ナルトが綱手に引き取られる話 (tanaka)
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ナルトが綱手に引き取られる話

ナルトは幼少期より迫害を受けていた。

町を歩けば殺意と憎悪の目で見られ、集団リンチは当たり前。食事に毒を盛られることも多々あった。

そんなナルトの人生に転機が訪れたのは七歳の時だ。

気まぐれに里に帰ってきた綱手がナルトの境遇を知り、半ば強引に身柄を引き取ったのである。

無論大切な人柱力。里から出すことに反対意見もかなり出たが、綱手が押切り、三代目が不満を無視して許可を出した。

「許可するだと?ヒルゼン、本気でいってるのか?」

眉を潜めてヒルゼンを睨むダンゾウ。

「無論、本気じゃ。」

ヒルゼンも力強く答える。

「正気ではないな。人柱力を里の外に出すなど、どうぞ連れ去ってくれと言ってるようなものだ!人柱力を失うことがどれ程里に影響をもたらすか分かっているのか!」

「綱手が護衛として側にいるのだ。この里にいるより安全かもしれん。ついこの間も毒殺されかけたと聞いたしの。」

「うずまきの血を引き、しかも九尾の回復力もある。そう簡単に死にはしないわ!ーーーーそれに幾ら三忍と言っても綱手は血液恐怖症。戦闘で役には立たん!」

「それを知っているのは木の葉でもごく一部の者だけじゃ。他里の者なら三忍と言うネームバリューだけでも十分な抑止力になる。それに綱手の側仕えはカカシ並みに腕が立つらしいしの。」

ダンゾウの言撃をのらりくらりとかわすヒルゼン。

何を言っても無駄だと判断し、綱手を睨み付ける。

「今のお前にナルトを守れるのか?」

敢えて九尾ではなく、ナルトと呼ぶのがダンゾウの厭らしい所である。

綱手は当たり前だとダンゾウを睨み返した。

その返答にダンゾウはにやりと笑う。

「ほう?では、その覚悟とやらを見せてもらおうか。」

ダンゾウは自分の手をクナイで切りつける。

右手から血がポタポタと流れ出た。

「戦闘が出来ずとも、戦う素振りぐらいは出来てくれれば儂も安心できるのだがな。」

出来るはずがないと確信しながら、反撃の契機とすべく言葉を紡ぐ。

ダンゾウは意思の力などと言うあやふやなものは信じない。

常に合理的に考えてきたからこそ、血液恐怖症の綱手には何も出来ないと高を括った。

だからこそ、綱手の覚悟を読み違えた。綱手にとってナルトは只の他人ではない。ただ憐れんで引き取るなどと言い出したわけではない。綱手にとってナルトは特別な存在だった。容姿は自分の弟の生まれ変わりと思えるくらい良く似ており、夢を語る姿は最も大切だった二人を想起させる。

綱手の体は震えていた。しかし、今までのように体の奥が冷え込むような感覚はない。燃えるような憤怒が体に力を与えてくれる。

「そんなに見たいならーーーー!」

綱手は目の前のいけ好かないジジイをぶっ飛ばすべく、足に力を入れる。

「見せてやるよ!」

瞬身の術でダンゾウの前にまで移動し、拳にチャクラを集め、振り抜いた。

振り抜かれた拳は見事にダンゾウの顔面に直撃し、ダンゾウの体は宙を舞う。

「ぐへぼえ!」

「これで文句はないだろ!」

家材を破壊しながら崩れ落ちるダンゾウ。

ヒルゼンはそれを見た後、何事もなかったかのように締め括った。

「うむ、良い覚悟じゃった。では、暫くは綱手に預けるとする。ただし、アカデミーの卒業試験までには里に連れて帰ってくるのが条件じゃ。」

 



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ナルト、影分身を覚える(7歳)

 

里を出てから一ヶ月。

ナルト達三人は、綱手の賭博への浪費で金欠が続くのと、借金取りから逃げるために、各地の安宿を転々としていた。お陰で逃げ足と、逃走スキルだけは順調に伸びていくナルト。まったく望んだ結果ではないし、異常な状況ではあるが、慣れとは恐ろしいものである。こんな逃避生活がいつしか普通に感じるようになっていた。

そして、今日も綱手は街に着くなり金を借り、その金でパチンコ店に入り、何時ものように大すりしているところである。

恐ろしい勢いで減っていくパチンコ玉、それに反して増えることは一度もない。

その見慣れた光景に溜め息を吐くシズネとナルト。

「次だ!これだけ負けたんだ!次は絶対にくるはずだ!ええい!止めるなシズネ!」

「綱手様!ナルト君も見てるんですよ!賭け事は控えてくださいと何度も!それとその言葉既に五回目です!」

二人の何時ものやり取りを聞き流しながら、ナルトは暇だったので綱手のパチンコ玉から一つをこっそり取り、試しに適当なパチンコ台に玉を入れた。

 

キュンキュインキュキュキュキュキュイーン!

 

パチンコの事など良く知らないが、玉を入れたら物凄い量の玉が出てきた。

パチンコ台の前で唖然とするナルト。

音を聞き付けて、シズネと綱手がやってくる。

そして、興奮した綱手に急かされて、追加で六回チャレンジしたら、6連勝。綱手の敗けを取り返してあまりあるほどの大勝をし、懐がほくほくとなった三人は、この日珍しく高級旅館に泊まった。

 

 

 

広い部屋。ふかふかのベッド。個室の浴室付き。

夜空の見える部屋で、三人で豪勢な山菜料理を楽しんだ後、この旅館の自慢らしい風呂に入る。

 

「それじゃ、ナルト君、私達もお風呂に入りますよ。」

「分かったってばよ!温泉なんて入ったことないから楽しみだってばよ!」

「ふふふ、この旅館は温泉や浴室に特に力を入れてるみたいなので期待しててください」

 

ナルトは、シズネの言葉に更に興味をそそられ、ウキウキしながら浴室へと突入した。

 

浴室はグレートーンのタイル仕立ての広々とした空間だった。リラクシングな音楽が流れ、鏡に、ベンチカウンター(小物を置いたり、座って休憩する場所)、ヘッドシャワー、大型テレビまでもが完備されている。主役である風呂はジャグジーなピュアホワイトの円形(ラウンド)バス。その美肌効果のある風呂には、一足先に入っていた綱手がどかりと湯船に浸かっていた。

 

「ナルト君、頭を洗いますから目を瞑ってくださいね。」

「はーい。」

「まるで本当の姉妹だね。どれ、私が洗ってやろうか?」

「綱手様は昨日洗ったじゃないですか!今日は私の番です!」

ナルトを取り合い火花を散らせる二り。

その様子に苦笑いするナルト。だが、心の中は幸福な気持ちで溢れていた。今迄嫌われこそすれ望まれることなんてなかったので、こう言うときどう反応していいのか分からないだけで、ナルトは本当に幸せそうであった。

 

 

ナルトはシズネに頭を洗ってもらい、背中の洗い合いをした後、気泡を発生させる風呂に入る。人生初めてのジェットバスに興味津々である。

「おおお!泡がくすぐったいってばよ!」

「ナルト、此方に来な。」

綱手に抱き抱えられる。

背中から伝わる暖かい感覚に、ナルトは心が暖まるのを感じる。

「そういやさ、この旅館の人がかあちゃんを三忍様って呼んでる人がいたけど、かあちゃんって有名人なのか?」

「ええ、木の葉の三忍と言えば他里に名を轟かせるほどの凄腕の忍者として有名なんです。綱手様はその一人。しかも、世界一の医療忍者でもあります。」

シズネも風呂へと入ってくる。

ナルトを引き取ろうと手を伸ばしたが、綱手はナルトを自分の胸の奥へと押し付け、渡す気はないようだ。

シズネ(うう、今日は私の番なのに………。)

綱手(それは体を洗う順番だ。ナルトは誰にも渡さん!)

シズネ(いくら綱手様でもこればっかりは譲れません!ナルト君は私の弟です!)

綱手(私の息子だ!)

二人の無言の牽制にナルトは気付くことなく、軽快な声を上げる。

「なあなあ、だったらさ、俺に修行つけてくれってばよ!」

ナルトに修行をつけることに関しては、元々二人とも考えていたことだ。

ナルトが九尾の人柱力である限り、遅かれ早かれ背中に気を付けて生きていかねばならない。

ナルトが望む望まざるに関わらず修行は付けるつもりであった。

だが、今までその修行をやってこなかったのは、初めてナルトに出会った時、ナルトの体がガリガリだったからだ。

まさに骨と皮だけと言うような酷い状態で、修行に耐えられると思えなかった。

だから、綱手とシズネはまずナルトの体を健康体にすることを決める。

ここまで当ての無い旅をしていたように思えるが、その実ナルトの体に対しては色々考えが及んでいたのだ。

そして、幸いにして、この一ヶ月で大分肉付きが出てきたので、そろそろ修行を付けても良いタイミングだと、思っていた所だ。

が、その前にまずナルトの現在の実力や状況を知っておきたい。

「修行ねぇ……。ナルト、アカデミーはもう行ってるのかい?」

「もう三年通ってるってばよ。」

「じゃあ、分身の術は習ってるね。ちょっと、こっち向いて分身の術やってみな。」

「うげえ!分身の術かよ。俺その術一番苦手なんだってばよ!そんなんより、もっと凄い術教えてくれってばよ!」

「いいから、つべこべ言わずにやるったらやるんだよ!」

綱手はまず九尾の封印式を確かめておきたかったのだが、説明が面倒なのではしょった。

シズネがフォローを入れる。

「失敗しても、私達に見せれば、何か悪い癖のようなものが分かるかもしれませんよ。」

「んー、分かったってばよ。『分身の術(未 巳 寅)』」

綱手に横暴だ!と怒っていたナルトだが、シズネの話も一理あると思い直し、分身の術を行う。

ボンッとナルトの横で煙が上がり、瀕死のナルトが現れた。瀕死のナルトはそのまま湯船の中に沈み、ほどなくして消滅した。

「「「……………」」」

綱手(これは………)

シズネ(逆に凄いですね。)

ナルト(だ、だから、苦手だって言ったんだってばよ!)

ナルトはまた笑われると思い、顔を赤くして綱手とシズネを窺ったが、二人は納得したような顔をするだけだった。

「なるほどな。お前が分身の術を苦手としている理由は分かった。」

「ほ、本当かってばよ?」

「ああ。理由は主に三つ……いや、二つだ。」

九尾のチャクラについてはまだ教えなくていいかと考え、訂正する。

「まず一つ目、単純にチャクラコントロールが下手だ。」

ナルトは20のダメージを負った。

「二つ目、人よりもかなり多いチャクラを持っているため分身の術のように必要チャクラが少ない術が常人よりも会得し難い。 まあ、チャクラ量が多いってのは忍にとっては良いことなんだけどね。」

ナルトは元気になった。ナルトは単純な子供だった。

「じゃあ、まずはチャクラコントロールの修行ですか?綱手様」

「いや、影分身の術を教える。ナルトならこっちの方が簡単に出来るだろう。」

「影分身~!また、分身の術かよ。」

「いえ、影分身の術は普通の分身の術とは違い、残像ではなく、実体を作り出す高等忍術です。」

「こ、高等忍術!」

「会得難易度はBだ。」

「ビ、ビー!やる!俺それやるってばよ!どうやるんだ!?」

「良く見ておけ。」

綱手がバシャッと立ち上る。

「多重影分身の印は特殊印といって子~亥までの12種類の中に含まれない特別なものだ。 」

「特殊印?」

「ナルト、お前、アカデミーに三年も通ってるんだよな?」

「い、いや、もちろん覚えてるってばよ!特殊印だろ!特殊印!特殊印ね!特殊印は特殊な印なんだってばよ!」

「………まあ、忍術の基礎については後でシズネに教えてもらえ。今回教える影分身の印はそう難しい物ではない。単に右手の指と左手の指で十字を作ればいいだけだ。こんな風にな。『影分身の術』。」

綱手がもう一人現れる。

二人の綱手がナルトの頭を撫でる。

「さっきシズネが言ったように影分身は実体を持った分身だ。攻撃も出来るし、更には術を使うことも出来る。ちなみに、『多重影分身の術』と言う影分身を沢山出す術も印は同じだ。この術のポイントはチャクラを均等に分けると言うところにある。それが、他の分身系の術と最も大きく違う点だ。必要となるチャクラ量が多いと言うデメリットはあるが、木遁分身を除けば最も本体の戦闘力に近い分身を作り出せる分身術だ。さらに、分身が消えたとき、残ったチャクラの還元と同時に経験も本体に還元される。」

ナルトの頭にはクエスチョンマークが何個も浮かび、プスプスと煙が出始める。考えすぎで頭がこんがらがってきた。難しい言葉が多すぎだってばよ、かあちゃんは!

「まあ、実践の方が性に合ってるだろう。チャクラを均等に分けるイメージで分身を作り出してみろ。」

「おす!影分身の術(十)!!」

シーン

綱手とシズネによるアドバイス

「影分身の術(十)!!」

シーン

綱手とシズネによるアドバイス

「影分身の術(十)!!」

シーン

綱手とシズネによるアドバイス

「影分身の術(十)!!」

シーン

綱手とシズネによるアドバイス

「ま、今すぐ覚える必要はない。ゆっくり頑張ればいいさ。」

「そうですよ。ナルト君。一応、高等忍術ですからね。」

「いやいやいや、後少しで出来そうなんだってばよ!見ててくれってばよ!ハアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

初めてじいちゃん以外に出来た信頼の出来る相手。二人に認めて貰いたい。誉めて貰いたい。

そんなナルトの想いが邪魔する九尾のチャクラを振り切り、限界を突破する。

 

『影分身の術(十)!!』

 

ついに、術は成功した。

しかし、少々ナルトは力を入れすぎてしまった。

数体出せば良いのだが、ハリキリ過ぎていたため、現れたのは百人近いナルト。

「「「!!!」」」

まさか、こんなに現れると思ってなかった綱手とシズネ(とナルト)はビックリである。

浴室が広いので安心しきっていたが、流石に百人入ることを想定した広さまではなかった。

大量に現れたナルトにぎゅうぎゅうに押し潰される三人。

「むぐうう!!ナルト!今すぐ影分身を解け!」

「と、とととと解くってどうやるんだってばよ!」

「ナルト君!落ち着いてください。分身が解こうと思えば解けます!」

声が聞こえた分身が一斉に解除を願う。

何故か術が解けない、なんてことはなく、すぐに術は解け、後にはくたくたになった三人がいた。

 

 

「分身の術を使う時は開けたところでやろう。」

「そうですね。」

「ビックリしたってばよ。」

 



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ナルト、自来也に会う(八歳)

 

シズネside

今日も朝湯を浴びに行こうと、朝早くから修行に励んでいたナルト君を誘い、温泉に向かうと、入ろうとしていた女湯の壁に張り付き、堂々と覗きをする見知った男がいた。緑の和服の上に袖無しの赤いはっぴを着た白髪巨躯のその知人は、壁木の隙間に目を押し当て、カメラを片手に鼻息荒く感想を述べている。

 

「ええのぉ!ええのぉ!」

 

「違ぁう!こっちだぁ!もっとこっちを向けぇ!」

 

「タオルを外せてのォ!」

 

そこそこ大きい声量で、しかし、湯の中にいる温泉客には聞こえないくらいの絶妙な声量で、声を上げる三忍・自来也。

道行く人々の視線はたいへん厳しい。絶対零度の視線と言う奴だ。

しかも、今の時刻は早朝。日が登り始めたばかりである。

 

(朝っぱらから何をやってるんですか?!)

 

シズネの心は道を通った全ての者の心と一致した。

 

 

 

ナルトside 影分身は修行チート

ナルトが里を出てから一年が経った。その間、各地を放浪としながら、せっせと修行に励んでいる。

大抵は本体が肉体作りをし、影分身にチャクラコントロールや忍術の修行を任せている。

今は口寄せの術を練習してる所である。

 

「口寄せの術!」

 

ボンッ!と煙が上がり、出てきたのは大型犬くらいのカツユである。これでも大きくなった方だがナルトが目指してるサイズはこんなものではない。

 

『ナルト様、朝から精が出ますね』

「朝からすまねえってばよ、カツユ」

『いえいえ、お気になさらず。ナルト様の修行を見るのは楽しいですから』

「そうかぁ?」

『人の成長を見るのは楽しいものですよ。日毎に強くなっていくナルト様は見ごたえがあります』

「でも、口寄せの術は停滞ぎみだってばよ」

 

ーーーガサゴソ

 

草を掻き分ける音が響く。

音がした方を向くと、シズネがいた。普段着ている鎖帷子は着けておらず、寝起き仕様のラフな格好である。

 

『シズネ様』

「あ、姉ちゃんどうしたんだってば?」

「今から温泉に行こうと思ったんですがナルト君もどうですか?」

「行くってばよ!カツユも行くってば?」

『同伴可能ならご同伴しましょう』

 

口寄せの術で、呼び出せる対象の強さや大きさには上限がある。それを決めるのは術者の実力、術の精度、込めるチャクラの量の三つ。ナルトはチャクラ量は問題ないが、実力と精度はまだまだ。

そんな話を道すがらシズネやカツユとしながら、温泉に向かう。

 

しばらく歩いていると、ナルトはシズネの様子がおかしくなったことに気付く。

シズネはある一点を凝視していた。いや、シズネだけでなく、他の道行く人もその方向を見ている。

不思議に思い、その視線を辿ると、風呂を覗いている巻物を腰に背負った老人が見えた。

再びシズネの方を見る。シズネは何か言おうとして口を開きかけるが、何も言わずに口を閉ざすを繰り返している。

何を躊躇っているのか分からないが、此処は俺の出番だとナルトは思った。

ナルトは気配を消し、自来也の後ろまでやって来ると、両手を合わせて、ピストルの形を作り、指にチャクラを溜める。

 

「天誅!!」

 

自来也は腐っても三忍の一人である。いくら油断してたとは言えナルトごとき子供の攻撃は当たらない。しかし、ちょうどその時自来也の目前に裸の美女が横切った。うちは一族を思わせる黒い長髪とクールな顔立ち。豊麗に成熟した身体は大人の色香を放ち、同性すらも魅了するだろう。さらに、その魅惑的なボディをタオルや手で一切隠すことなく堂々と晒し、目前を通りすぎる姿に、自来也の意識が一瞬で女に釘付けになったのは仕方のないことだった。

そして、ナルトの攻撃に殺気が無かったのも幸いし、自来也にとっては不幸にも、カンチョーの餌食になったのである。

 

「##%%£×℃#%££♀′℃%」

 

老人の言葉にならない悲鳴が響く。そのまま老人は壁木を盛大に壊しながら、女湯にダイブした。

 

「のおおおお!儂のケツが!ケツが!誰だ?こんな無茶苦茶しおった奴は!?」

「「「キャアアアァァァ!!!」」」

 

自来也は直ぐ様湯から立ちあがり怒り心頭と言う風に声を張り上げるが、直後、悲鳴と共に、湯桶や石鹸、シャンプーなどが投げつけられ、堪らず防戦に入る。

 

「痛ッ!痛ッ!痛ッ!痛いっての!?止め!止めんか!事故!事故だっての!」

カメラを片手に言っても説得力はない。

「「「イヤァアアアアァァァ!!!」」」

「ちょ、止め!痛い!痛いから!」

 

湯気が立つ温泉の中で、腕やタオルで体を隠した女性が老人を囲み、ボコボコにしている。

蹴る、投げる、蹴る、投げる、蹴る、投げる。

反撃するわけにもいかず防御に徹する自来也だが、ふと顔を上げると、ヒットマンのように手の銃口に息を吹き付け、やたら発音の良い声で「命中!」と言っているナルトの姿が見える。自来也は、全てを悟り、カッと眉を吊り上げた。

 

「おまえか!こんな無茶苦茶しおったのは?!」

 

当然の怒りである。

 

「うるさい!天誅だってばよ!朝っぱらから覗きをしてたエロジジイにはお仕置きが必要なんだってばよ!」

「覗きじゃない!取材だ取材!」

何時ものようにお決まりの言い訳をする自来也だが、それに烈火のごとく怒っていた者達に更に油を注ぐ結果となった。

 

「な、何が取材よ!?まったく懲りてないじゃない!」

「やっぱ只の覗き魔だったのね!」

「何が事故よ!ちょっと信じちゃったじゃない!」

「憲兵を呼びなさい!」

 

流石に憲兵を呼ばれるのは勘弁な自来也は顔を青くさせ、ナルトを睨む。

 

「と、とにかくじゃ!こんな場所で話すのもなんじゃ!続きは違う場所でじっくりしてやるからのォ!?」

 

そう言うと、自来也は壊した壁を土遁・土流壁で塞ぎ、ナルトを脇に抱え、とんでもないスピードで何処かへ消えた。

シズネは数秒アワアワとした後、急いで綱手を呼びに行った。

 



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ナルト、自来也に会う(八歳)②

 

自来也はナルトを見てすぐにナルトが四代目火影の遺児であるとほぼ確信していた。

 

クシナと同じ特徴的なしゃべり方、頬にある三本髭、ミナトと同じ金髪碧眼。他人の空似の可能性もあるが、ここまで揃ってるなら疑わないほうがおかしい。加えて少年の肩に乗ったカツユらしき蛞蝓。ナルトが綱手と行動を共にしていることは知っていたので、確信を持つには十分な要素だった。

そして、もしこの少年がナルトならこのまま放置することは出来ない。

「放せー!」と騒ぐナルトを脇に抱えて走りながら、自来也は油断なく辺りを観察する。

(やはり視線を感じるのお)

温泉でナルトに近づいたとき一瞬感じた違和感は間違いではなかったと改めて確信し、速度を上げる。だが、視線の主は尚も付かず離れず付いてくる。

(結構早く走っとるんじゃが中々やるのお。ま、ワシには遠く及ばんがのぉ)

自来也は公園の広場で足を止め、ナルトを下ろす。此処ならば戦闘になっても周りに被害を出さずに片付けられるだろう。しかし、自来也の予想に反して視線の主は仕掛けてくることはなかった。ただ黙って視線を向けてくるだけである。気配の消し方も上手い。尤も場所の特定は出来ているのでこっちから出向いてやってもいいんだが、綱手やシズネが来てからでも遅くないかと思い、情報収集のためナルトの肩に乗る見知った蛞蝓に声を掛ける。

「お前、もしかしてカツユか?」

「はい。お久しぶりです、自来也様」

ペコリと頭を下げるカツユ。自来也はやはりなと思いつつ「おう、久しぶりじゃのう」と軽く手を上げて答える。当然のように親しげに挨拶を交わす二人だが、隣で聞いていたナルトは寝耳に水。目を剥くほど驚いた。

「え?カツユ、このオープンスケベと知り合いなのかってばよ?」

「ええ、ナルト様。この方は自来也様と言って綱手様の御同輩に当たる方です。木の葉の三忍の一人でもあります」

「三忍?てことは、スゲー忍者なのかってば?」

「まあのォ」

(見えねーってばよ)

自来也の肯定にナルトは内心かなり失礼な感想を述べた。声に出さなかったのはナルトなりの配慮である。もっとも心情を隠す術など未だ持たないナルトの表情は大変胡散臭いものを見たぞというような半眼であり、何を考えているのかは一目瞭然であったが。

「お前今すげー失礼なこと考えとるじゃろ」

「な、何で分かったんだってば!?エスパーかってばよ?」

「あんだけ分かりやすけりゃワシじゃなくても気付くわ!たく!さっきといい、今といい、年上に対する敬意ってもんが足りんのお」

尊敬されたいなら尊敬できる行動を取ってくれと三代目がいたら切に願うだろうが、幸いにして三代目はいなかった。カツユもナルトもそれについて深く言及することは無かった。カツユは優しさから、ナルトは他のことに気をとられていたからだ。

ナルトが考えていたのはやはりというか自来也の知っている忍術である。自来也がカツユの言うほど凄い忍なのかは未だに疑っているナルトだが、自分より知識を持ってるのは確かだろう。

修行バカのナルトにとって新術を教えてくれるならエロジジイでも変態オカマでも問題ない。

「なあなあ、オープンスケベのじいちゃん!俺に何かスゲー術教えてくれってばよ!」

「その呼び方は止めろっての!」

「じゃあ、何て呼べばいいんだってば?」

「ガマ仙人様とでも呼べい」

「分かった!じゃあ、ガマ仙人!俺に何かスゲー術教えてくれってばよ!」

「断る!なーんでワシがそんな面倒なことせにゃならんのだ」

「えー、いいじゃねえか!減るもんじゃないし」

「ワシは忙しいんだっての!ガキに構ってる暇はねえの!」

朝から覗きをしていた男の台詞ではない。ナルトもカツユも全く同じことを思った。しかし、自来也が忙しいと言うのは実は嘘偽りではない。この街に来たのも覗きをするためではなく大蛇丸を追ってである。正確にはこの街から馬車で数日程の距離にある川の国と言う小国に大蛇丸がいるという情報を掴み、その旅路の途中で寝床を求めてこの宿場町に立ち寄ったのだ。

まあ、ナルトは自来也の事情など知るはずもなく、当然納得出来るわけもなく、何とか説得しようと考える。考えて、考えて、考えて、考え抜いて、普段あまり使わない脳細胞をフル稼働させた結果、ナルトはすごく余計なことを思い付いてしまった。それを思い付いたときは、「俺ってばやっぱ天才だってばよ!」と内心自分を絶賛するくらい素晴らしい案のように思えたのだが、後々振り替えると全く余計なことを思い付いたと反省するばかりである。

が、この時はナルトの間違えを止めるものはおらず、またナルトに未来視の力は無かった。ナルトは自信満々に担架を切る。

「ニシシシ!良いこと思い付いたってばよ!こうなったら奥の手を使ってやるってばよ!」

「奥の手?」

「そうだってばよ!つい今さっき考え付いた俺のオリジナル最新忍術だってばよ!」

「ほほう!オリジナル忍術とは大きく出たのお!だが、侮ってもらっては困るのう!くさっても男自来也青臭いガキなんぞに遅れはとらんぞ!」

「はっ!カンチョーで吹き飛んだ奴が何言っても怖くねえーってばよ!」

「ほ、ほほう!」

自来也の額に青筋が浮かぶ。と、同時に先程受けたカンチョーの痛みが再び戻ってきたような錯覚を受けた。

「そう言えばさっきの礼をまだしてなかったのう!丁度良い!ここらで一つお灸を据えてやるとするか!ワシがどれだけ痛かったのか身を持って味わわせてくれる!もとい、子供を叱ってやるのも大人の仕事じゃ!」

「ふん!そういう言葉はこれを見てからだってばよ!───くらえ!お色気の術」

ボンと言う音と共にナルトの姿が変わった。

現れたのは二十代半ば程の黒髪の美女だ。肩口まで伸びた短髪に黒曜石のような美しい瞳。メリハリのついた瑞瑞しい白磁の裸体は殺風景な公園にあることで、犯罪じみた魅惑を放っている。

さらに、何時も綱手やシズネの裸を間近で見ていたため、ナルトのお色気の術は正史のお色気の術を越えていた。胸の形や腰の括れ、鼠径部の線や脇のしわ、尻部の曲線など細部までリアルを限りなく模写しており、そのナルトの姿に自来也は一瞬で撃ち抜かれる。

「おっほー!お色気の術とな!何と言う発想か!お前は天才だのー!」

鼻血を流しながら頻りにナルトを称賛する自来也に、白けた目を向けるナルト。正史ではこの流れで修行を付けてもらえることになるのだが、今回はイレギュラーがあった。それは綱手とシズネが近くにいたということである。

そして、興奮し、両手をワキワキさせる自来也の前に二人の女忍が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おう!久しぶりじゃのう綱d──「自来也!ナルトに何変な術教えてるんだい!」」

「ま、待て何か勘違──ゴホッ!」

 

自来也は綱手にお説教(物理)を受けた。

一方のナルトは───

 

 

「ナルト君、なんで私の姿に変化してるんですか?しかも裸で?」ゴゴゴゴゴ!!

「ひい!シズネ姉ちゃん、こ、これは違うんだってばよ!」

「今回ばかりはお仕置きが必要ですね」ゴゴゴゴゴ!!

 

シズネにこってり絞られるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話 ダンゾウ

 

「コテツ、雷花」

 

木の葉の地下にある根のアジト。

ダンゾウが二人の暗部の名前を呼ぶ。

すると、暗闇の中から猫の面をつけた茶髪の暗部と忍刀を背負った黒髪の暗部が現れ、ダンゾウの眼前で膝をつく。

 

「「ここに」」

「つい先程、綱手姫が九尾の人柱力を連れて旅に出た。五年は戻らんらしい。」

「「!!」」

「そこでだ、里に戻るまでの約五年間、人柱力の護衛の任務をお前達に命じる。」

「御意。しかし、相手があの三忍の綱手様となると、かなり距離を取らねば気取られると思いますが?」

しかし、距離を取れば当然護衛に支障をきたす。どうするべきか………。

ダンゾウはその不安を一蹴する。

「気取られて構わん。どんな状況でも助け出せる距離を保て。そして、もし万が一救助が困難だと判断したら、その時は抹殺を許可する。敵の手に落ちることだけは必ず阻止しろ!」

「「ハッ!」」

 

二人が出ていったのを確認して、ダンゾウは思案する。

九尾の人柱力については憂慮すべき案件だが、そればかりに囚われているわけにはいかない。

大国故に大小様々な問題がいくつもある。

特に最近はうちはの動きがキナ臭くなってきた。

どうするべきか?

うちはは強大な戦力ではあるが、同時に里に対する危険因子でもある。

故に、いざとなれば滅ぼすのも止むなしと考えていたが、人柱力が死ぬ可能性が出てきた以上、うちはの戦力を無くすのは惜しい。

が、簡単に首輪を受け入れるような奴等でもない。

あの一族は異常にプライドと一族愛が強い一族だからな。

それに、七年前の九尾事件。あれは、儂の勘が正しければ万華鏡を開眼したうちはの者が暗躍している。

いくら出産時九尾の封印が弱まるとはいえ、仮にも四代目火影であったミナトが側にいたのだ。簡単に九尾が外に出るのを許すわけがない。

それにも関わらず九尾が外に出たと言うことは、何かがあったと言うことの証左。それがうちはなのか、はたまた別の何かなのかは定かではないが、最も可能性が高いのがうちはであることに違いはない。

「…………一つ手を打っておくか」

ダンゾウは暗闇の中で一人呟き、ヒルゼンに会うべく足を進めた。

 



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ナルト、自来也に会う(8歳)③

 

「いやー、すまんすまん。てっきり私はお前が要らんこと吹き込んだのかと思ってたよ。まさかナルトのオリジナル忍術だったとはね。それならそうと早く言ってくれればいいのに」

 

自来也から事情を聞いた綱手は右手を縦に立てて謝罪する。自来也の頭は見事に瘤が出来ており、実に痛そうだ。

三段瘤を作った自来也は左手で後頭部を擦りつつ、涙目になりながらジト目で綱手を睨む。

 

「弁明する暇もなく叩いたのはお前だろうに!まったく!ケツの傷も癒えぬ内に!今日はとんだ厄日だっての!」

「ケツ?」

「い、いや、何でもない。こっちの話だ」

 

怒りで余計なことを口走ってしまった自来也は慌てて誤魔化した。

さすがに覗きをしてたらナルトにカンチョーされて女湯にダイブして憲兵を呼ばれそうになって逃げたなんてことを綱手に話そうとは思わなかった。かつて綱手の湯浴びを覗いて死にかけた経験のある自来也には、覗きがバレるのは生きた心地がしない恐怖である。シズネもナルトもどうか綱手には言わないでくれよと心の中で願いつつ、話を変える。

 

「ところで綱手、ナルトに向けられる視線には気付いているのか?」

 

真剣な表情を作る自来也に、綱手は心底めんどくさいという顔をする。

 

「ああ、知ってるよ。木の葉の暗部だ。護衛が私らだけじゃ不安なんだとさ。もう一年近く付きまとわれてる。朝も夜も熱心なことだよ」

「なるほど、暗部だったか。道理で優秀なはずだ。もっともお前が護衛に付いてるなら必要ないと思うがの」

「ダンゾウは完璧主義者だからね。大方、私の血液恐怖症が本当に治ったのか疑ってるんだろうさ」

「なるほどのお。ま、最悪を想定するのは忍としては正しい行動だな」

「ふん。」

 

綱手は不快気に鼻を鳴らした。

しかし、自来也の言葉の正しさも理解しているので否定はしないし、監視についても黙認している。今までも、これからも……。もっとも不快であることに変わりはないので、敢えて肯定もしないが。

 

「まあ、それはいいとして、あんたは何でこんなとこにいるんだい?やっぱ大蛇丸関連かい?」

 

綱手には自来也に会った時からそれが一番気になっていた。自来也が大蛇丸をずっと追っていたことを綱手はよく知っていたからだ。

自分一人旅だったら特に気にすることも無かったのだが、今はナルトが一緒にいる。あの変態が近くにいると思うとおちおち休むことも出来ない。てか、もしナルトに近づいたら殺してやる!

 

「お前の予想通りだ。奴は今川の国にいるらしい」

「結構近いな」

「うむ、だから、近づかないことを勧める」

「言われなくても近づかないさ。お前はどうするんだ?」

「────」

自来也は曖昧な笑みを浮かべるだけだったが、それだけで十分だった。

「気をつけろよ」

 

 

さて、綱手と自来也がわりと真面目な話をしている横で、ナルトはシズネに怒られて正座をしていた。さらに、その途中で、自来也達の会話からお色気の術の考案者がナルトとバレて、肩身は狭くなる一方である。

 

「良いですか!もう二度とあのいかがわしい術は使っちゃダメですからね!特に外では!」

「わ、分かったってばよ」

 

屋内ならいいのかとは流石に聞けないナルトだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自来也は忙しいが、今日の夕飯は一緒に食べることになり、それまでの時間ナルトは河原で修行を、自来也と綱手は木の太い枝に腰掛けて上からその様子を眺めていた。自来也は新作のエロ本を読みながら、綱手は酒を飲みながらの観戦である。つまり、今日の修行の先生はシズネだった。

 

 

 

 

「今回の修行は川の上での組手です」

 

シズネの言葉にナルトは大量のクエスチョンマークを出す。

 

「川の上??何でわざわざ?」

「忍ならば如何なる状況にも適応しなければなりません。水上戦もその一つ。───とは言え、この『水上組手の行』の目的は別にあります。簡単に言えば『水上歩行の行』の進化版。つまり、スタミナの持続と瞬時の精密なチャクラコントロールを磨くための修行です。目標は10分以上一度も川に落ちずに戦うこと。ちなみに、川に落ちたら失敗の印として体に落書きをします」

「うえええ!」

 

シズネはポーチから極太の油性マジックを出し、ナルトに見せつけた後、ナルトの驚愕をするりと流し、構えをとった。

 

「では、始めます。構えてください」

 

こうして始まった組手だが、内容はいささか一方的なものになった。

 

 

「───!隙アリですよ、ナルト君!」

「うわっと!」

 

シズネの掌底で吹き飛んだナルトは背中から川の中に落ちる。これで本日8回目。ナルトは既に全身水浸しである。

 

「あー!水に濡れて服が重いってばよ!」

 

ナルトはジャージを脱ぎ捨て、短パン一丁になり、二三回跳び跳ねて身軽さをアピール。

 

「これで少しは動けるようになるってばよ!」

 

そして、気合の入った力強い目でシズネを見据え、構えをとる。

 

「さあ、もう一回だってばよ!」

「その前に罰ゲームです」

 

ナルトはパンダ目になった。

 

 

14回目

「───!また隙アリです、ナルト君!」

「うわっと!」

「罰ゲームです」

 

 

28回目

「───!またまた隙アリです!」

「うわっと!」

「罰ゲームです」

 

 

42回目

「───!さらに隙アリ!」

「うわっと!」

「罰ゲームです」

 

 

56回目

「───!今度も隙アリ!」

「うわっと!」

「罰ゲームです」

 

 

ナルトは途中から組手に勝つことではなく、シズネにも落書きをしてやるぞという稚拙な復讐心に目的が変わっていた。しかし、シズネは上忍であり、ナルトが隙を作ることなど出来るはずもない。それを証明するように70回以上にわたる組手で、シズネの体は未だ綺麗なままであり、滴一滴付いていなかった。両者の実力の差は明らかであり、様子を見ていた誰もが、たぶんこのままシズネが川に落ちることは無いだろうな、と思ったという。しかし────

 

 

 

 

70回目

「足元がお留守ですよ」

「うわっと!」

 

───バチャリ

シズネの足払いで体制を崩したナルトはチャクラコントロールが疎かになり、左足から水面に落ちていった。これ自体は何時もの事なのだが、今回は運悪く近くで修行をしていた分身体が投げたクナイがナルト目掛けて飛んできた。ナルトはクナイを視界に納めたが、態勢を崩していて避けることはできない。

 

(や、やべえってばよ!)

 

ナルトは咄嗟に身を守るように手を前に出し、直後来るだろう痛みに目を瞑ろうとした瞬間、シズネの体が消えた。

瞬身の術。

チャクラを足にため、高速で体を動かす体術である。シズネはクナイを見た次の瞬間にはこの術を使い、ナルトの眼前までやって来て、そのまま川に押し倒していた。

バシャンッ!!!とデカイ音と共に水飛沫が上がる。

直後、シズネの背の上ギリギリをクナイが通過し、ポチャリという可愛い音を立てて少し離れた川の底へと落ちた。

 

 

「「シズネ!ナルト!」」

 

自来也と綱手が木から飛び降りる。同時にシズネとナルトも川から這い出てくる。

 

「無事ですかナルト君?」

「助かったってばよ。俺は姉ちゃんが守ってくれたから大丈夫だ。それより姉ちゃんこそ怪我してないのかってば?」

「私も大丈夫です。少し服が破れた程度ですから」

「ひやひやさせおって」

「全くだ」

「いやー、悪いってばよ!」

 

四人はナルトとシズネの安否を確認して、ホッと安堵の息を吐く。

 

「それはそうと川に落ちたので罰ゲームです」

「んなっ!この流れで!」

 

ナルトは70回目になる罰ゲームを受けた。

ちなみに、シズネも一応川に落ちたので罰ゲームを受けた。

 

「本当にやるのか、姉ちゃん?」

「ルールはルールですから」

「気は進まないけど分かったってばよ」

 

ナルトは複雑な表情を浮かべながらも油性マジックを受け取り、シズネの頬に×印を書いた。見方によれば目的を達成したようにも見えるが、実力で勝ち取りたかったナルトは不満顔である。

 

「次は実力で出来るように頑張ればいいんです」

「───!!それもそうだってばよ!」

 

ナルトは単純だった。

 

 

 

 

 

その後、四人で『酒楽』と言う居酒屋で夕食を食べ、自来也とは別れることになった。

 

「じゃあな、エロ仙人!」

「いつの間にかエロ仙人に変わっとるし。はぁ………。またの、ナルト」

「またの、か。ニシシ!」

「?」

 

自来也は何故ナルトが嬉しそうに笑ったのか分からなかったが、まあいいかと横に置く。

 

「わしの言った修行ちゃんとやるんだぞ」

「修行って蝦蟇の口寄せのことかってば?」

 

自来也から教わったのは時間の関係上蝦蟇の口寄せ(と瞑想の修行)くらいである。ナルトは瞑想の修行を修行と認めていないので端から頭になく、修行=蝦蟇の口寄せだと思った。

しかし、自来也からすれば瞑想の修行はいずれ仙術を覚えるための基礎となる大切な修行である。口寄せの修行なんて毎日やる必要はないが、瞑想の行は毎日欠かさずやるのが望ましい。

 

「そっちじゃない。『瞑想の行』のことだ」

「ええええ!」

「すげー嫌そうな顔するのお。忍ならもうちっと感情を隠せ」

「ムスー!」

「やれやれ仕方ない。じゃあ、こういうのはどうじゃ?もし修行を毎日やっとったら今度会った時、凄い術を教えてやるぞ」

「凄い術?」

「四代目火影が編み出した術だ」

「───!!本当かってばよ!絶対だな!」

「お、おう」

「おーし!正直瞑想の修行とか全然やる気無かったけど頑張るってばよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから四年の月日は流れ、ナルトが木の葉へと帰る年齢となった。

 



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ナルト、里へ帰る(12歳)

 

閑話①

 

17の時、九尾が里を襲った。

優秀な忍であった両親と祖父母は九尾から里を守るために前線へ行き、そのまま帰らぬ人となった。一夜にして天涯孤独となった俺は婚約したばかりの妻を守ることを生きる理由とすることで、何とか悲しみを乗り越えようとした。しかし、その妻も九尾事件のトラウマからPTSDを発症し、不眠、減食、嘔吐など数々の苦痛を発露するようになり、散々苦しんだあげく、事件から四年後静かに息を引き取った。

 

親を失い、守ると誓った妻も守れず、何も守れない、救えない自分に絶望した。それが九尾への憎しみと交わり、いつしか九尾を宿すナルトをも憎むようになっていた。だが、忍は知っていた。ナルトは何も悪いことなどしていないと言うことを、むしろ里のために犠牲となったと言うことを、ナルトを恨むのはお門違いだということも、

 

しかし、それでも、心の中で膨れ上がる怒りを解消するためには、自分の中の絶望と憎悪をぶつける相手が必要だった。その相手が九尾(カタキ)を宿したナルトになるのはある意味仕方のない事だったのかもしれない。しかし、その忍が他の者と違ったのは、自身の行いを正当化するために、周りを煽り、同族を増やし、理不尽を当たり前に変えたことだった。ナルトには何をしても構わない、何をしようとそれは正当な復讐なのだ、そんな空気を作り上げてしまったのだ。むろん、この忍が全て悪いわけではない。木の葉に住む誰もが少なからず罪を持っている。見て見ぬふりをしたものも、めんどうーだと口を出さなかったものも、周りに流されただけのものも、──しかし、少なくともこの忍が動く前は直接的に暴力を振るわれることはなかったのだから。

 

彼の名前はルウエンと言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話②

 

ある娘が野盗に襲われて死んだ。

 

仕方の無いことだった。

 

いくら復興がなったとは言え、戦争が終わってまだ数年と少し、どの里も戦前よりも治安が悪い場所が増え、それに比して不幸な目に逢うものも増えた。

 

誰が悪いのかと言えば野盗が悪く、次に誰が悪いのかと言えば野盗を野放しにした里が悪い。しかし、野盗は既に潰されており、復讐することはできない。里に抗議したところで最悪反乱分子と思われるだけで死人が帰ってくるわけでもない。故に残された遺族はポッカリと空いた心を癒すことも出来ずに、痛みから目を逸らして生きていくしかない。それがこの理不尽な世界での弱者に強いられる当然の運命。たった一人の村娘の死など里に大した細波を立てることすら出来ずに忘れ去られていく。そうなるはずたった。

 

しかし、今回は違った。

娘の訃報が届けられた日、丁度ナルトが独り暮らしを始めた。

 

本来その二つには何の関係もない。ただ偶然時期が重なっただけである。しかし、遺族にとってはそれだけで充分だった。

 

アイツのせいだと誰かが言った。

 

それは大きな声ではなかったが不思議と穴の空いた心に入っていった。

 

そうだ!あいつが悪いんだ!と誰かが答えた。

それに呼応するようにまた一人また一人と、ナルトを非難する声が上がる。

 

あいつのせいだ!

あの化け狐が生きてるからだ!

あの化け狐が何かしたにきまってる!

今まで生かしてやったのに恩を仇で返しやがって!

 

それが八つ当たりでしか無いと言うことも、ナルトに非はなく、ただ懸命に生きてるだけだということも、その忍達は知っていた。しかし、里に蔓延る空気が彼等の背を後押ししたのだ。

 

報復はすぐに行われた。

忍達はナルトを人気のない路地裏に連れ込み、「おまえのせいだ」と殴り飛ばした。地面に転がり、顔を腫らし、唖然と此方を見上げるナルトに鉄パイプを振りかざし、「あの子と同じ痛みを味わえ!」と骨を折った。背を丸め、逃げようとするナルトを捕まえ、何度も何度も殴り続けた。報復はナルトの体が動かなくなるまで続いた。

 

 

結局、その事件はすぐに里中が知るところとなった。

と言うのも、いくらナルトの回復力が高いとは言え、骨折がそう簡単に治るわけもなく、三代目に認知されてしまったからだ。ナルトの惨状に激怒した三代目は関わった全ての忍に厳罰を与えた。中忍や上忍だったものは下忍に降格し、数年に渡る中忍試験の受験資格を剥奪。さらに、三ヶ月に渡る自宅謹慎と数百万両の罰金が申し付けられた。掟を私情で破ると言う忍にあるまじき行いを理由に一時は忍資格すら剥奪しようとしたが、それは上層部により止められた。

 

そして、その数日後、ナルトは綱手に引き取られることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ナルト、里へ帰る(12歳)

 

ナルトは兎に角目立つ。金色のツンツン頭に蒼眼、頬の三本髭。およそ忍ぶことを考えていないような外見。世界広といえどもこんな特徴を持つ人間はナルトくらいしかいないだろう。当然のことながらナルトが里に帰ってきたことは直ぐに知れ渡った。

 

「ねえ、あの子。例の子よ。帰ってきたみたい」

「いやねえ。一生帰ってこなければ良かったのに」

「ほんと良くのうのうと生きてられるよな」

「あれだけのことをしておいて」

 

久しぶりに向けられる冷たい視線と自分の存在を認めない厳しい目。ヒソヒソと語られる陰口はザクザクとナルトの心に突き刺さる。かつてと比べればこれでも少なくなった方だが、ナルトはこの五年で大分甘くなっていたようだ。初めて家の外を出歩いた時のように恐怖で体が硬直しそうになり、それを振りほどくために精一杯の虚勢を使い、手をビシッと前に出し、大声を出す。

 

「へへへ!うずまきナルト只今帰還だってばよ!」

 

ドドドドン!!と言う効果音が聞こえてきそうな見えきりは春の澄んだ早朝に良く響いたという。心なしか周囲の温度が数度下がった気がする。向けられる視線も先程とは違う意味で冷たい。

そんな微妙な空気を一瞬で作り上げた当のナルトは、ここで引いたら敗けだとでも思ってあるのか、腰に手を当て虚空を指差した状態のまま固まっていた。

 

「アホなことしてないで行くぞ、ナルト」

 

そんなナルトの頭にポンッと固く大きな手が乗せられる。エロ仙人の手だと直ぐに分かった。

同時に自分の右手を綱手が、左手をシズネがそれぞれギュッと握る。

 

「まずは先生に挨拶しなきゃならない。きっと首を長くして待ってるよ。あのジジイはナルトの事が大好きだからね」

「しっかり手を繋いでてくださいね」

 

三人の言葉と伝わる体温にナルトの緊張も徐々に溶けていく。そして、ようやくナルトは何時もの調子を取り戻した。

 

(そうだった!俺ってばもう一人じゃないんだってばよ!)

 

不安が消えたわけではない。恐怖が無くなったわけでもない。それでも自分には仲間がいる。孤独を知っているからこそ、仲間の力も知っている。今ならどんな困難でも解決できそうな気がした。

 

ナルトは綱手とシズネに手を引かれ、自来也と共に火影邸へと向かうのだった。

 

 

「只今だってばよ!」

「おお!よお帰った、ナルトや!お主、暫く見ん間に随分大きくなったのお」

「じいちゃんは暫く見ない間に一段と老けたってばよ!」

「やかましい!全く、中身は全然変わっとらんのお。じゃが、無事でなりよりじゃ。首を長くして待っておったぞ」

 

ナルトを猫可愛がる先生と先生に甘えるナルト。綱手は暫く黙って見ていたが、流石に我慢ができなくなって。

 

「そこら辺にしてくれ、先生。可愛がるのもいいが、先に話さなきゃいけないことが色々あるだろ」

「ふん、そうじゃったな。それで何から知りたい?」

「まずはアカデミーの卒業について話してくれ。ナルトはアカデミーに通ってないけど卒業試験とかはどうなるんだい?」

「ふむ、そうじゃったな。通常アカデミー卒業試験は分身の術が行われるが、ナルトはアカデミーに通っていない。このまま他の者と一緒に試験を受けさせることはできない。故に特別試験を行う」

「特別試験?何だいそれ?聞いたことがないね」

「制度自体は昔からあるものじゃ。去年はロック・リーがこの試験で下忍になっている」

「どんな試験なんだい?」

「実践形式の組手を行い実力を見る試験だ。幻術、忍術、体術、何を使っても構わない。下忍になるに相応しい実力だと判断されれば合格となる。試験日の詳細については試験官が決まり次第伝える」

「試験官ならわしがやってもいいぞ。ナルトがどれだけ強くなったか見てみたいしのお」

「それは無理じゃ。試験官は中忍から選ぶ決まりになっている。上忍であるお前は対象外だ」

「なら、私がやろう」

「綱手、お前も上忍だろうに。当然、選択外だ。シズネもな」

「あうー」

「ちっ」

「兎に角、試験官はこちらで選ぶ」

「試験は見学できるのかい?」

「見学は自由だ。好きにせい」

「まあ、ならいいか」

 

 

ナルトの試験官をやりたがる中忍がいるのかと不安があったが、不安に反し試験官はすぐに決まった。

 

千手邸の一室。ナルトが螺旋丸の練習をしているのを遠目に眺めながらシズネは綱手と自来也に聞いてきた話をする。

 

「試験日は三日後に決まったらしいですよ」

「ほう、それで試験官は誰になったんだい?」

「田中ゲンザブローと言う中忍です。本人たっての希望だったらしいですよ」

「本人たっての?キナ臭いね。」

「試験に託つけて何かする気かのお」

「もし変な真似したら血祭りにあげて、裸で火影邸の前にくくりつけてやる」

 

同時刻、綱手達の様子を遠眼鏡の術で見ていたヒルゼンは飲んでいたお茶が喉に詰りむせ苦しんだと言う。

 

「げふ、げふ、がふ」

「だ、大丈夫ですか、三代目!」

「う、うむ。大丈夫じゃ。しかし、綱手の奴め、心臓に悪い、いや、目に悪いことを。何としても止めさせねばならん。アイツはやると言ったらホントにやるぞ」

 

ヒルゼンはボコボコにされた裸の男が自分の仕事場にくくりつけられてる様子を想像してしまい、顔を青くさせ、うぇっと噎せ返りかけた。そして、絶対に現実にはさせんと思い、直ぐに綱手当てに伝書鳩を出す。『火影邸は里の顔じゃ!滅多なことするもんではない!じゃから、せめて木にくくりつけるくらいにしておけ!』と。

 

それを見た自来也は「それもどうかと思うがのお」と遠い目をしたと言う。

 



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ナルト、特別試験を受ける(12歳)

今回は田中ゲンザブロー視点です。ナルト視点はありません。


 

かつて、その忍、田中ゲンザブローは日常的にナルトに暴行を加えていた。

気に入らないことがあったとき目障りだと殴り、任務に失敗したらお前のせいだと蹴り、只暇潰しとして仲間と一緒にリンチする。

 

もちろん、日常的と言っても毎日ではないし、大通りで行ったことはない。ナルトへの暴行は里の掟で禁止されている。下手にやれば大変不条理なことに自分が罪を被る事になるかもしれない。あんな化け狐を守る理由が分からないが、掟ではそうなっている。

また、大通りはうちはの警務部隊が巡回をしている。あいつらは総じて頭が固く融通が通じず、自分の仕事に高過ぎる誇りを持っている。例え相手が化け狐でも暴行を加えていれば此方がしょっぴかれる可能性があった。いくらナルトを庇う里の者が少なく、通報されるリスクも少ないとは言え、ゼロではないのだ。自分の安全を考えれば、路地裏で、短時間に、バレないようにやるのが望ましい。狡猾な忍もそうやって、九尾事件の絶望と日頃の鬱憤を晴らしていた。影でこそこそとバレないようにいたぶるのが忍の性だった。

 

しかし、一つの事件が忍を狂わせた。

 

妻が死んだのだ。ナルトが里へ帰ってくる前日に。

 

事故だったのだろう。しかし、今まであらゆる不幸をナルトのせいにしてきた忍は、妻の死をナルトの帰還と結びつけた。

 

あいつのせいだ!

あいつが帰ってきたからだ!

 

心に響く自分の声を無視することはできず、忍は綱手とシズネに両手を引かれ、自来也に頭を撫でられ、笑っているナルトを睨み付ける。

 

(何故笑っている。何故あんな奴が笑っている。何故俺の妻が死んだのに化け狐なんかが笑っている。なぜだ。何故だ。ナゼダ。許せん。許せん。許せん。お前はクズで、この世の害悪で、化け狐のはずだ!忘れたっていうな思い出させてやる!)

 

しかし、復讐を誓ってもナルトは嘗てのように一人ではない。常に周りには誰かがおり、手を出すことが出来なかった。

 

どうにもならない苛立ちと復讐心が募っていく。なのに、それを発散させることが出来ない。嘗ては出来ていたはずなのに、今はできない。それが堪らなく腹立たしい。

 

(クソクソクソクソ!!どいつもこいつもあんなクズを守りやがって!!もうまとめてぶっ飛ばしてやろうか?!)

 

そんな危険で実行不可能な思考に取りつかれそうになった時、うずまきナルトがアカデミー卒業のために特別試験を受けることを聞いた。

忍はすぐに試験官に立候補した。

他にやりたがる者もいなかったので、すんなりと試験官になることができ、久しぶりに晴れやかな気分になれた。

 

それから試験までの三日間は如何にして試験でナルトを痛め付けるかを考えていた。試験の前日は薄暗い欲情のあまり寝ることも出来なかった。

そして、寝不足で隈の濃くなったギラギラとした顔のまま、アカデミーへと向かい、妻の仇と思い込もうとしているナルトと会合したのである。

 

 

 

通常、アカデミー卒業のための特別試験は細々と行われる。いくら特別試験とは言え、所詮はアカデミーの卒業試験。注目度も低く、また注目される理由もない。試験官と受験者と受験者の担任教師の三人だけで行われることが殆んどで、アカデミー教師の中ですら知らない者がいるほど影の薄い試験であった。だからこそ復讐にはうってつけだと皮算用をしていたのだが、何故こんなに人がいるのだろうか?

 

忍は試験会場をぐるりと見渡す。

 

 

試験官である自分と見届け人であるアカデミーの教師──ナルトはアカデミーに通っておらず担任がいないので此方でナルトに恨みを持つ教師を用意した──と、ナルトがいるのはいい。百歩譲って今の化け狐の実力に興味を持ったアカデミー教師(ミズキ)がいるのもいい。だが、三忍と詠われる綱手、自来也に加えて三代目火影、三忍や火影に釣られてやって来た数十人ものアカデミー生、イチャイチャパラダイスなどというふざけた本を読みながら此方に意識を向けているはたけカカシ、あまりにも観衆の目が多すぎる。これでは復讐も不正も出来そうにない。

 

くそったれ!暇人どもが!

 

忍は怒りで叫びたくなる衝動を抑えて、深く息を吐き出すことで、なんとか冷静さを取り戻す。そして、冷静になった頭で計画の修正を急ぎ行った。

 

(腹立たしいが此処でナルトに復讐をするのはやめだ。リスクが高すぎるし、やったとしても途中で止められる。試験はマニュアルに則って、不正にならない程度に厳しめに行おう。そして、ナルトを不合格にする。復讐はその後、機を見てやればいい。)

 

忍はナルトの前に立った。

 

「では、只今よりアカデミー卒業のための特別試験を行う。試験官はこの俺田中ゲンザブローが務める。試験については事前に説明されていると思うが改めて説明を行う。まず、これはアカデミー卒業のために下忍になる力を持っているかどうかを見る試験だ。アカデミーの担任教師の見届けの元、中忍と実践形式の組手を行う。幻術、忍術、体術、何を使っても構わない。勝敗に関わらす下忍に相応しい実力があると判断されれば合格となる。説明は以上だ。では、始める」

 

忍はマニュアルに則り、先手を譲り、待ちの態勢。

一方のナルトは両手で十字を作り、ナルトの基本忍術であるアレを使う。

 

「多重影分身の術!」

 

声と同時にチャクラが分割され、一瞬で50人の実体を持ったナルトが現れる。

 

「やいやいやいやい!」

「ここであったが百年目!」

「進化した俺の力を見せてやるってばよ!」

「行くぞ皆!」

「突撃だってばよ!」

「「「「うおおおおおお!!」」」」

 

忍はいきなり予想外の上級忍術に驚愕して、隙をさらす。

 

「な、なに!?影分身だと!?バカな!?あれは上忍クラスの術のはず!?なぜこんな奴が!?」

 

が、焦ったのも隙をさらしたのもほんの一瞬。すぐに忍は冷静さを取り戻し、ナルトが見えきりをやってる内に腰から刀を取り出し、本気の臨戦態勢に入る。

 

(ふん、少し焦ったが、どんなに増えようが所詮雑魚は雑魚。格の違いってやつを見せてやるよ!)

 

だが、忍はまだナルトの事を過小評価していた。ナルトの瞬身の術が思ったよりも速かったのもそうだが、本当の誤算はこの先。ナルトが攻撃範囲まで近づき、忍がナルトを殺そうとした瞬間。大爆発が起きた。

 

「分身・ナルト互乗起爆札!」

 

二代目火影千手扉間が作った忍術、互乗起爆札。その話を綱手から聞いてナルトが編み出したオリジナル忍術だ。互乗起爆札のように札が札を口寄せするのではなく、ただ単に分身がそれぞれ起爆札を持っていて、それが連爆するだけである。原理こそ単純だが、術の威力は洒落ではすまない規模。

 

一瞬室内が光に包まれ、爆風と爆音が観客席まで襲ってきた。

 

「きゃーー!」

「うお!」

「くっ」

 

観客席から悲鳴が上がる。

爆風はすぐに収まる。

しかし、舞い上がった土煙は室内に充満し続け、砂嵐のように視界を塞ぐ。

 

「おいおい、あれ死んだんじゃねえのか?」

 

キバの震え混じりの声に答えるものはいない。しかし、そう思ったのはキバだけではないようで、顔を青くさせたアカデミー生が散見される。

 

実際、彼等の心配は正しい。並の中忍に──来ると分かっているならともかく──ナルト互乗起爆札に対処することは出来ない。しかし、田中ゲンザブローは並の中忍ではなかった。上忍や特上の忍と比べれば弱いものの、その実力は木の葉の中忍の中でも上位に入る。ミズキごときとは格が違うのだ。

 

忍は熱と爆風で体を痛めながらも何とか直撃は避け、ナルトから距離をとる。幸いにして爆発の影響で視界は不良。自分も見えないが、相手からの追撃も無いだろう。立て直すなら今が好機。

 

(落ち着け!相手はナルト!冷静に戦えば勝てる相手なんだ!)

 

予想外の事態の連続で混乱する頭を何とか落ち着かせる。忍もだてに中忍なだけはなく、表面上の落ち着きはすぐに取り戻す。

そして、落ち着いたことで、漸く違和感に気付く。何かが自分の体を這いずり上がってくるような悪寒。冷たい、ひんやりとして、ヌルヌルとした感触。恐る恐る右手を見ると、そこには掌サイズの大きな蛞蝓がいた。

 

「うおおお!?」

 

忍はビックリして手を思いっきり振る。遠心力で引き剥がすための無意識下の行動だったが、蛞蝓は接着剤で付けられてるのかと思うほど強く吸着していて離れない。それどころか徐々に顔に向かって登ってきている気さえする。いや、気のせいではなく事実登ってきている!

