このすばらしい仲間と恋愛を! (てね)
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この女神様に天啓を!





やや駄文ですがなんとか投稿。もうちょっとキャラの心情とか深堀りしたかった。一話目はアクア編です。是非楽しんでいってください。時系列は17巻のエピローグ後です。







 

 

 

 

俺が「よーし、パパハーレム作っちゃうぞー」という冗談を言ってから数日が経った。

 

 

「なあアクアー、めぐみん、ダクネス開けてくれよ。」

 

 

玄関の扉を叩いていると窓から青髪のアクアが顔を出す

 

 

「あらカズマさん、馬鹿な発言を訂正する気にはなったかしら。」

 

「ああ、俺が悪かったよ、あれは軽い冗談のつもりだったんだ。ちゃんと反省してる」

 

「なら『女神アクア様、この卑しい私にどうか慈悲を与えてください。』と土下座しながら言うなら部屋に入れてもいいわ」

 

こいつ……素直に謝っておけば済むと思ったのに……

 

「えっと……女神アクア様……」

 

「え?よく聞こえないわよヒキニート」

 

「だあああ!!駄女神に言えるかそんなこと!!」

 

「遂に本性を現したわね!やっぱりまだ反省してないのよ。いい?本当に反省してるのならこれくらい誰でも出来るのよ?分かったなら早く出てって!!そして私に謝って!」

 

「ちくしょー!!今日も外泊かよ……」

 

アクアの無茶ぶりに応えることができず屋敷を後にする。魔王を倒した勇者が自分の家にすら入れないってどういうことだよ。

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

カズマを無事に家から追い払いリビングに戻るとダクネスとめぐみんが優雅に紅茶を飲んでいた。

 

「全くカズマさんはすぐ調子に乗るんだから。少しは私を見習って欲しいわね」

 

「そのセリフ、アクアが言えるものではないと思うのですが……」

 

「何か言った?めぐみん」

 

「いえ、何も。それよりカズマはいつ家に入れるつもりなのですか?もう追い出してから3日も経っていますし、お仕置きとして充分だと思うのですが」

 

 

確かにめぐみんの言うようにそろそろ許してあげてもいいのかもしれない。でも、なぜか『よーし、パパハーレム作っちゃうぞー』というセリフが頭から離れずむしゃくしゃするのだ。

 

 

「めぐみんの言う通りそろそろ許してやってはどうだ?それにあの程度の冗談は今までのアクアなら許していただろう。なぜ今回はそこまで粘るのだ?」

 

 

うーん……確かになぜかしら……今まではカズマの変態発言にドン引きするだけだったのにここまで怒るのは私らしくない……

 

 

「なぜか分からないけど今のカズマさんにはイライラするの!絶対に許してあげないんだから!」

 

 

私が怒りをあらわにしているとめぐみんがニヤニヤしてきた。

 

 

「めぐみんったら変顔なんかしてどうしたの?」

 

「ち、違わい!!」

 

 

私が訝しげにめぐみんを見ていると、

 

 

「アクアはカズマのことが好きなんですか?」

 

 

はぁ?女神である私がヒキニートであるカズマに惚れる訳ないじゃない。めぐみんったら何言ってるのかしら

 

 

「え、アクアはカズマのことが好きなのか?確かに魔王を討伐してからよくカズマに抱きついたり、カズマに抱きつく時やたらかずまの匂いを嗅いだり、カズマのことをチラチラ見るタイミングが増えていたが、本当に好きだったのか」

 

「ち、違うわよ!!私はいつも通りよ、別にカズマさんの匂い嗅いで抱きついたりチラチラ見てないから!!」

 

もう!めぐみんもダクネスも何言ってるのかしら……あのカズマよ?ダクネスのことをスケベな目で見て隙あらばめぐみんのパンツを覗こうとしてるあのカズマよ?

 

 

「じゃあ、アクアに聞きますがカズマが魔王を倒した時どう思いましたか?」

 

「んー……確かに魔王を倒した時はちょっとだけかっこいいと思ったわ。」

 

そう、あの時はカズマさんが自分の命をかけてまで魔王を倒すなんて思ってなかったし……そのおかげで私が天界に帰れるようになったし……うん、ヒキニートにしては上出来よね。

 

「では、カズマが私たち3人以外の誰かと付き合ってたらどう思いますか?」

 

 

私たち以外の人と……?

 

『今日はあの子とデートに行ったんだ。それはもう可愛かったぞ』

『今日は彼女の家に泊まるから晩ご飯はいらないぞ。うひょー今日は楽しみだ』

 

 

「それは……嫌かも……」

 

するとニヤニヤしたダクネスが、

「どうしてだ?今まで通り4人で暮らせるんだぞ?」

 

「それは……そう!昔から一緒にいる私たちを差し置いてぽっと出の女に惚れるなんてニートのくせに生意気だからよ!!」

 

「ほう、ではカズマがアクアのことを好きだったらどう思いますか?」

 

あのカズマさんが?私のことを?

 

『アクア、実はお前のことが前から好きだったんだ。俺と付き合ってくれないか?』

『アクア、この前はハーレム作ろうなんてこと言って悪かったよ。本当はお前のことが好きなんだ』

 

あれ……悪くないかも……

 

「あれ、アクアニヤニヤしてますね。そんなに嬉しいんですか?」

 

「ち、違うわよ!私が……カズマさんのこと……好きなわけ…………」

 

ーーーー好きなわけないじゃない。その一言が出てこない。

 

「もう一度聞きます。アクアはカズマのことが好きなんですか?」

 

あのカズマさんよ?鬼畜でヘタレでエッチなことばかり考えてて、エリス祭の時は一緒にアクシズ教の祭りを開いてくれて、セレナが来た時には唯一私の味方をしてくれて、家出した時には私のことを追いかけてくれて、魔王討伐のためにほぼ全財産投げ打って、その上自分の命をかけて魔王を倒して…………あれ……私カズマさんのことが好き…………?

 

「どうしましょう……めぐみん!ダクネス!私、カズマさんのことが!!カズマさんのことが……!!」

 

「ようやく気づきましたか、長かったですね。」

 

「全くアクアも素直じゃないな」

 

信じられないが私はカズマさんに惚れてしまったらしい。女神である私がカズマに惚れるなんて滑稽だけれど惚れてしまったものはしょうがない

 

「大変だわ!次カズマさんに会うときどうすればいいの!?まともに会話できる自信がないんですけど!!」

 

「もういっそのこと告白したらどうですか?」

 

「こ、告白なんて出来るわけないじゃない!!私は麗しき女神なのよ?そんな私がヒキニートのカズマに告白なんて……」

 

「め、めぐみん!そんなこと言っていいのか?私たちだってカズマのこと……」

 

「ええ、好きですよ?でも私はそれ以上に仲間のことが好きなんです。アクアもちゃんと自分の意思を伝えるべきです。その上で叩き潰してあげます。」

 

「ええ……女神である私がヒキニートに告白なんてする訳ないじゃない。まぁカズマさんがどうしてもって言うなら付き合ってあげなくもないけど……」

 

「おや、怖気付いたのか?アクア」

 

ダクネスがそんな挑発染みたことを言ってくる。

 

「お、怖気付いてなんかいないわよ!分かったわ、そこまで言うなら女神の本気を見せてあげるわ!!」

 

見てなさい。カズマを私の女神の力で落としてみせるんだから!

 

 

 

 

 

〜翌日〜

 

俺がアクア達から追い出されて4日が経った。屋敷を追い出されたとはいえ、外泊中はサキュバスのサービスを堪能できるし、悪いことだらけでは無い。とは言ってもそろそろ懐かしの我が家に帰りたいというのが本音だ。

 

 

「今日もダメ元で屋敷に入れて貰えるように懇願するかなあ……いっその事この前みたいに屋敷に潜入するか……でも、めぐみんとダクネスが味方してくれるか分からないしな……」

 

 

そんなことを考えてるうちに屋敷の前に着く。時刻は昼過ぎ。あいつらが外出してる可能性もあるな。

 

ガチャ

 

ーーー玄関のドアが開いてる。いつもなら誰かが入れば鍵はあいてるが、今は俺を追い出してるはずだ。俺を追い出したことも忘れて鍵をかけ忘れたのか?とりあえず中に入ろう

 

 

「ただいまー帰ったぞー」

 

 

バタバタと足音が聞こえ青い髪のアクアが現れる。次の瞬間、俺は流れるようにDO・GE・ZAした!

 

 

「すいませんでした!アクア様!」

 

 

こうなりゃ謝って入れてもらうしかない……!アクアに謝るのは癪だが、たまにはこちらが折れることも大切だろう。しかし、何故かアクアから返事がない。

 

……?

 

 

「……アクア……?」

 

 

見るとアクアは顔をほんのりと朱色に染め、あさっての方向を向いていた。

 

 

「アクア?聞いてるか?」

 

「な、なによ!」

 

「いや、どこ向いて喋ってんだ?カズマさんはここにいるんだぞ?熱でもあるのか?」

 

 

アクアの様子を不審に思い土下座の体勢から立ち上がり近づこうとする。するとアクアがようやくこちらを見据えて、

 

 

「か、カズマ!!そこで止まって!!」

 

 

急なアクアの発言に驚き素直に立ち止まる。やっぱりまだ怒っているのか。土下座でも無理なら何か酒でも買って来たほうがいいのだろうか

 

 

「なあアクア、本当に悪かったよ。軽い冗談のつもりだったんだ。お詫びに何でもしてあげるから機嫌直してくれよ」

 

「今、何でもするって言った?」

 

「あ、ああ。俺ができる範囲のことでな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なら、今日は私と一緒に寝なさい。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 




このすば見てる人ってカズめぐ派の人多いんですよね。私はカズアク派ですが

追記:完結が近いので次回作のアンケートを取ることにしました。見たいものを教えてくだされば幸いです(2023/02/08)


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この駄女神に恋心を!

 

 

 

 

 

 

「なら、今日は私と一緒に寝なさい。」

 

 

 

 

…………え?

 

 

「……今なんて?」

 

「『私と一緒に寝なさい』って言ったのよ。それと今日は私の言うことも聞いてもらうからね」

 

「アクア、お前どうしたんだ?頭にヒールかけてもらった方がいいんじゃないか?」

 

「失礼ね、ヒキニート!せっかく女神であるこの私があんたと寝てあげるって言ってるのよ?素直に感謝しなさい」

 

 

まぁ一緒に寝るくらいなら馬小屋で寝泊まりする時にしてたから特に問題ないが、なぜ今になって一緒に寝ようなんて言い出したんだ?まさか一緒に寝たことを口実に俺がアクアに夜這いをしたなんて噂を立てるつもりか?そんな事を考えていると、

 

 

「あと……もう1つお願いがあるんだけど……」

 

「おう。なんだ?」

 

「ぎゅってしていい?……」

 

 

そう言いながらアクアは俺に真正面から抱きついてきた。アクアと俺の身長は同じくらいだからアクアの双丘がちょうど俺の胸板に当たる。青髪からは春夏を感じさせる爽やかな風のような匂いがする。

 

何この甘酸っぱい展開!?え、なんでアクアがこんなしおらしい事お願いしてくるの?しかも胸が当たってきて理性が飛びそうなんですけど!?ヤバい。正確には俺のちゅんちゅん丸がエクスプロージョンを唱えそうでヤバい、一旦離れよう。

 

 

「あ、アクア!急にそんな事されると俺も緊張するっていうか、童貞には刺激が強すぎるっていうか」

 

「なーにカズマさん、私で興奮しちゃったの?年中発情してるカズマさんにはまだ早かったわね。プークスクス」

 

 

こんのアマー!!

 

 

「誰がお前になんか興奮するんだよこの駄女神が!急にしおらしくなったから驚いただけだよ!」

 

「あーっ!!また駄女神って言った!またふざけた発言したら今度こそ追い出してやるからね!」

 

 

ーーーーーーーやっぱりアクアはこれくらい元気で居てくれないとな。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夕方。ダクネスとめぐみんは爆裂散歩に出かけたらしく家にはいなかった。あいつらにも俺が屋敷に入ってもいいのか一応許可を取らなきゃいけないのだが……

 

 

「ねぇ、カズマさん?」

 

「はい、カズマだよ」

 

「かーずまさん?」

 

「カズマですよー」

 

 

先程からアクアが俺に抱きついて離れずカズマカズマと連呼してくる。さっき真正面で抱き合った時と違い、アクアが右側から抱きつくように寝転がってるから俺のちゅんちゅん丸は左手を上に置くことでなんとか防いでいる。勿論ちゅんちゅん丸は既に元気な状態だ。

 

 

「かずま〜」

 

「おい、もういい加減にしてくれよ。何でもするって言ったけどそろそろめぐみんやダクネスが帰ってくるだろ?」

 

「んへへ、ダクネス達にも見せつけてあげればいいじゃない。」

 

「ただいま、帰りましたよー」

 

 

ヤバい、めぐみんが帰ってきた!

 

 

「おいアクア、もし抱きつくのをやめてくれたら後で高級シュワシュワ奢ってやるぞ」

 

「そんな物で釣ろうだなんてそうはいかないわよ。いい?これは女同士の勝負なの。絶対にここから動かないんだから!!」

 

 

いつもなら『ジャイアントトードの唐揚げも付けてよね』と言って離れてくれるのに……本当にどうしちまったんだこいつは……

 

 

「今、かえり……まし……たよ……」

 

 

リビングのドアの向こうにはめぐみん、ダクネスそしてクリスの姿もあった。

 

 

「ち、違うんだ!お前ら、これには訳が……」

 

「あ、アクア!?いつの間にそんなに大胆になったんだ……」

 

「アクアさんがこんな風になるなんて……」

 

「ちょっとアクア!これはどういう事ですか!ちゃんと自分の意思を伝えるべきだとは言いましたがまさか色仕掛けで落とすとは思いませんでしたよ!!」

 

「た、助けてくれー!めぐみん、クリス、ダクネス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

主にダクネスの協力により無事アクアを引き剥がすことに成功した俺はクリスを交えてお説教の最中です。

 

 

 

「それで、さっきのアクアはどういうことだ?カズマ」

 

「そ、それは今日屋敷に入れてもらうために俺が何でもするよとアクアに言ったらアクアの好きなようにされてしまったというかなんというか……」

 

 

隠してもしょうがないし正直にダクネスの質問に答える。若干声が裏返ったが大丈夫だろう。

 

 

「ええええ……!?アクアさんの方から誘ったの!?てっきり助手くんがアクアさんにセクハラしたのかと思ってたよ」

 

「おいなんだその風評被害は」

 

「あの、私から誘ったっていうか……たまたま抱きつく事になったっていうかね?別に色仕掛けした訳じゃないのよ?」

 

 

どの口がそれを言うんだ、今さらヘタレたのかと思うが、これ以上めぐみんやダクネスの視線に耐え切れないし、話題を変えなくては

 

 

「そんな事より夕飯にしようぜ。もうお腹空いたんだ。」

 

「ま、まだ話は終わってませんよ!?」

 

「今日の料理当番はめぐみんだろ。もう遅くなるからさっさと作ってこいよ。」

 

「うー……分かりました。もうほとんど料理は出来てるのですが、その代わり後で絶対に話してもらいますからね。」

 

 

そう言ってめぐみんはキッチンへと駆けていく。

 

 

「それで、クリスはどうしたんだ?家に来るなんて珍しいじゃないか。」

 

「んーまぁちょっとね……」

 

「クリスは魔王を討伐してからというもの、働きすぎでな、ろくに寝るところも無いらしいから家に連れてきてしっかり休養を取ってもらいたいのだ。」

 

 

なるほどな。クリスは女神としての仕事で忙しかったのか。クリスは寝るところなんて天界で寝泊まりすれば済む話だ。

 

 

「寝るところはあるんだけど、ダクネスには言えないっていうかなんというか」

 

「ご飯が出来ましたよー」

 

 

めぐみんの掛け声でみんながテーブルに着く。着いたのだが……

 

 

「んへへ、カズマさん」

 

「なんでお前隣に座って抱きついてるわけ?」

 

 

アクアが俺の右隣に座ってきた所までは良かったのだが、アクアがそのまま俺の方に倒れてきて抱きついてきたのだ。

 

 

「ちょっとアクア!みんなの前でこれ見よがしにイチャイチャしないでください!」

 

「えー別にいいじゃない。これくらいいつもやってるわよ」

 

「食事中はマナーが悪いですよ!ちゃんと食べてください」

 

「もうお子様はこれだから困るのよね」

 

「誰がお子様ですか!喧嘩を売ってるなら買おうじゃないか!」

 

 

ーーーーーーー相変わらずうちのパーティは騒がしいな。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜夕食後〜

 

 

 

 

さて、ご飯も食べたしお風呂にも入ったし後は寝るだけか……それにしても今日のアクアのやつどうしたんだ。急に抱きついてきたり一緒に寝ようと言ってきたり。そういや今日アクアと一緒に寝るんだよな……

 

こんこん

 

ドアがノックされた。アクアが来た!

 

「入っていいぞー」

 

 

ドアが開かれそこに立っていたのはアクア…………ではなく寝巻き姿に着替えたクリスだった。ショートパンツに布面積の小さな水色の胸当てを身につけている

 

 

「やっほー助手くん遊びに来たよー」

 

「なんだ……クリスか……」

 

 

アクアではなくクリスが来たことで緊張が一気にほぐれたのが自分でもよくわかる。アクアに緊張するなんて俺らしくないと呆れてしまうが

 

 

「なにさ?アタシじゃ不満なの?」

 

「いや、てっきりアクアかと思ってな」

 

「アクアさんって……ねえ助手くんはアクアさんのことが好きなの?」

 

「な、何言ってんだ!?アクアはヒロイン枠じゃなくてペット枠だろ。それにあいつも俺を恋愛対象として見てないだろう。」

 

 

急なクリスの質問に狼狽えてしまう。

 

 

「ふーん、でもアクアさんは助手くんのこと好きなんじゃないかな。」

 

「どうしてそう思うんだ?」

 

「だって、アクアさんが助手くんと話してる時本当に幸せそうな顔してるよ。あれは恋する乙女の顔だね。」

 

 

恋する乙女……か……アクアは実年齢で言ったら乙女ではなく相当のババアなんじゃないかと思うがなんとか言葉を呑み込んだ。

 

 

「なあクリス……」

 

「なにさ?」

 

「おれ、本当にハーレム作っちゃうかもしれない」

 

「最低だよ!!君は!」

 

 

そんなこと言われてもなあ。俺もあいつらの好意にきちんと答えなきゃ行けないから困ってるんだよなあ……

 

こんこん

 

ドアがノックされた。今度こそアクアだ!

 

 

(クリス、悪いがクローゼットに隠れてくれ!今日はアクアと一緒に寝る約束をしてるんだ)

 

(ええええ……!?2人ともそんな所まで行ってたの!?めぐみんやダクネスの事はどうするのさ!?)

 

 

矢継ぎ早に話してくるクリスを何とかクローゼットに押し込む。

 

 

「は、入っていいぞー」

 

 

ドアが開かれそこに立っていたのはアクア……ではなくめぐみんだった。めぐみんはピンクを基調としたパジャマに身を包んでいた。

 

 

「なんだよ!またかよ!俺のドキドキした気持ちを返せ!」

 

「なっ!ど、どうしたのですかカズマ」

 

 

俺はなんでいつもこんな目に遭うんだ。俺の幸運値が高いってのは嘘だったのか?

 

 

「いや、こっちの話だ。それでもうすぐ寝る時間だがどうしたんだ?」

 

 

するとめぐみんは恥ずかしいのか少し俯きながら頬を朱に染めて、

 

 

「それは……ほら……魔王を討伐する前に『帰ったら凄いことをしましょう』と約束していたではありませんか?」

 

 

凄いこと……?……ハッ!そうだ、そんなこと言ってたな。凄いことって、もしかして遂にやることやるのか……!?でも、今日はアクアと寝る約束があるんだよな、なんて間が悪いんだ……

 

「なあめぐみん、今日はちょっと忙しくてな、その凄いこととやらはまた今度の機会に……」

 

こんこん

 

 

ドアがノックされた。本当に今度こそアクアだ!

 

(め、めぐみん。悪いがクローゼットの中に隠れていてくれ)

 

(か、カズマ?凄いことするんじゃなかったんですか?)

 

(悪いが今日は既に先約が入っていてな。)

 

そう言いながらめぐみんがクローゼットを開けると中にはクリスがいた。

 

(クリス!こんな所で何してるんですか!)

 

(ち、違うよ、これは助手くんが勝手に)

 

(いいから急いで入れ!)

 

半ば強引に2人をクローゼットの中に押し込む

 

「入っていいぞー」

 

ドアを開けるとそこにはパジャマ姿のアクアがいた。風呂上がりだからか髪を下ろしている。

 

「か、カズマ。今日はよろしくね?」

 

うおおおお!なんでそんな健気な態度で接してくるんだ。いつものおっさんぽい言動はどうしたんだ

 

「あ、ああ、とりあえず中に入れよ」

 

俺とアクアは1つのベッドに俺が左、アクアが右側で並んで座る。

 

「ねえカズマさん……」

 

「おう」

 

「またぎゅってしていい?」

 

そう言ってアクアは1度立ち上がり俺の膝の上に乗って抱きついてくる。ヤバい、丁度アクアの胸が俺の顔面に当たってる。一旦離そうとするもアクアは俺よりステータスが高いからか強い筋力で、より密着しようとしてくる。

 

 

「離れちゃダメよ、カズマさん。今日は私の言うことを何でも聞いてもらうんだから」

 

 

アクアの胸が柔らかい。アクアと俺はかなり密着している為、アクアの顔が俺の左肩に乗っている。そのままアクアは俺の首筋の匂いをすんすんと嗅ぎ始めた。アクアからはお風呂上がりの洗剤のような匂いが漂う。やっぱりこうしてみるとこいつ抜群のプロポーションしてるんだよな……

俺が大人しくアクアの胸を堪能していると、やがてアクアが手を離し……

 

「ねぇ、カズマさんちゅーしてもいい?」

 

何このウブな反応!?勿論大歓迎ですけど!?

 

「よーしアクア、目つぶってくれ」

 

そう言うとアクアは目をつぶり俺からのキスをじっと待つ。俺はようやく覚悟を決めいざ顔を近づけて……

 

「そこまでです!」

 

 

突如、クローゼットのドアが開き中からめぐみんとクリスの姿が現れる。

 

 

「アクア、抜け駆けしようなんてそうはいきませんよ!今日のカズマは私と一緒に寝る予定があるのです!分かったら早く引き下がってください!」

 

「なんだよ、今からいい所だっていうのに」

 

「この男……!!」

 

 

後ちょっとでキスできるって所で邪魔が入りお預けを食らってしまった。

 

 

「ふわああ!!アクアさんがカズマくんと……!!」

 

 

1人だけ恋愛事情に疎いクリスは置いておいて

 

 

「カズマ?今日は私と一緒に寝るよね?何でも言う事聞くって言ったものね?」

 

「カズマカズマ、私と凄いことしてみたいんじゃないですか?アクアのことは放っておいて私と一緒に寝ませんか?」

 

まずい、これはどうすればいいんだ?めぐみんを選ぶにしてもアクアを選ぶにしてもどちらか一方を傷つけることになるし。目の前で悲しまれたら流石に心が痛む。ここは2人を平等に扱うべきだろう。つまりここで答えるべき最適解は…………

 

 

「よーし、お前ら今日は仲良くみんなで寝よう。それで文句ないよな?」

 

「文句しかないわよ!」

 

「そうですよカズマ、ちゃんと誰と寝るのか選んでください。」

 

みんなで寝るという案にも納得しないか……我ながら完璧な案だと思ったのに……しかし、どうするか。俺としてはまだこのハーレム状態を続けてみんなとイチャイチャしていたい。だから今ここでどちらかを選んだりはしたくないんだよな。それなら……

 

「よし、分かった。誰と寝るのか決めればいいんだな?」

 

「む、珍しくちゃんと引き下がるんですね。それで誰と寝るんですか?」

 

「俺が今日寝る相手は…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クリス!!今夜は宜しくな!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アクアルートに行くと見せかけてのまさかのクリスルートです。


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この巨人族に討伐を!




クリスのパジャマ姿がどんな格好をしているか知りたい人は「このすば クリス パジャマ」で検索してみてください





 

 

 

 

「クリス!!今夜は宜しくな!!」

 

「ええええ!?アタシ!?」

 

そう、俺が選んだのはアクアでもめぐみんでも無くクリスだ。

 

「ちょっと!何でクリスなんですか!そこは私かアクアを選ぶ所でしょう!」

 

「そうよ!今日は何でも言う事聞くって言ったじゃない!」

 

文句を言うアクアとめぐみん。だが、俺もここで引き下がる訳にはいかない。

 

「お前たちが誰と寝るか決めろって言ったんだろうが。俺はそれに従ったまでだ。それに今日寝ないとしても明日も明後日もチャンスはあるだろう?」

 

「うー……なら明日こそ一緒に寝ますからね」

 

「えー……私も一緒に寝たいんですけど」

 

そう言ってアクアとめぐみんは素直に出て行った

 

「よし、じゃあよろしくな!クリス」

 

「よろしくなじゃないよ!!どういうことさ!なんで私が助手くんと寝ることになってる訳!?」

 

「なんだよ、そんなに嫌なら一人で寝るけどさ。あ、それならアクアかめぐみんの部屋にこっそり突撃すればいいのか」

 

「うー……アタシとしてはダクネスの恋路を応援してるからそれは出来ればやめて欲しいんだけど……」

 

「ならクリスと寝るしかないな」

 

「もう!分かったよ!一緒に寝ればいいんでしょ!」

 

そう言ってクリスは俺より先にベッドに横になる。しかし、クリスとこんな間近で寝ることになるとは……。これは近いうちにサキュバスのお世話になりそうだ。

 

「言っておくけど、もしエッチなことしてきたら覚悟しておいてよね。めぐみんやダクネス、アクアさん達もいるんだから」

 

「おいおい、俺はヘタレのカズマさんだぞ?そんな簡単に手を出してたらとっくに童貞卒業出来てるって」

 

「なぜかすごく説得力があるんだけどさ……」

 

「じゃあ電気消すからな」

 

「うん」

 

 

電気を消した俺はクリスの左側に並んで横になる。こういう時って何か喋った方がいいのか?今までネットで培ってきた知識を思い出せ……なにか気の利いた言葉を言うべきだ

 

 

「カズマくん、さっき来た時に言いそびれたんだけどさ」

 

「なんだ?」

 

 

クリスから話し出してくれるとはありがたい。

 

 

「みんなの気持ちにちゃんと答えてあげなよ?ダクネスだけじゃなくてめぐみんやアクアさんの気持ちにも」

 

「確かにそうだな……でも、俺なりにあいつらの好意には誠意を持って答えてるつもりだ。時々その場の雰囲気に流されてしまうこともあるけど。それに厳密にはまだ誰とも付き合ってない。だから誰と何をしようとまだ大丈夫……なはずだ。」

 

「その理論はどうかと思うけど……それじゃあカズマくんは誰を選ぶつもりなの?」

 

「それは……」

「俺は誰を選べばいいんだろう」

「一番最初に告白してきたのはめぐみんなんだ。だから異性として1番意識してきたのはめぐみんだし、俺の中であいつの存在が1番大きくなってると思う。だが、そこでダクネスが俺に告白してきた。その時は、俺にはめぐみんがいるからってその告白を断ったけど……最近になってダクネスのことも異性として意識し始めてるような気がして……しまいにはアクアも俺に好意を持ち始めてるし……」

「俺はあいつらの事を傷つけたくないんだ。出来ることならトラブルもあるけどみんなで騒がしくする今まで通りの日常を過ごしていたい。だから…………まだ選べない。ずっと今のままがいいんだ」

 

「ふーん、君がそこまで考えてるなんて思わなかったよ。私の心配は不要だったみたいだね。」

 

「なあ、前から思ってたんだけどさ」

 

「なにさ?」

 

「クリスやアクアって俺たちよりずっと長生きしてるんだろ?それなのに今まで恋愛とかしてこなかったのか?」

 

「私たちは人と関わる機会が極端に少ないからね。だから恋するほど相手のことを知ることもないんだよ」

 

「でも、私は好きな人がいるよ」

 

 

………………え?…………

 

「マジで?俺の知ってる人か?それとももう死んじゃってたりする?」

 

「その質問に答えて貰いたいなら私のお願いを聞いて欲しいな」

 

そう言ってクリスは仰向けの体勢を変え右足と右腕を俺の上に乗せ抱きついてくる。

 

「く、クリス…………?」

 

「今日はこのまま寝させてくれないかな?」

 

「お、おう。そんな事ならいいぞ」

 

どういう事!?なんでクリスは俺に抱きついてきたわけ!?アクアと言いクリスと言い俺は女神様から好かれる体質にでもなったのか?

 

「ねえ……カズマくん。ちょっといい?」

 

「あんまりよくないかな」

 

「その……なんか硬くなってるんだけど……」

 

「仕方ないだろ、こんな状況童貞には刺激が強すぎるんだ。しかも毎回いい所でお預け食らうし俺がどれだけ苦悶してるかクリスにも知ってもらいたいよ」

 

「男の子は大変なんだね。この事はもう忘れて寝よっか」

 

こんな状況で寝れるか!!そっと横を見るとクリスは目を閉じ身動き一つ取らない。えー……このまま寝るのか……

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

どれくらい時間が経っただろうか。窓からは朝日が差し込んでいる。確か昨日はクリスと一緒に寝て……?横を見るとクリスが寝ている。昨晩とは異なりクリスが抱きついてきていないが俺の反対側を向いている。俺は起き上がり何気なくクリスの方を見ると…………

 

パンツが見えている

 

正確にはズボンが下にズレてクリスの純白の下着が見えてる。どうしたものか。勿論このまま放置してさっさとリビングに逃げることも出来る。だが、クリスが起きる頃には自身の状態を見て自分のパンツを見られたと悟るだろう。まぁ俺は何度かクリスのパンツを取ったことがあるが。それでもクリスは落ち込むことになるだろう。ここはクリスの為にもズボンを元に戻してやろう。

俺は意を決してクリスのズボンに手をかける。そしてカタツムリの如くゆっくり、ゆっくりとズボンを上にあげる。頼むから起きないでくれよ!クリス

 

「んっ……!んーっ……!!」

 

起きてしまうか?

 

………………

 

大丈夫そうだな。作業を再開しよう。そして俺がまたクリスのズボンに手をかけた所で……

 

「何してるのさ?助手くん」

 

「きゃああああああ!!」

 

「きゃああああ!はこっちのセリフでしょ!!」

 

「く、クリス、これには深い事情が!あるんだ!」

 

「ちょっと待って!私のズボンがズレてパンツが丸見えになってるんだけど!!まさかカズマくん、私が寝てる間に…………!」

 

「ち、違う。むしろ俺はクリスを助けようとして!」

 

この後クリスの誤解を解くのにかなり時間がかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

時刻は昼過ぎ。俺は魔王を倒した勇者様だ。勇者というのは来たるべき決戦の日に備えて英気を養い、いざという時にその力を発揮する。だから、俺が今家でゴロゴロしているのも必要な事なわけで……

 

「助手くん、クエストに行こうよ」

 

「断る」

 

「クリスたちがクエストに行くならついでに私も爆裂魔法を撃ちたいのですが」

 

「俺は行かないからな」

 

「なら私もついて行って良いだろうか。魔王を倒してからというもの、また重い一撃を受けてみたいのだ……んっ……!想像しただけで武者震いが……!」

 

「はー、どうせめぐみんが感情が高ぶって衝動を抑えられなかったとか言って爆裂魔法を撃つ流れだろ?そしてその音に引き寄せられたモンスター達が集まってきてダクネスがそのモンスターの群れに突っ込んでいくんだ。そして俺は動けなくなっためぐみんを背負いダクネスを無理やり連れていく。うん、想像しただけでも行きたくない。」

 

俺がクエストに行くとどうなるか、名推理をしていると

 

「そんなこと言ってカズマは魔王を倒してから1度もクエストに行ってないじゃないか。魔王を倒した勇者に憧れる人も多いだろう。その人たちの応援に応えたいと思わないのか?」

 

……確かに俺の事を純粋に応援してくれる人たちの気持ちには応えたい。うーん……だがもう魔王を倒したんだしとてつもなく社会に貢献しているだろう。そんな俺にこれ以上何を望むって言うんだ……するとめぐみんが耳打ちしてきて

 

「カズマ、今日一緒に行ってくれたらもっと凄いことしてもいいですよ?」

 

「……どうせまた寸前でお預け食らうんだろ」

 

「そんなことしませんよ!今日はカズマの気持ちに応えようと思ってますし……」

 

昨日のクリスで悶々としてることだし、めぐみんと遂に大人の階段を登ることができるのなら……

 

「しょうがねえなぁぁぁ!!」

 

 

 

ーーーークエストに行くしかないだろう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとみんな、私のこと忘れてない?危うく置いていかれる所だったんですけど」

 

30分後、ギルドで手頃なクエストを探しているとアクアが遅れてやってきた。そういえばアクアのことすっかり忘れていたな……

 

「カズマ、これなんてどうでしょう?強敵を我が爆裂魔法で蹴散らしてあげます!」

 

クエストの張り紙には、サラマンダー討伐につき60万エリスと書かれていた。

 

「なぁ、サラマンダーってどんなモンスターなんだ?」

 

「サラマンダーは炎を操る精霊だね。ただ、ものすごく足が速いから爆裂魔法を当てるのは難しいと思うけど……」

 

ダメじゃねえか。

 

「カズマ、これなんてどうだ?一撃グマの討伐、あの重い攻撃を喰らうことが出来るとは……んっ……!」

 

「そんなもん俺たちが攻撃喰らったら即死じゃねえか。却下だ」

 

相変わらずこいつらは無理難題なクエストを選びすぎなんだよ……

 

「ねえ、このクエストはどう?オーガ討伐一体につき50万エリスだってよ」

 

クリスが目をつけたクエストを見る。巨人族のオーガが農作物を踏み荒らしたり家畜を食べたりしているらしい。それにしても巨人か……踏み潰されたら一溜りもなさそうだな……まあめぐみんの爆裂魔法で不意打ちすればいけそうだな……

 

「よし、このクエストにしよう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後、俺たちは今オーガの被害に遭ったという農場から少し離れた森の中にいる。ここからなら敵が現れたら俺の千里眼スキルですぐに発見することができるからだ。

 

「ふあぁぁ、ねえカズマさんちょっと退屈なんですけど。何か1発芸でもしれくれないかしら。」

 

「する訳ないだろ。そんなに暇ならめぐみんたちに構ってもらえ。」

 

「なあカズマ、オーガが現れたらめぐみんの爆裂魔法を撃つ前に私を前に出させてくれ。1度でいいから巨人族の攻撃を受けてみたいんだ。」

 

「お前、真面目な顔してなに変態発言してるんだ。いいか、今日はめぐみんと俺の2人だけでやるからな?くれぐれも邪魔するんじゃないぞ?」

 

「くっ……!この雑な仕打ちも悪くない……!!」

 

ダクネスを適当にあしらっているとやがてオーガと思わしき者が現れる。ヨウ素液に浸したじゃがいものような色をした肌で黒の棍棒を持っている。上半身はムキムキに鍛えられており下半身には野暮ったい布を巻き付けている。

 

「オーガが現れたぞ、それじゃ予定通りめぐみんと…………」

 

「行ってくりゅ!!」

 

「ダクネス!」

 

俺の忠告を無視したダクネスとそれを追いかけるクリスがオーガの元へ向かう。あいつ……だから敵に突っ込んでいくなとあれほど……!くそ、こうなりゃ全員で援護するしかない!

 

「アクア、めぐみん行くぞ!」

 

「えー私も行くの?」

 

「いいから来い!」

 

オーガの方を見るとこちらの様子に気づいたみたいだ。ダクネスは硬いから死ぬことは無いだろうが、めぐみんの爆裂魔法を喰らっても生きていられるかは分からない。なんとかダクネスを引き離してめぐみんに爆裂魔法を使わせないと……

 

「めぐみんはここで詠唱しておいてくれ!俺とアクアでダクネスを引き止める!」

 

めぐみんに指示を出し、俺はアクアと一緒にダクネスを追いかけて…………

 

「ハァ…………ハァ…………アクア……ハァ、俺に支援魔法を……」

 

「ちょっとカズマさん、これくらいでばてるなんて貧弱すぎない?ほら『パワード!』」

 

アクアから受けた魔法のおかげか身体がみるみる軽くなる。よし!これなら行けるぞ!

 

「ダクネス、それ以上は行かせないよ!『バインド!!』」

 

クリスが前方を走るダクネスに追いつきなんとかダクネスを拘束させることに成功したようだ。あとはダクネスを背負って撤退し、めぐみんに爆裂魔法を打たせれば討伐完了だ!

 

「よくやった!クリス!後は俺たちでダクネスを担いで撤退するぞ!」

 

そしてダクネスを持ち上げようとした所で…………

ビクとも動かないんですけど……

 

「おいダクネス、お前重すぎないか?」

 

「ダクネス、こんなに重いなんて予想外だよ。」

 

「なっ!私が重いのではない!鎧が!重いんだ!その言い方だとまるで私が太ってるみたいじゃないか!」

 

ってこんなことしてる場合じゃない!もうオーガが目の前まで迫ってきている!オーガの歩く姿は一見ゆっくりしているように見えるが歩幅が大きいからか俺たちより何倍も速いスピードでこちらにやってくる。

くっ……!こうなったら……!

 

「おいアクア!この前使った敵をおびきよせる魔法使ってくれ!」

 

「ちょっと待ってカズマさん、私はそこまでバカじゃないわ。今ここで使ったら間違いなく私が狙われるじゃない。」

 

アクアのことをバカだと思っていたが、流石にそこまで単純ではなかったようだ。

 

「大丈夫だ!その魔法は俺にかけてくれ!アクアはその場でじっとしてればいい!」

 

俺がオーガを引き付けて、いざ捕まりそうになったらテレポートで脱出する。そして残ったオーガをめぐみんの爆裂魔法で倒してもらおう。

 

「そこまで言うなら分かったわ!『フォルスファイア!』」

 

アクアが放った魔法のおかげで俺の体…………ではなくアクアの体が青白く光り、

 

「ちょっとカズマさん!なんで私の方にオーガが来るのよ!この魔法って自分以外の人には使えないじゃない!」

 

自分にしか使えない魔法だということを忘れていたのか、相変わらずアクアはバカなようだが、これで窮地は脱した!

 

「よーしめぐみん。後はアクア諸共爆裂魔法をぶっぱなしてやれ」

 

「ちょ!それだとアクアが死んじゃいますよ!いくらカズマの命令とはいえそこまで出来ません!」

 

はぁ……仕方ないな……

 

「おーいアクア、俺の方に来い!そしたらお前のことを助けてやれるかもしれない!」

 

「かじゅましゃーーーん!!!」

 

泣きながらアクアが俺の方にやってくる。俺は今のうちにめぐみんたちから距離を取り、アクアと一緒にオーガから逃げる。こうしてみるとオーガの迫力すごいな!怖すぎて腰が抜けそうなんですけど……

そして十分めぐみんたちから離れたことを確認すると、

 

 

 

 

 

 

 

 

『テレポート!』

 

 

 

 

 

俺はアクアと一緒に天界へと逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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この恋人未満の少女と聖なる一夜を!



キャラの心情の深掘りがホントに苦手です。




『テレポート!』

 

 

視界がぐにゃりと曲がり周囲から眩い光が発せられる。思わず目をつぶって待っているとやがて周りの空気が変わったのが肌でわかる。そっと目を開けると懐かしの天界が広がっていた。どうやら今はエリス様は不在のようだ。

 

「うぐっ……かじゅ……かじゅましゃん……」

 

泣きながら腰に抱きついてくるアクアの頭を撫でてやる。

しばらく撫でていると次第にアクアは泣きやみ、やがて俺の匂いをスンスンと嗅ぎ始める。

 

「おーい泣き止んだならそろそろ離れろよ暑苦しいだろ。それよりめぐみんたちがどうなったか心配だからそろそろ戻ろうぜ。」

 

「ダーメ、まだカズマさんと一緒にいたいんだから」

 

困ったな……まあでもアクアがそうしたいなら素直に従っておくか。

 

「あっ!」

 

「どうした?」

 

「大事なことを忘れてたわ!そういえば昨日の夜ちゅーしてないじゃない!カズマさん、今ちゅーして!」

 

「ちゅーってお前、あれするの結構恥ずかしいんだからな!そんな簡単にしてあげられないぞ!」

 

「この麗しい女神とちゅーできるのよ?そこは喜んでちゅーする所でしょうが!」

 

「さっきから何回ちゅーちゅー言うんだお前は!それに女神は女神でもお前は駄女神だろうが!どうせキスするならエリス様とがいいよ!」

 

「私をお呼びですか?」

 

声がした方を見るとさっきまではいなかったエリス様が立っていた。

 

「え、エリス様?いつからそこに居たんですか?」

 

「さっきから何回ちゅーちゅー言うんだって辺りから居ましたよ、それで私とキスしたいのですか?」

 

そりゃ勿論したいけど、アクアの前でやるのはちょっと恥ずかしいんだよな……

 

「ちょっと、パッド女神!カズマとちゅーするなんて私が許さないわよ!」

 

「誰がパッド女神ですか!それにカズマさんが誰とキスしようとカズマさんの自由ですよね?ささ、カズマさん私とキスしましょう。」

 

そう言ってエリス様はこちらへ歩いてくる。するとさっきから俺にまとわりついていたアクアがさっと離れエリス様の前へ俺を守るように立ち塞がる。

 

「ちょっとエリス!あんた先輩から男奪うつもり?いくら後輩のエリスでも許さないわよ。」

 

「いつカズマさんが先輩のものになったんですか。カズマさんはまだ誰とも付き合ってないですよね?それなら誰がどんなアプローチをしようと文句を言われる筋合いはありません。」

 

うわー……これが女同士もとい女神同士の修羅場か……普段の2人の様子を知ってるからか今の2人はとても怖い。何とか穏便に済まさなければ

 

「あー2人とももうその位にしておこうぜ。それとエリス様に聞きたかったんですけどあの後めぐみんたちはどうなったんですか?」

 

エリス様に尋ねると、エリス様はアクアに向けた怒っていた表情とは打って変わって慈愛に満ちた表情へとなる。

こわっ!!何その急な表情の変化!怖いんですけど!

 

「心配しなくても大丈夫ですよ。カズマさんたちが引き付けていたオーガはめぐみんさんの爆裂魔法で跡形もなく消え去りました。ダクネスはめぐみんさんを背負ってアクセルの街へ戻っている最中です。」

 

あれ、クリスはあの後どうしたのだろう。そんな俺の訝しげな表情を読み取ったのかエリス様が、

 

「私ならオーガを倒したあと急用が出来たと言って先に帰ったんだよ。それでダクネスたちとお別れした後にここに来たのさ」

 

そんな怪しい行動してダクネスが納得したのだろうか。ダクネスはクリスの正体がエリス様と薄々勘づいているしな。正体がバレるのは時間の問題か。

 

「それでカズマさん?私とちゅーするわよね?」

 

「カズマさん、自分の気持ちに正直になってください。私はいつでもあなたとキスしますよ。」

 

……詰んでるなこれ。アクアを選んでもエリス様を選んでも、選ばれなかった方の目の前でちゅーするんだろ?絶対地獄みたいな空気になる。……とにかく今はこの2人を引き離さないといけないな

 

「と、とりあえずキスの話はまた今度な。今は早くダクネスたちと合流しないとな。」

 

「逃げるつもりですか?カズマさん」

 

そう言ってエリス様はじろりと俺を睨む。だから怖いって!

 

「え、エリス様!どうか落ち着いてください!本当にキスは後でしますから!!」

 

「言いましたね?約束ですよ。」

 

エリス様は怒った表情から途端に笑顔になる。これはエリス様を敵に回すと最後は刺されるかもしれないな……早いうちに対処しなければ……

 

「じゃあ行くぞアクア」

 

「はーい」

 

『テレポート!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

目を開けると目の前にはアクセルの街が広がっていた。まずはダクネスたちとの合流が先だ。時刻は夕方だし、もうギルドへ報告は済ませているかもな。それなら屋敷に帰るか……っと、そういえば今日の夕食担当は俺だった。帰りに何か買って行くか

 

「アクア、俺は屋敷に帰る前に買い物していくがお前はどうする?」

 

「なら私もついていくわよ」

 

そう言ってアクアは俺の隣を歩いてくる。今日の夜ご飯はどうするかな。肉じゃがはこの前作ったし今日は鍋にするか……となると野菜を買いに行かないとだな。そんな事を考えていると

 

「ねえ、カズマさん」

 

「なんだ?俺は今、夕食の献立を考えるので忙しいんだ。どうでもいい事なら後にしてくれ」

 

「手、繋いでいい?……」

 

「……お、おう。いいぞ」

 

アクアは、指をからめてくる。

これ……恋人繋ぎってやつでは……!ダメだ、全然夕飯のこと考えられねえ!さっきからちょこちょこ知り合いの冒険者に会うがみんなニマニマしながらこちらを見てくる。

ちょっと恥ずかしいんだけど……

そう思いアクアの方を見ると今までにないほど笑顔だ。この時俺は気づかなかった。背後から俺たちを見るゆんゆんの姿に

 

 

 

 

 

 

あの後恋人繋ぎをしたまま買い物を終え、無事屋敷へと帰りついた。今は夕飯を食べ終えお風呂に入っている所だ。

 

「はぁ……」

 

俺は湯船に浸かりながらうっかりため息をついてしまった。勿論悩んでいる内容はアイツらのことだ。めぐみんにアクア、ダクネスそしてクリスと4人から好かれている。正直言って俺の身には有り余る。あの中から1人を選ぶのか……多分、選択を誤れば間違いなく恨みを買うだろうな……俺刺されて死んじゃうのかな……そうなったらアクアに蘇生して貰うか……

そんなことを考えていると脱衣所に人影が現れた。入浴中の札は掛けておいたはずだ。となると、わざと俺の入浴中を狙ってるな?お風呂場まで突入してくるとは相当なむっつりスケベだな。俺も健全な男の子だしそろそろヘタレずにやることやるか。やがてお風呂場のドアが開き…………

そこに立っていたのはバスタオルに身を包んだダクネスだった。

 

「や、やあ、背中を流そうと思って……」

 

「お前かよ……」

 

思えばこうしてダクネスと同じ風呂に入るのは3回目だ。わざわざ俺の入浴中に入るとは、そろそろダクネス改めエロネスと呼ぶべきだろうか。

 

「なぁエロネス、せっかくだし相談に乗ってもらってもいいか?」

 

「うむ、私で良ければいつでも相談に乗るぞ。…………ん?今何といった?」

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

「……うっ……くっ……!」

 

「どうだ?気持ちいいか?」

 

「あっ……そこっ……気持ちいい!……エロネス……!」

 

「だから私はエロネスじゃない!ダクネスだ!それよりも……」

 

「うっ……ダメだ……これ以上は耐えられない……!!」

 

「さっきからお前の発言が卑猥な内容にしか思えないぞ!それはわざとやってるのか!」

 

おっとバレちまったか。今俺は風呂から上がりダクネスに背中を洗ってもらっている所だ。背中を洗ってもらいながらまるで行為を致しているような声を出していた。

 

「それで?私に相談したいことがあるんじゃなかったのか?」

 

そういえばそうだったな。

 

「あー、その前にダクネスはアクアやクリスが俺のことを好きなのは知ってるか?」

 

「なっ!?アクアがお前のことを好きなのは知っていたがクリスまで!?クリスは私の恋路を応援してくれてるのではなかったのか!?」

 

「そこは俺も驚いてるんだけどさ、昨日の夜なんて俺に抱きつきながら一緒に寝たし今日も私とキスしましょうなんて言われたんだぜ」

 

「なな、なぜクリスがお前と一緒に寝たんだ!?しかもキスだと!?本当にクリスなのかそいつは」

 

「それで相談したい内容ってのは、俺が誰と付き合うべきかってことだよ。多分このままだとクリスかめぐみん辺りに刺される気がするんだ。」

 

俺が一通り今の状況を説明し、ダクネスに相談するとダクネスは期待と不安が混じったような顔をして、

 

「……なぁ、カズマの中では私はもう完全に彼女にする気はないのか?」

 

いきなり痛い所を突かれたな……もうこれ以上悩みの種を増やしたくないんだが……そう思いやんわりと俺を諦めることを勧めてみる

 

「いや……そんなことは無いけど……でもお前はそれでいいのか?俺のことを好きな人は結構いるぞ?わざわざ俺を選ばなくてもお前の理想に叶う人はほかにいるんじゃないか?」

 

「前にも言っただろう、最初は私のタイプに合うのがお前だったが、今ではお前自身が私の理想の男になってしまったのだ。それに私はお前と付き合いたいから縁談を全部断っているのだぞ?」

 

「そうか……」

 

俺が想像してたよりダクネスって一途なやつなんだな。まぁなんだかんだ言ってこいつは乙女な部分があるし簡単に好きな人を諦めることが出来ないのかもな

 

「さて、後ろは粗方洗い終わったぞ。次は前を洗ってやろうか?」

 

そう言って俺の前面に回り込んだダクネスの視線が1点に集中する。そうタオルで隠された俺の股の所に。

 

「カズマ……その……大きくなってる所が気になってしょうがないのだが……」

 

「仕方ないだろ、ほぼ裸の美人なお姉さんに体洗われたら誰だって元気になるって。ほら、俺は抵抗しないから昔あったように好きにしてくれて構わないぞ。」

 

流石にヘタレの俺でもやる時はやる男だ。今までずっと寸前でお預け喰らってきたし最近はサキュバスの店にも行けてないしでもう我慢してられない。

 

「好きにしろって言われても……私もこういう事はあまり詳しくないのだが……」

 

「お前今まで夜這いとか俺を襲ってきたりとか散々してきただろ?こういう時はまず体を密着させ合ってからやるんだよ。」

 

「そ、そんな過去のことをいちいち蒸し返すな!……ほら、こ、こんな感じか?ちょっとカズマ!これだとお前の硬くなってる部分が私に当たるんだが!」

 

ダクネスは椅子に座っている俺に正面から抱きついてくる。俺の股間に当たるのが嫌なのか、へっぴり腰になっている。ああ……やっぱりハグっていいな。なんか安心するって言うか、俺このまま童貞卒業しちゃうんだろうか。最初の相手がダクネスかぁ、流石エロ担当なだけあるな

そうやってしばらく抱き合っているとダクネスが意を決したように俺の顔を見つめ、

 

「そ、それではいいのだな?触るぞ?」

 

そしてダクネスは俺の股のタオルに手を当てようとして……

 

「何してるんですか」

 

暗く冷たい声が浴室に響く。声がした方を見ると浴室の扉が僅かに空いて脱衣所からめぐみんが冷めた目でこちらを見ていた。今の俺たちは互いにタオル1枚でほぼ抱き合っている状況。俺の脳は素早くフル回転し、この状況を打破しようと試みる。

 

「きゃああああ!!痴女に襲われるうううう!!」

「おま、お前ってやつは!なんでいつもこうなるんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

俺とダクネスはアクアとクリスが隣で酒を飲むなか、めぐみんの説教をうけている。

 

「ダクネス、あなたは本当にいやらしい貴族ですね!もういっそのことエロネスと名乗ったらどうですか?」

 

「ま、待て。確かに私がカズマのいる風呂に入ったのは認めるが、カズマも満更でもなく私を誘ってきたのだぞ」

 

「おい俺は無実だ。ダクネスの猛攻に抵抗虚しく襲われたんだよ。」

 

そんな俺をめぐみんがジト目で見てくる。うっ……そんな目で俺を見ないでくれ。

 

「俺も一応正座しときますね」

 

「殊勝な心がけだと思いますよ」

 

視線に耐えられなくなり俺も正座してダクネスの横に並ぶ。

 

「ねえカズマさん、ダクネスやめぐみんとはお風呂に入ったことあるけど私だけ一緒にお風呂に入ったことがないの。おかしいと思わない?」

 

「もしかして俺と一緒に風呂に入りたいのか?悪いが俺は明日外泊してくるぞ。風呂も向こうで入ってくる。ココ最近お前らの相手で俺は我慢の限界なんだ。」

 

そう、例のサキュバスサービスを受けないとこいつらの前で理性を保てる自信が無い。いざという時にがっつきすぎないようにする為にもサキュバスの店には定期的に通わなければならないのだ。

 

「それではカズマ、私たちはもう寝ましょうか。」

 

…………私たち……?寝るなら1人で寝ればいいじゃないか?何故俺も一緒に寝ることになってるんだ?

 

「カズマ、まさか昨日の約束を忘れてませんよね?」

 

…………あっ……そうだ。昨日クリスと寝る際に明日一緒に寝ると約束したんだった。まためぐみんに男の子の気持ちを手玉にとって弄ばれるのか……それに、最近のめぐみんはどんどん大胆になってきてるな。前は一緒に寝る時はこっそり俺の部屋に遊びに来てたのに今はみんなの前で堂々と宣言してるんだもんな

 

「ちょっとカズマさん、私とはいつ寝るのよ!私もずっと待ってるんですけど!」

 

「はいはい、じゃあお前は俺が外泊から帰ってきてから一緒に寝ような」

 

そう言うとアクアは上機嫌に鼻歌を歌い出した。

 

「では行きましょうか」

 

俺とめぐみんはリビングを抜け一緒に2階の俺の部屋へと歩いていく。こんなふうにみんなが俺を取り合うのは正直言ってかなり嬉しい。これは俺もついにハーレム系主人公に成り上がったのだろうか。でも、まだ童貞なんだよなあ……

そんなことを考えていると、俺の部屋へ着き中に入る。

 

「カズマ、やっと二人きりになれましたね。」

 

「お、おう。そうだな」

 

ヤバい。緊張してきた。昨日めぐみんがもっと凄いことしましょうって言ってたし遂に一線超えるのかな。もしそうならバニルに貰った避妊薬を飲まなければ。ベッドに腰掛けるめぐみんの隣に座る。

「魔王を倒してから初めての2人きりの時間です。今日はカズマは我慢しなくていいですよ?私が全部受け止めてあげますから」

 

そう言ってめぐみんは俺を押し倒してくる。めぐみんの顔まで僅か数十センチほどだ。めぐみんの頬に手を当てるとめぐみんはそっと目を閉じる。そして俺はめぐみんにキスをした。めぐみんとの2回目のキスは不思議な味だなあと考えているうちに互いの唇は離れていた。キスをしたあとは勿論……

 

「め、めぐみん本当にいいんだな?」

 

「ええ、構いませんよ。カズマの好きにしてください」

 

俺の好きなようにするってこれから何をすればいいんだ……とりあえず脱ぐのか?いや、脱がせるのか?ちくしょー、引きこもりにこんなこと出来るわけないだろ!!そんな俺の様子を見ためぐみんが、

 

「やっぱりカズマは最後まで締まりませんね。ちょっと服を脱ぐので待っていてください。」

 

そう言ってめぐみんは自分のパジャマのボタンを1つずつ外していく。俺はその様子を唾を飲みながら見守る。そしてとうとう、めぐみんの下着が現れる。

 

『黒だ』

 

そう、めぐみんのブラは黒色で妖艶な艶やかさを放っていた。

………………ん?…………

今、誰が喋った?

そっと隣を見るとクリスが空いた窓から中を覗き込み、こちらを見ている。

 

「やぁ、お取り込み中だったかな?」

 

 

「きゃああああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐみんの甲高い悲鳴が屋敷に響いた。

 

 

 

 



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この貧弱な冒険者に手枷を!





今回から物語を書き始める前にプロットというものを作るようにしました。まだまだ拙い出来ですが、温かい目で見守っていただけると幸いです






 

 

 

 

 

 

「やぁ、お取り込み中だったかな?」

 

 

 

「きゃああああああぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐみんの甲高い悲鳴が屋敷に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全くダクネスといいクリスといい、あなたたちはどうしてこうも余計なことをするんですか!」

 

「あはは、ごめんね。めぐみんがカズマくんと2人きりになるって言うから是非その邪魔をしに行こうとね。そしたらまさかあんなことになってるなんて……アタシが行ってよかったよ」

 

「なにがよかったよですか!?ちょっとは反省したらどうですか!」

 

 

今俺は自分の部屋でめぐみんがクリスに対して激怒しているのを聞いている。クリスは怒られているというのに自分の行動は正しかったという一点張りだ。

 

 

「私がカズマとやることやる寸前の姿を見られてどれほど恥ずかしかったと思いますか!?それはもう顔から火が出るほどでしたよ!ええ、そうでしたとも!!」

 

 

今日のめぐみんは今までにないくらい怒ってるな。情事を見られそうになったら誰でも怒るのが当然ではあるけど。なんとか仲裁に入らなくては

 

 

「まぁめぐみん、夜も遅いし今日は一旦寝てしまおう。クリスには俺から叱っておくからさ。」

 

「そんなこと言ってカズマはクリスに誑かされるかもしれないから私が叱ってるんです。ここは私に任せてください。クリス行きますよ」

 

 

そう言ってめぐみんはクリスを連れて俺の部屋から廊下へ出ていく。クリスは大丈夫だろうか……殴り合いとかにならないよな……不安に思い俺も続いて部屋から出ると……

 

 

『バインド!』

 

「なっ!」

 

 

クリスがめぐみんにスキルを放ち、クリスの腰から出たロープはうねうねと動きめぐみんにまとわりつく。めぐみんは為す術なくロープに縛られ倒れてしまった。

 

 

「これで一件落着だね!」

 

「どこが一件落着だ!」

 

 

めぐみんを縛ったクリスに思わず突っ込む。めぐみんは先程より更に怒ってその紅い瞳を輝かせている。

 

 

「クリス!!もう本当に許しませんよ!今すぐこの縄をほどいてください!」

 

「やだよ、今日はアタシがカズマくんと寝るんだから」

 

「むきいいいいい!!!」

 

 

流石にクリスもやりすぎだろ。めぐみんめっちゃ怒ってるじゃないか。ここは1つクリスにもめぐみんと同じ気持ちを味わってもらおう。

 

 

「じゃあカズマくん行こっか」

 

『バインド!』

 

「きゃあ!」

 

 

俺は先程のクリスのようにスキルを放ち、クリスを拘束する。縛られたクリスは床に倒れ込んだ。

 

 

「ちょっと何するのさ!」

 

「お前はさっきからめぐみんを煽りすぎだ。今日は2人仲良く廊下で寝るんだな。多分明日の朝には拘束が解けてるだろう。」

 

「ふっ、残念でしたねクリス。あなたはカズマではなく私と一緒に寝るのですよ」

 

 

俺は2人を廊下に放置し、ベッドに入る。今日も結局お預けか……やっぱり俺は丁度いいところで邪魔が入る呪いでも掛けられてるのかな。アクアに今度見てもらうか……

次第に意識がまどろみ、やがて深い眠りについた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

翌朝、俺が起きて廊下に出ると、めぐみんとクリスの姿はなかった。拘束が解除されてもうリビングに行ったのだろうか。俺もリビングに向かおう。あの後2人はどうなったのだろうか。出来ればあいつらにも仲良くしてもらいたいんだけどな……

リビングに着くとめぐみん、ダクネス、クリスの姿があった。

 

 

「おはようございますカズマ」

 

「おはよう、カズマくん」

 

 

めぐみんとクリスが俺に挨拶をすると、互いに相手を睨み合う。やっぱりまだ仲直りしてなかったようだな。

 

 

「そういえばカズマに手紙が来てますよ」

 

 

俺に手紙?まさか魔王を倒した勇者様に何か依頼でもあるのだろうか。それなら是非断りたいな。

そう思いながらめぐみんから手紙を受け取ろうとすると横からダクネスが素早く手紙を奪い取った。

 

 

「カズマ、これは私宛ての手紙だ。お前が読む必要はない。」

 

『スティール!』

「はい、カズマくん、どうぞ」

 

 

ダクネスが手紙を取るや否やクリスが手紙を更に奪い俺に渡してくる。

 

 

「なっ!クリス!めぐみんだけに留まらずお前までカズマを甘やかすのか!」

 

「アタシはカズマくんと一緒に寝る仲だからね、これくらいは当然さ」

 

 

そんな2人を置いておき手紙を見るとどこかで見たことのある紋章が飾ってある。これはアイリスからの手紙だ!道理でダクネスが俺から手紙を取ったわけだ。逸る気持ちを抑え、手紙を見ると、

 

 

『拝啓、お兄ちゃんへ。魔王の幹部だけでなく、とうとう魔王まで倒されたと聞きました。とてもご活躍なされたそうで、義理の妹として嬉しい限りですーーーーー。つきましては魔王を倒した勇者であるお兄ちゃんに、今度開かれるパーティへご招待する所存です。』

 

 

来た!遂に王城への招待状が来た!前回王城に行った時は無理やり城を追い出されたが、今回は何としてでも居座ってみせる。待ってろよアイリス!

 

俺の持っている手紙を横からめぐみんとクリスが覗き込む。

 

 

「おや、クリスはパーティに招待されてないようですね?ふっ、クリスは1人寂しくお留守番ですか。」

 

「ねぇ、アタシもこっそりパーティにお忍びで行ったらダメかな。」

 

「ダメだクリス、お前はただでさえ指名手配されてるんだから。」

 

 

クリスは不貞腐れたように頬をふくらませる。クリスは銀髪も目立つしほとぼりが冷めるまでは王都に行かない方がいいだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

朝食を終えた俺は屋敷を出てウィズの店へと向かっていた。と言うのも、ウィズたちには魔王を討伐してから忙しくてまだ挨拶ができていない。ウィズの店で買った大量のマナタイトのおかげで魔王を倒せたと言っても過言ではないしそのお礼に行こうと思ったのだ。

俺はウィズの店につきドアを開けると……

 

 

「へいらっしゃい!とうとう仲間のパーティ全員に加え盗賊の娘まで落としたハーレム男よ!今日もいい品を取り揃えておるぞ!」

 

「ようバニル!久しぶりだな。ウィズも元気……か……?」

 

 

店の片隅には全身を煤だらけにしたウィズらしきものの姿があった。既に体が半透明になっている。

 

 

「バニルはまたウィズに殺人光線を使ったのか?どうせまたウィズが変な商品を仕入れたんだろうけど、ウィズも悪気があった訳じゃないと思うんだ。あまりいじめてやるなよ。」

 

「小僧はこの店主がどれほどポンコツか知らんのだからそう言えるのだ。自分で稼いだお金が次の日にはガラクタに変えられていた吾輩の気持ちが分かるか?」

 

 

それはお気の毒に。何気なく商品棚を見てると

 

 

「そこに置いてあるのはどうせ返品する予定だった品物だ。今なら格安で売ってくれるぞ」

 

「このポーションはなんだ?」

 

 

近くにあった手頃なポーションを手に取る。

 

 

「それは使うだけで好きな場所にテレポートが出来るという品物である。」

 

「一見良さそうなポーションだけどな。……それでデメリットは?」

 

「テレポートはできるが、移動できる距離が歩幅くらいしかない上、これを使うことができるのはテレポートのスキルを獲得してる者だけである。」

 

 

なんだ、ただのガラクタか。

 

 

「その商品よりも汝にオススメのものがあるぞ。」

 

 

そう言ってバニルは一つのポーションを手に取り説明を始める。

 

 

「このポーションを飲むと、遠くにある物を自らの意思で移動させることができるという品物である。しかも、その効果は丸一日続く。いかがかな?」

 

「なにそれ超能力みたいでカッコイイじゃねえか!……でも、何かデメリットがあるんだろ?」

 

「うむ。確かに遠くにある物を移動できるとは言っても、箸くらいしか軽いものを持ち上げられない上、自分自身も箸より重たい物は持てなくなってしまう。」

 

「こんなガラクタ買うわけねえだろ!」

 

「フハハハハハ!!!まあそう言うな!見通す悪魔が宣言しよう。貴様はこのポーションに深く感謝することになるだろう。汝、今宵の夜にこのポーションを飲めばその効果は絶大なこと間違いなしである」

 

 

………嘘だろ?こんなガラクタが役に立つのか。でも、バニルの予言はいつも当たるしな。とりあえず買っておくか

 

 

「じゃあまたな、ウィズ、バニル」

 

 

俺はバニルに勧められたポーションを買って屋敷へと帰った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時刻は夜。俺は自分の部屋でバニルから貰ったポーションを手に持ち眺めていた。

 

 

「本当にこんなもんが役に立つのか……」

 

 

箸より重いものが持てなくなるのが怖いが、バニルの予言に従うのがいいだろう。俺は覚悟を決めて、ポーションを飲んだ。

 

 

「ごくっ……ごく……きゅ……」

 

 

すると、自分の胸がじんわりと温かくなった気がする。試しに布団を捲ろうとすると

 

 

「重っ!!なんだこれ!」

 

 

布団はビクとも動かなかった。これでは、明日相当苦労するのではないだろうか。俺がベッドに悪戦苦闘していると、

 

こんこん

 

ドアがノックされた

「入っていいぞー」

 

ドアを開けて現れたのはアクアだった。

 

 

「カズマ、今日は一緒に寝ましょう?」

 

「丁度いいところに来たなアクア、ちょっとこの布団捲ってくれないか。重すぎて持ち上がらないんだ。」

 

「はあ?カズマさんってばどこまで貧弱なわけ?布団くらいめくれるでしょうが」

 

「今日バニルから貰ったポーションを飲んで箸より重いものが持てなくなったんだよ」

 

「バニルって……あんたまたあのへんてこ悪魔に騙されたんじゃないでしょうね。今度あの悪魔にあったら今度こそ許さないんだから」

 

 

そう言いつつもアクアは布団を持ち上げてくれた。アクアが布団を持ってる間に俺は下に潜り込む。

 

 

「電気消すわよ」

 

「ああ」

 

 

アクアが俺の左側に寝そべる。俺はアクアの方を向いて寝て互いに見つめ合う。そして無言で抱き合った。やっぱりアクアのハグは落ち着くな

……さっきから胸が当たってちょっと緊張するけど……

 

 

「ねえカズマさん」

 

「どうした?」

 

「前回めぐみんに邪魔されてちゅー出来なかったでしょう?今日はちゅーして欲しいんだけど」

 

「よし、アクア目つぶってくれ」

 

 

淡い月の光でアクアの目を閉じた顔が照らされる。こいつ……黙っていたら本当に美女だな……俺はアクアの頬に手を当てそっと口付けする。もうちょっとアクアの唇を堪能したいと思ってる頃には互いの唇は離れていた。

キスをしたら次は何をするか!決まってるだろ!遂にやることやるぞ!

 

俺はアクアの上に跨ろうとしたが………

布団が重すぎて身動き1つ取れませんでした。

 

 

「……カズマさん?もしかして布団が重くて動けないの?」

 

 

そう言いながらアクアは俺の上に覆いかぶさってくる。今の俺の力ではアクアは全く動かせない。アクアはそのまま鼻をすんすん鳴らして俺の匂いを嗅ぎ始めた

 

 

「今日は好きなだけカズマさんの匂いを嗅げるわね」

 

 

そんなに自分の匂い嗅がれるとちょっと恥ずかしい。俺臭くないよね?ちゃんとお風呂には入ったけど大丈夫かな。

 

 

「ねえカズマさん」

 

「なんだ?」

 

「また一緒に寝ようね!」

 

「ーーしょうがねえなあ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ーーーま!」

 

…………うん?……

 

「ーーーじゅまさ、ーーーさん!」

 

……誰かが俺のことを呼んでいる?

 

「かじゅましゃん!!」

 

ごん!

 

「痛えよ!!」

 

俺はおでこの痛みに跳ね起きる。どうやらアクアが俺のおでこに頭突きしたらしい。

 

 

「なに!?俺が何したらいきなりおでこに頭突きすることになるわけ!?」

 

「それどころじゃないわよ!カズマ!私たち手錠嵌められてるんですけど!!」

 

 

よく見るとアクアは両手両足を手錠で拘束されていた。かくいう俺もアクアと同じように手足に手錠が嵌めてある。一体誰がこんなことを……すると俺の部屋のドアが開き

 

 

「目が覚めたようだな」

 

 

そこにはダクネスの姿があった。

 

 

「悪く思うなよカズマ、アクア。これも全てはアイリス様の為なのだ。」

 

「おい!どういう事だよ!なんで俺たち手錠嵌められてるわけ!?」

 

「明日はアイリス様主催のパーティがあるだろう?そこでお前たち、特にカズマが行くと二度と城から出ないとか言い出すに違いないということでな。クレアとレインからカズマを何があっても来させてはいけないと言われてるのだ。」

 

 

くそ、あの白スーツたちめ!今度あったら泣いて謝るまでスティールして、盗った下着をそこら辺の騎士に売りさばいてやろう。

 

 

「ちょっと!私は関係ないじゃないの!せめて私だけでもパーティに行かせてよ!」

 

「うーん。そうだなアクアだけは解放してやろう。ただしアクアはカズマがパーティに行くのを手助けしないと約束するか?」

 

「喜んで約束するわよ!ヒキニートは家でお留守番してなさい!」

 

 

こんのアマー!!1人だけ抜け駆けとかずるいぞ!

 

ダクネスはポケットから鍵を取り出し、アクアの拘束を解いていく。…………待てよ?……昨日バニルから貰ったポーションを飲んだはずだ。確かバニルはこう言っていた。

『遠くにあるものを自らの意思で移動させることができる』『箸くらいしか軽いものを持ち上げられない』

ならあの鍵も移動させられるのか?あの鍵は箸と同じくらいの重さだろうか。

 

 

「さあ!カズマさんは放っておいてリビングでゴロゴロしましょう!」

 

「ではカズマ、悪いがアイリス様のためにもどうか分かってくれ。後で朝食を持ってくるからな」

 

 

そう言ってダクネスは鍵を自分のポケットに入れる。俺はその瞬間を見逃さなかった。ダクネスが鍵から手を離した瞬間、俺はその鍵を手を使わずに動かす。そしてダクネスたちに気づかれないように鍵を床に落とした。

 

 

「ん?何か今音がしなかったか?」

 

「さあ?私には聞こえなかったわよ。それより早く行きましょう」

 

 

アクアとダクネスはやがて俺の部屋から出ていく。よし、後は手錠を外せば俺の勝ちだな。俺は床に落ちた鍵を拾い上げ、足と手の手錠を外していく……これ鍵が上手く刺さらないんだけど

 

 

 

 

 

 

 

 

10分ほどしてようやく手錠を外すことが出来た。とりあえず部屋から出て今度は逆にダクネスを酷い目に遭わせよう。そう思い、俺はドアノブを手にかけ……

ドアノブが重すぎて扉が開かない。このポーション不便すぎるだろ!!これが1日も続くのか…………すると、誰かこちらに歩いてくる音が聞こえてくる。俺は頭をフル回転させベッドの下に潜り込んだ。

 

 

「朝食を持ってきたぞカズマ」

 

 

ダクネスがドアを開け中に入ったのをベッドの下から足元だけを見て確認する

 

 

「カズマはどこに行った!?しかも手錠が外れているではないか!」

 

 

ダクネスが部屋の中に残された手錠を見て騒いでるうちに俺はベッドの下から手をダクネスに向け

 

 

『バインド!』

 

「なっ!」

 

 

俺はスキルを使ってダクネスを拘束した。

 

 

「ようダクネス、よくも俺を捕まえてくれたな。これはお返しだ。明日は何がなんでもアイリスの所へ行くからな。」

 

「か、カズマ!?どうやって手錠を外したのだ。いや、それよりもアイリス様の所に行くのだけはやめてくれ!頼む!他のことならなんでもしてあげるぞ」

 

「なんでも……だと……?」

 

 

どうしよう。何でもしてくれるなら是非エッチなことをしてもらいたい。相手はあのエロネスだ。まずは服を脱がせて下着だけの姿にしてその上で扇情的なポーズを取ってもらおう。そしてこう言ってもらうのだ。『ご主人様、私にお仕置きしてください。』と

 

 

「……なあカズマ」

 

「なんだ?俺は今お前に何をしてもらうか考えるのに忙しいんだ。」

 

「それは是非後で聞きたいのだが……それよりもカズマ……!」

 

「だからなんだよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「トイレに……行きたい……!」

 

 

 

 

 

 

 

 



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この素晴らしい仲間と恋愛を!⑥





最近思うんですが、各話のタイトルを真面目に見てる人っているんでしょうか。私はタイトル名付けるのめんどくさいのでサボってます(笑)

追記:最近ちゃんとタイトル名を付け始めました。






 

 

 

 

 

 

「トイレに……行きたい……!」

 

 

 

 

 

 

 

急なダクネスの告白に俺は一瞬動揺する。だが慌てることは無い。バインドのスキルはアクアの魔法で無効化することが出来るはずだ

 

 

「アクアー!ちょっと来てくれ!」

 

 

やがてドタドタと走る音が聞こえアクアが顔を出す。

 

 

「はいはい、どうしたのカズマさん?あれ、手錠はもう外れたの?」

 

「ああ。バニルから貰ったポーションのおかげでな。それより、ダクネスのやつが俺のバインド喰らった上にトイレに行きたいんだとさ。」

 

「あーなら私が解除してあげるわよ『セイクリッド……」

 

「待てアクア。俺からダクネスに聞きたいことがある」

 

 

俺は縛られて横になったダクネスの上に跨り顔を覗き込む。

 

 

「ダクネス、拘束を解いて欲しければ約束しろ。俺たちがアイリスと会うのを邪魔しないと。」

 

「なっ!そんな約束出来るわけないだろ!」

 

「じゃあ、いいんだな。ダクネスにはここで漏らしてもらう。いい年した淑女がいいのかそれで?」

 

「くっ!私はそのくらいの辱めで私は屈したり……屈したりは……!」

 

 

そう言いながらもダクネスは体をくねらせ必死に我慢している様子だった。

 

 

「ならお前が漏らすまで俺はここで見守ってやろう。貴族のお嬢様が尿を撒き散らすことをちゃんと見届けてやるよ」

 

「カズマ……流石にそれは気持ち悪いんですけど……」

 

 

思わぬ形でアクアから横槍が入ったが関係ない。

 

 

「それでどうするんだ?ララティーナ」

 

「その名前で呼ぶな!……くっ……わかった。約束する。私はアイリス様に会うことを邪魔しない。殺すなら殺せええええ!!!」

 

 

こんな時でもダクネスは性癖全開だな。だが、これでダクネスの邪魔は入らない。俺はアクアに合図してダクネスの縄を解いてもらう。

 

 

「うっ……漏れる……!」

 

ダクネスは急いでトイレへと駆けて行った。

 

 

「あのままダクネスを漏らさせても良かったな……」

 

「カズマ……いよいよ鬼畜の本領を発揮してきたわね」

 

 

アクアからの視線がかなり痛いが、俺は気にしないことにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

昼過ぎ。めぐみんはダクネスと爆裂散歩に行った。本当は俺が一緒に行く予定だったが、俺は軽いものしか持てない体になってしまったので代わりにダクネスを行かせた。出かける前めぐみんは俺にこう耳打ちしてきた。

 

 

『カズマ、今日私がいない間にクリスがどんな色仕掛けをしてきても絶対に落ちてはいけませんよ。いいですか?カズマがエッチなことをしたいなら私にしてください。』

 

 

ーーー。

 

「はい、カズマくん、あーん」

 

「はむっ、ありがとなクリス」

 

「カズマさん、ほら口開けて、はいあーん」

 

「はむっ、これ美味しいな」

 

 

俺は今、アクアとクリスにご飯を食べさせてもらっている。俺は昨日飲んだポーションのおかげで皿やコップを持ち上げられずまともに食事すらできないのだ。その為、アクアたちにこうやってお世話して貰っている。

 

 

「はいお茶も飲みなさいな」

 

「ごくっ……ごくっ……ぷはっ。ありがとよアクア、お湯だけど。」

 

 

左にはクリス、右にはアクアを侍らせる今の俺は両手に花というやつだろう。アクアはクリスと違ってその豊満な胸を俺に押し付けてくる。

 

 

「助手くん、なにか失礼なこと考えてない?」

 

「なな、何も考えてませんよ!?」

 

 

それにしても、箸くらい軽いものしか持てないとは厄介である。まあそのおかげでアクアたちに傅かれてる訳だけど。何かもっといい使い道はないかな。

 

 

 

 

…………あっ……。箸くらいの軽さと言えばあれがあるじゃないか?俺は早速あれを動かそうとする。

 

 

「「きゃあ!!」」

 

 

クリスは胸当てを、アクアは自分のパンツを必死に押さえている。俺が動かしたのはアクアたちの衣服だ。まさかこんな使い道があるとは……バニルの店で今度何か買ってあげるか

 

 

「ちょ、どうなってるのさ!?どうせ助手くんが何かしてるんでしょ!」

 

 

クリスは胸を手で隠しているものの、胸当てを完全に取り外され上半身は裸になっている。アクアのパンツも無事取れたことだしそろそろ昼寝でもするか。

 

 

「ちょっと昼寝するわ、お前たちもご飯食べないといけないだろ?俺の世話はもういいからゆっくりしろよ」

 

 

そう言い残し立ち上がろうとすると

 

 

「ねぇカズマくん」

 

「どうし……んっ……!」

 

 

振り向きざまにクリスがキスしてきた。しかもその小さな胸を露わにした状態で。クリスはそのまま俺の左手を取り自分の小さな胸を触らせようとしてくる。ポーションのせいでひ弱になった俺は抗うことも出来ず、僅かに膨らんだクリスの胸を触る。

 

 

「ぷはぁ……」

 

 

5秒くらいキスをしていただろうか。クリスはほんのりと顔を赤くしている。多分今の俺も同じような顔をしているだろう。

 

 

「この前キスするって約束したでしょ?今してもらうからね」

 

 

え!クリスってこんなにエッチな子だった!?めっちゃ大胆なんですけど!巨乳なお姉さんも好きだけどクリスの小さな胸もいいな……

 

 

「ねえ?なに人前で堂々とイチャついてんのよ!私にもキスさせてちょうだい!」

 

 

そう言ってアクアは俺の唇を奪う。今度は唇だけでなく、互いの舌を絡め合う濃厚なキスだ。しばらく舌を舐め合い、唇が離れると唾が糸を引いた。

 

 

「……ぷはっ……アクア……!」

 

 

普段ペット枠のアクアもこんな時に限って色っぽく見えてしまう。あーダメだこれ以上は理性が持たない。ごめんよめぐみん、エッチなことするかもしれない

俺は理性を抑えきれず左手でクリスの胸を右手でアクアの胸を揉む。クリスの胸はさほど大きくないがしっかりと手に収まりずっと触っていたくなる。対してアクアの胸は豊満ですごく柔らかい。

 

 

「……んっ……!」

 

 

アクアとは違って衣服を介さずに胸を触っているからかクリスからは時折僅かな矯正が漏れる。俺はそのままクリスにまたキスをした。今度はクリスが舌を口の中に入れて、歯や歯茎を舐めてくる。一通り俺の口内をクリスの舌が蹂躙すると次は俺がクリスの口内に侵入した。口の中のあちこちを舐めやがてクリスと舌を絡ませ合う。と、その時

 

 

「ただいま帰ったぞ」

 

 

ああ……ダクネスたちが帰ってきたのか……それでも俺は胸を揉みキスをするのをやめなかった。

 

やがてリビングのドアが開き、

 

 

「な、何してるんですか!!」

 

 

俺はクリスとアクアから押し倒され上に2人が乗った状態で寝そべりながらキスをして胸を揉んでいた。その上クリスは胸をさらけだしている。めぐみんたちが急いで駆け寄りめぐみんはクリスを、ダクネスはアクアを引き離す。

 

 

「クリスを警戒していましたがアクアまでカズマに色仕掛けするとは……もう誰も信用できませんね……」

 

 

めぐみんは怒っていると言うよりはどこか焦っているような表情だった。俺はめぐみんに受けた忠告を無視してクリスたちの唇を奪い胸をもんだことになる。とりあえずめぐみんに謝った方がいいかな……

 

 

「あーその、めぐみん、俺の気が多いせいで心配させてごめんな?」

 

 

するとめぐみんは、帽子のつばを下げ顔を見えないようにして

 

 

「……ホントにカズマは……すぐ誘惑に負けるんですから……私がどれだけ不安……だった……か」

 

 

なんだかめぐみんの声が小さくなっている。どうしたのだろう。立ち上がってめぐみんに近づくと

 

 

「もう……ぐすっ……カズマ……なんで私以外の人とエッチなことするんですか……ひくっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐみんは泣いていた。

 

 

やってしまった。女の子を泣かせるなんて。俺はどうすればいいのだろう。おろおろしているとめぐみんが俺に縋りついてきて

 

 

「うっ……カズマ!ひくっ……カズマ……カズマ!」

 

 

俺はめぐみんを抱きしめてあげることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜、ポーションの効果が切れた俺はめぐみんの部屋を訪れた。

 

こんこん

 

「どうぞー」

 

 

ドアをノックすると中からめぐみんが返事する。やがてめぐみんがドアを開けた。

 

 

「夜遅くに悪いな。もう寝る所だったか?」

 

「いえ、ちょうど眠れなかったんです。どうぞ中に入ってください」

 

 

俺はめぐみんと一緒にベッドに腰掛ける。

 

 

「カズマが自分からわたしの部屋に来るなんて珍しいですね。一体どうしたんですか?」

 

「それはだな……」

 

 

俺が今日ここに来たのは昼過ぎにめぐみんが泣きながら俺に縋りついてきたのが心配になったからだ。あの後めぐみんは少し落ち着いたが、俺にまとわりついて離れなかった。多分誰かがまた俺を誘惑しないように見張ってたんだろうな

 

 

「めぐみん!今日はめぐみんの忠告を破ってしまってすみませんでした!」

 

 

俺は頭を下げた。男女平等主義者の俺でも女の子を泣かせて何も罪悪感がない訳では無い。

 

 

「本当に辛かったんですからね。今度からは気をつけてくださいよ。」

 

「はい、気をつけます!」

 

「まあカズマのことですからどうせまたコロッと誘惑に負けるのがオチでしょう。そうならない為にも私が見張るようにします。」

 

 

そう言ってめぐみんは俺の肩に頭を乗せてくる。

俺は黙って肩を貸し、めぐみんの頭を撫でてやる。しばらくめぐみんの頭を撫でていると、

 

 

「カズマは、その……私のことが……好き……なんですよね?」

 

唐突にめぐみんがそんなことを聞いてくる。勿論めぐみんのことは好きだが、その好きはダクネスやアクアにも当てはまるかもしれない。だが、俺はこの事をめぐみんに伝えない方がいいかもな。また泣かれるかもしれないし

 

 

「ああ、めぐみんのこと、す……好きだぞ」

 

 

その言葉を聞くとめぐみんは僅かに微笑む。ああ……この笑顔は癒されるな

 

 

「頼むからそんな風に笑っていてくれよ。今日めぐみんに泣かれた時は本当に後悔したんだから。」

 

「それは元はと言えばカズマのせいなんですからね。」

 

 

今日はめぐみんの部屋を訪れて良かったな。そうやって話している間に俺たちは眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、俺たち4人はテレポート屋へ来ていた。クリスはあれから屋敷に居座るようになり今は1人で留守番している。

 

 

「あれ?あそこにいるのって」

 

「お、おはようございます!」

 

 

テレポート屋へ行くとゆんゆんの姿があった。

 

 

「おや、ゆんゆんじゃないですか。まさかまた偶然を装って私たちに会うつもりだったんですか?」

 

「ち、違うわよ!私は魔王討伐を祝したパーティに呼ばれただけだから!本当に今回は偶然だから!!」

 

 

ゆんゆんもパーティに呼ばれてるのか。もしかして魔王討伐に携わった人は全員呼ばれてるのか?となるとカツラギたちも呼ばれてるのかもな

 

 

「折角だしゆんゆんも一緒にいかないか?どうせ同じ目的地だしさ。」

 

「い、いいんですか!?あのぅ本当にご迷惑でなければご一緒させて貰いたいのですが……」

 

「一緒に行くくらいで何言ってるんですか。これだからぼっちは」

 

「ぼ、ぼっちじゃないったら!!」

 

「お客さん、そろそろテレポートして貰わないと他のお客様もいますので」

 

「す、すいません」

 

 

怒られたゆんゆんはちょっと不服そうにしながらも素直に従う。ゆんゆんを含めて俺たちは魔法陣の中に集まった。

 

 

「ゆんゆんのせいでお店に迷惑がかかったじゃないですか、気をつけてくださいよ」

 

「待って!なんで私のせいになってるの!?」

 

「お客さん、暴れたら事故になりかねないんでじっとしていて下さい!」

 

「す、すいません」

 

 

2度も怒られてゆんゆんは喋らなくなってしまった。めぐみんって何気にSっ気あるよな……ゆんゆんも可哀想に……

 

「それでは良い旅を!」

 

『テレポート!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは王都へと旅立った。

 

 

 

 







遂にゆんゆんが出てきましたね。ぼっちゆんゆん可愛い




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この素晴らしい仲間と恋愛を!⑦




大体5000字を目処に書いています。今回はちょっと長めかも





 

 

 

 

 

 

 

アクセルからテレポートした俺たちは今、王城の門まで来ている。王都はアクセルの街に比べて人通りも多く、様々なお店が並んでいた。

 

 

「そこで止まれ!ここから先は立ち入り禁止だ!そのまま去るんだ!」

 

「おいおい俺は魔王を倒した勇者のカズマさんだぞ?知らないのか?ほれアイリスからの招待状もあるぞ」

 

 

俺はアイリスからの手紙を渡す。それを見た門兵はみるみる青ざめていき

 

 

「これは失礼しました!サトウカズマ様。私が案内しますのでどうぞこちらに」

 

 

やがて応接室だろうか、小綺麗な部屋に通されると青いフードを被った女、レインがいた。

 

 

「さ、サトウカズマ!?なぜあなたがここに!?ダスティネス卿、サトウカズマを来させないようにする手筈では!?」

 

「すまないレイン、予定通りカズマは1度拘束したのだが、何故か逆に私が拘束されてしまってな。あの時のことを思い出すと……んっ……!」

 

 

そんな事をダクネスと約束してたのかよ。これは前回記憶を消された時の分まできっちりお礼しなくてはいけないな

 

 

「お兄ちゃん!」

 

 

奥の扉からアイリスが顔を出す。アイリスはそのまま俺の元へ駆け寄ってくるが、めぐみんが俺を守るように立ち塞がる。

 

 

「なんですか?めぐみんさん。私はお兄ちゃんに用があるんですよ?」

 

「カズマのことをお兄ちゃんと呼ぶのはやめてもらおうか。それと私はカズマの護衛です。カズマに近づく者は何人(なんぴと)たりとも通しません。」

 

 

めぐみんは昨日俺がクリス、アクアとキスしたのを見た時からこの調子だ。俺が他の女に誑かされないように見張っているらしい。

 

 

「なぁめぐみん、アイリスは俺の義妹だから家族みたいなものだ。変な目で見たりしないからそんなに警戒しないでくれよ」

 

「何言ってるんですか。カズマは前回アイリスの誘惑に負けて王城に1人残ったでしょう。アイリスも私の敵です。」

 

 

めぐみんはアイリスと掴み合いの喧嘩をしている。相変わらずうちの連中は騒がしいらしい。

 

 

「ほらめぐみんもアイリスもそこまでにしておけ。それとアイリス、久しぶりだな。前回は無理やり追い出されたもんな。」

 

「はい!クレアとレインにはちゃんと怒っておきましたよ!」

 

 

そう言ってアイリスは無邪気に笑う。今のアイリスは昔の引っ込み思案な様子はほとんどない。年相応の少女といった感じだ。

 

 

「お兄ちゃん、早速お部屋に案内しますね。パーティの開催は2日後ですから。」

 

「あれ?パーティは今夜開催じゃなかったのですか?」

 

後ろからゆんゆんが質問する。俺がアイリスから貰った手紙には確かに今夜開催と書かれていたはず。

 

 

「その事なんですが……私がお兄ちゃんに早く会いたくて嘘をついてしまいました。本当は2日後に開催されるのです。」

 

「なっ!アイリス様!?いくら、アイリス様とは言え嘘をつくのはいけませんよ。」

 

 

アイリスの告白にダクネスがひどく驚いている。

 

 

「ごめんなさいダクネス、私のわがままを言ってしまって反省してます。」

 

 

アイリスはダクネスに怒られると少し悲しそうにしゅんとした。

 

 

「そんなに落ち込まないでください。過ぎてしまったことはどうしようもありません。次回から気をつけてくだされば大丈夫ですよ。」

 

 

ダクネスがアイリスを慰めている。今の2人は傍から見ると失敗した妹を励ます姉のように見える。

 

 

「ねえカズマさん2人をみてるとなんだか心が洗われていく気がするの」

 

「奇遇だな、俺も同じこと考えていたよ。」

 

 

その後俺たちはアイリスに連れられ各自の部屋に案内された。パーティでの衣装はアイリスたちが用意してくれるらしい。パーティが始まるまでゆっくりしていくか……

 

「カズマ!部屋にいますか?誰かに襲われたりしてませんか?」

 

 

俺が部屋で寛いでいるとめぐみんの呼ぶ声がする。まためぐみんか……正直に言うと俺はめぐみんと一日中一緒にいてそろそろうんざりしてきている。めぐみん曰く、俺が悪い女に騙されないようにするためだとか。俺は部屋のドアを開けてめぐみんを迎える。

 

 

「別に襲われたりなんかしてねえよ。そんなに心配するな。」

 

「そうですか。恐らくアイリスがそろそろこの部屋に来ると思うので今のうちに避難してください。勿論私もついて行きますよ。」

 

 

そう言ってめぐみんは俺を引っ張ろうとする。参ったなあ……どこかめぐみんがいない所に行きたい。………あっ……あそこなら1人になれるじゃないか。

 

 

 

 

 

 

「めぐみん俺行きたい所があるんだけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

めぐみんが付いて来れない場所。それは王城のお風呂だ。床には小綺麗なタイルが敷かれており湯船にはライオンの顔をした石像の口から熱いお湯がトクトクと流れていた。俺は湯船に浸かり深いため息を吐いた。

 

 

「ああ……せっかくの王城なのにアイリスとまともに触れ合えてない……何とかめぐみんの尾行を振り切る必要があるな……」

 

 

そんな事を考えていると脱衣所のドアが開く。まだ昼間だと言うのにお風呂に入ってくる人がいるとは珍しい。やがてドアが開くとそこに立っていたのはいつぞやのイケメン、ミツルギだった。茶髪に整った顔立ち。普段から同年代の美少女2人を連れ回し魔剣を手に日夜モンスター退治に明け暮れている男だ。当然のことながらミツルギは全裸だった。

 

 

「おや、そこに居るのはサトウカズマじゃないか。奇遇だね、君もパーティに呼ばれたのかい」

 

「なんだよ!誰もお前のポロリなんて見たくねえんだよ!せめて女のポロリを見せてくれよ!」

 

「な、なんだい君は!ここは男湯だよ。僕が入って何がいけないんだ」

 

 

こいつの名前はミツルギキョウヤ。魔剣の勇者とか言われている奴だ。普段からさも自分が主人公であるかのように振る舞ういけ好かない野郎だ。まぁここがラノベの中ならこいつは間違いなく主人公ではあるのだが。

 

 

「物語の主人公様が王城に何しに来たんだ。パーティは2日後開催らしいぞ?」

 

「ああ、パーティが延期になったらしいね。パーティが始まるまでの間王都でクエストでも受けようかな。ここはアクセルより稼ぎやすいからね。」

 

「お前は相変わらずよく働くな。少しは俺を見習って休むことを覚えたらどうだ?俺は魔王を討伐してからまだ1回しかクエストに行ってないぞ。」

 

「そこまで休む気はないけど……でもたまには休暇を取るのもいいかもしれないね。」

 

「だろ?今度アルカンレティアって街に行ってみろよ。あそこはオススメだぜ。温泉も沢山あるしな。」

 

「へえ是非行ってみたいね。」

 

 

ミツルギにアクシズ教の総本山をオススメするという地味な嫌がらせをしてみる。そのうち痛い目を見るだろう。

 

 

「それはそうと、うちの魔法使いを見なかったか?あいつ俺がお風呂出るまで待ってそうで怖いんだけど」

 

「ああ確かにお風呂の玄関口に座ってたよ。あれは君を待ってるのかい?」

 

 

もうめぐみんストーカーじゃないか。そんな怖い子に育てた覚えはないぞ。何とか追っ手の目から逃れたいのだけれど。

 

 

「じゃあ俺は先にあがるわ。またなカツラギ」

 

「ああ、またね。……うん?今僕のことなんて言った?」

 

 

何か言っているミララギのことを無視してお風呂場を後にする。俺は手早く服を着ると、めぐみんがいるという玄関口を覗き込む。するとめぐみんが確かに座っているのが見えた。もちろんめぐみんに見つからないように潜伏スキルを発動させている。俺はそのままジャージで体を隠し壁沿いに進んでいく。ふざけていると思われるかもしれないがこれでもちゃんと姿は見えないようになっている。

 

 

「めぐみん、こんな所にいたのか。メイドさんたちがお菓子を持ってきているぞ。食べなくていいのか?」

 

 

俺はジャージを被っているから分からないが声からしてダクネスが来たのだろう。

 

 

「私はいいです。カズマを待ってますから」

 

「めぐみん、カズマのことを好きなのは分かるがここまでしたらカズマも辟易してるんじゃないか。」

 

「いえ、カズマがほかの女とエッチなことするくらいなら私はカズマの傍にいます。カズマは私が守ってあげないといけないのです。」

 

「そんな事してカズマに嫌われたらどうするんだ?」

 

「うっ……そう言われると確かにやめた方がいいかもしれませんね。最近の私は少し焦っていたのでしょう。お菓子でしたっけ?今行きますよ」

 

 

2人はそのまま去っていった。めぐみんを説得してくれたダクネスには感謝しないとな。俺は潜伏スキルを解除してアイリスの部屋へと向かう。なにせしばらく会っていないのだ。わずかな時間でも一緒にいたい。前回王城にいたので俺はここの構造を熟知している。俺がアイリスの部屋をノックすると

 

 

「アイリス、入っていいか?」

 

「お兄ちゃん!?」

 

 

ドタドタと駆ける音が聞こえドアが開けられる。

 

 

「お兄ちゃん!!」

 

 

アイリスは俺に抱きついてその勢いで俺は倒されてしまった。傍から見たら俺がアイリスに襲われてるように見えなくもないだろう。

 

 

「おいこんな所誰かに見られたら要らぬ勘違いをされるぞ」

 

「それでもいいではありませんか。私はお兄ちゃんに会えたことが嬉しいのです。」

 

 

本当にアイリスは最初会った時と比べて変わったな。俺が感慨深くしているとやがてアイリスが立ち上がり、

 

 

「それではお兄ちゃん、冒険譚を聞かせてくれませんか?」

 

「よろこんで」

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

俺は今アイリスの部屋で魔王を倒した時の話をしている。

 

 

「それで、魔王をテレポートした後はどうなったのですか!?」

 

 

アイリスは俺の決死の戦いの話に興味津々なのかやたらと次の話を急かしてくる。俺の話を聞くアイリスの顔は好奇心旺盛な子どもと言った所だ。

 

 

「あーその後な、最初はめちゃくちゃ強くてもうダメだと思ったよ。矢を当てても全く効かないし、でも絶体絶命の所で俺は気づいたんだ。今までずっとそばで見てきた上級魔法が一つだけあることにな。それがめぐみんがずっと使ってた爆裂魔法さ」

 

「アイリス様、お食事をお持ちしました。」

 

 

丁度話の最高潮の所でアイリス専属のメイドが夕食を持ってくる。そろそろ話も潮時か。きっと今頃俺の部屋にも夕食が運ばれていることだろう。

 

 

「メアリー、今夜はカズマさんの料理もこちらに持ってきてください。」

 

「かしこまりました」

 

 

多分この女性のメイドがメアリーだろう。それと俺もここで一緒に食べていいのだろうか。

 

 

「今日はとことん話してもらいますから、お兄ちゃん」

 

 

アイリスの無邪気な笑顔に思わず見とれてしまう。……はっ!俺はロリコンだったのか?いや待て佐藤和真。アイリスはまだ妹枠だ。こんな笑顔にいちいち動揺していてはダメだ。

 

 

「アイリス、居ますか?」

 

 

めぐみんの声だ。今日は風呂に入るまで一日中俺と一緒にいたが、それからは別行動してたからな。大方俺の所在を尋ねに来たのだろう。俺がアイリスと一緒に居ることがバレるとまた邪魔されそうだ。俺は身を隠すべきだろうか。

 

 

「どうされました?めぐみんさん」

 

 

アイリスだけが部屋の扉を開けめぐみんを迎える。俺はドアを盾にめぐみんの死角に入る場所に立った。

 

 

「アイリス、こちらにカズマは来てないですか?お風呂に入ったきりカズマが見当たらないのですよ。」

 

 

俺はアイリスだけに見えるように首を横に振る。アイリスはちらりとこちらを見るとめぐみんに悟られぬように話す。

 

 

「いえ、ここにはカズマさんは来ていませんよ。」

 

「そうですか、カズマはアイリスに会いたがっていましたしここが1番怪しかったのですが。ならいいです。それともう1つ。今夜あなたを女子会に招待しようと思います。」

 

「女子会ですか!私そのような会に呼ばれることが初めてなので楽しみです!」

 

 

めぐみんは最近ほかの女に対抗意識を燃やしていたかと思ったがこうやって仲良くしてくれるのは嬉しいことだ。今後は何もないといいのだが

 

「他の方も来られるのですか?」

 

「はい。今誘っているのはアクアとダクネスと私そしてあなたの4人ですね。夕飯を食べ終えたら私の部屋に来てください。」

 

 

あれ。今ゆんゆんだけ名前を呼ばれなかった気がするが……もしかしてゆんゆんだけ仲間外れにされてる?めぐみんとゆんゆんは親友じゃなかったのか。流石に可哀想だな。今夜はゆんゆんの部屋に遊びに行ってやるか

 

 

「分かりました。」

 

 

それだけ言い残すとめぐみんは去っていった。

 

 

「ふぅ……何とかめぐみんを誤魔化せたな。ありがとなアイリス」

 

「お兄ちゃんの為ですから。めぐみんさんのこと迷惑してるなら私からめぐみんさんに一言言っておきましょうか?」

 

「いやいいよ。俺もあいつに心配かけさせてるしな。」

 

「サトウカズマ様、お食事をお持ちしました。」

 

「ではお兄ちゃん、お話の続きをしましょう。」

 

そう言ってアイリスは心底幸せそうに俺に笑いかけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

「遅くなりました。」

 

 

しばらく待っているとアイリスが私の部屋にやって来た。これで全員が集まった。今回ここに集めたのは全員カズマに好意を持っている人たちだ。この際ちゃんとカズマが私のものだと宣言しておこう。

 

 

「あらアイリスも来たのね。それじゃ女子会の始まりよー!!」

 

「アクア、女子会を始める前に私からみんなに言っておくことがあります。」

 

 

いざ女子会を始めようという時に私は覚悟を決めて話し始める。

 

 

「今日みんなを呼んだのは、カズマの事について話すためです。カズマは、この前私と一緒に寝た時、私を好きだと言ってくれました。私とカズマは既に仲間以上の関係です。これ以上私の男に色目を使わないでください」

 

 

私はキッパリとそう告げた。これ以上カズマに悪い虫が寄ってこないように予め牽制しておかなければならない

 

 

「え!?お兄ちゃんと一緒に寝たんですか!?」

 

「いきなり何を言い出すかと思えば。そんなこと言ったって私はカズマさんとちゅーしたわよ?めぐみんのこと好きなら私とちゅーなんてしないんじゃないかしら」

 

「ええ!?キスもしたんですか!?」

 

隣でいちいちアイリスが驚いている。所詮まだアイリスは子どもですね。

 

「では、こうしましょう。今からカズマに誰と付き合いたいのか聞きに行くのです。それを聞いて選ばれなかった人は素直に諦めてください。」

 

「ま、待て。それでもしめぐみんが選ばれなかったらどうするつもりだ?」

 

「大丈夫ですよ、カズマは私を選ぶのですから。そんなこと言ってダクネスは自分が選ばれないのが怖いだけでしょう?」

 

「なんだと?」

 

ダクネスが途端に怒りをあらわにする。

 

「ダクネスは1度キッパリと振られてますからね。まだ諦めないなんてちゃんと現実を見るべきです。」

 

 

次の瞬間、私はダクネスに頬を叩かれた。筋力の強いダクネスの殴打で私は体が宙に浮きぶっ飛ばされた。

 

 

「ちょっと何してるのダクネス!!暴力だけはダメよ!」

 

「ふっ、図星だから思わず手が出たんですね。」

 

「めぐみんもそれ以上喋らないで!」

 

 

アクアがどうにかこの場を収めようと私とダクネスの間に入る。

 

 

「もういい、私は自分の部屋に戻る。アイリス様、お見苦しいところをお見せしてしまい申し訳ありません。」

 

「いえ、構いません。あなたの怒りは最もです。」

 

 

するとアイリスが私に向かって近づいてきて

 

 

「めぐみんさん、お兄様はめぐみんさんのような他の人を傷つける人は好きじゃないと思います。後でちゃんとララティーナに謝ってください。」

 

「……分かりました」

 

カズマを手に入れる為には他の人と不仲になることも辞さないが、仲良くするに越したことはないだろう。後で謝りに行こう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時私たちは気づいていなかった。彼女ならカズマを誘惑しないだろうと油断していたゆんゆんに先を越されることなんて

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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この儚い少女に友人を!




