生きやすいのだか、生きにくいのだかわかったものでは無いね、本当に。まぁでも、悪くは無かったよ (メヴィ)
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1話

 中国で発光する赤子が見つかった。初めはただそれだけだった。

 私たち吸血鬼にとって、人間は時には食料、ペット、奴隷、敵、友、恋人家族……考えてみれば人間と大差は無いか。

 

 まぁ、それなりの関係だった私たちは対して興味もなかった。だが、それが間違いだった。

 発光する赤子が生まれてから世界は変わった。

 人間は一人一人異なる【力】を持つようになった。異能…いや、個性……と言ったかな。

 

 数百人に数人、ならこれまでと変わりはなかった。ほぼ全員…生まれてくる人間の八割が個性持ったことが、この世界を変えた。

 

 ある人間は手を使わずにあらゆるものを浮かせ、操る。

 ある人間は体から火、水、風……あらゆる【自然界の力】を操る

 ある人間は人ではない体を持って生まれた。

 

 今までに無かった力を手に入れた人間達は変わった。

 

 ……もともと、私達吸血鬼は人間より強靭な肉体、再生能力、寿命が備わっている。だが太陽の下は例外を除いて歩くことはできなかった。

 

 話を戻そうか。

 

 個性を手に入れ、強者となった人間は何をするか、だ。

 

 答えは単純。それ以前の強者への挑戦、まぁ敵討ちとも言う。

 

 本来吸血鬼と言うのは()()()()()が無ければ生きていけないのだ。

 吸血鬼はこれまで多くの時代に名を残してきた。君も吸血鬼の伝説は知ってるだろう?ドラキュラ伯爵とかね。

 その中で共通していることは何か?

 それは、人間を殺戮している事だよ。

 

 吸血鬼の私からしてもアホだと思うよ。そして迷惑な話だ。

 食事をする度に人間を殺し、人間の怒りを買い、それを吸血鬼の生き様だと、仕方ないことだと豪語する。

 

 

 

 

 そんなわけがあるはずが無いだろう!?

 人間の血液量は人間の体重の1/13程度、つまり成人男性なら60kgで、4600mlだ。

 一度にそんなに飲むのはバカだとしか言えない。

 胃袋の大きさだって人間と変わらないのだからね。一度にそんなに飲む人間が居たら教えて……いや、超人社会ならどこにでもいるか。

 まぁそもそも血液を1000~1500ml失えば人間は死んでしまうが、吸血鬼に血液を吸われた生物は頑丈になって、死ににくくなるんだ。

 だから吸血鬼に血を吸われた人間は致命傷か、血液をほぼ全て失う位でないと……話が逸れたね。

 

 

 

 

 

 結局私が言いたいのは、君たち人間が知っている吸血鬼はごく、極一部の脳ミソがスッッッッカスカなボンクラ共だ。

 

 そいつらが長年に渡って人間を襲い続けた結果、個性を手に入れた人間達によって私たちは殆ど殺されてしまったよ。 

 

 人間と共存していた私たち(吸血鬼)もね。

 私は運良く、逃げることができたけれど…良くしてくれた人間達は駄目だった。

 

 当時の私には恋人もいたのだけれどねぇ…あ、人間の、だよ?

 

 私に毎日でも血を吸って欲しい!だなんて毎日言ってきた頭のネジが外れるどころかネジ単体しか無いような人間の。

 

 まぁそれに付き合う私も私だと思うけれどね。

 

 吸血鬼なんてネジの1本や2本外れているから逆に良かったのかもしれない。

 ネジ単体しかないのだからこそ、私の外れたネジの代わりになってくれたのかな。

 もう、あなたの匂いも、声も顔も……あなたとの思い出も薄れてしまってるんだ。

 薄情なものだろ?はっきりと覚えてられているのはあなたの血液の味だけだ。

 

 あなたはよく私に「食い意地が張ってるんだから私だけで我慢しろ!!してよ!!」なんて、言っていたような気がする。

 あぁ、あとあなたの血で口元を汚すと「可愛いね」なんて言っていたね………なんだ、覚えてられるじゃないか。

 

 ん、どうやら雨が降ってきたみたいだね。

 吸血鬼とは言っても風邪だって引くんだ。

 さっさと家帰ることにしよう。

 もう4時近くだから君たちも家にお帰り、途中までは送っていってあげるから。

 

 ………なんだい?また空を飛びたい、か。う~ん………まぁ、良いか。しっかり捕まっていてね。

 

 

 

 

 

 

 

 



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出会い【子供】

 緑谷 出久と爆豪 勝己が()()に出会ったのは、暑い夏の日だった。

 

 その日は勝己がカブトムシを取りに行くと言って、出久に沢山の虫かごを持たせてカブトムシを探していた。

 

 数時間もすればかごの中には沢山のカブトムシが入っていてカサカサと動く音がよく聞こえるようになった。

 

 「か、かっちゃんもう帰ろうよ…もう暗くなってきたってぇ…」

 「うっせぇデク!!そんなに帰りたきゃ一人で帰れよ!!」

 「そ、そんなぁ…」

 

 出久の意見は勝己によってすぐさま却下されるが、勝己も内心は同じだった。

 

 (どこだよここ……!!くらくてわかんねぇよ!)

 

 カブトムシを追いかけながら進んだ結果、山の深い場所まで来てしまったらしく、普段遊んでいる場所の目印を探してみるが何も無い。

 勝己でさえ、もう家に帰れないのでは無いかと涙を溢しそうになったその時、二人の真後ろの茂みからガサガサとナニかが動く音がした。

 

 「!か、かっちゃん!」

 「お、おいなんだ!出てッ!?」

 グルルルルッ……!

 

 

 巨大な熊が威嚇をしながら二人を睨み付けていた。

 出久は勝己の服を掴んで震え、勝己自身も恐怖で後ずさるが、躓いて二人で尻から転んでしまう。

 

 ガシャンと、大きな音が鳴った。出久の持っていた虫かごだ。

 大きな音で刺激された熊は興奮して二人に向かって走り出した。

 

 ッ!!グォォォオッ!!!

 「ヒッ!?や、やぁぁぁあ!?!?」

 「こ、こっちくんなぁぁあッ!!」バゴォンッ!!

 

 

 出久はガクガクと震える足でよたよたと逃げ出し、勝己は【爆破】で熊に向かって咄嗟に攻撃をした。それが、いけなかった。爆破によってさらに刺激された熊は巨体を持ち上げ二足歩行となり、前足を振り上げる。

 

 グォアァァァァア!!!