 

「ふ、ふざけんな!くそ蛞蝓!」

 

忍は引き剥がそうとするが全く離れない。本当に蛞蝓なのかと疑いたくなるほど根性を見せ、引っ付いている。そうこうしている内に、砂埃は徐々に晴れ、試験場が黙視できるほどになり────見なければ良かったと思った。

 

「うっ………なんだよこりゃ!」

 

そこにあったのは先程までの茶色い土の地面ではなく、白と青のコントラスト。その白い物体が何でできているのかなど理解したくなかった。しかし、一目見ただけで分かってしまう。それが巨大蛞蝓の群れだと。

 

子犬サイズのものから大型犬位のサイズのもの、果ては人を一飲みに出来そうなものまで、大小様々な蛞蝓が此方に向かって行進している。既に足元近くまで来ているものもある。

忍は絶望的な顔をして、無意識に一歩後ずさる。しかし、後ろにもやはり蛞蝓はいて、進退窮まった忍は破れかぶれに刀を振り回した。しかし、切っても切っても分裂するだけで全く効いていない。

 

「な、なんだ!このふざけた蛞蝓は!」

 

剣がダメなら忍術で倒す。そう結論付け、印を組もうとして、酸のようなものが飛んできた。それは狙い違わず忍の手に当たり、ジュッという音を立てて皮膚が爛れる。

 

「ぐわあっ!!」

 

思わず肘をつく。異常な痛みに踞る忍に四方八方から蛞蝓が襲いかかる。忍は無論逃げようとしたが、抵抗むなしく、圧倒的な数と言う暴力により文字通り、押し潰された。

 

ちなみに、ここでの正解はさっさと合格を言い渡す事だったのだが、端から不合格にする気だった忍には思い付かなかったらしい。

 

その後忍は毎晩巨大蛞蝓に襲われる夢に魘され、二度とナルトに近づかなくなったという。

 

 

 

 

 

 

 




蛞蝓による圧殺
酷い終わり方だ……


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担当上忍決め

今回もナルト視点はないです。


 

 

ナルトが現在住んでいるのはかつて住んでいたボロアパートではなく、里の外れにある五階建ての高層マンションだ。これは四代目火影であるミナトが発案した『新住宅市街地開発事業』をヒルゼンが引き継ぐ形で作られたニュータウンの目玉施設であり、木の葉きっての豪商で知られる春野グループが出資したものだ。なんと最上階のVIPルームは一部屋20畳程もあり、ガラス張りの壁からは火影岩がでかでかと見渡せる。室内の調度も素晴らしく、キングサイズのベッドにレインシャワー付のバスルーム、広々としたダイニングキッチン、大型モニターテレビなどなど、小国の大名よりも贅沢な家具の数々が取り揃えられていた。

 

何故ナルトがこんな素晴らしい部屋に住むことになったのかといえば、春野グループの一人娘である春野サクラがナルトと同じ班に組分けされるからである。された、ではなく、される、と書いたのはまだ確定した情報ではなく、キザシが内々に手に入れた情報だからだ。しかし、内々とは言ってもほぼ確定した情報らしく、同時期に娘からナルトが試験官を病院送りにしたと言う話を聞いていたキザシは大変に焦った。別にキザシ自身はナルトに何かしたわけでない。が、逆に言えば何もしなかったし、春野グループの社員の中には下らないことを仕出かした者もいるかもしれない。ナルトに恨まれているかもしれない。その恨みが娘に向けられるかもしれない。そう不安に駆られたキザシはナルト達にすり寄ってきたのだ。

 

言わばこのマンションはキザシからナルトや綱手への袖の下。「娘のことを頼みます。くれぐれも蛞蝓で押し潰したりしないでください。あと、強いって聞いたので娘が危なかったら助けてやってください」と言うメッセージなのだ。

 

もっともそんな思惑など露とも知らないナルトは「流石豪商!太っ腹だってばよ!」とキザシへの好感度を上げていた。

 

 

 

 

 

その日、本部の会議室では火影であるヒルゼン、相談役のホムラとコハル、根のダンゾウ、参謀のシカクなど里の上層部が一同に介した重要な会議が行われていた。議題は今期アカデミー卒業生の班決めおよび担当上忍決めである。春の風物詩とも言えるこの会議は日を跨ぐことも珍しくなく、毎度のこと荒れに荒れる。その最たる理由は、この季節になると本部に届く大量の書状だ。曰く、「誰々と同じ班がいい」「誰々とは違う班がいい」「担当上忍は誰がいい」「担当上忍は誰々は嫌だ」などなど。んなもの一々聞ける訳ねえだろがとシカクは毎年のように思うが、不幸なことに書状が減ることはない。更に言えば、書状で送ってくる者はまだ良心的である。本物のモンスターペアレントは直接会議室に直談判してくる。そう言った者の目は大抵正気ではない。ここまで走ってきたのかと思うほど鼻息を荒立たせ、要望だけ言って此方の話は全く聞かない。しかも、質の悪いことに、名家や旧家と呼ばれるものが多いので下手に無下に扱うことも出来ない。

 

更に今年はうずまきナルトがいるので、例年の数倍は直接乗り込むアホが増え、書状はその更に倍は増えた。上層部の下っ端であるシカクは結局今年もアホ共の対応を押し付けられ、会議からの帰り道、自らの不幸を嘆いて空を仰いだ。

 

「雲はいいよな、自由でよ。俺も生まれ変わるなら雲になりたい」

などと息子のようなことを言うシカク、末期である。とても末期である。そんなシカクに後ろから「よっ!」と声が掛けられた。

「カカシか」

「随分疲れてるね。例のアレですか?」

「ああ、そうだ。今年は特にひでえ」

ナルトがいるからな、とは言わなかったが含意はきちんと伝わったらしい。

「ま、頑張ってくださいよ。参謀殿」

「他人事だと思いやがって」

「他人事ですからね」

カラカラと笑うカカシは自分がその問題児集団の担当上忍を押し付けられることをまだ知らない。

 

 

 

長い話し合いの末、何とか班構成は決まった。しかし、次に控えるのは更に苛烈を極めるだろう担当上忍決めだ。シカクはさっさと終わらせたいと思いながら音頭を取る。

 

「班構成が決まったので次は担当上忍を決めたいと思います。通例に則れば第一班から決めますが、今回は特に難しい班があるのでそちらから決めようと思います」

「第七班か」

「はい」

第七班には人柱力であるうずまきナルトと、強力な血継限界を持つうちはサスケ、大富豪の一人娘である春野サクラと、全員が全員狙われる理由を持っている。つまり、まず大前提として七班の担当上忍には高い実力が必要だ。勿論上忍ならば誰でも高い実力を持ってはいるがその中でも格と言うものがある。

 

「ええ、では、自薦、他薦がある人は遠慮なく言ってください」

 

シカクの言葉を皮切りに予想通り会議は荒れた。取り敢えず、俺は嫌だとかふざけたことを抜かすアホどもの言葉は強制シャットアウトし、まともなことを言うものだけをピックアップする。

 

「実力ある忍びと言えば猿飛アスマとか夕日紅だろうか?」

「綱手とシズネも帰ってきてるぞ」

「二人は優秀な医療忍者。引き抜きは勘弁してくれ」

「他には誰がおったかの」

「うちはイタチはどうだ?アイツなら写輪眼の扱いも心得ているだろう」

「確かに奴なら人格に置いても、実力に置いても問題はない。だが、イタチはサスケの実兄だ。慣例から言えば、家族や特別な私怨を持つ者を担当上忍には出来ない」

「然様。あまりにも近しい者は公正な扱いや正しい判断が出来なくなる可能性がある。あのイタチならばそんなことはないと言いたいところだが、家族の情とは侮れないものだ」

「では、誰にするのだ?他に適任がいるのか?人柱力を確実に守れる実力があり、写輪眼の扱いを指導でき、かつサスケに近しくないものなど」

「一人いるではないか」

「まさか」

「はたけカカシだ」

「だが、あいつは担当した全ての生徒を落としている男だぞ」

「もし落ちたならそれは下忍になるに未熟だったと言う話だ」

「然り、然り」

 

上手く纏まりそうだったので、これ幸いとシカクは三代目に伺いを立てる。

 

「では、第七班の担当上忍ははたけカカシとする。それで宜しいでしょうか?三代目」

「ふむ、あやつなら信頼がおける。良いだろう。他に異議のある者はいるかの?」

三代目の言葉は重い。

異議は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

はたけカカシside 火影邸

「カカシよ。お主に第七班……春野サクラ、うちはサスケ、うずまきナルトの担当上忍になってもらう」

「私がですか?」

「何か不服でもあるのかの?」

「いえ。しかし、私ごときに勤まるかどうか」

「ははは、謙遜するでない。お主の実力はわしもよく知っておる。では、頼んだぞ」

 

忍びにおいて上官の命令は絶対。だから、面倒そうだなと思っても断ることは出来ない。カカシは、「こりゃ大変なことになったぞ」と頭を掻きながら火影邸を出ていった。

 

ナルト達三人が下忍昇格試験に合格するかどうかは分からないが、担当上忍になった以上、部下の性格や基本的な能力は知っておきたい。そんな担当上忍のために木の葉にはアカデミーデータベースというものがある。これはアカデミーでの授業態度や担任からの評価、基本能力値などが書かれているもので、うちはサスケと春野サクラはこれを見れば問題ないだろう。問題はナルトだ。ナルトはアカデミーに通っておらず、情報が殆んどない。面倒ではあるが自分の足で情報を集める他無いだろう。

カカシは火影様にナルトの住んでいる家を聞き、昼過ぎ、ナルトが家を出たのを確認して、アパートへとやってきた。

 

「いやー、話には聞いてたけどホントでかいね。良い暮らししてるじゃないの。羨ましい」

自分の家の一体何倍あるのかと言う大きさ。しかも、これで綱手とシズネの二人と暮らしてると言うのだから羨ましいことこの上無い。是非とも代わって貰いたいところだ。

カカシはダラダラと階段を登り、503と書かれた扉の前で、インターホンを押した。

ピーンポーンと言う間延びした独特のチャイムの後、暫くして、バタバタと言う駆ける音が聞こえ、バンッと扉が開く。出てきたのは寝巻き姿のシズネだった。

「ナルト君、忘れ物ですか?」シズネは夜勤明けなのか非常に眠そうな顔で、声も間が抜けている。さらに黒い浴衣は胸元がはだけ、寝ていた為か下着もさらしも着けていなかったので、あられもない姿を晒していた。

カカシは思わずマジマジと膨らんだ果実をガン見する。こう言う時、カカシに遠慮と言うものはない。見たいものを見る、それがカカシのモットーである。

 

シズネはボーッとした頭で目の前の男がナルトじゃないことを把握し数秒固まる。そして、ようやっと自分の今の格好を思い出し、慌てて胸を手で隠す。

「きゃーーー!な、何でカカシさんが?!」

しゃがみこむシズネにカカシは今更ながら目を逸らす。

「あー、何かごめんね。ちょっと用事があってきたんだけど、出直そうか?」

「いえ、大丈夫です。何のようですか?」

「ナルトのことについて聞きに来たのよ」

「ナルト君?」

シズネの声のトーンが下がる。顔は依然赤らんでいるが目は鋭くカカシを見ていた。

「そんな警戒しなくていいよ。実は俺、ナルトの担当上忍になってね。ナルトってアカデミー通ってなかったからデータベースがないのよ。それで此処に聞きに来たって訳」

「なるほど。そうでしたか。これは失礼しました。話が長くなりそうなので着替えてきますね」

「え、そのままでも良いよ」

「着替えてきますね!」

 

パタンと閉められた扉を見て、カカシは眼福眼福と思うのだった。

 

 



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ナルトの使える術一覧+忍者アカデミーデータベース

 

 

1.影分身の術 会得難易度B タイプ補助

分身の術とは違い、残像ではなく実体を作り出す、上忍レベルの高等忍術。他の分身系の術とは違い、術を解くことにより分身体の経験が本体にフィードバックされるので、戦闘だけでなく諜報にも使える。二代目火影千手扉間が木遁分身を参考に開発した。

 

2.多重影分身の術 会得難易度A タイプ補助

影分身を複数体作り出す高等忍術。術者のチャクラを均等に分ける性質があるため大量のチャクラを消費する。使うだけで命にかかわることもあり、初代火影によって禁術に指定された。

 

3 .変化の術 会得難易度E タイプ補助

文字通り見た目を変化させる術。アカデミーで習う基本的な忍術で、忍者なら一部例外を除き誰でも使える。

 

3.お色気の術 会得難易度E タイプ補助

ナルトが変化の術を応用して開発した術。ナイスバディの裸の女性に化けて相手を悩殺する。「ボン、キュッ、ボン」がミソ。

 

4.ハーレムの術 会得難易度A タイプ補助

多重影分身とお色気の術を組み合わせた高等忍術。ナルトが初めて作ったオリジナル忍術でもある。まだシズネに存在を知られていないナルトの秘中の忍術である。

 

5.分身・ナルト互乗起爆札 会得難易度A タイプ攻撃

影分身に起爆札を持たせ、連爆させる。攻撃を避けても受けても爆発に巻き込まれる卑劣な忍術。対処するには近づかれる前に倒すか爆発した瞬間に大きく距離を取るか土流壁などで壁を作るしかない。チャクラ的にも財政的にも燃費の悪い忍術だが、生まれ持った膨大なチャクラと四代目火影の残した個人資産のあるナルトには屁でもない。

 

6.桜花衝 会得難易度A

練り上げたチャクラを瞬時に拳に集中させることで、爆発的に威力を高めた正拳突き。チャクラ消費量の少なさと攻撃力が魅力。派手な見た目とは裏腹に緻密なチャクラコントロールを必要とする。

 

7.痛天脚 会得難易度A

桜花衝のかかと落としバージョン。

 

8.衝仙術 会得難易度A?

傷口に手から直接チャクラを流し込むことでその部位の回復能力を高める術。ただしナルトは複雑な医療知識を必要とする医療忍術を使えないので専ら攻撃用として使う→傷口に大量にチャクラを流し込むことで相手を気絶させる。

 

9.風遁・大突破 会得難易度C

強烈な突風を生み出す忍術。攻撃できる対象はかなり広範囲に渡り、術者次第で威力が変わる。

 

10.口寄せの術 会得難易度C

時空間忍術の一つ。印を切ることで別の場所に存在する武器や契約した動物を瞬時に召喚する術。動物の「体内」や無機物も召喚可能であり、武具や門、部屋などを召喚することも可能。口寄せ出来るものの大きさや量はチャクラの量に依存する。

ナルトの契約動物:大蛞蝓、大ガマ

 

11.螺旋丸

掌の上でチャクラを乱回転させながら球状に圧縮し、それを相手にぶつけることで螺旋状の傷を負わせながら吹っ飛ばす技。最強の魔獣・尾獣の得意技「尾獣玉」を参考に開発され、チャクラの形態変化を極めた技である。威力も習得難易度も相当なもので、A級高等忍術に分類される。しかし他の忍術と違って印を結ぶ必要がないため、勉強嫌いのナルトにふさわしい技。

 

 

 

pixiv参照

 

 

 

 

 

 

 

 

忍者アカデミーデータベース

氏名 春野サクラ

生徒番号 S11052

誕生日 3月28日

評価

学力 A+

知性 A-

判断力 B-

身体能力 C

協調性 C

担任からのメモ

特別な血統を持たない一般家庭の子供で、アカデミーに入るまで殆んど忍術に触れずに育った。それ故かは知らないが、他の生徒と比べ忍術に強い興味と憧憬を示している。成績は優秀で、入学前に全ての教科書を読破する、筆記テストで100点未満を取ったことがない、など高い知能と記憶能力を有する。また、アカデミーでの五年間無遅刻無欠席を記録するなど自己管理も問題なく、協調性はやや低いが問題視するほどではない。未来で木の葉の里の礎となりうる原石であろう。しかしながら、「この世の全ての術を解き明かしたい」などと大蛇丸を彷彿させる危険思想を持っているため注視が必要な生徒でもある。場合によっては強い矯正を必要とする可能性あり。

 

 

氏名 うちはサスケ

生徒番号 S11046

評価

学力 A-

知性 B

判断力 A-

身体能力 A-

協調性 C

担任からのメモ

テストでは常に好成績を納め、身体能力、学力共にとても優秀な生徒である。特に身体能力は首席を取り続けるなど今期で最も期待ができる生徒で、忍術においても既に性質変化の一つを習得するなどたぐいまれなる才覚の片鱗を見せている。思想面でも大きな問題はなく、協調性にやや難があるもののこちらも問題とするほどではない。しかしながら、優秀すぎる兄に劣等感を抱いているようで些か自己評価が低く、才能と言う言葉に囚われている節がある。下忍での新たな経験が自分の殻を破るきっかけとなることを期待する。

 

 

うずまきナルト

アカデミーデータベース登録なし



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鈴取り演習

 

 

首から上だけを出した生首状態で地面に埋まる黒髪の美少年、土の縄で縛り上げられ宙吊りにされ、へそを大きく露出た金髪の少年、目を回してお尻を突き出した状態で土下座をするように地面に倒れ伏す桃色の髪の少女。

 

そして、そんな少年少女の横に立ち、イチャイチャパラダイスなるエロ本を読む、顔のほとんどを黒いマスクで隠した木の葉の忍。

 

ここが木の葉の里じゃなかったら間違いなく奥様に通報されていただろう悲惨な光景がそこには広がっていた。

 

何故こんな状況になってしまったのか、それは少し前に遡る。

 

 

 

 

 

ナルトは班発表の日寝坊して遅刻したもののそれで下忍になれなくなるなんてことはなく、班の発表はつつがなく終わった。ナルトが組み込まれたのは第七班で、班員は春野サクラとうちはサスケ、担当上忍ははたけカカシだ。だが、このはたけカカシが中々の問題のある忍のようで、「担当上忍が迎えに来るまで待て」と言われ、待っているが中々に現れない。

 

痺れを切らした桃色の長髪の貧乳美少女、春野サクラは『忍の闇と性 著 千手扉間』なる本から顔を上げ、声を上げる。

 

「ねえ、私達の担当上忍だけ来るの遅すぎない?他の班が出ていってもう三十分よ。明らかに遅刻だわ。きっと何かトラブルがあったと思うのよ」

「そっかぁ?只の遅刻だと思うってばよ」

「上忍が遅刻なんてするわけないでしょ。貴方じゃあるまいし」

 

ナルトは仲良くなるためのきっかけを探していたのでサクラの問にこれ幸いと乗っかる。窓際で外を見ていたサスケも暇をもて余していたのか、二人の話に乗ってくる。

 

「俺達の担当上忍はあの゛カカシ゛だ。もしかしたら急な任務でも入ったのかもしれない」

「確かに……。あの゛はたけカカシ゛だものね。でも、連絡の一つくらい来ても良いと思うんだけど」

「あのカカシって、二人ともカカシ先生のこと知ってんのか?」

 

ナルトの呑気な言葉に二人は絶句する。ナルトは何故二人が突然黙ったのか分からず首をかしげる。

 

「ナルト、本当に『はたけカカシ』を知らないのか?」

「知らないってばよ」

「冗談でしょ。信じられないわ。貴方今までジャングルの奥地にでも暮らしていたの?」

「サクラちゃん、それは流石に酷いってばよ」

「木の葉で忍者になろうって人がはたけカカシを知らないなんて、そっちの方が酷いわよ」

「そんな有名人なのか」ナルトはそこまで言われるはたけカカシと言う忍に興味が出る。「どんな人なんだってばよ」

 

ナルトの問いに待ってましたとばかりにサクラは話し出す。サクラは何かを説明するのが好きだった。

 

「私も直接会ったことはないから噂の内容しか知らないけど、どれもとんでもない噂ばかりよ。

曰く、5歳で下忍、6歳で中忍、12歳で上忍になった木の葉の生んだ天才忍者。忍・体・幻術全てを得意とし、頭脳明晰であり、厳格さを持ち、冷静沈着な状況判断力を持ち、部下の育成能力まで持つ。その実力は木ノ葉の上忍の中でも特に優れており、他国の忍にまでその実力が知られているの。雷を素手で切ったなんて逸話まであるのよ。まあ、流石に最後のは誇張だと思うんだけど、でも本当に凄い先生なのよ」

この間一切の息継ぎ無しにサクラは言い切った。凄い肺活量だとナルトは感心した。

「へー、なんか凄い忍者なんだな。会うのが楽しみになってきたってばよ!」

 

この時点では三人のカカシへの態度は本人のネームバリューもあり、大方好意的だった。

しかし、

それから三十分後

 

「こないな」

「来ないわね」

「腹へったってばよ」

 

更に三十分後

 

「全然こないな」

「全然来ないわね」

「めっちゃ腹へったってばよ」

 

更に三十分後

 

「………………」イライラ

「………………」イライラ

「………………」イライラ

 

更に三十分後

 

「………………」イライラ

「………………」イライラ

「………………」イライラ

 

そして、他の班の生徒が出ていってから三時間後、ようやっとカカシは現れた。

 

「「「遅い!」」」

「いやー、ごめんね。今日は黒───」

「先生!何故こんなに遅れたのかキチント説明してください!例え、いくら任務だったとしても、連絡くらいしてもらわないと困ります!」

「え?任務?何の話?」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

四人の間に沈黙が流れる。

そうなのだ。サクラとナルトとサスケは苛立ってはいたがカカシのことをまだ信じていたのだ。しかし、現実は非情である。カカシが遅れてきたことに大した理由はなかった。ただ遅刻しただけである。カカシは三人の反応から自分は任務で遅れたと思われてるようだと察し、「しまった!その手があったか!」と言う顔をしたが後の祭りである。

 

「へえ…任務じゃなかったんですか?…へえ…じゃあ只の遅刻で三時間も待たされたんですか?…へえ…へええ…へえええ」

 

カカシはサクラ達三人の背中に般若を幻視した。

 

「い、いや、悪かったとは思ってるのよ。ただこれには事情があってね」

 

慌てて何時ものように遅刻の理由を言い繕う。

 

「事情?」

「そ、そう。そうなのよ!此処に来る途中に黒猫に横切られちゃってさ。ほんと参ったよね」

 

「………………」

 

「………………」

 

「………………」

 

再び沈黙が流れる。心なしかさっきよりも痛い沈黙である。

カカシはチョイスを間違えたと言う顔をしていたが後の祭りである。いや、カカシは翌日の鈴取り試験を見据えてわざと間違えたのかもしれない。どちらにしろ、ナルト達にとって到底許せる言い訳ではなかったが。

 

「黒猫に横切られたからアカデミーに来れなくなったと?」

「そ、そうなるね」

「そんな話誰が信じるのよ!」

 

サクラは手にチャクラを集中させ、思いっきり教卓をぶん殴った。ガシャーン!ゴロゴロ、バコ!と、どでかい音を立てて教卓が木端微塵になる。

 

「な、なんつー馬鹿力だ」

 

お前は綱手か!とナルトは心の中でツッコミ、サスケとカカシは冷や汗を流して、怒れるサクラを見るのだった。

 

 

 

取り敢えず場所を変えると言うのでカカシの後に続き三人並んで廊下を歩く。連れてこられたのは里が一望できるテラスのような場所だった。

 

「そうだな……まずは自己紹介でもしてもらおうか」

「自己紹介ですか。どんなこと言えばいいんですか?」

「……そりゃあ好きなもの嫌いなもの……将来の夢とか趣味とか……ま!そんなのだ」

「あのさ!あのさ!それより先に先生 自分のこと教えてくれよ!」

「そうですね……。見た目 かなり怪しいしですし」

 

カカシは逆立てた銀髪をした長身痩躯の男性で、口元は黒いマスクで覆われ、左目は額当てをずらして隠されている。驚くべきことに顔の内、右目しか見えない。第一印象は顔見せろだ。

 

「あ…………オレか?オレは「はたけカカシ」って名前だ。好き嫌いをお前らに教える気はない!将来の夢……って言われてもなぁ……ま!趣味は色々だ」

 

結局分かったのは名前だけであった。

 

「じゃ 次はお前らだ。右から順に……まずナルトから」

「オレの名前はうずまきナルト!好きなものはラーメン!もっと好きなのは一楽のラーメン!嫌いなものはラーメンの待ち時間だってばよ!趣味は修行!将来の夢はぁ 火影を超す!ンでもって里の奴等全員にオレの存在を認めさせる!」

「なるほど。」面白い成長を遂げたなとカカシは内心感心する。

「じゃ、次はサスケだ」

「名はうちはサスケだ。好き嫌いをお前らに教える気はない。それから夢と言うのとは少し違うが野望はある。だが、それもお前らに教える気はない」

「そ、そう。」

 

カカシは自分の自己紹介も似たようなものだったのでツッコムことも出来ずに流した。

 

「 ……じゃ 最後 サクラ」

「私は春野サクラです。好きなものは読書全般と知識探索、研究、まあ、色々です。嫌いなことは時間を無駄にすること。よろしくお願いします」

 

春野サクラはじろりとカカシを睨む。遅刻の常習犯であり、実際今日も二時間も遅刻してきたカカシは冷や汗をかいた。

 

「あはは、最近の子は辛辣だね……。ま、でも、お前達のことはなんとなく分かったよ」

「サスケのこともカカシ先生のことも一っつも分からなかったってばよ!」

 

 

原作とほぼ同じだが若干異なる自己紹介パートを終え、ナルト達はカカシから下忍認定試験の話を受ける。

 

「うっそだろ!じゃあ、あの特別試験は何だったんだってばよ!」

「ああ、あれ。下忍になる見込みがある者を選抜するための試験だよ」

「初耳だってばよ」

「あはは、ナルトは純粋で良いねえ。それに引き換え、君達あんまり驚かないのね」

「まあ、分身の術だけで下忍と認められるのには違和感を感じていましたから」

「ふん、当然だ。もしろあれだけで下忍になれるなんて言われた方が驚くぜ」

「なれると思ってたってばよー!」

「うすらとんかちが」

「最近の子って皆こんな冷めてるの?」

「絶対サクラちゃんとサスケがおかしいだけだってばよ!」

 

 

 

 

 

翌日 当然のように三時間も遅刻してきたカカシはにこやかに右手を上げながら登場した。

 

「やあ──────諸君おはよう!」

「おっそーい!!!」

 

ナルトはカカシに指さして大声で怒る。サクラとサスケは声こそ出していないが怒りの表情でカカシを見ていた。

しかし、そんな視線など慣れたものなのか、カカシは二人の怒気を華麗にスルーして自分のリュックから目覚まし時計を出して12時にセットする。

 

「ここに鈴が2つある。これをオレから昼までに奪い取ることが課題だ。もし昼までにオレから鈴を奪えなかった奴は昼飯抜き!あの丸太に縛りつけた上に目の前でオレが弁当を食うから」

 

そうカカシが言い終えるとサスケからお腹の音が鳴る。カカシの言う通りに律儀に朝飯を抜いてきたのだろう。対照的に朝食を食べてきたナルトとサクラはけろりとしている。

 

「もしかして、二人とも飯食べてきたのか?」

「姉ちゃんの作ったご飯を無駄には出来ないってばよ!」

「食べてきてはダメとは言われませんでしたから。それに初日に三時間も遅刻した挙げ句黒猫が横切ったからなどとふざけた言い訳をする人間なら、今日も遅刻してくるものだと思ってました」

「あはは、そう怒るなって」

 

カカシはこの子は正論で人を追い詰める子だなぁと思いつつ、改善するとは言わずに笑って誤魔化す。

そして、これ以上この話を掘り下げるのは部が悪いとでも思ったのか、試験の説明に戻る。

 

「鈴は一人1つずつでいいぞ。2つしかないから…必然的に一人丸太行きになる…で!鈴を取れない奴は任務失敗ってことで失格だ!つまりこの中で最低でも一人は学校へ戻ってもらうことになるわけだ…」

 

カカシは鈴をチリンと鳴らす。

 

「手裏剣も使っていいぞ。オレを殺すつもりで来ないと取れないからな」

「分かりました。では、殺すつもりでいきます」

「ああ、全力で殺しにいくぜ」

「やってやるってばよ!」

「あ、うん…………やる気になってくれたのは嬉しいけどさ………」

 

今まで担当してきた下忍候補生は殺す気で来いと言うと大抵躊躇いを見せた。対して、この三人の躊躇の無さは一体……。それは三人が全員上忍の実力を知っているからである。例え殺す気で掛かったとしても鈴を奪えるかすら分からない。それほどの実力差だと正確に理解していたからだ。

特にサスケは天才うちはイタチの背を追い、見続けたお陰で、本物の実力者と言うものを三人の中で一番よく理解している。だから、冷めている。自分を凡人と考え、冷静に今の自分を冷めた目で分析し、現状の立ち位置よりも少し下に自分を見る。そういう人間は大きな失敗をしない。この世界のサスケは、原作サスケのように、「俺は他の二人とは違う!俺なら出来る!」などと自惚れたりはしないのだ。

 

(ちっ、悔しいが独力で鈴を取るのはまず無理だな。だが、鈴は二つしかない。ナルトと一緒に鈴を奪いに行くか?)

 

 

一方のサクラはたぐいまれなる頭脳によりこの試験を分析していた。

(参ったわね。冷静に考えて三人の中で一番実力がないのは私。つまり、仮に鈴を奪えたとしても丸太に行くのは私になるわけだ。この試験の意図がチームプレーを見るためにあるのか、下忍に相応しい実力を見るためにあるのかはまだ分からない。しかし、普通に考えてアカデミー卒業したばかりの生徒が上忍から鈴を奪うなんて不可能だ。鈴だと思うからなんだか出来そうに感じてしまうが、これが鈴ではなく極秘書類の巻物と考えれば絶対に奪えないと分かるだろう。下忍が頑張った程度で書類を奪われる程度ならそもそも上忍になれていないだろう。だが、もちろん、カカシが手加減をして、わざと奪えるくらいの実力に抑える可能性もある。チームプレーと言うのはあくまでサクラの希望的な観測だ。しかし、本意がどちらにせよ、サクラにとってはチームプレーを見るための試験とナルトとサスケに思い込ませる方が都合がよいのだ。)

サクラは二人を丸め込むべく探しに向かうのだった。

 

最後の第七班であるナルトもこの試験の難しさを理解していた。

(カカシ先生はシズネねえちゃんより強いってきいたし、一人じゃ絶対鈴奪えねえってばよ。でも、鈴は二つしかないし、どうすりゃいいんだってばよ!)

ナルトは自分の頭があまり良くないかとを知っている。そのため、分からないことは人に聞くことに躊躇いはない。こんな状況でもだ。

(取り敢えずサクラちゃんやサスケと合流して作戦会議だってばよ!)

 

三人は奇跡的に同時刻にかち合った。そして、サクラちゃんの理論武装した説得により、この試験がチームプレーを見るもので、協力して鈴を奪うと言う方針に決まる。問題はその方法だが、

「どうする?俺は火遁の術を幾つか使えるがカカシ相手には目眩まし程度にしかならないだろう」

「私も上忍相手に使えるような忍術は無いわ。幾つか幻術とかチャクラ消費の少ない術は使えるけど幻術なんてかかってくれないだろうし……。ナルトのあの分身を爆発させる技はどう?」

「口寄せの術もな」

「どっちもカカシ先生知ってるから警戒されてると思うってばよ。ま、でも、俺には他にも奥の手くらいあるってばよ」

「ほんとか!」

「どんな手なの?」

「それは……ごにょごにょ」

「なるほど、それは使えるわね。こう言う作戦はどうかしら?」

 

 

 

「なあに?結局、ナルト一人で来たわけ?」

 

カカシはナルト達が協力していることは知っていたが敢えて気付かない振りをしておく。その行為に特に意味はない。

 

「へへん!お前なんて俺一人でじゅーぶんだってばよ!あの田中なんちゃらって奴と同じ目に遭わせてやるってばよ!」

 

指をビシッとカカシに突き刺し、堂々と見栄を張る。忍者としてはアホっぽすぎるが囮としては中々に優秀だ。もっともカカシに知られてなければの話だが

 

「俺もお前の特別試験は見たよ。確かに下忍にしちゃ大した実力だったな…けど、ま、出る杭は打たれるって言うしね…俺をあの中忍と同じだと思ってると痛い目見るよ─────それと、一応忠告しておくが、俺に同じ術は通用しない…同じ戦術もな」

 

ニコッと笑うカカシ。特に戦闘のモーションは取っていないのだが、カカシの体から圧のようなものが吹き出す。様子を隠れて見ていたサスケとサクラはゴクリと息を飲んだ。

 

「マジで勝てる気がしねえぜ」

「でも、下忍になるにはやるしかないわよ」

「ああ、分かってる。俺達は予定の場所で待機だ。武運を祈るぜ、サクラ」

「サスケもね」

 

 

カカシの圧を真っ正面から受けたナルトは若干顔色を悪くさせていた。

 

「はん!同じ術は通用しないって?んなものやってみねーと分かんねーってばよ!多重影分身の術」

 

数十体のナルトが現れる。

 

「からのアルティメット変化!」

 

分身ナルトがそれぞれ裸の美女にアルティメット変化する。

ある者は綱手に、ある者はシズネに、ある者は夕日紅に、ある者は山中いのに、ある者は春野サクラに、またある者はアカデミーの女教師に、ナルトが木の葉で出会ってきた数多の美女に変化する。その数ざっと50体。貧乳から巨乳、ロリから熟女までよりどりみどりである。

 

ちなみにアルティメット変化とは見た目だけではなく重量や質感、香りまで再現するナルトのオリジナル上級忍術で、完成度はハリポタのポリジュース薬クラス。例え、直接触れても見破るのは至難の技だ。

 

「これが三代目火影すら倒した俺の新エロ忍術!アルティメットハーレムの術だってばよ!」

 

カカシはイチャイチャパラダイスを読み返そうと腰に手を向け掛けかけていたが、突然の全裸の美女軍団にピタリと動きを止める。そして、マジマジと変化ナルトを観察した後、

 

「え。と、色々聞きたいことはあるけど…その術で三代目を倒したって本当なの?」

「そうだってばよ!これを見たじいちゃんとエビス先生は鼻血を出して卒倒したってばよ!…カカシ先生も鼻血を出して卒倒するってばよ!」

「……」

「出してないってばよ!」

 

ナルトは驚愕する。男に対して絶対の力を有すると思っていたこの術はカカシには効かなかった。

 

「もしかしてカカシ先生 ホ」

「俺は普通に女が好きだぞ。だが、ま、忍ってのは如何なる状況でも敵から目を逸らさないものだ。例え、相手が全裸の美女集団だったとしても、それを静かに観察するのが真の忍者って生き物なのさ。残念たったな、ナルト。その術は真の忍である俺には効かない───あ、ちなみに、俺は貧乳も好きだが、巨乳派だ」

 

カカシは余裕の表情で、自己紹介では教えてくれなかった自分の好みすら伝えてきた。余裕。余裕である。

 

 

サクラ&サスケside

(あれがアルティメット変化…話には聞いてたけど本当に質感も重量も変わってるのかしら?知りたい!知りたいわ!)

 

春野サクラは自分の全裸が勝手に使われたことは気にせず、恍惚の表情を浮かべながら、未知なる忍術に欲情を示していた。全くこの班にはろくな奴がいない。

常にエロ本を肌身離さず持つカカシに、野外で全裸の女に変化するナルト、欲情するほどの知識欲を見せるサクラ。唯一まともな感性を持つのはサスケだが、彼は現在ナルトの術にやられて、鼻血を出していた。

 

(く、ナルトの奴、よりによってサクラに変化しやがって!ついさっきまで話してた相手だぞ!あいつには羞恥心ってものがないのか!く、とても直視出来ねえ)

 

 

 

カカシside

 

カカシは迫りくる全裸の美女集団を前に手裏剣を抜き、投げる。

このまま押し潰されたいとも思うが自爆する可能性のある奴を近づかせるわけにはいかない。

 

「いくら美女でも爆破するような奴はお断りだよ。手裏剣分身の術」

 

無数に飛来する手裏剣に、前列のナルト達が「うぎゃー!」と殺られる。(酷い光景だ。)後列のナルト達は手裏剣に殺られるくらいならとでも思ったのかその場で自爆し始めた。しかし、カカシとの間には距離がありすぎたため、それは本当に只の自爆である。

 

「何がやりたいんだ、お前は」

 

カカシは呆れ気味に砂煙の先を見る。無論ナルトも意味もなく自爆したわけではない。ナルトは砂煙の中で二代目火影が考案したと言う卑劣忍術の印を組み上げた。

 

(忍法 毒霧!)

 

忍法 毒霧。

この術は体内のチャクラを特殊な化学物質に変化させ、口から吐き出す忍術。この時作り出される物質は空気に触れることで瞬時に猛毒へと変化し、少しでも吸った者に致命傷を与える。そのため、単体でも充分強力な忍術だが、この術の真価は煙玉と併用することで、相手の油断を誘い罠にはめるトラップ忍術として使うことにある。例えば敵から逃走する際、煙玉で目隠しをして、毒霧を散布する。ただの煙幕と油断して調子に乗って追いかけてきた相手は瞬時に猛毒に侵され天に召される。仮に気づかれたとしても逃げる時間を稼げる。まさに、両天秤を掛ける布陣である。

 

もっとも、ナルトは頭が残念なのと使用時の危険性から麻痺毒オンリーしか使えない。だから、この煙玉に扮した黄色い霧を吸っても死ぬことはない。ただし、二代目特製の──綱手に引き継がれ、更に研鑽が積まれた──かなり強力な麻痺毒なので、予め解毒剤を服用していたサスケやサクラやナルトは吸っても問題ないが、カカシが吸えばその時点でゲームセットとなるだろう。

 

しかし、カカシはナルトの互乗起爆札を知っていたので迂闊に煙に突っ込むようなことはしなかった。慎重に煙の奥を観察する。そして、見つける!異変を!

 

(────あれは!? 煙に触れた虫が倒れていく!? まずい? 毒か!?)

 

(───カカシ先生やっぱり入ってきてくれないってばよ。なら、風遁で毒霧をぶつけてやるってばよ!)

 

カカシの驚愕とほぼ同時にナルトは風遁を練り込む。

直後、やや遅れて、カカシは胸の奥にチャクラを練り上げ、高速で印を結ぶ。もともと使うつもりだったナルトと突然使わされることになったカカシ。術の初動はナルトの方が数秒早かった。しかし、術のスピードと言うのは印スピードとチャクラを練るスピードで決まり、この二つは断然カカシの方が速い。結果、カカシの風遁とナルトの風遁はほぼ同時に完成した。

カカシとナルトが祈るように手を合わせると両者の口から強力な突風が吹き荒れる。

 

「風遁 大突破!」

「風遁 大突破ァ!」

 

奇しくも二人が選んだ術は同じだった。

毒霧を巻き込み、風遁と風遁がぶつかり合う。数瞬の拮抗。しかし、一方が他方を押し込む形で拮抗が崩れる。勝ったのはカカシだ。毒霧はナルトの方へと押し込まれ、ナルトは「うわああっ!」と悲鳴を上げ吹き飛ぶ。

 

「ちっ」

「流石ですね」

 

それを見て、舌打ちをするサスケ、素直に感心するサクラ。

砂煙が掃け、カカシは目を回すナルトとピクリとも動かない動物を見て冷や汗を流した。

 

「いやー、あれを食らってたらヤバかったね。煙幕に隠れて毒を散布するなんて性格に似合わず随分卑劣なこと考えるじゃないの。でも、ま、俺もそう甘くはないのよ」

「目が、回るってばよ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と、まあ、これがもしナルトが一人で戦っていたら起こっただろう状況である。折角の卑劣忍術もナルト一人では此処が限界だったのだ。しかし、今回作戦を考えたのは「全ての術を解き明かす」と危険な夢を持つ春野サクラだ。彼女が考えた作戦がこの程度で終わるはずがない。カカシはこの先マジで死にそうになるのだった。

 

 

replay

 

「風遁 大突破!」

「風遁 大突破ァ!」

 

奇しくも二人が選んだ術は同じだった。

毒霧を巻き込み、風遁と風遁がぶつかり合う。数瞬の拮抗。カカシは長年の経験からこの競り合いは勝つと言う確信を持つ。しかし、直後、ゾワリと背中に悪寒が流れる。その悪寒は直ぐ様現実となった。

 

「火遁 豪火球の術!」

(サスケか!)

 

サスケの口から人を飲み込める程の大きさの火の球が出る。その火球は普段なら問題にならない程度の大きさだったが、現在カカシとナルトは風遁を使っている。そして、風遁は火遁を更に大きくする性質がある。つまるところ、これは──

 

「うおっ!ぬおおおっ!」

「ナルトはお前に風遁を使わせるための囮だ!焼け死ねカカシ!」

 

鈴を取ると言う本来の目的を覚えているのか疑いたくなる言葉である。しかし、疑問を口に出してる余裕はない。

サスケの作り出した火球はカカシとナルトの使った風遁の力を吸い上げ、炎の魔神のように大きくなり、辺り一面に大爆炎を作り上げる。空気が歪むほどの熱量にカカシは久しく感じたことのなかった死を予感する。

 

直後、カカシとナルトはオレンジ色の大炎の中に消えて跡形もなくなくなるのだった。

 

 

 

 

カカシは迫りくる業火の直前、風遁を切り上げ、土遁で土の中に潜ることで、死を回避していた。

カカシの本当に優れている点は攻撃力でもスピードでもなく手札の多さ。五大属性全てを扱え、1000以上の術を持つカカシは如何なる状況にも対応できる。

 

(ふぅ…危なかった…が危機は取り敢えず去ったな…さて、今度はこっちの番だ…勝利を確信したときほど注意しなければならないって事をあいつらに教えてやろう…ますばサスケだ)

 

カカシは火遁で燃やされた毛先を撫でながらサスケの足元へと向かう。しかし、またもや悪寒が背中に流れる。

 

なんだ?今度は一体──

 

「───上にも後ろにも横にもいないってことは下ァ!」

「へ?」

 

サクラが右手にチャクラを集中させ地面を殴る。地面が真っ二つに割れ、割れた地面から冷や汗を流したカカシが顔を出した。

 

「あ、相変わらず凄い怪力だね」

「あー!いたってばよ!カカシ先生!」

「ちっ、土遁まで使えるのか」

「三人とも強いねえ。先生、驚いちゃったよ。油断してると本当に鈴取られそうだし、此処からはちょっと本気だしちゃうよ」

「けろっとしやがって」

「あ、今から外出るからちょっと待ってね」

「誰が待つかってばよ!地面に埋まってる今がチャーンス!だってばよ!」

「待て!ナルト!迂闊に近づくな!そいつは」

「うらああ!一生土の中でカッコつけてろってばよお!」

 

ナルトのパンチがカカシの顔面に炸裂する直前、土が変化してナルトを縛り上げる。

 

「ち、バカが!油断しやがって!土遁が使えるって言っただろうが」

 

サスケはナルトを助けるべく駆ける。しかし、土の中から現れたカカシの手に足首を捕まれる。

 

「そう、油断大敵だよ。土遁 心中斬首の術」

 

サスケを掴み土の中へと引きずり込んだカカシはゆっくりと土から出てきた。そして、サスケの頭に足を乗せる。

 

「いやー、足を乗せるのに丁度良い高さだね、お前の頭」

「くそが!」

「さて、最後はお前だサクラ」

 

 

結果的に言って鈴は奪えなかった。しかし、サクラの予想した通りチームプレーを見るテストだったらしく、ナルト達三人は無事下忍になることができたのだった。

 

 




卑劣な術は大抵扉間が作った…と作者は考えています。


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閑話 下忍生活

 

ナルト、サクラ、サスケが下忍になってから一ヶ月が経った。その間特に大きな事件もなく、何事もない日常が続いている。任務の失敗経験もなく、依頼者からの評判も上々で、良い滑り出しを切っていると言える。しかし、物足りなさを感じるのも事実。サスケもナルトもサクラも優秀な忍であり、そうじゃなくてもDランク任務など忍者じゃなくても出来る簡単な仕事が大半だ。猫探しとか畑を耕すとか老人介護とか、依頼する相手間違えてんじゃねーの、と思う依頼しかない。

せっかく下忍になったというのにアカデミーの頃より忍者らしいことをしていない気がする。加えて担当上忍であるカカシは毎度の事数時間遅れてくるし、指導らしい指導をしてくれたことがない。ナルト達にとっては大きく不満である。が、皮肉なことにこのカカシの遅刻癖は三人の仲を深めるのに役立っていた。

いくらカカシが遅刻してくると分かっていても、任務があるので集合時間に集まらないわけにはいかない。しかし、やはりカカシは来ずに数時間三人で待つ嵌めになる。それが何日も続けば嫌がおうにも仲は深まると言うもの。最近はカカシを持つ数時間の間に連携の修行をしたり、忍術を教えあったりして時間を潰している。上司があれだと部下は成長すると言うやつだ。そこまで考えての遅刻なら流石カカシと言える。

さらに、余りにも忍者らしいことをしていないので、ちょっと焦りを感じ、任務の無い休日もたまに集まって修行をしたりしている。そう言う時はナルトの家族である綱手やシズネ、サスケの兄であるイタチなどが修行を見てくれる。三人とも忙しい人なので毎度毎度とまではいかないが、彼等の指導のお陰で三人のレベルは順調に上がっていた。

 

 

 

第三演習場

今日は仕事のない休日だったが、サスケ達三人は修行をするため、第三演習場までやって来ていた。

 

 

その日はイタチも綱手もシズネも仕事が入っていたので、正真正銘三人だけの修行だ。

 

既に木登りの行や、水面歩行の行は三人とも会得済みなので、現在は更なるチャクラコントロールの修行や性質変化の修行をしている。

 

ちなみに、ナルトは影分身を使って修行しているので、ナルトの異常な成長速度の理由は、サクラもサスケも知っていた。現在も数十体の影分身を出して、木の葉を使い風の性質変化の修行をしている。

 

「ホントに羨ましい体してるわね」

「 全くだ。俺にお前の半分でもチャクラがあれば」

 

ナルトの怪物じみたチャクラ量を間近で見て来たサクラとサスケは、より効率的なチャクラの運用により、少ないチャクラで成果を出す戦闘方法へと将来の方向性を決めていた。

そのために、現在はチャクラコントロールに研きを掛けるために激しく揺れる水面(自家発電:水中で分身ナルトの一部が風遁の練習をしている。ナルトの上達に比例して、日に日に揺れが強くなるので正に打ってつけの装置。)の上で立ったまま、人体解剖図鑑なる本を読んだり、少ないチャクラで扱える手裏剣影分身や土遁を訓練したり、体術の訓練をしたりしている。

そのため、彼等は驚くべきスピードで成長しているのだが、それ以上の倍速で成長する仲間がいるので、あまり成長している実感が湧かずにいた。

 

「これじゃあダメだ。もっと革新的な修行法や術を修得しないと」

「そうね。でも、そう都合よく見つからないわよ。サスケはうちはの蔵書があるからまだいいじゃない」

「いや、俺もまだ下忍って理由で、蔵書の殆どは閲覧制限が掛かってる。言うほど見れる訳じゃねえんだ」

「そうなの。うちはも世知辛いわね」

「全くだ」

「「はぁ」」

 

二人揃って溜め息を吐く。その様子を見ていたナルトは記憶に引っ掛かる何かを引っ張り出すようにうんうんと唸った後、ポンッと手を叩く。

 

「あ!そう言えば、この前、家の倉庫に千手一族の蔵書が大量に置いてあるのを見つけたんだってばよ。何なら見に来るかってばよ」

 

明け透けなナルトの言葉に二人は興味をそそられる。とは言え、常識人たるサスケは他家の蔵書を勝手に盗み見るのは及び腰だ。

 

「それは気になるが、千手一族じゃない俺達が見て良いのか?」

「良いと思うってばよ。もう千手一族って母ちゃんしかいないし、誰も怒らねえってばよ」

「そう言う問題じゃないと思うが」

「そこまで気にしなくて良いんじゃない?私達は千手の蔵書とは知らずに読んでしまうだけなんだから」

「…サクラ…おまえ…」

「さっさっ、早く行くわよ」

 

知識欲の忠実なる僕たるサクラは提案を聞いた途端に支度を始め、軽やかなる足取りでナルトの家へと向かった。

三人とも昼食中だったのだが、昼飯の間も惜しいと言うことか。昼食を中断して準備をし出すサクラに、ナルトは弁当をかきこみ、サスケは後で食えば良いかと袋に仕舞い、後を追った。

 

 

(それにしてもサクラの奴……禁書を見せるとか言ったら、入浴中でもお構い無しに出てきそうだな)

 

否定出来ないヤバい未来を想像してしまいサスケは深い溜め息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

 

倉庫の中には実に沢山の本があった。その中には『初代火影のポエム集』や『マダラとの文通』や『扉間日記』などどうでもいい本も多分に含まれていたが、中には修行に役立つ書物も含まれており、その中でも飛びきりヤバい本を知識欲の下僕たるサクラが見つけてしまったのは正に運命の悪戯と言えよう。

もっともナルトはナルトでとんでもない本を見つけてしまったのだが。

 

『”うちは”という病 著 千手扉間』

『闇に囚われし一族うちは 著 千手扉間』

 

「…………………。」

 

ナルトは反射的に懐に二つの本を隠した。正直内容は気になって仕方がないが、流石にサスケがいる前で読むことは出来ない。なんせ、題名にそこはかと無い悪意を感じる。扉間自身は悪意を持って付けたわけではないかもしれないが、かと言って、うちは一族の前で広げられる題名ではなかった。

 

(と、取り敢えず、これは後で見よう。たぶん、俺一人じゃ理解できないからサクラちゃんと一緒に)

 

本を隠したのをサスケが気付いていないのを確認した後、ナルトはそろーっとサクラちゃんの方を見る。サクラちゃんに上手く合図を送り、サスケに気付かれず残ってもらおうと思って。

しかし、当のサクラちゃんは、顔を赤らめ興奮させながら、恍惚の表情で、手帳のような黒い本を掲げていた。その姿は神仏を崇め奉っているようであり、ハッキリ言ってヤバかった。

 

(な、何やってんだってばよ、サクラちゃん)

 

サクラが手にしたのは、後世に『扉間スケッチ』と呼ばれる本だ。それは開発の天才千手扉間が開発した──開発段階で頓挫した忍術を含む──オリジナル忍術が書き殴られている本であった。



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閑話 扉間スケッチ

お久しぶりです。


 

 

Side サスケ

 

一つ目の忍術は多重影分身の術だった。幻影ではなく実体を作り出す分身。ナルトがよく使っているアレである。

一応禁術に指定されている術だがサスケにとっては馴染みの深い術で、その汎用性の高さからサスケも覚えようとしたものだ。しかし、チャクラを等分割するという術の性質上ナルトのようにバカすか使うと死ぬらしい。

 眼前、すり切れた紙のページには図解とともに解説が書かれていた。50人くらいの人間が描かれていた。普通に死ぬ量である。

 

(俺がやったら一瞬で死ねるな。チャクラ量が多いとは言えない俺には向いてない術だ。次に行こう!)

 

 

二つ目の忍術を見る。

 

忍法・毒霧。

これもナルトの使う忍術で、サクラも綱手に教えてもらっていた。サスケにとっても馴染み深い術で、文字通り空気に触れることで毒に変化する霧を作り出す術だ。しかし、この生み出される毒は術者にとっても有効であり、練習や習得は必ず専門的な知識を持つ医療忍者の側でやるようにと言っていた。下手にこっそり一人で隠れて練習して皆を驚かせてやろうとか考えると、毒で自爆してそのまま誰にも気づかれずくたばってしまうという悲惨な事態にもなりかねない。実に危険な術である。

 

(サクラもナルトも使えるし俺が覚えるメリットは少ない。将来的には覚えてもいいかもしれないが現状の優先度は低そうだな。次だ)

 

ページをめくる。三ページ目。

 

(お、これは知らない術だ。なになに・・・)

 

忍法・白拍手。

 

特定の音に特定のチャクラを流して放つ術。普通に使っても相手の平衡感覚をわずかに狂わせる程度の威力しか出せないが、相手の思考を誘導し最も精神の弱い時点で使えば意識を刈り取ることもできる。なるほど。…正直相手を殺していいなら他の忍術のほうが有効ではあるだろう。しかし、チャクラのコストパフォーマンスの高さはほかの術の比ではなく高く、極めれば中々に便利な術と言える…かもしれない。何よりオサレだ。「殺しちゃいない。意識を奪っただけさ」(キリ!)とか一回くらい言ってみてぇ。非常に中二心が満たされそうである。

これなら一人で練習しても自爆しようもないし、後でこっそり練習してみよう。サスケは決心した。

 

 

 

その他にも、飛雷神の術、穢土転生の術、天泣、遠眼鏡の術、迷彩隠れの術など多種多様な術が手帳には記載されていた。サスケの得意な火遁や雷遁に限定して言えば、火遁・分身大爆破や、雷遁チャクラモード・扉間バージョンなどはかなり強力そうであった。まあ、その分チャクラ消費も激しそうだったが…。もし此処に書かれた術をすべて使いこなせることができたら最強の忍びと言って過言ではないだろう。無論そんなことは不可能ではあるが夢は広がる。とは言え、夢は夢として置いておき、サスケは冷静に自分の才能を分析し、考えを纏める。

 

 

(俺にはナルトのような膨大なチャクラ量はない…サクラのような頭脳も医療忍者としての才覚もない…カカシや兄さんの様な実戦経験も当然ない…そんな俺が第七班として存在意義を残していく為には…)

 

 サスケの出した結論は体術であった。

 

(木の葉には体術一筋であのカカシと並ぶ実力者もいると聞く。体術にはそれほどの可能性があるのだ。それに体術は写輪眼との相性も悪くない。まだ写輪眼は発眼していないがいずれは発眼すると期待して体を鍛えておくのは悪くないだろう。無論、忍術の修業を怠るつもりはないし、あくまで体術を基本として戦闘を組み立てるだけだが…)

 

よし!そうと決まれば鍛錬あるのみだ!

 

 サスケは闘志を新たにし逆立ちで家に帰るのだった。

 

 

 

 

 

夕刻。サスケと別れた二人は向かい合って座っていた。

ナルトは新忍術にすっかり思考を奪われて本の存在を忘れていたのだが、立ち上がろうとした際に懐に本を忍ばせていたことを思い出し、慌ててサクラを呼び止めたのである。

 

「それで私に何か用なわけ?サスケがいると言えない事みたいだけど」

「そーなんだってばよ!実はすげーヤバそうな本を見つけちゃったんだってばよ!」

「すげぇヤバそうな本?」

「これ!これこれ!」

 

ナルトは懐から二冊の本を出す。サクラはその題名を見てピクリと眉を上げた。

 

「俺じゃ読んでも理解できなそうだからサクラちゃん読んで簡単に説明してくれってばよ!」

「自分で読む努力くらいしなさいよ。まあ、気になるから読むけど」

 

サクラはナルトから本を受け取り、すごい勢いで読み進める。速読というものだ。噂では一日に十冊以上本を読んでるらしい。真偽のほどは定かではない。

程なくしてサクラは本を読み終える。

 

「なるほどね」

「どんな内容だったってばよ」

「中々濃い内容だったわね。まずはこっちは、うちは一族の体質、写輪眼の開眼条件、瞳力の強さと精神の関係、写輪眼の進化の段階、よく使われる技や特殊能力…そう言ったものが詳しく纏められている本ね。正直良く此処まで調べたって感じだわ。執念すら感じる詳しさよ」

「おー、なんだか凄そうだってばよ。もう一つの本は?」

「こっちは大したことは書かれてなかったわ」

「?」

「簡単に言うとうちは一族の性格や性癖を年代別に分析・考察したものね」

「!!」

 

ナルトは我が耳を疑った。思わず聞き返す。

 

「え?」

「うちは一族の性格や性癖を年代別に分析・考察して纏めた本ね」

 

 …もしかして俺は火影というものに理想を抱きすぎていたのかもしれない。火影とは誰よりも強く、清廉潔白で、里の皆から愛され頼りにされるヒーロー。ナルトの幼いころからの変わらない夢の果て。しかし、冷静になって考えてみると三代目のじいちゃんはただのエロじじいだったような…お色気の術で鼻血を出して気絶するわ、火影室に巨乳物のエロ本を隠し持っているわ…。初代様も綱手母ちゃんの話を聞く限りギャンブル好きだったみたいだし、二代目様は里の仲間の性癖を分析して本に纏めるというまさかの所業を残していた。いや、本当に。何を考えていたんだ。内容が的を得ていることがさらに悲惨さを増している。

 

「とんでもねえってばよ」

 

ナルトは恐れおののいた。

 

「ええ、とんでもない分析力よ」

 

サクラは尊敬を新たにした。

 ここにもとんでもない奴がいた。

 

 

 

 

最後の最後でナルトに衝撃の事実を与えてしまったもののそれはさて置き。

何はともあれサクラは写輪眼の人為的開眼のさせ方(扉間考察)を知ったのである。この状況でサクラが手を拱くわけもなく、サスケの写輪眼を開眼させようという思考に至るの至極当たり前の帰結であった。

 

「ねえ、ナルト。一つ提案があるんだけど…」

 

こうしてサスケの強制写輪眼開眼が決まったのであった。

 

 

 

 

木の葉で優秀と名高い忍び

自来也→オープンスケベ覗き魔

綱手 →ギャンブル中毒

大蛇丸→変態オカマ

カカシ→エロ本を持ち歩く

ガイ →見たまんま

 

イタチ→一見まともそうだが重度のブラコン

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓本編とは特に関係ない短編です。

 

 

 

女湯覗き計画 

 

 千寿扉間。言わずと知れた二代目火影であり、目的のために倫理観をかなぐり捨てる卑劣な側面もあるが、多くの優秀な術を開発し、ゼロから里の基礎体制を作り上げた事実は、彼が忍・政治家として隔絶した才覚を秘めていたことを物語っている。そんな天才・扉間が開発し、今なお誰にも破られることなく、影から木の葉の平和を守り続けている術があった。

 女湯に張られた結界(忍術探知結界)である。

 里の結成当時、変化の術を使い女湯を覗こうとする事案が地味に問題になっていた。その問題を解決するために扉間が編み出した覗き防止用結界は幾つかの世代を経た今尚多くの男たちの夢を阻み続けていた。効果は単純で結界内で忍術を使った者を探知すると言うもの。だが、単純故にその精度は高い。この結界を欺くことは若かれし自来也や大蛇丸、ヒルゼンにも出来なかった。無論この結界も完璧ではなく、忍術探知に特化させた結果、アナログ的な覗きにはその優秀な探知を発揮しない。だから、女装をして女湯に入ろうなどと言うイカれた思考をする相手には意味をなさない。無論、そんな相手がいればの話だが。

 

 ちゃぷん。

 ナルトは風呂に浸かり思案する。後ろにはシズネ、前には綱手がいる。背中からは柔らかい感触が伝わる。普通の少年ならこんな状況で集中することなど出来るはずがなく、ましてや覗きの計画を練ることなど不可能である。しかし、情操観念が未熟であり、何時も綱手とシズネと一緒に風呂に入っているナルトには全忍の夢とも言えるこの状況もある意味慣れたものであり、ナルトは深く思考の海に浸かる。

 

(別に女湯自体に興味があるわけではない。特殊な幼少期を過ごしたナルトは恋愛感情に疎く、まだまだお子様な感性しか持ち合わせていなかったからだ。かつて自来也と一緒に覗き…もとい混浴巡りなどをしたこともあるが、その時でさえハーレムの術の参考程度にしか思っていなかったほどだ。しかし、それはそれとして、同期から聞かされた木の葉に伝わる難攻不落の女湯というのは亡き火影からの挑戦のように感じられた。初代悪戯仕掛人としてこの件を無視するのは名が廃るというもの。自来也や三代目のじいちゃんすら失敗したというのもナルトの興味を刺激する遠因になっていた。

 

(でも、バレたら絶対怒られるってばよ…)

 

 問題はそこである。綱手母ちゃんはともかくシズネ姉ちゃんに変化の術で女湯に入ろうとしたなんてバレたら特大の説教は確定である。ただでさえ、最近ハーレムの術を木の葉丸に教えているのを運悪く見つかり大目玉を食らったばかりだ。ここで更に怒らせる様な事をするのは得策ではない。だが、ナルトは男として時には引いてはいけない状況があることも知っていた。今がその時かは分からないが…。

 

(もうすぐ中忍試験があるって話だし、中忍になってしまえばそうそうそんなことは出来ないってばよ。その前には一発かましとくのも悪くない、か-----)

 

 期限が最後のダメ押しになりナルトは覚悟を新たにした。

 

 

 

 

 ナルト、キバ、シノ、シカマル、チョウジ、木の葉丸、ウドン、そうそうたるメンツが揃ったその日、一次計画の失敗が報告された。

 

「アルティメット変化の術を使った自来也様はどうやら失敗したらしい」

「そうか。自来也様が新術を使っても駄目だったか」

「こうなるともう打つ手がないんじゃないの」

「いや、そうでもないわ。と言うか、この結果は予め予想できたものよ。結界の具体的な内容は結局分からず仕舞いだけど二代目様が作った忍術なんだからそう簡単に破れるわけがないわ。当然代替案も考えてあるわ!」

 

 サクラの余りにも堂々とした現状の分析と希望の言葉にこの場に集った全ての男の想いが一致した。

 

(((なんでこいつ此処にいるんだ?)))

