オリウマ娘はダイスと選択肢に導かれるようです (F.C.F.)
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キャラメイク

 

トレセン学園。

正式名称を『日本ウマ娘トレーニングセンター学園』というそこは、多くのウマ娘たちが集う全寮制の教育機関である。

日本におけるウマ娘のトレーニング機関としては最大の組織だ。

最新鋭の設備、選りすぐりのトレーナー陣による指導体制、そして何より全国から集まった精鋭揃いのウマ娘たちが切磋琢磨する環境は、レースに臨むアスリートにとって一つの理想とさえ言えるだろう。

夢の舞台、トゥインクルシリーズを駆けんとする少女達がまず第一に目指す登竜門だ。

 

そんな学園の門を、今とある一人の新入生がくぐろうとしていた。

 

 


 

 

【キャラメイクを開始します】

 

≪System≫

新規ウマ娘の生成を開始します。

まずは容姿をランダムに決定します。

項目は身長、体重、スリーサイズ、毛色、髪型、耳飾りの6つです。

 

 

【身長】

 

≪System≫

身長の下限は原作における最低値、ニシノフラワーの130cmを5cm下回る125cmとします。

身長の上限は原作における最高値、ヒシアケボノの180cmを5cm上回る185cmとします。

 

結果:164cm

 

 

【体重】

 

≪System≫

体重は具体的な数値を算出しません。

原作にならい、増減なしを中心に、大幅減から大幅増までのいずれかを設定します。

 

結果:増減なし

 

 

【スリーサイズ】

 

≪System≫

スリーサイズはバスト、ヒップは65〜100、ウエストは45〜65の範囲を取ります。

 

結果:B77 W53 H78

 

 

【毛色】

 

≪System≫

鹿毛/黒鹿毛/青鹿毛/青毛/芦毛/栗毛/栃栗毛/その他希少な毛色、の8種からランダムに決定します。

希少な毛色になった場合、尾花栗毛/白毛/河原毛/月毛/粕毛/佐目毛/薄墨毛/斑毛、の8種からランダムに決定します。

白毛以外の希少な毛色はサラブレッドの毛色として登録できないか、遺伝的に発現しない毛色だったりしますが、この世界ではアリという事にします。

 

結果:芦毛(全体的に灰色、若い頃は黒や茶の場合もある/オグリキャップ等)

 

 

【髪型】

 

≪System≫

髪型はネット上で公開されているお絵描き用のお題ジェネレーターを用いてランダムに決定します。

 

結果:ショートポニー

 

 

【耳飾り】

 

≪System≫

耳飾りの位置はランダムに決定します。

右耳の場合は牡馬、左耳の場合は牝馬として扱われます。

 

結果:右耳(牡馬)

 

 


 

 

それは芦毛のウマ娘だった。

短めのポニーテールにまとめられた灰色の髪を揺らしながら、視線をあちこちに向けて校内を歩いていく。

この時期のトレセン学園では多く見られる新入生らしい姿である。

身長も体型も平均から大きく外れるものではなく、他の初々しいウマ娘達の中に埋もれて特に目立つこともない。

 

そんな芦毛の彼女は校内の案内に従い、まずは寮に向かった。

道半ばで夢破れる事が無い限りこれから何年もを過ごす室内に踏み入り、窓からの景色を確かめながら荷物を下ろす。

彼女の物以外に荷物はなく、ベッドや机にも誰かが使っている形跡はない。

どうやら同室の相手は同じ新入生で、まだ来ていないようだと芦毛は理解した。

そして、運動用のジャージに着替えると同室の到着を待たずにさっさと部屋を後にする。

 

向かったのはトレーニングコースである。

そこはトレセン学園に所属する全てのウマ娘に開放されている練習場で、ルールとマナーを守れば自由な使用が許されている。

もちろん新入生といえど芦毛の彼女も例外ではない。

 

実際にトレセン学園に踏み入った事で気持ちが高揚したためか、あるいは単に普段通りの日課なのか、ともかく芦毛は一走りする気のようだ。

彼女は他に自主トレに励んでいるウマ娘達に混ざり、最も得意なコースを走り始めた。

 

 


 

 

【ステータス】

 

≪System≫

ウマ娘の初期ステータスを決定します。

スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ、ウマソウルの6つです。

ウマソウルは1~100のランダムな値を設定します。

それ以外のステータスは、下限41~上限100のランダムな値を設定します。

 

スピ:56

スタ:74

パワ:53

根性:100

賢さ:90

 

ウマソウル:93

 

 

【適性】

 

≪System≫

ウマ娘の適性を決定します。

バ場、距離、脚質をそれぞれA〜Gの7段階でランダムに決定します。

 

【バ場】

 

芝=E

ダート=F

 

【距離】

 

短距離=B

マイル=B

中距離=B

長距離=B

 

【脚質】

 

逃げ=A

先行=B

差し=A

追込=C

 

 

【スキル】

 

≪System≫

ウマ娘の初期習得スキルを設定します。

習得可能数は2つ、シナリオ限定以外の白スキルからランダムに選ばれます。

ただし、発動条件に関わる適性がC未満の場合は再抽選が行われます。

スキルの発動条件や効果はアプリ版から一部変更されています。

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 


 

 

芝、短距離。

芦毛は自身の走るコースをそう決めた。

 

特に理由はない。

芦毛は世にも珍しく、あらゆる距離あらゆる脚質に適性を持つウマ娘だ。

本格化が始まっていない新入生は避けるべきとされている長距離練習以外ならなんでも良く、たまたま直前に短距離を走っている者が居たために倣ったに過ぎない。

 

走り始めた芦毛はスタート直後から飛ばしていく。

序盤から先頭に立ってリードを稼ぎ、それを最後までスタミナと根性で守り切る「逃げ」を想定した練習だ。

芦毛には、スピードとパワーが足りていない。

その2つは新入生の平均を下回る能力しかなく、特に大きく影響する末脚の切れ味はナマクラも良い所だ。

なので勝ち筋を見出すならば、今の芦毛には逃げしかない。

しかし。

 

「……あの子、なんで芝走ってるのかな? 絶対向いてないでしょアレ」

 

見慣れない新入生の練習をなんとなしに見守っていた上級生がコース外で呟いた。

一見してすぐに気付く程に、芦毛に芝の適性が無いためだ。

脚に込められたなけなしの力が芝の表面だけを捉えて虚しく滑る。

それでは加速力は生まれず、フォームも崩れて安定を欠き速度に乗るどころの話ではない。

芦毛がゴールへ辿り着くまでのタイムは当然にひどいものだった。

 

幾人かの上級生は痛ましげな表情で芦毛から目を逸らした。

おそらく過去に脱落していった同期のウマ娘達を思い出したのだろう。

現状、芦毛がそれに続いてしまう可能性は高いように彼女達には思えていた。

 

 


 

 

休憩を挟みながら何本か走った後、芦毛は共用のシャワーを浴びて自室に戻った。

中からはガサゴソと物音がする。

練習前は居なかった同室のウマ娘がやってきたようだと分かった芦毛は静かにドアを開けた。

 

「ん? あっ、こんにちは! 同室の人?」

 

それに気付き、荷物をタンスに詰め込んでいた少女が振り向く。

 

青毛のウマ娘だった。

ツヤのある真っ黒な長髪をハーフアップにまとめ、左耳からオシャレな飾りを下げている。

体型は随分と小柄で、平均を少々上回る身長である芦毛からすると見下ろす形となる。

 

特徴的で目を引くのは瞳だ。

クリクリとして丸く大きく、キラキラ輝くようにも見える。

いわゆる目力の強いタイプである。

 

「はじめまして! 私、ペンギンアルバム! これからよろしくね」

 

そんな彼女、ペンギンアルバムは中々人懐っこいウマ娘らしい。

ニコニコとした愛らしい笑みを浮かべて芦毛に歩み寄り、握手を求めて背丈同様小さな手を差し出してきた。

 

それに対して、芦毛は……。

 

 


 

 

【名前】

 

≪System≫

ウマ娘の名前を決定します。

ネット上で公開されている馬名ジェネレーターを用いて50パターン生成したランダムな候補群の中から、響きの良いものを選択します。

ただし、既存の馬名と同名の場合は再抽選が行われます。

 

サナリモリブデン

 

 

【特徴決定】

 

≪System≫

スキルや名前からの連想で特徴が付与されます。

 

サナリモリブデンは「物静か」です。*1

サナリモリブデンは「クール」です。*2

サナリモリブデンは「囁き声〇」です。*3

サナリモリブデンは「従順」です。*4

サナリモリブデンは「温厚」です。*5

サナリモリブデンは「鋼メンタル」です。*6

 

 


 

 

「うん。こっちはサナリモリブデン」

 

ごく普通に挨拶を返し、握手に応じた。

馴れ馴れしくも冷たくもなく、初対面にちょうどいい距離感で手を握り、あっさりと離す。

 

「好きに呼んでくれたらいい。こちらこそよろしく」

 

「わかった! じゃあサナリンね! んへへ、ねぇねぇ一緒に写真撮っていい? SNSにのっけたくてさ」

 

代わりに距離をぐいぐい詰めるのはペンギンアルバムだ。

飛びつくようにサナリモリブデンの腕を取ったかと思うと、ポケットからスマホを取り出して構える。

その勢いに面食らいながらも、芦毛はまぁよしと判断し頷く。

 

「やった、ありがとー! じゃあほら、指でこうやって? お揃いで撮ろうよ!」

 

「ん。こう?」

 

「そうそう! いえーい☆」

 

ポーズの指定にも従順に従い、撮影はスムーズに完了した。

満面の笑みの青毛と、無表情ながらも顔を寄せられて嫌がってはいない芦毛。

そんな二人のウマ娘がおさまった写真が、初対面の寮の一室を彩る。

 

サナリモリブデンの学園生活はこうして始まった。

彼女がトゥインクルシリーズの歴史に輝かしい蹄跡を残せるのか、それとも夢半ばで脚を止めてしまうのか。

それは今のところ、まだ誰も知らない。

 

*1
冬ウマ娘からの連想

*2
冷静なので

*3
サナリ→細鳴り(小さな音の意)

*4
サナリ→然なり(肯定の意)

*5
モリブデン(金属)は沸点が非常に高いらしいので

*6
モリブデン(金属)は硬いらしいので





■ サナリモリブデン

【基礎情報】

身長:164cm
体重:増減なし
体型:B77 W53 H78
毛色:芦毛
髪型:ショートポニー
耳飾:右耳(牡馬)
特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル


【挿絵表示】
(NovelAiDiffusionを用いて作成)


【ステータス】

スピ:56
スタ:74
パワ:53
根性:100
賢さ:90

馬魂:93


【適性】

芝:E(0/10)
ダ:F(0/10)

短距離:B(0/30)
マイル:B(0/30)
中距離:B(0/30)
長距離:B(0/30)

逃げ:A(0/50)
先行:B(0/30)
差し:A(0/50)
追込:C(0/20)


【スキル】

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)
冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)


【戦績】

通算成績:0戦0勝 [0-0-0-0]
ファン数:0人
評価点数:0

主な勝ちレース:なし



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ジュニア級 1月 選抜レース

 

【固定イベント/選抜レース直前】

 

入学から早数ヶ月。

サナリモリブデンは学友達と共にトレセン学園にてレースとトレーニングの基礎をみっちり学んだ。

流石はウマ娘にとっての最高学府だけあり、その密度と指導の丁寧さは入学前の環境とは一線を画していた。

講師陣の熱意も尋常のものではなく、学園の環境に慣れるまで生徒の大半が殆ど悲鳴を上げながら机に噛り付いていたのも記憶に新しい。

 

もちろんその苦労の分、実入りは大きい。

サナリモリブデンの体は見違えるほどに引き締まってきている。

トモの張りなどは入学前とはもはや比べ物にもならない。

 

「いよいよだねぇ、サナリン。どう? 自信のほどは」

 

そんなサナリモリブデンに、同室のウマ娘ペンギンアルバムが髪をまとめながら問いかける。

 

彼女は普段から髪をハーフアップにまとめているが、そのまとめ方は日によってまちまちだ。

三つ編み状に編み込んでみたり、ふんわりさせてボリュームを出してみたり。

どうにも見た目へのこだわりが強いタイプらしくクラスメイトにアドバイスを求められている場面も多い。

サナリなどはマメだなぁと感心するのみで、簡素なショートポニーばかりだが。

 

それはともかく、ペンギンアルバムの質問は最近のトレセン学園ではあちこちで繰り返されているものだった。

毎年恒例、この時期の学園は一種独特の興奮と緊張に包まれるのだ。

夢の舞台に足を踏み入れられるか。

それを決定付ける「選抜レース」を翌日に控えているためである。

 

選抜レースとは、トレセン学園に所属しトゥインクルシリーズを目指すウマ娘たちが、トレーナーとの契約のために走る校内レースの事である。

ここで上位入賞を勝ち取る、あるいは自身の素質をアピールする事が出来れば晴れてトレーナーにスカウトされ、夢への第一歩を踏み出せるというわけだ。

逆に言えば、ここで躓けばそもそも夢を追う事すら許されない可能性が生まれる事を意味する。

選抜レース以外にもトレーナーとの契約を勝ち取る方法はあるものの、それはより狭い道となってしまう。

この状況下ではルーキー達が平常心を保つのは中々難しい。

 


 

【イベント分岐判定】

 

≪System≫

展開分岐のため、各種ステータスを用いたランダムな判定を行います。

下限を1、上限を参照するステータスの数値としたランダムな数値を算出し、判定の難度と比べて展開を決定します。

ランダムな値が難度以上の場合は成功、未満の場合は失敗として進行します。

また、難度の2倍以上の場合は大成功、3倍以上の場合は特大成功として扱われます。

1〜10が出た場合は大失敗となり、通常の失敗効果に加えて更なるマイナスイベントが発生します。

 

 

難度:30

参照:賢さ/90

 

結果:75(大成功)

 

 

≪System≫

今回は平常心を保てているかの判定を行いました。

賢さの値90を上限としたランダムな数値は75となり、難度30の2倍以上のため大成功となります。

サナリモリブデンは選抜レース前でも全く少しも緊張していないという事になりました。

 


 

「自信はない。順当に行けば勝てる理由がないし」

 

だが、サナリモリブデンはというとケロリとしたものだった。

制服に袖を通しながら平然と答える。

それにペンギンアルバムはギョッとした顔で振り返った。

 

「ちょ、ちょっとさなりーん、走る前からそんなんでどうするのさ!」

 

「本当の事。アルも私の成績は知ってるでしょ」

 

「うぐっ、そりゃ確かにそうだけど……」

 

しかし、当の本人に反論されて言葉に詰まる。

サナリモリブデンが入学してからこちら数ヶ月。

ペンギンアルバムはサナリモリブデンが模擬レースで勝利するどころか、5位までに入着したところさえ見た事がなかった。

より正確に言うならば、最下位でなかったケースさえ数えるほどでしかない。

芝での余りの走らなさを見かねた教員がダートを勧めてみたものの、そちらではなお悪かった。

 

今ではサナリモリブデンと言えば脱落者候補の筆頭格だ。

明日の選抜レースを終えれば自主退学する事になるのではと、ペンギンアルバムだけでなくクラスメイトからも心配の目を向けられている事に本人も気付いている。

座学では実践に反してトップクラスな上に授業に対する態度も実直そのものな分、彼女に向かう視線に痛ましさは強い。

 

「うー……なんか秘策とかないの? 私やだよぉ、サナリンがいなくなるの」

 

「そんな簡単に秘策なんて用意できたら誰も苦労しないと思う」

 

だがだからといって勝てるなどと言えるだけの材料はない。

サナリモリブデンの脚は未だ芝への適応を終えていない。

正当な実力など一度も発揮できておらず、選抜レースで急にそれが叶う可能性もほとんど存在しない。

夢見がちな少女ならともかく、現実から目をそらさないだけの硬質さを持つ彼女は現状で勝ち目があるなど冗談でも舌に乗せられない。

 

ただ、同室の心配を少々拭い去る事だけは出来るようだった。

 

「でも後半だけは心配しなくていい。別に、明日負けても終わりじゃないんだから」

 

「へ? ……いや、こないだ先輩の説明聞いてたでしょ? 選抜落ちからの敗者復活率は1割もないって……」

 

「そうだね」

 

「そうだね、って……。トレーナーの目も厳しくなるから合格ライン上がるし、そもそも見てくれる人も少ないって言ってたじゃん」

 

「うん、言ってた」

 

不安そうに言い募るペンギンアルバム。

対してサナリモリブデンは、眉ひとつ動かさない。

 

「でも、可能性があるならやればいいだけ」

 

肩をすくめてヒョイッと言うだけだ。

あたかもこんな普通の事は言葉にするまでもないだろうとでもいうように。

 

「私はやるよ。絶対にトレーナーと契約して、トゥインクルを走る。だからアルは私の事は心配しないでいい。自分が勝つ事だけ考えておいて」

 

「……間違いなく本気な上に楽観してるわけでもなさそーなのが怖いよねー、サナリンって」

 

「楽観なんかできるわけない。選抜落ちに向けられる同情の視線の中で惨めな気持ちでもがくのとか想像だけで嫌になる。けど間に合わなかったから。やるよ」

 

「もー! 何食べてればこんな子に育つのかなー! このぉ」

 

「あっ待って脇腹はやめて」

 

一通りの意思表明を聞き終え、ペンギンアルバムは立ち上がった。

そのままの勢いでサナリモリブデンに飛びつき、脇腹をぐりぐりとえぐる。

対する抵抗は弱い。

単純に弱点を攻められて力が入らないというわけではない。

一度の挫折ごときで諦めないとの言葉を聞いても未だ残るもやもやを受け止めてくれているのだと、これまでの付き合いでペンギンアルバムにもわかっていた。

それがまた、ペンギンアルバムになんとも言い難い感情を生みはするのだが。

 

「サナリンの考えはわかった、もう心配しない。でも一番いいのは選抜で勝つ事なんだからね。明日は全力の全力でやんなよ?」

 

「ん、それは当然。限界まで根性振り絞る」

 

よろしいと頷いてペンギンアルバムはサナリモリブデンを解放した。

 

そこまでの経過の中で互いの登校準備は整っていた。

息の荒い芦毛が、鼻息の荒い小柄な青毛に引きずられるように寮を出て、部屋には誰もいなくなった。

 

 

こうして、選抜レースに向かって時間はゆっくりと過ぎていく。

トゥインクルシリーズへの挑戦権を賭けた最初の戦いは、もう目前に迫っていた。

 


 

【イベントリザルト】

 

≪System≫

原作アプリ同様、主人公のウマ娘はトレーニング以外でも日常イベント等で成長します。

 

成長:根性+10/賢さ+5

獲得:コンディション/好調

 

≪System≫

成長するステータスはイベント展開によって変動します。

今回の場合、肝の太さを示したため、根性と賢さが上がりました。

また、やる気が上がりました。

 

スピ:56

スタ:74

パワ:53

根性:100 → 110

賢さ:90 → 95

 

馬魂:93

 

調子:好調/次のレース時、能力が少し上がる状態。レースが終わると解消される。

 


 

そうして、選抜レース当日。

体操服に乱れがない事を確認してサナリモリブデンはコースに設置されたゲートへと歩みを進めていく。

その途中、多くの人々のざわめきを背に受けながらだ。

 

選抜レースはトレセン学園でも大きな行事のひとつとなっており、学園内外問わず注目度は高い。

新人ウマ娘をスカウトせんとするトレーナー達はまず当然。

他には自分達を後ろから追ってくる後輩を見定めんとする現役のウマ娘。

将来のスターの第一歩を目にしようと心を躍らせる熱心なレースファン。

さらには各種メディアの記者までもが観戦に訪れ、カメラも入って専門的なCSチャンネルに限られるが放送もされる。

 

もちろん実際のトゥインクルシリーズのレースと比べればその人数は遥かに少ない。

だが、これまでは外部に公開されない模擬レースしか経験のない者にとってはその程度の衆人環視であってもプレッシャーは大きくのしかかる。

現にサナリモリブデンと共に出走する同期のウマ娘達は多くが表情を硬くし体を震わせていた。

そんな中、サナリモリブデンは普段通りの平常心でゲートに向かっていく。

 


 

【レース生成】

 

≪System≫

レースを生成します。

選抜レースのコースはサナリモリブデンが最も有利な条件に設定されます。

天候、バ場状態はランダムに決定されます。

天候は晴れと曇りの比率が高く、バ場状態は天候によって変動幅が変わります。

 

【選抜レース/芝1200メートル/右回り/中央トレセン】

 

構成:スタート/前半/後半/スパート

天候:晴

状態:良

難度:30(ジュニア級1月の固定値)

 

 

【枠順】

 

≪System≫

枠順はランダムに決定されます。

サナリモリブデン以外の出走ウマ娘は、原作アプリ版のモブウマ娘からランダムに選出されます。

ただし、アプリ版の能力・外見・性格は適用されず、初めての出走登録時にランダムに決定されます。

また、一部のグレードの高いレースには能力の高いウマ娘が固定出走する場合があります。

 

1枠1番:サラサーテオペラ

2枠2番:サナリモリブデン

3枠3番:オーボエリズム

4枠4番:デュオクリペス

5枠5番:ソーラーレイ

6枠6番:ブラボーアール

7枠7番:フリルドレモン

8枠8番:インディゴシュシュ

 

 

【ステータス補正適用】

 

≪System≫

適性やスキルにより、出走時のステータスに補正がかかります。

アプリ版とは異なる補正ですが、仕様です。

 

バ場適性:芝E/スピード&パワー-40%

距離適性:短距離B/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:冬ウマ娘○/ALL+5%

 

状態:好調/ALL+5%

 

スピ:56-16=40

スタ:74+14=88

パワ:53-15=38

根性:110+11=121

賢さ:95+19=114

 


 

『晴天にも恵まれ絶好の日和となりました、中央トレセン特設レース場。バ場状態は良。まずは芝短距離部門からの開始となります。1組目のウマ娘がゲートに向かいますが落ち着きのない子が多いようです』

 

『毎年の事ですが、やはり最初の組はどうしても不安そうな様子が目立ちますね。出走までの間に少しでも落ち着いてくれるといいのですが』

 

どうやらそれはサナリモリブデンにとって多少のアドバンテージになるようだ。

会場に響き渡る実況と解説が言う通り、競争相手となる7人は誰もが表情を硬くし体に余計な力が籠っている。

 

『5番ソーラーレイ、ゲートを嫌がっていますね。係員となにやら揉めています』

 

特に5番のウマ娘などはあからさまに平静を欠いていた。

集中のために深呼吸しようとしたタイミングで前進を促されたのが悪かったらしい。

ゲート前で係員を睨み、強く脚を踏み下ろし芝を一搔きして威嚇までしている。

ゲートに入らなければレースにならない以上もちろん最終的には素直に収まるのだが、そのもたつきで全体に苛立ちが広まっていく。

 

『ソーラーレイ、何とか収まりました。その後はスムーズに続いていきます。おっと、4番デュオクリペスがこれは、ゲートの壁を叩いていますか?』

 

『あーいけません、これはいけません。よくありませんよぉ』

 

『ソーラーレイとデュオクリペスのにらみ合いに係員が仲裁に入ります。大丈夫でしょうか』

 

そのイラつきはちょっとした喧嘩も引き起こしたようだった。

スムーズな進行を妨げた5番に対し、後から入った4番のウマ娘が壁を叩いて怒りを表明する。

そんな事をされれば当然5番も再点火するのが道理だ。

壁越しに一触即発となった2人へと、慌てた様子の係員が集合する。

結局枠を移動させての引き離しなどは行われずに収まったが、また少々の時間が浪費された。

 

その間、サナリモリブデンはと言えば、一人平然と黙想していた。

狭く暗いゲートも苦にせず、ただただ集中を深めていく。

そうして、役目を終えた係員が離れていく気配を察知すると同時に目を開き、体を沈めてスタートの姿勢を取る。

 

『スタート前から荒れ模様となりましたが、各ウマ娘ゲート入り完了しました。夢のはじまり、トゥインクルシリーズへの挑戦権を賭けた最初の勝負、選抜レース。芝短距離部門第1組。……今スタートしました!』

 


 

【スタート判定】

 

≪System≫

綺麗にスタートできたかどうかの判定です。

この判定はモブウマ娘も同様に行います。

 

難度:30

参照:賢さ/114

 

判定:97(特大成功)

 


 

『2番サナリモリブデンぽーんと飛び出していきます。1番サラサーテオペラは大きく出遅れ。他は揃ってのスタートです』

 

ガシャンと音が響くと同時、サナリモリブデンは真っ先に飛び出した。

開いていくゲートに鼻先をこするかというほどの好スタート。

出足の質は冷静さに優れ集中力に富む彼女の強力な武器である。

負け続けた模擬レースの中でも、スタートでハナを切れなかった経験はほとんどない。

 

(まずは良し。後はいつも通り、勝ち筋をたぐれる可能性を目指すだけ)

 


 

【前半フェイズ行動選択】

 

≪System≫

サナリモリブデンはフェイズごとに行動を起こし、その成否を判定します。

行動内容は、得意な脚質、レース展開、習得済スキル、性格、トレーナーとの相談内容などを元に自動決定されます。

 

行動:加速して先頭に立つ

 

難度:30

補正:絶好スタート/+30%

参照:パワー/38+11=49

 

結果:34(成功)

 


 

その直後から熾烈な位置取り争いが始まる。

わずか一歩でも短く、ほんの少しでも楽に、そして速く走るための場所を求めて8人全員が睨み合う。

 

『スタートの勢いのまま2番サナリモリブデンが先頭に立ちました。少し開いて4番デュオクリペス、外に5番ソーラーレイ。2人のすぐ後ろに7番フリルドレモンが続きます』

 

サナリモリブデンはと言うと、全く危なげなく好位置に収まった。

自身が最高のスタートを決めた事もあり内ががら空きだったのだ。

2番のサナリモリブデンとしてはわずか一歩二歩程度内側に身を寄せるだけで良い。

右隣、1番のサラサーテオペラは出遅れたらしく姿がないため、進路妨害や接触の恐れもない。

後は逃げを打ってハナに立つ事さえ出来れば、先頭の最内という絶好のポジションを勝ち取れる。

 

『そこから1バ身開けて3番オーボエリズム。殆ど差がなく8番インディゴシュシュ、6番ブラボーアール。その後ろ大きく離れて1番サラサーテオペラが最後尾』

 

幸いな事に、実に珍しくサナリモリブデンの加速は叶った。

他に逃げを選んだウマ娘もいないようで、何の問題もなくハナの奪取に成功する。

スローペースな部類とはいえ、真っ当な逃げウマ娘らしい速度で先頭を駆けていく。

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

≪System≫

レース中、フェイズ毎にランダムにモブウマ娘が行動を起こします。

行動内容はAIのべりすとの文章自動生成を用いて生成されます。

ただし、突然虚空からシンボリルドルフが乱入してくるなどのありえないイベントが生成された場合は再抽選が行われます。

また、一部能力の高いウマ娘は思考に基づいた行動を起こす事があります。

 

モブウマ娘の行動:デュオクリペスがソーラーレイと小競り合いを起こす

 


 

「この……っ! 鬱陶しいんだよオマエッ!」

 

だが、問題なく走る事が出来た時間は長くなかった。

突然サナリモリブデンの後方から怒声が上がる。

同時に、背を追う足音が急激に大きくなり始める。

 

(……あ、これ、まさか)

 

「はぁ!? アンタが突っかかってきてんでしょうが! ウザいのはそっちだってのッ!」

 

湧きあがった嫌な予感は、応じるもうひとつの怒声で即座に肯定された。

わざわざ振り返るまでもなく、サナリモリブデンにも理解できる。

スタート前から険悪だったソーラーレイとデュオクリペス。

よりにもよって2人共に先行を選んでいたばかりに、並走する内に怒りが再燃したのだろう。

 

『前に戻りまして変わらず先頭のサナリモリブデンに4番デュオクリペスと5番ソーラーレイが猛然と差を詰めていきます』

 

『2人そろってかかっているようにも見えますね。大丈夫でしょうか』

 

レース中に叫ぶのは思いのほか堪えたのだろう。

怒声はそれきり聞こえないが、互いより一歩でも前に立とうという怒気はかえって強く伝わってくる。

2人は競り合い、加速し、サナリモリブデンが稼いだリードが食いつぶされていく。

並のウマ娘なら平静を失ってもおかしくない場面である。

 


 

【抵抗判定】

 

難度:30

補正:スキル/冷静/+20%

参照:賢さ/114+22=136

 

結果:35(成功)

 


 

(そのまま怒りあって共倒れなんてのは期待すべきじゃない。短距離だし、かかってても走り切れる可能性は高い。追われて焦らず、油断もするな)

 

だがサナリモリブデンは持ち前の冷静さで乗り切った。

心中で自身に要点を言い聞かせ、変わらず先頭を進みコーナーへと入っていく。

 


 

【前半フェイズ終了処理】

 

≪System≫

ウマ娘はフェイズ終了毎にスタミナを消費します。

消費量はレース展開や行動内容、スキル、精神状態などに左右されます。

 

消費:中速(4)/加速(2)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消費:4+2-1=5%

 

結果:スタミナ/88-4=84

 


 

【後半フェイズ行動選択】

 

行動:加速して差を広げる

 


 

そうして自身の平静を確認した後、サナリモリブデンは再び脚に力を籠めた。

自身の末脚、その余りの鈍さを十分理解しているためだ。

多少の無理は承知の上で、今リードを稼ぐ以外に彼女に勝ちの芽はない。

 


 

難度:30

補正:なし

参照:パワー/38

 

結果:13(失敗)

 


 

だが。

 

「……っ!」

 

加速はひどく鈍かった。

足先に注ぎ込んだはずの満身の力が芝のクッションに遮られ、どうにも地面に伝わらない。

それどころか芝の上を蹄鉄がすべり、体がコーナーの外へと流れていく。

そうなれば。

 

『各ウマ娘、3コーナーから4コーナーへ向かっていきます。先頭のサナリモリブデンちょっと外にヨレた。その内をついてソーラーレイ、デュオクリペスが抜け出していく』

 

前に前にとかかっている後続2人が見逃してくれるわけもない。

お前はどいていろ。

こいつとの勝負の邪魔をするな。

そう言わんばかりの、あっという間の抜き去りだった。

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:後続が仕掛ける

 


 

『後ろも続々としかけていく。フリルドレモン、インディゴシュシュも前2人に迫ります。サナリモリブデンはここまでか。外からはブラボーアールも上がっていく。さぁ最終直線だ。泣いても笑ってもここで勝負が決まります』

 

当然、他のウマ娘もだ。

1人、2人、3人と速度を失ったサナリモリブデンの前へ行く。

こうなればもはや希望は絶えたに等しい。

最終直線のたたき合いは、彼女にとって最も目の無い賭けだ。

 

(だからなんだ。やる。やれ)

 

それでもと、サナリモリブデンは歯を食い縛った。

体を前傾に。

残った全能力を注ぎ込んで、スパートをかけろと己の脚に命じる。

 


 

【後半フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/加速失敗(4)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消費:4+4-1=7%

 

結果:スタミナ/84-5=79

 


 

【スパート判定】

 

≪System≫

最終直線でのスパートの質を判定します。

スパートの質は、スピード、スタミナ、パワーの3つの判定の結果で決定されます。

判定はスタミナが最初に行われ、成功度によって残り2つの判定に補正が与えられます。

 

難度:30

補正:なし

参照:スタミナ/79

 

結果:46(成功)

 

難度:30

補正:なし

参照:パワー/38

 

結果:28(失敗)

 

難度:30

補正:なし

参照:スピード/40

 

結果:1(失敗/マイナスイベント発生)

 


 

そうして。

極めて順当に、サナリモリブデンは失敗した。

 

加速しない。

速度はわずかにも上がらない。

それどころか。

 

(左足に違和感。ケガ、じゃない。……地面の感覚がダイレクトすぎる。落鉄?)

 

コーナーからの立ち上がり。

サナリモリブデンは崩れていた体勢を立て直そうと左足に大きな力をかけた。

おそらくはその時だろう、レースシューズから蹄鉄が外れて落ちたのだ。

突然変化した足裏の感覚と、地を噛むグリップ。

それに対応しきる能力はデビュー前のウマ娘には存在せず、サナリモリブデンもまた同様だ。

 

ただでさえ鈍い末脚はここにきて錆びて折れたも同然となった。

まともなスパートなどかけようもない。

 

『ソーラーレイとデュオクリペス2人の競り合いだ。両者一歩も譲らない。後ろからはインディゴシュシュ。ブラボーアールも外から良い脚で来ているが届くか』

 

選抜レースのクライマックスはサナリモリブデンを置き去りに進んでいく。

ここまで出遅れを取り返せなかったサラサーテオペラにもかわされ、模擬レースで慣れ親しんだ最下位の定位置へと今日も追いやられていく。

 

(当たり前の結果が、当たり前に出ただけ。……負けるというのはわかってた)

 

サナリモリブデンは心中で呟く。

そもそもとして能力が足りていない。

勝ちを拾える可能性は極小で、本番でそれを引き寄せられるなど現実ではそうそう起こりえない。

事前に立てていた予測のうちで最も確率の高いものが的中しただけだ。

 

(つまり、予定を変更する理由はない。やれ)

 

なので。

彼女は何の動揺もなく、2度目のスパートを己に命じた。

 


 

【スパート判定】

 

≪System≫

1度目のスパートで勝利できず、かつ戦意が残っている場合、2度目のスパート判定を行います。

2度目のスパート判定は根性を用いて判定されます。

 

難度:30

補正:なし

参照:根性/121

 

結果:91(特大成功)

 


 

「───ぁ」

 

体がさらに一段、深く沈む。

まるで地面に沿うように。

ひとつ間違えば転げて故障に繋がりかねないほど。

 

「ぁぁああああぁぁぁぁああ!!」

 

蹄鉄を失った脚は、これまでよりもなお力を地面に伝えられない。

速度は確かに上がってはいくが、そのペースは絶望的な遅さだ。

走るための感覚の全てがこの試みに無意味との判断を下している。

 

それでもと、サナリモリブデンは吠え、走った。

 

 

 

 

 

 

ソーラーレイ抜け出した。ソーラーレイだ。後ろはちょっと届かない。ソーラーレイ、1着でゴールイン! 2着はデュオクリペス。3着は接戦でしたがわずかにブラボーアールがインディゴシュシュをかわしたか。以下オーボエリズム、フリルドレモン、サラサーテオペラ。最後に今サナリモリブデンがゴール。芝短距離部門第1組は、ソーラーレイが激しい競り合いを制して1着を勝ち取りました』

 

だが、それだけ。

着順には何の影響も及ぼさずにレースは終わった。

7着サラサーテオペラとの差は縮まりはしたが、観客は誰一人としてそんなところは見ていない。

 

「はぁ、はっ……くっそ、オマエ、はえーな……やるじゃん」

 

「っふぅ、そ、そっちもね。正直しつこすぎて、途中もう無理かと思ったわ」

 

「勝ったからってフカしてんなよ、全然落ちなかったくせに。……次はアタシが勝つかんな。首洗って待っとけよ」

 

「はん、何回やっても同じよ。次やる時は格の差を見せてやるから泣きべそかく用意しときなさい」

 

勝者であるソーラーレイと、接戦を演じたデュオクリペス。

歓声と拍手が注がれる先は彼女たちだけだ。

人々は新たなライバル関係の誕生を喜び、喝采を送っている。

 

最下位のウマ娘になど見向きもしない。

 

「…………」

 

そんなわかり切った事に、サナリモリブデンはいちいち思考を回すつもりはなかった。

敗者は潔く退場するのみ。

勝者や上位入賞者にはこの後トレーナーのスカウトが待っているが、彼女には何の予定もない。

 

脱落した蹄鉄の回収を係員に依頼した他に口を開く事もなく、サナリモリブデンは静かにレース場を後にした。

 


 

【レースリザルト】

 

着順:8着

 

【レース成長処理】

 

≪System≫

ウマ娘は原作アプリ同様レースでも成長します。

成長の度合いは着順、レースのグレード、レース展開によって異なります。

 

成長:ALL+1/ウマソウル+1

経験:芝経験+1/短距離経験+1/逃げ経験+1

 

スピ:56 → 57

スタ:74 → 75

パワ:53 → 54

根性:110 → 111

賢さ:95 → 96

 

馬魂:93 → 94

 

芝:E(1/10)

短:B(1/30)

逃:A(1/50)

 

≪System≫

ウマ娘は所定の値まで経験を積む事で適性がランクアップします。

経験はレースで小~大、トレーニングで中程度得る事ができます。

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっとー! ちょっと待ってください! そこの芦毛の子!」

 

選抜レースでの敗北後。

帰路についていたサナリモリブデンは突然呼び止められ、不思議そうに振り向いた。

 

声の主は20代前半ほどに見える女性だった。

それがレース場から必死に走ってきている理由がサナリモリブデンにはわからない。

だがわからないからと無視するわけにも行かず、立ち止まって到着を待つ。

 

「芦毛の子、とは私ですか?」

 

「そうそう、貴女です! はー、ふぅ。えーと……サナリ、サナリモリブデンさんでしたよね? 全くもう、こんなにすぐいなくなると思いませんでしたよ。最近の子はみんなそんな風に切り替えが早いんですかね」

 

女性はパーカーにジーンズ、足元は量産品のスニーカーといったラフな姿だった。

明るい茶色の髪はざっくりしたウルフカットで活発な雰囲気がある。

トレーナーにもマスコミにも見えず、ウマ耳も尻尾もない。

一見した印象はごく普通の大学生といったところ。

レース観戦に来ていた一般客だろうかとサナリモリブデンは推測した。

 

彼女が息を荒くしていたのはほんの少しのこと。

身体能力に優れているようで、さほど間を置かずに呼吸が整っていた。

 

そんな女性が言う切り替えとはつまり先ほどの敗北の事だろう。

 

選抜レース最下位。

何の言い訳もできない実力不足。

トレセン所属のウマ娘の誰もが求めるトレーナーからのスカウトなど望めない、絶望的な立場。

確かに普通ならば泣き崩れるかレース場の隅で俯いて立ち尽くしているのが似合いなのかもしれない。

 

「結果は議論の余地なく確かなもので、あそこに留まって悔しがった所で時間の無駄です。そんな暇は私にはありませんので」

 

だがあいにくと、このウマ娘の硬さは並大抵ではなかった。

言葉は平然と、眉ひとつ動かさずに吐き出される。

 

「そもそも分かり切っていた敗北です。調整が間に合いませんでしたから。予想が現実になっただけの事で切り替えも何もありません」

 

「ははぁ、負けると分かっていたと」

 

「はい」

 

「だから悔しがる事はない?」

 

「いいえ」

 

女性からの問いに、サナリモリブデンはきっぱりと否定を返す。

 

「時間の無駄と言ったのはレース場に留まる事です。悔しい気持ちは当然あります。私は負けたんですから」

 

実際に、サナリモリブデンは臓腑を焼かれるような痛みを感じていた。

肉体ではなく精神が悔恨に軋み、己の不甲斐なさに血を流さんばかりの怒りを覚えている。

しかしそれらを抱えたまま歩みはわずかも緩まない。

それがサナリモリブデンというウマ娘のパーソナリティだというだけの事。

 

「勝てないと事前に自分で分かってたのに?」

 

「分かっていたと言っただけです。負けていいと思った事も、負けるために走った事もありません」

 

「くふっ」

 

「?」

 

硬質の答えに、女性は小さく噴き出した。

楽しくてたまらないとその顔に書いてある。

サナリモリブデンとしては何か笑われる点があったかと不思議な心地だった。

 

「ふふ、最後にもうふたつ。最終直線、もう何をどうしても追いつけないと分かっていましたよね?」

 

「はい」

 

「じゃあ、なんであんなに必死に走ったんですか? 諦めて力を抜いても良かったでしょう?」

 

「はぁ、それは……」

 

簡潔に説明しようと、サナリモリブデンは言葉を探す。

呼吸を数度繰り返す程度の間。

じっと返答を待っていた女性に、彼女は率直に説明する。

 

「これは既に決めた事なのですが、私はトゥインクルを走ります」

 

「っく、く、なるほど? 走りたい、ではないんですね」

 

「はい。そのためには勝利が最短の道で、なので最後まで走りました。つまり単純に必要だったのでそうしただけです」

 

「そうですか? ではふたつ目。あの走りに、意味はあったと思いますか?」

 

サナリモリブデンは肩をすくめる。

ふぅ、と息を吐いて、至極残念そうに続けた。

 

「ありませんでしたね。ですがそれは結果論です」

 

「一万回走って一万回は同じ結果になると思いますが?」

 

「同意します。あのタイミングで私の努力が報われて勝利できるなんて事が起きるとは到底思えません。おそらく100%と言ってもいいでしょう。……それで」

 

それはまるっきり鋼の質感だった。

硬く、重く、揺るがず、削れず、溶けず、曲がらず。

この年齢で既に完成されきった、くろがねの精神が表出する。

 

「絶対に報われないと分かっている程度の事が、脚を止める理由になりますか?」

 

 

 

 

 

「あっはははははははははは! 最高! いいですねぇ! そういうの大好きですよ!」

 

女性は大笑いして、大声で叫んだ。

腹を抱えて体を「く」の字に折り、ひぃひぃと苦しげな声すら上げている。

何がそこまでツボに入ったのか、サナリモリブデンには理解できない。

ただ本人が楽しそうなら良いかと特に気にしなかった。

女性の笑いに悪意の気配は感じられない。

ならばそれで良しとして、黙って波が収まるまでを待つ。

 

「はー、数ヶ月分は笑いましたね。こんな愉快な事ってないです。ふふ、お礼に、一つ貴女に教えてあげましょう」

 

ひとしきり笑って満足したらしい。

目尻に浮かんだ涙を拭ってから女性が言った。

 

「あの走りには意味がありましたよ。レースでの勝利には貢献しませんでしたが……私が貴女を見つけられました」

 

悪戯っぽく微笑んで、パーカーのポケットを女性が探る。

そこから取り出されたのは、キラリと光るトレーナーバッジだった。

 

「自己紹介させてもらいますね。郷谷静流(ごうや しずる)。今年から担当を持つ事が許可された新人のトレーナーです。去年まではチームウェズンでサブトレーナーをしていました」

 

「…………は?」

 

「お、いい顔。ちゃんと年相応な部分もあるんですね。うんうん、私トレーナーに見えないですよねぇ。よく言われるんです」

 

思わずぽかんと口を開けたサナリモリブデンに、郷谷はケラケラと笑う。

 

「行く先の希望の無さを知りながら、それがどうしたとまっすぐ走って落ちていける。素晴らしい。最高の才能です。トゥインクルを共に走るなら私は他の誰より貴女がいい。現状の不足なんてどうだっていい事です。私が全力で埋めてみせますので」

 

郷谷の手が差し伸べられる。

己が磨くべき原石を見つけたトレーナー特有の瞳の光とともに、ひたすらまっすぐに。

 

「サナリモリブデンさん。三年間の専属契約を、私と結んでくれませんか?」

 

打算も何もなくただ純粋な好意に満ちたそれを現実だとサナリモリブデンが認識し握り返す1分後まで、郷谷がほんのわずかにも手を下ろす事はついぞなかった。

 

 


 

 

≪System≫

選抜レースに敗北しましたが、スカウトが発生する条件「素質を示す」を達成しました。

ランダムな外見、性格、サポート効果を有したトレーナーが1人生成されます。

トレーナー候補が1人しかいないため、トレーナーを選ぶ事は出来ません。

 

名前:郷谷 静流

年齢:23

性別:女性

髪型:明るい茶色のウルフカット

象徴:苦瓜/絶望を笑い飛ばし助け起こす者

 

サポート:失敗率ダウン(トレーニングが失敗しなくなる)

 





【戦績】

通算成績:0戦0勝 [0-0-0-0]
ファン数:1人
主な勝ちレース:なし

※選抜レースは戦績に含まれません


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【中央トレセン選抜レースを見守るスレ】

 

 

73:名無しのレースファン

やっぱ選抜レーススレはいまいち人集まらんね

 

 

 

74:名無しのレースファン

そらそうよ

中継がそもそもほぼないもの

 

 

 

75:名無しのレースファン

現状レース専門チャンネル契約しとかんと見れんからな

地上波でやってくれって100遍言うとるんやが

 

 

 

76:名無しのレースファン

無理じゃろ

 

 

 

77:名無しのレースファン

採算がね……

 

 

 

78:名無しのレースファン

デビューどころかトレーナー契約もまだの子らだからな

迫力なくて画面が映えないのよ

スポンサーつかん

 

 

 

79:名無しのレースファン

後方腕組古参面おじさん志望者にしか需要がない

 

 

 

80:名無しのレースファン

志望先がしょーもなさすぎる

 

 

 

81:名無しのレースファン

お、きたぞ

 

 

 

82:名無しのレースファン

はじまるぅー↑

 

 

 

83:名無しのレースファン

うーんこのあからさまに低予算な画面構成

 

 

 

84:名無しのレースファン

あ^〜初々しいんじゃ^〜

 

 

 

85:名無しのレースファン

おウマちゃんたちガッチガチで草

これよこれ

 

 

 

86:名無しのレースファン

>>83

でもまあこういうのも好きよ俺

G1みたいな華やかなのは落ち着かない

 

 

 

87:名無しのレースファン

ひとりだけめっちゃ落ち着いてる子おるな

 

 

 

88:名無しのレースファン

2番か?

いやこれほんとに落ち着いとる?

表情が"無"じゃん……

 

 

 

89:名無しのレースファン

無表情系クールウマ娘かもしれんやろ

 

 

 

90:名無しのレースファン

45ゲートの中で喧嘩しとるwww

 

 

 

91:名無しのレースファン

毎年1組目がやたらグダグダすんの正直好き

 

 

 

92:名無しのレースファン

なんか知らんけどバチクソキレとるやんけ

 

 

 

93:名無しのレースファン

>>91

(無言の握手)

 

 

 

94:名無しのレースファン

>>93

(無言で振り払って手を拭う)

 

 

 

95:名無しのレースファン

ゲート入り前になんかあったんかね

中継開始が半端すぎてわからん

 

 

 

96:名無しのレースファン

おい無能解説ゥ!

いけませんいけません言ってないで解説しろォ!

 

 

 

97:名無しのレースファン

>>94

悲しいんだが?

 

 

 

98:名無しのレースファン

もたついてる間に取り急ぎ

 

1枠1番:サラサーテオペラ

2枠2番:サナリモリブデン

3枠3番:オーボエリズム

4枠4番:デュオクリペス

5枠5番:ソーラーレイ

6枠6番:ブラボーアール

7枠7番:フリルドレモン

8枠8番:インディゴシュシュ

 

 

 

99:名無しのレースファン

>>98

有能

 

 

 

100:名無しのレースファン

>>98

 

 

 

101:名無しのレースファン

>>98

たすかる

 

 

 

102:名無しのレースファン

なんぼ低予算ってもこのくらいのテロップ出してくれてもいいのにな

 

 

 

103:名無しのレースファン

喧嘩売ってる4番デュオ家かよ

なんかしらゲートで問題起こせって家訓でもおありで?

 

 

 

104:名無しのレースファン

デュオ家……

プリュウェン……

高松宮記念……

ウッアタマガ

 

 

 

105:名無しのレースファン

発走直前に除外までもってかれたガチモンの黒歴史はやめてさしあげろ

 

 

 

106:名無しのレースファン

現地でトレーナー共々謹慎処分言い渡された瞬間の絶望顔が全国に流れたの今思い出しても笑っちゃうんすよね

 

 

 

107:名無しのレースファン

プリプリウェンウェン「ト゛レ゛ー゛ナ゛ー゛は゛関゛係゛な゛い゛で゛し゛ょ゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛!!!」

 

 

 

108:名無しのレースファン

>>107

伸ばし棒に濁点つけるな定期

 

 

 

109:名無しのレースファン

あの状態でヨシっつって送り出してんだからむしろトレーナー主犯まであるんだよなぁ

 

 

 

110:名無しのレースファン

>>107

びっくりマークにも濁点つけろ定期

 

 

 

111:名無しのレースファン

その後勝手に頭丸めて謝罪生配信(無許可)からの追加謹慎食らったとこまで含めてムーブが面白すぎるんだよお前

 

 

 

112:名無しのレースファン

面白女だけど変な言い訳一切しなかったのほんと好き

 

 

 

113:名無しのレースファン

あの一件でついうっかりぱかプチ買っちゃった

 

 

 

114:名無しのレースファン

わかる

 

 

 

115:名無しのレースファン

俺も買ったわ

毎晩寝る前に「へっ、おもしれー女」って語りかけてる

 

 

 

116:名無しのレースファン

>>115

キモすぎて泣いちゃったな

 

 

 

117:名無しのレースファン

>>115

ヴォエ!

 

 

 

118:名無しのレースファン

落ち着いたっぽいな

係員さんお疲れ様です

 

 

 

119:名無しのレースファン

ようやっと発走か

 

 

 

120:名無しのレースファン

ぺーぱーぽーぴーぺーぷりゅううううう

 

 

 

121:名無しのレースファン

>>120

ド下手ゴミカスクソファンファーレやめろ思い出させんな死ね

 

 

 

122:名無しのレースファン

こわ

キレすぎやん……

 

 


 

 

 


 

 

151:名無しのレースファン

ンンンンン青春〜!!!

 

 

 

152:名無しのレースファン

あんだけバチバチにキレあっといてレース終わったらガッチリ握手して認め合ってんの好き

 

 

 

153:名無しのレースファン

夕陽の土手での殴り合いに並ぶ昭和的マンガ仕草を現実でやってんの草

 

 

 

154:名無しのレースファン

レース物の漫画とアニメと映画とドキュメンタリーで一万回は見たわ

まぁ何回見ても良いものは良いんだが

 

 

 

155:名無しのレースファン

やっぱレースといったらライバル関係だよな

デュオグリプスとソーラーレイか

この2人覚えとこ

 

 

 

156:名無しのレースファン

>>155

早速名前間違えてて芝

 

 

 

157:名無しのレースファン

あの……ゴールんとこにうずくまってる子……

 

 

 

158:名無しのレースファン

触れてやるな

 

 

 

159:名無しのレースファン

人生かかった大一番であんな特大出遅れかましたらそりゃな……

 

 

 

160:名無しのレースファン

3コーナーあたりからもう泣いてたよな

フォームもぐっちゃぐちゃで

むしろよくゴールまで走れたよ

そんだけで偉い

何の慰めにもならんが

 

 

 

161:名無しのレースファン

つらい

この子一生ことあるごとにあのスタート思い出すんだろうな

 

 

 

162:名無しのレースファン

やめろ

マジでやめろ

 

 

 

163:名無しのレースファン

勝った子の話しよ?

な?

 

 

 

164:名無しのレースファン

ソーラーレイいい気迫だったな

完全にキレてたけど怒りを上手くパワーに変えてた

 

 

 

165:名無しのレースファン

3着の末脚もなかなか

見ろよ遠くから1、2着コンビ睨みつけてるあの目

こういう子は成長が怖いぞ

 

 

 

166:名無しのレースファン

なんか4コーナーに係員集まってね?

 

 

 

167:名無しのレースファン

デュオクリペスちゃんおっぱいおっきくてすこ

 

 

 

168:名無しのレースファン

>>167

そういうのは巣に帰ってやってくれるか?

 

 

 

169:名無しのレースファン

係員なんか拾い上げたな

あっ……これ蹄鉄……

 

 

 

170:名無しのレースファン

落鉄?

マ?

 

 

 

171:名無しのレースファン

レース中に蹄鉄外れたってこと?

そんなことあんのか

てか大丈夫なん?

 

 

 

172:名無しのレースファン

>>171

年々減ってはいるけど時々ある

そして全く大丈夫ではない

ほぼ試合終了と同義

 

 

 

173:名無しのレースファン

>>171

たまーに全然平気で走る子もいるけど基本無理

突然靴裏の形もグリップも変わるから感覚狂ってコーナー曲がれんしスパートもできん

終わりゾ

 

 

 

174:名無しのレースファン

そういや前半上手く走ってたのにコーナーでヨレてズルズル下がってった子いましたね……

 

 

 

175:名無しのレースファン

やめろやめろやめろ

 

 

 

176:名無しのレースファン

出遅れ以外にもきっつい悲劇起こってるやん

心境想像したくねぇー

 

 

 

177:名無しのレースファン

これどうなんの?

再走とかなし?

 

 

 

178:名無しのレースファン

なし

その辺含めて実力よ

 

 

 

179:名無しのレースファン

悲しいなぁ

 

 

 

180:名無しのレースファン

まぁ選抜以外にも道はあるんだよな?

そっちで再起目指してもろて

 

 

 

181:名無しのレースファン

おっそうだな(選抜脱落組の契約率見ながら)

 

 

 

182:名無しのレースファン

>>181

絶望的な世界よな

確か12〜3%だっけ?

 

 

 

183:名無しのレースファン

>>182

数字が古いぞ

ここ数年は1割なんて全然届かんしなんなら去年は3%くらいだ

 

 

 

184:名無しのレースファン

悪化してんのかよ草

 

 

 

185:名無しのレースファン

草ではない

 

 

 

186:名無しのレースファン

数字がえぐぅい!

 

 

 

187:名無しのレースファン

おい落鉄疑惑の子どこにもおらんぞ

大丈夫か?

1人にしとらんよな?

 

 

 

188:名無しのレースファン

やっぱり?

俺も画面内探してるけどおらんよな

 

 

 

189:名無しのレースファン

ワイ現地組

こっちもマジでどこにも見当たらん

やばない?

 

 

 

190:名無しのレースファン

流石に心配しすぎだろ

 

 

 

191:名無しのレースファン

おいおいおいおいやめろよ

デビュー前のウマ娘の訃報なんざ聞きたくねーぞ

 

 

 

192:名無しのレースファン

杞憂民も毎年恒例だな

 

 

 

193:名無しのレースファン

空気が重いよおおおお!!!

勝った子の話しようって言ってんじゃん!!!!!

 

 

 

194:名無しのレースファン

勝った子の(足下に散らばる夢の残骸の)話してんじゃん

 

 

 

195:名無しのレースファン

あーこれこれ

この阿鼻叫喚よ

 

 

 

196:名無しのレースファン

>>195

この惨状を肴にビール飲みたくて選抜見てるまであるわ俺

 

 

197:名無しのレースファン

ファーーーーーーwwwww

キラッキラの夢溢れる後輩どもがワイと同じ負け組に堕ちてくるとこ見るのクッッッッソ気持ちいいーーーーーwwwwwwwwww

 

 

 

198:名無しのレースファン

最悪なのまで湧いちゃってんじゃん

闇堕ちウマ娘とはたまげたなぁ

 

 

 

199:名無しのレースファン

もう終わりだよこのスレ

 

 

 



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ジュニア級 2月 固定イベント/トレーナー

 

【固定イベント/トレーナーとのミーティング】

 

ほとんど白に近い灰色のショートポニーをなびかせてターフの上を1人のウマ娘が駆ける。

サナリモリブデンだ。

未だ掴み切れない芝の感触に悪戦苦闘しながらも、一歩一歩を地面に刻み込んでゴールを目指す。

ホームストレート、第1第2コーナー、向正面。

そしてさらに2つのカーブを超えて再びのホームストレート。

長距離、2500メートルの試走だった。

 

「……なんというか、平たいですねぇ」

 

それを終え、脚を緩めてクールダウンにつとめるサナリモリブデンを迎えた女性が苦笑しながら口を開いた。

 

「貴女の能力は概ね把握できましたけど、なんとも器用な脚ですね。短距離から長距離、逃げから追い込みまで、やろうと思えばなんでもできるなんて子は初めて見ましたよ? まぁ私もまだペーペーなので、実は居るところには居るのかも知れませんが」

 

サナリモリブデンと契約を交わした新人トレーナー、郷谷である。

あいも変わらずラフな服装。

ざっくりした茶色のウルフカットから覗く左のヒトミミには4つのピアスが並んでいる。

やはり一見してトレーナーとは到底思えないいでたちだ。

かろうじて胸元に留められているトレーナーバッジが無ければ部外者としてつまみ出される可能性もありそうだと、サナリモリブデンも思わなくもない。

 

「ん。武器になりますか?」

 

それはともかくと、サナリモリブデンはトレーナーの外見事情を脇に置いた。

見た目のことなどどうでもいい。

重要なのは郷谷が自身の性能を把握し勝利のために最適化させてくれるという事実のみだと、サナリモリブデンは正しく認識していた。

 

「こらこらサナリさん。また敬語になってますよ。私のモチベーションのためにも崩してもらわないと困ります。教育実習の先生がタメ口のちゃん付けで呼ばれる事あるでしょう? 私、あれに憧れてるので」

 

「……うん。訂正する。私のこれ、武器になるかな」

 

「グッド! で、返答ですが、上等な武器ですよ。あらゆるレース展開に対応できるというのは大きな強みです。立派なアドバンテージと言っていいでしょう。使いこなすにはまだ体が追い付いていませんけどね」

 

郷谷の返答に、サナリモリブデンは安堵の息を吐く。

 

「そう。良かった。そういう風に鍛えたのが無駄にならなかったのは正直に嬉しい」

 

「……ん?」

 

だが、それに対して郷谷は首をひねった。

サナリモリブデンが少々おかしなことを口にしたためである。

 

「んー? 気のせいですかね? 今サナリさん、距離適性を作り替えたーみたいな意味のことを言いませんでした?」

 

「言ったけど」

 

「んんんー?」

 

郷谷の首の角度がさらに増す。

 

「確認ですけど、どうやってです?」

 

「どうって、毎日ヘトヘトになるまで走った。最初は短距離から初めて、1000でスタミナ使い切る感覚を覚えたら200ずつ増やしていっただけ。何年もかかったし、3000まで伸ばせたのは小学校卒業ギリギリだったけど。脚質も同じような感じで」

 

「はーん、さては頭おかしいんですねサナリさん?」

 

「とても心外」

 

「じゃあ聞きますけど本格化が始まる兆候すらない小学生の段階でそんな無茶して、体は辛くありませんでした?」

 

「とてもつらかった。最初のうちは脚が痛くて寝れない日も結構あったし」

 

「そりゃそうです。脚を壊してもおかしくないですよ。なんで続けられたんです?」

 

「走るって決めたんだから、走らない方がおかしいと思う」

 

「サナリさん」

 

「うん」

 

「貴女は頭おかしいですので覚えておいて下さい」

 

「……とても心外だけど、了解」

 

郷谷はそこで一度天を仰いだ。

彼女がサナリモリブデンにスカウトしたのは、その鋼のごとき心の硬さに惚れ込んでのことだ。

だがそれはどうやら事前の想定よりもさらに上を行っていたらしい。

 

「今後はそんな無茶はしないように。自主練をしたい時は必ずメニューと目的を私に教えてください。それと、痛みがある時はどんなに小さなものでも報告をお願いしますね」

 

「ん、わかった。必ず守る」

 

サナリモリブデンが従順なウマ娘だったことは幸運だろう。

もしトレーナーの目を盗んででもトレーニングを重ねたいというタイプだったなら、それこそ24時間体制の監視が求められていたところだ。

端的に言って、小学生の時分にそこまで自らに義務を課せる者を放置すれば何をしでかすかわかったものではない。

自分の監督外で無茶をされ、ある日突然故障の報告を受ける……などという事態はあらゆるトレーナーにとっての悪夢だろう。

一言指示しただけでそこを抑制できる素直さは率直にサナリモリブデンの美点である。

 

 

 

「しかしそうなると、ちょっと考えないといけませんね」

 

ただ、郷谷にとってはまた別の問題も見えていた。

 

「なにかあった?」

 

「ええ、サナリさんの最大の課題、バ場への適応です。小学生時代を毎日休まず走り続けても感覚が掴み切れないとなると、普通の方法だと無理かも知れません。少し情報を集める時間をもらえますか。貴女の脚に合う手法がないか、論文や先輩を当たってみますので」

 

サナリモリブデンの脚は、芝にもダートにも適性を欠いている。

適応できていないのだ。

ターフを噛んで爆発力を生むはずの蹄鉄は草土の柔らかさに絡め取られて力を失い、速度の大半をロスしてしまう。

現状ではレースでの勝ち負けなど夢のまた夢でしかない状況だ。

 

なので今の2人にとって最大の課題はいかにレース場の芝や砂に脚を慣れさせるかという点となる。

だが郷谷の言うように、数年間を走り続けて無理というなら何か根本に問題がある可能性が高い。

それこそサナリモリブデン専用にチューニングされた、特別なトレーニングを行う必要性に行き着くのは自然なことだった。

 

だが。

 

「あぁ、それは違うから大丈夫。学園に入るまで殆どコースを走ったことなかったから、慣れてないだけ。最近はちょっとずつわかってきてるし、普通のやり方で問題ないと思う」

 

「……ん?」

 

郷谷トレーナー、本日2度目の首の角度だった。

彼女の抱いた懸念と心配は、サナリモリブデン本人から否定された。

当人曰く、もうしばらくトレーニングを積めば適応できる気配があるという。

 

そこは問題ない。

郷谷が疑問だったのは、学園入学までコースを走った事がないなどという発言だ。

しかし彼女は先に、距離適性を伸ばすために毎日走っていたと言っている。

 

それらを噛み合わせた末に行き着いた結論に、郷谷はたらりと冷や汗を垂らした。

 

「芝ではなくダートを走っていた……ってわけでもないですよねぇ? サナリさん、砂にはもっと慣れてませんもんねぇ?」

 

「うん。芝もダートもなかったから。それなりに大きい街中の生まれだから自然はなかったし、家にレーストラックがあるような環境でも育ってない。学校のグラウンドも野球部が毎日使っててダメだった」

 

「ははは、なるほどー? ははははは」

 

サナリモリブデンが一言喋る度に、郷谷の中に嫌な予感が降り積もる。

 

大体答えは予想できた。

出来れば聞きたくない。

でも聞かなければならない。

思考を1段階進めるごとにため息を1つ吐いて、それから核心を尋ねる。

 

「…………サナリさん。毎日、どこを走ってました?」

 

「公道」

 

「シンプルにバカ! トレーナー命令です! トレーニングの予定は一旦全部中止! 病院行って脚の精密検査しますよ!」

 

23歳新人トレーナー、郷谷静流。

人生最大級の怒声であった。

 

 


 

【イベント成長】

 

≪System≫

このイベントの成長内容は固定されています。

メタ的に言うならば、アプリ版における「継承」の代わりです。

 

成長:All+15

獲得:スキルポイント/120

 


 

 

「ははは、すごいですねぇ。すごいんですけど納得いきませんねぇ。アスファルトの上を毎日毎日全力で走って6年間? これで一切異常なしってどういうことなんですかね。もしかして骨の代わりに鉄筋でも埋め込んでるんですか?」

 

病院からの帰り道。

自動車の運転席でハンドルを握る郷谷はニコニコと笑いながら言った。

ただ、それはあくまで表面上のことだ。

額には青筋が浮かび、心労からかいた汗で髪型もわずかに乱れている。

専属契約からたったの1週間であわや挑戦終了かという事態が発生、というより発覚したのだから当然といったところ。

 

「私の家系、体がすごく丈夫なんだってお母さんが……」

 

「ははははは、なるほど。お母さんにも是非伝えてあげて下さい。丈夫なんて次元じゃなくて超合金製みたいですよってね」

 

「…………あの」

 

「はい」

 

「ごめんなさい」

 

しゅんとした様子でサナリモリブデンは頭を下げた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

落ち着きなく耳を動かし、所在なさげに尾を自分の脚に巻きつけている。

どことなくしょぼくれた犬を思わせる様子に、叱られる事には慣れていないようだと郷谷は理解した。

人の言うことを良く聞く大人しい子であるからそれも当然か、とも。

ただし常識はないようだが。

 

「よろしい。ランニング程度ならともかく、公道で全力トレーニングとかいう無茶苦茶はしないでくださいね。今走れているのは奇跡だと思うべきです。はー……全く、肝が冷えました」

 

だが言わなければ仕方ない。

アスファルトは硬く、ウマ娘の力を全力で叩き付けた時に跳ね返る衝撃は芝やダートの比ではない。

それを毎日、何年も未成熟な体に受け続けていたとなれば体にどんな歪みがあってもおかしくないのだ。

続ければ続けるだけ容赦なく競技人生を削っていく暴挙と言っていい。

郷谷が今口にした通り、何の異常も見つからなかったのはまさに奇跡である。

 

(とはいえ、なんの悪影響もなかったわけではなさそうですね。サナリさんがやってきた事に対して、明らかに筋肉の量が少なすぎる。ハードすぎる自主トレーニングが成長を著しく阻害したってところでしょう)

 

その奇跡の代償にも思い至るが、口にはしない。

いかにサナリモリブデンといえど、6年間を注いだ努力がかえって枷になっていた可能性を聞かされては何かしら思うところはあるだろう。

精神面のタフさを考えればそれで脚を緩めるとは考えにくいが、メンタルにマイナスの影響を与えかねない事をあえて知らせる必要もない。

既にもうしないと約束させた以上、自分の指示で適切なトレーニングを重ねさせればそれで良い、というのが郷谷の判断だった。

 

「ま、小言はここまでにして前を見ましょう。芝に適応出来ていない理由がハッキリしたのはプラスです。……アスファルトに慣れ切っていたら、そりゃあターフは戸惑いますよねぇ」

 

「うん。柔らかすぎて上手く蹴れないし、草の中に爪先が沈むのも最初はちょっと怖かった」

 

「ははぁ、芝からダートに転向しようとしてる子の感想に近いですね。そういう事なら確かに普通の方法で良さそうです。安心してください。ウェズンのサブトレだった時にちょうどそこの経験は積んでおきましたから」

 

郷谷とサナリモリブデンは一転前向きな言葉を交わし合いながら学園へ戻る道を進む。

これから6月のメイクデビューに向けて何を積み上げるか、休息と息抜きの重要性、レースと関わりない趣味がもたらす意外な好影響。

郷谷が教え込むように語り、サナリモリブデンは興味深げな雰囲気で聞き役に徹する。

 

そうしてしばし車を走らせるうちに、踏切に差し掛かった。

電車が来るタイミングだったらしく遮断機が降り、郷谷は当たり前にブレーキを踏む。

ちょうどそこで話題の切れ目となり、十数秒の沈黙が流れた後に、郷谷は口に開いた。

 

「んー、普通はもっと親しくなってから聞くべきなんですが」

 

口元を苦笑の形にして続ける。

 

「サナリさんの場合はどうやら先に聞いた方が良さそうです。……まだ幼い子供の時分から、そこまで体を痛めつけられたのは何故ですか?」

 

「決めたから。私はトゥインクルを走るって」

 

「決意の理由は?」

 

うるさく音を鳴らす遮断機から目を外し、郷谷はサナリモリブデンの目を見つめる。

 

「貴女はどうしてトゥインクルを走るんです?」

 

その問いに対する答えを、サナリモリブデンは……。

 


 

【ウマソウル判定】

 

≪System≫

心の深い部分に関する判定にはウマソウルを用います。

1〜100のランダムな数値がウマソウルの値以下だった場合、成功になります。

 

参照:ウマソウル/94

 

結果:4(成功)

 


 

明確に持ち合わせていた。

 

ターフに賭ける渇望。

走る理由。

己の魂の輪郭。

運命とも呼ぶべき衝動を、彼女はこの上なく確かな形で理解している。

 

それを舌に乗せるべく、サナリモリブデンは郷谷を見つめ返した。

 

「私の、走る理由は─── 」

 

 


 

≪System≫

読者の投票により展開が分岐します。

参加希望の方は本文下部のアンケートより投票を行って下さい。

投票〆切は作者が続きを書く気になったタイミングです。

 



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ジュニア級 2月 イベント結果~トレーニング選択

 

【投票結果】

 

生きた証を残すべく

 


 

 

「証を残すため。そのために走ると決めた」

 

「ふむん?」

 

その抽象的な答えに、郷谷は軽く首を傾げた。

証とは何かと続きを促す。

 

「私がここに居たっていう証明」

 

サナリモリブデンは言葉を足し、郷谷から目を外して前を向く。

その視線は彼女の常と同じ、一見すれば冷淡とも取れるような静けさを宿している。

 

「例えば何十年か後に私が死んだ後にも……サナリモリブデンっていうウマ娘が昔居たんだって誰かに知ってもらえるような、そんな足跡がほしかった」

 

だがそこに郷谷は、巨大な感情の色の一端を見たような気がした。

その根底がどういったものかまでは、今はまだ推し量る術がないが。

 

 

 

 

 

 

「なるほど。教えてくれてありがとうございます。ん-、私にはよく分からない感じですねぇ」

 

それを郷谷はあえてサラリと受け流した。

深く踏み込むにはまだ日が浅い。

現段階では表面だけの理解で良いと突っ込んだ嘴を戻していく。

 

「そう? 割とよくある目標だと思ってたけど」

 

「確かにそこそこ聞きますし言葉の上では理解してますけどね。私はなんというか死んだら忘れられたいタイプでして」

 

お葬式では泣かれるよりも笑ってお酒でも飲んでもらって、次の日からはあっさり日常に戻るような。

そんな風に続けて、郷谷はカラカラと笑った。

車内に満ちかけていた重さはそれで流れる。

遮断機が上がり踏切を渡った頃にはすっかり日常の空気になっていた。

 

「ま、でも安心して下さい。共感は難しいですが目標の共有はできますから。大きな足跡となると、やっぱりG1でしょうねぇ」

 

「うん」

 

「それもできれば知名度の高い大きいところ。ふふ、クラシックで3冠でも目指してみますか?」

 

「……それは、目標が大きすぎない?」

 

「目標なんて重くて潰れそうなくらいでちょうどいいんです。引きずって走ればパワーがつきますからね」

 

郷谷は冗談めかすように言って笑う。

サナリモリブデンもまた釣られて少しだけ微笑んだ。

 

「どうします? ここで”やる”と決めてくれてもいいですよ?」

 

「まだ少し難しい。形が見えてないと、固められない」

 

「ふむ、サナリさんのそれには何かしらの基準があるんですね。ではこれは私の課題にしましょう。来年までに”やる”と決めさせてみせますよ」

 

「ん。期待してる」

 

車内は穏やかなまま、しばし走ってやがて学園へと戻った。

検査にはそれなりに時間がかかり、日はもうすぐ暮れようとしている。

トレーニングはまた明日からという事にして、2人は解散した。

 

 


 

 

 


 

明けて翌日。

ぬくぬくのストーブが焚かれたトレーナー室にて、郷谷とサナリモリブデンは向き合っていた。

郷谷はホワイトボードの前に、サナリモリブデンは椅子に座って、という形。

 

「さて、それでは本格的にトレーニングを始める前にちょっとおさらいです。知識を頭に入れた上での方が伸びも良いですからね。授業ですでに習った事でしょうし退屈かもしれませんが、少し我慢して聞いてください」

 

キュポッとマジックのキャップを取って郷谷は言う。

そしてホワイトボードに書き込みながら説明を開始する。

彼女の文字は外見のラフさからはちょっと結びつきにくいほどきっちりと整っていて、サナリモリブデンも読むに苦労はしない。

 

「現行のトレーニング理論では、ウマ娘の能力を5つに分けて定義しています。すなわち……」

 

キュキュキュ、と単語を5つ。

 

スピード、スタミナ、パワー、根性、賢さ。この5つです。それぞれ細かく説明していきましょう」

 

そこまで書き終えて、郷谷は一旦サナリモリブデンを確認した。

表情がさほど豊かではないせいで分かりにくいが、しっかり話を聞こうという体勢のようだ。

生真面目さを感じさせる動きで芦毛の頭が頷いている。

 

 

「まずはスピード。トップスピードの速さと、現状の速度を維持する能力を示します」

 

郷谷は説明する。

これが深く関わるのは、まずなんといっても末脚だ。

スピードがなければ最終直線での勝負は成り立たない

当然の話である。

 

他に関わってくるのは、道中で一定の速度を保とうという時

一瞬ごとに情勢が移り変わるレースの中、自身のペースを的確に守るには速度に関する感覚が重要になってくる。

この感覚は「スピードの能力」に含まれるというのが現在の定説だった。

 

 

「次にスタミナ。これはもう単純に体力ですね」

 

次は分かりやすい。

ウマ娘が走る時、当たり前だが体力を消耗する

その体力の嵩を示すのがこの能力だ。

 

道中で体力を使い果たせば、最後にはスパートをかける力も残らない

だが節約を考えるばかりでは激しいレースの中で亀のように丸まる事しかできない。

いくらあっても多すぎる事はなく、あればあるだけ嬉しいものである。

 

 

「3つ目はパワー。加速を生む筋力を指しますが、他のウマ娘にぶつかっていく攻撃性も含んで語られます」

 

パワーの高さは、一歩で生じる加速力に差を生む。

簡単な話で、力が強ければ体を射出する勢いが強まるわけだ。

強ければ強いだけ有利であり、スパートの質に明確な差が発生する。

 

そしてもうひとつシンプルな理屈として、力の強い者は怖いのだ。

野性的な話ではあるが、本能を剝き出しにして競争に挑むウマ娘にとってこの理屈は重く強い。

他者への威圧により優位を得ようというならば、まずパワーがなければ話にならないというのは覚えておくべきだ。

 

 

「4つ目は根性。恐怖を感じた時、追い詰められた時、そこでなにくそと立ち上がる精神力ですね」

 

これはパワーを攻撃力とした時に、防御力と考えると捉えやすい。

威圧されても跳ね返し、競りかけられて差し返す

そういった部分に作用する力のことだ。

 

たった1人で先頭を走り影も踏ませずゴールするような者には全く無用。

だが、ギリギリの勝負を泥にまみれて勝ち取るようなウマ娘にとっては最後の最後で頼れる大きな武器となる。

 

 

「5つ目は賢さ。レース中に発揮できる観察力、先を読む思考力、冷静さ。そういったものです」

 

視野の広さ

適切に状況を乗り切る力

そして、それらを正常に運用する精神状態を保つ力だ。

その中には集中力も含まれ、ゲートでの落ち着きも含めて語られる。

 

スピードやスタミナ、パワーほど直接に目立って作用するものではない。

が、これを欠いた者が楽に勝てるほどレースは甘くはない。

 

 

「以上5つをサナリさんの適性に合わせて伸ばしていきます。走る距離、戦法、それらにマッチするようにですね」

 

そこで郷谷はマジックを置き、一息吐いて生徒へと向き直る。

サナリモリブデンは一から十までしっかり聞いていたようで真面目な顔でうんと返事をした。

素直で従順、良い教え子だと郷谷はにっこり笑う。

 

「これらを伸ばすトレーニングの他には、適応訓練というものもあります。サナリさんにはこちらが優先ですかね」

 

最後に付け足されたのは、ウマ娘の走り方の矯正についてだ。

ウマ娘には走りやすい距離やバ場というものがある。

短距離は得意だが中距離以上は無理、ダートは上手いが芝は苦手、逃げると強いが追うとダメ、といったものだ。

これらのレースへの影響は大きく、適した条件でなければいくら他の能力が高くとも無意味になる事もある

今のサナリモリブデンならば、あらゆる距離、あらゆる走り方ができるものの、芝でもダートでも実力を出し切れない状態だ。

 

これはある程度まではトレーニングで矯正する事ができる

7段階で評価するなら上から3つ目、C相当まで程度ならばだ。

それ以上は訓練では鍛える事は難しく、実戦の中で磨いていくしかない

 

 

 

 

 

「以上がトレーニングの基本です。さて、それではお待たせしました。実践に入りましょう」

 

郷谷が手を叩いてにっこり笑い、告げる。

契約から初めてのトレーニング。

初月に重点的に行われるメニューを聞き、サナリモリブデンはよしきたと立ち上がるのだった。

 

 


 

≪System≫

サナリモリブデンをどう育てるかは読者が選択肢で指示できます。

可能なトレーニングは以下の通りです。

選択に参加希望の方は、本文下のアンケートからご参加ください。

投票〆切は作者が続きを書く気になったタイミングです。

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

適応訓練:芝     / 芝経験↑↑↑   スピード↑  パワー↑

適応訓練:ダート   / ダート経験↑↑↑ スタミナ↑  パワー↑

 


 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:72

スタ:90

パワ:69

根性:126

賢さ:111

 

【適性】

 

芝:E(1/10)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(0/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(0/50)

追込:C(0/20)

 


 



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ジュニア級 2月トレーニング結果~3月ランダムイベント

 

【選択内容】

 

適応訓練:芝

 

 


 

 

脚を芝に慣れさせる。

そのためには何をすればいいか。

簡単である。

芝をとにかく走れば良い。

 

「ペースが落ちていますよー! 限界まで振り絞る必要はありませんが、緩めないように!」

 

というより他の方法は基本的にない。

芝の上を走り、足の裏で土を感じ、感触を覚える。

踏み込んだ時の反発力を体感し、体に返るそのリズムを覚え込む。

それだけだ。

ただただひたすらにその反復が繰り返される。

 

「ふっ、ふぅ、は、ふ」

 

それをサナリモリブデンは従順にこなしていた。

どこまでも単純な、全く華のない練習風景。

 

「漫然と走るのもいけませんよー。一歩一歩の反応を確かめて走るんです。……そう! 今の数歩良かったですよ! 忘れないうちにもう一度!」

 

それでも郷谷の声を受け、彼女は真剣な表情で前に進む。

サナリモリブデンには一度やると決めた事を最後までやり通す精神力がある。

それは今日この時も遺憾なく発揮されていた。

指導に当たる郷谷もその真面目さに応えようと熱が入っている様子で、声も大きくなってゆく。

だが同時に丁寧に目を配り、無理や無茶、限界を超える事のないようにと注意している。

 

「はぁ、ふ、は、はっ……っ、はっ」

 

「うんうん、良い感じでした! よし、一区切りです! このあたりで少し休憩にしましょうか!」

 

「は、は、ふぅ……ん」

 

当然わずかな呼吸の乱れも見逃さず、一息入れさせる判断を即座に下す。

サナリモリブデンは小さく首肯し、急には止まらずゆっくりとクールダウンに努めながら郷谷の元へと戻ってきた。

 

「お疲れ様です。はい、ドリンク。一気飲みはダメですよ? 口の中を湿らせるように少しずつです」

 

「うん。ありがとう、トレーナー」

 

郷谷があらかじめ用意していたボトルを渡され、礼を言いながら受け取ってキャップを開ける。

冷たすぎずぬるすぎもしない、ちょうどよい温度の液体がサナリモリブデンの喉を潤していく。

市販のものとは違う調整がされているようで、甘味が随分と控えめなのも彼女の好みに合致して心地よく感じさせた。

 

「ん……美味しい」

 

自然と漏れた感想に、郷谷もにっこりと笑顔になる。

初めてのトレーニングはこうして、何事もなく良好な滑り出しを見せていた。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

≪System≫

トレーニングではランダムに失敗、成功、大成功が発生します。

発生率は失敗5%、成功80%、大成功15%となっています。

ただし、郷谷トレーナーは失敗率ダウンのスキルを所持しているため、失敗が成功に置き換えられます。

 

結果:成功

 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+10/パワー+10

経験:芝経験+3

 

【スキルボーナス/冬ウマ娘〇】

 

成長:スピード+5/パワー+5

経験:芝経験+1

 

スピ:72 → 87

スタ:90

パワ:69 → 84

根性:126

賢さ:111

 

芝:E(5/10)

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

≪System≫

毎月、トレーニングやレースの合間にランダムな日常イベントが発生します。

イベント内容はネット上で公開されている小説向けのお題ジェネレーターを用いて生成したワードに従います。

イベント中に登場する人物はランダムに決定されます。

 

イベントキーワード:「自動販売機」「同意」「湯気」

 

 


 

 

かぽーん。

 

などと、そんな音が聞こえてきそうな広い風呂場。

トレセン学園所属のウマ娘達が暮らす寮の1階、その片隅に存在する大浴場だ。

設備としては多数並ぶ洗い場と大きな浴槽のみとなっている。

サウナや水風呂、まして露天風呂や電気風呂といったものはない。

実にシンプルな構造だ。

だが隅々まで清掃が行き届き、しっかりした作りであるため使い心地はなかなか良いとの評判である。

 

「はーしーれーふふふーん♪ ふんふふふふーん♪ ふふふーふふんふふーん♪」

 

現に今もとあるウマ娘がアゴまで湯に浸かり、鼻歌を漏らしていたりした。

長い栗毛をタオルでまとめ上げた褐色の肌の少女だ。

普段は利用者でごった返している大浴場を珍しく1人で占拠できたためにテンションが上がっているらしい。

 

「つよーくふーふーふ♪ ふんふふー♪」

 

ご機嫌に頭を揺らし、エアマイクなども交えつつ、栗毛はぐんぐん盛り上がっていく。

サビを進み、クライマックスへ。

映像で何度も見て覚えたのだろう振り付けを真似て腕を突き出し。

 

「ふふふふふ、ふぅふっ♪」

 

「「うぃにんっ、ざそーぅ」」

 

「…………ん?」

 

が、そこで何やら異物が混ざった。

サビの締め、一番気持ちいいところで声が2重になったのだ。

それも明らかに栗毛のものではない誰かの声が。

 

ノリにノっていた栗毛の心が一気に冷える。

彼女は慌てて周囲、大浴場を見渡した。

 

「鼻歌、うまいね」

 

すると下手人はあっさりと見つかる。

話は簡単で、そもそも1人での占拠ではなかったのである。

浴場内に充満する湯気で見えなかっただけ。

白い湯気に溶け込む芦毛のウマ娘……サナリモリブデンが栗毛に背を向ける形で初めから湯船に浸かっていたのだ。

 

「は、ちょっ……! や、ぅ……んんんん!」

 

「ふぅ……いいお湯だよね」

 

栗毛は何か言おうとしたものの言い淀む。

鼻歌を聞かれた事が恥ずかしく、文句を言おうとしたものの、相手が先客な以上それは道理が通らない。

そんな思考を経てか、漏れ出たのは結局うなり声だ。

 

対するサナリモリブデンといえば落ち着いたものである。

白い頭に白いタオルを乗せ、どこかぼんやりとした表情で天井を眺めている。

呟いた言葉には特に同意を求めている様子はなく、単に場を繋ぐものかなにかだ。

あるいは、別にからかうつもりはないから焦らなくて良いと、彼女なりに伝えているのかも知れないが。

 

「……」

 

「……」

 

なんとも言えない沈黙が場を支配した。

サナリモリブデンが視線をちらと向けると、栗毛はサナリモリブデンから目を逸らす。

 

「……あっ! ……あんた、確かサナリモリブデン、よね?」

 

しかし唐突にその視線が勢いよくサナリモリブデンに固定された。

グルッと首が動き、ギンッと音がしそうな目力で見つめられ、サナリモリブデンは思わず耳を震わせる。

 

「……うん。知ってたの?」

 

「当たり前。一緒に走ったヤツ忘れるとかねぇ、ないでしょ」

 

「そっか」

 

どことなく嬉しそうに頷くサナリモリブデン。

そんな彼女の側も、この栗毛のウマ娘にはよくよく見覚えがあった。

 

「そっちこそ私の顔覚えてる?」

 

「ん。ソーラーレイ。忘れてない」

 

「よろしい」

 

名前を呼ばれた栗毛、ソーラーレイは満足げに笑った。

1月に行われた選抜レース芝短距離部門第1組。

サナリモリブデンが出場し走ったレースの勝者だ。

 

そんな彼女はわずか数秒で笑顔を引っ込めると、湯をかき分けてサナリモリブデンに詰め寄った。

元々壁際に近かったサナリモリブデンに逃げ場はなく、のけぞる芦毛を下方から覗き込む栗毛、という形になる。

一体何事かと問う間も無く、ソーラーレイが口を開く。

 

「あんたの事、噂で聞いてずっと気になってたのよ。あんた、専属トレーナーがついたって本当?」

 

「……ん」

 

それに、サナリモリブデンはピクリと眉を震わせた。

その噂とやらは彼女自身心当たりがある。

 

サナリモリブデンは選抜レースに敗北した。

それも並大抵の負けではない。

大きく出遅れてまともに走る事も出来なかったウマ娘にさえ抜き去られての最下位。

そんな成績でトレーナーからスカウトされるなど普通はどう考えてもありえない事だ。

 

何か不正を働いたのではないか。

トレーナー、あるいは学園の弱みを握っているのではないか。

それとも裏金でも?

 

そんな噂が一時期、一部で流れた事は知っている。

敗者を語るよりも勝者を語る方が生徒達の好みに合ったようですぐに立ち消えはしたが、サナリモリブデンの同室、ペンギンアルバムなどは言い出しっぺを特定してボコボコにしてやるなどと連日息巻いていたものだ。

 

「うん。トレーナーと契約してる。……不正はしてない」

 

なのでサナリモリブデンの返答もやや硬いものとなった。

別に何をどう思われてもいいが、面と向かって絡まれるのは面倒くさい。

そんな雰囲気だ。

 

「は? 舐めてんの? この私がそんなこと疑ってるって?」

 

が、どうやらソーラーレイの考えはそちらではなかったらしい。

 

「あんたがどう走ったか見てそんなの思うわけないじゃない。逆よ逆! あんたさぁ……」

 

ソーラーレイは前屈みに。

人差し指を伸ばしてビシッとサナリモリブデンの鼻先に突き付ける。

下からジロリと睨み付ける姿が異様に様になっていた。

 

「悪いトレーナーに騙されてたりしないでしょうね? 変なことされてない? 大丈夫? トゥインクルを走りたいなら俺の命令に従えー、みたいなやつ! 聞いたことあんのよ! ……ドラマとかで!」

 

サナリモリブデンはその言葉に、目をパチクリとさせた。

 

「……心配してくれてるの?」

 

「そうよ! 一緒に走ったやつが変な目にあってたりしたら寝覚め悪すぎるでしょ! で、どうなの。あんたのトレーナー、まともなやつなの?」

 

「ん、多分いい人だと思う」

 

サナリモリブデンは首を横に振り、疑念を否定する。

郷谷トレーナーの指導は今のところ丁寧で確かなものだという実感が彼女にはある。

人格的にも問題は思い当たらない。

服装などは他のトレーナー陣と比べるとラフすぎて奇抜な感はあるが。

 

「そう? それならいいんだけどさ。もし何かあったら私に言いなさいよ。うちのトレーナー、結構力ある人っぽいから頼んで何とかしてあげるわ」

 

「分かった。頼るような事にはならないと思うけど、ありがとう」

 

その答えを聞いたソーラーレイは少し笑って、指をひっこめて体を起こす。

どうやらソーラーレイはなかなか人の良いウマ娘で、かつ世話焼きな部分があるようだった。

サナリモリブデンとしてもその事実は好ましい。

少なくとも、裸の付き合いで雑談に興じても不快はない程度には。

 

その後は特に何事もなく、2人は温かいお風呂を満喫した。

とはいえ、そう長い時間ではなかったが。

 

そもそも、サナリモリブデンが鼻歌に割り込んだのはそろそろ風呂から上がりたかったからだ。

そのために立ち上がって移動すれば、当然ソーラーレイに鼻歌を聞いていた自分の存在が露見する。

 

鼻歌を歌っている時に、無言で横を通り過ぎられるか、一声かけられるか。

どちらがより恥ずかしくないかは意見の割れる所だろうが、サナリモリブデンは後者の方がまだ良いと判断していたようだった。

 

 


 

 

そうして2人揃って大浴場から出て、少し歩いたところ。

廊下に設置された自動販売機の前でソーラーレイは立ち止まり、サナリモリブデンを呼び止めた。

 

「ちょーっと待ちなさいよ。1本おごるわ」

 

そして返事も聞かずに小銭を投入する。

軽い音を立てて自動販売機が省エネモードから復帰し、並んだサンプルを明かりが照らし出す。

 

「いいの?」

 

「証拠もなくあんたのトレーナー疑っちゃったしね。ま、そのお詫びってことで」

 

「ん、それなら……」

 

しかし、サナリモリブデンが何かを言う前にソーラーレイはボタンを押した。

あれっと疑問を感じる芦毛の前で、栗毛は転がり出た缶を取り出しぽいっと投げる。

サナリモリブデンが受け取ってみれば、それは国民的大人気を誇る炭酸飲料だった。

甘味たっぷり刺激的。

ハンバーガーのお供に付き物のやつである。

 

「お風呂上がりっていったらやっぱりコレよねー」

 

ソーラーレイはそう言って、さらにもう1本同じものを購入した。

即座にプルタブを開け、ゴクゴクと喉に流し込み、ぷはーと気持ちよさそうに息を吐く。

完全に大好物といった様子だ。

彼女としてはなんの意図もなく、こんなにおいしいのだから皆好きだろうという考えに違いない。

 

「ん? 飲まないの?」

 

ただ、残念ながらサナリモリブデンとしては意見が違う。

風呂上がりには炭酸よりも、さっぱりした癖のない麦茶というタイプだ。

正直な意見としては今は炭酸を求めていない。

だが、ソーラーレイの厚意を無下にするのもはばかられるところだ。

 

首をかしげて不思議そうにするソーラーレイの前で、サナリモリブデンはさてどうするかと一瞬だけ考えた。

 

ソーラーレイに気を使い、彼女の意見に同意してみせるか。

それとも自分の好みを貫き通すか。

そこが問題である。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 


 

 

≪System≫

サナリモリブデンの行動を選択肢で指定できます。

サナリモリブデンの行動により、成長するステータスや得られるスキルヒントが変化します。

選択に参加希望の方は本文下のアンケートよりご参加ください。

投票〆切は作者が続きを書きたくなったタイミングです。

 

 


 



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ジュニア級 3月イベント結果〜3月トレーニング選択

 

 

【投票結果】

 

逆に麦茶を布教する

 

 


 

 

考えた末に出た結論は明確なものだった。

 

(ない)

 

風呂上がりに炭酸?

論外だ。

火照った体には麦茶。

サナリモリブデンはもう何年も前からそう決めている。

いかに厚意であろうとも、他者の意見では曲げられない強いこだわりだ。

 

なのでそっと首を横に振る。

サナリモリブデンとて厚意を無碍にする後ろめたさはあるが、それはそれ。

無理なものは無理なのだ。

 

「ごめん。私、お風呂上がりに甘い炭酸は無理な方だから」

 

するとソーラーレイは驚きに目を見開く。

 

「へ? うっそ! これダメな子って実在したの?」

 

「……そこまで珍しい?」

 

「だってこんなに美味しいのに……」

 

確かめるように手元の炭酸をもうひと口。

グビリと味わい、ソーラーレイはやはり気持ち良さそうに息を吐いた。

 

「うん、やっぱわかんない。どう考えても最高じゃない」

 

そう言われても仕方がない。

一切嘘のない事実である以上、理解しにくくともしてもらうしかない。

 

「ま、しゃーないか。おっけ、そっちのも私が飲むわ。聞かないで買っちゃった方が悪いし、気にしないで」

 

ソーラーレイは手を差し出し、炭酸を受け取ろうとする。

ただ、それは良くないとサナリモリブデンは感じた。

折角の厚意を完全にふいにするのは良くないだろう。

 

「ううん、もらうにはもらっておく。お風呂上がりは麦茶って決めてるだけで、これも飲めないわけじゃないから。冷蔵庫に入れておいてそのうち飲む。ありがとう」

 

「そう? それならいいんだけど」

 

ソーラーレイはそれで手を引っ込めた。

特に気分を害した様子もなく、サナリモリブデンもホッとする。

 

「にしても、あんたって好み渋いのね。麦茶って……なんかお婆ちゃんくさいというか」

 

「む」

 

だが、続く言葉は聞き捨てならなかった。

ピクリと眉を震わせ、ほんの少し耳を絞る。

 

「……入浴後の麦茶の健康効果は立証されてる。汗をかいて失ったミネラルの補給にはピッタリ。糖分がないからカロリー計算も楽」

 

「へ? いやまぁそりゃそうでしょうけど……」

 

「香ばしい香りにはアロマテラピー効果もある。自律神経を落ち着かせてくれるから、お風呂上がりのリラックスタイムをより充実したものにしてくれる」

 

「え、あれ……あの、もしかしてなんか怒ってる?」

 

「怒ってない」

 

言いつつ、サナリモリブデンは自分の財布を取り出した。

数枚の硬貨を自動販売機に投入し、ボタンを2回連続で押す。

出てきたのは麦茶のペットボトル、2本だ。

そのうち片方を何やら気圧されている様子のソーラーレイに手渡す。

 

「あげる。炭酸のお礼」

 

「い、いやえっと、私カフェインとか苦手でさ……」

 

「麦茶の原料は一般に六条大麦。緑茶や紅茶みたいにお茶の葉っぱから作られてるわけじゃないからカフェインは入ってない。むしろカフェインはそっちの炭酸に含まれてる」

 

サナリモリブデンはさらに詰め寄る。

ずずいと顔を近付け、至近距離からソーラーレイを覗き込む。

 

「カフェインも糖分も、汗をかいた後には適さない。利尿作用が強すぎるからかえって水分を失うことになる。美味しいけど、今は良くない。その点、麦茶のカリウムにも利尿作用はあるけど弱いものだからそういった心配はしなくていい」

 

「ね、ねぇちょっと! やっぱアンタ怒ってるでしょ!?」

 

「怒ってない。私が言いたいのはお風呂上がりには麦茶が適しているという事だけ」

 

「絶対嘘でしょ! 目がガチすぎんのよ!」

 

だが実際嘘ではない。

サナリモリブデンは温厚な性質で、多少の事では怒りに囚われる事はない。

 

が、それはそれとしてサナリモリブデンは極めてこだわりが強いウマ娘だ。

一度決めた事は頑として曲げない。

そして、その決定に対する否定意見には真っ向から対決すると決めていた。

そんな彼女としては、麦茶を嗜む至高のひと時をババくさいなどと言われて黙っていられないのだ。

 

「飲めばわかる。麦茶はいいもの。特に私たちアスリートにとっては。甘さと刺激に目を取られて麦茶を遠ざけるなんてもったいない」

 

「わ、わかった、飲む! 飲むから!」

 

「ミュータンス菌の繁殖も抑えるから虫歯予防にも効果的……!」

 

「分かったって言ってんでしょお!」

 

そしてその圧力を前についにソーラーレイが折れる。

やけになったようにサナリモリブデンの手からボトルを受け取り、キャップを開けて口に運ぶ。

ごくりごくりと喉を鳴らして飲んだ後、ぷはっと息を吐きだした。

 

「……まぁ、うん。麦茶って味よね。サッパリしてて悪くないけど……その、私はやっぱ炭酸のほうがいいわ」

 

「うん。そこは個人の好み。ただ、麦茶も悪くないし、決してババくさくなんてない、優れた飲料。便秘と冷え性にも効く。おすすめ」

 

「アンタって麦茶業界の回し者かなんかなの?」

 

呆れた様子のソーラーレイ。

 

「はぁ……でもまぁたしかにこれからはそういうとこにも気をつけなきゃかぁ。甘いものの飲み過ぎで体のバランス崩して負けたーなんてお話にならないもんね」

 

だが一応主張に対する納得はしてくれたらしい。

別に嫌いではないようでチビチビとだが口をつけている様子もある。

サナリモリブデンとしても、ならヨシと頷ける落とし所だ。

 

「炭酸も別に悪いわけじゃない。甘さも刺激もストレスには効果的。ただ、お風呂上がりには麦茶の方が良いだけ。適材適所で楽しめばいいと思う」

 

「そっか。まぁそーね。それはそれとしてアンタが結構わけわかんないし面倒くさいヤツってのもわかったわ」

 

「とても心外」

 

「はいはい」

 

調子を戻したソーラーレイは抗議を軽く流し歩き始める。

そろそろ大浴場の利用者が増えてくる時間帯だ。

あまり廊下にとどまっていては邪魔になってしまう。

そのまま2人は解散し、それぞれの部屋に戻った。

 

「……そういえば言い忘れてたけど、麦茶には美容効果も認められてる。ライブのセンターで歌いたいならやっぱりオススメ」

 

「別れ際に蒸し返さなくてもいいでしょ!? アレは忘れなさいよ!」

 

最後に、そんなちょっとしたからかいを投げ掛けてからだったが。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ソーラーレイの絆+5

成長:パワー+10/賢さ+5

獲得:スキルヒント/押し切り準備

 

押し切り準備/最終コーナーで先頭をわずかにキープしやすくなる<作戦・逃げ>

 

スピ:87

スタ:90

パワ:84 → 94

根性:126

賢さ:111 → 116

 

 


 

 

【3月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

適応訓練:芝     / 芝経験↑↑↑   スピード↑  パワー↑

適応訓練:ダート   / ダート経験↑↑↑ スタミナ↑  パワー↑

 


 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:87

スタ:90

パワ:94

根性:126

賢さ:116

 

【適性】

 

芝:E(5/10)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(0/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(0/50)

追込:C(0/20)

 


 



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ジュニア級 3月トレーニング結果~4月ランダムイベント

※ 2月のトレーニング結果に「冬ウマ娘〇」の効果を加算し忘れていたため、修正されています。



 

 

【選択内容】

 

適応訓練:芝

 

 


 

 

トレーニングでやる事は今日も今日とて変わらなかった。

芝。

芝。

芝。

とにかく芝を走りまくる。

回数をこなす事でしか得られないものを得ようというのだから仕方がない。

サナリモリブデンとてそれは理解しているので文句もなく、ただ走る。

 

「最近、夢の中でも芝を走るようになった」

 

「あはは、あるあるですねぇ。ウェズンに居た頃にも何人か居ましたよ、そういう事言ってる子」

 

その合間の休憩中、ふと漏らしたサナリモリブデンの言葉に郷谷はそう答えた。

いわく、適応訓練の最中は大体どんなウマ娘もそうなってくるのだそうだ。

辟易とし、朦朧とし、四六時中芝、あるいはダートの感触が頭から離れなくなり、夢の中にまで浸食してくる。

そんな日々が嫌というほど続いた後、もう嫌だという弱音を考える事さえなくなってくる頃にようやく適応が完了するのだという。

適性の矯正とはそういう過酷なものなのだ。

 

「なので普通はもっとうんざりした感じで文句を言われるんですけどねぇ。中にはストレスで荒れる子も居ましたし」

 

「1人で距離を伸ばそうとしてた頃に比べればまだマシだから」

 

「その経験持ってるのは強みですよ。なんで1人でやりきれたのか本当理解に苦しみますけど」

 

さて、そんな雑談の最中にサナリモリブデンは少し気になった。

郷谷トレーナーとは一体どんな人物であるのか。

 

もちろん、日々接しているのだからその表面は知っている。

服装は少々平均から外れているが内面は割とそうでもない。

突然奇行に走るような事はなく、トレーニングの内容や生活に関する指示も常識的。

過去の自主トレーニングの実態を知って怒り、本気で心配した様子から善人の類であるのもおよそ間違いない。

 

ただ、それ以外の事はサナリモリブデンはまだよく知らない。

先日ソーラーレイにトレーナーはどんな人物かと聞かれ「多分いい人」としか返せなかったのは記憶に新しい。

 

(私が何を求めているのか知ろうとしてくれたみたいに、私もトレーナーを知るべきなのかもしれない)

 

彼女がそんな考えに行き着くのはごく自然な成り行きだった。

 

「ウェズンって、どんなチームなの?」

 

というわけでと、サナリモリブデンはまずは浅瀬からと無難な疑問を口にする。

今も少し話題に出た、郷谷トレーナーが去年まで所属しサブトレーナーを務めていたというチームウェズン。

その雰囲気や経歴を知る事は、郷谷を詳しく知る一助になるだろう。

 

「ん-? そうですねぇ。ふふ、パッとしないチームですよ」

 

それに対し、郷谷は口元に苦笑を乗せて返した。

 

「未勝利戦を勝ったり負けたりしている時間が一番長かったですね。たまに上手く勝ち進んだ子がオープン戦に出走できるとなったらみんなでお祝いして応援して。まぁ大体勝てないんですけど」

 

だが、そこにマイナスの感情はない。

目元は優しげに緩み、声は懐かしむように弾んでいる。

それは好ましい思い出を語る時の表情だ。

郷谷を見つめるサナリモリブデンも気付き、憧れるように目を細める。

 

「それでも泣いて悔しがった後に、チーフトレーナーを中心に笑って次こそはと立ち上がれる。そんなチームでした」

 

「いいところだったんだ」

 

「えぇ、それはもう。ま、本当に成績はボロボロでしたけどね。チーフがもう甘々で厳しいトレーニングを課すのが苦手でして、むしろもっと色々しないとまずいんじゃとかメンバーの方から言い出すくらいに。おかげで業務時間外に何回自主トレに付き合ったんだか分かりませんよ」

 

カラカラと笑って言う。

私が抜けた今、チーフはメンバーにせっつかれてトレーニングメニューと必死ににらめっこしているのでは。

そんな風におどける郷谷はなんとも楽しそうな気配をまとっていた。

 

「こんな感じですかねぇ。あの頃に比べるとサナリさんは手がかからなくて体は楽なんですが、正直少し寂しかったりもします。もっとワガママや意見を言ってくれてもいいんですよ?」

 

「そう言われても思いつかない。トレーナーの指示には納得してるし、不満もないから」

 

「そうですかぁ……」

 

「仕事が増えた方が嬉しいの?」

 

「えぇ、それはもう!」

 

遠慮をしなくていいと示すためだろうか。

あからさまに分かりやすく落ち込むポーズを見せた郷谷に、サナリモリブデンが聞く。

すると郷谷は勢いよく顔を上げて答えた。

 

「トレーナーというのはとんでもない難関です。青春を全部放り捨てて頭のおかしい量の勉強を積み重ねて、頭のおかしい倍率の試験をクリアして、ようやく入口に立てる職業です」

 

顔の横にピッと指を立て、ニカッと歯を見せて笑う。

 

「それで何を得るかといえば、ウマ娘の皆さんを支える裏方の立場です。日の当たらない場所で、輝きたいと願う女の子を直接応援する以外に何もできません」

 

そして、手をゆっくりと下げていく。

指先はサナリモリブデンの胸元に向き、止まった。

 

「私たちはですねぇ。それでいいどころか、それがいいと思えるくらい貴女たちウマ娘が好きで好きでたまらないんです。貴女たちのためだというならどんな事だって出来るし、したいといつだって願っているものなんですよ。仕事なんて増えれば増えるほどいいってみんな思ってます。いいですかサナリさん。これはトレーナーという人種全員に共通する特徴なので是非覚えておいてくださいね」

 

「……ん。わかった。覚えておく」

 

なるほどとサナリモリブデンは納得した。

本当にトレーナー全員がそうかはおいておくとして、少なくとも郷谷に関しては嘘はない。

そう理解できるだけの熱はサナリモリブデンにも見て取れた。

 

「今は何も思いつかないけど、ワガママが言いたくなったら遠慮はしないようにする」

 

「はい、その時を楽しみにしていますよ。さて、そろそろ休憩は終わりにしましょうか。トレーニングを再開しますよ」

 

「うん、了解」

 

次にもしトレーナーの事を聞かれた時は、多分を外していい人だと紹介しよう。

サナリモリブデンはそんな事を考えながら、徐々に慣れつつあるターフへともう一度脚を向けた。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:成功

 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+10/パワー+10

経験:芝経験+3

 

スピ:87 → 97

スタ:90

パワ:94 → 104

根性:126

賢さ:116

 

芝:E(8/10)

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「目盛り」「三時のおやつ」「感嘆詞」

 

 


 

 

「サナリン! 私を監視してほしいの!」

 

とある春先の日の事。

同室のウマ娘、ペンギンアルバムの突然の大声が室内に響き渡った。

サナリモリブデンはそれに、キョトンとした目を返す。

 

「監視? って、何を」

 

「だから私をっ!」

 

しかし情報量は増えなかった。

ペンギンアルバムはどうにも取り乱しているらしい。

 

「……落ち着いて、最初から話してもらえる?」

 

なのでゆっくりと、背の低いペンギンアルバムに目線を合わせて優しく問う。

サナリモリブデンにとって、同室の彼女は大事な友人だ。

トレーナーとの契約に関する悪い噂に憤慨して本人以上の怒りを見せていた姿などにも感謝と好感を抱いている。

そんな相手が何やら必死な様子というのなら力になりたいと思うのは当然だろう。

 

「うぅ、それがね……た、体重計が、体重計の、目盛りがね!?」

 

が、そこまで聞いてサナリモリブデンの肩の力は抜けた。

感想としては、なるほどいつものか、といった所。

 

「うん、大丈夫。もう分かった。だから言ったのに。最近食べ過ぎだよって」

 

「うわぁん! だってぇ!」

 

だっても何もなく、ただの自業自得である。

 

ペンギンアルバムは健啖家だ。

毎日ご飯は山盛り食べるし、脂っこいものも大好きで、甘いものにだって目がない。

そして困った事に、それらを綺麗に脂肪に変えてしまえる体質の持ち主であった。

入学からこちら、サナリモリブデンが同じ悩みを聞かされた回数は両手の指ではもう数えきれない。

 

「今回はどんな感じなの?」

 

「こ、こんな感じ……」

 

「うわ」

 

「無慈悲な感嘆詞やめてぇ!?」

 

ぼるん、などと聞こえそうなお腹の様子にサナリモリブデンは思わず声を漏らした。

それは見事にクリーンヒットし、ペンギンアルバムがぴえーと泣き出す。

 

「私、私はただ美味しいものが好きなだけなのにぃ……! なんで太っちゃうのぉ……!」

 

「美味しいもの山ほど食べるからだよ」

 

実にシンプルな理論であった。

 

 


 

 

「というわけで、サナリンには私の監視をお願いしたいの。ダイエットが成功するように!」

 

「うん、まぁ、いいよ。アルにはお世話になってるから、協力は惜しまない」

 

ともあれ、そういう事になった。

ひとしきり泣いた後で復活したペンギンアルバムの頼みを、サナリモリブデンは承諾する。

 

ペンギンアルバムは食の誘惑にひどく弱い。

自分1人で食べてはダメだと自制していても上手くはいかないようだ。

外部の助けがなければ痩せられないタイプのウマ娘であり、それには行動を共にする時間が多いサナリモリブデンが一番の適任だろう。

 

「うぅ、ありがとうサナリン……やっぱり持つべきものは友達だよぉ」

 

頼みを受け入れられ、ペンギンアルバムはようやく落ち着いたようだ。

ホッと安堵の息を吐いて、流れるような動きで戸棚を開けた。

そして取り出されたチョコの箱を、同じく流れるような動きでサナリモリブデンが没収し鍵のかかる引き出しに放り込む。

 

ふむ、とサナリモリブデンが時計を確認するとちょうど午後3時。

呆れるほどに正確かつ習慣付きすぎた行動だった。

 

「アル」

 

「ごめん。今のは自分でもどうかと思った」

 

「うん。反省して」

 

素直に謝るペンギンアルバムに頷き返しつつ、サナリモリブデンはその頭をよしよしと撫でる。

前途多難な様子ではあったが、過去に相談を受けた回数と同じだけ減量にも成功している。

今回も数日かければなんとかなるだろうと見通しを立てた。

ウマ娘の代謝はそれを可能とするだけのものがある。

ヒトミミでは困難な短期間集中ダイエットでぽっこりお腹解消は、特に無理のない現実的なプランなのである。

 

 


 

 

「……プランだった、はずなんだけどね」

 

「どうして……どうして……」

 

死んだ目でベッドに横たわるペンギンアルバム。

ダイエット開始から一週間。

そのお腹は多少目減りしていたものの、まだ大きいままだ。

 

「今回の脂肪はしつこいね。密度が高いのかな」

 

「きっとギュウギュウに詰まってるんだぁ。お肉だけに、牛みたいにね。んへへ……」

 

「正気を失ってる……」

 

虚ろに笑うペンギンアルバムはそろそろ精神が致命傷だ。

何しろ、彼女の担当となったトレーナーは男性だそうなのだが。

 

「トレーナーさんもねぇ……最近視線がね……? お腹にね……? ふへ、そんでさ、食事量もこっちで完全管理しようか? って……」

 

「むごい」

 

サナリモリブデンはそっと天井を仰いだ。

いっそストレートに叱られた方がマシだった事だろう。

自身の恥部を生暖かい目で指摘されるというのは年頃の娘にとってはもう、むごいの一言だ。

 

虚ろな笑みをこぼし続けるペンギンアルバムに、サナリモリブデンは決意を固めた。

監視だけでは足りない。

もっと積極的に減量に協力して、現状をなんとかせねばならないと。

 

 



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ジュニア級 4月イベント結果〜4月トレーニング選択

 

【投票結果】

 

脂肪を燃やす、とことん動こう(得票率100%)

 

 


 

 

痩せたい。

そう考えた時、まず何をすべきか。

その答えはたったひとつ。

 

「ふぬうううぅぅぅ!」

 

「運動するしかない。頑張ろう、アル」

 

ガーガーと音を立ててランニングマシンが回転する。

その上で懸命に脚を動かすのは当然ペンギンアルバムだ。

余りに必死なものだから、いつもはつぶらで愛らしい瞳も厳しく吊り上がってしまっていた。

汗だくになって気合を吐きながら、ぽよんぽよんのお腹を揺らして走る。

 

「ほら見て。カロリーがもうこれだけ消費されてる。勝利は遠くないよ」

 

「うんっ、うんっ……!」

 

そして走れば走るだけ、モニターに表示されている消費カロリーの数字が大きくなっていく。

それが小さいながらも目に見えた進行度として達成感を与えてくれて、ペンギンアルバムは嬉しそうに頷いた。

 

「で、でもっ、ごめんねっ! サナリンは、関係、ないのにっ」

 

「いいよ。こっちもトレーニングになるし、一緒にやった方がやる気でるでしょ」

 

だが、ペンギンアルバムはすぐに申し訳なさそうな顔になった。

何故といえば、隣のマシンではサナリモリブデンが同じメニューをこなしているからである。

 

太ったのはペンギンアルバムだけ。

体重に大きな変化のないサナリモリブデンがダイエットを行う理由はない。

なのにこうして付き合っているのはペンギンアルバムのモチベーションのためだ。

 

ダイエットは果てしない道だ。

1人で行くには険しい。

だが2人なら耐えられる。

そのために郷谷やペンギンアルバムのトレーナーの許可の下、こうして脂肪燃焼に協力して取り組んでいるのである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

さらに言うなら、こういった付き添いに関してサナリモリブデン以上の人材はそう居ない。

何しろこの芦毛のウマ娘は緩むという事を知らない。

100%自分が原因で付き合わせている相手が全力でやり続けてくれているというのにダイエットを投げ出せるほど、ペンギンアルバムは恥知らずではなかった。

 

「うぅ、ありがとう、ありがとうサナリンッ!」

 

「いいって。……よし、残り10分切ったよ。最後まで頑張ろう」

 

「うんっ!」

 

「あ、それとこれ終わったらプールと坂路に予約入れてあるから。そっちも頑張ろう」

 

「───お慈悲!」

 

「ないよ」

 

 


 

 

そのように、サナリモリブデンはペンギンアルバムをよく支えた。

時に叱咤し、時に慰め、時に励まし。

間食の誘惑に伸びる手を叩き、カロリー制限しつつも倒れないラインを攻める方策を共に考え。

そして常に小柄な青毛の隣を走った。

 

その結果……。

 

 


 

 

【NPC判定】

 

≪System≫

サナリモリブデン同様にNPCも判定を行う事があります。

 

難度:45

参照:ペンギンアルバムの根性/78

 

結果:47(成功)

 

 


 

 

深呼吸をひとつふたつ。

そうして勇気を出して足を踏み出し、体重計に体を乗せる。

カタカタと針が回り、指し示された数字は。

 

「……や、やったー! 久しぶりの適正体重ー!」

 

ペンギンアルバムが両手を上げ力強く宣言する。

針は確かに彼女の適正体重を示していた。

お腹もスッキリ絞られ、消えていたくびれも復活している。

今のペンギンアルバムならばへそ出しの衣装も恥じる事なく着られるだろう。

 

「おめでとう。アルは良く頑張ったと思う。本当にお疲れ様」

 

「ありがとう! これも全部サナリンのおかげだよー!」

 

ペンギンアルバムは大袈裟なほどに喜んでサナリモリブデンに抱き付いた。

小さな見た目からは想像しにくいほどのパワフルな腕力でぎゅうぎゅうと抱きしめられて、サナリモリブデンとしても少し苦しいくらいである。

しかしそんな苦しさよりも減量を成功させた達成感の方が勝っていたのだろう。

サナリモリブデンもまた笑顔を浮かべていた。

 

「ん。全部ではないけど、どういたしまして。次からはもう太らないように食事量の管理を徹底しよう。あと間食も控える事」

 

「うんうん、わかってるわかってる! トレーナーさんにも言われたしね」

 

だといいんだけど、とサナリモリブデンは思いつつも口には出さない。

これまでも繰り返してきたようにまた日が経てば油断から大食するようになりかねないと予想はしているものの、わざわざ今水を差す事もない。

今度からはきつく止めれば良い話だとも考えてだ。

 

それに。

 

「……しごく側の立場っていうのも、結構楽しいものだったし」

 

「ん? なんか言った?」

 

いいや、と首を振ってサナリモリブデンは軽くとぼける。

 

彼女にとって、ダイエットの監督はなかなか充実した時間だったのだ。

その成功による大きな達成感も合わせて大満足で鼻息も少し荒い。

端的に言って楽しい日々であったため、今もまだやる気に満ちている。

どこかに助けを求めている太り気味の子は居ないものかとちょっと考えたりもした。

 

(もう一度太ってほしいとは思わないし、体型の維持には協力するけど)

 

大喜びの様子で体重計の乗り降りを繰り返し始めたペンギンアルバムを見やり、サナリモリブデンは心の中だけで思う。

 

(もし私やトレーナーの目をかいくぐってまた膨れる事があったら、次はもっと色々やってみよう)

 

そうして、普段余り変わらない表情をほんの少し笑みの形に変えるのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+10

成長:スピード+5/スタミナ+5/パワー+5

獲得:コンディション/好調

 

スピ:97 → 102

スタ:90 → 95

パワ:104 → 109

根性:126

賢さ:116

 

調子:好調/次のレース時、能力が少し上がる状態。レースが終わると解消される。

 

 


 

 

【4月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

適応訓練:芝     / 芝経験↑↑↑   スピード↑  パワー↑

適応訓練:ダート   / ダート経験↑↑↑ スタミナ↑  パワー↑

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:102

スタ:95

パワ:109

根性:126

賢さ:116

 

馬魂:94

 

 

【適性】

 

芝:E(8/10)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(0/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(0/50)

追込:C(0/20)

 

 


 



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ジュニア級 4月トレーニング結果~5月ランダムイベント

 

 

 

【投票結果】

 

適応訓練:芝

 


 

すっかり馴染みとなった芝のコース。

そこに、サナリモリブデンと同時にもう1人ウマ娘の姿があった。

ハーフアップの青毛をなびかせて走る小柄な少女、ペンギンアルバムである。

 

併走トレーニングだ。

これはウマ娘の闘争本能を引き出し、勝負根性を養うために行われる事が多い。

が、今日のこれはそれが目的ではない。

 

「…………」

 

隣を走るペンギンアルバムの脚運びをサナリモリブデンは注視する。

関節の使い方、つま先から駆け上る筋肉の躍動、地を蹴りぬいた後の回転。

それらを目に焼き付けるように。

 

つまり、芝に適した走法の手本としてだ。

ペンギンアルバムの芝に対する適性はこの世代ではトップクラス。

1月に行われた選抜レースでは「まるでものが違う」と評されさえしたそれを至近で見て学べる事は、サナリモリブデンにとって大変な幸運だろう。

先日のダイエットへの協力、その意外な見返りだった。

特に。

 

「よっし、そろそろいくよー!」

 

直線に向いた瞬間、炸裂したと錯覚するほどの強烈な末脚。

それまで抑えに抑えてきた力が解き放たれ一瞬でカタルシスに上り詰める衝撃の一閃。

同じウマ娘として嫉妬と羨望を覚えるほどの鋭さを目にできた事は得難い経験だったと言えるだろう。

 

今のサナリモリブデンは、それをただ見送るだけしかできない。

飛ぶようにゴールへと走り去る背はたちまちに離れていく。

模倣など論外で、猿真似さえおぼつかない。

 

(……なるほど)

 

それでも理解できた部分はある。

ほんのわずか、足首のバネの使い方、爪先での跳ね方に小さなヒントをサナリモリブデンは得た。

 

(こうすればよかったのか)

 

それ単体では理解が及ばず、これまで重ねた訓練の経験と合わせてようやく気付けた走法の齟齬を修正する。

何故今まで出来なかったのかが分からないほどスムーズにそれは為され、遥か背を追う速度がぐんと上がった。

 

もちろん、それでも足りない。

まだ未熟で無駄は多く、同世代の上位層には2段3段の差をつけられている。

しかし確かに今、サナリモリブデンは一歩先の領域に進んだのだった。

 


 

【トレーニング判定】

 

結果:成功

 


 

「今日はお疲れ様でした、サナリさん。ふふ、長かったですがようやくひとつ掴めましたね」

 

トレーニングが終わり、ペンギンアルバムは担当トレーナーに連れられて去っていった。

それを見送ってからトレーナー室に向かい、郷谷とサナリモリブデンは軽いミーティングを行う。

 

「うん。懐かしい感覚」

 

確かめるように言った郷谷に、間違いないとサナリモリブデンが返す。

 

「距離を伸ばした時と同じ。急にやり方が分かるようになるアレが来た。次からは間違わずにやれると思う」

 

「えぇ、えぇ。見ていてもハッキリわかりました。完璧に走り方が切り替わってます」

 

サナリモリブデンは満足げで、郷谷も喜びを露わにする。

時間をかけた苦労が報われ目に見える成果を得られたのだ。

喜ぶのは当然の事。

郷谷などは今にも鼻歌が飛び出しそうな表情だった。

 

「さて、これでなんとかメイクデビューでの勝ちの目も見えてきましたよ」

 

そして続けて語る。

今のサナリモリブデンならば、選抜レースの時のような事にはならない。

あの時はレースを走っていながら勝負の土俵にさえ上がれないような状態だったが、次は真っ向から勝負という形になるはずだと。

 

「とはいえ、簡単な勝負にはなりません。サナリさんはこの3ヶ月を適応訓練に費やしました。その間、他の子は純粋に能力を鍛えてきています。この差は小さくないでしょう」

 

郷谷は腕を組み、眉間に皺を寄せる。

なんとも悩まし気な様子だ。

 

「さらには芝に慣れたと言っても、ようやく平均かそれよりやや下といったところです。……悩みどころですねぇ。まだもう少し芝の適性を伸ばすか。それとも基礎能力を重視して置いていかれた分を少しでも取り戻すか」

 

「ん……勝ちの目が大きいのは?」

 

「そうですねぇ……」

 

サナリモリブデンの疑問に、郷谷はホワイトボードの前に立った。

そしてキュキュキュと絵図を描き上げる。

 

 

「まずメイクデビュー。この時点での勝率だけを考えるなら基礎能力を鍛えるべきでしょう」

 

ウマ娘のデビュー戦の時期は決まっている。

6月だ。*1

それまでに費やせるトレーニングは5月の分だけしかなく、これで芝適性を次の段階に上げるのは間に合わない。

ならば当然メイクデビューでの勝利を目指すならば基礎を鍛えた方が良い。

 

 

「ですがその先、メイクデビューの後の事を考えるなら、現状の訓練を続ける事にも意味が出てきます

 

対する次のプランは芝訓練の継続だ。

こちらの利点はメイクデビュー後の立ち上がりが早くなる事だ。

サナリモリブデンがあと1段階適性を上げる事が出来れば、芝だからと不利を得る事はなくなる。

そうなればレースで勝利を手にする可能性はぐんと上がるだろう。

もちろん、その分基礎能力の積み上げが後回しになり、メイクデビューは厳しい戦いになるが。

 

 

「……ただ、残る芝への習熟は実戦に丸投げするという手もあります。ん-、本当に悩ましいところなんですよー、ここ」

 

そして最後に、適性は最低限度確保できた現状で一旦忘れて実戦で培うというプランだ。

芝への慣れはこれまでトレーニングで育ててきたが、それが最も鍛えられるのは実際のレースである。

特に勝利や上位入賞を達成できたような上手く走れたレースでは訓練よりも実入りが多い。

なのでもう適応訓練は行わずにひたすら能力を上げ、適性は長い目で見てしまうのだ。

手近な勝率ではなく、最終的な育成効率を考えるならこちらも捨てがたい手になる。

 

 

結局その場で結論は出る事なく、決定は翌日に持ち越された。

サナリモリブデンと郷谷は部屋を出て別れ、それぞれの寝床へと戻っていく。

 


 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+10/パワー+10

経験:芝経験+3

 

スピ:102 → 112

スタ:95

パワ:109 → 119

根性:126

賢さ:116

 

芝:E → D(1/10)

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「コルク」「横顔」「セキュリティ」

 


 

パシャリ。

サナリモリブデンの勉強への集中を断ち切ったのは、そんな軽い電子音だった。

 

「っ?」

 

反射的に背がはねた。

芦毛の中から突き立つウマ耳がピクンと震え、音の出処へサッと向く。

 

「……え、なに?」

 

「んへへ、ごめんごめーん☆ サナリンが無防備だったからつい」

 

とはいえ犯人は分かり切っていた。

ここは寮。

サナリモリブデンの自室である。

となれば何かをやらかしたのは同室のペンギンアルバムの他にない。

 

で、何をしたかと言うと簡単だ。

手に構えている小さなデジタルカメラが全てを物語っている。

 

「サナリンってさー、横顔綺麗だよね。ポニーテールのシルエットも好きだなー」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ん……そう? ありがとう」

 

動機もしっかり語られた。

セキュリティなど意識さえしていない勉強中の姿をただ撮りたかっただけらしい。

集中の邪魔をされた形となったサナリモリブデンだが、抗議の声はない。

彼女としても綺麗と言われて嫌な気分はないのだ。

そもそもイタズラとしても可愛らしいものであり、別段怒る必要も感じていないというのもある。

 

そこでサナリモリブデンはペンを置いた。

ちょうど区切りの良いところだったらしい。

文字を追って疲れた眉間を揉んでから教科書とノートを閉じ、復習を終わりとする。

 

「でも、顔が綺麗なのはアルの方だと思うけど」

 

「おっ? えへへ、そうかなー」

 

「うん。特に目が。大きくて綺麗。覗きこまれるとちょっとドッキリする」

 

「やだもー! 褒められたら照れちゃうじゃーん!」

 

言いつつ、手をパタパタと振るペンギンアルバム。

その仕草自体はちょっとおばさんくさかったが、身長140cmの彼女がやると愛らしさが勝る。

なんとも可愛らしい様子だった。

 

「……ところで、さっきの貼るの?」

 

と、ペンギンアルバムの機嫌を良くしたところでサナリモリブデンが口を開いた。

声色はちょっと低めに。

おそるおそる、といった印象だ。

 

「ん-……だめ?」

 

「できれば」

 

「ちぇー」

 

サナリモリブデンの要望を受け、ペンギンアルバムは残念そうに承諾した。

そしてしょんぼりした目で壁を見る。

 

「せっかくここにちょうどいいのが撮れたと思ったのになー」

 

そこには大き目のコルクボードがかけられている。

ペンギンアルバムの趣味で、ピンで止められた写真が何枚も飾ってあるのだ。

 

寮生活初日に撮った、サナリモリブデンとペンギンアルバムの顔が並ぶ記念写真。

意気投合したクラスメイト達とのファーストフード店でのひと時の記録。

家族にでも撮ってもらったのか、おろしたてらしい制服姿でピースをする本人。

彼女のトレーナーを写した物もある。

人物だけでなく、雨上がりの虹、花壇にやってきた丸くてふさふさのハチ、美味しそうな山盛りパフェまでも。

そういった色々だ。

 

ただ、その中央には何も貼られていない。

ちょうど写真1枚分、すっぽりとスペースが空いているのだ。

 

「真ん中っ! って感じの写真はなかなか撮れないんだよー? ほんとにだめ?」

 

「できれば」

 

「ん~~~ダメかぁ」

 

いわく、こだわりらしい。

ど真ん中にはど真ん中として格が求められるとペンギンアルバムは言う。

 

「私の横顔がそんなに真ん中っぽいの?」

 

「うん! 正確にはねぇ、横顔がっていうよりサナリン自体がかな」

 

そういうものなのだろうか、とサナリモリブデン。

そうなんだよ、とペンギンアルバム。

両手の人差し指と親指を組み合わせて四角を作り、覗き込んでうんうんと小柄な青毛が頷く。

 

「うーん、やっぱり真ん中。サナリンってそういう素質あると思うよ」

 

「よくわからないかな」

 

「本人はそうなのかも。やっぱりこういうのって外から見てこそだかんね」

 

ペンギンアルバムの言は抽象的で要領を得ず、結局サナリモリブデンには理解がかなわない。

とりあえずそういうものらしいとだけ納得しておく事とした。

ともかく、無防備な横顔がコルクボード中央に鎮座する事態は防がれた。

サナリモリブデンとて人並みに羞恥心はある。

日常的に目にする箇所に自分の顔が、明らかな特別扱いを受けて飾り立てられるというのは避けたいのが正直な気持ちだった。

 

「じゃ、残念だけど諦めるかー。……仕方ない。そろそろ寂しいし暫定で真ん中に近いの貼っとこ」

 

幸いにしてペンギンアルバムがどうしてもと食い下がる事はなかった。

代わりの候補、といっても彼女にとって格は一段下がるらしいが「真ん中っぽさ」が多めだという写真が何枚か広げられる。

 

水族館の水槽を泳ぐ魚の群れ。

肉と肉と肉とチーズにまみれたピザ。

塀の上で丸くなりつつも警戒に耳を伏せる猫。

どこかの店先に展示された骨董品の大きなカメラ。

 

サナリモリブデンは釣られるように覗き込んで、反応に困った。

これらと並んで自分が「真ん中っぽい」という評価に首を傾げる。

 

「ねーねーサナリン。サナリンだったらどれ真ん中にする?」

 

などと聞かれても難しい話だが、サナリモリブデンは4枚の写真を眺め比べて考え込んだ。

 

*1
現実では6月と決まってはいませんが、ゲームの都合上、日程が固定されています。



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ジュニア級 5月イベント結果~5月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

狸寝入りの猫

 

 


 

 

この4枚からどれか1つ。

そう言われたならとサナリモリブデンは指を伸ばして指し示した。

 

「これかな。猫」

 

それは猫の写真だ。

先述の通り塀の上。

日当たりの大変良いそこで丸くなり、一見のんびりと昼寝しているように見える。

 

が、それはあくまでぱっと見の印象だけだ。

よくよく注意して見れば耳がいわゆるイカ耳の形に伏せられ、周囲に警戒を払っていると分かる。

畳まれた脚にも力が入っていて、何かあれば即座に猛スピードで飛び退いてみせるだろう。

 

そのいかにも野良らしい姿にサナリモリブデンは好感をもった。

 

「いいよね。とてもかわいい」

 

もっとも、そもそもとして猫好きということもあったようだが。

椅子に座るペンギンアルバムの肩越しに手を伸ばし、机の上の写真に触れる。

猫の頭の部分をくすぐるように、サナリモリブデンは爪の先で撫でた。

 

「おー、サナリン猫好きなの?」

 

「うん。あったかくて、柔らかくて、好き。意外と優しいところとかも」

 

呟くようなサナリモリブデンの声がペンギンアルバムに届く。

写真を共に覗き込んでいる体勢の都合上、それは耳元に直接するりと入っていった。

 

「地元に野良が居たんだ。普段はおやつ持ってないと寄ってこないのに、寂しい気持ちの時はなんでか足元にまとわりついてくる子。懐かしい。写真の子と、少し柄が似てるかも」

 

「へー、いい子だ! いいなぁ……。この子は全然近寄らせてくれなかったんだよねー」

 

恨めし気な声を出して、ペンギンアルバムが写真の猫の額を弾く。

 

「ちゅーるの匂いにも見向きもしなくてさ。こーんな無防備に見えるのにちょっと近付いたら目パチッて開いて睨んでくるの。ぐぬぬ、可愛いのににくたらしい」

 

「生粋の野良なんだろうね」

 

「ちゅーるよりネズミとかの方が好きなのかなぁ」

 

「そうかも」

 

他愛もない会話が続く。

適当な感想に適当な予想を重ね、適当な相槌を返す。

ぼんやりとした目的のない時間だった。

 

サナリモリブデンの声は静かで、落ち着きに富む。

こういった空気を作るのは得意な部類の性質だ。

いわば曇った午後の薄明りの中で聞く弱い雨音のようなもの。

寮の部屋の中、耳元で囁かれるペンギンアルバムはだんだんと思考を緩くしていく。

 

「ネズミ、ネズミかぁ。……あれ、ネズミってそんな食べるほどいるかな」

 

「ネズミ捕りとか売ってるくらいだし居るところには居ると思う」

 

「あー、そっかそっか。言われてみればそうだわ。アレ実用品だもんねぇ」

 

空気がぼんやりとしているものだから、話もぼんやりと流れていく。

行くあてもオールもないボートのよう。

 

「そういえばネズミってチーズあんまり食べないんだって。サナリン知ってた?」

 

「え、知らない。そうなの?」

 

「においが強くてあんまり寄ってこないらしいよ。ネズミ捕りに使うならお米とかいいみたい。あとはヒマワリとかカボチャの種」

 

「……ハムスターっぽい」

 

「そりゃ仲間だもん」

 

「そっか」

 

「そうそう。……あれ? なんの話だっけ」

 

と、そこまで脱線したところでようやくペンギンアルバムがはたと気付いた。

確か何か意味のある会話をしていたはずだぞと記憶を探る。

 

「えっと……猫の話?」

 

「ちがうちがう、写真の話じゃん! ついついまったりしちゃった」

 

そして無事に復元に成功する。

頭のしゃっきりしたペンギンアルバムは引き出しから画鋲の箱を取り出し、写真の貼り付けを始めた。

 

コルクボード中央のスペースに狸寝入りの猫が鎮座する。

周囲には囲むようにマスキングテープが貼られ、それがリボンのように整形されて見た目が整う。

オマケとばかりにコピックで色とりどりに着色すれば、素人仕事とは思えない華やかな出来栄えだ。

サナリモリブデンの目には魔法のようにすら映る。

溜息しかでない、というやつだ。

 

「でーきたっ☆ ん-、どうこれ」

 

「120点」

 

「何点満点?」

 

「10点満点」

 

「いぇーい」

 

ご機嫌なペンギンアルバムと、感嘆し称賛するサナリモリブデン。

2人はスッと手を掲げ、パチンと打ち合わせた。

別にサナリモリブデンは見ていただけで何もしていないのだが、それはそれである。

 

「サナリンさ、その地元の子に構ってたんなら慣れてるでしょ? 今度この子に会いにいこうよ! 絶対懐かせてお腹撫でてやるって決めてるんだよね。手伝ってー!」

 

「ん。いいけど。でも結局猫の気分次第だと思うよ。私も警戒の解き方はよく知らないし」

 

「その時はその時でどっか遊びに行こ! 近くにお店色々あるしさ!」

 

「うん。じゃあそうしよっか」

 

「んへへ、決まりね!」

 

そういう事になり、2人は約束を取り付けた。

いかにも警戒心の強そうな野良を撫でられるかは正直怪しい。

だが友人と一緒なら成功しようが失敗に終わろうがきっと楽しいだろうと、サナリモリブデンは期待に頬を緩めるのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+5

獲得:スキルPt+40

獲得:スキルヒント/展開窺い

 

展開窺い/レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる

 

スキルPt:120 → 160

 

 


 

 

【4月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

適応訓練:芝     / 芝経験↑↑↑   スピード↑  パワー↑

適応訓練:ダート   / ダート経験↑↑↑ スタミナ↑  パワー↑

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:112

スタ:95

パワ:119

根性:126

賢さ:116

 

馬魂:94

 

 

【適性】

 

芝:D(1/10)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(0/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(0/50)

追込:C(0/20)

 

 


 

 



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ジュニア級 5月トレーニング結果~6月固定イベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

適応訓練:芝

 

 


 

 

「トレーニング中は普通にスポーツドリンクなのね……」

 

「……?」

 

「何の話、みたいな顔してんじゃないわよアンタ……!」

 

引き続いての適応訓練。

今日も今日とて芝を走るサナリモリブデンである。

基礎能力の向上は後に回し、時間のかかるターフへの慣熟を優先したのだ。

来月に控えたメイクデビューでの勝率低下を承知の上で、郷谷とサナリモリブデンは先を見据えたという事になる。

 

さて、そんなサナリモリブデンのトレーニングに付き合うウマ娘が1人居た。

サナリモリブデンが走った選抜レースの勝者、褐色肌に栗毛の娘、ソーラーレイである。

 

特に示し合わせての事ではない。

単純に芝のコースに同じ時間帯に予約を入れていて、ウマ娘同士が顔見知りであったために軽く併走でもという事になったのだ。

 

ソーラーレイの得意な短距離に合わせ、2人ですでに数本を走り終えた。

全力を出すわけではないウマ娘なり。

けれど熱の入りやすい併走という事もあり、疲労の回りは早く汗も多い。

それぞれのトレーナーも無理をさせる必要のない場面なので早めに休息を指示し、逆らう意味もないので普通に並んで休んでいるところだ。

 

「そうですね、スポーツドリンクですよ。サナリさんに合わせてちょっと調節してはいますけど」

 

「ぁ、ど、どうも……えっと、郷谷さんだっけ」

 

「はい、郷谷静流です。気楽にゴーヤちゃんでもいいですよ? なんなら静流ちゃんでも大丈夫です。教育実習の先生を呼ぶような感じで是非」

 

「あ、はは、考えとく」

 

と、そこにサナリモリブデンのトレーナー、郷谷がやってくる。

飲み物の話題が出たのを聞きとめたようだ。

サナリモリブデンが口をつけている水筒に目をやりながら、大人には弱めの態度らしいソーラーレイに言う。

 

「機能的には市販のものと殆ど差はありませんけどね。舌に感じる甘味の強さや喉越し、後口の風味なんかは若干工夫してます。ソーラーレイさんのものも恐らくそうでしょう?」

 

「え、うん、そのはず。トレーナーがそう言ってた」

 

ソーラーレイはちらりと自身のトレーナーに目を向ける。

そろそろ壮年から中年に呼ばれ方が変わるかという年齢の男性だ。

契約しているのはソーラーレイだけではないらしく、これから走ろうとしている他のウマ娘と何やら話し込んでいる。

 

「……でもそれ、そこまでする必要あるの? 別に普通に売ってるやつでいいと思うんだけど」

 

「ん、私も同感」

 

そちらを見ながらのソーラーレイの言葉にサナリモリブデンも同意する。

先日は麦茶に強いこだわりを見せた彼女だが、スポーツドリンクについてはそうでもない。

わざわざ郷谷の時間を奪ってまで用意してもらわなくても良いというのが率直な意見だ。

 

「それがですねぇ、そうでもないんですよ。これ、一応しっかり実証されて論文にもなってる事なんですけどね?」

 

が、対する郷谷は否定する。

いわく、そのほんの少しの差が休憩時の回復力増加ややる気の維持に役立つのだとか。

それも中々バカにできない程度には有意な差が確認されているらしい。

 

「なので基本的にはどのトレーナーも担当1人1人に合わせてドリンクを調整しているはずです。私の知る限り例外は1人だけですし、それも担当の子の体に市販品がピッタリ合ってたっていう事情でしたよ」

 

「へー……」

 

「はぇー……」

 

興味深そうに頷くサナリモリブデンに対し、どこか上の空な様子のソーラーレイ。

どうやらソーラーレイの方はこういった理論の話は苦手なようだ。

論文、という単語が出たあたりから既に彼女の顔からは興味や聞く気が失せていた。

 

感覚で走る子なのだろうな、と郷谷は理解する。

勝負根性に富むのは同じだが、その下で同時に思考も回せるサナリモリブデンとは逆側のウマ娘である。

 

こういうタイプは目で見てから判断を下し行動に移すまでがとにかく素早い。

思い切りの良さと、一瞬の判断に身を委ねられる自信を武器としているのだ。

フィジカルだけでなくメンタル面でもスプリンターという事。

その噛み合いの良さからすれば少なくともジュニア級の短距離戦では台風の目になるだろうという予想は、まだ年若い郷谷にも簡単に導き出せる結論だった。

 

といったところで休憩は終わる。

2人は再びターフに戻り、残り何本かの併走をこなした。

 

内容は全く普段と同じ。

変わり映えのしないいつも通りの芝を蹴るための適応訓練。

けれど、ドリンクの工夫の話を聞き、舌と頭の両面で効果を理解して走ったためだろうか。

この日の実入りは随分と良かったようにサナリモリブデンには感じられたのだった。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:大成功

 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+20/パワー+20

経験:芝経験+6

 

スピ:112 → 132

スタ:95

パワ:119 → 139

根性:126

賢さ:116

 

芝:D(7/10)

 

 


 

 

【固定イベント/スキル習得・ジュニア級前期】

 

 

さて。

芝、芝、芝と日々走り続けているサナリモリブデンだが、他に何もしていないわけではない。

本格的に鍛えるほどではないもののプールにも入るし坂路も駆ける。

タイヤを引く事もあればウェイトトレーニングを行う事もある。

 

そしてもちろん。

 

「さ、今日の授業を始めますよ。教本の47ページを開いてください」

 

「ん」

 

座学もそのうちのひとつだ。

 

トレーナー室の中、お馴染みホワイトボード前で教鞭を取る郷谷にこくりと頷き、サナリモリブデンは教本をめくる。

そこに書かれているのはレース中に行われる駆け引き……の、基礎の基礎だ。

内容としてはごく軽いもので、いっそ稚拙にさえ見える。

こんなものが本当に何かの役に立つのかと思えるほどにだ。

 

「ですが、実際に走り始めると抜け落ちるんですよねぇ、これが。全力で走りながら頭を回すのがどれほど難しいかっていう事です」

 

だが実際は郷谷の言の通り。

自動車にも匹敵する速度で走る最中では、初歩の駆け引きですら行えるウマ娘は、少なくともジュニア級ではそう多くない。

メイクデビュー前後ではいっそ希少と言って良いほどだ。

仕掛けられた側もごく簡単なはずの対処法を思い出せず、見ているだけの側からすればなんで引っかかるのかと首をひねるほどあっさりと追い詰められるような場面も良く見られる。

 

「ですのでしっかり学んでおきましょう。極限状態でも自然と思考に乗せられるぐらいに、何度も復習を繰り返します。1つ覚えれば勝機が1つ増えるんですから、やらない手はありませんよ」

 

「うん、了解。頑張ってしっかり覚える」

 

「えぇ、はい、その意気です。期待していますよ」

 

芝の訓練以上に地味だが、こうした積み重ねなくして勝利を掴む事は出来ない。

やる気いっぱいで頷いたサナリモリブデンは、聞き逃しのひとつも無いようにと郷谷の指導に耳を傾ける。

 

 


 

 

≪System≫

6ヶ月ごとに1度、スキル習得が可能です。

習得にはスキルごとに設定されたスキルポイントを消費する必要があります。

習得を希望するスキルをスキルヒント一覧から選んでください。

スキルを習得せず、ポイントを貯めておく事も可能です。

スキルポイントは日常イベントやレース出走で獲得できます。

 

【スキルヒント一覧】

 

冬ウマ娘◎  100Pt

(冬のレースとトレーニングが得意になる)

 

押し切り準備 150Pt

(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

 

展開窺い   150Pt

(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

 

所持Pt:160

 

 




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ジュニア級 6月イベント結果~6月レース選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

今回は習得しない

 

 


 

 

「さて、それではまずおさらいしましょうか。レース中、サナリさんが他の子に何か駆け引きを仕掛けられたとします」

 

郷谷がホワイトボードにマジックを走らせる。

それは意外なほど上手く、最低限の線でありながら2人のウマ娘とわかるイラストがするりと描き出された。

片方は髪型からサナリモリブデン。

もう片方は特に誰という事もなさそうだが、サナリモリブデンに向かって体を寄せようとしているようだ。

 

「こういった時に冷静に対処するためには何が効果的か。サナリさんは覚えていますか?」

 

「ん。どういう時にどう対応するか、事前に決めてパターンを覚え込んでおく」

 

それをトントンと叩きながらの問いにサナリモリブデンは即答した。

教え子が以前教えた内容をきっちり記憶していた事に郷谷は気を良くし、ニッコリと目を細める。

 

「はい、その通りです。レースでは秒単位で状況が移り変わります。そんな中で悠長に、相手がこう動いたから自分がこう返せばこうなる……なーんて考えている暇は普通はありません」

 

郷谷はイラストを描き足した。

デフォルメされたサナリモリブデンの頭から漫画的な吹き出しが伸びる。

その中には簡略化された樹形図がぽんと放り込まれた。

 

「ですので、レース中にやるべき事は定型化された対応の内、適したものを選択するだけ。考えるのは事前に落ち着いた場所で済ませておく、というわけです」

 

「うん、よくわかる。合理的」

 

「まぁ本当に頭の良い子の中には走りながら当たり前みたいに思考を回せたりですとか、あるいは周囲がどんな対応を選ぶかを読み切ってその先に罠を仕掛けるですとか、そういうちょっと信じがたい天才もいますが……っと、そんなのは今は気にしなくていいですね。そういった怪物は現れるとしてもシニア級でしょう。流石に全員が発展途上なジュニア級やクラシック級の前半では出てこないはずですから」

 

話を戻して、と郷谷は樹形図をコンコンと叩く。

 

「ともかく、今日詰めるのはここです。レース中にはどんな事が起きるのか。サナリさんの能力ではどう対処するのが適切か。映像資料を見ながら話し合っていきましょう」

 

そうして、ホワイトボードの横にモニターがやってくる。

郷谷のノートパソコンを接続されたそれには再生待機状態の動画が表示されていた。

タイトルには「XX年10月 アイビーステークス」とある。

芝のマイルで争われるジュニア級のオープンレースだ。

ネット上に上げられているようなものではなく、PCの中に直接保存されている動画データらしい。

 

「これは去年ウェズンの新人の子が走ったレースです。この時期では珍しいくらいに駆け引きが飛び交った一戦だったので教材にはちょうどいいんですよ。まずは一度全体を流しますね」

 

「ウェズンの……そうなんだ。何番見てればいいかな」

 

「最初は前の方を見ていて下さい。6番のドラグーンスピアさんの動きと、それに押されて形を変えていくバ群の様子ですね」

 

郷谷はまだ動いていない画面の中、ゲートに佇む6番を指す。

それから指をついっと滑らせて、今度は別のウマ娘を示した。

 

「800を過ぎたあたりから注目すべきは中団後方。3番のセレンさん……セレンスパークさんが前を崩しにかかりますので」

 

セレンスパークを見る郷谷の目はやや緩んでいた。

おそらくこのウマ娘がウェズンのメンバーなのだろうとサナリモリブデンにも分かる。

視線が親しい知人に向けるそれだ。

 

「わかった。2人から目を離さないようにしておく」

 

サナリモリブデンは頷き、動画が始まる。

 

メイクデビューまであと少し。

その直前、最後の詰めのトレーニングは部屋の中で静かにスタートした。

 

 


 

 

【習得済みスキル/変動なし】

 

冬ウマ娘〇(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 


 

 

そうして時は過ぎ、レースの日が迫る。

 

6月、メイクデビュー。

トゥインクルシリーズに挑むウマ娘達全員が挑む、本番における最初の関門である。

 

メイクデビューは様々な条件のものが存在する。

芝、ダート。

短距離、マイル、中距離。

成長中の体を鑑み長距離のレースはないが、他はウマ娘の資質に合わせて自由にエントリーが可能だ。

 

サナリモリブデンもまた、郷谷との相談の下に出走するレースを選択することとなる。

判断の材料となるサナリモリブデンの現状はこうだ。

 

まず、芝の適応訓練に時間を取られたサナリモリブデンの基礎能力は周囲よりも劣っている。

特にスタミナの不足が大きい

スピードとパワーもやや足りない。

選抜レースの時期と比べれば良く伸びたが、芝に完全に適応しきれていない都合で全力を出し切る事ができないためだ。

 

こうなれば真っ向から戦っての勝率は低いと言わざるを得ない。

サナリモリブデンが勝ち負けに関わるにはいくらかの紛れ、フロックが必要になるだろう。

そしてそれは距離が短い方がより起こりやすいとされている。

 

なのでメイクデビューで勝利を狙うなら短距離戦にエントリーするのが無難である。

 

だが、これは目先の事のみを考えた場合の話だ。

サナリモリブデンが将来的にマイルや中距離を主戦場にしたいと願うなら、この段階から経験を積んでおく手も有効だろう。

幸い、サナリモリブデンは選抜レースで見せた逃げと同じ程度に差しも得意としている。

中距離のレースであっても体力を温存し最終直線に賭けるという戦法ならば目がなくはない

 

 

2人はそれらの要素を秤にかけ、じっくりと話し合った。

その結果、導き出された答えは……。

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:132

スタ:95

パワ:139

根性:126

賢さ:116

 

馬魂:94

 

 

【適性】

 

芝:D(7/10)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(0/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(0/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 





【お知らせ】

レース回は描写カロリーが多いため、明日10/6の更新はおそらく1回のみとなります。


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ジュニア級 6月 メイクデビュー

 


 

 

【レース生成】

 

≪System≫

レースを生成します。

メイクデビューは開催地がランダム決定されます。

 

【メイクデビュー/芝1600メートル/左回り/東京レース場】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:雨

状態:重

難度:55(ジュニア級6月の固定値/メイクデビュー倍率 x1.0)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:サナリモリブデン

2枠2番:テイクオフプレーン

3枠3番:クロニクルオース

4枠4番:スローモーション

5枠5番:プレダトリス

6枠6番:タヴァティムサ

7枠7番:チューターサポート

8枠8番:アクアリバー

8枠9番:マッキラ

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝D/スピード&パワー-20%

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:重/スタミナ&パワー-10%

 

スキル:適用スキルなし

 

状態:好調/ALL+5%

 

スピ:132-19=113

スタ:95+4=99

パワ:139-34=105

根性:126+6=132

賢さ:116+17=133

 

 


 

 

『あいにくの天気の東京レース場。午前中からの雨は未だ降り止む気配がありません。バ場状態は重の発表となっています』

 

出走ウマ娘9人の内、真っ先にゲートに収められたサナリモリブデンは静かに空を睨んでいた。

灰色の雲から降る雨。

雨足は強くはないものの長く続いたそれはバ場を酷く荒らしている。

 

「……っ」

 

ただでさえ走りにくい芝。

その上に雨でずぶぬれで土は緩み、滑りやすい。

ここを走るには普段よりもよほどパワーとスタミナを必要とするだろう。

 

サナリモリブデンにとってこれは酷い不運であった。

ただでさえ薄い勝機がさらに小さくなった事を意味する。

 

逃げに耐えうるスタミナ。

差しに賭けうるパワー。

そのどちらもが今の彼女からは失われている。

絶望的という言葉はこういう事を指すのだろうなと、サナリモリブデンは心中で噛み締めた。

 

『メイクデビューまでには降り止んでほしかったのですが、天候ばかりは仕方ありません。新人の子たちには厳しい洗礼となりますが、頑張ってほしいですね』

 

だが、今更な話だった。

元々初戦での勝利は目が薄いと承知での出走である。

 

『各ウマ娘、順調にゲートに収まっていきます。2番テイクオフプレーンは3番人気、王道の走りをする子です。2番人気、3番クロニクルオースは逃げウマ娘、今日のバ場で飛ばしていけるか。そして今日の注目株はこの子をおいて他にありません。1番人気、7番チューターサポート。1月の選抜レースで見せてくれた気持ちの良い末脚を今日も期待したいところ』

 

発表された人気にもそれは表れていた。

上位人気をアナウンスする実況がサナリモリブデンの名前を呼ぶことはない。

出走ウマ娘全9人中、9番人気。

それが今のサナリモリブデンに対する評価である。

選抜レースの結果と、今現在の体の仕上がりを見れば正当というほかない。

 

(そんなこと、どうでもいい)

 

その事実をただ、それがどうしたの一言で踏み潰してサナリモリブデンは身構えた。

ゲート内に吹き込む雨粒を顔に受けながら、瞬きもせずに前を見る。

 

『すべての夢はここから、この一歩から始まります。東京レース場第5レース、メイクデビュー。……今スタートしました!』

 

 


 

 

【スタート判定】

 

難度:55

参照:賢さ/133

 

判定:79(成功)

 

 


 

 

『各ウマ娘そろっての出足。出遅れはありません』

 

『この雨の中、みんなよく集中していましたね。素晴らしいですよ』

 

ゲートが開くと同時、サナリモリブデンは飛び出した。

完璧とは言えないまでも上々のスタート。

他に遅れることなく濡れた芝の上を駆け始める。

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択】

 

行動:抑えて後方につける

 

難度:55

補正:なし

参照:賢さ/133

 

結果:67(成功)

 

 


 

 

『さぁまずはクロニクルオースがハナを取りにかかります。そこに外からマッキラが競りかけて、どうやらこの2人がレースを引っ張っていく形になるか』

 

サナリモリブデンはまず、速度を抑えるよう努めた。

選抜レースで試みた逃げではなく差しを選んだのだ。

スタミナとパワーのうち、より不安が大きいのはスタミナである。

ただでさえ不足があるというのにこのバ場では、先頭に立ってレースを進めてはとてももたない。

 

『前2人のすぐ後ろには4番スローモーションがするりと入った。その後ろにテイクオフプレーン、5番プレダトリス、6番タヴァティムサがほとんど差がなく続きます』

 

その位置取りは問題なく済まされる。

前へ出ようとするウマ娘につられず、大きく離されもせず、中団後方に陣取った。

 

『そこから1バ身開いて1番サナリモリブデン、外に1番人気の7番チューターサポート。最後尾に8番アクアリバー、これで9人全員です』

 

途中、サナリモリブデンは一瞬だけ隣に目をやった。

 

ウェーブがかった短い鹿毛のウマ娘。

チューターサポート。

このレースの1番人気にして、同期のウマ娘の中でも上位の実力を誇る注目株。

彼女はサナリモリブデンの視線に気付くことなく、悠々と走る。

顔や体に打ち付ける雨など気にもしていない。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:マッキラが大きくペースを上げる

 

 


 

 

『先頭に目を戻しましょう。前に動きがありました。9番マッキラがクロニクルオースを離してぐんぐんと先に進みます。どうでしょうこの展開』

 

『重バ場でこの加速はちょっと負担が大きいですよ。かかっているかも知れませんね。一息つけるといいのですが』

 

『クロニクルオースはペースそのまま、マッキラだけが1人飛び出しています。このバ場で最後までもつのか』

 

サナリモリブデンは視線を戻した。

レースは動き続けている。

彼女の目からは雨にけぶって見えにくいが、先頭は大きく逃げ始めたようだ。

今のところ後続はそれにつられる気配はない。

ペースは一定のまま、東京レース場の向こう正面を1人と8人に分かれて駆けていく。

 

 


 

 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:4-2=2

 

結果:スタミナ/99-1=98

 

 


 

 

(大きく逃げて、最後まで? マイルならありえる? このバ場では無理がある? 重バ場だからこそ残りかねない?)

 

サナリモリブデンはわずかに思考を回す。

しかし、それを瞬時に引っ込めた。

やるべき事はそれではない。

今ここで考えるのではなく、事前に定めた方策を思い出し実行する。

それが郷谷に教わった走り方だ。

 

(忘れるな。やってきたことをやるだけ。こういう時は、そう)

 

そうしてすぐに思い出し、実行する。

大逃げに対してサナリモリブデンがすべき事は無視だ。

 

というよりも、他にできることは何もない。

 

選択肢自体が存在しないのだ。

1人で逃がすものかと加速してはゴールまでに体力が尽きる。

サナリモリブデンに出来るのは、逃げるマッキラが逃げ切れないと信じて走る事だけ。

 

 


 

 

【中盤フェイズ行動選択】

 

周囲を観察する

 

難度:55

補正:なし

参照:賢さ/133

 

結果:123(大成功)

 

 


 

 

それよりも、とサナリモリブデンは自身の周囲を探った。

 

この場から先頭に対してできる事はなにもない。

むしろ注意すべきは周りのウマ娘たちの動きだ。

大逃げに対してどう出るか。

追うのか、留まるのか。

その出方次第では自身に大きく影響が出る可能性もある。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:スローモーションが仕掛ける

 

 


 

 

『先頭マッキラ、6バ身7バ身とまだまだ離していく。ここで2番手が変わりました。スローモーションがクロニクルオースをかわして前に出た。マッキラを追っていきます』

 

『このままでは残されるという判断でしょうか』

 

『他の子はどうか、このまま2人を行かせるのか』

 

 


 

 

【レース中追加イベント】

 

他モブウマ娘の行動:スルー

 

 


 

 

『他に仕掛ける様子はありません。先頭マッキラ、4バ身開いてスローモーション、さらに3バ身開いてクロニクルオース。その後ろにテイクオフプレーン、プレダトリス、タヴァティムサ。落ち着いたままです。1番人気チューターサポートも動く気配がありません』

 

『このまま最後までもてば大波乱ですよ』

 

誰も動かない。

スローモーションがマッキラを追いかけているだけだ。

近くのウマ娘はサナリモリブデンと同様、前2人を無視して走ると決めたらしい。

 

ならばすべき事は何も変わらない。

レースは淡々と進み、向こう正面の直線を終えて3コーナーに入る。

内枠ゆえに得られた好位置を生かし、サナリモリブデンは最短の道を丁寧に曲がっていく。

 

 


 

 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:4-2=2

 

結果:スタミナ/98-1=97

 

 


 

 

【終盤フェイズ行動選択】

 

直線に備えてルートを探す

 

難度:55

補正:観察大成功+15%

参照:賢さ/133+19=152

 

結果:78(成功)

 

 


 

 

ここまで来たならば、残りの取るべき手順は単純だ。

温存し続けたスタミナを脚に注ぎ込み、最終直線の末脚で先頭に躍り出るだけ。

幸い、体力の残量は考え得る限りの最大値を示している。

無用な消耗はここまで起きていない。

 

サナリモリブデンは目を凝らす。

どこに身を置くべきか。

先行集団4人、隣のチューターサポート、後方の1人。

その誰にも邪魔されずに走るにはどうすればいい?

 

(……見つけた)

 

冷静に観察を続けていたサナリモリブデンはそれを的確に発見する。

 

(このままでいい。内側が空く)

 

先行集団は濡れた芝を蹴立ててカーブを曲がる。

その体がほんの少しずつ外に流れているのをサナリモリブデンは見落とさなかった。

雨で弱まったグリップがバ体の勢いを受け止め切れていないのだろう。

 

今はまだわずかなもの。

だが、直線に向き直る頃には体ひとつねじ込む間隙が生まれるはずだとサナリモリブデンは確信する。

 

無いと思われていた勝機。

それが今、サナリモリブデンの前に開けた。

 

有り得る。

勝ち得る。

あと一歩、最後の最後、末脚さえ発揮しきれるならば。

目の前に現れたその事実が、サナリモリブデンの冷静な心を燃え上がらせようとする。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:マッキラが更にペースを上げる

 

 


 

 

『先頭マッキラ、3コーナーから4コーナーへ。勢いはまだ落ちない。それどころかまだ加速する! マッキラの脚が止まりません!』

 

『これはもしかすると、もしかしてしまうんでしょうか?』

 

しかし、その希望をたやすく摘んでいくのがレースの世界なのだろうか。

先頭の背中が見えてこない。

サナリモリブデンの勝利に必要なピースのひとつ、マッキラのスタミナ切れがまだ起こらない。

 

雨の中、コーナーを駆けるサナリモリブデンの目にはもう先頭は上手く見えていない。

追いつかなければならない背まで何バ身あるのか、もはや判然としていなかった。

 

 


 

 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:4-2=2

 

結果:スタミナ/97-1=96

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:55

補正:差しA/+10%

参照:スタミナ/96+9=105

 

結果:49(失敗)

 

 


 

 

さらに。

 

「はっ、は、っ、ぁ」

 

息が乱れる。

脚が震え、アゴが上がろうとする。

四肢から力が抜け、速度が衰え始める。

 

やはり足りなかった。

当然の帰結だ。

スタミナの不足はどうしようもない壁としてサナリモリブデンの前に立ち塞がる。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:55

補正:スタミナ失敗/-30%

補正:差しA/+10%

参照:スピード/113-22=91

 

結果:86(成功)

 

難度:55

補正:スタミナ失敗/-30%

補正:差しA/+10%

参照:パワー/105-21=84

 

結果:60(成功)

 

 


 

 

(それがどうした。やると決めたんだ)

 

だというのに。

サナリモリブデンの瞳から闘志は消えない。

 

萎える手足に力が戻る。

白く明滅する視界は切り捨てた。

一呼吸ごとに生まれる苦しみは、耐えるとだけ決めて意識外に放り捨てる。

 

(なら、やれ!)

 

そうして、サナリモリブデンはその末脚を炸裂させた。

 

 


 

 

【追加判定/NPCマッキラ】

 

≪System≫

固定NPC以外が極端な展開を発生させた場合、追加で判定が行われます。

 

難度:55

補正:大逃げ/-20%

参照:スタミナ/140-28=112(ジュニア級6月の汎用NPC基準値)

 

結果:112(大成功)

 

 


 

 

『コーナー終わって最終直線、先頭変わらずマッキラのまま。まだ落ちない。まだ伸びる。なんという事でしょう、1人旅だ! スローモーション追いすがるが離されていく! 後ろからは最内サナリモリブデン、外からチューターサポートが上がっていくがどうやら届きそうにない、これはセーフティーリード!』

 

ゴール板までの直線は残り200メートルを切った。

サナリモリブデンは酸欠に喘ぐ脳で敗北を理解する。

勝利の目は完全に潰えた。

先頭を行くマッキラの背は遠く離れたまま、到底追いつける理由がない。

 

『1着は決まりでしょう、マッキラだ。これはマッキラ。間違いありません! 2着は3人の争い、チューターサポートとサナリモリブデンがスローモーションに襲い掛かる、が、サナリモリブデンはいっぱいか』

 

そして、最後の脚も絶えようとする。

精神ではどうしようもない肉体の限界だ。

もう彼女にはひとかけらの体力もない。

2着争いから1人零れ落ち、後続に飲まれようとする。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:55

補正:なし

参照:根性/132

 

結果:96(成功)

 

 


 

 

(知らない……! そんなもの、知るもんか……!)

 

その当たり前の理屈を、サナリモリブデンはもう一度踏破した。

ただ前を睨む。

動くはずのない脚を前に出す。

倒れようとする体は気合だけで支えた。

 

「…………!!」

 

咆哮を上げる力さえ惜しみ、苦悶に顔を歪ませながら、サナリモリブデンは止まらない。

 

「なんで、そこまで……っ」

 

隣からかすかに漏れた声など、耳に入りもしなかった。

 

 

 

 

 

 

『いやまだだ、サナリモリブデン盛り返す。ここでマッキラ、1着でゴールイン! 2着争いは3人横並び、写真判定の結果待ちとなります。東京第5レースメイクデビュー、天候同様大波乱の展開となりました。7番人気マッキラ、まさかの大逃げ逃げ切り大勝利!』

 

『いやあ、素晴らしいレースでしたね。将来が楽しみなウマ娘がまた1人現れてくれました』

 

 

……レースが終わった。

 

理解し、サナリモリブデンはようやく脚を緩める。

今にも崩れ落ちそうな体に最後の無理を命じ、急に止まる事だけは避けながら掲示板に目を向けた。

 

1着、9番マッキラ。

着差は5バ身。

圧勝と断言して良い走りを見せつけた明るい髪色のウマ娘は、喜びを弾けさせて両手を掲げていた。

 

続く2着。

そこに表示されたのは。

 

『着順確定しました。2着は1番サナリモリブデン、3着チューターサポート、4着スローモーションの順』

 

『2着の子も良く頑張っていましたね。素晴らしい気迫でした。今後の走りに期待したいですね』

 

それを見届けて、サナリモリブデンはコースを後にする。

震える脚を引きずるように、けれど観衆に無様を見せられないと、2着にふさわしい控え目さで小さく手を振りながら。

 

 


 

 

「おかえりなさい、サナリさん」

 

地下バ道では郷谷がサナリモリブデンを出迎えた。

手には厚手の大きなタオルがある。

郷谷はそれを、びしょぬれのサナリモリブデンにそっと被せた。

 

「お疲れ様です。よく頑張りましたね。……最後まで諦めない、良い走りでした」

 

「……うん」

 

サナリモリブデンは呟くように返し、頭を拭き始める。

水を含んだ髪、耳の中。

それと、顔も。

 

「トレーナー」

 

「はい、なんですか?」

 

「足りない物は、よくわかった。明日からもお願い」

 

タオルから顔を上げないまま、サナリモリブデンは言う。

 

「次は勝つ。そう決めたから、勝ち方を教えて」

 

その言葉を聞き、郷谷は笑った。

 

「もちろん。私で良ければ、喜んで」

 

そうして郷谷は手を伸ばし、サナリモリブデンの頭を撫でた。

濡れたままの髪を優しく梳かして、寒さからだろうか小さく震える体を落ち着かせるようにポンポンと叩く。

 

「ですがその前にまず一休みです。雨は冷たかったでしょう? 温かい麦茶を用意してありますよ」

 

「うん」

 

「落ち着いたらライブもあります。始まる前に動画で復習もしておきましょうね」

 

「うん、ありがとう」

 

2人は連れ立って控室へと足を進める。

マッキラをセンターとするウイニングライブまで、あと30分ほど。

それだけの時間があれば、サナリモリブデンの体を拭い乾かすには十分だろう。

 

 


 

 

【レースリザルト】

 

着順:2着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+3

経験:芝経験+4/マイル経験+4/差し経験+4

獲得:スキルPt+40

 

スピ:132 → 142

スタ:95 → 105

パワ:139 → 149

根性:126 → 136

賢さ:116 → 126

 

馬魂:94 → 97

 

芝:D → C(1/20)

マ:B(4/30)

差:A(4/50)

 

スキルPt:160 → 200

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:142

スタ:105

パワ:149

根性:136

賢さ:126

 

馬魂:97

 

 

【適性】

 

芝:C(1/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(4/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(4/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

冬ウマ娘◎(冬のレースとトレーニングが得意になる)

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

 

スキルPt:200

 

 

【戦績】

 

通算成績:1戦0勝 [0-1-0-0]

ファン数:281人

評価点数:0

 

主な勝ちレース:なし

 



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【今年のメイクデビューを振り返るスレ】

 

551:名無しのレースファン

今年の注目ウマ娘まとめ

 

【芝】

ソーラーレイ(短)

ブリーズグライダー(短)

マッキラ(マ)

ペンギンアルバム(中)

アクアガイザー(中)

ジュエルルビー(中)

 

【ダート】

アベックドリーム(マ)

ドカドカ(マ)

マストチューズミー(マ)

ルンバステップ(マ)

 

 

553:名無しのレースファン

>>551

まとめ乙

 

 

554:名無しのレースファン

>>551

これで有望株は大体出揃ったかな

 

 

555:名無しのレースファン

>>551

まとめおつかれー

今年は全体的にレベル高かったな

 

 

560:名無しのレースファン

>>551

ドカドカOUT

ディシジョンIN

 

 

561:名無しのレースファン

>>560

おはムシャムシャアンチネキウマ耳見えてんぞ

妹にまで粘着すんの見苦しいからやめとけ

 

 

564:名無しのレースファン

今年のジュニアはダート熱そうで嬉しい

もっと盛り上がってくれ

 

 

566:名無しのレースファン

>>561

客観的に見てあんなマグレ勝ちで有望カウントはありえないんだよなぁ……

ディシジョンが進路妨害食らってなかったら普通に差されてたろ

断言してもいいけど1勝が限度だね

可愛そうだけどどう見ても才能ない

ここで終わり

メイクデビューが人生最初で最後のセンター

次からは普通にズルズル負けて田舎に帰る事になるよ

その時になって見る目なかったって恥ずかしがるのはそっちじゃないですかね

もう少しレースの勉強したらいかが?

