東方頭文字D 〜 Lunatic Stage 〜 (D-Ⅸ)
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設定集(頭文字Dサイド)

こちらは頭文字D側の設定に関してのまとめになります。
殆どが作者の中でもこんがらがってきたオリキャラ、または半オリキャラ化している原作モブベースのキャラに関する解説ページです。

こちらも随時更新予定となります。



 

『赤城レッドサンズ』

赤城山を拠点とする走り屋チームで高橋兄弟を中心としたドラテク追求チーム。

北関東有数の強豪として知られるチームで、メンバーは殆どがモータースポーツ経験者ばかりで構成されている。

時折プロからのスカウトがある他、自動車雑誌やモータースポーツ誌などから取材を受ける事もあり追っかけのファンまで存在するほど。

特に中心人物として知られている高橋兄弟は「本気を出さなくても勝ててしまうから」と言う理由で地元である赤城山でのバトルを封印している。

また、一軍メンバーに対してはサイドブレーキを使用したドリフトを禁止している。

実は一軍には1人、とあるメンバーがいるのだが最近はある事情により赤城に姿を見せていないようである。

 

 

・新田宏(レッドサンズ:一軍)

SUBARU GC8 インプレッサ WRX STI バージョンⅢ(ライトシルバーメタリック)

 

26歳。レッドサンズ側の黒髪ロン毛モブがモチーフ。

愛車がFR化GC8とか言う変態車なのは作者の趣味。

免許取得直後から走り屋をしている赤城古参の走り屋で、昔はアルシオーネやレガシィに乗っていた。

生粋のスバル信者ではあるが、水平対向エンジンの真価は4WDターボではなくFRのNAあると信じている変わり者。

スバルとトヨタが発表して発売秒読みとなっている新型車のBRZの登場には歓喜していて購入を決めている。

基本的に車バカで親から借金しつつ公務員としての自分の稼ぎもほぼ全額車とタイヤとガソリンに突っ込んでいる。

 

カスタム(簡易版)

内装

STI スポーツセミバケットシート、TAKATA 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

STI イリジウムプラグ、SUBARU GDB-C 純正オイルパン + GDB-D 純正パワステポンプ + BP5 純正オルタネーター

 

ミッション・駆動系

SUBARU GDB-D 純正クロス6MT + BH5 純正リアドライブシャフト、JUN AUTO 強化シングルクラッチ、ワタナベサービス ドリフトセンターデフ

 

タイヤ・ホイール・足回り

DUNLOP DIREZZA SPORT Z1、ENKEI SPORT ES-TARMAC、Projectμ TYPE HC-CS(フロント)+ TYPE HC+(リア)、STI S201 純正ショックアブソーバー&スプリングセット

 

吸排気系

SUBARU GDB-F 純正エキゾーストマニホールド + GDB-F 純正フロントパイプ、STI エアクリーナーエレメント + GDB用チタンマフラー

 

冷却系

SUBARU GDB-D インタークーラーコア + GDB-F ラジエーターコア

 

エアロ・補強・アーム類・その他

STI フロントアンダースカート + スカートリップ + フロントストラットタワーバー + ラテラルリンクセット + トレーリングリンクセット + スタビライザー(フロント + リア)

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・村田昌和(レッドサンズ:二軍)

TOYOTA SW20 後期Ⅳ型 MR2 Gリミテッド(スーパーブライトイエロー)

 

25歳。170センチ程度の身長で、地毛の茶髪をセンター付近で二つに分けた髪型をしている。

モデルはアニメ版ファーストステージのモブ。

MRを好んでいて免許取得時からAW11からSW20と、2台のMR-2を乗り継いでいる。

歴代MR2でネックとなっている剛性不足と足回りの弱さへの対策を練りながら走り続けてきたために、MR-2のチューニングには自信がある。

MR-S後期型に乗り換えるのもいいなと思っているが、まだあともう少しだけ今の相棒を乗り続けるつもりでいる。

 

カスタム(簡易版)

内装

BRIDE ZETAⅡ、HPI 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

DENSO イリジウムプラグ

 

ミッション・駆動系

TRD スポーツフェーシングクラッチ

 

タイヤ・ホイール・足回り

DUNLOP DIREZZA SPORT Z1、BBS RG-R、ACRE Fomula 700C、TRD ブレーキライン

 

吸排気系

TOYOTA 純正加工ビッグスロットル、SARD エアフィルター + スポーツキャタライザー、FUJITSUBO POWER Getter

 

冷却系

ARC アルミラジエーター

 

エアロ・補強・アーム類・その他

Do-Luck フルエアロ(フロントバンパースポイラー + サイドステップ + リアバンパースポイラー + リアスポイラー)、TOM'S アッパーパフォーマンスロッド(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ サスペンションメンバー強化ロッド(フロント + リア)、TRD ドアスタビライザー

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・杉本芳樹(レッドサンズ:一軍)

MAZDA FD3S 中期4型 RX-7 タイプRZ(ブリリアントブラック)

 

26歳。原作アニメに登場するレッドサンズに所属するFDのモブ走り屋をベースとしている。

身長は165センチ前後で茶髪の中肉中背と言った背格好に、マッシュヘア風のヘアスタイル。

赤城山麓のカー用品店経営者の息子で妹と共に2台のFD3Sを購入、維持している。

一軍に属するだけはあり中々に腕の立つドライバーで、関東で開催されたとある大手チューニングショップ主催の走行会では妹の尚子や同じ一軍の須崎と共に参加して東堂塾生やエンペラーメンバーと互角に渡り合った事もあるほど。

兄妹でFDに乗り、レッドサンズのメンバーとして走行会に出る事も少なくないため、高橋兄弟に次いで群馬マツダにもその存在を認知されている。

 

カスタム(簡易版)

内装

MAZDASPEED スポーツセミバケットシート、sabelt 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NGK イリジウムプラグ、Apex’i パワーFC

 

ミッション・駆動系

MAZDASPEED ツインプレートクラッチディスク&カバー、CUSCO LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

DUNLOP SPORT Z1、MAZDA BBS製 純正メッシュタイプアルミホイール、winmax スリットディスクローター、MAZDASPEED スポーツブレーキパッド + ブレーキライン、MAZDA FD3S 後期6型 バサーストR用 SHOWA製サスペンション

 

吸排気系

MAZDASPEED スポーツエアフィルター + スポーツサウンドマフラー、HKS エキゾーストマニホールド

 

冷却系

BLITZ ラジエーター、SARD ローテンプサーモスタット

 

エアロ・補強・アーム類・その他

MAZDASPEED ツーリングキット A-spec Type-Ⅱ フルエアロ(フロントノーズ + サイドスカートセット + リアスポイラー)フロントストラットタワーバー + スタビライザー(フロント + リア)、KTS スーパータワーバー リア

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・杉本尚子(レッドサンズ:一軍)

MAZDA FD3S 前期3型 RX-7 タイプRZ(モンテゴブルーマイカ)

 

24歳。原作アニメに登場するレッドサンズに所属するFDのモブ走り屋をベースとしている。

身長は160センチ程度と女性にしてはやや高めで、長い茶髪をポニーテールにしている。

顔は小顔で美人な部類に入るため男性ファンも少なからず存在する。

胸は……無いわけではない。

兄の影響かボーイッシュさを感じさせる言動がうっすら散見され、ファッションもパンツスタイルを好むなどそれにやや引っ張られている感はあるものの、ドライビングの方では大きく違う。

兄を突っ込み重視とするなら彼女は立ち上がり重視とでも言うべきラインの取り方をしている。

兄妹ともにダウンヒルを得意としているが、兄のFDよりもパワーのある仕様となっているため時と場合によってはヒルクライムを担当する事もある。

 

カスタム(簡易版)

内装

MAZDASPEED スポーツフルバケットシート、sabelt 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NGK イリジウムプラグ、MAZDA FD3S 後期純正16bitECU、Apex’i パワーFC

 

ミッション・駆動系

HKS LAクラッチ、OS技研 LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

DUNLOP SPORT Z1、MAZDASPEED MS-01、winmax スリットディスクローター + ARMA SPORTSブレーキパッド + ステンレスメッシュホース、TRUST GReddy パフォーマンスダンパー

 

吸排気系

HKS スーパーパワーフロー、藤田エンジニアリング ビッグスロットル + スロットルアダプター + Sonic Tiマフラー + フロントパイプ + ツインキャタライザー

 

冷却系

TRUST GReddy インタークーラー + ラジエーター(Vマウントキット)、SARD ローテンプサーモスタット

 

エアロ・補強・アーム類・その他

MAZDASPEED フロントリップスポイラー + サイドスカート + フロントストラットタワーバー + フロントスタビライザー、MAZDA 前期純正リアスポイラー + FD3S 中期4型 純正リアスタビライザー、KTS スーパータワーバー リア

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・斎藤雅俊(レッドサンズ:一軍)

NISSAN S14 前期 シルビア K’s(モンテレブルー:Z33純正色)

 

23歳。イメージは新劇場版の丸顔メガネモブ。

無口な性格であまり人とのコミュニケーションは得意ではないが、自分の走りにはある程度の自信を持っている。

しかし走りの調子にムラが出やすく、集中している時と集中の乱れている時とではタイムにも大きな差が出てしまう。

バトルよりも単走のアタックを得意としている。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-7、sabert 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NISMO レーシングスパークプラグ、Link G4plus ECU、GARRETTE TO4B

 

ミッション・駆動系

NISMO スポーツクラッチ、KAAZ LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

BRIDGESTONE POTENZA RE-11、Work マイスター S1(シルバー)、Project μ TYPE HC+、SILKROAD RM/A8

 

吸排気系

HPI メガマックスエアフィルター、5ZIGEN FIRE BALL、NISSAN BCNR33 純正メタルキャタライザー

 

冷却系

HPI インタークーラーキット + ラジエーター、NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

BEHRMAN GT フルエアロ(フロントバンパースポイラー + サイドスカート + リアバンパースポイラー)、NISMO チタンストラットタワーバー

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・須崎真(レッドサンズ:一軍)

NISSAN S13 後期 シルビア K’s(ウォームホワイト)

 

29歳。モチーフは原作第1巻の角刈りモブ。

レッドサンズに所属する角刈り頭の柄の悪い走り屋。

レッドサンズの一軍として抜擢されているだけはあり腕は確かではあるのだが、いまいちその活躍がパッとしない。

車以外に趣味というべきものが無いので給料のうちのかなりの額が車に消えている典型的な車一辺倒型走り屋。

そういうライフスタイルのためスピードスターズの池谷とは馬が合う模様。

須崎曰く、「話してみれば結構いい奴」らしい。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SP-G、HPI 4点式ハーネス、NARDI CLASSIC SPORTS タイプラリー

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NGK レーシングスパークプラグ、Link G4+ ECU、NISSAN S14シルビア 純正タービン

 

ミッション・駆動系

OS技研 クロスレシオギアセット、NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07、ENKEI RP02、ENDLESS MX72、HKS HIPERMAX Ⅲ

 

吸排気系

NISMO スポーツエアフィルター、NISSAN S14 Q’s 純正スロットル + BCNR33 純正メタルキャタライザー、BLITZ NUR SPEC RACING、HKS エキゾーストマニホールド

 

冷却系

HPI インタークーラー、DRL ラジエーター

 

外装・補強・アーム類・その他

NISSAN 純正フルエアロ(フロントエアロフォルムバンパー + サイドシルプロテクター + リアアンダープロテクター + リアスポイラー)+ 純正フロントタワーバー、NISMO パワーブレースシステム2

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・竹原直道(レッドサンズ:二軍)

NISSAN S13 後期 シルビア K’s(パールホワイト)

 

20歳。黒髪のサラサラヘアで左頬にほくろがある。

免許取得と同時にシルビアを購入して2年、走り屋としてのキャリアはそのうちおおよそ1年ちょい。

それだけの短期間で若くしてレッドサンズへの加入を許された才能ある若者として、赤城の走り屋の中でも一目置かれていて、レッドサンズ内でも若手ホープとしてチーム内では可愛がられている。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-3、sabelt 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NISMO 大容量インジェクター、DENSO イリジウムプラグ

コンピューター:HKS F-Con V

 

ミッション・駆動系

NISMO スポーツクラッチディスク + クラッチホース、OS技研 LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07、YOKOHAMA AVS MODEL 5、NISSAN S15 シルビア スペックR 純正4potブレーキシステム、CUSCO SPORT S

 

吸排気系

NISMO スポーツエアフィルター、FUJITSUBO Legalis R

 

冷却系

HPI オイルクーラー、DRL ラジエーター、NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

NISSAN 純正フルエアロ(フロントエアロフォルムバンパー + サイドシルプロテクター + リアアンダープロテクター)+ 純正フロントタワーバー

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・佐々木正晃(レッドサンズ:二軍)

NISSAN RS13 前期 180SX タイプⅡ(スーパーブラック)

 

27歳。アニメ版First Stageに登場していたモブメンバーがモチーフ。

男にしては長めの髪を金髪に染めた若干チャラそうな見た目の走り屋。

元々はどこのチームにも所属することなく活動していたが、偶然高橋涼介の目に留まり「まだまだ荒削りだが筋はいい」としてレッドサンズへのスカウトを受ける。

チャラい見た目の癖に勉強熱心で涼介のアドバイスをよく聞いている。

一軍メンバに比べればまだまだだがそれなりに腕はいい。

愛車は前期180SXで、これは免許を取りたての頃からの愛車。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO TS-G、TAKATA 4点式ハーネス、MOMO TUNER、Defi4連メーター(水温計 + 油温計 + 油圧計 + ブースト計)

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NISSAN S14 K's 純正タービン、HKS 鍛造ピストン + 強化コンロッド

 

ミッション・駆動系

NISMO 強化クロス6MT、CUSCO LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

BRIDGESTONE POTENZA RE-11、NISMO LMGT-2、ENDLESS チビ6 (6POT COMPACT MINI)、OHLINS DFV

 

吸排気系

HKS スーパーパワーフロー + Hi-power 409マフラー + メタルキャタライザー

 

冷却系

BLITZ インタークーラー、HKS オイルクーラーキット、DRL ラジエーター、NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

Super made 純正形状FRPボンネット、NISSAN 180SX後期純正フロントバンパー + フロントリップスポイラー、NISMO チタンストラットタワーバー、CUSCO リアストラットタワーバー、KTS リアサスペンションメンバーブレース

 

ステッカー類

RED SUNSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

 

『赤城ファイヤーバーズ』

赤城山で活動する走り屋チームの一つ。

原作に登場するサンダーファイヤーの名前がダサいので分割された結果生まれたチーム。

赤城の古参の走り屋に数えられるワンビア乗りが率いるチームで規模としてはそれほど大きくはない。

 

 

・松木高広(赤城ファイヤーバーズ:リーダー)

S13 前期 シルビア K’s × RPS13 180SX ワンビア(クランベリーレッド)

 

31歳。日焼けした肌に短い髪、そこそこガタイの良い体格をしているが思いの外慎重な性格。

赤城ファイヤーバーズのリーダーで、レッドサンズのメンバーに匹敵する実力の持ち主。

桐生サンダースのリーダー梅澤とは友人関係にある。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-3、sabelt 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

DENSO イリジウムプラグ、Apex’i パワーFC、NISMO スポーツタービンキット

 

ミッション・駆動系

NISMO スポーツクラッチ、OS技研 LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07、NISSAN BBS製メッシュタイプアルミロードホイール、NISMO s-tune ブレーキパッド + ブレーキホース、KYB クライムギア、Eibach pro kitスプリング

 

吸排気系

NISMO スポーツエアフィルター、NISSAN 純正ヴェルディナマフラー

 

冷却系

BLITZ ラジエーター、NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

NISSAN 180SX後期純正フロントバンパー + サイドシルプロテクター + 純正フロントストラットタワーバー

 

ステッカー類

FIRE BIRDSステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

 

『桐生サンダース』

栃木県境付近の桐生市にあるダム周辺を根城にしている走り屋チーム。

同好会の様なチームである点は後述の秋名スピードスターズと同様だが赤城ファイヤーバーズを中心とした赤城の走り屋に対して一定の繋がりがあるためか腕は悪く無い。

近頃は栃木ナンバーの走り屋が出没する様になり不穏な空気を感じている。

現時点では名前のみ判明していて詳細なメンバーの構成等は不明。

 

 

 

『赤城ホワイトローズ』

高橋兄弟の追っかけをしている女性ファン同士が結成したファンクラブ的なチーム。

高橋兄弟への強い憧れから走り屋を名乗っていて、本人たちもローレルやマークⅡにS14シルビア、さらにはアルテッツァなどそれっぽく見える車に乗ってはいるが走りの方はスピードスターズ以下と言うレベルであり、正直言ってまるでダメ。

しかもメンバーは頭がパーなコギャルにバカな巨乳女などの殆ど好かれる要素が無い面々のために当の高橋兄弟からは内心苦手意識を持たれている。

半ばパパラッチかストーカーに近いとは言え本人たちにも悪意が無いことと、自らが慕う高橋兄弟の率いるレッドサンズの不利益になるような揉め事を起こさないように最低限の理性がある事で、レッドサンズ側からはなんとかお目溢しをもらっているのが現状。

現時点では名前のみ判明していて詳細なメンバーの構成等は不明。

しかしそこそこの人数はいる模様。

 

 

 

『秋名スピードスターズ』

秋名山で活動する走り屋チームでレッドサンズとは違いこちらは近所に住む車好き同士が集まった同好会の様なもの。

実力はお察しで上手いとは言えない。

だが師とライバルに恵まれなかったせいで眠っていた才能が伸びなかった側面もあったようで、レッドサンズメンバーやファンタジアメンバーからアドバイスをもらって練習してからは全体の技量もそれなりには向上している。

「地元として恥ずかしくないだけの技量をつけること」と言うのが当面の目標。

 

 

・後藤守

MITSUBISHI A170後期 ランサー EX 1800GSRターボ(サラエボホワイト)

 

22歳。原作に登場するスピードスターズのメガネがトレードマークのネームドキャラ。

滋とは高校時代の同級生でその頃からの付き合い。

スピードスターズのメンバーの中でも腕はパッとしない方だったが交流戦に向けて真面目に練習をする様になってからは周囲からのアドバイス等もあり走りも多少サマになっている様子。

ランエボに対して憧れがあり、将来的に買い替えを検討中。

 

カスタム(簡易版)

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN Racing RALLY、Projectμ TYPE HC-CS、TEIN スペシャライズドダンパー

 

吸排気系

HKS メタルキャタライザー、FUJITSUBO Legalis R

 

外装・補強・アーム類・その他

不明 トランクスポイラー、CUSCO フロントストラットタワーバー

 

ステッカー類

秋名スピードスターズステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・野沢滋

TOYOTA KP61後期 スターレット(ラブリーレッド)

 

22歳。原作に登場するスピードスターズのキャップ帽がトレードマークのネームドキャラ。

元々趣味程度であまり真剣に走りに向き合ってこなかったために才能があっても芽吹くこともなかったが、レッドサンズやファンタジアに負けてからは心を入れ替えて走り込む様になった。

 

カスタム(簡易版)

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN A3A、TRD ショックアブソーバー

 

ミッション・駆動系

TOYOTA 純正加工軽量フライホイール、TRD LSD

 

吸排気系

FUJITSUBO Legalis R

 

ステッカー類

秋名スピードスターズステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・中山四郎

SUBARU AX7 アルシオーネ 1.8 VRターボ 4WD(ブラック)

 

23歳。殆どマイナー車種を出したいがために生まれてきたキャラその1。

スピードスターズで唯一の四駆乗り。

父がスバル乗りでありその影響を受けて自分もスバルの四駆に乗りたいと考えていた。

免許取得直後に両親にローンの保証人になって頭金を出してもらう形でパートタイム4WD仕様のVRグレードを購入。

慧音の運転で自分のマシンの性能の高さを教え込まれて以降は今まで以上に熱心に走る様になった。

 

カスタム(簡易版)

タイヤ・ホイール・足回り

SSR リバースメッシュ、DIXSEL ES TYPE ブレーキパッド、TEIN スペシャライズドダンパー

 

外装・補強・アーム類・その他

SUBARU リアスポイラー

 

ステッカー類

秋名スピードスターズステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・東隆春

NISSAN S12シルビアクーペ ツインカムターボ RS-X(ホワイト)

 

24歳。殆どマイナー車種を出したいがために生まれてきたキャラその2。

リトラクタブルのかっこよさとツインカムターボの響きに惚れ込み免許取得と同時に購入。

一応走り屋を名乗って活動してはいるが腕のほうが伴っていなかった。

交流戦の前座にあたるシルビア同士の隊列走行に向けてあれこれと練習を重ねるうちに徐々に成長していき、現在はサイドブレーキドリフトを会得するに至った。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-3

 

タイヤ・ホイール・足回り

NISSAN メッシュタイプアルミロードホイール、DIXSEL SD TYPE ブレーキローター + ES TYPE ブレーキパッド

 

冷却系

NISMO ラジエーターキャップ

 

外装・補強・アーム類・その他

NISSAN フロントスポイラー + マッドガード + ダックテールタイプリアスポイラー

 

ステッカー類

秋名スピードスターズステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

・吉村翔一(スピードスターズ)

S13 前期 シルビア K’s(イエロイッシュシルバーツートン)

 

22歳。原作に登場するスピードスターズステッカーのモブ走り屋がモデル。

黒髪スポーツ刈りで池谷より数センチだけ身長が低い。

最近引っ越してきたばかりで、チームに参加したのもつい数ヶ月前ということもあり秋名の走り屋としてのキャリアはそれほど長くない。

池谷には一定の敬意を示していて、メンバーたちの前では池谷のことは『リーダー』と呼んでいる。

自分がこの秋名山で一番腕が立つと信じていた池谷たちがよその走り屋に圧倒されたと聞いて驚愕するも、レッドサンズとファンタジアのあまりの実力の高さにまた驚愕。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-3、TAKATA 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NGK イリジウムプラグ、HKS F-Con V pro

 

ミッション・駆動系

NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD05 AD06、NISSAN BBS製メッシュタイプアルミロードホイール、DIXCEL SD TYPEローター + ES TYPEパッド、TEIN HS

 

吸排気系

HKS スーパーパワーフロー + HKS Silent Hi power

 

冷却系

NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

NISSAN フロントスポイラー、NISMO チタンフロントストラットタワーバー、CUSCO リアストラットタワーバー

 

ステッカー類

秋名スピードスターズステッカー(ボンネット助手席側 + 左右リアフェンダー)

 

 

 

『妙義ナイトキッズ』

妙義山を拠点とする走り屋集団。

名前の通り、殆ど地元のガキの集まりと言った感じだがそのメンバーたちの実力は高く、スピードスターズと秋名のハチロクやファンタジアが台頭する以前はレッドサンズに匹敵する群馬の二大勢力とされていた。

リーダー中里の黒いR32 GT-Rとナンバー2である庄司の赤いEG6シビックは共に妙義最速と目されているが、不仲説が囁かれる程度には二人の仲は現状あまり思わしくないらしく、チーム内部での派閥争いが噂されている。

 

 

・安井弘道(ナイトキッズ)

NISSAN S15後期 シルビア スペックR(スーパーブラック)

 

30歳。ナイトキッズの中堅メンバーで、腕はそれなりに良くチームの中でも中の上くらいはある。

岩城清次のように髪を短くポニーテール状にまとめた男で、清次ほどではないにしろ体格がいい。

350馬力にチューンした愛車を相棒と呼びプライドを持っている一方で、非力な車をバカにしている節があり、テンロクNAのハチロクに負けた高橋啓介を侮るようになった。

弱いと見た人には高圧的な態度で接する事もあり、それがトラブルを招くこともある。

 

カスタム(簡易版)

内装

BRIDE GIASⅡ(ブラック)、HPI 4点式ハーネス、

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NISSAN SR20DET HKS 2.2L仕様コンプリートエンジン、NISSAN Z32 純正エアフロ + BNR32 純正フューエルポンプ、NISMO レーシングプラグ

 

ミッション・駆動系

NISMO 強化クロス6MT + GT LSD、OS技研 ツインプレートクラッチ

 

タイヤ・ホイール・足回り

DUNLOP DIREZZA SPORT Z1、NISSAN ER34純正ホイール、BLITZ 水温計

 

吸排気系

Apexi パワーインテーク + エキゾーストマニホールド + スポーツキャタライザー + N1マフラー

 

冷却系

TRUST GReddy インタークーラー + オイルクーラー + ラジエーター

 

外装・補強・アーム類・その他

Apexi フロントアルミタワーバー、CUSCO リアストラットタワーバー、NISMO パワーブレースシステム

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(左右リアフェンダー)、TRUST GReddyステッカー(リアガラス上端中央)、Apexiステッカー(TRUST GReddyステッカーの下)、CUSCOステッカー(Apexiステッカーの下)

 

 

・藤巻正一(ナイトキッズ)

MAZDA NCEC ロードスター RS(マーブルホワイト)

 

24歳。長い髪を二つに分けている細身の男。

ナイトキッズメンバーの中でも特に女好きで、オープンカーを乗り回し女をナンパしている。

ファンタジアのメンバーを相手にも鼻の下を伸ばしていた。

交流会などでは積極的にバトルをしたりパフォーマンス走行としてのドリフトをしたりと何かとアクティブに動くタイプだが、その動機はほとんどの場合「ギャラリーの女の子たちにかっこいいところを見せてモテたいから」というもの。

妙義でそれなりに名の知れた若手走り屋にして、NCロードスターを購入して以降に加入した比較的新参のメンバーだが腕が良いためにそこそこ発言力がある。

原作では車に乗って登場するシーンはなかったが、本作では原作未登場車種を出すために出張ってもらう事となった。

 

カスタム(簡易版)

内装

BRIDE ZIEGⅢ(ブラック)、sparco 4点式ハーネス、TRUST GReddy ウッドステアリング + 水温計

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

DENSO イリジウムプラグ

 

ミッション・駆動系

戸田レーシング 超軽量クロモリフライホイール&クラッチセット

 

タイヤ・ホイール・足回り

BRIDGESTONE POTENZA RE-11、MAZDA 純正オプションアルミホイール、MAZDA 純正ブレーキローター(8本スリット加工)、ACRE Fomula 700C、Autoexe スポーツサスペンションキット

 

吸排気系

MAZDASPEED スポーツエアフィルター + スポーツマフラー

 

冷却系

DRL レーシングラジエーター

 

外装・補強・アーム類・その他

MAZDASPEED 純正フルエアロ(フロントバンパー + サイドスカートセット + リアバンパー + リアスポイラー)

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(左右リアフェンダー)、MAZDASPEED ステッカー(リアバンパー中央)

 

 

・平章夫(ナイトキッズ)

TOYOTA ZZW30 中期 2型 MR-S Sエディション(スーパーブライトイエロー)

 

25歳。黒の短髪に無精髭の男。

ナイトキッズのメンバーで普段は中里の取り巻きの一人として知られている。

特にレッドサンズに対するライバル心を抱いており、群馬最速という野望をナイトキッズのメンバーとして叶えるために邁進中。

腕も他のメンバーと遜色なく決して下手では無いものの、しかしながら調子に乗りやすく油断グセがあるせいでその実力を十全に発揮出来ないでいる。

相棒のMR-SはTRD純正品によるチューンをされているものを購入して、現在はタイヤを変えたり足回りの調整をしたりといった事を除けば、それを維持することに努めている。

カスタムや走りに関してはナイトキッズの中でも比較的堅実な哲学をもっている。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO TS-G(ブラック)、NARDI クラシックレザー、Defi 水温計 + 油温計

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

 

ミッション・駆動系

TRD 機械式LSD、スポーツフェーシングクラッチ + ダイレクトクラッチライン + 軽量フライホイール

 

タイヤ・ホイール・足回り

TRD ショックアブソーバー + ローハイトスプリング +ブレーキパッド + ダイレクトブレーキライン

 

吸排気系

TRD スポーツエアフィルター + インレットダクト + エキゾーストマニホールド + スポーツキャタライザー + ハイレスポンスマフラー

 

冷却系

TRD スポーツサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

TOYOTA 純正ハードトップ + 純正フルエアロ(フロントバンパー + サイドマッドガード + リアバンパースポイラー)、TRD リアスポイラー + ストラットタワーバー(フロント + リア) + サスペンションメンバーブレース

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(リアバンパー中央)、TOYOTA純正オプションサイドストライプテープ タイプ2(ボディ側面)

 

 

宮原朋一(ナイトキッズ)

TOYOTA SW20 後期 MR2 GT-S Tバールーフ仕様車(オレンジマイカメタリック)

 

24歳。先輩メンバーで同じミッドシップ使いの平章夫の一つ下の後輩で、特に可愛がられている。

中学高校と野球部だった影響で今でも髪型は坊主頭で、服も飾り気のない無地の安いシャツと、普段の倉庫作業の仕事着も兼ねているカーゴパンツやジーパンなどを好んでいる。

愛車のMR2は先輩である章夫の伝手で紹介してもらったショップから購入していて、それを自分好みにカスタムしている。

 

カスタム(簡易版)

内装

TRD スポーツバケットシート + 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

TOM’S カムシャフト、NGK レーシングプラグ、BOSCH フューエルインジェクター

 

ミッション・駆動系

TRD 強化クラッチ

 

タイヤ・ホイール・足回り

TOM’S 鍛造アルミホイール トムスレノ + ブレーキパッドレーシング + ブレーキライン、TRD ショックアブソーバー + スプリング

 

吸排気系

TOM’S エキゾーストシステム(エキゾーストマニホールド + フロントパイプ + マフラー)

 

冷却系

TRUST GReddy インタークーラー + オイルクーラー、HPI アルミラジエーター

 

外装・補強・アーム類・その他

TRD ストラットタワーバー(フロント + リア)

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(フロントボンネット前方左端 + リアガラス上端右端)

 

 

高田康(ナイトキッズ)

NISSAN S13 後期 シルビア K’s(ベルベットブルー)

 

19歳。茶色く染めたツンツンとした毛質の髪を短く切り揃えているナイトキッズの新入りメンバー。

中里は世代がまるっきり違うがオナチュー(同じ中学の略。今は死語)の先輩らしい。

山で舐められないよう、周りに合わせて多少オラついた口調で話すように意識しているが、意外にも根はまとも。

このシルビアはドリフトの練習のミサイル用と割り切って購入したが、何だかんだでそこそこ気に入っている。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-2、sparco 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NISMO イリジウムプラグ、HKS F-Con V pro

 

ミッション・駆動系

NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07、ENKEI RP-02(ホワイト)、DIXCEL SD TYPEローター、NISMO スポーツブレーキパッド、TEIN HS

 

吸排気系

TRUST GReddy エアインクスキット + Power extreme Ⅱ

 

冷却系

NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

NISSAN フロントスポイラー、東名パワード 3点式フロントストラットタワーバー、CUSCO リアストラットタワーバー

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(フロントボンネット前方左端 + リアガラス上端右端)

 

田中吾郎(ナイトキッズ)

NISSAN S13 後期 シルビア K’s(スーパーブラック)

 

22歳。庄司慎吾の派閥に属するメンバー。

中里がGT-Rという超高性能車を駆りながらも、つい先日まで無名だった旧型車のハチロクに対して警戒心をあらわにしている事について、内心バカにしていて次期リーダーに庄司慎吾を担ぎ上げようとしている。

 

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-6、HPI 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

DENSO イリジウムプラグ、HKS F-Con V pro

 

ミッション・駆動系

NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07、BBS LM(ダイヤモンドシルバー)、NISMO スポーツブレーキパッド

 

吸排気系

TRUST GReddy エアインクスキット、BLITZ ニュルスペックマフラー

 

冷却系

NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

US RACING SPORTS フロントリップスポイラー、CUSCO ストラットタワーバー(フロント + リア)

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(左右リアフェンダー)

 

 

天田浩二(ナイトキッズ)

NISSAN RPS13 後期 180SX タイプR(スーパーレッド)

 

22歳。庄司慎吾の派閥に属するメンバー。

サラサラに伸ばした髪を明るい茶色に染めている。

金髪の癖に真面目なレッドサンズの佐々木とは違いこっちはちゃんとチャラ男をしている。

走るのは楽しいと思っているし本人の才能もあるにはあるが、走りに対するモチベーションが中里ほどストイックではないために実力は現状頭打ち状態。

 

カスタム(簡易版)

内装

RECARO SR-3、HPI 4点式ハーネス、Defi5連メーター(水温計 + 油温計 + 油圧計 + ブースト計 + 電圧計)

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NISSAN S15 純正タービン

 

ミッション・駆動系

NISMO 強化クロス6MT + GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

BRIDGESTONE POTENZA RE-11、BBS RG(ダイヤモンドシルバー)、brembo ブレーキローター + ブレーキパッド

 

吸排気系

HKS スーパーパワーフロー + スーパーターボマフラー + メタルキャタライザー

 

冷却系

HKS オイルクーラーキット、KOYO RAD アルミラジエーター、NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強・アーム類・その他

Super made 純正形状FRPボンネット、NISSAN フロントリップスポイラー + ストラットタワーバー

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(リアガラス上部中央)

 

 

小谷勝敏(ナイトキッズ)

TOYOTA JZA80スープラ(スーパーレッド)

 

25歳。黒の短髪に無精髭の男。免許を取る前から走り屋に憧れていて、免許取得と同時にカーディーラーや中古車屋をハシゴしまくりスープラを購入。

純正ツインターボのブーストアップ仕様で350馬力程度を発揮していて、パワー厨の弘道からは一目を置かれているものの、パワー頼みの走りをするせいでタイヤやブレーキのマネジメント能力に難がある。

ついでに生粋の車バカで頭も悪い。

趣味は洗車とドライブ。

 

カスタム(簡易版)

内装

BRIDE STRADIA Ⅱ(運転席:ブラック)、Sabelt 4点式ハーネス

 

動力系・燃料系・点火系・タービンその他

NGK レーシングプラグ

 

ミッション・駆動系

OS GIKEN マルチプレートクラッチ + OSスーパーロックLSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07、ENKEI Racing RP03(シルバー)、TANABE SUSTEC PRO FIVE、Winmax ARMA SPORTS AP3

 

吸排気系

5ZIGEN BORDER304 MAX

 

冷却系

TRUST GReddy インタークーラー + オイルクーラー

 

外装・補強・アーム類・その他

TOYOTA 純正フロントリップスポイラー + 大型リアウィング、TRUST GReddy ストラットタワーバー、TEIN パフォーマンスバー リア

 

ステッカー類

ナイトキッズステッカー(左右リアフェンダー + リアウィンドウ上部)

 




Q. モブキャラやオリキャラの名前はどうやって決めてるんですか?

A. 一部の例外を除けば殆どがその辺の家の表札とか、古新聞や雑誌の中から適当に継ぎ接ぎです。

2023 / 04 / 23 22時40分
誤字を訂正。ナイトキッズに関する記述を部分的に追記。

2023 / 10 / 18 23時10分
ナイトキッズに関する記述を追加。

2023 / 11 / 19 0時24分
一部記述の追加。

2023 / 12 / 1 8時41分
誤字訂正と一部記述の追加。

2023 / 12 / 13 20時41分
誤字訂正と一部記述の追加。

2024 / 1 / 10 22時54分
一部表記の追加。


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設定集(幻想郷サイド)

こちらは幻想郷側の設定を記したものになります。


幻想郷側世界観設定

 

この世界の幻想郷では1980年代初頭あたりから外の世界の旧車が僅かながらも流入しだしそれを回収する妖怪や人間が現れる。

しかしそれは飾りや雨風をしのげる鉄の箱程度の扱いで、車としての本来の用途で扱われることはほぼ皆無だった。

これがまともに車として運用され始めるのは数年後の話。

最初期は車というものが移動用の機械であるという事実が霖之助らの極一部の知識人や紫などの権力者たち、あるいは技術に明るい河童などの妖怪たち一部で共有されるのみだった。

 

それ以降は物好きな河童が僅かに研究を開始して動力源やメカニズムが少しずつ解明されていく。

地底から取れる液体を精製する事で動くようだと外界の書物から判明すると、人間や妖怪の上流階級や知識層の間で徐々に運用される事となる。

この時は道もほとんど舗装されておらず、燃料の供給のために妖怪の山の麓まで行く必要があるため利便性は悪く、幻想郷全体で実動が10台超程度だが存在自体は一般にも認知されて行く。

妖怪の山の道幅の拡張が始まったのはちょうどこの頃。

80年代後半、特に人里では紫が面白半分で持ち込んだ自身の430型グロリアと藍のワンダーシビックを慧音がぎこちないながらも運転して見せた事で大きく話題となり車を求める人がチラホラと出てきて流行の兆しを見せる。

 

80年代末から90年代に突入するとにとりがハチロク前期を拾ってレストアしたこと、守矢神社が幻想入りした事で大きく発展して行く。

にとりが友人たちや先に自動車の研究に手を出していた先輩の河童の手を借りながら素材を揃え工作機械を揃え手探りでレストアしている時に早苗たち守矢神社のメンバーが幻想入りした事で、外の世界の知識が河童たちに伝えられる。

 

(なお、幻想郷側で各種原作イベントの大幅な前倒しが起きているのと同様に、外の世界も史実より10年前後先の技術水準を持っており、それに伴い様々な車種の販売年もやや前倒しされている。本作で登場するギリギリ最新の車を2012年発売のトヨタ86に設定するために考案された設定)

 

これ以降から幻想郷の中でもトップの技術力を誇っていた妖怪の山の技術がさらに進化して山や地底のインフラの整備や原発の建設、石油精製所の建設を開始。

にとりたちが整備工場を設立し、そこにヤマメやお燐などの妖怪たちが事故車や不動車を持ち込みレストアを開始したのはこの90年代前半の時期。

 

(補足:1991年、上白沢慧音が個人用に30スカイライン2000RSを、送迎用に40ノアを購入。1992年以降、レミリア・スカーレットが車にハマりランボルギーニ カウンタックやフェラーリ328、童夢・零、光岡ラセード、さらには当時としては最新の光岡オロチなどを続々と購入。紅魔館の拡張と地下ガレージの建造を行う。1993年、巫女として就任直後の博麗霊夢が神社裏でひっくり返っていた事故車ハチゴーを発見しレストアに出す)

 

90年代の前半には八雲紫が「別のパラレルワールドから道路を引っ張ってくる」という荒技で幻想郷の主要な道路を整えると、自動車の普及率は増加傾向となり早速それを利用した競争が行われるようになる。

特に妖怪の山と地底の旧地獄を結ぶ『山底線』と呼ばれるいろは坂に似た、複数の連続したヘアピンを含む中低速セクションが長く続き、高低差もかなり激しい道路には多くの妖怪の走り屋がひしめき合い妖怪側の走りの聖地として扱われるようになり、日常的にバトルが発生するようになる。

 