 「ヒッ!?」

 「やぁぁあ!!!」

 

 二人が本能的に死を感じ、お互いの体を抱き合って強く目を閉じた瞬間。ふわりと、暖かいものが二人を包みこんだ。

 

 「__この子達は迷い混んだだけだ。許してやっては、くれないかな」

 グ、グォォ……グゥ……

 

 鈴のような声と、先程のような勢いが無くなった熊の声が聞こえ、恐る恐ると二人は目を開けると見えたのは灰色の目優しい目だった。

 

 「もう、大丈夫だよ。彼じ(彼女)…熊はもういないよ」

 

 そう言われ二人はキョロキョロと回りを見渡し本当にいないことを確認すると少女の胸に顔を埋めてわんわんと泣き出した。

 

 「うん。怖かったね、良く頑張った。えらい、えらい」

 

 少女は二人の背中や頭を安心させるように撫でながら抱き締められるのに答えるように強く抱き締め返した。

 

 

 

 

 二人が目覚めたのは翌日の自室だった。

 何故家にいるのか訳もわからずに困惑していると自身の母親が部屋に入ってきた。

 

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 爆豪家side

 

 「このバカ!!」

 

 バチンと破裂するような音が部屋に響く。

 勝己の頬には赤く手形が付き、当の本人は訳もわからずにぽけっとしていた。

 

 「心配、したんだからッ!!!」

 

 母親に泣きそうな声で抱き締められて昨日起こったことを思い出すとボロボロと涙を溢した

 

 「ご、ごめッ、ごべんな"!ざい"!」

 

 

 

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 緑谷家side

 

 「良かった出久ッ…!!」

 「お、おかぁざん!!」

 

 ただ強く、強く抱き締められ生きてて良かったと、二人で涙を溢した

 

 

 

 

 

 

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 「……ねちゃった、かな」

 

 私の服を掴みながらすやすやと寝息をたてる子供二人を見下ろしてふぅ、とため息を溢す。

 

 さっきまであれだけ泣いたから、仕方ないけれど。これからどうするか……彼女はもう大丈夫だろうけど。

 

 

 少女の言う()()とは先程の熊だ。

 彼女は子連れ熊だったのだ。

 勝己と出久は気づいていなかったが彼女の後ろには二頭の小熊がいた。新米母熊の彼女は初めて見る人間から子供を守ろうとしただけだったのだ。

 

 

 「あれを食らっていたら確実にこの子らは死んでいたね…」

 

 恐らく私の服の背中は血塗れとなり、無惨なことになってるだろう。伸ばしていた髪もだが………命二つに比べたら安いもの、だ。

 まぁ私のことはどうでもよろしい。

 早く()()()()()()()()()を家族の所へ帰してあげなきゃいけない。

 

 

 私の家はこの山の浅く入った場所だ。

 同時にそこはこの子達の遊び場の近くで良く窓から見ていた。だからこそ、今回の事に気づけた。

 

 

 

 

 『すいません、うちの子見てませんか!?』

 『え、ええと…』

 

 

 切羽詰まったように家に押し掛けてきたのは、良く見る子供達と良くにている女性二人だった。

 

 緑の髪に、ベージュの癖毛……確か、

 

 『かっちゃん、と、デク…君、ですか?』

 『『知ってるんですか!?』

 

 

 

 二人に詰め寄られ、初めて知った。

 

 『もう7時過ぎているのに、まだ家に帰ってきて無いんです……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 懐中時計で確認すると7時48分を示していた。

 

 ……少し、時間をかけすぎたかな。さっさと霧で探していればこんなことにはならなかったのかもしれないな…

 親にとって子供と言うのは己の事よりも大切で、何にも変えがたい宝だ。生死がわからない時間なんて、考えただけでも辛い時間だ。

 

 二人を持ち上げ、背中から翼を出し跳躍する。

 

 「帰ったら、存分に叱られ、反省するんだよ」

 

 

 

 



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日常

 「おい来たぞアル!!」

 「お、お邪魔します。あ、アルお姉ちゃん」

 

 インターホンも鳴らさずにドアを開けて入ってきた勝己と出久にため息を溢しながらジュースやお菓子を用意する。今日は手作りのパウンドケーキだ。

 

 ヴィオラ・ヴァンリエル・アルシェリーナ

 それが私の本名……だったはずだうん。本当はもうちょっと長かった気がしないでもないが……先二つが家名で、アルシェリーナが私の名前だ。

 

 あの日から二人は山に行くよりも私の家で遊ぶようになった。

 まぁ他の子供達と一緒の時は相変わらずだけれど。

 

 森に入る、遊び場を変更する場合は私に一言言ってから、と言うのがこの子達のルールになったらしい。

 まぁ私としても子供はそんなに嫌いではないから良いのだけれどね。元気よく挨拶や返事をするのは見ていて気分が良い。

 

 「ん、こら勝己、出久から取るんじゃない。まだあるから食べたければ私に言え」

 「ん"ぶぁあ"り!(おかわり!)

 「飲み込んでから話せ、出久は?」

 「ぼ、僕は大丈夫です…」

 

 二人の皿を持って台所へ行って冷蔵庫から追加のケーキをさっきより少なめに移す。

 

 あまり食べさせ過ぎたら光己(爆豪母)引子(緑谷母)の料理が入らなくなってしまうからね。

 

 「はい、召し上がれ」

 

 

 

 

 

 

 しかしまぁ人間は、特に子供はいつになっても良く食べる。よくそんなに腹に入るものだね。作る側としては作り甲斐があるから良いのだけれど。

 

 そんな事を考えながら使った皿やコップを洗っていると出久カウンターから頭をひょっこりと顔を出した。

 突然の事に全く動じずに手を動かしながらアルシェリーナは口を開いた。

 

 「どうした二人共?」

 「さっきの、何ですか?」

 「……何、か?私が作ったパウンドケーキだけれど……口に合わなかった?」

 「そ、そうじゃなくて、その、トマトみたいな味がしたから…」

 

 声を小さくしながらもじもじと話す出久にアルシェリーナは少しだけ驚いたような顔をした。

 

 「おや……良く気づいたね」

 

 アルシェリーナは以前引子から出久がトマトを嫌って食べてくれない、と言う相談を受けていた。ケチャップ等平気だが、トマトの食感や風味が嫌いだという。引子はトマトそのものが食べられるようになって欲しいらしい。

 

 トマトの味が濃すぎたか?それとも他の材料の比率が少なかったか……いずれにせよ、少しずつ慣らしていく予定だったんだが……早すぎたかな。おかわりをしなかったのもこれが原因だね。

 

 「あまり美味しく無かったかな、ごめんね出久」

 「あ、いや、お、美味しかった、よ?でも前食べたトマトと味が違くて…」

 「……ん?」

 

 味が違う?そんな筈は……うん、()()()()()だけれど…

 

 アルシェリーナは籠に入っていたトマトを一つ噛って味を確認するが、普段アルシェリーナが食べている味だった。

 味が違う原因を考え始めたアルシェリーナの隣にいつの間にか移動していた出久はトマトが入った籠を覗くと「スッゴいまっかっか!」と言った。

 

 「トマトは赤いものだろ?それより、危ないから勝手に入るんじゃない」

 「ご、ごめんなさいアルお姉ちゃん…でも、お家で見るトマトよりもまっかっかなんだよ!」

 

 お家のよりまっかっか……あぁ、なるほど。つまり()()()()()()()赤くなくて、()()()()()()()()がより赤い、ということか。確かに市販のトマトは完全に熟す前の物だから…その酸味が苦手だったのか。

 

 出久がトマトを嫌っている理由がわかったアルシェリーナは試しに、と先程噛ったトマトの綺麗なところを小さく切って出久の前に差し出した。

 当然出久は困惑した。アルシェリーナが他のトマトとは違うから食べて見てと言うと出久は恐る恐るとトマトを口にした。

 