 

 いや、酷い言い草だし今更すぎるツッコミではあるが、少し考えてみてくれ。覗きの計画を立てている場所にクラスでも1、2を争う美貌と人気の少女がいるのだ。端的に言って恥ずかしい。まだ十代になったばかりの子供であるナルト達からすれば赤面ものの事態であり、やりにくくて仕方無い。

 しかし、サクラの指摘は常に的を得たものだった。

 

「確かに忍術で結界を突破するのは不可能そうだけど、忍術で無理ならアナログで行けばいいのよ」

「「「!?」」」

「ど、どういうこと?」

「つまり女装ということね」

「なるほど。それは盲点だったぜ……とはならねえよ!」

「その通り。それには大きな問題がある。女装をしたところで隠せないものもあるということだ。なぜなら」

「皆まで言うな。あまりにもしょうもなさすぎる」

「大丈夫!それについても一応考えはあるわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところで、なんでサクラはあんな乗り気なんだ?」

「んー、たぶん結界がどの程度のものなのか知りたい知識欲だと思うってばよ」

「それだけでここまでするのか」疲れたように言うキバ。

「サクラちゃんだからなぁ……まあ、他にも考えはあると思うけど俺にサクラちゃんの思考を読みきることは無理だってばよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サクラの協力もあり、計画は非常に順調に進んでいた。そして、決行当日。

 ナルト、キバ、シノ、シカマル、チョウジ、木の葉丸、ウドンは女装をしてサクラと共に温泉へと赴く。

 

「んじゃ、行くぜ!」

 

 先頭に立つキバが意を決して皆をこぶし、更衣室の扉を開こうとして

 

「ふぎゃあ!」

 

 キバが扉に手を触れるよりも前に何故か扉が独りでに開き、中から風呂上がりらしき女が出てきて、キバを殴り飛ばしたのだった。

 

「「!!」」

 

 ナルトは目の前に仁王立つ女を見る。ツンツンとした黒髪で身長はシズネくらい。朱色の浴衣を着ており、胸元は大胆に肌け、上気した肌が色香を放つ。下着は着けていないようで、動いた拍子に胸とか脇とか色々見えている。

 しかし、今重要なのはそこではなく、女の顔だ。何処と無くキバに似たその顔立ちは犬塚一族特有のマークを頬に入れている。そして、キバの様子を見るに彼女はキバの母ツメであろう。ツメは鼻をピクピク鳴らすと、チョウジ、シカマル、シノにそれぞれ拳骨を落とし、次いでナルト、木の葉丸、ウドン、サクラを見る。臭いで個人を特定出来なかった四人は制裁こそしなかったものの信用もない。大方私の知らないキバの仲間だろうと辺りをつける。それは全くもって正しい推測だった。

 

「で、アンタらはこのバカどもとどういう関係だい?」

「えっと、彼女達とは今日の昼会って話の流れで一緒に温泉に行くことになったんです」

 

 サクラはあっさりキバ達を見捨てた。

 だが、これは予め決められていたことで何かあったら仲間の屍を越えていく、恨みっこなしだと誓っていた。サクラはそれを守っただけである。顔を青くさせていたキバは見なかったことにした。

 

 ツメはサクラの言葉を最初疑っていたが、そう言えばこのピンク髪の少女はアカデミーにいたなと思い出し、流石に女の協力者を作ることはできないだろうと考え、四人を見逃すのだった。ツメ痛恨のミスである。

 

 

 更衣室に入った四人は服を脱ぎ大きめのバスタオルで体を包み、いざ温泉へと行く。温泉の中は煙に包まれていた。特殊な煙の出る入浴剤を使ったらしい。これがサクラの策と言うことか。確かにこれならバレる可能性は格段に低くなる。しかし、ほとんど煙しか見えない。覗きとしてはどうなんだろうか?そんなことを考えていると唐突に焦ったような声が掛けられた。

 

「クシナ!」

 

 はて、クシナとは一体?

 首をかしげるナルトの前には一人の見知った女性(うちはミコト)。おでこの出た黒い長髪に、うちは一族特有の黒い瞳、30後半とは思えないほど整った容姿をしており、綱手程ではないにしろ優れたスタイルをしている。彼女は普段の冷静な姿はどこへやら、一紙纏わぬ姿で駆け寄ると、ガシッとナルトの肩を掴む。その拍子にポロっとナルトのバスタオルが落ちる。

 

「あ」

 

 ナルトは現在洗髪剤で癖毛を整え、赤く染めているので見た目はまんまクシナである。しかし、それは顔だけであり、体は男のそれだ。そして、いかに煙で見えにくくなっていたとしても此処まで近づけばハッキリと相手の姿は見える。

 ミコトはナルトの胸を見る。まっ平らだった。そのまま視線を下に下げる。あれがあった。数秒の間痛い沈黙が落ちる。

 

「………」

「………」

「ぎゃあああああ!!」

 

 

 

 

 

 当然この話は保護者にも伝わり、ナルトはシズネから大目玉を食らい始めて夕飯を抜きにされ空腹にうなされる夜を過ごすのだった。そして、翌日事情を聞いたサスケからも白い目で見られり、里の少年から変態勇者扱いされたりと、踏んだり蹴ったりのナルトだった。

 ちなみに自来也は綱手とヒルゼンにこってり絞られたとか。まあ、どうでもいい話である。

 

 

 

 

 

 

 

 



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幕間 大蛇丸

 

波の国。火の国の隣にある貧しく小さな国では、現在国中でお祭り騒ぎが起こっていた。

 

「わしは夢でも見とるのかのぉ。まさかこんな日が来るとは」

「夢なんかじゃないわよお父さん。誰がやったのかは分からないけどガトーはもうどこにもいないんだから」

 

タズナの言葉に娘のツナミが笑顔で答える。それでも、タズナは未だに夢を見ている気分であった。しかし、それも無理からぬ事だ。つい昨日までガトーは確かにいたのだ。しかし、今朝起きてみるとガトーが殺されているときた。しかも、事件が明るみに出て捜査が始まる頃には憎きガトーを殺してくれた下手人も、ガトーの部下も、ガトーが蓄えた金も、情報も全てが綺麗さっぱりなくなっていたのだ。まるで夢を見ているような気分になるのも無理からぬ事だった。

 

 

 

では、一体何が起こったのか?それはほんの少し前に遡る。

 

 

桃地再不斬は今迄どんな戦場でも感じたことが無いほどの猛烈な死の気配と言うものを感じていた。いや、これは気配などという不確かな物ではない。厳然な事実として自分はあと四半刻もせずに目の前の男に殺されるだろう。せめて白だけでも、と思うがそれすら出来そうにない。それほど圧倒的な実力差を見せつけられた。

 

眼前、赤黒い血の池の上に立つのは長身痩躯のやさ男だ。黒い滑らかな長髪を後で一本に纏め、鋭い切れ長の瞳が瓶詰めの実験材料を眺めるように見下ろされる。着ている服は何故か何処にでもありそうな白い着物ではあったが再不斬には死神の着る死装束にしか見えなかった。

 

唐突にやって来たその襲撃犯は刀を抜くことすらせず抜手で白を気絶させると、いきり立って目の前に立ち塞がるガトーの部下(ゴミ)共を切り刻み、応戦した再不斬をも赤子を捻るように甚振り叩きのめした。圧倒的な実力の差を見せつけられた男達は呆気なくガトーを見捨て我先にと扉へと駆け出す。

 

「うわあああああ!!」

「化け物おおおおお!!」

「ひいええええ!!」

 

普段散々粋がってる癖に情けない限りだが今回ばかりは男達の気持ちも分かる。相手が悪すぎる。仮に立ち向かっても何も出来ずに殺されるだけだ。

しかし、雇い主であるガトーからしてみたら堪ったものではない。まさかの護衛の裏切りに声を裏返して怒鳴る。

 

「こ、こら!待て!貴様らわしを守るのが仕事だろうが!しっかり戦わんか!」

「うるせえハゲ!」

「命あっての物種だ!」

「俺は旨い目みれるって言うからアンタに従ってただけなんだよ!」

「命まで賭けられっか!」

 

正論ではあるもののなんとも人望の無い男か。流石に少し同情する。

ガトーは顔を真っ赤にさせて怒ったが、直後、目の前に迫る男を見て「ひい!」と顔を真っ青に変えた。そして、それがガトーの最後の言葉だった。

 

「命乞いを聞く価値すらないわね」

 

一閃。残像を残すほどの速度で振るわれた刀は容易くガトーの首を撥ね飛ばす。すごい。場違いにもそんな感想を再不斬は抱き。

 

──コツコツ!

 

その時、血の絨毯に波紋が広がり、新たな入場者を歓迎した。このタイミングで来るということは襲撃犯の仲間か、運の悪い新たな被害者のどちらかだろう。果たして乱入者は前者だった。白髪長身の男は扉から逃げようとした男達を例外無く皆殺しにする。その一連の動きだけからも男の実力の高さが伺える。恐らく俺と同程度。更に逃走が絶望的となったわけか。

「カブト」と呼ばれたその男はメガネをクイっと上げて、今人を殺したとは思えないほど穏やかな声で言う。

 

「随分派手にやりましたね───大蛇丸様」

「な!!!?大蛇丸だと!!」

「おや、その傷でまだ意識があるとは流石は霧隠れの怪人桃地再不斬」

「俺のことを、知っているのか」

「貴方は僕と違って有名ですからね」

 

カブトは人の気を逆撫でするような笑みを浮かべる。普段なら悪態の一つでも吐くところだが、今はそんな些細事にかかずってる場合ではない。問題は何故大蛇丸程の大物がこんな場所にいるかだ。

 

「フフフフ。何故、私がガトーなんて小物を殺しに来たのかって顔してるわね。間違っているわよ。ガトーなんて正直どうでもいいのよ。煩かったから殺しただけよ」

「?」

「今私はある作戦を進めているんだけど、その為の戦力が足りないのよね」

 

つまりその戦力が欲しいと言うわけか。

なるほど。確かに言われてみれば白だけは何故か抜手だったし、俺もこれだけヤられても致命傷は一つもない。初めから俺と白は見逃すつもりだったと言われれば納得が出来る。いや、白は実力は兎も角全くの無名だ。つまり、俺の勧誘のためにやって来て、そのついでに一定以上の実力者も駒にしようと思ったのか。まあ、その結果俺と白以外は皆殺しになった訳だが。

 

「どうかしら?見ての通り貴方の依頼主は居なくなったわけだし、私に雇われてみない?」

 

お前が殺したんだろ、と言う言葉を飲み込む。

 

「計画の駒になれって話だろ。だったら、その計画を話すのが筋ってもんじゃねえのか?」

「貴方の生殺与奪権は今私が握っているわけだけど言葉を撤回する気はないかしら?」

 

大蛇丸は目を細め猛烈な殺気を叩きつける。正直逃げ出したくなった。ただの殺気でこれ程死をイメージさせられたのは初めての経験である。しかし、根性で耐える。

 

「内容も聞かずに依頼を受ける忍がいるか?そんなバカを信用出来るのか?それと俺にとって命は脅しの材料にならねえ。殺したきゃ殺せ」

 

これは半分嘘で半分本当である。

大蛇丸の悪名は知っている。もし自分一人なら殺されても断る選択をしたかもしれない。だが、今は自分の命よりも大切な白がいる。道具だなんだと言い訳してきたが、大切なものの死の恐怖は容易くそんな建前を壊してしまった。

今の再不斬は白の生存率を上げることを第一に考えていた。その為に自分の価値を上げつつ、情報を引き出す必要がある。

大蛇丸はそんな再不斬の考えを見透かすように蛇のような笑みを浮かべ、「木の葉崩し」の計画を少し話した。

 

「正気か?」

「生憎と生まれて此の方正気だったことなんて無いわよ」

 

大蛇丸のおどけたような本心とも取れる言葉に再不斬は意を決して答えるのだった。

 

「いいだろう。その話乗ってやる」

 

 

 

 

 

「まだ足りないわね」

「と言うと?」

「戦力の話よ」カブトの問いに大蛇丸は難しい顔で答える。

「正直木の葉を潰すのに砂と音だけじゃ足りないのよね」それが大蛇丸を現在悩ませている問題だった。

端的に言って木の葉の戦力が整いすぎている。自来也と綱手が何故か里に帰ってきているし、綱手に至ってはいつの間にか血液恐怖症も克服している。うちはの警務部隊も健在だ。里との不和を煽り木の葉崩し前にはうちはを潰し、研究材料にする計画など見る影もない。

 

「全く上手くいかないわね」

「砂の人柱力を里で暴れさせれば戦力差は引っくり返せると思いますが?」

「砂の人柱力はまだ幼く、随分不安定だと聞くわ。計画の合否をあんな子供に委ねるのは嫌なのよね」

「失敗すると?」

「失敗しても良いように手を売っておくものよ」

 

カブトは随分用心深いものだと思いつつ、ふと笑った。

 

「でも、解決策は既にあるのでしょう?」

 

もし何の解決策も無いなら大蛇丸様がこんな呑気にしているわけが無いのだから。もっとも大蛇丸様の様子を見るにあまりやりたくない手段のようだが

 

「相変わらず勘が良い子ね。ええ、勿論一応の案は考えてあるわ」

 

大蛇丸は右手に嵌められた空と彫られた指輪を撫でる。それは暁と呼ばれる傭兵集団の構成人員のみが持つ遠隔通信出来る特殊な指輪だった。

イタチが里抜けをせずに、暁に入らなかった結果イタチとのいざこざが起こらず、大蛇丸は今もまだ暁に所属していたのだ。

もっとも勝手にサボったり、リーダーに気持ち悪い視線を送ったりしてるので仲間内での評判はすこぶる悪いが。

 

「出来れば私の手だけで解決したかったけど、まあ、この際拘りは無しにしましょう───フフフフ、待っていてくださいねサルトビ先生」



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中忍選抜試験1

中忍選抜試験開始!
波の国編はガトーが大蛇丸に殺されたので護衛任務自体無くなりました!カカシの見せ場も無くなりました!

本編との差異
・ナルト、サクラ、サスケの戦闘能力UP!ただし実践経験無し!


 

その日、久しぶりにナルトは木の葉丸とモエギ、ウドンと一緒に忍者ごっこで遊んでいた。途中で通り掛かったサクラに「忍者が忍者ごっこして何してんのよ!」と呆れられるのも何時ものこと。しかし、今回は色々あって木の葉丸がサクラを怒らせ、「うわあ!鬼ババ!」と失礼過ぎる悲鳴をあげながら逃げた所で事故が起こった。砂隠れの額当てをした隈取の男にぶつかってしまったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「痛ぇじゃん。クソガキ。」

 

木の葉丸がぶつかった人物は砂隠れの下忍カンクロウだった。カンクロウは、木の葉丸の胸ぐらを掴み持ち上げる。

 

「ぐえっ!」

「俺…大体チビって嫌いなんだ…おまけに年下のくせに生意気で…殺したくなっちゃうじゃん……」

「あーあ。私…知らねーよ」

 

カンクロウの物騒な言葉に木の葉の人間は一瞬で警戒を高める。一方、カンクロウの隣にいた砂隠れの下忍...テマリはめんどくさそうに無関係を表明する。

 

「ごめんなさい。私がふざけて...」

 

サクラが事態を納めるべく代わりに謝罪するが、カンクロウは特に反応することなく、そのまま木の葉丸を持ち上げ続ける。

 

「うるせーのが来る前に、ちょっと遊んでみたいじゃん?」

 

カンクロウは、ナルトとサクラを見て木の葉のレベルを見ようと画策した。

 

「く...苦しい...コレ...」

 

木の葉丸は苦しそうに呻ぐ。その様子に心配そうにモエギ達が木の葉丸の名前を呼び、我慢ならなくなったナルトがカンクロウに向かって駆け出す。

 

「木の葉丸を離せ!隈取!」

 

それを見たカンクロウは、ナルトを転ばせようと靴にチャクラ糸を飛ばす。

不規則に動く物体にチャクラ糸を当てるのは難しい。中忍でも正確に行える人間は少ない。しかし、風影の息子として英才教育を受けてきたカンクロウは見事にそれをなした。

 

「うわわわわ!?」

 

唐突に動かなくなった靴にナルトは足を取られ前につんのめる。ニヤリと頬を吊り上げるカンクロウ。一瞬後に起こるであろう地面との衝突に目を瞑るナルト。直後、ナルトの足はそのまま靴からすっぽぬけて、いや、そうはならねえだろ、と言う奇跡の軌道を辿りテマリの胸にダイブした。

 

「どうした?金貨でも……ってええええ!!!」

 

あまりの事態に驚愕するカンクロウとテマリ。

特に当事者であるテマリの混乱は大きく一瞬何が起こったのか分からず唖然とする。直後、事態を把握し、みるみる顔を赤くさせる。

 

「な!何しやがんだ!この変態野郎!」

 

テマリは耳まで顔を赤くさせると、強烈な蹴りを不埒者に叩き込む。

 

「ぐえっ!」と言うナルトの悲鳴が響き、ナルトは来た道を帰るように吹き飛んだ。慌ててサクラがナルトをキャッチする。ある意味二種の果実に顔を埋めたナルトは幸運とも言えるがその代償は大きかった。

猛烈な痛みに股間を抱えるナルト。男達は一斉に顔を青くさせた。

 

「カンクロウ…テメェ…」

 

原因を作ったカンクロウにテマリが怒りの視線を向ける。

 

「い…いや、今のは俺悪くないじゃん。普通…こうはならないじゃん」

 

尻すぼみに声の小さくなるカンクロウ。比例して目付きの悪くなるテマリ。

カンクロウは分の悪さを感じて視線を反らす。

その時、タイミングを見計らったと言うわけではないが小石がカンクロウの頭に飛来し、思わず木の葉丸を掴んでいた手を離す。

 

「そのくらいにしておけ」

 

突然、拘束が解かれ尻餅をつきそうになる木の葉丸。サスケは最近の体術修行で獲得した速度を遺憾無く発揮し、木の葉丸の背を然り気無く支えてやる。

それは思わず周囲にいた人間が感心するくらいスマートな動きだった。ナルトだけは悔しそうに股間を抑えていたが…

 

「おい、待て!…俺は黒髪のガキ...てめえみたいに小利口にしてるガキが一番嫌いじゃん」

 

何もかも上手くいかず、しかも、同年代らしき男に感心してしまった怒りからカンクロウは背負っていたものを取りだそうとする。

 

「カンクロウ、やめろ」

 

しかし、それより前に冷たい第三者の声が響く。

 

「里の面汚しめ...」

 

三人目の砂隠れの下忍...我愛羅だった。

 

「喧嘩で己を見失うとは呆れ果てる...何のために木の葉くんだりまで来たと思っているんだ...」

 

その男は木の上に逆さで立っていた。サスケの登場もインパクトがあったが、我愛羅の登場はまた別の意味でインパクトがある。背筋が凍るようなオーラ。人殺しの目と言うのが一番近い。

そして、その感想はどうやら大きく外れていないようで、ここまで尊大な態度を崩さなかったカンクロウが初めて怯えの色を見せる。

 

「わ、悪い…でも、こいつらが…」

 

言い訳をするカンクロウ。

 

「黙れ...殺すぞ...」

 

だが、我愛羅はその言い訳を聞くことなく、一言で黙らせる。

木の上から消えた我愛羅はナルトの達の前に現れて。

 

「君たち悪かったな。カンクロウも他里に来て気が大きくなっていたんだ。後で俺がキツく言っておく。今回は俺の顔に免じて許してやってくれ」

 

理知的に謝罪する我愛羅。しかし、その表情は何処までも冷たく見るもの全てに恐怖を与えた。

我愛羅がテマリとカンクロウを促し、背を向けるまで木の葉丸達は息をするのも忘れていた。

 

「ふぅ…こ、こわかったね」

「こ、殺されるかと思いました」

「ビビってねえぞこれ!って…あ!ナルト兄ちゃん!」

 

そして、色々あって忘れていたナルトのことをようやっと思い出す。

 

「ナルト兄ちゃん大丈夫かこれ?」

 

ナルト ハ 屍 ノ ヨウダ

 

「だ、大丈夫ですか?」

「た、玉が…潰れるかと思った」

「ナルト兄ちゃんカッコ悪いぞこれ!」

「あんまり大きい声出さないでくれってばよ。股間に響く」

(((………本当にカッコ悪い)))

 

踏んだり蹴ったりなナルト。

その微妙な空気を変えるようにモエギがサスケに頭を下げる。その顔はちょっとだけ赤く染まっていた。

 

「でも、サスケさんはすごくかっこ良かったですね!」

「僕も感動しました!」

 

モエギに続きウドンの尊敬までサスケにかっさらわれた。おのれサスケ!許すまじ!

 

「いや、普通に戦えばナルトの方が強いぞ」

 

しかし、サスケはナルトを立てた。と言うより本心から言った。実際のところナルトの方が強いのは事実であり、それはサクラもカカシも知るところだった。しかし、何も知らないものから見ればそれは可哀想な同僚をフォローしている優しいできる男の様にしか見えない。カンクロウやテマリもそう思っていた。唯一、我愛羅だけはサスケの声音に真実を見る。

 

(ナルト、か…覚えておこう…)

 

こうして我愛羅の殺す者リストにナルトの名が加わるのだった。

本当に踏んだり蹴ったりであった。



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中忍選抜試験2 中忍選抜試験前日


今回はカカシ先生が活躍する貴重な回です!







 

6/30 中忍選抜試験前日

 

今日も今日とてカカシを待ちわびるナルト達。担当上忍の遅刻など本来そうあることではないが、第七班にとっては普通。時間通りに来ることが異常である。だから、今さら遅刻することにどうこう言うことはない。サクラは本を読み、サスケは筋トレをし、ナルトは朝食を食べて時間を潰す。それから30分程して、普段よりもかなり早くカカシはやって来た。

 

「で、今日は何があったんですか?」

 

本から目を上げ半眼で聞くサクラ。

いつも予想だにしない言い訳を用意してくるカカシに、半周して期待の念すら沸いてくる。今日は一体どんな頓珍漢な言い訳をするのか……

ちなみに、昨日は「…今日は道に迷ってね」だった。「忍者が自分の里で迷ってどうすんだってばよ!」とナルトに切れられてたが全面的に同意である。もし事実なら若年性痴呆の疑いがあるので病院を進めたい。まあ、100%嘘なのでスルーしたが。

果たしてカカシの答えは───「…今日は人生という名の道に迷てね」だった。

 

三人の深いため息が第三演習場に虚しく響く。

 

「流石にその反応は傷つくよ」

「どうでもいいのでさっさと今日の用件を言ってください」

「あぁ…うん…分かった…お前達三人中忍選抜試験に推薦しておいたからそこんとこ宜しく」

「中忍選抜試験?」ナルトの疑問にサクラが答える。

「中忍選抜試験とは、砂・木ノ葉及びそれに隣接する小国内の、中忍を志願している優秀な下忍が集められて行われる試験のことよ。合同で行う主な目的は、同盟国同士の友好を深め、忍のレベルを高め合うこと。しかしその実、隣国とのパワーバランスを保つ事が各国の緊張を緩和させると言う目的もあるわ。毎年人が死んだり、再起不能者が出たりするかなり危険なテストね」

「さすがサクラ…よく知ってるね…いや、ほんと…知りすぎじゃない」

サクラはナチュラルに無視して疑問を述べた。

「でも、先生。通例中忍選抜試験にルーキーは出ないと思うんですが私達にはまだ早いんじゃないですか?下忍になってまだ3ヶ月ですよ?」

「いや、お前達の実力は既に中忍クラスだ。充分受ける力はあると思うぞ。ま、危険なテストだから当然拒否権はお前達にある」

 

言いつつカカシは志願書を配る。

 

「受けたい者だけその志願書にサインして 明日の午後4時までに学校の301に来ること──今日の用件はこれで終わりだが解散の前に少しお前達に見せておきたいものがある。時間がある奴はちょっと残ってくれ」

 

 

 

 

 

処変わって、木の葉の里のとある森の中。そこには三人の少年少女が各々鍛練を積んでいた。彼等は全員が下忍であり、今年中忍選抜試験を受けることになっている。

 

「聞きましたか?5年ぶりにルーキーが中忍選抜試験に出場するらしいですよ」

 

おかっぱ頭の少年…リーが大木に回し蹴りをしながら元気よく言う。

五年ぶり、と言う言葉からも察せられるようにアカデミーを卒業したばかりの新人が選抜試験に参加するのはかなり異例なことだ。それなりの数の任務をこなさなければチャレンジするのも難しい試験、それが中忍選抜試験だ。

 

「どうせ上忍同士の意地の張り合いでしょ」

 

お団子頭の少女…テンテンは呆れながら言う。

 

「ですが、その内三人はあのカカシの部隊だそうです」

 

今までカカシの担当で下忍になれた者は0。つまり三人はカカシが初めて合格させた下忍だ。

カカシのライバルを自称する彼等の担当上忍から頼んでもないのに情報が入ってくるせいで、ガイ班の三人はカカシ班に興味を持っていた。

 

「それは面白い」と最後のガイ班の少年…ネジは自信に溢れる笑みを浮かべる。

 

「「「!!!」」」

 

直後、修練場の中央に緑が飛来した。煙を上げて着地した物体はよくよく見ると全身タイツを着たとんでもなく太い眉毛の、濃い男だった。

 

「よお!お前達!青春してるな!」

 

男の名はマイト・ガイ。彼等の担当上忍である。

 

「どうしたんですかガイ先生。何時にも増して厚苦しいんですけど」

「何か良いことでもあったのか?」

 

テンテンとネジが鬱陶しそうに問う。

 

「実は今からカカシと熱いバトルをすることになってな!暇ならお前達も見学しに来いと伝えに来たのだ!」

「おおおお!それは燃える展開ですね!ガイ先生!」

 

「「はぁ」」

 

燃え上がる二人の師弟にネジとテンテンは暑苦しいと溜め息を吐くのだった。

 

 

ちょっと残ってくれと言われ何があるのかと思ったが、どうやらガイとカカシが戦うところを見せてくれるらしい。上忍同士の戦いを見れると言うことでナルト達は早くも観戦モードだ。

「カカシ先生!ファイトだってばよ!」とか「ガイ先生頑張ってください!」など応援が飛ぶ中でカカシとガイは向かい合って静かに対峙している。

 

「お前から俺を誘うとは珍しいなカカシ。もう吹っ切れたのか?」

「いや、まだ吹っ切れてはないよ。ただ俺の部下は優秀でね。ここまで挫折もなく来ちゃったわけ。中忍試験も近いし、ここらで上の戦いってやつを見せておきたいのよ。って言うのは建前で最近どうも俺に対する尊敬の念が薄れていって危機感を感じてるからイメージアップを狙ってるわけだ。ま、最近習得した新術もあるから退屈はさせないよ」

 

ガイは長年の付き合いでカカシの本音を理解していたが敢えて触れることはなくニヤリと笑う。

 

「イメージアップか!では、俺もリーの前で格好つけなきゃいけんな!本気で行くぞカカシ!八門遁甲第六景門解!」

 

ガイの体から蒸気が吹き出す。

 

「話が早くて助かるよ───『鳴神』」

 

カカシの体に電気が流れる。

 

「む?それは雷遁チャクラモードか?雲隠れの?」

「いや、少し違う。その劣化版だ」

 

 

「なあなあ、雷遁チャクラモードって何だってばよ?」

ナルトの言葉に待ってましたと言うようにサクラが説明を開始した。

「雷遁チャクラモードは、雷の国の夜月一族が使う超高等忍術よ。雷のチャクラを全身に纏うことにより攻撃力、防御力、スピードを飛躍的に底上げする反則級の技で当然会得難易度は最上級のSオーバー。でも、夜月一族特有の強靭無比な肉体と膨大なチャクラを前提とした忍術だから、普通の忍には使えない欠陥忍術と言う人もいるわ。カカシ先生が今使ってるのはその雷遁チャクラモードを参考に二代目火影様が考案した劣化版ね。本家本元よりスピードや攻撃力・防御力は落ちるものの、肉体への負荷や消費チャクラが少ないから夜月一族じゃなくても使えるのよ」

 

最も扉間が飛雷神の術と言う超チート忍術を使えたうえに、木の葉に雷遁の使い手が殆どいなかったなどの理由から日の目を見ることなく埋没されていたわけだが。

 

(もしかしてカカシ先生扉間スケッチ見た?)

 

内心サクラが驚愕してるのを他所に二人の戦いの火蓋は切って落とされた。

 

 

 

「に、人間の動きじゃねえ…ガイもカカシも…これが上忍の力…」

「カカシ先生ってこんなに強かったのかってばよ!」

「は、速すぎる!鳴神…これほどの忍術だったなんて…すごいわ」

「うおおおお!今日のガイ先生は何時にも増して格好イイです!本当に輝いてるように見えます!」

 

八門遁甲は輝く蒸気を出す。つまり、現在ガイは物理的に輝いてるわけだが、それを指摘する無粋なものはいない。ちなみに、輝き具合で言えば雷を纏うカカシの方が上だがそれを指摘するものもいない。

 

「ふふふ、やるならカカシ!」

「お前こそ体術だけで雷のスピードについてくるとか相変わらずとんでもないね」

 

 

 

 

数時間後。

中々帰ってこないナルトを探しに来た綱手に、ちょっと熱が入りすぎて互いにボロボロになったカカシとガイは「お前ら何してんだよ」的な目で見られる事となる。

 

「全くイイ大人がなにやってんだ……凄い騒ぎになってたぞ」

「そんなひですか」

「ああ、ドゴン!ドゴン!と巨大な鉄球を打ち付けてるような音が絶え間なく聞こえてきたからね。すわ、天変地異の前触れかと思えったら…まさかガイ…お前のパンチが地面を抉る音だとは思わなかったぞ」

「いやーはは、お恥ずかしい」

「カカシもだ。一体どんな戦いしたらそんな格好になるんだ」

 

綱手は溜め息をついてカカシとガイを見る。

前歯折れてる

青あざだらけ

顔すげー腫れてる

脱臼してる

服ぼろっぼろ

髪の毛ぼさぼさ

悲惨の一言につきた。

 

「で、勝負はどっちが勝ったんだ?」

「俺だ!」

「俺です!」

 

「結局、どっちなんだい……」

 

「いや、どう考えても俺が圧してたでしょ。俺の勝ちだよ」

「いや、持久戦になったら俺が勝っていた。俺の勝ちだ」

「あー引き分けってことでいいかい?」

「「いや、俺の勝ちだ!!」」

 

二人ともボロボロだったが何故か元気よく言い争いながら木の葉の病院に運ばれていくのだった。

 

 

 




オリジナル忍術
鳴神ナルカミ
雷の国の夜月一族が使う雷遁チャクラモードと言う超高等忍術を参考に作られた扉間のオリジナル忍術。雷遁チャクラモードとは夜月一族特有の強靭無比な肉体と膨大なチャクラを前提とした忍術で、普通の忍には使えない。一方のナルカミは本家本元よりスピードや攻撃力・防御力は落ちるものの、その分肉体への負荷や消費チャクラが少ない。最も扉間は飛雷神の術と言う超チート忍術を使えたことと、木の葉に雷遁の使い手が殆どいなかったなどの理由から日の目を見ることなく埋没された忍術だった。



カカシ「こっそり練習してたんだ…」
ガイ「朝孔雀を初披露!」
リー「カッコいいです!」
サスケ「いつか俺も!」
ナルト「カカシ先生もゲキマユ先生もスゲェってばよ!」
サクラ「はぁ…はぁ…す…すごい…はぁ…はぁ…」


カカシがガイとの戦いを見せた真意
「忍ってのは常に死のリスクが伴う過酷な職業なんです。どれだけ成長しても自分より強い奴はいるし、少しの油断が仲間や自分自身の命を奪うこともある。たとえ油断してなくても理不尽な絶望を味わうことだってある……中忍選抜試験を受ける…あるいは受けないと言う選択をする前に今の自分では越えられない壁があるってことをアイツ等に知っておいて欲しかったんですよ…」


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中忍選抜試験3 中忍選抜試験当日

 

 

7/1 中忍選抜試験当日

 

ナルトの家

 

「んじゃ行ってくるってばよ!姉ちゃん!母ちゃんにも伝えといてくれってばよ!」

「綱手様は夜勤でしたからね…ところで、志願書は持ちましたか?」

「忘れてたってばよー!ど、どこだったっけー?!」

「はい。志願書」

「サンキューだってばよ!姉ちゃん!」

「怪我しないように気を付けてくださいね」

「おう!ババっと合格してくるから楽しみに待っててくれってばよ!」

 

ナルトは慌ただしく家を出た。

 

 

 

うちは家

 

「行ってきます!父さん母さん兄さん」

「頑張るのよサスケ」

「応援してるぞ」

 

ミコトとイタチが柔らかい笑顔でサスケを見送る。フガクは何時もの厳格な表情で告げる。

 

「俺は何も心配していない。気負い過ぎず何時も通りにやってこい」

「は、はい!」

 

サスケは背をピンっと伸ばし、敬礼せんばかりの硬い返事をして家を出た。

 

「あなた、あまりサスケを緊張させちゃダメよ」

「む?そんなつもりはなかったんだがな」

「気持ちは伝わってると思うよ父さん」

「ふふ、そうね」

「………俺の顔はそんなに怖いか」

 

ミコトとイタチはふっと目を逸らした。

 

 

 

春野家

 

「送迎は要らないわよ」

「ですが、お嬢様今日は大切な試験が」

「いいって直ぐそこなんだから!てか、試験会場に馬車で行くとか何の罰ゲームよ!絶対嫌だから!あ、もちろん付いてくるのも無しだからね!変に注目されたくないし!」

「しかし───」

「しかしもカカシもないのよ」

 

サクラはメイドと執事を言いくるめて逃げるように家を出た。付いてこられたら堪らない。アカデミーの入学式で充分懲りてるのである。あんな恥ずかしい思いは二度とごめんだ。

 

「あ…ナルト、サスケ、早いわね!おはよう!」

「おはようだってばよ!サクラちゃん!」

「サクラか…これで全員志願書を持ってきたってことか…」

 

三人は一緒に並んでアカデミーへと向かう。道中サクラはナルトに志願書の記入漏れを注意しながら歩く。

 

「ついたってばよ!」

 

アカデミーには既に志願者が大勢集まっていた。しかも、なにやら騒ぎが起こっている。

 

「何かあったのか?」

 

サスケが見ると志願書を提出する301教室の入り口に、2人の忍者が立ちはだかって、通行を邪魔しているようだった。

 

「ふ〜〜〜〜〜ん そんなんで中忍試験受けよっての? やめた方がいいんじゃない ボクたちィ ケツの青いガキなんだからよォ…」

 

リーを吹き飛ばし、通して欲しいと頼むテンテンまで蹴り飛ばした二人の妨害者は計算し尽くされたようなムカつく表情と声音で受験者を煽る。

 

「中忍試験は難関。俺達も3期連続で合格を逃している。

受験したばっかりに、忍者をやめる者や再起不能になった者もいる。

それに中忍は部隊の隊長レベル。任務の失敗や部下の死亡などすべては隊長の責任になる。

どのみち受からないものをここで篩(ふるい)にかけて何が悪い」

 

一見正論にも聞こえるがその実無茶苦茶な事を言っている。一受験者に篩に掛ける権限などあるはずがない。…もっとも、彼等は受験者ではなく受験者に変化した試験官なので資格があるちゃあるんだが…

そんな事を知るはずもないナルト達は思わぬ邪魔に面倒臭そうに眉を寄せてた。

 

「ねえ、どうする?ナルト、サスケ」

 

サクラは二人にこそこそと話し掛ける。

 

「どうするって…スゲェ殴りたい顔だってばよ」

 

ナルトもこそこそと検討外れな答えをする。

 

「…いや、そう言うことじゃなくて…サスケは分かってると思うけど…幻術よ」

「そうだな。ここは二階だ」

「ん?二回…ん?」

「三階じゃなくて、な」

「あぁ…二階…!ていやいや…も…もちろん初めから分かってたってばよ!」

 

サクラはナルトを無視して話を進めた。「無視すんなってばよ!」と悲しい叫びも聞こえたがそれも無視される。

 

「あまり目立ちたくはないけど…私…時間の無駄って嫌いなのよね…」

 

そう言うとサクラはおもむろに邪魔者の前に歩いていく。

 

「私達が用があるのは三階なので、この幻術でできた結界を解いてもらえませんか?ここは二階ですよね」

 

志願者達はサクラの言っている意味がわからず何言ってんだあいつ、と言うような顔をしている。

妨害している2人は、サクラに見破られたことに気がつき、ニヤリと笑う。

 

「ほぉ…気付いたか…他の有象無象とは違うようだ…だが…気付いただけではな…」

 

そう言って殴り掛かる。

サクラもリーやテンテンが殴られていたのでこの展開は予想していたが、予想外の乱入者が現れビックリする。その男…ロック・リーは試験官の正拳を腕でガードし、サクラに向けてナイスガイな笑みを浮かべる。

 

「サクラさん!昨日ぶりですね!改めて、自己紹介させてください!僕の名前はロック・リー…一目惚れしました!僕とお付き合いしましょう!!死ぬまで貴方を守りますから!!」

 

それはあまりにも堂々として、男らしく、輝くような笑みであり、思わず試験官も出していた手を引っ込めた。こいつ何言ってんだと言う視線が突き刺さる。

妙な空気が流れる中でサクラは自分に突き刺さる視線を感じながらバッサリとリーをフッた。

 

「お断りします」

 

その一歩引いたかのような態度がいたたまれなかったと後にナルトは語る。

 

 

 

 

 

その後、同期との会合があったり、カブトと音忍のいざこざがあったりしたが、つつがなく第一次試験が始まるのだった。

 

 

 



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中忍選抜試験4 第一次試験

試験官目線ってないなと思い書いてみました!




 

中忍選抜第一の試験ルール

①最初から各受験者には満点の10点が与えられている。試験問題は全部で10問・各1点とし不正解だった問題数だけ持ち点から点数が引かれる。減点方式。

②試験はチーム戦。つまり、3人一組の合計点(30点満点)で競われる。

③「カンニング、及びそれに準ずる行為を行った」と見なされた者はその行為一回につき持ち点から2点ずつ減点される。

④試験終了時までに(カンニングにより)持ち点全てを失ったもの・及び正解数が0だった者は失格とする。また、その失格者が所属するチームは、3名全員を道連れ不合格とする。

 

 

 

 

 

とある試験官の独白①…中忍はツラいよ

俺は今回中忍選抜試験第一次試験…通称カンニング試験に受験者として参加する中忍である。この試験は森野イビキとか言うイカれたサディストが考案した試験で、筆記試験と銘打ってるくせに受験者には解けない超難問ばかりが選ばれている。実際俺も素でやったら一つも分からん。ゼロ点確定だ。当然受験者である下忍が解けるわけもない。

無論、この一見破綻した試験内容にも意味はある。ぶっちゃけるとこれはカンニングを前提とした情報収集能力を測るテストだ。その為に予め試験の全ての問題の答えを知る中忍が二人配置されている。それが俺だ。

イビキも試験ルールの説明の時に「ここからが肝心だ」とか、意味深で分かりやすすぎるほどの助言をしている。しかも、3人1組の試験のくせに用意した試験官が2人。周りをよく見ているものなら試験が始まる前に、あれ?人数合わなくない?と気付く。その人数のおかしさもヒントの一つだ。

 

当然ここまでヒントがあると出来る下忍ならば早々にこれがカンニングを前提とした試験だと気付く。そうなれば受験者達は、各々持てる技術を駆使して、『忍らしく』忍術などを使って私の答えを覗きに来るわけだ。

 

そう…忍術を使って私の答えを覗きに来るんだ!

 

考えてみてくれ。忍術の中には当然、危険なもの、訳の分からないもの、気持ちの悪いものが多くある。そんな訳の分からんものをカンニング試験と言う免罪符の元俺に使ってくるのだ!なのに俺は逃げることができない。試験官だから。ツラい。本当にツラい。

あぁー…出荷される豚ってこんな気分なんかな?泣けてくる…おのれイビキ!あのサディストめ!

しかし、相手は上官。忍において階級は絶対。私は泣く泣くこの任務を引き受けた。「いや、快く引き受けてくれて良かったよ」じゃねえよ!上官じゃなかったら殴り飛ばしているところだ。

「ふざけんな!お前がやれ!」と俺は今でも思っているからな!

ん?なんだ?目にゴミが…もしかして何かの忍術か…?く、イビキめ!許すまじ!

 

(第三の目開眼!!!)

 

 

 

 

 

 

 

とある絶対に笑ってはいけない試験官達の独白②…こいつら面白ぇ

 

(ふふ、犬がキョロキョロしてだいぶ怪しいが…良いぞ!)

(あいつは犬塚家の人間か…忍犬としっかり信頼関係を築けてるようだな!合格だ!)

 

 

(あのお団子頭の娘…額当てを使うつもりか…だが、その角度では答案は見えんだろ………なに!?)

テンテンは極細糸を通したクナイを天井に投げた。

(なるほどな…天井に吊るしたクナイに反射させて額当てに映った答えを見るわけか…中々器用だな…この試験ならではの珍事だ)

 

 

(ほぉ、あいつは音を聴いてるのか…音忍ならではのナイスなカンニングと言えよう…惜しむらくはソイツは適当に書いてるだけだってことか…お、気付いたか…くく、消してる消してる)

(ぷ…いや、笑っちゃいかんな…くはは)

 

 

(ん?見たことない試験官がいるぞ…チャクラ糸が付いてる…傀儡か?)

(くく、見回るフリして問題をガン見してるぞ…あいつ)

(ここまで堂々としたカンニングはイビキも想定外だろうな…くく、打ち上げの時にでもからかってやるか…)

(…話しかけてみようかな)

 

 

(…………っ!わ、分からない。あいつはどうやってカンニングしてるんだ…春野サクラァ……!)

(…こ、この俺にすら気付かせないカンニング能力だと…!本当に下忍か…!)

(カカシの部下か…やりやがるぜ)冷や汗

 

試験官達はサクラのカンニング方法が分からず驚愕する。なにせ、本当にカンニングしてないように見えるのだ。いや、本当もなにも事実してないのだが…

イビキだけはサクラが自力で解いていることに気付き、違う意味で驚愕していた。

 

(驚いたな……まさかカンニングせずにこの問題を解く奴がいるとは…中忍でも絶対に解けないレベルの問題…自分でもちょっとやり過ぎたかと思う問題を作ったんだが……下忍がこれを解くか…春野サクラ…アカデミー始まって以来の秀才……全く今年は豊作だな)

 

 

 

 

受験者side

 

 

(…分からん)我愛羅

 

(フン…なるほどね…こんなもん一問たりともわかんねー…)サスケ

 

(ふ…分かるわけがない)ネジ

 

(めんどくせー……)シカマル

 

(ぐぅ……お腹へったよ)チョウジ

 

受験者の大半は問題のあり得ない難易度にある考えに辿り着く。

 

((((これはカンニングを前提とした試験か!!))))

 

だが、そんな中で一部の例外的な頭脳を持つものだけは試験の目的をガン無視して普通に解き進めていた。

 

(問2 図の放物線Bは高さ7mの木の上にいる敵の忍びA手裏剣における最大射程距離を描いている。

この手裏剣の楕円に現れる敵の忍者の特徴および平面戦闘時における最大射程距離を想定し答えその根拠を示しなさい…なるほど…結構難しい問題ね…でも、何とか解ける範囲の問題だわ…)

 

サクラはナルトとサスケを心配しながらもスラスラと答えを書く。その手に淀みはない。

そのサクラの斜め前に座る長身の女もスラスラと答えを書く。大蛇丸だった。

 

(フフフ…流石イビキ…嫌らしい試験を作るわねぇ…性根がねじ曲がっている証拠だわ…クフフフ…クフフフフフ…)

 

(大蛇丸様が筆記試験を解いている…シュールだ)

 

唯一大蛇丸の正体を知るカブトは目の前に広がる異様な光景に戦慄を禁じ得ないのだった。

 

 

最後にうずまきナルトはと言うと、試験の真意に気付くこともなく、問題を解く頭脳もなく、頭を抱えていた。

 

(や、やべえってばよ!一問も分からねえ!筆記試験があるなんて聞いてねえってばよ!カカシ先生ェ!!)

 

ナルトは何とか解ける問題はないかと穴が開くほど試験用紙を見るが全く分からない。詰みの状況に追い込まれたナルト。その脳裏にふとイビキの言葉が過る。

 

「「カンニング、及びそれに準ずる行為を行った」と見なされた者はその行為一回につき持ち点から2点ずつ減点される」

 

つまり、四回まではセーフってことである。

 

(…い…一回のカンニングで全問盗み見れたらバレバレでもセーフ…なのか…?………いや、ダメだ!…一回見ただけじゃ覚えられねえってばよ!)

 

自分の頭の悪さが憎い。

しかし、どれだけ頭を捻っても解決策が浮かばず絶望するナルト。

そんな時、隣の席に座るヒナタから救いの手が差しのべられた。

 

「ナルトくん…私の答案見る…?」

 

それはとても甘い誘惑だった。甘く甘美で思わずすがってしまいたくなるほど魅力的だった。しかし、ナルトは理性を総動員させて拒絶する。自分だけなら兎も角助けようとしてくれたヒナタまで失格にさせるリスクは取れなかった。

ヒナタの提案が逆にナルトの覚悟を決めさせたのである。

 

(こうなったら最後の問題に掛けるしかねえってばよ!)

 

 

 

その後、あの名言「俺は逃げねえぞ!一生下忍になったとしても意地でも火影になってやる!」を残し、無事ナルトは一次試験を突破した。

 

 



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中忍選抜試験5 第二次試験① シカマル視点

シカマル視点




 

第一次試験が終わった直後、ガラスの割れる音とともにどでかい布に包まれた何かが回転しながら飛来した。突然の珍入者に一同が唖然とする中で袋の中から人間が出てくる。その人間は曲芸じみた動きで体勢を整えると、身の丈ほどある巨大な扇子を広げ、バババン!と言う効果音が聞こえてきそうなポーズを取った。

 

「第二次試験官!みたらしアンコ!見参!」

 

それはシカマル史上最もインパクトがある登場だった。

 

 

 

みたらしアンコ。そう名乗った第二試験の試験官はシカマル史上最もエロい格好をした女だった。

後ろで1つに纏めた紫の髪に、綱手様にも負けない巨乳と括れた腰、鎖帷子の上に直接ジャケットを羽織る扇情的な衣装を着用し、パンツが見えそうな程短いスカートを履いている。

 

性格は出会って数分で分かるほど豪胆で、スタイルも服装も常識外。そんな彼女は疲れを見せる受験者達にサディスティックな笑みを浮かべ、休憩を挟まずに第二試験の試験会場…第四十四演習場───別名「死の森」へと連れてきた。

ここには人すら食らう獰猛な猛獣や、お前どう見ても別種だろと思うほど育ちすぎた怪虫が跋扈し、毒草や毒キノコがしれっと群生している。子供がうっかり足を踏み入れれば間違いなく二度と生きて帰ることはないだろう魔境。木の葉で最も危険な場所の一つである。そんな場所を試験会場に選ぶなよ、と思ったがこっちに辞退する権利がある時点で何を言っても自己責任か。

 

ちなみに、この「死の森」についての説明は俺が知っていたように言っちまったが、実は、つい今し方サクラが得意気に胸を張ってしてくれたものだ。おかけでそれを聞いていた受験者達は俺を含めて震え上がって顔を青くさせている。いや、中には全く表情が変わらない強者(我愛羅、ネジ)や、何やら笑みを浮かべている奴(大蛇丸、カンクロウ、音忍など)、欠伸をしている変わり者(テマリ)もいる。あいつらは要チェックだ。出来れば敵対したくねぇ。

そして、説明をかっさらわれたアンコ試験官はと言うと、サクラに怒るでもなくその知識を称賛し、受験者にしっかりフォローもしてくれた。

 

「ふふふ、流石は博識ね…でも、心配しなくていいわ…この森には本当に危ない生物はいないから…中忍になれるくらいの実力があるなら猛獣に殺されることはないわ」

 

それはつまり中忍になれない程度の実力だと殺されるかもしれないと言うことですか…そうですか…

受験者達の心の声が聞こえるようである。

 

「それじゃ、第二の試験を始める前にアンタらにこれを配っておくわね!同意書よ、これにサインしてもらうわ」

「同意書?」

「そ。こっから先は死人も出るから、それについて同意をとっとかないとね!私の責任になっちゃうからさ〜〜〜」

 

さらりと死をほのめかし、試験官であるアンコはサディスティックに笑う。配られた紙には婉曲されてはいるものの、簡単に言えば「試験中に死んでも自分の責任」というような旨が書かれていた。更には必要な人には遺書まで用意してくれるらしい。涙が出る気遣いだ。どうせなら試験内容にもその気遣いを反映して欲しかったと切に思う。

 

「へへへへん!そんな風に脅されても全然怖くねえってばよ!!」

 

唐突に同期の──付き合いは短いもののするりと自分の心の中に入ってきた──バカだが憎めない男の声が聞こえた。と思った時には試験官の手からクナイが放たれておりナルトの頬を掠めて飛んでいく。そして、それに驚愕しているナルトの背に試験官は抜き足で回り込み、ペロリと赤い舌をナルトの頬に這わせた。…いや、羨ましいとか思ってねぇ。胸が当たってるとか、あれってキスに入るんじゃねぇかとか思ってねぇ。

 

「あなた…活きが良いわね…でも、そう言う人間ほど早死にするものよ…」

 

アンコはやたらエロい触り方でナルトを弄る。好みは少年なのだろうか。

 

「フフ…私の大好きな…赤い血をぶちまけてね」

 

あ……唇に舌が…

 

「クナイ…………落としましたよ」

 

と、草隠れの忍が奇妙な程長い舌でクナイを掴み、アンコに手渡した(…いや、舌渡した。)

 

よくやった、と言いたいところだが、試験官よりあの受験者の方がよっぽど薄気味わりぃぜ。背筋が氷る目付きってのはああいうのを言うんだろうな…あいつには絶対近づかないようにしよう。

 

「あら…ありがとう…でもね… 殺気を込めて……私の後ろに立たないで 早死にしたくなければね…」

 

「…赤い血を見てるとついウズいちゃうのよ…それに…大切な髪を切られたら誰だって興奮しちゃうじゃない」

 

……受験者も試験官もヤベェ奴しかいねぇのかよ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、第二次試験の説明を始めるわ」

 

散々受験者を脅した後、ようやく試験の説明が始まる。しかし、ついさっきまでイビキに精神的に詰められ、サクラに無意識に脅され、アンコに止めを刺された受験者は、疲れきった表情でせめて十分だけでも休憩させてくれと思っているようだった。かく言う俺も思ってる。てか、もうこのまま試験すっぽかして帰りたい。第一一日に二つも試験を行うってことがもう可笑しいんだよ。

と思っているのは俺だけではないようで、ちらほら不満の声が上がる。もっとも続くアンコの「何だか皆疲れているみたいね…私好みの良い表情だわ…この試験でもっと良い表情にしてあげる、アハ」と言うありがたくない言葉に皆口をつぐんだが。

 

 

さて、肝心の試験内容だが受験者達がここに連れて来られてから薄々察していた通り実技…それも猛獣と怪虫蔓延るこの森をフィールドにしたサバイバル戦だった。

 

「ここには84人…つまり28チームが存在する…その半分14チームには「天の書」…もう半分の14チームには「地の書」をそれぞれ1チームひと巻きずつ渡す…そしてこの試験の合格条件は…期限である5日以内に天地両方の書を持って中央の塔まで3人で来ること」

 

つまり少なくとも半数の受験者が不合格になるってことか。しかも、14チーム42人が合格するのはまずあり得ねぇ。行動距離は日をおう毎に長くなるだろうし、猛獣や怪虫への備えも必要、火を焚けば猛獣はどうにか出来るとしても他の受験者に居場所が知られるリスクがある、だが、食料は自給自足…サバイバルをやるなんて聞いてなかったから兵糧丸も大して持ってねぇ…基本食材は現地調達だ…安全を考慮すれば調理に火を使うのも必須だろう…しかも、俺のチームには食べる量には定評のあるチョウジがいる…奴は早くも腹を空かせているようだった…下手なもん拾い食いしないように後で言っておかねえとな…

 

「アンコ試験官…まだ開始までに時間があるなら食料取りに行っても良いっすか」

 

ダメ元で聞いてみる。

 

「ダメね。任務中に食料を現地調達するなんて良くあることよ…そう言う能力を見るための試験でもあるんだから」

「そっすか」

 

妥当な答えだが欲を言えば人によって食べる量に違いがあることを考慮してほしかった。

まあ、無理なら無理でそれを前提に考えるだけだ。

それに問題は食料だけじゃねぇ。

俺達がルーキーってことだ。

こう言う試験はルーキーを狙うのが定石になりがちだ…普通はそうするし、俺でもそうする…それが一番成功率が高いからな…問題は俺達がそのルーキーってことだ…しかも、只のルーキーじゃない。一人は見るからにサバイバルに向かなそうな自称ポッチャリのデブ、もう一人は女のイノ、んで最後の一人は木の葉のルーキー逃げ腰ナンバーワンの俺だ。まさに鴨がネギ背負って、ついでに食料やら忍具まで揃えて歩いてるようなもの。襲ってくれと言ってるようなものである。

 

つーか、ルーキー云々以前に俺達より弱いチームってあんのか?…………………ん?………あれ……?………もしかして俺達最弱チームなんじゃ…………

……………………やべぇ…なんか凹むぞこれ…はぁ、こりゃ思った以上にめんどくせぇ…恨むぜアスマ…やっぱ俺達は今年は見送るべきだった…

 

「よーし!気合い入れて行くわよ!チョウジ!シカマル!」

「めどくせぇがやるしかねえか」

「僕も頑張るよ…」

 

 





セクハラ試験官みたらしアンコ
ナルトにセクハラをする!



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中忍選抜試験6 第二次試験②

 

第二試験(サバイバルプログラム)概要

 

フィールド

第四十四演習場…通称「死の森」

鍵のかかった44個のゲートと有刺の鉄網に円形状に囲まれた大森林。中には演習場を両断するように流れる一本の大きな川とそこから分岐した無数の支流があり、多種多様かつ危険な生物が生息している。中央には塔があり、入り口から塔までの距離は約10km。つまり、直径20kmの演習場が今回のフィールドだ。

 

プログラム内容

各自の忍具や忍術を駆使した、何でもアリの「巻物争奪戦」。28チームのうち半分の14チームには「天の巻」、残り14チームには「地の巻」の巻物が渡される。試験の合格条件は、天地両方の巻物を持って、120時間以内(=5日間)に中央の塔まで3人で来ること。食事は自給自足で、途中のギブアップは一切なし。例え仲間が負傷しても5日間は森の中にいなければならない。

 

失格の条件。

1.時間以内に2種類の巻物を3人で塔まで持ってこられなかったチーム。

2.班員を失ったチーム、または再起不能者を出したチーム。

3.巻物の中身を塔にたどり着くまでに見たチーム。

 

以上三つの何れかに該当したチームを失格と見なす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二次試験の試験官であるみたらしアンコからルールの説明があった。その内容は思った以上に過酷なもので参加には同意書まで必要らしい。今、サスケの手にも一枚の紙がある。死亡同意書だ。実際の重さなど0.1gも無いだろうにサスケには妙に重く感じられる。

 

ちらりと紙から視線を上げ周囲に目を向ける。

 

さっきまで不満を漏らしていた者もいるが、やはり辞退する者はいないらしい。全ての受験者が覚悟を決めた目をしていた。つまり、ここにいる全員が死亡同意書にサインすると言うことである。

 

彼等は俺達を殺す気で来るだろう。自分を殺すかもしれない相手に手加減をするバカはいない。命懸けの戦いになる。

 

(俺に出来るのか…?殺す気で来る敵に何時も通りに対処出来るのか……?そして、俺は人を殺せるのか……?)

 

初めての実戦だ。しかも、ここにはいざって時に守ってくれるカカシはいない。全てを自分達だけで対処しなければならない。失敗すれば自分の命だけじゃなくナルトやサクラまで死ぬかもしれない。

 

(やる…!必要なら俺は人を殺す…!…覚悟は今決める……!)

 

ぶるりと体に震えが走る。これは恐怖か…?いや…

 

「なんだサスケ…震えてんのか?」

 

ゴソっと何かが近づいてくる音と共に声が聞こえる。そこには灰色のジャケットに両手を突っ込んだ木の葉の額当てを着けた少年…キバが挑発気味に笑っていた。

 

「は、武者震いだ」

 

サスケも挑発気味に笑って返す。

 

「で、何かようか?」

「ああ、少し忠告に来てやったんだよ」

 

キバは恥ずかしげに頬をかきながら続ける。

 

「あの草隠れのくノ一…舌のやたら長い女には気を付けろ…かなりヤバい」

「そんなのお前に言われなくても分かってるってばよ」

 

ナルトがもっともな答えを返す。そのくらい、誰が見てもヤバそうな女だった。

しかし、それはキバとて分かってるはずだ。その上で尚忠告にきたと言う事実がサスケには気になった。

 

「そこまで言うなら何か根拠があるのか?」

「赤丸は相手の実力を本能で察することが出来るんだが…その赤丸がすげぇ怯えてんだよ」

「なるほど」

 

動物の本能ってのは人間よりも遥かに優れている。忍犬ならば尚のことだろう。その感覚を笑い飛ばすことは出来ない。一応、どの程度ヤバいのか聞いてみる。

 

「今迄見たことねえくらいだ…ま、そう言うことだから気を付けろよ…お前ら…と言うかナルトはトラブル体質だからな」

 

んじゃあな!と手を上げキバは去っていった。

 

 

 

 

 

 

同意書と引き替えに各チームに巻物が渡され、各自が割り振られたゲートへ向かう。

 

ゲート6は、我愛羅、カンクロウ、テマリの砂忍チーム。

(敵チームも怖いが、我愛羅と5日間も一緒にいるのがもっと怖いじゃん)

 

ゲート12は、ナルト、サスケ、サクラ チーム。

「近づく奴は片っ端からぶっ倒ーす!」

 

ゲート15は、アンコにクナイを渡した舌の長いくノ一がいる草隠れの3人チーム。

「まずはルーキー狙いだな」

「ここからは殺してもいいそうだからかえって簡単ね」

 

ゲート16は、キバ、ヒナタ、シノ チーム。

「よっしゃぁ!サバイバルなら俺達の十八番だぜ!」

 

ゲート20は、ドス・キヌタ、ザク・アブミ、キン・ツチの音忍チーム。

「これは都合が良い…公然と我々の使命が果たせるチャンスですね」

 

ゲート27は、シカマル、チョウジ、いの チーム。

「めんどくせーがやるしかねぇか」

 

ゲート38は、カブト、赤胴ヨロイ、剣ミスミ チーム。

「油断せずに行きましょう」

「「………」」

 

ゲート41は、ネジ、リー、テンテン チーム。

「ガイ先生!僕は頑張ります!見ていてください!」

 

 

「最後に一つアドバイスよ────死ぬな! これより 中忍選抜試験 第二の試験! 開始!!」

 

ゲートから中へ飛び込む受験者達。

第七班も森へと入る。

彼等の実力は間違いなく今回の参加者の中でもトップクラス。普通に戦えば負けることはないだろう。

しかし、初めての命懸けの実戦に三人の表情は固い。

そんな中早くも悲鳴が聞こえた。

 

「早速始まったか」

「……今の 人の悲鳴よね!? …な …なんか緊張してきた……」

 

ナルトは「どうってことない」とサクラを励すが、自分も緊張している。そして、人間と言うのは緊張するとトイレが近くなる事もある。ナルトもどうやらそうなってしまったらしく、開始早々サクラの前で立ちションをしようとする。

 

(…お前…それはないだろ……)

 

そのあんまりにと言えばあんまりな所業にサスケは若干固さがとれ、溜め息を吐きつつ、ナルトの頭をどつく。

 

「草陰でしてこいウスラトンカチ…サクラがいるんだぞ」

 

ナルトは何を言ってるのか分からないと言うように首を傾げる。サクラは「私は別に気にしないわよ」と豪胆なことを言う。

 

(こ…こいつら羞恥心を一体何処に捨ててきたんだよ……俺は気にするよ…!ナルトが此処でするってことは同じ男の俺も此処でしなきゃいけないって事になるんだぞ…!!)