お気に入り登録が20件を超えました!ありがとうございます!皆様の評価が筆者のやる気と励みになります。今後もちまちまと投稿していくのでよろしくお願いします。


 

 

 

 

めぐみんたちが女子会を開いている頃……

 

 

 

 

「ゆんゆん、入っていいか?」

 

 

俺はゆんゆんの部屋を訪れていた。今日ゆんゆんはめぐみんたちの女子会に誘われていない。となるとゆんゆんは一人ぼっちという事だ。ここは俺がゆんゆんと一緒に遊んであげよう。

 

 

「どうしたんですか?カズマさん」

 

 

中からゆんゆんが扉を開ける。

 

 

「いや……めぐみんから何か言われてないか?何かに誘われたりとかさ」

 

「え?特に何も言われてないですよ。」

 

 

なんてことだ。めぐみんがゆんゆんだけを除け者にしてるのだろうか。今日の女子会のことはゆんゆんには伏せておこう。

 

 

「そういえばカズマさん、私カズマさんに言いたいことがあるんです。ここでは何ですから部屋の中で話しませんか?」

 

 

俺はゆんゆんに従ってベッドの上に腰掛ける。部屋の中は小綺麗にされておりまだゆんゆんが持ってきた荷物は中身を出すことなくそのまま置かれていた。

 

 

「実は私見たんです。アクアさんとカズマさんが恋人繋ぎしながら歩いているところを(4話参照)。」

 

 

……見られていたのか。ちょっと恥ずかしいな

 

 

「カズマさん、私は普段からめぐみんがカズマさんのことを惚気けてくるのを聞いてます。めぐみんとは遊びだったんですか?」

 

「…………」

 

 

俺が答えられずにいるとゆんゆんが更に言葉を継ぐ。

 

 

「私はめぐみんのことが心配なんです。めぐみんは私の大切なと、友達なんです。私が出来ることならなんでもします。だからこれ以上めぐみんのことを悲しませないでください!」

 

「ん、今何でもするって言った?」

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

(ゆんゆん視点)

 

 

 

「私が出来ることならなんでもします。だからこれ以上めぐみんのことを悲しませないでください!」

 

 

私はアクアさんと浮気してるカズマさんに言った

 

 

「ん、今何でもするって言った?」

 

「ならパンツ見せてくれないか?」

 

 

…………はい?

 

 

「いや、何でもするんだろ?ならパンツ見せてくれよ」

 

「カズマさん?怒りますよ……」

 

「すんませんでした」

 

 

私が少しカズマさんを威圧するとすぐに頭を下げてきた。本当にこの人はめぐみんにふさわしくないと思う。

 

 

「ならハグはいいか?」

 

「……カズマさん?」

 

 

先程のように語気を強めて名前を呼ぶ。しかし、カズマさんは負けじと言ってきて

 

 

「ゆんゆんと俺は友達だろ?友達ならハグくらいするだろ?」

 

 

そういうものなのでしょうか。でもハグくらいならパ、パンツを見せるのに比べたらいいかもしれません。

 

 

「……はぁ……分かりました。ハグならいいですよ」

 

「本当か!?ありがとなゆんゆん」

 

 

そう言ってカズマさんは私のことを抱きしてめくる。カズマさんは本当に困った人ですね……でもこうやって抱き合うのは悪くないかもです。少しだけ心が落ち着くような気がします。

 

 

「カズマさん……」

 

私の口から思わず声が漏れてしまいました。カズマさんはそれに応えるように私の頭を撫でてきます。

 

 

「あのう……もういいですか?……」

 

 

そうだ、私はカズマさんがめぐみんにふさわしい人か見極めなければいけないんだった。こんなことしてる場合じゃない。

 

 

「ああ、ありがとうなゆんゆん。やっぱりパンツはめぐみんに頼んで見せてもらうわ」

 

「待ってください!めぐみんにだけはそんなことしないで下さい!」

 

「じゃあゆんゆんが見せてくれるのか?」

 

「どうしてそうなるんですか!?」

 

「じゃあめぐみんに……」

 

「わかりましたから!!見せますから!」

 

 

うう……どうして私がこんな事を……カズマさんは私のパンツを見るためにベッドから立って私の正面に座る。私がスカートを捲るのを躊躇っていると

 

 

「ゆんゆん、これくらいの事で恥ずかしがっていたらダメだぞ。お前さんがもし友人の前で変な発言をしたとしよう。そんな時に『あはは冗談だよー』と笑って済ませられるくらいじゃないと友達は出来ない!その為にもこの恥を乗り越えるんだ!」

 

「ほ、本当にこんなことで友達が出来るようになるんですか?」

 

「当たり前だ。これくらいできるようにならないと友達はできない!」

 

 

そこまで言われたら私もやるしかありません。私は覚悟を決めてベッドから立ちスカートの裾に手を当てます。

 

 

「い、いきますよカズマさん」

 

 

私は恐る恐るスカートを捲りパンツを見せた。カズマさんは食い入るように私の股の部分を見ている。

 

 

「おおいいぞゆんゆん、その意気だ!今度は俺が今から言うことを復唱してみろ!まずは『カズマさんカッコイイ!』」

 

「な、何言わせるんですか!?」

 

「ゆんゆんこれも友達を作るためなんだ。さっきも言っただろ?恥を乗り越えないと友達は出来ないんだ。さあ、『カズマさんカッコイイ!』」

 

「か、カズマさんカッコイイ!」

 

「『カズマさん大好き!』」

 

「カズマさん大好き!」

 

「『私のパンツの色はピンクです。こんな嫌らしい色でごめんなさい。』」

 

「私のぱ、パンツは……ぴ、ピンクです。こんな嫌らしい色でごめんなさい。」

 

「最後に『カズマさん、私をお嫁さんにしてください!』」

 

「カズマさん、私をお嫁さんにしてください!」

 

「よく言ったゆんゆん!偉いぞ!」

 

 

そう言ってカズマさんは私の頭を撫でてくれる。この人は本当にめぐみんにはふさわしくない!!私が何とかめぐみんの目を覚ましてあげないと

 

 

「そうだ!ゆんゆん頼みがあるんだけど」

 

「またエッチなお願いする気ですか?もうこれ以上はやりませんよ!」

 

「違う、俺がそんなこと頼むわけないじゃないか。今俺はめぐみんにストーカーされていて困っているんだ。王城にいる間しばらく俺の事を匿ってくれないか?」

 

 

ええ!?めぐみんがストーカー!?嘘!信じられない。……あーでも言われてみればめぐみん、カズマさんのこといつも惚気てきて大好きって感じだったから有り得なくもないのかも?でもめぐみんに限ってそんな……

 

ここは私がめぐみんの目を覚ましてあげるしかないよね……

 

 

「分かりました!カズマさん!私めぐみんの為にやってみます!」

 

「よし、それじゃあ早速今日はここで寝ていいか?」

 

「え?」

 

「最近めぐみんたちがしょっちゅう一緒に寝ようって言ってきて安眠できてないんだよ。部屋に戻ってもまた誰か夜這いに来るだろうしな」

 

「ええ……でもカズマさんと寝るくらいなら野生の狼と一緒に寝た方がマシです。」

 

「……ゆんゆんはたまに刺々しいよな。めぐみんのストーカーをやめさせたいんだろ?俺はもう寝るから」

 

 

そう言ってそそくさとカズマさんはベッドに寝そぺる。もう!私のベッドなのに!

 

 

「カズマさん」

 

「どうした?ゆんゆん」

 

「あの、こういうお泊まり会をするときの定番ってあるじゃないですか。」

 

「定番?」

 

「ほら、寝る前にこっそりみんなで恋バナをするんですよ。」

 

「恋バナって同性どうしでやるもんじゃないのか?俺でもいいのか?」

 

 

すでに床についていたカズマさんは起き上がり私の横に座る

 

 

「えっと……それは……こ、この際仕方ありません。カズマさんとでも恋バナは出来ます!」

 

「ふーん、なら聞くけどゆんゆんって今まで恋したことあるのか?」

 

「え、わ、わたしですか。学校でも男女で別れていましたし恋したことないんですよね……」

 

「恋したことないのに恋バナなんてできないよ」

 

「か、カズマさんは?カズマさんはどうですか?」

 

「俺か……俺は小さいころ結婚を約束した幼なじみがいたよ。でもその子が不良の先輩と一緒に帰ってるところを見かけてさ。それから引きこもりがちになって……だんだん学校にも行かなくなったよ」

 

「それは……大変でしたね」

 

「なぁゆんゆん、もっと慰めてくれないか?」

 

「もっとですか?……うーん」

 

私はカズマさんの頭を撫でてあげた。

 

「よしよし、よく頑張りましたね」

 

「ゆんゆん、すっごくいいよ。そのまま胸なんて触らせた暁には友達100人できるかもな」

 

「私に友達できるって言ったら何でもしてくれるなんて思ってるなら大間違いです!」

 

 

結局この日はカズマさんと一緒に寝ました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝俺が起きると横ではゆんゆんが眠っていた。ゆんゆんって本当にちょろいな……他の男に騙されそうで心配になるぞ。昨夜のことを思い出しながら部屋を出る。めぐみんたちとは一線を超えそうになると邪魔が入るけれどゆんゆんとなら邪魔は入らないんじゃないだろうか。そう思って俺の部屋へ行くと扉の前にめぐみんが座っていた。

 

 

「めぐみん、そこで何してるんだ?」

 

「カズマ!もう心配したんですよ!昨夜はどこに行ってたんですか?」

 

 

めぐみんはこちらへ駆け寄りながら心配してくるこの様子だと昨晩は俺が部屋に居なかったことに気づいてそうだな。ゆんゆんの部屋は俺に唯一出来た安置だ。バレないようにしなければ

 

 

「昨日はちょっとな、急用で出ていたんだよ」

 

「急用?何があったんですか?」

 

 

やばい。これは誤魔化しが出来ない奴だ。

 

 

「めぐみん、もし本当のことを言っても怒らないか?」

 

「私を誰だと思ってるんですか。そんなに短気じゃありませんよ」

 

「じゃあ言うぞ……めぐみん、その……最近のめぐみんって……ちょっとストーカー?みたいになってなかったか?」

 

「何を言っているのですか。私のはストーカーじゃありませんよ。だってカズマは前に私のことを好きだと言ってくれたじゃないですか。これは相思相愛です。」

 

 

うん、ダメだ。話が通じる状態じゃない。これは本格的にヤバいな。今度病院に連れて行くか?技術が日本ほど発達してないこの国では医療の力も信頼できないしな……

 

 

「俺は最近めぐみんが干渉しすぎな気がしててさ。ちょっとめぐみんから距離を置くために昨日は逃げてたんだ。」

 

「それは、カズマがクリスたちとキスする所を見てこれ以上カズマを放っておくといつか誰かと一線を超えるかもしれないと思ったからですよ。カズマは私のことが好きなんですよね?」

 

「その好きかどうかじゃなくてな……今のめぐみんははっきり言って異常だ。近いうちに医者に見てもらえ。俺もついて行くからさ」

 

「私が……異常ですか?医者に見てもらうほどに?」

 

「ああ。昨日も俺が部屋に戻ってくるまでずっとここに居たんだろ?流石にやり過ぎだ。」

 

「そうですか……分かりました。」

 

 

めぐみんはとぼとぼと帰っていく。ちょっと言い過ぎたかな。でもいつかは言わなきゃいけないことだ。ヘタレの俺がよく言えたな。俺はまだ起きたばかりだと言うのになんだか疲れてしまい王城の外に出た。王都に来るのも久しぶりだ。しばらく観光していこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はカズマに異常だと指摘された後、ダクネスの部屋へと向かっていた。ダクネスは昨日の女子会のときに心無い言動で傷つけてしまった。カズマが誰かに取られそうで焦っていたのか昨日の私もどこかおかしかったのだろう。やがてダクネスの部屋に着き

 

 

「ダクネス、起きてますか?」

 

 

しばらくするとダクネスが扉を開けた。

 

 

「なんだ、めぐみん何か用か?」

 

「その……昨日はダクネスの気持ちも考えずに嫌なことを言ってしまいごめんなさい……」

 

 

私は心に思ったことをそのまま口にした。ダクネスは小さくため息をついて、

 

 

「これでも私は純情な部分があるからな。昨日の言葉はきつかったよ。でも反省してるならいいんだ。水に流そう」

 

 

そう言ってダクネスはこちらに手を向ける。私はその手を握り握手した。その後私はダクネスと共に紅茶を飲みに応接間に行った。ダクネスとの会話は特段盛り上がるわけでもないが話題も沢山ある訳でもない。それでも気心知れた間柄だ。私たちの間に流れる雰囲気は穏やかなものだった。

 

 

「さっきカズマに言われたんです。今のお前は異常だって。ダクネスも今の私はおかしいと思いますか?」

 

「どうだろうな……昨日お風呂から上がるのを待っていたのは少し行き過ぎだと思ったが私が言うとすぐにやめたじゃないか。それはめぐみんの良心が残っている証拠だ。別におかしくないさ。」

 

 

ダクネスは私のことを励ましてくれた。

 

 

「ダクネスに聞きたかったのですが、ダクネスとクリスは親友じゃないですか。もしカズマがクリスに取られたらどう思います?」

 

 

ダクネスは一瞬驚いたような顔をして、少し考えると不安と悲しみが籠ったような表情へと変わった。

 

 

「……クリスは親友だ。カズマがクリスを選んだのならそれは仕方のないことだ。少し悲しいがそれでも私はクリスの親友を続けるだろう。」

 

「本当にそうですか?クリスがカズマとエッチなことをするんですよ。毎晩毎晩、そんな状況に耐えられますか?」

 

「……私だって本当は嫌だ。嫌に決まってる。カズマと一緒に居たいし1番愛されたい。しかもクリスに取られるなんて……」

 

「そうでしょう。なのに、ダクネスはクリスとアクアがカズマを襲ったのを見てからただ見ているだけじゃないですか。そんなんだといつか本当にカズマを取られますよ」

 

 

ダクネスは悲しそうだった表情から目が据わり少し狂気を思わせる表情になった。今の私とダクネスのカズマに対する姿勢は似通ったものになって来ているのだろう。

 

 

「たしかにめぐみんの言う通りだ。このままだと後悔していたかもしれない。私は生ぬるかった。その事を気づかせてくれて礼を言おう。しかし、何故私にそんなことを言うのだ。めぐみんもカズマのことが好きなのだろう。これ以上ライバルを増やしていいのか?」

 

「私はカズマのことは私たちパーティメンバー全員のものだと思ってます。たとえ誰かとくっ付く事があったとしてもそこだけは変わりません。でも、クリスやアイリスたちのような外部の人たちがカズマを取るなら話は別です。そんなことは……絶対にあってはなりません。」

 

「なら私からアクアにもカズマに注意するように説得しておこう。特に今はアイリス様にカズマを取られることがないようにとな。」

 

 

そうして私たちは紅茶を飲み干した。



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この可憐な王女様に一時の勇気を!





今回若干短めです。






 

 

 

 

 

時刻は夜。今日は1日王都の観光をしていた俺はまたゆんゆんの部屋に遊びに来ていた。めぐみんがまた俺の部屋に突撃してこないとも思えないししばらくはここに居るのが安全だろう。

 

 

「悪いなゆんゆん、またここに来ちゃって」

 

「いえ!お友達と遊ぶのは大歓迎ですから!私なんかで良ければいつでも言ってください!」

 

「じゃあ今日もパンツ見せてくれるか?」

 

「…………はい?」

 

「昨日も見せてくれたじゃないか。別に減るもんでもないし。ゆんゆんが見せてくれないならめぐみんに頼むしか……」

 

「はぁ……わかりました」

 

 

やっぱりゆんゆんはちょろいな。昨日はピンクのパンツだったが今日は何色だろうか。ゆんゆんは今日はパジャマ姿で黒のショートパンツを履いていた。ゆんゆんは自分のズボンに手をかけ、ゆっくりと下ろしていく。ズボンの下に現れたのは、妖艶な色をした黒のパンツだった。

 

 

「すごくいいぞ……ゆんゆん。今度はそのパンツを下ろすんだ」

 

「ななな何言ってるんですか!?いくらカズマさんでもそこまで出来ませんよ!」

 

「じゃあ今日はここまでにしておこう。でも明日は下着の下まで見せてもらうからな。」

 

 

ゆんゆんが何か騒いでる声が聞こえるが眠い俺には遠くで喋ってるように聞こえる。それから俺はベッドで横になりやがて深い眠りについた……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺がベッドの上で目を覚ますとゆんゆんがこちらを向いて横になっている。あの後、ゆんゆんが俺と一緒にベッドに入ってきたのか。俺の目線はゆんゆんの顔から自然とその大きく実った2つの胸へと向けられた。とてもめぐみんと同い年とは思えないな……もう一度顔を見るとゆんゆんは規則正しく寝息をたてていた。触ってもバレないか……?落ち着け佐藤カズマ、これは一世一代の大勝負だ。まずは不可抗力を装って触るんだ。俺は寝ている体を装い右肘でゆんゆんの胸をつつく。おっほう!柔らかい!そのままゆんゆんの方に密着し右腕全体を胸の上に乗せる。ふかふかだ……右腕だけ雲の上に乗ってるみたいだ。

 

 

「んっ……!」

 

 

ゆんゆんが急に声を出した。ヤバい。俺はすぐにヘタレて手を引っこめる。しばらくしてゆんゆんが規則正しく寝息をたてるのを確認し、今度は更に胸を堪能しようと企てる。右の手のひらを胸にそっと当てやさしく揉んだ。ゆんゆんは起きる気配がない。サキュバスで夢の中で触った時よりどこか重量感がある気がした。

 

 

「何してるんですか」

 

 

ドスの効いた声がする。上を見るとゆんゆんの目がぱっちり開いていた。俺は急いで胸に置いていた手を引っこめる

 

 

「はぁ……めぐみんったらカズマさんのどこがいいのかしら。」

 

 

ゆんゆんは怒るかと思われたがどこか呆れた顔をしてため息をついた。俺は萎縮してゆんゆんの顔色をうかがう。

 

 

「カズマさんはめぐみんの胸を触ったことがありますか?」

 

「…………?ないです」

 

「ふふっ、なら私がめぐみんより1歩リードですね」

 

 

ゆんゆんが笑ってくれている。これはGOのサインだ!俺は両手でゆんゆんの胸を触った。

 

 

「カズマさん、それ以上やるなら警察呼びますよ」

 

「申し訳ございませんでした!」

 

 

俺は跳ね起きベッドの上で土下座をした。何がGOだよ、完全にアウトじゃねえか。

 

 

「友達ですから今回は許してあげます。私はもう先に起きてますね。あ、今日はパーティですから遅れないようにしてくださいよ。」

 

 

ゆんゆんはそう言って部屋から出ていく。友達とさえ言っておけば何でも許してくれるんじゃないかと一瞬頭をよぎったがすぐにその考えを捨て俺は再び眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今日はパーティ当日だ。あれから二度寝した俺は昼過ぎまで寝ていたので起きた時にはパーティの開始時刻は過ぎていた。そんな俺をアイリスが待っていてくれたようで今はアイリスに連れられ今日着る衣装を見繕っている。

 

 

「アイリス、着替え終わったぞ」

 

 

試着室から出るとアイリスが座っていた。

 

 

「とても似合っていますよ、お兄ちゃん」

 

「そうか?なんだかこういうピシッとしたタキシードは着心地が悪いし俺に似合わない気がするんだけど」

 

「そんなことないですよ。もうパーティも始まってますから一緒に行きましょう?」

 

 

そう言ってアイリスは右手を差し出す。俺はその手を受け取ると一緒に歩き出した。パーティ開場へと入ると豪華絢爛な内装に少し気後れする。しかし、アイリスは随分慣れた様子でおしとやかに立っていた。

 

 

「大丈夫です、お兄ちゃん。私が付いてますから」

 

 

中に入るとすぐに数人の貴族らしき男爵が寄ってきた。うちのアイリスに手を出すようなら俺も容赦はしないぞ。

 

 

「これはこれはアイリス様、王都での戦いの際には大変ご活躍なされたとか。遠くの我が領地まで聞き及んでますぞ。」

 

「アイリス様噂に違わず綺麗なお方だ。もしかしてそちらにいらっしゃるのが例の魔王を倒した……」

 

「俺が魔王を倒した佐藤カズマだぞ。よく知ってんなおっさん」

 

「おお、おっさん!?失敬な!わたくしはダンディなおじ様と自負しております。このような方からはアイリス様に悪い影響が出かねません。どうかお気をつけください。」

 

「お兄ちゃん、言葉遣いには注意を払ってください。」

 

 

アイリスに言われるなら気をつけないといけないな。ふと、他の人たちに目をやると何やら人だかりが出来ているところがある。あれはなんだろう。寄ると中には黒いドレスに身を包んだダクネスがいた。

 

 

「麗しい美貌だけでなく力強さまで兼ね備えているとは!いやはや感服致しましたぞダスティネス卿」

 

「私の家系は代々冒険者を輩出しています。きっとあなたの家系とも相性がいいでしょう。良ければ今度見合いでもしませんか?」

 

「ダスティネス卿、聞くところによると縁談を全て断っているそうな。今までの行いは全て私との縁談の為にあったのではないですか?」

 

 

ダクネスがそれは沢山の帰属から歯に衣着せぬ賛美の言葉が出ていた。大部分が求婚に近いがダクネスはいつもとは違い謙遜しながらも一人一人丁寧に対応していた。ここは1つからかってやるか

 

 

「ダクネス、俺とは遊びだったのか?一緒にお風呂に入った仲だと言うのに」

 

「あらあらカズマさん、ご冗談がお上手ですこと」

 

 

誰だこいつは。いや、その前に俺のからかいに動揺するどころか容易くあしらってくる。俺の発言に一瞬どよめいた周りの人もダクネスの発言により安堵の表情を浮かべている。前より腕を上げたな。

 

 

「……夜這いをかけられたこともあったな。」

 

「なな、何言ってるんだ……ですか!?カズマ様」

 

 

おっと偽りの仮面が剥がれ始めたな。周りの貴族たちにどよめきが走る。

 

 

「確かこう言ってたな……『私は想像以上にお前のことが好いたたただだだだあああ!!!』」

 

「あまり冗談を言うようなら私も容赦しませんわよ!!カズマさん、もうその辺にしておきましょう!!」

 

「お、折れた!手が折れてるって!もう感覚なくなってるから!!『ヒール!』『ヒール!』」

 

 

ダクネスが俺の指を本来曲げるべき方向と逆向きに曲げようとしてきた。離してもらった今でも手が若干反っている。ここは一時撤退だ。ダクネスの人だかりから離れ辺りを見回す。すると食事と酒が置かれたテーブルで一心不乱にお酒を飲むアクアとひたすら食べるめぐみんが見えた。…………うん、あいつらと同じ仲間だと思われたくないな。そういえばゆんゆんはどこに行ったんだ?さっきから見当たらない。…………あっ、居た。隅っこで小さくなってる。

 

 

「おーいゆんゆん楽しんでるか?」

 

「ひっ!カズマさん!私こういう社交的な人の集まりみたいな場所苦手で、どうすればいいんでしょうか。」

 

 

相変わらずゆんゆんはぼっち体質のようだ。まぁ俺もそこまで位の高い貴族たちと話が合うわけでもない

 

 

「じゃあ5人話しかけるのを目標にしてみようぜ。出来なかったら罰ゲームな。」

 

「な、なんでそうなるんですか!?む、無理です!話しかけられるのを待ってさえいればきっと!」

 

「それで1度でも話しかけて貰えたのか?」

 

「…………」

 

「頑張れよゆんゆん」

 

 

少し酷なようだがこれもゆんゆんの為だ。俺は助けることが出来ない。俺はゆんゆんを見守りながらパーティ会場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はパーティを抜け出した後、庭で夜風に浸っていた。空を見上げると星が輝いている。異世界でも相変わらず綺麗な夜空だ。

 

 

「お兄ちゃん、ここに居たんですか」

 

「おう、アイリスか。」

 

 

寝転がって空を見ていた俺の隣にアイリスは座る。アイリスもパーティを抜け出してきたが王女様がいなくて大丈夫なのだろうか。

 

 

「月が綺麗ですね」

 

 

…………。ここは『あなたの方が綺麗ですね』と言うべきだろうか。そんなロマンチックなこと童貞の俺にはハードルが高い。

 

 

「魔王を倒した勇者のおかげで今まで活発だったモンスターがいくらか大人しくなりました。この平和な世界もお兄ちゃんのおかげです。」

 

「はっはっは、どうだお兄ちゃんはすごいだろ」

 

「はい、私の自慢のお兄様です」

 

 

そんなに面と向かって褒められると少しこそばゆい。俺はアイリスから目を逸らし夜の空に浮かぶ月を見やった。

 

 

「ちょっと目を閉じて貰えますか?」

 

「…………?……おう。」

 

俺は素直に目を閉じる。数秒経っても何も起きない。俺はどうしたのかと目を開けようとしたところで、

 

唇に何かが触れた。

 

それがアイリスのキスだと気づいたのはその何かが離れた時だった。俺はあまりの出来事に呆然とし目を開けた。アイリスはいつの間にか隣に寝そべり空を見ていた。

 

 

「お兄ちゃんは魔王を倒した勇者様は王族と結婚できる権利が与えられることをご存知ですか?」

 

さっきのキスはなんだったのか。そんなことを聞く前にアイリスが話し出す。王族との結婚、ダクネスが昔そんなことを言ってた気がする。

 

「ああ知ってるよ、でも権利が与えられるだけで義務ではないんだろ?」

 

「……そんなこと言うのはお兄ちゃんだけですよ。王族に対して結婚する権利があるというのは義務も当然なんです。」

 

 

そうだったのか。異世界と言ってもここは俺の世界の中世ぐらいだしな。そういう風習があっても何ら不思議ではない。…………ん?

 

 

「え?…………つまり俺はアイリスと結婚するってことか?」

 

 

ちょっと待ってくれ。確かにアイリスは可愛い女性ではあるが今まで妹として見てきた。それがいきなり結婚?妻になるのか?嫁さんに?頭の整理が追いつかない。

 

 

「お兄ちゃんは私のことを妹として見てますか?それとも1人の女性として見てますか?」

 

「俺は…………」

 

「お兄ちゃん、いえカズマ様」

 

 

俺が答えられないでいるとアイリスが次の言葉を紡ぐ。待ってくれ心の準備が出来てない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私と結婚してくれませんか?」

 

 

 

 

 

 








遂にアイリスルートですね。次回カズマは求婚を受け入れるのか!?乞うご期待





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この勇者に最後の戦闘を!



珍しくシリアスな内容です。イチャラブは控えめかも





 

 

 

 

 

 

 

「私と結婚してくれませんか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それはできない」

 

 

俺は自分で言った言葉に驚いた。いつもの俺なら二つ返事で了承していたことだろう。

 

 

「俺はちょっと前まで引きこもりのニートでさ。それが魔王を倒して王女様と結婚できるなんて思いもしなかったからアイリスの気持ちはすげえ嬉しいよ」

 

「でも、今のアイリスはたまたま仲良くなった男の人が俺だけでそれを恋愛と勘違いしてるんじゃないかな。」

 

「そ、そんな事ないです。私はカズマ様のことが異性としてちゃんと好きなんです。」

 

 

アイリスの顔はとても悲しそうだった。そんな顔のアイリスを見るのは本当に辛い。胸が張り裂けそうだ

 

 

「アイリスは世間知らずな所があるからな。しばらくしたら自分の本当の気持ちに気づいて俺の事なんかどうでも良くなってるさ」

 

 

そう言うとアイリスの目から涙がこぼれた。彼女の涙は留まることを知らない。泣きじゃくり涙を拭っても拭ってもまた涙がこぼれてくる。俺はアイリスを抱きしめてあげた。

 

 

「ごめんなアイリス、お前の気持ちに応えてやれなくて」

 

「うぇ…………うっ…………ぐすっ」

 

 

アイリスは嗚咽を漏らし俺の肩の上で泣いていた。10分程経っただろうか。やがてアイリスは泣きやみ俺の肩に手を当てそっと俺から離れた。

 

 

「カズマ様が私と結婚しない本当の理由は何ですか?」

 

「……俺が結婚すると悲しむ奴がいるんだ。だからあいつの為にも俺は結婚できない」

 

「では、もしその人と愛が実らなかったら私と結婚してもらえますか?」

 

 

俺は少し考えるとこう答えた。

 

 

「そうだな……もしそうなったらアイリスを貰うよ」

 

「約束ですよお兄ちゃん」

 

 

俺たちはそう言ってまた夜空を眺めた。果てしなく遠くにある星々は俺たちの心をいくらか癒してくれた。その後しばらく庭で寝転がっていた俺たちは部屋に戻った。今日はとてもパーティに参加する気分じゃない。俺の部屋の前に誰もいないのを確認して自分の部屋に入る。一昨日はめぐみんが居座っていたが忠告が効いたのか今日は誰もいなかった。俺は今1人になって後悔の念が押し寄せてきた。はぁ……なんで婚約を断ったんだろう。素直に受けておけばなあ……あんなに可愛いアイリスをお嫁にできるんだぞ

…………ん?……今一瞬窓に人影が映ったような……俺が今泊まっている部屋はかなり高い場所だ。そんな所に普通人は来れない。

 

ガタッガタッ

 

窓が動く音がする。やはり誰かいる。窓に近づき様子を見る。

 

 

「誰だ!そこに居るのは分かってるぞ」

 

「その声は助手くん?ここを開けてくれない?」

 

「いや、助手くんじゃないです。そんな人は知りません」

 

「助手くんでしょ!何すっとぼけてるのさ!そんな事より大変なのさ!早くここを開けてよ」

 

 

仕方なく俺は窓を開ける。すると窓の横の僅かな出っ張りに足を置いたクリスが入ってきた。

 

 

「助手くん、何か怪しい人につけられてない?体は無事なの?」

 

「別に何ともないって。それよりどうしたんだ。状況を説明してくれ」

 

「うん、そうだね……ここに来たのはとある神器を回収するためだよ」

 

「あ、そういうの興味ないです。」

 

 

俺はクリスの話を聞かないように耳を塞ぐ。もうこれ以上面倒なことに巻き込まれるのはごめんだ。そういうのはどこかの魔剣の勇者にでも頼んでくれ

 

 

「なんでさ!今の流れはどう考えても私の話を聞く流れだったでしょ!」

 

「だって俺もう魔王倒したんだし残った余生をゆっくり過ごすって決めてるんだもん」

 

「相変わらずカズマくんは…………いい?今回ばかりはそんな事も言ってられないのさ。何と言ったってカズマくんの命が狙われてるの。」

 

 

俺の……?その発言を聞いて俺はガバリと身を起こす。

 

 

「なんで俺が……?俺人から恨まれるようなことしたか?もしかして俺にジャンケンで勝ったらかけた金を10倍にして返すって言って色んな人から金を巻き上げたこと?それとも露出の高い服を着たお姉さんを見つめすぎてその子の連れに怒られたこと?」

 

「よくもまあそんなに次から次へと出てくるね。どれも違うよ。問題は君がアイリスと結婚することさ。」

 

「アイリスと結婚?それならさっき断ったぞ。」

 

「えええ!!!断ったの!?あの気の多いカズマくんが!?」

 

「おい何だその反応は、俺はこれでも人からの好意には誠実に応えてるつもりだ。」

 

「もしかしてカズマくん知らないの?王族と結婚したら側室として他の女の人とも迎え入れることができるんだよ」

 

 

何だそれは、そんなこと聞いてないぞ。え?じゃあアイリスを正妻としてめぐみんやダクネスを側室として迎え入れるわけ?ハーレム作れるの?

 

 

「こんなことしてる場合じゃない!今すぐアイリスに結婚するって伝えに行かないと!」

 

「もう断ったんでしょ!それに結婚するってなると殺されるかもしれないよ?」

 

 

え?殺される?俺は一旦落ち着きクリスの話を真面目に聞くことにした。

 

 

「今回の神器はほんの小さな指輪なんだけどね。その正体はなんでも消し去る指輪だよ。この世のありとあらゆる物を消せるの。普通に使う分にはゴミを大量に処理したり、魔物に対して使用するけど、ただ問題はそれが例え人間であっても消し去ることが出来ることだよ。」

 

 

何でも消し去る神器か……本当に神様ってのはろくなものを送らないよな。少しは神器を回収しにくるクリスを見習って欲しい。

 

 

「その神器によって人を消し去ることが出来るのは分かったが何で俺が狙われるんだ?全く心当たりがないぞ」

 

「カズマくんが狙われているのはアイリス様と結婚すると思われてるからだよ。この世にはアイリス様と結婚することでベルゼルグ王国と良好な交友関係を結びたいと思う国が沢山あるの。その人たちにとってはカズマくんが邪魔でしょ?だから神器を使って殺しに来てるんだよ」

 

 

なるほど、実際には俺はアイリスと結婚しないのに。なんとまぁ迷惑な話だ。

 

 

「それでどうするんだ?俺はどこかに逃げて身を潜めればいいのか?」

 

「ううん、折角だからここで神器を回収しようと思ってね。カズマくんには囮になってもらいたいんだ。それに私の宝感知のスキルでここのパーティ会場に神器があることは分かっているのさ」

 

「だからお願い、神器の回収を手伝ってくれない?」

 

「しょうがねえなあああ!!!」

 

 

俺たちはそのままパーティ会場へと向かう。アイリスと一悶着あったのにまたこうして働くことになるとは。廊下を進んでいるとクリスが俺に忠告してきた。

 

 

「助手くん、そこの角から宝感知に反応がある。気をつけて」

 

 

しばらくすると初老の男性が歩いてきた。一見すると何の害もないただの人間だ。俺は警戒しながら歩き続ける。丁度その男の横を通り過ぎようとした所で、男の嵌めた指輪から光線が放たれた。俺は『回避』スキルで間一髪で避ける。

 

 

「あぶねっ!」

 

「先制攻撃に優る策は無いと思いましたが避けられるとは。流石幸運値が高い勇者なだけはありますね」

 

 

俺の後ろにあった絵画がその光線を浴びた瞬間突如消え去る。あの指輪が神器か

 

 

「おっさんが俺を暗殺しようとしてる貴族か?悪いが俺はアイリスと結婚する予定はないぜ。俺を襲うのはお門違いってやつだ。」

 

 

俺が男と話している間にクリスは潜伏スキルを使って少しずつ男の背後に回り込む。俺はクリスがいることを悟られぬように自然を装って会話する。

 

 

「アイリス様との結婚を断る勇者など居ないでしょう。私の名はベルノード・ポルナレフ。王の命を受けて貴方の命を頂戴しに来ました」

 

「悪いがおっさんはもう負けてるぜ。俺には最強の幸運の女神様が付いてるんだからな」

 

「それはどうでしょうか。」

 

 

次の瞬間男は粉を辺り一面にばら撒いた。近くにいた俺とクリスはまともにその粉を浴びてしまう。なんだ、なにをした?男はそのまま俺に詰め寄ってくる。だが指輪さえ奪えば俺たちの勝ちだ。俺は『スティール』を使おうとして、

 

 

声が出なかった

 

 

「私が今使った粉は『沈黙草』、詠唱を必要とするスキルや魔法を封じる粉です。後ろにお仲間がいたのですね。いやはや私は本当に運がいい。これもエリス様のご加護のおかげです。」

 

 

こいつ、エリス教徒かよ!すぐ後ろにエリス様がいるんだよ!俺は男から距離を取ろうとするが男の動きの方が素早い。ダメだ、追いつかれるーー

 

 

「これも我が国を守るためなのです。どうかご理解ください。安心してください。痛みは感じませんから」

 

 

男の指輪から光線が放たれ俺はそれを直に浴びてしまった。俺は消える直前にクリスを見た。

 

 

(逃げろ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマくんが私の目の前から消えた。やってしまった。いつもみたいに『スティール』を使えばすぐに終わると思っていた。私の傲慢が原因だ。このままではダメだ。あの男を追跡しないといけない。

 

 

「さて、残りの仲間はどこに潜んでいるのですか?『潜伏』しているということは盗賊職かな?」

 

 

私は息を潜めて男から距離をとる。今度こそしくじってはダメだ。冷静になろう。

 

 

「実は私も元々冒険者でね。職業は暗殺者(アサシン)、盗賊の上級職ですよ。ここは逃げさせてもらいましょう。『隠密』」

 

 

すると男の姿が見えなくなった。何かの影に隠れないといけない私とは違い、何もせずとも男は姿を消せる。こうなってはダメだ。私にできることはない。

 

ダメだ……完全に相手の実力が上手(うわて)だった。盗賊の上級職の暗殺者(アサシン)、それにスキルを封印する為の用意周到、私たちで勝てるわけがない。カズマくん……私が囮にしようなんて言わずに素直に逃げてもらえばよかった、ごめんなさい。相手の実力をちゃんと調べておけばよかった、ごめんなさい。君にだけはいなくなって欲しくない、ごめんなさい。

……っ……!カズマくん……っごめんなさい……

 

私は大いに泣いた。もうカズマくんはいなくなってしまった。カズマくんカズマくんカズマくん……!!

 

 

「こんな所でなにしてるの?クリス」

 

 

見上げるとアクアさんが立っていた。私は『沈黙草』のせいで声も出すことができない。それでもアクアさんに縋り付き必死に説明しようとした。

 

 

「あなたもしかして喋れないの?『セイクリッド・ブレイクスペル!』ほら、もう大丈夫よ。」

 

「……うっ……カズマくんが、……カズマくんが!全部私のせいで……!」

 

「大丈夫よ、私がいるから。大変だったわね。きっとカズマさんも大丈夫よ。」

 

 

アクアさんは私を抱きしめ背中を撫でてくれる。普段は私に仕事を押し付けてくる困った先輩だが、今の私には慈愛に満ちた女神に見えた。5分ほどして私は今まで起きたことを説明し出した。アクアさんはうんうんと私の話を聞いてくれる。

 

 

「なるほどね。私にはよく分からないからダクネスたちに相談しましょう。」

 

 

…………さっきの私の感謝を返して欲しい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は今、ダクネスとアクアさん、アイリス様と護衛のクレアさんとレインさん、めぐみんとゆんゆんに対してさっきの出来事について説明していた。

 

 

「お兄様が……消えた……」

 

 

アイリス様はかなりショックを受けたようで言葉を失っていた。めぐみんやダクネスも顔には出さないが内心酷く動揺しているだろう。

 

 

「アイリス様、お気を確かに。恐らくパーティ会場に犯人はもう居ないでしょう。至急各ギルドに捜索願いを出しましょう。」

 

「クレアさん、その人の行き先はそのうちわかると思うから私に任せてくれないかな?」

 

 

確か戦っていた時に『これもエリス様のご加護のおかげです』と言っていた。あの男がエリス教徒なら私に祈りを捧げてきた時に私の神権ですぐに分かるだろう。

 

 

「何か当てがあるのですか?」

 

「うん、この事はカズマくんと私の秘密だから言えないけどきっとそのうち分かるよ」

 

「クリスはカズマと随分仲が良いみたいですね。その秘密とは何ですか?」

 

 

めぐみんがジト目をこちらに向けてくる。めぐみんはカズマくんへの執着が凄いから秘密という単語にすぐに食いついてきた。

 

 

「めぐみんやめないか、今は仲間同士でいがみ合っている場合ではない」

 

「あのう、その犯人を見つけた所でカズマさんは戻ってるくるのですか?既に消されたそうですけど」

 

「それなら神器をアクアさんが封印すればカズマくんは戻ってくると思うよ。」

 

「女神である私の出番ね!任せてちょうだい!その犯人なんてすぐにとっちめてカズマさんを助けてあげるんだから!」

 

レイン「しかし、暗殺者(アサシン)となると騎士では相性が悪いですね。ここは、少数精鋭の部隊で相手に奇襲をかけるしかないと思います。」

 

 

誰が奇襲をかけるべきか。いつもはその作戦をカズマくんが考えていた。でも、今は彼はいない。ここは私たちだけで何とかするしかない。

 

 

「では、奇襲をかけるのは潜伏スキルを持つクリス、状態異常を回復できるアクア、力のあるダクネス、そして司令塔として私が行きましょう。ゆんゆん達はここでお留守番していてください。」

 

「皆さんどうかお兄様をよろしくお願いします。」

 

こうして私たちはカズマくん救出作戦を決行した。

 

 



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この暗殺者(アサシン)に引導を!







 

 

 

「よっと、犯人が潜んでいるのはこの宿だね。」

 

 

時刻は深夜、草木も眠る丑三つ時。私たちはクリスに連れられて町外れにある宿に来ていた。カズマの命がかかっている以上失敗はできない。

 

 

「では行きますが、アクアくれぐれも静かにしてくださいね?」

 

「ちょっとなんで私だけに言うのよ!カズマの事もあるし今回は無茶しないわよ!」

 

 

宿の人に事情を説明して合鍵を貰ってきた。相手が寝静まっている間にクリスの潜伏スキルを使い玄関から堂々と侵入する。中に入ると男の人が寝息を立てているのが聞こえる。

 

 

『スティール』

 

 

小声でクリスがスキルを使う。クリスの手に握られていたのは男物のパンツだった。

 

 

「…………クリス、今はカズマを救出する大事な場面だ。相手のパンツを取って遊んでる場合ではないぞ。」

 

「違うの!これはたまたまで!」

 

 

クリスの幸運値はカズマよりも高いと聞く。そのクリスが目当ての物を取れないはずがない。つまり、あの男は指輪を身につけていない。どこか別の場所に置いているということだ。

 

 

「暗闇でもハッキリ見えるのはアクアだけです。もの探しは頼みましたよ。」

 

「ええ!私は女神ですもの!これくらい楽勝よ!」

 

 

暗くてよく見えないがアクアは引き出しの中を探しているらしい。

 

 

「あったわ!この指輪でカズマさんが消されたのね!」

 

 

アクアは指輪を掲げている。これでカズマは帰ってくる。そう安心した時だった。

 

 

「そこに誰かいるのですか?」

 

 

声のした方向を振り返ろうとすると飛んできた針がアクアの持っていた指輪を弾いたのが横目で見えた。起きてすぐに、しかも正確に指輪を射抜いた。この男、強い。

 

 

『バインド!』

 

 

すかさずクリスが潜伏スキルを解き相手を拘束しようとする。しかし、男は右腕に携帯していたナイフを取り出すと瞬時にロープを切り裂いた。クリスに続きダクネスが男との距離を詰め、男の上にのしかかり、両腕を掴む。

 

「クリス、私もろともで構わない。もう一度『バインド』を使え!」

 

「させるか!」

 

 

男は足を思いきり上げ靴下の裏に付いていた刃物をダグネスの太ももに突き立てる。麻痺させたのだろうか、途端にダクネスの腕から力が抜け、男はダクネスを跳ね除け立ち上がる。

 

 

「どなたでしょうか?おや?そこの銀髪の坊主には見覚えが…………なるほど、方法は分かりませんが私の跡を付けてきたのですね。」

 

 

不味い、主戦力のクリスとダクネスの攻撃が効かない上、私とアクアでは攻撃手段がない。

 

 

『隠密』

 

 

暗闇で僅かに見えていた男が完全に見えなくなる。と、体から突然力が抜けた。倒れ込むと自分の足に針が刺さっているのが分かる。

 

ドサッドサッ

 

アクアとクリスが倒れる音が聞こえる。2人とも針を刺されたようだ。

 

 

「さて、敵感知スキルにも反応がないことからして闇討ちに来たのは貴方方4人ですか?」

 

 

もう私たちは全員戦闘不能にされてしまっている。ここから勝つのはどう足掻いても無理だ。

 

 

「あの…………殺す前に聞きたいのですが、私のパンツがないのは貴方たちの仕業ですか?」

 

 

私たちの間に沈黙が続く。パンツを取った張本人は目を逸らし気まずそうにしている

 

 

「それならさっきクリスが嬉々としてパンツを手にしてたわよ」

 

「ちょっとアクアさん!?別に嬉しそうになんかしてないから!!」

 

 

男はクリスを変態を見るような目で見ている。

 

 

「まあそれはいいです。貴方たちには顔を知られてますからね。ここで殺すしかありません。」

 

 

そうか……私たちは負けたのか……死んだらカズマと同じところに行けるのだろうか。

 

 

「待て。クリスから聞いたがお前はエリス教徒なのだろう。人殺しなんてしてエリス様に申し訳ないと思わないのか」

 

「これは事故なんです。あぁお許しくださいエリス様。全ては我が国を守るため、どうか私にご慈悲を」

 

「ふっ」

 

「何がおかしいのです?」

 

「私たちはエリス様に会ったこともあるのですよ。あの方がカズマを殺した人物なんて許すと思いますか?あなた図々しいにも程がありますよ」

 

「では貴方から消してあげましょう。」

 

 

男は指輪を取ると私の方に近づいてくる。ああこれでカズマの所に行ける。心配したんですよカズマ。一生私の隣にいてくださいね

 

 

「最後に貴方の名前を聞いておきましょう。お名前は?」

 

「めぐみんです」

 

「…………それはあだ名ですか?」

 

「本名です」

 

「……そうですか……それは失礼しました」

 

「めぐみんさん、さようなら」

 

 

まさに殺されようとしていたその時、部屋の中に膨大な光が注いだ。なぜ急に明るくなったのか。いや、この光はクリスから出ている。クリスは光に包まれたかと思うとを僅かではあるがその姿を徐々に変えて言った。気づいた時にはそこには修道服に身を包んだエリス様がいた。

 

 

「え…………」

 

 

男は唖然としている。いや、男だけでない。ダクネスも私もアクアも突然エリス様が現れたことに驚いている。やがて我に返った男はエリス様の前で頭を垂れる。

 

 

「え、エリス様!?さっきの盗賊の男は……?」

 

「指輪を渡しなさい」

 

「は…………?」

 

「指輪を渡しなさいと言っているのです」

 

 

男はしどろもどろになりながらも指輪をエリス様に差し出す。エリス様は指輪を手にするとそれを上に掲げる。

 

 

「この世にある我が眷属よ……」

 

「幸運の女神エリスが命ず…………」

 

 

ただ事ではない現象に、それを注視する私たち。やがてエリス様がゆっくりと目を開き、声高に叫びを上げた。

 

 

「聖なる神器に封印をーー!」

 

 

指輪が淡く光り光の粒子となって消え去った。指輪が消える直前、中から何かが飛び出す。何かと目をやるとそこには数人の騎士とそして、カズマがいた。

 

 

「あれ……俺……?」

 

「さっきまで王城に居たはず…………ここはどこ?」

 

カズマと騎士たちは何が起きたのか分からずおろおろしているようだ。エリス様は男の前に仁王立ちしている。あまりの展開に心の整理が追いつかない。

 

 

「私はエリス、この世を管轄する幸運の女神です。私の化身であるクリスを殺そうとしたこと、そして仲間たちを殺そうとしたこと。その罪は到底許されるものではありません。」

 

「え…………あ…………と、とんだご無礼を!!!」

 

 

男はエリス様に平謝りし、自分が犯した罪に怯えているようだった。自分が信仰している女神を殺そうとしたのだ。当然正気じゃいられないだろう。

 

 

「あなたたちはこの男に消された王城の騎士たちですよね?犯人を連行して貰えますか。」

 

 

騎士たちは目の前に現れたエリス様に呆然としていたがそう言われるとすぐに男を拘束し連れていった。

 

 

「これでダクネスたちにも正体がバレてしまいましたね……」

 

 

エリス様は深くため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今までとんだ無礼を致しました。大変申し訳ありません。」

 

 

俺たちはエリスたちに助けてもらい何とか生き延びることが出来た。先程犯人も無事捕まり、俺たちは王城へと帰ってきた、のだが

 

 

「顔を上げてよ。ダクネス」

 

「今までクリス様に失礼なことをしてしまいすみませんでした。まさかエリス様とは思いもよらず……」

 

「めぐみんまで!!」

 

 

さっきからずっとこの調子だ。俺を助ける時にクリスがエリス様であるとバレてしまったらしい。エリス教徒のダクネスが萎縮するのは分かるがめぐみんまでも小さくなっていた。

 

 

「お前ら別にそこまでクリスに畏まらなくてもいいだろ。俺は前からクリスの正体には気づいてたけどたまにパンツ取るくらいの仲だぞ?今まで通りにしてればいいんだよ、」

 

「そうよ、エリスってば結構やんちゃで抜けている所もあるのよ。それに胸だってパッド入りだし……」

 

「わあああアクアさん!!その話は言っちゃダメです!」

 

「お前たちは失礼すぎるのだ!!クリス様、うちの仲間が重ね重ね無礼を……」

 

「もういいって!」

 

「ねえダクネス、めぐみん。私は君たちの友達のクリスってことで普段通り接してくれないかな?私もそんなに格式張った物言いだと慣れないって言うかさ」

 

「本当に宜しいのですか?クリス様」

 

「『様』も付けない!敬語も禁止!」

 

「…………わかっ……た、クリス」

 

 

ダクネスの言葉を聞くとクリスは満足そうに頷いた。

 

 

「女神様でもカズマを取るつもりなら容赦しませんが宜しいですか?」

 

「うん、その勝負受けて立つよ」

 

 

今の俺は正にハーレム系主人公という奴なのではないだろうか。俺も成長したなあ……

 

 

「なんだか今のカズマさんを見てるとイライラしてくるんですけど。その変な顔に聖なるグーを入れたいんですけど」

 

「これはモテる男の顔つきってやつだ。俺もハーレム系主人公に成り上がったんぶほっ!!」

 

アクアが俺の顔面に拳を叩き込んできた。

 

「お前本当に殴るやつがいるか!!」

 

「カズマさんが他の女に鼻の下を伸ばしてるのが悪いのよ!謝って!女神様を差し置いて他の女を見たことを謝って!!」

 

「てめぇ!!今日こそは許さないからな!駄女神があああ!!!」

 

「何もそこまで怒ることないじゃない!ちょっと反省して欲しかっただけよ!ねえカズマさん!ごめんなさい、謝るから!!」

 

俺はアクアを折檻してから自室に戻った。クリスの正体がバレてしまったがダクネスやめぐみんと上手くやっていけるだろうか。特にダクネスはエリス教徒だし心配だ。そんなことを考えてるうちに意識がまどろみ眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日。めぐみんたちは夜遅くまで行動していたため、みんなが起きたのは昼過ぎだった。俺たちはアイリスの部屋に集まっていた。

 

 

「昨晩捕まえた犯人の情報が分かったぞ。」

 

 

クレアの話をまとめるとこうだ。

 

あの男はある国から雇われたらしい。犯人の供述によると最近魔王の娘が国の近くに引っ越してきたそうだ。軍事力の低いその国は魔王の娘の力によって周囲のモンスターが凶暴化し、国を守りきれてないという。そこでベルゼルグ王国のアイリスと結婚し軍事的な支援を受ける予定だった。

 

 

「だから婚約相手である俺を殺しに来たんだな。」

 

 

話を聞き終えるとゆんゆんとめぐみんが冷や汗をかいていた。一体どうしたのだろう。

 

 

「めぐみん、ゆんゆんどうかしたのかしら?」

 

「い、いえ何でもないですよ」

 

「め、めぐみん本当のこと言った方がいいんじゃないの?」

 

 

めぐみんとゆんゆんがすごく気になる。

 

 

「しかし、魔王の娘がなぜわざわざそんな場所に越してきたのだ?」

 

 

ダクネスがクレアに質問する。

 

 

「それは何者かが娘の住む城にに毎日のように爆裂魔法を撃ち込みに来て追い出されたらしい。」

 

 

…………ん?……爆裂魔法?

 

 

「なぁめぐみん」

 

 

めぐみんは俺が呼ぶとすぐに顔を背ける。

 

 

「確かめぐみんってゆんゆんと一緒に魔王の城に何回も爆裂魔法を撃ちに行ってたよな……」

 

「魔王の娘が城を追われて引っ越して来たのって昔めぐみんが魔王城に何度も爆裂魔法を撃ったからだろ!!今回の件も元はと言えば俺たちのせいじゃねえか!!!」

 

 

うちのパーティメンバーは何かやらかさないと気が済まないらしい。

 

 

「待ってください!それなら一緒について来たゆんゆんも同罪です!私だけ責められる謂れはないですよ!」

 

「ちょっとめぐみん!なんで私を巻き込むの!!こんな事になるなんて知らなかったんだってば!!」

 

 

めぐみんとゆんゆんが責任の押し付け合いをしている。まぁこの調子だと2人とも説教される流れだろう。

 

 

「犯人の事情はわかりました。しかし、我が国の勇者を暗殺しようとした事実には変わりありません。今後その国とは敵対関係となるでしょう。」

 

 

敵対関係か……この世界にもそういうのあるんだな。魔物という共通の敵がいるから人間同士は団結すると思っていたがそうでもないみたいだ。

 

 

「敵対関係って、具体的にはどうなるんだ?」

 

「まず、その国への物資供給や貿易を全面的に差し止めます。また勇者を暗殺しようとしたことが他国に知られれば各国から非難を受けます。各国からも経済制裁を受ければ恐らくその国は経済的に厳しくなるでしょう。それだけではありません。経済制裁に加え軍事的な侵攻を受ける可能性だってあります。このままではその国はますます貧しくなり社会的な立場も低くなります。そして魔王の娘が攻めてきているのならそのまま滅びるかもしれません。」

 

 

……よく分からないがとにかくめちゃくちゃやり返すってことかな?俺は政治にそこまで詳しくないがこれが普通なのだろうか。でもその国が俺を暗殺しようとしたのも魔王の娘が攻めてきたからで、その原因を作ったのは俺たちだ。俺たちにも多少の責任はある

 

 

「カズマカズマ、アイリスがあんなこと言ってますけど放っておいていいのですか?」

 

「そうだな、アイリス?俺も殺されかけたけどこうして無事な訳だからそこまでやり返さなくてもいいんじゃないか?」

 

「カズマ様がそこまで言うなら少し手加減しますが、私たちが何もしなくともあの国は魔王の娘に攻められて滅びると思いますよ」

 

 

このままだと1つの国が消えてしまうのか。普段の俺なら可哀想だと思うだけで特に行動することはなかっただろう。だが今回は俺たちにも一部責任がある。何より妹のアイリスに手を汚して欲しくない。そうだ、俺はいつも何だかんだで仲間を放っておけないのだ。

 

 

「しょうがねえなあ!!!俺が魔王の娘を追い出してやるよ!」

 

 

俺はアイリス達に宣言した。

 

 

 

 

 

 

 






さっき気づいたのですがクリスの一人称って「私」じゃなくて「アタシ」なんですね。今から全話修正してきます。





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この大地の主に安らぎを!



イチャイチャとシリアスってどれくらいの比率で混ぜればいいんでしょうか。そんなことを考える今日この頃





 

 

 

 

 

翌日。俺たちは犯人が仕えていた国へ行くため馬車に揺られていた。その国の名前はバルバトス。海に面しており漁業が盛んらしい。今回の件が上手く行けば報酬も弾むそうだ。

 

 

「アイリスも付いてきて大丈夫だったのか?」

 

 

いつものパーティメンバー4人にゆんゆんとアイリス、クリスを加えた計7人でバルバトスに向かっていた。相手国を助けるためとはいえ一国の王女様が易々と他国に出向いていいのだろうか。

 

 

「お兄様たちだけで行かれるとまた無理をしてお兄様が死んでしまうかと思ったのです。クレアとレインに説得して何とか許してもらいました」

 

 

レインはともかくあの白スーツが許すとは思えないのだが……アイリスが強引に決めたに違いない。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

 

どうしよう。ちょっと気まずいな。バルバトスまで行く馬車が無かったため自分達で馬車を借り、御者台にはダクネスとアクア、客席に乗る俺、両隣にアイリスとクリス。反対側にめぐみんとゆんゆんがいる。アイリスの求婚を断ってからアイリスが俺にどんな気持ちで接してきているのかよく分からない。以前は純粋に慕っていたが、あの夜からアイリスとちゃんと会話していない。

 

あれこれ考えているとアイリスが俺の肩に顔を乗せてきた。俺は黙って肩を貸す。アイリスから清香が漂ってきた。本当にアイリスは可愛い妹だよな……

 

 

「ちょっとアイリス、下っ端の分際で何をイチャついてるのですか。私のカズマから離れてください」

 

「私はお兄様と親睦を深めているだけです。それにカズマ様には振られてしまいましたし、これくらい良いじゃありませんか。」

 

 

 

 

 

アイリスの声が馬車の中に響く。

 

 

俺がアイリスを振ったという爆弾発言の投下によりその場の空気が凍った。見れば御者台にいるダクネスとアクアもこちらを見ている。お前らは前を見ろ!ぶつかったら危ないだろ!

 

 

「あー、その、あれだ。振ったというかアイリスはまだ恋をよく知らないから保留したというかな?別にアイリスのこと嫌いって訳じゃなくてだな」

 

 

俺は早口で捲し立てるように喋る。目の前のゆんゆんは分かりやすくおろおろし、めぐみんは信じられないとばかりに目を見開いている。

 

 

「ふふっ」

 

 

めぐみんが笑い声を漏らす。笑い声を聞いたアイリスは一瞬ではあるが感情をあらわにしたのを俺は見逃さなかった。

 

 

「そうですか。なら仕方ありませんね。下っ端の役目を見るのはお頭として当然ですから。好きにして構いませんよ。」

 

「ありがとうございます。めぐみんさん、私の好きにしますね」

 

 

めぐみんとアイリスの間には目には見えない火花が散っているようだ。俺に振られたが芯が通っていて逆境に強いアイリス、俺に振られていないが逆境に弱いめぐみん。2人の決着はどうなるだろう

 

 

「お兄様、私が膝枕して差し上げましょうか?」

 

 

アイリス、その提案はすごく魅力的だがこの状況でできるほど俺の肝は据わっていない。俺に振られたと皆に公言したのに甘えてくるアイリスに驚く。

 

 

「流石に今ここで膝枕するのはちょっとな……」

 

「では、手を繋ぎませんか?」

 

「……そ、それくらいなら」

 

 

俺とアイリスは恋人繋ぎで手を結ぶ。アイリスは俺に求婚してから更に大胆になったようだ。めぐみんを見ると俺達の恋人繋ぎを見ても未だ笑顔のままだ。アイリスが振られた事が余程嬉しかったのだろうか。いくらめぐみんでもアイリスを傷つけるようなら俺も容赦はしない。

 

 

「お兄様、顔がこわばってますよ?」

 

 

知らず知らずのうちに顔に感情が出ていたようだ。

 

 

「悪い、ちょっと考え事しててさ」

 

「カズマ様が悩んでることなら私にいつでも話してくださいね。王族の力を使って解決してみせます!」

 

 

俺の小さな悩みにそんな力をわざわざ使わなくて大丈夫だ。もっと他のことに使ってやってくれ。

 

 

「カズマくん、アタシとも手繋がない?」

 

 

クリスがそんな事を言ってきた。アイリスの要求を呑んだ手前クリスだけ断ることもできない。

 

 

「……お、おう。いいぞ」

 

 

俺は王女と女神様という二人の華と両手を繋いでいる。両手が塞がっていて俺は少し不自由な状態だ。

 

 

「お兄様」

 

「ん?……んっ!」

 

 

アイリスが俺の事を呼んで振り向き様に俺にキスをしてきた。唇どうしが触れ合うだけの軽いキスだ。俺は両手をクリスとアイリスと繋いでいるのでまともな抵抗も出来ずにキスしてしまった。

 

 

「……あ、アイリス?」

 

「クリスさんではなく私の方も見てくださいね。」

 

 

周りからの視線を感じる。かなり恥ずかしいんだけど……よく見たらアイリスも少し耳が赤くなっている。アイリスも実は頑張ってやってるんだな

 

 

「なっ!!アイリスそこまで許可した覚えはないですよ!クリスも手を離してください!」

 

 

めぐみんが俺の膝の上に跨り同時にクリスとアイリスの腕を掴み離そうとする。力比べなら王族のアイリスが圧倒的だ。アイリスはもう片方の手でめぐみんの腕を掴んでそのままめぐみんの背中に回しめぐみんを伏せた。

 

 

「いだだだあああ!!」

 

「下っ端だからといって舐めないでくださいよ。私は勇者の末裔なんですから」

 

 

アイリスは先程笑われたことへの仕返しなのかめぐみんを痛めつけていた。普段強気なめぐみんがこうして組み伏せられているのを見ると加虐的な嗜好がそそられる。

 

 

「私馬の扱いが出来ないからカズマさん達の方に移りたいんですけど。なんだか向こうの方が楽しそうじゃない。」

 

「あれは女同士の戦いだ。部外者の私達は邪魔しない方がいい。」

 

「アイリス様みたいに私もめぐみんに勝てる日が来るかしら……」

 

「いだああああ!!!助けて!助けてくださいカズマぁ!!」

 

 

 

 

 

 

馬車に揺られているとやがて大きな山の麓に着いた。所々岩が露出しており進むのに苦労しそうだ。この辺りは道の舗装も十分でなく、馬車の揺れも酷い。

 

 

「あれ、今そこの岩が動いたような……」

 

「何を言っているのですか。ぼっちを拗らせすぎて幻覚まで見るようになったんですか?」

 

「ぼっちじゃないから!!私の気のせいかしら……」

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴ

 

突如地響きが鳴る。何事だ。眠りかけていた俺はすぐに意識を覚醒させ外の様子を見る。周りの岩が吸い寄せられているのか、重力を無視して転がっていく。

 

 

「うわあああ!!助けて!私日頃の行いはいい筈なのにぃ!!」

 

「落ち着くんだアクア、とにかく何が起きているのか確認しよう」

 

 

沢山の岩は1箇所に集まっていく。やがて岩は大きな人の形を作った。それはゴーレムのような姿だった。

 

 

「おらあああぁぁぁ!!!何もんじゃわれええええええ!!!」

 

そんなチンピラみたいなことを目の前の岩が喋っている。なんだろうこの岩……すごく小物っぽい

 

 

「主らはなにもんや?わてはこの火山の主、大地の精霊や。あんまり舐めとると痛い目見るでえ!」

 

 

精霊が叫ぶと後ろの火山が火を噴く。火口からはマグマが噴き出ている。この精霊が怒ると後ろの火山も噴火するのか?

 

 

「ここは私が叩き切ります!」

 

 

アイリスが剣を持って精霊の前に対峙する。

 

 

「待って!相手が大地の精霊でも話し合えるならきっと友達になれると思うの!お願い!まだ殺さないで!」

 

 

ゆんゆんがアイリスのことを必死にとめている。ゆんゆんは本当にぼっちを拗らせているようだ。植物と友達になろうとしていたこともあったし、今更ではあるが

 

 

「はぁ?わてがお前なんかと友達になる訳ないやろ。わては精霊やで。あんた頭大丈夫か?」

 

 

ゆんゆんはその言葉を聞いて膝をついて泣き出してしまった。そんなゆんゆんをクリスが背中を撫でて介抱している。

 

 

『エクステリオン!』

 

 

轟音と共に目の前の精霊が真っ二つに切られる。が、すぐに岩どうしがくっつき元の姿に戻った。

 

 

「だから言うてるやろ。わては精霊や。物理攻撃なんか効かへんで。」

 

 

このメンバーの中で最強クラスのアイリスの攻撃が効かないとなるとちょっとヤバいかもしれない。

 

 

「大地の精霊さん?お怒りのところ悪いんだけど俺達はここを通して貰いたくてどいてくれませんかね?」

 

 

俺がやんわりと説得してみる。

 

 

「おうおうお前えらい生意気やの!今のわては頭から火吹き出るくらい怒っとるわ。文字通り火吹き出てるんやが。わての怒りを収めん限りここは通さへんで!!」

 

 

そう答えるとまた後ろの火山が火を噴く。怒りを収めるって一体どうすればいいのだろう。そもそも精霊って何をしたら喜ぶんだ?適当にお祈りでもすればいいのか。

 

 

「アクア、お前水の女神だろう?何か精霊を操ったりとかできないのかよ」

 

「ふふん、遂に私の力を見せつける時が来たようね。ここは私に任せなさい!私の宴会芸で喜ばせて見せるわ!」

 

「いや何で宴会芸だよ!そこは女神の力を使うところだろうが!!」

 

「そんなちゃちな芸……いや、かなり高尚な芸だがそのくらいで俺の怒りは収まらんわい!」

 

 

アクアの唯一の取り柄とも言える宴会芸は精霊相手にも凄いものらしい。宴会芸なんかで許してもらえるのかと思ったがこの調子だともう一押しだな。

 

 

「大地の精霊様、あなたを怒らせてしまって申し訳ありません。何か私達にできることがあれば教えてくださいませんか?」

 

 

女神モードのクリスが精霊と対話する。アクアと違って本物の女神様は頼りになるようだ。クリスの言葉を聞いた精霊は少し考える素振りを見せて、

 

 

「ほな、そこのパツキンの姉ちゃんと胸元が空いてる子で野球拳してや。わてはそれを最後まで見守ったらここを通してやるわ。」

 

 

ダクネスとゆんゆんが野球拳をするように要求された。この精霊の要望は中々センスがあるようだ。仲間が敵に仕方なく服を脱がされるなら男としてその勇姿を見守るしかないだろう。

 

 

「お兄様、顔が気持ち悪いですよ」

 

 

アイリスから指摘されて真顔になる。俺そんなに気持ち悪い顔してた?だって目の前で女の裸を拝めるかもしれないんだぞ。そりゃ鼻の穴の一つや二つ膨らませてもしょうがないはずだ。

 

 

「くっ、私はこのくらいで屈したりしない!お前はこのまま裸になった私を舐め回すように見つめ、熟れた体で私に自慰をしろと言うつもりだろう!体は好きにできても心までは支配できないと知るのだな!」

 

 

ダクネスは今日も平常運転だ。変態レベルが高すぎてかける言葉が見当たらない。やめてよ、ここにはアイリスもいるんだぞ。俺の可愛い妹にそんなエッチな話聞かせられません。

 

 

「な、なんやわれ……見てくれはいいのに中身が酷いやないか……まあええわ、そっちの胸元が空いた子も頼むで」

 

「むむむ、無理ですよ!なんで私なんですか!か、カズマさんだっているのに!ちょっとカズマさんこっちをチラチラ見てるのバレてますからね!絶対見ないでくださいよ!」

 

「よく考えるんだゆんゆん、この精霊が本気を出したら俺達は一溜りもないだろう。でも野球拳をするだけでここを通れるんだ。それにジャンケンに勝てばゆんゆんは服を脱がなくても良いかもしれないじゃないか。」

 

「ううっ……でも恥ずかしいんです……せめてカズマさんはあっち向いててください。それでなら勝負しますから」

 

 

 

 

 

 

 

 

2人の野球拳の勝負は拮抗していた。ゆんゆんは上の服とパンツだけ、ダクネスはブラとパンツだけになった状態だ。次の勝負でどちらかの秘所を拝むことが出来る。

 

 

「はぁ、はぁ、後二勝すれば終わり。二回勝てば私は服を脱がなくて良い。大丈夫、きっとできる。」

 

 

ゆんゆんは自分を安心させるようにブツブツ言っている。ダクネスの裸は一度見たことがあるし個人的にはゆんゆんの裸を見てみたい。そういえばゆんゆんにはバーコードが恥ずかしい位置にあるらしい。是非確認しなくては。

 

 

「か、カズマ!流石に私もそんなに堂々と見られると恥ずかしいというか……」

 

 

相変わらずダクネスの羞恥心はどこにあるのか分からない。

 

 

「そんなに見られるのが嫌だって言うならもっと見たくなっちゃうなあ。」

 

 

俺はそう言いながら手で輪っかを作り両の目で穴を除きながらダクネスを見る。ダクネスは俺の言葉を聞くと、これ以上触発しない方がいいと悟ったのか何も言わなくなった。

 

 

「ほな次行くでー、じゃーんけーん」

 

「「ぽん!!」」

 

 

結果はゆんゆんがパー、ダクネスがチョキだ。

 

 

「ううっ……カズマさんは向こう向いててください!」

 

 

俺はゆんゆんの指示に素直に従い背を向ける。やがて後ろから僅かな衣擦れの音が聞こえる。しばらくして振り返るとパンツだけになったゆんゆんが両胸の先端を片手で隠していた。

 

 

「きゃああああ!!こっち見ちゃダメですって!!」

 

 

ゆんゆんが抗議しながらもその場で身動きできずにいる。俺は真の男女平等主義者、仲間が頑張っているのならたとえゆんゆんでも見守る。眼福だなあ

 

 

「そっちの幸薄そうな子より、グラマラスな姉ちゃんの裸が見たいねんけど。まあこれはこれでええわ。わての溜飲もだいぶ下がってきたわ。ほなじゃーんけーん」

 

「「ぽん!!」」

 

 

結果はゆんゆんがグー、ダクネスがチョキだ。

 

 

「くっ……これくらいで私は屈したりしない!」

 

 

ダクネスは嬉しいのか恥ずかしいのかよく分からないがブラを取り始めた。胸の先端はゆんゆんと同じくガードしているのだが、胸が大きくその肉が腕に収まりきってない。こうしてみると若干ゆんゆんよりダクネスの方が大きいようだ。

 

 

「クリスさん、冒険ではこれくらい普通のことなのですか?」

 

「そんな訳ないでしょ!ちょっと、これは王女様には教育に悪いよ!」

 

「今のゆんゆんを見ていると何だか心がスカッとしますね」

 

前から思ってたけどめぐみんは結構Sっ気があるみたいだ。

 

 

「とうとう次で最後か……ええ勝負やなあ。ずっとこの時間が続いて欲しいわあ……」

 

「「「じゃーんけーん」」」

 

「「ぽん!!」」

 

 

結果はゆんゆんはチョキ、ダクネスがグーだった。ゆんゆんが全裸になることが決定した。

 

 

「なんでよおおお!!!」

 

 

ゆんゆんは左腕で胸を隠しつつも膝から崩れ落ちた。

 

 

「「「ぬーげ!ぬーげ!」」」

 

 

俺と精霊とめぐみんはゆんゆんに向けて脱げコールをしている。そんな俺たちを他の女性メンバーは非常に冷ややかな目で見ている、ダクネスを除いて。

 

 

「めぐみんも裏切るんじゃないわよ!!お願いですからカズマさんは向こうを向いててください!そしたら脱ぎますから!」

 

 

ゆんゆんを気の毒に思ったのかクリスが俺の前に立ち塞がる。

 

 

「カズマくん、勿論あっち向いてくれるよね?アタシ以外の女の子のことエッチな目で見る気?」

 

 

クリスの剣幕に気圧され俺は素直に後ろを向く。目の上からクリスが両手を乗せてきた。俺はそれをどけることもせずただゆんゆんがパンツを脱ぐのを待つ。そしてしばらく経つとクリスの手の上に更に俺の手を乗せ『ドレインタッチ』を発動した。

 

 

「きゃあ!」

 

 

クリスはいきなり何をされたのか分からず俺から手を離す。その瞬間に俺は後ろを振り向くとゆんゆんが生まれたままの姿でそこに立っていた。両胸と股を手で隠してはいるが

 

 

「きゃああああああ!!!」

 

 

 

ゆんゆんの一際大きな声が山に響いた。

 

 

 

 



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この金髪騎士と聖なる一夜を!



最近めぐみんとアクアの香水を買いました。匂いを嗅ぐと本当に気分が舞い上がります。そのおかげか小説を書く時間が前より長くなりました。感謝




 

 

 

 

 

ゆんゆんの裸姿を脳裏に焼き付けた後、俺達は野宿することになった。あの後大地の精霊は機嫌を取り戻し、無事俺達は進むことが出来たがもう夕暮れだったのでここで野宿している。のだが、

 

 

「…………」

 

「どうかしたか?ゆんゆん」

 

「別に…………怒ってなんかないですよ……」

 

「いや、怒ってるだろ……確かに悪かったよ。でも、そこに可愛い女の子が裸でいたら見ないことなんて出来ないって」

 

「「「「「…………」」」」」「くうっ!……流石だなカズマ!」

 

 

ダクネス以外の女性からの冷ややかな視線が怖い。

 

 

「ララティーナはあんな姿を見られたのに平気なんですか?」

 

「ダメよアイリス、あのお姉ちゃんはもう手遅れなのよ」

 

 

純情なアイリスの疑問にアクアが答えてあげている。

 

 

「減るものでもないし別にいいじゃないですか。カズマも反省してますし」

 

「めぐみんってこんなにカズマくんに甘かったっけ?前はもっと厳しかったと思うんだけど」

 

「私はカズマを甘やかすと決めているんです。カズマは私が守ってあげないと変な女が寄り付きますからね」

 

 

めぐみんは俺の理想のタイプを聞いてから俺を甘やかすと決めたようだ。俺のために尽くしてくれるのは嬉しい。

 

 

「本当にごめんな。今度俺の友達を紹介してあげるからさ」

 

「そんなものに私が釣られると思っているんですか?…………でも、沢山紹介してくださいね」

 

「もちろんだ」

 

 

しばらく口を聞いてくれなかったゆんゆんが少し俺の話に耳を傾けてくれた。これを機に徐々に仲直りしていこう。

 

 

「カズマさんもう食べていいかしら?」

 

「ああ。これとか焼けてるんじゃないか?」

 

 

今日の夜ご飯は焼き鳥だ。様々な種類の肉と野菜が香ばしい匂いを嗅ぎたてる。お嬢様育ちのダクネスとアイリスは物珍しそうに焼かれる肉を見ていた。

 

 

「はぐっ……かつっ……うぐっ……」

 

「めぐみん、そんなに慌てて食べなくてもご飯は沢山あるよ。」

 

「何を言ってるのですか。食事は試合ですよ。早く食べなければ負けてしまうのです。」

 

「試合なんかじゃないから!本当にそんなに食べてるのに栄養はどこに行ってるのかしら……」

 

「ふぉい!今わたひの胸を見へ思っはほとを言っへもらほうか!!」

 

「やめてー!私の胸を掴まないでえ!ってカズマさんこっち見てるのバレてますからね!今日こそは本当に怒りますよ!」

 

 

目の前で女の子の胸が揺れていたら見てしまうのは男の性(さが)というやつだ。こればっかりは俺も逆らうことが出来ない。

 

 

「よく見てなさい。ここにある焼き鳥に手をかざすと……ほら、元の鳥になっちゃいました!!」

 

 

アクアが手に取った焼き鳥はどういうカラクリか普通の鳥へと早変わりした。それを見ていたアイリス達は感嘆の目を向ける。

 

 

「おい!それは俺が焼いてた焼き鳥じゃねえか!なんで人の肉鳥に変えてんだよ!!」

 

「仕方ないじゃない!今日はアイリスがいるから朝からネタを仕込んできたのよ!私の芸になれたのならこの焼き鳥も本望よ!」

 

「アクアさん、今の芸を私にも教えてくださいませんか?私も出来るようになりたいのです。」

 

「い、いけません!アイリス様が宴会芸を覚えるなど!こらアクア!食べ物で遊ぶんじゃない!」

 

「ダクネスまで!」

 

 

そんな風に騒いでいるうちに夕飯はすっかりなくなり寝る時間に差し掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の見張りの当番はまず俺とダクネス、次にアクアとクリス、最後にめぐみんとゆんゆんの順になった。王女かつ最年少であるアイリスは夜の見張りは免除した。

 

 

「今日言っていたがアイリス様からの求婚を断ったそうだな」

 

 

ダクネスと他愛もない会話をしていると突然そんなことを言ってきた。

 

 

「……ああ、アイリスは俺の可愛い妹だからな。手を出すことなんて出来ないさ」

 

「そうか……」

 

 

ダクネスは俺の返答を聞くと喋らなくなった。俺達は黙って空を眺める。空には幾千もの星が輝いていた。

 

 

「……カズマは王族と結婚したら側室に妻を迎え入れられることを知らないのか?」

 

「それなら後でクリスから聞いたよ。アイリスと結婚してめぐみんやお前も妻として受け入れられるらしいな」

 

「それを知っていてよく結婚を断ったな……正直言ってカズマが求婚を断るなんて信じられないんだ。」

 

「まあ俺も断ったことに自分で驚いてるよ」

 

「……どうして断ったのだ?」

 

「お前らがいるからだよ」

 

「え?」

 

 

ダクネスが驚きの声をあげる。

 

 

「俺がアイリスと結婚したらお前らが悲しむと思ってな……まぁこんなことしても問題の先送りにしかならないだろうけど。後はまあヘタレた部分もあったかな。」

 

 

アイリスと結婚すると聞いた時、真っ先に浮かんだのはパーティメンバーの顔だ。アイリスと結婚すればあいつらとの暮らしも変わってしまうだろう。それが嫌だったのかもしれない

 

 

「"お前ら"ってカズマは私のことも考えてくれたのか?めぐみんが好きだからじゃなくて?」

 

「…………そんな小っ恥ずかしいこと聞いてくるなよ。ダクネスのことは少し考えただけだぞ。」

 

 

俺の返答を聞いてダクネスはじっと俺の顔を見ていたがやがて前を見据え、静かに呟いた。

 

 

「ありがとう」

 

「何だか俺まで恥ずかしくなってくるからやめろ!何ニヤニヤしてんだ!」

 

 

ふやけた顔をしたダクネスの頬をつまむが、ダクネスは笑ったままだ。そんなダクネスを見ていると怒る気にもなれず俺は手を離した。

 

 

「なあカズマは今でもめぐみんのことが好きなのか?私と付き合う気は微塵もないのか?」

 

「いや、全くないって訳じゃないけど……」

 

 

ダクネスは煮え切らない俺の回答を聞くと少し逡巡した様子を見せ、やがて意を決したように俺の顔をまっすぐ見つめた。そして俺の左手を取り、自分の胸に押し付けた。

 

 

「だ、ダクネス?」

 

「ど、どうだ?めぐみんではこんな感触は味わえないだろう」

 

 

感想だけ言うのならば最高です。の一言に尽きるのだが、ここには他の人達が寝ている。こんな姿を見られたらまた不名誉な評価を得るだろう。俺は手を離そうとするが体が言うことを聞かない。それどころかダクネスの胸を堪能するかのようにゆっくりと揉んでいる。デカい。分かってはいたがなんて豊満な胸なのだろう。俺は夢中になり知らず知らずのうちにもう片方の手でも胸を触っていた。

 

 

「カズマ、夢中になってくれて嬉しいぞ。」

 

 

ダクネスは若干顔を赤くしているが恥ずかしさよりも嬉しさが勝っているようで俺の頭を撫でている。理性を保てない。もっと味わいたい。他の人がいる?どうでもいい。これはダクネスから誘ってきたんだ。俺はダクネスの胸に顔を埋(うず)める。香水を使ってるのか甘い花の香りがする。俺のちゅんちゅん丸も次第に元気になってきた。

 

 

「私に興奮してくれているのだな。」

 

 

ダクネスは俺の両手を取ると指同士を絡め合わせてきた。そして近づくダクネスの顔、両手を塞がれている俺はダクネスのキスを拒めない。ピタリとダクネスの顔は俺の目の前で止まった。そのまま目を閉じるダクネス。俺にキスを望んでいるのだろう。ダクネスの後ろにめぐみん達が寝ているのが見える。そうだ、2人きりな訳では無い。すぐ横では仲間が寝ているのだ。バレたら不味い

 

 

「ダクネス、もしこんなことがバレたら俺もお前もタダでは済まないぞ。一旦落ち着こう」

 

「ふふっ、お前は肝心な時にいつもヘタレるのだな。」

 

 

そう言うとダクネスは口付けし、両手を押し出し俺を押し倒してきた。俺に体重をかけないように両膝を地面についている。最初のキスは啄むようなもの。二回目のキスは少し互いの唾液で唇を濡らすようなもの。何度もキスするうちに一度のキスの時間が長くなっていく。俺の愚息は完全にエクスプロージョンを唱え、ダクネスの股に当たる度に脈打つのが分かった。ダクネスも俺の状態に気づいたのか右手を離しズボンに手をかける。俺はダクネスのキスにメロメロになり抵抗する気にならなかった。さわさわと俺の剛直をズボンの上から撫でるダクネス。俺は惚けたようにダクネスの顔を見つめていた。

 

 

「捲っていいのだな、カズマ」

 

「ま、待てダクネス。どうして今日はそんなにグイグイ来るんだ。遂に痴女になっちゃったのか?」

 

 

俺はここまで来てもヘタレてしまう。勿論最後までやりたい気持ちもある。だが、すぐ隣で仲間が寝ていること。今日のダクネスは様子がおかしいこと。それらが引っかかってダクネスを制止してしまった。

 

 

「私はもうお前を誰にも取られたくないのだ。めぐみんにもクリスにもアイリス様にも。私と一緒に大人になろう。」

 

 

ダクネスはそう言うとパンツごとズボンをずり下げた。中から俺の剛直が露わになる。ダクネスはうわっと小さな声を上げ、それを見つめたまま固まってしまった。

 

 

「……ダクネス……?」

 

「ぁっ……ぅっ……」

 

 

ダクネスの目からポタポタと涙が流れ落ちる

 

ダクネスは顔を覆って泣き出してしまった。俺もお預けになってしまった残念さとダクネスを泣かせてしまった後悔で泣きそうだ。しかし泣いてる女の子の前でちんこ丸出しで泣く男など救いようがないだろう。俺は落ち込む気持ちをなんとか持ち上げダクネスの肩をさする。原因は分からないがとりあえず寄り添ってあげよう。

 

 

「すまない……私には無理だ……!」

 

「大丈夫だダクネス。落ち着くまで俺が傍についてるから」

 

「そういう言葉はまずそれを閉まってから言え」

 

 

ダクネスは俺の息子を見ながら言った。

 

 

「…………はい」

 

 

その言葉で俺は完全にノックアウトされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダクネスの話をまとめるとこうだ。まず、今日は俺と一線を超える覚悟で誘惑してきたらしい。俺は変な所で律儀だから、一度関係を持ってしまえば責任を取ろうとすると考えたそうだ。でも、俺のグロテスクな剛直を見た瞬間頭が真っ白になり体が動かなくなった。その自分の不甲斐なさに泣き出してしまったと。

 

 

「すまない……お前に迫った時も断られないかと怖くて怖くて……」

 

「俺はダクネスがその気になってくれただけで充分嬉しいぞ。俺は満足してるから大丈夫だ。」

 

 

ジャリッ

 

土の音がした。ほんの小さな音。ダクネスは気づいてないかもしれない。振り返るとすぐ後ろで横になったアイリスと目が合う。アイリスはビクッと身体を震わせるとすぐに目をつぶった。

 

 

「アイリス起きてるか?」

 

「…………」

 

「寝てるなら何しても大丈夫だよな。」

 

 

その言葉を聞いたアイリスは寝ている体を装いながらスカートへと手を動かす。俺はスカートの上のアイリスの手を上から握ると観念したのかアイリスはうっすらと目を開けた。

 

 

「……子どもは寝る時間だぞ。」

 

「……子どもじゃありません。あと数ヶ月で結婚できます。」

 

「……いつから起きてた?」

 

「……今夜はまだ寝てません。」

 

 

つまりずっと起きてたのか。とてもアイリスに見せられるようなやり取りじゃなかったと思う。待てよ、ずっと起きてたということはダクネスが俺のズボンを捲る時も起きてたわけで……

 

 

「……もしかして俺のアレも見たの?」

 

「…………」

 

 

沈黙は肯定という事だろうか。なんてことだ。俺は全身が脱力するような感覚に襲われる。まだ子どものアイリスに自分の一物をしかも、いきり立ったものを見せてしまった。恥ずかしすぎる……

 

 

「あ、アイリス様。お見苦しい所を見せてしまい申し訳ございません。」

 

「ララティーナもあのような顔をするのですね。」

 

 

アイリスの言葉を聞いてダクネスは顔を真っ赤にしている。

 

 

「御二方とも、仲間が寝ているすぐ横であんな事をするなんて後先考えてなさすぎます。もしあのまま続けていたら2人の情事の音でみんなが目を覚ます所でしたよ」

 

「「申し訳ありませんでした!!」」

 

 

俺達はひたすらアイリスに謝った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一夜明けて俺達はバルバトスへ向かうため馬車に乗っていた。

 

 

「カズマくん昨日の夜どこに行ってたの?」

 

「男にはやる事やらなきゃいけない時があるんだ。簡単に言うと自分との勝負……ってやつかな」

 

「ふーん」

 

 

馬車に揺られながらクリスが胡乱な目で俺を見てくる。昨日はダクネスのお預けのせいで急遽処理する必要が出てきた。しかしここは人も通らないような山道。サキュバスサービスも利用できないので、俺は人目がつかない所で一人遊びをしたのだ。

馬車の編成は以下の通りだ。御者台にダクネスとアイリス。客席の左側に俺、両隣にめぐみんとアクア。向かい側にゆんゆんとクリスが座っている。昨日まで積極的だったアイリスも昨夜のことがあってから大人しくなっていた。

 

 

「カズマ、昨晩何かありましたか?」

 

「ブフォッ!!」

 

 

その言葉を聞いてダクネスが飲んでいた水を吹き出す。その様子を見てめぐみんは何かを察したようだ。

 

 

「私はアイリスと何かあったのか聞いたのですがダクネスとも何かあったんですね。」

 

「べべ別に何もねえし!!お子様なめぐみんには関係ないことだよ!」

 

 

俺は声を大にして否定する。

 

 

「誰がお子様ですか!!”お子様な”ということは大人がするような事があったという事ですね!?」

 

 

墓穴を掘ってしまった。紅魔族随一の天才の名は伊達じゃない。俺の言い回しから何を隠しているのか推理してきた。めぐみんの後ろでアイリスが人差し指を口の前に立てる。『昨晩のことは言ってはいけない』ということだろう。

 

 

「むっつりなめぐみんは一体何を想像してるのかな?ほら、言ってみろよ。えろみん」

 

「誰がえろみんですか!?あまりふざけていると怒りますよ!!」

 

「まあそう怒るなよ。ふっ、聞きたいか?俺とダクネスとアイリスの3人で愛し合ったことを……」

 

「お兄様、私はそんな事してませんよ!変なことに巻き込まないでください!」

 

「ほう、”私は”ということはカズマとダクネスの2人で何かしたんですね?それに、大人がするような事とはカズマとダクネスでイチャイチャしたとかそんな所でしょう。」

 

「あ、ああその通りだ。ちょっと騒がしくしていた所を起きていたアイリス様に怒られただけだ。」

 

「全く、それならそうと早く言ってください。私も別に怒ったりなんかしませんよ。」

 

 

事態が上手く収まった。これでもう何も言うことはない。そう確信しているであろうダクネスとアイリスをからかってみたくなった。

 

 

「ああ、まさか俺も興奮したちんこを2人に見られるとは思わなかったよ」

 

「「「「!?!?」」」」

 

 

俺の発言にみんなは口をあんぐりと開けている。御者台にいるダクネスとアイリスは顔を背けてただ前を見ている。

 

「か、カズマさん!?まさか童貞の卒業が3Pなの!?」

 

「あわわわ、私が寝ている間にそんなことが……」

 

「ちょっとダクネス!そんなはしたない子に育てた覚えはないよ!しかも王女様まで!」

 

 

ーーーーーー馬車の中は一層騒がしくなった。





今回の話は書いてて楽しかったです。やっぱり好きなことをするのって最高です


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この船の旅路に祝福を!