 「あまい!」

 「このトマトなら食べられそう?」 

 「うん!」

 

 残りのトマトもパクパクと食べる出久をアルシェリーナは微笑ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 アルシェリーナは出久の脇の下から腕を通して抱き上げてリビングへ戻ると勝己は床に直に寝転がり寝ていた。抱き上げられている出久もウトウトと船を漕いでいた。

 窓からはそよ風が入ってきてとても心地よい環境になっていて、アルシェリーナ自身も眠気を感じていた。

 

 今日は良い天気だね……二人は寝かせるとして…たまには私も一緒に寝てみるか。

 

 アルシェリーナは転がっている勝己を敷いた毛布の上に移動させて出久もその上におろし、首が痛まないように腕枕をしてやって眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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日常

 

 三人が共にお昼寝を終えたのは午後4時頃だった。

 因みにアルシェリーナは勝己に馬乗りをされ鳩尾をグリグリと刺激されたことで起きた。

 出久が制止してはいたが、突き飛ばされたことで下腹部に尻餅をついたのでほぼ同罪である。

 アルシェリーナは現在体を丸めて汚い声でうめき声をあげている。

 

 「お"ッ…お"お"あ"……」

 

 な、なんとも強烈な目覚めだッ……!狩人に寝込みを襲われるよりダメージが……

 

 「な~アル、早くしろ。時間が無くなる」

 「だ、誰のせいだと……」

 「デク」

 

 勝己は早く遊びたい為うずくまっているアルシェリーナの頭上で仁王立ちをしている。

 一方アルシェリーナにトドメを刺した出久は目に涙を浮かべながらアルシェリーナの背中を擦っている。

 アルシェリーナが「あの時程天使と悪魔が目の前にいると思った事はない」と語るのは十数年後のことである。

 

 

 

 数十秒後にはアルシェリーナは復活し(アルシェリーナが起きてからまだ1~2分程)

勝己には軽くお説教を。出久にはみかんのべっこう飴をあげた。

 勝己は何でデクだけに!と怒りを見せたが、

 

 「ごめんなさい、も言えない人間に構う程優しくないぞ」

 

 と、目を細めて言った。

 

 「デ、デクだっ「出久はちゃんとごめんなさいを言えたぞ?」~~ッ!わ、わるか「あ"?」ごめんなさい!」

 

 アルシェリーナの口からは重低音の威圧感のある声が出された。

 

 「はぁ……最初から素直に言いなさい。ほら」

 「………ありがとう…ございます」

 

 何故敬語なんだ?『威圧したからである』

 ん?……なにか聞こえたみたいだけど気のせいか。まぁ、さっきのは大人気なかったとは思うが、私は感謝と謝罪をしない人間は嫌いだ。そもそも勝己にはそんな人間になって欲しくないんだ。

 

 さて、起きた事だし……今日は6時過ぎ位まで、だったか。

 

 アルシェリーナが携帯の画面を確認すると光己と引子が『町内の集会で帰れないから二人をお願いします』とあった。

 見た目こそ幼く見えるアルシェリーナだが個性がこの世に発現するよりも、正確には600年飛んで26年前から生きている吸血鬼だ。

 光己と引子に年齢を聞かれた時にはこう伝えている。

 

 『(600飛んで)26だ』

 『そっか26……まって私とタメ!?』

 

 当然驚愕されたが二人は勝手にそういう個性なのだと解釈した。

 自分の子供の恩人であり、(600飛んで)年齢が近い為信用を得るのは早かった。

 

 

 

 6時過ぎまでならまだ時間はある。二人の夕飯も済まさせて光己達にはもう少し羽を伸ばさせてやるとしよう。

 飯用の食材は……少し厳しいか。

 

 「二人共、少し買い物に行こうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 「リーナ嬢ッいつの間に子供を……!?」

 

 二人と手を繋いで商店街へ行けば見知った顔がわざとらしく後ずさった。

 

 「私も産んだ覚えは無いよさっちゃん。それよりひき肉と豚ブロックを250ずつだ」

 「あらもうつれないわねぇ……少し待ってなさい♥️」

 

 そういって店の奥に消えていったさっちゃんを見送り、二人を見ると勝己は顔をひきつらせ、出久は背後に宇宙を背負っていた。

 予想以上の反応を見た目アルシェリーナは口許を押さえて体を震えさせながら笑いを堪えていた。

 

 「ふ…ふふッ……!」

 「あ、アル?あいつ、おと、おん……?」

 「ぴんくきんにく……」

 「!?グッファ!ハハハッ……!」

 

 困惑する勝己と見たものを口に出す出久の言葉に耐えられなくなったアルシェリーナが堪えきれずに吹き出す。

 

 改めてさっちゃんを紹介すると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()調()()()()()()()()である。回りからはさっちゃん、の愛称で呼ばれている。

 

 程なくして戻ってきたさっちゃんに代金を払うとさっちゃんと目があった出久と勝己がアルシェリーナの後ろに隠れてしまった。

 

 その後他の店でも買い物をしたが強烈な体験をしたせいか二人は静かだった。

 

 うぅん…二人には少し…いやかなり強烈過ぎたか。元に戻すにはどうすれば……ん?

 

 「あれは…」

 

 アルシェリーナの目線の先にはヒーローのカードがランダム封入されているお菓子があった。

 二人がよくオールマイトの話をアルシェリーナの耳にタコが出来るほど聞かされていた為、二人がファンだと言うことは知っていた。これで少しでも治ればと籠に入れた。

 

 ついでに私の分も買って見るか。俊典が出たらサインでも書かせて価値をつけさせよう。

 

 

 

 

 

 「「オールマイトだッ!!!!」」

 「こんなことあるものなんだねぇ」

 

 家へ帰り、買ったお菓子を渡すと二人は一瞬で元に戻った。

 元気になりすぎだとも思ったが静かすぎるよりは良いものだ。

 まぁカードに関しては見ての通り、私たち三人全員俊典だ。

 普段からオールマイトオールマイトと言っていた二人はカードを高く掲げて走ったり跳ねたり、まぁご機嫌だ。

 

 「俺!オールマイトに会ったらぜってぇ貰う!」

 「ぼ!僕も貰う!!」

 「ん?二人もか、じゃあ今度貰ってきてあげようか?」

 

 アルシェリーナが台所からそう言うと二人はピタッと動きを止めた後に目をキラキラと輝かせながら駆け寄ってきた。

 それを見たアルシェリーナは翼を出して台所の入り口を塞ぐとドンッと翼に衝撃が伝わってきた。

 

 「こら、料理中は入るなといつも「欲しい!オールマイト欲しい!」わ、わかった、わかったから羽を掴むな!」

 

 

 結局アルシェリーナは興奮する二人を羽をで押さえつけながら料理をすることになった。因みに勝己は麻婆豆腐、出久はカツ丼が食べたいと言ったので別々に作っている。

 

 どちらを食べるかで喧嘩になる位なら最初からどちらも作ればいい。ただそれだけだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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入院