 

 

だが、それをそのまま口に出すのは恥ずかしかった。故にサクラを引き合いに出したが、別に私は二人が後ろ向いててくれるなら皆の前でしてもいい、などと言い出す始末。流石にこれには焦った。

 

「た…確かに安全を考えれば常に三人でいた方がいい…だが、この班にはナルトがいる」

「ん?俺?」

「そうだ。ナルト…お前は口寄せが使えるだろ?サクラがトイレ行くときはカツユを口寄せしてサクラを護衛させろ」

「おお!なるほど!分かったってばよ!」

「そして、俺達がトイレに行くときは影分身に護衛をさせるんだ」

 

かなり早口で捲し立てたサスケ。その勢いもあってか無事二人を納得させることが出来た。

草むらに去っていく三人のナルトを見送り、警戒しつつもサクラと待つ。

 

(いつ敵が襲ってくるかも分からない中で、5日間の野宿。しかも、この常識をかなぐり捨てた二人と…思った以上に大変そうだ…)

 

 

 

 

 

 

「あーーーー すっげー出た〜〜〜 すっきりー!!」

 

しばらくするとナルトが帰ってきた。行きは三人だったナルトが五人になって。その内二人は雨隠れの額当てを着けたパンツ一丁の気絶した男を抱え、二人は男の物だろう服を持ち、残りの一人…おそらく本体であろうナルトは手ぶらで現れた。ちなみに、「あーーーー すっげー出た〜〜〜 すっきりー!!」と言っていたのは手ぶらのナルトである。

 

「何があったんだ?」

 

何かあったのは見ただけで分かる。

 

「あー…実はしょんべんしてたらいきなり襲われたんだってばよ…サスケに言われて警戒してたから対処できたけど危うく溢すとこだったってばよ」

 

どうでもいい告白を聞き流しながら問う。

 

「で、何でそいつはパンツ一丁なんだ…」

「巻物隠してないか探したんだってばよ…でも、持ってなかったってばよ…運がねえってばよ」

 

本当に運が無いのはその雨隠れの忍だろう。ナルトを襲ったばかりに開始早々パンツ一丁にさせられた忍に、サスケは哀れみの目を向ける。

 

「そんでさ!こいつどうすんだってばよ!」

「…巻物が無いなら用はないが…」

「なら放置でいいんじゃない?」

「それもそうだな。そこらへんに立て掛けておくか…あぁ…服は近くに置いておいてやれ」

「そうね…でも忍具はポーチごと持っていきましょう。あと後を追われたら面倒だから関節を外しておきましょう」

「サクラちゃんは鬼だってばよ」

 

こんな風に呑気に話しているものの、サクラとサスケはいつ雨隠れの忍の仲間の襲撃が来ても良いように警戒を続けていた。しかし、仲間の道具を奪っても関節を外しても助けが来る気配が無いので、単独行動していたのだろうと一応の結論を着ける。

 

「ふん…どうやら本当に一人だったみたいだな」

 

サスケがホッとした様に言う。

 

「そうね…一応備えもしていたんだけど」

 

サクラは噴射型催涙スプレー(饅頭タイプ)をポケットに仕舞う。(玉葱とタバスコを濃縮して作った饅頭の形をしたスプレー。ナルトとの共同製作第7号作品。)

サクラが関節を外したのは敵を誘き寄せる意図もあったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり合言葉を決めておいた方がいいと思うわ」

 

襲撃者を撃退した後も三人は油断せずに作戦を練る。主に話を進めているのはサクラとサスケだ。

 

「そうだな…今回は運良くナルトが撃退出来たからいいが、敵の変化の可能性もあるわけだ」

「変化の術を見破るのは犬塚一族とか日向一族みたいな特殊な感知能力がないと殆ど不可能よ。変化の術で仲間に化けてこちらの油断を誘うってのはありきたりだけど効果的な手だわ」

「効果的ってことは使う人間も多いってことだ…だから、一旦三人がバラバラになった場合…例えそれが仲間であっても信用するな。必ず合言葉を確認し、それが間違った場合は、どんな状況でも敵と見なせ」

「で、肝心の合言葉は何にするんだってばよ」

「いいか…良く聞け…言うのは一度きりだ…」

 

ナルトは慌てて身を乗り出して聞き耳をたてる。

 

「忍歌『忍機』と、問う。その答えはこうだ...」

 

"大勢の敵の騒ぎは忍よし、静かな方に隠れ家もなし、忍には時を知ることこそ大事なれ、敵のつかれと油断するとき"

 

割と長い合い言葉。ナルトは顔をしかめる。正直覚えきれるわけがない。しかし、それでも頑張って全部覚えようとした結果───初めの言葉も忘れてしまった。

 

「.........サ…サスケ...念のため…もう一回頼むってばよ...」

「一回だけだと言ったろ...巻物は俺が持つ...」

「……………」

 

不満顔のナルト。さらっと無視するサスケ。

この会話を、土の中に隠れて聞いている忍がいることにナルトは気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

合言葉が決まったので立ち上り行動を開始しようとした3人を突然の暴風が襲う。ものすごい突風で飛ばされてバラバラになる3人。

 

「うぎゃああああ!!」

「く!」

「きゃあ!!」

 

サスケはクナイを手に持ち、茂みに隠れ、敵の次の手を警戒する。そこにサクラが合流し、サスケは合い言葉を問う。スラスラと答えるサクラ。その「返答」にサスケはサクラが本人だと認める。

 

そして、暫くすると、ナルトも合流した。

 

「痛ぇ...おい、みんな。大丈夫か?」

 

笑いながら近づいてくるナルト。

 

「ナルト、ちょい待ちなさい。合言葉...」

 

そのナルトにサクラが合言葉を聞く。

 

「分かってるって...『大勢の敵の騒ぎは忍よし、静かな方に隠れ家もなし、忍には時を知ることこそ大事なれ、敵のつかれと油断するとき』」

 

ナルトもスラスラと合い言葉を答える。その答えを聞いた瞬間サクラはポケットから饅頭を取り出し、ナルトに向けて握り潰した。

 

瞬間、勢い良く饅頭から煙が噴射される。サクラとナルトが共同で作った噴射型催涙スプレー…その真っ赤な煙は見事ナルトに直撃する。

 

「ぐ、ぐおおおうおおう!!」

 

絶叫が響き渡る。タバスコと玉葱を濃縮したその煙は人に向けていいような代物ではない。

直撃を食らった忍はそのあまりの痛みに変化の術が解けボフンっと煙が上がる。ほぼ同時───襲撃者が件の草忍のくノ一だと気付いたサスケが煙玉を投げる。

 

ここから取れる手段は幾つかある。

追撃か逃走か。

 

「逃げるぞサクラ!こいつは無理だ!」

 

サスケが選んだのは逃走だった。

 

「───……っ………やってくれるわねェ……今のは効いたわよ……」

 

数秒前後不覚になるが、持ち前の不死性を活かして直ぐ様持ち直す。そして、たった数秒ではこの草隠れのくノ一……大蛇丸にとっては無いようなもの。逃げるのは不可能だった。

 

煙が晴れた場所でサクラ、サスケと大蛇丸が対峙する。

 

「…ふふ…中々良い不意打ちだったわよ…お嬢さん…それに不意打ちに忍具や忍術を使わなかったのも高得点……まさか自作の饅頭型催涙スプレーを持ち歩く下忍がいるなんて思わないものね…つい油断しちゃったわ…」

 

事実もしサクラがクナイを投げたり、印を踏んだりしたら大蛇丸は問題なく対処出来ただろう。大蛇丸にすら予想出来ない角度からの攻撃だったからこそ不覚を取れたのだ。

 

「それに…逃走を選んだのもセンスが良いわサスケくん……彼我の実力の差を素早く正確に把握する能力は時として実力以上に重要となる力よ……そして、勝てないと分かれば逃げるのが忍として正しい選択」

 

大蛇丸はよくやったと誉める。

サクラとサスケの頬に嫌な汗が流れる。

 

「でも…一つ分からないのよね……私の変化にどうやって気付いたのかしら…」

 

大蛇丸は悠然と問う。そこには圧倒的強者としての余裕と僅かな興味が見て取れる。

 

サスケは時間稼ぎのために答える。一秒でも多く時間を稼ぐ。それが今自分達の出来る唯一の手段だと信じて。

 

「この状況は、演習場に入る前から想定していた」

 

サスケは演習場に入る前の待機時間の会話を話す。

 

この試験はサバイバル。回りの者全てが敵だ。

もし、なんらかの方法で俺達がバラバラになった場合、本人と確認するための合図を考えておいた方が良い。俺達はそう考えた。そして、真っ先に浮かんだのが合言葉だ。だが、ナルトはバカでな。長い合言葉なんて覚えられねぇときた。そんなナルトの話しを聞いたサクラが提案したんだ。

 

「口寄せしたカツユに本人か確認させればいいってな」

 

その言葉と同時にサクラとサスケの服から小さな蛞蝓が出てくる。

 

「だから、合言葉はなんでも良かったんだ。重要なのは、俺達の言葉じゃなく、カツユの言葉なんだからな...」

 

カツユがペコリと頭を下げる。

サスケは時間を稼ぐべく、カツユの遠隔通信能力を話し、さらに、敵が地面で俺達の会話を聞いていることも気付いていたと語る。

 

「それを罠に掛けるために敢えて合言葉を聞かせたわけだ」

 

「なるほどねェ…つかれも油断もないってわけね...思った以上に楽しめそうね...」

 

だが、襲撃者は特に気落ちする様子は無く、むしろ楽しそうに笑う。

 

「…私達の『地の書』欲しいでしょ… キミ達は『天の書』だものね…」

 

大蛇丸は持っていた「地の書」を飲み込む。人間か?ってくらい不気味な相手だ。舌が伸びるのを見た時からヤバいとは思っていたし、キバに忠告されて警戒もしていたつもりだ。だが、それは本当に、つもり、でしかなかったのだと気付く。

 

「さあ… 始めようじゃない…… 巻物の奪い合いを… 命懸けで」

 

瞬間、サスケとサクラに想像を絶する衝撃が走る。大蛇丸が何かをしたわけではない。ただ目があっただけだ。たったそれだけで二人は明確な、頭を潰されるような死をイメージさせられた。

 

「「……っ」」

 

悲鳴を上げることすら出来ず崩れ落ちるように膝を付く。未だ嘗て感じたことの無いほどの絶対的恐怖。あまりにも大きすぎる精神の揺らぎは容易く練っていたチャクラにまで影響を与える。瞬間、僅かにサスケとサクラの体の輪郭が揺らぐ。その僅かな違和感に目を見開いた大蛇丸は恐るべき速さでクナイを投擲する。放たれたクナイは狙い違わずサクラとサスケの頭に直撃──直後、弾けるようにサスケとサクラの体から無数の蛞蝓が飛び出してくる。

 

「っ!やはり分身か!」

 

蛞蝓分身。原理は水分身や土分身と同じだが材料が生き物と言う一点の違いが難易度を飛躍的に上げている。水分身や土分身が会得難易度Dなのに対し、蛞蝓分身は会得難易度B。つまり、上忍レベルの忍術だ。

まさかそれを使える下忍がいるとは…。

 

「……本当に面白い」

 

今迄自分は分身と喋っていたと言うわけだ。当然、本体はとっくに逃げてることだろう。

まんまとしてやられた大蛇丸はそれでも尚笑みを崩すことはなかった。

 

 

 

 

 

サスケとサクラが咄嗟に考えた策はネタが分かれば簡単なものだった。

まず、煙玉で目眩ましをし、カツユを口寄せする。そして、口寄せしたカツユを使い自分の分身体を作り出す。その蛞蝓分身を囮にし、自身は動物に変化して逃走。ナルトとの合流は肩に乗せたミニカツユを使い遠隔通話により行う手筈だった。

 

大蛇丸が油断していたということ。

大蛇丸が催涙ガスで悶絶していたということ。

大蛇丸がサクラとサスケの正確な実力を知らなかったということ。

様々な要因が重なり今回の逃走は上手くいった。

 

ちなみに、サクラ達がギリギリの死闘を演じている頃ナルトが何をしていたかと言うと、原作通り大蛇の胃袋に飲み込まれていた。

何やってんだよと思うかもしれないが、今回ばかりはナルトに非はない。

ただ飛ばされた方向が悪かった。

ナルトが吹き飛ばされた先に丁度大口を開けた大蛇が待ち構えていたのだ。「う、嘘だろ!」と虚しい叫びを上げながら、そのままナルトは大蛇の胃袋に着地したというわけである。

 

もちろん、影分身の術を使い、ちゃんと逃げおおせていると追記しておく。

 

 




サクラ「し…死ぬかと思ったわ…」
サスケ「あんなの前半に出していい敵じゃねえだろ…!」
ナルト「あいつ何だかんだいって九尾が暴走した俺とも戦える奴だからな」
カカシ「ま、お前らよくやったと思うよ…マジで…いくら油断してたとは言え、あの大蛇丸から逃げられる下忍なんてそうはいないよ」
サクラ「それほどでも」ドヤッ
サスケ「ふっ」ドヤッ
ナルト「もっと誉めてくれってばよ」ドヤッ
カカシ「おお…すごいすごい…尊敬しちゃうなぁ…」



カカシ「ま、ふざけるのはこのくらいにして真面目な忠告だ…よく聞け…大蛇丸は見ての通り粘着質だ…一度狙った獲物は簡単には諦めない…そしてお前達はもうロックオンされた…つまり、お前達はこのまま五日間逃げ続けるか…あるいはさっさと巻物揃えて合格するか…選ばなきゃならないって訳だ」

ナルト&サクラ&サスケ
「「「絶対にソッコーで合格する!!」」」



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中忍選抜試験7 第二次試験③

 

大蛇丸から逃げきり無事合流したナルト達。奇跡的に一人の負傷者もない。彼我の実力の差を考えれば驚くほどの幸運である。だが、サスケとサクラの消耗は激しく、またそろそろ日が暮れるという事で、巻物の捜索は一端止め、寝る場所を探すことになった。

 

「休憩場所は此処でいいだろう」

 

しばらく歩いた後、サスケは小さな洞窟を見つけて言う。

 

「問題は索敵ね……まだ日が沈むまでに少し時間があるし警戒は必要だわ」

 

「それは俺に任せるってばよ!」

 

サクラの声にナルトがいち早く立候補する。現状元気が有り余ってるのはナルトだけだった。

 

(まさか俺が蛇に飲み込まれてる間にサスケとサクラちゃんが死闘をしていたとは……兎に角今の二人に無理はさせられねぇってばよ!ここは俺が頑張るってばよ!)

 

闘志を燃やすナルト。

その燃え盛る意思に数秒逡巡を見せるサスケ達。

 

「本当に一人で大丈夫…?」

「大丈夫だってばよ!」

 

どこか抜けてるところのあるナルトだけに任せるのはやや不安を拭えないものの、かと言って他に良い方法が思いつくわけでもなく、サスケとサクラは罠を設置した後、壁に背を預けて胡座をかくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

突然だが、忍には幾つかのタイプというものがある。医療タイプ、近接戦闘タイプ、遠距離支援タイプ、索敵タイプ……などだ。そして、現在の第七班はごりごりの近接タイプだった。ぶっちゃけ広範囲を索敵出来る者が一人もいない。

例えば油目一族なら寄壊蟲を飛ばしてかなり遠くまで索敵出来るし、犬塚一族なら持ち前の鼻で敵の接近と実力にいち早く気付ける。日向一族なら言うに及ばない。あれほど索敵に向いた一族もいないだろう。そういう意味では第八班はこの試験を楽に合格出来たと言える。

一方の第七班は、怪力と医療が得意なサクラ、最近体術に傾倒しだしたサスケ、そして、索敵なんてそもそも重用視していないナルト…。しかも、ナルトは実力に反し、かなり不器用である。師匠に恵まれたのと影分身修行のごり押しで普通の下忍より手札は多いものの生来の忍術センスの無さは否めない。それはナルト自身認めるところ。しかし、本来ならそれは問題とならないはずだった。いくらサバイバル試験とは言っても、遠隔索敵能力が無くても試験を合格するくらいは可能だからだ。

しかし、森の中に上忍以上の実力を持つ敵がいるとなれば話は別だ。発見の遅さはそのまま致命的になりかねない。そんなわけでナルトは珍しく頭を悩ませていた。どうやってこの索敵能力の無さを補うか?

そのとき、ナルトの思考が光る。

普段は働かないナルトの脳細胞は必要に駆られると玉に働くことがあるのだ。特に命を懸けた時は普段の汚名を返上するかのごとく働きをみせる。

 

「そーだってばよ!いいこと思い付いたってばよ!」

 

ナルトが考えたのは影分身とカツユの遠隔通信能力を使った索敵。これによりリアルタイムで情報のやり取りが出来るのだ。

 

 

「理屈は分かるが、チャクラは大丈夫なのか?影分身に口寄せの術まで使って…」

 

サスケの心配にナルトは胸を張って答える。

 

「この位なら全然大丈夫だってばよ!」

 

影分身も口寄せもずっと練習してきたのでチャクラコントロールは他の術の比ではなく上手く出来る。

 

「それに口寄せは呼び出すものが小さければ小さいほどチャクラ消費が少ないんだってばよ!ミニカツユなら20匹くらい日が沈むまで出すくらいわけないってばよ!」

「そ、そうか。相変わらず凄いチャクラ量だな」

 

 

 

 

 

翌朝。疲れも取れて体力万全になった三人は巻物を揃えるべく行動を開始する。今回はまず動物に変化させた影分身を放ち偵察をし、敵の位置を把握した上で行く方向を決めた。最終目的地は塔なので塔に向かえば必然的に敵に遭遇できるが、迂闊に行動してまたあの草忍に遭遇しては堪らない。細心の注意を払わねばならなかった。

 

そして、一人の動物に変化した影分身ナルトが敵を見つける。丁度都合の良さそうな相手だ。

男二人女一人のオーソドックスな班構成。木の葉隠れの忍で男二人は川で漁をしている。とは言え釣竿を作って釣りをしているわけではなく、一人がパンツ一丁で川に飛び込み、衝撃で宙を舞った魚をもう一人がクナイを投げて仕留める、と言うダイナミックな漁だ。

そして、最後の一人…くノ一は漁をする仲間の近くの川辺で火を炊き、警戒と飯の準備をしていた。

そこまで確認するとナルトは新たに一つの影分身を作り出し、その内一つを消して本体に経験をフィードバックさせた。

 

 

 

 

「あれが今回のターゲットか」

 

ナルトの先導でやって来たサスケ、サクラは現在草影に隠れて様子を伺っていた。

眼前、焚き火を囲うように座る三人の敵は焼き魚を頬張っている。此方に気付いているようには見えない。しかし、当然警戒はしているだろう。罠だって仕掛けてあるかもしれない。気付いていて気付かないふりをしている可能性もある。

 

「さて…どうするか…」

 

取れる手段は二つ。奇襲か、無駄な戦いをしないために巻物を確認した上で戦うか。

たぶん…普通によーいどん!で戦っても勝てるとは思う。だから、確認してから戦っても良いんだが、油断は禁物だ。やはり奇襲のアドバンテージを取るべきか

 

「俺は奇襲するのが良いと思うが…サクラとナルトはどう思う?」

「時間も勿体無いし普通に奪えば良いと思うってばよ…!また草忍に襲われるのも面倒だってばよ…!油断してる今がチャンスだってばよ!」

 

ナルトは当然のように奇襲を選択。実際、ナルトの言葉も一理ある。聞いたとして本当のことを教えてくれる保証は何処にも無いし、ちんたらしてたらあのくノ一に遭遇しかねない。それに、実際ナルト一人でもどうにか出来そうな相手である。

サスケはちらっとサクラを見る。サクラは二三秒沈黙し思考していた。

 

(……正直そこまで強そうじゃないし私もこのまま奇襲で良いいと思うけど…ただ今はサバイバル試験中…何の備えもなく呑気に飯を食う奴なんているわけがない…確実に罠があると考えるべきね…問題は…罠の有り無しじゃなく、どんな罠かってこと…ただ敵の接近を鈴の音で知らせたり、簡単な起爆札トラップ程度なら警戒してたら問題ないけど…起爆札とクナイ付きの落とし穴を掘られてたりとか、劇薬を隠し持っいてたりとか、それをそうと分からないように隠し持っている可能性も充分にありうるわ…)

 

サクラは口に手を当て思考を整理する。

 

「私も奇襲に賛成よ…ただ罠がある可能性が高いから囮役としてナルトの影分身を先行させることを提案するわ…」

 

…影分身とは元々危険な敵地への偵察用の忍術だ。囮役としてこれ以上ないほど優秀なのである。

 

「私達は罠を確認ししだい突入…出来れば敵の意識を掻い潜り第二の奇襲を掛けるのよ」

「…ふむ、悪くない手だ…ナルトはそれでいいか?」

「まかせろってばよ!」

「じゃあ、行くぞ!散!」

 

 

 

 

 

 

「多重影分身の術!!」

 

囮として勢いよく木から飛び出したナルトは十字に指をきり、空中で影分身を行う。

瞬間、大量のナルトが魚を食べていた下忍達の頭上に現れ降り落ちてくる。

いきなり空が暗くなった下忍達は頭上を見てそこに理不尽の権化を見た。

 

「…は?」

 

黄色い…黄色いとしか言い様の無い大量のナルト。

 

「え…?」

 

それが凄い勢いで頭上に落下している。

 

「うわあああああ!?」

「ぎゃあああああ!」

「きゃあああああ!」

 

中忍すら飲み込んだ物量は下忍にどうこう出来る筈もない。無数の…それも、殴り掛かってくるナルトに飲み込まれた下忍達は成す術なく気絶するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

「なんか初擊で終わっちゃったってばよ」

「作戦…必要なかったな」

「ナルト…あんたチャクラの温存くらい考えなさいよ」

「それはともかく巻物を探すってばよ」

 

ナルトの号令の元、第七班が手分けして巻物の捜索が始まる。

 

「俺はあの鶏冠頭の兄ちゃんを探すってばよ!」

「じゃあ私はあっちのくノ一を探すわ」

「じゃあ、俺はこのおかっぱくんを探す」

 

三者三様にターゲットを決め、それぞれがそれぞれの方法で捜索を始める。

 

ゴソゴソ

 

ガソゴソ

 

ゴソゴソ

 

巻物はわりと直ぐに見つかった。

 

「お……!あったってばよ!」

「地の書か……ラッキーだな」

「これで後は塔に向かうだけね」

 

この後も影分身を使って慎重に行動した結果、ナルト達は特に音忍に襲われるとか言う事態もなく、何事もなく無事塔に辿り着くのだった。

 

 

【第七班 第二次試験合格 所要時間20時間12分】

 

【三組目の合格】

 

 

 

 

 

ドス・キヌタ、ザク・アブミ、キン・ツチの音忍三人は大蛇丸からサスケを殺す指令を受けていた。そのため、巻物を二種類揃えた後もサスケを見つけるため森の中を走り回っていたのだが…これが中々見つからない。もうかれこれ三日間くらい探してるいるが影も形も見えない。

 

「…いないわね」

「そうですね」

「なぁ、もう合格しちまったんじゃねえか…」

 

ザクがドスに言う。

その可能性はドスも考えていた。しかし、大蛇丸様の命令は絶対。現場の判断で勝手に止めるのは不味いだろう。たとえ、恐らくそうだと思っていたとしても……

 

「………いえ、もう少し粘りましょう…もしかしたら入れ違いになっているのかもしれませんから…」

 

不本意ながらこの班の纏め役のようなものを押し付けられたドスはこう言うしかない。

 

「「はぁ」」

 

ザクとキンはやれやれとでも、言う風に首を振った。その反応大変に不本意である。

 

三人は疲れたように溜め息を吐き、時間一杯まで死の森の中を歩き回るのだった。

 

【音忍三人組 第二次試験合格 所要時間115時間32分】





第二次試験終了!


「勝因は緻密な情報収集と堅実な判断力だってばよ!」

得意気だった。


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中忍選抜試験8 第二次試験④

 

香燐

草隠れのくノ一。自分を噛んだ相手を回復させると言う特殊な能力を持っている。その能力に目を付けられ幼少期から強制的に負傷者の治療をさせられてきた。今回の中忍試験にも回復用の道具として連れてこられただけで、その扱いは奴隷同然。

 

そんな香燐が初めて自分を助けてくれた相手に恋に落ちるのはある意味当然のことだったかもしれない。

 

──────────────────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第二の試験の一日目。その草隠れの忍…香燐は仲間達とはぐれ一人森の仲をさ迷っていた。正直あいつらは仲間と言っても信用も信頼もない。でも、猛獣蔓延る森の中で一人でいるのはどうしようもなく不安だった。

 

「ねえ!!皆どこ!!」

 

声を上げるが言葉は返ってこない。代わりに聞こえたのは森の木々を踏みしめるミシミシという破壊音。

眼前、生い茂る木を壊しながら現れたのは体長5mはあるかという巨熊。鋭い爪は木を易々と切り裂き、その圧倒的な偉容と存在感は戦う力の無い香燐を絶望させるには充分なものだ。

 

「い…いや…」

 

へたりこむ香燐。その赤いメガネ越しに熊が大口を開けているのが見える。

 

グルルル!!ガウ!!

 

野生を剥き出しにした咆哮と共に熊の巨腕が振るわれる。とっさに転がるようにして避ける。ゴロゴロと転がり岩にぶつかる躯。熊も逃がすまいと逆の手を振り上げる。迫り来る巨大な三本の爪。香燐は迫り来る死の瞬間に体を固くする。

 

「きゃあ!!」

 

直後、訪れたのは痛みでも衝撃でもなく、自分を包む暖かさだった。

 

「へ?」

 

訳が分からず混乱する。

うっすらと目を開けると、ツンツンとした金色の髪に空のような瞳をした、狐を思わせる髭のある少年の顔がドアップで写し出された。

 

「ふえ!?だ、だれ!?あんた!?」

 

「大丈夫だ…敵じゃねえってばよ…ちょっと大人しくしててくれってばよ」

 

少年は香燐を地面に優しく置くと香燐と熊の間に入るように立ち、十字に手を結ぶ。見たことの無い印だった。額宛は木の葉のマークだから恐らく木の葉で秘匿された術だろう。

どんな忍術なのか────それは直ぐに分かる。

実態の持った多数の分身が現れたからだ。

 

「んじゃ!いくってばよ!」

「おい!」

「お前!」

「覚悟!」

「しろよ!」

「俺の名前はうずまきナルト!」

「いずれ火影になる男だって──聞いてねえ!」

 

熊はいきなり増えたナルトに数秒警戒をしていたが痺れを切らしたのか、あるいはナルトを舐めたのか、猛烈なスピードで突進してきた。

 

「あんたバカだろ!」

 

助けてくれた恩人に言う言葉ではないが、仕方ない。だって熊来てるもん!

 

「うわああ!来てる!来てる!めっちゃ来てるううう!」

 

「一度走り出した物ってのはそう簡単には止まれないものだってばよ!」

「いくぜ!」

「うずまき!」

「ナルト!」

「連弾!」

「+起爆札トラップ!」

「だってばよ!」

 

熊の進行方向にはいつの間に仕込んだのか起爆札トラップが仕掛けられていた。

猛烈に突進してきた熊は見事にそれにかかり、一瞬怯みを見せる。

うずまきナルトと名乗った金髪の少年は、その明確な隙を逃すことなく物量によりボコボコにしだす。こいつ、見かけによらずバカじゃねえ!

 

「とりゃあ!!」

「せい!!」

「わちょー!」

「フォワァー!」

 

変な声を上げながら上下左右前後…あらゆる方向から熊をボコる。

 

「中々!」

「しぶといってばよ!」

「でも!」

「これで!」

「止めだってばよ!」

 

最後にそんな気合いの入った言葉と共に分身の一人が熊の顎にアッパーを決める。それが止めの一撃になり熊は地響きを上げて地面に沈んだ。

ナルトは影分身を解くと香燐に心配そうに駆け寄ってくる。

 

「大丈夫かってばよ!」

「あ…ありがとな」

「気にすんな!丁度飯が欲しかっただけだってばよ!」

 

闇の一切を感じない顔で朗らかに笑うナルト。その純粋過ぎる顔に思わずをぽぉーっと顔が火照っていく。

 

(こ、こいつ初めはバカっぽい面だと思ったが…改めて見るとカ、カッコいいじゃねえか…それになんか知らねえが凄い暖かいチャクラしてやがる…)

 

今迄奴隷のような扱いしか受けてこなかった香燐は心配されると言うことに慣れておらず鼓動が早まる。さらに、命を助けてくれたと言う吊橋効果と、うずまき一族特有のチョロい血筋もあり、初めて優しくしてくれたナルトにころっと恋に落ちた。

 

 

「ところで、お前…巻物持ってるかってばよ?」

「あ…持ってない…ごめんなさい」

 

中忍になる意思も無い香燐…むしろ、あの二人の草忍の夢が叶うとか憤慨やるさかない香燐は、もし巻物を持っていたら喜んで渡していただろう。しかし、残念ながら持っていない。チャクラ回復用の道具兼奴隷として連れてこられただけの香燐にあいつらが大切な巻物を渡すわけがなかった。

役に立てず眉尻を落とす香燐。

 

「本当に持ってないのかってばよ?」

 

疑わしげにジーイっと見るナルト。ナルトに見つめられ顔を真っ赤にさせながらも慌ててコクッと首肯く香燐。

 

「うーん…嘘言ってるようにも感じないけど一応確認するってばよ!」

「へ…?確認…?…!!」

 

唐突にナルトの手が自分の体に伸ばされる。

 

「ちょ…あ…ひゃん…ダメっ…」

 

少年誌では見せることを躊躇うような、ちょっとイカンやり取りが繰り広げられる。

初めはもしやこのまま押し倒されるのかと思っていた香燐だが、ナルトは本当に巻物を探していただけのようで、一通り探すとあっさり手を引いてしまった。

 

「うーん、本当に持ってなかったってばよ…残念だってばよ」

 

顔を赤くさせながらゼェゼェと熱い息を吐く香燐に「痛かったか…?すまねえってばよ」と謝るナルト。

すまねえってばよ、じゃない。此処が死の森じゃ無かったら間違いなく事案になっていた。

もっとも香燐の様子を見るに訴えが出たかどうかは分からないが…

 

「なんかお前スゲエー熱っぽいってばよ…」

 

ナルトは香燐の額に手を当てる。ますます熱くなる香燐の体。ナルトは、これは只事ではないと、顔を険しくして口寄せの印を結び、薬を口寄せする。

 

「これ…サクラちゃんから貰った膳薬…俺は沢山持ってるからお前にやるってばよ」

 

そんな気遣いが出来るならもっと違う気遣いをしろ、とサスケがいたら言っていただろうが、突っ込み不在で話は進む。

 

香燐は敵であるはずの自分の心配をしてくれるナルトにますます顔を赤らめる。

 

「あ…ありがとう」

「食べ終わったら俺が仲間のとこまで連れてってやるってばよ。このまま女の子一人此処に置いとくのも寝覚めが悪いってばよ」

 

ちなみに、ナルトが香燐を助けたのは殺されそうになっていた香燐に咄嗟に体が動いたからだ。特に深い意味はない。故に、脅威が去った今、敵である彼女をわざわざ送り届ける必要もない───のだが、彼女の特徴的な容姿が気になった。この世界では珍しい赤い髪に赤い瞳…『うずまき一族の全て 著 千手扉間』と言う本に載っていたうずまき一族の特徴と一致する。うずまき一族の里は滅ぼされたとサクラに聞いていたので、こんな場所にうずまき一族がいるとは思えないが、もしかしたら自分の遠い親戚かもしれない。そう思うと純粋に敵とは思えない。それに、相手が襲ってきた敵って言うなら見捨てることも出来たが、ただの被害者のようにしか見えない女の子──今も恐怖によってか腰を抜かし、熱まで出している香燐を見捨てることは出来なかった。

 

ちなみに、この様子は中央監視塔で試験官達に見られていたのだが、そんなことナルト達が知るよしもなかった。

 

 

 

 

偶然にして、ふらっと監視塔に来ていた自来也、無駄な死者を出さないために受験者の治療を行うためにやって来たシズネ、試験官のみたらしアンコ、森野イビキ、神月イズモ、はがねコテツ、は各々が各々の表情でその惨事を見ていた。

 

「オホホ!!流石わしの弟子!ナイスだってのお!…バッカッ!!そこまできたらブラまで取っちまえっての!」

「ナルトくん…後でお仕置きです」ゴゴゴゴッ!!

「うずまきナルトか…とんでもねえガキだな」

「………一応ルールを破ってはいないが…なんつーエロガキだ…流石、カカシの部下なだけはある」

「あの変態め…一体部下に何を教えてるんだ」

「綱手様に報告しておこう」

 

上から自来也、シズネ、コテツ、イビキ、アンコ、イズモ、の順である。

 

そして、何故か意味不明な角度からとばっちりを受けたカカシ。

その時、彼は団子屋で他の担当上忍と談笑していたのだが、正体不明の悪寒を感じたとか。

 

「─────?どうかしたのか?カカシ?」

「ん…いや、何でもないよ、ガイ…ただ、少し、いやーな予感がしてね」

「ふふ…部下が心配か…丁度今は二次試験の一日目が終わる位…夜は危険だからな」

「いや、全ー然…あいつらは合格するよ…」

あっけらかんと言うカカシ。

「もしかしたら、一番に合格するかもね」

その言葉には自信と信頼が見て取れる。一瞬唖然とする紅、アスマ、ガイだが、「一番に合格する」なんて言われて黙ってるわけにはいかない。彼等も自分達の部下を何よりも信頼しているのだから。

「ふふ、随分な自信ね…でも、今回の試験の一番は私達よ…サバイバル試験は第八班の十八番…キバもヒナタもシノも凄く強くなったんだから」

「それを言うなら俺の班も問題ないだろ…あいつらの連携は集団戦でこそ生きる…シカマルもチョウジもやる気ないのが心配だが…いのが引っ張ってくれるだろうしな」

「俺の班だってそうだ…ネジもリーもテンテンも俺の愛すべき優秀な部下だ!…必ずややり遂げてくれると確信している!」

バチバチと視線を交わす同僚達。それを見てるとさっき感じた悪寒も忘れてしまう。

まあ、忘れたところでやって来るものは変わらないのだが…

カカシはこの後何故か綱手に呼び出され説教を食らうことになる。

 

 

「お前とは一度保護者面談をするべきだと思っていたんだ…これも良い機会だ…そこになおれ」

「はい」

 

「つまり、今回のナルトの行動にお前は一切関わっていないと?」

「と、当然です…正直ビックリしています」

 

「そうか…そこまで言うならこの件(・・・)は無実だと信じてやる…だが、余罪は幾らでもあるぞ?そのポーチに入ってる物を出してみろ」

「………え…?」

「早くしろ!」

「は、はい!」ビクッ!

 

カカシは一冊の本を取り出す。それは、デフォルメされた男と女がまぐわってるような表紙の赤い本だった。

 

「それは何だ?」

「…イ…イチャイチャパラダイスです」

「つまりエロ本だな?」

「………」

 

「なぜそれを買ったのかと言うことは聞かん…お前も男だ…エロ本くらい読むだろう…だがな、任務中にまでエロ本を持ち歩くのは流石にどうかと思うぞ?ん?お前はそこんとこどう思う?」

「いえ…あの…これはエロ本と言うジャンルですが…同時に私の人生の指南書と言いますか…」

「ほう?お前にとってエロ本が人生の指南書か?やはりお前には一度説教が必要なみたいだな」

 

「お前の事情は知っている…だから、今迄大目に見てきた…だがな、それでもナルトから色々話は聞いてるんだぞ…ん?聞きたいか?

毎回数時間遅刻してくる

任務中も常にエロ本を持ち歩く

それを部下の前で読み始める

どうだ?今自分で聞いてみて?直すべき点があるとは思わないか?」

「はい…その通りです…すみません」

 

数時間後

そこには屍になったカカシがいるのだった。






香燐がナルトにセクハラを受ける話でした!

もちろん、この後、ナルトも説教を受けました!



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中忍選抜試験9 第二次試験⑤試験官side

 

 

第四十四演習場(死の森)中央部──監視塔。第二次試験の全ての受験者達の共通した目的地であるその三階建ての塔は、簡古素朴でありながら、その内部設備は非常に整っていた。闘技場はもちろん、調理場、食堂、水浴び場、寝泊まり出来る個室まで完備し、試験をクリアした者は第二試験終了まで此処で暮らすことになる。塔の外へ出ることは許されていない。これは試験を邪魔されないためだ。もし出ればその時点で失格となる。

また、塔の中には試験官が複数人常駐している。大抵の場合は三階の監視室──森全体を監視出来る監視テレビが複数台取り付けられた大部屋にいる、が何か問題があれば直ぐにでも駆けつけられる。当然、試験外で他の受験者に危害を加えること及び監視室に無断で入ることは禁止されており、破れば失格だ。

 

現在、既に五組の受験者が試験をクリアし、塔の中で暮らしていた。

 

試験を合格した順で言うなら

我愛羅、テマリ、カンクロウのバキチーム

キバ、シノ、ヒナタの紅夕チーム

ナルト、サスケ、サクラのはたけカカシチーム

ネジ、リー、テンテンのマイト・ガイチーム

シカマル、チョウジ、いのの猿飛アスマチーム

 

「既に15人が合格…今年は本当に豊作だな…」

 

実務性のみを追及したような簡素な、しかし、沢山のテレビと太い配線のある室内にて、イビキさんはそう漏らした。

 

「この人数ですから予選が行われるのは確定でしょう…確か5年ぶりらしいですよ…」

 

俺…はがねコテツは、豊作と言うイビキさんの言葉に答えるように言う。

 

「…誰が本戦に進むと思う?」

 

イビキさんがニヤリと笑う。

 

「…まあ、この砂のガキは確実じゃないですか?頭一つ飛び抜けてますよ…」

「だろうね…下手したら特上クラスですよ、彼…勝てる奴なんていないんじゃないです?…と言うか本当に特上クラスなら俺も勝てませんよ…」

 

他の奴も話に加わってくる。今情けないことを言いながら机に皆のコーヒーを置いたのが神月イズモだ。数は九つ。俺とイズモ、トンボ、イビキさん、アンコさん、自来也様、シズネさん、ハヤテさん、ゲンマさんだ。

 

「いやいや日向のガキも侮れねえぞ。日向始まって以来の天才とか言われてるらしい」

「うちはのガキも忘れるなよ。…あいつら二人とも瞳術を開眼させてるみたいだからな」

「ごほっ…写輪眼が一番厄介なのでは?…ごほっ…しかも、うちはは生まれつきチャクラ量も多い」

 

イビキさん、ゲンマさん、ハヤテさんが順に言う。俺は団子を食べているアンコさんにも聞いてみる。

 

「ところで、アンコさんはどうなんですか?」

「ん…?…私?そうねぇ…やっぱこいつらかなぁ…あのカカシのとこのでしょ…あいつが推薦した奴らなら期待が持てそうじゃない」

「第七班ですか……自来也様は?」

「わしは当然わしの弟子を押すぞ!なにせこのわし自ら鍛えた弟子だからのお!」

「私もナルトくんを押します!家族ですから!」

「ナルト大人気じゃねえか」

「実際どのくらい強いんだ?あんまし戦ってる所とか見たことねえが」

「ま、サスケの奴よりは強いだろうのお」

「マジですか!」

「大マジじゃ。この中で勝てる奴はこの我愛羅つう奴くらいしかいないんじゃないかのお」

「自来也様の言葉を疑うわけではありませんが…」

 

俺はテレビに映るナルトを見る。

ナルトは修行のためにリーとか言うオカッパ頭の少年と共にブリッジで高速移動をしていた。その姿だけで疑うには余りあるが、現在ナルトはテマリとか言う砂隠れのくノ一にパンツを覗こうとしていたと因縁をつけられ股間を蹴り飛ばされ、悶絶していた。

 

「こう言っちゃなんですが………あんまり強そうには見えませんね」

 

ぐうの音も出ない正論に自来也様は黙る。シズネさんも頭が痛そうであり、アンコさんは爆笑している。

 

(あ…でも、ナルトが自来也様の弟子ってのは、なんだか分かる気がするなぁ)

 

俺は、そんな失礼なことを考えるのだった。

 

 



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中忍選抜試験10 第三次試験予選

第三次試験予選開始!




監視塔一階の闘技場に「第二の試験」を通過した受験者達とその担当上忍が集合していた。通過したのは7チームの21名。木の葉のルーキー3チームは全員通過しており、1期上のネジ達や大蛇丸の部下の音忍三人組もいる。当然我愛羅達砂の三人組もいる。

 

ちなみに、残ったのはナルトチーム、キバチーム、シカマルチーム、ネジチーム、カブトチーム、ドスチーム、我愛羅チームだ。

 

【未】の印を組んだ巨大な手の石像がある部屋で、石像の前に火影を中央に上忍達が並び、それに向かい合うように受験者達が並ぶ。

 

火影の横にいるのはカカシでその横にはガイ、アスマがいる。

 

「カカシよ、お前のチームも中々やるが、オレのチームがいるかぎりこれ以上は無理だな」

「ん?何か言った?」

 

ガイの話を全然聞いていなかったカカシは何時もの死んだ魚の目で答える。それにガイが「くっ!お前のそう言う所が──」と何時ものようにライバル心を刺激させられていた。実に何時もの光景である。

 

 

一方、ガイが勝手に闘志を燃やし悔しがる横で、アスマは、自分に焼き肉を奢らせようとするシカマル達の話を聞いて頬を引き吊らせていた。

 

 

「腹減った−!」

「まだこんなに残ってんのかよ。クソめんどくせー!」

「ぐぅ~~~!この後焼き肉行けるといいよね、シカマル、いの」

「めんどくせえが、そのくらい役得がねえとやってられねえよな…アスマに頼んでみるか」

「アスマ先生ならきって連れてってくれるわよ!」

(誰か俺の財布の心配をしてくれ)

 

アスマの心の叫びは誰にも聞き届けられることは無かった。

 

 

 

一方のガイの部下であるテンテン、リー、ネジはと言えば…

 

「へー あれがガイ先生の永遠のライバルね……ビジュアル的にはガイ先生完璧に負けだけど…」

「やはり先生方の中で ガイ先生が一番ナウいです! 光ってます!  よぉ〜〜〜し…見ていて下さい ガイ先生! ボクも光ってみせます!!」

「やはり めぼしいところがそろったな…  ここからが本番か…」

 

 

 

 

 

一方の音忍三人組──ザク、ドス、キンはと言えば皆憎々しげにサスケを睨んでいる。

 

「散々時間を無駄にしてくれたお返しはしてやるぜ… うちはサスケ…」

「このかりは高くつきますよ!」

「私らの五日間の苦労を思い知らせてやる!」

 

完全なる逆恨みではあるが彼等の闘志は高い。ついでに言えば疲労も高い。なにせ五日間も死の森で動き回っていたのだから。その原因を作ったサスケへの怒りも当然と言えよう。え?原因を作ったのは大蛇丸?大蛇丸は上司…サスケは敵…そういうことである。

ちなみに、その大蛇丸は現在音隠れの担当上忍としてこの集まりに参加していた。当然ドス達には知らせずに。彼は三人の捨て駒と言う名の部下の様子を興味なさげに見た後、視線を横に移し、じっと観察するようにサスケを見つめる。

 

(焦りは禁物ね…呪印を刻む機会はまだ沢山ある…今回は実力を見させてもらいましょう…森の中では確認する間も無かったからねぇ)

 

大蛇丸は蛇のように目を細める。サスケの背中に原因不明の悪寒が走る。

大蛇丸は辺りをキョロキョロと見渡すサスケを楽しげに見た後、今回の作戦のキーを握る砂隠れの三人に視線を移した。

 

 

 

 

 

「26チーム中 たった7チームしか残らないとはな…」

「7チームもじゃねえの、テマリ?…あの試験内容ならもっと減っててもおかしくなかったじゃん」

 

カンクロウが欠伸をしながら答える。この四日間上等な獲物(サスケ)が近くにいたせいか我愛羅の殺気が何時にも増して強く寝不足気味なのだ。この息の詰まる生活がようやっと終わると思うと、試験関係なく喜びと解放感を感じる。

 

(ふぁ~~~、今日からはよく眠れそうじゃん)

(任務中に欠伸とは随分気を抜いているな…カンクロウめ)

 

カンクロウの現状を知ってか知らずか砂の担当上忍バキはカンクロウの説教を決めた。

 

 

 

バキの横にいる紅は自分の教え子達を見て、「赤丸の様子が変ね…」と首を傾げる。キバの懐の中で赤丸が小さくなっていた。その横のシノは何時も通り無表情で、ヒナタは───

 

「ナルトくんも合格したんだぁ… 良かったぁ…」

 

とナルトに熱い視線を送っている。果たして彼女の恋心が実を結ぶ日がくるのか…他人の事を言えない恋愛事情を持っている紅はチラリとアスマを見るが、彼は自分のサイフ事情を考えているようだった。

 

 

 

 

最後になるが、ナルト達と言えば

 

「なんかさ! なんかさ! 火影のじーちゃんにアスマ先生にカカシ先生に激眉までいるってばよ! 木の葉のルーキーも揃ってるし、みんな勢ぞろいって感じだな!」

「激眉ってガイ先生のこと?あんた幾らなんでもそれはないでしょ」

「でも、激眉以外に表現しようが無いってばよ!」

「あのねー、あの人見た目と同じくらい凄い忍なのよ。少しは敬いなさいよ」

 

楽しげに談笑するサクラとナルト。その横でサスケだけはピリピリと気を立てていた。

 

「チッ… (あの草忍がいねぇだと?どういうことだ?巻物を集められなかったのか…?いや、ありえねえ…集めようと思えば誰が相手でも出来たはずだ…。…試験に合格する気がなかったのか…?いや、それもありえねえ…なら態々木の葉まで来るはずがねえって話だからな…一体何を考えてやがんだ…くそ…分からねえ…だが、あの狂気地味目…それに時々感じるこの悪寒…悪い予感しかしねーぜ…!)

「な、なんかサスケ怒ってねえーか?」

 

サスケの不機嫌さにビビるナルト。

 

「あんたが激眉とか言うからでしょ」

「なんでサスケが激眉の事で怒るんだってばよ?」

 

カカシの事で怒ると言うのはまだ分かるが…いや、それもあまり想像出来ないが…

 

「あんた知らないの?サスケって最近あの先生に修行を付けてもらってるらしいわよ。」

「え?」

「凄い先生だって言ってたわ…尊敬してるのかもね」

「そ、そうだったのかってばよ!」

 

まさかサスケの野郎が激眉を尊敬してたとは…天変同地である。

 

「これからはサスケの前では激眉って呼ぶの止めるってばよ」

「それが良いと思うわ」

 

妙な勘違いをされたサスケだが、幸か不幸か思考に没頭していて気付くことはなかった。

 

 

 

三代目は二次試験通過者を見渡す。

 

(27人…これほど残るとはのう。しかも、残ったのはほとんどが新人とは。担当上忍達(あやつら)が競って推薦するわけじゃ。)

 

ヒルゼンは、木の葉の未来も明るいのおと、笑みを浮かべる。

 

もし、この時点で、大蛇丸が里に帰ってきている事を知っていたら此処まで穏やかな笑みは出来なかっただろう。

しかし、自来也や綱手を警戒していた大蛇丸は自分が発見されるリスクを極限まで減らして慎重に行動していた。

草隠れの下忍に成り済ますのも一次試験前に済ませ、死体をしっかり処理していたし、木の葉の中で大きく動くこともなかった。そのかいあってか、現在にいたるまで誰も大蛇丸に気付くことが出来ずにいた。

唯一自来也は音の里の不穏な設立事情の「噂」を知っていたため警戒をしていたが、確証にはいたらず動くに動けないでいた。皮肉なことに、サスケが大蛇丸から逃げおおせたのも察知が出来なくなった理由になっていたのだ。

 

それが果たしてどんな影響をもたらすのかは今は大蛇丸にも分からない。





人数が多いと書くの大変ですね…




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中忍選抜試験11 第三次試験予選②

中忍試験の目的についての火影様のありがたい話





 

「これより始める「第三の試験」──その説明の前にまず一つだけはっきりお前達に告げておきたいことがある。この試験は言わば同盟国間の戦いの縮図なのだ」

 

そんな言葉を口火に三代目火影…ヒルゼンが中忍選抜試験の歴史と意義を説明する。

 

今の同盟国は、元々勢力争いを続けた隣国同士。互いの無駄な戦力の潰し合いを避けるために設けられた戦いの場が、中忍選抜試験の始まりだった。

この試験は中忍に値する忍を選抜するためのものではあるが、一方で国の威信を背負った各国の忍が、命懸けで戦う場でもある。

 

「第三の試験」には各隠れ里に仕事の依頼をする諸国の大名や、著名人が大勢招待される。

国力の差が歴然となれば、「強国」には依頼が殺到し、「弱小国」は依頼が激減する。

同時に隣接各国に対して「我が里はこれだけの戦力を育て有している」という、外交的、政治的圧力をかけることができる。

 

国の力は里の力、里の力は忍の力。忍の本当の力とは、命懸けの戦いの中でしか生れてこない。

本当に命懸けで戦う試験だからこそ意味があり、先人達も「目指すだけの価値がある夢」として中忍試験を戦ってきた。

 

忍の世界での「友好」とは、命を削り戦うことで、力のバランスを保ってきた慣習のこと。

 

 

「つまり、これから行う「第三の試験」とは、己の夢と里の威信を賭けた、命懸けの戦いなのじゃ」

 

ヒルゼンは重々しい顔でそう締め括る。

 

受験者達はヒルゼンから感じる無言の圧力と「第三の試験」の重さ、忍世界の厳しさに動揺を禁じ得ない。特に初めて参加するナルト達にとっては、予想も出来なかった世の中の仕組みの一端を知り、その厳しさに言葉もでない様子だ。既に出場経験のある者達や上忍、中忍の忍達も、三代目の含蓄ある厳しい言葉に改めて自分の立つ場所を知り、表情を真剣な物へと変える。

 

「何だっていい…」

 

しかし、全く感情の感じられない我愛羅の冷たい声が空気を切り裂いた。

 

「それより早くその命懸けの試験ってヤツの内容を聞かせろ」

 

人を殺すことを生きる理由とする我愛羅にとって試験の意義も忍の在り方も関係ない。里の優劣も、世界の有り様すらも関係ない。命懸け等と言う脅しで揺れる心などない。唯一心が揺れるのは只人を殺した瞬間だけ。人を殺し自分が生きている意味を再度確認出来たときだけ。壊れた心に人の言葉が響くことはない。

我愛羅は冷たい目で三代目を睨み、能書きはいいから、さっさと始めろと吐き捨てる。

 

「うむ…説明をしたいが…」

 

口を濁す三代目の前に一人の忍が膝をつく。

 

「おそれながら火影様、ここからは審判を仰せつかったこの月光ハヤテから説明したいと思います」

「それがよかろう」

 

ヒルゼンの首肯を得て立ち上がったのは青白い顔で、目に隈までみえる木の葉の忍だった。登場当初から常に咳こんでいるので、受験者達からすら「体調悪そう 大丈夫かな」と心配される始末。どう考えても人選ミスな気がしてならない。しかし、次に紡がれた試験官の言葉に一同の心配は吹き飛んだ。

 

「ごほっ…第三の試験の前に、本戦の出場を賭けた予選をやってもらうと思います」

「え?」

「ごほっ…今回はこれまでの試験の基準が甘かったのか人数が残りすぎたので…ごほっ…人数を減らすために中忍試験規定に基づいて予選を実施することになりました」

 

「第三の試験」にはたくさんのゲストが来るため、だらだらとした試合はできず、時間も限られている。それが理由だった。

 

「えーーーというわけで…  体調のすぐれない方… これまでの説明でやめたくなった方 今すぐ申し出て下さい…これからすぐに予選が始まりますので…」

 

「第二の試験」が終わったばかりで疲労困憊しているのに、これからすぐに予選とは鬼畜な采配だ。時間ギリギリで二次試験を突破した者など一次、二次、三次予選とぶっ続けで三つの試験をやることになる。

幸いナルト達は20時間で合格したため休む時間は沢山あった。休みの間中我愛羅に殺意のこもった視線を向けられ続けていたこと以外は概ね平和な時間を過ごせた。

 

頑張るぞと意気込むナルト。そんなナルトを他所にカブトと音隠れの上忍…大蛇丸が目配せする。

 

「あのー… ボクはやめときます」

 

驚くナルト。

 

カブトは負傷を理由に辞退を宣告したのだ。そのカブトに同じ班の赤胴ヨロイが丸いサングラス越しに睨み付ける。

 

「勝手な行動を取るな!大蛇丸様の命令を忘れたのか!」

「あんた達に任せるよ」

 

会話は小声だったため周りの人間に聞こえることはなかった。しかし、二人の間の殺伐とした空気は皆が感じ取る。まあ、試験を降りる仲間に同じ班の仲間が怒るのはそこまで不思議ではないので特に気にする者はいなかったが…。もっともそこで交わされた会話を聞いていたら落ち着いてはいられなかっただろう。

 

「えーー…では、これより予選を始めます。ルールは一切なしです。どちらか一方が死ぬか倒れるか敗けを認めるかするまで続けます。ただし、勝負がはっきり着いたと私が判断した場合…無闇に死体を増やしたくないので止めに入ります」

 

対戦カードは電光掲示板に発表されるらしい。

早速初めのカードが表示される。

一番目のカードはうちはサスケvs赤胴ヨロイだった。

 

 

 

 



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中忍選抜試験12 第三次試験予選③





 

赤胴ヨロイとサスケの試合はうちはの力を見せつけるように、あっさりとサスケの勝利で終わった。

それに大蛇丸が興奮していたこと以外は何事もなく進み、続く第二回戦ザク・アブミ vs アブラメ・シノ、第三回戦剣ミスミ vs カンクロウはシノとカンクロウが自身の強みを見せることで順当に勝ち上がる。

 

波乱が起きたのは第四回戦だ。ここでは春野サクラ vs 山中いのの木の葉のくノ一同士の戦いが起こった。戦い自体は一方的にと言うかほぼ一瞬で、サクラの怪力を見たいのが降参する形で幕を閉じた。ついでにフィールドが破壊され、その余波で地震並みの揺れが二階の観覧場所にまで響き、サスケとナルトがキスをすると言う事態になったが…

いや、本当になんでこうなったんだ?お互いに近くにいたのが不運としか言い様がない。あとほんの少しでも何かがズレていればこの事態を免れただろう。それ故に余計に哀れでならない。

 

もう少し具体的に説明すると、まずサクラのパンチにより揺れが起こり、チョウジが手に持っていたポテチが落下、それを拾おうと普段の遅さが信じられないくらいの俊敏さを見せ、チョウジが動き、ポテチをゲット、その時チョウジのマフラーが遠心力でブオンと動きナルトの背中を強打、ナルトはサクラの試合に集中していたのが災いして、悲鳴を上げて前に倒れる。スローモーションに見える視界の中、ナルトの悲鳴を聞いたサスケが横を向き…

 

「うううげえええええええ!!」

「お!おえええええ!!」

「く、口が腐るってばよおおおお!何してくれてんだお前えええ!」

「こっちの台詞だああ!何しやがんだてめええええ!おえええええ!!」

 

口と口が見事に重なり盛大なキスをした、と言うわけだ。

サスケとナルトは暫くの間青い顔でお互いを罵り合っていたが、ふとナルトは自分が押された事を思い出し、周囲を睨む。

 

「つーか、今俺の背中押した奴誰だってばよ!絶対ェ許さねえってばよ!」

 

さっと皆目を逸らすがカカシがあっさりバラした。

 

「それはチョウジくんだ」

「てめえかああああああああ!!!チョウジイイイイ!!どう責任を取ってくれるんだってばよおおおお!!俺の初キスがあああおえええええ!!思い出させんじゃねえってばよ!!」

 

チョウジはポテチを死守したが、その代償は大きかった。主にナルトとサスケと言う意味で。

 

 

と、まあ、そんな事故はあったものの、試験は関係なく進み、試験場の修復の為の休憩を挟んだ後の第五回戦…テンテン vs テマリはテマリが風遁でテンテンの武器術を完璧に封殺し勝利。続く第六回戦奈良シカマル vs キン・ツチではシカマルが詰将棋のような頭脳戦でキンを破った。

 

そして、ついにナルトの出番が回ってきた。

 

【うずまきナルト vs 犬塚キバ】

 

電光掲示板に映し出された名前にキバが悪態を吐く。

 

「ち、ナルトかよ…ついてねえ」

「勝機があるとすれば速攻だ…なぜなら、ナルトに反撃の機会を与えれば物量で押し潰されるからだ」

「んなこと分かってるっての!でも、あいつスゲータフなんだぜ?倒すにしたって一筋縄じゃいかねーよ!」

 

ナルトと良く遊ぶ事のあるキバはナルトが相当タフであることを知っている。たぶん、木の葉の下忍の中で一番のスタミナを持っているんじゃないだろうか。その癖反撃の手を与えれば物量で押されると言う理不尽…なんだコイツは!どうやって勝てって言うんだ!物量があるならせめてスタミナくらい無くせ!

 

「ま、順当にいけばナルトだろうな」

「だよね、ナルトって中忍にも勝ってたし」

 

ナルトのアカデミー卒業試験を見ていた木の葉の連中は概ねナルトの勝利を疑っていない。

一方の砂と音の評価は微妙だ。

 

「次はあの変態か」

「原因作った俺が言うのもなんだけど流石にその評価は酷いじゃん」

「…出てきたか」

 

「あ、サスケとキスしてた奴だ」

「あまり強そうには見えませんが…さて、実力のほどはどうなんでしょうか」

 

一方の大蛇丸はクイッと眉を上げる。綱手と自来也に育てられたと言う事実が僅かながら興味を引いた。

 

(サスケくんは期待通りの物を見せてくれたけど…果たしてキミはどうかしら…ナルトくん?)

 

「では…両名は降りてきてください」

 

「んじゃ、行ってくるってばよ!サクラちゃん、サスケ、カカシ先生」

「頑張りなさいよ!ナルト!」

「ヘマ打つなよ」

「ま、ナルトなら大丈夫でしょ」

 

 

 

「ナルトくん!ファイトです!」

「ゲジ眉!ドドンと勝ってくるってばよ!」

 

熱いナイスガイポーズをしあうナルトとリー(二人)。それを見てテンテンは首を傾げる。

 

「あれ…?リーって何時の間にナルトと仲良くなったの?」

「ナルトくんは共に熱い修行をした仲です!」

「あーそう言えばやってたわね…あれ凄い迷惑だったわよ…」

「酷いですよテンテン」

「酷いのはアンタの頭よ…ま、リーが応援するなら私もナルトの応援しとくかな…ガンバレー(棒読み)」

「ふ…じゃあ、俺もナルトの応援をするか…」

 

 

 

「応援してるよナルト」

「めんどくせーが、ま、頑張れよ」

「任せろってばよ!チョウジ!シカマル!」

 

シカマルとチョウジはキバともナルトとも友達だったが、さっきのキス事件の後ろめたさもあってかナルトの方を応援することに決めたらしい。

しかし、そうなると可哀想なのはキバである。

只でさえ敗色濃厚だというのにこのアウェイ感。

当然キバは憤慨する。

 

「おいいい!!誰か俺の応援しろよ!!」

 

一応シノと紅はキバを応援していたのだが、皆の声援にかき消されてしまったらしい。

 

「なんかあいつ可哀想な奴じゃん」

「私はあのキバって方を応援してるけどね…これ以上変態に勝ち進まれたら堪らない」

「こっちはこっちで可哀想な評価じゃん」

 

砂の評価も大概に可哀想なキバだが意外にも大蛇丸の評価は悪くなかった。

 

(彼…犬塚一族の跡取りね…あの一族って…代々パッとしないんだけど…実は里の駒として考えるとかなり優秀なのよねぇ…)

 

臭いによる特殊な感知はなかなかある能力ではない。探し物や里の警ら、敵の追跡、変化の看破など多方面で活躍出来るだろう。そもそも感知能力者自体が希少な世界で、感知能力を持った人材を一定以上の品質で、常に排出してくれる一族は里を運営する立場からするとかなりありがたい。しかも、ある程度の単体の戦闘能力もあるので、有事の際の戦力や盾にもなる。一口で三度美味しい犬塚である。

 

(感知タイプで言えば、日向や油女なんかも優秀なんだけど…白眼はチャクラを使うから常に使うことができないと言う欠点があるし、虫での索敵にはタイムラグがある…その点臭いにはそれがない…普段の警戒を任せるのにこれ程適した一族もいないのよね…)

 

そんな風に里長の立場から犬塚一族を高評価する大蛇丸だが、

 

(まあ、今回は純粋な戦闘力を測る試験…感知能力はあまり関係ないのだけどねぇ)

 

その一言に尽きた。

 

 

 

 

 

 

ナルトの試合が始まる。

試験場に上がるナルトと、対戦相手のキバ。

 

「第七回戦 うずまきナルトvs犬塚キバ」

 

試験官のハヤテが、対戦者の名前を読み上げる。

 

「ナルト…お前の強さは知ってるし、認めてる…だから、殺す気でいくぜ!死んでくれるなよ!」

 

「俺も手加減はしねえってばよ!」

 

「あ~…ゴホッ…両者準備は良いですか?...」

 

「...俺はいつでも良いぜ」

 

キバは、腰を落として答える。

 

続いてハヤテはナルトに顔を向ける。

 

「.こっちも大丈夫だってばよ!」

 

ナルトも大きな声で頷く。

 

「それでは第七回戦...はじめて下さい」

 

試験官である月光ハヤテの掛け声と共に試合は序盤から互いに全力で始められた。お互いの手の内は大体知っている。小手調べなんてモノはない。

 

キバは予め手に持っていた兵糧丸を自分と赤丸の口の中に入れる。キバの目が獣のように縦に割れ、様相が見るから凶悪に変貌する。赤丸の変化は更に顕著で体毛が真っ赤に変わる。

 

ガルルルル!!

 

グルルルル!!