ドカドカ推しはちょっと頭足りないと思いますよ(笑)

 

 

568:名無しのレースファン

うわ出た

 

 

571:名無しのレースファン

完全にいつものやつじゃん

後半取り繕うの忘れて素が出るのまで見覚えありすぎて芝なのよ

 

 

573:名無しのレースファン

>>566

進路妨害って降着も発生してないアレがか?

完全にルール内だし影響ないだろ

ドカドカが最後緩んだのだって後続見てこれ以上必要ないって判断しただけっぽいし

 

 

574:名無しのレースファン

>>573

触れるなアホ

 

 

576:あぼーん

あぼーん

 

 

577:名無しのレースファン

あーあーあーまただよ

 

 

580:名無しのレースファン

通報しといた

 

 

581:名無しのレースファン

マッキラちゃん良かったよなぁ!(空気入れ替え)

 

 

583:名無しのレースファン

>>581

露骨通りこして自分で言うの笑う

まぁ同意

久々に見たわあんな気持ちいい逃げ

 

 

586:名無しのレースファン

マッキラの実況ちょっと笑っちゃってたよな

 

 

587:名無しのレースファン

>>586

ンフハなんという事でしょうッフ、1人旅だァッハ!

 

 

590:名無しのレースファン

>>587

的確すぎるw

 

 

591:名無しのレースファン

>>587

正直気持ちはわかるというか俺もスタンドで笑っちゃった

隣のおっちゃんと一緒においおいおいおいwwwみたいな声出てたわ

 

 

592:名無しのレースファン

でもタイム平凡なんだよな

他が遅かっただけ説は?

 

 

594:名無しのレースファン

>>592

ヒント:バ場状態

 

 

597:名無しのレースファン

>>594

あ……ッス

ニワカは引っ込んでますわ

くそはずい

 

 

598:名無しのレースファン

もうダートの話していい?

 

 

601:名無しのレースファン

>>598

アク禁されたから大丈夫

いいぞ

 

 

602:名無しのレースファン

わーい!

実力拮抗してそうな4人でガンガンやりあってくれそうで俺嬉しいよ

レースチャンネル今年も継続契約することにした

 

 

603:名無しのレースファン

>>602

お前ダート戦線スレにもウッキウキで書き込んでたよな

かわいいね

 

 

605:名無しのレースファン

メディアもここ数年ダート取り上げるようになってるし流れ来てるよな

上手いこと競り合ってくれたらダート四強とか特集組んで一発ドカンがあるかもしれん

 

 

608:名無しのレースファン

ドカドカちゃん走り方パワフルですこ

 

 

611:名無しのレースファン

>>608

純度100%のパワータイプ感すこ

 

 

614:名無しのレースファン

>>608

叩いたら金属音しそうなバキバキふとももだいすこ

 

 

617:名無しのレースファン

ドカドカ、お前もビルダーにならないか?

 

 

620:名無しのレースファン

>>617

レース引退後なら真面目に見てみたい

 

 

623:名無しのレースファン

バキバキと言えばこっちだろうが

【ペンギンアルバム.jpg】

 

 

624:名無しのレースファン

>>623

!?

 

 

625:名無しのレースファン

>>623

ヒュー!

 

 

627:名無しのレースファン

>>623

こマ?

どこで上がってたやつ?

 

 

628:名無しのレースファン

>>623

あのちっちゃさであの爆発力ナンデ?って思ってたけど完全に理解らされた

ジュニア級に生えてていい脚じゃなくない?

 

 

629:名無しのレースファン

>>627

本人のウマッター

5月末ね

仕上がり良好準備万端!とか言って上げてたんよ

見た瞬間あっこいつ勝つわって

 

 

631:名無しのレースファン

SNSかぁ

やっぱ今時はそっちにもアンテナのばさんとダメかね

 

 

633:名無しのレースファン

>>631

当たり前、メディアだと遅すぎる

マウント取るには鮮度が命だぞ

 

 

634:名無しのレースファン

別にマウント目的でおウマちゃん追ってるわけじゃないので……

 

 

635:名無しのレースファン

>>631

フォローしてると普通に楽しくて得だよ

ペンギンは特に色々写真上げてくれて良い

同期の子たちの名前と顔覚えちゃった

 

 

636:名無しのレースファン

SNSで友達の個人情報出してんの?

それ大丈夫か?

 

 

639:名無しのレースファン

>>636

俺らの感覚で言うな

トレセン学園のウマ娘なんて基本顔も名前も全国に流れるもんだから

 

 

641:名無しのレースファン

>>635

ほーん

正直ウマッターはよく分からんけど追ってみるかね

 

 

642:名無しのレースファン

>>641

アカウント作ったら追いたい子見つけてフォローってボタン押すだけだぞ

多分思ってるよりずっと簡単だからやっとくといい

ちな俺のオススメはペンギンの他にはキーカードちゃんな

ペンギンと仲良いらしくてお互いの写真にちょくちょく出てきて尊みかもしてくる

 

 

644:名無しのレースファン

仲良しおウマちゃんから取れる栄養だけで生きていきたい

 

 

645:名無しのレースファン

並んで顔寄せあったツーショット自撮りは完全栄養食だからな

 

 

646:名無しのレースファン

全ウマ娘腕組んでいちゃついて歩いてくれ

 

 

647:名無しのレースファン

店の一角で蹄鉄選びの議論してるウマ娘グループを見守る壁になりたい

 

 

648:名無しのレースファン

ヒト向けの大盛りにすべきか普通にウマ盛りにすべきか悩みに悩んでる太りやすい体質の子に対して、太りにくい体質の子よ、軽率に特ウマ盛りを勧めてくれ

幸せそうにごはん頬張った後で食べすぎかなぁと心配する顔を定期的に見ないと死ぬ病気なんだ

 

 

649:名無しのレースファン

道路のウマレーン走ってる子が友達とすれ違いざまに軽く手だけ上げる瞬間の青春の香りを毎日嗅ぎたい

 

 

650:名無しのレースファン

メイクデビューの時期という事は走るウマ娘をテレビで見て「昔は私だけの〇〇ちゃんだったのに遠くに行っちゃったんだなぁ」ってなってる幼馴染ヒトミミガールもいるはずだ

いろ

街でバッタリ再会して昔のように楽しく遊べ

「やっぱり○○ちゃんは○○ちゃんのままだね」

「なにそれ当たり前じゃん」

みたいな会話しろ

その瞬間を隣で信号待ちしてる俺に愛でさせろ

出来れば信号が変わるまでの間に次遊ぶ約束までしてご機嫌でお別れしてくれ

頼む

 

 

653:名無しのレースファン

なんだこいつら

 

 

657:名無しのレースファン

急に湧いた

こわい

 

 

661:名無しのレースファン

ウマ愛で過激派には隙を見せた方が悪いからね

仕方ないね

 

 

664:名無しのレースファン

言うほど隙はありましたか……?

 

 

665:名無しのレースファン

ウマ娘ちゃん好き

今年も怪我せず健康にいっぱい走って

 

 



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ジュニア級 6月 次走選択

 

 


 

 

「あ」

 

「ん」

 

と。

そんな声が互いに漏れるほどにバッタリと2人は出くわした。

場所は学園の購買付近、自販機前。

2人とは、サナリモリブデンと。

 

「……や。先週ぶりだね」

 

「うん、こんにちは。……先使う?」

 

曖昧な笑みを浮かべて手を挙げた癖毛のウマ娘、チューターサポートだ。

メイクデビューのウイニングライブでマッキラを挟んでバックダンサーを務めた仲である。

 

特に急ぎでもないサナリモリブデンは一歩横にずれて譲った。

対するチューターサポートは少しだけ躊躇した様子を見せたが、じゃあお言葉に甘えてと財布を取り出す。

走り込みでもしてきた後なのか、彼女は汗をかいている。

飲み物にありつきたい気持ちはサナリモリブデンよりもよほど強かったのだろう。

 

そうして、なんとなくその場で一緒にペットボトルを傾ける。

レースとライブ以外で繋がりのない相手ではあるが、共に歌って踊ったのにそのまま別れるのも気まずい。

チューターサポートの顔にはそんな言葉が綺麗に分かりやすく書かれていた。

 

「あの、さ」

 

「ん?」

 

だからかチューターサポートが口を開く。

おずおずと探るようにだ。

あの雨のレースの中、サナリモリブデンの隣で見せていた余裕はどこにもない。

 

「その、すごい走りだったよね」

 

その言葉にサナリモリブデンは思い出す。

まさしく、すごい走りという表現がぴったりの光景をだ。

 

序盤からゴールまで、ただただ全力で前へ前へと突き進み続けたあの背中。

どれほど手を伸ばしても指先さえかけられないと確信させられたあの距離。

レースから一週間以上が経った今でもサナリモリブデンは忘れられていない。

まさに今朝もあの日の夢を見て目覚め、無意識にシーツを握りしめていた手をほぐすのに苦労したほどだ。

 

「うん。すごかった、マッキラ。しばらく忘れられそうにない」

 

なのでサナリモリブデンは素直に同意した。

またもにじみ出した悔しさで眉が歪むのを意識して抑えながら。

 

が、チューターサポートは一瞬だけキョトンとしてから、そうではないと否定する。

 

「ごめん、そっちじゃなくてさ。えっと、サナリって呼んでいい? ありがと。すごかったのはサナリの方もだよ」

 

「……私?」

 

「うん。隣で走っててちょっと怖かった。あ、ぁ、変な意味じゃなくてさ。そのくらい気迫がすごかったって話」

 

チューターサポートはどうやら細かい性格なのか。

サナリモリブデンは気にした様子もないというのに慌てて訂正し、それから続ける。

 

「えっと、それでさ。……あの時、何を思って走ってたの?」

 

「勝ちたいって。それだけ」

 

「……勝てるって思った? あの差を追いつけるって?」

 

「まさか。勝ちたいとはいつも思ってるけど、勝てると思って走った事はないよ」

 

そこまで聞いて、チューターサポートはまた曖昧に笑った。

ひどく自虐的な笑みだ。

自身を見つめるサナリモリブデンの目から逃げるように視線を落とし、呟く。

 

「そっか……はは、私と逆だなぁ。……私、勝ちたいと思って走った事がなかったんだよね」

 

ペットボトルに口をつける仕草もどこか卑屈だった。

背を丸めて、何かから隠れるようにミネラルウォーターをあおっている。

 

「チョーシ乗ってたんだよねぇ! 地元じゃ負けなし、学園に来てからも模擬レースでも選抜レースでもずっと1着で、私に勝てないレースなんてないと思ってたんだぁ」

 

あーぁ、と天に向かってため息を吐く。

 

「期待の注目株ってあちこちで言われてさ。勝てて当たり前。勝ちたいなんて言葉使うのは三流とか、思いあがった事考えてた。……やんなるなぁ。恥ずかしくて死んじゃいそう」

 

そこでチューターサポートの声は止まった。

ほんの少し荒くなった息を整えるように、数度の呼吸を挟む。

 

「……や、なんていうかごめんね。いきなりこんな事聞かされても困るよね。別に仲良いわけじゃないのにさ。っていうかほとんど初対面同然だし」

 

チューターサポートはそうして、その場を去ろうとする。

とぼとぼと、明らかに疲労だけが原因ではない頼りない歩き方でだ。

 

「……ねぇ」

 

「ん?」

 

「次はいつ走るの?」

 

その背中にサナリモリブデンは問いかけた。

次走の時期を尋ねるに、チューターサポートは目を丸くした。

 

「……次?」

 

「うん、次。未勝利戦。走るんでしょ?」

 

「え、ぁ、いや……」

 

そして癖毛の下の顔をうつむかせる。

言葉はもごもごと口の中で転がるだけで形にならない。

だがサナリモリブデンは急かさなかった。

チューターサポートが顔を上げるまでを、ただじっと待つ。

 

「…………私、走れると思う? 次のレースに出て、ちゃんと勝ちたいって思えるのかな」

 

それを、サナリモリブデンは不思議な疑問だと感じた。

何しろどう考えても自明であったので。

 

「それ」

 

なのでそのまま指摘する。

サナリモリブデンはピッと指差した。

チューターサポートが手に持つ、今買ったばかりのミネラルウォーターをだ。

 

「自主トレ。勝ちたいって思ってない人はそんな事しないと思う」

 

「───」

 

サナリモリブデンは知っている。

トレーニング中のドリンクは個々の体質に合わせてトレーナーが用意するのが一般的だ。

トレーナーの指導の下で走っている間に自動販売機にウマ娘が立寄る事はない。

 

なので、汗をかいてここに来た時点でチューターサポートが何をしていたかは簡単にわかる。

ひとり走っていたのだろう。

あの日の悔しさを、サナリモリブデンと同じように忘れられずに。

 

「……そっか。私、勝ちたいのかなぁ」

 

「うん。そう見える」

 

「そっかぁ……はは、やだなぁ。わっかりやすいやつ。また恥ずかしいや」

 

その言葉が、どこかにストンと落ちたのだろう。

チューターサポートは笑みを浮かべた。

今度は卑屈でも曖昧でもない。

 

それから、ミネラルウォーターを大きくあおる。

喉を鳴らして全て飲み干して、ぐしゃりと潰してゴミ箱に放り込んだ。

 

「勝ちたい。……勝ちたい。うん。言葉にしたらそうだったんだなってわかってきた」

 

「ん。その意気」

 

「へへ、ありがと。よっし、メイクデビューの借りは早いうちに返してやんないとね。さっさと勝ってあいつに追いつかなきゃ」

 

チューターサポートは明るい声で言った。

それは今はまだ空元気に近いかも知れない。

だが本当に晴れるまではそうかからないだろうとは、サナリモリブデンにもわかるものだった。

 

 


 

 


 

 

さて、所かわってトレーナー室。

 

1年目にして早くも慣れ親しんできた感のあるホワイトボード前だ。

その前で伝家の宝刀マジックインキを抜くのはもちろんサナリモリブデンのトレーナー、郷谷である。

 

「ではこれからのお話です。サナリさんがこれから挑むのは未勝利戦というレースになるわけですが……」

 

言いながら、郷谷はホワイトボードに図を描く。

ジュニア級の夏、秋、冬、クラシック級の一年、シニア級の一年を簡略化したものだ。

 

「この未勝利戦というのは、クラシックの9月が最後です」

 

その中の、クラシック秋以降にバッサリとバツをつける。

 

「そこまでに一度も勝利できなかった場合……残念ながら、そこでサナリさんが出走できる中央のレースはなくなります」

 

それにサナリモリブデンは神妙に頷く。

 

レースには出走するための条件というものがある。

勝利をどれだけ重ね、URAが用意した基準である評価点*1をどれだけ積んだかでウマ娘はクラス分けされているのだ。

そして、未勝利、評価点ゼロの状態で出られるレースはクラシック級の9月以降には存在しない。*2

 

そうなれば中央で走る道はもうなくなる。

つまりは引退を余儀なくされるのだ。

競走の世界にまだ身を置きたいと願うなら、地方に籍を移すか障害に転向するという手もあるにはあるが。

 

「なのでなんとしても勝ちましょう」

 

「うん。勝つ。次は絶対に」

 

「はい、良い返事ですね。ふふ、サナリさんの士気の高さはやはり素晴らしいものがあります。こちらも指導のし甲斐がありますね」

 

説明が続く。

この未勝利戦は毎月、あちこちで開催される

サナリモリブデンはいつどこでどの距離を走るかを自由に決める事ができる

ただし長距離の未勝利戦はクラシック級の7月以降にしか行われないが、他の距離も十分得意なサナリモリブデンにはさほど関係のない事だ。

 

「では早速、次はいつ走るかを決めてしまいましょう」

 

というわけで、サナリモリブデンと郷谷はカレンダーをめくりながら話し合う。

 

様々なレースに挑み実績と経験を積むには、もちろん未勝利を早めに脱出できた方が良い。

だが勝利を焦る余り、トレーニング不足で勝機の薄いまま走って敗北しては本末転倒だ。

 

トレーニングを長期間しっかり重ねてから万全で挑むか、それとも上を目指して短期で挑むか。

2人の相談はそこから少しばかり長く続いた。

 

*1
現実での収得賞金にあたる

*2
現実では存在するが煩雑になるのでこの世界ではないものとする



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ジュニア級 7月ランダムイベント


novelAIで挿絵作るのにハマって、これ以前の話に挿絵を追加しました。
2月~5月のイベントにそれぞれ1枚ずつ、本文中に挿入されています。


 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「かわいい」「鳴く」「メイドインジャパン」

 

 


 

 

「みゃー」

 

などと、鳴かれたので。

 

「……にゃー」

 

と、返した。

7月のとある昼下がりの事である。

 

 

9月に走ると決めた未勝利戦に向けてのトレーニングも忙しい日々だが、さりとて毎日というわけでもない。

休みもなく走っていては体を壊すのは当たり前。

サナリモリブデンにも適切な休息は与えられていて、今日はちょうどその日であった。

 

なのでなんとなしに散歩に出かけたサナリモリブデンである。

その途中で、こうして猫に出会ったというわけだ。

 

「にゃー?」

 

「みゃーぅ」

 

「……ふふ」

 

今度はこちらからとひと鳴きしてみれば、ひと鳴き返される。

その愛らしさに思わずサナリモリブデンは笑みをこぼした。

 

「こんにちは。君は撫でていいタイプの子?」

 

それで興が乗ったらしい。

サナリモリブデンはしゃがみこんで猫を構う体勢を取った。

地面をのんびりと歩いていた猫と視線の高さが近くなる。

 

猫は白黒模様だった。

面積が多いのは白で、首元と腰回りが黒くなっている。

首輪はついていないが毛並みは悪くなく、それなりに良い物を食べている事がうかがえた。

どこかで餌でも貰っているのかも知れないとサナリモリブデンは予想する。

 

そんな猫に対し、サナリモリブデンは視線を向けずにそっと指だけを差し出した。

撫でられる猫かどうかを確かめる彼女なりのやり方である。

 

懐かない個体の場合の反応は分かりやすい。

こうして指を伸ばした時点で半数以上は逃げ出すし、残りは耳を寝かせて脚に力を籠めるか唸って威嚇するかだ。

そうなればそれ以上は刺激せず静かに立ち去ればいい。

 

では、懐く個体の場合はどうかというと。

 

「……」

 

「……ん。ふふ、くすぐったい」

 

スキップを思わせる軽い足取りで寄ってきて、指先の匂いを嗅ぐのだ。

興味深そうにヒゲを広げて、念入りに爪の中までを探ろうとする。

だがまだ油断してはいけない。

この段階で手を出すと驚いて逃げる猫も多いと、サナリモリブデンは知っていた。

 

くすぐったい鼻息の感触を我慢して、その時を待つ。

猫はサナリモリブデンの匂いを嗅いで、嗅いで、嗅いで、そして。

 

サリ、と硬い感触と共にヒゲの根本がこすりつけられる。

それにサナリモリブデンはよしと息を吐いた。

 

「いい子。よしよし。耳の後ろかいてあげようね」

 

「にーぅ」

 

猫がヒゲの根本、ヒゲ袋をこすりつけるのは自分の匂いをつけるためだ。

いわゆるマーキングである。

これは私の物、という主張だ。

初対面でそれが出るほどの猫は人懐っこさが極まっていると言って良い。

 

なのでサナリモリブデンも安心して猫を愛で始めた。

猫自身ではかきにくい場所をかいてやり、喉仏を転がしてゴロゴロ言わせてやり、肩こり解消のために首の後ろを揉みこむ。

そのどれにも、猫はいちいち気持ちよさそうな声を漏らした。

打てば響くとはまさにこのこと。

極上の甘え上手だ。

 

サナリモリブデンはどんどんと気をよくしていき、もっと念入りにやってやろうと抱き上げてベンチに連れていく。

それにさえ抵抗の素振りさえ見せない辺り、下手な飼い猫よりもよほど大人しい個体だった。

 

 


 

 

そうして、愛でる事しばし。

 

「……サナリ?」

 

そう声をかけられてサナリモリブデンは顔を上げた。

彼女は猫に夢中で気付かなかったが近くを通りかかる者があったようだ。

それも顔見知りである。

 

つい先日も会ったばかりの癖毛のウマ娘、チューターサポートと。

 

「え、アンタそれ猫? うわ、やだかわいい!」

 

サナリモリブデンの膝の上。

大人しく座って甘えている猫を見るや一瞬でヒートアップしたかと思えば再び一瞬で猫なで声に移行した栗毛の褐色娘。

ソーラーレイである。

 

「ん、こんにちは。……撫でるのは大丈夫そうだけど、驚いちゃうからゆっくりね」

 

「わかってるわかってる。ん-猫ちゃんこんにちはぁ。撫でていい? いいかにゃー?」

 

あ、これは相当重症だな、とサナリモリブデンは理解した。

ソーラーレイは大の猫好きらしい。

顔は崩れて手つきも怪しく、普段の強気がどこにもいない。

 

それを見たもう1人、チューターサポートの顔も崩れていた。

ただしこちらは猫の可愛さにではない。

ソーラーレイのとろけっぷりに対し、なにがいいかにゃーだこいつ、という類の呆れから来る崩れ方だ。

 

「なにがいいかにゃーだこいつ……」

 

というか実際言っていた。

 

幸いなのはソーラーレイにまともな聴覚が残っていなかった事だろう。

彼女は猫にメロメロでそんな言葉聞いてもいなかった。

 

「ソーラーレイとチューターサポート、知り合いだったんだ」

 

「あ、うん。レイとはクラスメイトなんだよね。寮の部屋も近いし、よく話すんだ」

 

なのでサナリモリブデンはチューターサポートに応対する事にした。

ソーラーレイは猫に任せておけばいい。

なんとでもしてくれるだろう。

 

「サナリはこんなところで何してたの?」

 

「わー毛ふわっふわだねぇ。どこかで洗ってもらってるのー? それとも自分でお手入れできる綺麗好きなのかなー?」

 

「ん……散歩してたら、猫を見つけて、撫でてたところ」

 

「あれ、思ったより見たまんまだった……」

 

うん、と頷いてサナリモリブデンは考える。

本当にただの休日。

何か目的あっての事ではない。

 

ただ、チューターサポートが別の用があると思ったのも理解できる。

何しろ、ここは広い公園なのだがその一角に芝のレーストラックがあるのだ。

幼いウマ娘や競走の世界に踏み入らなかった一般ウマ娘向けの簡素なものだが。

 

「そっちは自主トレ?」

 

「そ。学園の方が埋まっててさ、仕方ないからこっちで軽く流すくらいでって感じで」

 

「わ~~~肉球綺麗なピンク色なんだぁ。やわっこいねぇ。かわいいねぇ」

 

とはいえ、軽い自主トレ程度には十分な設備だ。

寮から近い事もあり、学園の方で予約が取れずにあぶれた生徒がたまに使うとはサナリモリブデンも聞いたことがある。

ソーラーレイとチューターサポートがまさにそれだったようだ。

 

「わ、わ、いいのぉ? しっぽも触っていいのぉ? ほんっといい子ね~」

 

「……なんかもう、予定とか頭から吹っ飛んでそうだけどね、この子」

 

「うん」

 

間違いないとサナリモリブデンも同意する。

ソーラーレイのデレデレっぷりは尋常ではなかった。

もはや今にも溶け落ちそうな勢いで猫に懐いている。

人懐っこい猫と、猫懐っこいウマ娘。

相性は抜群だ。

 

「ん~~~かわいい~~~! アンタなんて種類の子なの? 同じ仲間もこーんな甘え上手なのかなー?」

 

「見た感じ典型的な日本猫。頭が丸いし、鼻が通ってて耳の毛が薄いから多分間違いない。つまり普通のそこらの猫。この子が特別懐っこい」

 

「あー日本の子なんだぁ。そっかそっかぁ、甘えん坊なだけなんだねぇ」

 

「……猫、くわしいんだ」

 

「人並みくらい。普通に好きなだけ」

 

「普通で助かったよ。コレが2人も居たら大変だわ」

 

チューターサポートは苦笑して、彼女いわくのコレを指差した。

コレ扱いされている事も無視してソーラーレイは未だに猫に夢中だ。

 

が、流石にそろそろ放置もできなくなったのだろう。

チューターサポートがソーラーレイの肩を掴む。

 

「ほら、もういいでしょ。そろそろいくよ。予約の時間もあるんだから」

 

が、しかし。

 

「……イヤ。私ここに残るわ。猫ちゃんと遊んでく」

 

ソーラーレイはそれを拒否した。

まるで子供になったかのような態度である。

 

「というかアンタ、根詰めすぎなのよ。いい機会だから休みなさい。そして猫を愛でるの。いい?」

 

と思いきや、意外としっかりした理由もあるらしい。

言葉の最後には変なものもくっついてきたが。

 

「そ、そうかも知れないけど……」

 

言われた側、チューターサポートは歯切れが悪い。

どうやらオーバーワークの自覚はあるようだ。

癖毛の頭を手でかき回して、もごもごとしてから続ける。

 

「でも、予約もしちゃってるしさ。あと少しで掴めそうなんだよね。だからほんとお願い、併走1本だけ……」

 

「アンタのトレーナーはなんて言ってるんだっけ?」

 

「……う、それは、その、今日はできれば走るなって……」

 

「じゃあ走んじゃないわよ」

 

「……や、でもさぁ、できればとしか言われてないから……」

 

2人は猫と、そしてサナリモリブデンを挟んで言葉を交わしている。

練習を思いとどまらせようとするソーラーレイと、なんとか食い下がろうとするチューターサポート。

挟まれる形となったサナリモリブデンはなんとなく居心地が悪かった。

 

サナリモリブデンとしてはどちらの気持ちも分からなくもない。

 

友人がオーバーワークをしていれば止めるのは当然だ。

練習で無理を重ねて故障など起こしてしまっては元も子もない。

時にはひっぱたいてでも止めるのが友情というものだろう。

 

だが同時に、勝利を求めて無理を重ねたくなるのも理解できる。

それがあと少しで何かが掴めそうなタイミングとなればなおさらだ。

ウマ娘の体の専門家であるトレーナーも強く止めていないというなら、走らせても良いのではないだろうか。

 

「でもでもうっさいのよアンタ。いいから休む。ほら、諦めてここ座んなさい」

 

「……いや、本当1本でいいからさ。お願い! ほんとこの通り!」

 

2人は平行線のままだ。

ソーラーレイは立ち上がろうとせず、チューターサポートは頑なに走りたがっている。

 

「…………」

 

その真ん中で、サナリモリブデンはさてどうしたものかと考えた。

 

 

【挿絵表示】

 

 



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ジュニア級 7月イベント結果~7月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

ソーラーレイに加勢して練習を止める

 

 


 

 

「1本だけぇ? 怪しいもんだわ。賭けてもいいけど1本終わったらもう1本だけって始まるでしょ」

 

「そんな事言わないって! 本当に1本だけ! ね、お願い」

 

「はーん、何アンタ、3日前のアレもう忘れたの。あんだけ散々付き合わせといて」

 

「…………きょ、今日は言わないから」

 

どうやら流れはソーラーレイが優勢のようだ。

下からじっとりと見上げる冷たい視線に、チューターサポートはたじたじで目をそらす。

 

その際の言葉に含まれていた情報に、なるほどとサナリモリブデンは頷いた。

担当トレーナーが強く止めていないなら1本くらいは良いだろう。

そんな判断はソーラーレイの証言で覆された。

走り始めたら1本ではおさまらず、もう1本、あと1本と続いてしまうなら問題だ。

ちょっとの無茶がメチャクチャな無茶になってしまう。

 

ならばここで止めておく方が良い。

サナリモリブデンもそう考え、ソーラーレイに加勢する事とした。

 

「チューターサポートの気持ちはわかる。あともう少し頑張りたいっていう時は、私にもあるし」

 

「! そ、そうだよねぇ! ほらレイ、サナリもこう言って───」

 

「でも限度を超えてやるのはどうかと思う。度を越した無理はやればやるだけマイナスになる。短期的には良く見えても、長い目で見れば競走寿命を削る蛮行だって、私のトレーナーが言ってた」

 

「そうね。ほらチューター、こいつもこう言ってるわよ」

 

「うっぐ……」

 

冒頭の同意に一度は勢いを取り戻したチューターサポートだったが、そこまで。

投げつけようとした言葉をそのまま投げ返されてぐうの音も出ない様子だ。

 

その後も反論しようと何度か口を開閉させたが言葉が出てこない。

やがて漏れたのは大きなため息だ。

多分に諦めが含まれたそれは、彼女が折れた証拠である。

 

「わかった、わかったよ。私が間違ってたみたい。今日は休んどく」

 

「えぇ、そうしなさい。……大体、別に焦る必要ないでしょ。アンタの脚ならよっぽどの事がない限り次で上がってこれるでしょうし」

 

「そりゃまぁフィジカル的には負けるとは思えないけど、メンタルの方がさ」

 

「クッソ言わなきゃよかったわ! そうだったアンタってそういうヤツよね! 鼻の折れ方足りてないんじゃないの!?」

 

ならば良しとサナリモリブデンは満足げに頷いた。

先日はボロボロだったチューターサポートの自信も蘇っているようで一安心といったところ。

ソーラーレイが何やら燃え上がったがまぁ些細な事。

 

意見の対立から喧嘩に発展する。

チューターサポートが無理を押し通してケガをする。

そういった事が起こらなかった事に、サナリモリブデンは静かに安堵した。

 

 


 

 

というわけで、サナリモリブデンと2人はのんびりと昼下がりを過ごす事となった。

公園のレーストラックの管理人には既に電話で予約のキャンセルが伝えられている。

当日キャンセルでも料金のかからないルールに、チューターサポートはホッと息を吐いていた。

 

「う、ゎ、なにこれやわらか……」

 

そんな彼女は今、例の懐っこすぎる猫を抱いて驚きの声を上げている。

前足の付け根を持って、持ち上げようとしたところだ。

だがそれで持ち上がるのは猫の体の上半分だけ。

ぐにょーんと餅を思わせる滑らかさで伸び、下半身はベンチの上に足をついたまま。

 

「わ~~~やわこいねぇ、長いねぇ。かわいいー!」

 

「猫ははじめて?」

 

「う、うん。犬は飼ってた事あるんだけど」

 

興奮して猫の写真を撮りまくるソーラーレイを放置して、サナリモリブデンが尋ねる。

そして返った答えになるほどと頷いた。

 

犬と猫。

一見四つ足の毛むくじゃらで似たものに見えるが、骨格にも相当な違いがある。

こうして抱こうとした時などに一目瞭然だ。

 

「犬は固いよね」

 

「今までそう思った事なかったけど、うん、これに比べたら犬は固いわ」

 

チューターサポートは猫の上半身を軽く揺らす。

ぐにょんぐにょん。

そんな擬音がぴったりの様子で、猫は抵抗なく揺れた。

そして、それが楽しいのかご機嫌な音色で一声。

 

「なーぁう」

 

「今のかっわいい声どこから出てるの~? ここ~? それともこっちからぁ? つんつんしちゃうぞー」

 

「……なんか不安になるくらいぐにゃぐにゃなんだけど」

 

「大丈夫、猫はそれが普通」

 

「本当? なんか骨が未成熟とかそういう病気じゃなく?」

 

「本当。どこの猫もみんなこう。固い方がむしろ病気だと思う」

 

「へー……猫、不思議だなぁ」

 

興味深い。

そんな顔をしつつ、チューターサポートは猫から手を離した。

ベンチの上から結局持ち上げきられる事のなかった猫は、やはり逃げる素振りもなくゆるりとその場で体の下に足をたたんで座る。

猫特有の特徴的な座り方。

いわゆる香箱座りというやつだ。

 

「ん。この子、とてもリラックスしてる」

 

「そうなの?」

 

「うん。この座り方はよっぽど安心してる時しかしない。って聞いた事がある」

 

「こんなにサイズ差ある生き物に囲まれてそれって、野良として大丈夫なのかな」

 

「ん~~~♪ だってわかるんだもんねぇ~。何があっても私が守ってくれるって安心してるんでしょ~?」

 

「……私が猫だったらこんな声出してるやつには守られたくないかなぁ」

 

「は? 猫は高い声の方が聞いてて気持ちよく感じるって常識なんだけど? 素人は黙ってくれる?」

 

「急に正気に戻られると怖いからやめてよ」

 

猫がリラックスするのもわかると、サナリモリブデンはぼんやり感じていた。

なにしろ空気がひどくゆるい。

こんな中では気を張るのも馬鹿らしくなるというもの。

この猫の場合は元々警戒心がほとんどなさそうではあるが、あったかも知れない最後のひとかけらも吹っ飛んでしまったようだ。

 

さらにオマケで猫は大あくびをきめてみせる。

歯並びはもちろん、喉の奥の奥まで覗けるようなどでかいやつだ。

ソーラーレイはまたも高い声で大喜びし、スマホの連写機能を存分に酷使した。

 

「……はは、のんきな子」

 

チューターサポートもまた、あんまりな気の抜けっぷりに笑いを漏らす。

その顔からは初めにあった焦燥感はすっかり消えている。

 

「……私も見習うか。ここまではやりすぎにしてもさ」

 

「ん、それがいいと思う。ここまではやりすぎだけど」

 

「ネコチャンにやりすぎなんてないよねぇ~。どんなことしててもかわいいもんねぇ~」

 

そんなこんなで、ぬるま湯めいた午後は過ぎていく。

普段は厳しい世界に身を置くウマ娘達だが、たまにはこういう日もあって良い。

何事も全力を尽くすだけが正解ではない。

柔らかく穏やかな時間を糧にしてこそ、走る脚にも力が籠るというものだろうから。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ソーラーレイの絆+10

友好:チューターサポートの絆+5

成長:賢さ+10

獲得:スキルヒント/ペースキープ

 

ペースキープ/レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する

 

スピ:142

スタ:105

パワ:149

根性:136

賢さ:126 → 136

 

 


 

 

【7月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

適応訓練:ダート   / ダート経験↑↑↑ スタミナ↑  パワー↑

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:142

スタ:105

パワ:149

根性:136

賢さ:136

 

 

【適性】

 

芝:C(1/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(4/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(4/50)

追込:C(0/20)

 

 



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ジュニア級 7月トレーニング結果~8月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

スタミナトレーニング

 

 


 

 

いざスタミナを鍛えようという時。

トレセン学園においての現在の主流はプールトレーニングだ。

 

スタミナとはつまり、心肺機能の強度を指す。

肺で効率よく酸素を取り込み、心臓でそれを全身に送り出す。

この能力が高ければ高いほどスタミナがあるという事になる。

 

そして心肺機能を高めるためにはプールはとにかく適任なのだ。

 

水中では、水圧により胸部が圧迫され肺は普段よりもその容積が小さくなる。

この状態で運動を行おうとすると、体は不足する酸素を求めて自然と肺を広げようと動く。

水圧をはねのけるために、陸上での運動時と比べより力強くだ。

この時に呼吸筋と呼ばれる胸部と腹部の筋肉群に大きな負荷がかかり、そして当然筋肉は負荷をかけると少しずつ強化されていく。

 

呼吸筋が強ければ強いほど肺の動きも大きくなる。

つまり、一度に取り込める酸素量が増加するのだ。

こういった理屈で、ウマ娘のスタミナはプールで鍛えられる。

 

「息継ぎの間隔が短くなっていますよ。浅く何度もではいけません。深く大きく、動きながらも深呼吸を意識してください」

 

プールサイドからの郷谷の声に応じ、サナリモリブデンは息継ぎの頻度を変える。

大きく吸い、大きく吐く。

息苦しさから浅く小さい呼吸を何度も繰り返したくなるが、それでは意味がない。

直感的な肉体の要求と実際の効果との間にあるギャップに苦労しながらも、サナリモリブデンは懸命に指示に従う。

 

「そう。とてもいい感じです。その調子でいきましょう!」

 

上手く指示に乗れた時、郷谷は分かりやすく明るく声を上げ、笑顔を見せる。

それはサナリモリブデンにとって嬉しい事だった。

頑張れば褒められ、上手くやれば喜ばれる。

これが嫌いな者はそうはいない。

サナリモリブデンもまた同じく、一声かけられるごとにモチベーションを漲らせていく。

 

水をかく腕、蹴る脚にも力が入る。

プールの利点はここにもあった。

 

水泳とは全身運動だ。

体のほぼ全てに均等に負荷がかかり、均等に動作する。

ウマ娘の肉体のバランスが整い、弱い部分が徐々に補われてくる。

特に、意識して鍛えなければ脚と比較して貧弱になりがちな上半身が育てられる効果は大きい。

これが走りにもたらす恩恵は決して小さなものではない。

 

また、均等に負荷がかかるという事は、つまり一か所に負荷が集中しないという事。

自然とケガの発生率も極めて低く抑えられる。

何かと故障に泣かされる事の多いウマ娘にとってはもちろん嬉しい事だ。

 

プールトレーニングとはこのように利点だらけの優れたメニューなのである。

……唯一、そもそも水泳が苦手な者には向かないという問題はあるが。

それでも中央トレセンのみならず、全国のウマ娘教育機関には例外なくプールが備えられている程度には有用な設備として知られている。

 

サナリモリブデンもまたその恩恵に十分にあやかり、プールの水流に抗って肺を鍛え上げるのであった。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:成功

 

 


 

 

「はい、お疲れ様です。今日はここまでにしておきましょう」

 

「うん」

 

プールから上がり、サナリモリブデンは頷いてから軽く頭を振った。

水泳中はまとめられていない芦毛から水が飛び散り、照明の光を受けてきらりと輝く。

 

「サナリさんは」

 

そこから数歩の遠さ。

水のかからないだけの距離を開けて待っていた郷谷が言う。

 

「プールだといつも気持ちよさそうにしてますねぇ」

 

「うん。泳ぐのは割と好きな方だと思う」

 

それにサナリモリブデンは肯定を返した。

口の端がほんの少し持ち上がっている。

はた目にも機嫌が良いとはっきりわかる仕草だ。

 

「トレーナーは?」

 

「ふふ、私も好きですよ。気が合いますね」

 

「そっか。うん。いいよね、水」

 

「えぇ、とても。実はスキューバなんか趣味にしてまして。自前で道具も揃えてるんですよ」

 

「思ったよりすごい好きだった」

 

サナリモリブデンは目をぱちくりさせた。

彼女自身はスキューバには詳しくない。

持っている知識といえばテレビのレジャー特集で見た程度のものだ。

それでもウェットスーツや酸素ボンベなど、費用や手入れに手間のかかるものをわざわざ用意するのは相当だろうとわかる。

 

「楽しいの? スキューバ」

 

「それはもう! 海の中に潜ると本当に色んなものが見えまして。魚なんかの生き物はもちろん、海底の地形を見ているだけでも面白いものですよ」

 

「へぇ……」

 

郷谷はいかにもウキウキと語った。

その様にサナリモリブデンは想像する。

水底のゴツゴツした岩場と、そこをちょこまか動き回るカラフルな魚達。

海藻も生えているかも知れないし、サンゴやイソギンチャクもあるかも知れない。

空想の中ではどんな環境を描くも自由だ。

 

「クラシックとシニアでは合宿で海にも行きますし、興味があるならサナリさんもやってみますか?」

 

「ん……」

 

サナリモリブデンは少し言葉に詰まる。

夏合宿。

来年以降に行われるそれは、ウマ娘のトレーニングにおいて重要な意味をもつとされる行事だ。

 

そこに参加する時期にレジャーを楽しむ余裕があるかはまだ分からない。

未勝利戦から抜け出せていなければタイムリミットが近く、遊ぶどころではないだろう。

シニア級の夏合宿にいたっては、その時に学園に籍を残せているかさえまだ確定していない。

 

「うん。ちょっと興味ある。やってみたいかな」

 

「わかりました、覚えておきますね。合宿が近くなったら暇を見てライセンスを取りにいきましょう。1週間もかかりませんから」

 

だが、だからこそサナリモリブデンは頷いた。

郷谷の提案は、それまでに必ず勝利させてみせるという意気込みの表れだろう。

ならば応えるのが専属契約を交わしたウマ娘の心意気と言うもの。

 

「……ウミガメとか、見れるかな」

 

「亀は私もまだ会ったことありませんねぇ……」

 

もちろん、単純にただ楽しみというのもあったようだが。

 

 


 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スタミナ+30/根性+20

 

スピ:142

スタ:105 → 135

パワ:149

根性:136 → 156

賢さ:136

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「スルメイカ」「コンビニスイーツ」「狂気」

 

 


 

 

「ふしゅるるるるるぅ……」

 

トレセン学園。

その寮の一角にて不穏な唸り声が響いていた。

 

「どうどう」

 

「ふしゃー!」

 

などと表現すると大袈裟だろうなぁ、とサナリモリブデンは心中でこぼした。

 

なんという事はない。

ここはサナリモリブデンの自室。

そこで同室のペンギンアルバムが荒れているというだけのことである。

 

それも別に深刻な理由ではなかった。

 

「もー! あの子は毎度毎度なんなの!? こっちがどんだけ苦労して食欲我慢してると思ってんのさぁ!」

 

「うんうん。アルは頑張ってるよね。えらいよ」

 

食に関する事。

というか正確には、体重に関する事が原因だ。

 

先日のダイエット騒動が記憶に新しいように、ペンギンアルバムの悩みは体重の増えやすさだ。

彼女は脂肪をため込みやすい体質であり、少し油断をするとぶくぶくと太ってしまう。

そうなるともちろんレースにも悪影響が大きいため、最近は特に食べるものに気を使っている。

 

「ほら落ち着いて。これでも噛むといいよ」

 

「あむ……もむ……」

 

以前は常態化していた間食もほとんどなくなった。

たまに手を伸ばしてもチョコやクッキーなどは決して手を付けない。

低カロリーで脂肪分の少ないものばかりだ。

たとえば今は。

 

「……うぅ、噛めば噛むほど味が出る……おいしい……でも欲しいのは甘さなんだよぅ……」

 

あたりめだ。

するめともいう。

そこらのコンビニのおつまみコーナーで売っている定番の品で、高タンパク低カロリー。

そして噛み応えがあり、少量で長く楽しめる点が売りだ。

食事制限中にはぴったりの逸品である。

 

ただ、それもペンギンアルバムの欲求を抑えられるほどではない。

何しろ、今の彼女の目の前にはあまりにも目の毒な品々が並んでいるためだ。

 

ババロア。

バームクーヘン。

ロールケーキにモンブラン。

そのどれもに新作とのシールが貼られたコンビニスイーツの群れである。

 

「ゆるさない……! 今度という今度は許さないからねキーちゃん……!」

 

「どうどう」

 

これらはペンギンアルバムが言うところのキーちゃん、キーカードというウマ娘が持ち込んだものだ。

サナリモリブデンとペンギンアルバムの共通の友人の1人で、ペンギンアルバム同様に食べるのが大好き。

にもかかわらず肥満とは無縁の体質。

怒れる青毛は友人にして不倶戴天の敵と言ってはばからない、そんな相手だ。

当の睨まれているキーカードはぽやぽやとした性格の少女であるので一方通行の敵意ではあるのだが。

 

ともかく、これらのスイーツはキーカードからのおすそわけであった。

彼女の趣味は新作コンビニスイーツの食べ比べであるらしい。

そしてその中で特に美味しかったと判断したものを親しい相手に容赦なくプレゼントする習慣を持っている。

年頃の少女にとってはありがたくも恐ろしい話だ。

 

「うぅ、食べたい……少しだけ……1個だけなら……」

 

被害をもろに受けたペンギンアルバムは一撃で瀕死に追い込まれている。

くりくりした愛らしい大きな瞳を食欲にギラギラ光らせてスイーツを見つめる様は、サナリモリブデンをしてちょっとのけぞらせるほどの迫力があった。

 

「……まぁ、1個だけならいいんじゃないかな。我慢しすぎるのもストレスでしょ」

 

それに負けたわけでもないが、サナリモリブデンは提案する。

体重を気にしすぎる余りに過大なストレスを抱えてはかえって心身のバランスを崩しかねない。

普段の食事量は上手く抑えられている以上、スイーツの1個程度は大した問題でもないだろう。

 

「う、ぐ、だ、ダメだよサナリン。こういうのはその1個から壊れていくんだから。堤防だって小さなヒビから崩れるんだよ?」

 

だが、ペンギンアルバムの決意はどうやら固い。

絞りだすような声で提案を蹴り、ギギギと音がしそうな動きでスイーツから顔をそらす。

大した精神力だ。

3時になれば手が勝手に動き、戸棚から無意識にお菓子を取り出して頬張る。

そんな過去の姿を知るサナリモリブデンとしては感嘆に息が漏れそうなほどの変化である。

 

「……よし、サナリン。これ食べちゃってよ! な、なくなっちゃえば誘惑もなにもないからさ!」

 

そうしてペンギンアルバムはスイーツの群れをサナリモリブデンへと押しやった。

受け取り、サナリモリブデンは確認する。

 

「いいの?」

 

「い、い……いい、よっ! た、食べちゃって!」

 

「苦渋にまみれてる……」

 

ペンギンアルバムの肯定は血を吐くような勢いだったが、ともかくそういう事になった。

食べてほしいというならそれでいいだろう。

元々所有権の半分が与えられている事もあり、サナリモリブデンは遠慮なく蓋を開ける。

 

「…………」

 

「…………」

 

「……………………」

 

「……………………」

 

「………………………………食べないの?」

 

「とても食べにくい……」

 

が、スプーンを手に取ったところで動きが鈍る。

何しろ、すぐ近くからものすごい目つきでペンギンアルバムが凝視してくるのだ。

元々目力が強いタイプではあるが、今日はひときわ力強い。

いっそ狂気さえ滲んできかねない鋭さで彼女はスイーツを睨んでいる。

 

このままでは、甘味を楽しむどころではなくなりそうだが……。

 



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ジュニア級 8月イベント結果〜8月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

ペンギンアルバムに一口差し出す

 

 


 

 

パクリとひと口。

 

 

「あっ……」

 

 

悲しそうな声。

 

 

「……」

 

 

パクリとひと口。

 

 

「あぁ……」

 

 

悲しそうな声。

 

 

(うん、無理だ)

 

 

その繰り返しがサナリモリブデンを追い詰めるにはそうかからなかった。

具体的にはモンブラン1個を食べ切った辺りまで。

そこが限界である。

 

サナリモリブデンがスプーンを動かし、栗のクリームで作られた小さな山を崩す度に、ペンギンアルバムが切ない声を漏らすのだ。

その小柄な体を小さく縮めて震えながらだ。

しかも大きな目は徐々に潤んできている。

 

端的に言って哀れましい。

この状態でまともにスイーツを食べ続けられるのはよほど他人に興味がない者か、あるいは特殊な性癖の持ち主だけだろう。

サナリモリブデンはそのどちらでもなかった。

全く味が分からず、滑らかで優しい甘さのはずのクリームがまるで砂でも噛んでいるような心地ですらある。

 

モンブランの空き容器をポリ袋に放り入れ、サナリモリブデンは次を手に取らずに口を開く。

 

「……アル、流石に食べにくいよ」

 

「う、そ、そうだよね、ごめんね……」

 

幸い、ペンギンアルバムはそれで素直に離れてくれた。

机に座るサナリモリブデンから距離を取り、ベッドに腰掛けてそっぽを向く。

 

それを確認して、これならばとサナリモリブデンはバームクーヘンが一切れ入った袋を開けた。

 

「はむ……」

 

「っ……!」

 

「…………もぐ」

 

「……っ! ~!!」

 

サナリモリブデンの視界の隅でペンギンアルバムが身悶える。

耳がピクピク震え、尻尾は布団をバタバタ叩き、視線がチラチラ向けられる。

 

(うん、無理だ)

 

率直に言って、食べにくさはわずかも減っていなかった。

それでも早く消してあげるに越したことはないと食べ進めるが、ペンギンアルバムが発する重圧のせいで喉の通りがひどく悪い。

スイーツとセットで入っていたミルクティーがなければ喉を詰まらせていたかも知れないほど。

 

「ごめん、アル。まだ食べにくい」

 

「うっ! ご、ごめん、そうだよね、そりゃそうだよ……」

 

そうして先程のやり取りが焼き直された。

サナリモリブデンがそっと指摘すると、ペンギンアルバムは慌てて立ち上がる。

そして部屋の中に視線をさまよわせるが、良い移動先が見つからないようだった。

まさかクローゼットに収まっていろなどとも言えない。

 

「えっと、私ちょっと自主トレでもしてくるからさ! 居ない間に食べちゃっててよ! ね!」

 

となればその辺りが無難な選択だろう。

ペンギンアルバムは誤魔化すような笑みを浮かべてドアを開け、廊下へと出ていった。

 

「……」

 

サナリモリブデンはそれを見送る。

 

ペンギンアルバムの食欲を笑おうとは思わなかった。

入学当初からしばらく、彼女が山ほど偏った食事をし、モリモリ甘い物を頬張っていた姿をサナリモリブデンは良く知っている。

思うさま、好きなだけ。

そういった表現がピタリと合うほどの食いっぷりであったのだ。

 

対して今はどうか。

食事は量こそ減ってはいないがバランスを重視して品目多く、脂肪になるだけの甘い物は断ち、欲望を抑えに抑えて耐えている。

ただただレースのためにだ。

これを笑う気には流石になれなかった。

見つめるだけで良く済んだものだと称賛こそすれど、決してバカになど出来ない。

 

(キーには後でちょっと言っておこう)

 

悪気ゼロでぽわぽわ微笑むスイーツの贈り主の顔を思い出し、サナリモリブデンはそう決める。

次からはペンギンアルバムには渡さないように。

もし自分に贈るにしても見えないところで。

その程度の要求を通す説得ぐらいは友人としてすべきだろうと考えた。

 

それはともかく、今はスイーツを消費しきらねばならない。

ひとりきりとなった部屋の中で、サナリモリブデンは再びスイーツに向き合った。

次に開けるのはロールケーキだ。

生クリームたっぷりの手のひらサイズ。

 

これで3個目だが、サナリモリブデンとてウマ娘。

日々の食事量はヒトミミを優に超えている。

コンビニスイーツの3個や4個程度はさしたる負担にもならない。

 

プラスチックのスプーンを差し込み、すくってひと口。

ようやく落ち着いて味わえた甘味は、スイーツ漁りを趣味とするキーカードが薦めるだけはある上質さだった。

 

生クリームはコッテリと甘く、それでいて溶けるような舌触り。

よほど上等なミルクを使っているのか後味にしつこさがなく、サッパリと歯切れも良い。

スポンジにも隙がない。

フワフワとした柔らかさはそれだけでも幸せを感じさせるほど。

だというのにクリームを包み込むことで互いに一段上の美味に変わる。

 

ほお、とため息が漏れるほどの出来栄えだった。

 

「ほわぁ……」

 

そう。

実際に食べていない、見ていただけの者からさえため息が漏れるほどの。

 

す、とサナリモリブデンが部屋のドアに顔を向ける。

……閉まり切っていない。

ほんの少し、ギリギリサナリモリブデンの手元を覗くのに必要な分だけドアが開いている。

 

「……アル?」

 

「ゔっ」

 

もちろん、容疑者は1人だ。

サナリモリブデンはそっとロールケーキのゴミを捨て、どうしたものかと頭を抱えた、

 

 


 

 

それから数分後。

サナリモリブデンはペンギンアルバムにスプーンを差し出していた。

 

「はい、あーん」

 

スイーツを与えるためである。

 

「い、いやいやいや! ダメだよサナリン! 折角我慢が続くようになってきたんだから!」

 

しかしペンギンアルバムはこれを拒否した。

首をブンブン、両手をパタパタ振って拒絶する。

その様子はまるで注射を拒否する子供のようだが、決定的な違いがひとつある。

 

どれだけ否定しても本音が隠しきれていないのだ。

激しい動きの中、視線だけはまっすぐに残ったババロアに注がれている。

 

「うん。アルは頑張ってきたよね。私も良く知ってる」

 

「だ、だったら誘惑しないでよぉ……!」

 

「でももう限界なんでしょ?」

 

ぐう、と唸ってペンギンアルバムは沈黙する。

実際問題、彼女はどこからどう見ても限界を迎えていた。

甘味に対する飢餓状態である。

スイーツ食べたさの余り、他人が食べている様から目を離せなくなるなど流石に度が過ぎていた。

 

サナリモリブデンとしてももう見ていられない。

これ以上我慢させるくらいならば無理矢理にでも食べさせる方が良いだろうという考えに至るのは致し方ないところだ。

明日以降、ペンギンアルバムのタガが緩むようなら自分の責任として再度引き締めがなるまで面倒を見るとも決める。

 

そのためにサナリモリブデンは、努めて優しく語り掛ける。

 

「ひと口だけ。今日食べるひと口ぐらい、許されていいと思う」

 

「でも、でもさぁ……」

 

涎を垂らし、瞳孔を半ば開きながらペンギンアルバムはなお抵抗を試みる。

彼女の理性はやめておけと止めている。

だが本能は真逆の意見を声高に主張しているのだ。

 

今すぐあの甘味の塊を貪りたい。

口いっぱい頬張りたい。

心ゆくまで味わい尽くしたい。

頭の中がそんな欲求で満たされていく様が、サナリモリブデンにもよくわかる。

 

「……大丈夫。アルの頑張りは私も知ってる。ご褒美がないとおかしい」

 

それを後押しするように、サナリモリブデンは囁く。

 

「それに、今まで頑張ってきたんだから明日からも頑張れる。そうでしょ?」

 

甘い甘い誘惑は、じわじわとペンギンアルバムに染み入っていく。

 

「我慢のしすぎは体にも心にも良くない。今のアルにはスイーツが必要だと思う」

 

そうして最後の一押し。

 

「だから、ね? ひと口だけ。ひと口だけ食べて、また明日から頑張る活力にしよう」

 

サナリモリブデンは小首を傾げて微笑んだ。

 

【挿絵表示】

 

慈愛の笑みを浮かべてサナリモリブデンがスプーンを差し出す。

そこから漂う香りが最後のトドメだった。

 

パクリ、とひと口。

その瞬間、ペンギンアルバムは喜びを爆発させた。

 

「~~~~~~!!!」

 

言葉を発する余裕さえない。

全身を震わせて涙を流し、甘酸っぱく柔らかいババロアの食感を全霊をもって堪能する。

 

「……おいしい?」

 

「おいひぃ、おいひぃよぉー!」

 

問いかけに答えたペンギンアルバムの顔は幸福感に満たされていた。

これまで必死に耐えに耐え、我慢を積み重ねただけその味は至福のものなのだろう。

その余りの幸せっぷりに、サナリモリブデンもつい追加でスプーンを動かす。

 

「もうひと口、食べる?」

 

「う゛ぅ゛ん゛っ」

 

「すごい必死」

 

だが、それはペンギンアルバムが今度こそ断った。

反射的に頷きかけた首を途中からぐりんと横に振っての拒否である。

 

「だ、だめ、これ以上は我慢できなくなっちゃうから。もう大丈夫。ありがとうサナリン」

 

「そっか、うん。アルはすごいね」

 

サナリモリブデンの言葉は本心からの称賛だった。

となれば再びすすめるのは無粋というもの。

サナリモリブデンは素直に引き下がり、残ったババロアの処理に取り掛かる。

 

「……」

 

それに対し、ペンギンアルバムはちらちらと見るだけだった。

先ほどまでのように唸ったり震えたりはしていない。

あのひと口は確かに効果があったようだ。

飢えは随分と和らいだらしい。

 

サナリモリブデンはその事実に内心で安堵する。

ペンギンアルバムはこれで安定するだろう。

異常なほどの食への執着は当分鳴りを潜めるはずだ。

 

 

レースのために締める所は締めなければならない。

けれどやりすぎもまたメンタルを崩す事になる。

 

(次に調子をおかしくしてる様子があったら、またひと口何か食べるように誘っておこう)

 

そんな事を一人心の中で決め、サナリモリブデンはババロアを残さず平らげたのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+10

獲得:スキルPt+40

 

スキルPt:200 → 240

 

 


 

 

【7月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

適応訓練:ダート   / ダート経験↑↑↑ スタミナ↑  パワー↑

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:142

スタ:135

パワ:149

根性:156

賢さ:136

 

 

【適性】

 

芝:C(1/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(4/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(4/50)

追込:C(0/20)

 

 



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ジュニア級 8月トレーニング結果~9月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

スピードトレーニング

 

 


 

 

芝を駆ける。

郷谷と契約して以来、サナリモリブデンが最も多く行ってきた事だ。

だが、今回のそれは今までとは趣が違う。

 

「3、2、1、スタート!」

 

流すように走るサナリモリブデンに、コース外から郷谷の合図が送られる。

その瞬間に加速が開始された。

ほとんどジョギングのようだった状態から段階的に速度を上げていきトップスピードを目指す。

そして到達したならば、それを維持する。

 

それだけのトレーニングだ。

高速で走るために必要な筋肉に負荷をかけ、鍛える。

高速で走る感覚に慣れ、より安定する走行姿勢を覚えこむ。

スピードを鍛えるには基本的にこれの繰り返しだ。

 

単純に、厳しい。

適応訓練は成長の実感が難しい精神的な辛さ。

それに対しスピードトレーニングはとにかく身体的にひたすら辛い。

ウマ娘の全力を叩き込まれた脚が甚大な負荷に悲鳴を上げる毎日だ。

どちらがマシかは個々人によるだろうが、トレーニングに臨む者にかかる負荷はどちらも相当なものである。

 

だが今のサナリモリブデンは高いモチベーションを維持していた。

回転させた脚を下ろし、芝と土を蹄鉄で噛み締め、後方に蹴り飛ばし、そしてまた回転させる。

そのサイクルがサナリモリブデンにとってかつてない精度で行われる。

 

6月、メイクデビュー。

サナリモリブデンは敗北こそしたが、そのレース中に待ちに待った適応がようやく叶ったのだ。

 

生まれる速度も、加速力も、これまでとは段違いだった。

なるほどと、サナリモリブデンは満ち溢れる実感をもって理解する。

この走りが出来る者と以前の自分。

2者を並べて勝負になると思う方がおかしいと。

 

勝てないとは理解していた。

しかし、その現実的な遠さは現在に到達してようやく噛み締めるにいたった。

 

そしてだからこそ、もうひとつ分かる事がある。

 

(今はもう違う)

 

サナリモリブデンの精神が高揚する。

合わせて速度が上がる。

これまでの限界速度を一段破り、その上への到達法を急速に理解する。

 

(勝負になる。それも、対等の勝負に)

 

高揚が成長を呼び、成長が高揚をもたらす。

正の循環はサナリモリブデンの体の内を巡り続ける。

ターフに刻み込む一歩一歩が自信に変わっていく実感が今の彼女にはあった。

 

「はぁっ……はあっ……ふぅ」

 

やがて一周が終わり、サナリモリブデンはクールダウンに入る。

その表情は普段通り変化に乏しいが、瞳の奥は充実感に満たされており、全身からは熱気が噴き出さんばかりだ。

 

「お疲れ様です、サナリさん。これでメニュー終了ですね。あとはストレッチをして───」

 

「トレーナー」

 

だからか、いつもは決してやらない事だが、サナリモリブデンは郷谷の言葉を遮った。

 

「まだやれる。……ううん、もう少しやりたい。走りたい」

 

「ふむん? 珍しいですねぇ、サナリさんから言い出すなんて」

 

それに郷谷はほんの少し目を丸くした。

が、すぐにニッコリと微笑む。

 

「ふふ、でもわかりますよ。成長の実感があるんでしょう? 数字の上でも相当伸びていますし、これは走っていて楽しいでしょうねぇ」

 

「うん、とても。走っていい?」

 

その問いにはすぐに答えず、郷谷はサナリモリブデンの脚に触れて確かめた。

筋肉の張りや熱のこもり具合、関節の調子を観察してから顔を上げる。

 

「えぇ、問題ないでしょう。疲労は許容範囲です。もう1本やっていきますか。鉄は熱い時に打たないといけませんしね」

 

郷谷の許可に、サナリモリブデンは耳と尻尾を揺らして喜んだ。

いてもたってもいられない。

そんな様子でコースに戻り、もう一度ゆっくりと走り始める。

 

加速へ向けた準備運動。

トップスピードを楽しんだ後ではもどかしいほどの低速の中、サナリモリブデンは合図を待つ。

 

「3、2、1───」

 

待ちに待ったその声をとらえ、深く大きく息を吸う。

酸素を巡らせ、血液を回し、脚に満身の力を溜める。

 

「スタート!」

 

芝が舞い、芦毛のバ体が弾け飛ぶ。

真夏の長い日がじわじわと傾く中、サナリモリブデンのトレーニングはいつもより少し長く続けられた。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:大成功

 

 


 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+60/パワー+40

 

スピ:142 → 202

スタ:135

パワ:149 → 189

根性:156

賢さ:136

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「線香花火」「優勝者」「断捨離」

 

 


 

 

夕方。

寮の前を荷物が歩いていた。

 

「……?」

 

「え、なにあれ……無茶するなぁ」

 

発見したサナリモリブデンが立ち止まり、共に帰路についていたペンギンアルバムが驚きに声を漏らす。

 

それは四段重ねの段ボールだった。

ぐらぐらと左右に揺れながらも奇跡的なバランスで崩れずに移動している。

 

もっとも、もちろん段ボールが自力で動くわけがない。

荷物が多すぎて持ち主が隠れているだけで、無謀な何者かが一息に物を運ぼうとしているだけである。

視界がふさがって前も見えないだろうにとサナリモリブデンは呆れと心配を同時に湧きあがらせた。

 

「……ごめん、アル。私ちょっとアレ手伝ってくる」

 

「お? じゃあ私もやるよー。お付き合いお付き合い」

 

「ん、ありがと」

 

なので手助けを実行に移す。

ふらふらする段ボールに小走りで近付き、サナリモリブデンは一声かけた。

 

「危ないから手伝います。上二つ、持ちますね」

 

「へ? あ、すみません、ありがとうございますー!」

 

驚かせては危険だと慎重に、宣言通りの二つを持ち上げる。

そしてその途端、サナリモリブデンの心境は心配から呆れにガクンと傾いた。

なにしろ。

 

「あれ? サナリじゃない。何よいきなり敬語なんか使って。気持ち悪いわねー」

 

「だったら顔を出して歩いてほしい」

 

段ボールが消えて現れた顔が、やけに見覚えのある褐色肌の栗毛ウマ娘のものだったので。

 

 


 

 

「悪いわねー手伝ってもらっちゃって」

 

その後、歩く段ボールことソーラーレイと手伝いの二人、サナリモリブデンとペンギンアルバムは寮のゴミ捨て場前に移動した。

段ボールを地面に下ろし、ペンギンアルバムがソーラーレイに尋ねる。

 

「それで、目的地ここってことは……これゴミなの? 段ボール四つも?」

 

サナリモリブデンが聞く限り、その声に遠慮の類はないように感じた。

どう見ても初対面の距離感ではなさそうだ。

 

ソーラーレイとペンギンアルバム、考えてみればどちらも同期の中では上位のウマ娘である。

メイクデビュー前からも成績優秀者として知られていたのだから、どこかで顔を合わせて交流を持っていても別段おかしくはない。

そういう事なのだろうとサナリモリブデンは納得した。

 

「あぁ、違う違う。ゴミはこれから選別すんのよ」

 

「うん?」

 

「いるものといらないものに分けて、いらないのは綺麗さっぱり捨てようと思って。断捨離っていうんだっけ?」

 

二人のやりとりにサナリモリブデンはなるほどと頷く。

そして頷いた後に首を傾げた。

果たしてこれは断捨離で良いのだろうか。

それよりもむしろ。

 

「ゴミ候補が段ボール四つもあったらむしろゴミ屋敷の掃除に近い気がする」

 

「ぶふっ」

 

サナリモリブデンの率直な感想にペンギンアルバムが噴き出す。

一般家庭ならまだしも、ソーラーレイは寮暮らしである。

部屋は贅沢な広さとは到底言い難く、その中にこれだけの物があれば相当邪魔になりそうなものだ。

それこそゴミ屋敷の様相ではなかろうかとサナリモリブデンは考える。

 

「ぐ……い、言い返せないわ。同室の子にも同じこと言われたし……」

 

「くふふ、それ言われたっていうか怒られたんでしょ。もういい加減にしろって」

 

「……ノーコメントよ」

 

眉間に皺を寄せてそっぽを向き、口をつぐむソーラーレイ。

コメントを出せない時点で答えは決まったようなものだ。

どうやらソーラーレイは片づけられないタイプらしい。

それも共同生活を送る同室のウマ娘に怒られてようやく手をつけられるという程の。

 

「んんっ、まーともかくこれから分けるのよ。運ぶの手伝ってくれたとこ悪いんだけど、もう少し助けてくれない? 後でジュースでも奢るからさ」

 

ソーラーレイの頼みに、サナリモリブデンとペンギンアルバムはまぁよしと頷く。

二人とも今日の予定はもう終わっている。

あとは夕飯を食べて風呂に入って寝る程度。

ならばもう少し手を貸す程度は大したことでもない。

 

「ん。構わない。……ソーラーレイだけ残していったら日が暮れても終わらなさそうだし」

 

「よく分かってんじゃない」

 

そういう点で心配だったというのもあってだ。

 

 


 

 

「お疲れー。や、助かったわ」

 

そうして数十分後。

段ボールの中のガラクタを処分し終えて、サナリモリブデンたちはやれやれと立ち上がった。

最後に入れ物、段ボール自体をたたんでしまえば作業は終わりになる。

 

「はいはいお疲れ様。何さ分類って。ほとんどゴミじゃん……」

 

「ほんとそれよね。私もびっくりしたわ。まさかコレしか残んないなんて」

 

ペンギンアルバムの呆れ声に、ソーラーレイは悪びれもせずにそれを掲げて見せる。

あれだけあった荷物の中で唯一ゴミではなかった物をだ。

 

花火セットである。

派手派手しいカラフルな装飾の袋に入ったそれは、確かにゴミではない。

ないが、ギリギリのラインではあろう。

何しろ大半を消費した後の残りだったのだ。

具体的には。

 

「いやそれもほぼゴミじゃん? なんで線香花火だけ半端に残して放り出してたの?」

 

「わっかんないわ……。全然覚えてない。いつ使ったのかしらねコレ」

 

「適当すぎる……」

 

そういう状態だ。

触ってみたペンギンアルバムいわく、しけっている感覚はないのでおそらく使用可能。

だが花火の主役抜き、シメの線香花火のみを楽しもうという気にはそうそうならないだろう。

 

「線香花火……」

 

「なにサナリン、気になる?」

 

「ん、少し。こういう花火したことないから」

 

が、ちょっとした例外がここに居た。

 

「え、アンタ花火やったことないの? マジ?」

 

「……花火といえば見上げるものだと思ってたから」

 

「はーん……そういうヤツもいんのねぇ……」

 

花火といえば打ち上げ花火。

彼女にとってはそういう認識だったらしく、線香花火どころか手持ち花火自体の経験がないようだ。

サナリモリブデンはしげしげと、パッケージの中に寂しく4本だけ残った線香花火を見つめている。

ペンギンアルバムとソーラーレイは顔を見合わせ、そういう事ならばやらない手はないと無言で合意した。

 

「よっしゃサナリン、そんじゃ晩ごはん終わったらやろうよ! 暗い方がいいから、夜にさ!」

 

「そうね、とりあえず人数分はあるし。寮長の許可は私がとっとくわ」

 

「ん……」

 

サナリモリブデンは顔を上げ、頬をほころばせた。

 

「うん。やりたい。お願いしていいかな」

 

うむ、と青毛と栗毛が揃って頷く。

それで、そういう事になった。

 

 


 

 

【挿絵表示】

 

「…………」

 

「どうよサナリン」

 

「……うん。綺麗。いいね」

 

夜の寮。

玄関脇の小さなスペースで、線香花火がパチパチと火花を散らしている。

その火の玉を眺めながら、サナリモリブデンは目を細めた。

 

「知らなかった。静かな花火もいいものなんだね」

 

「へっへっへ、そうでしょそうでしょ」

 

「なんでアンタが偉そうなのよ」

 

一本の線香花火を三人が囲む。

なんだか妙な時間だとソーラーレイは苦笑する。

でも悪くないおかしさだとペンギンアルバムは楽しみ、サナリモリブデンは初めて感じる火花の儚さにただ夢中になっていた。

 

「あ」

 

だが、それは残念ながら長くは続かない。

線香花火は実に線香花火らしい唐突さでその命を終えた。

火の玉はぽとりと地面に落ち、あっという間に燃え尽きる。

 

「……消えちゃった」

 

「まぁ線香花火だし、こんなもんよ」

 

ぽつりと呟くサナリモリブデンに、ソーラーレイがあっさりと流した。

残ったヒモ部分を回収するとバケツにぽいっと放り込む。

 

「よし、そんじゃ本番ね。……いい? 真剣勝負よ」

 

そして何やら真面目くさった顔で次の一本を手渡した。

 

「最初に消えたヤツの負け。最後まで残ったヤツの勝ち。ルールはそれだけよ」

 

「おっけおっけ、定番だよねぇ。罰ゲームは?」

 

「……私の部屋の片づけなんかどう?」

 

「なめんな」

 

キョトンとするサナリモリブデンをよそに話は進む。

だが話の流れで大体は理解できた。

そういった部分、彼女は特に察しの悪いタイプではない。

 

「ん、シンプルになんでも命令権一回でいいと思う。期限なしで」

 

「んぉ、サナリン結構攻めるねー。でもこの私に勝てるなんて思わないことだよ……!」

 

「上等じゃない、線香花火初心者のくせして。どうこき使われるか楽しみにしてるといいわ」

 

謎のシチュエーション特有の謎のテンション。

全員まとめてそこに迷い込んだまま、勝負は始まろうとしていた。

 

 


 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

三人の手元で火花が散る。

全員無言だった。

喋らず、動かず、夜の暗さの中でパチパチと弾ける火の玉に刺激を与えないよう息すら潜めて集中している。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

その最中、サナリモリブデンはちらりと二人の様子を伺った。

 

彼女の頭の中で思い出されるのはルール説明だ。

最初に消えれば負け。

最後まで残れば勝ち。

ルールはそれだけ。

ソーラーレイは確かにそう言っていた。

 

ならばつまり、敵の妨害はルール違反ではないという事になるのでは?

サナリモリブデンはその考えに至っている。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

無言の中、時間は過ぎていく。

線香花火の寿命は刻一刻と減り続けている。

行動を起こすならば早めでなければならないと、サナリモリブデンは考えた。

 

 



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ジュニア級 9月イベント結果~未勝利レース距離選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

自分の線香花火に集中する

 

 


 

 

(……いや、やめておこう)

 

だが、サナリモリブデンはその考えを放り捨てた。

 

線香花火の命は短い。

輝いて、瞬いて、ふつりと落ちる。

その儚さをわざわざ縮めたいとは思わなかった。

 

ゴミとして捨てられていてもおかしくなかった線香花火を、折角友人たちが自分のためにと共に楽しんでくれている。

そんな時間をただ真っ当に楽しもうとサナリモリブデンは決めた。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

他の二人もそれぞれの手元に意識を集中し、息さえ止めている。

サナリモリブデンもそれに倣い、静かに火の玉を見つめた。

パチパチと音を立てて火花は踊る。

膨らんでは小さくなり、弾けてはまた大きくなる。

 

「……」

 

それはとても静かで、穏やかな時間だった。

終わってはほしくない。

もう少しだけ長く。

賭けとは全く無関係な部分でサナリモリブデンは小さく願った。

 

だが、何事にも終わりはある。

 

 


 

 

【分岐判定】

 

難度:70

参照:賢さ/136

 

結果:90(成功)

 

 


 

 

「───んぁっ!?」

 

どこか間抜けな声。

同時にぽとりと、火の玉がひとつ地面に落ちた。

 

「嘘でしょ!? そんなバカな、この私が……!」

 

脱落者はソーラーレイだった。

この勝負の言い出しっぺ。

得意満面で私が勝つと言っていたその顔は今や茫然としたものに変わっている。

一体どれだけ自信があったというのか。

 

彼女の敗北は無理からぬことであった。

ソーラーレイには落ち着きが少々欠けている。

彼女なりによく集中してはいたのだが、他二人に比べればいささか花火の扱いが雑だった。

その差が結果となって出たのである。

 

悔しがるソーラーレイをよそにサナリモリブデンとペンギンアルバムの勝負は続く。

二人ともにより深く、その集中の度合いを高めていく。

 

 


 

 

【分岐判定】

 

難度:70

参照:賢さ/136

 

結果:50(失敗)

 

 


 

 

「あっ……」

 

そして結果はそう間を置かずに出た。

 

サナリモリブデンの口から小さな落胆の声が漏れる。

彼女の手にあった火の玉もまた地面に落ちていた。

輝きを失ったヒモだけが寂しく揺れ、決着の形を示している。

 

「へっへっへ、私の勝ちぃー」

 

「く、この……顔がにくったらしいのよアンタ……」

 

優勝者、ペンギンアルバム。

彼女はにんまり笑い、敗者のソーラーレイがぎりぎりと歯噛みする。

どちらでもなかったサナリモリブデンはその真ん中でふっと頬を緩めた。

 

「ふふ。罰ゲームの命令、なんにするの?」

 

「さーてどうしようねぇサナリン。何かこいつにやらせたい事ある?」

 

「あ、ダメよ! 命令権は優勝者だけなんだから! そこんとこはキッチリしなさい!」

 

「はいはい。ん-、私生活でもキッチリさせてやろうかなぁ、命令で」

 

「……それは許してもらえない?」

 

「掃除、そこまで苦手?」

 

花火の残骸をバケツに入れ、火の後始末もしっかりと。

そんな事をしながら、三人の会話は弾む。

彼女たちの顔はどれも明るく楽しげだ。

 

夏の終わり際の、線香花火がほんの四本ばかりの小さな花火大会。

それでも、確かに大事な思い出としてサナリモリブデンの記憶に刻まれた夜だった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+5

友好:ソーラーレイの絆+5

成長:賢さ+15

獲得:スキルヒント/集中力

 

集中力/スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる

 

スピ:202

スタ:135

パワ:189

根性:156

賢さ:136 → 151

 

 


 

 

そうして日常を繰り返した先に。

勝負の日はやってくる。

 

控室にて、サナリモリブデンは最後のチェックを行っていた。

運動着の状態を確かめ、ゼッケンの固定具合を検める。

芦毛をポニーテールにまとめるリボンを、走行中に外れないように固く結び直す。

もちろん靴もだ。

ヒモの緩みはもちろん、裏返して蹄鉄も確認する。

 

「結局、他の蹄鉄は試しもしませんでしたねぇ」

 

それを横から見ていた郷谷が、ぽつりと呟くように言った。

その声に、サナリモリブデンはこくりと小さくうなずく。

 

「うん。私の脚にはこれが一番合うから」

 

「地元の小さな製作所さんのもの、でしたね」

 

頷くサナリモリブデンから靴を受け取り、郷谷はしげしげと蹄鉄を眺める。

それは一般的なメーカー製の物ではない。

サナリモリブデンの地元にある小さな金属加工所の手製の品だ。

彼女の希望で蹄鉄はそこから取り寄せて使っているのである。

これは一度決めたら決して曲げないこだわりに該当する部分で、サナリモリブデンはせめて他の蹄鉄も試走くらいはした方が良いとの郷谷の勧めにも頑として首を縦に振らなかった。

 

結局、話し合いの末には郷谷が折れた。

物が水準を満たしていないなら郷谷とてなんとしてでもサナリモリブデンの意思を曲げにいっただろう。

だが、それは一流企業の製品と比べても見劣りしないだけの逸品だった。

どころか、サナリモリブデンのみが使用するという前提ならばわずかにだが優越するとさえ言って良い。

郷谷は角度を変えながら何度も覗き込み、指先で叩いて反響音を聞く。

 

「いつも通り丁寧な作りです。職人魂を感じますねぇ。メイドインジャパンの鑑みたいなものですよこれは」

 

「ん。おじさんの腕は世界一」

 

「今度私もご挨拶に伺わないといけませんね。ずっとお世話になるでしょうし」

 

「なら、その時は羊羹を持っていくといいと思う。好きみたいだから」

 

「いい事を聞きました。覚えておきましょう。さて……」

 

蹄鉄の確認を終えた郷谷は、サナリモリブデンに向き直った。

 

「今日の調子はいかがですか? サナリさん」

 

「ん……」

 

その問いに、サナリモリブデンはすぐには答えなかった。

代わりに目を閉じて、深く息を吸い、吐く。

全身に一度力が籠り、ゆっくりと足先から順に抜けていく。

そうして確認を終えてから呟くように言う。

 

「悪くないと思う。力は出し切れる。……やれる」

 

「えぇ。今のサナリさんならやれます」

 

サナリモリブデンのその認識を郷谷も後押しする。

背中に手を添え、ぽんと軽く叩く。

 

「今日は、今日こそはサナリさんに不利はありません。実力は伯仲しています」

 

触れただけでも分かるレースへの興奮。

それが過度なものにならないよう、郷谷は努めて静かに語り掛ける。

背を撫ぜる手も、穏やかに、優しく。

 

「実力を出し切れれば勝機は十分です。焦りだけは禁物ですよ。決して自分の走りを見失わないで下さい。一度のミス程度でしたら取り返す余裕はあるはずです」

 

応えるように、サナリモリブデンも静かに頷いた。

 

「大丈夫。分かってる。ありがとう、トレーナー」

 

「はい。ではそろそろ行きましょうか。パドックの時間です」

 

最後にもう一度だけ強く背を押してから、郷谷はその手を離す。

サナリモリブデンは立ち上がり、力強く踏み出した。

 

ジュニア級、9月、未勝利戦。

その開始はもう間もなくだ。

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:202

スタ:135

パワ:189

根性:156

賢さ:151

 

馬魂:97

 

 

【適性】

 

芝:C(1/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(4/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(4/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 



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ジュニア級 9月 未勝利レース 作戦選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

マイル

 

 


 

 

【レース生成】

 

【未勝利レース/芝1600メートル/左回り/中京レース場】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:曇

状態:良

難度:63(ジュニア級9月の固定値70/未勝利レース倍率 x0.9)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:フリルドアップル

2枠2番:ケチャップステップ

3枠3番:ブリッツエクレール

4枠4番:クロニクルオース

5枠5番:サナリモリブデン

6枠6番:エーネアス

7枠7番:ブリーズチョッパー

8枠8番:バトルオブエラ

8枠9番:アクアリバー

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝C/補正なし

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:適用スキルなし

 

調子:普通/補正なし

 

スピ:202

スタ:135+13=148

パワ:189

根性:156

賢さ:151+15=166

 

 


 

 

『中京レース場第3レース、ジュニア級未勝利。着々とゲート入りが進んでおります。空模様は曇天ですが雨はありません。バ場状態は良』

 

実況の声が場内に響く。

それを聞く者はさほどに多くない。

未勝利レースはファンからの注目度が低く、観客はまばらだ。

午後のオープンレースなどに近い時間帯ならまだそれなりに入る事もあるが、これは第3レース。

時刻は午前10時50分と半端なところだ。

 

応援スタンドは空席ばかりが目立つ。

6月のメイクデビューから比べても随分とその数は減っている。

それはそのまま出走ウマ娘に対する期待の薄さを表していると、口さがない者ならば言うだろう。

実際に、半ば事実ではある。

 

それでもサナリモリブデンは平常心のままでゲートに向かった。

暗く狭い、孤独なゲートの中。

そこでサナリモリブデンは目を閉じて、控室でのやり取りを思い出す。

郷谷による、出走直前の指示をだ。

 

 


 

 

「中京レース場のマイル戦はコーナーの途中から始まります。第1コーナーと第2コーナーの間にある引き込み線から第2コーナーに飛び込んでいく形ですね」

 

郷谷は手元のタブレットを操作しながら語った。

画面の中には中京レース場の3D映像が映し出されている。

 

「スタート直後のカーブ、ここが中々に曲者です。一見して分かる内枠有利ですが、だからこそ外枠が無理を通して内に攻めかかります。序盤での位置取り争いは熾烈だと覚悟しておきましょう」

 

サナリモリブデンは頷き、自分の枠順を再度確かめる。

5枠5番。

9人立てのレースのちょうどど真ん中だ。

距離的には大きな有利も不利もないフラットな立ち位置。

だが左右両方のウマ娘の動向に気を払わなければ周囲の波に飲み込まれかねない位置でもある。

 

「その後の向こう正面は前半はなだらかな登り、ちょうど真ん中あたりから下りに変わって、それは3コーナー4コーナーにも続きます」

 

郷谷の指が動く。

それに合わせて3Dデータは角度と縮尺を変えていった。

映像はコースを横から見た断面図になり、傾斜の度合いをサナリモリブデンに示す。

登り、下り、ともに郷谷の言通りゆるやかだ。

 

「このゆるやかながらも下りというのがコーナーで効いてきます。何しろ中京はスパイラルカーブですからねぇ。速度を乗せたまま曲がりやすく作られているんです」

 

その言も3Dで見るとよく分かる。

入り口がゆるく、出口がきついという作りだ。

これはスパイラルカーブと呼ばれ、郷谷が説明した通り曲がりながらも速度を出しやすい。

 

「さらに最後の直線。この前半部分には上りの坂があります。見てください。きっついですよーここは」

 

そして、そのゆるやかな下り坂が突然登りに繋がる。

高低差2メートル、勾配2%。

日本一とまではいかないものの、上から数えた方が早い急傾斜。

 

「この急坂で体力を削られてからまだ200メートル、計412メートルの長めの直線。これが中京レース場のコースです」

 

なるほど、とサナリモリブデンは頷いた。

そして画面を見つめながら頭の中で情報をまとめる。

 

 

序盤は位置取り争いが熾烈だ。

コーナーは下り坂な上にスパイラルカーブで速度に乗りやすく、外に流れやすい。

最終直線は坂がきつく、距離は長い。

 

そして距離は1600メートルのマイル戦。

短めのレースと言えるだろう。

 

情報を飲み込み切れたところで、サナリモリブデンは顔を上げた。

 

「ん。わかった。それで、今日はどう走ればいい?」

 

最終的にそれを決めるのは郷谷だ。

実際に走るのはウマ娘でも、知識と経験に優れるのはトレーナーである。

ならば決定は委ねるべきで、サナリモリブデンはそれに抵抗のない従順な性質だった。

 

彼女の脚質は多少の得手不得手はあるものの、ほぼ自在と言って良い。

幼少期からの無茶なトレーニングで培った幅広い適性はあらゆる戦術を可能としていた。

逃げ、先行、差し、追込み。

どれを選ぼうが勝機は十分にある。

 

指示を求めてサナリモリブデンはトレーナーの目を見つめる。

その中に確かに宿る信頼を見て微笑んだ郷谷は、最後に少し考える素振りを見せてから口を開いた。

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:202

スタ:148

パワ:189

根性:156

賢さ:166

 

【適性】

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(4/50)

追込:C(0/20)

 




※ レースシーンは描写カロリーが高いため、いつもの時間に間に合わない可能性が高いです。気長にお待ちください。


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ジュニア級 9月 未勝利レース

 

 


 

 

【投票結果】

 

差し

 

 


 

 

郷谷の指示は、差し。

道中は中団後方に控えての末脚勝負。

サナリモリブデンが特に得手とする戦法の片割れだ。

 

『3番人気、5番サナリモリブデン。前走終盤で見せたど根性を今日も期待したいところ。2番人気は1番フリルドアップル、虎視眈々と前を狙うウマ娘。今日こそはこじ開けたい。そして1番人気はこの子、3番ブリッツエクレール。これまで対戦相手に泣かされてきましたが実力はピカイチ。先を行ったライバル達に追いつけるか』

 

短い回想を終え、サナリモリブデンは閉じていた目を開く。

そしてゲートの中、スッと姿勢を落として身構えた。

 

『各ウマ娘ゲートイン完了。今係員が離れて───』

 

厚い雲に覆われた空の下。

6月の敗者たちが雪辱を果たすための戦いが始まる。

 

『───スタートしました!』

 

 


 

 

【スタート判定】

 

難度:63

参照:賢さ/166

 

結果:110(成功)

 

 


 

 

『揃って綺麗なスタートとなりました中京レース場第3レース、ジュニア級未勝利。まずはポケットから第2コーナーへ駆けていきますが、早速激しい位置取り争い』

 

ポケット、あるいは引き込み線。

コーナーの途中から外に飛び出すように設けられた直線の事だ。

ウマ娘たちはこの短い直線を駆け抜け、第2コーナーへと向かっていく。

 

スタート直後のコーナーとなれば、枠番による有利不利は大きい。

誰もかれもが少しでも有利な走路を求めてポジションを奪い合う。

 

『ハナを狙って飛び出していくのは2番ケチャップステップと4番クロニクルオース。続きたい1番フリルドアップルですが、そこを寄越せと8番バトルオブエラが割り込んでいきます。フリルドアップル少し下がって前を譲った』

 

先頭では案の定熾烈な戦いが始まっていた。

前2人は互いに譲らず、レースを引っ張るのは自分だと主張しあう。

続こうとした1番は8番の鬼気迫る威圧に押されて足を緩めた。

 

そういった争いは、もちろんサナリモリブデンの周囲でも巻き起こっていた。

同じ作戦、差しを選んだらしいのは内で3番ブリッツエクレール、外で6番エーネアス、9番アクアリバー。

1番人気のウマ娘が悠々と最内を走る事は許せなかったのか。

6番と9番はサナリモリブデンをも巻き込んで3番に猛然と襲い掛かろうとしている。

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択】

 

冷静に受け流して後方につける

 

 


 

 

その流れにサナリモリブデンは乗らない。

 

多少の不利は飲み込んで後ろに下がってとにかく脚を溜めていく。

最初のコーナーは内でさえあれば良く、競り合い、潰しあっての消耗は避けるべきだと判断したのだ。

サナリモリブデンはするりと立ち位置を変えていき、ブリッツエクレールの背後を目指す。

 

 


 

 

難度:63

参照:賢さ/166

 

結果:11(失敗)

 

 


 

 

「……っ」

 

だが、それを邪魔する者があった。

 

ブリッツエクレールの背後を狙った彼女の、さらに後ろ。

そこから発せられた重圧に思わずサナリモリブデンは反射的に加速した。

逃げるように前へ、ブリッツエクレールの隣に進み出て、失態に気付いた時にはもう遅い。

内に入ることのできるスペースはどこにもなくなっている。

 

(……やられた)

 

ほんの一瞬、サナリモリブデンは後方を振り返る。

そこに居たのはショートサイドテールを揺らして走る栗毛のウマ娘。

外から迫ってきた9番、アクアリバーだ。

闘志を漲らせて細められた視線はサナリモリブデンに注がれている。

 

『フリルドアップルに続くのは6番エーネアス。すぐ後ろに1番人気ブリッツエクレール。その外5番サナリモリブデン。ほとんど差がなく9番アクアリバー。少し開けて7番ブリーズチョッパーは単独の最後尾』

 

サナリモリブデンが狙った行動は、そのままアクアリバーが綺麗に遂行した。

代わりに押し出された形のサナリモリブデンは差し集団の中でただひとりコーナーを外で回っていく。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:アクアリバーが妨害する

 

 


 

 

そこに、さらに追撃が加わる。

 

サナリモリブデンの耳に重い足音が届く。

同時に、先ほども感じた威圧感が再度生じていた。

それは一歩ごとにじわりじわりとサナリモリブデンに迫りくる。

外へ外へと押し出して、より大きな消耗を強要するように。

 

(……まさか、狙われてる?)

 

そこでサナリモリブデンは気付いた。

アクアリバーの狙いはブリッツエクレールではなく、初めから自分であった可能性にだ。

 

前走、メイクデビューにおいてサナリモリブデンはアクアリバーと戦っている。

最終直線での立ち位置は遠く、直接競り合いはしなかった。

しかしその時にアクアリバーは既に見て、知っているのだ。

あの雨の重バ場の中、根性だけで食らいついて2着をもぎとったサナリモリブデンの姿をだ。

だからこそ警戒すべき敵と見なし、序盤から潰しに来たのだろう。

 

 


 

 

【抵抗判定】

 

難度:63

補正:冷静/+20%

参照:根性/156+31=187

 

結果:165(大成功)

 

 


 

 

しかし。

 

「……」

 

「くそ、こいつ……!」

 

サナリモリブデンは動かない。

不意打ちならばともかく、来ると分かった威圧で揺れるほど彼女の肝は細くはない。

大きく踏み慣らされる足音も、睨む目に乗せられる敵意も、そのペースを微塵も揺らせなかった。

 

余りの手応えの無さに、逆にアクアリバーが焦燥をつのらせる。

絞りだしたような悪態はまさにその表れだろう。

アクアリバーの戦意が純度を失い、重圧がほどけていく。

失速こそしない。

だが、サナリモリブデンの背を追う刺客は明らかに精彩を欠きつつあった。

 

 


 

 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/行動失敗(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:8-2=6%

 

結果:スタミナ/148-8=140

 

 


 

 

『第2コーナーを駆け抜けて、向こう正面のゆるい登りに入ります。先頭はクロニクルオースがケチャップステップを押しのけてハナを取りました』

 

序盤の攻防を終え、ウマ娘達は直線を進む。

向こう正面中央へ向けてのゆるやかな登りだ。

逃げるクロニクルオースはハナの取り合いに決着がついたらしく、坂と合わせて落ち着いたペースでレースを引っ張るようだ。

 

『2番手はケチャップステップ。バトルオブエラがそこに並びかけて、それを見るようにフリルドアップルが続きます』

 

 


 

 

【中盤フェイズ行動選択】

 

不確定要素を排除する

 

 


 

 

その間隙を使い、サナリモリブデンは行動を起こす。

 

6月に比べて基礎的な能力は確かに伸びた。

だがそれは対等な勝負が出来るというだけで、多くの余裕を持てたわけではない。

 

(そっちが、狙ってくるっていうのなら)

 

そんな状況で背を狙う者は放置できないと、サナリモリブデンは考えた。

実力を発揮できてようやく対等。

それを阻む要因となりうるものは先に潰すと、そう決める。

 

そしてそのやり方は。

 

(やり返すだけ)

 

まさに先ほど、アクアリバーが教えてくれていた。

 

 


 

 

難度:50(対象の動揺/x0.8)

参照:パワー/189

 

結果:155(特大成功)

 

 


 

 

サナリモリブデンの左足が激しくターフを踏み鳴らした。

重く、深く、腹の奥の奥にまで届くような重低音。

同時に、芦毛の頭がゆらりと振り向き、アクアリバーの瞳へと視線が向く。

 

「ひっ……! ぁ……っ」

 

そこに乗っていたのは凍えるほどの冷たさだった。

サナリモリブデンの目はただ見つめているだけだ。

にもかかわらず、その眼光に射貫かれたアクアリバーは呼吸を乱す。

恐怖に心が縛られて脚が震える。

 

そうして生じた失速を、アクアリバーはまるで制御できなかった。

ずるずるという音が聞こえそうなほどの勢いで、最後尾のブリーズチョッパーと並ぶまで落ちていく。

 

「……!」

 

さらに、事はそれだけに収まらない。

 

動揺は広がり、恐怖は伝播した。

隣を走っていたブリッツエクレール、前を行くエーネアスが弾かれたようにサナリモリブデンを見る。

その表情はいずれも引きつり、強張っていた。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:ブリッツエクレールがサナリモリブデンから距離を取る

 

 


 

 

表情はすぐに収まった。

だが、内心まではどうやらそうもいかなかったか。

 

『向こう正面中間を過ぎて、坂は下りへと変わっていきます。ここで1番人気ブリッツエクレールが前に出ていく。ちょっと仕掛けには早い気もしますがこれはどうか』

 

ブリッツエクレールは焦ったように進出を開始する。

下り坂を利用して加速するその意図は、背を見る側からすれば明らかだった。

威圧が予想を超えて効いている事を確信し、サナリモリブデンは驚く。

だが同時に、これ以上ない好機であるとも理解した。

 

 


 

 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:4-2=2%

 

結果:スタミナ/140-2=138

 

 


 

 

【終盤フェイズ行動選択】

 

加速してブリッツエクレールを追い立てる

 

難度:63

参照:パワー/189

 

結果:88(成功)

 

 


 

 

(思い出せ。覚えてるはず。やり方は、確か)

 

サナリモリブデンの脳は、かつて見た映像を想起した。

チームウェズン。

そのメンバーの1人、セレンスパークがアイビーステークスで敢行した、後方から行う崩しの技術。

 

(……こう!)

 

それを、見様見真似で模倣する。

 

蹄鉄が芝を深く噛む。

土を蹴り抜いて生まれた加速力は、狙い違わずサナリモリブデンの体を加速させた。

 

『先頭変わらずクロニクルオースのまま、3コーナーへ。この辺りで後ろも動いてくる。高速でのコーナリングが要求される中京レース場、前に楽をさせてはくれません』

 

一度は距離を取り安堵していただろうブリッツエクレール。

彼女はまたも迫った足音にピクリと背中を震わせた。

 

 


 

 

【追加判定】

 

難度:56(対象の不安/x0.9)

参照:パワー/189

 

結果:8(大失敗/マイナスイベント発生)

 

 


 

 

だが、それは。

サナリモリブデンの狙いとは真逆の結果をもたらした。

 

「舐めるな……っ!」

 

サナリモリブデンに対してか。

それとも一度は怯えた自分にか。

ブリッツエクレールは怒りに満ちた言葉を吐き、その体に闘志をたぎらせた。

 

 


 

 

【レース中イベント/ランダムから固定へ変更】

 

モブウマ娘の行動:ブリッツエクレールがサナリモリブデンの進路を塞ぐ

 

 


 

 

『最終コーナー出口へ各ウマ娘向かっていきます。バ群がじわじわと横に広がって前が開くぞ。最初に立ち上がるのはどの子か』

 

押し出せない。

追い立てられない。

それどころか、揺らぎが消えたブリッツエクレールは巧みにサナリモリブデンの前を塞いだ。

 

進路妨害ではない。

サナリモリブデンがカーブを曲がり、自然と膨らみたい方向に、ただ先にブリッツエクレールが居るだけ。

必然的にサナリモリブデンは加速を殺された。

行き脚を自分で止め、踏みとどまるために消耗を余儀なくされる。

 

 


 

 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/強制減速(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:10-2=8%

 

結果:スタミナ/138-11=127

 

 


 

 

そしてその成果を足音の変化で確認したか。

サナリモリブデンが減速した瞬間にブリッツエクレールが先んじてスパートをかける。

中京の直線412メートル。

その始まり、高低差2メートルの坂へと向けて。

 

敵手にだけ遅れを強要し、自身は何も取りこぼさない。

息を飲むほどの見事さだった。

 

余計な事をしたと湧きあがりかけた思考をサナリモリブデンは飲み干した。

後悔は文字通り後で良い。

今はまだすべき事が残っている。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:63

補正:差しA/+10%

参照:スタミナ/127+12=139

 

結果:66(成功)

 

 


 

 

「はっ、は、……っ!」

 

坂を登る。

最初のコーナーで不利を負い、余計な消耗まで重ね。

しかしそれでもサナリモリブデンにはまだ余力は残されていた。

前へ、前へ、上へ、上へ。

勝利を目指す力は体の中に確かにある。

 

『さぁ最終直線だ。クロニクルオースここまで頑張ったがいっぱいか、脚が鈍い。懸命に逃げるがここで捕まった、ケチャップステップが先頭に変わる。だがしかし───』

 

そして、視界が開ける。

ラストの200メートルへ。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:63

補正:差しA/+10%

参照:スピード/202+20=222

 

結果:115(成功)

 

難度:63

補正:差しA/+10%

参照:パワー/189+18=207

 

結果:96(成功)

 

 


 

 

「……ッ!」

 

鋭く息を漏らし、サナリモリブデンは芝を蹴りつける。

満身の力を籠めて、失態を犯した己を叱咤するように。

 

『───だがしかし外から飛んでくる。ブリッツエクレールだ。素晴らしい末脚でグングン差を詰めて、今2人まとめて撫で切った。一歩遅れてサナリモリブデンも続いていく。どうやらこの2人の競り合いだ』

 

その加速は確かに前を捉えた。

逃げていたクロニクルオースとケチャップステップはコーナーで息を入れられず、坂で勢いを失った。

今のサナリモリブデンならば、実力さえ発揮できれば後方から差し切るに問題はない。

 

だが、まだ足りない。

先を行くブリッツエクレールまでわずか半バ身。

それだけの距離が埋まり切らない。

怒りをターフに叩きつけて猛進するブリッツエクレールは手が届きそうなほどに近いというのに、6月に見たあの背中を思わせるほどに遠い。

 

(……違う。遠くない。そこにある)

 

そんな錯覚を呼び起こした弱気を、サナリモリブデンは切って捨てた。

 

(届く。届かせる。届くと───)

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:63

補正:なし

参照:根性/156

 

結果:113(成功)

 

 


 

 

(───決めた!)

 

歯を食い縛る。

痛いほどに瞳を見開き、遠くないと信じた背を睨む。

勝利すると己に断じた重みをもって、鋼の脚が振り下ろされる。

 

『サナリモリブデンがブリッツエクレールに並びかける。両者一歩も譲らないデッドヒート。後ろはもう届かない。この2人の争いだ。ブリッツエクレールか、サナリモリブデンか』

 

「……っ!」

 

「ぐ、うぅぅぅぅ!!」

 

言葉もなく、視線も合わせず。

ただそれぞれの全てを振り絞って、2人はターフを駆け抜けた。

 

 

 

 

 

 

 

サナリモリブデンだ、サナリモリブデン前に出た、差し切ってゴール! サナリモリブデン、見事に熱い競り合いを制して1勝クラスに駒を進めました。2着はブリッツエクレール、3着はバトルオブ……』

 

その瞬間を、サナリモリブデンはうっかりと知覚し損ねた。

ゴール板を駆け抜け、レースが終わったと認識し、脚を緩めて。

白熱していた視界がゆっくりと色を取り戻した頃に。

 

(……あ、れ?)

 

少ないながらも確かにある歓声と拍手が、もしかして自分に注いでいるのではないかとようやく気付いた。

 

「……ちょっと、何してるのさ。手くらい振っておきなよ」

 

「え、あぁ、うん……」

 

そこにブリッツエクレールがやってくる。

振り向いたサナリモリブデンは、呆けたような表情だ。

 

「あの、私……勝ったの?」

 

そしてとぼけた事を言った。

 

頭を抱えたのはブリッツエクレールである。

激戦の相手に一言贈ってやろうと近付いた結果がこれではそうもなろう。

 

「そうだよ。私の負けでそっちの勝ち。……先に行って待っててよ。私も、次は負けないから」

 

ため息をひとつこぼしてから。

闘志は霧散しつつも、再戦を願う言葉を投げてブリッツエクレールは去っていく。

 

 

 

 

 

その背を見送った後、サナリモリブデンは恐る恐る手を振った。

自身を見つめるまばらな観客へ向けて。

途端、彼らの上げる声は一段大きくなった。

 

(あぁ、私……)

 

スタンドからターフへと、祝福が注ぐ。

 

(勝ったんだ)

 

それは他のあらゆる全てよりも確かな形で、サナリモリブデンに勝ち取った物の実感を与えたのだった。

 

 


 

 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/差し経験+5

獲得:スキルPt+50

 

スピ:202 → 212

スタ:135 → 145

パワ:189 → 199

根性:156 → 166

賢さ:151 → 161

 

馬魂:97 → 100(MAX)

 

芝:C(6/20)

マ:B(9/30)

差:A(9/50)

 

スキルPt:240 → 290

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

【ステータス】

 

スピ:212

スタ:145

パワ:199

根性:166

賢さ:161

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:C(6/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(9/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(9/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

冬ウマ娘◎(冬のレースとトレーニングが得意になる)

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

集中力(スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

スキルPt:290

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆30

ソーラーレイ    絆20

チューターサポート 絆 5

 

 

【戦績】

 

通算成績:2戦1勝 [1-1-0-0]

ファン数:801人

評価点数:400(1勝クラス)

 

主な勝ちレース:ジュニア級未勝利

 

 

 



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【未勝利戦線総合スレ】

 

633:名無しのレースファン

おっしゃ勝ったあああああ!!!

 

 

634:名無しのレースファン

またかよおおおお!!

 

 

635:名無しのレースファン

俺のブリッツゥゥゥゥ!!!

 

 

636:名無しのレースファン

いい末脚勝負だぁ……(恍惚)

 

 

637:名無しのレースファン

っぱレースは差しよ

 

 

638:名無しのレースファン

>>635

お前のではない定期

 

 

639:名無しのレースファン

ブリッツまた2着か

なかなか勝ちきれんなー

 

 

640:名無しのレースファン

俺のふりゅりゅどこ……?

なんで1着におりゃんの……?

 

 

641:名無しのレースファン

誰だよふりゅりゅ

 

 

642:名無しのレースファン

>>640

お前のではない定期

 

 

643:名無しのレースファン

>>639

実力は間違いなくあるんだけどな

最後の最後で根性足りんのかね

 

 

644:名無しのレースファン

いやー根性は足りとるやろ

【ゴール板通過時画面キャプチャ.jpg】

 

 

645:名無しのレースファン

>>644

女の子の顔じゃなくて草

 

 

646:名無しのレースファン

>>644

こっわ

 

 

647:名無しのレースファン

>>644

あ^〜ウマ娘の顔^〜

 

 

648:名無しのレースファン

>>644

これは両者根性足りてますわ

むしろ溢れてる

 

 

649:名無しのレースファン

俺嬉しいよ

サナリンのこのガンギマリフェイスまた見れて感無量

今度は雨降ってないからハッキリだし

 

 

650:名無しのレースファン

>>649

わかる

前走もラストの気合やばかったもんな

見る目のない素人はマグレの大逃げに目取られてたけど分かるやつには分かる

この子は来るぞ

 

 

651:名無しのレースファン

俺のブリッツ……

 

 

652:名無しのレースファン

>>651

お前のではない定期

 

 

653:名無しのレースファン

>>650

余計な一言なければ同意したかったんだけどな

 

 

654:名無しのレースファン

ブリッツの敗因は根性より判断ミスだろ

明らかに仕掛けるタイミングおかしかったやん

かかってたか?

 

 

655:名無しのレースファン

>>654

それな

見ててアレってなったわ

落ち着いてるように見えてやっぱまだジュニア級なんだよな

 

 

656:名無しのレースファン

まぁしゃーない

経験は次に生かしてもらおう

ブリッツの実力なら流石に次はいけるだろ

 

 

657:名無しのレースファン

次はいける(3週間ぶり3回目)

 

 

658:名無しのレースファン

やっぱもうちょっと間隔開けて疲労抜いた方がええんやない?

 

 

659:名無しのレースファン

>>658

それはそう

 

 

660:名無しのレースファン

まぁとにかく今は勝者だよ

祝え!

全メイクデビュー敗者の屍を乗り越え、芝1600メートルを走り、トゥインクルに駒を進める未勝利戦の王者!

その名もサナリモリブデン!

……また一つウマ娘の歴史が刻まれた瞬間である!

 

 

661:名無しのレースファン

>>660

おめでとう!おめでとう!

 

 

662:名無しのレースファン

>>660

めでてぇ!

 

 

663:名無しのレースファン

>>660

サナリンおめでとう!

 

 

664:名無しのレースファン

>>660

うおおおお!

俺のサナリンうおおおおおお!!

 

 

665:名無しのレースファン

>>660

Congratulations !!

 

 

666:名無しのレースファン

>>660

おめでとう、そしておめでとう

 

 

667:名無しのレースファン

>>664

お前のではない定期

 

 

668:名無しのレースファン

なんだこれ……?

 

 

669:名無しのレースファン

お?

新入りか?

 

 

670:名無しのレースファン

マジかよ囲め囲め

 

 

671:名無しのレースファン

>>668

お前未勝利スレは初めてか?

力抜けよ

 

 

672:名無しのレースファン

>>668

ビールでも飲んでリラックスしな

推しの娘の話はしっかり聞いてやるよ

 

 

673:名無しのレースファン

説明しよう!

未勝利戦線総合スレではとにかく出走ウマ娘全員を応援すること!

そして勝者のウマ娘を全員で祝福すること!

これらがなんとなくのルールとなっているのだ!

>>660からの流れはそういうことなのだ!

 

 

674:名無しのレースファン

人少ないから内輪ネタでもやってないと場が持たんとも言う

 

 

675:名無しのレースファン

それな

過疎オブ過疎で過去スレ何回落ちたかわからん

 

 

676:名無しのレースファン

興味持ってくれるやつ早々おらんのよな……

 

 

677:名無しのレースファン

>>676

リアルで語れるやつまず居ないの悲しすぎる

推しウマ娘の話でブリッツの名前出したら100%誰?って返ってくるんよ

 

 

678:名無しのレースファン

ここが唯一の居場所だわ

 

 

679:名無しのレースファン

未勝利レース面白いのにな

クラシック6月辺りからのが特に

 

 

680:名無しのレースファン

>>679

わかりみにあふれる

やべーほど覚悟決まっててゾクゾクする

 

 

681:名無しのレースファン

>>680

その辺でまだ出走できる根性残ってる子はマジで振り切れてるからな

ある意味G1より戦意やばい

普通は「絶対に私が勝つ!」くらいなのにあの子らは「オマエヲコロシテワタシガカツ」ぐらいになってるもん

 

 

682:名無しのレースファン

今年も殺意の波動に目覚めたウマ娘たくさん見れたな……

来年の夏も楽しみだ

 

 

683:名無しのレースファン

>>681

そんな中にたまに混ざってくるケガでジュニア級スキップした純真な子が泣きそうになってるの可哀想だけど好き

 

 

684:名無しのレースファン

できればみんな勝ち上がって波動解除して欲しいんだけどな

 

 

685:名無しのレースファン

>>684

そこはしゃーない、勝負の世界だから

厳しいからこそ輝くものはあるんだ

 

 

686:名無しのレースファン

ほーんええスレやんけ

気に入ったわ

 

 

687:名無しのレースファン

>>686

ゆっくりしてけ

歓迎するぞ

 

 

688:名無しのレースファン

レース実況板で多分一番平和なスレだからな

のんびり楽しめ

 

 

689:名無しのレースファン

お、中山パドック始まるぞ

ジュニア芝1200

 

 

690:名無しのレースファン

おっしゃおっしゃ

見とけよお前ら

今日は俺のサラサーテオペラちゃんがぶっちぎるからな

 

 

691:名無しのレースファン

>>690

お前のではない定期

 

 

692:名無しのレースファン

>>690

そうだぞ

サラサーテオペラは俺のだからな

これだから勘違い後方腕組みおじさんは困る

 

 

693:名無しのレースファン

>>692

お前のではない定期

 

 

694:名無しのレースファン

>>693

お前たまにはそれ以外も喋れ定期

 

 



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ジュニア級 9月 次走選択

 

 


 

 

【固定イベント/初勝利のご褒美】

 

 


 

 

ハンバーグであった。

焼きたてあつあつ。

ゆらゆらと上がる湯気はなんとも食欲をそそり、つやつやのデミグラスソースは見ているだけでも高揚を誘う。

 

しかも3枚重ねであった。

良く磨かれたピカピカの大皿の中央にドカンと鎮座するそれは迫力満点。

 

そこにオマケというかトドメとばかりに人参が丸ごと1本突き刺さっているのだ。

断言しても良い。

ウマ娘ならば誰もが二度見した後でよだれを垂らしながら財布の中身と相談を始めるご馳走である。

 

「さぁどうぞ、今日はたっぷり好きなだけ食べてください」

 

「……い、いいの? 本当に?」

 

それはクールな無表情系ウマ娘、サナリモリブデンとて同じことだった。

普段は冬の日陰のように静かな瞳が今日ばかりは見開かれ、キラキラと輝いている。

対面に座った自身のトレーナー、郷谷に問いかけながらも特上にんじんハンバーグから視線を外す事さえできない。

 

ここはトレセン学園近くのちょっとお高いレストランだ。

土地柄上学園の生徒が利用する事も多く、ウマ娘向けのメニューの充実ぶりが特徴だ。

そしてこのハンバーグは、その中でも最も高級かつ最大の人気を誇る逸品なのだった。

 

「えぇ、もちろんですよ。お祝いなんですから、遠慮なんてする必要はありません」

 

「……うん。ありがとう、トレーナー。……いただきます」

 

本当に食べてもいいのか。

これだけのものならば相当値が張るのではないか。

そんな遠慮をサナリモリブデンも抱いてはいた。

 

だがそれを脇に置き、ナイフとフォークを手に取る。

とてもとても美味しそうで、なんとしても味わってみたかったのがひとつ。

そしてもうひとつ。

ニコニコと微笑む郷谷が本当に、この上なく嬉しそうだったためだ。

 

1月に契約を交わし、6月の敗戦を乗り越え、そして初めての勝利を手にしたこの9月まで。

これだけの月日を共に過ごせば互いの人となりはそれなりに理解できている。

変に遠慮しても残念に思わせてしまうだけ。

お祝いのハンバーグを美味しく食べて幸せを満喫することが彼女の本心からの望みだと、サナリモリブデンももう知っていた。

 

「……!」

 

そうして肉にナイフを差し込んだ瞬間、サナリモリブデンは驚く。

断面からあふれ出した肉汁の量と、その芳醇さにだ。

閉じ込められていた香りがふわりと広がり、まだ口に入れてさえいないのに濃密な味を楽しんだ錯覚さえ覚える。

 

本当に美味しい一流の料理とはどうやら食べる前から美味しいらしい。

サナリモリブデンはその衝撃にごくりと唾を飲み込んでから、ゆっくりと切り取った一切れを口に運んだ。

 

そして───。

 

 


 

 

「───っ?」

 

「あぁ、おかえりなさい。サナリさんは結構早いタイプなんですねぇ」

 

サナリモリブデンの意識が戻る。

どこからかといえば、天国からだ。

 

気付けば彼女の目の前の皿からはハンバーグが消えている。

あまりの規格外の美味に、無我夢中、茫然自失で食べきってしまったのだ。

食事中、どうやって食べたのか、どのような味だったのかさえ思い出せない。

 

だが、それを残念に思う気持ちはない。

サナリモリブデンの心中を満たすのは圧倒的な満足感だけだった。

言葉に表すなら、そう。

 

「…………トレーナー」

 

「はい、なんですか?」

 

「今、世界中のすべてに感謝したい気持ち」

 

「これ初めて食べた子は大体皆さんそう言いますねぇ」

 

そういうものらしかった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

成長:ALL+5

獲得:コンディション/絶好調

 

スピ:212 → 217

スタ:145 → 150

パワ:199 → 204

根性:166 → 171

賢さ:161 → 166

 

絶好調/次のレース時、能力がすごく上がる状態。レースが終わると解消される。

 

 


 

 

「さて、お腹も膨れたところで今後の話をしましょうか」

 

「ん」

 

食べ終わった皿が下げられた後、郷谷はそう切り出した。

サナリモリブデンはノンアルコールのシャンパンで唇を湿らせ、こくりと頷く。

今彼女たちが利用しているのはしっかりとした壁で仕切られた個室だ。

ゆったりと話をするにはちょうど良い空間である。

 

「まずはもう一度。本当によく頑張ってくれました。初勝利おめでとうございます、サナリさん」

 

「ん……トレーナーのおかげ。ありがとう」

 

「ふふ、謙遜せずに受け取っておきましょう。ですが半分はサナリさんの努力の成果です。そこは忘れてはいけませんよ?」

 

「うん。半分ずつ」

 

柔らかい笑みを交わしあった後、テーブル越しに郷谷が握った拳を差し出す。

サナリモリブデンはその意図を正しく読み取って、同じく拳を伸ばしてこつんと当てた。

郷谷は満足げに片目を閉じてウインクを飛ばし、体を戻す。

そうして説明を始めた。

 

「それで、ですが。これでサナリさんは晴れて1勝クラスに上がりました」

 

ピッと郷谷が顔の横に指を立てる。

 

「はい、それではサナリさん。1勝クラスに上がるとどうなるでしょう」

 

「ん、未勝利戦に出られなくなって、1勝クラスのレースに出られるようになる」

 

「はい正解。そのまんまですね」

 

その詳細を郷谷は語る。

 

ウマ娘はその成績によってクラス分けがなされている。

下から順に、未勝利、1勝クラス、2勝クラス、3勝クラス、そしてそれ以上のオープンの5段階だ。

クラシック級の春までは1勝クラスの次はオープンになるが。

 

そして、自身の所属するクラス以外のレースには出走できない*1

何度も勝利したオープンクラスのウマ娘が未勝利レースを荒らす事は出来ないし、未勝利のウマ娘が突然オープンクラスに殴り込む事も許されない。

 

1勝クラスのサナリモリブデンは、1勝クラスのレースにしか出られないという事になる。

 

 

「というわけで、1勝クラスのレースをこちらにまとめておきました」

 

テーブルの上に郷谷がタブレットを滑らせる。

その画面にはサナリモリブデンが出走可能なレースの一覧が表示されていた。

 

「とりあえずは年内のもので、サナリさんがまともに走れる芝のレースをピックアップしています。どれか気になるものはありますか?」

 

「ん……逆ならある」

 

サナリモリブデンはそれを覗き込んで、幾つかのレースを指し示した。

そして、右耳から下がるリボンをいじりながら言う。

 

「この辺りのレースは、なんとなく興味がそそられない感じがする」*2

 

「ふむん? なるほど、まぁそういう事もあるでしょう。フィーリングというのも走りには影響しますしね。では除外しておきます」

 

そうして残ったレースの一覧に、サナリモリブデンはもう一度目を通していく。

 

 


 

 

≪System≫

同月同距離のレースが複数あると票数がバラけて不利になる恐れがあるため、それぞれ1つになるようにランダムに選出しています。

 

 

【10月】

 

紫菊賞      秋/京都/芝/2000m(中距離)/右

 

【11月】

 

秋明菊賞     秋/京都/芝/1400m(短距離)/右

きんもくせい特別 秋/福島/芝/1800m(マイル)/右

百日草特別    秋/東京/芝/2000m(中距離)/左

 

【12月】

 

黒松賞      冬/中山/芝/1200m(短距離)/右

ひいらぎ賞    冬/中山/芝/1600m(マイル)/右

エリカ賞     冬/阪神/芝/2000m(中距離)/右

 

 


 

 

「どのレースを走るかはサナリさんの希望次第ですが、ひとつ付け加えておきますね」

 

タブレットとにらめっこするサナリモリブデンへ、郷谷は語り掛ける。

 

「12月にはジュニア級のG1があります。サナリさんの適性から走れるとしたら、朝日杯フューチュリティステークス、そしてホープフルステークスです」

 

そして、タブレットの横にスマホを並べた。

そちらには今言葉にしたG1レースの詳細が表示されている。

朝日杯FSはマイルの、ホープフルステークスは中距離のレースだ。

 

出走条件はジュニア級のオープンクラスである事。

ジュニア級においては1勝クラスの次がオープンクラスであるため、サナリモリブデンはあと1勝すれば出走資格を得られる事になる。

 

「なので今年中にG1に出走したいなら、11月までのレースに勝利する必要があります

 

「ん……」

 

その言葉を聞いて、少しの間サナリモリブデンは考え込んだ。

時間にして十数秒ほど。

それから顔を上げて、郷谷をまっすぐに見つめて尋ねる。

 

「もし、私が今G1に出たとして、勝機はどのくらい?

 

「ありません」

 

郷谷は即答した。

だろうなと、サナリモリブデンも頷く。

 

「残念なことですが、今のサナリさんでは重賞での勝利は全く現実的ではありません。入賞も難しいでしょう。現実を見るなら、今はトレーニングを優先しながら、他のレースで少しずつ経験を積み重ねるべき段階です」

 

「うん。トレーナーのそういう誤魔化しのないところ、助かる」

 

「流石にこれをやれると言ってしまうのは優しさではなく無責任ですからねぇ……」

 

苦笑をひとつ挟んで、続ける。

 

「なので全くオススメはできませんが、もしサナリさんがG1の空気を体感しておきたいですとか、あるいは何か強い思い入れがあるのでしたら、という話ですね。参加を目指すなら11月までの勝利が必要。そういう補足でした」

 

「ん、了解」

 

 

郷谷の話はそれで区切りのようだ。

サナリモリブデンは再びタブレットに視線を戻し、考える。

 

さて。

自分はどう走りたいのだろうかと。

 

 


 

 

【ステータス】

 

スピ:217

スタ:150

パワ:204

根性:171

賢さ:166

 

 

【適性】

 

芝:C(6/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(9/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(9/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い  (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

スキルPt:290

 

 

*1
格上挑戦は管理が煩雑になるので不可とします

*2
牡馬扱いのサナリモリブデンは牝馬限定レースには出走不可



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ジュニア級 9月次走選択結果~10月ランダムイベント

 

 


 

 

投票結果

 

きんもくせい特別

 

 


 

 

サナリモリブデンが選んだのは、きんもくせい特別だった。

開催時期は11月。

福島レース場で行われる、芝1800メートルのマイルレースだ。

 

「わかりました、では登録しておきましょう」

 

郷谷は頷き、タブレットはそれで仕舞われる。

後はただのんびりと食後の余韻を楽しむ時間だ。

普段口にする機会のないお高めのシャンパンをお供に、他愛ない雑談を交えながら静かな時間は過ぎていった。

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「カラーコーン」「ポテトチップス」「祝い酒」

 

このイベントの登場人物は固定されています。

 

 


 

 

「ククククク……」

 

「ヌフフフフ……」

 

「ゲッヘッヘ……」

 

「わからない。なにごと?」

 

困惑。

狼狽。

冷や汗だらだら。

サナリモリブデンの状態を表すならそういったものになる。

 

「お前がぁぁ……サナリモリブデン、だなぁ……!?」

 

「…………人違いだと思います」

 

何故かといえば簡単だ。

あからさまに怪しいウマ娘達に囲まれているのだ。

人数は3名。

制服を着ている事からトレセン学園のウマ娘である事はおそらく間違いない。

 

ただ、人相は不明だ。

何しろ彼女たちは……頭にカラーコーンを被っているためである。

真っ赤なそれにすっぽりアゴまで入り込んで、顔の作りは少しも見て取れない。

かろうじて目元に小さな穴が開けられているが、精々瞳の色と形がわかる程度だ。

 

午前中の授業が終わり、昼食に向かおうかというところ。

そこに突然現れた彼女たちがサナリモリブデンを取り囲み、そして何やら怪しい笑い声を発し始めたのだ。

 

端的に言ってわけがわからなかった。

そんな状態で名前を確認されたとてとぼけるに決まっている。

 

「え、あれぇ? やば、間違った?」

 

「うっそ! マジで恥ずいんだけど」

 

「ちょーちょーちょーやめてよほんと。アビー何やってんの、間違いないって言ったじゃん」

 

「あ、バカお前! 名前で呼ぶなって!」

 

が、カラーコーン3人組は綺麗に騙された。

悪漢めいた雰囲気はたちまち霧散し、おろおろと取り乱し始める。

サナリモリブデンは少し拍子抜けした。

もしかして悪い娘達ではなかったのかも知れないと。

まぁちょっとおかしい子らであるのはおそらく間違いないが、とも。

 

「あー……その、なんつーか……ごめん。人違いだったみたいだわ。忘れて?」

 

「ん、別に良い。気にしないで」

 

「心が広い。助かるわー」

 

ともかく、なんとか切り抜けられそうでサナリモリブデンは安心した。

真顔ですっとぼけた事が功を奏し、道を塞いでいた1人がスッと脇に避ける。

これで一件落着。

後は落ち着いた頃合いで郷谷にでも相談しようとサナリモリブデンは考えた。

 

 

 

……と、ちょうどその時である。

 

「おやサナリさん、ちょうどいいところに。少しお話しておきたい事が……んん?」

 

その郷谷が廊下の角の向こうから現れた。

サナリモリブデンの名を呼び、それからカラーコーンを視界に入れて困惑する。

 

「あ」

 

タイミングの悪さに声を上げるも、もう遅かった。

 

「……やっぱお前でいいんじゃねーか! 確保おおおおお!!!」

 

「ひゃっはー! 生け捕りだー!」

 

「おっしゃー! 標的Bは任せろー!」

 

「は!? その声アビッ───」

 

弾かれたように飛び掛かってくるカラーコーンにサナリモリブデンは為す術がなかった。

2対1で抑えつけられ、縛られて持ち上げられる。

視界の隅では郷谷もまた同様に1人の肩の上に背負いあげられていた。

 

「作戦成功! ただちに撤収! ずらかれー!」

 

「おー!」

 

「おー!」

 

「ちょっと!? 何してるんですあなたたち!?」

 

そしてそのまま、ずどどどどと足音を立てて運搬される。

見事な早業。

狙った相手と特定できた途端、素晴らしい手際の拉致であった。

 

「思ったより暴れないねー。楽でいいけど」

 

「ん……なんとなく、事情はつかめたから」

 

「おわークールだ。すげー」

 

幸いなのはサナリモリブデンがおおむね彼女たちの正体を看破できた事だろう。

彼女はそういった部分、特に察しの悪いタイプではなかった。

 

 


 

 

「正座」

 

「りょうかーい!」

 

「おっす! イエスマム!」

 

「あはー、これも懐かしいねぇ」

 

そうして連れ去られた先で、下手人どもは床に座り込んでいた。

反省を促すための正座を命じているのは拘束を解かれた郷谷だ。

だが、座らされた側はむしろ楽しそうにケラケラと笑っている。

 

対してサナリモリブデンの方は。

 

「あの、ごめんね……? アビーたちってば本当バカで……あ、ポテチ食べる?」

 

「ん、平気。あなたは別に悪くない。うすしおなら食べたい」

 

こちらも拘束を解かれて普通に椅子に座っていた。

手元にはジュースが供され、今もそっとポテトチップスを差し出されている。

なお、差し出したのはカラーコーンズの仲間のウマ娘である。

が、聞いたところ拉致には反対の立場で必死に止めていたようだ。

結局制止は叶わなかったようだが、サナリモリブデン的には無罪認定の範囲だ。

 

ともかく、うすしお味のビッグバック。

ポテチの中では一番好みのそれをサナリモリブデンは特に遠慮なく開けてつまみ始める。

 

「あー! それあたしの───」

 

「てい」

 

「かどっ!?」

 

それを見て正座していた1人が声を上げるが、鎮圧は即座だった。

頭の真ん中あたりに郷谷のタブレットが振り下ろされ、栗毛の中に沈む。

勢いはさほどではなかったが、当たったのは角である。

あれは痛そうだなぁと、ポテチをもりもり食べながらサナリモリブデンは思った。

 

「出たぁ静流ちゃんの得意技! 角っこタブレット! 出たぁ! 出たよこれー!」

 

「へへへ、震えてきやがった……やべぇ、ノリに任せてはやまったか?」

 

「そうですねぇ。はやまってますよ。行動を起こす前に落ち着いて考えなさいって何回も言ったでしょうに。てい」

 

「んごっ!?」

 

「えっじっ!?」

 

カラーコーンズは見事に崩れ落ちた。

頭のてっぺんから煙を上げてうつぶせに。

手足がピクピク震えているのがなんともシュールだった。

 

「ん、お疲れ様、トレーナー」

 

「えぇはい。はぁ、全くもう……サナリさんとセレンさんは本当にいい子ですねぇ」

 

「あはは……」

 

サナリモリブデンがねぎらい、郷谷が呆れにまみれたため息を吐く。

それを見ていたもう1人。

サナリモリブデンを歓待していたセレンスパークは、へにょりとした苦笑を返した。

 

 


 

 

つまり、ここがどこかというとだ。

部室であった。

利用権を与えられているのはチームウェズン。

おおいぬ座の二等星から名を取られた、学園内では少なくとも成績面では余り目立たないチームだ。

そして、サナリモリブデンのトレーナーである郷谷が去年までサブトレーナーを勤めていたチームでもある。

 

「で? なんだってこんなことをしたんですか?」

 

郷谷が聞く。

時間が経って復活したカラーコーンズがそれに答えた。

 

「いやだってさぁ、静流ちゃんの担当ならあたしらの後輩だろ? 歓迎しなきゃ嘘じゃん」

 

発言者はアビルダ。

ほとんど黒に近い濃い目の灰色、芦毛のウマ娘だ。

大きく露出されたおでこが眩しい。

今はタブレットの角が直撃した跡が痛々しくもあったが。

 

「そーそー! サナリちゃんはウェズンの末っ子みたいなもんだよ! 今年は先生が新人取らなかったからさぁ、寂しかったんだって」

 

こちらはトゥトゥヌイ。

鹿毛の眼鏡っ子だ。

反省の気配が欠片も見られない笑顔で、歯を見せて言う。

 

「そーそーそー、これアレっしょ、じょーじょーしゃくりょーってやつ。やむにやまれぬじじょーがあったんだって」

 

続いてヘラヘラ言うのはタルッケ。

長い栗毛のウマ娘である。

先ほどポテチを食べられて声を上げていた娘だ。

なお、撃沈された衝撃でそちらに関してはころっと忘れているようである。

 

「あー……えーと……こう見えてアビーたちも我慢した方なので……初勝利までは邪魔しちゃいけないって」

 

そして最後に申し訳なさそうに縮こまっているのがセレンスパーク。

ぱっつんと切り揃えられた黒鹿毛は長く伸ばされ、背中を半分ほど隠している。

拉致を止めていた立場なのだが最も申し訳なさそうに身を縮こめている辺り、苦労していそうな気配が伺えた。

 

アビルダはシニア級の3勝クラス。

トゥトゥヌイとタルッケはシニア級の1勝クラス。

セレンスパークは現在クラシックの2勝クラスだという。

この4人がチームウェズンの全メンバーであるようだ。

 

なかなかの面白チームだなぁと、食べきったポテチの袋をゴミ箱に入れながらサナリモリブデンは心中で漏らした。

怒りなどは特にない。

拉致のために持ち上げられた瞬間、郷谷が下手人の名前を呼びかけていた辺りから大体察しはついていたのだ。

郷谷の知り合いで、複数名の仲間らしいウマ娘と考えればそう難しい予想ではない。

そのために焦る事もなくのほほんと運搬されたサナリモリブデンは、別段ストレスを受けてさえいなかった。

 

のだが。

 

「だからって拉致はおかしいでしょう、拉致は。私は慣れているからまだ良いですが、初対面の子相手に何をしているんですか貴女達は……」

 

郷谷はまだまだ怒り心頭であるらしい。

腰に手を当ててプリプリと、私怒ってますよというポーズを崩していない。

 

彼女からすれば当然の事ではある。

サナリモリブデンは郷谷にとって初めての専属担当である。

それも初めての勝利の後、これからまさに上を目指して飛躍せんとする大事な時期だ。

拉致で怯えて調子を崩すような事があれば目も当てられなかっただろう。

サナリモリブデンが図太いウマ娘であったのはなんとも幸運だ。

 

「サナリさんも言いたい事は言って良いんですよ。そうだ、この子達に希望する処分なんかはありますか? 元サブトレーナー権限で通してみせますが」

 

そんな郷谷は振り返り、サナリモリブデンにそう振ってくる。

 



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ジュニア級 10月イベント結果〜10月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

たっぷり歓待してもらう

 

 


 

 

「ほほう、あたしたちの歓待を受けたいとな?」

 

うむ。

とサナリモリブデンは頷いた。

 

「歓迎しなきゃ嘘ってさっき言ってたから。じゃあそうして貰うのがいいかなって。トレーナー。私はそれで終わりでいい」

 

そういう意見であった。

正直な話、サナリモリブデンはさっぱり負の感情を抱いていない。

驚いたのは確かであったがそれだけだ。

事情を把握して以降はむしろ何やら面白めな非日常がやってきたぞくらいの心境である。

言ってみればほぼほぼアトラクション感覚だった。

 

が、何事にも落とし所は必要だ。

郷谷とて流石にカラーコーンズを「被害者が許したから無罪放免」とはしにくいだろう。

だがサナリモリブデンとしては「この程度」としか感じないような被害で長々と説教される姿を見るのも忍びない。

 

よって、加害側による被害側への奉仕活動。

それが2人の間を取ったくらいのちょうどいいところではないかとサナリモリブデンは考えたのだった。

 

「んー……サナリさんがそれでいいなら構いませんが……大丈夫ですか? この子達ですよ?」

 

「ちょいちょいちょい静流ちゃーん、それどーゆー意味ー?」

 

「後輩の歓迎くらい私たちにも余裕だよ! 静流ちゃん心配しすぎ! 真面目にやるって」

 

「任せなよ。今年誰も入んなかったからさぁ、代わりにセレンの2回目の歓迎会やったんだわ。寂しさ紛れなかったから3回目も追加で。おかげで腕は鈍ってないぞ……!」

 

「そういうところなんだよ、みんなぁ……」

 

「少し面白そう」

 

「あれ、サナリさんそっち側なんです……?」

 

そういうわけで。

そういうことになった。

 

 


 

 

「へへへ、漫画の王様にありがちな葉っぱのうちわ、お加減はいかがっすかサナリちゃーん」

 

「うん。いい風、悪くない」

 

「肩おもみしまーす! くくく、痒いところはございませんかー?」

 

「右の肩甲骨の下くらい……ん、もう大丈夫」

 

「うっすお待たせしゃーしたぁ! ハムサンドと卵サンドのセット買ってきたぞー!」

 

「ありがとう、お疲れ様」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ゆったりと椅子に腰かけ、マッサージを受けながら、葉っぱの扇であおがれつつ、アビルダが自発的にパシリとなって買ってきたサンドイッチをパクつく。

喉が渇けば口元にストローがささったカップが差し出され、食べ終われば紙ナプキンで口を拭かれる。

サナリモリブデン、やりたい放題の図であった。

実際にはサナリモリブデンがこうしろと言ったわけではないのだが、甘んじて享受しているのなら同じことだろう。

 

「それとサナリ様、こちらは皆で準備しておいた初勝利の祝い酒でございます」

 

「ん、くるしゅうない」

 

何しろ大分ノリノリである。

そんなサナリモリブデンに新たな貢ぎ物だ。

どこからか取り出された瓶の蓋が外され、黄金色の液体がコップに注がれる。

しゅわしゅわと泡を立てるそれは。

 

「麦茶だこれ」

 

子供ビールであった。

ぐいっと飲み干せばすっきり爽やか。

麦茶に炭酸という取り合わせは少々違和感はあるものの、慣れればそれなりに美味しく頂ける程度のものだった。

 

 

 

「漫画の王様でもここまでじゃなくないですか?」

 

それを見ていた郷谷は心底呆れた様子でこぼす。

額を抑えて天を仰ぎ、ふーっと長い溜息。

もう色々とバカらしくなったようで、お説教の気分はすっかり抜けたようではある。

 

「あの、タルちゃん? その絶対そこらに生えてなさそうな葉っぱどこから持ってきたの? まさか買ったの? チームの予算でじゃないよね? ね?」

 

その隣では青い顔をしたセレンスパークがわなわな震えていた。

こちらは逆に何かしらのメーターが溜まっていそうだった。

天井まで達した時に何が起きるかはおおむねお察しである。

 

「え、ちがうちがう。わざわざ買わないよー」

 

「あ、あぁ、そうだよね……うん、流石にギリギリなのにそんな無駄遣いしないよね……よかっ───」

 

「こないだ保健室いったら鉢植えに生えてたんだよね。使えると思って1本抜いてきといたんだー」

 

「───なお悪くない? なんでいけると思ったの? バカなの?」

 

すんっと真顔になるセレンスパーク。

カラカラと笑うタルッケ。

 

「くひひひひ、さぁ受けるがいい! 我が秘奥義骨抜きトロトロマッサージを……!」

 

「まさか、もう出すのか……!? 先生を茹ですぎのお餅みたいに変えたあの肩もみを……! に、逃げるんだサナリー! 流石にまだ早すぎる!」

 

「あー……うん。とてもいい」

 

「……バカな!」

 

「無傷、だとぉ……!?」

 

眼鏡を光らせて謎の奥義を繰り出すトゥトゥヌイに、さらりと受け流すサナリモリブデン。

その横でアビルダはリアクション芸人だ。

 

端的に言って頭の痛くなる空間だった。

バカとバカとバカによる相乗効果で際限なく空気が緩んでいる。

 

「いやぁ、懐かしいですねぇ。ウェズンってこうでしたよねぇ。えぇ、はい」

 

「ゴーヤちゃん、すーっと存在感薄くしないでね? 私1人で突っ込みやってるの本当疲れたんだからね。居る時くらい代わってほしいなぁ」

 

「私はもうその役割は引退した身ですから。現役のセレンさんにお任せしますよ」

 

「はぁぁ……まともそうに見えたサナリちゃんもあっち側みたいだし、もうダメなんだね……」

 

「とても心外」

 

「そうですか? サナリさん、なかなかウェズンの才能ありそうですが」

 

「……少し心外」

 

「少しなんですねぇ」

 

「ん-? どーゆーこと?」

 

「わかんねーのか? こいつもウェズンだってことさ。知らんけど」

 

「くくく……! サナリちゃん、お前ももう家族だ……!」

 

「まともなのは私だけかぁ……」

 

昼の部室は賑やかに、いかにもバカバカしく時が過ぎていく。

居心地にはそれぞれ差はあるようだが、とりあえず平和ではあろう。

チームウェズン、平常運転の様子であった。

 

 

その喧騒は結局、ウェズンのチーフトレーナーがやってきてトレーニングが始まるまで続いた。

大きく両手を振って見送るカラーコーンズと、控えめに手を振るセレンスパーク。

それにトレーナーを合わせての5人に手を振り返しながら、サナリモリブデンと郷谷は自分たちのトレーナー室に向かう。

 

サナリモリブデンとチームウェズンの初遭遇はこうして終わった。

騒がしい彼女たちは後輩であるサナリモリブデンの存在を喜ばしく思っているらしい。

ならば当然、これからも何かしら顔を合わせる機会はあるだろう。

サナリモリブデンにはその時が、少し楽しみであった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:チームウェズンの絆+25(初期値)

成長:スタミナ+10/根性+10

 

スピ:217

スタ:150 → 160

パワ:204

根性:171 → 181

賢さ:166

 

 


 

 

さて、それから数日後のある日。

トレーナー室でサナリモリブデンは郷谷を待っていた。

 

彼女が早く着きすぎたわけでも、郷谷が遅刻しているわけでもない。

いざトレーニングを始めようとしたその時、ちょうど郷谷に電話がかかってきたのである。

郷谷は少し待つように言い残してスマホを手に席を立ってしまった。

特に急ぐ理由もないサナリモリブデンはのんびりと電話が終わるのを待っているというわけだ。

 

「はい、はい。えぇ、こちらは問題ないと思いますが、念のためサナリさんの意思を確認してからまた折り返し連絡しますので」

 

と、そこに郷谷が戻ってきた。

サナリモリブデンはそちらにふいっと目を向ける。

郷谷は通話を終えて、お待たせしましたと声をかけた。

 

「大丈夫、そこまで待ってない。……私の話?」

 

内容が気になったサナリモリブデンは問いかける。

自分の名前が話に出ていたのだから当然だろう。

郷谷は頷き、話を切り出した。

 

「はい。ペンギンアルバムさんのトレーナーさんからの連絡でして。共同トレーニングのご提案でしたよ」

 

それにサナリモリブデンはなるほどと納得した後、おや、と首を傾げる。

これまでも何度か併走を行った事はあるが、意思の確認が行われた事は殆どない。

あっても、わざわざ電話を切ってまではされた経験がなかったのだ。

電話口から数秒顔を離して、やりますか、やる、で終わる程度の事である。

 

その疑問を素直に投げると、郷谷はホワイトボード前に移動した。

マジックインキのキャップを取り、にこやかにサナリモリブデンに向き直る。

つまり、いつものだ。

 

 

 

「サナリさんの疑問は当然ですね。その通り、今回のお誘いは普段の併走とは違います。まずなんと言っても、その期間がです」

 

郷谷はホワイトボードに絵図を描く。

併走するサナリモリブデンとペンギンアルバムの絵を、2セット。

その片方の横にはほんの短い棒と、1dayの文字。

もう片方の横には長ーーーい棒と、1monthの文字。

 

大変に分かりやすかった。

サナリモリブデンもなるほどなーと納得する。

 

「1か月の間、みっちりと共同でやるわけですね。連日競わせる事で闘争心を煽り、互いの長所を学び合わせ、比較により自身の短所に気付かせ修正に生かす。そういった効果が期待できる優れたトレーニングです」

 

チームが作られる理由のひとつもこれであると郷谷は語る。

1人でのトレーニングよりも大きな成果を得られるそれを、専門用語でいわく。

 

「これは、友情トレーニング、と呼ばれています」

 

「…………?」

 

「あ、そんな顔しないで下さいね。本当の正式名称なんですから。学会とかでも偉い人が真顔で発言するんですよ」

 

まぁ、ネーミングについてはともかく。

そう言って郷谷は続ける。

 

「ただ、これは参加する全員の都合を合わせて本当に毎日しっかり競わせる必要があります。なので毎月ずっとというわけにはいかないのが玉に瑕です」

 

郷谷が言うにはそこが問題なのだという。

ウマ娘はひとりひとり資質が違い、必要となるトレーニングが異なる。

サナリモリブデンがスタミナを鍛えたい時に相手がスピードを鍛えたいならば、話は当然流れてしまう。

 

なので、友情トレーニングを行えるかどうかは運が絡む

 

ただ、相手が熱烈にサナリモリブデンとのトレーニングを希望している場合は話が別だ。

メンタルというのは、フィジカルに対して莫大な影響力を持つ。

ウマ娘の状態次第では相手のトレーナーが予定の変更を決める事もあるだろう。

つまり、より仲の良い相手とは友情トレーニングが行いやすいという事になる。

 

そしてもちろん、そういった相手が何人も居れば可能性はより高まる

ウマ娘にとって人脈とは宝なのだ。

 

 

「と、いうわけです。これで説明は終わりですね。さて、それではサナリさん。共同トレーニングの話を受けますか?」

 

「うん。断る理由がない。こっちから頼みたいぐらい」

 

郷谷の最終確認に、サナリモリブデンは即座に頷く。

プラスにしかならない提案なのだから当然か。

 

効果が常よりも高い上に仲の良いペンギンアルバムと一緒ならばよりトレーニングに身が入るだろう。

それが1か月も行える事に、サナリモリブデンは心が浮き立つのを感じるのだった。

 

 


 

 

【10月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:217

スタ:160

パワ:204

根性:181

賢さ:166

 

 


 

 

今回のトレーニングは必ず友情トレーニングが発生し、効果が1ランクアップします

 

 

 



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ジュニア級 10月トレーニング結果~11月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

スピードトレーニング

 

友情トレーニング発生!

 

 


 

 

朝が来る。

がばり、と音を立てて起き上がった。

いそいそと掛け布団を畳んでベッドを降り、まずは洗面所へ。

顔を洗って歯を磨き、パジャマから普段着に着替えて髪を整えると食堂に向かってモリモリと朝食を食べる。

 

ここまでの行動。

その全てがピッタリとシンクロしていた2人であった。

 

「寝ても起きても一緒、トレーニングの内容も同じってなると揃ってくるもんなんだねー」

 

「うん。少し不思議な感覚」

 

つまり、サナリモリブデンとペンギンアルバムだ。

 

本来、朝に強いのはサナリモリブデンのみ。

まず最初に彼女が起きて、ぐずるペンギンアルバムを揺り起こす。

寝起きでぼーっとしているペンギンアルバムが目覚めきるのを待つ間に1人で支度を整えて……というのが以前の日常だった。

それが今や、サナリモリブデンが2人になったようなキッチリ具合だ。

 

どうやらこれは友情トレーニングの副産物であるらしい。

常に共に行動する内に生活リズムまで揃ってしまったのだ。

それも良い方向にだ。

サナリモリブデンとしては、長所を写し取るという友情トレーニングの効果を意外な形で目の当たりにして驚くばかりである。

流石にここまで影響が出るのは寮でも一緒というペンギンアルバムだけではあろうが。

 

なお、食事の量まではシンクロはしなかったようだ。

サナリモリブデンの前にあるのは一般的なウマ娘向け定食。

ペンギンアルバムの前にあるのはそれが3人前だ。

よって朝のシンクロはここまで。

 

小柄な体のどこにそれが収まっているのか。

そして何故そのくらいの量ならば1日のトレーニングで消費しきって脂肪に変わる事がないのか。

そちらも同様に少し不思議なサナリモリブデンであった。

 

 


 

 

そうして、トレーニングが始まる。

 

やる事自体は以前のスピードトレーニングと変わらない。

ただ、その強度は段違いだった。

 

「はっ、はっ、は、ぐ」

 

「おー? どしたんサナリン、もうへばっちゃう?」

 

「まだまだっ……!」

 

「それでこそっ」

 

隣に走る者が居るというだけで何もかもが違う。

 

この1か月はサナリモリブデンにとってひどく辛い日々であった。

ペンギンアルバムは速く、サナリモリブデンは遅い。

その事実を毎日、走る毎に見せつけられている。

 

トップスピードがまるで違う。

加速力は格の差が大きすぎる。

最高速度を維持する時間さえ遥か先を行かれている。

 

これで毎日共に走れなど、ウマ娘の心を折るには容易いほどの過酷な条件だ。

 

だが、サナリモリブデンはわずかにもブレる事なく耐えて見せた。

苦にしなかったわけではない。

苦にした上で、落ち込む暇は自分にはないと歯を食い縛って見せただけだ。

 

「サナリさんは現実を正面から直視しながら夢を抱ける子ですからね。この程度で音を上げるなんて事はありませんよ」

 

「……末恐ろしい子ですね。アルバムがこれを言い出した時は相手を潰したいのかと思いましたし、話を受け入れられたのも困惑しましたが、これなら納得です」

 

ターフを駆ける2人を見ながら、トレーナー陣もまた会話を交わしていた。

郷谷が胸を張ってサナリモリブデンを誇って見せ、ペンギンアルバムのトレーナー……20代後半に見える男は納得を浮かべる。

 

「えぇ、現実から目を背けない覚悟さえあるなら得る物の大きさは段違いですから。何しろペンギンアルバムさんは世代トップの実力者ですし。来月は京都でしょう?」

 

「そうなりますね。京都ジュニアからホープフル、という予定でいます」

 

「あはは、トップクラスのウマ娘の定番コースですねぇ。勝算はいかほどで?」

 

その問いに男はニヤリと笑ってみせた。

自信を満面に浮かべて、長身から郷谷を見下ろして言う。

 

「うちの子が負ける理由なんてもの、この1か月で1つでも見つけられましたか?」

 

「……言いますねぇ、あなたも」

 

「唯一欠けていた勝負根性もこれで補えましたから。もう死角はありません」

 

2人の視線の先では、サナリモリブデンがペンギンアルバムに食らいついていた。

急に速度が上がったわけでもスタミナがついたわけでもない。

恐ろしいほどにバカバカしい話で、サナリモリブデンがスタミナが底をついたまま走っているだけだ。

意地だけで体を動かし、ペンギンアルバムの体力がなくなるまで根性でそれを続けただけ。

 

こうなるとトレーニングの辛さは反転する。

サナリモリブデンがペンギンアルバムを追い詰め、追い立てる形だ。

お陰でペンギンアルバムの根性は1月前とは比べ物にならないほど鍛え上げられていた。

 

「……いや、本当に末恐ろしいですね」

 

男も、担当自慢を一旦止めて息を飲む。

 

「ふふ、そうでしょうそうでしょう。……どこまでやっても手応えしかないので、育てる方も恐ろしいんですよ? 壊さないギリギリの見極めが大変でして」

 

「贅沢な悩みじゃないですか」

 

「えぇ。お返しの自慢ですからね」

 

そんな風に、トレーニングの日々は過ぎていった。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:成功

 

 


 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+40/パワー+30

 

スピ:217 → 257

スタ:160

パワ:204 → 234

根性:181

賢さ:166

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「絵文字」「角砂糖」「起動」

 

 


 

 

「……おっそいわねぇ、あいつ」

 

「ん……」

 

ソーラーレイがこぼし、サナリモリブデンが相槌を打つ。

 

場所は喫茶店。

内装は綺麗に整っていて、どこか真新しい香りのする店だった。

それもそのはずで開店からまだ数週間と経っていない。

最近学園で話題のコーヒーショップである。

 

話題になるだけあり、メニューの品質はしっかりしたものだ。

サナリモリブデンはカップを傾け、ひと口味わう。

 

注文は無難なオリジナルブレンド。

この店のものは苦みが少なく、モカの香りが強いのが特徴のようだ。

後口には酸味が残るがしつこさはなく、総じて飲みやすく仕上がっている。

コーヒー初心者にも落ち着いて楽しめそうな部類である。

 

「なんなのよもう。折角遠征の壮行会してやろうっていうのにさぁ」

 

ただ、ソーラーレイはお気に召さなかったのか。

それともただただ甘党なだけなのか。

彼女は自分のコーヒーに次々と角砂糖を放り込んでいる。

 

4個、5個、6個。

そんなに、とサナリモリブデンが目を見開くのも気付かずに。

そしてスプーンで砂糖をザクザク崩して、ぐいっとあおってみせた。

 

「あら、結構おいしいじゃない。やるわねこの店」

 

「………………そうだね」

 

それだけ入れてはコーヒーではなく砂糖の味しかしないのでは?

などという言葉はそっと飲み込むサナリモリブデンであった。

 

 

さて、ともかく壮行会である。

これはソーラーレイ主催によるもので、ゲストは2人。

サナリモリブデンとチューターサポートだ。

 

この11月、2人は遠征を行う。

サナリモリブデンは福島に、チューターサポートは京都にだ。

それに対しトレセン学園のある東京から離れる予定のないソーラーレイは応援してやろうと企画を立ち上げたのである。

 

なのだが、主役の片割れが中々やってこない。

壮行会の開始予定時刻からは10分ほど経過していた。

温厚なサナリモリブデンはともかく、ソーラーレイはイライラを徐々につのらせている。

常識は備えている娘であるため店内で暴れたり大声を出すような事はもちろんないが。

 

「あーもう、何してんのかしらあいつ。ちょっと急かしてやろ」

 

代わりに、ソーラーレイはスマホを取り出してメッセージアプリを立ち上げた。

まだ余りスマホ操作が得意ではないサナリモリブデンからすると目を剥くような高速フリックで文字を打ち込み、送信する。

 

その返事も早かった。

画面には、トレーニングに熱中しすぎた、という文言が表示されている。

続くのは真摯な謝罪と、これからすぐに向かうという必死な弁解だ。

顔を青くして冷や汗をかいているチューターサポートの顔が目に浮かぶようである。

 

「……あいつまーたやりすぎてんのね。まぁ前よりはマシになったからまだいいけど」

 

それに対し、ソーラーレイは一度心配そうに眉をひそめた後に、ニヤリと笑って続けてメッセージを送った。

煽りである。

絵文字とスタンプを巧みに駆使し、チューターサポートを責め立てる。

 

「あれれー? 約束の時間も守れない子が京都になんて行けるのー? ちゃんと電車乗れまちゅかー? 迷子になってレースに出れなくてトレーニング無駄になったら可哀想! トレーナーさんに手繋いで連れてってもらわないといけまちぇんね! っと。どうよこれ」

 

「むごい。あとすごい」

 

サナリモリブデンは感心した。

ソーラーレイの人の神経を逆撫でする技術にだ。

 

その時、サナリモリブデンはふと閃いた。

この技術はレースに活かせるかもしれない。

 

「いや、んなわけないでしょ。こんなの私の性格が悪いだけよ」

 

と思ったが気のせいだったようだ。

目を輝かせていたサナリモリブデンはすんっと落ち着き、コーヒーを飲む。

謎の高揚感はその香りがどこかへ吹き飛ばしてくれた。

 

代わりにやってきたのは真っ当な思考だ。

今、ソーラーレイはチューターサポートに煽りのメッセージを送信した。

それに対し、フォローか何かをすべきだろうかと少し考える。

 

 



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ジュニア級 11月イベント結果〜きんもくせい特別作戦選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

料理の写真を送って煽りから気を逸らさせる

 

 


 

 

(流石に放っておくのも忍びないかな)

 

煽るソーラーレイと、煽られるチューターサポート。

その2人について考えて、サナリモリブデンはチューターサポートの側についた。

うっかり約束に遅れて焦りつつも煽りに煽られ額に青筋を浮かべる……そんな姿を思い浮かべて少し気の毒になったのだ。

いくら遅刻したチューターサポートに非があるといえどもフォローのひとつくらいは入れても良いだろうと。

 

しかし、かといって真っ向からソーラーレイに対立するのも角が立つ。

さて何かちょうどいい手はないかと探す。

するとそれは、まさに今サナリモリブデンの目の前に並んでいた。

 

「おん? 何してんの?」

 

「写真を撮ってる」

 

「そりゃ見れば分かるけど……あんたもそういうウマスタ的な事やんのねー」

 

サナリモリブデンは、既に注文して運ばれてきていた料理の数々をスマホで撮影した。

ニンジン入りのパウンドケーキに、ヨーグルトムースのニンジンゼリー乗せ。

キャロットクッキー盛り合わせに、別容器で用意されたたっぷりのハチミツに浸して食べるひと口スコーンなど。

いわゆる「ウマ娘の好きなやつ」ばかりだ。

キラキラとしていて見栄えも良い。

 

その写真をSNSにでも上げるのかとソーラーレイは思ったようだが、もちろん違う。

そもそもサナリモリブデンはそういったサービスのアカウントは持っていない。

ネットに慣れるまでは手を出すなと、郷谷からしつこいほどに言い聞かされているためだ。

 

「ていうかアンタのそれ今年発売の最新モデルよね。いいなぁ。私もスマホ買い換えようかな」

 

「? ソーラーレイのも古くないように見えるけど。そんなに頻繁に買い換えるものなの?」

 

「使う分には問題ないけど新しい方がいいじゃない。アンタもそれで買い替えたんじゃないの?」

 

「私は、今まで持ってなかったから新しく買っただけ。連絡用に必要だってトレーナーに言われて」

 

「マジ? アンタよく生きてこられたわね……」

 

「そこまで?」

 

と、このように、スマホには慣れていないので。

また、匿名掲示板の類に関わる事も固く禁じられ、従順なサナリモリブデンは素直に従っている。

ネット初心者からネットの闇を遠ざける、郷谷の好判断であった。

 

ともかく、撮った写真はウマッターやウマスタに上げるわけではない。

サナリモリブデンはソーラーレイと同じメッセージアプリを立ち上げると、同じグループトークを開く。

そしてそこに、撮ったばかりの写真を並べ始めた。

 

「なるほどね。お前がタラタラ遅れてる間にこっちは美味しいもの食べてるぞーっ、てやつね。アンタもやるじゃない」

 

「……そうだね」

 

断じてそういう意図ではない。

が、反論しても面倒が予想されるため、サナリモリブデンは黙って肯定しておいた。

そして「食べて待ってる」との文言をつけ足して終わりにする。

 

(さて、どうかな。アルだったらこれで10割通るけど)

 

サナリモリブデンとしては、ソーラーレイの煽りから目を逸らさせる事が主目的だ。

甘くて美味しそうな菓子類の数々は目を惹きつけて止まない。

チューターサポートの中に沸き立ったであろうちょっとした怒りが矛先を見失えば良いと、そう願うのだった。

 

 


 

 

「ほんとごめん! 待たせちゃって……!」

 

(通った)

 

その結果はサナリモリブデンの希望通りだった。

写真を送ってからおよそ15分。

慌てた様子で店にやってきたチューターサポートに怒りの気配はない。

代わりにあるのは……。

 

「あの、ほんと悪かったと思ってる。ついトレーニングに夢中で、もう1本だけって思っちゃってさ……。って言い訳にもならないんだけど。ちゃんとタイマーセットしておけばよかったのに……」

 

「……いや、もういいわよ。別にこっちを軽く見てたわけでもないでしょ、アンタだって」

 

テーブルの上に並んだ品々への強い興味だ。

謝罪しつつもチラチラとテーブルの上に視線が飛んでいる。

 

実にわかりやすい態度にソーラーレイも遅刻に対する悪感情を抱き続けるのが難しくなったのだろう。

苦笑を浮かべて話を流し着席を促していた。

チューターサポートはそれに気まずそうにしながらもソーラーレイの隣に座る。

 

そんな彼女に対し、差し出されたものがあった。

フォークの先に刺されたそれはスコーンだ。

ひと口サイズのもので、たっぷりとハチミツをまとっている。

 

「はい、駆け付け1口」

 

「なにそれ。はは、でもいいね。いただきます」

 

差し出していたのはソーラーレイだ。

悪戯っぽい顔でニヤリと笑い、どうぞとばかり。

それにどうもと、チューターサポートはパクリと食いついた。

 

ごり。

と音がする。

 

「…………ふぁにふぉれ(なにこれ)

 

「中くりぬいて角砂糖詰めておいたのよ。可愛らしい悪戯でしょ」

 

「このくらいはいいかなって」

 

ごりごり、じゃりじゃり。

盛大に音を立ててチューターサポートは微妙な顔だ。

折角のスコーンも砂糖の味ばかりだろうが、まぁこの程度ならとサナリモリブデンも止めはしなかった。

遅刻に対するペナルティとしては恐らく無難なところだろう。

 

 


 

 

「じゃあ改めて……アンタら2人の遠征がまぁ適当に上手くいくように、かんぱーい」

 

「音頭が適当すぎない?」

 

「ん、かんぱい」

 

「サナリはそれでいいんだ……。まぁ、うん、乾杯」

 

チン、と音を立ててカップがぶつかる。

グラスでもジョッキでもない辺りが微妙に格好がついていないが、とりあえずこの場に気にする者はいなかった。

 

「そう言われてもねぇ、なーんか気が乗らないのよね。あーあ、いいわよねーマイラーはさぁ。ジュニア級からG1あるんだもの。スプリンターのこっちはクラシックの後半待ちよ? どうなってんのよURA。勝負服のデザイン案ばっか溜まってくんだけど?」

 

「すごいよね、レイって。壮行会の初手が愚痴で始まるの初めて見たよ……」

 

「いいじゃない。オリジナリティってやつよ」

 

「せめて物は言い様って突っ込めるくらいには取り繕ってくれない?」

 

「勝負服……。デザイン、どんなの考えてるの?」

 

「お、聞いちゃう? んじゃ見せてあげるわ。参考にしてくれていいわよ」

 

ウマ娘、3人寄ればかしましいというやつだ。

細かい形式にこだわる声はすぐに聞こえなくなる。

 

「うっわ、スリットすご……」

 

「……流石に無理。恥ずかしくて走れそうにない」

 

「あぁ、それは深夜テンションの悪ノリの結晶よ。私だって嫌だわ。10億積まれてもきつい」

 

壮行会というより、もはやただ集まって駄弁っているだけ。

ただ、目的自体はどうやら果たせた。

実戦に向けたハードなトレーニングの日々の中、気分転換の清涼剤には間違いなくなっただろうから。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ソーラーレイの絆+5

友好:チューターサポートの絆+5

成長:賢さ+15

獲得:スキルヒント/トリック(前)

 

スピ:257

スタ:160

パワ:234

根性:181

賢さ:166 → 181

 

ソーラーレイ    絆25

チューターサポート 絆10

 

トリック(前)(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

 


 

 

【レース生成】

 

【きんもくせい特別 秋/福島/芝/1800m(マイル)/右】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:80(ジュニア級11月の固定値80/1勝クラス倍率 x1.0)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:グリンタンニ

2枠2番:サナリモリブデン

3枠3番:ムーンポップ

4枠4番:ボヌールソナタ

5枠5番:ジュエルカルサイト

6枠6番:アウトオブブラック

6枠7番:インテンスリマーク

7枠8番:タヴァティムサ

7枠9番:ダブルサラウンド

8枠10番:クピドズシュート

8枠11番:シュプールムーバー

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝C/補正なし

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:適用スキルなし

 

調子:絶好調/ALL+10%

 

スピ:257+25=282

スタ:160+32=192

パワ:234+23=257

根性:181+18=199

賢さ:181+36=217

 

 


 

 

そうして、レース当日を迎えた。

壮行会とは言い難い壮行会。

それでも気力の充填が行えたサナリモリブデンは、やる気十分のままだ。

 

控室の段階から既に集中が深い。

意識が常よりも一段広がり、空気の波から周囲の物の動きまで感じ取れそうなほどだった。

 

「調子は……聞くまでもありませんね」

 

「うん」

 

郷谷の問いに、サナリモリブデンは簡潔に答える。

それは短いからこそ、彼女が自身に感じている手応えを率直に表すものだった。

 

「結構。素晴らしいことです。それでは今回の作戦を伝えますね」

 

郷谷はその様子に満足げに頷き、口を開く。

きんもくせい特別。

その攻略に当たって必要な情報を提供するためだ。

 

「福島レース場の特徴といえば、まずなんと言ってもその小ささです。コースは1周1600メートル。これはURAのレースが行われる中では最小のレース場になります」

 

今回も説明のお供になるのはタブレットだ。

3Dデータが表示され、福島と他のレース場の大きさが比較される。

 

「いわゆる小回りになるわけですね。こういう場合の注意点はどこか、サナリさんは覚えていますか?」

 

「うん。コーナーがきつい」

 

「正解です。全体が小さいという事はコーナーの半径も小さいという事で、そうそう速度には乗れません」

 

郷谷が付属のタッチペンで画面をコンと叩く。

示す先はレース場両端、2つのカーブだ。

 

「きんもくせい特別は1800メートルで、レース場は1周1600メートル。必然的に第1から第4コーナーまで全てを通ります。これまでのレースよりも多く曲がるわけですから、コーナリングの重要性は高くなっています」

 

となれば、とサナリモリブデンは自分の枠順を確認する。

2枠2番。

内を取りやすい位置ではある。

 

「それと、小ささの影響がもうひとつ。最終直線の短さです。長さは292メートル。短い事で有名な中山よりもなお短いんですよね」

 

と、そこで郷谷はタブレットを覗き込んでいた体を起こす。

 

「福島レース場の特徴はこんなところです。起伏に関しては多少のアップダウンはありますがどれも緩やかで、ほぼ平坦に近いと思っていただいて構いません」

 

レース場の説明はこんな所のようだ。

なるほど、とサナリモリブデンは頷く。

そして画面を見つめながら頭の中で情報をまとめる。

 

 

カーブはきつく、コーナリングで速度は出しにくい。

今回はコーナーを多く曲がる必要があり、位置取りの重要性は高いようだ。

レース場の小ささから直線は短い。

 

そして距離は1800メートルのマイル戦。

 

 

情報を飲み込み切れたところで、サナリモリブデンは顔を上げた。

 

「ん。わかった。それで、今日はどう走ればいい?」

 

指示を求めてサナリモリブデンはトレーナーの目を見つめる。

それに対し郷谷は、タブレットの画面を切り替えて他出走ウマ娘の情報を示しながら、続けて答えた。

 

 


 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:1 差し:3 先行:3 逃げ:3

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/3枠3番:ムーンポップ(追込)

2番人気/5枠5番:ジュエルカルサイト(逃げ)

3番人気/8枠11番:シュプールムーバー(差し)

 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:257+25=282

スタ:160+32=192

パワ:234+23=257

根性:181+18=199

賢さ:181+36=217

 

【適性】

 

逃げ:A(1/50)

先行:B(0/30)

差し:A(9/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 




※ レース描写はカロリー高いので、明日は夜の更新1回のみです


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ジュニア級 11月 きんもくせい特別

 

 


 

 

【投票結果】

 

逃げ

 

 


 

 

『スッキリと晴れ渡りました晩秋の空。福島レース場、第10レース、きんもくせい特別。発走までもう間もなくというところ。各ウマ娘意気揚々とゲートに向かっております』

 

『雲ひとつない、澄み渡った綺麗な青空ですね。心なしかウマ娘達の足取りも軽いように見えますよ』

 

『バ場状態も良の発表。今日は朝から気持ち良く走るウマ娘の姿が見られています』

 

晴天の下、歓声を聞きながらサナリモリブデンはゲートに向かう。

第10レース。

メインレースのひとつ手前という事もあり、観客の数はメイクデビューや未勝利戦と比べて多くなっている。

その上、今回のスタート地点はホームストレートだ。

つまりはスタンド前であり、観客達の声援を間近に受けながらのゲート入りである。

 

「ムー姉ちゃーん! 頑張ってねー!」

 

特にそれが多く注がれているのは今日の1番人気、ムーンポップだ。

大半が小さな子供達で構成されている可愛い応援団が最前列で手を振り、ムーンポップが満面の笑みで両手を振り返す。

 

「期待してるぞー! 勝ったら正月のお年玉倍増してやっからな!」

 

そこに混じった男性の野太い声に、応援団の中から賞金に比べたらはした金もいいとこだと突っ込みが入る。

ムーンポップはそれを聞いて、おっちゃんはどうしようもないなぁなどと呟いていた。

表情に浮かんでいるのは苦笑と呆れと気恥ずかしさと、そしてそれらより遥かに大きな喜びだ。

 

彼女の地元はここ福島なのだろうなと、サナリモリブデンは納得する。

自分の土地、地元の仲間たちの前で情けない姿は見せられまい。

ムーンポップの総身に満ちた気合と熱は手に取れるほどに強烈なものだった。

 

『地元福島の熱い応援を受けて、3番ムーンポップがゲートに収まります。本日の1番人気。故郷で自慢の末脚を披露できるか。5番ジュエルカルサイトは2番人気。前走9月の未勝利戦では4バ身差をつける見事な逃げ切りを見せました。3番人気はシュプールムーバー。この人気は少し不満か、ムーンポップを鋭く見つめる』

 

上位人気を紹介する実況のセリフに、サナリモリブデンの名前は並ばない。

今日のサナリモリブデンは5番人気だ。

前走で、実力があるとみなされているブリッツエクレールに競り勝った事で評価が伸び、しかし当のブリッツエクレールがまだ未勝利戦から抜け出せていないために伸びきらなかった。

そんな位置だ。

 

「……!」

 

だが、上位3名には入れなくとも十分な人気だ。

その証拠に、サナリモリブデンはスタンドから自分だけにまっすぐと熱の籠った視線を向ける観客を幾人か発見した。

内心から湧き上がった喜びのまま軽く手を振ってみれば、彼らはたちまち笑顔になり好走を期待する声が届く。

 

(情けないレースを見せられないのは、こっちも一緒)

 

声援を薪として心に火が灯る。

ふつふつと温度を上げる闘志を制御しながら、サナリモリブデンはゲートに収まった。

 

ジュニア級、1勝クラス、きんもくせい特別。

レースが始まる。

 

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。係員が離れて……今スタート!』

 

 


 

 

【スタート判定】

 

難度:80

補正:なし

参照:賢さ/217

 

結果:169(大成功)

 

 


 

 

『2番サナリモリブデン鋭く飛び出していった好スタート。他はまずまずの出足。出遅れはありません』

 

一歩。

いや一歩半先んじた。

サナリモリブデン本人をしてそう確信できる完璧なスタートだった。

横に並ぶ者の姿はない。

 

内枠、好スタート。

今回の作戦、逃げで優位に立つ条件がピタリと揃っていた。

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択】

 

加速してハナを取る

 

難度:80

補正:好スタート+15%

参照:パワー/257+38=295

 

結果:173(大成功)

 

 


 

ならば当然、出る。

サナリモリブデンの脚が強く芝を踏み締め、体を大きく加速させる。

スタートの勢いも合わせたそれに追随できるウマ娘は居なかった。

 

『2番サナリモリブデン、好スタートからそのままハナを取りに行きました。前走までとは打って変わって前でレースを引っ張るつもりでしょうか』

 

『スタートが良すぎて逆にかかった、という風には見えませんね。小回りの福島に合わせた作戦かも知れません』

 

『先頭サナリモリブデン早速快調に飛ばしていく。させじと続くのは2番人気の5番ジュエルカルサイト。グリンタンニ、ダブルサラウンドも追っていく』

 

だが、だからと素直に諦められるようなウマ娘はそもそもレースに出てなどいない。

このレースは1勝クラス。

つまり彼女たちの全員が勝利を踏み締めて上がってきた者達なのだ。

ただでなど逃げさせてはくれない。

同じく逃げを選んだ3人が逃がすものかとサナリモリブデンに追いすがる。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:サナリモリブデンに並びかけようとする

 

 


 

 

「……っ」

 

サナリモリブデンの左耳が動き、後ろを向く。

自身を猛追する足音を感知しての事だ。

そこに迫るのは5番、ジュエルカルサイト。

最初のコーナーまでに並び、カーブを抜けたところで前にかわして中盤を先頭で進める、そんな意図だろう。

対するサナリモリブデンの行動は、単純明快に即決される。

 

 


 

 

【抵抗判定】

 

難度:80

補正:加速の勢い+15%

参照:パワー/257+38=295

 

結果:252(特大成功)

 

 


 

 

(並ばせない)

 

さらにもう一段、サナリモリブデンが加速する。

並びかけようとしていたジュエルカルサイトは一歩二歩と離される。

 

(やれるものなら、やってみればいい)

 

「……くっ……」

 

そこからもう一度、とはならなかった。

時間切れだ。

スタート直後の直線が終わり、サナリモリブデンは1コーナーに入ろうとしている。

そこに再び並ぼうとすれば、福島の小さなコーナーを曲がりきれない加速度になる。

敢行してしまえばジュエルカルサイトの体は外に流れて大幅なロスを余儀なくされるだろう。

そうなれば先頭争いどころではない。

 

ジュエルカルサイトは声を漏らし、サナリモリブデンの後方に収まる。

その表情にはハナを取れなかった悔しさと、自身の目論見を阻んだサナリモリブデンの完璧な加速に対する警戒が強く浮かんでいた。

 

『最初のハナ争いはどうやら落ち着いて、サナリモリブデン先頭で1コーナーに入っていきます。すぐ後ろにはジュエルカルサイト。内からグリンタンニ、ダブルサラウンド、タヴァティムサが横並び。1バ身ほど開けてインテンスリマーク、後ろにクピドズシュート、その外シュプールムーバー』

 

序盤の趨勢はこれで決まった。

大きく動くには適さない窮屈なコーナーを、誰もが静かに進んでいく。

 

その最中、ここまでの全てを思い通りに運んできたサナリモリブデンに余裕が芽生える。

油断や慢心……ではない。

勝負に高揚しながらも俯瞰するように全体を見つめる広い視野。

そしてそれらをその場で分析し理解できるほどに思考が回転速度を増し、頭の中に常よりも遥かに冷静な部分を生み出していく。

 

一種異様に思えるほど体が軽い。

サナリモリブデンは今、そう感じていた。

 

 


 

 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/加速(2)/意のまま(-1)

補正:逃げA(-1)

消費:6-2=4%

 

結果:スタミナ/192-7=185

 

 


 

 

『その後はボヌールソナタ、アウトオブブラックと続いて最後尾は1番人気ムーンポップ。先頭からシンガリまでおよそ6から7バ身といったところ。この辺りから先頭は向こう正面に入っていきます』

 

カーブが終わり、視界が開ける。

向こう正面の直線だ。

 

サナリモリブデンは考える。

突き放してリードを稼ぐべきか。

それとも緩いペースで後続を引っ張り脚を溜めるべきか。

 

(やる)

 

決断は瞬時に完了した。

その判断材料は、スタート前に目にした声援だ。

 

ムーンポップ。

彼女の脅威はいかほどか。

その蹄は、慣れ親しんだ土をどれほど強く踏みしめる?