UA数5000回到達&連載1ヶ月!!!ここまで来れたのも偏に読者様のおかげです。本当は1ヶ月記念の話を上げようかと思ったのですがちょっとした用事で時間が足りずこのような形になりました。近々番外編としてあげるかと思いますのでどうぞご贔屓に


 

 

 

 

 

 

 

私達は今港にいる。バルバトスという国はこの海を超えた向こうにあるそうだ。ここの港は船を止める為の人が数人居るだけで他に人はいない。普段ここの港は使用してないそうだけど、王女様が自国に助けに来ると知って特別に船を寄越すらしい。カズマとアイリスは港の人に挨拶に行った。

 

 

「ねえダクネス、えっとね……その……カズマさんの興奮したカズマさんを見たって言ってたじゃない?その……あれってどんな感じだったの?」

 

 

アクアがいきなり気になることを聞いてきた。カズマのカズマ……私もカズマが死んだ時やお風呂に一緒に入った時にチラリと見た事はある。だが、聞くところによると男の人は興奮するとそこが大きくなるらしい。気になる、べ、別にこれは私がエッチな訳じゃなくていつか来るその日の為に知っておかなければならないと思っただけだ。そう決してやましい気持ちなどない。

 

 

「やめてくれ……私の口からは恥ずかしくて言えない。カズマにでも聞いてくれ」

 

 

普段変態なダクネスの羞恥心はどこにあるのか分からない。ダクネスにとってはカズマの子について言うのは恥ずかしいようだ。

 

 

「そもそもどうしてカズマのカズマを見ることになったんですか?また襲ったんですか?」

 

「わ、私は襲ってなど……襲ってなど…………」

 

 

ダクネスの声が尻すぼみになっていく。ヘタレのカズマがみんなが寝るすぐ横で襲うとも思えないしダクネスが何かしら誘惑したのでしょう。

 

 

「ダクネスもエッチな子になっちゃったね。ほんと誰のせいでこうなっちゃったんだろ」

 

 

ダクネスは更に顔を赤くしてしまった。

 

 

「それでどうなんです?率直に見た感想は?」

 

「……ちょっと気持ち悪かった。」

 

「あとお腹の方を向いて反っていた。」

 

「「「「…………」」」」

 

 

みんな押し黙る。

 

 

「ゆんゆん、なにか想像しましたか?」

 

「し、してないわよ!!」

 

 

私も実物を見た訳ではないから想像するしかない。カズマのアレがお腹の方を向くのか。

 

 

「よう、戻ったぞ」

 

 

声がした方を振り向く。今話題に上がっていた人物とアイリスが立っていた。

 

 

「「「「「…………」」」」」

 

「どうしたのですか?皆さん急に黙って」

 

 

内容が内容なだけにさっきの話をする訳にもいかない私達は喋らなくなった。おかげでカズマ達が来たら黙るという不自然な状態になってしまう。

 

 

「べ、別に何もないわよ。それより2人はどうだったの?」

 

「船はもうすぐ来るってさ。ほらあそこに小さいけど船が見えてるぞ。」

 

 

そちらの方を見ると確かに何か影が見える。私は3~4人乗れるボートみたいなものを想像していたがそれよりずっと大きい。

 

 

「ゆんゆんどうかしたか?俺のズボンに何かついてる?」

 

「ふぇ!?みみみ見てません!!カズマさんのことなんて全っ然、見てませんから!」

 

「ねえゆんゆん今見てたのって……」

 

「違いますよ!?何言ってるんですかクリスさん!?」

 

「…………」

 

 

男の局部を凝視するなんてゆんゆんは意外とむっつりなんだろうか。カズマにエッチなことを要求するようならゆんゆんにも注意しておかないといけないかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「す、凄いです!こんな大きな乗り物に乗れるなんて!この船というものは紅魔族の琴線に触れるものがありますよ」

 

 

めぐみんは船の上で大はしゃぎしている。いや、めぐみんだけじゃない。ゆんゆんやクリスも船に乗ったことがないのかどこかそわそわしていた。

 

 

「ふふっみんなお子様なんだから。私は日本で船を見てきたからね。この世界の船も中々の代物だけどまだまだね。」

 

「アイリスは船に乗ったことあるのか?」

 

「ええ、昔他国に出向いた際に何度か乗ったことがあります。あの時は沢山の護衛を引連れていましたが今はカズマ様達がついてますものね。」

 

「私も父に連れられて乗ったことがあるな。たまには陸じゃなくて船の上で冒険するというのもいいものだ。」

 

 

かくいう俺も日本で船に乗ったことはないからワクワクしていた。とりあえず船内を探索しようかな。

 

 

「では出港します!良い船旅を!」

 

 

 

 

 

 

10分後

 

 

「「おろろろろろろろ」」

 

 

アクアとめぐみんは船酔いしてしまった。2人仲良く海に向かって吐いている。そんな2人をクリスとゆんゆんが介抱している。めぐみんはまだ分かるが、後輩に面倒見てもらう女神ってどうなんだ。まあアクアだししょうがないか。

 

 

『クリエイトウォーター』

 

 

俺は2人分の水を用意して渡す。

 

 

「大丈夫か?吐き気が治まったら船内で横になってこいよ。」

 

「カズマさん……!ありがおろろろろろ」

 

「ぎゃあ!!俺の服にかかったんだけど!?お前マジでふざけんなよ!!」

 

 

俺は海に半身乗り出しているアクアの足を抱きかかえ外に放り出そうとする。アクアはバランスを失い逆さまになって海に落ちそうになる。それを見たクリスとゆんゆんが慌ててアクアの両手を引っ張る。

 

 

「何やってるのさ!喧嘩で船から落とすなんて鬼畜にも程があるよ!」

 

「ちょっとカズマさん、足を持ち上げないでください!本当に落ちちゃいますから!」

 

「かじゅましゃーん!吐いちゃったことは謝るから許してえええ!!!」

 

「おろろろろろろ」

 

 

俺に海に投げ出されそうになってるアクアとそれを支えるクリス、ゆんゆん。隣で吐いているめぐみん。船上は地獄絵図だ。

 

 

「お前達は何をやっているのだ!」

 

 

駆けつけたダクネスによりアクアは勢いよく引っ張りあげられる。そのまま勢いがつきアクアは船板に頭をぶつけた。

 

 

「うわあああああん!!」

 

 

アクアは盛大に泣き出してしまった。

 

 

「こら!お前という奴は何をしているんだ!アクアが船から落ちたらどうするつもりだ!アクアもあんなに泣いているじゃないか!」

 

「いや、泣いてる原因についてはお前に非があると思うんだけど」

 

 

ダクネスはギロリと俺を睨む。これ以上ダクネスに逆らうと何をされるか分かったもんじゃない。ここは素直に謝ろう

 

 

「あーアクア、大丈夫か?その、悪かったよ。お前を船から落とそうとするなんてやり過ぎだった。ごめんよ」

 

「ううっ……かじゅましゃん……!」

 

 

アクアが俺に抱きついてきたので俺は拒むことなく受け入れる。いつも迷惑ばかりかけてくるがこいつは泣き顔より笑顔の方が似合う。アクアが落ち着くまでこのままでいよう。

 

 

「うぷっ」

 

 

俺はアクアのその声で危険をすぐに察知する。こいつまた吐くんじゃないか。俺はアクアから逃れようとするががっちりホールドされ抜けられない。

 

 

「ふふっ、さっきのお返しよ。さあ私に謝って!アクア様ごめんなさいって謝って!」

 

「アクア様ごめんなさい!もうしません!だから離してえええ!!!」

 

「おろろろろろろ」

 

「ぎゃああああああ!!!」

 

 

俺はアクアのゲロを前面から浴びてしまった。こいつ今度こそ海に放り出してやる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゲロ騒動の後、俺は船内に備え付けられたシャワー室で体を洗っていた。この船は遠方に漁に行く時に使うようで船員達が暮らせるようになっている。お湯もちゃんと真水だしこういう船の旅もいいかもしれないな。と、その時

 

ドドドドドドド

 

大量の何かが船を叩きつける音が聞こえた。何事だ。まさかモンスターか?海にもいるのだろうか。とにかく俺は何も聞かなかったということで自室で昼寝でもしよう。俺はシャワーをキュッと止め脱衣所に行くとめぐみんがいた。

 

 

「きゃあああああ!!!」

 

 

俺は声を上げる。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってください!なんでカズマが叫ぶのですか!裸体を見せつけられた私が叫ぶべきでしょう!」

 

「お前何言っちゃってるの?ここは男のシャワー室で俺は裸を見られたんだよ。本来ならめぐみんに然るべき処置をしている所だよ」

 

「って、こんなことをしてる場合じゃありません!外が大変なんです!すぐ来てください!」

 

「ちょ、ちょっと待てよ!俺すっぽんぽんなんだけど!?せめてタオルを巻かせてくれ!」

 

 

俺は腰にタオルを巻きめぐみんに手を引かれ階段を駆け上がる。やがて甲板に繋がるドアをバンと開けた。俺の目の前に広がっていた光景は……

 

 

「なんでたい焼きが飛び跳ねてるんだよ!!」

 

 

そう、日本でお馴染みのあのたい焼きがピチピチと船の上を飛び跳ねていた。他の冒険者とたい焼きが乱戦模様になっている。

 

 

「カズマ!冒険者が言うにはこのたい焼き達は日頃人間に食べられてきた鬱憤を晴らすために我々を攻撃してくるそうです。しかも食べたら美味しいんだとか!」

 

 

関係ない情報が一つ混ざってた気がする。たい焼きに襲われて死ぬとか嫌だぞ。と、一匹のたい焼きがピチピチとこちらに跳ねてきた。たい焼きは前にいためぐみんの股の下を通り抜ける。そのまま進むと俺の股の下で大きく跳ね急所に突進してきた。

 

 

「ふぐう!!」

 

 

痛すぎる。俺の玉潰れちゃったんじゃないか。童貞のまま息子を失うのだけは嫌だ。

 

 

「カズマ、しっかりしてください!」

 

 

俺はその場に倒れ込みたい焼きはピチピチと飛び跳ねている。

 

 

「私の男に何をするんですか!この魚とっちめてやります!」

 

 

めぐみんはたい焼きに齧(かじ)り付き、バクバクと食べる。身が裂けた瞬間たい焼きは動きを止めた。死んだのだろうか

 

 

「カズマ、このたい焼きすごく美味しいですよ。カズマも食べてください」

 

「俺はいい……」

 

 

今は急所が痛くてそれどころじゃない。たい焼き一匹にこれだけ手こずるようなら俺はいよいよ活躍できないぞ。ここは自室に戻ってゆっくりするべきだ。

 

 

「カズマさん!」

 

 

アクアが俺の方に来た。手には虫取り網のようなものを持っていて網の中にはピチピチと動くたい焼きが何匹か入っていた。

 

 

「早く船内に避難するわよ!ってなんで裸なの?」

 

「……アクア、まずは回復魔法をかけてくれ」

 

『ヒール!』

 

 

アクアの魔法を受けると体がじんわりと暖かくなるのを感じる。下腹部の痛みも引いてきた。

 

 

「ふう……ありがとな。俺は自室に帰るわ」

 

「ちょっと待ってください!冒険者としてモンスターと戦うのが責務でしょう!勝手に帰るなんて許しませんよ!」

 

「そうは言っても、さっきの攻撃をまた食らうとなるとなあ……それに今裸だし」

 

「そこを何とかするのがいつものカズマでしょう!」

 

 

とんだ無茶ぶりだが、他の冒険者達を見ると多少苦戦しているようだ。もしここでたい焼き達に負けたら無事にバルバトスまで辿り着けない。仕方ないから俺も加勢するか。

 

 

「しょうがねえなあ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たい焼き騒動の後、船は宴会騒ぎになっていた。護衛として雇われてない俺達も戦闘に参加したことでいくらかの礼金が貰えた。俺は船内の安全なところからたい焼きに『スティール』をして根こそぎ回収するという作戦を取った。一人だけでは魔力が足りないのと、アクアも船内に入りたがっていたのでアクアに『ドレインタッチ』で魔力を貰いながら『スティール』を使っていた。おかげでたい焼きが大量に手に入った。

 

 

「勇者様!伝家の宝刀を見せてください!」

 

「「「スッティール!スッティール!」」」

 

 

俺が『スティール』で手に入れたたい焼きの数は冒険者の中で随一だった。その甲斐あってかこうしてはやし立てられている。戦士風の男がヒラヒラと持っているハンカチを揺らす。冒険者達のスティールのコールを聞いてクリスはダクネスの陰に隠れる。

 

 

「しょうがねえなあ!!行くぞ『スティール!!』」

 

 

俺の手は光を放ち手には布切れのようなものが握られている。

 

 

「勇者様、ハンカチは取られてないが一体何を取ったんですか?」

 

「あれ、確かに俺の手にはハンカチが……」

 

 

いや、違う。これはハンカチじゃない。青紫のパンツだ。一体誰のだろう。視線を奥にやると、アイリスが顔を赤くして立っていた。自分のスカートに手を当て顔がどんどん赤くなっている。

 

 

「……お兄様、何も言わずにそれをしまってください。」

 

「……はい」

 

 

俺はお宝をポケットにしまう。周りの冒険者には何を取ったのか見られてないだろうが不振な行動をしたように思われるだろう。

 

 

「私のハンカチを取られたみたいです。せっかくなのでカズマ様にあげますよ。」

 

 

俺が何と答えるべきか迷っているとアイリスがフォローを入れる。ここは早く離脱してお宝を返そう。

 

 

「自分のハンカチを取られたなら返してもらえばいいじゃねえか。もしかして今取られたのって……」

 

「どわあああああ!!!」

 

 

俺は戦士風の男が何か言う前に大声で声を打ち消す。そのまま床を転げ回った。

 

 

「おい、どうした!」

 

「急に頭に激痛が!!誰か!俺を医務室に連れて行ってくれ!」

 

「なら私が連れて行きます!」

 

 

アイリスが名乗りを上げ俺を持ち上げる。ちょっと不自然に思われるだろうがこうするしかない。……ん?……ちょっと待ってくれ。これって俗に言うお姫様抱っこというやつではないか。こういうのは男が女に対してするものだろ。結構恥ずかしいんだけど!?

 

 

「あ、おい……」

 

 

そして俺達は宴会の席から離れ船内の医務室へと逃げ込む。ここなら誰もいないから大丈夫だろう。アイリスは羞恥心からか怒りからか顔を赤くしてこちらを見ている。

 

 

「お兄様……何か言うことはありますか?」

 

「すみませんでした。」

 

 

俺はすぐに土下座をし、謝罪体勢に入る。俺の言葉を聞いたアイリスは大きくため息をつく。

 

 

「きっと他の冒険者達にパンツを取られたことは薄々バレていると思います。明日からどんな顔して会えば良いでしょうか……」

 

「本当に申し訳ありませんでした。」

 

 

そう言いながら俺はポケットから取り出したパンツを差し出す。アイリスは素早くそれを奪い取る。

 

 

「お兄様、向こうを向いていてください。」

 

 

俺はその言葉に従い後ろを向く。やがて聞こえる布擦れの音。アイリスがパンツを履いているのだろう。今振り返ってみてもいいが、今回は俺に責任があるしやめておこう。

 

 

「もういいですよ」

 

「アイリスもあんな大人っぽい下着を履くんだな。背も伸びてきたしもうすっかり大人だな。」

 

「下着の感想なんか言わないでください!そうですね。医務室に大人の男女が二人っきりですね。」

 

 

二人っきり……その部分だけやけに強調された気がする。

 

 

「想い人とのその後の進展はどうですか?」

 

 

想い人……?何のことだ。

 

 

「確かこう言ってましたよ。『俺が結婚すると悲しむやつがいるんだ。だからあいつの為にも結婚できない』って。」

 

 

確かそんなことを言ってた気がする。

 

 

「まあ特に進展はないよ。うちのパーティメンバーは互いに足引っ張り合うからな。」

 

「なら私が代わりに相手になりますよ?」

 

「アイリスは子ども……いや、もう立派な大人だったな。でも、俺はアイリスを選ばないかもしれないし無駄にイチャイチャしない方が良くないか?」

 

 

アイリスは俺の言葉を聞くと泣きそうな表情になった。俺も心が痛むがここは我慢だ。

 

 

「お兄様、私はそう簡単に諦めませんから。」

 

 

アイリスはこちらを見つめながら力強くそう言った。

 

 

「一つ頼み事をしてもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「また私とキスしてくれませんか?」

 

 

キスか……アイリスとこれ以上仲を深めるともっと傷つけることになる日が来るかもしれない……俺はアイリスが妹として好きだ。だからキスは……

 

 

「さっき下着を取ったのにキスは拒むのですか?」

 

 

それを引き合いに出されると断りづらい。それにアイリスの泣きそうな顔を見ると胸が張り裂けそうになる。俺は自分で自分を抑えられなかった。

アイリスにそっと口付けする。初めてしたアイリスからのキスとは異なり今度は俺からキスをした。と、その時……

 

 

「カズマさん、大丈夫です……か……?」

 

 

ゆんゆんが医務室に現れる。俺とアイリスがキスしてるところを見られた。

 

 

「ししし失礼しましたあ!どうぞごゆっくり!」

 

「ま、待て!ゆんゆん誤解だ!」

 

 

俺達はゆんゆんの後を追いかけた。

 

 

 

 

 

 



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この一人遊びに慰めを!


もう小説書くのが大変になつてきました。次回も頑張ります。


 

 

 

 

昨日の宴会で夜遅くまで騒ぎすぎたせいか俺が起きたのは昼過ぎだった。二日酔いのせいか若干頭が痛い。俺は寝ぼけたまま寝室を出る。昨日みんなで騒いだ酒場に行くとめぐみんとゆんゆん、アイリスがいた。めぐみんとアイリスはチェスのようなボードゲームで遊んでいる。

 

 

「おはよう、アクア達は起きてないのか?」

 

「おはようございます、カズマさん。まだ私達しか来てません。多分まだ寝ているのだと思います。」

 

 

あいつら沢山シュワシュワを飲んでたしな。お子様のめぐみん達はあまり酒を飲んでないから早く起きれたのだろう。

 

 

「これで王手ですよ!めぐみんさん」

 

「ふっ、下っ端は甘いですね。『エクスプロージョン!』」

 

 

そう唱えるとめぐみんは盤をひっくり返す。上に放り投げられた盤はテーブルの上にぶつかり、盤上の駒はあちこちに飛んでいった。

 

 

「なあこのエクスプロージョンってルールに合ってるのか?何しても最後は盤をひっくり返されて終わりだと思うんだけど」

 

「カズマは分かっていませんね。互いに相手の心を読み合い、一手一手を打ち合う。次第に優劣が別れていき優勢な方はどんどん攻め込み相手を苦しめていく。遂に王手がかけられたその時、爆裂魔法で全てを無にする。さっきまで笑顔だった相手の呆然とする顔。あぁこの爽快感が溜まりません……!」

 

 

めぐみんは体をくねらせ興奮しているようだ。こいつは爆裂魔法が絡むとすぐに変態になるな。二人が遊ぶ様子をゆんゆんがソワソワしながら見ている。……一緒に遊びたいのかな……?

 

 

「ゆんゆん次一緒にやろうぜ」

 

「わ、私なんかで良ければ……」

 

 

飛んで行った駒を拾い集め盤の上に並べる。ルールはあまり分かってないが困ったらエクスプロージョンとでも唱えて盤をひっくり返せば終わる話だ。気楽にやろう

 

 

「私いつも一人でこのゲームをやっていて誰かとこうして遊べるなんて夢みたいです。」

 

 

ゆんゆん……そんな重い話をさらっと言わないでくれ。

 

 

「私もクレアやレインが相手をしてくれない時は1人で遊んでましたからゆんゆんさんと一緒ですね。」

 

「アイリスさん……!」

 

 

アイリスがゆんゆんを慰めてくれている。アイリスも王女という特殊な身分だから苦労しているのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくゲームで遊んでいるとだんだん劣勢になってきた。

 

 

「練習の成果がありましたね。これで終わりですよ!バトルマスターで王手です!」

 

「残念だったなゆんゆん、俺は必殺技を残してるぜ。『エクスプロージョン!!』」

 

 

俺は爆裂魔法を唱えると同時に盤をひっくり返す。そのまま盤は飛んでいきゆんゆんの頭にぶつかった。

 

 

「痛ああ!」

 

「このゲーム中々面白いな。特に最後の爆裂魔法が最高だ。」

 

「そうでしょうそうでしょう。カズマも爆裂道が分かってきましたね。」

 

 

俺とめぐみんがこのゲームの良さを語っているとアクアとクリスがやってきた。

 

 

「ねえカズマさん、今ゆんゆんの頭に盤をぶつけたのを見たんだけど何してるのかしら……」

 

 

アクアが珍しくガチ切れモードの顔だ。ここは慎重に言葉を選ばないといけない……

 

 

「ちょっとゆんゆんと遊んでたらふざけ過ぎちゃってさ。ごめんなゆんゆん、ほら『ヒール』」

 

「ゆんゆんはただでさえぼっちなんだからいじめちゃダメよ!痛たた!ゆんゆん!?何で髪を引っ張ってくるの!?」

 

 

こいつはゆんゆんを擁護したいのか揶揄したいのかどっちなんだ。でもいつもならただ泣くだけだったゆんゆんが珍しく反撃している。これは大きな成長だ。この調子で友達を作るんだ!頑張れゆんゆん!

 

 

「ううっ……二日酔いで頭痛い……」

 

「大丈夫ですかクリスさん。お水お持ちしますね」

 

「ありがとうアイリス様。アイリス様も昨日は大変だったね。公衆の面前で……カズマくんにあんな事を……」

 

「そ、それは言わないでください!うう……やっぱりバレてましたか……」

 

「いや他の人にはあまりバレてないと思うよ?ただ私も取られたことがあったから分かっただけで……」

 

「え!?クリスさんも取られたんですか!?」

 

「うん。しかも取られたパンツを頭の上でぐるぐる回されたししばらくパンツ脱がせ魔の師匠なんて呼ばれてたしさ……」

 

「うわぁ……」

 

 

アイリスとクリスから何やら不穏な気配を感じる。所々聞き取れないが多分パンツの話をしてるんじゃないだろうか。俺が今まで女性のパンツを取ったのは全て事故だ、決して他意があった訳じゃない……多分。

 

 

「今日はダクネスが起きてくるのが一番遅いなんて珍しいな。何かあったのか?」

 

「それは多分昨日エリ……クリスがダクネスに沢山お酒飲ませてたからよ。ダクネスもクリスの正体を知っているからか中々断れなくてね。」

 

 

ああ見えてクリスは酒癖が悪い。酔うとグダグダ愚痴を並べ立て泣きやすくなる。いつもクリスを宥めてあげるのがダクネスだ。

 

 

「ちょっと俺が起こしに行ってくるよ」

 

 

俺は酒場を離れみんなの泊まる就寝部屋へと向かう。ダクネスにも早くエリスもといクリスに慣れてもらう必要があるな。今度からダクネスが遠慮する度に罰ゲームでも受けさせるか……いやあいつなら喜びそうだな。そんな事を考えているうちにダクネスの部屋の前へと着く。確かここだったよな?俺はダクネスがどうせ寝ているのだからノックしても起きないだろうと思いドアを開けた。それがいけなかったのだろう。

 

 

「ダクネ…………」

 

 

ダクネスはネグリジェの姿で裾をめくりパンツに手を突っ込んでいた。ダクネスはただただこちらを見つめている。

 

 

「ぁ…………ぅ……」

 

「ぁ…………ごめん」

 

 

俺はドアを閉めて部屋から出た。待ってくれ、一旦状況を整理しよう。まずダクネスは寝ていなかった。で、さっきのあれは何だったんだ?自分のパンツの中に手を入れてたし……自慰というやつなのか……?あのダクネスが?いや性欲は強いしそういう行為をしていても何ら不思議では無い。俺もこっそりやってるし……どう考えても見ちゃダメなやつだったよな……えっとここは何事も無かったように今後振る舞うべきか、それともみんなの前でからかってあげた方がいいのか。いや、いくら変態のダクネスでもそんな事したら泣くだろう。ここは何も言わずに立ち去ろう。そうだ俺は何も見てない。俺が立ち去ろうとしたその時……

 

バタン!!

 

 

「痛ああ!!」

 

 

俺は後頭部に強い衝撃を受け蹲る。何事だ。どうやら後ろからダクネスが扉を勢い良く開けたらしい。ダクネスは蹲る俺にお構いなしといった感じで俺を担ぎ上げ自分の部屋に入れた。後ろ手にドアの鍵をかけられる。

 

 

「カズマ……!」

 

「申し訳ありませんでした!」

 

 

とにかく謝ろう。俺がダクネスの立場なら死にたくなること間違いなしだ。

 

 

「ううっ……わああああん!!!」

 

 

ダクネスはそれはそれは盛大に泣き出してしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……私は最近痴態を晒してばかりだ。」

 

「そんなこと……あるかもしれないが今更引いたりしないぞ?」

 

「……私は変態だ」

 

「そんな事ないって。ダクネスは意外と乙女な所があるのも知ってるよ」

 

 

泣き喚くダクネスをどうにか宥めること数十分。ダクネスは自己嫌悪に陥っているのか自虐し始めた。そんなダクネスを俺が励ましているところだ。

 

 

「こんな姿を見て引いただろう?」

 

「だから今更引かないって。まあちょっと驚いたけど俺もそういう時はあるしさ。」

 

「そういう時……?」

 

「えっと……だから……俺も一人ですることは……あるというか」

 

 

いや何言ってんだ俺!?ダクネスを慰めるためとはいえこんなこと白状するとか変態だろ!

 

 

「……」

 

「何ニヤニヤしてんの!?お前があまりにしおらしいから俺がこんなこと白状する羽目になったんだろうが!それ以上笑い続けるならお前がさっきまで何してたかみんなに教えるからな!」

 

「ま、待ってくれ。それだけはやめてくれ!」

 

「はあ……まああまり気にするなよ。俺なんて親に目撃されたことあるからな。あの時の母親の顔が忘れられないよ……」

 

「そ、それは大変だったな。」

 

 

ダクネスが同情的な視線を俺に向ける。

 

 

「みんな酒場で待ってるぞ。俺は先に行くから早く来いよ」

 

 

俺はダクネスを置いて酒場へと向かう。ダクネスを宥めるのに時間がかかってしまった。時間が経てばダクネスも立ち直って普段通りに戻るだろう。酒場に着くと今度はアクアとゆんゆんがボードゲームで遊んでいた。

 

 

「遅かったじゃない、ダクネスは起きたの?」

 

「ああもうすぐ来るってさ。」

 

 

アクアに返事をしているとめぐみんが何やらこちらをジト目で見てくる。

 

 

「カズマ、ダクネスとまた何かありましたか?」

 

 

めぐみんが鋭い。やっぱり戻ってくるのが遅かったから怪しまれてるのかな。でもダクネスの名誉のためにもここは隠し通さなければいけない。

 

 

「ああ、まあちょっとな」

 

「ちょっと?」

 

「大したことじゃないよ。男なら一度は体験するイベントだ。」

 

 

めぐみんは納得してない様子だったがこれ以上追求してくることはなかった。

 

 

「エクスプロージョン!」

 

 

アクアが盤をひっくり返す。そのまま盤は飛んでいきゆんゆんの頭に直撃した。

 

 

「痛ああ!!」

 

 

ゆんゆんが本日二回目の悲痛の叫び声を上げた。

 

 

俺は今釣りをしている。せっかく海を渡るなら釣りをしようと思い立ったのだ。それに海には川では取れない珍しい魚がいるかもしれない。

 

 

「カズマくーん、何かとれたぁ?」

 

 

魚がかかるまで寝転がって日向ぼっこをしているとクリスが上から覗き込んできた。シュワシュワを飲んだのかほんのりと顔が赤い。

 

 

「昼間から酒飲んでるのか?まだ何もとれてないぞ」

 

 

クリスは俺の返事を聞くと俺の隣に寝転んだ。

 

 

「ねえカズマくん、最近他の女の子とイチャイチャし過ぎじゃない?」

 

 

そうだろうか。ちょっとダクネスに襲われそうになったりアイリスのパンツを取ったりダクネスの自慰の現場を目撃したり……うん。色々あったな

 

 

「そうだなあ。モテる男はつらいぜ」

 

 

クリスは横に寝そべり俺の胸板に手を置いてきた。

 

 

「少しは私のことも見てよ」

 

 

そう言いながらクリスは俺の胸を撫で始めた。

 

 

「ちょっとくすぐったいんだけど」

 

「カズマくんの体意外とガッシリしてて男の子って感じだね。」

 

 

なんだか女の子に胸を撫でられると恥ずかしくなってくる。でもこうして触れ合っているとどこか安心するな。

 

 

「そろそろ離れてくれないか?男の子は女と少し肌が触れ合うだけでも大変なんだよ」

 

「私がいいって言うまではこうしててよ」

 

 

酒癖の悪いクリスは酔ってるからか中々どこうとしない。俺の愚息がどんどん硬くなってくる。不味いぞ非常に不味い

 

 

「カズマくん、なんかズボン大きくなってない?」

 

「……すいません」

 

 

クリスは俺の胸に置いていた手を徐々に下の方へと移動させ俺の愚息をズボンの上からさわさわと撫で始めた。

 

 

「ちょっと待ってクリス、それほんと洒落にならないから。」

 

 

俺達が今居るのは魚が良く釣れると船頭に教えてもらった大艫(おおども:船の一番後ろ)にいる。ここは人通りが少ない為多少騒いでも周りの人にはバレないだろう。

 

 

「ふふっ、嫌なら抵抗したらどうさ?」

 

 

俺はクリスの愛撫にされるがままになっている。クリスの手の感触が気持ちいい……ダメだこのままでは最後まで行き着いてしまう。俺は隣にいるクリスの胸に手を当てる。胸当て越しではあるがクリスの小さな胸の感触を感じられる。

 

 

「んっ、カズマくんも男の子だね。やっぱり胸に興味があるのかな」

 

 

ダクネスほどの感触は感じられないがそれでもしっかりと主張してくる二つの双丘。胸に貴賎なしとはよく言ったものだ。さて、胸を触った次はどこを触るか。そのまま俺はクリスの股に手を伸ばそうとして……

 

 

「あ、ここから先はお預けだから」

 

 

え……

 

 

「こんな所でやり始めたら誰に見られるか分からないでしょ。……ちょ、そんな泣きそうな顔しないでってば!」

 

 

ちくしょーーー!!!いつもいい感じになったらお預けを食らう。俺の幸運値は本当に高いんだろうか。クリスも俺の股を触ったくせに自分のは触らせないとかどういう訳?

 

 

「あの、クリスさんここでお預けは苦しいというか……何とかなりませんかね?」。

 

「情事を誰かに見られるなんて絶対に嫌だよ!ほらハグしてあげるから元気出して」

 

 

俺が仕方なくクリスのハグで我慢していると横の釣竿が動き出した。魚がかかったのか……?待ちくたびれていた俺はすぐに釣竿を手に取り引っ張り上げる。だが竿は重く中々持ち上がらない。

 

 

「クリス!竿を引くのを手伝ってくれ」

 

「了解したよ!」

 

 

俺とクリスは2人がかりで竿を引っ張る。やっとのことで釣竿を引っ張りあげると竿にはバナナが引っかかっていた。

 

 

「なんで海でバナナが取れるんだよ!!」

 

「え、バナナって普通海で取れるものでしょ?」

 

 

これだから異世界は!!

 

 



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この辺鄙な街で観光を!




エタる前に最終回まで書き上げたい。





 

 

 

 

 

船に揺られること二日、遂に俺達の船旅は終わろうとしていた。

 

 

「おい、街が見えてきたぞ!」

 

 

他の冒険者の声で俺はすぐさま起きる。遠くにうっすらと陸が見える。俺は『千里眼』スキルで街を見る。徐々に遠くの景色が見え始め、細部まで見ることができるようになる。港付近には沢山の漁船が停泊している。やがて船は陸に近づきギシギシと大きな音を立てながら止まった。俺達が船から降りると官吏らしき人が5人ほど出迎えてくれる。

 

 

「佐藤カズマ様、その他御一行様。此度は誠に申し訳ありませんでした!」

 

「「「申し訳ありませんでした!」」」

 

 

船を出るなりいきなり謝罪された。俺達何かされたっけ?俺の疑問をよそに官吏達は頭を下げたまま続ける。

 

 

「謝って解決する問題とは思っておりませんが謝らずに解決させようとも思っておりません。重ね重ね申し訳ございません!」

 

「「「申し訳ございません!」」」

 

「こちらつまらない物ですが……」

 

 

そう言って官吏たちが渡してきたのは魔王討伐の時にお世話になったマナタイトだ。しかもこの量、これは相当お金がかかったのではないだろうか。

 

 

「そんないきなり謝られても俺達にはなんの事だかさっぱりなんだけど……」

 

「私達が謝罪しているのは先日王都でカズマ様を暗殺しようとした輩がいたことです。彼は私達の方で国外追放の処分に致します。それどころか私達の国を助けるためにこうして来訪して下さること。心より感謝申し上げます。」

 

 

そういえば俺殺されそうになったんだっけ。考えてみれば俺を殺そうとした人がいる国に助けに赴くなんてかなり変なことしてるよな。

 

 

「ふっ、カズマに感謝することですね。もしカズマがあなた達を許さなければ今頃私の爆裂魔法の消し炭になっていたでしょう。」

 

 

めぐみんが相手が下手(したて)に出たと見るや調子に乗り始めた。しかし、ここまで謝られると気が引けてくる。

 

 

「まぁ過ぎたことだしそんなに謝るなよ。俺は結局無事なんだしさ。」

 

「いいのかカズマ。貴族の私だから分かるが普通ならここは相手から金を取れるだけ取るのが外交の手段だぞ。」

 

 

このマナタイトだけでも充分高額だと思うのだが。しかしダクネスをそんな薄汚い貴族に育てた覚えはないぞ。

 

 

「まあいいよ。あんた達も勇者に敵対する国ってのは他の国と付き合う上で大変だろ?お互い水に流そうぜ」

 

「「「ご厚意誠にありがとうございます!」」」

 

 

俺は柄にもなく相手を簡単に許した。これは俺が平和ボケしてるからとか謝られたら何でも許してしまうからとかじゃない。ただ俺を殺そうとした張本人がエリス教徒だったことが心残りなのだ。クリスの前であの男を断罪する気にはなれなかった。

 

 

「それでは改めまして」

 

「長い船旅お疲れ様です、勇者様。ようこそおいで下さいました、船と海の国、バルバトスへ!」

 

 

恭しく挨拶される。その発言にアクアが気を良くしたのか胸を張りながら答えた。

 

 

「この私、水の女神が来たからにはもう安心よ!私の力でこの国の危機を救ってみせるわ!」

 

 

水の女神を自称する人を見て官吏の人の顔が強ばる。いくら有名なパーティで女神を名乗っても信じて貰えないようだ。

 

 

「女神を自称してる残念なやつなんです。そっとしておいて下さい」

 

 

俺がそっとアクアをフォローしてやる。官吏は俺の言葉を聞いて我を取り戻したのか丁寧に頭を下げた。

 

 

「なんでよーー!!私本当に女神なのに!めぐみん達も何か言ってよ!」

 

 

めぐみん、ダクネス、クリスも分が悪いと思ったのかサッと目を逸らす。

 

 

「さ、左様でしたか。早速ですが宿へ案内致します。来るべき決戦の日に備えて今日はごゆるりと寛いでくださいませ。」

 

 

官吏達は街の中を歩き始める。俺達はそれに続いて後ろからついて行く。港付近では、どこも魚を売っている。そのどれもが採れたての新鮮な魚だった。

 

 

「あんた達冒険者か?ほらこの活きのいい魚あげるよ。」

 

 

店先に魚を並べているおっちゃんがゆんゆんに魚を投げてきた。ゆんゆんは返すことも出来ずそれを受け取る。

 

 

「ああ、ありがとうございます!」

 

「いいってことよ。今は魔王の娘が近くに住み着いてるからな。冒険者だけが頼りなんだ。この街を守ってくれよ!」

 

「ちょっとあんた達、こっちの魚もあげるから魔王の娘を頼んだよ!」

 

 

今度はアイリスが魚屋のおばちゃんから魚の入った袋を受け取る。

 

 

「ありがとうございます。民のため誠意を尽くしますね。」

 

 

アイリスはこのような扱いに慣れているのか丁寧に対応していた。流石は王女様だ。

 

 

「そのように大荷物になると大変でしょう。こちらに台車を用意しているのでご利用ください。」

 

 

なんと手際のいい官吏だろうか。もしかして俺達がこのような待遇を受けることも知っていたのだろうか。

 

 

「はい、魔王の娘が来てからというもの冒険者達に対する期待が強くなってきてましてね。最近はこうして沢山物を渡されるのです」

 

 

口に出してもないのにこちらの心の機微を察してくる。この男かなり優秀な人じゃないだろうか。もしかしてお偉いさん?

 

 

「私はそこまで偉い立場ではありませんよ。一応丞相(じょうしょう)の身分ですが」

 

 

再び何も言わずとも答えてくる。丞相って何だ?俺は政治に疎いから役人の身分とかよく知らないんだ。本人も卑下してるからそこまで偉くないのかな?

 

 

「カズマ、丞相とは君主を補佐する最高位の役人だぞ。王様の次に身分が高い人と思っていい。くれぐれも無礼のないようにな」

 

 

めちゃくちゃ偉い人じゃないか。俺が目の前の役人に体が強ばっているとめぐみん達は次々と物を貰っている。それだけ冒険者に魔王の娘討伐を願っているのだろう。役人の一人がその場を収めようやく落ち着いた。その後俺達は逃げるように宿へと急いだ。

 

 

 

 

俺達が着いた宿は国のお偉いさんご用達の宿だそうだ。ロビーには巨大なシャンデリアが螺旋階段の中央に飾ってあり、壁は水槽になっており魚が沢山泳いでいる。この宿が高級であることは疑いようがないだろう。俺はここに来る道中で大量に貰った魚を宿の人におすそ分けした。その代わりとして俺に魚を捌く料理スキルを教えてもらうことにした。これは俺達が魔王の娘を討伐しに来たからご厚意にしてもらったのだろう。宿で料理スキルを教えて貰っていた俺と異なり観光に行ったアクア達はアクア・ゆんゆん、めぐみん・アイリス、ダクネス・クリスの三組に別れて出かけて行った。

 

 

「ただまー……」

 

 

アクアとゆんゆんが宿に戻ってきた。アクアはどこか覇気がないというか、目が虚ろになっているというかとにかく普段の元気な様子がない。何かあったのだろうか

 

 

「元気ないけどどうかしたのか?」

 

「実はアクアさんが……」

 

「聞いてよ!カズマ!私みんなを喜ばせようとしたのに……!みんなの為にしたのに……!うわあああん!」

 

 

ゆんゆんの言葉を遮りアクアが俺に縋り付いてくる。イマイチ状況が飲み込めない。またアクアが何かやらかしたのだろうか。

 

 

「一体どうしたんだ?ほらこの変な形をした石ころあげるから元気出せよ」

 

 

アクアを慰めようとするが泣き喚くばかりで一向に説明しようとしない。仕方なくゆんゆんに説明を促した。

 

 

「実はアクアさんが川の前で魚を呼ぶ宴会芸をしてしまったんです。その影響で海にいた魚達も川の方に上ってきて近くの海で魚が一時的に取れなくなったそうで……この街は漁業で成り立ってるからか漁師達がそれはもう怒ってしまって……」

 

 

まあアクアならやりそうな事だな。俺も長いことアクアと一緒にいて感覚が麻痺したのかこれくらいで動じることはなくなった。

 

 

「アクア、今から漁師達に一緒に謝りに行こう。悪気があった訳じゃないんだしきっと分かってくれるさ」

 

「うぐっ……かじゅましゃん……!」

 

 

アクア達と一緒に出かけようとするとロビーでめぐみんとアイリスと鉢合わせた。

 

 

「カズマじゃないですか……アクア達はどうかしたのですか?」

 

「まあちょっと漁師達に迷惑かけちゃってな。今から謝りに行くところだ。お前達は何か問題起こしてないよな?」

 

「も、問題なんて起こしてませんよ。そうですよねアイリス」

 

「はい、喧嘩の売り方を教えてもらってとても楽しかったです。」

 

 

……喧嘩の売り方だと?めぐみんの方を見ると目を逸らされる。こいつらも厄介事を持ってきたのか

 

 

「めぐみん、一体何をしてきたのか正直に言わないとここでスティールするぞ」

 

 

めぐみんは観念したのか恐る恐る話し始めた。

 

 

「と、特に大したことはしてませんよ。ただ店の前に居座って次々と来る客に対して『この魚が欲しければ私を倒してから行くのですね』と言ってたら店を追い出されただけです。それが三回くらい続いただけですよ。」

 

「充分大したことじゃねえか!アイリスも何めぐみんに付き合ってるんだよ!お店にも謝りに行くぞ!」

 

「めぐみんさんが言うには喧嘩を売られるのは大変名誉ある事だそうですよ。それだけ相手に力があると見られている証拠らしいです」

 

「お前、何俺の可愛い妹に嘘吹き込んでる訳!?純粋無垢なアイリスが汚れちまうだろうが!」

 

「いはい、いはいです!ほおをひっはらないへくだはい!」

 

 

紅魔族は喧嘩っ早い一族だ。売られた喧嘩は買い自ら喧嘩を売ることもある。特に冒険者ともなれな一般人など喧嘩の相手にもならないだろう。至急謝りに行かないといけない。ロビーを出るとダクネスとクリスがいた。クリスはダクネスにおんぶされ背中で泣いている。何かあったのだろうが聞きたくないな……

 

 

「カズマ、今からどこか行くのか?」

 

「漁師とお店に迷惑かけたから謝りに行くところだ。その……後ろのクリスはどうかしたのか……?」

 

「聞いてよ!カズマくん!」

 

 

クリスは涙ながらにダクネスの背中に乗りながら話し始めた。

 

 

「ダクネスがその……SMプレイができるっていうエッチなお店に行っちゃって、いつまでもダクネスが出てこないから様子を見に行ったらお客さんと勘違いされてさ。必死に抵抗したんだけどそれもプレイの一種と思われて結局最後まで……ううっ……」

 

 

客と勘違いされてSMプレイを受けたのか……今回はクリスが不憫だな……俺達のメンバーは全員問題事を起こして帰ってきた。全く世話のかかるやつらだ。

 

 

 

アクア達の尻拭いをするべく漁師や店に謝りに行った。めぐみんが迷惑をかけた店は少なかったが漁師の数はかなり多く一軒一軒回る頃には日が暮れていた。ほとんどの漁師達に謝罪が済み宿に着いた。

 

 

「はあー疲れた」

 

「お疲れ様です。カズマはいつも頼りになりますね」

 

「褒めても何も出ないぞ」

 

 

そんなことを言いつつも結構嬉しかったりする。めぐみんはいつも直球で褒めてくるからやりづらいのだ。俺達は各自の部屋に戻ってお風呂に入ることにした。ご飯はお風呂を出た後みんなで食べに行く予定だ。

 

俺は手早く着替えとタオルを袋に詰め風呂場へと向かう。風呂場には右手に男湯、左手に女湯、そして真ん中に混浴があった。混浴……。俺は迷わず最短ルートである混浴へと入る。ただ近くにあった所を選んだだけで決してやましい気持ちなどは無い。ないがもし女性が居たらその姿を見届けてやらねばならない。俺は服を脱ぎ捨て脱衣所のドアを開けた。なんとそこには……!

 

誰もいなかった。

 

うん、別にやましい気持ちはないから女の子が居なくても全然悲しくない。本当だ。俺の幸運値が高いって話はやっぱり嘘なのだろうか。

 

 

しばらくお湯に浸かっていると脱衣所のドアがガラガラと開けられる。そこに居たのはバスタオルに身を包むめぐみんとアイリスだった。なぜここに?めぐみんはともかくアイリスまで混浴に入ってくるのは意外だ。俺の幸運値は確かに高いようだ。ありがとうエリス様!アイリスは恥ずかしいのかタオルをガッチリ手で押さえている。

 

 

「お前ら入るところ間違えてないか?ここは女湯じゃないぞ。」

 

「ちゃんと分かった上で入ってますよ。背中を流します、カズマ」

 

「わ、私もお手伝いします……」

 

 

しかし、こうして二人を見るとアイリスの成長が著しいことに気がつく。身長が伸びたことは勿論胸がめぐみんより若干大きくなってるのだ。めぐみんが確か15歳でアイリスが13歳。このままいけば形勢は逆転するだろうな。

 

 

「おい、今私と下っ端を見比べて思ったことを正直に言ってもらおうか」

 

「妹の成長を実感してただけだよ。」

 

 

俺はそう答えながら温泉から出る。アイリスは俺の返事を聞いてしばらく考えた後意味を理解したのか胸に手を当て隠すようにした。アイリスはまだまだ初(うぶ)なようだ

 

 

「それで体を洗ってくれるのか?ならお願いするよ。」

 

 

俺はズカズカと歩き風呂椅子に座る。めぐみん達がタオルを手に取り俺の両腕を洗い始めた。体を誰かに洗われるのって結構気持ちいいんだな。時折控えめなめぐみんの胸と僅かに存在感を主張するアイリスの胸が腕に当たる。

 

 

「気持ちいいですか?お兄様」

 

「ああ、凄くいいよアイリス」

 

 

俺はできるだけ心を平常心に保つ。だがそれでも俺の息子は反抗期なのか中程度に硬くなり始めた。俺は前かがみになりバレないように心がける。

 

 

「カズマ、そろそろ前も洗いたいのですが」

 

「ばっ!子どもにそこまでさせられるかよ!」

 

 

俺が思わず突っ込むとめぐみんは怪訝そうな表情をして

 

 

「何を勘違いしてるんですか?私は体の前面を洗いたいと言っただけですよ。もしかしてカズマが洗って欲しい場所って……大きくなってるそこですか?」

 

 

めぐみんの言葉にアイリスが気づいたのか顔がほんのりと赤くなる。必死に隠してたのにバレてたのかよ!

 

 

「ち、違えよ!いや大きくしてて説得力無いかもしれないけど本当に違うから!これは不可抗力だから!」

 

「何を今更それくらいで恥ずかしがってるのですか。それより体を洗いますよ。」

 

 

めぐみんは横から俺の胸板を洗い出す。前から積極的だとは思ってたけどここまで堂々とされるとは思わなかった。アイリスは恥ずかしいのかチラチラと俺の息子を見てる。

 

 

「どうしたアイリス、俺の子どもに興味があるのか?」

 

「そんな訳ないですよ!ただ出っ張ってるので目につきやすいだけです!」

 

 

見ていることは否定しないんだな。アイリスとめぐみんは無言で俺の体を洗っていく。二人の姿が視界に入るようになったことで目のやり場に困る。

 

 

「…………」

 

「お兄様、そんなに見られると恥ずかしいのですが……」

 

「お構いなく」

 

 

アイリスはより一層俺へのガードを固める。

 

 

「カズマ、そんな下っ端より私の方を見てくださいよ。」

 

「アイリスにはあるけどめぐみんには無いからなあ……」

 

「私を馬鹿にしているのならその喧嘩買いますよ!何が私には無いのかはっきり言ってもらおうじゃないか!」

 

 

めぐみんは俺の肩を揺さぶりながら問い詰めてくる。そんなに近くに来られると俺の剛直がめぐみんの足につんつんと当たってしまう。

 

 

「さっきからこの子は誰に対して反応してるんでしょうね。これが体は正直というやつですよ。」

 

 

そんな言葉をどこで覚えてきたのか聞きたいところだがこんな事されると俺も我慢の限界だ。

 

 

「わ、悪いけど俺はもうあがるぞ。お前らには魔性の女という名誉ある称号を授けてやるよ」

 

「逃がしませんよ!」

 

 

めぐみんは俺の後ろからしがみつき、俺を離さない。そんな風に裸で密着されると余計に興奮してしまう。

 

すると脱衣所のドアがガラガラと開けられる。そこに立っていたのは宿の人と思しきおばさんだった。

 

 

「お客様、混浴風呂でそのような行為はご遠慮願います。」

 

「「「すいません!」」」

 

 

俺は逃げるように風呂を出た

 

 

 

 

 






カズマはいつ一線を超えるのかということですが、私も早く越えさせたいんですけどキャラとの掛け合いを考えていると中々越えられないという状況です。多分いつかは越えると思います。


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この王女様に我儘を!




最近、『この欲深い衣装に寵愛を!』を購入しました。クリスの色んな姿を見れるのが楽しみです。





 

 

 

翌日。俺達はバルバトスのギルドで作戦の概要を話していた。ギルドにはこの国の冒険者達が所狭しと座っている。街中の人の期待を背負っている為かその目には闘志が宿っていた。

 

 

「よし、当作戦の最終確認だ!これより俺達三人は、潜伏スキルを使いながら敵本陣に接近し、その後魔法の射程圏内に敵を捉えた後、爆裂魔法を叩き込む。もし敵の反撃を受けるようであればテレポートで帰還する!その後、敵がこの国に攻めてきた場合は、それを迎え撃って頂きたい!」

 

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

テレポート要員兼、いざという時の戦闘員としてゆんゆん。現場での咄嗟の判断と、潜伏スキルでの迷彩や敵感知スキルによる索敵を担当する俺。そして火力担当のめぐみんという、たった三人での反撃作戦だ。テレポートは俺も使えるが行き先が『アクセルの街』『ダンジョンの最奥』『天界』の三つなのでやめておいた。

 

 

「でもよ、いくら爆裂魔法と言っても相手は魔王の娘だぞ。一度当てたくらいじゃ倒せないんじゃないか?」

 

 

一人の冒険者から疑問の声が上がる。周囲の冒険者ももっともだと思ったのか反論の声を上げるものはいなかった。本当に倒せるのかと一瞬不安が過ぎる。俺は少しもったいぶって答えた。

 

 

「大丈夫だ。今回の目的はあくまで魔王の娘を倒すことではなく撤退させることだ。周囲のモンスターを強化してるなら娘に遠くに引っ越してもらえばいい。爆裂魔法は脅しの材料に過ぎない。それにだ……」

 

 

俺は背中に背負っているバッグを開け中身をその場にぶちまけた。出てくるのは昨日官吏から貰った大量のマナタイト。それも純度のかなり高いものだ。

 

 

「これだけマナタイトがあれば何回爆裂魔法を撃てるんだろうな!」

 

「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」

 

 

再び冒険者ギルドは歓喜に包まれる。一発でさえオーバーキルな爆裂魔法を何度も撃てるのだ。これで負けるとも思えないだろう。

 

ーー皆の見送りを受け、俺達三人は国の近くに広がる森へと潜伏し、敵の様子を探る。森の中はあちらこちらに隠れる場所がある。その為、敵に時折遭遇するが難なくやり過ごしている。敵感知の反応を頼りに敵が大勢いる方へと向かう。

 

やがてモンスターが大量にいる地帯へと着く。そこには巨大な爬虫類、暗黒騎士、戦闘部族のような獣人に至るまで多種多様なモンスターが集まっている。ここだけ明らかにモンスターの格が違う。つまり魔王の娘が周囲のモンスターを強化している訳だ。ここに魔王の娘がいる。ゆんゆんもその事が分かっているのか俺を握る手が強くなっている。

 

 

「カズマカズマ、あのモンスターの大群に爆裂魔法を撃っていいですか?もう我慢できません!」

 

「待て、もう少し潜伏して魔王の娘の位置を特定してから……」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

 

特大の爆発音。爆風で俺達は地面を転げ回る。無慈悲な爆発は地面に大きなクレーターを作り敵に大打撃を与えた。

 

 

「何やってんのよめぐみん!待てって言われてたじゃない!!」

 

「仕方ないじゃないですか!大量の敵を前にして爆裂魔法を撃たないという選択肢はありませんよ!」

 

 

敵は突然の攻撃に面食らったのか大声で騒いでいる。よく見るとみんなが逃げる先が一方向に向かっている。恐らくモンスター達が向かう先に魔王の娘がいるだろう。

 

 

「今回に関してはめぐみんのお手柄かもな。娘の居場所がざっくり分かったぞ」

 

「ほら、見たことですか。私はここまで考えた上で撃ったのです。何も考えてないゆんゆんとは違うのですよ」

 

「絶対たまたまだよね!撃ちたいから撃っただけだよね!」

 

 

騒ぐ二人を引っ張り俺達は敵が向かっている本拠地へと向かう。そこにはかつて魔王城で見た娘とその側近達がいた。

 

 

「なんなのよこの騒ぎは!」

 

「魔王様、早くお逃げ下さい!我々の敷地に突如爆裂魔法が!」

 

「魔王様〜お助けを〜!」

 

 

魔王の娘は魔族の中ではいつの間にか魔王に昇格しているようだ。娘を逃がそうとする敵と助けを求める敵でその場が混乱している。

 

 

「我が名はめぐみん!爆裂魔法を操るものにして魔王となる者!魔王の娘よ、私の爆裂魔法で灰燼に帰すといいです!」

 

 

めぐみんがバサッとマントを翻し名乗りをあげる。娘はめぐみんを見るとわなわなと体を震えさせ声を発した。

 

 

「……あなた達が……!」

 

 

娘は興奮が最高潮に達したのか声にならない声を紡ぐ。

 

 

「いい加減にしなさいよ!魔王城でポンポンボンボン毎日毎日爆裂魔法を撃ちに来るし、そのおかげでこんな辺鄙な街に逃げてきたかと思えばまた爆裂魔法を撃つなんて、嫌がらせなの!?なんて陰湿なの!?もっと正々堂々と戦いなさいよ!」

 

 

それはもうお怒りだった。確かに今の俺達がしてきたことはひたすら魔王の娘に爆裂魔法を撃ちに来て嫌がらせしているだけにすぎない。だが今回は違う。魔王の娘に魔王城に帰ってもらうように交渉しなくてはならない。俺はギルドの職員から貰ったメガホンのような魔道具で敵に呼びかける。

 

 

「あーあーマイクテス……魔王の娘さん、今すぐこの森から離れて元いた魔王城へ帰るんだ。さもなくば俺達は毎日ここに爆裂魔法を撃ちに来るぞー!」

 

「あんた達が私の城に爆裂魔法を撃ちに来たんでしょうが!」

 

『エクスプロージョン!!!』

 

「ひぃっ!」

 

 

めぐみんが威嚇するように爆裂魔法を放つ。めぐみんの放った爆裂魔法は魔王の娘に直撃した。爆裂魔法は魔王を倒した後も威力を増し驚異的なものになっている。これには流石に魔王の娘も……

 

 

「けほっ……」

 

 

爆裂魔法を食らっても魔王の娘は生きていた。やはり強いのだろう。しかし、こちらには大量のマナタイトがある。

 

 

「ふはははは、我が爆裂魔法にひれ伏すがいいです。『エクスプロージョン!』『エクスプロージョン!』『エクスプロージョン!』」

 

「て、『テレポート』ーーッッ!」

 

 

魔王の娘はめぐみんの詠唱を聞くや否やテレポートで消え去ってしまった。周りの側近達も次々とテレポートで消えていく。残ったのはテレポートを使えずに魔王の娘の強化の効果が消えた脆弱なモンスターだけだ。その大量のモンスターもめぐみんの爆裂魔法で次々と倒されていく。

 

 

「『エクスプロージョン!』『エクスプロージョン』『エクスプロージョン』『エクスプロージョン』『エクスプロージョン』…………」

 

「もういいぞめぐみん。敵も粗方殲滅したしめぐみんも鼻血出てる。今日はこれで撤退しよう。」

 

 

めぐみんは自分の鼻をゴシゴシと擦り服に血が広がっている。俺は自分の持ってたハンカチに『クリエイトウォーター』で冷水を当て鼻に当ててやった。

 

 

「それでは行きますよ、『テレポート!』」

 

 

 

 

時刻は夜。魔王の娘を撤退させたとして冒険者ギルドは沸きに沸いていた。あれから爆裂魔法を食らった魔王軍から反撃を食らったが魔王の娘の強化もなくなり弱体化した上に数も少なくこの街の冒険者達に袋叩きにされていた。

 

 

「勇者様、爆裂魔法を是非とも!」

 

「めぐみん様も爆裂魔法を!」

 

「ふっふっふ、カズマ行きますよ!」

 

 

俺はめぐみんに頷き返し手を空に掲げる。

 

 

『『エクスプロージョン!!』』

 

 

俺とめぐみんはマナタイトを片手に空に向かって爆裂魔法を放つ。夜に爆裂魔法を撃てば近所迷惑で怒られること間違いなしだが今日はこの国の危機を救ったのだ。これくらい許してくれるだろう。みんなは爆裂魔法の風を浴びながら鑑賞していた。少し暑い今の季節にこの風は心地いい。

 

 

「最高でぇす……」

 

 

めぐみんは俺の方に倒れてくる。マナタイトを使ったので立っていられるはずだがいつもの癖で俺はめぐみんをおぶった。実はこうして二人一緒に爆裂魔法を撃つのは初めてだ。

 

 

「今日のは気分に身を任せていて精密さに欠けている感じだったな。だが今日の功績を考えて90点といったところか」

 

「カズマのは街の人に配慮したのか威力が物足りなかったですね。60点くらいでしょうか。」

 

 

俺達は俺達にしか分からない爆裂魔法の採点をする。互いの僅かな動作から相手の考えまでも分かっている。俺はめぐみんを宴会の席の一つに下ろし、シュワシュワを飲む。するとどこか怒った様子のアイリスがやって来た。

 

 

「お兄様、私に何か言うことはありませんか?」

 

はて……一体何のことだろう。何かアイリスの機嫌を損ねるような事をしただろうか。

 

 

「強いて言うなら今日もアイリスは可愛いってことくらいかな」

 

「そんな事じゃありません!」

 

 

アイリスはずいと俺に近寄って言った。

 

 

「お兄様が昨日くれたこれですが……」

 

「ああ、マナタイトのことか。高級な物だから扱いには気をつけろよ。」

 

 

アイリスが持っているのは俺が昨日あげたマナタイトによく似たガラス細工だった。冗談であげたつもりだったがアイリスはマナタイトだと信じてしまいそんな高級な物を貰ったことに感動していた。

 

 

「どこがマナタイトですか!マナタイトだと思って使おうとしたら何も出なくて冒険者達に笑われたんですからね!」

 

「ふっ、アイリスもこれでまた一つ賢くなったな。」

 

「子ども扱いしないでください!」

 

 

アイリスはふんすと怒る。今度は私がカズマ様を騙してみせますなどとどうみてもフラグにしか聞こえないような発言をしながら俺の隣に座った。

 

 

「罰として私のお願いを一つ聞いてください。」

 

「お願い?」

 

「そうです、私の頭を撫でてください。」

 

 

アイリスに向かい合って俺は恐る恐る頭に触れる。そのまま優しく撫でた。アイリスは目を合わせるのが恥ずかしいのか少し俯いてされるがままになっている。

 

 

「気持ちいいです……」

 

「そ、そうか」

 

 

少し緊張するが手を動かすのをやめない。やがてアイリスが向かい合うのをやめ俺の左肩に頭を乗せてきた。俺は左手で後ろからアイリスの頭を撫でてやる。こうしていると恋人みたいだな。

ふとアイリスが俺の右手に手を重ねてきた。驚いて左手の動きを止めてしまう。

 

 

「ずっとこうしていたいですね……」

 

 

アイリスの心からの言葉だったのだろう。しかし、アイリスは王女様だ。無理してこうして一緒に冒険に来てるがこれが終わったら城に帰らないといけない。そんなアイリスを見ているとどこか放っておけない……

 

 

「アイリス」

 

「どうされました?カズマ様」

 

「……家出……してみるか?」

 

 

アイリスは俺の言った言葉の意味をよく理解できなかったのか呆然と俺を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

翌日。パーティメンバーに自分達の荷物を持って俺の部屋に集まってもらっていた。

 

 

「という訳でみんなでアイリスの家出を手伝うぞ!」

 

 

俺はパーティメンバーの前で高らかに宣言した。

 

 

「ちょっと待ってよ。一体どういうこと?アイリスさんが家出するの?」

 

「その通りだ。アイリスは俺達と冒険していたいからもうお城には帰らないんだとさ。」

 

「そ、そこまで言っていません!ただもう少し皆と一緒に居たいだけです。」

 

 

アイリスは俺の言葉を否定しつつもしっかりと自分の意見を言った。引っ込み思案だった性格も徐々に治りつつある。

 

 

「私は反対だぞ!アイリス様が城から逃げ出したたとなれば国中が大騒ぎになる。」

 

「わ、私も家出するのはやめた方がいいんじゃないかなと思います。皆さん心配するでしょうし……」

 

 

ダクネスとゆんゆんは反対のようだ。ゆんゆんはともかくダクネスが反対するのは想定内だ。

 

 

「ダクネス、アイリスがここまで我儘言ったことあったか?お前は小さい頃からアイリスを見てきたんだろう。最近はちゃんと自分の気持ちも喋るようになってきたじゃないか。今アイリスの我儘を止めたらまた元の内気な性格に戻ってしまうぞ。」

 

「そうは言ってもだな……流石に王女様が出ていくのは国が危ぶまれる。アイリス様、どうか考え直してください。」

 

 

ダクネスの説得は難しそうだな。ここは諦めてゆんゆんをこちら側に取り込もう。

 

「ゆんゆんは友達と一緒に家出するなんてワクワクしないか?」

 

「え!?と、友達とですか……確かに楽しそうですね。えへへ……」

 

 

俺はゆんゆんにこっそり耳打ちする。ゆんゆんはふんふんと頷く。

 

 

『テレポート!』

 

 

俺の指示によりゆんゆんはアクアめぐみんアイリスクリスの四人を紅魔の里へ送る。ダクネスは不味いと思ったのか俺の方に詰め寄ってきた。

 

 

『バインド!』

 

 

俺はダクネスにお手製のミスリル製ワイヤーを食らわせた。ダクネスはその場で手を後ろにして拘束される。

 

 

「お金と帰りの船に乗るチケットは渡しておくからな。頑張って一人で帰ってきてくれ」

 

「カズマさん、これは流石にやり過ぎでは……?」

 

「ハァ……ハァ……こんな仕打ちをされても少しいいと感じてしまう私はもう本当に手遅れなのだろうか?」

 

 

もう手遅れです。ゆんゆんがダクネスの返答を聞いて軽く引いている。うちの娘はこんな人なんです。

 

 

「それじゃ頼んだぞ。」

 

「はい!『テレポート!』」

 

 

 

 

 



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この盛んな娘と同衾を!




最近サブタイトルを真面目に考え出しました。どんな話かを一目見て思い出せるようにする為にもちゃんと考えた方がいいですね。






 

 

 

ゆんゆんのテレポートにより俺達は紅魔の里へ来ていた。ただしダクネスだけは拘束されてバルバトスに残されたままだ。さて、いきなり紅魔の里に来たのはいいもののこれからどうするか。めぐみんかゆんゆんの家にお邪魔しようかと考えているとあることに気づく。

 

 

「ここ凄く暑いんですけど」

 

 

そう、アクアの言う通り紅魔の里がこの前来た時に比べてずっと暑いのだ。一体何が起こっているのか。

 

 

「とりあえず誰かに話を聞こうぜ。」

 

 

一先ず方針を決めたところで懐かしい人影が見えてきた。

 

 

「「あれ、めぐみん達じゃない!」」

 

「おや、フラフープとドドンパじゃないですか。お久しぶりです。」

 

「ふにふらよ!」「どとんこよ!」

 

 

この二人は以前俺の屋敷に来たことがある。確か男慣れしていない二人だったはずだ。暑さのせいかふにふら達の学生服も半袖だ。

 

 

「ふにふらさん、私がいない間に紅魔の里に何かあったんですか?」

 

「実は最近、紅魔の里の気温が凄く高くなっているの。ニート達が言うには新たに魔王軍幹部に就任したモンスターが近くに来てるからそいつの仕業じゃないかって。」

 

「そうよ、ほんっとに迷惑なやつなんだから!」

 

 

ーー魔王軍幹部。それはかつて俺達が倒した凄腕モンスター達だ。今やその数は減り残る幹部はウィズだけになったはず。バニルも残っているがあいつは例外だ。その幹部に新たに就任しただと……?絶対厄介な奴じゃないか。出来れば関わりたくない。

 

 

「お兄様、魔王軍幹部に就任したのは一人だけではありません。魔王の娘が既に新たな六人を幹部に任命したそうです。」

 

「マジで?」

 

 

アイリスは王族だから情報が回ってくるのが早いのだろう。新しい幹部が六人ということはウィズも合わせて七人。元々いた幹部が魔王の娘の他に七人いたから……うん。元の状態に戻ったわけか

 

 

「紅魔の里は幹部を撃退する為にその居場所を探っていてみんな忙しいのよ。そんなことより……」

 

「「めぐみん達、また新しい男の人をパーティに入れたの!?」」

 

「ふぇ?」

 

 

クリスが素っ頓狂な声を上げる。新しい男の人……もしかしなくてもクリスの事だろうか。クリスはそのスレンダーな体型から、初対面の人物からは男と間違われることが多い。

 

 

「違うよ!私女の子だから!」

 

「え?でも……あっ……めぐみんと一緒か……」

 

「ちょっと待ってください!どうしてそこで私を引き合いに出されるのですか!?」

 

 

めぐみんがどどんこに掴みかかる。首を絞め上げめぐみんに軍配が上がるかと思われたその時ふにふらがめぐみんを後ろから羽交い締めする。

 

 

「カズマさん、暑いからフリーズかけてちょうだい」

 

「おう、『フリーズ』」

 

「ひゃああああ!!!」

 

 

俺の渾身のフリーズをアクアの首にかけてやる。アクアは冷たさのあまりのたうち回る。

 

 

「ちょっと何すんのよバカズマ!もうちょっと温度調節しなさいよ!」

 

「おい待てこれ以上俺の変なあだ名を増やすな。」

 

 

めぐみんはふにふら、どどんこと喧嘩し、アクアと俺は言い争う。既にその場はカオスと化していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐみんがふにふらとどどんこを泣かせた後、俺達はめぐみんの家の前に来ていた。めぐみんが家の扉をノックする。

 

 

「こめっこー居ますかー?姉が帰ってきましたよ」

 

 

やがてドタドタと駆けてくる音がする。ドアが開かれそこにはめぐみんを小さくしたようなこめっこがいた。

 

 

「ご飯持ってきた?」

 

「姉に会って開口一番に言うことがそれですか。ほら魚を持ってきましたよ」

 

 

バルバトスで貰った魚をめぐみんが出す。めぐみんもこめっこにこう言われることが分かっていたのかちゃんと用意している。

 

 

「お姉ちゃん大好き!」

 

 

めぐみんはこめっこのその言葉で頬が緩む。めぐみんは割とシスコンだから嬉しいのだろう。

 

 

「あらカズマさん、来るのでしたら言ってくだされば良かったのに。どうぞお入りください。」

 

 

廊下の向こうからゆいゆいが顔を出す。俺達は言われるがままにめぐみんの家に上がる。紅魔の里に来るのは族長試練の時以来か……

 

 

「それで、どうですか?うちのめぐみんとはあれから進展がありましたか?」

 

 

俺が家に入るや否やゆいゆいが俺に耳打ちしてきた。この親はいつも容赦ないな。

 

 

「我が母ゆいゆい!年頃の娘の色恋沙汰を聞くのはやめてもらおうか!」

 

「一時は一線を超えそうになりましたけど、色々あって有耶無耶になりましたね(四話参照)」

 

「まあ!」

 

「カズマも何で正直に喋っているのですか!?これ以上は恥ずかしいのでやめてください!」

 

 

めぐみんが顔を赤くしながら答える。めぐみんは意外と逆境に弱い。ゆんゆんに自慢するため俺との進展を自分から言うことはあるが、俺から言われるのは嫌なのだろう。

 

 

「カズマさん、新しい女の子を仲間にしたのですか?うちの娘のことはちゃんと娶ってもらえるんですよね?」

 

 

新しい女の子とはクリスとアイリスの事だろう。

 

 

「こんにちは、私はベルゼルグ王国第一王女ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスと申します。私はカズマ様をそう簡単にめぐみんさんに渡すつもりはありません!」

 

「お、王女様!?大変!すぐにお茶をお出しします!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゆいゆいさんにお茶を出してもらい俺達は居間に集まっていた。何から何まで問題が多すぎる。一旦これからどうするかについて考えなくてはならない。

 

 

「それじゃあ作戦会議を始めるぞー」

 

「「「「おー」」」」

 

 

俺の掛け声にみんなは覇気のない声を出す。

 

 

「おいお前らそんなやる気で大丈夫か?これからアイリスの一世一代の反抗期が始まるんだぞ」

 

「反抗期なんかじゃありません!」

 

 

アイリスが怒るがそれは反抗期の人はみんな言うセリフだ。アイリスもまだまだ子どもなんだな。

 

 

「第一問!まず拘束が解けたダクネスはどうするでしょう。」

 

「分かりましたよ!」

 

「早かっためぐみん」

 

「きっと拘束された挙句に自分を置き去りにされた雑な扱いに興奮しますが徐々に正気に戻って急いでクレア達に報告するでしょう。」

 

「正解!めぐみんに1ポイント入りました!」

 

「こんなふざけた会議で大丈夫かな……」

 

 

クリスが不安そうな顔で言うが聞こえなかったことにしよう。

 

 

「第二問!ダクネスからアイリスが城に帰らないと知ったクレアはどうするでしょう。」

 

「はい!」

 

「アイリスどうぞ」

 

「すぐに王都の騎士を引き連れて明日にでも紅魔の里に私を探しに来ると思います」

 

「正解!アイリスにも1ポイント入りました」

 

「さっきから問題が難しすぎるわよ!私でも答えられるような問題にしてちょうだい!」

 

 

頭が残念なアクアには無理な話だ。これでも大分簡単な方なのだが。

 

 

「第三問!クレア達から逃げる為にはどこへ行けばいいでしょうか?」

 

「わ、私がテレポートでアクセルに移送させればいいんじゃないでしょうか。」

 

「不正解!クレアは恐らく国中に家出した王女を捜索するようにギルドに依頼を出しているだろう。アクセルに行っても捕まるだけだ」

 

「私分かっちゃったかも……」

 

「クリスどうぞ」

 

「もしかして天界に逃げるつもり……?」

 

「正解!クリスに10ポイント!」

 

「天界?」

 

 

アイリスが不思議そうな表情をする。

 

 

「俺はテレポートでいつでもエリス様のいる天界に逃げれるんだ。そこにアイリスを連れていけば一生捕まらないな。」

 

「お兄様はエリス様にいつでも会えるのですか!?」

 

「ま、まあな。そんな大したことじゃないぞ」

 

「とっても凄いことですよ!エリス教のご神体なんですよ!」

 

 

クリスはアイリスの驚きぶりを見て愛想笑いを浮かべている。この中でクリスの正体を知らないのはゆんゆんとアイリスだけだ。めぐみんやアクアはクリスを暖かい目で見守る。

 

 

「でもお兄様。クレアのことですからきっと魔法を阻害させるスクロールを使ってくると思います。そうなったらきっとテレポートも使えなくなりますよ」

 

 

そんなことまで出来るのか。そうなるとかなり厄介だぞ。ここ紅魔の里は魔法のエキスパートで構成される村だ。そこで魔法を封じられたら紅魔族は何も出来なくなる。

 

 

「じゃあ明日朝一で俺がアイリスを天界に送るよ。」

 

「天界ってそんな気軽に来たらダメな場所なんだけど……」

 

「何よエリスったらまだそんなこと気にしてる訳?もっと私を見習いなさいな」

 

「私はエリスじゃないですよ、クリスですよ」

 

 

アクアのせいでアイリス達に正体がバレそうだ。アクアの知能で隠し事をする方が無理だろうか。アイリスもゆんゆんも不審がっている。

 

 

「アクアは女神を自称するだけに飽き足らずとうとうクリスのことまでも女神と呼ぶようになっちゃったんだ。あいつの発言はそっとしておいてやってくれ」

 

 

ゆんゆんとアイリスが哀れな目でアクアを見る。やはり日頃の行いがものを言うのだろう。エリス呼びするのがアクアで良かった。

 

 

「カズマさん、この魚どうやって調理すればいいんでしょう。こんな高級なもの家で食べたことがないものですから……」

 

「ああ、俺が作りますよ。ゆいゆいさんはゆっくりしていてください。」

 

「私も手伝いますよ。」

 

 

俺とめぐみんで台所に入る。魚が丸ごとフライパンの上に置かれていた。ちょっとはみ出てるし下処理もせずに焼くだけではダメだろう。刺身にするか手頃に切って焼き魚にするか。

 

 

ぎゅっ

「あのーめぐみん?」

 

 

突然後ろからめぐみんが抱きついてきた。夜ご飯のことを考えていたから不意打ちで驚いてしまう。

 

 

「カズマ、アイリスの為に無理しすぎではないですか?」

 

 

背中の後ろからめぐみんが喋る。

 

 

「ははーん、さては妬いてるんだろ」

 

「ええ妬いてますよ。」

 

「……お、おう。」

 

 

そんなに直球で来られると反応に困る。俺の顔は赤くなっているだろう。めぐみんの顔を是非見てやりたいがこの体勢ではお互いの顔を見ることは出来ない。

 

 

「お姉ちゃんが女の顔してる」

 

 

こめっこが台所のドアを半開きにさせ家政婦は見た!のように顔を半分出しこちらを見ている。

 

 

「こ、こめっこ!?いつから居たんですか!」

 

「お姉ちゃんがお兄ちゃんに抱きついた所から」

 

「最初からではないですか!いいですか?この事は母には言わないでくださいね?」

 

「お母さーん!お姉ちゃんが男の人とイチャイチャしてる!!」

 

「こめっこ!!」

 

 

大声でそんな事を叫ばれて溜まったもんじゃない。あの声量だとみんなに聞かれただろう。ご飯の時絶対気まずくなるな……

 

 

 

 

 

 

「めぐみん、みんな眠らせておきましたよ」

 

ご飯を食べ終え、私がお風呂を上がるとみんな酔いつぶれたり眠ったりしていた。ご飯を食べてる時は母がセクハラ発言をしてきたり、アクアが宴会芸をしたりそれを見たアイリスが宴会芸を覚えたいと言ってカズマとダクネスに止められたりと色々あった。ちなみにみんなが酔ったり寝たりしているのは我が母ゆいゆいがアクア、クリスを酔い潰れさせアイリス、カズマをスリープで眠らせたのだろう。ゆんゆんは家に帰った。母に『今日はカズマと寝たいから私を眠らせる必要はありません。代わりにカズマ達を眠らせておいてください』と言っておいたのだ。こういう事に関しては手際が良い母はしっかりと役目を果たしてくれた。

 

 

「ありがとうございます。カズマは私が貰っていきますね」

 

 

ちゃぶ台に突っ伏しているカズマをお姫様抱っこのように持ち上げ二階の部屋へと運ぶ。寝ているカズマの顔も愛おしい。後ろから母がついて来て私に告げてきた

 

 

「めぐみん、避妊はするのよ」

 

「うるさいですよ!」

 

 

私は母に反抗するように勢いよくドアを閉めた。全く!母はデリカシーというものがないのですから!カズマをそっと布団の上に降ろす。規則正しい寝息が聞こえてくる。私はカズマの隣で起こさないように横になりその寝顔を観察する。ああ……カズマがこんなに近くにいる。そのことでどうしようもなく嬉しい。私は本当にカズマのことが好きなようだ。

 

 

「カズマ」

 

 

返事はない。聞こえるのはただすーすーとした鼻息のみだ。

 

 

「カズマカズマ」

 

 

再び名前を呼んでみる。相変わらず返事がない。カズマに答えてもらえないことが悲しくてポスポスと殴ってしまう。

 

 

「私カズマに怒ってるんですよ。いつもほかの女の子とイチャイチャして……妬いてるんですからね」

 

 

月明かりがカズマの寝顔を照らす。カズマは寝たままだ。

 

 

「カズマ愛してます」

 

 

私は我慢できずにカズマに抱きついた。そのまま上に乗り覆い被さるように手足を伸ばす。体全体でカズマを味わいたい。私は頭をカズマの胸に擦り付ける。

 

 

「愛してます」

 

「愛してます愛してます私以外の女の子とイチャイチャしないでください。私だけを見てください。カズマの為なら私は何でもします。お願いだから私のことも好きでいてください。」

 

 

ふと私の下腹部に違和感を覚える。それがカズマのちんこだと理解するのには時間はかからなかった。カズマが勃起している。ふふっ……私の愛が通じたのですね。カズマ……好きですよ

そういえばダクネスとアイリスは興奮したカズマのちんこを見たことあると言っていましたね。ダクネス達に先を越されたことが気に食わないが私も見ておきたい。寝息は……大丈夫ですね。ちゃんと一定のリズムでしてます。私はそっとカズマの上からどいてカズマのズボンに手をかける。ゆっくりと下げると大きく膨れ上がった息子が顔を出した。ちょっと気持ち悪いですね……でもこれもカズマの一部。ここも愛してあげなければ……

 

 

「お前何してんの?」

 

 

カズマの声が聞こえる。バッと上を見るとカズマが目を覚ましている。

 

 

「あわわわ、ち、違うのです!これは……これは……そう!カズマのちゅんちゅん丸が苦しそうにしてたので解放してあげたというか……」

 

「もしかして俺寝てる間に大人になった?」

 

「な、なってません!私もカズマも至って健全です!」

 

 

声を荒らげてはいるがカズマにピタリとくっつき離れることはない。最近中々カズマと二人きりになる機会がなかったから少しでもカズマの成分を吸収したいのだ。

 

 

「なあ、今日こそ一線を超えるのか?」

 

「女の子になんてこと聞くんですか!そういうのはもっと雰囲気とかあるでしょう!それに親主導の元でやるのはちょっと……」

 

「あのーめぐみんさん?そんなにピッタリくっつかれると男としては色々苦しいんですけど」

 

 

仰向けのカズマに右足を覆うように置いているので私の足にカズマのちゅんちゅん丸が当たっている。それでもお構いなしに私はくっついているのだ。

 

 

「今日はカズマと触れ合いたい気分なのです。カズマは嫌ですか?」

 

「全然嫌じゃないけど……本当にこれ以上やると俺の理性が持たないからな?」

 

「いいですよ、カズマになら襲われても」

 

 

そう言うとカズマは顔を赤くして反対側を向いてしまった。こうして恥ずかしがるカズマは凄くかわいい。向こうを向いたカズマに私は後ろから抱きつく。カズマの体は強ばっていて身動き一つしない。

 

 

「なあ本当にいいんだな?」

 

 

私の顔を見ずにカズマが言ってくる。それは独り言のようであり自分に言い聞かせるようでもあった。

 

 

「いつも言ってるじゃありませんか。私はカズマの為なら何でもすると」

 

 

次の瞬間、カズマがゴロンとこちらを向き上に四つん這いになって私に覆い被さる。カズマの目は獣のようだ。私を性的な目で見ている。そのことに興奮して私もカズマを獣の目で見てしまう。私は目を閉じカズマからの行動を待つ。とその時、

 

 

ドーン!!!

 

 

突然大きな爆発音が聞こえた。あまりの大きな音に恐らくみんな目を覚ますだろう。私達はお互いに身動きせずき見つめあっていた。

 

 

「「…………」」

 

「……続けるか?」

 

「……いえ、今日は寝ましょう」

 

 

明日アクアとクリスに呪いがかけられてないか見てもらいましょう。

 

 

 

 



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この我儘な王女様に情けを!




若干オリキャラが登場します。苦手な方はご注意を





 

 

 

 

 

翌朝。めぐみんの家には魔王軍遊撃部隊を名乗るニート達が押し寄せていた。

 

 

「乙女に対してこの仕打ちはどうかと思うのですが」

 

 

めぐみんはぶっころりーとかいう靴屋の息子に両腕を後ろに組まれて捕まっていた。少し拘束がきつかったと拘束を緩めたその時

 

 

「油断しましたね!」

 

 

めぐみんが拘束から逃れ振り向きざまにぶっころりーの首を絞めあげる。すぐに周りの人がめぐみんを止めようとするがめぐみんは中々手を離さない。次第にぶっころりーの顔が青ざめていきぶくぶくと泡を吐き始めた。

 

 

「めぐみんストップだ。もう意識飛んじゃってるから」

 

 

めぐみんがようやく手を離しぶっころりーがその場に倒れる。周りの人間がぶっころりーを介抱するがめぐみんはどこ吹く風と周りの声を気にしてない。そもそも何故こんな事になっているかと言うと……

 

 

「めぐみん昨日の爆発音でみんな迷惑してるんだ。大人しく連行されてくれ」

 

 

そう、昨晩起きた爆発音がめぐみんの仕業ではないかと魔王軍遊撃部隊が来ていたのだった。

 

 

「ですからそれは私の爆裂魔法じゃないと言っているじゃないですか!」

 

 

めぐみんが声を大にして否定する。

 

 

「じゃあ昨日の夜はどこに居たんだい?」

 

「そ、それは……」

 

 

ドーン!!!

 

特大の爆発音。

 

 

「ほら見たことですか!私じゃなかったでしょう!」

 

 

何度も爆裂魔法を聞いてきたからわかる。これは爆裂魔法じゃない。音の残り方が違う。爆裂魔法ならもう少し音が響くはずだ。それに音量も小さすぎる。

 

 

「まさかめぐみんじゃないなんて……とにかくすぐに音がした方の様子を見に行こう」

 

 

魔王軍遊撃部隊はぞろぞろと立ち去っていく。気絶してるぶっころりーもおぶわれて運ばれる。うちのめぐみんがすいません……

 

 

「魔王軍幹部にクレア達の対処もしないといけないしなあ……今日は忙しくなりそうだ。」

 

「お兄様、いつクレアが来てもおかしくありませんし天界に行きましょう。私もエリス様に会ってみたいです!」

 

 

クリスはここに居るし今天界に行ってもエリス様は不在だと思うが……

 

 

「ゆんゆん、天界から帰る時にゆんゆんのテレポートが必要だから一緒に来てくれるか?」

 

「分かりました!私なんかで良ければ是非お願いします!」

 

「じゃあ行くぞ、『テレポート!』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界がぐにゃりと曲がり眩い光に包まれる。目を閉じ、光が止むのを待っているとそこにはエリス様がよくいる天界が広がっていた。エリス様は不在のようだ

 

 

「わあここが天界ですか。初めて見ます」

 

 

アイリスが驚嘆の声を上げる。ここは相変わらず何もないところである。

 

 

「アイリスさんが一人でも退屈しないように色々持ってきましたよ!ボードゲームにトランプに……あと占いなんかもあります!」

 

 

ゆんゆんが次々とひとり遊びできるものを出していく。いつもひとり遊びをしてるからこんなに種類があるのだろうか

 

 

「ゆんゆんさんも私と一緒にここで遊びませんか?」

 

「え!?いいんですか!?でも私なんかと一緒に居てもつまらないと思いますよ……」

 

「そんな事ないですよ。きっと楽しいです!」

 

 

卑屈なゆんゆんをアイリスが励ましてあげている。アイリスは本当にいい子だなあ

 

 

「じゃあゆんゆん、アイリスのこと任せたぞ。俺は紅魔の里に行くから」

 

「お兄様、ちょっと待ってください。」

 

「ん?」

 

 

アイリスが俺にハグしてきた。俺達の様子を見てゆんゆんが分かりやすくおろおろしている。

 

 

「一つだけ聞いてもいいですか?」

 

「……お、おう」

 

「どうして私の為にここまでしてくれるんですか?」

 

 

期待と不安が混じったような目。何て答えれば良いのだろう。

 

 

「アイリスは俺の可愛い妹だからな。妹の為なら魔王も倒すし家出も手伝うさ。」

 

「そうですか……」

 

 

俺は鈍感系主人公じゃないからちゃんと分かる。アイリスが何と言って欲しかったのか。でも俺はアイリスの気持ちには応えられない。

 

 

「ゆんゆんテレポート頼むよ」

 

 

これ以上アイリスの悲しい顔を見たくなくて俺はゆんゆんに催促する。ここがラノベの世界ならハーレム作ってみんな幸せになったんだろうな

 

 

「はい、『テレポート!』」

 

 

俺はアイリスの気持ちに気付かないふりをして、紅魔の里へと戻った。

 

 

 

 

 

 

俺が紅魔の里に戻るとすぐにけたたましい警報が鳴り響いた。

 

『魔王軍幹部襲撃!魔王軍幹部襲撃!』

 

ここ紅魔の里ではモンスターの襲撃は珍しくない。襲撃の度に紅魔族の魔法で返り討ちにしている。今回の幹部襲撃もきっと乗り越えるだろう。

 

『ーー軍幹部襲撃!特に勇者カズマ一行はすぐに里の正門へ来てください!』

 

 

なぜここで俺達の名前が呼ばれるんだ。

 

 

「カズマカズマ大変です!」

 

 

めぐみんが俺の元へ駆けてくる。走ってきたからか息を切らしていた。

 

 

「どうした?やっぱり昨日は大人の階段登ってて妊娠したとか?」

 

「ぶっ飛ばしますよ!そんな事より大変なのです!」

 

「なんだよ、俺は面倒事はごめんだからな」

 

「魔法が……魔法が、使えないのです!」

 

 

魔法が使えない。昨日アイリスが言ってたことを思い出す。

 

『クレア達はきっと魔法を阻害させるスクロールを使ってくる』

 

魔法が使えなくなった。それはつまりクレア達がアイリスを奪還しに来たということを示している。

 

 

「それで魔王軍幹部が紅魔の里に襲撃に来たのですが、紅魔族の魔法を封じられて誰も戦えずに一方的に攻められているのです!」

 

 

紅魔族は魔法のエキスパートの一族。生まれた時からアークウィザードになれる素質を持つ。もしそんな一族が魔法を使えなくなれば何も出来なくなるだろう。

 

 

「とにかく来てください!」

 

 

俺はめぐみんに連れられて里の正門まで走る。やがて紅魔族とクレアが連れてきた王都の騎士だろうか、鎧に身を包んだ人達が見えてくる。視線を奥にやると魔王軍幹部らしき人が見えてくる。いや、あれは人というより……

 

ケンタウロスだ

 

筋骨隆々な上半身に下半身は馬のようになっている。あいつが魔王軍幹部か?ケンタウロスは紅魔族と騎士達に囲まれて対峙するように立っている。もっとも紅魔族は魔法が使えないが

 

 

「サトウカズマ!」

 

「危なっ!!」

 

 

稲穂を思わせる金髪に吸い込まれるような水色の瞳を持つクレアが出会い頭に俺に斬りかかってくる。俺は間一髪でその攻撃を避けた。

 

 

「アイリス様はどこだ!」

 

 

クレアはアイリスに変態的な執着がある。血相を変えて俺に聞いてきた。

 

 

「アイリスは俺しか行けない場所にいるよ。」

 

 

再びクレアが俺に斬撃を放つ。自動回避スキルで俺はそれを避ける。こいつさっきから俺を殺しに来てない?

 

 

「おい今は争ってる場合じゃないだろ。あのケンタウロスをどうにかしろよ。あいつを倒したらアイリスを連れてきてやるから」

 

 

血眼になっていたクレアは俺の発言でいくらか冷静さを取り戻したのか顔は怒ったままだが剣先だけをケンタウロスに向けた。

 

 

「ふんっ!」

 

 

ケンタウロスが近くの岩を手で砕く。轟音が響き岩が粉々になった。この音には聞き覚えがあった。昨夜から続いた爆発音の正体はこれだったのか。

 

 

「はあっ!」

 

 

ケンタウロスが砕いた岩の一つを持ち上げこちらに投げつける。咄嗟にしゃがんで避けたが後ろの木に当たった。振り返ってみると木が凹んでいる。マジか……当たったら一溜りもないな……

 

 

「はぁぁぁっ!!!」

 

 

ケンタウロスが大きく息を吐くと両の手で岩を四方八方に投げ始めた。その一つ一つが豪速球で当たれば一溜りもないことが分かる。

 

 

「「「退避!退避ー!」」」

 

 

騎士と紅魔族が次々と撤退する。中には大きく転ぶ者、人を押し倒してその上を走る者、士気をあげようと必死にみんなを押し留める者がいた。だが、そんな中……

 

 

「私が戦おう」

 

 

周りの騎士や紅魔族が下がる中クレアが一人、前に出た。みんながクレアを期待に満ちた目で見ている。彼女なら倒せるかもしれない。僅かな希望を持つことができた。それに応えるようにケンタウロスがクレアに石を投げつける。豪速球でかろうじて目で追うことができるほどだが、クレアは石を剣で一刀両断した。

 

 

「中々いい筋肉を持ってるじゃないか」

 

 

ケンタウロスがクレアを褒める。筋肉について言われたのが恥ずかしかったのかクレアの顔がほんのりと朱に染る。

 

 

「私の筋肉と勝負しようじゃないか」

 

 

ケンタウロスは体の肉をうねうねと動かす。次の瞬間、両手を使って大量の石を次々とクレアに投げつけた。クレアは時折被弾しながらも何とか攻撃を受けている。このままでは押される一方だ。助けてやらないと

 

 

「俺も戦うぞ!『スティール!』」

 

 

ケンタウロスに俺のスティールを使う。しかし、俺の手に握られていたのは白い布切れのようなものだった。

 

 

「なんだこれ?」

 

 

視線を奥にやるとクレアが顔を赤くして立っている。そこで俺は初めて取ったものがパンツだった事に気がつく。白スーツのくせにフリルがついた可愛らしいパンツだ。意外と女の子らしい一面もあるんだな。

 

 

「お前覚えていろよ……」

 

「……わ、悪い」

 

 

このまま敵の攻撃を受け続けるだけだと分が悪い。せめて紅魔族が魔法さえ使えればいいのだが

 

 

「おい!いつになったら魔法が使えるんだ!」

 

「効果が切れるまであと三日はかかります。カズマさんこんな時こそ何か小狡い手は思いつきませんか?」

 

 

レインがそんな無茶なことを言ってくる。紅魔族が魔法を使えない以上俺達で何とかするしかない。クレアもオリバーに苦戦しているし何か時間を稼ぐ手段はないか……?魔法が使えない……あ……

 

『バインド!』

 

魔法は使えないが一部のスキルは使うことが出来る。俺はミスリルで作った特注品のワイヤーでケンタウロスを拘束する。だが……

 

 

「ふん!」

 

 

ケンタウロスは体に力を入れると共に俺のワイヤーを引き裂いた。嘘だろ!?ミスリル製だぞ!?

 

 

「筋肉は全てを解決する!」

 

 

ケンタウロスは筋肉ポーズを取りながら自信満々に言ってのけた。バインドが効かないとなると俺達に出来ることはいよいよないと思う。ここは戦略的撤退を取るしか……

 

 

「カズマさんカズマさん」

 

「何だよまた何かやらかしたのか?」

 

「ちっがうわよ!私なら魔法を使えるようにできるけど」

 

 

……は?

 

 

「私の羽衣は状態異常を無効化するから私は魔法を使えるの。後はセイクリッド・ブレイクスペルでみんな魔法使えるようになるし」

 

「お前そんな重要なことをなんでもっと早く言わねえんだよ!!」

 

「わあああああ!待って!私もさっき気づいたのよ!」

 

 

アクアを叱っている場合ではない、一刻も早く解呪してもらわないといけない。

 

 

「この世にある我が眷属よ……」

 

 

アクアにしては珍しく厳かな雰囲気で声を紡ぐ。

 

 

「女神アクアが命ず……聖なる力を解放せよ!『セイクリッド・ブレイクスペル!』」

 

 

アクアがそう唱えると周りの人の体が僅かに発光した。特に紅魔族の体は大きな光を発している。

 

『ライト・オブ・セイバー!』

 

それは誰かが唱えた紅魔族が好んでよく使う魔法。手刀で放った光に魔力を込めると何でも切り裂くことができるという。一人の詠唱を皮切りに次々と魔法が放たれる。

 

 

『ライト・オブ・セイバー!』

『オブ・セイバー!』

『セイバー!』

『バー!』

 

それは戦いと言うより一方的な蹂躙と表現した方が正しいだろう。紅魔族が上級魔法で、しかも大量に魔法を使用する。ケンタウロスは為す術なく紅魔族の魔法でやられたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「迎えに来たぞアイリス」

 

新たな魔王軍幹部を討伐し、怒り狂うクレアに催促され俺は天界へと来ていた。目の前ではアイリスとゆんゆんがタロットカードのようなものを床に並べていた。

 

 

「アイリスちゃんが引き当てたカードは、ちから。今は断然押すべき時期! ただし、アンフェアな駆け引きは受け入れてもらえないからご注意を。真っ直ぐに気持ちを伝えるのが一番だって。」

 

 

ゆんゆんがアイリスに占いをしてあげてるようだ。恋占いかな?アイリスも乙女だからな。

 

 

「おーいお兄ちゃんが迎えに来たぞ」

 

 

俺に気づいたアイリスはとことこと俺の方に寄ってきてぎゅっと俺のことを抱きしめてきた。最近アイリスのスキンシップも増え軽いハグなら俺も慣れてきた。アイリスの綺麗な金の髪を手で梳きながら話す

 

 

「クレアがめちゃくちゃ怒っててさ。アイリスを連れて帰らないと略取誘拐罪と不敬罪で極刑に処するとか言ってるんだよ。アイリスから頼んでもうちょっと軽い罪とかに出来ないか?」

 

「クレアかお父様にお願いすれば出来るかもしれません」

 

「なら頼むよ。さっきパンツを間違えてスティールしたからか『カズマ、貴様を殺して私も死ぬ!』とか言い出してもう誰にも押さえられなくて困ってるんだ」

 

「何してるんですかカズマさん……」

 

 

ゆんゆんからの冷たい視線が心に刺さる。下着を取ってしまったのは事故だから俺に悪気はないのだけれど

 

 

「私、お兄様にお礼を言わなくてはなりません。」

 

「お礼?俺何かしたっけ?」

 

「私の家出を手伝ってくれたことです。」

 

「こんなこと初めてなんです。今までずっと自分で自分を律してきました。でもお兄様に出会ってからどんどんわがままになって……凄く楽しいのです。」

 

 

凄く楽しいと言っているのにアイリスの顔は全然楽しそうじゃなかった。それどころか頑張って自分を律しようとするのに律することが出来ずに苦しんでいるようだ。

 

 

「城にいるだけではきっとこんな気持ち味わえなかったでしょう。お兄様が私を変えてくれたのです。」

 

 

アイリスの目の奥からじわりと涙が溜まっていく。それらをどうにか零さないようにするので精一杯のようだ。

 

 

「だから本当に……私はカズマ様のことが好きなのです。」

 

 

アイリスの話を俺は黙って聞いていた。アイリスの声は話すにつれてか弱く掠れた声になっていく。

 

 

「……お願いですからお兄様……!……どうか私のわがままを聞いてください……!私と結婚してください……!」

 

 

アイリスの目からは大粒の涙が零れる。アイリスは俺の胸で泣きながら懇願してきた。

 

 

「ごめんなアイリス、すぐに結婚は無理だ。」

 

「だからまずは付き合う所から始めようぜ」

 

 

アイリスは俺の発言を聞いて言葉を失っている。そう、アイリスが泣きながらお願いされたから俺は断れなかったのだ。帰ったらめぐみん達になんて説明しようか。

 

 

「えええええ!!!カズマさん、アイリスちゃんと付き合うんですか!?」

 

 

そういえばゆんゆんが居たのを忘れていた。

 

 

「まぁそういうことだな。」

 

「お兄様ぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

アイリスは先程より沢山の涙を流して大声で泣き喚いている。あ、ヤバい。アイリスに強く抱きしめられ過ぎて背骨が悲鳴をあげている。

 

 

「お、落ち着けアイリス。このままだとお兄ちゃん死んじゃうから」

 

「私、嬉しくて嬉しくて!夢じゃありませんよね!?お兄様を好きな気持ちが強すぎて幻覚を見てる訳じゃありませんよね!?」

 

「夢じゃないから安心しだあああああ!!痛いって!本当にもう限界だから!ミシミシって変な音してるから!」

 

 

俺はしばらくアイリスの抱擁を受けて必死にゆんゆんに助けを求めていたのだった。

 

 

 

 

 

 





ちょっとしたお知らせです。そろそろ筆者の受験が近づいており中々投稿が出来ない状態です。受験が終わるまではかなり投稿頻度が落ちるかもです。ご了承ください。



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この納税騒ぎに終止符を!




過去最長です。8000字くらいあります。




 

 

 

視界がぐにゃりと曲がり眩い光に包まれる。目を閉じ、光が止むのを待っていると紅魔の里に着いていた。

 

 

「アイリス様っ!!!」

 

 

帰ってくるなりクレアがアイリスに後ろから抱きつく。そのままアイリスの稲穂のような金髪に顔を埋めスゥハァと匂いを嗅ぎ出した。アイリスは匂いを嗅がれてることに気づいてないみたいだが傍から見れば変態にしか見えない。

 

 

「クレア、私はこの通り無事ですから離してください」

 

「そうはいきません。アイリス様に会えない間、私がどれ程寂しかったことか。」

 

 

嫌がるアイリスにお構いなしにクレアは強く強く抱きしめアイリスはうざったそうにしている。変態的なクレアとは対称的にレインは落ち着いた様子で話す

 

 

「アイリス様、事の大きさが分かっていますか?王女様の失踪によって国王様は酷くご乱心になり国中の警察とギルドに捜索願いを出されています。万が一、アイリス様の身に何かあればクレアも私も首が飛んでもおかしくありません。二度とこのような真似はなさらないよう肝に銘じておいてください。」

 

 

レインがかなり真面目にアイリス様を叱っている。しかし、アイリスは怒られているにも関わらず終始ニコニコと顔が蕩けている。レインが訝しげに見て

 

 

「アイリス様?今は真面目な話をしているのですが、何故笑っているんです?」

 

「凄くいい事があったんです。後でレイン達にも教えてあげますね。」

 

 

その言葉を聞いてレインはますます訳が分からないようだ。どういうことだと俺の方に目を向ける。

 

 

「まあ別に今この場で言わなくてもいいだろう。後でアイリスから聞けばいいしさ」

 

 

俺は出来るだけ平静を装って話題を逸らそうとする。もしこの場でアイリスと付き合ったことを言えば修羅場になりそうだからだ。特にめぐみんやダクネスには絶対に言ってはいけない。

 

 

「何だか怪しいですね。アイリス、私にも教えてくださいよ。」

 

「ふふ、めぐみんさんにも教えてあげるつもりですよ。実は私、お兄様と……」

 

「わああああああああ!!!」

 

 

俺…………ではなく、ゆんゆんが大声を出してアイリスの声をかき消す。当然いきなり奇声を上げたゆんゆんは周りから変な目で見られる。

 

 

「とうとう頭がおかしくなったんですか?その……そこまでぼっちを拗らせてるとは思いませんでした。私でよければいつでも遊びに付き合ってあげますよ」

 

「やめて!頭は正常だから!そんな同情するような目を向けないで!」

 

 

ゆんゆんがめぐみんの肩をぐわんぐわんと揺らし否定する。めぐみんは穏やかな表情で諭すように話しかける。

 

 

「大丈夫です。私が居ますからあなたはぼっちじゃないですよ。」

 

「うわああああああん!!!」

 

 

ゆんゆんは泣きながら逃げていった。普段ゆんゆんにはツンデレなめぐみんがこんなに優しい言葉を投げかけるなんて珍しい。それだけゆんゆんがおかしく見えたのだろうか。

 

 

「では、私達も帰りましょう」

 

「めぐみんさん、ちょっと耳を貸してください」

 

 

レインがテレポートの詠唱を始める。アイリスがそっとめぐみんの耳に顔を近づけ何か喋った。口元を手で隠していたから『読心術』でも読み取れなかったがその顔はどこか優越感に満ちていた。

 

 

 

 

「私、正式にカズマ様の彼女になりました。これでカズマ様は私のものですね」

 

「…………は?」

 

 

アイリスが何を言ったかは分からなかったがそれを伝えると満足そうな様子でレインの元へ戻った。

 

『テレポート!』

 

ずっとアイリスがいた所を見続けるめぐみん。何かアイリスに言いたいことでもあったのだろうか。

 

 

「どうした?ぼーっとして、アイリスはなんて言ってたんだ?」

 

 

めぐみんはアイリスの言葉の意味を噛みしめるように考え込んでいる。暫くして絞り出すように声を発した

 

 

「……な、何でもありません」

 

「それじゃあ俺達も帰るか」

 

 

 

 

(めぐみん視点)

 

 

「ただまー」

 

「やっぱり我が家が一番だな」

 

 

紅魔の里からテレポートでアクセルの街に帰り、屋敷へと着いた。ゆんゆんは族長の座を正式に継ぐ為しばらく紅魔の里に留まるようだ。クリスも天界での仕事が溜まってるからと別れることになった。カズマは広間のドアを開けると同時に暖炉前のソファにダイブする。

 

 

「ちょっとカズマさん、そこは私の特等席よ。早くどきなさいな」

 

「何言ってんだ。こういうのは早い者勝ちだろ?……おい俺の上に座るんじゃねえ。重いんだよ」

 

「重くないわよ!訂正して!私は羽衣くらい軽いって訂正して!」

 

 

ギャイギャイとアクア達が騒ぐ。いつもなら私もその喧騒に混ざっていただろうけど今はそんな気分にはなれなかった。私の心にはアイリスの言っていたことが延々と渦巻いてる。

 

『私、正式にカズマ様の彼女になりました。これでカズマ様は私のものですね』

 

あの発言は本当なのだろうか。……いや、そんな訳がない。ちゃんと私のことを好きと言ってくれたカズマのことだ。アイリスと付き合うはずがない。……大丈夫、きっと大丈夫だ。

 

 

「めぐみん?大丈夫か?酷く苦々しい顔をしているぞ」

 

 

ダクネスの言葉で我に返る。そうだ、こんなことでクヨクヨ悩んでるなんて私らしくない。私は紅魔族随一の天才にしてカズマに魔性の女とまで称された者です。もっと自信を持たなくては

 

 

「ええ、ちょっと考え事をしていただけですよ。」

 

「それなら良いのだが……めぐみん、これからギルドに行くのだが一緒に行かないか?」

 

「ギルドですか?それならみんなで行けばいいじゃないですか。」

 

「実はめぐみんにだけ話したいことがあるんだ。ついて来てくれないか?」

 

 

私に話?この様子だと説教でもなさそうですし何か相談事でしょうか。

 

 

「ふふっいいですよ、仲間の面倒を見るのも私の役目ですから。」

 

 

未だ喧嘩を続けるアクア達を放置して私達はギルドへと向かった。

 

 

 

 

私はダクネスと二人でギルドに来ている。なんでもダクネスが私にだけ相談したいことがあるそうだ。

 

 

「やっぱりダクネスはもっと可愛らしい服の方が似合うと思うのです。」

 

 

私はダクネスと二人で他愛もない会話をする。話題は心の底では乙女なダクネスに好みの服を着てもらうという話だ。

 

 

「そ、そうか。そこまで言うならたまには可愛い服も着てみるべきだろう。」

 

「ええ、なんなら今度私が持っている黒のワンピースを貸してあげますよ。きっとダクネスにも似合います。」

 

「ほ、本当か!?……でも、サイズが合わないんじゃないか?特に胸周りとか……」

 

「…………やっぱり貸してあげません。」

 

「ま、待ってくれ!じゃあせめて一緒に服屋へ来てくれないか?その……どうしても一人だとハードルが高いというか……」

 

「はぁ……仕方ありませんね。一回だけですよ」

 

 

ダクネスはもっと自分の気持ちに正直になるべきだ。普段はドMな性癖を前面に出しているのに純情な部分だけ隠す必要もないはずだ。

 

 

「それで話って何ですか?」

 

「ああ、そのことなんだが……」

 

「失礼します。ダクネスさん、例の作戦は順調でしょうか?」

 

 

ダクネスが話し出そうとした時、ギルドの人が話しかけてきた。

 

 

「ああ、カズマは屋敷に帰ってきて今頃昼寝でもしているだろう。作戦は今夜決行しよう。」

 

「分かりました。こちらでも手配しておきます。」

 

 

それだけ言い残すとギルドの人は帰って行った。

 

 

「ダクネス、作戦とはなんの事ですか?もしかしてそれが私に話したいことと関係あるのですか?」

 

「ああ、ここだけの話だが実は今夜冒険者達に税金を納めて貰おうと思っている。特にカズマは魔王討伐の莫大な賞金を貰っているからな。国としては是非とも納税させたいんだ。」

 

「なるほど、つまりカズマが逃げないように私達で足止めするという事ですね」

 

 

私は魔王討伐なんかはしているが手に入れた賞金もほとんどカズマに預けており雑費くらいしか使ってない。つまり徴税されても痛くも痒くもないのだ

 

 

「その通りだ。流石に魔法全般を封じるスクロールは手に入らなかったが事前にクレアから貰ったテレポートのみの使用を封じる魔道具があるから今夜はカズマもテレポートは使えない。」

 

 

準備は万全のように思えるがカズマのことです。何か姑息な手を使って私達の手から逃れるかもしれません。

 

 

「多分それだけだとカズマは捕まえられませんよ。もっとカズマの身動きが取れなくなるような方法を取らないと」

 

「ふむ、では昔やったみたいに私と手錠で結ぶか?」

 

「そんなことしたらまたダクネスとカズマがイチャイチャするだけでしょう。それなら私と手錠を結ぶ方がマシです。」

 

 

ダクネスが呆れたような視線を向けるが私は至って真剣だ。

 

 

「では、こうしましょう。二人ともカズマと手錠を繋ぎ、鍵をスティールで取られないように各自の部屋に保管しておきましょう。流石に二人も居ればカズマも簡単には逃げられないはずです」

 

ダクネスは私の案に賛成したのか大きく頷く。私達は固い握手を交わしてその場を後にした。

 

 

 

 

「ただいま帰りましたよ」

 

屋敷に着くとカズマとアクアがソファの上に座っていた。いや、正確には寝ているカズマの膝の上にアクアが真正面から抱きつくように座っている。

 

 

「何してるんですかアクア……」

 

「何って、ただ寛いでるだけよ?」

 

「寛ぐだけならカズマの上に座る必要はないでしょう!早くどいてください!」

 

「嫌あああ!ここは私の席なの!絶対動かないわよ!」

 

 

アクアを羽交い締めにして離そうとするがカズマに強く抱きついてるからか中々離れない。

 

 

「……んんっ、うるさいぞ……朝早くからそんなに騒がないでくれ……」

 

 

これだけ近くで大声を出していたのでカズマも起きてしまった。このまま寝ていたら納税騒ぎの時にギルドに来なかったかもしれないし丁度いい。

 

 

「今は夕方だ。カズマもそろそろ起きろ。そんな状態だとギルドに呼び出されてもすぐに向かえないじゃないか」

 

「ギルドに呼び出される……?なんで……?」

 

「あ、いや……それはだな……」

 

『緊急!緊急!冒険者は直ちにギルドに集まってください!繰り返します!冒険者は直ちにギルドにーーーー』

 

 

ダクネスがカズマへの返事に詰まっていると、けたたましいアナウンスが街に流れ始めた。

 

「……よし、寝るか」

 

「何二度寝しようとしてるんですか!今の警報を聞いてなかったんですか!?」

 

「ここ最近出かけてばかりだったじゃないか。たまにはゆっくり休みたいだろ」

 

 

カズマが屁理屈をこねて屋敷に引きこもろうとする。仕方ない、ここは一肌脱ぐしかありませんね。

 

 

「カズマ、もし一緒にギルドに行ってくれるなら後でぎゅってしてあげますよ」

 

 

私の言葉を聞いたカズマは一瞬目を大きく見開いたがすぐに頭を横に振った。

 

 

「……悪い、気持ちは嬉しいんだけどそういうのは遠慮しておくよ。」

 

 

あれ……?カズマの様子がおかしい。いつものカズマならどうせまたお預けするんだろとか言って不貞腐れた態度をとるのに今回はどこか誠意を感じるような態度だ。

 

 

「どうしたのだカズマ?口では文句を言いながらもめぐみんのご褒美にそわそわするのがいつものカズマじゃないか」

 

「べべべ別に、そわそわなんてしてないぞ!」

 

 

ダクネスの言葉に面食らったカズマは気怠そうに頭を掻きむしり、

 

 

「俺もそろそろ心を入れ替えようと思ってな。これからはお前らの色仕掛けに落ちたりなんてしないぞ……多分……」

 

 

何故急にそんな事を思い始めたのか。私には一つ心当たりがあった。

 

『私、正式にカズマ様の彼女になりました。これでカズマ様は私のものですね』

 

いや、そんな事あるわけない。大丈夫だ。きっとカズマは最後に私を選んでくれるはずだ。大丈夫……大丈……夫……。でももし、アイリスと既に結ばれていたとしたら……気づけば私の目からじわりと熱いものが込み上げてきていた。

 

 

「め、めぐみん!?どうした!?」

 

「うえっ……ぐずっ……うぐっ……ひくっ……!」

 

 

私の涙は留まることを知らない。泣いても泣いても次の涙が溢れてくる。

 

 

「カズマさんがめぐみんのハグを断ったからじゃないの!?」

 

「そ、それのせいか!めぐみんごめん!めぐみんにぎゅっとされたら本当に嬉しいから!すぐにでも冒険者ギルドに行きたくなってきたぞ!」

 

 

泣いてる私はカズマ達に引っ張られるように冒険者ギルドへと連れていかれた。

 

 

 

俺達はめぐみんをどうにか泣き止ませギルドに着いた所だった。

 

 

「さあ冒険者の皆さん、こちらに並んでくださいね。緊急です。緊急のお呼び出しです。申し訳ありません冒険者の皆様方」

 

 

日頃受付をしているギルド職員のお姉さんが、そんな事を言いながら冒険者達を並ばせていた。緊急とか言いながら、俺達をこんな所に並ばせる意味はあるのだろうか?