他にも霧の湖を一周する全長18キロの高速セクション主体の道である『霧の湖環状線』もとい『ミストレイクスカーレットライン』。

風見幽香が自らデザインしたと言われる太陽の花畑を一周する緩い曲がりのオーバルコースとしても利用される『幻想郷フラワーロード』。

迷いの竹林を危険地帯を迂回しながら永遠亭まで迷わず通れる画期的な生活道路であり、中高速コーナー主体の勾配の緩い道が続く『人遠線』。

魔法の森を危険な妖怪のテリトリーと有毒植物の生い茂るバイオームを右に左に縫う様に回避しながら霧雨魔法店やマーガトロイド人形店を結んでいる『フォレストレインボーライン』。

人里から隣接した小さな丘に鎮座する命蓮寺とを繋ぐ、比較的短いながらもテクニカルな中低速区間がコースの半数以上を占める峠道の『命里道』。

博麗神社の存在する博麗山とその裏山3つ(前ノ山・中ノ山・奥ノ山)を走る『博麗四峰線』とそれを構成する道路群『博麗山ホワイトライン』『前ノ山ブルーライン』『中ノ山イエローライン』『奥ノ山オレンジライン』の4つの峠道など。

これら多種多様な道路の存在が幻想郷における走り屋文化の醸成に寄与していた。

 

当初はこれらの地域に分かれてそれぞれが走っていたが、それが次第に遠征やあるいは草レースなどを経て交流を重ねていく。

そして数年が経ち90年代後半。

幻想郷内の勢力図が固定化されていき、次第にマンネリ化を見せる様になる。

幻想郷内におけるその閉塞感を打破するには、外の世界へと打って出るのが一番であるとして賢者たちによって外界遠征計画の立案がなされる。

予選大会を経てメンバーの選抜が行われ、チームの立ち上げと共にその計画が実行に移される。

 

だがその裏では幻想郷にとある危機が迫っており、その外界遠征計画はそれに対する備えや対応も兼ねていた。

 

 

 

 

・『チーム・ファンタジア』

 

幻想郷の走り屋たちの中でも上位に君臨する選抜メンバーと、将来的に大成する可能性の高い才覚に溢れる有望株の特待生メンバーと、彼女らを資金面を含めた多方面から支えるスポンサーや補助要員を集めた選抜チーム。

幻想郷の各地域や各勢力の代表となるメンバーはもちろん、メカニックや救急要員、警備担当などの役職があるが、スポンサーや特別顧問などの適当な役職や肩書きをつけてメンバーの(過保護な)身内や面白半分で紛れ込んだ賢者たちがいるため、人数はかなりの大所帯となっている。

 

賢者たちの集まりの中で計画が練られたが、発起人は八雲紫でチームステッカーのデザインはレミリア・スカーレット。

チーム名の命名に関してはなんだかんだありながらも、幻想郷の賢者たちとその従者の何度目かも分からない会議(もとい宴会)で決定される事に。

当初はレミリアに任せたがその結果チーム名が『スカーレットレーシング』になりかけたため慌てて紫と藍がストップをかけたという裏話がある。

 

資金面での援助は妖怪の山と紅魔館と西行寺家、八雲家、命蓮寺、人里などの諸勢力が少額ずつ出し合う形で行われている。

ただし現状では結構ノリノリなスカーレット家が最もお金を出している。

ガソリン代や消耗品類に関してはもちろん、その他カスタムパーツ等の購入に関してもチームがお金を出してもいいということにはしているが、中にはあくまでこれは自分の車だからと自費でパーツを購入するメンバーも多い(椛、アリスなど他数人はこのタイプ)。

 

 

・『山河わぁくす』

 

1980年代末から1990年代初頭、幻想郷での車ブームの黎明期に創設された、河童と山童が合同で経営する幻想郷最古にして最大規模のチューニングショップ。

名前の由来は設立母体となった二つの種族の名にちなんだもの。

幻想入りしてきたボロボロの前期型トレノをたまたまにとりが発見し、それのレストアを彼女と交友関係のあった他の河童や山童と共に始めたことが創設のきっかけとなった。

 

すでに取り付けられていた純正や社外のパーツの構造と材質を参考に、時には他の先輩河童たちの協力を得つつ技術屋としての意地でやれることは何でもやった。

ただし自動車用エンジンとミッション等の専門性の高い部品だけは十分なノウハウが無くどうにもならなかったため、そこだけは外の世界に持って行かざるを得なかった。

一番苦労したのは部品を作るための工具や工作機械の調達と、あとは品質の良い材料の確保。

その辺は幻想郷だけではどうにもできないので、外の世界にパイプのある八雲家とスカーレット家頼りになっている。

 

車に関するノウハウの不足を憂いたにとりが八雲家に依頼して、ミゼットやカリーナなどの比較的ありふれた国産車に始まりフェラーリやポルシェ、ベントレーなどの高級外車まで、様々な車種の廃車や中古車を持って来てもらい分解したり組み立てたりで車の構造を学んで技術を吸収していき、これが結果的に河童という種族全体の技術力の底上げにも貢献している。

創設初期にはヤマメのFDなどのレストアや整備なども受け持った経験がある。

 

現在は車種別ワンオフパーツの製作を中心にはしているが、八雲家やスカーレット家の所有するいくつかのダミー企業を経由して外の世界から最新のパーツを仕入れて組むことも多い。

もともと核融合施設や人型ロボットに光学迷彩装置、ロープウェイを始めとして、あれこれと(時には珍妙な)発明品を作っていたこともあり技術力だけは謎に高かった河童たちなので、車に関してもそれなり以上の製品を作れるようにはなってきている。

 

実はにとりのスカウトで小傘も在籍していて鍛治師として働くかたわら、エンジンやホイールの研究に協力している。

元々彼女は鍛治師としてかなり優れた素質と技能を持っていて、しかも金属加工に精通しているためぶっちゃけかなり有能である。

現在はスペアタイヤ用鉄製鋳造ホイールの製造事業を行いながら、アルミやステンレスの性質や加工に関して勉強中。

 

 

 

幻想郷側選抜メンバー

 

【博麗神社代表】博麗霊夢(NISSAN S15 シルビア Spec S / アクティブレッド)

【八雲一家代表】八雲藍(HONDA EK9 シビック タイプR / チャンピオンシップホワイト)

【紅魔館代表】フランドール・スカーレット(HONDA FD2 シビック TYPE R MUGEN RR / ミラノレッド)

【魔法の森代表】霧雨魔理沙(NISSAN BNR34 スカイライン GT-R V-specⅡ / スーパーブラック)

【白玉楼代表】魂魄妖夢(MAZDA FC3S サバンナ RX-7 アンフィニⅡ / シェイドグリーンメタリック)

【迷いの竹林代表】藤原妹紅(MITSUBISHI CP9A GSRランサーエボリューションⅥ トミーマキネンエディション スペシャルカラーリングパッケージ / パッションレッド)

【人里代表】上白沢慧音(SUBARU GDB後期 アプライドF型 インプレッサ WRX STI スペックC タイプRA-R / WRブルーパール)

【妖怪の山代表】犬走椛(NISSAN S14後期 シルビア K’s / パールホワイト)

【守矢神社代表】東風谷早苗(TOYOTA ZZW30 後期 2.5型 MR-S Sエディション / ブルーマイカ)

【地底代表】黒谷ヤマメ(MAZDA FD3S 前期2型 アンフィニ RX-7 タイプR-2 / 日産純正色:スーパーブラック)

【地霊殿代表】古明地こいし(SUBARU GC8 後期 アプライドG型 インプレッサ WRX タイプRA STI バージョンⅥ / カシミヤイエロー)

【命蓮寺代表】ナズーリン(MAZDA NB8C ロードスター RS / サンライトシルバーメタリック)

 

・特待生

 

今泉影狼(NISSAN S15 シルビア Spec R / パールホワイト)

赤蛮奇(NISSAN RPS13 後期 180SX × S13 前期 シルビア シルエイティ / スーパーレッド)

わかさぎ姫(NISSAN S13後期 シルビア K’s / ブルーイッシュシルバーツートン)

アリス・マーガトロイド(TOYOTA JZA80 SUPRA RZ / スーパーホワイトⅡ)

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・特別顧問&スポンサー&名誉メンバー(もとい便乗&保護者枠)

 

風見幽香(NISSAN Z33 フェアレディZ バージョンS / プレミアムサンシャインイエロー)

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西行寺幽々子(TOYOTA JZS161 アリスト V300 ベルテックスエディション / ダークブルーマイカ)

八雲紫(MAZDA FD3S 後期6型 RX-7 スピリットR タイプA / イノセントブルーマイカ)

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聖白蓮(NISSAN BNR32 スカイライン GT-R V-specⅡ / ダークブルーパール)

雲居一輪(NISSAN BCNR33 スカイライン GT-R V-spec / ミッドナイトパープル)

寅丸星(MITSUBISHI CP9A ランサー GSR エボリューションⅤ / ダンデライオンイエロー)

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・警護役

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魂魄妖夢(兼任)

犬走椛(兼任)

 

・メカニック枠

河城にとり(TOYOTA AE86 スプリンタートレノ 3door GT-APEX / ハイメタルツートン)

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・医療スタッフ

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鈴仙・優曇華院・イナバ(NISSAN RPS13 後期 180SX タイプX / ホワイト)

 

・記者(もとい情報収集担当)

射命丸文(NISSAN R35(MY08)GT-R スペックV / メテオフレークブラックパール)

姫海棠はたて(TOYOTA ST205 セリカ GT-FOUR / ブラック)

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・チームファンタジア(愛車紹介)

 

 

【博麗神社代表】

オーナー:博麗霊夢

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN S15 シルビア Spec S(MT・FR)

カラー:アクティブレッド

ナンバープレート:博麗 30 は 35 - 890

外の世界用ナンバープレート:城峯 30 は 15 - 016

 

内装

シート:BRIDE ZETAⅡ(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:NISMO & sabelt スポーツハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MOMO FULL SPEED

内装その他:PIVOT 水温計 + 油温計、NISSAN 油圧計、NISMO ソリッドシフト + GTシフトノブ + スピードメーター

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN SR20DE N2エンジン部分流用 HKS 2.2L仕様コンプリートエンジン、NISSAN BNR32 純正フューエルポンプ + VR38DETT インジェクター、NISMO 4連スロットルバルブ + レーシングスパークプラグ(280馬力)

コンピューター:HKS F-CON VPro

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISMO 強化クロス6MT + クラッチホース + 軽量フライホイール、ATS技研 カーボンシングルクラッチ

LSD:CUSCO LSD type RS

 

タイヤ・ホイール・足回りなど

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-11

ホイール:RAYS VOLKRACING TE37 MAG(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:ENDLESS 4POTブレーキキャリパー + カービングスリットローター + MX72 + スイベルスチールブレーキライン

サスペンション:OHLINS PCV

 

吸排気系

エアクリーナー:K&N エアフィルター

サージタンク:Altrack サージタンク

マフラー:HKS Silent Hi-Power

触媒:HKS メタルキャタライザー

エキマニ:TEC-ART’S エキゾーストマニホールド

 

冷却系

オイルクーラー:HKS オイルクーラー

ラジエーター:BLITZ レーシングラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):山河わぁくす ワンオフカーボンボンネット + ドライカーボンルーフ + カーボンドア

ボディパーツ(エアロ):T&E VERTEX LANG フルエアロ(フロントバンパースポイラー + フロントフェンダー + サイドステップ + リアフェンダー + リアバンパースポイラー)、C-WEST GTウィングⅡ、クラフトスクエア カーボンエアロミラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISSAN スポーツチューンドボディ(フロントクロスバー + リアクロスバー + トランクバー + リアフロアステイ + エクステンションフロア板厚アップ)、NISMO パワーブレースシステム2 + リアメンバーブレース、CUSCO ストラットタワーバー(フロント + リア) + 強化スタビライザー(フロント + リア)+ ピラーサイド補強バー + 強化テンションロッド + テンションロッドバー、KTS エンジントルクダンパー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(左右フロントフェンダー)+ 博麗神社交通安全ステッカー(リアガラス右側下端)

 

備考:霊夢の愛車。最初の愛車であるハチゴーをクラッシュさせてしまい車がなくなってしまった霊夢のために仲間達から送られた少し早めの誕生日プレゼント。

霊夢を溺愛している紫と藍が「前々から霊夢の才能に見合ったとっておきのものを用意したかったから」として組み上げたチューニングカー。

車とエンジン自体は紫が購入しているが、箱の方はエンジンブローしてあわや廃車コース行きだった車を、エンジンはスペックR用SR20DET載せ換えによって要らない子扱いされて降ろされてしまったNAエンジンのブロックをそのまま流用し、競技用エンジンのヘッドを乗せている。

エアロは藍が、前のオーナーが使い古していたシートとシートベルトは明羅が、同じくステアリングはあうんが、カーボンエアロミラーは魔理沙がそれぞれお金を出し合い買ってあげた。

 

エンジンはNAのままだがN2エンジンと呼ばれる特殊な競技用エンジンのヘッドを用いており、HKSによるチューニングで280馬力を絞り出す。

排気量アップのおかげで低速から使えるトルクを実現し、4連スロットル仕様でレスポンスもよく、なおかつNA特有の自然なフィーリングのおかげで扱いやすい。

スペックRと比較した場合、タービンとタービン補機類を搭載しない分だけ軽さに優り(特にインタークーラーを搭載しないのが大きい)、フロントヘビーが改善され前後重量比も良好で回頭性も良い。

その長所である軽快さと扱いやすさをさらに伸ばし極めるチューニングを施すことで下手なターボ車を凌ぐ速さが手に入るという。

エンジンのチューニングは外の世界のHKSに持ち込んで行い一部のピストンやコンロッド、さらにはオイルクーラーキットなどのパーツはこのN2エンジンとチューニング内容に合わせて既存のパーツをベースにワンオフ作成してもらったものになる。

 

エアロに関してはVERTEX製のフルエアロと、にとり謹製のカーボンパーツで全身をコーディネートしていて、特にエアロボンネットはにとりなりに考えて作られた逸品であり、VELTEX製のフロントバンパーのヘッドライト間に設けられたダクト形状を生かすように作っている。

にとりのワンオフカーボンボンネットはいわば霊夢の4スロNA仕様専用に設計されたようなもので、純正ボンネットにあるライン状のデザインの中央部を若干盛り上がらせるという形でリデザインさせることで、K&N製エアフィルターを取り付けた4連スロットルとボンネットとの間に十分なクリアランスを作るとともに、フロントバンパー上側開口部からその膨らみの中を抜けていく空気の流れを作るように意識したのである。

このフロントバンパー上部から入り込んだ空気がボンネット中央部の膨らみを通ってボンネット上部に滞留する熱気を浚うことでスロットルバルブ付近の温度を下げ吸気温度と吸気効率を改善するとともに、エンジン後部に溜まった熱気を巻き込みながら、純正ボンネットよりも広くなっているフロントガラスとの隙間やそのラインに沿うように設置されたフィン形状の開口部を通り抜けていくといった感じになっている。

また、4スロ化した影響でむき出しの状態となってしまい、水滴やゴミの吸い込みによってエンジンにダメージが及ぶ可能性を考慮して、社外の軽量エアロボンネットでありがちな中央部の大型ダクト形状はあえて採用せず、フロントガラスのラインに沿って湾曲した長細い形状のダクトをボンネット後端部に設けるのみとなっている。

 

スペックSの純正ブレーキしょぼすぎ問題を解決するために行なったENDLESS製のブレーキキット導入によるブレーキの大径化に伴い、ホイールは純正15インチ6Jから17インチ8Jに大きく太くなっているが、重量自体は逆に軽くなっている。

これに関してはそもそも純正のホイールが15インチ6Jという軽自動車のホイールとそう大差ないコンパクトサイズ(作者の手元にあるホンダ前期S660の前輪側の純正ホイールサイズが15インチ5J+45で重量は6.4キロ)なのになぜか7キロ超という18インチの鍛造アルミと大差ない激重仕様なのが悪い。

このブレーキの強化によってブレーキ熱容量と制動力も大幅に向上しているため排気量アップに伴いパワーの上がったシルビアを受け止められるだけの必要十分な性能を獲得している。

 

ボディはCUSCO製の補強パーツとアーム類で揃えており、特にドア開口部の剛性不足を補強するためのサイド補強バーを導入することで、大げさで重量もかさんでしまい折角の軽さを犠牲にしてしまいかねないロールケージを付けることなく効率的な剛性の向上を果たしている。

リアシートとスペアタイヤを撤去しその代わりにリアシートの足元にアルミ製の補強バーを、ピラー部にはアルミ製ピラーバーを取り付けることでリアの剛性を高め、GTウィングを装備してダウンフォースを稼ぎリアのトラクションを確保している。

 

 

 

【八雲家代表】

オーナー:八雲藍

所属:チーム・ファンタジア

愛車:HONDA 後期 EK9 シビック タイプR(MT・FF)

カラー:チャンピオンシップホワイト

ナンバープレート:幻想郷 52 や 16 - 989

外の世界用ナンバープレート:京都 52 や 16 - 989

 

内装

シート:HONDA EK9 シビック タイプR純正スポーツセミバケットシート(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

内装その他:PIVOT 水温計 + 油温計

 

エンジン周り

エンジン:SPOON B16B改 1.8L化コンプリートエンジン、J’s Racing ビッグスロットル、NGK レーシングプラグ(250馬力)

コンピューター:A’PEXi パワーFC

 

ミッション・駆動系

ミッション:SPOON 強化クロス5MT + クラッチディスク&カバー + 軽量フライホイール

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07

ホイール:タケチプロジェクト Racing Hart CP-035(16インチ:ホワイト)

ブレーキ:MUGEN スリットディスクローター + ブレーキパッドTYPE-S + マイクロメッシュブレーキライン

サスペンション:SPOON フルスペックダンパーキット

 

吸排気系

エアフィルター:MUGEN ハイパフォーマンスエアクリーナー&ボックス

マフラー:SPOON N1テールサイレンサー + エキゾーストパイプ

触媒:SARD スポーツキャタライザー

エキマニ:SPOON 4in2 エキゾーストマニホールド

 

冷却系

ラジエーター:J’s Racing アルミスペシャルラジエーター + ラジエーターキャップ + ラジエーターホース

サーモスタット:J’s Racing ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):SHIFT SPORTS カーボンエアロボンネット、山河わぁくす カーボンルーフ

ボディパーツ(エアロ):C-WEST フルエアロ(フロントエアロバンパー + サイドステップ + リアバンパー)、SPOON カーボンルーフスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):MUGEN ストラットタワーバー(フロント + リア) + 強化スタビライザー(フロント + リア)、カワイ製作所 リアモノコックバー、M&M HONDA サイドインナーブレース、NEXT ミラクルクロスバー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上側ルーフスポイラー直下)+ 博麗神社交通安全ステッカー(リアガラス左側下端)+ SPOONステッカー(左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ MUGENステッカー(SPOONステッカーの真下)+ J’s Racingステッカー(MUGENステッカーの真下)+ ADVANステッカー(J’s Racingステッカーの真下)

 

備考:八雲藍の愛車。SPOONの1.8Lコンプリートエンジンに特別仕様の強化クロス5MTを組み合わせ、吸排気系もそのエンジンに合わせてチューンしている。

ドライカーボンルーフはにとりに依頼して制作してもらった特注品で、ある程度強度や剛性を重視した設計にはなっているものの、その重量は約3.6キロで12.6キロ以上ある金属製の純正ルーフと比較して非常に軽く仕上がっている。

 

ボンネット、ルーフ、ルーフスポイラーなど、最も高い位置にある重量物を軽いカーボン製のものに交換することで重心をより押し下げ、コーナリング時の安定性を向上。

MUGENの大径ブレーキシステムの導入にあたって、クリアランスの確保のためにホイールは純正15インチからレーシングハートCP-035の16インチにインチアップ。

しかし純正ホイールの一本あたりの重量は7.3キロとなっているが、レーシングハートCP-035は1インチ分大きいにも関わらずなんと5キロへと軽量化されている。

さらに重いリアシートも取り外しその代わりにスペアタイヤを床へと移し、より重心を押し下げているほか、そのスペアタイヤも重たい鉄チンホイールのものではなく、現在使用しているものと同じレーシングハートCP-035にヨコハマのアドバンネオバを組み合わせたものになっている。

このEK9シビックでは純正と比較して約20キロ以上の軽量化に成功。

 

藍は慧音や永琳、白蓮、マミゾウなどと並んでチームにおける頭脳の役割を果たしている他、教官役として立ち回ることもある。

 

 

 

【紅魔館代表】

オーナー:フランドール・スカーレット

所属:チーム・ファンタジア

愛車:HONDA FD2 シビック TYPE R MUGEN RR(MT・FF)

カラー:ミラノレッド

ナンバープレート:紅魔館 30 と 20 - 495

外の世界用ナンバープレート:軽井沢 30 と 20 - 495

 

内装

シート:MUGEN & RECARO製 RR専用スポーツセミバケットシート(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MUGEN ステアリングホイールレーシングⅢ

内装その他:MUGEN RR専用スピードメーター + 3連サブメーター + クイックシフター + カーボンシフトノブ

 

エンジン周り

エンジン:HONDA K20A(240馬力)

コンピューター:MUGEN RR専用チューニングECU

 

ミッション・駆動系

ミッション:MUGEN メタルクラッチ

LSD:MUGEN トルク感応型LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE070 RRスペック

ホイール:MUGEN RR専用 鍛造アルミホイール(18インチ:ブラック)

ブレーキ:MUGEN & brembo製 RR専用ブレーキシステム

サスペンション:MUGEN RR専用 スポーツサスペンション

 

吸排気系

エアフィルター:MUGEN ハイパフォーマンスエアクリーナー&ボックス

マフラー:MUGEN スポーツエキゾーストシステム

触媒:MUGEN スポーツキャタライザー

エキマニ:MUGEN エキゾーストマニホールド

 

冷却系

ラジエーター:FEEL’S アルミラジエーター + ラジエーターキャップ

サーモスタット:MUGEN ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):MUGEN RR専用アルミエンジンフード、FEEL’S 軽量ドアパネル

ボディパーツ(エアロ):MUGEN RR専用 フルエアロ(カーボンフロントバンパー + カーボンフロントグリル + サイドスポイラー + リアアンダースポイラー + リアディフューザー + 大型リアスポイラー)

ボディパーツ(アーム類・補強等):SPOON リジカラ + サイドガセットプレートセット、J’s Racing エンジントルクダンパー

ステッカー類:

 

備考:幻想郷の走り屋たちの外の世界遠征選抜メンバーにフランが選ばれたと聞いたレミリアが、フランのために用意したマシン。

フランドールの希望を取り入れて選定されており、結果的にFD2シビックタイプRを使用することになった。

しかも限定300台のMUGEN RRという、無限による特別なチューニングを施されたスパルタンなコンプリートカーとなっている。

 

RECAROとの共同開発によって作られた軽量なスポーツバケットシートを装備し、外装にはカーボン製ボディパーツふんだんに使うことで、ベースとなったタイプRよりもさらに15キロも軽量化されていて、エンジンも専用カムを用いてチューンされた特別仕様。

2リッターNAエンジンでありながら240馬力を絞り出す。

ホンダのタイプRの肝となるブレーキはハードなブレーキングの連続となるツインリンクもてぎを走り込んで作り上げられたbrembo製で、DC5インテグラタイプRと比較して制動力はもちろん耐フェード性やブレーキ冷却性能も大幅に向上していて、高いパフォーマンスをより長く持続させられるようになっている。

 

フランはこの車をかなり気に入っているようで、納車してからは博麗神社の峠や妖怪の山など、幻想郷の各地で走り込みを行いすぐにマシンに順応してみせた。

FF故のタイヤマネジメントの難点はあるものの、逆にFFだからこその強みというものを理解していて、FF車特有の現象であるタックインを利用したコーナリングや左足ブレーキを駆使した巧みな荷重コントロールなどを得意としている。

こうしたFF車の乗り方に関しては本人の才能はもちろんのこと、同じシビックタイプRに乗っている八雲藍からの指導やアドバイスなどもあり、相当なハイレベルの領域にある。

 

 

 

【魔法の森代表】

オーナー:霧雨魔理沙

所属:チーム・ファンタジア

愛車: NISSAN BNR34 スカイラインGT-R V-specⅡ(MT・4WD)

カラー:スーパーブラック

ナンバープレート:魔法の森 30 せ 80 - 328

外の世界用ナンバープレート:品川30 ま 80 - 328

 

内装

シート:RECARO RS-G GK(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

内装その他:NISMO フルスケールスピードメーター + クイックシフト + GTシフトノブ

 

エンジン周り

エンジン:NISMO RB26DETT R1エンジン(470馬力)

コンピューター:NISMO ECUリセッティング

過給機:NISMO R1 ターボキット

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISMO スポーツクラッチキット + 軽量フライホイール + クラッチホース

LSD:NISMO GT LSD Pro

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE710kai

ホイール:RAYS VOLKLACING TE37 TIME ATTACK EDITION(18インチ:ダイヤモンドダークガンメタ)

ブレーキ:NISSAN & brembo R35 GT-R 純正ブレーキ変換キット(R35 純正モノブロックブレーキキャリパー + R35 純正ドリルドブレーキローター + R35 純正ブレーキパッド + R35 純正ブレーキホース)

サスペンション:D2ジャパン サスペンションシステム(オーダーメイドセッティング)

 

吸排気系

エアフィルター:NISMO エアクリーナー

マフラー:NISMO ヴェルディナ NE-1 チタンマフラー

エキマニ:NISMO エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:NISMO インタークーラー + インタークーラーパイピング

オイルクーラー:NISMO エンジンオイルクーラー(ツイン仕様)+ ミッションオイル&デフオイルクーラー

ラジエーター:TRUST GReddy アルミラジエーター

サーモスタット:NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):Z.S.S. カーボンボンネット + SHAFT Auto Service ドライカーボントランク + ドライカーボンルーフ + カーボンウィンドウ

ボディパーツ(エアロ):TOP SECRET G- FORCEフルエアロ(フロントバンパースポイラー + フロントアンダーパネル + N1ダクト + サイドステップ + リヤアンダーディフューザー)

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISMO チタンタワーバー + スタビライザー(フロント + リア)+ リアメンバーブレース + アンダーフロア補強バー + 強化エンジンマウント

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(運転席側リアフェンダー)+ NISMOステッカー(フロントバンパー助手席側ダクト上)+ NISMOバッジ(トランク左側)+ 博麗神社交通安全ステッカー(リアガラス左側下端)

 

備考:魔理沙の愛車。よく回り、よく吹けるパワフルなエンジンがお気に入り。

外の世界から流れてきた中古車で前のオーナーはかなり大切に乗っていたようで状態は相当に良く、売却前に油脂類やブッシュ類にその他摩耗パーツを数点交換した形跡があり、ブレーキや冷却系など、十点以上の社外パーツがすでに装着してあった。

外装にカーボン製パーツを多用しているのは霊夢や藍からのアドバイスと咲夜の所有するNISMO製のZ-tuneに対抗してのこと。

 

吸排気系や冷却系も込みで行なった総額100万円を超える高額なNISMOを中心としたトータルチューニングメニューは紅魔館主催のレース(ハイパワークラス)で2位に入賞した際の賞金をほぼ全額つぎ込んで実現した。

高いお金をかけただけはあり、R34の調子が良くなり峠でもサーキットでもこれまで以上に走りやすくなりご機嫌になっている。

ちなみに幻想郷の走り屋たちはこうした各勢力の主催するレースに参加して入賞することで得られる賞金で一稼ぎしている人も多い。

魔理沙もその1人で、各地のレースで優秀な成績を収めているため最近は金回りが良くなっている。本業である霧雨魔法店の方も魔理沙とともにその知名度が上がったため依頼や取引を持ちかけてくる顧客も以前に比較して多くなったという。

 

このチームに参加する以前では、峠でヒルクライムの魔理沙とダウンヒルの霊夢でコンビを組んで活動した経験がある。

また、アリスと共にその卓越した速さから魔法の森の走り屋たちからは強い尊敬を集めていて、ある種の二大カリスマ的な存在となっている。

二人を慕う魔法の森に住まう走り屋たちが『メイガスナイツ』というファンクラブ的な走り屋チームを結成するほどでその人気は熱狂的である。

 

 

【白玉楼代表】

オーナー:魂魄妖夢

所属:チーム・ファンタジア

愛車:MAZDA FC3S サバンナ RX-7 アンフィニⅡ(MT・FR)

カラー:シェイドグリーンメタリック

ナンバープレート:冥界 55 は 46 - 589

外の世界用ナンバープレート:三河 55 は 46 - 589

 

内装

シート:BRIDE ZETAⅢ(運転席:ブラック)+ STRADIAⅡ(助手席:ブラック)

シートベルト:TAKATA 4点式ハーネス(運転席:グリーン & 助手席:グリーン)

ステアリング:MOMO TUNER

内装その他:Defi 水温計 + 油温計

 

エンジン周り

エンジン:MAZDA FD3S 後期5型用 13B-REW サイドポート加工、RE雨宮 アルミプーリーキット + アペックスシール + 大容量スロットルボディ、R Magic 130A オルタネーター、NGK レーシングプラグ(340馬力)

コンピューター:A’PEXi パワーFC

過給機:HKS TO4Sタービン

 

ミッション・駆動系

ミッション:MAZDA FD3S後期 純正 5MT + EXEDY シングルクラッチセット + レーシングフライホイール

LSD:CUSCO 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07

ホイール:ENKEI Racing RPF1(シルバー:17インチ)

ブレーキ:NISSAN S15 シルビア SPEC R純正4potブレーキキャリパー + ER34 スカイライン 純正ブレーキローター(山河わぁくす ワンオフ逆回転8本スリット加工)、ACRE フォーミュラ 800C、SWAGE-LINE ステンレスブレーキホース

サスペンション:KNIGHT SPORTS スーパースポーツセッティングダンパー

 

吸排気系

エアフィルター:K&N エアフィルター

マフラー:FUJITSUBO Legalis R

触媒:HKS メタルキャタライザー

エキマニ:不明 ワンオフエキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:ARC 純正互換インタークーラー

オイルクーラー:MAZDA FD3S 後期6型 RX-7 純正ツインオイルクーラー

ラジエーター:山河わぁくす ワンオフアルミ2層式ラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):GP-SPORTS フロントボンネット

ボディパーツ(エアロ):BORDER RACING FC-2フルエアロ(フロントバンパーTYPE2 + サイドステップ + リアサイドディフューザー)、MAZDASPEED リアスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):MAZDASPEED ストラットバー(フロント + リア)、AutoExe メンバーブレースセット(フロント + リア)、CUSCO サイドピラー補強バー、ULTRA RACING スタビライザー(フロント + リア)、NEXT ミラクルクロスバー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(左右リアフェンダー)+ MAZDASPEEDステッカー(リアガラス上部)+ ADVANステッカー(左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ A’PEXiステッカー(ADVANステッカーの真下)+ CUSCOステッカー(A’PEXiステッカーの真下)+ K&Nステッカー(CUSCOステッカーの真下)

 

備考:妖夢の愛車。自分の好きな色である緑のボディがお気に入り。

特徴的なブレーキの改造を施しており、S15シルビアスペックRの4potブレーキキャリパーにER34スカイラインのブレーキローターを組み合わせるという奇抜なスタイル。

ER34のブレーキローターはマツダと日産ではハブ径が違うためにボルトオンとはいかず、ハブ径を合わせるための加工が必須。

ちなみにキャリパーのNISSANロゴは僅かばかりの軽量化も兼ねて削られており、ぱっと見ではS15のものであるとは気づきにくくなっている。

ついでにオイルクーラーとミッションもFD3Sの流用。

彼女のFCは流用品を多数用いたいわゆる流用チューンという奴である。

 

エンジンは前のオーナーがFD3Sのものへと載せ替えたようで、TD07のシングルタービン仕様で480馬力を出していた。

現在は峠をメインのステージとしているため、タービンを一回り小さいHKS製に換装、340馬力程度で運用している。

インタークーラーはARC純正互換タイプ。

 

エキマニはエンジン搭載位置が若干変更されている都合上なのか製作者不明のワンオフステンレスエキマニがもともとついている。

購入直後のメンテナンス時に純正触媒のセルに劣化が見られたため触媒はのちにHKS製に換装。

マフラーはフジツボ製、冷却系はパワーアップに伴い純正ラジエーターでは足りなくなってしまうため、山河わぁくすに依頼してワンオフのアルミ2層式ラジエーターを製作。

純正よりもコアサイズを拡大したほか、当然パイピングもワンオフとなっている。

 

 

【迷いの竹林代表】

オーナー:藤原妹紅

所属:チーム・ファンタジア

愛車:MITSUBISHI CP9A GSRランサーエボリューションⅥ トミーマキネンエディション(略称:TME) スペシャルカラーリングパッケージ(MT・4WD)

カラー:パッションレッド

ナンバープレート:竹林 33 ふ 32 - 091

外の世界用ナンバープレート:奈良30 ふ 32 - 091

 

内装

シート:MITSUBISHI & RECARO TME専用 スポーツセミバケットシート(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

内装その他:MITSUBISHI スポーツメーターキット

 

エンジン周り

エンジン:MITSUBISHI 4G63 2.3L仕様 HKS Vカムシステム(400馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro + ブーストコントローラーEVC6 + Vカム専用制御システム VALCON Pro

過給機:MITSUBISHI ランエボⅥ TME専用 TD05H チタンアルミ合金製タービン、Mine’s スーパーアウトレットプロ

 

ミッション・駆動系

ミッション:MITSUBISHI クロスレシオ5MT、EXEDY シングルクラッチ + 軽量フライホイール、APP クラッチホース

LSD:RALLI ART 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP DIREZZA ZⅡ

ホイール:ENKEI Racing ES ターマック(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:MITSUBISHI & brembo TME専用 ブレーキシステム、DIXCEL PD TYPE(山河わぁくす 逆回転6本カービングスリット加工)

サスペンション:TEIN MONO RACING(オーダーメイドセッティング)

 

吸排気系

エアフィルター:RALLI ART スポーツエアクリーナー

マフラー:FUJITSUBO RM01A、東名パワード フロントパイプ

触媒:SARD スポーツキャタライザー

エキマニ:MITSUBISHI CT9A ランサー RS エボリューション8 MR 純正エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:HPI インタークーラー

オイルクーラー:HKS オイルクーラーキット(ツインクーラー加工)

ラジエーター:HPI ラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(エアロ):MITSUBISHI TME専用フロントエアロバンパー + カーボンリアウィング

ボディパーツ(アーム類・補強等):MITSUBISHI ストラットタワーバー(フロント + リア)+ トランクバー、CUSCO パワーブレース(フロントフロアーセンター + フロントフロアーサイド + フロアーセンター)+ ロワアームバー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアバンパー中央)+ RALLI ART シェードフィルム(リアガラス上部)+ RALLI ARTステッカー(ボンネット前側中央)+ RECAROステッカー(左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ BLITZステッカー(RECAROステッカーの真下)+ HKSステッカー(BLITZステッカーの真下)+ TEINステッカー(HKSステッカーの真下)+ ENKEIステッカー(TEINステッカーの真下)+ CUSCOステッカー(ENKEIステッカーの真下)+ bremboステッカー(CUSCOステッカーの真下)

 

備考:妹紅の愛車。ランエボⅡ→Ⅳ→Ⅵ TMEと歴代ランエボを乗り換え続けている。

グレードはラリーカーをモチーフとしたエクステリアに、よりスパルタンなチューニングを施したトミーマキネンエディション(TME)という特別仕様車。

外装はボンネットもエアロも純正のままとなっている。

 

エンジンはHKS製の可変バルタイ機構のVカムシステムを組み込んで全域でのトルク&レスポンスアップを達成し、制御系も同じくHKS製のコンピューター類でマネジメントをしている。

タービンは3000rpm未満の低回転から立ち上がり、レスポンスが凄まじくいい純正のチタンアルミ製にハウジング加工を施してそのまま活かし、それにマインズ製のターボアウトレットを合わせてより鋭い加速を実現した超ハイレスポンス仕様。

 

 

【人里代表】

オーナー:上白沢慧音

所属:チーム・ファンタジア

愛車:SUBARU GDB後期 アプライドF型 インプレッサ WRX STI スペックC タイプRA-R(MT・4WD)

カラー:WRブルーマイカ

ナンバープレート:人里 38 ひ 897 - 38

外の世界用ナンバープレート:奈良 38 ひ 897 - 38

 

内装

シート:sparco RACING SEAT SPLINT L(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

シートベルト:sparco 4点式ハーネス(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

ステアリング:MOMO COMPETITION

内装その他:STI 3連サブメーター

 

エンジン周り

エンジン:SUBARU EJ20(330馬力)

コンピューター:STI スペックC専用スポーツコンピューター

過給機:STI スペックC タイプRA-R 専用ボールベアリングタービン

 

ミッション・駆動系

ミッション:TODA RACING スポーツクラッチ & フライホイール

LSD:STI 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-11

ホイール:MOMO REVENGE(18インチ:ブラック)

ブレーキ:STI & brembo スペックC専用6POTブレーキキャリパー + ドリルドブレーキローター、スポーツブレーキパッド + ステンレスメッシュブレーキホースセット

サスペンション:CUSCO SPORT R

 

吸排気系

エアフィルター:HKS レーシングサクション

マフラー:FUJITSUBO RM01A

触媒:FUJITSUBO スポーツキャタライザー

エキマニ:FUJITSUBO スーパーEX

 

冷却系

インタークーラー:STI インタークーラー

オイルクーラー:STI オイルクーラー

ラジエーター:KOYORAD レーシングラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):CHARGE SPEED カーボンボンネット

ボディパーツ(エアロ):STI フロントアンダースカート + カーボンリアスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):STI ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ 強化ミッションマウント + 強化デフマウント + ラテラルリンクセット + トレーリングリンクセット、HPI エンジントルクダンパー

ステッカー類:

 

備考:上白沢慧音の愛車。前の愛車であるBCNR33のミッションブローを機に乗り換えた。

(この世界では)限定500台の特別仕様車。

タイヤは定番のポテンザを履かせ、ホイールは珍しいMOMO製でドレスアップし個性的な外観へと仕上がっている。

特別仕様車のスペックCタイプRA-Rのエンジン、タービン、CPUなどをそのまま活かし、足回りは慧音の好みへとリセッティングされている。

 

彼女は八雲藍や永琳、ナズーリン、そのナズーリンに走りを教えた白蓮などと共に、チームの中では参謀や教官としてのポジションにあたるので、バトルの場に出てくることはそれほど多くない。

 

 

【妖怪の山代表】

オーナー:犬走椛

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN S14後期型 シルビア K’s(MT・FR)

カラー:パールホワイト

ナンバープレート:妖怪の山 30 や 1 - 000

外の世界用ナンバープレート:鞍馬 30 や 1 - 000

 

内装

シート:RECARO SP-G(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sabert 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MOMO TUNER

