空白の最高傑作は軽音楽を知る (綾小路パッパ)
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ホワイトルーム!
ホワイトルー厶。それは選ばれた子供から人工的な天才を作ることを目標としてる謎の施設である。生まれた時から外の世界に隔離されており、ホワイトルームのカリキュラムでは主に勉学面、運動面。それと芸術面。あらゆる分野において一定の基準を満たされるまで娯楽も一切存在しない小さな白い世界で毎日のように厳しい訓練や試験を耐えなければならない。それに耐えられなかった脱落者は用済みとして始末されることになる。
そんなホワイトルー厶だが、その中で最高傑作と呼ばれる存在が誕生した。その名を
彼のいる世帯は管理者が直接指導をしたため、ホワイトルー厶のカリキュラムの中でも歴代最高の難易度であった。あまりの難しさに勉学では知識の詰め込み過ぎて熱を出して再起不能となった物や運動ではあまりのスパルタさに呼吸困難となって再起不能となった物がいた。あまりにも厳しい教育方針にいつの日か息子である綾小路清隆以外の同級生は全員脱落することとなった。
それから指導者が指導したカリキュラムはホワイトルー厶関係者から綾小路清隆だけが生き残ったことから『魔の4期生』と呼ばれ今でも日々恐れられている。
そして、ある日。ホワイトルー厶内に裏切り者が出た。ホワイトルームは問題のあるカリキュラムだ。当然その教育方針に不満を持つ者は少なくない。内部者からの裏切りによってホワイトルームの管理者は裏切り者を始末する日々に追われていた。
ホワイトルームが稼働休止となった。それに伴い、ホワイトルーム生育成は一時中断となった。当然、ホワイトルー厶は内部が混乱していた。そして、不幸が重なるように突如として最高傑作であった綾小路清隆が脱走した。その事態にホワイトルー厶の管理者は激怒した。綾小路清隆を連れ戻すために彼は自身の手駒を総動員で探させた。しかし、既に遠くに逃げたのか誰も彼を見つけることはできなかった。綾小路清隆が脱走した翌日には新聞、テレビなどのメディアで『非人道的な教育方針、その名をホワイトルーム』と報道されることになった。
「どうだ。刑務所の居心地は?」
「……」
とある面会室。そこでオレに対しての問いかけに無言を貫いているのはオレの父親だ。あの後、オレに逃げられたコイツはホワイトルー厶で行われてる非人道的な教育方針が明るみに出てしまい、コイツの権力さえ持っていっていても揉み消すことはできずに逮捕令状が出ることになった。
「清隆。お前はいずれ後悔することになるだろう。ホワイトルー厶を破滅に追い込んだことを。そしてお前をここまで育ててきた父親である私を牢屋へと放り込んだことをな」
殺気を込めたような鋭い視線でこちらを威嚇してくる。どうやらオレに対して怒りを覚えているようだ。しかし、その原因となったのはコイツ自身の問題だ。あの法律を破る気満々の人権のない拷問部屋。あれで捕まらない方がおかしいだろう。
「清隆。お前は誰かに命令されないと動くことのできない機械のような人間だ。命令者がいないと動くことのできないお前には外の世界に出たところで末路はとっくに見えている。欲望のないお前には何かも果たすこともなく野垂れ死ぬだけだ」
オレは自らの手で父親の野望を破壊した。そしてオレは自由な鳥となった。そのはずなのに、家族であるはずの父親を裏切った後悔も、求めていた自由になった達成感も。オレには何も湧いてこない。まるで頭が空っぽになったように感じる。
「どうだろうな」
「そうに決まっている。なぜならお前は私が直々に育てた所有物だからな」
「……そこは、嘘でも父親だから。だと言ってほしかったぞ」
「戯けごとを。お前も私のことを父親だと思っていないのだろう?」
「勿論だ」
お互いがお互いを家族として認識していない。普通の人から見ると不気味だと感じるかも知れないが、それがホワイトルー厶のときから俺が感じている普通のことだった。
「オレはホワイトルームを壊してまで手に入れた外の世界を見てみたい。アンタが捨てた俗世間ってやつを学んでみたい。そしてアンタが作ったホワイトルー厶はこの世界には必要なかったことを
「馬鹿馬鹿しいな。お前はいつから私の許可なしにそんな愚行を行うようになった。清隆。粗方松尾に何か吹き込まれたか」
「アンタの命令はホワイトルームのときだけの話だ。ここはホワイトルームじゃない。今のオレはオレ自身の意思で動いているだけだ」
「どうだがな。お前は私が自ら作り上げた最高傑作だ。お前は外の世界を見て失望することになるだろう。そして、いやでも私の理念が正しかったことを理解するだろう。お前は失ってはいけない逸材だ。数年後に俺と同じ考えを抱くことを期待するぞ。清隆」
「それで清隆坊ちゃん。綾小路先生はどのような様子でしたか」
「あぁ。昔と変わらず野心家の目をしていたな」
「なるほど。あの人は相変わらずですね。逆に少し安心しました」
面会室を出たオレに話しかけてきたのは松尾。オレがホワイトルー厶にいたときに身の回りの世話をしてくれた執事だ。松尾はオレがホワイトルー厶を破滅に追い込むために色々サポートをしてくれたことは記憶に新しい。松尾は元雇い主だったことで安否の心配をしていたようだ。オレに対してといい、随分優しい奴だと思う。
「それより本当にいいのですか清隆坊ちゃん。私の推薦する高度育成高等学校に入学しなくても。あの高校の理事長は私の知り合いですので、清隆坊ちゃんが安心して学校生活を送れるようにサポートしてくれますよ」
管理者が捕まり、ホワイトルー厶が稼働停止となった今。やることもなくなり、年齢的にも15歳とまだまだ未熟な未成年だったので高校に入学することにした。松尾の推薦してくれた高度育成高等学校は進学・就職率ともにほぼ100%であり路頭に迷っているオレには魅力的に感じた。しかし、高度育成高等学校は三年間隔離された場所で過ごさなければならない。あくまでオレは平穏な学校生活を送りたいだけだ。折角自由の身となったのにまた外の世界から隔離される必要はない。そこでオレは松尾から貰った携帯でたまたま見つけた桜が丘高等高校に入学することに決めた。
松尾曰く、外の世界で生き抜くには学校に通い、人間関係を築き上げる特訓をする必要があるらしい。外の世界は人間関係が特に大切であるらしく、今までホワイトルー厶で個人でカリキュラムをこなすだけのオレにはその必要性を理解することができなかった。
「松尾。入学手続きはお前に任せたぞ」
「左様でございます。清隆坊ちゃん。生活必需品は清隆坊ちゃんの家に一通り纏めておいたので後でご確認を」
「あぁ。分かった。それでお前はこれからどうするんだ? お前には雇い主がいなくなった。収入源はこれからどうするんだ?」
「ご心配に及びません。あの施設が無くなったことで事実私は解雇となりましたが、新しい働き手を見つけるだけなのですので問題はありません」
「そうか」
松尾はオレから見ても優秀な執事だ。きっと直ぐに働き手が見つかることだろう。
「それじゃあ、暫しのお別れだな。松尾」
「はい。とは言っても携帯で私に電話してくれれば直ぐに駆けつけますのでご安心ください」
「助かる」
初めての学校生活。あの施設ではない普通の子供が受ける教育方針。オレは今日までそんな平穏な生活に憧れていた。オレがこれから体験していくのは一体なんなのか。しかとこの目で見させてもらおう。
・桜が丘高等学校は近年共学になった設定です。
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