よく見るとギルドにはいつもの職員だけでなく公務員らしき人までいる。その人達は俺達冒険者を取り囲むように立っている。まるで俺達を逃がさない様に立ち塞がっているようだ。そんな何だかキナ臭い雰囲気に居並ぶ冒険者達がざわめきだす。

 

 

「なあ、一刻も早くここを逃げた方がいいって俺の勘が告げているんだけど」

 

「奇遇ねカズマさん、私もそんな気がしてきたわ。」

 

 

待てよ……?確かこの光景には見覚えがあるような……何だったか……喉まで出かかっているのだが……

気づけばこの街のほとんどの冒険者が揃ったようで最後に入ってきた冒険者を通すと入口の前に職員が立ち塞がった。いよいよ逃げ道も無くなってしまった。みんなが集まったことを確認したのか受付のお姉さんが一際高い台の上に立つと拡声器を手に持ち、話し出した。

 

 

「皆さん、納税の時期がやってきました!まだ税金を納めてない方は今ここで手続きをお願いします!」

 

 

冒険者達は蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

 

 

 

 

「どどどうしましょうカズマさん!?私の納税額なんてとんでもなく高いに決まってるわ。絶対に払いたくないんですけど!」

 

「俺の方が沢山税金を取り立てられるんだからな!そもそも今は夏だろ!税金を取り立てられるのは秋じゃなかったか!?」

 

「去年の徴税で痛い目を見た人が秋になると遠くに出かけるだろうと思ってな。法務省に掛け合って納税の時期を夏の初めの月までに変えてもらったのだ。」

 

 

なんて迷惑な話なんだ。だが夏の初めの月は今日で最終日。昔アクアから聞いた話によると最終日まで納税しなければもう徴税されることはないそうだ。つまり今日さえ乗り切れば税金を取られなくて済むということだ。

 

ガチャ。

 

「何してんのお前」

 

横を見ればめぐみんが鎖のついた枷を俺の左手に嵌めていた。その枷は鎖でめぐみんの右手と繋がっている。

 

 

「カズマ、今年は大人しく納税しましょう。」

 

 

めぐみんは諭すような表情だ。畜生、こいつは今回の納税騒ぎを知っていやがったな!

 

ガチャリ。

 

「お前もかよ!?」

 

今度はダクネスが俺の右手に手枷を嵌めてきた。勿論それはダクネスの左手と鎖で繋がっている。ダクネスはニヤニヤしながら俺に語りかけてきた。

 

 

「納税は国民の義務だ。さあカズマ一緒に納めに行こう。」

 

 

左手にはめぐみん、右手にはダクネスと手錠で繋がっている。これでは両手もまともに動かせない。この状態で受付に行くのかなり恥ずかしいのだが。こいつらはその後のことを何も考えなかったのだろうか。

 

 

「おいダクネス、俺は目的の為なら手段を選ばない真の男女平等主義者だ。俺を敵に回していいのか?」

 

「ふっ、カズマの納税額に比べたら下着の一枚や二枚軽いものだ。やれるものならやってみろ」

 

『スティール!』

 

俺はめぐみんと繋がれている左手で向かい側のダクネスにスティールを使うと、手が淡白く光る。光が止むとそこには大人びた紫色の下着が握られていた。ダクネスはもっと純情な女の子らしいパンツだと思ってたから少し意外だ。

 

 

「くうっ!そんな情欲に満ちた目で私のパンツを見るとは……やるなカズマ!流石は私が見込んだ男だ!」

 

 

この程度ではダクネスにとってはご褒美のようだ。勿論このまま終わらせるつもりはない。

 

 

「めぐみん、ちょっと右手を上げてもらえるか?」

 

「右手?……こうですか?」

 

 

めぐみんは疑問に思いながらも俺の指示に従ってくれる。俺は左手を上げダクネスのパンツを頭の横辺りに持っていくとそのまま顔をパンツに突っ込んだ。

 

 

「「なっ!?」」

 

 

今の俺は変態仮面のような格好をしていると言えば分かりやすいだろうか。徴税騒ぎでみんなが逃げ惑う中一人こんな格好をしているため周りの人がゴミを見るような目でこちらを見ている。

 

 

「このまま捕まるようなら俺は今日一日この姿で過ごすからな。勿論納税する時もこのままだ。」

 

「ななな、何をしている!?き、汚いからやめろ!」

 

 

ダクネスと言えどこの脅迫はかなり堪えたのか顔を真っ赤にしている。俺はとどめを刺す為に深く深く息を吸った。

 

 

「スウゥハアァ、うーん、いい匂いだ」

 

「やややめてくれ!分かった!もう邪魔しないから!」

 

 

必死に掴みかかってくるダクネスに頭に被っていたパンツを返してやる。ダクネスはもう充分だな。後はめぐみんの説得だけだ。

 

 

「おいめぐみん、一緒に走らないならどうなるか分かってるよな?無駄な抵抗はやめて大人しく……」

 

「分かりましたから!パンツを顔に被るのだけはやめてください!」

 

 

めぐみんが食い気味に答える。そんなに嫌だったのか。少し俺の良心が痛むが仕方ない。兎に角この包囲網から抜けなければ。俺は左にめぐみん、右にダクネスを連れて走り出した!

 

 

「では、次の方、……あっ!カズマさんが、引き止め役のダクネスさんとめぐみんさんまで!職員の方々!何としてでもカズマさんを捕まえてください!」

 

「俺のスティールを食らいたい奴は前に出てこい!」

 

 

そう叫びながら俺は出口付近の職員に突っ込んでいく。職員のうち女性は男の人の陰に隠れ、残った男性職員が女性職員を守るように立ち塞がった。なんだアイツらカップルなのか?しかし、俺は誰にでも公平な男。例え女の前でいい所を見せようとする男に対しても容赦はしない。

 

『バインド!』

 

ワイヤーが紆曲しながら相手の体にまとわりつく。俺達は無力化された人の上を走り抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

俺達は夜の街を駆けていく。後ろからは『待て!』だの『止まれ!』だの叫ぶ声が聞こえてくるがそんなものに従うわけがない。目指すは警察署だ。

 

『ファイアボール!』

 

「あぢいいぃ!」

 

 

追手の一人が放った魔法で背中が熱くなるのを感じる。慌てて背中にフリーズとヒールをかける。めぐみんとダクネスには当たってないことから俺をピンポイントで狙ってきたのだろう。俺を殺すつもりですか?

 

 

「大丈夫ですか?カズマ」

 

「大丈夫なわけあるか。体力的にももう限界が近いぞ」

 

「カズマ、今夜は馬車も既に職員が占領しているし外に出る為の門にも門番が待ち構えているぞ。もうどこにも逃げられないはずだ。素直に諦めたらどうだ?」

 

「俺が向かってるのは警察署だよ。またお巡りさんのお世話になって独房に入ろうと思ってな。あそこなら職員の人達も入って来れないだろうし。」

 

 

俺は次々に家の前を通り過ぎる。両脚に気合いという鞭をいれ、勢いよく地面を蹴る。そしてとうとう交番が見えてきた。

 

 

「……はぁ……はぁ……よし、このままパンツをスティールしてゴールだ!」

 

 

思い切りドアを蹴破り中へ勢いよく入るとそこに居たのは……

 

 

 

 

税務署の人と思わしき大量の職員だった。

 

「「「…………」」」

 

「……ま、間違えました、失礼します。」

 

「「「確保ー!」」」

 

次々と職員が俺の上に伸し掛ってくる。さっきまで息も絶え絶えだった俺は逃げることも叶わず捕まってしまった。

 

 

「嫌だー!俺は死んでも税金を払わないからな!このまま断固拒否してやる!それ以上やるつもりならスティールするぞ!おい!やめろー!」

 

 

俺は赤子のように喚きながら職員の人に連れていかれる。無論両手にめぐみんとダクネスを連れて。

 

 

 



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この闇堕ち少女に輝きを!




またもや過去最長です。約一万字あります。







 

 

 

 

「はい、契約書にサインも頂きましたし、お金は後日税務署に提出してもらえれば大丈夫です。ご協力ありがとうございました。」

 

 

税務署の職員に捕まった俺はめぐみんとダクネスに無理やり連れて行かれ冒険者ギルドで納税の手続きを済ませていた。

 

 

「あれだけあった俺の財産が半分に……」

 

「これも民のためだ。みんなの為に納税するカズマは中々かっこいいと思うぞ?」

 

「ううっ……」

 

 

ダクネスの慰めの言葉も今の俺には効果がない。

 

 

「交番に税務署の職員がいるってダクネスは知ってたんだろ?」

 

「……すまない。納税額を考えるとカズマにはどうしても納税してもらいたくてな。」

 

「はぁ……」

 

 

ダクネスが領主としてみんなから税金を取り立てたい気持ちは分かる。だからダクネスを責めるつもりは全くないのだが、いざお金を取られると落ち込んでしまうものだ。

 

 

「いつまでクヨクヨしているのですか?まだお金はたんまり残っているからいいでしょう?」

 

 

めぐみんの言う通りまだ最高純度のマナタイトを何十個も買える程度にはお金は残っている。

 

 

「確かにそうだよな。まあ今はそれより……

いい加減手錠を外したいんだけど、鍵はないのかよ」

 

 

ギルドで手錠を嵌めた時から税務署の職員に捕まった時、果ては今に至るまでずっと左手をめぐみんと、右手をダクネスと繋がれているのだ。そのせいで俺は頭が痒くてもかけない、腕を組みたくても組めないで不便極まりないのだ。

 

 

「鍵はカズマに取られないように適当に屋敷の庭にポイと捨ててしまいましたからね……夜も遅いですし鍵は明日にでも探しましょう。」

 

「ええ!?めぐみん、さっき言ってた事と違うじゃないか。確か手錠の鍵は各自の部屋に保管して……」

 

「しっ!ダクネス!折角カズマと一緒にいれるチャンスなんですよ?余計な事は言わない方がいいです」

 

「わ、私は……そのような事をするのは抵抗が……」

 

「おいこら俺の目の前でコソコソ話すんじゃねえ。」

 

 

細部まで聞き取れなかったが何か隠し事をしているのは分かった。納税の時といいまた何か厄介事を持ってこないといいのだが。

 

 

「という訳でカズマ、手錠の鍵は明日明るくなるまで見つかりそうにないですし今日はずっとこのままです。ご飯やお風呂は私が世話してあげますからね。」

 

「トイレの世話も?」

 

「……それは自分で頑張ってください」

 

「両手が使えないんだからトイレにも行けないだろう。まずパンツを降ろさないといけないしち〇この向きも手で調整しないといけないし」

 

「そんな生々しい話は聞きたくないですよ!乙女の前でち〇ことか言わないでください!」

 

「めぐみんも言ってるじゃないか……とりあえず屋敷に帰ろう。ご飯もまともに食べれてないだろう。」

 

「そうだなあ。そういえばアクアはどこ行ったんだ?」

 

「確かにあれから見てないですね。案外逃げ切ってるかもですね」

 

 

もう既に夜も深くなり始めた頃だ。お腹も空いてるしギルドで食べても良かったのだが、手錠で繋がれてる姿を見られるのが恥ずかしいので屋敷で食べることにした。

 

 

2

 

 

「ただいまー」

 

 

俺達は屋敷へと着いていた。屋敷へ帰る道すがら手錠で繋がった俺達を見て『なんだこいつらは』みたいな視線を送られ、めぐみんもダクネスも少し恥ずかしそうにしていた。全く、こうなるくらいなら鍵を持ってきておけよ……

 

 

「おかりー」

 

 

誰もいないかと思われた屋敷からは意外と返事があった。

 

 

「ただいまアクア、先に帰ってたんだな。」

 

「ええ、……って何で三人は仲良く手を繋いでいるわけ?新しいプレイにでも目覚めたの?」

 

「このバカ共が手錠の鍵を無くしたんだとさ。しかも庭に適当に投げたから暗くて今は見つけられないって。」

 

「めぐみんやダクネスってたまに信じられないくらいバカになるわよね……」

 

「ダクネスはともかく私は紅魔族随一の天才ですよ!ダクネスはともかく!」

 

「ま、待てめぐみん。私もバカじゃないぞ。それにアクアが言えたことじゃないだろう。」

 

「何ですって!私は高貴で賢明な女神よ!謝って!私をバカにした事を謝って!」

 

「おい、お前らそんな事で喧嘩するなよ。それよりお腹が空いて死にそうなんだ。見ての通り俺達は手が不自由だからアクアがご飯を作ってくれないか?」

 

「もう仕方ないわね。この私に感謝なさい。」

 

 

アクアはどこか上機嫌に調理場へと向かった。

 

 

「アクアもカズマの言う事なら素直に聞くようになりましたね。」

 

「そうだな、恋は人を変えると言うがあのアクアがここまで変わるとは」

 

 

ダクネス達の会話を聞いていて俺は少し後ろめたい気持ちになる。何しろ俺にはアイリスという恋人がいるのだ。アクアの気持ちに応えることは出来ないだろう。

 

 

3

 

 

「はい、あーん」

 

「あーむ。ありがとなめぐみん」

 

 

俺達はテーブルを四人で囲みながら食事をしていた。しかし、今日は手錠でダクネスの左手と、めぐみんの右手に繋がれているので両手が使えない俺はみんなにご飯を食べさせて貰っている。

 

 

「ご飯を食べさせるくらいならこめっこが小さい頃に何度もしてましたからね。これくらいどうって事ないですよ」

 

 

俺は幼児と同じ扱いかよ!と言い返したい所だが文句を言うとご飯を食べさせて貰えなくなりそうだから何も言わない。

 

 

「カズマ、ほら私からもあげるぞ」

 

 

ダクネスが右手でスプーンを使ってスープをすくい上げる。そのまま俺の口の前にスープを持ってこようとした所で……

熱々のスープは俺の顔にぶちまけられた。

 

 

「あぢいいぃ!!」

 

 

あまりの痛さに体を()()らせもんどり打つ。こいつわざと俺の顔にスープをぶっかけたんじゃないだろうな。

 

 

「す、すまない。どうも不器用で狙いを外してしまったようだ。次こそはちゃんと当てるから」

 

「もういいわ!このやり取り何回目だよ!さっきから俺に何回もご飯顔に当てられてるんだけど!?不器用で攻撃が当たらないのは分かるが何であーんも出来ないんだよ!」

 

「だ、大丈夫だ。次こそはちゃんと口まで運んでみせる。だからもう一回だけチャンスをくれ!」

 

「嫌だね!あーんはめぐみんにしてもらうからな!」

 

「カズマさんカズマさん私からもこのブロッコリーあげるわよ」

 

「それはお前が野菜を食べたくないだけだろ!おい俺の口に無理やり押し込むな……むごっ……!」

 

 

結局アクアのブロッコリーを食べさせられてしまった。俺もブロッコリーはそんなに好きじゃないと言うのに。

 

その後も暫くワイワイと話しながら食事をする。手錠で両手は使えないがめぐみんがちゃんとご飯を食べさせてくれたので俺はそこまで不自由を感じなかった。食事中のアクアの話によると、実はアクアが徴税官から逃げ切ったらしく、ドヤ顔で逃げる時の話をしてきた。その方法は川の中へ飛び込むこと。川に飛び込みその流れに沿って街の外まで避難してたらしい。

そんなこんなで時間はあっという間に流れ過ぎそろそろお風呂に入ろうかという時間になってきた。そこでふと、俺は大切な事を思い出した。

 

 

「そうだ、お前らに言っておかないといけないことがあるんだ。」

 

 

俺の言葉を聞いたアクア達は急に畏まってどうしたのかという視線を向けてきた。俺はイスに座り直しそれぞれの顔を見る。アイリスと恋人同士になった事を伝えなくてはならない。

 

 

「どうしたのだ?急に」

 

「実は俺、アイリスとこ……恋……」

 

「「「こい?」」」

 

 

俺は深く息を吸いみんなに真実を告げーーー

 

 

「アイリスの所に来いって言われてるんだ!」

 

 

ーーーー告げられなかった。だあーー!!言える訳ないだろ!こんな俺だがこいつらは俺の事を少なからずよく思ってくれている。そんな三人の前で暴露する勇気が俺にはなかった。

 

 

「アイリスの所ってお城の事?それなら私達も行っていいわよね!またあの豪華な城で一日中ぐうたらして過ごしたいわ!」

 

「今日アイリス様と別れたばかりだろう。全く、アイリス様はカズマから悪影響を受けすぎだ。家出の件と言い昔はここまで我儘を言うこともなかったのだが……」

 

「カズマはアイリスの所に行きませんよね……?屋敷に居てくれますよね……?」

 

 

めぐみんが縋るような目で俺に訴えかけてくる。そもそも城に来いなんて言われてないんですけどね。

 

 

「あ、ああ……行く訳ないだろ。しばらくは屋敷にいるよ」

 

 

俺の決死の告白は失敗に終わった。いつかはアイリスとの関係を皆に伝えなくてはならないが俺はただ問題を先送りにするだけだった。

 

 

4

 

 

ご飯も食べ終わり次にすることは……日本人ならお風呂である。

 

 

「お風呂か……俺は両手が使えないからお前らだけでも裸になっていいぞ。俺はそれを眺めてるだけで身も心も綺麗になるからさ」

 

「たわけ!誰がお前の前で裸になるか!」

 

「え?私は裸になるつもりでしたけど?」

 

「め、めぐみん!?」

 

 

めぐみんの大胆な発言に驚く。この()一歩間違えれば痴女と言われてもしょうがないと思う。

 

 

「いや、ほんの冗談だからさ。いざ裸になられたらそれはそれで困るというか……」

 

 

俺は思わずヘタレてしまいボソボソと声を漏らしてしまう。それを見ためぐみんが小悪魔のような顔で俺に囁いた。

 

 

「ここではダクネスも居ますからね。裸を見せるならダクネスが寝ている隙にしましょうか。」

 

 

俺には恋人(アイリス)が居るからめぐみん達の色仕掛けに落ちないようにしようと思った矢先にこれだ。こんな状態では先が思いやられる。俺は恥ずかしさを隠すようにお風呂場へと向かった。

 

 

5

 

 

風呂場だと言うのに俺達は全員服を着ていた。唯一足元だけ裸足になった状態だ。めぐみんとダクネスの手元には体を洗うためのタオルが握られている。二人はお風呂のお湯を汲みそれぞれタオルに浸していた。それからそのタオルでシャツの内側を拭く。

 

 

「カズマも体を拭いてあげましょうか?」

 

「ああ、頼む…………いや。ちょっと待て」

 

 

ここでめぐみんに体を拭いてもらって大丈夫なのか?彼女(アイリス)と付き合っている以上それは浮気にならないか?

 

 

「カズマ、拭きますよ?」

 

 

色々と考えているうちにめぐみんがシャツを捲りあげて体を拭いてくる。おお……これは……悪くない……彼女(アイリス)の事は一旦忘れよう。俺達の様子を見てダクネスがチラチラとこちらの様子を窺っている。

 

 

「なんだよダクネス、俺の上半身にそんなに興味があるならいくらでも見せてやるぞ?」

 

「ち、違う!私も日頃お世話になっているし体を拭くのを手伝ってあげようかと思っただけだ……」

 

 

最後の方は声が小さくて聞こえなかったがしおらしいその態度に不覚にもドキドキしてしまった。畜生、何で俺の周りにはこんなに見てくれは良い奴ばかりなんだ!

 

 

「なんならタオルじゃなくてそのいやらしい胸を使って体を洗ってくれぇあああ!!冗談です冗談です!アイアンクローはやめてえええ!!!」

 

 

6

 

 

「す、少し早いがもう寝ないか……?」

 

 

風呂からあがってまだ十分と経っていないが、ダクネスがどこか緊張した様子で言う。手錠で俺と繋がれている事にあまり慣れてなくて緊張してるのだろう。

 

 

「ああ。明日朝イチで催す前に庭へ鍵を探しに行く。これでいいな?」

 

 

つい先程トイレを終わらせてきたが無駄に体力を消費した。

めぐみんのトイレの時はダクネスが俺の両耳を押さえながら大声で歌を歌っていた。その耳を押さえる力が強すぎて途中から叫び声に変わっていたくらいだ。

一方、俺がトイレをする時は両手が使えないので『ち〇こが変な所向いてる!ヤバい!』『どこ向いてんだお前!』等と叫んでいたら個室の前でめぐみんが『妙齢の少女の前でそんなにち〇こち〇こ叫ばないでください!』と言い返して下品な物言いにダクネスが顔を赤くしたりと散々だった。

 

とにかく疲れたからもう横になりたい。

流石に一人の部屋に三人で寝れるほどベッドは広くないので今日はリビングで布団を敷いて寝ることにした。どうせリビングで寝るのなら自分も一緒に寝たいとアクアが駄々を()ねていたが、彼女(アイリス)がいるのにこれ以上他の女の人と同衾するのは気が引けたので丁重にお断りしておいた。まあめぐみん達も一緒に寝るのはアウトだけどそこは不可抗力ということで……

 

俺は右手をダクネスと、左手をめぐみんと手枷で繋いでいるので、俺の右側にダクネス、左側にめぐみんが寝ることになる。横になっているうちに次第に思考が微睡(まどろ)み始め眠りについた

 

 

7

 

 

眠りに着いてからどれくらい経っただろうか……俺はふと目を覚ました。時刻は……まだ深夜だ。早い時間に寝てしまったからこんな時間に起きてしまったのか?再び眠りにつこうと目を閉じると。

 

 

「……カズマ、起きてますか……?」

 

 

左側からめぐみんの小さな声が聞こえてきた。つい先程起きた所だが返事をする気にならなくて黙って寝たフリをしてしまう。

 

 

「……寝ているなら凄いことしますよ」

 

 

めぐみんは俺の胸に左手を置いてくる。そのまま手を徐々に徐々に下の方へとスライドさせていく。その手がおへその辺りに来た所で俺は思わず声を上げてしまった。

 

 

「おいやめろめぐみん、何する気だ。」

 

「きゅ、急に声を出さないでくださいよ。びっくりしたじゃないですか!」

 

「びっくりしたはこっちのセリフだ。やっぱりお前痴女だろ。今どこ触ろうとしてたんだ。」

 

「ちち、違いますよ!カズマが起きてるかどうか確認しようとしただけです!」

 

 

本当か?めぐみんの事だから何かやらかすつもりだった気がしてならない。ふと右側を見るとダクネスがすーすーと規則正しい寝息を立てていた。俺も眠りたいのだが一度目が覚めてしまった。中々寝付けないし、少しめぐみんと話すか。

 

 

「今日思ったけどお前子どもの世話上手いよな。やっぱりこめっこがいたからそういうのに慣れてるのか?」

 

「そうですね。うちは両親が共働きで妹の面倒見るのが必然的に私でしたからね。カズマが世話して欲しいなら私はいつでも面倒見てあげますよ」

 

「マジで?そんな夢みたいな生活送れるの?」

 

 

でも別にめぐみんに世話して貰わなくても彼女(アイリス)と結婚する事になればメイドや執事にずっと世話して貰えるしそんなに変わらないかもな。そんな事をなんとなく考えていた俺にめぐみんが。

 

 

「……カズマ。」

 

 

若干、不安気な顔で俺の方をめぐみんが見る。

 

「?」

 

寝転がった体勢で、何気なくめぐみんの方に首だけを向けた俺に。

 

 

「……アイリスと恋人同士になったという話は本当ですか?」

 

 

突然めぐみんがそんなことを言う。一体どこでその話を聞いたのか。ゆんゆんかそれともアイリスから言ったのだろうか。

 

 

「まあそんな筈ないことは知ってますよ。アイリスが見栄を張って嘘をついているのでしょう。全く下っ端の行動には困りますね。カズマからも言ってやってください。そんな嘘は迷惑だと。」

 

 

返事をする間も与えずにめぐみんが矢継ぎ早に話す。どの道いつかはアイリスとの関係を言わなくてはならないのだ。ここはヘタレずにちゃんと言おう。

 

 

「なあ……めぐみん」

 

「どうしました?カズマから言いにくいのであれば私から言ってあげますよ。下っ端の面倒を見るのもお頭の役目ですからね。」

 

「違うんだ……俺はアイリスと恋人同士になったんだ……」

 

 

俺の発言を聞くとめぐみんは捲し立てるように喋っていたのをやめじっとこちらを見つめてきた。じっくりと俺の言葉の意味を理解するように。

 

 

「……嘘です」

 

「……ごめん」

 

「嘘なんですよね!?お願いですから私には本当の事を言ってください!」

 

 

そんな大声で話すとダクネスが起きてしまうのではと思うがめぐみんにはそんな事を気にする余裕はないようだ。

 

 

「いや、全部本当のことなんだ。その……仲間以上恋人未満の関係だったのにごめん。どうしてもアイリスのお願いに断れなくて……」

 

「やっぱり無理やり恋人にさせられたんでしょう!?大丈夫です、私も一緒に断りに行ってあげますから!」

 

「その……ちゃんと恋人同士になった以上、俺も誠心誠意向き合おうと思ってな。悪いけどめぐみんの気持ちには応えられない。本当にごめん。」

 

 

俺の言葉に嫌という程現実を押し付けられためぐみんは嫌だ嫌だと必死に頭を横に振る。そんな彼女に申し訳なくてただ謝ることしかできない。

 

 

「…………分かりました」

 

 

急に何が分かったのかとめぐみんの顔色を窺う。

 

 

 

 

 

「今から犯します」

 

「は?」

 

「そおい!!」

 

 

めぐみんが勢い良く俺のシャツを脱がす。俺は首の辺りまでシャツを捲りあげられている。そのままめぐみんは俺の上に馬乗りになると腰をゆっくりと前後に揺らしめぐみんの股で俺の股を擦り始めた。

 

 

「ちょ、待て待て待て!こんな所ダクネスに見られたら俺もお前もタダじゃ済まないぞ!」

 

 

そんな事を言いつつも俺の愚息は着実に硬度を増していた。めぐみんがスリスリと俺の息子を擦っているからだ。

 

 

「ええこんな所をダクネスに見られたら大変でしょう。ですからカズマ、大きな声を出してはいけませんよ。」

 

 

めぐみんの目は決意に満ちており俺の説得ではどうにもなりそうにない。声も出せないし両手は手錠で拘束されているし俺はまともに抵抗できずにいた。

 

 

「ここも辛そうになってきましたね。今楽にしてあげますから。」

 

 

めぐみんがズボンのベルトを手錠をつけてない方の左手でカチャカチャと脱がせていく。ヤバい!これマジで最後まで行く流れだ!

 

 

「め、めぐみん!アイリスともまだここまでやってないから!一旦落ち着こう!なっ?」

 

「ほうほう、なら私が下っ端より一歩リードですね。これでゆんゆんにも自慢できます。」

 

 

とうとうめぐみんがズボンを脱がし終え俺のパンツに手をかける。

 

「そおい!!」

 

「ぎゃああああ!!!」

 

俺のちゅんちゅん丸は屹立(きつりつ)し嫌という程存在感を放っていた。めぐみんはそれをマジマジと見つめ顔の前に持ってくる。

 

 

「……なんか小さいですね」

 

「はぁ!?おいこら温厚な俺でも流石に怒るぞ!めぐみんだって胸小さいだろうが!」

 

「な、なにおう!私はまだ発展途上なだけです!カズマのはもう成長しないじゃないですか!」

 

「せ、成長するし!年々少しずつ大きくなってるんだからな!」

 

 

しばらく言い合ってた俺達だったがやがてめぐみんがこんな事してる場合じゃないという顔で黒の下着を脱ぎ出した。

 

 

「ちょっと待て。なんでパンツ脱いでんの?」

 

「ふふふ、それはカズマのものをここに入れるためですよ。」

 

 

しばらくめぐみんの言ってる意味が理解出来なかった俺だが蜜壷に俺のものを入れるつもりだと理解した。ダメだ、俺にはアイリスがいる。こんな形でアイリスの事を裏切るのは嫌だ。

 

「じゃあ入れますよ……」

 

「おい本当にやめろ!もう俺にはアイリスが居るんだ。あいつの為にも本当にこれ以上は洒落にならないって!」

 

「……もうアイリスの事は忘れてください。行きますよ!うぐっ……!」

 

 

俺の肉棒がめぐみんの膣に吸い込まれていく。擬音で表すならばズブズブという感覚だろうか。

 

「痛っっっ!!」

 

めぐみんは酷く顔をしかめている。俺の剛直は一度蜜壷に吸い込まれたと思われたがすぐに外に出てしまった。

 

 

「め、めぐみん?」

 

「い、痛いです……!」

 

 

頭を起こして下を見てみると赤い鮮血がめぐみんの股から広がっていた。え!?何で血出てるんだ!?無理に俺のを中に入れたからなのか?

 

 

「だ、大丈夫か?どこか怪我したのか?」

 

「……いえ、だ、大丈夫です。ちょっと処女膜が破れただけですから……」

 

 

初体験ってそんなに痛いものなのか。だが辛うじて一線を超えることはないようだ。

 

 

「はぁ……はぁ……無理です。これ以上は入りません……」

 

 

めぐみんが無理と言って俺は内心どこかホッとしていた。アイリスと交際を始めたのは昨日や一昨日ではない、今日だ。今日から恋人になったのだ。それなのにこんなすぐにアイリスを裏切っていいはずがない。

 

 

「中には入れられなかったので手で処理してあげましょうか?」

 

「ほーん……それは……ひょ?」

 

 

めぐみんが左手で俺の竿を上下に扱く。拙い動きだが、この調子なら射精まで行き着くのは時間の問題だろう。

 

 

「どうですか?気持ちいいですか?」

 

「…………」

 

「カズマ?」

 

 

何だろう、この感覚は。俺の目の前にいるこいつは何なんだ。俺の中で急速にめぐみんのイメージが崩壊していくのを感じる。それは彼女(アイリス)がいるのに無理やり犯してくるめぐみんへの苛立ちか、何も抵抗出来ない自分への不甲斐なさから来るものなのか分からない。だが一つ確実なのは、俺はただただめぐみんが憎くてしょうがなくなっている事だ。

 

 

「めぐみん、本当にやめてくれ」

 

 

俺は語気を強くして言った。

 

 

「そんな事言いながらこっちはカチコチですよ?こう言うのなんて言うんでしたっけ?『体は正直』ってやつですね」

 

 

めぐみんは俺の気持ちを意に介さず手こきを続けてくる。俺は嫌な気分でいっぱいだったが剛直は大きく反り返りめぐみんの手に反応していた。

 

 

「クソっ……!もう出る……!」

 

「で、出ちゃうんですか!?え、えーと……こういう時は……?」

 

 

太ももの内側からジワリジワリと何かが込み上げてくるのを感じる。やがて強い射精感に襲われた。

 

 

「ごめん……!アイリス!」

 

「きゃっ!」

 

 

俺の愚息は精を勢いよく吐き出した。暴発した後もしばらく吐精を続ける。精の一部がめぐみんの手にもかかってしまった。

 

 

「はぁ……はぁ……やべ……ダクネスの服にもちょっとかかってるじゃないか。しかも臭うし……どうすればいいんだこれ……」

 

 

昔の俺だったらめぐみんみたいな美少女に扱いてもらえるなんてどんな役得だと喜んでたかもしれないが、今は彼女(アイリス)がいる。とにかくこの事をどうやって秘密にするか、それしか考えてなかった。

 

 

「これはカズマが私に興奮してくれた大事な印ですよ。明日の朝まで大切に取っておきましょう。」

 

 

とりあえず精子にピュリフィケーションをかけておこう。精子がピュリフィケーションで綺麗に出来るのかは甚だ疑問だがやるに越したことはないだろう。

 

『ピュリフィケーション』

 

「まだ臭うか?」

 

「ああ……折角の愛の証が……」

 

 

とりあえず応急処置だが臭いはこれで大丈夫だ。ダクネスは寝ているしこのまま何事もなく朝を迎えれば今夜のことはバレないだろう。そう考えると今まで感じていた不安から解放されどっと疲れが押し寄せてきた。

 

 

「カズマカズマ」

 

「何だ?」

 

「今晩の事、責任取ってくださいね。」

 

 

めぐみんから発せられた言葉は俺が今一番考えないようにしていた事だった。腟内に出してないとはいえ背徳的な行為に及んでしまったのだ。アイリスさえ居なければ俺はちゃんと責任を取っていただろうが俺にはアイリスがいる。

 

 

「でも俺にはアイリスがいるから……」

 

「ここまでしておいて何もなかった事にする訳じゃないですよね?大丈夫です。アイリスには私から話しておきますから。」

 

 

その瞬間俺の頭はかつてないほどに高速で一つの解決策を導き出した。それは、今夜のめぐみんとの情事を秘密にしておくことだ。無論何もしなければめぐみんが牽制の為に誰かに言いふらすかもしれない。だから先手は打っておく。

 

 

「よく聞いてくれめぐみん。今日あった事は誰にも言わないでくれ。アイリスやゆんゆん、ダクネス達にもだ。」

 

「そんな訳にはいきませんよ。今日の事はなかった事に出来るような内容じゃないですから。」

 

「ああ、だから約束する。この事はちゃんと俺の中で責任を取る。でもいきなりアイリス達に言ったらめぐみんに何かしら被害が及ぶかもしれない。それまでの間、秘密にしておいてくれないか。」

 

「本当ですか?ふふっ嬉しいですね。分かりました。二人だけの秘密ですよ」

 

 

ダクネスが起きる前にめぐみんに衣服を着させて貰い、ちゃんと横になる。めぐみんは寝るまでの間俺の胸に左手を乗せていた。その手は先程まで俺の陰茎を握っていたレイプ魔の汚い手だった。

 

 

 






出来るだけ意味のない会話を減らすように心がけてみたのですがどうでしょうか。違いが分からんって人がほとんどだと思いますが……


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この夜の王城に招来を!



UA一万回+お気に入り100人突破!!
ここまで来れたのも偏に読者さまのおかげです。ありがとうございます。
余談ですが前回の投稿の後UAとお気に入りの数が爆増しております。一体何があったのやら……
今回は約一万千字あります。





 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。相変わらず俺とダクネスとめぐみんの三人は手錠で繋がれたままだった。

 

 

「それじゃあ庭に鍵を探しに行くぞ。アクアも起こして手伝ってもらうか」

 

「あ、その必要はありませんよ」

 

 

めぐみんは淡々と述べる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「だって手錠の鍵は私達の部屋にあるのですから」

 

 

…………は?

 

 

「何言ってんだお前。昨日鍵は屋敷の庭に捨てたって言ってたじゃないか。」

 

「ええ、ですからそれは嘘ですよ」

 

「すまないカズマ、私は反対したのだがめぐみんがどうしてもと言うものでな……」

 

 

なんてこった。つまり昨日の逆レイプは鍵をなくしたと嘘をついて俺を騙しためぐみんの計画的な犯行だったという事か?正直めぐみんの事を舐めていた。ここまでやる奴だったとは……

 

 

「どうしました、カズマ?酷い顔をしてますよ。」

 

 

お前に犯されて傷ついてるんだよと俺は言いたい気持ちに駆られるが隣にはダクネスもいる。今この話をする訳にはいかない。

 

 

「……だ、大丈夫だ。ちょっと昨日は寝付けなかっただけだから。」

 

「ふふ、昨日はお楽しみでしたもんね。」

 

 

めぐみんは上機嫌にそう言ってから自分の部屋へと向かっていく。勿論手錠で繋がれている俺とダクネスも後ろからついていく。

 

 

「カズマ、大丈夫か?めぐみんに何か言いづらい事があるなら私が聞くぞ?」

 

 

こっそりダクネスが耳打ちしてきた。俺は出来るだけ強がるように言った。

 

 

「大丈夫だって。いつも夜更かししてるから昨日は中々寝れなかっただけだ。」

 

「本当にそれが理由か……?」

 

 

ダクネスが尚も聞いてくる。それでも昨晩の事を言う訳にはいかない。ダクネスと会話しているうちにめぐみんの部屋へと着いた。めぐみんが引き出しから鍵を取り出す。めぐみんは鍵を手に取り名残惜しそうに手錠を眺めた。

 

 

「本当にもう外していいんですか?」

 

「当たり前だろ。このままだとトイレに行くのですら苦労するんだぞ。」

 

 

めぐみんは手枷に鍵を嵌めガチャりと鍵を回す。久しぶりに手が自由になって少し嬉しい。昨夜の事があって俺とめぐみんの関係は大きく変わってしまった。めぐみんが昨日の事をいつ誰かに言ってもおかしくない。早いうちに何とかしないといけない。俺は彼女(アイリス)に申し訳なさを覚えながらそう考えるのであった。

 

 

2

 

 

手錠を外し、朝食を終えた俺はウィズ魔道具店に来ていた。

 

 

「へいらっしゃい!仲間の紅魔の娘の醜い一面を見てしまい、悩みを誰にも言えず悶々と悩む小僧よ!よく来たな!」

 

 

俺が今やる事はめぐみんとの情事を他の奴らに隠す事だ。ダメ元ではあるがバニルに何か助言を貰いに来た。

 

 

「ふむ?あまり吾輩の好みの悪感情が湧いてこないな。」

 

「悪いがお前の発言に一々イラついてる程暇じゃないんだよ。」

 

「つまらんな。だがそんな汝にとっておきの商品を入荷しているぞ。」

 

「オススメはコチラ!記憶を消去するポーション!」

 

 

記憶を消去するポーション。これは昔王城で飲まされた事がある。バニルがこれを持っているなんて……

 

 

「これ……本物か?」

 

「無論本物である。王城の禁忌とされている幻のポーション。記憶喪失という珍しい状態異常を引き起こす代物であるな。」

 

 

もしこれをめぐみんに飲ませることが出来れば……昨晩あった情事を知る者は誰もいなくなる。正に今の俺にうってつけの商品だ。

 

 

「小僧の目論見通りこれを使えばネタ種族の娘との濡れ事を忘れさせることも可能であろう。」

 

「ありがとなバニル、これ買うぜ」

 

「毎度あり!と言いたい所だが、これは生憎希少なポーションでな。お金で買えるような物ではない。」

 

「はあ?ここに来て話が違うじゃないか?金ならいくらでも出すぞ。」

 

「無論金は貰う。だが、それだけでは足りぬ。このポーションを買いたいという貴族が居てそこも金を出すと言っておるのだ。」

 

「つまり……俺に何をして欲しいんだ?」

 

 

俺の言葉を聞くとバニルはわざとらしく口元をニヤッと歪ませ、

 

 

「対価としてあらゆる状態異常を治す『万能薬』を手に入れてきてもらおうか。それと一億エリスで如何(いかが)かな?」

 

 

万能薬……?聞いた事がないな。だがあらゆる状態異常を治せる薬ときた。相当貴重な物だろう。

 

 

「その万能薬ってのはどこにあるんだ?」

 

「王城の宝物庫の中である。」

 

「なめんな」

 

 

そんな場所に取りに行ける訳がないだろう。一度王城に侵入した事はあるが二度と行くのは御免だ。

 

 

「そもそも俺じゃなくてバニルが取りに行けばいいだろ。何で俺なんだよ」

 

「吾輩はポンコツ店主が居る以上、店を長いこと開けてられないのでな。それに相談屋の仕事もある。一日でも暇は作れないのだ。」

 

「もう一つ聞いていいか。お前は何で万能薬なんか欲しいんだ?お前って状態異常なんか無縁な存在だろ?」

 

「フハハハ、それは吾輩が悪感情を食す事が出来るからである。貴様が万能薬を取りに行くと滅多にお目にかかれない程の悪感情が手に入るのでな。」

 

 

なるほど、こいつにもメリットがあるのか。どうするか……正直言うと記憶消去のポーションは喉から手が出る程欲しい。だが、王城の宝物庫まで取りに行くのは危険すぎる。それこそ捕まってしまってはタダでは済まないだろう。

 

 

「バニル、もうちょっと条件を良くしてくれないか?流石に俺も城に入って宝を盗むのは……」

 

「では仕方ないな。今回の商談はなかったことにするしかあるまい」

 

「だあーー!!分かったよ!取ってくればいいんだろ!」

 

 

俺はバニルに向かって代金を投げつける。バニルはそれを難なく片手でキャッチした。これ以上ここに居てもバニルに悪感情を貪られるだけだ。俺は早足で店を出ようとする。

 

 

「少し待て小僧、商品をお買い上げ頂いたお得意様に二つほど助言をしておこう。」

 

 

バニルが俺を引き止める。俺は嫌な顔をしながら振り向いた。

 

 

「一つ目は、吾輩は人間ではなく悪魔だ。その事をしかと心得よ。」

 

「はあ?そんな当たり前のことを。今更何言ってるんだ?」

 

「まあ聞け。二つ目は今宵は満月だ。偶には悩んでばかりおらず夜空でも見上げてみろ。」

 

 

一体こいつは俺に何を伝えようとしているのだろうか。しかし、何でも見通すバニルの事だ。後々役に立つかもしれない。

 

 

「最後にこれを持っていけ。吾輩の仮面の試作品の第一号だ。」

 

 

バニルがこちらに何かを投げつけてくる。俺はそれをキャッチした。見てみるとそれはバニルが普段付けている仮面とは違うキツネのような仮面だった。

 

 

「仮面なら既にバニルの顔のものがあるからもうこれ以上仮面は要らないんだけど」

 

「たわけ。吾輩の仮面を使えばすぐにお前の正体がバレてしまうだろう。それにそのキツネの仮面は今までの仮面とは一味違う新機能が付いておる。つべこべ言わず持っていくが吉」

 

確かにあの仮面だとクレアに正体がバレていたな。俺は素直にキツネの仮面を受け取り店を出た。

 

 

3

 

 

俺は屋敷のリビングで王城に侵入する準備をしていた。久しぶりに盗賊としての活動だ。いざという時の為のダイナマイト、ワイヤー、弓矢の整備などに勤しむ。リビングには俺とめぐみんしか居ない。アクアとダクネスは恐らく自分の部屋だろう。俺も自室で王城へ侵入する準備をしても良かったのだが、めぐみんが誰かに昨晩の事を言いふらすのではないかと考えると怖くてめぐみんを出来るだけ監視できるようにリビングに居た。俺がテーブルで紅茶を飲んでいると、ふとめぐみんが

 

 

「カズマカズマ、良かったら今夜もエッチなことしませんか?」

 

「ぶはっ!!」

 

 

俺は紅茶を勢いよく吹き出す。

 

 

「なな、何言ってんだお前!?」

 

「動揺し過ぎですよ。前回は上手く中に入らなかったですからね。今夜はこの潤滑液を使いましょう。」

 

 

そう言ってめぐみんはポーションのようなものを掲げる。めぐみんはどこかワクワクした表情だった。

 

 

「俺にはアイリスが居るって言ってるだろうが!それに今夜は王都へ行くから無理だな。」

 

「なっ!?まさかアイリスに会うつもりですか?」

 

 

めぐみんが今にも掴みかかりそうな勢いで俺に詰め寄る。

 

 

「まぁひょっとしたら会うかもな」

 

「あの泥棒猫にカズマが取られるかもしれませんね……」

 

「ちょお前!どこ触ってんだよ!」

 

 

めぐみんが俺の隣のイスに座り、俺の股を手のひらで擦り始めた。

 

 

「カズマが私の物だって体に覚えさせてるのですよ。」

 

『ドレインタ……』

 

「あの事を言われたくなかったら抵抗しないでください。」

 

 

そこで俺の動きは止まる。あの事とは昨晩の情事のことだろう。それを口実にされたら俺は強く出れない。めぐみんの手はまださわさわと様子を窺うような手つきだ。

 

 

「め、めぐみん、ここだと……うっ……!いつアクア達が入ってきても……っ!……おかしくない。」

 

「ほう、ならアクア達に見せつけてあげましょう。カズマが私の物になる所を」

 

 

めぐみんはズボンの上から触るのを止め、ズボンの中に侵入してきた。ズボンの中でパンツを捲り俺の剛直に手を出す。俺の物は既にいきり立っており暴発するのも時間の問題だ。

 

 

「アイリスの事は忘れましょう。これからは私がカズマの面倒を見ます。」

 

 

相変わらず拙い動きだがそれでも俺の弱点を小さな力で刺激してくる。何かが股の奥から込み上げてくる。そして、暴発まであと一歩の所で……

 

ガチャ。

 

突然アクアがリビングに入ってきた。俺は完全に発射するつもりだったがめぐみんがすぐに手を引っ込めてしまった。俺は直前でお預けを食らってしまい大きな喪失感に襲われる。

 

 

「二人とも並んで座ってどうしたの?」

 

 

俺達はアクアに背を向けるようにして座っている。そのおかげでズボンからはみ出た俺の剛直はアクアに見えないだろう。だが、俺は呆然としており自分の(ぶつ)をしまう事さえ思いつかなかった。

 

 

「べ、別に何もありませんよ。」

 

「ふーん?私は今からお昼ご飯作るから何か作って欲しいものある?」

 

「そうですね、サンドイッチなんてどうでしょう。」

 

「あらいいわね。じゃあお昼ご飯は高菜おにぎりにしましょう。」

 

「はい……ってちょっと待ってください。私の要望と全然違うじゃないですか!」

 

 

めぐみんとアクアが何か話してるのが耳に入ってくるがその内容を理解出来るほど俺は理性が残っていなかった。早くイきたい。早く出したい。その思いだけが頭を支配していく。

 

 

「カズマ、さっきの続きをして欲しいですか?」

 

 

アクアがキッチンに居る隙にめぐみんが誘惑してきた。俺は僅かに残った理性で首を横に振る。俺には彼女(アイリス)がいるのだ。

 

 

「もう、素直じゃないですね。」

 

 

俺の言葉を聞いてめぐみんは俺の隣の席を立ち上がって向かい側に座った。

 

ガチャ。

 

今度はダクネスがリビングに入ってきた。俺は我に返り自分の一物をズボンの中にしまう。鈍感なアクアと違いダクネスは敏感だ。怪しい行動を取ればすぐにバレてしまうだろう。ダクネスはさっきまでめぐみんが座っていた俺の隣の席に座った。

 

 

「みんな揃ったわね。これが今日の昼ごはんよ!」

 

 

アクアが持ってきたのはフライパンに入れられた炒飯だった。

 

 

「アクア、さっき高菜おにぎりを作るって言ってませんでしたか?」

 

「ええ、でもおにぎり作ってたら炒飯が食べたくなっちゃったの。」

 

「そうですか……自由奔放というか……まあいいでしょう。」

 

 

めぐみんとアクアはご飯を自分の皿に取り始めた。隣に座ったダクネスが暫く俺の事を見て訝しげに言う。

 

 

「カズマ、何だか様子がおかしいぞ?」

 

「……そんな事ないぞ。」

 

「……そうか」

 

 

それだけ言うとダクネスはそれ以上詮索してこなかった。

 

 

「そうだ!みんなに言っておかないといけないことがあるの!信者の子達が明日宴会を開いてくれるのよ!だから明日の夜ご飯はいらないからね!」

 

「いや、明日の夜ご飯の担当はアクアじゃなかったか?外出するなら別の人に頼んでおくといい。」

 

「じゃあカズマさん、お願いね!」

 

「……ああ、わかった」

 

 

ダクネスとアクアはキョトンとした表情でお互いに顔を見合わせる。

 

 

「カズマさんったらどうしたの?いつもなら何で俺がやるんだよとか、他の奴に頼めよとか言うのに」

 

「ああ、やはり様子がおかしいぞ。熱でもあるのか?」

 

「だから俺は普通っ……!」

 

 

めぐみんがテーブルの下から足を伸ばし俺の股の所に置いてきた。こいつ……隣にはダクネスが居るんだぞ!めぐみんは俺の焦った様子を見てニヤニヤとしている。俺はめぐみんの足が隣から見えないように下半身をテーブルかけの中に隠すように座った。

 

 

「今ならカズマさんが私の言う事を何でも聞いてくれそうね。カズマさん、今日のトイレと風呂掃除の当番代わってくれないかしら?」

 

「はぁ?誰がお前の……っ!代わりなんか……っ!す、するか……!」

 

 

めぐみんが俺の剛直をゲシゲシと足の裏で踏み潰す。先程よりも深い笑みをめぐみんは浮かべている。さっき寸止めされた事もあり敏感になってる俺の物は今にも暴発しそうだった。

 

 

「カズマさん?本当にどうしたの?お腹痛いの?」

 

「だからっ!何でも……うぐっ……!で、出るっ……!」

 

 

俺の息子は大量に中身の液体を外に出した。大きな快感と共に俺を襲う疲労。俺はテーブルに突っ伏したまま肩で息をした。

 

 

「ふふっ、カズマ、大丈夫ですか?一旦部屋で横になった方が良いんじゃないですか?」

 

「……ああ、そうする」

 

 

俺の事を心配そうに見るアクアとダクネス、俺を自分の思い通りにして喜ぶめぐみんに見送られながら俺はリビングを出た。

 

 

4

 

 

時刻は深夜。俺はテレポートで王都へ来て今は王城の門の前まで着いていた。今日はとにかく疲れた。昼食の時と言いめぐみんは暇さえあれば俺にエッチなイタズラを仕掛けてくるようになった。キッチンでダクネスとアクアが皿を洗っている間にソファで手こき。俺がトイレに入ったと思ったら後ろから入ってきて手こき。今日だけでも三発は出しており俺はかなり疲労感が溜まっていた。俺には彼女(アイリス)がいるというのに。

 

俺は黒装束に身を包み、今朝方バニルから貰った新しい仮面を付けていた。宝物庫は昔王城に居た時に何度か前を通った事がある。大まかな場所は分かっているつもりだ。

まず、ロープを括りつけた矢を二階の窓の近くに向かって放つ。俺は『パワード』で筋力を上げそのロープを伝っていく。やがて矢の先端に到達すると昔テレビで見た焼き破りの用法で窓の一部に穴を開ける。ガラスの破片が外に散らばらないように気をつけて少しずつガラスの窓を割っていく。多少音が鳴るが敵感知スキルで近くに人が居ないことは確認済みだ。やがて人一人が入れるほどになった穴から俺は潜入した。俺は部屋の中に散らばった窓ガラスの破片を『ウィンドブレス』で部屋の隅に寄せ集め、割った窓にはカーテンを閉めておいた。これで侵入に気づかれにくくなるだろう。と、その時二人分の話し声が聞こえてきた。

 

 

「俺はこんな暇な仕事をする為に訓練してきたのか?」

 

「まあそう言うな。兵士が暇なのは平和な証拠だ。」

 

 

この城を見回っている兵士だろう。俺は念の為潜伏スキルを発動し、机の下に隠れる。

 

 

「そうだけどよ、こう毎日毎日見回りばかりしていると飽きてくる。偶にはサボってどこかで遊び呆けたいぜ」

 

「そうやって油断している時に限って不届き者が入ってくるもんだ。もしサボりがバレたら減給は確実だろうな。」

 

 

二人組の足音はどんどん近づいてくる。この部屋に入られるか……?もし入られるなら今のうちに鍵を内側から閉めておくべきか。だがそのまま通り過ぎるかもしれない。俺は二人が中に入ってこない可能性に賭けてそのまま机の下で待機した。

 

 

「この部屋もどうせ誰もいないぜ。」

 

 

……大丈夫……か……?

 

 

「いいからついてこい。それ以上文句を垂れるようなら副隊長に報告するぞ。」

 

「けっ。お前はいつも頭が固いんだよ。」

 

 

部屋を通り過ぎようとした兵士をもう一人の兵士が引き止める。

 

ガチャ

 

部屋のドアが開けられた。真っ暗な部屋の中にランタンの光が差し込む。俺は息を潜め机の下から二人の足を観察する。

 

 

「……ん?何だかこの部屋だけ少し涼しいな。」

 

 

ここが涼しいのは部屋の窓が空いているからだろう。どうにか二人がその事に気づかないことを俺はエリス様に願った。俺の幸運値は高いはずだ。きっと何事もなく終わるだろう。

 

 

「……そうか?俺には何も変わらねえように思うが。……あれ、ここだけカーテンが閉まってるな」

 

「おい!今すぐ応援を呼んでこい!」

 

 

この部屋の異変に気づいた兵士がもう一人の兵士に叫んだ。俺はすぐさま机から出ていく。

 

『バインド!』

 

兵士をロープで拘束しようとスキルを使う。突然の俺の奇襲に一人は避けたが油断していたもう一人の兵士に命中した。

 

 

「その仮面……お前銀髪盗賊団だな?今日は一人か?」

 

「さあな、他にもこの城には俺の仲間が居るかもしれないぜ?」

 

 

俺は出来るだけ去勢を張って答える。地面に転がって拘束された方の兵士が言った。

 

 

「丁度見回りに退屈してた所だ。感謝するぜ坊主!」

 

「お前は黙っていろ!……さっき応援を呼ぼうとした時に襲ってきたのはお前だけだ。つまり少なくともこの部屋にはお前一人しかいない。」

 

 

図星を突かれた俺は何も答えることが出来ない。

 

『クリエイトアース』

 

俺は魔法を唱え土を手のひらに乗せる。

 

「そのまま『ウィンドブレス』で目潰しするつもりだろう?その手には乗らないぜ!」

 

俺の目潰しに警戒している兵士は間合いを一気に詰めて、俺に斬りかかってきた。

 

『バインド!』

 

「なっ!?」

 

 

意表を突かれた兵士は俺のバインドに為す術なくやられた。後は『ドレインタッチ』を使って二人の気を失わせる。万が一誰かが入ってきても出来るだけバレないように俺は二人を引っ張ってカーテンの裏に隠した。

 

ひと仕事終えて少し安心する。カーテンの裏から外を見ると、空には綺麗な丸い月が浮かんでいる。確かバニルが言っていた、『偶には悩んでばかりおらず夜空を見上げてみろ』と。正直言って今の俺には悩み事が多すぎる。めぐみんの過剰な愛にアイリスを裏切ってしまった事。その事を秘密にする為に記憶消去のポーションを手に入れなければならないし……。俺は空に浮かぶ月を見上げてるうちに次々と愚痴が溢れてきた。俺の不平不満を満月は黙って受け止めてくれるようで、床に座りボーッと月を眺める。そのうち意識が薄れ始め次第に視界が暗くなっていった……

 

 

5

 

 

……はっ!寝過ごした。月の位置を見るに最後に寝た時からそう時間は経ってないようだ。俺はすぐさま部屋から出て宝物庫へ向かおうとしたその時、

 

 

《小僧よ、闇雲に進んでも空回りするだけだぞ》

 

「うわっ!」

 

 

俺は驚いて小さな声を上げてしまう。この声はバニルの声だ。一体どこから声が聞こえるのか。まるで頭に直接響いてくるようだ。

 

 

《吾輩はここである。艶事を隠す為、ここまで乗り込むも敵陣の中で眠りこけた図太い男よ》

 

「うぜえ……」

 

 

バニルを見つけるより先に悪態をつく。声の元は俺が今顔に付けている狐の仮面からだった。バニルが仮面の試作品と言っていたがまさか仮面が喋るとは……

 

 

《今回のお目当てである万能薬は宝物庫の中にある。が、宝物庫には名うての魔法使い達が結界を張っていてそう簡単に中には入れない。まずはそこをどうにかするのだな。》

 

 

なるほど……宝物庫には結界が貼ってあるのか。まずはその結界を解かなければならないと。

 

 

「その結界はどうやって破るんだ?」

 

《これ以上の情報を望むならそれ相応の対価を払ってもらおうか。》

 

 

こいつ……!俺の足元を見てきてやがる……!バニルの思惑通りに対価を払うのも癪なので俺は無視して道を進む。しかし、宝物庫に結界が張っている以上、どうしようもない。その結界を張った魔道士を探さなければ……そう考えてるとふと廊下の横の部屋に目がいく。

 

『通信室』

 

……ふむ。俺はとある作戦を思いつきこの部屋の中に入る。部屋の中は飛行機のコックピットのように至る所にボタンやレバーが付いていた。

 

『ヴァーサタイルエンターテイナー』

 

俺はその内の一つのボタンを押しクレアの声を真似しながら話した。

 

 

『こちらクレア、アイリス様の容態が急変した。宝物庫にある神器を取りに行きたい。結界解除の準備を頼む。今から宝物庫に使いの者を送る。』

 

「あ、アイリス様が!?分かりました!急いで向かいます。」

 

 

アイリスの事を心配したのか焦った様子で向こうが答えた。よし、これで準備は完了だ。後は宝物庫に向かうだけ……と、俺は自分が怪しげな狐の仮面に黒装束を身につけていることを思い出した。流石にこの格好で人前に出る訳にはいかない。

 

 

6

 

 

「クレア様の命を受けて来ました。」

 

出来るだけ平静を装って話す。俺は宝物庫の前へと来ている。さっきドレインタッチで気絶させた兵士が身につけていた鎧を装着した。兜までつけた俺は傍から見れば俺は兵士の一人にしか見えないだろう。

 

 

「既に詠唱は終わりました。結界はもう解除された筈です。私達は中に入る許可が降りてないのでここで待ってますね。」

 

 

俺は宝物庫に入る。中にはいかにも神器らしい神々しいーラを放つ聖剣、禍々しい雰囲気の腕輪、畏怖を訴えかけるワンドなどが置いてある。そのうちの一つにポーションがあった。だが普通のポーションと違うのは、中身の液体がエメラルド色に淡く発光している事だ。その荘厳な様子に俺は息を呑む。

 

 

《汝が見ているそのポーションこそ万能薬であるな。》

 

 

……って見とれている場合じゃないな。早いことこの万能薬を持ってこの城から抜け出さないといけない。

 

 

「お前達、こんな夜中にここで何をしているのだ?」

 

 

部屋の外から見知った声が聞こえる。声の主はクレアだ。まずい、さっきクレアの声真似をしてここに来たばかりだ。

 

 

「クレア様!アイリス様は無事なのですか?」

 

「アイリス様は自室で眠っているだろうがどうした?最近はいつにも増して笑顔が増えていて元気そのものだぞ。」

 

「え?でもアイリス様の容態が急変したって。」

 

「なんだと?一体誰がそんな事を?」

 

「クレア様が言われたじゃないですか」

 

「「…………」」

 

 

バン!と宝物庫のドアが開けられる。

 

 

「そこの兵士!そこで止まれ!誰の命を受けてこの宝物庫に入った?」

 

「残念、一足遅かったな!『テレポート!』」

 

 

俺は万能薬片手にテレポートを唱え姿を消す…………事はなく、その場に立ったままだった。

 

 

「知らないようだが城にはテレポートを阻害する結界が張ってあるぞ。」

 

「…………見逃してくれませんか?」

 

「見逃す訳が無いだろう!!」

 

『フラッシュ!』

 

俺は目眩しを使い無力化したクレアと魔法使いの間をくぐり抜ける。

 

 

「賊だー!賊が出たぞ!」

 

 

クレアの大声が夜中の城に響いた。

 

 

7

 

 

「待てー!」

 

俺は必死に城の中を逃げ回る。しかも俺は今全身に重たい鎧を着ている。支援魔法はかけているが俺の筋力ではいつもより大分疲れやすい。

 

 

「こっちだ!挟み込め!」

 

 

前方からも追手が来た。挟み込まれた訳だがここで捕まるわけにはいかない。俺は『クリエイトウォーター』で廊下を水浸しにする。

 

『フリーズ!』

 

地面を凍らせた事で前の兵士が次々と転ぶ。次に予めロープを巻きつけた矢を弓にかける。ロープは俺の体と繋がっている。矢を射ると俺は物凄いスピードで兵士の頭上を飛び越えた。

 

 

「痛あああ!『ヒール!』『ヒール!』」

 

 

だが、俺は勢い余ってそのまま壁に激突した。俺が(うずくま)っている間にも兵士は迫ってくる。早く逃げないと。今の俺の格好は全身に甲冑を着ており走るのも一苦労だ。この格好で走り回るのは分が悪すぎる。俺は近くにあった部屋の中に隠れ、身につけていた甲冑を次々と脱ぎ始めた。

 

 

「そこに誰かいるのですか?」

 

 

部屋の中から声がした。その声には心当たりがある。聞き間違うはずもない。俺の可愛い妹であり恋人でもあるアイリスだ。逃げる事に一生懸命で気づかなかったが、俺はいつの間にかアイリスの部屋へ来ていたようだ。

 

 

「アイリス、俺だ。お前のお兄ちゃんだよ」

 

「お、お兄様!?」

 

 

アイリスはすぐに跳ね起き俺の元へ寄ってくる。僅かな月明かりに照らされてアイリスの顔が浮かび上がる。その顔は喜色に満ちていた。

 

 

「アイリス様!クレアです。こちらに賊が侵入したかもしれません。入りますよ!」

 

 

部屋に入ってすぐ、クレアが入ろうとしてきた。まずい、ここに入られたら逃げ道はない。怪我をするかもしれないが窓から飛び降りるか?

 

 

「待ってください、クレア!ここには誰も入ってきていません。私は無事です。賊は他の所へ逃げたのでしょう。」

 

「しかし、アイリス様の無事を確認しない訳には参りません。その賊は他人の声を真似る事も出来るようです。万が一アイリス様の身に何かあってはいけません。ここの鍵を開けてください。」

 

 

クレアが今にも部屋の中に入ってきそうだ。どうしたものか……ここは俺が助太刀しよう。俺はアイリスの声真似をしながら喋る。

 

 

『クレア、恥ずかしいのですけれど今私は服を着ていないのです。ですからこの姿を見せる訳には参りません。』

 

 

隣のアイリスがギョッとした表情で俺の事を見る。そんな顔で俺を見ないでくれ。これはクレア達から逃げる為に仕方ない事なんだ。

 

 

「なっ!?それなら是非とも私にその姿を見せてください!!」

 

 

クレアがより一層興奮した様子で言ってくる。ダメだ、こいつには逆効果だった。

 

 

「服はちゃんと着てますから!とにかく今入ったらダメです!」

 

 

アイリスが俺の言った事をちゃんと訂正してくる。そんな事したらむしろ怪しまれる気がしてならない。

 

 

「やはりこれは賊が声を真似ているのでは……?貴様、アイリス様に何をした!」

 

 

今喋ったのはアイリスなのだが、クレアには怪しまれてしまった。なんとか誤魔化さなければいけない。

 

 

『とにかく今部屋に入ってきたら絶交です!もう二度と口を聞きませんからね!』

 

「うっ……もしこれで本当にアイリス様ならば私はどう立ち直ればいいんだ……!」

 

 

俺の脅し文句にドアを開けるのを渋っているようだ。そう、こいつは極度にアイリスを溺愛している余りこの手の発言に弱い。

 

 

『私はクレアの事が大好きです!信じてくれないのですか……?』

 

「この声はアイリス様に違いない!お前達全員他の部屋を探せ!賊は他の部屋にいるはずだ!」

 

 

クレアは俺の声を聞くなりすぐに手のひらを返した。部屋の外からドタドタと人が遠くへ駆けていく音がする。一先ず危機は去ったか……

 

 

「お兄様、扉の前に立っていないでこちらへ来てください。」

 

 

アイリスが自分のベッドに腰掛けポンポンと隣を叩く。確かにさっきまで走り回っていて疲れたな。少し休んでいくか

 

「ありがとなアイリス、匿ってもらって」

 

「いえ、恋人なのですからこれくらい当然です。」

 

「ですが、お兄様。私が服を着てないなんて言ったらダメですよ。はしたない人だと思われるじゃないですか。」

 

 

正直言うと、『大人のひとり遊びをしているから入らないで欲しい』とまで言うつもりだったが、それは言わない方が良いだろう。

 

「……それで、こんな夜更けにここに来たとはそういう事なんですよね……?」

 

「?……そういう事って?」

 

「で、ですから夜中に男女が二人っきりなのですよ?」

 

 

俺はここでアイリスが言おうとしている事に気づいてしまった。別に俺はそんなつもりは無かったのだが。

 

 

「あー……でもさっきまで走り回ってたし汗かいてるから、こういうのはもっと身を清めてからの方がいいような……」

 

「……えいっ!」

 

 

アイリスが俺の両手首を掴んで押し倒してきた。ベッドに寝転がる俺の上にアイリスが跨る。

 

 

「あ、アイリス……?」

 

「ふふっ、私はお兄様なら良いですよ、体を預けても……」

 

「お兄様……いえ、カズマ様」

 

 

 

 

 

 

 

 

「一緒に大人になりましょう。」

 

 

 

 

 






出来るだけハラハラするシーンを作るように意識してみたのですがどうでしょうか。酷評でも構いませんので感想くださると嬉しいです。


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この淫靡(いんび)な記憶に封印を!

約6500字あります。


 

 

 

 

「一緒に大人になりましょう」

 

 

部屋の外からは相変わらず兵士が走る音が聞こえる。まだ俺の事を探しているのだろう。外の騒音とは対照的に俺達は静かに見つめ合っていた。そのままアイリスの顔が近づいてくる。二人の目は互いを捕らえて話さない。そしてそっとキスをした。アイリスの柔らかい唇の感触が俺に伝わる。

 

 

「アイリス……」

 

 

俺の口からアイリスの名前が(こぼ)れ出た。

 

 

「カズマ様、大好きですよ」

 

 

アイリスからも俺への想いが口に出る。少し前までは妹としてしか見ていなかったアイリスは大人の色気を持つ女性に見えた。

 

 

「アイリス様、レインです。やはり賊がこの部屋に居る可能性が高いのでここを開けて貰えますか?」

 

「むう、続きはまた今度ですねお兄様。」

 

 

……え?……俺は完全に一線を超える覚悟だったんだけど。俺のこの昂った気持ちはどうしてくれるんだ。

 

 

「あ、アイリス。そこを何とかなりませんか?」

 

「私はこの通り無事ですよ、レイン。先程の賊ならそこに居ますが」

 

 

……ってもう扉開けてるし!!!俺は急いでキツネの仮面を付けて窓へと向かう。

 

 

「ここに居ました!兵士の皆さん急いでください!」

 

 

俺は思い切り窓に体当たりしガラスの破片と共に外へと出る。

 

 

「またお預けかよおおおおおお!!!」

 

 

夜中の城に俺の声が木霊した。

 

 

 

2

 

 

 

翌日。俺はバニルとの約束を果たすためウィズ魔道具店へ向かっていた。昨晩はアイリスの部屋の窓から外へ逃走。地面に着く瞬間に風魔法で受け身を取りそのまま王城の外へ出てテレポートでアクセルの街に帰還。我ながら追手から逃れるのが上手くなってきた気がする。そうこう考えているうちにウィズ魔道具店へと着いた。

 

 

「へいらっしゃい!……ほう、まさか本当に万能薬を手に入れて来るとは恐れ入った。」

 

「お前が取ってこいって言ったんだろうが!それで約束のものは用意出来てるんだろうな?」

 

「フハハハハ、地獄の公爵たる吾輩が契約を破る訳がなかろうて。ほれ、これを持っていくが良い。」

 

 

バニルが取り出したのは昔王城で飲まされた事のあるポーションと確かに一緒の物だった。

 

 

「はぁ……本当に助かったよバニル、これさえあれば後はめぐみんに飲ませるだけだ。」

 

「安心するのはまだ早いぞ、このポーションを買いたいと言う貴族がいると言っただろう。吾輩が汝を見た所によるとその貴族がポーションをこっそり盗んでいくやもしれぬ。」

 

「う、嘘だろ!?ここまで苦労して手に入れたんだぞ!絶対に盗まれてたまるか!」

 

「まあせいぜい頑張るのだな。」

 

 

バニルの予言はかなりの確率で当たる。そんなどこの馬の骨だか知れないやつにポーションを盗まれるなんて最悪だ!俺はポーションを懐に隠すようにして店を出る。

と、店の前にはクレアがいた。

 

 

「「…………」」

 

「やっぱりもうちょっと買い物していくわバニル!」

 

「待て、なぜ私を避ける?何か疚しい事でもあるのか?」

 

 

クレアのこちらを疑うような目に俺は思わず目を背ける。お、落ち着け。昨日盗みに入った事はバレてないはずだ。

 

 

「い、いやあ?な、何もないけど?」

 

「ならちょっとついてこい。お前に確認したいことがある。」

 

 

俺はクレアに腕を掴まれ仕方なく後を着いて行った。

 

 

 

 

 

 

 

クレアに連れて行かれた場所は警察署。既に話は付けてあるのか中の警察達はクレアに向かって敬礼をするだけで何も言ってこなかった。俺とクレアは聴取を受ける為の取調べ室のような所へ入る。部屋の中にはレインが立っていた。

 

 

「な、なんだよ。お、俺は何もしてないからな!」

 

 

ダメだ、声が上擦っててこれでは自分が犯人ですと言っているようなものだ。クレアは俺をネズミをじっくりと追い詰める猫のようにゆっくり説明していく。

 

 

「実は昨日王城に賊が侵入してな。今その行方を追っている所なんだ。」

 

 

クレアは話しながら、懐から嘘をつくとチンチン鳴る魔道具を出した。とにかく嘘を言ったらダメだ。言葉を選びさえすれば大丈夫……

 

 

「その賊は、衛兵にバインドを使うかと思えば廊下を水浸しにした後フリーズを使い地面を凍らせるときた。そのように多種多様なスキルを使うのは、冒険者という職業しか考えられないという結論に至ってな。私は偶然にも身近にこの搦手から攻める冒険者を知っているのだ。」

 

「ほーん……な、ならこんな事してないで早く……そ、そいつを捕まえに行った方がいいんじゃないか?」

 

 

俺はしどろもどろになりながらも何とか答える。

 

 

「その必要はない。何しろその冒険者とは貴様の事だからな、サトウカズマ」

「昨日の夜、特に深夜2時頃、どこで何をしていた?」

 

 

この質問に答える訳にはいかない。もし適当な事を答えれば嘘を看破する魔道具がチンチン鳴るだろう。

 

 

「答えられないのか?まあそうだろうな!」

 

 

ヤバいヤバい。マジでヤバい。これは本格的にダメなやつだ。

 

 

「だが魔王を倒した勇者であるお前に温情をやろう。この事を世間に公表しない代わりに今回取った万能薬と罰金としてお前の溜まりに溜まった総資産の没収、そしてアイリス様に金輪際近づかないという条件で特別に見逃してやってもいい。」

 

 

お、落ち着くんだ俺。既に俺は冷や汗をダラダラと流し目線はあちこちに飛んでいかにも追い詰められた犯人のような振る舞いだ。クソっ!何か手はないのか!?

何か…………あっ……俺はバニルの言っていた助言を思い出す。

 

『一つ目は、吾輩は人間ではなく悪魔だ。その事をしかと心得よ。』

 

そうだ、嘘さえ言わなければ良いのだ。

 

 

「よく聞けクレア。俺は万能薬なんて別に欲しくもないし他の人に取るように頼まれてもいない。」

 

「……なんだと?」

 

 

魔道具は鳴らない。そう、俺はバニルに万能薬を取ってくるように頼まれたがバニルは人間ではない、悪魔だ。つまり俺は何も嘘をついてないのだ。

 

 

「ま、待て、お前が万能薬を取ったんじゃないのか!?昨日の夜は何をしてたんだ?」

 

『二つ目は今宵は満月だ。偶には悩んでばかりおらず夜空でも見上げてみろ。』

 

今ならバニルの言っていた助言の意味が分かる。

 

 

「昨日は久しぶりに王都でその辺を歩いてたな。月が綺麗で眺めていたらいつの間にか寝ちゃってたな。」

 

 

これもギリギリ嘘ではない。王城に居たから王都を歩いてたというのは事実だし、月を眺めてたら少し寝たのも本当だ。俺は今になってバニルの助言に感謝した。

 

 

「なっ!?この魔道具壊れているんじゃないだろうな!?」

 

 

ふぅ……何とか一番の窮地は脱したようだ。だがここで油断してはいけない。クレアが、いつ俺が万能薬を盗んでないという発言に拘ってもおかしくない。ここは俺からも攻撃するか。

 

 

「いつも俺の事を批判してるけどお前こそどうなんだよ。普段からアイリスに忠誠心以上の邪な感情を抱いているんじゃないのか?」

 

「そそそ、そんな訳ないだろう!」

 

 

チリーン。魔道具の鐘の音だけが部屋に響く。

 

 

「く、クレア殿?」

 

 

レインが信じられないとばかりに目を見開いている。くっくっく、このまま化けの皮を剥いでやるぜ!

 

 

「ほう?一体どんな感情を抱いてるんだろうなあ。まさか下着をクンクンしたいとかか?それとも素肌をぺろぺろ……」

 

「分かった!お前は無罪だ!もう帰っていいぞ!」

 

「おい、まだ話は終わって……」

 

「いいから帰れ!もうお前に用はない!」

 

 

俺はクレアに追い出されるように外に出た。ふう……一時はどうなる事かと思ったが何とか切り抜けたな……俺は疲れをとる為大きな伸びをして屋敷へと帰って行った。

 

 

3

 

 

屋敷へ着くと既に夕食が用意されていた。今日の料理担当はめぐみんだったか。確かアクアはアルカンレティアに宴会に行くって言ってたし今日は静かな食事になりそうだな。

 

 

「遅いですよカズマ、帰ってくるまでずっとご飯に手をつけてなかったんですからね。」

 

 

俺は先程手に入れたポーションを自室に置いてきた。とりあえず自分の部屋に置いておき、いざ飲ませる時に使う。問題はどうやってポーションを飲ませるかだな。どうせ忘れるのなら無理やり飲ませた方がいいか?でも、それだと何か反撃を食らうかもしれないしなあ。

 

 

「悪い、ちょっと急用が入ってな。あと今日は昨日みたいな色仕掛けはやめてくれよ。アイリスに悪いし何より心臓に良くない。」

 

「アイリスの事は忘れてくださいって言ってるでしょう。それに私も変態じゃないのでそこまでしませんよ。昨日のはアイリスに対するマーキングみたいなものです。」

 

 

ガチャ

 

ダクネスがリビングに入ってきた。だが、ダクネスはどこか様子がおかしい。長いこと一緒にいるから分かるが、ダクネスはどこか落ち着きがないように見える。

 

 

「よおダクネス、遅かったな。何してたんだよ。ご飯はもう出来てるぞ」

 

「べ、別に何もしてないぞ!?」

 

 

何か怪しいな。一体何を隠しているんだ?うーん……こいつが一人でする事と言えば……あっ……

 

 

「まさかお前大人のひとり遊びをしていたのか……?」

 

「そんな訳あるか!まるで私が性欲に飢えているみたいに言うのはやめろ!」

 

「でもお前この前の船旅の時は自分の部屋でオナ……」

 

「わあああああ!!!何も聞こえないぞ!!!」

 

「何を騒いでいるんですか?」

 

 

めぐみんが大きな鍋を手に食卓へと来た。ご飯の用意が出来たのだろう。

 

 

「別にダクネスが一人で自慰に耽っていようが構いませんよ。ダクネスの性欲が強いのは今に始まったことではありませんから。」

 

「ううっ……私は性欲なんて強くないぞ……多分……」

 

 

自信がないのか語尾の方はほとんど聞き取れなかった。性欲が強いことに関してはめぐみんも負けず劣らずな気がするが今は言わない方がいいだろう。

 

 

 

 

 

 

 

暫くご飯を食べる事約二十分。俺はキッチンでめぐみんにポーションを飲ませる手筈を整えていた。作戦はこうだ。特別に酒を飲ませようとめぐみんにお酒を渡す。そのコップに予めポーションを仕込んでおけば完璧だ。俺は少し緊張しながらもポーションをコップに注ぐ。後はカモフラージュの為に上から酒を注いで……よし、これでOKだ。

 

 

「めぐみん、シュワシュワ飲むか?」

 

 

俺はリビングに行きながらめぐみんにポーションの入ったシュワシュワを渡す。めぐみんは少し驚いた表情をしたが、すぐに笑顔になった。

 

 

「本当ですか!?前々から飲みたいと思ってたんですよね。」

 

 

めぐみんは俺の渡したコップをちびちびと飲む。だが、すぐにコップから口を離した。

 

 

「苦いですね……」

 

「これは大人の味だからな。お子様のめぐみんには早すぎたか」

 

「な、なにおう!これくらい余裕です!」

 

 

軽く煽るとめぐみんはごくごくとシュワシュワを飲み始めた。確か記憶消去のポーションを飲むと一時的に意識が飛ぶはずだ。

 

 

「うう……苦いです……」

 

 

しかし、いつまで経ってもめぐみんの意識は飛ばなかった。あれ……確かにポーションの中身を入れたはずなんだが。そうこうしているうちにダクネスが台所からやって来た。

 

 

「おいカズマ!めぐみんにお酒を飲ませるなと言っただろう!めぐみんはまだ子どもなんだ。お酒はもう少し大人になってからだな……」

 

 

ダクネスが色々言ってくるが俺はほとんど耳に入ってこなかった。記憶消去のポーションの効果がない……まさかバニルに騙されたのか……?

 

 

「……聞いているのか?カズマ」

 

「お、おう、ちゃんと聞いてるぞ」

 

「なら良いが……そういえばお前のために紅茶を入れたのだ。実家から貴重な茶葉を貰ってな。是非飲んでみてくれ」

 

 

ダクネスが紅茶を俺に差し出す。料理に関しては総じて普通の評価を受けるダクネスだが、紅茶に関しては格別に上手だ。それも貴重な茶葉を使っているなら尚のこと美味しいだろう。俺は深く考えずに、ダクネスから紅茶を受け取り飲んだ。ーーーー飲んでしまったのだ。

 

突然、体が重くなる。なんだ、一体何が起きてるんだ。心当たりはたった今飲んだダクネスの紅茶。この感覚は身に覚えがある。かつて王城で飲まされた記憶消去のポーション、あれと同じだ。笑みを深くしているダクネスの顔を見ながら俺の意識はそこで途絶えた。

 

 

 

4

 

 

 

遡ること二日前……

 

 

納税騒ぎの後、私はカズマ、めぐみんと一緒に手錠で繋がれて寝ていた。事の発端はめぐみんが手錠の鍵をなくしてしまったと嘘をついたことに始まる。

 

 

「……カズマ。」

「……アイリスと恋人同士になったという話は本当ですか?」

 

 

実は私は起きていた。だが、めぐみんとカズマが仲睦まじく話しているのを聞いて私が邪魔をしたくない、そう思ったのだ。

 

 

「違うんだ……俺はアイリスと恋人同士になったんだ……」

 

 

カズマの言葉を聞いて、私は言葉を失う。今まで私とめぐみんがカズマを取り合う形で、カズマもどちらを選ぶか迷っている、そういう状況だった。だからカズマはめぐみんと私両方のものという認識があったのだ。それがアイリス様という部外者の手に渡ってしまった。時間は沢山あったのに……。私は何も行動しなかった事を大きく後悔した。

 

 

「…………分かりました」

「今から犯します」

 

 

そこから始まるめぐみんの逆レイプ。アイリス様の次はめぐみんにカズマを取られるのだと思って嫌な気持ちになった。そうだ、所詮私は受け身の存在。周りの女がカズマを奪うためにあの手この手を尽くすのを隣で指をくわえて見ているだけにすぎない。

 

 

「クソっ……!もう出る……!」

 

 

カズマの精子の一部が私の手にかかるのを感じた。私はその手を舐めてカズマの体液を胃に収めたい気持ちを何とか堪える。

 

 

「今晩の事、責任取ってくださいね。」

 

 

その後めぐみんは脅迫に近い形でカズマとの仲を進展させた。彼女のその強い意志には感服する。私も自慢じゃないが、自分の体には自信がある方だ。この体を使えば私もカズマと更に親密な関係になれるかもしれない。結局その日は一睡も出来ぬまま朝になった。

 

 

 

翌日。気づいたら私は朝からカズマの事を尾行していた。自分でも何がしたいのか分からない。でも、このまま屋敷でカズマを失った悲しみに一人で堪えるのは無理だと思った。やがてカズマがウィズ魔道具店から出てくる。一体中で何をしていたのかが気になって私は遅れて店に入った。

 

 

「へいらっしゃい!意中の男が王女と紅魔の娘に奪われ、遂にストーカーをするようになった娘よ、久しいな!」

 

「うぐっ……」

 

 

バニルの言葉に私は何も言い返せない。傍から見れば私はストーカーをする犯罪者だ。今の私の姿を見たらお父様はきっと悲しむだろう。

 

 

「して、今日は何用か?」

 

「それは……その……たまたま店に寄っただけで……」

 

「ハッキリ申さぬか。見通すまでもないが、どうせあの小僧の事だろう?今なら一万エリスで情報を売ってやってもいい」

 

 

私は黙って財布から一万エリスを取り出す。現在の手持ちのほとんどを使ってしまったがカズマについて知ることが出来るなら安いものだ。

 

 

「小僧が来た理由は他でもない。ネタ種族の娘との濡れ事を、記憶消去のポーションを使って忘れさせるためである。」

 

 

バニルは挑発するように右手のポーションをゆらゆらと揺らす。記憶消去のポーション……王城の禁忌とされる幻のポーションだ。でも……これはチャンスかもしれない……

 

 

「バニル、そのポーションを私に譲ってはくれないか。金なら幾らでも出そう。」

 

 

そのポーションをカズマに使えば、めぐみんとの情事だけでなく、アイリス様と付き合った事をも忘れさせる事が出来るだろう。つまり、カズマは誰とも親密な関係を持たない事になる。そうなれば……私にもカズマと付き合うチャンスが来るかもしれない。

 

 

「生憎だが、もう小僧と契約を結んだのでな。汝に渡すことは出来まい。」

 

 

私は記憶消去のポーションが喉から手が出る程欲しかったがバニルは譲ってくれなかった。仕方ない、諦めよう、と以前の私なら思っていたかもしれない。だが、昨日のカズマを奪われた喪失感が私を狂わせた。譲ってくれないなら奪えばいいだけの話だ。

 

 

翌日。カズマが屋敷に帰ってきてすぐに記憶消去のポーションを自室に隠したのを確認する。私はカズマの部屋に入り、予め用意していたただの回復ポーションと記憶消去のポーションを交換した。後はカズマに記憶消去のポーションを飲ませるだけ。作戦は上手くいった。カズマが意識を失うのを見て私は笑いが止まらなかった。後はカズマを誘惑するだけだ。いい加減私も腹をくくろう。受け身な私とはさよならだ。

 

そしてカズマには私だけを愛してもらうのだ。

 

 

 




闇堕ちめぐみんの次は闇堕ちダクネス。次は一体誰が闇堕ちするのでしょう。


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この失われた記憶に上書きを!



約7000字あります。




 

 

 

 

私はカズマに記憶消去のポーションを使った。記憶消去のポーションを使ってアイリス様と付き合った事、めぐみんと背徳的な行為に及んだ事を忘れさせる。その隙に私がカズマと肉体的な関係を持てばカズマはきっと私を選んでくれるだろう。これが私の考えた作戦だった。相手は王女様と紅魔族の天才、二人に遅れを取った私だがもう後悔したくない。決意を固め私は作戦を実行に移した。

 

気を失ったカズマを部屋へ運ぶ。めぐみんが急に倒れたカズマの事を心配していたが、酔い潰れただけだろうと説明しておいた。今は気を失ったカズマが目を覚ますのを彼の部屋で待っている。

 

 

「んんっ……」

 

 

どうやらカズマが目を覚ましたようだ。

 

 

「起きたかカズマ」

 

「あれ……ここは俺の部屋……?さっきまで紅魔の里に居なかったか?」

 

 

カズマの記憶を消したのは丁度三日間。今のカズマはアイリスと付き合った事もめぐみんに逆レされた事も覚えていない。最後に覚えているのは紅魔の里の記憶だろう。

 

 

「カズマ、私の言う事を落ち着いて聞いてほしいのだが」

 

 

まずは最近の記憶を失っているカズマに何が起きたのか上手く説明しなくてはならない。私は事前に考えていた嘘を言う事にした。

 

 

「カズマは以前、アイリス様に求婚されていただろう。」

 

 

カズマが首を縦に振る。私はそのまま話を続けた。

 

 

「アイリス様が紅魔の里で再度お前に求婚したのだが、カズマはそれを断ったらしくてな。激怒したアイリス様が酷く暴れたのだ。」

 

 

これも全てカズマがアイリス様に近づかないようにする為の嘘だ。カズマは信じられないとばかりに目を見開く。

 

 

「その後駆けつけたクレアとレインがどうにか事態を収拾したのだが、王女様が家出した上にそこで暴力沙汰を起こした事になったのだ。こんな事他の人に知られる訳にはいかないだろう。」

 

 

カズマが『俺のせいで……』と小さく呟く。青ざめていく彼の顔すらも愛おしいと思えた。

 

 

「アイリス様が暴れた際にカズマは頭をぶつけて気を失ったのだ。無論この事はめぐみんもアクアも知らない。決して他の人に言ってはいけないぞ。」

 

 

カズマは私の話を聞いて不安そうな顔になる。そんな彼が可哀想で彼の顔をそっと抱きしめてあげた。今の話を聞いて弱っているカズマには効果てきめんだろう。

 

 

「一人では現実を受け止めきれないだろう。今日は私が一緒に寝てやる。不満も愚痴も弱音も全て私に吐き出してくれて構わない。私が傍についているからな。」

 

 

未だに顔を青くしているカズマだが、私はカズマといつ肉体的な関係を結ぶかしか考えてなかった。

 

 

2

 

 

夜も更け、私はカズマのベットで横になっていた。勿論隣にはカズマもいる。

 

 

「アイリスが暴れたなんて未だに信じられないんだけど……本当なのか?」

 

「本当だとも。それは凄い暴れようだった。カズマに振られた現実を受け止めたくなかったのだろうな。」

 

「そうか……」

 

 

「別にカズマが気を病む事はない。アイリス様も失恋を乗り越えて大人になっていくだろう。」

 

私の言葉を聞いてカズマは黙って天井を眺めていた。今彼は何を考えているのだろうか。その胸の内を知る由はないが何となくアイリス様の事を考えてるのだと思った。そこで私は彼に提案してみる事にした。

 

 

「私と恋人にならないか?」

 

 

カズマは私の言葉を聞いて『は?』とでも言いたげな顔でこちらを見る。

 

 

「きゅ、急になんだよ……今はアイリスの事で頭がいっぱいなんだけど」

 

「私と付き合う事はアイリス様の為にもなるのだぞ」

 

 

カズマはどういう事だと怪訝な様子で私を見る。ここでも私は予め考えていた理由を話した。

 

 

「カズマに恋人が居るとなれば流石にアイリス様も諦めがつくだろう。」

 

「……アイリスはすぐに諦めないかもしれないぞ。ひょっとしたらダクネスに何か危害を加えようとするかもしれない」

 

「確かにそうかもな。でも、私は世界で一番頑丈な女だぞ?そう簡単に怪我をすることもない。」

 

 

そこで私は一息着いてから述べる。

 

 

「つまり私はアイリス様以外で唯一カズマの彼女になれる存在なんだ。」

「なぁ……私じゃダメか……?」

 

「いや……別にダメってわけじゃ……」

 

 

ここまで来れば後は押すだけだ。気の多いカズマは少し誘惑するだけでコロッと落ちる。今夜はヘタレずに最後まで行こう。

私はカズマの右手を両手で取るとおもむろに私の胸に押し付けた。カズマは鼻の下を伸ばしてだらしない顔になっている。

 

 

「だ、ダクネス!?……な、何をしているんだ!?」

 

「カズマは自分を甘やかしてくれる胸の大きな大人の女性が好きなのだろう。私ならいくらでもカズマを甘やかす自信がある。それに私を恋人にしてくれればこの体もカズマのものだぞ?」

 

「…………」

 

 

カズマはあれこれと考えているようだが、私の胸を揉む手を止めることはない。今のカズマは獣の目になっている。残っている僅かな理性を取り除けばそれでいい。私がネグリジェを脱ごうとしたその時、

 

コンコン

 

 

「カズマ、起きてますか?」

 

 

めぐみんが部屋のドアをノックした。タイミングの悪い女だ。カズマは私の胸に置いていた右手を離し返事をしようとした。が、私はカズマの口を右手で押さえそのまま押し倒した。私の左手でカズマの右手を取り再び胸を揉ませる。

 

(行かないでくれ)

 

私は小さな声でカズマに伝える。

 

 

「一緒に寝たいのですが」

 

 

カズマはめぐみんを出迎えるかどうかまだ迷っているようだ。その迷いを振り払うため私はカズマにキスをした。カズマの口を塞ぐためのキスだ。

 

 

「寝ているのですか……」

 

 

やがてめぐみんが部屋から遠ざかっていく足音が聞こえる。カズマは少し息苦しそうにしているが、私は口を離さない。足音が聞こえなくなって私はようやく口を離した。

 

 

「ぷはぁ……はぁ……はぁ……ダクネス……お前……!」

 

「カズマ、女にここまでさせたんだ。ヘタレのお前でも私が本気だと分かるだろう?」

 

「うぐっ……本当にこのままだと最後までやるぞ?お前はそれでいいのかよ」

 

「いいに決まっているだろう。」

 

 

私はネグリジェを脱ぎ捨て下着姿になる。カズマは私の扇情的な姿に見とれているようだった。

 

 

「私だけ脱いでも恥ずかしいじゃないか……その……あまりジロジロ見ないでくれ……」

 

「お構いなく」

 

「私が構うのだ!いいからカズマも脱げ!」

 

 

カズマは文句を言いながらも手早く服を脱ぎあっという間に全裸になった。お互いに普段見せない姿を見せ合う。その状況が凄く背徳的でこの上なく興奮した。

 

 

「やっぱりお前見てくれだけはいいんだよな。」

 

「そ、そうか……体には自信がある方だからな……」

 

 

私とカズマはじっと見つめ合う。次第に二人の顔は近づいていき再びキスをした。さっきよりもカズマの愛のこもったキス。気づいたら私はカズマを抱き寄せていた。

 

 

「愛しているぞカズマ」

 

「俺もその……まあ、好きだぞ」

 

「ふふ、本当か?めぐみんよりもか?」

 

「うげっ、そこでめぐみんの名前出してくるなよ……」

 

 

私は不安な気持ちでカズマを見る。念の為少し上目遣いで見た。カズマはしばらく逡巡した後、答えた。

 

 

「ああ、めぐみんより好きだぞ。」

 

 

私はあまりの嬉しさで気が狂いそうだった。遂にカズマを私のものにすることができた!これで私はカズマと結ばれる!