その末脚に注がれる力は、親しい者の声でどれほど密度を増す?

 

そこに際限はない、あると見積もるべきではないとサナリモリブデンは定義した。

ならば足りない。

先頭から最後尾まで、6バ身から7バ身。

その程度のリードはまるで頼りにならないと彼女は断じる。

 

姿勢は前傾に。

冷たく細められた目からは戦意がほとばしった。

 

 


 

 

【中盤フェイズ行動選択】

 

加速して後続を突き放す

 

難度:80

補正:意のまま+10%

参照:パワー/257+25=282

 

結果:190(大成功)

 

 


 

 

『サナリモリブデン、直線で加速していきます。後続をぐんぐん突き放してリードを広げる。これは大丈夫でしょうか。どうでしょうこの展開』

 

『彼女の脚質にどれほど合っているかは未知数ですが、ここから表情を見る限りでは大きくかかっているようにも見えません。勝算はある、という事だとは思うのですが……』

 

『サナリモリブデン、ペースを緩めようという気配はありません。後方はどうだ。2番手3番手はサナリモリブデンの独走を許すのか』

 

蹴りつけた芝の反動。

その詳細なベクトルの行方さえ手に取るようにサナリモリブデンは理解していた。

体から生まれたあらゆる力が適切に束ねられてトモを通り脚先に伝わっていく。

 

(脚が、軽い)

 

余計な力はそこにない。

わずかにも無駄の含まれない筋肉の躍動が、最小限の力でサナリモリブデンを押し出していく。

 

(走るのって、こんなに楽しい事だったの?)

 

余裕はやがて一時の困惑を経て、高揚へと至ろうとする。

硬い理性の底から本能が顔を覗かせる。

走りを愛するウマ娘の性が、サナリモリブデンの能力を今この時だけ遥か高みに連れていこうとしている。

 

それを後方から追う者たちはどう出るか。

ただ行かせるのか。

放置できぬと追走するか。

2番手のジュエルカルサイトが、虎視眈々と前を狙うシュプールムーバーが、最後尾のムーンポップが、その背を見つめる。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:ムーンポップがここで動く

 

 


 

 

その動きは最後尾から始まった。

 

『最後尾ムーンポップが動いたぞ。外に持ち出して加速していく。アウトオブブラック、ボヌールソナタをかわして中団に合流。そこからまだ前に行く』

 

作戦にこだわってはいられないとムーンポップは判断した。

この土地、このレース場、福島を最も知るのは11人のうちで彼女だ。

その彼女は早々に理解したのだ。

先頭を行くサナリモリブデンを捕まえるにはここで前に出るしかない。

さもなくば何一つ抵抗を許されないままちぎられて終わると。

故に、終盤のために温存しておくべき脚を解放してまで逃がすものかと追いすがる。

 

それに遅れる事、一瞬。

バ群全体が呼応するようにペースを上げる。

ムーンポップの福島レース場への理解度の高さは誰もが推察できるところだ。

その彼女がそう判断するならばと、次々に続いていく。

 

『つられるように全体のペースが上がっていく。その中をムーンポップが上がって上がって今2番手に変わった。後ろから続けとジュエルカルサイト、ダブルサラウンド。グリンタンニは少し混乱しているか。その横をタヴァティムサも抜けていった』

 

『サナリモリブデンが落ちてこない前提なら無理にでも今追うしかありません。ムーンポップ、素晴らしい判断の早さです』

 

 


 

 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/加速(2)/自由自在(-2)

補正:逃げA(-1)

消費:8-3=5%

 

結果:スタミナ/187-9=178

 

 


 

 

高速で逃げを打つサナリモリブデンを後続は追った。

それでもなお差は開いたが、サナリモリブデンが理想としたほどではない。

 

(もし、ムーンポップがアルほどの脚が使えたら)

 

足りないと決を下す。

この程度では食いつかれる。

あるいはそこまでではないとしても、ムーンポップの末脚がサナリモリブデンの知る最速の追い込みウマ娘ほどではないとしても、可能性はまだ存在する。

そして、その可能性を敵手が引き当てないなどという楽観をサナリモリブデンという人格は許容しない。

 

(不足を埋める。やれる?)

 

睨む先はコーナーだ。

2つのカーブを経て最終直線へいたる、狭く小さい曲線がそこにある。

スピードを乗せすぎては外に流される、ゆっくりと進むべき道程。

 

(───やる。無理を通す!)

 

そこへ向けて、高速域を保ったまま突き進んでいく。

 

 


 

 

【終盤フェイズ行動選択】

 

無理を通して高速を維持したままコーナーに突き進む

 

難度:80

補正:自由自在/+15%

参照:スピード/282+42=324

 

結果:318(特大成功)

 

 


 

 

「───ッ」

 

サナリモリブデンに、当然の遠心力が襲い掛かる。

体が流れ、脚が地を離れて浮きかねないとさえ感じられた。

 

 


 

 

【追加判定】

 

難度:80

補正:自由自在/+15%

参照:パワー/257+64=321

 

結果:278(特大成功)

 

 


 

 

それを、ただの筋力をもってねじ伏せる。

鎚のごとく振り下ろした左足で速度を減じさせないままベクトルだけを強制的に変更する。

 

『サナリモリブデン、コーナーでも速度を落とさない。そのまま突っ込んでいきます。後続は差を詰められない。いや、それどころか開いていく』

 

『これは……あぁ、もう決まったかも知れませんね』

 

外に膨らんだのはわずかだけ。

完璧という言葉さえ生ぬるいと見せつけて逃げる背に、ムーンポップは絶望を見たかも知れない。

 

 


 

 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:タヴァティムサがムーンポップを仕留めにいく

 

 


 

 

その一瞬の揺らぎを逃さなかった者が居た。

 

サナリモリブデン同様、コーナーで加速していくウマ娘が1人。

しかし、彼女の方は踏みとどまる事はできない。

外へ外へと流れていく。

だが、それで良いと彼女、タヴァティムサは笑った。

 

「あは、お先っ」

 

先を行くムーンポップの外を抜ける。

その際に漏らしたほんの一言のささやきが、揺らいでいたムーンポップの心にトンと刺さった。

 

「このっ……行かせない……!」

 

「いいや。悪いけど、こっちのセリフ!」

 

揺らぎが動揺に変わり、ペースを上げたムーンポップに更なる敵手が迫る。

 

サナリモリブデンは膨らまなかった。

だが、それを追ったタヴァティムサは膨らんだ。

では、タヴァティムサに煽られ釣られたムーンポップはどうか。

その答えは、がら空きになった最内を見れば瞭然としている。

 

気合と共に言葉を吐いて、その隙をジュエルカルサイトが突いた。

外と内。

両面からかわされたムーンポップは精彩を欠き、速度を乱れさせて───

 

 


 

 

【追加判定】

 

難度:80

補正:福島レース場◎/+15%

参照:ムーンポップの根性/190+28=218(ジュニア級11月の汎用NPC基準値)

 

結果:47(失敗)

 

 


 

 

───バ群に飲まれて消えていった。

 

 


 

 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/強行(4)/縦横無尽(-3)

補正:逃げA(-1)

消費:10-4=6%

 

結果:スタミナ/178-10=168

 

 


 

 

『他のウマ娘を遥か後方コーナーの半ばに置き去りにして、サナリモリブデンだけが直線に入ってくる。これはもう決まったか。このまま行ってしまうのか。後ろの子たちは間に合わないか』

 

そんな攻防など、サナリモリブデンは関知しない。

彼女はついに高速を保ち切ったまま直線に到達した。

後に残されたタスクはひとつだけ。

 

わずか一時、深く大きく息を吸う。

そこに含まれた酸素を全身に送り出し、生まれた力を最後の一撃に乗せる。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:80

補正:縦横無尽/+20%

参照:スタミナ/168+33=201

 

結果:93(成功)

 

難度:80

補正:縦横無尽/+20%

参照:スピード/282+56=338

 

結果:249(特大成功)

 

難度:80

補正:縦横無尽/+20%

参照:パワー/257+51=308

 

結果:103(成功)

 

 


 

 

小さなレース場の短い直線を、駆ける。

その速度に際限はなく、力を籠めれば籠めただけ後続を突き放し。

 

 

 

『サナリモリブデン、脚色は全く衰えない。これだけ飛ばしてまだ脚を残していた。伸びる伸びるまだ伸びる。これはもうどうしようもない、余裕の走りだ、誰1人として追いすがれない。今1着でゴールイン!』

 

歓声。

喝采。

そしてわずかな悲鳴の中を、サナリモリブデンは突き抜けた。

 

『大楽勝だ、サナリモリブデン圧巻の完封劇! 2着はジュエルカルサイト、3着はタヴァティムサとシュプールムーバーが接戦、わずかにシュプールムーバーが前に出ていたか』

 

(…………なにこれ)

 

そうして、サナリモリブデンの意識はようやく高みからゆっくりと降りてくる。

信じがたいほどの超集中は終わりを迎え、大量に放出されていたアドレナリンが消えていく。

草1本の揺れ方にいたるまで把握できていた拡大知覚は急速に縮まり。

 

(脚、おもい……)

 

無視されていた疲労の重みがのしかかる。

たったの一歩に消費される労力は常の数倍にも及んでいた。

それだけの無理を強いた走りだったとサナリモリブデンは理解する。

 

だが、甲斐はあった。

サナリモリブデンはスタンドの観客たちを見やる。

 

そこには熱狂が渦巻いていた。

多くの人々が自分を見つめ、名を呼び、興奮に腕を突き上げる。

それに足るものを見せられたのだと染み渡るにつれ、サナリモリブデンは強く深い歓喜に飲まれていく。

 

 

 

固く握りしめられた右手が高々と掲げられる。

それに呼応する人々の声は、晴れ渡る空へとどこまでも高く響き渡った。

 

 


 

 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/逃げ経験+5

獲得:スキルPt+50

 

スピ:257 → 267

スタ:160 → 170

パワ:234 → 244

根性:181 → 191

賢さ:181 → 191

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:C(11/20)

マ:B(14/30)

逃:A(6/50)

 

スキルPt:290 → 340

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:267

スタ:170

パワ:244

根性:191

賢さ:191

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:C(11/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(14/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(9/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い  (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

トリック(前)(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

スキルPt:340

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆30

ソーラーレイ    絆25

チューターサポート 絆10

チームウェズン   絆25

 

 

【戦績】

 

通算成績:3戦2勝 [2-1-0-0]

ファン数:1831人

評価点数:900(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:きんもくせい特別

 



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【11/XX(日)福島レース実況応援スレ】

 

815:名無しのレースファン

?????????????

 

817:名無しのレースファン

クッソワロチwww

 

819:名無しのレースファン

ファーーーーーーwwwwwwwww

 

822:名無しのレースファン

着差えげつないな

何バ身だこれ

 

823:名無しのレースファン

おかしいな???

マッキラはもうとっくにOPいったはずだろ???

なんで金木犀走ってるん?????

 

826:名無しのレースファン

一瞬レコード出たかと思ったわ

流石にそこまではいかんかったか……

 

829:名無しのレースファン

ぜんぜん違うじゃん!

言ったよね!?

『福島レース場はムーンポップの庭、きんもくせい特別は2着を当てるレース』って!

この結果は何!?

 

831:名無しのレースファン

>>829

(俺もわかんねーよ……)

 

834:名無しのレースファン

>>829

彼女の庭なのは福島であって福島レース場ではありません……当然の結果です

 

837:名無しのレースファン

>>834

え? マジ?

スレの予想屋()連中はムンポムンポ言ってたやん

 

838:名無しのレースファン

ムンポ9着かぁ

応援団の前でこりゃキツいな……

 

839:名無しのレースファン

>>838

ゲロ吐きそう

 

840:名無しのレースファン

>>837

スレ民ごときがまともな情報持ってるわけないじゃん

ムンポのウマスタに載ってた応援団から妄想膨らませてただけだろ

 

842:名無しのレースファン

まぁ普通に考えて1勝クラスの子が特定のレース場に精通してるわけないだろって話よな

 

843:名無しのレースファン

それはそう

 

844:名無しのレースファン

スレ民に騙されてムンポの勝ちウマ投票券買ったやつおりゅ?

 

847:名無しのレースファン

っ742:名無しのレースファン

 ほい俺の予想な

 こんだけ固いレースでぶっこめない腰抜けとかおらんよな

 ライブSS席が金だけで買えるチャンスなんてそうそうないぞ

 【ムーンポップ軸の計5万円流し買い.jpg】

 

850:名無しのレースファン

>>847

グロ

 

852:名無しのレースファン

>>847

キッッッッッツ

 

853:名無しのレースファン

>>847

やっぱライブ最前列なんて狙うもんじゃねーわ

ワイドでC席、これで十分よ

 

854:名無しのレースファン

C席で我慢するくらいなら立ち見でよくない?

無料だし

 

856:名無しのレースファン

>>854

おみや袋いらないってんならそれでもいいけどな

 

859:名無しのレースファン

ライブ写真は欲しいんよな

C席だとランダムなのがアレだけどたまに来る大当たりがガチャ感覚で楽しい

プロが撮ってるだけあって外れはほとんどないし

 

860:名無しのレースファン

サナリモリブデンてこの子メイクデビューでマッキラとやっとるやん

 

862:名無しのレースファン

>>860

調べたらマジやんけ

アレ相手に5バ身で2着か

やるやん

 

863:名無しのレースファン

俺C席でWtSのラストマイクパフォシーンの写真当てた事あるわ

見せたろか?

 

864:名無しのレースファン

>>863

可及的速やかにタヒね

 

867:名無しのレースファン

>>862

その評価わかるんだけどわかりたくなさみが深い

 

869:名無しのレースファン

マッキラあいつほんまどうにかしろ

 

871:名無しのレースファン

>>869

どうにか出来る可能性が今日生まれたわけだが

 

874:名無しのレースファン

大逃げウマ娘には大逃げウマ娘をぶつけんだよ!

 

876:名無しのレースファン

>>874

勝った方が我々の敵になるだけのやつじゃん……

 

877:名無しのレースファン

>>876

勝った方のファンになればいいだけでは?

 

878:名無しのレースファン

>>877

……すぞ

 

880:名無しのレースファン

>>877

推し変渡り鳥だ

殺せ

 

883:名無しのレースファン

強いウマ娘に惹かれるのは普通のことだろ

単推し過激派は難儀だな

 

884:名無しのレースファン

サナリモ前走記録見てきたけど差しで走ってんじゃん

なんで?

 

887:名無しのレースファン

>>884

メイクデビューも差しだった記憶

なんで急に逃げたのか分からん

 

890:名無しのレースファン

>>887

実況だか解説だかが言ってたけど福島合わせの作戦じゃね

 

892:名無しのレースファン

こんなわかりやすい逃げウマ娘に後ろで走らせてた意味が分からんて意味なんだわ

トレーナー何してたん?

 

893:名無しのレースファン

トレーナー誰?

 

894:名無しのレースファン

>>893

公式だと郷谷静流って出てきたな

誰?

 

897:名無しのレースファン

わからん

新人か?

 

898:名無しのレースファン

新人だろうな

どうせ好みで自分の好きな走り方押し付けてたんだろ

最近トレーナーの質低下が深刻すぎる

試験もうちょい見直したらどうかね

 

900:名無しのレースファン

マッキラ級の才能に無理矢理差しやらせてたってマジ?

無能どころの騒ぎじゃないだろ……

 

901:名無しのレースファン

ゴミオブゴミ

ウマ娘潰すトレーナーとか存在価値マイナス

とっとと資格剥奪して永久追放しとけ

 

903:名無しのレースファン

違うんだよなぁ……

選抜からサナリ追ってる俺が真実教えたろか?

 

905:名無しのレースファン

>>903

うざ

 

908:名無しのレースファン

出たよセンバツマン

古参面きもいからくたばれって200000000回は言ったわ

 

910:名無しのレースファン

>>903

あ、呼んでないです^^;

 

913:名無しのレースファン

悲しいんだが?

 

915:名無しのレースファン

>>913

残念でもないし当然

巣に帰れ

 

918:名無しのレースファン

辛辣で草

 

920:名無しのレースファン

お前が悲しんでも困る奴おらんから

 

921:名無しのレースファン

選抜おじさんは過疎スレに引きこもって好きなだけ後方腕組みしててどうぞ

 

924:名無しのレースファン

悲しいから情報だけ出して帰るわ

サナリモリブデンな、この子選抜レースで綺麗な逃げかましてたら落鉄して最下位まで落ちたんだわ

多分それトラウマになって逃げれてなかったものと思われる

トレーナーはむしろその状態でなんとか差しで勝たせてメンタル持ち直させたんだと思うぞ

そんでトラウマ克服して今回の大逃げってわけ

結論としては無能どころか有能

以上、ほな……

 

926:名無しのレースファン

>>924

ほーん

情報は有用やん

じゃあお前はもう用済みだわ消えとけ

 

929:名無しのレースファン

どっちみち辛辣で草

まぁいっか選抜おじさんなんてどうなっても

 

930:名無しのレースファン

サナリちゃん選抜脱落組かよ

そこからトラウマ抱えたまま復帰して未勝利勝ち上がってこれ?

激アツじゃん

 

933:名無しのレースファン

名ウマ娘に必須のドラマ盛り込んでんじゃん

っぱ実力ある子には三女神がそういう演出するんだなって

 

936:名無しのレースファン

たまにこういう子おるよな

 

939:名無しのレースファン

>>936

良くも悪くも運命に愛されてる感じの子な

追ってて楽しいんだぁ……

 

941:名無しのレースファン

どっかで見た事あると思ったらペンギンのルームメイトだこの子!

たまにウマッターに出てるわ

 

943:名無しのレースファン

>>941

あーそれだ!

なんか記憶にひっかかると思ったら

やべーな運命力がガチすぎる

 

944:名無しのレースファン

マッキラに因縁あってペンギンとは同室?

朝日杯とホープフルのド本命コンビやんけ

どっち行っても最高に美味しいとか持ってるな

 

946:名無しのレースファン

こんだけの逃げ出来る実力見せつけたし12月はG1走るよな

どっちだ?

 

947:名無しのレースファン

>>946

ずっとマイルで来てるし普通に考えて朝日杯FSだろ

 

948:名無しのレースファン

>>947

いうて1800走れるなら2000もいけるだろ

200くらいなんとかなる

ペンギンの方に重めの感情あったら距離延長はあり得るぞ

 

950:名無しのレースファン

>>948

お前それソーラーレイの前でも言えんの?

 

954:名無しのレースファン

>>950

次スレよろ

 

955:名無しのレースファン

>>950

ソーラーレイの前では言えないけどぶっちゃけ大逃げvs鬼の末脚勝負が見たい

あと次スレ

 

957:名無しのレースファン

あークソ踏んだか

しゃーない立ててくるわ

一応減速しといて

 

959:名無しのレースファン

1000ならサナリちゃんのポニテぺろぺろ

 

961:名無しのレースファン

>>959

死ぬほどキモい上に気が早すぎる

 

962:名無しのレースファン

見て見て3連単当たった!

これ握手券付きSS席確定でいいんだよな?

【勝ちウマ投票券.jpg】

 

965:名無しのレースファン

>>962

死ね

 

968:名無しのレースファン

>>962

>>1も読めないのかゴミカス

 

976:名無しのレースファン

>>962

自慢禁止ってわかっててやってんだよなテメェ

 

979:名無しのレースファン

>>962

チェキもついてくるぞ忘れるな

 

985:名無しのレースファン

>>962

ライブチケット俺に譲ってからくたばれ

 

991:名無しのレースファン

減速しろって言ってんだろバカどもがよ

【次スレURL】

 

993:名無しのレースファン

>>991

間に合ってよかったな

 

996:名無しのレースファン

>>991

でもテンプレのミス修正忘れてるぞ

1000ならムンポ応援団がサナリ応援団に華麗な転身

 

999:名無しのレースファン

>>996

この速度でそこまで面倒見れるかよ

1000ならサナリちゃんウマッター開始

 

1000:名無しのレースファン

1000GET!

 

 



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ジュニア級 11月 次走選択

 

「お疲れさまでした、サナリさん。……いやー、なんというか、すごい事しましたねぇ」

 

「ん、ただいまトレーナー。……うん。ちょっと自分でも信じられないくらい」

 

ライブを終えて。

レース場備え付けのシャワーで汗を流した後、サナリモリブデンはようやく人心地ついていた。

 

夜まで使用が許されている控室に戻り、郷谷トレーナーと言葉を交わす。

普段ならば夜と言わずライブが終われば適当に切り上げて帰路につく2人であったが、今日はどうもそうはいかない。

きんもくせい特別、大差の決着。

その激走の疲れが色濃く残っているためだ。

 

「ふむ、やっぱり大分張っていますね」

 

「自覚はある。ライブもちょっと大変だった」

 

「でしょうねぇ。幸い怪我や故障の気配はありませんが、今月の残りはしっかり休養に当てましょう」

 

「ん、了解」

 

まだ熱を持った脚をマッサージしながら郷谷が言い、サナリモリブデンが素直に頷く。

その従順さによしよしと郷谷は軽く芦毛の頭を撫でた。

ピンと立っていた耳が撫でやすいようにパタリと寝る。

 

サナリモリブデンは表情に乏しく、言葉も平坦で騒がしさからは遠いタイプ。

だが同時に、他者との触れ合いには殆ど抵抗がないらしいと郷谷はもう分かっていた。

むしろどちらかといえば積極的に応じる方であろう、とも。

 

「サナリさんはかわいいですねぇ」

 

「ん……そうなの?」

 

「はい、とても」

 

「そうなんだ。ありがとう」

 

そして、褒められれば率直に嬉しそうにする。

顔には出ないものの雰囲気がやわらぎ、声の質が変わるのだ。

 

良い所はどんどん褒めて伸ばしたい郷谷とは全く相性の良いウマ娘である。

独立して最初の年から素晴らしい出会いだと、郷谷は心中でしみじみ噛み締めた。

 

 


 

 

「さて、それでは今後の話をしましょうか」

 

マッサージも終えて、2人はタブレットを挟んで向かい合った。

未勝利戦の後、お祝いのハンバーグを楽しんだ席で行った説明と同種のものだ。

郷谷は一拍置き、分かりやすい説明のために思考をかみ砕いてから口を開く。

 

「サナリさんは見事にきんもくせい特別を勝利してくれました。これでまた1つクラスが上がった、という事になります」

 

「うん。これでオープン、でいい?」

 

「えぇ、合っていますよ。ジュニア級、というかクラシックの夏までは1勝クラスの次はオープンですので」

 

そして、タブレットにサナリモリブデンの情報を表示させる。

 

サナリモリブデン、3戦2勝。

その評価点数は900と書かれている。

 

「つまり今のサナリさんは、オープン以上のレースなら出走制限はありません。走りたいと願うなら、重賞への出走も可能という事です」

 

「ん」

 

郷谷の言葉にサナリモリブデンは頷く。

 

彼女は既に勝利を2つ重ねた。

たかが2つ、などとは到底言えない。

トゥインクルを走るウマ娘の中では相当なものだ。

 

毎年デビューするウマ娘は1500人よりいくらか少ない程度の人数だ。

その内、2勝を上げられる者は400人に満たない。

サナリモリブデンは十分に上澄みと言える存在となった。

 

そして今の彼女には、それに相応なだけの自信も宿っている。

重賞と聞いて臆する事なく、むしろ戦意を燃やす程度には。

 

「ですが、それは期間限定の事です。先ほども言ったように、これはクラシックの夏までの話となってしまいます」

 

だがそこに、郷谷は別の話を差し込む。

指差す先にあるのはタブレット内の一情報。

評価点という項目だ。

 

来年の6月以降もオープンに残りたいというなら、評価点を1601以上にする必要があります

 

「? あと2勝、ではなく?」

 

「1勝、2勝、3勝、オープンとなっていますからそう思いますよねぇ。でも実際にクラスを管理しているのは勝利数ではなく、この評価点なんです」

 

郷谷は説明する。

クラスの区切りは重ねた勝利の数ではなく、URAから付与されるこの評価点だ。

 

1勝クラスとは、評価点500以下の者。

2勝クラスとは、評価点501以上1000以下の者。

3勝クラスとは、評価点1001以上1600以下の者。

そして評価点が1601以上となった者がオープンクラスに名を連ねるのだ。

 

この評価点は基本的には1着の者にしか付与されない。

そのために普通に戦っていれば、クラス名と勝利数は同期する。

一般的に3勝したならば評価点は1500となり、3勝クラスに所属するという形にだ。

 

「ですがちょっとした例外もあります。まずひとつは重賞ですね。重賞レースの場合、この評価点は2着まで付与されます。例えば……時期が近いですし、ホープフルステークスを例に出しましょう。このレースでは1着は3500、2着でも1400の評価点が与えられます」

 

なるほど、とサナリモリブデンは頷く。

もし仮にサナリモリブデンが出走して2着に収まれば、これまでの900と合わせて評価点は2300となる。

2勝しかしていないオープンウマ娘の誕生だ。

 

「次に、来年6月までは1勝クラスの次はオープンクラスなわけですが、クラシックのオープン競走で与えられる評価点は最低1000となっています」

 

こちらにもサナリモリブデンは納得した。

クラシック級であと1勝を上げれば、評価点は1900以上になる。

今度は3勝しかしていないオープンウマ娘だ。

 

 

 

「と、ここまで説明しましたが、実際この辺りの面倒な計算は一旦忘れて構いません」

 

「ん……」

 

「重要な点は、来年6月以降もオープンクラスに残りたいならば、クラシック級で1勝を上げるか、重賞で2着以内に入る必要がある……という事です」

 

そうして、それらの情報を郷谷がまとめた。

つまりそういう事になる。

どちらも満たせなかった場合、サナリモリブデンは6月以降はオープンクラスから評価点によって決められるクラスに変更されるわけだ。

そうなれば当然オープン競走にも重賞にも出られなくなる。

 

なお、重賞2着での評価点は一番低いものでも750だ。

現在の900と合わせれば1650のオープンクラスとなるため、重賞の格や種類は問われない。

 

 

 

説明を終えて、郷谷は水をひと口含んだ。

やや渇いた喉を潤して、さて、とサナリモリブデンに向き直る。

 

「ではそれを踏まえて、サナリさんの次走を決めましょう」

 

 


 

 

【ジュニア級 12月】

 

クリスマスローズS     冬/中山/芝/1200m(短距離)/右外

 

朝日杯FS(G1)     冬/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

ホープフルS(G1)     冬/中山/芝/2000m(中距離)/右内

 

 

【クラシック級 1月】

 

クロッカスステークス  冬/東京/芝/1400m(短距離)/左

ジュニアカップ     冬/中山/芝/1600m(マイル)/右外

若駒ステークス     冬/京都/芝/2000m(中距離)/右内

 

シンザン記念(G3)   冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外

京成杯(G3)      冬/中山/芝/2000m(中距離)/右内

 

 

【クラシック級 2月】

 

マーガレットステークス 冬/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

すみれステークス    冬/阪神/芝/2200m(中距離)/右内

 

きさらぎ賞(G3)    冬/京都/芝/1800m(マイル)/右外

共同通信杯(G3)    冬/東京/芝/1800m(マイル)/左

 

 


 

 

表示された一覧は冬のレースだ。

ジュニア級12月、そしてクラシック級1~2月のもの。

そのうち、サナリモリブデンの適性に沿ってピックアップされたリストになる。

 

「トレーナー。この赤いのはなに?

 

その中の、特に強調されたいくつかのレースをサナリモリブデンが指す。

レース名が赤くなっているものだ。

それに郷谷は神妙な顔で答える。

 

「それらは特に有力なウマ娘が出走するレースですね。例えばサナリさんも良く知るペンギンアルバムさん。彼女はホープフルステークスへの出走を明言しています」

 

続いて郷谷は言う。

朝日杯にはメイクデビューで雨の中の鮮烈な逃げを披露したマッキラ。

年明けのシンザン記念には優れた能力を発揮して勝ち上がってきたチューターサポート。

彼女たちがそれぞれ出走を決めており、頭ひとつ抜けた実力と真っ向からぶつかる事は避けられないと。

 

「つまり、これらのレースは重賞の中でも特に厳しい戦いになります。参戦を選ぶなら、相応の覚悟が必要ですよ」

 

サナリモリブデンはこくりと頷く。

 

彼女の記憶の中に、6月の遥か遠い背中は未だ鮮やかだ。

共同トレーニングの最中、幾度も間近で見たペンギンアルバムの爆発的な末脚もまた同様。

それらと実戦でぶつかるとなれば、何一つ楽観できない戦いとなるだろう事は実に容易に想像ができた。

 

同時に、サナリモリブデンは自身の胸の内に熱を感じもした。

恐らくは間違いなく、厳しく辛いレースになる。

だがきっと魂を震わせるに足るものだ。

それがサナリモリブデンに、他では補えない何かを与える可能性は小さくない。

 

 

 

以上の情報を踏まえて、サナリモリブデンは次走について考える。

その結果出た答えは……。

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:267

スタ:170

パワ:244

根性:191

賢さ:191

 

 

【適性】

 

芝:C(11/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(14/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(9/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘○(冬のレースとトレーニングが少し得意になる)

冷静(かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い  (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

トリック(前)(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

スキルPt:340

 



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ジュニア級 11月次走選択結果~12月固定イベント

 

 


 

 

【選択結果】

 

朝日杯FS

 

 


 

 

「…………なるほど」

 

サナリモリブデンの選択に、郷谷は少しの沈黙の後にそう答えた。

その表情は硬い。

顔の前で組んだ手の指を落ち着きなさげにすり合わせ、それからサナリモリブデンと視線を合わせる。

 

「朝日杯フューチュリティステークス。その選択でいいんですね?」

 

「うん」

 

「以前にも言いましたが、勝算はありません。過酷なレースになります。サナリさんにとっては、ただただ世代トップとの実力差を見せつけられるだけの一戦になるでしょう」

 

 


 

 

【ウマソウル判定】

 

参照:ウマソウル/100

 

成功確率100% 判定を省略します

 

 


 

 

「構わない」

 

それでもいいのか、と発する前に決意は語られた。

サナリモリブデンはまっすぐに、わずかな迷いも含まない瞳で郷谷を見つめる。

 

「トレーナーは、2月に言ってた。やると言わせてみせるって。この世界の頂点に、G1に挑んで勝ってみせると、私に言わせてみせるって」

 

芦毛の下に、表情は無い。

だがそこには焼けつくほどの熱があった。

 

「そして証明してくれた。私が頂に向かって走っていけるって。トレーナーはやってくれた。だから私もやる。やるよ、トレーナー」

 

まるで。

と、郷谷は述懐する。

まるで、鋼を溶かす炉のようだ。

 

「見ておかないといけない。目指すところがどれだけ高いのか。私はどれだけ足りていないのか」

 

サナリモリブデンを低く見積もった覚えも、侮った覚えも郷谷にはない。

だが改めて彼女は思う。

 

「脚を止めている暇はどこにもない。やらせてほしい」

 

冬のように儚い姿をしているくせに、鋼のように鋭く硬いこの少女を育て上げる。

それはなんという重責なのだろうかと。

 

12月。

サナリモリブデンに降りかかるだろう絶望を。

払いのけてやるだけの力が、自分に本当にあるのかと。

 

 

 

「それに、前にも言った。叶わないと分かっている程度の事が───」

 

「脚を止める理由にはならない、でしたね。えぇ、覚えていますよ」

 

そんな不安を漏らした己の心を、郷谷は鼻で笑い飛ばす。

まさしくサナリモリブデンの言う通りだ。

その程度の事が挫ける理由になってたまるものかと奮起する。

自分よりも年若い少女がやろうと言うのに、大人の自分が尻込みなどしていられるかと郷谷は顔を上げた。

 

「分かりました。やりましょう。本番までに出来る事は私が全て整えます」

 

「うん」

 

そしてほがらかな笑みを浮かべて、言う。

トレーナーとはウマ娘を支えるものだ。

ならば折れる様など想像もできないような者でなければならない。

どれだけ寄りかかろうともただ安堵しか生まないほどの巨木たらんと、郷谷は自身を定義し、表情の上に余裕を形作る。

 

「ありがとう、トレーナー」

 

「ふふ。その感謝は遠慮なく貰っておきましょう。その方が張り切って準備が進められますからね」

 

「ん。頼りにしてる」

 

決戦までの猶予期間はたったの1か月。

出来る事は多くなく、積み上げられるものはわずかだ。

 

それでも、と2人は前を見た。

サナリモリブデンと郷谷。

彼女たちが歩んだ1年の集大成が、この冬に試される。

 

 


 

炉には炎が燈り、鋼は投げ入れられた。

されど鍛造は未だ始まらず、果ての形は定まらない。

鋼はただ、打ち鳴らされる時を待っている。

 


 

 

【固定イベント/初めてのG1を控えて】

 

 


 

 

「というわけで、こちらが届きましたー!」

 

などと、テンションの高い郷谷である。

年の暮れ、師走。

本格的に寒さがこたえるようになった12月、トレーナー室にて彼女は備え付けのクローゼットを開けてみせた。

 

「……!」

 

そこにあったものを見て、サナリモリブデンの尻尾がピンと高く持ち上げられた。

さらにはその勢いで振り回され、ふおんふおんと音を立てる。

ふんすと鼻息が荒くなるのを止める事も難しいようだ。

サナリモリブデン、昨今稀にみるハイテンションである。

心なしか瞳の中の光も強い。

 

「いやぁ、発注が間に合ってよかったです。デザイン自体は早めにやっておいて正解でした。この───」

 

サナリモリブデンの興奮を見て取って、郷谷の笑顔がさらに明るくなる。

そのまま勢いよく身振りでそれを指し示し。

 

「───勝負服! 私としては渾身の出来だと思いますが、いかがです?」

 

「トレーナー」

 

「はい、率直なご感想をどうぞ、サナリさん」

 

「とてもいい」

 

「そうでしょうとも」

 

ご満悦。

という言葉が両者ふさわしいだろう。

 

サナリモリブデンは自分専用の勝負服に目をとにかく輝かせ。

郷谷はサナリモリブデンの喜びにしてやったりとほくそ笑む。

そしてどちらからともなく片手を上げ、同時にグッと親指を立てる。

息ぴったりの仕草であった。

 

「さて、それではサナリさん。1回着てみましょうか」

 

「! いいの?」

 

「もちろん。というか試着して着心地を確かめないといけません。最終調整です」

 

「……それもそうだった」

 

そうして、サナリモリブデンが勝負服を手に取る。

着慣れない形式の衣装をスムーズにまとえるよう、郷谷も手伝いながらお楽しみの時間は始まるのだった。

 

 


 

 

「んー、素晴らしいですね。サナリさん、こっちに視線お願いします」

 

「…………んぅ」

 

パシャパシャとシャッター音が連続する。

サナリモリブデンがポーズを取り、郷谷がそれを撮影する音だ。

 

着替え終えてからおよそ10分。

延々と続いている撮影会に、サナリモリブデンのテンションはいつも通りになっていた。

理由は単純で、嬉しさよりも恥ずかしさが勝るようになったためである。

 

「ビューティフォー……。いいですよぉサナリさん。麗しのヒロインって感じですね。次はちょっと窓に手をかけて黄昏る感じの表情でどうでしょう」

 

「トレーナー」

 

「はい、なんですかサナリさん」

 

「流石にもう恥ずかしい」

 

なので、サナリモリブデンはそう訴えた。

褒められれば素直に喜べるのが彼女である。

あるが、何事にも限度があった。

次から次へと写真を撮り、かわいいだの綺麗だの素敵だのと言い続ける郷谷相手では分が悪かったようだ。

 

「そうですかぁ……仕方ありません、ここまでにしましょう。では最後に公式プロフィールに載せる分だけ1枚撮りますね」

 

「……今までのは?」

 

「私の趣味の分です」

 

「そうなんだ」

 

サナリモリブデンからの突っ込みは控えられた。

趣味とは何かと聞きたい気持ちも彼女にはあった。

が、藪をつついてまた誉め言葉が出てはたまらない、というところか。

 

ともかく、そうして最後の1枚が撮影される。

 

 

【挿絵表示】

 

 

サナリモリブデンの勝負服は、黒を基調にした落ち着いたデザインだった。

 

メインとなる部分はジャンパースカート型の学校制服を思わせる意匠の、ノースリーブのワンピースだ。

銀色の飾りボタンが並ぶだけで飾り気のないタイトな作りでスラリとした印象。

それは二重構造になっていて、胸元のわずかなスペースとスカートの側面に白い下側の生地が覗いていた。

 

その上から短いケープを羽織る形になる。

こちらもまた静かな色合いで、襟をピッチリ覆う作り。

 

さらに別で身に着けた長手袋も合わせて、フォーマルな雰囲気のある勝負服となっていた。

 

「サナリさんは殆ど白に近い綺麗な芦毛をしていますからね。これを活かさない手はないと思ったんですよ」

 

この服について、郷谷は語った。

サナリモリブデンが通常時まとっている静かな雰囲気に沿うようにデザインしたのだと。

 

「なので基本は黒に。後は所々に髪と同じ白を差し込んで落ち着きと統一感を出してみました。着てみたご感想は?」

 

「……最初と同じ。とてもいいと思う。何枚も撮られたのは恥ずかしいけど」

 

「ふふ、ごめんなさい。ついです、つい」

 

 

 

こうして、2人だけの勝負服のお披露目は終わる。

大きく手直しすべき部分も見つからず、調整は本番までに余裕をもって完了すると郷谷は言った。

 

サナリモリブデンは改めて、鏡で自身の姿を見る。

 

「……この服に」

 

そうして、ぽつりと呟く。

 

「恥ずかしくない走りをするから。見てて。トレーナー」

 

「えぇ、いつだって見ていますよ、サナリさん」

 

ほんの小さな、なんという事はない囁きだったが。

そこには確かに煮え滾る戦意が満ち満ちていたのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

成長:ALL+10

獲得:コンディション/絶好調

 

スピ:267 → 277

スタ:170 → 180

パワ:244 → 254

根性:191 → 201

賢さ:191 → 201

 

絶好調/次のレース時、能力がすごく上がる状態。レースが終わると解消される。

 

 


 

 

【12月固定イベント/スキル習得】

 

 

さて、そんな撮影会の後。

サナリモリブデンは普段の服に戻ると、そのままトレーナー室のテーブルについた。

目の前にノートと教本を広げ、ペンを手に取って前を見る。

 

その視線の先に居るのは郷谷だ。

マジックインキを手にホワイトボード前に立つお馴染みの姿である。

 

「それでは朝日杯に向けて、仕上げのお勉強です」

 

「ん」

 

というわけで、授業が始まった。

 

レースを優位に進めるための技術。

それを学び、身につけ、習得する時間である。

 

 


 

 

【スキルヒント一覧】

 

冬ウマ娘◎/100Pt

(冬のレースとトレーニングが得意になる)

 

押し切り準備/150Pt

(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

 

展開窺い/150Pt

(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

 

ペースキープ/100Pt

(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

 

集中力/150Pt

(スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

トリック(前)/150Pt

(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

 

スキルPt:340

 

 


 

 

≪System≫

スキルは票が多い順に、スキルPtが許す限り習得されます。

 

 



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ジュニア級 12月 朝日杯FS 作戦選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

集中力

冬ウマ娘◎

 

 


 

 

【スキル】

 

冬ウマ娘◎(冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静   (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力  (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い  (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

スキルPt:90

 

 


 

 

【レース生成】

 

 

【朝日杯フューチュリティステークス】

 

【冬/阪神/芝/1600m(マイル)/右外】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:170(ジュニア級12月の固定値85/G1倍率 x2.0)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:サルサステップ

2枠2番:アングータ

2枠3番:ナルキッソス

3枠4番:ホルンリズム

3枠5番:サナリモリブデン

4枠6番:エキサイトスタッフ

4枠7番:ブルータルラッシュ

5枠8番:スローモーション

5枠9番:シャバランケ

6枠10番:ブリーズグライダー(有力ウマ娘/ランダムエンカウント)

6枠11番:ファスターザンレイ

7枠12番:タイムティッキング

7枠13番:マッキラ

8枠14番:グレーシュシュ

8枠15番:アウトスタンドギグ

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝C/補正なし

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:冬ウマ娘◎/ALL+10%

 

調子:絶好調/ALL+10%

 

スピ:277+55=332

スタ:180+54=234

パワ:254+50=304

根性:201+40=241

賢さ:201+60=261

 

 


 

 

「───分急な───長だよね。私、───るなぁ。どうして朝日杯に?」

 

地下バ道。

パドックへと向かう道すがら、前方から聞こえてきた声にサナリモリブデンは立ち止まった。

 

そして視線を上げる。

集中により自身に埋没していた思考が浮かび上がる。

 

開けた視界の先には2人のウマ娘が居た。

栗毛のボブカットと、濃灰色の芦毛の三つ編み。

ともに勝負服をまとった彼女たちは、サナリモリブデンも知った姿だった。

 

朝日杯フューチュリティステークス。

今日の決戦に挑む有力ウマ娘である。

 

「……何かおかしい?」

 

栗毛、マッキラの問いに、もう1人が答える。

 

ブリーズグライダー。

今年のジュニア級短距離戦線において1、2を争う注目度のウマ娘だ。

7月、函館ジュニアステークス。

11月、ファンタジーステークス。

既に2つのG3を制した重賞ウマ娘でもある。

 

短距離重賞をソーラーレイと分け合い、拮抗した実力で鎬を削る最有力スプリンターの片割れ。

そんな彼女の距離延長、朝日杯への挑戦は驚きなく受け入れられていた。

ジュニア級の短距離にはG1はない。

冠を欲する者ならば無理を通してマイルに挑む事はままある事だと。

 

「G1に挑みたいなんてのは普通の事でしょ。スプリンターのマイル挑戦なんてどこにでもある話じゃない」

 

ブリーズグライダーの口調は素っ気なかった。

どこか突き放すように呟き歩を進めている。

 

「……あは。何かおかしいって? おかしいに決まってる」

 

だが、そこにマッキラは食いついた。

堪えきれない、という風に笑いを漏らしながら、ブリーズグライダーの行く手を塞いで下方から顔を覗き込む。

 

「G1に挑みたかった、ねぇ? うんうん、わかるわかる。グレードは高い方がいいもんねぇ。名誉も、賞金も、ファンの称賛も」

 

それは粘りつくような声だった。

サナリモリブデンの位置からはマッキラの表情までは確認できない。

しかし、その瞳の色だけはなぜだか容易に想像がついた。

 

「でも、だったらなんでさぁ───」

 

きっと、光の無い濁った黒に覆われているのだろうと。

 

ファンタジーステークス(G3)じゃなくて、京王杯(G2)に出なかったの?」

 

その言葉に。

ブリーズグライダーはピタリと脚を止めた。

 

辺りに沈黙が立ち込める。

重く、空気が凝り固まったかのようだった。

離れた位置のサナリモリブデンまでを絡め取ろうとするほどに。

 

「くふ、ごめんねぇ? 痛いとこ突いちゃった? でも、わかるんだぁ。私と同じ───のにおい」

 

ただ1人、それに囚われないマッキラだけが言葉を発する。

 

「スプリンターのマイル挑戦? ばっかみたい。本当は違うんでしょ、わかるよ。あなたはこっちに来たいんだ。挑戦じゃなくて転向。……だって、マイルだったらあの子と戦わなくても───」

 

そこで言葉が途切れた。

代わりに響くのは轟音だった。

発信源は、地下バ道の壁。

そこにブリーズグライダーの強く握りしめられた拳が叩きつけられていた。

 

「ふふ、ごめんごめん。言い過ぎちゃったね。そんなに怖い顔しないでよ」

 

「、るさい……! あんたなんかに、何が───」

 

「わかるよ」

 

声を荒げるブリーズグライダー。

だが、それをドロリとした粘性の声が押しとどめる。

 

「わかるんだぁ……すごく。辛いよね、苦しいよね。もう走るのをやめちゃいたくなるぐらい」

 

「……なんなの、あんた」

 

「ふふ、あはは、わかんない? 私はわかるのに。同じだよぉ。あなたとおんなじ」

 

「っ……付き合ってられない」

 

ブリーズグライダーは吐き捨て、足早に立ち去った。

マッキラはそれを追わない。

ただ黙ってその背を見送るだけだ。

サナリモリブデンも、また同じく。

 

 

 

「ふふふ、怒らせちゃった。レース前に嫌なとこ見せちゃったかも。ごめんねぇ?」

 

十数秒の沈黙の後。

マッキラは次いで、サナリモリブデンに向き直った。

酷く小さな足音だけを立てて歩み寄り、数歩の距離で立ち止まる。

 

「久しぶりだねぇ、サナリモリブデンさん。あは、サナちゃんって呼んでもいい?」

 

「久しぶり。6月から忘れた事はなかった。……好きに呼んでいい」

 

サナリモリブデンの返事に、マッキラはにこやかな笑みを浮かべた。

先ほどまでの不気味さはそこにない。

当たり前の、どこにでもいるような少女らしいほがらかさだ。

 

「こっちも忘れた事なかったよ。ね、握手させてもらっていいかな」

 

「ん」

 

続く要望も友好的なものだ。

サナリモリブデンが差し出した手が強く締め付けられるような事もなく、むしろ両手で優しく握られる。

 

「ふふ、サナちゃんにはずっとお礼を言いたかったんだ。ありがとうって」

 

「? わからない。私、マッキラに何かした記憶はない」

 

「うん。直接は何もしてもらってないよ。でも───」

 

マッキラの指が、サナリモリブデンの手の甲を撫でる。

ひどく熱く、そして湿り気を帯びていた。

サナリモリブデンはぞわりと、背筋が粟立つのを自覚する。

 

「サナちゃんは、あの子に勝ってくれたから」

 

あの子とは誰かと、サナリモリブデンは疑念を抱く。

だがそれを口にするよりも先にマッキラは完結した。

 

「だから私はあの後も走れたんだぁ。あの子だって負ける事がある。あれは紛れなんかじゃなかったって信じてこられた。……ふふ。付け焼刃の苦し紛れだけどね」

 

 

 

湿った手が離れていく。

マッキラはサナリモリブデンを見つめたまま3歩後退して、くるりと向きを変えた。

 

「あと、聞いておきたかったんだけど……きんもくせいのあの逃げって、私への対策? 急に差しから逃げに転向って大変じゃなかった?」

 

「ん……入学前に、頑張って両方できるようにしておいただけ。トレーナーに福島だと逃げの方がいいって言われたからそっちで走った。対策というわけじゃない」

 

「……あは、ほんとっぽい。やだなぁ、自意識過剰だったかぁ」

 

くすくすと笑って、マッキラは進んでいく。

その背が見えなくなってもなお、サナリモリブデンの腕には寒気が残っていた。

通路の隅。

天井の角。

そして目の届かない背後に。

何かが粘りつきわだかまっているような錯覚を、サナリモリブデンは拭えずにいた。

 

 

 

トゥインクルシリーズ。

ジュニア級、12月。

 

不穏の気配漂う中、朝日杯フューチュリティステークスが来る。

 

 


 

 

『仁川の空は今日も晴れ、ここ数週間の晴天はこの大舞台にも続いてくれました。からりと乾いた空気です。バ場状態は良の発表』

 

『ジュニア級最初のG1にふさわしい素晴らしい天気ですね。12月としては気温も高めでウマ娘たちも走りやすいのではないでしょうか』

 

『それではパドックを見ていきましょう。まずは1番サルサステップ───』

 

1番のウマ娘、鹿毛の少女が歩み出ていく。

その顔は酷く強張っていた。

 

当然だろう。

朝日杯FSはジュニア級最初のG1だ。

つまり、この世代において1番初めに観衆に勝負服を披露する役割を彼女は担っている事になる。

 

似合っていると思って貰えるか。

変な顔はされないか。

サルサステップの胸中には不安が渦巻き、足元も少々おぼつかなくなるほどだ。

 

そんな彼女だが、数度の深呼吸の後に意を決して体を覆っていたマント状のロングケープを脱ぎ捨てる。

下から現れたのは様々な装飾に彩られたカラフルな勝負服で……。

 

「……あ」

 

それを見た途端、観客は大きく歓声を上げた。

 

「サルサちゃーん! 勝負服似合ってるぞー!」

 

「頑張れよー! 今日こそマッキラ捕まえるとこ見せてくれー!」

 

数多の応援に、サルサステップの肩から力が抜ける。

受け入れられた喜びのまま彼女が腕を突き出してポーズを取ってみれば、返答のようにまた声が上がり、お調子者が口笛も吹き返す。

 

『良い仕上がりですね。歩様にも力がありますし、何よりいい笑顔です。今日は好走が期待できるのではないでしょうか』

 

 

 

それを見て、後続のウマ娘たちは幾らか安心して続いていく。

2番、3番、4番。

何もトラブルなく進行し、そうしてサナリモリブデンの出番が来た。

 

歩み出て、今日の自分を見せつける。

恥じるべきところは何もない。

そう言うかのようにサナリモリブデンはまっすぐに観衆を見上げる。

 

『5番、サナリモリブデン。前走きんもくせい特別では大差での衝撃的な圧勝を見せてくれました。本日は3番人気に推されています』

 

『ちょっと落ち着きすぎているようにも見えますが、この子は普段からこういった感じですので問題ないでしょう。むしろトモの様子などを見る限り、仕上がりは抜群に良いように思えます。前走のような走りが出来れば怖いですよ』

 

実況と解説の言葉を聞きながら、サナリモリブデンは手を振って見せた。

応援と激励と、勝負服への称賛が降る。

 

自身が気に入った衣装。

そして郷谷が考え抜いてデザインしてくれた衣装。

それを褒め称えられた事にサナリモリブデンはただでさえ良かった調子がさらに一段引き上げられる。

 

深く息を吸い、吐く。

勝負への高揚に熱く燃える体に冬の冷たい空気が心地よいと、サナリモリブデンはほんの少し破顔した。

 

 

パドックは続く。

サナリモリブデンのさらに後、10番が歩み出た。

 

『10番、ブリーズグライダー。短距離G3を2つ制した重賞ウマ娘です。G1の冠を求めてマイル戦への殴り込み。距離延長の不安もはねのけて2番人気です』

 

『実力はこれまでの戦績で証明されています。普段よりも長い1600メートルでどれだけ走れるか。注目しましょう』

 

ブリーズグライダーは軽く手を上げて観客に向けたパフォーマンスを行っている。

その顔に、サナリモリブデンが地下バ道で見た怒りの気配はない。

本当に消えたのか、それとも上手く隠しているだけなのか。

どちらであるのかまでは分からなかったが。

 

 

そうして。

満を持して主役が現れる。

 

『13番、マッキラ。今年のジュニア級マイルはこの子抜きでは語れません。これまで4戦4勝。圧倒的1番人気です』

 

『4勝の内3つは重賞。その上全レースで最低5バ身差以上をつけての圧勝続き。実力は完全に頭ひとつ抜けています。この子を捕まえられるかどうかが今日のレースの鍵でしょう』

 

マッキラは控え目な笑みと共に両手を上げる。

まるで普通の、そこらを探せばどこにでも居る少女のようだ。

素朴とさえ思える彼女の姿に、観衆はこれまでで最大の声援を送る。

1番人気にふさわしいだけの、埋もれるような声。

 

 


 

 

……その後2人を挟んで、パドックが終わる。

レースの開始までもう間もなくだ。

 

ウォーミングアップの返しウマを行いながら、サナリモリブデンは控室での郷谷の言葉を思い出していた。

 

 


 

 

「阪神レース場1600メートルは外回りのコースを使います。この大きなコーナーをぐるりと回っていくんですね」

 

郷谷の手元のタブレットには阪神レース場の全景が表示されていた。

左右非対称のレース場である。

スタンドから向かって左の1、2コーナーは小さく、向かって右の3、4コーナーは大きく内と外の2種類が併設されている。

三角定規の、長い方の直角三角形のような形だとサナリモリブデンは感じたりもした。

 

朝日杯FSで走るのは、このレース場の向こう正面の直線と、外回りの3、4コーナー、そしてホームストレートだ。

その特徴はといえば。

 

「見ての通りの大きさですね。直線は長く、カーブは大きく広い作りです。向こう正面も長い影響で、序盤は落ち着いた展開が多めですね。そのため、内枠外枠での有利不利はほとんどありません」

 

各所をタッチペンで差しながら郷谷は言う。

阪神レース場、1600メートルのコースはサナリモリブデンがこれまで走ったどのコースよりも余裕のある作りだ。

 

「コーナー以降はその曲がりやすさから速度を乗せやすいコースになっています。緩い下りになっているのも含めて、直線勝負の比重が重くなりがちです」

 

そして最後に、ゴール手前にトンとペンを置く。

 

「後は、最終直線ラスト200メートルから始まる急坂にも気を払いましょう。高低差1.8メートル、勾配1.5%。中々にきつい坂です」

 

 

 

それで郷谷は一旦口を閉じる。

サナリモリブデンは教えられた情報をかみ砕き飲み込もうと努めた。

 

阪神レース場は、直線が長い

位置取り争いは熾烈なものは起きにくいようだ。

カーブは緩く大きく、下り坂の影響もあり速度を乗せやすい

ゴール直前には急坂がある点も忘れてはならない。

 

そして距離は1600メートル、マイル戦だ。

 

 

 

情報を咀嚼し終え、サナリモリブデンはこくりと頷く。

それを見て取った郷谷は、唇を1度ぺろりと舐めて湿らせてから続きを口にした。

 

「コースについては以上ですね。では次に、マッキラさんとブリーズグライダーさんについてです」

 

タブレットの画面が切り替わる。

まず表示されたのはブリーズグライダーだ。

 

彼女の走り方はこれまで先行中心です。前目の好位置につけてレースを運び、隙をついて逃げウマ娘をかわして勝つ。王道ですね。基礎的な能力に隙がなく、真っ向勝負に非常に強いタイプです

 

さらに、とそこに郷谷は付け加える。

 

前に隙が無い場合、強引に隙を作る場面も多くありました。威圧、フェイント。そういった駆け引きの技術までもがジュニア級の域に収まりません

 

なので、ブリーズグライダーの周囲に陣取るのは危険が多い。

郷谷はそう続けたが、しかしとそれに反する事も言う。

 

しかし逆に、これらの技術に自負を持っているように見受けられました。つまり、こちらから仕掛ければ応じる可能性が高いという事です。潰される前に潰し切る、そういった自信があるなら挑む手もありますね

 

 

 

そこで画面が切り替わる。

今度現れたのはマッキラだ。

薄く淡い笑みを浮かべた栗毛の少女が、画面の中からサナリモリブデンを見つめている。

 

彼女はもう、手が付けられないほどの逃げウマ娘です。サナリさんが福島で見せたあのパフォーマンスを常に発揮できていると言えば脅威の度合いも分かりやすいでしょう

 

なるほどとサナリモリブデンは頷く。

前走の圧勝は信じがたいほどの好調と異常な集中力の下で為せたことだ。

彼女自身、あの時の自分と勝負が出来たとしてどうやっても勝てるビジョンが思い浮かばない。

それを常に行えているとなると、確かに手を付けられないとの評価は納得しかなかった。

 

つけ込む隙があるとすれば……そうですね。少なくともメイクデビュー以降、マッキラさんは他のウマ娘に並ばれた事がありません。彼女を捕まえようとしたウマ娘はその全員が、マッキラさんの1バ身以内に入った途端に始まる急加速で引きちぎられてきました

 

言いながら、郷谷は映像を切り替える。

レースの動画だ。

タイトルはデイリー杯ジュニアステークス。

 

先頭を行くのはマッキラ。

その背に、サナリモリブデンも良く知るウマ娘が追いすがる。

特徴的な癖毛のチューターサポートだ。

 

チューターサポートがマッキラを捉えるまであとわずか。

3バ身が2バ身に縮まり、2バ身が1バ身に縮まる。

 

しかし、その瞬間だった。

ぞっとするような、という言葉が恐らく最も適切だろう。

怖気をそそるマッキラの加速が始まった。

 

1バ身は3バ身に。

3バ身は5バ身に。

縮めた勢いに倍する速度でチューターサポートを引きはがし、マッキラは駆けていく。

京都レース場、淀の坂を加速して上り、加速して下る。

そのうえでなお直線でさらに速度を増して引きちぎる。

いっそ破滅的とさえ言っていい、狂気の大逃げだった。

 

スピード、スタミナ、共に異常とも言えるマッキラさんですが……彼女が競り合いにどれほど強いか、これだけは未知数です。並び、競りかける事さえ出来れば、あるいは……といったところでしょうか

 

 

 

郷谷の話はそれで終わりのようだった。

タブレットが閉じられ、トレーナーの瞳がサナリモリブデンを見つめる。

 

決意を確かめるような数秒。

それを置いて、彼女は今回取るべき作戦を言葉にする。

 

 


 

 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:3 差し:2 先行:5 逃げ:4

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/7枠13番:マッキラ(逃げ)

2番人気/6枠10番:ブリーズグライダー(先行)

3番人気/3枠5番:サナリモリブデン

 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:277+55=332

スタ:180+54=234

パワ:254+50=304

根性:201+40=241

賢さ:201+60=261

 

【適性】

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(9/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

 




※作戦:マークについて

他の作戦よりも強く対象に張り付いて走ろうとします。
例として、通常の逃げだとスタートに大きく失敗した場合作戦を変更することがありますが、マークの場合は無理をしてでも食らいつきます。
マーク時の基本的な消耗は他の作戦と変わりなく、脚質適性も適用されます。


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ジュニア級 12月 朝日杯フューチュリティステークス

 

 


 

 

【投票結果】

 

差し

 

 


 

 

「今のサナリさんには、この2人と真っ向から潰しあうだけの力はありません」

 

孤独なゲートの中、サナリモリブデンは郷谷の言葉を思い出す。

ウマ娘にとっての絶対的な味方、トレーナーにより指摘される実力の不足。

しかしその事実に彼女の心が傷を負う事はない。

優しい夢よりも厳しい今を見て走ると決めたサナリモリブデンにとって、郷谷の率直さはただ喜ばしいものだった。

 

「よって、狙うのは漁夫の利、後方待機からの差し切りです。……ブリーズグライダーさんがマッキラさんを潰しにかかって共倒れに終わり、その隙を突いて躍り出る。サナリさんにわずかなりとも勝機があるとすれば、そのケースしかありません」

 

閉じていた目を開く。

わずかなりとも、という言葉は便利だとサナリモリブデンは噛み締めた。

例えそれが0.1%未満だとしても言及できてしまうのだからと。

 

(でも、十分)

 

だが元より無茶は承知の上での挑戦だ。

奇跡の上に奇跡を乗せるような望みの無さであっても、道筋が見えているならば。

 

(やる。走る。……大丈夫)

 

姿勢を落とし、蹄鉄を芝に食い込ませる。

自身に許される最大限の集中をもって、サナリモリブデンは鉄のゲートを睨みつけた。

 

(届かないものに手を伸ばすことには、慣れてる)

 

じりじりと、時が流れる。

そして。

 

『ジュニア級マイル王者の座をかけて、15人のウマ娘が鎬を削ります。阪神レース場メインレース、朝日杯フューチュリティステークス……今───』

 

 


 

 

【スタート判定】

 

難度:170

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/261+52=313

 

結果:285(成功)

 

 


 

 

『───スタートしましたっ!』

 

サナリモリブデンは飛び出した。

出遅れは無し。

G1の大舞台で文句のない出足を決められた事に手応えを覚える。

 

しかし。

 

『13番マッキラ鋭いスタート! 1人ぽんと飛び出していきます。他はほぼ揃ったスタートですが6番エキサイトスタッフがちょっと遅れたか』

 

その好感触を塗り潰す背がそこにある。

栗色の毛をなびかせてただ1人、誰にも並ばずに駆けていく。

 

「……っ」

 

サナリモリブデンの脳裏に蘇るのは、未だ焼き付いて離れないあの6月の光景だ。

遥か遠く、どれほど手を伸ばしても指先さえかけられない絶対的な隔絶の象徴。

幾度となく悪夢として眺め続けた背中である。

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択】

 

抑えて後方につける

 

難度:170

補正:なし

参照:賢さ/261

 

結果:214(成功)

 

 


 

 

追え。

逃がすな。

追いすがれ。

 

そう望む自身の脚を、サナリモリブデンは押しとどめた。

郷谷の言葉を思い返し、何度も繰り返し咀嚼する。

マッキラと潰しあえるだけの力は自分にないと、細胞の一片に至るまで理解を染み込ませる。

 

苦渋と悔しさに満ちたその行為は正しく報われた。

サナリモリブデンは緩やかに集団の形を取ろうとするバ群の中を泳ぎ、中団やや後方の位置にゆるりと収まる。

 

『1番人気マッキラ、当然今日も飛ばしていく。1人旅をさせるものかと続くのは9番シャバランケ、11番ファスターザンレイ、14番グレーシュシュ』

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択/マッキラ】

 

何もかもを置き去りに加速する

 

【難度設定】

 

補正:危険回避/+15%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:マッキラのパワー/330+66=396

 

結果:216

 

≪System≫

ライバルウマ娘の行動に対する抵抗判定は、通常とは異なる難度が適用されます。

この難度はライバルウマ娘の能力値を上限としたランダムな数値が設定されます。

 

【抵抗判定/モブウマ娘】

 

シャバランケ:成功率0%、失敗

ファスターザンレイ:成功率0%、失敗

グレーシュシュ:成功率0%、失敗

 

 


 

 

『しかしハナ争いは起こらない。序盤から後続を引き離してもはや見慣れた大逃げの態勢!』

 

サナリモリブデンが見つめる先で、マッキラはただ1人抜け出していく。

ターフを蹴り加速するその勢いは確かに頭ひとつ抜けていた。

9番、11番、14番。

G1に出走が叶うだけの実力を持つ、世代トップに位置するはずのウマ娘達がなすすべなく引きはがされていく。

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択/ブリーズグライダー】

 

マッキラを追う

 

【難度設定】

 

補正:スプリントギア/+20%

参照:ブリーズグライダーのパワー/350+70=420

 

結果:171

 

【抵抗判定/マッキラ】

 

マッキラ:失敗

 

 


 

 

……否。

そこに1人だけ食らいつく姿がある。

 

『だが逃がさないともう1人飛び出したぞ、10番ブリーズグライダー。スプリンターの加速力! 今日こそはマッキラの背中に鈴がつくか』

 

最序盤から、ブリーズグライダーは作戦を捨てた。

ただの先行策でマッキラは破れない。

そう判断していた彼女は、3人が敗れたと見るや否や即座に飛び出していく。

 

選んだのは真っ向からの潰し合い。

己が自負する技術でもってこの稀代の大逃げウマ娘の心と脚を砕いて捨てると、ブリーズグライダーは決断した。

 

「……ふふ」

 

それを。

マッキラは微かに笑って受け入れる。

 

 


 

 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:4-2=2%

 

結果:234-4=230

 

 


 

 

『バ群が2人に引っ張られていきます向こう正面。先頭はマッキラ、2バ身開いてブリーズグライダー。ぐんぐん速度を増していく。そこからまた2バ身後ろに続くシャバランケ、ファスターザンレイ、グレーシュシュはひと塊。その後ろサルサステップ、外にタイムティッキング、ほとんど差がなくスローモーション、アングーダ。少し外に外れて全体を眺めるようにブルータルラッシュ。今日は逃げを選ばなかったサナリモリブデンはここ、内ナルキッソスとほぼ横並び。少し開いてアウトスタンドギグ。最後尾はホルンリズムとエキサイトスタッフ。これで15人全員です』

 

バ群の中をサナリモリブデンはただ走る。

既に先頭を行くマッキラは視界の中から消え去った。

周囲のウマ娘達に遮られて、その背中すら見つけられない。

 

(でも、わかる事はある)

 

だが情報が全くないわけではない。

それは少し先を走るウマ娘達、先行集団からもたらされていた。

サルサステップ、タイムティッキング、スローモーション、アングーダ。

その誰もが速度を上げつつある。

 

マッキラが逃げ続けているのだろう。

いつものように、どこまでも大きくだ。

そして彼女が力尽きて落ちてくるなどとは、同じ戦法で4戦4勝している事からありえないと断言できる。

 

……勝利を目指すならば、ついていくしかないのだ。

マッキラが作り出す、超高速のレースの中を。

 

 


 

 

【中盤フェイズ行動選択】

 

加速して集団についていく

 

難度:170

補正:なし

参照:パワー/304

 

結果:295(成功)

 

 


 

 

『マッキラのハイペースに引かれるまま、各ウマ娘加速して3コーナーに入っていきます』

 

「はっ、は、っづ」

 

サナリモリブデンは周囲に合わせて加速した。

それだけで苦しいと思えるほどのハイペース。

これまでのレースとはわけが違った。

速度が、加速度が、そして。

 

「……っ、じゃ、まっ!」

 

「そっちが、だっての!」

 

サナリモリブデンと同時に加速したナルキッソスが、前を塞いでいるスローモーションとアングーダの中に割り込もうとする。

威圧、しかる後に接触すれすれの踏み込み。

それは残念ながら叶わず、弾き出されるようにナルキッソスは元の位置に戻ってくる。

スローモーションは安堵の息を吐き、視線を前に戻した。

 

「な、こいつ……っ」

 

そして、自身の失態を知り悪態を噛みしめる。

外の少し後ろを走っていたはずのブルータルラッシュがそこに居たためだ。

スローモーションのほんの少し前、すぐ隣。

最終コーナーで前を行くサルサステップとタイムティッキングがわずかでも膨らめばその隙を突いて前を目指せる絶好の位置だ。

かつ、スローモーションの進出を阻むにも都合が良い。

 

ブルータルラッシュはニヤリと横顔だけで頬を笑みに歪めてみせた。

よそ見をしていたスローモーションをあざ笑うかのように。

 

(この速度の中で───!)

 

一連の動きをただ見ているしかなかったサナリモリブデンは驚愕する。

彼女は見ているしかなかったが故に、見ていたのだ。

 

そもそものナルキッソスの行動はブルータルラッシュにつられての事だ。

この程度の速度では間に合わない、とでも言うかのように、ブルータルラッシュは分かりやすく焦りの表情を浮かべて加速していた。

それを見て、ナルキッソスはならば自分もと前に出たのだ。

結果、スローモーションとアングーダの集中は乱れ、ブルータルラッシュにつけいる隙を与えてしまった。

 

この状況を、ブルータルラッシュは恐らく狙って作ったのだ。

 

(これが、世代のトップ層。これが、G1)

 

レベルが違うとサナリモリブデンは理解した。

勝算はないと断言した郷谷の言葉がようやく、本当の意味で染み入ってくる。

 

 


 

 

【中盤フェイズ行動選択/ブリーズグライダー】

 

マッキラに仕掛ける

 

【難度設定】

 

補正:なし

参照:ブリーズグライダーのパワー/350

 

結果:35

 

【抵抗判定/マッキラ】

 

マッキラ:特大成功

 

 


 

 

一方、前では。

 

『マッキラは捕まらない、今日も捕まらない。世代トップのスプリンターでも無理なのか、今日も悠々1人旅だ!』

 

ブリーズグライダーは信じがたい光景を前に歯を食い縛っていた。

全力で駆けているはずだ。

満身の力を脚に注ぎ、加速しているはずなのだ。

にもかかわらず。

 

(スプリンターの私よりも、速い……!?)

 

距離が開く。

背が遠ざかる。

マッキラはただ1人、何もかもを置き去りに逃げていく。

 

 


 

 

【中盤フェイズ行動選択/マッキラ】

 

どこまでも加速して逃げ続ける

 

【難度設定】

 

補正:脱出術/+30%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:マッキラのパワー/330+115=445

 

結果:207

 

【抵抗判定/ブリーズグライダー】

 

ブリーズグライダー:失敗

 

 


 

 

(そんな、わけが!)

 

気炎を吐くブリーズグライダー。

だが、現実は非情に突き付けられる。

 

『今年のジュニア級マイルではもはや見慣れた光景だ。マッキラが後続をどこまでも突き放していく。2番手ブリーズグライダーまでもう6バ身から7バ身は離れたか』

 

レースは速度を上げ続ける。

破滅を目指すようなペースはただただ、全てのウマ娘に苦境を強いていた。

 

 


 

 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:6-2=4%

 

結果:230-9=221

 

 


 

 

『後続がようやく3コーナーを抜けたところで、マッキラだけがただ1人最終コーナーを曲がっていく。このウマ娘を止められる子はいないのか!?』

 

高速のレース展開に喘ぐ中。

サナリモリブデンは決断を迫られていた。

コーナーであるが故に、見失っていたマッキラの背が今は見えている。

 

郷谷から告げられていた唯一の勝機はどうやら外れた。

ブリーズグライダーはマッキラを潰せず、大逃げを打つ栗毛は悠々と単独行を続けている。

こうなればもう、まともに戦っては目はなかった。

 

故に、選択肢に上るのはまともではない手段だ。

 

限界以上を振り絞って、その背を今追うべきか、否か。

こういう時はどうすると決めていたのだったかと、霞む思考の片隅を探る。

 

今追えばスタミナが尽きる。

末脚に賭けるためのチップが使い果たされる。

最終直線をまともに走ろうというのなら、ギリギリまで温存を選ぶべきだ。

 

では逆に、今追わなければ。

 

(───あぁ)

 

そこまでを思い出して、サナリモリブデンは自身の愚かさに呆れた。

温存という選択だけはありえない。

それは、己の決断を踏みにじる行為だった。

 

(叶わないとは、わかっているけれど)

 

今追わなければ、マッキラの背に手を届かせる手段そのものが消えて失せる。

勝負の前提にさえ上がれない。

つまりその選択は、勝利の放棄も同然だった。

 

(叶わなくていいなんて、思った事はない……!)

 

脚を振るう。

高速域を超えてその先へ。

 

 


 

 

 

【終盤フェイズ行動選択】

 

マッキラを追う

 

難度:170

補正:なし

参照:パワー/304

 

結果:297(成功)

 

 


 

 

「……っ!」

 

無謀な試みそのものだった。

これはもはやただの加速ではない。

3コーナー出口からのスパート。

阪神の直線473メートルと合わせ、800メートル近くを全力で駆け抜けようというのだ。

 

もつわけがない。

スタミナに優れるとは決して言えないサナリモリブデンにとって、これは敗北に突き進むだけの愚行に他ならない。

無様に垂れ落ちバ群に飲まれる未来は、この時点で既に確定したようなものだった。

 

(それでも……諦めることだけは、してやるもんか!)

 

だが。

それでも。

サナリモリブデンは脚を緩めようとはしない。

 

 


 

 

【終盤フェイズ行動選択/マッキラ】

 

どこまでもどこまでも逃げ続ける

 

【難度設定】

 

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:マッキラのスピード/380+19=399

 

結果:244

 

【抵抗判定/ブリーズグライダー】

 

ブリーズグライダー:成功

 

【抵抗判定/サナリモリブデン】

 

補正:なし

参照:スピード/332

 

結果:260(成功)

 

 


 

 

『いやまだだ、最終コーナーで後続が追い上げてくる。ブリーズグライダーがマッキラに差を詰める! さらに後ろからはサナリモリブデンもバ群を割ってやって来た!』

 

サナリモリブデンの全身が軋みを上げる。

限界はとうに超えた。

彼女自身、何故こうも走れているのかが分からない。

 

意地と根性。

言葉にしてしまえば陳腐極まりないそれらが、ただ彼女を突き動かしていた。

 

それをとどめる術を、周囲のウマ娘は持たなかった。

サナリモリブデンから噴き出す戦意に圧され、道が開く。

遠い遠い、遥か先の背中まで。

 

 


 

 

【終盤フェイズ行動選択/ブリーズグライダー】

 

サナリモリブデンの行き脚を止める

 

【難度設定】

 

補正:かく乱/+15%

参照:ブリーズグライダーの賢さ/300+45=345

 

結果:156

 

 


 

 

だが、その前に立ち塞がる者がある。

 

「……行かせない! せめて、この位置だけは……!」

 

ブリーズグライダーの動きが変わる。

マッキラを捉えるための走りから、後方を押しとどめるための走りへ。

 

「……!?」

 

サナリモリブデンが目を見開く。

それは彼女にとって予想の外の出来事だった。

マッキラを仕留めるには後ろに構っている余裕などないはずだと驚きを露わにする。

 

だが現実として立ちはだかる壁がそこにあった。

眼前のブリーズグライダーの体がぶれる。

ごく自然な動作で、内へ外へ、ほんのわずかだけ。

進路の妨害にはならない一歩未満のズレ。

それがサナリモリブデンの進むべき道の選択肢を狭めていく。

 

 


 

 

【抵抗判定/サナリモリブデン】

 

補正:冷静/+20%

参照:賢さ/261+52=313

 

結果:288(成功)

 

 


 

 

何故、などという敵手への疑問を一瞬で棄却する。

出来るか、などという無駄な自問を秒未満で切り捨てる。

 

やれ、と己に命じた時には、既に体は動いた後だった。

 

『サナリモリブデンがブリーズグライダーに並んだ! 2人がマッキラを追っていく! 残り4バ身、3バ身! 今日こそ捕まえられるのか!?』

 

ブリーズグライダーがかく乱のために外にずれた、一歩未満。

その空隙にサナリモリブデンは飛び込んだ。

内ラチギリギリ。

ともすれば柵に激突し惨事を引き起こしかねない無謀。

 

「な、バカげてる……!」

 

(通した……!)

 

それでも、成った。

驚愕、どころか戦慄に顔を歪めるブリーズグライダーに並び、サナリモリブデンは2番手に躍り出る。

 

 


 

 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:超高速(9)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消費:9-2=7%

 

結果:221-15=206

 

 


 

 

「……へぇ」

 

その様を、マッキラは見た。

正確には耳にした。

 

今、彼女の集中は極限の域にある。

それはサナリモリブデンが福島で到達したものと同等。

風の流れ、草の揺れ、それらひとつひとつが把握できるほどの拡大知覚。

これをもってすれば、足音のみで後方を確認するなどたやすい事だった。

 

(あは。こわいなぁ。サナちゃんって、こんなに怖い子だったんだ。……失敗した。揺さぶるならブリーズちゃんじゃなくてサナちゃんだったかぁ)

 

マッキラの肌が粟立つ。

不吉な予感が背筋を這い、敗北を妄想して臓腑が縮み上がる。

 

(あぁ、いやだ。いやだ。いや、いや、いや。負けるのなんていや。惨めなのはいや。私はもう二度と───)

 

そして。

 

(───負け犬なんかに戻らない!)

 

それこそが、マッキラを突き動かす衝動だった。

 

 


 

 

『っ! しかしマッキラ逃げる! また始まった、最終直線での再加速! 脚色が衰える気配は全くない!』

 

白熱する視界を睨みつけて、サナリモリブデンは絶望という物の色と形を理解した。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:170

補正:差しA/+10%

参照:スタミナ/206+20=226

 

結果:202(成功)

 

 


 

 

栗毛のウマ娘は遥か遠い。

 

 


 

 

【スパート判定】

 

【難度設定】

 

補正:逃げのコツ/+5%

補正:領域/Escape like a underdog./+30%

参照:マッキラのスピード/380+133=513

 

結果:455

 

【スパート判定/ブリーズグライダー】

 

ブリーズグライダー:成功率0%、失敗

 

補正:逃げのコツ/+5%

補正:領域/Escape like a underdog./+20%

参照:マッキラのパワー/330+82=412

 

結果:193

 

【スパート判定/ブリーズグライダー】

 

ブリーズグライダー:成功

 

 


 

 

それはまるで6月の焼き直し。

どれだけ振り絞ろうが、後ろ髪を掴む事さえ叶わない。

 

 


 

 

難度:455

補正:差しA/+10%

参照:スピード/332+33=365

 

結果:成功率0%、失敗

 

難度:193

補正:差しA/+10%

参照:パワー/304+30=334

 

結果:245(成功)

 

 


 

 

『ブリーズグライダー追いすがる! サナリモリブデンも落ちない! しかし、しかしマッキラだ! マッキラだ! マッキラがあまりにも強すぎる! 差は少しも縮まらない!』

 

胸が焼けつくようだった。

呼吸すらすでに拷問のような苦痛を伴っている。

脚の感覚はとうに飛んだ。

 

サナリモリブデンは一体自分が何をしているのか半ば判然としていなかった。

今の彼女にわかるのはたったひとつ。

 

(やる)

 

まるでバカの一つ覚えだと、乖離した脳の一部が囁いた。

 

(やるんだ)

 

それに、構わないと本能が答えを返す。

 

(だって)

 

炉心に火が入る。

熱く、赤く、魂を燃料に。

 

(みていてくれるひとに、あきらめなんてみせられない)

 

記憶を刻む。

それがサナリモリブデンの中心だった。

なればこそ彼女は決して緩まない。

人々の記憶の中に残る自分を、いつだって最高の己にするために。

 

灼熱の炉に、鋼は投げ入れられる。

その打ち方は、今目にしたばかりだ。

 

(やろう。わたしも、あのとおいせなかみたいに)

 

鎚のごとく蹄鉄を芝に叩きつけ。

 

鋼が、打ち鳴らされる。

 

 


 

 

【ウマソウル判定】

 

参照:ウマソウル/100

 

成功率100% 判定を省略します

 

 


 

 

【スパート判定】

 

難度:170

補正:領域の萌芽/名称不定/+20%

参照:根性/241+48=289

 

結果:114(失敗)

 

 


 

 

(あぁ……)

 

そうして、サナリモリブデンはそこまでだった。

限界を超え、魂を振り絞り、しかし。

 

(とど、かなかった)

 

 

 

『マッキラだ! やはりマッキラ強かったゴールイン! 2着は3バ身離れてブリーズグライダー、3着サナリモリブデン! ジュニア級マイル王者はやはりこの子でした! マッキラ、堂々の5連勝! この子に勝てるウマ娘は果たして居るのでしょうか!』

 

 

 

ゴール板を駆け抜ける。

それ以上はもうもたない。

少しずつ速度を緩め、やがて足取りさえ覚束なくなる。

 

(……ぁ)

 

そうなればもう立っている事すら難しかった。

カクン、と膝から力が抜ける。

 

地面が硬いところじゃなく、芝で良かった。

サナリモリブデンはバカバカしくもそんな事を考えて───。

 

(……?)

 

「……本当に、わけ、わかんない。何なの、あなた……」

 

本当に倒れ伏す寸前に体を抱きとめられた。

見上げるのもおっくうな体に鞭打って、その誰かを確かめる。

 

「ぶ、りぃ、ず」

 

「はぁ……何も、言わなくて、いいから」

 

息の荒い、三つ編みのウマ娘。

ブリーズグライダーだ。

サナリモリブデンはその名前を呼ぼうとして、荒いどころか絶え絶えの様を見かねて止められる。

 

「肩……貸してあげるから。ゆっくり帰りましょ」

 

「ん……たす、かる」

 

自分よりもほんの少し背の低いブリーズグライダーに体を預け、サナリモリブデンは歩き出す。

脚を地につけてしっかりとだ。

それを見て、心配の目を送っていた観客が安堵の声を上げる。

声はやがて歓声に変わり、敗北しながらも見事な奮闘を見せた2人を称えた。

もちろん、それは勝者への称賛よりも遥かに小さなものではあったが。

 

「…………私、もうあなたたちと走るのはゴメンだわ」

 

「ん……」

 

「レース前にマッキラが言ってた事聞いてたでしょ。マイルに逃げてきたって話」

 

地下バ道での話だろう。

サナリモリブデンは当然覚えていた。

その詳細までは疲れ切った頭では思い出せなかったが、そのような事を話していたような記憶はある。

 

「あれ、図星だったんだけど……やめる。あなた見てたら諦めるのが癪に思えてきたし、それに……」

 

そこでブリーズグライダーは、心底うんざりした顔でサナリモリブデンを見た。

そして、苦々しい声色で言う。

 

「あなた、こわすぎ。もう二度とやりたくない」

 

「……とても、心外」

 

「正当な評価よ。あなたとやるくらいならソーラーレイと真っ向勝負の方がなんぼかマシだわ……」

 

なら仕方ないとサナリモリブデンは苦笑した。

本人としては本当に心外ではあったが、ライバルは多い方がソーラーレイは喜ぶだろう。

そのためなら怖いなどという評価を甘んじて受けても良いと納得する。

 

「…………ところで、私は短距離もやれる」

 

「絶対来ないで。それこそどんな事してでも逃げるからね」

 

ほんの少しばかりの仕返しを最後に投げかけはしたが。

 

 

 

 

 

そうして最後。

ターフを去る一瞬前に、サナリモリブデンは振り返った。

 

レース場を埋め尽くさんばかりの祝福の中に、栗毛のウマ娘が1人立つ。

つい先ほどまでは恐ろしい絶対強者だった彼女は、今はただの素朴な少女のようにはにかんでいた。

 

(次は)

 

サナリモリブデンはそれを目に焼き付けて視線を戻す。

 

(私が勝つ)

 

その瞳から、戦意の炎が消えることはなかった。

 

 


 

 

【レースリザルト】

 

着順:3着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+4

経験:芝経験+4/マイル経験+4/差し経験+4

獲得:スキルPt+40

 

経験:芝経験&マイル経験&差し経験+2(G1ボーナス)

獲得:スキルPt+20(G1ボーナス)

 

獲得:スキル/領域の萌芽

 

スピ:277 → 287

スタ:180 → 190

パワ:254 → 264

根性:201 → 211

賢さ:201 → 211

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:C(17/20)

マ:B(20/30)

差:A(15/50)

 

スキルPt:90 → 150

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:287

スタ:190

パワ:264

根性:211

賢さ:211

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:C(17/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(20/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い  (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

スキルPt:150

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆30

ソーラーレイ    絆25

チューターサポート 絆10

チームウェズン   絆25

 

 

【戦績】

 

通算成績:4戦2勝 [2-1-1-0]

ファン数:1831 → 3631人

評価点数:900(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:きんもくせい特別

 

 




※ 誓って言いますが全て不正なくダイス振ってます

※ 今回の描写カロリーは特に多かったので明日19日の更新も1回です


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【朝日杯FS関連スレ群】

 

 

【朝日杯FS】マッキラ強すぎわろた【化け物】

 

1:ウマ推せば名無し

はい

 

3:ウマ推せば名無し

はいじゃないが

 

4:ウマ推せば名無し

もう手つけらんねーなコイツ

 

6:ウマ推せば名無し

強すぎてスタート成功した瞬間1位が確定するレベル

 

7:ウマ推せば名無し

もう最初から掲示板に番号出しとけ

 

9:ウマ推せば名無し

正直格が違いすぎてな

他の娘と勝負になってない

 

10:ウマ推せば名無し

クラシックマイルも総ナメだろうなこりゃ

 

11:ウマ推せば名無し

>>9

ゆーて今回大分追い詰められたが?

 

12:ウマ推せば名無し

追い詰められた(3バ身)

 

15:ウマ推せば名無し

>>12

順調に脳みそが焼きついてますねこれは……

 

17:ウマ推せば名無し

3バ身は普通に圧勝なのよな

 

18:ウマ推せば名無し

7バ身だの8バ身だの連発するマッさんに原因があるから……

 

21:ウマ推せば名無し

その3バ身かてゴール後に平然とスタンドに手振れるマッさんvsヘロヘロで支え合う2、3着vs歯牙にもかけられなかったその他よ

能力の融絶具合がガチ

 

24:ウマ推せば名無し

>>21

ダークライがいない

やり直し

 

27:ウマ推せば名無し

>>21

ゆ、隔絶……

 

28:ウマ推せば名無し

>>21

ゆゆゆゆうぜつwww

 

30:ウマ推せば名無し

>>21

申し訳ないがあからさまな絶許狙いはNG

……え、マジ?

またまたwww

 

33:ウマ推せば名無し

唯 一 無 二 史 上 最 強 超 絶 究 極 絶 対 マ ッ キ ラ 神

 

34:ウマ推せば名無し

実際マキマキ倒せるウマ娘とかおるんかね

 

36:ウマ推せば名無し

>>34

今のとこ一番近いのはブリグラ

まぁ次走また短距離に戻るみたいだからやる機会あるかわからんが

 

39:ウマ推せば名無し

>>34

サナリモリブデンもいるぞ

前回5バ身から今回3バ身に縮めてるし後2回やれば勝てる

 

41:ウマ推せば名無し

>>39

さんすうとくいなんだね

えらいぞ

 

42:ウマ推せば名無し

>>34

どうして倒す必要ですか?

 

45:ウマ推せば名無し

俺マイルはもうマッキラの圧勝見るだけでいいわ

勝ち方豪快すぎてすげー楽しい

 

47:ウマ推せば名無し

マッキラはなんかもうゲラゲラ笑えてくるんだよな

夜勤明けの週末にスーッと効くんだ……

 

50:ウマ推せば名無し

あんな走れたら楽しいだろうなぁ

 

51:ウマ推せば名無し

>>51

わかる

俺もマッキラほどでなくていいからウマ娘みたいに走ってみたい

 

52:ウマ推せば名無し

>>45

ウマ娘はライバルが居てこそやろ

圧勝圧勝はい圧勝で何がおもろいねんアホが

昨日レース見始めたド素人か?

 

55:ウマ推せば名無し

>>52

お! 併せ脳ゥー!

 

58:ウマ推せば名無し

>>52

スマン! ここマッキラスレなんだわ!

ライバル厨のゴミカス煽りハゲは短距離スレかダートスレにでも引きこもっててくれるか?

 

 

 


 

 

【朝日杯FS反省会スレ】

 

449:名無しのレースファン

やっぱ戦犯サナリモリブデンだと思う

マッキラのハナ抑えて潰すしか道なかったろ

やれるのは同じ大逃げウマ娘だけだ

 

453:名無しのレースファン

>>449

いい加減しつこいわ

 

455:名無しのレースファン

>>449

それもう前スレで答え出てるから

 

626:名無しのレースファン

>>619

じゃあ逆に聞くけどお前がトレーナーだったとして

「ほぼ100%ブリーズグライダーに漁夫られて無駄に終わるけど序盤から脚ぶっ壊れるレベルの加速してハナ取った上で世代ぶっちぎりトップのスピードとスタミナ持ってる化け物と地獄のすり潰し合いしろ」

って担当に言えるか?

 

458:名無しのレースファン

>>455

マジでこれが全て

言った瞬間担当ウマ娘の信頼ドブだろ

よほどマッキラ個人に私怨が無いとやれん

親が殺されたレベルでようやくギリ

 

461:名無しのレースファン

まず実行自体無理ゲーだし実行できてもあの化け物に通じるかって話だし通じたところで自分だけ生き残れるとは思えんから普通に負けるだろっていう

 

463:名無しのレースファン

唯 一 無 二 史 上 最 強 超 絶 究 極 絶 対 マ ッ キ ラ 神

 

465:名無しのレースファン

そもそもサナ森が大逃げウマ娘ってとこも正直怪しい

届かなかったとはいえあんな綺麗な差しキメれる逃げウマ娘とかおるか?

 

467:名無しのレースファン

>>465

金木犀の動画ご覧になってない???

 

470:名無しのレースファン

>>467

見た上で金木犀はフロックか何か説を推してる

 

471:名無しのレースファン

フロックで大差はつかんのよ……

 

472:名無しのレースファン

今回の朝日杯は全員逃げみたいなペースだったから差しに見えただけでアレでも逃げてた説は?

 

475:名無しのレースファン

>>472

ねーよ

脚質って速度だけの話じゃねーから

 

478:名無しのレースファン

バ群の中泳げるかどうかとかな

 

480:名無しのレースファン

単に両方できるだけでは?

 

483:名無しのレースファン

>>480

そういう器用なタイプに見えるか?

俺は見えん

 

485:名無しのレースファン

>>483

漫画とかで例えると磨き抜いた一つの技だけで万能系主人公に食らいついてくタイプだよなあのど根性感は

 

487:名無しのレースファン

>>485

わかる

地味なんだけどめちゃくちゃ粘り強い地属性専門魔法使いなイメージ

 

488:名無しのレースファン

>>485

わかる

周りが魔法とか超能力とかでやり合ってる中に平然と割り入ってくる物理しか使えないサムライガールなんだよな

 

493:名無しのレースファン

>>488

は?

 

494:名無しのレースファン

>>487

あ?

 

496:名無しのレースファン

解釈バトルはそういうスレでやろうな

っ【現役ウマ娘がRPGに出たらどんな能力か妄想スレpart27】

 

499:名無しのレースファン

話戻すけどマッキラ捕まえるには結局どうすればよかったんだ?

 

502:名無しのレースファン

>>499

不可能って結論でいいだろもう

 

505:名無しのレースファン

>>499

放置したら無限加速だし迫ったら超加速

そして一人だけスタミナ青天井

どう勝てと?

 

506:名無しのレースファン

>>499

絶対無理

世代トップのスプリンターが無理だった時点で後方から捉えるのは無理

つまりスタートで勝つしかないけどマッキラはゲートめちゃくちゃ得意だから無理

結論、無理

 

507:名無しのレースファン

なんやこれクソゲーか?

 

508:名無しのレースファン

そうだよ(断言)

 

511:名無しのレースファン

ブリグラとサナ森はむしろ良くやったよ

マッキラ相手に3バ身は普通に快挙

 

512:名無しのレースファン

>>511

それ

俺マジでマッキラ負けるかと思って怖かったもん

テレビ前でやめろー逃げろーってめっちゃ叫んでもうた

 

514:名無しのレースファン

倒したいだけで負けてほしくはないんだ

 

515:名無しのレースファン

マッキラは完全無敵の絶対強者でいて欲しい

 

518:名無しのレースファン

マ王の王朝をずっと眺めていたい……

 

 

 


 

 

【もうずっと】朝日杯FSウイニングライブ後夜祭【人大杉】

 

801:歌って踊れる名無しさん

何がSS席じゃボケェ……

 

802:歌って踊れる名無しさん

3連単アホほど当たったからね

仕方ないね

 

803:歌って踊れる名無しさん

SS客がS席どころかA席まで溢れたのなんて何年ぶりだ

前回も参加してギャーギャー騒いだ記憶あるわ

懐かしい

 

805:歌って踊れる名無しさん

>>803

前回は9年前だってよ

スタッフやってるうちの兄貴が言ってた

 

807:歌って踊れる名無しさん

>>805

9……年……?

 

808:歌って踊れる名無しさん

>>805

またまたご冗談を(震え声)

 

810:歌って踊れる名無しさん

この話はやめよう

ハイ! やめやめ

 

811:歌って踊れる名無しさん

ファンサガチ神だったよね今回

 

813:歌って踊れる名無しさん

>>811

それ

それの一言

 

814:歌って踊れる名無しさん

>>811

マッキラちゃんがガチなのは有名だったけどサナリンもそっち側なのは驚いたわ

表情薄いし落ち着いてるからサラッと終わるタイプかと思ってた

 

815:歌って踊れる名無しさん

>>814

無表情系クールっ娘だと油断してるところに両手でギュッと包み込んでくれる握手……

驚いたところにお出しされるふんわり微笑みフェイス……

 

816:歌って踊れる名無しさん

>>815

ゔっ

 

818:歌って踊れる名無しさん

>>815

ア°

 

819:歌って踊れる名無しさん

破壊力が高すぎる

殺す気か

殺して!

 

820:歌って踊れる名無しさん

マッキラちゃんの素朴感とサナリンの魔性感

これどっちか選ばせるのなんかの刑法に抵触するでしょ

 

821:歌って踊れる名無しさん

>>820

誰か忘れてませんかねぇ

 

822:歌って踊れる名無しさん

>>821

いや正直ブリーズグライダーは淡白すぎて……

あれが逆にイイって派閥はいるらしいけどそっち派じゃないんだ

 

824:歌って踊れる名無しさん

もったいないことしたねぇ

今回のグラ様はファンサ神2人に挟まれてサービス良くなってたのにねぇ

【慣れない感満載の微笑みを浮かべながらぎこちなくチェキに応じるブリーズグライダー.jpg】

 

826:歌って踊れる名無しさん

>>824

!?!!!??!???!?

 

827:歌って踊れる名無しさん

>>824

解釈違いです!

グラ様はクールで素っ気なくてファンサ<<<レースなストイックさが最高なんでしょうが!

それはそれとして妬ましい!

 

828:歌って踊れる名無しさん

今回のグラ様ヤバいくらい可愛かった

マッキラとサナリンの方チラチラ見ながら「え?私もそこまでやった方がいいの?」って顔してたの刺さりまくり

 

829:歌って踊れる名無しさん

なにそれ見たかった……

見たかった!!!!!(血涙)

 

831:歌って踊れる名無しさん

……もっかいライブと握手会やろ?

 

833:歌って踊れる名無しさん

ダメです

 

835:歌って踊れる名無しさん

ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!!!!

 

837:歌って踊れる名無しさん

壊れちゃった……

 

839:歌って踊れる名無しさん

あらゆる推しは一期一会

一方に気を取られて一方を見落とすなぞ推道不覚悟よ

 

840:歌って踊れる名無しさん

>>839

何者だよ

 

842:勝負服ぺろぺろりん◆X7wGB6CnPp

お待たせ

いつもの上がったよ

【勝負服図面x15.zip】

 

843:歌って踊れる名無しさん

!!!!!

ペロネキきたぁ!

仕事早すぎない!?

 

844:歌って踊れる名無しさん

>>842

うおおおおお!!

ありがとうございます!

ありがとうございます!

 

845:歌って踊れる名無しさん

>>842

相変わらずのクオリティ

流石本職ですわ!

 

846:歌って踊れる名無しさん

>>842

あぁ^〜コスが捗るぅ^〜

 

847:歌って踊れる名無しさん

待って

待って

サナリンの勝負服これマジ

インナーノースリーブなの?

 

848:勝負服ぺろぺろりん◆X7wGB6CnPp

>>847

マジよ

握手会で本人に確認したから確実

トレーナーのデザインらしいけどセンスいいよね

 

849:歌って踊れる名無しさん

>>847

気付かなかったの?

最前列だとケープからチラチラ脇覗いてたけど……あっ

 

850:歌って踊れる名無しさん

可哀想にねぇ

 

852:歌って踊れる名無しさん

ドンマイ!!!(クソデカスマイル)

 

853:歌って踊れる名無しさん

今回立ち見の方が快適とかいう逆転状態だったもんな

仕方ないよ

 

854:歌って踊れる名無しさん

……何がSS席じゃボケェ!

 

 



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ジュニア級 12月 次走選択

 

 


 

 

タブレットから楽曲が流れる。

曲名は「ENDLESS DREAM!!」

ジュニア級G1のウイニングライブで使用される、夢を歌う一曲だ。

 

それは朝日杯フューチュリティステークスの記録映像だった。

画面の中ではセンターであるマッキラが軽やかに歌い踊り、ぎこちないブリーズグライダーと……。

 

「サナリさん、キレッキレですねぇ……」

 

「うん。ライブ練習頑張ったから」

 

そして、郷谷の言う通りキレキレのサナリモリブデンが脇を固めている。

サナリモリブデンというウマ娘はこういう部分にも手を抜かない性質だった。

 

当然の事ではある。

彼女が走る理由は生きた証を残すため。

言い換えれば記録、そして人々の記憶に自分を刻み込むという事だ。

ならば多くの人々の目に触れるライブに中途半端なパフォーマンスで臨むなど考えられない。

 

とはいえ。

 

(毎度の事とはいえ、印象と違いすぎて混乱するんですよね……)

 

郷谷がそう感じてしまうのもまた無理はないだろう。

サナリモリブデンといえば、物静かで落ち着いたイメージだ。

少々とぼけた部分もあるがクールと言っても良い。

そんな彼女がほぼ完璧かつノリノリなダンスと明らかに熱のこもった歌唱を披露し、様々なファンサービスを嬉々として行っている光景はとてつもないギャップがあるのだ。

 

特に、と郷谷は回想する。

 

(特に握手会ですねぇ。あの慈愛スマイルで不意打ちされた上に至近距離からのウィスパーボイス……純粋に破壊力です)

 

サナリモリブデンの握手会はすごい。

ファンの間ではそう広まりつつある。

 

ウマ娘は大体顔が良いがサナリモリブデンも例に漏れない。

そんな美少女が繰り出す、何もかもを許して包み込んでくれるような優しい微笑み。

そして、耳にじわりと染み入って背筋を震わせるような妙な魅力のある囁き声。

しかもファンサービスに熱心なサナリモリブデンであるから、1人あたりの時間もほんの少しだが長めに取りがちなのだ。

 

満足感がガチ。

一度体験したら忘れられない。

サナリンのファンサが神すぎてつらい。

などなど、ウマ娘オタクはネットの所々でのたまっている。

 

(魔性、とかも言われているみたいですが。本人はただ応援が嬉しくてやっているだけなんですがね)

 

サナリモリブデン本人としてはただただ真面目にファンを喜ばせようとしているだけ。

応援に対し、感謝と喜びをそのまま投げ返しているだけだ。

それを魔性呼ばわりとは何かと郷谷は小さく憤慨するが、気持ちも分からなくはないので何も言わずにとどめている。

 

サナリモリブデンもそのファンも、双方が楽しんでいるならそれで良いだろう。

その辺りが郷谷の最終的な意見であった。

 

 

 

などと郷谷が考えていた間に動画は終わった。

音楽と映像が止まり、サナリモリブデンが顔を上げる。

 

「ん、終わった。ありがとうトレーナー」

 

「いえいえ、このくらいならいつでもどうぞ。それにしても、見返したいくらい楽しかったんですか?」

 

「うん。沢山の人に見てもらえたから。とても嬉しかった」

 

「ふふ、それは何よりです」

 

満足げなサナリモリブデンがタブレットを返却する。

それを受け取りながら、郷谷は微笑んだ。

普段よりもふわふわとしたサナリモリブデンの声色がなんとも微笑ましかったためである

 

「さて、それではそろそろお話に入りましょうか」

 

「うん」

 

そこまでで一区切り。

郷谷が真面目な話を始める様子を見せると、サナリモリブデンは背筋を伸ばして椅子に座り直した。

緩んでいた表情も引き締められ、真剣な眼差しが郷谷に注がれる。

 

「昨日相談していただいた内容をもう一度確認しますね。劇的な精神の昂ぶり、身体能力の一時的向上。これがレース中に突然生じた、と」

 

教え子の様子に郷谷もまた真摯に応える。

話の内容は朝日杯FSのレース中にサナリモリブデンが至った未知の領域についてだ。

 

「うん。全能感、みたいなものがあった。と、思う。上手く言えないけど」

 

「頭でそう感じたというだけではないんですね?」

 

「ん、実際に脚が軽くなった。力がすごく簡単に通るようになったし、錯覚や勘違いじゃない」

 

その主張に対し、郷谷はタブレットを再度操作した。

また一つの動画が再生される。

今度流れたのはレース終盤、最終直線でマッキラに食い下がるサナリモリブデンの姿だ。

 

「映像でも確認できますし、間違いないでしょうね。届きこそしませんでしたが、この局面でサナリさんはさらに加速しています。……本当に、これはありえない事ですよ。超高速のレース展開に加えて、3コーナーからのロングスパート。ここまででも不可能事ですが、この最後の加速は特に輪をかけて今のサナリさんに出来て良い事ではありません」

 

郷谷の声が一瞬だけ震える。

率直に、当時の郷谷は恐ろしいとさえ感じたのだ。

明らかに限界を飛び越えて走るサナリモリブデンが本当に自分の元へ帰ってこれるのかと。

 

その後、満身創痍ながらもケロッとした顔で戻ってきたためにただの杞憂ではあったのだが。

それでも心臓の中の血液が丸ごと氷に変わったかのような感覚は今も郷谷の記憶から消えてはいない。

 

だがそれを表に出してサナリモリブデンを心配させる事も望みではない。

郷谷はすぐに取り繕い、動揺を覆い隠した。

 

「……ただし、これを可能にするものがひとつだけあります。領域と呼ばれる技術……? いえ、技術なんでしょうかね。うーん……」

 

「? ハッキリしていないもの?」

 

「そうなんですよねぇ。すみません、私もウェズンのチーフトレーナーに聞いただけですし、チーフにしても噂を耳にしたというぐらいらしいもので」

 

ただ、その先に続いた言葉は締まらなかった。

聞きかじりでしかないために曖昧でふわふわとしている。

 

ゾーン、フロー、ピークエクスペリエンス……そう呼ばれる超集中状態で発揮される、限界を遥かに超えた走り。時代を作るウマ娘だけが踏み入る事のできる悟りのような境地。と、言われているみたいです」

 

らしい、ようだ、みたい。

そのような事しか言えない自分を恥じ、郷谷はウルフカットの毛先を指先でいじる。

視線も若干泳ぎ気味だ。

 

「残念ながら前例が殆ど無いようでして……。いえ、あるのかも知れませんが秘匿されたというのが正しいのでしょうか。自分の担当だけが使える技術をわざわざよそに教えたいトレーナーもそう居ないでしょうし」

 

「じゃあ、よくわからない?」

 

「そういう事になります。すみません。情報はこれからも探してみますが、当面はサナリさんの感覚頼りという事になります」

 

結局、そういうところに行き着く。

情報が無い以上手探りでやるしかないのだ。

郷谷はサナリモリブデンに向き直り、問う。

 

「確認しますが、その領域に危険な感触はありましたか? 開いてはいけない扉を開くといいますか、何かを代償にしている感覚のようなものは」

 

「なかった」

 

それにサナリモリブデンは即答した。

声色はいつも通りのまっすぐなもので、そこに嘘はないと郷谷も理解できる。

 

「……むしろ、心地よかったと思う。私はこうあるべきだっていうのが、あの時は分かってた。今は頭で、言葉でそう覚えてるだけだけど」

 

「ふむん……。でしたら今のところ使って問題はないと思って良いんでしょうかね。脚の方もあれだけの事をした割に随分状態が良かったですし」

 

「うん。領域に害はない

 

「断言しますねぇ」

 

「ん……なんとなくわかる。なんとなくだけど」

 

郷谷はなんとも言えない。

自身が体感したわけでもなく、裏付ける情報もない。

サナリモリブデンの証言のみで考えて良いものかとも思いはするが、上手く使えば強力な武器になる事は確かだ。

 

「……わかりました、信じましょう。ですが未知の技術である事は忘れないで下さいね。使用はくれぐれも慎重に。そして使った際は必ず教えて下さい。念入りに検査しますので」

 

「ん、了解」

 

話はそこでまた一区切りを迎えた。

確定した情報が何もない以上、現状ではそれ以上の結論は出せない。

様子見というのが妥当なところだった。

 

領域に関しては今すぐにどうこうなる事ではない

しばらくは普段通りにトレーニングとレースに集中しようと、2人は相談を終わらせた。

 

 


 

 

さて、となれば次は予定の構築である。

郷谷はタブレットをサナリモリブデンの前に提示した。

表示されているのはレースの開催日程である。

 

 


 

 

【クラシック級 1月】

 

クロッカスステークス  冬/東京/芝/1400m(短距離)/左

ジュニアカップ     冬/中山/芝/1600m(マイル)/右外

若駒ステークス     冬/京都/芝/2000m(中距離)/右内

 

シンザン記念(G3)   冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外/チューターサポート

京成杯(G3)      冬/中山/芝/2000m(中距離)/右内

 

 

【クラシック級 2月】

 

マーガレットステークス 冬/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

すみれステークス    冬/阪神/芝/2200m(中距離)/右内

 

きさらぎ賞(G3)    冬/京都/芝/1800m(マイル)/右外

共同通信杯(G3)    冬/東京/芝/1800m(マイル)/左/マッキラ

 

 

【クラシック級 3月】

 

若葉ステークス     春/阪神/芝/2000m(中距離)/右内

 

ファルコンS(G3)    春/中京/芝/1400m(短距離)/左

スプリングS(G2)    春/中山/芝/1800m(マイル)/右内/マッキラ

毎日杯(G3)      春/阪神/芝/1800m(マイル)/右外

弥生賞(G2)      春/中山/芝/2000m(中距離)/右内/ペンギンアルバム

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:287

スタ:190

パワ:264

根性:211

賢さ:211

 

馬魂:100(MAX)

 

【適性】

 

芝:C(17/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(20/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 



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ジュニア級 12月次走選択結果~1月固定イベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

きさらぎ賞(G3) 冬/京都/芝/1800m(マイル)/右外

 

 


 

 

サナリモリブデンが選んだのは、きさらぎ賞だった。

2月の京都で行われる重賞、G3である。

 

「なるほど。勝利を目指しうる初めての重賞としては無難なところでしょう。挑戦にはなりますが勝ち負けにはなるかと思います」

 

その希望を容れた郷谷はうむと頷いた。

彼女の言の通り、今のサナリモリブデンにとって手の届く範囲と言えるだろう。

もちろん重賞である以上難しい戦いではあるだろうが、朝日杯FSのような絶望的状況とは程遠い。

やりようによっては勝利も可能なはずだと郷谷は言った。

 

「では登録しておきます。出走までにトレーニングはしっかり積みましょう。1月は少し厳しくいきますよ」

 

「うん、望むところ」

 

顔を見合わせた2人はニッと笑った。

 

年の暮れ、芦毛のウマ娘サナリモリブデンと、新人トレーナー郷谷静流。

2人の最初の1年はこうして終わろうとしていた。

 

 


 

 

【固定イベント/新年のご挨拶】

 

 


 

 

そして、あっという間に明けた。

 

「あけましておめでとうございます、サナリさん」

 

「ん、あけましておめでとう、トレーナー」

 

ときは1月1日、元旦。

ところはとある街のとあるアパートの一室、その玄関先。

サナリモリブデンの実家であり、訪ねてきたのは郷谷だ。

新年のご挨拶である。

 

「すみませんねぇ、ご家族で水入らずのところに」

 

「トレーナーなら大丈夫。それに仕方ない。お母さん、こういう時しか家に居ないし」

 

新年早々の訪問となったのはそういう理由だった。

サナリモリブデンが苦笑し、玄関ドアを大きく開いてどうぞと迎え入れる。

どうもと応じて、郷谷は部屋の中に入った。

 

玄関先から既によく整理された家であることがわかる。

余計な物は置かれておらず、靴は最小限できっちり並べられており、下駄箱の上の置物はしっかりと今年の干支だ。

入れ替えるのが面倒だからと十二支全てをまとめて並べている自分の実家とは大違いだと、郷谷は心中で感心した。

 

「あぁ、いらしたんですね」

 

と、そこへ声がかかる。

玄関から居間に続く廊下の先から1人の女性が歩み出てきていた。

サナリモリブデンと同じ、殆ど白に近い芦毛のロングヘア。

ピンと立ったウマ耳に、ゆるりと揺れる尻尾。

サナリモリブデンの母親だった。

 

「はい、新年早々お邪魔して申し訳ありません。サナリモリブデンさんのトレーナーを務めさせて頂いております、郷谷静流と申します」

 

「いえそんな、こちらこそ1年もずっと時間を取れずにすみませんでした」

 

彼女と郷谷は互いに頭を下げ合い、それから顔を見合わせる。

そっくりだなぁ、というのが郷谷の正直な感想だった。

顔の作りはもちろん、表情の薄さや目の開き方に立ち姿、そして纏っている静かな雰囲気がほとんど全くサナリモリブデンと同じだ。

サナリモリブデンが年を取ったならこうなるのだろうという想像をそのまま出力すれば彼女になるなと、郷谷はやや緊張しつつも考えた。

 

「初めまして。この子の母、サナリクロムです。娘をいつもありがとうございます」

 

サナリクロムはふわりと笑う。

その柔らかな笑みもまた、サナリモリブデンと同一のものだった。

 

 


 

 

「まさかうちの子が中央で走って、その上G1に出るだなんて思いもしませんでした」

 

家の中、居間に上げられた郷谷はサナリクロムと向かい合って座っていた。

サナリ家は床に座るタイプの家庭であるらしく、床にはカーペットが敷かれている。

その真ん中にはこたつが置いてあり、サナリモリブデンも加えた3人でぬくぬくとしながらの3者面談である。

 

「ん、トレーナーが連れて行ってくれた」

 

「いえいえ、サナリさんの頑張りあっての事です。あぁいえ、サナリモリブデンさんの」

 

「そちらが呼び慣れているのでしたら、サナリと呼んであげて下さい。私は昔からクロムの方で呼ばれていますから、呼び分けはそれで」

 

もちろんミカンも常備されている。

大きな木の器に山盛り積まれたそれを定期的にサナリモリブデンが持っていき、皮を剥いてモリモリ食べている。

普段それほど食の太くない彼女だが、今日はどうやら違うらしい。

 

「トレーナーも食べたい?」

 

「いえ、大丈夫ですよ。美味しそうに食べるなぁと思っただけですので」

 

そして、なんだか少し子供っぽかった。

クールな印象が薄い、むしろ少々愛らしさを感じる動作でミカンが1房差し出される。

郷谷としては意外な一面を目にして見ていただけだったため、特に要求する事もなく差し戻した。

 

「サナリ。お客さんの前なんだからほどほどにしなさいね。……ん、なんでしたっけ。あぁ、そうそう、うちの子に走る才能があったなんて本当に驚いたという話です。私はもう全然でしたので」

 

「おや、クロムさんもレースを?」

 

「えぇ、地方で200戦ほど」

 

「それはまた走りましたねぇ……」

 

「ちなみに私の母はサナリタングステンというのですが、そちらは250戦ほど」

 

「なるほど鋼の一族なので?」

 

「そして私と母の勝利数は合わせて2つです」

 

ぶい、と顔の横で指を2本立てるサナリクロム。

人差し指と中指を、くっつけたり離したり。

 

「出稼ぎで離れていた1年で並ばれるとは思いませんでした」

 

「ははぁ、それはなんとも……」

 

「なので電撃復帰でもして3勝目を狙って、親世代の威厳を取り戻す計画を先月から練り始めたんですよ」

 

「初対面で言う事ではないですが、クロムさんさては結構おかしな人ですね?」

 

「とても心外です」

 

拗ねたように言うサナリクロム。

だがその口元は楽しそうに綻んでいた。

彼女なりの冗談なのだろうと郷谷は一緒になって笑う。

なお、部屋の片隅にある本棚に並んでいた「30代からでも遅くないトレーニング入門」という書籍とその仲間たちは見なかった事にしたようだ。

冗談に見せかけた本気だった場合の対処までは流石に郷谷も考えたくなかったためである。

 

 

 

「そういうわけですから、郷谷さんには感謝しているんですよ。まさか私が、我が子のレースをテレビで見て応援できる日が来るなんて思いもしていませんでした」

 

話を戻して、サナリクロムは続けた。

途中、ちらりと隣室に目を向けて。

 

「この子の父親も、きっと同じ気持ちだと思います」

 

郷谷はその視線の先を追う。

そちらには扉が一枚。

先に何があるかは直接は見えないが、話の流れがわからない郷谷でもなかった。

 

「……あぁ、いえ」

 

それに対して郷谷が何かを言う前に、サナリクロムがまた冗談めかして言う。

 

「あの人も郷谷さんと同じトレーナーでしたから、自分が育てたかったと騒いでいるかも知れませんね」

 

「ふふ、残念ですがここにおられても譲っては差し上げられませんねぇ。サナリさんは私の大切な愛バですので」

 

「…………ん」

 

「あら、照れてるのサナリ?」

 

「お母さん、うるさい」

 

「今日のサナリさんはなんだかいつもより可愛いですねぇ」

 

「トレーナーも」

 

その冗談に郷谷もありがたく乗り、重くなりかけた空気はさらりと流れる。

一緒になってサナリモリブデンをからかって可愛がり、大人組2人が笑い合う。

味方の居ない子供はじっとりとした目になって、恥ずかしさを隠すようにミカンを丸ごと頬張るのだった。

 

 


 

 

それから。

少々の雑談を経た後、サナリモリブデンと郷谷は家を出た。

初詣である。

サナリモリブデンが毎年参拝しているという神社がご近所にあるらしく、そちらに向かっている。

 

「それにしてもお昼まで用意して頂けるなんて、なんだか悪いですねぇ」

 

「お店、どこも開いてないから。トレーナーにお正月からコンビニで済まされたら、そっちの方が悪い。うちの都合でこんな時期に来てもらったのに」

 

その移動中、話題に上がるのは初詣から帰った後に待っている食事の事だ。

昨年末ギリギリに帰省したサナリ親子が共に作ったおせちに、今まさにサナリクロムが煮込んでいるだろう雑煮。

これが郷谷にも振舞われる事になっている。

始めは遠慮しようとしていた郷谷だったが、静かながらも熱烈に勧める2人に、これは食べた方が喜んでもらえるなと判断した次第だ。

 

「お母さんのお雑煮はとても美味しい。楽しみにしてて」

 

特にサナリモリブデンの方はわかりやすい。

今にも鼻歌が漏れてもおかしくないほど。

 

「サナリさんは、お母さん大好きなんですね」

 

「ん」

 

その微笑ましさに郷谷が呟くと、サナリモリブデンはすぐさま頷いた。

口の端が少しだけ持ち上がり、いかにも嬉しそうな気配を漏らす。

 

「うん。好きだし、感謝してる。とても」

 

 

 

そうして、2人は神社に辿り着いた。

 

ごく小さな神社である。

奥の本殿は「本殿」と呼んでしまうと大袈裟に聞こえてしまうほどで、賽銭箱が置かれている拝殿も相応の大きさだ。

他には手水舎と、授与所と一体になった社務所があるだけ。

 

人影はまばらだ。

というか、社務所でおみくじを買っている数人の老人しか居ない。

少し離れたところには大きな神社があるために、こちらは人が少ないのだという。

精々が遠くまで歩くのが難しい人々が参拝する程度で大体閑散としているとサナリモリブデンは語った。

 

「寂しいけど、こういう時だと楽でいい」

 

「確かに。並ばずに済む初詣は私初めてですよ。正直なところありがたいですね」

 

宮司に聞かれれば怒られそうな言葉を交わしながら手を清め、2人は拝殿前に立つ。

賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝。

作法に正しく従いながら、サナリモリブデンと郷谷は神前で手を合わせる。

 

【挿絵表示】

 

その祈りは実に真摯で、見た者があれば思わず背筋を正してしまうほどのものだった。

 

 


 

 

≪System≫

初詣では願い事がひとつ叶います。

願える事とその効果は以下の通りです。

 

一年間無事に過ごせますように/クラシック級でのレース中、判定大失敗によるマイナスイベントを3回まで打ち消す

 

強いウマ娘になれますように/ランダムな能力値が7回×10上昇する

 

レースが上手いウマ娘になれますように/ランダムな金スキルヒントを1つ獲得、スキルPt+100

 

皆と仲良くなれますように/全員の絆+15

 

 



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クラシック級 1月イベント結果~1月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

レースが上手いウマ娘になれますように

 

 


 

 

例年よりも少々長めに。

真摯に願いを伝え終えたサナリモリブデンはゆっくりと目を開ける。

その様を郷谷はニコニコと見つめていた。

 

「随分真剣でしたが、どんなお願い事を?」

 

「ん……言わない」

 

問いに、サナリモリブデンはゆるゆると首を横に振る。

 

「言ったら叶わなくなるって聞いた事がある」

 

「おや残念」

 

「そういうトレーナーは?」

 

「私は神様にお願い事はしないタチでして」

 

ぱちくり。

そんな擬音が聞こえてきそうな瞳のサナリモリブデンだ。

そういう人も居るのかと驚いた様子。

 

「実際の所、神社ではお願い事ではなく、なにがしかの決断を伝えてこれからはこうするから見守って下さいと宣誓するものらしいですよ」

 

「へぇ……」

 

「とまぁ、私も聞きかじりの知識でしかないんですが」

 

郷谷はそう言って社務所の方へ歩き出そうとする。

が、サナリモリブデンは動こうとしない。

どうしたのかと郷谷が振り向けば、サナリモリブデンはまた真剣な顔に戻って言った。

 

「ごめん、トレーナー。もう1回やり直したい」

 

「おっと。ふふ、構いませんよ。急ぎの用事がある訳でもありませんからね」

 

郷谷の了承を取り付け、サナリモリブデンは再び拝殿に向き直った。

 

賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らし、二拝二拍手一拝。

二度目のそれを行い、心中で宣誓を捧げる。

 

(ごめんなさい、神様。さっきのお願い事は取り下げます)

 

神社には人影が少ない。

サナリモリブデンを見つめているのは郷谷だけで、順番を待っているような者もない。

 

(代わりに誓います。レースの上手い、立派な活躍をみんなに見せられるようなウマ娘になってみせます。だから)

 

1月1日、元旦の空気は冷たく鋭い。

 

(どうか、神様も見ていてください。必ず。やってみせますから)

 

けれどサナリモリブデンは、どこかわからない遠い所から注ぐ暖かな視線を感じたような気がした。

 

 


 

 

【レアスキルヒント抽選】

 

結果:弧線のプロフェッサー

 

弧線のプロフェッサー/250Pt/コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる。

 

獲得:スキルPt+100

 

 


 

 

宣誓の後、2人は神社を後にした。

もちろんおみくじと、無料で提供される甘酒を楽しんだ後にだ。

 

サナリモリブデンは小吉。

郷谷は中吉。

そんな結果である。

 

「うーん。逆の方が良かったんですが」

 

と郷谷がぼやき。

 

「でも走り人って所はいいこと書いてある。良き報せあり」

 

「……それ、レースについての項目じゃないんですよね」

 

「え?」

 

「サナリさんはたまに変な所でぼけてますねぇ」

 

サナリモリブデンがちょっとずれた事を言う。

 

「レースの場合は勝負事の項目だと思いますよ。そちらはどうです?」

 

「ん……ひるまず進めば明るし」

 

「ふふ、そちらも良い内容ではないですか。サナリさんがひるむ所は想像できませんし」

 

「うん。小吉だけど内容はいい。十分」

 

とはいえ、2人ともおみくじの内容を真に受けているわけではない。

新年特有のちょっとした娯楽として楽しんでいるだけだ。

項目のひとつひとつの解釈でどうこう言い合うのは、この時期あちこちで見られる光景だろう。

 

 

 

そんな風にして話をしながらサナリモリブデンと郷谷は街を歩く。

まっすぐには帰らない。

案内したいところがあると、サナリモリブデンが言い出したためだ。

 

まずは大きな通りを離れて、小さな商店街へ。

 

「あそこは魚屋さん。って言っても魚より貝の方が多くて、昔の私は貝のお店って呼んでた」

 

「ここは薬屋さん。入ったらすぐにお店のおじさんが寄ってきて、どんな症状にはどの薬がいいか丁寧に教えてくれる。親切でとても良い人」

 

「隅っこの、狸の置物が目印のお店はラーメン屋さん。全然美味しくないけど、いつ行ってもチャーシューをオマケしてくれる」

 

サナリモリブデンは彼女の知る限りを説明しながらゆっくりと進む。

だが、その説明は現実に即していなかった。

 

魚屋のシャッターは固く閉ざされ、もう数年は開いていないだろう。

薬屋は内部に何も残されておらず、入り口のガラス戸にテナント募集中と書かれた色あせた紙が貼り付けられている。

ラーメン屋の狸の置物は影も形もなく、代わりに置かれているのはカラフルな看板だ。

商店街の端で通りに面しているそこには全国チェーンのコンビニが居を構えている。

典型的なシャッター街というやつだった。

 

サナリモリブデンの家を訪ねるまでの道中に見かけた大型のショッピングモールを郷谷は思い出す。

随分と立派な建物で、元旦だというのに早くも初売りセールだとのぼりを出していた、とも。

当然のように駐車場は車でいっぱいで、年越しに暇を持て余した人々でごった返していた。

2人しか歩いていない薄暗いこことは大違いである。

 

 

 

商店街を抜けた先は、町工場が並ぶ一角となっていた。

 

「こっちの方は、私が生まれた時にはこうだったみたい」

 

今度はサナリモリブデンの説明はない。

だが、見れば分かる。

十数年は前に終わった区画なのだろう。

大半の工場は門が閉ざされ、中には処分さえ放棄された廃材が乱雑に積まれているような所ばかりだ。

稼働しているようには到底見えない。

生き残っているのは精々が片手で数えられる程度だろう。

 

「昔は賑わってたってお父さんが言ってた。もう一度盛り立てようと頑張ってる人も居るって」

 

その頑張りが報われたかどうかは、語るまでもない。

どこまでも閑散としたそこは、2人の足音以外に何の音も漏らしていなかった。

 

「ただ、お陰で助かった事もある。この辺りは人が殆ど居ないから、走り回ってトレーニングしても誰にも迷惑がかからない。……トレーナーには怒られたけど」

 

冗談めかしたそんな言葉も、どこか空々しく風にさらわれるだけだ。

 

 

 

そうして最後に。

小さな住宅街の隅にある空き地に辿り着いた。

 

「ここは」

 

一拍の間。

ほんの一瞬だけ躊躇した後で、サナリモリブデンは呟く。

 

「私の家」

 

あぁ、と郷谷は深く息を吐いた。

 

「遠く離れてるのに火が熱くて、空まで真っ赤で、お母さんが泣いてたのを覚えてる」

 

サナリモリブデンの母、サナリクロムの様子からそうだろうとは彼女も思っていた。

サナリモリブデンの父親は何かの不幸でいなくなったのだろうと。

そこに来てこれを紹介されれば、察せざるを得ない。

 

「それしか覚えてない」

 

郷谷はそっと、サナリモリブデンに寄り添って背を支えた。

他に、何をすればいいか分からなかったためだ。

 

「家は全部なくなったから写真ももう無くて、声も顔も思い出せない。覚えてるのは言葉だけで」

 

 

 

サナリモリブデンは振り向いた。

その顔に、郷谷は驚きを覚える。

ひるんだと言っても良い。

 

「トレーナーは、去年私に聞いてくれた。なんで走るのかって。これが、私の答え」

 

泣いているのではと郷谷は思っていた。

それでなくとも悲しみに沈んでいるのではと。

 

「私は、忘れる事が許せない。なくなっていくのが嫌。……どんなものだって、どうやっても消えていくとは分かっているけれど」

 

しかし、違った。

サナリモリブデンはもうとっくにそんな所には居ない。

 

「どうか残っていて欲しいと、願わずにはいられない」

 

恐らくはとうに昔。

10にも満たない年齢で彼女はどうしようもないほどに完成したのだろう。

 

「だからやる。お父さんとお母さんが出会って生まれて、愛されて、この街で育てられた───」

 

涙も悲しみも振り切って。

鋼の瞳の中には、ただ決意の光が灯っている。

 

「───私が生きた証を、誰にも忘れられない、二度と失われないものにする」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……帰ろう。お母さんのお雑煮が待ってるから」

 

サナリモリブデンはそう言って、また歩き出した。

足取りは確かで、その振る舞いは平然としたものだ。

対して、郷谷は数秒遅れた。

 

(……トレーナーは、ウマ娘の人生を支えるもの。そう分かってはいましたが)

 

こみあげる苦みを彼女は飲み下す。

それは大人が子供の前で吐き出して良いものではない。

少なくとも、郷谷はそう信じている。

 

(少しばかり、覚悟が足りていませんでしたねぇ)

 

そして、パァン、と大きな音。

サナリモリブデンは耳と尾を震わせて、弾かれるように振り返った。

 

そこには自身の両頬に手を当てる郷谷が居た。

力いっぱいに叩きつけたのだろう。

彼女の頬には寒さを由来としない赤みが広がりつつあった。

 

「よぉし、わかりました! ありがとうございますサナリさん!」

 

何事かとサナリモリブデンが聞く前に、郷谷が大声で言う。

どこまでも底抜けに明るい、鼓舞するような声色だ。

 

「任せてください。やっちまいましょう。世界中がサナリさんから目をそらせないようにしてやりますよ!」

 

そうして、ニッと歯を見せて笑う。

言葉の勢いのままサナリモリブデンの肩に手を回し、引き寄せた。

 

キョトンとした顔はほんの一瞬。

サナリモリブデンもまた同種の表情になり、言葉を返す。

 

「うん。お願い。どんなトレーニングでもついていくから」

 

「ん? 今どんなトレーニングでもするって言いましたね?」

 

「ん、やるよ。私はやる」

 

「よろしい、これからは加減なしです。ガンガン厳しくいきますよ!」

 

2人の握りこぶしがこつんとぶつかる。

気合十分。

先ほどまでの湿っぽさはどこかに消え飛び、2人は意気揚々と歩き出す。

 

「ですがまずは腹ごしらえから! ……流石にそろそろお腹がすきました」

 

「うん。おせちとお雑煮、山ほどあるからいっぱい食べて」

 

 

 

こうして、決意も新たにサナリモリブデンと郷谷は新年を迎えた。

レースの苛烈さも増し、本格的に争いが激化するクラシック級へ向けて彼女たちは歩み始める。

 

2人の挑戦の結末はまだ誰も知らない事だが。

少なくとも、そこに挑みかかる意志はきっと、何者にも負けないものだった。

 

 


 

 

【1月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

 


 

 

【ステータス】

 

スピ:287

スタ:190

パワ:264

根性:211

賢さ:211

 

 



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クラシック級 1月トレーニング結果~2月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

スタミナトレーニング

 

【友情トレーニング抽選】

 

失敗/通常トレーニング

 

 


 

 

スタミナトレーニング。

つまりは水泳だ。

今日も今日とてサナリモリブデンはプールを泳ぐ。

 

「まだ折り返しを少し過ぎたところです! 気を抜かない! バタ足が膝から先だけになっていますよ!」

 

「……!」

 

郷谷の指摘で動作は即時に修正される。

サナリモリブデンの脚が根元から力強く滑らかに動き、水をかき分けて推進力を生む。

 

疲労の蓄積されるトレーニング後半戦。

どうしても体が鈍り、サナリモリブデンが頭で思い描いた動きが手足に反映されなくなる。

自然、郷谷から飛ぶ修正の指示も多くなりがちだ。

 

「今度は腕が水に入る角度が甘くなりました! 叩きつけず、差し込むように!」

 

それにサナリモリブデンはただありがたいと諾々と従う。

 

レースとは過酷なものだ。

疲労困憊。

満身創痍。

そういった状態でなお適切に動けなければならない、といった場面は幾らでもあるだろう。

 

プールの中。

疲労を重ね重ね重ねて、その上で十全に体を駆動させるための能力を養っていく。

 

「よし! これが最後の50メートルですよ! 振り絞って!」

 

そして、その指示を受けてサナリモリブデンはラストスパートをかける。

ぐんっと加速。

力強いストロークで水を蹴る。

体の底、丹田の奥に残されていた最後のスタミナをかけらまで使い切って、それでも尚足りない分は根性で補う。

 

「───ッ!」

 

そうして、ゴールにたどり着いた。

サナリモリブデンはその場でプールの縁にしがみつき、荒い息を吐く。

全身が鉛のように重い。

しかし、それ以上に充実感に満たされ、効果の実感を得てサナリモリブデンは顔を上げる。

 

「はぁ、はぁ、っ、ふぅ……ん」

 

そして、握った拳をずいっと突き出した。

先に居るのは郷谷である。

 

「お疲れ様です、よく頑張りました。ナイスファイトでしたよ」

 

こちらも拳を突き出し、こつんと当たる。

互いを労い激励するこれは最近のサナリモリブデンのお気に入りだった。

水中で尻尾が振られ、水がゆるりとかき回される。

 

「では一旦上がって下さい。この辺りで休憩を挟みましょう。回復したら今日は最後に総仕上げですよ」

 

「ん、了解」

 

従順にサナリモリブデンは従い、プールから上がった。

 

渡されたタオルが水と汗を吸って重みを増していく。

その重量の分だけ、少しずつ、しかし確実にサナリモリブデンの体力は強化されていった。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

結果:成功

 

 


 

 

【トレーニング結果】

 

成長:スタミナ+30/根性+20

 

【スキルボーナス/冬ウマ娘◎】

 

成長:スタミナ+10/根性+10

 

スピ:287

スタ:190 → 230

パワ:264

根性:211 → 241

賢さ:211

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「砂浜」「地位」「豚骨ラーメン」

 

 


 

 

「いやいやいや、ラーメンは豚骨だって。あの体に悪いコッテリ感がないと物足りないだろ」

 

「それはアビーがバカ舌だからだよ? 鶏ガラ煮干しのさっぱりしながらも薫り高い味わい深さがなんでわからないのかな」

 

唐突に戦争が始まっていた。

 

ここはトレセン学園近くに店舗を構えるラーメン屋だ。

正確にはその店先である。

なかなかの人気店であって、開店前から行列が出来上がっていた。

 

トレーニングの無い休日、サナリモリブデンはここに食事を取りにやってきたのだ。

お目当てはごく普通の醤油チャーシューメン、ウマ盛り。

今日はちょっと重めに餃子と唐揚げも頼もうかなどと画策していたりもする。

開店の11時を10分後に控え、朝食を少なめにしたお腹具合もクライマックスといったところ。

 

「ん-わっかんない! ラーメンて味噌系ならなんでも美味しくない?」

 

「それだわー。バターとコーンも入ってれば全部最高っしょ」

 

「は? それだけはないよ、ないない。味噌が濁るじゃん」

 

「??? 味噌ラーメンのスープってもともと濁ってるくない?」

 

「なんだァ? てめェ……」

 

なのだが、前後でこうも戦争を起こされては落ち着いて楽しみにできるはずもない。

サナリモリブデンはそっとそれらをチラ見した。

 

コッテリ派のアビルダに、サッパリ派のセレンスパーク。

味噌保守正統派を名乗るトゥトゥヌイに、味噌トッピング許容派のタルッケ。

 

見事に見覚えのある面々だった。

麺だけに。

そんな下らない事を心の中で考え、うーん3点と自己評価するサナリモリブデン。

チームウェズンと共に居ると頭が緩くなるのが彼女の特徴である。

 

そんなサナリモリブデンだが、チームウェズンと鉢合わせたのはただの偶然だ。

道端でばったり出くわし、軽く挨拶しつつ進む方向が同じなため少々雑談をしながら歩いていたら、辿り着いた目的地が一緒だったのだ。

 

「というかコレ毎回やってるよね? なのになんでアビーは学習しないの? ラーメンは別々に行こうって何回も言ったじゃない……」

 

「バカお前、ウェズンは家族なんだから一緒に飯食うに決まってんだろ」

 

「いくら家族扱いでも言い争いのタネは減らそうよ……」

 

セレンスパークが深くため息を吐き、ぼやく。

なお、そういう常識人ぶった振る舞いの彼女だが、スープ戦争においてひときわ攻撃性が高かったのも彼女だ。

やっぱりこの人もウェズンなんだなぁとサナリモリブデンは納得する次第である。

 

「あー、そーいやサナリンは派閥どこ? やっぱ味噌?」

 

「チャーシュー大盛りなら味は問わない」

 

「第5の派閥来ちゃった……サナリちゃんの舌もアレなんて、もうダメだぁ……」

 

タルッケの問いにサナリモリブデンが答え、セレンスパークが更なる分裂の気配に天を仰ぐ。

だがサナリモリブデンに口論に加わる気はなかった。

そういった部分の攻撃性とは無縁なのが彼女である。

各々好きな物を好きなように味わえば良いという立場だ。

 

さて、そんな事をしている内に開店の時間がやってきた。

店員が入り口のカギを開けて顔を出し、客を店内に案内し始める。

 

と、そこで少々問題が生じた。

前に並んでいた客でテーブル席は既に埋まり、残るはカウンターが4席のみ。

このままでは5人全員が一度に入る事はできない。

別にそれで問題はないといえばないのだが。

 



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クラシック級 2月イベント結果~2月きさらぎ賞作戦選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

5人で入れるように他の客を先に行かせる

 

 


 

 

「テーブル席、空くの待つ?」

 

「そーすっか。そんなに長くもかかんないだろーし」

 

サナリモリブデンの提案に、アビルダは当然のように頷いた。

他の3人も特に異論はないようだ。

チームウェズンの4人と1人は店外のベンチに腰掛けて順番を待つ。

 

「───だからね、海苔はいらないの。ネギとメンマと煮卵、それにチャーシューで十分なんだよ」

 

「ないないない、絶対いるっしょ海苔。スープ吸ってふにゃふにゃになったのしゃぶりたくない?」

 

「だよなー。それこそセレンの言ってる”風味”だろ。中間地点の補給ポイント的なやつだわ」

 

「ちょっと! ナルトともやしは!? なんかナチュラルに省かれてるんだけど!」

 

「「「一番いらなくない?」」」

 

「許さないよ!?」

 

その最中、話題に上るのはラーメンについての話だった。

スープの次は具材。

戦争のタネは尽きないものである。

 

「ん、なるとは必要」

 

「んおぉ! さすがサナリちゃん話がわかるぅ!」

 

「あの派手な赤と緑のぐるぐるがあるとラーメンだなって感じがする」

 

「え? ナルトといえば白地に赤のぐるぐるでしょ?」

 

「……? 白いのはなるとじゃなくてカマボコじゃないの?」

 

「許さねぇ……」

 

現にサナリモリブデンとトゥトゥヌイの間にも亀裂が生じていた。

ただ、歯を剥いてぐるると威嚇するトゥトゥヌイに対し、サナリモリブデンはきょとんとした顔だ。

温度差がありすぎるために本格的な争いには発展しそうにない。

 

と、そんな事をしている内に順番がやってきた。

5人は店内に通され、6人掛けのテーブルにつく。

 

そして、座るやいなやウェズンの4人は注文した。

 

「煮干し豚骨味噌チャーシューメンのウマ盛りを4人前、お願いします」

 

「あとトッピングでー、バターとコーンもおねがいしまーす」

 

「もやしは抜きゅもごごっ」

 

「あ、こいつの言ってる事は気にしないでくださいね! もやしありで!」

 

それに、サナリモリブデンは少し驚いた。

店の前で各々が言っていた好みとは少しずつずれている。

いや、正確にはずれているのではなく、ごちゃまぜのようだ。

 

アビルダの好きな豚骨、セレンスパークの好きな煮干し。

トゥトゥヌイの味噌に、タルッケのバターコーン。

 

なるほど、とサナリモリブデンは納得する。

そして、らしい、とも思った。

バランスが取れているやらいないやら。

寄せ集めのようでいて破綻はせず美味しそうな辺りがなんともウェズンだった。

 

「私は煮干し豚骨味噌チャーシューメンのチャーシュー多め、コーンバタートッピング、ウマ盛りで」

 

なので、予定を変更する。

折角テーブルを同じくして食事を楽しむのだ。

それならば合わせてみるのも良いだろうというのはごく自然な発想である。

 

「にひ」

 

「ん」

 

わかってるじゃん、とばかりに得意げに笑うアビルダ。

サナリモリブデンも悪い気はせず、軽く頬を吊り上げるのだった。

 

 


 

 

そして。

ラーメンを揃って楽しんだ後に。

 

「おっしゃー! 次回メニュー決定権争奪戦はじめっぞー!」

 

「おー!」

 

「次こそは鶏がら煮干しをみんなに食べさせて、味音痴を治してあげるからね……!」

 

「ねーねー、そのトリニボってバターコーン合う?」

 

サナリモリブデンは何故か砂浜に連行されてきていた。

 

といっても、府中に海はない。

砂浜は砂浜でも屋内型人工ビーチだ。

海の風景は書き割りで、夏らしい鮮やかな青空も天井に描かれた絵に過ぎない。

しかし広い土地を確保して地面にたっぷりと砂を敷きパラソルを並べられればなんとなくそれっぽさは出ている。

真冬にも夏の雰囲気を楽しめるという、少々面白い施設だった。

 

「なにごと?」

 

ただ、そこに連れて来られた理由がわからない。

サナリモリブデンは率直に質問した。

 

「なーに簡単だよ。あたしらがあのラーメン屋で何食べるかってさ、ちょっとした勝負で決めてんだ」

 

それに、ウェズンのリーダーであるアビルダが胸を張って答える。

レンタルの水着まで身につけてノリノリだ。

なお、先述の通り海は書き割りだしプールがある訳でもないため、完全に気分を出すためだけの衣装である。

 

「勝ったヤツは自分の好きなラーメンに少しずつ寄せられるんだ。例えば前回はヌイが勝ったから味が味噌になったんだよな」

 

「その前は私だったから煮干し入れたんだ。そして今日勝って、次は豚骨を排除するの……!」

 

話を継いだのはセレンスパークだ。

こちらも水着姿な上に、必要性が微塵もない水中眼鏡まで装備している。

彼女はずずいとサナリモリブデンに歩み寄ると、その手を取って懇願した。

 

「サナリちゃん、味にこだわりないって言ってたよね? 私と組もう……! そして鶏ガラ煮干しの地位向上に協力して……!」

 

「すごい必死」

 

「はいはいチーミングは禁止でーす! 罰則適用だよー!」

 

「あ、あぁぁぁぁ……そんなぁ……!」

 

が、即座に勧誘を阻止されてズルズル引きずられていった。

そして、罰則罰則とはしゃぐトゥトゥヌイとタルッケによって砂浜に埋められていく。

そう経たない内に出ているのは頭だけになってしまった。

 

黒鹿毛の頭の上で、ウマ耳が情けなくへにょりと垂れる。

うわぁんサナリちゃん助けてぇ、という声もふにゃふにゃだった。

 

「ん、話はわかった。勝負内容は?」

 

「あれっ? サナリちゃん結構薄情な感じ?」

 

「くくく、内容は前回最下位だったヤツに決定権がある。つまりあたしだ。指定するのは砂浜といったらド定番、砂の城作りだ!」

 

「っ! ……テレビで見た事はある。一度やってみたかった。とても楽しみ」

 

「普通に助けてくれないパターンなんだね……」

 

「なになにサナリン初挑戦? じゃー私と組もうよ、これ結構むずいしさ」

 

「あっ! チーミングだ! 審判! チーミングだよアレ! 罰則適用しないと!」

 

「むっ、トゥトゥヌイ審判、裁定は?」

 

「初心者なら致し方なし! 認めましょう!」

 

「ズルくない!?」

 

わいわいと騒ぎつつ、真冬の砂浜遊びはスタートする。

セレンスパークの抗議をBGMに、開始の合図はトゥトゥヌイのやたら上手い口笛ファンファーレで。

途中で脱出に成功したセレンスパークも含めて、寮の門限に間に合うギリギリまで、バカバカしくも愉快な空気の中で遊び続けた。

 

 

 

なお、勝負の行方であるが。

トゥトゥヌイが見事な2連覇を達成し、次回の注文はどろ味噌豚骨チャーシューメンのコーンバタートッピングと決定された。

件の店では煮干しとどろ味噌が両立するメニューはないためセレンスパークが砂上に崩れ落ちて慟哭する羽目になった事も、サナリモリブデンの思い出に記憶されるのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:チームウェズンの絆+10

成長:スタミナ+10/根性+5

獲得:スキルヒント/シンパシー

 

シンパシー/150Pt/絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる

 

スピ:287

スタ:230 → 240

パワ:264

根性:241 → 246

賢さ:211

 

チームウェズン 絆25 → 35

 

 


 

 

【レース生成】

 

 

【きさらぎ賞(G3)】

 

【冬/京都/芝/1800m(マイル)/右外】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:118(クラシック級2月の固定値95/G3倍率 x1.25)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:スーペリアブルーム

2枠2番:トゥージュール

3枠3番:ジュエルエメラルド

4枠4番:スローモーション

5枠5番:アウトスタンドギグ

6枠6番:サナリモリブデン

7枠7番:アーリースプラウト

8枠8番:ミニコスモス

8枠9番:ファスターザンレイ

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝C/補正なし

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:冬ウマ娘◎/ALL+10%

 

調子:普通/補正なし

 

スピ:287+28=315

スタ:240+48=288

パワ:264+26=290

根性:246+24=270

賢さ:211+42=253

 

 


 

 

「今回のレースに出走する有力ウマ娘は1人です」

 

京都レース場への移動中。

郷谷トレーナーはサナリモリブデンにそう説明を切り出した。

 

「ん……詳しく聞きたい」

 

サナリモリブデンは手元のタブレットに落としていた視線を上げる。

自動車の助手席で背筋を伸ばし、運転席の郷谷の横顔をじっと見つめた。

 

「そうですね。これまでマイルを専門に走ってきたウマ娘で、重賞出走経験もありながら掲示板を外した事がありません」

 

それに、郷谷は満足そうに笑って説明を始めた。

 

「得意な作戦は逃げ、もしくは差し。レース展開やコースの作りに合わせて走り方を変えられる点は対策が立てにくく面倒な相手です」

 

サナリモリブデンは大まじめに聞き入っている。

一言一言を咀嚼し、飲み下して染み込ませるようにだ。

 

「ですがこのウマ娘の本当に恐ろしいのはそこではありません。彼女の脅威はどんな状況でも諦めや妥協を知らないという点です。無理、無茶、無謀。それらを当然のように押し通して平然と実力以上の力を発揮する能力に極めて優れています。正直言って、敵にした時にこんな嫌なウマ娘はそうそう居ませんよ。マッキラさんみたいな規格外は別としてですが」

 

確かに、とほぼ真っ白な芦毛の頭が上下する。

聞くだに恐るべき強敵である。

 

何しろ事前の対策がほぼ無意味だ。

相手が選ぶ作戦は予想が難しく、逆境に強いというならどれほど優位を積もうが安心はできない。

実際に走り切ってゴール板を通過するまで何一つ気を抜けない相手となるだろう。

 

「そして前走のG1では、無敵と誰もが断言するマッキラさんに追いすがり、トップスプリンターであるブリーズグライダーさんと真っ向から争い、3着での入賞を果たしています。地力も相応にあると見ていいでしょうね。確実に今期のクラシックにおける中心人物、その1人になると思われます」

 

「……ん?」

 

が、そこでサナリモリブデンも気付く。

 

「私?」

 

「えぇ、そうです。サナリさんの事ですよ」

 

目をぱちくりとさせるサナリモリブデンだった。

一体なんの冗談だろうという顔だ。

そんな彼女を確認して、郷谷は苦笑する。

 

「残念ですが冗談ではないんですよ。今、確実にサナリさんはそういう目で見られています」

 

そこでちょうど車は目的地に到着した。

郷谷は関係者向けの駐車場に車を入れてエンジンを止め、サナリモリブデンの持つタブレットに手を伸ばす。

数度操作すると、画面はきさらぎ杯に関する記事を表示した。

 

その中には予想の欄もある。

6枠6番サナリモリブデンの欄には、◎の印が並んでいた。

 

「これが世間の、サナリさんに対する評価です。他のウマ娘やトレーナーからの認識も似たようなものでしょう。マイルではマッキラさんに次ぐ、世代のトップ層。誰もがそう見ています」

 

「でも、実力は」

 

「レースで発揮されたものが実力です。少なくとも世間やライバルにはそう取られます。ですので」

 

郷谷はサナリモリブデンの言葉を遮って言った。

現実を認識させるためにだ。

 

「サナリさん。今貴女には最大限の警戒が向けられています。レース中、マークや妨害はこれまでよりも厳しいものになるでしょう」

 

「……ん」

 

「どうか今まで以上に冷静に。対処の仕方はこれまでのトレーニングで教えてきました。落ち着いて、やるべき事を思い出してくださいね」

 

「うん。わかった。気を引き締めていく」

 

どうやらそれは通じたらしい。

サナリモリブデンは神妙に頷き、自身の現状を飲み下す。

よろしいと郷谷も首肯し、次いで今回の作戦の説明に入った。

 

 

いつものようにタブレットにレース場の3Dデータが表示される。

全景はスタンドから見て左が小さく右が大きい非対称だが、前走の阪神レース場ほどではない。

 

そのコースには一見してわかる大きな特徴がひとつあった。

 

「京都レース場の名物といえばこれです。高低差4.3メートルにもなる、通称淀の坂ですね」

 

向こう正面の中ほどから始まり、3コーナーで頂点に達し、4コーナーへ、そして直線へと駆け下りていく坂だ。

坂というよりも、3コーナーに丘があると考えた方が分かりやすいかもしれない。

 

ゆっくり上ってゆっくり下る。

かつてはそれがセオリーとされていたコースだが、現在では下り坂を利用して加速をつけたまま404メートルの直線に突っ込んでいくケースが多い

この坂以外は平坦な作りで最終直線も例に漏れない

 

「あとは、そうですねぇ。スタート直後の直線はとても長く取られています」

 

次に表示されたのは向こう正面の直線だ。

第2コーナーを曲がらずにまっすぐ突き出したポケットからスタートする形で、3コーナーまでの長さは900メートルほどになる。

流石にこれだけあっては内枠外枠の有利不利はない。

 

以上を説明し終え、最後に他のウマ娘の情報を出しながら、郷谷は今回の作戦を指示した。

 

 


 

 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:2 差し:2 先行:2 逃げ:2

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/6枠6番:サナリモリブデン

2番人気/5枠5番:アウトスタンドギグ(追込)

3番人気/8枠9番:ファスターザンレイ(逃げ)

 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:287+28=315

スタ:240+48=288

パワ:264+26=290

根性:246+24=270

賢さ:211+42=253

 

 

【適性】

 

芝:C(17/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(20/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

 



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クラシック級 2月 きさらぎ賞

 

 


 

 

【投票結果】

 

逃げ

 

 


 

 

『京都レース場メインレース、きさらぎ賞。午前中に空を覆っていた厚い雲は流れまして、綺麗な青空が覗いております。バ場状態は良との発表』

 

サナリモリブデンは乾いた芝の上を歩み、ゲートに向かう。

メインレース。

それも重賞ともなれば客の入りはかなりのものだ。

前走のG1、朝日杯FSと比べれば流石にその数を減じているものの、スタンドのざわめきと熱い視線はそこから遠いゲート付近でも感じられた。

 

『本日の注目ウマ娘を紹介していきましょう。まずは3番人気、8枠9番ファスターザンレイ。前で長く使える脚が武器の逃げウマ娘。今日は外枠に当たりましたが京都1800では大きな不利はありません。2番人気は5枠5番アウトスタンドギグ。こちらは一瞬のキレにかけるタイプ』

 

『アウトスタンドギグは調子の当たり外れが大きい子ですが、今日はやる気十分に見えますね。パドックや返しウマを見る限り踏み込みの力強さが目につきます。好勝負が期待できるでしょう』

 

だが、とサナリモリブデンは息を整えながら瞑目した。

視界が閉ざされ、鋭敏になった感覚に幾つも突き刺さるものがある。

ファンの視線よりも遥かに強く、鋭くだ。

 

敵意。

警戒。

興味。

それはどれも至近距離から熱を伴って彼女に注がれていた。

 

『そして1番人気はこの子。6枠6番サナリモリブデン。前走朝日杯フューチュリティステークスでの好走は記憶に新しいところ。もはや無敵との評も揺るぎないマイル王者マッキラに、見事に食らいついてみせた刺客です』

 

『マッキラに敗れはしましたが実力はピカイチですよ。今期のクラシックマイルでは目玉の1人になるでしょう。度胸と根性もある、私イチ押しのウマ娘です』

 

郷谷の言をサナリモリブデンは実地で大きく実感していた。

このレースを走る誰もに、自身こそが最大の敵と認識されている事実を彼女は正しく理解した。

そう、6月に、そして阪神の舞台で、サナリモリブデンがマッキラの背に向けた眼差しと同じものが、今彼女自身に向けられている。

 

その事実に、白い尾が高く持ち上げられ毛が逆立つ。

二の腕が引きつったように震え、咄嗟に抑えようとした右手が強張っている事にサナリモリブデンは驚いた。

 

(怖がっている?)

 

自問に、そうとも言えると彼女は自答した。

 

(それは間違いない。だって、初めてだ)

 

閉じていた目を開く。

しかし、そこに怯えや竦みはない。

代わりに灯るものはたったひとつ。

 

(───これほど、多くの敵に”期待”されるのは)

 

何もかもを焼きつくさんばかりに滾る戦意だった。

 

大きく、深く息を吐き、サナリモリブデンが一歩を踏み出す。

それだけで彼女を囲む輪はざわりと揺らいだ。

向けられていた警戒は厚みと密度を増し、いっそ殺意にも似た域に昇華されていく。

 

(やれるなら、やってみればいい。私は走る。私が勝つ。その期待に応える)

 

それに対し、サナリモリブデンは不敵に笑ってみせた。

かかってこいと、そう言わんばかりに。

 

(あなたたちの目に、二度と忘れられない背中を刻みつけてみせる)

 

硬質の音を立てて、ゲートに収まったサナリモリブデンの背後で扉が閉まる。

その鋼の音色はまるで彼女の背を押すようだった。

 

 

 

そうして、時が来る。

 

『各ウマ娘、ゲートに収まりました。係員が離れて───』

 

身を低く。

精神を研ぎ澄ませて、サナリモリブデンは前方を睨み。

 

(やる。私はやる。絶対に)

 

 


 

 

【スタート判定】

 

難度:118

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/253+50=303

 

結果:33(失敗)

 

 


 

 

(やる───?)

 

『───今スタート! おっとこれは出遅れだ! それも9人中3人!』

 

そして、その総身に満ちた戦意が空回った。

 

ゲートが開いた。

その事実を耳で聞き、目で見て知った瞬間にサナリモリブデンは失敗を悟った。

スタートというものは開いたのを見て走り出したのでは遅い。

開いていくと分かった瞬間に飛び出していかなくてはならないのだ。

 

『1番スーペリアブルーム、6番サナリモリブデン、7番アーリースプラウトが出遅れ。他は揃っていますが何人かが後方を気にしています』

 

『これはまさかの展開ですね。波乱のレースとなりそうです』

 

慌てて続いたサナリモリブデンだが、前を行くウマ娘たちと比して2歩は遅れた。

たったの2歩。

しかしスタートでの2歩はそこから始まる加速の要だ。

そこに動揺が含まれていては、走りの質は全く異なったものになる。

 

(ダメだ。落ち着け。焦るな)

 

サナリモリブデンの頬が強張った。

発走前の高揚は一瞬で消え飛んだ。

胃の腑からこみあげるような焦りが彼女の脳を蝕もうとする。

 

 


 

 

【かかり判定】

 

難度:118

補正:集中力/+10%

補正:冷静/+20%

参照:賢さ/253+75=328

 

結果:273(大成功)

 

 


 

 

それを、サナリモリブデンは一呼吸未満で飲み下してみせた。

焦燥に歪もうとしていた表情は誰にも見られずに消える。

 

(反省も後悔もゴールの後でいい。そんな時間はない。今はやれることをやる)

 

激しかけた思考は冷たく引き締まり、彼女に常以上の集中をもたらした。

 

サナリモリブデンは出遅れた。

敵手に後れを取り、後方からのレースを余儀なくされている。

それは確かだ。

 

だが、それ以上の不利はない。

平静に、冷静に、前方を見据える瞳には確固たる理性が宿っていた。

 

『向こう正面の長い直線、ハナを進むのはファスターザンレイ。単独で先頭に立ちました。1バ身ほど離れてスローモーション、並んでミニコスモス』

 

その理性でもって、サナリモリブデンは周囲を観察する。

今ここでどうすべきか。

判断の材料を求めてだ。

 

『やや離れて後方集団は固まっています。3番ジュエルエメラルドを先頭に、内から1番スーペリアブルーム、2番トゥージュール。続いてアウトスタンドギグ。見るようにサナリモリブデン。最後尾アーリースプラウトが2バ身遅れてその背を追う』

 

『ちょっとスーペリアブルームの様子がおかしいですね。これはかかってしまっているかも知れません』

 

幸い、バ群に囲まれきるような事態は避けられた。

サナリモリブデンから見て左、外が大きく空いている。

持ち出そうと思えば持ち出せる。

一手遅れはしたがここから加速して逃げを打つ事は可能だ。

 

 


 

 

【序盤フェイズ行動選択】

 

加速して前を目指す

 

 


 

 

(無理がかかる。けれど、やってやれない事はない)

 

消耗の大きさと、後方からレースを進めるデメリットを比較して、サナリモリブデンは決断した。

このレースの出走人数は9人。

多くはないが、しかし現在彼女の周囲には4人が固まっている。

 

そして誰もがサナリモリブデンに対する警戒を、出遅れた今でも解いていない。

それを象徴するように、最も近い位置を走るアウトスタンドギグがちらりとサナリモリブデンに目を向けた。

この場で走り続ければ多くの敵意にさらされ自由に走る事は難しいだろう。

 

ならばと、サナリモリブデンは強く地を蹴った。

 

 


 

難度:118

補正:なし

参照:パワー/290

 

結果:246(大成功)

 


 

 

その足音に反応したか。

アウトスタンドギグに続いて、前方のミニコスモスまでもが警戒を露わにする。

難敵を自由にさせてなるものかと、彼女は多少の不利を飲み込んでサナリモリブデンの進路を塞ぎにかかった。

 

それを見てサナリモリブデンは……ただ、やると決めた行為を何ひとつ変更を加えずに実行した。

 

芦毛の頭が低く下がり、前傾に傾いて速度を上げる。

弾かれたような加速だった。

脚が回転し、蹄鉄が地を噛み、芝が千切れ飛ぶ。

 

「しま……っ」

 

『ここでサナリモリブデン外から上がっていった。出遅れを取り戻すように急加速。ミニコスモスをかわして先行集団の前へ出ていく』

 

その迫力に、ミニコスモスは思わず予定よりも一歩外に出た。

気圧されてよろけた動きはさながら自ら道を譲るよう。

サナリモリブデンは当たり前のようにそこを突き、前へ前へと進んでいく。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:ファスターザンレイが競りかける

 


 

 

その体が先頭に並ぶまではそうかからなかった。

先行集団を越え、逃げるファスターザンレイの隣へ。

だが、そこから前には容易には進めそうにない。

 

「行かせない……譲らないっ!」

 

鹿毛のショートカットの下で、ファスターザンレイが歯を食い縛る。

サナリモリブデンの自由をほんの少しでも奪わんと、レースを作るのは私だと主張する。

一歩、二歩。

ぶつかっても構わないとばかりに詰め寄り、サナリモリブデンを威圧した。

 

 


 

【抵抗判定】

 

抵抗方法:落ち着いて受け流す

 

難度:118

補正:冷静/+20%

参照:賢さ/253+50=303

 

結果:84(失敗)

 


 

 

その視線にサナリモリブデンは焼かれた。

まっすぐに、ただ己を打倒しようと心を燃やすファスターザンレイの姿にふつふつと心の温度を上げられる。

 

(逃げない。逃げられない。そっちがやりたいっていうんなら)

 

抑えて前を譲り、2番手で走る。

出遅れからの加速で消耗した今、賢い手段はそれだろう。

何も先頭を行くだけが逃げではない。

 

だがその賢さをサナリモリブデンは一時放り捨てた。

 

(やる。その期待に応える。真っ向から、叩き潰す!)

 

 


 

【追加判定】

 

難度:118

補正:なし

参照:パワー/290

 

結果:223(成功)

 


 

 

隣を行く鹿毛に倣うように歯を食い縛る。

加速してきた脚にさらに加速を重ねた。

食らいつこうとするファスターザンレイを置き去りに先頭を奪い去る。

 

『サナリモリブデン、ここで先頭に立ちました。そのままファスターザンレイとの差を広げていきますが、これはどうでしょう』

 

『この子は大逃げも出来る子ではありますが……今はかかってしまっているかも知れませんね。一息つければいいのですが』

 

そして勢いが止まらない。

熱された戦意は溶けるほどの高熱を保ったまま、その背を押し続ける。

 

 


 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/過剰加速(4)/かかり(3)

補正:逃げA(-1)

消費:6+4+3-1=12%

 

スタミナ/288-34=254

 


 

【状態回復判定】

 

難度:118

補正:冷静/+10%

参照:賢さ/253+25=278

 

結果:99(失敗)

 


 

【中盤フェイズ行動選択】

 

かかり状態/さらに加速を重ねる

 

難度:118

補正:なし

参照:パワー/290

 

結果:275(大成功)

 


 

 

(負けない。私が勝つ。私が勝つ。───私が、勝つ!)

 

灼熱がサナリモリブデンを突き動かす。

加速はなおも重ねられた。

後続を引き離し、ただ1人京都レース場の向こう正面を走り抜けていく。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:スローモーションはただ見送る

 


 

 

(落ち着け。落ち着け。つられるな。混同するな。……あれは違う!)

 

その背を見送りながら、スローモーションは自分にそう言い聞かせた。

彼女はこれまで、マッキラに3度敗北したウマ娘だった。

1度目はメイクデビューで。

2度目は11月、デイリー杯ジュニアステークスで。

3度目はG1、朝日杯フューチュリティステークスで。

その全てで圧倒的な背中を見てきた。

ひとたび離されれば二度と手が届かないと嫌でも理解させられた、遥か遠い背中をだ。

 

その経験が今すぐ走れと彼女に迫る。

それを、スローモーションは必死に押し殺した。

悲鳴を上げる本能に、理性を総動員して蓋をする。

 

(あれはマッキラじゃない。それに───)

 

スローモーションはまた、サナリモリブデンともこれで3度目のレースだ。

だからこそ分かる。

今のサナリモリブデンは明確に平静を欠いていると。

 

決意の下、決死の加速を見せられた過去の2戦と比して。

スローモーションは冷徹に確信する。

 

(今のあの子は怖くない!)

 

遠ざかっていく背中は、確実に破滅へ向かっているのだと。

 

故に、スローモーションは何もしない事を選んだ。

最後の最後、必ず生まれる隙を突き殺すために、彼女はバ群の中で静かに刃を研ぎ澄ます。

 

 

 

「はっ、はっ、は、っ、───っ」

 

走る。

逃げる。

ただただ全力で、サナリモリブデンは地を蹴り続ける。

 

脚を緩めようという判断は湧かなかった。

彼女の頭にあるのはたったひとつ。

 

無様は見せられない。

期待に応えなければならない。

そのために、勝たなければならない。

 

『先頭は大きく離れてサナリモリブデンただひとり。さぁここから京都レース場名物、淀の坂。サナリモリブデンここも減速せずに突っ込んでいく!』

 

『これは、ちょっと最後までもつとは思えませんねぇ……』

 

決意が空回るその走りこそが、何よりも無様だとは気付きもしないまま。

 

 


 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:超高速(9)/かかり(3)

補正:逃げA(-1)/加速大成功(-2)

消費:9+3-1-2=9%

 

スタミナ/254-20=234

 


 

【状態回復判定】

 

難度:118

補正:冷静/+10%

補正:時間経過/+20%

参照:賢さ/253+75=328

 

結果:79(失敗)

 


 

 

サナリモリブデンの視界が白み始める。

息は荒く、脚は重い。

高低差4.3メートルの坂の頂上で、彼女はいよいよ力尽きようとしていた。

 

(あぁ……下り坂?)

 

思考を回す余力すらなく、サナリモリブデンは茫洋と前を見る。

そこにあったのは、3コーナーから4コーナーへと続く下り坂だ。

 

(とても、助かる……)

 

サナリモリブデンはそれを天の助けだと錯覚した。

重力に引かれるまま、わずかにも速度を落とさずに突入する。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択】

 

かかり状態/減速せずにコーナーを曲がる

 

難度:118

補正:なし

参照:スピード/315

 

結果:104(失敗)

 


 

 

しかし。

 

(───、あ、れ?)

 

脚が回らない。

上体がぶれ、走行姿勢が安定しない。

ここまで稼いだ速度はたちまちに失われていく。

 

単純な肉体の限界が、サナリモリブデンを捕まえた。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:ミニコスモスが仕掛ける

 


 

 

そこを見逃してくれる道理はない。

この舞台はG3、重賞である。

出走しているライバルのうち、一流でない者は誰一人として存在しない。

 

『サナリモリブデン急減速、ここでいっぱいになってしまったか。後続が先頭を捉えにかかる。下り坂を利用してスローモーションが上がってきた。ミニコスモスも猛烈な勢いでやってくる』

 

背に迫る足音を、サナリモリブデンは戦慄とともに耳にした。

どうして、と混乱が生じる。

逃げたはずだ。

引き離したはずだとむなしく言葉が空回る。

 

(やっぱり。今日のあなたは、何も怖くない!)