内装その他:NISMO 3連サブメーター

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN SR20DET HKS 2.2L仕様コンプリートエンジン、NISSAN Z32 純正エアフロ + BNR32 純正フューエルポンプ + VR38DETT純正インジェクター、DENSO イリジウムレーシング(370馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:HKS GT2510 タービン(コンプレッサーハウジング加工)

 

ミッション・駆動系

ミッション:OS技研 クロス6MT + マルチプレートクラッチ、NISMO 軽量フライホイール + クラッチホース

LSD:NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP FORMULA W10

ホイール:Modex KS-CE(16インチ:ホワイト)

ブレーキ:NISSAN S15 Spec R 純正4POTブレーキキャリパー、Projectμ Pure Plus6 + TYPE HCplus + テフロンブレーキライン

サスペンション:Aaragosta TYPE S

 

吸排気系

エアフィルター:HKS レーシングサクション

マフラー:HKS ハイパワー409

触媒:HKS メタルキャタライザー

エキマニ:HKS エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:HKS インタークーラーキット

オイルクーラー:HKS オイルクーラーキット

ラジエーター:KOYORAD レーシングラジエーター

サーモスタット:NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):D-MAX D1 SPEC エアロボンネット + FRPツッパリトランク

ボディパーツ(エアロ):NISSAN 純正エアロ(フロントプロテクター + スポーツグリル + リヤサイドプロテクター)、VOLTEX カーボンGTウィング

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISSAN S15 純正フロントフレーム補強バー、NISMO スタビライザー(フロント + リア)+ パワーブレースシステム、OKUYAMA ストラットタワーバー(フロント + リア)、GP SPORTS トラクションメンバーサポート + 強化タイロッド + 強化タイロッドエンド

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(左右リアフェンダー)+ DUNLOPステッカー(リアバンパー右側)+ HKSステッカー(リアバンパー左側)+ 守矢神社交通安全ステッカー(リアガラス右側下端)

 

備考:犬走椛の愛車。HKSを軸にしてバランスを整えている。

彼女の地元である急峻な山岳地帯の妖怪の山に最適化されたチューニングで、上りと下りでトータルバランスを重視したセッティングを施されている。

パワーアップによって油温や水温管理が純正のままでは厳しい冷却系に関しても改善を図っている。

外装の方はボディと同色塗装の施されたD-MAX製エアロボンネットとGTウィングを除けば純正ベースで比較的大人しくまとめているが、様々な補強パーツが取り付けられていて、ハードな走り込みをする際にウィークポイントとなりそうなところにはしっかり補強を施している。

 

実は最近車の調子が悪いらしく買い替えを検討していて、今のものよりも年式の新しい国産スポーツを物色しているようである。

 

 

【守矢神社代表】

オーナー:東風谷早苗

所属:チーム・ファンタジア

愛車:TOYOTA ZZW30 後期 2.5型 MR-S Sエディション(MT・MR)

カラー:ブルーマイカ

ナンバープレート:妖怪の山 50 さ37 - 888

外の世界用ナンバープレート:諏訪 50 さ37 - 888

 

内装

シート:RECARO SP-G(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:TAKATA 4点式ハーネス(運転席:グリーン & 助手席:グリーン)

ステアリング:MOMO RACE

内装その他:BLITZ 2連メーター(水温計 + 油温計)

 

エンジン周り

エンジン:TOYOTA 2ZZ-GE VVT-i TODA RACING 2.0L仕様コンプリートエンジン(220馬力)

コンピューター:MoTeC M1 現車セッティング

 

ミッション・駆動系

ミッション:KAAZ クロスレシオ6MT

LSD:KAAZ LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP DIREZZA ZⅡ

ホイール:RAYS VOLKRACING TE37 KCR(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:ENDLESS 4POTブレーキキャリパー + カービングスリットディスクローター + MX72 + スイベルレーシングブレーキライン

サスペンション:CUSCO SPORT S

 

吸排気系

エアフィルター:A’PEXi パワーインテーク

マフラー:TRIAL TRYFORCE チタンマフラー

触媒:TRIAL スポーツキャタライザー

エキマニ:TRIAL 2ZZ-GE換装車用エキゾーストマニホールド

 

冷却系

オイルクーラー:TRUST GReddy エンジンオイルクーラー、CUSCO ミッションオイル&デフオイルクーラー

ラジエーター:HPI アルミラジエーター

サーモスタット:TRD スポーツサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):VARIS クーリングボンネット

ボディパーツ(エアロ):SARD フルエアロ(フロントバンパースポイラー + バンパーサイドルーバー + サイドステップ + リアハーフスポイラー + ダックテール + GTウィング)

ボディパーツ(アーム類・補強等):TOYOTA フロントサスペンションメンバーブレース

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(左右リアフェンダー)+ 守矢神社交通安全ステッカー(リアガラス左側下端)+ TRIALステッカー(左右ドアパネル下部後側)+ RAYSステッカー(左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ DUNLOPステッカー(RAYSステッカーの真下)+ CUSCOステッカー(DUNLOPステッカーの真下)+ RECAROステッカー(CUSCOステッカーの真下)+ APEX’iステッカー(RECAROステッカーの真下)BLITZステッカー(APEX’iステッカーの真下)+ ENDLESSステッカー(BLITZステッカーの真下)

 

備考:東風谷早苗の愛車。軽量コンパクトでグイグイ曲がれるオープンカー。

外の世界にいた時のアルバイト代と、神奈子と諏訪子のお小遣いを殆ど出し切って購入した一台。

青のボディともともと付いていたSARD製のフルエアロに惚れ込んでいる。

 

エンジンは可変バルブタイミング機構を搭載した戸田レーシングの2.0L仕様の2ZZ-GEに載せ換えている。

あえてNAのままにしているのは安易なボルトオンターボ化によってNA特有の姿勢制御の邪魔にならない自然なフィーリングや優れたレスポンスを損ねてドッカンターボ化してしまい、MR独特のピーキーで安定性を欠いた運動特性とドッカンターボが悪い意味で噛み合って、逆に踏めない走れない曲がれない車となってしまうため。

2.0L化とVVT-iと専用のマップ制御によって1ZZ-FEとは一回りも二回りも違うトルクフルなエンジンへと生まれ変わっている。

ENDLESS製の大径ブレーキシステムへの換装に伴うブレーキのインチアップに合わせて、ホイールも17インチとなっているがフロントは7Jでリアは8Jとなっているので若干リアの方がタイヤは太くなっている。

サスペンションはクスコ製のものを使い、独自のセッティングを施している。

 

 

【地底代表】

オーナー:黒谷ヤマメ

所属:チーム・ファンタジア

愛車:MAZDA FD3S前期2型 アンフィニ RX-7 タイプR-2(MT・FR)

カラー:スーパーブラック(日産純正色)

ナンバープレート:地底 32 や 64 - 719

外の世界用ナンバープレート:長野 32 や 64 - 719

 

内装

シート:BRIDE ZETAⅢ(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MOMO FULL SPEED

 

エンジン周り

エンジン:MAZDA 13B-REW KNIGHT SPORTS スペシャルエンジン、RE雨宮 アルミプーリーキット + アペックスシール、NGK レーシングプラグ(370馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:R Magic シングルタービンフルキット GARRETT GTX3576R GENⅡ

 

ミッション・駆動系

ミッション:OS技研 OSクロスギアセット(5速MT) + EXEDY 強化クラッチ&軽量フライホイール、R Magic クラッチライン

LSD:ATS メタルLSD 1.5way

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-11

ホイール:Buddy Club P1 Racing(17インチ:ブロンズ)

ブレーキ:MAZDA FD3S スピリットR 純正17インチ大径ブレーキシステム、DIXCEL FS TYPEブレーキローター + Z TYPEブレーキパッド、R Magic ブレーキライン

サスペンション:LEG MOTOR SPORT スポーツダンパー PLUS

 

吸排気系

エアフィルター:HKS レーシングサクション

マフラー:R Magic RMオールチタンマフラー + ステンレスフロントパイプ

触媒:R Magic RMサイレントスポーツキャタライザー

エキマニ:R Magic シングルタービン用エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:TRUST GReddy インタークーラー(Vマウントキット)

オイルクーラー:HKS ツインオイルクーラー、HPI ミッションオイルクーラー

ラジエーター:TRUST GReddy ラジエーター(Vマウントキット) + 高耐圧・耐久ラジエーターホース + ラジエーターキャップ + ハイフローウォーターポンプ + セパレーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):R Magic クーリングボンネット TYPE2 カーボン、山河わぁくす ワンオフ カーボンリアテールゲート + カーボンルーフ + カーボンフューエルリッドカバー + カーボンドア + カーボンGTウィング

ボディパーツ(エアロ):R Magic GTワイドボディキット(GT丸目4灯固定式フルカウル + GTフロントワイドフェンダー + GTサイドステップ + GTリアワイドフェンダー + GTリアバンパー + GTリアディフューザー)、RE雨宮 スーパードアミラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):山河わぁくす チタンストラットタワーバー(フロント + リア) + アルミ製中空強化スタビライザー(フロント + リア)+ オイル式エンジントルクダンパー + 強化エンジンマウント + フロントメンバー補強ブレース + フロントフェンダー補強ブレース + テールゲートクロスバー一体型ダッシュ貫通式ロールケージ、MAD FACE 強化フロントメンバー + 強化リアメンバー + 強化パワープラントフレーム

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(左右リアフェンダー)

 

備考:実質的な準主人公格に当たる、黒谷ヤマメの愛車。幻想郷ではそれほど珍しくはない事故車または旧型車のレストア組のうちの一台。

幻想入りして地底で朽ちそうになっていた事故車の前期FDをたまたまヤマメが回収。

地上で車が流行り出したことを知り、まだ当時は創設直後で規模が小さかったにとりの修理工場に修理を依頼する。

幻想入りする以前にこのFDを事故ったまま不法に乗り捨てたらしき前のオーナーの扱いがすこぶる悪かったようで、地底の湿気と熱気で著しく劣化していただけに留まらず、前も後ろも側面も全身傷まみれ。

ちなみに、このFDの扱いの酷さに関してヤマメの方は個人的に少し思うところがあるようで、もし外の世界で何かの運命の巡り合わせで前のオーナーと再会した時は一泡吹かせてやろうと考えているらしい。

 

そんなボロボロの内外装の主要パーツを交換する際に、にとりの提案で一度バラした上で、フレーム矯正とスポット増しに加えサビ取りと部分的な劣化の補修などを行い、フロントメンバーとリアメンバーに加えてパワープラントフレーム(PPF)もMAD FACE製の強化品に交換。

各種アーム類やブッシュ類は状態の良いものはそのまま流用しながらも要所となる部分は新品の純正品を調達して交換または打ち替え。

乱暴に扱われ続けていた事故車ということもありボディ全体がややくたびれていたため、全体的な剛性バランスの向上を目的としたワンオフのダッシュ貫通式ロールケージをにとりと共に作成し一部をボルトで、一部を溶接で固定している。

特にリアはテールゲートにクロスバーの様な形状を採用する事で、リアの剛性不足から来るコーナリング時の不安定さが解消されより路面追従性の高い足回りの実現に一役買っている。

 

しかしヤマメ曰く、このFDのチューンの真髄は徹底した軽量化にあるとのこと。

外装まるまるレストアするのならばと思い立って主要な外装パーツはボンネットやトランク、ルーフパネルにドアパネルを含めカーボン製にして軽量化をしている。

ボンネットとトランクとルーフパネルで合計10キロ以上の軽量化を達成し、さらに1枚ざっくり18キロ程度もある重いドアパネルを交換する際に、壊れていたスピーカーを配線ごと取っ払い、パワーウィンドウをこちらも配線やモーターごと撤去して手回し化させているため重量はさらに3分の2以下に押さえ込まれている。

 

ちなみに蛇足にはなるが元のボディは白だったのだが状態が悪かったため、レストアついでに日産純正色スーパーブラックに全塗装。

ヤマメはこのソリッドな質感の、深みのある黒が気に入っているとのこと。

 

閑話休題。

 

最初から付いていた大きな丸型フォグに関しても、大きな円形のもので左右合わせてステー込みでざっと1キロ以上と結構重く、これの配線が取り付けられていた衝撃緩衝材のFRP製フロントレインフォースメント(重量約4キロ)も含めて約5キロ以上もあった。

さらに付け加えて左右のモーターのせいで重量のかさむ純正リトラクタブルヘッドライトも含めるとかなりの重量となる。

フロントタイヤよりも前方の、重心から離れた鼻先の部分にこれだけの重量物が密集していることを考えると、これがハンドリングに与えている悪影響も大きいだろうこともまた容易に想像される。

これらを後述の社外製エアロに換装する際にまとめて撤去。

 

特にフォグランプとレインフォースメントの撤去によりコーナーへの鼻先の入りに響くフロントオーバーハングの軽量化を達成してハンドリングの向上へと繋げているほか、ノーマルバンパーの開口部を塞ぐ形で鎮座していた大型で重いフォグランプの撤去により後述の社外バンパーや固定ライト化と合わせて空力と冷却効率をレストア前の純正仕様から飛躍的に向上させ、さらに前後重量比の改善にも役立っている。

また、車体上部に位置するボンネットやトランク、ルーフパネルのカーボン化に加えて固定式ライト化を含む軽量化は車体の重心を押し下げてコーナリング性能を高める効果もあり、固定式ライトにはヘッドライトを点灯する必要のある夜間走行時の空気抵抗の低減による空力性能の大幅な向上という効果までついてくる。

純正シート(シートレール込みで重量約16キロオーバー)も左右で交換し、代わりにレカロのSP-G(シートレール込みで重量約12キロ)を導入、ステアリングも新品のMOMO製に取り替えることで合計して約8キロ以上の軽量化を達成。

さらに重量14.6キロのスペアタイヤも撤去。

 

エンジンルームではレストアする段階で既に故障していたエアコンコンプレッサー(重量約7キロ)とエアコンコンデンサー(重量約2キロ)も取り外して計9キロの軽量化。

バッテリーはM2販売のドライバッテリーをリアトランクへと移設している。

純正バッテリーが諸々込み15キロ以上と激重なのに対し、このドライバッテリーはたった7キロしかないため移設キットの重量と伸びたケーブル類の重量を含めたとしてもかなり軽くなっている。

ホイールも純正サイズのウェッズスポーツ製SA-90(1本あたり8.2キロと社外アルミにしてはやや重い)から、17インチへとインチアップさせリム幅も8Jから9Jに拡大させたバーディクラブのP1レーシング(1本あたりなんと6.6キロ)に交換して軽量化を行いつつタイヤの幅もより太くさせている。

もともとFD3Sの各モデルの中でもほぼ最軽量クラスであり、標準的なモデルよりも20キロから30キロも軽量であった2シーターMTモデルを、レストアの際に行われた徹底した軽量化メニューの施行によって車体重量はロールケージの導入を加味した上で標準的なモデルと比較して50キロ以上も軽くなっている。

 

エンジンはノウハウのあるショップに委託して新品の純正パーツと再利用可能なパーツとでリビルトエンジンを組み、各部の微修正と調整に加えポートに磨きを入れた程度でそれほど大げさな加工はしていない。

 

ちなみにこのフルレストアとカスタムでほぼ2年近い年月を費やしている(他の仕事や工作機械の調達と利用状況との兼ね合いもあったため)他、ヤマメが日頃の大工仕事などで得ていた報酬の貯金のうちのかなりの額が飛んでいる。

本人は「どうせ寝かせていただけのお金だったし、お金程度でFDの役に立てたのなら本望だよ」とこの巨額の出費にも動じた様子はないどころか、むしろどこか誇らしげにしている。

 

初めてヤマメがそのFDを見つけて手で触れた時、レストア後に初めてそのシートに座った時の2回、彼女はこの車と深く繋がるような不思議な感触を感じ取っている。

それ以降は走っているうちに何となくではあるが、どこの調子が悪いかなどのFDのコンディションを把握できる様になったりどう踏めば安定させやすいか、滑らせやすいかが分かったりなどの人車一体の境地を部分的に体感できる様になっている。

物語開始時点でも、パワーのある車を好みやすい地底の鬼の走り屋たちを軒並み蹴散らして『地底最速』の走り屋として君臨している。

 

 

【地霊殿代表】

オーナー:古明地こいし

所属:チーム・ファンタジア

愛車:SUBARU GC8 後期 アプライドG型 インプレッサ WRX タイプRA STI バージョンⅥ(MT・4WD)

カラー:カシミヤイエロー

ナンバープレート:地底 31 め 73 - 514

外の世界用ナンバープレート:岐阜 31 め 73 - 514

 

内装

シート:sparco PRO DRIVE(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sparco 4点式ハーネス(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

ステアリング:sparco Prodrive

内装その他:STI スーパークイックシフト、BLITZ 3連メーター(水温計 + 油温計 + ブースト計)

 

エンジン周り

エンジン:SUBARU GRB WRX STI スペックC EJ20、CUSCO アルミプーリーセット + 大容量インジェクター(350馬力)

コンピューター:STI GRB WRX STI 用スポーツコンピューター

過給機:SUBARU GRB WRX STI スペックC 純正ボールベアリング式タービン

 

ミッション・駆動系

ミッション:STI WRX STI専用クロスレシオトランスミッション、CUSCO カッパーシングルクラッチディスク&カバー + 軽量クロモリフライホイール + ステンレスメッシュクラッチライン

LSD:CUSCO LSD 1.5Way

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE710 kai

ホイール:PRODRIVE GC-07C(18インチ:ゴールド)

ブレーキ:AP Racing 4POTブレーキキャリパー + スリットディスクローター、ENDLESS MX72Plus、SWAGE-LINE ステンレスブレーキホース

サスペンション:CUSCO SPORT S

 

吸排気系

エアフィルター:A’PEXi パワーインテーク、山河わぁくす ワンオフ エアフィルター遮熱板

マフラー:FUJITSUBO レガリス スーパーR

触媒:FUJITSUBO スポーツキャタライザー

エキマニ:FUJITSUBO スーパーEX

 

冷却系

インタークーラー:ARC 純正互換インタークーラー

オイルクーラー:TRUST GReddy オイルクーラーキット

ラジエーター:SYMS レーシングラジエーター

サーモスタット:SARD クーリングサーモ

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):STOUT カーボンエアロボンネットType-S

ボディパーツ(エアロ):SUBARU 純正フロントリップスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):SUBARU 純正フロントストラットタワーバー、CUSCO リアストラットタワーバー + スタビライザー(フロント + リア)+ パワーブレース(フロントメンバー + フロアーリア + リアトランク)+ リヤフレーム補強バー + 強化エンジンマウント + リアラテラルリンク + リアトレーリングロッド、Silk Road エンジントルクダンパー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(左右リアフェンダー)

 

備考:古明地こいしの愛車。最近サーキットでのエンジンブローを経験し、これを機にGC型の頃と比較して耐久性などの諸問題を改善し、抵抗の低減によるレスポンスアップやトルクの改善など大幅に性能を向上させたGRB前期B型スペックC用の純正エンジンをタービンごと搭載している。

これに合わせてコンピューターもSTIのGRB用EJ20のスポーツコンピューターをそのまま移植。

これにより多少の重量増やにとりの過労を引き換えに心臓部のエンジンが新生している。

 

ちなみに歴代インプレッサは同じEJ20エンジンでもエンジンの仕様が各モデルごとにそれぞれ違うため、比較的容易にポンで付くことはない。

搭載位置を模索するところから始まり配線や配管類の引き直しまですることになる。

モデル違いのエンジンを別のモデルに移植する事は、全く別のエンジンを乗せるのと同じくらいには大変であるらしい。

これが原因でにとりはぶっ倒れて丸一日寝込んでいた。

 

しかし、旧式の下が本当の本当にスッカスカ過ぎる(EJ20ターボは典型的なドッカンターボ仕様で、具体的には3000rpm以下の低回転域のトルクは体感としては軽自動車以下と酷評されるくらいには酷かったとのことだが、その分だけ立ち上がった時の弾丸のような凄まじい加速は本当に楽しかったらしい)GC8純正のエンジン&タービンと比較して、中回転以上から高回転の領域を重視したドッカンターボ気味な特性である点は変わらないにしても、比較的低めの回転数から良く回り、中低速のトルク特性がGC8純正のエンジン&タービンより改善されているため、峠などを走る上では一切不自由を感じていない。

後期型はかなり改善していたとはいえ、かつてはその故障率の高さから『木のエンジンにガラスのミッション』と揶揄されたGC8の面影はもうどこにもない。

 

純正オプションのタワーバーはそのままに、CUSCO製の補強パーツで剛性を強化していて、その分の重量増を相殺するためにボディ同色塗装のSTOUT製カーボンボンネットの装備とホイールの交換で軽量化を図っている。

走りの主体も舗装路ではグリップやパワードリフトを主体としていて大きくリアを振り出すようなオーバーアクション気味なドリフトを行うことはない。

マシンの管理は殆どさとりがしていて、チューニングも半分くらいはさとりのアドバイスによるもの。

フランドールとは違い、彼女は天性のセンスのみで走るタイプ。

 

 

【命蓮寺代表】

オーナー:ナズーリン

所属:チーム・ファンタジア

愛車:MAZDA NB8C ロードスター RS(MT・FR)

カラー:サンライトシルバーメタリック

ナンバープレート:命蓮寺 56 ね 72 - 142

外の世界用ナンバープレート:奈良 56 ね 72 - 142

 

内装

シート:MAZDASPEED スポーツシート(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:CUSCO 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MOMO TUNER

内装その他:BLITZ 3連メーター(水温計 + 油温計 + 油圧計)

 

エンジン周り

エンジン:MAZDA BP-VE MARUHA MOTORS 2.1L 仕様、NGK レーシングプラグ(200馬力)

コンピューター:MARUHA MOTORS RAPiD モジュール

 

ミッション・駆動系

ミッション:MAZDA NB8C ロードスターターボ専用強化6MT、ORC 強化クラッチ&フライホイールセット

LSD:MAZDASPEED LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP DIREZZA DZ101

ホイール:MODEX KS-CE(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:MARUHA MOTORS 4POT キャリパーキット、MAZDASPEED スリットディスクローター、ENDLESS CC-Rgブレーキパッド

サスペンション:OHLINS DFV

 

吸排気系

エアフィルター:K&N パフォーマンスエアインテークシステム

マフラー:TRUST GReddy パワーエクストリームⅡ

触媒:TRUST GReddy フロントパイプ一体型スポーツキャタライザー

エキマニ:TRUST GReddy エキゾーストマニホールド

 

冷却系

オイルクーラー:HKS オイルクーラーキット

ラジエーター:MARUHA MOTORS アルミ強化ラジエーター

サーモスタット:MARUHA MOTORS ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):トヨシマクラフト クーリングカーボンボンネット

ボディパーツ(エアロ):s2racing NB エアロバンパー code name 09、MAZDASPEEDサイドエアダムスカート + リアスポイラー + ヘッドランプベゼル + リアコンビランプベゼル

ボディパーツ(アーム類・補強等):MAZDA パフォーマンスバー(フロント + リア)+ フロント強化スタビライザー + トラスメンバー + トンネルメンバー、MAZDASPEED ロールバーセット、AutoExeストラットタワーバー(フロント + リア)、LAILE P.P.F.パフォーマンスバー + サイドシル補強プレート + ブレースバー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(ボンネット前側左寄り)+ 命蓮寺交通安全ステッカー(リアガラス右側下端)

 

備考:ナズーリンの愛車。取り回しのいい小さな車体に変な癖がなく扱いやすい伸びやかなフィーリングのエンジンがお気に入り。

ロードスター特有の非力さやトルクの細さを完全に解消することを目的として組まれたこのマシンは安全マージンを考慮したセッティングで200馬力程度、最大で230馬力を発生させロードスターの中ではかなりのハイパワーとなる。

 

エンジンパワーに負けないようにするためと、サスペンションやタイヤの力を100%引き出すためにボディの剛性も強化を図っていて、ボディの強化に関してはLAILE製の補強パーツにオートエグゼ製の前後タワーバーを合わせている。

所詮はロードスターと侮っているハイパワーターボ乗りをこの軽量トルクフル2.1L仕様で千切っていく光景は幻想郷では割と日常茶飯事だったりする。

 

 

 

● 特待生枠

 

 

 

オーナー:今泉影狼

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN S15 シルビア Spec R(MT・FR)

カラー:パールホワイト

ナンバープレート:竹林 52 ろ 10 - 123

外の世界用ナンバープレート:長野 52 ろ 10 - 123

 

内装

シート:RECARO SP-G(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sabelt 4点式レーシングハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MOMO PROTOTIPO

内装その他:NISMO ソリッドシフト + GTシフトノブ、Defi 4連メーター(水温計 + 油温計 + ブースト計 + 油圧計)

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN SR20DET、東名パワード 2.2L 仕様コンプリートエンジン、BNR32用フューエルポンプ + VR38DETT インジェクター、NISMO 調整式フューエルプレッシャーレギュレーター、NGK レーシングプラグ(370馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:HKS GT-SSタービン

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISMO 強化クロス6MT + クラッチホース + 軽量フライホイール、OS技研 ツインプレート強化クラッチ

LSD:OS技研 スーパーロック LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07

ホイール:YOKOHAMA ADVAN Racing RG-D(17インチ:ゴールド)

ブレーキ:NISSAN & brembo BCNR33 純正ブレーキキャリパー(ブラック塗装)、Projectμ SCR PRO + TYPE HC Plus + テフロンブレーキライン

サスペンション:TEIN MONO SPORT

 

吸排気系

エアフィルター:HPI メガマックスエアクリーナー + ダイレクトサクションキット + インテークマニホールド

マフラー:東名パワード EXPREME Ti + フロントパイプ

触媒:SARD スポーツキャタライザー

エキマニ:東名パワード エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:HPI インタークーラー

オイルクーラー:HPI エンジンオイルクーラーキット + ミッションオイルクーラー

ラジエーター:HPI アルミラジエーター

サーモスタット:NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):J-blood カーボンボンネット

ボディパーツ(エアロ):J-bloodフルエアロ(フロントバンパースポイラー + サイドステップ + リアバンパースポイラー)、VOLTEX カーボンGTウィング

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISSAN スポーツチューンドボディ(フロントクロスバー + リアクロスバー + トランクバー + リアフロアステイ + エクステンションフロア板厚アップ)、GP-SPORTS G-MASTER スーパーナックル + トラクションメンバーサポート + フロントロアアームパワーサポート + リアロアアームパワーサポート + リアナックルパワーサポート + 強化タイロッド&タイロッドエンドセット、URTLA RACING ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ フロントメンバーブレース + リアメンバーブレース、山河わぁくす エンジントルクダンパー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上部)+ RECAROステッカー(FANTASIAステッカーの真下)+ sparcoステッカー(RECAROステッカーの真下)+ MOMOステッカー(sparcoステッカーの真下)+ Defiステッカー(sparcoステッカーの真下)+ NISMOステッカー(左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ TOMEIステッカー(NISMOステッカーの真下)+ HKSステッカー(TOMEIステッカーの真下)+ Projectμステッカー(HKSステッカーの真下)+ HPIステッカー(Projectμステッカーの真下)+ TEINステッカー(HPIステッカーの真下 + リアバンパー右側)+ ADVANステッカー(リアフェンダー左右)

 

備考:今泉影狼の愛車。白いボディに黒いカーボンボンネットが特徴的。

エンジンはスワップの際にパワーアップを狙って東名パワードの2.2Lコンプリートエンジンを購入し、同社製カムシャフトを組み合わせて中回転域でのトルクを向上させている。

影狼の場合は社外エアクリを導入した際にエアフロレス仕様へと仕様変更を行なっている。

ミッションはNISMOの強化6MTにOS技研の強化クラッチを合わせているが、ミッション耐久性を考慮して馬力は少し控え目に400馬力以下となっている。

 

チューンに使用しているパーツの多くは共通で流用できるものが多い。

3人で油脂類の一部や足回りパーツの多くやナット、ボルト類などに関しても融通し合うことができるというのは彼女たちが元々シルビア系統のワンメイクチームを組んでいたがゆえの強さでもあるし、使用するブランドで統一感を出すことはメンバー同士の結束を強める効果もある。

タイヤとホイールはヨコハマ、ブレーキローターとパッドはプロジェクトμ、ボディチューニングはGPスポーツとウルトラレーシングとなっている。

 

余談ではあるが、ブレーキが赤蛮奇たちと同じBCNR33 GT-R純正ブレンボ流用となっているのは3人ともS15の足回りになっているためである。

というのも、わかさぎ姫が買ったS13後期が前のオーナーがそれなりに手を加えていたチューニングカーであり、すでにS15純正品を流用するやり方で5穴化されていた。

赤蛮奇のシルエイティのセッティングを3人で練っている段階で、3台でどうせなら同じ仕様にしてしまえばパーツのやりくりとか楽になるということで、S15純正品を流用して同様のカスタムを実施。

足回りだけS15にアップグレードされている状態であり、つまりはこの3人はタイヤとホイールとブレーキ類を含む足回りのパーツをお互いに融通しあうことが可能。

何かとトラブルに見舞われることの多い走り屋という人種では、万一の際にパーツ等を融通しあって助け合える関係というのは貴重である。

 

そしてこのS15の足回りにはボルトのサイズと間隔が共通であるBCNR33 GT-R純正ブレンボがポン付けでき、マスターシリンダーやマスターバックも移植すればすぐに移植完了となる。

ブレーキラインはS15の場合は純正かそれにあった規格のものをそのまま利用可能で、S13系もまたS15のものを流用すれば問題なく、特殊な加工は必要ない。

当然ローターもBCNR33 GT-R純正ローターやそれに対応したサイズの社外品を使用できるようになるという寸法である。

 

 

オーナー:赤蛮奇

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN RPS13 180SX 後期 タイプX × NISSAN S13 シルビア シルエイティ(MT・FR)

カラー:スーパーレッド

ナンバープレート:人里 38 は 13 - 180

外の世界用ナンバープレート:長野 38 は 13 - 180

 

内装

シート:BRIDE VIOSⅢ(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:NARDI クラシックレザースポーツ

内装その他:NISMO クイックシフト + GTシフトノブ、Pivot 4連サブメーター(水温計 + 油温計 + 油圧計 + ブースト計)

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN S15 シルビア SR20DET + Z32 純正エアフロ + BNR32用フューエルポンプ + VR38DETTインジェクター、NGK レーシングプラグ(310馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:GCG turbo EFR6758

 

ミッション・駆動系

ミッション:HPI 強化クロス6MT、NISMO ポーツクラッチディスク + クラッチホース + 軽量フライホイール

LSD:NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07

ホイール:YOKOHAMA ADVAN Racing TCⅢ(フロント17インチ:ダークガンメタリック)+ ADVAN Racing GT(リア17インチ:セミグロスブラック)

ブレーキ:NISSAN & brembo BCNR33 純正ブレーキキャリパー(レッド塗装)、Projectμ SCR PRO + TYPE HC Plus + テフロンブレーキライン

サスペンション:RS★R Sports☆i

 

吸排気系

エアフィルター:HKS レーシングサクション

マフラー:ヤシオファクトリー スーパーサイレントチタンマフラー

触媒:ヤシオファクトリー スポーツキャタライザー

エキマニ:ヤシオファクトリー エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:TRUST GReddy インタークーラー

オイルクーラー:HKS オイルクーラー、CUSCO ミッションオイルクーラー

ラジエーター:TRUST GReddy アルミラジエーター

サーモスタット:NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):ORIGIN カーボンエアロボンネット Type-1

ボディパーツ(エアロ):D-MAX ドリフトスペックフロントバンパー、URAS 180SX用サイドステップTYPE-4 + 180SX用リアバンパーTYPE-4、ings Z-POWER WING

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISSAN S15 純正ロアアーム + 純正ハブ(フロント + リア)、GP-SPORTS G-MASTER スーパーナックル + トラクションメンバーサポート + フロントロアアームパワーサポート + リアロアアームパワーサポート + リアナックルパワーサポート + 強化タイロッド&タイロッドエンドセット、URTLA RACING ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ フロントメンバーブレース + サイドロアバー + リアメンバーブレース + ルームバー、VERTEX エンジントルクダンパー、NISMO 強化エンジンマウント

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上部)+ TRUST GReddyステッカー(FANTASIAステッカーの真下)+ BRIDEステッカー(TRUST GReddyステッカーの真下)+ sparcoステッカー(BRIDEステッカーの真下 + 左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ ORIGINステッカー(ドア側sparcoステッカーの真下)+ RS★R ステッカー(ORIGINステッカーの真下)+ CUSCOステッカー(RS★Rステッカーの真下)+ ADVANステッカー(リアバンパー左側)

 

備考:赤蛮奇の愛車。わかさぎ姫のS13前期とダブルクラッシュした時の事故車である赤蛮奇の180SXを前後ニコイチにしてシルエイティにしたもの。

ドリフトの練習中にスピンして後部をガードレールに叩きつけてフレームと車軸に致命傷が入ったS13と、それを避け損なったせいで接触してコントロールを誤り正面から土手の木に衝突、フロントが潰れた180SX。

リーダーの影狼が注目して二人の車をなんとか残すためにシルエイティ化を提案した。

2台とも廃車にしてまた新しい車を2台購入するよりも、無事な部分同士を繋いでニコイチにしてでも1台は生かしてしまえば、それはそれで別途お金はかかるものの買う車は1台で済むし、事故った二人の愛車が別の車になって生きていた方が、二人の精神的なダメージも軽く済むだろうという考えもあってのこと。

 

損傷した180SXのエンジンとその補機類は直せないことは無かったが高額修理が必須とのことで、そのままバラして使えるパーツを抜き取って売却し、わかさぎ姫のS13からライトやフロントバンパーにホイールを移植して、エンジンは影狼のチューン済みのSR20DET改を引き継いだ。

影狼は他のS15から走行距離の短く程度のいい東名パワード2.2L仕様のエンジンを購入してこの件は落ち着いた。

これにより赤蛮奇の車はもともとの赤蛮奇の180SXにわかさぎ姫のS13前期フロントに影狼のS15エンジンと言う3人の絆の体現とでも言うべき合体マシンに新生している。

ブレーキはBCNR33純正キャリパーを流用していてこれは影狼とわかさぎ姫とお揃いのチューン。

ただしキャリパーの色は影狼が黒で赤蛮奇が赤、わかさぎ姫が水色となっている。

 

 

オーナー:わかさぎ姫

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN S13後期 シルビア K’s(MT・FR)

カラー:ブルーイッシュシルバーツートン

ナンバープレート:幻想郷 305 す 20 - 513

外の世界用ナンバープレート:長野 305 す 20 - 513

 

内装

シート:RECARO SP-G(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

シートベルト:sparco 4点式ハーネス(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

ステアリング:NARDI COMPETITION

内装その他:NISMO クイックシフト + GTシフトノブ、Defi 6連メーター(水温計 + 油温計 + ブースト計 + 油圧計 + 燃圧系 + 吸気温系)

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN SR20DET HKS 2.2L仕様コンプリートエンジン、NISSAN Z32 純正エアフロ + BNR32用フューエルポンプ + S14 Q’s 用SR20DE スロットルボディ + VR38DETT インジェクター、GP-SPORTS レーシングオイルキャッチタンク、NGK レーシングプラグ(340馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:TRUST GReddy T517Z

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISMO 強化クロス6MT + スポーツクラッチディスク + クラッチホース + 軽量フライホイール

LSD:NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:YOKOHAMA ADVAN NEOVA AD07

ホイール:YOKOHAMA ADVAN Racing TCⅢ(レーシングハイパーシルバー)

ブレーキ:NISSAN & brembo BCNR33 純正ブレーキキャリパー(ブルー塗装)、Projectμ SCR PRO + TYPE HC+ + テフロンブレーキライン

サスペンション:OHLINS DFV

 

吸排気系

エアフィルター:APEX’i パワーインテーク

マフラー:GP-SPORTS EXAS EVO Tune + フロントパイプ

触媒:GP-SPORTS EXAS パワーキャタライザー

エキマニ:GP-SPORTS EXAS エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:TRUST GReddy インタークーラー

オイルクーラー:HPI エンジンオイルクーラーキット + ミッションオイルクーラー

ラジエーター:KOYORAD レーシングラジエーター

サーモスタット:NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):CHARGE SPEED エアロボンネット + カーボントランク

ボディパーツ(エアロ):CHARGE SPEED フルエアロ(フロントバンパー + フロントグリル + D-1スタイルベントフェンダー + サイドステップ + リアフェンダー + リアバンパー)、ORIGIN ダックテールスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISSAN S15 純正ロアアーム + 純正ハブ(フロント + リア)、GP-SPORTS G-MASTER スーパーナックル + トラクションメンバーサポート + フロントロアアームパワーサポート + リアロアアームパワーサポート + リアナックルパワーサポート + 強化タイロッド&タイロッドエンドセット、URTLA RACING ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ フロントメンバーブレース + サイドロアバー + リアアッパーブレースバー + ルームバー、VERTEX エンジントルクダンパー、NISMO 強化エンジンマウント

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上部 + フロントフェンダー左右)+ TRUST GReddyステッカー(リアガラス側FANTASIAステッカーの真下)+ RECAROステッカー(TRUST GReddyステッカーの真下)+ APEX’iステッカー(RECAROステッカーの真下)+ NISMOステッカー(APEX’iステッカーの真下)+ YOKOHAMAステッカー(リアバンパー右側)+ ADVANステッカー(リアバンパー左側)

 

備考:わかさぎ姫の愛車。先代の愛車であったS13前期を事故で失ってしまったため、実はこれで2台目もとい2代目となっている。

地上を自由に楽しく走る友人たちに憧れて八雲藍から人間に化けられるように変化の術を習って車に乗るようになった。

最初は変化の術を教えてもらった八雲藍の協力で赤蛮奇や影狼と同じシルビアシリーズを探して二人に黙って安くて修復歴のあるS13前期を購入し、サプライズで二人の集まりに顔を出して大層驚かせた。

ついでにその場に居合わせただけの鈴仙も驚いた。

 

その時に買ったのがS13前期だったのだが、ドリフト練習時に赤蛮奇の180SXを巻き込んで車軸やフレームにダメージが入るレベルのクラッシュをしまう。

事故を起こしたS13と180SXを完全に廃車にせず、部品を取って合体させシルエイティとして復活させるという話を赤蛮奇と影狼から聞いてそれに賛同し、補修に必要なパーツを事故車のS13から取って無償で赤蛮奇に譲り、自分は中古車を探すことに。

その事故の件を今でも負い目に感じていて、二度とあんな事故り方はしないと心に誓っている。

その決意を反映してか、彼女はそれ以降アクセルワークや荷重コントロールの技量が目覚ましいレベルで改善し、修正舵が頻繁かつややオーバー気味でぎこちなさの拭えなかったドリフト時のコントロールが目に見えて上達している。

 

