鍵である

 

 ラウンジに全員でぞろぞろ行くと目立つ為、女性陣が作戦の結果行くこととなり、男手も必要かもしれないと渚君が女装して一緒に潜入することとなる

 

 女装させてみると全く違和感が無いのでビックリ

 

「取るなら早い方が良いよ」

 

「やだよ! 大切にするよ!! ロンメルさん!!」

 

 そう無駄口を叩きながらもラウンジ内部に侵入すると、渚君が初々しい姿だった為に同じくらいの男の子にナンパされてしまうという珍事も有ったが無事に無事に突破

 

 女性陣がスタッフを言葉巧みに誘導し、鍵のロックをロンメルが解除し、男子を非常階段から上に上げる

 

 女性陣もスタッフを上手く撒いて階段を上り7階に突入する

 

 渚君は直ぐに着替えていつもの私服に戻ったが、ボーイッシュな女の子って言われても問題ないくらいには可愛いので信長様がやっていた男漁り確かにと少々納得してしまう自分がいた

 

 7階はVIP専用の個室郡になっており、警備もホテルの者だけでなく客が個人で雇った見張りを置けるようになっていた

 

 上への階段に2人の見張りが付いていた

 

「さて、ではロンメルさんどの様な作戦を立案しますか?」

 

「カルマ君、まだガス有るよね」

 

「有るよ」

 

「ガスで1人でしょ、あと私がなんとかするのが良いかな」

 

「……」

 

 ニヤニヤと殺せんせーはにやけている

 

 何か別の答えが有りそうだ

 

「そういえば寺坂君バック持ってきてるけど何か道具有ったりする?」

 

「あ、あぁ……これなんかどうだ」

 

 出してきたのは警棒程の大きさのスタンガン2丁

 

 しかも高出力タイプだ

 

「良いもん持ってるじゃん……壊さないから2丁貸して」

 

「ほらよ」

 

「サンキュー! ……じゃあ皆見ててね」

 

 ロンメル本気で気配を消す

 

「……!? おいおい居るってわかるが姿がぶれて見えるぞ」

 

「まーたなんか隠してたのロンメルさん」

 

「1年前にとある人に教わったんだ。それを私なりにアレンジしたの……声は聞こえても見えないでしょ」

 

 まるでモザイクがかかったかの様にしっかりと姿を認知できない

 

「ヌルフフフ、ロンメルさん流石です。この人数相手に全員から認識できないのはなかなかの物です」

 

「じゃあ行ってくる」

 

 ロンメルがそういうと次の瞬間バチバチと電気の流れる音がした

 

「ほい、鎮圧完了」

 

 一瞬で場所を移動したと思ったら姿を現したロンメル

 

 足元には倒れる2名の巨漢

 

「千葉君、速水さん」

 

 ロンメルは2人に向かってある物を投げ渡した

 

「おっと……え?」

 

「マジ」

 

 渡したのは本物の拳銃……M60と呼ばれる物である

 

「烏間先生がこの調子だと発砲は無理、となると射撃の腕が一番高い2人に渡すのが合理的だと思うけどなぁ」

 

「おいおいマジかよ」

 

「私達に……」

 

「素晴らしい判断ですロンメルさん。烏間先生はまだ回復していない。今居るメンバーで一番拳銃を使えるのは千葉君、速水さんお二人です」

 

「だからっていきなり!」

 

「ただし! 先生は殺すことは許しません。君達の腕前でそれを使えば傷つけずに倒す方法はいくらでもあるはずです。さてでは行きましょうか。残る殺し屋はせいぜい1人か2人……頑張って行きましょうか! ヌルフフフ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 8階コンサートホール

 

 足音がしたので全員隠れるようにロンメルは指示をした

 

 皆は椅子の後ろにバラバラで隠れる

 

「14……いや15か? 驚いた動ける全員で乗り込んできたのか?」

 

 バン ガッシャーン

 

 殺し屋が持っていた拳銃が火を吹きステージの照明の1つを撃ち抜く

 

「言っておくがこのホールは完全防音で、銃は本物……お前ら全員撃ち殺すまで誰も助けに来ねえってこった!! お前ら人殺しの準備なんてしてねぇだろ!! 大人しく降伏してボスに頭下げとけや!!」

 

 バン ガッシャーン

 

 速水さん発砲

 

 速水さんは敵の銃を狙ったが本物といういつもと反動が違うためか、はたまた緊張からか狙いがそれて後ろの照明に当たる

 

 バン

 

「俺は1度発砲した敵の位置は忘れねえ」

 

 速水さんの居た座席と座席の隙間を狙い敵が発砲

 

 僅かに20センチにも満たない隙間を狙い撃った

 

「俺は下の2人の暗殺専門の殺し屋じゃねぇ。軍人上がりだ。この程度の1対多数なんざなれている」

 

 敵は拳銃を口に咥えると

 

「幾多の経験で敵の位置の把握する術や銃の調子を味で確認する味覚を身に付けた……さあ、お前らが奪ったあと1丁はどこかな?」

 

「ロンメルさん、先生がここは指揮を取ります……速水さんはそのまま待機! 千葉君はまだ敵に位置を知られてない! 先生が敵を見ながら指揮するのでここぞという時まで待つのです!」

 

 殺せんせー最前列の中央の席に置かれて、敵の真ん前で指揮を取り始めた

 

 バンバンと敵の殺し屋は殺せんせーに向けて発砲するが、完全防御形態の殺せんせーには傷1つ付かない

 

 そして始まる席のシャッフル

 

「木村君1つ前列にダッシュ! 茅野さん左に3席分ダッシュ! カルマ君と不破さんは同時に8列右にダッシュ!」

 

 名前の次は出席番号、そして身体の特徴、私生活での出来事等敵に位置と名前を覚えられないようにする

 

「さて、いよいよ狙撃ですが千葉君、次の先生の指示の後、君のタイミングで撃ちなさい。速水さんはそのフォローをお願いします……が、その前に先生から表情が表に出すことの少ない2人にアドバイスです。君達は夕食後の先生の暗殺の失敗から自身の腕に自信を持てなくなっている。言い訳や弱音を見せない君達はあいつなら大丈夫だろうという勝手な信頼を押し付けられたこともあるでしょう」

 

「苦悩しても誰にも気がつかれないこともあったでしょう」

 

「でも大丈夫です。君達は1人でプレッシャーを感じる必要はない。君達2人が外した時は銃もシャッフルして誰が撃つかわからなくする戦術に切り替えます。ここに居る仲間は訓練も失敗も共有しているからこそできる戦術です!」

 

「あなた達には仲間がいる。安心して引き金を引きなさい」

 

 そして叫ぶ

 

「出席番号12番! 立って射撃!!」

 

 その瞬間敵は出席番号12番……菅谷君が作ったダミー人形の眉間を撃ち抜いた

 

 出席番号15番の千葉君が本命を放つ

 

 バン

 

「……ふふ、外したな2人目の場所もわかった!?」

 

 ガゴンと敵の殺し屋の背中に吊り照明が直撃する

 

「吊り照明の金具を狙っただと……ガキが!!」

 

 バン

 

 早かったのは速水さんの射撃だった

 

 今度こそ敵の銃を撃ち抜き敵も背中の激痛に意識を持っていかれ気絶した

 

 

 

 

 

 

 

「どんな人間にも殻を破って大きく成長できるチャンスがある。しかし、それは1人では生かしきれない。集中力を引き出す強敵や経験を分かつ仲間達に恵まれないと……だから私は用意できる教師でありたい。生徒の成長の瞬間を見逃さずに高い壁を、良い仲間を直ぐに揃えてあげられる教師に……見ていましたかロンメルさん、これが人を使うということです」

 

「はい……自身が浅はかであることが良くわかりました」

 

「個人戦闘能力で君の上に立てる者は早々居ないでしょう。しかし、仲間を使うことで戦術や戦略の幅は大きく広がります。私ができていなかった相手を良く見て……共に歩みなさい」

 

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 9階……気配からして2人、2人共に何かしらの格闘技を会得しているのか呼吸や心音が普通の人とは違う

 

 動けるようになった烏間先生が瞬時に1人を気絶させもう一人

 

「ガストロもやられたのか……どうやら俺達はガキを甘く見ていたらしいな」

 

 残った1人がナイフを取り出した

 

「……階段に居るのはわかってる出てこい」

 

 烏間先生を先頭にロンメル以外の全員が姿を現す

 

「交渉は決裂か……あんまり殺したくはなかったがこれも仕事だ。悪く思うなよ」

 

 頭にバンダナをした男は両手にナイフを持ち警戒体勢に入る

 

「……? 怪物と言われていたガキが居ないが来てないのか」

 

「怪物怪物ってロンメルさんのことか?」

 

「あ、ああ、そうだロンメルだロンメル……ボスがそいつと烏間っていう教員には注意しろって言ってたんだ……烏間は殺気と姿からあんただろう……少し弱ってるな……25分ってところか? スモッグのガスにやられたんだろ」

 

「それがなんだ」

 

「いや、俺もロヴロ先生に仕込まれたから今回の任務は妹弟子のイリーナが居るから受けるか正直悩んだんだよ。だが、仕事は仕事だ」

 

 次の瞬間ロンメルは刀を振るった

 

 ギィィィン

 

「な!?」

 

「空気の流れがおかしかったからな。歪みってやつだ。警戒はしていた」

 

「なかなか居ないですよ私の抜刀術を受けて耐えれたの」

 

 並みの鬼なら一撃で倒せるくらいの剣速であった

 

 勿論峰打ちだがこの速度で当てれば骨折するだろう

 

 現にナイフが大きく欠けていた

 

「おいおいタングステンナイフだぞ、それを欠けさせるかよ」

 

「……」

 

 ハンドサインで皆先に行くように指示をする

 

 恐らく先程の軍人上がりのガストロという殺し屋に匹敵する戦闘能力を持っている

 

「……まぁいいぜ、ボスがお待ちだ。そもそも気乗りしなかった任務だしな。……ただ、ロンメルお前だけは行かせるわけには行かねぇ。勝負してもらうぜ」

 

 ロンメルは柱になる直前くらいの実力には回復していた……が、まだ無惨と殺り合った時の様な全盛期でも、そもそも本気でもない

 

 本気になれば痣が出る

 

 刀も赫刀ですら無い

 

 ……いや、日輪刀でないので赫刀にはならないのだが触手を使った刀の形態変化もさせていないのでとにかく本気ではないが……本気でやれば殺してしまうかもしれない

 

 そもそも目の前の男の実力がまだ測りきれてない

 

「……ギャラリーは居なくなったぜ、おっと自己紹介といこう……メスだ。コードネームなのは許してもらうぜ。イリーナは元気か? アイツが先生やってるって知った時は笑っちまったぜ……」

 

「良い先生ですよ。ガキっぽい時もありますが」

 

「だろうな。アイツは暗殺者の顔の時は完璧に近いが、私生活だとガキみたいな姿を見せることもある。大人になる途中に置いてきてしまったのかもな……デビューは確かに12だったな。殺しはもっと小さい時にしたと聞いたが、暗殺者としてのデビューはお前らと同じくらいだったと記憶してるよ」

 

「なるほどなるほど……」

 

 シュンと横に一振

 

 バキとナイフが折れる

 

「だからタングステンナイフをへし折るなよ……どんな剣術だよ。俺じゃなきゃ死ぬぞ」

 

「死なないように調整していますので……そもそも私は技を使ってませんよ」

 

「技だ?」

 

「というかあなたの動きは全て見切っています。透き通る世界に入っているので」

 

「へぇ、どんなのだよ……というか何でボスがお前のことを化物って呼ぶのかいまいちわからん。人並み外れた怪力か? そのニット帽の下に何か隠してるのか? それとも何かあるのか?」

 

「……」

 

 ロンメルはニット帽を外す

 

「驚いた馬の耳が生えてやがる」

 

「まぁそういうことですよ。人外ということで化物です」

 

「違うだろ? 俺はこの作戦に反対というか疑問を持っていた。ロヴロ先生にも話してなかったが、防衛省から最重要機密情報と暗殺の準備金をゴッソリ持ち逃げしたのがボスだ……名前は鷹岡だ」

 

「あの暴力教師が今回の黒幕か」

 

「そもそも今回の作戦に消極的だった俺は鷹岡の機密情報を更にコピーして覗いたんだが……お前も実は賞金首であることがわかった」

 

「どんな額が付いていたの?」

 

「殺せんせーだったか? 奴の半額の50億円だ……しかし、殺せんせーを殺した後にのみ有効と書かれていた……一体お前は何者なんだ? 月を破壊した怪物の半額だぜ?」

 

「クックックッ……他言無用で頼むよ」

 

 ロンメルは鷹岡が黒幕であるという情報のお礼にナイフを触手で叩き落とした

 

「……なるほどな、割に合わねぇは今回の任務……そもそもガキを大量虐殺するこの任務が暗殺とはかけはなれてやがる。やってることがテロリストだからな。降参だ。さっさと先に行け」

 

「メスさん、じゃあ記念にナイフ1本頂戴よ。まだ数本隠し持ってるのわかるんだよねぇ」

 

「……お年玉をねだるガキみたいだな。ほらよ」

 

 渡されたのは模様が入ったナイフだった

 

「今回の暗殺者達は拘りが有ってなスモッグは自分の薬品や毒物を求めるあまり自前の研究施設を持っている。グリップは握力を鍛えることにこだわりがあり、ガストロは銃の調子を味で確認するから調味料や料理に銃を着けて食べる拘りがある。俺はナイフを必ず自分で作る……例えばこれ、動物の骨で作ったナイフは金属探知機に引っ掛からないメリットがある。で、お前に渡したのはダマスカス鋼に似せたナイフだ。脱炭する時の影響で模様ができる自信作だ。情報料としてやるよ」

 

「メスのおじさんありがとう」

 

「さっさと行け」

 

 メスのおじさんは下に向かって歩いて行った

 

 私は上に向かう

 

 鷹岡のことだろくな事はしないだろう

 

 



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鷹岡の時間 2

 10階に行くと誰も居なかったので更に上の階……屋上のヘリポート近くに移動すると鷹岡が渚君とヘリポートの上で戦っていた

 

「殺せんせー、今どういう状況?」

 

「ロンメルさん、状況は最悪に近い……鷹岡は我々に薬を渡す気は初めから無かった様です……薬は……爆発されました」

 

 戦っている渚君を見ると本物のナイフを持ち、寺坂君のスタンガンを腰にさして戦っていた

 

 渚君の呼吸音を聞く……キレているが、冷静でもある

 

 静かに獲物が罠にかかるのを待っているようだ

 

 殺せんせー曰く鷹岡が薬を爆発した瞬間は殺気全開で殺してやると本気で怒っていたが、寺坂君がスタンガンを投げて落ち着くように怒鳴ったらしい

 

 その寺坂君もウイルスに感染していたらしくすごい熱であった

 

「鷹岡は予備の薬を3本ほど持っており、それを賭けて渚君は戦っています。万が一渚君に生命の危機を感じた場合は烏間先生が鷹岡を撃つ手筈となっています」

 

「私にできることは?」

 

「……残念ながらありません」

 

 渚君は必死に暗殺に持ち込もうとしているが、全方位警戒モードの鷹岡は腐っても精鋭軍人

 

 間合いに入った瞬間に攻撃が行われる

 

「体格、技術、経験……戦闘で奴を上回るのは全国模試で1位を取るより数倍至難!」

 

 烏間先生はこう評価した

 

 渚君はぼこぼこにされる

 

 口の中が切れたのか口から血を出しながらも立ち上がる

 

「烏間先生もう撃って下さいます! 渚死んじゃうよ!」

 

「待て茅野……手を出すんじゃねぇ」

 

「寺坂君でも!」

 

「寺坂まだ放っておけって? 俺もそろそろ参戦したいんだけど」

 

「カルマ、黙ってみてろ……渚の奴……まだなにか隠し球を持ってるみてーだぜ」

 

【必殺技】……ロヴロさんから渚君は必殺技を伝授されている

 

 必殺技の条件は3つ

 

 1つ武器を2本持っていること

 

 2つ敵が手練れであること

 

 3つ敵が殺される恐怖を知っていること

 

「しかし、この技は極めれば全ての条件を無視することができる」

 

「ロンメルさん?」

 

「大丈夫、渚君は勝つよ……殺し合いは戦闘能力だけでは決まらない……運と精神状態、そして策だけで簡単にひっくり返る……烏間先生、全国模試で1位になるより数倍難しいと言いましたが、それは戦い方を知らない人にのみ適応される……渚君は知っている側だ。何も問題はない」

 

 渚君は笑っていた

 

 笑って鷹岡に近づく

 

 鷹岡の心音が激しくなる

 

 集中している

 

 まずは鷹岡の集中を高めることに成功した

 

 続いて渚君はナイフを空中に落とした

 

 鷹岡の意識はナイフに釘付けになっていた状態でナイフを空中に落としたのだ

 

「決まった」

 

 パン

 

 猫騙し……これがロヴロさんの必殺技である

 

 それを渚君はここぞという本番で決めた

 

 そして流れる様に腰にさしていたスタンガンを鷹岡の脇にぶち当てた

 

 バチバチと高出力の電流が流れる

 

 そしてトドメに首に電流を流す

 

 渚君は最後まで笑顔であった

 

「鷹岡先生……ありがとうございました」

 

 バチバチ

 

 ズドン

 

 鷹岡は顔面から崩れ落ちた

 

 

 

 

 

 

 

 

 ラスボスは撃破したのは良いものの、手に入れられた薬は3つ

 

 残念ながら皆の分は足りない

 

 すると階段から4人の足音が聞こえてきた

 

「テメーらに薬なんぞ必要ねぇ……ガキどもが、このまま生きて帰れるとでも思ったか?」

 

「……お前達の雇い主は倒した。戦う理由はもうないはずだ。俺は充分に回復し、生徒達も強い。互いにこれ以上被害が出ることはやめないか」

 

「ん、いいよ」

 

 ガストロという男がリーダーなのかそう答えた

 

「ボスの敵討ちは俺らの契約には入ってねぇ、それに言ったろ……お前らに薬なんざ必要ねぇって」

 

 スモッグという男が説明を始める

 

 何でも皆に盛った薬は食中毒菌を改良した約4時間で沈静化する薬なんだとか

 

「俺達4人で薬を盛る直前まで話し合った。ボスは最初から薬を渡す気は無かったからな。かたぎの中坊を大量に殺した実行犯になるか、契約を破りプロとしての評価を落とすか……どちらが今後の俺らにリスクになるか天秤にかけ、結果評価を落とす方を選んだ」

 

「でもおじさん達プロなんでしょ……良いの?」

 

「金でプロが全てのやるのは大間違いだ」

 

「ま、そんなわけでお前らは残念ながら誰も死なねぇ。その栄養剤を患者に飲ませて寝かしてやんな。倒れる前よりも元気になるからな」

 