 約束をした日の翌日の夕方。

 結局、出久と勝己はカードではなく別の物にサインが欲しいと言ってきた。

 勝己曰くこの俊典カードは希少価値が高いらしくいつか直接貰うのだとか。それを聞いた出久も同意見だった。

 

 

 私としては別にそれでも構わないのだけれど、それより語る勝己があまりにも得意げだから話がまったく入ってこなかった。それで気づいたら私とツーショット写真を撮ろうとして、何度やっても私が写らないと怒られた。解せない。

 

 多くの人が知っての通り、吸血鬼は鏡や写真、電子機器に感知されない。

 たしか科学者の島……えぇと……I・アイランドだったか。

 そこで数えきれない程の検査やら研究をしたが「もう知らねぇよ何なんだよ君は!!!」と、匙を投げられてしまった。

 失礼だね吸血鬼だよ

 

 まぁ体液やら細胞、遺伝子とかは解析されたけれどね。

 

 「なぁ!何で写真写らねぇの!?___聞いてんのかアル!?」

 「聞いてるから大声を出すな勝己」

 

 ギャーギャーと叫ぶ勝己にアルシェリーナは煩わしそうにしながら口を片手で顎ごと掴んで封じた。モガモガと喚いていたが睨まれるとピタッと動かなくなった。

 

 「写らないのは体質……まぁ個性だよ」

 

 個性じゃなくて種族だけれどね。ここで嘘をつく必要は無いが……まぁ種族も個性も今の時代なら変わらないだろう。………まずい、今日だったか。

 

 アルシェリーナは珍しく、焦りを見せながら勝己と出久を家から追い出した。勝己と出久はそれを不思議に思ったが、丁度よく5時の放送が鳴り、二人は家へ走って帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 夜

 

 

 

 

 「んッ…ゴクゴク……ぷはッ…はぁ…はぁ…」

 

 アルシェリーナは二階の天井がガラス張りになっている部屋で文字通り浴びるように血液を飲んでいた。

 床を汚さないように、とアルシェリーナが入った浴槽には既に足首が浸かる位まで血液がたまっている。

 

 「ッ!!ぐぅッ……あ"ッ!!」

 

 バシャッと浴槽に倒れ混んだアルシェリーナは痙攣する体を必死に押さえこみながら苦悶の声をあげ、体が作り替えられる痛みに耐えながら赤い月を睨みんだ。

 

 「くそッ、たれが……!!」

 

 ぼろぼろと崩れる腕を見ながらアルシェリーナは意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 ブラッドムーン、それは皆既月食の際に地球が太陽の光から月を覆い隠せなくなくなり、赤黒く見える月だ。

 

 ブラッドムーンの日に人間は呪い(まじない)をしたり、災害の予兆だと恐れたりする。

 だが純血の吸血鬼のアルシェリーナにとってはそんなことを言っていられる日ではないのだ。

 

 

 まず吸血鬼には生まれながらの純血の吸血鬼、人から吸血鬼となった混血の吸血鬼の二種類がいる。

 純血と混血の違いとしては髪や瞳の色や寿命、翼の有無だ。

 

 純血は灰色の髪と瞳、そしてコウモリとドラゴンを混ぜたような翼。老いることも尽きることの無い寿命

 

 混血は吸血鬼は赤い瞳に変わり、身体能力の大幅な上昇200~300年程の寿命。混血はだんだんと老いてゆき、死ぬ。

 

 

 

 

 約150年周期で起こるブラッドムーンの日に純血の吸血鬼はブラッドムーンの光を浴びながら一夜で体が、細胞の全てが作り替えられ、古い身体は崩壊し、大量の血液を糧に新しい身体となる。

 【廻帰】これこそが純血の吸血鬼が不老不死である理由だ。

 

 

 「と、まぁ説明はこんなところだね。これで吸血鬼の(私の)説明は以上なのだけれど「あるに決まってんでしょうがァッ!!」

 

 まるでヴィランのように目をつり上げる光己に困惑した顔をしながらアルシェリーナは泣きながら抱きつく勝己と出久を撫でた。

 

 

_________________

 

 

 実を言うとアルシェリーナが廻帰をした日から既に三ヶ月以上が経過しており、その間の当の本人は目覚める直前まで生命活動が最低レベルという状況に陥っていた。

 

 事の発端は廻帰の日から家に行ってもアルシェリーナの反応が無い事を不満に思った勝己が光己に話した事だった。

 

 最初こそはプライベートだからと思い気にしていなかったが、メッセージを送っても反応が無く、4日程経過した辺りで流石におかしいと思いアルシェリーナの家に向かうと浴槽で全裸で血まみれのアルシェリーナを見つけ警察と救急車を呼び現在に至る。

 

 それにしても三ヶ月も眠ってたのか……やっぱり()()()()()じゃなかったからか?

 それとも……まぁ、なんだろうと良いか。

 

 

 

 

 

 

 

 【アルシェリーナが病院にぶちこまれてから数日後】

 

 アルシェリーナがやることもなく外を見ていると突然扉が開いた。

 見れば久しぶりに見る顔でアルシェリーナはポカンとした顔になった。

 

 「___久しぶりだね消太。相変わらず小汚ないな」

 「……第一声がそれかアルシェ」 

 

 相澤は不満そうな顔をしながら椅子に腰をおろして持っていたアタッシュケースから血液パックを取り出してアルシェリーナに手渡した。

 

 「医者に説明はしてきた。さっさと飲んで退院しろ」

 

 手渡された血液パックはまだ熱を持っていて微かにだが新鮮な血液の匂いが漏れていた。

 

 「……この匂い、消太のか?」

 「さっき抜いてきた。輸血用じゃ足りてないんだろ」

 「むぅ……ンぶッ!?」

 

 アルシェリーナが飲むことを渋っていると相澤がパックにストローを刺して強制的に飲ませる。

 アルシェリーナは一瞬慌てるが一口飲んだ後に夢中になって飲んだ。

 数分もすれば血液パックは空になり、アルシェリーナは名残惜しそうにしながら抜かれたストローに付いた血液舐めた。

 相澤がストローと血液パックを回収するとアルシェリーナは自分が夢中になっていたことに気づいたようで右手で額を押さえた。

 

 なんだ…?ここまで、新鮮な血液に餓えていたのか私は?