 

 

「おい、なんかパンツが既に湿ってるんだけど……知ってはいたけどお前って変態なんだな」

 

 

カズマに指摘されて初めて私は自分の下着が濡れている事に気がつく。私は自分で思っている以上にカズマと行為ができる事に興奮しているようだ。

 

 

「カズマのせいでこんなぐしょぐしょになったんだぞ。ちゃんと責任を取ってくれるか?」

 

「な、なんか今日のダクネスはいつにも増して積極的じゃないか?お前はもっと受け身な存在だっただろ。」

 

 

確かに以前の私はもっと保守的だった。だが、あの日めぐみんがカズマを逆レイプしたのを見て私は心に決めたんだ。もう誰にもカズマは渡さないと。

 

 

「……ちょっと色々あってな。私も心を入れ替える時が来ただけの事だ。」

 

 

私は濡れたパンツを脱ぎ捨てブラだけの姿になる。カズマの物も屹立(きつりつ)して既に戦闘態勢だ。後はこれを私の中に入れるだけ。

 

 

「カズマ……来てくれ」

 

「ほ、本当にいいんだな……?後悔しても遅いぞ?」

 

「カズマは本当にヘタレだな。私にここまでさせておいて何もしないのなら引っ叩くぞ。」

 

「わ、悪い……。じゃあ入れるぞ?」

 

 

実は私には既に処女膜がない。屋敷で自慰に耽っていた時に自分の手で破ってしまったのだ。それが理由なのか私はカズマのものをすんなりと受け入れることが出来た。子宮の中でヌルヌルした感覚と暖かさを感じる。

 

 

「はぁ……幸せだ」

 

 

私は思わず声を漏らした。お腹の中のカズマのものが、私はカズマの物だと強く主張している気がしてとても幸せな気持ちになれた。もうこのまま死んでも悪くないかもしれない。

 

 

「まだ入れたばかりなんだけど……もうイッちゃったのか?」

 

どうやら私は軽く絶頂を迎えていたようだ。結合部から愛液が漏れ出ている。

 

 

「それじゃあ、動くぞ。もし痛かったら言ってくれ」

 

 

カズマが腰を前後に振りようやく行為が始まろうとしたその時、

 

コンコン

 

「ダクネス!ここに居るのは分かっていますよ!開けてください!」

 

 

めぐみんが部屋のドアをノックした。今が一番盛り上がっている時なのに。恐らくめぐみんは私の部屋に来て誰も居ないことを確認したのだろう。そうなれば私が居る場所はカズマの部屋しかない。だが、今は行為の真っ最中。私がブラを付けてる以外は二人とも裸だ。流石にめぐみんを出迎える訳にはいかないので私は息を殺すことにした。

 

 

「早く出てこないとここのドアをぶち破りますよ!」

 

 

めぐみんはまだ怒っている。短気なめぐみんなら本当にドアを壊してもおかしくない。どうするかとカズマに目線を送ると……

カズマはニヤリと笑みを浮かべた。

その顔に私はゾクゾクしてしまって、また絶頂を迎えてしまう。今からカズマは何をするつもりなのか抵抗する素振りを見せながらも楽しみでしょうがなかった。

カズマは腰をゆっくりと前後に振り始めた。そんな……ドアの前にはめぐみんもいるのに……

 

 

「はあ……!ふう……!うっ……!」

 

 

私はカズマに腰を振られて声を抑えることが出来ない。このままではドアの向こうにいるめぐみんに私の喘ぎ声を聞かれてしまう。そんな事は絶対にあってはいけない……はずなのに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はこの上なく興奮していた。

 

めぐみんに私とカズマの愛の声を聞かせてあげられるのだ。これ以上嬉しい事があるだろうか。

 

 

「ひっ……!ああ゛んっ!イッ!うっ……!」

 

「おい開けないか!ダクネス!中で何してるんですか!おい!聞いているのか!」

 

 

めぐみんの怒号に私は喘ぎ声で返事をする。めぐみんにも私の声は聞こえているだろう。めぐみんがドアを叩く音はノックから叩き破るものへと変わっていた。

 

 

「めぐみんがすぐそこにいるのに感じてるのか?ダクネスは本当に変態だな。」

 

「いひぃ゛っ!!!あへえ゛っ!!」

 

 

カズマの囁く声で私は更に絶頂へとイかせられる。もう自分が何をしているのかも分からない。今の私の心を支配しているのはとてつもない幸福感とめぐみんに対する優越感だけだった。

 

ドゴォ!!ドン!

 

視界の端でドアが破られたのが見えた。めぐみんがハンマーでドアを叩き破ったのだ。ドアを壊しためぐみんがそのままベッドに走ってくる。

 

 

「何してるんですか!カズマ!ダクネス、許しませんよ!よくもカズマを……!ええ、もう本当に許しません!」

 

 

めぐみんがカズマを押し倒しカズマの息子が私の蜜壷から勢いよく出る。

 

 

「ダクネス、イけよ」

 

 

めぐみんに乱入された直後にカズマが私に囁いた。

 

 

「あひいいいい゛い゛いい!!!」

 

 

私は獣のような、けたたましい声を発した後、白目を剥いて失禁してしまった。こんな私をめぐみんとカズマに見られている。しかし、私は優越感でいっぱいだった。

 

 

3

 

 

夜中。カズマとの情事を終え私はめぐみんと二人きりでリビングで話し合っていた。

 

 

「で、話というのは?」

 

 

カズマには、女同士大切な話があるという事で自室に居てもらっている。

 

 

「カズマを私達で共有しましょう。アイリスという強敵がいる以上、私達がパーティ同士でいがみ合っている場合じゃないのです。」

 

 

めぐみんの提案はアクアとめぐみんと私でカズマを独占するというものだった。もしカズマに他の女が寄ってくるようなら三人で力を合わせて撃退する。そういう契約だ。

 

 

「却下だ。カズマには私だけを愛して欲しいのだ。例えめぐみんと言えどカズマを取られるくらいなら奪ってやる。」

 

 

私は突っぱねるように言う。

 

 

「それにめぐみんも私と交わっていた時血相を変えて部屋に来たじゃないか。私とカズマがエッチしていたのが嫌だったんだろう?」

 

 

こちらとしてはせっかく二人で愛を深めていたところを邪魔されたのだ。怒ってもいいだろう。

 

 

「そ、それはですね……いきなりダクネスの喘ぎ声が聞こえたからビックリして……でも、カズマを共有したいというのは本当です!」

 

「ふむ。じゃあ本当にカズマが誰かに取られそうになったら考えよう。今、カズマは私のものだ。もしカズマを奪うようならめぐみんと言えども容赦しないぞ。」

 

「ですからこのままだとアイリスに負けると言っているのです!一緒に協力してカズマに近づく他の女を……」

 

「知るか。私は自分の手でカズマを手に入れてみせる。アイリス様もめぐみんも敵だ。私はもう部屋に戻るぞ」

 

 

めぐみんは納得してないようだったが私はそれ以上取り合わなかった。彼女は仲間想いが人一倍強いから私達と仲良くしたいのだろう。だが、私に言わせればそれは理想論だ。男を前にすれば女の友情など崩壊して当然。私は自室に戻る前にカズマの部屋へ寄ることにした。一つだけ確認しておきたい事があるのだ。

 

 

「話は終わったのか?」

 

 

部屋に入るとベッドに座ったカズマが聞いてきた。カズマの部屋のドアは、さっきめぐみんが壊したせいで大きな穴が空いている。

 

 

「ああ、交渉は決裂したがな。」

 

「まぁ……その…………あれだ。あまりギスギスするなよ?」

 

「それは無理だな。」

 

 

カズマは心底嫌そうな顔をする。だが、現実はどうにもならないだろう。

 

 

「カズマが誰を選ぶか迷えば迷うほど、私達の関係は険悪になっていくだろう。だからカズマ、私を選んでくれ。そうすれば全て解決する。」

 

「うっ……その……まだ心の準備が……」

 

「私達はもう行為をするほどの仲なのだぞ。その責任を取るべきだと思うが……」

 

「なあ……何とかならないのか……?出来ればめぐみんとも仲良くして欲しいんだけど……」

 

さっきは私とあんなに激しく交わりあったと言うのにこの男はまだ悩んでいるようだ。だが、最終的に選ぶのはカズマ。私にはどうする事も出来ない。

 

「そう思うなら早く誰を選ぶか決めるのだな。」

 

「はぁ……俺も覚悟を決めるしかないか……」

 

 

カズマはパンと自分の顔を両手で叩く。そして私に向き直ると真っ直ぐ私の目を見て言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ダクネス、俺と付き合ってくれ」

 

「よろこんで」

 

 

私は遂にカズマを手に入れた。

 

 

 

 

4

 

 

 

 

翌日。朝早く起きた私とめぐみんはリビングで向かい合って座っていた。今日は朝起きてから一度も会話がない。

 

「「…………」」

 

だが、暫くして最初に口を開いたのはめぐみんだった。

 

 

「私は諦めません。」

 

 

私に言うというより自分に言い聞かせるようだった。本当にめぐみんは諦めの悪い女だ。

 

 

「カズマの事か?昨日の事があったのにまだ諦めないのだな。」

 

「何を言われようとも諦めません。私の信念は固いのです。」

 

「ふむ。めぐみんがこれからも積極的にカズマにアプローチしてカズマはどう思うだろうな。」

 

「それは……きっと嬉しいはず……」

 

「そんな訳ないだろう。カズマは変な所で義理堅いやつだ。気の多い人だが、浮気をして裏切るような真似はしない。カズマはきっとめぐみんを”邪魔”だと思うだろう。」

 

「ち、違います!私はカズマと仲間以上の関係になってるんです!カズマも私の事をきっとよく思ってくれています!」

 

「だそうだが、どうなのだ?カズマ」

 

 

先程から廊下のドアにカズマの頭が見え隠れしているのに気づいていた。この際めぐみんにハッキリとカズマの気持ちを教えてあげた方がいいだろう。

 

 

「……お、おはよう。」

 

 

カズマが気まずそうにリビングのドアを開ける。

 

 

「私達の話を聞いていただろう?それで、カズマはめぐみんのアプローチをどう思うのだ?」

 

「カズマ、別に言わなくても分かってますから大丈夫です。」

 

「いや、言えカズマ。ハッキリ言ってやるんだ。迷惑だとな。」

 

「ああ……えっと……二人ともとりあえず落ち着け……」

 

「言えと言っているだろう!!」

 

「ひいっ!」

 

 

思わず怒鳴ってしまった。だが、これもカズマに寄ってくる他の女を撃退する為に必要な事だ。

 

 

「め、めぐみん。怒らないで聞いてくれよ……」

 

「分かってますよ、カズマ。ダクネスに無理やり襲われただけで、実は私の事が好きなんですよね。」

 

「い、いや……俺はダクネスの事が好きだ。めぐみんとは仲間以上恋人未満の関係だったけど……ごめん。俺はめぐみんとは付き合えない。」

 

 

めぐみんは声を荒らげるでもなく暴れる訳でもなくただ静かに涙を流す。そのままその場にへたり込み静かに泣いている。

 

 

「ごめん、めぐみん。お前には俺なんかよりずっと良い奴がいるよ。」

 

「うぐっ……ひぐっ……ぐずっ……」

 

 

めぐみんの泣く姿を見て私は少し良心が痛む。私は決してめぐみんに意地悪をしたい訳じゃない。ただカズマに私を見てほしいだけなのだ。

 

 

「私にはカズマしかいません……何がダメなんですか……私のどこがダメなんですか……」

 

「めぐみんは何も悪くない。たまたま縁がなかっただけだ。」

 

 

めぐみんの気持ちにけじめをつけさせる為にもここはカズマと二人きりにさせた方がいいだろう。それにきっと今の私はめぐみんにとっては憎む相手にしか見えない。

 

 

「私は少し外の空気を吸ってくる。あとは任せたぞカズマ」

 

「ああ分かったよ……ほんとに……胃が痛くなる……」

 

 

 

私はその場を後にした

 

 

 

 

 

 

 




めぐみん可哀想すぎて書いてて辛くなってきました。


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この振られた少女達に栄光を!




ちょこっとグロい描写があります。お気をつけて
【追記】:ちょっと展開を変えました


 

 

 

 

 

(めぐみん視点)

 

 

「うえっ……ひぐっ……うぐっ……」

 

 

私はカズマの胸に抱かれて泣いていた。どうして私はこんなにカズマの事を想っているのに、カズマは私の事を好きでいてくれないのでしょう。

 

 

「ごめん、ごめんなめぐみん」

 

 

カズマはただ平謝りするだけだ。私の気持ちに応えてくれる訳ではない。それでもカズマの優しさに触れて私は余計に涙を流してしまう。

 

 

「どうして……どうしてダクネスなんですか……」

 

「俺もめぐみんと恋人になると思ってたよ。でも、ダクネスに真剣に気持ちをぶつけられてさ……。俺の中で何かが吹っ切れたんだ。」

 

「なら私が今から真剣に告白しますから私と……」

 

「それは出来ない。」

 

 

カズマが私の発言を最後まで聞く前に拒否する。その冷たい態度に私は心がズキズキと痛む。

 

 

「俺はもうダクネスと恋人同士なんだ。出来るだけダクネスの事は裏切りたくない。だからもう他の人と交際する事はない。」

 

 

ああ……もう手遅れだ……。なんでもっと早くカズマと恋人にならなかったのだろう。強い後悔だけが私の心を支配する。

それから暫く泣いていた私は時間が経つにつれて徐々に落ち着きを取り戻してきた。そのせいか私の中で一つ引っかかっている事があると気づく。

 

 

「……そもそもこの前はアイリスと付き合ったと言ってたのに、いつの間にダクネスと付き合う事になったんですか?」

 

「……そんな事言ったっけ?俺が付き合ってるのはダクネスだけだぞ。いつアイリスと付き合ったんだよ」

 

 

なにか様子がおかしい……。あの日の夜、確かにカズマはアイリスと恋人になったと言っていましたし……覚えていないのでしょうか……?

 

 

「じゃあ、私とエッチな事したのは覚えてますよね?」

 

「いやいや何言ってるんだよ。そんな事してないだろ」

 

……え?……。私との事も忘れている……?

 

 

「もしかして記憶が飛んでたりしませんか?」

 

「いや、そんな事はないは……ず……あれ?俺は確かアイリスと何か重要な事を約束したような……」

 

 

これは間違いない、カズマは何者かに記憶を消されたのだ。一体誰がそんな事を……?カズマの記憶を消して得がある人が犯人ですよね。そもそも記憶を消すポーションなんて滅多に手に入らない筈。確か昔カズマの記憶が消された時はクレアが……あ。分かりました。これはアイリスの仕業ですね。

その時、聞き慣れた声が聞こえてきた。

 

 

「ごめんくださーい、お兄様はいますか?」

 

 

 

 

 

 

(カズマ視点)

 

 

 

玄関に行くとアイリスが居た。泣いているめぐみんを連れてくるのも気が引けたので俺は一人で出迎える。隣には護衛として付いて来たであろうレインも居た。

 

 

「おう、久しぶりだなアイリス。」

 

「お兄様!」

 

 

アイリスが出会い頭に俺に抱きついてくる。後ろのレインが少し驚いたような顔で見ている。

 

 

「あ、アイリス?なんか距離が近くないか……?」

 

「もう恋人同士なんですからこれくらいするものでしょう?」

 

「……は?恋人?誰が?」

 

「私とお兄様がですよ?」

 

 

この()は何を言ってるんだ。そんな事ある訳……あれ……何か重大な事を忘れているような……なんだっけ?

 

 

「いやいやいや、いつ恋人になったんだよ」

 

「あ!泥棒猫!」

 

 

いつの間にか後ろから来ていためぐみんが声を荒らげる。

 

 

「私のカズマをよくも誑かしてくれましたね!」

 

 

血気盛んな様子でめぐみんがアイリスに詰め寄る。しかしアイリスも毅然とした態度でめぐみんに対峙する。

 

 

「いつお兄様がめぐみんさんのものになったんですか?」

 

「はっ、私はカズマとエッチなことをする程の仲なんですよ?アイリスは精々カズマとキスしたくらいで喜んでるのでしょうけど」

 

 

めぐみんはアイリスと睨み合っている。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ。二人ともさっきから何を言ってるんだ?身に覚えが無いことばかりなんだけど」

 

 

その時、玄関のドアがガチャリと開けられる。ドアの向こうにはバニルが居た。

 

 

「フハハハハ!自分の知らぬ間に周りの女達と関係が進展している事に悩む男よ!」

 

「あれ、貴方はハチベエではありませんか?」

 

 

後ろに控えていたレインがバニルに尋ねる。

 

 

「いかにも。ある時はハチベエ、またある時はウィズ魔道具店のバイトである。本日はちょっとした商談があってこの場へ来たのだ。」

 

 

バニルはニヤリと口を歪ませるとこちらへ向き直った。どうやら俺に用があるらしい。

 

 

「このポーションを飲めば小僧の悩みは全て解決するだろう。料金は後払いで構わぬ。使ってみると良い。」

 

「なっ!?それは宝物庫にあった万能薬では!?ハチベエ殿、どうして貴方がそれを!?」

 

「レイン、どうやらお兄様の様子おかしいです。ここはハチベエに任せましょう。」

 

「し、しかしですね……」

 

 

俺はバニルから万能薬と言われていたポーションを受け取る。後払いの額が一体いくらなのか気になるが……。だが、飲んでみるか。俺は一思いに万能薬を飲んだ。

 

 

「あっ……」

 

「ああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

俺は何でこんな重大な事を忘れていたんだ。アイリスと付き合った事、めぐみんに無理やり犯された事、ダクネスに記憶消去のポーションを飲まされた事。その全ての記憶が蘇ってきた。

 

 

「……お前らに大事な話がある」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷のリビングにはめぐみん、ダクネス、アイリス、そして俺の四人で座っていた。護衛として来ていたレインには席を外してもらっている。めぐみんとダクネスはどこか表情が硬かった。

 

 

「それじゃあ今までに起きた事を全部話してもらうぞ。まず、ダクネス、お前は俺に記憶消去のポーションを盛ったな?」

 

「……はい」

 

 

やはりダクネスが犯人か。『貴族がポーションをこっそり盗んでいくやもしれぬ。』とバニルが言っていたがまさかその貴族がダクネスの事だったなんて。屋敷の中ではポーションを盗まれないだろうと完全に油断していた。

 

 

「で、俺が何もかも忘れてる間に俺と肉体関係を結んだわけか……」

 

「そ、そうだ。私はこの中で唯一お前と肉体関係を持っているのだ。ちゃんと責任を取ってくれるだろう?」

 

 

ダクネスには俺の剛直を穴の中に入れてしまっている。あんなにアイリスの事を裏切らないようにしてたのに結局こうなってしまったのか……

 

 

「責任については後で考える……。次はめぐみんだが……」

 

 

めぐみんがビクリと身体を震わせる。先程ダクネスと俺に言われた事が相当堪えているのだろう。目もまだ腫れたままだ。

 

 

「無理やり手こきしてきた事も全部覚えてるからな」

 

 

俺は少し威圧感を与えるようにして話す。めぐみんは小さな体を余計に縮こませ、いつもの自信に溢れてる姿とは程遠い姿となっている。

 

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

 

もう謝るだけになっためぐみんは充分だろう。少し責めすぎたかもしれない。

 

 

「最後にアイリス、恋人同士になったのにこんな事になってごめん。この通りだ。」

 

 

俺はアイリスに向かってみんなの前で土下座した。本当にアイリスには申し訳ない。俺が不甲斐ないせいでここまで裏切ってしまった。

 

 

「大丈夫ですよ、お兄様。お兄様も悪気があったのではないのでしょう。」

 

 

アイリスは優しく言ってくれるがそれでは俺の気は済まなかった。もっと彼女の前で誠意を見せたい。その為に俺は宣言する事にした。

 

 

「いいかお前ら、よく聞けよ」

「俺はアイリスを選ぶ。だからお前らとの浮ついた関係もこれで解消する。」

 

「お兄様……!」

 

 

俺の言葉を聞いてアイリスは心底嬉しそうな顔をしていた。その顔を見て俺は少し罪悪感が薄れる。だが、問題は他の二人だ。めぐみんは先程あんなに泣いたというのにまた涙を流していた。ダクネスは納得いかない表情で俺を見つめる。

 

 

「待てカズマ、私とお前は恋人同士になったはずだ。その責任はどうやって取るつもりだ。」

 

「そんな事になったのもダクネスが俺に記憶消去のポーションを飲ませたからだ。少し酷いかもしれないがお前との関係もこれまでだ。」

 

「そんな……嘘だ!私がお前を手に入れる為にどれ程頑張ったと思っている!」

 

 

ダクネスがテーブルを叩くとドンと大きな音を立ててヒビが入った。その様子に俺は思わず怯える。俺はこいつに殺されるんじゃないだろうか……

 

 

「それは違いますよララティーナ」

 

 

荒んだダクネスに答えたのはまだ幼いアイリスだった。怯えていた俺とは対照的に、彼女は王女なだけあって凛とした態度で言う。

 

 

「貴方がやってきた行いは卑劣なものばかりです。どれも悪徳貴族がやるようなもの。そんな行いで愛が実を結ぶと思いますか?いいえ、そんな訳ありません。」

 

「アイリス……様!貴方さえ居なければ……!私はカズマと一緒になれたのに……!」

 

 

ダクネスには僅かな理性しか残っていない。少し間違えば彼女はアイリスに手を出すだろう。そうなる前に早くこの場から逃げよう。

 

 

「まあそういう訳だ。俺は暫く王城に行くよ。この屋敷もお前達にやる。」

 

 

そう告げると俺はリビングから出てレインの元へ行こうとする。だが、泣いてばかりだっためぐみんが初めて行動に出た。

 

 

「待ってくださいカズマ!お願いですからここに居てください!」

 

 

めぐみんは泣いて立つ気力もないようで這いつくばって俺の足を掴んだ。しかし、彼女の力は弱々しく簡単に手を振りほどく事が出来る。

 

 

「ごめんめぐみん、俺はもうアイリスを裏切りたくない。」

 

 

俺はアイリスを連れてリビングのドアを開ける。

 

 

「話は済んだようですね。」

 

 

部屋の外でレインが待っていたようだ。多分俺達の話を聞いていたのだろう。

 

 

「カズマ、待ってくれ!せめて屋敷に居てくれないか……?」

 

 

ダクネスが俺達の元へ駆け寄ってくる。しかし、彼女が追いつくより先にレインはもうテレポートの詠唱を済ませていた。

 

『テレポート』

 

俺達は王城へと向かった。

 

 

 

 

 

 

(ダクネス視点)

 

 

 

 

 

カズマが私達の前から消えた。その事実が悲しくて悲しくて私とめぐみんはただひたすらに泣いていた。失敗した。何もかも失敗した。せっかくカズマを自分の物に出来たと思ったのに、カズマも私の事を好きと言ってくれたのに。でもそれらはアイリス様が居なければの話だ。私は二の次に過ぎない。一体何を間違えたのか。

 

 

「うああああああ!!カズマああああ!なんで私の事を見捨てるんですか!カズマあああ!」

 

 

隣でめぐみんが大声でカズマの名を呼ぶ。いつもなら『しょうがねえなあ』と言いながら解決してくれる彼の姿はない。

 

 

「うぷっ……うげえぇぇぇ!!」

 

 

私は何もかもが嫌になって胃液を外にぶちまけてしまった。ああ、きっとこれは悪い夢だ……。目が覚めたら私はカズマと結ばれているはずだ。そうに違いない。

 

 

「うぐっ……大丈夫ですか?」

 

 

めぐみんが嗚咽を漏らしながらも聞いてくる。私に言っているのだろうか。あんなにめぐみんの事を虐めた私に情けをかけてくれているのか?

 

 

「大丈夫です。私が必ずカズマを取り返してみせますから……うっ、おえぇぇ」

 

 

めぐみんも私の吐瀉物を見て胃が刺激されたのか食べ物を吐き出した。彼女もカズマを失った悲しみは同じはずだ。いや、その前にカズマから拒絶されてるのだから私以上に辛いはずだ。それなのに私の事を励ましてくれる。

 

 

「ううっ……カズマ……どうして居なくなっちゃうんですか……」

 

 

リビングは私達の吐瀉物で酷い臭いだ。かと言ってそれを処理するほどの精神力が私達にはない。どうすることも出来ない。

 

 

「ただまー」

 

 

この声は聞き間違うはずもない。私達の仲間の声だ。アクアが帰ってきた。

 

 

「ちゃんとおかえりを言ってほし……う、うわあ……な、なによこれ」

 

 

水の女神は、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにした私達と嘔吐物を見て何を思うだろうか。女神のように慈愛に満ちた心で許してくれるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

カズマが居なくなってから一週間が経った。

 

 

「ダクネスー!ダクネスー!起きてるわね!」

 

 

アクアがノックもなしに私の部屋へ入ってくる。私は布団にくるまったままアクアを中に入れた。

 

 

「もういつまで寝てるのよ。今日こそは部屋から出てもらうからね」

 

 

カズマが屋敷を出てから私は一日中部屋に(こも)るようになった。何をする気力も残っていない。ご飯も喉を通らずアクアが作ってくれたお粥を少し食べるだけだ。

 

 

「めぐみんも一日中部屋に引きこもってるし……この屋敷でニートじゃないのは私だけよ」

 

 

アクアから聞いた話だとめぐみんも私と同じように引きこもりになってるようだ。それだけカズマが居なくなったことがショックだったのだろう。

 

 

「今日は朝からエリ……クリスも来てるから元気出しなさいよ」

 

「……ああ」

 

 

私は無愛想に返事する。私の事を気にかけてくれるアクアは有難いが今回の事は私の心に大きな傷を残した。これも全てアイリス様……いや、あの王女のせいだ。

 

 

「ほら、いい加減部屋から出なさい!」

 

 

アクアに無理やり手を引かれて部屋の外に出される。トイレ以外で部屋から出たのは久しぶりだった。私はアクアに連れられてリビングに入る。テーブルにはクリスが座っていた。

 

 

「久しぶりだね、ダクネス」

 

「…………」

 

 

一週間ぶりにリビングに来てカズマが出て行った時の事を思い出す。ここで、カズマが私を拒否してあの王女を選んだのだ。あの日の事を思い出すだけでなんだか気分が悪くなってきた。

 

 

「……クリス、悪いが私はもう部屋に戻るぞ。ここではあの王女の事を思い出して嫌な気持ちになってくる。」

 

「私も一緒に部屋に行くよ」

 

 

リビングに入るなりすぐに引き返した私にクリスが付き添う。この一週間寝ても覚めてもあの女の事が頭に(よぎ)りとても正気じゃいられなかった。自分の部屋に向かう途中でアクアが目に入る。アクアがめぐみんの部屋に居るようだ。部屋のドアが開いていて、中からはめぐみんの叫び声が聞こえてきた。

 

 

「カズマあああああ!カズマああああ!!」

 

 

めぐみんがひたすらにカズマの名前を呼んでいる。めぐみんはカズマが居なくなった日から突然カズマの名前を大声で連呼するようになった。一日中叫んでいる訳ではないが、朝や真夜中になるとめぐみんが狂って大声でカズマを呼ぶのだ。その度にアクアがめぐみんの部屋に行き宥めるようになっていた。

 

 

「アクアさんから話は聞いてたけど、これは大変そうだね……一人じゃ大変だからアタシが呼ばれたんだね」

 

 

かつては私もめぐみんの事を恋のライバルとして敵対視していたが王女の略奪の事件以来、その気持ちもだいぶ薄まっていた。彼女もあの王女にカズマを取られた被害者にすぎない。そういう意味で私はめぐみんに強く同情している。私とクリスは部屋に入る。部屋の中にはアクアが持ってきていた朝ごはんがあった。食事が喉を通らない私の為にお茶漬けが置かれていたが、私はそれを無視して毛布にくるまる。

 

 

「ダクネス、ご飯食べないの?」

 

「……食欲がない。」

 

「ダメだよ、ちゃんと食べないと。ほら、私が食べさせてあげるから」

 

 

クリスはお椀を片手にスプーンでお茶漬けを私の口の前に持ってくる。このまま食べないとベッドに落ちて汚れてしまいそうなので私は仕方なく体を起こしご飯を食べた。

 

 

「カズマはもう帰ってこないのか……」

 

「そんな事ないよ。アクアさんが必死に説得してなんとか屋敷に戻ってくるように頼んでるみたい。」

 

「それで帰ってくると思うか?カズマは自分の意思で屋敷を出ていったのだ。それにあの王女もレインもそれを了承している。もう二度とカズマとは会えないと考えてもおかしくないと思うが」

 

「…………」

 

 

私の言葉にクリスは返す言葉もないのか黙ってしまった。私はクリスからお椀を取ると自分でご飯を食べ始めた。そんな私の様子を見てクリスがゆっくりと口を開いた。

 

 

「……でも、カズマくんはなんだかんだで君達に甘いでしょ?ひょっとしたら帰ってきてくれるんじゃない?」

 

「……そうだといいな」

 

 

私はご飯を食べ終えてお椀をクリスに返す。今朝からあの王女の事が頭に(よぎ)り気分が悪い。早く眠ってしまってこの事は忘れよう。

 

 

「ねえ、ダクネス。このままでいいの?」

 

 

毛布にくるまろうとしていた私は動きを止めてクリスの言葉に耳を傾ける。

 

 

「カズマくんがアイリス様のものになっちゃうんだよ。そんなの耐えられるの?」

 

「……カズマが選んだことだ。私はカズマに選ばれなかった。もう諦めるしかない。」

 

 

今となってはカズマの事もあの女の事も考えたくない。私はもうこの苦痛から解放されたいだけだ。

 

 

「ダクネスは甘いね。カズマくんと王女様が何をしてるかちゃんと考えてないんだよ」

 

 

クリスが言ってくることが少し怖くなってくる。それ以上言わないでくれ……お願いだ……

 

 

「このままだとカズマくんとアイリス様は結婚、そしてエッチな事もするかもね。毎晩毎晩二人は愛し合うのさ。ダクネスが屋敷で塞ぎ込んでいる間にも二人は…………」

 

「やめろ」

 

 

これ以上クリスの話を聞きたくない。私は強い憎しみを隠すこともなくクリスを睨む。私の反応を見てクリスは満足そうな顔を浮かべて私に提案してきた。

 

 

「ねえ、カズマくんを誘拐しない?」

 

 

何を言っているんだとクリスの顔をじっと見る。彼女はどこかワクワクした表情だ。

 

 

「冗談はよせ……」

 

「私は真面目だよ。このままじゃカズマくんは王女様のものになっちゃうでしょ?」

「なら奪っちゃえばいいんだよ」

 

 

この人は本当に私の知るエリス様なのだろうか。エリス様はもっと品行方正で悪事を嫌う方だと思っていた。それが誘拐だなんて……

 

 

「エリス様、女神ともあろう方がそんな事をしてはいけません。」

 

「エリス様はやめてください…………。でも、これは仕方ないことなんです。このままだと私の大事なダクネスが不幸な人生を送ってしまうのですから」

 

 

見た目はクリスのままだが、エリス様は私の事を抱きしめてくれた。エリス様は慈悲深い心を持っているようだ。

 

 

「女神エリスの名においてこの件についてすべての罪を赦します。」

 

 

その言葉で私の心は洗われていくようだった。あの王女への怒り、カズマに拒否された絶望、何も出来なかった自分への後悔。あらゆる負の感情が薄まっていく。

 

 

「……ありがとうクリス」

 

「ふふっ、親友だから当然だよ」

 

 

私がクリスと抱き合っているとドアの向こうからアクアが顔を出した。アクアは私の笑顔を見て少し驚いたような顔をする。

 

 

「あらダクネス、ちょっとは元気が出てきたんじゃないの?」

 

「……まあ、少しはな。クリスのおかげだ。」

 

 

クリスは私の言葉を聞いて少し照れくさそうだ。

 

 

「後はめぐみんさえ元通りになってくれればいいのだけれど……」

 

 

アクアは不安そうな顔で呟く。今日見た限りではまだまだめぐみんは心の傷が癒えてないようだ。仲間として私が彼女の面倒を見てあげよう。

 

 

「私がめぐみんと話してもいいか?」

 

 

 

 

 

 

所変わってめぐみんの部屋の前。何かあってもすぐに駆けつけられるように部屋のドアは開けっ放しだ。一応部屋に入る前にノックをした。

 

 

「めぐみん、入るぞ」

 

 

めぐみんは見るからに弱々しくとても気が滅入っているようだった。そんな彼女はボーっとしたまま横になって天井を眺めてる。私は彼女の視界に入るように顔を近づけると両手をめぐみんの頬に添えた。

 

パン!

 

そしてめぐみんの頬を両手で包むようにして叩く。

 

 

「目を覚ませめぐみん!カズマを取り返しに行くぞ!」

 

「カズマを…………?」

 

 

めぐみんの意識はまだぼんやりとしているが、”カズマ”という単語には反応した。めぐみんにはカズマが居ないとダメなのだ。

 

 

「ああ、取り返すのだ。あの王女に奪われて悔しくないのか?」

 

「…………無理ですよ。だって私カズマを怒らせてしまいましたし…………」

 

 

めぐみんはカズマに手こきして一度逆鱗に触れてしまっている。今でも怒ったカズマの事がトラウマなのだろう。

 

 

「大丈夫だ。ちゃんと話し合えばめぐみんの事も分かってくれる。」

 

「……無理です。」

 

「じゃあ諦めるのか?」

 

「…………だってどうしようもないじゃないですか」

 

 

めぐみんはあの王女と戦う気力が残っていないようだ。いつもの威勢のいいめぐみんはどこに行ってしまったのだろうか。

 

 

「カズマに選ばれた時のあの王女の嬉しそうな顔を見ただろう?」

 

「…………」

 

「あれを見てどう思ったのだ?憎たらしく思わなかったのか?」

 

「…………ましたよ」

 

「?」

 

「思いましたよ!ぶっ殺してやりたいです!でも、もう無理なんです!もしこれ以上何かしたらカズマに嫌われちゃうかもしれないじゃないですか…………。それが怖くて……!いっその事諦めた方が気が楽になると思って……!」

 

「大丈夫だ、私も怖い。カズマに拒絶されたらと思うと足がすくんで泣きそうだ。」

 

「それなら……どうして……!」

 

「もう私は後悔したくないんだ。私にはカズマしかいない。この機会を逃せば私はもう女としての幸せを掴むことは出来ない。」

「めぐみんもそうだろう?」

 

「…………私はいいです。カズマを取り返すならダクネス達でやってください。」

 

 

ここまで説得してもやる気が出ないならこれ以上話しても無意味だろう。時間が経てばめぐみんも少しは立ち直れるかもしれない。こうなった以上、めぐみん以外でカズマを奪還するしかない。私はクリス達と今後の計画を立てるため、部屋を出た。

 

 

 

 

 



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この恋人と契りを!




久しぶりのほのぼの回です。約11000字あります。





 

 

一方その頃王城では…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よう、アイリスの下着を狙ってるクレア」

 

「き、貴様ぁ!デタラメな事を言うなっ!」

 

 

俺が屋敷を出てから一週間が経った。王城での生活は快適だ。昼過ぎまで寝てても誰にも文句を言われないし朝昼晩の食事はどれも豪華なもの。ベッドもフカフカだしメイドさんにはお仕置きも出来る。

 

 

「クレア、今お兄様が言った事は嘘なのですよね?」

 

「ももも、勿論です!この男の言う事を真に受けてはいけません!はぁ……アイリス様もどうしてこのような男を好きになってしまわれたのか……」

 

 

俺がこの城に来た時、クレア達には俺がちゃんとアイリスの婚約者だと話した。その為これからは王城で暮らす事もクレア達は知っている。最初この話をした時は、

 

『殺してやる!貴様、よくもアイリス様をぉ!!殺す!絶対殺す!』

 

と狂犬のように暴れ回ったクレアも少しは大人しくなった。と言っても今でも俺を見かけるたびに本気で殴りかかってくるしその都度アイリスに怒られている。

 

 

「はっはっは、アイリスは俺にベタ惚れだからなあ。」

 

「べ、ベタ惚れじゃありません!ちょっと好きなだけです……」

 

 

アイリスが恥ずかしそうに俯きながら否定してくる。そんな王女の顔をニヤニヤしながら覗き込むがアイリスが手で顔を隠してしまった。

 

 

「よし、殺す」

 

 

俺達がイチャイチャしている様子を見て腹を立てたのかクレアが鞘に収めていた剣を抜き俺の方に構えた。

 

 

「待て待て!お前簡単に人を殺そうとし過ぎだろ!そんなんじゃアイリスの護衛を首になるぞ!」

 

「安心しろ、私が殺そうとするのはお前だけだ。」

 

「クレアもお兄様もやめてください!まったく、どうして二人はいつも喧嘩ばかりするのですか。」

 

 

クレアと喧嘩をするのがこれが初めてではない。この城に来てまだ一週間だが二十回くらい喧嘩をした。大抵俺がクレアに話しかけてそれを聞いたクレアが怒って…………あれ?もしかして喧嘩の原因は俺なのか?

 

 

「私は喧嘩するつもりなどないのですが、この男がいつも的確に私の神経を逆撫でしてくるのです。」

 

「お前が短気すぎるんだ。お前も貴族の端くれならもっと上品に振る舞えよ。いつも殺す殺す言いやがって」

 

「なんだと……ならいっその事本当に殺してやろうか?」

 

「ひっ……!暴力はいけないぞ!俺を殺したらアイリスが悲しむぞ!」

 

「二人ともいい加減にしてください!」

 

 

とうとうアイリスに怒られてしまった。いや、さっきから怒られてはいたのだが今度は本気で怒ってるやつだ。俺もクレアもこれ以上アイリスを刺激しないように黙る。

 

 

「最近のお二人は仲が悪すぎます。今後はお兄様もこの城に住むことになるのですからお二人の関係が良好でないと困るのです。」

 

「申し訳ございませんアイリス様……」

 

「すいません……」

 

 

昨日の敵は今日の友で俺とクレアは揃ってアイリスに頭を下げていた。アイリスがいる以上、一旦クレアとの口喧嘩は停戦だ。今はアイリスの機嫌を損ねないようにしよう。

 

 

「という訳でお二人に私から命令です。今日一日はお二人で一緒に過ごしてください。そしてちゃんと仲直りすること。いいですね?」

 

「え……流石にこいつと二人きりだと俺殺されるかもしれないし嫌なんだけど」

 

「分かりましたアイリス様!必ずやこの男を仕留めてみせます!」

 

「もう本当に怒りますよ!」

 

 

アイリスに怒られながら俺はしぶしぶ命令を受け入れるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

アイリスの命を受けて俺はクレアと二人で歩いていた。二人で過ごすように言われていたが俺は予定が何も入ってなくてーーー勿論昼寝とかアイリスにちょっかいかけるとか大切な用事はあるのだがーーー基本的に忙しいクレアについて回った。

 

 

「まずはここだ。」

 

「ちょっと待て」

 

 

クレアに付いていき、どこに行くのかと思えば最初に来た場所はアイリスの部屋。今この部屋の主であるアイリスはレインの授業を受けている為不在だ。

 

 

「なんでいきなりアイリスの部屋なんだよ。やっぱりお前は変態で、本人が居ない間にアイリスの私物でスゥハァするやつだったのか?」

 

「…………ち、違う!私はアイリス様の部屋を清掃する役目があるのだ。アイリス様の私物を漁ったりなどしてない!」

 

 

これは絶対漁ってるな。俺とクレアはアイリスの部屋の中に入る。中は随分と豪華な作りだがきちんと整理整頓されており清掃の必要もないように思われた。それでもクレアは慣れた様子でベッドのシーツを交換していく。

 

 

「あっ!こんな所にアイリスのパンツが!」

 

「なにっ!?」

 

 

勿論アイリスのパンツなんて落ちてない。だが、クレアは俺の発言を聞いてベッドメイキングを止めて胸倉を掴みながら言ってきた

 

 

「貴様ぁ!よくも嘘をついたな!」

 

「お前やっぱり変態だったんだな。うわあああ!剣を振りかぶってくるのはやめろ!本当に死ぬから!」

 

 

未だ荒い息を吐くクレアをなんとか宥める。

 

 

「それ以上攻撃するつもりなら俺にも考えがあるぞ?今ここでスティールを使ってもいいんだぜ」

 

「き、貴様……!そのような卑劣な手ばかり使いよって……!男ならもっと正々堂々勝負したらどうなんだ!」

 

「俺は真の男女平等主義者、女の子相手にもドロップキックを食らわせた男。ひっひっひ、俺のスティールが火を吹くぜ!」

 

 

俺は挑発するように手のひらをうねうねと動かしクレアに威嚇する。

 

 

「いや、私が悪かった。この通り頭を下げるからどうか水に流してくれないか?」

 

 

クレアは珍しく下手に出て頭を下げる。いきなり謝られて拍子抜けしてしまった。

 

 

「きゅ、急にどうしたんだよ。その……俺も悪かったよ。パンツが落ちてるなんて嘘ついて変に期待させちまったな」

 

「べ、別に期待などしてないが!………まあ仲直りの印として握手でもしよう。アイリス様も私達に仲良くなって貰いたいそうだしな」

 

 

クレアは俺に右手を差し出す。喧嘩ばかりしているがこいつは俺と同じアイリス愛好家だ。ちゃんと仲直りした方がいいだろう。俺も右手を差し出し握手しようとした所で………

 

 

「油断したな!」

 

 

クレアが俺の腕を締め上げてくる。俺は突然の事に反応する事も出来ずに技を食らってしまった。

 

 

「お前、汚いったああああ!!折れた!もう折れてる!あああごめんなさいいいいい!!!」

 

 

俺は泣きながら許しを乞うた。

 

 

 

 

 

 

俺はクレアに”腕ひしぎ十字固め”をかけられた。クレアは相当鬱憤が溜まっていたのか十五分程絞め技をかけた状態だった。あまりの痛さに俺は途中で涙を流したほどだ。クレアもやり過ぎたと思ったのか俺を解放してくれたが俺の心の傷は癒えてない。

 

 

「クレア怖いよぉ………もうクレアと一緒に居たくないよぉ………」

 

 

時刻は夕方。俺とクレアはアイリスの所に来ている。仲良し作戦の進捗を報告に来たのだ。だが、俺が泣きながらアイリスの所に来たので何があったか説明しなければならない

 

 

「クレア、これはどういう事か説明して貰えますか?」

 

「ち、違うのです。元はと言えばこの男がアイリス様の下着があると嘘をついたのが原因で………あっ……」

 

 

クレアがしまったという顔をする。

 

 

「し、下着……?」

 

 

アイリスが何を言っているのだとクレアの顔を見る。クレアの口からは言いにくいだろうから俺が気を利かせて説明してあげる事にした。

 

 

「ぐすっ……クレアはアイリスの部屋に入って私物を漁ったり下着を探し………」

 

「ぬわああああ!!!違います!この男はいつもデタラメな事を言っているのです!!」

 

 

クレアが俺の言葉を遮ってくる。

 

 

「おい白スーツ、本当の事を言われたくなかったら俺の言う事を聞くんだな」

 

 

俺はアイリスに聞こえないように小声でクレアと話す。アイリスは訝しげな様子で俺達を見つめてくる。

 

 

「なな、なんだ?アイリス様にだけは嫌われたくないのだ。頼むから変な事を言うな!」

 

 

やはりこいつの弱点はアイリスだ。アイリスの前でならクレアは下手な行動に出れない。今後もアイリスを盾にして散々いじめてやろう。

 

 

「なら、アイリスの部屋から盗んだ物を俺に見せろ。」

 

「ぬぬ、盗みなどしてない!」

 

 

俺とクレアはいがみ合っているが、同じアイリス愛好家だ。だからこそ分かる事もある。俺がクレアのようにアイリスの部屋を清掃する機会があれば間違いなく私物を漁る。

 

 

「ほーん、あくまで白を切るつもりか……。ならこういうのはどうだ?もし盗んだ物を見せてくれるなら代わりにアイリスのパンツをプレゼントしてやってもいい」

 

「なっ!?そ、そんな事出来るのか……?」

 

 

やっぱり下着に食いついたか。流石にクレアでもアイリスのパンツは取れてないんじゃないだろうか。

 

 

「おいおい、俺はアイリスの婚約者だぞ?パンツを盗む機会はこれから沢山ある。もし手に入れたら真っ先にお前にプレゼントしてやろう」

 

「はうっ!さ、最高だな!分かった、私が何年も集めてきた秘蔵のコレクションを見せてやろう!」

 

「お二人とも、何の話ですか?」

 

 

ずっと俺達の様子を不審に見てたアイリスが言ってくる。

 

 

「大人の話だよアイリス。子どものアイリスにはまだ早いからこの話は言えないぞ」

 

「私はあと一ヶ月で結婚できるようになるんですよ!もうほとんど大人です!」

 

 

アイリスがプンスカ起こる姿も可愛らしい。クレアも同じ事を思っているのか嬉しそうな目でアイリスを見ていた。

 

コンコン

 

アイリスを見て和んでいるとドアがノックされる。

 

 

「失礼致します。カズマ殿、ちょっとお話があるのですが宜しいでしょうか?」

 

 

ドアから顔を出したのはレインだった。俺は二人に軽く礼をして部屋を出てレインの元へ行く。

 

 

「どうした?レインもアイリスのパンツが欲しいのか?」

 

「はい!?そんな事全く思ってませんよ!それより私”も”ってどういう事ですか?まさか誰か他にアイリス様のパンツを狙ってる人が居るんですか!?」

 

「まぁそこは企業秘密だ。それより俺に話ってなんだよ。」

 

「ちょ、ちょっと待ってください!その話の方がずっと気になるのですが……」

 

「詳しい事は言えないんだよ。あ、この事はアイリスには内緒で頼む。」

 

「そんな事アイリス様に言えるわけないでしょう!!」

 

 

その後もアイリスのパンツを狙う者が誰なのか暫く押し問答を続ける。レインとしてはそのような物騒な人物をどうにか聞き出したいようだが、クレアの事を裏切る訳にはいかない。俺は頑なに口を閉ざし秘密を守り抜いた。

 

 

「それで話って?」

 

 

レインが俺に話があると言っていたので早くその話が聞きたい。

 

 

「実は今日もアクア殿が王城に訪ねて来まして」

 

「またか……」

 

 

レインから聞いた話によると、俺が屋敷を出てからアクアが何度も王城にやって来ているそうだ。『私達を見捨てた薄情者のカズマを出しなさい!』とか『カズマー!もし帰ってこないつもりならお尻からアロエが出る呪いをかけるわよ!』とか言っているとか。

 

 

「今日は、『カズマの部屋に大事にしまってあったえっちい本を渡しに来た』と言って門番の兵士にこれを……」

 

「ちょおおおおおお!!!」

 

 

俺は急いでレインからお宝(エロ本)を取り返す。あの野郎次に会ったらタダじゃおかないからな!レインは呆れた様子でため息をつく。

 

 

「カズマ殿も大変ですね。次来たら身柄を拘束するようにしても構いませんがどうなさいますか?」

 

「おお、それはいいな。アイツが泣いて謝るまで牢屋の中に入ってもらおう。」

 

 

俺は下卑た笑みを浮かべながらアクアへの復讐に燃えるのであった。

 

 

 

 

 

 

俺はクレアに連れられて夜の城を歩く。夜と言ってもまだ八時くらいだ。寝るには少し早い時間。向かうはクレアの部屋。アイリスの部屋から盗んだ物を見せてもらいに来たのだ。

 

 

「着いたぞ、ここが私の部屋だ。」

 

 

ガチャとドアを開け目に入ってきたものは…………壁に飾られた大量のアイリスの写真、それも盗撮したように見える物が沢山飾ってあった。確かにクレアは変態だと思っていたがこれにはドン引きだ。

 

 

「お、おふう……こ、これは凄い部屋だな……」

 

「私のお気に入りの写真はこれだ!この上目遣いがたまらなく可愛いだろう!」

 

 

クレアの手には少し潤んだ目でカメラを見るアイリスの顔が写っていた。今よりも少し幼いが、端正な顔立ちは見る者を魅了するものがあった。

 

 

「可愛いなあ……」

 

 

思っていた事が口から漏れる。小さい頃のアイリスを見る事が出来たのは大きな収穫かもしれない。

 

 

「こっちの引き出しには何が入ってるんだ?」

 

「ま、待てっ!そこには…………」

 

 

引き出しを開けると熊さんの刺繍が入った小さなパンツが入っていた。これは……アイリスが使っていた物か?

 

 

「通報するわ」

 

 

俺はすぐさま部屋を出る。こいつは犯罪者予備軍だ。このまま放っておいたらアイリスの身が危ない。

 

 

「待てえええ!!違うのだ!これはアイリス様が大きくなってもう履けなくなったから仕方なく私が持っているのであって!」

 

 

後ろから付いてきたクレアが俺の腰にしがみつく。

 

 

「おい、そこ掴んだらズボン脱げるから!放せって!」

 

「お二人とも何をなさっているのですか?」

 

 

角から出てきたレインが俺達に声をかける。俺に必死に縋りついているクレアは、我に返ったのか身なりを整えてレインに向き直った。

 

 

「こいつが良からぬ事をしようとしていたのでそれを止めようとしていただけだ。」

 

「その言葉そのままお前に返すよ。」

 

 

キッと俺を睨みつけるクレア。こ、怖い……。

 

 

「まぁ、いいです。それとクレア殿に重要なお話があるのですが……」

 

「?」

 

 

そこまで喋ると一呼吸置いてレインがチラリと俺を見て話し始める。

 

 

「カズマ殿から聞いたのですが……何者かがアイリス様のその……ぱ、パンツを狙っているようなのです」

 

「うぐっ!」

 

 

ほう、丁度いいタイミングだ。レインに白スーツが変態である事を教えてあげよう。

 

 

「そのパンツを狙っている奴なんだけど……実はそれクレ……」

 

「どわああああ!!!」

 

 

クレアが俺に向けて剣を振りかぶってきた。俺は自動回避スキルでスレスレで避けるが頬に小さく傷が入ってしまう。

 

 

「く、クレア殿!?急にどうしたのですか!?」

 

「やはりこいつは生かしておけない!今この場で始末する!」

 

『逃走!』

 

 

俺は逃走スキルでクレアから逃げた。

 

 

 

 

 

 

 

「チェックメイトです!」

 

「うーん……」

 

 

夜の九時頃。クレアから逃げた俺はアイリスの部屋でボードゲームをしていた。ゲームの行方は俺の劣勢、俺が居ない間にアイリスも腕を上げたらしい。

 

 

「私の勝ちではありませんか?」

 

「いや、俺がまだ気づいてないだけで、どうにか王様が逃げ切れるはずだ。だから負けじゃないぞ」

 

 

まだ負けてないと言いつつも正直どこにも王様が逃げる場所がない気がする。うん、詰みだな。だがここで簡単に負けては兄としての威厳に関わる。上手いこと切り抜けないと

 

 

「あっ!なんだあれは!」

 

 

俺は何もない所を指差す。どうしたのかとアイリスが後ろを振り向いた間にボードの上の駒を動かした。

 

 

「もう俺は駒を動かしたから次はアイリスの番だぞ。」

 

「なっ!?狡いですよお兄様!私が見てない間にズルしましたね!」

 

 

アイリスは俺の高等テクニックに納得してない様子だ。しかし、俺も大人として社会の厳しさをアイリスに教えてやらなくてはならない。

 

 

「おっと、言いがかりはやめてもらおうか。大事なゲームの最中に油断する方が悪いんだぜ。」

 

「こうなったらもう一度チェックメイトしてみせます!」

 

「ほい、チェックメイト」

 

 

アイリスが渋々俺のズルを受け入れた矢先にチェックメイトする。今度こそ俺の勝ちだ。

 

 

「ああっ!狡いですよ!」

 

「はっはっは、これが大人の勝ち方だ。子どものアイリスには難しかったかな?」

 

「もう一回です!あと一回だけやりましょう!」

 

「あーなんだか急に眠たくなってきたなあ。今日はもう寝ようかなあ」

 

「卑怯です!勝ち逃げなんてさせませんよ!」

 

 

アイリスにガクガクと肩を揺らされて無理やり起こされる。

 

 

「でも、もう夜も遅いしまた明日な?これからも遊ぶ機会は沢山あるだろ。」

 

「むう……分かりました……明日こそ勝ちますからね!」

 

 

時刻を確認するともう十時だ。俺は夜更かしするのに慣れているが健康的な生活を送るアイリスは寝る時間だろう。

 

 

「じゃあそろそろ寝るか。俺も自分の部屋に戻るよ」

 

「待ってくださいお兄様、今日はここで一緒に寝ませんか……?」

 

 

まさかアイリスから一緒に寝ようと誘ってくれるとは。アイリスも魔性の妹になりつつあるな。お兄ちゃんとしては嬉しい限りだ。

 

 

「クレアにバレたら怒られそうだけど……それでもいいなら一緒に寝るか。」

 

「はい!」

 

 

俺とアイリスはさっきまで遊んでいたボードゲームを片付けてベッドに並んで座る。隣に座ったアイリスは感慨深そうに声を漏らした。

 

 

「私達、本当に夫婦になるんですね……」

 

 

夫婦か……。急にそんな事言われると恥ずかしい。というか今はまだ恋人のはずだ。いつの間に夫婦の話になっているんだ?

 

 

「夫婦って気が早くないか?アイリスもまだ結婚出来ないんだろう?」

 

「結婚は一ヶ月後に出来るようになります。実はその事で一つ話しておかないといけない事があるのですが……」

 

 

アイリスはそこまで話すと少し言いづらそうに口を紡ぐ。

 

 

「来月の誕生日に結婚式を挙げたいとレインに言ってしまいました。」

 

「……マジで?」

 

 

結婚式って……もう俺達結婚するのか?ちょっと待ってくれ。まだ心の準備が出来ていない。

 

 

「私と結婚するのは嫌でしたか……?」

 

 

アイリスが少し上目遣いで俺に聞いてくる。

 

 

「そんな訳ないだろう。ただいきなり結婚って聞いてびっくりしただけだよ」

 

 

王女様が結婚するとなると国を上げて祝福するのだろうか。それに俺は魔王を倒した勇者だしな。勇者と王女が結ばれるとなるときっとみんな喜ぶだろう。

 

 

「結婚するなら今のうちに一線を超えておくか?」

 

「こ、今夜ですか?私もまだ性についての知識は疎いのですが、お兄様がどうしてもと言うなら……」

 

 

軽い冗談のつもりだったけど、アイリスは満更でもないのだろうか。

 

 

「あ、いや……今のは冗談で……」

 

「えいっ!」

 

 

ヘタレた俺とは対照的にアイリスは思い切って俺を押し倒した。

 

 

「す、少しはしたなかったでしょうか?」

 

 

アイリスは耳まで赤く染めながらおずおずと聞いてくる。まだ幼い少女だけれどステータスの差は圧倒的で彼女の方がずっと力が強い。

 

 

「いや、俺はアイリスがこういう事に積極的で凄く嬉しいぞ。」

 

 

俺の言葉を聞いて妹は恥ずかしいのかそっぽを向いてしまった。俺の上に覆いかぶさっているが、体重をかけないように配慮してくれている。彼女のさりげない優しさが嬉しかった。しかし、俺を押し倒しただけでそれ以上アイリスは何もしてこない。

 

 

「俺がリードしてもいいか?」

 

 

ここからどうしていいのか分からないのだろう。アイリスの様子を窺い助け舟を出す。

 

 

「お、お願いしてもいいですか?色事にはあまり詳しくなくて……」

 

 

上に乗っているアイリスを押し倒し今度は俺が上になった。アイリスはじっと俺の目を見ている。俺は両手をアイリスの指と絡ませ、そのままキスをする。啄むようなキスだ。そっと口を離すとアイリスの目からは少し情欲が見えた。

 

 

「可愛いぞアイリス」

 

 

そのまま二回、三回……とキスを重ねていく。何度も唇を重ねるごとに舌が絡まり合い、唾液が絡まり合う。そろそろ頃合かと判断し、アイリスの服を脱がせていく。今のアイリスは就寝用のネグリジェを身につけていて、肩の部分は紐になっており簡単に脱がせることが出来た。

 

 

「そんなにまじまじと見ないでください……」

 

「わ、悪い……あまりに綺麗で……」

 

 

俺は露わになったアイリスの胸を触る。ダクネスやアクア程大きくないが、めぐみんより大きい胸だ。そっとアイリスの胸に手を置く。先端には触らず焦らすように乳首の周りを触っていく。

 

 

「んっ……」

 

 

時折アイリスから何かを我慢するような声が聞こえる。モジモジと股を内側に曲げて顔も赤くしている。

 

 

「どうした?トイレに行きたいのなら今のうちだぞ」

 

「違います!」

 

 

アイリスは怒って否定するが、俺はアイリスが何をして欲しいのかちゃんと分かっている。でも、少し意地悪してみたくなって俺はまだ手を出さない。

 

 

「んんっ……お、お兄様。胸ばかりじゃなくてその……下……の方も触ってくれませんか?」

 

「下?下ってどこの事だろうな。ちゃんと言ってくれないと分からないな」

 

「で、ですからその……お、おま……ん……」

 

「ほら、もっと大きな声で!」

 

「もう!意地悪しないでください!」

 

 

アイリスがバシバシと俺の頭を叩く。仕方なく俺は腹まで脱がしていたネグリジェを下まで降ろす。アイリスはパンツだけになった状態だ。

 

 

「あの……私一人だけじゃ恥ずかしいので……お兄様も脱いでくださいよ……」

 

 

俺はアイリスに言われて初めて自分だけ服を着ている事に気がついた。俺は手早く服を脱ぐとすっぽんぽんでアイリスの両足の間に座る。

 

 

「お兄様はまだ興奮されていないのですか?」

 

 

アイリスが言うように俺の息子はしなしなと下を向いていた。こんな状況なのに立たない事に少し焦りを感じてしまう。

 

 

「興奮はしてるんだけど……先にアイリスを気持ちよくさせるよ」

 

 

正直言うと立たない理由には心当たりがあった。原因はめぐみんとの情事だ。アイリスと一線を超える前にめぐみんと背徳的な事をしてしまった事に罪悪感を感じているから、立たないのかもしれない。

 

 

「……じゃ、じゃあ触るぞ?」

 

「……優しくお願いします。」

 

 

何とかめぐみんとの事を忘れないと。今はアイリスに集中するんだ。俺は下着の上からアイリスの秘所をトントンと軽く叩く。

 

 

「んんっ……!」

 

 

一定のリズムで叩いているとアイリスが体をくねらせる。時折、秘所を撫で回すような動作も交えながら少女の興奮を高めていく。暫く同じ動作を続けていると下着が湿ってきた。

 

 

「パンツも脱がしていいか?」

 

「はぁい……」

 

 

予想以上に蕩けた声にドキッとする。が、俺の息子はまだ立たない。必死にエッチな妄想をしながらパンツを脱がせていく。

アイリスの秘所は毛がうっすらと生えていた。まずは鼠径部を円を描くように触っていく。

 

 

「ああっ……何だか気持ちよくなってきました……」

 

 

俺の息子はまだ立たない。俺の焦りにアイリスは気づかないでされるがままだ。アイリスへのスキンシップを続けながら左手で自分の肉棒を擦る。

 

 

「ちょっと刺激を強くするぞ」

 

 

散々焦らしてきたが遂にアイリスの恥部に手を伸ばす。初体験だからアイリスを怖がらせないよう優しく刺激した。

 

 

「ああっ……!それっ……!来ます……っ!」

 

 

ビクンと彼女の腰が小さく震える。先程より愛液の量が増えた気がする。俺はアイリスの液を手に馴染ませながら再びクリトリスを刺激する。

 

 

「あひい゛っ!……ま、待って!〜〜〜ダメっ!」

 

 

どうやら軽く絶頂してしまったようだ。潮を吹いたアイリスはぐたっと脱力する。そろそろ挿入してもいい頃だろう。

 

 

「お兄ちゃんのを私の中に入れてください……」

 

 

アイリスが媚びた声で俺を誘惑する。いよいよ俺も一線を超えるのか……!彼女(アイリス)と!

俺は自分のものを挿入しようとする…………が、まだ息子が硬くなっていない。

 

 

「お兄様?」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれアイリス」

 

 

俺は自分の手で息子を刺激して何とか戦闘態勢に入ろうとする。しかし、俺の息子は依然として下を向いたままだった。

 

 

「ごめん、挿入はまた今度にしよう」

 

「何か不安な事でもあるのですか?そのせいで興奮出来ないんじゃないですか?」

 

「……いや、別にそういう訳じゃ……」

 

「心配しなくて大丈夫です。次は私がお兄様を気持ちよくさせる番ですよ。」

 

 

アイリスは膝立ちしている俺の股をそっと触りだした。俺は初体験なのに上手く挿入できない自分により一層焦りを感じていた。

 

 

 

 

 

 

 

「ダメだアイリス。多分今日は立たない日なんだよ。」

 

 

アイリスが俺の股を刺激する事約十分。ずっと手で扱いてくるアイリスの姿がめぐみんに襲われた事を思い出させる。そのせいで余計に罪悪感を感じてしまい俺は益々立たなくなっていた。

 

 

「そうですか……でも、気にする事はないですよ。これからも行為をするチャンスは沢山ありますからね。」

 

 

少女はまだ十代に過ぎないにも関わらず、俺の事を気遣ってくれた。彼女に感謝しつつも何か恩を返したいと思ってしまう。

 

 

「じゃあ今日はアイリスを一方的に気持ちよくさせるよ。百戦錬磨の俺を舐めるなよ?」

 

「……お兄様は他の女の人とこういう事をした事はあるのですか?」

 

 

不安そうな目で聞いてきた。そんな目で見られたらアイリスの事を抱きしめて安心させたくなってしまう。

 

 

「いや、ないぞ。こういう事するのはアイリスが初めてだな。」

 

 

一応夢の中ではそういう事をした事もあるのだが。そのおかげでサキュバス達からいくつか性に関する技を教えて貰うことが出来た。少し使ってみるか。

 

 

「アイリス、ちょっと刺激が強いかもしれないけど我慢できるか?」

 

 

少女はコクコクと頭を振る。俺は見逃さなかった、その少女の目に僅かな期待が含まれている事を。

 

『ソードバイブ!』

 

「〜〜〜いやっ!こ、声が……!押さえ……!へおぉぉ!」

 

 

普段の可愛らしいアイリスからは想像もつかない程獣らしい声が出てくる。俺が使ったスキルは日本で言う所の電動マッサージ器のようなものだ。

 

 

「まだ威力は弱めなんだがな。もう少し強くするぞ」

 

「〜〜〜待っ……って!イッ……!ううぉぉ!!あ゛あっっ!」

 

 

アイリスは上半身をくねらせ快楽から逃れようとする。その姿が少し滑稽で俺は嗜虐心を刺激される。純新無垢な少女を俺の手で汚したくなってしまうのだ。

アイリスのクリトリスにそっと手を当て振動を強くする。アイリスはベッドのシーツを掴んで何とか我慢しているようだ。

 

 

「〜〜〜ひぎいいい!!あ゛あああ゛っ!だ、駄目!」

 

 

アイリスの股からプシュっと愛液が漏れ出る。潮を吹いているのだろう。溢れる潮をひとしきり眺めた後、俺はそっとアイリスの頭を撫でた。

 

 

「イってるアイリスも可愛いな。めっちゃ可愛い。えらい、えらいぞ。」

 

「んへへ」

 

 

だらけた表情の少女を見ていると普段は隠している素顔を見ることが出来たようで興奮してきた。

 

 

「じゃあまだまだ続けるぞ。今日はとことん気持ちよくなってもらうから」

 

「へ?待ってください。これ以上やられると私おかしくなっちゃいま……」

 

『ソードバイブ!』

 

「んぎいいいっっ!待っっっ!ああああっっ!」

 

 

俺はひたすらアイリスを気持ちよくさせる事にした。

 

 

 

 

 

〜十分後〜

 

「あひいいいい゛っ!いぎいいいい゛っ!」

 

「まだまだ愛液は出てるみたいだな。よし、もっと振動を強くするぞ」

 

「待ってぇぇぇぇ!イきましたぁぁ!イったからあぁぁ!」

 

 

 

〜三十分後〜

 

 

「ダメぇぇぇ!狂ううぅぅ!うぐぅぅぅ!!!」

 

「愛液の量も減ってきたな。よーし、最後にいっぱい出して終わろう。じゃあ、強めのやつ行くぞ!」

 

「ああああ゛っっ!!」

 

 

 

〜一時間後〜

 

 

 

「…………」

 

「流石にやり過ぎちゃったか?おーい、大丈夫かアイリス。」

 

「あっ……」

 

 

アイリスが小さく声を上げると同時に黄色い染みがベッドに広がる。失禁してしまったようだ。初体験で失禁なんてしてアイリスのトラウマにならないといいのだけれど……

ベッドは汗やら愛液やら尿やらが染み込んでいて酷い有様だ。

 

 

「おもらししてるアイリスも可愛いなあ」

 

 

我ながら凄く変態的な発言をしてしまった。アイリスは恍惚とした表情で寝転がっている。

 

 

「えへへ、お兄ちゃんだっこ」

 

 

ずっと股を弄ってたせいかアイリスが赤ちゃんのようになってる。俺は妹を抱きかかえるとベッドにピュリフィケーションをかけ綺麗なシーツに戻した。この魔法は本当に便利である。

 

 

「愛してますよ」

 

「……お、おう!?その…………俺もアイリスの事好きだぞ」

 

 

急なアイリスの愛情表現に戸惑いながらも俺の気持ちを伝える。妹は幸せそうにはにかんでいる。

 

 

「今夜の事クレアにバレたら俺殺されるかもな」

 

「……物騒な事言わないでください」

 

 

どうにかクレアにバレないようにしないといけない。その事を考えているうちに次第に意識が微睡み始めたーーーー。

 

 

 

 

 

 






行為中に失禁するネタ使いすぎたので暫く封印しようかな。



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この婚約者に監禁生活を!




約7000字あります。





 

 

 

 

 

「うーん……」

 

 

いつの間にか眠っていたらしい。まだ怠さが残る中俺は意識を覚醒させる。確か昨日はアイリスの部屋でーーー

 

 

「アイリス…………?」

 

 

辺りを見回すがアイリスの姿は見当たらない。先に部屋を出たのだろうか。よく見ると俺は裸のままだ。テーブルの上には俺の服が綺麗に畳んで置いてあった。アイリスが畳んでくれたのだろう。

 

コンコン

 

部屋のドアがノックされた。不味い、俺は今裸だ。こんな状態でアイリスの部屋に居た事がバレたらタダじゃ済まないだろう。とりあえず毛布を深く被り潜伏スキルを発動した。

やがて部屋のドアが開けられ中に人が入ってくる。

 

 

「遂にアイリス様のパンツが……ふふっ、笑いが止まらん!」

 

 

この声の主はクレアか、クレアが部屋に入って来た。そういえばクレアはアイリスの部屋の清掃をしていると言っていたな。

 

 

「ベッドのシーツの交換もしておくか」

 

 

するとこちらに足音が近づいてくる。こんな姿では言い逃れはできない。俺は目をつぶって潜伏スキルを発動させ必死に体を縮める。

 

 

「貴様、何をしている?」

 

 

クレアのひどく乾いた声が耳に響く。布団をめくられたのだろう。そっと目を開けるとこちらを見ている碧眼と目が合った。

 

 

「す、すみません……」

 

「しかも服を着てないじゃないか……一体アイリス様の部屋で何をしていた?」

 

 

クレアは声を荒らげるでもなくじっくりと俺に質問していく。これは俺の返答次第では殺されるやつだ……。と、とにかく逃げるんだ。

 

 

「こ、これには深い事情があってだな……」

 

「覚悟は出来ているな?」

 

『フラッシュ!』

 

俺は部屋から逃げ出した。

裸のままで、

 

 

「捕らえろおおお!曲者だあ!」

 

 

クレアの怒号が城に響く。ヤバい、何がヤバいかって俺が服を着てない事だ。クレアが襲ってきたから服を着る暇もなかったのだ。とにかく必死になって逃げる。暫く走っていると俺の前に甲冑を着た二人の兵士が立ち塞がった。

 

 

「そこで止まれ!」

 

 

この兵士もクレアの命令には逆らえないだろうし、捕まったらクレアに折檻される事は確実だ。捕まるわけにはいかない。

 

『フラッシュ!』

 

俺は目眩しの魔法を使い兵士の間を抜ける。クレアの弱点はただ一つ、アイリスだ。アイリスの所まで行けば俺は助かる。裸の男を見て驚くメイド、何の騒ぎだと見物する使用人、みんなを無視して幾度もぶつかった人を押し倒し一直線にアイリスの部屋へ向かった。後ろからは兵士やクレアの足音が迫る。

流石に長い事走ったため疲れがどっと押し寄せてくる。俺は足を止めよろよろと二、三歩歩いてその場に倒れ込んでしまった。ダメだ、もう俺は走れない。そもそも俺の貧弱なステータスで怒ったクレアから逃げ切れるわけが無い。しかも俺は素っ裸だ。なぜこんな格好で城中を駆け回らなくてはならないのだ。どう見ても俺の方が悪役ではないか。

 

 

「はぁ……はぁ……よくもアイリス様を……!許さん!」

 

 

疲れた様子のクレアが俺の前に立つ。地面に倒れ込む俺をぐるりと兵士達が囲む。とうとう捕まってしまったか。と、その時

 

 

「お兄様!」

 

 

騒ぎを聞きつけたのであろうアイリスがレインと共にやって来た。俺は大きく安堵のため息をつく。

 

 

「お兄様をいじめてはダメですよ!」

 

 

クレアと俺の間に割って入り込むアイリス。素っ裸の俺だが気を利かせてレインがマントをくれた。

 

 

「ち、違うのですアイリス様。その男がアイリス様のベットで裸で寝ていたのですよ!」

 

「はい、それは存じています。」

 

「……はい?」

 

 

クレアが何を言っているのだと言う顔でアイリス様を見つめる。それはレインも一緒なようでまさか……という顔をしている。クレアは絶句して何も言えなくなったがレインが代わりに質問した。

 

 

「えっと、なぜカズマ殿は裸でアイリス様の部屋に居たのですか……?」

 

「それは……その……お兄様とそういう事をしたからと言いますか……」

 

 

アイリスは顔を少し赤くして小さな声で言った。絶句する面々。ただ一人クレアは剣を握る手に力を込めて、

 

 

「貴様、殺してやる!」

 

 

クレアが再び暴れ出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

クレアは酷い暴れようだった。周りの兵士達がどうにかクレアを押さえつけその場は解決したが、如何(いかん)せんアイリスにベタ惚れなのだ。その後俺に何をしてくるか分かったものじゃない。そんな事を考えながら廊下を歩いていると、ふと窓の外に見知った青髪が居るのが目につく。あの青髪はアクアだ。アクアは何やら門番と言い争っているようだ。

俺は城を出てアクアの元へ向かう。アクアは門番に連行されそうになっていたが俺を見ると余計にジタバタと体を動かした。とりあえずアクアを助ける為門番に事情を話す。

 

 

「あのー門番さん、そいつは俺の仲間だから大目に見てやってくれませんか?」

 

「はっ!了解しました!」

 

 

アイリスの婚約者というだけあって俺の要望であっさりとアクアを解放してくれた。拘束から逃れたアクアはズカズカと俺の方に歩いてきて大きく手を振りかぶって言った。

 

 

「カズマさんのバカっ!」

 

 

渾身の怒りを込めて俺の頬をアクアの手の平が叩く。いきなり叩かれて何が何だか分からない。さっきまでアクアを取り押さえていた兵士達も心配そうに見ている。今度は俺の胸ぐらを掴んで言った。

 

 

「カズマさんが居なくなって私が、私達がどれほど大変だったと思ってるの!?ふざけんじゃないわよ!今すぐ屋敷に帰ってきなさい!」

 

「ご、ごめん」

 

 

アクアの勢いに押されて思わず謝罪してしまう。ここまで怒ったアクアを見るのは初めてだ。

 

 

「いい!?あんたのせいでめぐみんやダクネスがおかしくなっちゃったの!とにかく帰るわよ!」

 

 

俺はアクアに無理やり屋敷へと連れて行かれた。

 

 

 

 

俺とアクアはアクセルの屋敷へと向かっていた。道中でアクアから聞いた話によると、俺が城へ向かった後に、めぐみんとダクネスがショックのあまり嘔吐した事、二人とも部屋から一歩も出てない事、ご飯もほとんど食べてない事等を話してきた。

 

 

「……それは本当なのか?」

 

「本当よ!めぐみんなんて何度か窓から飛び降りようとしたのよ!もうカズマさんが帰って来ないとみんな大変な事になるの!」

 

 

どうしよう……思った以上にアイツらの傷は深かったようだ。俺のせいでアイツらが自殺する事になったら……考えただけでもおぞましい。

 

 

「クソっ、どうすればいいんだよ」

 

「とにかくお城に住むなんてバカな事言ってないで屋敷に帰ってきなさい!」

 

 

はぁ、本当にアイツらは俺に迷惑をかけるな。だがアイリスも居るし俺がずっと屋敷に居るのは無理だ。

 

 

「悪いけどアイツらの顔を見たらすぐに城に帰るよ。俺が思うにアイツらの心の傷が癒えるのも時間が解決してくれると思うんだ。だから暫くすれば元通りになるって。」

 

「随分呑気な事を言うのね。その発言は実際にめぐみん達を見てから言ってみなさい。」

 

 

暫く歩いていると懐かしの屋敷へ着く。アイリス達には屋敷に行く事を伝えていないし、早めに帰ろうと思っていたその時、

 

 

「カズマああああ!カズマあああ!!」

 

 

そっと玄関のドアを開けると中から俺の名前を叫ぶ声がした。声の主はめぐみんだ。アクアから聞いていたが実際に狂った所を目の当たりにすると少し引いてしまう。

 

 

「ね?このままじゃ大変でしょう?とりあえずめぐみんに顔を見せてあげなさいな」

 

 

廊下をアクアと一緒に進んで行くに連れてどんどんめぐみんの声が大きくなってくる。めぐみんの部屋は開いたままになっており中にはめぐみんを宥めるダクネスの姿があった。

 

 

「大丈夫だめぐみん、アクアならカズマをきっと取り返してくれる。」

 

 

ダクネスがめぐみんを抱きしめながら話す。ドアから顔を出すと喚いてるめぐみんと目が合った。彼女は俺を見ると名前を呼ぶのを止め、どんどん顔が青ざめていった。

 

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

 

そんな彼女になんて声をかけていいのか分からない。とりあえず許してあげたらいいのだろうか。

 

 

「め、めぐみん?大丈夫か?」

 

「ごめんなさいごめんなさい、お願いですからどこにも行かないでください。ごめんなさいごめんなさい……」

 

 

めぐみんはひたすら謝るだけだ。めぐみんの背中を優しくダクネスがさすってあげている。

 

 

「それ以上謝るならもう帰るからな」

 

「ごめんなさ……」

 

 

強引にめぐみんが謝るのを止めさせる。めぐみんは俺の顔を見詰めて何と言われるか怯えているようだった。

 

 

「そんなに罪悪感を持ってるならもう充分だって。その……めぐみんに色々された事も全く嫌なわけじゃなかったしさ。あまり気にするなよ。」

 

「ううっ……カズマ!」

 

 

涙ぐむめぐみんを正面から抱きしめてあげる。なんだかんだ言いつつも俺はコイツらに甘い。結局許してしまうのだ。

 

 

「カズマはいつまでここに居るのだ?」

 

「お前らの顔を見たらすぐにでも帰ろうと思ってたんだが」

 

 

俺の言葉を聞いた瞬間にめぐみんが辛そうな表情になる。

 

 

「カズマっ!ずっと屋敷に居てください……!カズマの為なら何でもしますから」

 

「悪いけどそれは出来ない。城ではアイリスが待っているしさ。今日も何も言わずに城を出てきたからな。」

 

 

めぐみんの絶望した顔。その顔が俺の心をズキズキと刺してくる。ああ、なんで俺は仲間にこんな辛い事を言わないといけないんだ。

 

 

「待てカズマ、それならせめて夕食だけでも一緒に食べていかないか?」

 

 

ダクネスの縋るような目。居た堪れなくなり仕方なく俺が折れる事にした。

 

 

「はぁ、しょうがねえな」

 

 

 

 

 

 

(めぐみん視点)

 

カズマが久しぶりに屋敷に帰ってきた。でも、夜ご飯を食べたらすぐにお城に帰ってしまうらしい。その事が嫌で嫌でしょうがない。もし、無理やりカズマを屋敷に引き止めたらまた嫌われてしまうかもしれない。だから、私にはどうする事も出来ない。

夕食はとても気まずいものだった。皆表面上は取り繕っているが内面に暗い感情を持っている。他愛もない話をして本心を隠そうとしているのが分かった。そこで私は聞くことにした。

 

 

「カズマはアイリスとどこまで関係が進んだのですか?」

 

 

途端に皆ご飯を食べる手を止めた。ダクネス達が多分一番気になってる事だ。でも、誰もその事を聞く勇気がなかったのは分かっている。

 

 

「べ、別にアイリスとは恋人のまま…………あっ……」

 

 

カズマが何かを思い出したかのように話を止める。私は嫌な予感がして席を立とうとした時、アクアがカズマに言った。

 

 

「まさかエッチな事をしたんじゃないでしょうね?」

 

 

珍しく鋭い事を言うアクアに顔を赤くして俯くカズマ。反応からして女神の推測は当たっているのだろう。もう嫌だ、聞きたくない。

 

 

「この際だから言っておくと俺、アイリスと結婚する事になったんだ。」

 

 

嫌だ嫌だ嫌だカズマカズマカズマ。お願いだから遠くへ行かないで欲しい。ずっと傍に居て欲しい。

 

 

「結婚……だと?」

 

「ああ、アイリスの誕生日に結婚式を挙げるんだ。」

 

 

私は涙を流してしまう。もうこれ以上私を傷つけないで欲しい。私は全身の力が抜けて持っていたスプーンを落としてしまった。

 

 

「カズマさん、それ以上はやめてあげて」

 

「あっ……悪い。」

 

 

私の様子を見てアクアがカズマの話を遮る。私はカズマにこんな同情するような目を向けられたかった訳ではない。私が悲しみに暮れた次の瞬間ダクネスが反撃に出た。

 

パシャッ

 

ダクネスはテーブルの下に隠し持っていたポーションをカズマに向かって投げたのだ。突然の事に何が何だか分からない私達。ポーションを顔に食らったカズマはフラフラと頭を揺らす。やがて自分が食べていたスープの中に頭を落とした。

 

 

「な、何してるんですか!?ダクネス」

 

「ただ睡眠薬を浴びせただけだ。そんなに慌てるな。」

 

 

未だ理解が追いつかない私とアクアを尻目に、ダクネスはカズマを担ぎ上げ、屋敷の外へと運び出した。急いでダクネスの後を追うとそこには馬車が用意してあった。恐らくダクネスが用意したのだろう。ダクネスは担いだカズマを馬車の中に座らせる。

 

 

「ちょっと待ちなさいよ!一体何をするつもりなの!?」

 

「事情はゆっくり話してやる。二人とも付いてくるか?」

 

 

私とアクアは顔を見合わせる。元から私達に選択肢は無い。カズマが居る場所に付いていくだけだ。私とアクアは馬車に乗る事になった。

 

 

 

 

馬車はゆっくりと進んで行く。御者台にはダクネスの家の使用人らしき人が座っていて馬車を引いていた。この馬車はどこへ向かっているのだろうか。

 

 

「私がこの計画を思い付いたのは昨日だ。昨日クリスがカズマを誘拐したらどうかと提案してきてな。」

 

 

”誘拐”、物騒な単語に身構える私とアクア。ダクネスはこのような貴族の権力を使った横暴を人一倍嫌がる人だったはずだ。だが、アイリスにカズマを取られた事でダクネスの心境にも変化があったのだろうか。

 

 

「私は思った。あの王女に易々とカズマを取られるくらいなら貴族の特権やこの(いや)らしい体をいくらでも使ってやろうとな。」

 

 

正直言うと私の心は期待と不安が半々くらいだった。もしかしたらずっとカズマと一緒に居られるかもしれない。それにアクア達も居る。少し(いびつ)ではあるが、またみんなで過ごせるのだ。だが一方で不安もある。私達は王女様の婚約者を誘拐してるのだ。これは反逆罪と言っても過言では無い。いくらダクネスが貴族と言えども王家を相手にして勝てるはずが無い。

 

 

「……こんな事してもすぐ捕まるわよ」

 

「勿論既に手は打ってある。絶対に捕まらないとまでは言い切れないが、そう簡単には捕まらないだろう。」

 

 

一体何をしたのだろう。ダクネスを信用して良いのだろうか。国家反逆罪で捕まるのは御免だ。でも、ダクネスに協力しないとカズマと一緒に居られない。それと……私の中にはもう一つ大事な事がある。

 

 

「ダクネスは……こんな誘拐なんてしてカズマに嫌われるのが怖くないのですか?」

 

「一時は嫌われるかもな。だがそれも一時的な事だ。すぐに私達無しでは居られなくなる。」

 

 

なるほど、今のダクネスは狂ってしまっている。完全にカズマを監禁するつもりだ。私もカズマを自分のものにしたいと思った事はあるが、行動に移す事はなかった。しかし今はいつでも実行できる状態にある。

 

 

「ふふっ」

 

 

私は思わず笑みを零した。私の様子を見てアクアが不審な様子でこちらを見る。

 

 

「いえ、またこの四人で暮らせるのが嬉しくて。その計画私も協力しますよダクネス」

 

 

カズマにはアイリスの事を忘れてもらう為に徹底的な調教が必要そうだ。これからの事を考えるだけでワクワクが止まらなかった。

 

 

「こんなのおかしいわよ……」

 

 

ただ一人アクアだけが納得してないようだ。みんなで一緒に暮らせてカズマが他の女と接する事もないのに何がそんなに不満なのだろう。やがて馬車はダクネスの家に着く。ダクネスはカズマを肩に担ぐと中へと入っていった。勿論私とアクアも付いていく。今度こそアイリスに勝ってみせます。

 

 

「我が名はめぐみん!爆裂魔法を操りカズマの妻となるもの!」

 

 

私は声高に宣言した。

 

 

 

 

 

 

(カズマ視点)

 

眠い。とても眠い。だが、起きなくてはいけない。早く城に帰ってアイリスに会おう。今夜は結婚式の事について話すんだ。俺の意識は泥沼から這い上がるように目覚めていく。ゆっくりと目を開けると知らない場所が広がっていた。

俺が居る部屋はベッド一つに簡素なテーブルと椅子が三つ、周囲は全て壁で覆われており天井部分だけはめ殺しの窓が取り付けてあった。

 

 

「どこだここ……」

 

 

とにかく嫌な予感しかしない。確か俺は夕飯を食べていたはずだ。それなのになぜこんな所に……

 

 

「目が覚めたようですね」

 

 

部屋のドアを開けて現れたのはめぐみんだ。しかし、どこか様子がおかしい。上手く言葉にできないがめぐみんの目に光がないような印象を受ける。

 

 

「ここはダクネスが所有する別荘の一つですよ。眠ってしまったカズマをここへ運んで来たのです。」

 

 

俺はベッドから起き上がり部屋から出ようとするが……

 

 

「うおっ!?なんだこれ」

 

 

俺の両足にはジャラジャラと鎖が付いていた。鎖はベッドと繋がっており、そのせいで部屋から出ることは出来ない。

 

 

「カズマに悪い虫が付かないようにこの部屋に閉じ込めておこうと思いましてね。これからはずっと一緒ですよ。」

 

「め、めぐみん……これってもしかして……」

 

「ええ、監禁しました」

 

「……マジで?」

 

 

いつの間にこんなに病んでしまったんだ。いや、前からめぐみんが病む前兆はあった。しかし、俺がそれを放っておいてしまったのだ。俺は今更ながら今までの行いを後悔する。めぐみんはそんな俺を正面から抱きしめると愛おしそうに頭を撫でた。

 

 

「これからは私達四人で過ごしましょう。アイリスの事は忘れてください。」

 

ガチャ

 

部屋のドアが開けられダクネスとアクアが現れる。

 

 

「めぐみんの言う通りだ。これからはお前の面倒は私達で見る。カズマは私を、私達さえ見ていればそれでいい。」

 

「ごめんねカズマさん、この()達はカズマさんと一緒に居ないとおかしくなっちゃっうの。暫くはここに居てちょうだい」

 

 

どうやらダクネスとアクアも監禁の協力者らしい。これは本格的にヤバいかもしれない。が、俺には秘策がある。

 

 

「テレポート!…………あれっ?」

 

「無駄だ。この部屋は魔法が使えないようになってる。」

 

「こんな事してアイリス達が何もしないと思うか?どうせすぐ捕まるぞ!」

 

「確かにアイリスは強敵ですが我々も覚悟の上ですよ。」

 

 

テレポートもアイリスがいる事もめぐみん達には効果がなかった。これからどうしようかと考えていると、ダクネスとアクアが俺の左右から抱きついてくる。

 

 

「今度こそ手放さないぞカズマ」

 

「めぐみんとダクネスの為なの。分かってちょうだい」

 

 

蠱惑的な彼女達の抱擁を受けながら彼女(アイリス)の事を思い出す。もうすぐ結婚式を挙げる予定もあったのだ。必ずここから抜け出してみせる。

 

 

「アイリス……待ってろよ」

 

 

 

 

 






監禁シーンはこの二次創作を描き始めた頃から描きたかったシーンです。大体ここら辺で半分くらいになると思います。完結まで残り半分、エタらないように頑張ります。


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この仲間達と愛の巣を!



約6500字あります。






 

 

 

「はむっ……はむっ……」

 

 

俺は飢えた犬のようにガツガツとご飯を食べていた。現在俺はダクネス達の手によって監禁されている。監禁中はダスティネス家のシェフが料理を振舞ってくれるようでご飯は豪華なものだった。

 

 

「美味しいか?カズマ」

 

 

ベッドに座っているダクネスが聞いてくる。先程アクアとめぐみんはやる事があると言って部屋を出てしまった。この部屋にいるのは俺とダクネスの二人だけだ。

 

 

「別に……自分で作るご飯の方が美味しいぞ」

 

 

ご飯を食べ終え俺はベッドで横になる。俺は監禁されているのに意外と危機感がなかった。というのもすぐにアイリス達が助けに来てくれるだろうと思っているからだ。こんな事して王家が黙っている訳が無い。それまで悠々自適に暮らすのも悪くないなと思っていると、

 

 

「ではカズマ、セックスしよう」

 

「……はい?」

 

 

急な発言に思わず聞き返す。

 

 

「本当はお前にリードしてもらいたいのだが……今回だけ私からやるぞ?」

 

「ちょ、ちょっと待て。お前とそういう事するとは一言も言って……うぉっ!」

 

 

ダクネスは俺の両手を掴み押し倒してくる。手は恋人繋ぎになった状態だ。そのままダクネスは股をスリスリと擦り始めた。

 

 

「待っ……うぐっ……!」

 

「あの王女の事は忘れろ。今は快楽だけ考えるのだ。ほら、少しずつ気持ちよくなってきただろう?」

 

 

ダクネスの言う通り快感が体を支配する。俺の息子は硬くなり臨戦態勢に入ろうとしていた。

 

 

「お前はずっとこの部屋で暮らすのだ。欲望に正直になっても誰もお前を叱咤する者はいない。本当はエッチな事をしたいのだろう?」

 

 

やがてダクネスが右手を離し俺の息子に手を伸ばす。俺は快楽で頭がぼんやりしているが、(すんで)の所でアイリスの事を思い出し、ダクネスを突き飛ばした。

 

 

「カズマは変な所で義理堅いな。」

 

「はぁ……俺にはアイリスが居るんだ。諦めてくれ。」

 

「そこまで言うならこちらもそれ相応の手を使うしかなくなるぞ?」

 

 

ダクネスはニヤニヤと笑みを浮かべたまま俺の両足に繋がっている鎖を弄り始めた。なんだか嫌な予感がしてダクネスを止めようとしたが圧倒的な力の差でどうする事も出来ない。

 

 

「ふふっ、これを使うのは初めてなのだ。喜んでくれると嬉しいのだが」

 

 

ダクネスはワクワクした笑みを浮かべるが俺の体に特に異常はない。何が起きるのかと思ったが大丈夫なのだろうか。

 

 

「では、いくぞ。」

 

 

ダクネスは自分の秘所を手で弄り始めた。

 

 

「うっ……!何だこれっ!」

 

 

どういう訳か何者かに体を弄られてるような快感が走る。一体何をしたのだろう。

 

 

「この足枷は特別な仕様でな。この鎖で繋がった人と感覚を共有する事が出来るのだ。つまり、私が自慰をすればその快感はカズマにも伝わる事になる。」

 

 

ダクネスは自分の股を弄りながら説明してくる。ヤバい……これはかなり気持ちいい……

 

 

「ううっ……イッ……!はぁ……はぁ……」

 

「聞く所によると女の性の快楽は男の快楽の数倍気持ちいいそうだ。この快楽に耐えられるか?」

 

 

あまりの気持ちよさに何度か腰が跳ねる。それくらい気持ちいいのだ。もう二度と自慰では満足できない体になってしまうかもしれない。

 

 

「では、挿入するぞ」

 

 

ヌプヌプと自分の息子が穴の中に入っていくのを感じる。それだけでもう果ててしまいそうだ。俺の快感もダクネスに伝わっているのかダクネスも喘ぎ声を上げながら腰をゆっくりと下げていく。

 

 

「ダメだ、もう我慢できない!」

 

 

騎乗位の体勢でダクネスが上に乗っているが俺は下から膣を思い切り突き上げた。

 

 

「ああ゛っ!最っ……高だぞカズマ!」

 

 

とにかく気持ちいい。俺は獣のように腰を振る。しばらく情事に耽っていると、どこを突けば良いのか何となく分かってきた。Gスポットと言われる所を入念に擦る。俺に伝わる快楽も段違いだ。

 

 

「はあっ……ふうっ……イッ……!」

 

「くっ……!もう出るっ……!」

 

 

強い射精感に襲われ俺はラストスパートをかける。Gスポットを擦られた快感とダクネスの蜜壷に締め付けられた快感が同時に襲い頭が蕩けていく。

 

 

「イクぞダクネス!」

 

「一緒にイキュ!あああ゛っっ……!!」

 

 

俺は今までにないほど大量に精を吐き出した。それと同時に結合部から大量に蜜が溢れる。ダクネスも一緒にイッたようだ。

 

 

「はぁ……はぁ……やっちまった……」

 

 

 

 

 

 

 

俺とダクネスは並んでベッドに横になって話す。所謂ピロートークというやつだ。

 

 

「遂に私もカズマの女になれたのだな……」

 

 

ダクネスが感慨深げに声を漏らす。

 

 

「ああ……遂にダクネスにも手を出してしまったか。アイリスに合わせる顔がないぞ」

 

 

ここから脱出した時にアイリスになんて言おうか。ダクネスとのエッチが気持ち良すぎてその場の雰囲気に流されましたって言えばいいのか?そんな事言ったら殺されそうだな……

 

 

「もうあの王女に会う事もないのだ。これからは自分の欲望に忠実に生きてみるのはどうだ?」

 

 

ダクネスからの提案はある意味魅力的とも言えるものだった。俺もこいつらに散々色仕掛けされて動じないほどの聖人ではない。が、まだアイリスの事が忘れられなかった。

 

 

「俺はアイリスの事を裏切れない。」

 

「もう私と肉体関係を結んだのにか?」

 

「……それは忘れてくれ」

 

「いいや、忘れない。手を出したからには責任を取ってもらうぞ。」

 

 

ダクネスの言ってる事は確かに一理ある。無理やり監禁されたとはいえさっきは俺も積極的に腰を振ってたし浮ついた気持ちがあるのは確かだ。

 

コンコン

 

ドアがノックされめぐみんが顔を出す。

 

 

「ダクネス、王家の人が私達に任意で同行して貰いたいと言って玄関に来てますよ。」

 

「おお!遂にアイリス達が来たか!」

 

 

もう王家にはダクネス達が犯人だと分かっているらしい。この調子だと、今日にでもこの監禁生活から逃げ出せるかもしれない。

 

 

「むっ、仕方ないな。話は後だ。まずは取調べを乗り越えないとな。」

 

 

ダクネスは俺の頬に軽くキスをして部屋を出ていった。

 

 

「帰ったら私ともエッチしましょうね。」

 

 

めぐみんも去り際にそんな言葉を残していった。

 

 

 

 

ベッドで横になること数時間……俺はボーッと天井を眺めていた。この部屋は横の壁は窓一つない殺風景だが、天井には唯一窓が取り付けられている。そこから日光が入ってくるのがせめてもの救いだろう。

 

 

「なーう」

 

 

ちょむすけが俺の腹の上で丸くなって鳴く。

 

 

「お前本当は猫じゃないんだろ?何か超人的パワーで俺を助けてくれないか?」

 

 

黒猫は俺の気持ちなど意に介さない様子で目を閉じている。この猫が突然ウォルバクさんに変身して俺を救い出してくれないだろうか。

と、遠くでドアが開く音がした。もしかしてアイリス達がもうこの部屋に乗り込んできたのか?俺は逸る気持ちを抑え今か今かと待ち構える。やがてドアが開きそこに居たのはーーーー。

 

 

「カズマさん、私が来てあげたわよ!」

 

「チェンジで」

 

「なんでよーっ!!」

 

 

掴みかかってくるアクアはさておき、取調べはどうなったのだろう。嘘をつくとチンチン鳴る魔道具もあるし事件解決はそう遅くないと思っていたのだが。

 

 

「私達は無事釈放されましたよ。」

 

 

後ろからめぐみんが部屋に入ってきた。

 

 

「一体どうやって取調べを乗り越えたんだ?」

 

「嘘をつくとチンチン鳴る魔道具を、自由なタイミングでベルを鳴らせる物に予め変えておいただけですよ。単純な事ですがその場に居る人は意外と気づきません。」

 

 

なんて単純な。そんな小さなミスのせいで監禁生活を続けるなんて嫌だ。早く助けに来て欲しい。

 

 

「それじゃあ次は私とエッチしましょう?」

 

 

後ろでアクアが寂しそうな顔をして部屋から出ていく。空気を読んだという事だろう。

 

 

「あのなあ、確かにそういう事したい気持ちはあるけど俺にはアイリスが居るんだよ。」

 

「もう、カズマは強情ですね。でも安心してください。すぐに私無しでは居られないようにしてあげますから。」

 

 

何としてでもめぐみんの色仕掛けに落ちないようにしなければ。そう固く胸に決めた。

 

 

 

 

 

 

 

「頼むめぐみん、イかせてくれ!」

 

 

俺はめぐみんに懇願していた。さっきからめぐみんは俺がイキそうになると手を引っ込め暫くして落ち着いた頃にまた手で(しご)き出すというのを繰り返していた。

 

 

「ダメですよ。まだイかせてあげません。もっと我慢してください。」

 

 

めぐみんは再び手こきを再開する。俺の両手には手錠のような物が嵌められていて手が不自由な状態だ。俺が射精するかどうかは完全にめぐみんの気分次第だ。

 

 

「私の事を愛してると言ってくれたら射精させても良いですよ」

 

「めぐみん、愛してる」

 

「そ、即答ですか……それは、そのアイリスよりもですか?」

 

「いや、アイリスには負けるな。アイリスはもっとお淑やかで可愛らしいし」

 

 

めぐみんは無言で俺の竿を扱く手を止めてこちらを真顔で見詰めてくる。

 

 

「そんな事言う人にはこれですよ。」

 

 

そう言ってめぐみんは竿全体を扱いてた手を一度止めて亀頭を擦るように触り出した。

 

 

「先っぽの部分だけ触ってあげましょう。ほら気持ちいいですか?」

 

「くはっ……!!」

 

 

亀頭をこねくり回されて俺は大きく腰をのけぞらせる。でも全く射精できない。これ以上はホントに苦しい。

 

 

「め、めぐみん!先っぽだけじゃなくて竿の方も触ってくれないとイけないんだけど」

 

「分かりました。では30秒だけ触ってあげるのでその間にイってくださいね」

 

 

 

 

 

「ーーーーーさーん、にー、いーち」

 

「ま、まって……めぐみん……もうイクって!!」

 

 

寸前の所でめぐみんの手は俺の竿の根元部分を強く握り精子が出るのを止める

 

 

「早くイってくださいよ、カズマ。私だってわざわざカズマの汚い竿を触ってあげてるんですよ。」

 

「……かはっ……!め、めぐみんもうこれ以上は……おかしくなるから……やめて……頼む……!」

 

 

めぐみんはひたすらお願いする俺に気を良くしたのかニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

 

「情けないですね。ほら先っぽだけ触ってあげますからイってくださいね」

 

「待って!!……かっ……それほんと……気持ち良すぎるから……!やめて!」

 

「どうしてもイきたいですか?」

 

 

俺は無言で強く頷く。

 

 

「じゃあ特別に出させてあげます。」

 

 

おお、遂にイけるのか!とにかく早く出したい。それだけだ。めぐみんはパンツを脱いで俺の股の上に座るとゆっくりと肉棒を自分の秘所に埋めていった。

 

 

「……但し、私の中に出してください」

 

 

ヤバい、さっきから何度も寸止めを食らっていたせいで俺の肉棒は暴発寸前だ。一旦腰を引いて膣から抜け出さなくては。

 

 

「逃がしませんよ」

 

 

俺が腰を引こうとしたその時、めぐみんが腰を上下し始めた。めぐみんのピストン運動で俺の息子はいよいよ我慢の限界だ。

 

 

「くぁっ……もう!出る!……全部出すからな!…うぁっ!……っっ!くっ!…」

 

 

数十分焦らしに焦らされた俺の息子はドクドクとめぐみんの蜜壷の中に精を送り込む。めぐみんは愛おしそうに自分のお腹を撫でた。

 

 

「はぁ……やっとカズマと繋がれました。」

 

 

めぐみんとの結合部からは白い液体が溢れ出ている。こうして見るとちょっとグロテスクだな……。

 

 

「カズマも嬉しくないですか?こうして私達とより親密な関係になれたのですよ。」

 

 

ダクネスに続いてめぐみんとも一線を超えてしまったことになる。自分でも歯止めが利かなくなっているな。

 

 

「俺はアイリスに対する申し訳なさでいっぱいなんだよ。頼むからちょっと一人にさせてくれ」

 

「アイリスにはもう会う事もないから大丈夫です。それにこれからもっと色んな事をするのに、これくらいで申し訳ないなんて身が持ちませんよ。」

 

 

めぐみんは俺を離す気はないようで暫く俺の股の上に乗ったままだった。流石に二回連続で出せる程俺は絶倫じゃない。が、何故か俺の息子はガチガチにいきり立ってきた。

 

 

「おや、カズマはまだやるつもりなのですか?全くしょうがない人ですね。」

 

 

めぐみんがヤレヤレという感じで俺の竿に手を伸ばす。

 

 

「いや、いつもなら俺もここまで性欲強くないんだけど……おい待て。なぜ目を逸らすんだ?」

 

「別にカズマのご飯に媚薬なんて混ぜてないですよ。」

 

「お前のせいかーっ!!どうするんだよこれ!全然治まる気配がないんだけど!」

 

「じゃあ今度は一時間焦らしながら射精させてあげますよ」

 

 

めぐみんがニッコリと微笑むと手でゆっくりと竿を扱きながら言ってきた。

 

 

「う、嘘ですよね、めぐみんさん?一時間焦らされたら俺おかしくなっちゃうよ?あーっ!頼むからイかせてくれ!」

 

 

 

 

 

 

めぐみんが射精させてくれたのは二時間後だった。今日の俺はダクネス、めぐみんと一日中行為をしており疲労感が半端じゃない。その疲れた体を癒してくれるのがアクアだ。アクアはお風呂に入れない俺の体を濡れタオルで念入りに拭いてくれた。

 

 

「あ゛あ〜……気持ちいい……」

 

 

おじさんみたいな声を出してしまう。

 

 

「私に感謝しなさいよ。本当はカズマさんが私の世話をするのが当然なくらいなんだから」

 

「へいへい」

 

 

アクアは意外と世話上手だ。手先が器用だし人を労る心も持っている。

 

 

「なあアクア、なんで俺を監禁したんだ?」

 

「うっ……急にそういう重たい話はやめてくれる?」

 

 

めぐみんとダクネスが俺を監禁する理由は何となく分かる。あの二人は長い事俺に拒まれていたせいで少しおかしくなってしまっているのだ。だから二人とも俺を手に入れる為に監禁しようとしたのだろう。だが、アクアは至って健全そうに見える。どうしても監禁に協力するようには思えなかった。

 

 

「私はね、皆に幸せになって欲しいの。」

 

 

アクアがぽつりぽつりと話す。多分彼女の心からの言葉だったのだろう。

 

 

「この前カズマさんが突然お城に住み出したでしょう?その時のめぐみんとダクネスを見て思ったのよ。私達にはカズマさんが必要なんだって。爆裂狂のめぐみん、ドMのダクネス、そして麗しい女神の私。そんなちょっと変わった私達がカズマさんという一人の男に繋がってるの。もう今じゃカズマさん無しではこのパーティは成り立たないわ。」

 

「そうか……」

 

「だからお願い。どうかあの娘達を見捨てないであげて。別にアイリスと結婚するなとは言わないわ。それでも月に一度でも顔を見せてあげてほしいの。それだけで彼女達は救われるの。」

 

 

いや、長いな!アクアがめぐみん達の事を大切にしている事は分かるが途中からほとんど聞いてなかった。それにしても、アクアは本当にいつもいつもめぐみん達の事を思っている。

 

 

「そういうお前はどうなんだよ?」

 

「どうって?」

 

「お前も一応……その……俺の事……す、好きじゃないのかよ……」

 

 

自分で言ってて凄く恥ずかしい。クソっ、なんでこんな事言わないといけないんだ!