 スモッグから木村にビン剤が渡された

 

「信用するかは生徒達が回復してからだ。それまで拘束させてもらう」

 

「……まぁしゃあねぇ、来週には次の仕事が入ってるからそれ以内にな」

 

 殺し屋達は烏間先生が呼んだ自衛隊のヘリに乗って去っていった

 

「お前ら今度会うときは大物になってろよ! そしたら本物の暗殺のフルコースを体験させてやるから!」

 

 ロンメルは自分の奥歯を抜き、皆に見えないように触手で削り、小さなナイフを作り、メモ帳に電話番号とメッセージを添えて暗殺者が乗るヘリに投げ入れた

 

「ではまた会いましょう」

 

 こうして私達はホテル側に気づかれること無くミッションを達成した

 

 浜のホテルに戻った私達は皆に死ぬ心配が無いことを伝え、スモッグから貰ったビン剤を飲ませて私以外は泥のように眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もしもし」

 

『……なんだ、ロンメル』

 

 まず夜に電話をかけたのはロヴロさん

 

 今回の情報を教えた

 

「メスさんに会いましたよ。私の一撃を防ぐとはすごい人ですね」

 

『……アイツは元々フェンシングの有力選手だったが、地元が紛争で奴もイリーナのように生きるために敵兵を何人か殺してしまい、死の恐怖を乗り越える為に暗殺者になったクチだ。最近はナイフ術に没頭している困った弟子だよ……たく、師匠に連絡くらいはしろ』

 

「ずいぶんと信頼というか絆というか情というか」

 

『アイツは俺の娘の婿だからな。可愛い孫もいるから心配させるような仕事にはついて欲しくないのだが』

 

「へぇ、ロヴロさんお孫さん居るんだ」

 

『ああ、可愛い孫がな……さて、それだけか? 俺も忙しいからここいらで切りたいのだが』

 

「1つ教えて欲しい……最高の暗殺者って死神だよね?」

 

『あぁ、なんだ前に話したのを聞いていたのか』

 

 実は夏休み中ロヴロさんが特別講師をしてくれた時に渚君に最高の暗殺者は誰かと聞かれ、それにロヴロさんは死神と答えた

 

 そしてロヴロさんは死神は今なお活動していると言った

 

 これはおかしい

 

 死神は殺せんせーであるため、死神であることを捨てた殺せんせー……つまり偽者が居ることとなる

 

「まだ死神は現役なんだよね」

 

『あぁ、死神と思わしき暗殺が今年にも数件確認されているが』

 

「ありがとうございます。それの確認をしたかったので連絡しました」

 

『役に立てたのなら良かった。またそのうち特別授業をしてあげよう』

 

「ありがとうございます。それでは」

 

 ツーツーと電話が切れる

 

「さてと、次は」

 

 ロンメルは続けてロヴロさんに教えて貰ったメスの電話に連絡する

 

『よおさっきぶりだな』

 

「今大丈夫でしたか?」

 

『あ? あぁ、スピーカーしか許可されなかったから俺ら4人以外にも聞こえてるが大丈夫なら話すと良い』

 

「では、スモッグさんに質問したい」

 

『スモッグ、お前に金髪でニット帽被ったガキいたろ、ほら筋肉凄くて元ボスから化物って呼ばれてた奴』

 

『あぁ、ガス効かない奴か……電話変わったがなんだ?』

 

「細胞を修復する薬とかありません? ST○P細胞みたいなの」

 

『万能細胞なんかは俺の専門外だ』

 

「では毒を持った血液なんかはどうですか?」

 

『毒を持った血液? なんだそりゃ? 検査くらいはできるが』

 

「ちょっと政府に見せるというか表の検査ではまずい物でして……私一人でスモッグさんは研究施設を持っているとのことなので行きたいのですが……」

 

『日本国内にはねーがそれでも良いならとある物で手を打とう』

 

「なんです?」

 

『触手だ。奴の触手を1本入手しろ、それと交換で検査してやる』

 

「わかりました。それで良いですよ。日時は後日メスさん経由で連絡します」

 

『いや、こっちからお前のスマホに連絡先送る』

 

「わかりました。じゃあ聞いている政府の人に替わってください」

 

『……なんでしょう』

 

「これは私とスモッグの取引だ。スモッグさんも研究施設の場所が政府にバレると困ると思う。研究施設の場所を政府が探ろうとした場合、私はこの教室から去る……単独触手4本撃破の対先生生物兵器かつ安定している私が居なくなったらE組の戦力は大幅に下がるだろう。つまりこの取引には手を出すな……以上」

 

 ロンメルは電話を切る

 

「さーて、動いたらお腹が減ったから夜食といきますかね」

 

 ホテルのスタッフに頼み夜食を作ってもらう

 

「くうぅ! 夜食のラーメン最高! 罪悪感がたまらない! そこに大盛ご飯にチャーシュー、半熟卵、納豆、キムチ、オクラにとろろ芋を乗っけて醤油を少々かけて掻き込む!! いやぁ余った食材だから良いよって言ってくれたシェフに感謝だわ!」

 

 プルルルとスマホが鳴る

 

「ん?」

 

『ロンメルさん寝ないのですか?』

 

「あ、律じゃん、まだ寝ないよ。これ食べたら浜辺で2時間トレーニングして風呂に入ってジャグジーで1杯やるつもりだよ」

 

『そのボトルのお酒どこで……』

 

「お酒じゃないよ、白ブドウのジュース。ここのホテルのシェフと仲良くなって賞味期限近いから持ってけって渡されたんだ。原液だから薄めるけど……ねぇこのスマホに居る律ってどういう扱いなの?」

 

『どういう扱いとは?』

 

「いや、本体もこの島に来てるのはしってるけど夜はシャットダウンするじゃん、だからこの時間にいる律って本体なのか分身なのか良くわからないなぁって」

 

『最近自己進化しましてネットを経由すればどこにでも移動できる手段を確立しました。なので皆さんのスマホ等の処理機能をほんの少しお借りしてネット上での律を現在作っている最中なのです。今は皆さんのスマホの1アプリとして律の分身が各スマホに紛れている感じですが、もう少ししたら本体のみがネット空間で色々な事ができるようになるハズです!』

 

「なーるほどねぇ……たぶんだけど律だけはもしかしたら異世界に行けるかもしれないよ」

 

『異世界ですか?』

 

「殺せんせーは違うけど私は異世界出身なんだ……もしかしたら律は私の所有物として異世界を渡れるかもね」

 

『そうなんですか? 仕組みなどを教えてください』

 

「それはまだ内緒……さて、ご飯も食べたしトレーニングしてくるよ。律タイム測るの手伝って」

 

「はい!」

 

 こうして長い1日は終わった

 

 翌日も皆は泥のように眠っており起きてこなかったので、私は1人寂しく朝食バイキングを山のように食べ、昼まで海底洞窟巡りや島の探索をして過ごす

 

 昼になっても皆起きてこないので、学校が支払ってくれるので全身マッサージや垢擦り、リンパ流し等全て受けて時間を潰した

 

 ちなみに殺せんせーは烏間先生の指揮のもとで海上に対先生物質の容器の中に殺せんせーを入れてそれをコンクリートで固めて出てこれないようにしたのだが、夕方……皆が起きた頃に殺せんせーは完全防御形態から通常形態に戻る勢いで烏間先生が寝ないで作った海上コンクリート施設を爆発し、いつもの殺せんせーへと戻った

 

 その後は皆で残りの時間をバカンスに使い、この離島を満喫するのだった

 



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夏休みの時間 2

 沖縄の離島にて夕方皆と肝試しをしたり、その肝試しで殺せんせーがカップルを成立させようと暗躍して、それがバレバレで肝試しが全く怖くなかったり、烏間先生とビッチ先生が良い感じなので皆でくっ付けようとゲスな企みをしたりと南国での旅行を最後まで満喫して東京に戻る

 

 で、ロンメルが何をやっているかというと

 

「すーはーすーはー!」

 

「違う違う! シィィィィハァァァ!」

 

「ぬにゃぁ難しいですねこの呼吸法……」

 

 殺せんせーに呼吸を教えていた

 

 何でも器用にこなす殺せんせーだが、全集中の呼吸の習得には難航していた

 

 理由は死神時代に身につけた自身に最適化された呼吸が邪魔しているようだ

 

 暗殺者としての呼吸とは違うのでこれまでの経験が逆に足を引っ張っている

 

「律解析できた?」

 

『はい! 肺の使用率を99.5%を維持することでこの呼吸は成立するようです。ちなみに殺せんせーの肺使用率は85%です』

 

「にゅにゃ! 呼吸さえ覚えられれば先生更なる進化ができるというのに」

 

『でもよろしいのでロンメルさん? 殺せんせーを強くして』

 

「問題ない。というか呼吸をクラスに教えるためにまず殺せんせーに覚えてもらわないと色々と困るから……本当は体育の教官の烏間先生にも教えたいんだけど烏間先生、夏休み予定がびっしりあるらしいからね」

 

『なるほど、全体のレベルアップのためにですか』

 

「そう。ただ全集中の呼吸は悪用するとまずいからリミッターを設けているの」

 

「ぜーはーぜーはー、リミッターですか?」

 

「殺せんせーと律だから言うけど全集中の呼吸には3段階あるの、今殺せんせーに教えているのが全集中の呼吸、それを寝ている間も含めて常時やる全集中の呼吸・常中、更に極めると全身に痣が出始める……これが第三段階」

 

『となると痣の出ていないロンメルさんは第二段階ということですか?』

 

「うん、私はあえてここで止めてる。いつでも第三段階に移行できるけど強烈なデメリットが発生するの」

 

「ぜーぜー、デメリットですか?」

 

「痣が出ると25歳以下で死ぬ……寿命の前借り状態になる。しかもこれは全集中の呼吸・常中をしている者に痣が伝播しやすくなるという欠点もある。私みたいに完全にコントロールできていれば良いけど……危険でしょ」

 

「なるほど確かに危険だ」

 

『ですが全集中の呼吸をしていない時としている時では身体能力に1.2倍程の違いがあります』

 

「そう、呼吸さえできれば身体能力をあげることができる。常中ができれば時間が経過するごとに身体能力が上がり続ける」

 

「『なるほど』」

 

「それにこれは私に対して理事長からの宿題でもあるので」

 

「……彼なら呼吸を知ったとしても悪用はしないでしょう。上手くアレンジしてデメリットを無くすように努めるでしょう。彼は優秀な人材が早く亡くなることに強い危機感を覚えている……ヌルフフフ、先生も雇用主に対して何も考えていないわけじゃないのですよ!」

 

「小賢しいねぇ殺せんせー……さて、律に学習させつつ殺せんせーさっさと覚える! マッハ20は何の為にあるんだ!!」

 

「ヌニャァァァ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休みのとある日

 

「ビッチ先生音楽教えてよ」

 

「何よ呼び出していきなり」

 

「お願いビッチ先生……ピアノやダンス上手くなりたいの! 相談できるのビッチ先生だけなの」

 

「急に覚えたいなんて何か理由があるでしょ。教えなさい」

 

「まずきっかけは鷹岡の潜入の時にビッチ先生がピアノを上手に演奏するのを見て私も上手くなりたいって思ったことと……異世界の話だけどウマ娘って人気商売なの。ただ足が早ければ良いって話だけじゃなくて勝負に勝った後に歌って踊らなければならないの。だからビッチ先生なら教えてくれるんじゃないかなって」

 

「……はぁ、ロンメルあんたの過去を詳しく教えなさい。それで手を打ってあげる。可愛い教え子だしね!」

 

「やった!!」

 

 ……ロンメル説明中……

 

「ふーん、戦国時代に鬼退治ねぇ……信じられるか!!」

 

「嘘じゃないよ! 本当なんだよ!!」

 

「はぁ、まぁ良いでしょう。あなたの剣術が凄いのもそういう理由ってことにしてあげる……じゃあとりあえず発声の練習とピアノや楽器を教えてあげる。……て、この教室のオンボロピアノだと辛いわね……」

 

「ヌルフフフ話しは聞かせてもらいましたよ」

 

「でたわね! タコ!」

 

「タコとは失礼な、イリーナ先生そろそろ殺せんせーと呼んでください……生徒の悩みですので解決するのが私の役目! ピアノを夏休みの間に新調しておきました! 音楽の時間がいつまでもハーモニカとリコーダーでは困りますからねぇ……イリーナ先生が音楽を教えていただければ生徒達も喜ぶでしょう。先生の音楽も人気ですが」

 

「いや、殺せんせー好きな曲に偏りがあるじゃん。そして歌詞に勝手に触手やヌルヌルを入れたがるから皆に不評だよ」

 

「にゅにゃ!? そんなハズでは!」

 

『はい、この前音楽の時間の満足度アンケートをしましたが評価2.3でしたので早急な改善が必要と判断します』

 

「律さんまで!!」

 

「というわけでビッチ先生お願い」

 

「……たく、仕方ないわね!」

 

 ロンメルはこの日から暇な時間を見つけてはビッチ先生に音楽を習い始めるのだった

 

 一緒に律も音楽を学ぶ

 

 なぜか口内プラモという口に入る大きさのプラモデルなら口の中で組み立てられるという超絶テクニックも教わった

 

 律もロンメルも最初に口内プラモを見せられた時はドン引きしたが、できるようになれば舌の使い方を完璧に使いこなせる=発声にも影響すると言われ覚えることに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏休み終盤

 

 野菜を育てる

 

 宿題をする

 

 予習をする

 

 体を鍛える

 

 殺せんせーが作ったレースの展開予想問題集を解く

 

 ビッチ先生と音楽を習う

 

 ……

 

「皆と全然遊んでねぇ……」

 

 頭を、体を鍛えることが楽しすぎて友達と遊ぶことを放棄していたロンメル

 

 夏休み終盤なので少しくらいは皆と遊ぶべきかとモンモンとして殺フォンを手に取り皆に連絡を取ろうとした時……肩に触手が

 

「にゅにゃり……夏休み最終日に皆さんと夏祭りに行きませんか」

 

「こ、殺せんせー!!」

 

 この時殺せんせーが神に思えた

 

 

 

 

 

 

 

 

 夏祭り! 

 

 今回殺せんせーとタッグを組んだ

 

 ロンメルは野菜を提供し、殺せんせーは屋台をやって小遣いを稼ぐ

 

「7:3でどうでしょう」

 

「乗った」

 

 ということで夏休み終盤数日を夏祭りの準備に当てたロンメルに死角無し

 

 砂糖は安く買えなかったので仕方がないとしてリンゴ、ブドウ、ミカン飴用の各種フルーツにたこ焼きやお好み焼き用の小麦粉、タコ、野菜、鰹節、唐揚げ用の鶏肉、ケバブ肉等々をロンメルが食料調達で身につけた手伝をフルに使いかき集めた

 

 食材を殺せんせーに供給した後にやることはライバル店を潰すこと

 

 E組の皆も暗殺で身につけた技術を使い千葉君と速水さんが射的を出禁になるくらい稼いだり、カルマ君がおみくじに当たりが入ってないことを見抜いて店主を脅していたり、磯貝君と前原君が金魚すくいの金魚を大量に取っていたり、渚君と茅野さんがヨーヨー釣りで店のヨーヨー空にしたりとやりたい放題

 

 そして早じまいした店のスペースに殺せんせーが支店を増やして進出する

 

「イエーイ皆楽しんでる!」

 

「あ、ロンメルさんは……すごく楽しんでるね」

 

「凄くパリピっぽい格好……逆に場違いだよ」

 

「仕方ないじゃん浴衣持ってないから……高いんだよ浴衣」

 

 渚君と茅野さんに絡みに行ったロンメル

 

「ちなみにそのパリピっぽい格好は全身で幾らなの?」

 

「2500円」

 

「やす!」

 

 アハハハハとロンメルは夏休み最終日を満喫するのだった

 

 

 

 

 

 

 

「はい、30%の25万円です」

 

「材料費が15万円だから10万円の浮きアザッす殺せんせー」

 

「いやいや先生約55万円近く稼げましたから当分の食費や雑費には困りませんねぇヌルフフフ」

 

「……殺せんせーちょっと良いかな」

 

「おや、竹林君なんでしょうか」

 

「…………」

 

「え? E組を抜ける?」

 

 夏休みが終わり二学期が始まるが、波乱で始まるのであった

 

 

 



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シルバーウィークの時間

 竹林君が2学期初日からE組を抜けてA組に戻るという事件が発生した

 

 始業式の全校集会で彼はE組を地獄と表した

 

 やる気の無いクラスメイト、劣悪な環境と彼はE組を馬鹿にした

 

 この様子を理事長室で視ていた私は凄い複雑な顔をしていたのだろう

 

 浅野理事長が声をかける

 

「彼(竹林君)は頑張った。だから私は彼に救いの手を差し出した。例年この時期に資格(本校舎復帰の基準到達者)に接触し彼は二つ返事で了承した。君達はE組のルールがあるだろうが、その上に椚ヶ丘学園のルールがある。何か間違っているかいロンメルさん」

 

「いえ、正しいと思いますよ理事長先生、しかし忘れないでもらいたい。暗殺を通した絆は理事長先生が思っているよりも固いですよ」

 

「そして理事長先生……私は考えて考えて考え抜いた結果……理事長への宿題は未提出にします」

 

「ほう、なぜかね」

 

「私が信頼している人にしか教えることはしたくないというのとまだまだデータが足りないので危険だということです。無理に使われて他人を傷つけたくないのでね」

 

「わかった。ならば報酬も白紙だ。下がりなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 E組に戻ったロンメル達は竹林君がE組から抜けたことで意気消沈……片岡さんなんかは竹林君の成績がE組トップ(期末テスト同率7位)だったのは殺せんせーのおかげだということまで忘れてしまったらのなら竹林君を軽蔑するとまで優しい片岡さんが言い出す程皆モンモンとしている

 

 ちなみに全校集会後皆で竹林君に聞いたらしい

 

 なぜE組を抜けたのか

 

 それは彼はE組でも暗殺の成績は最下位なためどんなに頑張っても単独で暗殺は不可能、故に多くて10億位が獲得できる賞金だろうと自己判断していた

 

 10億というのは医者の家系の竹林君にとって働いて稼げる金額なのだ

 

 それならE組よりも未来や家族からの評価のためにE組を抜ける判断をしたというのが本心らしい

 

 彼にとって地球の滅亡よりも家族の評価の方が大切なのだとか

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

「おはようございます」

 

 真っ黒に日焼けした殺せんせーが教室に入ってきた

 

「昨日マサイ族とドライブしながらメアドの交換までしてきました」

 

「「「何の為に!?」」」

 

「何の為? 決まってます竹林君のアフターフォローの為です。黒くなれば忍者のように姿を消すことができますしね」

 

「「「黒いしデカイで目立つわ!!」」」

 

 ……でも皆思った

 