 

 

「ワンワン(擬人忍法)!!」

「擬獣忍法!!」

 

「「獣人分身!!」」

 

ボフンと言う音と共に赤丸がキバへと変わる。どちらも獣のような凶暴な顔つきはそのままで、身体中に力がみなぎっているのが傍目からでも分かる。

 

「な… なんか目がヤベーってばよ! 変な薬使いやがって!! これってばドーピングじゃねーの! いいのか コレェ!!?」

「ハイ! 兵糧丸は忍具の一つですから!」

「アンタァ!! そればっかりだってばよォ!!」

 

憤慨するナルト。

 

「行くぜェ!!四脚の術!!」

 

二人のキバは四つん這いになり、全身にチャクラを漲らせる。

 

「部分獣化の術!!」

 

キバの両手が巨大な爪を持った犬のそれへと変わる。

 

「くらえ!! 獣人体術奥義!! 牙通牙!!!」

 

開幕初っ端からの全身全霊の一撃…だが…

 

「その技は知ってるってばよ」

 

ナルトはカリッと親指を噛み、地面に手を着く。

 

「口寄せの術!」

 

ボフンと言う音と共に巨大な蛞蝓がナルトの前に現れる。ナルトはその蛞蝓の中へと入っていく。

 

「あとは頼むってばよ!カツユ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合はナルトの勝利で終わった。カツユの下の土の中に隠れていた本体をキバは見つけることが出来ず、カツユの中から現れる影分身とカツユ自身による圧倒的な物量攻撃に敗北した。

 

ちなみに、第八回戦日向ヒナタ vs 日向ネジ、第九回戦ロック・リー vs 我愛羅、第十回戦秋道チョウジ vs ドス・キヌタはそれぞれネジ、我愛羅、ドスが勝ち上がった。

 

 

 





予選終了!


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中忍選抜試験13 準備期間 ナルトの師匠探し

 

見事予選を勝ち抜いた木の葉の忍6名(ナルト、サスケ、サクラ、シカマル、ネジ、シノ)と砂の忍3名(我愛羅、カンクロウ、テマリ)と音の忍1名(ドス)は本戦に臨むこととなる。ナルト達に準備期間として与えられたのは一ヶ月。その間に各々敵の情報を集めたり、更なる修行を積んで強くなるわけだ。

 

既にくじ引きをして本戦のトーナメント表は決定している。ナルトの一回戦の相手は天才と名高い日向ネジ。彼は点穴を突き相手のチャクラを封じる事が出来るらしい。このままでは勝てないかもと不安を感じたナルトは修行を付けて貰うべく知り合いの上忍に頼みに行くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「母ちゃん!修行つけてくれってばよ!」

「ん…悪いね…今回は先約があるんだ」

「ええー!」

「サクラを教えることになってるんだ」

「サ、サクラちゃん!?…なら仕方ないってばよ!」

 

「シズネ姉ちゃん!教えてくれってばよ!」

「すみません…しばらくは任務で忙しいんです」

「えー!」

「ごめんなさい」

「い、いや、任務なら仕方ないってばよ!俺ってばカカシ先生に頼んでくるってばよ!」

 

 

「あー!いた!カカシ先生ー!俺に修行つけてくれってばよ!」

「俺はこれからサスケにつきっきりになる…悪いが他を当たってくれ」

「ふざけるなってばよ!贔屓だってばよ!」

「そう言われてもね…木の葉で雷遁を教えられる忍は俺くらいしかいないんだよ…でも、一応俺も代理の教師をさが…て聞いてない」

 

 

 

 

「なんだい!なんだい!皆して!もう良いってばよ!こうなったら自力で凄い忍術編み出してやるってばよ!」

 

綱手にも振られ、シズネにも振られ、カカシ先生にも振られ、ナルトは分かりやすいほど不貞腐れていた。肩をならし、ぷんぷんと怒りながら川沿いに歩道を歩く。その姿は誰がどう見ても、今機嫌悪いですよっと言っている。

 

「キバもシノもサスケの兄ちゃんも見つからねえし…こう言うときに限って誰も見つからないってばよ──ん?」

 

文句を垂れるナルトの目に、実に暇そうな見知った上忍の姿が映るのだった。

 

 

 

 

 

「ひょーーー!今回もかわいい娘が沢山いるのォ!!」

 

その男は女湯の壁に顔を近付け白昼堂々覗きをしていた。

長い白髪に緑の和服、赤い法被。特徴的すぎるその姿は覗きをするには相応しくない。にも関わらず、男が捕まったと言う話をナルトは聞いたことがない。木の葉の里の警務部隊はこの男と裏で繋がっているのかもしれない。そうナルトは本気で思った。

 

「ぬははは…!いいぞ!これは良い角度だ!」

 

「たまらんのォ」

 

「ここはパラダイスかのぉ!」

 

この男、見る度に覗きをしている気がする。言えば否定するだろうが「も」とか言ってる時点で弁明の余地はない。そして、毎回思うが、覗きをするにしては声が大きすぎじゃないだろうか。隠れる気は全くないらしい。

 

さて、ここで普通に声を掛けることは出来るがナルトは一計を案じる。そして、音を立てないように物陰に隠れミニカツユをこっそりと口寄せする。

 

「ナルトくん、どうかしたんですか?」

「あれを見るってばよ」

「あれは…自来也様」

 

ナルトの指差す方向には綱手の同輩である自来也がいる。そして、何時ものように覗きをしている。見慣れた光景ではあるが、しかし、何故自分が呼び出されたのかは分からず首を傾げるカツユ。

 

「止めないのですか?」

 

取り敢えず誰もが思うだろう真っ当な事を聞く。

 

「もう少し泳がせるってばよ」

「はぁ」

「実は俺今師匠を探してるんだってばよ。でも、皆忙しいみたいで暇そうなのエロ仙人くらいしかいないんだってばよ。だから、師匠をしてくれるよう頼むつもりなんだけど、忙しいからって断られそうなんだってばよ。だから、これを脅しにして修行をつけて貰うってばよ。カツユには証人になってもらいたいんだってばよ───なんかこんな事で呼び出して悪いけど、俺ってばどうしても倒したい相手がいるんだってばよ!」

「なるほど。まあ、他でもないナルトくんの頼みです。任せてください」

「さすが、頼りになるってばよ!」

 

 

 

 

 

「お!おおお!こ、これはイカン!本当にイカンぞ!素晴らしすぎる!」

 

ナルトとカツユがこっそりと見ていると、自来也は唐突に鼻を抑えだした。イカンイカンと言っているが全くイカン顔じゃない。むしろこれ以上無いほどだらしのない顔である。一体その瞳には何が見えているのか。目を極限まで開き、一瞬も見逃さんとばかりに鼻息を荒くする。

 

(きょ、今日はなんて素晴らしい日かのぉ!!わしはこの日のために里に帰ってきたのかもしれん!!)

 

自来也は顔を紅潮させ、壁にめり込むほど顔を押し付ける。

眼前。手を伸ばせば届くほどの場所に、黒髪巨乳の美人がいる。彼女は一紙纏わぬ姿で腰を屈め、手から零れ落ちたタオルを取ろうとしている。目の前に迫ってくる尻。その圧迫感たるや国宝にも勝る。比例して自来也の鼻息はどんどん荒くなる。

 

(お!おおおお!おおおおおお!!)

 

最早言葉も出ない。そんな思考の余地があるなら目の前の尻に向ける。もうこの男はダメかもしれない。

 

(!!!)

 

現在自来也は幸福の真っ只中にいた。しかし、幸福の後には不幸が起こるものである。

 

覗きに夢中で無防備を晒す自来也…その股間に唐突に衝撃が走る。

 

「ぐ…ぐおお!!」

 

思わず飛び上がる自来也。少しでも衝撃を緩和しようと言う防衛本能の発露だった。しかし、如何せん反応が遅すぎた。少しでも長く尻を見ようとするエロスが顔をだした結果だった。完全な自業自得である。

 

自来也は呻き声を上げて飛び上がる。あまりの痛みに歪む視界の中、自分の股間を蹴り上げた下手人…ナルトの姿を見る。

 

(お前かああああ!!)

 

自来也の言葉にならない悲鳴が響く。

しかし、自来也の不運は此処では終わらなかった。むしろ本当の不運はここからだった。

 

自分の股間を蹴り上げた体勢で固まるナルトの横。そこに何故か金髪のくノ一…綱手がいたからだ。その姿を視界に納めた瞬間、自来也はただでさえ青い顔を更に青くする。

 

「自来也ァ!!」

「ひ、ひぃ!!」

 

上空へ上がる自分の躯。

ポキポキと拳を鳴らす綱手。

 

 

「ま、待て綱手話を──」

「歯ァ食い縛りな!!」

「ちょま───ごえぼば!!」

 

綱手の右拳が奮われる。その拳は狙い違わず鳩尾にヒットし、抉るように振り抜かれる。くるくると高速で回る視界。そして、そのまま自来也は物凄い勢いで川の中へと落ちていった。

 

 

 

 

「ところで母ちゃん何でこんなところにいるんだってばよ?」

「ん…ああ、私は自来也にお前の修行をつけるよう頼もうかと思って探してたんだよ」

 

それで一番に探しに来るのが温泉街と言うのはどうかと思うが、実際そこにいたので最早何も言えない。

 

「そうだったのかってばよ」

 

それはエロ仙人も災難だったってばよ…

と、ナルトは少し同情する。自分が少し脅してやろうと思ったばかりに綱手に見つかってしまったのだから。結果論ではあるが普通に声を掛けてたらこうはならなかった。まこと憐れである。

 

 

 

 

「なあなあエロ仙人俺に修行つけてくれってばよ!もう俺ってばこの際エロ仙人でも良いってばよ!」

 

「お前今わしに何しくさったか忘れたのか!…見てみろわしの惨状を!!…まだ股間が悲鳴をあげとるんじゃぞ!」

 

自来也は恨めしげにナルトを睨む。額には青筋が浮かんでおり怒り心頭と言った様子だ。この状況で修行をつけろとかふざけとるのかこの男!

 

憤慨やるさかないとはこの事である。

 

とは言え綱手にナルトの修行を見るように言われており、つい頷いてしまった…と言うより頷く以外になかった。般若を背負った綱手の頼み、聞かなかったら何をされていただろうか。想像することすら恐ろしい。仕方ないが見る他ないだろう。だが、それはそれとしてナルトの頼み方が不服なのも事実。

 

「つーか、ナルト、それが人に物を頼む態度かっての!「もう」とか、「この際」とか、「でも」とか、あまりに失礼すぎるぞ」

 

もしかしてナルトは自分の事をまだ只のエロいじじいだと思っているんじゃなかろうか?

いやーな考え頭を過る。自来也はブンブンと頭を振った。そんな訳はない。これでも色々術を教えてるのだ。尊敬してくれてるはずである。

 

「…ナルト…一応聞いておくが…わしのことどう思ってる」

「エロ仙人だってばよ!」

 

邪気なく純粋に笑うナルトに怒ればいいのか、受け止めればいいのか

しかし、自分が望んだ答えではないのは確かだ。なんだエロ仙人って!ガマ仙人だと言っとろうが!

 

「………三忍自来也と言えばこの世界じゃ知らない者がいないほどの名なんじゃぞ…わしに教えを請えるって聞けば世界中の忍が感涙の涙を出すんじゃぞ…もうちっと有り難がれっての」

 

ぶつぶつと文句を言いながらも、人の良い自来也はナルトに修行をつけてやるのだった。

 

 

 



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暁遠隔会議 IN 外道魔像

 

「良く集まってくれた。今回皆を招集したのはある重要な連絡をするためだ」

 

暁と言う傭兵組織のリーダーであるオレンジ色の髪をした黒いピアスを全身に付けた男──ペインは招集に応じたメンバー──デイダラ、鬼鮫、小南、角頭、サソリ、大蛇丸、───、の七人を見渡し、告げる。

 

「大蛇丸が木の葉崩しをすることになった」

「「「「!!?」」」」

 

木の葉と言えば忍五大国と言われる特に大きな力を持った五つの国の中でも、並外れた勢力、規模、人材、血統、名声、財力を有する世界一の大国である。

 

九尾事件の影響もあってか一時期雷の国が増長するほど失墜してはいたものの、最近は三代目の手腕もあってか見事に復興を果たし、更に伝説の三忍二人が帰ってきたことで、大きく国力の向上を成し得ている。

 

まだ完全復活ではないにしろ、開幕早々そんな超大国にケンカを売ると言ったペインに、この場に集った(大蛇丸以外の)全員が驚愕する。その中でいち早く立ち直ったサソリがリーダーに問う。

 

「それは暁としての行動か?」

「いや、完全な大蛇丸の私事だ。故に暁全体で動くことはない…が、二人メンバーを貸し出すつもりだ…デイダラ、───、お前達がいけ」

「うええ、俺かよ、うん」

「…………分かった」

「よろしくねぇ」

 

大蛇丸のニタリとした笑みに、デイダラは嫌そうに顔をしかめた。

相変わらず嫌な顔をする女…いや、男かうん。

 

暁のメンバーは大体キモいが、その中でも特別にキモい男だからな…大蛇丸は…。一緒に行動したくない…

 

デイダラは変わってくれとサソリを見るが、こっち見んな!とサッと視線を逸らされた。どうやらサソリの旦那もこいつと組むのは嫌らしい…というか、皆嫌らしい…同情の籠った目を向けられる。いや、同情するなら変わってくれよ

 

「デイダラ…お前の能力は国を落とすには丁度いいものだ。───も実力は申し分ない」

「はぁ…仕方ねえ…大蛇丸と一緒ってとこがやる気を削ぐが…芸術を残すには不足無い相手だしな…芸術は爆発だ、うん」

「酷いわね…そんな嫌がらなくていいじゃない…とって食べたりしないわよ」

 

不服そうに笑う大蛇丸。

ペインはデイダラが納得したのを見て話題を進める。

 

「さて、大蛇丸───暁のメンバーを貸し出すのは゛今のところは゛了承した。だが、その前に木の葉崩しの概要について詳しく説明しろ。成功の見込みの無い無謀にメンバーを貸し出す気はない」

「説明と言っても、既に作戦は言った通りよ…。中忍試験に乗じて砂と連携して奇襲する…私は風影として参加する予定…その為に戦力も集めてるし、音隠れも作った…他に何が知りたいわけ?」

「お前が調べた木の葉の戦力についてもだ。それが分からなければ成功するかどうかなど分からない…どうせ調べてあるんだろ?」

「ふふふふ、良いわよ…まあ、全てを説明するのは時間の無駄だから主だった警戒すべき者たちだけだけ説明するわね」

「良いだろう」

「ますは火影である猿飛ヒルゼンね…」

「当然だな」

「これは私が相手をするわ…だから、貴方達が気にする必要は無いわね」大蛇丸はそう切って捨てる。「次に根の志村ダンゾウだけど…今回は出てこないと思うから此方も警戒はしなくていいでしょう…」

「何故だ…?木の葉崩しなんてやればそれを止めるのが普通だろ?うん」

「普通はね…でも、アイツは隙あらばヒルゼンを廃して火影になろうと考えるような野心家よ…実際、ヒルゼンを殺そうとした事もあるみたいだし…今回の木の葉崩しも「自分が火影になるために必要な犠牲」とか言って傍観を決め込むでしょうね」

「おいおい。とんでもねえ奴だな…どうなってんだ?木の葉は?」

「良くそんな奴を野放しにしておくものだ」

「霧なら影を殺そうと企んだ時点で殺されても文句は言えませんよ」

「証拠を残すような間抜けじゃないのよ…それに、ダンゾウは狡猾だし、三代目は甘い」

「ふん、まあいい…他に警戒すべき相手は?」

「やはり旧家名家と呼ばれる一族ね…特に名家である「うちは」と「日向」は充分警戒に値するわ…うちはは全ての一族が写輪眼を開眼してるわけじゃないけど強さの上限が高いし…日向は逆にほぼ全ての一族が白眼を開眼してるから集団としてはこっちの方がむしろ厄介ね…まあ、私達が警戒すべきは日向ヒアシくらいでしょうけど」

「で、うちははどうなんだ?」

「うちはで警戒すべきは専ら警務部隊に所属する人間ね…その中でも特に警戒が必要なのは此処にまとめた者よ」

 

大蛇丸は写真付きの紙をバラまく。そこにはS、A、B、Cに分類された警戒度が名前と共に書いてあった

その中でも唯一Sランクに分類されているのがうちはフガク。現在のうちは一族の当主であり、警務部隊の隊長を勤める男だ。ちなみに、日向ヒアシはAである。

 

「兇眼のフガクですか」

 

干柿鬼鮫が言う。第三次忍界大戦を経験した鬼鮫はフガクの事をある程度知っていた。もっとも直接戦った事はないので実際どの程度やるのかは知らないが…

 

「ええ、フガクは現在のうちは一族の中で唯一の万華鏡写輪眼の開眼者…それだけでも警戒に値するでしょう?」

「万華鏡写輪眼?」

「写輪眼の進化した先の瞳術のことよ…幻術やら動体視力やらが向上するだけじゃなく、一つの瞳につき一つの凶悪な能力を発現し、更に須佐能乎と言う絶対防御まで使えるようになる」

「フガクの能力は分かってるのか?」

「一つはね…もう一つは私も知らないわ」

 

大蛇丸はフガクの万華鏡の能力が天照である事を告げる

 

「火すら焼き尽くす絶対に消えない黒い炎か…厄介だな」

「ふふ、面白そうですね…私の鮫肌とどっちが勝るか…試してみたくなりましたよ」

「鬼鮫…お前をやるつもりはない…今回行くのはディダラと──だ」

「分かってますよ」

 

残念そうに言う鬼鮫。

 

「あと、うちはイタチにも警戒が必要よ…フガクほどではないにしろ、かなりの強さであるのは確かだからねえ…まあ、最近はどうも自宅療養してるみたいだけど…どの程度の病なのかは分からないから出てくる可能性も充分あるわ」

 

その他にも綱手や自来也はもとより、旧家と呼ばれる猿飛、志村、油女、犬塚、奈良、山中、秋道やはたけカカシ、マイト・ガイ、夕日紅、なども警戒が必要だと述べる。

聞いておいてなんだが、こっちが引くほど詳しく調べられていた。

 

「まったく良くここまで調べたものだ」

「興味あることはとことん調べる性分なのよ私」

 

ニヤリと笑う大蛇丸に嫌そうに顔をしかめる長門。大蛇丸が自分の目を得るために暁に入ったことを知っているからだ。

 

(暁の事もそれはそれは良く調べていることだろうな。何故こいつを仲間に引き入れたのかと疑問に思わない日はない。しかし、こいつの持つ情報収集能力と強さは魅力的だ。明確に裏切るまでは泳がせておくのが良いだろう。それに木の葉崩しは俺達にとっても都合がいい。いずれ九尾を捕獲しなければならない事を考えれば、今のうちに木の葉の力を削いでおく意義は大きい。同時に砂の力まで弱まってくれるなら願ってもない。まあ、十中八九大蛇丸は死ぬだろうが、大蛇丸が死んでも此方としては構わないわけだしな)

 

そこまで考えて長門は答える。

 

「いいだろう。我ら暁として正式にお前の企みを支持しよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大蛇丸的木の葉の忍脅威度

警戒度S 猿飛ヒルゼン 三代目火影兼猿飛一族族長 旧家

警戒度S 自来也 木の葉の三忍 特別な血統は無い

警戒度S 綱手 木の葉の三忍 最後の千手一族 名家

警戒度S うちはフガク 警務部隊隊長兼うちは一族族長 名家

 

警戒度A+ うちはイタチ 現在療養中 万華鏡写輪眼を発眼していないのでこの評価 名家

警戒度A+ はたけカカシ コピー忍者 二代目白い牙

警戒度A+ マイト・ガイ 体術特化 特別な血統は無い

警戒度A+ 日向ヒアシ 日向一族族長 名家

警戒度A 猿飛アスマ 猿飛一族次期族長 旧家

警戒度A 夕日紅 幻術使い

警戒度A 奈良シカク 奈良一族族長 旧家

警戒度A 山中いのいち 山中一族族長 旧家

警戒度A 油女シビ 油女一族族長 旧家

警戒度A 秋道チョウザ 秋道一族族長 実はマイト・ガイ、エビス、ゲンマの担当上忍だった 旧家

警戒度A シズネ 綱手の付き人 特別な血統は無い

 

 



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閑話 サクラの兵糧丸

サスケ、ナルト、サクラの休日の話です。本編とは特に関係ないです。






 

「実はいいものがあるのよ!」

 

その日、修行を終えたナルトとサスケにキラキラとした実に良い笑顔でサクラが告げた。サクラがこう言う顔をするときは大抵ろくなことがないと経験で知っている二人は嫌そうな顔をするものの、それが何なのか分からず、首を傾げる。そんな仲間の反応に気付いているのか気付いていないのか、スルーして、サクラはうきうきと篭を取り出し、蓋を開ける。中には黒い団子のような物が入っていた。

 

「何だってばよ?その泥団子?」

「泥団子とは失礼ね!兵糧丸よ!」

「兵糧丸ってこんな黒かったっけ?」

「ふふ…それは市販の兵糧丸じゃないからね!綱手様に師事して私が一から作った物よ!栄養満点滋養強壮それに即効性も考慮して厳選した材料だけを丁寧に練り上げてぎゅーっと凝縮したものだからとっても効くわよ!ひょっとしたら怪我の回復が早まるだけじゃなくて、体自体強くなるかもね!食べてみない?」

「別に俺達怪我とかしてないんだが」

「いいじゃない。体に悪いものじゃないわ。それに感想を聞きたいのよ」

「うーん、そこまで言うなら食べてみるってばよ」

「仕方ねえな」

 

二人はサクラから兵糧丸を受け取り口に入れる。

変化は劇的だった。

それを口に入れた瞬間、彼等は顔を真っ青にしてゲロを吐くように吐き出した。

 

「「おえええええ!!」」

 

「ちょ!ちゃんと食べなさいよ!」

「む、むちゃ言わないでくれ…これ本当に兵糧丸か?」

「うんこみたいな味がしたってばよ」

 

サクラは二人の言い様に流石にカチンときたのか不服そうに怒る。

 

「あのねえ、良薬口に苦しって言葉をしらないの?全く贅沢ね」

 

「…知ってるが、味も少しは気にした方が良いと思うぞ。この泥だ…兵糧丸じゃ薬が体に効き始める前に臭いと味で体調が悪くなる…うう…目眩が…」

「三途の川が見えたってばよ…」

 

「何よ…全く大袈裟なんだから」

 

サクラは不服そうにしながら、自分で食べてみる。

ナルト達のように恐る恐る食べる訳じゃなく、大丈夫だと証明するように、もろに噛みくだいて食べる。

変化は劇的だった。

 

「○#&&℃%##℃¥¥#!」

 

サクラは唐突に口の中に広がる劇物のような強烈な味と臭いに、言語にならない悲鳴を上げ、アへ顔を晒す。そのまま痙攣するようにゴクリと喉が動き、兵糧丸は胃袋へと入っていった。

 

「だ、大丈夫かってばよ?サクラちゃん」

 

「いや、大丈夫ではないだろ…もろに食ってたぞ」

 

「すぐに吐き出すってばよ!」

 

サクラは涎を拭いながらヨロヨロと起き上がる。

 

「うう…大丈夫よ…思った以上に不味かっただけ…体に害はないわ…そのはずよ…人間が食べるものじゃない味がしただけで…何か飲み物ない?」

 

「俺の水筒ならあるってばよ」

 

「ありがとう」

 

水筒のお茶をごくごく飲む。

 

「あの調合だとこんな味になるのね…ビックリだわ…」

 

そう言いながらサクラは水筒をナルトに返すと、腰のポーチから手帳とペンを取り出し、何やら書き始めた。何を書いているのかは分からない。たぶん、改善案とか考察とかが書かれているのだろう。

そうして、暫く何かを凄い勢いで書いた後、手帳を閉じ、ポーチに仕舞い、ナルト達を見る。

 

「ねえ、サスケ、ナルト、また今度味見を」

「俺兵糧丸食ったら死ぬ病にかかったってばよ!」

「お、俺も兵糧丸食ってはいけない病に」

「いや、ちゃんと味の確認はするわよ!失礼ね!とにかく、また今度作ってくるからその時はよろしくね!」

 

全く嬉しくない約束を強制的にさせられたナルトとサスケは、せめて次食べる時は食べられる味になっていることを祈るばかりだった。



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中忍選抜試験14 準備期間 サスケの修行

 

中忍選抜試験の予選が終わった翌日。サスケはカカシに修行をつけてやると言われ、朝から呼び出しを食らっていた。朝八時。ベッドに横になる兄に顔を見せた後、走って待ち合わせ場所まで行くと珍しく時間通りに来ているカカシがいて、サスケは驚く。

 

「よ、遅かったな」

「────!!?!」

「ん…?どうしたの固まっちゃって?」

「お前…本当にカカシか…?偽物じゃあ無いだろう?本物のカカシはどこへやった!?」

「ええ~…。本物だよ…」

 

肯定しているのに尚も疑わしい目で見てくるサスケ。なぜ自分は此処まで疑われてるのだろうか?

 

「いや、どっからどう見ても本物でしょ?なんでそんな疑ってるわけ?エイプリルフールじゃあるまいし」

「本物のカカシが遅刻しないはずがない…!」

 

俺の評価ってそんなふうになってるのね…と頬を引き吊らせるカカシ。流石に普段の行動を反省し、謝罪を口にする。

 

「いやー何かごめんね…俺もちょっと思うところがあってね…これからは遅刻しないように心掛けるようにしたのよ」

 

綱手様に呼び出しを食らった事は上手くぼかしつつ、正直に改心を口にすると、ますます疑わしい目で見られた。

 

「…信じられん」

 

心からの言葉だったが、深くカカシを傷付けた。

修行も始まっていないのに、こっちのライフがゼロになりそうだ。

ちなみに、現在カカシのポーチには愛読書であるイチャイチャパラダイスがブックカバーを付けて入っている。これで改心したとは信じられるわけがないが、幸いにしてサスケがその事実に気付くことはなく、カカシに連れられて修行場所までやって来た。

 

カカシは崖の前に立って話を始める。

 

「今からやるのは雷の性質変化の習得だ。分かってると思うが期限は一ヶ月とかなり短い…その間に雷の性質変化を会得できるのか、出来たとして実戦で使えるだけの物になるのか…全てお前の才能と頑張り次第だ…生半可な覚悟じゃ俺の修行にはついてこれないし、場合によっちゃこの一ヶ月が丸々無駄になる…覚悟は出来てるか?」

「当然だ。さっさと始めろ。何をすれば良い?」

 

サスケが聞くとカカシはサスケの右手を確かめるようにフニフニと触る。

 

「なんだ!?気色悪い」

「失敬な」

 

カカシは怒りつつ、サスケの修行計画を脳内で組み立てる。

 

「…どうやら肉体の方はガイにみっちり鍛えられたみたいだな。思ったよりはある…だが、まだ甘い…まずは術に耐えうるだけの体を鍛えるとこからだな…」

 

カカシは顎に手を当てて思案する。

 

「そうだね…お前には昔俺がやった修行をしてもらうか…この崖を片手一本で登れ…軽く百周くらいできれば合格だ」

「(鍛えるのは)腕だけでいいのか?」ニヤリとサスケが笑う。

「今回教えるのは千鳥だ。雷のチャクラを片手に集めて放つ高速の突き…だから、腕だけで充分なのよ」

「お前がこの前使ってた雷遁の鎧じゃないのか?」

「あれはまだお前には無理だ…諦めろ」

「ちっ」

「あのねー…。雷遁の鎧は片手だけじゃなくて全身に雷のチャクラを纏う忍術なの…千鳥すら出来ない人間が使えるわけないでしょ…会得難易度も最上級のS+…お前みたいなひよっ子に使える術じゃないのよ」

 

全く持って正論でサスケは口をつぐむしかない。

 

「じゃ、時間も惜しいし、早速始めるよ」

 

 

 

右腕左腕と交互に崖登りの行をする。やってみて分かるが片腕だけで全身を支えるのはかなりキツイ。ガイとの特訓が無ければとっくにへばっていただろう。だが、まだやれる。やはりガイの言っていた通り、体術において努力は絶対に裏切らない。

 

数時間後、そこには性根尽きたサスケがいた。

カカシはイチャイチャパラダイスから目を上げる。

 

「どうやら限界みたいだな…それじゃ、休憩だ…んで時間を無駄には出来ないから休憩してる時間を使ってこの術の欠点とかを教えるぞ────さっきも言ったが千鳥は雷のチャクラを片手に集めて放つ高速の突きだ…。そして、千鳥みたいな直線的な術は高い攻撃力を持つ反面相手にとってもカウンターを狙いやすい…つまり、相手のカウンターを見切る目…写輪眼が必要なわけだ」

 

サスケの目が赤く染まる。二つ巴が浮かんでいた。

 

「この術を使うには最低でも二つ巴はいる…お前はどうやらあるみたいだが…まだ全然それを使いこなせてない…この一ヶ月は雷遁の修行と平行して写輪眼の修行も行う」

「何をやるんだ?目にチャクラでも集めればいいのか?」

「いや、これだ」

 

カカシはポーチから巻物を取り出す。

 

「この中には俺が作ったペイント弾が入っている。これが無数に飛んでくるから兎に角避けて俺に突きをしろ。つまり、見切りの練習だ…腕は疲れてるが体は動くだろ…始めるぞ」

 

 

「一つ一つの対象を目で追うな…それでは視野が狭くなり、動体視力も使いすぎる…もっと攻撃範囲の全体像を捉えるんだ…視野を広げることを意識しろ」

「くそっ…簡単に言いやがって」

 

 

「どうした?もうへばったのか?こんなんじゃ習得なんて夢のまた夢だぞ」

「誰が…はぁ…はぁ…全然…はぁ…はぁ…へばってねえよ…!」

 

 

暫く後。そこには全身余すとこなく真っ赤に染まったサスケがいた。

 

「いやー此処まで当たってくれると俺も作った甲斐があるよ」

「ちっ」

「ま、でも、自分がまだまだだって分かったでしょ?そんだけ伸び代が残ってるってことだよ」

 

その後もカカシによる地獄のような訓練が続く。

そして、一ヶ月の月日が経った。

中忍選抜試験本選の開始である。

 

 



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中忍選抜試験15 本戦 日向ネジ VS うずまきナルト


一万字…
今回は凄い長くなってしまった。


 

中忍選抜試験第三次試験本戦 試合予定

第一回戦 うずまきナルトVS日向ネジ

第二回戦 カンクロウVS油女シノ

第三回戦 テマリVS奈良シカマル

第四回戦 我愛羅VSうちはサスケ

第五回戦 ドス・キヌタVS春野サクラ

 

 

中忍選抜試験の本戦は恒例として各国の大名や忍、観光客などを集めて行われるトーナメント形式の試合だ。観客席に囲まれた円形のフィールドで行われる事からも分かる通り、この試験の目的は中忍の選抜と言う表向きの意図や、各隠れ里による力の誇示やアピールと言う裏向きの意図だけではなく、見世物としての側面も強い。そのため、毎年この時期には諸外国から多くの人が木の葉へと赴き、非常に盛況な祭りとなる。

 

特に今年は日向や、うちは、風影の息子、新興の音忍など色んな意味で注目を集める忍が多い。

 

すでに会場に来た観客たちは、今日の本戦の内容について会話している者たちがほとんどで、既に賭け事まで行われている。

 

「一回戦はうずまきナルトと日向ネジの戦いか…」

「日向ネジって言えば、あの日向家始まって以来の天才と言われてる神童か?」

「これは決まったな」

「ナルトに賭ける奴とかいないだろ?」

「てか、うずまきナルトってそもそもどんな奴なんだ?」

「あの金髪の一番バカっぽそうなガキだ」

「おお、あいつか…ん?…うずまきなのに金髪なのか」

「たぶん、ハーフかクォーター辺りなんじゃないのか?」

「てことは、うずまき一族特有のゴキブリ染みた生命力も期待出来ないかもな」

「ますます勝ち目がねえじゃねえか」

 

そんな風にナルトの評価はすこぶる悪い。なんとオッズ比+2,000である。これは100円賭ければ2000円プラスして返ってくると言うことである。

 

当たればデカイが外れる可能性がそれだけ高い。いくら大穴狙いでもまともな審美眼を持っていたらまずうずまきナルトには賭けないだろう。ネームバリューがまず違うし、見た目のオーラすらも日向が圧倒的に上だ。日向ネジの方は見るからに出来る男オーラを出しているのに対し、うずまきナルトは言い方は悪いがバカっぽい。今もキョロキョロと周りを見渡し、試験官に怒られてた。これでナルトに賭ける奴は相当な変わり者だ。

 

しかし、どこの世にも変り者と言うものはいるものらしい。白髪のスケベそうな顔立ちの男が驚きの言葉を言った。

 

「わしはナルトに10万賭けるぞ」

「よ、よろしいのですか?」

「なーに、わしは大穴狙いなんじゃよ…第一わしにとって十万程度安い金よ」

「さ、流石自来也様!」

 

何が流石なのか分からないが、いたく感涙する胴元の草忍。その尊敬の目に白髪の老人は満更でも無い顔をして笑う。───と、頭が誰かに叩かれた。

 

「自来也、あんた、自分の弟子で賭け事かい?」

 

スコーン!と自来也の頭を叩いて現れたのは金髪の美女だ。黒髪の美女を伴って現れたそのくノ一は兎に角巨乳と言う事以外頭に浮かばない程の巨乳である。Gいや…下手したらHはある。しかも、胸元がけしからん事になっている。その圧倒的な破壊力に視線が白髪の老人から金髪の美女へと向かってしまうのは無理からぬ事であろう。誰だってその二つが並んでいたら後者を見る。俺もそうなった。

 

その美魔女は「邪魔だよ」と自来也を退かし、懐から財布を取り出す。

 

「──私もナルトに十万だよ」

「綱手様も賭けてるじゃないですか!」

 

恐ろしい程の掌返しである。あの叱責はなんだったのか。てっきりちゃんと諌めてくれると思ってたら、まさかの自分が賭けるとは。

だが、それがどうした。巨乳は正義。その言葉を今日ほど実感した日はない。俺もナルトに賭けてみようかなどとトチ狂った考えが浮かんだほどだ。まあ、全力で抑えたが。

 

シズネ、と白髪の老人に呼ばれた真面目そうな女は綱手を諌めるものの、とうの綱手は気にする素振りもない。

 

「固いこと言うな。何と言ってもオッズ比百倍だからね。これで賭けなきゃギャンブラーの名が廃るってもんだい」

「そんな名前廃れてくださいよ…もうギャンブルは程々にしてください…綱手様は次期火影候補なんですから」

「あん?私がそんな面倒なもんやるわけないだろ…ああいうのはジジイに任せとけばいいんだよ」

「まだ三十年は生きそうだしのぉ…年寄りの生き甲斐を奪うのも忍びない」

(ただやりたくないだけでしょ!)

 

妙なところで息の合う二人は頻りにジジイのため!と言っている。そんな無情な三忍の姿にシズネは深い溜め息を吐いた後、火影席に座るヒルゼンを見た。

ヒルゼンは何やら風影と談笑しているようだ。

どんな話をしているのかまでは聞こえないが、その姿からは自来也の言う通り疲れや老いは感じない。しかし、シズネは最近良くヒルゼンが、自来也や綱手の前で、「もうそろそろ年かのぉ」とか、「最近肩が痛くてのぉ」とか、「隠居したいなぁ」とか、「誰か変わってくれんかのぉ」、とか言っていることを知っている。二人とも綺麗に聞こえない振りをしているが。ヒルゼンの直弟子の中で唯一火影になりたいと思っているのが抜け忍の大蛇丸とは実に皮肉な話である。

 

✝️

 

祭り独特の熱気が支配する会場の中央。好奇や期待の目がゲンマの後で並ぶナルト達に突き刺さる。普段感じることがない程の多くの視線と、本番前の独特の緊張感。注目や期待を受けることに慣れているサクラや、カンクロウ、テマリ…、そもそも環境や視線など気にしない我愛羅や、ネジ、ドス、サスケは兎も角、慣れない環境にナルトとシカマルはソワソワとしていた。特にナルトの緊張は大きく、キョロキョロと忙しなく周りを見渡す。

 

「あー、何かトイレ行きたくなってきたってばよ!」

「バッカ!お前、先に行っとけよ!お前の出番一回目からだろ!」

「いや、何度も行ったんだけどトイレ行くと安心するのか出なくなっちまってさ」

「そりゃお前、気のせいだ。緊張して勘違いしてるだけだ。トイレなんて元々行きたくねえんだよ」

 

確かに漏れそうと言う感じではない。だが、何と言うか、何か落ち着かない。

 

「こら! オロオロしてんじゃねー! しっかり客に顔向けしとけ」

 

そんな受験者達──特にナルトとシカマルに対して、口に千本を咥えた男──ゲンマ──が注意する。

 

「この“本選”……お前らが主役だ!」

 

と、出場者に背を向けていたゲンマは振り返った。

 

「いいか、テメーら。これが最後の試験だ。試合の組み合わせは既に伝えた通り、一回戦のナルトとネジの試合から順に行っていく」

 

ゲンマは淡々とした声で確認するように説明を続ける。

 

「地形は違うが、ルールは予選と同じで一切なし。どちらか一方が死ぬか負けを認めるまでだ。ただし、オレが勝負が着いたと判断したら、そこで試合は止める。解ったな?」

 

その言葉に各々が各々の態度で肯定を示す。

受験生全員が死ぬリスクがあると分かった上で受けることを選んだのだ。

異論がないと判断したゲンマはナルトとネジを残し、他の者は上に上がるように指示を出す。

 

「先がつっかえてんだ!さっさと上がれ上がれ!」

 

三十秒も経たない内に試験場にはゲンマを除いてナルトとネジだけとなる。

 

二人は向かい合って対峙する。お互いがお互いを見ているがその顔に浮かぶ表情には大きな違いがある。ネジは無表情で全てを見透かしたような斜に構えた目をしているのに対し、ナルトは今にも爆発しそうな激しい闘志を宿している。

 

「何か言いたそうだな」

 

「前にも言ったろ!…ゼッテェ!勝つ!」

 

かつてと同じ様に拳を突き出し、自分の覚悟を固めるように勝利を宣言するナルト。

 

光を反射したその顔は何処までも自分を信じきった顔をしている。

 

ネジはその目に若干の苛立ちを感じながら、眼にチャクラを籠め白眼を開く。

 

「……フフ、その方がやりがいがある。本当の現実を知った時、その時の絶望の目が楽しみだ」

「俺は絶望なんて絶対しねえ!俺は火影になる男だからな!」

 

両者共に臨戦態勢を整えたと判断したゲンマは声を上げる。

 

「準備は良いか?」

 

「いつでも!」

「…………」

 

ネジは声を出さない。ただ無言で持って肯定を伝える。

 

「一回戦日向ネジ vs うずまきナルト───始めろ!」

 

ゲンマの声が第一回戦の始まりを告げた。

 

✝️

 

八卦掌空掌!!

 

ナルトは開始と同時に影分身を出そうとする。しかし、それより早くナルトの肩に強力なチャクラを含んだ空気が飛んできた。

 

「うわ!」

 

ナルトの腕が後ろにつんのめる。

空気は一撃では終わらず、まるでナルトが印を組むのを阻害するように連続で飛来する。

 

「くっそ!」

 

開幕から全く何もさせて貰えないナルトは焦りを感じる。

印を組むことで発動する忍術と印を組む必要の無い柔拳術ではスピードに差があるのだ。

それでもこのまま同じことを繰り返していれば何時かは反撃も出来ただろうが、それを待ってくれるほど甘い相手ではなかった。

 

「お前は既に俺の八卦の領域内にいる」

 

体勢を整えるべく動いた一瞬の隙を付き瞬身の術で目の前にやって来たネジは油断も隙もなく、即座に奥義を発動する。

 

「八卦六十四掌!!」

 

全身108っ個の点穴を突かれたナルトは前へと倒れる。体からチャクラが抜けていき、力も入らない。

 

(くそっ…エロ仙人に柔拳相手に接近戦はダメだって聞かされてたのに!でも、こんな正確な遠距離攻撃があるとか聞いてないってばよ!)

 

自来也はもちろん八卦掌空掌の存在自体は知っていた。しかし、分家のまだ十代前半の、下忍になったばかりの子供が、日向家の秘技を自力で習得しているとは予想出来なかったのである。

 

「これは予想以上だな…ナルトが勝つと疑ってなかったが…こうなると分からんぞ」

「天才とは聞いていたけど、まさかこれ程のものとはね」

「ナルトくん」

 

自来也、綱手、シズネは鮮やかな連撃に感心を見せる。

 

「まさか自力で日向の秘技を二つも習得していようとは」

「お父様」

(やはりヒザシ…日向の当主はお前が…)

 

日向家当主日向ヒアシはネジのそこの見えない才覚に嘗ての苦い過去を思い出し、顔を歪める。

 

 

「日向ネジか…かなりやるじゃん」

「……とんでもないわね」

「うずまきナルト…こんなものか?」

 

砂の三人は各々が各々の感想を抱く。カンクロウとテマリはネジを警戒し、我愛羅はナルトに落胆した。

 

「おいおいおい!ナルトヤベエんじゃねえの?」

「ナルトくん」

「あのナルトがこうも一方的に」

「嘘でしょ」

「起き上がらねえぞアイツ?」

「…あ!立ち上がった!」

「つってももうボロボロだぜ?戦えんのか?」

「俺は柔拳について詳しく知らねえんだが…ぶっちゃけ今ナルトはどう言う状態なんだ?ヒナタ?」

 

シカマルの問いにヒナタは答える。

 

「今のネジ兄さんが使ったのは日向一族に伝わる奥義…八卦六十四掌…全身の点穴を突き、塞ぐことで、チャクラの流れを強制的に止める術…たぶん、今ナルトくんはチャクラを全く練れない状態になってると思う」

 

ヒナタの説明に一同は絶句する。

 

それは誰がどう聞いてもナルトの敗北が動かないことを物語っていた。

 

 

「終了だな」

 

それは試験官であるゲンマも同じだったらしい。無情な台詞が空気を伝い、ナルトの鼓膜を揺らす。

 

「全身六十四個の点穴を突いた。もはやお前は立つことも出来ない…ふん…悔しいか?変えようのない力の前に膝まづき、己の無力を知るがいい」

 

ネジの見下した声がナルトの耳に届く。

 

瞬間、ナルトの脳裏にゲジ眉とヒナタの戦いが過った。

二人とも絶対的な力の前でも諦めず、最後まで抗い続けた。

 

視線を横にずらして観客席を見ると、心配そうなヒナタの顔と杖をついたゲジ眉の姿が見える。

 

(アイツらの前でみっともねー真似はできねーってばよ!)

 

ナルトは力の入らない体を気合いで動かし、よろよろと立ち上がる。

 

「俺は諦めがわりぃーんだって…言ってんだろ」

「バカな!」

 

立ち上がれる筈の無いナルトが立ち上がるのを見て、初めて動揺を見せるネジ。

しかし、直ぐに無駄なことだと動揺を収める。立ち上がろうと、チャクラが練れない事実は変えられない。もはや勝負は決している。

ネジは白眼を出すこともなくナルトを見返す。

 

「これ以上やっても同じだ…別にお前に恨みはない」

「ふん…うるせえってばよ!…んなこと言っても此方にはしっかりあるんだよ!あんなに頑張ってるヒナタの事を精神的に追い込むような事をしやがったんだ!他人を落ちこぼれ呼ばわりする糞野郎は俺がゼッテー許さねー!」

 

ナルトは怒気を孕んだ気炎を吐く。その感情に呼応するかのようにネジの目にも憎しみが宿る。

 

「…分かった…いいだろう…そこまで言うなら教えてやる!日向の憎しみの運命を!」

 

そうして語られた日向の真実は誰もが予測も出来ないような過酷な内容だった。

 

宗家と分家

分家に刻まれる死の呪印

宗家のために犠牲となった父

 

「分かったか?人は変えられない運命の中で生きている…分家である父が宗家の身代わりとなって殺されたように…。…そして、この試合…お前の運命は俺が相手になった時点で決まっている!」

 

ネジは変えがたい真実を述べるかのように言い切る。

 

「…お前がどうしてそんな考えをするようになっちまったのかは分かったってばよ」

 

ナルトの声にさっきまでの怒りはない。

ネジの過去を聞いてナルトはネジを純粋に怒ることが出来なくなっていた。

大切な人間を失う苦しみは、大切な者が出来た今だからこそ良く分かる。

それを分家に生まれたからなんて理由で納得出来るわけがない。

それでも納得させるしかなかったから、運命と言う言葉で片付けたんだ。

 

「でも、それで…運命全部決まってるって思うのはスゲー勘違いだってばよ!」

「救えない奴だ」

 

ここまで言っても綺麗事を抜かすナルトにネジは呆れ果て、試合を終わらせるべく瞳に力を入れる。ビキビキとネジの視神経が浮かび上がり、チャクラの流れが見えるようになる。

 

「八卦掌空掌!!」

 

ネジはその場から動くことなく、チャクラを手に集め空気を叩く。

 

「ぐあっ!!」

 

チャクラの籠った空撃にナルトの体が吹き飛ぶ。避ける元気さえないナルトはもはや的でしかない。

 

「試験官…終わりだ」

 

ネジは土煙を上げて倒れ伏すナルトを見下ろし、最早立ち上がれないと白眼を解き、背を向ける。だが、ナルトは驚異的なタフさを発揮し、尚も起き上がり、ネジを呼び止める。

 

「逃げんじゃねえ!俺は逃げね!真っ直ぐ自分の言葉は曲げねえ!それが俺の忍道だ!」

「呆れたタフさだ…それに、フフ…何処かで聞いたようなセリフだな?……だが…お前に何が出来る?苦労して抗ったところで、結局運命の前に無意味だと…何よりも今のお前が証明している…さっさと諦めて敗北を受け入れろ…どうせ結果は変わらない…」

「うるせーってばよ!お前みたいな運命だなんなそんな逃げ腰野郎にはゼッテー負けねえ」

 

口から血を吐き、今にも倒れそうなほどふらふらなのに、試合が始まる前と全く変わらない目をするナルト。

その姿に、無性に苛立ちを感じる。

何故かは分からない。

だが、本能が目の前の抗い続ける男を認められないと叫んでいた。

それを認めてしまったら───

だから、ネジはナルトが何の痛みも苦しみも知らないから、綺麗事を信じ続けることが出来るのだと安易な結論を着ける。

 

「偉そうに説教するのはやめろ!」

 

ネジは怒りと拒絶の意思を乗せて怒鳴る。

 

「人は生まれながらに逆らう事の出来ない運命を背負って生まれてくる!一生拭い落とせぬ印を背負う運命がどんなものか!お前などに分かるものか!」

「分かるってばよ…んで…それが…何?…」

 

だが、ナルトにそれが分からない筈がない。誰よりもそれに翻弄され、苦しめられてきたのだから。

 

「別にてめーだけが特別じゃねーんだってばよ!宗家を守る分家が試験だからってヒナタをあんなんにして!本当はお前だって運命に逆らおうと必死だったんだろ!」

 

反論のしようのない事実だった。

予選での自分の行動はどう見ても運命を受け入れた者のそれではない。

それを認められるかどうかは別の話であるが。

 

「ふん、お前の六十四の点穴はもう閉じている。チャクラの練れないお前がどう戦うつもりだ?」

 

そして、それもまた事実であった。

今のナルトに出来る事など何もない。

少なくともこの場にいるほぼ全ての人間はそう思っていただろう。唯一ナルトを除いては。

 

(もーこうなったら頼るしかねえ!)

 

ナルトは決して頼るまいと決めていた相手に頭を下げるべく目を閉じるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

✝️

 

 

目を開けると、見上げるほどに大きい牢屋とその中で寝転ぶ九本もの巨大な尾を持つ狐がいた。

 

(ふん…ようやっと来やがったか…)

 

ナルトの来訪を感じ取った九本の尾の狐……クラマが片目を開ける。

 

「んで、何の用だ?ナルト」

 

腹の中から様子を見ていたため聞くまでもなく分かっていたが様式美と言う奴だ。

 

「あー…実はだな、チャクラを貸して欲しいんだってばよ」

 

ナルトは言いにくそうに言い、頭を下げる。

 

「くく…わしの力は絶対に借りないんじゃなかったのか?」

 

その言葉にナルトは昔の事を思い出していた。

 

✝️

 

ナルトが九尾の存在を知ったのは実はかなり最近で一年ほど前の事だ。

 

その日、とある事情により死に掛けたナルトは初めて心の中で九尾と対面した。

 

九尾とは文字通り九本の尾を持つ巨大な狐である。

どのくらい巨大かと言えば、

 

その尾 一度振らば 山崩れ 津波立つ

 

なんて、伝承が残るほど巨大だ。

もっともナルトはその頃には既に巨大蛞蝓や巨大蛙、巨大犬などと仲良くなっていたため、大きさ自体や言葉を話すことには驚かなかった。しかし、初めて会った九尾は今迄見てきたどんな口寄せ動物とも根本的に異なる印象を受けた。

 

一言で表すなら「憎悪」だ。

 

まるでこの世の全てを恨んでいると思うほどの憎しみ。

 

ナルトはその存在感と強すぎる憎しみの目に、腰を抜かしてへたりこみ、小便を漏らした。

 

まあ、九尾と会ったのは精神世界だから小便が漏れるなんてことはなく、実際に漏らしたのは現実世界のナルトなんだけど。

 

んで、その後、死線を抜け現実世界で目を覚ましたナルトは直ぐに綱手やシズネにこの事を話した。

 

初めは二人とも口を濁して何かを隠しているようだったが、しつこく聞き続けると教えてくれた。

 

九尾とは古くから疫災と恐れられてきた「尾獣」と呼ばれる尾を持つ怪物の内の一体で、最強の尾獣。

 

憎しみの塊で、破壊のみを引き起こす。

 

うちはマダラにより使役され木の葉を襲ったことがある。

 

その力を危険視した初代火影はうずまき一族の封印術を用いて封印した。

 

それ以来九尾は木の葉の里が管理・所有してきた。

 

大戦の時は兵器としても使われた。

 

十年ほど前再び木の葉を襲った

 

その時多くの犠牲者が出て、四代目火影が命をとしてうずまき一族の血を引くナルトの腹の中に封印した。

 

ナルトが木の葉で疎まれていたのも、九尾を腹に封印されていたから。

 

と、まあ、列挙するとこんなものだ。

 

正直、これを初めて知った時、色んな感情が過っていった。

 

四代目火影ふざけんな!とか

俺何も悪くなかったのかよ!とか

やっぱ九尾怖い!とか

里の奴等の気持ちも分かる!とか

 

まあ、上げれば切りがないし、矛盾するような感情も幾らもあった。

 

だから、それらについては丸っと無視して九尾についてのみ述べる。

 

当時のナルトは九尾にビビり散らかしていた。

だって、疫災とか、破壊神とか、憎しみの塊とか、里壊したとか、ろくな話を聞かなかったからだ。普段人を悪く言うことのないシズネすらも同じ反応だったのが余計にビビりを加速させた。

正直、もう二度と会いたくないとすら思っていた。でも、腹の中にいるので不可能だと直ぐに気付く。

それ以来毎夜の如く、九尾が腹を食い破って出てくる悪夢に魘された。

このままじゃあ、いかんと一念発起し、ナルトは九尾についてもう少し詳しく知ろうと思いたつ。

もっとも、綱手やシズネに聞いた所で、似たような話が返ってくるだけである。結局人間の視点からの九尾しか分からないのだ。それではこの恐怖は変わらない。

そのため、ナルトは九尾と近しい生物である巨大口寄せ動物に話を聞くことにした。

 

で、話を聞いて驚くべきことが分かった。

 

なんと、巨大口寄せ動物達は昔は今の九尾と同じ様に疫災と呼ばれていたらしい。

それが変わったのは忍と口寄せの契約を結ぶようになってからで、それも結構最近…およそ七百年くらい昔の事。それ以前は人間即ぶっ殺!の動物も珍しくなかったらしい。

基本的に人間ってろくなことしないから。争いしか持ってこないし、環境破壊や生物虐待やら、この星を我が物顔で切り開こうとする。この世界の害悪…。温厚なカツユですら近づきたくない相手と思っていたらしいから当時の人間の評判が押して知れる。

 

そこまで聞いてナルトは九尾も被害者じゃないのかと思い至る。

 

よくよく考えたら、マダラに操られ、柱間に封印され、以来ずっと檻の中に閉じ込められているのだ。そりゃあ、封印破ろうとするだろうし、出てこれたら「ひゃっはぁー!」てなるのはある意味仕方無い。遺族からしたら理由なんてどうでもいいのかもしれないが、少なくとも九尾だって被害者なのだ。

 

そう理解して以来、ナルトは積極的に九尾と話をするようになった。

初めの頃は当然上手くいかなかった。

目が合う度に殺されそうになるわ、殺意の言葉を向けられるわ、かと思ったら、「里の奴等憎いよな?復讐するなら手を貸すぞ?」と事あるごとに復讐を促してくるし、「そんなことしねえってばよ!」って言えば不貞寝するし、会う度に「同情するなら封印から出せ!」的な事を言う。

出してやりたいとは思うんだが、それやると俺が死ぬらしい。

だから、出来ないと言えばまた不貞寝する。

全く会話にならない。

しかし、根気強く話を続けていると、何が事線に触れたのかは分からないが、次第に会話に応じてくれるようになり、色々あって名前を教えてくれるほど仲良くなった。んで、その過程で「封印から出せないけど、俺は力を利用したりなんてしないってばよ!」と言ったのだ!

 

もちろん、口から出任せで言った訳じゃない。本気でそう思ってたし、今でも思ってる。だから、今迄ナルトは九尾の力を使ってこなかった。

 

「でも、今回だけは負けるわけにはいかねえんだってばよ……中忍試験とか関係ねえ…ここで俺が負けたらそれこそアイツは何も変わらない…今迄通り運命だなんだと言って後ろ向きなままだ…そんなの悲しすぎるってばよ!…でも、俺一人じゃどうにも出来ねえ!だから、力を貸してくれってばよ!クラマ!」

 

「ふん…相変わらずの甘ちゃんだな…まあ、いい…あの陰気なガキには、わし、もイラついてたとこだ」

 

クラマはのそりと起き上がり、格子の隙間から爪を出す。

 

「触れ」

 

「こうか?」

 

「わしのチャクラをほんの少しやる…まあ、この封印のせいでやれるチャクラなんて雀の涙程度だがな」

 

「サンキューな、クラマ!でも、これが最初で最後だってばよ!」

 

ナルトは邪気の全く存在しない笑顔を向ける。それを見てクラマはやれやれと溜め息を吐く。どうやら本当に気付いていないらしい(・・・・・・・・・・)

 

「最後かどうかは知らんが、わしがお前にチャクラを貸すのはこれが最初じゃねえぞ」

「え?」

「よく考えてみろ。お前みたいなチャクラコントロールが杜撰な奴があんなバカスカ高等忍術ばっかり使えば直ぐにスッカラかんになる。わしがチャクラを補助してやってたに決まっとろうが。わしが協力してなかったらアカデミーを卒業出来たかすら怪しいぞ、お前」

「な!?」

 

驚愕に固まるナルト。

クラマはそれを面白そうに見た後、デコピンでナルトを外(現実世界)に出す。

そして、檻の中で再び寝そべり、外を見た。

 

(仮にも九尾の人柱力ともあろうものが…白眼ごときに負けてんじゃねーぞ)

 

 

 

 

✝️

 

なんか、最後に衝撃の新事実を聞かされたけど、今は目の前の敵に集中だってばよ!

 

ナルトは全身にチャクラを行き渡らせる。

 

それを見て驚愕するネジ。

当然だ。完全に点穴を突き、チャクラを練れなくなったはずの男が、チャクラを練っているのだ。しかも、見るからに普通のチャクラではない。異質な恐怖すら感じるチャクラ。

赤い血のようなチャクラがフィールドを席巻し、暴風が吹き、石礫石が舞い上がる。

 

(あれが本当にチャクラなのか…?…何の性質も形質も帯びてないチャクラが可視化出来るほどの密度を持つなど…っ!速い!)

 

赤いチャクラで体を覆われた身体は先程までとは比べ物にならない速さを可能にする。

一瞬にしてネジの背後に回ったナルトは三本の手裏剣を投擲。

 

「─っ!回転!!」

 

ネジは普通に捌くのは無理だと即座に判断し、全身からチャクラを放出して体を回し、手裏剣を全弾弾く。

 

(スピードもパワーも桁違いだ!!)

 

危うい攻防だった!あとほんの少し認識が遅かったら防げなかった!

 

「お前…接近戦には自信あんだろ?」

 

ナルトの挑発的な声が響く。

次の瞬間ナルトは恐るべきスピードで駆け出す。その速度はもはや中忍の域すら越えていた。しかし、ネジも天才と呼ばれる男。下忍最強と呼ばれる力は伊達ではなく、足と腕にチャクラを集中させる高速の移動術で対応する。

 

下忍とは思えない高速の戦闘が行われる。切り結んでは離れ、離れては切り結び、場所を変え、立ち位置を変え、得物を変え、幾度となく切り結ぶ。

攻撃のスピードでは僅かにナルトが勝るが、ネジは白眼によるチャクラの流れを見る先読みと回転により互角の戦いを演じる。

 

「はああああああああああ!!!」

「おおおおおおおおおおお!!!」

 

全身全霊を掛けた一際強力な一撃がぶつかり合う。数瞬の拮抗。

直後、塞き止められた水が吹き出すように両者は物凄い勢いで真反対に飛んでいく。

 

ドゴンッ!!

 

ドゴンッ!!

 

 

両者はクレーターが出来るほどのスピードで地面と衝突し、全身が軋みを上げるほどの衝撃を体に受ける。「「っかはっ!?!」」内蔵までもが悲鳴を上げ、肺の空気が全て外へと溢れ出る。

 

二ヶ所から煙が立ち上ぼり、観客の視線が煙の先へと注がれる。

 

どっちが勝ったのか?