 

 

「ぷーくすくす!何よカズマさん、顔真っ赤じゃない!」

 

「う、うるせー!俺が心配して聞いてやってるんだよ!笑われるくらいなら心配して損したわ!」

 

 

アクアはひとしきり笑った後、悲しそうに微笑む。その一挙手一投足が俺をドキマギさせているのが分かった。

 

 

「確かにカズマさんの事はその……す、好きよ。でも、私はカズマさん達の幸せの方がずっと大事なの。だからそんなに心配する事ないわよ。」

 

 

何だよそれ……そんな悲しそうな表情しておいて心配するななんて無理言うな。こいつは本当に……。全く世話のかかるやつだ。

 

 

「アクア、ちょっと目つぶってくれるか?」

 

「な、何よ急に。」

 

「いいからいいから」

 

 

アクアは戸惑いながらも目を瞑る。が、不安そうにうっすら目を開けていた。折角の雰囲気が台無しだと思いながらも、

 

俺はそっとアクアに口付けした。

 

 

「んっ……」

 

 

自分からキスをしたのはアイリス以外では初めてだ。アクアは驚いた顔で俺の方を見つめる。

 

 

「……アイリスに怒られるわよ」

 

「いいよ、もうめぐみんにもダクネスにも手を出してるんだし。もう一人増えたくらいで変わらないって。」

 

「その理論は私もドン引きよ」

 

 

そう言いつつもアクアは笑いを隠しきれないようで口元がムニムニと緩んでいる。

 

 

「カズマさんカズマさん」

 

「んー?」

 

 

 

 

「ありがとね!」

 

そこにはいつもの笑みを浮かべるアクアが居た。

 

 

 

 

 






今回から視点変更を減らすようにしました。と言うのも何度も視点変更すると読者が一体感を感じるのに時間がかかってしまって読みにくいと思ったんですね。これからは暫くカズマ視点で書きます。稀に別視点になるかもです。


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この囚われた勇者に希望の光を!



6000字あります。





 

 

 

 

「ありがとね!」

 

 

アクアはいつもの笑みを浮かべる。しかし、次第に目線が俺の顔から下の方へと移動していきある一点で止まった。

 

 

「……なんでそんなに勃ってるの?折角の雰囲気が台無しなんですけど」

 

 

俺の息子はガチガチに硬くなっていた。別に俺がアクアで興奮しているとかでは断じてない。

 

 

「今日めぐみんに媚薬飲まされたからずっと勃ってるんだよ。生理現象なんだから仕方ないだろ」

 

 

アクアは恥ずかしそうに俺の顔と局部をチラチラと見る。女神の癖に意外とスケベなのだろうか。

 

 

「あのね……カズマさんが良ければなんだけど……私もお手伝い……してあげるわよ?」

 

「あ、そういうの良いです」

 

 

アクアは精一杯の告白をしたようだが、俺はばっさりそれを断った。アクアは俺の言葉を聞いて狼狽えた様子で言う。

 

 

「なっ!?……め、女神の私がここまでやるって言ったのよ!そこは喜んでお受けしなさいよ!」

 

「いや、お前の事は女として見れないんだよ。もう自分で処理するから部屋から出てくれないか?」

 

「嫌よーっ!お願いだから私に握らせて!先っちょだけでいいから!お願いよーっ!」

 

「おい、カズマさんのカズマさんは敏感なんだからもっと丁寧に扱えよ!そんな乱暴に触るな!」

 

 

アクアは無理やり俺を押し倒して俺の胸の上に座る。そのままシックスナインの体勢で俺の息子を口でしゃぶり始めた。

 

 

「おまっ……そこは汚いからやめ……くっ!イっ!待ってくれアクア……!イっ……!」

 

「じゅる……ちゅぱっ……はむっ……じゅる……」

 

 

所謂フェラというものをされている訳だがこいつ上手すぎないか?まだ一分も経ってないのに俺は暴発しそうになっていた。このままではいけないと思い、俺は反撃を開始する。まず目の前にあるアクアのパンツを脱がせてクリトリスを愛撫する。

 

 

「いやっ……!んんうっ……!」

 

 

少なからずアクアも感じているようだ。暫く刺激を与え続けアクアの愛液を増やしていく。やがて充分に濡れた所で俺は舌でアクアのクリトリスを舐め始めた。

 

 

「ひゃっ!やめなさいカズマ!そこは……んぐうっ……本当洒落にならないから……いぎいっ……!」

 

「お前も……うふぉっ!?感じて……イク……!じゃないか……待っ……!」

 

 

俺達はお互いに相手の弱い部分を攻め合い、必死に相手をイカせようとする。それにしてもアクアは強敵だ。今までのめぐみん達とは比にならないレベルでフェラが上手い。超絶技巧フェラと言った所か。

 

 

「じゅるるるる!!」

 

 

アクアがものすごい勢いで俺の肉棒を吸い上げてくる。マズイ、何だか視界がチカチカしてきた。快感だけが頭を支配し何も考えられない。それでもアクアの膨れ上がった陰核を舐めるのはやめない。

 

 

「いい加減……れろっ……出しなさい!」

 

「イクっっっ……!!」

 

 

俺はアクアの口内に溜めていた精液を放出する。射精した後もアクアは口を離さず俺の精液を零さないように口いっぱいに頬張っていた。

 

 

「はぁ……はぁ……お前どこでこんな技覚えたんだよ」

 

「これが初めてだけどそんなに良かったの?カズマさんがして欲しいならいつでもしてあげるわよ」

 

 

アクアはさも当然とばかりに言う。これが初めてってアクアはそっち系の才能もあるのか?昔から別の道で食っていける奴だと思っていたけどここでも才能を発揮するとは。

 

 

「いや……これは頭おかしくなるからもうちょっと優しめで頼む。」

 

「へえ、そんなに良かったのね……」

 

 

アクアが悪い顔をしながら俺の顔を覗き込む。この顔のアクアはろくな事をしない。

 

 

「次はもっと激しくしてあげるわ……れろっ……」

 

 

アクアが、再びシックスナインの体勢で俺の息子をしゃぶり始めた。ただでさえ暴発後の敏感になってる息子にアクアの超絶技巧フェラが加わる。そのせいで体中を嫌な快感が襲う。

 

 

「イぎいいいい!!うううっっ!!」

 

 

あーダメだ、頭が回らない。とにかくアクアを止めさせないと。アクアの性器に手を伸ばそうとしてーーーー。そこで、俺の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

目が覚めたら見慣れた場所が広がっていた。何度も訪れたことがある天界だ。俺の顔を心配そうに覗き込む一人の女性、もとい女神と目が合う。綺麗な銀色の髪を持ちこの世界の国教ともなっているエリス様だ。

 

 

「こんにちはエリス様」

 

「ああ、良かったです。目が覚めたんですね。」

 

 

エリス様は心底安堵した表情でため息をつく。最近はアクア達に閉じ込められていたせいで他の人の顔を見るのは久しぶりだ。別の人に会えた事に少し感動しながらも先程から気になってる事を聞くことにした。

 

 

「それで……何で俺は天界に居るんですかね。確かテレポートは出来ない筈ですし……そうなると俺死んだんですか?」

 

 

俺の言葉を聞くとエリス様は少し困った表情をして、苦笑いをする。どうやら言いづらい事があるみたいだ。

 

 

「その……今回のカズマさんの死因は……ちょっと変わったものです。……それでもお聞きになりますか?」

 

 

労るような彼女の目。だが、俺はトラクターをトラックと勘違いしてショック死した男だ。あれ以上に悪い死に方などないだろう。エリス様を心配させないように少し笑いながら答える。

 

 

「大丈夫ですよエリス様。何があってもちゃんと受け止めますから」

 

「そうですか……。では、落ち着いて聞いてくださいね。カズマさんの死因はーーーーー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああああああああぁぁぁ!!!」

 

 

俺は地面をのたうち回っていた。恥ずかしすぎる!穴があったら入りたい!

 

 

「落ち着いてください、カズマさん!こういう死に方もたまにありますから!」

 

 

エリス様の話によると、俺の死因は腹上死。要するに性交中に突然死したということ。行為中の快感が気持ちよすぎて心拍数が跳ね上がり死に至ったそうだ。

 

 

「S〇X中に死ぬ!?そんな死に方聞いた事ないですよ!」

 

「大丈夫です!この事は私と貴方だけの秘密です。ちょっぴり恥ずかしいかもしれませんがこういう事もありますよ。」

 

 

エリス様は俺を正面から抱きしめてくれた。彼女の暖かな温もりが俺に伝わってくる。情けなくてどうにかなりそうな俺だったが暫く彼女の抱擁を受けていると次第に心が落ち着き始めた。

 

 

「落ち着きました?」

 

「…………はい。」

 

 

本物の女神様はアクアとは違うようだ。

 

 

「あっ!そうだ、エリス様にお願いがあるんですけど……」

 

「ダクネス達に監禁されている事ですよね?」

 

「……知ってたんですか?」

 

「ええ、天界からカズマさんの様子は見ていましたよ。めぐみんさんや先輩とエッチな事している所も全部見てました。」

 

 

そ、そんな所まで見られていたのか。エリス様ってどこまで見ているんだろう。俺が夜中に一人でゴソゴソしている所も見られていたのなら結構恥ずかしい。

 

 

「じゃあ、助けに来てくださいよ!このままだとアイリスの結婚式まで監禁されたままになりますよ!」

 

「助けに行くには、一つだけ条件があります。」

 

 

エリス様は人差し指をまっすぐ立てて言う。

 

 

「まず、私がカズマさんを助けに行くには色々と大変だということは分かりますよね?先輩達が居ない時間帯に救出に行かないといけませんし、カズマさんの足枷を外す道具も必要です。その上、脱出経路の確保やその後のダクネス達の処遇も考えないといけません。勿論、カズマさんがダクネス達に誘拐されたと世間にバレるとダクネス達は極刑は免れないのでそこも上手くやらないといけません。」

 

 

エリス様は長々とやる事を列挙していく。それだけ俺の救出が困難という事だろう。しかし、俺としても最後の頼みの綱だ。彼女しか頼る人がいない。

 

 

「私はこれだけの事をしないといけませんから簡単にカズマさんのお願いを引き受けるわけにはいきません。そこで条件です。カズマさんが私に一つお願いする代わりに私もカズマさんに一つお願い事をする、というのはどうでしょう?」

 

 

エリス様の話を聞いてみた訳だが、なるほど悪くない話だ。俺は一つエリス様の言う事を聞くだけで監禁生活から抜け出せる。この機を逃す訳にはいかない。

 

 

『カズマさーん、エッチしながら死んじゃったカズマさーん、リザレクションかけたからはやく戻って来なさーい。』

 

 

相変わらず空気の読めないアクアが呑気な事を言う。エリス様が指をパチッと鳴らし、門が出現する。

 

 

「さっきの事、ちゃんと考えておいてくださいね。では、カズマさん。あなたの恋路に祝福があらんことを!『ブレッシング!』」

 

 

俺はエリス様に見送られながら門を出た。

 

 

 

 

 

 

(アイリス目線)

 

お兄様が突然居なくなってから二週間が経った。最初にお城から居なくなった日は何か用事でも出来たのだろうと、たかを括っていた。しかし、現実はそんなに甘くない。お兄様は次の日もそのまた次の日も城に帰ってくる事はなかった。心配になってレインに相談すると

 

『アイリス様、どうかショックを受けないで聞いて欲しいのですが……』

 

それからレインが話した事はどれも私の心を打ち砕くようなものばかりだった。お兄様は誰かに誘拐された可能性が高い事、一番の容疑者であるララティーナ達を取り調べたが怪しい証拠は出てこなかった事、万が一このままお兄様が帰って来なかったら結婚を諦めないといけない可能性もある事。特にお兄様ともう会えないかもしれないと聞いた時、立っていられなくなってその場にへたりこんでしまった。

 

朝起きてもお兄様が居ないことに落胆する。ご飯を食べる時もゲームで遊ぶ時も外に出る時も一人だった。今まではお兄様が居たのに。

 

私の様子を見兼ねたレインが暫く習い事をお休みにすると言ってくれた。ココ最近はクレア達が家庭教師をしている時もずっと上の空だったので、私の事を心配してくれたのだろう。それでもお兄様は帰って来なかった。

 

お兄様が居なくなってから二週間後、自室で塞ぎ込んでいた私に天啓が下った。私がお兄様を探しに行けばいい。私はすぐに身支度をして城から抜け出す。向かう先はお兄様の屋敷だ。私の事を心配していたレインにもついてきてもらうことにした。

 

屋敷に着くと、以前ここに来た時のことを思い出す。あの時は私がめぐみんさんやララティーナからお兄様を奪ったのだ。もしめぐみんさん達が誘拐した犯人ならまた奪い返せばいい。私が屋敷のドアを叩こうとした時、丁度ドアが開いた。

 

 

「おや、アイリスじゃないですか。どうかしましたか?」

 

 

ドアから出てきたのはめぐみんさんだった。この前見た時より随分元気なようだ。私は彼女に事の顛末を話す事にした。

 

 

「……実は二週間前からお兄様が行方不明でして。めぐみんさん達なら何か知っているのではないかと伺いに来たのです。」

 

「残念ですけど、私は何も知りませんよ。カズマのことですからどこかで外泊でもしているんじゃないですか?」

 

 

お兄様を誘拐する動機としてはめぐみんさん達が一番怪しい。でも、何も知らないと言われてこれ以上聞ける事はない。彼女はそんな私の心情を知ってか知らずかニコニコした表情だ。

 

 

「めぐみんさんは何かいい事でもあったのですか?」

 

 

お兄様が誘拐されたというのに笑っているめぐみんさんは正直気味が悪かった。

 

 

「ええ、たった今ありましたよ。」

「私達からカズマを奪って行ったアイリスが、カズマの行方を知らないかと聞いてくるのですよ。本当にざまあみろって感じですよ、ふふっ」

 

 

腹が立ちすぎて言葉が出なかったのは初めてだった。私の頭にめぐみんさんの”ざまあみろ”という言葉が反芻して離れない。私の様子を見兼ねたレインが横から口を挟んだ。

 

 

「あの……ララティーナ殿とアクア殿にも話を聞きたいのですが二人は今どちらにいらっしゃるのですか?」

 

「アクア達ならダクネスの別邸に居ますよ。私も今から行くので案内しましょうか?」

 

 

めぐみんさんは上機嫌に歩き出す。私も何も言わずについて行った。ここが街中じゃなかったら今すぐにめぐみんさんを斬り殺していた事だろう。

 

 

「アイリス様、アクア殿御一行には私から話を聞いておきますので城に戻られてはいかがですか?」

 

 

レインがこっそり耳打ちしてくる。まだめぐみんさんとしか話してないのにこれだけ動揺しているのだ。この後ララティーナ達とまともに会話できる自信もない。私は自分一人で城に帰る旨を伝えレインにお兄様達の調査は任せる事にした。

 

とぼとぼと王都行きのテレポート屋へと向かう。結局何も収穫がなかった。レインがめぐみんさん達に話を聞いてくれるらしいが一度取調べもやっているし大した情報は得られないだろう。本当にお兄様はどこへ行ってしまったのでしょう。そもそも今生きているのでしょうか。

 

 

「あれ、王女様?」

 

 

声がした方を見るとクリスさんが居た。会うのはこの前の船旅以来だ。めぐみんさんの事で機嫌が悪かった私は睨むようにクリスを見てしまった。

 

 

「ど、どうしたのそんなに怒って……」

 

「すみません、クリスさんに八つ当たりするべきじゃなかったですね。」

 

 

怯えるクリスさんを見て少し冷静になる。めぐみんさんとクリスさんは別だ。クリスさんにはなんの非もない。

 

 

「カズマくんの行方を追っているんでしょ?」

 

 

思わぬ発言にばっと彼女の顔を見る。どうしてそれを知っているのか。もしかして何かお兄様の行方について知っているのでしょうか。

 

 

「あっはっは、王女様がそんな間抜けな顔したらダメだよ。」

 

 

クリスさんは怒りや焦りに駆られる私の事は露知らず、私の神経を逆撫でしてくる。

 

 

「ここで話すのもなんだしさ、場所を変えよっか?」

 

 

 

 

 

 

クリスさんに連れて行かれた場所は宿の中だった。なるべく人目につかない所を選んだのでしょうか。

 

 

「さてと、じゃあいくらでも質問していいよ。私の知ってる事なら何でも教えてあげるからさ。」

 

 

クリスさんは敵なのか味方なのでしょうか。彼女をどれほど信用していいか分かりません。

 

 

「では……お兄様は今どこにいるか知ってますか?」

 

「カズマくんは今、ダクネスの所有する別邸にいるよ。簡単に言うと監禁されているね。」

 

 

やはりララティーナ達が誘拐したのですね……。めぐみんさんが前見た時より元気になっていたのもお兄様を監禁して精神的に安定していたからなのでしょう。

 

 

「なぜクリスさんはその事を知っているのですか?」

 

「冒険者には冒険者なりの情報網があるのさ。たまたま情報が入ってきただけだよ。」

 

 

理由が釈然としませんね……。でも、ララティーナ達が犯人であるというのは腑に落ちます。となると、クリスさんの言ってる事は本当なのでしょうか。

 

 

「あの……どうして私にそんな情報を教えてくれるのですか?クリスさんは……私の味方なのですか?」

 

「あはは、そんな訳ないでしょ」

 

 

少しでも期待してしまった私が愚かだったようですね。やはりクリスさんもめぐみんさん同様に敵という事ですか。

 

 

「王女様に情報をあげることで、私にも色々とメリットがあるからさ。それだけの事だよ」

 

「そうですか、私はもう帰りますね。」

 

 

これ以上は理性が持ちそうにない。部屋から出るために私はドアを引いた。

 

 

「そんなに怒んないでよ。最後に一つだけ忠告しといてあげるからさ。」

 

 

開こうとしたドアをクリスさんが手で押して閉じ、無理やり出ていくのを止めさせられる。

 

 

「アイリス様って誕生日にカズマくんと結婚式挙げるんでしょう?羨ましいなあ、妬ましいなあ。」

 

 

クリスさんは顔を私の目の前に持ってきて威圧する。私も負けじとクリスさんを睨み返す。

 

 

「その結婚式、滅茶苦茶にしてあげるよ」

 

 

私の耳元でクリスさんが囁いた。

 

 

 

 







視点変更は控えようと言った矢先に視点変更してしまいました。小説書くのって難しいですね。ちょこちょこ前フリや伏線が入ってるのですが出来るだけ回収出来るように頑張ります。




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この王女様に味方を!



約1万字あります。





 

 

 

(カズマ視点)

 

 

俺が監禁されてから二週間が経った。監禁生活はシンプルな毎日だ。エッチしてご飯を食べてエッチして湯浴みしてまたエッチする。とにかくセックスばかりしていた。最初の頃は婚約者(アイリス)が居るからと遠慮していたが、時間が経つに連れて婚約者(アイリス)の事も忘れセックスに没頭するようになってきた。

 

 

「カズマカズマ、この新聞見てください。」

 

 

俺がベッドの上で黄昏ているとめぐみんが新聞を渡してきた。促されるままに俺も新聞に目を落とす。

 

『王女アイリス様、魔王を倒した勇者と結婚か』

 

新聞の見出しにはそう書かれていた。この魔王を倒した勇者って俺の事だよな……。更に新聞を読み進めていく。

 

『我が国の第一王女、アイリス様が誕生日に結婚式を挙げる。お相手は勇者サトウカズマ。結婚式の日には、国中で盛大なお祝いを開くそうで…………』

 

アイリスの誕生日まではあと十日しかない。今俺は監禁されているから当然結婚式には出席できない。となると、この結婚式も破綻するだろう。新郎がいない結婚式など聞いた事もないし。

 

 

「新郎のいない結婚式でも挙げるつもりだろうか。新婦一人で結婚式に出るなんてあの王女も可哀想だな。」

 

 

ダクネスが可哀想と口では言いながらも本当はそんな事思ってないのはよく分かる。この監禁生活で、ダクネス達からアイリスに対する憎悪がひしひしと伝わってきた。

 

 

「今頃アイリスは何してるんだろうなあ」

 

「カズマが居なくて泣いてるんじゃないですか?ほら、今日もセックスしましょう。」

 

 

俺は毎日セックスをするので基本的に全裸で過ごすようになっていた。めぐみんは俺の息子に僅かな刺激を与える。彼女のエッチのテクニックも今ではかなり上手だ。

 

 

「なあめぐみん、一度でいいからさ外の景色が見てみたいんだ。」

 

「またその話ですか?カズマには永遠にここに居てもらうつもりですけど」

 

 

俺は幾度となくめぐみん達に外に出たいと懇願してきたが彼女らの意思は固く全く応じてくれなかった。

 

 

「ねえ、私はそろそろカズマさんを外に出してもいいと思うのだけど。」

 

 

アクアが俺に助け舟を出してくれる。この中で唯一アクアはまともだ。俺を外に出してくれる可能性があるのはアクアだけだろう。

 

 

「ダメですよ。せめてあと一年はここに居てもらわないと。カズマを出すならほとぼりが冷めた頃です。」

 

 

めぐみんがアクアの案を却下する。外に出るにはめぐみんとダクネスがどうしても邪魔だった。この際、二人がいない隙にアクアに出してもらおうか

 

 

「いや、私はカズマを外に出してもいいと思ってるぞ。」

 

 

意外とダクネスが俺を外に出してくれることに乗り気だ。

 

 

「ただし、一つ条件がある。カズマの両足を切断するというのはどうだ?」

 

 

何を言ってるんだこいつは。俺だけでなくアクアもめぐみんもあんぐりと口を開け、ダクネスの発言にドン引きしているようだ。

 

 

「ほら、足を斬れば私達から逃げられないし、私達がいないと生きていけないだろう?カズマも今まで以上に私達の事を求めてくれると思うのだが。」

 

 

ダクネスは本当に頭がおかしくなったようだ。

 

 

「……もう嫌だ」

 

 

俺は呟く。この監禁生活で俺のストレスはかつてないほどに溜まっていた。

 

 

「おらぁああ!!出せよ!ここから早く出せよぉおおお!!」

 

 

俺はめぐみんの首を絞めながら怒鳴った。

 

 

「かはっ……!く、苦しい……!」

 

「はぁ、カズマに首を絞められるなんて羨ましいぞ!次は私の首も絞めてくれ!」

 

 

ダクネスが尚も頭の狂った発言をしてくる。俺は我慢の限界に達してめぐみんを放り投げダクネスの首を絞め始めた。

 

 

「ごほっ!……かはっ!ぜぇはぁ……これは本格的にカズマがおかしくなってしまったようですね……。何か対策をしないといけません。」

 

「いいぞカズマ!その調子だ!もっと首を絞める力を強くしてくれた方が私は嬉しいのだが……」

 

「ほーら、カズマさんの好きなおっぱいよ〜。おっぱい飲んで元気出しなさーい」

 

 

隣でアクアが胸をさらけ出し俺の顔の前に持ってくる。ダクネスの首を絞めるのを止め、アクアの乳首をちゅぱちゅぱ吸うことにした。

 

 

「よーしよし、カズマさんは頑張ってて偉いわね。ご褒美に沢山おっぱい吸っていいからね。」

 

 

アクアは俺の頭を優しく撫でてくれる。何故だろう、アクアが神々しく見えてきた。まるでずっと歩いてきた砂漠の中で遂にオアシスを発見した時のような喜びを感じる。

 

 

「ママ、今日はみんなでエッチしたい。」

 

「なっ!?今アクアの事をママと呼びましたよ!しかもみんなでセックスしたいとか言いましたね!」

 

 

俺は今までアクア達とエッチしてきた訳だが、全員で一緒にやった事は一度もなかった。一人ずつ交代でエッチしてきたのだ。

 

 

「ママ、今日はみんなとエッチしないと僕泣いちゃう。」

 

「さっきから誰なんですかこの人は!?私の知ってるカズマじゃないのですが!」

 

「カズマさんにママって呼ばれると私の中で何かが目覚めそうなんですけど……。この気持ちは一体なんなのかしら……?」

 

 

俺はママのおっぱいを必死に吸う。ずっと吸っていたくなるような不思議な味だ。

 

 

「おら、お前らも胸を使って俺に奉仕しろよ!少しはアクアを見習え!」

 

「その罵詈雑言もいいぞカズマ!」

 

 

ダクネスは、寝転がってアクアの胸を吸ってる俺の息子を胸で挟む。所謂パイズリと言うやつだ。俺が想像していたよりも刺激はそこまで強くないがこの光景には満足だ。しかし、一人だけ何も出来ていない女の子がいた。めぐみんだ。

 

 

「どうした、めぐみん?お前も胸を使って俺を満足させてくれよ。」

 

「……い、いえ、私は遠慮しておきますよ。」

 

 

めぐみんは俺が言った事を少し気にしてるようだが怒ることなく言った。

 

 

「分かったわ!めぐみんはきっと自分の胸が小さいことを気にしてどうすることも出来ないのよ!」

 

「私が小さいのではなくてアクアとダクネスが大きすぎるだけなのです!なんですか!二人揃って私に対する当てつけですか!」

 

 

アクアとダクネスの胸をペチペチ叩きながら激昂する。やっぱり胸が小さいの気にしてたんだな。

 

 

「私は手で奉仕するのが得意なんです。ほーらカズマ、気持ちいいですか?」

 

 

めぐみんはダクネスの胸から顔を出している息子の裏筋を優しく刺激する。ぞわぞわとした快感が体を襲い間の抜けた声を出してしまった。

 

 

「やっぱりめぐみんは手こきが上手いんだなあ」

 

「ねえ、カズマさん。私のフェラも気持ちいいと思うんだけどめぐみんとどっちがいい?」

 

 

アクアはフェラが上手だ。元々器用なだけあって舌の扱いも一流。

 

 

「そりゃアクアのフェラの方が上手いよ。この前なんてフェラで死んじゃったしな。」

 

 

フェラで死ぬという意味不明な発言をしてしまう。事実だからしょうがないけど。

 

 

「カズマ、本当にアクアの方が上手いですか?」

 

 

めぐみんよりアクアの方が上手いと聞いて少し怒っためぐみんが亀頭を撫でる手を早める。ダクネスのパイズリにめぐみんの手こきが加わったことでより強い刺激となる。俺の太ももの内側からも精子が込み上げてくるのがわかった。

 

 

「体は私の手に正直に反応してますよ?本当は私の手の方が好きなんじゃないですか?でも、嘘をつく人には手こきしてあげません。」

 

 

めぐみんがパッと手を離した。寸止めだ。めぐみんは手こきする時いつも寸止めをするくせがある。少しSっ気があるから相手を虐める寸止めが好きなのだろう。だが、俺も負けっぱなしではいられない。

 

 

「ママ、めぐみんを手錠で拘束して」

 

「え!?な、何をする気ですかカズマ!私にMの趣味はないですから!こういうのはダクネスにやってくださいよ!ちょ……待ってくださいアクア!」

 

 

アクアがめぐみんに手枷を嵌めていく。この部屋にはエッチの時用に色々な道具が置いてある。この手枷もその内の一つだ。

 

 

「よおめぐみん、お前いつも俺に寸止めしてるよなあ。それがどれだけ切なくて苦しいことか分かるか?」

 

「それについては謝ります!ほら、この通りです!」

 

 

この通りですと言われてもめぐみんは仰向けの状態でがに股に足を開いてるだけで全然反省の色が見えない。まあ手錠で手足を拘束されてるから身動きが取れないだけだろうが。

 

 

「お返ししてやるよ。今度は俺が寸止めしてやる番だ。ほら、マンコもヒクヒクしてるぞ」

 

「や、ヤバいですカズマ!これは本格的にヤバいです!」

 

『ソードバイブ!』

 

「ひやああああっっ!!」

 

 

俺はかつてアイリスに使った電マスキルを使う。一応言っておくとこれは魔法ではなくスキルなのでこの部屋でも使うことが出来るのだ。

 

 

 

〜寸止め三回目〜

 

「うあっ……うう〜……またっ……」

 

「これで三回目の寸止め。どうだめぐみん?段々気持ちよくなってきたか?ダクネス達はめぐみんの乳首を刺激してやってくれ」

 

「あっ……んあっ……うぁあ……速い、速いですってカズマ……すぐイッちゃいます……!」

 

「羨ましいぞめぐみん!終わったら私にも寸止めを!」

 

ダクネスはいつもブレないな。

 

 

 

〜寸止め十回目〜

 

「はいストップ」

 

「うあああ゛あ゛ああっっ!!イきたい!イきたいですカズマぁあ!!」

 

「反省したか?」

 

「してます!反省してますから!触ってください!私のおまんこを触ってくださいっっ!!」

 

「カズマさん、やり過ぎじゃないかしら?めぐみん壊れてきちゃってるわよ。」

 

「めぐみんは普段Sだけどちょっと責められたらMになる素質があると思うんだ。もっと虐めたらきっと才能が開花するぞ!」

 

 

 

〜寸止め二十回目〜

 

「はいストップ」

 

「はあああ゛あっっ……イぎます!イぎますよ!」

 

「めぐみん、まさか乳首の刺激だけでイクつもりか?流石に乳首でイクのは変態だけだと思うぞ」

 

「イグぅううう!!!」

 

 

めぐみんがこれ以上ない程に愛液を撒き散らす。その勢いは凄まじく俺の顔はびしょびしょになった。

 

 

「はぁ……はぁ……気持ちいいです……」

 

「カズマ、次は私に寸止めプレイを!」

 

「よーし、次はアクアで遊ぶぞ。手錠嵌めろー。」

 

 

ダクネスを無視して俺はアクアに手錠を嵌めていく。

 

 

「嫌よ!この高貴で麗しい私がそんな汚らわしいプレイする訳ないじゃない!ああ゛っ……やめて……今敏感になってるから……」

 

 

そんなこんなで俺達はひたすらセックスを楽しんだ。時には全員で一人を責めたり、何度もイかせたり逆に全くイかせず寸止めしたりと。酒池肉林とはこの事を言うのだろう。

 

だが、俺の外に出たいという欲求は日に日に増していった。ニートだった頃の俺では考えられないことだ。アイリスは今頃何をしているのだろう……

 

 

 

 

 

 

(アイリス目線)

 

「お兄様……」

 

 

私は城でため息をつく。私の結婚式まで後三日。お兄様は相変わらず帰ってこない。この前クリスさんから聞いた話によるとララティーナ達が監禁しているそうですが依然として証拠は掴めていません。

 

 

「アイリス様、気分はいかがですか?」

 

 

いつの間にか部屋に入って来たクレアとレインが私の様子を尋ねる。私は返事をする気力もなくてクレアの事を無視してしまう。

 

 

「…………」

 

「カズマ殿が居なくなってお辛い気持ちはよく分かります。そんなアイリス様に私からプレゼントです。」

 

 

クレアが私にクマのぬいぐるみを見せる。何が言いたいのか分からず私はクレアの顔を冷めた目でじっと見つめた。

 

 

「これを今日からカズマ殿と思ってお過ごしください。きっと心も幾分か晴れますよ。カズマ殿が帰ってくるまでもう少しです。それまでこのぬいぐるみがアイリス様の支えになります。」

 

 

私はクレアから黙ってぬいぐるみを受け取った。子どもらしい見た目だが、昔私の下着に付いていたクマのアップリケに似ている。懐かしい気持ちになって私はぬいぐるみを優しく撫でてあげた。

 

 

「あぁ……アイリス様が久しぶりに笑われて……良かったですね、クレア殿。」

 

「アイリス様、私達が必ずカズマ殿を取り返してみせます。あと少しの辛抱です。どうか気を確かに持ってください。」

 

 

二人は目に涙を浮かべて喜んでいた。長い事笑っていない事に初めて気が付きました。これではいけませんね……

 

 

「お兄様元気ですか?」

 

 

私はぬいぐるみに向かって話しかける。返事はないが清々しい気持ちになった。

 

 

「その調子ですアイリス様。『俺は元気だぜえ。アイリスも元気か?ああ゛ん?』」

 

「クレア殿、そんな喋り方じゃないですよ!……『アイリス、心配かけて悪いな。もうすぐそっちに帰るからあまり無茶するなよ?』」

 

 

本当に楽しくなってきました。お兄様が近くにいるようです。

 

 

「お兄様!まだこのゲーム勝敗が決まってませんでしたよね!一緒に遊びましょう!」

 

『そんな事よりアイリスのパンツ見せろよ。ぐへへへ……』

 

「だから喋り方が違いますって!……『おう!今度は負けないぞ』」

 

 

私はレイン達と一緒にゲームをしました。こうしているとお兄様と遊んでいた日々が蘇ってきてとても楽しいです。クレア達は私に付きっきりで世話をしてくれました。ご飯を食べる時もぬいぐるみを通して喋ります。城の外の散歩も習い事もお兄様と一緒でしたから苦ではありませんでした。

 

 

「はぁ……良かったな。アイリス様の元気な姿を見れたのは久しぶりだ。」

 

「ええ、全くです。」

 

 

時刻も夜に差し掛かり、私はぬいぐるみと一緒にお布団で横になる。こうしているとお兄様と一緒に寝ているみたいです。そういえばこの前はお兄様と一線を超えましたしひょっとしてこのぬいぐるみともそういう事が出来るのでしょうか。

 

私は好奇心でぬいぐるみの手を私の敏感な部分に当てる。すると、体に電撃が走ったような感覚に襲われました。お兄様が私の事を触っている。そう感じたのです。私は必死にお兄様に私の体を触ってもらいます。子宮がキュンとなり愛液が溢れるのが分かりました。凄く気持ちいい……。ぬいぐるみの手が私のクリトリスを優しく愛撫していきます。どんどん幸せな気持ちになっていきやがて私は絶頂を迎えました。こんなに幸せな気持ちになったのは久しぶりですね……。私はぬいぐるみとセックスした後そのまま寝ました。

 

 

 

 

 

 

 

翌朝。

 

『おーいアイリス』

 

「んんっ……」

 

『アイリス!』

 

「ふぇっ?……お、お兄様!?」

 

 

目が覚めるとお兄様が私の部屋に居た。信じられない!お城に帰って来ていたなんて!

 

 

「ほ、本当にお兄様なのですか?いつからそこに居たのですか?」

 

『ああ、俺だよ。アイリスの部屋に入ったら眠っていたから、寝顔を眺めてたんだ。』

 

「もう!私がどれだけ心配したと思ってるのですか!?お兄様が居ない毎日はもう辛くて辛くて……」

 

 

私はお兄様に抱きつき体の温もりを感じる。

 

 

『ははっ、ごめんなアイリス。ちょっと意地悪してみたくなったんだ。』

 

「笑い事じゃありません!」

 

 

私は精一杯お兄様に怒ってみるのだが口角が緩むのが抑えられなかった。お兄様も私の笑っている様子を見てつられて笑い出す。

 

 

「失礼しますアイリス様、ご気分はいかがですか?」

 

 

護衛のレインが私の様子を見に来た。昨日までお兄様が居なくて日に日にやつれていた私はすこぶる心配されていたものだ。

 

 

「気分は最高ですよ!遂にお兄様が帰って来たのです!」

 

「え、カズマ殿がですか!?……ど、どこにおられるのです?」

 

「何を言ってるのですか。すぐそこに居るじゃないですか!」

 

 

私はおかしな事を言うレインにお兄様の方を指さし言う。レインは私の発言を聞いて次第に顔が青ざめていった。

 

 

「ああ、なんてこと……クレア殿!クレア殿来てください!」

 

「どうした。そんなに慌てて何事だ。……アイリス様、今日は一段と元気なご様子で安心しました。」

 

「ええ、お兄様ももう帰って来ましたし私は大丈夫ですよ!これから結婚式までお兄様と遊ぶのです!」

 

「……は?カズマ殿は一体どこにおられるのですか?」

 

「ですからここに居るじゃないですか!」

 

 

私はお兄様の手を取りクレア達に見せる。クレアは少し首を傾げた後、茫然とする。

 

 

「えーと……それはぬいぐるみですよね?」

 

「何を言っているのですか?ぬいぐるみじゃありません。ここにお兄様が居るではありませんか。」

 

 

私は物分りの悪いクレア達に何度もお兄様を説明する。

 

『もう白スーツ達は放っておいて俺達だけで遊ばないか?』

 

「はい!すぐに遊び道具を持ってきますね!」

 

 

私は部屋の隅に置きっぱなしにしていたボードゲームを取り出す。すぐにお兄様の所へ持って行き駒を並べた。

 

 

「アイリス様、非常に申し上げにくい事なのですが……アイリス様がお兄様と思われているものは私が先日あげたくまのぬいぐるみなのです。」

 

「何を言っているのですか?これはお兄様です。お兄様に意地悪するつもりなら容赦しませんよ!」

 

 

私はお兄様を守るように前に立つ。クレア達は可哀想なものを見る目で私の事を見ていた。

 

 

「ああ……もうどうしたら……ぬいぐるみをあげない方が良かったのかしら……」

 

「こ、こんな事になるなんて思うわけがなかろう!と、とにかくアイリス様に現実を言うしかあるまい。」

 

 

クレアとレインはとても困惑しているようです。私は二人を置いてお兄様の手を引き部屋の外へと走り出します。ご飯を食べて、ゲームをして、散歩して……とにかくお兄様とやりたい事が沢山あるのです。

 

城をお兄様と歩いていると周りの使用人達がヒソヒソと噂話を始めた。

 

 

「ぬいぐるみに話しかけているぞ。何か心の病かもしれない。」

 

「あれはぬいぐるみ?まさか幻覚を見てるのかしら」

 

「あぁ……王女様がこのような姿になられて……この国はもう終わりだ……」

 

 

この人達は不思議な事を言いますね。久しぶりにお兄様と一緒に居るから驚いているのでしょうか。でも、これくらいの陰口は大したことありません。だって私にはお兄様がいるのですから!

 

 

「待ってくださいアイリス様!」

 

 

護衛のクレアとレインが後ろから付いてくる。私は今すぐにでもお兄様と遊びたかったが、二人の相手をする事にした。

 

 

「アイリス様、今から辛い現実をお伝えする事になります。少なからずショックを受けるでしょうが私達が付いてますから大丈夫です。」

 

 

レインが私の事を抱きしめながら言う。一体何を言うつもりでしょうか。私がお兄様の方をチラリと見るとニコッと私に笑い返してくれました。私にはお兄様が付いている。きっと大丈夫です。

 

 

「分かりました。お兄様少し待っていてくださいね。」

 

 

レインは私の言葉を聞くと今にも泣き出しそうな表情になる。レインは一度大きく深呼吸をしたがその表情は崩れたままだった。

 

 

「はぁ……ダメです。私からは言えません。……やっぱりクレア殿から言ってくださいませんか?」

 

「わ、私か!?こんな事言ったらアイリス様にどう思われるか……ダメだ、本当の事を言うのは止めよう!」

 

「今ここで言わないでどうするのですか!もうすぐ結婚式だってあるのですよ!……もう!分かりました、私から言います……」

 

 

クレアとレインはしばらく押し問答を続けていたがようやく決心がついたレインが一歩前に出る。レインは杖を手に持ち長々と詠唱を始めた。やがて詠唱が終わり私の方を見て小さく呟いた。

 

 

「ごめんなさいアイリス様」

 

『セイクリッド・ハイネスエクソシズム!』

 

レインが最上級の回復魔法を唱える。私の体が淡く発光しただけで何もない……と思ったがお兄様の姿が消えてしまっていた。代わりにクマのぬいぐるみだけが廊下に落ちている。

 

 

「あれ?お兄様?」

 

「良かった……回復魔法でも幻覚を治す効果はあったようですね。アイリス様、カズマ殿はまだ帰って来ていません。どうかお気を確かに……」

 

「返しなさい……」

 

「ひっ!?」

 

「返しなさい!よくもお兄様をっ!許しませんよレインっ!!!」

 

 

折角お兄様が帰って来たのに、レインのせいでお兄様が消えてしまった!私の事を抱きしめているレインに強烈な腹パンチをする。レインはその場で(うずくま)り「うう゛っ」とくぐもった声を出す。それでも腹の虫がおさまらず思い切り頭を踏みつけてやった。

 

 

「お、おやめ下さい、アイリス様!誰か!手の空いてる者は手伝ってくれ!」

 

 

すぐに駆けつけた使用人五名ほどに無理やり手足を取り押さえられ私は地面に頭を擦り付ける。それでも私の口からはレインへの罵詈雑言が止まらなかった。私の味方だと思ってたのに。いつも私の世話をしてくれたのに。それなのにレインは私からお兄様を奪う敵だった。もう誰も信用出来ない。お兄様以外の人は敵だ。とうとう私の手には手錠が嵌められ、ヘタな行動はできないようになってしまった。

 

 

「レイン殿大丈夫か!すぐに回復用のポーションを持ってきてやる!」

 

 

私の前には血反吐を吐いて頭からも血が出ているレインがいた。彼女が憎たらしくてしょうがない。その日、城は大騒ぎになって私はまた部屋に塞ぎ込むことになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

私の結婚式まであと一日。私はすっかり元気をなくしベッドで一日中横になっていた。手鏡を見たが私の顔は青白く血色も悪い。明日の結婚式でこんな無様な姿をお見せするのでしょうか。もう何もかもが嫌です。

 

 

「アイリス様、失礼します」

 

 

ノックと共にドアから顔を出したのはクレアだった。今日はレインは居ないようだ。

 

 

「アイリス様のお辛い気持ちお察しします。今日も私が一日中付き添いますので少しでも気休めになればと……」

 

「……そうですか」

 

 

昨日私がレインをボコボコにしたからかクレアの挨拶も少しぎこちなかった。あと一歩間違えていればボコボコにされていたのはクレアだったのだ。私に対して恐怖心を抱いてもおかしくないでしょう。

 

 

「今日は天気もいいですし外を散歩してみるのはいかがでしょうか?日光を浴びると健康にもいいそうですよ。」

 

「…………」

 

 

私は無言で返す。明日の結婚式が憂鬱だ。もういっその事めぐみんさん達を拷問して無理やりお兄様を取り返しに行きましょうか。私がムクリと体を起こすとクレアが、

 

 

「……レイン殿は、」

 

 

ぽつりと呟く。何が言いたいのか分からず声の方に目を向けた。

 

 

「レイン殿は、アイリス様に腹を殴られて頭を蹴られても……それでもアイリス様の身を案じておりました。彼女はアイリス様の事を心から愛しているのです。」

 

 

クレアから聞く話は私の予想を上回るものだった。レインが私の心配をしていた……?昨日、私はあれだけの事をしたのに……?自分のことではなく私のことを憂いていたのでしょうか。

 

 

「そしてアイリス様を愛している点では私も同じです。いいえ、私達だけではありません。昨日アイリス様を取り押さえた使用人もアイリス様が暴れて怪我をした料理人も、みんなアイリス様の事を愛しています。」

 

「ですからどうか一人で抱え込まないでください。王女とは責任の伴う大変重要な立場です。その重荷を一人で支えきれない時は私達を頼っていいのです。皆がアイリス様の味方です。例え世界中を敵に回してでも私達はアイリス様を守ります。」

 

 

クレアはつらつらと述べた。その時、私の中で心のつかえが取れた気がした。ああ……私はなんでこんな大切な事を見落としていたのでしょうか。私の周りにはこんなにも私を助けてくれる人がいるのに。私は一人で抱え込んで。近づいてくる人全員を敵だと思って。ずっと私を支えてくれたレインも傷つけて。

 

 

「クレア!レインはどこですか!?」

 

「……えっ!?れ、レイン殿は王城の自室で今日一日休暇を取っているはずですが。」

 

 

私はすぐさま部屋を飛び出す。レインに謝りたい。お腹を殴られて痛かったろう。頭を蹴られて辛かったろう。それでも私を愛してくれたレインの元へ行かなければならない。彼女に今の私の気持ちを伝えなければならない。全速力で走りレインの部屋へ辿り着く。

 

 

「レイン!開けますよ!」

 

 

返事も聞かずにバンと扉を開ける。中にはパジャマ姿のレインが居た。見た所によると怪我は治っているようだ。

 

 

「……うぇっ!?あ、アイリス様!?」

 

 

私はすぐさまレインのすぐ近くまで駆け寄ると、その場で潔く土下座した。お兄様に聞いた所によりますとこれが最上級の誠意を表す姿勢なのだとか。

 

 

「なな、何をしているのですか!?王女様が土下座など前代未聞ですよ!?ここ、こんな所誰かに見られたら私の首が飛びます!お願いですからおやめ下さい!」

 

 

私はそれでも土下座をやめない。いつの間にかクレアが後ろから付いてきていたのか足音が聞こえてきた。

 

 

「な、何事だこれは!」

 

「クレア殿!アイリス様が部屋に入ってくるなり頭を下げてきて……。」

 

 

半ば強引にクレアに頭を上げさせられた。レインは私の事を心配そうに見つめている。私は彼女への懺悔の言葉を口にするため口を開いた。

 

 

「ごめんなさい、昨日の私はレインを敵だと認識して。痛かったですよね?辛かったですよね?」

 

「ああ……アイリス様……良かった……本当に良かったです……」

 

 

レインは顔を手で覆ってしまった。それでも顔が紅くなっているのは分かる。

 

 

「本当にごめんなさい」

 

 

私は再度謝る。レインは立っていられなくなったのかその場にへたり込んでしまった。私はレインの体を優しく包み込みその温もりを感じた。

 

 

「レイン、もしあなたが良ければ明日の結婚式の練習を手伝ってくれませんか?」

 

 

レインは顔を覆っていた手を離し私にくしゃくしゃした顔を見せて言った。

 

 

「喜んで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーそして遂に結婚式当日がやってくる。

 

 

 

 



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この隔てられた二人の愛に進展を!




約7000字あります。





 

 

 

 

 

(アイリス目線)

 

 

 

 

結婚式当日。私は朝早くから外に出かけていました。今いる場所はアクセルにあるダスティネス家の屋敷の前。私の前には数十人余りの兵士達が整列しておりその先頭にはクレアがいました。

 

 

「総員整列!これよりダスティネス家へ突撃する!私に続け!」

 

 

クレアの号令により門の前に居た兵士が次々と屋敷の中へと入って行く。最初は門番と言い合っていたようですが、王家の紋章を見せると呆気なく入ったようです。

私達がララティーナの屋敷へ突撃した理由。それはララティーナ達がお兄様を誘拐した可能性が高いと思っているからです。大した証拠もない以上捜査を進められなかったけど、今日は私の結婚式。何としてでもお兄様を連れ帰らないといけません。

あまり騒ぎにならないように早朝に屋敷まで来たのですが兵士が数多くいるだけあって屋敷の周りには群衆が出来ていました。ダスティネス家と王家に諍いがあると知られるのはあまり良くないですがこの際仕方ありません。

 

 

「アイリス様、きっとカズマ殿は無事です。」

 

 

隣のレインが私の手を強く握りながら励ましてくれる。レインはもう片方の手で、先日私にくれたクマのぬいぐるみを持っています。

私はそのぬいぐるみを見ながらお兄様のことを考えました。お兄様に早く会いたい。もう一ヶ月近くお兄様に会ってない。ちゃんと生きているのでしょうか。無事なのでしょうか。考えれば考えるほど不安になってきます。

 

 

「大丈夫」

 

 

レインが私を安心させるような言葉をかけてくれます。その言葉だけで私は生きていけるような気がしました。

 

 

 

そのまま待つこと約三十分。屋敷の中からぞろぞろと兵士達が出てきました。その中にお兄様が居ないか必死に探します。居ない……居ない……。やがて中から出てきたクレアが私の前に片膝をついて言いました。

 

 

「アイリス様、申し訳ございません。カズマ殿は保護できませんでした……」

 

 

薄々そうだろうとは思っていたけど、実際に言われると少し辛いですね……。

 

 

「そうですか……」

 

「恐らくですがダスティネス殿はここをテレポートの中継地点に使っているのではないでしょうか。カズマ殿が監禁されている屋敷はもっと別の場所にあるかと思われます。これ以上捜索してもカズマ殿の発見は難しいかと……」

 

 

もう永遠にお兄様に会えないかもしれない。クレアは遠回しに私にそう言っているのでしょう。

 

 

「大丈夫ですよクレア、私の事を支えてくれる人がこんなにも居るのです。お兄様が居なくても無事結婚式をやり遂げてみせます。」

 

 

私は出来るだけの笑顔を見せて言った。

 

 

 

 

 

今日は結婚式当日。私は結婚式場の控え室に居ます。国の王女様が結婚するだけあって会場には貴族を始めとする沢山の方が集まっているようでした。

 

 

「アイリス様、大変お綺麗です。」

 

 

護衛のクレアとレインが私の姿を見て目に涙をためながら言う。私は綺麗な純白のウエディングドレスに身を包み座っています。お二人に私の晴れ着を見せる事が出来て良かったです。

 

 

「お兄様にもこの姿を見せたかったですね……」

 

 

私は感慨深げに声を漏らした。結局お兄様は帰ってこなかった。結婚式なのに、私一人で式を挙げろという事でしょうか。それだけは絶対に嫌です。

 

 

「クレア、レイン。一つお願いがあるのですが……」

「お兄様の代わりにぬいぐるみと結婚式を挙げさせて貰えませんか?」

 

「ぬいぐるみと……ですか?」

 

 

この際お兄様無しで結婚式を挙げるしかありません。でも、一人で結婚式をやるのは無理です。

 

 

「このぬいぐるみをお兄様と思って今日は式を挙げます。それなら私はきっと大丈夫です。」

 

「……分かりました。係りの者にも伝えておきます。」

 

 

クレアとレインは私の要望を受け入れてくれる。二人は私に労いの言葉をかけた後、部屋から退出する。私は一人部屋に残されて少し寂しい気持ちになった。お兄様……

 

 

「やぁ、王女様!遊びに来たよ!」

 

 

ガシャンという窓が割れる音と共にクリスさんが部屋の中へ入ってきた。ここは警備も相当厳しくしているはずなのに……。私はすぐに警備の人を呼ぼうと席を立つ。

 

 

「今のカズマくんについて、知りたくない?」

 

 

お兄様の名前が出た瞬間、私は動きを止める。願ってもない情報。王家が総力をあげても見つけられなかったお兄様の行方をクリスさんが知っている。

 

 

「……教えてください」

 

 

私はクリスさんの気が変わらないうちに話を聞くことにした。

 

 

「まずはこの写真を見てみて!」

 

 

そう言うとクリスさんは一枚の写真を私に見せてきた。写真には裸のお兄様がめぐみんさんの女性器を突きながら、アクアさんとララティーナの胸を揉みしだいてる様子が映されている。つまり、お兄様がララティーナ達とセックスしているようでした。

 

 

「どう?結婚式のお祝いに頑張って写真を撮ってみたのさ。魔道カメラも高かったし頑張ってみたんだけど」

 

「……こ、これはデタラメです!お兄様がこんな事するはずありません!」

 

 

私は思わず写真を突き返す。薄々お兄様がそういう行為をしているのではと思っていたが実際に見せられるとかなり動揺してしまう。

 

 

「……その顔が見たかったのさ。私のカズマくんを奪ってイチャイチャばかりして、先輩達もセックス三昧だし……。これで分かったでしょ?もうカズマくんはキミに興味ないの。さっさと諦めてよ」

 

「…………」

 

 

クリスさんの言う事が正しいような気がして来ました。もうお兄様は一ヶ月も監禁されている事になります。私の事を今も想ってくれているとは限らない。

 

 

「だからさ……このくまのぬいぐるみも捨てよ?」

 

 

クリスさんが私の手からぬいぐるみを奪います。と、同時に私の中で糸が切れました。私は強烈な腹パンチをクリスさんにお見舞いします。

 

 

「う゛うっ……!!」

 

「お兄様は私の事を裏切りません!こんなデタラメな写真を作って……。許しませんよ!」

 

 

私は(うずくま)るクリスさんを更に蹴ります。王族が強い事をこの際ハッキリさせてあげましょう。

 

 

「うぐっ!……ご、ごめんなさい……許して……ふごっ!」

 

 

なんだかクリスさんを蹴るのが気持ちよくなってきました。私はずっとお兄様に会えない鬱憤をクリスさんで晴らします。床で(うずくま)る彼女は懺悔の言葉を口にしました。

 

 

「……許して欲しいですか?」

 

 

私は一度蹴るのを止め彼女に尋ねます。彼女は声を出す事も出来ないようでしたが必死に首を縦に振りました。

 

 

「では……私の靴を舐めなさい。」

 

 

ああ……言ってしまいました。私とお兄様の仲を引き裂こうとする女を排除する。それだけでゾクゾクしてしまいます。

 

 

「ごぺ……ごぺんなはい……」

 

 

クリスさんは必死に私の靴を舐めながら謝ってきました。私はお礼に最後に思い切り腹を蹴りあげてその場を去りました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結婚式会場の裏。私はバージンロードに繋がる扉の後ろで入場の時を待っていました。本来お兄様と一緒にバージンロードを歩く予定でしたが、隣にはレインがいます。レインの手にはクマのぬいぐるみがあって私はぬいぐるみと手を繋いでいます。

 

 

「それでは、後方扉にご注目下さい。新郎新婦、入場です。」

 

 

盛大に扉が開かれる。大量に降り注ぐ私達への視線。正確には私の隣にいるレインが抱えているぬいぐるみに向けられた視線。一体なぜクマのぬいぐるみがあるのかと少しどよめきが起こる。

 

 

「本日は勇者サトウカズマがどうしても外せない用事が出来てしまい、代役をクマのぬいぐるみが務めております。皆様どうかお気を悪くされないでください。」

 

 

クレアが宥めるように言ってくれるが、群衆はザワついたままだ。仕方ないのでこのまま式を続けることにする。

 

 

「結婚式をすっぽかす勇者など聞いた事がないぞ!」

 

「あのぬいぐるみは何なのだ。」

 

「まさかあのぬいぐるみを勇者サトウカズマと見立てているのか?」

 

 

好き勝手言ってくれますね。でもこうなる事は想定内です。私もレイン達もみんなこうなると思ってました。でも、途中で逃げ出す訳にはいきません。私は王女ですから。

やがて祭壇の前につき、プリーストの方が長々と私達に尋ねてきます。

 

 

「汝ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスは、この男サトウカズマを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「……誓います」

 

「汝サトウカズマは、この女ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリスを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

『誓います』

 

お兄様の声。驚いて隣を見ると先程までレインがいた所にお兄様が立っていました。

 

『アイリス、心配させてごめんな』

 

ああ……もうどうして……どうしてこのタイミングでお兄様の幻覚を見てしまうのでしょう。私はお兄様の事を見つめながらもこれが私の妄想だとハッキリ理解していた。

 

 

「……お兄様、早く帰ってきてくださいね」

 

『何言ってるんだ。俺はもうここに居るだろ?』

 

私は体の力が抜けそうになるのを必死に抑えます。もう楽になりたい。お兄様と一緒に過ごしたい。その想いがどんどん募っていきます。

 

『ほらアイリス、お兄ちゃんだぞ』

 

お兄様が両手を広げて私に向かいます。あの体に包まれたらさぞ気持ちいい事でしょう。でも……

 

 

「ごめんなさいお兄様」

 

 

私の前にいるお兄様に手を伸ばします。お兄様に触れるかと思われた手はお兄様をすり抜けました。このお兄様は偽物なのです。私は強く自分の頬を叩きました。私は王女、しっかりしなくてはいけません。そっと目を開けるとさっきまで居たお兄様はいなくてクマのぬいぐるみとレインが立っていました。レインは頬を叩いた私の事を心配そうに見詰めています。

 

 

「それでは誓いのキスを」

 

 

プリーストの声に従い私はぬいぐるみの顔を手に取ります。私はそっと口を近づけぬいぐるみにキスしました。

 

 

「……さようならお兄様」

 

 

 

 

 

 

 

遡ること五時間前……

 

 

(カズマ目線)

 

 

今日は俺とアイリスの結婚式がある日だった。だが結局俺を助けに来る者はおらず、俺はこの閉鎖的な空間に閉じ込められたままだ。昨晩もセックスをして左右にはアクアとめぐみんが寝転がっていた。

 

 

「カズマぁ……もっとエッチしたいですぅ……」

 

 

隣に居ためぐみんが俺の背中に抱きついてくる。

 

 

「俺をここから出してくれたらエッチしてもいいぞ」

 

「まだそんな意地張ってるんですか?もう一生ここから出られませんよ。ほら、セックスしましょう?」

 

 

甘い言葉を囁きながら俺に近づいてくるめぐみん。そんな彼女にイラッとして俺は思い切り彼女の頬をビンタした。

 

 

「ふふっ、怒ってるカズマも可愛いですね」

 

 

殴られた当の本人は恍惚とした表情で俺に叩かれた頬を愛おしそうに撫でる。この一ヶ月の監禁生活で俺はめぐみん達の事をどんどん憎むようになり、めぐみん達は俺への愛がどんどん歪むようになっていた。

 

 

「ねえ、もうカズマさんも限界だと思うの。少しくらい出してもいいんじゃないかしら?」

 

 

唯一まともなアクア。だが、狂っためぐみんを止めることは出来ない。

 

 

「大丈夫ですよアクア。カズマが狂えば狂うほど私達のことを愛してくれるようになります。そうなればずっと皆で過ごせるのですよ」

 

 

めぐみんの言葉に何も言い返せない俺とアクア。もう彼女には何を言っても無駄なのだ。もうめぐみんの首を絞め殺してやろうかと立ち上がったその時、バタンと部屋の扉が開かれた。

 

 

「二人とも大変だ!王家の兵士が私の屋敷を取り囲んでいるらしい!」

 

 

ダクネスが焦った様子で述べる。

なんだと……!アイリス達が来てるのか。今度こそ助かるかもしれない。めぐみんとアクアは慌てた様子で部屋から出ていく。彼女達も俺を監禁したことがバレればタダでは済まない。死刑になる可能性だってある。俺を逃がさないように必死になるはずだ。

 

 

アクア達が部屋から出て行ってから十分程経った。その間俺はどうにかして外の人間に俺がいる事を知らせる方法はないかと試行錯誤を繰り返す。

 

「ティンダー」

 

俺の声が部屋に響くだけで何も起きなかった。やはり魔法は封じられているらしい。徒労に終わったがまだ俺は諦めてない。続いて足に取り付いている鎖を思い切り引っ張る。が、鎖はビクともしなかった。

 

その後あらゆる手を使って部屋から出ようとしたがどうにもならなかった。俺はモールス信号でSOSを表す「ーーー・・・ーーー」のリズムで壁を叩いていた。こういった規則的なリズムは人の耳に残りやすいらしい。ひょっとしたら誰かが気づいてくれるかもしれない。

壁を叩く音だけが聞こえる。もしかしたら誰もここに俺がいる事に気がつかないかもしれない。そう考えたら怖くなってきた。

 

 

「おーい、誰かいませんかー!!」

 

 

ありったけの声量で人を呼んでみる。しかし、返事はない。俺の恐怖心はどんどん募っていく。

 

 

「アイリス!俺はここに居るぞ!佐藤和真はここだ!」

 

 

もう一度呼んでみる。誰か答えてくれないだろうか。

 

 

「…………」

 

 

返事はない。もういくら努力した所でどうにもならない気がしてきた。俺は諦めてベッドで横になる。はぁ、もう何もかも終わりだ。めぐみん達に監禁された時から俺の運命は決まっていたのだ。俺は一生この部屋で過ごすことになる。完全に諦めモードで何気なく天井の窓を見上げた。が、目を凝らして見ると、銀色の何かが見え隠れしている。あれは人の髪だ。

 

人だ!人がいる!

 

俺は大声を出して壁をドンドン叩きながら屋根の上に居る人にアピールした。急な音に気づいたのか屋根の上の人は窓を覗き込み俺の姿を確認する。顔を見るとクリスだった。クリスが助けに来たのだ!

 

 

「クリス様!助けに来てくれたのか!遂に出られるぞ!」

 

 

俺は小躍りをしながら窓の上のクリスを見る。クリスは軽く窓の調子を確かめた後、勢い良く窓を蹴破り部屋の中へと降りてきた。

 

 

「助手くん、助けに来たよ!」

 

「クリス様エリス様!俺今日からエリス教徒になります!毎日お祈りもします!」

 

「あはは、これは相当精神的に参ってたみたいだね。どう?女神様らしいでしょ?」

 

 

彼女は文字通り俺の女神様のようだ。本当に辛い時に助けに来てくれたので改めて彼女に惚れてしまう。

 

 

「とにかくダクネス達が帰ってくる前にここから出ましょう!もうこの部屋は懲り懲りなんです!」

 

「そんなに焦らなくても大丈夫だよ。まずは契約をしないといけないし。」

 

「契約?」

 

「ほら、この前エリス様としてカズマくんに会った時言ったでしょ?カズマくんの願いを叶える代わりにアタシの願いも一つ叶えるって。」

 

 

そう言えばこの前エリス様に会った時にそんな事を言ってた気がする。

 

 

「分かりました。早く契約しましょう。」

 

 

クリスは俺の返事を聞くとニコッと笑う。と、同時に光の柱が出現した。光からはエリス様が現れる。

 

 

「お待たせしましたカズマさん。女神の姿じゃないと契約できないのでこの状態でしますね」

 

 

俺の目の前にはクリスとエリス様が居ることになる。

 

 

「え、エリス様!?クリスとエリス様って同時に動けるものなんですか?」

 

 

エリス様は現れたもののクリスも依然としてそこに居たままだ。てっきり二人が姿を変える時は別々に動いていたと思っていたが、違ったらしい。

 

 

「実は二人同時に動く事も出来るのですよ。まあそんな事は滅多にありませんが……。今回は特別です。」

 

 

女神ってそんな事も出来るのか。アクアとは大違いだな。

 

 

「それでは契約をしましょうか。クリスとカズマさんはそこに立ってください。」

 

 

女神エリスがパチンと指を鳴らすと俺とクリスが立っている所に魔法陣のようなものが展開される。エリス様はそれを確認すると長々と詠唱して俺に向かって聞いてきた。

 

 

「汝サトウカズマは、この女クリスを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

 

…………えっ?

 

 

「どうしたのカズマくん、早く契約しよ?」

 

「えっと……それってよく結婚式の時に言うセリフですよね?」

 

 

ダクネスの結婚式の時に聞いた事がある。つまり俺とクリスが結婚すると言っているようなもので……

 

 

「そうですね。それと女神と契約した内容に違反したら死んじゃいます。しかも契約違反による死亡ですからアクア先輩の蘇生も不可能です。」

 

 

契約違反すると死ぬ。そしてその契約の内容が結婚する時の誓いの言葉と一緒。こんがらがっていた頭の中の情報が次第に(まと)まっていく。

 

 

「えっと……つまり、俺がここから出る為にはクリスと結婚しないといけない……って事ですか?」

 

 

エリス様がやろうとしている事はそういう事だと思う。

 

 

「その通り。カズマくんもずっとこんな閉鎖的な空間にいるのは嫌でしょ?楽になろうよ。アタシなら監禁なんてしないし他の女の子との関係も束縛しない。ね?アタシと結婚しよ?」

 

 

クリスは俺を誘惑するように少し上目遣いで聞いてくる。彼女の外に出してくれるという話はとても魅力的で、今の俺には喉から手が出るほど欲しいものだ。だが……

 

 

「俺はアイリスと結婚するんだ。だから……俺はクリスとは結婚出来ない……」

 

「ふーん」

 

 

クリスとエリス様は笑ったまま返事をするがその目は笑っていない。その表情が俺を監禁してた時のめぐみんやダクネスの表情と重なる。俺は二人が少しずつ狂っていくのが分かった。

 

 

「ではカズマさんはずっとここに居るんですね。王家が総力を上げてもカズマくんを見つけられなかったのですから。カズマくんを救出できるのはこの世界で私だけですよ?」

 

「うっ……せめてもう少し条件を下げてくれませんか?今日だってアイリスと結婚式があるんです。式まで挙げたのに他の人と結婚するなんて……」

 

「頭が固いなあ。なら私が許可したら側室を作ってあげてもいいってのはどう?それなら王女様とも結婚出来るかもしれないよ?」

 

 

……それなら悪くないかもしれない。問題はアイリスが許してくれるかどうかだが……いや、許してくれないだろうな。

 

 

「それで、どうするの?」

 

 

これ以上この監禁生活を続けるのは嫌だ。それだけは譲れない。だから俺はクリスの提案に乗ることにした。

 

 

「はぁ……しょうがないからクリスに従うよ」

 

「では、契約成立ですね。」

 

 

俺達が契約をすると互いの体が淡く発光する。やがて光は収まり元の状態へと戻った。これでもう契約に違反することは出来ないのだろう。

 

 

「それじゃあカズマくん、ここを出て最初に行く場所はもう決まってるよね?」

 

 

もちろん、言うまでもなく俺には行くべき所が……行かなければならない所がある。俺の事を待ってくれてる人がいる。向かうは結婚式場。俺は大きくクリスに頷き返した。

 

 

「それじゃあ結婚式をめちゃくちゃにしに行こう!」

 

 

この時の俺にはクリスが言った事の意味がまだ分かっていなかった。

 

 

 

 







今回は「焦点を絞る」事を意識して描いてみました。いかがだったでしょうか。少しでもこの作品が面白くなっていたら嬉しいです。




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この結婚式に祝福を!



約8000字あります。


 

 

(カズマ目線)

 

 

 

 

俺は一ヶ月ぶりに監禁部屋から出て外の世界を見る。外がこんなにも広いこと、自然が沢山あること、人が沢山いることを改めて実感する。

 

 

「じゃあカズマくん行こうか!」

 

 

俺とクリスとエリス様の三人で王城へ向かう。先程テレポート屋を使い既に王都に着いていた。後は結婚式場に向かうだけ。アイリスは元気にしているだろうか。

 

 

「エリス様?さっきからすれ違う人がエリス様を見て仰天した顔をしていますけど大丈夫なんですか?」

 

 

エリス様の今の格好はいつもと変わらない姿だった。この世界で知られているエリス様の姿と瓜二つ。道行く人が驚くのも無理は無い。

 

 

「今日は私達にとって大切な日ですからね。多少騒ぎになっても大丈夫ですよ。」

 

 

エリス様の言う大切な日という言葉がイマイチピンと来なかったが、人目を気にするつもりはないようだ。

 

 

「あれだ!あそこに城が見えてるぞ!」

 

 

ずっと走り続けていると城が見えてくる。相変わらず豪華な城だ。久しぶりに俺が住んでいた城をみて遂に帰って来たんだという実感が湧いてくる。

 

 

「カズマくん、私は王女様とお話があるから別のルートで城に侵入するよ!」

 

 

クリスが一人近くの屋根に飛び乗り早々と走り去っていく。盗賊はこんな身軽な行動も出来るのか。俺とエリス様は二人で城の門へと向かう。エリス様が支援魔法をかけてくれたからか息切れすることもなく走ることが出来た。

 

 

「カズマはどこに行ったんでしょうか……」

 

「うおっ!?」

 

 

曲がり角を曲がった瞬間めぐみんが視界に入った。俺はエリス様を引き止めてすぐに角に隠れ、様子を窺う。

 

 

「なんでめぐみんがここに居るんだ……?」

 

「恐らくカズマさんが居ないことに気がついて慌ててここへ来たのでしょう。彼女達も私達が向かうべき場所が結婚式場だと分かっているのではないでしょうか?」

 

 

クソっ、厄介だな。めぐみんは丁度城の門の所にいてこのままだと城には入れそうにない。俺はどうにか突破出来ないかと策をめぐらせる。

 

 

「そうだ!クリスが城に入ったルートで俺達も城に入るのはどうですか?」

 

「あれはクリスが盗賊職だから入れるルートです。冒険者のカズマさんとアークプリーストの私では真似することが出来ません。」

 

 

我ながらいい案だと思ったが難しいようだ。時間からして丁度結婚式が始まる頃だろう。一刻も早く城に入らないと。

 

 

「あっ」

 

 

俺の中で一つ名案が浮かぶ。これならいけるかもしれない。

 

 

「エリス様、いい案が思いついきました。」

 

 

 

 

 

 

俺とエリス様は手を繋ぎ堂々と歩く。ただし、潜伏スキルを使って。長い事監禁されていて忘れていたがここでは魔法もスキルも使えるのだ。この状態なら見つかることもないだろう。

 

 

「めぐみーん、カズマさんいた?」

 

 

めぐみんの横を通り過ぎようとしたらダクネスとアクアがやってきた。勿論俺達が居ることには気がついてない。

 

 

「いいえ、まだ見てません。」

 

「そうか……もしカズマを見つけたらすぐに両足を切断しよう。そうすれば今日みたいに脱出されることもない。」

 

 

恐ろしい内容をすぐそばで話すダクネス達。もしダクネス達に捕まったらと思うと……。絶対に捕まったらダメだ。早くここから逃げたい。

 

 

「あれ……なんか匂うわね。女神特有の匂いがするわ」

 

 

アクアが鼻をスンスンと鳴らしながら俺の方に近づいてくる。こいつ女神の匂いとか分かるのか!?やがてアクアが近づいてきて俺とバッチリ目が合う。

 

 

「…………」

 

「居たわよめぐみん、ダグネス!パッド付きのエリスも一緒だわ!」

 

 

パッド付きと言われて一瞬エリス様がムッとした表情になった気がする。今はそんなこと気にしてる場合ではないが。

 

 

「逃げますよエリス様!」

 

「は、はい!」

 

 

俺は急いでエリス様と共に城へと向かう。ここまで来たら強行突破するしかない!城の門に着くと門番が俺達の事を制止してくる。

 

 

「おいそこで止まれ!ここから先は立ち入り禁止…………」

 

 

エリス様の姿を見て言葉を失ったのか呆然と立ち尽くす門兵。

 

 

「えっ……エリス様……?」

 

 

エリス様は門番の言葉を聞くと両手を合わせて言った。

 

 

「ここを通して貰えませんか……?」

 

 

少し上目遣いで聞いてくるその表情に篭絡されない男はいない。門兵は慌てた様子で城の門を開けた。

 

 

「しし、失礼しました!どうぞお進み下さい!」

 

 

俺とエリス様は城へと駆ける。後ろにはめぐみん達が付いてきていた。

 

 

「カズマ!それ以上逃げる気なら今ここで爆裂魔法を撃ってもいいんですよ!」

 

「そんなはったり俺が聞くと思うか?……じょ、冗談だよな?流石にここでそんな事しないよな?」

 

 

めぐみんは頭がおかしい。特に爆裂魔法に関しては。ひょっとしたらここで爆裂魔法を放ってもおかしくない気がしてきた。

 

 

「私が冗談を言うと思いますか?今なら家出したことは許してあげます。私の気が変わらない内に早くこっちへ来てください。」

 

 

本当に撃つかもしれない。ここで爆裂魔法が放たれたら大惨事は免れない。俺は逃げていた足を止め、めぐみん達の方へゆっくりと歩き始めた。

 

 

「か、カズマさん!?アイリス様の所に行くんじゃないですか!?」

 

 

俺はエリス様の質問には答えない。めぐみんは俺の態度を見て安堵した表情で、ほくそ笑む。

 

 

「カズマ、お家に帰る気になりましたか」

 

「ああめぐみん、勝手に家出してごめんな」

 

 

俺はそのままめぐみんに近づき、めぐみんの事を軽く抱きしめた。めぐみんも俺のことを抱きしめ温かい吐息が俺の胸に当たる。

 

『ドレインタッチ』

 

「ぬわあああああ!!!」

 

 

俺はめぐみんの首に手を回す時にドレインタッチを発動する。めぐみんは魔力を吸われて力なくその場に倒れた。

 

 

「はっはっは!俺が大人しく帰ると思ったか!俺はもう監禁されるのは嫌なんだよ!じゃあな!」

 

 

俺はめぐみん達を置いて走り去った。アクアとダクネスはピンピンしたままだが、ダクネスはエリス様を捕まえる気がないのか追いかけてこない。アクアも俺を外に出すことに賛成だったからか何もしてこなかった。

俺達は急いで結婚式の所に向かう。

 

 

 

 

 

 

(アイリス目線)

 

 

「それでは誓いのキスを」

 

 

プリーストの声に従い私はぬいぐるみの顔を手に取ります。私はそっと口を近づけぬいぐるみにキスしました。

 

 

「……さようならお兄様」

 

 

 

 

 

「ちょっと待ったぁああああ!!!」

 

 

会場中に響く声。私もレインも貴族達も皆驚いて結婚式場の扉の方を振り向く。バンと勢いよく開かれた扉の向こうにはお兄様の姿があった。

 

 

「俺だ!佐藤和真だ!アイリスの婚約相手はここに居るぞ!」

 

 

一瞬静まり返る場内。だがすぐに大きな歓声に包まれた。勇者が帰ってきただの、王女様が救われただの様々な声が飛び交う。

 

 

「……これは幻覚じゃないですよね?」

 

 

念の為隣にいるレインに聞いてみる

 

 

「はい……!私の目にもハッキリとカズマ殿が映っています……!」

 

 

歓声の中お兄様はゆっくりとバージンロードを歩く。私は必死にお兄様に抱きつきたい気持ちを抑えながらお兄様が来るのを待った。

 

 

「あー……アイリス……元気してたか?」

 

 

お兄様は少し照れ臭そうに話しかけてくる。お兄様との一ヶ月ぶりの会話だ。

 

 

「……はい」

 

「えっと……その……アイリスにずっと言いたい事があってだな……」

 

「……はい」

 

 

お兄様は散々迷った様子を見せながらもバチンと自分の頬を叩いた。私は淡い期待を持ちながらお兄様の行動を見守る。

 

 

「アイリス様」

 

 

お兄様は私に向かって片膝をつく。

 

 

「俺と結婚してくれませんか?」

 

 

お兄様は綺麗な四角の箱に包まれた結婚指輪を取り出した。それはかつて私がお兄様に奪われたあの指輪だった。会場中がより一層の歓声に包まれる。

 

 

「……」

 

「……そ、その……へ、返事を貰えると嬉しいのですが……」

 

 

私が何も言わないのを見てお兄様が上擦った声で返事を催促する。私は少しずつお兄様の元へ足を進める。お兄様も緊張した様子で私の目を見つめていた。

 

 

「お兄様」

 

「ひゃい!」

 

 

素っ頓狂な声を上げたお兄様。その姿を愛おしく思いながらも、私はお兄様の頬を両手で掴む。そして私は顔を近づけ……

 

お兄様とキスをした

 

もうこの人を死んでも離したくない。ずっと私のそばに居て欲しい。そんな思いを込めて口付けする。そっと口を離すと耳まで赤くしたお兄様が居た。

 

 

「大好きですよ……お兄様」

 

 

私は思い切りお兄さまのことを抱きしめる。王女様なのにはしたない行動をしてしまった。でも、今日はクレアもレインも私の行動を許してくれるだろう。ひとしきりお兄様の匂いを堪能した所で少し落ち着く。まだ結婚式の途中だ。お兄様と式を挙げなくては。

 

 

「ここからは女神エリスがこの結婚式の神父を務めます。」

 

 

いつの間にかエリス様が祭壇の前に立っていた。その声を聞いて貴族達からは再び歓声が上がる。中には泣き出している者もいた。

 

 

「エリス様が特別に俺達の結婚式を祝ってくれるらしいぞ」

 

 

お兄様が私に教えてくれる。女神様までが私の結婚式を祝ってくれる。お兄様も帰ってきた。幸せすぎて消えてしまいそうです。

 

 

「それでは新郎新婦は前へどうぞ」

 

 

エリス様の声で私とお兄様は前へ出る。遂にお兄様と結婚式を挙げることが出来る。エリス様は軽く咳払いをすると長々と誓いの言葉を聞いてきた。

 

 

「汝サトウカズマは、この女クリスを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、妻を想い、妻のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

 

…………えっ?聞き間違いだろうか。今私の名前じゃなくてクリスさんの名前が呼ばれたような……エリス様の言葉を聞いて会場は一気に静かになった。

 

 

「カズマくんも忘れてたみたいだけど、私とカズマくんは結婚することになったの!」

 

 

クリスさんが嬉しそうにお兄様と腕を組む。その表情は私に対する侮蔑の思いも含まれているような気がした。

 

 

「あっ…………そうだった。契約があるんだった……」

 

 

お兄様は何かを思い出したようにボソボソと呟く。

 

 

「……う、嘘ですよね……?嘘と言ってくださいお兄様!」

 

「…………」

 

 

お兄様は何も答えず青ざめた顔で立ち尽くすだけだ。

 

 

「まだ結婚式の途中です。誓いの言葉が終わっていませんよ?この式は佐藤和真さんとクリスさんの結婚を祝うものです。王女様は参列席へお座りください。」

 

 

エリス様もお兄様とクリスさんを祝うつもりのようだ。私は仕方なく近くにあった参列席へと座る。未だに何が起きてるのかよく分かっていない。お兄様が他の女の人と結婚……?

 

 

「それでは改めまして……。汝クリスは、この男サトウカズマを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、死が二人を分かつまで、愛を誓い、夫を想い、夫のみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「誓います」

 

 

会場内にいる王家の人達も相手が女神様というだけあって誰もこの式を止めることは出来ない。私はただお兄様とクリスさんが結婚式を挙げる様子を見るだけだった。

 

 

「それでは誓いのキスを」

 

 

お兄様とクリスさんの顔の距離が近づいていき、やがて二人はキスをした。そのキスが自分達は幸せだとアピールしているようでとても見ていられない。ウエディングドレスを着ているのに私は参列席でただ二人のことを指をくわえて見るだけだった。

 

 

「お兄様……さっきのプロポーズは何だったのですか?」

 

 

私は出来るだけ怒りを抑えて聞いた。会場内は静まり返っておりみんなが私達に注目している。

 

 

「ごめん……その……契約があるから……」

 

「カズマくんは王女様と結婚するつもりはないみたいだよ!これからは私と一緒に暮らすもんね!」

 

 

クリスさんの本当に幸せそうな顔は腹が立ちます。

 

 

「私がこの一ヶ月間どんな気持ちで過ごしていたか分かりますか?お兄様のことをずっと待ち続けていたのですよ」

 

「……ならアイリスも俺と結婚するか?」

 

 

…………はい?お兄様は何を言っているのでしょう。

 

 

「ほら、クリスも俺と結婚したいって言ってるし、アイリスも結婚したいんだろ?ならもう二人とも結婚するしかな……ぶはっ!」

 

 

私はお兄様にビンタしました。お兄様がほかの女の人とイチャイチャするのを公認するわけがありません。

 

 

「クレア、式はもう中止です。披露宴も中止にしてください。」

 

 

私は純白のウエディングドレスを着たままバージンロードを一人で歩き会場を後にします。私の結婚式はクリスさんに花婿を奪われて終わることになりました。

 

 

 

 

 

クリスさんに結婚式を乗っ取られた夜。私はクリスさんを部屋に呼び出していました。

 

 

「結婚式とっても楽しかったね!ごめんね、王女様の結婚式を奪っちゃって!でも仕方ないよね!カズマくんが私のことを選んだんだもん!」

 

「…………」

 

 

ニコニコと語るクリスさん。本来なら私とクリスさんの立場は逆だったのだろう。今頃私がお兄様との結婚を喜んでいたはずなのに。

 

 

「一体どんな手を使ったんですか?クリスさん……いや、エリス様」

 

「あれ、バレていましたか」

 

 

私はクリスさんの正体がエリス様だと気づいていた。女神様がわざわざ結婚式を祝いに来るならそれ相応の理由が必要だ。そう考えると自然とクリスさんとエリス様が同一人物だという結論にたどり着く。

 

 

「まあ私の正体の事はこの際どうでもいいです。それより私を部屋に呼び出したのには理由があるのでしょう?」

 

 

いつものクリスさんの口調とは異なり敬語で話すクリスさん。それが少し不気味でゾッとしてしまう。

 

 

「ええ、一体どんな手を使ってお兄様をやり込めたのかは知りませんがお兄様を返して欲しいのです。」

 

 

私はただ頭を下げることしか出来なかった。お兄様がクリスさんと結婚すると言っている以上、強奪することは出来ない。とにかくお願いするしかないだろう。

 

 

「アイリス、ちょっといいか?」

 

 

部屋をノックする音と共に聞こえるお兄様の声。ここは私の部屋ですからお兄様は私に何か用があるのでしょう。軽く返事をするとお兄様がドアから顔を出しました。

 

 

「お、クリスも一緒に居たのか……」

 

 

少し面食らった様子のお兄様。

 

 

「どうしたのカズマくん?私が居ない方が良かった?」

 

「いや、クリスが居るなら丁度いい。大事な話があるんだ……」

 

 

お兄様は覚悟を決めた様子でクリスさんの方を向く。

 

 

「クリス、やっぱり俺はアイリスと結婚したい。だからアイリスを第二夫人にさせてくれませんか?」

 

 

第二夫人……!私が一番じゃなくてクリスさんが一番……!そのことに憤りを感じるが、ここは我慢だ。

 

 

「ふーん、アイリス様もカズマくんの第二夫人でいいの?」

 

 

そんなの嫌に決まっているが、ここで断ればお兄様とは結婚すら出来ないかもしれない……。それだけは避けないと。

 

 

「……分かりました。私が第二夫人でも構いません。お兄様の心の中では私が一番ですから大丈夫です。」

 

「ふーん」

 

 

お兄様はクリスさんに頭を下げたままだ。私はお兄様の提案にかろうじて許可を出してあげた。第二夫人でもチャンスはある。いつかお兄様の一番に返り咲くことだって出来るはずだ。

 

 

「ねえ、何か勘違いしてない?」

 

 

クリスさんが足を組んで私に聞いてくる。丁度光が窓から差し込んできてクリスさんを照らしているようだ。それが彼女の女神としての神々しさを表しているように思えた。

 

 

「私が王女様にカズマくんを貸してあげてるんだよ?カズマくんは王女様の所有物なんかじゃないの。結婚式だって私とカズマくんが結ばれたんだから。」

 

「そ、それは勿論分かってます!で、でも元々お兄様と私は婚約者だったわけで……!」

 

 

ダンとクリスさんはテーブルを叩く。その言葉に威圧され私もお兄様も黙ってしまった。

 

 

「まだそんな過去の話してるの?もう私がカズマくんを奪ったんだよ。形勢は逆転してるわけ。本来なら王女様が私に必死にお願いしてようやくカズマくんの側室になるのを許してあげるレベルなんだよ」

 

「うっ……」

 

 

クリスさんの言葉に何も言い返せない。今日の出来事で既にお兄様はクリスさんのものになってしまっている。今度は私がお兄様を奪おうとしているのだ。

 

 

「でも……どうしてもって言うなら第二夫人になる事を許可してあげてもいいよ。」

 

 

クリスさんが私にニコッと笑いかけてきた。一体何を言うつもりなのだろう。彼女の目が笑っていないことに私は気づいている。クリスさんはこちらに歩いてきて私の右肩を左手で掴む。

そして思い切り私の腹をパンチした。

 

 

「ぐはっ……!」

 

「今朝のこと覚えてる?君にアタシは腹を何度も殴られたんだよ……。こんな風にね!」

 

 

クリスさんは何度も腹を殴ってきます。私は立っていられなくなってその場に(うずくま)りました。

 

 

「おいクリス、やり過ぎだって!」

 

 

お兄様がクリスさんを止めに入ってなんとか収まりました。私はまだお腹の痛みで動けないままです。

 

 

「はぁ〜、スッキリしたしこれくらいにしてあげようかな。第二夫人になるのは諦めなよ。私とアイリス様が一緒だときっと毎日が修羅場になるよ」

 

 

クリスさんは地面に横たわる私の前でしゃがみながら話す。私を見下しています。クリスさんがこれ以上私を甚振(いたぶ)るのにも興味をなくしたのか立ち上がる。

 

 

「待ってください……!」

 

 

私は這いつくばったままクリスさんの足首を掴んだ。

 

 

「確かに私とあなたは決して仲良くなれないかもしれません。……でも、私のお兄様に対する想いは本当です!お兄様の為なら何でも出来ます……!」

 

「ふーん」

 

 

クリスさんは私の想いを値踏みするように見つめる。私は負けじとクリスさんを睨み返した。

 

 

「じゃあさ、私の靴を舐めてよ。カズマくんを愛してるなら出来るでしょ?」

 

 

今朝、私はクリスさんを蹴り上げ靴を舐めさせるように指示をしました。今度は立場が逆になったのです。私は理解しました。これは彼女にとっての仕返しなのだと。

 

 

「おいクリス!そんな要求呑めるわけないだろ!アイリスも無理にやらなくていいって!」

 

「これは女同士の戦いなの……。カズマくんは黙ってて。」

 

 

クリスさんは私を見下したまま椅子の上に座ります。左右の足は組まれていて右足がゆらゆらと私の眼前で動いていました。私は覚悟を決め地面を這いつくばります。もうクリスさんの足は私の目の前です。

 

 

「どうか……私を……第二夫人にしてください……」

 

 

私はクリスさんの裸足を舐めながらお願いしました。お願いした後も指の間を念入りに舐め上げます。その様子を見たクリスさんは満足そうな笑みを浮かべました。

 

 

「仕方ないなー、カズマくんもどうしてもって言うし今回は特別に許してあげるよ」

 

 

どうにかクリスさんの許しを貰えたようです。これで私もお兄様と結婚できます……!

 

 

「失礼致します……アイリス様……?そんな所で寝転がってどうされたのですか……?」

 

 

ノックと共にレインが部屋の中へ入ってくる。私とクリスさんがいがみ合っている姿を見せるのは良くないだろう。私は脇腹が痛むのを我慢しながらよろよろと立ち上がった。

 

 

「別に大丈夫ですよ……それよりどうかしましたか?」

 

 

私は部屋を出ていきお兄様達がいない所でレインと話す。

 

 

「アイリス様がそういうなら深く詮索しませんが……。実は、クリス殿の告発でめぐみん殿、ダスティネス殿、アクア殿の身柄を拘束したのでそのご報告をと思いまして。」

 

「そうですか……」

 

 

お兄様が城へ帰ってきてからめぐみんさん達は全員お兄様を誘拐した罪で投獄された。これから裁判にかけられるがほぼ極刑は間違いないとの事だ。

 

 

「それとですね……もし、アイリス様が望むのであれば……私がカズマ殿を徹底的に落とすテクニックをお教えしようかと。」

 

「……はい?」

 

「い、いえ!ただカズマ殿がクリス殿に奪われてアイリス様もさぞ落ち込まれていると思ったので……。お見受けした所クリスさんは胸の発育が良くないようでしたからアイリス様の胸を使って誘惑するというのはいかがでしょう。具体的な計画はこちらの紙に書いていますので是非参考にしていただければ……。」

 

「余計なお世話です!」

 

 

レインが用意してくれた紙を私は勢いよく破った。

 

 

「ああっ!折角クレア殿と相談して作ったのに!」

 

「何ですかもう!こんな紙なくても私は充分魅力的な女性ですよ!そこまで言うなら分かりました!明日にはお兄様が私にゾッコンになるようにしてみせます!」

 

 

私は高らかに宣言した。

 

 

 

 






今回は想いを強く出すことを意識して作ってみました。いかがだったでしょうか。少しでも作品が面白くなってくれたら幸いです。


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二人の少女と愛の巣を!