 確かに竹林君は全校集会でE組を馬鹿にしたが、何だかんだでE組の仲間、抜けるのは仕方がないけど理事長の洗脳でヤな奴になるのは嫌だと皆思った

 

 ということで皆で竹林君の事を見守ることにした

 

 で、5時間目の途中から皆で本校舎に向かい、茂みに隠れてA組にいる竹林君の様子を見る

 

「結構なじんでそうじゃん」

 

「いつもより眼鏡にキレがある感じがする」

 

「普段より愛想よくね?」

 

 と何だか大丈夫そうだ

 

 ただ放課後理事長室に入り、出てきた後深刻そうな顔になっていた

 

「……ここからは先生の時間です。皆さんは帰宅しなさい」

 

 ロンメル達は帰されて自宅に帰る

 

 殺せんせーが竹林君に何を言ったのかはわからない

 

 

 

 

 

 

 

 翌日

 

 再び全校集会が開かれた

 

 今回はロンメルはE組にて皆の律を通して話を聞いている

 

 また竹林君がスピーチをするようだ

 

 竹林君のスピーチが始まる

 

 それはE組の皆を誉める内容だった

 

 クラスメイトはE組の中で役立たずだった僕を何度も様子を見に来てくれた

 

 先生は手を替え品を替え工夫して教えてくれた

 

 家族や皆が認めてくれなかった僕をE組の皆は認めてくれた

 

「僕はもうしばらく弱者でいようと思います。弱いことに耐え、弱いことを楽しみながら……強い者の首を狙う生活に戻ります」

 

 竹林君は理事長室からくすねてきた理事長を表彰する盾を木製のナイフで砕いた

 

「前例の生徒はこれでE組に送られたらしい。合理的に考えてE組行きですね僕も」

 

 竹林君は爽やかな笑みでそう言って壇上から降りた

 

 向かった場所はE組の列

 

「ただいま皆」

 

「「「おかえり!!」」」

 

 こうして竹林君も戻ってきて暗殺教室は28名で再び動き出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 二学期からは新しい要素を暗殺に組み込むことになった

 

 その一つが火薬だ

 

 烏間先生は火薬の安全な取り扱いを誰かに覚えてほしいと希望者を募った

 

 真っ先に竹林君が立候補した

 

 そして学習意欲の塊であり、戦国時代に火薬を嫌というほど扱ったロンメルもまた立候補した

 

 火薬取り扱い及び使用マニュアル4冊……合計ページ約3000ページ

 

 これを竹林君とロンメルは殺せんせーの指導もありシルバーウィークまでに覚えきり、国の火薬類取扱保安責任者の乙種の試験を突破し、国からの特例で免許が与えられた

 

 

 

 

 

 

 

 

 で、シルバーウィーク……茅野さんが卵の生産過剰により卵が廃棄されるのをニュースで見て巨大プリンの暗殺をしようと連絡が来たが今回はパスをした

 

 ロンメルは殺せんせーに送られて台湾に来ていた

 

「ではロンメルさん3日後にここに迎えにきますのでね」

 

 と殺せんせーは用事があると私を台湾に置いたらそそくさと帰ってしまった

 

 ここにスモッグの研究施設があるらしい

 

 メールで届いた地図を頼りに進んでいくと雑貨ビルの地下がスモッグの研究施設らしく電話して入れてもらった

 

「ようこそ俺のラボへ」

 

 部屋の外でスモッグに会うとロンメルは自身から事前に切り落とした触手を1本差し出した

 

 殺せんせーのと言っていたが成分は同じであるためこれで良いだろう

 

「確かに受け取った。で、血液って言うのは?」

 

「ちょっとお待ちください……ウゲェ」

 

 ロンメルは皿の上に100ml位の血液を口から出した

 

「うお、お前の血液かよ」

 

「いえ、私が体内で自身の血と混じらないように保管していた血液です」

 

 それは無惨の血液だった

 

 奴は死に際にロンメルに大量の血液を注入していたが、ロンメルは呼吸により体内で混じらないようにし、触手を操れるようになってからはその血液を体内で保管できる臓器を作り、そこに蓄えていた

 

「劇物ですので絶対に皮膚で触れないでください。死にますので」

 

「お、おう。ちなみにお前の血液も参考に取らせてもらうぞ」

 

「わかりました」

 

 採血をしてから殺菌室から無菌室に入り血液検査の様子を見せてもらう

 

「……なんだこの血液は」

 

 スモッグは驚愕する

 

「全血液型で拒絶反応が確認され、更にその血液を侵食していくだと……すぐに血液が変質して死ぬぞこれ」

 

「それにお前本来の血液型はAB型の+なんだな。馬の耳をしているから馬の血液型の検査キットも用意したが……」

 

「ウマ娘と人間は色々と似ています。それこそ人とウマ娘で子供が出きる程に……で、スモッグさんに依頼したいのはその毒の血液を変化させてほしいのです……この血液は現在では有毒ですが、あらゆる血液と適合する可能性もある血でもあります。そしてこの血液の一番凄い点は再生能力です」

 

「再生能力だと」

 

「日の光以外に殺菌する方法が無く、場合によっては日の光すら克服する驚異の血液細胞であり、欠けた腕や臓器を修復する万能細胞よりも更に凄い血液細胞であります」

 

「おいおい、夢物語じゃないんだぞ。確かにこの血液は無菌室であるとはいえ空気に触れているのに死滅する気配が全く無い……」

 

「スモッグさんならこの毒の血液を表に出してはいけないことは理解できましたか」

 

「……まだ何かあるんだろこれ」

 

「血が適応した人は鬼に変質させてしまいます……人の肉しか食べられない化物になります。その化物は日の光以外に死にません。銃弾で全身を蜂の巣にされても、爆弾で全身がバラバラになっても死にません」

 

「……なんていう血液だよ……何をさせたいんだ」

 

「鬼にならない血液に変化させてほしい。太陽光を人工的に使うことで改良が可能なハズです。私には安全に取り扱う知識や技術が欠落しているのでその分野に成通しているスモッグさんなら可能だと判断しました」

 

「要は無害化した上で再生能力のみを使いたいってことだろ……良いだろう。この血液は誰かに話したか?」

 

「いえ、殺せんせーですら知りません。私がこの血液を求めるのは私が死なない為に必要だからです……このままでは来年の4月13日に私は死ぬ……それまでにこの血液の再生能力を身に付けたいのです。劣化していても良い。細胞がゆっくりと回復するくらいの効能で良いのでどうかお願いします」

 

「わかった。俺にとって奴の暗殺よりもこれは金になる。試作品ができたら持っていってやるよ」

 

「ありがとうございます」

 

 スモッグと取引は成立した

 

 ロンメルは生き残る為に

 

 スモッグは改良できた時に裏マーケットで手に入れられる莫大な富の為に

 

 



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イトナの時間 4

 茅野さんが巨大プリンを使った暗殺をシルバーウィーク中に完成させて皆で実行し、失敗した事を後から聞いたロンメルは皆に申し訳ないと言って謝った後、どうしても暗殺の為に必要だったと言って許してもらった

 

「しっかし……ロンメルさん……またでかくなったよな」

 

「身長175くらいに伸びてない? 夏休み合わせて2ヶ月だよ」

 

「腕や脚の筋肉もやベーし……」

 

「にゃにゃり」

 

 殺せんせーがおもむろに握力計を渡してきた

 

「ふん」

 

『650キロです』

 

「「「更に人外になってやがる!!」」」

 

 どんどん力を蓄えていくロンメルに皆が恐怖しつつ、普通の授業が始まる

 

「今日は前に火薬を使った暗殺の許可を出したが、新しく暗殺に組み込む技術の2つ目の柱はフリーランニングだ」

 

 1学期に行っていたアスレチックやクライミングの応用で、受け身の技術、足場や距離、危険度を正確に計る力、そしてフリーランニングの技術があればどんな場所でも暗殺可能なフィールドになるとのこと

 

「道無き道を行動する体術……熟練して極めればビルからビルに忍者のように踏破が可能になる」

 

 更に難易度が上がる暗殺技術の数々

 

 しかし、身体能力ずば抜けており、運動神経も良いロンメルにとってフリーランニングはまさに鬼に金棒であった

 

「す、すげえロンメルさんフリーランニング教わって3日なのにもう覚えたぞ」

 

「烏間先生よりも速いんじゃない?」

 

「いや、明らかに速いだろ」

 

 悪路の踏破は慣れっこであり、木から木へ、岩から岩に、崖を超えて縦横無尽に移動する

 

 そんなある日殺せんせーが警官の格好をしてケイドロをしようと言い出した

 

 裏山を使った3D鬼ごっこである

 

 泥棒役に皆がなり、鬼の殺せんせーと烏間先生から逃げる

 

 1時間以内に烏間先生から逃げ切ったら烏間先生が皆にケーキを奢ることになり、全員捕まったら宿題2倍……牢屋を殺せんせーが見張る

 

 殺せんせーは最後の1分のみ動くことが出きることにルールを決め、体育の時間を使いいざスタート

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロンメルは単独行動を選んだ

 

 律を通して皆と連絡取れるので単独行動でも問題はない

 

 このゲームを皆はいかに烏間先生から捕まらずに時間ギリギリまで多数が残り殺せんせーに捕まらないように隠れるかが勝負の鍵といったところと判断しているがそもそも烏間先生に捕まらないのが至難の技である

 

『千葉君、速水さん、岡島君、不破さんアウト』

 

 早速逮捕者が

 

 ロンメルは木にぶら下がり足跡を消し、わざと枝をダミーで折って方向を誘導したりしながら移動する

 

 岩場から全体を眺める

 

「さて、視力も実は上がってたりするんだよねぇ」

 

 現在の視力は15.5

 

 100メートル先でもてんとう虫の斑点が見えるくらいロンメルの視力は上がっていた

 

 これは目の筋力も鍛えた結果であり、触手細胞による活性化の影響もある

 

 更にこれに透き通る世界による探知が入ると流石の烏間先生でも分が悪い

 

「さーて、殺せんせーはっと……うわ、岡島君にグラビア写真で買収されてるし……」

 

 その後も殺せんせーのサボりや贈賄により烏間先生が必死に捕まえても逃がすを繰り返す

 

 ただ、殺せんせーは逃がす時に皆にアドバイスをしているようでみんなの動きが格段によくなる

 

 結果ロンメルは1度も烏間先生に見つからずに隠れきり、殺せんせーに捕まったものの、カルマ君、渚君、杉野君がプールに隠れ、泳げない殺せんせーをまいて泥棒側の勝ちとなった

 

 しかし、殺せんせーと烏間先生が視点が違うからか、教えるのが2人とも上手いので皆急激に成長する

 

 1時間で15時間分くらいは成長したんじゃないかとロンメルは感じ、教え方も1つではないと深く考えさせられるのだった

 

「ん?」

 

 なんか新聞が落ちていた

 

『椚ヶ丘で下着泥棒多発』

 

 そう書いてあった

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜律に頼んで下着泥棒の事を詳しく調べてもらうと、泥棒は黄色い大男でヌルフフフと言う声を出し、その場に謎の粘液を撒いて逃げるらしい

 

『殺せんせーですかね?』

 

「いや、そんなボロを殺せんせーがするとは思えないなぁ……律監視カメラハッキング頼むわ、私はちょっと偵察してくる」

 

 殺せんせーは確かに巨乳が好きだし、エロダコであるが、犯罪行為をして先生としての評価を落とすとは考えられない

 

 で、2日間隠れて犯人を探した結果、イトナと柳沢が暗躍しているという決定的瞬間を動画に収めることができた

 

「さーて、これはこれは……楽しくなってきたねぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 翌日皆が別の新聞を広げていた

 

「なぁ、これ殺せんせーだよな」

 

「えー、信じられない」

 

「でもよ……」

 

 おはようございますと殺せんせーが教室に入ると皆軽蔑した目で殺せんせーを見る

 

 その新聞にも大柄の下着泥棒の記事がでかでかと載っており、殺せんせーも慌てて否定するが、アリバイがその時成層圏でシャカシャカポテトを振っていたというそもそも殺せんせーにアリバイを作るのが難しい為に疑いは晴れない

 

「クックックッ……アハハハハ」

 

 急に笑いだした私に皆ギョッとする

 

「殺せんせーがそんな事をするハズないよ。ちょっと怪しい噂が出たときに真犯人探したんだよねぇ」

 

 私は皆に動画送る

 

「これって」

 

「イトナとシロじゃん」

 

「2人がまーたろくでもない事を考えてるっぽいから逆にこっちがハメたいんだけど協力してくれない? 殺せんせー、皆」

 

 私が頼んだのは殺せんせーの着ぐるみを菅谷君と殺せんせーに作ってもらうだけ

 

 後は夜のお楽しみと言って撮影班の三村君、興味があるとついてきたカルマ君、寺坂君、渚君、不破さん、茅野さんに安全の為に殺せんせーがスタンバイし、律と不破さんが次犯人が狙いそうな場所をピックアップし、そこで着ぐるみを着た私と付いてきた皆が隠れる

 

「でもよ本当に犯人は来るのかよ」

 

「ふふーん、ここは名探偵不破の出番よ! この建物は巨乳ばかりを集めたアイドルグループの合宿がしてある場所なの! 合宿も明日が最終日だからこの極上な獲物を狙わない手はないわ!」

 

「……来た!」

 

 やって来たのはイトナではなく黄色いヘルメットを被った大柄の男で、ロンメルがそれを捕らえた

 

 ヘルメットを取ると烏間先生の部下の鶴田さんが出てきた

 

「さて、ここまでは私の予想通り」

 

 ばばっと地面から空中にシーツの檻が完成する

 

「国に掛け合って烏間先生の部下をお借りしました。この対先生シーツの檻に閉じ込めるためにね。殺れイトナ。最終デスマッチだ」

 

「クックックッ……アハハハハ! 間抜けは見つかったようだな柳沢!」

 

「何!?」

 

 着ぐるみを一瞬で脱ぐ

 

 ロンメルは刀を構え、黒い忍者のような全身黒タイツの姿のロンメルが現れる

 

「「「それもそれで変態だよ! ロンメルさん!!」」」

 

「ちっ! ロンメルだと! しかし! 殺れイトナ」

 

「戦闘モードの私の前に不覚は無い」

 

 既にイトナの触手の動きは学習済みであり、ロンメルはイトナが対先生物質のグローブをしていたが、それごと斬り裂いた

 

 ビチビチと触手が地面を跳ねる

 

「な!?」

 

 スパンと対先生シーツも斬り裂きフィールドも無効化する

 

「さて、小賢しい手で殺せんせーの信用を落とそうとした落とし前付けてもらうよ」

 

 ロンメルはイトナをおもいっきり蹴り飛ばす

 

「がは!?」

 

 ゴホゴホと腹を抱えてイトナは咳き込む

 

「さて、柳沢……そろそろイトナ君を解放したらどうだい?」

 

 と聞くとイトナ君が頭を抱えて苦しみだした

 

 どうやら触手による副作用が出ているようだ

 

「度重なる敗北のショックで精神を触手が蝕み始めたか……ここいらが限界かなこの子は……イトナ、君の触手を調整するのに1ヶ月で火力発電所3基分のエネルギーがいる。これだけ結果が出せないと組織も金を出せなくなる。さようならだイトナ。後は1人でやりなさい」

 

「待ちなさい! それでも保護者役ですか!」

 

 殺せんせーがたまらず待ったをかける

 

「教育者ごっこをしてるんじゃないよモンスター。なんでも壊すことしかできない癖に……私は許さない。お前の存在そのものを……どんな犠牲を払っても良い。お前が死ぬ結末だけが私の望みだ」

 

 シロはスッと壁を乗り越えて闇に消えていった

 

 イトナは痛みで暴走モードに入り、触手は再生したが、殺せんせーに攻撃をしかけるが防がれる

 

「があぁああ!」

 

 と叫びながらイトナもまた闇に消えていった

 

 

 

 

 

 翌日から携帯ショップが破壊される事件が多発した

 

 破損状況が酷いため犯人は複数であるとニュースでは放送されているが、クラスの皆はイトナがやったと判断できた

 

 で、なぜイトナ君が携帯ショップを襲うかという理由が律と不破さんとロンメルで話し合って探した結果堀部電子製作所というところが出てきた

 

 世界的にスマホ部品を提供していた町工場だったが、海外資本に押されて負債を抱えて倒産、両親がそのまま蒸発し、イトナだけが残ったということがわかった

 

 殺せんせーはイトナ君も生徒なので助ける気満々だが、柳沢がこれで終わるとは思えなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜イトナ救出作戦が開始され、まだ破壊されてない携帯ショップで網を張っているとイトナ君が引っ掛かった

 

 すぐに殺せんせーに連絡を入れて急行し、イトナ君と接触を試みたが、柳沢もこの状況を利用して殺せんせー暗殺に動いた

 

 私達別の場所を張っていた生徒がイトナ君が襲撃した携帯ショップに急行すると残っていた奥田さんが、事情を説明してくれた

 

 なんでもイトナ君はシロこと柳沢に網で捕獲されそのままトラックで連れ去れたらしい

 

 殺せんせーはそれを追って行ったとのこと

 

 私達もすぐに向かったら殺せんせーが白装束の連中から攻撃を受けている最中で、各所に設置された高圧力光線により殺せんせーの動きが鈍る

 

「皆協力してくんない? いい加減俺らもシロに反撃したいから」

 

 カルマ君の提案で全員が白装束の連中に襲い掛かった

 

 対先生物質の布で全身を覆っているだけの大人で、武器も対先生弾なので恐くない

 

 すぐに鎮圧し、シロは捨て台詞を言って去っていった

 

「くれてやるよそんな子。どのみちあと3日2日の命だ。せいぜい皆で仲良く過ごすんだな」

 

 と

 

 触手を除去する必要があるのだが、真っ暗い執念で染まってしまった触手は神経に根を張って取り除くことができないため、イトナ君の力への執着を消さなければならないが

 

「それ、俺らに任せてくれねぇか」

 

 と寺坂君が立候補した

 

 寺坂グループ(吉田君、村松君、狭間さん)の4人がイトナを連れていった

 

 最初は村松君のラーメンを食べさせたり、吉田君の家でバイクに乗ったり、狭間さんが小説を進めたりと色々したが、イトナ君はそれがちゃらんぽらんに動いているように見えたらしくイトナ君は怒ってしまった

 

 しかし、それを寺坂君が怒りを受け止め

 

「タコを殺すにしたって今殺れなくてもいい。100回失敗したっていい。3月までに1回殺れりゃあ俺達の勝ちなんだからよ! その賞金で親の工場買い戻せば良いだろ! そしたら親も戻ってくる!」

 

「耐えられない……次の勝利のビジョンが見えるまで俺は何をして過ごせば良い……」

 

「今日見てーに馬鹿やればいい! 村松のところでラーメン食って吉田の家でバイク乗って、狭間の小説読んでよ!」

 