ちなみに2代目の車に関して、1週間程度時間はかかったがある程度状態のいい改造車が入ったので購入。

足回りはS15純正流用で5穴化されていてこれが結果的に赤蛮奇のシルエイティの5穴化へと繋がることになる。

のちにドリフト時に役に立つということで、GPスポーツ製の強化ナックルを導入して多少の仕様変更を行なっている。

マシンのチューンはわかさぎ姫の場合、もともと付いていたGPスポーツ製マフラーを生かす形で吸排気系をGPスポーツで統一してエンジンは定番であるHKS製のエンジンパーツで2.2L仕様にチューンしている。

影狼、赤蛮奇、姫の三人組はもともとタイムアタック云々よりも3人で息を合わせて尻を大きく振りながら走るパフォーマンスとしてのドリフトの方を得意としている。

 

 

オーナー:アリス・マーガトロイド

所属:チーム・ファンタジア

愛車:TOYOTA JZA80スープラ RZ(MT・FR)

カラー:スーパーホワイトⅡ

ナンバープレート:幻想郷310 み 710

外の世界用ナンバープレート:軽井沢300 ま 24 - 130

外の世界用ナンバープレート(アメリカ):California 7A DM860

 

内装

シート:TRD スポーツフルバケットシート(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sparco 4点式ハーネス(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

ステアリング:MOMO COMANDO2

内装その他:TRD フルスケールスピードメーター + クイックシフトレバー + シフトノブ

 

エンジン周り

エンジン:TOYOTA 2JZ-GTE、TRUST GReddy & OS技研 鍛造ピストンコンロッドセット + サージタンクPROキット、BOSCH 大容量インジェクター、SARD 大容量フューエルポンプ、NGK レーシングプラグ(450馬力)

コンピューター:amuse Hi-TECH ROM 現車セッティング

過給器:TRUST GReddy TD07S-25G

 

ミッション・駆動系

ミッション:OS技研 クロスギアセット + ツインプレートクラッチ + 軽量フライホイール

LSD:TRD 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP DIREZZA ZⅡ

ホイール:Buddy Club P1 レーシング(18インチ:ホワイト)

ブレーキ:TRUST GReddy 6POT ブレーキシステム

サスペンション:Aragosta Type S

 

吸排気系

エアクリーナー:TRUST GReddy エアインクスキット

マフラー:amuse R1チタンマフラー

触媒:SARD スポーツキャタライザー

エキマニ:TRUST GReddy エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:TRUST GReddy インタークーラー

オイルクーラー:TRUST GReddy オイルクーラーキット

ラジエーター:DRL ラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット):VARIS クーリングボンネット

ボディパーツ(エアロ):Do-Luck フルエアロ(LATEフロントスポイラー + LATEサイドディフューザー + リアバンパーT-1)、JUN AUTO エアロミラー + 汎用フロントディフューザー、TRD リアウィング

ボディパーツ(アーム類・補強等):SPOON リジカラ、TRD フロントタワーバー、ワンオフ トランクバー + リアピラーバー、NAGISA AUTO ガッチリサポート、Do-Luck アルミフロアサポートバー

 

ステッカー類:TRDステッカー(左テールランプ下+左右ドア下部リアフェンダー寄り)+ CUSCOステッカー(左右ドアミラーの真下)+ BLITZステッカー(CUSCOステッカーの真下)+ HKSステッカー(BLITZステッカーの真下)+ RECAROステッカー(HKSステッカーの真下)+ TRUST GReddyステッカー(RECAROステッカーの真下)+ DUNLOPステッカー(フロントバンパー上部の左右ヘッドライトの中間)

 

備考:アリスの愛車。スープラを選んだ理由はただ単純に丸いヘッドライトが可愛いと思ったから。

しかし乗っているうちに愛着が出てきて楽しくなってしまい、そのまま他のクルマ好きたちと同じようにカスタムと走りの沼へと沈んでしまった。

最初に峠に誘ってくれた霊夢と魔理沙、特に魔理沙とはよく走っており、初対面時の険悪さは今や影も形もない。

魔法と車という二つの共通した趣味を持つ友人兼ライバルといったところで、現在の勝敗はサーキットで劣勢、峠で優勢。

しかし最近ニスモで行ったというエンジンチューンのおかげで魔理沙のGT-Rの戦闘力が跳ね上がり苦戦を強いられている。

トラスト製タービン交換440馬力仕様で、ECUも最高速よりも加速を意識したどちらかと言えば峠向きのチューンになっている。

 

スープラには信頼と愛情を持って接しているためか、最近は車と対話するという感覚を覚え始め、人車一体の境地に足を踏み入れ出した。

偶然ではあるがアリスの走りの哲学は、恐怖や不安の克服による高度な集中と冷静さの維持、そしてマシンとの対話と一体化を重視する、池田竜次のゼロ理論や白蓮の哲学と極めて近しいものがある。

センスと努力で走る魔理沙とは違い、理論と努力によって走るタイプ。

 

 

 

● 特別顧問&スポンサー&名誉メンバー(もとい便乗&保護者枠)

 

 

 

オーナー:風見幽香

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN Z33 フェアレディZ バージョンST(MT・FR)

カラー:プレミアムサンシャインイエロー

ナンバープレート:幻想郷 30 ひ 87 - 233

外の世界用ナンバープレート:栃木 30 ひ 87 - 233

 

内装

シート:BRIDE STRADIAⅡ(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:NISMO & sabelt スポーツハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN VQ35HR、NISMO レーシングスパークプラグ

コンピューター:NISMO スポーツリセッティング専用ECM

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISMO スポーツクラッチキット

LSD:NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP DILEZZA ZⅡ

ホイール:Weds Sport SA-55M(18インチ:マットグレイマシニング)

ブレーキ:NISSAN 純正brembo ブレーキキャリパー + 純正ディスクブレーキローター(8本スリット加工)+ S-tuneブレーキパッド + ブレーキホースセット

サスペンション:HKS HIPERMAX Ⅲ

 

吸排気系

エアフィルター:GruppeM ラムエアシステム

マフラー:FUJITSUBO Legalis R

触媒:FUJITSUBO スポーツキャタライザー

エキマニ:FUJITSUBO スーパーEX

 

冷却系

オイルクーラー:NISMO エンジンオイルクーラーキット + パワステオイルクーラーキット + デフオイルクーラーキット

ラジエーター:BLITZ レーシングラジエーター + ラジエーターキャップ

サーモスタット:NISMO ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):ヴェイルサイド カーボンエンジンフード

ボディパーツ(エアロ):amuse Super Leggeraフルエアロ(フロントバンパースポイラー + フロントオーバーフェンダー + サイドステップ + リアオーバーフェンダー + リアバンパースポイラー + リアウィングスポイラー)

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISMO カーボンタワーバー + ボディーブレースセット + スタビライザー(フロント + リア)

ステッカー類:FANTASIAステッカー(ボンネット前側中央)+ NISMOバッジ(右テールランプ下)

 

備考:風見幽香の愛車。貴婦人という名の車。向日葵を思わせる黄色が彼女のお気に入り。

NISMOのスポーツリセッティングを行いECUの再設定と吸排気系のチューニングでモアトルクモアパワーを実現しつつ、熱害に弱いエンジンを守るためにNISMOのクーリングメニューを組んで徹底した冷却系強化を行って最適なパフォーマンスをより長く持続させることを考慮した設定となっている。

剛性を補うNISMO製パーツを取り付けHKSの車高調を組むことでよりコーナリング性能と安定性を強化。

吸気は吸気効率のいいGruppeMのラムエアシステムを、排気系は信頼性の高いFUJITSUBO製を選び装着している。

 

 

オーナー:八雲紫

所属:チーム・ファンタジア

愛車:MAZDA FD3S 後期6型 RX-7 スピリットR タイプA(MT・FR)

カラー:イノセントブルーマイカ

ナンバープレート:幻想郷 30 や 89 - 713

外の世界用ナンバープレート:出雲 30 や 89 - 713

 

内装

シート:MAZDASPEED フルバケットシート(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:MAZDASPEED 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MAZDASPEED ステアリングホイール

内装その他:MAZDASPEED スポーツドライビングメーター

 

エンジン周り

エンジン:MAZDA 13B-REW、RE雨宮 アペックスシール + 大容量スロットルボディ(330馬力)

コンピューター:RE雨宮 ROMチューン

過給機:MAZDA FD3S 純正シーケンシャルツインターボ常時ツイン仕様

 

ミッション・駆動系

ミッション:MAZDASPEED ツインプレートクラッチ + 軽量フライホイール、RE雨宮 クラッチホース

LSD:MAZDASPEED LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:Michelin PILOT SPORT 3

ホイール:MAZDASPEED R-SPEC アルミホイール(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:MAZDASPEED ハイパフォーマンスブレーキシステム + ブレーキパッドセット + ブレーキラインセット

サスペンション:MAZDASPEED R-SPEC スポーツサスペンションユニット

 

吸排気系

エアフィルター:MAZDASPEED エアクリーナーボックス&フィルター

マフラー:MAZDASPEED スポーツチューンドマフラー + フロントパイプ

触媒:HPI スポーツキャタライザー

 

冷却系

インタークーラー:MAZDASPEED R-SPEC インタークーラー

オイルクーラー:MAZDASPEED R-SPEC ツインオイルクーラー

ラジエーター:MAZDASPEED R-SPEC ラジエーター + エアセパレータータンク + ラジエーターキャップ

サーモスタット:MAZDASPEED ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):MAZDASPEED R-SPEC エアロボンネット

ボディパーツ(エアロ):MAZDASPEED ツーリングキット R-SPEC フルエアロ(フロントノーズセット + サイドスカートセット + リアバンパーフェイスセット + エアロミラーセット + リアウィングセット)+ フロントコンビランプセット

ボディパーツ(アーム類・補強等):MAZDASPEED チタンストラットタワーバー + スタビライザー(フロント + リア)+ パフォーマンスバーセット、CUSCO リアストラットタワーバー、RE雨宮 リジカラ + 強化デフマウント、SILK ROAD エンジントルクダンパー、NEXT ミラクルクロスバー、FINAL KONNEXION 強化パワープラントフレーム、GP-SPORTS G-MASTER 強化タイロッド

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上部)

 

備考:八雲紫の愛車。そのパーツの殆どがMAZDASPEEDのパーツで占められている。

社外パーツに関しては部分的にHPIやRE雨宮のパーツを取り入れ、ウィークポイントであるタイロッドやパワープラントフレームを交換し、剛性の弱いリアにクロスバーを入れた程度。

メーカー直系で整えられたまとまり感があるエクステリアは他のチューニングカーとは一線を画すオーラを放っていて、その見た目の美しさは高橋兄弟すら一目置いたほど。

見た目だけではなく、ぱっと見では殆ど分からないボディや足回りにもMAZDASPEED製のパーツがしっかり盛り込まれ、性能面でも一級品に仕上がっている。

 

タービンは故障率が高くターボの挙動が不安定になりがちで、デカくて重たい上に整備性も悪く冷却効率にまで悪影響があるというシーケンシャルツインターボの弱点を解消する為に、余計な配線や配管を取っ払って常時ツイン化させている。

切り替え機構を取り外したおかげでフロントの軽量化とエンジンルーム内の省スペース化と冷却効率の改善にも貢献している他、管理する側としてもギチギチのエンジンルームにゆとりが出来て部品点数も減るためメンテナンスもしやすくなるという副次効果もある。

タービンに余計な負荷をかけないためブローのリスクも減り、低回転から高回転まで二つのタービンが協力しあってエンジンを回すため、切り替え時の大きなトルクの谷もなく、中高回転域での配管抵抗による詰まりやパワーロスも無くなりレスポンスも大きく改善されている。

常時ツイン化によって出力特性はむしろ一般的なドッカンターボ車よりも大排気量NAに近くなり、挙動の不安定さなどを感じさせないフラットで扱いやすい自然なフィーリングとなっている。

まさに一石二鳥どころか五鳥も六鳥もあるカスタムとなっている。

 

 

オーナー:聖白蓮

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN BNR32 スカイライン GT-R V-specⅡ(MT・4WD)

カラー:ダークブルーパール

ナンバープレート:命蓮寺 34 ひ 32 - 763

外の世界用ナンバープレート:奈良 34 ひ 32 - 763

 

内装

シート:BRIDE ZETAⅢ(運転席:ブラック)+ GIASⅡ(助手席:ブラック)

シートベルト:NISMO sabelt 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:navan ステアリングホイール

 

エンジン周り

エンジン:NISMO RB26DETT Vカムシステム STEP2(470馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:NISMO BNR34用 R1タービン

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISSAN BCNR33純正ミッション、 OS技研 クロスギアセット

LSD:KAAZ 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-11

ホイール:RAYS VOLKRACING TE37 SAGA(18インチ:ブロンズ)

ブレーキ:NISSAN BNR34 純正bremboブレーキキャリパー、ENDLESS カービングスリットローター + スイベルスチールブレーキライン、ACRE FOMURA 800C

サスペンション:A’PEXi N1ダンパー

 

吸排気系

エアフィルター:TRUST GReddy エアインクス Bタイプ

マフラー:FUJITSUBO Super Ti

触媒:REIMAX D.S.メタルキャタライザー

エキマニ:HKS エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:TRUST GReddy インタークーラー

オイルクーラー:HPI オイルクーラー + ミッション&デフオイルクーラー

ラジエーター:ARC アルミラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):STOUT エアロボンネット、ワンオフ カーボンルーフ

ボディパーツ(エアロ):NISSAN 純正フロントリップスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):CUSCO ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ テンションロッドバー、NISMO テンションロッド + サスペンションリンク&ブッシュ + フロントアッパーリンクセット + フロントロアアームセット

ステッカー類:

 

備考:白蓮の愛車。少し前まではノーマルエンジンのままだったが、走行距離が伸びてきたことをきっかけにHKSに持ち込み行なったOHとチューニングで470馬力を出すモンスターマシンになって戻ってきた。

同じGT-Rオーナーとして交流のある魔理沙がNISMOのファクトリーでチューンしてもらってからはえらく調子が良く、タイムも段違いになっていたことを思い出したが故のことで、これを機にステップアップを狙ったためにHKSに持っていった。

タービンとブレーキを2世代先のBNR34のものと交換することでパフォーマンスアップを図っていて、すすや錆の汚れや経年劣化の目立つ吸排気系をリフレッシュ。

ボディはパワーアップへの対応を考えNISMOとCUSCOのパーツで要所を補強し剛性を高めている。

その反面エクステリアはそれほど派手さのないカスタムとなっており、純正リップにSTOUT製エアロボンネットと純正リアウィングのみである。

 

 

オーナー:雲居一輪

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN BCNR33 スカイライン GT-R V-spec(MT・4WD)

カラー:ミッドナイトパープル

ナンバープレート:命蓮寺 350 り 33 - 210

外の世界用ナンバープレート:奈良 350 り 33 - 210

 

内装

シート:RECARO SR-7(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:HPI 4点式ハーネス(運転席:ブルー & 助手席:ブルー)

内装その他:NISMO 3連メーター

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN RB26DETT改 Mine’s 2.8L仕様スーパーコンプリートエンジン、NISSAN VR38DETT エアフロ + VR38DETT インジェクター + VR38DETT イグニッションコイル、東名パワード 大容量オイルパン(490馬力)

コンピューター:Mine’s VX ROM

過給機:NISMO BNR34 R1タービン、Mine’s スーパーアウトレット プロⅡ

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISSAN BNR34 HKS クロスレシオ6MT

LSD:NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-11

ホイール:RAYS VOLKRACING TE37 SAGA(18インチ:ブロンズ)

ブレーキ:D2ジャパン 6POTブレーキキャリパー + ドリルドブレーキローター + スポーツブレーキパッド + ブレーキライン

サスペンション:TEIN MONO SPORT(オーダーメイドセッティング)

 

吸排気系

エアフィルター:BLITZ アドバンスパワーエアフィルター

マフラー:Mine’s サイレンスVX プロチタンⅢ + フロントパイプ プロチタン

触媒:Mine’s スーパーキャタライザー

エキマニ:Mine’s エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:NISMO インタークーラー

オイルクーラー:NISMOエンジンオイルクーラー + ミッションオイル&デフオイルクーラー

ラジエーター:ARC アルミラジエーター

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):JUN AUTO エアロボンネット(ボディ同色塗装)

ボディパーツ(エアロ):NISMO フルエアロ(フロントエアロバンパー + サイドスカート + リアバンパー + カーボンリアスポイラー)

ボディパーツ(アーム類・補強等):NISSAN BNR34用リアストラット下部補強板 + BNR34用トランク補強パネル + BNR34用リアトランクバー、NISMO チタンフロントストラットタワーバー + アンダーフロア補強バー(フロント + センター)+ リアサスペンションメンバーブレース、CUSCO リアストラットタワーバー

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上部)+ 命蓮寺交通安全ステッカー(リヤガラス左下)+ NISMOバッジ(フロントグリル左寄り+ トランク右テールランプ側)

 

備考:雲居一輪の愛車。一輪は命蓮寺のメンバーではヒルクライムを主に担当しているため必要十分な馬力を出せるようにパワー重視のセッティングとなっている。

エンジンはGT-Rやランエボチューンの名門マインズの2.8L仕様にチューンしたものを搭載し、吸排気系もターボアウトレットからマフラーまでをフルで揃えている。

タービンは社外のものを含めてGT-Rに搭載されるあらゆるタービンの中でも最もトータルバランスに優れているとされるBNR34用のR1タービンを装備。

低回転から立ち上がり高回転までしっかり回るために本当に使い勝手が良く、白蓮にもわざわざ勧めたほどだった。

パワーバンドと呼ばれるそのエンジンやタービンが性能を発揮できる領域、いわゆる「使える回転数」というのが広い方が、ギア比的に必ずしも高回転を維持できるとは限らない峠を走る上では思いの外大事だったりする。

 

外装は空力を考慮したNISMO製のフルエアロに冷却性と軽量化を両立できるJUNのエアロボンネットを装備。

ボディの剛性パーツは1世代先のR34 GT-Rの純正補強パーツをそのまま移植することで向上させていて、特に鉄板一枚といった感じでやや心もとなかったR33の純正トランク補強パネルを、二重の立体構造となっているR34の補強パネルに交換し、同様の要領で他のパーツ類も追加または換装。

CUSCOのリアストラットバーも取り付けている。

タイヤはブリヂストンのポテンザを、ホイールはRAYSのTE37を履いていて、これは白蓮の仕様とお揃いになっている。

 

 

オーナー:寅丸星

所属:チーム・ファンタジア

愛車:MITSUBISHI CP9A ランサー GSR エボリューションⅤ(MT・4WD)

カラー:ダンデライオンイエロー

ナンバープレート:命蓮寺39 と 93 - 505

外の世界用ナンバープレート:奈良 39 と 93 - 505

 

内装

シート:BRIDE GIASⅡ(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:HPI 4点式ハーネス(運転席:イエロー & 助手席:イエロー)

ステアリング:NARDI クラシックレザー シルバースポークモデル

 

エンジン周り

エンジン:MITSUBISHI 4G63 ランエボⅧブロック流用 東名パワード 2.3L仕様コンプリートエンジン、BOSCH 大容量インジェクター + 大容量フューエルポンプ(440馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro

過給機:MITSUBISHI TF06R

 

ミッション・駆動系

ミッション:CUSCO 強化クラッチ + 軽量クロモリフライホイール

LSD:RALLIART 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:DUNLOP DIREZZA ZⅡ

ホイール:ENKEI Racing WRC TARMAC EVO(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:AP RACING 6pot ブレーキキャリパー + カービングスリットローター、FERODO DS2500

サスペンション:CUSCO SPORT S

 

吸排気系

エアフィルター:K&N エアフィルター

マフラー:東名パワード EXPREME Tiマフラー + フロントパイプ

エキマニ:東名パワード エキゾーストマニホールド + ターボアウトレット

 

冷却系

オイルクーラー:CUSCO ミッションオイル&デフオイルクーラーキット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):VARIS クーリングボンネット

ボディパーツ(エアロ):DAMD フルエアロ(フロントバンパー + アンダーパネル + サイドエクステンション + リアバンパーエクステンション)

ボディパーツ(アーム類・補強等):CUSCO ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ フロントロアアームバー

ステッカー類:命蓮寺交通安全ステッカー(リヤガラス左下)

 

備考:寅丸星の愛車。以前に乗っていた71スターレットが練習中のアクシデントでクラッシュし再起不能となったために乗り換えた2台目の車。

エボⅣから改良されたAYCにフロントのヘリカルLSDで加速からコーナリングまで何から何までスターレットとは別次元でランエボに乗り換えてからタイムが格段に向上した事にかなり喜んでいた。

一輪のR33 GT-Rと上りで互角以上に渡り合い、下りでは聖を除けばナズーリンの次に速い。

東名パワード2.3Lチューンと三菱製TF06Rタービンの組み合わせで400馬力オーバーのビッグパワーを出す。

DAMD製フルエアロを装備し、ダートやグラベルと呼ばれる悪路よりもターマック(公道)意識したチューンとなっている。

CUSCO製パーツを主軸としたチューンの中古の個体を星が購入し、その現状を活かしつつ好みのエアロを組んだり足回りを整えたりと言った感じで弄っている。

 

 

 

● メカニック枠

 

 

 

オーナー:河城にとり

所属:チーム・ファンタジア

愛車:TOYOTA AE86 スプリンタートレノ 3door GT-APEX(MT・FR)

カラー:ハイメタルツートン

ナンバープレート:妖怪の山 55 ま 86 - 417

外の世界用ナンバープレート:河内 55 ま 86 - 417

 

内装

シート:BRIDE STRADIAⅡ(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:sparco 4点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:山河わぁくす 自作 T字型3本スポークステアリングホイール

 

エンジン周り

エンジン:テックアート 7AGコンプリートエンジンAE92ヘッド仕様(210馬力)

コンピューター:MOTEC 現車セッティング

 

ミッション・駆動系

ミッション:CUSCO クロスミッション

LSD:ATS 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-11

ホイール:山河わぁくす 自作 鍛造アルミホイール Y字型2×5スポーク(16インチ:シルバー)

ブレーキ:山河わぁくす 自作 鋳鉄製1ピース逆回転8本カービングスリットブレーキローター + カーボンメタリックブレーキパッド + ステンレスメッシュブレーキライン

サスペンション:KYB New SR、RS★R ダウンスプリング

 

吸排気系

エアフィルター:K&N純正交換式エアフィルター

マフラー:山河わぁくす 自作 シングルテールフルステンレスマフラー

触媒:山河わぁくす 自作 スポーツキャタライザー

エキマニ:山河わぁくす 自作 等長エキゾーストマニホールド

 

冷却系

オイルクーラー:HPI オイルクーラーキット

ラジエーター:KOYORAD レーシングラジエーター + 山河わぁくす 自作 ハイプレッシャーラジエーターキャップ

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):山河わぁくす 自作 中央排気ダクト付きカーボンボンネット + カーボンリトラクタブルカバー + カーボントランク

ボディパーツ(エアロ):山河わぁくす 自作 FRPトランクスポイラー

ボディパーツ(アーム類・補強等):山河わぁくす 自作 ドアスタビライザー + オイル式パフォーマンスダンパー + ストラットタワーバー(フロント + リア)+ リアピラーバー + トランクバー + 強化スタビライザー(フロント + リア)+ スタビライザーリンク + 強化ロアアーム + 強化エンジンマウント + 強化デフマウント + オイル式エンジントルクダンパー + フロントフロアブレース

ステッカー類:

 

備考:にとりの愛車。実は幻想郷に車ブームが到来するよりも以前に幻想入りしていた車両をにとりが回収して仲間と共に修理したもの。

ワンオフパーツがやたらに多いのもそのためで、自分や河童たちが製作した自作パーツの性能試験も兼ねている。

吸排気系は柿本やフジツボ、HKS、BLITZ、A’PEXiなどの幻想郷でも流通している有名ブランドのものを参考にしていて、径の太さに関してはそれらのパーツとのマッチングも考慮して共通となるように設計していることが多い。

ホイールに関しては金属加工に精通する小傘の協力もあって順調に進んではいるものの、まだまだ強度や剛性の高さと軽量さの両立に関しては課題が残るとのこと。

デザインは外の世界でも度々用いられるY字型スポークを組み合わせたものを採用している。

補強パーツに関してはULTRA RACINGやCUSCOやカワイ製作所などのパーツを参考に材質や構造を研究し、自分の工場の設備で自作したものを取り付けている。

 

実は整備士としてだけではなく走り屋としても活動している。

どこぞの豆腐屋やその息子ではないので伝説級のタイムは出せないものの、山の妖怪たちの中でも特に腕利きの走り屋として、妖怪の山の峠道を椛たちと共に攻めている。

 

 

 

● 医療スタッフ

 

 

 

オーナー:鈴仙・優曇華院・イナバ

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN RPS13 後期 180SX タイプX(MT・FR)

カラー:ホワイト

ナンバープレート:竹林 53 は 18 - 178

外の世界用ナンバープレート:因幡 53 は 18 - 178

 

内装

シート:BRIDE ZETAⅡ(運転席:レッド & 助手席:レッド)

シートベルト:sabelt 四点式ハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

ステアリング:MOMO TUNER

内装その他:Defi 水温計 + 油温計

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN SR20DET 東名パワード2.2L仕様コンプリートエンジン、NISSAN Z32 純正エアフロ + BNR32 純正フューエルポンプ(330馬力)

コンピューター:東名パワード ECU(SR20DET MT車専用)

過給機:東名パワード ARMS M7960

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISSAN Z33 純正6MT加工流用、OS技研 S15 シルビア 6MT用強化クラッチ

LSD:NISMO GT LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE710 kai

ホイール:タケチプロジェクト Racing Heart CP-035(17インチ:ホワイト)

ブレーキ:NISSAN ER34 純正ブレーキキャリパー + ER34純正ブレーキローター(山河わぁくす 逆回転8本スリット加工)、ENDLESS スイベルスチールブレーキライン + MX72

サスペンション:HKS HIPERMAX 3

 

吸排気系

エアフィルター:HPI メガマックスエアクリーナー

マフラー:柿本改 Regu.06&R

触媒:HPI スポーツキャタライザー

エキマニ:東名パワード エキゾーストマニホールド

 

冷却系

インタークーラー:HPI インタークーラー

オイルクーラー:HPI エンジンオイルクーラー

ラジエーター:HPI アルミラジエーター

サーモスタット:NISMOローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):ORIGIN カーボンエアロボンネット TYPE-1

ボディパーツ(エアロ):風間オート TRYVAL 180SXフルエアロ(フロントバンパー + サイドステップ + リアバンパー)、EAST BEAR SPORTS エアロミラー、ings Z-POWER WING

ボディパーツ(アーム類・補強等):カワイ製作所 ストラットタワーバー(フロント + リア)+ スタビライザー(フロント + リア)+ フロントテンションロッドバー + リアモノコックバー + リヤメンバーサポートバー(アッパー側 + ロワ側)、CUSCO SAFETY21 ダッシュ貫通式ロールケージ、KTS エンジントルクダンパー、GP SPORTS トラクションメンバーサポート

 

ステッカー類:FANTASIAステッカー(リアガラス上部)+ CUSCOステッカー(左右ドアパネルのミラー寄りの位置)+ HPIステッカー(CUSCOステッカーの真下)+ TOMEIステッカー(HPIステッカーの真下)+ Defiステッカー(TOMEIステッカーの真下)+ ENDLESSステッカー(Defiステッカーの真下)+ BRIDEステッカー(ENDLESSステッカーの真下)柿本改ステッカー(BRIDEステッカーの真下)

 

備考:鈴仙の愛車。タービン交換に吸排気系とECUチューンというお決まりのチューニングに加えて熱害対策としてHPI製の冷却系パーツを導入している。

ブレーキはER34からの流用を行い熱容量と制動力の向上を狙って、ついでにホイールの5穴化も行なっている。

あえて社外の18インチの大径ブレーキキットを導入しなかったのはカックンブレーキ化とバネ下重量の増加を嫌ったため。

 

すでにリアシートは取っ払っていてその代わりに剛性パーツのピラーバーを導入している。

他にもボディ剛性の強化には力を入れていて、カワイ製作所製のパーツでチューニングを施している。

特に排気量のアップやタービン交換など、モアパワー&モアトルクを求めてチューニングを重ねるにつれて、エンジンのパワーに対して純正のままでは不足しがちになってしまう剛性を補う事で、タイヤやサスペンションの性能を100%引き出して使い切ることを目的としている。

GPスポーツ製のトラクションメンバーサポートを溶接接着させリアメンバーのウィークポイントの補強を行うことでクラックの発生を抑制し、リアの剛性を上げている。

もともと後席のあった場所とその床には工具箱と救急箱、携帯二酸化炭素消化器、三角表示板などの小物類が収まっている。

 

 

 

● 記者枠

 

 

 

オーナー:射命丸文

所属:チーム・ファンタジア

愛車:NISSAN R35(MY08)GT-R スペックV

カラー:メテオフレークブラックパール

ナンバープレート:妖怪の山 355 は 35 - 109

外の世界用ナンバープレート:八ヶ岳 355 は 35 - 109

 

内装

シート:NISSAN スペックV専用カーボンバケットシート(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:NISMO & sabelt スポーツハーネス(運転席:レッド & 助手席:レッド)

 

エンジン周り

エンジン:NISSAN VR38DETT NISMO S1エンジン

コンピューター:NISMO スポーツリセッティング専用ECM & TCM

過給機:NISSAN MY11 純正タービン

 

ミッション・駆動系

ミッション:NISMO トランスミッションアップデート

LSD:NISMO フロントLSD + GT LSD PRO カーボン

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:BRIDGESTONE POTENZA RE-71R

ホイール:NISSAN & RAYS 鍛造アルミホイール(20インチ:ブラック)

ブレーキ:NISSAN スペックV カーボンセラミックブレーキシステム

 

吸排気系

エアフィルター:NISMO スポーツエアフィルター

マフラー:NISMO フルチタンマフラー

触媒:NISMO スポーツキャタライザー

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):Mine’s ドライカーボンボンネット タイプⅡ + ドライカーボンルーフパネル + ドライカーボントランクリッド + カーボンドア

ボディパーツ(エアロ):Mine’s フルエアロ(カーボンフロントバンパー + カーボンフロントスポイラー タイプⅡ + カーボンサイドステップ + カーボンリアアンダースポイラー + カーボンダブルリアスポイラー)

ボディパーツ(アーム類・補強等):Mine’s レインフォースボディブレース

ステッカー類:NISMOバッジ(フロントグリル左側)

 

備考:射命丸文の愛車。天狗記者コンビは自分の羽の色と同じ黒い車に乗っている。

天子と同じR35GT-Rだが文の車は幻想郷最速への夢をかけて作り込まれたフルチューン仕様のスペックVとなっている。

外装はマインズ製のカーボンエアロで固めてボンネットやトランク、ルーフ、ドア、リアバルクヘッドまでカーボンとなっている。

エンジンからミッション、吸排気系にかけてはNISMOによる最新のトータルチューニングが施されていて、制御系もアップデートに合わせて専用のプログラムに書き換えられている。

内装もレザーシートではなく純正カーボンバケットシートとなっていてやはりスポーツ性能を重視した作りをしている。

 

 

 

オーナー:姫海棠はたて

所属:チーム・ファンタジア

愛車:TOYOTA ST205 セリカ GT-FOUR(MT・4WD)

カラー:ブラック

ナンバープレート:妖怪の山 31 め 35 - 205

外の世界用ナンバープレート:八ヶ岳 31 め 35 - 205

 

内装

シート:RECARO TS-G(運転席:ブラック & 助手席:ブラック)

シートベルト:HPI 4点式ハーネス(運転席:パープル & 助手席:パープル)

ステアリング:NARDI personal TROPHY

内装その他:TRD シフトノブ

 

エンジン周り

エンジン:TOYOTA 3S-GTE、HKS 強化タイミングベルト、NGK レーシングプラグ(320馬力)

コンピューター:HKS F-CON V Pro + EVC6

 

ミッション・駆動系

ミッション:C-ONE スポーツクロスミッション

LSD:TRD 機械式LSD

 

タイヤ・ホイール・足回り

タイヤ:Michelin PILOT SPORT 3

ホイール:RAYS VOLKRACING TE37SAGA TIME ATTACK EDITION(マットブラック)

ブレーキ:TRD スポーツブレーキディスク + スポーツブレーキパッド + ダイレクトブレーキライン

サスペンション:HKS HIPERMAX 3

 

吸排気系

エアフィルター:HKS スーパーパワーフロー

マフラー:柿本改 Kakimoto-R

触媒:SARD スポーツキャタライザー

エキマニ:C-ONE エキゾーストマニホールド

 

冷却系

オイルクーラー:HKS オイルクーラー

ラジエーター:KOYORAD レーシングラジエーター

サーモスタット:TRD ローテンプサーモスタット

 

外装・補強その他

ボディパーツ(ボンネット等):C-ONE FRPボンネット

ボディパーツ(エアロ):C-ONEフルエアロ(フロントバンパー + サイドステップ + リアアンダースポイラー)、C-WEST エアロミラー、TRDリアウィング

ボディパーツ(アーム類・補強等):CUSCO ストラットタワーバー(フロント + リア)+ ロアアームバー、J-speed フロントフェンダー補強ブレース

ステッカー類:

 

備考:姫海棠はたての愛車。天狗記者コンビは自分の羽の色と同じ黒い車に乗っている。

もともとエアロチューンを施されていた中古車を購入してシートを自分の体格に合ったものへと交換し、ブレーキをTRD製に換装。

購入後は足回りのチューンを行い、まずはホイールを国産鍛造ホイールの中でも特に軽量なTE37のニューモデルであるSAGAへ交換し、タイヤもナンカンからミシュランへ変更してブレーキ系とLSDは純正からTRDにグレードアップ。

エンジンは点検時にタイベル交換を行い純正からHKS製強化品に変更した以外は特に弄っていない。

EUCと吸排気系チューニングのみ行い馬力はピークパワーよりもトルクを重視した峠向きの仕様で310〜320馬力程度となっている。

実ははたてのセリカは特別な仕様のもので、あるギミックが封印されている。

 

はたてはチーム内では記者という扱いになっていて幻想郷内では新聞を、外の世界では文と共同でインターネットブログを運営している。

 




設定のうちの一部を投稿いたします。
オリキャラや東方キャラに関する情報を随時更新していきます。

2022 / 11 / 19 19時47分 追記
同日 23時58分 修正
2022 / 12 / 08 21時17分 追記
2022 / 12 / 11 23時33分 修正
2022 / 12 / 12 2時22分 追記
2023 / 1 / 13 19時00分 追記
2023 / 1 / 18 10時50分 追記
2023 / 1 / 31 1時15分 大幅追記
2023 / 6 / 8 21時36分 大幅追記
2023 / 7 / 13 22時29分 修正
2023 / 8 / 20 15時15分 修正
2023 / 9 / 2 23時15分 大幅追加
2023 / 11 / 30 11時45分 追加&修正


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First Stage
第1話 秋名への挑戦状



【必読】



▼▲▼▲▼▲!注意事項!▼▲▼▲▼▲



※ この作品はフィクションです。作中で描写される人物、出来事、土地、組織など、その名前は全てが架空のものであり、実在する土地、企業、名前、人物、または過去の人物、商品、法人などとのいかなる類似あるいは一致も、全く無関係な偶然の一致であり完全に意図しないものです。

This is a work of fiction. The characters, incidents and locations portrayed and the names herein are fictitious and any similarity to or identification with the location, name, character or history of any person, product or entity is entirely coincidental and unintentional.