 

対する追跡者は指先をかけた勝機に奮い立った。

スローモーションが潜ませていた牙を剥く。

 

「う、ぁぁあぁぁあぁ!!」

 

そしてもう一人。

スローモーションを更に上回る勢いをもって坂を駆け下る。

 

ミニコスモスは怒りに焼かれていた。

サナリモリブデンを自由にさせない。

徹底して張り付き、その脚を殺して競り勝ってみせると、彼女のトレーナーと拳を打ち付け合ってレースに臨んでいた。

だというのに。

自分のあの様はなんだと噴き上げる憤怒が身を焦がす。

 

怖気づいた己を許さない。

二度と後れを取るものか。

今ここで全てを塗り潰して弱い自分を作り替えると、ミニコスモスは決断した。

 

 

 

その熱は、サナリモリブデンの背にも届く。

 

 


 

【抵抗判定】

 

難度:118

補正:冷静/+20%

補正:かかり/-20%

参照:賢さ/253

 

結果:28(失敗)

 


 

 

まだ遠い。

遠いはずだ。

大暴走で稼いだリードは小さなものではない。

いかにサナリモリブデンが減速し、猛烈に追い上げられようともまだ開きはある。

 

だが、それが彼女の安心をもたらす事はなかった。

後方からなにかが来る。

おそろしいものが、自分を殺すために。

 

その事実に、サナリモリブデンの心臓が鷲掴みにされたように縮み上がる。

胎の底から湧きあがるような恐怖に、彼女の心は支配されつつあった。

 

 


 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/行動失敗(4)/かかり(3)/恐怖(2)

補正:逃げA(-1)

消費:6+4+3+2-1=14%

 

スタミナ:234-32=202

 


 

【状態回復判定】

 

難度:118

補正:冷静/+10%

補正:時間経過/+40%

参照:賢さ/253+126=379

 

結果:354(大成功)

 


 

 

『各ウマ娘最終コーナーを回って直線に向く。先頭はサナリモリブデン。だがそのリードはわずか!』

 

(……!? わた、し……何を!?)

 

ホームストレート。

そこに届く観衆の声に、ようやくサナリモリブデンは正気を取り戻した。

自身の重ねた無様と失態を正しく把握し、その顔を青ざめさせる。

 

 


 

【スパート判定】

 

難度:118

補正:領域の萌芽/+10%

参照:スタミナ/202+20=222

 

結果:108(失敗)

 


 

 

「は、ぁ……! ぜ、ひゅ……!」

 

否、それは心から来るものだけではなかった。

絶望的に酸素が足りていない。

手足は震え、脳が今すぐ止まれと命令を下そうとする。

 

暴走のツケだ。

満足にスパートをかけられるだけの体力は、もうサナリモリブデンには残されていない。

 

『サナリモリブデンどうやらいっぱい、ここまでか! スローモーションが並びかける、外からはミニコスモスも来ている!』

 

そして、ついに誰も居なかった視界に2人のウマ娘が現れた。

内からはスローモーション。

外からはミニコスモス。

 

敗北の二字が、サナリモリブデンの白く霞む思考の中によぎる。

 

打ち付ける鋼の音は、その胸の裡からは聞こえない。

 

 


 

【スパート判定】

 

難度:118

補正:スタミナ失敗/-30%

参照:パワー/290-87=203

 

結果:6(大失敗、マイナスイベント発生)

 


 

【スパート判定】

 

難度:118

補正:スタミナ失敗/-30%

参照:スピード/315-94=221

 

結果:159(成功)

 


 

 

『スローモーションかわして前に出た! スローモー……っ! サナリモリブデン大失速! どうしたか、大丈夫か!? ミニコスモスも負けじと競る! ジュエルエメラルドも飛んできた! ぐんぐん差を詰めるが間に合うか!』

 

非情にも、それは当然に叩きつけられた。

 

(はし、らなきゃ)

 

決意を固める。

やると定めて食い縛る。

鋼の決意は積み重ねた疲労を無視して、サナリモリブデンを振り絞らせた。

 

(走らなきゃ、いけないのに───)

 

振り絞って、振り絞って、振り絞って。

だが、そこから何も生まれない。

 

(なんで、わたしはまたここにいるの……?)

 

それは当たり前の、ひどく残酷な現実。

サナリモリブデンの体には、もうどれほど振り絞ったところで、残っているものなど何一つなかったのだ。

 

『スローモーションか、ミニコスモスか! スローモーションか、ミニコスモスか! 両者譲らない! ジュエルエメラルドはどうか、あと一歩足りないか!』

 

彼女にとっては久しい光景だった。

ライバル達が自分を容易く抜いていき、ただ一人最後方に取り残される。

メイクデビュー以前。

模擬レース、そして選抜レースにて、嫌というほど目の当たりにしたもの。

 

だから、そういう場合に何をすればいいかは知っていた。

慣れ親しんだ窮地であるならば、対処もまた旧知のもの。

 

手を伸ばす。

地を踏みしめて一歩でも前に進む。

その行為に何の意味もないとわかっていても。

この程度で止まれるほどに、サナリモリブデンは柔らかく出来ていない。

 

 


 

【スパート判定】

 

難度:118

補正:なし

参照:根性/270

 

結果:9(大失敗、マイナスイベント発生)

 


 

【故障判定】

 

難度:基礎(10)/暴走(5)

難度:10+5=15

 

≪System≫

同一レース中の短期間に二度のマイナスイベントが発生したため、故障判定が行われます。

参照するステータスはなく、100を上限とするランダムな数値が難度以下だった場合、故障が発生します。

 

 

 

 

 

結果:69(成功)

 


 

 

だが。

 

「……っ、ぁ」

 

ビキリ、と引きつるような感触がサナリモリブデンの脚に走る。

致命的なものではない。

彼女にとっては幾分馴染みのある、幼少期に無茶を重ねた時期に味わったものと同一だ。

後に残るものでも、回復に時間のかかるものでもないと理解が出来る。

 

そして同時にわかってしまう。

このレースにおいて、もうできることは何もない。

何も、だ。

 

 

 

『いや、ジュエルエメラルドがさらに加速! 迫って迫って、食い破った! ゴール前で差し切ったジュエルエメラルド、僅差で1着! 2着は全く横並び、スローモーションとミニコスモス、どちらが先着したかは写真判定になります。4着にはアウトスタンドギグ、5着はファスターザンレイ。ジュエルエメラルド、見事な末脚でお手本のような差し切り勝ちを決め、重賞タイトルをものにしました!』

 

脚を緩め、止まる。

そして崩れ落ちるようにサナリモリブデンは芝の上に座り込んだ。

痛む左脚を抑え、悔しさに身を震わせる。

 

『サナリモリブデンは最終直線半ばで停止、座り込んでいます。ただちに救護班が急行中。スタンドからはどよめきの声。これは……』

 

『大変な事になりました、大丈夫でしょうか。心配ですね……』

 

それでもと、サナリモリブデンは顔を上げた。

遠い遠い、どれほど願ってもたどり着けないゴール板を睨む。

這ってでも進めと叫ぶ心を理性でもって抑えつけて、サナリモリブデンはどうしようもない最低最悪の敗北をその目に刻み込む。

 

クラシック級、2月。

この日サナリモリブデンは初めて、ゴールさえ出来ずにレースを終えた。

 

 


 

 

【レースリザルト】

 

競走中止

 

 

【レース成長処理】

 

成長:なし

経験:なし

獲得:なし

 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:287

スタ:240

パワ:264

根性:246

賢さ:211

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:C(17/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(20/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備/150Pt    (最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い/150Pt      (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ/100Pt    (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)/150Pt    (レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

弧線のプロフェッサー/250Pt(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

シンパシー/150Pt     (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

 

スキルPt:250

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆30

ソーラーレイ    絆25

チューターサポート 絆10

チームウェズン   絆35

 

 

【戦績】

 

通算成績:5戦2勝 [2-1-1-1]

ファン数:3631人

評価点数:900(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:きんもくせい特別

 

 



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クラシック級 2月 次走選択

 

 

【故障したウマ娘の快癒と復帰を願うスレ】

 

 

302:名無しのレースファン

デュオクリペスなんか追加情報あった?

 

303:名無しのレースファン

>>302

順調みたいよ

隣室ネキの報告によると今日は坂路やってたって

 

304:名無しのレースファン

ウマッター情報だと今月末か遅くても3月で未勝利走る予定らしい

再始動が具体的に見えてきて本当に嬉しい

 

305:名無しのレースファン

>>304

すまん、ウマッターのどこ?

探してみてるんだが見つからん

 

306:名無しのレースファン

>>305

本人じゃなくてトレーナーの方

一昨日の投稿な

 

307:名無しのレースファン

みつけた!

よかったなぁ

これでようやくソラクリの対決が見れるのか

 

308:名無しのレースファン

>>307

俺も楽しみでたまんないよ

あの激熱メイクデビュー今でもたまに見返してるもん

見る度にその後の故障報告まで思い出して落ち込んでんだけども

 

309:名無しのレースファン

わかる

突然すぎてダメだった

 

310:名無しのレースファン

レース中の故障は痛々しくてただただ辛いけど、トレーニング中の故障は油断してるとこに来るから唐突すぎて思考が止まるのよ……

 

311:名無しのレースファン

まぁ復帰できたからって勝ち上がれるとは限らないんですけどね

 

312:名無しのレースファン

>>311

やめろ

 

313:名無しのレースファン

>>311

喜びに水差すのはやめてくんねぇかな

 

314:名無しのレースファン

本当の事だろ

ジュニア7月から治療専念じゃ体の出来が違いすぎる

勝ってソーラーレイに追いつくなんてまず無理

 

315:名無しのレースファン

>>314

わかってる

わかってるから黙ってくれ

今は頼むから喜ばせてくれよ

 

316:名無しのレースファン

>>314

死ね

 

317:名無しのレースファン

>>314

デュオ家アンチか何かか?

そういうのは別にスレあるだろ

わざわざここでやるな

 

318:名無しのレースファン

別にアンチでもなんでもねーよ

故障から復帰したばっかの子に勝利なんて期待してやるなって言ってんの

メイクデビュー時点では能力のある子だったけど今はもう違うと思った方がいい

また走れるようになっただけで偉いんだ

それ以上を勝手に押し付けていざ負けたら失望したりするなって話

 

319:名無しのレースファン

>>318

もう黙ってろ

 

320:名無しのレースファン

>>318

勝手に期待して勝手に失望するとか、それこそ勝手に俺らを決めつけんな

テンプレ100回嫁

 

321:名無しのレースファン

>>318

理屈はわかるし同意もする

ただ言い方が悪すぎる

 

322:名無しのレースファン

>>320

テンプレには確かに復帰を願って叶えば祝福するだけとか書いてあるけどな

カルンウェナンの時にここのクズ共がやった事は忘れてないからな

 

323:名無しのレースファン

その名前出されたらなんも言えねぇのよ

 

324:名無しのレースファン

カルンウェナン?

誰?

 

325:名無しのレースファン

>>322

あの時の連中は全員掲示板自体からアク禁食らってる

一緒にすんなボケ

 

326:名無しのレースファン

>>324

知りたかったら自分で調べてくれ

ただし自己責任でな

ガチの胸糞だから

 

327:名無しのレースファン

ウェナン本人には届いてなかったっぽいのが幸いだわ

ネット見ない子で本当に良かった

 

328:名無しのレースファン

どうだかわからんぞ

引退後に知っちゃったパターンもあるかも知れん

 

329:名無しのレースファン

【速報】きさらぎ賞競走中止のサナリモリブデン、脚部の異常は軽度であり次走に影響なしとの発表

 

330:名無しのレースファン

>>329

おおおおお!

 

331:名無しのレースファン

>>329

よかったああああ

心配してたんだよおお

 

332:名無しのレースファン

>>329

明るいニュースたすかる

 

333:名無しのレースファン

>>329

折れたとかそういう風ではなかったもんな

安心した

 

334:名無しのレースファン

ごく軽い挫跖か

重くならなくてよかった

これくらいならって無理して走って悪化させる子多いとこを良く止まれたわ

道中かかりまくってたけど最後は落ち着けたんだな

 

335:名無しのレースファン

あれだけの大暴走からの故障がこれで済んで御の字よ

 

336:名無しのレースファン

普段のクレバーさがなかったもんな

気合入った走りする子だけどあんなぶっ壊れた走り方じゃない

1番人気でプレッシャーだったのかね

 

337:名無しのレースファン

元々入れ込んでたところに出遅れでトドメって感じだったな

 

338:名無しのレースファン

>>336

朝日杯でブリグラの内抜いた時の極まり具合とかな

あれと比べると今日のは空回り感がすごかった

 

339:名無しのレースファン

まぁともかく、このスレの管轄にならなくてめでたい

しっかり休んで鍛え直して次頑張ってもらえばいい

 

340:名無しのレースファン

うむ

無事ならなんぼでも取り返しはきくからな

 

 

 


 

 

全治一週間。

競走能力に支障なし。

念入りな検査の結果を受け取って診察室を出たサナリモリブデンと郷谷はひとまず安堵の息を吐いた。

 

「いやぁほっと一息ですねぇ。サナリさんが倒れこんだ時は肝が冷えましたが、最悪の事態は避けられて何よりです」

 

「…………ん」

 

「数日は安静が必要なので不便でしょうが、私が補助に入りますので心配はいりませんよ。学園の方には連絡して許可を取ってありますからサナリさんから外泊申請はしなくて大丈夫です」

 

「……うん。ありがとうトレーナー」

 

努めて明るく振舞う郷谷だが、対するサナリモリブデンの反応は鈍い。

いかに心の硬いサナリモリブデンとて流石に今回は堪えたようだった。

夜の病院、人気のない廊下にか細い囁き声が響く。

珍しくわかりやすい落ち込みを見せる彼女の頭を、郷谷はそっと撫でて慰めた。

大事を取って乗せられた車椅子の上で、サナリモリブデンは優しい手を静かに受け入れる。

 

「ごめんなさい……落ち込んでる暇なんてないのに。すぐ、いつも通りになるから」

 

ただ、それを長く続ける気はサナリモリブデンには無いようだった。

膝の上で拳を握りしめ、すぐにでも再起しようと心を固めていく。

 

「めっ」

 

「ぅんっ」

 

だが、唐突に郷谷がそれを阻止した。

頭を撫でていた手がそのまま伸び、サナリモリブデンの額を指で軽く弾く。

 

痛みは当然ない。

ただ理由が分からず、サナリモリブデンは困惑顔で郷谷を見上げた。

 

「ダメです。今は落ち込みましょう」

 

「……?」

 

「心が強くあるのは良い事ですが、それも時と場合です。苦しさを無理矢理拭って立ち上がるよりも、うずくまって泣いた方が傷が軽く済む事もあるんですよ。……人生経験はまだまだ浅い私ですが、見る限り今のサナリさんはそういう時かと思います」

 

下手人である郷谷はそんな彼女に包み込むような微笑みを向けて、言う。

対してサナリモリブデンは絞り出すように反論した。

 

「でも、落ち込んでる暇なんて」

 

「あります。全治一週間。安静にしていろとお医者さんに言われたばかりじゃないですか」

 

「───」

 

そして即座に正論で返され、言葉が止まる。

ポカンとした、いっそ間抜けにさえ見える表情だった。

 

「構いません。落ち込んでしまいましょう。一週間かけて、私と一緒に反省と後悔をするんです。気合を入れて立ち上がるのはその後ということで」

 

「……いいの?」

 

「当たり前です。サナリさんはずっと昔から今の今まで頑張ってきたんですから。ここで一度休憩を挟むのも悪くありません。考えようによっては、この怪我だってプラスになるかも知れませんよ?」

 

わしゃわしゃと。

郷谷はサナリモリブデンの頭をかき回した。

精神状態の影響か反応が鈍いサナリモリブデンは、小さく声を漏らすものの抵抗らしい抵抗を見せない。

 

「今は性急さはいらない場面です。一息入れてから、ゆっくり立ち上がりましょう」

 

「トレーナー……」

 

「ね?」

 

「……うん。ありがとうトレーナー」

 

つい先ほども漏らした感謝の言葉。

だがそこに含まれる感情は随分と違うものになっていた。

そのまま数秒。

 

それから、意を決したようにサナリモリブデンが口を開く。

 

「トレーナー」

 

「はい、なんですかサナリさん」

 

「……走れなかった」

 

「……はい」

 

「沢山の人が見てくれてたのに。期待してくれてたのに。自分が情けなくて、悲しくて……悔しかった。トレーナー」

 

言葉が止まり、車椅子の上でサナリモリブデンが俯く。

震える肩は嗚咽を堪えているのかと、郷谷は胸に走る痛みを覚える。

 

「…………それと、とても怒ってる。自分自身に」

 

「はい」

 

「今思えば、ファスターザンレイのアレは誘いだったんだと思う。私をかからせるための。考えれば分かったはずなのに簡単に乗せられた。今ならこうして判断できるのに、あの時はなんでかできなかった。許せない。こんな失態、恥ずかしくてたまらない」

 

「サナリさんだけのせいではありませんよ。むしろ責任があるのは私です。自分の担当が入れ込みすぎている事にも気付けないだなんて。……レース前に私が力を抜かせてあげるべきでした。本当にごめんなさい、サナリさん」

 

「違う、トレーナーは悪くない。私の心が弱すぎた。あれは無い。直線に入るまで頭が真っ赤で……あんな、何も考えてない走りを人に見せたなんて。それにスタートも酷かった。集中してるつもりが、つもりでしかなくて。真剣にレースに挑んでた他の子たちにも顔向けできない。次はあんな風には───」

 

「よーしよしよし、どうどうどう」

 

嗚咽ではなかった。

自分への怒りに体を震わせるサナリモリブデンを落ち着かせようと郷谷は手を尽くした。

頭をかき混ぜ、背を撫でて、優しく抱き寄せる。

ついでとばかりに頬に手を当ててマッサージするように揉み解してやれば流石のサナリモリブデンも停止した。

 

「……ごめん。取り乱した」

 

「仕方ありません。調子を崩して不安定になるとはそういう事です。やっぱり休む必要、ありそうでしょう?」

 

「うん。自覚できた。今の私はまだちょっとおかしい」

 

「はい。なのでのんびりしましょうね。さ、まずは晩ごはんにしましょう。美味しいものをお腹に入れて、それから温かいお風呂に入ってぐっすり眠る。今の最優先事項はこれですよ」

 

言いつつ、郷谷は車椅子を押して移動を始める。

サナリモリブデンも異を唱える理由はない。

 

敗戦の夜はこうして終わった。

 

 


 

 

それから一週間の後。

何事もなく治療期間を終え、医師からもトレーニングの許可が下りた。

当然その初日から全力を出すわけもなく、まずは軽い運動で様子を見る。

 

初めはプール内での歩行。

翌日には散歩に出て違和感がないかを確認し、さらに翌日にごく軽いランニングを試す。

 

「どうですか?」

 

「ん、良好。変な感じもないし、力もちゃんと入る。今まで通り」

 

「そうですかぁ。いやぁよかったよかった。これで本当に一安心ですねぇ」

 

その結果、サナリモリブデンに競走への支障なしと間違いなく断言できた。

精神面の調子も取り戻し、やる気に満ちながらもどこか適度に力の抜けたいつものサナリモリブデンに戻っている。

これならばトレーニングを再開しても問題ないだろうと郷谷も判断した。

 

ただ、今日すぐにとはいかない。

何か異常があった時の事を考えてトレーニング施設に予約を入れていないのだ。

2人はそのまま、双方とも自らの脚でトレーナー室へと向かう。

 

 

 

「では、次の予定を決めましょう」

 

「ん」

 

というわけで、今日できるのはそのくらいだ。

次走はどこを走るかを定め、トレーニングの予定を立てる。

ただし。

 

「とはいえ、流石に病み上がりで即レースは許可できません」

 

ひとつ制限が入る。

郷谷は顔の横に指を立て、言った。

 

「念のための措置ですが、3月はトレーニングのみです。レースに出るのはまだリスクがありますからね」

 

「うん。仕方ないと思う」

 

サナリモリブデンもそれに異論はない。

ゴールさえできない苦みは一度だけで十分だと噛み締めて、芦毛の頭を縦に振る。

無理をして再びの競走中止など、彼女にとって最も忌避すべき事態だ。

 

よって、タブレットに表示されるのは4月以降のレースのみだった。

 

 


 

 

【クラシック級 3月】

 

出走不可

 

 

【クラシック級 4月】

 

橘ステークス        春/京都/芝/1400m(短距離)/右外

 

ニュージーランドT(G2)  春/中山/芝/1600m(マイル)/右外

アーリントンカップ(G3) 春/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

皐月賞(G1)       春/中山/芝/2000m(中距離)/右内/ペンギンアルバム、他2名

青葉賞(G2)       春/東京/芝/2400m(中距離)/左

 

 

【クラシック級 5月】

 

葵ステークス        春/京都/芝/1200m(短距離)/右内

白百合ステークス      春/京都/芝/1800m(マイル)/右外

プリンシパルステークス   春/東京/芝/2000m(中距離)/左

 

NHKマイルカップ(G1)  春/東京/芝/1600m(マイル)/左/マッキラ、チューターサポート

日本ダービー東京優駿(G1) 春/東京/芝/2400m(中距離)/左/ペンギンアルバム、他2名

京都新聞杯(G2)      春/京都/芝/2200m(中距離)/右外

 

 


 

 

「…………」

 

表示された赤い文字を見て、サナリモリブデンはわずかだけ沈黙する。

 

背中が遠い。

マッキラだけではない。

同室のペンギンアルバムも、共にマッキラの後塵を拝したチューターサポートもだ。

 

既に王者との呼び声高いマッキラは、ジュニア級で5戦した上での共同通信杯という過酷なローテーションをものともせず無敗の6勝目を上げた。

その勝ち方も圧倒的という他なく、続くスプリングステークス、NHKマイルカップでも敵はいないだろうと誰もが口にする。

 

対するチューターサポートはシンザン記念を制し、勢いをつけてマッキラへ挑まんとしている。

マッキラ崩しの急先鋒とされていたサナリモリブデンがいまひとつな結果を示してしまった今、対王者の筆頭に名前を上げられるのは彼女だ。

 

そしてペンギンアルバムは弥生賞の大本命だ。

昨年末のホープフルステークスで勝利をもぎとった際に見せた末脚を過小評価する者はいない。

それどころか続くクラシック三冠、皐月賞、ダービー、菊花賞でも彼女が中心となるだろうとの声は大きい。

特に、2000は短すぎると本人が時折こぼす様子から後ろ2つでの走りに期待が寄せられている。

 

ただでさえ遅れている。

そこに来て今回の件だ。

サナリモリブデンは、ざわつこうとする自身の心を収めるために少しの時間を使う必要があった。

 

(……焦るな。今は、ひとつずつ積み上げるしかない。その先に道はあると信じる。大丈夫。トレーナーが、きっと連れていってくれる)

 

そうして落ち着いたサナリモリブデンは、日程表を睨みながらひとつの事柄を思い返す。

自分が何もせずにオープンクラスに残れるのは、5月末までだという事をだ。

それまでにオープン戦で1勝を上げるか、重賞で2着以内に入るか。

どちらかを達成しなければ6月以降のサナリモリブデンは2勝クラスになってしまう。

 

とはいえ、それも悪いとばかりも言えない。

出走できるレースは減るが、逆に言えば出られるレースは必ず実力に見合ったものになる。

分相応のレースで少しずつ経験を積み上げるのもそう悪くない選択ではある。

最短に見える道が常に最良とは限らない、という話だ。

急がば回れという言葉もある。

 

それを加味した上で、サナリモリブデンは郷谷との長い相談の末に、予定を決定した。

 

 

 



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クラシック級 2月次走選択結果~閑話/郷谷~3月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

白百合ステークス

 

 


 

 

5月、白百合ステークス。

それがサナリモリブデンの希望だった。

 

「……本当に、それでいいんですね?」

 

それを聞いた郷谷は聞き返す。

レースの条件が条件だったためだ。

 

京都レース場、1800メートルのマイル戦。

奇しくも先日競走中止となったきさらぎ賞と同じである。

重賞とオープンレースの違いはあるが、通常ならば忌避してもおかしくはない。

 

「うん。これでいい。……これがいい」

 

だが、サナリモリブデンは強く頷いた。

じっと郷谷を見つめる瞳にも確かな意志が宿っている。

 

「あのレースを忘れるわけにはいかない。このままにはしておけない。この悔しさと一緒に、もう一度あそこを走りたい」

 

「…………」

 

数瞬の間。

その後で、郷谷は。

 

「く、ふふ、本当に、サナリさんはサナリさんですねぇ」

 

たまらないという風に笑いを漏らした。

一週間の休養を経て戻ってきた鋼の少女がいかにもらしすぎて我慢が効かなかったらしい。

 

「えぇ、わかりました。その気持ちを尊重しましょう。登録と、5月までのトレーニングスケジュールは任せてください」

 

「ん、頼りにしてる」

 

話し合いはそれで終わった。

出走登録は問題なく行われ、サナリモリブデンの予定が確定する。

 

今日はそこまで。

翌日からのトレーニングに備え、2人はトレーナー室を後にして、休養の最後の夜をそれぞれ過ごす。

 

 


 

 

【閑話/郷谷静流は背負わない】

 

 


 

 

かきぃん。

 

と、快音が響いた。

機械から射出された白球が強かにバットで打たれ、遠く飛んでいった音だ。

ボールは山なりの放物線を描いて飛び、緑色のネットに当たって落ちる。

 

「うむ、ホームラン」

 

それを眺めて自己採点するのは、ざっくりしたウルフカットの髪型をした女性だった。

サナリモリブデンの専属トレーナー、郷谷静流である。

公的な場に出る時以外は年中似たような装いの彼女は今日も今日とてパーカーにジーンズといった姿だ。

左耳に4つもピアスが並び、社会人らしい雰囲気は微塵もない。

24歳という若さと合わせ、大学生と見られるのが彼女の常だ。

 

そんな郷谷はかっ飛ばした打球にうんうんと頷くと、再びバッターボックスで構えを取る。

少しの間を置いて、ピッチングマシーンから勢いよくボールが飛び出した。

速度の設定は時速140㎞。

素人では捉えるのは少々骨なそれを。

 

「ほいっと!」

 

かきぃん。

と、再びの快音を立てて郷谷は軽々打ち返した。

ボールは高く高く飛び、左方へと流れていく。

 

「うーん……これはファールですかねぇ」

 

打てるだけでも大したものなのだが本人は満足いく打席ではなかったようだ。

眉間に皺を寄せて唇を尖らせ、失敗と判定する。

今にもBOOと声を漏らしそうな顔でバットをくるくる回して息を吐く。

 

だがすぐに、ならば次だと構えを取った。

飛び出す白球。

振られるバット。

 

かきぃん。

 

「うむ、ホームラン」

 

今回は再び満足の一打のようである。

 

 

 

さて。

郷谷が何をしているかといえば、バッティングセンターでの遊戯だ。

より詳細に言えば、ストレス解消である。

 

2月、きさらぎ賞。

その最中に起きた出来事は郷谷に多大な負荷を与えた。

 

彼女にとって初めての専属担当。

しかも素直で従順、やる気に満ちていて教えた事は次々に吸収する。

その上に涼やかな顔をしておいて愛らしさもたっぷりと来れば、トレーナーという人種が溺愛しないわけもない。

当然郷谷も例にもれず、サナリモリブデンというウマ娘は他の何より特別な存在となっていた。

 

そんな愛バを襲った故障である。

サナリモリブデンが急激な失速を見せた瞬間には、心臓の中身が全て氷にでも変わったような錯覚を郷谷は覚えた。

続いて倒れるようにターフに座り込んだ時に悲鳴を上げて気絶しなかったのは奇跡に近かった。

あるいは、自身のショックよりもサナリモリブデンの救護を脳が優先したためかもしれない。

 

病院に運ばれ、検査を受け、その結果が知らされるまで。

郷谷は泣き叫んでそこら中に当たり散らしたいほどに内心を荒れ狂わせていたものだ。

 

もちろん実行には移していない。

彼女にはトレーナーとして振る舞う義務があったためだ。

落ち込むサナリモリブデンの手を握り励まし続ける郷谷に、悲痛な表情を浮かべる権利も泣き言を漏らす権利もなかった。

それは、当の本人であるサナリモリブデンだけに許された行為である。

 

そうして、そこを過ぎた後でもまた試練が待っていた。

次から次に湧き出す自責だ。

 

サナリモリブデンの過剰な入れ込みに、何故気付けなかったのか。

 

愛バの介助に努める一週間の中で、郷谷が己にそう問わない夜は一日としてなかった。

ベッドに入ってもろくに眠れない。

音を立てないように起き出してはきさらぎ賞の動画を何度も再生する。

そんな日々である。

必然的に濃くなり続ける隈を化粧で隠すのは大変だったと、介助最後の夜に郷谷はしみじみ思ったものだった。

 

 

 

かきぃん。

と、快音は鳴り続ける。

 

「んふふ、いいですねぇ。段々ノってきましたよ」

 

その度に、郷谷の心は少しずつ軽くなっていく。

バットを振るう適度な運動は心地よく、飛んでいく白球は爽快だった。

 

郷谷静流という女性は、自分がどういう人格かを熟知している人間だ。

悲しい事は苦手で、苦しい事は嫌い。

難しい事を考え続けるのは余りしたくなくて、辛い事は誰にも起こってほしくはない。

血反吐を吐いて目標へ進むより、カラカラ笑って走っていられる方が良い。

 

だからこそ、そう生きるためにはどうすべきかを知っている。

とにかく溜め込まない。

己の身を軽くしてしまう事だ。

それはそれ、これはこれと、心に棚を作る術に彼女は長けている。

 

何故サナリモリブデンの不調に気付けなかった。

これまでの快走に目がくらんで見誤ったからだ。

よし、原因がわかったから次からは気を付けよう。

 

それで、キッチリとスイッチを切り替えられるのが郷谷なのである。

反省し対策した。

ならばそれ以上引きずっては損しかないと切り上げて、悪い方へ考えを進めないように出来る女だ。

 

それは郷谷自身の心を守るためでもあるし。

何より。

 

 

 

「よっ、と!」

 

かきぃん。

 

白球が飛ぶ度に、郷谷の心は軽くなる。

淀みが消えて思考の流れが整い、一人の弱った人間から一人の頼れるトレーナーへと戻っていく。

少なくとも、そうであると郷谷は信じていた。

 

 

 

正直なところ、郷谷はサナリモリブデンを理解できていない。

 

2人が出会ってすぐの頃、郷谷は自分は死んだら忘れられたいタイプだと語った。

それはまさしく郷谷の本音である。

死んだ後、誰かが自分を想ってさめざめ泣く様を想像すると彼女はなにやら胃の腑が重くなるような感覚を覚えるのだ。

 

だから郷谷にはサナリモリブデンがわからない。

生きた証を刻み込むという言葉の意味は分かっても、そこに込められた想いの嵩までは量りきれない。

まして、そのためにサナリモリブデンが重ねてきた努力の数々は全く意味不明だった。

 

だが。

理解できないからこそ、郷谷はサナリモリブデンを支えている。

 

郷谷静流という女性は、悲しい事は苦手で、苦しい事を嫌っている。

難しい事を考え続けるのは余りしたくなくて、辛い事は誰にも起こってほしくはない。

血反吐を吐いて目標へ進むなんて頼まれてもやりたくはない。

 

だからこそ、それらに平然と耐えて見せる者の尊さを知っている。

 

軽く、軽く、風でも吹けば飛びそうな自分自身と比較して。

理解さえ拒みたくなる重荷を背負う者を、率直にすごいなぁと尊敬し、報われてほしいと願える人間が郷谷だった。

 

 

 

かきぃんと、ボールが飛んでいく。

 

都合、50球。

空振りなし。

見ていた者が居れば思わず拍手を禁じ得ない好成績を残して、郷谷は遊戯を終えた。

 

心の澱はもう無い。

明日から再び始まるトレーニングの日々に向け意気揚々と施設を後にする背は、しっかりとトレーナーらしい姿になっている。

 

 

 

報われるべき人が報われるように。

そしてその助けを、自分がわずかでも担えるように。

郷谷は自身の荷を下ろし、重荷を負う者の隣を歩む日常に帰っていった。

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「蟻地獄」「ゾンビ」「接客業」

 

 


 

 

「映画?」

 

「そう、映画」

 

サナリモリブデンの端的な問いに、同じく端的な答えが返された。

場所は教室。

会話の相手は癖毛が特徴的なウマ娘だった。

チューターサポート。

彼女は手に持ったチケットらしきものをぴらぴらと揺らしながら言う。

 

「優待券もらったんだよね。2枚あるから、折角だしどうかなと思って」

 

それは彼女の言通りのものだった。

学園から電車に揺られること15分ほどの所にある、小さな映画館のチケットだった。

タダとまではいかないものの、75%OFFで好きな映画を選んで見られる優待券である。

 

サナリモリブデンとしては特に断る理由もない。

チューターサポートとはそれなりに親しくしている。

休日を共に過ごすのは良い息抜きになるだろう。

映画を見終わった後に少しばかり街をぶらついてみる選択も悪くないと、誘いを受ける。

 

「ん……うん。土曜日でよければ」

 

「土曜ならこっちも都合が合うよ。じゃあ決まりだ」

 

それに、チューターサポートも喜んだ。

にんまりと笑みを浮かべ、隣の席から椅子を引っ張ってきて座る。

 

「へへ、助かっちゃったな。なにせこの映画館って一人で行っても楽しくなさそうでさ」

 

そして、サナリモリブデンの机の上に数枚のパンフレットを並べる。

 

 

 

『20XX年 砂漠化した日本に───ヤツら、上陸!』

 

ビル群を飲み込む砂漠。

そこから顔を出す、大きなアゴを持った毛だらけの(そして明らかにゴム製の被り物っぽい質感の)巨大な虫……おそらくアリジゴク。

アリジゴクはアゴで人間を捕まえて引き裂こうとしているようで、銃器で武装した屈強な男がそれに立ち向かおうとする姿が描かれている。

なお、舞台は日本のはずだが銃器はバカでかいマシンガンであり、男はどう見ても筋肉ムキムキマッチョマンの白人である。

 

 

『ごめんなさいトレーナー。私……ゾンビになっちゃった!』

 

表紙に立つのは一人のウマ娘だ。

灰色の髪に灰色の肌、煽り文句の通り恐らくはゾンビなのだろう。

しかし悲壮感らしいものはなく、頭を抱えて叫ぶ姿はどこかコメディチック。

パンフレットをひっくり返して裏を見てみれば、レース場のど真ん中で、半ばで千切れた(そして明らかに作り物めいた雑な出来の)腕を見つめて数人がギャグ調の驚き方を見せている。

 

 

『この俺の前では誰一人、腹が減ったなんて言わせねぇ!』

 

鮮やかなゴテゴテしいパンフレットの中で、一人の男が振るう中華鍋からチャーハンの米粒が飛び上がる。

その量は優に10キロはあるのではないかという程。

背景の厨房には他に大量のステーキを焼く鉄板やピザを焼き上げている窯が並ぶ。

どうやら飲食店の一角のようで、ちらりと見える客席には無数の(そして明らかに合成とわかる同じ顔が沢山含まれた)ウマ娘達がよだれを垂らして待機していた。

 

 

 

「どう? 聞いた事ある映画、ひとつでもあった?」

 

「なにこれ知らない」

 

パンフレットを確かめ終えたサナリモリブデンは困惑した。

どれも全く聞き覚えのない映画だった。

そして例外なく明らかに映像がしょぼく、作りが雑で、脚本もアレに思える。

 

「この映画館、B級専門らしいんだよね」

 

「びーきゅう」

 

彼女は映画にさほど詳しいわけではないが、そういったものの存在は耳にしたことがあった。

低予算かつ短期間で撮影された、ちょっとアレな映画群の総称だ。

一般的にはクオリティも相応に低く見るに堪えないもの……と、されている。

 

オウム返しをしながら、サナリモリブデンはなるほどと頷く。

確かに内容に期待できない映画を一人で見るのは辛い時間だろう。

巻き添えを求めたチューターサポートの行動も理解できる。

 

「で、改めて聞くけど、本当に行く? 今ならやっぱやめたって言ってもいいけど」

 

「ん、行く。興味はなくもない」

 

「誘っておいてなんだけど本気? 本気っぽいなぁ……」

 

そして理解した上で改めて誘いに応じた。

 

これまで触れたことがない。

だからちょっと触れてみたい。

その程度の軽い好奇心からの事だが、ともかくサナリモリブデンの休日の予定は決まった。

本当に付き合ってもらえるとは思ってなかった、などとこぼすチューターサポートと共に、パンフレットの中から一枚を選ぶ。

 



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クラシック級 3月イベント結果~3月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

ゾンビランナー ~命尽きても走れよ乙女~

 

 


 

 

そして当日。

午前10時に待ち合わせたサナリモリブデンとチューターサポートの2人は、映画館前で落ち合った。

よっ、とばかりに片手を上げて癖毛のウマ娘がサナリモリブデンの前へとやってくる。

 

「お待たせ。待った?」

 

「大丈夫、今来たところ」

 

なんてお決まりの挨拶を済ませ、そのまま館内に入る。

1回目の上映は10時30分から。

窓口でチケットと優待券を引き換え、オマケに大盛りのポップコーンとLサイズのコーラも購入する。

 

「やっぱり映画といったらコレがなくちゃね」

 

チューターサポートは歯を見せて楽し気にそう言った。

映画館の経験が殆どないサナリモリブデンも、その定番についてはテレビなどで見聞きしたことはある。

なるほどこれがと納得しつつ、座席番号を確認しつつ席につく。

 

スクリーンはサナリモリブデンの予想よりも小さかったが、これは仕方ないだろう。

何しろこの映画館はB級専門だという。

需要を考えれば余り設備に投資もできないに違いなかった。

 

「……でも、意外と人はいる」

 

「ね。ちょっと驚いたかも。もっとガラガラかと思ってた」

 

ただ、その割には客は居た。

2人はこそこそと、ほんの小声で囁き合う。

満席には程遠く空席の方が多いが、サナリモリブデン達の他に10人以上は入っている。

 

今日、この時間に上映される映画は「ゾンビランナー ~命尽きても走れよ乙女~」という題名だ。

そのいかにもB級らしい題と、パンフレットに映っていた各場面の安っぽさから、2人は到底内容に期待していない。

だがもしや、とサナリモリブデンは考える。

 

「これだけ人が来るってことは、もしかして良い映画だったりする?」

 

「どうかなぁ……怖いもの見たさって可能性もあるよ」

 

「む……」

 

対するチューターサポートは懐疑的なままだ。

そしてその意見には、実際怖いもの見たさでやってきたサナリモリブデンは反論できない。

 

そうこうしている内に、上映時間がやってきた。

ブザーが鳴り、館内の照明がゆっくりと消えていく。

スクリーンに光が投影され、まずは上映前のお決まり、CMが始まる。

 

期待と不安を半々に、サナリモリブデンはポップコーンをつまみながらもスクリーンに集中し始めた。

 

 


 

 

そして、70分後。

2人は映画館を出てすぐ隣の喫茶店に入っていた。

大手チェーンであり、そこそこの品質とがっつりの物量、そしてお財布への優しさで知られる店だ。

レース賞金で稼いでいるとはいえ、まだ学生で金銭管理は親やトレーナーに任せている2人にはちょうどいい価格帯である。

 

そこで2人は小さなテーブル席に向かい合って座り、とりあえずのコーヒーを頼んだ。

始まるのは感想会である。

 

「いやー……うん。見終わったわけだけど……どうだった?」

 

まず口を開いたのはチューターサポートだった。

探るような視線と声色。

それに、サナリモリブデンは率直に返答する。

 

 


 

 

【映画の採点/1~100点のランダム】

 

サナリモリブデンの結果:9点

 

チューターサポートの結果:12点

 

 


 

 

「9点。100点満点で」

 

「うん、そんなもんだよね」

 

ふんすと鼻息と共に返った答えに、チューターサポートは苦笑と共に同意した。

目を半目にし、頬杖をついた体勢で深々とため息を吐く。

 

「そっちは何点くらい?」

 

「私が採点するなら12点かなぁ……」

 

「すごく妥当」

 

今度はサナリモリブデンが激しく首を縦に振る。

 

「いやもうさ、映画の軸がブレすぎでしょ。ラブコメなのかスポ根なのかもわかんないし、コメディとシリアスの反復横跳びが多すぎるしシュールギャグにも走るし」

 

「ん……分かる。最後のレースシーンは特にひどかった」

 

正直に言って、粗悪もいいところだったのである。

話に出たクライマックスは特にだ。

 

全体の話の流れとしてはこうだ。

ある日、トゥインクルシリーズで活躍していたとあるウマ娘が病で死んでしまったが、レースへの未練の余りにゾンビになって動き出してしまう。

彼女は愛するトレーナーの協力を得て、死んだ事実を隠したまま走り続ける事を選んだ。

しかし、死んだ体は死んだまま。

少しずつ腐り始める体からはレースを走るための力は失われていき……。

 

と、ここまでは中々期待の出来るあらすじだ。

 

だがその内容を追っていくととにかくひどい。

腐っていく体を恐れ泣いていたシリアスシーンの次に「突然腕が千切れて困っちゃったゾ☆」というレベルのコメディが挿入されたり。

例え君が死んでいても世界で一番愛していると大真面目に愛を語ったトレーナーが5分後には鼻をつまみながらハエ対策の殺虫剤を主人公に吹きかけていたり。

果ては物語の主軸、主人公が死んでも走る理由が、最初は「待っているライバルと戦うため」だったはずなのにいつの間にか「トレーナーとの愛を証明するため」にシームレスに変わっていたり。

そしてそれらの全てが単調どころか全く動かないカメラワークと粗雑なセット、棒読みの大根演技で繰り広げられるのだ。

 

また、こういった物語では必須とも言えるだろう、秘密がバレそうになる場面がどこにもない。

疑いを抱いたファンと必死に隠そうとする主人公サイドの駆け引き……といった見せ場はゼロだ。

映画の中の世界は終始主人公とトレーナーの恋愛にゾンビ要素を交えたものでしかなかった。

序盤で語られたライバルウマ娘も写真での登場のみ。

 

レース要素でさえ、時折挟まれるランニングマシン以外出てこないトレーニングシーンと、トロフィー前での会話だけで示されるレースで勝ちましたよという報告だけ。

これはチューターサポートによる確度の高い予想だが、恐らく撮影用のコースを借りる予算をケチったのだろうとの事。

サナリモリブデンとしても多分そうかもと頷ける。

 

問題のラストシーンにいたっては、チューターサポートいわく頭が痛くて頭痛がした、との事。

日本語を話す力さえ奪われている。

だが実際それに相応な内容ではあった。

 

腐り続ける主人公の体はいよいよ秘密を隠しておけるような状態ではなくなる。

これ以上走れば体が崩れてファンにもバレてしまうだろう。

それでもと、トレーナーの反対を押し切って主人公は出走を決める。

 

そして。

 

「……あの崩れ方はさぁ。ないよ」

 

「うん。ちょっと擁護できない」

 

2人の言う通り、それはもうひどかった。

燃え上がる愛の力で生前以上の力を発揮した主人公はレースを圧勝する。

その代償に彼女の腐った体はついに崩れ落ちた。

 

……のだが、その崩れ方が問題だ。

まるで吸血鬼モノのラストシーンで、悪の限りを尽くした吸血鬼が日光に裁かれて灰になるかのような描写の仕方だったのである。

しかも「ここで盛り上げるぞ!」と言わんばかりに数十秒をかけて。

長く、長く、長く、そして単調に響き渡る主人公の悲鳴があまりにもシュールだったのを2人は忘れられない。

 

それに比べればまだマシだが、その後も微妙だった。

あ、ここグリーンバックに緑の服着て撮ったんですね?

と誰にもそう分かるくらいに合成背景から浮きまくった主人公の生首がトレーナーに最後の愛を告げるのだが。

その背景がレース場から謎の丘に変わっている上に、やはり謎の幼いウマ娘集団が笑顔でランニングしているのだ。

これまたチューターサポートによる確度の高い予想だが、合成用の背景を撮影するのを忘れたかそれとも手間と費用をケチってか、フリーの映像でも使ったのだろうとの事だ。

多分間違いないとサナリモリブデンも同意したところである。

 

「しかもその後で平然と生きてるしさ主人公。いや死んでるんだけども」

 

「トレーナーの部屋で鉢植えから首が生えてるのは、その、なんていうか、なんだろう……」

 

「大丈夫、無理に言葉にしなくていいから。わかるよ……」

 

「うん……」

 

「なんかもう、ごめん。こんなのに誘っちゃって」

 

「ううん。見ると決めたのは私だから。それに、あれと1人で戦わせる事にならなくて、よかった」

 

「サナリ……!」

 

チューターサポートがすっと手を持ち上げ、差し出す。

その手をサナリモリブデンは黙って握った。

今の彼女たちは戦友になった気分であった。

共にB級どころかZ級に足を踏み入れている映画を観て生き残った事を労いあい、半ば死んだ目で頷き合う。

 

と、そこに。

 

「失礼します。こちら、あちらのお客様からですが、お受け取りになられますか?」

 

突然、店員の一人が大きなパンケーキを持ってやってくる。

2人が「あちらのお客様」とやらを見てみれば、そこには女性が座っていた。

疲れ切った雰囲気に死んだ目。

そして、先ほど映画館の中、近くの席で見たような記憶のある背格好。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「えぇと、お受け取りになられる、という事でよろしいでしょうか……?」

 

同志だと確信し、サナリモリブデンとチューターサポートは無言でサムズアップした。

謎の女性も同じく返し、意思の疎通は完了する。

受け取ったパンケーキは大変に美味しく、乾いた心に甘味は優しく染み込むようだった。

 

 

 

その後、気を取り直した2人は損失を補填するように街をブラついた。

新しい服を見繕い、甘味系の屋台をハシゴして、寮の自室に飾る小物を物色する。

そのどれもを先導したのはチューターサポートだが、サナリモリブデンも普段訪れない店の数々を存分に楽しんだ。

 

そうやって時間を過ごし、気がつけば夕方近く。

門限に間に合うようにと電車に乗り、そうしてサナリモリブデンの休日はそれなりの充実を見せて終わりとなるのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

有効:チューターサポートの絆+10

成長:根性+20

獲得:スキルPt+30

 

チューターサポート 絆10 → 20

 

スピ:287

スタ:240

パワ:264

根性:246 → 266

賢さ:211

 

スキルPt:250 → 280

 

 


 

 

【3月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

 



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クラシック級 3月トレーニング結果~4月ランダムイベント

 

 


 

 

【投票結果】

 

賢さトレーニング

 

【友情トレーニング判定】

 

成功率:絆×1/3

 

ペンギンアルバム:失敗

チームウェズン:失敗

 

 


 

 

「さぁお勉強の時間ですよー」

 

「む……」

 

軽く芝のコースを流した後、待っていたのはタブレットを持った郷谷だった。

画面には学習用のアプリが表示されている。

サナリモリブデンは運動後の茹だった頭のまま、それの解答に取り掛かった。

 

今月の重点強化項目は賢さである。

 

レースにおける賢さとはどういうものかと言うと、酸素の不足した状態でどれだけ頭を回せるかという点に尽きる。

理性が緩み、本能が力を強める興奮状態。

その中でどれだけ普段の冷静さを保ち、正常な思考を行えるかという事だ。

これを鍛えるには当然、室内での勉強だけでは足りない。

 

「制限時間は5分です。はいスタート」

 

よって、走り込みでかいた汗を拭う間もないままサナリモリブデンはタブレットに向き合う。

まだ息も整っていないが呼吸器が落ち着くのを待つ時間もない。

郷谷によって用意された問題集は、5分全てを文章の熟読と回答記入に費やしてギリギリというところだった。

サナリモリブデンが全力で取り組みさえすればなんとか間に合う、というポイントを突くのが郷谷は妙に上手い。

 

「……!」

 

そして、全力で取り組むという事に関してサナリモリブデン以上のウマ娘というのはそういない。

彼女は真剣な表情で問題集に没頭していった。

 

数十分の基礎トレーニングと、数分間の問題集攻略、そして10分程度の休憩。

サナリモリブデンは1か月の間、そういったメニューをこなす事になる。

 

「はいそこまで」

 

「ん。……なんとか、できた」

 

「流石サナリさんです。採点結果は……うん、95点。上々ですね」

 

「……間違い、どこ?」

 

十分だと褒める郷谷に、完璧を求めて眉をしかめるサナリモリブデン。

郷谷は苦笑する。

こうなると小休止の時間は反省に費やされがちだ。

ベンチに並んで腰かけ、ドリンクで失った水分を補給しながら、郷谷は要修正箇所を提示する。

サナリモリブデンはそれに素直に頷き、ミスを飲み込んで消化した。

 

こうして、サナリモリブデンは少しずつ疲労した脳での思考に慣れていく。

それはきっと、レースでも彼女の力になるだろう。

 

 


 

 

【トレーニング判定】

 

成功率:失敗5%→0%(トレーナースキル)/成功85%/大成功15%

 

結果:成功

 

 


 

 

【トレーニング結果】

 

成長:賢さ+30/スピード+10/根性+10

 

スピ:287 → 297

スタ:240

パワ:264

根性:266 → 276

賢さ:211 → 241

 

 


 

 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「ネイルアート」「スイートピー」「ベーカリー」

 

【登場人物判定】

 

各員同確率/複数人登場率50%

 

結果:ペンギンアルバム&チューターサポート

 

 


 

 

ここ最近、サナリモリブデンは街を出歩く機会が増えた。

 

変化のきっかけは先日の映画である。

あの一件で芽生えたのはチューターサポートとの強い連帯感だ。

同志、あるいは戦友、もしくは道連れ。

呼び方はともかくとして、70分間の地獄を共に乗り切った事で2人の距離は確実に縮まっていた。

 

「あ、ここだよここ。レイに教えてもらったんだよね、評判の店」

 

というわけで、今日のサナリモリブデンはチューターサポートに連れられてとある店を訪れた。

ネイルサロンだ。

通りに面した部分はガラス張りになっており、内部の煌びやかな様子が見て取れる。

 

こういったオシャレに縁の薄いサナリモリブデンは分かりやすく狼狽した。

 

「爪……?」

 

「そうそう。サナリだってネイルアートくらい聞いた事あるでしょ? あれのお店」

 

「ある、けど。自分でやるのは考えた事なかった」

 

「あはは、サナリってあんまり飾り気ないもんね」

 

腰の引けている様子を見てチューターサポートがカラリと笑う。

しかしバカにした様子ではもちろんない。

そんな彼女はごく自然な動作でサナリモリブデンの手を取った。

 

「でももったいないと思うよ。サナリの指って綺麗な形してるしさ」

 

「……そうかな?」

 

「うん。スラッとしてるし、色も健康的だし。わ、感触もすべすべ。なにか手入れしてるの?」

 

「特には何も。お風呂上がりに同室の子から教えてもらったクリーム塗ってるくらい」

 

「それでこれかぁ。じゃあ天然ものだ。こんな綺麗なんだしさ、1回くらい試してもいいんじゃない?」

 

そう褒められればサナリモリブデンとて悪い気はしない。

店先の案内に書かれた料金表も手頃なところ。

更には初回のみ50%OFFのサービスもあるようで、ネイルアート初体験に踏み切るには絶好の機会と言えた。

 

「……分かった、やってみる」

 

「へへ、やった。実は私も初めてなんだよね。仲間が欲しかったんだ」

 

「また道連れだ」

 

「いいでしょ? 一蓮托生ってことで」

 

「ん……仕方ない。戦友の言う事だから」

 

「助かるよ、相棒」

 

冗談めかして笑い合い、2人は店のドアをくぐった。

 

 


 

 

そのネイルサロンは初心者にも優しい店だった。

華やかなイメージとは異なり静かで落ち着いた雰囲気の店員から2人は施術を受けた。

 

まずはデザインや色彩の好みを確かめ。

次に基本的な爪の手入れを実践と共に教わり。

それから爪の上にジェルを塗っていく。

このジェルは数分で乾いて固まるもので、少しずつ色を乗せては乾かし、飾りを乗せては乾かしを繰り返していく。

わずかずつ、しかし着実にキラキラと輝いていく指先にはサナリモリブデンもチューターサポートも思わず夢中にさせられた。

 

2人は揃いのデザインのネイルアートを施した。

可愛らしい薄桃色の花、スイートピーだ。

店員の得意なモチーフであるらしい。

門出、という花言葉を持つ花で、初めてのネイルアートにはもってこいだった点も選んだ理由のひとつ。

細部まで丁寧に仕上げられた素晴らしい出来栄えである。

 

「すごいなぁ、プロって……」

 

「うん。すごい。これはすごい」

 

「すごいよねぇ……」

 

その余りの出来の良さに語彙力を失う2人であった。

感嘆のため息を何度も漏らしながら、店先の道端でしげしげと自分の指先を眺めている。

ただでさえ精緻な意匠の花。

それが爪1枚ごとに形を変えて描かれ、しかもどれもが負けず劣らずの優美さだ。

 

もし自分がネイルアートの勉強を始めたとしてここまで至れるか。

サナリモリブデンはなんとなしにそう考え、すぐに結果に行き着く。

まず無理だ。

プロってすごい。

頭の中で再び語彙力に乏しい感想を流し、感嘆をさらに追加する。

チューターサポートの側も似たようなものだった。

 

「あれ? サナリン珍しいとこにいるー」

 

と、そこに声をかける者があった。

大変に聞き覚えのある声に、サナリモリブデンがようやく爪から視線を移す。

 

「アル?」

 

「はーいサナリンのアルちゃんだよー。こんなとこでどしたの?」

 

へにゃっとした笑みを浮かべてアル───サナリモリブデンの寮での同室、ペンギンアルバムが手を振る。

小柄な体で紙袋を抱えた彼女はご機嫌な様子だ。

そんな彼女にサナリモリブデンは手を差し出した。

 

「ん。これ、やってもらった」

 

「わ、スイートピー。ここのネイルいいよねぇ。私も最初はこれにしたなぁ」

 

「アルもやった事あるの?」

 

「ここ、トレセンでも評判だしね。休みの日にたまに使ってるよ。実は今日もそうだし」

 

自分の体に芸術が乗っかるのって面白いよねぇ、とペンギンアルバム。

それにサナリモリブデンもわかるわかると頷く。

初めての体験は新鮮な喜びをもって、彼女の感性に心地よい刺激を与えてくれたようだ。

 

「……ペンギンアルバム? え、本物だ……」

 

「偽物がいる話は聞いた事ないけどなぁ。そっちはチューターサポートじゃん。本物?」

 

「私こそ、偽物が出るほどのものじゃないでしょ。……名前知られてるとは思わなかった。こっちはチューターサポート。サナリの友達やってる。よろしくね」

 

「よろしくー! 知ってるみたいだけどペンギンアルバムね。サナリンとは同室なんだ」

 

そこでチューターサポートが話に加わった。

サナリモリブデンと親しく話すペンギンアルバムに驚いている様子。

さもありなん。

ペンギンアルバムと言えば今期のクラシックにおける台風の目だ。

マイルならばマッキラ、中距離以上ならばペンギンアルバム。

そういうレベルの存在である。

対するチューターサポートも対マッキラの刺客として名前は売れているが、比較になるほどではない。

 

なおちなみにだが、短距離とダートは群雄割拠の状態だ。

誰か1人が飛びぬけているという状況とは遠い。

 

「あっと、ごめん。ネイルしに来たって言ってたよね。邪魔だった?」

 

挨拶を交わした後、チューターサポートは慌てて脇に避けた。

サナリモリブデンもハッとしてそれに倣う。

爪の見事さに見惚れる余り、入り口の前で立ち止まってしまっていたのだ。

 

「やー、だいじょぶだいじょぶ。ここ入る前にやる事あるしさ」

 

が、それに対しペンギンアルバムはひらひら手を振って笑った。

そして、抱えていた紙袋を掲げてみせる。

その中からはなんとも言えず良い香りが漂っていた。

 

「……パン?」

 

「そ! 隣の通りにね、美味しいベーカリーがあるんだ。この時間に来ると焼きたてが並んでるんだよねぇ」

 

ふわりと鼻に届く、焼きたての小麦の芳香にはサナリモリブデンも食欲を刺激された。

チューターサポートも同様のようだ。

ごくりと唾を飲む音がサナリモリブデンの耳にも届く。

 

「サナリ、今日のお昼はパンにしない?」

 

「同感。今、すごく小麦が食べたい」

 

「へっへ、布教成功~♪ でもどうかなー、難しいと思うよ」

 

ペンギンアルバムのその言葉に、2人は揃って首を傾げた。

何故パンを食べるのが難しいのか。

その理由を、ペンギンアルバムはぴっと指差して告げる。

 

「だって、その爪でパン掴むのちょっと嫌じゃない?」

 

「……む」

 

言われ、サナリモリブデンは唸った。

確かにそれは少し嫌な気分である。

これほど見事な作品にパン屑をつけてしまうのは、なんだか冒涜のように感じられたのだ。

 

「だからここに入る前に食べる事にしてるんだ。始まっちゃったら時間もかかるしね」

 

「慣れてる……」

 

「慣れてるもんね」

 

ペンギンアルバムはおしゃれにも気を遣うタイプの少女だ。

自室の机回りは可愛らしく飾られているし、身につけるリボンなどもサナリモリブデンと違って毎日気分によって変えている。

経験値の差が如実に表れていた。

 

「あ、そうだ。だったらこうすればいっか」

 

「?」

 

「はい、あーん」

 

と、そこでペンギンアルバムが少々突飛な行動に出た。

紙袋からパンをひとつ取り出し、そのままサナリモリブデンの口元に運ぶ。

 

なるほど、とサナリモリブデンは納得した。

確かにこれならば爪を汚さずに食べられる。

そしてペンギンアルバムとは、今更その程度で遠慮する仲でもなかった。

 

「ありがとう。……はむ」

 

「いいってことよ。どう? 美味しい?」

 

「……!」

 

もぐもぐと咀嚼しながらサナリモリブデンは目を輝かせて頷いた。

流石は食にこだわるペンギンアルバム推薦のベーカリーである。

噛むほどに香り立つ小麦は芳醇の一言。

ふわふわとした柔らかい食感も楽しく、中にたっぷり詰められたあんこはサッパリした甘さで生地との相性が抜群だった。

 

「んひひ、どうぞごひいきにってね。この辺はお店の競争激しいからさ、繁盛に協力してあげてよ」

 

「ん、了解。この味なら異論なし。絶対また来て食べる」

 

「やりぃ。あ、そっちも食べる?」

 

「え、えっ? 私も?」

 

そして次に、ペンギンアルバムはサナリモリブデンに餌付けしながら同時にチューターサポートにもパンを差し出した。

こちらはどうやらチョココロネだ。

ぐるぐると巻かれた生地の中に覗く、とろっとしたチョコが実に美味しそうである。

 

ただ、チューターサポートは困惑している。

彼女はペンギンアルバムと初対面だ。

にもかかわらず道端であーんは少々ハードルが高いらしい。

 

最高に美味しいあんぱんを更にひと口かじりながらそれを見るサナリモリブデンは、助け船でも出すべきかどうか少々考えた。

 

 



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クラシック級 4月イベント結果~閑話/T&M~4月トレーニング選択

 

 


 

 

【投票結果】

 

ペンギンアルバムと一緒になって勧める

 

 


 

 

よし、とサナリモリブデンは決断した。

ここは助け舟を出すべきである。

そう考え、あんぱんをしっかり味わってから飲み込み、口を開く。

 

「味は私も保証する。食べないのはもったいない。恥ずかしさを我慢してでも食べる価値はあると思う」

 

ただし助け舟はペンギンアルバムの方にだ。

実際、吐いた言葉に値するだけの美味ではある。

焼きたての今でなければ味わえない極上の逸品だ。

逃す手はないぞと、サナリモリブデンは大真面目に告げた。

 

「い、いやでもさ……」

 

「とても美味しい。オススメ」

 

「うんうん、絶品だよー。ほれほれいい匂いでしょ」

 

チューターサポートの顔の前でペンギンアルバムがチョココロネを揺らす。

すると小麦の香りがふわふわと漂い、鼻に吸い込まれて食欲を刺激した。

オマケの追撃とばかりにチョコの甘い香りも一緒にだ。

 

「う、うぅ……」

 

ゴクリ、とチューターサポートの喉が動く。

あと一押しといったところ。

ならばと、サナリモリブデンはその一押しを担当する事とした。

 

「アル。チューターサポートがいらないなら私が食べたい」

 

「お? おっけおっけ、そんなに気に入っちゃったか~♪」

 

真っ向からのおねだり。

それにペンギンアルバムは機嫌よく応じた。

チョココロネは引っ込められ、サナリモリブデンの方へ移動しようとする。

と。

 

「あっ、ま、待って……!」

 

縋りつくような声。

もちろんチューターサポートのものだ。

それを聞いた途端、コロネの移動はぴたりと止まる。

 

そして、ペンギンアルバムの顔が"にまーっ"となる。

引っ掛けられた、とチューターサポートが気付いた時にはもう遅い。

 

「んっへっへ、いいよぉ、待つよぉ~。遠慮なんかしないでさぁ、パクッといっていいんだよぉ?」

 

「ん。自分で止めたんだから食べるべきだと思う」

 

「さ、サナリまで……。ぐぅぅ、なんかすっごい納得いかない」

 

納得いこうがいくまいが、吐いた言葉は戻らないものだ。

戦友に後ろから刺されて歯噛みするも、それはそれ。

引き留めてしまった以上はチューターサポートの負けである。

 

それでも少しの間ためらいを見せたものの、彼女はしぶしぶと口を開けた。

恥ずかしさで頬を赤くしながらもコロネにかじりつく。

 

「…………!」

 

そして、その瞬間に目を見開いた。

顔の赤みが引き、代わりに瞳の中の光がどんどん大きくなっていく。

耳は小刻みに震え始め、尻尾の毛が逆立って大きく持ち上げられた。

感動が体の中を駆け巡る様がありありと、それこそ手に取るように分かるほどの様子だ。

 

「なにこれ美味しっ!」

 

それは言葉でも表現された。

興奮を隠せないチューターサポートはかじった跡の残るコロネを見て叫ぶ。

 

「チョコ、チョコが凄い! まだほんのり温かくてトロトロで、生地に沁みるみたいに溶け込んでいく……! パン全体が均一にふかふかだからそれがスムーズなんだ! その影響で全体がチョコの香りに包まれて、なのに甘さがしつこくない! なんだろうこれは……小麦の強さ? 包容力? とにかくパンがチョコをしっかり包み込んで味の具合も香りの強さも一番いいところに抑え込んでる。お、恐ろしいほどの完成度……! 信じがたいけど、完全に計算しつくされてるとしか思えない! これ作った人はもしかして天才なの!?」

 

「いや食レポすごいねビックリした」

 

「急にどうしたの」

 

「……わからない。なんか急に降ってきたというか、自分でも驚いてる。なんだろうこれ」

 

「シンプルにこわい」

 

ちょっと引くサナリモリブデンはともかく、チューターサポートもパンを気に入ったようだ。

余りの美味しさに羞恥心は消え飛んだらしく、そこからはモリモリとコロネを食べ始める。

隣ではサナリモリブデンもあんぱんをモリモリ食べる。

そして2人にパンを差し出し続けるペンギンアルバム。

 

ネイルサロン前に謎の空間が形成されていた。

道行く人々がちらちらと視線を投げていくが、3人とも全く気にしていない。

そうしてさらにもう1個ずつパンを消費して全員が満足する。

 

「ん、ごちそうさま。ありがとう、アル」

 

「私も満足。ごちそうさま。なんか悪いね、私まで2個食べちゃって」

 

「いいよいいよ、ちょっと買いすぎたなーって思ってたとこだったし」

 

2人が感謝し、ペンギンアルバムが鷹揚に答える。

そして今度は自分の分だと、紙袋からパンを出してモリモリ食べる。

カレーパンにソーセージパン、ツナマヨパンと様々だ。

やはりどれも焼きたて揚げたて、実に美味しそうに見える。

 

「それにしても、サナリンもオシャレに興味出てきたかー」

 

「ん……」

 

食べながらのペンギンアルバムの言葉に、サナリモリブデンは少し恥じらいを見せながらも頷く。

ちら、と自分の爪を見る目には確かな喜びがあった。

 

「うん。こういうのも思ったより悪くない。むしろ良い。チューターサポートに教えてもらって、良かった」

 

「それは連れてきた甲斐があったけど……なんだろ、なんか照れるね」

 

「むー、羨ましい! サナリン、今度は私も色々教えてあげるから一緒にいこー!」

 

「ん、楽しみにしてる」

 

その後、パンを食べ終えたペンギンアルバムは丁寧に手を拭いてからネイルサロンに入っていった。

ただ、それだけで別れるには折角バッタリ会えたというのに勿体ない。

パンを奢ってもらった分を返すためにもとサナリモリブデン達は近場で時間を潰し、ペンギンアルバムの施術が終わった後に再合流した。

 

そうして、街をぶらり歩くウマ娘3人。

色とりどりの爪をひっさげて、姦しく休日の午後は過ぎていくのだった。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+10

友好:チューターサポートの絆+5

成長:パワー+5/根性+5/賢さ+10

獲得:スキルヒント/逃げためらい

 

ペンギンアルバム  絆30 → 40

チューターサポート 絆20 → 25

 

スピ:297

スタ:240

パワ:264 → 269

根性:276 → 281

賢さ:241 → 251

 

逃げためらい/100Pt/レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる

 

 


 

 

閑話/追う者と追われる者

 

 


 

 

そうして。

たっぷりと休日を楽しんだ後にチューターサポートは学園に戻ってきた。

 

時刻はまだ夕暮れ前。

寮の門限まで多少の猶予がある。

その時間をどう使おうかと彼女は考えて。

 

「……少しだけ、走ろうかな」

 

思考に数秒とかけることもなく、そう決定した。

 

寮へと向いていた足を止め、自主トレーニング用のコースへと歩き始める。

どのくらい走れるだろうかと、頭の中ではすぐさま計算が始まった。

トレーナー室に寄って置いてある運動着に着替え、走行用のシューズを履き、空きコースを調べて利用申請をして……と考えを巡らせる。

それに往路復路の移動分と再度の着替えを足していけば、30分は走れるだろうとの予測が立つ。

 

たかが30分。

されど30分。

どれほど小さな積み重ねだろうとも、チューターサポートは軽視する娘ではない。

この短い時間がいつか成果を生む事もあるはずだと、彼女は固く信じている。

 

 


 

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

ターフを走る。

一定のリズムで規則正しく。

踏み込む強さも均等に、正確にタイムを刻んでいく。

チューターサポートの走りとはそういうものだった。

 

がむしゃらさとは程遠い。

冷静に、冷徹に、常に己を律しながら走る。

それが彼女のスタイルであった。

 

(……思えば、去年はひどかったな)

 

とはいえ、このスタイルに戻って来られたのはここ2、3ヶ月の話だ。

ジュニア級においてのチューターサポートは、その全てを不調の中で喘いでいたと言って良い。

 

6月、メイクデビュー。

降りしきる雨の中、泥濘に塗れて味わった人生最初の敗北。

それが彼女を狂わせた。

 

初めは敗北の事実を受け入れられず、己の心すら見失い。

サナリモリブデンの一言に勝利への渇望を理解したものの、今度は初めての感情を持て余してオーバーワークに苛まれ。

 

それでも生来の能力の高さから勝ち上がり、ジュニア級G2の舞台でリベンジの機会を掴んだ。

狙う相手の名はマッキラ。

結果は、敵手が今もマイルの王者として君臨し、無敗の戦績を刻み続けている事から分かる通りだ。

メイクデビューでの5バ身からさらに引き離された、8バ身差での大敗。

 

チューターサポートの心はいよいよ悲鳴を上げた。

努力したはずだ。

何足ものシューズを履き潰し、懸命にトレーニングを重ねて、過去に類を見ない程に走ったはずだった。

しかし、それでもなお差が広がった現実は彼女をこれ以上ないほどに叩きのめした。

 

(……でも)

 

だが。

チューターサポートはそこで終わらずに済んだ。

必勝を期して挑んだ二度目が惨敗に終わった事で、逆に自分自身を俯瞰する視点が生まれたのだ。

 

(それが良かった。本当に、自分のバカさ加減に気付けて)

 

そうして己を省みた時、チューターサポートは愕然としたものだった。

冷徹な計算の下で行われる冷たく硬い走り。

そんなものは、ジュニア級のチューターサポートにはかけらもなかったのだ。

 

恵まれた身体能力だけを前面に出してのゴリ押し戦法。

まるでレースのレの字も知らない子供にすら見えた映像記録の中の自分に、彼女は心の底から己を恥じた。

そして、恥じて理解したからには修正が効く。

ひとしきり落ち込んで反省に反省を重ねた後に現れたのは、幼少期からメイクデビューまで無敗を誇っていた時期の、かつての強いチューターサポートだ。

 

”ようやく、僕がスカウトしたかった子が戻ってきたよ”

 

自身の専属トレーナーが安堵を覗かせてそう笑った時、チューターサポートのトゥインクルシリーズは半年遅れで始まったのだった。

 

「はっ、はっ、はっ、はっ」

 

呼吸のリズムに乱れは生まれない。

歩幅は常に一定で、1ハロン毎のタイムにブレもない。

今のチューターサポートにとっては出来て当たり前の、ひどく容易い事だ。

焦燥に支配されていた昨年とはもう違う。

 

チューターサポートはやがてペースを落としていき、走行から歩行に移ってコースから外れていく。

トレーニングの時間はきっかり30分。

不要な無理を一切かけない適切な運動だった。

 

 


 

 

そうして、チューターサポートは寮への帰路につく。

 

途中、彼女はふと自身の爪に目をやった。

そこに咲き誇るのは薄桃色のスイートピー。

門出を祝う花言葉を持つその花は、今の彼女の心境にぴたりと合っていた。

 

楽しかった一日を思い返し、チューターサポートの頬に笑みが浮かぶ。

共に同じ相手に負け、同じ相手に再び挑んだ者同士。

チューターサポートはサナリモリブデンに戦友としての友情を感じていた。

そんな相手と揃いで塗った爪が、今、彼女の背を押してくれている。

 

だから。

 

「あは、その爪どうしたの? もしかしてだけど……遊んできたのかな」

 

道を塞ぐように現れたその少女を前にしても、チューターサポートは胸を張って立っていられた。

 

「うん。サナリと、あとペンギンアルバムとね」

 

「へー! びっくりしちゃった。随分余裕あるんだね、サっちゃん? それとも……」

 

くす、と目を細めて少女───マッキラが微笑む。

だがそこに親しさはない。

あるのは侮蔑にも近い冷淡さだ。

 

「もう諦めちゃったのかな? 私には勝てないって。ふふ、そうだよね。去年の朝日杯、結局サっちゃんは来なかったもの」

 

「NHKマイルカップ」

 

それに取り合わず、チューターサポートは端的に答えた。

口から出たのはひとつのレースの名前。

耳にしたマッキラは、ピクリと尾を震わせた。

 

「出るんでしょう? マイル王者を名乗るなら避けて通れないはず。そこで、私はもう一度君に挑むよ」

 

「…………ふぅん? 勝算でもあるの? ふふ、こんな時期に、遊んでるような子が、私に?」

 

「息抜きだって必要だよ。自分を自分のままで保つにはね。去年の私にはそこが足りてなかった」

 

嘲るような言葉もチューターサポートを揺らすには至らない。

 

「ただまぁ、正直言って勝算はないかな。君に追いつけるビジョンは想像の中でも持てないから」

 

「……ふざけないで。だったらなんでそんなに───」

 

余裕があるのかと、マッキラの言葉は最後まで言葉にならずに終わった。

かすれるように息が漏れるだけ。

彼女の耳はいつしか後ろに倒れ、尾は脚の間に巻き込まれている。

 

「余裕なんてないよ。でも、ほら」

 

対するチューターサポートは、泰然と両手を広げてみせた。

 

「落ち着いてない私って、全然強くないってわかったからね。無理にでも余裕ぶっていないと、挑む資格もなくなりそうだから」

 

「…………っ」

 

「勝てる、なんて今はとても言えないけど。君に勝ちたいからまた挑むよ。これから何度だってね」

 

話はどうやらそれで終わった。

唇を噛みうつむいたマッキラの隣を過ぎ、チューターサポートはまた歩き出す。

 

「あぁ、それと……去年からずっと言い忘れてた。おめでとう、マッキラ。全部まとめてで申し訳ないけど。これからは私が追う番だね。……待っててとは言わないよ。きっと追いついてみせるから。君が、そうしたみたいに」

 

今度は、その歩みを止める者はいなかった。

 

 

 

 

 


 

『サっちゃんは、はやいね……。どうしてそんなにはしれるの?』

 


 

「なんで……なんで? 勝ったはずなのに。負かしたはずなのに。今度こそ、ちゃんと叩き潰しておいたのに……!」

 

誰もいなくなった道の上でマッキラは声を漏らした。

まるで雨の下で寒さに凍えるようなそれは、到底王者に似合うものではない。

自分の肩を抱き縮こまって震える様は、むしろ。

 

「うるさい。うるさい! 生意気だよ! 負けたくせに! 負け犬のくせに! あんな、あんなやつ全然速くない! 私の方が、ずっと速い!」

 


 

『ぜ、ぜんぜんおいつけない……。すごいなぁ。うらやましい。でも、いつかゼッタイわたしがかつんだから!』

 


 

いつかの過去。

自身が吐いたはずの言葉がマッキラの中に幾度も流れる。

幼く、夢見がちだった頃の声が。

 


 

『あ、はは……これで何回目かなぁ、サっちゃんに負けたのって。…………。いつか、いつかきっと、勝ってみせるから』

 

『どうして……? こんなに、頑張ったのに。死にそうなくらい、私……頑張って練習したのに』

 

『大丈夫。勝てる。勝てる。勝てる! 努力したんだから、あんなにやったんだから、絶対に、今度こそ……!』

 

『…………あ、ぁ。また。まただ。また、負けた。あは、嫌になるなぁ……どうして、私は、こんな』

 


 

「違う! こんなの関係ない! 今は私の方が速い! 私は、私は───」

 

どれほど否定し頭を振ったところで記憶の再生は止まらない。

それはやがて、致命的な場面へ至る。

 


 

『サっ、ちゃん……』

 

『お疲れ、マッキラ』

 

『あ……ま、待って。お願い、違うの。こんな走りは、ほんとの私じゃ……』

 

『大丈夫だよ。マッキラはかなり上手く走ってた。君に声をかけるトレーナーは間違いなく居ると思う。じゃ、私はスカウトの話聞きに行くから、また後で』

 

『………………ぁ』

 


 

「負け犬、なんかじゃ……」

 

崩れ落ちる。

 

幼少期、物心がついた頃からマッキラとチューターサポートは親しかった。

隣家で生まれ育ち、親同士の交流の下で幼馴染として10年以上を過ごしていた。

そしてその時間は、数える事を諦めるほどに重ね続けたマッキラの敗北の数と同義だった。

 

負けて、負けて、負けて。

いつしかマッキラが負けるのは当たり前に、チューターサポートの勝利が当然に変わり。

そうしてついに選抜レースの日。

チューターサポートに敵として認識されてさえいないと、マッキラは理解した。

 

立ちすくむ自分の横を通り過ぎた姿を、マッキラはありありと思い出す。

その日と今日とはまるで違う。

強者は弱者に、弱者は強者に、互いの立場は入れ替わった。

 

だが、何故だか。

マッキラには今のチューターサポートが過去の幻影と重なって見えて仕方がなかった。

 

 

 

 

 

「……トレーナーさん? 私です。お願い、したい事があって」

 

そのまましばらく時が経って。

辺りが暗くなった頃、マッキラは電話をかけた。

相手は、彼女の専属トレーナーである。

 

「気が変わったんです。桜花賞を走らせてください。登録をお願いします」

 

絞り出すような声には暗く粘ついた触感があった。

嗚咽にも似たくつくつという笑い声が混じるそれは、不吉に沈んでいる。

 

「あぁ、もう間に合わないんですか……。だったらニュージーランドトロフィーでも、アーリントンカップでもいいです。……なんですかそれ。あなたは、あは、あなたも私の敵になるんですか? うそつき……うそつき! 私だけの味方になってくれるって、言ったくせに……!」

 

嘆きの言葉さえ、笑みを交えて。

マッキラはもう自分が何を感じているのかさえ分かっていない。

 

「……は、ふふ、そう。そうですよね。ごめんなさい。トレーナーさんが私を裏切るなんてありえませんでした。……はい。では、登録お願いしますね」

 

電話を終えて。

幽鬼のように立ち上がったマッキラは、掠れた声でつぶやく。

 

「………………私は、負け犬じゃない。証明しなきゃ。私は負けない。もう二度と、誰にも負けない。追いつかせない」

 

揺れる体は引きずられるように歩み、どこかへ消えていく。

その背に、共に走った誰にも畏怖をもって見つめられる王者としての威厳は、どこにもなかった。

 

 

 

 

 


 

 

【4月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

 


 

 

【ステータス】

 

スピ:297

スタ:240

パワ:269

根性:281

賢さ:251

 

 



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クラシック級 4月トレーニング結果~5月ランダムイベント

 

 


 

【投票結果】

 

スピードトレーニング

 


 

【友情トレーニング判定】

 

成功率:絆×1/3

 

ペンギンアルバム:失敗

 

チームウェズン:成功

 


 

 

「わはははは! どーしたサナリィ! そんなもんかぁ!?」

 

ひとり。

 

「うおー! 私はやるぞやるぞやるぞぉー!」

 

ふたり。

 

「ぜひゅっ……こひゅっ、し、しぬぅ、しんじゃうってこれぇ……」

 

さんにん。

 

「ご、ゴーヤちゃーん! タルちゃんダメそうだから脱落させるねー!」

 

「ごふっ」

 

よにん。

からのマイナスいち。

計3名のウマ娘たち、チームウェズンと共にサナリモリブデンはターフを駆ける。

 

限界まで振り絞って最高速度に乗り、それを維持する。

既に何度も経験しているスピードトレーニングだ。

それを、今月はウェズンに混ざって行っている。

 

「はぁっ、はぁっ、は、ぐっ」

 

これはサナリモリブデンにとって相当にきついトレーニングだった。

何しろ相手は全員シニア級なのだ。

セレンスパークはシニア1年目、トゥトゥヌイとタルッケは2年目、アビルダが3年目。

踏んだ場数も違えばこなしたトレーニングの量も違う。

 

競り合う事さえ難しい。

なんとかついていくことが精一杯という有様だ。

……約一名、純粋なスプリンターであるタルッケだけはサナリモリブデンよりも早くに脱落したが。

 

「ま、だまだっ……!」

 

「おっ、いいぞぉ! その意気だサナリ!」

 

「おっしゃー! 私も燃えてきたぁ!」

 

だが、だからこそ身になるとサナリモリブデンは奮起する。

この実力差がとてもいいと彼女は胸の裡に火を灯す。

休みなく打ちのめされる日々こそが己を強くしてくれると、サナリモリブデンは信仰していた。

 

「……ッ!!」

 

「ひ、ひぇ、また始まったぁ……!」

 

そして今日もいつものように頭のおかしい芦毛は限界を超えた。

放つ気配がウマ娘のそれから、鋼でできた何かへと変じていく。

変化に聡いセレンスパークが怯え、最後尾だったサナリモリブデンが徐々に差を詰め始める。

 

「ほ、ほわ、おわー!? 食われる!?」

 

「やべーこえー! でも負けぬぇー!!」

 

「な、なんでみんな毎回そんな新鮮に驚けるのぉ!? バカなの!?」

 

「……! ……!!」

 

「やだぁぁぁ! 全然離せないぃ! うわぁんサナリちゃんそれ怖いよぉ!!」

 

ドタバタと、しかし誰もが懸命に。

己の限界に挑んで、わずかずつ肉体の練度を磨き上げていった。

 

 

 

 

 

「……ふ。青春だよねぇ」

 

「タルッケさんは何キャラなんですかそれ」

 

「うむ、これぞ青春だ。ウェズン魂だな……!」

 

そしてそれを、一抜けしたタルッケと、郷谷、加えてウェズンを率いる大柄な中年の男性トレーナーが見守る。

タルッケは柵に寄りかかりながら恰好をつけていたが、手足がガクガクと震えていてなんとも締まらない。

が、ウェズントレーナー……大槍という名の彼はそれをむしろ良しとタルッケの頭をガシガシ撫でた。

 

「よーしよし、お前も良く走った。偉いぞ、今日も花丸だ!」

 

「ちょーせんせぇー。髪崩れちゃうじゃん、もー」

 

やられた側のタルッケは口では文句を言うもののその頬は柔らかく緩んでいる。

尻尾は嬉し気に揺れ、乱暴な手つきをむしろ歓迎しているのは誰の目にも明らかだ。

 

「チーフも本当相変わらずで……」

 

「ははは、今更俺が変わるもんかよ。どぉれ、静流もやってやろうか」

 

「あはは、やめてくださいねー? 最悪セクハラで訴えますよ?」

 

「あ、それは怖いな……うん……」

 

ただ、それは郷谷には通じない。

大槍は厳ついひげ面をシュンとさせて伸ばしかけた手をひっこめた。

 

「えー、やらせてあげればいーのに。先生、静流ちゃんの事ずっと褒めたがってたんだよね」

 

「はい? 何かしましたっけ私」

 

「何言ってるんだ。しただろう」

 

そこにタルッケが首を突っ込み、郷谷が首を傾げる。

大槍はといえば、郷谷を覗き込むように顔を寄せ、にぃっと笑う。

 

「昔から見る目のあるやつだと思ってたが、やっぱりだった。よくサナリモリブデンを捕まえた。よくぞ見逃さなかった。本当に、よくあの子にトゥインクルを走らせてくれた。ほら、これ以上に偉い事なんてあるか?」

 

 

 

 

 

大槍は言うと、コースに視線を戻した。

全力を振り絞って食らいつくサナリモリブデンはついにセレンスパークに追いついた。

泣き言を漏らす余裕が失せたセレンスパークもまた歯を食い縛り、さらに前のアビルダとトゥトゥヌイを追う。

 

「よぉし、そこまでぇ!」

 

そこでいよいよ限度と大槍は判断した。

ビリビリと響く大声で終了の合図を送る。

 

「ぜひゅー……こひゅー……!」

 

「お、おっしゃぁ、セーフ……今日も、リーダーの、意地ぃ……見せたったぜぇ……っ」

 

「も、もうだめ、たおれるぅ……」

 

「はっ、は……とどかな、かった……」

 

各員が足を緩め、コースから外れ、よろよろと座り込んでいく。

サナリモリブデンはどのようなトレーニングであっても緩まない。

ならば先輩として情けない姿を見せられないウェズンのトレーニング強度も右肩上がりの日々だった。

 

「うぅむ、本当に良いウマ娘だ。今からでもうちに入れて育てたいくらいだな」

 

「ダメですよ、あげません。サナリさんのトレーナーは私だけです」

 

「まさか本当にくれとは言わんさ。で、それは間違いなく静流の功績だろう?」

 

「……ま、そうですねぇ。流石に否定はできませんか。はぁ、今日だけですよ? 私ももういい年した大人なんですから」

 

「20代の小娘が何言っとるんだか。……うむ、よし。偉いぞ。よくやった」

 

「はいはい」

 

頭をそっと撫でた手を少なくとも表面上はぞんざいに扱ってから、郷谷は座り込む4人に歩み寄っていく。

胸元に抱えるのは4人分のドリンクだ。

体力がすっからかんになるほどの頑張りを見せたウマ娘たちに、郷谷はいつもの笑顔と柔らかな口調で適切な休息を指導する。

 

「照れちゃった静流ちゃんもかわいいじゃんね」

 

「お前、それ本人に言ったらまた角でやられるから気をつけるんだぞ」

 

「マ? こわ……」

 

その後方がやっぱり締まらないのは、もうウェズンらしい事として数えてしまってもいいだろう。

 

 


 

【トレーニング判定】

 

成功率:失敗5%→0%(トレーナースキル)/成功85%/大成功15%

 

結果:大成功

 


 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+30/パワー+20

成長:スピード+10/パワー+10(友情トレーニング)

成長:スピード+40/パワー+30(大成功ボーナス/全体2倍)

 

スピ:297 → 377

スタ:240

パワ:269 → 329

根性:281

賢さ:251

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「桜餅」「永久保存」「危うい」

 


 

【登場人物判定】

 

各員同確率/複数人登場率50%

 

結果:ペンギンアルバム&チームウェズン

 


 

 

「こしあんってどのくらい持つんだっけ?」

 

という。

トゥトゥヌイの言葉からそれは始まった。

 

キョトンとした顔で疑問を聞いて、えーとと考え始めたのはセレンスパークだ。

チームウェズンのうち、こういうまともに質問に返答する能力を持つのは彼女くらいのものである。

 

「確か冷蔵で数日、冷凍で2、3ヶ月だった気がするけど……どうしたの?」

 

「ありゃ、じゃあそろそろやばいかも。3月にいっぱい作って部室の冷凍庫に入れといたんだけど使い切らないとだ」

 

「なんて?????」

 

そして、返答に対してさらに投げられるわけのわからない続きに困惑するまでがお決まりだ。

チームウェズンでは日に1度は見られる様式美であった。

 

「だから、3月にあんこいっぱい炊いて冷凍庫に入れといたの」

 

「なんで!? なんか随分黒い保冷剤だなぁって思ってたけどアレあんこだったの!?」

 

「え、何言ってんのセレン、あんな黒い保冷剤あるわけないでしょ」

 

「部室の冷凍庫にあんこ並べておく方がもっとないんだよ!」

 

「うお、すごい顔……大丈夫? お茶飲む?」

 

気圧されたトゥトゥヌイがそっと湯呑を差し出した。

中身はぬるめの緑茶。

受け取ったセレンスパークはごっごっと喉に流し込む。

 

「っぷはぁ! ふぅ、少し落ち着いた。えーと、それで、あんこかぁ。消費しなきゃだよね。お汁粉でも作る……?」

 

「ん-? そんなら桜餅にしない? 冷蔵庫に桜の葉っぱに塩したやつ置いてあるっしょ」

 

「なんて?」

 

「3月に桜の葉っぱいっぱい取ってきて漬け込んどいたんだよねー。えらくない?」

 

「あのタッパー何かと思ったらそんなの入ってたの……!?」

 

「マジかよタルちゃん最高! そんなの桜餅やるっきゃないじゃん!」

 

「ぬいぬいもナイスぅ。あんこは買うより炊いた方が美味しいよねー。いえーい」

 

「YEAH!!」

 

パァンとトゥトゥヌイとタルッケの手が打ち合わされる。

そのテンションに置き去りにされたセレンスパークは何が何やら分からなかったが、とりあえず分からないままに折り畳みテーブルを引っ張り出して並べていく。

こうなったらどうせ、わけのわからないお祭りが始まるとだけは分かっていたからだ。

悲しい順応である。

 

 


 

 

というわけで。

 

「第3回! ウェズン桜餅パーティーを開催するッッッ!!」

 

「うおー! 桜餅うおー!」

 

「フー! まってましたぁ!」

 

「この炊飯器とかどこから出てきたの? 見間違いじゃなきゃロッカーから出てきたよね? なんで? なんで部室に炊飯器が置いてあるの? どういうこと? っていうか第3回? 私の知らないところで2回もあったの?」

 

あんこと桜の葉っぱを消費すべく、そんなアレが始まったのだ。

参加者はまずもちろんチームウェズンの4人。

アビルダが音頭を取り、トゥトゥヌイとタルッケが追随し、セレンスパークがくらくらする。

いつも通りの布陣だ。

 

「……!」

 

それとそこに無言ながらもやる気に満ちた顔で固く握った右腕を上げるサナリモリブデンと。

 

「いぇー! 桜餅ー!」

 

事情は全く知らないながらもとりあえず甘いものが食べられるならとテンションを上げるペンギンアルバムが加わる形。

 

なお、ペンギンアルバムが連れてこられたのは完全に巻き添えだ。

桜餅パやるならサナリも誘おう。

そう言いだしたアビルダ達がサナリモリブデンの拉致を敢行したところ、ちょうどペンギンアルバムが隣に居たので一緒に持ってきたのである。

ちっちゃくて運搬しやすかったとは、彼女を担当したタルッケの言だ。

 

と、そこにピーピーと電子音が響く。

炊飯器が1ロット目のもち米を炊き上げた音だ。

今回の桜餅には道明寺粉ではなくもち米を使うらしい。

早速飛びついたタルッケがパカリと開け、ぶわりと広がった湯気を嗅ぐ。

 

「ん-! いい匂いです隊長!」

 

「よぉし! ではここからは時間との勝負だッ! 各員配置につけぇ!」

 

「「「「おー!」」」」

 

「配置!? どこ!? そんな打合せなかったよね!?」

 

そして調理が始まる。

 

「へへへ、パワー系なら任せてくれていいよ!」

 

ペンギンアルバムが杵を持ち上げてむんっと気合を入れ。

 

「あんこ解凍完了ヨシ! 丸めていくぞぉ!」

 

トゥトゥヌイがあんこを器用にまんまるくしていって。

 

「あ、とりあえず私一番落ち着いてやれそうなのやっとくね……」

 

セレンスパークが塩抜きした桜の葉っぱの水気を取り、ちまちまと1枚ずつ広げていく。

 

「くくく、腕が鳴るぜ……タル、どっちが上手く桜餅を丸められるか勝負だ! 負けたら罰ゲームで余った桜の葉っぱ直しゃぶりでどうよ」

 

「それ普通においしそーじゃない?」

 

「ふ、塩抜き無しだとしたら?」

 

「……! や、やばぁ、アビー考える事が"悪"じゃん……!」

 

アビルダとタルッケは桜餅包み班として待機を始めた。

 

 

それを見てサナリモリブデンも、ここが自分のフィールドだと担当を決定した。

 




※ 「1D好きな数字」を振れて、かつタイムスタンプつきのログが残せるサイトを発見したため、ダイスログの掲載が可能になりました。
今後は後書き部分に載せておきます。
タイムスタンプは時刻のみですが、能動的に消さない限りログは残り続けるようなので、消さずに続けていく事で証明にしようと思います。


【挿絵表示】


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クラシック級 5月イベント結果~白百合ステークス作戦選択

 

 


 

【投票結果】

 

もち米をつく

 


 

 

「アルがつくって言うなら、私が相の手をやる」

 

そう言うと、サナリモリブデンは腕まくりした。

肘までを露出させてむんと力を籠め、やる気満々に目を光らせる。

 

「おっ、いいねぇ。そうこなくっちゃだ」

 

「うん。私たちのコンビネーションを見せてあげよう。同室の絆を見せつける時だよ、アル」

 

「がってん! ……今日のサナリン、なんかノリいいね?」

 

「そういう日もある」

 

というわけで、サナリモリブデンは臼の横で待機した。

手元には水の入ったボウルを置き、いつでも手を濡らせるようにしている。

 

ペンギンアルバムが杵でもち米をつき、サナリモリブデンがもちを返す。

分担は自然とそう決まった。

2人の息をどれほど合わせられるかが要の大事な役割だ。

のろのろとやっているともちはドンドン冷めて加工が難しくなってしまう。

 

ウェズンの面々に見守られる中、臼の中にピンク色に染まったもち米が投入される。

交わされる視線は一瞬。

サナリモリブデンとペンギンアルバムは、合図を口に出すまでもなく同時に動き出し───!

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

参照:ペンギンアルバムの絆/40

補正:多分このくらいの難度/x2

確率:80%(1D100で1~80が出れば成功)

 

結果:100(失敗)

 


 

 

ずどむ。

 

「「「「「あ」」」」」

 

重い音。

重なる声。

そして集まる視線。

ウェズン、そしてペンギンアルバムの見つめる先で。

 

「……少し痛い」

 

「う、うわあああ! サナリンごめん! ごめーん!」

 

サナリモリブデンの手が見事に杵の下敷きになっていた。

手の甲、ど真ん中に命中した杵はサナリモリブデンの手をもちの中に埋めてしまっている。

餅つきにおける失敗の一番想像しやすいパターンだった。

いっそ教科書にでも乗せておきたいほど。

 

当然やらかしたペンギンアルバムは慌てて謝り、杵を持ち上げてどかした。

そしてサナリモリブデンの手を取り状態を確かめる。

 

「だ、大丈夫!? 痛くない? 感覚おかしかったりしない?」

 

「ん、平気。おもちがクッションになったみたい。痛くもないし違和感もない」

 

結果、どうやら問題はなかった。

ケガをしている訳でもなく、餅に押し付けられてのヤケドもない。

ペンギンアルバムはホッと息を吐き、ウェズンもそれに続く。

 

「よかったぁ……ほんとごめんねサナリン」

 

「気にしないで。半分は私のせいでもあるから」

 

「いや、でもすごかったな。吸い込まれるみたいにドカンっていってたぞ」

 

「ちょーちょー、リプレイしようよ! 私動画で撮ってたんだよね今の」

 

「マジで!? タルちゃんファインプレーすぎる!」

 

そして唐突に始まる失敗のリプレイ。

タルッケの持つスマホの中で、先ほどの場面が再生される。

 

臼に餅がセットされ、2人が構えを取る。

視線だけで意思が疎通される様は熟練の職人を思わせた。

一瞬の間。

サナリモリブデンとペンギンアルバム、2人は弾かれたように動き出し。

 

───ずどむ。

 

「ぷ、くふっ、だ、だめ、私こういうの無理ぃ……」

 

「ぶひゃははは! や、やべぇ、芸術的すぎる!」

 

「っくくく、角度といい速度といい、狙ってできるもんじゃないよこれは。もう奇跡でしょ」

 

「いいの撮れちゃったねぇ。ペンちゃんの真剣な顔がさ、あ、ってやっちゃった顔になるのすっごい好き」

 

まずはウェズンの面々が噴き出した。

被害者にケガがない以上、彼女たちにとってそれは大変愉快な出来事でしかなかった。

 

「…………ッスゥー……」

 

「……!? え、サナリン今もしかして噴き出してなかった!?」

 

「笑ってない」

 

「本当かぁー? なぁサナリ、もっかい見てみろよこれ、ぽかんって口開くとこ」

 

「……フ……っー……」

 

「いやいやいや絶対笑ってるっしょサナリン、それ噴き出してるやつっしょ」

 

「フス……そんなことない。気のせい」

 

「あは、あはは! 漏れてる! 空気漏れてるよサナリちゃん……!」

 

それは当事者にとっても同じだったらしい。

動画の中のペンギンアルバムがちょっと間抜けな顔になったシーンがツボだったのか、サナリモリブデンもちょっと怪しいところに入っている。

 

「えぇー、そんなに面白いかなー?」

 

「───ぐふっ!?」

 

そこにトドメが入れられる。

ペンギンアルバムの顔芸だ。

動画そっくりのポカンとした顔を作り、腹話術の要領でその表情を崩さずに喋りながらサナリモリブデンに近寄っていく。

くりくりとしたただでさえ大きな目が見開かれている様はパワーがありすぎ、半開きの口の間抜けさがより強調される。

その余りのシュールさに笑いの堤防はついに決壊した。

 

「どうしたんだいサナリーン。私の顔がそんなに面白いかーい」

 

「やめ、やめて、アル……! 今はまずい。とてもまずいから……!」

 

「何がまずいんだーい? 言ってみなよぉー」

 

「……ぶふっ!」

 

サナリモリブデンは逃げようとするが、笑いに震える手足ではどうにもならない。

楽しそうな声色のペンギンアルバムは嬉々として壁際に追い込んでいき、微塵も揺らがない間抜け面を披露し続ける。

 

「ペンちゃん器用すぎるでしょ。すげぇー……。あれがG1ウマ娘の芸人力か……!」

 

「うむ、これは我々も見習うべきかも知れん。タル、後で動画あたしに送っといて。永久保存してウェズンの研究資料にしようぜ!」

 

「あの技術から何を生かすの? 面白いのは認めるけど、真面目にアレの研究するのは無理だよぉ……」

 

「りょーかーい。ぬいぬいとセレンちゃんにも送っとくね」

 

「消そ?」

 

「面白い話をしているねー? 動画なら私にもおくれよー」

 

「ぶひゃひゃひゃひゃ! こ、こっちくんなぁ!」

 

「いいよぉ! ペンちゃんその顔いいよぉ! こっち目線くださーい!」

 

「ぬーん?」

 

まぁ、そのような感じで。

多少のトラブルを経た後に、桜餅作りは再開された。

 

 


 

 

「というわけで、出来上がったものがこちらです!」

 

「皆の者、拍手ー!」

 

「「「「わー」」」」

 

そうして完成した。

大皿に上に並ぶピンク色の餅の数々。

全てに丁寧に桜の葉が巻かれ、いかにも春らしい光景となっていた。

 

「えへへ、疲れたけどちょっと楽しかったかも。こういうイベントならたまにはいいよね」

 

普段は色々と被害者の立場になりやすいセレンスパークも今回は笑顔を見せる。

みんなで頑張ってご馳走を用意した達成感。

そしてこれから味わえる甘味への期待感。

それらを溢れさせて、瞳を輝かせている。

 

「あ、ちなみに1個だけアンコじゃなくてワサビ丸めたの入れてあるから」

 

「どうして余計なことするの?????」

 

なお、一瞬で瞳は濁った。

 

トゥトゥヌイの無慈悲な宣言にセレンスパークは崩れ落ちた。

哀れみを誘う嘆きの声を漏らしておいおいと泣く。

 

「せっかく……せっかく珍しく楽しいイベントだったのに……!」

 

「えー、ぬいぬいそれマジ? あんこ包んでる時全然わかんなかったよ?」

 

「見た目でバレたら面白くないじゃん。ワサビ玉をあんこで包んでカモフラっておいたのさ!」

 

「やるじゃねぇかエンターティナー……! 盛り上がってきたな!」

 

「なんで監視を怠ったの、私ッ! アビーたちを放置したら危険が危ういって分かってたでしょ……!?」

 

悲しみに暮れるセレンスパークを置き去りに会場のボルテージはうなぎ上りだ。

実にウェズンしている様に、サナリモリブデンもペンギンアルバムの手を握る。

 

「よーしサナリン、手離して? 部屋に帰ったらいくらでも握ってあげるから、今は離そ?」

 

「アル。大事な事を言うから聞いてほしい」

 

「あはは、離してくれたら聞いてあげるよー……あの、サナリン、ほんと離して? ね?」

 

「頭数が多い方が1人あたりの割り当てが減って、被弾確率が下がる」

 

「逃がす気ゼロすぎる! 今日のサナリンほんとにノリがおかしいね!?」

 

正確に言えば、こちらもウェズンしていた。

IQが著しく低い空間からは何者も逃れられず、やがて裁きの時が来る。

 

 

 

「よし、みんな桜餅はもったな?」

 

アビルダの音頭に、5人が皿を掲げる。

乗っているのは1人頭10個ほどの桜餅だ。

その中のどれかひとつだけがワサビ入りの物になっている。

 

1個ずつ割って確かめ慎重に食べ進めるなどという甘えを、チームウェズンがまさか許すわけもない。

全員で一斉に食べていき、死ぬ時は一息にかじりついて死ぬ。

そういうアレな桜餅パーティーの決行となったのだ。

 

「冷静に考えたらさぁ」

 

「ん?」

 

ふざけていた時のテンションはどこへやら。

今や顔を青ざめさせたペンギンアルバムが言う。

 

「拉致された時点で逃げておくべきだったよね」

 

「それはそう」

 

余りに今更だった。

サナリモリブデンも真顔で頷いて同意するが、ペンギンアルバムから見て出口側を塞ぐように立っている辺り、逃がす気はやはりない。

 

「大丈夫、大丈夫、確率は1/6……。ゴーヤちゃんと先生用に取り分けた分もあるから、もっと下がる……! 当たらない。当たる訳ない。きっと当たらない! はず!」

 

その横ではセレンスパークがぶつぶつと自分に言い聞かせているところだ。

むしろ祈っているという表現の方が近いかも知れないが。

どうあれ、とりあえず空気は地獄めいていた。

 

「では実食の時間だっ! 各員、誰が当たっても恨みっこ無しだぞ! ……いただきます!」

 

そして、その瞬間がやってくる。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

ランダムな被害者:セレンスパーク

 


 

 

「キュ───」

 

悲鳴は極めて短く。

首を絞められたネズミのようなか細さだった。

 

「セレン……っ!」

 

崩れ落ちたのはセレンスパーク。

口元から緑色の塊をこぼし、宙に涙の軌跡を描いて倒れていく。

それを、一瞬で駆け付けたアビルダが支えた。

 

「しっかりしろセレン……! 死ぬなっ! 一緒にオープンを走ろうっていう、あたしとの約束はどうなる!」

 

「ぁ、ァ……アビー、ちゃん……」

 

「やめろ、目を閉じるな……! セレン……!」

 

「そ、そういうの、いいから……お茶、お茶ちょうだい……!」

 

「ん。事前に用意しておいた」

 

「天使……!」

 

茶番はサナリモリブデンが差し出した緑茶と共に終わる。

勢いよく流し込めるようぬるめだったお茶をゴクゴクと飲み干し、セレンスパークはなんとか一命を取り留める。

 

そんな訳でワサビの脅威は去った。

セレンスパークが当たった以上、残りの桜餅は安全だ。

後はただただ美味しい甘味を味わうだけの時間となる。

 

「ふ、ふふ……知ってた。どうせ私なんだよ、こういう役割は……」

 

「ねー。わかるわかる。私もセレンちゃんが当たるんじゃないかなーって思ってたもん」

 

「すごいよセレンちゃん! 流石! 持ってるね!」

 

「今すぐ捨てたいんだけど? あと絶対許さないからね? 復讐を楽しみにしててね?」

 

「さくらもちおいしい」

 

もっとも、被害担当は調子を取り戻すのに時間がかかったようであるし、ゲストのちびっこは甘味を前に思考を放棄していたようであるが。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバム+10

友好:チームウェズン+5

成長:根性+15

 

ペンギンアルバム  絆40 → 50

チームウェズン   絆35 → 40

 

スピ:377

スタ:240

パワ:329

根性:281 → 296

賢さ:251

 

 


 

 

【レース生成】

 

 

【白百合ステークス】

 

【春/京都/芝/1800m(マイル)/右外】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:110(クラシック級5月の固定値110)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:タヴァティムサ

2枠2番:スローモーション

3枠3番:ミュシャレディ

4枠4番:テューダーガーデン

5枠5番:リボンダージュ

6枠6番:ジュエルオニキス

7枠7番:ジュエルトルマリン

8枠8番:サナリモリブデン

8枠9番:テルパンダー

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝C/補正なし

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:なし

 

調子:普通/補正なし

 

スピ:377

スタ:240 → 264

パワ:329

根性:296

賢さ:251 → 276

 

 


 

 

『さぁ最終直線に入ってくる! 先頭はジュエルルビー! スタミナに定評のある子だ! まだまだ脚は残しているぞ!』

 

実況の声を、サナリモリブデンは聞く。

割れんばかりの大歓声に迎えられてのホームストレート。

真っ先にそこに飛び込んだのはロングツインテールのウマ娘だ。

 

ジュエルルビー。

今期クラシック、王道と呼ばれる中距離路線における有力ウマ娘の一人。

先行を得意とする彼女は最終コーナーを完璧に曲がり切り、逃げウマの隙をついて先頭に躍り出た。

そしてそのまま加速に乗り後続との距離を開けていく。

 

しかし。

ジュエルルビーの顔には一切の余裕がなかった。

このまま勝てるなどという楽観が挟まれる余地のない、決死の表情。

 

その理由を、サナリモリブデンは良く知っていた。

 

『ジュエルルビー、リードを広げていく! 2番手のアクアガイザーから3バ身! このままいくか! このままいけるか!』

 

興奮気味の実況に、サナリモリブデンは心中で否と答えた。

これから何が起こるかなんて明らかだと信じて。

そしてそれは、予想の通りにやってくる。

 

『いや、やはり来た! 大外から飛んでくる! やはりこの子が飛んできた! ペンギンアルバムだ! ペンギンアルバムだ! ペンギンアルバム、低空飛行で飛んできた!』

 

小柄な青毛。

真っ黒なシルエットのペンギンアルバムは地を這うほどに身を低くして突き進む。

 

3、とサナリモリブデンがカウントを開始する。

2、と数えた時にはアクアガイザーの横を黒い風が通り抜けた。

1、と言葉にした時が、ジュエルルビーが捉えられた瞬間だった。

 

ペンギンアルバムの丸い瞳が細められる。

猛禽のように、肉食の本能をさらけ出すように。

 

視界の中心にジュエルルビーが捉えられた1秒後には、ペンギンアルバムは彼我の間にあったはずの距離を全て食い千切っていた。

 

『ペンギンアルバム、並ばずに突き抜けた! 今ゴールイン! 皐月賞の雪辱を見事に果たして、ペンギンアルバム栄光のダービー制覇! 小さな体のウマ娘が世代の頂点を掴んでみせました!』

 

 

 

そこまでを見終えて、サナリモリブデンはブラウザを閉じた。

生放送の再生は停止され、控室に沈黙が返ってくる。

 

「もういいんですか?」

 

「うん。後はレースが終わった後でいい」

 

そしてタブレットを郷谷に返した。

ここは京都レース場の控室。

 

そして時刻は白百合ステークス発走の20分前だ。

それはつまり、同日開催の日本ダービーが終わった時刻でもある。

 

「アルが勝つって分かってたけど、見れて安心した。ありがとう、トレーナー」

 

「どういたしまして。さて、集中の度合いはいかがですか?」

 

「万全。……前みたいな失態はしない。全力を、今度こそ出し切って見せる」

 

サナリモリブデンは深く落ち着いた呼吸とともに意気込みを語る。

その頬を、郷谷は何の前触れもなく両手でぐにゅっと潰した。

 

「……ふぁにふるほ」

 

「いえ、入れ込みはないかと思いまして。ふふ、今日は大丈夫そうですね」

 

「ん」

 

郷谷が手を離し、決意を漲らせてサナリモリブデンは頷く。

それから、今日の作戦についての話が始まった。

 

 

 

白百合ステークスは、前走のきさらぎ賞と全く同条件のレースだ。

京都レース場、1800メートルのマイル戦

季節とグレードの違いはあるものの、走るコースに違いはない。

 

つまり、注意すべきは淀の坂。

中盤終わり際から始まる丘のようなそれは、3コーナーで頂点に達し、4コーナーと直線に向けて下っていく。

その地形の関係上、最終直線には速度に乗ったまま突っ込む事になるケースが多い。

この坂以外はどこも平坦な作りとなっている。

 

他には、スタート後の直線の長さも特徴ではある。

最初のコーナーまで900メートルという長さで、この関係から内枠外枠での有利不利は少ない。

また、序盤の位置取り争いも穏やかだろう。

 

「他にはマークの度合いですが……正直、読めませんねぇ」

 

最後に郷谷は他ウマ娘の情報を口にするが、それはやや歯切れが悪い。

 

「前走ではサナリさんは大注目のウマ娘でした。しかし結果があの暴走です。とても歯がゆい事ですが……ハッキリ言いましょう。期待外れだったという評も聞こえています」

 

「大丈夫。言われて当然。……そこから目をそらすつもりはない」

 

「でしょうねぇ……。それでも2番人気には推されていますから完全にノーマークはないでしょうが、前走ほどではないとは思います。言えるのは残念ながらそのくらいですか」

 

 

以上がレースの情報だった。

サナリモリブデンがそれを咀嚼するのを待ち、結論としての作戦を郷谷が語る。

 

 


 

 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:1 差し:2 先行:5 逃げ:0

 

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/2枠2番:スローモーション(先行)

2番人気/8枠8番:サナリモリブデン

3番人気/8枠9番:テルパンダー(先行)

 

 

■ サナリモリブデン

 

スピ:377

スタ:240 → 264

パワ:329

根性:296

賢さ:251 → 276

 

 

【適性】

 

芝:C(17/20)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(20/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(6/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 




※明日28日は私用のため、更新が遅れるかも知れません
明日中に投稿されなくても気長にお待ちいただけると幸いです


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クラシック級 5月 白百合ステークス

 

 


 

【投票結果】

 

逃げ

 


 

 

『晴天の京都レース場、第11レースの発走準備が着々と進んでおります。バ場状態は良。9人立てで行われます白百合ステークス、注目のウマ娘を紹介して参りましょう』

 

サナリモリブデンはターフを踏みしめゲートに向かう。

彼女にとって6戦目の公式レースだ。

そろそろ慣れも育まれ、足取りからは余計な力みが抜けている。

 

『3番人気は9番テルパンダー。コーナーワークに定評のある子です。内を突いて勝つ得意の展開を見せられるか』

 

歩調も適切なものだ。

ゆったりと歩みながらも動作に緩みは見られない。

昨年と、そして冬の間はまだ残っていた未熟さは薄れつつある。

 

『2番人気は8番サナリモリブデン。前走ではまさかの競走中止となりましたが、陣営によればケガの影響はないとのこと。同じ舞台でのリベンジなるか。注目です』

 

『見る限り足取りに不調の様子はありませんね。前のような暴走がなければ勝機は十分あるかと思います』

 

と、そこでサナリモリブデンは一度立ち止まった。

わずかに首を回し、視線の先をゲートから移す。

見つめる先に居るのは一人のウマ娘だ。

 

『そして最後はこの子、2番スローモーション。2月きさらぎ賞では惜しくも2着に敗れましたが、仕掛けの機を見る目が評価されたか今日は1番人気に推されました』

 

『昨年末の朝日杯フューチュリティステークスでも4着の好成績を残している子ですよ。重賞では勝ち切れていませんが実力バの一人です』

 

その視線に───スローモーションは当然のように反応した。

短い黒鹿毛の頭が揺れ、髪と同じ色の瞳が挑むように向けられる。

そこに乗せられた激しい敵意にサナリモリブデンの背筋がビリと震えた。

 

慣れる、といえば彼女にもだろう。

メイクデビュー。

朝日杯FS。

きさらぎ賞。

そして今日、白百合ステークス。

 

過去に走った5レースの内3つを戦い、そして今日4度目の対戦となる。

実況の言の通り、仕掛け時を察する能力が高く、またライバルの力量や調子を見抜く観察力に優れた娘だ。

重賞では勝ち切れていないようだが、サナリモリブデンは彼女を侮らない。

 

特に、と。

サナリモリブデンは未だ忘れがたい6月のメイクデビューを反芻する。

あの日、誰も予想していなかったマッキラの大逃げ。

他の皆が潰れるはずだと見逃した中、ただ一人、このまま逃がしてはならないと気付いて見せたウマ娘が居た。

それこそが彼女、スローモーションだ。

事前の情報などろくになかっただろう中で、だ。

 

故に、サナリモリブデンは決して彼女を軽視しない。

マッキラ、あるいはブリーズグライダー。

彼女たちに並ぶ最上級の脅威としてスローモーションに警戒の目を向ける。

 

視線が宙で絡み火花を散らす。

その事実にスローモーションは満足げに頬を吊り上げてから、鉄のゲートに入っていく。

少しの間を置いてサナリモリブデンも続いた。

 

レースの開始は近い。

狭く暗いゲートの中で、サナリモリブデンは敵手の存在をも糧にして集中を高める。

 

 

 

『各ウマ娘ゲート入り完了。京都レース場メインレース、白百合ステークス。……今スタートしました!』

 

 


 

【スタート判定】

 

難度:110

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/276+55=331

 

結果:148(成功)

 


 

 

『おっと7番ジュエルトリマリン出遅れた、集中を欠いていたか。他は揃って飛び出していきます』

 

ゲートが開いていく様を、今日のサナリモリブデンは眺めている事はなかった。

開く気配を感じると同時の鋭い飛び出し。

満点とは言わずとも十分なスタートだ。

 

まずはひとつ前走の自分を乗り越えた事になる。

だが、サナリモリブデンはそんな思考をそもそも行わずに足を速めていく。

余分はいらない。

まずは走り切ってからだと自身に埋没し、逃げを打つために前を目指す。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択】

 

ハナを取るために加速する

 

難度:110

補正:なし

参照:パワー/329

 

結果:79(失敗)

 

 

しかし、事はそう上手くは進まなかった。

ターフを強く蹴るサナリモリブデンの左から、さらに鋭く飛び出す影がある。

 

『まずハナを主張しにかかったのは9番テルパンダー、するする上がっていく。4番テューダーガーデン、3番ミュシャレディも行った』

 

テルパンダーだ。

滑るようなスムーズな加速を見せた彼女は、サナリモリブデンのやや左前に立って見せた。

それを内に避けて進もうとしたところで、サナリモリブデンは気付く。

3番と4番。

2人のウマ娘がテルパンダーに競りかけるように接近している。

気付いた時にはもう、無理に割り込むには危険のある様相だった。

 

「……っ」

 

サナリモリブデンは歯噛みする。

一手遅れた。

直進するルートは埋まり、どう走るかを思考する必要性が彼女に降りかかる。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:ミュシャレディが駆け抜けていく

 


 

 

その間隙にレースはもうひとつ動きを見せる。

大きく鋭い呼吸音。

そして次の瞬間、弾かれるように一人のウマ娘が動いた。

 

『ハナ争いはどうやら決まりました。3番ミュシャレディ、リードを1バ身半から2バ身取って先頭を行く。2番手テルパンダーと、その右後方テューダーガーデンは落ち着いた様子。少し後ろにサナリモリブデンが続き、すぐ後ろ張り付くようにスローモーション。1番タヴァティムサは少し距離を取って眺めるような形』

 

短いツインテールをはためかせてミュシャレディが駆けていく。

明確な逃げの居ないレース展開を好機と判断したのだろうか。

ならば自分がペースを作ると、彼女は前を取って見せた。

 

『そこから2バ身開いて6番ジュエルオニキス、ほとんど並んで5番リボンダージュ。7番ジュエルトルマリンがその背に続く』

 

『出遅れのショックからはキッチリ抜け出しているようですね。表情が落ち着いています』

 

どうすべきか、という判断に新たな要素が加わった。

背を刺すような高熱の視線に晒されつつ、サナリモリブデンは頭を回転させる。

 

 


 

【序盤フェイズ終了処理】

 

状態:低速(2)/加速失敗(4)/冷静(0)

補正:逃げA(-1)

消費:2+4-1=5%

 

結果スタミナ/264-13=251

 


 

【中盤フェイズ行動選択】

 

再度加速して前を目指す

 


 

 

(変更はない。もう一度、やる)

 

その判断は一呼吸で下された。

 

作戦の変更はない。

前を目指す道が完全に塞がれた訳でもなく、不調があるわけでもない。

ならばやれるはずだと、サナリモリブデンは己に断じた。

 

 


 

難度:110

補正:なし

参照:パワー/329

 

結果:260(大成功)

 


 

 

(忘れない。無かった事にはしない)

 

奇しくもそれは2月に見た光景に似ていた。

出遅れか、先を塞がれたか。

原因は違えども、逃げると決めて逃げられず、バ群の中からハナを見据えて脚に力を籠める感覚は全く同一。

 

それがサナリモリブデンに敗北未満の終わりを。

ゴールさえ許されなかった惨めさを思い出させる。

 

(無駄には、しない!)

 

彼女はしかし、その記憶を傷とする事を認めない。

敗戦から目をそらさない。

現実を真っ向に見据え、高く飛ぶための糧として飲み込むと決めていた。

 

『先頭に目を戻してミュシャレディ変わらず単独の先頭、リードは2バ身。比較的ゆったりとしたペースでレースを引っ張っていく。2番手はテューダーガーデンに変わっていますがテルパンダーとの差はほぼありません。ここでサナリモリブデンが上がっていく』

 

『おっ、とぉ……前のような暴走でなければいいのですが』

 

地を蹴る脚は力強い。

己を踏み越えるようにサナリモリブデンは加速していく。

テルパンダーをかわし、ミュシャレディに競りかけるまではあっという間の出来事だった。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:スローモーションは決断した

 


 

 

それを。

逃がさないと決めたウマ娘がひとり。

 

「……ッ!」

 

彼女、スローモーションを突き動かしたのは背筋に走った予感だった。

 

サナリモリブデンを放置するな。

今行け、一人で行かせるな。

なんとしてでも食らいつけ───!

 

幾度となく彼女を助けてきた啓示めいた直感がそう告げるままにサナリモリブデンを追うと決断する。

従うまで、秒とさえかからない。

 

そして、決めた後に行動の利を計算する。

サナリモリブデンが未だ前走の不調を引きずっているのなら、プレッシャーをかけてかからせる。

抜け出しているのなら、そもそもここでついていかねば勝ちの目は薄い。

なるほどと、スローモーションの理性は自身の本能に遅れて理解を示した。

 

(見せてもらう。今日のあなたが、どっちなのか……!)

 

体と心が合致する。

スローモーションは逃げる背を追い立てる。

 

『1番人気スローモーションもつられるように上がっていった。ここからは淀の坂。先頭サナリモリブデンにかわって高低差4.3メートルに挑んでいく』

 

 


 

【抵抗判定】

 

難度:110

補正:冷静/+20%

補正:加速大成功による物理的距離/+15%

参照:賢さ/276+96=372

 

結果:334(特大成功)

 


 

 

そして知る。

今日のサナリモリブデンがどちらであるのかを。

 

返った手応えは異質に過ぎた。

 

スローモーションとて、この世代において上位に位置するウマ娘である。

先行を得手とする者として逃げる背を追い立て焦らせる術は熟知していると言って良い。

現に今、サナリモリブデンの横を行くミュシャレディは自身に向けられた威でないというのに焦ったように振り向いていた。

 

にもかかわらず、サナリモリブデンは一切の揺らぎを見せない。

まるで大岩を相手に組み付いたような手応えの無さだった。

上り坂での加速の強要により潰し切るという手は効果を見せず虚しく終わる。

 

(は……)

 

それに対し、スローモーションは───。

 

 


 

【追加判定】

 

【スローモーションのステータス設定/ウマソウル】

 

結果:66

 

【スローモーションのウマソウル判定】

 

結果:34(成功)

 


 

 

「はは、はははっ!」

 

笑ってみせた。

そしてすぐに高揚を抑え込む。

哄笑で狂った呼吸を整え、感情を制御するために歯を食い縛る。

 

(やっぱりだ。やっぱり克服してきた。……それでこそ! 怖くないあなたを倒したところで、得られるものなんか何もないもの!)

 

平静を失って勝てる相手ではないと、スローモーションは理解していた。

1度は確かにサナリモリブデンに先着した。

しかしそれはサナリモリブデンの自滅が原因である。

それ以前に繰り返した2度の敗北の借りを返したとは、スローモーションは断じて認めない。

 

(逃がさない。食らいついていく。今日こそは、私が勝ってみせる!)

 

あふれ出ようとする闘志をスローモーションは懸命に制御した。

今は追走に留めなければならない。

仕掛け、突き殺すにはまだ早いと。

 

静かに、沈み込むように。

サナリモリブデンを付け狙う刺客の刃は研ぎ澄まされていく。

 

 


 

【中盤フェイズ終了処理】

 

状態:中速(4)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消費:4-1=3%

 

結果:スタミナ/251-7=244

 


 

 

『さぁ淀の坂が下りに入った。ここからレースが加速していくのが昨今のセオリー。最終コーナーへ、そして最終直線に向けて、誰が仕掛けていくか』

 

それに追われるサナリモリブデンは心を硬く保ったままだ。

 

彼女とて鈍いわけではない。

敵意をもって追われている事も、背に刺さる視線も感じてはいる。

だがそれがわずかにも肉を裂かない。

 

(───二度目は、ない)

 

迫る刃よりもなお硬く、サナリモリブデンは己を御している。

焦りは生まれる前から叩いて潰した。

これで良いのかというためらいは湧きもしない。

 

波の立たない凪の心で、サナリモリブデンは仕掛けを打った。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択】

 

大きく加速する

 


 

 

鉄槌のごとく脚が踏み込まれる。

芝をえぐって弾けさせるそれが意味するところは誰の目にも明らかだ。

 

『おっとこれは、サナリモリブデン猛加速! 下り坂で急激に速度を上げていく! これは、またかかってしまったか!?』

 

まるで最終直線でのスパートそのものだった。

明らかに全力と見える十数歩。

3コーナーから始められた自滅にひた走る直滑降。

 

それは。

 

 


 

……フリだけして現状の速度を維持する

 

難度:110

補正:特大成功によるクレバーさ/+20%

参照:スピード/377+75=452

 

結果:355(特大成功)

 


 

 

『いえ、これは……なるほど、上手いですよこれは! こういう事も出来る子でしたか!』

 

解説の声が興奮を帯びる。

 

全力と見える加速は、しかし本当にそう見えるだけだった。

サナリモリブデン渾身の演技である。

かかったように装い後続を騙す一手だったのだ。

 

実際の加速はほんのわずかなもの。

下り坂で生じる自然な、無理のない程度でしかない。

先頭に立ち、リードを保ちながら、同時に序盤に消耗し不安のある体力を温存する苦肉の賭け。

 

常ならばまず通る手ではない。

しかし、今ならば違う。

 

同じコース。

同じ距離。

ここを走ってサナリモリブデンが自滅した。

その記憶がまだ鮮明な今ならば、通用する目は確かにある。

 

そこをサナリモリブデンは見事に通してみせた。

背に刺さる視線の数がたちまちに減っていくのを彼女は確かに感じている。

サナリモリブデンはこのまま潰れて終わると後続のウマ娘たちに判断させたのだ。

追う必要はない、むしろついていけば共倒れになると彼女たちは騙された。

 

敗北を塗り潰すのではなく利用さえして踏み越えて、サナリモリブデンは坂を下っていく。

 

 


 

【レース中イベント/特大成功特典/ランダムから固定へ】

 

モブウマ娘の行動:ジュエルトルマリンがスローモーションに襲い掛かる

 


 

 

『サナリモリブデンを先頭に坂を下る。2番手はスローモーションのまま。差は3バ身ほどでしょうか。後ろテューダーガーデン、テルパンダー以降はやや抑えたか。ただ、一人後方から……』

 

(違う。これは違う、騙されるな!)

 

だが、追跡者は残っていた。

スローモーション。

最も多くサナリモリブデンとのレースを経験した少女だけはフェイクを見破った。

 

彼女が何より信頼する直感が、敵手の危険度は下がっていないと警告を発している。

どころか、かつてないほどの脅威となってそこに居ると悲鳴を上げていた。

故に目をそらさない。

 

(……ここしかない。ここでやるしか───)

 

『───後方からジュエルトルマリンが勢いよく上がってきた。スローモーションに並んで競りかけていく』

 

「───え?」

 

そこに、想定の外から襲い掛かるものがあった。

お前を潰す。

ここで倒して私が先に行くと、ジュエルトルマリンが激しい威圧をもってスローモーションに並びかける。

 

スローモーションは理解が一瞬遅れた。

何故自分が狙われているのか。

狙うべきは最大の脅威であるサナリモリブデンではないのかと考えて、そこで自分以外は騙されているという事実を思い出す。

 

(……くそ、くそ、くそ! やられた! そうだ、サナリモリブデンが自滅すると思いこんだなら、狙われるのは……2番手に決まってる!)

 

1番人気を獲得している実力バ。

それが2番手を快調に走っていて、しかも先頭は自滅に向かっている。

その状況で他のウマ娘がスローモーションを放置する理由はどこにもない。

 

 


 

【抵抗判定/スローモーション】

 

難度:110

補正:なし

参照:根性/250(クラシック級5月の汎用ウマ娘ステータス)

 

結果:97(失敗)

 


 

 

そして、その一瞬の遅れが致命的だった。

 

『抑えていたテルパンダーもこれに続く。タヴァティムサも動いた。スローモーションを捉えにかかる!』

 

ジュエルトルマリンが外からスローモーションの前に出る。

接触すれすれまで身を寄せて、必死の形相でだ。

それと同等の威圧は後方からも。

テルパンダー。

タヴァティムサ。

さらにリボンダージュ、ミュシャレディ、ジュエルオニキス。

 

(こんな、バカな事……!)

 

スローモーションを囲う檻は狭まっていく。

一秒ごとに自由は奪われ、同時にサナリモリブデンへ向けるための刃は輝きを失う。

 

(また、戦えたのに! 私だけが、気付けたのに……!)

 

仕掛けるべき機は過ぎたと彼女の直感が告げていた。

 

サナリモリブデンを追った狩人は、自身が獲物となった事に気付けず撃たれた。

こみあげる失意と共に、スローモーションはバ群の中に沈んでいく。

 

 


 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消耗:中速(4)/クレバー(-1)

補正:逃げA(-1)

消費:4-1-1=2%

 

結果:スタミナ/244-4=240

 


 

【スパート判定】

 

難度:110

補正:領域の萌芽/+10%

参照:スタミナ/240+24=264

 

結果:131(成功)

 


 

 

そうして。

サナリモリブデンはただ一人、そこに辿り着いた。

 

視界が開く。

ゴール板までただまっすぐに続く道。

左手にスタンドを見る最終直線。

 

走り切る事さえ許されなかった場所に今、サナリモリブデンは3ヶ月遅れで踏み入った。

 

『さぁ最終直線! サナリモリブデンがまず立ち上がる! スタミナはどうだ、まだ残っているか?』

 

湧きあがる歓声。

そこに混じる不安の気配に、サナリモリブデンは否と叩きつけなければならない。

 

あの日の弱い自分はもう居ない。

もう二度と無様を見せはしない。

今度こそ走り切ると吐いた誓いに、炎が灯る。

 

 


 

難度:110

補正:領域の萌芽/+10%

参照:パワー/329+32=361

 

結果:163(成功)

 


 

 

『ジュエルトルマリン懸命に追う! テューダーガーデンも食らいつく! だがサナリモリブデンの脚色が衰えない! 差が縮まらない!』

 

鋼の脚が足跡を刻み込む。

その一歩ごとに、体が飛ぶように弾き出される。

 

背に届き得る者は、もう誰も居ない。

 

 


 

難度:110

補正:領域の萌芽/+10%

参照:スピード/377+37=414

 

結果:178(成功)

 


 

 

その勢いは止まらない。

まるで瑕疵のない完璧なラストスパート。

 

『これは決まりでしょう、余裕の走りだサナリモリブデン! 追走するジュエルトルマリンまで4バ身から5バ身のリード!』

 

注ぐ歓声から、いつしか不安の音色は消えていた。

あるのは勝者を確信する声、ただひとつ。

悲喜の差はあれど、例外は存在しない。

 

 

 

 

 

今ゴールイン! サナリモリブデン、今日はクレバーに決めてみせました! 2着以下はジュエルトルマリン、テューダーガーデン、テルパンダーの順。5着はスローモーションかミュシャレディか、わずかにミュシャレディが前に出たように見えました』

 

走り抜ける。

ゴール板を越えた瞬間に、サナリモリブデンはただ一人だった。

並ぶ者も追いすがる者もいない、完全な勝利。

 

「はぁ、はぁ……やっ……た。やれた」

 

それを、サナリモリブデンは噛み締める。

初めて目にするゴールの向こうから見る京都のスタンド。

証明を終えた証。

そして成長を示す景色だった。

 

(───)

 

こみあげる想いがどういう色をしているのか、彼女にはいまいちよく分からなかった。

余りにも感情が混ざり合い把握しきれない。

 

達成した勝利に喜んでいるのか。

かつて成せなかった自分への怒りが再燃したのか。

あるいは別の何かか。

 

考えて、しかしどうせ答えは出ないとサナリモリブデンは思考を止めた。

今はそれよりも優先すべき事がある。

 

 

 

サナリモリブデンは大きく大きく手を振った。

自身の走りを見守ってくれて、そして恐らくはハラハラとさせてしまった人々へ。

 

もう心配はいらないと、そう高らかに叫ぶように。

 

 


 

 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/逃げ経験+5

獲得:スキルPt+50

 

スピ:377 → 387

スタ:240 → 250

パワ:329 → 339

根性:296 → 306

賢さ:251 → 261

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:C → B(2/30)

マ:B(25/30)

逃:A(11/50)

 

スキルPt:280 → 330

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:387

スタ:250

パワ:339

根性:306

賢さ:261

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:B(2/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(25/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎ (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静    (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力   (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備/150Pt    (最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い/150Pt      (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ/100Pt    (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)/150Pt    (レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

弧線のプロフェッサー/250Pt(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

シンパシー/150Pt     (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

逃げためらい/100Pt    (レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

 

スキルPt:330

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆50

ソーラーレイ    絆25

チューターサポート 絆25

チームウェズン   絆40

 

 

【戦績】

 

通算成績:6戦3勝 [3-1-1-1]

ファン数:3631 → 5631人

評価点数:900 → 2100(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:白百合ステークス

 

 



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【トゥインクル5月振り返りスレ@クラシック】

1:名無しのレースファン

トゥインクルシリーズのクラシック級5月レースを振り返って語るスレです

感想悲鳴雄叫び議論に討論考察

なんでもござれですが言葉は選ぶこと

現役ウマ娘が検索かけて迷い込んでくる可能性をお忘れなく

 

■スレルール

・sage推奨

・テンプレは>>3まで

・出走ウマ娘への叩きは控えてください

・荒らしはスルー、触れるやつも同罪

・次スレは>>950が宣言して立てる

・>>950が立てられない場合は番号で指定

・>>950が反応なければ立てられそうな人が宣言して立てる

・語る事が無くなったら無理に立てない、次月を待て

 

2:名無しのレースファン

■関連スレ

 

前スレ(4月スレ)

https://xxxxxxxx.5ch.net/test/read.cgi/xxxxxxxx/xxxxxxxxxx/

 

トゥインクル5月振り返りスレ@シニア

https://xxxxxxxx.5ch.net/test/read.cgi/xxxxxxxx/xxxxxxxxxx/

 

メイクデビュー直前のジュニア級ウマ娘情報交換スレ

https://xxxxxxxx.5ch.net/test/read.cgi/xxxxxxxx/xxxxxxxxxx/

 

地方レース総合

https://xxxxxxxx.5ch.net/test/read.cgi/xxxxxxxx/xxxxxxxxxx/

 

障害レース総合

https://xxxxxxxx.5ch.net/test/read.cgi/xxxxxxxx/xxxxxxxxxx/

 

 

5:名無しのレースファン

>>1乙

待ってた

 

6:名無しのレースファン

>>1乙

ヒャッハー! 定期振り返りスレだー!

 

8:名無しのレースファン

これがないと一ヶ月終わらんのよ

建て乙

 

10:名無しのレースファン

初リアタイ

建つの待ってたぜぇ

 

13:名無しのレースファン

どうする?

まず月の頭からか?

 

14:名無しのレースファン

うるせぇ俺は鳳雛語るぞ

っぱドカドカちゃんよマジでマジでマジで

負けてもなお強しとはあのことよ

復帰明けとは思えんわ

 

15:名無しのレースファン

>>14

1月にはどうなる事かと心配してたけど杞憂だったわな

ありゃJDDも相当期待できるぞ

 

19:名無しのレースファン

>>14

パドックだとあからさまに筋肉減ってて「あぁ……」ってなったけど全然だったな

また最前線で活躍できるかもって思える

 

20:名無しのレースファン

>>19

見た目は縮んだけどむしろ強くなってると思うぞ

前の筋肉は見栄えはしてたけど見せ筋に近かった

それが休養挟んでより実践的に絞られて研ぎ澄まされてる感ある

今回の怪我はむしろプラスに働いたかも知れん

 

22:あぼーん

あぼーん

 

23:名無しのレースファン

! aku22

★アク禁:>>22

 

27:名無しのレースファン

>>23

おつ

 

>>20

わかる

前のがどでかい鈍器だとしたら今のドカドカはスマートな銃器

 

28:名無しのレースファン

どっちにしろ殺意高くて草

 

31:名無しのレースファン

>>28

笑顔の殺意が高すぎるからね……

 

33:名無しのレースファン

>>31

鳳雛ラストスパートの顔ほんとツボ

涙目ショタvs超肉食おねで私の性癖に合っていますよ

 

36:名無しのレースファン

>>33

お? マストをオスガキ呼ばわりか? 戦争か?

 

40:名無しのレースファン

ドカドカはあれでめちゃくちゃ優しいのがいい

うちの子ライブに連れてったんだけど握手会の時に肩車して写真撮ってくれたわ

 

43:名無しのレースファン

>>40

俺多分それ見てたわ

次々ぼくも私もって子供達群がってったけど全部対応しきったの最高すぎた

レースで疲れてるだろうにな

 

44:名無しのレースファン

俺もレース後のホカホカウマ娘に肩車して欲しいだけの人生だった……

 

46:名無しのレースファン

>>44

それ書き込みだけで半分犯罪だから気をつけろよ

次は警察に通報するぞ

 

48:名無しのレースファン

判定厳しくて芝2400

 

51:名無しのレースファン

>>48

芝2400!?

よしダービー語るぞ!

 

54:名無しのレースファン

>>51

強引な上に自演なの笑うからやめろ

 

56:名無しのレースファン

ペンギンの末脚意味わからんくらい速くてダメ

1人だけエンジン積んでるだろあいつ

一回解体してみようぜ

 

58:名無しのレースファン

ジュエルルビーも相当キレる脚のはずなんだけどな

アレの横で走らされてると感覚狂って遅く見えるレベル

 

59:名無しのレースファン

むしろペンギンなんで皐月落としたん?

スペック的にはぶっちぎりだろ

 

62:名無しのレースファン

>>59

ペンギン「ちょっと潜りきれなかった。浅瀬だと上手く探せない」

 

65:名無しのレースファン

>>62

真面目な取材の場で適当に感覚だけで喋るのやめようねペンちゃん

 

69:名無しのレースファン

>>59

距離よ

多分ペンギンの適性ってほぼ長距離専用機ぐらいの範囲なんだろ

中距離も走れなくはないけどギリギリっぽい

2400が下限かな

 

71:名無しのレースファン

2400が下限(ホープフル勝ちウマ、皐月賞2着)

 

72:名無しのレースファン

レース語りおじさんの距離基準はガバガバ

 

73:名無しのレースファン

まぁでも実際距離だろうな

あからさまにスロースターターだし

皐月は火がつく前にレースが終わったんだろ

 

76:名無しのレースファン

>>73

見比べるとダービーペンギンのヤバさがめちゃくちゃ分かるよな

ラスト400が完全に別人

君普段の可愛さどこに置いてきたの???

 

77:名無しのレースファン

>>76

普段のウマッターペンギンはペンギンアルバムのそっくりさん芸人だから本当に別人だぞ

【餅つきの顔芸ペンギン.gif】

 

80:名無しのレースファン

>>77

やwwwめwwwろwww

 

84:名無しのレースファン

>>77

それ見るとうちの猫が毛逆立てて威嚇するからやめーやw

 

86:名無しのレースファン

>>77

海外まで流れ着いてミーム化したのほんと笑う

こんな事で国際デビューすんな

 

87:名無しのレースファン

#penguin_challengeじゃねーのよ

アメリカのBCクラシック王者が顔芸練習してんの見た時はどうしようかと思ったわ

 

88:名無しのレースファン

あのチャレンジ全員律儀にサナリ役も用意してるの好き

 

89:名無しのレースファン

正直俺も好き

チャレンジ系のミームでもすげー平和でいいよな

 

92:名無しのレースファン

レースの話に戻れお前ら

 

96:名無しのレースファン

名前出たけどサナリも良い走りだったな

ちょっとイメージ変わったわ

 

100:名無しのレースファン

>>96

すまん、どこか走ってた?

今月見た記憶ない

 

104:名無しのレースファン

>>100

ダービーの裏

白百合ステークスな

 

108:名無しのレースファン

あー残念ダービー……

そら見てないわな

 

109:名無しのレースファン

>>108

は?

 

111:名無しのレースファン

>>109

G1しか見ないにわかだろ

触らんでほっとけ

 

115:名無しのレースファン

白百合のアレはやっぱり後ろ引っ掛けたって事でいいんか?

 

116:名無しのレースファン

>>115

まず間違いない

走行姿勢と加速が全然噛み合ってないのよ

わざとやらんとああはならん

 

120:名無しのレースファン

>>116

やっぱそうだよな

実は潰れて加速出来なかっただけ、ってのは直線の伸び見てると有り得んし

器用すぎる……

 

122:名無しのレースファン

器用さもだけどアレを本番レースでやろうと思える度胸もヤバい

淀の下りで加速しないって下手したらそのまま追いつかれて包まれて詰むだろ

成功すればマーク外しに体力温存にリード保てる三重のメリットあっても普通はやれん

俺が同じ立場なら絶対日和ってるわ

 

124:名無しのレースファン

>>122

前走で潰れてるから効果高いと分かってたんだろうな

実際実況も騙されてたしスレも阿鼻叫喚だったし

 

126:名無しのレースファン

クレバーな時のサナ森はガチ

 

127:名無しのレースファン

問題はその日クレバーかどうか全然わからんとこよ

きさらぎ賞と白百合のパドック見比べてるけど違いあるかコレ???

 

129:名無しのレースファン

>>127

普段から表情薄いし態度にも出ないからなぁ……

正直お手上げ

走ってみるまで予想つかない

 

132:名無しのレースファン

ペンギン連れてきて顔芸させれば表情出てわかりやすくなるかもよ

 

136:名無しのレースファン

脱線の方に話戻そうとするんじゃないよw

 

137:名無しのレースファン

サナ森はもうなんもわからん……

脳筋かと思ったら頭脳派な走りもするし、逃げかと思ったら差すし差しかと思ったら逃げるし

ただ強いのは多分間違いない

 

141:名無しのレースファン

>>137

ひたすらわかりやすいマッキラとは対照的だよな

対抗バとして面白くてちょっと俺の中で盛り上がってる

 

144:名無しのレースファン

唯 一 無 二 史 上 最 強 超 絶 究 極 絶 対 マ ッ キ ラ 神

 

145:名無しのレースファン

いやーキツイでしょ

マッキラは無理よ

負ける姿が想像つかん

 

147:名無しのレースファン

今月もアホみたいな圧勝でしたね……

 

149:名無しのレースファン

上がり調子のチューターサポートがああも千切られたら希望もクソもないのよ

6バ身はエグいて

いつものことだけど

 

151:名無しのレースファン

マ王の壁が高すぎて対決の面白みにはちょっと欠けてるよな

マイル戦線だとむしろサナ森vsスロモの方が好み

 

152:名無しのレースファン

>>151

サナスロってライバルなん?

初耳だけど

 

156:名無しのレースファン

>>152

これまで互いに6戦中4戦でやり合ってる

サナ森はわからんけどスロモはゴリゴリに意識してるぞ

ウマッター遡るとサナ森の名前は出してないけど明らかにそれっぽいのわんさか出てくる

 

158:名無しのレースファン

メイクデビュー後のスロモの呟き好き

 

162:名無しのレースファン

ひとまずの目標は決めた

全員つかまえてひとつひとつ晴らしていく

時間がどれだけかかってもいい

最後には私が全員に勝つ

絶対に逃がさない

 

この超重力よ

 

163:名無しのレースファン

>>162

ヒェ……

 

165:名無しのレースファン

>>162

フードかぶって包丁持ってちょっとずつ近付いてきそう

 

168:名無しのレースファン

>>162

今回のウマッターも仕上がってるぞ

溶岩みたいな悔しさが滲み出まくってる

こんな子がこの感情抱えて夏合宿と考えると震えてくるぜ

 

172:名無しのレースファン

あーそろそろそんな時期か

 

175:名無しのレースファン

今年の夏の上がりウマ娘はどうなるかね

 

177:名無しのレースファン

大体合宿次第なとこあるよな

もっとメディアで合宿風景流して欲しい……

 

178:名無しのレースファン

報道待ちは甘え

ちゃんと合宿所近くに職場変えて自分の眼で確かめろ

 

179:名無しのレースファン

>>178

キまりすぎてて草

 

182:名無しのレースファン

>>178

思考がストーカーなのよ

 

186:名無しのレースファン

そもそも一般公開されてないから近くで見てると追い出される定期

 

190:名無しのレースファン

一般客とか集中の邪魔でしかないものな

 

191:名無しのレースファン

どうしても見たいなら頑張って資格取ってトレセン関係者になりましょうね〜

 

194:名無しのレースファン

>>191

おっそうだな(倍率見ながら)

 

198:名無しのレースファン

>>191

トレーナーはまだしも事務員レベルですらトンデモ倍率で無理すぎる

ウマ娘に何かあるとまずいから人格査定なんぼ厳しくても足りないのはわかるけども

 

201:名無しのレースファン

まぁ採用狭いのは見るだけの側には安心だから多少はね

 

205:名無しのレースファン

話に出るのずっと待ってるんだけどそろそろオークスの話していい?(´・ω・)

 

208:名無しのレースファン

>>205

いいぞ

 

211:名無しのレースファン

>>205

語れ

まとめのスレはどうしても脱線多いから自分から振っていかんとどうにもならんぞ

 

215:名無しのレースファン

たすかる

じゃあオークス語るけどさぁ!

オイシイパルフェちゃんがさぁ!

めっっっっっっっちゃ可愛かったんだけど!?