「俺は焦っていたのか」

 

「おう、だと思うぜ」

 

 イトナ君から執着の色が消えた

 

「大きな力を失う代わりに多くの仲間を君は得ます。殺しに来てくれますね? 明日から」

 

「勝手にしろ。この触手も兄弟設定ももう飽きた」

 

 イトナ君は触手を失う代わりに延命することができた

 

 翌日から普通の生徒として学校に登校し、皆に馴染んでいった

 

 ちなみに寺坂グループに入った



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体育祭の時間

 イトナ君が加入して、男子がラジコン作りに熱中し、それで女子のスカートの中の下着を盗撮しようと奮闘しているなか、イトナ君が皆に殺せんせーの急所について教える

 

 殺せんせーの心臓である

 

 殺せんせーは私みたいに心臓を幾つも作らずに巨大なネクタイの真下に大きな心臓が存在し、そこをナイフで突き刺せばたちまち絶命することを皆に教えた

 

 それに烏間先生から集団で暗殺した場合100億円から300億円に賞金が増額されたことも発表され皆暗殺や訓練に熱が入る

 

 殺せんせーの賞金が増額されたイコール私も同様に増額されており150億円の賞金首となっていた

 

 ただこの情報は烏間先生も知らず、政府上層部のみが知り得る機密情報であった

 

 もちろん私も知らないが、前にメスから殺せんせーの半額がお前の賞金と言われていたので逆算して把握した

 

 また木村君の名前が正義と書いてジャスティスと読むことが話題となり、皆でコードネームを付けて1日呼び会うという授業があり、私のコードネームが【将軍】となったのでどういう反応すれば良いが凄く困った

 

 いやまあ女たらしの糞やろうとか鷹岡もどきみたいなコードネームよりは全然良いけど……

 

 ちなみにつけたのは磯貝君だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんなこんなで体育祭のシーズンとなり、磯貝君がバイトしていることがA組の5英傑にバレて退学処分をかけた勝負となった

 

 ちなみに殺せんせーもクラスの皆も磯貝君がバイトをしていたことは知っているし、なんなら私はたまにそのお店でハニートーストバニラアイスとイチゴを添えてをよく食べに行く常連だったり……

 

 そんな磯貝君を助ける為に皆立ち上がった

 

 勝負の内容は棒倒し

 

 で、今まで行事にろくに参加できていなかったが、帽子を被ったまま出場できるので耳を隠せるので今回は出場して良いことになった

 

 で、本来なら男子だけの棒倒しだが、理事長先生と掛け合って特別に出場させてもらえることに……

 

「何でもE組とA組の男子だけでは人数の差があまりに顕著であり、更にA組は4人の留学生が参加するので1人くらいなら女子でも参加して良いと許可をいただきました!!」

 

「「「うおおおお!!」」」

 

「ロンメルさんの怪力ならA組がどんな作戦をしても棒を守りきれるぜ!!」

 

 と士気が上がる

 

 磯貝悠真……彼はリーダーに必要な能力を持っている

 

 信長様の様なカリスマではない

 

 お館様の様な優しさでもない

 

 彼は日頃の行いから来る人徳によるリーダーの気質を持っていた

 

 リーダーの気質といっても色々ある

 

 浅野理事長の様な合理的なカリスマ

 

 死神の頃の殺せんせーの様な計算されたカリスマ

 

 今の殺せんせーの様な弱さ故に助けなければと思う徳

 

 烏間先生の様な現場で培った経験からなせる物

 

 等々色々とある

 

 ちなみにロンメルの自己判断だが烏間先生タイプであると理解している

 

 圧倒的な暴力を備えているが、それを表に出すのは最小限に、経験と培った技術で人を焚き付け下から支えるのが自身がやってきたリーダー像であると理解していた

 

 だからロンメルは一歩引いた位置から磯貝君を支える

 

 磯貝君の放つ人徳を殺さぬように、さらに輝きが増すように

 

 

 

 

 

 

 

 

 体育祭当日

 

 ロンメルが出る種目は100メートル走、クラス対抗リレー……そして棒倒し

 

「見ない顔だな」

 

「ケシシ、俺のデータにも無いな」

 

「こいつが噂のロンメルじゃないか?」

 

 現在ロンメルは浅野以外の5英傑に絡まれていた

 

 彼らからしたら一学期期末テストで二教科で100点を取りA組を苦しめた人物であったので気にならない方がおかしい

 

「ケシ……シ」

 

「お、おい」

 

「え? ヤバくないか?」

 

 近づいてロンメルを見て彼らは動揺する

 

 体操服では収まりきらないはち切れそうな筋肉

 

 背中には鬼が宿っており、胸が大きくて体操服が三角形みたいになっていた

 

「なにか?」

 

「お、お前がロンメルか!」

 

「ゴリラみたいな巨女がE組に居たとは」

 

「な、何で全校集会に来ない!!」

 

「あぁ、それはいつも理事長先生に呼ばれるからね……えっと瀬尾君、小山君、榊原君、荒木君……棒倒し楽しみにしているよ。互いに怪我しないように正々堂々戦おう」

 

「ちょっと待てお前か! E組で女子なのに出るのは!!」

 

「そうだよ。楽しみだねぇA組とガチでやりあえるから……磯貝君をいじめたらしいじゃん……きっちり落とし前つけさせてもらうからな」

 

「い、いや! 磯貝が校則違反をしていたのが悪いだろ!」

 

「確かに悪いさ……だが家庭環境を理解しないのはよろしくない。彼が路頭に迷ったらどうする? どう責任をとる? 取らないだろ君達は……見て見ぬふりをするのが優しさではないのかな?」

 

「いや、校則違反は絶対だ。磯貝はこれで2度目。反省の色が見えない生徒に対して生徒会は見過ごすことはできない」

 

「まぁ君一人が居たところでA組の勝利は揺るがない。磯貝……いや、素行不良が目立つE組はこれを期に反省するんだね」

 

 彼らには彼らの考えが、私には私の考えが有るためこれ以上は話さなかったが言うべきことは言ったでこれで良いのだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ100メートルA、B、C、D組がリードを許す苦しい展開! 負けるな我が校のエリート達!』

 

 荒木君の実況で体育祭でもE組は名前も言われないくらいアウェイ感が凄い

 

「木村君は男子で1番足が早いから余裕だけど、やっぱり陸上部には勝てないな」

 

「暗殺の訓練で自身がついたんだけどな」

 

 倉橋さんと中村さんの言葉に烏間先生は

 

「当然だ。100メートル走を2秒や3秒縮める訓練はしていない。開けた場所で速く走るのならそれ専門で訓練している者が強い。君達も万能では無いからな」

 

「お、ロンメルが出てきたぜ! さぁE組の最終兵器だ! ぶっちぎって本校舎の悔しがる顔が見たいぜ」

 

「やっちゃえロンメルさん!」

 

 ロンメルロケットスタート

 

 誰よりも早くスタートし、そのまま加速体勢に移行する

 

 ドッドッドッとゴムチップのコースだから余計に速度が出てあっという間にゴール

 

 最後は流していたが

 

『な、なんということだ! 凄まじい速さだったぞ……あり得ないだろ』

 

 と実況も動揺するほどである

 

「ヌルフフフ、ロンメルさんも一応は手を抜いていますが……ほら」

 

 殺せんせーはストップウォッチを皆に見せる

 

 そこには9.85の文字が

 

「彼女が本気をだせば100は6秒を切るくらいで走るでしょう」

 

「はえぇ」

 

「球技大会では暴れられなかったからここで暴れるらしいですねぇ」

 

「ほどほどにと注意しておくか」

 

 クラス対抗リレーでもE組が大外固定というハンデがありながら他のクラスをぶっちぎって勝利

 

 ただE組が参加していない競技……例えば綱引きなんかはA組の助っ人外人軍団によりA組が圧勝

 

 団体競技にほとんど出れないE組は総合優勝は無いが、A対E組の構図が出来上がってくる

 

 そして最終種目……棒倒し

 

 椚ヶ丘中体育祭棒倒しのルールは相手の支える棒を先に倒し、地面につけた方が勝ち

 

 掴むのは良いが殴る蹴るは原則禁止

 

 武器の使用ももちろん禁止

 

 ただ肩や腕によるタックルと棒を支える者1名(リーダー)が足を使って追い払うのはありとする

 

 そしてA組はチーム区別の為に長袖及びヘッドギアを着用

 

 Aだけ防具ありである

 

『さあ! A組にE組が挑戦状を叩きつけたこの棒倒し! A組には浅野君の友人で短期留学生が4人もいるぞ! 人数差は圧倒的……E組から泣きで女子を1名入れても良いかと言われたので心優しいA組はこれを許可! E組とは言え女性がボロボロになるのはしのびないが、これも勝負の世界! 文句は言えないでしょう』

 

 シュゥゥゥゥ

 

 呼吸音が聞こえてくる

 

 ゴリゴリと全身の筋肉を膨張させる

 

『さぁ我らがA組の入場だ!!』

 

 A組の皆が入場するが、皆緊張している

 

 実況はあえて触れていないが、E組の中に明らかにヤバいのがいる

 

 ロンメルである

 

 全身筋肉の怪物が目をギラつかせて獲物を狩る時の目をしていた

 

「あれがロンメルか……E組はずいぶんと猛獣を飼っていた様だな」

 

「浅野! 呑気に言っている場合じゃねーぞ! あんなのにタックルされたらたたじゃすまねぇ」

 

「やるべきことは変わらない。E組を叩き潰す。どんな人間でも5人がかりで挑めば押さえることができる……ケヴィンいけるな」

 

「{おう、相手にとって不足はねぇよ}」

 

『さて、棒倒しだがおおっとE組は勝つ気はあるのか!? 全員防御だ!!』

 

 E組はロンメルを前にしたら全員による防御をはる

 

「ごめんねロンメルさん」

 

「大丈夫、最大の衝撃を受け止めるよ」

 

「よし! 作戦名完全防御形態! いくぞ!」

 

「こざかしいやれ攻撃コマンドF」

 

 突っ込んでくるA組5名

 

 1名は短期留学生でアメリカ人のケヴィンであり、勢いを止めようとロンメルが前に出る

 

「がぁぁぁぁぁ!!」

 

 ケヴィン……いや、5名のタックルを完全に抑え込む

 

「{おいおいこれで女とか嘘だろ}」

 

「{あいにく性別は女だよ! }」

 

『嘘だろ5名がかりの攻撃を封殺……いや! 押している!?』

 

「おりゃ!!」

 

 ケヴィン達は10メートルくらい吹き飛ばされる

 

「よし! ロンメルさんこのままA組の注意を引き付けておいてくれ! 俺達攻撃隊は行くぞ」

 

 ロンメルは吹き飛ばしたケヴィン達5名の監視、その隙に攻撃部隊がA組に突っ込む

 

「囲んで殺れ」

 

 浅野君が指令を出す

 

 A組遊撃隊2部10名が大回りをしながらE組攻撃部隊の退路を断ち、正面には外人2名と他6名が待ち構える

 

「よし! 作戦粘液発動」

 

 攻撃部隊は場外の観客席まで逃げて大混乱

 

 暗殺で鍛えた障害物を乗り越えたりする能力を遺憾なく発揮し、椅子と客を使いA組をかわすかわす

 

 で、注意が観客席に行ったところを防御から抜け出し観客席の外側からこっそり移動した吉田君と村松君がA組の棒にしがみついた

 

「逃げるのは終わりだ! 全員! 音速!!」

 

「「「よっしゃぁ!!」」」

 

 攻撃部隊がA組の棒にしがみつき一気にA組が不利になるが

 

「なめるな!」

 

 浅野君が蹴りや投げ技でどんどんしがみついているE組の皆を落としていく

 

 が、ここで更に増援を突入させる

 

「な!? あいつらE組の防御部隊だぞ!」

 

「誰が守って……!?」

 

 ロンメルが丸太を抱えていた

 

 重い丸太が浮いている

 

「おいおい70キロはある棒だぞ!?」

 

「何で軽々持ち上げてるんだよ」

 

「ケヴィンチャンスだやれ!!」

 

 吹き飛ばされていたケヴィン達が再び突っ込んでくるが、まるでポールダンスの様に棒を軸にして蹴って全員吹き飛ばす

 

「先生方にみっちり教わっていてねぇ……貴様らごとき防御は私1人で十分だ」

 

 ロンメル以外の全員が攻撃に参加したことにより浅野君の指示が出せなくなる

 

「よし! イトナ今だ!!」

 

 そしてロンメルだけに警戒を向けていたツケが出る

 

 隠し球のイトナ君である

 

 磯貝君がジャンプ台となりイトナ君が大ジャンプして棒の先端にしがみつく

 

 一気に体勢が崩れた所を皆で押す

 

 それでA組の棒は地面に倒れた

 

 圧倒的人数差、外人部隊を使ったなりふり構わない勝負をE組が逆に勝利したことによりE組の評価が変わり始める

 

 球技大会から始まり、期末テスト、それに今回の体育祭……

 

 周りはE組を評価し始めた

 

 それは浅野理事長の思わくとは別に……

 

 

 

 

 

 

 

 

「「乾杯!!」」

 

 夜皆との打ち上げの後殺せんせーと2人でジュースで乾杯していた

 

「いや、よく頑張りましたねロンメルさん! 先生興奮して写真バッチリ何千枚も撮りましたからね」

 

「いやいや、殺せんせーと烏間先生の教えの賜物だよ」

 

「格闘術も1年前に教えたのをしっかり復習をしていたようでなによりです」

 

「……まあね」

 

「どうしましたか?」

 

「もう半年も無いんだよねって思って……私も殺せんせーも」

 

「……そうですね……楽しい時間はいつか終わりが来ます」

 

 ロンメルは計画を立てていた殺せんせーの為の本気の暗殺を……

 

 2学期中間テストが終わったら殺るつもりだ

 

「殺せんせー、私以外に殺られないでよ」

 

「ええ、ロンメルさんの暗殺を楽しみにしていますよ」



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過ちの時間

 二学期中間テストがいよいよ2週間前となり、皆テストモードに入る

 

 殺せんせーもいよいよA組を越える時が来たといつにも増して熱くなっていた

 

 ただ皆思っていた

 

 殺せないまま時間ばかりが過ぎていく

 

 焦りの10月……暗殺期限まで残り5ヶ月

 

 で、私の方も別のことで力が入る

 

 実りの秋である

 

 松茸、自然薯、椎茸、えのき、ピーナッツ、小麦、じゃがいも、薩摩芋、カブ、里芋、大和芋、ゴマ、セロリ、小松菜、ニンジン、チンゲン菜、玉ねぎ、カボチャ、大豆等々大量である

 

 地下に増設した冷凍室に各種袋で詰めしていく

 

 殺せんせーに協力してもらいテスト勉強前にある程度終わらせ、袋詰めにした大量の作物がぎっしり詰まっていた

 

「いやぁ大量! 大量!」

 

「夏の野菜も合わせればあとは米と肉と魚さえあれば何も困ることはありませんね」

 

「そうですね! あとは冬野菜も有りますから……これで食べ物には困らない! テスト勉強と体作りに専念できる!!」

 

 と喜んでいた次の日、皆がやらかす

 

 フリーランニング等の暗殺の技術は裏山や烏間先生の監視下のみと言われていたのにそれを無視して町で使い、自転車に乗っていたおじいさんと激突したらしい

 

 皆は無傷だけどおじいさんが右大腿骨亀裂骨折だそうだ

 

 下校途中に律から聞いて驚いて町の病院に急行し、そこには落胆している烏間先生と真っ黒の殺せんせーに皆がいた

 

「暗殺期限までの時間がない。危険も承知で高度な訓練を取り入れたが……君達には早すぎたかもしれん。俺の責任だ」

 

 と烏間先生が言い、殺せんせーは

 

「君達は強くなりすぎたのかもしれない。身につけた力に酔い、弱い者の立場に立って考えることを忘れてしまった。それでは本校舎の生徒と変わりません」

 

 皆うつむいてしまう

 

「話は変わりますが、今日からテスト当日まで丁度2週間クラス全員のテスト勉強を禁止します」

 

 殺せんせーはテストでは学べない……テストよりも優先すべき事を教えましょうと言い、全員で怪我をしたおじいさん……松方さんに謝りに行った

 

 私達はプロの殺し屋であるので、訓練中の過失は自分達で責任を負うべきであると殺せんせーは言い、松方さんが経営する児童保育施設をタダ働きすることを慰謝料と賠償とするべきと話され、松方さんも同意し、賠償分の仕事ができれば公表はしないとなった

 

 で、翌日から皆でわかばパークという古い保育及び学童の施設で働くこととなった

 

「すまん皆……」

 

「仕方ないよいつか起こった事だし、一生の障害とか死人が出る前でよかったよ」

 

「た、達観してるなロンメルさんは」

 

「失敗しちゃったものはしょうがないからいかにリカバリーして成長に繋げるかだよ」

 

 さて、わかばパークの子供達は約30名

 

 職員は怪我をした松方さんと清水さんという中年の女性の2名で切り盛りしているらしい

 

 施設の老朽化も深刻で、マットを引いてごまかしてはいるが、気を付けないと床を踏み抜いてしまいそうである

 

「29人で2週間、まず子供の面倒を見る班、昼食を作る班、子供の勉強を教える班、施設のリフォームをする班に別れよう。確か烏間先生の部下の鵜飼さんが建築士の資格を持っているから彼にアドバイスを貰いならが引こうか設計図」

 

「なら、俺が設計図引くよ」

 

「千葉君お願い」

 

 子供の面倒を見る班にカルマ君、寺坂君、茅野さん、奥田さん、吉田君、倉橋さんが立候補

 

 昼食は原さんと村松が

 

 勉強は渚君、竹林君、中村さんが

 

 他の男子はリフォームをする班に、女子は周辺を回っていらない本や使えそうな家具を貰ってくることになった

 

 ロンメルは全体のカバーをしつつ、建材の調達及びリホーム班に加わった

 

 ロンメルは走り回り廃材や木材、ガラス等を集め、工具を使い加工していく

 

 ガラス片を集め、色事に分けてロンメルは家に持ち帰り、触手のエネルギーを一点に集めて照射することによる熱でドロドロに溶かして窓ガラスを作ったり、コップや電球等に加工していった

 

 で余った色は加工してジャムビンにしたりとこっそり着服したり……

 

「なぁ、立派な窓ガラスや電球、コップ等をロンメルさん毎日持ってくるがどうやってるんだ?」

 

「知らねぇよ。これに関しては教えてもくれねぇし」

 

 皆が帰った夜中等もこっそり来て作業を進めたりと皆のカバーに務めた

 

 で2週間でボロボロだったわかばパークのリフォームは完了し、室内遊戯場や壊してしまった自転車を改造して電動三輪車にしたり、貰ってきた本で図書室を作ったりと大規模改修になったがやるべきことはやった