 

果たして、立ち上がったのはネジだった。

 

ネジはふらふらと覚束無い足取りでナルトがいる穴まで歩く。ナルトは気絶しているのかまだ横たわっている。

 

「悪いがこれが現実だ。これで本当に終わ───ぐあっ!!」

 

直後、ネジの足元からナルトが飛び出しアッパーを食らわせる。穴にいたのは影分身のナルトだったのだ。

完全に予想外からの攻撃を受けたネジは綺麗に顎に一撃が決まり、背中から地面に沈む。

 

(ぐうっ!……体が……)

 

 

「勝負あったな」

 

ゲンマが先程と同じ言葉を言う。だが、勝者の名前だけが違う。

 

「勝者 うずまきナルト!!」

 

 

 

勝どきが上がり、会場全体から歓声が上がる。それは今迄ナルトが決して向けられることの無かったものだ。

その中には、サクラや、サスケ、自来也、綱手、シズネ、などナルトの見知った顔も多い。

ナルトは声援に一度手を上げて答えた後、観客に背を向け、ネジに近付いた。

 

「……大丈夫か?」

「…お前には…この運命が…見えていたのか…チャクラを…復活させ…俺に勝つ運命が」

「まだそんな事言ってんのかよ…運命なんて誰かが決めるもんじゃねえってばよ…てか、こんな泥試合だれが予想出来るかってばよ!ふつー、出来てたんなら回避するってばよ!…俺の予定ではもっとスマートに勝つ予定だったの!開幕からいきなりチャクラ使えなくなる勝ち方とか渋すぎるってばよ!」

「…ふ…確かにな…」

 

二事三事の言葉を交わす。

顔をしかめる余力もないのかネジの顔は終始穏やかだった。

ナルトは救護班が入って来たのを見て話を切り上げ、「んじゃあな!」と観客席に向かって歩いていく。声援を送る観客へ手をブンブン振ったり、投げキッスをしたりと、さっきまでの疲弊が嘘のようなアクティブさだ。

 

「呆れた体力だな」

 

いつの間に近くにいたのかゲンマが隣に立っていた。

 

「ま、今回はあいつの粘り勝ちだな─」

 

ふ…粘り勝ちか、まったくその通りだな…

点穴を突かれ、まったくチャクラを使えなくなっても、アイツは結局一度も諦めなかった…

いや、ナルトだけじゃない…

リーや、ヒナタ様もか…

 

「──捕まった鳥だってな 賢くなりゃ 自分のくちばしで籠のフタ開けようとすんだ また自由に空を飛びたいと諦めずにな」

 

ゲンマは千本を咥えながら空を見上げる。ネジはそれに促されるように空を見る。青く澄んだ空には三匹の鳥が自由に空を羽ばたいていた。

 



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中忍選抜試験16 本戦 奈良シカマルVSテマリ

 

「ヒャッホーイ!ナルトが勝ったぜ!赤丸!」

「ち、ヒヤヒヤさせやがって」

「一時はどうなることかと思ったけど無事一回戦突破だね」

「もぐもぐ………良かった……もぐもぐ」

「チョウジ、あんた食べ過ぎよ」

「まさか彼処から逆転するとはな…にしても、スゲーチャクラだったな」

 

同期の忍が口々にナルトに称賛の言葉を送る。乗せられやすいナルトは分かりやすくチョーシに乗って騒いでいる。キバと肩を組んで踊ったり、勝因を得意気に語ったり、迎えに来た綱手やシズネや自来也に抱き付いたり…………

ちなみに、勝因は「諦めねえど根性だってばよ!」らしい。

 

 

✝️

 

「では、引き続き第二回戦を始める…油女シノ…カンクロウ…両名は下に降りてこい」

 

ゲンマは数秒場が落ち着くのを持ったが、収まりそうにないので、時間を見て進行を始めた。

 

「お!次はシノか!砂なんかに負けんじゃねえぞ!」

「当然だ」

「頑張ってねー!」

「応援してるわよ!」

「木の葉の力を見せつけてこい」

「青春フルパワーですよ!」

「頑張れってばよ!」

 

シノは同期からの声援を次々と受け、僅かに顔を赤らめる。

何かと忘れられることの多いシノ。しかし、今回は数少ない個人に焦点の当てられるイベントだ。シノは裾の中で拳を握り、同期の暖かい声援を力に変え、気合いを入れて階段を下りようとして──

 

「──俺は棄権するじゃん!」

 

カンクロウがまさかの棄権を宣言した。

 

「なっ!」

 

シノはフィールドに降りることもなく不戦勝が決定し、サングラスの奥で瞳を見開く。それはねえってばよ……

 

「って、ことは次はもう俺かよ」

 

唖然と固まるシノの横で、シカマルはめんどくさそうに溜め息を吐き、フェードアウトを模索する。

 

「こうなったら俺も流れに乗って棄権を……」

 

「よっ!頑張れってばよ!シカマル!」

 

と、ナルトに盛大に背中を叩かれた。

 

棄権を宣言するために手を上げ身を乗り出そうとしていたシカマルはそのまま止まることなくフィールドに落下。

 

「イッテー!あの野郎!てか、来ちまったじゃねえか!」

 

尻をついて憤慨するものの、次々と突き刺さる視線に、もう逃げられないことを悟る。

 

「くそっ…やるしかねーのか…」

 

シカマルは眉尻を落とし、腰を擦りながら立ち上がる。

 

「なんだい?私の相手はこの死んだ魚みたいな男かい…」

 

巨大な扇に腕を乗せたテマリが相手不足だと視線で告げる。

その鋭い眼光に、怒った母親を思い出し、只でさえ少ないやる気がガリガリと削られていく。

こーいう気のつえー女は苦手なんだよ…でも、男が女に負けるってのも…格好がつかねーよな…

 

「…お手柔らかに頼むぜ」

「…腰抜けめ…一瞬で終わらせてやるよ」

 

シカマルとテマリは向かい合う。

 

「えー…両者 準備は良いか?」

 

ゲンマの確認に無言で首肯く二人。

 

「では、第三回戦奈良シカマルVSテマリ 始めろ」

 

 

試合内容は原作通り、シカマルは詰め将棋のような戦略で試合をコントロールし、見事にテマリの拘束に成功するが、直後「チャクラ不足で時間切れくせえ…もう面倒だ」と言い残し、あっさりと試合を放棄した。

 

✝️

 

「あー!負けた!負けた!」

 

自来也は購入した賭博券を放り投げる。

 

今回の試合、シカクの息子と言うことで期待を込めてシカマルが勝つ方に掛けたのだが、まさかの途中棄権。試合が勝っていただけにやるせない。もうちっと粘れっての!と憤慨する自来也。ほぼ同時にシカマルの賭博券が方々から投げられ宙を舞う。

 

「綱手はどっちに賭けたんだ?」

「私はテマリってくノ一の方だよ」

「これで綱手の二連勝か…」

 

珍しくつきまくってる綱手にシズネは嬉しそうに「今日は焼き肉です!」と笑い、自来也と綱手は嫌な予感に顔をしかめる。

 

「お前がついてる時はろくなことがないかろのお」

「まったくだ…何事も無ければいいが…」

 

綱手と自来也は上座に座るヒルゼンを見る。ヒルゼンは自来也と綱手の視線に気付き、「まだ動くな」と首を横に振った。

どうやら未だに風影との会話で裏は取れてないらしい。

 

 

このやり取りからも分かる通り、自来也は既に三代目や里の上層部に「音隠れの里が大蛇丸と関わりのある可能性」を告げていた。

 

しかし、証拠がある話ではないので、それを理由に中忍試験を止めることは出来ない、と言うのが里の最終決定だ。

 

もちろん、止められないからと言って何もしないわけではなく、里は例年以上の厳しい警備が敷かれている。会場である此処にも複数人の暗部が待機しており、気づく人間はその数に違和感を感じていた。

 

相手が音だけなら正直これ程の警備は必要無いのだが、何せあの大蛇丸が相手だ。それに───

 

「もし大蛇丸が動くと仮定して…最悪の事態を考えるなら…砂と協力体勢を築き、中忍試験で警備の緩くなっている木の葉を強襲すること……砂の国は同盟国ではありますが…同盟などと言うのは何時だって一方的に破られてきたもの……過信は禁物かと」

 

と言うシカクの言葉もあり、砂の忍に対する警戒も続けられていたのだ。

 

まあ、それは兎も角、試合は本日のメインイベント「うちはサスケVS我愛羅」の試合になる。

 

木の葉崩しの瞬間は刻一刻と近付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✝️ オマケ

 

 

「なんだい?私の相手はこの死んだ魚みたいな男かい?」

 

テマリの見下した言葉に言われた本人であるシカマルはあまり反応しなかったものの、その後方…観客席にいる同期達は喚き倒していた。特に気炎を発してるのはキバ、いの、ナルト、テンテンの四人組だ。

 

「おいおいおい!そこの砂の女ァ!あんまし(ウチ)のシカマルを嘗めんじゃねーぞ!」

「そうよ!そうよ!確かに隠居したじーさんみたいな奴だけどやるときゃあやる男よ!(ウチ)のシカマルはァ!」

「シカマルゥ!!そんな女ボコボコにしてやれってばよ!股間蹴り上げて、三途の川見せてやれってばよ!!」

「ガラ悪っ!でも、いいわ!もっと言ってやりなさい!」

「青春ーー!!」

「うるさい!!あんたは何を言ってんのよ!」

 

キバ、いの、ナルトが手摺から半身を出し、流れるように言葉を紡ぐ。それを客席でテンテンが囃し立て、リーが叫び、テンテンがツッコム。

そんなカオスな空間の横で、チョウジは何時も通りのんびりとお菓子を食べている。

 

「もぐもぐ」

「チョウジィ!!あんたも何か怒りなさいよ!シカマルの親友でしょ!」

「でも、いの…シカマルは絶対気にしてないよ…今だってほら…めんどくせーって顔してるじゃん」

「何言ってんのよ!シカマルはああ見えて心の中には熱いものを持ってるのよ!今だって敵を倒す算段を考えてるに決まってるわ!」

「ないない…シカマルに限ってそれはない」

 

更に、その横でサクラが赤丸を膝に乗せて、和んでいた。

 

「みんな元気ね…私はそこまで熱くなれないわ…はい、赤丸、忍犬用の兵糧丸、私が作ってみたの、プレゼントよ」

「わんわん!!」

 

 

 

 

 





ボツ案

「なんだい?私の相手はこの死んだ魚みたいな男かい?」
「…死んだ魚って…それを言うなら死んだ魚の目だろ…」
「あんたは目だけじゃなくて顔全体が死んでるんだよ」
「ひでえー…」


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中忍選抜試験17 本戦 うちはサスケVS我愛羅

 

「フフフ……ざわついていますね」

「無理もないじゃろゥ…完全なダークホースじゃったからのォ……」

 

火影と風影の為に特別に用意された貴賓席で、ヒルゼンは風影の言葉に同意する。

 

第三回戦の奈良シカマルVSテマリの試合は全くと言って良いほど期待されていなかった。

シカマルは期待しようがないほどの無名だし、見た目は名前以上に期待できない。対するテマリは風影の子供とはいえ女だ。もちろん、女でも優秀な忍はいるが圧倒的に数が少ない。真に有名になるものなど綱手やメイなどの一部の例外のみで、歴史に名を残す偉人の殆んどは男なのだ。故に女と言うだけで期待度が下がってしまうのが忍の世界の非情だった。

 

さらに、一つ前の試合のネジ対ナルトのカードが思いの外白熱し、しかも、一つ後にあるサスケ対我愛羅のカードは今大会の本命だ。

言わば、シカマルとテマリの試合は本命前の箸休め。いっそとっとっと終わってくれと思っていた者がいるほど期待されていなかった。

しかし、蓋を開けてみれば、予想以上のハイレベルな頭脳戦で、近年稀に見る良い試合だったと、ヒルゼンは思う。

 

「素晴らしい闘いじゃった……」

「いえ、それもあるのでしょうが……」

 

二人の忍の内、“風”と書かれた白い笠を被る男が目線を下に遣る。

 

「おそらくは次の試合。物見高い忍頭たちや依頼主である大名たちにとって、これほど楽しみな試合はないでしょうから」

「……」

 

うちはサスケと風影の息子我愛羅。

うちはの名はもはや語るまでもないほど有名だし、

対する我愛羅は風影の子供の中で最も強く、絶対防御などと言う二つ名をあの年で付けている。

期待するなと言う方が無理な話か…

 

「私を含め、ここにいるほとんどの忍頭や大名は次の試合を観たいが為にここに来たようなもの」

「……」

「他二試合が思いの外ハイレベルであったのは認めましょう。しかし、やはり次のカードの前ではそれらは前座……何せ、彼はあの“うちは”本家の末裔。それに風の国としても是非、うちの我愛羅と手合わせ願いたいものですから」

 

大蛇丸が暗躍しているかもしれない、そんな話を聞いていなかったら、この言葉も素直に受け止めることが出来たのだろう。

何かを探るように目を向けるヒルゼンに、風影は蛇のように目を細めるのだった。

 

✝️

 

うちはサスケと我愛羅の試合は予選の我愛羅VS重りを外したリーの戦いの焼き回しのような展開で始まった。

我愛羅は動かず立ったまま砂の攻撃を仕掛けるのに対して、サスケは体術で砂を避ける。そのスピードはリーやガイと変態的な修行をしているだけあって最早下忍のスピードを遥かに上回る。本気のリー程ではないにしろ、根性重りを着けたリーを大きく上回るスピードで攻撃を仕掛け、我愛羅の砂を掻い潜り、砂の鎧に着実にダメージを与えいく。

 

「──っち!」

「そんなもんじゃねえだろ?お前の力は?」

 

サスケは体術で我愛羅を追い込む。優勢なのは間違いなく自分。しかし、そこに油断はない。あの自来也がナルトより上かもしれないと言った相手…その実力がこの程度な訳がない。

 

「ぐあっ!!」

 

サスケの蹴りが我愛羅の頬を蹴り飛ばす。体を覆っていた砂の鎧が剥がれ落ち、我愛羅の素顔が僅かに見える。

その瞬間、我愛羅からとてつもない殺気が撒き散らされた。

 

「──────っ!!!」

 

サスケは咄嗟に飛びずさり、大きく距離を取る。

あるいは、もし、これが原作のサスケなら驚きつつも攻撃を続けていただろう。力のみを求め続けたサスケには強者相手に引く理由はない。しかし、この世界のサスケは仮に力を得たとしても、その未来で自分が破滅してしまうなら何の意味もない。求めるものは家族や友との平和な未来であり、力はその為の手段でしかないからだ。

故に、サスケは余りにもどす黒い我愛羅の感情に直面し、生存本能が激しく刺激された結果、大きく距離を取った。取らされた。それは戦いの中で初めて出来た明確な隙。しかし、我愛羅は追い討ちを掛けることなく、全身を大きな砂のドームで覆う。

 

「───?何だあれは?」

 

巨大な砂の繭と言うのが最も近い表現だろう。

 

初めて見る我愛羅の攻撃?にサスケは警戒を持って数秒観察するも、球体は沈黙を保ったまま。防御の術かカウンターの術と言うことか?あるいは只の時間稼ぎか?

 

「……──ちっ!中で何をやってんのか知らねえが、このまま指を咥えて待つ必要もねえ!」

 

相手が動かないと言うなら遠慮なく攻撃してやればいい。幸い自分にはカウンターを見切る写輪眼がある。

サスケは先程と同様強力な拳を見舞う。

 

「ち」

 

サスケの拳は直撃したが血を流したのは自分の拳だった。

 

「……固え!」

 

球体の表面にはヒビすら入っていない。相当なチャクラが練り込まれている。生半可な攻撃では逆にこっちがダメージを喰らうことになる。しかも、自動迎撃モードでも付いているのか、近付くと砂の表面から槍のように鋭利な突起が生えてくる。もっとも写輪眼があれば見切れる程度の速さだ。この一ヶ月見切りの修行は嫌と言うほどやった。こんなトロい攻撃じゃ何回やっても当たる気はしない。だが、何度普通に攻撃しても恐らくこの砂は破れないのも確かだろう。

 

「……絶対防御か…守りに入った…訳じゃあねーんだろうな…」

 

あんな殺意を振り撒くほど攻撃的な男が只守りに入ったとは思えない。恐らくこれは大きな攻撃を完成させるまでの時間稼ぎ。

 

「ふん…丁度良い…俺の新技も時間が掛かるんだよ!」

 

サスケは片腕に雷のチャクラを蓄える。カカシのように即座に実戦に耐える威力を出すことは出来ない。この術はまずチャクラを片手に集め、性質を雷に変化させ、形を整え、さらに術の威力を上げると言うプロセスが必要だ。こんなものを一瞬で組み立てるカカシはやはり化け物だと思いつつ、冷静に術を構築していく。

 

「はああああああ!!」

 

サスケの右手が稲梓を帯び、バチバチと紫電を発する。

我愛羅は砂の繭の中で大技の為の印を結んでいく。

果たして先に完成したのは───

 

「いくぜ!!千鳥ィ!!」

「──────っ!!」

 

サスケは写輪眼で攻撃の全体を把握し、迫り来る砂の槍を全て避け、高速の抜き手を砂に叩き付ける。

その一撃はサスケのこの一ヶ月の成果の結実であった。打った瞬間今迄で一番上手く出来たと言う確信が体を満たす。

 

それを見たヒルゼン、風影に扮した大蛇丸、息子の活躍を見に来たフガクとミコト、師であるカカシやガイ、ナルト達同期の者達…全ての観客に等しく驚きを与えた。

 

「すばらしい」

 

大蛇丸が思わずと言った風に言葉を漏らす。

 

 

「うあああああああ!!!」

 

我愛羅の絶叫が響く。それと同時に穴から巨大な怪物の手が伸びてくる。

それは゛うちは゛に傾き掛かっていた場の流れを一瞬で引き戻した。

 

(なんだ?あれ?)

 

とても只の砂で出来ているとは思えない禍禍しい腕だった。

その腕は直ぐに砂の繭の中に戻り、次に砂の繭が崩壊した後には影も形も無くなっている。

頭を抑えふらつく我愛羅に、動揺を見せるサスケ。

直後、試験会場に白い羽が降ってきた。

 

大蛇丸が遂に木の葉崩しの引き金を引いたのである。

 

 

 

 

 

✝️

 

突然、白い羽が落ちてくる。そう思った時にはナルトの意識は闇の中へと落ちていった。

 

 

「んー………むにゃ………」

 

次に目を覚ますと目の前にサクラちゃんがいた。

 

サクラちゃんは爪先片膝立ちと言う──カカシ先生が動きやすい忍の座り方って言ってた…でも、疲れるってばよ──な独特な警戒を含んだ姿勢で、丁度ナルトの頭の真横に座っている。

 

ひんやりと頬に冷たい感触を感じる。冷や汗とかではなく、実際に頬が冷たい地面と接しているのだ。つまり、ナルトは地面に寝転がっていると言うことである。

 

ん?何で俺横になってんだっけ?

 

考えてみるが寝起き故か今一思考が判然としない。

しかも、サクラちゃんは何故か虎の印を組んでナルトに向けている。

 

ど、どういうことだってばよ?

 

慌てて頬を引っ張り意識を覚醒させる。次いで、落ち着いて記憶を引っ張り出す。

………そうだった。俺ってば、サスケの試合を見てたら突然空から変な羽が大量に降ってきて、それを見たら眠気がして、そのまま寝ちまったんだってばよ!

 

それを思い出してもこの状況は意味不明だ。しかし、訳の分からない状態なりに、分かることもある。取り敢えずその分かることだけでもサクラちゃんに伝えておこうと思ってそのまま口に出す。

 

「サクラちゃんパンツ丸見えだってばよ!──ごぼえ!」

 

この体勢だとサクラちゃんのパンツがもろ見えだと教えてあげようと思ったら何故か殴られた。解せぬ。

 

 

 

「うー…痛い…ひどいってばよサクラちゃん…」

「この状況でアホなこと言ってるからよ」

「この状況って?」

「襲撃よ」

「しゅ、襲撃?木の葉にかってばよ!?」

 

木の葉が世界一の大国だってことはナルトでも知っている。そんな国に襲撃を掛けるやつがいるとは…

 

しかも、今は木の葉の忍だけではなく、砂の忍や風影までいる。一度に二大国に喧嘩を売るようなものである。

 

「その砂の忍が音の忍びと手を組んで襲ってきたのよ」

「えええ!!砂って同盟国じゃ無かったのかってばよ?!」

「今の同盟国はかつての敵国よ…忍の世界では怨恨や利益相反なんて幾らでもある…それを何とかまとめるのが里長の仕事だけど…見てのとおりね」

「辛辣だってばよ」

「私の試合結局流されたのよ…これで中忍になる目は完全に無くなったわ…あー中忍になったら給料も増えるし、閲覧制限も弱まるし、行ける場所も増えるにのに…」

「サクラちゃんは相変わらずだってばよ…でも、大丈夫!!俺は中忍合格間違いなしだってばよ!俺が代わりに調べてやるってばよ!」

「…なんであんたが合格間違いなしなのよ」

「俺は試合に勝ったってばよ!」

 

胸を張り、どうだ?と言わんばかりにどや顔を見せるナルトに、サクラは可哀想なものを見る目を向ける。

ナルトはどうやら勝敗は合否に関係ないと言うゲンマの言葉を忘れているらしい。ただただ哀れだった。

 

「お喋りもその辺にしておけ、サクラ、ナルト、シカマル」

「あ、カカシ先生!」

「悪いが詳しく説明してる時間はない。俺も今手が離せん状況だ。端的に言うぞ」

 

カカシはナルト達に襲い掛かろうとしていた音忍を蹴散らしながら、伝える。

 

「現在俺達は砂の襲撃を受けている。そんで、サスケが砂の下忍達を追って一人で門を出た、お前達はサスケを追い、それを止めろ──案内はパックンに任せる」

 

カカシが口寄せしたのは赤丸より一回り小さいブルドック…取り敢えず戦闘力は無さそうだ。

 

「これは初めてのAランク任務だ。心して掛かれ!」

 

カカシの激励を受け、ナルト達は門へと走っていった。

 

 





これにて中忍試験編終了です。
次回からは木の葉崩し編。
いつも勢いで書いてるので構想とかは無いのですが…
取り敢えず原作との相違点をまとめます。以下。

木の葉side
綱手、シズネが里にいる
ナルト、サスケ、サクラ、カカシの戦闘力UP
うちはが滅亡していないため゛うちは警務部隊゛が現役
イタチは万華鏡写輪眼を発眼していない

大蛇丸side
暁を雇うわ…デイダラ、名無しIN
桃地ザブザと白も雇うわ


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木の葉崩し

木の葉崩し編スタート!


 

 

涅槃精舎の術。

白い羽の幻影を舞い降らせ、眠りを誘うランクA相当の視覚型の幻術。あたり一面を覆うように降り注ぐ白い羽を見た者は、まるで桃源郷にいるかのような快楽に陥り、安穏たる眠りにつかされる。心地好い眠り故に此処から目覚めるのは至難の技であり、破るには強力な精神力と幻術への高い理解が必要となる。

 

つまり、幻術への高い理解(片方)はナルトには全く無いものであり、物の見事に微睡みの中へと堕ちていった。その夢の中でナルトは人生で一度も見たことが無いような、本当に桃源郷にいるかのような、素晴らしい体験をする。

 

「うへへ…」

 

実に幸せそうで、だらしのない顔だった。

なんか殴ってやりたい顔であった。

まあ、それはともかく………

 

「「「「「解!」」」」

 

この術を解く鍵となる強力な精神力と高い幻術への理解は、当然多くの木の葉の忍には備わっているものだ。

彼等は羽を見た瞬間に即座に幻術が掛けられたと看破し、自力で次々と幻術を解除していく。一部幻術に疎い者達も近くにいた仲間の忍が即座に解除する。

 

(フッ……流石……腐っても大国の忍……やりますねぇ……幻術返しとは……)

 

幻術を掛けた、木の葉の暗部の姿に成り済ました男は、仮面の下で称賛を述べる。そして、特に対応が速かった者達をチラリと見遣る。

 

(大蛇丸様が特記戦力と仰るだけはある……)

 

そうなのだ。現在この場には大蛇丸が特に注意が必要だと言っていた四人の人間全てがいる。三代目火影ヒルゼン、自来也、綱手、うちはフガクである。

 

特に幻術に長け、警務部隊の隊長を担うフガクの対応は速かった。カブトが幻術を発動させた瞬間には既にフガクの黒耀の瞳は血のように赤く変わっており、まるで「俺にこの程度の幻術は利かない」とでも言うように、印を組むことすら無く立ち上がり、辺りを睥睨する。

 

「お前か……」

 

そして、早々に見つかった。

嘘だろ、と思いつつ、勘弁してくれよ、とも思う。まさか作戦開始三秒で特記戦力に目をつけられるとは。なんてついてない日だ。

 

「うへぇ……」

 

思わず心の底から嫌な悲鳴が溢れた。

うちはフガクはチラリと一度火影のいる場所に目を向ける。そこに自来也が向かっているのを見て、自分は必要ないと思ったのか、うちはミコトに何かを言伝し、此方にやってくる。

 

「ちっ……!警務部隊の隊長さんなら大人しく部隊の指揮でも取っててください、よ!」

「お前はどうやら中々の使い手と見た…ここで消しておくのがいいだろう…」

 

冷静に冷淡に感情を乗せること無く、淡々と述べる。

そして、挨拶代わりに互いを蹴り飛ばす。うちはフガクが上からの攻撃であったためか、カブトは押し負け、そのまま試験場へと落下する。

それに続くようにフガクも浴衣の裾をなびかせながら、優雅にカブトの前へと降り立ち、油断無く対峙する。

その表情は静かな怒りに濡れていた。

警務部隊として襲撃者に怒るのは当然だが、何やら私怨めいたものを感じる。

そして、そんなカブトの感覚は正しかった。

 

今日は息子の晴れ舞台。しかも、イタチではなく、優秀なイタチの影に隠れて今迄日の目を見てこれなかったサスケの初の晴れ舞台である。見た目によらず子煩悩なフガクは当然、夜中々寝付けないほど期待していた。そして、ようやく始まった第四回戦…サスケは予想以上の成長を見せ、勝利に王手を掛ける。さあ、ここからクライマックスだ!と拳を握り、観戦していたら、まさかの横槍!そして、そのまま息子の試合は流されたと言うのだから、もう激怒である。

 

てめえ!ふざけんなよ!襲撃するなら試合終わってからにしろ!

 

と怒るのは仕方ないことであった。

 

「お前はやってはならないことをした…それが何か分かるか…?」

「…木の葉に弓を引くことですか…」

「…矮小な考えだ」

 

ガッカリだと言わんばかりに否定するフガクに、カブトは青筋を浮かべ頬を引きつらせる

 

(……゛うちは゛に弓を引くことだ、とでも言いたいのでしょうねェ……流石、高慢と名高い゛うちは゛だ)

 

全く違う。しかし、ここに否定するものはいなかった。そして、フガクもこれ以上言葉遊びに興じるつもりはないようで本気の殺気が溢れ出す。

 

「手早く終わらせよう」

「…そう言わず、じっくり楽しんでいってくださいよ」

 

勝つのは不可能だと判断したカブトは大人しく足止めに徹するのだった。

 

 

✝️

 

自来也side

 

「綱手!! 三代目のとこへはわしが行く! お前は負傷者の治療とヤバそうな敵を頼む!!」

 

自来也は言うやいなや、答えも聞かず、地面を蹴り、上へと駆け出す。

そこには既に風影にクナイを突きつけられたヒルゼンがおり、見知らぬ四人が結界を貼ろうとしていた。自来也はさせじと速攻性に優れた忍術を組み上げる。チャクラを練り込まれた自来也の髪が鉄のように固くなり、それが次々と高速で発射されていく。

 

忍法・毛針千本の術!!

 

眼前、約140度程、満遍なく振るわれる千本の嵐。

四人と二人は各々独自の方法でそれらを危なげなく防ぐ。

全員が「特上」以上の実力者達。

千本の針でダメージを受けた者は一人もいない。

しかし、その一つの防御動作により遅れた行動と出来た隙こそ狙いだった。

自来也は生ませた隙を見逃さず、術を放った直後には既に地面を蹴りあげ肉薄し、そのままヒルゼンを蹴り飛ばし、風影の前に立ち塞がった。

 

「うおお!!」

 

悲鳴を上げて落ちていくヒルゼンには悪いがそれどころではない。

自来也は目の前の敵から目を逸らさずに油断なく対峙する。

゛風゛と書かれた白い笠を羽織った男…本来なら風影以外ありないその男が、風影とは全くの別人であることを自来也は既に気付いていたからだ。

 

(この懐かしくも粘っこく嫌な殺気…間違うはずもねェ…どうりでどれだけ探しても見つからねェわけだ…こんなとこにいたんだからのォ…大蛇丸!!)

 

三忍と唄われた自来也と大蛇丸…その両名の命を掛けた戦いの幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

✝️

 

 

「やれやれ…無粋なのは相変わらずねェ…自来也」

「お前こそ…相変わらず目付き悪いのォ…大蛇丸」

 

風影の仮面を外し、素顔を見せた大蛇丸に自来也は答える。

 

「…それにしても酷いじゃない…長らく離れていた師弟の感動の再開を…足蹴にするなんて…まったく…邪魔しないでほしいわねェ」

「里の中でその里の長を殺そうってんだ…邪魔するに決まってんだろォ…その相手がお前なら尚のことのォ…」

「くく……まあ、いいわ…まずは貴方を消して上げる…その後改めてあの老いぼれを殺しに行くとしましょう」

「させねぇって言ってんだろ…ここでわしがお前を殺し、お前の下らねぇ企みを潰す」

「貴方に出来るかしらねえ」

 

戦意がバチバチと高まる。息が詰まる程の緊張感。殺気そのものが重りを持ったかのような重圧が辺りを包みこみ…

 

──二人の間を一枚の木の葉が通りすぎた。

 

「「───!」」

 

それを合図とするかのように大蛇丸と自来也は同時に動き出す。そして、何の偶然か選びとった術も同じ。二人は目にも見えない速度で親指を切り、同じ印を組み上げる。

 

((──亥 戌 酉 申 未 口寄せの術!!))

 

一際大きな煙が両者の足元から立ち上ぼり、煙の中から二つの巨大な生物の偉容が姿を現した。

 

自来也が口寄せしたのは体長50m以上もある赤黒い蛙、ガマブン太だ。妙木山に住むその巨大な蝦蟇は、煙管を咥えて着物を羽織っており、腰の紐には超巨大なドスが挿してある。

一方の大蛇丸が口寄せしたのは、これまたブン太に負けず劣らず巨大な体躯の紫色の蛇。頭に大小二つずつの四つの角を生やし、見るからに良く切れると分かる牙を持っていた。

 

「マンダに大蛇丸…こりゃぁ、懐かしい顔ぶれだのォ…今から同窓会でもするん言うんか、自来也?」

「寝ぼけたこと言ってんじゃねェよ、ブン太。…そろそろ長年の因縁に蹴りをつけようと思ってのォ…大蛇丸を今日、今、此処で倒すんだよォ…!」

 

「てめぇ、こんな面倒臭そうな場所に呼び出しやがって…後で供え物百人の命だ」

「ええ、分かってるわ」

 

自来也とガマブン太、大蛇丸とマンダ。それぞれの主と口寄せ動物が軽く二言三言会話をする。

 

その後すぐに、ブン太はキセルを吹かしマンダの顔に煙を吐き出し、挨拶代わりの挑発を行う。沸点の低いマンダは額に青筋を浮かべ、気炎を吐く。

 

「てめぇ 誰の顔に向かって吐いてんだ!! カラッカラの干物にしてやろうか!! コォラァ!! 糞蛙!!」

「蛇革の財布が欲しかったとこじゃ 綺麗におろしてやるけぇ そこで待っちょれ」

 

マンダとブン太が舌戦を始まる。その横で、主もまた舌戦を繰り広げる。

 

「…もうお前は同士じゃねえのォ…大蛇丸…お前は闇に落ちすぎた…」

「くく…同士とは…心寒い(うらさむい)…私は不死の大蛇丸…永遠を生きる私に同士など不要!!」

 

両腕を大きく広げ狂気の孕んだ言葉を並べる大蛇丸に、自来也は悲しみと怒りを含んだ目を向ける。

 

「…まだそんなずれたことを…そんなもんは忍の目指すもんじゃねぇんだよ」

「くく…ずれてるのは貴方よ…忍とは文字通り忍術を扱う者のことを差す…つまり、忍の本分とは世にある全ての術を用い極めることにある」

 

忍とは何かについて語り出そうとする大蛇丸と自来也に、舌戦により怒りを蓄え、我慢ならなくなったブン太とマンダが吠える。

 

「何時まで食っちゃべっとるつもりだ、自来也」

「とっとと、この礼儀を知らねえ糞蛙を殺すぞ、大蛇丸」

 

「くく…それではそろそろ…始めようかしら」

 

大蛇丸の合図と共に、マンダは一度弓の弦を引くように首を引き、溜め込んだパワーを余すことなく頭に伝え、物凄い勢いで突進してくる。

あの巨体からは考えられないほどの超速度。

そして、見かけ通りの超パワー。

しかし、ブン太は怯えることも避けることもなく、冷静に腰に掛けた巨大なドスを引き抜き、攻撃の線路上にタイミングを合わせてドスを振り抜く。

 

ガキン!!

 

凡そ刀と生物がぶつかったとは思えない音と共に、ブン太の振るった刀はマンダの歯で食い止められるように制止した。

 

「しゃらくせぇ!」

 

そのまま口を割ってやろうと力を込めるブン太に、マンダの尻尾が腹部に振るわれる。

 

「チィッ!!」

 

それを察したブン太が尻尾が当たる寸前、自ら刀を手放し、後方へ跳躍。

マンダは刀を口から放り投げ、ブン太を睨み付け、再び頭を僅かに後ろへやる。

 

「来るぞ!!」

「分かっとる!!」

「油だ!」

 

自来也に促されブン太が水鉄砲のように大量の油を吹き出す。そこに、自来也が火遁で吹いた火を着火させる。

 

「火遁蝦蟇油炎弾!!」

 

ゴオッ!!と天災を思わせるほどの巨大かつ高温の炎が視界を覆う。空気すら歪ませるほどの地獄の釜のごとき熱量は、まともな生物なら一瞬で命を根本から奪うだろう。それを証明するように、その余りの熱量に耐えきれなくなったのか、炎の中で蛇が溶けていく影が見える。

 

「ふん どんなもんじゃい!」

「やったか?────いや!あれは!」

 

得意気に鼻を鳴らすブン太と一瞬喜び浮かべる自来也だが、直後自来也は失敗を悟る。

 

「脱け殻だ! 脱皮しやがった! ブン太!地面の下だァ!!」

 

 

自来也が叫んだ直後、鋭利な尻尾がブン太の顔面目掛けて猛スピードでやってくる。ブン太は顔を逸らしてそれを避け、片手でそれを掴み、さらに引きずり出そうと腕に力を加える。

しかし、マンダはそれを見越していたように背後から土を破って現れ、首筋に噛みつこうと大口を開けて襲い掛かる。

 

「ブン太飛べ!!」

「チィッ!!」

 

尻尾を持ったまま飛び上がるブン太は腕力に任せて、マンダを土から引きずり上げる。

 

しかし、マンダはその勢いに自分のスピードも合わせて自ら地面から飛び出て、さらにブン太に襲い掛かる。

 

顔面目掛けて襲ってくるマンダに、ブン太は利き腕とは逆の腕を前に出して噛みつかせ、さらに壁を足場にして、自分の体ごとマンダを地面に押し潰す。

 

マンダは痛みに思わず口を離す。

 

そのまま追い討ちを掛けようとするブン太と自来也に、大蛇丸がさせじと広範囲攻撃を繰り出す。

 

飛びずさる両者。

 

煙が晴れた先には腕を負傷したブン太と体に打撲傷を作ったマンダがほぼ初めの位置で対峙していた。

 

「まずは痛み分け…と言うとこかしら」

「やはり一筋縄ではいかんのォ」

 

結界の外で戦いを見ていた暗部は、そのあまりの高威力、ハイスピード、広範囲の攻撃の応酬に息を飲む。「な、何が起こったんだ?」「これが本当に人間の戦いか!」「これが伝説の三忍の力!」などと言っている。

 

「今のを見て無理だと思った奴は他のとこへ援護に行っとれ!此処におっても役には立たん!」

 

自来也は厳しい口調で突き放した言葉を告げる。

常にエリート街道を走っていた暗部達は初めての戦力外通告に悔しげに拳を握る。

しかし、優秀だからこそ力の差も良く分かってしまった。

この数秒の切り合いで、自来也も大蛇丸も全く本気を出していなかった。手を抜いていた訳ではないだろうが、手札を隠しながら戦っていた。

その戦いですら自分達には異常に見えたのだ。つまり、それが、二人と自分達との力の差だった。これが悔しくないわけがない。

 

「──下を向くな!お前らの力を必要とする戦場は幾らでもある!今は自分に出来ることをやれ!ここはわしに任せて木の葉を守れ!」

「「「「は、はい!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

去っていく暗部達を見た大蛇丸が失笑を禁じえないと言う顔で告げた。

 

「三文芝居は終わったかしら?」

「待ってくれるとは気が気が利いとるのォ…手加減はせんぞ」

「そういうのは強者が弱者にするものよ…言葉を間違えないことね…」

「何も間違っとらんだろうよ」

「くく…まあ…いいでしょう…小手調べはこの辺にして…そろそろ本気を出しましょうか…」

 

大蛇丸がニヤリと笑い、新たに口寄せの印を組む。

 

「口寄せ・穢土転生」

 

マンダの頭上、そこから現れたの【初】、【二】とそれぞれ書かれた棺。それを見た自来也は初めて驚愕と焦燥を顔に浮かべ、速さ重視の攻撃を掛ける。

 

「忍法・毛針千本!!」

 

自来也の髪が千本のような固くなり、次々と大蛇丸に向けて飛んでいく。その介あってか三人目は何とか防げたようだ。

 

「どうやら三人目は無理だったみたいね」

 

残念そうに言う大蛇丸の前で、棺の蓋が開き、初代火影と二代目火影が現れる。

 

「さあ、どうするのかしら、自来也」

 

忍の神と唄われた初代火影゛千手柱間゛と

数々の卑劣な忍術戦術を編み出し、木の葉を強国へと導いた発明と戦略の天才゛千手扉間゛

この二人と大蛇丸を同時に相手にするのはさしもの自来也でも厳しい。

しかも、大蛇丸は不死の研究の成果で呆れたタフさと再生力を持っている。

一方の柱間と扉間はもっと厄介で穢土転生体のため封印以外に止める手立てがない。

仙術を使おうにもその為には゛あのお二方゛を呼び出さなければならない。しかし、それには相応の時間とチャクラが掛かる。チャクラの方は何とかなったとしても時間は如何ともし難い。大蛇丸がそんな隙を見逃すはずがないからだ……。

 

「…まずいのォ…」

 

誰にも気付かれず…自来也は静かにピンチになっていた。ここここにいたって三代目を蹴り飛ばしたことが悔やまれる。自分一人で戦うのではなく三代目と協力してやるべきだった。カッコつけた結果がこれである。

しかし、自来也は見かけによらず知的な男。刻々と戦況の移り変わる戦場でも常に正しい選択が出来る男である。普段の彼の姿を見ている者には信じられないことだが、戦場での冷静な判断力と手札の多さこそ自来也の真骨頂。

そんな自来也の頭脳は即座に穢土転生体相手に長期戦は無謀と悟り、超短期決戦を選ぶ。

 

「少し無茶をするが…どうせ勝てなきゃ先もなし…」

 

自来也は高速で口寄せの印を結び、新たに二体の巨大ガマを口寄せする。

口寄せ時特有の煙が辺りを被う。

続けて自来也は懐から腰巾着を出し、中から禍禍しいオーラを放つ黒い丸薬を取り出した。これは綱手とサクラとかいう子供がその財力と知力と能力に物を言わせて、貴重な薬をふんだんに使い作り上げた、特製の戦闘用兵糧丸。その味は良薬口に苦しと言う言葉を体現するかのようにくそ不味い。それに戦闘用兵糧丸の特性として一時的に超パワーアップ出来るがその後バテると言うものがある。流石にそれで即座に戦闘不能とまではならないが、長期戦を考えれば多用は厳禁の薬だ。

だが、今回は少しでも口寄せの時間を短縮させるために使わざる得ないだろう。

 

「ブン太! しばし、わしを口に入れて守ってくれ! ゛あのお二方゛を口寄せする!」

 

丸薬を口に入れて頼む自来也に、ブン太はどのくらいだ?と目線で聞く。

 

「五分…いや三分もあれば呼び出せる できるか?」

「三分でも五分でも稼いじゃるわい!」

 

自来也が土分身を頭上に残したのを確認し、ブン太は自来也を舌で巻き取り、口に隠す。

 

煙が晴れた先で、自来也(土分身)、ブン太、ガマ二体と、大蛇丸、千手柱間、千手扉間、マンダが対峙する。

 

「ふふ…蛇の目は優秀でねぇ…その口の中に本体がいるのは分かってるわ…何をしてるのか知らないけど…すぐに捻り出してやるわ…」

 

(早速ばれてんじゃねえか…)

 

まさかの即バレに自来也はブン太の舌でぐるぐるに巻かれ固定され印を組んだ状態のまま冷や汗をかく。しかし、今の自分のすべきことは一秒でも早く口寄せすることだ。その他一切の情報を遮断し、呼ぶことだけに集中する。

 

「さあ、柱間さま、扉間さま、木の葉を創設した偉大な先人の力を私にも見せてください」

 

一方外では大蛇丸の言葉を合図に激戦が始まった。木遁で樹海を生み出し攻撃する柱間に、刀で対抗する巨大ガマ。水遁で攻撃する扉間に刀で対抗する巨大ガマ。

しかし、如何に巨大ガマの機動力とパワーがあり、その上で時間稼ぎのみに徹したとしても、この三人を相手には劣性を強いられる。

 

(こりゃあ、なんぼわしでもそう長くは持たんぞ…急げよ…自来也!)

 

ガマブン太の内心がその劣勢さを物語っていた。




自来也VS大蛇丸
フガクVSカブト
勃発!


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閑話 ナルト先生


鈴取り試験のしばらく後の話です。本編とは特に関係ありません。



 

 

「アルティメット変化の術を教えてほしい?」

 

休日、サクラに呼び出されたナルトの第一声である。

現在二人がいるのはサクラの自室で、ナルトは何時も通りのジャージ姿、サクラはラフな部屋着である。

 

「んー、別にいいけど…」

 

ナルトは仲間の頼みにテキトーに頷こうとして、直後雷が落ちたように固まる。そして、これは良いことを考えたぞ!と言うような下卑た顔をする。それはナルトがよくろくでもないことを思い付いたときにする顔だった。

 

「…あ、そうだ!ならさ!ならさ!交換条件だってばよ!俺もサクラちゃんに頼みたいことがあるってばよ!」

「??」

「それは…ごにょごにょ…ごにょごにょ…」

 

ナルトの頼みを聞いたサクラはその内容の余りのしょうもなさに呆れて白い目を向けながらも、未知の術に対する知識欲の方が勝り、すぐに頷いた。

 

 

さて、さっそくナルト先生によるアルティメット変化の術の講義が行われる…のだが、何故かナルトは伊達眼鏡を付け、教鞭を持って現れ、サクラは制服に着替えさせられた。

教わる立場だから大人しく従ったが、始める前から先行きが不安になる出だしだ。チョーシに乗って大失敗する奴特有のオーラを放っている。

 

「あんた…形から入るにもほどがあるでしょ」

「はい!そこ!私語は厳禁だってばよ!次やったら廊下に立たせるってばよ」

 

…生徒一人なのに廊下に立たせたら授業にならないじゃないの…

とは思ったが口に出さずに頷く。未知の忍術の前ではこの程度どうと言うこともない。

 

「サクラちゃんの家って本当に何でもあるってばよ!」

 

たった今、家付きのメイドから教卓を受け取ったナルトが驚きながら言う。自分で言っといてなんだが本当に教卓があるとは思わなかったらしい。

 

さもありなん。本当になんであるんだ。教卓もそうだが、この制服も。

 

アカデミーに通っていたサクラには必要の無いものの筈であった。

 

「その制服は奥様の学生時代のものです」

 

サクラの疑問を敏感に察知したメイドがこっそりと教えてくれる。なるほど。これはママのだったのか。どうりで胸元が豊かなわけだ。…なんかムカつくわね。

 

ペタペタと胸を触る。悲しい空間が掌を伝わる。サクラは二つボタンを外した。これで少しはダボつきも自然になるだろう。

 

 

 

そして、授業が始まる。

 

「──アルティメット変化の術も印は普通の変化の術と同じだってばよ。でも、チャクラの練り方が違うってばよ。こうして…こうして…こうして…」

 

ナルトはのりのりで説明する。普段よくバカ扱いされ(事実)、誰かに物を教えると言うことがないため、この状況を楽しんでいた。

 

「そんじゃあ、実際に見せてみるってばよ!アルティメット変化の術!」

 

ぼふんと煙が上がり裸の美女が現れる。

煙の中から出てきたのはサクラもよく知るシズネだった。

黒いショートヘアに、白く艶のある肌、慎ましやかでハリのある胸、しなやかに括れた腰。

近くで見ると精密さが良く分かる。

色や形だけではなく、本当に質感や匂いまで忠実に再現されている。これが変化の術と言うのだがら驚くべきことだ。

 

「そんじゃ、試しにやってみるってばよ!」

 

ナルトに促され、サクラは術を練る。しかし、高等忍術だけあって中々上手くいかない。

 

「あー違う違う!もっとこう!ぐぐ!ぐん!ぐぐん!みたいな感じだってばよ」

 

説明が悪いというのも理由の一つだ。

 

「違うってばよ!サクラちゃんのはギュルン!!だってばよ!そうじゃなくて、ぐぐ!ぐん!ぐぐん!だってばよ!」

 

…擬音ばかりではなく、もっと言葉を使って説明してほしい。

そう思って目を向けたら、何を勘違いしたのか身振り手振りを大きくして説明し始めた。

…そういうことじゃないんだよ…

 

「こう…こう…こう…だってばよ!」

「こう?」

「違ーう!こう!」

 

結局その日術を会得することは出来なかった。しかし、時間が時間と言うことでその日は切り上げ、今度はナルトの願いを叶える番だ。

ナルトは真剣な目でサクラを見る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺ってばお色気の術に人生を掛けてるのは知ってるってばね?」

「…初めて聞いたわよ…いや、喧伝してるのは知ってたけど」

「俺の人生の目標は究極のお色気の術を完成させることだってばよ!」

「…あんたの夢って火影になることじゃなかったの」

 

いつの間にこんなにグレードダウンしたんだ…私は悲しいよ…

 

呆れた目を向けるサクラ。

 

「もちろん、火影にもなるってばよ!でも、夢を一つしか持っちゃいけないなんて決まりはないってばよ!夢は大きく持つものだってばよ!」

「…なんか良いこと言ってる雰囲気出してるけどお色気の術だからね」

 

内容が内容故に全く心は動かされない。

 

「ま、約束だし協力はするわ」

 

サクラは着ていた制服を脱ぐ。

 

「ちょっと待ってなさい」

 

黒いスカートの下から現れたのは赤いレースの下着だった。意外と大人っぽい物着けてるなぁーとナルトは感心しそうになるが、慌てて頭を振る。何か盛大な勘違いをされてるような気がする。

 

恐る恐るサクラを見る。

 

サクラは気負うこと無く靴下やシャツを脱いでいく。

 

 

 

ナルトは確かにお色気の術の研鑽のために協力を求めた。モデルが足りないとも言った。しかし、流石にフォーマンセルの仲間に忍術を対価に裸になれとは言わない。言うわけがない。そこまで常識知らずではない。

 

ナルトが驚いている内にサクラはパンツすら取ろうとしている。

もしかして、制服姿で一秒も居たくないと言う理由で脱ぎ出したのかもしれないというナルトの希望的観測はここに否定された。

流石にいくら制服が嫌だったとしても下着まで脱ぐ道理はない。

ちなみに、ブラは初めから着けていなかったので現在上半身は裸の状態だ。このまま止めないとまっぱになる。

 

しかし、ナルトは僅かに逡巡する。

 

サクラちゃんが見せてくれるって言うなら、見ても良いんじゃないか?

 

別に無理矢理させているわけではない。勘違いの結果とは言え、正当な取引とも言える。

 

だから、このまま何もなかったかのように振る舞い、サクラちゃんにお色気の術の製作を手伝ってもらうのは有りな気がする。サクラちゃんの協力を得るメリットは大きい。とんでもなく頭が良いし、女性視点のアドバイスが聞ける。しかも、サクラちゃんは貧乳とは言えまごう事なき美少女だ。そんな彼女が裸になってくれると言うのなら今迄以上に術の開発は捗るだろう。それに単純にサクラちゃんの裸を見たい。

 

しかし、ナルトに残ったフェア精神が寸前の所で立ち上がった。

 

ナルトは床から立ち上り、遅まきながらサクラを止める。

 

「サクラちゃん……?なんで脱ぎ出してんだってばよ?」

 

「何でってモデルが欲しいって言ったのはナルトじゃない」

 

「いや、確かにモデルが欲しいとは言ったけど、サクラちゃんをモデルにしようとは思ってなかったってばよ」

 

サクラは手で胸を隠した状態でナルトのデリカシーの無い発言にピクリと眉を上げる。

 

「それは私の体がモデルにする価値もない貧相な物って言いたいわけ?」

 

ゴゴゴゴ!とサクラの背中に般若を見るナルト。

 

(な、なんか勘違いを正そうと思ったら余計に勘違いされたってばよ!)

 

ナルトは握りこぶしを作り、右手にチャクラを貯めていくサクラを見て慌てて首を高速で振る。

 

「ち、ちが…ごか…誤解だってばよ!俺ってばサクラちゃんは美人だと思ってるってばよ!超美人だってばよ!本当だってばよ!凄い可愛いってばよ!でも、術の対価にそこまでさせる気は無いってばよ!」

 

息継ぎなしで言い切るナルト。サクラの特技を会得した瞬間だった。人は追い詰められると何時も以上の力を発揮するものである。

 

「か、かわ……な、何言ってのよ!」

「ぐへぼは!」

 

だが、結局殴られた。その火事場の馬鹿力は無意味なものだった。

 

サクラは誰もが認める美人であるが同時に大富豪の娘と言う高過ぎる高値の花だ。常識的な身の程を弁えている男なら突撃する前に生まれが違うと諦める。

それ故、これほどの美人でありながらサクラは今迄告白はおろか、誰かに好意を向けられた事もなく(サクラ目線)、身内以外で「かわいい」などと言われたこともなかった。

 

それ故、意外にもこう言った誉め言葉には弱い。不意打ちで、「可愛い」とか「美人」とか連呼されたサクラが羞恥に顔を赤らめ、照れ隠しにビンタしてしまったのは仕方の無いことだ。

そのビンタは所謂、漫画でよくある「キャー!変態ー!」とか言うようなギャクツッコミであったのだが、込められた威力はシャレでは済まなかった。

 

なにせ、さっきまで拳にチャクラを貯めていたのだ。ナルトに当てるつもりはなく、ただの脅しだったので遠慮無く貯めていたのが尚悪かった。

 

本来なら脅しとして教卓に奮われるはずだったそれは、サクラの唐突な挙動不審な行動に呆気に取られていたナルトの頬に見事にヒットする。

 

ブバン!!とおよそ人体が鳴らしてはならない音を上げ、ナルトは吹き飛ぶ。

 

幸い感情が激しく動かされていたためチャクラコントロールは乱れていた。何時も通りの芸術的な破壊力はなりを潜め、ただの力任せのビンタと言ってもいい。さりとて大量のチャクラで補強されたビンタである事実は揺るぎがたく、油断していたナルトは殴られた瞬間に意識を失い、三回くらい宙を回転し、そのまま地面と盛大なキスをするのだった。

鼻と口から血を流したナルトは暫くの間目を覚ますことはなかったとさ。めでたしめでたし。

 

全然めでたくねーってばよ!

 

 

✝️その後の話

 

暫く後、気絶から目を覚ましたナルトは腫れた頬を擦りながらサクラに今度こそ誤解が無いようキッチリと説明した。

 

「──と言うことだってばよ」

「───なるほどねぇ。つまりなに、ナルト、あんた、パパのエロ本が見たかったってこと?」

「そうだってばよ!サクラちゃんの父ちゃんは木の葉一の富豪だってばよ!きっと凄い秘蔵のエロ本が沢山あるってばよ!それって参考資料にもってこいだと思ったんだってばよ」

「それならそうと言いなさいよ。勘違いするような言い方して。思わずビンタしちゃったじゃない」

 

思わずで済ましていいような威力ではない。九尾とうずまき一族の回復力のあるナルトだから良かったが、そうじゃなければ全治三週間程度にはなっていただろう。

 

ジトーと見るナルトに、サクラは気まずそうに目を反らし、

 

「わ、悪かったとは思ってるわよ…だから、ほら最高級の傷薬をあげたじゃない」

 

ずいっ!と傷薬を出して弁明する。

 

「うん…まあ…もうエロ本貰えるなら何でも良いってばよ」

 

元々は自分の説明不足が招いた結果であるし、不可抗力とは言え、サクラちゃんのおっぱいも見てしまった。ナルトはこの傷は甘んじて受け入れる事にした。

 





一応追記しておきますが、これは本編とは全く関係の無い話です。それと、サクラも忍術を知るためとは言え、相手は選びます。ナルトの善良さを知っていたからです。


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木の葉崩し2

デイダラ登場!

押しキャラなんですが今回は不遇です。

ちなみに、デイダラの使う起爆粘土の種類は以下です↓
C1:最もチャクラ消費が少なく威力の低い爆弾。牽制する際など、色々な場面で使われる
C2:かなり大きめのドラゴンの形をしていて飛行も出来る。また、ドラゴン自身が口から起爆粘土で出来た飛行物体を発射出来、威力もC1と比べてかなり高い。
C3:デイダラの十八番の起爆人形。単純に威力が凄く、里を吹き飛ばす程の威力が有る。
C4:自分自身の口で起爆粘土を食らい、デイダラの姿をした巨大な人形を出現させる。超高火力な大爆発をする、と見せかけ不発?と見せかけ、本当の狙いは超小型爆弾でそれまでとは違い、相手の身体を内部から破壊するというかなり性悪な術。範囲内で呼吸するだけで爆弾がセットされるので、里の中で使われるとほぼ詰みになる。
C0:最終奥義の自爆。自分の胸元の口に起爆粘土を食わせ、半径10㎞の大爆発を起こす。究極芸術。







ヒルゼンside

 

自来也に蹴り飛ばされたヒルゼンは地面からムクリと起き上がり、慌てて吹き飛ばされた方を振り替えった。

 

火影として風影の相手をするのは自分の役割だと思ったからだ。

 

しかし、振り向いた時には時既に遅く、そこには巨大な半透明の青い結界が自来也と風影を囲むように張られていた。

 

───四紫炎陣。

文字通り、4人で作る、火炎系の強力堅固な結界陣。結界面は紫色の炎となり、外から接触しようとする者を火だるまに変える。この結界を打ち破るには、結界内から陣を崩すしかないが、結界を張っている4人はそれぞれ自分を守るように内側にも新たな小結界を張っており、風影と戦いながらこれを破るのは至難の技だろう。

 

ヒルゼンの脳に貯蓄された膨大な量の情報が冷徹に目の前の結界が簡単には破れないことを教えていた。

 

しかし、結界の中にいるのは他でもない自来也だ。高い実力を持ち、手札が多く、わしですら習得出来なかった仙術を会得し、初代以来の初の仙人となった男。あやつならばどんな相手でも充分以上に対処できるだろう。だから、ここは下手に結界を破ろうとするよりも、自来也に全てを任せて他の対処に当たるべきだ。それが最善だ。そう結論はついていた。

 

しかし、風影の正体が大蛇丸だったことを知り、悔しさやら後悔やら責任感やらで心が揺れ、思わずその場に立ち尽くす。

 

「大蛇丸…」

 

しかし、事態はヒルゼンの気持ちが収まるのを待ってはくれない。

 

ドン!

 

ドゴン!

 

ドゴゴン!

 

ドゴゴン!

 

ドゴゴゴン!

 

ドゴゴゴゴン!

 

唐突に、無数の爆発音が鳴り響いた。戦闘で出来た物とは違う。里の至るところで一斉に爆発が起きている。それも一度ではなく二度三度と連続的に。

 

ほほ同時にヒルゼンの目は無数の白い物体が空から落ちてくるのを見た。

 

そして、この状況であからさまに怪しい白い物体を爆発と関連付けるのは当然の既決だろう。

 

当然ヒルゼンも白い物体を爆発と関連があると怪しみ、その出所を探って上空を見上げた。すると、自分のほぼ真上、巨大な白い鳥に乗った黒装束の男が白い物体を投擲するのが見える。

 

「なんじゃ…あやつは?」

 

「芸術は爆発だァ!!」

 

「気狂いの類いか」

 

ヒルゼンは轟音の間に聞こえる爆弾魔の熱の入った言葉に、相手が狂人であることを悟る。ならば情けも容赦も不要。狂人は追い詰められれば何をするか分からないので、早急に無力化しなければならない。

 

もっとも相手が何者であれ、これだけ爆発物を里に落とすなら最優先排除対象になるのだが、

しかし、空にいるのが厄介だ。

ヒルゼンはカリッと親指を噛む。

 

「口寄せ「猿猴王」猿魔」

 

口寄せ時特有の煙が上がる。

現れたのは、長い白髪に木の葉の額宛てと忍装束を身に付けた巨大な老猿、猿魔。その巨猿は大きさこそブン太やマンダに比べれば常識的なサイズだが、数多くの口寄せ動物の中でも最強の動物と呼び声高い。さらに、サルトビと共に多くの戦場を駆け抜けた経験があり、サルトビとの連携は阿吽の呼吸、サルトビにとって最も頼りとする仲間だった。

 

「こりゃあまたらえらいことになってるのォ…サルトビ」

 

口寄せされた猿魔はクルリと辺りを見渡す。方々で火災が発生し、悲鳴や戦闘音が聞こえ、爆発まで起こっている。

 

「…襲撃か?」

「見ての通りのォ まずは上のアヤツを落とす 金剛棒変化じゃ」

「よぉーし!分かった!」

 

猿魔が金剛棒と言われる黒い棒に変化する。ただの棒と侮ってはならない。その強度は最強の剣と言われる「草薙の剣」を貫かせないほどの硬度を誇り、伸縮拡大縮小自在である。

 

「伸びよ猿魔!」

 

サルトビの意思に答えて天高く伸びる金剛棒。

 

だが、敵は止まった的ではなく、動く人間だ。爆弾魔はヒラリと鳥を操作して棒をかわす。

 

「なんの捻りもない只のぬるい突きだな…うん」

 

鳥に乗った襲撃者……デイダラは、長い金髪を風になびかせ、悠然と断言する。

 

実際には言うほどぬるい突きではなかったのはデイダラも理解している。かなり速かったし、かなり長かった。しかし、これだけ距離が離れていればどれだけ速かろうが目を瞑っていても避けられる。大した脅威にはなりえない。それは今回の攻撃だけではなく、忍術による遠距離攻撃でも同じだ。この距離を一瞬で無にするような時空間忍術でもない限り、大した驚異にはなりえない。そして、今の木の葉にそれが出来る時空間忍術の使い手はいないことは大蛇丸に聞いていた。

 

「オイラを捕まえたいならせめて飛べなきゃ話にならないぜ…うん」

 

デイダラは青い目で眼下を睥睨しながら余裕の表情でダメ出しをする。そして、新たな芸術を残すべく起爆粘土を右手に食わせ、そこそこ(・・・・)のチャクラを練り込ませる。

 

「今度のはちょっと凄いぜ……うん」

 

デイダラの起爆粘土は両手の平にある口で喰った粘土に自身のチャクラを混ぜこんで作る芸術だ。この時、粘土に混ぜるチャクラをC1からC4まで上げることができ、当然、爆発の威力は混ぜたチャクラの量に比例する。小さいものは花火程度の爆発力だが、大きくすれば大国の主要都市も吹き飛ばせるほどの破壊力を生み出すことができる。

 

先程大量に落としたのはC1と、C2(現在デイダラが乗っている恐竜)の口から出た小型爆弾。爆発の威力は眼下を見れば分かる通り、見た目相応でそこまでない。精々が家屋を破壊したり、小クレーターを作るるくらいだ。

 

これがC3になると一気に上がり、一発で都市を吹き飛ばせる程の威力になる。しかし、デイダラがこれから使おうと準備しているのは十八番のC3ではなく、白鳥くらいの大きさのC2だ。これを空の足として使うのでなく、そのまま落とすのである。

 

「さっきまでの前座とは爆発の威力が違うぜ……うん」

 

デイダラは相手に警告を与えるかのように徐々に爆発の威力を上げていく計画らしい。

しかし、もちろん、木の葉の奴等が油断している最初の間にいきなりオハコ(C3)を落とすことこそ最善の手段だ。そうすれば最大効率で最大成果を上げることが出来ただろう。むしろ、成果のみを考えるならそうするべきであったし、現在のデイダラのやり方はある意味で意味不明ですらある。

 

(実際、大蛇丸の旦那はそうしろと何度も言ってきたしな……。合図が上がったらC1やC2なんて使わずに十八番をアカデミーと火影邸に一発ずつ落とせってな…)

 

アカデミーと火影邸の下には避難用の地下通路があるらしい。上手くすれば二度の攻撃で避難民をまとめて焼き殺せていたかもしれない。それが出来なかったとしても木の葉の象徴の一つとも言えるアカデミーと火影邸を消す意義は大きい。それが大蛇丸の言だった。

 

(──……だが、それは美しくねえ。芸術ってやつを分かってねえ。フルコースでスープやオードブルをすっ飛ばしていきなりメインを出すような物だ。あの変態は結果があればどう勝っても良いとか思ってるからダメなんだ。)

 

今回の襲撃にしたってデイダラにはデイダラなりの芸術観に沿った爆破計画があった。それは言わばデイダラのアーティストととしての拘りと矜持であり、それがあったが故に木の葉の人間は助かったとも言える。実際デイダラに何も拘りがなく破壊の成果のみを考えていたら、C1やC2やC3なんて使わず、C4を一発落とせば事足りる。細菌のように呼吸により体内へと入る超小型爆弾はそれだけで殆どの木の葉の忍と住人を殺していただろう。

 

さらに、デイダラにとって不幸だったのは始めに対峙する敵がヒルゼンだったと言うことだ。五大性質全てを納め、プロフェッショナルと言われるほど多くの忍術を会得し、用いる知識は里内随一。

岩隠れの禁術である起爆粘土の知識も多くはないにしろ持っていたし、自来也から暁についての情報も手に入れていた。

それ故デイダラの起爆粘土を見て、その危険性と弱点にいち早く気づきく事が出来たのだ。さらに、それらを無力化する術を持っていたのだ。

 

もし、これが他の誰かだったら、あるいはデイダラがアーティストではなかったら、デイダラはもう少し活躍出来たかもしれない。

 

だが、どれだけ仮定の話をしようが結果は変わらない。デイダラはアーティストだし、敵は三代目火影だ。デイダラが呆気なく敗北するのも変わらない。

しかし、そんな未来の事など知るはずの無いデイダラは、棒を伸縮させ二度三度と同じ突きを放ってくるヒルゼンに、滑稽だと冷淡に笑う。

 

「……何度も懲りねえジジイだ……無駄だって言ってんだろ………うん」

 

確かに伸縮スピードはかなりのものだ。だが、初撃すら当てられなかったのだから二撃目、三撃目が当たるはずがない。

まあ、もしかしたら単調な攻撃に見せかけて油断したところに、縦薙ぎや横薙ぎをしてくる可能性もあるが、此方がそれを警戒している以上、どちらにせよ無意味な話だ。

 

「だが、こうも鬱陶しく飛び回られるとオイラの芸術活動にも支障が出るな……それにジジイを見てるとどうも両天秤のジジイを思い出して気分が悪いぜ…綺麗に爆破してやるよ……うん」

 

何度も説教をし、デイダラの芸術を「下らない」とバカにしてくれた両天秤のジジイ……世界で一番ムカつくジジイ……そんな奴に似たジジイを爆破させると思うと、中々に良い気分だ。

デイダラは気が向くままに今し方作った爆弾をジジイ目掛けて落とそうとして、瞬間ゾワリと背筋に悪寒が走る。

 

「───!」

 

咄嗟に後ろを向き悪寒の正体を探る。すると、探るまでもなく、そこに悪寒の正体はあった。なんと金剛棒から二本の猿の腕が生え、デイダラを掴むべく、此方に向かって伸ばされていたのだ。

 

「は?」

 

────聞いてねえぞ大蛇丸!