※ この作品はフィクションです。未成年の飲酒や喫煙は法律によって禁止されています。未成年の飲酒、喫煙、またはそれらの強要や過剰摂取等を推奨する意図はありません。また、特定の思想信条や宗教を肯定するものではありません。一部刺激的な内容を含む可能性がございますので児童及び青少年の閲覧には十分ご注意ください。

※ 作中で行われる公道上での違法なカーレース、ドリフト等の行為は危険ですので絶対に真似しないでください。
実際の公道上では安全運転を心がけましょう。
何らかの損害またはトラブル等が発生した場合におきましても、本作並びに作者は一切の責任を負いません。

※ 本作品にはシーケンシャルツインターボ(ツインスクロールターボ)に対するアンチや原作不遇車種であるランエボシリーズやBCNR33 スカイラインGT-Rのヨイショなどの表現が含まれる可能性があります。
そうした要素が平気な方のみ閲覧いただきますよう、よろしくお願いいたします。

※ 東方Projectの登場キャラクターに関しまして、複数の考察ネタや作者の妄想を含む独自設定が多く採用されています(具体的には十六夜咲夜の正体、姫海棠はたての正体、八雲紫の正体、輝夜と妹紅の関係など)。そうしたキャラクターや世界観に関する独自設定の追加、または大幅な設定改変等が許容できる方のみ閲覧いただきますよう、よろしくお願いいたします。



 

「ねぇ……あなたたち、外の世界で戦ってみる気はないかしら」

 

全てはそんな八雲紫の一言から始まった。

 

幻想郷で車が流行りだし、それを用いた公道レースやサーキットでの競技が問題解決の手段として弾幕と並んで認知されている平行世界。

そこでは少女たちが、時には己の腕を競い合い、時には車を並べて語り合い日々を過ごしていた。

 

そんなある日に突然持ち上がってきた外の世界への集団遠征プロジェクト。

幻想郷以外の走り屋とのバトルなどを通じての交流とスキルアップを目的とした幻想郷外界遠征隊、その名も『チーム・ファンタジア』。

幻想郷に属する数多くの勢力の走り屋から、エースクラスの凄腕や素質に恵まれた有望株をメンバーに募り結成されたそのチームは199X年7月、ついに動き出した。

当面の活動拠点は外の世界の群馬県、最初の目標は秋名山。

奇しくもその日は、同じく秋名山に赤城レッドサンズが訪れる日でもあった。

 

 

 

 

 

第1話 秋名への挑戦状

 

 

 

 

 

土曜日の夜、秋名山。

赤い鳥居が目印のこの駐車場に、数台のスポーツカーがたむろしていた。

日産のS13シルビアと、同じく日産の180SX、三菱のA170ランサーEXにトヨタのKP61スターレット。

メーカーも大きさも違う車たちだが、それぞれの車の『秋名スピードスターズ』と書かれたステッカーが、彼らが仲間同士であることを示していた。

 

池谷「おいおい大丈夫か拓海?……まさかそんなに怖がるとは思わなかったんで、調子こいてガンガン攻めちゃったけど……」

 

守「なんだ?どうしたんだ?」

 

健二「S13のリアシートに乗ったら気分悪くなったんだと」

 

滋「ははは!可愛い奴だな。……まぁ、走り屋のスピードは一般車とは訳が違うからなぁ」

 

守「慣れないうちは仕方ないよ。走り屋の横乗りなんて今日が初めてなんだろう」

 

イツキ「情けねーぞ拓海……お前、いくらなんでも怖がりすぎだよ。それでも男かよ。ダッサダサだよ!拓海、お前ジェットコースター乗ってギャーギャー喚くタイプだろ」

 

拓海「俺、ジェットコースター怖いと思ったことなんか一度もねーよ、イツキ。お前に説明しても絶対わかってもらえねーよこの怖さは」

 

イツキ「……?何言ってんだ?」

 

後輩を乗せて秋名の峠を走って来たリーダーのS13シルビアからヘロヘロにくたびれながら出てきた少年を、この日集まったチームのメンバーが可愛がっており、周囲には和やかなムードが広がっていた。

しかし、そのなんてことのない日常は、唐突に終わりを告げることとなる。

 

健二「ん?エンジン音だ。何台か登って来てるぞ」

 

最初に気がついたのはチームのメンバーである健二だった。

彼は後輩を可愛がってやいのやいのと騒ぐ他のメンバーとは距離を置き、一番コーナーに近い外側の位置に駐車している愛車の180(ワンエイティ)に背を預けて缶コーヒーを飲んでいたため、数台の聞きなれない車の接近にいち早く気づけたのだった。

 

彼の声に反応して他のメンバーやリーダーの池谷たちも登ってくる車に対して聞き耳をたてる。

特徴的ではあるものの、この辺ではほとんど聞きなれない様な音が複数台。

 

池谷「誰だ?やけに台数が多いぞ」

 

徐々に近づいてくるだけだった音が大きくなり、そこに木々を照らすヘッドライトの光も加わった。

そして……。

 

守「なんだこの音?多分……ロータリーか?」

 

滋「ロータリー……まさか!」

 

ついに登ってきた車が正体を現した。

先頭にはマツダの白いFC3Sと黄色いFD3Sの新旧RX-7が2台ほぼ横並び、その後ろにはシルビア、NAロードスター、インプレッサなどがゾロゾロと数台列をなして駐車場に入ってくる。

そしてそれらの車には皆、『RED SUNS』と書かれていた。

 

健二「あの車……あのチームステッカー……」

 

池谷「確定だな。赤城レッドサンズだ!」

 

守「ど、どうして赤城最速の走り屋チームが秋名に……!」

 

他の山の強豪チームという想定外の来訪者に緊張しながらも、後輩の手前で情けないところは見せられないとスピードスターズの面々は今いるメンバー総出でレッドサンズのメンバーたちを迎える様に布陣する。

レッドサンズも柄の悪そうな奴から優男らしく見える様な奴など、駐車し終わったメンバーから順にぞろぞろと出てきてスピードスターのメンバーと相対した。

お互いにメンバーが出揃ったところで、最初に口を開いたのは黄色いFDから出てきた青年、高橋啓介だった。

 

啓介「俺たちは『赤城レッドサンズ』ってチームだ。不躾な頼みで悪いんだが、1つ聞かせて欲しい……この山で最速のチームか、あるいは走り屋を知らないか?」

 

池谷「俺たち『秋名スピードスターズ』って走り屋のチームなんだけど、一応俺たちが秋名最速を名乗ってるよ」

 

健二「まぁ、俺たち以外に秋名を走ってるチームが殆ど居ないってのもあるけどな」

 

啓介の問いに池谷が答えてそこに小さく健二が補足した。

 

啓介「史浩、頼んでいいか?」

 

史浩「OK」

 

そこに啓介の後ろに控えていた史浩が加わりこう切り出した。

 

史浩「ちょっと俺らの話を聞いてもらいたいんだけど、良いかな?」

 

池谷「まぁ、それは構わねぇけど……」

 

史浩「お互いさ、走るのが好きでこうやってチーム作ってるわけなんだろうけど、ずっと地元の奴らとだけでつるんで走ってるとだんだんマンネリっぽくなって来るんだよね。やっぱりさ、レベルアップのためにはよそのチームともたまには交流して新しい刺激ってのを入れたほうが良いと思うんだ。色々なコースを経験することでホームコース以外での対応力も鍛えられるし、ついでに気分転換にもなる。走り屋仲間だって増えるし、何かあれば連絡を取り合って情報の交換もできるからね。……そこで一つ提案なんだけど、来週の今日……土曜日にうちのチームと交流会をやってくんないかな……この秋名山でさ。はじめはみんなでつるんで何本か走ってさ、最後にお互いの代表を出し合って上りと下り1本ずつのタイムアタックバトルをやる。……ただ、あくまでチーム同士の親睦を深めるのが目的だから、別に勝ち負けにこだわるつもりはないんだけどね。……どうかな?」

 

健二「そう言われちゃぁ……」

 

池谷「断る理由もないけど」

 

交流会という体をとってはいるものの、実質的にはバトルを挑まれた形になった池谷たちだったが、その新しい刺激を取り入れて走り屋同士の横のつながりも広めたいという表向きの理由にも、相応の理解を示せていたために、若干困惑しつつも受ける事にしたのだった。

 

史浩「それじゃあ、決まりだな。さっそく……ん?」

 

そう言いかけたところで、この場にいた何人かの走り屋たちがまたしても、このタイミングで賑やかなエキゾーストサウンドの大合唱を響かせ登って来る複数台の車に気がついた。

 

健二「なぁ、あんたらまだ下にメンバーを残してたのか?また何台かゾロゾロ上がって来るぞ?」

 

史浩「いや、うちのチームの奴らじゃないと思うぞ。今日はここにいるのと、あとは下の駐車場に貼り付けてる、警察や一般車を見張る連絡員で全員だからな」

 

涼介「啓介、ケンタ達から秋名に行くという連絡はあったか?」

 

啓介「いや、ねぇけど……」

 

史浩「秋名の別のチームなんじゃないのか?」

 

守「この日のこの時間帯に走ってるのは基本的に俺らだけだよ。他にもちらほら数人いるっちゃいるけど、ほとんどソロみたいなもんで、こんなに何台も徒党を組んで来るような奴らじゃないよ」

 

健二「それに、俺ら以外にここ走ってる大きなチームも他に知らないし」

 

池谷「あぁ、悪いが心当たりがなくてな。少し待ってみるか?」

 

そうこうしている間にも音の主たちは近づいて来る。

二つのチームの走り屋が神経を耳に集中させるがどうにも知らない音が混じっている事にはお互い気が付いた。

「やっぱりお前らのお仲間なんじゃねぇのか」と目を見合わせるものの、お互いがお互いの反応を見るに、双方本当に身に覚えがないのだろうという事しかわからなかった。

 

健二「な、なぁ……音、でかくねぇか?」

 

池谷「これも結構な台数いるんじゃないか?」

 

守「何なんだ?今日はどうなってんだぁ……?」

 

涼介「あまりまとまりのないエンジン音だな。……だが、その中に13Bのロータリーサウンドが混じっている。面白い事になりそうだ」

 

啓介「FDかFCが居るのか。どんな奴なんだろうな」

 

スピードスターズとレッドサンズで三者三様の反応を見せては居るものの、一見余裕がありそうに見えるのはレッドサンズの側であり、スピードスターズの面々は排気音が近づくとともにあからさまな動揺が広がりつつあった。

ちなみに拓海とイツキは状況が飲み込めずオロオロしていた。

 

レッドサンズの走り屋1「来るぞ……」

 

レッドサンズの誰かがそうこぼしたのとほぼ同時に、コーナー出口のガードレールを照らしながらついにその車列が姿を見せた。

青みを帯びた黒に近いダークブルーのボディ色に派手なエアロの類のないエクステリアの見る限りあまり走り屋らしさを感じないアリストを先頭に、C-ONE製エアロにTRD製リアウィングが特徴的な黒のST205セリカGT-FOURが続き、その後ろには風間オート製のエアロにings製の大きなリアウィングを装備した白の後期型180SXが、さらにその後ろには高橋涼介の予想した通りのロータリースポーツ、R Magicのワイドボディキットと社外品らしいカーボンGTウィングで全身を固めたいかにもといった風の見た目をした黒のFD3Sと、ボーダーレーシング製のエアロに純正リアウィングを装備した緑のFC3Sが続く。

そしてその後ろには純正エアロの赤いランエボⅥ TMEが控える大所帯であった。

 

イツキ「な……な、なんだぁ……?」

 

池谷「見慣れねぇ車に、県外ナンバーも居る」

 

史浩「どう見ても他所のチームだな……」

 

守「ファンタジア……チームステッカーだよな?この辺じゃ聞いた事ねぇけど」

 

健二「なぁ、あんたらも何か知らないか?」

 

史浩「うーん、ちょっと分からないなぁ。赤城とその周辺のチームとはちょくちょく交流があるけど、このステッカーは初めて見るよ」

 

啓介「俺も知らねぇな。あんな奴ら」

 

涼介「悪いが俺も心当たりはないな。それなりに速そうな奴らがこれだけ集まっていれば、嫌でも目立ちそうなものだがな」

 

秋名の峠にやってきた明らかに異質な車の一団、それもかなりの大所帯。

しかしこれだけ派手な車の数々に、スピードスターズやレッドサンズの面々も、それどころか一匹狼時代に関東全域どころかその周囲一帯にまで足を伸ばして各地を転戦して回っていた経験のある、県外の峠の情報にも精通する高橋涼介にさえ心当たりは無かった。

 

また新しく入ってきた集団が停め終わるまで、今度はスピードスターズとレッドサンズで迎える形となった。

先頭で入ってきたアリストから順にドアが開き、それぞれの車の中からドライバーが出て来るが……。

 

涼介(ほぅ……)

 

健二(なにぃ!?)

 

池谷(……!)

 

レッドサンズの走り屋1(全員女だと!?)

 

レッドサンズの走り屋2(……マジかよ)

 

守(全員美女&美少女のレディースチームかぁ……。俺、夢でも見てんのかなぁ……)

 

啓介(女の走り屋チームか。珍しい奴らが来たもんだな)

 

このチームのドライバーが全員女であった事にその場にいた走り屋のほぼ全員が驚いた。

ある者は口を開いたまま唖然としてしまい、またある者は驚きのあまり大きく目を見開いていた。

そしてそのチームの中から代表者と思われる、桜の模様をあしらった青い着物を纏ったアリストのドライバーが歩いて来た。

 

啓介(それにしてもなんだぁ?このやばそうなオーラの女は……)

 

イツキ(うわぁ……なんか凄そうな人がきたぞ……)

 

池谷(黒っぽいセダンに着物の女って……まさか極道とかそっち系の家系じゃねぇだろうな!?)

 

レッドサンズの走り屋3(なぜか一台だけ存在が浮いてる車に……中から場違いな着物の女……この明らかにカタギのもんじゃなさそうな雰囲気……まさか……いや、そんな訳ないよなぁ)

 

着物という峠に来るには違和感のある彼女の格好はもちろん、彼女が出て来た凝ったデザインのシルバーの海外製高級鍛造ホイールにダークな暗いボディ色、リアガラスのスモークフィルムとサイドのガラスにはシルバーのメッキモールをあしらった、そこそこの値段はするセダン(アリスト)のこともあってか、まるで『そういう家系』の娘でも出て来たかのように見えてしまい、いくら非合法な事には慣れている走り屋たちとは言え流石にこれには若干引き気味になってしまう。

しかし如何にもな見た目をしたヤバそうな車の一方で、彼女自身のゆるくカールした桃色の髪に柔和そうな表情というギャップも合わさって「見た目の上では優しそうに見えるだけで実はヤバい人なんじゃないの?」という漠然とした疑念を彼らに持たせる一要因になっていた。

 

ちなみに忘れられていることも多いが、自害して亡霊となる前の彼女は由緒正しい武家の娘であるので彼らの抱いた想像も実はあながち間違いではない。

彼女が怒らせるとシャレにならないくらい怖いタイプというのも事実であるので案外彼らの感じたその直感的な何かは的中していたりする。

 

???「お取り込み中のところ失礼するわね。ちょっとだけお時間いただいてもいいかしら」

 

啓介「……オイ、史浩。……頼む」

 

史浩「……え?あ、あぁ……えっと、どうしたのかな?」

 

???「実はこの辺りで活動している秋名の走り屋チームを探しているのだけれど……」

 

彼女がそう発した途端、レッドサンズのメンバーたちはモーセが海を割るようにサッと二つに別れた。

もちろんその割れた海の先にいるのは秋名スピードスターズである。

あの何事にも動じなさそうな高橋涼介でさえ、しれっと一歩だけ脇に避けていた事からも、この異常事態に対する彼らの動揺っぷりが推し量れる事だろう。

それと同時にレッドサンズとイツキたちの視線がスピードスターズの面々に突き刺さった。

「もしかしてお前たち何かこいつらに目ぇつけられるようなことしたのか?」と。

 

当然、なんか極道のお嬢っぽい身なりの女性と彼女の率いるレディース走り屋集団に目をつけられるようなことをした覚えなど一切ない池谷たち。

内心とっとと逃げたくて仕方がなかったが、あいにく逃げ場なんか最初から無い。

もうなるようになるしかないと自分に言い聞かせながら、池谷は彼女たちの相手をする事にしたのだった。

 

池谷「あ、あの……俺たちは『秋名スピードスターズ』って名前で活動してる、この辺の車好き同士で集まって走ってるチーム……です。一応、俺がチームのリーダーやってて、池谷浩一郎って言います。そんで、こっちの方は『赤城レッドサンズ』って言って、赤城の方で普段走ってる、この辺りじゃあ結構有名なチームなんですよ」

 

立て続けに襲いかかってくる全く想定外の異常事態を前に赤面しつつガチガチに緊張しながらもなんとか無難に(しれっとレッドサンズも巻き添えにしつつ)自己紹介を終える池谷。

レッドサンズの方から「おい、さりげなく俺たちを巻き込むな」と批難の視線が飛んでくるが、もはや池谷はなりふり構っていられなかった。

近頃流行りの光沢感のあるコーティングを効かせたピカピカのヤクザっぽい黒塗りセダンのドライバーがこっちにやって来た途端、つい今さっきまでの威勢を引っ込めて俺たちを売り渡すような勢いで脇にスッと退きやがった事に対する池谷なりの仕返しでもあった。

 

幽々子「私たちも見ての通り『チーム・ファンタジア』という名前で走り屋のチームをやっているのだけれど……実はつい数日前にやっと正式に結成したばかりの新しいチームなの。それで、拠点をこの北関東群馬エリアに据えて活動する事になったから、メンバーの一部の顔見せも兼ねて、この辺りの山に挨拶に伺う事にしたの。……私は西行寺幽々子。このチームのスポンサー兼、特別顧問をやっているわ。よろしくね、池谷さん」

 

見ての通りという部分にほんの僅かな引っ掛かりを覚えつつも、手を差し出し握手を求める幽々子に、池谷の心臓が一瞬大きく跳ね上がる。

ぎこちないながらもその手を握り返すと、体温が低いのか少しひんやりとした感触が伝わって来た。

手を離してからもしばらく残る余韻に、池谷はなんとも言えない感慨を覚えるのだった。

 

池谷「あ、はい。よろしくお願いします。西行寺さん」

 

幽々子「長いと思うから、幽々子でいいわ」

 

池谷「えっと、それじゃあ……その、幽々子……さん」

 

幽々子「えぇ、よろしくね。……それで、早速本題になるんだけど……お互いに親睦を深めるために、私たちと交流会をやって欲しいの。日時は来週の土曜の夜を予定として考えているわ。あと、できればで良いのだけど、レッドサンズの方達とも一緒に、せっかくだから3チーム合同で。……どうかしら?」

 

幽々子の言葉にその場にいた全員がまたしても驚かされる事になった。

ついさっきレッドサンズが持ちかけた話と同じ内容、同じ日時。

まさに奇跡的であった。

 

史浩「えっと……その件なんだけど、実は俺たちも驚いてるんだけどさ、今日この秋名の峠に俺たちが来たのも、実は全く同じ理由なんだ。走り屋としてのレベルアップを狙って、秋名で新しい刺激を取り入れつつ、ほかの山の走り屋ともつながりを深めていこうって感じでさ」

 

幽々子「あら、素敵じゃない。こんな偶然もあるものなのね。これも何かの運命なのかしら?……じゃあ、それなら……」

 

史浩「良いよな……?」

 

そう言いながら涼介と啓介にアイコンタクトを取る史浩。

 

涼介「構わない」

 

啓介「あぁ、良いと思うぜ」

 

史浩「……ならお言葉に甘えて、俺たちもご一緒させて貰おうかな。元よりそのつもりで来ていたからさ。……そういう訳だから、その……幽々子さんで、良いのかな?」

 

幽々子「えぇ、それで良いわ」

 

史浩「それじゃあ、今度の土曜日の交流会はよろしく。……あ、俺は史浩って言って、レッドサンズの外報部長を任されているんだ。何か連絡があればこの番号にかけて欲しい」

 

幽々子はそう言って渡された名前と電話番号の記されたメモを受け取ると、黒い革の財布を取り出して仕舞い込んだ。

 

幽々子「あら、ご丁寧にどうも史浩さん。それじゃあ私も……」

 

そして今度は幽々子が名刺入れを出すとそこから一枚名刺を取り出しそれを史浩へと手渡した。

そこには『旅籠 白玉楼支配人』『西行寺家当主』という二つの肩書きが記されている。

 

幽々子「それじゃあお互い想定外の大規模なイベントにはなってしまったけど……スピードスターズの皆さんも、それで良いわよね」

 

池谷「えぇ、もちろん。良いですよ」

 

ここまで来てしまえばもう絶対に否とは言えない池谷たちであった。

 

乗って来た暗色系セダンと本人の格好のせいもあるものの、第一印象の「なんかあっち方面のヤバそうな家系の人」というイメージとは裏腹に、話してみればなんてことはない感じで場の空気もなんとなく和やかな雰囲気になり走り屋たちの緊張もほぐれて来た頃合いとなる。

 

史浩「さて、気を取り直して、今日のところは俺たちもじっくり練習させてもらうよ。当然、走りのマナーはきちんと守るからさ」

 

啓介「そうと決まりゃ早速練習だ。いくぞお前ら」

 

レッドサンズの走り屋1「啓介さんたちの後で俺らも行くぞ。遅れんなよ」

 

レッドサンズの走り屋2「下の奴から来たのはスポーツカー複数台通過のメールだけで、一般車通過のメールは無い。事前の取り決め通りなら対向車も無しだ!思う存分やれるぞ」

 

レッドサンズの走り屋3「レッドサンズは秋名でも早いってとこ、見せてやるぜ!」

 

レッドサンズの走り屋4「よっしゃ!今日も走るぞ」

 

史浩と啓介の言葉を合図に、勇みながら続々と車に向かっていくレッドサンズの走り屋たち。

しかし高橋兄弟はある程度冷静に状況を見ていた。

二人の視線が向かう先はスピードスターズではなく後から来た謎のレディースチーム、ファンタジアの車だった。

 

啓介「アニキ、あいつらの事、どう思う?速そうか?」

 

涼介「少なくとも、スピードスターズの連中よりはやるだろうな」

 

啓介「へぇ、地元のやつより上に見るなんて、アニキは随分と高く評価するんだな」

 

涼介「あぁ、車本体やカスタムに関してもそれなりに金をかけていそうなのは見ればわかるが、あとはタイヤだな」

 

啓介「タイヤ?」

 

涼介「その走り屋がどれだけ走り込んでいるかは主にタイヤを見ればわかる。新品であればわからないが、基本的にはその車や乗り手と共に、ある程度走って来たタイヤというのは嘘をつかないからな」

 

啓介「そう言うもんなのか?」

 

涼介「あぁ、ある程度使い込まれたタイヤには乗り手の走りの結果が多少なりとも反映されるものだ。一番近いところに停めてあるあのランエボやFDのタイヤを見てみろ。あのトレッドパターンは比較的新しいモデルのブリヂストンのハイグリップタイヤだが、大事なのはそこではない。あのタイヤ、サイドウォール付近に少し大きめのタイヤカスがついているだろう。……素人が少し攻めた程度の半端な走りではタイヤがタイヤカスを拾うほどに熱を持ち溶けることもないし、そうした車はそもそもタイヤカスが路面に落ちているような環境を走ることすらほとんどないんだ。この距離だから詳しくタイヤの状態を見れるわけではないが、近くで観察することが出来れば、何度か熱が入ってタイヤが溶けた痕跡も見れるだろうな」

 

啓介「つまり、そんだけ走り込んでる奴だってワケだな?」

 

涼介「そうだ。……今度の交流会で出てくれば、たとえ一軍でも苦戦は避けられないだろうな。もし相手をする機会があれば……啓介、その時は全力で当たれ」

 

啓介「あぁ……任せてくれよ、アニキ。誰が来ようが全員ぶっちぎるだけだ。男も女も関係ねぇ」

 

高橋兄弟もそれぞれの車に乗り込みエンジンを回す。

やる気満々といったに雰囲気のレッドサンズに触発されて、スピードスターズの面々も動き出した。

 

健二「気後れすることねぇぜ!俺たちも出よう!」

 

守「赤城の走り屋のレベルがどれほどのもんか、見せてもらおうじゃん」

 

滋「秋名の峠なら走りこんでる俺たちの方が上だ!ケツ突いてやる!」

 

池谷「こっちにだって地元の意地があるんだ!舐められたくねぇな。見せてもらうぜ、赤城最速と言われる高橋兄弟の走りを!」

 

気合十分といった両チームとは違い、自然体に近い感じでありながらファンタジアのメンバーも走れるように各々準備を始めていく。

 

幽々子「早速みんなで走るみたいだから、私たちも行きましょうか」

 

???「そうですね。お嬢様、走る順番はスピードスターズの後でいいでしょうか?」

 

幽々子「えぇ、その方がいいと思うわ」

 

???「ならゆっくり準備して待っていようか。まずはレッドサンズが出るみたいだし」

 

走り屋たちが愛車に駆け込みエンジンをかける。

池谷がシルビアのシートに座ったところでイツキが思わず呼び止めた。

 

イツキ「ちょ……ちょっと!待ってくださいよ先輩!俺たちはどうしたら……」

 

池谷「わりぃなイツキ、本気で攻めるときは助手席に人乗せないことにしてんだ」

 

拓海「え?じゃあどうすれば……」

 

池谷「すまんがしばらくここで待ってろ。後で拾いに……」

 

そう言いかけたところで、今度は別の方向から声がかかる。

 

???「あれ?もしかして君たち、車無いの?」

 

それはファンタジアのメンバーからだった。

他のメンバーが各々のマシンに向かう中でこちらに向かって歩み寄ってくる少女が二人。

一人は薄紫色の髪を腰のあたりまで伸ばし、白い半袖ブラウスと桃色のプリーツスカートを着たイツキたちと同年代らしい見た目の少女。

もう一人は金髪を後ろでまとめた、黒の半袖シャツにブラウンのフレアスカートという出で立ちの少女だった。

 

池谷「あぁ、実はそうなんだ。今日たまたま連れてきたってだけで、こいつらは正式なうちのメンバーじゃなくてな、自分の車も持ってねぇんだ。本当は今すぐ麓まで降ろしてやりてぇんだけど、これからダウンヒル走るとなると二人も載せてられなくてな」

 

イツキ「じ、実は俺たち……免許取りたてでさ、車持ってないんだよね。……車さえあれば、君たちと一緒に走れたんだけどなー……なんて」

 

???「もしこれから帰るんだったら、私たちが代わりに下まで送りましょうか?」

 

池谷「でも、良いのか?あんたらも走るんだろ?……それに、初対面の男なんか乗せて大丈夫かよ」

 

???「いいのいいの。どうせ下まで降りるのは変わらないんだし、これもなんかの縁ってことでさ。もののついでで麓のバス停あたりまで行くくらいだったら特に時間もかからないし。……別に、一本目だから本気で攻める訳でもないしさ」

 

???「それに、君たち車がないんでしょ?車のない子を山の上に取り残して行くのも、ちょっと忍びないし、それに危ないからさ……」

 

ついさっき会ったばかりの初対面の異性から持ちかけられた、自分たちに都合のいい話ということもあってか何か裏があるんじゃないかと一瞬いぶかしむ池谷であったが、彼女たちの人当たりの良さそうな態度を見るに大丈夫だろうと判断して了承することにした。

 

池谷「そういうことなら、まぁ……。でも、お前らはそれで良いのか?」

 

イツキ「もっちろん!俺は大賛成ですよ!」(先輩以外の走り屋の横乗り!それも女の子!)

 

拓海「まぁ、送ってくれるなら……それで良いけど」

 

ヤマメ「決まりね。じゃあ早速いこうか。私は黒谷ヤマメ。あの黒いFDのドライバーよ」

 

鈴仙「私は鈴仙よ。あの白い180SXのドライバーなの。よろしくね」

 

イツキ「あの……俺、武内イツキって言います!初対面なのに、今日はありがとうございます!」

 

拓海「藤原拓海です。その……助かります」

 

女の子からの横乗りの誘いということもあってハイテンションになるイツキと戸惑いや緊張の混じる拓海。

 

鈴仙「イツキくんに、拓海くんね。……じゃあイツキくんは私の180に、拓海くんはヤマメのFDに乗ってね。レッドサンズが出終わった後、スピードスターズに続く形で私たちも出るから」

 

池谷「じゃあウチらの後輩任せるよ。わざわざ悪いな。俺からもお礼を言わせてくれ」

 

ヤマメ「気にしないで。このくらい、なんてことは無いわ」

 

池谷「そう言ってくれるとこっちも気が楽になるよ。あと、分かってるとは思うけど、秋名の峠は後半になればなるほど勾配がきつくて下りを攻める時は特に速度が乗りやすい。気をつけてくれよ」

 

ヤマメ「アドバイスありがとう、池谷さん。さてと、それじゃあ行こうか、拓海くん」

 

そう言うと、二人に連れられて拓海とイツキはファンタジアの一団の中に混じっていく。

二人がそれぞれの車の助手席に乗り込むのを確認すると、池谷は意識を走りへと向けるのだった。

 

 

 

深夜の秋名山、10台以上の走り屋の車がそのエンジンを轟かせる。

今、三つ巴の戦いが始まろうとしていた。

 




自分がリアルで白いS660を購入してクルマ熱が湧いてきた事と車内でユーロビートを聴きまくっているうちに頭文字Dも再燃したことと、ハーメルンで見つけた某作品に影響された事で触発され筆を取りはじめて間も無く一年。
ついにレッドサンズ戦まで書き溜めを書き上げたため投稿する事といたしました。
ストックが尽きるまでは一週間から二週間に一本のペースで、ストックが尽きて以降は「超絶!ウルトラスーパーレイト更新!」となる予定です。


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第2話 乱戦!三つ巴の秋名山

どうも、うんちく垂れながらこんな小説書いてても全く運転が上達しない作者でございます。
そんなこんなで第二話です。
実は早速ですが第二話後半にちょっとした設定上のミスを見つけたので若干の手直しの方を施すこととなってしまい、本来の投稿予定日からは少しだけずれ込んでしまいました。


 

 

 

♪ SPEEDY RUNNER / KING & QUEEN

 

 

 

最初に準備終えたレッドサンズが動き出す。

高橋兄弟がまず先頭切って走りだし、そのあとに一軍のシルバーの前期型インプレッサWRXとシルビアたちが続き、さらにその後ろに二軍の180SXとS13シルビアが、そして最後尾には史浩のNAロードスターが続いて行く。

 

池谷「レッドサンズが出たぞ!俺たちも行こう!」

 

レッドサンズ最後尾の車が出るのを確認すると、後を追う様にスピードスターズが池谷を筆頭にアクセルを踏み抜きホイールスピンを発生させながら発進する。

池谷、健二、守、滋の順で次々に駐車場を飛び出した。

 

鈴仙「それじゃあ出るよ、イツキくん!シートベルトはしたよね!」

 

イツキ「あ、あぁ……って、うおわぁ!」

 

それを見届けたファンタジアの面々も順にエンジンを唸らせ飛び出した。

先頭は拓海を乗せたヤマメの黒いFDとそれに続いてイツキを乗せた鈴仙の180SXが、さらにその後ろからはたてのセリカ、妹紅のランエボ、妖夢のFCに幽々子のアリストが続いた。

 

駐車場から弾け飛ぶ様に躍り出たFDと180SXは全開で最初のコーナーに向けフル加速。

エンジンの回転数を示す針が跳ね上がるとともにターボが立ち上がり、パワーバンドへと乗った13BやSR20エンジンは驚異的な推進力を発揮し、マシンをより力強く前へと押し出した。

 

イツキ(ヤベェ!す、すげぇ加速……!)

 

馬力に勝るFDが180SXに若干の差をつけながら、ブレーキランプを光らせ一足先にコーナーへ飛び込んだ。

 

イツキ(へぁ!?き、消えた!?)

 

もちろんそんな事はない。

だがヤマメのFDの突っ込みがイツキの目には速すぎて消えたように見えただけだ。

 

鈴仙「速い……流石ヤマメね。それじゃあ、ちょっとだけ飛ばして行くよ!イツキくん!」

 

イツキ「えぇ!?と、飛ばし……!?」

 

FDに続いて鈴仙も1コーナーへ。

一度アウトへ振ってから思い切りステアリングを切り込みコーナーのインに向けて猛然と突っ込んだ。

甲高いスキール音を鳴らしドリフト状態に入った車体を、アクセルを煽って姿勢を整えつつ最小限の舵角のカウンターステアで巧みにコントロールしてみせた。

 

イツキ「ちょ、ちょっ……待って!速す、ぎっ……ヒィィィィィィ!!」(ちょっと!思ってたのとなんか違うって!何これドリフトしてるのかぁ!?こんなに可愛い女の子がぁ!?)

 

お手本のようなアウト・イン・アウトのライン。

美しく弧を描く180SXは、そのまま滑らかに立ち上がり再びアクセルを踏みしめて加速していく。

しかし鈴仙がコーナーの立ち上がりの時点でヤマメのFDはすでに少し前方にあった。

鈴仙よりもペースの速いヤマメは、すでに次のコーナー手前でスピードスターズのメンバーを射程に捉えているようだった。

 

秋名スピードスターズの最後尾を走る滋に、早くも土蜘蛛の毒牙が迫っていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

拓海(なんだろう……この子、普通にめちゃくちゃ運転上手いな。さっき乗らせてもらった池谷先輩よかだいぶ上手ぇよ)

 

ヤマメ(初めての峠で攻めきれないとは言え、結構な勢いつけて突っ込んだのに平気な顔してる……。それに、いきなり車をドリフトさせてもそんなに驚いてない。……やっぱりこの子、何かが違う)

 

ヤマメの助手席にいる拓海は、コーナーに突っ込むたびに180SXの助手席でタイヤのスキール音とほぼ同じタイミングで悲鳴をあげるイツキとは違い割と平気な顔をしていた。

 

拓海(早速、先輩たちの車がもう目の前に来てる。次のカーブで抜くかも)

 

拓海の予想通り、次のコーナーでヤマメはスターレットのインのギリギリを刺し、脱出スピードの優位もあって立ち上がりでさらに前方のランサーEXも大外からあっさり仕留めてしまった。

その勢いは一切衰えず、前方には健二の180SXと池谷のS13がグイグイと近づいていた。

 

ヤマメ(ブレーキングが早すぎて逆にヒヤヒヤするわね。進入前の姿勢作りが上手く出来ていない状態でコーナーへ半ば強引に切り込んでるからトラクションが抜けちゃってタイヤの性能を十二分に生かせてない。S13は多少マシだけど他は正直目も当てられないわ。この調子じゃ変に気を使っての長居はかえって双方にとって危険ね。……早いところスピードスターズをパスしてレッドサンズと戦いたいかな)

 

ヤマメがちらりとバックミラーを見れば鈴仙の180SXがちょうどスピードスターズのスターレットをサクッと狩るところだった。

彼女の後ろには既に仲間の車が連なっているのが見えていた。

これなら最序盤で苦もなくスピードスターズは全車パスできる。

そう確信を持つとヤマメは意識を再び前へと戻した。

スタート直後、スケートリンク前ストレートまでまだ大小数カ所のコーナーを残した状態、それなのにスピードスターズは全てにおいて終始圧倒されていた。

 

 

 

 

 

滋「くそっ!速すぎる!」(レッドサンズには開幕から置き去りにされるし、ファンタジアにはブチ抜かれるし、あいつら全員揃いも揃ってレベル高すぎるだろ!)

 

守「じょ、冗談じゃねぇ!なんて速さだ!」(プロでも相手にしてるみたいだ!地元の俺らでも歯が立たない!?)

 

自分がコーナーのインベタを必死に攻めても走り屋の少女たちは大外からかぶせてあっという間に抜き去って行く。

アウトを抑えるためにあえて膨らんでブロックしようとすればまるで分かっていたかのように空いたインをするりと抜けて行く。

FDが、180SXが、ランエボが、FCが、セリカが、アリストが、圧倒的なまでの速度差で自分たちを楽々パスして行く。

それも、嫉妬という感情すら忘れてしまうほどに完璧で華麗なドリフトで。

 

もう自分にどうにか出来る相手ではないのだとこのわずかな攻防で思い知ってしまった。

滋の眼前では守のランサーも今しがた自分を抜かしたばかりのFCとアリストに捕まってあっという間に置き去りにされてしまう。

最初に飛びかかってきたFDと180SXに至っては、明らかにオーバースピードなんじゃないかと思えるほどに信じられない進入スピードでコーナーの先へと突っ込んでいき、もう自分の視界からはとっくに消えてなくなっていた。

 

健二「ちくしょう!この程度だったのかよ……俺たちの走りは!何が地元だ……情けねぇ!」

 

コーナー3つクリアする間に5台くらいにまとめて抜かされた時点で、既に彼らは心を折られていた。

地元のプライドとやらもズタズタだった。

気が付けば滋も守も、健二も、池谷も全員まとめてぶっちぎられて戦意を喪失していた。

スピードスターズのメンバーがスケートリンク前ストレートを通過し次の区間に入る頃には、もうとっくに彼女たちは遥か彼方に消えて行き、車のテールランプは1台も見えなくなっていた。

 

健二(地元の俺たちが、こんなにあっさりと負けた……?いや、これは勝ったとか負けたとかそういう次元の話じゃねぇ……勝負にすらならなかった。あいつら全員とんでもねぇよ!レッドサンズは一瞬見えたと思ったら食らいつく間も無く消えてくし、ファンタジアにはまるで手も足も出なかった……。地元の有利があってもこのザマかよ)

 

池谷(なんだよこりゃあ……。俺たちがこれじゃあ、これから先ずっと秋名の走り屋はレベルが低いと舐められっぱなしになるじゃねぇか。このままじゃダメだ!ゼロからやり直しだ……後で一度、みんなに相談してみるか)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

少しだけ遡り、スケートリンク前ストレートの終点付近のレッドサンズ。

なんの障害もなく先頭を快走する高橋兄弟には置いていかれてしまったものの、後ろに付けていたスピードスターズの車を最序盤であっさり引き離した彼らは早速楽観ムードに包まれていた。

邪魔者のいなくなった彼らは追いつかれない程度にペースを落とし、コースを把握するべく軽く流し気味に走っていた。

 

スピードスターズは自分たちの二軍以下の大したことのない連中だし、その後ろに詰まりながら走っていると思われる例のレディースチームも、この最初の一本目を走り終えるまでは追いついてくることはないだろうと思っていた。

 

だがその空気も次の瞬間には一変する。

 

レッドサンズの走り屋(須崎)「最後尾の史浩が短く3回、パッシングの合図……後続車接近中?」

 

レッドサンズの走り屋(村田)「スピードスターズの連中だろ。ペース落としすぎたか?」

 

一軍のメンバーでS13を駆る須崎がそうこぼすと隣に乗せていた村田が反応する。

若干の違和感を持ちながらも車を加速させ流し気味にコーナーを抜けていく。

どうやら先頭を走る新田のインプレッサも異変に気がついたようでレッドサンズの隊列全体のペースを大きく上げるべく、より攻め方をハードに変えてきた。

ブレーキングのタイミングをより遅らせ、立ち上がりのアクセルを開けるタイミングもより早く。

 

一軍がペースを上げると二軍もそれに続く。

スケートリンク前ストレートを含む高速区間を脱しコーナーの連続になると一軍の集団と二軍の集団との間にわずかに車間ができる。

一軍の攻めるペースに二軍のメンバーがついて行くことができずに苦しくなってきているのだと感じるが、待つようなことはしない。

だがここまでペースを上げれば、後ろの集団もまた史浩のミラーから消えているだろうと思ったその矢先だった。

 

須崎(史浩が……二軍の奴らが明らかに動揺してるだと……?まさか差が詰まってんのか)

 

緩やかにS字を描くコーナーでもう一度ミラーを見る。

そこには確かにいた。

史浩のロードスターに仕掛ける車が一台。

 

須崎(あのとんでもなくキレた突っ込み……!絶対にスピードスターズの奴等じゃねぇ!見えにくいが……ありゃあFDか!)

 

アウトに振って史浩のロードスターを誘った後にインに潜り込み、それを見てインを引き締めようとした竹原の白いS13を反応の遅れた佐々木の黒い180SXごとアウトから被せて抜き去った。

 

須崎「見たか村田!なんだよ今の……!嘘だろ!?」

 

コーナー2つ抜ける間にあっという間に3台を捌いてしまった。

気がつけば後続の斉藤のS14の後ろには二軍のメンバーを差し置いてその黒いFDと白い180SXが……。

 

須崎(ん……待てよ?なんかおかしくねぇか?)

 

村田「なぁ、180……2台に増えてねぇか?佐々木の前に1台……白い180が増えてるぞ!」

 

今一度ミラーをみれば確かに仲間のS14の後ろに車が3台。

1台は今まさにそのS14の隙を狙いプレッシャーをかけている固定式ライトの黒いFD、そしてもう2台はそのFDに続く180SX……。

そのうちの黒い1台は仲間のものだからいいとしても、いつの間にやらもう1台増えていることに今更ながら気がついた。

 

須崎「いつから居たんだ……!どっから涌いて出てきたんだよこいつ!」

 

村田(さっき後ろを確認した時、確かにヘッドライトは1台分しか……まさか!?)

 

村田「仲間のFDにピッタリくっついて便乗してきたのか!?」

 

須崎(マジかよ……なんつー曲芸だ……!)

 

須崎はこの乱入してきた車たちの正体について考える。

とは言え思い当たるのは一つしかない。

例の異様なオーラを放つレディース軍団、『チーム・ファンタジア』の車だ。

特筆して速くはないとは言え、曲がりなりにも地元最速を名乗っている『秋名スピードスターズ』を彼女たちは全員綺麗に料理してからやってきたのだと確信した。

しかも、ようやくコースを半分ほど消化したかといったところで。

 

村田「まだ来てる!史浩の後ろにヘッドライトの光が見える!」

 

須崎「なんだよ!なんでこんなに早いタイミングで追いつけるんだよ!スピードスターズの奴ら、まともに張り合わずにこいつら全部素通りさせて来たのか!?地元のプライドはどうしたんだよ!」

 

村田「無理言うな。こいつら……とんでもなく速い!バチクソにうめぇ!車も当然金かけてるんだろうが、テクニックも凄まじい!」

 

村田(俺らレッドサンズでこれなんだ!よそ者の俺たちにあっさり千切られる程度のスピードスターズじゃあまるで話にならねぇ!こんだけ上手けりゃ赤城走らせても上位に食い込むだろうよ!……全く、コーナーの進入でも立ち上がりでも負けて詰められるなんて高橋兄弟とバトルしたとき以来だ)

 

須崎(クソ!中でゴタゴタ言ってても仕方ねぇ!前の新田が全開走行に入った。俺も本気で飛ばすか。……俺たちだって涼介さんから秋名や妙義を想定した敵地攻略の手ほどきはきちんと受けてんだ。そう簡単に譲ってやるもんかよ!)