 

217:名無しのレースファン

>>215

それもう5000000000000回語ったやつやん

よっしゃ5000000000001回目始めるか

 

220:名無しのレースファン

ボロッボロ泣きながら飛び跳ねてスタンドに手振りまくるパルフェ大好き

現地に居たけどそこら中から恋に落ちる音がしてたわ

 

222:名無しのレースファン

重賞初勝利がオークスでしかもあの勝ち方よ

そら泣くわ

 

223:名無しのレースファン

一回差し切られてからの差し返しは激アツ

見てるだけでヤケドしそうなんだから本人たちはどんだけだったかって話だわな

 

225:名無しのレースファン

最後のひとかけらまで振り絞ったんだろうなぁ

どんなクソデカ達成感だったか想像もつかん

 

226:名無しのレースファン

>>225

俺らが一生のうちに一度も味わえないだろうってレベルだろうな

 

229:名無しのレースファン

>>226

レースは過酷な世界だけど羨ましいって思えるのはそこよなぁ

あの輝きに手を伸ばせるならって日本中のウマ娘が思うのも無理ない

俺だってヒトミミじゃなかったらって思うよ

 

232:名無しのレースファン

>>229

ヒトミミでも野球だのサッカーだのあるだろ

お前が手伸ばしてないのはお前だからであってヒトミミだからじゃないぞ

 

235:名無しのレースファン

>>232

お前それ禁止カードだろやめろ

 

 



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クラシック級 5月 次走選択

 

 

「ごちそうさまでしたー!」

 

「ごちそうさまでした。ありがとう、トレーナー」

 

平均よりもやや背の高い芦毛と、小柄な青毛。

2人のウマ娘がレストランの店先で並んでそれぞれのトレーナーに礼を言う。

サナリモリブデンとペンギンアルバムだ。

 

方や白百合ステークスを、方や日本ダービーを。

グレードは違えども同日に行われたレースを勝利した2人は祝勝会を行っていたのだ。

利用した店舗はサナリモリブデンが初勝利を祝ったあの店である。

天にも昇るような味わいの人参ハンバーグはやはりペンギンアルバムにも好評で、健啖家である彼女は二度のおかわりまでしたほどだ。

 

「どういたしまして。お2人に喜んでもらえたなら連れてきた甲斐がありました」

 

上機嫌なウマ娘達の礼に、やはり上機嫌でニコニコ顔の郷谷が答える。

その横ではペンギンアルバムのトレーナーである若い男、朝比奈もうんうんと頷いていた。

 

「良い事があった時にはお祝いがないと嘘だからね。頑張りが報われた時は特にだ」

 

朝比奈は実にトレーナーらしい装いだった。

きっちり着込んだスーツ姿で、いかにも社会人らしい雰囲気を纏っている。

今日も相変わらずパーカーにジーンズな郷谷と並ぶとなんともちぐはぐだった。

 

「えー? じゃあ普段のトレーニング頑張った後にも連れてきてよー! 頑張りが報われてタイム速くなった時とか」

 

「君はその辺ちょっと緩めるとほら、すぐ膨らんじゃうから……」

 

「デリカシー!」

 

そんな彼にペンギンアルバムが纏わりつくが、打ち返された直球で撃沈される。

最近は以前のようにぷくぷく太る事はなくなってきたが危うい時はそこそこあるのだ。

調整に苦労しているであろう朝比奈に対し、ペンギンアルバムはこの路線では少々弱い。

出来るのは言い方に文句をつける程度。

しかしそれも慣れたものなのか、朝比奈ははいはいと流すだけで終わらせた。

 

「むー……じゃあ今日のカロリーも早く消費しちゃお。いつものメニューでいいんだよね?」

 

「そうだね。まだレースから日が浅いから弱めで行こう」

 

「おや、そちらはもうトレーニング再開ですか?」

 

「えぇ、想定よりかなり消耗が少なかったものですから。むしろ休ませすぎる方がマイナスになりそうなんですよ」

 

若干拗ねたペンギンアルバムがトレーニングを要求し、朝比奈が応じる。

彼の言通りペンギンアルバムはピンピンしていた。

レースから数日しか経っていないとはまるで思えないほどの元気さ。

未だ多少の影響が残っているサナリモリブデンなどは、純粋にアルはすごいなぁなどと述懐していた。

 

「じゃーまた後でねサナリン! 楽しかったー!」

 

「うん、また夜に。トレーニング頑張って、アル」

 

ウマ娘2人が手を振り、店の前で別れる。

 

「さて、それではこちらもやる事をやってしまいますか」

 

「うん」

 

それで一区切り。

ここからはまた次に向けた、真面目なお話の時間であった。

 

 


 

 

サナリモリブデンと郷谷、2人はレストランから移動してコーヒーショップに入った。

特にどうという事もないチェーン店だ。

一般的な値段、一般的な味、一般的な量。

大きな特徴がない代わりに安定感は抜群で、いつ来ても同じ一杯が楽しめる落ち着いた店舗である。

今日は平日の昼間という事もあり、人気の少ない店内はのんびりと過ごしつつ対話を行うにはぴったりだ。

サナリモリブデン達はソファ席にゆったりと並んで陣取る。

 

【挿絵表示】

 

「さて、あらためておめでとうございます、サナリさん。これで6月からも晴れてオープンクラスを走れる事になりますね」

 

「うん。トレーナーのおかげ」

 

そこで2人はまず再度勝利を喜び合い、それから話し合いを始めた。

議題はもちろん今後の事だ。

 

サナリモリブデンは白百合ステークスを勝利した。

これによって彼女の評価点───ウマ娘の所属クラスをわける基準となるそれは2100点に達した。

クラシック級6月以降にオープンクラスに残るためのボーダー、1600点を超えている。

つまりは今後もトップクラスのレースに出走が叶うのだ。

朝日杯FSやきさらぎ賞のような重賞への挑戦権も獲得した、という事でもある。

 

「夏、そして秋に入ればレースも様々増えてきます。今までは無かった長距離も開催されるようになりますしね」

 

「ん……菊花賞とか?」

 

「クラシック長距離といえばやはりそれですね。……ただ、現状のサナリさんだと難しいレースでしょうが」

 

その中でも特に名のあるレースを例に挙げて、郷谷は言う。

現状のサナリモリブデンに不足している能力についてだ。

 

「サナリさんは距離に関係なく走る事のできる脚を持っています。ですが、走れる事と勝てる事はまた別です」

 

郷谷の口から出るのは厳しい現実だった。

そういった点、彼女はオブラートに包む事も優しい嘘を絡める事もしない。

愛バであるサナリモリブデンが望まない事を知っているためだ。

 

「現状で長距離に出走したとして、サナリさんはほぼ間違いなく潰れます。スタミナが絶対的に足りていません。レースによってはマイル戦の倍ほどを走るわけですから、潰れて終わりになるでしょう。勝ち負けに関わりのないところをただ走ってゴールするだけのレースになります」

 

「……ん」

 

サナリモリブデンはそれをしっかりと飲み下す。

彼女とて自覚のある事だ。

 

きさらぎ賞の終盤、スタミナが尽きて枯れ果てた自分を彼女は思い出す。

幾ら暴走があったとはいえ1800メートルでああなったのである。

それが2500以上、菊花賞では3000ともなれば絶望的と言うほかない。

 

「ただまぁ、足りないというなら身につければ良いだけです。秋になる前には夏合宿がありますからね。そこでみっちりと鍛えればいくらか目も出てくるはずです」

 

「……ちょうど気になってた。夏合宿について、そろそろ聞いておきたい」

 

「えぇ、もちろん。こちらも説明には良い時期だと思っていましたし」

 

そこで郷谷は空気を切り替え、別の説明を始めた。

夏に行われる中央トレセン恒例行事、夏合宿についてだ。

 

「これは6月から9月のうち2ヶ月を利用して行われる、ウマ娘の効果的な能力増強を目的とした強化トレーニングを指します。海辺に作られた専用施設を利用して強度の高いトレーニングを行うわけですね。同時に各種レジャーも楽しむ事ができます」

 

「? 遊ぶの?」

 

「休息なしでは壊れてしまいますからね。それに一見ふざけているように見えても科学的に効果が認められています。レジャーでストレスを緩和しモチベーションを高く維持する事で、能力の伸び方に極めて大きな差が生まれるんですよ。気になるなら論文も読みますか? タブレットにダウンロードしてありますが」

 

「ん、後で見ておきたい」

 

答えつつ、サナリモリブデンはなるほどと納得する。

辛い苦しいと嘆いて動くよりも、楽しい面白いと楽しんで鍛えた方が身につくというのは理解のしやすい所だ。

彼女自身、ペンギンアルバムやチームウェズンとの友情トレーニングで実感してきている部分でもある。

 

そして早くもワクワクと浮き立つ心も感じていた。

ソーラーレイやチューターサポート、ペンギンアルバムやチームウェズン。

あるいは以前戦ったブリーズグライダーや、やけにレースで顔を合わせるスローモーションやタヴァティムサ。

はたまた、遥か遠く背を見せて君臨するマッキラ。

そういった面々と競って鍛えつつ夏のレジャーを楽しむのは間違いなく充実したひと時になるだろうと想像してだ。

 

己を追い込んで義務を課し、ひたすらトレーニングに明け暮れた幼少期には体験できなかった事である。

サナリモリブデンの頬が期待に緩むのも無理はなかった。

 

「この夏合宿ではサナリさんの能力も飛躍的に伸びる事でしょう。不足をそこで上手く補いきれればこれまでは難しかったG1や、新しく始まる長距離レースに挑む余地も出てくるはずです」

 

そう言って説明を締める郷谷に返す頷きもやや勢いが強い。

微笑ましさに、郷谷もつられて表情を緩めるほど。

 

「まぁ、実際長距離に挑むかどうかはサナリさんの考え次第ですが。現状のままマイル路線でも構いませんし、中距離や短距離に目を向ける手もあります」

 

「ん……」

 

「こちらも中々面白い選択にはなりそうですよ。短距離はソーラーレイさんを中心に群雄割拠状態でライバルには事欠きません。中距離は飛びぬけていたペンギンアルバムさんが恐らく長距離に専念していく関係から、他の距離よりはG1での勝率が期待できるでしょう」

 

そして、郷谷はそこで話を切り替えてタブレットをサナリモリブデンに手渡した。

 

「さ、それを踏まえて次走を決めてしまいましょう。それによって、どの月を合宿に当てるかが決まってきますからね。そろそろ予定を学園に提出しないといけません」

 

表示されているのはいつも通りサナリモリブデンの適性にあわせたレース群の情報だ。

それをひとつひとつ確かめるように、芦毛の頭を揺らして眺めていく。

 

 


 

【クラシック級 6月】

 

パラダイスステークス(OP)  春/東京/芝/1400m(短距離)/左

米子ステークス(OP)     春/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

 

函館スプリントステークス(G3)春/函館/芝/1200m(短距離)/右/ブリーズグライダー

エプソムカップ(G3)     春/東京/芝/1800m(マイル)/左

鳴尾記念(G3)        春/阪神/芝/2000m(中距離)/右内

 

安田記念(G1)        春/東京/芝/1600m(マイル)/左/マッキラ

宝塚記念(G1)        春/阪神/芝/2200m(中距離)/右内

 

 

【クラシック級 7月】

 

福島テレビオープン(OP)   夏/福島/芝/1200m(短距離)/右

巴賞(OP)          夏/函館/芝/1800m(マイル)/右

 

アイビスサマーダッシュ(G3) 夏/新潟/芝/1000m(短距離)/直線/ソーラーレイ

CBC賞(G3)         夏/中京/芝/1200m(短距離)/左

ラジオNIKKEI賞(G3)     夏/福島/芝/1800m(マイル)/右

中京記念(G3)        夏/中京/芝/1600m(マイル)/左

七夕賞(G3)         夏/福島/芝/2000m(中距離)/右

函館記念(G3)        夏/函館/芝/2000m(中距離)/右

 

 

【クラシック級 8月】

 

UHB賞(OP)         夏/札幌/芝/1200m(短距離)/右

朱鷺ステークス(OP)     夏/新潟/芝/1400m(短距離)/左内

関越ステークス(OP)     夏/新潟/芝/1800m(マイル)/左外

小倉日経オープン(OP)    夏/小倉/芝/1800m(マイル)/右

札幌日経オープン(OP)    夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右

 

北九州記念(G3)       夏/小倉/芝/1200m(短距離)/右

キーンランドカップ(G3)   夏/札幌/芝/1200m(短距離)/右

関屋記念(G3)        夏/新潟/芝/1600m(マイル)/左外/チューターサポート

小倉記念(G3)        夏/小倉/芝/2000m(中距離)/右

 

札幌記念(G2)        夏/札幌/芝/2000m(中距離)/右

 

 

【クラシック級 9月】

 

ポートアイランドS(OP)    秋/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

丹頂ステークス(OP)     夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右

 

京成杯オータムハンデ(G3)  夏/中山/芝/1600m(マイル)/右外

新潟記念(G3)        夏/新潟/芝/2000m(中距離)/左外

 

セントウルステークス(G2)  夏/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

神戸新聞杯(G2)       秋/阪神/芝/2400m(中距離)/右外/ペンギンアルバム

オールカマー(G2)      秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外

セントライト記念(G2)    秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外/ジュエルルビー、アクアガイザー

 

スプリンターズステークス(G1)秋/中山/芝/1200m(短距離)/右外/ソーラーレイ、他2名

 

 


 

 

一覧を眺めるサナリモリブデン。

ただ、そこに一言が加えられる。

 

「あぁ、忘れていましたが……残念ながらサナリさんには宝塚記念への出走権はありません。グランプリに出走できるかはファン投票の結果次第ですからねぇ。こればかりはどうしようもないことです」

 

言いつつ、タブレットを郷谷の指先がタップする。

その操作で宝塚記念には赤い横線が引かれ、選択肢から消えた。

 

これは年末の有マ記念も同様です。出走のボーダーラインは毎年概ねファン20000人といったところでしょうか

 

サナリモリブデンはその数字を覚えておく事とした。

現在のサナリモリブデンのファンは、公式情報によると5631人

1戦で増えるファン人数としては、それぞれ1着を取ったとしてオープン戦ならば2500人ほど、G3で4000人強、G2で5000~7000人の間というところだ。

今年の末までに達成しようとするならば難しい話になるだろう。

 

 

 

 

サナリモリブデンと郷谷は次走を選ぶ。

夏合宿は6~9月のうち2ヶ月を利用して行われる。

つまり、この間に2回までならレースに出走しても合宿に影響はない。

 

また、6月以降のレースはシニア級との混合戦になるが、レース経験などの差を埋めるためにクラシック級のウマ娘には多少の有利が与えられる。

このため、格上のシニア級ウマ娘との戦いでも急激に難しいレースになるといったことはない。*1

 

以上の情報を踏まえてまず2人はこの期間の前半、6~7月をどう過ごすかを決定した。*2

 

*1
急に難度が跳ね上がったりはしないという意味。

*2
アンケート項目数上限による分割。8月以降は7月末に選択します。



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クラシック級 5月次走選択結果~閑話/映画館~6月スキル習得

 

 


 

【投票結果】

 

この期間は出走しない

 


 

 

話し合いの末に2人の意見は一致した。

6月、および7月はレースには出走しない。

この期間を利用して夏合宿を行い、しかる後にシニア級との混合戦に挑んでいくという決定だ。

 

「妥当なところですね。戦うならばまず鍛え上げてから。冷静な判断です。それでは学園にはこれで予定を伝えておきましょう」

 

言って、郷谷は早速スマホを操作してメッセージアプリで連絡を始めた。

彼女の言った通り学園への申請だろう。

正式なものは書面になるのだろうが、事前にこうして話を通しておけばスムーズに事が進む。

 

話し相手が仕事に入ったため暇になったサナリモリブデンは、ふと思いついた事があって自身もスマホを取り出した。

彼女は6月からは夏合宿に入る。

すると必然的に東京、府中からは離れる事となるのだ。

その前に、今しか出来ない事をやっておきたいと考えたのである。

 

 


 

 

閑話/怖いもの見たさPart2

 

 


 

 

「本気?」

 

「うん」

 

「ごめん、質問間違えたよ。……正気?」

 

「とても心外」

 

その翌日。

サナリモリブデンは昨日約束を取り付けた相手、チューターサポートにそう問われていた。

呆れを滲ませる真顔を向けられ、サナリモリブデンは目を細めてほんの少し拗ねる。

 

ただ、言われても仕方のない事ではあった。

何しろここは。

 

「悪いけど言いたくもなるよ。また入るの? この映画館」

 

かのB級専門映画館前だったのだから。

並ぶポスターはどれも安っぽく、いかにも予算がかけられていない感を滲ませている。

 

以前誘われるままにここで見た映画「ゾンビランナー ~命尽きても走れよ乙女~」はそれはもう酷い出来だった。

脚本はボロボロ、予算もなければ情熱もない。

撮影にも演技にもやる気がなく、とりあえず映画を撮れる事になったから撮ってみました、というようなレベル。

サナリモリブデンもチューターサポートもかの作品を"懲役70分"と称する事になんら異論はないと一致していた。

 

「うん。確かにアレは酷かった。でも他もそうとは限らない。意外な所に転がっている宝石だって、きっとなくはない」

 

「えぇ……そうかなぁ……」

 

が、木を見て森を知った気になるのは早計だとサナリモリブデンは考えた。

初めに出会った作品が粗悪だったからと足を遠のけては損をする事だってあると。

対してチューターサポートは懐疑的な様子だが、そこは気質の違いだろう。

あるいは、恵まれない素質から努力と根性でここまで走ってきた者と、素養に恵まれて順調に育ってきた天才肌の差であるかも知れない。

 

ともかく、最終的にはサナリモリブデンの説得により2人の映画鑑賞は本決まりとなった。

渋い顔のチューターサポートを先導し、サナリモリブデンは映画館に踏み込む。

 

今回見る事にした映画は───。

 

 


 

【映画ランダム選択】

 

アリジゴクvsブローニング Ⅲ 完結編

 


 

 

「アリジゴクvsブローニング Ⅲ 完結編」なる作品だ。

以前ゾンビランナーを見に来た時にも上映されていたものだ。

ポスターの中ではビル群を飲み込む砂漠から巨大アリジゴクが鋭い顎を覗かせ、それに対し大きなマシンガンを構えた白人のマッチョマンが勇敢に立ち向かおうとしている。

 

「前に来たのは3月。それから今まで上映しているなら期待はできると思う」

 

「そうかなぁ……。ねぇ、ちょっと情報調べてからにしない?」

 

「よくない。純度が下がる」

 

「何の純度???」

 

もちろん怖いもの見たさの純度である。

サナリモリブデンはそういった点、ちょっとこだわるタイプのようだ。

 

「それに、最悪脚本がダメでもアクションなら見れる所はあると思う」

 

「うーん……まぁ確かに。映画ってバカスカ銃撃ってるだけでも楽しいものだしね」

 

続く意見にはチューターサポートも同意した。

彼女の頭に思い描かれるのは往年の名作だ。

例えば、誘拐された娘がどこに居るかも分かっていないのに敵のアジトをズタボロにしていく筋肉ムキムキマッチョマンの大活躍。

問答無用で見る者を興奮させる大立ち回りは突っ込みどころという概念を一時忘れさせる爽快さがある。

 

流石にそこまでは期待できないだろうがゾンビランナーほどの大外れもしないだろう。

そういう判断を共に下し2人のウマ娘は魔境へと足を進める。

 

 


 

 

そして出てきた。

今回の映画は90分。

鑑賞による疲労をいたわるように、2人は前回と同じ喫茶店に入った。

 

向かい合って座り、コーヒーを注文し、そして見つめ合う。

このタイミングで何をするかは事前に決めていた。

 

頷きをひとつ交わし、それから同時に口を開く。

 

 


 

【映画の採点】

 

サナリモリブデン:27点

 

チューターサポート:13点

 


 

 

「27点」

 

「13点。……ちょっとサナリ、高くない?」

 

「高くない。冷静に考えてほしい。27点は普通に赤点」

 

「あぁうん、そりゃそうだ。うん……」

 

同時に映画の点数を口に出し、そして揃って苦い顔をする。

2人の背中は等しくすすけていた。

岩でも背負ったような沈みっぷりである。

 

結論として、クソ映画であった。

 

「……あんなに見れないアクション、初めて見た」

 

「逆にすごいよね。同じ映像何回使い回したのかな」

 

「わからない。でもマシンガンを左右に振り回すあのシーンだけでも20回はあった。……夢に出そう」

 

「やめてよ、こっちまで出そうだ」

 

アクションならそう悪い事にはならないだろう。

そんな2人の考えは完全に裏目に出ていた。

 

演者の動きには迫力もスピード感も何もない。

映像は使い回しがやたらと多い上に、CGがお昼のニュースで使われる再現映像並に安っぽく悪目立ちしすぎる。

 

敵であるアリジゴクと主人公であるマッチョが同時に画面に映らないのも悪かった。

砂漠に立つ主人公に向けていかにも作り物な虫の脚が振り下ろされ、よっこらしょと声が聞こえそうな遅さで主人公が避ける。

そしてどっこいしょとマシンガンを構えて気の抜けるような叫びとともに射撃を行うと、画面が切り替わってアリジゴクが弾け飛ぶシーンが挿入される。

単純にテンポが悪く戦っている臨場感がまるでない。

 

なお、もちろんアリジゴク死亡シーンは使い回しだ。

あ、発泡スチロールで作ったんですね、と誰にも分かる質感のそれがCGの爆発エフェクトをともなって崩れていく姿は2人の目に悪い意味で焼き付いている。

 

当然、アクションらしい爽快感など皆無。

それどころか使い回しばかりの映像を見ていると砂を掘っては埋める拷問を受けているような気分になった2人である。

最早視覚化された虚無だった。

 

「あとさ……設定、何言ってるかわかった?」

 

「全部抜けてった。なにもわからない」

 

そして次に、無駄に多すぎる設定語りも問題だった。

何故都市が砂漠に飲み込まれたのか。

そこにアリジゴクが襲来した理由は。

それに立ち向かう主人公の男は何者なのか。

 

これが映画の世界独自の用語を用いて序盤から延々と語られたのだ。

当然動きの殆どないカメラワークで、前世紀を思わせる安っぽさのSF系基地のセット内で、棒読みの大根演技でだ。

しかもただでさえ分かりにくいところに、都市の危機のはずなのだが何故か挿入される緩い空気の日常会話が邪魔をする。

主人公がヒロインらしいブロンドの女性を口説こうとしてみたり、ヒロインがコーヒーの味に文句をつけて3度も淹れなおしてみたりだ。

どうしてそこに尺を使うのかと考えているうちにわずかに記憶できた情報も抜けていく。

 

2人とて最初は理解に努めようとはした。

が、結局ストーリーラインは殆ど飲み込めず、いいから早くアクションに入ってくれと願ったものだった。

 

まぁ、その40分ほどの説明を終えた先に待っていたのは先述した虚無のアクションだったわけだが。

 

「いや仕方ないとは思ったよ? いきなり完結編から見た私達が悪いんだろうなぁって。でもさぁ……」

 

「……そもそも1と2がないんだからどうしようもない」

 

「それ。それだよ。完結編に繋がる1作目を鋭意撮影中ってどういうこと? エンディングで出てきたあの宣伝ですっごい混乱したんだけど。本気で理解できない」

 

「多分、構想を練ってる間に盛り上がってクライマックスを先に撮りたくなったんだと思う」

 

「無茶苦茶だよ!」

 

チューターサポートの意見に、サナリモリブデンはため息と共に深く深く同意した。

理解はできなかったが何やら深い設定がありそうな感は出していた。

ならばせめてそれを理解しやすいように順を追って作ってほしいと。

 

なお、サナリモリブデンの点数が少々高いのはこの辺りを勘案しての事だ。

何もかも拙い上に順番を盛大に間違えた作品であったが、脚本や監督に情熱はあると感じられたために点を増やしたのだ。

是非次は間違えないでほしいという期待と願いを込めて。

 

「……はぁ」

 

「……ふぅ」

 

一通り語り終え、2人は同時にため息を吐いた。

レース後よりも疲れを感じる背中を丸めて。

 

ちなみに、エンディングはバッドエンドだった。

主人公が倒したアリジゴクの群れは先遣隊でしかなく、解決したと思ったら本隊がやってきたのだ。

SF基地の中で最期を待つ主人公たちは互いにここまでの健闘を労い、そっと肩を抱き合って崩れ落ちる瓦礫の中に消えていった。

 

そしてまさかのフォローなし。

普通に人類が滅んでサラッと終わる肩透かしぶりも酷さの一因と言えた。

滅ぶなら滅ぶでもう少しドラマがあっても……というのが2人の感想であるが、同時にこのクオリティで見せられても辛いかも知れないと思いもしている。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「とりあえず、次はなくていい……。あっても、しばらくは無理」

 

「同感。少なくとも10年くらいは普通の映画館でいいや、私」

 

そういう事になった。

残念ながら残りの1作「地上最速の料理人X」とやらを見る機会はやってこないだろう。

サナリモリブデンにもチューターサポートにも、3度目の虚無に挑む気力は残っていなかった。

 

 


 

【6月固定イベント/スキル習得】

 


 

押し切り準備/150Pt

(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

 

展開窺い/150Pt

(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

 

ペースキープ/100Pt

(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

 

トリック(前)/150Pt

(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

弧線のプロフェッサー/250Pt

(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

シンパシー/150Pt

(絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

 

逃げためらい/100Pt

(レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

 

 

スキルPt:330

 

 




【ダイスログ】

【挿絵表示】


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クラシック級 6月スキル習得~夏合宿イベント

 

 


 

【投票結果】

 

弧線のプロフェッサー

 


 

 

コーナーを越えて直線を走りゴールを過ぎ、サナリモリブデンは立ち止まって息を整える。

そして自身の脚を見つめ、拳を握りしめた。

一つの壁を越え成果を手にした確かな実感があったためである。

ふつふつと、湧きあがる水のように充足感が彼女の中で音を立てていた。

 

「……まさか本当に物にするとは、というところですねぇ」

 

そこに駆け足で寄ってきたのは郷谷だった。

サナリモリブデンの前で立ち止まり、手を伸ばす。

そうして運動着の袖、肩口あたりを撫でながらしみじみと呟いた。

 

「いえ、サナリさんがやると言ったのならやるかもとは思ってはいましたが。実際目にすると正気を疑うというか」

 

「ん……」

 

対するサナリモリブデンはわずかに目をそらして言い淀んだ。

心外、とはさしもの彼女もどうやら言えない。

 

「良かった、常識的に考えておかしい事をしている自覚はあるんですね?」

 

「少し」

 

「できれば大いにあってほしかったですねぇ」

 

サナリモリブデンは今度こそ大きく目をそらした。

にこやかに言いつつも顔をひきつらせる郷谷を直視するのは難しいらしい。

ピクピクと耳を動かし、やや不安げな様子だ。

 

それを見た郷谷はくすりと笑った。

 

「怒ったりはしませんからそこまで心配しないで下さい。ちゃんと許可はしたでしょう?」

 

「ん、うん。試して良いって言われたのは驚いたけど」

 

「正直な所を言うと失敗を予想していましたし、その失敗から次を導く準備をしていたんですけどね? 成功した上に本当に身についてしまったのなら考えを切り替えます。このコーナリング技術、しっかり丁寧に磨いてしまいましょう」

 

「……いいの?」

 

「こういう物は半端にしておくのが一番悪いですからね。下手に禁止して土壇場で未熟なまま使われて大失敗、なんてことになるよりは監督下で完璧に使いこなせるようにした方がよほど安全です」

 

その言い分にはサナリモリブデンも納得した。

 

とっさの閃きが場を塗り替える事は確かにある。

先日のレースでもそれは発揮されたばかりであり、彼女自身体験した事ではある。

だがそれは賭けでしかなく、白百合ステークスで成ったのは幾つもの要因がプラスに重なった結果だ。

付け焼刃が毎度功を奏するとは考えるべきではない。

 

そもそもとしてサナリモリブデンがあの日この技術を既に手にしていたならば、賭けに出るよりも遥かに容易く同じ結果を生めていただろう。

いざという時に頼れるものは確かな鍛錬の下で鍛え抜かれた鋼なのだ。

 

「というわけで、合宿が始まるまでは集中的にコーナリング訓練をしましょう。これはモノがモノです。考え事をしながら鼻歌混じりにこなせるようになるまで実戦投入は許しませんよ?」

 

「了解。気合入れてやる」

 

そうして、サナリモリブデンは技術の習得に勤しんだ。

許されたトレーニング時間の大半を費やし、成功率を上げるために心血を注ぐ。

鍛錬を続けるうちに、初めの頃は幾度か混じっていた失敗は見られなくなった。

日に3度が2度になり1度になり、そして0を通り過ぎて自然な動作として体に染み込んでいく。

 

6月初旬。

ついに本当に鼻歌混じりにソレをやってのけたその日。

サナリモリブデンは新たな武器を手にした。

 

 


 

【スキル習得】

 

弧線のプロフェッサー

(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

スキルPt:330 → 80

 


 

【6月固定イベント/夏合宿、はじまる】

 

このイベントの登場人物は固定されています

 


 

 

6月。

それは夏と呼ぶには少し気の早い時期だ。

陽光はまだ柔らかく、梅雨の中で雨は多く、風もさほど熱をはらまない。

海の温度も物足りず各種レジャーも楽しめない。

 

……というのは、あくまで日本の話だ。

 

燦燦とそそぐ強い日の光の下で、パシャリと音が鳴った。

スマホの撮影音である。

撮影を行った芦毛の少女、サナリモリブデンは満足げに頷いた。

どうやら写真の出来は上々だったらしい。

 

画面いっぱいに映るのは、白い砂浜に青く透き通る海、そしてどこまでも高い青空だ。

遠方には小さく島影も見える。

常夏の島。

そう言われて人々がイメージするだろう風景そのものであり、実際そういった場所であった。

 

(……無事についたよ、と)

 

そしてその写真をメッセージアプリで母親に送信する。

既読がつくまでに数秒とかからない。

返答は元気いっぱいな青毛のウマ娘のスタンプと、何行もの応援の言葉だった。

最後まで読み切ったサナリモリブデンの顔に笑みが浮かぶ。

 

単純な嬉しさと、同時に妙な面白みもあっての事。

ダービーウマ娘のスタンプが発売されるのは毎年恒例とサナリモリブデンも聞いている。

だが実際に同室の親友のイラストが日本中に向けて売られ、母親から送信されてくるというのはそうない経験だろう。

 

 

 

「サナリさーん!」

 

と、そこへ声をかける者がある。

サナリモリブデンはその声に、笑みを保ったまま振り返った。

 

【挿絵表示】

 

「トレーナー、お待たせ。手伝う?」

 

「いえいえ、大丈夫ですよこのくらい」

 

苦笑する郷谷がそこに居た。

両肩にクーラーボックスを下げ、えっちらおっちらと歩いている。

どちらも相当なサイズだ。

中身がパンパンに詰まっていればヒトの身には辛いだろう。

 

サナリモリブデンはすぐさま片方を郷谷の肩から取り上げた。

ひょいっと軽々持ち上げて運ぶ先を聞く。

 

「あら……えぇと、ではあちらの青いテント下にお願いできますか?」

 

「了解。力仕事は任せて。こっちの方が強いんだから」

 

「大人組が働いて、サナリさん達には遊んでいてもらおうと思ったんですけども」

 

「トレーナーが頑張ってるのに遊ぶのはちょっと気が引けるから」

 

「あはは、それはまぁ確かに、分からなくもないですねぇ」

 

「うん。……それに」

 

そこまで言って、サナリモリブデンは海の反対側、陸側にすっと目をやる。

止められた数台の車両からは同じような荷物が幾つも運び出されていた。

が、それを運ぶのは。

 

「よぉーし勝負だお前らぁ! 一番多く運んだやつが火を起こせる権利獲得だッ!」

 

「ちょちょちょマジで!? 炭!? 炭フーフーしていいん!? やっばぁ燃えてきたぁ!」

 

「アビー隊長! レギュレーションは!? 一度に何個まで持ってOK!?」

 

「無制限に決まってんだろぉ! 持てるだけ持てッッッ!!」

 

「あああああ待って待ってそんなに持ったら落とすからっ! 崩れるからっ! 中身ぐちゃぐちゃになるからぁ!」

 

「はっはっは! いつもより随分元気じゃないか。良い事だぞぉ」

 

「先生ー! 笑ってないでアビー達を止めてー!」

 

アビルダ、タルッケ、トゥトゥヌイだ。

クーラーボックスだの段ボールだのを頭の上に重ねて抱え上げ、楽しそうに笑いながら砂浜へ駆け下りてくる。

それを笑って見送るのが彼女らを率いる大槍トレーナーであり、悲鳴を上げて追いかけるのがセレンスパーク。

合宿でも当然のように騒がしいいつものチームウェズンだった。

 

「あの通り。みんなでやれば早いし、準備だって楽しい」

 

「なるほど、一理あります」

 

サナリモリブデンと郷谷は顔を見合わせて笑った。

準備もなにもかも楽しみたいというのはサナリモリブデンの自然な気持ちだった。

どうせやるならば、余すところなく隅々まで。

なにしろ折角のイベントなのだ。

 

それも。

 

「なによなによ楽しそうな事してんじゃない! 私も混ぜなさいよー!」

 

「うわ、あそこ入っていけるんだ。凄いなレイ……」

 

「アクティブさすっごいからねぇ。……うぷ。あ、だめ、きつぅ……。車ダメなんだよねぇ私……」

 

ソーラーレイ、チューターサポート、ペンギンアルバム。

3人が浜辺に設置された海の家───トレセン学園に雇われたスタッフが合宿所利用者のためだけに開設したそこの、更衣室から歩み出てくる。

全員が水着に着替え、さぁこれから遊ぶぞといった様相で。

 

サナリモリブデンはこの状況に浮き立っていた。

親しく付き合っている仲間達との、2か月間の合同合宿。

途中レースで1、2週間抜ける者は居るものの、実り多いトレーニングになり、そして多くの思い出が作られる事はまず間違いない。

 

「トレーナー。ありがとう。話、通すの大変じゃなかった?」

 

「ふふ、どういたしまして。ですがそう手間でもありませんでしたから気にしないでください。サナリさんが十分に実力を証明してくれたお陰でこちらから提示できるメリットも多かったですからね。実にスムーズに話がまとまってくれたんですよ」

 

その実現にサナリモリブデンが感謝を告げると、郷谷はいやいやと首を振った。

実際そこに嘘はない。

今のサナリモリブデンはクラシック級の注目株の一人である。

重賞勝利経験こそないものの、出走すれば善戦はするだろうという予測が向けられる程には実力を示してきたウマ娘だ。

そこに普段の仲を加味すれば各々のトレーナー陣が合同合宿を良しとする理由は十二分に揃っている。

 

「今日、こういう日が迎えられたのはサナリさん自身の頑張りの結果でもあるんです。ですので」

 

郷谷はにんまりと笑う。

いつもの装いよりも少々薄着なせいか、それとも彼女もまた心が弾んでいるのか。

それは普段よりも幾分深く柔らかい笑みだった。

 

「気兼ねなく楽しんでくださいね。楽しく愉快に健やかに、の精神です」

 

「ん。任せて、全力で楽しむ」

 

むん、と腕を軽く振り上げて。

さぁまずは設営からだとサナリモリブデンは張り切るのだった。

 

 


 

 

そして宴が始まった。

 

合宿初日といえばコレ、という恒例行事であるらしい。

移動の疲れを癒すのはなんといっても───。

 

「うわー! にくー!」

 

肉の山だった。

IQの下がった声色でペンギンアルバムが鳴く。

彼女の眼前でじゅうじゅう音を立てているのは肉である。

それはもう肉だ。

骨付きの肉である。

ウェズンの面々が高らかに笑いながら火を付けた炭に炙られた肉はぽとぽとと脂を滴らせ、少しずつ食べごろに向かっている。

 

「サナリンサナリン、これ、ここの一角ぅ……私のってことでいーい?」

 

これにたまらないのはペンギンアルバムだ。

肉の匂いに釘付けな彼女は上目遣いで肉焼き係に立候補したサナリモリブデンにお伺いを立てる。

今にもよだれを垂らしそうな様子ですらある。

肉の焼ける香ばしい匂いに車酔いはすっかり吹き飛んだようだ。

 

【挿絵表示】

 

「ん、認める」

 

「ぃやったー! サナリン大好きー!」

 

「アルのトレーナーさんからも今日くらいは良いって聞いてる。好きなだけ食べていいよ」

 

「合宿最高だよぉ……! 今日は骨までしゃぶっちゃうからね!」

 

サナリモリブデンの裁定にペンギンアルバムは諸手を上げて喜んだ。

小柄で可愛らしい少女であるが、今日は輪をかけて幼く見える。

その実態は際限なく肉を飲み込んでいくブラックホールなわけだが。

 

 

 

「はぁ……ようやく落ち着けたぁ」

 

「あはは、お疲れ様です、先輩」

 

「……? あっ、私か! そんな風に敬われる事ないからわかんなかった……!」

 

ペンギンアルバムの反対側では別の2人が一緒に肉をつついていた。

癖毛が特徴的なチューターサポートと、ウェズンの被害担当セレンスパークである。

初対面の組み合わせではあるが挨拶などの類は移動中に済んでいる。

 

【挿絵表示】

 

この2人は互いにどちらかといえば控え目な性質だ。

セレンスパークはウェズンの被害さえ受けていなければ大人しく、攻撃性もない。

炭起こしで満足したアビルダ達3人が水辺で平和に遊び始めた今、彼女を脅かす者は一時的にいなくなっている。

親睦を深めるにはちょうどいいタイミングなのだろう。

 

「ずっと大変だなーと思って見てたんです。良かったらこれどうぞ」

 

「え、あ、ありがとう! うわ、うわ、優しい後輩だ……実在したんだ……!」

 

「そこまでの事ですか???」

 

そして礼儀正しいタイプのチューターサポートはセレンスパークによく刺さったらしい。

よく冷えたジュースを手渡しただけで涙を流さんばかりに喜んでいる。

大きすぎるリアクションに若干チューターサポートが引いているが気付きもしないほど。

 

「この辺り、良く焼けてる。そろそろ大丈夫だと思う」

 

「あ、うん。もらうねっ! サナリちゃんも今日は優しい日なんだぁ。どうしよう。ここ天国なの?」

 

「サナリ、あの、この人って普段……」

 

シェフのオススメも加わればセレンスパークの癒され具合は天井知らずだった。

その様にチューターサポートが色々と何かを察するが、サナリモリブデンはそっと首を横に振る。

戦友同士の意思疎通はそれで十分だ。

 

チューターサポートは理解した様子で動いた。

そっとセレンスパークの隣に座り、寄り添う。

 

「あの、実は私チームって少し興味があって……いつもどんな事をしているのか聞いてもいいですか?」

 

「きょ、興味!? ウェズンに───」

 

「あ、入る気は全然ないです。興味本位です。加入はしません。今のトレーナーとの専属契約に満足してるので」

 

「───うん。知ってた。賢明だと思うよ。……半分くらい愚痴になっちゃうかもだけど、聞く?」

 

どうやらストレス緩和に協力するらしい。

上手くいってくれれば良いと、サナリモリブデンも願うばかりだ。

せめて合宿の間だけでも心安らかに過ごせれば良いと彼女も思う。

 

 

 

「いや実際ソレ無理じゃない? ボケ倒しに巻き込まれるのが日常になってるタイプでしょ」

 

「うん」

 

「アレのお仲間なあんたがそう言うならダメそうね。骨を拾う準備だけはしといてあげるわ」

 

まぁ、そこから数歩離れれば無慈悲な予測を口にするのだが。

 

サナリモリブデンは声をかけてきた褐色のウマ娘、ソーラーレイに向き直る。

彼女の言葉はセレンスパークに同情的であった。

が、その本音がどうかといえば表情を見れば明らかだ。

 

【挿絵表示】

 

ニヤリ、という擬音がぴったりである。

はたから見ている分には楽しいと言わんばかり。

 

「はたから見てる分には楽しいばっかりだもの。楽しんだ分くらいは返してあげないとね」

 

いや、実際言っていた。

色々と無茶苦茶なチームウェズンはソーラーレイのお気に召したらしい。

これから2ヶ月楽しくなりそうだと快活に笑ってみせていた。

 

「……ふ」

 

「ん? なにかおかしかった?」

 

「ウェズンに関わって傍観者でばかりいられると……ううん、なんでもない。気にしないでいい。大丈夫。何もないから」

 

「……ちょっと。不吉な事言わないでよ。愉快な連中ってだけでしょ? そうよね?」

 

「ソーラーレイがそう思うんならそうなんだと思う。ソーラーレイの中では」

 

「不安しか残らない言い方やめなさいよ!?」

 

対するサナリモリブデンもまた、ニヤリと笑ってからかってみせた。

ウェズン歴には一日の長があるサナリモリブデンである。

そんな彼女が含みを持たせて言う言葉には説得力があった。

アビルダ達3人のハイテンションに混ざってはしゃいだ今ならばなおさらだ。

 

「……さ、最悪どのくらいを想定しとけばいいの?」

 

「拉致」

 

「どん底じゃないのふざけんじゃないわよ」

 

その不安を率直に問い、返った答えにキレ散らかすのも無理はない。

 

とはいえ、ソーラーレイとてこれがじゃれ合いだと分かってはいる。

サナリモリブデンの瞳に、珍しいほどに楽し気な光が宿っているためだ。

 

拉致といっても本当に犯罪の拉致ではなかろう。

精々が担ぎ上げられて運ばれてちょっとした騒ぎに巻き込まれる程度であるはずだ。

ソーラーレイの予想はそういったところであり、実際おおむね正しい。

 

ならその程度は夏に免じて楽しんでしまうのもやぶさかではないと彼女は考える。

合同合宿メンバーの内、サナリモリブデンに並んでウェズン適性が高いのはソーラーレイかも知れなかった。

 

 

 

さて、そんなウマ娘達をやや離れて眺めるのはトレーナー陣だ。

郷谷。

ウェズンのトレーナーである大槍。

ペンギンアルバム担当の朝比奈。

チューターサポートとソーラーレイの専属担当は遅れて参加予定なのでこの場にはまだ居ない。

 

「それでは、合宿の成功を祈って───」

 

「「「かんぱーい!」」」

 

そんな彼らの中央で3本のビンがぶつかり軽やかな音を立てる。

ビール……ではない。

いずれもノンアルコールの飲料である。

 

ウマ娘を引率する立場であるトレーナーがまさか酔っぱらう訳にもいかず、その辺りの職業倫理に欠ける者がトレーナー資格を得られるはずもない。

現に今も大槍などは水辺ではしゃぐ3人に横目で注意を払っている。

郷谷とてサナリモリブデンが火の扱いを誤らないかは気にかけているし、朝比奈もペンギンアルバムが喉を詰まらせやしないかと冷や冷やだ。

チューターサポートとソーラーレイにももちろん、預かった責任を理解して目を向けている。

 

とはいえ、それはトレーナーなら出来て当たり前の事だ。

彼らはそうしつつも同時に宴会の空気を楽しみ始める。

 

「んー、美味しい。やっぱり焼き物といえばサザエですねぇ」

 

「意外と渋い好みしてますよね、郷谷さんって」

 

「お酒の飲み方はチーフに仕込まれましたから。おつまみの趣味がおじさんっぽいのはこの人のせいです」

 

「なぁに言ってんだ。お前しょっぱなエイヒレから始めただろう。ハタチの小娘がいきなりあんなもんつまむからビックリしたんだぞ俺は」

 

「おっとバラされてしまいました」

 

こちらは大人らしく、落ち着いた和やかな空気だ。

互いに担当するウマ娘の戦場が被っていないというところも大きい。

 

ペンギンアルバムは中距離以上のG1戦線の主役。

チームウェズンは最もクラスが上のアビルダとセレンスパークが3勝クラス。

そしてサナリモリブデンは現状オープンクラスの純マイラーと他陣営からは目されている。

 

これでピリピリと睨み合うのは無理がある。

どこにでもあるような穏やかな飲み会といった様相。

 

 

 

そんな3人の話はやはり合宿の予定に移っていく。

特に、翌日に予定されているレクリエーションについてだ。

 

2ヶ月続く合同トレーニングの前に、まずは目いっぱい遊んで連帯感とモチベーションを高める。

そうしてこそ効果の高い練習が行えるのだ。

 

故に、いかに遊びといえどもトレーナー達は手を抜かない。

8人のウマ娘達が心の底から楽しめるように何度も繰り返したミーティングをここでもまた行う。

既に議論は十分煮詰まり切り新しいアイディアが出る事もないが、確認はどれほど重ねても足りる事はないと彼らは知っている。

 

さて、そんな彼らが準備したレクリエーションとは……。

 

 



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クラシック級 6月夏合宿イベント~夏合宿トレーニング選択

 

 


 

【投票結果】

 

沖合いの無人島サバイバル体験

 


 

 

「無人島。それは浪漫の塊……!」

 

「急にどしたのサナリン」

 

ふんすと鼻息荒くサナリモリブデンは上陸した。

合宿所のある浜から船で十数分。

ウマ娘8名とトレーナー陣5名の計13名は自然あふれる無人島にやってきた。

さほど大きな島ではない。

全景としては楕円に近く、浜辺を一周しようと思えば1日とかからない程度で、島の中央部には小さな森が広がっている。

訪問の目的はと言えばレクリエーションのためだ。

 

「よぉし、それじゃあ説明を始めるから集まってくれー」

 

号令を掛けた大槍が皆を浜辺の一角へと集める。

そこには簡易的な天幕が建てられており、中には寝袋やランタンなどの各種キャンプ用品が用意されていた。

緊急用と赤い文字が書かれた鍵付きの箱もある。

 

「今回はみんなに、この島で1泊2日のサバイバルを体験してもらう!」

 

つまりそういう内容だった。

用意された資材は最低限の道具のみ。

食料は無く、火種もない。

寝袋はあるがテントは無いので屋根や壁の類も準備しなければならない。

生活のほぼ全てを自然相手に勝ち取って過ごそう、という企画なのだ。

 

「とはいっても何かあったらまずいから本当にダメそうな時の備えもしてある。気楽にやってくれていいぞ。あくまでレジャーなんだからな」

 

大槍はそう言って、鍵付きの箱をぽんぽんと叩いた。

かなり大きなものだ。

中には恐らく非常食やテントが詰め込まれているのだろう。

失敗に失敗が重なったとしても悪い事にはならなさそうだ。

 

「意外とな、サバイバルってのも楽しいもんだぞぉ? 生活に必要なもののうち何を優先するのか。どれがどれだけ必要で、どこを探せば手に入るのか。役割分担は? そういう事を考えるだけでも、どうだ、ワクワクしてこないか?」

 

ニンマリと笑う大槍に対し、真っ先に賛同したのはやはりウェズンだった。

普段から教え教わる関係であるために感性が近い。

タルッケが高々と手を上げて叫ぶ。

 

「してくるー! 葉っぱでテント作っていい? いいっしょ?」

 

「先生! 宿より飯! 宿より飯を提言します! 食べ物探そう!」

 

「おっ、いいぞいいぞ。意見はどんどん出していけー」

 

それにトゥトゥヌイが続けば、他のウマ娘も言葉を交わし始めた。

特に飯の一言に反応したペンギンアルバムが早い。

 

「食べ物って何が取れるのかな? 果物とか?」

 

「おいおい、そんなつまらない獲物でいいのかぁ? 小さいったって自然だぞ! イノシシとか捕れるかもだ!」

 

「肉!? もしかして、鹿とかも……!?」

 

「居ないとは言い切れないぜ。赤身肉で美味しいって言うよなぁ」

 

釣れた獲物は逃がさないとばかりにアビルダがペンギンアルバムの肩をがっしり掴む。

サナリモリブデンはその様に、あっ、と察した。

恐らく彼女はもう逃れられない。

すっとんきょうな空気に飲み込まれたまま狩りに出かける事になるだろう。

 

「いやこんな島にいないでしょイノシシなんて。居ても精々ヘビくらいじゃないの?」

 

「普通に考えてそうだよね。トレーナー達も事前調査はしてるだろうし、危ない動物が居たら選ばないと思う」

 

「ま、それはそれとして私も狩りには行くけどね。楽しそうじゃない」

 

「あぁ、うん。レイはそういうの似合いそうだ。槍掲げて雄叫び上げるやつ」

 

対して冷静なのはソーラーレイとチューターサポート。

彼女たちの言う通り、事前の確認は徹底して行われている。

サバイバルとは言ってもあくまで遊びの範疇だ。

もちろん、それを盛り上がっているところに突き付けて水を差すなんて事はしないが。

 

「ふん。そういうあんたは地味な方が似合ってるわよね。ちまちました家づくりとか」

 

「性には合ってるね、間違いなく。拠点は任せてよ。お土産期待してるから」

 

「怪しいキノコとカラフルなヘビあたりでいい?」

 

「もっと毒のなさそうなとこがいいかな」

 

こちらの分担も自然と終わりそうなところだ。

ソーラーレイは楽しさを求めて島の森へ狩りに、チューターサポートはやりがいを求めて拠点作りに精を出すらしい。

葉っぱでのテント作りに興味を持っていたタルッケもチューターサポートと組む事になるだろう。

 

そして他に。

 

「……………………」

 

「セレ───」

 

(サナリちゃん、聞こえる? 私は空気。空気なの。存在感を消して島に溶け込んで、他の組に巻き込まれるのを防ぎたいの……!)

 

(直接脳内に……!?)

 

集団の隅でじりじりと目立たない日陰に移動しつつ、セレンスパークがアイコンタクトでサナリモリブデンにメッセージを伝える。

そして手と腕、耳と尾を素早く動かし、サササとジェスチャーで語りかけた。

 

(私は海で魚とか貝とか捕るね。アビー達は成果があるかちょっと怪しいし。……それと、一人で静かに自然に癒されたいの)

 

(了解。健闘を祈る)

 

サナリモリブデンもまたジェスチャーで返答した。

意志が伝わった事に安堵する様を眺めて、サナリモリブデンは被害担当は大変だなぁなどとのんきに考えた。

そんな2人のやり取りをトレーナー陣は訝しむように見ていたが、まぁ些細な事だ。

 

さて、こうして役割はおおむね出揃った。

最後にサナリモリブデンも自分の胸に問いかける。

何をすべきかという義務ではなく、何をして楽しみたいかと。

 

 


 

【イベントランダム分岐】

 

結果:狩りへ出かける

 


 

 

「狩り。それこそ浪漫……!」

 

「あんたソレさっきも言ってなかった?」

 

「言った。何度言っても良い。浪漫こそ今最も必要なもの」

 

ふんすふんすとサナリモリブデンの鼻息が荒くなる。

分かりやすくテンションが上がっている。

端的に言って、はしゃぎまくっていた。

 

「島に潜む伝説の怪物……神々が愛した幻のフルーツ……隠された古の秘宝……」

 

「テレビの見過ぎじゃない?」

 

「滾ってきた……!」

 

「あ、うん。もう好きに盛り上がったらいいわ。ちょっと見てて愉快だから」

 

ソーラーレイの言葉にもさらにやる気を上げるだけで鎮静効果はない。

なにしろサナリモリブデンの憧れのひとつであったのだ。

裕福とは口が裂けても言えなかった幼少期、サナリモリブデンの数少ない娯楽といえば安価に楽しめるテレビ番組が主だった。

その中で繰り広げられるキャラの濃い探検隊による探索行は幼いウマ娘の心に焼き付いたものであった。

あれらが作り物のエンターテイメントでしかないと理解した今であっても、この状況に心が躍らないわけもない。

 

サナリモリブデンはきょろきょろと辺りを見渡し、あるものを見つけて拾い上げる。

一抱えほどもある太さの大きな枝だ。

というよりも風か雷かそういったもので折れた幹と言っても良いかも知れない。

より分かりやすく言うなら、丸太に近い生木だ。

 

「アビー隊長、丸太があった!」

 

「でかした! そいつならイノシシだってイチコロだな!」

 

「こいつら頭のおかしい時はマジで面白いわね」

 

それを棍棒のように構えるサナリモリブデン。

アビルダは発見を称賛し、ソーラーレイはにまにま笑って高見の見物を開始した。

こうして探索の準備は整った。

サナリモリブデン、アビルダにタルッケ、ソーラーレイにペンギンアルバム。

5名の探検隊は意気揚々と森へ踏み入っていく。

 

 

 

島の森はうっそうと茂っていた。

背の高い木々が天を覆いつくし、陽光を遮って薄暗い。

足元には大小さまざまな草花が生えている。

道なき道をかき分け、5人は森の中を進んでいった。

 

「気を付けろぉ……どこからイノシシが見てるかわからんぞ」

 

先頭のアビルダが注意深く視線を巡らせながら言う。

その装いは長袖の上着に長ズボンと分厚いブーツ。

さらには帽子も被った完全防備だ。

つまりは探検隊ルックだった。

森に入る直前でトレーナー達から支給された物であり、全員が同じ装備を身につけている。

 

「みんな、耳だよ、耳で周囲を探るんだ……! やつらは背が低くて草に隠れるから目では見つけられない!」

 

その統一感はいわゆる"それっぽさ"を出すには抜群の効果を発揮した。

アビルダに続くトゥトゥヌイもまた役に入り込み、何やら熟練のハンターのような雰囲気を醸し出している。

 

「う、うぅー……変な鳴き声ばっか聞こえるぅ」

 

「アル。私の横に来るといい。守るから」

 

「で、でもサナリン大丈夫? なんかぐぇーぐぇー言ってるよ……?」

 

「問題ない。丸太は全てを解決する」

 

未だ丸太を担いだままのサナリモリブデンも纏う空気が戦士めいていた。

のしのしとした歩みには迫力がある。

森に踏み入って想像よりも深かった暗さと生き物の気配に怯えるペンギンアルバムにはそれが何とも頼もしく見えた。

 

「最後尾から見てるとまるっきりコントね、コレ。特にサナリの絵面がシュール」

 

まぁ、実際はソーラーレイのコメント以上の物ではないのだが。

 

「ペン子もそんな怯えんじゃないわよ。精々虫かカエルかでしょこんな声」

 

「ペン子はやめてよ可愛くない! あと虫もカエルもどっちも怖いじゃん! 顔に飛び掛かってきたらとか考えないの?」

 

「叩き落とすか蹴っ飛ばすかすればいいじゃない」

 

「女子力ぅ……」

 

「あいにくレースに使えないもんは高めない事にしてんのよね」

 

カラカラと男前に笑うソーラーレイだ。

しんがりを任せるにはピッタリの豪胆さである。

そんな隊列で彼女たちは進み、やがて開けた場所に出た。

そこは小さな泉だった。

透き通った水面は日の光を反射してきらめき、周囲の木々の影が揺れ動いている。

 

「あ、水場だー!」

 

真っ先に反応したのはトゥトゥヌイだ。

アビルダの横を抜け、泉へと飛び込むように突っ込んでいく。

 

「ダメだ! 危ないっ!」

 

「おグぇっ」

 

だがそれをアビルダが止めた。

物理的に、後ろ襟をつかんでだ。

 

「水場といえば動物達の集まる場所だ! 何が潜んでいてもおかしくない……!」

 

「あ、すごい。一応まともな事言えんのねこの人」

 

かすかに聞こえたソーラーレイの感嘆はともかく、サナリモリブデンはハッとする。

確かにその通りである。

森の中の泉は何が利用していてもおかしくない。

島のヌシのような存在が縄張りとしている可能性だってあるだろう。

そのようなものが本当に居るのなら、という話ではあるが。

 

「っ! っっ!!」

 

ともかく、ここは武器持ちの自分の出番だとサナリモリブデンは前に出た。

丸太を振るってあちこちに向け、警戒に努める。

何が出てきても即座に撃退できるようにだ。

 

そうしてそのまま、五秒、十秒、十五秒。

 

「……どうやら何もいないみたいだな」

 

「うん。気配はない。とりあえずの危険は無いとみていい」

 

ふぅ、とアビルダが安堵の息を吐く。

その横でサナリモリブデンは掲げていた丸太を下ろす。

 

「げほ、ぐぇほっ、ぜひゅ、ぷひゅー」

 

「あーよしよし落ち着いて落ち着いて、ゆっくりね。出来るだけ大きく吸ってー吐いてー」

 

「シメられた鶏ってこんな感じなのかなってぐらいの声だったわね。正直ウケるわ」

 

「レイはほんとさぁ……」

 

そして2人の後ろでは、首が絞まった衝撃でピンチに陥っていたトゥトゥヌイがなんとか復帰していた。

呼吸が整うように優しく背中をさするペンギンアルバムが、涙目の先輩ウマ娘を笑って見やるソーラーレイにジト目を向ける。

 

さてともかく。

探索の区切りとするにはちょうど良い場面であった。

警戒を解いたアビルダが声を張る。

 

「よーし、この泉を中心にぐるっと回ってみよう。獲物以外にも果物やら何やらがあるかもしれん」

 

4人が頷く。

特に異論はなく、彼女たちは樹上や足元に注意を払いながら泉の周辺を歩き回った。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

難度:115

補正:なし

参照:賢さ/261

 

結果:49(失敗)

 


 

 

「……なんにもないわね」

 

「ねー。野イチゴのひとつでも生えててもいいのに」

 

が、見つかるものはない。

樹上に木の実は見当たらず、足元に生えているのは緑の葉っぱばかりだ。

ペンギンアルバムの言う通り野イチゴぐらいは見つかっても良い季節なのだが、誰も発見できずにいる。

 

「こういう時は、謎の足跡が見つかるのが定番……」

 

「はーん? で、あったの?」

 

「………………ない」

 

「でしょーね」

 

テレビ番組でお決まりのパターンに従ってサナリモリブデンが言うも、撃沈は即座だった。

現実とお話は違うのだ。

 

「んー。マジでなんもないな……」

 

「だねー。隊長、こういう時ってどうするもん?」

 

「わからん! ……一回戻るかー」

 

ウェズン組もどうやらアイディアはない。

こうなっては仕方ない。

このまま成果なしで歩いていてもやる気がなくなっていくだけだと、5人は泉に引き返した。

 

 

 

と、その時だ。

 

「っ! アビー隊長……!」

 

「総員、警戒態勢!」

 

突然、ガサガサと茂みから音が聞こえてきた。

揺れる草の動きからそれなりに大きな動物だと予想が立つ。

サナリモリブデンが呼びかけつつ飛び出し、アビルダが3人を背に庇いつつ拳を握りしめる。

 

「え、まさかイノシシ!? ほんとに出た!?」

 

「いやいやまさかでしょ。え? まさかよね? ほんとにそんなの居たりしないわよね?」

 

後方2人は少々腰が引けていた。

森は暗く、何が飛び出してきてもおかしくないような雰囲気が漂っている。

至近に感じられる動物の気配は、彼女たちの怯えを誘うに十分なもののようだ。

 

「アビー隊長、一応退路は確保しとくよ……!」

 

「あぁ、頼むぞヌイ……!」

 

万一に備えてトゥトゥヌイが背後の逃げ道を警戒し、戦闘態勢が整う。

 

するとちょうど、草の揺れも最高潮に達した。

隠れ潜む何者かはいよいよその姿を現そうとしている。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

潜む何者かの危険度:Lv4(最大10)

 


 

 

「キー!」

 

茂みから飛び出したそれは、地面の上で身を低くすると鋭く鳴いた。

毛むくじゃらで赤ら顔。

ヒトのような長い手足をもつ動物だ。

 

「って、なによサルじゃない」

 

ソーラーレイがほっと気の抜けた声を漏らす。

その言葉の通り、飛び出した動物はサルだ。

それも特に大きな個体ではない。

少なくともウマ娘の強靭な肉体を害する事が出来るとは到底思えない存在だった。

 

「サル……サルは流石に食べれないよねぇ」

 

「いやー無理でしょ。ペンちゃん捌ける?」

 

「無理無理絶対無理! ……あれ? そもそもイノシシも捌ける人いなくない?」

 

「……マジじゃん!」

 

ペンギンアルバムの気も抜け、サルの可食性に関して触れたりもする。

その過程でこの探索行の致命的な欠陥にも気付いたようだがそれはそれ。

 

「追い払う! 任せて!」

 

とりあえず、未だ気の抜けていないサナリモリブデンは丸太を振りかぶった。

ぶぉんと轟音を伴って丸太が大気を裂く。

 

狙いはサル……ではなく、その手前の地面。

叩きつけて大きな音と振動を発生させ、驚かせて追い払おうとサナリモリブデンは画策する。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

難度:115

補正:なし

参照:パワー/339

 

結果:79(失敗)

 


 

 

が。

 

「あっ……」

 

「キ?」

 

すぽーん。

と音が出るような間抜けさでサナリモリブデンの手は滑った。

丸太は彼女の手を離れ、くるくると回りながら宙を飛んでいき。

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……ぷっ、くく」

 

「きー……」

 

どことなくいたたまれない空気が場に流れる。

例外は面白そうにお腹を抱えるソーラーレイぐらいのもので、追い払われようとしたサルですら生ぬるい温度の視線をサナリモリブデンに注いでいた。

 

「きぃ……」

 

そしてそのまま去っていく。

あ、じゃあ僕はこれで。

言葉が発せたならばそんな風だったかも知れない。

 

「その、なんだ」

 

「……ん」

 

「───ドンマイ!」

 

「ま、守ろうとしてくれたのはかっこよかったよサナリン!」

 

「もう穴でも掘って埋まりたい」

 

アビルダとペンギンアルバムの慰めはさしたる効果もなく。

サナリモリブデンは森の中、そっと天を仰ぐのだった。

 

 

 

そして結局、その後も探索を続けたもののこれといった成果は得られなかった。

5人は肩を落とし、トボトボと拠点の浜辺へ戻っていく。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

タルッケとチューターサポートの成果:Lv3(最大100)

 


 

 

「ちょー……えぇー、これむっずくない? 全然テントにならなくなくなくない?」

 

「あ、あれぇ、おっかしぃなぁ……柱の強度は足りてると思うんだけど」

 

帰った先で見たものは、拠点とは名ばかりの緑の塊だった。

地面に突き刺された巨大な葉、葉、そして葉。

それがトンネルのような形に組み合わさり、ギリギリ1人が横になれる程度のテント状の何かになっている。

 

が、とてもではないが安眠はできそうもない。

雨はなんとかしのげるだろうが、これではまるで緑の棺桶だ。

サイズが極小すぎて閉塞感で息が詰まりかねない。

 

タルッケとチューターサポート、残っていた2人も懸命に努力した形跡はある。

浜辺に山と積まれた……というより作っている最中に崩れ落ちたらしい天然素材テントの残骸がその証明だ。

結局、モノになったのは何もないようだが。

 

「お? あー、おかえりー! なんかご飯見つかったー?」

 

「えっ、もう!?」

 

そんな中でもタルッケは能天気に狩猟組の帰りを歓迎する。

対するチューターサポートは慌てた様子だ。

無理もないだろう。

拠点は任せろと吐いた言葉に対して成果がこれではそうもなる。

 

「はいただいま。安心しなさいよ。こっちもあんたら責められる感じじゃないから」

 

「何の成果も得られなかった……」

 

「あ、あぁ、そうなんだ……よ、くはないけど、えぇと、お疲れ様……」

 

そしてそれはすぐに微妙な顔に変わった。

失敗したのが自分だけではないという後ろ向きな安堵と、今晩本当にどうしようかという不安。

 

「こうなったら、セレンだけが頼り……」

 

その不安はサナリモリブデンも同じだったようだ。

しょんぼりしたまま最後の1人の名前を呟き、最後の希望を託している。

 

すると、噂をすれば影というやつだろうか。

沖に沈む夕日を背負いながら、浜を歩いて当のセレンスパークが現れた。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

セレンスパークの成果:Lv88(最大100)

 


 

 

「あぁ───」

 

最初に気付いたのは誰だっただろうか。

喉を揺らして出たその声は希望に満ち溢れていた。

 

「すごい、まさか、あんな……」

 

感嘆。

称賛。

次々とメンバーが口をついてセレンスパークを讃え始める。

それにふさわしいだけの成果が目の前に示されていたためだ。

 

夕暮れの浜を歩くセレンスパーク。

彼女はその体の後ろに、数多の魚を引きずっていた。

どこで手に入れたのか大きな網に魚を詰め込んで。

 

「あっ、みんなー! 見て見て! あのね、向こうに網が流れ着いてたから使ってみたらこんなに───」

 

大きく手を振り、誇らしげに語るセレンスパーク。

その言葉が最後まで発せられる事はなかった。

 

「うおおおおお!! すげー!! セレンすげー!!」

 

「こんなん英雄じゃん! あたしらのスーパーヒーローだ!!」

 

「うわー! さかなー!」

 

「英雄のがいせん? っていうんだっけ!? それだー! 胴上げしよーよ胴上げ!」

 

「あっははは! こんな事されたら異存なしよ! セーレーン! セーレーン!」

 

「「「「「「セーレーン! セーレーン!」」」」」」

 

あっという間にセレンスパークは取り囲まれる。

勢いのまま体が持ち上げられ、宙を舞い始めるまで数秒とかからない。

 

「えっ、えっ!? なになになに!? こわ、こわいからやめてぇー!」

 

「「「「「「「セーレーン! セーレーン!」」」」」」」

 

「高いぃ! 高いってぇ! ひゃわぁぁぁあああぁぁ!!!?!?」

 

高く飛ぶセレンスパーク。

合唱されるコール。

通じ合う心。

そして響き渡る悲鳴。

サナリモリブデンたちはかつてない一体感を感じていた。

一名を除いてだが。

 

 

 

「どうなるかと思いましたが、割と良い所に収まりそうですねぇ」

 

それを遠目に眺めて、探索行をこっそりドローンで追跡していた郷谷が言う。

ウマ娘達にバレないようにドローンを回収し、万一がなくて何よりと安堵していた。

 

「うむうむ。青春だなぁ」

 

「青春ですかねぇ……?」

 

「とりあえず缶詰食べて野宿とならなかっただけいいんじゃないでしょうか」

 

大槍が笑い、郷谷が首を傾げ、朝比奈が苦笑して締める。

全員が失敗とならなかった事を祝福して、彼らトレーナー陣はテントの設営を完了させた。

少々味気なくはなるが、寝床を確保できなかった以上こうするほかない。

 

 

 

ともかく、こうして昨日に引き続き宴の準備が始まる。

 

火を起こし、育て、大きなキャンプファイアーにして夜を赤く照らし出す。

その周りで魚が次々に焼かれていき、ウマ娘たちのお腹を満たした。

こうなれば多少の失敗談は笑い話だ。

丸太がすっぽ抜けた件に話が行くとサナリモリブデンは少々恥ずかしい思いもしたが、それも楽しさが押し流していく。

無人島での経験はきっと良い思い出になった事だろう。

 

夜が明けて日が昇り、本島に戻ればいよいよ夏合宿の本番がやってくる。

高まった連帯感はそのトレーニングの日々を、より実り多きものにしてくれるはずだ。

 

 


 

【イベントリザルト】

 

友好:全員の絆+10

成長:スタミナ+10/パワー+10/根性+10

獲得:スキルPt+50

獲得:コンディション/好調

 


 

【ステータス】

 

スピ:387

スタ:260

パワ:349

根性:316

賢さ:261

 


 

【6月夏合宿トレーニング選択】

 

ランニング   スピード↑↑↑ パワー↑↑

遠泳      スタミナ↑↑↑ 根性↑↑

筋トレ     パワー↑↑↑  スタミナ↑↑

浜辺タイヤ引き 根性↑↑↑   スピード↑  パワー↑

早押しクイズ  賢さ↑↑↑   スピード↑  根性↑

 

≪System≫

クラシック級夏合宿では以下の効果が発動します

 

・ステータス上昇量の合計値+20

・友情トレーニング発生率100%

・大成功発生率2倍

・トレーニング成功以上の場合、スキルPtをランダム獲得

 

 




【ダイスログ】

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クラシック級 6月夏合宿トレーニング結果~7月夏合宿イベント

 

 


 

【投票結果】

 

遠泳

 


 

 

波の合間にバ体が揺れる。

サナリモリブデンにペンギンアルバム、チューターサポートにソーラーレイ。

それと、チームウェズン。

計8名のウマ娘はブイとロープで区切られた海の中の道を延々と泳ぎ続けていた。

 

彼女たちの顔はどれも必死なものだった。

8人全員、例外なく歯を食い縛り懸命さを滲ませている。

それも当然だ。

海で泳ぐというのは、プールでの水泳とはわけが違う。

 

まず深い。

足をつこうとした時に届く場所がどこにもない。

実際につくつかないに関係なく、いざその必要が出た時に足のつきようがないという事実は重い。

これは心理的な圧迫として8人の心にのしかかっていた。

 

次に、流れが荒い。

学園の設備にある流れるプールとは比較にならない。

自然ならではの予測の難しく荒々しいうねりは秒ごとに違う対処を要求される。

望むままに泳ぐことなど到底できない。

当然、体力が削られる速度は倍どころの話ではなかった。

 

「っ、は」

 

サナリモリブデンが水面から顔を上げ、深く大きく息を吸う。

同時に目にしたゴール地点は絶望的なほどに遠かった。

遥か遠くに見えるのは、合宿2日目と3日目を過ごした無人島だ。

この遠泳の最終目標はその無人島への到達と彼女は聞いている。

1ヶ月の間に到達できるようになれば上出来だと、彼女のトレーナーである郷谷は語っていた。

正確には、それが可能なだけのスタミナを身につけられればという話になる。

 

「ウェズーン!」

 

「「「ファイッ! オー!」」」

 

8人の中でいくらか余裕があるのはチームウェズンの4人だった。

アビルダが先頭で声を出し、トゥトゥヌイとタルッケが左右に別れ、セレンスパークがしんがりを務める。

彼女たちはそうしてクラシック級の後輩たちを見守りながら声出しまで行う体力を保持していた。

基礎能力に差があるのだ。

いかにウェズンが目立つ成績を残せていないといってもクラシック級とシニア級を隔てる壁は厚い。

生粋のスプリンターであるタルッケだけはやや苦しそうだが、それでも他に目を向けるだけの余力はあった。

 

「レイちゃん、そろそろっ、つらいとこー?」

 

現に今もソーラーレイの変調を敏感に察知していた。

このトレーニングに最も苦しんでいるのはソーラーレイだ。

そもそものスタミナに乏しい上に、彼女は水泳を苦手としている。

 

今回も手足に小さな浮き具をつけて浮力のサポートを得た状態での参加だった。

それでも限界に達するのはソーラーレイが誰よりも早い。

 

「こ、のっ、ていど……っ」

 

「ういういー。アビー!」

 

「おーう! 全体ペース落とすぞー!」

 

そんな彼女は無理を重ねてやせ我慢をしようとするが、タルッケは軽く流すとアビルダに合図を送った。

アビルダは即座に減速の判断を下し全員に指示を回す。

先頭が速度を落とした以上、後ろもそれに合わせる事になる。

隊列全体はそれまでの半分ほどの速度でゆっくりと進む形になった。

 

「あ……くそっ、また……!」

 

「レイ、落ち着いて。息を入れないと最後までもたないのはレースもこれも同じなんだから」

 

「そうそう、無理して急いで進むより、じーっくり長く進める方がいい練習だよコレ」

 

不甲斐なさから、ソーラーレイが怒りに震える。

それに寄り添うように冷静な声で語り掛けるのはチューターサポートだ。

ソーラーレイの少し先を泳いでいたペンギンアルバムもまた、振り返ってあえてのほほんとした口調で同調する。

 

「ん……それに、毎日少しずつ距離は伸びてる。焦る必要はない」

 

「っ……そう、ね。ごめん。ありがと」

 

そしてサナリモリブデンもそれに続いた。

ソーラーレイはそれでも悔しさを滲ませてはいたが、幾分頭の冷えた様子で落ち着いて泳ぎ始める。

 

このように、8人は隊列を組み、助け合って遠泳に挑んでいた。

理由としては単純にそうしなければ目標達成は不可能だと理解したためである。

甘く見て誰が最初に島につくか競争だと挑んだ初日の遠泳は、もはや全員にとって思い返す事さえ苦々しい反吐まみれの記憶となっている。

 

合宿前半の1ヶ月のうち、半分はもう過ぎた。

だが島への到達は未だにない。

併走するクルーザーに乗ったトレーナー陣からストップがかけられ、船上に回収されての終了ばかりを重ねてきた。

次こそは。

今日こそは。

そう気勢を吐いて挑んでは自然の脅威の前に幾度となく敗北してきた8人である。

 

「ウェズーン!」

 

「「「ファイッ! オー!」」」

 

「「「「ファイッ! オー!」」」」

 

だがまだ折れていない。

アビルダが声を出し、ウェズンが続き、残る4人も呼応した。

たかだか二週間失敗を重ねた程度で諦めに支配されるような者が、そもそもトゥインクルを走れるわけもない。

なにくそと根性を振り絞り、水を蹴って体を前へ前へと運ぶ。

その動きは緩慢になることはあれども、決して止まりはしない。

 

「……でも、その掛け声どうにかなんない!? 私ウェズンに入った覚えないんだけど!?」

 

「へいへいへいレイちゃん、そんなの水臭いっしょ」

 

「二週間も一緒にトレーニングしたら、それはもうウェズンなんだよ! ようこそウェズン! フォーエバーウェズン!」

 

「ははは! ソーラーレイ! お前も家族だッ!」

 

「突っ込み属性の子はいつでも歓迎してるからねっ! 本当に加入してくれてもいいんだよっ!」

 

余裕が生まれればそれをバカバカしい掛け合いに消費したりしながらも。

彼女たちは懸命に遥か遠いゴールを目指し続ける。

 

 


 

【トレーニング判定】

 

成功率:失敗5%→0%(トレーナースキル)/成功70%/大成功30%

 

結果:大成功

 


 

 

その努力は、ついに実を結んだ。

 

「はーっ、はーっ、はーっ……」

 

荒い息を吐き、ソーラーレイが横たわる。

その背は白い砂の上に。

打ち寄せる波は力のこもらない足先を何度も濡らしていく。

 

つまりそこは、長く長く、この日数時間を過ごした海の上ではなかった。

浜辺である。

間違いなく目的地、ゴールの無人島であった。

ちらりと視線を遠くにやれば見える、テントの態をなしていない葉っぱの山の残骸が懐かしくもそれを証明していた。

 

「やっ、た……」

 

サナリモリブデンがぽつりと呟く。

彼女もまた砂浜に倒れこんでいた。

というより、8人全員だ。

例外なく限界を迎えて力尽きながらも、呟きに触発されたように声を発し始める。

 

「んふ、へへへ、やればできるもんじゃんね……!」

 

ペンギンアルバムが笑い。

 

「な、何時間かかったのかな……もう一生分は泳いだ気がする」

 

チューターサポートが苦笑し。

 

「く、くくく……ウェズーン……!」

 

「「「ふぁい、おー……!」」」

 

チームウェズンが快哉を上げ。

 

「…………ふふ、ふはは、あはははは!」

 

そうして最後にソーラーレイが爆発した。

寝転んだまま高く拳を突き上げ、誰よりも大きく叫ぶ。

 

「見たかぁ! やってやった! やってやったわよコンチクショウ!」

 

哄笑とともに勝利宣言が空に向かって放たれた。

花開くのは満面の笑顔だ。

達成感と疲労と、達成感と達成感と達成感と、あとは達成感と、それに加えて達成感。

それらが混ざり合い、弾けて、ソーラーレイはただ笑った。

 

砂に腕をつき、這いずって近寄ったサナリモリブデンがソーラーレイの手を掴んだ。

力強く握りしめるその手にもまた、同質の感情が宿っている。

 

「うん。やった。私たちはやった。やってやった」

 

「そうよ! やってやったわ! あは、最っ高の気分!」

 

「ははは……まだ1回辿り着いただけだけどね。レイ知ってる? これまた明日からもあるんだよ」

 

「上等! 何回だってやってやるわよ! 次はこんなもん無しだってね!」

 

チューターサポートの一言でもその興奮は抑え込めない。

ソーラーレイは手足の浮き具を外し、浜に転がしてみせた。

明日は自力だけで同じ結果を出してみせると吠え、まだまだ笑う。

実際に可能かどうかはさておいて、今の彼女は無限の気概に満ちていた。

 

そしてそれは他の7人も同様に。

一度やれた事が二度三度できないなど道理が通らない。

次はもっと早く、もっと余裕を残してと、威勢の良い宣言が次々と夏の浜辺に打ち上げられる。

 

沖合いに泊まったクルーザーから回収用のボートが島にやってくるまで、彼女たちの笑い声が絶えることはなかった。

 

 


 

【トレーニング結果】

 

成長:スタミナ+40/根性+30(夏合宿基礎成長)

成長:スタミナ+10/根性+10(友情トレーニング)

成長:スタミナ+50/根性+40(大成功ボーナス/全体2倍)

獲得:スキルPt+30(10~30ランダム)

 

スピ:387

スタ:260 → 360

パワ:349

根性:316 → 396

賢さ:261

 

スキルPt:130 → 160

 


 

 

 


 

【7月固定イベント/夏祭りの夜】

 

このイベントの登場人物は固定されています

 


 

 

遠泳のトレーニングは大成功のうちに終わった。

その成果は大きい。

各々のトレーナーが驚くほどの効果を上げて、スタミナの強化は予想を超えるほどのものとなった。

特に目覚ましかったのはやはりソーラーレイだろう。

彼女の心肺能力はメキメキと鍛え上げられ、最終日には本当に浮き具なしでのゴールに成功したほどだ。

私こそが主役、という顔をして胸を張っていても誰もがその通りと言わずにいられなかったものである。

 

「サナリさんも負けてはいませんけどね。ふふ、本当に見違えてしまうほどです」

 

「ん。そうなら、とても嬉しい」

 

「えぇ、私が保証しましょう。今のサナリさんなら、合宿前のサナリさんと戦って圧勝できますよ」

 

が、郷谷だけは異を唱える。

遠泳の主役はサナリモリブデンだったと言ってはばからない。

もっとも、参加したウマ娘全員のトレーナーが自身の担当こそ主役と言っているのだろうが。

 

そんな彼女は今、サナリモリブデンの着替えを手伝っていた。

衣装を着させ、しわを伸ばして衿を正し、キュッと紐を結ぶ。

それから帯を回してリボン状に結べば。

 

「はい、出来ました。うんうん、やっぱり似合いますねぇ」

 

浴衣姿のサナリモリブデンの出来上がりである。

 

「1回くるっと回ってみましょうか」

 

「うん。こう?」

 

「おかしな所もありませんね。浴衣なんて久しぶりでしたが、忘れていなくてよかったです」

 

郷谷は自身の仕事ぶりに胸を張り、サナリモリブデンは照れくさそうにはにかんだ。

 

夏、7月。

合宿所ではちょっとしたお祭りが行われる。

いわゆる縁日だ。

合宿所のある島は日本ではないが、それはそれ。

 

当然の話だが、現在合宿所に居るのはサナリモリブデン達のグループだけではない。

他にも同じ施設を利用するウマ娘は数多く、そのサポートにあたる人々も含めればさらに膨れ上がる。

つまりこの島にはトレセン学園の関係者だけで無数の人々が集っているのである。

ならば日本風の祭りをやっても良いだろうと、出店が並び花火が上がる数日間が存在するのだ。

 

今日、サナリモリブデンはそこに出かける予定がある。

 

 

【挿絵表示】

 

 

同行者は一名だ。

全員でわいわいと騒ぐのはまた別の日に。

一対一で歩こうとサナリモリブデンから誘った相手である。

 

それは───

 

 




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クラシック級 7月夏合宿イベント~7月夏合宿トレーニング選択

 

 


 

【投票結果】

 

ペンギンアルバム

 


 

 

サナリモリブデンは歩いていく。

目指す先は月夜にあっても分かりやすい。

真っ黒な空が一角だけ、暖かな色にぼんやりと染まっている。

夏のひと時を楽しもうと人々が灯した提灯の火は煌々と夜を照らしていた。

 

からん、ころん、と下駄の音が足元から聞こえる度に、サナリモリブデンの心は浮き立つようだった。

何しろ彼女にとってこれは特別な事である。

夏祭り。

それを本当の意味で心の底から楽しめる幼少期を、彼女は過ごしていない。

 

父の背に負われて訪れただろう景色は既に薄れて記憶に亡く。

母と二人きりになって以降の彼女は自分自身に余暇というものを許していなかった。

そして母親は彼女を養うための日々に忙殺され、そも祭りというものを覚えていたかも怪しい。

サナリモリブデンにとって祭りとは、遠くから眺め、あったかも知れない記憶を懐かしむだけのものだった。

 

あるいは何かの巡り合わせが違えば、今も縁遠いものと思い込んでいたかもしれない。

トレーナーや友人の制止さえ振り切って血を吐くようなトレーニングを強行し続ける日々を過ごしている可能性はきっと、低いものではなかった。

 

(……何回でも、感謝しないと)

 

だが、そうはならなかった。

サナリモリブデンは郷谷に見出され、適切な指導の下で力を磨き、幾つもの勝利を手にした。

運命を預けるべきトレーナーを今の彼女は信じられている。

郷谷が時折口にする、余暇こそが鍛錬の質を上げるという言葉も同様にだ。

 

(ありがとう。トレーナー)

 

浮き立つ心のままにサナリモリブデンの歩みは軽やかさを増していく。

郷谷が用意した浴衣に身を包み、娯楽だけを目的に足を進める。

ほんの数年前までは考えられもしなかった事だが。

それは今や、彼女にとってなくてはならないものだった。

 

(いってきます)

 

やがてサナリモリブデンの耳に音楽が届くようになる。

軽やかで、華やかで、けれどどこかノスタルジックな祭囃子だ。

会場はもうほど近い。

自分の意志で初めて楽しむ祭りはすぐ目の前にある。

そこで自分を待っているはずの親友を想い、サナリモリブデンは歩調をさらに速めた。

 

 


 

 

「あっ、サナリーン! こっちこっちー!」

 

待ち合わせの相手、ペンギンアルバムはやはり先に到着していた。

こういった時のペンギンアルバムは大概素早い。

てきぱきと準備を済ませて行動し誰よりも早く集合場所に辿り着く。

一分一秒でも多く楽しもうとするその気概は、娯楽に慣れないサナリモリブデンを引っ張る資質として恐らく最高のものだ。

サナリモリブデン自身、学園入学以来の二年間でその性質から多くの事を教えられていた。

 

「お待たせ、アル。もしかして結構待った?」

 

「んへへ、ちょっとねー。楽しみで早く来すぎちゃった」

 

「ん……ごめん」

 

定番の挨拶にペンギンアルバムは正直に答える。

ベンチに腰掛けて足をぷらぷらさせていた所を発見していたサナリモリブデンは、ちょっと遅かったかと謝った。

対してペンギンアルバムはカラリと笑い、顔の前で軽く手を振る。

 

「いーのいーの! こっちが早すぎただけだし、それにデートって待ってる時間も楽しいっていうしね。実際本当だとは私も今日知ったけど」

 

「? 女の子同士でもデートっていうの?」

 

「あんまり言わないけど、私とサナリンの仲じゃん?」

 

そして、にひ、なんて擬音が似合いそうな笑みを浮かべる。

次いでベンチから跳ねるように立ち上がると、とんとんと数歩歩いて振り返った。

 

【挿絵表示】

 

「よっし! それじゃあ今夜はお姫様をエスコートしちゃおっかな! サナリンに夏祭りの楽しみ方を教えてあげよう!」

 

「うん。よろしく。頼りにしてる」

 

それにサナリモリブデンも頷き返した。

実際、彼女は本心からペンギンアルバムを頼りにしている。

日常を楽しむ事にかけては絶対的な信頼を置いているのだ。

何しろペンギンアルバムはいつだって愛らしく、キラキラとした笑顔を輝かせている。

 

「でも、お姫様なのはアルの方だと思う。浴衣も似合ってて可愛いし。頭のお団子も愛嬌があって好き」

 

「サナリンの誉め言葉はストレートだよねぇ。照れちゃうじゃん」

 

「こういうのは素直に言った方が嬉しいと思って」

 

「ん-、私サナリンのそういうとこすっごい好き! えへへ、サナリンも浴衣似合ってるよ!」

 

「ん、ありがとう」

 

「特にうなじがセクシー」

 

「セク……?」

 

そうして、2人は連れ立って夜宮の中に歩み入っていく。

賑やかな出店の列は提灯の明かりに照らされていかにも楽しげで。

ここで過ごすひと時はきっと無二の思い出になるだろうと、サナリモリブデンに確信させるには十分なほどだった。

 

「さてサナリン。最初に教えておくね。お祭りを楽しむ極意ってやつを……!」

 

「む……!」

 

祭りの中を歩き始めてすぐ、ペンギンアルバムはそう切り出した。

居並ぶ出店の数々に目を回していたサナリモリブデンは、その声に意識を引き戻される。

 

「それはね、お金に糸目をつけること!」

 

「つけ、るの? つけないんじゃなく?」

 

そして告げられた言葉に目をぱちくりさせた。

サナリモリブデンは辺りを見回す。

たこ焼き500円、焼き鳥1本100円、ホットドッグが300円で、射的にくじ引きに金魚すくいが1回いくらと看板が出ている。

祭りを楽しみきろうというならそれこそ紙幣の種類で言えば諭吉が必要になりそうなものだ。

 

今の彼女にはレースで得た賞金がある。

管理は母親に任せているものの手持ちは一般の学生よりも遥かに多い。

一夜の祭りの全てを味わい切るぐらいは可能だった。

が、それよりも楽しい手があるとペンギンアルバムは言う。

 

「そ、つけるんだよ。そこがミソなの。なんでかっていうとね、制限すると質が高まるから!」

 

「ん……もう少し詳しく」

 

「じゃあサナリン、想像してみて? この沢山の出店を片っ端からぜーんぶ楽しんでいくのを」

 

ペンギンアルバムの指示に、サナリモリブデンは素直に従った。

想像の中の彼女は端から順に遊びまわっていく。

もちろん隣には一番の親友を伴ってだ。

 

とても楽しいだろう。

それがサナリモリブデンの率直な感想である。

 

「はい次。今度は出店の中から3つだけ選んで、そこだけ楽しむとすると?」

 

「……ん。なるほど。なんとなくわかった」

 

が、次いでの指示でサナリモリブデンは理解する。

夜宮に並ぶ出店は数十とある。

その中からたった3つとなれば吟味に吟味を重ねた上で、レースに挑むような真剣さで立ち向かうことだろう。

 

胸に残る思い出の量は減るかも知れない。

けれどそこに宿る熱量は遥か大きくなるとの予想は自然とついた。

 

「流石アル。天才的なアイディアだと思う。その考えはちょっとなかった。勉強になる」

 

「えっへへ、でしょー? そういう訳だからお財布に制限ね」

 

「了解。いくらぐらいがいい?」

 

「んー、遊び系で3000円。食べ物系で10000円ってとこかな?」

 

「…………。私が祭りに詳しくないせいかも知れないから、何も言わないでおくね」

 

小柄な青毛のいつも通りな健啖家ぶりはさておいて。

サナリモリブデンは財布の中から4000円だけを別に取り分けた。

彼女はそう食の太いタイプではない。

出店の食事はひとつかふたつ楽しめば十分だと判断しての金額だった。

 

これで準備は整った。

制限のかかった財布を手に、2人は今日楽しむべきものは何かと吟味を始める。

 

 


 

 

「おじちゃん、1回おねがーい!」

 

「私も1回、お願いします」

 

「はいよ、1人300円ね」

 

出店の列を端から端まで。

1回ぐるりと見て回ってまず向かったのは射的だった。

ペンギンアルバムいわく、ド定番は何より優先して押さえるべき、との事。

 

「多分見てわかると思うけど、景品を銃で撃って落としたら貰えるってやつね。サナリン何か欲しいのある?」

 

そう聞かれてサナリモリブデンは並ぶ景品の数々を眺める。

人形やぬいぐるみ、コンビニで日常的に見かける菓子類に、逆に全く見覚えも聞き覚えもない謎の玩具。

並ぶものは様々だった。

 

その中でひとつ、透明なプラスチックの箱に入ったアクセサリーがサナリモリブデンの目を引いた。

ほとんど白に近い灰色の小さな髪飾りだ。

恐らく素材は安物ではあるのだろうが、意匠の細かさから丁寧に作られている事がわかる。

 

「あれ、かな。あの髪飾りちょっと狙ってみたい」

 

「お、1回お手本見せてあげようかと思ったけど、サナリン自分でやる?」

 

「うん。何事も挑戦」

 

やる気満々に、サナリモリブデンは銃口にコルクを詰めた。

ペンギンアルバムの説明に従って銃床を肩に当てて構え、照門を覗く。

 

「弾は5発あるし、まず1発は試しに撃ってみるといいよ。たまに曲がって飛んでく銃とかあるから」

 

「おいおい、うちはそういう意地の悪い事はやってないよ」

 

「えぇー、ほんとかなぁ? 出店のおっちゃんってみんなそう言うじゃん」

 

苦笑する店主と悪戯に笑うペンギンアルバムのやり取りを聞きながら、まずは1発。

放たれたコルクの弾はまっすぐに飛んだ。

狙った景品の数センチ横を抜け、後方に設置された壁板に当たって軽い音を立てる。

 

「大丈夫、まっすぐ飛んでると思う」

 

「おー、ほんとだ。おじちゃんいいの? こんなんじゃすぐ景品取られちゃうんじゃない?」

 

「逆に聞くけどよ、アコギな事やろうってやつがこんなとこまで店出しに来ると思うかい?」

 

「あっ、そりゃそうだ。……よっしゃサナリン狙い目だー! このお店ちょろいから景品全部かっぱらっていこー!」

 

「ははは、他の子の分は残しといてくれよ?」

 

そうして本番だ。

サナリモリブデンは先ほどよりも慎重に狙いを定めた。

大きく息を吸った後、全てを吐き出し切って止める。

筋肉の震えを意識で制御し、そして引き金を引いてみせた。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

難度:120

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/261+52=313

 

結果:240(大成功)

 


 

 

ぽこん、と軽い音。

発射された弾は景品に命中した。

が、どうやら当たり所が悪い。

小さな箱は前後に揺れはしたが、倒れ切っていない。

 

「あぁ、惜しい!」

 

「……まだ!」

 

しかし不安定にはなっている。

それをサナリモリブデンは好機と捉えた。

あとわずか、ほんの一押し。

それこそ息を吹きかける程度の衝撃でアクセサリーの箱は倒れて落ちるだろうとサナリモリブデンは確信した。

 

判断と行動は一瞬だった。

サナリモリブデンは残りの弾に手を伸ばし───。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

難度:120

補正:大成功/集中継続/+20%

参照:スピード/387+77=464

 

結果:344(大成功)

 


 

 

パァン!

と、今度は鋭く音が響いた。

素早い装填からの、一瞬での狙撃。

弾が命中した箇所は箱の中央、やや上。

見事なクリーンヒットであった。

安定を欠いていた箱がこれに耐えられる理由はない。

棚から吹き飛ぶように景品が転げ落ちる。

 

銃声はさらに二度続く。

景品獲得に気を良くしたサナリモリブデンが勢いのままに隣をも狙ったのだ。

こちらもまたクリーンヒット。

300円で計2個。

初挑戦で大成功と呼べる成果をサナリモリブデンは手にしてみせた。

 

「……ん!」

 

「おー! すごいすごい! かっこよかったよサナリン!」

 

ちゃきっと銃を立てて胸を張って見せるのも様になっている。

そんな彼女の元へ、店主が拾い上げた景品がやってきた。

ひとつは髪飾り。

予定外だったもうひとつは。

 

「あれ、こっちも髪飾りだ」

 

「うん。咄嗟だったからあんまり考えてなかった」

 

これまた髪飾りだった。

形は1個目と同じ。

違うのは色で、こちらは艶のある黒になっている。

 

サナリモリブデンはそれを一旦置き、白い髪飾りを取り出した。

 

「アル、ちょっとじっとしてて」

 

身をかがめて、ペンギンアルバムの髪に挿す。

金具をぱちりと止めれば、今日のペンギンアルバムの頭に生えているお団子に白い飾りが乗る形になった。

 

「ん、やっぱり。アルの髪の黒さはとても綺麗だから、似合うと思った」

 

「え、お、おう……」

 

「変な声出てるよアル。これ、あげる。気に入ったら使って」

 

体勢の都合上耳元で囁かれたペンギンアルバムはたじたじとなったが。

しかしすぐに表情を引き締めると、少しだけ照れ臭そうにして言った。

 

「うん、ありがと。大事にするね!」

 

「そうしてくれると嬉しい」

 

「ねーねーサナリン、これもしかして最初から私のために狙ってたの?」

 

「うん。つけてるところを想像したら可愛いかったから」

 

「もー! サナリンってほんとそういうとこー!」

 

それから、嬉しそうに頬を緩めてサナリモリブデンの腕をぺちぺち叩く。

くすぐったさにサナリモリブデンもまた笑った。

 

「えへへ、じゃあお返し! サナリンちょっとかがんでー?」

 

「うん」

 

そして今度はペンギンアルバムがサナリモリブデンの頭に手を伸ばした。

何が起こるかは当然サナリモリブデンもわかっている。

ワクワクとした心地のまま目を閉じて、小さな手に身を委ねる。

 

ぱちりという金具の音。

同時に髪にほんの小さな重みが感じられるようになる。

 

「これでお揃い! いいの取れたよねぇ」

 

「うん。ついてた。とても」

 

自分の頭を自分で見る事は出来ない。

けれど白い頭に黒い髪飾りが下がっている事はサナリモリブデンには分かっていた。

黒い頭に白い髪飾りをつけるペンギンアルバムのちょうど逆になる。

鏡を見て似合い具合を確かめるよりも、目の前の少女を見て自身を想像する方が祭りの空気に沿うはずだとサナリモリブデンは思った。

 

「よーし! 一発目からテンション上がってきたぞー! サナリン、次いこう次!」

 

「ん、楽しくなりそう。オススメはある?」

 

「金魚すくいとかいっとく? ふふふ、私結構上手いんだよ。魚追い込むのは得意なんだから」

 

「……あー、ちょっと割り込むのもアレなんだけどよ。ちっこい嬢ちゃんの方、撃つの忘れてないか?」

 

「あっ」

 

多少間の抜けた事もあったが、2人の夏祭りは幸先よくスタートした。

笑顔に満ちた楽しい時間はこうして始まっていく。

 

 


 

 

そして2人は多くを楽しんだ。

 

「サナリンサナリン、これ美味しいよ!」

 

「ん、ほんとだ……アル、ほっぺにソースついてる」

 

たこ焼きやクレープ、お好み焼きにチョコバナナ。

美味しそうな匂いにつられては買い食いし。

 

「そうそう、慎重に少しずつね。一気にやろうとすると失敗するから……」

 

「任せて。こういう地道で細かい作業は、割と得意」

 

心もとなくなった予算を増やすための抜け道、型抜きに挑戦して。

余りの判定の厳しさを前に揃って涙を呑んでみたり。

 

「うまぴょい伝説盆踊りバージョン……? え、なにそれ、聞いたことない……」

 

「……いってみる? 正直、少し興味ある」

 

聞き覚えのない盆踊りの曲にふらふらと寄ってみたら。

意外な名アレンジで普通にノリノリで踊って楽しめてみたり。

 

人でごった返す祭りを泳ぎながら、ペンギンアルバムはサナリモリブデンの手を引いて歩いて行く。

楽しいものが世にどれだけ溢れているかを示すように。

 

そうして、やがて。

空の財布を抱えて遊んだ遊んだと笑い合う頃に、本日のクライマックスがやってきた。

 

 


 

 

黒い夜空に花が咲く。

腹の底にまで響く音を伴って、花火が次々に打ち上げられていく。

赤、青、緑、黄色、紫、橙、白。

色とりどりの光が辺りに降り注ぐ。

人々は皆一様にその光景に見入っていた。

 

「…………」

 

サナリモリブデンもまた同じく。

出店の辺りから少し離れ、真っ暗な中、光を見上げていた。

 

「綺麗だねぇ」

 

「うん……すごく」

 

ペンギンアルバムが呟き、サナリモリブデンが返す。

その間もサナリモリブデンの視線は空に向いたままだ。

光と音の織り成す風景に、すっかり心を奪われてしまっているようだった。

 

 

 

だから。

自分が花火なんて少しも見ていない事にはきっと気付かれないだろうなと、ペンギンアルバムは安堵と不満を半々に抱え込んだ。

 

綺麗だなぁ、と。

ペンギンアルバムはその横顔に思う。

それは今この時だけの感情ではない。

学園入学以来の二年間を、彼女はこの熱と共に過ごしてきた。

 

 

 

ペンギンアルバムという少女は天才だ。

ホープフルステークス、そして日本ダービー。

レースの世界の頂点であるG1を2つも制し、世代のトップとして名乗りを上げる資格を持つ紛れもない怪物である。

 

彼女の実力は誰もが知る。

天才との評も、怪物と呼ばれる畏怖も、否定する者はおそらく居ない。

 

だが、彼女が走る理由を知る者はいなかった。

勝利を目指し懸命にトレーニングを積む理由は?

命を燃やしてレースを走るに足る渇望は?

そう問われた時に、答えられる者はいない。

 

何しろ、ペンギンアルバムには走る理由がなかったからだ。

 

走ったら楽しい。

だから走る。

勝ったら嬉しい。

だから勝つ。

 

彼女の世界はそんなシンプルさで出来ていた。

他には何もない。

ペンギンアルバムはただただ楽しさだけで魂を燃やせるウマ娘だった。

笑って鍛え、笑って走り、笑って勝つ。

それが許される才能を持って生まれたと言い換えても良い。

 

 

 

だから初めは理解が出来なかった。

苦しんで鍛え、苦しんで走り、苦しんで、そして負ける。

どれほど考え抜いても楽しくないとしか思えないその繰り返しに挑み続けるその様は異形とさえ映った。

 

もちろんペンギンアルバムとて苦しむ者は多く見た。

なんならそれらを踏みにじって勝ち上がってきた自覚もある。

だが、サナリモリブデンほどに苦しみと共に歩み、しかもなんの成果も得られずに居た者を彼女は知らない。

そして、だというのに僅かにも心折れず、歪みさえ生まなかった者もだ。

 

入学から選抜レースまでの間。

一度の勝利もなく敗北と屈辱以外に何も得られず、それでもなお前を向き続けた姿をペンギンアルバムは忘れられない。

 

正直なところ最初の数週間、ペンギンアルバムは寮生活の破綻を覚悟していた。

能力の高すぎるウマ娘に対し、能力の低すぎるウマ娘がどういう感情を抱くかは理解している。

それが同室ともなれば良好な関係を続けていくのは不可能だろうと予想していたのだ。

嫉妬を身に受けた経験は数多く、きっと今回もそうなるだろうと。

 

だがサナリモリブデンから向けられた感情は、尊敬と好意だった。

日を追うごとに萎んでいくどころか密度を増していくそれらに。

アルはすごいと称賛し学ぼうとする姿に。

ペンギンアルバムがどれほど目を丸くしたか。

 

 

 

異形の鋼に対する感情は、やがて向けられるものと同質のそれに変わった。

硬い志には憧憬を。

曲がらぬ芯には心酔を。

ペンギンアルバムにとっていつしか、サナリモリブデンという名前はこの世で最も美しいものを指す言葉になっていた。

 

ペンギンアルバムにはサナリモリブデンと同じ境遇に置かれた時、ひと月と耐えられない自覚がある。

楽しくないからだ。

その上、辛さと苦しさを乗り越えた先に敗北だけが積み重なるとなれば。

ペンギンアルバムはそう考えただけで、荷物をまとめて学園を後にする自分の姿をありありと想像できる。

 

だからこそ彼女はサナリモリブデンを他の誰より尊いと感じた。

世の誰もがペンギンアルバムを天才と呼ぶが、真なる才能の持ち主はサナリモリブデンだと彼女は断じる。

絶対に報われるとわかっている努力など誰にでもでき、絶対に報われるとわかる才能が自分にはあっただけ。

報われないと理解しながら走る事のできるこの少女こそが本当の天才なのだと。

 

 

 

(……サナリンは)

 

空に咲く花火の下で、誰にも知られずペンギンアルバムは述懐する。

 

(やっぱり、真ん中だなぁ)

 

大きく愛らしい瞳で見つめる先にはただ、サナリモリブデンのみ。

 

胸中に湧くのは悔しさだった。

挑みたい。

なのに、資格がない。

 

(あーあ……)

 

ペンギンアルバムはそっと、長く細い息を吐く。

 

(サナリンも、ステイヤーだったら良かったのに)

 

そんな都合の良い話はどこかにないものかと。

夢見るように心中で呟いて、ないないと苦笑した。

 

サナリモリブデンがこれまで走ったのは、短距離とマイルのみ。

対して自分の得意距離はほぼ長距離のみと言って良い。

どちらに合わせても、どちらかが実力を出し切れない結果に終わるだろうとペンギンアルバムは考えていた。

 

しかしそれでは意味がない。

ペンギンアルバムは挑戦したいのだ。

誰からも天才と呼ばれる自分の全力をもって、対等どころか格上と仰ぎ見る、鋼の怪物の全霊に。

魂の最後のひとかけらまで振り絞るような戦いが出来たなら、きっとそのまま死んでも良いほどに楽しいだろうからと。

 

 

 

「きれいだね。アル」

 

「……うん。本当に」

 

だが、出来ないものは仕方がない。

ペンギンアルバムは焼けた心臓に今日も蓋をした。

 

サナリモリブデンの敵にはなれない。

なれないものはどうしようもない。

だったら親友で十分だ、トレーニングで共に走れるだけで上出来じゃないかと。

心の中の海底に深く深く沈めていく。

 

それは少しの時間がかかったがいつも通りに上手くいった。

最後の花火が散り、余韻を楽しみ終えた頃には普段の笑顔が顔を出す。

 

「そういえばさ、サナリン手持ち花火やった事ないって言ってたでしょ? 実はレイと一緒にいっぱい買ってきてあるんだよねぇ。んふふ、帰ったらやんない?」

 

「……っ!?」

 

ペンギンアルバムがサプライズを告げれば、サナリモリブデンの顔が輝いた。

 

「やりたい! すごく、やりたい!」

 

「よしきた! そんじゃバーッと帰ろ! 今日は花火パーティーだー!」

 

白黒の少女達は連れ立って、早足で帰路につく。

慣れない下駄で転ばないように、けれど一刻も早く次の楽しい事がしたいとばかりに。

 

花火の炎のよく似合う、ひどくあつい日の夜の出来事だった。

 

 


 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+15

成長:ALL+5

獲得:コンディション/絶好調

獲得:スキルヒント/熱いまなざし

 

ペンギンアルバム/絆60 → 75

 

スピ:387 → 392

スタ:360 → 365

パワ:349 → 354

根性:396 → 401

賢さ:261 → 266

 

まなざし/150Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

 

熱いまなざし/250Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

 


 

【7月夏合宿トレーニング選択】

 

ランニング   スピード↑↑↑ パワー↑↑

遠泳      スタミナ↑↑↑ 根性↑↑

筋トレ     パワー↑↑↑  スタミナ↑↑

浜辺タイヤ引き 根性↑↑↑   スピード↑  パワー↑

早押しクイズ  賢さ↑↑↑   スピード↑  根性↑

 




【ダイスログ】

【挿絵表示】


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クラシック級 7月夏合宿トレーニング結果

 

 


 

【投票結果】

 

早押しクイズ

 


 

 

「それでは続いて第19問」

 

ででん♪

などという効果音。

それを聞くのは。

 

「くぅ……!」

 

「は、はやく問題出してぇ……!」

 

「っ……っっっ……!」

 

上からチューターサポート、ペンギンアルバム、サナリモリブデンの順。

彼女たちが何をしているかというと、砂浜に設置された特設ステージ上のランニングマシンで走っているところだ。

 

ペースはさほどではない。

ウォーミングアップで軽く走るような速度より少々速いという程度。

ただし。

今は、という文言が頭につくが。

 

「レースといえば競走前のファンファーレもお馴染みですが、専用のファンファーレが───」

 

司会の女性がそこまで読み上げたタイミングで、全員が動き出した。

突然に始まるスパート。

3人全員が全力で脚を回し、ガーガーと音を立ててランニングマシンを稼働させる。

同時に、各マシンに併設された大きな速度計の数字がぐんぐんと上がっていき───。

 

「───流されるレースが2つあります。そのうちG1、っとここで回答権獲得! チューターサポートさん、どうぞお答えください!」

 

「しまっ、速すぎた……!」

 

ぴこーんと軽い電子音とともに、チューターサポートの顔の前にマイクが跳ね起きる。

 

簡単に言えば、早押しクイズ番組であった。

ランニングマシンで一定以上の速度を出す事で回答権が得られる、という仕組みの。

 

酸素不足の状態で思考を回す訓練として、元々似た形式のトレーニングは存在した。

それを見ていた誰かが思いついたのだ。

ファンサービスの一環としてこれを流せばウケるのではないか? と。

そして思い付きは実行に移され、今や夏合宿の時期にはお馴染みの番組となっている。

 

もちろん毎日毎回というわけではないが、今日はサナリモリブデン達の持ち回りの回であった。

ダービーウマ娘であるペンギンアルバムが参加している事もあり、視聴者数は中々に多い。

 

”あーこれはやってしまいましたなぁ”

 

”ちょうど大事なとこで切れるの完全にわざとでしょ、いいぞもっとやれ”

 

”い つ も の”

 

”ファンファーレってそこまでしっかり聞いたことないわ”

 

今もその視聴者達のうち、ネット視聴を行っている者達のコメントが回答者の背後のスクリーンに流れていた。

全てを追うのは難しいほどの量だ。

休日という事もあるが、国民のウマ娘に対する関心の高さが伺える光景だろう。

 

「……宝塚記念っ!」

 

ブー!

 

「あ、あぁぁぁぁっ……」

 

それはともかくチューターサポートは回答した。

が、無慈悲にも不正解を示す効果音が鳴り響く。

 

「レースといえば競走前のファンファーレもお馴染みですが、専用のファンファーレが流されるレースが2つあります。そのうちG1ではない方のレースの名前は何? 答えは名鉄杯でした、残念!」

 

”ウマ娘ちゃんの絶望顔すこ なんぼあってもいい”

 

”ダークサイドのファンだ! 吊るせ!”

 

"ちな名鉄杯の専用ファンファーレは名古屋鉄道の特急用車両で使用されているミュージックホーンをアレンジしたもの。この元のミュージックホーンは地元ではどけよホーンの愛称で親しまれ、どーけーよーどーけーよーこーろーすーぞー♪ などの歌詞が勝手につけられている。聞きたい場合は1000系列(1800系・1850系・1380系除く)、2000系列(2200系・1700系含む)に乗車のこと。ただし豊橋駅~平井信号場間ではJR東海の内規の関係上流れないので注意。また関連して名鉄杯はターフビジョンに旧パノラマカーがすれ違うCG映像が流れたり、中京レース場内に静態保存されているパノラマカー内で名古屋鉄道の名鉄杯記念グッズが販売されるなど特別なレースになっている。パノラマカーは普段でも内部を見学できるのでレース場に立ち寄った際には是非見ていくことをお勧めする"

 

”なんかすごい長文が爆速で流れてって草なんだけど”

 

この不正解でスクリーンに表示されている点数が減った。

40点から30点へ、10点の減点。

1問あたりの得点は10点の計算だ。

50点に達する事で抜けていけるルールであるため、これはチューターサポートには少々辛い展開であった。

最後の直線を走っていたら急にゴールがコーナーの向こうまで遠ざかったようなものである。

チューターサポートは走りながら、肩をがっくりと落として落ち込んだ。

 

なお、抜ける方法は50点達成以外にもある。

下限速度を下回ってしまう事だ。

これは速度計が一定以下になってしまうと発生する。

そのボーダーラインはかなり緩く故意に足を止めなければそうそう起こりはしない。

つまり実質的なギブアップだが、これには罰ゲームが存在する。

バラエティ番組にありがちなアレやコレやだ。

当然、最後の1人になっても同じく罰ゲームになる。

 

回避するためには走り続けてなんとか他のメンバーより先に点を稼ぎきるしかない。

全力スパートに等しい瞬間的なダッシュを繰り返し、疲労と酸素不足に喘ぐ脳を回転させてだ。

見た目は完全にお気楽な娯楽番組であるが、その実態は夏合宿にふさわしい過酷なトレーニングである。

 

「チューターサポートさん、後一歩まで点を重ねていましたが痛恨のミス! どうでしょう、今のお気持ちは?」

 

「つ、次の問題早くとしか考えられないです……っ」

 

「おぉーっと、やはりこれは苦しそうです。ギブアップせずに最後まで回答を続けられるのかぁっ!?」

 

”引き伸ばしやめたれwww”

 

”笑顔の眩しさの割に性格が悪すぎるのよ”

 

”そんなだから彼氏に逃げられるんだぞニッシラテンザン”

 

「あ、スタッフさーん! このコメントの人のID控えておいてくださーい! ……んん! さて第20問です!」

 

そんな早押しクイズはまだまだ続いていく。

サナリモリブデンは下限速度にひっかからないギリギリを維持して息を入れつつ、鈍くなっていく頭に必死に鞭を打った。

 

彼女は横目で自身の得点を確認する。

40点。

あとひとつ正解を得られさえすればこの場から一抜けできる状態だ。

 

だが同時に、サナリモリブデンは自身の限界が迫っている事も自覚していた。

このトレーニングは長引けば長引くほど不利が大きくなっていく。

単純に頭が回らなくなるのだ。

現状ですでにギリギリ。

これ以上疲労をため込んでしまえば回答を考える能力さえ失われてしまうだろう。

 

(ここで、勝負をかける……!)

 

そう判断し、サナリモリブデンは集中を一段深めた。

眼光鋭く司会のウマ娘を睨む。

 

”お?”

 

”ちょっと空気変わったな”

 

「日本のレース場のうち、最も直線距離が長いのは───」

 

そこで加速を始める。

しかし、回答権を得る直前まで。

まだ早いと、サナリモリブデンは冷静に脚を抑えた。

 

「───……新潟レース場、です、が!」

 

引っ掛けようとするわざとらしい間。

それを読み切って、見つめるは司会の口元だ。

 

「では」

 

極度の集中により間延びした世界の中、サナリモリブデンは一音一音を見る。

 

「その」

 

ゲートと同じだと彼女は理解したのだ。

聞いてからでは遅い。

 

「───」

 

(ここっ!)

 

音が発される寸前。

唇の形から言葉を読み取った瞬間、マシンを蹴り飛ばすように最後の加速を叩きこんだ。

 

電子音をともなってマイクが起きる。

回答権はサナリモリブデンに与えられた。

問題の内容を推測でき、かつ他の2人に邪魔をされない、狙いすましたタイミングで。

 

「はいっ、サナリモリブデンさん回答権獲得です! お答えをどうぞっ!」

 

”*おおっと*”

 

”お手付き連続www”

 

”これは荒れる展開になりそうですねぇ”

 

肝心の部分を口に出さないまま、にんまりと笑う司会。

コメントもまた先ほどのチューターサポート同様サナリモリブデンも早すぎたと考え、失敗を予想する言葉が流れる。

 

しかし、サナリモリブデンには既に見えていた。

問題文の先端部、そこで形作られた音の母音を彼女は理解している。

 

『日本のレース場のうち、最も直線距離が長いのは新潟レース場ですが、ではその───』

 

続く母音は、うの形をしていた。

そしてそこまで分かれば後の予想は容易い。

この文言に続くとなれば候補は2つ程度のものだ。

 

第1の候補は距離を問うものだろう。

だがその場合『ではその距離は』と続くはずだ。

これは違うとサナリモリブデンは切り捨てる。

 

つまり正解はもう1つの候補。

すなわち。

 

『ではその次に長いのは───』

 

 


 

【トレーニング判定】

 

成功率:失敗5%→0%(トレーナースキル)/成功70%/大成功30%

 

結果:大成功

 


 

 

「───東京レース場、525.9メートル!」

 

高らかに電子音が鳴り響いた。

ピンポーン、というそれは日本人ならば誰にでもわかる、正解を示すものだ。

 

サナリモリブデンの答えは完璧なものだった。

新潟レース場の次に直線の長いレース場はどこか。

その質問に対し適切に東京と答え、問題内で距離まで聞かれていた時に備えて正確な数字も添えてみせた。

文句のつけようのない正答である。

 

「お見事っ! サナリモリブデンさん正解です! 日本のレース場のうち、最も直線距離が長いのは新潟レース場ですが、ではその次に長い直線を持つレース場はどこ、という問題でした! これで50点獲得、勝ち抜けを決めました!」

 

「……ん!」

 

これには司会のウマ娘も素直に称賛を贈る。

サナリモリブデンはそれに応えて、そして同時に視聴者にアピールするように握った右手を高く掲げてみせた。

 

”おおおおおおおお”

 

”すげー!”

 

”そ の た め の 右 手”

 

”8888888888888”

 

”んほぉ~無表情っ子のドヤ顔いいゾ~これ”

 

祝福のコメントが流れる中サナリモリブデンは脚を緩めていく。

もちろん罰ゲームはふりかからない。

3人のうち1位で勝利を収めたサナリモリブデンは悠々とマシンを降りる。

 

「ふ。私の勝ち。先にかき氷食べて待ってる」

 

「う、うぅー! ずるい! サナリンずるいー!」

 

「ずるくない。勝負の結果」

 

そして、勝者にのみ許された豪華フルーツ盛りのかき氷が供される。

残り2人の熾烈な争いを眺めながら楽しむ甘味は、疲れ切った脳に染み入るように優しく癒していくのだった。

 

 

 

なお、残った2人であるが。

チューターサポートがその後サックリ50点に達し、罰ゲームはペンギンアルバムが受けることとなった。

その内容は『超山盛りかき氷 ~ロイヤルビターシロップを添えて~』というものである。

甘味大好きな彼女の盛大なのたうちっぷりは、視聴者達に結構な笑いをもたらしたとだけ記しておく。

 

 


 

【トレーニング結果】

 

成長:賢さ+40/スピード+15/根性+15(夏合宿基礎成長)

成長:賢さ+10/スピード+5/根性+5(友情トレーニング)

成長:賢さ+50/スピード+20/根性+20(大成功ボーナス/全体2倍)

獲得:スキルPt+10(10~30ランダム)

 

スピ:392 → 432

スタ:365

パワ:354

根性:401 → 441

賢さ:266 → 366

 

スキルPt:160 → 170

 

 




【ダイスログ】

【挿絵表示】



※ちょっと居眠りしてしまって書くのが間に合わなかったので次走選択は5日に投稿します


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クラシック級 7月 次走選択

 

 

そうして、時間は過ぎた。

 

夏合宿の最終日。

まとめた荷物の入ったキャリーケースを引いたサナリモリブデンは合宿所に振り向く。

良く手入れのされた汚れのほとんど見当たらない白亜の壁がそこにある。

その様がそのまま、学園がウマ娘をどう扱おうとしているかを表しているように思えて、サナリモリブデンの心は少し暖かくなった。

 

建物自体に一度頭を下げて、ゆっくりと歩き出す。

祭りの夜に仲間たちと花火を楽しんだ広場を抜けて、過酷なクイズに挑んだ浜の横を通り、懸命に泳いだ海と目指した島を眺めていく。

 

「……」

 

ほう、とため息を一つ。

意味や意図があっての事ではない。

ただ単に湧きあがった感情の多さで体の中がいっぱいになり、吐息としてあふれただけだった。

 

とても楽しい2ヶ月だったと、サナリモリブデンは回想した。

彼女にとっては何もかもが初めての事だった。

これほど多くの友人に囲まれて過ごす日々も。

これほど多くの楽しさに包まれて流れた時間も。

本当にこんなに面白おかしく過ごして良いのかと幾度か考えたほどに。

 

だが、その正しさは今の彼女自身の体が証明していた。

五体にみなぎる力は合宿前の比ではない。

わずか2ヶ月。

たったそれだけの集中的なトレーニングで、サナリモリブデンは別人のように力をつけていた。

 

(きっと)

 

生涯忘れられない記憶になるだろうと、サナリモリブデンは思った。

この合宿は一生の宝物だと。

サナリモリブデンはその思いを噛み締めながら歩みを進める。

 

日常に帰る時間が迫っていた。

夢見るような夏の思い出を糧として、彼女は再びレースに挑んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

【閑話/不要】

 


 

 

ざばり、と。

海から上がる少女の姿があった。

本島から出発して沖を泳ぎ切り、無人の島に到着したウマ娘だ。

彼女は浅瀬を歩み、砂浜に辿り着いて座り込む。

 

呼吸は荒い。

背は震え、肩は激しく上下していた。

水中でも冷やし切れなかった体は高熱を持ち、ゆらゆらと湯気を立てている。

 

そこに寄り添う仲間は居ない。

少女はたった一人で俯き、体を休めている。

 

当然、会話などあるわけもない。

呼吸音だけが響く時間が過ぎる。

浜に言葉が生じたのは、沖合いに停泊したクルーザーから発ったボートが辿り着いてからだった。

 

 

 

「……マッキラ」

 

そう少女の名前を呼んだのは陰気な雰囲気の男だった。

年の頃はまだ20代の後半といったところ。

だがその若さに反して、彼からは瑞々しい活力は感じられない。

むしろ今にも枯れ落ちそうな印象を持つ人物だ。

 

名前を呼ばれたウマ娘、マッキラはゆらりと顔を向けた。

栗色の髪は流れず、水分を含んで顔に張り付いている。

 

「トレーナーさん。次のメニューはなんですか?」

 

そんな彼女は”次”を要求した。

 

既に満身創痍。

数時間の遠泳をこなし、極度の疲労に苛まれながらだ。

それでもまだ足りないと暗い光の宿る瞳で男、自身のトレーナーを見つめる。

 

「……次はない。君は休むべきだ」

 

「どうしてですか?」

 

だが、当然トレーナーがそれを許可するわけがない。

マッキラがいかに実力あるウマ娘であろうとこれ以上は限度を超えている。

だからと男は休息を告げたが、マッキラは食らいつくように問い返した。

 

「……これ以上は効果がない。むしろマイナスが増えるばかりだ。肉体を追い詰めるにも限度がある」

 

男は理路整然と言葉を返す。

トレーニングは過剰に過ぎれば効果が失われる。

鍛えるどころか故障を引き起こし、マッキラの競走寿命を削るだけに終わると。

 

「嘘です。何かあるでしょう? この状態でもやれるトレーニングは何かあるはずです。やらせてください」

 

それをマッキラは信じない。

俯いていた体を起こし、すがるように男を問い詰める。

 

「やらないといけないんです。分かるでしょうトレーナーさん? 私、負けたくない。もう負けたくないんです……!」

 

「君が負けるなど、ありえるものか」

 

まるで子供が泣くように言い募ったマッキラに、男は冷静に言った。

マッキラの肩に手を乗せて、落ち着かせるようにゆっくりと言葉を投げる。

 

「最強の証明はもうしただろう? クラシック級での安田記念制覇。これに勝る偉業はそうあるものではないよ」

 

「そんなもの!」

 

だが、マッキラには届かない。

髪を振り乱して叫ぶ彼女は、誰が見ても歴史的な勝者とは信じられないだろう。

 

「そんなもの何の意味があるんですか! あのレースには、あの子達は居なかったのに……!」

 

「スレーインとクラースナヤは居た。レース史に名前を刻むだろう名バたちだ。彼女らに勝って、まだ足りないか?」

 

「足りるわけないでしょう……!?」

 

頭を振り、狂乱するようにマッキラは叫ぶ。

 

「聞こえるんです! 追ってきてる! あの子達が、すぐそこまで!」

 

「落ち着くんだ。それは君の気のせいだ。君は負けない。もう誰にもだ」

 

「違う。違います……。だって、ほら……」

 

そこで彼女は両手を広げてみせた。

その指先は小刻みに震えている。

 

「こんなに寒い。ずっと震えてるんですよ……?」

 

「マッキラ、休もう。……頼む。君は休むべきなんだ。これ以上は競走人生に関わる。いや、それどころか───」

 

「それでもいいです。やらせてください。今脚を止めるくらいなら、」

 

死んだほうがマシだと。

恐怖に歪んだ声によって、男の説得は今日もまた失敗に終わった。

 

男は目を伏せ、唇を噛んだ。

道は閉ざされている。

このままマッキラを行かせれば彼女の脚は壊れるだろう。

だが無理に止めれば心が砕けて散る。

どちらを選んだところで、マッキラという少女は終わりを迎える事になる。

 

「…………今できるトレーニングはひとつだけある。疲れ切った頭でならちょうどいい。座学を詰め込もうか」

 

「あ、は。やっぱり嘘だった。あるんじゃないですか、やれること……」

 

だから男に出来る事はひとつだけだ。

袋小路の中でぐるぐると回り続けて時間を稼ぐ以外に手立てはない。

わずかにでもマッキラの負担が少ない道を選び、男は少女の目をそらす。

 

……しかしそれも無限には続けられない。

命を削って力に替えるような日々は、先日ついに1年を数えた。

とうに限界は超えている。

騙し騙しここまで保たせてきたのだ。

結局は先延ばしに過ぎず、破綻はもう間近に見えている。

 

(タイムリミットは、近いな)

 

抜け出せない泥濘の中で、男はそれでも冷徹に刻限を見定める。

 

11月。

マイルチャンピオンシップ。

 

(すまない、マッキラ。どうやら俺では君を助けられない)

 

そこでなお、病巣を切除できないならば。

男は彼女の心を砕く選択に手を伸ばすと、そう決めた。

命が失われるよりはマシだ、などと言い訳を吐く気は男にはない。

自身の無能が招いた事だと男は己だけを責める。

 

 

 

燦燦と、無慈悲に照り付ける陽光の下。

辛く、苦しいだけの、血を吐くような夏合宿が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

【クラシック級 8月】

 

UHB賞(OP)         夏/札幌/芝/1200m(短距離)/右

朱鷺ステークス(OP)     夏/新潟/芝/1400m(短距離)/左内

関越ステークス(OP)     夏/新潟/芝/1800m(マイル)/左外

小倉日経オープン(OP)    夏/小倉/芝/1800m(マイル)/右

札幌日経オープン(OP)    夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右

 

北九州記念(G3)       夏/小倉/芝/1200m(短距離)/右

キーンランドカップ(G3)   夏/札幌/芝/1200m(短距離)/右

関屋記念(G3)        夏/新潟/芝/1600m(マイル)/左外/チューターサポート

小倉記念(G3)        夏/小倉/芝/2000m(中距離)/右

 

札幌記念(G2)        夏/札幌/芝/2000m(中距離)/右

 

 

【クラシック級 9月】

 

ポートアイランドS(OP)    秋/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

丹頂ステークス(OP)     夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右

 

京成杯オータムハンデ(G3)  夏/中山/芝/1600m(マイル)/右外

新潟記念(G3)        夏/新潟/芝/2000m(中距離)/左外

 

セントウルステークス(G2)  夏/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

神戸新聞杯(G2)       秋/阪神/芝/2400m(中距離)/右外/ペンギンアルバム

オールカマー(G2)      秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外

セントライト記念(G2)    秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外/ジュエルルビー、アクアガイザー

 

スプリンターズステークス(G1)秋/中山/芝/1200m(短距離)/右外/ソーラーレイ、他2名

 

 

【クラシック級 10月】

 

ルミエールオータムダッシュ(OP)秋/新潟/芝/1000m(短距離)/直線

オパールステークス(OP)    秋/京都/芝/1200m(短距離)/右内

信越ステークス(OP)      秋/新潟/芝/1400m(短距離)/左内

カシオペアステークス(OP)   秋/京都/芝/1800m(マイル)/右外

オクトーバーステークス(OP)  秋/東京/芝/2000m(中距離)/左

 

スワンステークス(G2)     秋/京都/芝/1400m(短距離)/右外

毎日王冠(G2)         秋/東京/芝/1800m(マイル)/左/マッキラ、チューターサポート

富士ステークス(G2)      秋/東京/芝/1600m(マイル)/左

京都大賞典(G2)        秋/京都/芝/2400m(中距離)/右外

 

天皇賞秋(G1)         秋/東京/芝/2000m(中距離)/左/クラースナヤ

菊花賞(G1)          秋/京都/芝/3000m(長距離)/右外/ペンギンアルバム、他2名

 

 

【クラシック級 11月】

 

オーロカップ(OP)       秋/東京/芝/1400m(短距離)/左

キャピタルステークス(OP)   秋/東京/芝/1600m(マイル)/左

アンドロメダステークス(OP)  秋/京都/芝/2000m(中距離)/右内

 

京阪杯(G3)          秋/京都/芝/1200m(短距離)/右内/ソーラーレイ

福島記念(G3)         秋/福島/芝/2000m(中距離)/右

 

アルゼンチン共和国杯(G2)   秋/東京/芝/2500m(長距離)/左

 

マイルチャンピオンシップ(G1) 秋/京都/芝/1600m(マイル)/右外/マッキラ、チューターサポート

ジャパンカップ(G1)      秋/東京/芝/2400m(中距離)/左/スレーイン、ジュエルルビー

 


 

 

合宿所からの帰りの飛行機の中。

サナリモリブデンはいつものように郷谷のタブレットを借りていた。

表示されるのはお馴染みのレース一覧である。

来月8月から秋の終わりまでの4ヶ月分を、サナリモリブデンはゆったりとしたビジネスクラスのシートに身を預けて眺める。

 

手元には果汁100%のジュース。

リラックスした態勢だ。

 

「サナリさんはこの夏で随分と伸びましたから、次走は悩み所ですねぇ」

 

隣に座る郷谷ももちろん一緒だ。

ともに画面を見つめて小声で意見を交わす。

 

「客観的に見て、今の私はどのくらい?」

 

「順当に実力を発揮しきれたとするなら、G2まではまず勝ち負けになるでしょう。相当なミスをしない限り掲示板を外すことはないかと思います」

 

「そんなに」

 

郷谷の言に、サナリモリブデンはまじまじと自分の脚を見る。

2ヶ月で鍛え上げられたという自負はある。

だがそこまでとは思っていなかったのか。

芦毛の下の目をきょとんとさせていた。

 

「そんなにです。特に今は調子も上向いていますから。これなら───」

 

郷谷はタブレットをタップする。

表示が切り替わる。

スプリンターズステークス、天皇賞秋、菊花賞、マイルチャンピオンシップ、ジャパンカップ。

レースを志す者なら聞き覚えのない者はいない大舞台の名がずらりと並んだ。

 

「G1にだって送り出せます。厳しい戦いになる事は避けられませんが、わずかながら勝利の目も見えてきました」

 

郷谷の言葉には熱がこもっていた。

偽りや楽観ではなく、確かな勝算を見て彼女は語る。

 

「それもフロックや展開の妙などではなく、サナリさん自身の力で勝利をもぎ取れる可能性が、です」

 

それに、サナリモリブデンの肌が震える。

歓喜によってだ。

 

彼女が走る理由は、己の存在を決して褪せない記憶として人々の中に刻む事だ。

そのためには必要なものは数多いだろうが、中でも必須と言えるものはこれだろう。

G1への出走。

そして勝利だ。

 

その機が2年目、クラシック級にて訪れた事にサナリモリブデンは渦を巻く感情を止められない。

 

だが同時に、渦に飲まれることもない。

興奮に乱れようとする呼吸を、彼女は数秒をかけて落ち着けた。

かかっていては判断に誤りが生まれる。

 

今、確かに彼女はG1で勝利する可能性を掴んではいる。

だが、だからと即座に伸ばす手に焦燥が含まれてはいないだろうか。

今はまだ経験を積み、鍛錬を重ねる方が先決ではないか。

そういう意見も彼女の中からは湧きあがってくる。

 

 

 

冷静に、冷徹に。

サナリモリブデンは自身の力と未来を見据え、次走を選択する。

 

 


 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:432

スタ:365

パワ:354

根性:441

賢さ:366

 

【適性】

 

芝:B(2/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:B(25/30)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

【コンディション】

 

絶好調/次のレース時、能力がすごく上がる状態。レースが終わると解消される。

 




アンケート項目数の関係で一旦8~9月のみの選択となります。

【ダイスログ】

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クラシック級 7月次走選択結果~8月ランダムイベント

 

 


 

【投票結果】

 

関屋記念(G3)

 


 

 

関屋記念。

それがサナリモリブデンの選択だった。

 

夏、8月。

新潟レース場で行われるレースである。

G1の存在しない夏のレースを盛り上げるべく開催されているサマーシリーズのひとつだ。

そして、G3のグレードを冠する重賞でもあった。

 

が、そういった点は一度置く。

サナリモリブデンにとって重要な事は他にある。

それは。

 

「チューターサポートさんが出走予定のレース、ですね?」

 

そこだった。

郷谷に指摘されたサナリモリブデンは、一度だけ小さく頷く。

 

戦いたいと、彼女はそう思ったのだ。

夏合宿を通してサナリモリブデンは感じていた。

今のチューターサポートは仕上がりつつある。

春からこちら、どうやら好調のようだという気配はあったが、夏に入って更に磨き抜かれている。

 

だからこそ、サナリモリブデンはチューターサポートに挑むと決めた。

ウマ娘としてのレースを求める本能が背筋をゾクゾクと震わせる。

激戦への期待と興奮。

そして、郷谷にも保証された、夏で伸びた自身の実力を真っ向からぶつけられる好敵手の存在にだ。

 

「わかりました、登録しておきます。恐らくチューターサポートさんとは互角の戦いになるでしょう。わずかでも気持ちの緩んだ方が負けると、そう思っていて下さい。……まぁ、サナリさんには言うまでもない事かもしれませんが」

 

「ん。やる以上はいつだって、全部振り絞る」

 

「えぇ、サナリさんはそういう子ですよねぇ」

 

予定は決まり、話し合いは終わった。

タブレットの電源を落とし、郷谷へと返却する。

 

そうして、サナリモリブデンは離れた席に座るチューターサポートに視線を向けた。

 

 

 

……チューターサポートはすやすやと寝息を立てているところだった。

専属トレーナーである男性の肩に頭を預けてすっかり気の抜けた様子である。

男は申し訳なさそうな表情を作って軽く頭を下げてから、指を唇に当てた。

しー、というやつだ。

 

「…………」

 

どうせなら今ここで宣戦布告を。

そんな考えが空振りに終わり、少ししょんぼりとするサナリモリブデンであった。

 

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:「ドリンクバー」「事故」「パスタ」

 


 

【登場人物判定】

 

各員同確率/複数人登場率50%

 

結果:ソーラーレイ&チューターサポート

 


 

 

「はい、あんたらのも入れてきてあげたから」

 

「やると思った!」

 

真夏のとある日。

ファミレスにて。

ニヤニヤ顔のソーラーレイが運んできたコップを見て、チューターサポートはげんなりしつつ叫んだ。

 

「なにこれ」

 

「主成分は麦茶よ」

 

「?? ……????」

 

「その顔なかなかウケるわ」

 

そしてサナリモリブデンは混乱顔だ。

手渡された飲み物───ソーラーレイがドリンクバーから持ってきた謎の黒い炭酸飲料を前に、頭の回りに疑問符を浮かべている。

 

「私の知ってる麦茶じゃない……」

 

「でしょうね。麦茶メインでコーラとコーヒーとオレンジジュースを適当にってレシピだもの」

 

「どうして」

 

次いで正体を聞かされて愕然とする。

聞くからに劇物である。

そんな、どう考えても合体事故が起きるとしか思えないものを何故、とサナリモリブデンは疑問の声を上げた。

 

「面白そうだからよ。定番じゃない」

 

「……それだけ?」

 

「えぇ」

 

「到底許されない」

 

「私もちょっとどうかと思うよ。確かに定番だけどさぁ」

 

最後に至ったのは憤慨だった。

必ず、かの邪智暴虐の褐色性悪ウマ娘を除かなければならぬと決意した。

が、それはともかく飲食物を無駄にする事ははばかられた。

まずはなんとか目の前のおかしなものを飲み切ろうとコップを持ち上げる。

 

「……え。サナリ、飲むの?」

 

「……コップに入れられた以上仕方ない。もったいない事は出来ないから」

 

「い、いや、でも流石に……あっ」

 

若干引き気味のチューターサポートが止めるも、サナリモリブデンの行動は変わらない。

怪しげな飲料が入ったコップを唇に当て、中身をぐいっと一気に飲み干す。

 

 


 

【イベント分岐判定】

 

難度:125

補正:なし

参照:根性/441

 

結果:427(特大成功)

 


 

 

ごっごっごっとサナリモリブデンの喉が動く。

相手は謎の混合物である。

口の中に長時間残したくないという判断だった。

 

「……!?」

 

が、その途中で動きが止まった。

コップからゆっくりと口を離して内容物をまじまじと見つめる。

 

「あー……やっぱりきついでしょ。やめといた方がいいよ」

 

「ううん。逆。割といける」

 

「え、嘘」

 

「本当。少なくとも変な感じはしない」

 

確かめるようにもうひと口舐めてみてもやはりサナリモリブデンには美味と感じられた。

麦茶のサッパリとした風味はそのままに、わずかな炭酸の刺激と程よい甘さが加わっている。

柑橘の香りも邪魔になるほどではなくむしろ良いアクセントだ。

コーヒーの気配はほとんどないようにサナリモリブデンには思えたが、麦茶の後味が普段よりも強く感じられている。

もしかしたらこの後味の中に自然に溶け込んでいるのではとも考えられた。

 

さらにもうひと口。

慣れが進んだ事でさらに美味しく感じられるようになったのか。

サナリモリブデンの目が徐々に輝き出す。

 

「……ちょ、ちょっと私も飲んでみようかな」

 

つられるように手を伸ばしたのはチューターサポートだ。

恐る恐るコップを手に取り、ごくりと飲む。

そして、意外だとばかりに顔をきょとんとさせた。

 

「本当にいける……。すごいよこの配合」

 

「うん。甘味はしっかりあるのに後口がサッパリしてて良い」

 

2人は顔を見合わせて頷きを交わす。

 

「はー? 何よ面白くないわね。ひっどい味にしてやろうと思ったのに」

 

それにぶー垂れるのはもちろんソーラーレイ。

続いて自分のコップに口をつけているが、こちらは普通のコーラのようだ。

自分ひとり安全圏から高見の見物と洒落こもうとしたらしいが、逆に仲間外れとなった事で不満を抱く結果に終わったらしい。

率直に言って自業自得だった。

 

 

 

さて、今日は休日であった。

つまりは友人たちの時間である。

サナリモリブデンら3人は余暇の時間を共に過ごすためにこのファミレスにやってきていた。

 

学園からは徒歩圏内で、手頃な値段で味もそこそこ良い。

騒がしすぎず静かすぎずといった雰囲気。

学生がたむろするにはちょうどいい環境だった。

飲み放題のドリンクバーがあるのも大きなプラスである。

3人も利用するのは初めてではなく、幾つかある”いつもの場所”のひとつだ。

 

「それで、どうなのよあんた。トレーナーとは何か進展あったの?」

 

「何もあるわけないでしょ。別にそういう関係じゃないんだって」

 

「そうは見えないけどねぇ~? こないだの帰りの飛行機だってベッタリだったじゃない。あれで何もないは通らないわよ」

 

「ん、私も見た。肩を枕にしてあんなに安心して寝られるなんて中々ない」

 

「サナリまで……。いや、本当に違うんだって。信じてよ」

 

流れる話題も年頃の少女らしいもの。

チューターサポートが見せた隙を突き、つつきまわすサナリモリブデンとソーラーレイである。

サナリモリブデンのトレーナーである郷谷は女性で、ソーラーレイのトレーナーは年の離れすぎた中年の男な上に複数のウマ娘と同時に契約している。

こういった場面で標的になるのは、若い男性と一対一の専属契約を交わしているチューターサポートというのがお決まりだった。

 

「でも本心では~?」

 

「ないって。ないない。いくら年が近いったって向こうは大人でこっちは子供だよ? ないでしょ」

 

「そんなことない。トレーナーと担当ウマ娘が結ばれる確率はかなり高いって聞いてる。私のお父さんとお母さんもそう」

 

「えっ、本当に?」

 

「はーん? 随分食いつきいいじゃない。冗談のつもりだったのにいいとこ突いちゃったかしらねーこれは」

 

「は!? いや、違うから! 私自身には関係なくそういう恋愛話に興味があっただけだから!」

 

からかうソーラーレイ。

本心がどうかは定かではないが否定するチューターサポート。

そして友人が本気なら手助けもやぶさかではないと鼻息の荒いサナリモリブデン。

ファミレスの喧騒に紛れながら、3人は姦しく時間を過ごす。

 

と、そこへ近づく者があった。

料理の乗ったワゴンを押す店員だ。

お待たせしましたー、と朗らかに言いながらワゴンから皿を持ち上げた。

 

大盛りのパスタである。

 

現在このファミレスではパスタフェアが行われている。

多種多様なパスタが普段よりも安く、そして多く食べられるのだ。

サナリモリブデン達も店の勧めに乗りフェアの商品を注文している。

 

最初にテーブルに置かれたのはサナリモリブデンが頼んだ品だった。

それは───。

 




【ダイスログ】

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クラシック級 8月イベント結果~8月関屋記念作戦選択

 

 


 

【投票結果】

 

具沢山で色んな味が楽しめるペスカトーレ

 


 

 

それはペスカトーレだった。

塩、ニンニク、ワインで味付けがされたトマトソースをベースに、多種多様な魚介類を加えたパスタである。

この店のものはオーソドックスなタイプのようで、アサリ、イカ、エビが入っている。

そこに期間限定のパスタフェアで全体的に増量され、オマケでズワイガニが追加されているようだ。

 

他の2人の前にもそれぞれの注文した品が置かれたのを確認し、サナリモリブデンは早速食べ始める。

ペスカトーレの魅力といえばなんといってもその味の豊富さだ。

アサリ、イカ、エビ、カニ。

どれもたっぷりと出汁の出る具材ばかり。

これらを煮詰めたソースにはとんでもない密度で旨味が凝縮されている。

 

「ふぅ……」

 

などと、サナリモリブデンも思わずため息を漏らすほどだ。

口に含み、咀嚼し、嚥下する。

その間中ずっと、それぞれの具材の芳香が次々に主張していくのだ。

しかも、トマトによって絶妙に調和が取られており嫌味がない。

そんなただでさえ満足感たっぷりのソースがしっかりと絡むパスタは食べ応え抜群の一品だった。

 

「……もぐ」

 

もちろん、出汁だけでなく具材そのものも美味しい。

エビはプリプリと、イカはサクサクと、それぞれ食感良く歯を楽しませる。

柔らかいアサリも噛み潰すと濃厚な味が飛び出し、これだけ出汁を取られておきながらまだこんなに味が強いのかと驚きを与えてくれる。

カニに至っては言うまでもなくご馳走だった。

 

ペスカトーレに舌鼓を打ちながら、サナリモリブデンはその時ふと閃いた。

次々に襲い掛かってくる味わいの波。

このアイディアはレースに活かせるかもしれない!

 

「あんた時々何言ってるかわかんない時あるわよね」

 

なお、その閃きはソーラーレイにすっぱり斬られた。

が、実際のところ悪くない閃きではあった。

数多の具材による波状攻撃から、サナリモリブデンは様々な技術の習得に発想を飛躍させ、そちらに対するモチベーションを向上させた。

これは少なからず彼女の成長にプラスの影響を与えるだろう。

 

「そんな事よりさ、少し交換しない? そっちも美味しそうに見えてきちゃった」

 

「2:1のレートなら応じる」

 

「ちょっとー、ぼりすぎじゃない?」

 

「ミックス麦茶」

 

「ちっ……食後にすべきだったか。しゃーないわね、それでいいわ」

 

「あ、なら私もいいかな。サナリのそれ、匂いがさぁ、美味しそうすぎるんだよね」

 

それはともかく食事は楽しく進む。

パスタは3人の間で数口分ずつ交換された。

ソーラーレイからは唐辛子の強烈な辛みが食欲を加速させるアラビアータが。

チューターサポートからは安定感のある定番のミートソースが。

それぞれサナリモリブデンの皿の空き部分にやってきて、新たに舌を楽しませてくれた。

 

 

 

さて、そうしてパスタは胃袋に収まった。

程よい満腹感を抱えて余韻とおしゃべりを楽しむ時間となる。

お供となる飲み物は再びソーラーレイが補充に向かった。

 

その時間の最初で。

チューターサポートはサナリモリブデンを見つめて切り出した。

 

「関屋記念。サナリも出るんだって?」

 

「うん」

 

それにサナリモリブデンは端的に返した。

好戦的な光を宿すチューターサポートの瞳をまっすぐ見返して、まるでブレずにだ。

 

「……挑ませてもらう」

 

宣戦布告であった。

滾る戦意を隠しもしない。

そこに友人だからと敵意を抑えようとする意志はかけらもなかった。

むしろ、力有るアスリートと理解している友人であるからこそ全身全霊をもって上回ってみせると言葉少なに、しかし苛烈な気配をもって雄弁に語っている。

 

「……へぇ」

 

対するチューターサポートもまた同様だった。

彼女は普段、落ち着きに富む常識人である。

どちらかといえば柔和な表情ばかりを多く見せる少女だ。

 

しかし今は、挑発するかのように頬を吊り上げている。

愉快そうに細められた目は敵手を見定めるそれだった。

 

「サナリと戦うのはメイクデビュー以来だね。……実を言うとさ、ずっとやりたかったんだ。あの日の借りは、あいつだけにある訳じゃなかったから」

 

言いながら、チューターサポートの裡に宿る熱は温度を上げていくようだった。

眼の奥に揺れる炎は、一言ごとに大きくなっていく。

 

「思えば、あの後は情けないとこも見せちゃってたし。上書きしてあげるよ。今度は───」

 

チューターサポートは顔を近付け、至近からサナリモリブデンを覗き込む。

 

【挿絵表示】

 

「私が勝つ。あの日教えてもらった気持ちと、私の走り。ようやく折り合いがついてきたんだ。答えにして、きっちり返してあげる」

 

「それは良い。とても見たい。……楽しみにしておく」

 

投げられたものを投げ返すように。

サナリモリブデンもまた頬を吊り上げてみせた。

慣れない表情はさほど似合うものではなかったが、全力で叩き潰しあうという誓約を交わすには十分だっただろう。

 

 

 

 

 

「……ところで、レイ遅いね」

 

「何をやってるかは大体想像がつく」

 

と、敵の時間はそこまでだった。

示し合わせたように空気がふっと緩み、飲み物を取りに言っている残り1人に話題が飛ぶ。

彼女の性格を考えれば帰りが遅い理由は明白だった。

 

「どうする?」

 

チューターサポートが真面目な顔でサナリモリブデンを見る。

 

「3人分なら許す。挑戦もそう悪くないって教えられたし」

 

「なるほど。じゃあ私もそれに乗ろうかな」

 

返した言葉は簡潔だった。

友人らしい理解度でチューターサポートも頷き、それから視線をサナリモリブデンの背後に移す。

 

「ケッケッケ、お待たせ~♪」

 

いかにも悪役感のある笑い声とともに、ソーラーレイがようやく戻ってきたところだった。

手に持ったトレイには。

ごく普通のコーラが1人分と、怪しい色合いのコップが2人分。

 

「「ギルティ」」

 

「あん?」

 

両者一致での有罪判決だった。

自分1人だけを安全圏に置くなど許されるわけもない。

狩られる側になったとまだ気付いていないソーラーレイを左右から抑え込んで座り、処刑は開始される。

 

かくしてコップ2杯分の地獄はソーラーレイの胃袋に収まる事となった。

その過程には相応の苦しみがあったようだったが、まぁ自業自得というものだろう。

 

 


 

【イベントリザルト】

 

友好:ソーラーレイの絆+5

友好:チューターサポートの絆+5

成長:スタミナ+10

獲得:スキルPt+40

 

ソーラーレイ    絆35 → 40

チューターサポート 絆35 → 40

 

スピ:432

スタ:365 → 375

パワ:354

根性:441

賢さ:366

 

スキルPt:170 → 210

 


 

【レース生成】

 

【関屋記念(G3)】

 

【夏/新潟/芝/1600m(マイル)/左外】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:156(クラシック級8月の固定値125/G3倍率x1.25)

 

 

【枠順】

 

1枠1番:ミニジニア

2枠2番:ジュエルルベライト

3枠3番:サナリモリブデン

3枠4番:ハートリーレター

4枠5番:ロングキャラバン

4枠6番:モアザンエニシング

5枠7番:チューターサポート

5枠8番:ブラボーアール

6枠9番:プカプカ

6枠10番:オボロイブニング

7枠11番:スローモーション

7枠12番:スウィフトアクセル

8枠13番:デュオエキュ

8枠14番:デザートベイビー

 

 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝B/スピード&パワー+10%

距離適性:マイルB/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:補正なし

 

調子:絶好調/ALL+10%

 

スピ:432+86=518

スタ:375+75=450

パワ:354+70=424

根性:441+44=485

賢さ:366+73=439

 


 

 

「新潟レース場といえば直線の長さ、というのはサナリさんも覚えていましたね」

 

郷谷の言葉にサナリモリブデンは静かに頷いた。

ここは新潟レース場の控室だ。

いつもの出走前最後の作戦会議の時間である。

 

「左外回りコースではその特徴がズバリ出ます。最終直線は日本最長の658.7メートル

 

タブレットに表示される全景ではそれが良く分かる。

最終コーナーを曲がった後、ホームストレートのほぼ全てを走る事になるのだ。

日本で二番目に長い東京のそれよりも130メートル以上も長い。

さらに。

 

「この直線の長さはレース場全体の大きさに由来します。つまりコーナーも大きく、曲がりやすくなっています。しかもスパイラルカーブになっている上に、緩いとはいえ3コーナーの頭から下り坂になっているんですね」

 

「……これは、速度が落ちない?」

 

「そうなります。ペースが落ちる事はまずありません。全体が高速化したままコーナーを抜けて、その勢いのまま直線勝負が始まります。清々しいほどの末脚重視のコースと言えるでしょう

 

なるほどと、サナリモリブデンは情報を飲み込んだ。

他に留意すべき点としては、スタート直後の展開は緩くなりがちだという辺りだろう。

末脚を爆発させる時に備えて誰もが序盤は脚を溜める展開が多いようだ。

 

 

次いで郷谷が触れたのはチューターサポートについてだ。

彼女の戦績を表示させて、ゆるりと語り始める。

 

「これまでに6戦3勝。うち重賞1つ。今年1月のシンザン記念ですね。ですがより脅威と言える情報として……チューターサポートさんはとある2人以外に負けた事がありません」

 

郷谷の言う2人が誰かは明白だ。

1人は先述の通りサナリモリブデン。

だがこれは一度忘れるべきだろう。

確かに一度、サナリモリブデンはチューターサポートに先着している。

しかしそれはもう1年以上も前のメイクデビューでの事だ。

2人とも当時の能力とはかけ離れている。

 

重要なのはもう1人の方だ。

マイル戦線において絶対的な暴威を振るう王者、マッキラである。

未だ無敗を誇る彼女以外に負けた事がない。

それはつまり、他のあらゆるウマ娘に勝利し続けてきたという事だ。

 

「能力は頭ひとつ突出していると言って良いでしょう。もしマッキラさんが居なければ、今頃王者と呼ばれていたのは彼女だったかも知れません」

 

改めて理解した敵手の強大さに、サナリモリブデンは背と尾を震わせた。

吐息は大きく深くなり、取り込んだ酸素を燃料にして胸の中央に火が灯る。

見据えた敵手に早く挑みたいと逸る心を抑えるのに苦労するほどだった。

この夏に磨き抜いた力をぶつける相手としてなんら不足はないだろう。

 

「そんなチューターサポートさんですが、戦法としては先行から差しを状況に応じて選択するタイプですね。……ジュニア級の頃は精神面に弱点を抱えていたようでしたが、どうやら今はもう克服しています。弱点らしい弱点のない、全般的に隙の無い高レベルの能力を常に揺らぎなく発揮してくるウマ娘です」

 

言い換えれば、1人で完結しているという事でもある。

ライバルに対する干渉は過去のレースでは殆ど見られていない。

いかに自己のベストを引き出し続けるかという点に彼女の集中は向けられている。

 

 

 

情報は以上のようだ。

 

そのまましばし。

サナリモリブデンの理解が細部にまで及ぶのを待ち、郷谷は今回の作戦を決定する。

 

 


 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:2 差し:4~5 先行:4~5 逃げ:2

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/5枠7番:チューターサポート(差し~先行)

2番人気/5枠8番:ブラボーアール(追込)

3番人気/2枠2番:ジュエルルベライト(先行)

 


 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:432+86=518

スタ:375+75=450

パワ:354+70=424

根性:441+44=485

賢さ:366+73=439

 

【適性】

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(15/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

領域の萌芽 (名称・効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

 




【ダイスログ】

【挿絵表示】


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クラシック級 8月 関屋記念(G3)

遅くなりました
申し訳ありません


 

 


 

【投票結果】

 

差し

 


 

 

選ばれた作戦は差し。

すなわち、新潟レース場に適性の高い直線一気の態勢だった。

 

そしてマークは行わない。

チューターサポートは安定感の高い走りを得意としている。

彼女を崩すのはそう簡単な事ではないだろう。

むしろ下手に手を出しては反動で一方的に疲弊するだけなどという展開もあり得る。

サナリモリブデンと郷谷はそれをこそ警戒した。

 

ならば、選択すべきは地力での勝負である。

己の最大限を叩きつけて、敵手の最大限を上回る。

それこそがこのレースにおける勝機であると、二人は判断したのだ。

 

『新潟レース場、本日のメインレース関屋記念G3、ゲート入りが着々と進んでおります。天候は快晴、芝の状態も良好。絶好のレース日和です』

 

回想を終えてサナリモリブデンは目を開く。

視界を埋めるのは鉄のゲートだ。

狭く暗いそこを彼女は苦としない。

むしろより集中を高めるには都合が良いとさえ感じていた。

 

『1番人気、7番チューターサポートもするりと入りました。しっかりとした足取り』

 

『この娘の最近の落ち着きは見ていて頼もしさを感じさせますね。今日も冷静なレース運びが期待できそうです』

 

それはこのレースにおける最大の脅威、チューターサポートも同様であるらしい。

まるで淀みのない歩様を見せてゲートに収まる。

 

今日、サナリモリブデンは彼女と言葉を交わしていない。

視線を合わせる事さえなかった。

成すべき意志の交換は既に終えている。

互いに、後は己こそが強者であると証明するのみだ。

そこに余分は要らないという理解は積み重ねた友情故に共通のものであった。

 

『2番ジュエルルベライトも入りました、本日3番人気』

 

『今年のジュエル家は例年に増して好成績を上げていますからね。流石の名家といったところで期待は大きくかかっています。この娘は前目のレースが得意ですが末脚も中々のもの。新潟の直線でも期待できますよ』

 

『末脚といえば2番人気の8番ブラボーアールも定評があります。意気揚々とゲートイン。ちょっと前のめりにも見えますが、どうでしょう?』

 

『いえ、彼女は普段からこういった感じなので心配ないと思いますよ。いざレースが始まれば激しい戦意を最後まで押し込めておける強いハートの持ち主です。気持ちの良い直線一気を今日も見たいですね』

 

レースの準備は整っていく。

焦るでもなく、飽くでもなく、凪いだ心地でサナリモリブデンは時を待った。

 

その途中、人気上位3名を紹介する実況と解説に彼女の名前が上がることはない。

だが、それもサナリモリブデンの心を揺らさなかった。

むしろ当然だと受け入れる。

 

大逃げで大勝し、大逃げで崩れて大敗し、巧みに逃げて勝利した。

間に差しで走った朝日杯を挟んでいるとはいえ、一般的な評価では逃げウマ娘と見られているだろうとは彼女自身承知している。

ならば逃げが不利になりがちな新潟では人気が伸び悩むのも当然と言えた。

むしろ。

 

(この状況で、5番人気。……見られている。見て、くれている)

 

それでもサナリモリブデンが勝つ。

あるいは勝って欲しいと願った観客が多く存在する事実に彼女は奮い立った。

 

芝の様子を確かめる足先に力が漲る。

勝負に備えるように握った手からは痺れにも似た闘志が迸る。

ゆっくりと吐き出した息にも、焼けるような熱が籠められていた。

 

(───やろう)

 

心中でさえ言葉少なく、サナリモリブデンは決意を固めた。

コンディションは完璧だった。

最高の自分自身を誰の目にも焼き付ける準備はとうに終えている。

肉体と精神がガチリと噛み合い、これ以上なく研ぎ澄まされた。

そしてついに、その時が訪れる。

 

『さあ、各ウマ娘ゲートイン完了。係員が離れていきます』

 

レース場のスタッフが離れていく気配。

それを理解して、サナリモリブデンは身を低く沈めた。

鋭利とさえ表現できる程の集中がその双眸に宿り、固く冷たいゲートを睨む。

 

『サマーマイルシリーズ関屋記念、今───』

 

 


 

【スタート判定】

 

難度:156

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/439+87=526

 

結果:329(大成功)

 


 

 

『スタートしましたっ! チューターサポートが抜群の好スタート! 他は揃っての出足です。出遅れはありません』

 

その瞬間、サナリモリブデンは敵手の好調を確信した。

頭一つ抜けた抜群のスタートを決めて見せたチューターサポートが悠々と先頭を行く。

彼女の集中の度合いはサナリモリブデンと同等か、あるいは凌駕するものだったらしい。

 

だが、とサナリモリブデンは鋭く息を吐き、目を細める。

彼女とて出足では負けていない。

前につける必要がなかったがためにあえて飛び出さなかっただけ。

 

距離の代わりに余裕を得て、サナリモリブデンは悠々とレースの序盤戦へと泳ぎ出す。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択】

 

控えて後方につける

 

難度:156

補正:好スタート/+15%

参照:賢さ/439+64=503

 

結果:328(大成功)

 


 

 

(今日は、よく見える……!)

 

バ群を泳ぐその足取りは普段より遥かに軽い。

視界も、音も、匂いも、全てが明瞭だ。

普段なら気付きもしない僅かな変化をも拾い上げ、サナリモリブデンは冷静に戦況を見据える。

 

特にハッキリと捉えたのは左右の足音の変化だった。

力強く芝を蹴る、1番ミニジニアと4番ハートリーレター。

彼女たちは逃げを打つと決めたらしいと、サナリモリブデンは二人の背を見るよりも早く理解できていた。

 

『1番ミニジニアと4番ハートリーレターがスッと抜けていきました。チューターサポートは落ち着いて先頭を譲ります』

 

その予想はすぐに現実のものとなる。

続いて左隣のジュエルルベライトも前へ行った。

必然、絶好の位置が空く。

 

ほんの数歩だけ進路を内に取る。

それだけでサナリモリブデンはそこに収まった。

最内にして、先行ウマ娘のすぐ後ろ。

今後の展開を見据えれば、何としてでも欲しかった位置である。

 

『先頭はハートリーレターが一歩前に出た。どうやら序盤は争わずゆったりと進んでいく様子です』

 

『新潟のセオリーですね。冷静な判断が出来ていますよ』

 

『前二人に続いては1バ身開いて1番人気チューターサポート。それを包み込むように2番ジュエルルベライトと9番プカプカ、12番スウィフトアクセルが一塊。それを見るように外にスローモーション、内にサナリモリブデン。すぐ後ろには5番ロングキャラバン、13番デュオエキュ、14番デザートベイビーが横並び。少し離れて10番オボロイブニング。そして最後尾に6番モアザンエニシングと8番ブラボーアール。バ群は塊のままスローペースで向こう正面の序盤戦を進んでいきます』

 

序盤戦は優位を得た。

その事実にサナリモリブデンはしかし、安堵の息を吐かない。

……何故ならば。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/チューターサポート】

 

精神を落ち着けて以降の展開に備える

 

難度:156

補正:好スタートの余裕/+15%

参照:賢さ/400+60=460

 

結果:361(大成功)

 


 

 

自身が得たと同等の余裕を、このレースにおける最大の敵もまた獲得しているためだ。

 

前を行く癖毛のウマ娘の背をサナリモリブデンは注視する。

そこには微塵の揺らぎもない。

熱が存在しないと錯覚するほどの静かな走りをチューターサポートは見せていた。

 

「───シィッ!」

 

そんな彼女に対し、吐き出す息も鋭くスウィフトアクセルが躍り掛かる。

乱暴な足音を伴いながら並び、殆ど体をぶつけるような勢いで競りかけていく。

圧をかけ脚を乱そうという試みだろう。

が、それは何の効果も齎さなかった。

 

「…………」

 

「この……っ」

 

チューターサポートより返されたものは完全なる黙殺だ。

ペースはわずかにも変わらず、呼吸の乱れさえ起こらない。

そもそも視線のひとつさえ投げかけられる事はなかった。

むしろ仕掛けた側、スウィフトアクセルが余りの手応えの空虚さに平静を失いかけている。

 

その様を見ていたサナリモリブデンは深く息を吸った。

彼女とて分かっていた事ではあるが、どうやら楽な戦いにはならない。

強敵の振る舞いに警戒のレベルを一段と深めていく。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘の行動:ミニジニアとハートリーレターが同時に動いた

 


 

 

(……?)

 

その故か。

展開を鋭く睨んで進むサナリモリブデンはその時気付いた。

ほんのわずかに違和感がある。

具体性はない。

だが、己の五感が発する何かしらの警告を彼女は確かに受け取った。

 

サナリモリブデンは周囲の気配を素早く探る。

 

後方、これは違う。

彼女たちはただ静かに後半に備えて力を溜めているばかりだ。

中団、ここも違う。

チューターサポートに対する警戒は色濃いが、まだ二度目の仕掛けを始めた者はない。

 

では───。

 

 


 

【抵抗判定】

 

難度:156

補正:大成功の余裕/+15%

参照:賢さ/439+65=504

 

結果:394(大成功)

 


 

 

先頭は、と目をやって気付いた。

 

(……遅い)

 

ペースが遅い。

それは新潟レース場のセオリーではある。

前半を控えめに進め、コーナーで加速し、直線で勝負をかける。

郷谷とも確認した当たり前の進行だ。

 

だが、今回のペースは余りにも遅かった。

いっそ異様とも言って良い超スローペース。

これを作り上げたのはもちろん。

 

『間もなく前半の直線終わり、コーナーに差し掛かろうとしていますが、これはちょっと良バ場とは思えないほどの遅い時計となっています』

 

先頭でペースを作る二人だろう。

 

示し合わせての事ではなかった。

ハナに立つハートリーレターがまず、誰にも気付かれないほどにゆっくりとペースを落とし始めた。

即座に気付き、合わせたのはミニジニアだ。

 

すると出来上がるのは、先頭二人の差が変わらず後続との差だけが縮まっているという状況。

一人ならまだしも二人合わせてのトリックだ。

後続のウマ娘がペースを上げすぎたかと騙されるのも無理はない。

 

(それは)

 

こうなれば逃げと差しの間に末脚の差は生まれなくなる。

逃げを打ちながらも差しや追込みと同等に脚を溜められるのだから当然だ。

新潟の特性から不利を負った脚質で勝ちを狙うための、見事な戦術と言えるだろう。

 

(少し、困る)

 

だからこそ、気付いたサナリモリブデンはそれを放置しなかった。

 

 


 

【追加抵抗判定】

 

難度:156

補正:大成功の余裕/+15%

参照:パワー/424+63=487

 

結果:328(大成功)

 


 

 

一歩、踏み込む。

その瞬間、可視化されたかと錯覚するほどの戦意が撒き散らされた。

 

「ッ……!?」

 

慌てたように振り向いたのはジュエルルベライトだった。

最も至近から熱を叩きつけられた彼女はわずかに怯えさえ含んだ表情をサナリモリブデンに向けた。

 

だが、それはほんの一瞬の事。

このレース、関屋記念はG3である。

出走しているウマ娘に一流未満の者は一人として存在しない。

ジュエルルベライトは二秒と経たずに乱れた精神を持ち直してみせた。

そして。

 

「あぁ……くそっ!」

 

一度リセットがかかり、視界がニュートラルに戻ったがためにペテンに気付く。

他者と比較せずに己のペースのみを見つめる事が出来たならそれは容易い事ではあるのだ。

 

その気付きはすぐさま伝播する。

ジュエルルベライトが足を速めれば、それを見たプカプカがハッと目を見開き、スウィフトアクセルは眩んでいた自身の目を恥じるように歯を食い縛った。

三人は急き立てるように二人の逃げウマ娘にプレッシャーをかける。

 

『と、コーナー手前にしてジュエルルベライトが動いた。ミニジニアとハートリーレターに圧をかけていく。プカプカ、スウィフトアクセルも同調するようです』

 

『前二人が上手い事だまくらかしていましたが、どうやらここまでですか。トリックも見事でしたが流石に重賞だけあってレベルが高いですね』

 

泰然としていたのは我関せずと沈黙を保っていたチューターサポートと。

 

(……残念。見抜かれちゃったか。私としては好都合だったのだけれど)

 

そう心中でこぼすスローモーション程度のものだ。

 

 


 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:超低速(1)/平静(0)

補正:差しA(-2)/意のまま(-1)

消耗:1-2-1=-2%

 

結果:スタミナ/450+9=459

 


 

 

(これはまずいかな。今日のこの子たち、とんでもなく怖い……!)

 

怖気に粟立つ肌と裏腹に、スローモーションの頬は期待に吊り上がった。

特に、と。

黒鹿毛の下、細められた目が動きサナリモリブデンを捉える。

ポニーテールの芦毛を靡かせるウマ娘は先の激発が嘘だったかのように静かにレースを進めている。

 

だが、スローモーションは理解していた。

絶好調どころの話ではない。

今日のサナリモリブデンは更に一段階上のギアに入った。

 

既にこのレースの支配権は先頭の二人には存在しない。

サナリモリブデンこそが全てを動かすという確信が彼女の中で渦を巻いていた。

 

(見せてもらう。あなたたちの、上限……!)

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択】

 

威圧と加速により全体のペースを変化させる

 


 

 

やれるか、とサナリモリブデンは己に問うた。

対する心胆からの返答はいつも通り。

それはつまり、ただの一言。

 

(やる)

 

決断は秒とさえかからない。

 

(全員)

 

深く大きく空気を吸い。

胸の中心に宿る炉心を通し。

 

(ここで潰す)

 

生まれた業火と共に、鋼の脚が打ち鳴らされた。

 

 


 

難度:117

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:意のまま/+10%

補正:領域の萌芽/+10%

参照:パワー/424+84=508

 

結果:426(特大成功)

 


 

 

それはある種必然の光景だった。

 

まず一つ。

序盤の超スローペースで全員の脚に大きな余裕があった事。

 

続く二つ。

それが自然に生まれたものではなく、二人の逃げウマ娘によって演出されたものであり。

自分たちは迂闊にもペテンに引っ掛けられていたという屈辱があった事。

 

『序盤が終わって新潟の大きなコーナーに向かう。全体のペースが上がっていくぞ。サナリモリブデン、特に加速が鋭い!』

 

そして三つ目。

再びの圧を纏って迫りくる鋼のウマ娘の気配に、全てが狂わされた。

 

「……っ!」

 

ジュエルルベライトが。

 

「このっ!」

 

プカプカが。

 

「負けるかぁっ!」

 

スウィフトアクセルが。

 

次々と猛加速を開始する。

渾身の力で芝を蹴り、これまでのスローペースをかなぐり捨ててだ。

追われたミニジニアとハートリーレターもたまったものではない。

 

『つられるように全体のスピードが急激に上がっていく! 猛追するプカプカとスウィフトアクセルにミニジニアが捕まった。ハートリーレター懸命に逃げる! どうでしょうこの展開』

 

『これは……もしかしたら先頭集団が丸ごとかかっているかも知れません。ちょっと荒れるかも知れませんよ』

 

解説の言葉は正しい。

端的に言って暴発に近かった。

 

ペテンに気付き、三人は前を目指した。

そのタイミングでサナリモリブデンは劇薬を投下したのだ。

焦燥を炊きつけ、勝負時を見誤らせるための一撃。

トリックから抜け出した直後、再びのトリックによって三人は見事にかかってしまった。

 

そしてもちろん、影響はそれだけにとどまらない。

追われる者も、後方から追う者も。

サナリモリブデンによって急激に引き上げられたペースに逆らえる者は───。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/チューターサポート】

 

サナリモリブデンに対して抵抗を試みる

 

難度:426

補正:冷静/+20%

補正:ペースキープ/+20%

補正:備え大成功/+30%

参照:根性/400+280=680

 

結果:514(成功)

 


 

 

「…………く」

 

わずか一人。

 

チューターサポートは狂わない。

暴走に乗らず、淡々と己のペースを守り続ける。

加速は当たり前に、一切の無理を伴わない自然なものに抑えられた。

 

(はは。ほんと、むちゃくちゃやってくれる……!)

 

だが、その内心はふつふつと温度を上げていく。

背に迫る足音が生む怖気に抵抗するように心臓の鼓動は早まるばかりだった。

 

(でも、いい。好都合だ)

 

走れ。

逃げろ。

この恐るべき鋼のウマ娘から少しでも距離を取れ。

そう喚き立てる本能を理性で縛り付け、チューターサポートは冷徹に計算を回す。

 

追い立てられたのは前だけではない。

超低速から高速域への暴力的な猛加速。

これによって引きずり出されたのは後方集団も同じこと。

レースはまだ中盤であるというのに、終盤に残しておくべき脚を今ここで使わされている。

それも、曲がりやすい作りとはいえ負担のかかるコーナーでだ。

 

殆ど確実に大半の者は潰れて落ちる。

残せたとしても万全とは程遠いだろう。

そして、万全でない者が脅威になると考えるほど、彼女は自身を安く見積もってはいなかった。

ならば警戒を払うべき相手は一人に絞れる。

 

チューターサポートはそう確信し、サナリモリブデンが作り上げた狂奔の中を悠々と泳いでいく。

自身を追い越していく幾人ものウマ娘を見送る瞳は、どこまでも静かに凪いでいた。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

モブウマ娘行動不能

 


 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速 → 高速(4)/急加速(4)/平静(0)

補正:弧線のプロフェッサー/消耗を据え置いたまま速度を一段階上昇

補正:差しA(-2)/自由自在(-2)

消耗:4+4-2-2=4%

 

結果:スタミナ/459-18=441

 


 

 

そうして、コーナーを抜けてバ群が直線を見据えた。

その時になって誰もがようやく気付く。

 

(遠、い……!?)

 

ゴールまで余りにも遠い。

日本最長、658.7メートルの直線。

言葉で言えば単純なそれは、しかし目にすれば今の彼女たちにとって絶望的な長さだった。

 

大きなコーナーと下り坂で過剰に加速したまま突入してしまった者たちは、ここで選択を突き付けられる。

すなわち。

現状の速度を維持したまま突き進み、破滅的なロングスパートのすり潰し合いに身を投じるか。

あるいは脚を緩め、十中八九そのまま置き去りにされるリスクを承知の上で今一度脚を溜めるか。

 

勝利を目指し走るウマ娘達、そのうち十一人の背中を敗北の予感が撫でていく。

 

『さぁここから長いぞ。新潟外回り名物の直線の始まりだ』

 

その予感から逃れられたまず一人。

コーナーを最短の位置取りで曲がり切ってスタミナを温存し、そして自身が展開を支配するが故に誰よりも精神的優位を抱えたままの。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択】

 

高速域を維持したまま直線を走る

 

難度:156

補正:自由自在/+15%

参照:スピード/518+77=595

 

結果:360(大成功)

 


 

 

サナリモリブデンが征く。

 

彼女の前には幾人ものウマ娘が居た。

未だ逃げ続けるハートリーレター。

後続に捉えられながらも余力を振り絞るミニジニアに、それを包み込むジュエルルベライト、プカプカ、スウィフトアクセル。

 

だが、その身に抱えた余裕が違う。

誰もが必死に表情を歪める中、サナリモリブデンだけが無人の野を行くが如く。

 

『ハートリーレターはまだ頑張っているが表情が少し苦しいか。まだ残り600、もたせられるか』

 

もたない、とサナリモリブデンは確信した。

かかったまま走る苦しさは彼女自身の体験をもって理解している。

それをこうも見事に押し付けた上にこの直線だ。

ハートリーレターが序盤で作ったはずの有利はとうに使い切られた。

後はただ、落ちていくだけ。

 

『いやどうやらいっぱいだハートリーレター吞み込まれた! 先頭がスウィフトアクセルに変わる!』

 

『いえ、こちらも長くはもちそうにありませんよ』

 

先頭集団が崩れていく。

 

このままでは最後までもたない。

ならば緩めて溜めるべきだ。

しかしそうしてしまえば勝負から一人取り残される。

奇跡的にゴールまで体力を保てる者が出ないとも限らないのに。

 

その心の揺れと判断の遅れが致命的な傷となる。

足並みは乱れ、呼吸は狂い、ただでさえ不足が見えたスタミナがさらに削られる。

そしてまた同時に。

当然持っているべき警戒も彼女たちからは一時失われていた。

 

『直線残り500! スウィフトアクセル、ハートリーレター、プカプカ、先頭はめまぐるしく変わっていく。横に大きく広がってぐちゃぐちゃの大乱戦だ!』

 

あれ、と誰かがふと気付いた。

バ群が大きく、あまりにも大きく横に開きすぎている。

いや、もはや群などと呼べる集まりはそこにはなかった。

 

当然の事である。

余りにも大きすぎる加速度でのコーナリングだったのだ。

後方への蓋として、有力バの進路を塞ぐ事など誰にも出来ていない。

 

『さぁ良い位置につけているサナリモリブデン徐々に上がってきた。ガランと空いた最内からじわりじわりとやってくる!」

 

例外は、この状況を意図して作り上げたサナリモリブデンと。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/チューターサポート】

 

進出を開始する

 

難度:156

補正:直線加速/+15%

参照:パワー/370+55=425

 

結果:276(成功)

 


 

 

同等の平静を保ち続けていたチューターサポートのみ。

 

巨大なコーナーから続く長い直線へかけて、優位に進めたのはこの二人だけだった。

最も消耗の少ない最内を、完全に制御された最適な速度で駆け抜けたのは彼女たちだけだったのだ。

 

故に、ここに勝負の形は定められた。

総崩れの十一人はもう相手にはならない。

万全のサナリモリブデンとチューターサポート。

どちらが相手を上回るかにレースの行方は委ねられる。

 

 

 

 

 

その様を。

正気をもって見つめる者が一人居た。

 

 


 

【ウマソウル判定】

 

参照:ウマソウル/66

 

結果:6(成功)

 


 

 

(なんだか、不思議な感覚)

 

そのウマ娘は未知の体験に頬を吊り上げていた。

 

まるで水の中を走るよう。

世界の全てが重く、遅い。

手足はもどかしいほどにゆっくりとしか動かず、体に当たる風は撫でるような速度だ。

 

だが不思議と不快ではなかった。

むしろ心地よい。

何故かと考えて、思考にだけはわずかにも遅れが生じていないためと気が付いた。

 

彼女にとって、世界とは速すぎるものだった。

目に映るもの。

耳に届くもの。

肌に触れるもの。

彼女は鋭敏に過ぎ、それらの全てから受け取る信号は常に内側から頭蓋を圧迫していた。

情報は洪水のように溢れるばかりで、取捨選択を繰り返すだけで頭痛を覚えるほどに脳のリソースは目減りしていく。

 

それが、今はない。

 

緩やかに流れる視界からは、情報を捨てる必要が存在しなかった。

何もかもを咀嚼し、飲み込み、消化する猶予が与えられている。

半生を共にし既に親しみさえ覚え始めた頭痛はどこにもない。

 

(───ああ)

 

だから。

彼女───スローモーションは見るべきものを見た。

狙うべき敵手の挙動、その全てを視認し、理解し、そして。

 

(これは、こう使えばいいんだね)

 

その場で、一分の劣化さえ起こさずに模倣してみせた。

 

 


 

【レース中イベント/ランダムから固定へ割り込み変化】

 

進出を開始する

 

難度:156

補正:直線加速/+15%

参照:パワー/280+42=322

 

結果:112(失敗)

 


 

 

しかし、それは長くは続かない。

 

緩慢な世界はほつれていく。

洪水のような情報の群れは再開し、絶対的な万能感を押し流していく。

スローモーションはたちまちに自由を失った。

 

(あぁ……そっか。当然だった。なるほど)

 

彼女とて、サナリモリブデンにコーナーで振り回された一人である。

激変する速度の中、ただ一人で流れに抗う術を彼女はもっていなかったのだ。

そうして消耗した体では、この技術の恩恵を長く受ける事が出来なかったのは当然だろう。

 

が、その狭間で彼女は十全に理解した。

ゾーン。

フロー。

ピークエクスペリエンス。

あるいは、領域と呼ばれるその技術の用法を。

 

(…………認める。ここでは勝てない。まだ届かない。けれど───)

 

それを噛みしめて、スローモーションは獰猛に歯を剥いた。

遠く走り抜けていく二人を睨み。

 

───忘れるな。私は見た。今日のあなたたちを見た。この目に、確かに焼き付けた

 

片時も忘れたことのない屈辱をもうひとつ。

塗り込めるように胸に抱き、彼女は勝者たちの背を見送った。

 

 


 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/平静(0)

補正:差しA(-2)/縦横無尽(-3)

消耗:6-2-3=1%

 

結果:スタミナ/441-4=437

 


 

 

『先頭集団を完全に差し切ったサナリモリブデン! ここで仕掛けてきた1番人気チューターサポート、綺麗な加速でサナリモリブデンを追う! どうやらこの二人だ! サナリモリブデンとチューターサポートだけがどうやら脚を残している!』

 

『二人とも完全に流れを読み切っていましたよこれは。素晴らしいです!』

 

そんな事は露知らず。

サナリモリブデンとチューターサポートは全霊を賭した。

 

優位は先を行くサナリモリブデンにある。

その差は3バ身。

だが、それは容易く覆り得る距離だと理解していた。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ】

 

難度:156

補正:縦横無尽/+20%

補正:差しA/+10%

補正:領域の萌芽/+10%

参照:スタミナ/437+174=611

 

結果:535(特大成功)

 

【スパート判定/チューターサポート】

 

難度:156

補正:先行A/+5%

参照:スタミナ/380+19=399

 

結果:333(大成功)

 


 

 

故に全てを振り絞る。

この敵手を甘く見た事など一度としてない。

共に戦った者として、そして共に時を過ごした仲間として。

わずかひとつの緩みにも満たないほつれが即座に敗北を呼び込む相手だと、彼女たちは互いに知っている。

 

(やっぱり、すごいよサナリは……!)

 

先を行くサナリモリブデンの背を見つめて、チューターサポートは心中でそう吐いた。

 

芝を踏み締める脚に籠る気迫は距離を開けてさえ恐怖を感じさせた。

どうあればそこまで強くあれるのかと嫉妬を覚えるほどに、鋼の娘は前だけを向いていた。

ウマ娘というものは意志のひとつでそこまで硬く鋭くなれるのかと、チューターサポートは場違いにも驚愕し……そして同時に歓喜した。

 

今の自身には、サナリモリブデンから燃え移った燈火がある事に。

 

(証明する。あの日、サナリに貰ったモノは、ここに───)

 

心臓に炎が灯る。

熱く、熱く、鼓動と共に全身に灼熱が廻った。

 

(息衝いているんだって───!)

 

 


 

【スパート難度設定/加速度】

 

補正:領域の萌芽/+10%

補正:先行A/+5%

補正:スタミナ大成功/+15%

参照:パワー/チューターサポート/370+111=481

 

結果:465

 

【スパート難度設定/加速度】

 

補正:領域の萌芽/+10%

補正:先行A/+5%

補正:スタミナ大成功/+15%

参照:スピード/チューターサポート/370+111=481

 

結果:306

 


 

 

『チューターサポート猛加速! 猛烈な勢いでサナリモリブデンに迫る、迫る! 届くか!? 捉えるか!?』

 

「───、!」

 

声もなく、サナリモリブデンはそれを知覚した。

研ぎ澄まされた集中、体にぶつかり流れていく大気のベクトルさえ理解するほどの超感覚でもってだ。

 

そこに驚きはなかった。

何故ならば既にサナリモリブデンは聞いている。

ジュニア級、6月。

あの日に味わった屈辱を塗り潰して上書きしてみせるというチューターサポートの宣言をだ。

 

ならば来ないわけがない。

届かないわけがない。

その程度が成せないほどに彼女の決意と宣誓が軽いとは、サナリモリブデンは微塵も思わない。

 

故に。

今要ると鋼の心は断じた。

 

(壁を超える。今、ここで手に入れる……!)

 

かつて彼女は自身で言った。

咄嗟に都合良く策が見つかる事はありえない。

土壇場で急にそれまでの努力が報われる可能性は万にひとつもない。

 

まさしくその通りだ。

残酷で冷徹な現実というものである。

 

サナリモリブデンは、その事実を真っ向から見据え。

 

 


 

【ウマソウル判定】

 

成功率100%、判定不要

 


 

 

(踏み、破る!)

 

そんな道理を、やると定めた決意ひとつで粉微塵に蹴り砕いた。

ありったけの無理を蹄に乗せて、ターフに深々と轍を刻み込む。

 

鋼が打ち鳴らされる。

 

あらゆる感覚が閉ざされ内を向く。

今この時だけ許された極限の集中は全細胞をサナリモリブデンの支配下に引き込んだ。

走法に存在していた小さな歪み、わずかな無駄、それら全てがコンマ秒単位で瞬く間に修正されていく。

 

熱された鉄が打たれて形を変えるように。

一歩ごとにサナリモリブデンは、彼女が描いた理想へと近付いていく。

それは本来、この時点の彼女に許されたものではない。

 

けれど、権利はなくとも資格はあった。

何しろこのサナリモリブデンというウマ娘は。

 

届くはずのないものに手を伸ばす事にかけて、並ぶもののない少女なのだから。

 

 


 

【スパート判定】

 

難度:465

補正:領域/決意の(たがね)、鋼の(わだち) Lv1/+20%

補正:完全掌握/+30%

補正:スタミナ特大成功/+30%

補正:差しA/+10%

参照:パワー/424+381=805

 

結果:612(成功)

 


 

 

『チューターサポート、迫って、迫って───しかし、しかし差が縮まらない! サナリモリブデンが更に上を行く!』

 

注ぐ歓声の中を、サナリモリブデンは裂き割って突き進む。

振り下ろされる刃の切っ先にも似たその姿に人々は熱狂した。

 

見守る彼ら彼女らは知っている。

このレースを走る者たちがどれほどの精鋭かと理解している。

追走するチューターサポートが、一時代を築きかねないほどの実力者である事を承知している。

その彼女が全身全霊を振り絞ってなお背に指をかけられない者がどれほどの頂きに立っているかを、誰もが知っていた。

 

 


 

難度:306

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv1/+20%

補正:完全掌握/+30%

補正:スタミナ特大成功/+30%

補正:差しA/+10%

参照:スピード/518+466=984

 

結果:498(成功)

 


 

 

『サナリモリブデン! サナリモリブデン突き放す! これは決まった! 全く追随を許さない!』

 

実況さえも興奮を隠そうという様子がない。

こみ上げる感情のままに叫び、そうして。

 

サナリモリブデン、一着でゴールイン! 完勝! 完勝ですサナリモリブデン! 全く隙の無い完璧なレース運びで完全勝利を決めてみせました! 二着はチューターサポート! 三着スローモーション! 以下は団子状態の混戦です。プカプカとモアザンエニシングの二人が少し抜けていたか』

 

ゴール板を突き抜けた瞬間に、到底G3とは思えないほどの大歓声が爆発した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サナリモリブデンは脚を緩める。

全力疾走から段階的に速度を落とし、走行から歩行へと移って、やがて立ち止まった。

理由はひとつ。

そのタイミングでちょうど、彼女の背に近付く者があったからだ。

 

「おめでとう、サナリ。……はは。結局、大言壮語になっちゃったかな」

 

チューターサポートだ。

頼りない足取りに、荒い息。

全身にぐっしょりと汗をかき、髪が頬に張り付いていた。

 

そんな彼女は微笑みながらも情けなさに眉を八の字にしていた。

心なしか肩も落ち、明らかにしょんぼりと落ち込んでいる。

レース中に見せていた冷徹さはどこに行ったのかと、サナリモリブデンには不思議なほどだった。

 

なので憂いを拭うべく、サナリモリブデンは率直に思ったままの言葉を返した。

 

「そんな事ない。ゴールに飛び込むまで、ずっと怖かった」

 

「……全然届かなかったのに? 4バ身はついてたでしょ」

 

「そんなもの」

 

ふるり、とサナリモリブデンの肌が震えた。

 

「私が隙のひとつも見せたら食い破るって、最後まで思ってたくせに」

 

サナリモリブデンの言葉に嘘はない。

彼女は最後の最後まで、背中に突き刺さる戦意を感じ続けていた。

それも、決して萎えようとしない一級品をだ。

ゴールに近付けば近付くほどにその熱量は高まり、黒く焦げ付いていく自分を想像したほどに。

 

眉をひそめて告げられた言葉にチューターサポートははじめ、きょとんとした。

ついで破顔し、目を細めて言う。

 

「そりゃあ、ね」

 

それは敗者には似つかわしくないほど、晴れやかな顔だった。

 

「勝ちたかったからさ」

 

はー、と。

チューターサポートは長い息を吐いた。

それと同時にどこかへ抜けていったのか。

弱気はすっかりなくなったようだった。

 

「サナリ」

 

「ん」

 

「改めて、おめでとう。……今日はそっちが強かった」

 

「ありがとう。悪いけど、次やる時も私が強い」

 

友人らしい笑みを交わし、掲げられた拳を打ち付け合う。

 

その友情を祝福するように、大歓声が再び注ぎ。

握られた拳は応えて開かれ、人々に向けて振られる掌となるのだった。

 

 


 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/差し経験+5

獲得:スキルPt+50

 

経験:芝経験&マイル経験&差し経験+2(G3ボーナス/1着)

獲得:スキルPt+20(G3ボーナス/1着)

 

獲得:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv1

 

スピ:432 → 442

スタ:375 → 385

パワ:354 → 364

根性:441 → 451

賢さ:366 → 376

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:B(2/30) → B(9/30)

マ:B(25/30) → A(2/50)

差:A(15/50) → A(22/50)

 

スキルPt:210 → 280

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

【ステータス】

 

スピ:442

スタ:385

パワ:364

根性:451

賢さ:376

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:B(9/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:A(2/50)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(22/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv1(効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備/150Pt

(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い/150Pt

(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ/100Pt

(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)/150Pt

(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

シンパシー/150Pt

(絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

逃げためらい/100Pt

(レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

まなざし/150Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

熱いまなざし/250Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

 

スキルPt:280

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆75

ソーラーレイ    絆40

チューターサポート 絆40

チームウェズン   絆50

 

 

【戦績】

 

通算成績:7戦4勝 [4-1-1-1]

ファン数:5631 → 9731人

評価点数:2100 → 4150(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:関屋記念(G3)

 



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【戦術系ウマ娘すこすこ部 part93】

 

842:名無しのレースファン

>>838

やってんねぇ!

 

843:名無しのレースファン

>>838

マジでやってて草

これ狙ってレースぶっ壊したってコトよな

 

845:名無しのレースファン

>>838

いくら曲がりやすい新潟だからってこんなインベタコーナリングしながら周り引っ掛けるとかどういう頭してらっしゃる?

こんなん鼻歌交じりに曲がれるレベルじゃないとやれなくない???

 

847:名無しのレースファン

>>845

ワイ現役ジュニア級ウマ娘

クラシックオープン勢の水準にガチで涙目

これに対応できないと重賞勝てないってマジ?

 

849:名無しのレースファン

>>847

はい

はいじゃねぇんだよ……

 

851:名無しのレースファン

>>847

安心して絶望しろ

対応しきって平静を保ったチューターサポートも千切られてる

 

852:名無しのレースファン

少し泣く

 

853:名無しのレースファン

>>852

おっ胸貸したろか?

 

855:名無しのレースファン

>>853

きも

 

857:名無しのレースファン

おウマちゃんにそういうシンプルな罵倒されると普通に効くからやめてほしい

 

859:名無しのレースファン

オッさんが気持ち悪いのが悪いから

 

861:名無しのレースファン

罵倒されて喜べない方に問題がある

 

863:名無しのレースファン

なんだ異常性癖か?

普通に考えてご褒美じゃろ

 

865:名無しのレースファン

変態どもは何回駆除してもどこにでも湧くな……

 

866:名無しのレースファン

夏だからしゃーない

合宿の水着写真上げてる子多いからタガ外れる連中増えとんのよ

毎年この時期の風物詩だわな

 

868:名無しのレースファン

そんな風物詩根絶やしにしようや

ここスレタイこんなやけど真面目な考察スレやぞ

 

870:名無しのレースファン

>>868

流れ戻したい時は文句言うより自分から振る方が早いぞ

 

872:名無しのレースファン

レースの流れまとめてみた

 

レター「こっそりペース落として脚溜めるやでー」

ジニア「おっええコト考えるやん乗ったろ!」

サナリ「あっこいつらやっとるわ!」

ルベラ「ほんまやんけ! こら詰めたらんとなぁ!」

サナリ「許せねぇよなぁ! 許せねぇよなぁ!」

みんな「うおおおお! 許せん! 許せん!」

サナリ「おー加速しすぎて膨らんどる膨らんどる。ほな、ワイは一人でインベタしながら脚溜めるから……」

チュタ「えぇ……」

 

873:名無しのレースファン

>>872

畜生で草

 

874:名無しのレースファン

>>872

【悲報】サナリモリブデン、対立煽り厨だった

 

876:名無しのレースファン

>>874

言葉の選び方ぁ

 

877:名無しのレースファン

でもなんでこんな上手いこと皆乗せられてんの?

なんかおかしい

 

879:名無しのレースファン

>>877

おかしくはない

要はタイミングよ

体勢崩れたところから立ち直ろうって時に背中押されると簡単にぶっ倒れるのと同じ

普通は崩すところから自分でやろうとして見抜かれたりするんだけどこの子の場合第三者の立場から状況を利用してるから読みにくい

上手いというか、レース中にそこを読み取れる冷静さと案を実行に移そうと決断できるクソ度胸が凄いタイプだな

 

881:名無しのレースファン

結果分かって見直してるからやってるってわかるけど実際目の前でやられたらサナリモリブデンが仕掛け始めたぞーとしか思えんわな

我も我もとなるのはまぁわかるというかしゃーない

 

882:名無しのレースファン

>>879

付け加えると新潟ってのも噛み合いまくってた

あそこで走った事ない子がコーナーからスパート準備しちゃうのはすげーわかる

普通は曲がり終わったら後はゴールするだけだもん

 

883:名無しのレースファン

毎度言ってるけど新潟の直線長すぎるわ

作り直せ

 

884:名無しのレースファン

>>883

バカ言うなアレがいいんだろ

>>838の動画見直せ

直線向いた瞬間のウマ娘のなっっッッッが!って顔からしか取れない栄養たっぷりだぞ

 

886:名無しのレースファン

ネットにどっぷり浸かってるから今更だけどヒトミミって私らのこと結構メチャクチャな目で見てるよね

 

887:名無しのレースファン

>>886

そのセリフ冷たい呆れ顔で頬杖つきながら言ってくれ

そんで出来ればニコニコ辺りに動画上げて?