 

 「うまかったか?」

 「…………輸血用と比べたら…月とすっぽん、だったね…」

 「そりゃなにより」

 

 相澤はにやにやしながら空のパックをアタッシュケースにしまうとアルシェリーナのベットに座り直した。

 さっきまでの雰囲気は無くなり、相澤の背中には哀愁が漂っていた。

 

 

 「なんだ、私がいなくなると思ったか?」

 「………」

 

 ベットから体を起こして消太の背中にもたれ掛かり首に腕を回すと腕を掴まれた。

 やっぱりいなくなると思ったのか。

 

 「安心しろ。私は死なないし、いなくならないよ消太」

 「……そういうことじゃねぇだろ」

 

 違うらしい。じゃ何なんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回の捕捉ですね

 今回アルシェリーナが三ヶ月の昏睡になっていたのは単純に廻帰に使われた血液が新鮮じゃなかったからです。【生き血】ということに意味があるんですはい。

 そして廻帰は約150年周期なので今回で4回目を迎えました。626歳だからおかしくねとなりそうですがあくまでも【ブラッドムーンの日】なので誤差です。
 


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出会い【青年】

時系列的には相澤先生が雄英に入学した頃です。


 「私が君たちの担任のヴィオラ・ヴァンリエル・アルシェリーナだ。好きに呼ぶと良い。よろしく」

 

 私が新入生に挨拶をすると多くの生徒は口々に疑問を言い始めた。

 喧しいなこいつら。

 まぁつい先日まで中学生だったから当然か。

 

 「はぁ…配布された体操着を着てグラウンドαに集合しろ」

 「え!?入学式は!?ガイダンスは??」

 「校長の長い話を聞きたいなら勝手に行くといいさ。私は行かない」

 

 そういって教室を出ると「流石雄英シヴィィッ!」と奇声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 グラウンドαでしばらく待っていると最初に来たのは長めの黒髪に眠そうな目をした男子生徒、相澤消太だった。

 もう少し遅くなると思っていたのだけど、案外早く終わりそうだ。

 

 「んで、何をするんですかヴィオラ先生」

 「簡単な体力測定だ」

 

 個性ありのな、と付け加えれば消太は嫌そうに顔をしかめた。

 なんだ、体を動かすのは嫌いなのか?

 

「そういうんじゃないです。俺の個性は…」

 「あぁそういうことか、確か消太の個性は…【個性の抹消】か。良い個性だね」

 

 個性さえ消してしまえばただの人間だからな、そう捕縛も難しく無くなるし、個性暴走なんかもすぐに対応できる。下手なパワー個性よりも良い。

 

 「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 

 40分程で全員の測定が終わり、アルシェリーナは記録をみていた。

 行った種目は握力、立ち幅、反復横跳び、長座体前屈、100m走×3の順だった。

 

 ん~………まぁ、入学したてならこんなものか……でもやっぱり増強系が上位に多いか。

 

 「HEY!teacher!!次は「終わりだよ」oK!終わ………え終わり?」

 「そうだ、と言うかお前は元気だね。もう少しやってくか?」

 

 そう言うと金髪の生徒__山田ひざしは真顔で勘弁してクダサイと懇願した。

 

 

 「まだ入学式の最中ではあるが帰って良いぞ。それと机の上に今後の時間割と日程を置いておいたから必ず目を通しておけ」

 

 以上、解散!と締め括ると困惑しながらもじゃぁ……と言う感じで帰っていった。

 さてと……とりあえず帰って明日の授業の内容でも考えるとするか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 相澤side

 

 アルシェは、俺の担任は【変人】の名を存在で表しているような人だった。

 ある時は生徒と共に悪戯をしたり、

 ある時は疲れたからと自習という名の睡眠時間になったり

 そしてある時はマイクと校内放送を乗っ取っていた。

 ……本当に教師かあいつ…

 

 

 入学式当日、ヒーロー科1年A組の教室に入ると既に各々自己紹介をしたりしていた。

 それを聞き流しながら座っていると無駄にでかいドアを開けてひざ下まである灰色のパーカーを着た少女が入ってきた。

 なんだアイツは?……制服はどうしたんだよ。

 教室の目線を集めながら眠そうにしながら教卓に上がると見た目に合わない口調で話し始めた。

 

 「私が君たちの担任のヴィオラ・ヴァンリエル・アルシェリーナだ。好きに呼ぶと良い。よろしく」

 「……冗談だろ…」

 

 どうみても俺たちと同年代、ギリギリ年上にしか見えないのに俺達の担任?………そういう個性か何かか。

 

 「はぁ…配布された体操着を着てグラウンドαに集合しろ」

 

 そういうと金髪の奴が入学式は!?と騒ぐがヴィオラは長い話が聞きたいならかってに行けと教室を出ていった。

 俺は騒ぐ奴らを無視して体操着を持って一人で教室を出たが、ヴィオラの姿が見当たらなかった。

 雄英の廊下は扉同様に広くて長いのにもかかわらず、だ。

 

 

 「増強系の個性なのか……?」

 

 今思えば、俺はこの日からヴィオラ先生____アルシェに夢中になっていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 案内板を頼りにしながらグラウンドに向かった。本来は入学式をしているからかやけに静かだった。

 グラウンドに付けば仁王立ちで空を見上げているのが目に入った。

 ………本当に遠目だとそこらにいる少女だな…

 

 そんなことを考えながら近づけばすぐに気づいたようで目が合った。

 

 「んで、何をするんですかヴィオラ先生」

 「簡単な体力測定だ。個性ありのな」

 

 ()()()()と聞いて思わず顔をしかめる。

 俺の個性は見た相手の個性を一時的に消すというもので増強系のやうな身体能力の向上なんかは無い。

 

 「なんだ、運動は嫌いなのか?」

 「別ににそういうんじゃないです。俺の個性は……「あぁそういうことか、確か消太の個性は……個性の抹消、か。良い個性だね」

 

 それから俺の個性の使い道を次々に言われ、「下手なパワー個性よりよりも良い個性だ」と言われ、褒め慣れてなかった俺はぶっきらぼうに返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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退院後

 

 

 私が目覚めてから数日が経ち、ようやく退院することが出来た。

 初めての体験で新感覚だったけど……うん。

 病院食はもう食べたくないな。

 それに夜中に徘徊するご老人や泣き出す子ども、それに加えて個性の暴発。現代の病院は苦労が多そうだ。

 

 

 それにしても……まぁ、今回の廻帰での体の変化が凄まじくて慣れるのに時間が掛かりそうだ。羽も細長くなってしまったし何より、羽に動かせる指が三本もできていた。

 

 

 

 

 まず細長くなった羽は元は1.6m程だったけれど今は2.2mになっていた。幅もそれに伴って細くなってしまったが翼膜の強度は更に増していた。釘を打ち付けようとしても釘が欠けるし、ナイフも刺さらない。………本当に細胞で出来てるのかこれは……我ながら恐ろしい強度だね。

 

 三本指に関してはまぁ、とにかく違和感が凄い。

 今までなかった器官が増えるから当たり前といえば当たり前だが…これは時間をかけていくしかないな。

 いずれは普通の腕のように使えるようになれば出来る幅も広がって便利そうだからね。暫くは羽を出しっぱなしで生活をすることにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あぁ~…まぁ、予想はしていたが想像以上ではないか…」

 

 家の裏手の畑に行くと、枯れた作物やタヌキや鹿によって荒らされた畑を見て落胆する。

 それなりにこだわって作っていたから中々にショックだ…

 4ヶ月近く放置していればこうなるのは仕方ないが……今年はもう区切りをつけて来年からにするか。

 

 「【ヴブィニア・ロンビア】」

 

 パチンと指を鳴らしながら呪文を唱えると作物は地面に飲み込まれ、飲み込んだ地面は隆起しながら平坦な地面へと戻った。

 

 

 

 家に戻り浴室の様子を見に行くと消太の言っていた通り新品に取り変えられ、タイルも張り替えてあった。

 