 

ヒルゼンは大蛇丸が相手をするつもりだったので、そもそも基本説明すら省かれたのだが…そんなこと関係なく叫びたくなってしまう気持ちは分かる。

 

しかし、叫びが言葉になるよりも、デイダラの体が動くよりも、腕が到達する方が早かった。

 

気付いたときにはもう遅い。眼前すれすれまで迫ってきた猿の巨腕は万力のごとき力でデイダラの腕と鳥の口を鷲掴む。そう認識した直後には腕の生えた金剛棒はデイダラと鳥を掴んだまま物凄い勢いで地面に向かって急縮小していって───

 

「え?ちょ────う!うおおおおおおお!」

 

鳥に乗ったまま猛烈な勢いで急降下する自身の体。

物凄い圧力の空気抵抗を全身で受け、頬がビタンビタン揺れる。

しかし、何とか先程作っていた爆弾を爆発させ、猿の手を外す。

猿越しの爆発とは言え、自分の体にもかなりのダメージを受けたが気にしている暇はない。

なにせ、それが出来たのが鳥が地面に衝突する寸前。このまま何もしなければ鳥と一緒に自分もスクラップ。そう瞬時に理解したデイダラは、とっさに鳥の背を足場に跳躍し、自分が落ちるだろう場所に目測をつけ、小爆弾を使って地面を軟化させ、さらに、地面に衝突する寸前体を回転させることで衝撃を逃がした。

 

そこまでしてもかなりの衝撃を受けたが動けなくなるほどではなく、瞬時に起き上がる。

 

ほぼ同時、ドゴン!と音と共に地面に衝突した鳥が木端微塵に粉砕し、それを見たデイダラは自分がああなっていたかもしれないと想像してしまい、顔を青くさせ、怒る。

 

「あ、あぶねえじゃねえか!」

「ちっ!今ので殺すつもりだったんじゃがのォ…中々にしぶとい…」

「ぶっそうなジジイだな…うん」

 

ヒルゼンの言い様に頬を引き吊らせるデイダラだが、ふと目の前の男の頭に【火】と書かれた白い傘があることに気付く。

 

「…お前もしかして、三代目火影か?うん」

「いかにも…そう言うお主は岩隠れの抜け忍…連続爆破テロ犯のデイダラじゃな?」

「なんだよ。オイラの事も知ってんのかよ。……てか、大蛇丸の旦那は何してんだ?あんだけ自分が殺すって息巻いてたくせにダサすぎんぜ…うん」

「大蛇丸ならむこうにおるよ」

 

ヒルゼンが指差す方を見ると、そこでは人外大魔境のような戦いが繰り広げられていた。青い結界の中で、巨大な蛙や蛇やらが縦横無尽に動き回り、木や水が意思を持ったように暴れ狂う。

 

パッと見では、どちらが優勢なのか、そもそも、どれが大蛇丸の手勢なのかも分からない。しかし、どちらが勝つにせよ相応の時間は掛かるだろう。

 

「そうかい…ならオイラがお前を殺しちまっても良いってことか…うん」

「それは無理じゃよ…お主ではわしには勝てぬ」

「お前…オイラのこと舐めてるだろ…うん」

「事実を言ったまでじゃ お主ではわしには勝てぬよ、デイダラ」

 

ヒルゼンはいっそ優しさすら感じる口調で子供を諭すように言う。それは酷くデイダラのプライドを傷付けた。

 

「そうかい ならオイラも一つ良いことを教えてやるぜ、ジイさん お前の死因についてだ──────」

「?」

「────お前の死因は爆死だァ!!」

 

 

✝️

気炎を吐いていたデイダラだが、それに反し、デイダラとヒルゼンの戦いは呆気なく終わった。デイダラが落下してきたこの場所には予め罠が仕掛けられていたからだ。ヒルゼンの陰遁の忍術で雁字搦めになったデイダラは、起爆粘土を取り上げられ、さらに縄脱け防止処理の施された縄で体をぐるぐる巻きにされている。

 

「てめえ!ふざけんなよ!ジジイ!不意討ちなんてしやがって!卑怯だぞ!」

「……色々聞き出したいこともあるんじゃが…話す気はあるかの?」

「は!あるわけねえだろ!」

「そうか。ならば仕方無い」

「拷問でもしようってか?」

「いや、そんなことはせんよ」

 

ヒルゼンはデイダラの言葉に短く否定し、口寄せの印を組み、地下牢に置いてあった棺桶を呼び出す。黒い鉄材に金字の彫られた棺桶は、人一人入れるくらいの大きさで、堅固なカギが付いていた。

ヒルゼンは手慣れた動きで棺桶の鍵と蓋を開け、盥巻きにしたデイダラを中へ放り入れると、再び蓋と鍵を閉める。

 

「クソジジイ!ふざけんな!出しやがれ!」

「この戦いが終わったら直ぐに出してやるわい」

 

ヒルゼンは口寄せを解除し、デイダラを棺桶ごと地下牢へ輸送し、次の戦場へと向かうのだった。

 




デイダラVSヒルゼン
ヒルゼンの勝利!

デイダラは活躍させると木の葉が大変な事になるので一番最初にフェードアウトです。下手に追い詰めると「俺の究極芸術を見せてやる!」→半径10km消滅とかになりますので。


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木の葉崩し3

注意 今話にはオリキャラとオリジナル忍術があります。






 

試験場では、対峙するフガクとカブトの他に、やや離れた場所で、砂隠れの上忍バキと木の葉隠れの特別上忍ゲンマがそれぞれ我愛羅とサスケを守るように睨み合っていた。バキの後ろには我愛羅の他にやや遅れてやってきたテマリとカンクロウも控えている。テマリは頭を抱えてふらつく我愛羅を支えるように肩を貸し、カンクロウは不安げに我愛羅と上官であるバキを交互に見遣る。

 

「我愛羅、作戦を……」

「…ぅぅ…」

 

バキは我愛羅に守鶴になるよう命令を下すが、頭を抱えている我愛羅に聞こえている様子はない。とても作戦を続行出来る精神状態では無さそうだった。

しかし、それでは困る。我愛羅はこの作戦の要。我愛羅が使えないとなると作戦そのものが失敗しかねない。

 

「馬鹿め! 合図を待たずに勝手に完全体になろうとするとは……!」

「やっぱり……副作用が出てる。もう我愛羅は無理だ!」

「じゃあオレたちはどうすりゃいんだよ! 我愛羅なしでやれってのか!?」

「くっ……」

 

テマリとカンクロウの視線がバキに突き刺さる。バキは一瞬の逡巡の後、今は無理だと結論を出す。

 

「一旦中止だ!」

 

我愛羅を一旦下げ精神を落ち着かせた後再度投入する。それが最も堅実な手だろう。

此処で無理矢理守鶴にさせることも出来なくはないが、それをやれば我愛羅の制御を失った守鶴が本当に暴れだしかねない。そうなれば木の葉だけでなく、砂や音にも甚大な被害が出る。いや……それはいい。忍は死ぬのも仕事の内のようなものだ。死ぬ覚悟などこの作戦を受ける以前から出来ていた。たとえ此処で使い潰される事になったとしても、その先に砂の未来があるなら喜んで死地に立つ。忍の本質とは自己犠牲。他の忍だって当然その覚悟で此処に立っているはずだ。

 

しかし、各里のパワーバランスの主柱である人柱力は違う。

守鶴が完全に我愛羅の制御を失うと言うことは、そのまま守鶴を取り戻せなくなる可能性を意味していた。尾獣を失えばこの戦で砂が勝てたとしても、更に苦境に立たされることになる。そうなっては本末転倒。何のために戦争を起こしたんだと言うことになりかねない。そのリスクは起こせなかった。

 

「お前たちは我愛羅を連れて一旦、退け!」

「先生は!?」

「オレは参戦する。行け!」

「う……うん」

 

バキは去っていくテマリ達の足音を聞いて、仕事を始めるべく刀を引く。

 

「このパーティの主催者は大蛇丸か?」

「さあな。とりあえず、盛り上がって行こうぜ…」

 

襲撃をパーティーと表現するゲンマに、バキも軽口を叩いて応戦する。

しかし、それは状況に取り残されているサスケにとっては苛立ちしか感じないやり取りだ。

その焦りと怒りが言葉のケンになって現れる。

 

「オイ……何がどうなってる?」

 

ゲンマはサスケの感情を察しながらも、それを考慮するほどの余裕はなく、バキから視線を逸らすことなく用件のみを端的に伝えた。

 

「悪いが中忍試験はここで終わりだ。とりあえず、お前は我愛羅たちを追え!」

「……」

「お前はすでに中忍レベルだ。木ノ葉の忍なら役に立て」

「……ああ」

 

駆け出すサスケ。

バキは万が一があっては困るとサスケを殺そうと動くが、それを阻止するようにゲンマが間に入る。

 

「お前の相手は俺だろ?」

「……一人で行かせていいのか?……まず間違いなく我愛羅に殺されるぞ、あのガキ……呼び戻した方が懸命だと思うがな?」

「…あの我愛羅ってガキは砂の何なんだ?只の下忍じゃないんだろ?」

「…………」

 

バキは答えの代わりに剣戟を持って答える。

 

それがバキとゲンマの本格的な戦闘の始まりとなった。

 

✝️

 

フガクはカブトと戦闘をしながらも、サスケが我愛羅達を追い会場を出ていく音に気付いていた。

 

本心ではあまり無茶なことをせず、住人の避難の誘導の方へ行ってほしかったが、

この切迫した状況で、家族だからなどと甘えたことは言えない。サスケも忍。そして、忍になったと言うことは遅かれ早かれ危険に踏み入らなければならない日は必ず来る。それがサスケにとって偶々今日だっただけだ。

 

それに、フガクはゲンマと同様、我愛羅の底知れない何かに勘づいていた。具体的に何なのかと聞かれてもそれを言語化は出来ないが、あの不吉な砂の腕を見るに只の下忍ではないのは確かだ。

フガクの経験から来る直感はあれをノーマークにするのは危険だと訴えている。

しかし、里が襲われている現状、住人の避難と敵の迎撃が優先され、去っていく下忍にまで割く戦力の余裕はない。もちろん、里の全てを探せば見つかるだろうが、そんなことをしてる間に見失ってしまうだろう。

 

(サスケ…死ぬなよ…)

 

サスケの実力がかなり高くなっていることを知っていたが、やはり一人で行かせるのは不安があり、フガクはサスケの無事を天に祈るのだった。

 

✝️

フガクはサスケの事を心配しながらもカブトから目を逸らさずにいた。

目の前の敵は強い。

他の事にかまけていてはフガクでも足元を掬われるほどに。

故に、フガクは片時もカブトへの注意を逸らすことが出来ない。

もちろん、周囲への警戒を怠るわけにはいかないので、100%の意識をカブト一人に向けているわけではない。大体80%ほど。残りの20%は常に奇襲や横槍を警戒している。

 

その上で、フガクは確信する。

 

───後十手だな……

 

フガクは戦いとは詰将棋のようなものだと思う。偶然やラッキーなどなく、全ての結果は当事者の地力や、持つ武器の性能、仲間の数、天候や土地などの条件により始まる前から決まっている。

この戦いも同じだ。

このままどちらも間違わず、互いに最善の手を打っていけばそう遠くない未来に実力の差でフガクが勝つ。

 

むろん、これは第三者の乱入が無ければの話だが…

 

そして、フガクにとっては運の悪いことに、カブトにとっては運のいいことに、その戦場に乱入するものがいた。

 

「さてと、デイダラも始めたみたいですし…私もそろそろ始めましょうか」

 

その襲撃者は里が一望出来るような柱の上に立っていた。

血のように赤い長髪に、空色の瞳。首から下は暁のローブに身を包み、ローブの先からは爪の赤く塗られた手足と、黒い剣の鞘のようなものが見える。

彼女はクルリと里を見下ろして、上等な獲物を探す。

雑魚を切り殺すのも嫌いではないが、せっかくの大仕事。ならば強者と血沸き肉踊る戦いをしたい。

 

そして、大蛇丸が言うことを信じるなら、この里には私クラスの強者が四人居るらしい。

 

その内の一人である自来也は既に結界の中で大蛇丸と死闘を演じている。

 

ヒルゼンはデイダラに目を付けたようだ。槍を伸縮させ爆発する鳥に乗ったデイダラにちょっかいを掛けている。横取りしても良いんだが、下手にデイダラに近付くと巻き添えで爆破されかねない。あの芸術爆発人間はクール=アート=爆発と言う訳の分からない持論を唱えるだけあり、追い込まれるとすぐに周りを気にせず大爆発を起こす(物理的に)。

 

戦いの中で死ねるなら本望だが、それが仲間に誤爆されて死ぬなんていうマヌケな死に方は勘弁だ。だから、ヒルゼンも無しだ。というか、そもそもの話、あんな死に掛のジジイでは体が反応しない。

 

となると、残るは綱手とフガクだが、その二択ならフガク一択だろう。綱手は強いらしいが、所詮医療忍者だ。戦いを専門とするものではない。一方のフガクはバリバリの戦闘タイプ。やはり相手をするならそう言うタイプがいい。

 

襲撃者は獲物を決めると、足に力を入れる。そして、一度の踏み切りで、弾丸のように試験会場に降り立つと、流れるように抜刀。おそるべき速さで横に振り抜く。

 

その一振りは今迄数多の敵を一撃で葬ってきた凶悪な一振り。

 

それを不意打ちで食らったら大抵の忍なら反応も出来ずに死ぬだろう。むしろ、切られたことすら気付かずに死ぬだろう。

 

(これで死ぬなら興ざめも良いところ。

 傷を負ったとしても避けきれたなら、そこそこの上物

 掠り傷程度ですめば、かなりの上物

 そして、無傷で避けられたなら……)

 

「へえ…」

 

結果は彼女の期待を裏切らないものだった。

 

フガクは彼女を視界に収めた瞬間、大きく飛びず去る。

それは見方によってはビビり過ぎなんじゃないのかと思うほど、過剰な避け方だった。

戦いの中でも無駄を嫌い、常に紙一重で敵を葬る普段のフガクを知る者なら驚いただろう。

しかし、敵対者である女は感心したように呟いた。

 

「私の初戟が完璧に(・・・)かわされたのは久しぶりですよ」

「俺の目はチャクラを見る…お前の剣が見かけ通りの長さではないことくらい見えている」

 

フガクの断定に女は更に頬を吊り上げる。

 

彼女が左手に握るのは草薙の(つるぎ)と言う最強の剣の一振り。それも世界に33工ある草薙の剣の中でも特殊な能力を付与された7工の一つ。

 

能力は所持者のチャクラに反応して透明のチャクラの刀身を──最大+20cm程まで──伸ばすと言うもの。

 

もし、フガクが何時ものように紙一重で避けていたら胴体は真っ二つにされていただろう。

 

フガクの写輪眼はあの高速の攻防の中でその伸ばされた刀身を見切ったのである。

しかし、それでも僅かに避けきれずフガクの浴衣が僅かに切れる。

 

「ふふ…流石…凶眼のフガク…」

「そう言うお前は草隠れの抜け忍…辻斬りのミトだな…確か散々仲間を殺した挙げ句、最後に里長を殺して里を出たとか言う…昨今の草隠れの無茶な人材収集はお前が原因だと聞いているぞ…」

 

これだけの情報でも分かる通り、とても誰かと協力するような女ではない。

 

「……抜け忍のお前が何故砂と木の葉の戦に首を突っ込む」

「それが組織から下された命令ですから」

「組織?」

「そんな事より、早く殺り始めましょう…あ、カブトさんはどっか行ってていいですよ…邪魔なので…巻き添えで死にたいと言うなら別ですが」

「いえ、代わってくれるなら願ってもない」

 

二三言葉を交わすと、彼女はカブトに何処かへ行くように促し、此処からが本気だと言うようにローブを脱ぎ飛ばす。

 

その姿を見て、これ幸いと逃げ出していたカブトの足が止まる。同時にフガクの目も珍しく見開かれる。さらに、近くで戦っていたゲンマとバキ、カカシとザブザ、マイト・ガイ…全員が全員一瞬目を奪われる。

 

ローブの下から現れたのは露出の過多過ぎる赤い忍装束だった。

 

胸元はざっくり開き、背中は全て露出させ、横乳も谷間も臍も見放題。下は太ももの付け根ギリギリまであらわになり、動くたびに揺れる大きな胸や見え隠れする臀部は無条件で男達の視線を釘付けにする。

 

世が世なら公然わいせつ罪不可避な衣装だ。

どこで買ったんだろうか?そして、誰が作ったんだろうか?あまりにも時代を先取りした衣装デザイン。この服を考え付いたクリエイターは、ただの変態としか思えない。数多のエッチな衣装を着た女を見てきたカカシでもちょっと引いてしまうレベルの露出度だ…と言うかほぼほぼ何も隠せていない。

 

言うまでもないがこの場にいる忍の殆どは各里の上忍やそれに準ずる上物である。そのため何時如何なる状況でも奇襲に対応出来るよう、常に周辺全域にアンテナを張り巡らせている。

今回はそれが仇になった。

殺伐とした戦場の中、唐突に現れたほぼ全裸の美魔女。そのエロすぎる体にその場にいた男達の視線が彼女の体に引っ張られる。

 

剣劇の止まらなかった試験会場は驚くほど静かになった。

そして、一瞬の静寂。直後、ハッと今が戦闘中だと思い出した男達が、未だ目を奪われている相手に攻撃する。

 

「隙あり!」

「ぐ、卑劣な!」

「目を逸らしてるお前が悪い!」

 

「ほ、本当にあれは服なのか?なんてエロくべ!ひ、卑怯な!」

「戦闘中に余所見とは忍失格だな」鼻血

「いやお前に言われたくねえよ!どんだけ興奮してるんだよ!」

「だ、黙れ!これは、そう…鼻くそだ!鼻くそを深追いしすぎただけだ!」

「無理ありすぎだろ!てか、戦闘中に鼻糞ほじるのもどうかと思うが!」

 

「なんてエロ…はっ!──隙あり!」

「な、なんて破廉恥な。け、けしからぐほ!不意討ちとは卑怯ですよ!」

 

 

しかし、カカシとザブザだけは敵から片時も注意を逸らさずにいた。

 

「流石だなカカシ…目を逸らさんか…一瞬でも逸らしていたら首を切り落としてやっていたものを……」

「ちっ……!」

 

カカシはザブザの不敵な言葉に苛立たし気に舌打ちをする。当然だ。カカシとしてはこんなおいしい場面、ガン見して、写真でも撮っときたいくらいだ。しかし、戦闘中ゆえそうも言ってられない。相手の力量が自分と匹敵しているゆえに少しの油断で形成が決まりかねないからだ。しかし、それはそれとして自分の相手がこんな包帯野郎なのに、フガクさんの相手があのエロい女と言うのは納得が行かない。

 

カカシのやる気は急降下していた。

 

カカシは普段より5割増しくらい死んだ目で、ザブザを見て溜め息を吐く。

 

「…………俺も全裸の女と戦いたかった……」

「……さっきの発言は訂正させてもらおう…こんな奴だったとは…はたけカカシ…」

 

 

そして、当然の話だが、もし此処に自来也やヒルゼンがいたら、一番影響を受けていただろう。

 

例えば、自来也なら、

 

──む、むっーほっー!素晴らしい!なんだその素晴らしい衣装は!ほぼ丸見えではないか!

し、下着は着けているのか?パッと見履いているようには見えないが…………?こ、これは絶対に確認しなければならない!

 

などと戦闘そっちのけでスケベ心を出していただろう。

 

三代目火影に至っては鼻血を出して気絶していた可能性すらある。

 

(…私が相手で良かった…いや、そう言う意味ではなく…お二人が居たら(鼻血を流して)大変な事になっていた…)

 

木の葉の里の最高戦力二人の戦闘離脱は測りかねない影響を戦況に与える。お二人が聞けば見れなかった事を悔しがるだろうが、本当に此処に居なくて良かったと、フガクは胸を撫で下ろす。

 

「女を切るのは好きではないが敵ならば是非もない…木の葉に弓を引いた己の無謀を悔いるがいい」

 

目のやり場に困る女を前に、しかし、フガクは目を逸らすことなく、瞳を万華鏡写輪眼に変えるのだった。

✝️

 

フガクは内心目の前の敵の強さに驚愕していた。

 

(噂には聞いていたが…これほどとはな)

 

未だ忍術を使わないので、──使えないと言う情報もあるが…──、忍術を加味した上での正確な実力は分からないが、仮に全く使えなかったとしてもかなりの強さだ。

 

剣技だけなら自分よりやや上、総合的に見れば自分よりやや下程度の戦闘能力。

 

しかも、彼女の真に恐るべきところは、類い希なる剣技でも、怪物染みた身体能力でもなく、再生能力にある。

 

腕を刺しても、腹を貫いても、全く怯む事無く、「あぁん!」とエロい声を上げながら切りかかってくる。そして、数秒後には綺麗さっぱり傷跡は無傷に戻っている。

余りにも得体の知れない相手だ。

しかも、時々不意を打つように、切られても構わないと言うような意味不明な特効を仕掛けてくるので、フガクは戦いのペースを見事に崩されていた。

そのため、フガクは崩れたペースを立て直すべく、一旦目眩ましの為に火遁を使用し、時間を稼ごうとする。

 

しかし、これが良く無かった。

 

てっきり、後退して時間を稼げるかと踏んでいたら、ミトは全く怯む事無く、むしろ自ら炎の中へ踏み入って最短距離で殺しに来たのだ。

 

ミトがいかに強力な再生能力を持っていたとしても首や頭を守っていたことを考えると不死ではないはずだ。

 

いくら目眩ましの為のチャクラしか使っていなかったとは言え、全身を炎に包まれれば只では済まない。

 

だからこそ、身を覆い尽くすほどの炎には後退を選択すると思ったのだ。

 

しかし、結果は見ての通り、ミトは全身を爛れさせながらも嬉々とした表情で切りかかってきた。

 

あまりに予想外の展開だった為、とっさに避けきることが出来ずに胸を大きく斜めに切り裂かれる──寸前フガクは「須佐能乎」を出し、紫色の胸骨で攻撃を防ぐと、敵の首を切り落とすべく刀を振るう。

その攻撃を敵は驚異的な反射能力で避けるが、完全に避けきることは出来ずに、肩からバッサリと左腕を切り飛ばされた。

 

「あぁん!」

「チィッ!」

 

しかし、難を逃れ、尚且つ盛大なカウンターを成功させたフガクは舌打ちをし、体を切り飛ばされたミトは悶えるような声を上げる。

 

「須佐能乎」は膨大かつ高密度のチャクラで構成された骸骨の像を形成し、操る術だ。その骸骨は人体程度なら軽く握り潰せるほどのパワーを持ち、あらゆる忍術・体術に対して強力な防御力を誇る。

 

しかし、この術は完璧に見える反面、欠点の多い忍術だった。まず、当然の事だが、出すだけでチャクラを膨大に消費する。また、そのくせ上半身しか具現化せず、足元がお留守になるので足元からの攻撃や聴覚系・嗅覚系の攻撃は防げない。加えて、術者が引きずり出されると短時間で崩壊する。さらに、使用するだけで全身の細胞に負担がかかり、長期戦には不向きである。

細胞への負担については使用回数が増えるごとに軽減されるが、「須佐能乎」を使うとどんどん視力が落ちていくのでフガクは「須佐能乎」を殆ど使ったことがなかった。当然その事実も知らなかった。もっとも知っていたとしても、使うことはなかっただろう……。術に慣れる代償が視力の低下では余りに釣り合いが取れない。

写輪眼を扱う゛うちは゛にとって視力の低下とはうちはの能力(チカラ)の低下を、失明とはうちはの能力(チカラ)の喪失を意味する。それに恐怖を感じないうちはの人間などいないだろう。

 

フガクは久しぶりに感じる術の反動に頭を抑えながら、チラリと距離を取ったミトを見る。彼女は切り飛ばされた腕を無理矢理体にくっつけようとしていた。治療忍術を使っている様子はない。しかし、腕と胴体は細胞が融合するように元に戻っていく。

 

それを見てフガクは内心舌打ちした。

予想通りと言えば予想通りなのだが、これで死んでくれたらと期待をしなかったと言えば嘘になる。しかし、人生そう甘くないようで、敵は体を切り離されてもくっつけることが出来るらしい。もっとも、失った血までは元に戻らないようで造血丸を食べるのが見えたが。

 

ちなみに、火遁により爛れた肌はとっくに癒えており、艶のある白いものへと戻っていた。

 

まあ、いくらミト自身が火遁や斬撃の傷を元に戻せたとしても着ている服まで再生出来るわけではなく、服は所々ボロボロになり地面に落ちていたが…。

 

つまり、ミトは現在真っ裸と言うことだ。ほぼ全裸とか服が所々破れているとかではなく、本当の意味での裸だ。

 

目のやり場に困る相手だ。

しかし、そのお陰で敵が武器を隠し持っていないと言う事実や、敵の能力のカラクリも予測することが出来た。可能ならこのまま全裸で戦って欲しい。そうすればより簡便に相手の動きを見きることも、能力の詳細を看破することも可能になるだろう。

しかし、幾らなんでも裸で戦い続ける女は、フガクの常識ではいないので無意味な仮定だった。

 

しかし、ミトはフガクの予想を裏切り、自分の格好を全く気にする事無く、剣を構え、戦いの続きを促す。

 

「まだ戦えるでしょう?」

「戦えるが……」

「別に見られて減るものでもないですし、個人的に見られるのは嫌いじゃありませんから」

「そうか……」

 

一応言っておくと、この世界にも写真と言うものがある。裸で戦ってたりしたら気づかない間に自分の全裸写真が世に出回るなんて事にもなりかねない。てか、それ以前に裸で剣を振り回すのが大分おかしい。もはや痴女とかいうレベルを遥かに越えた新時代のスターである。

 

この世界はくノ一の存在もあり女性の身嗜みにかなり緩いとは言え、流石に全裸で女が外を歩いていたら職室は免れない。

仮にも犯罪組織の幹部が襲撃で指名手配されるなら兎も角、露出により指名手配されるのは恥さらしもいいところだ。

 

もし木の葉の忍が裸で戦っていたらフガクは全力で止めていただろう。この世界には盗撮を生業とする犯罪業者もあるので、変な事をすると取り返しのつかないことになる。フガクは任務で幾つか潰したことがあるので、それを知っていた。

 

しかし、目の前にいるのは敵だ。

敵が良いと言っているなら此方が強制する事もない。なにより、願ったり叶ったりな状況。敵が裸であれば此方に利することはあっても、不利になることはないのだから。

 

「戦いを再開する前に一ついいか?」

 

フガクは剣を正中に構え、闘気を高める。

 

「なんでしょうか?」

「お前は炎症による傷を治すよりも吹き飛ばされた腕をくっつける方が早かった」

「そうかもしれませんね」

「それに吹き飛ばされた腕が治る過程もおかしい…治癒とは似て非なるものだった…恐らくお前の能力は治癒ではなく、細胞の分離と融合なのではないか?…超速再生も体を実際に治しているのではなく、細胞の融合により傷を塞いでいるだけ…炎症の回復もその能力を応用したものに過ぎない…だが、本来の用途とは違うため治すのに時間が掛かった…違うか?」

「ふふ…よく見てますね…ご明察ですよ…私の能力は治癒ではなく細胞に働きかけるもの…」

 

だから、失った細胞が本当に元に戻ってあるわけではない。無傷に見えても結構ダメージを受けているのだ。

だったら、火に飛び込むなと言いたいところだが、彼女の戦いを楽しむと言う悪癖が戦い方にも出てしまった。

とは言え、彼女もただやられたわけではない。一度の会合で「須佐能乎」の能力の弱点にも気付いていた。

 

「その能力…随分と負担が大きいようですね…」

 

ミトの指摘にフガクは自分の失態を思い出す。

確かに先程は無様にも痛みに頭を抑えてしまった。しかし、もうどの程度の痛みなのかは思い出した。次は追撃を掛けられる。

 

それにフガクは奥の手をまだ二つ隠している。万華鏡写輪眼の能力である「天照」と「大国主」だ。この内天照は大蛇丸にも知られているので、敵が知っている可能性が高い。しかも、天照の発動時、血の涙が出ると言う分かりやすい前提があるので高いスピードと反射能力を持つ達人相手には、知られていれば当てるのは難しい。天照の体への負担の大きさを考えれば使うメリットは少ないだろう。

しかし、もう一つの「大国主」は大蛇丸おろかミコトにも知られていない能力だ。目の前の敵が知っている可能性はほぼゼロと言っていい。

フガクはこの能力とスサノオでけりをつけることを決める。

 

一方のミトも切り札を切る。スサノオの予想以上の固さを考えればこのまま戦っても勝機は薄い。

ミトは体に雷のチャクラを帯電させる。これにより無理矢理パワー、スピード、反射能力を高めるのだ。さらに、歯に仕込んでおいた薬を噛み砕き、飲み込む。これは無理矢理身体能力とチャクラ量、再生速度を引き上げるドーピングのようなものだ。しかし、この能力はどちらも自分の体への負担が大きく長期戦には不向きだった。

 

((速攻で決める!))

 

二人は同じ結論に達し、動き出す。

 

恐るべき速度で動くミトとスサノオを巧みに動かし、攻撃と防御を行い、切り札を使うタイミングを計るフガク。

 

ミトの剛力はスサノオ越しに体にダメージを与えるほど強いが、攻撃と防御が一体となったスサノオも巧みにミトにダメージを与えていく。

 

戦いは一進一退の様相を見せる。

 

しかし、唐突に終わりは来た。

 

「ようやっと掛かったな」

 

フガクの右目が見つめる先、そこには赤色の幽霊に手足を捕まれたミトがいた。

 

ミトは体を大の字に縛られ、五体に突き刺さる光の棒により体を固定されている。

 

フガクの右目の能力である「大国主」は瞳で捉えたとものを強制的に固定し、光の棒によりチャクラをかき乱し忍術を使えなくする術だ。捉えておくには見続ける必要があるが、一度捉えられれば一人で抜け出すのは至難の技だ。

 

フガクは歩いてミトに近づくと鈴夢の首を掴む。

 

「這縄 」

 

黒い縄の紋様がミトの体に絡み付くように刻まれていく。これはうちは警務部隊に伝わる呪印術の一つで行動を制限する効果がある。

さらに、フガクは心臓に指を当てる。

 

「裏黒穿」

 

今度は心臓を中心に黒い呪印が広がっていく。

これはうちは本家に伝わる呪印術の一つで、最も高い難易度と拘束力を持つ禁術だ。見た目はダンゾウの使う自業呪縛の印とも似ており、時間の経過と共に拘束力が上がる。術の拘束力には三つの段階があり、まず強い拘束により体の自由を奪われ、次に体が麻痺し、最後に立っていることすら出来なくなる。

 

裏黒穿を掛けたフガクは気力で開けていた右目を閉じ、大国主を解く。

 

勝ったとは言えかなり厳しい戦いだった。スサノオの連続使用により頭痛が止まらず全身が悲鳴を上げているし、ミトの攻撃で内蔵を傷つけられたのか口から血を出している。

 

そんなフガクに大きなナメクジが近づいてきた。綱手の口寄せしたカツユだ。どうやら治療をしてくれるらしい。

 

「助かる…カツユ」

「いえ、おきになさらず…そちらの女性はどうしますか?」

「此処に置いていくわけにもいかない。うちはの詰所に持っていくつもりだ」

「それでしたら私がお供いたします…二人くらいなら背中に乗せて運べますので、フガク様はそちらの女性を持って背中に乗ってください…同時に治療も行います」

「助かる…」

 

フガクはナメクジに揺られながら、ミトを抱えうちはの詰所へと向かうのだった。





オリキャラ

名前 ミト
容姿 赤い長髪と空色の瞳。
経緯 大蛇丸がかつて行っていた不死の実験の成功体。しかし、大蛇丸はその存在を認知していないので、暁で会うまで成功体がいることを全く知らなかった。

この実験は大蛇丸が初期に行った研究で、初代火影と、うずまきミトの細胞を母核に作られたクローンを用いて行われた。その為か、ミトの容姿はうずまきミトにそっくりである。


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木の葉崩し4

 

砂と音による木の葉の襲撃により里は大パニックになった。里の城門には突然に大蛇たが現れ、空からは次々と爆弾が落ちてくる。どういうわけか爆発は直ぐに聞こえなくなったが、戦闘による煙はそこらじゅうで上がっていた。

しかし、予めこの事態を予期していた忍達により、里の人達は恐々としながらも比較的安全に避難していく。

 

「押さないで!」

「落ち着いて指示に従ってください!我々が必ず安全に送り届けます!」

 

中忍や特別上忍、うちは警務部隊などが中心となり避難が行われる。

 

アカデミーで授業を受けていた木の葉丸もイルカ先生の指示で地下通路を通って避難していた。しかし、木の葉丸はヒルゼンやナルト達のことが心配で試験会場へ向かおうと画策し、あえなくイルカに見つかり、ガッチリとホールドされながら避難所に連行されることになる。

 

「イルカ先生放せ!」

「ダメだ!」

「試験会場にはジジイとナルト兄ちゃんが……」

「三代目は強い。そう易々と敵に遅れはとらない。ナルトだって一人前の忍だ」

「でも!!」

「こら!暴れるな!いいから大人しく避難しなさい!」

「嫌だ!!」

「ワガママ言うな!お前が怪我をしたら三代目やナルトがどうおもう!

それにあそこには今自来也様や綱手様、フガクさんもいる。だから大丈夫だ」

「大丈夫かなんて行ってみないと分からないぞコレ!ジジイもナルト兄ちゃん直ぐに無茶するんだ!」

「そ、──と、とにかく!」

「──木の葉丸」

 

尚も暴れる木の葉丸に、イルカが拳骨を与えようとすると、それより本の少し前に後ろから静かな声が向けられる。

 

「イタチ兄ちゃん」

「列に戻れ」

「でも」

「お前がそうやって暴れていれたら、いざと言う時にイルカさんが動けなくなる。そうなれば万一敵の襲撃にあった場合守れたはずの命まで失うことにもなりかねない。今お前の出来ることは此処で駄々を捏ねることではない。何よりも早く避難を完了させ、より多くの忍を敵の撃滅に向かわせる助けとなることだ。それがひいては三代目やナルトくんの命を助けることにも繋がる」

 

怒鳴っているわけでもないのに何故か良く通る言葉はとても16の少年が発したものとは思えない。

 

驚くほどの貫禄と説得力を秘めている。

 

イルカは思わず目の前の少年が自分の二倍くらい生きてるんじゃないかとすら思えた。

 

なにせ自分なんてただ木の葉丸をホールドしてただけだ。

 

あれだけ暴れていた木の葉丸も涙を拭きながら、列に戻り、黙々と歩いている。

 

「流石ですね、イタチさん」

「……少し言いすぎました」

「いえ、本来なら私が言わなければならないことです。嫌な役目を押し付けてしまった」

 

なぜイタチがこんな場所にいるのかというと、それは現在のイタチの体調に起因する。

中忍試験の始まる少し前の話だが、綱手主導で行われた木の葉の忍の定期検診において、イタチが重大な病気に掛かっていることが発覚した。幸い発見が早く優れた医療忍者である綱手がいたため治療すること自体は出来たが暫くは薬の内服と安静が言い渡される。しかし、イタチは根っからの仕事人間で、自分だけ遊んでいるようで気が咎めるからと、両親と綱手を説得し、週に一日程度ではあるが臨時講師としてアカデミーへ通う権利をもぎ取ったのだ。

そして、丁度臨時講師として来ている時間に襲撃が起こり、そのまま避難を手伝っていると言うことである。

 

✝️

 

「これで最後ですか」

「ああ!避難は完了した。全ての住民は里の各所にある避難所に収容済みだ」

「では、いよいよだな」

「ああ!里の総力をあげ敵を排除するぞ!」

 

その後暫くして全ての避難が完了し、これにより各所で木の葉の反抗が始まるのだった。



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閑話 リーとガイの修行

本編とは特に関係ないです。

リーとガイの修行を見たカカシ班の反応です。

 

 

 

 

────────────────────────

 

その日、任務帰りにカカシと共に四人で歩いていたナルト達は高速で近づく緑の物体を見つけた。

 

「…げじ眉?」

「リー?」

「リーさん?」

「あ!ナルトくん、サスケくん、サクラさん…こんにちは!」

「そんな格好で何やってんだってばよ?」

「今はブリッジで里を五周すると言う修行をしている途中です。一緒にどうですか?」

 

リーは輝く笑顔で片手を上げてナイスガイポーズを取りながら言うが四人は揃って首を降った。

 

「流石に今から里五周はキツいってばよ」

「任務帰りだしな」

「任務帰りじゃなくても嫌よ」

「同感だ…」

「そうですか!では、僕はまだ二周残ってるのでもう行きますね!」

「元気だなあげじ眉!ん?今度は激眉が来たってばよ!」

「凄いスピードね」

ドドドドド!!

「おう!こんなところで会うとは奇遇だな!カカシ!」

「…一応聞くけど、お前何してんの?」

「見ての通り俺の考案した新しい修行をしているところだ!なんとこの修行は筋肉を鍛えるだけじゃなく柔軟も鍛えられるんだ!我ながらナイスな修行だと思っている!すごかろう!どうだ?お前もやってみたくなったんじゃないか?」

「いやだよ」

「サスケとナルトはどうだ?君達はリーの修行仲間!熱いハートを持っていることを知っているぞ!」

「うちの子に変もの進めないでくれる。はい、どっかいったどっかいった。リーくんが待ってるよ」

「おお!そうだった!こうしゃちゃおれん!待ってろ!リー!」

 

去っていくガイを見てホッと息を吐くカカシ。

 

「…あいつ…年々変になっていくな…いつか捕まらないか心配だよ」

 

カカシの視線の先ではスカートの中を見られたと追いかけられるライバルの姿があった。

 

「…じゃ、俺達は火影様に報告しに行くよ」

 

カカシは何も見なかったことにした。時には目を背けることも必要なのである。主に精神の安定のために。

 

「ブリッジか…火影邸までだったら体力も持つか?」

「常在戦闘ならぬ常在修行だってばよ!」

「ふっ…ナルトもやる気か…では、どちらが速く着くか勝負でもするかる」

「上等だってばよ!お前には負けねえってばよ!」

 

ブリッジをしようとその場で屈もうとするサスケとナルト。サクラは絶対零度の視線を向ける。

 

「一応言っとくけどそんなことしたら私は知らない人の振りするからね」

「俺も他人の振りするよ」

「え~~~!酷いってばよ!」

「酷いのはお前達だよ」

 

 

 



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閑話 掃除

この話の都合により[閑話 扉間スケッチ]の覗き実行犯を
ナルト、キバ、シノ、リー、シカマル、チョウジ、木の葉丸、ウドン

ナルト、キバ、シノ、シカマル、チョウジ、木の葉丸、ウドン
に変えました。(リーを除外)

本編とは関係のない話です。


その日、ナルト達同期とガイ班の三人は共に温泉へやって来た。

特に何か特別な記念日だった訳ではない。むしろその逆。罰則のおまけと言うのが一番近い。

事の発端は一週間前。

ナルト、キバ、シノ、木の葉丸、うどん、チョウジ、自来也の六人により覗き事件が起こった。その騒ぎのお詫びとして木の葉の忍が一週間無償で銭湯の掃除をすることになったのだ。

そのナルト達の尻拭いに駆り出されたのが同じ班の下忍達と監督役として一つ上のガイ班が選ばれた。

巻き込まれた彼等彼女等は文句を言いながらも真面目に一週間掃除をし続ける。

 

「まったくアイツらろくなことしないわよね」

「本当よ」

「タダ働きとか冗談じゃないわ」

「絶対アイツらに精算させてやるんだから」

 

無償労働初日。いの、サクラ、テンテンは愚痴を溢しながら掃除をしていた。女三人寄ればかしましいと言うが正にそうである。男達のダメなところを話し合って愚痴を溢し合い、笑い合う。唯一ヒナタだけは一人俯きながら黙々と掃除をしていたが…その顔は何故か赤い。息遣いも何やら変な気がする。そんなヒナタの普段とは異なる様子に違和感を感じたサクラは大丈夫なのか、と問う。

 

「な、何でもないよ……」

「何でもないって……すごい顔赤いわよ、ヒナタ?」

「あ、本当だ。体調悪いなら休んでていいわよ」

「最悪アイツらに押し付ければいいんだしね」

 

三人が口々に心配を述べるがヒナタは頑なに「だ、大丈夫…………」と否定する。

まあ、本人がそう言うならと三人は引き下がった。実際、ヒナタは熱があるわけでも体調が悪いわけでもない。これは只の羞恥心だ。

 

実はあの日、ナルトが覗き事件を起こした時、偶然ヒナタもこの女湯にいたのだ。そして、突然の悲鳴に驚き白眼を使って悲鳴がする方を確認し、そこで、偶然ナルトのアレを見てしまった。もちろん、その時ナルトは変装をしていたので普通の人間にはナルトだと分からなかっただろう。しかし、ナルトを見分ける眼に関しては他の追随を許さないヒナタには一瞬であれがナルトだと分かった。結果、何の心の備えもなく好きな男の子のアレをガン見してしまったヒナタは、羞恥心で体がフリーズして目を逸らす事が出来ず、じっくり20秒間も見つめてしまった。その為、此処に来るとついあの時の光景を思い出してしまい、赤面してしまうのだ。

 

(…お、おっきかったな…ナルトくんの……)

 

無意識にそんなことを考えてしまい、頭をブンブンと横に振る。顔が火照り沸騰してしまいそうな程体が熱い。

 

「は、早く終わらせないと」

 

取り敢えずはヒナタは今は目の前の仕事に没頭することで煩悩からの脱却を図った。

 

✝️

 

そして、一週間が経ち、最終日。働きに満足した依頼主の好意により彼等はタダで風呂を使えることになった。

男子も女子もそれに喜ぶがリーだけは今日分の修行が終わっていないからと辞退する。

 

「残念ですが修行を休むわけにはいきませんから」

「風呂は九時までって言ってたぜ」

「はい!それまでには来れるように頑張ります!」

 

熱い誓いを立て修行に向かうリーを見送り、ナルト、サスケ、シカマル、チウジョ、キバ、シノは男湯に、サクラ、いの、ヒナタ、テンテンは女湯に向かった。

 

 

✝️

貸し切りの女湯で寛ぐサクラ・いの・ヒナタ・テンテンの四人。しかし、ヒナタは終始胸を隠しており、全然くつろげていないようだった。それに気付いたサクラがどうせ貸し切りなんだからと、楽にするようにヒナタに促す。

 

「私達だけなんだし、別に隠さなくていいんじゃない?…もっとゆっくりお湯に浸かれば?…気持ちいいわよ」

 

サクラはゆったりとやや上を見ながら言う。サクラの慎ましやかながらハリのある胸が水中から陽炎のように覗く。

それを見たヒナタは何故か困ったような顔で胸の上に置いていた腕を下ろす。瞬間、二つの大きな球体は浮力に押し上げられるように水面から完全に顔を出した。

 

「な…なんか…浮いて…きちゃって…」

 

何かとんでもない事を言い出すヒナタ。サクラは開いた口が閉じれない。ヒナタは驚愕するサクラを他所に、慌てて胸の上に腕を置く。

 

どうやらあの腕は胸を隠していた訳ではなく、胸が浮いてこないように上から押さえていたらしい。いや分かるか!………一体どんな胸をすれば風呂で浮いてくるなんて現象が起こるのか。少なくともサクラは人生一度もそんな経験はない。それ以前に肩が凝ったためしすらない。何だか自分で言ってて悲しくなってきた。

サクラはそそくさと体勢を整え、自分の胸を隠すように風呂に潜り、羨ましげに嫉妬の孕んだ目でヒナタの胸を見る。

 

(ヒナタが何時も羨ましく思うわ……あの膨らんだ胸だけは……)

 

 

 

一方、男湯でも色んな騒ぎが起きていた。ナルトがシノの股間の大きさに衝撃を受けたり、さらっとキバが恐ろしい事を言ったり、キバが二人いると思ったら片方が赤丸だったり、その赤丸が転がしてしまった石鹸にチョウジが足を取られそのままクルクル回り肉弾戦車のようにお湯に突入したり、その結果お湯を大量に減らし皆に怒られたり、シカマルのアドバイスでチョウジが部分倍化の術を行い減った湯量を調整したり、……他にも大小様々な珍事が起こった。

ナルト達男組は女子四人組以上に貸し切りの温泉を楽しんでいた。

 

そんな中で、唐突に女湯から悲鳴と破壊音が響く。悲鳴だけなら虫でも出たのかと思うが、破壊音まで響くとなると只事ではない。ナルト達は「何があったのか?」と心配になり女湯へと向かう。そして、ナルト達(サスケ以外)は堂々と女湯の暖簾を潜り、乗り込んでいった。

 

(こ、こいつら…女湯に入る動作に躊躇いがねえ…俺も……く、ダメだ……俺には女湯に入ることなんて……とてもじゃねえが出来ねえ…)

 

ただ一人、サスケだけは女湯の脱衣所に入ることが出来ずに、暖簾の横で壁に背を預けて会話を聞いていた。

すると、破壊音の原因はリーが天井を突き破り脱衣所に落ちてきた音で、それによりリーが覗きをしていたのだと疑われているようだ。普段のリーの行動を考えれば、修行を覗きの理由に捏ち上げるなどまず考えられない。それに皆を騙して私欲を満たすような奴でもない。ほぼ100%濡れ衣だろう。

しかし、壁越しに意見を言うのもバカげている。

サスケは取り敢えず自力での弁解を期待し、推移を見守ることにした。

 

 

✝️

 

風呂から上がったサクラとテンテンは並んで着替えをしていた。

 

「はぁー良い湯だったわー。労働の後の一っ風呂は格別ね~」

「テンテン、オッサンみたいよ」

「いいのいいの、どうせ誰もいないしね。そんなことよりサクラあんたエロい下着履いてるわね~」

 

バスタオルで体を拭きながら仕事帰りのサラリーマンのような事を言うテンテンに、サクラは呆れた顔をする。しかし、テンテンはサクラのやや失礼な言葉にも一向に気にする気配はなく、よっこらせ、と椅子に座りながらパンツを履きつつ、目敏くサクラの下着を見て驚いていた。

テンテンの前世はおっさんかもしれないとサクラは思った。

 

「なんかそれ卑猥よ」

 

 

サクラが履こうとしていたのは大人びた赤いレースのパンツ。テンテンの言う通り、どことなくエロスを感じずにはいられない意匠であり、とても13の子供が履くようなものではない。

 

「こう言うのは大人っぽいって言うのよ」

 

サクラは腰に手を当て堂々と言う。

その姿を見てやっぱりエロいとテンテンは思った。

 

ちなみに関係のない話だが、この下着は春野カンパニーの系列会社が出している高級下着らしい。下着の癖に3万両もするのだとか。

 

3万両って…私の一ヶ月の食費とほぼ同じだよ…

 

と、テンテンは衝撃を受ける。

 

「なんか今日は色々カルチャーショックが大きい日だわ…(ヒナタの胸浮き事件しかり、サクラのエロ高級下着事件しかり)」

 

一般家庭かつ平凡なスタイルのテンテンにはどちらも想像の埒外の話だ。

 

これが格差社会ってやつなのね

 

サクラはいきなり悟ったような目をするテンテンに首をかしげたが、まあ、いいかと思い、服を着る。

サクラが着たのはアオザイのように腰上まで4つのスリットが入った赤いノースリーブの服で、背中に春野家の家紋が入っている。

春野家の家紋は〇に十字が入った柄で、忍社会に限定しなければ「うちは」や「千手」より有名な家紋だった。

それはそうとノーブラで服を羽織ったサクラに、テンテンはスポブラを着けながら指摘する。

 

「ブラくらいつけないと胸の形崩れるわよ」

「私ブラは付けない派なのよ…窮屈なのは嫌いなのよね…それに崩れるほどの大きさなんて無いから大丈夫大丈夫」

「でも、ノースリーブなんだから付けないと横から見えちゃ…て?…え?サクラ?」

 

テンテンは、サクラの反応がないので、いぶかしみ、横を見ると、横にあった顔が無くなっていた。視線を下にずらすと、座り込み、胸に手を当てるサクラがいた。

どうやら自分で言った言葉に自分で多大なショックを受けたようだ、全身から暗いオーラを出し、「私にもまだ希望が…ママはおっきいから…」などと余計悲しくなるような事を言う。

 

テンテンも自分の胸を触った。サクラほどではないにしろ、立派とは言い難いサイズ。ヒナタの巨乳を見た直後だから余計小さく感じられる。テンテンもテンテンでショックを受ける。

 

と、丁度その時、タイミングが良いと言うべきか、悪いと言うべきか、ヒナタが風呂から上がって出てきた。

たゆんたゆんと大きな胸を揺らしながら近づいてくるヒナタ。

それを見て、貧乳二人組の目がくわっと見開かれる。

 

サクラは幽鬼のようにフラフラとヒナタに近づくと「そういえば、おっぱい改めをしてなかったわ」と訳の分からない事を言い、ヒナタの胸を揉みしだきだした。

 

「…どう考えてもこの年でこの大きさは可笑しいと思うわ。一体何食べたらこうなるのよ」

 

赤面して悶絶するヒナタに、私怨を感じるように執拗に揉みし抱くサクラ。ヒナタは堪らずテンテンに救いを求めたが、テンテンも一緒になって揉みしだきだす。

 

「ひゃ…あん…だめ…」

 

そんな女の花園が広がる場所に唐突に場違いな音が響いた。

 

ドガガガン!!

 

爆音と同時に煙を上げて現れたのは修行していたはずのロック・リー。彼は修行の最中屋根を踏み外してしまい、そのまま此処に落ちてきたのだ。

 

一応言っておくが此処は女湯の脱衣所である。

 

そんな場所に──どんな理由があるにしろ──いきなり汗だくの緑タイツの男が落ちてきたらどうなるか?お察しの通り。阿鼻叫喚の絵図だ。

各々が各々なりの態度と言動で不埒者に対する警戒と怒りと羞恥を見せる。

つまり、ある者は悲鳴を上げ、ある者は素早く着替えをすまし、ある者は額に青筋を立てて地面に倒れるリーを掴み起こす。悲鳴を上げたのはヒナタで彼女はサクラ達に胸を揉まれていたため未だ全裸であり、火照った頭で慌ててロッカーの影へと隠れる。その際余りに慌てすぎてタオルを落としてしまったヒナタは取り戻そうにも裸で出ていくわけにもいかず、出るに出られず固まっていた。一方、素早く着替えを済ませたのはテンテンだ。彼女はリーが落ちてきたときには既にトップスを残すのみだったため手早く羽織り、ささっとボタンを閉めたのだ。ちなみに、サクラは着替え終わった後だった。正確にはスパッツをまだ履いていなかったのだがそれはまあ良いだろう。そして、最後のリーの襟首を掴み持ち上げたのは山中いのだ。彼女はドデカイ破壊音に驚き風呂から出て来たのだが、リーの姿を見つけると途端に目を吊り上げ、掛けてあったバスタオルを体に巻きつけ、倒れ伏すリーを持ち上げ、絞め落とさんばかりに持ち上げる。

 

「てめえ!ロックリー!修行とか言ってくせに覗きしてやがったのか!」

「ち、違います!こ、これは修行で通り掛かった時何かに引っ掛かって、ぐ、偶然の事故です」

「わざわざ風呂屋の屋根で?」白けた目を向けるテンテンに、「問答無用!」と殴り掛かろうとするいの。

丁度その時「なんだなんだ?」と男達が入ってくる。

 

「聞いてよ!リーが覗きをしてたのよ!」

「何だと!けしからん!見損なったぞリー!」

「覗きは良くない…なぜなら」

「抜け駆け…もとい見損なったぞリー!」

 

上からテンテン、ネジ、シノ、キバである。

各々言い分は違ってもリーが覗きをしていたことに異を唱えるものはいない。そんな彼等の反応にショックを受け涙ぐむリー。

 

「ちょっと待ってよ!皆本当の事かも知れないでしょ」

「そうだってばよ!ゲジマユはそんな事するような奴じゃ無いってばよ!」

 

リーの嘘をつけない性分を知っていたサクラは静止の声を上げる。それに続いて、そうだそうだ!と同意するナルト。いのは目を吊り上げて標的をナルトに移した。

 

「ナルトォ!!」

「へ……………?」

「まさかてめえも覗きしてたんじゃないだろうね!」

「ぐええ!!な、何でそうなるんだってばよ!俺ってば今此処に来たばっかだってばよ!」

「とぼけんじゃねないよ!てめえが女装して女湯入ったことは知ってんだぞ!一度あることは二度も三度も四度もある!疑わしきはボコれだ!」

「ちょ、誤解だってばよ!」

 

まさかの飛び火にナルトがあわあわと否定する中、リーが皆の間を走って風呂屋を駆け出る。

 

「やろう!逃げたぞ!」

「逃げるとは余計怪しい!」

「皆!追うわよ!」

 

テンテンの言葉に次々と出ていく同期達。

ナルトはようやくいのから解放され、赤くなった首筋を擦りながら「とんだ災難だったってばよ」とため息を吐く。

 

「はぁ…面倒だけどゲジマユを放っては置けないってばよ」

 

あのまま行けば私刑が始まりかねないと思い、ナルトは暖簾に向かって歩き出す。しかし、背後からヒナタの声が聞こえて振り返った。

 

「ナルトくん?」

 

ヒナタは思わず声が出てしまったと言う風に固まっていた。

 

「ん?なんだ?ヒナタもい──!」

 

ナルトもヒナタの姿を見て思わず固まる。

そこにいたヒナタは全身肌色だった。ヒナタは下着やバスタオルどころか布切れ一枚も身につけていない。しかも、手で隠すことすらなく、生まれたままの姿で立ち尽くしている。ナルトは、赤く紅潮した体に水を滴らせるヒナタの姿に、二の句が続かずガン見する。ナルトの視線の先にある双球。それは余りにも大きい果実だった。

 

(で、でけえ!ヒナタってあんなデカかったのか!サクラちゃんやシズネ姉ちゃんを軽く見下ろし、ミコトさんまで下に見て、あと少しで母ちゃんにも届きうるレベルだってばよ!)

 

同年代とは思えない大きさ。

エロの伝道師を自称するナルトも思わず言葉を無くしマジマジと見てしまう。

その熱い視線にようやっと気付いたのか、フリーズしかけていたヒナタは慌てて右手で股を左手で胸を隠す。しかし、大きすぎる胸囲はとても一つの腕で隠すには足りず、下乳も谷間も見えてしまう。何とか隠そうともがくも、上を隠そうと思えば下が見え、下を隠そうと思えば上が見える。慌てて落ちていたバスタオルを拾おうと手を伸ばすが緊張し過ぎていた結果体が上手く動かず自分で自分の足を引っ掛け転んでしまう。

 

「キャアッ!」

 

盛大に前につんのめったヒナタは四つん這いになるように転んでしまい、

 

「み、みないで」

 

頬を赤らめて下から手で股を隠すヒナタはどこのアダルトビデオかと思う。ナルトはさっと目を逸らした。これがカカシならガン見した上で、助けるとか言って近づいていただろう。ついでにあわよくば尻などを触っていただろう。しかし、二代目エロ仙人の名を襲名する予定のナルトでも、まだそこまでの境地には達していない。

 

ちなみに、ナルトは優秀な忍=変態だと確信している。綱手母ちゃんの話を聞いたり、三代目のじいちゃんや、エロ仙人、カカシ先生などを見ていると、そうとしか思えない。英雄色を好むって言葉があるらしいがきっとそう言う事なんだろう。

 

ちなみに、ナルトの解釈は以下の通りである。

 

初代火影 天然スケベ

 ↓

弟 二代目火影 ムッツリ

 ↓

二代目の弟子 三代目火影 ムッツリ

 ↓

三代目の弟子 自来也 覗き魔オープンドスケベ

 ↓

自来也の弟子 ミナト 不明だけどその他の系譜を見るに間違いなくドスケベなはず

 ↓

ミナトの弟子 カカシ エロ本好きオープンドスケベ

 

そして、カカシ先生の弟子であるナルトがこの木の葉の偉大な忍の系譜を受け継ぐのである!

 

(サスケじゃなくて俺が受け継ぐんだってばよ!)

 

ナルトは真の忍になるにはエロ道を極めることが必須条件だと確信していた。

 

まあ、それは兎も角、ナルトと着替えを済ましたヒナタはリーを追って風呂屋を出た。とは言え、色々あって時間が立ちすぎてしまったので見つけ出すのは困難かと半ば諦めかけていたのだが、幸いと言うべきかリーは風呂屋の程近くで捕まったらしく、皆に囲まれ、詰められていた。

 

「ちょっと待てって!みんな!ゲジマユはそんな奴じゃねェ!ゲジマユは俺らの仲間だぞ!やってねーってんならやってねー!仲間を信じろ!!」

 

ナルトはリーの前に走り出て、両手を広げ、庇うようにして、立ち塞がる。

ナルトの真剣な表情と言葉にリーは感動し、ヒナタは嬉しそうに顔を赤らめ、他何人かも気まずそうに目を逸らした。しかし、アカデミーで女子グループのトップに君臨していたいのはそう簡単には流されなかった。

皆に訴え掛けるように強い目をするナルトの頬をガシッと左手で掴む。

 

「はにふんだっへばお!(何すんだってばよ!)」

「言ってることは確かに一理あるわね……でもね、覗き魔のてめえが言っても全然説得力ねえんだよ!てか、これだけ庇うってことはやっぱりてめえも覗いてたんだろ!白状しやがれ!」

「ちょっと待て、いの。ナルトは確かに俺達と一緒に風呂にいたぜ…覗くのは不可能だ」

「キバ、あんたコイツの得意忍術が影分身の術だって忘れてない?影分身ならその場にいた痕跡を残さず覗くことが出来るのよ?」

「た、確かに!」

「いや、確かに、じゃねえよ!やってないからな!」

「うるせえ!問答無用!疑わしきはボコる!」

 

そこに救いの手が差し伸べられる。ヒナタだった。

 

「ナルトくんはそんなことやってないよ」

「いや、だが、こいつには前科が」

「だって、視線を逸らしてくれたもん」

「ん?」

「ヒ、ヒナタァ~、今それを言うのはマズいってばよ」

「視線を逸らしてくれたってどう言うこと?」

「そ、それは……」

 

ヒナタは初め言い淀んでいたが、皆に詰められポロポロと話し出してしまった。

結果、この場は完全にゲジマユを断罪する場からナルトを断罪する場へと変化した。

 

「ナルト、いくら友達でも許せねえことはあるぜ…よりによってヒナタの裸を見るとは」

「わんわん!」

「同じ班員として無視は出来ない話だ…なぜなら」

「てめえ!やっぱり覗いてたんじゃねえか!」

「いや、今の話聞いてただろ!完全な事故だってばよ!」

「見損なったぞナルト!追ってこないから変だと思っていたが、ヒナタ様にそんな不埒な真似をしていたとは!くそっ!一生の不覚だ!」

「いや、だから!皆俺の話聞いてるかってばよ?!完全に事故だっただろ!てか、サクラちゃんも何で傍観してるんだってばよ!ゲジマユの時みたいに助けてくれってばよ!」

「リーさんは覗きとかしないと言いきれるけど、ナルトは有り得そうだからね」

「…同じ班なのにこの低評価」

「それに私の裸も見たじゃない」

「な、何で今その話を…いや、確かに見たけど…」

「てめえ、ヒナタだけじゃなく、サクラの裸まで見てたのか!」

「あれは事故だってばよ!サクラちゃんが勝手に勘違いしただけだってばよ!」

「そんな都合良く事故ばかり起こるか!」

「そうだ!うらやまけしからん!」

「証拠はボコってから探してやる!」

 

ボゴボゴボゴボゴ!!