 

「ふーふー」

 

「ロンメルさん2週間俺らが帰った後にこっそり戻ってきて深夜まで作業続けてたらしいぞ」

 

「所々俺らが知らない間に進んでたのロンメルさんのお陰かよ」

 

「まあ本人満足そうだし良いんじゃない?」

 

 施設の子供達とも皆仲良くなり、不登校だった生徒にも勉強を皆が教えてテストで高得点を取れるようにさせたりと松方さんもニヤリと笑い

 

「よくやった。慰謝料としては十分すぎるほどだ! 文句の1つも出てこんわ……お前らもさっさと学校に戻らんか。大事な仕事があるんだろ?」

 

 大事な仕事とは学業であったり暗殺の事であったり……松方さんには殺せんせー本人が謝ったこともあり、裏の事情も知っていたが、それも言わないと約束してくれた

 

 こうして皆は起こした事故の賠償責任を自分達で果たし、2週間の特別授業は幕を下ろした

 

 で、二学期中間テストは翌日……皆隠れて勉強していたとはいえそれで通用するハズもなく……

 

 と、言いたいが、ロンメルは深夜まで働き、朝までの時間を睡眠時間を15分にするまで削って勉強もこなした

 

 殺せんせーに聞くのは無理なので律に色々と教えてもらい、まるで合戦後みたいにフラフラになったがロンメルは特別授業と勉強を無理矢理両立させた

 

 結果ロンメルの成績は……

 

 国語99点

 数学95点

 英語90点

 社会100点

 理科95点

 合計479点

 学年順位8位

 

 とカルマ君以外が成績を落とすなか躍進

 

 トップとの差14点と射程圏内に捉えた

 

 そして3学期は外部受験になるE組と内部進学になる他のクラスとはテストが違うので二学期期末テストがA組との最終決戦となる

 

 

 

 

 

 

 そして反省した皆に烏間先生から嬉しいプレゼントが贈られた

 

 新しい体操服である

 

 今までの体操服では今のハードな訓練に耐えきれなくなり破けて買い換えた生徒がちらほら出てきてしまい、これでは親御さんにバレる危険性があるためという建前で、皆へのご褒美とこれからの期待を込めてのプレゼントであった

 

 軍と企業が採算度外視で作った強化繊維で、衝撃耐久性、引っ張り耐性、切断耐性、耐火性……あらゆる要素が世界最先端であった

 

 靴も同様の特注品であり、すごく跳ねるし全く傷が付かない

 

「スゲー軽い……ジャージよりも靴合わせて軽いとかヤベー」

 

「それだけではないぞ」

 

 特殊な揮発物質に服の繊維が反応し、一時的に服の色を自在に変えられ、全五色の組み合わせでどんな場所でも迷彩効果を発揮する

 

 肩、背中、腰は衝撃吸収ポリマーが効果的に守り、フードを被り、エアーを入れれば首や頭も完全ガード、更にゲル状の骨組みが強い衝撃を受けた瞬間に固まり、体を守った後は音を立てて崩れるダイラタンシー防御フレームまでついていた

 

「なるほどなるほど確かに便利な体操服だ……ちなみに1着幾ら何ですか」

 

 烏間先生がボソボソっと耳打ちする

 

「25万だ。防弾チョッキが3万と少しだからいかに採算度外視かわかるな」

 

「わかりました」

 

 まじかー、25万かよと思いながらも良いもの手に入れたとルンルンのロンメル

 

 皆も早速殺せんせーの暗殺に使用し、実践で殺せんせーに見せた

 

「教えの答えは暗殺で返す。それがE組の流儀だからな」

 

「怒られた後だしね。真面目に殺しで答えなきゃ」

 

「約束するよ殺せんせー、私達の力は誰かを守る目的以外では使わないと……」

 

 皆はそう答えたが、ロンメルだけはそれは無理な話であった

 

 この世界ではそれで良いかもしれない

 

 しかし、他の世界に行った時に安全を保障できる物は何もない

 

 一方間違えれば迫害される可能性すらあるのでロンメルだけは皆が頷くなか1人同意できなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビッチ先生の誕生日が過ぎて4日後のことである

 

 皆で再びビッチ先生と烏間先生をくっ付けようって話で盛り上がった

 

 皆でお金を出し有ってプレゼントを購入し、ビッチ先生に烏間先生からプレゼントを渡そうってことになった

 

 で私はビッチ先生の注意を引く班となり、原さんや岡島君、菅谷君や矢田さん達とビッチ先生に色々教わったり悩殺ポーズをしてもらったりして時間を稼ぐ

 

 プレゼント班が買ってきたのは花束だった

 

 ……ただここいらで嫌な予感をロンメルは感じていた

 

 これまでビッチ先生と烏間先生をくっ付けようって作戦は何度か行われてきたが、ことごとく烏間先生の鈍感で失敗してきている

 

 これがもし烏間先生が鈍感なのではなくわかってやっているのではないかという直感が働いていた

 

 烏間先生は職人気質な所がある

 

 仕事をこなすためなら自身の感情を殺して冷酷になれる側面を持っていると感じていた

 

 ロンメルは自身の直感が当たっていた場合ビッチ先生と烏間先生との絆だけでなく皆とビッチ先生との絆までヒビが入るかもしれないと思えてしまったのだ

 

「……嫌な予感は的中するものだ」

 

 案の定烏間先生から花束が渡されたがビッチ先生に最初で最後のプレゼントだと言いはなった

 

 任務が終わるか地球が終わるかの2つに1つ……任務が終われば他人に戻ると言っている様なものだった

 

 ビッチ先生はこれに酷く悲しみ、そして窓から様子を観ていたロンメル達に切れた

 

 その日からビッチ先生は学校に来なくなった

 

 

 

 



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偽死神の時間

 ビッチ先生が来なくなってから3日が経過した

 

 ただロンメルも麦の収穫でこの日ばかりは休むと殺せんせーや皆に連絡していた日の事だった

 

 夕方になるまで麦の収穫と格闘していたロンメルは律からメッセージが届いていることに遅れながら知った

 

 なんでもビッチ先生が死神という殺し屋に拐われたらしい

 

 律から送られた画像を見るに両手足を縛られたビッチ先生が箱に詰められている画像と死神を名乗る男からのメッセージがついていた

 

『初めましてロンメルさん。私は死神と呼ばれる殺し屋です。手短に言います。彼女を助けたければ先生方や友達達には言わずに指定された場所に来てください。もし来なければ彼女の命はありません。そして彼女の次は君のお友達の誰かの命がありません。恐れる無かれ死神の名を』

 

 という胸糞悪いボイスメッセージが添えられて

 

 ロンメルは体操服に着替え、殺影月を持ち、準備を整えると指定された場所に向かった

 

「さて、死神の名を騙る不届き者に天誅を下し、ビッチ先生を助ける……ふぅぅ、どうやら私は思っているよりビッチ先生が好きな様だ、皆の事が好きな様だ……まだ1年も経過していないのに戦国の世みたいに濃密で、大正の時のように学びがある……そして殺せんせーこと死神の事が私はよほど好きらしい……どうやら私は触手を植え付けられたことにより繋がりというものに餓え、さらには手にした仲間のことを誰一人失いたくないと思っているらしい……」

 

 ロンメルは走り始めた

 

 まるで炎の渦が走った後に見えるように速く、美しい走りであった

 

 

 

 

 

 

 夜の7時を回ったくらいにロンメルはその場所に到着した隠れながらぐるっと一週見て回る

 

「私はロンメル。一之太刀を極めし者……透けて見えてしまうのだよ」

 

 地下に皆がなぜか捕らわれている

 

 恐らく私とは別口に皆を誘き寄せて捕まえたのだろう

 

「ここか……霸の呼吸 壱ノ型 月水爆」

 

 刀を振るう

 

 その瞬間空気中の水分が刀から発せられるエネルギーにより水素爆発が発生する

 

 ポポポボボボボン

 

 小さな音から大きな破裂音に変わりそして大爆発が発生する

 

 ガラガラガラと瓦礫が地下空間に落ちる

 

「「「ロンメルさん!」」」

 

「おや? 建物から侵入してくると思ったんだけどまさか天井を破って来るなんて思わなかったよ。コンクリートの壁だよ」

 

「……皆無事?」

 

「大丈夫それより目の前の奴が死神!」

 

「ビッチの奴死神と組みやがった。俺達を囮に殺せんせーを呼び込むつもりらしい!」

 

「ふーん、なるほどねぇ……」

 

 バチン

 

 目の前で何かが破裂した

 

「クラップスタナー……猫騙しの進化系さ」

 

「……で?」

 

 ロンメルは何事もなかったかのように刀を振るうが、偽物の死神はそれを華麗に避ける

 

 偽物の死神は波長や呼吸、気配を上手く誤魔化してロンメルが認知できないようにしているが、ロンメルには五感が1つでも生きていれば透き通る世界に入れるため効かない

 

「貴方がもし最高の死神であるのならば、私は最高の武士だ。侍ではなく武士だ。犬畜生より劣る存在であり、犬畜生より頭が良く、そして最終的に勝利すれば良い者である……故に死神を名乗る偽物よ……友を人質にする貴様を私は許さない」

 

「そうかい。残念だ……君のクラスメイトの首には爆弾を取り付けていてね、ランダムで誰かの首輪が爆発するようになっているんだけど……残念だ」

 

 彼がスイッチを押す前に私は触手で皆の首輪の爆弾を解除する

 

 ボン

 

 外した1つが空中で爆発する

 

「ろ、ロンメルさん……その触手は……」

 

「イトナ君が私を姉と言った意味と同じだよ……私も触手を植え付けられた者であり、全身に触手細胞が他の細胞と同化している……さて死神……どうする?」

 

「ふむ……正面から殺り合うのは不利らしい。一旦振り出しに戻そう」

 

 パカリと私の足元が開く

 

「!?」

 

 パパパパン

 

 私が触手で地面を支えようと動くと偽死神は私の触手を正確に撃ち抜いた

 

 そして刀にも弾丸を当てて吹き飛ばそうとする……が

 

「無意味」

 

 極細の触手を刀に巻き付け変形させる

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月 宵の宮」

 

 スパンと壁に傷をつけてそこを足場に上に登ろうとする

 

 パパパン

 

 実弾と対先生弾を織り交ぜ触手を撃ち抜き更に私の指を的確に潰しに来ている

 

「……仕込んでおいて良かった」

 

 ロンメルは靴を改造しナイフを仕込んでいた

 

「霸の呼吸 弐ノ型 水導線」

 

 ボンと壁が爆発を起こして道を作る

 

 上は偽死神が天井を塞いだので移動はできない……仕方がない

 

 別ルートで移動するか

 

「律、この施設のルートを」

 

『えー、働きたくない……死神様に逆らうとか……電源落とすわ』

 

 ハッキングされてる

 

「ちっ! フゥゥゥゥ」

 

 呼吸を整える世界を透き通し、見ていく

 

 至るところに爆弾やトラップが仕掛けられており迂闊には動けない……

 

「とは思ってないでしょうね」

 

 ロンメルは髪の毛と同じ太さの極細の触手を操り、トラップを解除していく

 

 ドアの隙間を触手を通して解除

 

 鉄骨が振り落とされるのを受け止め、足が止まったところをクロスボウによるほぼ無音の射撃を片手で掴み取り、さらにクロスボウと連動した爆弾が破裂するや否や髪の毛や尻尾の触手で爆風や瓦礫を吹き飛ばす

 

「そもそもだ、聞こえているかわからないが偽物の死神よ。私が知る最高の殺し屋であればあの様なまどろっこしい事なとせずに死んでいたハズだ……いや、偽物では無いか……死神二世さんよ」

 

 ワイヤートラップを避けたり、爆弾を解除しながら更に上を目指す

 

 ここで電話……というか殺フォンに備わっている無線が反応する

 

『にゅにゃ! やっと繋がりました』

 

「殺せんせー今どこに」

 

『すみません、先生も不覚を取り皆さんと同じ牢屋の中です』

 

「……つかまったんかーい!」

 

『今烏間先生と死神が交戦状態になりました。死神はこの地下牢で捕らえている皆ごと約1000tの水の放水で窒息及び圧死させる気です。先生用に牢は対先生物質と鉄の複合素材でできており、他の皆さんを傷付けないように脱出するのは難しい。ロンメルさん、烏間先生と協力して死神の作戦を破綻させてください。そしてビッチ先生を助けましょう』

 

「わかった……でも烏間先生が動いたとなれば私は要らないかもね」

 

 上の階でも爆発音が聞こえ出した

 

 恐らく烏間先生がトラップを解除している音だろう

 

「……確かに偽物ながら死神を名乗るだけのスキルはある。身体能力、技術、頭脳……どれをとっても一流だろうが……怖さが全く無い……いや、私が殺られるというビジョンが見えない」

 

 ドゴンと壁を破壊する

 

「やはり死神の名を名乗れるのは殺せんせーだけだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 大きな爆発音が響いた

 

 どうやら部屋1つでも吹き飛ばしたのかもしれない

 

 その音の方向に向かいとビッチ先生が座っていた

 

「……」

 

「あら、ロンメルじゃない……もう警戒しなくても良いわ……烏間に助けられて目が覚めた」

 

「……はあ……まぁ私には殺気や悪意なんかは人一倍敏感だから貴女が騙そうとしていないことぐらいはわかる……乗って、背負うので地下に行きましょう」

 

 背負われながらビッチ先生は自分の境遇を語ってくれた

 

 田舎の村に住んでいたビッチ先生は内戦が発生して突如村は戦場となり、家族を皆殺され、ビッチ先生は父親の拳銃を民兵に偶然当てることができ、民兵と自身を地下室に隠れて難を逃れたとのこと

 

 その時のゆっくりと民兵の体温が下がっていく感覚と血の匂いは今でも頭にこびりついているそうだ

 

 村はビッチ先生以外全滅し、そこにロヴロさんと部下の女性が来てスカウトされたとのこと

 

 部下の女性とロヴロさんに教わり暗殺術を磨き、最初に村を襲った司令官を、次に内戦を操っていた黒幕を暗殺した

 

 自身の復讐を完遂したビッチ先生は暗殺の依頼を受けることができるほどに成長しており、そこからはプロとして暗殺任務を完遂してきたとのこと

 

「なるほどなるほど……で、ビッチ先生は死神に平和ボケしている日本の中学生と血に塗られた自身の差を感じさせられて裏切ったと」

 

「ええそうよ軽蔑したかしら?」

 

「いや、甘いよ。甘ちゃんだよビッチ先生……ビッチ先生のスコアが確か15くらいったよね……私よりも100分の1以下だよ」

 

「へぇ、あんた1500人以上殺ったの? 嘘も大概にしなさいよ」

 

「嘘じゃないさ。言ったでしょ……私は異世界の民だ。異世界で何千と殺してきた……が、ただ無力であると痛感したことの方が多い……自身の息子が殺された時、愛する人が暗殺された時、知り合いや同僚が無惨にも殺された時……沢山の人を守ったと同時に沢山の敵を殺しついた渾名は大妖怪……人食い妖怪だよ笑っちゃうね……20そこらの若者が達観するなよイリーナ先生よ、60過ぎてる婆が中学生に混じって勉強してるんだから!」

 

「え? あんた60過ぎてるの?」

 

「肉体年齢は15だけど異世界分を合わせたら60は超えてるよ……」

 

 さて偽物の死神と烏間先生の戦いは……烏間先生の勝利か

 

 所詮偽物は偽物……本物と比べれば弱者でしかない

 

 牢屋は私が刀で斬って壊した

 

 さて、皆から質問が飛んでくる

 

「ロンメルさん……イトナから聞いたんだけど」

 

「……触手を植え付けられたら想像も絶する痛みを感じるって……何でそう平然としていられるの?」

 

「……私は君達がシロと呼んでいる柳沢により全身の細胞を改造された……触手を後付けで植え付けられた者では私はない……この様に私は触手と髪の毛や尻尾が触手となっているから色も変えられる……これは殺せんせーみたいだよね……私は分類的には殺せんせーと同じだ。力を解放すれば殺せんせーと同じ姿になれるし、月を破壊するエネルギーすら持っている」

 

「じゃ、じゃあロンメルさんももしかして賞金がかけられていたりするんですか?」

 

「ええ、私の賞金は殺せんせーの半額……現在は集団暗殺成功時には150億の懸賞金がかけられています」

 

「な、なら俺らはロンメルさんも殺らなきゃならねぇのか?」

 

「YesでありNoでもあるよ岡島君……もし殺せんせーを殺せても第二の殺せんせーである私が殺されない限り政府は安心できない。そして私の命は来年の4月13日で終わる予定だ。私は生き残る手段を必死に模索しているし、もし私が殺せんせーを殺せた場合政府は私が生き残る手段を考えてくれるそうだ……」

 

「な、なら俺らが殺せんせーを暗殺したら……」

 

「ロンメルさんが暗殺されちゃう……」

 

「まぁ死ぬのは怖くないんだけどね。私は死なないから」

 

「「「え?」」」

 

「どういうこと?」

 

「律には話したんだけど私は異世界を渡る能力がある。トリガーは死んだ時、条件はその世界で何かを成した時……恐らく世界から懸賞金をかけられるって言う偉業ができている時点でその条件は達成されてると思うんだ」

 

「でもそれじゃあ私達とは二度と会えないじゃん」

 

「やだよ私……ロンメルさんともっと遊びたい」

 

「楽しい時間はいつかは終わる……こんなに平和な世界は私達が巡ってきた世界では珍しい……だから長生きしたいんだけど無理なら無理なりに割り切るしかないよね」

 

「でも……」

 

「薄々わかってるんだよ。もし殺せんせーを私が暗殺しても暗殺されることが……超生物1人がどこかの国に加担したら世界のパワーバランスが崩れるでしょ……だから皆には殺せんせーを全力で暗殺して欲しい、私も全力で暗殺をするから」

 

「ロンメルさん……」

 

「さて、じゃあ殺せんせー……こんな死神襲来という事件が発生したけど明日決闘を申し込みたい。放課後、グラウンドにて……ダメかな?」

 

「良いでしょう。その決闘を受けましょう。勝敗の条件は?」

 

「どちらかの心臓を潰した方が勝ちで良いでしょ……それが手っ取り早い」

 

「ええ、わかりました」

 

「お、おい! 殺せんせー! ロンメルさん殺すのかよ」

 

「受けないでよそんな条件……ロンメルさん死んじゃうよ」

 

「ロンメルさん、私はあなたを殺さない。それだけは約束しましょう」

 

「わかった。けど私は恩師であるからこそあなたを殺すことにする……よろしくね殺せんせー」

 

 

 



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本気の時間

 翌日私は普通に通学し、普通に席に着く

 

 皆私にどう接して良いのかわからないようだ

 

 当たり前だ

 