 消太や直正によると当初は殺人未遂事件やらなにやら疑われていてかなり大事だったらしい。

 まぁ大事になったからこそ直正にも連絡が行き、消太にも連絡が行って収集された訳らしいが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて…話は変わるが私が魔法を使える理由を説明しておこうか。

 単純な話、元々魔法は吸血鬼が使っていたと言うだけだけれどね。

 有名な魔女狩りも吸血鬼ハンターが吸血鬼を公開処刑していただけだ。それを勝手に何も知らない人間たちが【魔女】と呼んで見よう見まねで【魔女狩り】をした訳だ。

 ……それで多くの無実の人間が殺された。

 個性がこの世に誕生してからは落ち着いたように見えたが、それでも不気味な個性だったりすると迫害されていた。本当に、本当に人間の臆病なところは嫌いだ。

 

 ………話が逸れたね。要するに【魔女=吸血鬼】で、【吸血鬼狩り=魔女狩り】だ。

 とは言っても魔女がいなかった訳ではないんだ。混血の吸血鬼の子孫に希に魔法が使える人間も生まれていたからね。

 _____何だか自分で言っておいてややこしくなってきたね。

 【魔女=吸血鬼】

 【吸血鬼狩り=魔女狩り】

 【混血吸血鬼の子孫=希に魔女が生まれる】

 

 ………魔女狩りとは吸血鬼狩りだが魔女も存在していた、でいいか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




小話を続けていくか、ショタと絡むストーリーか、それとももう原作に入った方が良いのか………


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8話

原作入ろうと思います。
期間があいてしまってすいませんでした。
あと初めての掲示板形式なのでご容赦ください


 「……ここに帰ってくるのも随分と久しぶりだな」

 

 満月に照らされながら、長らく帰っていなかった家の上を回るように飛び、テラスに飛び乗る。

 

 うん、鳥のフンやら枯れ葉やらで酷い有り様だ……中は……ん?

 

 「………何故ルンバがあるんだ……」

 

 ご丁寧に一階と二階、更には隠していた地下にまで2台ずつ置いてあった。

 ルンバでは掃除できない階段にはうっすらと埃が積もっていて、そこには足跡がいくつか重なって残っていた。

 勝己や出久なら今頃このくらいの大きさなのだろうかと考えながら地下へと行くと、古い紙とインクの匂いがした。

 

 地下室は私の書斎となっていて、同時に()()の日記が残っている。書き残しているのは私だが。

 ここにくるのも実に8年ぶりで、懐かしくなって一番最初の記録を本棚から取ると埃や蜘蛛の巣が一緒についてきた。

 

 埃にむせながら適当に開くと、そこには涙や赤いモノで滲んだり、ふやけたりしたページだった。

 

 暫く読み返してから日記を閉じて表紙の名前を撫でてから棚に戻して、棚に並んでる日記の背を撫でながら出口を目指す。

 

 「我ながら、よくまぁこんなにも書いたものだよ____ん?」

 

 指先に引っ掛かりを感じて良く見てみると一冊だけ、日記がなくなっていた。

 

 犯人はなんとなくわかる。

 勝己か出久のどちらかだろうが……まぁ、勝己だろうね。

 出久はまず地下室に気づくことなんて無いだろうし、()()()()()なんて読めないだろう。勝己は…まぁ読めるだろう。才能の塊だからね。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、私は商店街やら知人の家やらに生存報告をしにいっていた。8年前に不本意とは言え何も言わずに居なくなったのだからね。

 

 とは言え、8年は長かったみたいだ。

 よく野菜を下ろしていた農家の人は亡くなり、店にシャッターがおり、そして……さっちゃんが男前になっていた。更には二人の子どもまで出来ていて___お前は本当にさっちゃんか……?

 

 「失礼しちゃうわぁ…」

 「いや、すまない。しかしさっちゃんが……」

 

 あのオネェの鏡だったさっちゃんは肌こそ今でもプルプルだが、髭も生やすようになっていて、男らしい服も来ているのだ。

 だからすぐに本人だとわからずにいた私は悪くないと思うんだ。

 

 「その、まぁなんだ。リーナ嬢は変わらないな。今いくつだよ?」

 「ひゃんじゅうひょんなにゃ(34だな)

 

 ツンツンと頬を触ってくるのをそのままにして答えるとさっちゃんはなんて?と首を傾げた。

 

 つままれたり伸ばされたりした頬を擦りながらもう一度言うと、本当かよと苦笑した。その後はさっちゃんの家に招かれて子どもを見たり、さっちゃんの妻に挨拶もした。

 さっちゃんの妻の響来(きょうこ)はなんというか、THE・姉御という感じで、男勝りな人だ。決して悪い意味ではなくて良い意味で。

 

 「にしてもなぁ………どういう心変わりなんだか、本当に皐月(さっちゃん)の初恋か?」

 「ぢょ"お"ッ!?」

 

 からからと笑う響来にさっちゃんは耳を赤くして口を塞ごうとするが、逆に押さえ込まれてしまった。

 

 「へぇ、さっちゃんがねぇ……まぁ私は既婚者だから無理だけれどね」

 「フラれちまったなぁ皐月」

 「~~~~~~ッ!!!」

 

 まさかさっちゃんが私にそういう感情を持っているとは思ってなかった。幼い頃から見ているため、どちらかと言うと孫とかそういう風に感じていた。

 

 その後暫く子供の頃のさっちゃんの話を響来に話をしていると、空が赤くなっていたから家を出る事にした。

 今日くらいは泊まればと少しばかり引き留められたが、まだ生存報告が済んでいないからと断り、心当たりのある場所を訪ねていった。

 

 「先生!」

 「ぅお」

 

 突然後ろから肩を掴まれて引っ張られて思わず変な声を出す。

 引っ張ってきた人物を見れば金髪にサングラスをかけたチンピラじみた格好をした男だった。

 

 

 

 

 

 「まったく……よりによって人間の多いところで叫ぶからこうなるんだ。おかげで買い物どころではなくなってしまったし……」

 「ア、ahahahaha………スンマセン」

 

 チンピラ、もといマイクと共に人気のない場所を歩く。

 あの後しつこく「先生だよな!?」と騒がれ人目を引き、声でプレゼントマイクとバレて大勢の人間に詰め寄られて大変だった。

 

 急いで離脱しようしてもマイクに触られているから霧散することも出来なくて文字通り飛んで逃げてきた。ただマイクが私にしがみついて付いてきたのが想定外だったけど……

 

 

 「もう、死んでると思ったんスよ」

 「勝手に殺すな、それに私は死ねないのはお前もわかっているだろうが」

 

 私が言い返すとマイクは全然変わらないと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 プレマイの動画のアレなんなん??