8000字あります。




 

 

 

(カズマ目線)

 

 

結婚式が終わった翌日。俺は城の外で日向ぼっこをしていた。監禁生活が長く続いたせいかこうして広い空間にいると心地よくなるのだ。監禁されてた頃は自然や緑がなかった。俺が今寝転がっている芝生の感覚さえも愛おしい。

 

 

「思えば色々あったな……」

 

 

昨日の結婚式で俺とクリスは結婚することになった。今日の新聞では、昨日の事が大々的に書かれている。『王女様、結婚式で盛大に振られる』とか『王女様はぬいぐるみと結婚式を挙げる予定だった』とか書かれていたが……。考えただけでも酷い有様だ。

 

 

「こんな所で何をしている?」

 

「ひっ!?」

 

 

見上げるとクレアが俺の顔を覗き込んでいた。その綺麗な碧眼は俺の事をまっすぐ捉えている。

 

 

「そんなに驚かなくてもいいだろう。丁度お前と話したいと思っていたのだ」

 

 

そう言うとクレアは俺が寝転がっている芝生の横に座る。俺に話があるって……。どう考えても昨日の結婚式の事だよな……。

 

 

「あの……お、俺大事な用事があるから話はまた今度な?」

 

「大事な用事とは何があるのだ?」

 

「それはほら……あれだよ……そう!アイリスと遊ぶ約束があるんだ!」

 

 

口から出任せを言ってみる。監禁される前もクレアは、アイリスの婚約者である俺を目の敵にしていた。その上俺は昨日盛大にアイリスの結婚式を壊したのだ。クレアが俺に怒っていることは明らかだ。

 

 

「アイリス様は今レインの授業を受けているが。」

 

「……じゃなくてほら!クエストでも受けに行こうかと思ってな!ほら!クエスト!」

 

「いつもだらしないお前がクエストなんて受けるわけないだろう。」

 

 

額を汗が伝う。不味いまずいマズイ。俺がさっきから言う嘘も全部見透かされている。

 

 

「まぁ、いい。……それより話があるのだ。今から私の言う事に正直に答えるのだぞ。」

 

 

先程既に嘘をついている。これ以上嘘を重ねてもクレアの怒りを買うだけだ。俺はドキドキしながらクレアの言葉を待つ。

 

 

「お前はアイリス様を愛しているのか?」

 

 

クレアから出た言葉は意外とアッサリしたものだった。愛しているだのそんな照れるセリフ言うわけない、と普段の俺なら思っていただろうが、この時のクレアからはどこか真剣な、まじめで嘘のない答えを欲しがっている。そんな気がした。

 

 

「……愛してる、と思う。安っぽい言葉だけど俺は本気でそう思ってる。」

 

 

クレアは俺の言葉を聞いても表情一つ変えない。そんな様子だから今の俺の返答が正しかったのかよく分からなかった。

 

 

「そうか……ならいい。」

 

 

意外とクレアは怒らなかった。

 

 

「どういう風の吹き回しだ?いつもなら『ぶっ殺してやる!』とか言いながら俺の首を絞めあげてるだろ。」

 

「そんな訳ないだろう!」

 

「え……?じゃあ昨日のこと怒らないのか……?俺はアイリスの結婚式を台無しにしてしまったんだぞ?」

 

「別に……。アイリス様の笑顔を見れたら私はそれでいいのだ。お前が帰ってきたおかげでアイリス様も元気になられた。それで充分だ。」

 

 

清々しい顔でクレアは言った。白スーツにも人の情があったのだと改めて思わされる。

 

 

「……ありがとな。絶対アイリスを幸せにするよ」

 

「ああ、もしアイリス様を泣かせるようなことをしたら承知しないからな……。」

 

 

クレアは俺を脅すように言うが不思議と悪い気はしなかった。彼女もアイリスのことを愛しているのだろう。それだけは俺と同じ気持ちのはずだ。

 

 

「お礼に今度アイリスのパンツあげるよ。」

 

「なっ!?今は真面目な話をしているのだ!そんなもの欲しくなど……欲しくなど……」

 

「要らないのか?」

 

「……いります」

 

 

やはりクレアは変態だった。

 

 

 

クレアにアイリスを幸せにすると約束した。その為の第一歩としてアイリスとクリスに仲良くなってもらおうと思い、三人で食堂で昼食を取っている。愛があればどんな困難でも乗り越えられるはずだと思っていたが……。

 

 

「第二夫人のアイリスさん、私の許可なくカズマくんにくっつかないでくれる?」

 

「泥棒猫のクリスさんこそ人からお兄様を奪っておいて図々しいのでは?」

 

 

見ての通り二人の相性は最悪だった。ご飯の最中だと言うのに二人の喧嘩は止むことは無い。まぁこの前クリスがアイリスをボコボコにしていたしこうなるのも当然か。

 

 

「なぁ……二人とも。もう少し仲良くしてくれないか?これから三人で暮らしていくんだしさ。ずっとこんな調子だと困るだろ」

 

「お兄様。この際ちゃんと言っておきますが、人から殿方を奪うような方とは仲良くできません。」

 

「ひどいなあ、まだ第二夫人にしてあげてるだけ感謝してもいいんじゃない?本当なら私とカズマくんの二人っきりで新婚生活を送るはずなのにさ。」

 

 

二人の会話を聞いてると本当に胃が痛くなる。夢のハーレム生活が始まるかと思っていたが実際に体験してみると女同士のいがみ合いが酷くてとても身が持たなかった。

 

 

「失礼しますアイリス様。」

 

 

護衛のクレアが食堂に入ってくる。マズイ、クレアにはついさっきアイリスを幸せにすると約束したばかりだ。二人が喧嘩している様子を見せるのは良くない。

 

 

「クレア、どうかしましたか?」

 

「いえ、たまには私もアイリス様と食事を取ろうかと思いまして。邪魔でなければご一緒しても宜しいですか?」

 

 

恐らくだが、クレアは俺とアイリスが上手くやれてるか確認しに来たのだろう。クレアは近くにいた召使いの一人に食事を持ってこさせ、クリスの隣に座る。

 

 

「…………」

 

 

気まずい沈黙が流れる。さっきまでいがみ合っていたアイリスとクリスもクレアが入って来てからは静かになった。しかし、時折互いを睨むように見ている。

 

 

「クリス殿と言ったか。アイリス様は王女ゆえ同年代の子どもと関わりが少ない。どうか仲良くしてあげてくれ。」

 

 

クレアが意外と好意的にクリスに話しかけている。ここはどうか穏便にしてくれという願いを込めながらクリスを見つめた。クリスは俺の顔を見て意図を汲み取ったのか軽く笑ってクレアに答える。

 

 

「それは無理だよクレアさん。男を前にしたら女同士の友情なんて成り立たないの。」

 

 

 

 

 

 

空気が凍った。

 

これはヤバいやつだ。クレアはクリスの返答を聞いて面食らったような顔をしたが徐々に眉間にシワがよっていきドスの効いた声で言う。

 

 

「貴様……!あまり調子に乗るようなら王族に対する不敬罪で処罰することも可能なのだぞ?」

 

「ふ、二人とも落ち着こうぜ。……ほら、このご飯凄く美味しいぞ!そうだろアイリス!」

 

 

クレアとクリスが喧嘩しないように俺は話題を変えようとする。二人はしばらく睨み合っていたがやがて目の前の食事に手を伸ばす。

 

 

「お兄様、もしよろしければ私が食べさせてあげましょうか?」

 

 

アイリスが健気に言ってくる。所謂アーンをしたいという事だろう。ただこのバチバチした空気の中でイチャイチャする程俺の肝は据わっていない。

 

 

「き、気持ちは嬉しいけど……また今度な?もっと二人きりの時にやろうぜ」

 

「貴様……、アイリス様のお願いを断るつもりか?」

 

「ひっ!?」

 

 

クレアが鬼のような形相で俺のことを見ている。まるで般若(はんにゃ)だ。俺は怖さのあまり持っていたフォークを落としてしまった。

 

 

「カズマくん、私の許可なく第二夫人とイチャイチャするつもり……?分かってるよね……?」

 

 

クレアとクリスの二人に板挟みになり俺はどうしていいか分からない。と、とにかくここは穏便に済ませないと……。

 

 

「うっ……その……俺はもうお腹いっぱいだからまた今度な?」

 

 

俺はアイリスの要望をやんわりと断り、クリスが満足する方を選んだ。

 

 

「ほう、さっきアイリス様を幸せにしてやると言っていたのは嘘だったのか。そうかそうか……」

 

「……すいません」

 

 

クレアの言葉に何も言えなくなる俺。そんな俺の様子を見てクリスは笑みを浮かべながら言った。

 

 

「今のカズマくんの行動は正しいよ。だって私が一番目なんだもん。アイリスさんは二番目。だから私が常に優先されるんだよ」

 

 

クリスの言葉を聞いたアイリスが拳を握りしめる。俺は彼女が怒りに身を任せないようにそっと手の平を重ねた。アイリスは俺がどうにか宥めたが、クレアは我慢出来なかったようだ。

 

 

「やはり貴様は生かしておけない!」

 

 

クレアがガタッと立ち上がりクリスに襲いかかる。とうとうクレアとクリスが掴み合いの喧嘩をし始めた。

 

 

「そっちがやる気ならアタシも手加減しないよ!」

 

 

クリスは片方の手でテーブルに並べてあったスープをクレアにぶちまける。真正面からスープを浴びた白スーツは服に大きなシミを作り、頭からはポタポタと汁が垂れていた。

 

 

「貴様よくも……!」

 

 

今度はクレアが飲みかけのみそ汁をクリスにかける。クリスの綺麗な銀髪が汚れ服には豆腐やらネギやらが付いていた。もうこれ以上二人を放っておくのは危険だ。俺はクリスを、アイリスはクレアを後ろから羽交い締めするようにして二人を引き離した。

 

 

「お、おい。クリスもあまり怒るなよ。」

 

「クレア、私の為に怒ってくれるのは嬉しいですが程々にしておいて下さい。」

 

 

俺とアイリスが仲裁に入ったおかげか二人は落ち着きを取り戻す。

 

 

「もういいよ、アタシはシャワー浴びてくるから」

 

「待て、私が先だ。こんな格好では仕事もできない。」

 

「「…………」」

 

 

二人は再び暴れ始めた。

 

 

 

 

「ふぃー…………」

 

 

風呂に浸かりながら一息つく。王宮の風呂場は男女で別れており共用だが、中には誰もいなかった。この広い空間を俺一人で占有していることになる。

 

 

「ーーーー」

 

 

湯船に浸かって思い浮かぶのは今日の女達の愛憎劇だ。泥棒猫のクリスだの第二夫人のアイリスだの常に互いを貶し合い牽制し合いの繰り返し。ハーレム生活が始まるかと思っていたが蓋を開けてみればこんなものだ。気の休まる暇もない。

 

 

「もういっそ全てを放り出して逃げてしまおうか」

 

 

女達のドロドロした修羅場を見るのはごめんだ。監禁されている時は主にめぐみんとダクネス、王宮に来てからはアイリスとクリス。彼女達の事を見ていると何だか精神的なダメージを受けてしまう。それならば全員から逃げてどこかでひっそりと一人で暮らすのも悪くない。

 

 

「ん……?」

 

 

どれだけ湯船に浸かっていただろうか。気づけば脱衣所に人影が見える。誰かが入って来たのだろう。ここは男湯だから女が入ってくることはない。これでミツルギなんかが出てきたら文句を言ってやろう。やがてガララっと風呂の扉が開き、

 

 

「あ、あの……背中を流しに来ました。」

 

 

恥ずかしそうにタオルを巻いた裸体のアイリスが胸元と、見えそうで見えない股を手で押さえながら現れる。

 

 

「アイリス……ここは男湯だぞ?」

 

「ええ、ですからこの時間だけ貸切にしておきました。」

 

「ええ……」

 

 

アイリスの大胆な行動には嘆息する。正直言って今は一人になりたかった。この風呂場は女達から逃げられる唯一の安息の地なのだ。

視線を奥にやると、アイリスの背後から同じくタオルを巻いたクリスが視界に入った。

 

 

「クリスもいるのか……」

 

「なにさ?アタシじゃ不満なわけ?」

 

 

男湯に少女二人が入ってくる。昔なら狂喜乱舞していた状況だろうが、今は二人がまた喧嘩し始めないか心配の方が大きかった。

 

 

「今から私とクリスさんでちょっとした勝負をします。お兄様にはその勝敗を決めてもらいたいのです。」

 

「勝負……?」

 

「簡単に言うとエッチな勝負だよ」

 

 

エッチな勝負。なんと官能的な響きだろうか。この言葉を聞いて期待しない男はいない。俺は湯船からザバッと立ち上がり愚息を堂々と二人に見せつけた。

 

 

「なんかカズマくんの息子、小さくない?」

 

 

クリスの発言がグサッと俺の心に傷をつける。昔めぐみんにも息子が小さいと言われたが同じことを言われるということはやはり小さいのだろうか。

 

 

「クリス、言っていいことと悪いことがあるんだぞ……」

 

「あっ……ご、ごめん」

 

 

何はともあれ今はエッチな勝負だ。そのまま湯船から上がり風呂椅子に腰掛ける。クリスとアイリスも俺の両隣に腰を下ろした。二人はギラギラとした目つきで俺の息子を見つめている。その目は獲物を狙うハンターのようだった。

 

 

「先手は譲るよアイリスさん」

 

「怖気付いたのですか?それなら私がお兄様を骨抜きにしてみせます。」

 

 

アイリスはゆっくりと手を俺の愚息に近づけていき様子を確かめるように亀頭を撫で回す。また、空いたもう片方の手で玉を優しく揉み始めた。前回した時よりも確実にエッチがうまくなっている。

 

 

「アイリス……どこでこんな技覚えたんだ?」

 

「先日、レインに教わりました。気持ちいいですか?」

 

 

レインがそんな事教えてたのか。意外とむっつりなのかな。そんな事を考えているとアイリスの手で扱く動きが速くなる。

 

 

「カズマくん、絶対にイッたらダメだからね。ちゃんと我慢して。」

 

「お兄ちゃん。気持ちよく全部出しちゃいましょう。お兄ちゃんがイク所を見せてください」

 

 

二人から正反対の言葉を並べられ頭が困惑してくる。恐らく勝負の内容というのは俺がイッたらアイリスの勝ち。イかなければクリスの勝ちということだろうか。

 

 

「ううっ……正直もうヤバいんだけど……」

 

 

太ももから何かが込み上げてくるのがわかる。変な快感が頭の中を駆け巡りふわふわした気分になっていた。

 

 

「カズマくん、私の目を見て」

 

 

朦朧とした意識の中、クリスの方に目をやる。妖艶な目付きをしたクリスが俺の事を見つめていた。

 

 

「もし勝手にイッたらお仕置きだよ。カズマくんの玉もひねり潰しちゃうかも。絶対にイッちゃダメ。」

 

「お兄ちゃん、クリスさんの言うことは聞いちゃダメです。私の手だけに集中してください。ほら、気持ちいいですよ。正直になりましょう。」

 

「全然気持ちよくないよね。アタシの方がエッチ上手いもんね。アイリスさんの手こきなんてゴミクズ同然だよね」

 

「なんだかビクビクしてますよ?これはもう出ちゃうんじゃないですか?私の勝ちですよね」

 

「ダメ!カズマくん、イッちゃダメ!」

 

 

右側ではアイリスがイケと言い、左側ではクリスがイクなと言う。もう何が何だか分からない。イけばいいのかイッたらダメなのか。ただ快楽に身を任せてぐちゅぐちゅという下品な音を聞く。気持ちいい……。

 

 

「ふうっ……!出る……出るぞ……!」

 

 

耐えに耐えた俺だが暴発は呆気なく起きた。アイリスの手にドクドクと白い液体が飛び散る。アイリスもクリスも雄々しい液体を二人で食い入るように眺めていた。

 

 

「まずは私の一勝ですね。」

 

 

 

 

 

 

 

それからも毎日クリスとアイリスの勝負ーーー要するにセックスーーーは続いた。ある時は俺の部屋で、ある時は野外で、ある時は廊下で。誰かが来るかもしれないという恐怖とこんな所でみだらな行為をしているという背徳感が一層興奮を増していた。俺が王城に帰ってきてから一週間後。今夜もアイリス、クリスと三人でセックスをしていた。

 

 

「ああっ……イきます!……イきますよ!」

 

「アタシも我慢できない……!来る……!来ちゃうよ……!」

 

 

アイリスとクリスを二人同時に手で秘所を刺激してやる。丁度二人とも限界に達したのかプシュッと潮を吹いた。二人は獣のような声を出し快感を体で表現する。

 

 

「はぁ……はぁ……クリスさんが……先にイッたから……はぁ……今回は私の勝ちですね」

 

「ふぅ……何言ってるのさ……アイリスさんが先に潮吹いたでしょ……そうだよねカズマくん?」

 

「うーん、二人とも同時だったから今日は引き分けだな。」

 

「お兄ちゃんの意気地無し……」

 

「まぁ、そう言うなよ」

 

 

イッた後も張り合う二人を抱きしめ俺は中央に寝転がる。ハーレム生活では二人の相手をしないといけない分セックスの回数も多い。今日だけでも三回目となるセックスに疲れ果て早く寝たい気分だ。

 

 

「なぁ、お前らはこの生活に満足してるか?」

 

 

俺は何となしに二人に尋ねた。特にアイリスが幸せかどうかは重要だ。この前クレアにアイリスを幸せにすると約束したのだ。その約束を果たせているかどうか確認する必要がある。

 

 

「不満しかありませんよ。毎日毎日クリスさんとお兄様がイチャイチャ、イチャイチャ……。いつか私がクリスさんを殺してしまってもそれはお兄様のせいですよ?」

 

「もう、王女様は怖いね。アタシは満足してるよ。だって最終的にはアタシがカズマくんを独り占め出来るんだから。」

 

 

どうやらアイリスは不満のようだ。彼女らのためにこの一週間、二人に仲良くなってもらおうとあの手この手を尽くしてきたが結局相容れず対立したままだ。だが、前のように殴り合いの喧嘩をすることは少なくなりエッチな勝負を毎日することで落ち着いてはいる。

 

コンコン

 

控えめなノックの音が聞こえる。こんな夜更けに何の用だろう。さっきまで絶頂を迎えていた二人は動けないだろうし俺がドアから出ようとする。が、今までセックスしていて全裸だったのを忘れていた。仕方なく俺はパンツ一枚だけを履きドアを開ける。ドアの奥にはクレアがいた。

 

 

「なっ……!?貴様なんて格好をしているのだ!しゅ、淑女の前で裸で出てくるやつがあるか!」

 

「いや、ちゃんとパンツ履いてるだろ?それより今何時だと思ってるんだよ。普通の人ならもう寝てるぞ。」

 

 

クレアは俺の裸体を見るのが恥ずかしいのか顔を手で隠しながら話す。いつもの威勢のいい様子はどこへやら女の子らしい反応を見せていた。

 

 

「その……夜遅くにすまない。だが、お前にどうしても伝えたいことがあるのだ。」

 

 

”どうしても伝えたいこと”。その意味深な言い方にドキッとする。まさか愛の告白でもするつもりだろうか。先程の女の子らしい反応を見ているせいでクレアを少し意識してしまっている自分が悔しい。

 

 

「俺に出来ることなら何だって言ってくれ。だって俺は魔王を倒したカズマさんだからな。」

 

 

出来るだけイケボで彼女に答える。俺のハーレム要員にクレアも加わるのか。普段は凛々しい彼女の甘える姿を見るのも悪くないかもしれない等と思っていると、

 

 

「最近、お前が至る所でアイリス様やクリス殿と行為をしていると噂だ。」

 

「…………」

 

 

さっきまでのいい雰囲気はすっかり無くなりクレアの話を聞く。

 

 

「どうもお前は部屋で行為に及ぶだけには飽き足らず、城の外や廊下で情事に耽っているそうではないか。その……城の使用人達からもクレームが殺到していてな。今後はこういう事は控えて欲しい……。」

 

「…………すみませんでした。」

 

 

俺は顔を真っ赤に染め俯いたままクレアに答える。あの時のセックスはギリギリバレていないと思っていた。だが、現実はそんなに甘くなくちゃんとバレていたらしい。

 

 

「もし……どうしてもそういう事がしたくなったならレインからサイレントの魔法を教えてもらえ。それとヤる場所はちゃんと選ぶこと。いいな?」

 

「…………はい。」

 

 

俺は消え入るような声で答える。この事はアイリス達には伝えない方がいいだろう。きっと彼女達も相当恥ずかしい思いをするだろうし。

 

 

「あと最後にもう一つだけ伝えておくことがある。」

 

「今度こそ愛の告白か?」

 

「貴様は何を言っているのだ。投獄されているダスティネス殿についての話だ。」

 

 

クレアは辺りに人が居ないことを確かめるように見回したあと俺の耳元でそっと囁いた。

 

 

”ダスティネス殿が妊娠した”

 

 

何を言われたのか分からず、その場で固まってしまう。今、妊娠と言ったのか。

 

 

「……嘘だろ?」

 

「本当だ。医師の診断も出ている。」

 

 

俺は思わず頭を抱える。やっとアイツらから逃げ切れたと思ったのにとんでもない爆弾を抱えていたようだ。

 

 

「大丈夫か?酷い顔だぞ。」

 

「ああ……本当にアイツらは……。どれだけ俺に迷惑をかければ気が済むんだ……!」

 

 

俺はその場にへたり込んでしまう。もう散々だ。二度とアイツらの顔は見ないつもりだったのに。子どもが出来たら嫌でもアイツらの事を考えないといけないではないか。

 

 

「辛い気持ちは分かるが、これはお前のせいではない。お前が気に病むことはなにもないのだ。」

 

 

クレアが俺の事を慰めてくれる。ダクネス達をどうするかよく考えなくてはならない。そう……子どもが産まれたら俺の子だと言うことはすぐに判明するだろう。アイリス達にもバレる可能性は高い。そうなるくらいなら……

 

 

 

いっそのことお腹の子を殺してしまうのはどうだろう?

 

 

 

 

 







突然ですが、スランプになりました。上手く小説が書けていません。今回の作品のクオリティが低いのは申し訳ありません。散々迷ったのですがとりあえず更新することを優先したためこの形で出すことにしました。プロット自体は完結まで出来ているのですが、細かな部分が決まってなくて非常に苦戦してます。今後も更新の速度が落ちるかと思われます。また、感想やお気に入り登録が励みになってます。そのおかげで今回も投稿することが出来ました。とにかく完結までは絶対描ききるという強い意志があるのでエタることは無いと思います。暇な時にでも読んでくだされば幸いです。

追記:後から編集して及第点まで作品を改良しました。(2023/02/03 )


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諦めない女達 ダクネスのターン!



お気に入り登録者数が遂に300人突破しました!感謝感謝。約一万字あります。






 

 

 

 

(カズマ目線)

 

 

クレアと話した後俺は部屋に戻る。ベッドでは、アイリスとクリスが生まれたままの姿で眠っていた。もう夜も遅い。二人とも眠たかったのだろう。俺は二人を起こさないように気をつけながら、そっとベッドに寝転がった。

 

 

「お兄ちゃん、話は終わったのですか?」

 

 

起こしてしまったのかアイリスが目をうっすら開けて聞いてくる。最近気づいたがアイリスは性行為をしている時だけ俺の事を”お兄様”から”お兄ちゃん”呼びに変えるのだ。つまり、アイリスがこの呼び方をしているということはまだセックスしたいということである。

 

 

「悪い、起こしちゃったな。」

 

「いえ、お兄ちゃんが帰ってくるまで起きてましたよ。クリスさんは寝てるようですし私と二人きりで続きをしましょう?」

 

 

アイリスは慣れた手つきで俺のパンツを脱がしてくる。まだ幼いにも関わらずアイリスは性に積極的だ。多分クリスに俺を取られたくないという理由で俺にマーキングしているのだろう。俺はそれに応えるようにアイリスと熱いキスをする。

 

 

「お兄ちゃんの”ここ”、まだ元気じゃないですね」

 

 

アイリスが俺の肉棒を握りながら囁く。俺の息子はふにゃふにゃしていてまだ臨戦態勢には入ってない。

 

 

「仕方ないだろ、今日だけでも四回は出してるんだぞ。俺も絶倫じゃないし今日は勃たないと思うな。」

 

「じゃあ私と勝負しませんか?」

 

「勝負?」

 

「はい。お兄ちゃんが精子を出したら私の勝ち、我慢出来たらお兄ちゃんの勝ちで」

 

 

負けず嫌いなアイリスは何かにつけて勝負をしたがる。今日は俺とエッチな勝負をしたいらしい。

 

 

「まぁ多分今日は出ないと思うし別にいいぞ。」

 

 

俺が勝負を受けるや否やアイリスは口から唾液を垂らす。月光に唾液が照らされて妖艶な輝きを放っていた。そのまま唾液は垂れていき俺の息子を濡らしていく。アイリスの手の動きによってぐちゅぐちゅと下品な音が部屋に響いた。

 

 

「おふ……アイリスもエッチ上手くなったな……」

 

 

一見雑に手を動かしているようだが、カリや裏筋を適切に刺激してくる。射精とまでは行かないがそこそこの快感が流れた。

 

 

「クリスさんとどっちが上手いですか?」

 

「げっ……クリスの名前を出すなよ……。」

 

 

アイリスが上目遣いで俺の事を見つめる。その大きな瞳に吸い込まれそうになる。私の方が上だと言ってくれと訴えかけているようだった。

 

 

「ここだけの話だが、エッチの上手さで言えばアイリスの方が上だぞ。クリスはいつも同じパターンのエッチが多くて退屈なんだ。」

 

「じゃあ、お兄ちゃんにとっての一番は私なんですね……。」

 

 

アイリスが嬉しそうに微笑む。その笑顔を壊したくなかったので、俺は世間話をするかのようにさりげなく聞いた。

 

 

「なぁアイリス、もし……仮にの話なんだが……アイリス以外の人との子どもが出来たら……どうする?」

 

 

ピタッとアイリスの動きが止まる。

 

 

「……折ります」

 

「ど、どこを……?」

 

「おちんちんです、お兄様のおちんちんを折ります」

 

 

アイリスの目に光が灯っていない。本気で折るつもりかもしれない。結局、この時のアイリスの顔がトラウマで、その日は俺の息子は勃たないまま終わった。何としてでもダクネスの妊娠のことを秘密にしないといけないと悟ったのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日。俺はクレアに連れられダクネスが投獄されている拘置所へと案内される。妊娠したというダクネスに会いに来たのだ。王都と言えど牢屋の作りはアクセルとそう変わらず簡素な作りだった。

 

 

「お待ちしておりました、クレア殿」

 

 

拘置所に入るや否や警察官がビシッと敬礼する。もう既に話は通してあるみたいだ。警察官に連れられるまま拘置所の中を進んで行くとドアの前まで案内される。

 

 

「ここから先にダスティネス卿はおられます。では、自分はこれで。」

 

 

警察官はロボットのようなかしこまった動きで来た道を帰って行く。残されたのは俺とクレアだけになった。

 

 

「もし、ダスティネス殿と話しにくいのであれば私が同席しようか?監禁されていたし恐怖心もあるだろう。」

 

「いや、これは俺とダクネスの問題だ。ちゃんと俺一人でケジメをつける。」

 

「そうか、行ってくるといい。」

 

 

思い切ってドアを開けるとそこには当然ダクネスが居た。ただ椅子に座っていて後ろ手に手錠で拘束されている。その椅子とテーブルを一つ挟んでまた椅子がある。

 

 

「カズマ……!」

 

「よう……一週間ぶりだな、ダクネス」

 

 

監禁生活以来の再会だ。長いことここに収容されてダクネスも気が滅入ってることだろう。慰めの言葉の一つでもかけてあげようかと思ったが、先にダクネスが話し始めた。

 

 

「やっと来たか……。ここでの生活は退屈でな。めぐみん達と話していると気は紛れるのだが、カズマへの寂寥の念が込み上げてきて……。ああ、嬉しいぞカズマ!ようやく迎えに来てくれたのか!」

 

 

ダクネスは気が滅入ってなどいなかった。それ所か俺が来て嬉しいと言っている。

 

 

「……ちょっと待てダクネス。お前は何を勘違いしてるんだ?」

 

「ん?ああ、私が焦らされて興奮していない事か?まぁ普段ならこういう焦らしプレイも悪くないと思っていただろうが、カズマが相手だとどうしても純情になってしまうのだ。」

 

「いや、そういう事じゃなくて……。」

 

 

どうやらダクネスは、俺がここにダクネスを助けに来たと勘違いしているらしい。それどころか俺はダクネスのお腹の赤ちゃんを殺しに来たというのに。

 

 

「ダクネス、お前にも分かるようにハッキリ言っておくが、俺はお前に子供を堕ろして欲しいと思ってる。」

 

 

途端にダクネスから喜色が消えた。お前は本気かと目で訴えかけている。

 

 

「何を言っているのだお前は。そうだ、もう子供の名前もいくつか考えてあるのだ。私の服のポケットに入ってるから取り出して見てくれ。」

 

 

手錠で拘束されているダクネスが首でクイッと服の一部を示す。少し嫌厭したが俺はダクネスのポケットから小さな紙切れを取り出す。中には書いては消した名前の候補が五、六個並べられていた。

 

 

「お前……俺に同情させるつもりか?そうはいかないからな!監禁生活でお前らには容赦しないと俺は学んだんだ。この名前のメモも俺が処分しといてやるよ。」

 

 

俺は無造作にポケットにメモをしまう。ダクネスは『ああっ!』と声にならない声を上げる。

 

 

「待て、本気なのかカズマ!私とお前の子だぞ。嬉しくないのか?」

 

「嬉しいも何も……」

 

 

嬉しくないと言いたかったが、それはダクネスのお腹の中にいる子供に悪い気がして言えなかった。俺の様子を見たダクネスが追撃にかかる。

 

 

「ほら、私のお腹を触ってみろ。もう既にお腹が少し張っているのだ。これを触ってみればカズマも気が変わるはず……」

 

「ドレインタッチ」

 

 

俺はダクネスの言葉を遮って話す。俺の言葉の意味が分からず、ダクネスは怪訝な様子で俺を見つめていた。

 

 

「通常なら魔力を奪ったり逆に魔力を譲渡したりするのに使う。だが、このスキルは本来はリッチーの専用スキル。限度を超えて使えば人を殺すことなど容易い。特に赤子ならな。」

 

 

俺は立ち上がりゆっくりと手をダクネスの腹の方へ近づけていく。ダクネスは今から何をされるか分かったのか激しく抵抗した。

 

 

「嫌だ!やめろ!私の子に手を出すな!」

 

「こら!何を暴れてる!」

 

 

あまりに大声で騒ぐので看守の人がダクネスの様子を見に来た。俺も人前で赤ちゃんを殺したくなかったので手を引っ込める。ダクネスは暴れながらも看守の人に連れて行かれた。その姿がなんだかとても可哀想で見ていられなかった。

 

 

「あの……もう一人カズマ殿にどうしてもお会いしたいという方が居まして……。」

 

 

看守の人が申し訳なさそうに言ってくる。よほど懇願されたと見た。俺は嫌な予感がしつつもそれを受け入れた。

待つこと数分……ドタドタと廊下を走る音が聞こえる。ドアから顔を出したのはめぐみんだった。先程の看守の人も付いている。

 

 

「はぁ……はぁ……カズマ、待ってましたよ。」

 

「そんなに慌てなくてもいいだろ。看守の人も困ってるし。どうもすいません、うちの爆裂狂が」

 

「い、いえ……」

 

 

謝られることに慣れてないのかたじろいだ看守。とりあえず今はめぐみんの相手だ。

 

 

「それで俺に何か話でもあるのか?もう帰ろうと思ってたんだけど」

 

「カズマ、私も子供が欲しいです。今ここで精液をください!」

 

 

この()は何を言っちゃってるのだろう。看守の人も口をあんぐりと開けている。

 

 

「却下だ。帰ってクリスとアイリスの相手をしないといけないんだから早くしてくれ」

 

「今のは冗談ですよ。それより、今クリスの相手をしないといけないと言いましたか?一体どういう事ですか?」

 

 

めぐみん達にはクリスとアイリスの二人を妻にしたことはまだ言ってない。そこをめぐみんは疑問に思ったのだろう。

 

 

「もしかしてアイリスだけじゃなくてクリスも妻に迎え入れましたか?それなら何故私達を見捨てるのです!妻の一人や二人増えたっていいじゃないですか。」

 

「こっちにも事情があるんだよ。クリスの結婚は監禁生活から抜け出す時に半ば無理やりさせられたものだしな。」

 

 

俺の話を聞いためぐみんは人差し指を軽く顎に当て考え込む素振りを見せる。彼女は一体何を考えているのだろうか。

 

 

「……ひょっとしたら私達はクリスに騙されているのかもしれませんよ。だって最初にカズマの監禁を提案してきたのはクリス本人なのですから」

 

「ほーん、それは…………ひょ?」

 

 

クリスが監禁を提案した?クリスは俺を監禁された部屋から助け出してくれたんじゃなかったのか?

 

 

「どういうことだめぐみん、なんでクリスがそんな提案する必要があるんだよ。」

 

「私にもそんなこと分かりませんよ。あくまで推測ですが、監禁されていたカズマを外に出す代わりに結婚する約束を取り付けたとかそんな所ですか?」

 

 

めぐみんの鋭い推理に目を丸くする。俺がコクコク頷いたのを見てめぐみんが深くため息をついた。

 

 

「まったく、あの腹黒エリスにしてやられましたね。私達が警察に捕まることもカズマと結婚することも計算内だったという事です。ええ、本当に腹立たしいですよ!」

 

 

とにかくこの事はクリス本人に直接聞いてみるしかない。俺はダクネスから奪った名前のメモをポケットにしまったまま部屋から出た。ひょっとしたらめぐみん達はクリスの手の平の上で踊らされていただけなのかもしれない。少しずつこの監禁事件の全容が分かっていくような気がした。

 

 

 

 

 

 

「で、どういうことだよクリス」

 

 

俺は城に帰って即刻クリスを問いただしていた。

 

 

「あはは、バレちゃったね」

 

 

クリスはあっけらかんとした様子で笑っている。その笑顔の下で彼女は腹黒さを隠している気がしてならない。

 

 

「全部カズマくんのせいなんだよ?」

 

 

クリスがぽつりぽつりと話し始める。

 

 

「カズマくんがダクネスやめぐみん達とイチャイチャしてる間もアタシはずっと天界でカズマくんのことを見てたんだよ。その時のアタシの気持ちが分かる?それはもうすっごく寂しかったんだよ……。

だから、アクア先輩達を全員犯罪者にさせる事にしたんだ。アタシがダクネスにカズマくんを監禁させるように吹聴したの。案の定盲目的にカズマくんに恋してるダクネス達はカズマくんを誘拐した。ダクネス達は見事にカズマくんを監禁した罪で捕らえられて結果は大成功。アイリス様という邪魔は入ったけどアタシとアイリス様の二人でカズマくんを独占することが出来たってわけ。」

 

 

つまり、この監禁事件はクリスが仕込んだことで、ダクネス達が警察に捕まることも俺と結婚することも計算内だったらしい。

 

 

「……クリス、お前腹黒いな」

 

「まぁ自覚はしてるよ。カズマくんを手に入れる為ならアタシは鬼にでも悪魔にでもなるからね」

 

 

クリスは悪びれる様子もない。エリス様をメインヒロインと思ってた時期もあったがその本性を知ってみれば狡猾な一人の女だった。

 

 

「なぁ……もしもの話だが、俺が他の女の子との間に子どもを作ったらどうする?」

 

「え、アイリス様妊娠したの?」

 

 

クリスが驚いた様子で聞いてくる。まぁ普通ならダクネス達よりアイリスが妊娠したと思うよな。

 

 

「アイリスはまだ妊娠してないぞ。仮定の話って言っただろ?」

 

「そうなの、びっくりさせないでよね。」

 

 

それからクリスはうんうんと唸って考える。出来ることなら子どもを作ることを許して欲しいのだが。

 

 

「そうなったら、その子どもを殺しちゃうかもね。」

 

 

クリスから出た答えは俺の願望と真逆のものだった。結局クリスもアイリスも子どもを作ったら怒り狂う事は確定だ。やはりダクネスの子どもは殺すしかないのだろうか。俺は悩みながら一日を過ごすことになった。

 

 

 

 

 

 

クリスが監禁事件の真犯人だと知って俺の心は揺れていた。今にして思えばダクネス達はクリスに(そそのか)されていただけだ。そんな彼女達に対してこんな仕打ちをしていいのか。子供を殺していいのか。俺は明確な答えを出せないままだった。

だがダクネスの子供をこのまま放っておく訳にはいかない。時間が経つほどダクネスが妊娠したということがバレてしまう可能性も高まる。

その日の夜。俺は再びダクネスが収容されている拘置所へと向かった。

 

 

「カズマ殿ではないですか。面会の時間はもう過ぎていますが、どうかされましたか?」

 

 

今日クレアと一緒にここに来た時に対応してくれた人が出てくれた。クレアがいないせいかあの時の畏まった動きではなく普通の対応だ。

 

 

「あの……どうしてもダクネスに会いたくて。無理を言ってるのは分かるんですけど会わせてもらえませんか?」

 

「それは無理ですね。また明日に出直してきてください。」

 

 

ぶっきらぼうに断られた。俺としては何としてでも今日会いたいのだ。ここで折れる訳にはいかない。

 

 

「そこをなんとかお願い出来ませんか?」

 

「はは、そこまで言うならチップでもくださいよ。私はね毎日毎日犯罪者共の相手をしているんですよ。たまにはそのご褒美があってもいいと思いますがね。」

 

 

こいつ……昼間は真面目な警官かと思ってたのにとんでもない奴だな。俺は仕方なく財布から金銭を取りだし警官に渡した。

 

 

「話が分かる人で良かったです。今日面会に使った部屋に連れてきますので少しお待ちください。」

 

 

俺は警官と一緒に昼間通った道を歩く。途中で筋肉隆々ないかにも強そうな人が目に付いた。その人は俺達を見ると片手を上げこちらに近づいてくる。

 

 

「誰だこの人は。一般人の面会時間は過ぎてるぞ。」

 

「すいません、どうしても会わないといけない人がいて。ダクネスと言う奴なんですが」

 

 

俺が出来るだけ低姿勢で用件を話す。俺の言葉を聞いたマッチョは一瞬驚いた表情を見せた。

 

 

「その囚人は俺が世話してる奴だ。俺が案内してやるよ。」

 

 

俺から金を取った悪人はマッチョに敬礼した後、元来た道を戻っていった。

 

 

「お兄ちゃん、あいつにチップを渡しただろ?」

 

 

悪人が居なくなった後にマッチョが俺に尋ねてくる。首を縦に振るとマッチョは大きなため息をついた。

 

 

「あの新入りは拝金主義なんだよ。代わりに日当を減らしといてやる。お兄ちゃんもあんな奴にチップなんて渡すなよ」

 

 

このマッチョは怖そうな見た目に反していいい人だった。お金を悪人に渡してしまったがその分給料を差し引いてくれるらしい。心の中で感謝しながらマッチョに付いて行く。

 

 

「もしかしてお兄ちゃん、ダクネスとかいう女の旦那さんか?」

 

 

旦那かどうかと言われると曖昧な関係だ。どう答えていいのか分からず沈黙しているとマッチョは肯定と受け取ったのか話を続けた。

 

 

「あの女妊娠したんだってな。女は罪を犯したかもしれないが、子どもに罪は無い。子どもが産まれたらお兄ちゃんが可愛がってあげてくれ。」

 

 

マッチョの言葉を聞いて耳が痛かった。ダクネスの子どもを殺すのにも躊躇しそうになる。弱気になる度に俺はアイリス達の顔を思い出して自分を奮い立たせた。

それから昼ダクネスと面会したあの部屋に案内される。待つこと数分、マッチョがダクネスを連れてきた。

 

 

「嫌だ!私の子供を奪われてたまるか!やめろ!私はカズマに会う気は無い!」

 

「おら!静かにしろ!」

 

 

大声で叫んで抵抗するダクネスを無理やり連れてくるマッチョ。ダクネスは俺に子どもを殺されると思ってここに来るのを相当嫌がっているようだ。だが、マッチョも怪力なのかダクネスをどうにか椅子に座らせ手錠で手を拘束させる。

 

 

「嫌だ嫌だ……子どもを奪われたくない……!絶対にこの子は守るからな。」

 

 

マッチョが部屋から出ていき俺とダクネスの二人きりになる。ダクネスは終始俺を警戒した様子で見つめていた。その目には涙が滲んでいる。

 

 

「ダクネス、ごめんな。」

 

「やめろ……私に触るな……お願いだ……子どもだけは奪わないでくれ……」

 

 

ダクネスは懺悔の言葉をひたすら口にする。こんなに弱々しいダクネスを見たのは初めてだ。それだけ子どもに対する愛情が深かったのだろう。俺はそんなダクネスの元へと近寄りそっとしゃがむ。身重となるダクネスの腹に手を当てた。

 

 

「ひっ……!」

 

 

ダクネスは怯えた様子で目をぎゅっと閉じている。腹を触ってみると少しお腹が張っているような気がした。やはりダクネスは妊娠しているのだろう。

 

 

「お願いしますエリス様……!どうか私の赤ちゃんを守ってください……。お願いしますお願いします……。」

 

 

今度は神頼みをし始めたダクネス。彼女の痛々しい様子を見たくなくて俺は早くドレインタッチを使おうと思ったが体が動かない。金縛りにでもあったかのようにただダクネスのお腹に手を当てるだけだった。

このお腹の中に赤ちゃんがいる。少し張ったそのお腹が俺に訴えかけてきた。

 

 

「…………」

 

「……カズマ?」

 

 

俺が暫く何もしないことを不審に思ったのか、ダクネスがうっすらと目を開け俺の事を見てくる。その目で見られるのがいたたまれなくなって俺はダクネスから手を離してしまった。

 

 

「カズマ、私がここに収容されて妊娠が発覚してから毎日産まれてくる赤ちゃんのことを考えてたんだ。名前はどうしよう、男の子か女の子か、カズマに似た顔つきだろうかとか……。」

 

「もうやめてくれダクネス……」

 

「カズマとの幸せな生活が始まると思ってたんだ。私とカズマで子育てに奔走する毎日を過ごしたかったんだ。毎日大変だけど笑いが絶えない、そんな家庭を作りたかった……。」

 

「やめてくれ……」

 

 

ダクネスの赤ちゃんの事や理想の生活を語るのを聞いて俺はもう完全に動けなくなってしまった。もうダクネスの子どもを殺す気力もないし、そもそもそんな勇気もない。俺はポケットから昼間ダクネスから貰った名前のメモを取り出し机の上に置く。

 

 

「これは返すぞ……」

 

「カズマ……!」

 

 

結局俺はメモだけを渡してその場を去った。赤ちゃんを殺すのなんて簡単だと思っていた。でも、ダクネスのお腹を触ってその考えは吹き飛んだ。そこに命があって人生がある事を考えると人は踏みとどまってしまう。俺は為す術なくただ城へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

ダクネスに会った帰り道。俺はとぼとぼと城へ向かっていた。既に夜も深い。もうすぐ日をまたぐ頃だ。早く帰ろうと足を早めていると遠くの地面に何かが落ちているのを見つけた。誰かの洋服か何かかと思って近づていくが違った。

 

それは猫だった。

 

しかも首から血を流している。このまま放っておけば死んでもおかしくない。すぐに助けようと『ヒール』をかけるが効果は薄かった。もっと俺より優秀なプリーストの元に連れていかないといけない。王城につれて行けば優秀なプリーストも大勢いるだろうし、連れて帰ろう。そう思い立ったが、俺はある事に気づいてしまった。

 

本当にこの猫を助けてしまっていいのかと。

 

普段の俺なら何の迷いもなくこの猫を助けていただろう。だが、今の俺はそれが出来なかった。

 

俺はこれからダクネスの赤ちゃんを、人間を殺すのにたかが猫に同情してどうするのかと。こんなことで心を揺さぶられてどうするのかと。そんなことで人が殺せるのかと。

 

俺はここでこの猫を見殺しにしなければいけない。さもないと、ダクネスの赤ちゃんを殺すことなど到底出来ないだろう。早く猫を置いていってしまえ。元々血を流していて死にそうだったのだ。俺は何も見なかったことにすればいい。頭の中の俺が警鐘を鳴らし猫を見捨てろと警告してくる。

 

 

「ごめんな」

 

 

俺は子猫に小さく謝り立ち去ることにした。猫は鳴き声一つ発さずにただ横たわるだけ。俺は早足で城へ向かう。

 

脳裏に今日のダクネスの姿が過ぎった。

 

『嫌だ!やめろ!私の子に手を出すな!』

 

ダクネスは赤ちゃんを殺されそうになった時、そう言っていた。

 

『お願いしますエリス様……!どうか私の赤ちゃんを守ってください……。お願いしますお願いします……。』

 

エリス様にも縋っていた。もう何に頼ってでも子どもを守りたかったのだろう。俺はそんなダクネスを見て何をした。子どもを殺すことが出来たか?いや、躊躇した。

 

 

「はぁ……」

 

 

俺は大きくため息をつく。と、同時に進んでいた足を止めその場に立ち止まった。

 

ようやく気づいたのだ。俺は赤ちゃんを殺せない。

 

俺は先程の猫の所へ駆け戻る。あの子猫を見殺しに出来ない。急いで来た道を戻ると猫はまだ横たわったままだった。

 

 

「体はまだ温かいな……」

 

 

俺は猫を腕に抱いて走った。この猫はダクネスの赤ちゃんと一緒だ。この子猫を救うことがダクネスの赤ちゃんを救うことになる。実際そんな事ないのだがこの時の俺にはそう思えて仕方なかった。

城まではまだ距離がある。こんな夜中に全速力で走っているやつはこの街で俺だけだろう。俺は必死に走る。五臓は既に疲れ果て、口からは血の味がしている。よろよろと何度か立ち止まりそうになるがその度にえい!と自分に喝を入れ走った。

 

そしてとうとう王城までたどり着く。王城の門番が俺の只事(ただごと)では無い様子を感じ取ったのかすぐに俺の元へ駆け寄ってくる。

 

 

「おい、この猫血を流してるぞ!すぐにプリーストの元へ運べ!」

 

 

後は門番が猫を助けてくれるだろう。俺は安堵の息をつきその場に倒れ込んだ。猫を見つけてからここ王城まで一度も休憩せずに走ってきたのだ。座ってられる体力も残っていない。

 

 

「待っていましたよお兄様。」

 

 

声の方に目を向けるとアイリスがいた。夜遅くに出かけた俺のことを心配して待っていてくれたのだろう。

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

「ほら、お水がありますから飲んでください。」

 

 

アイリスが俺に水の入ったコップを差し出す。だが、俺はそれを受け取らずアイリスと話す。

 

 

「……はぁ……アイリス、とても大事な話があるんだ。出来ればクリスとも一緒に話したい」

 

 

アイリスは俺の発言を聞いて首を傾げるばかりだった。

 

 

 

 

 

 

 

深夜。俺は自分の部屋でクリスとアイリスの二人の前に正座していた。いつもならこの三人でセックスをしている所だったが俺のタダならぬ雰囲気に二人とも色仕掛けはしてこなかった。

 

 

「それで話って何?アタシはもう眠たいんだけどさ。」

 

 

クリスがふぁ〜と欠伸をしながら言ってくる。俺は両手を前につき遂にクリス達に言った。

 

 

「ダクネスを妻にさせてください!」

 

 

俺の発言を聞いてクリスもアイリスも固まる。まさか第三夫人まで(めと)りたいと言うとは思っていなかっただろう。

 

 

「カズマくん……?」

 

「はい、なんでしょ……ふごっ!」

 

 

クリスが俺の頭を蹴り上げてくる。かなりお怒りの様子だ。

 

 

「浮気はダメって言ったでしょ!」

 

「ご、ごめんなさふがっ!……これには深い事情がふっ!」

 

 

何度も滅多打ちにされる。俺の様子を心配したのかアイリスが打ちのめされた俺の近くにしゃがみ込んだ。

 

 

「大丈夫ですか?お兄様」

 

「……あ、ああ。アイリスは優しいなぁ……」

 

「はい、優しいので私はビンタだけで許してあげますよ」

 

「え?それどういう……ふぼっ!」

 

 

パンッ、と乾いた音が部屋に響く。何度もアイリスの往復ビンタが飛んできてその全てを俺は受け止めた。

 

 

「今回はララティーナに免じて特別に許してあげます。いいですか?次はないですからね!」

 

「あ、ありがとうございます……。」

 

「はぁ、ダクネスは親友だし特別に許してあげるよ。」

 

 

どうにかアイリス達にもダクネスを妻にする許可を貰えたようだ。

 

 

「あ、ダクネスはもう妊娠してるから」

 

「「!?」」

 

 

この後、俺はクリスとアイリスにボコボコにされたのは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 






今回はテーマを入れることを意識して作ってみました。いかがだったでしょうか。後書きですが、色々書くことがあります。

まず、次の話についてですが、クライマックスの部分だけ出来ていて他の部分はプロットも全く出来ておりません。ですから、更新が割と遅れるかもです。(次回はめぐみん回になる予定です)

次に、この作品がそろそろ完結しそうです。そこでこの作品が終わったら次回作として見たいものをアンケートしようと思います。ただし、アンケート結果ガン無視で次回作を決める可能性があるのでそこはご了承ください。

読者の皆様のおかげでここまで来れました。いつも私の作品をご覧になってくださりありがとうございます。完結まで是非お付き合いください!


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諦めない女達 めぐみんのターン!(前編)



約一万字あります。前編と後編をまとめて見た方がスッキリするかもです





 

 

 

 

(めぐみん視点)

 

 

私は今、牢屋に収容されている。王女様の婚約者を(さら)った罪で捕まったのだ。牢屋ではアクア、ダクネスと同じ牢に入れられていたので、二人と話していればそこまで気が滅入ることも無かった。

 

 

「ダクネス、カズマとの面会はどうでしたか?」

 

 

何気なくダクネスに聞いてみる。昨日の面会から一言も喋らなくなったダクネスは私の言葉を聞いてぶるりと身体を震わせた。

 

 

「……カズマに子どもを堕ろせと言われた。」

 

 

ダクネスの発言に絶句してしまう私。隣のアクアを見れば彼女も信じられないという顔をしている。あのカズマが子供を堕ろせと言うなんて……。

 

 

「もう私はおしまいだ……。カズマは助けに来ない。それどころか私の赤ちゃんまで奪うつもりだ。」

 

 

ダクネスは酷く怯えてるようだ。そんな彼女を慰めるためにアクアがダクネスを抱きしめてあげた。

 

 

「大丈夫よダクネス、私からカズマさんをどうにか説得してみるから。絶対ダクネスの赤ちゃんを守ってみせるわ」

 

 

こうしてアクアの慈悲深さを目の当たりにすると本当に女神なんだなと実感する。私も彼女の優しさに何度も救われてきた。ダクネスはアクアの胸の中で嗚咽を漏らしていた。

 

 

「112番、113番、114番、出ろ」

 

 

突然、看守の人が冷淡に言う。112番〜114番は私達に振り当てられた番号だ。ダクネスが泣いてるのに空気を読めと言いたかったが、彼らにアクアのような優しさはないようだ。泣いているダクネスもアクアに支えられながら牢屋を出た。看守に言われるがままついて行く私達。

 

 

「もしかしたらカズマが来たのかもしれない。今度こそ終わりだ……!もう私の赤ちゃんを守りきれない……!」

 

 

ダクネスが悲痛な声を上げる。その度にアクアが励ましてあげる。もしかして今から処刑されるのだろうか。婚約者を誘拐したので死刑も充分あり得る。そのまま看守に案内されたのはこの前カズマとの面会に使った部屋だ。私達が中に入ると、クレアとレインがいた。

 

 

「お勤めご苦労だったな。突然だが、お前達は釈放だ。」

 

 

クレアの言葉を合図に私達に嵌められていた手錠が外されていく。未だ状況を上手く呑み込めない。

 

 

「いきなり釈放ですか……?なぜ急にそんな事に?」

 

「カズマ殿の温情だ。特にダスティネス殿が身ごもったからお前達を罪に問うのをやめたらしい。」

 

 

思いがけない幸運に驚く。てっきり私達はこのまま処刑されてしまうものだと思っていた。

 

 

「それとカズマ殿はダスティネス殿を妻に(めと)りたいそうだ。もう赤子を殺すようなこともしないので安心して欲しいとの事だ。」

 

 

クレアの話を聞いてへたり込むダクネス。子どもを無事に守れたことで安心して腰が抜けたのだろう。その上カズマと結婚出来るときた。ダクネスがカズマと結婚出来るなら私もカズマと結婚出来るのでしょうか。

 

 

「ダスティネス殿は今から王城へテレポートで送ります。めぐみん殿とアクア殿はここでお別れです。」

 

 

レインの発言に固まってしまう私。

 

 

「ちょっと待ってください。王城に行くのはダクネスだけですか?私も妻にするんじゃないですか?」

 

 

カズマのことだ。ダクネスだけを妻にして私を見捨てるなんてありえない。

 

 

「……はい。カズマ殿はダスティネス殿だけを妻に娶りたいと言っております。」

 

 

現実は非情だった。私は選ばれなかったようだ。

 

 

「そんなはずありません!カズマは私のことを選ぶはずです!きっと何かの間違いです!」

 

 

私がレインの胸元を掴み問いただそうとした時、ヒュンと剣が私の前髪を(かす)めた。クレアが剣を抜いたのだ。

 

 

「貴族に対してあまり無礼な態度を取るな。首が飛んでもおかしくないのだぞ」

 

 

クレアは冷淡に言う。貴族のダクネスと仲良くしていて忘れてしまっていたが今目の前にいるクレアもレインもアイリスの護衛を任されるほどの身分だ。

 

 

「では、行きましょう。『テレポート!』」

 

「ちょっと、まだ話は終わって……」

 

 

私がレインについて行こうとした時、私の目の前からダクネスとクレアとレインの姿が消えた。

 

 

「カズマ……どうして……!」

 

 

カズマに選ばれなかった私はただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

 

牢屋を釈放されてからというもの、私は毎日王城へ突撃しては兵士に捕まっていた。私達が釈放されてから一週間後、今日もお城へ行ったが返り討ちに会い、アクセルの屋敷まで帰ってきた。

 

 

「ただいま、帰りましたよー」

 

「おかりー」

 

 

広間へ行くと案の定アクアがいた。晩ご飯の用意をしてるのかキッチンで何かを炒めている。

 

 

「丁度夜ご飯が出来た所よ。これ持っていくの手伝ってちょうだい」

 

 

私はアクアから皿を受け取りテーブルに並べていく。と言っても二人分の食事しかないのですぐに配膳は終わってしまった。アクアが料理を持って席につき、二人でご飯を食べる。

 

 

「それでどうだったの?カズマさんには会えた?」

 

 

ご飯を食べながらアクアが聞いてきた。

 

 

「今日もダメでしたよ。こうなったら爆裂魔法を使って脅すしかないかもしれませんね……。」

 

「そんな事したらまた捕まるわよ。はぁ、まさかダクネスがカズマさんと結婚するなんてね……。」

 

 

牢屋から釈放された後、ダクネスから聞いた話によるとカズマはアイリス、クリス、ダクネスの三人を妻にしたらしい。そんなに妻が沢山いるなら私がカズマと結婚してもう一人くらい増えても構わないだろうと思ったが、カズマは私との面会を一切拒否していた。

 

 

「なんで私はこんなにカズマを愛しているのに、カズマは私を愛してくれないのでしょう」

 

 

私の言葉にアクアは困った顔で苦笑いする。

 

 

「それなら私も明日からお城に行くわよ。私からカズマさんにめぐみんに会ってくれるように説得してみるわね。」

 

 

こういう時のアクアはとても心強かった。私がカズマを監禁してる時もメンタルが不安定な時はいつもアクアに慰めてもらっていた。アクアに頼るのは今でも変わらないらしい。だが、今はそれより……

 

 

「あのアクア、さっきからベタベタしてきて……ちょっと邪魔なのですが……。」

 

 

アクアは四人用のテーブルなのに、向かい側に座らず隣に座って私に抱きついていた。

 

 

「めぐみんの匂いを嗅いでいるのよ。昨日お風呂にちゃんと入った?なんだか汗臭いわよ」

 

「うっ……!」

 

 

昨日はカズマをストーカーしようと思い立ち、ずっとお城の前で待ち伏せていた。そのせいでお風呂に入る暇がなかったのだ。つまり、アクアの指摘は図星だった。

 

 

「分かりましたよ!今からお風呂に入りますから離してください!」

 

「ダメよ、もし目を離した隙にお風呂で溺れちゃったらどうするの。私も一緒に入るわ。」

 

「そんな死に方しませんよ!」

 

 

アクアが無理やり私に付いてくる形で一緒にお風呂に入る。なんだかんだ言いながらも彼女が私と一緒に居てくれるのはありがたかった。私達は脱衣場で衣服を脱ぐ。アクアがパンツを下ろした時にアクアの秘所を見て気づいたがアクアには毛が一本も生えていなかった。

 

 

「どこ見てんのよめぐみん……」

 

 

アクアの秘所を見すぎていたのかアクアが恥ずかしそうに股を隠す。

 

 

「……はっ!?ち、違いますよ!偶然アクアの股が目に入っただけです!偶然ですよ!」

 

「いいからお風呂に入りましょう。そんなに慌てなくていいから……。」

 

「だから違うと言っているでしょう!」

 

 

アクアは喚く私を押してお風呂へと入る。体を洗う前に風呂に入るのはマナー違反かもしれないが今日は私達二人しかいないので別にいいだろう。

 

 

「ねえめぐみん、今日爆裂魔法の音が聞こえなかったけど今日は爆裂してないの?」

 

 

お風呂でゆっくりしているとアクアが尋ねてくる。確かに今日は爆裂魔法を撃ってなかった。だが忘れてた訳ではなくちゃんと理由がある。

 

 

「ええ、カズマを手に入れるまでは爆裂魔法を封印しようと思いまして。」

 

 

これは辛い気持ちを味わいカズマを愛する気持ちを忘れないようにする為だ。この我慢によってより一層カズマへの愛が深まる気がした。

 

 

「そう……」

 

 

アクアは私の言葉を聞いて小さくため息をつく。

 

 

「ねえめぐみん、カズマさんを諦めた方があなたは幸せになれるはずよ。」

 

 

アクアは諭すように私に語りかける。

 

 

「何を言っているのですか。そんなハズありません。私の幸せにはカズマの存在が不可欠なんです。」

 

「大丈夫よめぐみん……いつかきっと私の言っていることが理解できる日が来るわ……。その日まで私がずっと傍に付いてるからね……」

 

 

アクアの目には涙が浮かんでいた。私は訳が分からず困惑するばかり。アクアを困らせないように頭を撫でてあげたり背中をさすったりしたが、アクアの目から涙が止まることはなかった。

 

 

 

 

 

 

それからアクアが一緒に城へ付いてくるようになった。その甲斐あってかアクアだけが城の中へ入れてもらえることになった。そう、アクアだけだ。私は城に入れて貰えなかった。仕方ないので私はお城には行かずアクセルの屋敷でアクアから話を聞く毎日を過ごすことになった。

私が釈放されてから二週間後、夜の帳が下りて、私はアクアと一緒に夜ご飯を食べていた。

 

 

「それでカズマの最近の様子はどうでした?」

 

 

今日もカズマの話をアクアから聞く。これは私の日課になっていた。

 

 

「色々あったわね。まず、カズマさんはダクネスとアイリスの親にちゃんと結婚の挨拶に行ったそうよ。貴族と王族を同時に妻にするのは前代未聞のことで親の説得に相当手間取ったらしいわ。まぁでも誠意を見せて最終的にはどちらの両親からも許可を貰えたそうよ。」

 

 

カズマは着実にハーレムの準備を整えているらしい。そこに私が含まれていないのが不満だ。

 

 

「それと今日カズマさんに会ったけれど、一日中ダクネス達とイチャイチャしてたわ。ヒキニートの癖に生意気よね」

 

 

私がカズマに会えない間もダクネス達はカズマとの仲を深めているらようだ。私も一刻も早くカズマに会わなければいけない。

 

 

「カズマとはいつ会えそうですか?カズマの顔を見ないと胸がソワソワして落ち着かないのですが。」

 

「そうね、今頑張って説得してる所よ。そんなに心配しなくてももうすぐ会えるわ。カズマさんのことが気になるなら私がカズマさんと出会った頃の話をしようかしら。」

 

 

それからアクアはカズマが、トラックという乗り物に轢かれたと勘違いしてショック死した話を始めた。カズマがそんな死に方をしていたのは初耳だった。そんなカズマのかっこ悪い所も好きなのですが。

 

 

「それでね、死んじゃった人には三つ選択肢があるのよ。一つ目は生まれ育った世界でもう一度赤子からやり直すこと。二つ目は天国で一生おじいちゃんみたいな暮らしをすること。そして三つ目が異世界に転生することよ」

 

 

アクアの話によるとカズマはこの三つ目の異世界転生を選んだらしい。

 

 

「アクア、今言った二つ目の天国について詳しく教えてくれませんか?」

 

「まさかめぐみん、天国に行きたいの?あんな場所オススメしないわよ。諍いがない代わりに体の実体もないの。エッチなこともできないし、やることと言えば同じ天国にいる人と一日中お喋りするくらいよ」

 

 

アクアの話を聞く限り天国は退屈な所のようだ。何よりエッチなことが出来ないのは辛い。痴女ではないが、私もカズマとエッチしたいのだ。

 

 

「仮にの話ですが、カズマと私が一緒に死ねば二人で天国に行くことも可能なのですか?」

 

 

アクアは私の発言を聞いてぎょっとしたような表情をする。

 

 

「めぐみん……可能かもしれないけど、そんなことしたらダメよ。」

 

「分かっていますよ。”今は”そんな事するつもりはありませんから」

 

 

もしカズマを手に入れられないようならカズマを殺して一緒に天国に行くのもアリだなと私は考えるようになった。そんな私をアクアは心配そうにみつめるのだった。

 

 

 

 

 

 

私が釈放されてから三週間後、今日もアクアからカズマの話を聞いていた。

 

 

「カズマさんが『よーし、お前ら全員孕ませてやるから覚悟しておけ!』って言ってたわね」

 

「それは私もドン引きです」

 

 

アクアからの話は大抵カズマがハーレムを作って鼻の下を伸ばしてる事とダクネス達がカズマに色仕掛けをしている事の二つだった。身ごもっているダクネスを除いてアイリスとクリスは毎日カズマとセックスしているようだ。このままでは、どんどんアイリス達に遅れを取ってしまう。私としては何としてもカズマに会わなくてはならなかった。

 

 

「そういえばめぐみん、まだ爆裂魔法は撃ってないの?」

 

 

アクアが思い出したかのように私に聞く。

 

 

「ええ、かれこれ三週間は爆裂魔法を我慢してます。本当は撃ちたくて撃ちたくてたまらないのですが。」

 

「ねえめぐみん、カズマさんのことを諦めるつもりはないの?もしかしたらこのままカズマさんに会えないかもしれないのよ。それまで爆裂魔法を我慢できるの?」

 

 

アクアはどうしても私にカズマのことを諦めさせたいようだ。

 

 

「カズマを諦めるなんて言語道断です。でも、爆裂魔法は我慢できないかもしれませんね……。」

 

「カズマさんを手に入れるまでは爆裂魔法を使わないんでしょ。もし、カズマさんと結ばれる前に爆裂魔法を使ったらカズマさんのことを諦めてくれないかしら?」

 

 

そんな約束結べるわけないと言いたかったが、ここ最近アクアがしつこくカズマのことを諦めるように言うので私は仕方なく了承した。

 

 

「仕方ありませんね。いいですよ、もう二度とカズマに会わないと誓ってもいいです」

 

「なら契約しましょう」

 

「契約?」

 

「女神は契約を結ぶことが出来るの。もし契約に違反したら死んじゃって蘇生も出来ないわよ。」

 

 

アクアはこう見えて女神だからそういうことも出来るのだろう。

 

 

「いいでしょう。その契約とやらを結んでおきましょうか」

 

 

アクアはどうせすぐに私が爆裂魔法を撃ってしまうと思っているようだ。それなら、暫く爆裂魔法を我慢していかにカズマへの想いが大きいか見せてあげよう。

 

 

「『めぐみんはカズマさんとその恋が実を結ぶ前に爆裂魔法を使ったらもう二度とカズマさんに会えない。』この契約を女神アクアの名のもとにおいて、誓いますか?」

 

 

仰々しくアクアが契約内容を述べていく。

 

 

「ええ、誓います」

 

 

私の返事を合図にして私とアクアが淡い光に包まれる。これが契約完了の合図なのだろう。今になって私はもう後戻り出来ないことに少し後悔していた。

 

 

「いい?これはめぐみんにカズマさんを諦めてもらう為の契約なの。きっとめぐみんにはカズマさんが居なくても幸せに生きていけるわ」

 

「アクアは頭が固いですね。今ではカズマなしの人生なんて考えられません。すぐにでもカズマを手に入れて爆裂魔法を撃ちに行きますよ」

 

 

私の強気な発言を聞いてもアクアは可哀想なものを見る目のままだった。

 

 

「もう夜も遅いし今日は寝ましょう。一人で寂しいなら私が一緒に寝てあげるわよ」

 

「結構です。」

 

 

私はアクアをリビングに置いて廊下を進んでいく。そしてカズマの部屋を開けた。そう、私の部屋ではなくカズマの部屋だ。ここ最近の私はカズマの部屋で寝るようになっていた。この部屋の匂いが私を包み込み全身でカズマの事を感じることが出来るからだ。

 

 

「さて、今日はどれにしましょうか。」

 

 

私は引き出しを開け中身を物色する。引き出しの中にはカズマの下着やら靴下やらが詰め込まれていた。私はパンツを手に取りベッドにダイブした。今日のおかずはこのパンツだ。

 

 

「はぁ……カズマ……好きですよ」

 

 

私はカズマのパンツを頭から被り深呼吸する。既に洗っている為カズマの匂いは薄いが充分私の心は満たされていた。

 

 

「そろそろこっちも弄りますか……」

 

 

私は片手で自分の股を優しく愛撫し始める。股からは僅かに液体が漏れてくるのが分かった。私はパジャマのズボン下着を脱ぎ捨て下半身は裸の状態になる。そのままクリトリスを刺激した。

 

 

「んんっ……はぁ……あうっ……」

 

 

徐々に気持ちよさが増していく。この快感があるから自慰はやめられないのだ。

 

 

「おや?」

 

 

私が更に自慰を続けようとした時、部屋の扉が僅かに開いているのに気づいた。私は一旦股を弄っていた手を止め、ズボンとパンツを脱いだまま部屋の扉を開ける。すると床に座っているアクアと目が合った

 

 

「何してるんですかアクア」

 

「ちち、違うの!別にめぐみんがエッチしてる所とか見てないから!ただ私はめぐみんが心配で見に来ただけなの!」

 

 

分かりやすくオロオロし出すアクア。私が自慰をする所もしっかり見られていたという事ですか。まぁアクアなら覗きに来るかもと思ってましたし動揺する程のことではありません。

 

 

「私には分かりますよ、アクアもカズマの部屋で自慰をしに来たのでしょう?」

 

 

ギクッと分かりやすく狼狽えるアクア。女神であるアクアもカズマを前にしたら所詮一人の女でしかない。彼女も性欲に負けてこの部屋へ来たのだろう。

 

 

「私はもう部屋に戻りますからアクアは一人でナニしてもいいですよ。」

 

 

私の言葉に黙って頷くアクア。もう誤魔化すのは諦めたようだ。耳まで赤く染まっている彼女を横目に見ながら私は立ち去った。

 

 

 

 

 

 

私が釈放されてから四週間後、私は朝からお城の前の宿でカズマが出てこないか見張っていた。

 

 

「中々出てきませんね……」

 

 

時計を見ればもう三時間が経とうとしていた。元々あまり外に出たがらないカズマのことだ。多少の長丁場は覚悟していたが、こうも成果が出ないと落ち込んでしまう。私は一度城を見張るのをやめ食事をとることにした。

 

 

「はぁ……やはりカズマのことは諦めるしかないのでしょうか」

 

 

カズマと会えなくなってから、アクアに何度もカズマを諦めるように言われていた。アクアはその方が私にとって幸せだと思っているのだろう。

 

 

「……はっ!?私は何を言っているのでしょう!?」

 

 

アクアの言葉に影響を受けすぎたのかいつの間にかカズマを諦めるという考えが反芻し始めた。この調子ではいけない。

 

 

「爆裂魔法を撃ちたいという気持ちをカズマへの愛に変えるのです!カズマカズマカズマ……」

 

 

爆裂魔法を撃たなくなって四週間近くが経っている。アクアとの契約のせいで爆裂魔法を撃つとカズマにはもう二度と会えない。だが、爆裂魔法を撃ちたい欲求は日に日に増していった。

 

 

「くっ……この調子じゃダメですね。爆裂魔法ではなくてカズマの事を考えましょう」

 

 

私が上級魔法を取得しようとした時、爆裂道を後押ししてくれたカズマ。普段はカッコつかないがイザという時は頼りになるカズマ。今までのカズマを思い出しながら窓の外へ目をやると、

 

 

「あっ!」

 

 

遠目ながら冒険する時の、緑を基調とした服装に身を包むカズマが城から出てきた。しかも隣にはアイリスもいる。私は宿を駆け降り二人の後を追った。

急いで宿から出るとカズマ達の姿が遠くに見える。どうにか間に合ったようだ。私は二人に気づかれないように後をこっそりと付けていく。

 

 

「お兄様、いつもみたいに手を繋ぎませんか?」

 

 

これみよがしにアイリスがカズマに甘える。カズマはそれに応じてアイリスと恋人繋ぎで手を結んだ。私はそんな二人を見てギリギリと歯ぎしりを立てることしかできない。

 

 

「アイリス、久しぶりに外でエッチするのはどうだ?」

 

 

カズマがアイリスにとんでもない提案をする。今すぐにでもカズマの所へ突撃して二人の仲を引き裂きたい。だが、カズマが私に会うのを避けている以上、もしカズマをストーカーしてるのがバレたらカズマの警戒心はますます強まるだろう。私は遠くから二人を眺めることしか出来ない。

 

 

「そんなことしたら他の人にバレますよ?まぁお兄様がどうしてもと言うならいいですけど……」

 

「そんな事言ってアイリスもヤリたいんだろ?アイリスはエッチな子だからな」

 

 

カズマとアイリスがイチャイチャしているのは見るに堪えなかった。本来ならカズマの隣に居たのは私のはずなのに。二人は散々イチャつきながら近くにあった喫茶店に入っていく。

 

 

「お兄様、ちょっとお手洗いに行くので先にお店に入っていてください。」

 

 

店の中に入ったと思われたアイリスが外に出てきた。そのままズンズンと私の方へ歩み寄ってくる。

 

 

「何してるんですか?めぐみんさん」

 

 

アイリスが私に問いかける。どうやら私がカズマを尾行していたのはバレていたらしい。

 

 

「別に……。たまたま近くを通っただけですよ」

 

「王城を出た時からずっとつけてきたのは分かってますよ。こんな事してみっともないと思わないのですか?」

 

 

アイリスの言葉には私に対する揶揄と嘲笑が含まれていた。彼女はカズマの妻として大きな優越感に浸っているのだろう。

 

 

「私はカズマを手に入れる為には何でもしますよ。監禁だってしますし邪魔な女を殺すことだってあります。アイリスも私に殺されないように気をつけることですね。」

 

 

実際、憎悪に満ちた今の私はアイリスに怪我を負わせてもおかしくなかった。それだけカズマを奪われた憎しみが大きかったのだ。

 

 

「ふふっ」

 

 

不敵に笑うアイリス。

 

 

「何がおかしいのです……?」

 

「いえ、あまりにもめぐみんさんが可哀想だなと思いまして。」

 

「お兄様を好きで諦めきれない気持ちはよく分かりますよ。私もそうでしたから。お兄様を諦めなたくない、何としてでも手に入れたい。めぐみんさんは自分の事を物語の主人公とでも思っているのでしょう。でも、実際はただの醜いストーカー。ゆいゆいさん……でしたっけ?両親が今のめぐみんさんを見たらどう思うでしょうね。娘がこんな犯罪者になってしまったと知ったら……。私ならとても耐えられませんね」

 

「アイリス……!」

 

「ただでさえお兄様の妻は三人いるのです。その上妻達の仲は最悪。毎日喧嘩や言い争いが絶えません。そこにめぐみんさんが加わったらどうなると思いますか?私達の幸せの為にもめぐみんさんは邪魔なのですよ。」

 

「アイリス……!」

 

「お兄様が待ってるのでもう行きますね。」

 

 

怒りに身を任せてアイリスを追いかけようとする。だが、喫茶店の窓にカズマが座っているのが見えてしまった。そこで私の足は止まってしまう。今カズマに出くわしてはいけない。

 

 

「お兄様、ちょっといいですか」

 

「ん?」

 

 

アイリスがカズマの顔を手に取り二人の唇が重なった。こんな公共の場で堂々とイチャつく二人に怒りがどんどん溜まっていく。

 

 

「全くアイリスはエッチな王女様になっちゃったな。」

 

「お兄様がこんな私にしたのですよ。ちゃんと責任は取ってくださいね?」

 

 

そう言ってアイリスは再びカズマと唇を重ねる。愛し合うように、見せつけるように舌を絡ませキスをしている。キスをする二人だが、アイリスは横目で私のことを捉えていた。

 

 

「アイリスぅぅぅぅっ!!」

 

 

私は怒りに身を任せ獣のように咆哮する。そんな私に向かってアイリスは笑った。

 

くすくす、と。

 

 

 

 

 

カズマのストーカーの結果は散々だった。アイリスに憎まれ口を叩かれ、カズマとの愛を見せつけられる。それがとても耐えられなかった。私はカズマを尾行するのは諦めアクセルの屋敷へと帰っていた。

 

 

「ただいま帰りましたよ」

 

 

中にいるであろうアクアに帰宅を告げる。だが、私の帰宅の声に反応したのはアクアではなかった。

 

 

「おや、めぐみんじゃないか」

 

 

そこに居たのはダクネスだった。約一ヶ月ぶりに見たダクネスのお腹は少し膨らんでいる。妊娠しているのは本当のようだ

 

 

「わざわざ屋敷に帰ってくるなんて珍しいですね。まさかカズマと喧嘩でもしましたか?それなら私が慰めてあげますよ」

 

 

僅かな期待を込めてダクネスに尋ねる。ダクネスが喧嘩してるなら私がカズマに取り入るチャンスだ。

 

 

「いや、カズマとは円満のままだぞ。今日来たのはカズマの部屋から幾つか私物を持ってくるように頼まれただけだ。」

 

 

見るとダクネスは大きな荷物を背負っていた。今からお城に持って帰るつもりだったのだろう。

 

 

「ま、待ってください!カズマの部屋から何を持っていくつもりですか!?」

 

 

まさか私が自慰に使ったカズマのパンツを持っていくつもりだろうか。それは非常に困る。

 

 

「あの部屋にあったものは全部持っていくつもりだ。カズマ達が待っているから私はもう帰るぞ。」

 

 

ダクネスはさっさと屋敷を去ろうとする。そんなダクネスを私は引き止めた。

 

 

「ダクネス、カズマの部屋の物は置いていってください!あれは私とアクアにとって無くてはならない物なのです。」

 

 

ダクネスは私の必死な顔を見て辟易した様子で答えた。

 

 

「ふむ。めぐみんはまだカズマの事を諦めていないようだな。そうだ、クリスからめぐみんにこれを渡すように頼まれていたのだ。」

 

 

ダクネスは私に茶色の封筒を渡してくる。私は怪訝な顔でその封筒を開けた。中には写真が数枚入っている。そのうちの一つを見て驚き写真を放り投げてしまった。封筒の中身はクリスとアイリスがカズマとセックスしてる写真だった。

 

 

「どうした?めぐみん、もっとちゃんと見た方がいいぞ」

 

 

ダクネスがわざとらしく私に言ってくる。アイリスに続きダクネスまでもが私に嫌がらせするようだ。

 

 

「めぐみん、ハッキリ言っておくがもうカズマの妻はこれ以上必要ない。めぐみんも早くカズマのことなんて諦めて他の恋を探してこい。」

 

 

アクアに続きダクネスまでもが私の恋路を邪魔する。特にダクネスはカズマと結ばれているのだからそんな事が言えるのでしょう。

 

 

「うっ……どうして……どうしてみんなして私を虐めるのですか……?」

 

 

度重なる虐めに私は耐えかねて涙を流してしまう。それにダクネスは私の味方をしてくれると思っていた。一緒に監禁した仲だと言うのに。

 

 

「私だってめぐみんにこんな仕打ちしたくない。だが、カズマを取られるのは嫌なんだ。タダでさえカズマの妻は三人いる。これ以上妻を増やすのは無理だ。」

 

 

ダクネスは静かに泣く私を置いて屋敷を去ってしまう。

 

 

「うえっ……ぐずっ……ひぐっ……」

 

 

ただ悲しみに暮れて泣いてしまう。もうこんな辛い思いをするくらいならカズマなんて諦めた方がいいのでしょうか。

 

 

「ただまー」

 

 

アクアの声だ。ダクネスと丁度入れ違いで、アクアが帰ってきたのだ

 

 

「おかりーを言ってほし……めぐみん!?どうしたの!?」

 

 

会って早々私の元に駆け寄るアクア。泣いている私を見て心配したのだろう。アクアは私を抱きしめてくれる。私はアクアの胸の中で泣いた。

 

 

「大丈夫よめぐみん、私が付いてるからね。怖かったわね、辛かったわね、泣いていいのよ。泣くとスッキリするでしょう。」

 

 

アクアの慈悲深さには救われてばかりだ。彼女の優しさに触れて私は泣く声を止めることが出来なくなった。

 

 

「よしよし。そんなめぐみんに朗報があるの。なんとね、あのカズマさんがめぐみんに会ってもいいって言ってくれたの。」

 

 

アクアの発言にバッと顔を上げる。その目は嘘をついている様子ではなかった。アクアの発言は本当なのだろう。

 

 

「カズマさんに無理言って早速明日会うことになったから。ちゃんとオシャレして行くわよ。」

 

 

およそ一ヶ月ぶりにカズマに会える。だが、私の心は既に疲れ果てていた。カズマを手に入れたいという衝動も弱くなっている。

 

 

「アクア……私はもうカズマを諦めた方が良いのでしょうか……。カズマに近づこうとすればするほど傷ついて……。もうこんな思いはしたくないのです。このままだとカズマのことも諦めてしまいそうで……。カズマへの想いが薄まっていくことがとても怖いのです。」

 

 

アクアは私の顔を真正面から見据える。

 

 

「よっぽど辛かったのね。カズマさんのことを諦めるのも選択肢の一つよ。でも、まだめぐみんはカズマさんのこと好きなんでしょう?」

 

 

アクアの質問に私は頷く。私の返答を聞いてアクアは満足げに微笑んだ。

 

 

「なら少しずつカズマさんと仲直りしていきましょう。まずは、監禁した事を謝らないとね。さっ、ご飯の用意するわよ。」

 

 

今日もアクアが慰めてくれた。私はアクアに救われてばかりだ。いつかこの恩を彼女に返さなくてはならない。

 

そして遂にカズマに会う日がやってくる。

 

 

 






起承転結の起の部分が異様に長くなっちゃいました。本当は起を短くした方がいいんですけどね。長すぎたのでクライマックスは後編に回す予定です。退屈してしまったらごめんなさい。後編のプロットは緻密に作ってるので次回の更新は早くなりそうです


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諦めない女達 めぐみんのターン!(後編)




酔った勢いで書いたので後で修正するかもです。





 

 

 

(めぐみん視点)

 

 

 

私とアクアは朝からウィズ魔道具店に来ていた。

 

 

「いらっしゃいませ〜、あらアクア様とめぐみんさんじゃないですか!お久しぶりですね。」

 

 

元気よくウィズが出迎えてくれる。

 

 

「久しぶりねウィズ、今日はお菓子はなくていいからお茶を頂戴。温かいお茶でいいわよ」

 

「なぜ貴様にお茶を出さねばならんのだ、厄災女神よ。さっさと帰るが吉。今ならこのガラクタ商品も持ち帰って良いぞ。」

 

 

アクアとバニルは店の中だというのに暴れ始める。相変わらず二人は犬猿の仲のようだ。私は二人に巻き込まれないように近くにあった商品棚に目をやる。

 

 

「衝撃を与えると爆発するポーションに、衝撃を与えると洪水を発生させるスクロール、衝撃を与えると首を絞めるチョーク……ってなんでここには衝撃を与えるとろくな事にならないものばかり置いているのですか!」

 

 

ここの店はどうなっているのだろう。私が嘆息しているとウィズが店にある商品の一つを手に取ってこちらに寄ってくる。

 

 

「こちらのポーションなんてどうでしょう。衝撃を与えるだけで好きな場所にテレポートできる一級品ですよ。しかも、テレポート阻害の結界があっても使うことができるんです!」

 

 

また衝撃を与える商品か。ウィズは辟易してる私に構わず笑顔で商品の説明をしてくる。衝撃を与えるだけで勝手にテレポートしてしまう商品など使い勝手が悪くて売れないと思う。

 

 

「他にデメリットはないんですか?」

 

「ええ、ないですよ。強いて言うならテレポートするのは人間だけで服や持っているものはテレポート出来ないことくらいでしょうか。」

 

 

ただのガラクタではないか。

 

 

「そんな商品買うわけないでしょう!もし使ってしまったら裸でテレポートすることになりますよ!」

 

 

ウィズの商才は相変わらず皆無のようだ。私が棚に商品を戻そうと手を伸ばしした時、

 

 

「待て、意中の男が次々と他の女に取られ内心どす黒い感情を持つ娘よ。」

 

 

いつの間にかアクアとの喧嘩が終わったバニル。私は商品を置こうとした手を止め嫌々ながら振り向いた。

 

 

「私に何か用です?」

 

「何か用かとは失礼な物言いだな。ただ助言をくれてやるだけだ。そのテレポートできる商品を持っていくが吉と出た。」

 

 

こんな欠陥商品が何の役にたつと言うのでしょう。バニルが何か私を騙そうとしているのではと疑ってしまう。

 

 

「そんな事言ってただ在庫処理をしたいだけじゃないのですか?」

 

「めぐみんの言う通りよ!こんな悪魔の言う事なんて聞いたらダメよめぐみん!」

 

 

アクアが私とバニルの間に割って入り私を守るように立ち塞がる。

 

 

「ほう、薄っぺらくてどうとでも捉えられる言葉を垂れ流す神達より未来を見据える吾輩の方がマシだと思うがな。特に営業妨害に精を出すアクシズ教の元締めなど信用できまいて。」

 

 

アクアはむむむとバニルを睨みつけていたが、やがて視線を下に落とし小さくため息をついた。

 

 

「はぁ……まあアンタがそう言うなら従った方がいいかもね……」

 

「ふむ、これはどうしたことか。いつも吾輩に食ってかかる厄災女神が大人しくなるとは。明日は雪でも降るのか?」

 

 

珍しくアクアはバニルに反抗しなかった。体調でも悪いのだろうか。

 

 

「あんた本当に天罰食らわすわよ?……ただあんたがめぐみんに助言したならそれを聞き入れても損はないと思っただけよ……」

 

 

普段は空気を読まない女神であるアクアが悪魔のバニルの意見に耳を傾けている。それだけ私の為を思ってくれているのだろうか。

 

 

「アクアがそこまで言うなら分かりました。この商品買いますよ。いくらですか?」

 

「一万飛んで四万六千エリスである。丁度汝らの所持金全額であるな。フハハハ、どうした、今更払えないとでも言うつもりか?」

 

 

堪忍袋の緒が切れたアクアがバニルに神聖魔法を使い再び二人は暴れ始めた。私は仕方なく商品をポケットにしまうのだった。

 

 

 

 

 

私は背中の大きく空いた黒のワンピースを身にまとい、アクアに薄化粧をしてもらい、初めての香水までつけた。カズマに会う準備はバッチリだ。私はアクアと一緒に城の門まで行く。城の門番は私の姿を見て驚いた顔をする。以前、私が毎日のようにお城に突撃していた際お世話になった兵士達だ。また私がお城に襲撃に来たと思ったのだろう。門番が私を取り押さえようとこちらへ近づいてくる。

 

 

「ちょっと!めぐみんはちゃんと面会の許可を取ってるわよ!」

 

 

アクアは私を守ろうとするが、門番は前科のある私を威圧するように見下ろす。仕方ないので私がパンチをお見舞いしてやろうと思っていると、

 

 

「お待ちください!その者達はカズマ殿が招いた客人です!」

 

 

城の中からレインがやって来る。門番もレインを前にしてビシッと敬礼し私達を威圧するのをやめた。

 

 

「お待ちしておりましたアクア殿、めぐみん殿。」

 

 

厳格な兵士達とは異なり穏やかな表情で私を出迎えるレイン。彼女は私達を城の中へと案内する。

 

 

「アイリスは元気にしてますか?」

 

 

元気であって欲しくないが、社交辞令として一応言う。レインは私の真意を見透かしたように見つめ答えた。

 

 

「アイリス様は元気ですよ。ただ……最近、あまりにもワガママになってしまって……。習い事を受けずにカズマ殿と一緒に居たいだの、カズマ殿と夜更かしして昼過ぎまで起きてこなかったりだの、あのカズマ殿から悪い影響ばかり受けてます。その上、クリス殿やダスティネス殿とは喧嘩ばかりしますし、この前なんて身重となるダスティネス殿を階段から突き落とそうとしたのですからね!あの頃の気高く優しいアイリス様はどうなってしまわれたのやら……。」

 

 

レインからはアイリスへの愚痴が大量に出てきた。なんだかんだで一番の苦労人はこのレインなのかもしれない。アイリスへの愚痴を聞きながら廊下を歩いていると奥からアイリスが歩いてきた。噂をすれば影がさすとはこの事だ。

 

 

「昨日ぶりですね、めぐみんさん」

 

「ええ、まさか私がもう来ないとでも思いましたか?私は諦めが悪いですからね。どんな手を使ってでもカズマに会いに来ますよ」

 

 

私とアイリスは互いに睨み合う。一触即発の空気が私達の間に流れる。

 

 

「お兄様には会わせません」

 

 

アイリスは私達を通す気はないようで、堂々と言い放つ。

 

 

「何言ってるのよ。今日はちゃんとカズマさんに会う許可貰ってるんだから、そこを通しなさい!」

 

「アイリス様、アクア殿もこう申しておりますしここはどうか穏便に……。」

 

 

アクアとレインがアイリスを説得する。私も、もう少しでアイリスと掴み合いの喧嘩になる所だった。

 

 

「どうしてもお兄様に会いたいのなら私を倒してから行ってください。私が相手になりますよ」

 

 

昔の引っ込み思案だった王女様はどこへやら、アイリスは私に向かってファイティグポーズを取る。いつもの私ならここで喧嘩していただろうが今日の私は一味違う。ふと私はバニルのことを思い出したからだ。

 

 

「王女様を相手にしては敵いませんし、ここは素直に帰りましょうかアクア。」

 

 

私の発言を聞いて大きく目を見開くアクア。アクアはこの一ヶ月間私をカズマに会わせようと画策していた。それなのに私があっさり帰ってしまうと言うものだから肩透かしを食らったのだろう。

 

 

「何言ってるのよめぐみん!あれだけカズマさんに会えることを楽しみにしてたじゃない!」

 

 

案の定怒るアクア。私はアクアを無視して今朝ウィズの店から仕入れた物をアイリスに渡す。

 

 

「アイリス、私は帰るのでこれをカズマに渡してください。衝撃に弱いのであまり乱暴に扱わないでくださいね。」

 

「殊勝な心がけですね。分かりました、お兄様に渡しておきますよ」

 

 

アイリスは私からのプレゼントを上に掲げポーションの中身をゆらゆらと揺らす。彼女は一時ポーションの様子を確かめた後ニヤリと口元を歪めた。

 

 

「ふふっ、私が素直にお兄様に渡すと思いましたか?こんなもの捨てちゃいますよ」

 

 

アイリスがポーションを地面にポイと投げる。ポーションは放物線を描いて地面に落ちた。と、同時にアイリスの姿が消える。但し、アイリスの服だけを残して。

 

 

「あ、アイリス様!?どこへ行かれたのですか!?」

 

 

慌てるレイン。このまま何も教えなくてもいいのだが親切な私は彼女に教えてあげることにした。

 

 

「このポーションは衝撃を与えるとテレポートできる代物です。但し、テレポートするのは人間だけで身につけている服や持っている物はテレポートされません。」

 

 

私の発言を聞いてレインの顔が青ざめていく。

 

 

「で、でも王城にはテレポートを阻害する結界が張ってあるはずです!」

 

「このポーションはテレポート阻害の結界がある所でも使える超一級品です。つまり、アイリスは全裸で外に放り出されたということですね。」

 

 

私の言葉を皮切りにレインが急いで外へと駆けて行った。今頃アイリスは全裸で王都のどこかへテレポートしていることでしょう。私があれほど衝撃を与えないようにと言ったのに。自業自得です。

 

 

「ねえめぐみん、まさかこうなる事を全部分かってたの?」

 

「さあどうでしょうね。まぁこれで、昨日カズマとイチャつく所を見せてきた時の借りは返しましたよ。」

 

 

昨日アイリスに散々(なじ)られた分の復讐は出来た。心の中でバニルに感謝しながら私はほくそ笑む。一悶着あったが今日ここに来た目的はカズマに会うことだ。私はアクアと一緒に廊下を進んで行く。すると、奥から懐かしい人影が見えてきた。あれはカズマだ。

 

 

「おっ、アクアと……めぐみんか。久しぶりだな」

 

 

若干気まずそうに私に話しかけるカズマ。ようやくカズマに会えて嬉しくて抱きつきたくなる気持ちを必死に抑える。

 

 

「ええ、お久しぶりです」

 

「まあ立ち話もなんだし、部屋で話そうぜ」

 

 

カズマに連れられ応接室のような部屋に入る。部屋の中にはお腹を大事そうにさするダクネスがいた。

 

 

「ダクネス、昨日ぶりですね」

 

「ああ、めぐみんならどうせ来ると思っていたぞ」

 

 

彼女はカズマの妻として勝者の余裕があるように見えた。昨日私を虐めた仕返しをしても良かったがカズマが居るので今はやめておこう。

 

 

「それにしてもひどいじゃないですかカズマ。どうして私に暫く会ってくれなかったのです。」

 

「だって俺の身にもなってくれよ……。逆レや監禁したやつと今まで通り一緒に話せるか?ダクネスみたいに子供が出来たならともかく普通はもう会ったりしないって。」

 

 

言われてみればカズマの言う通りだ。カズマに恋するあまり私の常識的な部分が抜け落ちていたのだろう。今日会えただけでも奇跡と思うべきだ。

 

 

「それならなぜ今日は私に会ってくれたのです?」

 

「それはアクアからめぐみんに他に好きな人が出来たって聞いたからだよ」

 

 

……はい?他に好きな人が出来た?私は生涯カズマを愛するつもりなので他に好きな人なんかいません。

 

(どういうことですかアクア、カズマに嘘をついたのですか?)

 

(だって仕方ないじゃない!めぐみんがカズマさんを好きでいる以上カズマさんは決して会ってくれなかったの。めぐみんがもうカズマさんに危害を加えるつもりがないと思わせないといけなかったのよ。)

 

アクアは良かれと思って私がもうカズマを好きじゃないと嘘をついたようだ。

 

 

「それにしても嬉しいな。めぐみんが新たな恋を見つけてくれて助かったぞ。」

 

「そんなに私がカズマの事を好きなのが嫌ですか?」

 

 

若干涙目になりながらカズマに尋ねる。そんな言い方をされて傷つかない乙女はいないだろう。

 

 

「い、いや別に嫌って訳じゃないけど……。俺には奥さんが三人もいるからさ。これ以上増えても困るっていうか……」

 

「なんて冗談ですよカズマ、もう私には好きな人が出来ましたから気にしないでください」

 

 

私は嘘をつくことにした。

 

 

「ほう、因みにその好きな人とは誰なのだ?」

 

「えっと……だ、ダストとか?」

 

 

皆が私の言葉を聞いて静まり返った。私もなぜダストの名前を出してしまったのか分からない。アクアまでも私の発言に驚いている。アクアはちゃんと嘘だと分かっているのでしょうね?