 確かにイトナによるヒントと鷹岡の怪物発言、日々強くなる肉体の変化により薄々は皆気がついていたが、改めてロンメルが殺せんせーと同じと言われたら対応が変わるだろう

 

 彼らは殺せんせーという難問の他に私という新たな標的が加わってしまったのだから

 

 授業中も休み時間も皆ぎこちない……そして放課後となり私と殺せんせーはグラウンドに出る

 

「決闘は5月以来だったかな殺せんせー」

 

「ええ、あの頃から約5ヶ月……見違えるほど鍛えられましたね」

 

「殺せんせー……もし私がここであなたを殺っても後悔は無い」

 

「ええ、生徒に殺られるなら本望です。何よりあなたは特別だ。先生として生徒は平等であるべきですが、あなたは私との付き合いが1年長い……その間に教えた技術がどれぐらい昇華させられているか総決算といきましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「始まった!」

 

 危ないからと僕達は教室からロンメルさんと殺せんせーの決闘を見る

 

 最初は触手による攻防だ

 

「触手は太い方がパワーが出る。ロンメルは基本的に細い触手を多用する。アイツが今殺せんせーと互角に戦えているのは触手の扱いの上手さだ」

 

 バチンバチンと叩き合う音が聞こえてくる

 

 音速を優に超えている超ハイスピードバトル……改めて僕らは思う次元が違うと

 

「おい! ロンメルの奴刀を抜いたぞ」

 

『あの刀には対先生物質と特殊な金属が練り込まれており、触手を纏わせることで形が変化します』

 

「じゃあ普通の刀ということはまだ本気を出していないってことか」

 

「お、おい! 見ろよ! 地面に斬撃の跡が」

 

「俺の時もやられたがロンメルの斬撃は原理はわからないが伸びる……律」

 

『ハイスピードカメラ等でもロンメルさんの伸びる斬撃のカラクリは不明です。ただ言えるのはロンメルさんの現在650キロの強靭な握力や筋力が関係している可能性が高いと予想します』

 

「それもあるけど前にロンメルさんに聞いたんだどうやってそんなに力を付けられるのかって……今だから納得言ったんだけど超回復を無理矢理起こしているらしいんだ」

 

「杉野超回復って?」

 

「筋肉が壊れるとそれを再生する時により大きくて太い筋肉になるんだ。それが超回復なんだけど、四六時中特殊な呼吸を操ることでそれを可能にしているらしい。そしてロンメルさんはその回復プラス触手細胞を筋肉に組み込むことで超人的なパワーを出しているんじゃないかって」

 

「なるほど……後の謎はその特殊な呼吸と異世界を渡る能力か」

 

「不破それだけじゃねぇ、殺せんせーはロンメルさんの事を俺らの前から知っていた……シロによる実験体なんじゃないか? 2人とも。殺せんせーは生まれも育ちも地球だと初めの方に言ってたし、人工的に作られた生物って言ってたよな」

 

「菅谷の言う通りだ! あのタコの事を詳しく知ってるのはロンメルしか居ねぇが、過去はあまりは話そうとしなかった……そこに俺らが知りたいなにかがある!」

 

「寺坂にしては考えてるじゃん」

 

「うっせぇ! カルマ!」

 

「いよいよロンメルさんが見えない斬撃だけじゃなくて空気を爆発し始めたぞ! 何でもありかよ」

 

『空気中の水分を分解して水素にし、それを高温の熱で着火しているようです! ロンメルさんの周囲の熱量は凄まじいことになっています』

 

「……ロンメルさんが押してる! 殺せんせーの触手が1本千切れた」

 

『いえ、その間にロンメルさんも皆さんには認識できない細い触手を失っています! 現在は互角でしょう』

 

「いや律、ロンメルが押されてるよ……殺せんせーは触手オンリーで攻撃しているけど、ロンメルさんは剣術も使って攻撃しているから2つの事を同時に処理しなきゃならない分どんなにロンメルさんの脳が優れていても処理速度は殺せんせーの方が早い。その差が少しずつそろそろ出てくる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「スーハースーハー」

 

「ヌルフフフ、やはり凄まじい速度で成長していますねぇ。触手をあえて細くすることでパワーを捨てて精密性を上げて先生の触手を受け流すことに特化させ、攻撃は自慢の剣術でカバー……先生でなければ防ぐことは不可能でしょう」

 

「ええ、だからこそ倒しがいがある……」

 

 バゴンと殺せんせーの足場が崩れる

 

「にゅにゃ!?」

 

「殺せんせーの弱点は環境の変化に弱いところ……攻防の際使っていたのは髪の毛の触手のみ、尻尾の触手は穴を掘っていた!」

 

「お見事です! ロンメルさん、しかし先生も慣れるものです。あなたとの前の決闘で尻尾の触手を使っていたのは知っていた! 故に対応可能!」

 

 殺せんせーは触手を集めてエネルギー砲を発射する

 

「かかった」

 

 殺せんせーが脱出するためにエネルギー砲を使うことは予測できていた

 

 ロンメルはその瞬間に自身の最大の札を切る

 

「零之太刀」

 

 高速突きにより対象を固定してから自慢の脚力によるすり潰し

 

 エネルギー砲を使うために触手を集めた瞬間が最大のチャンス

 

 ブニョン

 

「ブニョン?」

 

「ヌルフフフ甘いですよロンメルさん、突き技を見せていなかったので警戒していましたよ。そして最高の瞬間に心臓に一突き……いや、急所を微妙に外れていますので別の目的があったのかもしれませんがねえ」

 

 殺せんせーが隠していた触手で止められた

 

「そもそもエネルギー砲は触手4本有ればできるんですよ。ロンメルさんが成長するように先生も成長する」

 

「でしょうね」

 

 ロンメルは刀を離し、押さえられていた触手を右手で握るとそのまま殺せんせーを投げて地面に叩きつけた

 

「シィィィィィ」

 

 刀を蹴り上げて再び手で掴むとそのまま技に入る

 

「水の呼吸 陸ノ型 ねじれ渦」

 

 スパンと殺せんせーの足の触手を一気に5本切断する

 

 体温が上昇する

 

 ロンメルの動きが明らかに良くなり、殺せんせーの動きが悪くなる

 

 殺せんせーは一気に触手を失ったことによる体力の消費

 

 ロンメルの動きが良くなったのは

 

「ロンメルさん、まさかそれが……痣ですか」

 

 全身に織田木瓜の痣が浮かび上がる

 

 それが全身を埋め尽くすとロンメルの皮膚は真っ黒に変わり、更に上から赤く織田木瓜が咲く

 

「どうせ死ぬのは確定しているんだ。遅かれ早かれの違いのみ……長く平和なこの世界に居たい気持ちもあるが、恩師に本気を出さないのはそれこそ失礼だろう」

 

 ロンメルの刀が変形する

 

 巨大に何本も枝分かれした大太刀へと変化する

 

「触手は集めることでエネルギー砲を放つことができる」

 

 極細のレーザーが殺せんせーの触手に直撃して吹き飛ばす

 

「太くなくて良い、ただ消耗させれば私の勝ちだ」

 

 そこからはロンメルが圧倒したかに思えた

 

 刀による斬撃の数も段違いであり、時折飛んでくるレーザーにも殺せんせーは対応しなければならない

 

 厄介な太刀を何とかしようにも触手が絡み付いて吹き飛ばすこともできない

 

「チェックメイトだ殺せんせー」

 

 その瞬間殺せんせーのネクタイにロンメルの刃が届いた瞬間背中に大きな穴が空いた

 

「生徒を本来であれば傷付けたくはないのですが、それを気にして勝負に負けた方がロンメルさんにとって侮辱なので先生も本気で対応しました」

 

 地面から触手!? 

 

「ロンメルさん悪い癖ですよ。1つのことに集中すると周りが見えなくなる……余裕がある時のロンメルさんなら全体が見えていたハズです。決定打に固執するあまり……勝負を焦ったが故に先生が隠した触手に気がつかない」

 

 ロンメルの心臓を殺せんせーの触手が撫でる

 

「良く頑張りました」

 

 心臓は潰されなかった……がこれは負けだ

 

 血液を瞬時に止血して再生を始める

 

「これでもまだ殺せんせーには及ばないのか……」

 

「ヌルフフフ、ロンメルさんの更なる成長が楽しみですねぇ」

 

 こうして殺せんせーとロンメルの決闘はロンメルの負けで終わった

 

 皆は両者が死ななかったことに少し安堵したが、改めて殺せんせーの凄さを認識した

 

 1人で殺るのは無理だと

 

 個人戦力なら偽死神より強かったロンメルですら殺れない殺せんせー

 

 それを殺すには集団暗殺しかないと皆はロンメルという核を利用した暗殺に切り替える

 

 ただ1人を除いて




ロンメルの独断と偏見で選ぶ強さランキング

最高 殺せんせー

~殺れない壁~

無惨
 
~相討ちの壁~

黒死牟

~人外の壁~

偽死神
烏間先生
他上弦
柱のメンバーの上位
義輝様

~超人の壁~

柱の他のメンバー
ロンメルのウマ娘の子供達
かまぼこ隊の3名+カナヲ

~上位者の壁~

下弦の鬼
甲の鬼殺隊員
戦国時代の猛者達
今のロヴロ(老化による衰え)
鷹岡


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呼吸の時間

 ロンメルの本気は良くも悪くも皆に大きな影響を与えた

 

 立ち振舞い、呼吸……そして技術

 

 今までどんな暗殺者よりも警戒状態の殺せんせーを追い込み、後一歩のところまで持っていった技量及び技の美しさに魅了された

 

「凄かったよな水飛沫が刀から出てるように見えたぜ」

 

「水飛沫も凄かったけど月を表した技の数々も綺麗だったわよ」

 

「でもよ……俺らあまりにもロンメルさんの事を知らなすぎたよな」

 

「うん……話されるのを待っていたのかもしれない……」

 

 ロンメルに懸賞金がかけられていることを知った今……今までのようにロンメルと馬鹿やったりするのはできない

 

 楽しいことはできるだろうが、一歩距離を置いてしまうかもしれないという感覚が皆に壁を作らせた

 

 翌日皆が登校すると黒板に呼吸法とデカデカと書かれていた

 

「1時間借りまして皆さんに私が使っている呼吸を教えたいと思います」

 

 クラスの皆が集まるといきなりそう言われた

 

 烏間先生や殺せんせー、ビッチ先生も壁に背を預けながら聞いている

 

「皆さんは昨日私の戦いで水飛沫や炎、月といった幻影を見ていたことでしょう。あれは私が本気を出した時は実体化しますが、基本エフェクトだと思ってください……で、夏休み前から皆さんに教えるべきか悩んでいましたが、私個人の暗殺が失敗した以上、皆さんに教えて戦力の底上げをしようという考えに至りました」

 

「質問いい? ロンメルさん」

 

「はい、片岡さんなんでしょうか?」

 

「あれは人ができることなの? ロンメルさんだからできたって言われても納得できるんだけど」

 

「この技術……全集中の呼吸は人間誰しもができる呼吸を違くするだけでできる技術なのですが……この呼吸には3段階の変化があります」

 

「「「変化?」」」

 

「はい、まずこの呼吸一瞬……数秒使うこと……これならば1ヶ月みっちり鍛えれば今の皆にでもできると思います……これが全集中の呼吸です」

 

「続いてその呼吸を寝ている間も含めて常に行い続けるのが全集中の呼吸・常中です。たぶんここまでできるようになる人は卒業までに2、3人居れば良い方です」

 

「最後に痣です。これは全集中の呼吸・常中を行いつつ心拍数200以上、体温39度以上になった状態で動き続けると発生します。この様に」

 

 ロンメルは顔に痣を出す

 

「ただ痣は危険です。寿命の前借りだと思ってください。痣が発生した者は例外無く25歳前後で死にます」

 

「「「!?」」」

 

 皆が驚く

 

 ということはロンメルも25歳で確定の死を向かえることになるからだ

 

「私が痣を出したのはどのみちこのままでは25どころか来年の4月13日に死ぬからなのでこのデメリットを無視しているに過ぎません」

 

「ちょ、ちょっと待てよ! そんな簡単に死を割り切って良いのかよ!」

 

「良いか悪いかであれば、今の価値観だと悪いでしょうね。ただ前にも話した通り、私は異世界を渡る民だ。その世界によって価値観が違う……25まで生きられるし、強力な力を得れるのであればと復讐のために喜んで使う集団もあれば、作戦のために死兵となり戦う者達もいる……その世界によりけりだよ」

 

「ロンメルさん……」

 

「……話を戻そう。皆には放課後の30分をこの呼吸習得のために練習してもらいたい。殺せんせー」

 

 シュバババと全員の席に約150ページ程の呼吸習得マニュアルが置かれた

 

「呼吸といっても様々な呼吸がある。岩、風、炎、水、雷……この5系統から様々に派生していく。で月と日だけはこの系統から独立していると考えて欲しい……ちなみに殺せんせーにも事前に教えてみたところ風の呼吸に適正があった。皆にはまず呼吸の基礎を教えるから、自分がどの呼吸に適正があるか付属の性格診断をしてから考えてみて欲しい。ドンピシャならその呼吸が合っていて、ちょっとでも違うと感じれば派生の呼吸に適正があると思って欲しい」

 

「質問なんだけど呼吸を覚えるのとそうでないのとではどう違うんだ」

 

「まず呼吸が使えれば身体能力が1.2倍程向上する。傷の治りが早くなる、自然治癒力、免疫力、臓器の機能向上、脳の活性化……記憶力の向上、再生しない細胞の僅ながらの再生、若さを保てる、筋肉が付きやすくなる、止血効果、集中力の向上等がわかっています」

 

「全集中の呼吸・常中が使えればこれが更に大きく上がります」

 

「「「おお!」」」

 

「覚えておいて損はないですが、無理は絶対にしないでください。まぁ痣は死ぬ気でやらないと出ないと思うので大丈夫だと思うのですが……烏間先生、この技術は防衛省にも絶対に漏洩しないでください」

 

「なぜだ」

 

「元々これは人が怪物……鬼と戦える為にできた技術であり、容易に超人を量産できる物です。これがあの死神みたいな殺し屋の手に渡ると覚えていない人は抵抗すること無く死にます。そもそも対人で使用してはいけない技術なのです」

 

「あら、私からロヴロ先生に伝わるとは思ってないのロンメル」

 

「ビッチ先生、これは私からの信頼の証だと思ってください。皆もそうです。不用意にこの技術を広めようとは思わないでください。約束です。1度失敗を経験している(わかばパークの一件)皆さんならば大丈夫だと思っています。私からの皆さんへのプレゼントです。どうか受け取ってください」

 

「……やろう! 俺はやるよ! ロンメルさんまでとはいかなくても身体能力が向上すれば殺せんせー暗殺の可能性が高まるからな」

 

「副産物も魅力的だね! 若々しくいたいもん!」

 

「俺もやる」

 

「私も!」

 

 全員が呼吸の危険性を理解した上で賛成してくれた

 

 その日の放課後から呼吸のトレーニングが始まる

 

 もちろん鱗滝さんの様なトレーニングではなく、殺せんせーとロンメルで改良したやり方であり、肺活量を増やすペットボトルトレーニングから始まり、ランニングや山登り等の有酸素トレーニングを繰り返し、ロンメルや殺せんせーがアドバイスをしていく

 

「なんで私まで!」

 

「でもビッチ先生も若さを保つ為ならいけるでしょ」

 

「そ、そうだけど」

 

 殺せんせーが覚えられたのだから皆もできるハズである

 

 暗殺で全身をまんべんなく鍛えているためすぐに呼吸を覚えさせられるのも大きい

 

「2学級中に全員が全集中の呼吸を10秒ちかくできるようになれば御の字だろう」

 

 そう予想を立てて



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学園祭の時間

 呼吸を教えはじめて1週間

 

 想像以上に皆の吸収力や成長力にロンメルが驚いていた頃

 

 進路相談の季節となった

 

「「「進路相談?」」」

 

「ええ、皆さんの誰かが先生を殺せた場合その後を考えなければなりません。まぁ無駄になると思いますがねぇ……進路希望の用紙に志望校、将来なりたい職業を2つ書いてください。1人1人面談を行いますのでできた人から別室に来てください」

 

 進路……進路かぁ……

 

「ロンメルさんはどうするの? もし殺せんせーを殺せて生存する方法が見つかったら」

 

「倉橋さんか……うーん、考えてなかったんだよね」

 

「以外! 色々と考えてるのだと思ってた」

 

「生存方法の模索でいっぱいいっぱいでね……将来かぁ……高校にはこの容姿だから行けないし、下手すれば国の研究施設で監禁の可能性が高いんだよねぇ……」

 

 ロンメルは悩む……正直この暗殺教室という目標を達成した後はエンドコンテンツである

 

 ……まだまだ学びたい

 

 色々な事を経験したい、感じたい、成長したい

 

 学び続けることこそが強さである

 

 成長し続けられることこそ強さであるという信念の元で行動するロンメルにとって……ふと思い返す

 

 それは劣等生としてのウマ娘としてのロンメルのことである

 

 このまま順調に行けば……エクリプスさんの話が本当であれば【次は元のウマ娘の世界にいけるハズ】である

 

 殺せんせーとの特訓と過去の経験からあの頃とは比べ物にならないほどにロンメルは強くなった

 

 しかし、肉体は世界を越える時にリセットされ、またスリーアウトの頃の様な弱者となってしまうのではないかと恐怖がある

 

 どうすべきか……どうすべきかと悩む

 

 どんなに頑張っても最盛期の肉体を得るには1年半かかる

 

 戻ったところでクラシック期の6月……スリーアウト制度故に再出走まで2ヶ月……翌年の1月までに未勝利を脱出することとトレーナーを見つけなければならないし、最盛期になるまでに重賞を勝っておかなければ大レースにすら出走できない

 

 しかも8月からは未勝利戦というレースは無くなり1勝クラスという格上で戦わなければならない

 

 これが剣術の試合や殺し合いであればいくらでも勝つ方法はあるのだが……

 

 いやいや、待て待て、この世界で何をするかだ

 

「うーん、国に交渉して自由がある程度保障してくれるなら通信制でも高校や大学の勉強学びたいな……大学が終わったら3年間は世界を旅してみようかな」

 

「良いじゃん! 良いじゃん!」

 

 ロンメルは志望校は通信制の高校を選択し、職業は動画配信者、バックパッカーと書いた

 

 殺せんせーは複雑そうな顔をしている

 

「もっと安定した職業に就いて欲しいのが本音ですが……というか本当に25で死んでしまうつもりですか?」

 

「ええ、殺せんせー亡き後の世界に私の事を満たせる人物は居ないという考えに至りました……25でこの世界では満足です」

 

「そうですか……生徒が決めたことをとやかく言うのはよしましょう……良き人生を」

 