 

 

 

 

1:名無しのオタク

 スレ建てたゾイっと

 

 

 

2:名無しのオタク

 >>1スレ建て乙

 

 

 

3:名無しのオタク

 >>1オッツ

 

 

 

4:名無しのオタク

 >>1おせぇぞ童貞

 

 

 

5:名無しのオタク

 >>4うるせぇぞお前も同族ジャマイカ

 

 

 

6:名無しのオタク

 >>5恒例の童貞煽り草

 お前が一番童貞だ

 

 

 

 

7:名無しのオタク

 >>4 >>5 >>6

 すまんけど恒例省かせてクレメンス

 動画が気になるんや

 

 

 

8:名無しのオタク

 >>7たまには童貞の言うことも聞いてやろう

 

 

 

9:名無しのオタク

 何、この……まぁいいや、本題入るで。

 商店街でプレマイが叫んでそのまま空にぶっ飛んでった

 

 

 

10:名無しのオタク

 >>9いやどゆことや

 

 

 

11:名無しのオタク

 >>10まじでそのまんま

   動画みる限り一瞬でぶっ飛んでった

 

 

 

12:名無しのオタク

 まじで意味わからんよなこれ

 

 

 

 

13:名無しのオタク

 ワンチャン個性でぶっ飛んでった説ない?

 ほら地面に向かってヴォイス使って

 

 

 

 

14:名無しのオタク

 >>13けっこー前にラジオでそういうのやってみたけど出来なかったって言ってたで

 そもそもそれやったら地面が耐えられんやろ

 

 

 

 

15:名無しのオタク

 >>14ほんそれ

   プレマイそれで瓦礫とかぶっこわしてるからこあい

 

 

 

16:名無しのオタク

 >>15ほんそれ………ん?プレマイ何かにしがみついてるみたいな格好してね?

 

 

 

17:名無しのオタク

 >>16どゆこと?

 

 

 

18:名無しのオタク

 そのまんまの意味じゃい

 0.25にするとよくわかるで

 

 

19:名無しのオタク

 ごめんそれよりもプレマイの変顔に目が行ってしまう

 

 

 

20:名無しのオタク

 >>19わかる

 

 

 

21:名無しのオタク

 アビャーって顔してんね

 

 

 

22:名無しのオタク

 確かに捕まっとるように見える……パントマイムの練習じゃね?

 

 

 

23:名無しのオタク

 >>22パントマイムの風圧で砂ぼこりがたってたまるかよ

 

 

 

24:名無しのオタク

 >>22パントマイムで空飛んでたまるかよ

 

 

 

25:名無しのオタク

 >>22慣性の法則って知っとる?

 

 

 

26:名無しのオタク

 運動なんちゃらって知ってる?僕はしらない

 

 

 

27:名無しのオタク

 わぁ…あ……!

 

 

 

28:名無しのオタク

 ボロクソ言われてて草

 

 

 

29:名無しのオタク

 ちょっと泣いちゃったじゃないの!もっとやれ!!

 

 

 

30:名無しのオタク

 駄目だろくでなししかいねぇ……

 >>27よしよし、みんな酷いねぇ…

 

 

 

31:名無しのオタク

 ママ…?

 

 

 

32:名無しのオタク

 残念だがワイは男や

 

 

 

33:名無しのオタク

 パパぁ!!

 

 

 

34:名無しのオタク

 >>33草

 

 

 

35:名無しのオタク

 どっちでも良いんジャマイカ

 

 

 

36:名無しのオタク

 確かに何かにしがみついてるみたいだけど……だから何やねん

 なんもわからん

 

 

 

37:名無しのオタク

 >>36同じく

 

 

 

38:名無しのオタク

 つまりマイクはぶっ飛んでったんじゃなくって連れ去られた………ってこと!?

 

 

 

39:名無しのオタク

 もうそれで良いんじゃね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

167:名無しのオタク

 う~む……やっぱり何もわからん!

 

 

 

168:名無しのオタク

 そら(映像に写ってないんだから)そうよ

 

 

 

169:名無しのオタク

 まじで写ってないんだもんなぁ……

 

 

 

170:名無しのオタク

 動画とか写真とか撮ってた奴らは皆トトロいたもん!状態だからな

 

 

 

171:名無しのオタク

 なら個性トトロじゃね

 

 

 

172:名無しのオタク

 >>171証言を照らし合わせると

 ちっちゃい

 ローブ

 灰色の髪

 美少女

 らしいからあんな死神モドキと一緒にすな

 

 

 

173:名無しのオタク

 >>172ガタッ

 

 

 

174:名無しのオタク

 >>172それをもっと早く言わないか

 

 

 

175:名無しのオタク

 >>172てめぇトトロを馬鹿にしてんのか??殺すぞ???

 

 

 

176:名無しのオタク

 >>172ローブを着た美少女……ゴクリ

 

 

 

177:名無しのオタク

 一人ぶちキレてる奴いて草

 

 

 

178:名無しのオタク

 ここロリコンしかいねぇのな

 

 

 

179:名無しのオタク

 そんなてめぇらの前を現地で見た俺が通りますよ、と

 

 

 

180:名無しのオタク

 >>179貴様のようなのをまっていた

 

 

 

181:名無しのオタク

 >>179アイスティーしかないけど良いかな?

 

 

 

182:名無しのオタク

 サッー!(迫真)

 

 

 

183:名無しのオタク

 いつのネタだよw

 

 

 

184:名無しのオタク

 20年位前のじゃね?真夏のなんちゅら

 最近見たわ

 

 

 

185:名無しのオタク

 なん……だとッ……?

 

 

 

186:名無しのオタク

 世代バレしてて草

 

 

 

187:名無しのオタク

 俺の学生時代は一般常識だったのに……

 

 

 

188:名無しのオタク

 どんな常識だよ

 

 

 

189:名無しのオタク

 因みに《真夏の夜》は男の同性愛AVやで

 

 

 

190:名無しのオタク

 つまり>>184は……?

 

 

 

191:名無しのオタク

 ッス_____………

 

 

 

192:名無しのオタク

 こいつはたまげたなぁ………ちょっとリアルで会わね?てかLINEやってる??

 

 

 

193:名無しのオタク

 >>192やめないか!

 話戻すで、俺が買い物してたらオフのプレゼントマイク見つけたンよ。マスクしてたけどグラサンと金髪が特徴過ぎてわかりやすかったわ。

 んでテンションあがって動画撮ってたら急に走り出して160あるか無いか位の女の子に話しかけてて挙動不審になってて、女の子が「お前は……マイクか……?」ってわりと大きな声で言ったら回りが気づいたみたいで人だかりが出来たんや。

 そしたら女の子がスゲー嫌そうな顔したと思ったら背中から羽がニュって出てきて飛んだらプレゼントマイクがしがみついて叫びながら消えてった。

 女の子はローブっていうか灰色のコート着てて、灰髪灰色目の美少女だった。

 

 

194:名無しのオタク

 >>193詳しすぎて逆にきしょい

 

 

 

195:名無しのオタク

 てか灰色オオスギィ!!

 灰色好きなんかな

 

 

 

196:名無しのオタク

 >>194>>195そこじゃねぇ、他にも情報あるだろ

 

 

 

197:名無しのオタク

 美少女にしがみついてついてったプレマイはロリコンってこと?

 

 

 

198:名無しのオタク

 >>197ちげぇw

 

 

 

199:名無しのオタク

 美少女が羽生やしたとか映らねぇとか飛んでったとかあるだろうが!!

 

 

 

200:名無しのオタク

 ……!

 

 

 

201:名無しのオタク

 ……!!