 

888:名無しのレースファン

あんま言いたくないんだけどスレでウマ娘自称するパカさんってさぁ

 

889:名無しのレースファン

まぁ

うん

 

891:名無しのレースファン

構う方も構う方だわ

 

893:名無しのレースファン

話戻すけどサナリモリブデンってこんなやべー子だったか?

この仕掛けしながらくっそ綺麗なコーナリングってどんなマルチタスクだよ

 

895:名無しのレースファン

>>893

片鱗はあった

朝日杯でブリーズグライダーに並びかけるとこで頭のおかしい走り方しとる

白百合でも幻惑逃げ見せとるし

あれもコーナーの仕掛けだから多分元々コーナー得意っぽい

 

896:名無しのレースファン

クレバーな時のサナ森はガチってそれ一番言われてるから

 

898:名無しのレースファン

いくら自分でぶっ壊したとはいえそれに微塵も引っ張られないでいられるのも地味にやばい

 

899:名無しのレースファン

>>898

熱くなってたら暴走に混じってもおかしくないもんな

ソーラーレイの負けパターンみたいに

 

900:名無しのレースファン

>>899

あの子は自分で吹っかけた勝負でかかりすぎなのよ……

もう少し落ち着いてくれ

安心して買えん

 

901:名無しのレースファン

>>899

負けパターン(なお勝つ模様)

 

902:名無しのレースファン

ヤツは毎度毎度ブチギレ暴走してるイメージしかない

落ち着いてるソーラーとかソーラーじゃないのよ

 

903:名無しのレースファン

ソーラーレイはなぁ……

ブチギレるまではここの管轄なのにすぐ戦術放り出すからなんも語れなくてもどかしい

 

904:名無しのレースファン

対してサナリとチューターの冷静さよ

 

905:名無しのレースファン

全員死んだ中で二人だけピンピンしててマッチレース化したのほんと好き

今年のベストバウト候補か?

 

907:名無しのレースファン

8月でそれは気が早すぎるw

 

909:名無しのレースファン

ゴール後爽やかに拳コツンってしたとこ100回見直してる

俺がレースに求めてるものが全部あそこに詰まってた

 

910:名無しのレースファン

>>905

チューターサポートも相当な走りしてんだけど詰められたの一瞬だけでじわじわ離されてくとこの絶望感と高揚感が一緒にやってくる感覚よ

マッキラ以外で味わえるとは思えんかった

 

911:名無しのレースファン

チューターの上がり3Fが32.9

あの位置からこのタイムなら普通は余裕で勝ててる

 

912:名無しのレースファン

なおサナ森

 

913:名無しのレースファン

完璧に脚溜め切った上にバ群ぶっ壊してガラ空きのスペース気持ち良く走りやがったからな……

 

914:名無しのレースファン

>>913

レース支配するタイプのウマ娘の強みがガンガンに生きた展開だったな

流れに乗った子と流れを作った子の差が出た感じだ

 

916:名無しのレースファン

正直サナリモリブデンがこのスレ側とは思わんかった

てっきりメンタル噛み合った時の爆発力があるだけと考えてたんだが

 

918:名無しのレースファン

>>916

多分白百合までは大体あってた

フィジカルがメンタルに追いついて色々余裕が出てきたんじゃないかね

特に夏前と比べると体の仕上がりが段違いだし合宿で相当やらかしてそうだぞ

 

919:名無しのレースファン

>>918

クレバーだとヤベーウマ娘が常にクレバーでいられる下地が整ってきたってこったな

 

921:名無しのレースファン

マッキラ崩しもいよいよ現実味帯びてきたか?

 

923:名無しのレースファン

>>921

無理

 

925:名無しのレースファン

>>921

無茶言うな

 

926:名無しのレースファン

>>921

それとこれとは話が別なので(震え声)

 

928:名無しのレースファン

>>921

レースは支配出来るかも知れんけどマ王はあれレースじゃなくてソロのタイムアタック走ってるから意味ないゾ

 

930:名無しのレースファン

マ王もマ王で戦術系ウマ娘ではあるよな

戦術の後に核ってつくけど

 

932:名無しのレースファン

レコード爆破しまくってるし納得の呼び名ではあるわな……

 

934:名無しのレースファン

考えるとチューターサポートもサナリモリブデンも不運すぎる

世代が違ってたら全員マイル王になっててもおかしくない

 

935:名無しのレースファン

残念だけどよくある事だ

よくある事だけどほんとレースの女神さぁ……

 

937:名無しのレースファン

女神「でもこうした方が見応えあるでしょ?」

 

939:名無しのレースファン

>>937

はい

 

941:名無しのレースファン

はいではない

 

943:名無しのレースファン

>>937

もう少しこう何というか

手心というか……

 

945:名無しのレースファン

ここの住民としては王を戦術で潰すとこ見たくはある

どうやりゃいいのかまるで想像つかんけど

 

947:名無しのレースファン

単純な振り絞り合いは好きだ

でもその前段階で搦め手でゴリゴリに潰し合って欲しい

 

948:名無しのレースファン

できれば何回も動画見直さないとわからんくらいの緻密さでたのむ

 

950:名無しのレースファン

ヒトミミ君さぁ

ほんと私らに何期待してんの……?

 

952:名無しのレースファン

>>948

心の底から同意

今回のサナ森はマジで良い出汁が取れた

10000回は鍋パやれる

 

954:名無しのレースファン

>>950

まだいたのか自称パカさん

次スレ立てろ

 

955:名無しのレースファン

しかしこれサナ森もマ王とは違った意味で相手にしたくないウマ娘だな

逃げも出来ます差しもいけます素で走っても強いし戦術も使えます

なんやこれクソゲーか?

 

956:名無しのレースファン

そうだよ

 

958:名無しのレースファン

>>955

これの対応考えて担当に実践させなきゃならんトレーナー業って真面目にクソブラックじゃない???

 

959:名無しのレースファン

サナ森を逆に完封するためにはどうするのがええんかね

 

961:名無しのレースファン

>>959

これまでの敗因を考えると……盛大にかからせるかマッキラ呼べばええっぽいな!

 

963:名無しのレースファン

>>961

当たり前体操

 

965:名無しのレースファン

>>961

今クレバーさに磨きがかかってきたって話してたとこなんやが?

 

968:名無しのレースファン

ごめん

950だけど立て方わからないから誰かお願い

 

969:名無しのレースファン

お前ほんとさぁ

しゃーないから代わりに俺立ててくるわ

次から書き込むならそのくらい調べてからにしろな

 

972:名無しのレースファン

>>969

結局お前もウマ娘に甘いの草

 

 



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クラシック級 8月 次走選択

 

 

レース後のサナリモリブデンを出迎えたのは、もちろん彼女のトレーナーである郷谷だった。

だがその様子は常とは異なっている。

 

「ああ! おかえりなさいサナリさん! 本当にもう、すごい事をしてくれましたね!」

 

郷谷は飛び掛かるようにサナリモリブデンへと向かってきた。

表情は当然のように満面の笑みだ。

愛バの両手を握ってぶんぶんと振る様などは最早そこらの少女のよう。

普段のどちらかといえば飄々とした姿とは随分とかけ離れている。

サナリモリブデンが余りの勢いに思わずのけぞり、目を白黒とさせてしまうほどだ。

 

「ん……うん。やったよトレーナー」

 

「もう! サナリさんはこんな時でも淡泊なんですから! 重賞なんですよ、重賞!」

 

とはいえ無理からぬ事ではあった。

何しろ関屋記念はG3レースである。

数多のウマ娘が夢見て、しかしその大半が挑戦さえ許されずに終わる重賞という舞台だ。

それを制したというのは「やった」の一言で済ますような出来事ではない。

 

しかも、今回は内容が内容だ。

レースの中ほどから盤面を完全に支配し、チューターサポート以外の全ウマ娘を振り回しての掌握劇。

そのチューターサポートに対しては一騎討ちの形となったが、こちらも並ばせすらしなかった。

 

圧倒。

完封。

そういった言葉が似合う完全勝利なのだ。

ただのオープンレースではない、重賞でこれをやってのけた事実は途方もなく大きい。

 

実際、サナリモリブデンとしても喜ばしい事この上ない。

尽きることなく湧き出してくる達成感に体が震えそうになるのを止めるために集中が必要なほどだった。

郷谷の喜びようにも彼女自身素直に理解と同調は出来る。

 

「ほら、見てくださいよコレ! さっきからずーっと鳴りっぱなしなんですよ!?」

 

が、その隙もないほどにまくしたてられてはそうもいかない。

更なる勢いを発揮する郷谷にサナリモリブデンはまた一歩退いた。

 

そこへ渡されたのは一枚の板きれ。

衝撃保護カバーが取り付けられただけで、飾り気のないスマホだ。

レース前に郷谷に預けておいたサナリモリブデンのものである。

 

それが軽い電子音を立てる。

メッセージアプリの受信音だ。

郷谷の言う通り、それがひっきりなしにやってくる。

 

”おめでとうサナリン! サナリンなら絶対やれるって分かってたよ!”

 

真っ先に目に付いたのはペンギンアルバムのものだ。

文言はシンプルながら、スタンプの量がとんでもない。

飛び散るハートマークだの花火のアニメーションだの、何とも画面が騒がしかった。

 

”うおおおお! ウェズン! ウェズン!”

”サナリちゃんマジすげー! 見ててめっちゃ燃えたよー!”

”ねーねーお祝いパーティー準備してるんだけど何か欲しいものある?”

”それサプライズって言ったよね!? なんで初手でバラしちゃうの!?”

 

騒がしいというよりやかましいグループチャットはチームウェズン。

余りにもいつも通りな様子にサナリモリブデンの頬も緩んだ。

 

”こ っ ち に こ い”

 

祝福の言葉もなく威圧感たっぷりな6文字と、付記されたスプリンターズステークスの日程。

これはソーラーレイだった。

強敵との勝負が何より大好きな友人に「挑みたい」と思わせるだけの走りが出来たようだと、サナリモリブデンの胸がまた熱くなる。

 

他にもメッセージの通知は山積みだ。

学園の友人知人、ライバルたちのトレーナー陣。

行きつけになった寮周辺の店の店員からのものもある。

未読メッセージの数はすぐに上限に達し、99+と表示されるだけになった。

 

”見てたよ”

”すごいね、サナリ”

”おめでとう”

 

もちろん、母親からのものもあった。

言葉少ないそれは、けれどサナリクロムという人物の人となりを良く知る者にとっては十分すぎる言葉だった。

きっと噛み締めるように一文字一文字を打ち込んでくれたのだろうと、サナリモリブデンは微笑む。

 

ひとつを読む度に元々大きかった感情が膨れ上がっていく。

本当にやったのだと、じわじわと理解が染み入っていくようだった。

 

が、余りそれに浸っている暇はない。

 

「サナリさんならやれるとは思っていましたが、実際やってみせられてしまうと流石に落ち着いてはいられませんねぇ。……あ、違った違った、感じ入っている場合ではないんでした! さ、ここからも忙しいですよ? 表彰式にインタビューに、何よりウイニングライブです」

 

「……そうだった。サークルどっちだっけ?」

 

郷谷の言う通り、勝者にはのんびりとした時間は与えられない。

もう既にウィナーズサークルでは準備が進められており、サナリモリブデンと郷谷の到着を待っている様子だった。

喜び合う二人を微笑ましく眺めていたスタッフが軽く頭を下げ、手招きする。

 

待ちわびているのは観客もだった。

歓声は声量を下げたものの未だ鳴りやまない。

これ以上人々を待たせるわけにはいかないと二人は慌ててサークルに向かう。

 

それにつれて大きくなるファンの声に包まれて、この日一番の勝者は万雷の喝采をその身に浴びるのだった。

 

 


 

 

そしてその後。

場所を変えてサナリモリブデンと郷谷はメディアのインタビューを受ける事となった。

 

多くの報道関係者達の前で、二人は机に並んで座る。

郷谷は先ほどまでの興奮を綺麗に収めていた。

内心はともかく、今はもう表面を取り繕える程度には落ち着いたらしい。

 

対するサナリモリブデンの側はこちらも当然のように静かなものだった。

普段通りの無表情で背筋を伸ばし、しゃっきりとした姿を見せている。

こういった場面でも冷静でいられるのも彼女の強みであるかも知れない。

 

ともかく、インタビューが始まる。

初めに発言したのは男性の中年記者だった。

 

「まずは関屋記念G3、優勝おめでとうございます。サナリモリブデンさんはこれが重賞初勝利となりますが、今のお気持ちをお聞かせ願えますか?」

 

それに答えるのはサナリモリブデン本人だ。

トレーナーとしての意見が必要ない部分に関してはサナリモリブデンに任せる。

そういった話し合いは事前に済んでいるのだ。

 

「率直に、とても嬉しく思っています。これまでの努力が実った事を実感しましたし、私にとって大きな一歩となったレースになりました」

 

「なるほど、では続いてレースについて振り返ってみていかがでしょうか?」

 

「展開に恵まれたと思います。序盤から中盤にかけて、状況を利用して有利を作る盤面が整ってくれたのは幸運でした」

 

「となると、やはりあの全体の暴走は狙ってのものだったと?」

 

「はい。やれると思ったので、やりました」

 

インタビューは卒なく進んでいく。

記者が不躾な質問を投げる事も、サナリモリブデンが返答を間違える事もない。

これはまぁ当然の話だ。

おかしな記者がのこのこと入って来れるほどURAも甘くはなく、そういった者達が失言を狙うならもっと他の場面になるだろう。

 

サナリモリブデンの側も肝の太さは折り紙付きだ。

緊張で口が滑るなどというアクシデントとは無縁のウマ娘である。

淡々と、しかし不愛想で失礼になる事のないようにと気を配って返答している。

 

あの戦術は普段から学んでいた事なのか。

直線で競ったチューターサポートの印象は。

今の喜びをまず誰に伝えたいか。

そういった当たり障りのない質問と無難な答えが応酬されていく。

 

そうして最後に、当然あるだろうと予測していた質問がやってくる。

 

「サナリモリブデンさんは今回の見事な勝利で、マイル路線での有力ウマ娘として注目される事となるかと思いますが……ズバリ、次走の予定は? やはり王者マッキラに挑まれるのですか?」

 

立ち上がって滑舌良く言ったのは年若い女性記者だった。

マッキラのファンなのか、それとも王者に対する挑戦者を望んでいるのか。

その表情は返答への期待にキラキラと輝くようだった。

 

この質問に、サナリモリブデンは郷谷を見た。

予定を共に決定したトレーナーである彼女は微笑んで頷く。

答えて良いという事だ。

 

 


 

【クラシック級 9月】

 

ポートアイランドS(OP)    秋/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

丹頂ステークス(OP)     夏/札幌/芝/2600m(長距離)/右

 

京成杯オータムハンデ(G3)  夏/中山/芝/1600m(マイル)/右外

新潟記念(G3)        夏/新潟/芝/2000m(中距離)/左外

 

セントウルステークス(G2)  夏/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

神戸新聞杯(G2)       秋/阪神/芝/2400m(中距離)/右外/ペンギンアルバム

オールカマー(G2)      秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外

セントライト記念(G2)    秋/中山/芝/2200m(中距離)/右外/ジュエルルビー、アクアガイザー

 

スプリンターズステークス(G1)秋/中山/芝/1200m(短距離)/右外/ソーラーレイ、他2名

 

 

【クラシック級 10月】

 

ルミエールオータムダッシュ(OP)秋/新潟/芝/1000m(短距離)/直線

オパールステークス(OP)    秋/京都/芝/1200m(短距離)/右内

信越ステークス(OP)      秋/新潟/芝/1400m(短距離)/左内

カシオペアステークス(OP)   秋/京都/芝/1800m(マイル)/右外

オクトーバーステークス(OP)  秋/東京/芝/2000m(中距離)/左

 

スワンステークス(G2)     秋/京都/芝/1400m(短距離)/右外

毎日王冠(G2)         秋/東京/芝/1800m(マイル)/左/マッキラ、チューターサポート

富士ステークス(G2)      秋/東京/芝/1600m(マイル)/左

京都大賞典(G2)        秋/京都/芝/2400m(中距離)/右外

 

天皇賞秋(G1)         秋/東京/芝/2000m(中距離)/左/クラースナヤ

菊花賞(G1)          秋/京都/芝/3000m(長距離)/右外/ペンギンアルバム、他2名

 

 

【クラシック級 11月】

 

オーロカップ(OP)       秋/東京/芝/1400m(短距離)/左

キャピタルステークス(OP)   秋/東京/芝/1600m(マイル)/左

アンドロメダステークス(OP)  秋/京都/芝/2000m(中距離)/右内

 

京阪杯(G3)          秋/京都/芝/1200m(短距離)/右内/ソーラーレイ

福島記念(G3)         秋/福島/芝/2000m(中距離)/右

 

アルゼンチン共和国杯(G2)   秋/東京/芝/2500m(長距離)/左

 

マイルチャンピオンシップ(G1) 秋/京都/芝/1600m(マイル)/右外/マッキラ、チューターサポート

ジャパンカップ(G1)      秋/東京/芝/2400m(中距離)/左/スレーイン、ジュエルルビー

 

 

【クラシック級 12月(出走状況未確定)】

 

タンザナイトステークス(OP)  冬/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

ラピスラズリステークス(OP)  冬/中山/芝/1200m(短距離)/右外

リゲルステークス(OP)     冬/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

ディセンバーステークス(OP)  冬/中山/芝/1800m(マイル)/右内

 

チャレンジカップ(G3)     冬/阪神/芝/2000m(中距離)/右内

中日新聞杯(G3)        冬/中京/芝/2000m(中距離)/左

 

阪神カップ(G2)        冬/阪神/芝/1400m(短距離)/右内

ステイヤーズステークス(G2)  冬/中山/芝/3600m(長距離)/右内

 

有馬記念(G1) ファン数不足  冬/中山/芝/2500m(長距離)/右内

 


 

 

視線を戻したサナリモリブデンは一度小さく呼吸を挟んだ。

それから、口を開く。

 

「次のレースは───」

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【ステータス】

 

スピ:442

スタ:385

パワ:364

根性:451

賢さ:376

 

馬魂:100(MAX)

 

【適性】

 

芝:B(9/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:A(2/50)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(22/50)

追込:C(0/20)

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv1(効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 




※アンケート項目数が全然足りないためOPレースをまとめました。
 OPが選択された場合出走までの間に隙を見つけて再度アンケートを挟んで決定します。


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クラシック級 次走選択結果〜9月ランダムイベント

 

 

【投票結果】

 

毎日王冠(G2)

 


 

 

「10月」

 

サナリモリブデンの口から発された言葉に、記者たちはざわついた。

わずかに漏れ聞こえたのはやはりという音。

 

「毎日王冠への出走を予定しています」

 

「それはつまり、マッキラさんへの挑戦と受け取っても?」

 

「構いません」

 

続いた答えに、そのざわめきはさらに加速した。

フラッシュとともに写真が撮られ、幾人もが手元の手帳にメモを走り書きする。

彼らの顔は期待と興奮に彩られていた。

対決そのものに対するものか、それともこの挑戦表明による盛り上がりで得られる利益に対してかは定かではないが、ともかく場のボルテージは上がっていく。

 

「しかし、サナリモリブデンさんはこれまで二度マッキラさんに敗北していますが」

 

そのボルテージに押されてか同じ若い女記者は前のめりに続けて問うた。

 

「今度こそ勝機はあるのでしょうか?」

 

相手によっては反感を買うだろう問いだった。

かつての敗北を突きつけ勝機の有無を尋ねるそれは、受け手の取りようによっては侮辱ともなりかねない。

実際、若手の情熱ゆえの暴走と見て「あちゃあ」という顔をした記者も数人居た。

 

が。

 

「ありません」

 

サナリモリブデンはその程度で揺れるようなウマ娘ではない。

タイムラグゼロ。

今の天気はと聞かれて晴れていると返すような当たり前さで、彼女は自身の敗北を予見していると言ってのけた。

 

ポカンとしたのは質問者だけではない。

耳にした誰もが「意外だ」と大きく顔に書いている。

サナリモリブデンは挑戦者の立場になる。

ならば嘘や虚勢の類であっても勝てると口にすべきではないかと。

 

例外はたった一人。

とっくの昔にサナリモリブデンという少女を叩きつけられている、郷谷静流だけ。

彼女はわずかに俯いて、愛バの自我の強固さに今更ながら苦笑した。

 

「マッキラを、侮って良い相手だと思ったことはありません。今も記録と記憶に語られる伝説的な先達の方々と同等の脅威だと認識しています。努力のひとつやふたつが実った程度で、勝負になると言えるほど傲慢ではないつもりです」

 

「は、はぁ……でしたら、何故出走を?」

 

なので問い返されるのは当然だった。

勝ち目がないならばどうして走るのか。

マイルの重賞は他にもある。

サナリモリブデンの能力であれば十分に勝ちを狙えるそちらを目指しても良いのではないかとの疑問は自然なもの。

 

「? どうしてと言われても」

 

それを。

 

「勝ち目がない程度の事が、挑まない理由になりますか?」

 

サナリモリブデンは徹底した自然体のまま、灼熱の熱量で焼き切った。

 

「順当に行けば私は勝てません。以前の二回と同じようにちぎられて終わると思います。マッキラは勝利どころか、並ぶ事さえ許してくれるとは思えません。ですがその事実と、彼女に勝ちたいと思う気持ちは別のことです」

 

記者達には徐々に見え始めた。

この少女の本質がだ。

一見無表情でクールに見えるが、そんなものは表面に過ぎない。

 

「私は挑みます。あの背中に追いつくためにあらゆる努力を重ねます。たとえどれほど望みが薄いとしても、です」

 

視線を向けられる質問者。

若手の女記者などはその熱に自分が狂わされていく予兆さえ感じていた。

血液が沸騰し脳が焼けついていく感覚を、しかし福音とさえ受け止めて、その決意を耳にする。

 

「サナリさん」

 

「トレーナー?」

 

「こういう時はもっと簡潔に、一言でも良いんですよ」

 

「ん、了解。じゃあ───」

 

ある者は悲痛な無謀と断じて鼻を鳴らした。

ある者は心躍らせる挑戦者の登場に口元を吊り上げた。

ある者はこの少女ならばあるいはと目を輝かせた。

 

反応は千差万別。

なれど、その根底には等しく理解があった。

物腰柔らかな表皮の裏に隠されたものを、彼らはようやく目にする事となる。

 

「───勝ちます。全霊を賭して、なんとしてでも」

 

その日。

彼らのペンを通して、人々はウマ娘の形をした灼ける鋼を認識した。

 

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:【グーグル検索】【ジューンブライド】【備長炭】

 


 

【登場人物決定】

 

ソーラーレイ&チューターサポート

 


 

 

そんなわけで。

世間は今、少々沸き立っていた。

 

「すごいわよねー。ほら見なさいよこれ。あっちもこっちもマイルマイルマイル、マイル特集ばっかりじゃない」

 

とあるホームセンターの雑誌コーナーにてソーラーレイが言う。

彼女が指差す先にはレース関連がまとめられた一角があった。

表紙を飾るのは栗毛のウマ娘だ。

おでこを広く出したボブカットの彼女は勝負服を身に纏い、柔らかく微笑んでいた。

マッキラである。

 

【挿絵表示】

 

これまで無敗。

しかも全レースを圧勝劇で飾っている上に、クラシック級での安田記念制覇という偉業。

これで人々の話題に上らないわけもなく、今や彼女を知らない日本人はよほどレースに興味のない変わり者だけだろう。

 

必然的にこうして表紙に載る機会も多い。

恐ろしく強い上に愛想も良くファンサービスに熱心なマッキラはメディアからしてもありがたい存在と言える。

 

なのだが。

 

「く、く、ふふふ。今月のG1はこっちだってのにねぇ……?」

 

中にはそれが気に入らない者もいるのだった。

例えば今まさに本人が口にしたように月末に開催されるスプリンターズステークスの、その主役と目されているソーラーレイなどだ。

大層機嫌の悪い様子で口の端を引きつらせている。

 

「……あの、ソーラーレイ」

 

「なによ」

 

「ちょっと痛い」

 

「はーん、そりゃよかったわ。痛くしてんだから」

 

「…………んぅ」

 

ついでに言えば乱暴に振るわれた尻尾がサナリモリブデンの太ももにベシベシと当たっていた。

八つ当たり、ではないと本人は言うものの実質八つ当たりであった。

サナリモリブデンは確かに彼女の「スプリンターズステークスに来い」という誘いを蹴った形にはなるが、そのメッセージを受信した時点では既に郷谷との話し合いは終わっていたのだ。

関屋記念出走前に勝利した場合のプランは決定されていたのである。

なのでサナリモリブデンとしてはそんな事言われても困るというのが正直な意見だった。

 

「レイ、ちょっとその辺にしときなよ」

 

「あ゛ぁ゛?」

 

「うわ、すごい声……じゃなくて、ほら、サナリも困ってるでしょ」

 

「ふん。いいのよ困らせとけば。大体……」

 

同行していたチューターサポートが止めるも、さほど効果はない。

ソーラーレイは指差していた雑誌のうち、一冊に手を伸ばす。

そして”むんず”と掴んで抜き出してみせた。

 

「短距離の話題が潰れるくらいに熱入ってんのはコイツのせいじゃない」

 

それは特集の中では珍しくマッキラが表紙ではなかった。

会見場にて机を前に立ち、闘志を剥き出しにしてカメラを睨む芦毛のウマ娘。

サナリモリブデンである。

先日の王者に対する挑戦表明を行ったまさにその場面だった。

 

「ん……」

 

「満更でもない顔してんじゃねーわよ!」

 

「あ、あはは……」

 

ソーラーレイの言通り、雑誌の特集がマイルで埋め尽くされているのはそれが原因だった。

 

絶対王者。

今のレース界でその呼称はつまりマッキラを指す。

勝利どころか並ぶ事さえ不可能とまで囁かれ、彼女の敗北を予想する者は誰一人としていない。

次に毎日王冠を走ると彼女が表明した瞬間、出走回避を決定したウマ娘が何人も居たほどだ。

 

行き過ぎた強さは退屈を呼ぶ。

どうせまたマッキラが勝つ。

ライバルになれる者はもう居ない。

そんな風潮が流れ始めようとしていたところに現れたのがサナリモリブデンだ。

 

高い壁が、強すぎる敵がなんだというのか。

それでも挑み、なんとしてでも勝ってみせる。

臆することなく堂々とそう言い放ったサナリモリブデンの姿に人々は心を熱くした。

 

となれば必然的に特集はこうなる。

王者vs挑戦者。

サナリモリブデンがマッキラに太刀打ちできる可能性は。

これまでの両者の戦績を並べ、徹底的に比較し、専門家による批評が書き立てられる。

読者の需要を完璧に満たすそれらは今飛ぶように売れているという話だ。

 

「実際満更でもない。というより、率直に嬉しい」

 

「のほほんとしやがってコンニャロウ……!」

 

その事実にサナリモリブデンはちょっとホクホクしていた。

人々の注目、期待、応援。

それは彼女の力となってふつふつとやる気を沸き立たせてくれるのだ。

 

「ったく……でもちょっと意外ね。アンタこういうの興味ないかと思ってた」

 

「ん、そう?」

 

「あー、なんていうの? スト……スト……ほら、あれよ」

 

「ストイックって言いたいの?」

 

「そうそれ!」

 

言葉が出ずに唸るソーラーレイにチューターサポートのフォローが入る。

彼女の言うストイックさは確かにサナリモリブデンを表すには適切だろう。

トレーニングでさえ限界ギリギリ、ともすればそれを越えていく走りを見せようとする彼女を指して言うにはまさしくピッタリだ。

だが、かといってレース以外に興味がないというわけでもない。

 

「サナリは確かにストイックだけど別にそれだけでもないよ。結構普通の女の子だよね」

 

「言われてみれば水着とかも気合入ってたわね。アレ自分で選んだの?」

 

「うん。アルと一緒に」

 

「前にネイルとかもやったしね」

 

「なにそれ私も混ぜなさいよ。前から地味な服着てるなーって思ってたのよね。着せ替え人形にしてあげるから」

 

一度逸れれば話題はすぐに和気あいあいとしたものになっていく。

年頃の少女たちらしいファッションの方向にだ。

サナリモリブデンにどんな服が似合うかとチューターサポートが頭をひねり、どこのブランドの新作がどうだとソーラーレイが盛り上がる。

 

「ん……そういえば」

 

と、そこでサナリモリブデンは思い出したことがあった。

先ほどまでの雑誌の表紙の話題と、今のファッションの話題。

その二点からの連想だった。

彼女はスマホを取り出し、グーグル検索に”ソーラーレイ 表紙”と打ち込む。

するとすぐに目当ての画像に行き当たった。

 

「前に見たこれ、似合ってるって言い忘れてた」

 

「は、ちょ、やめなさいよもう!」

 

「どうして? 綺麗で素敵だと思う。少し羨ましい」

 

「感想がストレートすぎんのよアンタは……!」

 

そこに表示されているのは真っ白いドレスを身に纏ったソーラーレイだった。

ウェディングドレスだ。

6月のジューンブライド特集号の表紙である。

 

当時すでに短距離路線のエースと目されていたソーラーレイは様々な雑誌の取材を受けていた。

中にはウマ娘のファッションに関するものもあり、その目玉として扱われた号のものだった。

 

「あ、それ私も良いなって思ってたんだよね」

 

「うん。とても良い。肌が褐色だから、白がすごく映える」

 

「髪もほとんど金色に近いからキラキラしてて……理想のお嫁さんって感じでさ。スタイルも良いし」

 

「あの、ほんと恥ずかしいんだけど……!?」

 

それは二人の感想が示す通り大変評判の良い一枚だった。

快活さを残しながらも恥ずかしげにはにかむソーラーレイの写真はネットなどではちょっとした話題にもなったほどである。

学園の教室に雑誌を持ち込んで当の本人を囲むウマ娘さえ何人も居たのは記憶に新しいところだ。

 

ただ、ソーラーレイにとっては嬉しさよりも恥ずかしさが勝るらしい。

顔を真っ赤にしてスマホの画面を覆い隠し、称賛の目線を遮ろうとする。

 

「こんなに良い写真なのに……」

 

「アンタも同じ目に合えば分かるわよ! あぁもう、トレーナーの口車になんか乗るんじゃなかったわ!」

 

ついには端末を奪い取ってブラウザを閉じてしまった。

画面は最低限のアプリだけが並ぶ待ち受けに戻る。

そこに映るのはもうウェディング姿のソーラーレイではなく、入寮初日に撮ったペンギンアルバムとの写真だ。

褐色のウマ娘はようやくホッと息を吐く。

 

「同じ目……」

 

「そうよ、考えてみなさい。思いっきり着飾らされて表紙にされて全国に晒されるのよ。……どうよ?」

 

「恥ずかしいのはあるかも知れないけど、悪くないと思う」

 

「正気?」

 

ソーラーレイは怪訝な目をするが、サナリモリブデンは全く正気だった。

彼女は人々の目に晒されるのを苦としないタイプの少女である。

 

正確に言うならばレースに注目される方が好ましくはある。

だがファンとなって貰えて走りを記憶に残してもらえるならば入口はどこからでも良い。

最近目覚め始めたお洒落の方面からでも当然問題はなく、むしろ積極的に取り組む事を考えるのもやぶさかではなかった。

 

「私もサナリに同感。そこまで恥ずかしがる事でもないでしょ」

 

「アンタもそっち側? どうなってんのよ……」

 

「私だったら……うーん、スーツとか似合いそうってたまに言われるんだよね。そういう話が来たらやってみたいかも。サナリはどう?」

 

「ん……」

 

チューターサポートの問いに、サナリモリブデンの空想が具体化していく。

 

雑誌の表紙を飾るとして、その時にどんな装いを披露したいか。

彼女はしばし悩んでから口を開いた。

 






大変遅くなって申し訳ありません
2月中には再開します


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クラシック級 9月イベント結果〜9月トレーニング選択


大変遅くなってしまい申し訳ありませんでした。
長々言い訳するのも見苦しいので粛々と投稿を再開して取り返せればと思います。




【投票結果】

 

淑やかな和装

 


 

サナリモリブデンの脳裏に様々な衣装が思い描かれる。

 

ソーラーレイが表紙を飾ったようなドレス。

今しがたチューターサポートが話題に出した男装。

自然な私服や、実家で母親の手伝いをする際に身につけていたようなエプロン姿。

はたまた、ちょっと非日常を味わえる時節に合わせたイベント衣装やファンタジックなアレコレまで。

 

そうして思考を巡らせた結果、辿り着いた答えは。

 

「……和装に興味がある、かな」

 

和装。

つまりは着物や浴衣の類であった。

 

興味のきっかけはもちろん夏合宿だろう。

煌めくようだったあの2ヶ月の中のとある一日、郷谷の手で着付けられた浴衣姿でペンギンアルバムと歩いた縁日の記憶は、彼女にとって特別なものである。

思い返したサナリモリブデンは右耳をピクリと動かした。

その付け根に付けられた艶のある黒い髪飾りは思い出深い愛用品となって久しい。

 

「へぇ、和装かぁ。いいね。サナリには落ち着いた空気感があるから絵になりそうだ」

 

「落ち着き……? 落ち着き、ねぇ」

 

サナリモリブデンの口から出た希望に2人はそれぞれ反応を返した。

チューターサポートはうんうんと頷き、ソーラーレイはうーんと首をひねる。

 

「む」

 

それにサナリモリブデンは反論したげにソーラーレイに目をやった。

少しだけ眉を寄せ、口を開く。

 

「……トレーナーとアルは、似合ってるって言ってくれた」

 

「別に似合わないとは言ってないじゃない。むしろいいと思うわ。顔立ちとか体型とか考えても着物は合いそうだし」

 

が、反論はするりとすり抜ける。

拍子抜けしたか目をパチクリさせたサナリモリブデンへと、今度はソーラーレイがニヤリとした笑みを向けた。

 

「ただねぇ……和装だったら落ち着きとか淑やか方面以外にもあるって言ってんのよ」

 

頬が吊り上がり、三日月の形を描いた口からは綺麗な歯並びが覗いていた。

 

 


 

 

「最近のアプリってすごいね。業者じゃなくてもこんな事できるんだ」

 

「でしょー? 便利なのよコレ。わざわざ試着しに行かなくても雰囲気分かるのは楽よねー」

 

得意げに言うソーラーレイはスマホを見せつけていた。

 

画面に表示されているのはサナリモリブデンだ。

といっても顔以外は本人のものではない。

画像加工アプリによる合成だった。

スマホのカメラで撮影するだけで姿勢などをAIが判断し、様々な衣装を着用しているように画像を自動編集してくれるのだ。

 

ソーラーレイが言ったような試着代わり、あるいは実際には着て歩く事が難しいような奇抜な衣装を合わせて遊ぶなどの用途で広く親しまれている無料アプリだという。

事あるごとに出てくる広告の量だけが玉に瑕だとソーラーレイは愚痴りはしたが。

金なら払うから広告無しの有料版を出せと唇を尖らせている。

 

ともかく、画像である。

そこに表示されるサナリモリブデンは和装に身を包んでいる。

 

ただし。

 

【挿絵表示】

 

サナリモリブデンが希望した淑やかさとは対極に位置する姿ではあったが。

 

画面の中の彼女は刀を手に、腰を落とした臨戦態勢で敵を睨んでいる。

戦闘中の一場面といった具合だった。

今にも居合が抜き放たれ、視線の先に対峙する敵手をズンバラリと切り捨てでもしそうな雰囲気がある。

 

「にしても、思ったよりだいぶ似合ってるわね。やっぱアンタはこっちよこっち」

 

「…………む」

 

「どうよ。ピッタリでしょ? このまま漫画の主役だって張れそうじゃない」

 

「悪くない……」

 

それは中々のクオリティで、実際に似合いもしている。

あの日の浴衣とは真逆の雰囲気ではあったが、ソーラーレイの言通り漫画かなにかの登場人物になった気分であった。

こういうのもあるのか、とサナリモリブデンは新たに開かれた扉にむむむと唸る。

 

「いや、いやいや、確かに似合ってるけどサナリはこうじゃないでしょ」

 

が、それを肩越しに覗き込んだチューターサポートは首を横に振る。

そしてソーラーレイの手元を覗き込んで指を伸ばし、アプリを撮影画面に戻した。

 

「あん? なによ、じゃあどういうのがコイツらしいわけ?」

 

「百聞は一見にしかずだよ。貸して、今度は私が撮るから」

 

今度はチューターサポートがスマホを構えた。

姿勢はこう、視線はこっちと細かく指定していく。

 

「ん……!」

 

ぱしゃりと、軽い電子音。

サナリモリブデンなりに気合を込めたポージングの写真は、わずか30秒と経たずに加工された。

 

【挿絵表示】

 

チューターサポート、ぐっ、とガッツポーズ。

 

「ほら、これだよ。これがサナリだ」

 

そしてドヤッと胸を張る。

 

画像の中で、サナリモリブデンは落ち着いた和装に身を包んでいた。

色合いは地味なあずき色だが、だからこそ雰囲気は静かで淑やかさを感じさせる。

同時に、帯がリボン状に結ばれている事でちょっとした可愛らしさも演出されていた。

 

「うん、すごく似合う。やっぱりサナリは雰囲気あるね」

 

当初からサナリモリブデンの着物姿を推していたチューターサポートはご満悦だった。

身を乗り出して普段より少しばかり目を輝かせる様はとてもお世辞には見えない。

本心から言ってもらえていると分かり、サナリモリブデンは更に気を良くした。

 

「……うっそでしょ。案外悪くないわ。今気付いたけど、アンタって黙ってれば儚い系なのね……」

 

「いや、普通に見ててわかるでしょ。サナリにどういうイメージ持ってたのさ」

 

「人に懐くタイプの猛獣」

 

「え?」

 

「もしくはスパルタ出身のバーサーカーね」

 

「……え?」

 

「評価が偏りすぎてる……。まぁ、正直ちょっとわかるけど」

 

「…………わかるの?」

 

同様にソーラーレイにも中々好評だ。

ただ、その後に続いた自身に対する評のために喜べはしないようだったが。

 

「何、アンタ自覚なかったの?」

 

「……トレーナーに頭がおかしいとは言われた事があるから、ちょっとズレてるのかなとは思ってた」

 

「じゃあいい機会だから覚えときなさい。アンタはレース中の私と同レベルで頭おかしいわよ」

 

「そんなに」

 

茫然と立ち尽くすサナリモリブデン。

具体的な比較対象を出されての指摘はそれなりにぐっさり刺さったようだった。

その様を見て、ソーラーレイはクスクス笑う。

 

「自分が周りとかファンとかからどう見られてるかは把握しといた方がいいわよ。特にアンタの場合、ファンサにも力入れたいんでしょ?」

 

「ん……うん。見てくれる人には出来るだけ楽しんで帰って欲しい」

 

「でしょ? だったら求められてるものは何かってのは知ってて損はないわ。と、ゆーわけで……」

 

クスクス笑いはニンマリ笑いへ。

帯刀した凛々しい姿と、淑やかな着物姿。

その両方を表示させたスマホを掲げ、ソーラーレイは宣言した。

 

「反応、調査するわよ」

 

 


 

 

買い物用のカートの中に次々に物が積まれていく。

備長炭の山、大きな焼き網、着火剤。

そして肉や野菜。

さらにコーヒー豆と紅茶の茶葉。

 

そこに……何故か衣服が加わる。

メイド服、野球チームのユニフォーム、看護師の衣装などなど。

大して値の張らない安物たちだ。

ショッピングモールの一角で売っている程度のパーティー用のものでしかなく、質もまぁそれなりといったところ。

 

「こう、改めて並べて眺めてみるとさ、やっぱりどう考えても……」

 

「ないわね。うん、ない。頭がウェズンすぎるわ」

 

「ちょっと否定できない」

 

何故そんな取り合わせかというと、だ。

秋の駿大祭の出し物のためである。

 

駿大祭とはウマ娘の無病息災を祈願して毎年秋に執り行われる伝統行事であり、いわゆる神事の一つだ。

当然真面目な行事ではあるのだが、こういった事に乗じて騒ぎ楽しむのは良くある事。

トレセン学園でも春のファン感謝祭と合わせて多くのウマ娘関係者とファンが心待ちにするイベントである。

 

そこに今回はチームウェズンが出店エントリーしたのだ。

中心になるのはもちろん余裕のあるシニア級の面々だが、共に合宿を過ごした繋がりからサナリモリブデン達もちょっとした手伝いに参加する事となっている。

今日彼女達がショッピングモールにやってきていたのは、そのリハーサルの準備のためであった。

 

なお、ウェズンの出店内容は……。

 

「コスプレ網焼きライブ喫茶ってなんなんだろうね……」

 

「炭の煙とコスプレが相性最悪だし、焼き具合見なきゃいけない網焼きと注目させたいライブが殴り合いしてるし、わけわかんないわ」

 

「喫茶と網焼きもどうかと思う。焼肉しながらコーヒーとか紅茶を……?」

 

という物。

つまりいつものウェズンである。

やりたいものを各々好き勝手に上げた挙句に取捨選択の過程を放り捨てごちゃ混ぜにして実行に移すという暴挙だ。

 

「……というか、大体網焼きが悪いわよね。コレ、買ってくのやめとかない?」

 

ソーラーレイがカートの中から備長炭を取り出す。

そうした方がいいのでは、とはサナリモリブデンとチューターサポートも同意するところではあった。

熟考の末、そうすると網焼きを熱烈に求めたセレンスパークがまた大泣きするだろうからとカートに戻されたが。

 

 


 

 

さて、一通りの買い物を終えた後。

サナリモリブデン達はフードコートにたむろして、ファストフード店のドリンク片手にテーブルを囲んでいた。

視線はテーブル上のスマホに向いている。

ソーラーレイが言うところの、反応調査の結果発表の時間であった。

 

「ウェズンのアレっぷりはアレだけど、今回ばかりはちょうどよかったわねー」

 

氷多めのコーラを啜りながらソーラーレイはニマニマ笑う。

 

サナリモリブデンのファンの反応調査。

つまり、サムライガールサナリモリブデンとしっとり淑やかサナリモリブデン。

世間が求めているのはどちらなのかが今示されようとしていた。

 

手法は単純。

SNSでのアンケートである。

ソーラーレイのウマッターアカウントで2枚の画像を投稿し、どちらがよりイメージに合うかを問うものだ。

 

「いい? 票が多かった方をお祭りで着て接客すんのよ」

 

「ん、問題ない。覚悟はできてる」

 

また、伴ってそういう約束が課されていた。

より得票数の多かった衣装を纏ったサナリモリブデンを生で、しかも間近で目に出来るのだ。

彼女のファンにとっては得難い機会だろう。

特に、サナリモリブデンは集めた人気と話題の割に露出が少ない。

トレーナーである郷谷の判断で、ネットに疎いサナリモリブデンのSNS利用が制限されているためだ。

こうなるとファンの投票に忖度が混じる可能性は少なく、生の意見が得られるはずだとサナリモリブデンはソワソワと画面を見つめる。

 

「まぁ間違いなく刀の方でしょうけどね。アンタに求められてるのはサムライガールよ」

 

「はぁ、それはないよレイ。素人意見丸出しだ。レースやトレーニング中のサナリは確かにそうだけどさ、だからこそ普段の静かで涼しげな顔が引き立つんだよ」

 

「アンタはコイツの何なの???」

 

チューターサポートとソーラーレイの対立もそこそこに、画面がタップされアンケート結果が表示される。

 

 


 

【得票数判定/それぞれファン数9731を上限】

 

サムライガール:1538票

淑やかしっとり:9568票

 


 

 

「はぁ!? なんでよ!」

 

「よしっ! ほら、言った通りだ!」

 

パカンと口を開けウソでしょと驚くソーラーレイと、グッと拳を握りしめて頬を吊り上げるチューターサポート。

勝敗はハッキリと分かれていた。

何しろ1538対9568だ。

6倍以上の差がついていては言い訳や物言いが挟まる余地は全くない。

 

「こんなに……」

 

なお、サナリモリブデン本人はどちらが勝ったかよりも票数の多さに目が行っている。

心なしか表情はホッコリと緩み、尻尾がピクピクと嬉しげに震えていた。

現在のサナリモリブデン公式ファンクラブの会員数は9731人。

その総人数を超える票数だ。

ソーラーレイのアカウントであるためファンクラブ以外の者が多く見るとしても、買い物中の短時間でここまでの票数が集まるとは思っていなかったらしい。

 

「いやおかしいでしょ。どうしてこんな偏ってんのよ。組織票か何か入ってんじゃないでしょーね」

 

「だからレイのそれは素人意見なんだって。リプ見てみなよ。多分それでハッキリするから」

 

ただ、ソーラーレイはやはり納得がいかないようだ。

自分が推した衣装がまるで票を集めなかった事が不満らしく、ぐちぐちと言葉を漏らす。

そこにかけられたチューターサポートの意見に、ならば見てやろうじゃないかと指が動いて画面がスクロールする。

 

 

クレヨンを忘れるな@remember_crayon_7colors

どっちも似合う〜!

けどどっちと言われたらしっとり和装ですね!

雨の縁側に一緒に座ってあの優しい囁き声で世間話に相槌打って欲しい〜

 

 

「あ、あぁー、声。そっか、その評価ポイントは見落としてたわ」

 

「サナリの声って結構特徴的だからね。ウィスパーボイスは強いよ。刀にも合わない事はないけど、どっちが王道かってなるとね」

 

「……少し照れる」

 

 

Mr.日曜日@goo_suka_pee

これは2枚目

峠の茶屋感がたまらない

緑茶とお団子をそっと差し出してくれる姿が目に浮かぶ……

 

 

「実際差し出されるのは紅茶と生肉なのよね」

 

「くっ、ふ、ちょ、ちょっとやめてよ、噴き出しかけた……」

 

「や、でも納得感はあるわね。ペン子相手の餌付けとか見てるとそっちの素養はあるか……」

 

「そっち、って?」

 

「いわゆるママみとか……あぁいや何でもないわ。アンタは知らなくていいやつよ」

 

 

棹@SNR様激推しBIGLOVE@Sarasate_Opera

おほーーーッ!

最高! すんばらしい!

まずは感謝を!

いつも新鮮なサナリ様の供給ありがとうございます!!!

あぁ〜たすかる〜沁み渡る〜

しかも凛々しさと儚さの同時攻撃は威力高し!

純粋に"質"ですよこいつぁ……

アンケートは後者に入れました!

どちらも甲乙つけがたいサナリ様の魅力的な一面ではありますがっ!

ファンと接する場面でとなるとこっちでしょう!

理由を付記しておくとサナリ様のファンに対するスタンスによるものです

サナリ様と言えば熱烈濃厚なファンサでもうすっかりお馴染みですが、それは見てくれて嬉しい、応援してくれて嬉しいという気持ちをまっすぐ剥き出しでしかも山盛りにお出ししてくれるからなんですね

ファンサしてもらってるのはこっちなのに、より幸せそうなのはサナリ様なんです

自分の応援でこんなに喜んでもらえたと一撃で理解らされるあの感覚は他ではそうそう味わえません

サナリ様の味!

だからこそファンに間近で接して微笑む姿がより似合うしっとり和装!

もちろんだからといって武装サナリ様が劣るわけではありませんが!

むしろこっちも好き好き好き好きBIG LOVE……

レース中のサナリ様の抜き身の妖刀めいた鋭さで壁際に追い詰められて尋問されたいっ!

首筋に刀添えられたままあの声で「……時間がもったいない。全て、すぐに吐いて」とか言われたいっ!

どんな秘密も全部しゃべりますぅ♡♡♡♡♡

 

 

「うわでた」

 

「この子、サナリの話題出すと毎回飛んでくるよね。レイの方にもアンテナ張ってたか……」

 

「ん……ん? ?????」

 

 

そうして意見収集は一区切り。

概ねソーラーレイも納得できるだけの材料はリプライ欄に並んでいた。

 

「はぁ、しゃーない。今回は私の負けね。予想が外れたわ」

 

ため息を吐きつつ、残った僅かなコーラをずごごと啜る。

行儀の悪いそれをチューターサポートは苦笑して見やった。

勝負好きで負けず嫌いなソーラーレイにはよくある姿だ。

付き合いの多い彼女達の間ではもういまさら問題にするようなものでもない。

 

「で、どーよサナリ。ファンの声に対するご感想は?」

 

最後にソーラーレイがサナリモリブデンに聞く。

 

「ん……嬉しかった。とてもいい。こういう機会が定期的に欲しいぐらい」

 

サナリモリブデンはそれに対し、ご機嫌が滲む声で返答した。

 

多くの票数、多くの意見。

自身に向いた人々の目と声を認識して、彼女は心が浮き立つのを感じていた。

多少の気恥ずかしさなどはそれに埋もれて気にもならない。

良い一日の良い経験として、サナリモリブデンの中に刻み込まれる事となったようだ。

 

「……ただ、トレーナーにSNSを止められた理由も少しわかったけど」

 

「あ、うん。極端な例ではあるけど、あのくらいのはそこそこいるしね……」

 

「そうね……うん……やめときなさい。アンタの場合、真正面から相手して色々面倒くさい事になる未来しか見えないわ。時には距離を取っておく方が正解ってこともあるのよ……」

 

若干、頬を引き攣らせるような面もありはしたようだが。

 

 


 

 

【イベントリザルト】

 

友好:ソーラーレイの絆+5

友好:チューターサポートの絆+10

成長:賢さ+15

獲得:コンディション/好調

 

ソーラーレイ    絆40 → 45

チューターサポート 絆40 → 50

 

スピ:442

スタ:385

パワ:364

根性:451

賢さ:376 → 391

 

 


 

 

【9月トレーニング選択】

 

スピードトレーニング / スピード↑↑↑  パワー↑↑

スタミナトレーニング / スタミナ↑↑↑  根性↑↑

パワートレーニング  / パワー↑↑↑   スタミナ↑↑

根性トレーニング   / 根性↑↑↑    スピード↑  パワー↑

賢さトレーニング   / 賢さ↑↑↑    スピード↑  根性↑

 

 





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クラシック級 9月トレーニング選択~10月ランダムイベント


 

【投票結果】

 

スピードトレーニング

 


 

【友情トレーニング判定】

 

成功率:絆÷3(%)

 

ペンギンアルバム :失敗

ソーラーレイ   :成功

チューターサポート:成功

チームウェズン  :失敗

 

結果:友情トレーニング発生!

 


 

【トレーニングパートナー決定】

 

結果:チューターサポート

 


 

 

芝が千切れ、えぐられた土が舞う。

二振りの鋼がターフに足跡を形作る度に、その二人は加速していく。

 

コーナーを越えて迎えた直線。

 

まず先に出たのは癖毛のウマ娘、チューターサポートだった。

至近で燃え盛る熱量に微塵もペースを崩さずにここまでを走り抜けた彼女は敵手に勝る加速力を十全に発揮した。

ストライドを小さく、回転力を重視した走法で1バ身のリードを得る。

 

「ッシィ…………ッ!!」

 

それを、黙して受け入れるサナリモリブデンではない。

気合一閃。

引き絞るような呼吸の次瞬、轟音がターフを割った。

 

サナリモリブデンの脚が叩きつけられる。

回転よりも一撃を、加速力よりも最高速度を求める走法。

それが一度引き離された彼我の距離を秒ごとに食いつぶしていく。

 

1バ身が半バ身に。

半バ身がクビの差に。

そしてついに、サナリモリブデンが差し切って前に出る。

 

「ま、け、るかぁ……!」

 

だが、受け入れられないのはチューターサポートも同じ事。

クラシック戦線で鍛え上げられた意地と根性は彼女の背を押しやった。

サナリモリブデンがもぎ取った差は瞬く間に詰められる。

 

両者、完全な横並び。

サナリモリブデンが戦意を滾らせて前に出ればチューターサポートが歯を食い縛って食らいつき。

チューターサポートが負けじと飛び出せばサナリモリブデンは更なる熱を得て襲い掛かる。

 

そこに際限はなかった。

互いが互いを高め合い、どこまでも突き進んでいく。

 

 

 

とはいえ、もちろん永遠には続かない。

 

遠く、コース脇で二人を監督しているトレーナー陣からホイッスルの高い音が届く。

スパート終了の合図だ。

サナリモリブデンもチューターサポートも指示には従順なウマ娘である。

殆ど揃ったペースで速度を落とし、息を整え始める。

 

……ただし、だからといって心までは冷めない。

 

(……また)

 

(互角だった……っ!)

 

次のスパートに備えながら、二人の思考が重なった。

負けなかった安堵など欠片もない。

勝てなかった己への怒りだけを胸に悔恨を噛みしめる。

灯った炎は衰えを知らず、直線を終えてコーナーを往く二人をさらに燃え盛らせていく。

 

 

 

「いやぁ、流石ですねぇチューターサポートさんは」

 

「そちらこそ、流石のサナリモリブデンだね」

 

それと同じ事はコース横でも起きていた。

数歩の距離を開けて並び、二人を見守るトレーナー陣もまた。

 

「私のサナリさんの本気にここまで食らいついてくるんですから」

 

「僕のチューターにこれだけ食らいつけるなんて」

 

ただし。

こちらはウマ娘達よりも随分とピリピリとしていた。

 

表情は柔和に笑みを形作ってはいるが表面だけ。

互いの担当を言葉の上では褒め称え合いながらも、その目は一切笑っていない。

その言葉も、良く聞かずとも「うちの子の方が上だが?」と明らかに語っていた。

 

それも当然の事だ。

サナリモリブデンとチューターサポート。

マイルを主戦場とする者同士だ。

前走、関屋記念ではサナリモリブデンが大きく勝利したものの、実力は見ての通り伯仲している。

その上、10月の毎日王冠では再びの激突が決まっているのだ。

これほど条件が揃っていてなお仲良しこよしが出来るならば、むしろトレーナーとしての資質を疑われるだろう。

 

ふふふ、あはは、と笑い声が漏れ、しかし同時にバチリバチリと電気が走る。

この場面を漫画の一コマにしたならば、両者の頭部には怒りマークがくっきりと描かれているに違いない。

 

それでもトレーナー達が意識を散漫にする事はない。

コーナーを曲がり終え、再びの直線に向き直ったサナリモリブデン達の様子を観察し、状態を把握する。

それから交わされた視線でトレーニング続行に問題がない事を確認すると、郷谷がホイッスルを吹き鳴らした。

 

スパート。

デッドヒート。

そして、またも決着はつかない。

 

コースの中から二つ、コース横から二つ。

合計四つの「ぐう」と悔しみを滲ませる声が上がった。

 

 


 

【トレーニング判定】

 

成功率:失敗5%→0%(トレーナースキル)/成功85%/大成功15%

 

結果:成功

 


 

【トレーニング結果】

 

成長:スピード+30/パワー+20(基礎成長)

成長:スピード+10/パワー+10(友情トレーニング)

 

スピ:442 → 482

スタ:385

パワ:364 → 394

根性:451

賢さ:391

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:【カツサンド】【物足りない】【覚醒】

 


 

【イベント登場人物決定】

 

複数人登場率:50%

 

結果:ペンギンアルバム&チューターサポート

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も゛の゛た゛り゛な゛い゛っ゛!!」

 

「うん」

 

「だと思ったよ……」

 

10月初週のとある日。

それなりに賑わう朝の商店街にて。

 

ペンギンアルバム、魂の叫びであった。

滂沱の涙を流し、地に崩れ落ち。

そしてアスファルトに小さな拳をぺちぺち叩きつけての咆哮だった。

 

余りにも哀れを誘う姿に商店街を歩く人々からギョッとした視線が向けられる。

ペンギンアルバムの同行者、サナリモリブデンとチューターサポートは頬を赤らめた。

いかに冷静さで知られた二人であろうともこの状態で恥じらいを覚えない感性は持ち合わせていない。

 

 

 

さて、何故ペンギンアルバムがこんな道端で泣いているのか。

その理由は実に分かりやすく、そしてバカバカしいものだった。

 

事の起こりは今朝の事だ。

ペンギンアルバムは朝早くにベッドから飛び起きた。

驚いたのは同室のサナリモリブデンだ。

ペンギンアルバムの朝の弱さはサナリモリブデンも良く知る所、というより、あの手この手で何とか目覚めさせて支度を整えさせているために体に覚え込まされている。

そんなペンギンアルバムが何故ひとりでに、と疑問を抱くのは当然だった。

 

「ど……どうしたのアル。何かあった?」

 

「良く聞いてくれたね……! 今日はいつものベーカリーで新作が──」

 

「すごく納得した。おはよう、アル」

 

「うんっ、おはよーサナリン!」

 

早起きの理由はこの通り。

ペンギンアルバムの食い意地は寝起きの悪さを凌駕するらしい。

なるほどなー、と心の底から納得を得たサナリモリブデンは一切の心配を放り捨て、輝く笑顔眩しいペンギンアルバムに朝の挨拶を投げた。

 

その後の行動は実に単純だ。

どうせなら一緒に行こうよとペンギンアルバムがサナリモリブデンを誘い。

休日ながらも予定のなかったサナリモリブデンが快諾し。

道中でばったり出くわしたチューターサポートも巻き込んで商店街にやってきて……。

 

「うそぉ! 出遅れた!?」

 

「うわ、すごい行列。え、今7時半だよね? 開店まで30分もあるのに」

 

「ん……でも気持ちはわかる。ここのパンは本当に美味しいから」

 

ただの早起きではちょっと足りなかったという現実を突きつけられる事となった。

目当ての店は、以前にペンギンアルバムが二人に紹介したベーカリーだ。

そこにズラリと並んだ行列は少なくとも20人は居るだろう。

 

このベーカリーは今や押しも押されもせぬ大人気店だ。

元々すこぶる味が良く、その上今年のダービーウマ娘が足しげく通っているとなれば宣伝効果も抜群。

そんな店の新作を朝一に狙おうというならば30分前程度では見通しが甘かったと言える。

 

慌てて行列の最後尾に並ぶも、他の客も目当ては彼女たちと同じだったようだ。

新作……厳選したブランド豚を使ったカツサンドは瞬く間に数を減らしていく。

順番が巡ってきた時にはもう、一番小さな3切れ入りのパックが一つしか残っておらず……。

 

 

 

「なんでぇぇ……! こんなに美味しいカツサンドが一切れだけなんてっ! 生殺しすぎるよぉぉぉぉ!!」

 

そうして、冒頭に戻るというわけだ。

絶望に崩れ落ち、ぴえーと泣くペンギンアルバム。

 

こうなると件のカツサンドが目を剥くほどの絶品であった事はむしろ不幸でさえあった。

 

肉は分厚く満足感たっぷりで、しかも肉汁はほのかな甘みを感じるほどに濃厚。

なのに食べにくい硬さも余計な臭みも一切ない。

サックリと歯を受け入れ、心地よい歯ごたえを感じさせながらも咀嚼の邪魔にはならないジャストの調整だ。

研究を重ねて専用に開発したというソースは熟成された野菜の味わいも深く、程よくスパイスが効いて香り豊かで刺激的。

それがふんだんに染み込んだカツの衣のとろけた食感など、最早芸術品と呼ぶ者もいるかも知れないレベルだった。

 

そして、当然のようにパンは最上級のそれだ。

上述の強烈なカツに負ける事なく、しっとりした柔らかさと小麦の芳醇さでもって全てを包み込んでいる。

下手をすれば「カツとおまけのパン」になりかねないところを「カツサンド」に力強く留め、料理としての完成度を数段上に高める技量には満場一致での満点越え評価が下されたほどだ。

 

……だからこそ、ペンギンアルバムの嘆きは深い。

彼女は食事に人一倍どころか十倍ほどこだわりが強い上に、言わずと知れた健啖家だ。

一般的なヒトミミよりもよほど食べるウマ娘の中で、更に平均の3倍4倍は平気で食べる少女なのだ。

そんな彼女にわずか一切れとは、ヒトミミの感覚で言えばスプーン一杯程度の感覚だろう。

 

「……アル」

 

「うっ、うっ……サナリン?」

 

「私の、半分あげるから」

 

その哀れさに同情したサナリモリブデンがそっと自分のカツサンドを差し出す。

もう既に口を付けてしまった品だが、まだ半分ほどは残っていた。

 

「いっ……! ぃ、いぃのぉ……?」

 

脊髄反射の速度で手を伸ばし、しかし直前で手を止めて遠慮を伺わせるペンギンアルバム。

これほどの絶品を人から取ってしまうのは大罪ではないか。

そういう思考が働きつつも、食欲は誤魔化し切れない。

そんな葛藤が丸見えの動きであった。

 

「うん。気にしないで。私はそんなに食べる方じゃないって知ってるでしょ」

 

なので許しが出た次の瞬間にはカツサンドは消え去っていた。

もごもごと、じっくり味わうようにペンギンアルバムの口が動く。

 

「うぅ、美味しい……すっごい美味しい……こんなカツサンド初めてだよぅ……」

 

「なら良かった。……少し落ち着いた?」

 

「うん……ごめんねサナリン、道端でこんな取り乱しちゃって」

 

それでなんとかペンギンアルバムは小康状態になったようだ。

申し訳なさそうに立ち上がり、恥ずかし気に頭の後ろを掻く。

そうしてチューターサポートにもごめんねーと言おうと向き直って。

 

「ん、むぐ…………」

 

慌てたように、自分の分として割り当てられたカツサンドの残りを口に詰め込むチューターサポートを発見した。

 

「…………」

 

「むぐ、もご……」

 

「……あ、あのね……?」

 

「ごくん……う、うん」

 

「さ、流石に、自分から寄越せって言ったり、無理矢理取ろうとしたりとかは、しないよ……?」

 

「…………そ、そうだよね……ごめん」

 

チューターサポート、痛恨のバッドコミュニケーションであった。

 

 

 

 

 

その後。

三人はそそくさとその場を離れた。

何しろ、周囲の目が痛くなってきたためだ。

 

"あれって、もしかしなくてもペンギンアルバムちゃんじゃ……"

 

"ダービーウマ娘がカツサンドに負けてる……"

 

などというヒソヒソ声が鋭敏なウマ耳に届いては流石に留まってはいられない。

早足でスタスタと商店街を抜け、広い道に出るや道路端のウマ娘専用レーンを走っての逃走であった。

 

「あはは、なんかもう、ほんとごめんねー!」

 

「いやこっちこそ、つい、ついね! 本当に取られると思ったわけじゃなくて、つい反射的にね!」

 

「大丈夫、気にしない。逃げるのも少し楽しかった」

 

そうして街中の公園に辿り着きベンチで休む頃には沈んだ空気はおおむね消えていた。

個人差はあれど、ウマ娘というものは走っていればそれなりに楽しくなってくるものだ。

余程の事でない限り、長々と走れば変な空気はどこかに飛んでいく。

 

 

 

さて、落ち着いたところで解決していない問題が目に入ってくる。

朝食をどうするか、という話だ。

 

三人は三人とも今朝はカツサンドしか食べていない。

一番多く食べたペンギンアルバムでも一切れ半。

これでは到底足りるわけもなく、全員が空腹を抱えていた。

ならば追加で何かを食べようという結論に当然至る。

 

「ん……まだ8時過ぎ。この辺りだとどこが開いてる?」

 

「ファストフードとかファミレスは24時間やってると思うよー」

 

「今ちょっと調べてみたんだけど喫茶店も大体開いてるみたいだ。モーニングの評判が良い店、幾つか見つけたよ」

 

それ以外にはコンビニという選択肢もある。

公園から見える範囲だけでも全国展開しているライバル店舗が二つあり、どちらに入ってもそれなりの物を手軽に食べられるだろう。

 

 

ただ、問題が一つある。

ペンギンアルバムは当然として、サナリモリブデンとチューターサポートも、まだ口の中に絶品の余韻が残っているという点だ。

特上カツサンドにはまだまだ後ろ髪を引かれる思いがたっぷりである。

 

「「「…………」」」

 

よって、候補は出揃っても決定は下らない。

三人は顔を見合わせ、全員の顔に未練が塗りたくられている様を確認して苦笑を交わした。

 

 

 

だが、いつまでもそうしているわけにもいかない。

本日の朝食は何にするか。

その意見を出そうと、サナリモリブデンは口を開く。

 

 

 




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クラシック級 10月イベント結果


 

【投票結果】

 

いっそ自分達でカツサンドを作ってみる

 


 

 

「……やっぱり、あのカツサンドは諦めきれない」

 

スッとベンチから立ち上がったサナリモリブデンは、そう言った。

拭いきれない未練をありありと覗かせて、あの味を食べたいと。

 

「同感! って言いたいとこだけどぉ……」

 

それに対し、ペンギンアルバムが追随するもののすぐさま消沈する。

 

「カツサンド、追加の時間が11時半と17時半なんだよねぇ」

 

「え、把握してるの?」

 

「ホームページに載ってるからね。あそこのは全部覚えてるんだ」

 

「ガ、ガチ勢だ……」

 

残念ながらそういう事であるらしい。

件のベーカリーのカツサンドを食べようと思うなら11時半まで待つしかない。

しかもその際にも当然行列が予想される。

長時間を店の近くで待つ忍耐力か、あるいはカツサンドが自分たちの番まで残っている幸運を期待する必要があるだろう。

 

「うん。流石にそこまでは待てない」

 

が、サナリモリブデンはそれはわかっていたと続けた。

握りしめた拳を胸元に掲げ、力強く宣言する。

 

「だから──作ろう。あの味を再現する。私達の力で」

 

その力強さに反してポカンとするペンギンアルバムとチューターサポート。

当然の反応だ。

先ほど味わったばかりのカツサンドの完成度は他に類を見ないレベルであった。

それを素人仕事で再現するなど到底現実的とは思えない、というのが普通の感想だろう。

 

 


 

【料理の腕前判定】

 

範囲:Lv1~100

基準:1-10暗黒料理/11-20未経験/21-40苦手/41-70並/71-80得意/81-90メシウマ/91-100プロ級

 

ペンギンアルバム :49

チューターサポート:10

 


 

 

「い、いやいやサナリン、流石に無理だと思うよ? 料理は苦手じゃないけどさ、どうすれば作れるか全然わかんないもん」

 

「私もちょっと自信ないかな。料理ってやった事なくて……」

 

二人は共に首を横に振る。

その顔に自信は全くうかがえない。

 

ペンギンアルバムの方は料理の経験は人並みにはあるようだが素人の域を出るものではないようだ。

現にソースが素晴らしい逸品であった事はわかるものの材料のバランスどころかそもそも何を使っているかさえ見抜けなかったとしょんぼり語る。

 

だが。

そこに、サナリモリブデンは静かに歩み寄り。

 

「大丈夫。心配しなくていい」

 

常よりも遥かに。

それこそレースに臨む際の彼女にすら近い、膨大な熱量を伴って気炎を吐く。

 

「私ならやれる。いや、やる。久しぶりに──」

 

 


 

【料理の腕前判定】

 

範囲:Lv41~100(描写済みの経歴から固定値加算)

 

サナリモリブデン:96

 


 

 

「──全力を、振るわせてもらう」

 

鉄腕料理人サナリモリブデン。

覚醒の時、来たれり。

 

 


 

 

まぁ、そういうわけで。

サナリモリブデンは困惑する二人を押し切り、材料を買い揃えた。

それを携えてやってきたのは寮の厨房だ。

食事時でさえなければ、申請すれば入寮者は利用できるのである。

もちろん、利用時間を守り、後片付けもキッチリ行う必要はあるが。

 

「えーと……買ってきちゃってから言うのもなんだけどさ、ホントにやるの?」

 

「ん」

 

おずおずと聞くペンギンアルバムにサナリモリブデンは当然のように頷いた。

返した言葉はわずか一音だけだが、そこに籠るやる気は天井知らずだ。

 

「で、でもさサナリ、その、材料がさ……」

 

同じくおずおずとチューターサポートが指摘する。

 

 


 

【買い出し成功判定】

 

難度:135

補正:プロ級の目利き/+20%

参照:賢さ/391+78=469

 

結果:304(大成功)

 


 

 

「だいぶ違うんじゃないかな……」

 

その言の通り、普通に考えれば余計に思える材料がそこにはある。

最もわかりやすい物はキャベツだろう。

ベーカリーの前で味わったあのカツサンドには明らかに含まれていなかったのだ。

パンとカツの間にはソースしかなく、キャベツなど千切り一本も挟まっていないのは三人全員が記憶している。

 

「問題ない」

 

だがサナリモリブデンは揺るがない。

むしろ自信に満ちた声色で胸を張って返答する。

 

「あの味を再現する。そうは言ったけど完全に同じものは作れない。時間がかかりすぎる」

 

「あ、あぁ、そうだよね。どう見ても手間かかってそうだったし」

 

「うん。特にあのソース。完全と呼べるレベルの再現には何回か試作が必要だし、置いて馴染ませる時間も要る。少なくとも二週間は欲しい」

 

「二週間でできるの!?」

 

愕然とするチューターサポート。

彼女から言わせれば、十年かかってもやれる気がしないというところだ。

 

「今回はあくまで市販のソースとスパイスのブレンドで、短時間で出来る中で一番近い味を目指す。ただ、そうするとソースの味が鋭くなりすぎると思う。丸くする方法はあるけど、あえてやらない。香りと刺激が強いままの方が近付けられると判断した。かわりに中和のためのキャベツを加える」

 

対して、うむと首肯するサナリモリブデンはハキハキとキャベツ購入の意図を説明する。

その様にペンギンアルバムは、これはもしや、と反応した。

 

料理経験のある彼女自身も多少覚えのある事だが、美味しい店の料理を再現しようとする際、材料や調理法を見抜けてもまるっとそのまま真似ようとするとまず間違いなく失敗に終わるのだ。

それで上手くいくのは厨房の環境や素材の質までも同一の場合のみである。

一般には何らかのアレンジや、時に素人目には手抜きと取られるような工程の変化を加える必要がある。

 

そして、その判断が的確に出来るのは。

 

「もしかしてサナリンってメチャクチャ料理得意だったりする?」

 

「うん。もし今から店を持てたとして、黒字で回していくぐらいの自信はあるよ」

 

相当に腕のある料理人の証である。

 

ペンギンアルバムはふつふつと希望が湧きたつのを自覚した。

困惑と不安は瞬く間に消え、明るい兆しに胃袋が歓喜を奏で始める。

 

「さ、サナリン……! 最高だよサナリーン! ブラボー! ジュテーム! ボンボヤージュ! ナマステー!」

 

「ん」

 

「え、えぇ……?」

 

チューターサポートは突如ぶちあがった空気感の中で一人取り残されていたが、まぁ些細な事だろう。

 

 


 

 

かくして調理が始まる。

 

担当はそれぞれの腕に合わせて決まった。

味の要となるソース作りは最も腕に自信のあるサナリモリブデン。

カツを揚げるのはそれに次ぐペンギンアルバム。

 

三人の内で一番料理に馴染みの薄い、というか経験が全く無いというチューターサポートはキャベツの千切りだ。

 

「うん、まぁ、このくらいなら大丈夫だと思うよ」

 

まな板の前で腕まくりをし、チューターサポートはスライサーを構える。

キャベツを押し当てて前後に動かすだけで千切りが作れる、時短や手間抜きのためにあちこちのご家庭でお馴染みの調理器具だ。

もちろん、料理初心者にも大変優しい。

 

対峙するキャベツは緑が多くずっしりとした良質の物だった。

瑞々しい外葉が目にも美しく、軸の切り口の状態からも新鮮そのものである事がうかがえる。

サナリモリブデンの目利きはやはり確かなものらしい。

 

 


 

【調理判定/チューターサポート】

 

難度:67(簡単調理倍率/x0.5)

補正:良質素材/+15%

補正:暗黒料理/-90%

参照:賢さ/430-322=108

 

結果:71(成功)

 


 

 

シャ、シャ、シャ、と一定のリズムでキャベツがスライサーの上を往復する。

素早くはない。

だが淀みはなく、スムーズな動作だった。

千切りの厚みにも大きなブレはない。

 

「わ、すごい。本当に千切りになってる」

 

これが料理初挑戦のチューターサポートは感動したような面持ちで自身の手元を眺めていた。

定食の付け合わせでお馴染みの品はこうして作られているのかと、心なしか目がキラキラしてさえいる。

 

ソースをかき混ぜていたサナリモリブデンは横目でそれを確認してヨシと頷いた。

彼女の目から見ても及第点以上の出来であるようだ。

それから、ほんの少し頬に笑みを浮かべる。

親しい友人が、自身の趣味にして特技である料理に興味を持った様子なのが嬉しいらしい。

このまま興味を膨らませていってくれて、いつかレシピの交換でも出来る日が来ればと小さな夢まで抱くほどに。

 

(なんだ、料理って結構簡単なのかも。暇があったら色々やってみようかな。ごく普通の料理と見せかけてちょっとした独自のアレンジが効いてるとか、かっこよさそうだし)

 

──その未来が本当に来てしまった時、サナリモリブデンがどのような感想を抱くか。

というかそもそも舌と胃が無事に済むのかは、未だ誰も知らない事だが。

 

 


 

【調理判定/ペンギンアルバム】

 

難度:135(一般調理倍率/x1.0)

補正:良質素材/+15%

補正:並の腕前/補正なし

参照:賢さ/369+55=424

 

結果:368(大成功)

 


 

 

キャベツの確認を終えて、次にカツの状態に目を向ける。

こちらは一旦動きが止まっていた。

とはいえ、別にペンギンアルバムがサボっているわけではない。

 

「サナリンサナリン、普通に揚げるのでいいんだよね? ちょっと置いてからで」

 

「うん、それで問題ない」

 

単に肉を馴染ませている段階というだけだ。

カツを揚げる場合、小麦粉、卵、パン粉をつけた後に10分ほど放置すると出来上がりの状態が良くなるのだ。

また、馴染ませる間に温めている油の設定温度も適切そのもの。

 

こちらも問題無いようだ。

どころか、一般的な家庭料理では中々行わない「寝かせ」の工程を挟んでいる辺り相当な期待が持てそうだと言える。

サナリモリブデンが見る限りカツ自体にはもう失敗の要素は見当たらない。

残るポイントは揚げ時間ぐらいのものだが、そこも問題としそうにはなかった。

 

「アル、腕は普通って言ってたけどそんな事ないように見えるよ」

 

「いやいや全然だよー。家でお手伝いさんにちょっと教わったくらいだし」

 

顔の前でパタパタと手を振るペンギンアルバム。

それからサナリモリブデンを見上げて、にひっと笑う。

 

「でも今日ばかりは手が抜けないからね。折角頑張ってくれてるサナリンのためにもさ、いつもより丁寧にやってるんだー」

 

「ん……」

 

「お? 照れちゃった?」

 

「少し。ありがとう、アル。すごく嬉しい」

 

「へっへ、いいってことよー!」

 

親友の言葉にサナリモリブデンの心はさらに浮き立った。

ならばこちらも期待に応えねばと、やる気の炎は勢いを増す。

 

ここまでの過程に問題は生じていない。

後は自分の担当、ソース次第だとサナリモリブデンは鍋の中をじっと見つめた。

 

 


 

【調理判定/サナリモリブデン】

 

難度:202(難関調理倍率/x1.5)

補正:良質素材/+15%

補正:プロの腕/+30%

参照:賢さ/391+175=566

 

結果:515(大成功)

 


 

 

サナリモリブデンがその鍋で最初に作ったのはカラメルだった。

水で溶かした砂糖を焦がして作ったそれをもう一度溶かし、ウスターソースとケチャップ。

そこに醤油も少々。

これをじっくりと弱火で煮詰めればコクと深みに富むベースの出来上がりだ。

 

そうすれば次にスパイスの出番である。

フェンネル、タイム、ローリエ、クローブ、ナツメグ、セージ。

少量ずつを購入してきたそれらを眺めながら鍋の中身をひと口舐め。

 

(──見えた)

 

十秒にも満たない思案で適切な配合を割り出した。

彼女の脳内に、朝に半切れだけ味わったカツサンドのソースに至る道筋が明確に描かれる。

スパイスの持つ味と香りを現状のソースにどう加算すればあの頂きに辿り着けるか、という道がだ。

 

各スパイスの処理から投入までの動作も驚くべき滑らかさだった。

迷いなく、力みも皆無。

加熱の温度と時間にも当然のように欠片ほどの瑕疵さえない。

 

「おわ……すごぉ」

 

「か、かっこいい……私も、あんな風になれたら……」

 

などと、横目で見ていたペンギンアルバムとチューターサポートが感嘆と憧憬に声を上げるほどの見事さであった。

 

 

 

それから少しして。

最後にソースを漉して粗熱を取った後、レモン汁と和辛子を加える。

 

(ん……やっぱり、寝かせていないからかなり強い。でも──)

 

濃密な味わい。

鮮烈な香り。

しかし、強烈に過ぎる刺激。

 

(カツとキャベツの状態を考えれば、これがジャスト)

 

つまり。

初めに宣言した狙い通りの、会心の出来栄えであった。

 

 


 

 

そうして、三人合作のカツサンドが出来上がった。

 

「ん……!」

 

「これ、かなり良さそうじゃない……!?」

 

「う、うん、私もそう見える」

 

大皿にドッサリと積まれたカツサンドの群れを前に、サナリモリブデン達は鼻息を荒くした。

ベーカリーの物と比べて薄い小麦の香りを補うべく軽くトーストされたパンの焼き目も美しく、カツとキャベツに塗られたトロリとした艶やかなソースは眩ささえ感じる。

何より鼻孔をくすぐる揚げたてカツとスパイスの香りが三人の期待をどんどん膨らませていく。

 

空きっ腹にはたまらない宝の山だ。

買い出しと調理を経て、現在時刻は10時近い。

朝食をまともに食べていない三人にはこれ以上の我慢は不可能だった。

 

示し合わせたように同時に椅子を引き、カツサンドを囲んで座る。

顔の前に手を合わせて声を発するのも全く同時。

 

「「「いただきます!」」」

 

そして、いざ実食の時──!

 

 


 

【カツサンドクオリティ判定】

 

基準:結果=点数/ベーカリーカツサンド=200点

 

補正:普通のキャベツ/補正なし

補正:上質なトンカツ/+15%

補正:上質なソース /+15%

参照:腕前合計/49+10+96+46=201

 

結果:158点

 


 

 

「おいひぃーーー!!」

 

真っ先に声を上げたのはやはりペンギンアルバムだった。

喜色満面。

大きな瞳をキラキラ輝かせて大満足の様相だ。

 

「凄い……! 凄いよサナリ! 本当にあの店の味だ! 信じられない!」

 

続いたのはチューターサポート。

こちらも歓喜に震えてはいるが、より割合が大きいのは驚愕だろう。

ひと口かじったカツサンドの断面を見つめて目を剥いている。

 

「残念だけど、そこまでじゃない。本物と比べると少し劣る。あれはもっとソースが全体と濃密に結びついて一体になってた」

 

最後はサナリモリブデン。

チューターサポートの絶賛に対して、より精密な評価を下す。

その言は正しく、朝に味わった極上の美味には一歩、いや二歩は足りていない。

 

舌に触れる味わい。

鼻を抜ける香り。

それらは確かにかの絶品に良く似ている。

 

だが、自作カツサンドの味は鋭かった。

トゲがある、と言い換えても良い。

ベーカリーの物は薫り高く刺激的でありながら一本筋の通ったまろやかな統一感があったのだ。

それと比べてしまえばどうしても劣ると言わざるを得ない。

 

「でも、模倣としては十分な出来。私達は良くやった。……これは再現失敗じゃない」

 

が、サナリモリブデンは微笑んだ。

 

最高峰には届かなかった。

けれど、少なくとも一般的なカツサンドにおける満点は優に超えた味だと。

 

「家庭向け時短アレンジ、大成功。そう言っていいと思う」

 

「なるほど、まさしくって感じだ。これが、アレンジ……!」

 

「もーサナリン天才! 何よりお腹いっぱい食べれるのが最高すぎるよぉ!」

 

食卓は大層ご機嫌だ。

ペンギンアルバムなど、感涙にむせびながらサナリモリブデンの腕をぺちぺちする手の動きも実に軽やか。

 

「あっ、そうだ!」

 

その上機嫌に任せるまま、ペンギンアルバムはカツサンドを一切れ手に取った。

そして何やらむむむと念じるとそれをサナリモリブデンの口元に差し出す。

 

「はいサナリン、願掛けておいたから! 毎日王冠勝てますようにって!」

 

「ふふ、よくあるやつだ」

 

「そーそー、よくあるやつ、へっへ」

 

カツだけに、というやつだ。

もちろんサナリモリブデンに断る理由はない。

一番の親友からの可愛らしく嬉しい応援を、そのままあーんと頬張る。

 

満足感たっぷりの分厚く柔らかいヒレ肉。

噛むほどにしみ出す肉汁が衣に含まれたソースと溶け合い、舌を喜ばせてくれる。

そのままでは若干強すぎる酸味と辛味は瑞々しいキャベツのおかげでちょうどいい所に落ち着いていた。

トーストされた小麦の香りも加わればバランスは抜群に良く、そんじょそこらのパン屋では裸足で逃げ出すほかない逸品である。

 

「じゃあ、はい。私からもお返し。菊花賞、勝てますように」

 

「やったー! サナリン大好きー!」

 

そこに親愛まで加わった美味しさを味わった以上、サナリモリブデンの次の行動は当然決まっていた。

同じく一切れに願を籠めてペンギンアルバムの口元へ。

小さな青毛の食いしん坊は幸せいっぱいに噛り付く。

 

 

 

「ははっ、ちょっと二人とも。私も今月走るんだけど?」

 

「ん-、ごめんねー。私の愛はサナリン専用なのだ☆」

 

「残念だけど、勝つのは私だからあげられない」

 

友人同士、そしてライバル同士の冗談なんかも軽く交わしつつ。

充実した休日はこうして過ぎていくのだった。

 

 


 

【イベントリザルト】

 

友好:ペンギンアルバムの絆+10

友好:チューターサポートの絆+10

成長:根性+5/賢さ+10

獲得:コンディション/絶好調

獲得:スキルPt/80

 

ペンギンアルバム  絆75 → 85

チューターサポート 絆50 → 60

 

スピ:482

スタ:385

パワ:394

根性:451 → 456

賢さ:391 → 401

 

スキルPt:280 → 360

 




毎日王冠レース生成まで進めなかったので明日に回します

【ダイスログ】

【挿絵表示】



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クラシック級 10月 毎日王冠作戦選択

 


 

 

「はい、というわけで東京レース場第10レース、神無月ステークス、1着はアイタンリでした。2着以降はハナ差プロペライザー、1バ身差アンチェンジング、アタマ差ホエロア、クビ差デュークダムポピーとなっています」

 

「いやー、白熱! プロペライザー惜しかったぁ! 最後差し切ったように見えたんだけどなぁ。ゴールがあと50cm奥だったら……」

 

「蓮崎さんミザール組推しやもんなぁ。視聴者の皆さんにも聞かせたりたかったですわ。この人な、レース中ずーっと隣で凄い声援やったんですよぉ~。もーうるっさいのなんの! 鼓膜新しいの買ってこなあかんか思いましたわ」

 

「ははは、すみませんついつい。ライバルチームが解散してから低迷続きなもんだからね、ファンとしてはこういう苦しい時こそ声を出さなきゃって思っちゃって」

 

シンプルに飾り付けられたスタジオの中で、並んで座った男達がそれぞれ声を発する。

生真面目そうなスーツのアナウンサーが一人。

ジャケット姿、引退して指導者に回った元スポーツ選手が一人。

明るい色のスーツを着た関西出身の芸人が一人。

 

CS放送、レース専門チャンネルのとある番組だった。

 

「推している子が出るレースの応援は誰しも力が入ってしまうものですよね。では今のレースをもう一度、事前の予想を表示しつつ解説を交えて振り返ってみましょう」

 

ガチガチに解説や考察を行う硬派系とは到底言えず、知識量を問わず大勢のタレントを並べてわいわいと観戦を楽しむ姿を流すライト系とも遠い、そんな立ち位置。

つまりはバランス重視の中庸派である。

今もレースを振り返りながら、専門的すぎない、素人でもよくよく見れば分かる展開の要を三人が語り合う。

ある程度の解説や予想を求めながらも気を抜いて観戦したいという層は厚く、数多あるレース番組の中でもそれなりに上位の人気を誇っている番組だ。

 

そんな第10レースの解説は5分ほどで終わりになる。

見ごたえのある接戦だったとアナウンサーがまとめ、カメラに向き直った。

 

「……さて、それでは皆様もお待ちかねでしょう。次は本日のメインレース、G2毎日王冠です」

 

「おぉっしゃ待ってましたぁ! 激熱確定やんな!」

 

「痺れたよねぇ、あの8月の宣戦布告。中々出来る事じゃないよアレは。僕ずーっと楽しみでさぁ」

 

「雑誌の特集にニュースのレースコーナーに、一時期どこも一色になってましたからね。マイル絶対王者マッキラvs鋼の挑戦者サナリモリブデン。もうすっかりお馴染みの名前でしょう。今回はこの大注目のレースに当たり、特別ゲストをお呼びしております」

 

特に視聴者の評判が良いのはこの特別ゲストだ。

番組プロデューサーが持つ人脈の太さを生かしたゲストの質は界隈でもなかなか飛び抜けている。

G1や注目度の高いレースの中継時に限られるが、名トレーナーとして知られた人物や過去の伝説的なウマ娘が出演する事も多い。

 

では今日はというと。

 

「どうぞお入りください。マイルレースといえばこの方、XX年度代表ウマ娘……ニッシラテンザンさんです!」

 

「どうもー! 史上最強マイラー☆ニッシラテンザンでーす♪」

 

笑顔の眩しい成人のウマ娘であった。

御年2X歳。

十数年前、地方レース出身でありながら中央に殴り込んで輝かしい戦績を残し、ターフの視線を一身にかっさらったスターウマ娘だ。

主な勝ちレースはG1だけでもマイルチャンピオンシップ、フェブラリーステークス、チャンピオンズカップ、安田記念。

芝も砂も選ばず1600~1800の重賞を片っ端から荒らし回り、当時のレース関係者から「マイル戦線逃げ場無し」と畏怖をもって仰ぎ見られた存在だ。

 

そして、レースを引退して長い今ではマルチタレントに転身して様々なテレビやネットの番組に出演するお茶の間の顔の一人である。

 

そんな彼女は落ち着いた色合いのワンピースに身を包みながらも、動作は全く落ち着きなく明るい栗色の尻尾とダブルピースを振り回しながらスタジオに入場した。

その勢いのままのっしのっしと出演者に近寄っていく。

 

「おー、ってまたニシちゃんかい」

 

「あはは、どーも僕はお久しぶりで」

 

「はーい蓮崎さんお久しぶりでーす! ほんで柳くんは突っ込み甘くなーい? 誰が史上最強かーとか言わないの?」

 

「いや言えるかぁ! 最強マイラー論争の常連相手にそんなん言うたらあちこちからボコボコにされるわっ」

 

「だよねー☆ 前に本当に言っちゃってボコにされたもんだからお顔がジャガイモみたいになったんだもんね……」

 

「せやねん、ほらここ見て? 前にニシちゃんに蹴られた跡なんよこの穴ぼこ、って不細工は赤んぼの頃からじゃボケ!」

 

ニッシラテンザンはこの番組における常連ゲストの一人だった。

視聴者もすっかり見慣れたニッシラテンザンによるイジりと芸人のノリ突っ込み。

相変わらず仲が良いですねぇとアナウンサーが笑い、四人に増えたスタジオでレース紹介が始まっていく。

 

 


 

【レース生成】

 

【毎日王冠(G2)】

 

【秋/東京/芝/1800m(マイル)/左】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:202(クラシック級10月の固定値135/G2倍率x1.5)

 


 

 

スタジオ中央に置かれたスクリーンにレース場が映る。

ビュースタンドからの眺めだ。

一周2000メートル少々のコース全景はもちろん、そこに出来るだけ近付こうと密集する人々の動きも一望できる。

 

「本日の天候は晴れ、バ場状態は良の発表。まさにレース日和ですね」

 

「先週の予報見てヒヤヒヤしとったけど、ほんま晴れてよかったなぁ」

 

「ねー。変わりやすい秋の天気に感謝だよ。やっぱレースは晴れの良バ場! もう雨の日は延期でいーじゃん」

 

「ニシちゃん毎度それゆーとるね」

 

その全景を眺めながら解説が始まる。

中心となるのはもちろん、実際に何度も東京レース場1800メートルを走った経験を持つニッシラテンザンだ。

 

「じゃ、まずコース紹介ね。1800の場合のスタートは、ここっ」

 

アナウンサーから受け取った指示棒を伸ばし、良く通る滑舌の良い声が発せられる。

示されたのはスタンドから見て右手側、1コーナーと2コーナーの中間点だ。

 

「ポケットから。つまり、いきなり目の前にコーナーがあるわけ。なんとその距離100メートル。私達の脚だとほんとに一瞬で突入だね」

 

「となると枠順の影響がかなり大きいのかな」

 

「そ! すっごいわかりやすい内枠有利の外枠不利。外の枠はここでしっかり上手くやらないと後々まで苦しいんだよねぇ……」

 

「えらい実感こもっとるなぁ」

 

私はくじ運がねぇ、と肩を落としたニッシラテンザン。

だが、すぐに持ち直して続ける。

 

「最初のコーナーを越えたら向こう正面の中盤戦。途中まではゆるーい下り坂だけど、真ん中くらいに上り坂があって、ガーッと下りながら3コーナーに突入してく形だね」

 

「距離が長く上り坂もある関係から、この辺りはゆったりと走るのがセオリーになっているようですが……」

 

「セオリーではね。……今日は関係ないだろうなぁ。ほら、なにせあの子がいるから」

 

「マッキラさんですね」

 

「うんうん。レコードブレイカーっていうよりもう常識ブレイカーだ」

 

指示棒がゆるりと流れてコースの先へ。

向こう正面が終われば、当然次は3コーナーと4コーナーである。

 

「東京のコーナーはいいよぉ。私、ここ好きなんだよね、ゆったり大きいから曲がりやすくて。ちょっと上り勾配はあるけど殆ど平坦に近いし、直線に向けて加速していくのが気持ちいいんだぁ」

 

「現役の頃もここでガンガンに攻めとったもんな」

 

「私も良く覚えていますよ。特に、ちょうど同じ毎日王冠でしたね。オリヤマクルーズさんと競り合いながら上がっていくシーンは時々見返したくなります」

 

「あー、それ! 楽しかったなぁ、あのレース……。あっ、気になる視聴者さんは"ニッシラテンザン 毎日王冠"で検索してみてね。コメンタリー付きのDVDも売ってるから是非!」

 

ちょっとした脱線が終われば、最後の直線だ。

指示棒の先のボールがスクリーン上を滑り、ゴール板をビシッと叩く。

 

「で、最終直線! 525.9メートル! うーん長い」

 

日本で二番目の長さ、だったよね」

 

「ですです。あと、途中に高低差2メートルの急坂があるのも特徴。ここまでに余裕なくしてるとガクッと来て捕まっちゃう」

 

「対策は何かあるの?」

 

「スタミナをしっかり残しておくか、勢い任せでなんとかしちゃうか。私はもっぱらノリと根性でなんとかしました!」

 

以上が東京レース場、1800メートルコースの解説だった。

まとめると、序盤戦はいきなりコーナーから始まり、位置取り争いが激しい

中盤戦は長い直線をゆったりと進むのがセオリーではあるが、マッキラの存在からその展開は期待できない

終盤のコーナーは曲がりやすく、加速しながら直線に向かいやすい

そして直線は長く、途中に急坂がある。

 

これらの情報を視聴者が飲み込めただろう頃に、スクリーンは表示を変えた。

 

「では次に枠順紹介です」

 

「いやー、最初見た時笑っちゃった。レースの女神様も粋な事するもんだなーってさ」

 

 


 

【枠順】

 

1枠1番:アングータ

2枠2番:スローモーション

3枠3番:ジュエルオニキス

4枠4番:プカプカ

5枠5番:ムーンポップ

6枠6番:ダブルサラウンド

6枠7番:チューターサポート

7枠8番:ジュエルルベライト

7枠9番:クピドズシュート

8枠10番:マッキラ

8枠11番:サナリモリブデン

 


 

 

ニッシラテンザンが意地の悪そうな声でくつくつと笑う。

 

「この二人が並ぶ? 並べちゃうの? こんな事ある?」

 

「ネット上でも話題になり、ウマッターのトレンドに上がりました。マッキラさん、サナリモリブデンさんの名前と共に、運命の大外決戦という言葉もありましたが」

 

「うん、もう運命でしょこんなの。女神様が戦えって言ってるんだよ」

 

と、そこでニッシラテンザンが笑いすぎて猫背になっていた背を伸ばす。

笑みを引っ込めて皮肉げに顔を歪め、やれやれ、と両手を軽く上げた。

 

「……って言いたいとこだけど、11人だからね。こういう事もあるよ。あーあ、折角楽しそうな勝負に水差されちゃった気分。……今のシニア級は腰抜けばっかりで嫌になるね」

 

ニッシラテンザンの言葉はひどく強かった。

吐き捨てるような声には侮蔑が色濃くにじんでいる。

本来テレビ番組で発するべきものとは到底言えない。

 

だがそれは、視聴者の心を代弁するものでもあった。

毎日王冠、その出走表にはシニア級ウマ娘の名前は……一つもない。

クラシック級にして安田記念を制するという偉業を成し遂げたマッキラの参戦を受け、相次いだのは出走回避だ。

本来ここに並んでいるはずの名前は櫛の歯が抜けるように零れ落ちたのだ。

 

「すみません、そういうお言葉はちょっと……」

 

「おっと、じゃあ逆に言うね。この10人はほんと良いよ。すごく、いい。筋金入りだ。アングータ、スローモーション、ジュエルオニキス、プカプカ、ムーンポップ、ダブルサラウンド、チューターサポート、ジュエルルベライト、クピドズシュート……」

 

ニッシラテンザンの指がスクリーンを滑る。

噛み締めるように一人一人の名前を呼び、マッキラを飛び越して11番を指す。

 

「──サナリモリブデン」

 

にぃっ、と。

獰猛に歯を剥いて、細めた瞳に稚気にも似た熾火を灯らせる。

 

「いいなぁ。いい。楽しみだよ。今日はどんな走りを見せてくれるのかなぁ、この子は」

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ごめんごめん、ちょっと気持ちが入りすぎたね。よーし気を取り直して注目ウマ娘いこっか!」

 

「ほんま勘弁してくれや! 目の前でいきなり現役に戻られたら寿命縮むわ!」

 

「ははは……やっぱりあのニッシラテンザンなんだなぁ。実感したよ」

 

解説はお詫びのテロップを出しながら再開された。

ニッシラテンザンの語気の強さを謝罪するものだ。

 

が、スタジオの空気は重くない。

何しろニッシラテンザンと言えば気性難として良く知られている。

レース番組出演時に熱くなって問題発言をこぼすのもたびたびであり、視聴者にはむしろそれが彼女の味と捉えられている部分があった。

実際、局に寄せられている苦情の電話は放った言葉の割には随分と少ない。

 

「それでは順にお聞きしていきましょう。まずは蓮崎さんの注目はどの子でしょう?」

 

なのでアナウンサーも平静に進行した。

名前を呼ばれた元スポーツ選手は手元のフリップを立ててカメラへ向ける。

 

「そりゃあもうこの子! マッキラだね」

 

黒のマジックで力強く書かれた名前をトントン叩き、言う。

 

「言わずと知れた絶対王者。あの何かの冗談としか思えないメチャクチャなフィジカルはアスリートとして羨ましいと同時に恐ろしくてたまらないよ。僕は間違いなく彼女が今日もぶっちぎると思うね」

 

それに続いたのは隣の芸人だ。

何度も頷いて同意を示し、フリップを持ち上げる。

そこに書かれた名前もやはり同じ名前だった。

 

「まぁそやろね。最初から最後までずーっと逃げてぶっちぎり! いつものマッキラで今日も勝つやろ。負ける姿が思い浮かばんわ。なんぼなんでも強すぎる」

 

鉄板予想である。

番組を見守る視聴者の多くも同意見だろう。

 

最小着差、3バ身。

 

未だ何者にも影さえ踏ませていない隔絶した力量にはそれだけの説得力がある。

無敗記録は今日また一つ増えるのだと信じる者は多い。

 

 

 

「ふふ、そうかなぁ~? 私はちょーっと違う意見だけどね」

 

ただ、中にはそうではない者も居る。

ニッシラテンザンだ。

彼女はにやりと笑うと自分のフリップをカメラに近付けて大写しにした。

そこに書かれていたのは……。

 

「サナリモリブデンと……。ん? スローモーション?」

 

その二つの名前だ。

反応したのはアスリートの蓮崎だった。

なぜここでその名前が出るのかと問いただす。

 

「サナリモリブデンは分かるけど、スローモーション? どうかな、ちょっと力不足に見えるけど。対抗ならチューターサポートの方が目があるんじゃない?」

 

「蓮崎さん分かってなーい。レースが一人ずつ別々に走ってタイム計る競技だったらそうだけどねぇ」

 

対するニッシラテンザンは下がらず返した。

いわく、チューターサポートは確かに強い。

だが、彼女の走りには怖さがないと。

 

「チューターサポートちゃんはさ、真っ向から正々堂々マッキラを打ち破ろうとしてる感じだよね。今までの対戦から見てると。でもあれだけフィジカルに差があると難しいよ。よほど運が味方につくか、マッキラが調子崩してミスしないと……まぁ順当に負けちゃうんじゃないかな。2着3着になら食い込んできそうだけど」

 

「い、や、そんな事もないやろ……。8月はよう走っとったやん。気迫ってもんがあったわ」

 

「お? なーに柳くん、マッキラが勝つーって言ってたくせにぃ」

 

「予想と好みはちゃうやん? 好きなんよなぁ、あの全っ然揺れない冷静な走り! やのにラストスパートの加速はドカン! なんちゅーか、引き絞った弓みたいでなぁ」

 

大袈裟な身振り手振りを交えて芸人がチューターサポートを擁護する。

どうやら大ファンとまではいかずとも推しの一人であるらしい。

 

「じゃあ勝てると思う?」

 

「…………意地悪い事聞くなやぁ」

 

が、推せたのはそこまでだ。

芸人もチューターサポートが1着を取るとは思えないようだ。

しょんぼりと消沈して肩を落とす。

 

「ま、そんなわけでね。私の注目はチューターサポートちゃんじゃなくて、サナリモリブデンちゃんとスローモーションちゃん! もしこのレースで1着をマッキラからもぎ取れるとしたら、このどちらかだと思う」

 

「うーん、やっぱりわからない、かな。実力から見てサナリモリブデンは分かるよ。でもスローモーション……? 機を見る目があるのは認めるけど、ここに食い込めるほどかな?」

 

「そ、スローモーションちゃん。怖いよ~、この子は。これ、賭けてもいいんだけどさ」

 

またも投げられた蓮崎の言葉にニッシラテンザンは胸を張って答える。

 

スローモーションちゃんはきっと、今回のレースに合わせて武器を用意してきてる

 

絶対に。

間違いなく。

そう強固な文言を付け足してまでニッシラテンザンは保証した。

 

「去年6月のメイクデビューでこの三人に負けて以来、スローモーションちゃんはずっと三人だけを標的にしてきてる。他の誰よりも多く三人と戦って、嫌ってほど近くで観察してきてる。しかも、その執念を隠そうとさえしないくらいこの三人に勝ちたがってる子が……標的全員が揃った舞台に無策で上がるなんてありえない

 

ごくりと息を飲む音。

G1レース4勝という経歴を持つウマ娘の言葉にはそうさせるだけの力があった。

 

その、硬さを増した空気の中でニッシラテンザンだけが生き生きと動く。

フリップを指す指先が、スローモーションの名からサナリモリブデンへと。

 

「そして、この子も同じ。あの宣戦布告は見てるでしょ? あんなに揺るぎなく戦意を叩きつけられる子が、何も起こさないなんて思えないよね。絶対に何かある。狙い通りハマりさえすれば、マッキラさえ倒し切れる何かが」

 

「……勝機はないと本人は言っていたけれど?」

 

「でも、勝つとも言ってたじゃん。私の経験からいくとさ、サナリモリブデンちゃんはやるって言ったら絶対にやるタイプだよ。たとえ命がけの走りでも瞬き一つしないで平然とね。……今でもよーく覚えてる。現役の頃は──」

 

ほう、と。

恋するような吐息と共に、最後の一言が漏らされる。

 

「──こういう子が、一番怖かった」

 

 

 

 

 

そこで番組は一区切りとなった。

パドックが始まり、解説は今日の各ウマ娘の状態に移る。

 

……しかし、そうなっても未だスタジオにはかつての怪物から漏れ出た炎が燻っていた。

脚を組み頬杖をつくニッシラテンザンは実に楽しそうにスクリーンを見つめている。

チリチリと、戦意の火の粉が舞うようですらあった。

 

 

 

既に一線を退いた者をして胸を焦がす激戦の気配を伴って。

毎日王冠が、始まる。

 

 

 

 


 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝B/スピード&パワー+10%

距離適性:マイルA/スタミナ&賢さ+20%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:補正なし

 

調子:絶好調/ALL+10%

 

スピ:482+96 =578

スタ:385+115 =500

パワ:394+78 =472

根性:456+45 =501

賢さ:401+120 =521

 


 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:1 差し:2-3 先行:4-5 逃げ:2

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/8枠10番:マッキラ(逃げ)

2番人気/8枠11番:サナリモリブデン

3番人気/6枠7番:チューターサポート(差しor先行)

 


 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:482+96 =578

スタ:385+115 =500

パワ:394+78 =472

根性:456+45 =501

賢さ:401+120 =521

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(22/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv1(効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 




レース本編は土日を使って書きます
恐らく早くても日曜夜です
時間かかってますが書いてます
3/18までには何とか……

【ダイスログ】

【挿絵表示】



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クラシック級 10月 毎日王冠

大変遅くなりました。
かなり長いレース(ここまでの全話:約360000文字/今話:約30000文字)になってしまったので時間のある時にどうぞ。

また、感想での要望に応えて、今後は匿名を解除して活動報告で次話進捗状況を報告するようにします。




【投票結果】

 

差し

 


 

 

 

 

 

「作戦は以上。シンプルだね。何か質問はあるかい、チューター?」

 

静かな控室の中。

まだ年若く見える男性、チューターサポートのトレーナーが顔を上げる。

 

「ないよ。いつも通りだしね」

 

対してチューターサポートはさらりと返した。

手元のミネラルウォーターをひと口舐めるように飲んだ他は動きらしい動きもない。

顔色にも異常は見られず、呼吸や心拍の乱れもない。

 

本当にこれからレースに挑むのかと、余人が居れば訝しむだろうほどの平常心。

それがクラシック級におけるチューターサポートの常態だった。

 

トレーナーはそれを確認し、ニヤリと笑う。

 

「うん。今日も好調そうで安心した。君はそれが一番強い」

 

「安定感、ね。派手さがなくてつまらないとか、教科書通りすぎて一発がないとか良く言われてるみたいだけど?」

 

「はは、面白さで勝てるなら誰も苦労しないし、一発に頼らないといけないほど自分が弱いと思ってるわけでもないだろ?」

 

「まさか」

 

椅子の背もたれに体を預けて、チューターサポートも同じく笑んだ。

 

「サナリにもアイツにもまだ勝ててはいないけど、だからって奇策に走るほど焦ってるつもりはないよ。……足りないなら何度でも積み上げればいい。積み上げて積み上げて、そして」

 

「積み上げた100%を常に発揮する。そう、それでいい。それだけで君はあの二人だって超えていける」

 

本当に?

とは、チューターサポートは聞きはしない。

契約から約二年。

これまでの期間の中で培った信頼はその問いを必要としない程度には降り積もっている。

 

特に、とチューターサポートは思い返す。

焦燥と共に走り続け、殆ど棒に振ったとさえ言って良いジュニア級。

指示を無視してオーバーワークを繰り返した自身を肉体的にも精神的にも懸命にケアし続けたトレーナーの必死な顔を彼女は良く覚えている。

 

契約したのが彼以外のトレーナーだったならば。

そう考えて、砕けた脚を抱えてターフを去る自分の姿を想像した回数は両手の指では足りない。

 

「トレーナーがそう言ってくれるなら、私は信じて走るだけだよ」

 

「ああ、信じてくれ。君の才能の限界点はまだ朧げにさえ見えていない。鍛えれば鍛えるだけ、どこまでだって上っていける。……正直言って、今日勝つのは難しいかも知れない。けど、ここはまだ通過点に過ぎない。存分に糧にしてくるといい」

 

だからチューターサポートはもう揺れない。

最も信じるに足るパートナーの目と言葉を信じて、二本の脚で立ち上がる。

静けさの中に、二度と揺るがない欲求を秘めて。

 

「何度だって言うけれど──最後に笑うのは君だ」

 

 


 

 

その控室の中に光はなかった。

照明は全て落とされ、手元さえ見えない闇に包まれている。

響く音もない。

唯一の例外は深い呼吸の音だけだ。

 

「…………」

 

闇に溶ける黒鹿毛が吐息に合わせて揺れる。

 

他には何もない。

それは彼女が集中を深めるために必要な最低限の環境だった。

 

生来、彼女の感覚は鋭敏に過ぎた。

光と色彩は眼窩を刺すように。

音は鼓膜をえぐるように。

大気の揺れさえ柔肌を裂くように。

 

静穏に包まれた暗室だけが彼女にとっての安息の地だ。

 

(……チューターサポート)

 

単純な生活にさえ支障をきたしかねない異常な五感は常に彼女を苦しめてきた。

ただ生きるだけで窒息するような感覚の洪水に曝され続け、幼少期は記憶すら曖昧である。

波に慣れ、情報の取捨選択が可能となってからも、処理のために酷使される脳が頭痛を訴えなかった日は数える程度にしか存在しない。

 

(……サナリモリブデン)

 

幸いだったのは、彼女がそのハンデをハンデとしてのみ抱えたままでいるほどに弱くなかった事だろう。

 

並外れた五感を彼女は己の武器とした。

見る。

聞く。

感じる。

それだけであらゆる情報を読み取り咀嚼する能力として。

 

(……マッキラ)

 

そうして得たこれまでの全てが、暗い部屋の中で再生されていく。

積み重ねたトレーニング。

もぎ取った勝利の栄光と、味わった敗北の苦渋。

そして、色鮮やかに過ぎる世界の中、他の何にも勝り光を放っていた、敵手の一挙手一投足。

 

巌の如く揺るぎない姿。

鋼めいて振り下ろされる脚。

遥か遠い背。

 

その全てを、一分の狂いもなく彼女は記憶し、安息を塗り潰すように瞼の裏に投影し続けている。

 

 

コンコン、と。

ほんの小さく、控えめに鳴らされたノックで想起は終わった。

 

「時間よ、スローモーション」

 

「……はい。ありがとうございます、トレーナーさん」

 

部屋の外からかけられた声に返事を投げて、彼女は立ち上がった。

内心で、手のかかるウマ娘で申し訳ない、とも呟きながら。

 

レース前の負担を減らすためとはいえ、他者の心音が耳障りだからと控室から自身のトレーナーさえ締め出すウマ娘は多くないだろうなとスローモーションは自嘲する。

そうして、そんな担当に愚痴どころか不満や不安の表情ひとつ見せた事のないトレーナーと契約を交わせた幸運を噛みしめた。

 

「…………作戦の指定は、なにかありますか?」

 

「いいえ、いつも通りよ。私の予想なんかよりあなたの目の方がよほど鋭い。自由に走ってきなさい」

 

「わかりました。……いってきます」

 

放任ではなく、信任を受けて。

スローモーションはゆっくりと地下バ道を歩いていく。

 

(……今日こそ)

 

一歩ごとに、鋭く、鋭く、戦意は研ぎ澄まされていく。

闇の中で見つめ続けた過去の敗北の数々が、今彼女を高みに連れて行こうとしていた。

 

(仕留めて見せる)

 

 


 

 

はぁ、と。

幾度となく吐き出され続ける息は明確に安定を欠いていた。

 

俯いた小柄な体は震えている。

自身を抱く腕、その先端の指は過剰に力が籠り、肩に食い込んで跡を残すほど。

 

「……マッキラ」

 

その震えを止める術は誰も持たない。

トレーナーであってもだ。

 

陰鬱な雰囲気の男、マッキラの専属トレーナーはそれでも呼びかけを繰り返した。

マッキラに隣り合って座り、静かに何度も名前を呼ぶ。

反応が返ったのは、その回数が二桁にもなろうかという段になってから。

 

「トレーナーさん、どうすれば、どうすればいいですか……?」

 

縋るようにこぼれた言葉には一欠けらの自信さえない。

不安と恐怖、焦燥に押し潰され絞り出された声は酷く掠れていた。

 

「大丈夫だ。いつも通りに逃げるだけでいい。それだけで君は──」

 

「──嘘!」

 

「……マッキラ」

 

「嘘、あは、嘘ですそんなの……! そんなわけない、あの子達がいるんです!」

 

マッキラはようやく顔を上げた。

だがそこに、好転の兆しは当然のように存在しない。

瞳は揺れ、歯の根は合わず、顔からは血の気が引いている。

 

「いや、やだ……負けたくない……戻りたくない。みじめな自分になんて、戻りたくない、のに」

 

その様に、トレーナーはいくつかの言葉を思い浮かべて……しかし、飲み込んだ。

それらはとうの昔に繰り返し投げかけた言葉たちである。

そして、一様に何の効果も得られなかった言葉でもある。

今では害悪ですらあるだろう。

 

マッキラの精神状態は悪化の一途をたどっていた。

限界はもう近く、彼女を一番近くで見守ってきたトレーナーは十分に理解している。

 

「大丈夫。大丈夫だ。君は負けない。いつもそうだっただろう。逃げるだけでいい。それだけで、君に追いつける者はいない」

 

だから、彼はそう言うしかなかった。

ただの気休め、限界点の先延ばしを今日も続ける。

 

「……本当に? 本当ですか? トレーナーさん、本当に?」

 

「ああ。確かに、彼女達は強い。その上、君がどれだけ引き離そうと諦めないだろう。……だが」

 

小さな体を暖めるように寄り添い、トレーナーは願う。

自分の声に、半ば抱いた絶望が滲まないように。

 

「諦めない程度の事で、君に追いつけるわけがあるものか」

 

「……ぁ、は。そう。そうですよね。そうだ、そうに決まってる。私は負け犬なんかじゃないんだから……!」

 

そして。

出来ることならばどうか、間に合ってくれるようにと。

 

 


 

 

「懐かしいですねぇ。覚えていますかサナリさん。去年の12月です」

 

落ち着いた、というよりものんびりとした声が発せられる。

サナリモリブデンのトレーナー、郷谷静流のものだ。

 

「レース展開はあの日と似たものになるでしょう。桁違いのスピードで逃げ続けるマッキラさん。その背を射落とさんと追う多くのライバルたち。そして、さらに背後から狙い撃つサナリさん」

 

その言葉に揺らぎはまるでない。

自らの愛バこそが勝利するという絶対の確信をもって彼女は語る。

 

「ですが、決定的にあの時と違う点があります」

 

……否、そんなものはまやかしだ。

取り繕えるのは表面だけ。

郷谷の心中に確信などかけらもない。

湧きあがるのは迷いばかりで、絶対と胸を張れる保証は彼女には何一つ見つけられなかった。

 

マッキラ。

サナリモリブデンがこれより挑むマイルの魔王は、そんな楽観を郷谷に許してくれるほどに生温い生態を持たない。

 

「──今日は、確かな勝機がある。今度こそマッキラさんを倒し得る鋭さが、今のサナリさんの脚にはあるはずです」

 

出走を確定させた2ヶ月前から幾度となく繰り返したレース展開のシミュレーション。

それが一体どれほどの頼りになるのかと郷谷は苦悩する。

こうして吐き続ける指示は、果たしてどれほど正しいものなのか。

 

本当にこれで良いのか。

序盤からマッキラと競り合うべきではないのか。

枠順の隣接を利用して、スタートの一歩目から潰しにかかる策を捨てるに足る利はあるのか。

逡巡は無限に湧き続ける。

 

所詮、彼女は未だ新人の域を出ないトレーナーである。

自分自身の判断を信じ切るにはあらゆる経験が不足している。

 

「取るべき作戦は後方待機。仕掛け時は、ここ。武器を抜くタイミングを見誤らないよう注意ですよ。焦りやためらいはそれまでに捨ててしまって下さい」

 

それでも郷谷は揺れる己を見せなかった。

この指示に従えば勝てるのだと、サナリモリブデンが信じるに足る大人を演じ続ける。

 

判断が正しいと信じ切れない不安はある。

自身の誤りが敗北を呼び込むのではないかという恐怖を今日も抱いている。

だが。

郷谷にはそれらを抑え込むだけの信仰が一つある。

 

「サナリさん。やれますね?」

 

強く握った手から、ウマ娘らしい高い体温が郷谷へと伝わる。

 

「うん。やる」

 

返された言葉は短く。

けれどそこに籠められた炎の嵩は何もかもを焼き尽くさんばかりだった。

 

 

 

「トレーナー」

 

「はい、なんですかサナリさん」

 

その炎に身を包んだまま、サナリモリブデンは口を開いた。

繋いだ手に鋼色の視線を向けて。

 

「良く覚えてる。忘れた事はない。選抜レースのあの日、こうして差し出してくれたトレーナーの手と、言ってくれた言葉」

 

「えぇ、私も覚えていますよ。何しろ初めてでしたからね。あんな風に誰かを口説こうとしたのは」

 

サナリモリブデンは思い返す。

自身の脚へ初めて向けられた暖かな期待。

諦めるべきと多くの人々が痛ましく目を伏せた非才の身へとまっすぐに、最高の才能の持ち主だと手を差し伸べてくれた日の事を。

そして。

 

「ずっと謝りたかった。……6月のメイクデビュー。私は、トレーナーのあの言葉に泥を塗った」

 

だからこそ拭えずにいた悔恨を。

 

「サナリさん……? 何を言っているんですか。初戦の負けがなんだっていうんです」

 

郷谷は困惑する。

謝られる覚えはない。

その程度の躓きで何故、と。

 

「そんなもの、サナリさんは乗り越えてきました。敗北だって糧にしてここまでやってきたじゃないですか。泥なんて──」

 

「ううん」

 

しかし、サナリモリブデンは否定する。

誰より硬く、重く、曲がらず、歪みを知らない鋼の心は、かつての己を決して許そうとはしない。

 

「あれは……あの日の不足だけは、あってはいけないものだった」

 

 

 

「心配しなくていい。弱気になったわけじゃない。これは、ただの決意表明だから」

 

心配をにじませた郷谷へと、サナリモリブデンは微笑んだ。

その瞳に揺れはない。

 

「今度こそ、証明してみせる。トレーナーの言葉を嘘になんかさせない」

 

そうして、立ち上がり戦場へと歩を進める。

背に刺さる視線に未だ困惑が含まれているのを知りながらも、歩みは確かなものだ。

 

郷谷はサナリモリブデンの言葉を理解しきらず。

そして理解されていない事をサナリモリブデンも気付いている。

だがそれでいいと彼女は断じた。

 

「大丈夫。信じていて。それだけでいい」

 

理解を放棄する諦めではない。

ただ。

 

()()()()()()()

 

理解ではなく信頼を。

それだけでサナリモリブデンは満たされるというだけの話。

 

 

「……全くもう。何が何だか分かりませんが、えぇ、任せて下さい」

 

見送る背に満ち満ちる戦意を読み取って、郷谷も頷いた。

 

「いいですかサナリさん、これは完全に自慢なのですが」

 

心配なぞ放り捨てて、不安を押し殺し、恐怖を踏みつけて隠し切り。

今この時、必要な言葉だけを投げかける。

 

「あなたを信じる事にかけては、今や私は世界一なんですよ」

 

 

 

征く者と見送る者はそれで別れる。

 

クラシック級、10月。

戦場に、火が灯る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『東京レース場第11レース、G2、毎日王冠。ゲート入り開始までもう間もなくというところ』

 

人々でごった返すレース場に実況の声が響く。

 

『スーパーG2と呼ばれる事も多い毎日王冠ですが、今回の注目度はまさにG1級。実況席からも応援スタンドのうねるような熱気が良く窺えます』

 

『午前中からすでに超満員との発表がありましたからね。絶対王者に真っ向叩きつけられた挑戦状、その結果は誰もが気になるところなのでしょう』

 

その言葉通り、現地は熱狂の渦に包まれていた。

一歩でも近くで勝負を見届けようと人々が詰めかけ、所々で混乱が見られるほどだ。

よくよく視線を巡らせれば、それをわずかでも緩和しようとスタッフが奔走している姿も確認できる。

 

 

『さて、この辺りで本日の注目ウマ娘を紹介していきましょう。まずは3番人気。6枠7番チューターサポート。本日も落ち着いた様子です』

 

そんな多くの視線が集まる中、ゆっくりとゲート入りが始まった。

1番のアングータから始まり、3番ジュエルオニキス、5番ムーンポップと続く。

 

停滞は起こらない。

出走回避が相次いだ毎日王冠。

そこに臆さず殴り込んだ者たちだ。

肝の据わり、覚悟の固さは並大抵ではない。

 

その中でも一際静かな者が一人居る。

 

『…………』

 

チューターサポートだ。

癖の強い鹿毛をかき上げて歩む姿に動揺や緊張は見て取れなかった。

まるで昼食を食べに食堂を訪れたとでもいうかのような平静さでターフを歩む。

 

『集中はバッチリという感じですね。ここから見ていても頼もしさを感じます。人気上位2名に対しての白星は未だありませんが決して劣らぬ実力の持ち主ですよ』

 

そうして視線を敵手に向ける事さえなく。

彼女は当たり前に自分のあるべき位置に収まった。

 

 

『続いて2番人気、サナリモリブデン! 今日東京レース場に集まった中で、彼女の名前を知らない方はもう居ないでしょう。8月関屋記念を4バ身差で制し、王者打倒を宣言した鋼の挑戦者です』

 

呼ばれた自身の名を、サナリモリブデンは黙したまま聞いた。

8枠11番。

大外であるがために最後まで順番を待つ彼女はライバル達が歩む背をじっと見送る。

 

その呼吸は深く大きい。

一息ごとに手足、耳、尾の先まで酸素が巡る感覚さえ掌握して戦意を高めていく。

 

『相手が絶対王者だとしても、もしかしたら。そう思わせるだけの強い走りはこれまでに見せてくれました。……今日の様子を見ると、なおさら期待させてくれますね。どうやらこれ以上ないというほど仕上げてきています。これは本当に、もしかしてしまうかも知れませんよ』

 

つまり、完璧なまでの絶好調であった。

ゲートへ向かいながら様子を見やる者たちは、彼女の足元の芝が焼け焦げる幻視さえ垣間見たかも知れない。

 

 

『さぁそしてお待たせしました1番人気。これまで9戦9勝無敗! G1レース3勝、最小着差3バ身! 塗り替えたレコードの数、圧巻の4! クラシック級にして既に伝説との声も高い、同期にも先達にも影さえ踏ませぬマイル絶対王者、マッキラ! 突き付けられた挑戦状に、今日果たしてどんな答えを返すのか!』

 

だが、そんなサナリモリブデンの存在感はたやすく塗り潰される。

 

彼女が芝を踏み締める音は、いやに響くようだった。

姿を現し、歩む。

ただそれだけであらゆる耳目は引き寄せられる。

 

それは素朴な少女の形をしていた。

柔らかな栗毛のボブカットの下、笑みをたたえて大きく手を振る。

応えたスタンドの声援は大地さえ揺らすよう。

 

「──人、いっぱいだね」

 

そんな彼女、マッキラはゆらりと向き直った。

観客に背を向けて、挑戦者、サナリモリブデンへと。

 

その一瞬で表情は切り替わる。

笑みの形は変わらず。

けれど、もうそこにファンに向ける朗らかさはない。

どろりと粘りつくような湿度を帯びて、彼女は下方から覗き込むように言う。

 

「ふふ、8月のアレは早まったんじゃないかな。失敗だったと思うよ。どうするのサナちゃん? こんな中でいいとこなく負けちゃったら……」

 

視線だけをちらりとスタンドへ。

溢れる超満員の観客を指し示す。

 

「みーんな、すごくガッカリしちゃうよ。サナちゃんも、サナちゃんのトレーナーさんも、きっと色々言われちゃうんじゃないかな」

 

明らかな揺さぶりだった。

嘘やハッタリを含まない、敗北したならばまず起こるだろうという現実を突きつけるもの。

多少気を強く持った程度では流す事のできない言葉である。

 

「構わない」

 

だが、サナリモリブデンは平然と受け止めた。

 

「大口を叩いて負けたなら当然の事。何を言われても当たり前。覚悟はしている。トレーナーには少し申し訳ないけど、そうなっても隣で立っていてくれると信じてる」

 

「…………ふぅん。あは、サナちゃんって思ったより楽観的なんだ。じゃあ本当に無事で済むように祈っててあげるね」

 

既に完成されきった心に、現実程度が傷をつけられる道理はない。

 

手応えの無さにマッキラはほんの一瞬だけ顔を歪めた。

それを、やはり一瞬で覆い隠して彼女は歩みを再開する。

向かう先は孤独なゲートだ。

 

 

「マッキラ」

 

その背にサナリモリブデンが言葉を投げる。

 

「楽観じゃない。理由は……きっと、あなたが誰より知っている」

 

囁くようなそれが、深く絞られたマッキラの耳に届いたかどうか。

 

 


 

 

『各ウマ娘ゲートイン完了。係員が離れていきます』

 

東京レース場が静まり返った。

潮が引いた海のようにざわめき一つない世界の中で、ウマ娘達が自身を番えて弓を引き絞る。

 

ある者はどこまでも凪いだ心で。

ある者はマグマめいた執念を抱いて。

ある者は硬く硬く鋼のように己を固めて。

 

絶対を冠する怪物を、今日この時撃ち落とすために。

 

『王者対10人の挑戦者、毎日王冠。今──』

 

 


 

【スタート判定/サナリモリブデン

 

難度:202

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/521+104=625

 

結果:446(大成功)

 

 

【スタート判定/チューターサポート

 

難度:202

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/430+86=516

 

結果:208(成功)

 


 

 

『スタートしましたっ! 5番ムーンポップわずかに出遅れたか。大外サナリモリブデン素晴らしいスタート!』

 

その初速は正しく矢のようですらあった。

 

ほぼ一線に並んだスタートの中で、サナリモリブデンは優に一歩半を抜きん出る。

およそ望み得る最高の飛び出しと言ってなんら差し支えない。

 

だというのに。

サナリモリブデンの顔には満足も歓喜も存在しない。

何故ならば。

 

『だがしかし──』

 

 


 

【スタート判定/マッキラ

 

難度:151

補正:コンセントレーション/+30%

補正:コンセントレーション/x0.75(対難度)

参照:賢さ/450+135=585

 

結果:558(特大成功)

 


 

 

『──その一つ内、マッキラがさらに上を行く!』

 

戦慄がサナリモリブデンの背筋を這い上る。

得られたはずの完璧な手応えは瞬く間さえ与えられずに砕け散った。

 

この初速で、並べさえしなかった。

 

どこまでも冷たいその事実が刃のような鋭さでもって襲い掛かる。

 

(くだらない)

 

無人の野を裂き進みながらマッキラが胸中だけで言葉を転がす。

嘲るように。

あるいは、そうであれと祈るように。

 

(くだらない、くだらない、下らない下らない下らない! 私は負けない! 負けないんだ! あなたたちみたいな負け犬の言葉なんて──聞いてやらない!)

 

 

スタートから僅か5秒。

既にスタンドからは歓喜の声と悲鳴が上がった。

マッキラの勝利。

そして10人の挑戦者の惨敗を予感してだ。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

抑えて後方につける

 


 

 

(いいや)

 

その声をサナリモリブデンは叩き切った。

勝負はまだ何も決まっていない。

嘆くのはゴールの後で良い。

 

そしてそれは、サナリモリブデン一人だけの意思ではなかった。

 

「舐めないでよ……っ!」

 

9番クピドズシュートが裂帛の気合と共に行く。

 

マッキラを除き、この場における唯一の逃げ。

幾つものレースを先頭で駆け抜けてきた彼女はこのままの敗北を許容しない。

芝を蹴る脚にプライドを乗せ、並びかけんと駆け抜けていく。

それが、どれほど絶望的な試みか分かっていようとも。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/マッキラ

 

何もかもを置き去りに逃げる

 

【難度設定】

 

補正:絶好スタート/+30%

補正:危険回避/+15%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:パワー/490+245=735

 

結果:685

 


 

【抵抗判定】

 

クピドズシュート:パワー300/成功率0%、判定不能

 


 

 

「ぐ、っ、う、ぅぅうぅぅう……!」

 

ただただ無慈悲な現実がそこにあった。

クピドズシュートは届かない。

 

並べない。

競り合えない。

背に指をかける権利さえ与えられない。

 

『王者マッキラ今日もロケットスタート! あっという間に後続を引き離していく! 9番クピドズシュートが懸命に追うも全く捕まえられない!』

 

格どころか規格さえ違う。

追う者が矢ならば、逃げる者は銃弾だった。

まるで勝負になっていない。

 

『先頭はいつも通り当然マッキラで第2コーナーに入っていきます。2番手はクピドズシュート、その後ろから──』

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

アングータはマッキラを逃げさせない

 


 

【序盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

マッキラを追う

 


 

 

『1番アングータと2番スローモーションが並んで飛び出していく。マッキラの大逃げは許さないと序盤から賭けに出たか』

 

(行かせるかよ……っ! 一歩でもいい! リードを削る!)

 

瞼を限界まで見開き、歯を食い縛ってアングータが駆ける。

彼我の実力差も、これが目の無い賭けである事も承知の上だ。

 

だが、今ここで諦めてマッキラを行かせてはそれこそ勝機がない。

速度に乗り切ったマッキラを捉える手段を彼女は持っていない。

過去の敗戦を今日も繰り返すだけに終わるのは目に見えている。

 

アングータに、他に手はない。

ならばここ、未だ完全な加速を終えていない段階で捉え、潰しにかかる以外に彼女の選択肢はなかった。

 

(──そう。サナリモリブデン。あなたはそう出るのね)

 

対し、スローモーションは幾つかある選択肢の内から一つを選び取った。

スタートから十数秒。

ウマ娘としての理論限界値に近い五感を持つ彼女はその短い時間で敵手全員の動きを感じ取った。

 

最も重要と定めたファクターは、サナリモリブデン。

その脚音が後方に埋もれていくのを聴覚のみで知り、ならばと決を下す。

 

(だったら、私は──!)

 

身を低く、余分な情報を遮断するために目を細めて。

長い前髪の隙間から遥か前方に遠ざかろうとする背を睨んだ。

 

 


 

【抵抗判定/対アングータ/マッキラ

 

難度:202

補正:絶好スタート/+30%

補正:危険回避/+15%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:パワー/490+245=735

 

結果:236(成功)

 

 

【抵抗判定/対スローモーション/マッキラ

 

難度:252

補正:絶好スタート/+30%

補正:危険回避/+15%

補正:逃げのコツ〇/+5%

補正:弧線のプロフェッサー(スローモーション)/x1.25(対難度)

参照:パワー/490+245=735

 

結果:426(成功)

 


 

 

しかし。

 

『だがしかしやっぱり届かない、速い速いマッキラ悠々一人旅の始まりだ。外枠不利も全く関係なし!』

 

"諦めない程度の事で、追いつけるわけがない"

その言葉通りにレースは展開していく。

 

『2番手は大きく離されてアングータ、その背中ピタリとスローモーション。隣に並ぶようにクピドズシュート。プカプカ、ジュエルルベライトも負けじとついていく』

 

それは明確な形となった絶望だった。

最早同種の生物かどうかさえ疑わしい程の隔絶がそこにはある。

 

だが、だからと押し潰される者はそもそもこの場にいない。

絶望など、逃げる背にとうに見た。

見て、知って、味わって。

それでもと、彼女たちはここに立ったのだ。

 

(……っ)

 

そのうちの一角。

サナリモリブデンもまた戦意には僅かの緩みも生じていない。

どころか、際限なく加速し遠ざかる背に闘志は滾るばかりだった。

 

故に、サナリモリブデンは己のすべき事を見失わない。

離れ行く背を追おうとする自らの視線を引き剥がし、行くべき道を探る。

 

 


 

【序盤フェイズ行動判定/サナリモリブデン

 

難度:151

補正:好スタート/+15%

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

参照:賢さ/521+78=599

 

結果:253(成功)

 


 

 

(見つけた……そこ!)

 

大外、11番。

東京レース場1800メートルにおいて背負った不利を打ち消すための道筋を彼女は行く。

 

目指すべきは空隙。

マッキラをここで止めると決めた者と、まだだと控えた者の間に生まれた広く大きな空間だ。

 

『その後ろに2バ身から3バ身開けてサナリモリブデン、大外から内にスッと収まった。その真後ろに──』

 

 


 

【序盤フェイズ行動判定/チューターサポート

 

抑えて後方につける

 


 

 

『──チューターサポート。そこからダブルサラウンド、ジュエルオニキスと続いて、最後方ムーンポップで11人』

 

後方集団先頭、そして最内。

それがサナリモリブデンにとっての最低条件だった。

差しを選んだ以上、然るべき時までこの場を死守する以外に彼女の勝利への道筋は存在しない。

 

サナリモリブデンはそれを確かに掴んだ。

 

(あぁ、やっぱり)

 

だからこそ横顔に宿った強靭な意志を、見て取った者がいた。

 

()()()()()()()()

 

チューターサポート。

彼女はサナリモリブデンが発する闘志に一切の悲観が含まれていないと正確に読み取った。

 

勝ち目がなくとも諦めない、と振り絞る者とは色を異にするそれ。

ただ一つの勝ち筋を意地でも手繰ると定めた決意だ。

 

チューターサポートの中で推量のための材料は整った。

今目にした決意と、前走関屋記念で目の当たりにしたサナリモリブデンの計算高さ。

そして、かつて目を焼かれた異常とまで呼べる闘争心。

 

合わせれば、サナリモリブデンが「確かな勝機を未だ保持している」という結論に至るのは難しくはない。

 

 


 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速→高速(4)/平静(0)

補正:弧線のプロフェッサー/消耗を据え置いたまま速度を一段階上昇

補正:差しA(-2)

消耗:4-2=2%

 

結果:スタミナ/500-10=490

 


 

 

『どうやらバ群の形は定まったか。単独で大きく逃げるマッキラ、逃がすものかと追う先行集団、虎視眈々とチャンスを待つ後方集団。綺麗に分かれて向こう正面の中盤戦へと向かっていく』

 

(悪いけど便乗させてもらうよ。サナリがアイツを撃ち落とした瞬間に、私が──)

 

それは当然のようにサナリモリブデンも知覚した。

後方、至近距離から投げられる視線を彼女は振り返りもせずに把握する。

 

背筋に走るチリチリとした痺れはいつか見たものだ。

鋭く、けれど温度のない冷たい敵意。

レースで、そしてトレーニングで、幾度となく感じてきたチューターサポート特有のそれに、サナリモリブデンは一度だけ尾を震わせた。

 

(構わない。やってみればいい。でも、やらせはしない。私が──)

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン】

 

速度を維持したまま脚を溜める

 

難度:202

補正:なし

参照:スピード/578

 

結果:239(成功)

 


 

【中盤フェイズ行動選択/チューターサポート

 

終盤に備えて脚を溜める

 


 

 

(君の上を行く)

(上回ってみせる)

 

視線も合わせず、言葉もなく。

大気を焦がすような戦意の応酬は静謐のうちに行われた。

 

知るものはわずかに3名。

ダブルサラウンド、ジュエルオニキス、ムーンポップ。

彼女達とて全てを解した訳ではもちろんない。

だが、漏れ出た余波は予感を生んだ。

 

後方集団が縮むようにバ群の密度を上げる。

 

大きな動きではない。

しかし、激発の瞬間に向けて、もう一度弓は引き絞られた。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/マッキラ

 

どこまでも逃げ続ける

 


 

 

静かなる後方に対し、先頭は劇的な展開を続けていた。

 

 


 

【難度設定】

 

補正:脱出術/+30%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:パワー/490+171=661

 

結果:499

 


 

【抵抗判定/モブウマ娘】

 

クピドズシュート :パワー300/成功率0%、判定不能

アングータ    :パワー300/成功率0%、判定不能

プカプカ     :パワー300/成功率0%、判定不能

ジュエルルベライト:パワー300/成功率0%、判定不能

 


 

 

否。

劇的とはもう遠い。

それは既に陳腐と言えた。

 

9戦9勝。

その全てで繰り返されてきた光景が順当にそこにある。

 

『もう一度前から見ていきましょう。マッキラ今日も絶好調、東京の長い直線をグングン進んでいく。2番手とはもう8バ身から9バ身は離れた。このままいつものようにちぎってしまうのか』

 

背を追う者たちはいずれも一流のウマ娘のはずだ。

毎日王冠、重賞とは生半な者に出走が叶うレースではない。

誰もが多くの勝利を積み重ねてきた強者であるはずだ。

 

だというのに、マッキラは軽々と引きちぎる。

並ぶなど夢にも語れない。

追い縋るだけですら魔法めいた難事だった。

 

「は、はは……」

 

分厚く、色濃く。

幾重にも折り重なるように襲いくる絶望感に、1人が乾き切った声を漏らした。

 

「やっぱり、無理でしたか……はは、こんなの、もう、どうしようも……っ」

 

わずかに俯き、とうにマッキラが踏み荒らした道を見つめながら彼女、ジュエルルベライトが途切れ途切れに言う。

 

無謀だった。

愚かだった。

絶対王者に挑む蛮勇にどれほどの価値がある。

我先にと逃げ出した者たちのように、賢く、(さか)しくあるべきだった。

 

つまり。

 

()()()()()()()()……!」

 

諦めの言葉を吐く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──っざけんなぁ!」

 

それが炸薬として作用するまで、一秒とてかからなかっただろう。

 

かかった、と。

ジュエルルベライトは俯いたまま三日月のように口を吊り上げた。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

ジュエルルベライトが煽る

 


 

【抵抗判定/モブウマ娘

 

難度:202

補正:なし

参照:賢さ/300

 

クピドズシュート:195(失敗)

アングータ   :2(大失敗)

プカプカ    :254(成功)

 


 

 

(……なんつーえぐいことを)

 

横顔に笑みを見て取ったプカプカが頬を引き攣らせた。

 

先に述べた通り、この場にいるウマ娘は残さず一流である。

しかし同時に余さずマッキラの蹂躙に曝され続けた者でもある。

デビューからの1年半、プライドをズタズタに引き裂かれ続けた者たちだ。

 

今も血を流す傷口に擦り込まれた諦め()はひどく沁みた事だろう。

逆鱗の中の逆鱗だった。

ジュエルルベライトはそれを故意に、見事に踏み抜いて見せたのだ。

 

当人をしても無傷ではない。

ジュエルルベライトの吊り上がった口元から、ほんのわずかに血が流れ落ちた。

噛み切られた唇からのものだ。

 

規格の違いを認め、諦念を吐き、敗北を容認する。

演技とはいえ、実行に移した負荷は脳髄を砕きかねないほど。

手段を選んでいられるなら候補の隅にすら上がらない一手だったろう。

 

だが、尋常の手段でマッキラを撃ち落とすなど夢でさえ語れない。

語るだけの資格、図抜けた能力を彼女は持ち合わせない。

ライバルを焚き付け、勝利を度外視した暴走を引き起こし、マッキラと潰し合わせて漁夫の利を狙う。

他に有効と呼べる作戦は彼女も、彼女のトレーナーも発見できなかった。

 

このような手を取らねばならないジュエルルベライトの自身への怒りは、肉を食い破った程度では到底収まりそうにない。

 

だが、その痛みは報われた。

クピドズシュート、そしてアングータの2人は弾かれたように飛び出していく。

ジュエルルベライトに誘発され噴き上がった怒りは彼女達の脚のリミッターを一時的に破壊していた。

 

2人の頭からは、勝利を手にするためのペース配分などという概念は消えている。

諦めなぞ認めない。

その一事のみをもって、マッキラを今捉えるためだけの疾走が開始される。

 

 


 

【抵抗判定/スローモーション

 

難度:151

補正:大局観/x0.75(対難度)

補正:大局観/+40%

参照:賢さ/300+120=420

 

結果:392(大成功)

 


 

 

さらにもう一撃が加わる。

 

(良い手ね。都合が良い。使わせてもらう!)

 

叩きつけるような足音が響いた。

一歩、二歩、三歩と繰り返す度に激しさを増す。

籠められているのは灼熱だ。

ターフを沸騰させんばかりの激怒を撒き散らしてスローモーションが加速する。

 

それはほんの数秒のみのもの。

スローモーションの急加速はすぐに終わり、彼女自身はまた元の位置に戻っていく。

 

だが、背を押すその音に暴発は勢いと規模を増した。

クピドズシュートとアングータは目を血走らせて駆けていく。

 

 


 

【抵抗判定/対アングータ/マッキラ

 

難度:262

補正:大暴走(アングータ)/x1.15(対難度)

補正:焚き付け(スローモーション)/x1.15

補正:脱出術/+30%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:パワー/490+171=661

 

結果:250(失敗)

 

 

【抵抗判定/対クピドズシュート/マッキラ

 

難度:232

補正:焚き付け(スローモーション)/x1.15

補正:脱出術/+30%

補正:逃げのコツ〇/+5%

参照:パワー/490+171=661

 

結果:131(失敗)

 


 

 

『ここで1番アングータ、9番クピドズシュートが急加速。先頭を行くマッキラとの差を縮めていくが、今仕掛けて大丈夫なのか。レースは既に高速域、ラップタイムには11秒前半から10秒台の数字が並んでいます。このスピードで今行って最後までもつのか』

 

『見るからにかかってしまっていますね。これは、残念ながらこの2人は難しいかも知れません』

 

 

 

(あああああバカが! やっちまったやっちまったやっちまった……!)

 

暴走だ、とアングータは自覚した。

煮え滾った頭で強行された追走はマッキラとの距離を見事に縮めて見せた。

 

だがそれだけだ。

勝利の目を潰えさせる暴走をもってしても"差を縮める"のが限度。

余りの性能差に場違いにもこみ上げる笑いをアングータは噛み殺す。

 

どう考えても失策である。

序盤、最初のコーナーで捉え切れなかった以上、彼女にはもう自身だけで掴み取れる勝機はない。

後は少しでも道中の消費を抑え、他の誰かがマッキラを射落とすか、あるいはマッキラが失策を犯した隙を狙う以外に手はなかった。

こんな暴走は自身を破滅させ敵に利するだけの愚行に他ならない。

 

だというのに、と。

アングータは自嘲する。

 

(でも、あぁ、クソ──)

 

止められない。

否、もう止まる気が無い。

勝利を放り捨ててでも今走らせろと彼女の中の本能が吠えていた。

 

(もう知らねぇ! 理屈なんざどうでもいい! こうなりゃとことんまで……!)

 

一度たりとも振り返らず、ターフには自分以外に誰もいないとばかりに駆け続ける遠い背中に対する怒りも敵意ももちろんある。

だが、彼女が最も許せないのは己だった。

ジュエルルベライトが周囲を煽り立てるために吐いた、諦めの言葉。

それに……ほんの一瞬だけ同意しかけた弱気こそがアングータを駆り立てていた。

 

「やってやるよ──マッキラァァァ!」

 

爆ぜる憤怒が力となって脚に宿る。

咆哮として吐き出された気迫は、それでもアングータをマッキラの隣には立たせてくれない。

 

しかし。

 

「……っ!?」

 

確かに背に届いた脅威の気配に、マッキラは尾を逆立てて振り返り。

 

 

 

 

 

()()()()

 

そしてそれは、スローモーションが何よりも欲した好機だった。

 

黒鹿毛の隙間から瞳が覗く。

遥か先を行くマッキラの瞳をまっすぐに、矢のように鋭く射貫く。

溶岩を思わせる粘性の灼熱が、王者と称されるウマ娘の心臓を焼灼する。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

マッキラから平静を奪う

 


 

【抵抗判定/マッキラ

 

難度:202

補正:逃げ焦り(スローモーション)/-15%

参照:根性/450-67=383

 

結果:50(失敗)

 


 

 

「ぁ……ぁ、っ!」

 

人知れず、悲鳴が上がった。

か細く引きつるように漏れた声は足音にかき消され誰にも届かない。

余人が知り得るのはそれがもたらした結果だけだ。

 

『しかしその無茶も絶対王者は踏み破るっ! マッキラ、さらに加速! 一度は迫ったアングータとクピドズシュートをたちまち置き去りに再びの一人旅!』

 

実況が興奮に声を上げ、観客は高らかに歓声を叫ぶ。

彼らは過去のレースで幾度も同じ光景を見た。

追えば追う程に加速し続けるマッキラの姿をだ。

無理も無謀も踏み潰して圧倒的な勝利を積み重ねてきた彼女を知るが故に、今回もまた同質の現象と錯覚する。

 

違うと。

そう理解できた者は多くない。

 

 

 

(まだ)

 

そのうちの1人。

サナリモリブデンは強く歯を噛み締めた。

 

(まだ、まだ、ここでは早い。焦りは捨てろ。研ぎ澄ませ。狙いの逸れた一撃で落とせるほど、マッキラとの差は小さくない)

 

スローモーションが作り出した好機はひどく甘美な誘惑だった。

マッキラがようやく見せた隙は、今ここで刺せとサナリモリブデンに微笑みかける。

だが、まだだとサナリモリブデンは懸命に己を律する。

 

 


 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6)/平静(0)

補正:差しA(-2)

消耗:6-2=4%

 

結果:スタミナ/490-19=471

 


 

 

『そろそろ向こう正面の終わりが見えてきた。マッキラが坂を下る』

 

まだ早い。

まだ早い。

まだ早い。

繰り返し唱え、行けと叫ぶ心を抑え逸ろうとする脚を引き留める。

 

『後続も続いていく。アングータ、クピドズシュートに先行集団が追いついた。後方も速度を上げて差を詰めにかかる』

 

深く、大きく。

激発の瞬間を目指して限界まで酸素を取り込み巡らせる。

 

チャンスは一度きり。

ここで捉えられなければ勝ちの目は消えるだろう。

 

やれるか。

などという不安は最早ない。

とっくの昔に、サナリモリブデンは"やる"と己に定めていた。

 

『さぁ、今』

 

背筋に痺れが走る。

凝縮された力が解放を目前に熱を放つ。

 

『マッキラが』

 

その瞬間まで、残り──

 

『第3コーナーへ──』

 

ゼロ秒。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

刃を抜き、王者を討つ

 


 

 

その様は砲にも似ていた。

 

東京レース場、第3コーナーへ続く下り坂をサナリモリブデンが征く。

重力を利用した猛加速をもって、マッキラを仕留めるために。

 

『サナリモリブデンがここで動いた、猛加速! みるみる前へ出ていくが、この速度で曲がり切れるか!?』

 

実況が叫んだ。

 

その言は実に正しい。

マッキラに引きずられ、既にしてレースは殺人的な高速域に達した。

現状でさえコーナリングを誤る者が出るだろう速度である。

 

それを超える速度でのコーナー突入は自滅と呼んでなんら差し支えない。

遠心力に敗北して勝負の舞台から弾き出されるのが真っ当な未来と言えた。

 

『っ! サ、サナリモリブデン──』

 

故に。

サナリモリブデンは鋼の理性を以て狂気を断行した。

 

『──転倒……!?』

 

レース場を悲鳴が満たす。

破滅的な、鮮血の結末を多くの人々が幻視して。

 

しかし。

 

『っ、いえ失礼しました! 転倒していません! 倒れていない! ですが、これは』

 

『……無茶苦茶だ!』

 

それは幻視に過ぎない。

サナリモリブデンは走り続けている。

転倒などしていない。

 

その寸前。

わずか一歩未満の狂いで幻視が現実に変わるだろうという程に、体を内傾させた姿で。

 

 

 

 

 

数多の偶然があり、数多の選択があった。

全ての選択はサナリモリブデンが己の意志で下し、走ると定めたものだ。

 

名を残す事を望むならば。

より確実な勝利を求めるならば。

道は他にあったはずだ。

 

絶対とさえ称される者からは逃げてしまえば良かったのだ。

サナリモリブデンの脚は距離を問わない。

短距離でも、中距離でも、選択肢は幾らでもあった。

 

にもかかわらず。

サナリモリブデンは一度たりともマイル以外を走らなかった。

 

理由など、きっと、ただのひとつしか存在しない。

 

 

 

 

 

(認める。マッキラ──)

 

眼前、数センチの距離を白い柵が高速で流れる。

触れてしまえばその瞬間にサナリモリブデンの競走生命は終わる。

彼女が今存在する超高速域、安全限界を超えた内傾状態とはそういう世界である。

わずか一瞬の接触は紙一重で維持されるバランスを崩壊させ、引き起こされた転倒は最悪の結末となってサナリモリブデンに襲い掛かる。

 

(──あなたは強い。私よりも、遥かに)

 

だが、サナリモリブデンは目を逸らさない。

極限の集中、そのただ中でどこまでも冷静に死との距離を読み切り、コンマ秒ごとに修正を加え続ける。

満身の力を籠めた右脚で遠心力に抗い、不足を致死寸前の姿勢で補い続ける。

 

(けれど)

 

 


 

難度:151

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:脚溜め成功/+15%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍/+20%

参照:パワー/472+165=637

 

結果:443(大成功)

 


 

 

ここ(コーナー)では、私の方が速い……!)

 

そしてあろうことか、それだけでは済まない。

サナリモリブデンの脚がターフを抉る度に、その勢いは増していく。

限界を超えて加速し続ける、最短距離のコーナリング。

それこそが彼女が用意し、研ぎ澄ませてきた最大の武器だった。

 

全ては今日この時。

打ち倒さねばならないと己に誓った、最大の敵に手を届かせるために。

 

 

 

そして。

 

──それは

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

刃を抜き、王者を討つ

 


 

 

もう、見た!

 

全く同一の刃が、ここにもう一振り存在する。

 

『サナリモリブデン猛追! 背を押されるようにスローモーションも行った、ここで仕掛けた! 爆発的な加速でマッキラに迫る、サナリモリブデン、スローモーション!』

 

前走、関屋記念にて。

スローモーションはサナリモリブデンのコーナリングを見た。

サナリモリブデンが振り絞った全力を既に目にしたのだ。

 

今日のような狂気はなかった。

だが──その鋭さは目に焼き付けた。

 

そして導き出したのだ。

サナリモリブデンが身につけた技術を。

サナリモリブデンがマッキラを討たんとする道筋を。

そこに割り入り、自身が勝利するための方策を。

 

ならば、スローモーションが手を伸ばさない理由はどこにも存在しない。

 

 

 

 

 

(あ、ぁあ、あああぁぁあぁぁ……!)

 

狂気に追われる者の恐怖は限界に達した。

蒼褪めた顔でマッキラは逃げ続ける。

 

(嫌、嫌、嫌! なんで! どうして!)

 

引き剥がせない。

全力を籠めてターフを蹴り、しかし距離が開かない。

 

速度も加速度も追跡者と遜色なく、けれどマッキラには狂気的なコーナリングは不可能だった。

遠心力は残酷にもマッキラをコーナーの外へと連れ去ろうとする。

そしてその距離の分だけ稼いだはずのリードが食い破られていく。

 

『マッキラ逃げる、マッキラ逃げる! しかし離せない! サナリモリブデン、スローモーション、残り2バ身、1バ身……! これは、まさか、ついに!』

 

マイルを支配する王として、数多のウマ娘に理不尽を強いてきたマッキラは。

 

 


 

【抵抗判定/対サナリモリブデン/マッキラ

 

難度:443

補正:恐怖/-20%

補正:領域/Escape like an underdog./+20%

補正:逃げのコツ/+5%

参照:パワー/490+24=514

 

結果:389(失敗)

 


 

【抵抗判定/対スローモーション/マッキラ

 

難度:252

補正:弧線のプロフェッサー(スローモーション)/x1.25(対難度)

補正:恐怖/-20%

補正:領域/Escape like an underdog./+20%

補正:逃げのコツ/+5%

参照:パワー/490+24=514

 

結果:226(失敗)

 


 

 

『届いた! 初めて、初めてマッキラが並ばれた! 初めて追いつかれた絶対王者! ついに挑戦者がその背中に手を届かせたぞ!』

 

1年半の時を経て。

別種の理不尽に喉笛を噛み裂かれた。

 

 

 

「────」

 

ピシリ、と。

ヒビが走る音をマッキラは確かに聞いた。

 

壊れていく。

砕けていく。

勝利と共に積み重ねてきた物が割れ崩れる。

 

『大ケヤキを越えて第4コーナーへ! スローモーション完全に前に出た! サナリモリブデンが真後ろにピタリと続いて、マッキラは、あぁっ、マッキラ失速! 落ちていく! まさかいっぱいか、いっぱいなのか!?』

 

マッキラの手足が力を失う。

視界が歪み、コースがブレる。

 

(あ、ぁ、逃げ、なきゃ)

 

残ったのはその思考だけ。

敗北を遠ざけるため。

惨めで無様な過去の自分に戻りたくないと、マッキラは願って。

 

(どこ、に?)

 

自身の前を走る者の姿に、もう逃げ場などないと思い知らされた。

 

 

加速に加速を重ね得た速度は見る影もない。

ずるずると。

余りにも呆気なく、王者の鍍金(メッキ)は剥がれて落ちた。

 

射貫いた2本の矢は彼女を置き去りにどこまでも駆けていく。

背を見送るマッキラの胸は、急速に暗い絶望に満たされつつあった。

 

そしてそれを、続く刺客が見逃すはずもない。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/チューターサポート

 

仕掛ける

 


 

 

『先頭はスローモーション! 続くサナリモリブデン! マッキラは完全に失速して落ちていく! 今ジュエルルベライトとチューターサポートもマッキラをかわした! スタンドからは悲鳴が轟いています! 誰がこんな展開を予想したでしょう!』

 

膨らんだマッキラの左後方。

そこから、足音が響いた。

 

策を弄し、己の有利を引き寄せてみせたジュエルルベライト。

一切の争いに関わらず、完全に脚を溜めきったチューターサポート。

王者陥落の瞬間に真っ先に反応してみせたのはこの2人だった。

 

渾身の力を振り絞って2人のウマ娘がマッキラを捉える。

 

 

(……マッキラ)

 

そこに、崩れ落ちる者への同情も容赦も無い。

代わりにあったのは後悔と懺悔だ。

チューターサポートは敗者に墜ちつつあるマッキラに視線さえ向けず、胸中で過去を悔いる。

 

力尽きるマッキラと、それを仕留めるチューターサポート。

この構図は彼女にとって、かつて見慣れたものだった。

 

(ごめん。間違っていたのは、私だ)

 

学園に入学する以前、彼女たちは幼馴染として長い時間を共にした。

夢を語り合い、将来に備えて鍛え、競い合った。

そしてその時間の中でチューターサポートは一度として敗北を味わう事がなく。

 

いつしか、チューターサポートはマッキラを敵と認識する事さえなくなった。

 

でも、もう間違えない。君は敵だ。誰よりも、何よりも恐ろしい敵だった

 

今の彼女には、かつての自分がどれほど傲慢で残酷だったかが理解できる。

敗者が吐いた勝者への称賛に、どれほどの感情が籠められていたかを想像できる。

 

故に。

 

だから、油断なんてしない。君がどれだけ弱っていても関係ない

 

その一撃は、一切の躊躇いを含まずに振り下ろされた。

 

ここで、潰す

 

 


 

【ウマソウル判定/チューターサポート

 

参照:ウマソウル/50

 

結果:15(成功)

 


 

領域解放

 

領域/従容不迫、不動と(うそぶ)

心を乱さずに終盤を迎えた時、勝利への渇望を解放して加速力が上がる

 


 

【難度設定】

 

補正:領域/従容不迫、不動と嘯く/+30%

補正:脚溜め/+15%

参照:パワー/390+175=565

 

結果:370

 


 

【抵抗判定/ジュエルルベライト】

 

ジュエルルベライト:パワー300/成功率0%、判定不能

 


 

 

「、ぁ」

 

吐息のようにこぼされたその一音が、王者と呼ばれ続けた者の断末魔だった。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/マッキラ

 

鍍金崩壊/行動権喪失

 


 

 

『チューターサポート行った行った! 先頭2人に迫っていく!』

 

ここで必ず来ると思っていた。

それが前を行く2人に共通する思考だった。

 

必ず来る。

来ないわけがない。

そうでないならば、そんな者はもうチューターサポートではない。

十全の理解がそこにあった。

 

(譲らない)

 

サナリモリブデンは振り絞る。

 

マッキラを射落とした。

それは誇るべき戦果だろう。

胸を張り、諸手を挙げ、喝采を叫ぶべき大首級だ。

 

(渡さ、ない……っ!)

 

だが、彼女達には微塵の油断も生じない。

どころか歓喜の欠片さえ無縁だった。

 

当然の事だ。

元より彼女達が目指すものはただひとつ。

勝利、それだけだ。

ならば目先の成果に眩んで緩むなど、万に一つもありえない。

 

 

 

次こそは、なんて言ってやるものか

 

後背、わずか1バ身。

張り付くような至近から、そこをどけと威圧するサナリモリブデンの闘志を受けて。

 

今日だ。今日、ここで、今──!

 

その後ろ、開けて2バ身。

氷のように冷たい、チューターサポートの勝利を欲する敵意を見つめて。

 

スローモーションは吠え猛る。

 

あなたたちを、仕留める──!

 

 


 

【ウマソウル判定/スローモーション

 

参照:ウマソウル/66

 

結果:25(成功)

 


 

領域開眼

 

領域/I SEE YOU

執着を抱いた特定のウマ娘の行動を完全に読み切り、上回るために限界を超えた力を発揮する

 


 

 

『とんでもないスピードでスローモーション、サナリモリブデン、チューターサポートがコーナーを曲がって最終直線へ! 最初に立ち上がったのは──』

 

 


 

【抵抗判定/対チューターサポート/サナリモリブデン

 

難度:277

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:脚溜め成功/+15%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍/+20%

参照:パワー/472+165=637

 

結果:51(失敗)

 


 

【抵抗判定/対サナリモリブデン/スローモーション

 

難度:221

補正:弧線のプロフェッサー/x1.0(同スキル所持により補正相殺

補正:領域/I SEE YOU/x0.5(対難度)

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:パワー/300+90=390

 

結果:340(成功)

 


 

【抵抗判定/対チューターサポート/スローモーション

 

難度:138

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:領域/I SEE YOU/x0.5(対難度)

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:パワー/300+90=390

 

結果:252(成功)

 


 

 

『──スローモーションだ!』

 

「っ、ぐ、ぅっ……!」

 

サナリモリブデンは歯を食い縛った。

研ぎ澄ませた刃は王者に届き、しかしその次には届かない。

刃と刃、狂気と狂気のせめぎ合いはスローモーションに軍配が上がった。

 

どころか。

 

「…………」

 

(チューター、サポート……!)

 

スローモーションと比しても劣らぬ鋭利さの敵意が真横に現れる。

虎視眈々と好機を狙い続けたライバルはここに来て殻を一つ破り捨てた。

かつて勝利した折とは、最早段階が違う。

 

わずか一瞬のブレ。

ほんの一欠けらの瑕疵はサナリモリブデンの敗北を決定付けるだろう。

 

(……まだ! まだだ!)

 

だが当然、その程度で怯みが生まれるわけがない。

敵手の強大さはサナリモリブデンの熱を強めこそすれど、冷やす事などありえない。

 

 

 

東京レース場、最終直線525.9メートル。

最後の勝負が彼女たちを待ち受ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(────)

 

それを。

遥か後方から、マッキラが見つめる。

 

墜ちた彼女は最早勝負の舞台から放り出された。

惰性のように走り続けてはいる。

速度の緩んだコーナリングはいっそ美しいほどに、体に刻み込んだ軌跡を描いてはいる。

 

だがそれだけだ。

マッキラの体からは戦意の一切が失われている。

 

スローモーション、サナリモリブデン、チューターサポート、ジュエルルベライト。

4人に抜かれ、更に他の者も続く。

 

プカプカ、ムーンポップ、ダブルサラウンド、ジュエルオニキス、クピドズシュート。

誰もが彼女を置き去りにした。

敗北に沈もうとする者に気を払う余地など誰にもない。

勝利だけを目指してターフを征く。

 

(ハ、ざまぁねぇな)

 

唯一の例外は最後尾に落ちた一人のウマ娘。

ジュエルルベライトの策に翻弄され、残しておくべき力をとうに使い切ったアングータだけがマッキラと共に沈みゆく。

 

アングータの中に湧いたのは嘲笑だった。

笑える話だと彼女は嘲る。

誰もが諦めを踏破して挑んだ頂きはこんなものだったのかと。

 

(笑えるぜ。なんだそりゃ。散々王者だなんだ持ち上げられといて)

 

競りかけられて、それで終わり。

余りにも呆気ない幕引きにアングータは笑った。

笑って、嗤って、そして。

 

(ふざけんな。なんだよソレ。なぁ!)

 

その笑いを跡形もなく消し飛ばす、極大の怒りを爆発させた。

 

 

 

「……マッキラァ!!」

 

萎えた脚に力が戻る。

ほんの一滴、わずか数歩の全力疾走。

アングータがマッキラを最下位に貶めるには、たったそれだけで事足りた。

 

マッキラは既に死に体だ。

完全に仕留めきる事は容易い。

彼女にはもう、アングータの前に出ようという気力は無い。

 

後はこの順を維持したままレースを終えれば。

マッキラの競走人生は絶えるだろう。

 

顔を上げろ! 前を向け!

 

それを。

アングータというウマ娘は許容しなかった。

 

なァ! ふざけんなよ! アンタ、王様だろ! アタシが、っ、アタシらが目指した王様だろうが!

 

今にも破れそうな肺に鞭打って彼女は叫ぶ。

 

身勝手な敗者の戯言だ。

かつて己を下した者に強者らしくあって欲しいと願う勝手な言い分だ。

アングータ自身、酸欠に喘ぐ脳の片隅で傲慢な言葉に呆れてさえいる。

 

だったら、せめて……!

 

だが、それはだからこそ虚飾を纏わず。

 

戦って、死ね!

 

とうに潰えたはずの胸に、種火を灯した。

 

 


 

 

「……あぁ」

 

遠く。

レースを見守る者たちの中。

陰鬱な男が一人、吐息をこぼした。

 

長く、深く、心の底からの。

 

()()()()、マッキラ

 

安堵の溜め息を。

 

 


 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速→超高速(6)/平静(0)

補正:弧線のプロフェッサー/消耗を据え置いたまま速度を一段階上昇

補正:差しA(-2)

消耗:6-2=4%

 

結果:スタミナ/471-19=452

 


 

【スパート判定/スタミナ/サナリモリブデン

 

難度:202

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍/+20%

補正:差しA/+10%

参照:スタミナ/452+135=587

 

結果:204(成功)

 


 

 

東京の長い直線を、彼女たちは行く。

 

誰もが限界を破り捨てていた。

血液はまるで沸騰するかのよう。

脚が赤熱の果てに火を噴いていないのが不思議だとさえ思った者も居るかもしれない。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ/チューターサポート

 

難度:202

補正:差しA/+10%

参照:スタミナ/400+40=440

 

結果:311(成功)

 


 

 

『525.9メートル直線勝負! 先頭はスローモーション! だがそのリードはわずか! 勝負はここからだ! まだわからない!』

 

レースはチキンレースの様相を呈していた。

限界を超えて、さらにその先へ。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ/スローモーション

 

難度:202

補正:先行B/±0%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:スタミナ/300+90=390

 

結果:178(失敗)

 


 

 

「っ、ぜ、ひゅ……っ」

 

その勝負から最初に振り落とされたのは、スローモーションだった。

軽やかだった脚が鉛に変わる。

呼吸に激痛を伴い、視界が白く瞬き始める。

 

『スローモーション苦しいか! 坂で急ブレーキ! 後ろ2人に捕まった!』

 

無理もない。

彼女の身体能力は、クラシック級のウマ娘として平凡の域を出ない。

当然スタミナも敵手──チューターサポートやサナリモリブデンと比して劣る。

そんな身で序盤から攻勢をかけ続け、無事でいられる道理はない。

 

(それが、どうした)

 

だが、それは必要な事だった。

まずマッキラを射落とす。

それが叶わなければ勝利など到底不可能と彼女は断じた。

この程度は想定の内でしかない。

 

スタミナは、ここで切れる。

 

ならば、後は。

 

(勝つのは、それでも! 私だ!)

 

意地と根性だけで走り切ってみせると、スローモーションは挑んだのだ。

 

 


 

【スパート判定/加速度/スローモーション

 

補正:直線加速/+15%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

補正:先行B/±0%

補正:スタミナ失敗/-30%

参照:パワー/300+45=345

 

結果:343

 


 

【スパート判定/加速度/チューターサポート

 

補正:直線加速/+15%

補正:領域/従容不迫、不動と嘯く/+30%

補正:差しA/+10%

参照:パワー/390+214=604

 

結果:318

 


 

 

『いやまだだ! スローモーション再加速! まだ落ちない! まだ粘る!』

 

チューターサポートは思わず目を見開いた。

力尽きたはずだと、彼女は確かにスローモーションの末路を予見した。

これ以上はいくらなんでも不可能だと。

 

だが差し切れない。

どころか、坂で捉えたはずの黒鹿毛は再び離れていく。

 

自身の加速に十全以上の手応えはある。

だからこそ、力尽きたままその上を行くその背に戦慄した。

 

 

 

(──知っている)

 

対し、サナリモリブデンは深い理解と共にあった。

 

自分でもそうする。

ならスローモーションに、自身と同等の戦意の持ち主と既に知ったウマ娘に出来ないわけがないと。

 

 


 

【スパート判定/加速度/サナリモリブデン

 

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍/+20%

補正:差しA/+10%

参照:パワー/472+141=613

 

結果:441

 


 

 

そして、もうひとつ。

 

『スローモーション粘る! 耐えている! 内からサナリモリブデン! 外からチューターサポート! サナリモリブデンが来た、スローモーションに並びかけた、激しい競り合い! この2人か!? このままいけるか!? 後ろからは、……っ!?』

 

来るべき者がある事も。

 

 

 

 

 

ここに、一つの事実がある。

 

チューターサポートはかつて無数の勝利と共にあった。

幼い時分からトゥインクルシリーズを夢見て、己を鍛えるべく走り続けた。

勝利して、勝利して、勝利して、その価値さえ忘れるほどに勝利を重ねた。

 

それはつまり、同じ数だけ。

マッキラが敗北と共にあった事を意味する。

 

 

(──ああ)

 

負けて、負けて、負けた。

悔しさに涙を流さぬ日はなく、屈辱は彼女のもう一人の幼馴染だった。

 

(バカみたい。どうして忘れていられたんだろう)

 

その総数を知る者は誰も居ない。

敗北を当然と理解してから、マッキラはとうに数えるのをやめていた。

幼少の折から、あのメイクデビューに至るまで。

 

"()()()勝てない"と臓腑の底にまで刻まれるほどに、彼女は敗北にまみれていた。

 

(そうだよ。知ってる。負ける悔しさも。遅すぎる脚をいっそ切り落としたくなるような気持ちも。でも──)

 

 

 

数多の偶然があり、数多の選択があった。

全ての選択はマッキラが己の意志で下し、走ると定めたものだ。

 

真に敗北を忌避するならば、道は他にあったはずだ。

 

勝てないと認めた相手からは逃げてしまえば良かったのだ。

チューターサポートがマイルを戦う事は、幼馴染として遥か昔に知っていた。

他の距離に逃げるための時間はいくらでもあった。

 

にもかかわらず。

マッキラは一度たりともマイル以外を走らなかった。

 

 

 

理由など。

 

──戦わない方が、ずっとずっと、死にたくなるくらい、惨めだって事も!