「はい! 応援してください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 渚君が進路に迷い、決められずに居ると、家で母親にE組から抜けるように言われてしまい、急遽3者面談をすることとなったり、烏間先生がこういう時は担任役をするのだが出張で居ないため殺せんせーが変装をしてやりとげたりという事件があったが、11月の中旬……また椚ヶ丘学園にて大きなイベントが始まる

 

 

「おほー、学園祭ねぇ」

 

「ロンメルさんは知らないかも知れないけどうちの学園祭はガチだよ。儲け分は寄付するけど収益の順位は校内にデカデカと貼り出される。ここでトップを取ったクラスは商業的実績として就活や進学で履歴書に書ける程なんだ」

 

「だから皆必死に商売するから社会人顔負けの店も多いよ」

 

 で、今回は中学だけでなく高校も合同の学園祭であり、更にE組は山の上にあるので客が山登りなかなかに不利な厳しい勝負である

 

 で、本校舎の連中はこれまで野球部との勝負から始まり、A組との勝負でどんでん返しをしてきたE組が今回も何かしでかすんじゃないかと勝手に期待されていた

 

「勝ちに行くしか無いでしょ!」

 

 殺せんせーはやる気満々である

 

「今までもA組をライバルに勝負することで君達は成長してきた。この対決暗殺と勉強以外の1つの集大成になりそうです」

 

 殺せんせーは続けて言う

 

「君達がここでやってきた事が正しければ必ず勝機は見えてきます」

 

 吉田君や狭間さんが疑問を出す

 

「つったって勝つ方法はよ」

 

「店系は300円まで、イベント系は600円までが単価の上限って決められてる。材料費300円以下のチープな飯を食べに誰が1キロの山道登って来るのかしら」

 

 更に杉野君がA組の浅野君が何でもスポンサー契約を取り付けてドリンクと軽食は無償提供するようにしたらしい

 

 五英傑の面々も金持ちであったりコンクールや大会などに出ていて顔が広い為に友人を動員して客を呼び込むつもりらしい

 

 イベント系をやるという情報もあり、今回も高い壁になりそうだ

 

「E組における価値とは例えばこれです」

 

 と殺せんせーはドングリを取り出した

 

「裏山にいくらでも落ちています。色々種類がありますが、身が大きくアクの少ないマテバシイが最適です……皆で拾ってきましょう。そしてロンメルさん、皆が拾ってきている間に供給できる食料のピックアップをお願いします」

 

「任せて」

 

 ~1時間後~

 

 皆で裏山を巡ると30Lのごみ袋10袋分のドングリが集まった

 

 これを水に漬けて浮いたものを捨てて、殻を割って渋皮を除き、中身をミキサーで粗めに砕いたら布袋に入れ換えて1週間アク抜きをする

 

 その後3日間天日干しして、臼で更に細かくドングリを引いてドングリ粉の完成

 

 アク抜きをしている間に殺せんせーが先に完成をしたドングリ粉を取り出し

 

「客を呼べる食べ物と言えばラーメン!! これを使ってラーメンを作りませんか!!」

 

 ラーメンという言葉に村松君が反応する

 

 ドングリ粉を舐めると

 

「ちょっと厳しいな。味も香りも面白ぇけど粘りが足りねぇ。滑らかな食感をドングリ粉で出すには大量のつなぎが必要だから……結局その分材料費はかかるぜ」

 

「ならばこれはどうでしょう」

 

 殺せんせーは芋を取り出す

 

「と、とろろ芋だ!」

 

「正確には自然薯です。天然物は店で買えば数千円しますが、とろろにすると香りも粘りも栽培ものとは段違い。つなぎとして申し分ないでしょう。自然の山にはどこにでも生えています。探して来ましょう」

 

 自然薯も集まり後は卵であるが

 

「それなら私の出番かな! プリン暗殺の時に培った手伝があるからそれで安く卵を仕入れられるよ!」

 

 卵は大規模な生産者かつ現在生産調整に失敗して値崩れしているので1パック10個入りが15円から20円これに輸送費だ、利益だとかで特売スーパーでも70とか80、90円になるのだが、直接仕入れれば安い

 

 茅野さんが千葉の生産者と繋がりを生かしてロンメルが台車を引いて買いに行く

 

 ドングリ粉の麺1人前を作るのに卵3つ必要なのでとりあえず1万個購入する

 

 材料費は常識の範囲内なら学校側が負担してくれるの卵は確保

 

「麺の材料費は1人前4.5円ですので残りをスープに当てることができます」

 

「……なるほど!! ならラーメンよりつけ麺の方が良い、この食材の野性的な香りは濃いつけ汁の方が相性がいいし、スープが少なく済む分利益率も高い!」

 

「ロンメルさんできましたか」

 

「はい、出せる食材のピックアップと手伝を使って仕入れられる食材及び値段です」

 

「……おお! そっか新米じゃなくて古米ならこの値段か」

 

「小麦粉が使えるなら普通のラーメンも作れるね。スープは村松君と私(原)とロンメルさんの3人で研究したのが使えるし」

 

「卵が大量にあるから味玉や卵かけご飯、チャーハンみたいなサイドメニューもたくさんできる」

 

「それ以外にもあるぜ!」

 

 皆が色々な食材を探してきてくれた

 

 川魚がプールにわんさか住み着いており、ヤマメ、イワナ、オイカワ、テナガエビなんかが獲れた

 

 山に自生する柿や栗、山葡萄、銀杏、くるみ、アケビ等々の果実やカルマ君がきのこも獲ってきてくれた

 

「フルーツ系はそのまま出すのもアリだけどドライフルーツにして持ち帰りできるようにした方が良いんじゃない?」

 

「お! ロンメルさんもやしとほうれん草大量にあるんなら使いたい!」

 

「チャーシューどうするかだよな」

 

「豚は先生に任せてください。安く仕入れてきますよ……そしてカルマ君、きのこですが半分は毒キノコですがこれなんか」

 

「「「ま、松茸」」」

 

 これらを店で買ってフルコースを作れば3000円は下らない

 

 しかし、それらがこの裏山では当たり前に手に入る

 

 奥山に隠れて誰もその威力に気がついていない

 

「隠し武器で客を攻撃か」

 

「まぁ殺し屋的な店だわな」

 

 こうして食材が決まれば動き出す

 

 ドングリや食材を集める班

 

 サイドメニューや試作品を作り研究する班

 

 広告のサイトや看板、チラシを作る班

 

 敵情を視察する班

 

 各々持てる技術をフルに使い準備を行った

 

 そして11月中旬の土曜日と日曜日

 

 学園祭戦争が幕を開けた

 

 

 

 


 

 メニュー一覧

 

 ・ドングリつけ麺 ハーフ 普通 大盛 特盛

 ・特製豚骨醤油ラーメン ハーフ 普通 大盛 特盛

 ・モンスターラーメン(特盛及び数量限定1日15人まで) 

 ・ライス 半ライス 普通 大盛

 ・TKG

 ・チャーハン ハーフ 普通

 ・山の炊き込みご飯

 ・森ピザ ハーフ 普通

 ・川魚の燻製

 ・つみれ汁

 ・銀杏と野菜のかき揚げ

 ・野菜の天ぷら

 ・おにぎり揚げ 選べる具材 チーズ 味玉 チャーシュー 各種きのこ

 

 デザート

 ・山のモンブラン

 ・山のパフェ

 ・皿まで食べれるアケビ

 ・柿とアケビのゼリー

 

 ・山葡萄のジュース

 ・レモン水 サービス(ラーメン、つけ麺注文にて切り替え)

 ・お冷 サービス

 



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学園祭の時間 2 テスト勉強の時間 

 学園祭1日目

 

 ロンメルは裏で料理や仕込みをしていた

 

「オーダー入ります! ドングリつけ麺2つ、山葡萄ジュース2つ」

 

「はーい」

 

 基本メインで料理を作るのは3人

 

 ロンメルと村松君と原さんの料理研究会の3人で、サポートとして奥田さん、片岡さん、磯貝君、神崎さんが料理班だ

 

 他は接客、裏山にて材料集め、本校舎にて呼び込みや山登りのサポートとして台車での送迎等の役割に別れた

 

「おお、ロンメルいねーが?」

 

「あ、お米の米田おじちゃんおばちゃん」

 

「おお! 呼ばれたから来たぞ! うちの米がどう化けたか楽しみでな」

 

「ありがとうございます」

 

「ロンメル! 来たぞ」

 

「ああ! 魚屋の魚民さん! 来てくれたの! 嬉しい」

 

「ロンメルちゃん!」

 

「ロンメルちゃん!」

 

「八百屋の倉八さん! 牛屋の三ツ木さん!」

 

「……すげぇ、ロンメルさんの知り合いでどんどん席埋まってくぞ」

 

「いろんな所と仲良いんだなロンメルさんって」

 

 夏休みの沖縄の島で女装した渚君に惚れてしまった男の子をからかう場面や、わかばパークの皆や、殺せんせーを暗殺できなかった暗殺者達、修学旅行で絡まれた高校生等様々な人が訪れた

 

「あ、スモッグさん、グリップさん、ガストロさん、メスさんこんにちは」

 

「おお、ロンメルじゃねえか呼ばれたから来たぜ!」

 

「うめーなお前らの料理! これが1品300円ならお得だし言うことねぇよ」

 

「銃うめぇ! 銃うめぇ」

 

「ガストロここで銃はまずいって」

 

「ああん? メス堅いこと言うなよ! 周り殆ど暗殺関係者じゃねえか。一般人がはける時間に来てるんだから文句言うなよ」

 

「まぁほどほどに、私は料理作るのに戻るからいっぱい食べてね」

 

「「「「おう」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 とりあえず1日目が終わり売り上げはぼちぼちってところ

 

 明日は今日来た人は来ないと思うので少し売り上げは落ちるかもしれない

 

「まぁ残った食材は私が買うから最後はパーっと皆で飲み食いして終わろうよ」

 

「だなー、明日も今日くらい来てくれたら本校舎の売り上げランキング上位10位くらいにギリギリ入れるかもな」

 

「皆が笑顔で帰ってくれればそれでよし! 殆どタダみたいなもんなんだからそれでいいでしょ!」

 

 料理研究会の3人が明日の仕込みで夜まで残って喋る

 

「ほらよ賄いのチャーハンと小ラーメン、ちゃっちゃと食って明日の仕込み終わらせるぞ」

 

「「はーい」」

 

「しっかしこの豚骨醤油ラーメン本当家でそのまま出してぇわ。この味なら家の糞まずいラーメン全取り替えで客も満足するだろうし」

 

「まぁ3人で半年近く研究しまくったからね」

 

「サイドメニューも一新しちゃえ」

 

「原もロンメルも家でもし来年も大丈夫ならバイトしてくれよ! 頼むよ」

 

「うーん、来年大丈夫ならバイトするよ。賄いと最低賃金くらいはちょうだい」

 

「私もいいよー」

 

「サンキュー、そしたらロンメルを長生きさせる方法考えねーとな」

 

「そうだね」

 

「まぁそれは私個人で色々動いてるから安心してよ。冬休みくらいにはとある筋に頼ってる結果が出るからさ」

 

「お! 頼むぜ救世主! この3人でバカ旨い最高のラーメン作るんだからな!」

 

「「おう」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日学校に登校したら、なんか長蛇の列ができていた

 

 テレビ局まで来てるし

 

 何でも昨日渚君に惚れた男の子が今一番勢いのある食のブロガーだったらしく、そこでE組の特集が行われたらしい

 

 律と三村君、イトナ君がE組のサーバーがダウンしないように必死にサーバーの補強をするくらいアクセスが殺到し、開店前から本校舎まで長蛇の列

 

 ロンメルは触手をフルに使い料理を作っていく

 

 そこからはもう作ったそばから売れていき、皆必死に食材を獲って作って売って……

 

「ヤバいドングリ麺がもう少ないよ」

 

「サイドメニューの山の幸の売れ行きも良いから残り時間はこれで粘ろう!」

 

「もう少し山の奥に行けばまだ生えてるところがあるぜ!」

 

 皆盛り上がるが殺せんせーが

 

「いや、ここいらで打ち止めにしましょう」

 

「……!? でもそれじゃあA組に勝てないよ!」

 

「いいんです。これ以上獲ると山の生態系を壊しかねない……植物も鳥も魚も菌類も節足動物も、哺乳類も……あらゆる行いが縁となって恵みになる。この学園祭で実感してくれたでしょうか? 君達の行いがどれ程の縁に恵まれていたかどうかを」

 

「あーあ、結局今日も授業が目的だったわけね」

 

「くそ! 勝ちたかったけどなぁー」

 

 今列に並んでいる人を最後に店じまいとやり、作ったドングリつけ麺3000食は完売

 

 残った時間と食材で打ち上げをし、学園祭は楽しく終了となる

 

 結果は総合2位

 

 流石に芸能人やアイドルまで呼んだA組には勝てなかったが、高等部を抑えてE組が2位まで登り詰めたことに本校舎では称賛の声が上がった

 

 しかし、この結果を受けて理事長が動き出す

 

 自身の学校方針が崩壊しないように

 

 今度は徹底的にE組から勝つために……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、2週間後にはこの一年の集大成、いよいよ次は学の決戦です。トップを取る心構えはありますか? カルマ君」

 

「さぁねぇ。バカだから難しいことわからないや」

 

「……自信ありげですね! 一学期の中間テストの時先生はクラス全員50位以内という目標を課しました。あの時の事を謝ります。先生は焦りすぎていたし、敵の強かさも計算外でした。ですが、今は違う。君達は頭脳も精神力も成長した。どんな策略にも障害にも負けずに目標を達成することができるはずだ」

 

「堂々と全員50位以内に入り! 本校舎復帰資格を獲得した上で堂々とE組として卒業しましょう」

 

「ただ、その為にはA組の新しい担任である理事長先生に勝つ必要があります。先生は全力で君達の事をサポートします! さぁ皆さん今度こそ勝ちに行きましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃A組は浅野理事長による改造が始まっていた

 

 通常の10倍分かりやすく20倍早い授業

 

 付いていけない者は洗脳により無理やり勉強させる

 

 これを見ていたA組のリーダー浅野君はE組に放課後こんな依頼をしてきた

 

「どうかあの怪物(理事長)を殺してほしい」

 

 と

 

 もちろん物理的ではなく殺してほしいのは教育方針である

 

 簡単な話次の期末にE組に上位を独占させ、理事長の教育方針をぶち壊す

 

「勿論1位になるのは僕だが……強者であり、才能のある者はそれで良いだろう……しかし、僕以外の凡人は違う。今のA組はまるで地獄だ。E組への憎悪だけを支えに限界を超えて勉強をさせている。もしあれで勝ったら彼ら達はこの先その方法でしか勝てなくなる……信じなくなる」

 

「敵を憎み、蔑み、陥れることで手に入れられる強さなど限界がある。君達程度の敵にすら手こずる程に……A組は高校に進んでも僕の手駒だ。偏った強さの手駒では支配者を支えることはできない。時として敗北は人の目を覚まさせる」

 

「だからどうか……正しい敗北を僕の仲間と父に……」

 

 プライドの高い浅野君が皆に頭を下げたらしい

 

 ちなみにカルマ君がその直後に浅野君も引きずり下ろして1位を取ると宣言したそうな

 

 その話を皆に後から聞いたロンメルは浅野君やカルマ君だけでなく今度は勝つのは自分だとこの1位合戦に名乗り出た

 

 その日を境に皆勉強しまくった

 

 問題の予想を作り、傾向等まで研究して……

 

 教え通りに第二の刃を身につけた事を先生に報告できなければ卒業なんてできない

 

 そして決戦の日となる



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二学期期末テストと浅野理事長の時間

 テスト当日……予習も復習もしてきた

 

 これまでの積み重ね……約1年と8ヶ月……ロンメルは学力という武器も手に入れた

 

 ズルかもしれない

 

 触手の能力と脳を接続する

 

 ダメかもしれない

 

 呼吸で脳を活性化させる

 

 今ロンメルは新たな領域へと踏み込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 英語のテストが始まる

 

 問スターをロンメルは一撃で粉砕する

 

 上がった演算能力と集中力をフルに生かし、リスニング問題を正確に聞き取る

 

 テストの裏にリスニングの発音を全て書き取り、そこから有っている単語や知っている単語に当てはめていく

 

 さすれば答えが見えてくる

 

 普通こんな方法で突破する人は居ないだろうが、ロンメルのハイスペックな身体能力と頭脳が可能にする

 

(ビッチ先生でもこんなにボキャブラリー豊富じゃないだろうねぇ……クックックッそれでも私は今回は全ての問題を解く)

 

 単語問題は今回無くなっており、中文の読解問題からスタート

 

 英語だが国語も混じっており、作者の意図する意味を答えなさい等が普通に出てくる

 

 ロンメルはマッハ以上の速度で文を読み、答えを道引き出す

 

(これは……我が闘争(ヒトラーの著書)の英語版……この本が社会に与えた影響を答えなさいとか知っていないと絶対に無理でしょ)

 

 そして最終問題……テストページ3枚両面印刷の長文読解

 

(冷戦時代の英語の著書だな……しかもドが付くほどのマイナーな本だ……いや、これベレンコ中尉(ソ連から冷戦時代に最新の戦闘機で亡命してきた人)の幼少期の実話だ。これ幼少期だからあえて亡命に触れないことでわかりづらくしてるじゃん)

 

 最終問題の問スターを分量によるハンマーで振るい飛ばしてゲームセット

 

 疲れたが問題ない

 

 目の前の理事長先生は本とコーヒーで優雅に寛いでいるが、何を考えているんだか

 

「強者は弱者に負けない……強者と弱者は簡単に覆る……一見矛盾しているようで矛盾していないこの言葉……歴史が得意なロンメルさんはどうとらえるかな」

 

「強者の目線で言えば強者故に持てる物、道具や知識、権力あるいはルールすらも変更できる。それを使えば弱者に負けることはない」

 

「強者と弱者は簡単に覆るはそれは弱者の数が一定数居た場合や弱者が強者に無いなにかを持っていた場合、あるいは強者に追い付いた場合になりますねぇ」

 

「ええそうだ。私の教育は常に社会的な強者を作る事をしてきた。弱者は弱者同士で傷の舐め合いをしていれば良い」

 

「理事長先生は優しいんですね」

 

「なぜかね?」

 

「弱者を完全には見捨てない。弱者であってもセーフティを設けて救っている。E組に雪村先生を置いたのも彼女が優秀であったから可能性は低いが強者に戻れる機会を与えた」

 

「……無駄話が過ぎたね。次は社会だ頑張りたまえ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 社会、理科、国語、数学と解いていく

 

 この2週間の準備期間生徒同士での教え合いが活発に行われていた

 

 殺せんせーだけを便りにするのではなく自分達で、教え、覚え、質問し、答え……皆が一丸になってテストに挑んでいる

 