 

 

 

「うう~、酷い目にあったってばよ……」

 

その後、這う這うの体(ほうほうのてい)で家の前まで帰ってきたナルトは、綱手とシズネに暖かく迎え入れられるのだった。温かいご飯が傷付いた体に良く染みたと言う。




気付いた人もいるかもしれませんが、『ROAD TO NINJA -NARUTO THE MOVIE-』を見て書いた話です。面白かったです。


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木の葉崩し5 シノVSカンクロウ

原作とほぼ同じなので結構カットしました。


「サスケの奴…焦りやがって」

「で、何で俺が駆り出されんだよ」

「そりゃあんたが一番引き際を弁えてるからじゃない?」

「……なるほどな…ナルトのストッパー役ってことか……めんどくせえ…」

 

サスケの助太刀の為、サスケを追うナルト、シカマル、サクラは木の上を移動しながら言葉を交わす。

 

「んで、後どんくらいで追い付くんだ、犬さん?」

「分からん…向こうもかなりの速さで移動してる。ん?」

「どうした?」

「追っ手だ…8いや9人いる」

「ついてねえ…こんな時に追っ手かよ」

「速度を上げるぞ…引き離す」

 

 

 

 

 

一方、その頃、ナルト達の前を走るテマリ達は当然のごとく追っ手が増えたことに気付いていた。

 

「追っ手が増えたか?二人…いや、三人」

 

テマリは一度足を止め、木に耳を当て足音を聞く。

 

「どうだ?テマリ」

「一つはかなり近いな…直ぐそこまで来ている…あたしに任せてあんたたちは先行きな」

 

テマリはガアラを抱えたカンクロウを先に行かせ、自分は簡単な起爆札トラップを仕掛けてから戻ることを伝える。

 

しかし、追跡者は中々優秀な奴のようだ。起爆札トラップ程度では大した時間稼ぎにもならなかった。

ほどなくして追跡者……うちはサスケはガアラ達三人の背を目視に捉える距離までやってくる。

 

「しつこい野郎じゃん」

「クッ!ガアラがこんな時に…!」

 

サスケの姿を見たカンクロウとテマリは更に速度を上げる。

しかし、ガアラを抱えている状況でサスケを振り切るのは不可能だ。ガアラは小柄とは言えもう12の少年。それなりの体重を持つ。それにガアラの体は重量な砂の鎧で覆われており、常に大量の砂の入った瓢箪を抱えている。いくら英才教育を受けたカンクロウでもこれ程の重りを背負っていれば出せる速度には大きな影響が出た。このままいけば遠くない未来に捕まるのは目に見えている。つまり、ここでの最適解は一人が殿となり他二人が逃げる時間を稼ぐと言うもの。

そこまで考えカンクロウは結論を出す。自分が捨て石になると言う結論を。

 

「テマリ」

「ん?」

「ガアラを頼む」

 

カンクロウはチラリと肩に乗る弟を見た。

 

ガアラは砂の人柱力──砂の切り札だ。絶対に他里の忍に渡すわけにはいかない。何を置いても守らねばならない兵器。これは任務だと、そう割りきれたら楽だったんだろうが…。

だが、今カンクロウを突き動かすのは忍としての責任感なんてものじゃない。

普通の兄弟とは違っても、どれだけ恐ろしくても、ガアラはカンクロウにとってたった一人の弟だった。

それをみすみす敵に渡すわけにはいかない。

兄としての責任感がカンクロウを突き動かす。

 

「…お前はガアラを連れて先に行け…」

 

だから、カンクロウは自然と捨て石になる覚悟が出来た。

 

「早く行け…ガアラのことを最優先させろ…」

 

カンクロウはガアラの頭を一回撫でると、テマリに預ける。

テマリもカンクロウの目を見て、その覚悟と意思を感じとり、首肯く。

 

「分かった…死ぬなよ…カンクロウ」

「心配ねえって…十分もあれば終わらせて戻ってくるじゃん」

 

カンクロウは軽口を叩き、テマリを見送り、背負っていた傀儡を取り出す。

 

「そう言うことだ…仕方ねえからお前の相手…俺がしてやるじゃん」

 

対峙するサスケとカンクロウ。

時間稼ぎを目的とするカンクロウに対し、サスケはさっさとガアラを追わねばならない。

しかし、目の前の敵は片手間に相手を出来るほど甘い相手ではなかった。

 

予選の試合を見ただけでもその実力は充分察せられる。少なくとも中忍以上…下手したら特上クラスの実力者だ。さらに、勤勉なサスケは傀儡師の使う毒の厄介さも知っていた。傀儡師の毒はかすっただけでも致命的となりうるものばかりで、ガアラを追うためには全ての攻撃を完璧に避けねばならない。そのことを考えれば、あのテマリとかいう風遁使いの女よりも厄介な相手だった。

 

サスケは内心舌打ちしつつもカンクロウから目を逸らさず、腰を落として臨戦態勢に入る。そして、一歩を踏み出そうとして─────制止の声が掛けられた。

 

「待て」

 

現れたのは丸いサングラスをかけて口元まで隠す襟の高い白コートを着た、素顔がほとんど見えない黒髪の少年だった。

しかし、少年がどちらサイドの人間なのかは直ぐに分かる。

少年の頭には木の葉マークの額当てがあり、カンクロウと対峙するようにサスケの隣に立ったからだ。

カンクロウは木の葉の援軍に面倒が増えたと内心舌打ちをする。

一方のサスケはカンクロウから目をそらすことを良しとせず、隣を見ることこそなかったが、良く聞き知った声に誰が来たのかは直ぐに分かった。

サスケは驚きつつも口角を上げ、名前を呼ぶ。

 

「シノか。よく此処が分かったな」

 

「お前が砂の忍を追うのは見えていた。だから、俺は試験会場を抜け出したお前の後を追うために、お前の体にメスの寄壊虫を飛ばしておいた。なぜなら、オスの寄壊虫はどれだけ離れていても同種のメス匂いを嗅ぎとる事が出来るからだ。あとはその匂いを辿りに来たと言うわけだ」

 

シノは何時もの説明口調で此処に来た方法を語る。

周りが静かなせいか、何時もは皆の声にかき消されてしまうシノの声が良く通る。

平坦な事実のみを述べる声だ。

そして、さらっと説明では流されたが、どうやらシノは自力であの幻術を解いたようだった。そうでもなければ直ぐに試験場を出たサスケに寄壊虫を飛ばすことなんて出来ない。

相変わらずしれっと優秀さを見せるシノにサスケは頼もしさを感じる。

 

「うちはサスケ…お前はガアラを追え…俺はコイツとやる…なぜなら元々コイツの相手は俺だったからだ」

 

再び平坦な声で断言する。

 

シノは明らかに下忍の域を出た優秀さを持つ忍だ。あのまま中忍試験を行っていたら普通に中忍になれていただろうと思うほどに。智勇兼備の優秀さを持っている。

しかし、目の前の敵もそれは同じ。いや、知力の方は知らないが、少なくとも実力は中忍の域を出た強者だ。そして、カブトの言葉を信じるならば、実践経験は此方の比ではない。

 

「大丈夫か?コイツは強いぞ」

「心配はいらない…十分もあればお前の援護に行ってやる」

「ふ、そうか…なら頼むぞ」

 

サスケはシノを信じ、カンクロウの隣を通り過ぎていく。

カンクロウは足止めをしたかったが、シノの強さを肌で感じ取り、仕方無しにサスケを先に行かせた。

 

「早く終わらせてあのサスケって奴を止めに行くじゃん」

「心配せずとも直ぐに終わる…むろん、勝つのは俺だがな」

 

シノとカンクロウの戦いが始まった。

 

その後の展開はほぼ原作と同じとなった。

まずシノが初め蟲使いらしからぬ虚を突いた特攻で攻撃をしかけた。カンクロウは虚を突かれつつも、無難にそれを避ける。しかし、額当てに蟲を一匹くっつけられたことは気付けなかった。

シノが付けた蟲はメスの寄壊虫。

先程説明したようにオスの寄壊虫はメスの寄壊虫の匂いをかぎ分け、居場所を特定出来る。

これにより、たとえカンクロウが隠れても何時でも居場所を探知できる布石を打ったのだ。

傀儡師としてのカンクロウの腕を信じていたシノはこの森の中でカンクロウを見失うことの危険性を充分理解していた。

その後の攻防はややカンクロウ優位に進む。

カンクロウの得意とするチャクラ糸を自在に操る「傀儡の術」と、全身にあらゆる武器を仕込んだ傀儡人形「烏」が火を吹いた。

しかし、シノもさるもので、蟲分身で敵の目を欺いたり、チャクラを食べる蟲に傀儡のチャクラ糸を切断させたり、逆にチャクラ糸を伝って敵へ蟲を向かわせたりして、前方に注意を向けさせ、カンクロウの額にいるメス目掛けてカンクロウの後方に集まっているオスの寄壊虫への注意を逸らしつづけた。最後は「秘術・蟲玉」──寄壊蟲で相手の身体を隙間なく覆う秘伝忍術──で、敵のチャクラを食い尽くし、カンクロウを戦闘不能に変える。しかし、シノ自身もカンクロウが放った毒煙玉により体が毒に犯され、戦闘が終わった途端気絶し、両者戦闘続行不可能により引き分けとなった。

 

 



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木の葉崩し6 ナルトVS我愛羅

ナルトVS我愛羅!
ついに開始!
我愛羅が強化されてます。ご注意を!


 

一方のサスケはシノの手助けもあり、程無くして我愛羅に追い付いた。直ぐにサスケに気付いたテマリが我愛羅を守るためサスケと戦おうとするも、我愛羅に突き飛ばされ、そのままサスケと我愛羅の戦いが始る。

初めは写輪眼による見切りでサスケ優位に戦闘が進むが、我愛羅が右腕を尾獣化させたことにより、均衡は反転。サスケは我愛羅の圧倒的なパワーと砂の防御力の前に追い詰められていく。

尾獣化した我愛羅の腕はサスケの体術や武器術では全くダメージが与えられないほど堅固な体になり、まさにアリとゾウの戦いのようになった。

 

「どうした…?……お前の力はその程度か…?……うちはサスケェ!?」

 

サスケは殺傷力を上げるため起爆札を付けたクナイを投擲するがもはや我愛羅は避けることすらしない。巨大な砂の右腕を前に出してガードする。クナイが腕に突き刺さり、起爆札が爆発し、パラパラと表面の砂が弾け飛ぶ。だがそれだけだ。

 

「弱い…弱い…弱い…」

 

我愛羅は嘲笑を浮かべながら語る。

 

「お前は弱い…なぜか分かるか?…他人の為に戦っているからだ…!」

 

我愛羅はギラギラとした目で持論を展開する。

 

「戦いとは誰かの為にやるものではない…戦いとは他者と自分の存在を懸け殺し合うことにこそ意味がある…そして、勝った者だけが己の存在価値を実感できるのだ…さあ、俺に生を実感させろ…うちはサスケェ!!」

「ごちゃごちゃと訳の解らんことを」

 

サスケは、我愛羅の理解不能な理論に恐怖を感じつつも、冷静な頭で思考する。

 

──このまま普通の攻撃を繰り返してもダメージを与えるのは難しい。顔や首に決まればあるいはだが、当然そこは敵も警戒している。当てるのは至難の技だろう。それに、いずれ体力が尽きれば、捕まるのが関の山。ここはデカイ一発でガードごと敵をぶっ飛ばし、勝機を探る。…それに俺の千鳥が今のアイツにきくのか確かめなきゃならない。千鳥すらガードを貫通できないならもはや此処にいてもリスクしかない。悔しいが逃げるしかないだろう。

 

やることは決まった。

 

すなわち、切り札を切る。

 

サスケは決断と同時に煙玉を使って一度距離を取り、木の影に隠れ、千鳥の準備を始める。左腕にチャクラをため、性質を雷に変化させ、さらに威力をためる。腕が紫電を発し、ほどなくして、充分な威力が貯まるのを確認し、サスケは我愛羅の様子を探る。

 

我愛羅は怒声と挑発を交えながら時に腕を振るい、キョロキョロと辺りを見渡していた。

此方に気付いた様子はまだない。

サスケは予め口寄せしておいたカラスに起爆札を投下させる。

耳をつんざく爆発音。

我愛羅が驚き、苛立たし気に後ろを向いて腕を振るった、その瞬間。

 

「い………けッ!」

 

サスケは自分を鼓舞すると同時に全力で地面を蹴り飛ばし、我愛羅のいる場所へと一直線にダッシュする。

一歩で4mの距離を無くす。さらに、我愛羅が此方に気付くまでの僅かな時間で半分の距離を詰める。

敵との距離約20m。

その時点で、サスケの居場所に気付いた我愛羅が後ろを振り返り、腕を動かす。

斜めに振るわれる砂の巨腕。

それをスピードを落とさず、身を屈めることにより避け、さらに、巨大な腕を逆手に取って死角に入る。

 

しかし、我愛羅もさるもので、砂の腕をハリネズミのようにトゲトゲにして炙り出しにかかる。

 

眼前に迫る無数の針。

それは刻一刻と長さを増していく。

後三秒もしない内に自分の体は串刺しになるだろう。

完全に自分の行動が裏目に出てしまった。

しかし、絶対的なピンチと極度の集中状態、死の恐怖がサスケの生まれ持った戦闘センスを開花させる。

 

(こんな場所で死んでたまるか!)

 

サスケの左腕、バチバチと不規則に揺れる雷が1つの形に収束される。それは剣のように見える。

サスケはそれを上へと振り上げる。

針ごと砂の腕が半ばまで割れ、傘のように一瞬の安全地帯が出来る。

 

「うおおおお!」

 

サスケは千鳥をそのまま維持したまま、腕を縦に割るように切り裂きながら我愛羅の元へと走る。

 

性質変化の相性では雷は土に有利だ。そして、土の派生系である砂にも有利。

雷の剣は見事に我愛羅の尾獣化した右腕を切り裂く。

肘から肩にかけて割れていく体。

 

「ちぃ…!」

 

我愛羅はとっさに背中から三本目の腕を生やし、後方の木を掴んで引っ張ることで強引に脱出する。

 

「ぐう……」

 

サスケから20mほど離れた枝の上で肩を押さえる我愛羅。

痛みにくぐもった悲鳴を上げる。

肘からポタポタと赤い血が流れている。

サスケは初めての有効打にニヤリと笑いそうにり、しかし、突然の我愛羅の高笑いに顔をしかめる。

 

「ク…ククククク…」

 

楽しいから笑っているのではない。

愉しいから笑っているのだ。

それは追い詰められた弱者が自分を震い立たせるためにする笑みではない。

絶対的な強者が弱者に見せる捕食者の笑みだ。

 

サスケは気付かされた。今の命をとした攻防すら我愛羅にとっては戦いを彩るためのスパイスでしかないのだと。

 

「…………」

 

さらに、悪いことにサスケが切り裂いた砂の右腕もいつの間にか繋がり、元に戻っている。いや、正確には元に戻った訳ではない。一回り以上も大きく太く変わり、より凶悪に変わったのだ。しかも、今度はおどろおどろしい尾獣の尻尾まで生えるオプション付き。

こんなオプションは嬉しくないとサスケは内心さらに顔をしかめる。

 

「…今のは中々殺意の乗った良い攻撃だったぞ…では、今度は俺が技を見せてやる」

 

──風遁・砂手裏剣の術

 

我愛羅は自らの腕を構成する砂で無数の手裏剣を作って乱れ打つ。巨大な怪腕を振り回して放たれる砂手裏剣は容易く木々を貫通する。散弾のように飛来する無数の手裏剣。正確性こそそこまでではないものの、これほど数が多ければ多少の正確性など関係ない。

いや、それより問題なのは自分の行動が制限され、誘導されていると言うことだ。手裏剣が右から右からやってくるので、避けるために自然と左に体が動く。だが、その先には恐らく罠がある。これほど解りやすい誘導なのだからほぼ間違いないだろう。しかし、かといって、右に進むのも危険だ。だったらどうするばいい?簡単だ。活路は前か後ろ……距離を取って策を練る時間を稼ぐか、危険を犯して距離を詰め本体を叩くか…。

 

結論は直ぐに出た。

 

(格上相手に距離を取ってもジリジリと追い詰められるだけだ…何より俺の遠距離攻撃じゃダメージを与えられねえ…距離を詰めて千鳥で叩く!)

 

「───っ!」

 

サスケは再び写輪眼を全開で駆動させ、全力で地面を蹴り上げる。

 

眼前に迫る十数個の砂の手裏剣。その内、自分に当たる軌道は六つ。

しかし、よくよく見てみると全てが同時に来るわけではない。少しずつだが時間差がある。

 

サスケは極限の集中により拡張される思考の中で、順番を正確に記憶し、ほぼ一瞬でイメージを固める。そして、それになぞるように体を動かし、雷の刀を振るう。ヴォン!と勇ましい音。直後、白い残像を残しながら三つの手裏剣が霧散する。さらに、間を置かずに腕を振るい一つの手裏剣を消し飛ばし、返す刀で残り二つを消す。

ほぼ同時に、当たらないはずの8つの手裏剣が真横を通りすぎる音を聞いた。それに恐怖で足がすくみそうになるのを歯を食い縛って耐え、さらに疾走する。

 

残る敵との距離は10m。

自分の腕の長さが30cm、千鳥の最長幅が60cm。残り約9m弱。

 

無数の手裏剣の間を縫うように体を動かし、避けきれないものだけを刀で斬り捨てる。

 

後7m。

 

一瞬一瞬で出来うる限りの最適な行動を導き続ける。

 

後5m。

 

頬や肩、足に深い傷が増えていく。しかし、必要経費と割り捨てて、ひりつく体を無視して、突き進む。

 

後3m

 

敵がいよいよ眼前にまで迫ってきた。

いける!という思いが混み上がり、緩み方にそうなる歓喜を無理矢理活力に変えて集中力を捻り出す。

 

これが正真正銘最後のチャンスだ。

チャクラ量的にも精神力的にも自分にはもう後はない。

絶対にここで決める。

狙うは心臓。

初めての殺しだ。

忌避感が無いわけがない。

しかし、その全てを仲間のためと飲み込み、駆ける。

 

敵との距離は2mを切った。

止めを刺すべく刀を振るうモーションに入る。

 

しかし、我愛羅まで後数歩と言うところで、不自然に柔らかい地面に足を取られ、僅かに体勢を崩した。

 

「──!」

 

それは隙と呼ぶには余りにも小さいものだ。

ガイとの修行の成果もあり、サスケの体幹は並の中忍を凌駕する。右足が踝辺りまで沈んだ程度なら充分に対処できるイレギュラーだった。

しかし、敵が格上で、この状況を呼んでいたと言うなら話は別だ。

我愛羅はサスケが足を取られるよりも前に腕を動かしていた。

 

「しまっ!「ふっ!」ぐう!」

 

生じた一瞬の隙を予定通り突き、我愛羅の砂の腕がサスケの体を捉える。そして、そのまま腕力に任せて、木の幹へとサスケを叩き付け、拘束する。

 

我愛羅は敢えて分かりやすい攻撃をすることでサスケに右か左かの二択を迫り、結果サスケが前への突撃と言う最も危険で正しく勇気の必要な判断をすることまで読んだのだ。そこで、予め柔らかくしておいた自分の前方の足場で足を取られる一瞬の隙を見逃さず、腕を伸ばし木に叩きつけたのである。

 

尾獣化が進むにつれ、我愛羅の力は飛躍的に高まっている。一方サスケはチャクラが枯渇している。しかも、体まで拘束され、もはや打つ手がない。

 

両者の格付けも、そして、勝敗も見えた。

 

我愛羅は砂を操り、一本の槍を作り出す。

 

「終わりだ…うちはサスケ」

 

「いや、終わらねえってばよ!」

 

槍が発射される寸前、金髪の少年…うずまきナルトが乱入し、サスケを拘束していた我愛羅の腕を螺旋丸で吹き飛ばす。

 

「ぐっ…ナルトか?」

 

サスケの前に仁王立ち、庇うように立つナルト。

 

「遅くなったってばよ!サスケ!もう大丈夫だ!」

 

遅れて桃色の長髪の少女…春野サクラもやって来る。

 

「ナルト、あんた速すぎるわよ」

 

サクラは乱れた息を整えながら、サスケをチラリと見て、眉を潜める。

我愛羅から切り離されたはずの砂の右手がまだサスケを拘束していたからだ。しかも、どうやら絞めつける力がどんどん強くなっているらしい。

 

「ぐぅ」

 

サスケが呻き声を上げる。

サクラはサスケが絞め殺されるよりも早く砂を壊そうと腕にチャクラを溜める。

桜花掌というサクラ得意の怪力忍術である。

その怪力の馬鹿げた威力を知っているサスケの顔が、心なしか更に青くなった気がしたが、きっと絞め付けがより強まったせいだろう。

 

「サスケ、ちょっと動かないで待ってなさい!今その砂壊すから」

「わ、分かった…慎重に頼む」

「任せなさい!」

 

サクラは砂を掴む。しかし、この砂思った以上に硬い。無理矢理壊すことも出来なくは無いだろうが、それをやるとサスケの方にまで被害が出そうである。仕方無しに、サクラは木の方をぶっ壊し、サスケを救出する。

 

「助かったサクラ」

「サクラちゃんナイスだってばよ!」

「ふふん、私もやるときはやるのよ!」

 

痛みに顔を引き吊らせ感謝を伝えるサスケに、胸を張ってどや顔するサクラ、グッドサインを向けるナルト、

仲間の救助成功に素直に喜び合う三人だが、それでも誰も我愛羅から注意を逸らすこと無く警戒して対峙する。

 

バケモノ

 

そう言っても相違ないほどに、今の我愛羅の相貌は人間からかけ離れていた。上半身は全て砂に覆われ、両腕は不自然なほど巨大化し、腕の先には鋭く強靭な爪が生えている。さらには怪物のような尻尾が背中から生え、結膜が黒く塗りつぶされた眼球は人の範疇を越え、人外へと足を踏み入れた怪物の証のようでもある。

 

「何だ? 怖くなったのか? このオレの姿を見て、怖くなったのか?」

 

我愛羅が楽しげに笑い、殺意を振り撒く。

そして、ナルト達を押し潰すべく、右手を振り切る。地面に大きな引っ掻き傷を作りながら三人に向かう衝撃波だったが、サクラが怪力で地面をひっくり返してそれを止める。

 

「土遁・卓袱台返し!」

 

土遁とか言ってるが只の力業である。

しかし、防げるなら何でもいい。

 

ナルトは、我愛羅への恐怖からやや及び腰になりそうになっていたが、サスケを庇うようにして立つサクラと、満身創痍のサスケを見て自分を奮い立たせる。

 

「サクラちゃんはサスケを連れて下がっててくれってばよ!ここは俺がオヤビンを呼んで蹴りをつけてもらうってばよ!」

「オヤビンってガマブン太様の事?」

「確かにあのカエルならコイツにも」

 

ナルトの言葉に勝機を見い出だし大人しく下がる二人。

ナルトはチャクラを捻り出し、ブン太を口寄せすべく印を組む。

 

「来てくれ!オヤビン!口寄せの術!」

 

ポンッと煙が上がった。それは小さすぎる煙だった。ナルトはイヤーな予感をヒシヒシと感じて煙の先を見る。そこにいるカエルを見てナルトは唖然と口を開ける。言葉が続かないとはこの事だ。

 

「おま!おま…………おままままま、お前ぇ!」

 

──い、いくらなんでもこの状況で失敗はねえってばよ!

 

失敗した口寄せの呼び出しに応じてやって来たのは橙色の掌サイズのカエルだった。とても可愛い。とても可愛いが…どう考えても戦えるサイズじゃない。なんなら戦場にはいない方がマシな気さえする。しかも、当のカエルはこの状況を分かっていないのか「あんじゃ、ナルトじゃねえか…用があるならお菓子くれやぁ」なんて呑気な事を言っている。ナルトの頭は色んな意味でキャパシティーをオーバーし、逆ギレ気味にプツンと切れた。

 

「だあーー!お前はお呼びじゃねえんだってばよガマ竜!」

「 俺はガマ竜じゃなくてガマ吉だ」

「んなんどっちでもいいってばよ!オヤビンは何してんだってばよ!」

「親父じゃったら今誰かに呼び出されとるけぇ妙朴山にはおらんでぇ」

「はぁああああ!うっそだろ!この人生で一番の大ピンチに!何処のバカだってばよお!勝手に呼び出しやがった野郎は!」

 

自来也である。

ナルトは頭を抱えて怒るが、そんな事をしてる間に痺れを切らした我愛羅の攻撃が飛来する。我愛羅からしてみたら期待して待っていた結果がこれでは嘲笑も浮かんでこない。時間を無駄にされたと怒り心頭な砂の攻撃を連続で行う。ナルトは慌てて避けるも上半身全てを砂で覆った我愛羅の攻撃能力とスピードは凄まじく、瞬く間に窮地に追いやられるナルト。

得意な影分身の術で応戦するナルトだが、どんどん怪物化する我愛羅には最早、どれだけ数を増やそうが焼け石に水でしかない。そして、とうとうナルトの右足が我愛羅の動く砂──砂縛柩に捕まる。

 

「ぐえ!」

 

足を捕られたナルトは地面に顔をぶつける。

しかし、痛みに顔をしかめている暇もない。砂は足から侵食するようにナルトの全身を覆っていく。

 

「や、やべえってばよ!」

 

もちろん、この間サクラやサスケも只見ていた訳ではない。何とか助け出そうと動いていたが、もう片方の腕と尻尾で牽制されて近付くこともままならない。

 

「ナルト!口寄せだ!カツユに守ってもらえ!」

 

ナルトは一瞬慌てるもサスケの声に即座に反応して事態を打開するためにチャクラを練る。

 

「頼むから今度こそ来てくれってばよ───」

 

ナルトは急いで印を組み上げる。それはナルトにして充分早い印スピードだった。しかし、半尾獣化した我愛羅の砂を操るスピードは凄まじく、完全に印が組み上がるよりも前に、ナルトの全身が完全に砂の中へと埋まる。ナルトの全身に軋みがかかる。全方位から有り得ない圧力がかかる。その圧力により印を組むことはおろか、ピクリとも動くことすら出来なくなる。口寄せの印はまだ完成しておらず、カツユを呼び出すことは出来ない。もはや自力での脱出は不可能。しかし、サクラもサスケも足止めにあい、助けに行くことが出来ない。当然我愛羅は情けも容赦もしてくれないだろう。絶体絶命。万事休す。

 

(う、嘘だろ…俺…ここで死ぬのか…)

 

絞め付けが強くなり口から血が流れる。

 

(悪いってばよ…母ちゃん…姉ちゃん…サスケ…サクラちゃん…カカシ先生…みんな…)

 

「終わりだうずまきナルト──」

 

我愛羅が掌を握り潰す。

 

「砂瀑送葬!」

 

瞬間、砂から赤い何かが噴出した。

 

「ナ…ナルト?」

 

サスケとサクラは瞳を揺らしてナルトがいた場所を見る。信じたくない。信じられない。

あのナルトがこんな簡単に死ぬなんて。

 

砂埃が激しく煙の先は見えない。しかし、弾け飛んで来た赤い血がナルトの末路を教えているようだった。

 

「ううおおおおおお!」

 

サスケが咆哮を上げる。チャクラなどほとんど枯渇していたはずなのに、体の底からチャクラが沸き上がってくる。憎しみに呼応するようにおどろおどろしい紫色のチャクラが体を包む。アイツを殺せと、仇を討てと、全身が訴えてくる。

サスケはその憎しみに身を委ね、一歩を踏み出そうとして────

 

「し、死ぬかと思った…マジで助かったってばよ」

 

有り得ない声が聞こえた。

サスケの憎しみはその声を聞き、急激に霧散していく。

そして、唖然と煙の先を見る。

中から現れたのは禍禍しい赤い妖狐のチャクラで身を包んだナルトだった。

実はナルトが殺されそうになったあの一瞬、クラマがナルトを守るようにチャクラを噴出させ、砂を弾け飛ばしたのだ。その余波を受け、ナルトが持っていた悪戯用の赤いペイント弾が誤爆し、その一部がサスケ達の方へと偶然飛んだと言う顛末である。

 

なんとも肩透かしな顛末だが、しかし、危うく、冗談ではなく死に掛けたナルトは全身から冷や汗を流しながらクラマに感謝を伝える。

 

「本当に!マジで!助かったってばよ!クラマ!」

(ふん…丁度暇だっただけだ…なにより代理とは言え一尾の守鶴ごときに負けるのは気に食わんしな…)

「守鶴?クラマってば、何か知ってんのか?」

(そこの我愛羅とか言うガキはお前と同じで尾獣を体内に封印されている…一尾の人柱力だ…守鶴って言うのは一尾の名前だ)

「あいつ人柱力だったのかってばよ!どうりで強いわけだってばよ!」

(おしゃべりはその辺にして目の前の敵に集中しろよナルト。敵は何かするつもりだぞ)

 

我愛羅はナルトを仕損じたにも関わらず、心底愉快に笑っていた。

 

「ク…ククククク…フハハハハ…」

 

我愛羅の顔に浮かぶのは狂喜。他人の弱さを嘲笑い、強い者を狩ることを至上の悦びとする獣のおぞましい哄笑だ。

 

「いいぞ!…いいぞ!うずまきナルト!」

 

我愛羅はナルトの予想以上の強さに歓喜を浮かべる。その歓喜に呼応するように小さな体から強大なチャクラが吹き出る。それは辺りに突風を引き起こし、周囲の砂を巻き上げる。

 

「それでこそ俺の獲物だ!…それでこそ殺す価値がある俺の獲物だ!」

 

我愛羅のおぞましい声。

ビリビリと空気を揺らす殺気。

さらに大きくなるチャクラと砂嵐。

そして、────

 

「俺も本当の力を見せてやる!」

 

瞬間一際大きな突風が吹き荒れ、獣が真の体を顕現した。

現れたのは、砂で形成された小山のような体躯と、それより更に巨大な多層型の一本尾を持つ本物のバケモノ。大地を覆うほどの巨大な狸のバケモノだ。

 

「オォォオオオオオォオオオ!」

 

そのバケモノは自身の力を誇示するかのように咆哮を発する。

 

(あれが砂の守鶴だ。気合い入れろよナルト!ボケッとしてると直ぐに死ぬぞ!)

「そんなん見れば分かるってばよ!」

 

ナルトは取り敢えずあのサイズに対抗するため本日三度目となる口寄せを行う。

三度目の正直。

今度こそ口寄せは完璧に成功し、守鶴にも劣らない巨大なサイズのナメクジが現れる。

 

「ようやっと口寄せの術成功だってばよ!」

 

ナルトに呼び出されたカツユは辺りを見渡す。どうやら此処は木の葉近くの森のようで、木の葉の里がある方では幾つもの煙が上がり、大量の血の臭いが此処まで飛んでくる。さらに、目の前には砂の守鶴。木の葉が襲われていることは綱手が呼び出したカツユからのフィードバックにより既に知っていたが、まさか砂の守鶴までいるとは、驚きである。

 

「カツユ!突然で悪いけどアレ倒すの手伝ってくれってばよ!」

 

「もちろん、構いませんよ」

 

ナルトの無茶苦茶な要請にも嫌な顔せず頷いたカツユは守鶴に対峙する。

完全なバケモノの体となった我愛羅はもはや自分の敵となるものなどこの世にいないとでも言うように不遜な態度でナルトに対する。

 

戦いが始まる数秒前。その僅かな間にクラマはナルトに忠告をする。

 

(いいか良く聞けナルト!あの大狸は尾獣玉っつう技を使う!黒い巨大な螺旋丸みたいな玉をぶっぱなす遠距離攻撃だ!あれに一発でも当たればお前なんて即あの世行きだから絶対当たるなよ!)

「当たるなよって言っても見ての通りカツユは早く動くのは苦手だってばよ!」

(それをどうにかすんのがお前の役目だろうが!)

「なんか今すげー無茶ぶりされたってばよ!」

(兎に角死にたくねえなら何か手を今すぐ考えろ!)

 

ナルトはうんうんと頭を捻る。

 

「そうだってばよ!合体変化だってばよ!母ちゃんがたまに使ってるやつだってばよ!」

(お前…そんな器用なこと出来るのか?)

「俺ってば変化の術と影分身の術だけは才能あるって皆にお墨付き貰ってるんだってばよ。それにカツユとなら何度か練習したこともあるから確実だってばよ」

(で、何になるんだ?)

「クラマだってばよ。実物知ってる方がやり易いんだってばよ」

(わしか…それなら多少は手を貸してやれるぞ)

 

ナルトはカツユに了承を得て合体変化を行った。

ボンッと言う音と共に巨大なナメクジは巨大な九本の尾を持つ狐に変化する。

 

「行くってばよ!カツユ!あ!でも!あっちはサクラちゃん達がいるから攻撃いかないようにしてくれってばよ!」

「分かりました」

 

カツユは四本の足で森を駆け、守鶴へ向かって舌歯粘酸(ぜっしねんきん)を放つ。狐の口から大量の強酸が吐き出され、守鶴の目と体を溶かしていく。さらに九本の尾が連続で振るわれ守鶴の横腹を往復ビンタする。

しかし、岩をも溶かす強酸の嵐も、木々を紙のように薙ぎ倒すほどの尻尾による攻撃も、瞬く間に傷が再生され、意味をなさない。唯一目だけは再生されなかったが、それでも不意打ちでの攻撃で戦果が実質片目だけではナルトもカツユも渋い顔になる。

 

「ぐうぅ…面白い…面白いぞ…うずまきナルト!」

 

我愛羅は片目を抑えながらも尚を楽しげに笑った。

 

「ここまで楽しませてくれた礼だ! 砂の化身の本当の力を見せてやる!」

 

何のためか、守鶴の頭からガアラの上半身が出てくる。

我愛羅の言葉から推察するには切り札のような物を使うようだが…

 

警戒しながら見ていると、カツユが説明してくれた。

 

守鶴の霊媒は常に守鶴と人格の奪い合いをしており、霊媒が起きている間は守鶴は本来の力を制限された状態にある。つまり、もしあの霊媒が眠りに入ったら、守鶴は百パーセントの力を出せるようになると言うことだ。そして、砂の里には代々「狸寝入りの術」と言うものがあり、これは、己に強制的に゛睡眠の術゛をかけ自ら眠りにつくことで守鶴に体を明け渡して本来の力をフルに発揮させるための術だ。

 

「───狸寝入りの術!」

 

我愛羅の両腕がダランと下がり完全な睡眠へと落ちる。同時に守鶴の人格が表に出てくる。

 

「ヒャッハーーー!やっと出てこられたぞーーーい!おおおっと!いきなりぶっ殺したい狐発見ぇぇえええーん!!」

 

(うるせえ)

「意外とファンキーな方なんですね、守鶴様って」

「クラマもこんな感じだったのかなぁ…」

(んなわけねえだろ!…わしはもっとスマートに暴れてたわ!…あのアホ狸のファンキーさは生まれつきの持病だ!)

「スマートに暴れるって初めて聞いたってばよ」

 

などと呑気に会話しているように聞こえるが、最大限の警戒を保っている。先程とは比べものにならないほどの圧力をヒシヒシと感じる。

 

「死ねえ!バカ狐!連空弾!!」

 

守鶴の口から超高密度のチャクラの玉が連続で発射される。カツユは素晴らしい反応速度で避けるが、玉が地面に当たる度に木々がはぜ、土が削れ、地形が描き変わる。

 

「これはとんでもないですね…私でもそう何発も耐えられそうにありませんよ…兎に角まずはあの霊媒を起こしてください」

「もう少し近付いてくれないと無理だってばよ」

「ええ、分かってます。私が守鶴を捕まえますので、その隙にナルトくんは霊媒を何とか起こしてください」

「分かったってばよ!」

 

何度かの攻防の後、カツユは守鶴を捕まえることに成功する。

ナルトはその隙に影分身を使い我愛羅に連続突撃をする。むろん、守鶴もバカではないので、我愛羅にナルトが近付け無いように砂を操作する。しかし、多勢に無勢。物量により砂の防御を突破したナルトは眠る我愛羅に向けて螺旋丸をぶっぱなした。

 

「おおおお!起きろってばよ!」

「ぐほーー!」

 

我愛羅が目を開ける。

 

「ちっくしょー!やっと出てきたばかりなのに!」

 

守鶴の悲鳴が響き、砂の体は音を立てて崩れ去る。

 

「ぐはっ……こいつ…ぐはっ!…俺の術を!……ぐはっ!」

 

我愛羅が血を吐きながら、足場を失い落下する。

 

「おおおお!これで止めだってばよ!」

 

ナルトはそこに更に追撃を掛けようとしたが、我愛羅もさるもので気力で砂を操り、対抗する。

 

「お前は俺に殺される!俺の存在は消えない!」

「俺は死なねえ!誰も殺させねえ!皆は俺が守る!」

「黙れ!他者に頼る弱者に俺が負けるか!負けてたまるかあ!!」

 

ナルトはクラマのチャクラを纏って攻撃する。我愛羅も砂で対抗するが、螺旋丸のダメージと尾獣化の疲労が残る体では、今のナルトを止めることは出来ない。

 

砂の攻撃を掻い潜り、ナルトの拳が我愛羅の頬を捉える。

 

「ぐう…なぜ…なぜだ…なぜコイツは…こんなに強い…」

 

我愛羅の脳裏に走馬灯のように過去が去来する。

 

公園で一人でいた

─あいつとは口聞くなって言ったろ!

─行こーぜ!

─化け物!死ね!

 

何度も父に殺され掛けた

─どうやらお前は失敗だったようだ

 

母の愛情は偽りだと知った

─貴方は愛されてなどいなかった

─自分だけを愛する修羅…それが貴方の名の由来です

 

 

自分だけを愛してやればいい!それが最も強い者の定義だ!

 

そうだ。そのはずだ。なのになぜ…他人の為に戦うこいつはこんなに強い!

 

我愛羅はナルトの存在が認められなかった。

 

もしかして自分は間違っていたのではないか?そんな後悔を突き付けられたから。

 

だが、本当に恐ろしいのはそんなことではない。本当に恐ろしいのは、また何の為に生きればいいのか分からなくなることだ。

 

ようやっと見つけた生きる理由をまた奪われる事だけは我愛羅にも耐えられなかった。

 

「俺は勝ち、殺し続ける限り、俺の存在はあり続ける…俺の存在は消えない…消えない…消えてたまるか!」

 

我愛羅は狂ったように吠えるが、ナルトが近づいてくる音を聞くと今度は怯えたように後ずさった。

 

「く、くるな!」

 

ナルトにとって我愛羅は一言で表すのが難しい相手だ。

仲間を傷付けたのは許せない。

でも、同じ人柱力として我愛羅の孤独や苦しみが理解できてしまった。

 

なんて寂しい目だってばよ…

 

我愛羅の目には孤独と苦しみと拒絶の色しかなかった。

 

昔の俺と同じだってばよ…

 

ずっと一人だった…

 

本当はどいつもこいつも憎かった…

 

俺を認めない木の葉の奴等が嫌いだった…

 

木の葉の里が嫌いだった…

 

でも、俺は母ちゃんや姉ちゃんにあった

 

だんだんと俺のことを認めてくれる奴等が増えた…

 

友達も出来て…師匠も出来た…

 

だから、俺は里の奴等にどれだけ冷たい目で見られようが平気になれた…

 

でも、我愛羅にはいなかったんだ…

俺が母ちゃんや姉ちゃんと暮らしてた時も…こいつはずっと一人だった…

 

「独りぼっちの苦しみは半端じゃねえよな お前の気持ちは なんでかなぁ 痛いほど分かるんだってばよ」

 

誰からも助けられずに…

 

誰にも愛されず…

 

ずっと孤独に苦しみ続けて…

 

ずっとあの地獄でもがき続けて…

 

それでも誰からも理解されず、こんな恐ろしい事を考えるようになっちまった

 

俺には母ちゃんと姉ちゃんがいたのに…こいつには誰もいなかった…

 

「俺は救われたのにお前は救われなかった…だから、俺はお前も救いたいんだってばよ」

 

「……………」

 

「敵の俺が言っても意味わからねえかもしれねえけど…恨み続ける人生なんて苦しいってばよ」

 

ナルトは我愛羅の元まで歩いていき、手を前に差し出した。

 

「言いたいことは沢山あるけどやっぱ上手く伝えられねえや…でも、人柱力には人柱力同士だけの話し方があるんだってばよ…ほら、こうやって手と手を付き合わせるんだってばよ」

 

我愛羅は恐る恐ると手を付き出す。

拳と拳がぶつかり合い、二人は精神の世界へと入っていく。

 

 

その特殊な空間の中には守鶴とクラマ、我愛羅とナルトだけがいた。

そこでナルトは我愛羅に自分の体験を見せて聞かせたり、

尾獣と友達になれることを伝えたり、

寝た振りを決め込む守鶴をクラマが締め上げたり、

我愛羅が守鶴に話し掛けたり、

守鶴が無視を決め込み、またクラマに締め上げられたり、

色々あった。

 

その後、精神世界を出た我愛羅はテマリとカンクロウに連れていかれた。その後すぐ、サスケとサクラがやって来た。

 

「大丈夫か、ナルト?」

「流石に疲れたってばよ…いくらクラマのチャクラ借りてたとは言えチャクラ使いすぎたってばよ」

「自分で歩けるの?」

「いや、無理だってばよ…サクラちゃんおぶってくれってばよ」

「俺が背負ってやる」

「サスケ…お前空気読めってばよ」

「さっさと乗れうすらとんかち」

「あ~、どうせならサクラちゃんにおぶってもらいたかったってばよ」

「バカな事言ってないで行くわよ」

「それじゃ帰るか木の葉に」



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木の葉崩し 終

木の葉の忍が各地で反抗を始める中、この戦争の中心とも呼べる大蛇丸と自来也の戦いも終盤に差し掛かっていた。

 

「これはやられたわね……」

 

大蛇丸は周囲を見渡して一人ごちる。

魔幻・蝦蟇臨唱。

それが大蛇丸が掛かった術の名前だ。

これは妙木山の二大蝦蟇であるフカサクとシマが合唱することで初めて成立する最強幻術。妙木山に伝わる幻術の楽譜に基づいてデュエットすることで、蝦蟇にのみ発声が可能な歌詞とメロディを上手く組み合わせた凶悪な幻術が成立する。術の発動条件は音を聞かせること。これさえ出来れば、たとえ対象者が複数人だったとしても、何処に隠れていたとしても、関係なく幻術に掛けられる。そして、この幻術に一度はまると、強制的に特殊な幻術世界に引き込まれ、強力無比な金縛りを受けるのだ。

 

(体が…動かない…!)

 

現在大蛇丸は東西南北を四体の巨大蝦蟇により囲まれた水のような立方体の中に閉じ込められていた。蝦蟇は仁王像のように見栄を切り、片手に刀を持ち、腰に不と書かれた前垂れをつけている。

 

この空間にいるのは自分だけではなく、扉間、柱間、音の四人衆までもがいる。

 

大蛇丸にとって初見の術。しかし、大蛇丸の聡明な頭脳と高い分析力が、この空間が幻術であり、聴覚に働きかけることで発動するものであると即座に見抜いた。

 

「いいか…もし幻術をくらったら己のチャクラの流れをいったん可能な限り止めるよう心掛けろ。幻術中は相手に頭の中のチャクラをコントロールされとる状態だ。それを上回る力でチャクラの流れを乱せば

幻術は解ける」

 

これは忍ならば大抵誰もが知っているアカデミーで習う基礎知識。当然大蛇丸も知っており、すぐにチャクラの流れを塞き止める。

大蛇丸には大抵の幻術なら解ける自信があった。しかし、これは全く解ける気がしない。大蛇丸に解けないと言うことは音の四人衆に解けるはずがない。チラリと左にいる扉間と柱間を見るが、彼等も解けていないようだった。

それはこの幻術が相当強固なものであることを物語っていた。

 

「自来也…………あんたにこんな幻術があるとはねえ」

 

大蛇丸がまんまと二大仙人の蝦蟇臨唱にハマったのには、自来也を良く知るが故の大蛇丸の思い込みがあった。自来也は自他共に認める幻術音痴…。それは自来也と同じ班だった大蛇丸もよく知っている。それに加えて、仙術になったことにより忍術の威力が軒並み上がったこともあり、些か幻術に対する心の準備が欠けていたのは否定しようのない事実だった。

 

「どんな奴が相手でも油断はするなと教わったハズだがの…大蛇丸…過信がお前の弱点だ」

「クク…言うようになったじゃない」

 

大蛇丸は口でこそ余裕ありそうに振る舞っていたが、その実かなり焦っていた。

今の自分はいわゆる詰みのような状態だ。このまま何もしなければそう遠くない未来に自分は終わるだろう。

それが分かってしまうがゆえに焦り、打開策を考える。

 

しかし、何も思い付かないまま、終わりの時は来た。

 

自来也は現実世界で扉間と柱間を封印した後、大蛇丸、音の四人衆にそれぞれ刻印を刻む。

この刻印は草隠れの「天牢」と言う禁錮術を参考に作ったオリジナル忍術で、刻むのに時間がかかると言う欠点があるが、一度刻んでしまえば効果は抜群…忍にとって命とも呼べるチャクラをほとんど練れなくする。そして、無理に練ろうとすると火ダルマになるという塩梅だ。

殺すと言う事も考えたが、不死の研究をし続けるような奴を果たして本当に殺せるのかと言う疑問は拭いされなかった。

それに、大蛇丸には聞き出したいことも沢山ある。ダンゾウと繋がりがあると言う黒い噂もあるし、所属している暁とか言う組織も気になる。多少のリスクは犯しても此処は捕縛すべきだと自来也は考えた。

 

大蛇丸は取り敢えず殺されなかった事に安堵しつつも、それは問題が先送りになっただけだと分かっている。情報を引き出せるだけ引き出したら直ぐにでも始末されるだろう。自分ならそうするし、絶対にそうなる。だから、そうなる前になんとか脱出すべく大蛇丸は脳みそをフル回転させるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

閑話 地下牢の捕虜

 

木の葉隠れの里

地下牢

第四房

 

音の四人衆は手足を鎖で縛られ、腹に忍術の使用を封じる刻印が刻まれた状態で、裸で拘束されていた。

 

「これは良い眺めぜよ」

「盛ってんじゃねえよ、ゲスチンヤローが!!」

「この角度じゃ自然と見えるんだから仕方ないぜよ」

「目を瞑れって言ってんだよソチンヤロー!その粗末なチンコ引き抜くぞ!」

「タユヤ、女がそう言う言葉をあんまり……」

「くせーよ、エロデブ」

「……………」

 

もう何度目かにもなる鬼童丸とタユヤの舌戦に、次郎坊が苦言を呈し、一瞬で黙らされる。

それを隣で聞いていた左近(男)と右近(女)の二人は、昨日の尋問で寝不足なのもあり、欠伸をしながら文句を垂れる。

 

「ふぁ…お前らうるせえーよ、少しは静かにできねえのか?こっちは只でさえ苛立ってるってのに」

「全くだ…俺なんて次郎坊のデカチンをずっと見せられて喋る気も起きねえよ」

「そりゃ、流石に同情するぜよ」

「ソチンを見せられるよりかはマシだろうけどな」

「「…………………」」

 

タユヤの言葉に今度は次郎坊だけでなく、鬼童丸も黙らされた。

 

 

✝️

木の葉隠れの里

地下牢

第三房

 

そこにはデイダラとミトが収監されていた。

真の忍である彼等にとって尋問や拷問など苦ではなく、もっぱら退屈こそが敵であった。

そこではミトは退屈をまぎらわせるためにデイダラに芸術の話を頼んだのだが、内容が意味不明過ぎて、途中から子守唄にしか聞こえてこなくなり、いつの間にか眠ってしまった。

 

「つまり、おいらの作品は──」

 

「……………………………」

 

「ておい!聞いてんのか!」

 

スピー…スピー…プツン!

 

「は!え?なに?」

 

「てめえー!やっぱ寝てたらだろ!てめえが知りたいってから話してたのに!」

 

「いや!寝てないって!聞いてた聞いてた。芸術は爆発で、クールって話でしょ?」

 

「お、おう、聞いてんならいいんだ。いいか、おいらの作品はな……」

 

スピー…スピー……スピー………

 

✝️

木の葉隠れの里

地下牢

第二房

 

そこにはダンゾウが収監されていた。

彼は大蛇丸との繋がりが露見し、現在謹慎を受けていたのである。

 

「……………………………」

 

ダンゾウは黙して何も語らない。何も語らず、目を閉じ、時を待った。

 

 

 

 

 

設定

 

木の葉隠れの地下牢。

第一房から第八房まである。特に凶悪な囚人や捕虜が収監される。現在第一房から第五房まで埋まっている。




木の葉崩し編終了!


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閑話 復興

木の葉崩しから数日。

木の葉の里の各所で里の復興が進められていた。

 

里の復興と一言で言っても、やるべきことは沢山ある。

 

瓦礫や半壊した建物の撤去。

新しい家屋の建設。

道路の整備。

食料の確保。

任務の消化。

里の警備。

 

この内上忍のほとんどは任務の消化に駆り出される。彼等は寝る間も惜しんで働き続け、木の葉の信用を守り続ける。

 

里の警備はうちは警務部隊の仕事だ。彼等も警備の緩くなった里の安全を守るため粉骨砕身で働いている。

 

肝心要の里の復興は、中忍が中心になって行われる。

普通災害の復興には数年をまたぐことが当たり前で、瓦礫や半壊した建物の撤去だけでも半年以上掛かるのが普通だ。

しかし、この世界には忍術という便利な能力がある。さらに、木の葉には木遁を使えるヤマトや、土遁を使える忍が多くおり、かなりのスピードで復興が進められていた。

 

それでも忍者だけで行うには仕事量が多く、一般人や近隣国…波の国などから大工や日傭労働者を雇い入れられている。

 

当然、そうなってくると唯でさえ不安のある警備に更に不安を生じさせることになるが、そこはうちはに頑張ってもらうしかない。

 

ちなみに、下忍であるナルト達も復興作業に従事している。とは言え、下忍で性質変化が使える者はそう多くないので専ら雑用が彼等の仕事だ。

 

資材を運搬したり、伝令を伝えたり、弁当を配ったり、やるべきことは腐るほどある。

 

さらに、下忍の中でも優秀な者達は本来中忍らがやるべき仕事を任されることもある。

 

たとえば、サクラは医療忍術を使えるので、医療班に組分けされ、負傷者の治療に当たっていた。

 

サスケは火遁が使えるので瓦礫の滅却などを手伝っている。

 

チョウジは倍化の術で、重量物の運搬を任される。

 

ナルトはお得意の多重影分身を使って、西に東に奔走し、下忍で一番大活躍をしていた。

 

もっとも下忍で一番騒ぎを引き起こしていたのもナルトだったが。

 

「弁当持ってきたってばよ!」

 

バンッ!と扉を開けてナルトが入っていったのは、木の葉第一病院の控え室。

現在、そこではナースやくノ一が着替えをしていた。

バッチリとナルトと看護師とくノ一達の視線がかち合う。

 

「「「「きゃああああああ!!」」」」

「うわわわわ!!」

「あー!またこのエロガキよ!」

「あの変態だわ!」

「これで何度目よー!」

「三度目よ!三度目!」

「わざとやってんじゃないでしょーね!」

「立て札見ろって言ったでしょーが!」

 

「こ、今回はちゃんと確認したってばよ!掛けてなかったってばよ!」

 

ナルトの言ったことは真実であり、「立ち入り禁止」の札を立て掛け忘れていたのは彼女達のミスだった。

しかし、そんなことは関係ないとばなりに目をつり上げた看護師達に、なぜか置いてあった縄を使って縛り上げられ、即座に吊し上げられるナルト。

このナルトは影分身なので強く縛りすぎると消えてしまうが、前回の反省を活かしたのか、消えないギリギリのラインを攻めた絶妙な縛りで、鍋に入れられる予定の豚のように天井に吊るされ、説教を受ける。

 

「不幸だってばよー!」

 

この一週間で何度目かになるナルトの悲鳴が響いた。

 

 

 

✝️

 

その日の夕方、火影が決まるということで、同期一同で火影邸の前に集まっていた。

現在いるのはシカマル、チョウジ、シノ、キバ、サクラ、サスケの六人で、そこに仕事を終わらせたナルトがやって来て加わった。

ナルトの両頬は見事に腫れており、何かあったことは明白である。

あの噂は本当だったんだなと、シカマルは納得し、ナルトに声をかける。

 

「ナルト、またやらかしたみたいだな。噂になってるぞ」

「もう噂になってるのかってばよ」

「今週だけでも…着替え中に入ってきたとか、突然水を掛けられたとか、胸を揉みしだかれたとか、色々な」

「全部事故だってばよ…本当に不幸だってばよー」

「どこが不幸なんだよ。羨ましいにも程があるぜ」

「わん!」

「いや、その後ボコボコにされるんだってばよ…木の葉の女は皆気が強いってばよ…見てくれよこの頬の腫れ!」

「気が強いって言えばイノの話だが…理由は知らねえが、なんかスゲエ怒ってたぞ…」

「うげ!まだ怒ってたのかってばよ!?うわー、この後会うんだよなー」

「その反応…やっぱりナルトだったか」

「んで、何やらかしたんだよ…このキバ様に教えてくれよ」

「俺も興味あるな…聞いても答えてくれねえんだ、相当なことだぜ」

「いや…そんな大したことじゃねえんだけど…今朝仮説トイレに入ったらイノがしてたんだってばよ…危うく殺されかけたってばよ」

「そりゃ当たり前だ…よく無事だったなお前」

「ま、何にせよイノには気を使うんだな…拗らせるとめんどくせえぞ」

「頑張るってばよ」

 

そんな事を話しているとイノが小走りでやって来た。

 

「はぁ~、ようやった終わったわー!まだ火影様は決まってないわよね?」

「ああ、まだ決まってないぜ…て、そこ段差あるから気を付けろよ」

「え?………とっ、わととっ!?きゃああ!」

 

注意が一瞬遅かったのもあり、 急いでやってきたイノは不運にも段差に躓き転倒する。

「あぶねえってばよ!」

 

ナルトは生来の優しさを発揮し、考えるより先に体が動いていた。

 

ドガーン!と特大の衝突音。

 

それと共にひんやりとした地面の冷たさが体に伝わり、ヒリヒリとした刺激が腕を伝う。

 

「いてて…腕すりむいた…でも、なんとか間に合ったってばよ…大丈夫か、イノ……怪我はな、……へ?」

 

ナルトの想像では自分が下敷きになりスマートに助けているはずだった。

しかし、目の前には自分の顔を挟むようにある肌色の太ももと白いパンツがあって

 

な、なななななぜこんなことにいいいい…!?

 

「え?……きゃあああああああっ!ど、どこに顔を埋めてんのよー!?はなれろバカナルトーっ!」

 

イノは羞恥心に顔を赤らめ、ナルトの頭を押さえる。

しかし、それは全くの逆効果だった。

ナルトの腕と指がイノの足とパンツに絡まっていたため、頭を押されると激痛が走り、ナルトは暴れだす。

 

──イデェェエエエ!!

「ちょ!顔を押し付けるなー!動かすなー!パンツを引っ張るなー!てか、早くはなれなさいよー!この変態!!」

「は、はなれたいのは山々なんだが………。とりあえず手を離してくれってばよ。腕が折れる」

「しゃ、しゃべるなー!」

 

ナルトが喋るせいで、吐息や口が股に当たり悶えるイノ。

 

それをやや離れてみていたサクラ達同期の下忍はコイツ何やってんだ、という目を向ける。

彼等の目にはナルトが突然奇声を上げて、いのに突進していった様にしか見えなかった。

 

「あんたねぇ…いくらなんでも盛りすぎでしょ」

「うすらとんかちが」

「火影が決められるって時になにやってんだよ」

「発情するな」

「ナ…ナルトくん…」

「羨ま…もといけしからん」

 

同期一同から白い目で見られる一方、木の葉丸軍団からは熱烈な支持を受ける。

 

「流石変態皇子(キング)だぞコレ!」

「私達に出来ないことを平然とやってのける!」

「そこに痺れる憧れる!」

 

「「「キング!キング!キング!」」」

「バカにしてんのかお前ら!」

 

バカ騒ぎをして囃し立てる木の葉丸軍団にキレるナルトだが、ふと後ろから寒気を感じて振り替える。

 

「ナルトー!あんたって奴は毎度毎度!こういうの何回目かしら?!」

「イ…イノさん…ちょっと落ち着いて俺の話を…」

「うがーーーー!!」

「ぎゃあああああ!!」

 

その後、暫くして次期火影決定の知らせが出た。

ちなみに、ヒルゼンは死んだわけではなく、今回の木の葉崩しを防げなかった責任と、主犯の大蛇丸の元担当上忍として上手く教育出来なかった責任をまとめて取り、火影を辞任する運びとなった。

火影の候補として選ばれていたのは綱手、自来也、カカシ、フガクの四名。本来ならダンゾウも此処に含まれるはずだったのだが、彼は大蛇丸との繋がりが露見し、現在謹慎を受けている。

 

18:45

ついに固く閉ざされた扉が開く。

そして、出て来たシカクさんと扉の前でスタンバっていた男達が何言かやり取りをする。

 

「号外!号外!次の火影様はあの三忍の綱手様に決まったよー!」

 

男達は新聞記者のような触れ込みで次期火影の名を大声で触れ回った。

それはそこそこ離れていたナルト達の元にまでハッキリと聞こえる。

 

「ま、順当に決まったって感じだな」

「初代様の孫だもんな」

「歴代初のくノ一の火影かー。やっぱ憧れるわー」

「テンテンは綱手様のファンですからね。でも、伝説の三忍が火影なら此方としても頼もしいです!」

「ま、カカシ先生よりは頼りになりそうよね。あの人いつも目が死んでるし」

「イチャパラ読んでるときは輝いてるってばよ!」

「イチャパラ?」

「エロ仙人の人生経験と想像が織り込まれた小説だってばよ」

「へえ、なんかすごそうねー」

「騙されるな。ただのエロ本だ」

「エロっ!」

「でも、母ちゃんが火影になるなんてやっぱり信じられないってばよ」

「そうでもねえだろ。カカシ先生は若すぎるし、自来也様は覗きの常習犯、フガクさんはうちは警務部隊の隊長だ、この次期に警務部隊の隊長と兼任するのは無理筋だし、後を任せる予定の長男は現在自宅療養中…次男はまだ下忍だ…それに、あのダンゾウって奴は大蛇丸と繋がってたんだろ。だったら、もう綱手様しかいねえだろ。つーか何でお前が一番驚いてんだよ、ナルト。血筋にしろ、実績にしろ、信頼にしろ、順当も良いところだぜ」

「いや、だって何時も火影なんて面倒なもんやらないって豪語してるってばよ。しかも、良くエロ仙人と次期火影の座を押し付けあって賭けをしてたってばよ」

「そんなことしてたのかよ…火影って言えば誰もが一度は夢見る地位なんだがな」

「カカシ先生もやる気無いみたいだしね」

「それを言うなら父さんも、火影は性に合わないって言ってたぜ…周りのうちは一族はなって欲しいみたいだったけどな」

「こういうのって周りが騒ぐものなのかもね」

「確かに、自分でなりたいなりたいって言ってる奴はなれねえって相場は決まってるが…」

「恐ろしいこと言うなってばよ!俺はなるってばよ!絶対なるってばよ!」

「ま、ナルトにとっては良い人選だったんじゃねーか?」

「?」

「お前は火影になりたいんだろ?だったら、前火影が理解ある人の方が色々と有利だろ?」

「ほぉへー、そう言う考えもあるんだな…ま、でも、俺は自分の力でなるから大丈夫だってばよ!あ!出て来たってばよ!」

 

ぐだぐだと喋ってる内に、扉から綱手、自来也、相談役の水戸門ホムラ、うたたねコハル、うちはフガクが出て来る。

 

サスケは早速フガクの元へ駆けていった。

 

それを見たナルトも綱手の元に駆けていく。

火影を目指すナルトにとっては母親が火影になるのはライバル心を刺激されると同時に、誇らしくもある。それが自分のためかもしれないと聞かされれば尚の事嬉しい。

 

ナルトは高ぶる気持ちのままに綱手にダイブする。

 

「おめでとうだってばよ!母ちゃん!」

 

助走を付け、飛び上がって抱き付いた。

ナルトはもう13であり、かなりの勢いと重さがあったが綱手は危なげ無く受け止める。

しかし、その拍子に、浴衣がずれ、たわわに実った胸が露になる。さらに、丁度ナルトの右手が露になった乳首を摘まむように収まった。

 

「あん、まったく相変わらずナルトは甘えん坊だね」

「俺もいつか火影になるってばよ!母ちゃんは今日からライバルだってばよ!」

「勇ましいこった。楽しみに待ってるよ」

 

自来也は、あんなに堂々と乳首を摘まんだにも関わらず、優しくナルトの頭を撫でる綱手を見て、信じられないものを見たと、魚のように口をパクパクと動かす。

 

「おま!おま…おまままま、お前ェ!!な、なななななな、なんてことをしとるんだ!うら…けしからん!そこを変われってのォ!」

 

顔を赤くさせ、鼻血を出しながらにじり寄る自来也に、綱手は服を直して、拳を振るう。

 

見事に腹にクリーンヒットした拳は自来也を彼方まで吹き飛ばした。

 




特に落ちはない。
ラッキースケベが書きたかっただけの話です。


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