 

レッドサンズの一軍メンバーがファンタジアの走り屋に狩られていく二軍を置き去りにしてさらに早さの段階を上げて今できる範囲での全開走行に移る。

コースも中盤を過ぎ、再び高速区間に差し掛かっていた。

人にもよるが、スケートリンク前ストレートに次ぐ第二のストレートと便宜上扱われる場合もあるものの、少し緩めにカーブしているその区間を、アクセルをほぼ緩めることなく無茶を承知で駆け抜ける。

 

レッドサンズの一軍はシルバーのGC8インプレッサWRX STI(バージョンⅢ)とシルバーのS13後期K’sシルビアと青いS14後期K’sシルビアの合計3台。

その後ろにはファンタジアのFDと180SX、さらに後ろにはランエボⅥまで見えていた。

ここでついて来ていると分かるのだけでもこれくらいは居る。

二軍とは言えレッドサンズのメンバーは高橋涼介が将来有望と見込んでスカウトした強豪揃い。

メンバーの中には峠だけではなく、サーキットやジムカーナも経験している強者だって少なくはない。

それをいとも簡単にあしらうだけの実力の持ち主が自分の背後にこれだけいるのだと言う事実に戦慄する。

 

須崎(腕もマシンも一級品かよ……!全員俺より若そうなのに大したもんだ!)

 

こうしている間にも差は詰まる。

確認できている5台の中でも、特に直線ではFDとエボⅥが抜きん出ていた。

エボⅥは180SXに並びやがて鼻先を突き出し前に出ようとする。

FDと共に、新田のインプレッサにやや遅れて続く須崎村田ペアと斉藤のシルビアの2台を射程距離に捉えてしまった。

すぐ目の前には高速セクションの終りを告げるタイトな左コーナーが待ち構えている。

ここが勝負どころになることは、この場にいる誰もが理解できていた。

 

村田(斉藤の奴……焦って2台とも抑えようとして走行ラインに無理が出てる!どうせテクがある奴の乗るランエボとFD相手にシルビア1台でやり合おうったって無茶だ)

 

斉藤はアウトに振って被せようとしてくるエボⅥを牽制するようにアウトを塞ぐ動きを見せたかと思えば、その隙に開けられたインへ入り込もうとしていたFDの動きに気がつくとそれを制するべく、突っ込みでイン側に強く切り込んでインを引き締めようとする。

しかしベストなラインから逸脱し、彼本来のリズムからもワンテンポ遅れてしまったブレーキングによりオーバースピードでの進入となり、また急にインへとステアリングを切ったことによって荷重が乱れ、横方向への強烈なGでタイヤのグリップが負けてしまい遠心力によって流されるままに外側へと滑る。

コーナーのクリップに付けずにガードレール目掛けて膨らんだ斉藤のシルビアは立て直しを余儀なくされ、なんとかクラッシュは免れたものの致命的と言っていいほどに大きく失速。

その隙を後続のFD、エボⅥ、180がほぼ連なるように抜き、そして一拍遅れてセリカにも抜かされてしまう。

さらに、早くも二軍を処理したFCとアリストがこの隙に距離を急激に詰めてきた。

 

あのFCなども二軍をいとも容易く処理してここまでやって来た猛者。

スピードスターズの様なその辺の新米走り屋に毛が生えた程度の奴らとはワケが違う。

それをリヤガラス越しやミラー越しですら動揺の見て取れる斉藤のシルビアが受けきれる筈もない。

斉藤は調子がいいときは他の一軍メンバーが感嘆するほどに速いが、逆に一度調子を崩すとズルズルそれに引っ張られてしまう悪い癖がある。

 

何より村田は見ていた。

斉藤を抜かした際に見せたエボⅥとFDと180の動きは尋常では無かった。

 

村田(あいつら……前を走るS14のミスを察知して、瞬時に自分のラインを修正して見せたのか!?……膨らむS14と、そのS14へのラインの干渉を回避するために仲間のランエボがアウト寄りからインに逃げるのを……まるで最初から分かっていたかのように……!)

 

斉藤のシルビアがアウトへ膨らむ直前、村田は3台の中で一番アウト側にいたためにシルビアの失速の影響を受けるラインを走行していたエボⅥが、イン側にラインを修正することを見越して、FDと180が車間を取りラインを側溝スレスレのインベタに修正するのを見ていた。

ほんの一瞬後にランエボ1台分、ギリギリ滑り込めるだけの空間をあの一瞬で確保してのけたのだ。

おそらくはステアリングの舵角とほんの僅かなアクセルワーク、そのさじ加減で。

 

イン側にFDとそれにブレーキングで追いついた180SXがいる以上、あのまま進めばコーナーのややアウト側にいたエボⅥは、インにいた2台とは違いアウトに膨らみながら大失速するシルビアとラインが重複してしまう。

イン側の2台がシルビアをパスし終わるのを待ってからインに寄せた上で再加速して抜かなければならなかった。

後ろから他のチームメンバーやレッドサンズの二軍が追いつこうとしているその最中で。

 

もし機会を逸してしまえばエボⅥは両チーム入り乱れる団子の中で、3ナンバーサイズの大柄な車体を振り回すことになり抜け出すのに苦労することになっただろうし、そしてそれは他の車にとっても同様に障害となったはずだ。全てはそれを回避するためのチームプレーだった。

ランエボをあの場に残してしまうことが、3ナンバーサイズの車同士が狭い峠道で競り合うような状況を作ってしまうことが、結果として団子状態を招く可能性があったことを、少なくともイン側にいた二台が把握していなければ起きなかったことだ。

 

ライバルのミスを機敏に感じ取り、その結果を正確に予測し、影響を受ける仲間の取りたい行動と意図をわずかな間に察知し、それを叶えるべく瞬時に動き、実現してみせる。

まさに以心伝心、まさに超絶技巧。

並みの走り屋チームが100回やって100回失敗する様なスーパーテクに鳥肌が立つ。

未来予知じみた状況判断に、考える前に体が動くレベルで染み付いたコントロールの精度。

まるで初めて高橋涼介を相手に戦った時の様な恐ろしさを全身で感じていた。

 

村田(シャレになんねぇぞ……何だこいつらッ!高橋兄弟クラスの大天才がこんなにゾロゾロいる様なチームなのかよ!?)

 

あまりの実力差に恐怖すら感じ始めた彼らの背に、狩人の眼光の様なヘッドライトが突き刺さる。

間も無く秋名の名物5連ヘアピン。

深夜の秋名、バトルの天秤はファンタジアに傾きつつあった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

5連ヘアピンに差し掛かる直前、拓海はFDの助手席で隣に座る彼女の運転について考えていた。

 

拓海(やっぱりこの人すごい。ガンガン飛ばして抜きまくってる……。自分がハンドル握ってるわけじゃないからよく分からないけど、タイヤの使い方がいいのかな?タイヤ4つ全部上手く使って綺麗に流しながらカーブ抜けていく感じ……。こんだけ飛ばしてても怖くもならないし気持ち悪くもならない……とにかくすげぇや)

 

ヤマメのドライビングに驚嘆しながら静かに思索に耽る拓海をよそに、ヤマメはこの1つ目のヘアピンの突っ込みでアウトに振ってからインに向かってハンドルを切り、そのフェイントモーションの反動を利用してサイドブレーキを用いないままうまくリアのトラクションを調整して流させてドリフトへと入り、そのままインに潜り込んで早くも前方のS13シルビアを余裕でもって仕留めると、さらに先を走るシルバーのインプレッサを見据えてFDを走らせる。

続く第二ヘアピン、改めてレッドサンズのそのインプレッサの走りを観察すると、ヤマメはそのわずかな時間の間にある特徴をつかんでいた。

 

ヤマメ(このGC8……何かがおかしい。一般的な4WDの挙動じゃない)

 

GC8をはじめとする古い4WDはその駆動方式の性質上、ややアンダーステアが強い傾向にありどうしてもFRやMRといった後輪駆動車に比べて直進安定性や悪路走破性、加速性に勝る反面、回頭性に劣るという弱点がある。

だから多くの4WDはブレーキングでしっかりと速度を落とし立ち上がりで強く踏み、その持ち味である加速性の良さを活かすという立ち上がり重視のドライビングが求められるし、実際にヤマメの知る四駆乗りも含め多くのドライバーがそうしたスタイルとなる。

その定番の走り方こそがほとんどの場合の最適解であるからだ。

しかし目の前のGC8はむしろヤマメたちをはじめとしたFR乗りの乗り方に近い突っ込み重視のスタイルを取っているように思われた。

 

しかもその乗り方がマシンとのミスマッチを起こして遅くなっているのかと思えば、そうではない。

さすが北関東有数の強豪というだけはあり、ヤマメ自身の基準から見てもそれなりに速い部類だった。

むしろどういうわけか、本来4WDであるはずの車でFRのような運転をしているにも関わらず、うまくはまっているようにさえ感じられた。

 

ヤマメ(まさか……FR化しているの?)

 

話にだけは聞いたことのある4WD車の二輪駆動化カスタム、その可能性が頭によぎる。

 

ヤマメ(でも、四駆の走りが抜けてないんじゃない?立ち上がりのアクセルワークが若干ラフで姿勢が少し乱れてる。これなら付け入る隙は大きい。このまま攻めて4コーナーで仕留める!)

 

ヤマメ(もし仮に4WDからFRにしたのなら、こういうコーナーワークの粗が出るのも分かるかな。4WDは280馬力近くか仕様によってはそれ以上の大馬力を4つのタイヤに振り分けているからタイヤ一つあたりにかかる力が少ない。でもそれをFR化してしまうと本来なら前輪へと分配されるはずだったパワーも纏めて二つのタイヤにすべての駆動力が伝達されるから、単純計算で今までの2倍のパワーを受け止めることになる。……元々は4WDとして設計されていたGC8だとそのパワーに対して後輪側の足周りやタイヤが負けちゃうんじゃない?)

 

3つ目のヘアピンでFDが追いつくが、インプレッサがインを取りわずかにリードしたまま立ち上がる。

馬力に大きな差異がないことでインプレッサが鼻先をわずかに押し出して先行する。

しかし4つ目のヘアピンではインとアウトが入れ替わり、FDがそのまま突っ込み勝負を制しインを押さえた上で前に出るとそのまま悠々と抜き去っていった。

立ち上がりでインプレッサが若干食いつくもそれ以降は差が広がる一方となってしまう。

 

ヤマメ(高橋兄弟は仕留め損なったけど、まぁ1本目ならまずはこんなもんかな。一軍はハンデがある状態でもサクッと千切れるって分かったし)

 

前方にテールランプの見えない夜の峠を、ヤマメとFDは駆け抜ける。

麓の旅館の駐車場が見える頃には、彼女の後ろの車はいつしかインプレッサからエボⅥや180SX、FC、セリカ、アリストの見知った車に入れ替わっていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

麓の駐車場。

高橋兄弟がいの一番に入り、車を止めて運転席から降りたところで高橋涼介は峠を下りてくるマシンの排気音の違いを敏感に感じ取り、ため息をひとつついた。

 

涼介「随分と手酷くやられたな」

 

同じくFDから出てきた啓介に語りかける。

 

啓介「アニキ、この音……」

 

涼介の言おうとしていることを察した啓介は今しがた自分たちが走ってきた峠を睨みつける。

近づいて来る音はいつの間にはスバルの水平対向エンジンの音から慣れ親しんだ高音の効いたロータリーサウンドに変わっていた。

それは例の女走り屋集団の中に、今日連れてきた二軍や一軍のメンバーを全員綺麗に平らげてしまった凄腕のドライバーがいることを示していた。

それも、間にスピードスターズという障害物を挟んだ上でのハンデを覆して。

 

涼介「スピードスターズは大したことはないが、ファンタジアとか言うレディースチームの方は中々にやるようだな」

 

啓介「大したもんだぜ。ベストメンバーでは無いにしても、この場には一軍のメンバーも混じってるってのに……」

 

夜の暗闇の中から黒いFDが白い180SXと赤いエボⅥを引き連れ下りてくると、そのまま180SXと共にこの駐車場を素通りしてさらに麓の市街地方面に消えていった。

その一方で赤いエボⅥはと言うと、ワンテンポほど遅れてやって来たセリカ、FC、アリスト……そしてここでようやく登場した一軍のインプレッサと共に駐車場に入ってくる。

 

予想外の方向から鼻っ柱を叩き折られて何も言えなくなったレッドサンズのメンバーも、その空気を読み取った高橋兄弟も終始無言で、1本目からぼろ負けして既にお通夜のように意気消沈していたスピードスターズが降りてくるまでその沈黙が破られることは無かった。

 

 

 

 

 

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秋名山の麓、とあるバス停。

そこに山を駆け下りてきた黒いFD型RX-7が一台。

 

拓海「その……今日はわざわざありがとうございました」

 

ヤマメ「いいのいいの。上でも言ったけど、困ったときはお互い様でしょ。……それでさ、どうだった?私の車」

 

唐突に車の感想を求められて一瞬困惑の表情を浮かべるも、拓海はなんとか言葉を捻りだそうとする。

 

拓海「うーん、うまく言葉が見つからないけど、よかったと思いますよ。結構飛ばしてたのに、気持ち悪くなったりはしなかったので」

 

ヤマメ「そう言ってくれると嬉しいわ。……きっとFDも喜んでる」

 

拓海「え?」

 

ヤマメ「いや、何でもないわ。……それじゃあ拓海くん、気をつけて帰ってね」

 

拓海はヤマメのFDが見えなくなるまで見送るとそのまま帰路へとついた。

 

拓海(何時もの慣れた道でも、自分で走るのとはちょっと違う感覚だったなぁ。……なんか、こういうのも案外悪くないのかな)

 

ただ走るということに対してどこか退屈さを感じていた拓海の心に、ほんの少しの変化が訪れようとしていた。

 




本作に登場する車種は全て2012年4月以前の車種に限定されています(新劇場版を含む原作書籍や映像作品などにおいて、作中に登場する最も年式の新しい車種が前期86 / BRZであるため)。
感想欄等にて「GRスープラを出して欲しい」「S660が見たい」等の要望を出されたとしても、作者としてはお受けすることができません(リクエストの受付に関しましては後日活動報告に専用ページの設置を検討しております)。

リクエスト専用ページを活動報告に設置いたしましたことを遅ればせながらお伝えいたします。
(2022年12月3日 13時03分)

また、レッドサンズモブメンバーのネームド化を見て察した方も多いかと思われますが、本作は若干オリキャラ多めです。
そしてネームド化された原作モブに関しましては今後ぼちぼち出番を用意することとなっています。
これ以外にも私の考案した『うちの子』的な立ち位置のキャラをモデルに、少し設定を変更したキャラクターも今後登場予定(あくまで予定)となっております。


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第3話 初日を終えて……そして衝撃のハチロクドリフト

尺の都合により色々と端折られた部分が多いですが今後さらっと補完するようにいたしますのでご容赦ください。
実は走り屋あるあるみたいなネタや走り屋同士の交流に主眼をおいた作品なのでバトルに関しては重要なもの以外は結果だけ書いて端折ることが今後も結構あります。



2時間後、スピードスターズの面々は秋名の峠を登り、ダウンヒル側のスタート地点のすぐ脇の駐車場に車を止めて集まっていた。

 

健二「スゲーよ、あいつら……」

 

池谷「あぁ……みんな俺たちとは根本的な部分がなんか違うんだよな」

 

守「テクニック盗んでやろうと食らいつくんだけど、何も分かんねぇまま置いてかれるよ。観察する時間もないんだからもう俺らじゃどうにもならねぇ」

 

健二「レッドサンズもファンタジアも、正直よその走り屋があれだけレベルが高いとは思わなかったよ。走り慣れてるはずのホームでよそ者に何度も何度もカモにされるとかすっげぇショック……」

 

滋「特に女の子に負けたのも、男としちゃあ精神的にキツイぜ。秋名の峠に不慣れなあの子たちに、秋名のコツを一緒に走りながら……ってのが脳裏によぎった数分後にはアレだもんなぁ。……もう悲しくて恥ずかしくて逆に笑っちまうよ」

 

そんな車好き男子諸君であれば誰もが夢見るような妄想話であるが、美少女走り屋集団の登場に浮かれていたスピードスターズの彼らも当然していたし、特に滋などはあからさまに鼻の下を伸ばしていた。

共通の趣味である車を通してスリップストリームに入った時のように少しずつ心の距離を詰めて行き、いずれは結婚という名のゴールにワンツーフィニッシュを……などと言うのも今となってはすでに過去の話。

 

そんな儚い願望もとい妄想も、第一走目で彼女たちにいとも容易くぶっ千切られた瞬間から、崖に突っ込んで派手にクラッシュしたラリーカーのように地元のプライド諸共木っ端微塵に砕け散ってしまった。

 

池谷「俺なんか、イツキと拓海を向こうに預けた時に一丁前にアドバイスなんかしちまってさぁ……完全に余計なお世話だったんだろうな、今となってはよく分かるよ。……もう遅すぎるけどな。もしタイムマシンがあるならあの時の俺をぶん殴ってでも止めてやりてぇ」

 

滋「厳しいよな、現実って。……特に俺たち、車くらいしかロクな取り柄もないくせに、その肝心の車でこれだもんな」

 

守「あぁ……。なんつーか、あいつらみんなテクニックも段違いだけど車そのものも違うよなぁ。足回りに金かけてるからすっげぇ踏ん張ってんのが後ろから見てても分かる。俺の車がズルズル滑る安物タイヤと格闘しながらハンドルこじってどうにか抜けれるような速度でも、あいつら余裕でカッ飛んで行くし、しっかりパワーも出てるからストレートじゃ勝負にならない」

 

健二「麓で話した時にレッドサンズとファンタジアの車が履いてるタイヤ見せてもらったから分かるけどさ、ポテンザにネオバにディレッツァ……あとはミシュランもあった。タイヤ一つとっても一流ブランドばっかだったもんな。マシンの性能でストレートじゃパワー負けして、ドラテクの違いでコーナーワークじゃ歯が立たない。しかも本数重ねるほど千切られるまでの時間が短くなってんのも、ちょっと精神的にキツいぜ」

 

滋「特に高橋啓介のFDなんてツインターボで360馬力は出てるって言ってたぞ。鈴仙ちゃんの180も聞いてみたら東名パワードのタービン組んで330馬力だってさ。……あんなのにどうやって勝てっていうんだ。俺の車は200馬力にすら届いてないんだぞ……」

 

池谷「こっちは常に限界ギリギリの攻め方で走ってるのに、俺らを相手に走るあいつらは誰一人として本気じゃないなんてな……。こんな屈辱は初めてだ」

 

守「……相手が完全にコースを把握しきってる本番のタイムアタックじゃあ分単位でタイム差開くぞ。これマジで、本当にどうすりゃいいんだよ」

 

健二「何より俺たち地元最速名乗っておきながらコレとか、正直かなりダセェよ……」

 

無慈悲な結果として、厳然たる現実として、レッドサンズもファンタジアもスピードスターズよりも圧倒的に速かった。

その覆しようもない事実が、地元で走って来たことにプライドを持っていた彼らの心をズタズタに引き裂いていた。

直線でパワー負けし、ならばコーナーで勝負と思ってもそれすらまるで話にならない。

マシンにつぎ込んだお金も、車を操るドラテクも、何もかもが彼ら彼女らには遠く及ばない。

瞬き一つせずに相手の車を睨みつけ、技の一つでも盗んでやろうと意気込んでもそれもままならないと来てしまえば、もう彼らには打つ手なしだった。

 

唯一の救いと言えば、どちらのチームも軽く話してみれば普通に良い奴らだった事くらいだろうか。

今日だけでもいいことも悪いことも色々あったが、同じ車に乗る人同士で車を並べて写真を撮ってみたり、数台で即席の隊列を組んで走ってみたりなど、それぞれが違うチームでありながら初日からそれなりに打ち解けていたのはスピードスターズにとっては幸運なことではあった。

主にファンタジアのメンバーが清涼剤と言うべきか緩衝材と言うべきか、スピードスターズやレッドサンズの男衆の毒気を抜くように作用したこともあってか、思いのほかに軋轢は生まれていなかった。

 

とは言ってもよそ者であるはずの両チームとのこれだけの隔絶した実力差、そして言い訳を挟む余地の一つも無いボロ負けというものは、確実にスピードスターズの面々の心に重しとなってのしかかっているのもまた事実である。

特に周りに他のチームのメンバーがおらず自分たちしか居ないこの時だからこそ、今まで心のどこかで誤魔化し続けていた悔しさや疲れといった色々なものがドッと肩にのしかかってきたように感じてしまっていた。

 

池谷「でも、圧倒的な格上チームが相手だって、地元が逃げるわけにはいかねぇよ。戦えば負けると分かってても、それだけは絶対にダメなんだ。肝心な時に逃げるような奴に走り屋名乗る資格はねぇ。走り屋が逃げる時は後ろにライバルがいる時だけなんだ。……一度やるって決めたからには、もう後戻りはしない。やれるところまでとことんやり抜くだけだ。死ぬ気で練習して死ぬ気でガンガンに攻めるしかねぇ。……今日はもう遅いから、明日またどこかに集まって打ち合わせしよう。いまさっき連絡とったけど、今日いなかったメンバーも明日には集まれそうだからさ、そこでゆっくり今後について話し合おう。……今日はほんの数時間のうちに色々ありすぎて、頭ぐちゃぐちゃで、難しいことはなんも考えらんねぇや。……ラスト一本、下ったら今日はそのまま解散だ」

 

まるで自分に対しても言い聞かせるかの様な池谷のその言葉をきっかけに、最初の勢いは何処へやら、重たい足取りで車に乗り込み山を降りていくスピードスターズだった。

 

 

 

 

 

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それからさらに数十分、今度はレッドサンズのメンバーが入れ替わる様にその駐車場に入り、缶コーヒーを片手に乗り手とマシンの小休止も兼ねて駄弁っていた。

 

佐々木「今、俺たちしかいないから言うけどさぁ……あいつら、マジで何もんだ?俺ら、狸だか狐だか幽霊だかに化かされてねぇよな?……だって麓で握手した幽々子さんと妖夢ちゃん、なんかこの季節にしちゃあ手ェ冷たかったし」

 

疲れ切った表情の佐々木がそうこぼすと、周りの他のメンバーもなんとも言えない様な渋い表情をする。

 

啓介「知るか、そんなもん。霊媒師でも陰陽師でもねぇ俺らに分かるかよ。大方、エアコンつけてハンドル握る手が冷えてただけじゃねぇのか?」

 

佐々木「あぁ……そんなもんか」

 

斎藤「ただ、まぁ……そうだよな。あんまり現実感ねぇよな」

 

竹原「なんか、夢でも見てんじゃねぇのかって気分になってくるよ」

 

そう言う竹原の右頬は赤みを帯びでいた。

別にファンタジアのメンバーにセクハラを働いた結果おもいっきりビンタされたとかそう言うのではなく、単純に目の前の光景が夢か現実かを見極めたいがために自分の頰を数回ひっぱたいたりつねったりしただけである。

 

新田「実は俺たちどっかで事故ってて、目が覚めたら病院のベッドとか……」

 

村田「おいやめろよ!縁起でもねぇ。マジでそういう話苦手なんだよ、俺」

 

美少女だらけの走り屋チームが山に来て交流会の申し込みをして来たり、しかもめちゃくちゃ上手かったりと言うのは、よほどに運と巡り合わせが良くなければ通常あり得ないことであるし、実際に彼らにとっても今日の出来事はあまりにも非現実的な様に思えるものだった。

 

スピードスターズに交流会の申し出をするところまでは良いものの、それ以降はイレギュラーというイレギュラーが怒涛の勢いで押し寄せてきた様に感じていた。

突然下から上がってくる大量のスポーツカー、そしてその先頭の暗色系のセダンから降りてきたなんかヤバそうな雰囲気の和服美女、その彼女に率いられてやってきた美少女走り屋軍団、そして実際に走ってみれば地元やレッドサンズを圧倒する超絶テク。

実はこれが夢や幻の類なんじゃないかと疑いたくなる気持ちが湧いてくるのもある種当然のことではあった。

 

須崎「それにしても、信じらんねぇくらい可愛くて、話しかけてみりゃあその辺の免許取り立ての子と大差無さそうなのに、車に乗ったらまるで別人で、地元の奴らどころか俺らすらあっさりぶち抜いていくんだから、もう自信無くすぜ」

 

村田「俺のMR2が戻って来ても勝てる気がしねぇや。マシンもうちで言う所の松本みてぇな優秀なメカニックがいるのがひと目でわかるくらいにはしっかり作ってあるんだが、何より乗り手のテクが凄まじい。幽々子さんが言ってた、腕試しや交流を目的とした事実上の全国レディース選抜チームって話も、今となっちゃあ納得できる話だぜ」

 

啓介「初めての峠とはいえ、お前らもまだまだだな……。でもそんぐらい上手くねぇと俺としてちゃあ張り合いがねぇ。流しのペースにすら付いて来れねぇスピードスターズを適当に千切っても、退屈すぎて欠伸が出るだけだからな」

 

佐々木「今日は来てないらしいが、ヒルクライムやダウンヒルのエース格ともなると、涼介さんクラスかもな」

 

啓介「アニキクラスは言い過ぎだろうが、それでも随分やる奴らだよ。特にあの派手なエアロの黒いFD……良くいる見た目だけのポンコツかと思ったらしっかり俺のペースについて来れてたしな。途中までは燃料ケチってわざとゆっくり流しで走って、後からペースを一気に上げて引き離しにかかってもピッタリ磁石みてぇにくっついたまま最後まで千切れなかった。こればっかりは流石に認めるしかねぇよ。……あいつはその辺にゴロゴロいるような、ただ車に乗せて貰ってるだけの甘ったれなヘボなんかじゃねぇ。……でもまぁ、だからこそ同じFD乗りとして、同じロータリー使いとして、負けられねぇし負けてやるつもりはねぇけどな」

 

新田「啓介さんがそこまで言うなんて……やっぱりとんでもねぇや。俺の勝てる相手じゃなかったんだな」

 

竹原「でもそう思わせるだけの何かは感じさせるよな。……普通なら寝言扱いでサラッと流される様な話だけどさ、なんかあいつら見た後だと笑えねぇよ。確か30分くらい前だったかな……俺が下りの練習してる時にものすごい勢いで詰められてさ、何かと思ったら2台のFCだったんだ。妖夢ちゃん……だっけ?あの子と涼介さんがバトルしてたんだよ。……当然頭は涼介さんが抑えてたけどさ、妖夢ちゃんの方も普通に俺らじゃ追いつけないようなハイペースで攻めてる涼介さんに喰らい付いててびっくりしたよ。ブレーキングドリフトのラインも負けず劣らずすげぇ綺麗だった」

 

佐々木「それ、俺も見たよ。5連ヘアピンの出口のあたりでめちゃくちゃ速いFCがミラーに飛び込んできてさ、涼介さんだと思ったから譲ったんだけど、後ろにもう一台影分身みたいにFCが張り付いてて……俺、あまりにも速すぎるせいで涼介さんがついに残像か何かでも出すようになったのかと思ったよ」

 

新田「俺は結局あの後で妹紅ちゃんにリベンジ挑んでサクッと負けたし、お前らもエースですらない180やFDにもう一度バトル挑んで負けたんだろ?……こりゃ交流戦までに徹底的に走りこんで少しでも巻き返さねぇといよいよヤバいぞ。俺らもうかうかしてらんねぇよ」

 

そう呟く彼らの脳裏に浮かぶのは、今日体験した彼女たちの走りだった。

ドリフトとグリップを巧みに使い分ける爆発的な速さの赤いエボⅥに、高橋啓介ですら振り切れなかった黒いFDに、一軍でも付いて行けないハイペースで飛ばす高橋涼介に食らいつく緑のFCなどなど。

そうした彼女たちの走りは、全員が高橋兄弟とのバトルを経験しているレッドサンズのメンバーから見ても鮮烈に写っていた。

それこそ、当の高橋兄弟の走りと遜色のないほどに。

 

須崎「言っちゃあ悪いけどよ、スピードスターズなんかに構ってる暇はねぇかもな。練習、頑張るか。……俺は今月フルバケ買ってちょっと懐が寂しいんだがなぁ」

 

佐々木「……まぁ、仕方ねぇ。本番まで必死で走りこんで腕磨くしかねぇよなぁ。天下のレッドサンズがギャラリーの前でみっともねぇ走りなんか出来ねぇよ」

 

新田「だな。チームの看板に泥塗るわけにはいかないからな。……今日は予定が合わなかった奴らもいるし、当日誰が走るかは分からないが、一度選ばれればもう本番は覚悟決めて本気の全開走行で攻めるしかない」

 

竹原「はぁ……やるっきゃねぇよなぁ。……とはいえ、俺らもまだまだだったんだなぁ」

 

村田「上には上がいるってことなんだろうな。……まぁ、思っていたのとはちょっと違うが」

 

須崎「いやアレはちょっとどころのもんじゃねぇだろ!」

 

佐々木「だよなぁ。アレがちょっとで済む話かぁ……?」

 

 

いい感じでツッコミが入ったところで啓介が自販機脇のゴミ箱に向かって飲み干して空になったコーヒーの缶を投げ入れる。

カコンという軽い金属音が辺りに響くのを皮切りに、話題も自然と切り替わる。

 

竹原「そういえば、涼介さんの姿が見えないな。登ってくる時もすれ違わなかったし……」

 

啓介「アニキならとっくに帰ったぜ。なんでも、ファンタジアのFCと走った時に何か思うところがあったらしくてな。当日のシミュレーションがどうとか、何とかの上方修正がどうとか色々言ってたが、難しい事は俺にもさっぱりわかんねぇや」

 

須崎「……さて、もう一本下り行くか」

 

新田「そうだな。ボチボチ走るか」

 

佐々木「それじゃあ、俺はもうこのまま降りて帰るよ。ガスがもう3割切ってんだ」

 

須崎「おう、お疲れ。俺もあと2、3本くらい走ったら降りるとするか」

 

村田「なら佐々木、俺ももうそろそろ帰るから隣に乗せてってくれ。代車のカリーナ置いてある麓のコインパーキングまで頼むわ」

 

佐々木「おう、いいぜ。乗りな」

 

竹原「だったら俺も降りるかな。涼介さんも帰ったことだし、今日はもう遅いし、何より明日仕事だからさ」

 

啓介「あぁ、分かった。気をつけろよ。俺はまだまだ走り込む。今のうちにみっちり練習しとかないとな」

 

レッドサンズのメンバーも各々車に乗り込みエンジンを回して降りて行く。

重なり合う排気音が、秋名の峠に消えて行った。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

さらにその数分後、麓の旅館側の駐車場。

「今日はもうボチボチ帰る」と告げて山を降りて行くレッドサンズの走り屋を見送りつつ、ファンタジアのメンバーが小休止がてら雑談に興じていた。

すでに時計は深夜の二時半過ぎを指していた。

 

この場に残っているのは鈴仙、妖夢、妹紅、はたてのみで、幽々子は紫にスキマをつないでもらい冥界に帰ってしまった(と言うか本来の仕事を放り出して妖夢に無理を言ってついてきて、挙句に勝手に場を仕切っていた幽々子を紫が連れ戻しにきた)し、ヤマメは走り過ぎてガスが残り二割を切ってしまったため、チームが臨時で確保した麓にある安アパートを改装して作った簡易宿舎に戻っていった。

 

妹紅「今日会った外の世界のチーム、どう思う?」

 

はたて「レッドサンズは結構いい腕してると思う。この周辺の走行会や小さな大会とかじゃ強豪チームとして有名って話だし、実際に走ってみてその評判も納得って感じかな。話してみた感じ、メンバーの実力が軒並み高いのは多分、涼介さんの教え方が上手いんだと思う。あの人、かなりの理論派だし車を見る目もいいよ。私のセリカの馬力、ほとんどドンピシャで言い当てられたし」

 

妖夢「同じ車に乗る人同士ってことでお願いして一緒に走ってみましたけど、すごく速かったですよ」

 

鈴仙「うーん、速いのは私も下りの終盤で追いつかれた時にラインを譲って後追いさせてもらったからわかるんだけど……」

 

ザ・感覚派と言った感じの妖夢のふわっとした感想に苦笑する鈴仙。

 

鈴仙「私が走った感じだと、速さでいえば、うちのお師匠様と同じくらい速いかも。絶対とは言えないけど今の私じゃ勝てないかなぁ。結構本気で攻めたとはいえ、短い間しか一緒に走れなかったし。……涼介さん、基本的な運転のテクニックに忠実なように見えるんだけど、自分の走る環境に合わせて改良を加えていった結果として、今の走りになってるような気がするのよね。基本がしっかりしてるんだけど、あの人の速さの秘密はそこだけじゃないような……」

 

妹紅(なんで一本丸々一緒に走った妖夢より最後に後追いしただけの鈴仙の方が話が具体的なんだ?)

 

はたて「一方で、弟の啓介さん……あの人は確かに結構上手いんだけど、お兄さんの方と比べるとちょっとだけ見劣りするかなって感じはあるよね。でもレッドサンズのナンバー2って呼ばれるのも納得の実力だと思う。……そりゃあ、ヤマメや妹紅みたいな地区の代表もぎ取ってきたメンバーに比べれば劣るかもしれないけどさ」

 

妖夢「それじゃあ、スピードスターズの方はどうなんでしょう……?」

 

妖夢がレッドサンズからスピードスターズに話題を切り替えると、全員微妙な顔をする。

地元を名乗るだけはあり、ある種の慣れのようなものを感じはするものの、それが速さにつながっていないのがスピードスターズの実情だった。

 

はたて「あー……スピードスターズは、どうだろうね。腕利き揃いって言われるレッドサンズとの比較になるからあれだけど……」

 

妹紅「正直なところ、あんまり上手くはなかったな。一応ドラテク関連の本は読んでいるらしいが基礎的な荷重コントロールとかタイヤやブレーキのマネジメントとかを理解しているかどうかすら怪しい。踏めばいいってもんでもないのにコーナーでもやたらに踏みたがるから後輪が暴れて危なっかしいったらありゃしないよ」

 

はたて「ちょっと、そこまで言う?」

 

妹紅「あぁ、今日は初対面ってこともあるし部分的な指摘に留めて置いたけど、悪いところは悪いと言ってやらないと、このまま変に気を使って放っておけば当日に恥をかくのはあいつらだよ。……ここは幾分マシな走りになるように、私たちの方で多少揉んでやるのがあいつらのためにもなる。別に恥をかかせることが目的でこっちに来た訳じゃないんだ。多少のお節介くらいはいいだろう。……それにな、私はこれでもあいつらの事は好感が持てると思ってるんだ」

 

はたてが言葉を濁す一方で妹紅は上手くないと言い切った。

そして同時に好感が持てるとも言って見せた。

 

はたて「へぇ……でも私もちょっと分かるかな」

 

妹紅「あぁ、1日で何度も何度もよそ者に千切られるのは地元の奴らからすれば屈辱以外の何物でもないだろうが、それでも下手くそなりに気を持ち直して食らいつこうとしてきたあの根性は流石ってやつだと思うよ。あぁいうやる気のある奴は好きだ。まぁ最後の方は大分へばってた感じはするけどね。……それに才能もないって訳ではなさそうだし本人たちの人となりだって別に悪くない。そんな憎めない奴らだからこそ、本番で恥をかかせないために私たちが多少稽古つけてやる程度でちょうどいいのかなって思うんだ」

 

鈴仙「なるほどねぇ」

 

妖夢「そういう事なら、私も手伝いますよ。池谷さんたち、私のFC褒めてくれましたからそのお礼に何かできたらいいなと思っていましたので」

 

妹紅「いや……その気持ちは嬉しいが、妖夢は誰かに何かを教えるって方面だと少し頼りないんだよなぁ」

 

鈴仙「そうね……涼介さんと一本まるまるご一緒させてもらったのに私よりも曖昧でざっくりとした感想しか言ってなかったし」

 

妖夢「うぅ……。二人して幽々子様みたいなこと言わないでくださいよ……」

 

幻想郷の走り屋の中でも指折りの超感覚派である妖夢はほとんど才能一本で走っているような有様であった。

それに彼女の本来の生業である剣の道においても妖夢は幼い頃より祖父の剣を見て学び覚えるというやり方で一貫していた。

その祖父も本当に大事な基礎の基礎となる部分を除けば多くを語ることなく、見て学ぶ妖夢のやり方を受け入れ彼女のやりたいようにさせていた事もあって、深く論理的に考える理論派的なタイプとは真逆の位置にいた。

当然、妖夢が誰かに何かを教えようとする際も「見て学べ」というスタンスとなってしまうためについて行ける人とついて行けないとの差が激しいのだ。

ちなみに、この才能一辺倒の超絶感覚派の妖夢のやり方に唯一ついて行くことが出来たのは幽々子ただ一人のみである。

 

妹紅「ふぅ……それにしても、私たちも結構走ったな。ここに来る直前にすぐそこのスタンドで満タンにしてから来たってのに、もうガソリンが半分も無いよ。タイヤもまだ余裕があるとは言え結構使ったし、そろそろ頃合いかな。レッドサンズもスピードスターズも軒並み帰ったわけだしさ」

 

鈴仙「ガソリンもタイヤもよく使うのはチューニングカーの宿命よね。結構な本数走ったから私の180ももう半分もないわ」

 

妖夢「私もそろそろ危ないですね。まぁ、燃費の悪さは如何ともし難いですよね。こればっかりは諦めるしかないですよ」

 

妹紅「それじゃあ私たちもぼちぼち解散するか」

 

鈴仙「そうしましょう。私もなんか疲れてきちゃったし」

 

はたて「私はあと何本か走ってから帰るわ。外の世界の峠、なんだか新鮮で走ってるうちに楽しくなってきちゃった」

 

妹紅「分かった。他のメンバーにもそう伝えておくよ。気をつけてな」

 

はたて「えぇ、お疲れ様」

 

 

 

 

 

一人、また一人と帰って行き、夜は更けていく。

そして、東の空が薄っすらと白んでくる午前4時、それは彼ら彼女らに迫ってきていた。

 

 

 

 

 

♪ ANOTHER HERO / Daniel

 

 

 

 

 

秋名の峠を2台の車が駆け抜ける。

前の一台は高橋啓介のFD3S型のRX-7、その後を追う姫海棠はたてのST205型セリカGT-FOURだ。

はたてと啓介が、お互い今日ラストの一本ということで、せっかくだからと軽いバトルに興じていたのだ。

 

啓介(走りなれない峠で、なおかつ多少タイヤも消耗しているせいでお互い全開走行とまでは行かないが、それでも本気に近いペースで流す俺に付いて来るか。……四駆乗りにしちゃあ結構やるな。ただマシンのスペックを頼りにベタ踏みにしてるだけのカスじゃねぇってわけか。コーナー2つでミラーから消える地元の連中なんかよりもよっぽど手強い奴だな。今日俺の背中をつっつきやがった黒いFDもそうだが、やっぱコレぐらいはやってくれなきゃ張り合いがなくて面白くねぇ)

 

はたて(改めて見るとよく分かる。噂通り上手いわね。コースとタイヤのコンディション的に全開走行ではないとはいえ、それでも並の走り屋からは頭一つ抜けてる。さすがはレッドサンズの高橋啓介ね。多少荒削りっぽいところもあるけど、他の走り屋が彼の実力を認めてプロからも一目置かれているのも納得だわ。磨けば磨くだけ光るダイヤの原石っていう紫が調べさせた事前情報も理解できる気がする。……いつかお互い万全のコンディションを整えて再戦したいわ)

 

前を走る啓介のFDに、後を追うはたてのセリカ。

お互い内心でその実力を認め合う中で、それに水を差す乱入者が現れる。

まずは後方を走る後追いのはたてが気づいた。

 

はたて「後ろから誰か来る?……うちのチームでもレッドサンズでもない」

 

バックミラーにちらりと映るリトラクタブルのヘッドライト。

それはストレート区間では若干差が付くもののコーナーではかなり大きく詰めて来る。

前方の高橋啓介もどうやら接近する何かに気がついたようだ。

 

啓介(いつの間にかセリカ以外に一台増えてやがる。まだ多少距離があるが……どこのどいつだ?少なくともうちのチームじゃないな。あまり大きな車じゃなさそうだ。……リトラクタブルっぽいが、この感じ……MR2でも180SXでもない)

 

はたて(徐々に近づいて来る。プレッシャーも感じるようになって来た……!)