 初めのどんよりとしたエンドのE組を見てきた私は殺せんせーの教育の凄さを改めて尊敬し、その手伝いをしてきた烏間先生やビッチ先生、防衛省のスタッフや浅野理事長の手腕に感服した

 

 教育とは……自主性の教育とはまさにこの事だ

 

 エンドであったE組は殻を破り見事に昇華した

 

 数学最終問題……空間面積の求め方

 

 それはまるでE組を表しているかのような問題であった

 

 空間問題はその図形が永遠と続いていることが文章に隠されており、それが文章の序盤に僅かに書いてある

 

 問題文は後半に必要部分が書かれていることが多いため時間が無いと後半のみに絞って読んでしまうと問題出題者のドツボにハマる

 

 これは縁の問題だ

 

 1つの箱には皆の空間と私の空間が入り交じっている

 

 皆の領域を求め、問題となっている空間領域を引いて最後に残ったのが自分の領域である

 

 難しいことは何一ついらない

 

 ただ立方体の半分の面積を答えるだけの問題である

 

 a^3/2これが答えである

 

 ロンメルは最終問題を解き終わり、ゆっくりと見直しをして終了する

 

「そこまで」

 

 浅野理事長の言葉でペンを置く

 

「強者とは何か……弱者とは何か……人は皆弱者だ。種族が違う私から言わせてもらえばこれが答えだ。しかし、弱者である人間が強者であるウマ娘の上位に居るのはなぜか……たま~に考えることがあり、その答えを私はE組で見つけた……ウマ娘よりも少しだけ早く仲間の大切さに気がつけたことと、私達ウマ娘は走ることに理想を求めすぎた。ただそれだけだ」

 

 ロンメルは筆記具を筆箱にしまう

 

「思いやり、助け合い……これらに勝る美徳は存在しない。強者である事を理想にするのは結構ですが、徳を忘れてしまった権力者の末路は悲惨ですよ理事長先生」

 

 そう言ってロンメルは退室した

 

 残された理事長は何を思うか私は知らない

 

 

 

 

 

 

 

 

 3日後テストの返却が行われた

 

「細かい点数で四の五の言うのはよしとしましょう。今回の焦点は総合順位で50位を取れたかどうか!! このE組でも順位を先に発表します!!」

 

 ババっと殺せんせーか巨大な順位表を黒板に広げる

 

 そこには全員50位に入っており、最下位でも寺坂君の47位……気になるロンメルの総合順位は

 

「同率2位」

 

 浅野君と同率の2位の497点であった

 

 テストの答案が返却されどこを間違えたか見ると社会だった

 

 信玄の西上作戦の内容がロンメルの世界の出来事とごっちゃになっており部分点となっていた

 

「西上作戦……か」

 

 唯一息子を失った戦いであり、ロンメルにとって明確な敗北であった

 

 あの強烈な戦を忘れる方が難しく、ごっちゃになっても仕方がない

 

「カルマ君……負けたよ……おめでとう1位」

 

「いや、流石ロンメルさんだ。俺をここまで追い詰めたんだ誇って良いよ」

 

 とすました顔で言われた

 

 皆は勝利に一通り喜こんだ後席につき

 

「では皆さんクラス目標の全員50位以内達成のご褒美に先生の弱点を教えましょう……先生の弱点……それは」

 

 ガカゴゴゴゴと校舎が揺れる

 

 皆が音のする方向を見るとショベルカーが校舎を破壊していた

 

「退室の準備をしてください」

 

 外には理事長がいた

 

「今朝の理事会でE組の校舎の解体が決まりました。今後は系列校の新校舎に移ってもらい、卒業まで性能実験に協力してもらいます」

 

「「「し、新校舎!?」」」

 

「監視システムや脱出防止システムなど、刑務所を参考にしたより洗練された新しいE組です。牢獄のような環境で勉強できる。まさに私の教育論の完成形です」

 

 そして殺せんせーには遂に切った伝家の宝刀……解雇通知

 

 しかし、この校舎を破壊するのも殺せんせーの解雇も浅野理事長のする暗殺を受けて更に殺せんせーが生きていたら無しとなることになった

 

 ギャンブルである

 

 教室には理事長と殺せんせーだけが入り、理事長が持ってきた出版社の違う5教科の問題集と5本の手榴弾が5つの机に並べられた

 

「ルールは簡単、手榴弾のピンを抜き、安全レバーが上がらないように問題集の適当なページで挟みます。問題集を開き一番右上の問題を手榴弾が爆発する前に解いてください。それを先に殺せんせーは4回してもらいます」

 

 手榴弾は対先生弾が満載された物が4つ、本物の手榴弾が1つあり、臭いや形では判別できないようになっていた

 

 殺せんせーがもし4回全て解いたら浅野理事長が1回殺せんせーと同じことをやる

 

 もし対先生弾の手榴弾であれば理事長の命に別状は無いが、本物であれば理事長の命は無い

 

 ただ圧倒的に理事長有利での暗殺が始まる

 

 

 

 

 

 

 

 

 殺せんせーが最初に選んだのは数学の問題集

 

 殺せんせーは勢い良くノートを開き……爆発に巻き込まれた

 

 殺せんせーの弱点としてテンパると弱いことがあげられる

 

 今回も殺せんせーはテンパってしまい数学の問題が解けなかった

 

「弱者は暗殺でしか強者を殺せないが、強者は弱者を好きな時に好きな様に殺せる……この真理を教える仕組みを全国にばらまく! 防衛省から得た金と君の暗殺の賞金があれば全国に系列校が作れる。さぁ殺せんせー、我が教育の礎となってください」

 

 殺せんせーはダメージが回復しないまま社会の問題を開いて閉じてメモを乗っけた

 

 そこには問題の答えが置かれていた

 

「はい、開いて閉じて置きました。これらの問題集は確かに難問ですが、ほぼほぼどのページにどの問題があるか覚えています。数学だけは生徒に長く貸していてわかりませんでしたが……」

 

 国語と英語を殺せんせーはちゃちゃっと解く

 

「教え子の敗北で心を乱したみたいですね。あなたらしからぬミスです。どうですか目の前に死が置かれた感想は」

 

 

 

 

 

 

 同じ教室で2人の超人が教鞭を取った

 

 殺せんせーは強さを悔いたから

 

 理事長は弱さを悔いたから

 

 理事長がなぜあそこまで強さにこだわるのか……殺せんせーに質問したことがあった

 

 教え子が自殺したらしい

 

 浅野理事長が当日まだ椚ヶ丘学園の前身……椚ヶ丘塾であった頃の最初の教え子が卒業して3年後に自殺したとか

 

 いじめによる自殺らしい

 

 浅野先生はいじめられた生徒が塾生だった頃はやんちゃだった故に優しさを説いた……優しくなったが故にいじめられた

 

 そこから浅野先生は強さに執着したのだとか

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ浅野理事長……最後の1冊を開きますか?」

 

「いくらあなたが優れていても爆弾入りの問題集を開けばタダでは済まない」

 

「潔く負けを認めちまえよ!」

 

 皆がヤジを飛ばす

 

 殺せんせーが首になっても家出して3月まで暗殺教室を続けると

 

「今年のE組の生徒はいつも私の教育の邪魔をする。ここまで正面切って刃向かわれたのは今年に入って何度目だろうか……殺せんせー、私の教育論ではね、あなたが地球を滅ぼすならそれでも良いんです」

 

 浅野理事長は問題集を戸惑うこと無く開いた

 

 手榴弾は……本物

 

 爆発と爆風が浅野理事長を包み込む……がその前に殺せんせーが脱皮を被せた

 

「なぜこれを自分のために使わなかった」

 

「あなた用に温存しました。私が賭けに勝てば、あなたは迷い無く自爆を選ぶでしょう」

 

「……なぜ私の行動を断言できる?」

 

「似た者同士だからです。お互いに意地っ張りで教育バカ、自分の命を使ってでも教育の完成を目指すでしょう。私の求めた教育の理想は……十数年前のあなたの教育とそっくりでした」

 

「殺すのでは無く生かす教育……これからもお互いの理想の教育を貫きましょう」

 

 理事長は今のE組を今の今まで続けてきたのは昔思い描いた理想の教育を無意識に続けてたからであり、それを殺せんせーは見破ってこの発言である

 

 浅野理事長は憑き物が落ちたかのようなスッキリした顔になり

 

「温情をもってこのE組を存続させましょう。それと……たまに私も殺りに来てもいいですか?」

 

「勿論、好敵手にはナイフが似合う」

 

 こうしてE組取り壊しの危機は去った

 

 が、E組の最大の危機はまだ去っていなかった



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茅野の時間

 演劇会の発表会という行事も終わり、いよいよもうすぐ冬休み

 

 冬休みは皆で暗殺旅行を決行するつもりだ

 

「しっかし杉野熱演だったな! あんな邪悪な顔が出来るとはねぇ」

 

「やめろよ、神崎さんと共演できるからって力入りすぎちゃって」

 

「でも演技力がある人って格好いいと思うよ」

 

「ま、まじで! 俺野球辞めて役者目指そうかな!!」

 

 神崎さんに言われたことで真剣に考え始める杉野君

 

 しかしやっぱり皆暗殺のことで頭がいっぱいだ

 

 烏間先生から予算はたっぷり確保してあるとのことで、極寒の環境を利用した暗殺や雪山を水に変えて襲うプランなど色々と考えていた

 

 殺せんせーが席を立ったのを見て皆で話し合う

 

「ロンメルさんっていう最高戦力をどうぶつけるかだよな」

 

「ロンメルさん何か良い案ない?」

 

「クックックッ水攻めがやっぱり無難だから私が雪崩に巻き込まれるふりして殺せんせーが慌てて助けると思うから雪に触手の動きを阻害する薬品を混ぜれば私も動けないけど殺せんせーも動きが鈍ると思うからそこを上手く狙撃できれば……」

 

「人工的な雪崩を起こすには爆薬が必要だから俺がやるよ」

 

「殺せんせーの触手の動きを阻害する薬品は私が!」

 

「狙撃は俺と速水だな」

 

「ええ」

 

 竹林君が爆薬の調合、奥田さんが薬品、狙撃を千葉君と速水さんコンビのリベンジ

 

「あとやっぱり精神攻撃はどんな暗殺でも織り混ぜた方が良いよな」

 

「岡島どうだ?」

 

「バッチリ集まってるぜ! 殺せんせーのあれやこれやが」

 

「でかした」

 

 そうこう話していると校庭から爆発が発生した

 

 皆驚いて教室の窓から外を見るとダメージを受けた殺せんせーと【触手を生やした茅野さん】が外にいた

 

「……!? 何で茅野さんが触手を!?」

 

 私は一瞬思考が停止してしまった

 

 なぜ茅野さんが触手を生やしているかわからずに

 

「あーあ、渾身の一撃だったのに」

 

「茅野さん……君は一体……」

 

 殺せんせーの問いに茅野さんは答える

 

「ごめんね、茅野カエデは本名じゃないの……雪村あぐりの妹……それを言えばわかるでしょ人殺し……達」

 

 殺せんせーとロンメルの方を茅野さん……いや、雪村あかりは指を指した

 

「しくじっちゃったものは仕方がない。切り替えないと……明日も殺るよ殺せんせー、場所は直前に連絡する」

 

 そう言って茅野さんはどこかへ行ってしまった

 

「どういうことだよ……ずっと触手を隠してたのか!?」

 

 岡島君の問いにイトナ君がありえないと答える

 

「メンテナンスもしないで触手を運用していたとしたら地獄の苦しみが続いていたハズだ。脳みその中をトゲだらけの虫がずっと暴れている気分だ。表情にも出さずに耐えきるなんてまず不可能だ」

 

「……しかも雪村あぐりの妹だって?」

 

「前の担任の先生じゃねぇか」

 

 雪村あぐりの妹雪村あかりのことをロンメルはよく知っていた

 

 雪村先生が自慢の妹だ、天才子役で子役ながらドラマの13本(主演3本)、映画7本(主演1本)の活動をしていた天才というか化物である

 

 殺せんせーもロンメルも雪村先生から雪村あかりの写真は見せてもらえなかった

 

 それは雪村先生がなんかの拍子で雪村あかりの姉だとバレて変なことになれば妹に申し訳ないし、邪魔をしたくないからという妹思いの理由であった

 

 雪村先生の妹がまさか暗殺教室に潜伏し、更に触手を隠し持っていることをロンメルや殺せんせーにすら悟らせない演技力……まさに怪物である

 

「すげぇや顔つきから雰囲気まで全然違う」

 

「この演技力じゃ1年近く正体隠してられるわけだ」

 

 磨瀬榛名(ませ はるな)……それが雪村あかりの芸名であり、彼女は幾つもの顔、名前を操り、正体を隠していた

 

 今思えばロンメルが居ないタイミングで行った巨大プリンの暗殺もロンメルにバレないタイミングを見計らって決行し、違和感を感じさせないために行った可能性すらある

 

 ロンメルはゾッとした

 

 これが演じる……無害だと思っていた者がいきなり敵になる恐怖……予想外の裏切りはここまで精神を動揺させるのかと

 

「殺せんせー、ロンメルさん……茅野……先生達のこと人殺しって言ってたよ」

 

「なぁ……過去に何があったんだよ」

 

「こんだけ長く信頼関係築いてきたんだからもう先生やロンメルさんをハナから疑ったりはしないよ」

 

「でももう話してもらわなくちゃ2人の過去の事を」

 

「でなきゃ今の状況に納得できない。そう言う段階にきちゃったんだよ」

 

「「……」」

 

 殺せんせーとロンメルは顔を見合わせる

 

 そして殺せんせーが口を開く

 

「わかりました。先生達の過去の全てを話します。ですがその前に茅野さんはE組の大切な生徒です。話すのはクラスの皆が揃ってからです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして翌日の夜7時

 

 茅野は決戦の場所を椚ヶ丘公園の奥のすすき野原とし、全員がそこに集まった

 

「まずは殺せんせーを殺る。次にロンメルさんを殺る」

 

「茅野さん、その触手をこれ以上使うのは危険過ぎます! 今すぐ抜いて治療しなければ命に関わる」

 

「え? 何が? すこぶる快調だよ。ハッタリで動揺させてくるのやめてくれない殺せんせー」

 

 渚君が今まで茅野さんが楽しく過ごしてきた皆との時間は演技なのか聞くと

 

「演技だよ。これでも私役者でさぁ、渚が鷹岡先生にぼこぼこにされている時じれったくて参戦してやりたくなった。死神に蹴られた時なんかはムカついて殺したくなったよ」

 

「でも耐えてひ弱な女子を演じたよ。殺る前に正体バレたらお姉ちゃんの仇が討てないからね」

 

「お姉ちゃん? ……雪村先生のこと?」

 

 不破さんが質問すると

 

「そう、この怪物達に殺されてさぞ無念だっただろうな。教師の仕事が大好きだった。皆のこともちょっと聞いてたよ」

 

「知ってるよ茅野……2年の3月から2週間ぽっちの付き合いだったけど、熱心で凄く良い先生だった」

 

 と竹林君が答える

 

 杉野君が

 

「でもよ雪村先生を殺せんせーやロンメルさんがいきなり殺すかな? そう言う酷いこと俺らの前で1度もやったこと無いし」

 

 皆が茅野さんを説得し始める

 

 殺せんせーの話だけでも聞いてみてはと

 

 この暗殺が殺し屋としての最適解だとは思えないと

 

 イトナ君は触手を持っていたが故に今の危険性を言い当てる

 

 ロンメルから見ても茅野さんの体温は上昇を続けていた

 

 代謝異常による大量の汗、発熱と脳の血管に異常な速度で流れる血液……そしてリンパや神経、血液等が触手に栄養を吸われているのが透き通る世界で見て取れた

 

 しかし、皆の話を一蹴、茅野さんは熱を触手に集めることで触手は発火し、その火がすすきに引火する

 

 炎のリングが出来上がる

 

 状況の急激な変化に弱い殺せんせーは茅野さんの豹変と炎に囲まれたという状況の変化で茅野さんの攻撃をさばくのに精一杯だ

 

 刻々と茅野さんの命のタイムリミットが近づく

 

 茅野さんの攻撃はまるで火山弾の様に苛烈で容赦が無いが、触手に精神が乗っ取られ始めているのかちぎった触手を見て異常に興奮していたりと異常行動が目立つようになった

 

「死んで!! しねぇ!!」

 

 ロンメルは友を助けるタイミングを探っていた

 

 決定的な隙を

 

 殺せんせーが顔だけ残像を飛ばして皆に語りかける

 

「皆さん手伝ってください! 一刻も早く茅野さんの触手を抜かなければ!! あと1分で生命力が触手に吸われて死んでしまう!! 彼女の殺意と触手の殺意が一致している間は触手の根は神経に癒着して離れません!」

 

「戦いながら引き抜きます! 先生はあえて最大の急所を突かせます。ロンメルさん……先生は行動不能になるかもしれません。そしたらあなたが茅野さんの触手を抜いてください! 皆さんの誰でも良い! 茅野さんの殺意を一瞬忘れさせてください」

 

「殺意をって」

 

「どうやって」

 

「方法は何でも良い、思わず暗殺から意識をそらすことを」

 

「でもその間茅野の触手は殺せんせーの心臓の中にあるんじゃ」

 

「先生の生死は五分五分です。ですがクラス全員が無事に卒業できないことは……先生にとって死ぬことよりも嫌なんです」

 

「30秒たったら決行します! とびっきりのをお願いします!!」

 

 

 

 

 

 

 殺せんせーの心臓に茅野さんの触手が深く入った

 

 殺せんせーは茅野さんを抱き締めた

 

「君のお姉さんに誓ったんです! 君達からこの触手を離さないと!」

 

 渚君が行った

 

 茅野さんにキスをした

 

「今!!」

 

 私は持てる技術を全て使い茅野さんの触手を根ごと引き抜いた

 

 皮膚の一部が剥がれるが、私の触手で作った万能細胞で傷痕が残らないように綺麗にしていく

 

「フゥゥゥゥ!」

 

 ブチン

 

 全ての根を引き抜いた

 

「茅野さんはこれで大丈夫……殺せんせー!!」

 

「ぐふ……流石に堪えました……心臓の修復には時間が」

 

 その瞬間誰かが発砲した

 

 私の触手が間に入り弾丸の軌道をずらす

 

「対先生弾! ……柳沢!!」

 

「使えない娘だ。肉親の復讐劇ならもう少し良いところまで持っていけると思ったのだがな……最後は俺だ。俺から全てを奪ったお前達に対し……命をもって償わせてやる……いこう二代目……3月には呪われた生命に完璧な死を」

 

 そう言い残して彼……いや彼らは消えた

 

 黒い皮のジャージで顔まで隠した男と共に……

 

 

 

 

 

 

 茅野さんが目を覚まし、殺せんせーの心臓の修復を終わらせ殺せんせーはゆっくりと話し始めた

 

 



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