 

他にひとつもあるものか。

 

 


 

【ウマソウル判定/マッキラ

 

参照:ウマソウル/75

 

結果:7(成功)

 


 

領域解凍

 

領域/Chase like a Challanger !!

敗北が目前に迫った時、それでもと己を奮い立たせて持久力を回復し、速度と加速力をわずかに上げる

 


 

 

王者の鍍金は剥がれ落ちた。

歪に纏わりついた栄光は消えて失せ、その地金が露呈する。

 

すなわち。

幾重の敗北を経ても終ぞ折れる事のなかった、鋼の芯が。

 

 

「……なんだよ」

 

取り戻された輝きを誰よりも早く目にした者は埋もれて消える。

誰にも見守られる事なく、最下位を決定付けられて。

 

「やれば、できんじゃねぇか……バァカ」

 

だから、囁くように漏らして俯いた彼女がどのような表情を浮かべていたかを、知る者はない。

 

 


 

【終盤フェイズランダムイベント】

 

アングータは力尽きた

 


 

 

深く、どこまでも深く息を吸う。

四肢の先まで熱を孕む血液が巡り、燃料を全身に補給する。

 

肉体は万全とは言い難い。

追い立てられる恐怖に竦み、浪費した体力は少なくない。

 

(なのに……あは、不思議)

 

出走ウマ娘、11人中10位。

最終直線でこの位置に居た経験はかつて無い。

 

にもかかわらず、それでもマッキラは笑った。

余りにも爽快だったためだ。

メイクデビューから今日まで、余りにも長く続いた絶不調から抜け出した脚は。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ/マッキラ

 

難度:202

補正:道中かかり(中)/-20%

補正:領域/Chase like a Challanger !!/+30%

補正:逃げS/+5%

参照:スタミナ/550+82=632

 

結果:583(大成功)

 


 

【スパート判定/加速度/マッキラ

 

補正:逃げのコツ〇/+5%

補正:領域/Chase like a Challanger !!/+15%

補正:逃げS/+5%

補正:スタミナ大成功/+15%

参照:パワー/490+196=686

 

結果:477

 


 

 

(すごく、軽い!)

 

加速する。

どこまでもどこまでも。

泥濘を振り払い、背に翼を生やしたかのように。

 

『後ろからは、マ、マッキラだ! マッキラが来た! マッキラが来ている! 王者はまだ終わっていない! マッキラが来た! 大外最後方から飛んできたぁ!』

 

実況は興奮のままに叫んだ。

観衆の大歓声はターフを駆け巡った。

 

(そ、んな……嘘、でしょう!?)

 

スローモーションは唯一読み切れなかった展開に驚愕し。

 

(……………………ちょっと、再起が早すぎない?)

 

チューターサポートは自身の挫折と比較して場違いにも苦笑し。

 

 

 

知っていた。知っていた、知っていた──信じていた!

 

そしてサナリモリブデンは歓喜した。

ただ一人、彼女は待っていた。

心の臓を射抜かれたはずのマッキラが、もう一度走り出す事を。

 

 


 

【スパート判定/速度/マッキラ

 

補正:逃げのコツ〇/+5%

補正:領域/Chase like a Challanger !!/+15%

補正:逃げS/+5%

補正:スタミナ大成功/+15%

参照:スピード/550+220=770

 

結果:544

 


 

【スパート判定/速度/チューターサポート

 

補正:差しA/+10%

参照:スピード/390+39=429

 

結果:325

 


 

 

『マッキラだ! マッキラだ! マッキラ物凄い末脚! バ群をあっという間にごぼう抜き!』

 

絶対と、いつか絶望と共に仰いだ背中を越えて、マッキラが行く。

割り裂く大気を余さず焦がし、見る者の目を眩ませて。

 

 


 

【スパート判定/速度/スローモーション

 

補正:領域/I SEE YOU/+30%

補正:先行B/±0%

補正:スタミナ失敗/-30%

参照:スピード/300

 

結果:118

 


 

 

「──」

 

その背にかつて抱いた溶岩めいた感情の正体をようやく知った黒鹿毛を置き去りに。

 

 


 

【スパート判定/速度/サナリモリブデン

 

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍/+20%

補正:差しA/+10%

参照:スピード/578+173=751

 

結果:515

 


 

 

「マッキラ──!」

 

「──サナ、ちゃん!」

 

もう一つの鋼の元へ。

 

『届いた! マッキラが届いた! 魔王の絶対王政はまだ終わっていないっ! 内サナリモリブデン! 外マッキラ! スローモーションはどうやらここまでだ! チューターサポートも伸びがない!』

 

スタンドから降り注ぐ感情の坩堝。

そのただ中を2人が駆けていく。

 

互いに一歩たりとも譲らない。

譲れるわけが、ない。

 

 

 

 

 

サナリモリブデンには一つの後悔があった。

何よりも許しがたい裏切りを背負っていた。

 

サナリモリブデンは覚えている。

強く、強く、強く──魂の根幹にさえ刻まれるほどに強く。

自身の脚へ初めて向けられた暖かな期待。

諦めるべきと多くの人々が痛ましく目を伏せた非才の身へとまっすぐに伸ばされた手と。

 

"最高の才能"という言葉を。

 

ならば、ありえてはならなかった。

他の誰よりもあなたが良い、と。

そう称えてくれた精神性において、他の誰にも負けてはならなかった。

 

 

だというのに。

サナリモリブデンは目にしてしまった。

 

ジュニア級、6月、東京レース場。

雨粒に霞む遠い背中。

幾度も悪夢として蘇るほどに焼き付いた、あの日、明確に己を上回っていた鋼の闘争心を。

ただ一度の勝利のために命を賭し、魂を焼き尽くすような、絶望を踏破して絶対を砕かんとする努力の痕跡を。

 

決してありえてはならなかった、自身の不足を。

 

 

『この2人だ! この2人で決まりだ! マッキラか!? サナリモリブデンか!? 魔王か!? 挑戦者か!?』

 

 

マッキラは一つの後悔を抱いた。

何よりも許しがたい裏切りを理解した。

 

彼女は今日、ようやく目にしたのだ。

硬く、重く、揺るがず、削れず、溶けず、曲がらず。

そして眩い鋼の輝きに。

己に打ち勝つために命を賭し、魂を焼き尽くすような、絶望を踏破して絶対を砕かんとする努力の痕跡を。

 

逃げてはならない相手だった。

目を背けるなど到底許容してはならない醜態だった。

それは、かつてのマッキラ自身に対する最低最悪の背信に他ならない。

故に、彼女は今ここに投げ捨てた。

 

決してありえてはならない、自身の怯懦を。

 

 


 

【ウマソウル判定/マッキラ

 

参照:ウマソウル/75

 

結果:19(成功)

 


 

【ウマソウル判定/サナリモリブデン

 

参照:ウマソウル/100

 

結果:成功率100%、判定不要

 


 

 

魂は相似を描き、鋼は打ち鳴らされる。

 

 


 

領域練磨/マッキラ

 

領域/折れじの杖は鋼の如く

敗北が目前に迫った時、それでもと己を奮い立たせて持久力をすごく回復し、速度と加速力をわずかに上げる

 


 

領域練磨/サナリモリブデン

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2

効果不定、勝敗を分ける局面で奮い立つ

 


 

 

『両者一歩も譲らない! 譲れない! 大激戦だ! 白熱のデッドヒートォ!!』

 

限界などという言葉はもうどこにもない。

 

総身に意地と、根性と、矜持だけを巡らせて。

 

 


 

【スパート判定/根性/マッキラ

 

補正:領域/折れじの杖は鋼の如く/+40%

参照:根性/450+180=630

 

結果:──

 


 

 

『残り50メートル! どっちだ! どっちだ! どっちだ!』

 

「────ッ!!」

 

「────ア、ァァア!!」

 

勝利を求める本能以外の全てを消し去って。

 

 


 

【スパート判定/根性/サナリモリブデン

 

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍/+25%

参照:根性/501+125=626

 

結果:──

 


 

 

『どっちだぁ──!?』

 

ゴール板を駆け抜けた。

 

 

 

 

 

そうして、まとめて倒れ込む。

 

「ぜ、っひゅ、は、っは、ぁ」

 

その呼吸音がどちらのものだったかさえ分からない。

全く同時に膝をつき、その程度では到底体を支えられず、震える腕を芝につく。

 

『マッキラか、サナリモリブデンか、全く分かりません! 3着以下はチューターサポート、スローモーション、ジュエルルベライト。決戦の毎日王冠、結果は写真判定に委ねられます!』

 

実況の声も、つんざくような大歓声も、遥か遠い。

別世界の出来事のようだと、どちらかがぼんやりと述懐した。

 

 

 

そんな、融けあうような時間はやがて去った。

サナリモリブデンはサナリモリブデンに。

マッキラはマッキラに。

それぞれ還り……先に口を開いたのは、マッキラだった。

 

「……ぁ、は。ごめん、ね、サナちゃん」

 

俯き、垂れた栗毛に顔を隠すように彼女は言った。

 

「あんな、弱くて、惨めな走り、見せちゃって」

 

絶え絶えの息でマッキラは悔恨に沈んでいた。

翼を得たような全能感はもう消えている。

 

最後の最後、マッキラは不要な重みを払い、王者ではなく、挑戦者としての自分に返り咲いた。

だが……それは彼女にとって遅すぎた。

裏切りは、雪いだところで裏切りだ。

無かった事にはならないと、彼女は過去の自分を断罪する。

 

 

 

そこに、サナリモリブデンは断固として対した。

 

「違う」

 

斬り付けるように発して立ち上がる。

不格好な姿だった。

手足は震え、姿勢はふらつき、今にも倒れそうだと誰もが思うだろう。

杖によりかかるような満身創痍だ。

 

「マッキラ。あなたは強かった。今まで挑んだ、誰よりも強くて、怖かった」

 

けれど。

マッキラへと力強く注ぐ眼と、()()()()()()()()()()()は。

寸毫たりとも揺らぎはしない。

 

「……ありがとう。あなたという恐ろしい敵に挑めて、良かった。私は──」

 

それは、きっと。

 

今日のレースを、永遠に忘れない

 

「────」

 

いつかの日のマッキラが、焦がれるほどに欲したものだった。

 

 

 

「…………そっ、か。あは。そうなんだ。あは、あはは!」

 

笑い。

そして涙が一筋こぼれる。

 

「そっか、そっかぁ。私を見てくれて……覚えていてくれるんだ」

 

それを隠すように、マッキラはサナリモリブデンの手を取った。

両の手で柔らかく握りしめ、縋るように頬に触れさせる。

 

「ふふ。でも、あぁ……それだったら、残念。折角ずっと覚えていてくれるなら──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──勝ちたかった、なぁ」

 

 

 

 

 


 

サナリモリブデン:549

マッキラ    :280

 


 

 

 

 

 

電光掲示板に数字が灯る。

順番は──11、10。

 

『サ、──』

 

一瞬の沈黙。

後。

 

サナリモリブデン! 1着!! 勝ったのは鋼の挑戦者、サナリモリブデン!

 

空が割れた。

 

少なくとも、東京レース場に詰めかけた者たちは例外なくそう確信しただろう。

歓声と歓声と歓声が果てしなく響き渡る。

 

革命、成るッッッ!!! 無敗の絶対王政を打ち壊し、サナリモリブデンが新たな時代の到来を見事に告げてみせましたッ!

 

 

 

「……おめでとう、サナリ。また負けちゃったね」

 

「ん……」

 

そこで2人に近付く者があった。

汗で張り付いた髪を払いながら歩み来る癖毛のウマ娘。

そんなチューターサポートに、サナリモリブデンは空いた手でグッとガッツポーズを見せつけた。

 

「宣言通り。今日も私が強かった」

 

「は、はは……サナリ? 私、これでも結構悔しがってるからね?」

 

まずは気安い友人同士のやりとり。

それを終えてから、チューターサポートはどこか気まずそうにおずおずとマッキラに視線を向ける。

 

「……マッキラ。私はきっと、まず君に謝るべきだったんだと思う。君は敵だった。誰よりも、何よりも恐ろしい敵だったよ。それを、今日ようやく思い出した」

 

 

 

「……」

 

「ん、ぅ」

 

が。

漂った空気はチューターサポートの予想とは違うものだった。

どこか上滑りしたような、空回ったような。

間の抜けた沈黙がぬるりと流れる。

 

「……あれ?」

 

「ごめん、チューターサポート。……それは、今私がやったところ」

 

「へ?」

 

ポカン、と開くチューターサポートの口。

マッキラが耐えられたのはそこまでだった。

 

 

 

「ふふ、あはは、なにそれ、ほんと、バカみたい……!」

 

地べたに座り込んだままマッキラが笑う。

お腹を抱えて、天を仰ぐように。

 

「サっちゃんってほんと昔っからそう! 空気が読めなくて、無神経で」

 

「え、ちょ、え?」

 

「それ! あは、自覚がないとこも全然変わってないのやめてよ、くふ、あはは! 笑っちゃうから!」

 

「えぇ……」

 

マッキラは笑い、チューターサポートは困惑する。

サナリモリブデンはどうしたものかと頬を掻いた。

 

幸いな事に、それは長くは続かなかった。

やがてマッキラは立ち上がり──当たり前の少女らしい微笑みを浮かべる。

 

「もう、サっちゃんはこれだからなぁ。……その話はまた今度しよ。今は他にやる事あるでしょ。サっちゃんは右側ね」

 

「右って、あぁ、なるほど。任された」

 

そして移動した。

マッキラはサナリモリブデンの左側。

チューターサポートはその逆側に。

それから屈んで、未だ熱を孕んだ脚へ抱きつくように。

 

「ん……無理はしなくていい。疲れてるはず」

 

察したサナリモリブデンが言うも、2人は止まらない。

ブランクを経ても幼馴染らしい息の合った様子で。

 

「いいの、大丈夫! 今やりたいから! 勝者はさ、勝者らしく──」

 

「──称えられておきなよ!」

 

高く、高く。

白い芦毛を担ぎ上げる。

 

 

 

 

 

サナリモリブデンは諦めたように苦笑して、大きく伸びやかに手を振った。

 

激戦を称し、勝者を祝す声々は。

どこまでも晴れやかに、今日一番を軽々と更新して響き渡るのだった。

 

 


 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/差し経験+5

獲得:スキルPt+50

 

経験:芝経験&マイル経験&差し経験+2(G2ボーナス/1着)

獲得:スキルPt+30(G2ボーナス/1着)

 

成長:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2

 

マッキラ(レイドボス)撃破ボーナス

 

成長:ALL+10/ウマソウル+10

獲得:スキルPt+120

獲得:スキルヒント/鋼の意志

 

鋼の意志/250Pt/敗北が近付いた時、スタミナを回復する

 

スピ:482 → 502

スタ:385 → 405

パワ:394 → 414

根性:456 → 476

賢さ:401 → 421

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:B(9/30) → B(16/30)

マ:A(2/50) → A(9/50)

差:A(22/50) → A(29/50)

 

スキルPt:360 → 560

 

 


 

 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:482 → 502

スタ:385 → 405

パワ:394 → 414

根性:456 → 476

賢さ:401 → 421

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:B(16/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:A(9/50)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(29/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2(効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備/150Pt (最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い/150Pt   (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ/100Pt (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)/150Pt (レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

シンパシー/150Pt  (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

逃げためらい/100Pt (レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

まなざし/150Pt   (レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

熱いまなざし/250Pt (レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

鋼の意志/250Pt   (敗北が近付いた時、スタミナを回復する)

 

スキルPt:560

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆85

ソーラーレイ    絆45

チューターサポート 絆60

チームウェズン   絆50

 

 

【戦績】

 

通算成績:8戦5勝 [5-1-1-1]

ファン数:9731 → 16431人

評価点数:4150 → 7500(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:毎日王冠(G2)、関屋記念(G3)

 

 



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【毎日王冠関連スレ群】

 

【魔王】毎日王冠実況スレpart7【陥落】

 

274:ウマ推せば名無し

ようやく落ち着いてきたか

 

276:ウマ推せば名無し

>>260

論点はそこじゃないんだわ

お前が主張してるドーピング検査の手順が正しいって証拠出せよ

 

278:ウマ推せば名無し

×落ち着いてきた

〇拡散した

 

282:ウマ推せば名無し

ゴミ以下クソ未満みたいなスレ乱立してて草も生えん

 

284:ウマ推せば名無し

>>276

URAの公式にあるやん

まともに検索もできん低能は口挟むなや鬱陶しい

 

285:ウマ推せば名無し

ここもレース板も変なの増えたなー

 

289:ウマ推せば名無し

アフィ連中のせいで表に出すぎなんよ

流入させんなっていう

 

291:ウマ推せば名無し

>>284

はい脳みそ空っぽ露呈したねぇ

公式の紹介通りに検査やっとるって証拠は?

賄賂ですり抜けの可能性とか考えた事ないんか?

 

293:ウマ推せば名無し

×落ち着いてきた

△拡散した

◎隔離失敗大惨事

 

295:ウマ推せば名無し

流入民にわか揃いだからか神聖王国民増えまくってんのもうダメだろこれ

 

296:ウマ推せば名無し

マ王本人にもいい迷惑だわな

 

299:ウマ推せば名無し

真性スレこそどっかの僻地に隔離してくれんか?

 

302:ウマ推せば名無し

>>299

この板が隔離先だゾ

 

303:ウマ推せば名無し

>>291

陰謀論で草

やっぱバカはそういうの好きなんやね

お前の方こそ検査手抜きやら賄賂やらの証拠出せや

 

306:ウマ推せば名無し

もうこれ次スレいらんよな?

 

309:ウマ推せば名無し

>>306

いらん

 

313:ウマ推せば名無し

>>306

隔離失敗した以上もう用無し

 

317:ウマ推せば名無し

>>303

関係者じゃないから出せませーん

ほんでお前は検査が正しい証拠出せんの?

出せないよな?

何を根拠に100%セーフとか言ってんのか吐いてみろよカス

 

320:ウマ推せば名無し

おいお前らサナリモリブデン本人降臨してるぞw

【サナリモリブデンでござるが何か質問あるでござるか?】

 

323:ウマ推せば名無し

>>320

落ちてて草

 

324:ウマ推せば名無し

人集まらんかったネタスレほど哀れなもんもないな

 

325:ウマ推せば名無し

>>317

頭の可哀想な奴はみんな言う事同じやな

悪魔の証明って知っとるか?

 

327:ウマ推せば名無し

>>324

その上自分で宣伝して回る辺りがもうね

 

329:ウマ推せば名無し

みゅううううんサナリたんのポニテちゅっちゅしたいでござるううううう

 

330:ウマ推せば名無し

>>325

ででででたーwあくまのしょうめいw

使い古されすぎて敗北宣言の代名詞になってるやつwww

なんも言い返せんかったんやなかわいそw

 

333:ウマ推せば名無し

オレンジ色のゴミ袋30リットル10枚入り

牛乳2本

食パン柔らかめ5枚切り

シロハタのマーマレード(なかったら適当な苺ジャム)

ごま油400グラム

バナナ

安かったらプチトマトとレタス

 

334:ウマ推せば名無し

ここぞとばかりに終わったスレ有効活用しようとすんな

 

338:ウマ推せば名無し

>>333

うちのインスタントコーヒー切れたからついでに買ってきて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【悲報】ニッシラテンザン【いつもの】

 

1:名無しのレースファン

通算19回目

【動画】

 

2:名無しのレースファン

ま た か よ

 

3:名無しのレースファン

ニコニコでBB素材配布されちゃうな

 

5:名無しのレースファン

>>3

もう使い切れんぐらいあるわ

これ以上いらん

 

6:名無しのレースファン

素材踊らせながら人力ボイロで歌わせる動画シリーズ毎日見てる

 

7:名無しのレースファン

>>6

初見ガチで噴いたわ

ゴールに飛び込んでくるウマ娘次々蹴り飛ばしてくシーン最高

 

9:名無しのレースファン

>>6

マウンテンザンゴリラほんとすこ

 

11:名無しのレースファン

めちゃくちゃ楽しそうに暴れとるw

柳の手慣れた避難本人のネタよりおもろいw

 

14:名無しのレースファン

今日もテンザンさんが楽しそうで何よりです

 

17:名無しのレースファン

もうこいつゲストに呼ぶのやめとけばいいのにwww

 

20:名無しのレースファン

テンザンが毎度セット壊すからスタジオがどんどん簡素になった説やっぱマジなんじゃねぇかな

 

23:名無しのレースファン

>>20

それ説立証されたぞ

番組プロデューサーがウマッターで認めてた

 

25:名無しのレースファン

スタジオシンプルにするより呼ばない方が楽に解決できると思うんですがそれは

 

28:名無しのレースファン

>>25

あのプロデューサーテンザンガチ勢だから……

ついでに社長も

 

31:名無しのレースファン

なお壊すものが手元にないから床踏み割られた模様

 

32:名無しのレースファン

プロデューサー「床壊すのは流石にちょっと……ケガしたら大変だし次からサンドバッグ吊るしておこう」

 

33:名無しのレースファン

>>32

まーたそうやって甘やかす

 

36:名無しのレースファン

>>32

こいつほんま……w

 

38:名無しのレースファン

正直暴れる気持ちはわかる

俺もクッション振り回したわ

特にテンザンは推してた2人がとんでもない走りしてたしな

 

39:名無しのレースファン

まぁうん

推しが活躍するとみんなそうなる

 

40:名無しのレースファン

スロモサナリの3コーナー頭おかしすぎてダメ

 

42:名無しのレースファン

>>40

あそこ完全に死んだと思った

 

45:名無しのレースファン

>>42

同じく

思わず一緒に見てた娘の目隠しちゃっていいとこなのにってめっちゃキレられたわ

中央トレセン目指してる小4なんだけどこれきっかけに反抗期始まらないかビクビクしてる

多分余裕で入れるくらい素質あると思うんだけど気性難に育っちゃうと大変だろうからさ

 

46:名無しのレースファン

隙自語

 

48:名無しのレースファン

>>40

映像だとガリガリこすりながら走ってるようにしか見えん

こわい

 

51:名無しのレースファン

>>48

走れてんだから当たってるわけないんだけどパッと見完全に当たってる

多分頭と柵の距離10センチもない

 

52:名無しのレースファン

あの速度でアレ維持しながら加速までかけるって頭おかしくていらっしゃる???

 

54:名無しのレースファン

>>52

ク、クレバーな時のサナ森はガチだから……

 

56:名無しのレースファン

クレイジーの間違いでは?

 

58:名無しのレースファン

同じことやってる奴もう1人いたからセーフ

 

61:名無しのレースファン

狂人が2人もいたら余裕のアウトなんだよ

 

64:名無しのレースファン

>>58

3コーナーに限ればそのもう1人の方がヤバかったしな

まさか最初にマッキラ捕まえるのがサナリじゃなくてスロモだとは

 

67:名無しのレースファン

>>64

テンザンがスロモも怖いとか言ってた時そこまでじゃねーだろと思ってたわ

ごめんなさいしとく

 

69:名無しのレースファン

闘志バリバリ表に出すタイプに関しちゃテンザンの見る目はマジのマジだからな

その分他を軽視しがちなのがアレだが

 

71:名無しのレースファン

>>69

そこな

発走直前にチューターは来ないしマッキラはダメそうとか言ってたのは流石にない

 

72:名無しのレースファン

テンザン「あーこりゃダメそう。マッキラは期待薄だね。サナリモリブデンちゃんで決まりかなー」

 

75:名無しのレースファン

>>72

うーん節穴

 

78:名無しのレースファン

>>72

ちゃんと後で謝ったから許して♡

 

79:名無しのレースファン

テンザン「うわははははマッキラちゃんサイコー! ごめん! 私が間違ってたわ! この子すげー!」

 

81:名無しのレースファン

今までマッキラをすげーと思ってなかったのお前くらいなんだよ!

 

83:名無しのレースファン

華麗な掌返しに芝1800

 

86:名無しのレースファン

マッキラ過小評価は流石にイラッときた

普段は面白いから好きだけどこういうとこ嫌い

 

89:名無しのレースファン

>>86

現役時代の後期が闇すぎたからしゃーなし

評価軸が捻じ曲がるのもわかる

 

91:名無しのレースファン

あの世代はなぁ……

 

94:名無しのレースファン

君臨するは黄金の簒奪者ニッシラテンザン!

対するは漆黒の反逆者オリヤマクルーズ!

そしてハナから3着狙いのその他全員……

 

97:名無しのレースファン

その話はやめよう

 

98:名無しのレースファン

2回目のマイルCSで粉かけにいった相手が次々ゲートに逃げ込んでガン無視されたのマジで最悪

あんな悲しいラストラン他に見た事ない

 

100:名無しのレースファン

>>98

せめてクルーズが残っててくれたらって何回考えたか

 

101:名無しのレースファン

あの勝利インタビュー未だに頭にこびりついてる

気性難の代名詞みたいなテンザンが枯れ果てた顔でさ

挑んでくれる子が残ってる内に引退すべきだったとか答えさすんじゃねーよ

 

102:名無しのレースファン

なんかもっと甘やかしてもいい気がしてきた

スタジオくらい安いわどんどん壊せ

 

104:名無しのレースファン

プロデューサー面に落ちる者がまた1人

 

106:名無しのレースファン

今明るくやってるのが救いだよ

特に最近は心底楽しそう

 

109:名無しのレースファン

>>106

クラシック勢がなんかおかしい事になってるからな

 

112:名無しのレースファン

>>109

どこ見渡してもヤベーのしかおらん

あっちもそっちも目ギラギラさせてんの何?

 

113:名無しのレースファン

わからん

わからんが見てる分には最高に燃えるからヨシ!

 

114:名無しのレースファン

お脳こんがりしちゃ~う

 

115:名無しのレースファン

闇のレース思い出したら暗くなってきたから毎日王冠もっかい見返してこよ

焚火の時間よー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【毎日王冠を 真 面 目 に 振り返るスレ】

 

499:名無しのレースファン

サナスロ「うおおおおコーナーで捕まえるぞおおおお」

マッキラ「うわなんか来た、絡まれたら面倒だから下がっとこ」

サナスロ「よっしゃあああこのままいくぞおおお」

チュータ「わはは漁夫の利はいただきだー!」

マッキラ「あっ直線だ、休んで脚溜まったから全員ブッ差すね」

は???「サナスロチュータ」

 

500:名無しのレースファン

>>499

 

502:名無しのレースファン

>>499

 

504:名無しのレースファン

>>499

1000m最速で走った上で上がり最速叩き出す奴があるかwww

いつもの事だったわ……

 

506:名無しのレースファン

【悲報】魔王、第2形態持ち

 

507:名無しのレースファン

ゲームなら定番ではあるけどさぁ(絶望)

 

508:名無しのレースファン

・抜群の出足でスタートから全てを置き去りに

・アホみたいなスピードで延々続く大逃げ

・頑張って迫っていったら爆発的に加速力UP

・そんなことやってる癖にこれまでスタミナ切れゼロ

 

・頑張って捕まえたら下がって潰し合い拒否からのどっかのペンギンみたいな末脚 ←NEW!

 

510:名無しのレースファン

>>508

常識ってご存じない?????????

 

512:名無しのレースファン

>>508

理不尽という言葉をウマ娘の形にしたやつ

 

514:名無しのレースファン

ただまぁ流石に初めて使う戦法だからか失敗した感じだな

脚溜めたかったのは分かるけど流石に落としすぎ

 

516:名無しのレースファン

>>514

最下位まで下がったもんな

故障かと思って肝冷えた

直後に別の意味で肝縮み上がったが

 

518:名無しのレースファン

結構なクソローテ走ってたから余計にな……

 

520:名無しのレースファン

>>514

いや普通にチューター差せてんだから成功してるだろ

マッキラが見誤ったのはそこじゃなくてサナリモリブデンの底力

 

522:名無しのレースファン

むしろ溜めはアレがジャストだった感ある

実戦初投入とはいえあのマッキラがそこ間違えるとは思えん

 

523:名無しのレースファン

>>522

だよな

多分あれがマッキラの出せる最大値

サナリがさらに上回っただけ

 

524:名無しのレースファン

俺あの作戦自体がどうかと思ってるんだが

コーナー以外はマッキラのが速いんだし素直にそのまま逃げてりゃ普通に勝ててるしょ

 

525:名無しのレースファン

>>524

あんなキ〇ガイコーナリングするような狂人2人と潰し合って無事で済むとお思いで……?

 

526:名無しのレースファン

>>525

アッハイ

 

527:名無しのレースファン

>>525

ウマ娘2人の組み合わせ見て絶対間に挟まりたくないと思ったの初めてだわ

 

528:名無しのレースファン

>>525

死ゾ

 

530:名無しのレースファン

>>525

ころされぅ

 

531:名無しのレースファン

マッキラは性能が性能だけに競り合い潰し合いの経験ないしな

避けたのは正解だったと思う

 

532:名無しのレースファン

ゴール前のデッドヒート見るに適性はあるだろ

正面から行ってれば勝てた

 

534:名無しのレースファン

>>532

1対1と1対2は大分話が違ってくるから

最終直線と違って避ける余地があるなら避けたいでしょマッキラも

サナスロの気迫に負けた線だってあるかもだし

 

535:名無しのレースファン

>>534

マッキラが弱腰で下がったみたいな事言うのやめろや気分悪い

ラストの勝負のために脚溜めただけ

 

537:名無しのレースファン

こいつ王国民か?

 

538:名無しのレースファン

王国民の今の主張は無能トレーナーの指示説だからどうかな……

 

539:名無しのレースファン

下がり始めのとこ見れたらハッキリしそうなのに

邪魔すぎ

 

540:名無しのレースファン

>>539

スギじゃなくてケヤキなんだよなぁ

 

542:名無しのレースファン

>>540

(エノキです)

 

543:名無しのレースファン

>>542

どっちでもいいだろw

植物学者なのかよw

 

545:名無しのレースファン

肝心のシーンが完璧に大ケヤキにガードされてるの残念すぎる

もう切り倒そうぜ

 

547:名無しのレースファン

>>545

大ケヤキのない東京レース場とか寂しくてヤダ

 

548:名無しのレースファン

ぶっちゃけ真意がどっちでもええわ

おかげであのラストが生まれたんだから全部許す

 

549:名無しのレースファン

>>548

それオブそれ

 

551:名無しのレースファン

>>548

心拍数ヤバかったわあそこ

声も出せんかった

 

552:名無しのレースファン

マッキラもサナ森も今まで見たことないレベルの気迫だったな

俺結構レース観戦長いんだけどあそこまでのはちょっと記憶にない

 

554:名無しのレースファン

>>552

少なくとも5年10年遡っても出てこんわあんなん

 

555:名無しのレースファン

マッキラが斬り捨てるかと思ったら並ばれてからのサナリの強さよ

心底しびれた

 

556:名無しのレースファン

マッキラのあんな必死な顔久々に見たなーと思って出たレース順番に見返してったらメイクデビューに行き着いた俺が通りますよ

 

558:名無しのレースファン

例の伝説のメイクデビューな

マッキラサナリチュータースロモが揃ってるとかいう超豪華レース

 

560:名無しのレースファン

>>558

実質G1やろこんなんw

 

561:名無しのレースファン

ところでデビューまで遡らないと必死な顔出てこないって事はこれまでの他のレースってつまり……

 

563:名無しのレースファン

>>561

それ以上いけない

 

564:名無しのレースファン

デビュー時はまだ初々しかっただけって言い訳がサナリに踏み潰されたの草

 

566:名無しのレースファン

クラシックのこの時期に2着の振り付けにうろ覚え感ある辺りマジで余裕で勝ちまくってたんやなって

 

568:名無しのレースファン

魔王だもの

 

570:名無しのレースファン

性格の可愛らしさに比べて走りが凶悪すぎる

 

571:名無しのレースファン

でもその魔王もついに討伐かぁ

改めてサナ森すごいな

すごいっつーかヤバいな

 

572:名無しのレースファン

夏合宿明けてからのサナリはマジで来てるって何回も言いました俺

 

573:名無しのレースファン

>>572

にわか乙

朝日杯の時点でとっくにガチだったから

 

575:名無しのレースファン

覚醒はきんもくせいなんだよなぁ

 

576:名無しのレースファン

サナリのぱかプチはよ

はよ

 

577:名無しのレースファン

>>576

G1勝ってないからまだです

……なんでこの毎日王冠がG2なんだ?

事後昇格でG1ってことにしようや

 

578:名無しのレースファン

なんでもええわw

これから2人のバチバチ見れると思ったら楽しみでたまらん

マイルCS早くこんかな

 

579:名無しのレースファン

>>578

あっ(察し)

 

582:名無しのレースファン

>>578

あーあ……

 

585:名無しのレースファン

>>578

マッキラのウマッター見てこい……

 

586:名無しのレースファン

>>578

慈悲をくれてやろう

 

マッキラ@makhila_honmono

ファンの皆さんにご報告です。

私、マッキラはしばらくの間レース出走を見合わせる事になりました。

 

といっても怪我や病気ではないのでそこは安心して下さい。

理由としては今回の敗戦について少し考えたい事が出来たため、つまり私個人の我儘です。

期間は少なくとも今年いっぱい、来年については今の所未定となっています。

トレーナーさんと相談の上、詳しい事が決まり次第公式に発表します。

 

来月のマイルCSでのサナちゃんとの再戦を期待する声も多い中、本当にごめんなさい。

レース場で皆さんに会える機会はしばらくなくなってしまいますが、見捨てずに今後も応援していただけると嬉しいです。

必ず戻ってきますので。

 

 

590:名無しのレースファン

>>586

は?

は???

 

592:名無しのレースファン

>>590

3時間前の俺と同じリアクションしてて芝

 

593:名無しのレースファン

>>590

これでお前も同士だ

今夜は酒でも飲もうや……

 

596:名無しのレースファン

待ってこれマジ?

本当はどっか故障してるとかないよな……?

 

598:名無しのレースファン

追加の慈悲をくれてやろう

 

マッキラ@makhila_honmono

追記

 

マイルCSは来年獲ります。

獲るというか、トロフィーと優勝レイを受け取りにいきますね。

折角私のために用意して下さってるんですから。

 

 

599:名無しのレースファン

>>598

あっこれは大丈夫そう

 

602:名無しのレースファン

当然余裕で勝てると思ってるのクッソ傲慢だけど当然余裕で勝ちかねないからなんも言えん

文句言えるのはサナ森だけだわ

 

604:名無しのレースファン

マッキラってサナリの事サナちゃん呼びなのか

もしかして友達だったりする?

 

606:名無しのレースファン

>>604

マッキラのウマッターに出てきた事は多分ないはず

全部チェックしたわけではないが

 

608:名無しのレースファン

マッキラがこのタイプのファンサするの珍しくない?

 

610:名無しのレースファン

珍しいというか初めてじゃないかね

 

612:名無しのレースファン

明らかに火がついてる感ある

敗戦について考えたいってのはつまりそういうことだろうな

 

614:名無しのレースファン

こわ

来年のマイルは地獄になるのでは……?

 

616:名無しのレースファン

>>614

今年のマイルが地獄じゃなかったみたいな事言うじゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【超絶朗報】サナリ様、ウマッターをお始めになられる

 

140:歌って踊れる名無しさん

本人認証きたー!

 

サナリモリブデン@sanary_molybdenum

本物と分かるよう写真を載せた方が良いとトレーナーに言われました。

これから、こちらでもよろしくお願いします。

 

【挿絵表示】

 

 

141:歌って踊れる名無しさん

(心停止)

 

142:歌って踊れる名無しさん

ア゛ーーーーー!!

ア゛ーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!

 

143:歌って踊れる名無しさん

import itertools

 

for char in itertools.cycle('顔がいい'):

print(char, end='')

 

144:歌って踊れる名無しさん

初日から破壊力ゥ!

 

145:歌って踊れる名無しさん

近い近い近い近い近い近い近い!!

恋しちゃうって危ない!

 

146:歌って踊れる名無しさん

やっぱ本物じゃん!

ペンアルちゃんとかソーラーレイが真っ先にフォローしてんだから確実って言ったじゃんほらー!

 

147:歌って踊れる名無しさん

お美しやサナ上……

 

148:歌って踊れる名無しさん

あああああこの王冠って毎日王冠の副賞だよね!?

やだー!お茶目かわいい!サービスよすぎる神か神だったわ好き!!!!!

 

149:歌って踊れる名無しさん

郷谷T有能

感謝の祭壇作らなきゃ……

 

150:歌って踊れる名無しさん

>>149

まだ作ってなかったの?

行動遅いよ

 

151:歌って踊れる名無しさん

嬉しい……

お友達様のメディア欄漁らなくてもサナリ様のご尊顔を眺められるなんて……

それはそれとして色んなサナリ様見たいからこれからも漁るけど

 

152:歌って踊れる名無しさん

もしかしてこれから毎日サナリ様の日常チラチラできるのか?

 

153:歌って踊れる名無しさん

>>152

サナリ様のファンサに対する姿勢を思い出すんだ

後は……わかるな?

 

154:歌って踊れる名無しさん

過剰摂取で死んでしまう

 

155:歌って踊れる名無しさん

本望すぎる

 

156:歌って踊れる名無しさん

待ってた、ずーっと待ってた

ようやく郷谷Tの許可出たんだねサナリ様……ネット知識の勉強頑張ってくれてありがとう……!

 

157:歌って踊れる名無しさん

涙出るくらい嬉しい

でもサナリ様優しいから変なリプにも真面目に対応しそうで少し心配

 

158:歌って踊れる名無しさん

>>157

大丈夫

ちゃんと外部ツール使うみたい

事前に認証された垢とチェック通ったリプだけ表示するやつ

確認は郷谷Tがするんだって

 

159:歌って踊れる名無しさん

え、そんなのあるんだ

良かったすごい安心した

 

160:歌って踊れる名無しさん

結構色んな子が使ってるよね

 

161:歌って踊れる名無しさん

むしろ名前の売れてるウマ娘で使ってないのって成人組とソーラーレイくらいじゃ

 

162:歌って踊れる名無しさん

レイちゃんはクソリプと殴り合って炎上するの息抜きにしてるとこある

 

163:歌って踊れる名無しさん

>>162

あれはクソリプ側も分かってやってるプロレスだからちょっと違うw

 

164:歌って踊れる名無しさん

>>158

それどこ情報?

使うのは多分間違いないと思うけど探しても出てこない

 

165:歌って踊れる名無しさん

>>164

ごめん直聞き

学園の中庭で郷谷T見つけたから聞いてみたら教えてくれた

 

166:歌って踊れる名無しさん

>>165

特定した

サナリ様にクソリプ送るんじゃないぞ

いつものノリは身内とソーラーレイ相手だけにしとけ

 

167:歌って踊れる名無しさん

>>165

特定した

初めての重賞挑戦頑張れよ

同志として応援してるぞ

 

168:歌って踊れる名無しさん

>>165

特定した

チームアルニラムは今の時間練習中のはずでは?

サボってないで戻るんだサラサーテオペラ

 

169:歌って踊れる名無しさん

(学園生だけどクラシック級では)ないです

そもそもあの子匿名掲示板見に来るタイプじゃないでしょw

 

 



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クラシック級 10月 次走選択

毎日王冠。

強大に過ぎる敵手に叩きつけた挑戦の果て。

レース史上にすら稀なる激闘を経て、サナリモリブデンの生活は一変した。

 

学園での授業を終えてサナリモリブデンが廊下を歩む。

 

歩様はごく当たり前のもの。

跳ねも走りもしない。

規律に従った速度でのゆったりとした移動である。

もちろん、何かしらの奇行をともなうでもない。

サナリモリブデンにはそういった趣味嗜好はなく、当然持ち合わせるべき常識をわきまえているのだから当然だ。

 

また、彼女自身の容姿にも特徴的な部分は少ない。

身長や体型は平均的。

華美に着飾る趣味もなく、身に纏った学園制服は規定通りで改造なども施されていない。

殆ど真っ白に近い芦毛というのが多少珍しくはあるが、あくまで多少の範囲だ。

 

総じて目立つウマ娘ではないと言えるだろう。

 

「そうそう、前靴屋さんだったあそこの角! 先週からケーキ屋さんが新しく──ぁっ」

 

「どしたの?」

 

「あ、あれ、あれ!」

 

「へ? ……!」

 

だが、その姿を見た者が声を上げた。

まだどこか初々しさを残す、恐らくジュニア級だろう2人のウマ娘達だ。

 

廊下の先から話をしつつ現れた彼女達はサナリモリブデンを見るや緊張に身を強張らせた。

慌てたようにサササと横歩きで端に寄り、ピンと背筋を伸ばす。

そして、サナリモリブデンが近付いてきたタイミングでガバッと頭を下げた。

 

「お、お疲れ様です!」

 

「お疲れ様ですっ」

 

「うん、お疲れ様」

 

色味も髪型も良く似た鹿毛の2人の挨拶にサナリモリブデンはごく当たり前に返した。

特段知り合いではない。

学園は広く、在校生は多い。

初対面の者はいくらでもおり、彼女達もまたサナリモリブデンの知らない2人である。

そういった関係の相手に対するには適切な温度での返答だ。

 

「わ、わ、どうしよ挨拶しちゃった……挨拶しちゃったぁ……!」

 

「ちょっとライム落ち着いてっ。こ、こんなの普通の事でしょ。同じ学園にいるんだから挨拶ぐらい騒ぐほどじゃないって」

 

「そんな事言ってピーちゃん、耳、耳!」

 

ただし2人の反応は普通ではなかった。

ライムと呼ばれた方は笑みの形に緩んだ頬を紅潮させ、手をパタパタ振り回している。

ピーちゃんと呼ばれた方は言葉こそ平静を装っているものの、やはりほんのり赤くなった顔と……何より忙しなく動く耳に感情が分かりやすく表れていた。

 

声は抑え気味に。

サナリモリブデンに届かないようにと気を付けてはいるようだが、ウマ娘の鋭敏な聴覚から隠しきれる小ささではない。

2人とて当のウマ娘なのだから知っているはずであるのにだ。

どうやら余程の興奮状態にあるらしい。

 

「…………ん」

 

その原因となった感情はサナリモリブデンも当然推測できている。

元来そういった部分に鈍い性質ではない。

友人であるソーラーレイに「周囲からどう見られてるかを意識するべき」と言われた記憶も新しい今ならばなおさらだ。

 

 

 

こういった事は毎日王冠の後から急激に増えていた。

 

街中であっても、学園であっても。

自身に向かう視線をサナリモリブデンは強く自覚した。

せざるを得ない程に注がれていると言っても良い。

 

元々あったものではある。

そもそもとしてサナリモリブデンは世代の中で明確に強者の側に入る成績を残してきたウマ娘である。

きさらぎ賞での競走中止を除けば常に3着以内に食らいつき続けた実績の持ち主だ。

 

同じマイル戦線に先日まで無敗を誇っていたマッキラが居たために影に隠されていただけで、例年ならば有力ウマ娘の筆頭格として語られていただろう。

学園内での注目度は冗談でも小さいとは言えなかった。

 

だが、今。

そのマッキラをわずかとはいえ明確に上回って見せた今。

サナリモリブデンに向かう視線の数と熱は爆発的に増加している。

比べ物にならないほどにだ。

 

それはチリチリと、サナリモリブデンの中に堆積して彼女を炙り続けている。

 

 

 

そうして、数多の視線の海を泳いでサナリモリブデンは目的地に辿り着いた。

学園の中庭、その一角である。

置かれているのはごく一般的なベンチだ。

 

その周囲には人だかりが出来ていた。

ベンチに腰掛けた栗毛を囲んで10人ほどのウマ娘がわいわいと歓談している。

穏やかで素朴な笑みを浮かべ、投げられる言葉の全てに真摯に対応する栗毛の姿はサナリモリブデンにとって印象深く映った。

出来るなら割って入りたくはないと思うほどには。

 

が、残念ながらそうもいかなかった。

待ち合わせの相手も、そしてサナリモリブデン自身も余暇の時間はそう多くない。

申し訳ないと思いながらも集団に歩み寄る。

 

近付くサナリモリブデンに気付くと、集団は自ら別れて道を作った。

決して、2人の邪魔だけはしてはならないというように。

それに一言感謝を投げかけてから、サナリモリブデンは栗毛の前に立つ。

 

 

 

「こんにちは──マッキラ。待たせた?」

 

「いらっしゃい、サナちゃん。大丈夫だよ。……ふふ、きっかり5分前だ。几帳面なんだね」

 

 

 


 

 

 

集まっていたウマ娘たちは、サナリモリブデンの到着後にその場を離れていった。

応援している。

復帰を待っている。

いつかあなたに挑みたい。

口々にそういった言葉をマッキラに贈りながらだ。

 

「運が良かったなーって。そう思うんだ」

 

2人きりとなったベンチでマッキラが呟く。

 

「私がダメになったところ、カメラに映ってなかったんだって。ちょうど大ケヤキに隠れててね。あは、助かっちゃった」

 

その姿に、声に、暗い影は無かった。

憑き物が落ちたとはこのことだろう。

粘りつくような湿度はもうどこにもなく、素朴な少女らしい軽やかさが表出している。

 

「お陰で今の子達をガッカリさせずに済んだみたい」

 

「じゃあ、私達11人だけの秘密?」

 

「ふふ。そうだったら良かったんだけどね。気付いてる子も中にはいるみたい。ちょっと心配されちゃった」

 

耳をへにょりと垂らしてマッキラが苦笑する。

が、すぐに続けた。

 

「でも周りには何も言わないでいてくれてる。2週間経って噂の1つも流れてないんだから、みんなちょっと良い子すぎるよね。逆に私が心配になっちゃうよ」

 

そう言いつつもマッキラの表情は優しい。

穏やかに晴れやかに、今日の晴れ空に良く似合う朗らかさだ。

 

「本当に、運が良かったんだ。……あの時、私に──走れって言ってくれた子が居たから。もう少しだけ強い振りを続けたかったの」

 

「……うん」

 

その気持ちはサナリモリブデンにも良く理解できるものだった。

 

弱い自分に嫌気がさし、絶望し、暗い夜の中に取り残されもがいている時に。

あなたは走って良いのだと差し伸べられる手の温かさを彼女は良く知っている。

そして、与えてもらった期待の通りにありたいと生まれる願いも。

 

 

 

しばし、静かに時間が流れる。

互いに言葉はなかった。

 

彼女達は友人ではない。

親交を深めるだけの交流はこれまでに無く、ただ3つのレースで争っただけの関係だ。

けれど、沈黙を不快と感じない。

良く似通った魂は何も無い時間を許容してくれた。

 

 

 

「……そろそろ時間だ。色々話したい事あったはずなんだけどなぁ。なんでだろ、サナちゃん相手ならわざわざ言わなくても分かってくれるみたいな気持ちになっちゃった」

 

マッキラが立ち上がる。

組んだ手を天に伸ばして背を反らし、座って固まった体をほぐす。

ふるふると気持ちよさそうに震える尻尾。

 

「休養は、確か北海道?」

 

「うん。トレーナーさんがね、実家近くの方が休まるだろうって。ふふ、久しぶりに雪のある冬かぁ。なんだかちょっと楽しみかも」

 

「すごく分かる。ゆっくり休んできて」

 

「そうする。……バカみたいな無茶してたからね。レースもトレーニングも」

 

それから、今度は前屈して脚に触れた。

膝から足首までをゆるりと撫で下ろす。

 

そこに異状はない。

が、いつおかしくなっても不思議ではない状態ではあった。

初めて得た勝利に狂い、自分で生み出した恐怖に駆られて逃げ続ける日々はマッキラに過酷な負荷を強いていた。

 

今後もレースを走りたいなら一度念入りにケアが必要。

それがマッキラのトレーナーが下した判断だった。

ここ東京から遠い地、北海道にて最低でも数ヶ月の休養が予定されている。

 

「帰ってきたら、さ」

 

その日々はマッキラから絶対を奪い去るかも知れない。

休養中のトレーニングは最低限のものになるはずだ。

実戦など当然論外である。

彼女から失われるものは、恐らく小さくない。

 

「また戦ってくれる?」

 

だが。

今のマッキラにはそれでもと己を奮い立たせるだけの力がある。

 

「サナリちゃんに獲られちゃった王冠を取り戻したいんだ」

 

まっすぐに、勝者の目を見つめられるだけの力が。

 

「──もう一度、誰かに憧れてもらえる王様になりたいから」

 

 

 

 

 

「約束はしない」

 

対するサナリモリブデンもまた、その瞳を正面から受け止めた。

 

「私にも走る理由がある。立ち止まっているつもりはない。来年もマイルを走っている保証はないし、マッキラを待つなんて事もしない」

 

当然の返答だった。

 

サナリモリブデンが求めるものは記憶に刻まれる永遠だ。

果てしない道だろう。

どうすればそれが成せるのかさえ未だ不明瞭で、どこまで行けば成せたと納得できるかも分からない。

 

ならば停滞の余地はどこにもありはしなかった。

前進を積み重ねる日々の中、振り返る事はあろうが歩みを止める暇はない。

 

「だから、マッキラ。私に勝ちたいならそちらから追ってくるといい」

 

あなたのために費やす時間はない。

サナリモリブデンはそう言いながらも確信していた。

きっと、自分がその時どこにいようが。

 

「今のあなたに、それが出来ないとは思わない」

 

必ずもう一度、彼女は手を届かせるはずだと。

 

 

 

 

 

およそ初めてと言って良い真っ当な対話はそれで終わった。

 

またね。

また。

そう一言ずつを交わして2人はそれぞれの道を行く。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「なんというか、一皮剥けましたねぇ」

 

「ん、そう?」

 

「えぇ、迫力が増したといいますか……マッキラさんとの戦いはやはり大きな糧になりましたね」

 

マッキラとの対話の後、十数分後。

トレーナー室に入ったサナリモリブデンは郷谷に出迎えられた。

受け取った言葉を、サナリモリブデンは素直に喜ぶ。

 

そうならば嬉しい事である。

永遠に記憶すると決めたレースとライバルが実際に心身に刻まれたというなら幸い以外の何物でもない。

サナリモリブデンは上機嫌に椅子に腰かけた。

 

「さて、それではその一皮剥けたサナリさんがどこに殴り込むか決めてしまいましょうか」

 

対面にはもちろん郷谷が座る。

そしていつものタブレットを取り出し、綺麗に爪の整った指でトントンと画面をタップした。

操作に従って表示が切り替わり、レースの予定表が表示される。

 

 

 

その中のひとつ。

マイルチャンピオンシップには出走予定の変更があった。

 

マッキラ、そしてチューターサポートの不在である。

 

「正直、チューターサポートさんは意外でしたね」

 

郷谷が言う。

長期休養に入るマッキラはともかく、そちらはサナリモリブデンとしても「おや」と思ったものだった。

 

だが話を聞いて今では納得している。

曰く。

 

『今は挑むより積み重ねたい』

 

との事だ。

 

サナリモリブデンとマッキラに対する連敗。

これがチューターサポートによほど大きな火をつけたらしい。

現状で幸運の勝利を手にするより、明確に上回ったと納得のいく勝利を。

そういった考えのようだ。

 

「少しばかり偵察もしてみましたが、いやぁ、気合のノリが数段違います。来年の彼女はどうも相当怖そうですよ」

 

徹底的な肉体改造をチューターサポートは試みている。

それも、G1の栄光を手に出来る可能性をふいにしてまでだ。

 

今後ぶつかる時があれば、これまでと同じ敵とは思わない方が良いだろう。

 

 

 

さて、それはともかく。

ズラリ並んだ一覧を眺め、サナリモリブデンは自身の希望を郷谷に伝えた。

 

 


 

【クラシック級 11月】

 

オーロカップ(OP)       秋/東京/芝/1400m(短距離)/左

キャピタルステークス(OP)   秋/東京/芝/1600m(マイル)/左

アンドロメダステークス(OP)  秋/京都/芝/2000m(中距離)/右内

 

京阪杯(G3)          秋/京都/芝/1200m(短距離)/右内/ソーラーレイ

福島記念(G3)         秋/福島/芝/2000m(中距離)/右

 

アルゼンチン共和国杯(G2)   秋/東京/芝/2500m(長距離)/左

 

マイルチャンピオンシップ(G1) 秋/京都/芝/1600m(マイル)/右外/

ジャパンカップ(G1)      秋/東京/芝/2400m(中距離)/左/スレーイン

 

 

【クラシック級 12月】

 

タンザナイトステークス(OP)  冬/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

ラピスラズリステークス(OP)  冬/中山/芝/1200m(短距離)/右外

リゲルステークス(OP)     冬/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

ディセンバーステークス(OP)  冬/中山/芝/1800m(マイル)/右内

 

チャレンジカップ(G3)     冬/阪神/芝/2000m(中距離)/右内

中日新聞杯(G3)        冬/中京/芝/2000m(中距離)/左

 

阪神カップ(G2)        冬/阪神/芝/1400m(短距離)/右内/ブリーズグライダー

ステイヤーズステークス(G2)  冬/中山/芝/3600m(長距離)/右内

 

有馬記念(G1) ファン数不足  冬/中山/芝/2500m(長距離)/右内/ペンギンアルバム、クラースナヤ

 

 

【シニア級 1月】

 

カーバンクルステークス(OP)  冬/中山/芝/1200m(短距離)/右外

淀短距離ステークス(OP)    冬/京都/芝/1200m(短距離)/右内

ニューイヤーステークス(OP)  冬/中山/芝/1600m(マイル)/右外

白富士ステークス(OP)     冬/東京/芝/2000m(中距離)/左

万葉ステークス(OP)      冬/京都/芝/3000m(長距離)/右外

 

シルクロードステークス(G3)  冬/京都/芝/1200m(短距離)/右内

京都金杯(G3)         冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外

中山金杯(G3)         冬/中山/芝/2000m(中距離)/右内

愛知杯(G3)          冬/中京/芝/2000m(中距離)/左

 

アメリカJCC(G2)        冬/中山/芝/2200m(中距離)/右外/スレーイン

日経新春杯(G2)        冬/京都/芝/2400m(中距離)/右外

 

 

【シニア級 2月】

 

北九州短距離ステークス(OP)  冬/小倉/芝/1200m(短距離)/右

洛陽ステークス(OP)      冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外

 

阪急杯(G3)          冬/阪神/芝/1400m(短距離)/右内

東京新聞杯(G3)        冬/東京/芝/1600m(マイル)/左

小倉大賞典(G3)        冬/小倉/芝/1800m(マイル)/右

ダイヤモンドステークス(G3)  冬/東京/芝/3400m(長距離)/左

 

中山記念(G2)         冬/中山/芝/1800m(マイル)/右内

京都記念(G2)         冬/京都/芝/2200m(中距離)/右外

 


 



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クラシック級 11月 次走選択結果~閑話/余波

活動報告ではランダムイベントまで投稿すると書きましたが、改めて読み返すと長すぎたのでイベントは明日に回します。


 


 

【投票結果】

 

マイルチャンピオンシップ

 


 

 

「と聞いてはみましたが、まぁ今は正直それ一択でしょうね」

 

サナリモリブデンの返答を受けて郷谷は頷く。

 

必然と言って良い選択である。

サナリモリブデンにとって避けては通れないレースだった。

 

京都レース場、1600メートル。

マイルチャンピオンシップ。

その名の通り、マイルの王座を決するG1の大舞台である。

 

春のマイル王決定戦である安田記念を制したマッキラ。

それを打ち倒したサナリモリブデンは当然、この秋のマイル王決定戦に出走するものとファンからは期待の目を向けられている。

 

「うん。求められているなら応えたい」

 

自身に注ぐ数多の視線を、サナリモリブデンは裏切ろうとは思わなかった。

それにもうひとつ。

 

「それに。マッキラに挑みたいというのは私のわがままだった。叶えてくれて、勝たせてくれたトレーナーに返したい。G1の、最高の冠で」

 

情報を表示し続けるタブレットから、サナリモリブデンは顔を上げた。

視線はまっすぐに郷谷の瞳へと向かう。

 

 

 

「ふむ。……サナリさん」

 

「ん」

 

「ちょっと頭をこちらに」

 

「こう?」

 

それを受けて郷谷は手招きして要望した。

サナリモリブデンは素直に従う。

警戒や疑問などひとかけらもなく、前傾になって白い頭を差し出した。

 

そこに、ポンと郷谷の手が乗る。

 

「サナリさんはトレーナー殺しですねぇ……」

 

なでりなでりとその手が優しく頭を撫でた。

撫でられる側はといえば気持ちよさそうに目を細めてされるがままだ。

 

トレーナー冥利に尽きるというものだろう。

日々重いトレーニングを課し、時に厳しい言葉を投げかけ、しかしそれでも感謝と信頼を常に持ち続けてくれる。

しかも指導には従順で教えた事をしっかり飲み込んでもくれる。

そして、こうして2人で掴み取った成果の価値を最高の宝として、無二の武器として大事にしてくれる。

 

これほどトレーナーという人種を溶かしやすい性質のウマ娘はそうそういない。

もちろん郷谷とてデロデロにならずにはいられなかった。

 

そんな彼女にとって「あなたのために勝ちたい」という言葉がどれほど刺さったかは言うまでもない。

溶かされた分だけ、やってやろうという気持ちが郷谷の中に湧き立ってくる。

 

「よし、次走はマイルチャンピオンシップです。日程に合わせてキッチリ仕上げていきますよ。サナリさんも夜更かしなどには注意して、体調を崩さないように気を付けましょうね」

 

「ん、任せて。寝付きの良さには自信がある」

 

郷谷が請け負い、サナリモリブデンがしっかり頷く。

互いに気合は十分。

連勝の勢いに乗ったまま、G1の栄誉を勝ち取ろうと意志を交わし合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と。

そこまでで終われば良かったのだが。

 

「……さて、では次のお話です。いやー、ちょっと私達にこの後お呼び出しがかかってましてね」

 

郷谷の眉がへにょりと下がる。

困ったような苦笑を浮かべて、言った。

 

「サナリさん。一緒に理事長室に行きましょうか」

 

 

 

 

 


 

【閑話/余波、あるいは前震】

 


 

 

 

 

 

「失礼します」

 

「……失礼します」

 

退室の挨拶がふたつ。

次いで、重い扉が閉まる音。

 

理事長室へ呼び出されての話はそう時間がかからずに終わった。

特に長々と対話を行う事もなく、少しの聞き取りの後、決定事項を伝えられただけだったためだ。

 

内容は……毎日王冠で実行した策についてである。

 

限界を超えた内傾姿勢。

ほんの一歩未満の瑕疵で死に至りかねない危険極まりない走法。

アクシデントではなく、自らの手で故意に引き起こされる狂気のコーナリング。

 

これが流石に目に余ったらしい。

もし本当に転倒が起こったならばとURAは当然考えた。

 

実行者はまず間違いなく競走生命を終えるだろう。

しかも話はそこでとどまらない。

もしその時後方から迫る者があれば、巻き添えが発生する恐れは小さくなかった。

最悪の場合は転倒が次々と連鎖する事となる。

レース史上に類を見ない規模の大惨事さえ予想された。

 

となればどうなるかと言えば、当然……。

 

「……とても残念。だけど、仕方ない」

 

ルールの改定だ。

転倒しかねない異常姿勢での走行を禁じる一文が今後ルールブックに追加される事となったのだ。

普通に考えてそのような走り方をする者が居ないために空いていたルールの穴である。

それに先立って当事者にまず通達を、という用件だったわけだ。

 

 

 

しょんぼりと耳を伏せてサナリモリブデンが俯く。

その横で、はぁ、とため息が漏れた。

 

「まぁ……罰則がなかっただけいいんじゃないですか」

 

続いてどこか投げやりな言葉が吐き出される。

 

郷谷、ではない。

彼女はまだ理事長からの話があるらしく室内に残ったままだ。

ここに居るのはサナリモリブデンと。

 

「そもそも妥当もいいところです。……なんなんですかあなた。あんなもの、考えついても誰もやらないんですよ普通は」

 

サナリモリブデン以外に同じ事を実行した、スローモーションである。

彼女もまた、同時に呼び出されお叱りを受けていたのだ。

 

スローモーションはじっとりとサナリモリブデンを睨んだ。

長い黒鹿毛の前髪の向こうから、隙間を通して冷たい視線が突き刺さる。

 

「……そういうスローモーションも、やった」

 

「…………あなたがしたからです。道があるならアレだけとは思っていましたが、まさか本当にやるなんて」

 

「む」

 

サナリモリブデンが反論するも、籠る力は弱弱しかった。

跳ね返ってきたスローモーションの声に何も言えなくなる。

 

「……ごめん。巻き込んだ」

 

それどころか、耳が垂れるのに加えて肩まで落ちた。

模倣しただけだと言われ素直に受け取り、自分のせいでスローモーションまでが呼び出され苦言を呈される事になったとサナリモリブデンは責任を背負い込む。

 

端的に言って、サナリモリブデンは少し弱っていた。

彼女は先述の通り素直で従順な性質だ。

いわゆる良い子の見本であり、叱責を受けた経験は人生でそう多くはない。

理事長の声に含まれていた感情が怒りではなく心配だった点も、落ち込みを大きくしている。

 

闘志のぶつけ合いにはすこぶる強くとも、筋の通ったお説教には弱い。

それがサナリモリブデンだ。

 

 

 

「…………はぁ」

 

対し、スローモーションはまた溜め息を吐いた。

頭痛をこらえるような仕草で額を押さえ、ゆるゆると頭を横に振る。

 

「……別に、あなたに責任はありません。きっかけはどうであれ、私自身がやると決めてやった事です」

 

睨む視線はその過程で逸らされた。

どこかバツが悪そうにボソボソと言葉が続く。

 

「それに、得るものもありました。同じ事はもう出来なくとも応用は効きます。今回磨き得たコーナリング技術に関しては私……と、あなたに並ぶ敵はシニア級を含めて見渡してもいないでしょう。挑んだ甲斐は、まぁある経験でした」

 

そうしてスローモーションはサナリモリブデンに背を向けた。

それでは、と呟くように言って踵を返し廊下の先へと消えていこうとする。

 

 

 

「待って欲しい」

 

と、その背をサナリモリブデンは呼び止めた。

たたっと数歩を駆けるように進んで隣に並び、同じ速度で歩みながら言う。

 

「…………何か? こちらはさっき言った通りあなたを責める気も責任を転嫁する気もありません。話は終わったはずですが」

 

「ん、こっちもそこを蒸し返すつもりはない」

 

眉を顰めてわずかに早足になるスローモーション。

サナリモリブデンも足を早める。

 

その耳はまだ折れ気味だったが先程までよりは幾分立ち上がっていた。

スローモーションの言葉には気遣いの気配はあったが、嘘はなかったようにサナリモリブデンには聞こえた。

ならば「でも」と引きずるのはかえってスローモーションを貶める事になる。

そう判断してしまえば切り替えられるのが彼女であった。

 

つまり、用は全く別件だ。

 

「何度も一緒に走ったのに、挨拶もした事がないと思って」

 

「は?」

 

「時間があるなら、少し話がしたかった」

 

 

 


 

 

 

「こっちから誘ったんだから奢る」

 

チャリンと五百円硬貨が投入される。

ディスプレイ下のボタンが点灯し、省エネモードから復帰した自動販売機が全体の光量を上げて存在を主張し始めた。

 

場所は学園の購買付近。

飯時はとうに過ぎたが午後のトレーニングが終わるにも遠い隙間の時間帯だ。

辺りに人気はほとんどなく、落ち着いて話をするにはちょうどいい。

 

「……あなたのオススメは?」

 

「麦茶。クセがなくて飲み終わっても後を引かない。口の中がサッパリするから話をする時にはこれが一番」

 

「そうですか」

 

スローモーションの手が伸びて、ボタンを押した。

ガコンとペットボトルが吐き出される。

 

カフェオレだった。

世の中に流通する銘柄のうち、最も売り上げの多いポピュラーなものだ。

 

「…………うん。好きなものを飲むのが良いと思う」

 

「えぇ、もちろん。好きにさせてもらいます」

 

なお、サナリモリブデンが薦めた麦茶のひとつ隣の商品であった。

 

 

 

「それで、話というのは?」

 

自販機近くの壁に寄りかかり、スローモーションが口を開く。

チビチビと舐めるようにカフェオレを飲みながらだ。

その表情はいかにも不機嫌そうで、味を楽しんでいるようには見えない。

というよりも、ハッキリ不味そうに歪んでいた。

 

「……カフェオレ、嫌いなの?」

 

「えぇ、そのようです。初めて飲みましたが泥水の方がマシですね。嫌いな味です。無駄に甘い上にしつこく残って……」

 

「私の麦茶と交換する?」

 

「やめてください。冗談でもお断りです」

 

スローモーションの顔はどんどん歪んでいく。

鼻際の皮膚がピクリと震えていた。

前髪を掻き分ければ眉間に寄った見事な皺も観察できるだろう。

 

「ん……じゃあ、逆に好きな味は? 飲み物じゃなくてもいい」

 

「……リンゴ、桃、ブドウ。後は酸味が強すぎなければベリー類は大体」

 

「リンゴは私も好き。実家にいた頃は良くパイを焼いた」

 

「そうですか、私は嫌いです。焼いたリンゴは甘過ぎる。その上パイなんて、カケラが落ちて食べにくい。最悪の食べ物ですね」

 

「…………む」

 

「ああ、あなたが好きな分にはどうぞご勝手に。あくまで私の好みの話です。あなたの味覚や嗜好にケチをつける気はありませんよ」

 

なんというか、取り付く島もなかった。

スローモーションは明らかにさっさとこの時間を切り上げようとしている。

話題を広げようとも膨らませようともせずバッサリだ。

 

「それで」

 

どころか。

 

「話があるなら早く済ませて下さい。長々と付き合うつもりはありません」

 

ストレートに言い放つ。

当然のように目線も合わない。

 

 

 

「……特にない」

 

「は?」

 

「理事長室の前で言った通り。今まで機会がなかったから、一度くらいはと思って」

 

これに困ったのはサナリモリブデンだ。

何しろ本当に用件らしい用件は無かったのだ。

まるで避けられているかのようにこれまでは接点がなかったが、折角こうして近付く機会がきたのだからと。

それだけの事で呼び止めたに過ぎない。

 

はぁ、と。

もう何度目かのスローモーションの溜め息。

 

「サナリモリブデン」

 

「うん」

 

「私とあなたは敵同士です」

 

「うん」

 

「交流も馴れ合いも不要です」

 

「ん……。分かった。残念だけど、スローモーションが嫌なら仕方ない」

 

サナリモリブデンはそれで引き下がる事にした。

どうやらスローモーションと仲を深めるのは難しい。

 

寄ってくるなと全身で主張する黒鹿毛と友人になれるとしたら、このバリアめいた拒絶を無視してグイグイ迫っていけ、かつ致命的な逆鱗や地雷を綺麗に回避できる者だけだろう。

そして残念ながら、サナリモリブデンはこういった場面での押しの強さは持ち合わせない。

嫌だと言われればごめんと言って引き下がるタイプである。

 

過度に怒らせる事はなかろうが、友人としての相性は最低に近かった。

もしレースの中でライバルとして対していなければ生涯接点なく終わったに違いないほどに。

 

「……思ったよりも聞き分けがいいですね。あなたはもう少しめんどくさ……失礼、しつこいタイプかと思っていましたが」

 

「とても心外な上に言い直しても余り変わってない」

 

「そうですね。今のは私に非があります。良く知りもしないのに決めつけるべきではありませんでした」

 

 

 

ふぅ、と諦めたような吐息。

次いで、スローモーションがペットボトルを傾けた。

力強く喉が動き、中身が一気に半分ほどに減る。

 

勢いに目を丸くしたサナリモリブデンの横で、口を離したスローモーションが言う。

 

「…………謝罪の意味と、この不味い飲み物の代金分程度は、ということで。今回だけは付き合います。飲んでいる間だけ。……とても不味いですが」

 

「ん、ありがとう」

 

選んだのはスローモーションだ、とは流石にサナリモリブデンも口にしない。

恐らく一回きりだろう機会である。

余計な事を言って撤回されるのは避けたいところだった。

 

口をつぐんだまま、さて、とサナリモリブデンは考える。

 

何を話すべきだろうか。

先ほどのような好物の話を続けても仕方ない。

同じく、趣味や休日の過ごし方などもだ。

スローモーションと友人になれないなら、そのような情報にはサナリモリブデンの自己満足以上の意味はない。

 

そうして少しの思案の後。

敵としてしか向き合えなくとも知る価値のある事を見つけた。

 

「スローモーションは」

 

「はい」

 

「どんな理由でレースを走っているの?」

 

 

 

それはちょうど、今日の昼間に強く意識したものだった。

 

マッキラとの短い対話の中。

彼女は自らが求める永遠について考えた。

 

どうすれば近付けるのか。

どこまで行けば得たと言えるのか。

学園入学以来、いや、目指すと決めた幼少期以来模索し続け、しかし未だ答えは出ない。

 

G1の冠を得れば華々しい記録は残るだろう。

積み重ねられたならその記録が放つ輝きは遥か眩いものになるはずだ。

 

しかし、それだけでいいのかと心の隅で囁く己がいる。

 

「……答えたくないものなら、無理に聞く気はないけど」

 

答えに至る一助を、サナリモリブデンはその問いに求めた。

 

とはいえ、実際にヒントを得られるとも思っていない。

他人の理由はどこまで行っても他人の理由だ。

全ては結局、自分で見つける他に手立てはない。

 

ただ、その場合でもスローモーションの渇望を知る事には意味がある。

敵がレースに、戦いに何を求めるか。

その情報はこれからも続く戦いの中で生きる事もあるかも知れない。

 

 

 

「別に、隠すほどの事でもありません」

 

問いに、スローモーションは気負った様子もなく答える。

やはり不快そうにカフェオレを舐めながら。

 

「……小学3年の冬休み。年末に親戚で集まった時の話です。許しがたい侮辱を受けまして」

 

「侮辱……?」

 

「えぇ。有マ記念の中継を見て将来トゥインクルを走りたいと言った時に、2つ年上の従兄に。お前には無理に決まってると」

 

スローモーションが握ったペットボトルがベコリとへこむ。

思い返した事で当時の感情が蘇ったのだろう。

ギリ、と歯が擦れ合う音さえ漏れるほどだ。

 

サナリモリブデンもまた眉を顰める。

白い尾が揺れ、壁を叩いた。

 

「それは、ひどい」

 

「最低最悪の暴言です。その上、お前は体が弱いんだから頑張らなくていい、などと」

 

「……?」

 

が、尾の勢いはすぐに弱まった。

 

「……あの、スローモーション。それ、多分だけど──」

 

言葉の選び方が悪かったのは間違いない。

だが、発したのは小学生の男の子だ。

そういった事はよくあるものである。

 

件の従兄はスローモーションを気遣い、守るために言ったのだろう。

もうとっくに遅いが、行き違いがあるならフォローのひとつも入れるべきかとサナリモリブデンは考えた。

 

「知っています」

 

が、その言葉は口から出る前に止められた。

 

「えぇ、当時の私は実際に弱かったですから。兄気取りのあの男が私を勝手に妹扱いして危険から遠ざけようとしたのは分かります」

 

タンタンタンとリズミカルな音。

視線を落とせば、スローモーションの爪先がリノリウムの床を苛立たし気に叩いていた。

そこが土だったなら穴が出来上がっていたかも知れない。

 

「ですがそんなものは関係ありません。あの男は私を見下した。守るべき弱い生き物だと決め付けて、私の憧れを否定した」

 

ペットボトルは上半分がついに潰された。

歪んで外れた蓋がコロリと落ちる。

 

サナリモリブデンは、残りがもう半分以下になっていてよかったと場違いな事を考える。

そうでなければ中身の液体も盛大にぶちまけられ、掃除が大変だったろうからと。

 

「そういった扱いを許した事はありません。全てに、必ず報復してきました。一つの例外もなく」

 

そこまでを話し終えて、スローモーションは残りのカフェオレを一気に流し込んだ。

 

「んっ……はぁ。そういう訳で、それが私の走る理由です」

 

「──うん」

 

「初勝利の日にはその足であの男の家に直行して、蹴り転がして腹を踏みつけてやりました。ようやく聞けた謝罪は大変気持ちよかったですね。震えるほどに爽快でしたよ」

 

「──そう。おめでとう」

 

薄く笑みを浮かべるスローモーションに、サナリモリブデンは無難に返した。

 

なんともコメントに困る話であった。

とりあえず、どうあがいてもサナリモリブデンの答えには繋がりそうにない。

怒らせると相当まずい相手と知れたのは有益かも知れないが、とうに薄々分かっていた事でもある。

 

 

 

カフェオレは無くなった。

転がった蓋も含めて、容器はゴミ箱に収められる。

 

「それで」

 

「ん……うん。無くなったなら、約束通りここまででいい」

 

「……違います。私だけに言わせて終わりですか?」

 

そこで終わりと思いきや幾分の延長があるようだ。

ジロリと目を向け、サナリモリブデンに言葉を促す。

 

「こちらの理由?」

 

「はい。一方的に知られるのでは不公平でしょう?」

 

「確かに」

 

うん、と頷いてサナリモリブデンは納得した。

聞かれたならば伝える事に否やはない。

 

これが友人や今後親しくしたい者相手ならば言葉を濁しただろう。

サナリモリブデンは、自分の抱える理由が他人に与える重さを理解している。

育まれる友情や親愛に同情が混ざるのは彼女としては避けたいところだ。

 

が、相手はスローモーション。

敵以外にはならないと分かった相手に遠慮は不要だった。

気性の苛烈さを思えば、知らせたところで勝負に手心が加えられるような心配もいらない。

 

 

 

そうして、サナリモリブデンは話した。

 

生きた証を残したいという願いの根と。

けれど、達成に至る道筋がまだ見えないという悩みも含めて。

 

 

 

「…………」

 

スローモーションから返されたのは沈黙だった。

 

不思議ではない。

父親の死と、故郷の衰退。

それに端を発する、忘れられたくないという想い。

自分自身の事ながら無闇矢鱈と事情が重いという自覚はサナリモリブデンにもある。

だから、不思議なのはそこではなかった。

 

分からないのは……スローモーションの苛立ちが戻っている点である。

それも、過去の侮辱を思い返しての時よりも更に大きく深い怒りが満ちていた。

 

 

 

「……サナリモリブデン」

 

「ん、うん」

 

「次走はマイルチャンピオンシップですか?」

 

「……う、ん」

 

「そう。そうですか。ならちょうどいいですね」

 

押し殺したような低い声に、サナリモリブデンは頷く。

スローモーションはくつくつと喉を鳴らし、笑った。

 

「奇遇ですね。私にも悩みがあったんです。あの毎日王冠で気付いてしまったものを、どう処理したものかと思っていたのですが……見事に解決できそうで大変愉快です。えぇ、本当に」

 

そして、突然の出火に若干たじろぐサナリモリブデンへと、宣戦を布告する。

 

 

 

「……どうぞ、楽しみにしていてください。私の一世一代の八つ当たりを味わわせてさしあげますので」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同刻。

トレーニング場の一角にて。

 

「おぅい。ちょっとこっちゃこーい」

 

ちょうどメニューの区切りを迎えたウマ娘を呼ぶ声が響いた。

落ち着いた野太い声だ。

良く通るそれに気付いて、褐色肌に栗毛の娘が近付いてくる。

 

「あーん? なによトレーナー」

 

足音を擬音にするならズカズカという辺り。

ソーラーレイである。

契約当初は遠慮がちに敬語でトレーナーに接していた彼女だが、今はもう見る影もない。

 

さながら父と娘とも思えるような距離感だった。

ありえない事だが、もし同じ家で暮らしていたとするなら間違いなくソーラーレイの口からは「洗濯物を一緒にしないで」ぐらいの言葉が飛び出すだろう。

 

そう接される側のトレーナーは慣れたものだ。

世間からは中年と呼ばれる年齢の彼は見た目通りに経験も深い。

この程度の生意気さはケロリと流せるだけの度量は当然持っていた。

 

「サンプルが届いたんだ。ほぉれ、お前のぱかプチだぞぉ~!」

 

なので全く意に介さずそれを掲げてみせる。

 

片手には少し余る大きさのぬいぐるみだ。

ソーラーレイを模したものである。

ウマ娘のグッズとしては最も良く知られた品と言って良い。

両脚を伸ばして座る姿勢のデフォルメ2頭身ソーラーレイは生意気そうな笑顔を満面に浮かべている。

 

「はーん。良く出来てんじゃない」

 

ソーラーレイは差し出されたそれをむんずと掴み。

 

「ま、どうでもいいわ。それよりトレーナー、このトレーニングなんだけどさぁ」

 

「おわぁ!?」

 

ペイッとぞんざいに投げ返した。

 

トレーナーは慌てて受け止める。

数回大きな掌でお手玉して、なんとか抱え込んでほっと一息。

 

「強度がちょっと足んない気がすんのよね。もう少しなんとかならない?」

 

「お、お前ねぇ、その反応はないだろ~。なんだよぉどうでもいいって」

 

「何よ。実際どうでもいいじゃない。ぬいぐるみなんかレースに関係ないでしょ」

 

雑すぎる返答にトレーナーは頭を掻いた。

彼は経験豊富で、ガサツなウマ娘にも気性の荒いウマ娘にも慣れている。

が、ぱかプチを放り投げるような者を担当するのは初めてだった。

 

ぱかプチとは、先述の通り最も良く知られた品ではあるが、同時に特別な物でもあった。

なにしろ、ぱかプチとして商品化されるのはG1の栄冠を勝ち取ったウマ娘のみである。

ソーラーレイもまた、スプリンターズステークスの勝者として発売の権利をようやく与えられたばかり。

いわば最高の勝利の証なのだ。

 

それをまさか、地面に落ちて土や砂にまみれかねない扱いをするとは中々に想像しがたい。

 

 

 

「はぁぁ……お前は本当、筋金入りだなぁ」

 

「今さら? トレーナーだってとっくに分かってんでしょ。私が興味あるのは──」

 

「勝負だけ、だろ? あぁ、おうおう、心の底から実感したよぉ、まったく」

 

ふん、と鼻息を鳴らすソーラーレイ。

 

弁護するならば、常ならばまだ多少はマシにぬいぐるみを扱っただろう。

だが今、彼女にはそれだけの落ち着きはなかった。

 

「分かったらこっちの話よ。トレーニング強度!」

 

腕を組み、トレーナーを見上げる。

その瞳には爛々とやる気が満ち、満身から気合が迸っていた。

 

「よしよし落ち着けどうどうどう。ちょっと流石にイレ込みすぎだぞぉ」

 

「ふしゅるるる……」

 

「うわこわ。か、噛みつくなよ?」

 

「トレーナーみたいなオジサンに噛みつきなんて誰もやんないわよ。気持ち悪いこと言わないでくれる?」

 

「ばっちぃ扱いは普通に傷付くからやめてくれないか……!?」

 

大仰に嘆き、情けなくガックリ肩を落とすトレーナー。

それを見てソーラーレイは若干毒気が抜けたようだ。

自分を道化にして空気をずらす手管である。

ソーラーレイ相手には効果の高い手法で、慣れたものだった。

 

「んでトレーニングなぁ。悪いが今がギリギリだ。これ以上は上げられんぞ」

 

「本当? 私の脚はまだいけるって言ってんだけど」

 

「そりゃお前、それこそイレ込んでるからだよ。よっぽど効いたみたいだなぁ。あの──毎日王冠が」

 

 

 

そのレースの名に、ソーラーレイはニィッと笑った。

 

「逆に聞くけどさぁ。あんなの見せられて燃えないやつがどこにいんのよ」

 

猫のように目を細め、組んだ腕に爪を立てる。

 

「夢よ、あんなの。私の夢見た相手そのものだわ。分かるでしょ」

 

脚から始まった震えが全身を駆けのぼり、毛という毛を逆立てた。

 

「私は──ああいうヤツと戦いたくてここに来たのよ」

 

 

 

 

 

「ま、どんだけ気合が入ったとこでトレーニングは増やしてやれんわけだがねぇ」

 

「なんでよ。ふざけんじゃねーわよ」

 

「ふざけてないふざけてない。これ以上は効率が悪すぎる。最初はよくてもその内ガッツリ調子崩すぞ」

 

「──チッ!」

 

「おぅい、舌打ちはもう少し隠してやってくれぇ」

 

が、残念ながらソーラーレイの希望は通らない。

過剰な気合が自身を傷付ける事のないよう、トレーナーの手で受け流されていく。

 

それでも、いつか来ると信じている激突に向けて、ソーラーレイは己を磨き続けていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

同じだけの炎はとある一室にも灯っていた。

 

夕刻。

薄暗い部屋の中でノートPCのディスプレイが光を放っていた。

その画面に流れているのはレースの動画だ。

 

1つのレースではない。

東京レース場、芝2000メートル。

その条件に合致するものが片っ端から再生されている。

格も、季節も、出走人数も関係なく、全て見境なしにだ。

 

 

 

「……目ぇ、悪くするぞ」

 

男の声と共に部屋の電灯が点灯した。

蛍光灯の白い光が天井から注ぎ、画面を覗き込んでいた者が驚いたように顔を上げる。

 

「うぇ? おぁ、先生どしたん?」

 

「どうしたもこうしたもな。こんな暗い中でパソコンなんか見てんじゃない。電気くらいつけろ」

 

「うわマジだ、もう夕方じゃん。やっべ……。ヌイ達は?」

 

「先に帰したぞ」

 

「だよなぁ~! あーやっちまった……」

 

そしていくらかのやり取りのあと、黒に近い芦毛の頭を抱えた。

彼女の名前を、アビルダと言う。

この部屋を所有するチームウェズンの最年長のウマ娘だ。

同時に当チームを構成する問題児たちの筆頭である事も意味する。

 

が、今は普段の破天荒さが鳴りを潜めていた。

理由は実に分かりやすい。

 

「週末の予習か?」

 

「ん-、まぁ」

 

歯切れの悪い答え。

珍しいな、などと茶化す気はウェズンのチーフトレーナー、大槍の中には全く湧かない。

むしろ沁み出してくるのは自責の念だった。

 

「……すまんな。俺が、もうちょっと腕が良けりゃ」

 

 

 

チームウェズン。

レースを愛するファンの中にその名前を知る者はそう多くない。

いや、いっそ殆ど居ないと言って良いだろう。

 

勝利は稀。

オープンクラスに駒を進めたウマ娘はチーム創設以来から数えても片手で足りる。

注目度の高い重賞など、出走さえ叶った事がない。

 

その原因はひとえに自分にあると大槍は考えていた。

ケガをさせないようウマ娘を大事に扱う。

そう言えば聞こえは良いが、それは強度の高い過酷なトレーニングを課すのが苦手という事を意味した。

 

故障は他のチームよりも明確に少ない。

しかし、勝利もまた少ない。

それがチームウェズンの現状だ。

 

 

 

「何言ってんだよ先生」

 

故に、大槍はこれまで悩み続けてきた。

自分が良しとしたはずの方針は本当に正しかったのかと。

 

それを。

 

「先生のチームだから、あたしはまだ走れてんじゃねーか」

 

アビルダはあっさりと蹴り飛ばす。

 

 

 

カラリと笑ったアビルダはマウスを操作して動画を切り替えた。

芝2000メートルから、芝1800メートルへ。

 

毎日王冠だ。

 

「見ろよ。サナリだ。静流ちゃんの、ウェズンのさ」

 

それは今年のもの。

サナリモリブデンが。

つまりは、チームウェズンの元サブトレーナーである郷谷静流の愛バが劇的な勝利を収めたレースである。

 

「……いや、静流は静流だろう。あいつは俺よりよほど才能が──」

 

「んなの関係ねーよ」

 

映像を見てなお首を横に振ろうとする大槍の言葉をアビルダが遮る。

 

「静流ちゃんの教え方は先生の教え方だろ。てことはウェズンの教え方だ。なら、サナリはウェズンなんだよ」

 

メチャクチャな論理であった。

そして、現実とは異なる。

 

郷谷静流は確かに大槍の教え子であり、方針も似通ってはいる。

しかし、大槍よりもウマ娘の限界を見極める目に優れていた。

安全を確保しながらもトレーニング強度を高める術は、とうの昔に大槍を越えている。

 

「ウェズンは勝てる。サナリが証明してんじゃん。だからさぁ──あたしはまだ諦めねーぞ」

 

だが、そんな真っ当な理屈を知った事ではないと放り捨てるのが、ウェズンのウマ娘達だった。

 

 

 

シニア級、4年目。

年を跨げば5年目になる。

それが今のアビルダだ。

 

クラスは何年も3勝から抜け出せていない。

そう高くもなかった全盛期はとっくに終わった。

能力が衰え始めたのを自覚もしている。

 

「なー先生。あたしだって知ってんだぞ。普通はもう引退しろって言われるもんだって」

 

けれど。

それでも、だ。

 

「でも先生は一回だって、あたしに諦めろなんて言わなかったじゃん。先生の方針のおかげで体にもまだ……あー、ん-……ちょ、ちょっとしかガタは来てねー」

 

「そりゃあ、お前……勝たせてやれない分、そんなのは」

 

「当たり前って言える先生だからあたしらはついてきてるし、戦ってんだわ」

 

「──」

 

何も言えなくなった大槍をよそに、アビルダはもう一度マウスを操作する。

ゴールを終えて倒れ込んだサナリモリブデンの姿が消え、動画はまた芝2000に戻った。

 

「あ、そうだ先生。折角来たんだしさぁ、解説やってくんない? ほら、あたし頭良くねーからさ。見てるだけだとあんま整理進まないんだよな」

 

「……はは。お前に分かるように説明するのは骨が折れるんだがなぁ」

 

「わりーけどそういうバカをスカウトした先生が悪いよ」

 

「まったく、寮の門限までだぞ?」

 

 

 

その日、ウェズンの部室には長く光が灯っていた。

衰えた体に未だ宿る炎の熱量を示すように。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そうして。

毎日王冠にて、サナリモリブデンの起こした衝撃の余波。

最後のひとつが現れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……と、とんでもない記録が生まれました。これは本当に現実なのでしょうか』

 

週の末。

京都レース場は異様な雰囲気に包まれていた。

 

超満員のスタンドには、とてもレース終了直後とは思えない静けさが広がっている。

 

菊花賞。

G1。

クラシック3冠の最後を締めくくるその戦いは劇的な結末を迎えた。

 

正確に言えば。

 

 

 

()()()()()()

 

 

 

実況の声が遠い。

わずかに起こる観客のざわめきも分厚いガラスを隔てたようだ。

2着のウマ娘、ジュエルルビーはそう述懐した。

 

彼女は今、何も感じていなかった。

 

へたりこんだ体に触れる芝も、吹き抜ける風も、何の感触も与えられない。

ターフの緑も空の青も、色褪せて灰色として映っていた。

 

 

 

ジュエルルビーの目に唯一映るもの。

レースの勝者がスタンドをぐるり見渡した後、ゆっくりと彼女に歩み寄ってくる。

 

(あぁ──)

 

そこが、彼女の終わりだった。

 

(──もう、ダメなんだ)

 

小さな体のウマ娘に見下ろされて、ジュエルルビーは何も感じない。

体の中心に、魂が抜き去られたようにポッカリと大きなウロが口を開けている。

悔しいとも、悲しいとも思えない。

 

ただ、もう二度とターフに夢を見る事は出来ないのだという確信だけを知覚する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勝者、ペンギンアルバム。

 

タイム、2:59.4

 

()()、圧勝。

 

 

 

史上に類を見ない大記録がその日、ターフに刻まれ。

1人のウマ娘の心は、粉々に踏み砕かれた。

 



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クラシック級 11月 ランダムイベント

 


 

【ランダムイベント生成】

 

イベントキーワード:【病院送り】【永久保存版】【コーラ】

 


 

【イベント登場人物決定】

 

複数人登場率:50%

 

結果:チームウェズン

 


 

 

 

「なんで網焼きなくなっちゃったの?」

 

「ぐふぅ……ッ!」

 

セレンスパークは死んだ。

いたいけな少女が純粋な瞳で放った質問がクリティカルしたためである。

 

膝から力が抜けて崩れ落ち、横倒しに体が投げ出される。

その直前、地面とセレンスパークの間にどこかから取り出された謎のレジャーシートが素早く差し込まれた。

おかげで彼女がまとったライブ用衣装は砂にまみれずに済む。

 

それを成した功労者、鹿毛の眼鏡っ子トゥトゥヌイが右手を掲げてグッとサムズアップ。

ウェズンリーダー、黒っぽい芦毛のアビルダが労うように同じ仕草を返す。

 

「うっ、うっ……あみ……あみあみ……」

 

「あんねー。火使うのはダメってえらい人らに言われちゃったんだよねー」

 

「そーなの?」

 

「そーそー。衣装焦げっちゃったらもったいないじゃんってさー」

 

「そーかも!」

 

その間に長い栗毛のタルッケがしゃがみこんで質問に答えていた。

小さな女の子は説明に納得し、手を伸ばしてタルッケの衣装に指先を触れさせる。

 

スターティングフューチャー、という名前の衣装だ。

白いショートジャケットとフィッシュテールのオーバースカートに臙脂色のインナーとショートパンツ。

落ち着いた色合いながらコントラストが良く映える。

ウマ娘からもファンからも評価の高い、デザイナーのセンスが光る逸品である。

 

「あなたも、これを着に来たの?」

 

少女もその例に漏れないらしい。

衣装に触れながら目をキラキラと輝かせている。

その様を微笑ましく見ながら、サナリモリブデンもタルッケ同様しゃがみこんで声をかけた。

 

「うんっ! お父さんとお母さんがね、写真いっぱいとってあげるって!」

 

返事は元気いっぱい。

真っ白い芦毛の頭から耳をピンと立てて、尻尾を嬉し気に揺らしながら少女が頷いた。

 

「この子、まだちっちゃいですけど……大丈夫ですよね?」

 

「大丈夫です。サイズは揃っていますから」

 

「えらい人らがちゃーんと用意してくれてるからねー」

 

その後ろから若干心配そうに問う母親。

サナリモリブデンとタルッケの返答に安心した様子だった。

ほっと息を吐いて、隣の父親とともに持参したカメラの準備を始めている。

 

素人目にもしっかりとした高級そうな機材である。

よほど娘が可愛いのだろうと、サナリモリブデンはほっこりとした気持ちになった。

 

「でも網焼きも楽しみだったのになぁ……」

 

「ごひゅっ! おぁ、あ、ぁ……」

 

「たいちょー! セレンちゃんオーバーキル確認です!」

 

「くそっ、しっかりするんだセレン……! 傷は浅いぞ!」

 

ちょっとばかり、視界の隅でレジャーシートごとズルズルと引きずられて病院送りになる黒鹿毛の姿が余計ではあったが。

 

 

 

 

 

11月。

といえば駿大祭だ。

元々はウマ娘の無病息災を祝う神事であるそれは、楽しく愉快なお祭りイベントでもある。

 

規模の大きな学園祭のようなものと思って良い。

この時期、トレセン学園は一般に広く公開され、出店や出し物が多く並ぶのだ。

 

先ほどサナリモリブデンが小さな女の子に応対していたのもそのひとつ。

いわく。

コスプレライブ喫茶、である。

 

通常はレースの勝者にしか許されないライブ衣装を外部からの参加者が纏い、設置された幾つかのミニステージで楽曲を流しながら踊る事ができる出し物だ。

ライブの撮影も当然自由。

また、ステージ前に並んだテーブルで飲み物を楽しみながら眺める事も出来る。

ついでとばかりに、思い思いのコスに身を包んだ店員ウマ娘が給仕に歩き回ったりもしている。

 

発案はチームウェズン。

そこに後からアダーラ、ムリフェイン、ミルザムという3つのチームが加わって合同で運営に当たっていた。

楽曲や衣装を扱う関係上、学園からも強く後押しを受けている駿大祭でもちょっと注目度の高いイベントとなっている。

 

「網焼きあるからねってミーちゃんに言っちゃったのに……こんな事許されないよぉ! おのれ実行委員会! いつか絶対焼き討ちしてやるんだからぁ……!」

 

なお、初めは「コスプレ網焼きライブ喫茶」として企画が立ち上がっていた。

ウェズンらしい各人の希望のごった煮で、網焼き部分はセレンスパークの熱烈な要望であった。

 

夏合宿で体験したバーベキューがよほど良い思い出として残っていたらしい。

却下された時はそれはもう大変な荒れようだった。

今もまた、来場した女の子……セレンスパークが呼んだところのミーちゃんに網焼きの単語を出されたために軽くぶり返している。

 

「……残念だった。うん」

 

「うぇぇ、サナリちゃぁん……!」

 

却下の理由は先述の、衣装が焦げたり炭で汚れたり臭いがついたりしかねないのがひとつ。

イベントの性質上小さな子供が多く訪れる可能性が高い事から火はちょっと、というのがひとつ。

余りにも妥当すぎて誰も反論は出来なかった。

サナリモリブデンに出来るのはうずくまる背中を撫でてやる程度だ。

 

「ん……そのミーちゃんだけど、セレンスパークを待ってる」

 

とはいえ、ずっと倒れていられても困るところだ。

 

表からは見えないステージ裏に寝かされたセレンスパークだが、彼女にも仕事がある。

参加者の着付け、簡単な振り付け指導、そしてバックダンサー役だ。

今は特に、セレンスパークの地元の知り合いだというウマ娘の女の子、ミーちゃんが彼女との共演をワクワクと楽しみにしている。

 

「ハッ! そ、そうだった、しっかりしなきゃ!」

 

それを伝えれば流石に効果は抜群だった。

流れていた涙がピタリと止まり、セレンスパークが顔を上げる。

勢いよく頬をぐにぐに揉んだ後は多少だがキリリと表情が引き締まっていた。

 

「頼れるお姉さんらしいところ見せなくちゃだよ! ありがとうサナリちゃん! 私、頑張ってくるね!」

 

「…………うん。応援してる」

 

目の前で倒れてズルズル運ばれた時点でもう色々手遅れ。

そう言わずにおくだけの情けはサナリモリブデンも持ち合わせていた。

 

 

 

 

 

セレンスパークを送り出して、サナリモリブデンも自分の仕事に戻る。

 

彼女の役割はまた別だった。

コスプレライブ喫茶の喫茶部分。

注文された飲み物を作って届ける給仕役である。

 

選んだ理由には彼女の気質が大きい。

折角訪れてくれた客のうち、出来るだけ多くに接したい。

ファンを大事にする彼女にとってはその考えはごく自然な事で、ライブ1回あたりの拘束時間がそこそこ長いバックダンサーよりも給仕を選ぶのは当然だった。

 

また。

 

「お待たせしました。コーラ2つでよろしかったですね?」

 

「き、きたっ、サ、サナリ様……!」

 

「は、は、はい! 間違いないです! ……あ、あの、私達っ」

 

「ん……私のファン?」

 

「はいっ! これ、これ、公式ファンクラブにも入ってて、ナンバー3桁でっ!」

 

「ソーラーレイさんのウマッターで、あっ、アンケートでっ、和装が見れるって、それで絶対見に来ようッて! すごく似合ってます! 綺麗で、その、綺麗ですっ!」

 

そういう約束もある。

毎日王冠の1ヶ月前、ソーラーレイとチューターサポートとともに、サナリモリブデンにはどのような衣装が似合うかという話になった事があった。

その話の流れでウマッター上で2つの候補からアンケートを取ったのだ。

選ばれた方を駿大祭で着る、という文言と共にだ。

ライブ衣装を着ていては不履行になってしまう。

 

なお、結果はしっとりとした正統派の和装だった。

サナリモリブデンはそれに身を包んで給仕に勤しんでいる。

今コーラを届けた2人組、サナリモリブデンと同年代のヒトミミの女の子たちはまさにその衣装目当てで来場したようだ。

 

「ありがとう。とても、嬉しい」

 

これにはサナリモリブデンも嬉しくなる。

元々声援に感じる喜びが人一倍大きいサナリモリブデンだ。

湧きあがる幸福感はそのまま熱心なファンサービスに繋がった。

 

「ヒュッ」

 

「ひぎっ、ま、眩しい……!」

 

まずは自然に漏れた笑顔。

目を細め、花が静かにほころぶようなそれに2人は初撃で幸せなダメージを受けた。

 

「あ、あの、もし迷惑でなければサインとか……」

 

「任せて。あなたの名前も入れておく?」

 

「おおおお願いしますっ詩織ですっ」

 

「ゆ、由佳ですっ」

 

次いでファンクラブ会員カードへのサイン。

詩織さんへ。

由佳さんへ。

駿大祭が素敵な思い出になりますように。

そうメッセージも書き加えて返されたカードは致命傷に近かった。

 

「コーラ、レモンは入れる?」

 

「あ、は、はいっ、レモン好きです! え、あ、まさか……!?」

 

さらにご注文のコーラに添えられたレモンが絞られる。

果汁は滴りながらも種は落ちない絶妙な力加減だ。

もちろん、皮を下にして香りを強めるというポイントも抑えている。

サナリモリブデンの指がストローを掴み、コーラをかき混ぜて氷が音を立てた瞬間に2人のライフポイントはマイナスに大きく突入した。

 

「ゆっくり楽しんでいって欲しい」

 

そうして最後に、2人の手元にコーラのグラスを置きながら、身を寄せて囁く。

 

「駿大祭があなたたちにとって忘れられないくらい楽しい記憶になってくれたら、私にとってもこんなに幸せなことはない」

 

 

 

「……天国? ここは天国なの?」

 

「ファンサが神すぎる……顔がよすぎる……だめ、無理、死んじゃう」

 

「ねぇ、このコーラ本当に飲んでもいいのかな……? こんな事許されていいの?」

 

「無理無理無理、ダメでしょ無理、触れる事さえおこがましいよ。な、なんとかこのまま永久保存する方法ない?」

 

「ないよぉ……! あっ、そ、それに、サナリ様が作ってくれたコーラ残すとか……」

 

「あ絶対許されない地獄直行だそれ余すヤツは私が拷問にかける。飲まなきゃ! ……で、でも飲みたくない、永遠に眺めてたい……ッ」

 

サナリモリブデンが去った後。

2人が完膚なきまでに限界化していたのは当然の成り行きだった。

最推しウマ娘にここまでされてダメにならないファンはいない。

思春期の少女にとってはなおさらだ。

 

サナリモリブデン。

なんとも罪の深いウマ娘であった。

 

 

 

 

 

それからしばらくの後。

サナリモリブデンの役割は終わりとなった。

 

駿大祭のメインを張るのはシニア級のウマ娘たちだ。

クラシック級であるサナリモリブデンはあくまで手伝いという立場である。

そのため仕事は半日ほどで切り上げられ、残りは自由時間となっている。

 

服装も制服に着替え、サナリモリブデンは辺りを見回した。

 

 

 

「セレンおねーちゃん、そろそろかな?」

 

「そうだね、もうすぐだよ! この曲が終わったらミーちゃんの番だからね!」

 

最も手近なステージ脇ではセレンスパークが小さな女の子と手を繋いで待機している。

女の子は既にスターティングフューチャーに身を包み、そわそわとスカートをいじっていた。

彼女の両親はと言えば、最前列のテーブルを確保して撮影に備えながら女の子を勇気付けるように手を振っている。

 

 

 

「くく、ふふふ、あはははは! 勝負よウマ娘ェ! ヒトミミだってやれるってとこ見せてあげるわ!」

 

「ハ、上等……! 受けて立ってやるぜ、全力でなぁ!」

 

「おーっと! これはまさか、この子は……! 最近府中で話題の地下アイドル! 槙村ハルカだぁ!」

 

対して遠い所では何やら愉快な一幕が巻き起こりつつあった。

学園貸し出しの衣装ではなく、自前の煌びやかなアイドル衣装でヒトミミ少女がステージに立つ。

獰猛な笑みを浮かべてアビルダを挑発しダンスバトルを挑むようだ。

どこからか持ち出したマイクを手にトゥトゥヌイが即席の実況席まで整えている。

 

 

 

「こっち目線くださーい!」

 

「きゃぴっ☆」

 

「ぶわははは! に、似合わねー!」

 

来場者の中にはステージに立たない者も居る。

大学生ほどの年齢だろうか。

ちょっとした一団が揃ってライブ衣装だけを借り、互いにポーズを決めて撮影しあっていた。

 

 

 

「いーじゃんいーじゃん、みんな楽しそうじゃんね」

 

「うん。とてもいいこと」

 

それらをサナリモリブデンと同じく眺めていたタルッケがのんびりと言う。

彼女は休憩に入るようだ。

手に暖かな湯気を立てるドリンクを持ってのほほんとしている。

 

 

 

コスプレライブ喫茶は極めて順調に盛況だ。

この分ならばなにをどうしようが楽しめるだろう。

 

さてどうするかと、サナリモリブデンは思案した。

 





【お知らせ】

3/29 16時現在、アンケートが大接戦状態です。
作者の好みの側に傾いた所で区切ったという疑惑を回避するため、今回は例外的に3/29 22時締切とあらかじめ設定しておきます。


【22時追記】

まさかの同着だったのでどちらになるかはダイスに委ねられます。


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クラシック級 11月 イベント結果

 


 

【投票結果】

 

セレン&ミーちゃんと一緒にステージへ:235票

ひとりでテーブルの間をうろついてみる:235票

 


 

≪System≫

得票数が同数のため、ダイスによるランダム分岐が採用されます。

 


 

【ランダム分岐】

 

結果:セレン&ミーちゃんと一緒にステージへ

 


 

 

少しの思案の後、サナリモリブデンの脚は自然とステージ脇へと向いた。

 

(?)

 

それに、サナリモリブデンは内心首を傾げた。

はて、なんで私はこちらに向かおうとしているのだろう、とだ。

 

道理の通らない選択である。

イベントの手伝いをするならば、より多くの来場者と触れ合える役割を。

サナリモリブデンはそう考えていたはずである。

もう手伝いの時間は終わったとはいえ、方針まで置いてきたわけでもない。

ここはテーブルの間を歩くなどしてみるのがより自然な選択と言えるだろう。

 

(……でも、なんだかとても気になる)

 

なのだが、サナリモリブデンの興味は妙にそちらに引きつけられた。

セレンスパークと手をつなぎ自分の番を今か今かと待つ幼いウマ娘がどうにも気になってたまらない。

理由はまるで分からない。

 

もしあるとすれば、と考えてサナリモリブデンは少女の頭に目をやった。

 

サナリモリブデンと良く似た、真っ白に近い芦毛。

少々珍しい色ではある。

もしかしたらそこに親近感でも覚えて贔屓したくなったのだろうか、というくらいが精々の心当たりだった。

 

 

 

「セレンスパーク。……と、ミーちゃん?」

 

ともかく、やりたいという気持ちは止められなかった。

ならばやろうとサックリ決断し、サナリモリブデンは2人に声をかける。

 

「サナリちゃん?」

 

「はいっ、ミーちゃんです!」

 

2人は声に振り向いた。

セレンスパークは不思議そうに、仮称ミーちゃんは元気いっぱいに繋いでない方の手を上げてだ。

見るからに素直で良い子な姿にサナリモリブデンは微笑ましさを覚え、柔らかく破顔する。

そして、少女と目線を合わせるようにしゃがんで提案した。

 

「私はサナリモリブデン。私も、ミーちゃんと一緒に踊っていい?」

 

「サナリお姉ちゃん?」

 

「うん」

 

「ん-、サナリお姉ちゃんもうまぴょいしたいの?」

 

「うん。ダメかな?」

 

少女はうーんと考えているようだった。

衣装の裾をいじりながら、ちらりとセレンスパークを見上げる。

 

「私は大丈夫だよ、ミーちゃん」

 

「んっ、だいじょーぶだって! サナリお姉ちゃんもはいっていいよ!」

 

それから満面の笑みでサナリモリブデンに向き直る。

仲間に入れてあげるとばかりにちょっと得意そうだ。

 

その後ろ、セレンスパークは素早くジェスチャーする。

 

(ありがとうサナリちゃん! 正直ちょっと緊張してたから心強いよー! あ、でもミーちゃんのお姉ちゃんポジションは渡しません!)

 

(夏にもやってたけどこの脳内に直接届くのは一体?)

 

(お姉ちゃんの威厳を保つぞパワー!)

 

(…………?)

 

原理は不明だが、セレンスパークの威厳を保ち、かつ奇行めいたジェスチャーをミーちゃんの視界に入れずにメッセージを伝える試みは上手くいった。

どうやら参加に問題はなさそうである。

 

「ありがとう。とても嬉しい。急いで着替えてくるから待ってて」

 

ならば急いで準備を整えなければとサナリモリブデンは立ち上がり、併設された更衣室へと駆けて行った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ミーちゃーん! 頑張ってー!」

 

「ちゃんと撮ってるからなー!」

 

ステージの下、最前列のテーブルから男女の声が上がる。

もちろんミーちゃんの両親のものだ。

注文した飲み物もひと口ふた口手を付けただけ。

中身はコーラのようだが、もう炭酸が抜けて飲めたものではなくなっているだろうに気付いてもいない。

娘の出番のためにカメラの調整に勤しんでいた彼らは万全の態勢で曲のスタートを待ち構えている。

 

対し、ステージ上のミーちゃんは腰に手を当てて誇らしげに胸を張った。

どうやら物怖じしないタイプらしい。

ふんすふんすと鼻息荒く、ぴょこんとした可愛らしい短めのツインテールを揺らしている。

ちゃんと見ててねと言わんばかりだ。

 

そして、曲が流れだした。

 

ファンファーレを思わせる前奏。

それに合わせてミーちゃんの両親と、近くのテーブルに座っていた他の来場者グループが手拍子を叩く。

 

「位置についてー」

 

「よーい……」

 

「ドン!」

 

曲はうまぴょい伝説。

一部界隈では電波曲との声もあるが、耳に残るキャッチーさに定評がある。

歌詞もメロディも特徴的であるためにレースに興味が薄い層であってもこの曲は分かるという者も多い。

ウマ娘の歌と言えば、と街頭でアンケートを取ればまず一位を取るだろう楽曲だ。

 

そしてそれはつまり、世間一般に広く浸透しているという事だ。

幼稚園や保育所のお遊戯会、低学年あたりでは小学校の文化祭でも踊る機会は多い。

 

「うまうまうみゃうにゃ 3 2 1 Fight !!」

 

となれば当然、ミーちゃんにも慣れ親しんだ歌と振り付けということ。

事前の最低限の指導だけで高らかに声を響かせている。

ステップも年齢からすれば随分としっかりしていて、さぞかし好んでいるだろう事がうかがえる。

 

 

 

出来るだけ目立たないよう。

けれどミーちゃんが安心して踊れるように寄り添いながらバックダンサーを務める2人はチラッとアイコンタクトを交わした。

 

(いい感じ。この子、度胸がある)

 

(でしょ!!!!!!!!!!!)

 

サナリモリブデンが緊張知らずに手足を大きく振るうミーちゃんの様子を褒めると、セレンスパークがどやとばかりに返す。

視線がうるさい。

見るからにミーちゃんを溺愛しているようだ。

 

「キャー! ミーちゃん素敵ー!」

 

カメラのシャッターを無限に切りまくっている母親や。

 

「はいっ! ちゃー!」

 

全くブレなくビデオカメラを構えて合いの手を入れる父親もそれと同レベルか。

良い家庭に、良い姉貴分。

サナリモリブデンは見ているだけで幸せな気持ちが湧いてくるようだった。

 

「風を切って 大地けって♪」

 

見ているだけでそうなのだ。

ならばそんな愛を一身に受けているミーちゃんはどうかと言えば、こちらも一目瞭然。

 

「きみのなかに 光ともす♪」

 

ご機嫌もご機嫌だ。

振り付けのキレは秒ごとに増していく。

初めは実に子供らしくちょっと外れていた音程も綺麗にノリ始めた。

微笑ましく見守っていただけの無関係な来場者が、垣間見えた素質に「おっ?」と声を上げるほど。

 

 

 

「きみの──っ」

 

と。

しかしそれが逆に良くなかったのか、あるいは履き慣れないブーツに足を取られたか。

左右に脚を広げたタイミングでミーちゃんがつまずき、小さな体がグラリと揺れる。

 

 


 

【救助成功判定】

 

難度:140

補正:なし

参照:パワー/414

 

結果:411(大成功)

 


 

 

転倒は──起こらない。

 

「「愛バが!」」

 

その瞬間、横から支える手があったのだ。

サナリモリブデンとセレンスパークだ。

 

当然の事だ。

こういう時のために彼女達がついているのである。

つまずいた拍子に止まった歌詞を引き継ぎフォローも入れる。

見守る両親もホッとした様子。

 

とはいえ、どうやらつまずいた本人はそうもいかないらしい。

アクシデントに目をパチクリさせて、次の歌詞が出てこないようだ。

 

(サナリちゃん、お願い!)

 

(任された!)

 

だがご安心。

こういった場合の時間稼ぎはすでに前日のリハーサルで打ち合わせ済みだ。

体勢の関係上、セレンスパークより自分の方がやりやすいと判断したサナリモリブデンが小さな体を抱え上げる。

 

「ずきゅんどきゅん 走り出しー♪」

 

背中と膝裏に腕を入れてお姫様抱っこの形。

そのままサナリモリブデンはステージの上を走り出した。

セレンスパークは逆方向へ。

ステージ中央から見て点対称に、スペースの関係上小さく、しかしレースウマ娘らしい速度でグルグル回る。

 

「わぁ……!」

 

自分の脚で走るよりもずっと速く流れる景色にミーちゃんは思わず声を漏らした。

点になっていた目はすっかりキラキラとしている。

ステージの反対側から手を振るセレンスパークにブンブン腕を振り返せる余裕も出てきた。

 

もう大丈夫だね。

いける?

そう問いかけるサナリモリブデンの優しい目に、力強く「うんっ」と頷いて返す。

 

「ずきゅんどきゅん 胸が鳴りー!」

 

そして腕から飛び出すように中央へ走り戻り、幼い歌声は再開された。

セレンスパークとサナリモリブデン。

引率バックダンサー2人のファインプレーに歓声と口笛が送られる。

 

 

 

ミーちゃんはもうすっかりノリノリだ。

アクシデントはむしろ程良い刺激になったようで、テンションは天井知らずに高まっている。

 

(けど、どうせなら)

 

 


 

【盛り上げ成功判定】

 

難度:140

補正:ご機嫌ミーちゃん/+15%

参照:賢さ/421+63=484

 

結果:228(成功)

 


 

 

もう少し、とサナリモリブデンは欲張った。

セレンスパークと速度を合わせ、左右対称に見栄えが良くなるようミーちゃんの横に並びながら。

 

(セレンスパーク──)

 

(サナリちゃん──?)

 

視線で素早く意志を疎通させる。

 

 


 

【連携/セレンスパーク】

 

参照:絆x1.0=50(%)

 

結果:成功

 


 

 

ぴきーん!

 

などと、効果音が鳴るような楽し気な光をセレンスパークの瞳は発した。

自分の提案が過不足なく伝わった事をサナリモリブデンは確信する。

 

「はぴはぴ だーりん♪」

 

「3 2 1 Go Fight♪」

 

2人がステージ最前列に踏み出すのは同時だった。

そしてちらりとミーちゃんを振り向く。

 

(よく見てて)

 

(よーしお姉ちゃんいいとこ見せちゃうぞー! 見ててね! 絶対見ててねー!)

 

不思議そうな瞳はすぐにワクワクしたものへと変わった。

歌い踊りながらも、何が起きるのかと2人を見つめる。

 

「「うぴうぴ はにー 3 2 1♪」」

 

熱い期待を背に受けて、サナリモリブデンはテーブルの間を探す。

ちょうどいい相手はまさにそこに居た。

この会場にて、サナリモリブデンがはじめにコーラを届けた2人組の少女達だ。

 

推しが居る場所から離れるわけがなかった彼女達は当然のようにこのステージを嗅ぎつけていた。

揃ってスマホを向けながら、しかし邪魔にならないようにと必死に黄色い悲鳴を押し殺してそこに居る。

 

「「うーー……」」

 

最高の標的である。

サナリモリブデンは自身の目的が完璧に達成できる事を確信し。

 

「「Fight !!」」

 

渾身のウィンクと共に少女達を指差して撃ち抜いた。

 

 

 

「──────オ゛ァ゜」

 

「√﹀\_︿╱﹀╲/╲︿_/︺╲▁︹_________」

 

少女達は死んだ。

許容量を遥かに超えた幸福により白い灰と化し、病院に送られることだろう。

 

 

 

「ひゅー!」

 

逆サイド、セレンスパークが指差した側からは「わっ」と歓声が返された。

5人ほどの集団だ。

中心に居るタルッケは口笛が苦手なためそれっぽい音を叫んでいる。

どうやら彼女の友人グループらしい。

誰もがノリ良く、セレンスパークの振りに全力で応じて拳を突き上げていた。

 

 

 

「わぁ……!」

 

ミーちゃんの反応は劇的だった。

瞳の放つ輝きは倍以上に膨れ上がっている。

 

「「うーーー♪」」

 

「うまぴょい♪」

 

「うまぴょい♪」

 

サナリモリブデンとセレンスパークは手応え十分と頷き合って後方へ下がった。

小さな体に寄り添い、揃って伸ばした手で、次はあなたの番だよと背中を押す。

 

ミーちゃんはそれに、全力で応えた。

 

 

 

「「うーーー♪」」

 

「好きだっち!」

 

初手はもちろん両親に。

 

「うちの子可愛いー!」

 

「俺も好きだっちー!」

 

2人の感情が爆発する。

強く握られすぎたカメラからはちょっと嫌な音がした。

 

 

 

「「うーーー♪」」

 

「うまぽいっ!」

 

続いてはその隣のテーブルに。

 

「ぐわー!」

 

「やられたー!」

 

気の良い連中のようだった。

大袈裟なリアクションで胸を撃ち抜かれましたと倒れ込む。

 

 

 

「あははははっ!」

 

大満足。

最高潮。

ミーちゃんはそう全力で訴えるような喜びまみれの笑いを響かせた。

 

そうして、先ほどは歌いきれなかったフレーズを、今度こそ晴れ空に向かって歌い上げるのだった。

 

 

 

「きみの愛バがっ!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「楽しかったっ! すっごく楽しかったーっ!!」

 

高まりきったテンションはステージから降りても下がらない。

両手を振り回し、ぴょんぴょん飛び跳ねながらミーちゃんは訴えた。

こんなに楽しい事は他に知らないと尻尾の先まで使って主張している。

 

「良かったー! ミーちゃん頑張ったねぇ! 上手にできてたよー!」

 

「うんっ! セレンお姉ちゃんもかっこよかったー!」

 

その勢いのまま、ミーちゃんはセレンスパークに抱きついた。

真っ白な芦毛頭を肩口にグリグリ押し付けている。

セレンスパークはもちろんデロンデロンだった。

これだけ全身全霊で好かれればそうもなろう、とサナリモリブデンはクスリと笑う。

 

「かっこよかった? かっこよかった? どこが一番!?」

 

「あのね、指でビシッてやったとこ!」

 

「やったー! ありがとうミーちゃん大好きー!」

 

「ん! ミーちゃんもセレンお姉ちゃん好きー!」

 

「うぅっ、幸せ……! 我が世の春……! あっ、そうだ、いっぱい頑張ったからご褒美! ミーちゃんが大好きないつもの飴ちゃんあげちゃう!」

 

「わー!」

 

「いっぱいあるからねぇ!」

 

ただ、ちょっと古臭いパッケージの飴の袋を取り出し欲しいだけ与える姿は、お姉ちゃんというよりもお婆ちゃんのようだったが。

 

「……」

 

一瞬、パッケージに書かれた文字に手が伸びかけた自分をサナリモリブデンは自制する。

麦こがし飴、などと。

チョイスの渋さもまたセレンスパークのそれっぽさを助長していた。

 

 

 

「ねーお父さん、もっとやりたい!」

 

ミーちゃんは飴を頬張りながらねだった。

それに、父親はちょっと困った顔をする。

 

「うーん……やらせてあげたいけど……」

 

チラッとサナリモリブデンに向けられる視線。

残念ながら応える手段はなかった。

先ほどのような光景は全てのステージで展開されており、どこも順番待ちでいっぱいだ。

 

「すみません。今日もう一度というのは難しいと思います」

 

「ですよね……いやぁ、仕方ないです」

 

なのでサナリモリブデンも首を横に振るしかない。

父親も頭を掻いて納得した。

 

「えー……」

 

だが、子供はそれで簡単に納得できるものでもない。

唇を尖らせ眉を八の字に。

ご機嫌はみるみる萎んでいく。

 

「なんでー?」

 

「えっとえっと、ごめんね、順番待ってる子がいっぱいいるから……」

 

セレンスパークが慰めるように頭を撫でるもさして効果はない。

 

「うー……じゃあいつもテレビでやってるおっきなステージは?」

 

「うぐ、あ、あれはレースで勝った子じゃないと立てないから……」

 

なので謝る他にない。

が。

 

「…………レースで勝ったらあそこでやれるの?」

 

その一言が何やら幼い琴線に触れたらしい。

 

 

 

「お父さん、ほんと?」

 

恐る恐る、というような慎重さでミーちゃんは父親を振り仰いだ。

 

「そうなんだ、本当の事だよ。いつも見てる大きな所はね、レースで勝たないと使えないんだ」

 

「勝ったら行ける、ってことだよね?」

 

「え、う、うん。そうなるね」

 

しばしの沈黙。

その間、小さな体は何かを噛み締めるように震えていた。

 

 

 

子供というのは一見愚かなようでいて、大人が思うよりも賢い。

彼女とて理解していた。

自分がそれなりに長く順番を待たされたのと同じように、ステージの空きを待つ者は居ると分かっていた。

どれだけ自分が駄々をこねたところで今日はもうステージに上がれないのだとも。

 

だから、この一幕はそれでももう少しと訴える心が落ち着くまでのほんの小さな癇癪だ。

ちょっとばかりワガママを言って、周りの大人に気持ちを受け止めてもらって楽になり、それで納得しようというものだ。

もちろんそこまでを冷静に思考しているわけではないが、心の動きとしてはそういう流れになる。

 

大きいステージ、という言葉もその一環で飛び出したに過ぎない。

つまり、本当にそこに上がれるとも、上がる手段があるとも思っていなかったのだ。

 

()()()()は。

 

 

 

「……出る!」

 

「え?」

 

「ミーちゃんレースに出る! それで、おっきなステージでいっぱい踊りたい!」

 

不機嫌は一瞬で立ち消えた。

眩いばかりの瞳が戻り、小さな両手が胸の前で握りしめられる。

 

「ミーちゃん? レースって大変なんだよ?」

 

そこに、母親が目線を合わせて話しかけた。

心配するような声色。

 

大きなステージとなればトゥインクルだ。

狭き門である。

レースでの勝ち負けよりも遥か前に、そもそも走る事が出来るかという篩に何度もかけられる。

地方や民間の草レースならともかくトゥインクルを本気で目指す言葉が出てしまえば、親としては案じる心地にもなろう。

 

「いっぱい頑張らないといけないし、いっぱい疲れるし、ケガすることもあるんだから」

 

「やる!」

 

が、決意は固められようとしていた。

止めても聞かない、と首をブンブン横に振る。

 

「いっぱい頑張る! 疲れても平気! ケガしても我慢するもん!」

 

幼い想像力は羽ばたいた。

小さなステージでの、ほんの一曲があれほどに楽しかったのだ。

ならばもっと大きく広く、そして煌びやかなステージで歌い踊った時、自分がどれほど幸せになれるのか。

 

 

 

「まだ足りないの! セレンお姉ちゃんみたいに、サナリお姉ちゃんみたいに──」

 

そう考えてしまえばもう走る脚は止まらない。

 

「かっこよく踊りたいの! もう一回!」

 

 

 

「──」

 

その言葉に。

サナリモリブデンは己の胸から音を聞いた気がした。

カチリ、と。

何か小さなピースがはまるような。

 

 

 

「じゃあ、一回レース見に行ってみようか」

 

「うんっ!」

 

「ちょっとあなた、そんな簡単に……」

 

「はは、いいじゃないか。折角ミーちゃんに夢が出来たんだ。応援してあげなきゃ。……それに、ミーちゃんがあのステージに立つとこ見たいだろ?」

 

「見たいわ。カメラ10台は入れて撮りましょう。永久保存版にして記念館立てて展示しないと」

 

音の元。

心の裡の感触を探っている間に親子の会話は進んでいた。

 

幼い夢は両親のバックアップに支えられる事となったようだ。

折角東京に来ているのだからトレーニング用のシューズや蹄鉄も見ていこうという提案を経由してから、いつどこにレース見学に行こうかと話し合っている。

 

「そうだ、どうせならお姉ちゃん達のレースを見に行こうか」

 

「──あ。私の次のレースは……」

 

「はは、大丈夫、知ってます」

 

我に返り次走を教えようとするサナリモリブデンに、父親は笑って言った。

流石にそれは知っていると。

 

「地元に帰ったら自慢させてもらいますよ。うちの子はあのサナリモリブデンと一緒にステージに立ったんだぞってね」

 

「ん……」

 

「あ! 私! 私もその前の日に京都走りまーす! 比叡ステークス!」

 

「あら、セレンちゃんも? なら土日泊りがけでいかないとね」

 

「やったー! お母さん大好き! お父さんも!」

 

とんとん拍子に親子の予定は決まった。

この熱の入りようでは変更はまずないだろう。

セレンスパークとサナリモリブデンの次走には、小さな観客が増える事になるようだ。

 

 

 

「そう。見に来てくれるの?」

 

「うん! 絶対行く! お姉ちゃんたちのかっこいいのいっぱい見たい!」

 

確かめ、噛み締めるように問うサナリモリブデン。

彼女に返されたのは、今この瞬間も根を伸ばしていこうとする憧れに満ちた眼差しだ。

 

「わかった。私も楽しみにしておく。だからちゃんと覚えておくために、あなたの名前を教えてくれる?」

 

子供の瞳はどこまでもまっすぐだ。

それを受けてサナリモリブデンは。

恥ずかしいような。

むずがゆいような。

けれどそれらを遥かに超えて、そう見てもらえるようにあれた自分が誇らしいような。

 

 

 

「ん! クロスミネラル! 8才です!」

 

 

 

そんな暖かな心地を感じていた。

 

 

 

 

 


 

【イベントリザルト】

 

友好:チームウェズンの絆+10

成長:スピード+5/スタミナ+5/パワー+5

獲得:コンディション/絶好調(2段階上昇)

 

チームウェズンの絆 50 → 60

 

スピ:502 → 507

スタ:405 → 410

パワ:414 → 419

根性:476

賢さ:421

 






【お知らせ】

今回ダイスに選ばれなかったうろつきは余裕が出来た時に閑話として挿入します。
折角同票だったので。


【お知らせ②】

今回のダイスログはレース生成分まで含まれてしまっているため、次回まとめて出します。


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クラシック級 11月 マイルCS作戦選択

 

11月、第3週。

京都のとあるホテル、その一室にてサナリモリブデンは夜の空を眺めていた。

 

「予報によると今がピークで、これからだんだん弱まって明日の午前中には止むようですよ」

 

「ん……。当たって欲しい」

 

「ですねぇ。折角のG1ですから少しでも持ち直してほしいものです」

 

そこに郷谷が声をかける。

翌日のマイルチャンピオンシップを控えて、空模様はあいにくの雨だった。

 

共に京都入りしたセレンスパークなどは不良バ場でのレースを余儀なくされていたものである。

芝2200メートル、3勝クラス比叡ステークスは出走ウマ娘全員が泥まみれ。

内容もとんでもない大混戦だった。

 

そこまでを思い出してサナリモリブデンは自身のスマホを開いた。

アルバムを開けば、最新の一枚には泥に負けずに輝くセレンスパークの笑顔と、彼女に肩車されておおはしゃぎするクロスミネラルの姿がある。

レースを見に行くという駿大祭での約束は反故にされることなく果たされた。

 

人気のウマ娘が荒れたバ場に苦戦して沈む中、セレンスパークは際立って強い走りを見せた。

普段の被害者になりがちな立場からは一転、攻撃性の高い凶暴な走りがレース中の彼女の持ち味。

それが今日は一段と鋭さを増していたと郷谷は誇らしげに語っていたものだ。

理由はもちろん、年の離れた妹分にいい所を見せたかったのだろう。

初めての生のレース観戦、その迫力に気圧されながらも興奮に声を上げていた小さな少女の応援はセレンスパークに無限の力を与えたに違いなかった。

 

「私も」

 

サナリモリブデンは写真を見つめながらこぼす。

 

「続かないと」

 

 


 

【レース生成】

 

【マイルチャンピオンシップ(G1)】

 

【秋/京都/芝/1600m(マイル)/右外】

 

構成:スタート/序盤/中盤/終盤/スパート

天候:曇

状態:稍重

難度:280(クラシック級11月の固定値140/G1倍率x2.0)

 


 

 

「えぇ、もちろん。サナリさんの勝利のために、私も全力を尽くしましょう」

 

窓際、椅子に座るサナリモリブデンの対面に郷谷が座る。

手元にはいつものタブレットだ。

そこに情報を表示させ、愛バへと示す。

 

「京都レース場の地形は覚えていますね?」

 

「うん。これで3回目。忘れてない」

 

まずは京都レース場の情報だ。

これはサナリモリブデンも既に把握済みのもの。

何しろ印象深いレースをここで経験したのだ。

 

2月、かかりにかかってペースを乱し、脚を痛めて完走する事さえ出来なかったきさらぎ賞。

5月、敗戦を乗り越え、どころか利用さえして周囲を騙し切り完勝してみせた白百合ステークス。

到底忘れられない2戦だった。

 

当然ながらレースの記憶と共に京都の特性も覚えている。

 

 

 

マイルチャンピオンシップ、1600メートル

 

そのスタートは2コーナー奥のポケットから始まる。

ポケットと向こう正面、合わせて711.7メートル。

序盤から中盤を争うのはこの長い直線だ。

枠順による有利不利はほとんど無いと思って良いだろう。

 

中盤の終わりからはほとんど丘と呼んで良い坂が待ち受ける。

京都名物、淀の坂だ。

ゆっくり登ってゆっくり下る……というセオリーは過去のものとなって久しい。

3コーナーで頂点に達し、4コーナーに向けて下っていくそれは終盤戦を高速化させやすい。

 

そして、最終直線は404メートル

前走の東京ほどではないがどちらかと言えば長めの部類と言えるだろう。

 

 


 

【枠順】

 

1枠1番:タヴァティムサ

2枠2番:オントロジスト

3枠3番:ボヌールソナタ

4枠4番:ブリッツエクレール

5枠5番:サナリモリブデン

6枠6番:ムシャムシャ

6枠7番:サラサーテオペラ

7枠8番:ノワールグリモア

7枠9番:スローモーション

8枠10番:ショーマンズアクト

8枠11番:スウィートパルフェ

 


 

 

続いて表示されたのは出走ウマ娘の一覧だ。

合計11名。

 

不動の絶対王者と目されていたマッキラの敗北と、長期休養の発表。

これはマイル路線から離脱をはかろうとしていたウマ娘を大きく呼び戻すかと思われた。

……が、実際はそうはなっていない。

 

「マッキラさんが弱って大敗した、というならそうなったのかも知れませんけどね」

 

負けてなお、マッキラの走りは強者のそれだった。

ならば打ち勝った側、サナリモリブデンの強さもまた同等なのではとの目が向いている。

 

怪物は一時ターフを去った。

しかし代わりに別の怪物が頭角を現した。

怯え逃げた者が戻る道理はない。

 

残る者もこの一戦に調整を間に合わせられない者が続出した。

毎日王冠で最下位に終わりながらも全力以上を振り絞ったアングータなどが良い例だろう。

マッキラが居ない今こそ力をつけて差を埋めるチャンス。

そう気張って疲労も抜けきらないうちから無茶な自主トレーニングを試みて体調を崩してしまったらしい。

 

他にも、目標と定めた背中が突然消えた事で闘志の矛先を見失う者。

マッキラを射落とす最大の好機に刃を届かせられなかった事実に消沈する者。

あるいはチューターサポートのように、絶対的な不足を痛感した者。

 

結果として、今回のマイルチャンピオンシップは少々寂しい人数での出走となった。

 

「ただし、それは裏を返すと」

 

郷谷は語る。

油断も楽観もなく、むしろ険しい表情で。

 

主役はいれどもライバル不在。

結果の見えたレースだとする下バ評は的外れなものでしかないと。

 

「ここに名前を連ねているのは例外なく一流以上の気迫を持ち、完璧に調整を済ませてきたウマ娘達です」

 

厳然たる事実として、彼女達はマッキラには及ばないだろう。

絶対を冠したかつての王者と比較すれば、その能力には絶望的な開きがある。

 

だが、かといって格下と侮り油断を見せた瞬間、サナリモリブデンを射落とすだけの力を誰もが秘めているはずだ。

 

 

 

「特に注意が必要なのは、この2人でしょうね」

 

中でも郷谷が目を向けたのは2名。

スローモーションとムシャムシャだ。

 

「スローモーションさんは分かりやすいですね。一種異様と言って良い、サナリさんに対する執着心。こんなに恐ろしい子は中々居ませんよ」

 

「うん。……この間、少し話をした。正直怖い。とても」

 

「サナリさんの心臓でそうなんですから飛び抜けてますよねぇ……」

 

しみじみと言うサナリモリブデンと郷谷。

スローモーションとの因縁ももう長い。

特に郷谷は、厄介な相手が愛バに目をつけてくれたものだと戦々恐々とする心境である。

 

「彼女の作戦はサナリさんへの徹底マークでしょう。ぴたりと背後に張り付いて、隙あらば刺し殺す。そんな気迫で向かってくる事はまず間違いありません」

 

「同感。他の作戦をとるスローモーションはちょっと考えられない」

 

ですよねぇ、と郷谷は深く深く頷いた。

 

 

 

「もう1人のムシャムシャさんは後方待機からの直線一気を得意とするウマ娘です」

 

郷谷の解説は続く。

対象はムシャムシャ、シニア級のウマ娘だ。

 

「彼女の走り自体は凡庸の域を出ません。時計も重賞級ウマ娘としては標準といったところでしょう」

 

マイル路線のシニア級はマッキラから逃げた、などと言われているがそうでない者も当然居る。

ムシャムシャはその筆頭格と言える。

安田記念での敗戦以降、マイルチャンピオンシップでのリベンジに向けて徹底的に己を鍛えてきたウマ娘である。

そも毎日王冠は彼女の眼中にはなく、本来明日の京都レース場でマッキラを討つべく弓を引き絞っていたのだ。

 

当然、そのための武器は磨き抜かれている。

 

「ですが、彼女の怖いところは技術です。敵のペースを乱し、調子を狂わせ、わずかな隙を食い破る。()()()()としての手管は現在のシニア級全体を見渡しても最上位に数えられるでしょう

 

不安を煽り焦らせる。

平静を奪い仕掛けをためらわせる。

時に威圧し、時にささやき、時にけん制し、時にトリックを用いてペテンにかける。

 

駆け引きこそが自分の戦場だとはばからない様は反感を買う事も多いが、間違いなく強力なウマ娘である。

ムシャムシャが走るレースは必ず荒れるとさえ評されるほどだ。

 

「サナリさんはシニア級と実戦で戦うのは初めて*1ですが、良く覚えておいて下さい。シニア級の怖さは数多の実戦で培われた技術(習得しているスキルの数)にあります。クラシック級の相手とは一味違ってきますよ」

 

 

 

そうして、締めに入る。

 

「……厳しいレースになりますねぇ」

 

郷谷は細く長く息を吐いた。

彼女にとっては頭の痛い話である。

 

当然の1番人気、サナリモリブデン。

 

スローモーションはまず当然。

前述したムシャムシャもおよそ間違いなく。

そして他8名も恐らくは。

絶対王者を下して見せたサナリモリブデンをこそ狙い撃ちにかかるだろう。

 

「トレーナーは、勝率はどれくらいあると思う?」

 

「5割。と言いたいところですが……3割あるかないか、というところかと思います」

 

どうあっても楽な勝負にはならない。

郷谷の予測はおよそ正しく、サナリモリブデンが勝利する道筋は細いだろう。

 

「十分」

 

それは、つまり。

 

「去年の今頃は、G1の勝ち目なんかゼロって言われてた」

 

サナリモリブデンの一年間の成果を示す、0%からの脱却だ。

 

「3割もあるなら贅沢すぎる。……ここまで私を連れてきてくれてありがとう。後は、3割をもぎ取ればいいだけ」

 

 

 

「──ふふ。えぇ、その通りです。期待させて貰いますよ、サナリさん」

 

「任せて。私はやる。トレーナーの方も、作戦は任せる」

 

信頼を交わし、頷き合う。

これまでを二人三脚でやってきた2人は、今日も足並みを違えることなく。

明日の決戦へ向けて戦意を高めていくのだった。

 

 

 

 

 


 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝B/スピード&パワー+10%

距離適性:マイルA/スタミナ&賢さ+20%

バ場状態:稍重/スタミナ&パワー-5%

 

スキル:補正なし

 

調子:絶好調/ALL+10%

 

スピ:507+101=608

スタ:410+102=512

パワ:419+ 62 =481

根性:476+ 47 =523

賢さ:421+126=547

 


 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:2 差し:3 先行:3 逃げ:1

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/5枠5番:サナリモリブデン

2番人気/6枠6番:ムシャムシャ(差し)

3番人気/7枠9番:スローモーション(マーク:サナリモリブデン)

 


 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:507+101=608

スタ:410+102=512

パワ:419+ 62 =481

根性:476+ 47 =523

賢さ:421+126=547

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

逃げ:A(11/50)

先行:B(0/30)

差し:A(29/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2(効果不定。勝敗を分ける局面で奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

 

*1
本来は関屋記念でシニア参戦判定があったはずですが、当時忘れていました。



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クラシック級 11月 マイルチャンピオンシップ


お待たせしました。
またも毎日王冠クラスに長いので時間のある時にどうぞ。



 


 

【投票結果】

 

作戦:逃げ

 


 

 

「──以上が今回の作戦です。何か疑問や提案はありますか?」

 

明けて翌日。

滞在していたホテルから京都レース場に向かう途上の車内にて。

郷谷はサナリモリブデンが取るべき作戦を提示し終えた。

 

「ううん。ない」

 

対するサナリモリブデンの返答はスッキリとしていた。

落ち着いた様子で首を横に振り、答える。

 

「すごくわかりやすいし、納得が行く。問題ない。やってみせる」

 

郷谷は苦笑する。

前回、マッキラという怪物に対するには多くの迷いがあった。

どう抗うべきかとの問いには幾つかの答えがあり、自身が選んだものが本当に正しいのか、ゴールに愛バが飛び込むまで疑問は尽きる事がなかった。

 

それに比べ今回は単純である。

明確に、マイルチャンピオンシップでサナリモリブデンが勝利を狙うならこれしかないという道筋があったのだ。

サナリモリブデンの言通り、わかりやすいものでもある。

 

「……サナリさんの従順さは美点ですが、ちょっとくらい不満を言ってくれてもいいんですよ?」

 

ただしそれは、作戦とも呼べない作戦だった。

トレーナーとして本当に最低限度の事しか言えていないと郷谷は断じる。

 

「? 不満なんてない」

 

「えぇ、はい。サナリさんならそう言うとは思ってましたが」

 

とはいえ、郷谷の指示は間違いなく妥当なものであった。

当然サナリモリブデンには不満どころか疑問のひとつもない。

傷一つ存在しない彼女の信頼はまっすぐに郷谷に向けられたままだ。

 

従い、実行しきれば勝利し得ると信じ切っている。

それも、妄信ではなく自分でも熟慮した上での結論だった。

 

「ふふ、すみません。まだウェズンの頃の感覚が残っていたようです。あそこでは出走直前までああだこうだと言い合っていたものですから」

 

「ん……そうなの?」

 

「えぇ、特にトゥトゥヌイさんはかなりのもので苦労しました。今考えると普段通りに騒ぐ事で緊張を防いでいたのだと分かるんですけどね」

 

なので郷谷はもう何も言えない。

ほんの少し漏らしてしまった弱音を冗談めかして覆い隠す。

 

 

 

やがて車は目的地に辿り着く。

多くの人々で賑わう京都レース場。

その駐車場の一角、関係者用のスペースに車を停める。

 

後はいつも通り、控室に向かって準備をするだけだ。

だが、そこでいつも通りではない事が起こる。

 

「トレーナー?」

 

シートベルトを外したサナリモリブデンが訝し気に声をかける。

 

郷谷は運転席に座ったまま動こうとしない。

ふぅ、と。

大きく息を吐いて座席に寄りかかり、それからゆっくりと口を開いた。

 

「サナリさんの夢、レースにかける想いを聞かせてくれた事がありましたね」

 

その言葉にサナリモリブデンは姿勢を正す。

重要な話だというのはすぐに分かった。

何しろここ最近──優先目標であったマッキラを討ち破って以来、ずっと彼女自身も考えていた事であったのだから。

 

「うん。……途方もない事を言った自覚はある」

 

「いやぁ、それはどうでしょう」

 

過大な夢はきっとトレーナーの負担になったはずだ。

そう考え申し訳なさそうに眉を下げたサナリモリブデンに。

しかし郷谷はあっけらかんと返した。

 

「実のところ──サナリさんの夢は意外とあっさり叶うものかも知れませんよ」

 

「……え?」

 

「少なくとも、方策はもう見つけました。必要となるピースも。後はたったひとつ、サナリさんが自覚すればいいだけなんです」

 

サナリモリブデンは困惑する。

そんなわけはない。

永遠とはそんなに易いものではないはずだと。

 

しかし、そう反論する事は難しかった。

助手席から眺める郷谷の横顔は余りにも確信に満ちている。

否定のための言葉はサナリモリブデン自身の信頼によって打ち消された。

 

「サナリさん。今日はまず一人で控室に向かってもらえますか? 私は後から行きますので」

 

「それは、どうして?」

 

「不足している自覚をもたらしてくれる子がサナリさんを待っています。先日、向こうから提案をいただきまして」

 

郷谷はゆっくりとサナリモリブデンに向き直った。

悪戯をしかけるような笑みと、徒労に終わった試みをやれやれと自分で慰めるような苦笑を半々に浮かべている。

 

「本当は私と、もう一人驚きの協力者とで自覚を促す準備は進めていたんですが。どうやらこちらの方が確実で、しかもよほど早いようですから」

 

何が何やら分かりはしない。

突然もたらされるらしい「答え」を得る機会に困惑はつのるばかりだ。

 

「ん……わかった。行ってくる」

 

だが、力強く頷きサナリモリブデンは車を降りて立ち上がった。

それから車内に振り向いて口を開く。

 

「控室で待ってる。トレーナーの言う自覚が何のことかはまだわからないけど、きっと掴み取ってくるから」

 

何しろサナリモリブデンというウマ娘は。

 

「答え合わせは、トレーナーとしたい」

 

郷谷静流というトレーナーの言葉を信じる事にかけて、今や世界一である。

 

 

 


 

 

 

 

 

そうして。

サナリモリブデンは対峙した。

 

「……スローモーション」

 

控室前の廊下に、その姿があった。

目を閉じ、壁に寄りかかる黒鹿毛が一人居る。

苛立たし気に絞られた耳がピクピクと動いていた。

 

「待っていましたよ。サナリモリブデン」

 

スローモーション。

静かな激情家は目を開く事も、壁から離れる事もない。

 

「私に、何か──」

 

話があるのか、と尋ねる声は遮られた。

姿勢は変わらないまま、スローモーションが留めるように手を挙げる。

どういう事かという疑問はすぐに解消された。

 

後方から幾つかの足音がサナリモリブデンの耳に届く。

その力強さからウマ娘のものであるのは明白だ。

 

「話は、まず彼女達からあります」

 

振り向けば、長い廊下を歩む複数の人影が見つけられた。

近付いてくればハッキリと分かる。

どれもが……サナリモリブデンにとって見覚えのある姿だった。

 

 

 

 

 

「や。久しぶり」

 

その中からまず一人。

稲妻型の流星が目を引く青鹿毛が足早に歩み出た。

 

「……ブリッツエクレール」

 

「あれ、意外。覚えられてた」

 

「む。忘れるわけがない」

 

「へぇ。ちょっと嬉しいね、それ」

 

ブリッツエクレール。

過去に出走したレース、未勝利戦にてサナリモリブデンと競り合ったウマ娘だ。

後方から放った威をまともに受けて一度は怯みながらも、持ち直すどころか反撃さえして見せた相手である。

その強靭な精神力と、ジュニア級9月の段階で既に策を弄するだけの実力を備えていた様をサナリモリブデンが忘れているはずもない。

 

「ま、ともかく……ようやくだ」

 

ブリッツエクレールはサナリモリブデンに正対した。

体がぶつかりそうな至近距離。

そこからギラリと光る視線で、挑むように睨み上げる。

 

「ずっと見てたよ。痛快な走りだった。私もあんな風にありたいって、そう心から思うぐらいにね。糧にさせてもらったよ。挑み続ける君の姿は、逆境に逆らう力になってくれた」

 

「──」

 

視線に宿るものは敵意、だけではない。

それと同等、あるいは凌駕するほどの感情をサナリモリブデンは察知する。

 

言うだけ言い、ブリッツエクレールは体を離した。

近付いて来た時と同じく足早で進み、スローモーションに目配せする。

 

「私からは以上だけど。これでいいね?」

 

「……構いません。あなたはそれで十分です」

 

そして、さっさと控室に入った。

返事さえ待たない、せっかちな気性が窺える素早さだった。

 

 

 

 

 

「あ、ぁ、あのっ!」

 

それを最後まで見送る間もなく、次の一人が迫る。

ぱたたた、と取り乱したような足音は急速にやってきた。

 

「サラ──」

 

「ファ、ファンですっ! ずっと応援してましたっ!」

 

「──うん」

 

ほとんど条件反射だった。

長い鹿毛の髪にピンク色のリボンを結んだウマ娘。

彼女の勢いと言葉の内容に、サナリモリブデンはすっと手を差し出す。

 

握手である。

ファンサービスの基本としてサナリモリブデンに染み付いた動作は、全く遅滞なく相手の手を握らせた。

 

「おひゅ……っ! はわ、はわわ、柔らか……!」

 

「ありがとう。応援してくれて嬉しい、サラサーテオペラ」

 

「はぇっ!? に、認知されて──!?」

 

その相手もまたサナリモリブデンには覚えがある。

メイクデビューよりもさらに前。

思い出に深く刻まれた選抜レースにて争った相手だ。

 

いや、争った、というのは正確ではないかもしれない。

方や圧倒的な実力不足に加え、落鉄という不運にも見舞われて最下位に終わったサナリモリブデン。

方や致命傷と断言して良いほどの出遅れと、それに伴う精神的な動揺でまともに走る事も出来なかったサラサーテオペラ。

 

争いと呼べるほどのものは、そこに生じようが無かった。

 

「あ、ああああのっ、おおおこがましいお願いだとは思うのですがっ! サ、サインも貰えませんかっ!?」

 

「ん、うん。構わない」

 

「うわああ優しいっ、す、好きですっ! じゃ、じゃなくて、ここに、ここにお願いしますっ」

 

「………………それは考えなおした方が良いと思う」

 

「そんなぁっ!」

 

だからサナリモリブデンは少し困惑した。

 

サラサーテオペラは、控室に入る前に既に勝負服を着用していた。

リボンと近い薄桃色のドレスめいた装束。

その一番目立つ胸元にサインを要求されても、流石にサナリモリブデンとて応えられない。

 

勝負服とはウマ娘にとって特別なものである。

レース中に泥で汚れるならともかく、それ以外の汚れは到底許容し難い。

そこにサインを、など。

 

ここまで熱烈に好かれる覚えが無い。

一体何故と疑問が加速するばかりだ。

 

「サラサーテオペラ。違うでしょう。それは後にしてもらえますか」

 

そこに、ダン、と強い音。

スローモーションが床に爪先を叩きつけた音だ。

目いっぱいの苛立ちを乗せたそれに、ぴぇっとサラサーテオペラが肩を跳ねさせる。

 

「あ、は、はいっ! そうでしたごめんなさいっ!」

 

「む……スローモーション。私のファンを脅すのはやめて欲しい」

 

「あああ違うんです違うんですごめんなさい! 約束をうっかり忘れてしまった私が悪いのでっ!」

 

怒りを見せるスローモーションと、庇うサナリモリブデン。

慌てだしたサラサーテオペラの反応に、前者は舌打ちし、後者は眉を寄せながらも矛を収めた。

 

 

 

「すぅ、はぁ……え、と。その……すみません。聞いてもらえますか」

 

それから数度の深呼吸を挟み。

サラサーテオペラは口を開いた。

 

「……初めは、」

 

そこに先ほどまでの情熱はない。

むしろ凍えるように。

不安と自責に苛まれるように言葉が漏れ始める。

 

「嫉妬、だったんです」

 

それは懺悔だった。

 

 

 

「選抜レース、覚えてますか?」

 

「うん。もちろん」

 

「ぁ、はは……なら、分かると思うんですけど……私、全然ダメでした」

 

否定の材料をサナリモリブデンは持たない。

秒数にして2秒強の出遅れ。

慰めの余地などどこにもない余りにも大きな失態だった。

 

「出遅れて、取り戻す事もできなくて、8人中7位です。本当に、ダメダメでした」

 

そして、そこからの崩れぶりは更に最悪に近い。

奮起も出来ず、サラサーテオペラは諦めに沈んだ。

フォームは崩れ、溢れる涙を止められない。

褒めるべき点など何一つなく、サラサーテオペラはゴール直後に泣き崩れ、レースを終えた。

 

「スカウトなんて一つも来ませんでした。当たり前です。あんな成績の子なんて、私がトレーナーだったら絶対に声をかけません。……なのに」

 

そこで終わるはずだった。

選抜レースでトレーナーとの契約を得られなかったウマ娘の未来は暗い。

 

この娘は走らない。

そう烙印を押された者が再起を成功させられる割合はわずか数%。

一度諦めに囚われたサラサーテオペラが潜り抜けられる関門ではなかった。

 

「寮に引き籠っていた時に噂を聞いたんです。……私より遅かった子が、トレーナーと契約したって。なんでって、どうしてって思いました。それなら、私も拾い上げてくれたっていいじゃない、って」

 

そこに、劇薬めいた外的要因が無ければ。

つまり。

 

 

 

「それで、調べました。私とその子の何が違ったのか。現実逃避だったと思います。でも、その甲斐はありました。だって、知れたんです」

 

そこに、サナリモリブデンが居なければ。

 

「私より遅かったのに。落鉄して、誰より遅くて、なのに──諦めなんて少しもなかった、あなたを」

 

 

 

「……、ぁ」

 

サラサーテオペラの瞳に熱が戻る。

それは先の、浮き立つような熱狂ではない。

 

「私とは全然違って……とても、とても綺麗でした。だから、思えたんです」

 

澄み渡るような光がそこにあった。

わずかにだがサナリモリブデンが気圧されるほどの。

 

「私も、こうありたいって。まだ何も始まっていないのに、諦めるなんてしたくないって……!」

 

「サラサーテ、オペラ……」

 

「だから、ありがとうございます! 私がここに居れるのは、メイクデビューも、未勝利戦も全然勝てなくても、諦めずにここまで戦ってこれたのは──全部あなたのお陰なんです」

 

 

 

 

 

と、その時。

轟音が通路を揺らした。

 

音はサナリモリブデンの後方。

つまりはスローモーションが立っていた側だ。

咄嗟に振り向けば。

 

「……どこに行く気です?」

 

「い、いや、はは、そのぅ……ちょっと、トイレに?」

 

「トイレは逆側かと思いますが」

 

「あ、あれーそうだっけ!? き、記憶違いかなー!」

 

「タヴァティムサ。私は先日賭けで勝って、あなたは負けました。そして約束を交わしたはずですね。反故にするというのは──」

 

そこには、鹿毛の尻尾を恐怖に逆立てる褐色肌のウマ娘、タヴァティムサと。

その行く手を阻むように壁に脚を突き立てているスローモーションが居た。

 

タヴァティムサはブリッツエクレールやサラサーテオペラと共にやってきたはずだ。

それがそこに居るという事は、話の途中にこっそりとこの場を抜け出そうとしたらしい。

結果は見ての通り、失敗に終わったようだが。

 

「──()()()()()()()、という理解でよろしいですか?」

 

「すみませんでしたぁ!」

 

回れ右。

タヴァティムサの態度は一瞬で塗り替わった。

蒼褪めた顔がぐるんと振り向き、サナリモリブデンへと駆け寄ってくる。

 

さもありなん。

舐められたと判断したスローモーションによる報復など想像すら恐ろしいとサナリモリブデンさえ考えるほどだ。

絶対に、間違いなく、どう考えても無事では済まない。

 

「あー、えー、そのー! 私、逃げましたぁ!」

 

それはタヴァティムサも分かっていたようだ。

自棄になったように言い募り始める。

 

「あんな化け物に勝てるわけないから勝てるかもなとこだけ拾っていこうって逃げました! マッキラから!」

 

「ん……毎日王冠のこと?」

 

「げ、知ってんの?」

 

「タヴァティムサの動向は追ってたから」

 

「なんで!?」

 

何故と言われてもサナリモリブデンにとっては当然の事だった。

 

きんもくせい特別ではムーンポップを。

白百合ステークスではスローモーションを。

それぞれ見事に潰してみせた手腕をサナリモリブデンは覚えている。

 

だからこそ当初毎日王冠へ出走表明をしていたタヴァティムサの名前にも注目していたのだ。

それはしかし、マッキラの参戦が伝えられた翌日には消えてしまっていたが。

 

「うへぇ……そっか、知られてたかぁ……」

 

「……別に、恥じる事とは思わない。それだけ真摯に勝利を目指している証拠」

 

それをサナリモリブデンは見下さない。

レースに求めるものは自由だ。

自分が追う夢が自分だけのものであるように、タヴァティムサにも確実な勝利を目指す理由があるならそれで良いはずだと彼女は考える。

 

「違うよ。恥だよあんなの。最低にダサかった」

 

だが、タヴァティムサは自身で過去の逃避を間違いだったと断じた。

 

「逃げた理由なんて負けるのヤダーってだけだもん。ついでにあんたの事も内心バカにしてた。あんな大口叩いて、負けて恥かくだけなのにってさ。……や、正直言うと頼むから負けてくれって思ってた。賢いのは私で、無謀な挑戦なんてバカのやる事って思いたかったんかなぁ」

 

ケラケラと態度は軽く。

しかし声色に籠る感情は自嘲の一色に染まっていた。

 

「でも逆だったね。バカは私で、凄かったのはあんただった。まさか勝っちゃうんだもん。……ううん、勝ち負けなんて関係なくて、めっちゃ輝いてた。見てるだけでクラクラして、私何やってんだろって思えるくらい」

 

それは徐々に別の感情に置き換わっていく。

恥じ入る姿はそのまま。

言葉の通り、輝きを見上げる者の彩りに。

 

「だからさ、わ、私も、なんだ、ありがと。折角学園に入れたから記念にー……ってぐらいで走ってた私に、初めて夢が出来たんだ」

 

 

 

 

 

「お、終わり! 以上! はい次どーぞ!」

 

「あなた、普段からそのくらい可愛げがあったら敵も少ないでしょうに」

 

「うっさい! そんなん出来たら苦労しないよバーカ!」

 

「はいはい。では、次は私がよろしいでしょうか?」

 

語り手は入れ替わる。

顔を赤くして引っ込んだタヴァティムサに替わり、進み出たのは芦毛のウマ娘だ。

 

「ボヌールソナタ」

 

「あなた……サナリさんはそんな誰でも彼でも名前と顔を覚えていらっしゃるのですか?」

 

「一度でも一緒に走ったなら普通覚えていると思う」

 

「そんなわけないでしょうに。普通は話した事もない相手をそうは覚えていないものですよ」

 

楚々とした仕草で寄ってきたボヌールソナタは数歩の距離で立ち止まった。

姿勢を正し、豊かな胸に手を当てて言う。

 

「ご存じのようですが、ボヌールソナタです。ですが私、実はもうひとつ名前がありまして」

 

庶民とは少々異なる立ち振る舞いと口調。

令嬢めいたそれ。

その理由は本人の口からもたらされる。

 

「リボンソナタ、と申します。もっとも、こちらの名はもう公的にも私的にも使用は許されておりませんが」

 

「リボン……?」

 

サナリモリブデンもこれには少し驚いた。

リボンの名は学園でも、どころか世間一般でも知れ渡った大きな名だ。

 

名家、リボン家。

レースの世界において有力なウマ娘を幾人も排出し続ける巨大な一族である。

リズム家やジュエル家と並び、日本を代表する大家のひとつだ。

 

「えぇ、ご想像通りのリボン家です」

 

サナリモリブデンもそれを把握している。

そう理解したボヌールソナタは言葉を続けた。

 

「当家では古くから続いている習いがありまして。一族に生まれた娘は幼少の頃から本家に集められ、そこで育てられるのです。勝負の世界を見据え、互いに競わせ蹴落とし合う心構えを培うわけですね」

 

「少し羨ましい」

 

「その感想は初めていただきましたね」

 

「ライバルが多いのは良い事だと思う。一人でやるよりずっと良い」

 

「今振り返れば私もそうと思えるのですが……残念ながら当時の私は違ったのです」

 

ボヌールソナタは言う。

それまでの友人達と引き離され、両親に甘える機会も減り、増えるのは厳しい鍛錬の時間ばかり。

顔を合わせるのは敵視しあうよう仕向けられた同年代の親戚だけ。

 

そんな中で耐えられる娘はそう多いものではない。

毎月のように落ちこぼれは生まれ、誰かが本家を去り親元へ帰っていく。

ボヌールソナタもまた、その一人だった。

 

「そうして私はふるい落とされ、そうした者からはリボンの名は剥奪されるのです。空いた部分には両親から適当な名が与えられ、以降は表向きには一族の娘とは扱われなくなります。本人だけの事で、親や将来の子供には適用されないものですが」

 

「……それは」

 

「あぁ、同情は必要ありません。家から追い出されるわけでもないのですから。単にリボンの名を名乗れなくなるだけです。ボヌール、という響きも気に入っていますし。名を贈って下さったお父様にはむしろ感謝したいぐらいでして」

 

「ん……家族のことは、好き?」

 

「父の日と母の日の贈り物に悩む程度には」

 

「なら、良かった」

 

「まぁ、ともかく私は落ちこぼれたわけです。それでもこうしてレースの世界に踏み入りました」

 

それは彼女が今ここに立っている事からもわかる。

落ちこぼれ。

そう断じられ見放され名を失いながらもボヌールソナタはトレセン学園へとやってきた。

 

「ウマ娘としての本能と……後は本家への反発です。不適格と烙印を押された理由は能力ではなく態度でした。曰く、レースに対する私の姿勢が他に伝染しては困るとの事で」

 

ボヌールソナタは当時の光景を思い描いているのだろう。

整った顔の眉間に皺が寄り、不快そうに歪む。

 

「それはもう怒ったものです。私は必死に努力している、なのにどうして認めてくれないのかと」

 

事実、ボヌールソナタは努力した。

懸命にトレーニングを積み重ね、自身の素質を磨いてきた。

 

「ですが……ここに来て。学園であなたを見て、ようやく気付きました。その程度は最低限でしかなかったのだと」

 

だが、ボヌールソナタは恥じ入るように眉を下げた。

 

そしてその言は確かに正しい。

トレセン学園の門は狭い。

必死の努力をその程度と呼んでしまって差し支えないほどに、要求される水準は高いのだ。

絶対的な素養か、あるいはそれを覆すほどの鍛錬。

どちらも持たない者に寛容を見せてくれるような機関では、到底無い。

 

「模擬レースでは常に最下位。教官からは地方転向を勧められ、同期からは敵とさえ見なされず同情の視線が向けられる。そんな中でさえあなたは、一度も下を向かなかった」

 

「それは、でも当たり前の──」

 

「当たり前の事ではありません! えぇ、本当にあなたには自覚が足りない。普通はとうの昔に折れるものなのです。必死に努力した、なのに結果が出なかった、だから仕方ないじゃないかと……本家に居た頃の私のように」

 

悔いに唇が引き結ばれる。

 

ボヌールソナタには出来なかった事だ。

努力して、努力して、努力して、しかし得る物は無く。

懸命だったはずの努力はいつしか形骸化し、やっているのに出来ないのだからしょうがないという言い訳に堕した。

 

「ですが、今の私はもう違います。不遜ながら、あなたを模範とさせて頂きました。折れる事なく、逆境を避けず、挑み続けたあなたのようにあれるように」

 

そんな、過去の弱い己を振り切って。

ボヌールソナタは切り裂くように言葉を締めた。

 

 

 

 

 

「それで」

 

そうして最後に、スローモーションが口を開く。

 

「何か、言いたい事はありますか」

 

静かな足音を伴ってサナリモリブデンの前に立った黒鹿毛は、滾る怒りを抑えもせずに瞳から迸らせていた。

返る言葉は、無い。

 

「──」

 

ブリッツエクレールの。

サラサーテオペラの。

タヴァティムサの。

ボヌールソナタの。

 

その想いの熱量に、返せるだけの言葉が浮かばない。

ただ、チリチリと。

延焼した炎が立てる音だけをサナリモリブデンは聞いていた。

 

 

 

「えぇ、無いでしょうね。本当に……本当に腹立たしい。忘れられたくない? 自分がここに居た証が欲しい? ──許し難い侮りです」

 

胸倉を掴まれ、引き寄せられる力にサナリモリブデンは抗わない。

ようやくの理解があった。

スローモーションにはそうするだけの権利があり、自身には受け入れるべき無知があったと。

 

 

 

「よくも、サナリモリブデン(私の憧れた背)を舐めたな」

 

吐かれる言葉には憤怒が満ち満ちて。

しかし。

 

「あの背中を二度と忘れられるものですか。覚えておきなさい。あなたは、あなたであるだけで」

 

それを凌駕しかき消すほどの。

憧憬と思慕に覆われていた。

 

「他の何よりも輝かしいのです」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

時が進み。

音の無い控室で、サナリモリブデンは一人佇んでいた。

 

見つめるものは手の中にあった。

昨夜送られてきた写真である。

比叡ステークスの勝者セレンスパークに肩車され、はしゃぐクロスミネラルの幼い笑み。

 

今日も来ているだろう。

大舞台を目に焼き付けようと集まった人々の中に、彼女もまた紛れているはずだ。

 

その事実の重みを、サナリモリブデンは本当の意味で噛み締めていた。

 

 

 

「お待たせしました、サナリさん」

 

そこにドアを開けて現れたのは、当然郷谷だ。

サナリモリブデンの入室に遅れる事15分。

 

「では答え合わせといきましょうか。──自覚は、できましたか?」

 

ゆっくりとやってきた郷谷はもう答えを知っていた。

一目で分かる。

今ここに居るサナリモリブデンは、今朝までのサナリモリブデンとは一線を画していた。

 

 

 

「トレーナー」

 

「はい」

 

「私は──走るよ」

 

だからサナリモリブデンの返答は端的に。

わずか一言で示された。

 

「それだけで、良かったんだ」

 

 

 

鋼は打ち鳴らされた。

夢に熱され、憧憬に叩かれて。

ついに定まった形を得るだろう。

 

クラシック級、11月。

マイルチャンピオンシップが、来る。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『11月3週、日曜日。京都レース場第11レース、マイルチャンピオンシップ。秋のマイル王の称号を求めて11人のウマ娘が古都に集いました。もう間もなくパドックの時間です』

 

『出来るなら晴れ空の下で見たかったですねぇ』

 

解説の言葉に観衆の多くが頷く。

隣で聞いていた実況も同じくだ。

 

『こればかりは仕方ありません。予報通り明け方に降り止んでくれただけでも良しとすべきでしょう。バ場状態も稍重まで回復しております』

 

『重や不良ですと折角の勝負服も泥まみれですからね。そこは素直に喜ばしい所です』

 

『勝負服の泥もまた激戦を走ったウマ娘の誇りと言いますけどね』

 

間を繋ぐ言葉が幾つか並んだ後に準備が整った。

詰め寄せた観客からわっと声が上がる。

デザインは様々、色とりどり。

煌びやかな勝負服に身を包んだウマ娘達が現れる。

 

『1枠1番、タヴァティムサ。直近の戦績はポートアイランドステークス3着、富士ステークス2着と好走を続けています』

 

『10月後半の富士ステークスは特に良かったですね。夏前まではあったどこかゆるい部分が無くなっているように見えます。今日も気合の乗った良い表情ですよ』

 

『2枠2番、オントロジスト。G3では4度の勝利を重ねてきたウマ娘。G1へはこれが8度目の挑戦です』

 

『私はこの子のSNSも追っているのですが、意気込みはピカイチです。好走が期待できるでしょう。G1ブロンズコレクターの名を今日こそは返上できるでしょうか』

 

『3枠3番、ボヌールソナタ。G2富士ステークスの勝者。お淑やかな仕草の中にも燃える戦意は隠し切れていません』

 

『良い歩様です。踏み込みに力がありますね。前走で見せてくれた、道中でライバルを轢き潰したパワーを今日も期待しましょう』

 

『4枠4番、ブリッツエクレール。長く未勝利でもがいていましたが、春夏と見違えるような活躍を見せ、ついにG1の舞台に辿り着いてみせました』

 

『何故勝てないのかと方々で言われるほど元々実力はある子でしたからね。ライバルの強さや様々な不運でどうにも勝ちに恵まれませんでしたが、流れに乗っている今のこの子はちょっと怖いですよ』

 

『そして5枠5番、本日の1番人気──』

 

その中に、サナリモリブデンが足を踏み入れる。

黒の勝負服を纏い、真っ白い芦毛をなびかせて。

 

瞬間、歓声は大きく密度を増した。

実況と解説の声がかき消されるほどの大音声。

ビリビリと肌を刺す音の波はそのまま、彼女に向けられた期待と、そしてその背に乗せられた夢の重みを表すものだろう。

 

『──サナリモリブデン! 歓声に応えて小さく手を振りました。絶対王者に競り勝ち王冠を手にして、続いて狙うは秋の玉座。G1戴冠は叶うのか』

 

『1番人気も当然の最有力ウマ娘ですね。マッキラとの大接戦で見せた勝負強さはシニア級まで含めて見渡しても間違いなくトップクラス。好調も前回からまだ続いていると見て良いでしょう。一目で分かるぐらいに闘志が剥き出しです』

 

歓声を、応援を受けたのはもちろんこれが初めてではない。

今までも多くの声に背を押されてサナリモリブデンは走ってきた。

だが、自覚を得た今受け止めるそれは生じる熱の嵩が違う。

 

ひとつの声が耳に届く度、サナリモリブデンの炎は温度を上げていく。

上限などない。

無限の赤熱が、鍛え抜かれた脚に一歩ごとに力を凝縮させていくようだった。

 

『6枠6番、ムシャムシャ。今年のヴィクトリアマイル覇者は本日2番人気。安田記念で煮え湯を飲まされて以来、打倒マッキラを宣言し牙を磨いてきたもうひとりの挑戦者。有利な展開を組み立てるレース巧者ぶりには定評があります』

 

『今日ここにマッキラが居ない事を一番嘆いたのは恐らくこの子でしょうね。ですが気持ちは切れていないようですよ。勝負を荒らす手腕と、荒れた勝負の中を泳ぐ技術は当代随一との声も聞かれます。注目しましょう』

 

そのサナリモリブデンの背を、刺客が見つめる。

ムシャムシャ。

栃栗毛のポニーテールを揺らす少女は、今日の獲物と定めた者の背後でペロリと唇を舐め、目を細めた。

 

『6枠7番、サラサーテオペラ。前走スワンステークスでは完璧な逃げ切り勝ちを決めました。短距離を主戦場としてきたウマ娘ですが、マイルではどうなるか』

 

『これまでのレース後の様子を見る限りスタミナに不安はないでしょう。1600は全く問題なく走り切ると思いますよ。何より今年のクラシック短距離を生き抜いてきた子、というだけで何をしでかすか分からない恐ろしさがありますね』

 

『7枠8番、ノワールグリモア。海外遠征で味わった3度の大敗から、6ヶ月の休養を経ての復帰戦となります』

 

『残念ながら11番人気と振るいませんが、これは仕方ありませんね。ただ、この子の場合休養とは言っても実質は姉妹達との徹底的な長期強化合宿だったという情報もあります。油断はできません』

 

『7枠9番、スローモーション。今年のマイル戦線を彩った猛者の一人は3番人気。毎日王冠でついに王者に刃を届かせた気迫のコーナリングは記憶にも新しいところでしょう』

 

『やると決めた時の恐ろしさはサナリモリブデンと並ぶところがあります。ライバルの背を睨む視線も、いやぁ、なんだか寒気がするぐらいですね。今日はどんな走りを見せてくれるのか。私イチ押しのウマ娘です』

 

『8枠10番、ショーマンズアクト。おっと、これは見事なパフォーマンス。くるりと回って投げた帽子を尻尾でキャッチ。好調の証でしょうか?』

 

『動きにはキレがありましたが、さてどうでしょう。この子はこういうレース外でのパフォーマンスは上手いですが実戦ではムラが大きいですからね。中々安心して見ていられませんが、まぁG1に出走するだけの力はあるはずです』

 

『8枠11番、スウィートパルフェ。前走は府中ウマ娘ステークス。今年は春からここまで4連勝中。勢いに乗っています』

 

『去年一昨年と低迷が続いていましたが完全に抜け出しましたね。妹のオイシイパルフェがオークスを勝ってからは全く別人と言って良い程です。妹に負けていられないお姉ちゃん、同じG1の冠は是が非でも欲しいところでしょう』

 

これで11人全員。

パドックは滞りなく進んだ。

 

誰もが戦意を溢れさせ、京都は激闘の気配に包まれていく。

放たれる威はレース場に満ち、そして溢れこぼれていかんばかり。

マッキラ不在の今、主役はサナリモリブデンのみ、などと。

そうのたまった者達の不明を踏み潰し、焼き尽くすように。

 

開戦は、もう間もなくだ。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

そうして、サナリモリブデンは鉄の中に収まった。

狭く暗いゲートに佇み、静かに集中を高めていく。

 

ゲート入りは進んでいく。

サナリモリブデンの次にサラサーテオペラが続き、スローモーションもスムーズに入る。

順番が進めば当然に、サナリモリブデンの両隣も埋まった。

 

「や、お隣失礼~♪」

 

左隣、6番のゲートから声が届く。

ムシャムシャだ。

軽く弾むような声色はともすれば軽薄にも聞こえかねない。

 

「よろしくお願いします」

 

「よろしくー。あと一応謝っときたくてさ。ごめんねー? 控室前のアレ、ちょっと聞こえちゃってたんだわ」

 

「それは、仕方ない事だと思います。別に私達だけの場所でもありません」

 

が、もちろんサナリモリブデンがその程度の事で敵を値踏みする事などありえない。

初対面の先輩に対するにふさわしい態度で返答する。

 

「いい子だなー、サナリちゃん。ありがとありがと♪ で、ついでで悪いんだけどさ、私も一言だけ言わせてほしくて」

 

「ん……構いません。どうぞ」

 

「もひとつありがと♪ ……私らの世代がなんて呼ばれてるか、知ってる?」

 

「……」

 

「お、言えないか。ほんといい子だねー。でも知ってはいるでしょ?」

 

その問いにサナリモリブデンは答えない。

正確には、答えとなる単語を口にしたくはなかった。

 

「不作の世代」

 

ムシャムシャは返答を待たずに続ける。

 

「見どころがあるのはスレーインとクラースナヤだけで他は雑魚ばかりってね」

 

やはり言葉は軽い。

無分別な一部の観衆から名付けられた蔑称をどうでもいいとばかりに口にする。

だがその実態はどうか、という答えは。

 

「──覆す機会を、ずっと待ってたんだ」

 

わずかだけ低くなった声音が物語っていた。

 

「サナリちゃんみたいな気合入った子が来てくれて嬉しいよ。……叩き潰して、踏み台にしてあげる。シニアにはムシャムシャが居るって分からせるためにね」

 

 

 

「……やれるものなら」

 

その熱は、さらにサナリモリブデンを熱くした。

握りしめた拳に力が籠る。

ここにも自分を見て、記憶し、期待してくれる人が居たと。

 

だから、サナリモリブデンはムシャムシャに対する声を変えた。

先輩に向けた物から、敵へ向ける物へ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ところでさ」

 

が、それは。

 

第11レース、マイルチャンピオンシップ。今──』

 

「そろそろ始まるよ」

 

「──!?」

 

敵へと届く前に、驚愕にかき消された。

 

 


 

【スタート判定】

 

難度:280

補正:集中力/+20%

参照:賢さ/547+109=656

 

結果:124(失敗)

 


 

 

『スタートしましたっ! おっとこれはサナリモリブデン出遅れた!』

 

「し、まっ……!」

 

横一線に並んだ綺麗なスタート。

そこから一人だけサナリモリブデンは取り残された。

 

出遅れだ。

 

言い訳など利くわけもない。

声をかけられたために集中できていなかったのは確かだ。

だが話を聞くと決め、意識をそちらに向けたのはサナリモリブデン自身である。

 

(はっは! ちょーっといい子ちゃん過ぎるなぁ。 お行儀の悪い相手は初めてかい?)