 

啓介(やっぱり差が詰まってる!それに、後ろのセリカの反応を見るに、ファンタジアのメンバーでもねぇのかよ!)

 

啓介は後ろのセリカがその乱入者に対してイン寄りのラインを警戒して微修正し、対抗する姿勢を見せたことに違和感を抱いた。

彼女たちは近くに仲間の車が走っているときは必ず譲るか、協調するように動いて来た。

仲間同士でもあからさまに対抗心を見せ合うようなことはなかった。

 

後ろのセリカもその例に漏れず、おそらくは彼女よりも速いと思われる黒いFDや赤いエボⅥが来たときは大きくラインを譲り先へ進ませ、アリストとS14が競っている場面に出くわしたときは自分に意識を割かせてそれとなくアシストするように立ち回っていたらしい。

そうした彼女たちの集団戦における立ち回りやテクニックの数々を、すでに啓介は他のレッドサンズのメンバーから聞いている。

そうした行動に出ていないということは、後ろのセリカもこの車に心当たりがなく、現状では敵と判断しているのだと啓介は読んでいた。

 

そして、さらに2つ3つとコーナーを抜けると、ついにその乱入者の正体が明らかになる。

 

はたて「まだ近づいて来る!これは……ハチロク!?」

 

啓介「ハチロクだと!?……ふざけんな!」

 

後方からこれほどの差を詰めて来た車の正体、それはAE86……とっくの昔に型落ちとなっている旧型のトレノだった。

これには両者ともに驚きを隠せなかった。

啓介の駆るFD型RX-7も、はたての駆るST205型セリカGT-FOURも、加速から最高速度、そしてコーナリングまであらゆる性能でAE86を凌駕しているマシンであり、本来であればほとんど相手にならないような車だった。

片やシーケンシャルツインターボを搭載した直列2ローターのロータリーエンジン、片や2リッター直列4気筒インタークーラーターボ。

ましてやこの2台はエンジンに手を入れた300馬力オーバーのチューニングカー。

エンジンだけを比較しても、ターボすらも無いテンロク(1.6リッター)のNAではどうしても見劣りする。

そのスペックの差をひっくり返してここまでやって来たのだからこの2人をして驚嘆せざるを得なかった。

 

はたて(コーナーの連続するこの区間で一気に近づいて来る。ラインの選択に迷いがないし、コーナーへの進入スピードが段違いに高い。こっちは四駆の優秀なトラクション性能、何よりハチロクに勝るエンジンパワーがあるから立ち上がり加速では優位に立てても、それを上回る突っ込みの差で大きく詰められる!このハチロク、とんでもなく上手い!)

 

啓介(なんだ……?何が起きてるんだ!なんでこんなに詰められるんだ!4WDターボのセリカならまだしも、この俺が……FDが、ハチロクなんかに……時代遅れのオンボロハチロクなんぞに性能差をひっくり返されて詰められるなんて、ありえねぇ!そんなの絶対に認めねぇぜ!クソッタレ!)

 

コーナーの連続するテクニカルな区間になると一気に差を縮められてついには3台が密集したいわゆる団子状態へともつれ込んだ。

そしてついに秋名の難所の一つと言われるコーナーへと差し掛かる。

そこでハチロクが一気に仕掛けた。

緩い右のコーナーの先に隠れたタイトな左に備えるために減速するFDとセリカをよそに、ほとんどノーブレーキで突っ込み2台を横から抜き去るハチロク。

ハチロクの無茶とも思える突っ込みに啓介とはたては目を見開き驚愕する。

 

啓介(減速しねぇ……!?無茶だ!何考えてやがる!)

 

はたて(この右の先はキツい左!このゆるい右は抜けられても左は確実にオーバースピード!)

 

啓介(言わんこっちゃねぇ!スピードが乗りすぎて遠心力でケツが出てる!立て直して減速するスペースはもうねぇ!)

 

高速での進入によりリヤが滑るハチロク。

 

はたて(カウンターステア……やっとミスに気づいて立て直そうと……いや、まさか!?)

 

啓介(なにッ!)

 

次の瞬間、ハチロクは大きくインに切り込み甲高いスキール音を響かせながら慣性ドリフトに移行する。

 

啓介(慣性ドリフト……!)

 

ハチロクが右コーナーで見せた、一見ただのミスとすら思えたそれらの挙動は全て、次の左コーナーを慣性ドリフトで駆け抜けるための姿勢作り。

その腹が立つほど完璧なスーパードリフトに呆気にとられ、啓介がスピンを起こし、それを間一髪のところで回避したはたてのセリカもサイドブレーキを引きながら啓介のFDとは逆方向に車を回転させうまく速度を殺して停止させた。

 

はたて「ちょっと……あんた大丈夫?」

 

啓介「あぁ、なんとかな。……俺もFDも問題ねぇよ」

 

はたて「ならいいけど……」

 

啓介「……お前の方はどうだ?」

 

はたて「私の方も問題ないわ」

 

啓介「そうか。……それよりも、何だったんだ今のは……。俺たちは秋名山で死んだ走り屋の幽霊でも見ていたのか……」

 

2台でハザードを点灯させて啓介とはたてが車外に出るとお互い顔を見合わせる。

すでにハチロクのエンジン音とスキール音は、はるか彼方に遠ざかっていた。

 




活動報告欄にリクエスト募集ページを設置いたしました。
詳細な条件や注意事項に関しましては当該ページに記載しておりますのでそちらをご参照ください。

2023 / 06 / 02 11:36 誤字訂正。

2023 / 11 / 28 17:15 誤字訂正。


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第4話 スピードスターズ、交流戦前のひと時

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。

ちなみに、今回出てくるオリキャラの一部にもやはり、原作にモデルがいます。

2022年11月12日 15時11分
タイトルがニ分割前の仮題のままだったため急遽訂正いたしました。


あの三つ巴の戦いの翌日。

秋名山麓のファミレスにて、店舗の奥まったところにあるボックス席を借りて昨日いなかったメンバーである東 隆春と中山 四郎、吉村 翔一も含めたスピードスターズが総出で顔を突き合わせ話し合っていた。

 

池谷「今日全員で集まってもらったのは、みんなで共有しておきたい大事な話があるからなんだ」

 

池谷がそう切り出す。

昨日いなかった一部のメンバーを除いた健二、守、滋はほぼ確実に昨日の出来事に関する話だと察していたが、一方でいなかった側の東と中山と吉村の3名はなぜ池谷たちがこんなに疲れたような、あるいは少々緊張したような態度になっているのか、何が何やら理解できていない様子であった。

 

池谷「四郎と隆春と翔一は昨日いなかったからまずはここから話すことになるけど、まず一つ……昨日、俺たちが集まってる時に赤城レッドサンズとチーム・ファンタジアの代表が仲間引き連れてやって来てな……。そこで話し合った結果、その赤城レッドサンズとチーム・ファンタジアの2チームと俺たちとの合同で、来週の土曜日夜に交流会を開くことになったんだ。俺たちのホーム、秋名の峠で」

 

四郎「赤城レッドサンズ!?確か赤城最速のチームだよな!マジかよ……」

 

隆春「あぁ、ただでさえレベルが高いって言われる赤城の走り屋の中でも最速で、特に高橋兄弟は関東でも指折りの走り屋だよ」

 

翔一「でも、そんな有名どころの奴らがいきなりどうして秋名に乗り込んできたんだ?」

 

池谷「さぁな、裏で何考えてるかなんて分かんねぇよ。でも挑まれた以上は地元の走り屋に逃げるなんて選択肢はないだろ?一応俺らは秋名最速を名乗ってたんだからさ」

 

翔一「まぁな……って、それよりも……もう一つのチーム・ファンタジアってのは聞き覚えがないんだけど、どこのどんなチームなんだ?この辺の奴等じゃねぇよな」

 

まさかのレッドサンズの名前に驚く四郎をよそに、翔一は聞きなれないチームの方に興味を示す。

 

池谷「あー……それなんだがな、あれこれ言うよりもちょっとこれ見てもらった方が早いと思う。健二たち……昨日いたメンバーはレッドサンズと一緒になって集まったり車並べたりして何枚かあの子たちと写メ撮っただろ?それ見せるぞ。……どうせ口で言っても信じてもらえないだろうし」

 

隆春「口で言っても……って何だよ。それどういう事だよ。それにあの子達ってまさか……」

 

四郎「いや、マジ昨日何があったんだ?どうしちまったんだよみんな……」

 

翔一「なんつーかさ、リーダーもみんなもテンション上がったり下がったり、様子が変だぞ?山のキノコでも拾い食いしたか?」

 

池谷の言葉と、四人で同時にポチポチとケータイを弄り始めた様子に、怪訝な表情を浮かべる残りのメンバー。

彼らから見て四人は、沈んだような緊張したような疲れたような負のオーラを発しているように見えるのにその一方で、表情を見るに口角がわずかに上がっていたり目元が少し緩んでいたりで何やら嬉しそうな浮かれた空気感も垣間見えていた。

たった一晩見なかったうちに何が起きたらここまで正と負の感情が複雑にミックスされたものを全身から醸し出す人間が出来上がるのやら、彼らには皆目見当も付かなかった。

 

健二「まぁ、そう言われてもなぁ。俺らから見ても昨日のことはあまりにも現実感なくてな……ちょっと待ってくれ写真選んでっから」

 

池谷「本当に言葉の通りなんだ。俺たちでさえ証拠になる写メがなきゃ昨日あったことが現実なんだっていう確証も持てないくらいなんだよ。まぁ、論より証拠って奴だな。……これでいいか」

 

守「俺がお前らの立場だったら証拠がなけりゃ絶対に1ミリも信じないで夢や幻覚でも見たんだろって笑っちまう自信があるよ。……うん、こんなもんかな」

 

滋「だよなぁ、良くも悪くも、昨日のアレはそれこそ夢か幻みたいだったもんなぁ。……よし」

 

 

 

 

 

そう言って3人の前に差し出された4つのケータイ画面を見た瞬間、3人は爆発した。

 

隆春「お、おいおいおいおい!お前らコレ何だよ!何だこの可愛い子たちはよぉ!お前ら最初テンションだだ下がりでここに来た割には昨日そんなに美味しい思いしてたのかコラァ!」

 

翔一「ちょ、ちょい待てなんだこの美少女軍団!華があるとかそういうレベルじゃねぇぞこれ!マジで何なんだ!?レッドサンズの追っかけか!?」

 

四郎「特に池谷お前!この集合写真!野郎どもは良いとしてもこの美少女軍団は誰がどっから連れて来たんだよ!つーかこの子たちマジで誰なんだよ!めっちゃ可愛いじゃねぇか!」

 

池谷の写真は一言で言えばその日いた各チームのメンバーで撮った集合写真だった。

地べたに座っている人、中腰程度に屈んでいる人、立っている人と様々だが全員カメラ目線でいい表情をしている。

後ろにはS13、S14、180SXなどのシルビア系やFDやFCにGC8インプレッサ、アリストなどの車が写り込んでいた。

 

池谷「あ、あぁ……実はこの女の子たちがそのチーム・ファンタジアのメンバーなんだ。いわゆるレディースチームって奴でさ……メンバー全員が女の子なんだよ。この写真は俺らとレッドサンズとファンタジアの3チームで集まって撮った写真なんだ」

 

隆春「はぁ!?」

 

四郎「女の子だけのチームだぁ!?」

 

翔一「美少女走り屋チームが秋名に来るとか、そんな夢のようなイベントがよりにもよって昨日あったのかよ!」

 

四郎「くっそー!何で居なかったんだよ俺たち!それさえ分かってりゃ残業なんか蹴っ飛ばしてでもフルスピードで峠にカッ飛んで行ったのに!」

 

隆春「昨日急に飛び込んできた仕事で山に行けなかったという、たったそれだけの事でこんな特大の出会いを、人生を変えたかもしれない数時間を逃してしまったのか俺は……」

 

健二「いや、そんなに落ち込むなよ……交流戦にくれば確実に他のメンバーとだって会えるし今日や明日にも練習走行とかで何人か秋名に来てるかもしれないだろ」

 

池谷の説明を聞きなおのこと加熱し、嫉妬し、悔しがる3人。

そして今度は口を挟んで来た健二に標的が移る。

 

四郎「それで健二、お前もか!お前に至っては美少女走り屋と同じ色の同じ車に乗ってるからって仲良く後ろに愛車並べてツーショットかよ!死ぬほど羨ましい……じゃない!女にうつつを抜かすなんて走り屋としてだらしないぞ!」

 

池谷「出てる、出てるぞお前。本心が」

 

健二「そりゃあ……白い180SXに乗ってる人間の特権って奴だよ。それに、最初に声かけたのは俺じゃなくて鈴仙ちゃんたちの方からなんだぞ」

 

隆春「なん……だと……ッ!お前、マジかよ……。俺はてっきり、健二がダル絡みして撮ったものだとばかり……」

 

そう言って真っ白に燃え尽きた矢吹丈のごとく崩れ落ちる隆春。

 

守「あぁ、最初に声かけてきたのは向こうからだったよ。びっくりしたし、初めは緊張したよな俺ら」

 

健二「隆春あのなぁ、お前俺をなんだと思ってるんだ?……まぁいいや、ここから話が大きくなって、レッドサンズも巻き込んだ集合写真に繋がってるんだぜ」

 

隆春「マジかよ……あぁ……なんで、なんで俺昨日いなかったんだよ……」

 

もし昨日、秋名山に行けていたら、可愛い子との縁を紡げたかも知れない。

愛車と一緒に憧れのレッドサンズや美少女走り屋チームと一緒に、一生モノの思い出になる写真を撮れていたかも知れない。

それを「残業で疲れたからいいや」で山にいかなかったせいで潰してしまったという事実が隆春のメンタルに相当なショックを与えていた。

 

池谷「それにしても、本当に良い子だよなぁ……鈴仙ちゃん。俺が下で拾って来た後輩のうちの一人を俺の代わりに麓のバス停まで送ってくれたのが彼女だったからな。みんな走って出て行っちゃうのに、車の無い二人だけを上に残していくのは可哀想だからってさ」

 

滋「性格も良くて美人でおまけに車が趣味とか、俺らにとっちゃ非の打ち所がねぇよな」

 

翔一「え?もしかしてその後輩の子、横乗りさせて貰ったのか?」

 

守「あぁ、そうみたいだよ。1人は180SXの、もう1人の子はFDの助手席に乗って降りてったよ。全くあんな可愛い子の車に横乗りとか、羨ましい限りだよ」

 

滋「今度あったら感想聞かせてもらおうかな……」

 

隆春「良いなぁ、めっちゃ羨ましいぜ。自分が運転して隣に女の子ってのもアリだけど、自分が助手席で女の子が運転ってのもそれはそれでアリだよな。横からアドバイスとかしたりしてさぁ……」

 

四郎「分かるぞ、それ。コースの難所とか、シフトチェンジのコツとか教えてあげて、がっつり好感度稼ぐんだよなぁ」

 

と、そこであの時に居合わせていた四人から笑顔がスッ……っと消える。

もちろんその原因は言うまでもなく、あのぐうの音も出ないほどの完全敗北にあるのだが、それをこの彼らはまだ知らないのだった。

 

そして、話題は自然と守や滋の写真に移っていく。

守の写真はアリストに背を預けながら微笑む幽々子の写真、滋の写真は走り出す直前を思わせる、FCとFDが横一列に並ぶ写真だった。

 

四郎「うわぁ……なんか見方によっちゃあちょっと怖そうだけどすげぇ美人だなぁ、この人。……なんで着物着てるのか分かんないけど」

 

隆春「あぁ、なんかいかにも大和撫子って感じ。後ろのアリストも綺麗だしな。黒……いやダークブルーかなこれ。……この人もファンタジアのメンバーなのか?」

 

池谷「あぁ、この人は西行寺幽々子さん、ファンタジアの出資者……要はスポンサーで、本人もチームに特別顧問として在籍しているって話だよ。メンバーは彼女の友人が個人的な伝手を使ってスカウトして集めたんだってさ」

 

四郎「え?何それ……スポンサーとか顧問とか、そんな大げさな肩書き付いてんの?しかもスカウトっておい」

 

隆春「そんで出資者って言ったよな。まさか走り屋チームにお金持ちのバック付いてるのか?」

 

健二「そうらしい。ちなみにどんな家庭なのかそれとなく聞いてみたら今は華道や書道、茶道みたいな文化芸術方面で活躍しているそれなり程度の家って話だけど、大昔は武家だったらしいよ」

 

四郎「マジモンのお金持ちっていうか、普通に名家のお嬢様ってやつじゃん」

 

隆春「やべぇな……何でそんな人が走り屋の支援者なんてしてんだろうな」

 

二人は次に守の写真に目を向かわせる。

黒のFDと緑のFCが並べてあり、そのすぐ側のガードレール脇には先ほどの写真に写っていた幽々子ともう一人、携帯を片手に持つ茶髪をツインテールにまとめた少女が立っていた。

 

隆春「で、こっちはFDとFCの組み合わせだよな」

 

四郎「ってことは高橋兄弟か?」

 

滋「いや、この写真もファンタジアを撮ったものなんだ」

 

四郎「え?でも、この組み合わせで走ってる走り屋なんて高橋兄弟以外にいないんじゃ……」

 

隆春「いや、高橋兄弟とは車の色が違うんだ。赤城でギャラリーした時に見たけど高橋啓介のFDは黄色で、高橋涼介のFCは白だよ」

 

池谷「こっちの黒いGTウィングのFDは黒谷ヤマメちゃん。さっき教えた鈴仙ちゃんの180SXと一緒に俺の後輩を送ってくれた子だよ。で、この緑のFCは魂魄妖夢ちゃん。剣術道場の娘で、今は幽々子さんの屋敷で働いてるんだってさ。多分、幽々子さんがチームのスポンサーになって支援してくれてるのもこの子の繋がりなんだろうな」

 

四郎「はえー」

 

翔一「ひえー」

 

隆春「ふえー」

 

健二「おいお前らいきなりどうした?壊れちまったか?」

 

翔一「いや、もう情報量多すぎて逆にリアクション薄くなるわ……」

 

四郎「だよな。大事な話があるっつーから多少のことはある程度身構えてたから大丈夫だとは思ってたけど、これは多少ってレベルじゃねぇもんな……」

 

隆春「流石にここまで見せられたらもう疑う余地もねぇよ……。あ、ところでさ、こうやって発進準備をしてるってことはもちろん走るんだろ?この子たちの走りってどんなもんなんだ?」

 

隆春がそう口にするとやはり昨日いた4人の纏う空気が一段と重くなる。

 

池谷「あぁ……えーっと、それなんだがなぁ」

 

四郎「ん?どうしたんだ?」

 

健二「うーん……やっぱ言いにくいよなぁ」

 

隆春「なんだ?もったいぶって。……まさか、めっちゃいい車乗ってる割に超下手とか……?」

 

池谷「いや、その……まぁ、秋名の走り屋としても、個人的にも、ちょっと悔しいというか……恥ずかしい限りなんだがな。……あの子たち、めっちゃくちゃに速すぎるんだ」

 

隆春「え?」

 

四郎「は?」

 

翔一「ん?」

 

池谷の口から出てきた予想外の言葉に固まる3人。

秋名スピードスターズは今まで秋名最速の走り屋を自称していて、なおかつそれだけの自負もあった。

特に池谷はスピードスターズ以外秋名の走り屋チームたちからも一定の評価を得ていたはずであるし、その池谷を持ってしても速すぎるなんて言わせる走り屋は、それこそレッドサンズの高橋兄弟くらいのものだろうと3人は思っていた。

 

健二「最初の一本目、俺たちが先に出たのにものの数秒で追いついてきて余裕で横からぶち抜かれたもんな。すんごい猛スピードで追いかけてきて、そのままとんでもない速さでコーナーの向こう側に消えて行ったよ」

 

池谷「まさか他の山の走り屋がこんなにハイレベルだなんて思わなかったなぁ。……俺たち、レッドサンズにだって序盤に少しテールランプを拝めた程度であっという間に置き去りにされたし、正直ヘコむぜ」

 

滋「すっげぇ進入スピードでドリフトしてさ、そのまま俺の真横飛び抜けてってさ、もう超絶上手すぎて言葉もねぇよ。そもそも走り屋としての格が違うって、こういうことを言うんだろうな。秋名の走り屋としては恥ずかしいとももちろん思うけど……正直どっちを相手に仕掛けようとしても、最初っから勝負にならねぇっつーか……」

 

守「コーナーの進入から脱出まで何一つ勝てないし、直線なんかもう話にならないしで自信無くすよ。なんせ、張り合ってブロックしようとしても空いてる側をスルッと抜けてった感じだったからさ、実質的には半ば道を譲ったのと同じようなもんだよ」

 

健二「情けない話だけど文字通り相手にすらなってなかったもんな俺ら。その後で普通にあの高橋兄弟を追い回してたくらいだから、実力は本物なんだろうなぁ……」

 

滋「こう言っちゃ失礼かもしれないけど、あんまり走りの得意じゃなさそうに見えた幽々子さんだって、俺らより圧倒的に速かったからな」

 

池谷「あぁ、みんな本当に速かったよなぁ。なにせレッドサンズの一軍ですら勝てなかったって言ってたからな。レッドサンズ未満の俺らなんか秒殺だったよ。……地元としちゃあ悔しくて悔しくてたまらねぇけどさ、でもそういうのを抜きにして一人の走り屋として見ればみんな尊敬できるくらいの実力者ぞろいなんだ。ほんと、すげぇよ」

 

四郎「嘘だろ……そんな上手い奴らばっかなのか?」

 

翔一「リーダー……ま、マジなのか?それ……」

 

隆春「高橋兄弟についていけるほど上手いって、なんだそりゃあ……」

 

池谷「あとになって聞いたんだがな、何でも発起人とその関係者のコネを使って集めた、腕試しを目的とした実質的な全国女子選抜チームの様なものだってさ」

 

口々に語られる彼女たちの実力に思わず引いてしまう3人。

赤城最速どころか群馬最速とすら言われるあの高橋兄弟と互角に渡り合うほどの走り屋の女の子というのは、最早彼らには想像もつかないレベルの話であった。

 

健二「で、俺らとそれ以外のチームに圧倒的な実力差があることはわかっただろう?そこで、もう一つの大事な話に繋がるってわけだ」

 

池谷「交流会まで一週間未満、相手はどっちも圧倒的格上チーム。しかも当日に向けてギャラリー集めるって話だ。……実は、交流会の最後に代表出してタイムアタックバトルをすることになってるんだけどさ、実力差を考えたら今から何したところで全戦全敗だ」

 

健二「……地元名乗ってる癖に大勢のギャラリーの前で余所者に散々カモにされた挙句に大差でぼろ負けしたとなりゃあ、しばらくの間は俺ら笑いもんにされるのは確実だろうな」

 

池谷「俺たちが笑われる分には別にいいんだよ。下手くそだった俺たちが悪いんだ。……でもあんまりにも情けない負け方晒した結果として、秋名の走り屋全体まで舐められたりしないかって考えてるんだ。最大の懸念点はそこなんだ。俺たちのせいで余所者に山荒らされちゃあたまんねぇし当然責任だって感じるよ。俺らが恥さらしたせいで他の奴らにまで迷惑がかかるのはもちろん本意じゃねぇし、正直忍びねぇというか……。とにかく、負けを覆せなくてもいい。どうにかして少しでも食らいついて、格好の一つでもつけとかないとダメだろう」

 

池谷と健二の口から語られる最悪の未来の形。

それを回避するために、自ずと意見を出し合う。

 

四郎「じゃあ今日ここに集まったのはそのための作戦会議って訳か」

 

隆春「でも、どうすんだよ。どっかから助っ人でも呼ぶのか?」

 

守「いや、赤城最速の高橋兄弟と、それと互角に戦う奴らに勝てる走り屋なんか秋名にいるかよ」

 

隆春「そこなんだよなぁ……」

 

翔一「ゲーセンでランキングボード常連の上手い奴なら何人か知ってるが、実際の峠ってなるとなぁ……」

 

滋「ゲーセンって、セガラリーだろ?あんなゲームのドラテクが現実の役に立つもんか」

 

四郎「まぁ、助っ人に関しては、走ってる曜日とかが違うせいで俺たちの目に止まってない奴らの中に、そう言う腕利きのがいるのを期待するしかないよなぁ」

 

池谷「実はその助っ人に関してなんだが、一人だけ心当たりがあるんだ」

 

隆春「え?マジでいるのかよ」

 

池谷「……うちのガソスタの店長が昔秋名の走り屋だったって前に言っただろう?その時に秋名最速は誰かって話題になってな……店長は知り合いの乗るハチロクだと言ってたんだ。昔は自他共に認める秋名最速の走り屋だって軽く伝説になってたらしい。しかも、その人は今でも秋名の峠を走ってるんだとさ。……実際、俺たちとは走る時間が違うらしくて、全然気がつかなかったけどな」

 

健二「ただし、そのハチロクに協力して貰えるとしても、頼って良いのは一度限りってところだろう」

 

池谷「あぁ、そいつに全部任せて結局俺らが走らないんじゃ意味がねぇからな」

 

助っ人に頼るにしたって限度はある。

たとえレッドサンズやファンタジアの代表クラスのメンバーに対抗できるかも知れない凄腕のハチロク乗りを見つけ出し、その人に助っ人の依頼を取り付けたとしても、そう何度も何度も往復させる訳にはいかなかった。

 

第一、今回の交流会は赤城レッドサンズとチーム・ファンタジアの両チームから秋名スピードスターズに持ちかけられたと言う形になるので、本来メインで走るべきなのは当然この交流会のいわば主役である地元の走り屋、池谷たちスピードスターズになる。

助っ人はあくまでも助っ人でなければならない。

それなのにその助っ人を前面に押し出して自分たちがコソコソ逃げ隠れているようでは、それこそ走り屋失格だ。

例え負ける事が分かっていても、恥をかくかも知れないという事が分かっていても、一度走ると決めた以上は覚悟を決めて走るしか無い。

池谷たちも、当然そのことは重々承知だった。

 

結局のところ、助っ人というのはあくまでその場凌ぎの他力本願であって、今直面している「秋名スピードスターズというチーム全体の絶望的な実力不足」という深刻な問題に対する根本的解決策には決してなり得ないものだった。

たとえバトルに勝ってこの場はなんとかやり過ごしたところで、上手いのはその助っ人であってスピードスターズではない。

自分たちのスキルアップという深刻な課題が達成されていない以上、結局それでは意味がない。

 

健二「じゃあドラテクの本読んで勉強するとか……」

 

池谷「それはすでにやってるだろ」

 

四郎「じゃあもうマシンスペックを近づけるために今あるお金で弄るだけ弄ったらどうだ?タイヤ良いの履かせるとかブレーキパッド交換したりとか」

 

池谷「どの道それはやるつもりだよ。特にタイヤは遅かれ早かれちょっと奮発して国産に交換するつもりだった。……今までのケチケチ安物海外タイヤじゃどんなに攻めたって無理だからな。ちょうどいい機会だろう。……だけど、それだけでどうにかなるとは到底思えないんだよ。たかが1秒2秒ならまだしも、ざっくり30秒近いタイム差つけられてぶっちぎられたんだ。……間に合わせのチューニングに、本を読んだだけの付け焼き刃のドラテクじゃどうにもならないだろ」

 

四郎「そんなに実力がかけ離れてんのかよ」

 

翔一「じゃあ、もうあれか?打つ手なしって奴なのか?」

 

池谷が溢した30秒近いタイム差という言葉に絶望する。

 

滋「……そこで、なんだけどさ……。俺から提案があるんだ」

 

池谷「どうしたんだ?滋」

 

滋「昨日から考えてたんだけど、俺たちだけじゃどうにもならないなら、もう開き直っちまえばいいんじゃねぇかな」

 

四郎「つまり……どう言うことなんだ?」

 

滋「速くなりたいなら、速い人から教わればいいんだよ。レッドサンズでも、ファンタジアでも、あるいは多分いるかもしれない助っ人でもいいさ。とにかく、今なら腕のいい走り屋は秋名に行けばいくらでも居るだろう」

 

健二「なるほどな……」

 

守「いや、でもさ……後ろについて観察してテクニック盗もうにも、秒で置いてかれる俺らじゃあ無理があるんじゃないか?それは昨日思い知ったろ?」

 

守はあくまで相手から技術を盗む事でどうにか差を埋めようというのだと考えていたが、滋はそれにあえて被せる形で否定する。

 

滋「……違うんだ。俺が言いたいのはレッドサンズやファンタジアのメンバーから、簡単なものでもいいからそれとなくアドバイスをもらえないかって事なんだ」

 

守「よそ者に走りを教えてもらうつもりかよ。でもそれって、本番前に負けを認めるようなものなんじゃ……」

 

守の指摘はもっともだった。

それは当の滋を含めて誰しも思うことではあった。

 

滋「あぁ……。でも実際遅いだろ、俺たちは。ぐうの音も出ないほどにさ。それこそ昨日痛いほどに思い知ったじゃねぇか」

 

池谷「確かになぁ。まぁ、言いたいことは分かるぞ。最終的に勝てなかったとしても、秋名の走り屋だって少しはやるんだぞってところをギャラリーの前で、他でもない本番で見せつけなきゃならない。練習でいくら無様晒したって良い。一番大事なのは本番なんだ。より大きな致命的な大失態を避けるために、いっときの恥程度はプライド曲げてでも甘んじて受け入れるべきだってことだろう」

 

滋「あぁ、昨日散々に負けまくったのはショックだったけど、でもそのおかげでこのままじゃダメだって分かったんだ。それにな、小さなプライドにこだわって走り屋としての成長の機会を逃す事があっちゃあならないとも思ってるんだ、俺は。……それにこれは交流会だ。あくまで他のチームの走り屋同士で親睦を深めようってのが表向きの理由な訳だし、お互い潰し合う様なものじゃない。そこまで意地張らなくたっていいんじゃないか?」

 

滋と池谷の言う通り、最早無いも同然の地元のプライドがどうとかウダウダ言っていられる場合ではないというのも確かに事実ではあったし、地元の走り屋としてはある種屈辱的ですらある滋の案でも、最終的には「ダメなままの現状を脱して効率よく走りのスキルアップをすること」と「少しでもサマになる走りを身につけて、本番のギャラリーたちの前で秋名の走り屋の面目を最低限は守ること」というスピードスターズの最優先目標はある程度の確実性を持って達成できるだろうこともまた、それぞれ思うところはありつつも理解のできることだった。

 

 

 

それから数分ほど話し合うも、特にこれという妙案も実力差を覆す起死回生の一手も思い浮かばず、結局は「独自のアプローチでドラテクを磨きつつ、タイヤを良いものに履き替えるなどの今できる範囲で車を弄りつつ、誰か協力してくれる腕の良い助っ人を探しつつ、レッドサンズやファンタジアのメンバーからそれとなくドライビングのコツを聞き出す」というなんとも冴えない結論となってしまった。

 

ドラテクを今まで以上に真剣に磨くにしろ、誰かからアドバイスを聞き出そうとするにしろ、何をするにしてもまずは山に行かなければということになり、秋名スピードスターズはそれぞれ会計を済ませてそのファミレスを後にした。

目指すはもちろん秋名山。

昨日いたメンバーに翔一のイエロイッシュシルバーツートンのS13に、隆春の白いS12シルビアと四郎の黒いAX7アルシオーネを加えてスピードスターズの隊列は夜の街へと消えていった。

 




そういえば写メという言葉も今は死語扱いらしいですね。
次の話からその次にかけて、設定への大幅な加筆を行う予定です。

ちなみにリクエストに関してですが、投稿されたリクエストは必ず確認しています。
設定の大きな改変を伴う上で採用となった場合は、事前に許可と確認のメッセージを送信いたします。
一応、フラグらしきものは建てましたが……。


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第5話 シルビアオーナーズと合同隊列走行

設定等の更新は本日中に行います。

わかさぎ姫はそのままだと明らかに色々と浮くので安直ながら偽名を名乗らせています。
また、藍から変身術を習っているので普通に人化しています。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


スピードスターズがファミレスでの会議を終え、隊列を組んで山を登り駐車場に入ると、案の定そこにはすでに数台のスポーツカーが止めてあった。

 

ファンタジアとレッドサンズの走り屋が、地元の走り屋に混じって今日も練習走行のために集まっていたのだ。

峠では比較的多く見かけるシルビア系がズラリと並べられているものの、よく見れば昨日いたセリカにエボⅥ TME、そして黒のFD、昨日は見かけなかったGDB-F型インプレッサWRX STI(スペックC タイプ RA-R)に、昨日のものとはまた違うレッドサンズのものらしき別のFDなどといった車も見て取れた。

 

どうやらレッドサンズとファンタジアとでメンバー同士が大勢集まって何か話し込んでいたようだったが、スピードスターズの存在に気がつくと、ファンタジアの鈴仙が池谷たちに手を振り呼んでいた。

ちょうど窓を開けて走って来た池谷にはその声が届いて来た。

 

鈴仙「こんばんは池谷さん!ちょうど今呼ぼうと思っていたんですよ!」

 

池谷はどうやら自分たちに用があるっぽいことを知る。

交流会関連の何かであろうことはおおよそ分かるが詳しいことはまず話を聞いてみなければ分からなかった。

とりあえず駐車場に車を止め、その話し合いの輪に加わることにしたのだった。

 

 

 

どうやら察した通り池谷と健二、あとは隆春と翔一に関係のある話らしく、話しを聞くところによると3チームで最も車種の多いシルビアとその姉妹車である180SXとで年式順に隊列を組んでドリフトさせながら山を下る合同パフォーマンスを、タイムアタックの前座にしようという話だった。

 

健二「なるほどなぁ」

 

池谷「歴代のシルビアとその姉妹車での隊列走行か。楽しそうじゃないか」

 

鈴仙「でしょ?こうやってシルビア系のオーナーが大勢集まる機会なんてミーティングの時を除けばそうそう無いから。それに、私たちがするのは交流会。ちょうどいい思い出作りにもなるじゃない?」

 

聞くところによると、ファンタジアの幽々子さん他の幹部メンバーはこの企画についてはすでに許可を出していて、今はレッドサンズの高橋涼介の方にも確認を取って、彼からも「たまにはそう言う息抜きも良い」としてちょうど企画のOKを貰ったところであるとのこと。

さぁ後はスピードスターズの協力を取り付けるだけというところまで話が進んでいたところに、ぴったりのタイミングで池谷たちスピードスターズが登って来たのだという。

 

影狼「それで、どうかな?せっかくだし、3チーム共同で何か出来たらいいなって思うんだけど。……あ、そういえば私たちの自己紹介をまだしてなかったわね。私は今泉影狼、あのカーボンボンネットの白いS15のオーナーよ。今回の交流会、よろしくね」

 

最初に自己紹介したのは白いロングのワンピースに黒い薄手のケープを羽織った、長い茶髪を腰までおろした長身の女性だった。

その彼女と、彼女の車だと言う純白のボディにJブラッドのエアロと社外の黒いカーボンエアロボンネットを纏ったそのシルビアとを見比べると、まるで彼女は車を擬人化した妖精か何かのようにも見えた。

 

赤蛮奇「私は赤蛮奇……中国の生まれなんだ。あそこの赤いシルエイティのオーナーだよ。よろしく」

 

次は薄茶色のショートパンツに黒いシャツを合わせてその上に薄手の赤いパーカーを羽織った赤毛の少女だった。

短く整えられた髪型もあってボーイッシュさを感じさせる出で立ちとなっている。

彼女の車のシルエイティと呼ばれる赤い車は、前から見ればただのS13シルビアに見えるが、実はある特殊な改造を施した車である。

フロントバンパーはD-MAX製、サイドスカートとリアバンパーはユーラス製、ボンネットはボーダーレーシング製、リアウィングはイングス製でホイールは前後ともアドバンレーシング製だがよくよく見れば前後でモデルと年式の違うものを履いているといった少しちぐはぐな見た目をしている。

 

姫「私は若崎姫っていうの。姫でいいわ。あの影狼のS15の隣に停めてある水色ツートンのS13に乗ってるの。よろしく」

 

続いて自己紹介をしたのは明るい青をした髪の少女だった。

ひざ下までの丈があるフリル付きのスカートの上に、こちらもフリルをあしらった、ゆったりとしたシルエットの白いブラウスを着ている。

彼女はファンタジアのメンバーでもかなり小柄な部類で小動物的な可愛さを帯びていた。

彼女の乗るS13は落ち着いた水色のボディカラーにチャージスピード製のエアロとボディ同色塗装のエアロボンネットを身に付けている。

リアスポイラーはオリジンのダックテールとなっていて、派手なものを好むシルビアユーザーたちの中では比較的おとなしめな仕様となっている。

 

椛「私は犬走椛。あの白いS14後期に乗ってるよ。よろしく」

 