 

 

 

202:名無しのオタク

 …………(?_?)

 

 

 

203:名無しのオタク

 駄目だこいつら

 

 

 

204:名無しのオタク

 美少女……映らない……飛ぶ……閃いた!!

 

 

 

205:名無しのオタク

 >>204おうさっさと言え

 

 

 

206:名無しのオタク

 美少女の個性はズバリ!

 ヴァンパイアだ!!

 

 

 

 

 



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9話

お久しぶりです。生活が忙しかったり、パニックがあったりと色々な事があって投稿できませんでした。ごめんなさい。



 設定ありすぎと思うけど、吸血鬼がいるんだから他もあったっていいよね?


 「それで、この八年間何をしていたのか詳しく聞かせて貰いたいのだけど?」

 

 とあるビルの一室で、アルシェリーナともう一人が対談していた。

 

 「はぁ……どうせ、聞かなくても検討はついてるだろうに…」

 「勿論、そのくらいは出来ているけどそれとこれは別よ。詳しく詳細を言いなさい。でなければ公安は今後、貴女への協力の一切を断らせて貰うわ」

 

 公安委員長___樹下がそう言いきり、アルシェリーナを睨んだ。

 その視線と合わせるように部屋にいたもう一人、目良善見が今にも死にそうな掠れた声で懇願してきた。

 

 「わ、私からもお願いしますヴィオラさん……これが……これが終われば8日ぶりに帰れるんです……手短に、詳しく早く…お願いします…!!!

 

 「よ、8日………というかお前、善見(よくみる)……だよな…?」

 

 寝不足なのか、充血に加えてやつれながら隈を作っている善見に若干気圧される。

 善見とアルシェリーナはアルシェリーナが失踪する直前まで主に公安からアルシェリーナへのパイプを勤めていたため、それなりの付き合いはあった。

 アルシェリーナから見れば久しぶりに会った知人が過労死まっしぐらとなっていることに不快感を感じた。

 

 「……詳しく簡潔に、ね。わかったよ善見。樹下、もう一つ情報をあげる代わりに善見に暫く休みをやって欲しい」

 「…………良いでしょう。ただし、情報は2つです」

 「チッ……ゴホン、良いだろう。けれど二つ目に関してはあまり期待はしないほうが良い。ではまずこの八年間、バチカンに居たよ」

 

 そう伝えると樹下は疑うような目線を寄越してきた。

 善見はカタカタとただただ発せられた言葉を記録する機械のようになっていた。

 

 「バチカンには、古くからある教団があるんだ。ざっと400年程のね。そこでは()()()()()()という行為が続けられていた。集められた奇跡はロンギヌスの槍同様に()()()として保管される。

 

 君たちも知っての通り、奇跡を起こす存在は個性がこの世界に誕生する前は主に魔女や吸血鬼が起こすものだった。けど、個性が誕生したことで、超常は日常へ、奇跡は当然となった。

 

 教団は奇跡を集める上で、()()()()()()()()()()()()()()、つまり個性や偽物による奇跡では駄目なんだ。例にすると…………」

 

 アルシェリーナは自らの血液で近くにあった紙に陣を書き込み、紙を空中に浮遊させ、それを樹下へ押して進ませた。

 

 「別に紙じゃなくとも、箱だろうが鉄だろうがなんでもいい。浮遊した、ということが奇跡なんだ。けれど、今では珍しくはあっても、奇跡だとは思わないだろう?」

 「えぇ、そういった個性は多くあるし、科学技術でも可能ね」

 「そう、多くある…あってしまったんだ。それを、その個性を持つ者を奇跡を汚す者として粛正した。これがイタリアの()()()()()()()()の真実だ」

 

 あぁ、これが二つの内一つの情報だ。と言うと樹下は深くため息を吐き、軽く悪態をついた。

 

 「個性による世界の大事件の一つの真実も吸血鬼絡みとは……貴女達は一体……」

 「超常黎明期以前の伝説や伝承なんてものそんなものだ。話を続けるよ。黎明期個性大迫害の後、元より粛正派と反粛正派がいたことによって、事態は終息された。その後は奇跡調査を徹底することで今でも奇跡集めを続けているよ。

 

 さて、本題に入ろうか。私がバチカンにいた、いなければいけなかった理由は____悪魔だ」

 「………もう、驚かないわよ」

 

 アルシェリーナが言い放ってから間をあけた後に樹下は眉間を押さえながら俯いた。

 善見は声に出さなかったが、ヴィオラさんも疲れてるのではないかと疑っていた。

 

 「む、事実だよ。その証拠に私が失踪した日に私の腕やら臓物が散らばっていただろう?あの時は不意を突かれてしまって、追い返すのがやっとだった。そして回復している間に同胞が事態を教えてくれてバチカンに向かい悪魔を再封印して今に至る」

 

 

 以上だ。と付け加えるとアルシェリーナはソファーに座り、すっかり冷えてしまった紅茶に口を付けた。

 樹下がアルシェリーナの同胞、吸血鬼について聞き出そうとするがアルシェリーナはそれをきっぱりと断った。

 

 「私以外の同胞を利用できると思わないことだ。失礼させて貰うよ_____あぁ、二つ目の情報だけど、バチカンの聖遺物がいくつか奪われ、教団が総力をあげて捜索中しているらしい。で?どうせ、質問くらいはあるだろうからいくつかは答えよう。この後も予定があるんだ」

 

 懐中時計を樹下が見えるようにトントンと叩いて急かすと睨まれるが動じずに残りの紅茶を飲み干した。

 

 「…………悪魔の再封印、と言ったわね?なぜ殺さなかったの?不意ついたとはいえ貴女を瀕死に追い込む程の脅威なら排除するべきだと思うのだけれど?」

 「単純な話、悪魔に死という概念が無いんだ。だから封印するしか無い」

 「それ程の存在の封印が何故解けたの?」

 「さぁね?封印は年月が過ぎれば解れてしまうモノもあるから一概には言えないけれど、どうせ欲や好奇心に負けた人間が関わってるんじゃないかな?____ん、時間だね」

 

 開いていた懐中時計をパチンッと閉じてソファーから腰を上げる。

 しかし樹下はまだ聞きたいことがあるのか、不満げな目でアルシェリーナを見ていた。

 

 「しつこいよ。予定があると言っただろう?文明の利器を使えよ人間?何のための道具だ」

 「ッ!わ、わかったわ」

 

 普段は灰色の筈の目が赤く光り、その眼光が突き刺された樹下は全身が凍りつくような感覚に包まれた。

 その様子を見てアルシェリーナは鼻で笑うと、おもむろに懐から小さな箱を取り出し、善見に放り投げた。

 

 「えッ!?おッとっと……こ、これは…?」

 「なに、別に危険なものではないよ。ドリームキャッチャー……まぁ安眠のお守りみたいな物だよ。しっかり休むといい」

 「は、はぁ……あッ!ありがとうございます!」

 

 箱から取り出して観察していた善見は霧になって消えていくアルシェリーナにあわててお礼を言うと手をヒラヒラと振られ、そのまま消えるのを見送った。

 

 

 

 

 

 

 



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