 

 

「めぐみん、悪いことは言わないからダストだけはやめておけ」

 

 

珍しくカズマが真面目な顔で言ってくる。まぁダストなんて好きじゃないんですけど。

 

それからダクネスの赤ちゃんのことや私の近況など他愛もない話をする。今となってはこのパーティメンバーでこうやって話すのも随分と久しぶりだ。一度はバラバラになってしまった私達が再び一緒になれた気がした。

 

 

「よーし、今日はジャンジャン飲むわよ〜!!」

 

 

私が部屋に入った時からこの部屋にはお酒が置いてあった。アクアがそこにあった酒を飲み始めるのは自然なことだろう。

 

 

「俺も自室からお酒持ってくるよ。こんな日の為に取っておいた高級ワインがあるんだ。」

 

 

カズマはそう言いながら部屋を出る。自分の部屋からワインを持ってくるつもりだ。私はここがチャンスとばかりにカズマの後をついて行った。応接室からカズマの部屋まではそう遠くなく同じ階の三つほど隣の部屋だった。

 

 

「どうした、めぐみん?お前もお酒が飲みたくなったのか?」

 

 

カズマが部屋に入ると同時に私も一緒に部屋に入る。部屋の中にはテーブルがあり、その上には食事をする際に使ったのかナイフが置いてあった。

 

 

「実はカズマに伝えたいことがありまして」

 

「ほーん、今日はこの酒にするかな。アクアが喜びそうだ」

 

 

カズマは自室の酒を吟味するのに夢中で私の言葉にあまり耳を傾けてない。

 

 

「やっぱりカズマのことが諦められません。私を第四夫人にしてくれませんか?」

 

「……」

 

 

カズマは私の言葉を聞くと酒を物色していた手を止め私に向き直った。

 

 

「ダストを好きになったって話は嘘だったのか?」

 

「ダストなんか好きになるわけないじゃないですか」

 

「……確かにそうだな」

 

 

私はカズマの返事を待つ。カズマは面倒な様子で頭を搔いて答えた。

 

 

「第四夫人にするのは無理だな。」

 

 

僅かな期待を込めて聞いたが断られてしまった。

 

 

「なぜですか?もう妻が三人いるのだから私が一人くらい増えてもいいでしょう」

 

「はぁ……理由は二つある。まず、俺達が幸せにならないからだ。今俺の奥さんは三人いる。出来るだけ平等に愛するように心がけているがそれでも限度がある。既にダクネスが妊娠しただけあってアイリス達も自分の子供が欲しいと毎晩毎晩セックスに付き合わされてるんだ。そこにめぐみんが加わってみろ。アイリス達の争いは激化すると共に俺は種馬としてこき使われることになる。これ以上は無理なんだよ」

 

「じゃあカズマとのセックスを全面的に禁止にすればいいじゃないですか。」

 

「アイツらがそんなルールに従うと思うか?二つ目の理由だが、俺と結婚することはめぐみんの幸せにならない。」

 

「そんな事ありませんよ。私はカズマと一緒に居られることが何よりの幸せなのです。」

 

「本当にそうか?俺がアイリス達とセックスするのを横で見てられるか?ダクネスが妊娠したのを知って嫉妬しなかったのか?第四夫人で本当に満足しているのか?」

 

「うぐっ……」

 

 

カズマの指摘はどれも的を射ていて私は何も言い返せなかった。もう私が生きてる内はカズマと結ばれるのは無理なのだろうか。生きてる内は無理……。私は近くのテーブルに置いてあったナイフをじっと見つめる。

 

 

「カズマ、今私もカズマもきっと幸せになれる方法が見つかったのですがやってもいいですか?」

 

「?、まぁ好きにしていいぞ」

 

 

私はテーブルに置いてあるナイフを手に取りカズマに向き直る。カズマはぎょっとした顔で私を見た。

 

 

「おい、何やってんだめぐみん……?」

 

 

私は勢いよくカズマへ走っていきカズマのお腹にナイフを刺した。

 

 

「一緒に天国に行きましょう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

先日アクアが言っていた。”カズマと一緒に死ねば二人で天国に行くことも可能だ”と。二人で天国に行けばもうアイリス達にカズマを取られることもない。ずっとカズマと二人きりだ。

 

 

「めぐみん……どうして……」

 

「カズマ、私はカズマを愛しています。」

 

「あ……う……」

 

 

カズマはナイフを刺されると二、三歩後ずさりバタンと倒れた。脇腹にはナイフが刺さっており血がどくどくと溢れている。

 

 

「天国に行ったら何をしましょうか。エッチなことは出来ないそうですし、ずっとお話するのでしょうか。まあカズマと一緒ならそれも楽しいでしょう」

 

 

カズマは虚ろな目で私のことを見ている。

 

 

「めぐみん……ごめん……」

 

 

私に刺されたのにカズマは私に謝罪の言葉を述べた。

 

 

「カズマ、なぜ謝るんですか?」

 

 

もうカズマは返事をすることも無く仰向けになっている。床には血の水溜まりが出来ており事の悲惨さを物語っていた。

 

 

「生きてますかカズマ?」

 

 

一応聞いてみるが返事はない。今頃天界にいることだろう。後は私もカズマの後を追い自殺するだけだ。カズマに刺さっていたナイフを抜き深呼吸する。いざ自殺するとなると恐怖を感じる。痛いのは嫌だな、楽に死にたいな、などと考えていると

 

 

「カズマさーん、お酒まだ〜?もう待ちくたびれたんですけど〜?」

 

 

呑気な声でアクアが外から呼びかける。カズマが死んでる所をアクアに見られるのはマズイ。私はアクアが入ってくる前に部屋を出てアクアを出迎えた。

 

 

「あら、めぐみんもここにいたの。カズマさんはいるかしら?」

 

 

カズマを探しに来たようだ。私は出来るだけ平静を装って答える。

 

 

「カズマは体調が悪いので暫く休むそうですよ」

 

「さっきまで元気だったのに?それなら私が看病してあげるわよ」

 

 

なおも食い下がるアクア。

 

 

「大丈夫ですよ、私がカズマの面倒を見ます。」

 

「ふーん、……ねえめぐみん、あなたに前々から言っておきたいことがあったの」

 

 

アクアはそこまで言うと一呼吸置いて私の目を見て言った。

 

「めぐみんはカズマさんを愛してるの?」

 

何を今更言っているのだろう。勿論カズマを愛している。

 

「当たり前じゃないですか。誰よりも愛していますよ」

 

「本当の愛ってものはね、相手を好きなだけじゃダメなの。相手の幸せを願うのが本当の愛よ。めぐみんはカズマさんの幸せの為に行動してる?」

 

 

アクアの指摘に言葉が詰まる。私はカズマを誰よりも愛している自信がある。だが、それは一方的なものでカズマの為の行動は少ない。

 

 

「まぁ二人の仲を邪魔しちゃ悪いから私は先に帰るわよ。ちゃんとカズマさんと話してケジメをつけてきなさい。」

 

 

アクアはそれだけ言うと帰って行く。私はカズマの部屋に戻り一人で考え込む。

 

 

「考えてみれば……私は本当にカズマを愛していたのでしょうか……。」

 

 

カズマをこの上なく愛していると思っていた。だが、アクアの発言でその考えが揺らぎ始めている。今までの自分の行動を振り返ってみよう。ある時はカズマを逆レイプして、ある時はカズマをストーカーして、ある時はナイフで刺して……。一体私は何がしたかったのでしょう。カズマを手に入れたかっただけなのでしょうか。

 

 

「ち、違います!私はただカズマに振り向いて貰いたかっただけで……。」

 

 

カズマに振り向いてもらいたかった。だが、実際はカズマを傷つけただけじゃないだろうか。積極的にアプローチしているつもりがいつの間にか自分を認知してもらうことに目的が変わっていたのだ。

 

 

「と、とりあえずカズマを触って落ち着きましょう。」

 

 

部屋の方に目をやるとそこにはピクリとも動かなくなった遺体があった。

 

 

「か、カズマ……?」

 

 

遺体の顔に触れてみるとひんやりと冷たい。それはもうカズマではなくただの肉の塊となっていた。

今になって自分がやってしまった事の罪深さに気づく。私は自分の手で愛する人を殺してしまったのだ。逆境に弱い私はオロオロするばかりで何も出来ない。

 

 

「何してるのさめぐみん」

 

 

いつの間にか部屋のドアを開けて入って来ていたクリスと目が合う。

 

 

「く、クリス!」

 

「ふーん、カズマくん殺しちゃったんだ。まあいつかめぐみんならやると思ってたよ」

 

 

クリスはカズマの死体を見てもあっけらかんとした様子だ。

 

 

「ど、どうすれば良いのでしょうか!?このままだとか、カズマが死んでしまいます。」

 

「別にカズマくんが死んでもいいんじゃない?私は天界でエリス様としてカズマくんの魂を案内する立場にあるからね。カズマくんが死んでくれればその魂は私が手に入れられる。本当はカズマくんが寿命で死んでから魂を手に入れる予定だったけど、めぐみんが殺してくれたなら早めにカズマくんの魂が手に入って丁度良かったね」

 

 

どうやらこのままカズマが死ぬと、私と一緒に天国に行く訳ではなくクリスの手にカズマの魂が渡るらしい。

 

 

「だからねめぐみん、カズマくんを殺してくれてありがと」

 

 

クリスの声を合図に私の中で何かが吹っ切れた。

 

 

「あなたにカズマは渡しませんよ!」

 

 

私はカズマを置いて一目散に部屋を出る。

 

 

「人が死んでから蘇生出来るまでの時間は三十分だよ。先輩はとっくに城を出たしもう間に合わないよ」

 

 

クリスの発言を聞きながら部屋を出る。とにかくアクアを探そう。アクアならカズマを蘇生出来るはずだ。このままカズマが死んでしまったらカズマはクリスの物になってしまう。絶対にそんな事はあってはならない。私はすぐにさっきまでいた応接室のドアを開けた。

 

 

「ダクネス!アクアはどこですか!」

 

「アクアならついさっき帰ったぞ。王都で美食巡りをするとか言ってたな」

 

 

もうアクアは行ってしまったらしい。私はすぐに城を抜け出し王都へと踏み出す。一刻も早くアクアを探さなければいけない。クリスによると、カズマが死んでから蘇生できるまでのタイムリミットは三十分。その間にアクアを見つけ出さなければ。

城を出ると大量の人が行き交っているのが目に入る。私は必死に前に進もうとするが、如何(いかん)せん王都は人通りが多くて中々進めない。それでも前に進むため人にタックルしながら足を進める。私のタックルを受けて倒れる人が喚くが私は気にしなかった。

だが、やはり人の多さには勝てないのかそれでもほとんど進むことが出来ない。人の濁流の中でアクアの声を何度も連呼するがそれに答える者は居なかった。もう時間がない。どうにかアクアを探す方法はないだろうか……。

 

 

 

 

いや、ある。一つだけだが、私は確実にアクアを呼ぶ方法を知っている。でも、これは最終手段だ。私は一度立ち止まり呼吸を整える。

 

 

「…………」

 

 

……やるしかない。カズマを救うためだ。私は爆裂魔法の詠唱を始める。私の体に魔力が流れ周りの空気が一変する。周囲の人も私が甚大な魔法を使うと理解したのか一気に私から逃げていく。私を中心にして円状に人だかりができた。私は詠唱を終えると目をカッと見開いた。

 

『エクスプロージョン!』

 

私は空に向かって爆裂魔法を放つ。幾重にも魔法陣が重なり大きな爆発が空で起こった。一拍遅れて爆音が骨身に染みる。私は魔力を使い果たしその場に倒れ込んだ。これだけ盛大に爆裂魔法を使えばアクアは私の所へやって来るだろう。突然の爆発に街の人はパニックになっている。私は地面にうつ伏せになりながらアクアを待つのだった。

 

五分程経っただろうか。そろそろアクアがやって来てもいい頃だと思う。まさかもう王都に居なくてアクセルに帰ってしまったのだろうか。嫌な予感がして冷や汗をかいてしまう。

 

 

「めぐみん、めぐみーん!」

 

 

アクアの声が後ろから聞こえる。私は地面にうつ伏せになったまま声の方に目をやった。

 

 

「やっと来ましたか」

 

「めぐみん……あなた自分が何をやったか分かってるの?」

 

 

アクアはうつ伏せになる私の前にしゃがみこんで神妙な面持ちで聞いてくる。

 

 

「ええ、全て覚悟の上です。」

 

「契約のせいで爆裂魔法を使ったらもう二度とカズマさんに会えないわよ。今までの努力が全部無駄になるのよ。本当に良かったの?」

 

 

そう、先日アクアと契約を結んだ。”私がカズマと結ばれる前に爆裂魔法を使ったらもう二度とカズマに会えない”。まだカズマとは恋仲になってない。だが、私はもう爆裂魔法を使ってしまった。それはつまりカズマに二度と会えないことを意味している。

 

 

「ええ、もういいんです」

 

 

私はカズマに会えないと分かっていてもどこか清々しい気持ちだった。本人の為に自分を犠牲にして行動する。これが本当の愛なのだ。私はカズマに対する愛を見つけることが出来た。それだけで充分だ。

 

 

「アクア、こんな所で爆裂魔法を使ったのですからもうすぐ警察が来る頃です。早くお城へ戻りましょう」

 

 

アクアは私を慣れない手つきで背中に負うと王都へ向かって走り出した。上下に揺れて振動がものすごいがこの際贅沢は言ってられないだろう。私を遠巻きに見ていた群衆の中に紛れ込み私達は王城へと戻った。

 

 

 

 

 

 

一週間後……

 

 

 

私は牢屋の中にいた。カズマを殺害しようとした罪で捕まったのだ。私が捕まるのはカズマを監禁した時も含めて二回目だ。もう無罪になることはないだろう。

 

 

「カズマ……」

 

 

私に刺されたカズマはアクアがどうにか蘇生してくれたらしい。なんとか制限時間内に間に合ったようだ。カズマも元通りになって日常生活に支障もないそうだ。全てアクアから聞いた話だが。

 

 

「これで良かったのです」

 

 

私はカズマを救うことは出来た。だからカズマの隣にいられなくても何も辛くない。それなのに……

この心に穴がぽっかり空いたような感覚は何なのだろう。今まであったものがなくなったような感覚は。

 

 

「ああ……これが失恋なのですね……」

 

 

私はカズマに振られたのだ。遂にその事実を認識してしまった。

 

 

「カズマ……会いたいです……」

 

 

私は一生カズマに振られた事実を背負いながら生きていくのだろうか。そんな人生は嫌だ。カズマの奥さんは三人もいるのに私は選ばれなかった。あの三人には嫉妬してしまう。

 

 

「カズマカズマカズマ……」

 

 

カズマのことを考えないように意識するほどカズマのことを考えてしまう。悪循環に陥っていた。もう死ぬこと覚悟でカズマに会ってしまおうかと考えていたその時、

 

 

「よおめぐみん、久しぶりだな」

 

 

牢屋の鉄格子を挟んだ向こう側にカズマの姿があった。契約のせいで私はカズマに会うと死んでしまうはずだ。だが、最後にカズマの顔を拝めて良かったかもしれない。

 

 

「…………」

 

 

……あれ?私はいつまで経っても死ななかった。おかしい。アクアと契約を結んだはずなのに。

 

 

「アクアから聞いたぞ。俺の為に爆裂魔法使ったんだってな。めぐみんらしいというか何というか……。まぁアクアを呼んでくれて助かったよ。おかげ様で今はこの通り元気だ。」

 

「あの……契約はどうなってるのでしょう?」

 

 

私は、カズマの話は上の空で契約のことばかりが気になっていた。

 

 

「ああ……アクアから聞いた話だけどな、契約は女神が一方的に解除できるらしい。女神と人間とではそもそも立場が違うんだとさ。」

 

 

なんと、衝撃だった。私の爆裂魔法を撃った時のあの覚悟は何だったのか。まぁアクアのことだ。どうせ契約を解除出来るのを忘れていたとかそんなオチだろう。

 

 

「私は……カズマに謝らなければいけません。今まで監禁したり殺したりしてしまって……。本当にごめんなさい。」

 

 

カズマは私の懺悔を黙って聞いていた。そして大きくため息をつくと私に答える。

 

 

「じゃあ俺と一緒に暮らすか?」

 

「…………はい?」

 

 

私の言葉を聞いていなかったのだろうか。私が決死の覚悟でカズマのことを諦めようとしているのに。なんで後ろ髪を引かれるようなことを言うのだろう。

 

 

「……だから何度も言ってますが、私がカズマを愛すれば愛するほどカズマを傷つけてしまうんです。カズマに迷惑をかけてしまうので私はもうカズマの近くには居られません。」

 

「今までお前にどれだけ迷惑かけられたと思ってるんだ。いつも厄介事に巻き込まれるわ、とうとう刺し殺されたんだぞ?これ以上の迷惑なんてないだろ。」

 

「私はカズマの為を思って距離を置こうと……」

 

「もう俺に迷惑をかけてもいいって言ってるんだよ。ダクネス達を妻にしたのにめぐみんだけ見捨てるなんて出来ないだろ?」

 

 

尚も食い下がるカズマ。カズマの言ってる事は本気なのでしょうか。これでバニルがカズマに化けて私を騙しているとかだったら本気で怒るが、そんな様子ではないようだ。

 

 

「……カズマ」

 

「……なんだ?」

 

「泣いていいですか?」

 

「もう泣いてるだろ……」

 

 

私はカズマの前でおいおいと泣く。辛いことがあっても中々涙は流さなかった。だが嬉しいことには涙腺が弱いのだ。

 

 

「めぐみん、一応俺も男としてちゃんと言っておくぞ。俺には妻が三人もいてそれでもいいなら……」

「俺と結婚してくれませんか?」

 

 

カズマは私にプロポーズしてくれた。牢屋の中での求婚なんてまるでムードがないと言いたいが、私は声を上げて泣いてしまう。

 

 

「あの……返事をくれると嬉しいんだけど」

 

「そんなの断るわけないでしょう!もう……カズマは本当にお人好しなんですから……」

 

 

私はカズマの前でへたり込んでしまう。カズマは鉄格子を挟んで私の背中を撫でてくれた。

 

 

「はぁ……ダクネス達にどう言おうかな……」

 

 

私は愛しい人の困った顔を見ながら泣き続けるのだった。

 

 

 








アイリスが全裸で目の前にテレポートしてきたらどうしますか?後書きで色々語ろうと思います。興味ない方は読み飛ばしていいかもです。

ダクネス編、めぐみん編と続き次はアクア編を描いて完結。という流れの予定でしたが、一度カズマの妻達の関係性を描いてみようかと思ったので完結はもう少し先になるかもです。と言っても残り二、三話くらいになると思います。

次の話ですがプロットも書く内容も全く決まっていません。漠然とカズマ達の生活を書く予定ですが、誰目線で描くかも決まってない状態です。例によって更新は遅くなるかもです。




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このロリっ子に大人の洗礼を!(前編)





約8000字あります。





 

 

 

 

私はカズマと一緒に王城へと来ていた。カズマを殺した罪についてもカズマ自身が被害届を取り消し私も釈放となっている。カズマにはいつもお世話になっている。

 

 

「いいかめぐみん、出来るだけアイリス達を刺激しないようにしてくれよ。」

 

 

これから私とカズマはアイリス達に結婚の許可を貰いに行く。私は第四夫人だからクリス、アイリス、ダクネスの許可が必要だ。王城の中を進んでいきながらカズマと話す。

 

 

「分かっていますよ。カズマと結婚する為なら何でもしますから。そんなに心配しなくても大丈夫です。」

 

 

私はカズマを安心させるように言う。それでもカズマの不安は拭えないようだった。やがて城の一室の前で足を止める。この部屋の中にアイリス達が居るのだろう。

 

 

「開けるぞ?心の準備はいいな?」

 

 

カズマは再度私に確認してくる。そんなに身構えなくてもどうにかなるでしょうと私は楽観的だった。私が了承すると、カズマは部屋のドアを開ける。そこに居たのは頭を掴みあって喧嘩するアイリスとクリスだった。

 

 

「許しませんよ!私がお兄様から貰った指輪を奪ったのはクリスさんでしょう!」

 

「そんなの知らないってば!いつもこれ見よがしに指輪を付けてるバチが当たったんでしょ!」

 

 

暴れ合う二人が居る中ベッドに座っているダクネスが目に入る。彼女はお腹の中に子供がいるからあまり暴れないようにしているのでしょう。カズマがアイリス達の間に割って入り二人の喧嘩を止める。

 

 

「おい二人とも、喧嘩するなよ。ここには赤ちゃんの出来たダクネスも居るんだぞ。少しはダクネスを見習え」

 

 

カズマは慣れた様子で二人を離す。今みたいに二人が喧嘩するのはいつもの事のようだ。クリスと離されて少し落ち着いたアイリスと目が合った。

 

 

「めぐみんさん!あなたのせいで……!私がどんな目にあったと思ってるんですか……!」

 

 

アイリスは再び怒りがぶり返した様子で私に迫る。はて、なんの事だろう。

 

 

「忘れたとは言わせませんよ!めぐみんさんが持ってきたポーションのせいで私は裸で王都に放り出されたんですからね!」

 

 

思い出した。そう言えばこの前アイリスに会った時にポーションを渡したのだ。ポーションの効果はアイリスの言った通りだ。

 

 

「私は忠告したはずですよ。衝撃を与えないようにと。あなたが勝手にポーションを使っただけでしょう。」

 

「ううっ……幸い近くにいた奥様が服を貸してくれましたがもうあんな思いは二度とごめんです!」

 

 

アイリスと掴み合いの喧嘩になると思われたが王女様も疲れていたのか襲ってくることはなかった。

 

 

「それで、めぐみんをわざわざここに呼んだということはそういう事なのだろう?」

 

 

ダクネスが私に話を振ってくる。元々結婚の許可をもらいにここに来たのだった。

 

 

「えっと……三人とも落ち着いて聞いてくれ。俺はお前達三人を愛している。それは変わらない。だけど、そこにめぐみんを加えてやってくれないか?めぐみんを第四夫人にしたいんだ。この通り、お願いします。」

 

 

カズマは頭を下げてアイリス達にお願いする。私も立場上一応頭を下げておいた。誠意を見せればアイリス達も許可してくれるだろう。

 

 

「…………」

 

 

暫く沈黙が続く。アイリス達は頭を下げている私とカズマを黙って見ているようだ。

 

 

「カズマくんはどうしてそんなに奥さんを増やしたがるの?」

 

 

最初に口を開いたのはクリスだった。その言葉は怒りというより呆れたという口調が強かった。

 

 

「モテる男は辛いぜ……い、今のは冗談だ。だからそのダガーをしまってくれませんか?クリス様」

 

 

容赦なく刃物をチラつかせるクリスにカズマがビビってしまう。本当にこの男は……。肝心な時に格好が付きませんね……。

 

 

「私も反対です。大体めぐみんさんは短気で喧嘩っ早いでしょう。もしめぐみんさんが妻になったら私達の日常生活は修羅場になりますよ。」

 

 

クリスとアイリスは私の結婚に反対なようだ。これ以上文句を言うようならまた全裸で外に放り出してあげようか等と考えているとカズマが私に助け舟を出す。

 

 

「大丈夫だ、めぐみんは俺の妻になる為にも少しは我慢するらしい。多少アイリス達と諍いが出来ても喧嘩しないぞ。そうだよな、めぐみん?」

 

 

カズマが私に縋るような目で見てくる。肯定しろという事でしょうか。そんなカズマの意図を汲んで私は答えた。

 

 

「そんな訳ないでしょう。私はアイリス達がカズマを奪うようならとことん戦いますよ!喧嘩だって受けて立ちます!」

 

 

大きく口を開けたまま固まるカズマ。やはりちゃんと自分の言いたい事を言うとスッキリしますね。

 

 

「こんな人、妻に出来るわけがありません!クリスさん、一緒にめぐみんさんを追い出しましょう!」

 

 

クリスとアイリスが私にジリジリと近づいてくる。仲が悪いくせにこんな時だけ手を組むのですね。

 

 

「二人とも私に近寄ってきて大丈夫ですか?また全裸で王都にテレポートする事になっても知りませんよ。」

 

 

私の言葉がハッタリかどうかアイリス達は迷っているようだ。一触即発の空気が流れる。私も流石に二人を相手に喧嘩するのはマズイ。このままじゃ負けてしまうかもしれない。と思ったその時、

 

 

「私はめぐみんを妻にしてもいいと思う」

 

 

静かな声が部屋に響いた。ダクネスの声だ。彼女が私の擁護をしてくれるのは意外だった。

 

 

「……ララティーナはお兄様が他の女に取られても良いのですか?」

 

「出来ることなら取られたくない。だが、私達はいつも喧嘩ばかりしているじゃないか。たまには仲良く暮らしたいと思っただけだ。」

 

 

ダクネスは今ではお母さんという表現がしっくりくる。カズマを手に入れるのに躍起になっていた彼女の姿はもうどこにもなくてただ穏やかに暮らす一人の母親だった。

 

 

「そんなこと言ってダクネスは赤ちゃんがいるから余裕があるだけじゃないの?私達に子供がいないからって一人見下しているんだよ」

 

「なっ!?ち、違う!私の赤ちゃんとお前達の話は別だ!」

 

 

クリスの指摘が図星だったのかダクネスは背を向けてお腹の赤ちゃんを守ろうとする。

 

 

「ならお腹の中の赤ちゃんをちょっと触らせてよ。いつも頑なに私達には触らせてくれないよね。仲良くしたいならそれくらい出来るよね?」

 

「や、やめろ!私の子に触るな!か、カズマ、何とかしてくれ!」

 

 

ダクネスとクリスに板挟みになったカズマが二人の間に割って入る。元々私の結婚の話だったのに。これでは埒が明かない。私はテーブルに置いてあったティーカップを手に取り思い切り床に投げつけた。パリンと割れる音と共に部屋が静かになる。みんなが私の方に目を向けた。

 

 

「とにかく私は第四夫人としてここで暮らします。これは決定事項です。アイリス達が了承しなくても関係ありません。」

 

「めぐみんさん、あまり調子に乗っていると……」

 

「また全裸で外に放り出しますよ!」

 

「ひっ……!」

 

 

アイリスに威圧して溜飲を下げる。このままここに居ても喧嘩に巻き込まれそうなので私は部屋を出た。

 

 

 

 

 

 

それから私はカズマ達と暮らすことになった。クエストにも行かず、一日中城の中で過ごす。冒険者としてこれでいいのかと思ったがカズマが一緒に居ればどうでもいい気がした。

 

 

「はぁ……イきそうです……ああっ……イきますよ……!」

 

 

時刻は深夜。私とカズマはお互い裸の状態で愛し合っていた。カズマの熱い吐息が私の肌にかかり私も足でガッチリとカズマを掴んで離さない。

 

 

「めぐみん……はぁ……めぐみん……!」

 

 

カズマも限界が近いのか腰を振るスピードがラストスパートのように上がる。このままカズマと一緒に気持ちよくなりたいので私はイきそうになるのを必死に堪えた。

 

 

「カズマ……一緒にイきましょう……!はぁ……はぁ……イクッ……!」

 

 

私は溜めに溜めた愛液を放つ。と、同時にカズマからも熱い液体が放たれた。私のお腹の中にカズマの精液が入ってくるのが分かる。ココ最近のセックスで気づいたが二人で一緒にイクこの瞬間が一番幸せだ。私は暫くボーッとしたままカズマと抱擁していた。

やがて我に返ったカズマが息子を蜜壷から引き抜く。ぬぽんと音を立て中からは精液が溢れ出していた。

 

 

「ふぅ……今日は沢山出たな……」

 

 

カズマが満足気に呟き私の横に寝転がる。そんなカズマに抱きつきながら彼の匂いを嗅いだ。カズマの汗の匂いも私は好きなのだ。

 

 

「めぐみんはアイリスと違って失禁しないんだな。」

 

「カズマ……他の女の名前を出すものではありませんよ……。」

 

 

この男は愛し合っている時に何を言っているのでしょう。私でなければ怒って部屋を出ていく所でしたよ。私だから良かったですけど。

 

 

「わ、悪い」

 

「カズマの中で誰とのセックスが一番気持ちいいですか?」

 

 

カズマの中では常に私達は比べられているのだろうか。私は形式上第四夫人となっているがどうにかカズマの一番になりたい。

 

 

「げっ……あまりそういう話はしたくないんだが……」

 

 

カズマは心底嫌そうな表情をする。それでも私はカズマの返事をじっと待つ。

 

 

「ダクネスは妊娠してから夜はご無沙汰だから除外だな。残ったアイリスとクリスだが……正直クリスはエッチが下手だな。まあ女神様でメインヒロインだからそれだけで充分だけど。」

 

 

ふむ、クリスはエッチが下手と。私から見てもクリスは性知識に疎い気がする。ただちんこを握ればカズマが気持ちよくなると思っているようですし。

 

 

「アイリスは凄く献身的でエッチも上手だな。めぐみんと同じくらい気持ちいい。だが、ロリっ子と妹枠なら当然妹枠の方が上だ。つまり、一番はアイ……ふぎゅっ!」

 

 

私はカズマが言い終わる直前でカズマの金玉を捻りあげる。私の攻撃にカズマはへっぴり腰になり股間を押えていた。

 

 

「もう一度聞きます……誰が一番ですか?」

 

「……め、めぐみんが一番です!だから玉から手を離してくれませんか……?」

 

 

仕方ないので私はカズマから手を離す。あと少しで私が二番になる所でしたね……でも、私が一番という言質は取れました。

 

 

「カズマがそこまで言うなら仕方ないですね。二回戦もしましょう?今なら口で綺麗にしてあげますよ。」

 

「おふ……めぐみんはエッチな子だな。」

 

 

カズマは満更でもない様子で私の提案を受け入れる。私はシックスナインの体勢でカズマの陰茎を貪った。じゅるじゅると下品な音が響く。

 

 

「カズマのせいでこうなったんですからね?結婚までしたのですから妻としてこれくらい当然です。」

 

「結婚か……あっ」

 

 

カズマが私の尻をペチペチと叩く。一度フェラをやめろということだろうか。私は口を離しカズマの方に目を向けた。

 

 

「今思い出したんだけど、俺達ってめぐみんの親に結婚の挨拶に行ってなくないか?」

 

 

そういえばすっかり忘れていた。私がカズマと結婚してから既に三週間。毎日クリス達と喧嘩したりカズマとイチャイチャしたりで親のことなど考えていなかった。

 

 

「それなら明日にでも挨拶に行きますか?これ以上挨拶が遅れたらカズマの印象が悪くなるでしょう。まぁ私の親ですから結婚には賛成してくれるでしょうが。」

 

「明日か……一夫多妻の事も言わないといけないよな……。」

 

 

カズマは何やら考え込んでいるようだ。

 

 

「なあめぐみん、やっぱり結婚を取り消したり……」

 

「それ以上言うつもりなら今度は玉を潰しますよ」

 

 

カズマは分かりやすく顔が青ざめる。結局この日はカズマの息子は立たないまま終わった。少し脅しすぎてしまったと私は反省するのだった。

 

 

 

 

 

 

翌日。私とカズマは紅魔の里に来ていた。今回はテレポートを利用して来たので移動もあっという間だ。ただ、結婚の挨拶に来たのは私とカズマだけではなかった。

 

 

「ダクネス大丈夫?休憩したくなったらいつでも言ってね」

 

「ありがとうクリス、だがこれくらい平気だ。」

 

 

どういう訳かクリスとダクネスも私達の結婚の挨拶に付いてきていた。私としてはせっかくカズマと二人きりになれると思ったのに、二人に邪魔されていい迷惑だ。

 

 

「そんなに二人を睨むなよめぐみん。クリス達も妻にしたことを言わないといけないんだから仕方ないだろ」

 

 

私の心情を察したのかカズマが言ってくる。私だってカズマの言うことは分かっているつもりだ。だがカズマの事になるとどうしても嫉妬してしまうのだ。

 

 

「はぁ……まあ仕方ありません。今日だけは我慢しましょう。それよりカズマ、手土産は忘れてないですよね?」

 

「ああ、アルカン饅頭にクッキー、カルネや小さなケーキも持ってきたぞ。」

 

 

カズマの手には綺麗に包装された菓子が大量にあった。あの親を説得するには食べ物で釣るのが一番だろう。手土産の用意に時間がかかってしまって紅魔の里に着いたのは夕方頃になってしまった。そんな事を話しているうちに我が家の前へ着く。

 

 

「こめっこー!姉が帰って来ましたよ〜。」

 

 

ドタドタと走る音が聞こえてドアが開けられる。だが、そこに居たのはこめっこではなく父だった。

 

 

「よく帰ってきたなめぐみん、こめっこなら居間で寝ているぞ。」

 

「これ……つまらない物ですが良ければ皆さんで食べてください」

 

 

父に会うなりカズマが食べ物を差し出す。父は目の色を変えてすぐさま食べ物を受け取った。

 

 

「よく来たねカズマくん!君ならまた食べ物を持ってきてくれると信じてたよ!」

 

 

単純な父親だ。私達は父に言われるまま部屋の中へ通される。寝ているこめっこにも軽く挨拶をしておいた。

 

 

「ねえカズマくん、私達のこともめぐみんの親に言うの?そんな事言って結婚を許可してくれるのかな?」

 

 

クリスがカズマと腕を組みながら尋ねる。この女は私の前で堂々とイチャついて……。いっそ爆裂魔法で灰塵と化してあげましょうか。

 

 

「クリス、今日は私とカズマの結婚の挨拶に来たのですよ。今日の主役は私なのです。分かったら早くカズマから離れてください。」

 

「私は第一夫人でめぐみんは第四夫人だよ?私の方が優先されるの。」

 

「いいでしょう。ここでケリをつけてあげます。私と勝負です。」

 

 

私とクリスは互いに睨み合う。間のカズマが困った顔で私達を止めようとするが私達はジリジリと互いに近づく。決闘が始まろうとしたその時、

 

 

「お茶が入りましたよ。」

 

 

我が母ゆいゆいが部屋に入ってくる。その言葉でやる気を削がれて私達は暫く沈黙した後席に着いた。母の後ろから父も出てくる。

 

(カズマ、今がチャンスではないですか?)

 

こっそりカズマに耳打ちする。結婚の報告を今するべきだということだ。こういう事は単刀直入に言うのが一番良い。変に後回しにしない方がいいのだ。クリスとダクネスには席を外してもらい、隣の部屋に行ってもらった。部屋には私とカズマと両親だけになる。

 

 

「……きょ、今日は娘さんの結婚の挨拶に来たのですが……」

 

 

カズマの話を聞いて父は驚いたようだ。母は薄々結婚の報告だと分かっていたのか落ち着いた様子だった。

 

 

「ただ俺には既に妻が三人います。隣の部屋にいるダクネスとクリス、そして王城にいるアイリスです。」

 

 

カズマの言葉を聞いて今度は母が唖然とした表情になる。まぁ妻が三人いるなんて普通は有り得ないでしょうし。父はもう話についていけないようだ。

 

 

「その……必ずめぐみんを幸せにしてみせます。どうか娘さんをください!」

 

 

カズマが頭を下げる。そんなに(かしこ)まらなくても親は許可してくれるでしょうに。

 

 

「娘との結婚は認められません。」

 

 

えっ、と私は小さく声を発してしまった。当然結婚は受け入れて貰えるものと思っていた。だが、事態はそんなに甘くないようだ。

 

 

「ちょっと待ってください。どうしてダメなんですか。今までカズマと私をくっつけようと色々してきたじゃないですか。」

 

「ええ、娘とカズマさんだけが結婚するなら何も文句は言いません。でもカズマさんは他にも妻が三人いるのでしょう?そんな婚約認められるわけがありません。」

 

 

何を頭の固い事を言っているのでしょう。助けを求めようと父の方に目をやるがふいっと視線を逸らされてしまった。

 

 

「先程からあなた達の様子を見てましたがすぐにカズマさんを取り合いになって言い争いが絶えないではありませんか。こんな状態で娘が幸せになれるとは思いません。」

 

 

母は頑として受け入れないようだ。確かに一夫多妻が珍しいことは分かってる。でも、話くらい聞いてくれてもいいじゃないか。

 

 

「私がカズマにどれだけ救われてきたのか母は知らないでしょう。爆裂魔法を諦めそうになった時も、私が逮捕された時もカズマはずっと傍に居てくれました。私にはカズマが必要なのです。」

 

「カズマさんと二人だけで結婚するならまだいいです。でも、一夫多妻は認められません。」

 

「一夫多妻の何が不満なんですか。私とカズマが愛し合っているから結婚する。これだけで充分じゃないですか。」

 

「めぐみん、あなたは結婚したことがないから事の重大さが分からないのよ。きっとこのまま結婚すれば後悔する事になるわ。」

 

「絶対に後悔などしません。カズマが私の全てなのです。カズマなしでは生きていけません。」

 

「いいえ、あなたは何も分かっていないわ。親の言うことをちゃんと聞きなさい。そもそもあなたはーーーー。」

 

 

それからも私と母の話は平行線をたどりいつまでも押し問答を繰り返す。何度も言い合っているうちに私達は互いにヒートアップしてきて傍から見れば怒っているように喋ってしまう。

 

 

 

 

 

 

「ーーーですから私にはカズマが必要なのです!カズマの居ない人生など考えられません!」

 

「今までカズマさんと一緒に暮らしてきて嫌になったことはないの?喧嘩ばかりしているんでしょ!私はあなたの為を思って言っているのよ!」

 

 

母は私の為を思ってるように言ってるがただ一夫多妻という前例のない結婚を嫌がっているだけだ。母は頭が固いのだ。

 

 

「もう母と話すことはありません!そんなに結婚に反対するようなら私は家を出ていきます!」

 

 

私はとうとう言い切ってしまった。肩で息をして呼吸を落ち着かせる。私達の様子を見ていたカズマと父は完全に置き物となっている。母は私の言葉を聞いて目に僅かに涙を浮かべて答える。

 

 

「もう勝手にしなさい!少し一人にさせてください……」

 

 

母は私の言葉を聞くと部屋を出ていく。少し言い過ぎてしまっただろうか……。私はモヤモヤした気持ちを抱えたままテーブルに視線を落とす。

 

 

「ま、まぁあれだ。母さんは少し機嫌が悪かったのかな。きっと帰ってくる頃には怒りも忘れているはずだ。」

 

 

父が場を和ませようとする。しかし、私のどんよりした気持ちは晴れなかった。

 

 

「すいませんお父さん、俺が情けないせいで怒らせてしまって……」

 

「いやカズマくんは気にすることない。魔王を倒した勇者となれば妻の二人や三人くらい普通だろう。とりあえず夜ご飯でも食べよう。」

 

 

父は隣の部屋にいるダクネス達を呼びに行く。父が扉を開けた時、隣の部屋にいたこめっこがとてとてとこちらに歩いてきた。

 

 

「姉ちゃん喧嘩してたの?」

 

 

私達の言い合う声が隣まで響いていたのでしょうか。こめっこを起こしてしまったようですね。

 

 

「いえ、ちょっとした話し合いをしてただけですよ。ほら、こめっこの好きな饅頭もあります。一緒に食べましょう。」

 

「いらない」

 

 

なんと、あのこめっこがご飯を前にして興味を示さないとは。一体どうしたのでしょう。

 

 

「どうしたのです?体調でも悪いのですか?」

 

「姉ちゃんとお母さんが喧嘩したままだとご飯が美味しくない。ちゃんと仲直りしてきて」

 

 

こめっこ……。妹なりの気遣いなのでしょうか。姉としてはその厚意を無下にはできません。私は可愛い妹にハグをした後、部屋を出ます。えーと……母の部屋はこっちのはず……。ありました、ここですね。私はノックをして部屋の中に入る。

 

 

「あの……さっきは言い過ぎてしまいまし……」

 

 

部屋に入ると母がいた。だが、涙を流している。私は突然のことに気が動転して変な声をあげてしまった。

 

 

「なに……まだ結婚を認めてもらいたい話をするの?何度言っても返事は変わりませんよ」

 

「あ……いや、そ、そうではなくてですね……」

 

「はぁ……こんな事になるならあなたなんて産まなければ良かったわ。」

 

 

”あなたなんて産まなければ良かった”。その言葉が強く頭に残った。なぜそこまで言われなければいけないのだろう。

 

 

「私だってあなたの子供になりたくなかったですよ!」

 

 

私の言葉を聞いて母は何も言わなくなってしまう。今の発言で母の地雷を踏んでしまった。マズイと思ったが、今更言葉を取り消すことも出来ず私はただ母を睨み返すことしか出来ない。

 

 

「……出ていきなさい」

 

 

母は静かにそう言った。これ以上ここに居ても関係が悪化するだけだろう。私は部屋を出て大きなため息をつく。母を傷つけてしまった。

 

 

「もう、どうしたら良いのでしょう……」

 

 

私は静かに涙を流すのだった。

 

 

 



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このロリっ子に大人の洗礼を!(後編)



約5000字あります。





 

 

 

部屋に戻ってくると皆が夜ご飯を食べていた。こめっこもガツガツとご飯をかき込んでいる。てっきり私が帰ってくるまでご飯には手をつけないと思っていたのですが……。まだ子供なので仕方ないですけど。

 

 

「めぐみん、お母さんはどうだった?」

 

 

カズマがそれとなく私に聞いてくる。母を傷つけてしまった後悔や怒りのせいでなんだかカズマまで憎く思えてしまう。私はカズマを無視して席に座りご飯に手を伸ばした。

 

 

「その様子だとまた喧嘩したみたいだね。もうカズマくんと結婚するのは諦めたら?」

 

 

クリスが私を冷やかしてくる。しかもちゃっかりカズマの隣に座っているし。ここは一発殴ってどちらがカズマにふさわしいか決めるしかありませんね。

 

 

「なにめぐみん、ここで喧嘩するつもり?妹さんも見てるしやめた方が……ふぐっ!」

 

 

油断していたクリスの首を後ろから絞める。じたばたとクリスが逃げ出そうとするが、私は強く締め付けている。私達が暴れているのを父もカズマもこめっこも黙って見ていた。

 

 

「めぐみん、ゆいゆいさんが言ってたのはこの事じゃないのか?」

 

 

ダクネスが私に言ってくる。彼女の言ってる意味がイマイチ分からない。

 

 

「どういう事ですか?」

 

 

私はクリスの首を絞める手を少し緩めてダクネスの声に耳を傾ける。

 

 

「私達がいつも喧嘩ばかりしてる事だ。私はもうすぐ子供が産まれる。私達がこんなに喧嘩する所を子供に見せられるだろうか」

 

 

ダクネスの言葉を聞いて私はクリスから一度手を離す。クリスは大きく咳き込み床で(うずくま)っていた。

 

 

「姉ちゃん、顔が怖いよ」

 

 

こめっこの言葉に私は我に返る。少し家族の前で羽目を外しすぎていたのかもしれません。自重しなくては。

 

 

「ちょっと私は外の空気を吸ってきます。」

 

 

この場にいるのもいたたまれなくなって私は部屋を出た。なんだか皆の視線が痛かった。私はダクネスの言葉を反芻しながら紅魔の里に繰り出すのだった。

 

 

 

 

 

 

夜の帳が降りて子供のこめっこならもう眠りにつく時間帯。私が家に帰ると居間には寝転がっているクリス、ダクネス、カズマの姿があった。雑魚寝する三人の傍に母ゆいゆいがいる。一人で酒を飲んでいる。

 

 

「カズマさん達は眠らせておきましたよ。あとは好きにしなさい。」

 

 

私との関係がギクシャクしてる時も母の手際の良さは相変わらずだった。

 

 

「まだ結婚の許可は出してくれないのですか?」

 

「ええ、ダメです。」

 

 

また先程のように言い争うのも嫌なので、私はそれ以上言い返すこともなく近くに座った。母が飲んでいた酒をコップに注ぎ私も一杯飲む。私ももう大人なのだ。

 

 

「めぐみん、あなたにずっと隠してきたことがあります。」

 

 

母は(かしこ)まった様子で私に話しかける。私はお酒をチビチビ飲みながら母の声に耳を傾けた。

 

 

「実は私、昔は喧嘩ばかりしてたのよ」

 

 

何を言い出すかと思えば。昔はワルだったというよくある武勇伝だろうか。私は鼻で笑いながら母の話を聞き流す。

 

 

「でも、めぐみんが産まれてから私はお淑やかに生きようと思ったの。子供達のお手本になろうと思ったのよ」

 

 

黙って母の話を聞く。私の喧嘩っ早い性格は父譲りかと思っていたが実際は母に似たようだ。私が産まれてから母が誰かと喧嘩するのは見たことがない。

 

 

「それは……意外でしたね。母はいつも父を支えていて、私達の面倒も見てくれる家庭的な人だと思ってました。」

 

「あなたもいつかは子供が出来るでしょう。いつまでも子供のままじゃいられないのよ。大人にならないといけない時が来るの。」

 

 

母の言い方に私はカチンとくる。私のことを子供扱いしているのでしょうか。

 

 

「私はもう充分大人です!カズマ達も私を子供扱いしますがお酒だって飲めますよ!」

 

「大人になるのはお酒が飲めることじゃないの。もっと大きな意味があるのよ」

 

「では大人になるとはどういう意味なのですか?」

 

「…………」

 

 

母は私の発言に答える前に暫し私の顔をじっと見る。

 

 

「それは自分で考えなさい」

 

 

一番大事なことを母は教えてくれなかった。

 

 

「それと……めぐみん、カズマさんとは夜の方もお世話になってるの?」

 

「なっ!?」

 

 

急に夜の話になって動揺する。私も大人として扱われたいのならこれくらいで動揺してはダメだ。私は出来るだけ平静を装って答えた。

 

 

「ええ、それはもうカズマを骨抜きにしてますよ。数ある妻達の中でも私のテクニックが一番と言われています。だから何も心配することはありません。」

 

 

自分で言いながら恥ずかしくなってきた。夜のテクニックが上手いということはそれだけ私がエッチな子だと言っているようなものだ。私は朱を散らしたように顔が赤くなるのを感じながら答える。

 

 

「そう、ならこれを使っておきなさい。」

 

 

母が渡してきたのは妊娠検査薬。この親は本当に人のプライベートにズカズカと入ってくるのですから!

 

 

「こういう事はちゃんと自分で管理しますよ!」

 

「いいから今検査しておきなさい。いつの間にか妊娠していてもおかしくないから。」

 

 

私の生理は予定通り起きている。今の所妊娠したという症状は出ていない。母と少し喧嘩になっていたし仲直りのためにもここは母に従いますか。

 

私はトイレに行って妊娠検査薬を使う。子供を作るならもう少し私が大人になってからがいいですね。いえ、私は充分大人ですが。採尿して結果が出るのを待つ。

数分後、検査の結果が出た。

 

 

「どうでしたかめぐみん?」

 

 

先程と同じ位置にいた母が私に聞いてくる。私は検査の結果が間違っていないかと疑いつつも答えた。

 

 

「……陽性でした」

 

 

 

 

 

私は眠らされていたカズマをお姫様抱っこで運び自分の部屋へ入る。クリスとダクネスは母が連れて行った。久しぶりにカズマと二人きりになれたが、私の心はどこか沈んでいた。未だに母と喧嘩したままで結婚の許可は貰えてない。それなのに子供が出来てしまった。これからどうすればいいのでしょう。

 

 

「……めぐみん?」

 

 

布団でカズマに添い寝しているとカズマが目を覚ましてしまった。

 

 

「すいません起こしてしまいましたか。」

 

「いいよ、どうせ今からエッチするんだろ?」

 

「しませんよ!実家でするわけないでしょう!」

 

 

この男の頭は煩悩だらけですね。とは言えカズマが起きてくれたのはちょうど良かった。子供が出来たことを相談したかったからだ。

 

 

「なあめぐみん、俺達大人になれたのかな。」

 

 

私が妊娠したことをカズマに伝えようとする前にカズマが話し始める。仕方なく私はカズマの話を聞く。

 

 

「どういう意味ですか?もう年齢的には大人でしょう。」

 

「そうじゃなくてさ……。なんだか大人になった実感がないんだよ。もうすぐダクネスの子供が産まれるけど、まだ心は学生の時のままという感じがしてさ。」

 

 

カズマの言ってることは私にも当てはまった。学生の頃からゆんゆんを揶揄(からか)うのは変わってないし喧嘩っ早いのも当時のままだ。

 

 

「そうですね……。それってつまり私達がまだ子供のままだということですか?」

 

「ああ、多分ゆいゆいさんが言ってるのはそういう事なんだと思う。俺達もどうにかして大人にならないといけないんだよ」

 

 

ふむ、母がそこまで考えていたのかは分かりませんが、カズマの言うことにも一理あります。私も子供扱いされるのを嫌がっているだけで大人になる努力を何もしていませんでしたね……。

 

 

「でも、大人になる為にはどうすれば…………あっ。」

 

 

母が言っていた。”昔は喧嘩ばかりしてた”と。でも、今の母は、少なくとも私の前では、喧嘩する所を見せてない。つまり、大人になるとはそういう事なのではないだろうか。

 

 

「子供の手本になれる人が大人なのではないでしょうか。」

 

「ゆいゆいさんがそう言ってたのか?」

 

「ハッキリとは言われてません。でも、昔は喧嘩っ早かったけど、私達の前ではお淑やかに生きるように心がけていると言っていました。」

 

「………明日、ゆいゆいさんにもう一度お願いしてみるか。」

 

 

いつもイチャイチャしている私とカズマがこんなに真面目な話をしている。それだけで私は一歩大人に近づいたような気がした。

 

 

 

 

 

翌朝。私は誰かの怒鳴る声で目が覚めた。隣を見ればカズマはまだ寝ている。

 

 

「ーーじゃ……。一……だけ。」

 

「ーーめろ!……の子に……るな!」

 

 

隣のカズマが気持ちよさそうに寝ているので起こすのも悪いと思い彼をそのままにして部屋を出る。一階に降りると居間でクリスとダクネスが言い争っていた。

 

 

「それ以上近づいてみろ!私は容赦しないからな!」

 

「ねぇダクネス、私達は親友でしょ?親友ならお腹の子を触らせるくらい普通だよね?」

 

 

またクリスがダクネスの赤ちゃんを触ろうとして揉めているようだ。ダクネスはパーティ仲間で身重ですから彼女の味方をしましょうか。私は後ろからクリスを羽交い締めにしようとして……

ダクネスの膨らんだお腹が視界に入った。そう、ダクネスは妊娠しているのだ。そして今となっては私も妊娠している。もう子供が産まれるのだ。子供に今の私を見せられるでしょうか。

 

 

「め、めぐみん!クリスをどうにかしてくれ!」

 

 

ダクネスが私に助けを求める。もう暴力には頼りたくない。ダクネスはクリスに背中から抱きつかれお腹を触られそうになっている。このままダクネスを見捨てるのも目覚めが悪いですね……

 

 

「ねえダクネス、ちょっとだけでいいの。赤ちゃんが生きてるか確かめるだけだから。ちょっとお腹を殴っちゃうかもしれないけどそれはゆるしてね。」

 

 

今のクリスは完全に悪者だ。私はダクネスを助けようとしてクリスとダクネスの間に割って入る。だが、クリスには手を出していない。私はダクネスを守るようにしてクリスに対峙する。

 

 

「なにさめぐみん、また私と喧嘩したいの?」

 

「いいえ、あなたとはもう喧嘩しません。私はもう子供が出来ますから」

 

 

私の言葉を聞いてクリスの目から光が消える。私に子供が出来たというのがショックだったのだろう。

 

 

「どうして……めぐみんが先に……。私の方がカズマくんと一緒だったのに!」

 

 

クリスはブツブツと独り言を呟く。タダならぬ彼女の様子に私は怯えたが、ダクネスを守るためにそのまま立ち塞がった。大人になりたいからだ。

 

 

「もう許さない……!流産させてあげる……!」

 

 

クリスは私の腹を殴りかかってくる。私は(うずくま)って必死にお腹の子を守る。

 

 

「なんでダクネスやめぐみんには子供が出来て私には出来ないの!私が第一夫人なのに……」

 

 

クリスはしゃがんでいる私を足蹴にして怒る。それでも私はクリスに反撃しなかった。このままクリスと喧嘩になっては私の子供に顔向け出来ません。

 

 

「もういいよ。今すぐカズマくんとエッチしてすぐにでも私の子供を……」

 

『スリープ』

 

バタンとクリスが倒れる。突如唱えられた睡眠魔法は我が母ゆいゆいによるものだった。クリスは意識を失って床に寝転がる。

 

 

「愛しい我が娘を痛めつけるこのクリスさんという盗賊は私がしっかり懲らしめておきます。大丈夫ですか、めぐみん?」

 

 

ピンチに母が助けに来てくれたせいで私は少し泣きそうになった。だが、泣いては子供のままだと思われる気がしたので涙を堪える。

 

 

「けほっ……、まあなんとか大丈夫ですよ。ダクネスが無事なら良かったです。」

 

 

私は立ち上がって答える。お腹の子は心配だが、どうにかダクネスを守ることは出来たようだ。

 

 

「我が母ゆいゆい、もう結婚の許可を認めてくれとは言いません。その代わり、私が立派な大人になったら……」

 

「認めるわ」

 

「……はい?」

 

 

母の言葉に耳を疑う。

 

 

「あなたがカズマさんと結婚するのを認めると言っているのよ。先程のあなたの様子を見て確信しました。もうあなたは立派な大人です。胸を貼りなさい。」

 

 

思わぬ形で母から結婚の許可が降りた。その言葉でギクシャクしていた母との関係も解消されたような気がして嬉しくなる。私は(たかぶ)った気持ちのまま母に抱きつく。

 

 

「ありがとうございます……!子供が産まれる時にはまた帰ってきますから……!」

 

「ええ、待ってますよ。その時はダクネスさんもアクアさんも連れていらっしゃい。」

 

 

私は母と仲直りのハグをするのだった。そんな私達をダクネスが温かく見守っていた。

 

 

 

 

 

 

その後、私達は朝食を食べた後、王城へ帰ることになった。玄関先で母達に別れの挨拶を告げる。

 

 

「それでは俺達は帰りますね。」

 

 

結婚の許可も貰えたしやるべき事は全て出来た。私のお腹にも新たな命が宿ったし嬉しいこと続きだ。

 

 

「そういえばクリスはどこに行ったのだ?姿が見当たらないが。」

 

 

ダクネスが疑問を声にする。クリスは今朝母が眠らせたきりで姿を見てない。どこへ行ったのでしょう。

 

 

「ああ、クリスさんは寝ていましたので身ぐるみを剥いで王都にテレポートしておきましたよ。」

 

 

母の容赦ない仕打ちに驚く。つまり、寝たままのクリスを全裸で王都にテレポートしたのだろうか。私がこの前アイリスにした仕打ちと同じで私は母に似たのだなと再度実感する。

 

 

「めぐみんは俺が必ず幸せにします。」

 

 

カズマの言葉に母は大きく頷く。無事に結婚の許可を貰えたので親公認の結婚だ。

 

 

「またいつでもいらしてくださいね?カズマさんもダクネスさんも歓迎しますよ。」

 

 

私達は母の見送りを受けながら王城へと帰った。帰り道私は自分のお腹を優しく撫でる。今の私は”お母さん”と呼んでもいいのではないだろうか。

 

 

 






クライマックスが盛り上がってるかイマイチ分かりません。読んでいて違和感があれば遠慮なく誤字報告や感想で教えてください。


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諦めない女達 アクアのターン!(前編)



約8000字あります。後編とまとめてみた方がスッキリするかもです。





 

 

 

(アクア視点)

 

 

 

 

めぐみんがカズマさんと結婚してから数週間が経った。

 

 

「ただまー」

 

 

私は一人で屋敷に着き帰宅を知らせる。既に昼を回っていて室内は日光の温かさで心地よかった。しかし、屋敷の中からは返事が聞こえない。

 

 

「ちゃんとおかえりを言って欲しいんですけ……」

 

 

リビングを開けると誰もいなかった。ただ、私が朝食で使った食器がテーブルに置いてあるだけだ。勿論私に返事をする人もいない。そう、めぐみんもダクネスもカズマさんと結婚して王城に行ってしまったのだ。この広い屋敷には私一人しかいない。

 

 

「はぁ……これで良かったのかしら」

 

 

めぐみんとダクネスはカズマさんと結ばれた。昔は狂っていたあの二人も今では大人しくなっている。きっとあの()達は幸せに過ごしているだろう。もう満足だ。

そう思っていたのに、私はため息をついてしまう。元気ハツラツだった頃の私が今の自分を見たら笑うだろう。

 

 

「……はっ!?だ、ダメよ、こんな姿を私の信者達に見せられないわ。元気を出さないと……!」

 

 

私は急いで自分の部屋に行く。気分が滅入る時にいつもしている事があるのだ。私は自室の机の引き出しを開ける。そこには、笑顔のカズマさんが写った写真があった。

 

 

「はぁ……やっぱりこの写真はいいわね……」

 

 

この世界では魔道カメラは高価なもので、滅多に写真はない。だからこの写真もとても貴重なものなのだ。私は写真に写ってるカズマさんを撫でながら呟く。写真から彼の温もりが伝わってくるような気がした。

 

 

「カズマさんカズマさんカズマさん……」

 

 

彼の名前をブツブツと呟いているうち自然と笑顔が零れてきた。やっと私は本調子を取り戻したみたいだ。私は暫く写真に頬ずりする。彼と私が繋がっているみたいだ。

しかし、私がカズマさんを愛でる時間はそう長くは続かない。突如、強風が吹いたのだ。 写真は風に飛ばされ吸い込まれるように窓へと飛んで行きそのまま屋敷の外へ舞った。

 

 

「ちょっと!私の写真がっ!」

 

 

写真が飛ばされた方へ取りに行こうとするがもう遅い。写真は日光に照らされながら宙をふわふわと舞っていく。ここは二階だから写真を取るためには一度玄関へ降りてから外へ出なければならない。私は急いで玄関へと向かった。転びそうになりながらも玄関のドアを開ける。すると、ドアの外にはダクネスとめぐみんの姿があった。たった今二人が帰ってきたのだろうか。

 

 

「久しぶりですねアクア」

 

 

二人が丁度立ち塞がるように立っていたので私は前に進むことが出来ない。こんな所で立ち止まっている暇は無い。私が強引に前に進もうとしたその時、

 

 

「うっ……!」

 

 

ダクネスがふらふらと千鳥足を踏んだ後、その場にへたり込んでしまった。

 

 

「どうしたのダクネス!?大丈夫?」

 

 

流石にダクネスを見捨てることは出来ないので仕方なくダクネスを介抱する。彼女の肌をよく見ると少し血色が悪いような気がする。貧血を起こしてしまったのだろうか。

 

 

「少し立ちくらみがしただけだ。多分妊娠の症状だろう。悪いが部屋の中まで肩を貸してくれないか?」

 

 

私は先程写真が飛んで行った方をチラチラ見る。ここからは写真が見当たらない。だが、ダクネスを助けることにした。ダクネスの右腕を首に回し一緒に歩く。ダクネスがゆっくり歩くので非常に焦れったい。

 

 

「色々と積もる話があるのだ。昔のように女同士で話さないか?」

 

「話したい気持ちは山々なんだけど、今は写真が……」

 

「まずは私の子供の話をしたいな。この子にどんな名前を付けるか色々悩んでるのだ。是非アクアの意見も聞きたいのだが。」

 

 

ダクネスが今から長話を始めようとしている。私はこれ以上ダクネスに構っていられないので思い切ってダクネスを置いて玄関へと走り出す。後ろからめぐみん達の慌てる声が聞こえるが気にする暇は無い。

 

 

「ええと……どこかしら。確かここら辺に落ちてた気がするのだけれど……」

 

 

先程写真が飛んで行った方向を頼りに周囲を探す。確かここら辺にあったはず……。そのまま私は十分ほど探したが一向に写真は見つからなかった。

 

 

「ああ……。どうしましょう……あの写真がないと困るわ」

 

 

あの時ちゃんと写真を握っていればこんな事にならなかった。嫌な汗が私の頬を伝う。今頃風に飛ばされて遠くの彼方へ行ってしまったかもしれない。

 

 

「お嬢さん、大丈夫かね?」

 

 

声のした方を見ると初老の男が立っていた。白髪の頭はボサボサでとても好印象とは言えない。だが、私の事を気遣ってくれているのは分かった。

 

 

「大丈夫じゃないわよ。私がずっと大切にしていた写真がなくなっちゃったのよ。」

 

 

泣きそうな声で写真のことを伝える。こんな事をこのおっさんに話していてもしょうがない。私が別の所を探そうと立ち去ろうとしたその時、

 

 

「お嬢さんが探してるものはこれかね?」

 

 

見るとおっさんが私がずっと探していた写真を持っていた。少し土で汚れていたが写真が無事見つかった。私は思わず写真に手を伸ばしてしまう。

 

 

「髪がボサボサとか思って悪かったわね。その頑張りに免じてアクシズ教徒になってもいいわよ!」

 

 

私が写真を受け取ろうとするとおじさんはひょいと避ける。何をしているのかとおっさんの顔を怪訝な表情で見つめた。

 

 

「この写真は貴重なものだ。そう易々と君に渡すことは出来ないよ」

 

 

魔道カメラが高価なこの世界では当然写真も貴重なものだ。このおっさんは私に写真を渡す気はないらしい。なんとも嫌な奴に写真を奪われてしまったようだ。

 

 

「その写真は私のものよ!返しなさい!」

 

「どうしても渡して欲しいと言うならいくらかお金を置いていきなさい。それで渡してあげよう。」

 

 

このおっさん……!生意気な態度に私は歯ぎしりを立てる。頭がボサボサなのは定職に付いてないからではないだろうか。ニートにはろくな奴がいないのね。

 

 

「それでお金を渡すのかね?渡さないのならこの写真は私が持っておこう。」

 

 

私は黙って財布からお金を取り出す。硬貨を取り手の中に握りしめた。そのまま手をそっとおっさんに近づける。

 

 

「おお!いくらだ!?いくら貰えるのだ!?」

 

 

おっさんは指で隠された私の硬貨を覗き込む。がめつい人にはなりたくないものだ。私はそんな無防備なおっさんの顔に向けて強烈なパンチを食らわせた。

 

『ゴッドブロー!』

 

「へぶっ!!」

 

 

おっさんは面白いように飛んでいき放物線上に宙を舞った。その様子で私の溜飲は下がる。地面に落ちた写真を私は拾い上げる。

 

 

「この私に物乞いなんて百年早いわよ!」

 

 

カズマさんの写真を上に掲げる。写真が日光に照らされ輝いていた。先程までの不安は嘘のようで私は鼻歌を歌うほど機嫌が良くなっていた。

 

 

「♪〜、ふふっ、やっとカズマさんが帰ってきたわ。さあダクネス達も屋敷に来ていることだし早く帰りましょう」

 

 

私は屋敷に行こうと後ろを振り向く。そこに立っていたのは警察官だった。私達は静かに見つめ合う。

 

 

「……私は帰ろうかしら」

 

「お姉さん、ちょっとお話聞かせてもらえるかな?」

 

「嫌よ!嫌!絶対に嫌!私は何も悪くないの!」

 

「はいはい、詳しくは署で話を聞きますからね」

 

 

私は抵抗虚しく警察官に連れて行かれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

留置所に入った私を迎えに来たのはダクネスだった。日差しも弱くなっていて周りの景色は赤っぽくなっていた。

 

 

「私悪くないのに……!全部あの人のせいなのに……!」

 

 

私は涙目になりながら屋敷へと帰る。隣ではダクネスが私をどう慰めるか困っているようだった。

 

 

「ま、まあこうして無事釈放されたし良かったじゃないか。ほら、もう屋敷に着いたぞ。」

 

 

私は未だ泣き止まなかったが、ダクネスに連れられ屋敷の中へと入る。いつも一人で屋敷に帰る時と変わらない光景だったが隣にダクネスがいるだけで不思議と周りが輝いて見えた。

 

 

「おや、二人ともおかえりなさい。夜ご飯は私が作っておきましたよ。」

 

 

気づけばお肉の香ばしい匂いが部屋に漂っていた。久しぶりに他の人が作ったご飯を食べられる。私は自然と泣き止み食事を前にして椅子に腰掛けた。間もなくしてめぐみんとダクネスも席につく。私達はめぐみんの作ったご飯を食べて話に花を咲かせた。こうして二人と話すのも久しぶりの事だった。

 

 

「やっぱりめぐみんが作るご飯は美味しいわね。久しぶりに美味しい物が食べれて嬉しいわ」

 

「ふふふ、そうでしょう。これからは私達もここで暮らしますから存分に堪能してください。」

 

 

”これからは私達もここで暮らす”。お城に住んでいたはずなのにどうして二人は帰ってきたのだろう。私の疑問が顔に出ていたのかダクネスが答えてくれた。

 

 

「実はだな……最近アイリス様とクリスが私達に攻撃してくるようになったのだ。恐らくだが妊娠してる私達に嫉妬しているのだと思う。そこで子供を産むまではこの屋敷で過ごそうという話になったのだ。」

 

 

なるほど、二人はアイリス達から逃げてきたのか。めぐみんとダクネスは比較的穏やかだけれどあの二人はカズマを取られまいと必死になっている。二人がここに来るのも自然なことだろう。

 

 

「という訳で暫くお世話になりますよアクア。」

 

 

それからめぐみん達が屋敷に住むようになった。妊娠してる二人に負担をかけるわけにはいかないので私が基本的に身の回りのお世話をするようになる。一人ぼっちだった私も彼女達が来てから毎日の生活にハリが出るようになった。

ある日、私が昼頃に起きて居間に行くとめぐみんが何かを作っていた。

 

 

「めぐみん何作ってるの?」

 

「でんでん太鼓ですよ。子供が産まれた時に使うかと思いましてね。」

 

 

めぐみんは太鼓をポンポンと鳴らしてみる。耳障りのいい音が鳴った。こうして見ると彼女も母親に見えてくる。そんな彼女の姿を見るのが嫌で私は目を逸らしてしまった。

 

 

「赤ちゃんが出来るのが楽しみですね……。名前もいくつか考えているのですよ。アクアも見ますか?」

 

 

そう言うとめぐみんは小さな紙切れを取り出し、床に置く。紙には紅魔族らしい名前が十個程並んでいた。

 

 

「おはよう二人とも」

 

 

リビングのドアが開けられダクネスが顔を出す。ダクネスが起きるのが遅いのは珍しい事だった。

 

 

「遅かったわねダクネス、夜更かしでもしてたの?」

 

「ああ、これから産まれてくる赤ちゃんの事を考えていると中々寝付けなくてな。」

 

 

ダクネスも赤ちゃんの話か。私は彼女の話を聞くのも嫌だったのでそれ以上聞くことは無かった。

 

 

「めぐみん、一緒に外に散歩に行かないか?子供の為にも普段から日光を浴びておいた方がいいと思うのだ。」

 

「それはいいですね。すぐに支度をするから待っていてください。」

 

 

めぐみんはダクネスの誘いを受けて部屋を出ていった。床にはめぐみんの考えた名前のメモとでんでん太鼓が残される。私は何気なくメモに書かれた名前を見る。てんてん……くらるん……まいまい……。どれも変わった名前だ。少し前まで少女だっためぐみんも今では母親になろうとしているのだ。

 

 

「ふんっ、赤ちゃんの事ばかり考えてめぐみんもダクネスもバカみたいね。」

 

 

私は強がりを言ってみる。脳裏に母親として振る舞う彼女達の姿がこびり付いて離れなかった。

私も気分転換に外に出ようとしたその時、玄関のドアが叩かれる音がした。めぐみん達が忘れ物でもしたのだろうかと私は玄関へ向かう。だが、そこに居たのはめぐみん達ではななかった。

 

 

「アクア先輩、久しぶりですね」

 

 

玄関に立っていたのはクリスだった。めぐみん達はクリスから逃げてここに来たらしい。めぐみん達を匿わなければいけない。運良く今はめぐみん達がいないが彼女にここに居られるのは不味いだろう。

 

 

「ええ久しぶりねエリス、わざわざ屋敷に来てどうかしたの?」

 

 

出来るだけ彼女に早く帰ってもらいたくて私は用件を聞く。クリスは私の意図を見透かしているような目で見つめ口を開いた。

 

 

「ここにダクネス達が来てませんか?」

 

 

いきなり核心を突く質問だ。私は嘘とバレないように彼女の目を見据えながら答える。

 

 

「き、来てないわよ。めぐみん達の事だからどこかで外泊でもしてるんじゃないかしら?」

 

「ふーん」

 

 

クリスは私の発言を聞き流しながら屋敷の中に入ってくる。私は彼女を中に入れないようにしたがひょいと身をかわされ簡単に通してしまった。クリスはそのまま先程までめぐみん達がいた居間に入って行く。

 

 

「こんな所にでんでん太鼓がありますね。これは誰のものですか?」

 

 

クリスがでんでん太鼓をポンポン鳴らしながら私に聞いてくる。もう彼女にはめぐみん達がここに居たことはバレているだろう。私は彼女からでんでん太鼓を奪い返す。

 

 

「この太鼓はめぐみんのものよ……分かって聞いているんでしょ。そんなにめぐみん達に執着してもいい事なんてないわよ。さっさとお城へ帰りなさい。」

 

 

私はめぐみん達を守るため少し威圧しながら話す。クリスは私の言葉を聞くと頭に手を当てわざとらしくため息をついた。

 

 

「今日はダクネス達に用がある訳じゃないですよ。それはついでに聞いただけです。私が用があるのはアクア先輩、あなたです。」

 

 

どうやらめぐみん達を追って来たわけじゃないみたいだ。ひとまずめぐみん達への危機は去った。

 

 

「私に用って何かしら?」

 

「先輩に忠告しておこうと思いまして。」

 

 

私に忠告……。腹黒いクリスの事だから良くないことだろう。私は身構えながら彼女の話を聞く。

 

 

「先輩はカズマさんのことが好きなんですか?」

 

 

彼女の発言は突拍子もないことだった。私は不意を突かれて動揺してしまう。

 

 

「はあっ!?わ、私はべ、別にカズマさんの事なんて何とも思ってないわよ!」

 

「今更何を言ってるのですか。監禁してる時にカズマさんと散々セックスしてたじゃないですか。私は天界から見ていましたよ。」

 

 

エリスの指摘に私は言葉が詰まる。全部見られていたなんて……。私は恥ずかしさで顔が赤くなるのを感じた。

 

 

「先輩も知っての通りカズマさんには妻が四人もいます。アイリスさん、めぐみんさん、ダクネスそして私の四人です。もうこれ以上妻を増やすのは無理ということは分かっていますよね?」

 

 

エリスの話は出来ることなら聞きたくなかった。私は無意識のうちに自分もカズマさんの奥さんになれるかもと思っていたようだ。その僅かな希望がエリスの手によって打ち砕かれた。

 

 

「私が忠告したいのはカズマさんに近づかないようにという事です。カズマさんが死んだ後は私が彼の魂を手に入れます。そして私と彼はずっと一緒に過ごすのです。もしアクア先輩がカズマさんと結ばれたら先輩がカズマさんの魂を奪おうとするでしょう?そんな事にならないようにこうして言っておきます。」

 

「そ、そんなこと分かってるわよ……。私はめぐみん達が幸せならそれでいいの。あの()達の幸せを邪魔するつもりはないわ」

 

 

エリスは暫く私の気持ちを見定めているようだったが、安心したように微笑む。

 

 

「そうですか、それなら安心しました。カズマさんを奪うつもりがないなら先輩を敵視なんてしませんよ。これからも仲良くしましょうね」

 

 

エリスは薄気味悪く微笑んでいる。私がカズマさんを奪おうとしたら彼女は私に容赦しないだろう。私は彼女に怯えながらも必死に笑顔を作った。

 

 

「ただいま帰りましたよー」

 

 

めぐみん達が帰って来る声が聞こえる。

 

 

「私は天界に帰りますね。ダクネス達にもよろしく伝えておいてください。」

 

 

エリスは突如現れた光の柱の中へと消えていった。エリスが消えてすぐにめぐみんとダクネスが部屋に入ってくる。

 

 

「ただいまですアクア、いるなら返事をしてくださいよ。」

 

「……ええ。ちょっとバタバタしてたの。」

 

 

私はエリスが来たことがバレていないか内心ヒヤヒヤしながら答える。

 

 

「あれ、ここにあったでんでん太鼓を知りませんか?」

 

 

でんでん太鼓は先程エリスから奪い返した時から私が隠し持っている。めぐみんは私が太鼓を持っていることなど露知らず周りをうろうろと探している。

 

 

「……さあ、太鼓なんて知らないわよ」

 

 

私は嘘をついた。

 

 

 

 

 

 

翌日。めぐみんがでんでん太鼓が無くなったと騒いでいたが、結局その話は有耶無耶になった。太鼓は今でも私が隠し持っている。今日は赤ちゃんが産まれた時の為に赤子用の衣服やら哺乳瓶やらを買いに三人で街に出かけていた。

 

 

「しかし、カズマに会えないのは中々寂しいな。今度カズマに屋敷に帰ってくるように手紙でもよこした方がいいだろうか。」

 

 

ダクネスの発言を聞いてめぐみん達との暮らしを思い返す。彼女達が来てからもう一週間が経とうとしていた。

 

 

「ねえ私もカズマさんに会いたいのだけれどこっそりお城に行くのはダメかしら……?」

 

 

私はさりげなくカズマの妻であるめぐみん達に聞く。

 

 

「アクアなら別にいいですよ。きっと私達からカズマを奪うようなこともしないでしょうし。」

 

 

めぐみんは私を信頼しているのかそれともカズマさんの妻になれる訳ないと楽観視しているのか分からない。でも、私もカズマさんの奥さんになりたいという気持ちはあった。

 

 

「そ、そうよ。私がカズマさんを奪ったりなんてする訳ないじゃない」

 

 

私はまた嘘をついた。

 

そのまま私達は商店街を歩く。左右には多くの出店が並んでおり多くの人で賑わっていた。だが、その人混みの中に一つ見覚えのある影があった。

 

 

「おやめぐみんさん達じゃないですか」

 

 

アイリスだ。薄茶色のローブに身を包み貴族の証である金髪を隠している。まさかここで出くわすとは思っていなかった。

 

 

「奇遇ですねアイリス、こんな所で何をしているのですか?」

 

「少しお城を抜け出してきただけですよ。最近はお城にめぐみんさんが帰って来ないから心配してましたよ。」

 

 

口では心配と言いながらもそんな事を思っていないのは私にも分かった。今アイリスとめぐみん達を会わせるのはマズイ。ジリジリと近寄ってくるアイリスの前に私は立ち塞がった。

 

 

「アイリス、早くお城に帰りなさい。」

 

 

このまま放っておくとアイリスはめぐみん達に襲いかかるだろう。そんな事を彼女達にはさせない。

 

 

「めぐみんさん達を守るのですか?」

 

「めぐみんとダクネスは私の友達なのよ。友達を守るのに理由なんていらないでしょ。」

 

「クリスさんから聞きましたよ。アクアさんもお兄様の事が好きなのですよね。自分だけお兄様の奥さんになれてないのに、お兄様と結ばれためぐみんさん達を庇う理由なんてあるのですか?」

 

 

アイリスの言葉に私は何も言い返せなかった。私だけがカズマさんと結ばれてない。そのことは私が一番よく分かっている。

 

 

「アイリスの言うことなんて気にする必要ありませんよ、もう帰りましょう。」

 

 

アイリスとの膠着状態が暫く続いていたが、分が悪いと判断したのかアイリスはふいっと向きを変えて人混みの中に消えていった。緊張が解け私はほっと息を吐く。私達はそのまま屋敷への帰路についた。

 

 

「アイリス様は妊娠してないから私達に嫉妬しているのだろうな。彼女にもアクアの事を見習って欲しいものだ。」

 

 

ダクネスの発言に引っかかる。私は手本になれるほど自分の行動が正しいとは思えてないからだ。

 

 

「アクアにはこれからも私達とカズマの事を支えて貰いたいのです。そうすれば私達はきっと幸せになれますよ。」

 

 

私がめぐみん達を支える?一生支え続けるのだろうか。めぐみん達がカズマさんとイチャイチャするのを。私だけは蚊帳の外で見ているのだろうか。そう考えた時に私の中でプツンと糸が切れた。

 

 

「もう耐えられないわ……!」

 

 

私は一人走ってめぐみん達を置いて先に屋敷に帰る。そしてすぐに屋敷のドアの鍵をかけた。これ以上彼女達を見ていられない。どうか私を一人にさせて欲しい。

 

 

「アクアー!急に走ってどうしたんですかー!」

 

「おい、ドアに鍵がかかっているぞ!私達追い出されたのではないか!?」

 

 

めぐみんとダクネスの声が聞こえる。私は二階の窓を開けめぐみん達に高々と宣言した。

 

 

「今日からこの屋敷は水の女神アクアのものよ!何人(なんぴと)たりともこの屋敷には入れません!分かったら早く帰りなさい!」

 

「「なっ!?」」

 

 

めぐみんとダクネスは面食らった様子で玄関の前に立っている。

 

 

「悪い冗談はやめろアクア。どうして急に私達を屋敷から追い出したのだ。もう外も冷えてきたし早く中に入れてくれ!」

 

 

ダクネスが切羽詰まった様子で喚いている。だが、私は二人を屋敷の中に入れる訳にはいかない。私は窓を固く閉め部屋を出る。もう二人の顔は見たくなかった。これ以上二人を見ていると私の中で何かが壊れてしまう気がしたから。私はリビングのソファにどかっと座りお酒を開ける。こんな日にはやけ酒に限る。私は高級シュワシュワを片手にごくごくと飲んだ。

 

 

「……ぷはー!」

 

 

今日のお酒は一段と美味しかった。疲れた時に飲むお酒が一番美味しいのだ。私は酒のつまみに枝豆を取りだしちびちびと手を進める。

 

 

「はぁ……なんでめぐみん達を追い出しちゃったのかしら……」

 

 

脳裏によぎるのはめぐみん達の妊娠した姿。彼女達は子供が出来るからとここ最近はずっと育児に関する用意に勤しんでいた。私も自分の子供が欲しいのに。二人を見ているとずっと抑えてきた自分の欲望が溢れ出てしまう気がした。

 

 

「そもそもめぐみん達はデリカシーがないんだから!私だってカズマさんのこと、す……好きなのに。これみよがしにお腹を見せつけて……。」

 

 

私はまたポケットから写真を取り出す。カズマさんの唯一の写真だ。この写真を見ると私の心が慰められる気がするのだ。

 

 

「ねえカズマさん、私これからどうすればいいと思う?」

 

 

カズマさんは何も答えない。だが、私は話を続ける。

 

 

「どうして私だけカズマさんと結ばれないの……?」

 

 

カズマさんは何も答えない。

 

 

「あの()達は幸せになれたのになんでずっとみんなを支えてきた私が報われないのよ……」

 

 

それでもカズマさんは何も答えなかった。

 

 

 

 



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諦めない女達 アクアのターン!(後編)




約4000字あります。


 

 

 

 

翌日。窓からさす日光の影が短くなりもうお昼になった頃、ドンドンと扉を叩く音が聞こえる。あまりにも強く扉を叩くのでドアが壊れてしまうのではと思うほどだ。まためぐみん達がやって来たのだろう。私は文句の一つでも言ってやろうと玄関へ向かう。未だドアを叩く音が鳴り響く中私は扉を開けた。

 

『ゴッドブロー!』

 

ドアを開けてすぐに私は聖なる拳を突き出した。

 

 

「ふごっ!!」

 

 

私の拳は相手の顔面にクリーンヒットする。だが、そこに居たのはめぐみんでもダクネスでもない。

 

 

「カズマさん!?」

 

 

玄関の前にいたのはカズマさんだった。私は急いで殴ってしまった彼にヒールをかけてあげる。

 

 

「お前!会って早々殴りかかってくるやつがあるか!」

 

 

カズマさんは腹を立てている。だが、私は彼に会えたことが嬉しくて彼に思い切り抱きついてしまった。

 

 

「おい、どうしたんだアクア?」

 

 

私は何も言わずに彼の体を包み込む。彼特有の匂いがした。めぐみん達から彼を奪うことは出来ないけれどこれくらいならしてもいいだろう。

 

 

「しばらくこのままでいさせて」

 

 

私の言葉に彼は何も言わず抱擁を受けていた。彼なりに思う所があったのだろう。そのまま数分抱きしめた後私はそっと手を離した。

 

 

「おかえりなさいカズマさん」

 

「ああ、ただいま」

 

 

私は彼を屋敷の中へ通しお茶を渡す。少し会っていない間に彼はどこか大人びていた。既に結婚して子供ももうすぐ産まれるからだろう。

 

 

「お茶ありがとな。お湯だけど」

 

 

それから私達は会話に花を咲かせる。一ヶ月ぶりの彼との二人きりの会話に私は笑みを零す。誰にも邪魔されることのない時間だった。

 

 

「そういえばめぐみん達がこの屋敷に帰って来なかったか?子供が産まれるまでアイリス達と別居するって聞いてたんだけど」

 

 

めぐみん達なら昨日私が追い出したばかりだ。今日はカズマさんも私にではなくめぐみん達に会いに来たのかもしれない。そう考えるだけで少し胸が痛かった。

 

 

「さ、さあ知らないわよ?」

 

 

カズマは私が嘘をついてるのに気づいていたかもしれないがそれ以上詮索してくることはなかった。

 

 

「カズマさんはどうして屋敷に帰ってきたの?アイリス達の相手はしなくて良かったのかしら?」

 

 

私の言葉を聞いたカズマの表情が一瞬曇る。あまり言いたくない話だったのだろうか。彼は逡巡した様子を見せたが話し始めた。

 

 

「それがさ……最近アイリスとクリスの仲を取り持つのにも苦労しててさ。毎日喧嘩ばかりしてるんだよ。それに嫌気がさしてここまで逃げてきたんだ。」

 

 

私からすればカズマは贅沢な悩みを持っていた。カズマと違って私はずっと一人ぼっちでこの屋敷で暮らしていた。喧嘩できる人がいるだけマシだと思う。彼の話を聞いていると自分がとても不幸な人間のように思えて仕方なかった。

 

 

「そういえばさ、めぐみんやダクネスの子供が産まれたらアイツらと結婚式を挙げようと思ってるんだ。」

 

 

やめてカズマさん……これ以上あの()達の話をしないで……。

 

 

「アクアが良ければなんだけど結婚式の時の神父役をアクアがしてくれないか?」

 

 

なぜ私があの()達の結婚を祝福しないといけないのだろう。私だってカズマさんの事が好きなのに。

 

「…………」

 

私は何も言わなかった。これ以上自分に嘘をつくのが嫌だったからだ。私の沈黙を肯定と受け取ったのかカズマは話を切り上げる。

 

 

「ありがとなアクア。じゃあ俺はそろそろ帰るよ。俺がいない間にクリス達がまた厄介事起こしているだろうし」

 

 

カズマは帰ろうとして席を立つ。このままカズマが帰ってしまえばもう二度とカズマに会えない気がした。

 

 

「……嫌」

 

 

私はカズマさんの腕を掴む。彼の腕は男の子らしくゴツゴツしていた。その感触が一層私の気持ちを駆り立てた。

 

 

「どうしたんだよアクア」

 

「カズマさんが帰るのなんて嫌……。お願いだからここに居て……」

 

 

遂に言ってしまった。私はめぐみん達からカズマさんを奪おうとしている。でも、自分の気持ちが抑えられなかった。今ここで行動しなければ私はずっと一人で生きていかないといけない気がしたから。

 

 

「でも、アイリス達が待ってるしさ。それなら月に一度くらい屋敷に帰ってくるよ。これで寂しくないだろ?」

 

「嫌よ。もうカズマさんと離れたくないの。……だから一緒に天界へ行きましょう?」

 

 

私は女神としての権能を使い光の柱を出現させる。私はカズマさんの腕を掴んだまま一緒に光の中へ入った。

 

 

 

 

 

 

ここは天界。普段は死者の案内や女神としての事務処理を行う場所だ。そんな場所に私はカズマさんを連れてきてしまった。

 

 

「おい、本気で俺を返さないつもりか?」

 

「お願いカズマさん。今日一日だけでいいの。私の我儘を聞いてちょうだい。」

 

 

久しぶりに私のワガママを彼に伝えた。彼は暫く私の事を見つめていた。鼓動が早くなるのを感じる。

 

 

「……分かったよ。今までアクアにはお世話になったからな。少しくらいなら付き合ってやるよ。」

 

 

彼が私の言うことを聞いてくれてほっと一息つく。

私はふとポケットにある写真の事を思い出した。写真を取り出して見てみるとカズマさんが笑っている。私は今までこの写真に慰められてきた。

だが、私は写真を一思いにビリビリに破いた。

 

 

「おい、急に写真を破ってどうしたんだよ」

 

 

カズマさんが私の行動に驚いている。でも、私は笑みを浮かべたまま答えた。

 

 

「もうこの写真は必要ないのよ」

 

 

私は破り捨てた写真をゴミ箱に入れカズマさんに向き合う。

 

 

「カズマさん……私にキスしてくれないかしら……?」

 

 

私は上目遣いで言う。私の猫なで声にカズマは翻弄されたようで私の顎にそっと手を当てキスをした。

 

「……んっ……」

 

彼の顔がこんなにも近くにある。私はドキドキしながら彼とのキスを楽しんだ。

 

 

「ねえ……キスだけで終わり……?」

 

 

私の口から皆まで言うのは良くない。カズマにリードして欲しかった。女ならカッコイイ男の人に滅茶苦茶にされたいと思うのは当然だろう。

 

 

「アクア、これ以上は本当にマズイって……。本当に理性が持たないから。」

 

 

カズマは中々私を襲おうとしなかった。折角の二人きりの空間なのに。この男はどこまでヘタレなのかしら。

 

 

「私、カズマさんのことが好き。」

 

「……お、おう。でもめぐみん達が怒るから……」

 

 

私は何か言おうとしていたカズマの口を塞いだ。先程とは違いディープキスだ。舌をカズマさんの口の中に入れ唾液を交換し合う。彼の口内は温かくて頭がボーッとしてきた。

 

 

「カズマさん、服脱いで……。」

 

 

私の言葉にカズマさんは自分の服に手をかける。彼の裸体が私の前に晒されようとしたその時だった。

私達のいる部屋に突如光の柱が現れる。光の方に目をやると、中から現れたのはエリスだった。

 

 

「そこまでですアクア先輩」

 

 

私達の情事を邪魔しに来たのだろうか。服を脱ごうとしていた私達は警戒しながらエリスの方を向く。

 

 

「何しに来たのよエリス。」

 

「天界からカズマさんの様子を見ていたら急にカズマさんがアクア先輩と天界に行く様子が見えたものですから。先輩には忠告したのでもう大丈夫だと思ってましたが、油断してましたね。まさかカズマさんを奪われるなんて思ってもいませんでした。」

 

 

エリスはカズマさんに近づいてくる。私は彼をも守ろうとエリスに威圧するように立ち塞がった。暫く私とエリスは見つめ合う。

 

 

「エリス、昔からあなたとは本気で語りたいと思っていたのよ。いつも腹黒いあなたは自分の本心を中々言わないものね。」

 

「私も先輩とは本気で殴り合いたいと思っていました。いつも私に仕事ばかり押し付けてきて……仕事もテキトーですし。ここで私達の関係をハッキリさせましょう。」

 

「いざ勝負よ!」

 

 

それから私達は殴り合いの大喧嘩をした。エリスが私の首を絞め上げて窒息させようとしたら私がエリスの腕に噛みつき反撃したり、私がエリスにサソリ固めをしたと思えば抜け出されて顔面に足蹴りを食らったり……。数十分後には私達はフラフラになりながら交互に相手をビンタするようになっていた。

 

 

「はあ……はあ……中々先輩もしぶといですね……」

 

「はぁ……これで終わりよエリス!」

 

 

私はさっきまでビンタしていたにも関わらず拳を握りしめて渾身のパンチをエリスの頬にぶつけた。先日、カズマさんに使ったゴッドブローだ。ビンタが来ると思っていたエリスは私の攻撃を受けてその場に倒れる。それを最後に立ち上がることはなかった。

 

 

「はぁ……私の勝ちよ……!これでカズマさんは私の物ね……!……あれ?」

 

 

遂にカズマさんを手に入れたと思ったが、振り返ると誰もいなかった。カズマさんはどこに行ったのだろう。

 

 

「先輩が私との喧嘩に夢中で気づいていませんでしたがカズマさんならテレポートで地上に帰りましたよ。ふふっ、カズマさんは私の物ですね。」

 

 

そんな……。カズマさんが私の事を選ばないなんて……。いや、薄々私も分かっていたはずだ。私はずっとカズマさんに女として見られていないことを。

その時だった。突然、カズマさんがテレポートで天界に戻ってきた。

 

 

「ただいま……うわっ、お前ら酷い怪我だな……大丈夫か?」

 

 

私もエリスも言われて初めて自分の現状に気づいた。こんな姿をカズマに見せるのは良くない。私達は自分に回復魔法を唱える。時間を逆再生してるかのように肌は戻っていき元の綺麗な肌になった。

 

 

「戻ってきたんですねカズマさん、きっと地上は日も暮れてるでしょうし私達は帰りましょうか」

 

 

エリスが両腕をカズマさんに向けて開く。このままカズマさんは彼女と帰ってしまう。

そう思ったが、カズマさんは腕を開くエリスの横を素通りして私の前に立った。

 

 

「迎えに来たぞアクア」

 

 

カズマさんはエリスじゃなくて私を選んだようだ。

 

 

「カズマさんカズマさん……!」

 

 

私は彼の名前を連呼しながら抱きつく。カズマさん特有の匂いがした。この匂いは私を落ち着かせてくれる。

 

 

「なんで……どうして……!どうしてアクア先輩を選ぶのですか!第一夫人は私ですよ!」

 

 

エリスは悔しそうな表情だ。私は遂にカズマさんを手に入れた喜びで彼女の話などまるで耳に入ってこなかった。

 

 

「なんだかんだでアクアは一番長い付き合いだからな。見捨てられないんだよ。そういえばエリス様、聞いた話によると死んだ後に俺の魂をエリス様が手に入れようとしていたらしいじゃないですか」

 

「そ、そうです!カズマさん、死んでからは私と一緒に過ごしましょう!」

 

「俺の死後はアクアと一緒に暮らします。死んでからもずっと一緒だぞアクア」

 

 

私は彼の言葉に耳を疑う。これは夢じゃないかしら。本当にカズマさんが私のことを選んでくれているのかしら。

 

 

「カズマさん、ずっと一緒にいましょうね!」

 

 

私は笑みを浮かべながらカズマの胸に抱かれる。私も遂に幸せを掴むことが出来たのだ。

 

 

 

 






クライマックスがちゃんと盛り上がってるのかよく分かりません……。おかしい場所や改善した方がいい場所があれば遠慮なく誤字報告や感想で教えてください。自分では中々気づかないものですから……。
因みに次回が最終回になると思います。


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この素晴らしい仲間と結婚式を!



約4000字あります


 

 

 

 

 

(カズマ視点)

 

 

 

 

今日俺は結婚式を挙げる。だが、ただの結婚式じゃない。アクア、めぐみん、ダクネスとの結婚式を同時に挙げるのだ。そう、巷で話題のハーレムクソ野郎とは俺のことである。五人の妻を持つ俺は王都やアクセルでは名の知れた者になっていた。今の俺はかつてヒキニートだった頃の見る影もない。

結婚式場には冒険者を始めとしてダクネスと懇意にしている貴族、庶民で一夫多妻という珍しい結婚をした俺を報道しに来た記者などが参列している。式場にはパイプオルガンの大きな音が響いており厳かな空気を醸し出していた。

 

 

「はぁ、本当に結婚するんだな……」

 

 

祭壇の近くで新婦を待つこと数分、遂にその時は訪れた。

純白のドレスに透明なヴェールで顔を隠している。乙女の最も美しい姿であるウェディングドレスに身を包んだアクア、めぐみん、ダクネスだ。三人は並んでバージンロードを歩いてくる。彼女達の人並外れた美貌にその場にいた全員が見惚れているようだ。見てくれだけは良いんだよな……。

やがて三人は祭壇の前に着く。彼女達はそっと俯いていた顔を上げ俺の目を見据える。美しい、綺麗だ。上手く言葉で言い表せない自分が悔しい。

 

 

「ぷっ、カズマさん全然タキシード似合ってないじゃない!」

 

「アクア、それは言ってはいけない約束ですよ!……ぷふっ!」

 

「くくっ、やめるんだお前達。結婚式の最中だぞ……くふっ!」

 

 

こんのアマー!先程までの荘厳な空気はどこへやらアクア達の声が聞こえていたのか参列者の中に笑いの混じった声がする。緊張していた俺もこいつらのやり取りを見てその思いは吹き飛んだ。

 

 

「大体お前らがドレスに似合いすぎなんだよ!お前らの横に並ぶ俺の気持ちにもなってくれよ!」

 

「か、カズマ……。あまりみんなの前で褒められるのは私の好みじゃないのだが……。」

 

 

俺の言葉にダクネスが照れた様子で俯く。そんな反応をされたら俺まで恥ずかしくなってくるだろ!俺とダクネスは互いにチラチラ様子を伺い初な反応をしていた。

 

 

「まあ私に見惚れるのは仕方ないわね!だって私は女神ですもの!」

 

「……やっぱり今になってもアクアは女として見れないんだよな。」

 

「冗談よねカズマさん?……え、本当に女として見れないの?……めぐみんより胸だってあるしスタイルもいいはずなのに!」

 

「おい、なぜ私を引き合いに出したのか言ってもらおうか。返答次第では、この会場が灰燼と化すでしょう。」

 

「あのう……そろそろ式を始めても宜しいでしょうか」

 

 

神父が申し訳なさそうに口を挟んでくる。このままではいつまで経っても式が終わりそうにないので丁度良かった。全く……俺達はいつもこんな調子なのだろうか。ため息をつきながらも俺はどこか居心地の良さを感じていた。これからもこんな日々が続くと思うと不思議と安心できる。

神父がオホンと大きな咳払いをして、場の空気を一変させる。

 

 

「汝サトウカズマは、この女達アクア、めぐみん、ダクネスを妻とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、愛を誓い、妻を想うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「はい、誓います。」

 

「汝らアクア、めぐみん、ダクネスは、この男サトウカズマを夫とし、良き時も悪き時も、富める時も貧しき時も、病める時も健やかなる時も、共に歩み、愛を誓い、夫を想うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに、誓いますか?」

 

「「「誓います」」」

 

「それでは、誓いのキスを」

 

 

俺はアクア達に誓いのキスをしようとして……。困った、誰からキスをすればいいのか。結婚式の用意は前々からしていたのに肝心なことが決まっていなかった。

 

 

「カズマさん、ここは最初に私からキスしましょう。女神である私が一番のはずよ!」

 

「待ってください。一番最初にカズマに告白したのは私です。私が最初にするべきです!」

 

「それを言ったらカズマと最初に結婚したのは私だぞ。私がカズマとキスするべきだろう。」

 

 

コイツらが俺を取り合っているのを見るとなんだかニヤニヤしてしまう。もっと俺の事を取り合ってくれなどと思っていると、

 

 

「カズマさん、新しい変顔の練習でもしてるのかしら?」

 

「何だとおいこら」

 

 

こいつらの前では甘酸っぱい雰囲気などにはならないようだ。

 

 

「うーん、じゃあアクアから行くぞ!」

 

 

話が平行線を辿っているので適当にアクアを選ぶ。既に参列席にいる人達も待ちくたびれている様子なので早く終わらせよう。

 

 

「わ、私!?ちょ、ちょっと待ちなさいよ。まだ心の準備が出来ていないから……」

 

 

さっきまであんなに自信満々だったのにいざやろうとするとアクアはヘタレてしまったようだ。頬も朱を散らしたように赤くなっている。俺はアクアのヴェールを脱がしてあげる。

先程までは隠れていたアクアの顔を見ると俺の思考は吹き飛んだ。とても美しいのだ。白い肌に艶やかな唇。深い青色の瞳は俺のことをまっすぐ見つめている。こんな女神が自分のことを好きでいてくれる事に感謝しながらもアクアの頬に手を添える。

 

 

「ーーーー」

 

 

アクアと唇を重ねようとしたその時だった。バタン、と会場の扉を開ける音がする。俺もアクア達もその場にいた冒険者、貴族、記者に至るまで、全ての人が後ろを振り向く。皆の視線を集める中、扉から現れたのはアイリスだった。

 

 

「結婚式は中止です!お兄様がめぐみんさん達とイチャイチャするのは私が許しません!」

 

 

突如式に乱入してきた少女はアイリスだった。彼女を止めるべきである職員も相手が王女様であるからか誰も手を出さない。扉から現れた彼女はまるでヒーローのようで不覚にも少しカッコイイと思ってしまった。参列席にいる冒険者はアイリスの登場に(はや)し立て、記者はこの光景を記事にしようと王女様を写真に収め、残りの貴族は慌てふためくばかり。式場は大きな混乱に包まれている。

 

 

「アイリス様なら来ると思っていたぞ」

 

 

ダクネスがどこか感慨深げに言葉を漏らす。彼女が来ることは俺も予想していた。俺から何か言った所で彼女は言うことを聞くような人じゃないのだ。

 

 

「カズマ殿、こちらです!」

 

 

俺達のことを呼んだのはレインだ。実はこうなることは既にレインとも打ち合わせている。レインの方へ走るとそのまま結婚式場の裏口へと出る。

 

 

「ああ……アイリス様があんな風になられて。後処理は全部私がしないといけないのでしょうか……はぁ……。」

 

 

深刻そうな顔のレイン。彼女もアイリスのワガママに付き合わされて大変そうだな。結婚式場を抜けると馬車とめぐみん達の装備一式、それと幾許かのお金が置いてあった。俺達は今からこの馬車に乗りアクア達と新婚旅行へと行くのだ。勿論この事はクリスにもアイリスにも伝えていない。

 

 

「皆さん、どうかお幸せに」

 

 

レインの言葉に俺達は大きく頷く。と、その時ドゴオン、と大きな音が馬車を揺らした。骨身に染みる爆音。この音には聞き覚えがある。かつてアイリスがドラゴンに斬撃を放った時と同じ音だ。

 

 

「アイリスが暴れたんだな」

 

「もう……アイリス様……!」

 

 

レインがアイリスの暴れる音を聞いて大きなため息をつく。彼女はいつも苦労しているようだからその努力が報われて欲しいものだ。

俺達は馬車に乗り込み、一息つく。馬車はレインが派遣した御者が馬を操ってくれるようだ。

 

 

「さてお前ら、これから新婚旅行に行くぞ」

 

「ねえカズマさん!最初はアルカンレティアに行きましょう!きっと私の信者達が盛大に祝ってくれると思うの!」

 

「却下ですよ。どうせアクシズ教徒に絡まれて疲れるだけです。紅魔の里に行きましょう。ゆんゆん達に自慢しなくてはいけませんからね。」

 

「私はアクセルの街でのんびり暮らすのも悪くないと思うのだが……。こうして四人で居られるのも久しぶりだろう。たまには屋敷に戻ってみないか?」

 

 

なんとまあ、こいつらはバラバラの意見を出してきた。今回もコイツらには振り回されるようだ。だが、今ではそれをどこか嬉しく感じている自分がいる。

 

 

「なぁお前ら」

 

 

俺の言葉にみんなが耳を傾ける。

 

 

「これからもずっと一緒に居ような。」

 

 

彼女達は笑いながら俺の言葉に頷く。死んでもコイツらを離したくない。そんな想いを胸に抱きながら俺達は新婚旅行へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、私のこと忘れてない?」

 

 

声がしたのは馬車の荷台の方。慌ててそちらを振り返るとクリスが座っていた。

 

 

「クリス!いつからそこに居たんだ?」

 

「結婚式が始まる前からずっと居たよ。ねえカズマくん、まさか新婚旅行に私を置いていくつもりだったとかじゃないよね……?」

 

 

クリスの腰元を見ればダガーがある。その短剣にクリスは手をかけ今にも戦闘態勢に入りそうだ。俺は彼女を刺激しないように下手に回る。

 

 

「そ、そんな訳ないだろ!クリスも誘う予定だったぞ。だからダガーを置いてくれませんか……?」

 

「ふーん、ならいいけど」

 

 

クリスが怒るのは免れたようでほっと一息つく。少し予定が狂ったがクリスを加えての新婚旅行だ。

と、その時。ドゴオン!、と爆音と共に裏口の扉が吹っ飛ばされていく。扉から出てきたのは案の定アイリスだった。扉の周囲のクレアやレインがアイリスを止めようとしている。だが、彼女はワガママな王女様になってしまったのだ。二人の静止を振り切りアイリスは俺達の乗っている馬車へ走ってくる。

 

 

「お兄様!私も新婚旅行に連れて行ってください!」

 

 

馬車はもう既に走っているが、アイリスは素早いスピードで追いつき馬車の荷台に飛び乗った。

 

 

「私を置いていくなんて酷いですよお兄様!」

 

「アイリス様、あまり周りの人を困らせてはいけませんよ。王女様が城を出るとなればレイン殿達にも迷惑がかかります。」

 

「そんな事言ってララティーナはお兄様を独り占めしたいだけでしょう!そうはさせませんからね!」

 

「なっ!?ち、違います!私はアイリス様の為を思って……」

 

「まあ良いではありませんかダクネス、こうしてみんなで一緒に居る方が私達らしいですよ」

 

「そうよ、今日は朝までみんなでどんちゃん騒ぎよ!」

 

 

どうやら俺はずっとこいつらに振り回され続けるようだ。だが、それも俺達らしいだろう。

 

 

「はぁ、しょうがねえな。」

 

 

俺は騒がしくしているアクア達の元へ加わり新婚旅行へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

この素晴らしい仲間と恋愛を!〈完〉

 

 

 

 

 

 






遂に最終話ですね。あとがきや次に何を描くかなどは活動報告か最終話の後に描こうと思います。

さて、完結出来たのは偏に読者様のおかげです。よく感想をくれたりお気に入り登録が増えたりするのを見ているとモチベーションが上がりました。今作ではここまでとなりますが、if話や閑話が思いついたら描き始めるかもしれません。

ですが、折角完結させたので暫く小説を描く作業からは離れようと思います。だって小説を描くのってめちゃくちゃ大変なんですよ!プロットを作ろうにも中々進まないし、本文を描くのも展開が急にならないように神経を使うし、推敲するのも面倒だし……。
正直、他の方の作品がエタるのもしょうがないなと思いました。本当に小説を描くのって大変なんです。読者の方にはそれをちょっとでも知ってもらえると有難いなと思ったり。

とまあ、長くなりましたが今作品はここで終わりです。この作品のいい点や悪い点なんかも教えてくれると有難いです。特に悪い所は自分で気づきにくいので是非!それでは、次の作品でまたお会いしましょう。

この素晴らしい仲間と恋愛を! by てね


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番外編 この爆裂少女に仲間の慈悲を!




とりあえず最初は番外編ということで。このすばではキャラクターの生理とか描かれてないので、どうなってるんだろうと考えてるうちにこの話が出来上がってしまいました。何となくですけどめぐみんって生理重そうですよね






 

 

 

 

 

「うっ…今日は一段とキツイですね…」

 

 

下腹部の辺りがキュルキュルと痛む。どうやら今日は運が悪い日らしい。要するに生理が重い日だ。このことはカズマには悟られないようにしなければ。女であるダクネスやアクアならともかく好きなカズマに知られるのは嫌だ。起き上がるのも辛いができるだけ何も考えないようにして居間に行く。そこには金髪のダクネスが居た

 

 

「おはよう、めぐみん」

 

「おはようございます」

 

「めぐみんも紅茶いるか?」

 

「ええ、いただきます」

 

 

時刻は8時半くらいだろうか。カズマやアクアが起きてくるのは11時頃だからそれまでゆっくりしていよう。暖炉の前のソファに座るとパチパチと火花が飛び散るのが聞こえる。まだお腹の中からジンジンと痛みが押し寄せる。うー辛い。できるだけ生理のことは考えないようにしよう

 

 

「紅茶できたぞ」

 

 

ダクネスがソーサーと共に紅茶の入ったカップを渡してくる

 

 

「ありがとうございます」

 

 

受け取ったカップからは香ばしい匂いがする。啜ってみると温かさが胸の中に拡がっていくのが分かった。

 

 

「今日も美味しいですね」

 

「ん、紅茶は家でもよく作っていたからな。腕には自信があるんだ」

 

「ダクネス、今日の料理当番代わって貰えませんか?」

 

「別に構わないが、どうかしたのか?」

 

「ちょっと今日は女の子の日でして…」

 

「うむ…大変だな。ゆっくり休め。料理は私が適当に作っておく。」

 

 

こんな時のダクネスは本当に頼りになる。仲間の気遣いに感謝していると居間の扉が開く。

 

 

「ふぁー、眠いわー」

 

 

寝癖もそのままにカズマがやってくる。

 

 

「おはようございますカズマ、今日は早いですね」

 

「まあな。おっ、ダクネスがご飯を作ってるのか?今日はめぐみんの番じゃなかったっけ?」

 

 

まずい…生理のことは悟られないようにしなければ…『実は体調が悪いんです』と言うべきだろうか。いや、それだと『体調が悪い?まさか女の子の日というやつか?』と生理だと気づかれてしまう可能性がある。ここは無難に…

 

 

「ダクネスが朝食を作りたいと言うので代わってあげたんですよ。本当は私が作りたかったんですけどね。」

 

「そ、そうだ。私が無理を言って代わって貰ったんだ。」

 

 

横からダクネスが咄嗟に話を合わせる。やはりダクネスは頼りになる。

 

 

「ほーん、そんなにご飯が作りたいなら俺がいつでも料理当番を代わってやるよ。今日の夜ご飯も俺が当番を代わろうか?」

 

「あ、ああ、ちょうどご飯を作りたいと思っていたんだ。助かるぞ」

 

 

涙目でダクネスがこちらを睨んでくる。ごめんなさいダクネス、あなたの犠牲は無駄にしません。

 

 

 

 

 

 

 

 

~~~~~朝食後〜〜〜〜〜〜

 

「エクスプロージョン!!」

 

 

ズンという地響きが骨身に染みて伝わってくる。

 

「あぅ…今日の爆裂は何点ですか?」

 

「うーん…爆風の肌を撫でるような温かさ。それでいて心に響く力強さ。いい出来だ!だが、何かに気を取られてるような感じがしたな。総じて85点と言ったところか。何か悩みでもあるのか?」

 

うっ…鋭いですねカズマ…。実は生理が重くて本気が出せないんですよ。

 

「な、なんでもないですよ。ちょっと今日の昼ごはんの事を考えていただけです。」

 

「お前いつも食い意地張ってるもんな。」

 

「ち、ちがわい!」

 

「え、違うのか?」

 

「う…いえ…違わないです。」

 

うー…食い意地なんか張ってないのに……

 

「そんなことより早くおぶってください。」

 

「へいへい」

 

なんだかんだ言いながらも素直におぶってくれるカズマには感謝してる。

 

カズマにおぶわれてから10分ほど経っただろうか

キュルルルル…下腹部がすごく痛い…あーダメだ、痛さのあまり涙が溢れてしまう

 

「め、めぐみん!?どうした!?」

 

「ぐす……とり…あえず…降ろして貰えますか」

 

「あ、ああ、無理するなよ?」

 

そう言ってカズマは近くの木を背もたれにして私を座らせてくる。最悪な気分だ…もう正直に言ってしまおうか…

 

「実は…生理痛がひどくて…」

 

あまりの痛さについ本音を漏らしてしまう

 

「あーそうだったのか、まあ女の子だからそういう事もあるよな。男の俺にはよく分からないけど何か出来ることがあったら言ってくれよ」

 

「うー…ありがどゔ…ございまず…カズマ」

 

「泣くほど辛かったんだな、よしよしよく頑張ったよ」

 

そういってカズマが頭を撫でてくれる。緊張してるのかカズマの声が若干上擦っているけど……でもそんなに優しくされると心が温まってくる

 

「かじゅまぁ……好きですよ……」

 

「ぶはっ!!急にそんなこと言うなよな!」

 

 

 

 

 

結局今日はカズマに甲斐甲斐しく世話をされて過ごしました。カズマに世話をされるのなら生理の日も悪くないかも……




オチを考えるのが難しい……


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