 

牙を剥くように頬を吊り上げたムシャムシャは洋々とスタート直後の直線を行く。

その最中、オマケとばかりに一瞬だけ彼女は振り向いた。

 

ぱくぱくと、音は伴わずに口が動く。

 

(まぬけ)

 

それは実に読み取りやすく、サナリモリブデンにも容易く言葉が伝わった。

 

 


 

【かかり判定】

 

難度:280

補正:集中力/+10%

補正:冷静/+20%

参照:賢さ/547+164=711

 

結果:359(成功)

 


 

 

(……認める。確かに、こんな間抜けは無い)

 

が、それはサナリモリブデンから平静を奪いはしない。

押し殺すでも耐えるでもなく、自身の失態を彼女は飲み込む。

生まれかけた焦りも共にだ。

 

『ポケットから直線へ向けて各ウマ娘進んでいきます。とんとんと綺麗に加速してサラサーテオペラがまず先頭に出た』

 

『この辺りの鋭さはやはり短距離戦線で磨かれたものがありますね』

 

焦燥に囚われている暇も、悔いている時間もない。

今はやるべきことをやる時だ。

サナリモリブデンは唇を引き結び、緩んでいた己を締め直す。

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

加速してハナを取る

 


 

 

(作戦に変更はない。まずは、前に出る!)

 

郷谷の指示した立ち位置は先頭だ。

出遅れで押し込められた後方ではない。

勝ち筋を掴むためにはまずここを脱しなくてはならないとサナリモリブデンは脚に力を叩きこんだ。

 

 


 

【加速成功判定】

 

難度:280

補正:出遅れ(小)/-10%

参照:パワー/481-48=433

 

結果:361(成功)

 


 

 

『7番サラサーテオペラに続くのは3番ボヌールソナタ、2バ身ほど開けての追走。その背を左右から挟むように10番ショーマンズアクトと1番タヴァティムサ。2番オントロジストと4番ブリッツエクレールが並んでその後ろ。ここで出遅れた5番サナリモリブデンが慌てて出てきた。今日は前で走りたいのか、それともかかってしまったか』

 

幸い、京都レース場1600メートルの前半戦は長い直線だ。

内を目指す圧力はさほど強くは無く、道はまだ存在する。

 

芝を抉り飛ばし、加速をかける。

トレーニングによって培われた強靭な踏み込みはたちまちにサナリモリブデンに速度を与えた。

水分を含み、柔らかく沈み込む地面とてその加速を鈍らせる事はない。

ニマニマと笑みを浮かべるムシャムシャの背後へとすぐさま接近する。

 

その時だ。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

サナリモリブデンの道が開く

 


 

 

「はい、行きたいならどうぞ?」

 

ムシャムシャが道を譲った。

一歩外へ体をずらし、前を目指すための最短ルートが開く。

 

(──?)

 

サナリモリブデンは困惑した。

理由が分からない。

当然の事実としてムシャムシャは敵である。

 

ならば塞ぐのが自然だ。

こうして譲られるなどまるで道理が通らない。

 

まして相手は、ゲートの中で話しかけるという盤外戦術でスタートを乱しにかかってきたムシャムシャである。

 

これは何だ。

自分は今何をされているのか。

混乱が生じ、何をすべきかという意識がほんの一瞬霞む。

 

 


 

【抵抗判定/逃げけん制

 

難度:280

補正:布石(ムシャムシャ)/-15%

参照:賢さ/547-82=465

 

結果:367(成功)

 


 

 

が、それは真実一瞬だった。

 

(知らない。わからない事を長々考える余裕はない)

 

迷いは容易く振り切られた。

サナリモリブデンは前傾に、他の策を弄される前にと駆けていく。

 

『いえ、かかっているようには見えませんよ。冷静に後れを取り戻しにいっているようです。サナリモリブデンの出遅れは意外でしたが、まだまだ大丈夫でしょう』

 

横を抜ける際にもムシャムシャは何もしなかった。

ずらした体を戻す事もなくサナリモリブデンをただ見送る。

ただし。

 

(ふぅーん? どっちかなー。読まれたか。それとも分からない事は考えないと切り捨てたか。……多分後者かな)

 

駆け抜ける横顔を見て、観察は終えられた。

 

(究極的にはどっちでも構わないんだけどね。──捕まえるには位置が悪い。出遅れで焦って潰れれば最良だったけど、ま、そりゃ高望みだわな)

 

 


 

【序盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

サナリモリブデンについていく

 


 

 

同じく、観察を終えた者がもう一人。

 

「……チッ」

 

眉間に皺を寄せて舌打ちしたスローモーションはサナリモリブデンに続いた。

 

何をやっている。

勝負を舐めているのか。

大一番で出遅れた敵手にそう喚き散らしたかった暴力的な感情を抑えてだ。

 

『サナリモリブデンが前に出た。サラサーテオペラに並びかけたところでペースを抑える。その背後にはピタリと張り付くようにスローモーションもついてきたぞ』

 

『完全にマーク体勢ですね』

 

(……ですが、焦燥を消して立て直したのは、流石)

 

スローモーションは後背の死角に潜伏しながら一点は褒め称える。

 

(それでこそ。そういうあなたでなければ、戦う意味がない)

 

否、賞賛と呼ぶには獰猛に過ぎた。

長い前髪の奥で爛々と輝く眼球が焦がれた背を見つめ、急所を探る。

刃を刺し入れる位置と、その好機を定めるために。

 

レースはまだ序盤。

刃が振るわれる時を目掛けて勝負は加速していく。

 

 


 

【序盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/加速(2)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消耗:4+2-1=5%

 

結果:512-25=487

 


 

 

『先頭はサラサーテオペラとサナリモリブデン、並んでレースを引っ張っていく。すぐ後ろにスローモーション。3人を見るように続くボヌールソナタを左右からショーマンズアクトとタヴァティムサが体半分遅れて挟み込む形。少し離れてムシャムシャ、オントロジスト、ブリッツエクレールの順。ノワールグリモアとスウィートパルフェが最後尾』

 

『ノワールグリモアがこの位置は珍しいですね。以前は先行寄りの差しを得意としていたはずですが』

 

直線はまだ続く。

京都1600メートルの向こう正面は長い。

先頭を行くサナリモリブデンがようやくその半分に差し掛かったところだ。

 

(サナリ様──)

 

真隣、至近距離を走るサラサーテオペラが横目で窺う。

 

(──違う。サナリ、モリブデン……!)

 

その目に宿る感情は一時だけ憧憬に染まりかかる。

が、瞬きの間に塗り替わった。

 

(あなたは私の憧れで、私の夢で、私のヒーロー。だけど……ここ(ターフ)に居る間は、っ!)

 

打ち倒さねばならない敵なのだ、と。

焦がれ、己もそうあろうと定めた通りに、サナリモリブデンに似た鋭さで睨みつける。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

心を落ち着かせてペースを保つ

 


 

 

(──あぁ。これは)

 

その眼差しの鋭利さにサナリモリブデンは唸った。

 

(少し、まずいかも知れない)

 

熱が生まれ生まれ生まれる。

制御が利くラインを越え、暴走を引き起こしかねない程に。

 

レース直前に初めて得た、自身へ向かう感情の自覚。

それはサナリモリブデンの鋼の理性を溶かすほどだった。

 

 

 

(サナリモリブデン)

 

そこに拍車がかかる。

 

(サナリモリブデン、サナリモリブデン、サナリモリブデン──!)

 

背後。

わずかでも足を緩めれば激突を想像させるような距離にそれがある。

 

灼熱の溶岩か。

あるいは鋼を飲み込む溶鉱炉か。

誰よりもサナリモリブデンを見詰めてきた敵手がそこにいる。

 

その事実に。

これまで無自覚に受け取らずに捨て置いた感情の群れに、サナリモリブデンは焼き焦がされる。

 

 


 

【行動成功判定】

 

難度:280

補正:逃げ焦り(スローモーション)/-15%

参照:スピード/608-91=517

 

結果:467(成功)

 


 

 

『向こう正面をゆったりと進んでいきますマイルチャンピオンシップ。大きな動きなく、前半は全員が消耗を抑える事を選んだか』

 

だが、その熱をサナリモリブデンは抑え込んだ。

感情の激流を乗りこなし、脚を乱れさせずに一定のペースを保つ。

 

(サラサーテオペラ。スローモーション。……私は、応えたい。あなた達の期待に。だから)

 

激情は押し込められる。

激発の時のため。

渦を巻き、引き絞るように。

 

(今は耐える。まだ、ここじゃない!)

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

バ群がサナリモリブデンを捉える

 


 

 

(やっぱりねぇ。冷静だな。気合と根性だけじゃない。頭もキレてる)

 

その頃、後方では方策をまとめ終えた者が居た。

 

(……こりゃ、私らが不作呼ばわりされんのも納得だわ。後輩が優秀すぎて参るねどうも)

 

ニマニマ笑いが本音を受けて歪む。

彼女、ムシャムシャにとってサナリモリブデンは面倒なカテゴリに分類される相手だった。

ムシャムシャが最も得手とするのは、煽り、苛つかせ、心を乱す手管である。

 

精神力に富み、強靭な心を持ち、迅速に果断な決定を下し、かつ己の判断を信じられる者。

これは彼女にとって天敵に近い。

 

(ま……やりようはあるさ)

 

とはいえ、ムシャムシャとて歴戦の猛者だ。

トゥインクルシリーズを勝ち残り、G1に勝利さえしたトップクラスのウマ娘である。

 

天敵だから抗えない、などと。

そんな弱者ではありえない。

そうであったならばとうの昔に淘汰されている。

 

 

 

 

 

「はぁ……っ。くそ、悠々逃げやがって」

 

逃げに続いて走り、好機を窺う者。

先行を選んだウマ娘達に声が届く。

 

「まずいな。こりゃ崩れそうにないわ」

 

それはほんの小さな声だった。

足音に紛れ、ウマ娘の優れた聴力をもってしても大半が聞き取れないような囁きだ。

 

「……最後、届くのかこれ?」

 

しかしだからこそ、かろうじて届いた言葉には真実味があった。

自分達に向けられたものではなく。

敵手の一人が抱いた焦燥が漏れ出たものと錯覚する。

 

 


 

【抵抗判定/モブウマ娘

 

難度:280

補正:ささやき(ムシャムシャ)/-15%

 

タヴァティムサ:賢さ310-46/抵抗不能

ボヌールソナタ:賢さ310-46/抵抗不能

 


 

 

ギシリ、と戦意の密度が増した。

タヴァティムサとボヌールソナタ。

サナリモリブデンを強烈に意識する者達が歯を食い縛る。

 

微かに耳に届いた言葉。

余りに小さく、誰が発したかも不明瞭なそれは彼女達自身の懸念と一致していた。

 

サナリモリブデンは圧倒的な強者だ。

あのマッキラを下すほどに。

ならば行かせてはならない。

ここで捕まえておかなければならない。

そう下しつつあった判断に材料が追加され、そして爆発する。

 

『ここで動いた、坂の手前! タヴァティムサとボヌールソナタが並んで上がっていく。つられるようにショーマンズアクト、ムシャムシャも続いた』

 

 


 

【抵抗判定/ショーマンズアクト

 

難度:280

補正:ささやき(ムシャムシャ)/-15%

補正:読解力(ショーマンズアクト)/+30%

参照:賢さ/310+46=356

 

結果:330(成功)

 


 

 

(ま、あんたは引っかからないか)

 

(当~然! 乗らせてはもらうけどね?)

 

ちら、と投げられたムシャムシャの視線に舌を出して返すショーマンズアクト。

悪戯な笑みを浮かべた彼女には煽られた2人のような強熱は無い。

共に走った経験は数知れず。

既知の戦術に引っかかるほどにショーマンズアクトの目は節穴ではなかった。

 

代わりにあるのは冷徹な打算だ。

 

サナリモリブデンを筆頭に、現クラシック級のウマ娘達は戦意の桁が違うとショーマンズアクトは感じていた。

若さ故か、それとも自分とは才能が違うのか。

 

(前者だ。……と思いたいんだけどなぁ)

 

湧きかけた弱気を激しい踏み込みでもって鎮圧する。

湿った土を陥没させる行き脚は標的を追う者の背を強く押した。

 

(後者でも構わないさ。それならそれで、是非潰し合っておくれよ)

 

 

 

『タヴァティムサ、ボヌールソナタ、鋭い加速! 淀の坂もなんのその! 同期の星をコーナー前で捉えにかかる』

 

(きっ、つぅ……! けどっ!)

 

ここ()でなら、サナリさんも逃げるには易くないでしょう?)

 

タヴァティムサは歯を食い縛り。

ボヌールソナタは剥いた目を凶暴に光らせて。

好きには行かせない、と己の脚に鞭を打つ。

 

彼女達は当然知っている。

否、このレースを走る者の中で知らない者はいない。

 

サナリモリブデンはコーナーを大の得手としている。

 

毎日王冠で見せた超高速のコーナリング。

あれだけは許してはならない。

ましてここ、京都のコーナーは坂からの大きな下りだ。

生じる莫大な加速度を丸ごと末脚に乗せられてしまえば、並みいるライバル達は余さず置き去りにされるだろう。

 

(だから、ここで……!)

 

(ここしか、ない……!)

 

鎚のように、坂へと脚を振り下ろす。

肺と心臓にかかる膨大な負荷をただ闘志のみで耐え、2人の戦士は無理を通す。

 

(あんたなら──)

 

(サナリさんなら──)

 

((そうするに決まってる!))

 

憧れ、夢見た、鋼の如く。

 

 


 

【抵抗判定/対タヴァティムサ/サナリモリブデン

 

難度:302

補正:焚き付け(ムシャムシャ)/x1.10(対難度)

参照:パワー/481

 

結果:96(失敗)

 

 

【抵抗判定/対ボヌールソナタ/サナリモリブデン

 

難度:302

補正:焚き付け(ムシャムシャ)/x1.10(対難度)

参照:パワー/481

 

結果:102(失敗)

 


 

 

「ぐ、ぅ……っ!」

 

苦悶の声が漏れる。

サナリモリブデンはギアを一段階上げた。

勝機を失わない範囲で許される限度。

京都名物淀の坂、その登りで許容できる限界いっぱいだ。

 

それは間違いなく実行された。

一切の瑕疵なく、彼女は加速に成功している。

 

だが──引き離せない。

どころか距離は見る間に縮まっていく。

2つの足音は背に迫り、あろう事かその先にさえ躍り出かねないほど。

 

サナリモリブデンの警戒が割かれる。

後方から迫るタヴァティムサとボヌールソナタの動向へと。

 

それはほんのわずか。

焦燥に潰れるなどありえず、走法に乱れが生まれる事もない。

一瞬にも満たない、間隙と呼ぶには小さすぎる意識の乖離。

 

 

 

だが。

 

隙を、見せたな?

 

彼女を付け狙う刺客にはそれで十分だった。

 

 


 

【中盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

刺し殺す

 


 

 

芝が抉れ、土が弾け飛んだ。

ターフが悲鳴を上げるような全霊の一撃。

 

ここで殺す。

 

瞬時に下された決断はスローモーションの体に爆発的な加速を与えた。

 

 

 

さらにもう1人。

 

(待ってた……この、一瞬!)

 

サナリモリブデンの左方、外からも轟音が響く。

 

「う、ああああああ!!!」

 

同時に猛る咆哮。

かつて心折れ泣き崩れた弱さの名残などどこにもない。

憧憬に焼かれ、数多の闘争を経て鍛えられたそれは獣の様相だった。

 

刃と呼ぶほどに鋭くはなく。

しかし牙のような獰猛さをもって。

サナリモリブデンの喉笛を噛み裂かんとサラサーテオペラが奔る。

 

 


 

【抵抗判定/対スローモーション/サナリモリブデン

 

難度:350

補正:領域/I SEE YOU/x1.25(対難度)

参照:パワー/481

 

結果:31(失敗)

 

 

【抵抗判定/対サラサーテオペラ/サナリモリブデン

 

難度:280

補正:なし

参照:パワー/481

 

結果:142(失敗)

 


 

 

『先頭も動いたサラサーテオペラ、サナリモリブデンを離して単独で先頭へ! 内からもスローモーションが行った。先頭サラサーテオペラ、ほとんど並んで2番手スローモーション。サナリモリブデンは3番手に押し込められたぞ』

 

否。

押し込められたのは3番手にではない。

絶対的な苦境にだ。

 

「──っ」

 

サナリモリブデンの呼吸が微かに乱れる。

 

最悪のタイミングで、最悪の敵が、最悪の位置に出た。

サナリモリブデンの必殺の武器たるコーナリング。

それと同じ脚を使える者が、コーナーを目前にした今ここで自身の前、最内に立ったのだ。

 

 


 

【中盤フェイズ終了処理】

 

消費:中速(4)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

消耗:4-1=3%

 

結果:487-14=473

 


 

 

サナリモリブデンは全身を巡る血液が氷に置き換わった錯覚さえ覚えた。

 

(道が、ない……!)

 

下りのペースはスローモーションとサラサーテオペラに握られた。

この強力な敵手2人がまさか道を開けてくれるなどと考えるのは楽観が過ぎる。

 

取り得る対抗策は3つ。

ひとつはこのままペースを握らせ、平凡な速度でコーナーを終えて直線に賭ける。

ひとつは強引に2人の間に割り込み、道をこじ開ける。

ひとつは外に持ち出して大きくかわして前に出る。

 

どれも容易ではなく、その上どれを選んだところで不利を被る事は避けられない。

 

特に外からかわし進むのは危険が大きい。

サナリモリブデンが舵をそちらに切った瞬間、スローモーションはブロックを止め猛加速に移るだろう。

そうなれば膨らんだ距離の分だけ置き去りにされるのは目に見えている。

 

(どれを選べば──!?)

 

そこまで思考を巡らせた瞬間。

さらなる凶報を彼女の耳は受け取った。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/サナリモリブデン

 

後方の動きに備える

 

難度:210

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:目くらまし(ムシャムシャ)-15%

参照:賢さ/547-82=465

 

結果:189(失敗)

 


 

 

(──ざぁんねん。聞こえなかったでしょ?)

 

サナリモリブデンの左後方。

そこで三日月が花開いた。

吊り上がった口が、赤く赤く、肉食の本性を露わにする。

 

(いつ、そこに……!?)

 

前触れなく現れたムシャムシャの気配にサナリモリブデンは驚愕する。

 

行く手を阻まれた今、最悪の中の最悪は後続に追いつかれ包み込まれる事だ。

サナリモリブデンにも当然それは理解出来ている。

だから警戒は怠らなかったはずである。

後方からの足音に耳をそばだて、変化には確かに注意を払っていた。

 

だが、事実としてムシャムシャはもうそこに居る。

次の一手でサナリモリブデンの包囲を完成させられる、そんな位置に。

 

タネとしては単純だ。

呼吸を絞って気配を薄め、そして足音を紛れさせたのである。

サナリモリブデンの背後に迫る、ボヌールソナタの脚運びに自身を完全に同期させてだ。

曲芸めいた隠密行はサナリモリブデンの索敵を見事にすり抜けてみせた。

 

(まずい、すぐに──!)

 

そのカラクリはサナリモリブデンには理解できていない。

だが、現状のまずさだけはわかった。

 

ここに居てはいけない。

そう判断を下すために要した時間はゼロコンマ以下。

サナリモリブデンの体は弾かれるように飛び出し。

 

 


 

【レース中ランダムイベント】

 

ムシャムシャが仕掛ける

 

 

【抵抗判定/対ムシャムシャ/サナリモリブデン

 

難度:280

補正:弧線のプロフェッサー/x0.75(対難度)

補正:独占力(ムシャムシャ)/x1.25(対難度)

補正:独占力(ムシャムシャ)/-30%

参照:根性/523-156=367

 

結果:231(失敗)

 


 

 

しかし、全ては遅かった。

 

『3コーナーから4コーナーへ! 後方集団も上がっていく! 外からムシャムシャ、ショーマンズアクトも続く! 後方からボヌールソナタとタヴァティムサ! これは、サナリモリブデン完全に捕まった、バ群にすっぽり!』

 

「っは、ぁ……っ」

 

「ははっ! 苦しそうだねぇ後輩ちゃぁん!」

 

ムシャムシャが嗤う。

行き場を無くしたサナリモリブデンを嘲笑う。

 

策は成った。

今やサナリモリブデンはあらゆる行動を封じられている。

 

前にサラサーテオペラとスローモーション。

外にショーマンズアクトとムシャムシャ。

後にボヌールソナタとタヴァティムサ。

完全に包囲されたそこは最早檻と変わりない。

 

出来る事は精々が。

 

(ぐ……っ、こじ、あけてでも……!)

 

悪あがき程度のものである。

 

 


 

【終盤フェイズ行動選択/スローモーション

 

サナリモリブデンの前を塞ぐ

 

 

【抵抗判定/対スローモーション/サナリモリブデン

 

難度:350

補正:領域/I SEE YOU/x1.25(対難度)

補正:弧線のプロフェッサー/x1.0(同一スキル保持により補正相殺)

参照:パワー/481

 

結果:39(失敗)

 


 

 

(させるとでも?)

 

そして当然、そんなものがこの相手に通じるわけもない。

 

スローモーションとサラサーテオペラの間。

あるいは内ラチとサラサーテオペラの隙間。

そこを潜り抜けようと試みた瞬間にスローモーションの立ち位置が変わる。

 

振り返りもせず。

耳を向けもせず。

スローモーションは瞬き未満の時間でサナリモリブデンの動きを知覚して行く道を完全に塞いでみせた。

 

読まれ切っている。

開かない。

何をどうしようとも、スローモーションは道を譲らない。

ここで殺し切ると、無言の背中は語っていた。

 

そして、そのあがきの時間が致命の傷を呼び込んだ。

 

『さぁ4コーナー半ばを過ぎて直線が目の前だ! サナリモリブデンは動けない、バ群のど真ん中! オントロジストも来た、スウィートパルフェも続く! 加速が鋭いぞムシャムシャ、前に出た! 先頭ムシャムシャに変わって11人ほとんど一塊で直線に入っていく!』

 

緩々としか速度を上げない先頭に後続が追いついてくる。

バ群は密度を増した。

左方、ムシャムシャが前に出たが代わるようにシニア級の3名がより強固な蓋となって襲い来る。

 

 

 

だから、サナリモリブデンはそれを見送る他にない。

 

 

 

曇天の下、栃栗毛のポニーテールが大きく風に靡いていた。

 

この場において最大の脅威とみなされたサナリモリブデン。

それを封じるために多くのウマ娘が手を尽くした。

前方を塞ぎ、側面を塞ぎ、後方を塞ぐ。

間違いなく有効な手段であろう。

だがひとつだけ問題がある。

 

包囲は、緩んでは意味がない。

高速コーナリングを封じるため、檻を維持し続けなければならないという制約が付きまとう。

必然として常と比して脚は鈍らざるを得ないのだ。

 

(だからさぁ、そんなの一抜けするに限るよねぇ!)

 

故に、ムシャムシャは狙い撃った。

檻の外殻、その先頭一番手。

そここそがこのレースにおける最大の好位置だった。

 

蓋と成り得る者が自身に追いついた瞬間、ムシャムシャはひとり加速した。

檻の役目を強制的に交代し、面倒を全て他者に押し付けて。

 

「くふ、あは、ははは!」

 

笑う。

嗤う。

哂う。

罠にかかり勝機を逸した者達をムシャムシャは嘲笑う。

 

何が憧れか。

何が夢か。

 

(はは、ははは……ふざけるなよ──誰を見ている)

 

嘲笑はやがて剥がれ落ちた。

 

策は成り、罠は標的の脚に食いついた。

しかしそれは同時に、いかにムシャムシャが軽く見られていたかを意味する。

 

ムシャムシャとサナリモリブデン。

自由にさせるならばどちらかと問われて、誰もが前者を選んだという事だ。

古豪たるムシャムシャよりも新鋭たるサナリモリブデンが恐ろしいと、誰もが断じたという事だ。

 

(怖いなら勝手に怯えていればいい。お前たちが縮こまっている間に、私が奪う)

 

憤怒が力に変わる。

 

(主役は、私だ)

 

プライドが脚に籠る。

 

(勝つのは──私だ!)

 

不出来の汚名を雪ぐ唯一の方法を求めて。

ただ勝利だけを目指し。

見渡す限り誰の背もない無人の野を、ムシャムシャが征く。

 

 

 

 

 

(ああ)

 

その背を。

サナリモリブデンは見た。

 

(高い、壁だ)

 

そして理解する。

シニア級と戦う、という事の意味を。

歴戦を経た古強者の実力を。

 

言葉の上では知っていた。

彼女達は強く、ひとつの油断も許されない恐るべき敵であると。

そして警戒もしていたはずだ。

だが足りなかった。

 

(トレーナーの──)

 

かつて見た最大の脅威、マッキラと比してさえ劣る事のない強者であると。

サナリモリブデンはここに来てようやく真に理解する。

 

(──言った通りに!)

 

 


 

 

「いいですかサナリさん。まず覚悟して下さい。()()()()()()()()()()()()()

 

京都レース場に向かう車内にて。

郷谷はそう愛バに告げた。

 

「サナリさんはこれまでマッキラさんを追い落とすための矛だけを磨いてきました。策を見抜き、回避するための盾を持ってはいません」

 

それは苦渋の末の言葉だったろう。

絶対を冠する王者を討つために必要な偏りだったとはいえ、明確に不足を指摘するものだ。

つまり、自身の指導の欠落を直視するものでもある。

 

「そんな状態で対応しきれるほどムシャムシャさんは安い相手ではありません。恐らくどうあがいてもサナリさんは捕まります。ですので、取るべき手段はひとつ」

 

だが、郷谷とは、サナリモリブデンの相棒とは、苦い現実から目を逸らすような者ではない。

無いものをねだらず、けれど敗北を許容せず。

最も近く大きな勝ち筋を、郷谷は確かに提示した。

 

「過度の抵抗はいりません。もがいて無駄な消耗を重ねる事こそが最悪です。ならばいっそ──」

 

 


 

 

(なんだ、こいつ……!?)

 

ムシャムシャに代わりバ群の外殻を務めるウマ娘、オントロジストは背筋に走る震えを止められなかった。

 

(冗談きついなぁ、全く!)

 

その一歩前を走るショーマンズアクトは引きつる頬を制御できない。

 

(……はは、あの子()が言ってたの、誇張でもなんでもなかったんだ)

 

やや後方から圧をかけるスウィートパルフェは冷え切った汗が額を伝うのを自覚した。

 

 

 

包囲は完全に出来上がった。

割り入る隙はどこにも無く、サナリモリブデンの勝機は潰えたはずだ。

 

当然、絶望に囚われるべきだ。

少なくとも焦燥に陥っていなければならない。

それが道理だ。

彼女達が知るレースの必然である。

 

だというのに。

 

 


 

 

【状態異常判定】

 

難度:280

補正:冷静/+20%

参照:根性/523+104=627

 

結果:572(大成功)

 


 

 

(避けられないならいっそ、受け入れる)

 

何故折れないのか。

 

(耐えて、耐えて、耐えて)

 

道の見えないバ群の中、全身を逆境に浸らせて。

 

(最後の最後で、まとめて覆す!)

 

どうして未だに前を向き続けられるのか。

 

理解の及ばない異質な鋼を前に、戦慄を禁じ得ない。

 

 


 

【終盤フェイズ終了処理】

 

消費:高速(6→4)/行動失敗(2)/平静(0)

補正:逃げA(-1)

補正:弧線のプロフェッサー/消費を据え置いたまま速度を一段階上昇

消耗:4+2-1=5%

 

結果:473-23=450

 


 

 

(ぬるい。苛つくほどに)

 

対し、それを当然と受け入れる者達が居た。

スローモーションが静かに吠え猛る。

 

(先輩方は今まで何を見ていたんですか!)

 

サラサーテオペラが愛らしい面貌に似合わぬ憤怒を滾らせる。

 

(当然です。折れる姿など誰が想像できるものですか)

 

絶望?

逆境?

そんな生温い障害でこの鋼を砕けるものかとボヌールソナタが誇らしげに笑む。

 

(私はともかく、サナリモリブデンを舐めんなっての)

 

衝突寸前の至近距離で圧をかけ続けるタヴァティムサが疲労を浮かべながら舌を出す。

 

(その程度でどうにか出来る相手なら、そもそもここまで追ってくるわけないじゃない)

 

虎視眈々とその時を狙い澄ますブリッツエクレールが瞳を細める。

 

 

 

彼女達は知っていた。

同じ学年で学び、己の耳目で直に見聞きして理解していた。

 

まだだ。

まだ到底終わらない。

押し包んで勢いを奪った程度では、武器のひとつを奪い取ったに過ぎない。

 

サナリモリブデンというウマ娘の恐ろしさは、未だ何一つ減じていない。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ】

 

難度:280

補正:逃げA/±0%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2/+30%

参照:スタミナ/450+135=585

 

結果:350(成功)

 


 

 

大きく、深く吸い込まれる息の音に。

サナリモリブデンを知る者は、やはりと笑い。

知らぬ者は、まさかと慄いた。

 

 

 

 

 

『直線を向いてまず立ち上がったのはムシャムシャだ! バ群からポンとひとり離れて駆けていく!』

 

完全な手応えがあった。

食い千切り、飲み込んだという確信があった。

 

(いける。勝てる。私の勝ちだ! もう誰も、誰も来ない!)

 

全身全霊を振り絞り、ムシャムシャは必勝を信じて走る。

 

サナリモリブデンは封じた。

他の全ては檻を形作るために一手遅れた。

もう来ない。

来るわけがない。

 

それは、きっと正しかっただろう。

 

『──()()()!』

 

相手が、ウマ娘の規格を外れた精神の持ち主でさえなければ。

 

 

 

(──は?)

 

ムシャムシャの全身が総毛立つ。

脳髄が不吉な予感を覚えて叫んでいた。

 

(なんで、こんな歓声が)

 

おかしい、とムシャムシャは瞬時に断じた。

ペテンにかけ、罠にはめ、感覚を狂わせ、勝負を荒らす。

それが日常と化した自身の、勝利数に比して少なすぎるファンの割合は当然把握している。

 

ならばおかしい。

ヒールとして知られたムシャムシャだけが勝利に突き進んでいるならば、響き渡るのは歓声ではなく悲鳴のはずだ。

 

(……嘘だ。これじゃ、まるで)

 

そうして至った推測は、即座に現実として彼女の眼前に現れた。

 

 


 

【スパート判定/加速力】

 

難度:280

補正:逃げA/±0%

補正:ブロック(中)/-30%

補正:折れぬ心/+15%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv2/+30%

参照:パワー/481+72=553

 

結果:379(成功)

 


 

 

『しかし! サナリモリブデンだ! サナリモリブデンが来ている! 強引にバ群をぶち抜いてサナリモリブデンがやってきた! 爆発的な加速でムシャムシャの背を捉えにかかる!』

 

迫り来る足音をムシャムシャは確かに捉えた。

深く、深く、ターフに足跡を刻み込んで瞬く間に差を詰める姿を明確に思い描かせる。

 

それどころか。

 

 


 

【スパート判定/スタミナ/スローモーション

 

難度:280

補正:逃げC/-10%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:スタミナ/310+62=372

 

結果:309(成功)

 


 

【スパート判定/加速力/スローモーション

 

難度:280

補正:逃げC/-10%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

補正:直線加速/+15%

参照:パワー/310+108=418

 

結果:316(成功)

 


 

 

『スローモーションも続いている! サナリモリブデンの背中にピタリ!』

 

『もう特等席の指定席じゃないですか! 流石スローモーション!』

 

足音がもうひとつある。

強烈、強靭なサナリモリブデンのそれに隠れるように。

しかし秘めた激情を解放し、怖気だつほどの執着を一歩ごとに響かせて。

 

 

 

(スローモーション……!)

 

(報復の時間ですよ、サナリモリブデン)

 

ぐつぐつと煮え滾る憧憬を胸にスローモーションはサナリモリブデンを追う。

黒鹿毛の髪の隙間、わずかに覗く瞳が訴えていた。

 

許さない。

決して。

サナリモリブデン自身を低く見積もったその不明を、断じて許すものかと。

 

論理の破綻した怒りだ。

サナリモリブデンは既に自覚を終えた。

無知はもうスローモーションによって除かれそこにはない。

どころか今やサナリモリブデンは自身に向く憧憬を肯定し、夢を背負うと誓っている。

 

ましてや、スローモーションの感情は、スローモーションが勝手に抱いたものである。

向けられたサナリモリブデンが知覚しないからと怒りに転化して良い道理はない。

 

が。

 

(道理なんぞで、この心が収まるものか!)

 

スローモーションの精神は既に彼女自身の制御を離れた。

いつかの宣言通り。

渾身の八つ当たりでもってサナリモリブデンを追い落とさんと怒り狂う。

 

 

 

 

 

(ふざ、けるな)

 

しかし。

怒りと言うならばもうひとり。

 

(なんだそりゃ……この期に及んで、まだサナリモリブデンを見るのか……!)

 

ムシャムシャが猛る。

先頭に居るのはサナリモリブデンではない。

自分である。

なのに何故、追跡者がサナリモリブデンだけを睨んでいるのかと。

 

(舐めるなよクソガキが……! 主役はお前らじゃない! サナリモリブデンじゃあ、ない! 勝つのは──)

 

 


 

【スパート判定/最高速度】

 

難度:280

補正:逃げA/±0%

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍Lv2/+25%

参照:スピード/608+152=760

 

結果:255(失敗)

 


 

【スパート判定/最高速度/スローモーション

 

難度:280

補正:逃げC/-10%

補正:領域/I SEE YOU/+30%

参照:スピード/310+62=372

 

結果:251(失敗)

 


 

 

「私だぁぁ!!」

 

総身に満ちた剛力がターフを揺らす。

迸るムシャムシャの執念は追っ手を振り払った。

爆発めいたサナリモリブデンの瞬発力は、しかしムシャムシャを捉え切るには至らない。

 

『迫るサナリモリブデン! スローモーション! しかしムシャムシャ強い! ムシャムシャ強い! 粘っている! まだ伸びて引き離す! その差1バ身半から2バ身!』

 

さらに。

 

『先頭はムシャムシャ! ムシャムシャ粘る! 懸命に追うサナリモリブデン、スローモーション! 後ろからはノワールグリモア、カッ飛んできた! ブリッツエクレールも凄い脚! バ群の隙間を縫ってブリッツエクレール! 外からノワールグリモア!』

 

 

 

(──わかるよ。ムシャムシャ。譲れない。譲れるわけがないよね!)

 

ノワールグリモア。

黒を纏う少女は独白する。

 

(後輩の引き立て役にされて、添え物みたいに扱われて……。黙っていられるほど、私達は弱くないんだから!)

 

不作の世代。

マッキラから逃げた腰抜けばかり。

シニアに比べて、クラシックはなんと素晴らしい。

 

そんな心無い声をノワールグリモアは幾つも聞いた。

海外遠征、遠い異国の地で繰り返した惨敗の果てに失意と共に戻った彼女に向けられた声の中には、より冷たく鋭いものもあった。

 

そして、だからこそ彼女は終われない。

 

こんなところで──不出来の烙印を押されたままでターフを去るなど許されない。

此処に至るまでに重ねた勝利の価値を。

踏みつけ、蹴り落としてきた同期の仲間達は決して名も無き敗者などではなかったと証明するために、ノワールグリモアは魂を賭けて己を振り絞る。

 

 

 

(知った事じゃない)

 

バ群を切り裂く。

サナリモリブデンが割り砕いた間隙を縫い、稲妻が奔る。

 

道なき道だった。

一塊だったそれは多少砕けたところで塊は塊だ。

並の根性ならば割り入るに躊躇し、速度を減じざるを得ない隘路である。

 

そこを、ブリッツエクレールは全速で駆け抜けた。

減速どころか加速を繰り返し、一歩毎に進路を修正して。

 

(誰の事情も、執念も、関係ない)

 

爆ぜる内心は、脚に似た苛烈を纏っていた。

ターフに渦巻く多様な感情。

それを知覚する端から切り捨て、無価値と断じて放り出す。

 

(欲しいのはひとつだけだ。そこを、寄越せ。──勝利を。勝利を。勝利を!)

 

見開かれた眼がムシャムシャを睨む。

かつて見た、夢見るほどの輝きを。

強者を下し勝ち取る美酒の味だけをただ求めて。

 

 

 

『ムシャムシャまだ先頭、リードは2バ身! サナリモリブデン追いすがる! スローモーションもまだ頑張っている! しかし後ろの伸びが良い! じわじわ迫るノワールグリモア! ブリッツエクレール!』

 

京都レース場。

マイルチャンピオンシップの最終直線は混戦に陥っていた。

残り200を切って未だ誰が勝つか分からない激戦に、歓声は沸いた。

 

『ノワールグリモア! ノワールグリモア! ノワールグリモアが来た! サナリモリブデンに並、ばない、2番手に躍り出た! ムシャムシャに届くかノワールグリモア!』

 

 

 

その歓声の中に。

きっと、それはあった。

 

大音声は津波のようだ。

叫ばれる声の数々は溶けて絡み合い、意味ある言葉を抜き出す事はできない。

だが、きっとあるはずだとサナリモリブデンは信じた。

 

 

 

ガチリ、と。

鋼の音色を確かに聴いた。

 

サナリモリブデンという名の少女の魂と、寄り添うように確かにそこにある同じ名を持つ何かの魂。

二者の間にあったわずかな齟齬は、今この時を以て埋められた。

 

((──やろう))

 

心が重なる。

人の言葉と、獣の嘶き。

音は違えども、発する情動は寸分違わず。

 

((誰かが、挑む私に夢を見てくれたというのなら))

 

共鳴し、どこまでも高まり合う衝動があらゆる殻を破壊する。

知覚が肉の体を突き破り、世界を侵し塗り替えていく。

 

((心に、私を刻んでくれたというのなら))

 

否、それはサナリモリブデンだけが目にする錯覚だ。

極点に至った過集中、暴走寸前の脳髄が描く彩に過ぎない。

しかし、今ここに確かに。

 

((例え、どれほど壁が高くても──!))

 

決意は刃に至った。

 

 

 


 

【ウマソウル判定】

 

成功率100%、判定不要

 


 

【領域収斂】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3

 

効果確定。

立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ。

 


 

【スパート判定/根性】

 


 

 

『ムシャムシャか! ノワールグリモアか! ムシャムシャか、ノワールグリモアか! っ、いや、これは──』

 

ムシャムシャは確信した。

自身とノワールグリモアの、その中央。

貫き通すように現れた者の横顔に宿る炎を直視して。

 

こいつだ、と。

 

 


 

難度:280

補正:領域/決意の鏨、鋼の轍Lv3/+30%

参照:根性/547+164=711

 


 

 

『サナリモリブデン再加速! 前2人の間に割って出た! サナリモリブデンはまだだ、まだ諦めていない! 三つ巴の激戦だ! ムシャムシャ! ノワールグリモア! サナリモリブデン!』

 

(マッキラじゃなかった。ソーラーレイでもない。ましてペンギンアルバムでも、ジュエルルビーでもアクアガイザーでもない……こいつだ!)

 

今期クラシック級を支配した異常な熱。

歴戦のシニアウマ娘をして気圧される程の、いっそ破滅的なまでの闘志の坩堝。

 

その原因は、今まさにここに居た。

 

あらゆる逆境を踏み越え、それでもと顔を上げ続ける異常存在。

莫大な引力で耳目を惹き付け、ウマ娘の魂に夢を植え付ける極大の種火。

 

 


 

結果:669(大成功)

 


 

 

()()()()()()がそこに居る。

 

『抜けた! 抜けた! ゴール前50メートルで突き抜けた! 決まったか!? これは決まったか!』

 

永久を謳う新たなる始まりの一歩。

振り下ろされる鋼が生む轍からは、最早何者も目を逸らせない。

 

 

 

決まったぁ! サナリモリブデン! 諦め知らずの鋼のウマ娘がラスト50メートルで突き抜けました半バ身ッ!! 2着はムシャムシャとノワールグリモアがほぼ横並び、わずかにノワールグリモアが体勢有利か。以下スローモーション、ブリッツエクレールの順で入着となっています』

 

歓声が炸裂する。

応えるように、サナリモリブデンは拳を突き上げ。

 

「──────!!」

 

そして咆哮した。

意味ある言葉の姿を取らない、魂の根底から絞り出されたそれは。

 

どこか、産声にも似ていた。

 

 

 

 

 


 

【レースリザルト】

 

着順:1着

 

 

【レース成長処理】

 

成長:ALL+10/ウマソウル+5

経験:芝経験+5/マイル経験+5/逃げ経験+5

獲得:スキルPt+50

 

経験:芝経験&マイル経験&逃げ経験+3(G1ボーナス/1着)

獲得:スキルPt+30(G1ボーナス/1着)

 

成長:領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3

 

 

スピ:507 → 517

スタ:410 → 420

パワ:419 → 429

根性:476 → 486

賢さ:421 → 431

 

馬魂:100(MAX)

 

芝:B(16/30) → B(24/30)

マ:A (9/50)  → A(17/50)

逃:A(11/50) → A(19/50)

 

スキルPt:560 → 640

 


 

■ サナリモリブデン

 

【基礎情報】

 

身長:164cm

体重:増減なし

体型:B77 W53 H78

毛色:芦毛

髪型:ショートポニー

耳飾:右耳(牡馬)

特徴:物静か/クール/囁き声〇/従順/温厚/鋼メンタル

 

【挿絵表示】

 

 

【ステータス】

 

スピ:507 → 517

スタ:410 → 420

パワ:419 → 429

根性:476 → 486

賢さ:421 → 431

 

馬魂:100(MAX)

 

 

【適性】

 

芝:B(24/30)

ダ:F(0/10)

 

短距離:B(1/30)

マイル:A(17/50)

中距離:B(0/30)

長距離:B(0/30)

 

逃げ:A(19/50)

先行:B(0/30)

差し:A(29/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3(立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

 

 

【スキルヒント】

 

押し切り準備/150Pt (最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

展開窺い/150Pt   (レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

ペースキープ/100Pt (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

トリック(前)/150Pt (レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

シンパシー/150Pt  (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

逃げためらい/100Pt (レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

まなざし/150Pt   (レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

熱いまなざし/250Pt (レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

鋼の意志/250Pt   (敗北が迫った時、スタミナを回復する)

 

スキルPt:640

 

 

【交友関係】

 

ペンギンアルバム  絆85

ソーラーレイ    絆45

チューターサポート 絆60

チームウェズン   絆60

 

 

【戦績】

 

通算成績:9戦6勝 [6-1-1-1]

ファン数:16431 → 34431人

評価点数:7500 → 16500(オープンクラス)

 

主な勝ちレース:マイルチャンピオンシップ(G1)、毎日王冠(G2)

 



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【サナリモリブデン関連スレ群】

 

 

 

【サナリモリブデンとかいうウマ娘wwwww】

 

 

1:ウマ推せば名無し

こいつ名勝負しか生めないんか???

 

2:ウマ推せば名無し

はい

 

3:ウマ推せば名無し

はい

 

4:ウマ推せば名無し

気がつくと狭く暗い灰色の中に居た

耳に届くのは雨の音

鉄を水が叩く甲高い音色がうっとうしい

ぬかるみ滑る足元の芝も不快だった

 

それで気付く

ああ

またこの夢か

 

過去に繰り返し見た同じ夢を思い返す

 

初めから食らいついた時は当たり前のようにちぎられて終わった

張り付いて隙を窺おうとした時は好機なんて何一つ見つけられずにただ負けた

溜めて溜めて最後に賭けようとした時は溜めた自分よりも逃げた敵の方が速かった

 

今日はどうしようか

どう進みどう仕掛けようか

 

そうだ

一歩目から全力で走り続けてみるのはどうだろう

ふとした思い付きは存外良いアイデアに思えた

どうせここは夢の中なのだ

現実なら絶対に出来ない事を試すのも面白い

 

大きな音を立ててゲートが開く

さあ行くぞと1600メートルのロングスパートが始まった

 

そして順当に負けた

敵の背中は遠く遠く直線の彼方に消え去っていく

 

流石に無謀が過ぎた

呼吸が苦しい

脚が重い

全身が鉛に変わったようだ

夢だというのに変にリアルなのは勘弁願いたいところだが悪いのは自分の脳なので苦情を言う相手も居ない

 

それでも走った

今回の夢でも勝てなかったけれど諦める理由にはまだ遠い

とっくにゴールを終えた敵を睨んで最後の一滴まで体力を振り絞る

 

これはただの夢だ

けれど糧にはなるだろう

少なくともあの日の悔しさを忘れずにいられる

その一点だけで繰り返されるこの悪夢にも感謝できるというものだ

 

いつか現実のターフの上で

遥か遠いあの背中にこの指を届かせるために

今日も私はその順位でゴールを駆け抜けた

 

 

 

2 get

 

 

 

 

6:ウマ推せば名無し

そうだよとしか言えんが

 

7:ウマ推せば名無し

重賞3連勝しつつ全部違う走りで全部クソ強いの余りにも無法

 

10:ウマ推せば名無し

レースを完全に支配しきった関屋記念

刺客としての強さを見せつけた毎日王冠

ゴリゴリの集中砲火全部食らっといて平気で食い破ったマイルCS

なんやこいつ

 

11:ウマ推せば名無し

シンプルにバケモン

 

13:ウマ推せば名無し

必殺のコーナリング出せなくてアレってなんなん

普通切り札封殺されたらもっと焦るもんちゃうんか

 

14:ウマ推せば名無し

>>13

サナ森「必殺技が使えない程度の事は諦める理由にはなりません」

 

17:ウマ推せば名無し

>>14

言いそう

絶対言っとる

 

23:ウマ推せば名無し

敵対勢力の全火力ぶち込んだ爆炎の中から無傷で出てくるのマジでターミネーターなんよ

 

26:ウマ推せば名無し

>>23

サナリ自身は爽やかにスポ根やってるだけだから……

 

30:ウマ推せば名無し

>>26

お前それサナ森にビビり散らかしてクッソ情けない顔全国に晒したアクトの前で言えんの?

 

35:ウマ推せば名無し

サナリ「どけ」

アクト「はい……」

 

37:ウマ推せば名無し

>>30

しゃーなしやで

あの状態のサナ森の前に立つか拳銃額に向けられるかならワイは拳銃選ぶで

 

42:ウマ推せば名無し

>>30

パドックでメチャクチャ調子良さそうに披露しまくった華麗なパフォーマンスの数々!

からの半泣き逃走笑うけど流石にそろそろまともに走れや……

真面目に応援しとんのやぞこっちは

 

47:ウマ推せば名無し

実際爽やかスポ根枠ではあるだろ

ちょっと闘志の桁がおかしくて頭のネジが外れてるだけで

 

52:ウマ推せば名無し

言うほどちょっとか?

 

57:ウマ推せば名無し

外れたネジ集めたら車一台くらい作れそう

 

58:ウマ推せば名無し

大分珍しいタイプのウマ娘だよな

普通こんだけ闘志バリバリのやつって大概一点突破じゃん

 

60:ウマ推せば名無し

>>58

器用になんでもやるもんな

正直最初見てた頃のイメージと全然違ってえぇ……ってなる

 

62:ウマ推せば名無し

凄い熱量で一点突破は強い

だったら同じだけの熱と突破力を全方向分用意すればもっと強いのでは?

とかいう素人理論をマジでやってるやべーやつ

 

66:ウマ推せば名無し

>>62

もうバカ

ドバカすぎて大好き

 

67:ウマ推せば名無し

>>62

普通は2つ以上用意できないから一点突破なんだよサナリちゃん

 

71:ウマ推せば名無し

こんなバケモンがメイクデビューまでは退学寸前の落ちこぼれ扱いだったとかいう情報今でも信じられんのだが

 

73:ウマ推せば名無し

>>71

完全に同感だが情報元が月刊トゥインクルな辺りガチっぽいんだよなぁ……

 

74:ウマ推せば名無し

>>73

ぽいも何も同期がウマッターで散々言っとるぞ

 

79:ウマ推せば名無し

俺の姉貴もサナ森と同期なんだがだいぶ前に電話で聞かされたわ

クラスどころか学年で誰より頑張ってる子が一番遅くて見てるだけで辛いって落ち込んでた

最近もしかしてって思って確認したらやっぱサナ森の事だった

 

83:ウマ推せば名無し

>>79

ガキがこんな板覗いてんじゃねーよ

 

88:ウマ推せば名無し

>>79

弟が底辺板の民とかお前の姉貴可哀想

 

93:ウマ推せば名無し

>>79

可哀想な姉貴はワイが慰めたるわ!

毛色と得意距離は?

最近どのレース走った?

おっぱいおっきい?

 

94:ウマ推せば名無し

>>93

キモE

 

96:ウマ推せば名無し

下手すりゃデビューできなかった世界線もあったんやろな

 

100:ウマ推せば名無し

>>96

ソーラーレイとブリーズグライダーとマッキラとチューターサポートとペンギンアルバムとアクアガイザーとジュエルルビーとオイシイパルフェとドカドカとマストチューズミーだけのクラシックか……

いや十分だわ多い多いなんだコレ

 

103:ウマ推せば名無し

>>100

改めて贅沢すぎて草

 

106:ウマ推せば名無し

一年にこんだけ詰め込むバカがあるか

 

107:ウマ推せば名無し

三女神は加減っちゅーもん知らんのか?

 

108:ウマ推せば名無し

3年かけてスレーインとクラースナヤしか生めなかった世代さん涙目wwwww

 

112:ウマ推せば名無し

>>108

クラシック上げるためにシニア下げるやつは死んでいいよ

 

114:ウマ推せば名無し

>>96

下手すりゃというか郷谷T居なきゃそうなってたんだろうな

心の底から感謝しかない

サナ森の不屈っぷりはもう俺の必須栄養素なんだ

 

116:ウマ推せば名無し

>>114

わかる

応援してるこっちもやらねばって気になるんだよな

まっすぐ過ぎて最初はキツかったけど見事に光墜ちさせられた

 

118:ウマ推せば名無し

>>116

光墜ちしたくせにまだこんな糞溜まりにいるのか……

 

119:ウマ推せば名無し

>>93

栗毛で王道距離で絶壁

最近は秋華賞走ったよ

あと残念だけど姉貴は絶対トレーナー落として結婚するとか言ってるから諦めてくれ

 

124:ウマ推せば名無し

>>119

アクアガイザーしかおらんやんけ草

 

127:ウマ推せば名無し

>>119

クソデカ嘘松笑うからやめろw

 

130:ウマ推せば名無し

郷谷T独立1年目でサナ森捕まえたの有能すぎんか?

 

131:ウマ推せば名無し

>>130

1年目で前所属が零細ウェズンやから上澄みにも中層にも相手されんかったんやろ

新人トレーナーにはよくある逆張りスカウトや

 

134:ウマ推せば名無し

>>131

ねーよ頭大丈夫か?

選抜時点のサナ森はガチの最底辺やぞ

もっと条件良い子で新人トレーナーで良いってのなんぼでもおるわ

完全に狙い撃っとる

 

136:ウマ推せば名無し

>>134

おっそうだなw

名ウマ娘にはドラマ欲しいもんなw

そういう事にしときたいわなw

はいはいw

 

141:ウマ推せば名無し

郷谷T美人だしサナ森と仲良く並んでるの眼福すぎるしサナ森クッソ強いしで100点満点

結婚したい

 

145:ウマ推せば名無し

>>141

超有能Tに地獄の罰ゲームおっかぶせんのやめーや

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【過去の名ウマ娘をまったり語るスレ@地方レースpart46】

 

 

288:名無しのレースファン

まさかサナリの名をまた聞ける日が来るとは

何もかも懐かしい

 

289:名無しのレースファン

>>288

同郷か?

 

290:名無しのレースファン

>>289

多分

岩手だろ?

サナリクロムな

 

291:名無しのレースファン

>>290

超懐かしい名前で涙出る

盛岡を灼き尽くした白い鋼じゃん

ラストランのビデオ実家にまだ取ってあるわ

 

292:名無しのレースファン

>>291

マジかようらやま

うちビデオデッキ無かったんだよな

 

293:名無しのレースファン

サナリモリブデンの関係者か何か?

 

294:名無しのレースファン

たまに覗きに来てみたら面白そうな話してんじゃん

 

295:名無しのレースファン

>>293

モリブデンの母親

20年ちょい前に盛岡で活躍……活躍? したウマ娘

白い鋼とか不屈の無才とか合法連続放火魔とか色々通称があったんよ

 

296:名無しのレースファン

あっ(察し)

 

297:名無しのレースファン

>>295

一番大事なあだ名忘れてるぞ

盛岡一頭のおかしいウマ娘、な

 

298:名無しのレースファン

通称だけで大体分かって草

さては子が子なら親も親ってやつだな?

 

299:名無しのレースファン

語りたいけどここでやっちゃっていいのかね?

成績だけ見たら全然名ウマ娘じゃないんだが

 

300:名無しのレースファン

いいんじゃね

このスレ長いだけで過疎だし……

 

301:名無しのレースファン

地方見てる奴がそもそも少ない←1アウト

名ウマ娘を語るならやっぱり中央のが派手←2アウト

今の中央現役世代が派手すぎて住人根こそぎもってかれてる←3アウト

 

302:名無しのレースファン

一口に地方レースつってもばんえい入れたら15もあるってのがな

地元以外なんて基本知らんし噛み合いも悪い

かといって地域別に分けたら過疎が限界突破して虚無になるっていうね

 

303:名無しのレースファン

なら語るか

 

サナリクロム

言った通り20年ちょい前に盛岡で走ってた子

競走成績は211戦1勝

 

このスレで知らん奴もいないだろうが出走数自体はまぁ地方なら割といる

出走手当目当てやらトレーニング代わりに走ったりのいつものやつでな

クロムがおかしいのはそういう目的の出走が一回も無い事

明らかに毎度毎度全力出して勝ちにいってんのよ

お前一人だけダービーでも走ってんのかってレベルで

 

なのに勝てない

マジで鈍足

デビューから怒涛の210連敗

でも心がクソほど頑丈で折れねーの

むしろ負ければ負けるほど闘志が青天井にみなぎっていくマジキチぶり

 

最初はバカにしてる連中いっぱい居たよ

ウマ娘にも観客にもな

でも連敗が100超えた辺りから誰もクロムを見下せなくなった

ファンは挑戦し続けるクロムに夢中だったしウマ娘はクロムに触発されて本気で走る子の割合がどんどん増えてった

結果どうなったかっていうと大炎上よ

今の中央クラシックみたいな地獄が盛岡で発生した

クロムの現役時代後半の盛岡ではぬるいレースはほぼ消滅してたと思う

 

わかるか?

一度も勝てないまま一時代を作ったんだよクロムは

レースの才能は皆無だったけど正真正銘の化け物だった

当時にネット中継があったらって何度考えたか分からん

俺の中では今でも一番記憶に残ってる子だ

211戦目でようやく勝った時はテレビで見てた俺まで泣いた

次の日になっても思い出してまた泣いた

 

初勝利の後は夢が叶ったっつってそのまま引退

オマケにトレーナーとの結婚まで発表されて心底惚れ込んでた俺らファンはまとめて死んだ

以上、こんな感じ

 

304:名無しのレースファン

流石に盛ってるだろ

……盛ってるよな?

 

305:名無しのレースファン

データベース調べたら名前あるな……211戦1勝で

 

306:名無しのレースファン

こマ?

 

307:名無しのレースファン

俺も保証するがガチ

マジで当時の盛岡はペンペン草も残らんほど焼き尽くされたし憧れてトゥインクルじゃなく盛岡目指す地元の幼女がドバドバ出た

 

308:名無しのレースファン

>>303

突っ込みどころが多すぎるんだが

まずそもそもそんな走り方したら故障すんだろ

 

309:名無しのレースファン

>>308

混血なんだと

ウマ娘にも人種あるじゃん?

分かりやすいとこだとばんえいの子らは脚遅い代わりにタッパもケツもデカくてパワーあってメチャクチャ丈夫みたいな

クロムもそういう頑丈なタイプの血が入ってるらしい

確かアラブ系とかなんとか

薄ーくらしいけどな

ソースは当時のインタビュー

 

310:名無しのレースファン

えぇ……

いやなんぼなんでも信じられんわ

そんな子実在したら今まで話題に出てないのおかしいだろ

 

311:名無しのレースファン

>>310

本人より焼かれて才能爆発させた周りの方が話題性あったからな

イシワケレンザンとかオースガルガリンとかはここで何回も名前出たろ

あの辺と同世代よ

あと成績が成績だしスレ違いになるかなって遠慮してた

 

312:名無しのレースファン

>>310

疑うなら確実に確かめられる方法あるぞ

ニッシラテンザンのウマッターでクロムの名前出してみろ

あいつもクロムフォロワーだから多分反応する

 

313:名無しのレースファン

なんだよ今日はサナリ語っていいのか?

俺サナリタングステンからレース見始めた口なんだよ

 

314:名無しのレースファン

なんか来たぞおい

 

315:名無しのレースファン

こんなのまだ居るとか言わんよな……?

 

316:名無しのレースファン

こ ん な の

 

317:名無しのレースファン

まぁうん

クロムは間違いなく「こんなの」だよ……

 

318:名無しのレースファン

え何俺が知らないだけでサナリ家みたいなのあったの?

 

319:名無しのレースファン

>>318

そんな大層なもんじゃないぞ

サナリさんちは一般家庭だ

モリブデン、クロム、クロムの母親婆さんひい婆さんと代々レースに出てただけで

タングステンはクロムの母親

俺の爺さんがクロム祖母のサナリノオオナタとさらに一代前のサナリノタマハガネの大ファンでな

サナリはいいぞってレース場に連れてかれてそこからタングステンにどっぷりよ

 

320:名無しのレースファン

こんなの大増殖の予感がするんだが?(震え声)

 

321:名無しのレースファン

嘘乙

データベースで検索してもサナリタングステンなんてヒットしねーぞ

 

322:名無しのレースファン

>>321

現役ウマ娘の祖母世代となるとデータ化されてない可能性がある

紙媒体探らないとなんとも言えん

リボンカルマートなら知ってるだろうけど検索してみ

出ないから

 

323:名無しのレースファン

>>322

マジだった

えマジ?

サナ森やべー血筋?

 

324:名無しのレースファン

なんか結構なスクープがすげーどうでもいい場所で露わになろうとしてないかこれ

月刊トゥインクルにでも持ち込めよバカ!

 

325:名無しのレースファン

>>319

爺民で草

何歳だよ

 

326:名無しのレースファン

>>325

10年くらい前に定年退職したけどお前ら人の事言えんのか?

こんなスレ住んでるの爺婆ばっかだろ

 

327:名無しのレースファン

なんも言い返せんかったわ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【サナリ様】マイルCSウイニングライブ後夜祭【超覚醒】

 

 

666:歌って踊れる名無しさん

もうなんもできん

力が入らん

 

667:歌って踊れる名無しさん

幸せに致死量ってあるんだね

 

670:歌って踊れる名無しさん

サナリ様

ああサナリ様

サナリ様

 

672:歌って踊れる名無しさん

まだ誰か意識は残っているか?

 

675:歌って踊れる名無しさん

>>672

死体だけです

 

677:歌って踊れる名無しさん

史上最高の本能スピードでしょあれ……

 

680:歌って踊れる名無しさん

眩しすぎた

もうダメ

 

683:歌って踊れる名無しさん

思い出しただけで幸せで震えてくる

S席取れたの人生で一番の幸運かもしれない

 

686:歌って踊れる名無しさん

サナリ様推しててよかった……

 

687:歌って踊れる名無しさん

ノワールちゃんも負けてなかったよ

あんな明るい顔で踊るの2年ぶり?

応援しててよかった

きっと戻ってきてくれるって待っててよかった

やばいまた泣く

 

688:歌って踊れる名無しさん

>>687

好きなだけ泣くといい

推しの復活ほど嬉しいものはないもん

 

691:歌って踊れる名無しさん

>>688

ありがとう

フランスまで追っかけてったからさ

悔しいのも悲しいのも全部覚えてるんだ

目が死んでなかったから大丈夫って思ってたけど、でももしかしたらって思わずにいられなかった

そこからの今日の、11番人気からのあの走りだよ

ああ無理言葉にならない

大好き

一生推す

2着だったけど次は絶対勝てるもん

次があるって胸張って言えるのが本当に嬉しい

 

692:歌って踊れる名無しさん

シェフはいるかね?

私の奢りで>>691にこの店で一番美味いケーキを頼むよ

もちろんホールでだ

 

695:歌って踊れる名無しさん

(ケーキならシェフじゃなくパティシエでは?)

 

696:歌って踊れる名無しさん

どっちゃでもいいわ

盛大にお祝いしろ

私は地元の名酒ダースで注文した

もちろんサナリ様にあやかって麦焼酎

 

698:歌って踊れる名無しさん

>>696

その手があったか……!

オートミール頑張って食べてたけど次から真似する

 

699:歌って踊れる名無しさん

推しと同じ成分で肉体を作る喜びよ

 

700:歌って踊れる名無しさん

サナリ様だってそんな毎日麦だけ食べてるわけじゃないと思うよ

 

701:歌って踊れる名無しさん

ウマッターに上げてくださってるレシピ集見る限り相当な麦好きは間違いないけどね

 

704:歌って踊れる名無しさん

>>701

サナリ様のレシピほんと好き

初心者向けと熟練者向けの2種類一緒に出してくれるの優しすぎて

 

706:歌って踊れる名無しさん

盛り付けのコツまで書いてるの気遣いの塊

毎食サナリ様レシピローテしてる

どんどん健康になってきてる実感あるわ

 

707:歌って踊れる名無しさん

ペンアルちゃんしょっちゅう食べさせてもらってるの羨ましすぎる……

めちゃくちゃ幸せそうに味わってるから許すけど

 

709:歌って踊れる名無しさん

ペンちゃんの一言のおかげでレシピ投稿始まったんだから全部許すよ

好きなだけ食え……

 

710:歌って踊れる名無しさん

ソーラーレイは許さない

 

713:歌って踊れる名無しさん

ソーラーレイは吊るせ

 

715:歌って踊れる名無しさん

ファンの人達は絶対食べれないサナリの手料理いただきまーすじゃねぇんだよ尻尾の毛全部むしってやろうか

 

718:歌って踊れる名無しさん

いかん優しい事を考えよう

 

719:歌って踊れる名無しさん

ライブ良かった

ほんと良かった

 

721:歌って踊れる名無しさん

完全覚醒サナリ様やばやばのやば

サナリ様推し全員即死したでしょ

 

722:歌って踊れる名無しさん

笑顔の眩しさがガチ

今までも眩しかったけど夜空の満月から真夏の太陽くらいまで進化してた

何があったの急にそんなされるとファンは死んじゃうのよ

 

725:歌って踊れる名無しさん

>>722

こっちがひとつキャー言う度に光り輝いておられたので多分いつものやつ

とんでもない倍率かかってたけど

 

726:歌って踊れる名無しさん

>>725

私クラシックは三冠くらいしか見てなかったから詳しくないんだけどいつものって?

 

728:歌って踊れる名無しさん

>>726

サナリ様推しの間では常識なんだけどサナリ様って声援送ると全力で応えてくれるのよ

こっち見てうちわ持ち込んで視線貰えなかった事がガチで一回も無いレベル

しかもサービスじゃなくて本当に嬉しそうに幸せそうにしてくれる

今日はそれがハチャメチャにレベルアップしてた

 

729:歌って踊れる名無しさん

G1獲れたの嬉しかったのかな

はしゃいじゃうサナリ様かわいい……すき……

 

732:歌って踊れる名無しさん

目が合った報告もめっちゃ上がってる

多分これ気のせいとか思い込みじゃないよね

片っ端から全員見てくれてた

 

733:歌って踊れる名無しさん

もうなんなの

これ以上惚れさせてどうしようっていうんだ

ありがとう代直接振り込ませてくれ

 

735:歌って踊れる名無しさん

あぁ~サナリ様……

あ~……

 

738:歌って踊れる名無しさん

ありがとう代と言えば帰る前にぱかプチ予約忘れないようにね

物販のとこで受付してるから

 

741:歌って踊れる名無しさん

>>738

抜かりなし

大中小全部予約した

 

744:歌って踊れる名無しさん

>>738

10体は欲しいのにダメって言われた

悲しい

 

746:歌って踊れる名無しさん

ノワールもぱかプチにしてくれURA

3着くらいまで枠広げてもいいじゃん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【大爆笑】ムシャムシャさん、卑怯な真似しておいて後輩に惨敗してしまうwww【糞雑魚】

 

 

1:あぼーん

あぼーん

 

2:おそうじマン3号 ★

警告無視3回目ですね

あなたのIPはこれで2度目なので6ヶ月の書き込み禁止措置となります

次やったら警告なしで永久アク禁です

 

3:名無しのレースファン

m9(^Д^)プギャーwwwww

 

4:名無しのレースファン

ムシャムシャアンチネキ、乙!w

 

5:停止しました。。。

真・スレッドストッパー。。。( ̄ー ̄)ニヤリッ

 

 




【ダイスログ】

【挿絵表示】


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【ここまでの登場NPCまとめ】

コメントで要望があったため、ちょうど区切りが良い事もありまとめました。
情報は全てマイルチャンピオンシップ終了時のものとなります。



 

 

 

【有力ウマ娘】

1)固有のステータスを持つ

2)基本的に出走レースが固定されている

3)ランダム出走枠に選ばれても「出走するわけがない」と判定されると出てこない

 

 

 

■ ペンギンアルバム

 

長い青毛の小柄な左耳リボンウマ娘。

サナリモリブデンの同室にして一番の親友。

走る理由は「楽しいから」。

なんだか実家が太そうな気配がある。

 

快活で人懐っこく感情の起伏に富む。

キラキラクリクリした大きな瞳が特徴的で目力たっぷり。

小柄な体だが食欲の権化で並のウマ娘の数倍の量をペロリと平らげる。

たまに食べ過ぎて膨れ上がるのはご愛嬌。

 

最高速度、加速力、持久力の全てが世代トップクラス。

選抜レース時点で既に「まるでモノが違う」との評価を受けていた。

この能力は生来のもので、いわゆる天才に分類される。

 

脚質は追込、得意距離は中長距離。

ただし中距離は実のところあんまり好きではないらしい。

「中距離だと上手く潜れない」のだとか。

 

 

主な勝ちレースは日本ダービー(G1)、菊花賞(G1)、ホープフルステークス(G1)。

菊花賞では芝3000mのワールドレコードを樹立し、各方面から壮絶にドン引きされた。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ソーラーレイ

 

褐色肌に栗毛のロングサイドテールな右耳リボンウマ娘。

寮の自室は定期的に汚部屋と化し、その度に同室に怒られているようだ。

走る理由は「胸躍る戦いを求めて」。

チューターサポートの親しい友人。

 

自ら性格が悪いと公言している。

実際他人を煽ったり揶揄ったりする事を面白く楽しむ性質。

ただ、弱った相手には手を差し伸べたり助言したりと面倒見の良い部分もあるようだ。

 

スタミナは無いがパワーとスピードは一級品。

根性はあるが頭は良くない。

郷谷の分析によると極めて思い切りが良く、その上自分の決断に絶対の自信を持てるタイプ。

 

選抜レースでは先行策を取っていた。

得意距離は短距離。

というか短距離以外は全く適性が無い。

有り余る情熱で短距離戦線に火を付けて地獄を生み出しているとかいないとか。

 

 

主な勝ちレースはスプリンターズステークス(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ チューターサポート

 

癖のある鹿毛のショートカット右耳リボンウマ娘。

ソーラーレイの親友でよくつるんでいるようだ。

サナリモリブデンやペンギンアルバムと共に自作カツサンドを楽しんで以来、料理に興味が出てきている。

 

生真面目な常識人。

変な暴走をしがちなソーラーレイに呆れた目を向けがち。

結構な自信家であり、物事がうまく進んでいる内は調子に乗りやすいが、その分良い結果を引き寄せる。

半面、一度つまづくと起き上がるのに時間がかかるタイプ。

 

全体的に隙の無い能力を持つ。

特に精神的な欠点を克服したクラシック期では揺さぶりや威圧には滅法強い。

また、直線での加速力にも優れる。

 

脚質は先行から差しを状況に応じて使い分ける。

得意距離はマイル。

 

現在、ライバル達に運以外での勝利が出来ないと判断し、己を鍛え直している。

 

 

主な勝ちレースはデイリー杯ジュニアステークス(G2)、シンザン記念(G3)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ブリーズグライダー

 

濃灰色の芦毛を三つ編みにした左耳リボンウマ娘。

 

ファンによるとストイックな純アスリートタイプ。

普段はファンサービスも塩対応が基本。

ただし少々流されやすい所があるようで、周りのウマ娘が熱心にファンサしていると引きずられる事もある。

 

全体的に隙の無い能力を持つ。

また、駆け引きも得意な部類で積極的に仕掛け、積極的に応じる。

 

脚質は先行中心。

どちらかと言えば前目を好むようで逃げも出来なくはないようだ。

得意距離は短距離。

一度はマイル転向も考えたようだが、サナリモリブデンとの対戦を通じて取り止めるに至った。

 

 

主な勝ちレースはフィリーズレビュー(G2)、ファンタジーステークス(G3)、函館スプリントステークス(G3)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ マッキラ

 

栗毛のボブカットな左耳リボンウマ娘。

走る理由は「並んでみせると誓った幼馴染の背を目指して」。

チューターサポートの幼馴染。

幼い頃はいつも一緒に居たようだが、選抜レース以降は距離を置いている。

 

気弱な娘。

幼少期からチューターサポートに対し数えきれないほどの敗北を重ねた事で、自分に自信を持つ事が出来なくなっている。

メイクデビューで初めて得た勝利を心から信じ切れず、サナリモリブデンがチューターサポートに先着していた事実を何度も咀嚼してようやくかろうじて飲み込めたほど。

しかしただ弱いだけでもなく、勝てるわけがないと絶望しながらも決してレースから逃げなかった芯の強さも併せ持つ。

何かをきっかけに「やる」と決めた時の心の硬さはサナリモリブデンにも匹敵する。

 

何かの冗談としか思えないとまで評される異常なフィジカルが持ち味。

特にスタミナに関しては敗北が近付けば近付くほど体の底から絞り出してくる。

 

脚質は逃げ。

特に序盤から後続を大きく引き離す大逃げを得手とする。

得意距離はマイル(?)。

 

現在、ジュニアからクラシックにかけての無茶で蓄積した脚の負担を解消するため、北海道にて休養中。

復帰後に能力を維持できているかどうかはまだ誰にも分からない(ダイス次第)

 

 

主な勝ちレースはNHKマイルカップ(G1)、安田記念(G1)、朝日杯フューチュリティ―ステークス(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ジュエルルビー

 

芦毛のロングツインテールな右耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

三冠路線に挑んだ世代の有力バ。

皐月賞ではペンギンアルバムの猛追を振り切り勝利を掴んだ。

 

脚質は先行。

得意距離は中長距離。

 

現在、菊花賞において■■■■■■■■され、休養中。

復帰未定。

 

 

主な勝ちレースは皐月賞(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ アクアガイザー

 

栗毛のショートサイドテールな左耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

三冠路線に挑むもペンギンアルバムとジュエルルビーに敗北。

距離適性のために菊花賞は回避して秋華賞へ。

オイシイパルフェとの接戦の末に勝利した。

 

絶壁らしい。

トレーナーを恋愛的な意味で狙っているという噂もあるが、匿名掲示板情報のため真偽不明。

 

脚質は差し。

得意距離はマイル~中距離。

 

 

主な勝ちレースは秋華賞(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ オイシイパルフェ

 

芦毛のショートヘアな左耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

感情を素直に表現するタイプであるらしい。

ティアラ路線に挑み、見事樫の女王の座を射止めてみせた。

 

脚質は差し~追込。

得意距離はマイル~中距離。

 

 

主な勝ちレースはオークス(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ドカドカ

 

青鹿毛のポニーテールの大柄な右耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

ダートで活躍中。

笑顔の怖さと筋肉に定評がある。

見た目は厳ついが子供に優しかったりするようだ。

 

脚質は追込。

得意距離は中長距離。

 

一時期故障により休養していたが、何故かむしろ強くなって復活した。

 

サナリモリブデンと関わる機会があるかは■■■■次第。

 

 

主な勝ちレースはジャパンダートダービー(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ マストチューズミー

 

芦毛のショートヘアの小柄な右耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

ダートで活躍中。

男の子っぽさ多めの少女らしい。

ドカドカが怖い。

 

脚質は自在。

得意距離はマイル~中距離。

 

サナリモリブデンと関わる機会があるかは■■■■次第。

 

 

主な勝ちレースは全日本ジュニア優駿(G1)。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ スレーイン

 

ふわふわな鹿毛の右耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

シニア級。

クラースナヤの同期。

 

脚質は先行。

得意距離は中長距離。

何故か苦手なマイルの安田記念に出走経験がある。

 

 

主な勝ちレースは菊花賞(G1)、天皇賞春(G1)、宝塚記念(G1)。

スレーインがこれらを勝てたのは同時期のウマ娘に実力者が少なかったためという風評がある。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ クラースナヤ

 

短い栗毛の右耳リボンウマ娘。

 

未交流のため詳細不明。

シニア級。

スレーインの同期。

 

脚質は先行。

得意距離は中長距離。

何故か苦手なマイルの安田記念に出走経験がある。

 

 

主な勝ちレースは皐月賞(G1)、日本ダービー(G1)、大阪杯(G1)、天皇賞秋(G1)。

クラースナヤがこれらを勝てたのは同時期のウマ娘に実力者が少なかったためという風評がある。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

【モブウマ娘】

1)固有のステータスを持たない

2)一部シナリオ上必要な場合を除き、出走レースが固定されていない

3)以下に紹介するのはシナリオ上で一定以上の存在感を発揮したウマ娘のみとなる

 

 

 

■ スローモーション

 

黒鹿毛の片目隠れなウマ娘。

アクセサリーの感触が鬱陶しいため普段はつけていないが左耳リボン。

サナリモリブデンとはメイクデビュー、朝日杯FS、きさらぎ賞、白百合ステークス、毎日王冠、マイルチャンピオンシップで戦った。

 

サナリモリブデン厄介ガチ勢。

走る理由は「自分を見下した者全てに己が短慮を思い知らせるため」。

その筆頭であるヒトミミの従兄は存分に思い知らされ、ついでに性癖を歪められた。

 

ゴリゴリの気性難。

一度でも見下されたと判断した相手は以降絶対の怨敵としてのみ認識するようになる。

そして常に観察し、追跡し、あらゆる弱点を探って思い知らせる機会をいつまでも待ち続ける。

この判断には「この子は体が弱いから僕が守らなければ」という心配から生じたものであっても関係ない。

また、これまで好きなものが殆ど無かったためか、自分の中に生まれた好意や尊敬に鈍い。

 

優れた身体能力は持たないものの五感が異常に鋭い。

生活にも一部支障をきたすほどではあるが、武器とするためにあえてメンコなどは装着していない。

 

脚質は先行。

ただし標的と定めた相手をマークする事もある。

これまではマイルを走ってきたが、これも標的に合わせたものの可能性がある。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ サラサーテオペラ

 

鹿毛のロングヘアな左耳リボンウマ娘。

サナリモリブデンとは選抜レース、マイルCSで戦った。

 

サナリモリブデン厄介オタク。

公式ファンクラブ会員ナンバー2。

隙を見せると番号の若さでマウントを取ってくる。

走る理由は「遠い憧れの背を追って」。

 

素直で素朴な少女。

頑張り屋であり、結果を出すための努力を惜しまない。

ただしサナリモリブデンが関わるとただの限界オタクと化す。

 

優れた身体能力は持たないものの、諦めの悪さに定評がある。

 

脚質は逃げ。

得意距離は短距離~マイル。

どちらかといえば短距離の方が得意なようだ。

 

勝負服の胸元には無理を通して書いてもらったサナリモリブデンのサインが燦然と輝いている。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ブリッツエクレール

 

稲妻型の流星が特徴的な青鹿毛の右耳リボンウマ娘。

サナリモリブデンとは未勝利戦、マイルCSで戦った。

走る理由は「勝利の輝きを手にするため」。

 

色々と運に恵まれない。

福引ではティッシュ以外当てた事はなく、雨の日に道を歩けば車に水をかけられる。

ギャンブルをやらせると余りに勝てなさ過ぎて逆にはまらないので安全なタイプ。

 

レース以外に興味の乏しいアスリート。

ぼっち。

ただしそれを苦にもコンプレックスにもしていない。

むしろ友人知人に使う時間もトレーニングに回せるので本人は満足している。

 

優れた身体能力は持たないものの、バ群を切り裂く鋭さは一級品。

 

脚質は差し。

得意距離はマイル。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ タヴァティムサ

 

鹿毛に褐色肌と全体的に茶色い右耳リボンウマ娘。

サナリモリブデンとはメイクデビュー、きんもくせい特別、白百合ステークス、マイルCSで戦った。

走る理由は「惰性で生きてきた自分を変えるため」。

 

苦手な事からはすぐに逃げるタイプ。

不真面目でサボり癖があり、トレーニングでもすぐ弱音を吐く。

人を小ばかにしたり見下したりする事も好きで性格が良いとはとても言えず、敵は非常に多い。

が、サナリモリブデンの毎日王冠を見て以来変わりつつある。

天敵はスローモーション(わからされ済み)。

 

優れた身体能力は持たないものの、弱った相手に追い打ちをかけて仕留めるのが得意。

 

脚質は先行。

得意距離はマイル。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ボヌールソナタ

 

長い芦毛の左耳リボンウマ娘。

走る理由は「弱さを克服するため」。

 

元リボンソナタ。

一族内での競争で落ちこぼれ、リボンの名を剥奪された。

代わりに父親から贈られたボヌール(幸福)の名は大切に思っている。

 

規律を重んじ、誰にでも礼儀正しく接する。

一見真面目な優等生だが、他人に厳しい割に自分に甘い部分がある。

ある程度までは誰よりも努力するが、結果が見えないと努力を言い訳に諦めを見せ始める。

が、サナリモリブデンを見ている内に自らの問題点を自覚し、改善に取り組んでいるようだ。

 

優れた身体能力は持たないものの、道中で敵を轢き潰すパワーがある。

 

脚質は先行。

得意距離はマイル。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ セレンスパーク

 

黒鹿毛の右耳リボンウマ娘。

チームウェズン所属。

シニア級。

 

ウェズンの誇る被害担当。

チームの中では最も常識人であり、日々巻き起こる騒動に振り回されている。

が、あくまで「チームの中では」という話であり、本人も割と頭のネジが緩い。

特に攻撃性の面では相当なもの。

ラーメンはサッパリ鶏ガラ煮干し派。

 

優れた身体能力は持たないものの、威圧や盤面支配力、視野の広さに優れる。

 

現在オープンクラス。

 

脚質は差し~追込。

得意距離はマイル~長距離。

 

【挿絵表示】

(画像→)

 

 

 

■ アングータ

 

栗毛のツインテ右耳リボンウマ娘。

サナリモリブデンとは朝日杯FS、毎日王冠で戦った。

 

激情家。

些細な事で激昂しやすい性質で、一日の大半の時間を不機嫌に過ごしている。

毎日王冠ではその激怒でもってマッキラの鍍金を消し飛ばした。

 

優れた身体能力は持たないものの、激情が上手く乗った場合の末脚はかなりのもの。

 

現在、マッキラ不在の間に少しでも差を埋めようと努力しすぎ、かえって調子を落としている。

 

脚質は先行。

得意距離はマイル~中距離。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ムシャムシャ

 

栃栗毛のポニテ左耳リボンウマ娘。

シニア級。

ドカドカの姉。

 

世の中の色んなものが気に入らない少女。

特に嫌っているのは現シニア級全員に向けられる「不作の世代」という風評。

スレーインとクラースナヤを低く見る人々も、低く見せてしまう不甲斐なさも何もかもが憎くてたまらない。

これを踏み消し、塗り替えるために青春の全てをつぎ込んでいる。

 

優れた身体能力は持たないものの、勝つためならば反則以外のあらゆる手段に手を伸ばす。

周囲の妨害にかけては当代随一との評もある。

 

脚質は差し。

得意距離はマイル。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

【その他の人物】

1)ウマ娘ではないか、少なくとも現状サナリモリブデンと同じレースに出走しない。

 

 

 

■ 郷谷静流

 

茶髪のピアスバチバチヒトミミ成人女性。

サナリモリブデンの専属トレーナー。

元チームウェズンサブトレーナー。

 

飄々とした人柄。

大変な時でもサラリとした余裕を見せて振る舞う。

が、内心は割といっぱいいっぱいな事も多い。

幸い自身の限界点と発散方法はわきまえているため、ストレスに潰される事態とは縁遠いようだ。

 

学園内でもパーカーにジーンズといったラフな格好で過ごしている。

年若さもあいまってパッと見大学生。

運動神経はかなりのもので、スキューバダイビングが趣味。

 

ウマ娘が大事で大好き。

担当のためならなんでもやる、がモットー。

 

好きなおつまみはエイヒレとたこわさ。

酒は日本酒の熱燗派。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ アビルダ

 

デコ出し芦毛の右耳リボンウマ娘。

チームウェズン所属。

シニア級。

 

ウェズンのリーダーにして問題児筆頭。

全身が好奇心の塊で面白そうと判断すると後先考えずに突撃していく。

ラーメンは体に悪いくらいのコッテリ豚骨派。

 

優れた身体能力は持たないものの、長いレース経験により技術面に長けている。

 

現在3勝クラス。

 

脚質は逃げ。

得意距離は中長距離。

東京の芝2000メートルに何か思い入れがあるらしい。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ トゥトゥヌイ

 

黒鹿毛ショートの眼鏡っ子右耳リボンウマ娘。

チームウェズン所属。

シニア級。

 

ウェズンの誇る問題児その2。

全身がノリの塊で、アビルダが何かを始めると嬉々として補佐に入ってかき回す。

ラーメンは味噌保守正統派。

余計なトッピングは認めないが、ナルトが入っていないと激怒する。

 

現在1勝クラス。

 

脚質は先行。

得意距離は中長距離。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ タルッケ

 

栗毛の右耳リボンウマ娘。

チームウェズン所属。

シニア級。

 

ウェズンの誇る問題児その3。

空気感が軽く一見危険性が低いように見えるが、常識の無さでは随一。

欲しいなと思ったら保健室の観葉植物を引っこ抜いてくるぐらいに頭が飛んでいる。

ラーメンはコーンバター味噌派。

 

現在3勝クラス。

 

脚質は先行。

得意距離は短距離。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ サナリクロム

 

芦毛の左耳リボンウマ娘。

サナリモリブデンの母親。

夫と死別し、幼い娘を女手ひとつで立派に育て上げてきた。

アラブ系の血が混ざっているらしい。

 

優しく、穏やかで、ちょっとお茶目。

だが現役の頃は無尽蔵の闘志でもって盛岡を狂熱の渦に叩き落とした鋼の女でもある。

競走成績は211戦1勝。

勝利する、という夢を叶えた後、もうひとつの夢であった「自分を支え続けてくれたトレーナーとの結婚」を掴み取った。

 

服の好みは黒。

冬以外は出稼ぎで余り家に居ないらしい。

クラシック期1月に家を訪ねた際、30代以降のウマ娘向けトレーニング教本が積んであったのを郷谷が目撃している。

 

脚質は自在。

得意距離は無いが苦手な距離も無い。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ ニッシラテンザン

 

栗毛の右耳リボンウマ娘。

引退したレジェンド。

現役時代の通り名は「黄金の簒奪者」。

 

サナリクロムが巻き起こした鋼の時代に強烈な憧れを抱き、盛岡にてデビュー。

頭ふたつみっつ飛び抜けた実力でもってすぐさま頭角を現した。

その後、より強力な敵を求めて中央へと殴り込み。

かかってこい中央の腑抜けどもと方々に挑発をかけ、怒りと共に潰しに来たウマ娘を逆に蹂躙。

芝ダート問わずマイル重賞を荒らしに荒らした末、最大の強敵「漆黒の反逆者」オリヤマクルーズを始めとしたライバル達と鎬を削りながらマイルG1にて4勝を上げる。

 

が、衰えたライバルが引退し、オリヤマクルーズがレース中の骨折で再起不能となって以降、彼女に挑む者は居なくなった。

それでもいつかは誰かがまた挑んでくれるはずだと走り続けるも、そのような者は現れない。

失意と絶望に沈んだままラストランのマイルチャンピオンシップを勝利し、ターフを去った。

 

現在はお茶の間の顔として、ノリの良い明るいねーちゃん枠で様々なテレビ番組に出演している。

ただしレース番組では気性難を発揮してスタジオを破壊する事もしばしば。

なお、プロデューサーは「それでこそニッシラテンザン」と後方腕組み体勢。

 

最近のクラシック級の激戦ぶりを一番喜んでいるのは多分こいつ。

 

脚質は差し。

得意距離はマイル。

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

■ クロスミネラル

 

真っ白芦毛の幼いウマ娘。

セレンスパークの地元のご近所さん。

セレンスパークにはまるで初孫のように可愛がられている。

 

素直な良い子。

親に甘えて軽く駄々をこねる事はあるが、最終的にはちゃんと言う事を聞く。

 

駿大祭の催しのひとつ、コスプレライブ喫茶目当てでトレセン学園を訪れた。

セレンスパーク、サナリモリブデンと共にステージに上がり、最高に楽しいライブで劇的な成功体験を味わう。

結果、将来トゥインクルシリーズを勝利してライブのセンターに立ちたいという夢を抱く。

 

更にダメ押しとして初めて生で見たレースではセレンスパークが雨の中の勝利を。

翌日のサナリモリブデンは逆境を跳ね返しての勝利を。

それぞれ目に焼き付けられた挙句、光り輝くウイニングライブまで見てしまった。

小さな魂に刻まれた憧れの重みは推して知るべし。

 

好物は麦焦がし飴。

 

脚質はまだ不明。

得意距離は誰も知らない。

可能性の塊。

 

【挿絵表示】

 

 



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クラシック級 11月 次走選択

 

「はっ、はっ、はっ、はぁ──!」

 

少女が駆ける。

芝を蹴立て、汗を散らして風を切る。

全身全霊、肉体に宿るあらゆる力を振り絞ってのラストスパート。

 

想定した最終直線の距離は、約400メートル。

坂は無い。

平坦な道を、それまでに積み上げた加速の上に加速を重ねて往く。

 

それは彼女にとっての、引き出し得る上限だった。

加速に瑕疵は無い。

最高速度はかつてないほど。

進路にも走法にも緩みなどひとつも有りはしない。

 

だというのに。

 

(あぁ──来る。聞こえる……っ)

 

()()()()()()()()()

 

音がする。

耳に届く。

魂を揺らし、そこに居ると主張する。

 

あらゆる壁を。

幾重にも絡め取り閉じ込めたはずの檻を蹴破り足音が迫り来る。

 

(違う、そんなものは、ない!)

 

当然、幻聴だ。

今この場には彼女ひとりしか存在しない。

併走する者の無い単独でのトレーニングなのだから。

全ては彼女自身の心が作り出した幻覚でしかない。

 

だが、だからこそ。

その幻は想像通りに彼女を半バ身上回った。

 

 

 

「はっ、はぁ、っ、ぜ……くそ。くそっ!」

 

トレーニングを終え、コースを外れて座り込んで。

少女──ムシャムシャは吐き捨てるように悪態をついた。

 

到底忘れられる衝撃ではなかった。

あんなものが居て良いのかとムシャムシャ自身何度考えたか分からない。

 

叩けども踏みつけども、決して折れない鋼のウマ娘。

ムシャムシャはレースの中で当初、サナリモリブデンを天敵と想定した。

だが実態はその程度では済まない。

 

あらゆる手段が通じた。

あらゆる手管が有効だった。

しかしその上で当然のように全てを踏み越えていく者など、ムシャムシャは想像すらしていなかった。

 

 

 

「くそがぁ……ッ!!」

 

それだけならまだ良かっただろう。

ムシャムシャが激昂していたのは何より、上回られた瞬間に抱いた自分自身の感情だった。

 

()()()()()()のだ。

よりにもよって。

 

"あぁ、これが本物なのだ"

 

などと。

物語の主人公を見詰めるように。

 

「違う、違う違う違う違う!」

 

こみ上げかけた憧憬を、サナリモリブデンのようにありたかったなどという願望を、煮える怒りを以て塗り潰す。

 

 

 

彼女には許し難い事がひとつあった。

シニア級全体に付きまとう汚泥、不作の世代という風評である。

 

優れているのはスレーインとクラースナヤ、わずか2人だけ。

他は例外なく凡庸の域を出ない。

シニア級1年目の2人に蹂躙されつくしたのがその証拠である、と。

 

「違う!!!」

 

絶対に認められない結論を蹴り飛ばし、ムシャムシャは立ち上がった。

 

実際、暴論だった。

ムシャムシャは、そして居並ぶ同期の面々は何ら恥じる必要のない実力の持ち主たちだ。

口さがなく、そして物を知らない者達が不作などと宣うのは余りにも天井が高すぎたためだ。

 

菊花賞、天皇賞春、宝塚記念を制したスレーイン。

皐月賞、日本ダービー、大阪杯、天皇賞秋を制したクラースナヤ。

この2人は正真正銘の怪物である。

過去の名だたる伝説たちとも堂々と肩を並べられるだろう。

凌駕する事はあれど、劣るなど決してありえないと断言できる。

 

そして、しかし。

だからこそだ。

余りにも隔絶したその能力故に、比較の対象となる者は互い以外に存在しなかった。

 

スレーインに勝り得るのはクラースナヤのみ。

クラースナヤに抗い得るのはスレーインのみ。

他にライバルなど誰一人居ない道を彼女達は駆け抜けてきた。

 

 

 

それを目にして、不見識の輩が言った。

 

本当にこの2人は強いのか?

他の全てが余りにも弱すぎただけではないか?

2人の前に立ちはだかる事さえ満足にできない同期、そして先達の面々は──不出来揃いの不作の世代ではないのか?

 

 

 

もちろん、こんなものは多数派の意見ではない。

レースとウマ娘を愛する多くの者達はその実態を完璧にとは言わずとも理解している。

だが残念な事に……世の中は賢い者だけで構成されているわけではない。

 

ある者は自身の裡に燻る劣等感のはけ口に。

ある者はセンセーショナルな記事で得られる利益を求めて。

ある者はただ無知によって。

好き勝手にさえずり、ムシャムシャ達を良いように貶めた。

 

(気に入らない。許してなんかやるものか)

 

だからムシャムシャは立ち上がる。

想定外の敗北程度で折れてなどいられない。

 

証明を。

汚名を拭い去るまで脚を止める暇はない。

一度負けたならもう一度。

それでもダメならば更に次。

誰の目にも言い訳の余地を与えない絶対の勝利をもって証明しなければならない、と。

 

(それに……これは、チャンスだ)

 

怒りに歪んでいた口元が笑みを描く。

彼女にはもう見えていた。

炎の渦が、ターフ全てを巻き込む未来がだ。

 

(波が来る。大波だ。全部全部メチャクチャにかき回す嵐がやってくる)

 

ムシャムシャは予兆を見た。

彼女のわずか半バ身先で放たれた、時代の産声を確かに聴いた。

 

(腑抜けは消える。全員アイツに燃やされる)

 

確信さえ通り越している。

 

大戦乱が来る。

あらゆる弱者を不死身の精兵に作り替えて。

届かないと一度は諦めた頂に誰もが手を伸ばす時代がやってくる。

 

生涯に一度あるかないかの大転機だ。

 

届く。

届き得る。

ムシャムシャが求めた勝利に。

鋼色の挑戦者が作り上げた大乱に乗り、食らい尽くす事が出来たなら。

 

 

 

「……婆さん! もう一回いいかい?」

 

「あともう5分ってところね。息、ちゃんと整えてからにしなさい」

 

「OK、流石話が分かってる」

 

灯された火はもう消えない。

ムシャムシャは自身のトレーナー、白髪頭の老女の指導の下、その魂を焼き焦がしていく。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

対して。

当の時代の転換を告げたウマ娘はと言うと。

 

「やだー! サナリお姉ちゃんと同じトレーニングするー!」

 

「ん……」

 

駄々をこねる幼女を前に困り果てていた。

 

駿大祭にて知り合った幼いウマ娘、クロスミネラルである。

彼女は約束通り京都までレース観戦にやってきてくれた。

そしてセレンスパークとサナリモリブデンの勝利を、ウイニングライブの輝きを目にして完全に心を決めたようだ。

 

将来、絶対にお姉ちゃん達と同じように走る。

キラキラと眩い憧れを全身から放って告げられた言葉はサナリモリブデンの心をこの上なく暖めてくれたものだ。

 

 

 

そこまでは良かった。

問題はその先。

 

"サナリお姉ちゃんは私くらいの時にどんなトレーニングしてたの?"

 

という質問だ。

これにサナリモリブデンは答えられなかった。

 

6年間アスファルトの公道を狂ったように走る、など。

過去に行った暴挙がどれほど危険かつ競走生命を縮める事になるかはもう分かっている。

とてもではないが誰かに真似などさせられない。

 

郷谷に叱責を受けて知り、指導の下でトレーニングを積んで彼女自身納得したのだ。

あの過去あってこその今の自分ではあれど、明確に間違いであったと。

実際、今年の夏頃に郷谷にサナリモリブデンは確認している。

返ってきた答えはこうだ。

 

"そうですね、間違いなくサナリさんの脚の寿命は縮まっていると思いますよ。クロムさんは200戦以上を全力で走ったそうですが、サナリさんにはもう同じ事は出来ません。様々な条件をクロムさんと揃えたと仮定して、走れて100戦というところです。……感覚がおかしくなりますね。何を言っているんでしょう私"

 

なお、郷谷は心底呆れた顔であった事を付記しておく。

もちろん、サナリ親子の図抜けた頑丈さに対してである。

 

それはともかく。

サナリモリブデンはクロスミネラルに返した。

 

"私は小さい頃にずっと間違った鍛え方をしてた。真似はさせられない"

 

"えー! どうして!?"

 

"危ないから。ケガをするかも知れないし、とても辛くて苦しい"

 

"我慢するもん! サナリお姉ちゃんと一緒がいい!"

 

そして冒頭に戻るというわけだ。

 

 

 

頬を膨らませて目に涙を浮かべる幼女を前に、サナリモリブデンは心の中で考えをまとめてから口を開く。

 

「ごめんね。でも教えてあげられない。私のやり方だととても大変な上に……強くなれないから」

 

「嘘! サナリお姉ちゃんすっごく強かったもん!」

 

「それは、トレーナーに会って間違ってるって教えてもらって、ちゃんと鍛え直してもらえたから。それまでの私は誰より弱かった」

 

過ちを認める言葉は痛みを伴ってはいない。

とうに乗り越えた部分だ。

だからためらわずに、クロスミネラルの目をまっすぐに見てサナリモリブデンは言葉を続けられる。

 

「大丈夫。私のトレーナーはとてもすごい人」

 

そしてその視線を信頼する自身のトレーナーに向ける。

郷谷静流。

彼女は愛用のタブレットをクロスミネラルの両親に見せながら話をしているところだ。

クロスミネラル達の住む街近くで利用できるトレーニング施設や、子供向けレース教室の情報を提示している。

愛娘の夢を全力で応援すると決めたらしい両親も真剣に聞き入っていた。

 

「ウマ娘よりウマ娘の事を知ってる。どうすれば強くなれて、どうすればケガをしないでずっと走っていられるのか。私達が走るにはそういう人の助けが絶対に必要になる」

 

強力な実感のこもった言葉だった。

実際、郷谷に出会えていなければ今のサナリモリブデンは居ない。

 

何かの間違いでデビューが叶ったとして、無駄にがむしゃらなだけだった過去の自分のまま走り続け、いつかどこかで躓いただろう。

2月の京都、きさらぎ賞の時のように。

そしてその時、あなたは休んでいるべきだと優しく、しかし強く引き留める郷谷が居なかったなら。

その考えはサナリモリブデンをして背筋が寒くなるような冷たい想像だった。

 

「んー……」

 

親愛と尊敬がありったけ籠もった横顔にクロスミネラルは何も言えなくなる。

駄々の勢いは消え、耳がペタンと頭についた。

小さく、可愛らしく、微笑ましい姿である。

サナリモリブデンも目尻を下げてその頭を軽く撫でた。

 

「ミーちゃんもそういう人に出会って欲しい。だから、私が小さい時に何をしてたかは内緒。ミーちゃんに走り方を教えてくれる人の邪魔になっちゃうから」

 

「うー!」

 

「どうどう」

 

クロスミネラルは納得がいかないように体を揺らしてサナリモリブデンの手に頭をぐりぐり押し付けた。

幼子らしい全力の暴れぶりである。

 

が、サナリモリブデンにはわかっていた。

これは最後の最後の甘えだ。

良く分からないけれど、分からないなりに言う事を聞こうと決めたのだろう。

それでも残るもやもやした気持ちを何とか発散しようという、そういう動きだ。

 

「……んー、分かった。サナリお姉ちゃんの言う通りにする」

 

「ん。ありがとう。良い子」

 

サナリモリブデンが感じた通りクロスミネラルはすぐに矛を収めた。

まだしょんぼりとしたままだが、長くは引きずらないだろう。

 

諭す言葉を幼さに任せて否定せず耳を傾けようとする、8歳と言う年齢を考えれば特筆すべき聡明さだった。

ならせめて、その聞き分けの良さにご褒美はあってしかるべきだ。

 

「ミーちゃん。教えてはあげられないけど、少しだけ一緒に走ろうか?」

 

「……ほんと?」

 

「うん。追いかけっこ」

 

「する!」

 

提案に、小さな顔には笑顔が咲いた。

元気よくパタパタ足音を立てて足踏みまで始まった。

今すぐに駆けだしたくてたまらない、といった様子。

 

大人たちに一声かけて、クロスミネラルの夢の一歩目は遊びの形で始まるのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「お疲れ様でした、サナリさん。中々楽しんでいたようですね」

 

「うん。楽しかった。思ったより捕まえるのが大変。将来がすごく楽しみ」

 

「流石にあの年ではまだ素質も不明瞭ですが、モチベーションでは誰にも負けないでしょう。ふふ、私も楽しみでなりませんよ」

 

そんなひと時を終えてサナリモリブデンは郷谷と共に車に乗り込んだ。

クロスミネラル達と別れ、これから移動である。

向かう先は……。

 

「さて、それでは次は会見です。心の準備は大丈夫ですね?」

 

「ん、今の私は無敵」

 

「それはまた、頼もしい限りです」

 

レース系メディアを集めての会見だ。

今や世代のトップ、G1ウマ娘たるサナリモリブデンの次走発表にはそれだけの場が必要となる。

 

並のウマ娘ならばガチガチに緊張してもおかしくはない。

が、そんなものはサナリモリブデンとはどうやら無縁だ。

自身に向けられる憧れを自覚し、背負った夢に報いると決め、しかもクロスミネラルから熱を受け取ったばかりの今はなおさらである。

 

これならば何も心配はいらないなと、郷谷はクスクス笑った。

 

「ですが念のため、予定を再度確認しておいてくださいね」

 

「うん、了解」

 

郷谷の指示にサナリモリブデンは素直に従う。

タブレットを取り出し、予定表を表示させた。

 

 

 

 

 


 

【クラシック級 12月】

 

タンザナイトステークス(OP)  冬/阪神/芝/1200m(短距離)/右内

ラピスラズリステークス(OP)  冬/中山/芝/1200m(短距離)/右外

リゲルステークス(OP)     冬/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

ディセンバーステークス(OP)  冬/中山/芝/1800m(マイル)/右内

 

チャレンジカップ(G3)     冬/阪神/芝/2000m(中距離)/右内

中日新聞杯(G3)        冬/中京/芝/2000m(中距離)/左

 

阪神カップ(G2)        冬/阪神/芝/1400m(短距離)/右内/ブリーズグライダー

ステイヤーズステークス(G2)  冬/中山/芝/3600m(長距離)/右内

 

有マ記念(G1)         冬/中山/芝/2500m(長距離)/右内/ペンギンアルバム、クラースナヤ

 

 

【シニア級 1月】

 

カーバンクルステークス(OP)  冬/中山/芝/1200m(短距離)/右外

淀短距離ステークス(OP)    冬/京都/芝/1200m(短距離)/右内

ニューイヤーステークス(OP)  冬/中山/芝/1600m(マイル)/右外

白富士ステークス(OP)     冬/東京/芝/2000m(中距離)/左

万葉ステークス(OP)      冬/京都/芝/3000m(長距離)/右外

 

シルクロードステークス(G3)  冬/京都/芝/1200m(短距離)/右内

京都金杯(G3)         冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外

中山金杯(G3)         冬/中山/芝/2000m(中距離)/右内

愛知杯(G3)          冬/中京/芝/2000m(中距離)/左

 

アメリカJCC(G2)        冬/中山/芝/2200m(中距離)/右外/スレーイン

日経新春杯(G2)        冬/京都/芝/2400m(中距離)/右外

 

 

【シニア級 2月】

 

北九州短距離ステークス(OP)  冬/小倉/芝/1200m(短距離)/右

洛陽ステークス(OP)      冬/京都/芝/1600m(マイル)/右外

 

阪急杯(G3)          冬/阪神/芝/1400m(短距離)/右内/ソーラーレイ

東京新聞杯(G3)        冬/東京/芝/1600m(マイル)/左

小倉大賞典(G3)        冬/小倉/芝/1800m(マイル)/右

ダイヤモンドステークス(G3)  冬/東京/芝/3400m(長距離)/左

 

中山記念(G2)         冬/中山/芝/1800m(マイル)/右内/アクアガイザー

京都記念(G2)         冬/京都/芝/2200m(中距離)/右外

 

 

【シニア級 3月/一部未確定】

 

東風ステークス(OP)      春/中山/芝/1600m(マイル)/右外

六甲ステークス(OP)      春/阪神/芝/1600m(マイル)/右外

大阪城ステークス(OP)     春/阪神/芝/1800m(マイル)/右外

 

オーシャンステークス(G3)   春/中山/芝/1200m(短距離)/右外

 

金鯱賞(G2)          春/中京/芝/2000m(中距離)/左/オイシイパルフェ

日経賞(G2)          春/中山/芝/2500m(長距離)/右内

阪神大賞典(G2)        春/阪神/芝/3000m(長距離)/右内

 

高松宮記念(G1)        春/中京/芝/1200m(短距離)/左/ソーラーレイ、ブリーズグライダー

大阪杯(G1)          春/阪神/芝/2000m(中距離)/右内/スレーイン、クラースナヤ

 


 

 

 

 

 

それを見ながらサナリモリブデンは思い返す。

事前に予定を決めた際、郷谷が差し挟んだ注釈についてだ。

 

これまで郷谷の下で積み重ねたトレーニングを振り返ると、サナリモリブデンの能力は冬に顕著に伸びている

もちろん夏合宿を除いての話だが。

 

サナリモリブデン自身も冬には気分が高揚し体調が良くなる特性は理解していた。

レースに出るにしてもトレーニングに励むにしても、常よりも良い結果が引き出せるだろう。

 

 

他に気になる点としては……ここだ、と郷谷は12月の末を指していた。

 

有マ記念

 

出走に必要となるファン投票はすでにクリアしている。

毎日王冠、そしてマイルチャンピオンシップでの激走を経てサナリモリブデンのファン数は倍以上に膨れ上がった。

今ならば大手を振って年末の大舞台に参戦できる。

 

が。

ひとつの懸念事項があると郷谷は言った

 

ペンギンアルバム

サナリモリブデンの同室にして一番の親友。

そして、菊花賞では異次元のレコードを記録した……現トゥインクルシリーズで最大の注目を集めるモンスターだ。

有マ記念にはそのペンギンアルバムが出走を表明している。

 

彼女の存在を示して、郷谷は言ったのだ。

 

恐ろしい

出来れば、共に走らせたくはない

と。

 

思い返されるのは先の菊花賞。

距離にして優に20バ身以上を引き離されたジュエルルビーの、プライドを粉砕された姿。

……彼女の次走は未だ発表されていない。

今はトレーニングに集中するとされてはいるが、公然の秘密としてその心がもう折れているのは学園の誰もが知っていた。

 

その二の舞を恐れてか、それとも別の理由でか。

今年の有マ記念には有力ウマ娘の集まりが悪い。

 

仕方のない事ではあろう。

サナリモリブデンを擁する郷谷ですら躊躇いを見せるのだ。

かの菊花賞から日の浅い今、情報の少ない中でぶつかれば何か取り返しのつかない事態に陥るのではとトレーナー陣が警戒を露わにするのは当然の事だ。

 

 

 

それらの情報を咀嚼し、話し合った上で選ばれたサナリモリブデン達の結論は──。

 



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クラシック級 11月次走選択結果〜12月スキル習得

アンケートに不備があったためリセットしました。
7時から30分ほどの票が消えてしまっているのでお手数ですが再度投票をお願いします。
申し訳ありません。


 


 

【投票結果】

 

有マ記念(G1)

 


 

 

記者会見の場において次走発表を行って、翌日。

一泊を経て学園に戻ったサナリモリブデンを出迎えたのは。

 

「サ~ナリ~ン!」

 

そんな、高く弾む声だった。

 

「む」

 

もちろんサナリモリブデンには聞き覚えのある声だ。

というより、学園に入学して以来聞かなかった日の方が少ない。

最早日常の象徴とも呼ぶべきものだ。

 

サナリモリブデンの耳が声の方向へ向けられる。

続いて顔も向ければそこには案の定の光景があった。

夏祭りで贈った白い耳飾がキラリと光る真っ黒な青毛。

小さな体のウマ娘がニコニコ顔で駆けてきていた。

 

全力疾走ではないが、ただ駆け足と呼ぶにはちょっと速い。

そんな速度でやってきた少女は。

 

「おかえりー! 寂しかったよー!」

 

「ただいま、アル」

 

そのままぴょーんとサナリモリブデンに飛びついた。

襲撃された側も慣れたもの。

さっと抱きとめるとぐるんと振り回して勢いを殺し地面に下ろす。

 

どうやら帰りを今か今かと待たれていたらしいとサナリモリブデンも分かる。

何しろ学園の敷地、その入り口だ。

用が無ければたまたま通りがかるような所ではない。

しかも時刻は早朝と来ればなおさらだった。

 

「おや、おはようございます。ペンギンアルバムさんは朝から元気ですねぇ」

 

「んへへ、それが取り柄だかんね。ゴーヤちゃんもおかえりー」

 

「はい、ただいま戻りましたよ」

 

そんな待ち伏せウマ娘、ペンギンアルバムはサナリモリブデンに同行していた郷谷とも挨拶を交わす。

夏合宿や共同トレーニングを通じてこちらもすっかり仲良しだ。

ペンギンアルバム自体人見知りしない性質なのでとうの昔に敬語も消えている。

 

「ゴーヤちゃんゴーヤちゃん、サナリン借りてって大丈夫?」

 

ペンギンアルバムは気安いままでそう言った。

両腕でサナリモリブデンの左腕を捕まえながらである。

よもや断られるとは微塵も思っていない様相だ。

 

「えぇ、私は構いませんよ。そうしますかサナリさん?」

 

「そうするよねサナリン! G1勝利のお祝いにと思って色々お店見つけてあるんだー。一日連れ回して楽しませてしんぜよう!」

 

「ん、そうする。アルに祝ってもらえるのはとても嬉しい」

 

そして当然のようにサナリモリブデンも断らない。

元々マイルチャンピオンシップが終わって、翌日に会見、そしてまた翌日の今日帰ってきたばかり。

授業は免除され休養以外の予定は何もなく、親友と遊びに繰り出すのは最高の過ごし方に数えられるだろう。

ペンギンアルバムもどうにかして休みを合わせて取り付けたらしく何の支障もない。

 

決まりだー、と上機嫌にペンギンアルバム。

サナリモリブデンはいってきますと郷谷に手を振り。

優しく微笑んだ郷谷は、車に気を付けてとこころよく送り出した。

 

 

 

そうして始まった一日は楽しく流れていく。

 

「これは……美味しい……」

 

まず初手。

真っ先に向かったのは表通りに面した喫茶店だった。

早朝から開いている店舗で、2人は向かい合ってモーニングを楽しむ。

 

「でしょー。サラダが最高なんだよここは」

 

「うん。このドレッシングは良い。シンプルなのに味わいが深くて、刺激的なのに野菜の味の邪魔をしない。相当研究されてる」

 

「いくらでも食べれるよね! サナリンならこれ作れたりしない?」

 

「……難しいと思う」

 

「うわ、そんなにかぁ。思ったより凄いお店だったかも」

 

品数は標準的だ。

程良く焼けた厚めのトースト、黄身だけプルプルのゆで卵、ふわふわのスクランブルエッグ、カリカリのベーコンとパリッとしたウインナー。

それにフレッシュなサラダとコンソメ味のカップスープ。

もちろんコーヒーも一杯ついてくる。

値段も高くも無く安くも無く。

 

だが質に関してはペンギンアルバムが太鼓判を押すだけはあった。

奇をてらわない王道を突き詰めた、まさに「こういうのでいいんだ」という味わいと食感が勢ぞろいしている。

 

となれば人気が出ないわけもない。

店内は朝から満席だった。

ちょっと早めに家を出てここで朝食を食べるのが毎日の楽しみといった顔ばかりだ。

 

そんな店の中、2人は窓際の席に座っている。

美味しい食事に静かな音楽。

わきまえた客ばかりなのか会話のざわめきはむしろ心地よい程度で、差し込む陽射しもどこか柔らかい。

 

「その上通勤中のサラリーマンを横目に私達はお休みなんだから優雅な気持ちになるよねぇ」

 

「アルがソーラーレイっぽい事言ってる」

 

「おわ、それは良くない良くない。気を付けなきゃ」

 

「ふふ。本人に聞かれたら怒られそう」

 

「んふふ、絶対面倒くさく絡んでくるやつじゃん」

 

食後のコーヒーもやはり絶品。

朝にふさわしいだけのちょうどいい香ばしさと共に談笑を楽しむ。

 

 

 

その最中、壁に貼られた一枚の紙をサナリモリブデンは発見する。

 

ドレッシング単品販売中。

300mlのビン込みで700円。

 

なるほど、買っていかなければならない。

でも今日は荷物になっても困るからまた次に来た時だ。

 

サナリモリブデンはそう固く決意した。

 

 

 

次いで向かったのは。

 

「じゃーん! サナリン好きだったよね?」

 

「む……!」

 

にゃーん、と出迎える声、声、声。

毛むくじゃらの楽園である。

 

猫カフェだった。

どうやら以前サナリモリブデンと交わした会話を覚えていたらしい。

猫好きの親友をいつか連れてきてやろうとペンギンアルバムは良質な店を探していたのだそうだ。

 

「ここの子達はみーんな懐っこい子ばっかりなんだよねー♪」

 

「しっかりお世話していますから。自慢の子ばかりですよ」

 

誇らしげなペンギンアルバムの紹介に、やはり誇らしげに店員の女性が言う。

 

その言葉通り甘えん坊の勢ぞろいだった。

店員の、ペンギンアルバムの、サナリモリブデンの。

それぞれの足元に体をすり寄せ尻尾までこすりつけていく。

 

これは中々珍しい事だった。

猫より人間は強く、人間よりウマ娘はさらに強い。

野良ならばウマ娘に寄ってくるような個体はそうそう居ない。

余程普段から丁寧に愛をもって接されていなければこうはならないだろうと一目で分かる。

 

どう考えても一流の猫カフェだった。

G1ウマ娘2人を前にしてなお猫を優先して動く店員の様を見ても明らかである。

 

「……撫でたり抱き上げたりしても大丈夫ですか?」

 

「ゆっくり優しくでしたら、もちろん。あんまり無いとは思いますが、嫌がるようでしたら離してあげてくださいね」

 

となれば楽しむに気がかりはない。

座り込んだ膝に乗ってくる猫、かまってとばかりに後ろ足で立ち上がって肩に手をかける猫、おやつはあるかいと周りをウロウロ歩く猫。

そのどれもをサナリモリブデンはうきうきとあやしていく。

 

「ほりゃほりゃー♪」

 

「ウマ娘さんの自前のそれ、時々羨ましくなるんですよねー」

 

「なるほど、その手が……」

 

特に猫達が喜んだのは尻尾だった。

じゃらし代わりに振ってやれば可愛らしい足がてしてしと叩く。

爪の手入れもしっかりされているようで、興奮しても痛みはない。

むしろくすぐったさが面白さを加速させるばかりだ。

 

席代は1時間1000円。

平日午前だけに他の客が居ない店内で、2人はたっぷりと猫に癒された。

 

 

 

店を出る際、サナリモリブデンはまた張り紙に気が付いた。

 

猫、譲渡します。

店員にお気軽にご相談下さい。

 

良く読むと、この店の猫達は全て保護された猫であるらしい。

猫カフェのアイドルとして働いてもらいつつ里親を探すという形式のようだ。

実に合理的なシステムである。

 

将来、レースを引退して実家に帰る時。

条件が合えば引き取って連れていくのも良いかも知れない。

 

サナリモリブデンはそんな風に思案した。

 

 

 

遊びはまだ続く。

喫茶店、猫カフェに続いた今度はちょっと騒がしい場所だった。

 

「サナリンはこういうとこ来た事ある?」

 

「……あんまりない」

 

「あ、やっぱり。イメージないなーって思ってたんだ」

 

光も音も大盤振る舞い。

ゲームセンターだ。

色とりどりの煌びやかな筐体が所狭しと立ち並び、電子の遊戯をこれでもかと楽しませようとしてくる。

殆ど経験の無い刺激にサナリモリブデンは思わず耳を伏せた。

 

「こういうとこはちょっとどうかなぁと思ってたんだけど何事も経験でしょ? どう、ちょっとやってかない?」

 

「ん、興味がないわけじゃない。アルのオススメは?」

 

「そうこなくっちゃ!」

 

だが寝た耳はすぐに起きた。

興味深げに忙しくあちこちに向き、流れる音を聞き分けてどれがどのようなものかを探ろうとする。

もっとも、音の種類が多すぎるためにすぐに断念されたが。

 

幸い、こういった遊びに詳しいらしい同行者が今日は居る。

自分で探る必要はないと気付くや、サナリモリブデンはペンギンアルバムに助言を求めた。

 

そしてペンギンアルバムと言えば郷谷と並ぶサナリモリブデンの第一人者である。

 

「相手のゴールにシューッ! イェーイ! くふふ、これで5点差だねぇ~?」

 

「なるほど。大体理解できた。……速度だけじゃ足りない。予測の難しい角度と、タイミングの妙──」

 

「ん? あれ? なんか嫌な予感してきたかも……」

 

エアホッケー。

 

「リロード!」

 

「任せて、カバーに入る!」

 

「ナイスヘッショー! 上手いじゃんサナリン! これもしかしてノーコンでボスまでいけるかも!」

 

「狙い撃つのは得意かも知れない」

 

ガンシューティング。

 

「へっへっへ。普段のダンスと全然違うっしょ?」

 

「くっ……想像以上に難しい。矢印と足元の変換が上手くいかない」

 

「こればっかりは慣れだよ慣れ。もう一戦やる?」

 

「──やる」

 

ダンスゲーム。

 

どれもハマれば熱くなるタイプのゲームだ。

つまり中々の負けず嫌いなサナリモリブデンにはピッタリの取り合わせである。

実際、時間を忘れるほど夢中になって2人は遊んだ。

 

戦績はエアホッケーがサナリモリブデンの逆転勝利。

ダンスゲームは習熟度の差でペンギンアルバムが圧倒。

ガンシューティングは協力プレイなので勝ちも負けもない。

 

そうして少々疲れた2人は、最後にクレーンゲームのコーナーにやってきた。

目玉となっている景品はもちろん。

 

「ん、ムシャムシャが居る」

 

「うん。ここは品揃え良いんだよねー。アームも強いしさ」

 

G1ウマ娘のぬいぐるみ、ぱかプチである。

つい先日戦ったばかりの栃栗毛のウマ娘、ムシャムシャにサナリモリブデンの目は自然と向いた。

それだけではない。

周囲に並ぶ筐体はぱかプチがずらり揃っていた。

ソーラーレイにマッキラ、シニア級のトップを張るスレーインにクラースナヤ、ティアラ路線で活躍したオイシイパルフェにアクアガイザー、ダートのドカドカやマストチューズミー、皐月賞のジュエルルビー。

他にもまだまだ、現役のG1ウマ娘で居ない者はないのではないかというほど。

 

「サナリンサナリン、本物とどっちが可愛い?」

 

「アルは表情がころころ変わる方が可愛いと思う」

 

「んー、100点!」

 

当然ペンギンアルバムもだ。

笑顔のぬいぐるみが可愛らしく透明な壁の向こうに座っている。

その筐体の前でサナリモリブデンは立ち止まり、100円を投入した。

 

「お、欲しいの? サナリンになら貰った分いくらでもあげるけど」

 

「慣れてないけど、分かる事もある。こういうのは自分で取ってこそ。違う?」

 

「あはは、大正解! サナリンほんと筋いいなぁ。もっと早く連れて来れば良かった」

 

ペンギンアルバムが応援する中、真剣な面持ちでサナリモリブデンはクレーンを操作する。

設定は良心的そのものだ。

アームから変に力が抜ける事もなく、適切に掴みさえすれば入手は簡単だった。

もっとも、初心者のサナリモリブデンは1000円少々を費やしたのだがそこは仕方ない事だろう。

 

 

 

「ん……!」

 

「おめでとー! はーいサナリンにペンギンアルバムさんからペンギンアルバムちゃんの贈呈でーす!」

 

「ありがとう、大事にする」

 

差し出されたぬいぐるみを、証書でも授与されるかのように丁寧に両手で受け取るサナリモリブデン。

親友らしい冗談交じりの動作に笑みが交わされた。

 

ここにはきっと、もうすぐ真っ白な芦毛のぬいぐるみも並ぶのだろう。

その時はまたアルと一緒に訪れようとサナリモリブデンは誓った。

次はサナリモリブデンからペンギンアルバムに、サナリモリブデンちゃんの贈呈だ、と。

 

 

 

 

 

そうして。

時間は瞬く間に過ぎた。

 

「楽しかったねぇ」

 

「うん。楽しかった。とても」

 

門限ギリギリ。

冬も近付き早くなった日暮れを過ぎてからようやく2人は寮に戻った。

いや、正直に言えば少し門限を越えていた。

普段は真面目に時間を守る2人だからと寮長にお目こぼしをしてもらってのお帰りだ。

 

必然的にその後は慌ただしい。

寮の夕飯を食べ、大浴場に入り、友人と少々談話し、それだけでもう就寝時間となる。

 

「おやすみ、サナリン」

 

パチンと部屋の電気が消えた。

明かりはカーテンを透かして差し込む月明りだけ。

今日という一日の終わりにふさわしい優しい夜がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

このまま。

ただ黙って目をつむるだけで良い。

そうすればまた、優しい朝がいつものようにやってくるのだろう。

 

サナリモリブデンはそう考えて。

 

「アル」

 

しかし、それを良しとはしなかった。

 

「……」

 

返事はない。

構わずサナリモリブデンは続けた。

 

「私に聞きたい事があると思ってたけど。違った?」

 

 

 

ペンギンアルバムは間違いなく今日を楽しんだ。

この共同生活の中で一、二を争うほどに心から楽しんでいた。

ペンギンアルバムという少女を恐らくは誰よりも知る者として、サナリモリブデンは断言できる。

そしてもちろん、そこに不自然が付き纏っていた事も。

 

「……できれば、ききたくないかなぁ」

 

知らないはずはない。

サナリモリブデンの知る限り、ペンギンアルバムがサナリモリブデンの動向を追わない理由が無かった。

だが、ペンギンアルバムは一度も聞かなかった。

 

「…………」

 

そして今も。

 

沈黙が長く流れる。

目覚まし時計の秒針が動く音だけが部屋を支配していた。

 

 

 

 

 

どれだけ静けさが続いただろうか。

闇に目が慣れ、天井の隅の汚れまで見えるようになった頃。

 

「……どうして」

 

ペンギンアルバムのベッドから、ようやく声が届いた。

 

「どうしてはしるの?」

 

有マ記念を。

という問いだろう。

 

その声はひどくか細い。

常の感情に満ち満ちた音色とは正反対だった。

 

「ファンのひとのこえに、こたえたいから?」

 

「……私を見ていてくれる人のために」

 

問われて。

答え。

次いで返ってきたのはベッドの軋む音だった。

 

 

 

「そんなことのために」

 

軋み。

わずか数歩の足音。

そしてまた、軋み。

 

「わたしに、まけにくるの?」

 

天井を見つめるサナリモリブデンの視界に、ペンギンアルバムが現れた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

「ねぇ、サナリン──かてるとおもってるの?」

 

声は、確かに細い。

 

「2500。わたしのホームグラウンドで、サナリンが、わたしに」

 

しかしそれに見合うだけの鋭さがある。

 

「なにか、できることがあるって……そうおもってる?」

 

光に乏しい瞳はサナリモリブデンを責めていた。

 

 

 

 

 

それに、当然のようにサナリモリブデンは返した。

 

「思ってない。アルは強い。アルの距離では誰よりも。私はそう信じてる」

 

「なら、なんで」

 

「理由は」

 

 

 

 

 


 

【ペンギンアルバム絆判定】

 

成功率:ペンギンアルバムの絆/85(%)

 

結果:成功

 


 

 

 

 

 

「もう言った」

 

サナリモリブデンの手が持ち上がり、伸ばされる。

まるで似合いもしない、冷たい怒りに満ちた表情を浮かべる親友の顔へと。

 

「アル。私は走るよ。──()()()()()()()()()()のために」

 

「──」

 

「ごめん」

 

顔にかかる髪を払い、優しく頬を撫で上げる。

 

「きっと、とても待たせたと思う。私が思ってるよりも、ずっと」

 

 

 

とっくの昔にサナリモリブデンは知っていた。

 

一番の親友が自身に対して抱いている感情を。

夜の空に咲く花火よりも。

自分の横顔を眺めて綺麗だとこぼすほどに、想っていてくれた事を。

 

そして、戦いたい、挑みたいと。

■■■しまいたいと思っている事を。

 

……中途半端にどちらかが不利を負って争うよりはとその心をしまい込んで、親友でいられればそれで良いと我慢をしていた事も。

 

 

 

当たり前の話だ。

いかにサナリモリブデンが自覚に乏しかろうとも気付かないわけがない。

 

ペンギンアルバムはサナリモリブデンの最大の親友だ。

学園の、ではない。

人生の、である。

未だかつてサナリモリブデンにとって、友人という枠組みでペンギンアルバムほどに大切に思えた者は誰も居ない。

 

 

 

場違いに微笑んでしまいそうなほどに柔らかい頬に触れながらサナリモリブデンは思い返す。

 

ただ辛く苦しいだけだった選抜レースまでの日々。

それを、サナリモリブデンは平然と乗り越えたわけではない。

事実として本当に、心の底から辛く苦しかったのだ。

何度非才を嘆き、漏れそうな弱音を食い縛って噛み殺したかは数えきれない。

 

サナリモリブデンを指して、誰かが鋼と称した。

……そんなものは比喩に過ぎない。

彼女とて痛みを感じ、傷を負う。

ただそれに際限なく耐えてしまえるというだけの、ただの少女だ。

 

 

 

きっと、サナリモリブデンはひとりでも耐えただろう。

歩いて歩いて歩き続けて運命の日に辿り着いたはずだ。

その代償に、誰にも見えない血を流して、誰にも聞こえない悲鳴を上げながら。

 

だがそうはならなかった。

いつだって隣に鋼の歩みを見上げる親友がいてくれたから。

 

それは、失い続けてきたサナリモリブデンが初めて得た救いだったのだろう。

 

 

 

そんな者の望みを、願いを、どうして知らずにいられるだろう。

 

ふたつめの救いたる両輪の片割れを得て歩みは走りへと変わり。

もう一振りの鋼の背に不足を知り。

挑んだ果てに結実を経て。

魂をくべるに足る理由を自覚して。

 

そうして次はと見渡した時、サナリモリブデンはもう止まれなかった。

これ以上を待たせるなど許されない。

 

今ペンギンアルバムに挑むのは避けてほしい。

そう言い募る郷谷を退けてまで自分の意見を押し通した。

 

 

 

「それに、勝算が全くないわけでもない」

 

「……え?」

 

「ここだけの話──私は長距離もやれる」

 

ペンギンアルバムの目が見開かれる。

大きくて綺麗な目だとサナリモリブデンは思った。

 

"やっぱり、アルはそういう表情の方が似合う"

 

とも。

 

「うそ」

 

「とても心外。こんな大事な事で嘘をつくと思われてるのは結構傷付く」

 

「そういう、意味じゃなくて……」

 

「ん、分かってる。今の冗談は少し意地悪だった。ごめん」

 

段々とサナリモリブデンが良く知るペンギンアルバムが帰ってくる。

刺すような視線は迷うような、困ったようなものへと変わる。

 

「……それ、黙ってた方が良かったと思うよ? 私、絶対油断してたし」

 

「実を言うとトレーナーにも口止めされてる」

 

「でしょ?」

 

「うん。でも、アルとだけは正面からやりたかったから」

 

「サナリンは、ほんと……サナリンだなぁ」

 

 

 

眉を下げて、呆れたようにため息をひとつ。

それでペンギンアルバムはいつも通りになった。

 

てーい、と。

寮長の見回りでもあればお小言でも貰いそうな掛け声と共に布団の中に潜り込んでくる。

シングルのベッドの中、小さな体からは想像もできないパワーでサナリモリブデンは壁に寄せられた。

 

「ん、それは少し困る」

 

「えーいいじゃーん♪ 今日はサナリンと一緒がいいなー」

 

「……アルの寝相が良ければ異存はなかった」

 

「ぅぐ、そこ突かれると弱い……」

 

すっかり親友らしい空気に戻ってじゃれ合いながらスペースを奪い合う。

しばしの攻防の後、結局はサナリモリブデンが折れる形となった。

後ろから抱きしめるような体勢で寝れば多少は抑えられるだろうという楽観によってだ。

恐らく楽観は楽観に過ぎないと両者とも分かってはいたが。

 

 

 

「……サナリン」

 

「うん」

 

「本当に、いいの?」

 

「うん」

 

「やめるなら今のうちだよ。始まったら手加減なんか出来ないし、したくもないから。全力でサナリンを潰すよ。……もう二度と立ち上がれないくらいに」

 

「構わない」

 

まどろみに落ちる最中。

届いた声にサナリモリブデンは返す。

 

「心配はいらない。そんな事にはならない。……アルの方こそ気を付けた方が良い」

 

「そう?」

 

「うん。ファンの人いわく、私は鋼らしいから。下手にかじると歯が欠けるし、お腹壊すよ」

 

「くっ、ふふ、そ、そうかも」

 

それで一日は終わる。

遊び歩いた疲れがとうとう回り、白と黒の対照的な親友達はまとめて眠りに落ちた。

 

その親愛は不変のものに違いない。

例え勝負がどのような結末に至ろうとも。

割り裂く事など誰に出来るものか。

 

 

 

目を覚ませばいつだって、彼女達の間には笑顔が交わされると決まっている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 

【12月固定イベント/スキル習得】

 


 

押し切り準備/150Pt

(最終コーナーで先頭の時、先頭をわずかにキープしやすくなる)

 

展開窺い/150Pt

(レース中盤に後ろの方だとわずかに疲れにくくなり、視野がちょっと広がる)

 

ペースキープ/100Pt

(レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

 

トリック(前)/150Pt

(レース中盤に前の方にいると、後ろのウマ娘たちをわずかに動揺させる)

 

シンパシー/150Pt

(絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

 

逃げためらい/100Pt

(レース終盤に作戦・逃げのウマ娘をためらわせて速度をわずかに下げる)

 

まなざし/150Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感がわずかに増す)

 

熱いまなざし/250Pt

(レース終盤に前方視界内のウマ娘1人の緊張感が増す)

 

鋼の意志/250Pt

(敗北が迫った時、スタミナを回復する)

 

 

スキルPt:640

 

 


 

【TIPS】

スキルはスキルPtが許す限り、票数の多い順に複数習得できます。

スキルPtが無くなるか、習得しない選択肢が選ばれた時、スキル習得は終了します。

 

【TIPS 2】

下位のスキルを習得している場合、上位スキルが下位スキル習得に必要なPtの分だけ値引きされます。




【ダイスログ】

【挿絵表示】


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クラシック級 12月 有マ記念 作戦選択


【支援絵のご紹介】

感想欄にて、もっちゅ様から支援絵をいただきました。
ぱかプチを抱えるサナリモリブデンとペンギンアルバムです。
ありがとうございました!

【Pixiv】





 

【投票結果】

 

習得成功:鋼の意志(Pt640→390)

習得成功:シンパシー(Pt390→240)

習得失敗:熱いまなざし(Pt不足)

習得成功:ペースキープ(Pt240→140)

習得失敗:押し切り準備(Pt不足)

習得終了:習得しない

 


 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3(立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

ペースキープ    (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

シンパシー     (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

鋼の意志      (敗北が迫った時、スタミナを回復する)

 


 

 

 

 

 

「おはようございます、サナリさん。今朝は良く眠れましたか?」

 

「おはよう、トレーナー。大丈夫。しっかり寝た」

 

決戦の日の朝。

郷谷と合流したサナリモリブデンは胸を張って答えた。

 

サナリモリブデンは真面目な性質である。

普段から夜更かしや寝不足とは縁遠い。

大事なレース前日ともなればなおさらで、寮の消灯時間を迎えるやすぐさま眠りについていた。

ベッドに入る2時間前に大浴場でしっかり温まるなど安眠に良いとされる習慣も普段から欠かしていない。

 

例外があるとすれば。

 

「それは良かったです。先月末のアレは驚きましたからね」

 

「……もうアルとは一緒に寝ないから心配しなくていい」

 

そういう時だけだろう。

 

寝相の悪い同室との同衾は散々な結果に終わっていた。

朝目が覚めた時、サナリモリブデンの首はペンギンアルバムの足に押されて90度近く、それこそ肩に頬がつくほど傾いていたのだ。

当然ながら酷い寝違えを起こしたものである。

その上尻尾を抱き枕代わりにされ、首も腰もとんでもない凝りようだった。

 

完全に調子が戻るまで数日を要するほど。

流石に罪悪感を覚えたペンギンアルバムに献身的に介護してもらえたものの、災難の一言に尽きる。

返す返すもレース終了直後で何も予定が無かったのが幸いだった。

 

 

 

それはともかく。

郷谷はトレーナー室にサナリモリブデンを招き入れ、いつも通りタブレットを起動させた。

 

 


 

【レース生成】

 

【有マ記念(G1)】

 

【冬/中山/芝/2500m(長距離)/右内】

 

構成:スタート/序盤/中盤前半中盤後半/終盤/スパート

天候:晴

状態:良

難度:290(クラシック級12月の固定値145/G1倍率x2.0)

 


 

 

「天気予報では今週いっぱい快晴となっています。崩れる気配は全くありませんね」

 

「うん。空気が澄んでて気持ちいい」

 

「えぇ、冬の晴れは良いものです。もうちょっと気温が高ければなお良かったのですが」

 

「そう? 私はこのくらいが好き。一番走りやすいかも知れない」

 

「流石、雪国の出身は強いですねぇ……」

 

まずは基本的な情報のおさらいからだ。

 

天候とバ場状態はどうやら最高と言える。

郷谷は今週いっぱいと言ったが、正確には今年いっぱいだ。

東京の初雪は年明けまで待たねばならないだろう。

ホワイトクリスマスを期待する者には残念な話かも知れないが、今のサナリモリブデンにとってはありがたい話である。

 

「続いてですが、中山レース場についてのおさらいですよ。ここはかなり特徴的なコースとなっています」

 

郷谷は続ける。

有マ記念の舞台となるコースの詳細についてだ。

 

「中山内回りは狭く小さいコースです。コーナーはきつく、直線は短いと覚えて下さい」

 

タブレットには国内の主要レース場が同縮尺で表示された。

比較すると実に分かりやすく中山は小さい。

東京レース場あたりと並べるとひと回りどころではなくサイズが違った。

 

「今回の2500メートルではここを1周半走ります。3、4コーナーを2回ずつ。1、2コーナーを1回ずつ。何度も曲がらされる事になりますね

 

「正直そこはありがたい」

 

「同感です。()()はルール上もう出来ないにしても、アレを鼻歌混じりで出来るほどにコーナリング技術は磨き上げましたから。ひいき目抜きで見てもサナリさんのコーナーワークは抜きん出ています。これは有利な要素ですね」

 

「……何か他意を感じる」

 

「そりゃあ今でも本気で頭がおかしいと思っていますから。実行を許した私も私ですけど」

 

「……んぅ」

 

ぐうの音も出ないサナリモリブデンを置いて、さらに次だ。

映像が切り替わる。

コースを上から見ていたそれまでから、横から見た断面図に。

 

「続く特徴はコース全体での高低差です。なんと5.4メートル。ゴール前から1コーナーにかけて登り、向こう正面へ駆け下りていく形になります。特に、このゴール前の部分は最大勾配2.24%と全レース場で一番の急坂です」

 

郷谷の指がトントンと画面を叩くのに合わせて数枚の写真が表示された。

実際の坂を様々な角度から写したものである。

それは確かに、サナリモリブデンをしても「むむむ」と眉間に皺が寄るような坂だった。

 

ここでスタミナが切れているともうどうにもなりません。逆噴射一直線です」

 

「うん、これは分かる。十分に残しておかないと……物理的に無理がある」

 

「見るだけのファンからすると逆転劇が起こりやすいのでスリリングで良いのでしょうが、私達の立場だと恐ろしいんですよねぇ……」

 

「逆に言えば、万全を保てれば最後までチャンスはあるという事」

 

「ふふ。そうですね、ポジティブに考えますか。粘り腰はサナリさんの持ち味なわけですし」

 

コースの情報はこんなところだ。

最後に全体図に戻り、予想されるレース展開についてを語る。

 

「以上を踏まえてまとめると、中山内回りは非常にタイトでタフなコースと言えます。コーナーの多さや高低差、直線部分の短さから道中はゆったりと進むでしょう。ペースを壊すようなウマ娘が居れば話は別だったでしょうが、ペンギンアルバムさんは潜伏型、クラースナヤさんは周囲の流れに合わせるタイプ。他の方々もそういった奇策を選ぶ可能性は低いと思います」

 

これは彼女にとって助けとなる情報だ。

 

サナリモリブデンはこれが長距離への初挑戦である。

しかも、これまでのマイルレースから中距離を飛び越えて、だ。

幼少期の無謀な鍛錬で走り方は覚えたとは言っても実戦は話が別だろう。

それならば多少なりとも消耗の少ないスローな展開は願ったり叶ったりと言える。

 

そこまで言って、ただし、と郷谷は最初のコーナーを指す。

 

「ただし、ここ3、4コーナーは話が別です。スタート直後の序盤は位置取りのために、2度目に通る終盤では直線の短さから仕掛けのために。どちらのタイミングでも激しさが予想されます」

 

その言葉に真剣に頷くサナリモリブデン。

有マ記念の肝はコーナーだ。

特にスタンドから見て右側の3、4コーナーの趨勢が勝敗に大きく関わってくるだろう。

 

 

 

 

 

「では、最後ですが……ふふっ」

 

と。

コース全景の横に出走表を呼び出した郷谷が噴き出した。

いかにも思い出し笑いといった風。

 

「トレーナー?」

 

「いえ、すみません。これを見るとつい抽選会を思い出してしまって」

 

「あぁ……うん」

 

理由を聞き、サナリモリブデンもまたわずかに頬を緩めた。

 

「あれはちょっと、私も面白かった」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「毎年師走恒例、年の瀬を彩る夢のグランプリ! 有マ記念枠順抽選会をこれより開始いたします!」

 

マイクを手にしたスーツ姿の男性、司会として日本に広く顔を知られた芸能人が弾んだ声を張り上げる。

それに合わせて会場からは拍手が巻き起こった。

場に紛れたお調子者がいたのだろうか、口笛まで聞こえている。

 

有マ記念といえば、ファン投票で選ばれたウマ娘に優先出走権が与えられる事で有名だ。

あのウマ娘とこのウマ娘の対決が見たい。

そんな声に応える面の強いレースである。

いわば夢のオールスター戦であり、他のレースと比べてもより大きく興行としての性質が押し出されている。

 

この枠順抽選会についてもそうだった。

暮れに欠かせないエンタメとしてバラエティ番組さながらに構成され、生放送までされている。

有マ本番、それに大晦日の歌番組と合わせてこの3つはテレビ業界にとって視聴率の最高値を競う大イベントだ。

当然現地観賞の激しい倍率を潜り抜けた観客の盛り上がりも特大である。

 

"88888888"

 

"待ってた"

 

"本番と同じくらい好き"

 

さらに追加で、会場に設置されたスクリーンに文字が流れる。

抽選会の生放送をネットで視聴している者のコメントだ。

近年ではネット方面にも門戸が広げられ、こうしてリアルタイムのコメントが反映されるようにもなっていた。

もちろん、最低限の検閲はされているが。

 

「本年も数多くの票が集まりました。視聴者の皆様も投票はされましたか?」

 

"当たり前だよなぁ?"

 

"しないわけがない"

 

"ギリギリまで悩んだわ……"

 

"クラースナヤ一択"

 

「ちなみに僕の夢はスレーインです。……でした」

 

"草w"

 

"草に草生やすな"

 

"ジ ン ク ス 継 続"

 

"お前が票入れた子毎年回避やんけ!"

 

"こ い つ の せ い か"

 

ネット中継はもう数年目、司会も慣れたものだ。

自分が何を言えばコメントが盛り上がるかを良く分かっている。

僕だってわざとやってるわけじゃないんですよぉ、などと叫びながら内心では美味しいなと思っていたり。

もちろん口にも顔にも出さないが。

 

 

 

さて、そんな抽選会はまず中山のコース紹介から始まり。

過去数年のレース展開のおさらいを挟み。

会場に集まった出走ウマ娘とそのトレーナーの簡単な紹介を経て。

 

「さぁそれではお待ちかね、抽選スタートです! 記念すべき今年の一人目はぁ……むむむ!」

 

いよいよ本番に入った。

司会の男が目の前に置かれた大きな箱に手を入れ、中をガシャガシャとかき回す。

そして……中々取り出さない。

 

"はよ! はよ!"

 

"焦らさんでええからw"

 

「おっと失礼しました。はい、一人目はこの方──」

 

引っ張って焦らしはするが、盛り下がるほどは長引かせない。

そんな絶妙なタイミングで取り出された中身、ボールが1個高く掲げられる。

そこにはウマ娘の名前が書かれていた。

 

「──サナリモリブデンさんです! どうぞこちらへ!」

 

 

 

その声にサナリモリブデンはピクンと耳を揺らした。

そして……少し固まる。

 

今のこれは枠順を決める抽選を行う順番を決める、前段階の抽選だった。

つまりは本日のトップバッターに指名されたわけである。

未経験の形式での枠順決定、それも全国中継されている生放送ともなればサナリモリブデンとて緊張はする。

シニア級、できれば有マ出走経験のある先輩の様子を見て参考にさせてもらおうと思っていた所にこれは中々の不意打ちであった。

 

"サナ森きちゃ!"

 

"俺投票したぞサナリン!"

 

が、それも一瞬の事。

流れるコメントの中に自身を応援する声を見つけると、すっくと立ちあがった。

例えどのような場面であろうともファンに情けない姿は見せられない。

頼れるトレーナーに先導され、近くの席のペンギンアルバムに手を振るだけながら心のこもったエールを送られ前へと進み出る。

 

「ようこそサナリモリブデンさん。どうでしょう、今のお気持ちは。一人目ですが緊張していらっしゃいますか?」

 

「はい、とても」

 

公開抽選会未経験。

それもクラシック級という事もあり、司会の男はまずほぐそうとしたようだ。

にこやかな笑顔に柔らかい言葉を添えて進行する。

対し、サナリモリブデンは素直に感じているままを答えた。

 

「先に当たった方の様子を見て参考にしようと考えていた所でしたので、正直に言って驚きました」

 

"お焼香かな?"

 

"なんかサナリンが一気に身近に感じたんだがw"

 

「その割には声もハッキリしていますし、堂々とされてるように見えますねぇ……」

 

礼儀正しく、そして毅然と。

メディアの前でのサナリモリブデンのいつものスタイルだ。

緊張は確かにあるが、それで態度が崩れるほどでもない。

 

「抽選の前にまずは、今回の意気込みのほどは?」

 

「大きな挑戦になると、そう覚悟してきました」

 

"(いつものことでは?)"

 

"この子挑戦じゃなかったレースの方が少ない気がする"

 

なので続く質問にも遅滞なく答えられる。

胸を張り、カメラを見据えて、良く通るよう低めに調整した声を発した。

 

「それはやはり、距離でしょうか?」

 

「それもあります。これまで(実戦では)マイル一本でしたので。しかしそれよりも」

 

サナリモリブデンは視線を回す。

会場の客席に、コメントの流れるスクリーンに。

 

 

 

そして、すぐ近くに居並ぶウマ娘達に。

 

「精強極まる、同期のライバルと先輩方に対する挑戦です」

 

着火の時だ。

サナリモリブデンの第一人者達、郷谷とペンギンアルバムがニヤリと笑った。

あんまりにもあんまりなクソ度胸に感情を押し殺しきれなかったためだ。

 

「ここに選ばれた以上、全員が恐るべき強敵です。一人打ち破るのでさえ命がけとも言って良い難事でしょう」

 

表情に乏しい涼やかな面持ちは変わらない。

 

「ですが、私を応援して下さる方々は票として、目に見える形で期待を寄せて下さいました」

 

だが明らかに温度が違った。

内側から熱された鋼が、徐々にその色を変えていく。

 

「戦えるはずだ。勝て、と」

 

コメントさえ一時止まる。

沈黙は分厚く、重石のように圧し掛かった。

 

「ならば私は臆しません。託された夢に応えて、挑み──」

 

灼ける瞳に炎が宿る。

 

見守る誰もが知っただろう。

王冠を奪い、玉座を手にして。

しかしそこで満足などしていない。

 

「──全ての敵を打ち破ります」

 

挑戦者は未だ挑戦者のままであると。

 

 

 

 

 

"マジかこいつ"

 

"宣戦布告しやがったwww"

 

"緊張してるとか絶対嘘だろ"

 

"これだよこれがサナリモリブデンなんだよ"

 

"サナ森に投票した自分が本気で誇らしい"

 

"鋼 の 挑 戦 者"

 

"一番聞きたいものを聞かせてくれた"

 

"なお距離"

 

"有マ記念はマイルだから……"

 

"長距離なんだよなぁ"

 

壇上のサナリモリブデンとライバル達が静かに睨み合う中、真っ先に復帰したのはやはりコメントだった。

ネットを通した気楽さ故だろう。

受け取った熱をわいわいと盛り上がりに変換して速度を増していく。

 

「……との事ですが、郷谷トレーナーも同じ心境で?」

 

「もちろんです。愛バの熱意に添えないようではトレーナーは務まりませんので」

 

"ようゆーた"

 

"そのピアスどこで買ったの?"

 

"こっちも新人のはずなのに余裕綽々な顔しとる"

 

それに司会が続いた。

郷谷に質問が投げられ、さらりと返される。

サナリモリブデンならそうするだろうと当然分かっていた郷谷は事前に用意したままを言うだけで済んだ。

 

なお内心は今ここでやらなくてもと思っていたりはする。

愛バのモチベーションを考えれば止める選択肢は彼女の中に無いため、考えても意味のない事ではあるのだが。

 

 

 

「これは、今年の有マも熱くなりそうですねぇ……。僕はもう早くも楽しみで仕方なくなってきてしまいました」

 

一人目から盛り上がりすぎた空気を司会が締め、サナリモリブデンが促されてくじを引く。

掲げられたボールに書かれているのは、今度は数字。

 

5枠9番。

 

それがサナリモリブデンが引き当てた枠順だった。

 

 

 

 

 

その後は滞りなく進行した。

次にくじを引くウマ娘を決める抽選をサナリモリブデンが引き、壇を降りる。

 

そうして二人目、三人目、四人目。

 

「もうひとつ隣ならサナリンの横だったのに……っ!!!」

 

「す、すごい声出されますね。サナリモリブデンさんとは学園の寮では同室で、親友だとか」

 

「残念、大親友なのだ! ねーサナリーン!」

 

「ん」

 

"ンァーッ! 友情がデカすぎます!"

 

"貴重なサナ森のサムズアップ"

 

"マジで緊張知らずだなこのペンギン無敵か?"

 

6枠11番を引き当てた五人目のペンギンアルバムを挟んで、六人目。

 

 

 

"きた"

 

"クラースナヤ!"

 

"二大巨頭の麗しの方!"

 

"どっちもだっつってんだるるるぉ!?"

 

そこで選ばれたのはペンギンアルバムと並び勝利を最有力視されているウマ娘だった。

クラースナヤ。

シニア級一年目にして既にG1タイトル4つを手にした、現役の伝説だ。

 

その横顔は端的に言って美しかった。

他人の美醜にさほど関心の無い者であっても息を呑まざるを得ない、一種異様な迫力がそこにはある。

 

そんな彼女はショートカットの栗毛をさして揺らす事もないゆったりとした速度で壇に上がり。

 

「クラースナヤさんも今回が初めての有マ記念となりますが、いかがでしょう?」

 

「…………えぇ」

 

薄く開いているだけだった瞳をゆるりと開けて。

 

 

 

「………………なんだっけ。トレーナー、代わって?」

 

「だからカンペ持っとけって言ったのに……!」

 

あっさりと雰囲気を台無しにした。

 

 

 

「あはは、いつも通りですねぇー」

 

"知ってた"

 

"この子はほんまにもー"

 

"誰かスレーイン呼んできてー!"

 

"二大巨頭の残念な方"

 

"それなら異論はない"

 

予想していたらしいコメントは荒れもしない。

どうやらいつもの事。

彼女のキャラクターは当然のように広く知れ渡っていた。

 

「あ、そうだ。……私が勝ちまーす。いぇい」

 

「朝相談した時はもっと無難なやつだったよな!?」

 

「そうだっけ? そうだったかも。まぁいいじゃない、お返しお返し」

 

クールな美貌は笑みもせず。

ふわふわとした様子のまま6枠12番を引いて壇上を去った。

 

 

 

 

 

もちろんその後も抽選会は続く。

有マ記念はコースの関係上、内枠有利の外枠不利だ。

様々な悲喜交々が繰り広げられる。

 

「あぁっと、8枠15番! グランプリウマ娘ローズフルヴァーズ、これは痛いか……!」

 

「やっ、ちゃっ、たぁ……へへへ」

 

「有マ記念連覇に向けて気炎万丈、からの一転といった様子ですが……?」

 

「い、いやいや平気平気勝つよ勝つよあたしは勝つ。うんよゆーよゆー! このくらいのハンデ屁でもありません! ……だよねトレーナーさん!」

 

「だといいねぇ……」

 

「トレーナーさぁん!?」

 

"無慈悲で草"

 

"正直で草"

 

"まぁ脚質的に不利は軽い方だろ多分"

 

"前目狙いなら死だけど追込だしな"

 

前年の有マ覇者、ローズフルヴァーズが不利を背負い込んだり。

 

 

 

「崩れ落ちたコルスカンティ! 無言でぐったり! ……大丈夫ですか?」

 

「…………ふふ。うふふ。そうよ。知ってたわ。私っていっつもこうだもの。一番大事なところで一番ダメなところを引くんだわ。そういう星の生まれなのよ。笑いなさいよ。笑えばいいんだわ。ふっ、くくく……どうせ私は道化がお似合いなのよ。指差してゲラゲラ笑ってもらえればせめて救いにもなるというものだわ。あなたもそう思うでしょう? ねぇ。ねぇ。ねぇ?」

 

「こ、これはダメそうだぁ!」

 

「笑いなさいよせめてぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

"糸冬"

 

"流石に不憫になってきた"

 

"この子G1大外何回目だ?"

 

"お祓い行け"

 

逃げ脚質のウマ娘が一番辛い大外を引いてみたり。

 

 

 

「ふぅー、ふぅーっ」

 

「緊張されてますか?」

 

「は? してないが?」

 

"その鼻息で緊張してないは無理よ"

 

"クラシック級の後輩よりガチガチやんけ"

 

「してないが? 緊張なんて無縁だが?」

 

"【悲報】オントロジスト、今日も緊張に負ける"

 

"そんなんじゃ勝てるもんも勝てんぞ"

 

「負けてないが? 勝つが!?」

 

「よしよし大丈夫、落ち着こう。落ち着こうね。一回深呼吸しましょ」

 

「落ちちゅいてるが!?」

 

"草"

 

これで9回目のG1挑戦、オントロジストが恥ずかしい姿を全国に晒しながら無難な4枠7番を引き当てたり。

 

 

 

そして最後に。

 

「…………せろ」

 

「おっと? すみません、もう少し大きな──」

 

「アタシにも引かせろォ!!」

 

金色の毛を逆立てて激情家が爆発した。

うがーとばかりに大口を開けて、叫ぶ。

 

「お゛っ……!」

 

至近距離でもろに受けた司会がよろめくほどの大音声。

発した者は片づけられようとしていた抽選用の箱にズカズカと大股で近付いていく。

うろたえるスタッフをガルルと威嚇して追い払い、そして腕を突っ込んだ。

 

「なァ! 不公平だろうが! こっちはこれ引くの楽しみにしてたんだよ! なのに全員決まったから引かなくていいですぅなんざ──納得できるかぁ!!」

 

引き抜かれた腕には当然ボール。

最後の1個。

その番号は。

 

「オラァ! 5枠10番ッ!!」

 

高らかに宣言された次の瞬間、ウマ娘の全力で握り潰され、破裂して砕け散った。

 

 

 

"ヒェッ……"

 

"なんじゃこいつ"

 

"いやこわいて"

 

フルゲート16人の有マ記念。

その16人目に滑り込んだクラシック級のウマ娘。

 

「アンタの隣だ──ブッ潰してやるよ! サナリモリブデンッ!」

 

アングータがその気性難ぶりを遺憾なく全国に知らしめた。

 

 

 

 

 


 

【枠順】

 

1枠1番:ホリデーハイク

1枠2番:メカニカルベイパー

2枠3番:リボンカプリチオ

2枠4番:ディルハムコイン

3枠5番:ブラボーセカンド

3枠6番:コンプロマイズ

4枠7番:オントロジスト

4枠8番:バシレイオンタッチ

5枠9番:サナリモリブデン

5枠10番:アングータ

6枠11番:ペンギンアルバム

6枠12番:クラースナヤ

7枠13番:ヴィオラリズム

7枠14番:ホエロア

8枠15番:ローズフルヴァーズ

8枠16番:コルスカンティ

 


 

【他ウマ娘の作戦傾向】

 

追込:3 差し:6 先行:4 逃げ:2

 

 

【注目ウマ娘の情報】

 

1番人気/6枠11番:ペンギンアルバム(追込)

2番人気/6枠12番:クラースナヤ(先行)

3番人気/8枠15番:ローズフルヴァーズ(追込)

 


 

 

 

 

 

そうして。

宣戦布告返しの後、アングータは担当トレーナーにしこたま怒られながら引きずられて退場した。

サナリモリブデンの耳には今もしっかりと残っている。

そっちのやつ(順番決めの方)も引かせろよ、という最後の叫びまで含めてだ。

 

もちろん残っているのはアングータの名前だけなので意味は無いのだが、サナリモリブデンにも少し分かる。

箱に手を入れ、見ずにボールを選んで抜き出す。

それだけで緊張しながらもワクワクしたものだった。

他の者よりも一回少なかったのは残念だったろう。

 

「最近調子を崩していたと聞いていたのですが……あれなら大丈夫そうですね」

 

「うん。安心して戦える」

 

「その意気です。さて、それでは最後に敵についてです」

 

ともあれ、話の続きだ。

郷谷はまずクラースナヤの名前を指し示す。

 

 

 

「初めにクラースナヤさん。彼女はあの日見た通り、捉えどころのない性格をしています

 

「ん、ふわふわしてた」

 

「えぇ、まさしく。レース中でもそれは変わりません。攻められてものらりくらりとかわし、攻める時はいつの間にか上がっている。そんなウマ娘です」

 

いわく、意識の間隙を縫うのが異常に上手いのだという。

高速で動くレースの中、警戒というのは切れ目なく続けられるものではない。

どんなマーク屋であっても対象以外の周囲に目を向け、展開を探る必要がある。

 

それは熟練のシニア級ならばほんの一瞬でこなせるものだ。

だが、クラースナヤはその一瞬で既に致命的なまでに行動を終えている。

 

「前回、マイルチャンピオンシップでサナリさんはバ群を無理矢理に破って抜け出しましたが……同じ状況に陥ったのがクラースナヤさんであれば、そうする必要はありません。いつの間にか道を見つけ、ぬるりと抜け出します。位置取りの巧みさと立ち回りの速度は歴代を見渡しても圧倒的です。ブロックがまるで意味を為さない相手と考えるべきでしょう

 

「うん。この一ヶ月、動画で見てきただけでも分かる。見えている範囲が私とはまるで違う

 

「雰囲気は緩いですが、頭のキレは恐ろしいほどです。正直な話、今のサナリさんでは彼女を止める手段はほぼ無いかと思います。実力をもって上回る以外に手立てはありません」

 

 

 

次に、と郷谷はペンギンアルバムの名前へと指を動かす。

そちらはサナリモリブデンも良く知っていた。

 

「掴みにくいクラースナヤさんと対照的に、ペンギンアルバムさんは分かりやすいですね。序盤中盤を最後方で溜めに溜めて、終盤からの一気呵成の追い上げで全てを覆す。典型的な追込ウマ娘です」

 

思い出されるのはダービー、そして何より菊花賞だろう。

加速力、最高速度、ともに最高峰と言って良い

追われる者の。

どころか見るだけの者の背筋さえ凍らせるような、いっそおぞましいほどの超速度。

 

郷谷は言った。

ペンギンアルバムの本領を発揮させてしまえば、恐らくまともな形の勝負にならない。

サナリモリブデンどころか、クラースナヤですら、だ。

 

「そしてフィジカル面で彼女が崩れるのは期待薄でしょう。何しろ追込という戦法が上手すぎます。体力の温存は得意中の得意。その上、坂での息の入れ方が熟練どころの騒ぎではありません。……ですが」

 

と、そこで郷谷は指を立てた。

ひとつ、ふたつ、みっつ。

三冠を示す三本を順番に立てて、それを逆回しに折っていく。

 

菊花賞、ダービーと遡り、最後に皐月賞を示す人差し指が残る。

 

隙がないわけではありません。彼女の本領が発揮されるにはどうやら条件があります。恐らくは精神的なトリガーが

 

クラシック三冠のうち、ペンギンアルバムは二冠を達成した。

つまり、皐月賞は落としている。

そしてその時に見せた彼女の末脚は、明らかに後ろふたつと比べて精彩を欠いていたのだ。

 

当時の本人のコメントは、上手く潜れなかった、というもの。

ならば、潜るのを邪魔してしまえば。

 

「もし集中が崩れれば、誰かが崩してくれれば。あるいは……サナリさん自身が崩しにかかって、それが通れば」

 

封じる事は叶うかも知れない。

郷谷はそう締めた。

 

目の無い賭けではないだろう。

ペンギンアルバムは打ち立てた異常な記録から多くの警戒を集めている。

同じだけの研究はされ、同じ結論に至った者も多いはずだ。

その誰かが対策を成功させる可能性はある。

 

また、サナリモリブデンの脚質は自在と言って良い。

多少の得意不得意はあるものの、追込の技量とて並以上の腕前だ。

初めて挑む長距離の実戦、実感のないスタミナ消費量に抗するための単純な温存という面も含めて、選択肢に上げるには十分だろう。

 

 

 

話を一度止めて、十数秒。

サナリモリブデンが内容を飲み込み終えたと確かめた後で。

郷谷は最終的な結論、今回取るべき作戦を口にした。

 

 

 

 

 


 

【ステータス補正適用】

 

バ場適性:芝B/スピード&パワー+10%

距離適性:長距離B/スタミナ&賢さ+10%

バ場状態:良/補正なし

 

スキル:冬ウマ娘◎/ALL+10%

スキル:シンパシー/ALL+5%

 

調子:普通/補正なし

 

スピ:517+129=646

スタ:420+105=525

パワ:429+107=536

根性:486+ 72 =558

賢さ:431+107=538

 

 

【適性】

 

逃げ:A(19/50)

先行:B(0/30)

差し:A(29/50)

追込:C(0/20)

 

 

【スキル】

 

領域/決意の鏨、鋼の轍 Lv3(立ちはだかる壁が高い程、夢を背負った心は奮い立つ)

 

冬ウマ娘◎     (冬のレースとトレーニングが得意になる)

冷静        (かかりにくさが上がり、かかった時に少し落ち着きやすくなる)

集中力       (スタートが得意になり、出遅れる時間がわずかに少なくなる)

弧線のプロフェッサー(コーナーを容易に曲がれるようになる。また、コーナーで少し速度が上がる)

ペースキープ    (レース中盤に追い抜かれた時にかかりにくくなり、持久力が少し回復する)

シンパシー     (絆70以上のライバルウマ娘と出走するレースがわずかに得意になる)

鋼の意志      (敗北が迫った時、スタミナを回復する)

 

 



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