最後に自己紹介をしたのはタイトな深い藍色のジーンズに襟付きの白い長袖シャツを着た、ショートカットの銀髪が特徴の女性だった。

女性にしては多少長身かつ筋肉質に感じるアスリートのような体型に加えて、狼を思わせる切れ長の目は彼女を見る者に勝気そうな印象を与えていた。

 

彼女の愛車であるというS14シルビアも、マイルドな印象の前期型ではなくより精悍な顔つきへと生まれ変わった後期型であるという点も、彼女のクールそうな外見とマッチしている。

マシンの外装に関しても日産の純正オプションであるフロントバンパーとスポーツグリルに加えて、ボディと同色に塗装されたD-MAXのエアロボンネットに、ワンポイントにステーの部分だけ赤く塗られたVOLTEXのカーボンGTウィングを身に纏い、見る者に乗り手のやる気を感じさせる外観へと仕上がっている。

 

池谷「俺は池谷浩一郎……秋名スピードスターズのリーダーをしてるんだ。こちらこそよろしく」

 

健二「俺は健二だ。池谷とは昔からの付き合いなんだ」

 

隆春「俺は東隆春。秋名スピードスターズのメンバーなんだ。よろしく」

 

翔一「俺は吉村翔一。ここには去年越してきて、チームにも数ヶ月前に入ったばかりの新参だよ」

 

佐々木「昨日いなかった新顔もいるし、俺らもやっとくか。……俺は赤城レッドサンズの佐々木正晃だ。同じシルビア乗り同士、よろしくな」

 

須崎「俺はレッドサンズ一軍の須崎真だ。タイムアタックとなれば敵同士だが、つるんで隊列走行するなら仲間も同じだ」

 

佐々木「アンタらさえよければそれで決まりで、あとは順番どうするかとか細かいところを詰めて行くだけだ」

 

椛「それが終わればあとは本番までひたすら走り込むだけだよ」

 

確かに大勢の走り屋と車を並べて走る機会など、そうそうあるものではない。

それは貴重な体験ではあるし楽しくもあるだろうが、同時に自身の実力に対してはすっかり弱気になっていた池谷たちの頭には「自分たちが足を引っ張りはしないか」という考えがよぎる。

 

先ほど彼らはドリフトで下ると言っていたが、スピードスターズの面々には彼らや彼女らほどに本格的なドリフトの経験などありはしない。

それどころかそもそもドリフトが出来ていなかったのだ。

何しろ、今まで彼らがドリフトだと思ってやっていたことは、アクセルの開けすぎで暴れる駆動輪をハンドルこじって強引に押さえつけて曲がっているだけであり、それをつい先日レッドサンズとファンタジア双方から指摘されて凹んだばかりであったのだから。

腕を組み数秒考え込み、健二や他のメンバーたちに目配せをする池谷。

 

池谷「昨日のこともあるし、もしかしたら足引っ張るかもしれねぇけど……。それでもよければ俺たちも参加させて貰おうかな。健二もそれでいいよな?」

 

健二「あぁ、もちろん。こういうことは滅多にないからな」

 

隆春「俺も賛成だよ。いい機会じゃんか」

 

翔一「リーダーも乗り気だし、俺も興味があるんだ。参加させてもらうよ」

 

せっかくの提案ということもあり、3人は首を縦に振るのだった。

それにこれはスキルアップのための好機でもあった。

彼ら彼女らから走りを学ぶ口実がその日のうちに向こうの方から舞い込んできたと考えれば、池谷たちにとってみればまさしくまたと無い幸運だった。

 

椛「じゃあ決まりだね。ドリフトに関しては、基本的なことならここにいるメンツで教えるから」

 

赤蛮奇「まずは車種と年式の確認なんだけど……古い順から行ってみようか」

 

隆春「それだったら、俺のS12が一番古いんじゃないかな?」

 

須崎「S12かぁ、懐かしいなぁ」

 

佐々木「今はS13やS14、最終モデルのS15に取って代わられたけど、俺が免許取り立ての新米だった頃はまだそこそこ居たんだよなぁ」

 

須崎「そうそう、数は少なかったが、レビトレ(レビン・トレノの略)とかAW11とか、あとはあっちの61スターレットと混ざって元気に走ってたよな」

 

そう言って腕を組み過去を懐かしむレッドサンズの年長者組。

S15が出て以降、近頃はS13どころかS14ですら旧式化を指摘される中で、その先代に当たるS12ともなると昨今なかなか見ることはない。

そもそもS12は当初のライバルであったホンダのプレリュードに客を取られてしまったため、その後の大ヒット車種であるS13と比べると販売台数が雲泥の差であった事もS12をほとんど見ることのない理由の一端であろう。

 

姫「次はS13乗りよね。……最初は池谷君からかな。音がSR20っぽくないし、もしかして前期なの?」

 

池谷「あぁ、俺のは前期のK’sだよ」

 

翔一「すげぇや、音でわかるんだな。……あ、俺のS13も前期なんだけど、俺のとは違ってリーダーのは一応ダイヤセレクションっていう特別仕様車なんだ」

 

赤蛮奇「確か人気のオプションを装備させたモデルだっけ」

 

佐々木「あぁ、S13は特に純正アルミなんかは人気だったよな。俺らは変えちゃったけどさ。いまでも冬タイヤ履かせて保管してあるんだ」

 

翔一「えーっと、姫ちゃんだっけ?もしかして君のも前期なのか?」

 

姫「いえ、私のS13は前期じゃなくて後期なの。グレードは同じくK’sなんだけど」

 

須崎「お、後期のK’sなら俺らとお揃いじゃねぇか。実は昨日いたうちの若手の竹原も同じ後期のK’sなんだ。交流会の当日は来れるって言ってたし、あとでこの隊列走行に参加するつもりはあるか電話で聞いといてやるよ」

 

姫「ありがとう。参加できる人は多ければ多いほどいいわ。それじゃあ頼むわね」

 

一通り話し終えると次はS14の話題へと切り替わる。

 

椛「次はS14だよね。私のが後期だよ」

 

鈴仙「中村さんと、あとは昨日いた斎藤さんのが前期だね」

 

賢太「あぁ、俺はQ’sで斎藤はK’sだな」

 

影狼「次はS15なんだけど、レッドサンズとスピードスターズには居ないわよね?」

 

佐々木「うん。ウチにはS15は居ないな」

 

池谷「俺らんところにも居ないよ」

 

影狼「分かった。じゃあS15は私たちだけね。私のターボと、うちのダウンヒルエースのNAの2台いるんだけど……」

 

姫「でも霊夢って結構面倒くさがりなところがあるわよね?参加してくれるの?」

 

鈴仙「霊夢はガソリン満タン奢るって言えば参加するから大丈夫よ」

 

影狼「それもそうね」

 

池谷「へぇ……ファンタジアのダウンヒルエースはNAなのか?」

 

赤蛮奇「そうだよ。私たちはみんなターボ仕様のモデルに乗ってるんだけど、彼女だけはNAなんだ」

 

賢太「同じNAのQ’sに乗ってる俺が言うのもアレだが、結構意外だよな」

 

佐々木「チームのエース張ってるってことは、賢太みてぇに雨の日とか限定ってわけじゃないんだろう?」

 

椛「もちろん、マシンも作り込まれてるってのもあるけど、乗り手が凄まじいセンスの持ち主で、雨でも晴れでも関係なく速い。下りでは私でも歯が立たないんだよ。本拠地の登りとか、自分に有利な条件だけを揃えに揃えてなんとか勝ちを拾えるかどうかって感じで……。あれでも私より年下で、経験も私より浅いはずなんだけど……」

 

須崎「なるほどなぁ……いわゆる天才ってやつか」

 

佐々木「やっぱりファンタジアにも、涼介さんや啓介さんみたいな天才の中の天才って居るんだなぁ……」

 

姫「……ところで、次はシルビアの姉妹車180SXね」

 

佐々木「古い順からってことならまずは俺になるのかな?俺のは前期型のタイプⅡだ。ただし後期純正バンパーに後期用フロントリップ付けてるからそれっぽく見えないけどな」

 

健二「俺のは中期型タイプⅡだよ」

 

鈴仙「私のは後期型のタイプX。これでちょうどよく前期中期後期が全て揃ったわね」

 

赤蛮奇「で、最後は私のシルエイティみたいな特殊な車の扱いなんだけど……」

 

佐々木「シルエイティか……」

 

須崎「珍しい車だよなぁ」

 

隆春「さっきも言ってたけど、シルエイティってなんだ?」

 

賢太「なんだ?知らないのかよ」

 

赤蛮奇「シルエイティは180SXをベースにS13シルビアのフロントを移植した車なんだよ。S13と180SXは共通のプラットフォームを使う姉妹車だから、流用できるパーツも豊富だし顔面移植も可能なんだ。……私の場合はミスって木に突っ込んでフロントが潰れたから、修理する時に姫の前期フロントを部分流用する形で移植したんだよ」

 

健二「ん?前期フロント?あのS13は後期じゃなかったっけ?」

 

姫「私の今乗ってるS13は2台目なの。この子の前はS13の前期に乗ってたんだけど、事故で潰れちゃって……。中速コーナーでのドリフト練習中に、後ろを走ってたお赤ちゃんを巻き込んでスピンして、リアをガードレールに叩きつけた感じでの事故だったからね。あたりどころも悪かったみたいでアーム類やドライブシャフトごとフレームを歪めちゃって……」

 

池谷「あぁ……そう言う事か」

 

姫「でも被害がリアに集中したおかげでフロントは無事でね、そのS13の前半分から取ってきたフロントマスクのパーツをお赤ちゃんの180SXの修理に回したの。……そのS13は今でも知り合い……と言うか、うちのメカニックの整備工場に部品取りとしておいてあるわ」

 

須崎「それじゃああのシルエイティにはCA18が?」

 

影狼「いいえ。あのシルエイティには実は私のS15のエンジンが入っているの」

 

佐々木「えぇ!?」

 

健二「ならあのS15のエンジンは他所から持ってきたのか?」

 

影狼「そうよ。姫のCA18は少し前からちょっと具合が悪くてね、そんな調子のエンジンを移植しても意味がないからってやめたの」

 

姫「後になってバラしてみたら案の定でね、クランクシャフトに歪みが出てて1番コンロッドと2番ピストンにクラックまで入ってたわ。走り込みで酷使したせいで、シリンダーにも疲労の痕跡があるって言ってたし、補機類にも細かなガタがいくつかあったらしくて、そのまま移植してたら遠からずブローしてたと思うってメカニックも言ってたし、エンジン諦めて結果的には正解だったのよね」

 

佐々木「あぁ……だったらダメだなぁ。マジでいつブローしてもおかしくない奴だ」

 

須崎「だよなぁ。整備や修理の金ケチってそういうエンジンの小さな不調や不具合を放置したり後回しにしたりして、結果的に派手にブローさせた挙句に事故ってエンジンごとマシン潰すアホは赤城でも毎年1人2人は出るからな」

 

姫「……あと、別にCA18が悪いわけじゃないけどSR20からCA18に交換してもあまり美味しく無いから……それが嫌っていうのもあったんだけどね」

 

影狼「それで、私のエンジンを入れようってなったの。私のS15はワンオーナーの中古車なんだけど、買った時点でタービン交換してあって馬力のある私のS15のエンジンならシルエイティに積み替えればデチューンどころか大幅なパワーアップにも繋がるし、S13世代のSR20には無かった可変バルタイまで付いていたからね。S15ならまだまだ車としては年式が新しくて若い方。……生きている車の個体も多いし状態のいいエンジンがそこそこ転がってるから、私の分のエンジンも探して載せるのにそれほど苦労もない。まぁ、一月くらいかかるかもとは思ってたけど。……後はメカニックの伝手を使って多少は安く仕入れられそうだったからそうした方がいいかなって」

 

翔一「なるほど……」

 

影狼「それに、知らない誰かのところに行くわけじゃ無くて身近な仲間の車だし、そこまでエンジン下ろすことに抵抗感はなかったわ。……後は何より仲間の車を今までよりパワーアップさせた上で復活させるためだもの。そういうところの手間やお金を惜しむつもりはなかったの」

 

仲間を巻き込んだダブルクラッシュをかまして車1台を潰して買い替えて、さらにエンジンドナーまで探して残りの一台も補修するというこの歳にしては大変なことをしたであろうに、それを話す三人の顔はとても苦労話をする人のものとは思えないくらいに晴れやかだった。

 

池谷「なんだ、いい話じゃねぇか」

 

佐々木「あぁ、時折こう言うドラマが聞けるからこそ山はやめられねぇよ。全く泣かせるじゃねぇか……」

 

須崎「でも、色々大変だっただろう?コストも時間もかかったんじゃないか?」

 

赤蛮奇「うん。修復も一筋縄じゃ行かなかったし、色々あったけど……でもみんなで知恵とお金出し合って新しい車やエンジンを探したり、自力でできる部分は工場の一区画借りてそこで治したりついでにちょっとカスタムしたりしてさ、それはそれで案外楽しかったんだよね。とは言っても3人全員でそこそこの金額の貯金を切り崩すことになったからそのあとも何かと忙しかったんだけど」

 

姫「そうそう、私の買った2台目のシルビアをS15のナックルとロアアームとハブを流用するやり方で前のオーナーが5穴化してたのを理由に、いい具合にまで仕上がりかけてたこのシルエイティも急遽同じやり方で5穴化させたりね」

 

影狼「でもそれで私のS15と同じようにR33純正ブレンボを2台とも流用できるようになってブレーキ性能が良くなったし、予備パーツの管理もしやすくなったのよね。何より3人お揃いのブレンボキャリパーだし!その手間やお金に見合ったメリットはあったと思いたいわ」

 

佐々木「じゃあこのシルエイティはかなり特別な車なんだな」

 

赤蛮奇「そう、三人で融通できるパーツやお金を出し合って、チューニングに関しても一緒に考えてさ。……だからこのシルエイティは私だけのものじゃなくて3人の共有財産みたいな感じなんだよね」

 

隆春「なるほどなぁ、それだけ思い入れがあるんだな」

 

彼女たちが楽しそうに語ることで場の雰囲気も軽くなる。

そしてレッドサンズやスピードスターズの面々は、ミステリアスで若干近寄りがたい感じのあったファンタジアの彼女たちが抱く車に対する愛着と情熱を知ることで、またほんの少しだけ心の距離が近づいた様に感じるのだった。

 

賢太「そうだ。シルエイティと言えば、俺の知り合いにS13前期ベースのワンビア乗ってる奴が居るんだが、そいつを呼んでもいいか?せっかく180SXも前期中期後期と揃えられたんだ。シルエイティとワンビア両方居た方が盛り上がらないか?もちろん、ウチの一軍張れるほどではないにしろ、俺から見ても腕は確かだし足引っ張ることはないと思うからその辺は安心してくれ。うちの二軍メンバーと同等のテクニックはある」

 

影狼「いいじゃない!私は賛成よ!」

 

池谷「俺もいいと思うぞ。これで殆どシルビアシリーズはコンプリートした事になるのか?」

 

鈴仙「そうね。全員が参加できれば結構壮観な眺めになるんじゃない?」

 

それぞれ愛車の年式を言ってメモの上に並べる。

今この場にいない人のものを含めてリストアップし終えると、それを共有するために黒い180SXのボンネットの上にそのメモ紙を置いて各々写メに撮って保存する。

 

新しい順から

 

・今泉影狼(ファンタジア) S15 前期 シルビア Spec R

・博麗霊夢(ファンタジア) S15 前期 シルビア Spec S

・犬走椛(ファンタジア) S14 後期 シルビア K’s

・斎藤雅俊(レッドサンズ) S14 前期 シルビア K’s

・中村賢太(レッドサンズ) S14 前期 シルビア Q’s

・若崎姫(ファンタジア) S13 後期 シルビア K’s

・須崎真(レッドサンズ) S13 後期 シルビア K’s

・竹原尚道(レッドサンズ) S13 後期 シルビア K’s

・池谷浩一郎(スピードスターズ) S13 前期 シルビア K’s

・吉村翔一(スピードスターズ) S13 前期 シルビア K’s

・松木高広(レッドサンズ:ゲスト) S13 前期 シルビア K’s × RPS13 後期 180SX ワンビア

・赤蛮奇(ファンタジア) RPS13 後期 180SX タイプR × S13 前期 シルビア シルエイティ

・鈴仙イナバ(ファンタジア) RPS13 後期 180SX タイプX

・健二(スピードスターズ) RPS13 中期 180SX タイプⅡ

・佐々木正晃(レッドサンズ) RS13 前期 180SX タイプⅡ

・東隆春(スピードスターズ) S12 後期 シルビアクーペ ツインカムターボ RS-X

 

の総勢16人ほど。

この場におらず、まだ勧誘段階で参加の確定の取れていないものもいるためこれはあくまで暫定的な人数となる。

途中で参加を希望する走り屋が来たり現場で腕自慢の走り屋が飛び入り参加を申し出たりするかもしれないため、今後何かしらの変動がある可能性はある。

走る順番は旧型から新型の順でS12からS15へと言う流れになる。

 

そうして話し合って計画を練って行く。

しかし、途中でタイヤの銘柄やサイズ、各々が使用している車高調のコスパと乗り心地やセッティング、使用しているブレーキパッドにオイルやフルードのブランド、ホイールのブランドとモデルに加えてマフラーサウンドの聴き比べ、エンジンの仕様やギア比などなどのシルビア180SX談義で大いに盛り上がり、結局そのまま3時間程度は話し込んでしまうこととなるのだった。

 




2022年11月19日 14時52分
1000UA突破を確認しました!ありがとうございます!

エンジンやミッション、足回りの異音など愛車から何かトラブルの気配を感じたらすぐに行きつけのショップやディーラーなどに行きましょう。
手遅れになる前に治せれば一時の金惜しさに放置するよりも結果的に安いお金で維持できます。

あと、同じ車のオーナー同士で集まるとついつい車談義に花が咲きまくって数時間単位で喋り続けてしまうのも走り屋というか、車好きあるあるだと思います。
もうかれこれ数ヶ月前の話ですが、私自身もフラッと出かけた先の山で他のS660オーナーの方とばったり会って意気投合して、なんだかんだで初対面のはずのその人と5時間弱くらいずっと車を語り通した事があります。

最近は海外のラリーベース車について調べてるんですが、思っていたよりも情報が少なくて結構苦労してるんですよね。
国内のオーナーの絶対数が少ないからなのか、パーツやカスタム情報もあまりなくて……。


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第6話 FDロータリーダンス

今回はちょっとだけFDについて語るシーンがありますが、作者はオーナーと知り合いではあってもオーナーそれ自体ではないので多少のガバが見られる可能性があります。

また、今回も原作モブ走り屋のネームド化キャラ(準オリキャラ)が登場します。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


3チームのシルビア組が隊列走行パフォーマンスの打ち合わせ(と、そこから盛大に多重脱線事故を起こしたシルビアトーク)で盛り上がっている頃。

一方、それ以外の車のメンバーたちはと言うと、各々自己紹介を済ませて早速練習走行を始める準備をしていた。

この場にいるメンバーは、ファンタジアはセリカGT-FOUR(ブラック)の姫海棠はたてとランエボⅥ TME(パッションレッド)の藤原妹紅、FD3S RX-7(スーパーブラック)の黒谷ヤマメ、そしてGDB-F型鷹目インプレッサ WRX スペックC(WRブルーパール)の上白沢慧音。

 

レッドサンズはブリリアントブラックとモンテゴブルーマイカのFD3S RX-7驚異の2台持ちという杉本芳樹・尚子兄妹の二人。

ちなみに尚子はレッドサンズ唯一の女性メンバー、いわゆる紅一点であり、男性ファンからはちょっとしたアイドル扱いを受ける事もあるようである。

 

スピードスターズはKP61スターレット(ラブリーレッド)の野沢滋とA170ランサーEX 1800GSRターボ(サラエボホワイト)の後藤守、AX7アルシオーネVR(ブラック)の中山四郎。

スピードスターズとレッドサンズの昨日いなかった面々は本当に秋名に美少女走り屋集団が現れていたことに内心驚きを抱えていたが、同時に興味を持っていた。

 

しかしやはりと言うべきか、向こう側で固まっているシルビアの一団と同じ様に、同じ車に乗っている人同士はお互いどこか惹かれ合うところがあるらしく、特に「例え走りの腕では敵わなくてもFDに対する愛だけは啓介さんにだって負けてない」と豪語している杉本兄妹の二人はかなりチューンされている様に見受けられるヤマメのFDに興味津々であった。

 

尚子「ねぇ、ヤマメちゃん。さっそくなんだけどあなたのFD、ちょっと見せてもらってもいいかな?」

 

芳樹「R magicのワイドボディキットのフル装備は初めて見るからさ、同じFDのオーナーとして、少し興味があるんだ。構わないかな?」

 

ヤマメ「いいよ。他の人がどんなカスタムしてるのか気になるもんね。その代わり、あとであなたたちのFDも見させてくれない?私も他の人のFDがどんなチューンをしてるのか、ちょっと気になってたところだし」

 

尚子「うん。もちろんだよ。同じ車同士、こうやって間近で自分のFDと見て比べてみると、いろんな発見があるもんね」

 

芳樹「今後のセッティングの参考にだってなるからね」

 

杉本兄妹の申し出を快諾するヤマメ。

すると二人は早速ヤマメのFDをまじまじと眺めていく。

 

芳樹「それにしてもすごいな……。ヘッドライトも結構軽そうな固定式だしボンネットとウィングもカーボンだ。やっぱりかっこいいな。特に排熱を考えても実用的だし。でもウィングはR magicのウィングの形じゃないね。ステーはアルミで3段階調整式なのか?」

 

ヤマメ「うん。このGTウィング、うちのメカニックのショップに依頼して、最近のモデルを参考に制作してもらったワンオフ品なの。ちなみにお友達価格って事でちょっとだけ安くしてもらったのよ」

 

芳樹「え、マジで?ワンオフ!?めっちゃかっこいいじゃんか」

 

尚子「すごい!いいなぁ!羨ましいよ」

 

ワンオフ品と聞いてテンションの上がる2人。

競技車両を思わせるエッジの効いたデザインのカーボン製GTウィングに、素材の保護のためにクリアを吹いてツヤを出しているため斜めから見ると街灯の光を反射してきらりと輝いている。

 

尚子「ワイドフェンダーも後付け感がそんなに無いし、これはこれでかっこいいね。そのおかげでホイールとタイヤも結構太いのが履ける様になってるんだね」

 

ヤマメ「そうよ。純正の16インチ8Jから前は17インチ8.5Jに、後ろは17インチの9Jにインチアップしたの。タイヤもホイールと一緒に前後で同じサイズだったのをスピリットRのタイヤサイズを参考にして225からそれぞれ245と265に、一回りから二回りぶん少しだけ太めにしてみたんだ。ただ、あまり大きく太くし過ぎてもかえって曲がらなくなったり止まらなくなったりするからその辺のバランスを考えて18インチにはしてないんだよね。私のFDは軽さがウリのチューンをしてるし、バネ下重くしたくもなかったから……今みたいに峠向きのセッティングをしてる時はちょっとだけ引っ込み気味かな。サーキット行く時は別のタイヤとホイール履かせるんだけど」

 

芳樹「なるほど、タイヤも国産のハイグリだし、サイズも後輪のトラクションを優先して前後で違うサイズにしてる感じなのかな?結構色々考えてるんだねぇ。FDに限った話じゃないが、やっぱりタイヤ周りだけでも乗り味と言うか、そういうのは随分変わるからな。前に金銭的にキツくてタイヤのグレード下げて、純正ホイールをガレージから引っ張り出してサイズもインチダウンしたら、コントロール性自体はまぁ悪くはなかったんだが、肝心のグリップは結構落ちちゃって全然タイム出なくてな……」

 

尚子「内装もシートは両方ともバケットシートだしステアリングも定番のMOMOになってる。ホイールだってバーディクラブの軽そうなやつ履いてるし、ブレーキはスピリットRの純正ブレーキ流用だよね。かなり気合入ってるじゃん。……私たちも負けてられないや」

 

ヤマメ「うん。かけたお金も思い入れも人一倍って感じかな。この子、もともと放置されてた事故車で、それをタダで引き取ってうちのメカニックと一緒に時間かけて私がフルレストアしながらチューンした車両でさ、外装を総取っ替えするならせっかくだしボディキットの部分以外はあらかたカーボン製にしちゃおうってなってね。ルーフとかトランクとか、あとドアも。試作品って名目でワンオフで作ってもらったパーツなんだよ」

 

芳樹「これもワンオフパーツって……そりゃあまたすげぇなおい」

 

ヤマメ「内装もそんな感じで、ダメになってるところはあらかた社外品に交換したの。シートやステアリングは当然ダメになってたしスピーカーやパワーウィンドウも壊れてたから一度全撤去してドンガラみたいにして、弱ってる部分を補強したり、あとはブッシュ類も打ち変えたり……多少の作業は教えてもらいながら自分でやったのよね。それで結果的には新車買う以上のお金がかかったけど、でも元々大した使い道もなくて寝かせてただけのお金だし……」

 

芳樹「なるほどなぁ、放置事故車を全身フルレストアか……そりゃあ愛着も湧くってもんだよ。実質、一から組み上げたオンリーワンだからな」

 

ヤマメ「うん。なんか、放置されてるのを私が見つけた時にね、ちょっと思うところがあったの。なんとかして治して、走らせてあげられないかなって」

 

尚子「すごいね……地道に治して作り込んで来たんだ……。今じゃ元が事故車だって分からないくらいに綺麗だよ」

 

芳樹「うん。こんだけ大事にされてたら、君のFDも喜んでるだろうよ」

 

ヤマメ「ありがとう。でも私はまだ走りたがってたFDの夢を叶える手伝いをしてるだけだから」

 

元が野晒しの事故車だということが見た目からでは分からないほどにチューンされたヤマメFDに、感心しきりの2人。

ここで妹の尚子が一つの提案をヤマメに投げかける。

 

尚子「そうだ。私……あなたのFDが走ってるところ、見たくなっちゃった。練習走行も兼ねて一本一緒に走らない?」

 

ヤマメ「もちろんいいよ。一人で走るよりも誰かと一緒に走った方が楽しいからね。よかったら芳樹さんも一緒にどう?」

 

芳樹「え?お、俺も?……君がいいのなら俺もご一緒させてもらおうかな」

 

尚子「良かったねお兄ちゃん。金髪美女からのお誘いだよ?」

 

芳樹「よせよナオ……。あんまりからかうなって」

 

ヤマメの方からの誘いがあったことに思わず動揺する芳樹。

妹にそれを軽く茶化されたことで顔を赤らめる。

そしてそれを誤魔化すように少し癖のついた前髪を指でいじるのが彼の癖であった。

 

尚子「それじゃあ早速行ってみよう!ヤマメちゃんが先頭で、私とお兄ちゃんの順番ね!」

 

直子のその言葉を合図にそれぞれが自分の愛車へと向かう。

 

ヤマメ「それじゃあよろしくね」

 

直子「よろしくねー!」

 

芳樹「うん。よろしく」

 

3台のFDがエンジンを始動し、ブォン!と小さく唸りR magicとFEEDとマツダスピードのそれぞれ異なるエキゾーストサウンドが混じり合った三重奏があたりに響く。

R magicエアロとワンオフGTウィングにスーパーブラックのヤマメの前期2型FD、マツダスピード製のフロントリップとMS-01ホイールに前期純正リアスポイラーのモンテゴブルーマイカのボディカラーをした尚子の前期3型FD、マツダスピード製のフルエアロに後期Type Ⅱ仕様リアスポイラーのブリリアントブラックの芳樹の中期4型FDが駐車場をゆっくりと出て行く。

 

ヤマメが3人一列に並んだことを確認すると徐々にエンジンを唸らせスピードを上げて行く。

バトルではないため最初からフルアクセルとはいかないものの、3台のFDはそれなりの速度で甲高いスキール音を鳴らしながら1コーナーに飛び込み消えて行った。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

♪ Take A Chance With Me / Denise

 

 

 

ヤマメの後に続いて走る杉本兄妹は、先頭を行く彼女の走りに驚嘆させられていた。

まず最初の1コーナーは小手調べの様に、峠のテクニックとしてはスタンダードなサイドブレーキを使ったドリフトでやや大ぶりのアングルを付けて難なくパス。

続く2コーナーはそのままグリップで通過。

そして序盤の難所であるタイトなヘアピンに差し掛かる。

 

杉本兄妹が走り屋としての直感からもうそろそろブレーキングを考えるタイミングに差し掛かり、アクセルを踏む力を緩めたタイミングになっても、ヤマメは依然としてコーナーへ向け加速していき、両者の車間は開いていく。

ヘアピンの直前、ヤマメの攻め方に若干肝を冷やしつつも2人が3速から2速へシフトダウンしブレーキングに移行したタイミングになってようやくヤマメのブレーキランプが点灯したかと思えば、それまで離れかけていた車間が一気に急接近。

そしてサイドターンの要領か、まるでスピンしたかと錯覚する様な勢いで大きくリアを振り回してコーナーの出口に鼻先を向けると再加速していった。

 

尚子「うわぁ!(びっくりしたぁ……すっごいブレーキング!制動力の立ち上げ方が上手い!)」

 

芳樹「おいおい……(最序盤からこれってマジかよ……ホームコース以外でこの思い切りのいい突っ込み!さすがだな!)」

 

しかし、かく言う2人も伊達に赤城のトップチーム、レッドサンズにいる訳ではない。

ヤマメからはワンテンポ遅れながらも大きなフェイントモーションを伴うドリフトで後を追いクリアする。

少し車間は開いていたもののヤマメが加速を抑えていたためにすぐに追いつき再び次のコーナーへと入る。

 

 

 

 

ヘアピンから短いストレートを経て突入する4コーナーはグリップによるアウトインアウトの基本的なライン取りでのグリップ走行で3台一列に通過。

そして次のコーナーには便宜上ストレートとして扱われる極めて緩い曲がりがあり、そこを抜けた先にあるややキツめの右コーナーに突っ込んだ。

軽く踏む程度と言った感じで最低限の、いわゆる荷重移動のためのブレーキングで前方に荷重を移してリアの荷重を抜いてやり、ホイールスピンをさせながらさりげなく遊ぶ程度にテールを流してパスしていく。

 

さらに殆ど間髪入れずに左の先ほどよりもさらにタイトなヘアピンが迫る。

そこでもやはりヤマメは先ほど同様にフルブレーキングと共にイン側にノーズを突き刺す様な勢いで車を文字通り『旋回』させ車が出口を向くと同時にステアリングを戻しリアのホイールスピンを抑えてグリップを回復させると同時に再加速。

 

尚子(悔しいけどすごく上手い!こんなに生き生き動くFD、中々居ないよ。合わせるこっちがキツくなってくる!)

 

芳樹(軽量化が効いてるんだろうな。鼻先の入りが俺たちよりもワンレベル上だ。特に重量物のモーターがエンジンルームから移設されているのと、ハンドリングを悪くするリトラを廃止して固定式ライト化したことによるフロントオーバーハングの軽量化の影響もあるんだろう。あとはカーボンボンネットもか。まだ限界の見えないドライバーの腕といい、長所を的確に伸ばすカスタムのセンスといい、本番のタイムアタックが恐ろしい)

 

そこから先はさらにスピードの乗りやすい緩やかなコーナーと直線の組み合わせから、次いでくの字に曲がるややキツめのコーナー、そこを抜ければ幾ばくかのストレートの次には2連ヘアピン。

そして秋名名物であるトップスピードに乗るスケートリンク前ストレート。

3台のFDはエンジンをレブまで引っ張りながら全開で駆け抜ける。

展望台前の左コーナーが迫るが3台とも全力のフルブレーキングで突っ込んだ。

シフトダウン時のエンジンブレーキとフットブレーキの合算で急激に速度を落とす。

荷重の急激な移動を感じとりながらそれぞれのタイヤのグリップが一番美味しいスイートスポットを狙いステアリングを切り込んで行く。

 

尚子「上手く行けた!今日は走れてる!(ヤマメちゃんがこっちに合わせてくれてるし、こっちもタイミングが掴めて来た!少しずつ、少しずつだけど馴染めるようになってきた!これなら付いていけてる!)」

 

芳樹「だんだんわかって来た!良い感じに乗れてるぞ!(3台のリズムが噛み合って行く感じがする!バトルとは違った走る楽しさが湧き上がってくる!)」

 

この辺りになってくると後ろの杉本兄妹も前を走るヤマメの走りに対して少しずつ順応していき、先頭で突っ込むヤマメのドリフトに続く形で自分たちもほとんど変わらないアングルでドリフトを合わせて徐々に車間を詰めようとする余裕が生まれていた。

タイトな展望台前の左を抜けてヤマメは流しっぱなしのドリフト状態のままリアを振り返してゆるい右のコーナーを流し、さらにギャラリーらしき人影を横目に捉えながらも左、右、左とリズミカルに、まるでステップを刻むようにドリフトを繋げて抜けて行った。

 

尚子「すごい……すごいよ。本当に。あの啓介さんが褒めてただけはあるよ(実際に後ろを走ったからこそ分かる。ヤマメちゃんは……あの子は私たち以上にFDを乗りこなせてる!過剰なステアリングの操作がないから私たちよりもよりシームレスでスムーズな、『車と喧嘩をしないドライビング』が出来てるんだ。啓介さんや涼介さんみたいな『本物のロータリー使い』が、まさかこんなところにいたなんてね!)」

 

芳樹「コーナーを一つ抜けるたびに痛感させられるな。ほんと、マジでとんでもねぇ(前に彼女との比較対象になるナオがいるからこそより強く見せつけられる!進入時のブレーキングにライン取りとクリッピングの位置、カウンターステアの舵角から立ち上がりのアクセルワーク。全てにおいて俺たちより上だ。俺たちはあれほど自由に振り回せないし、あれほど思い切りよく踏み切れない。……でもここまで気持ちのいい走りを見せられたらむしろ一緒に走るのが楽しいくらいだ。全く、不思議なもんだよ)」

 

伸びやかに、誰にも邪魔されず。

窓を開けて風を感じ走る3人の耳に、楽しげなFDたちの声が響く。

それに釣られて、乗り手の口元にも自然と笑みが浮かんでいた。

攻めるためではなく、楽しむためにエンジンを回す。

3台のFDがロータリーサウンドに小気味の良いスキール音を添えて秋名の夜を舞台に踊り、歌う。

それは麓の駐車場にたどり着き終幕を迎えるまで途切れることは無かった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

麓の駐車場、まだ誰もいないその一角。

走り終えた3人は満足感を共有しながら車を並べて談笑する。

 

芳樹「……やっぱりVマウントはよく冷えるんだよな。ありがちな前置きと違ってオーバーハングが重くならないしパイピングも短くて済む分コンパクトにできるからレスポンスだっていい」

 

ヤマメ「うん。特に私の使ってるトラストのキットはエアクリの配置にも気を遣ってて実用的なんだよね。吸気温度が低くなる分パワーロスも少ないし」

 

尚子「でもVマウントはエアコンも取り外してバッテリー移設してスペース確保しなきゃいけないし、結構お金かかるんだよね。……一か月丸々残業漬けで働きまくってやっと予算作れたって感じでさぁ、危うく過労死するかと……。でもまさかお揃いとは思わなくてびっくりしたよ」

 

芳樹「ところで、ヤマメちゃんはタービンをシングルにしてるんだ。これも結構大変だったでしょ。どこのタービン入れてるの?」

 

ヤマメ「私はレスポンス重視でギャレットのタービンにしたわ。純粋に馬力を求めるならTO4Zとかのもっと大きなタービンでも良いのかも知れないけど、私はサーキットよりも峠をメインにしてるから正直なところ最大馬力とかどうでもよくてさ、低回転から立ち上がってくれるこれの方が合ってるの。純正シーケンシャルに比べて変なところでのトルクの落ち込みも無い分フィーリングも自然だし何より整備しやすくて壊れにくいし、あと特性的にも扱いやすくてパワーもそこそこ出るから交換してからいいことずくめね。複雑な切り替え機構を全部省けるから軽量化にもなるってのも魅力かな。エンジンルーム内もスッキリするし熱気だって多少は抜けやすくなるんだよ」

 

尚子「なるほどねぇ……。やっぱりシングルタービンも選択肢としてはアリなのかなぁ……。むしろそっちの方がいい様な気がしてきた……。こうやって走ってるとどうしても純正のシーケンシャルは頻繁に壊れるもんね。私もこの前切り替え機構の不調でバルブが動かなくなっちゃっててさ、それでセカンダリータービンが止まっちゃったの」

 

芳樹「あと配管がすっぽ抜けた事もあったよな。どうりで回らない訳だと逆に感心したよ」

 

ヤマメ「あぁ、それは分かるよ。ターボ周りの配管配線系のトラブルは私もなったことあるから。ちょっと前……まだ私がシングル化させる前の話なんだけど、タイムアタック直前になって急にFDがぐずり出した時はびっくりしたわ。タービン周りのトラブルだっていうのはなんとなく理解できてはいたんだけど、その手の配管類ってエンジンルームのかなり奥まったところにあるじゃない?ステアリングシャフトとかインテークパイプとか、その辺の大物パーツどけないとまともに点検も修理もできなくてさ、その辺の煩わしさとかもシングルタービン仕様にした一要因だったりするの」

 

尚子「うんうん。本当はさ、もっとエアロとかにお金をかけたりしてみたいんだけど、そういうトラブルとかが結構あるから中々ね……特にさ、ヤマメちゃんのFDみたいにこういうレーシーで尖ったデザインのウィングとかエアロとか、好きなんだよねぇ。……でも、中身の方にお金を使ってるとエアロを買うお金が出せなくて……」

 

芳樹「あとはガソリン代も痛いよなぁ……」

 

ヤマメ「あぁ……確かにね。あとガソリン代だけじゃなくて整備や修理諸々の維持費も結構かかるんだよねぇ」

 

しきりに頷き合う3人。

オーナーである彼女らには身に染みている事ではあるが、FDというのは何をするにもとにかくお金のかかる車であった。

軽量コンパクトでパワーも出しやすいロータリーエンジンも、当然のことではあるが欠点もある。

 

それは燃費の悪さだった。

FDのおおよその燃費は高速道路や市街地で5〜7キロ、峠や首都高をハードに攻め込めば2キロ程度かそれ以下かと言った具合である。

この時代、昨今主流となりつつあるプリウスやインサイトと言ったエコカーがカタログ燃費で30〜33キロ、実測の燃費でおおよそ20〜30キロ手前ほどである点を見れば、ガソリンだけでもどれだけの金食い虫かは分かるだろう。

特に高速域ではかったるい代わりに低速からモリモリとトルクが出てくるそれらのエコカーと比べ、FDなどが搭載するロータリーエンジンは吹け上がりのフィーリングと高回転域でのパンチのある加速感こそ素晴らしいものの、その代わりとして、低回転域ではトルクがスカスカなせいで街乗りでの常用回転数も多少高くなりがちとなる。

 

さらにFDはオイルなどの油脂類の交換も、健康な状態を維持したまま乗り続けるのならば通常よりも早いスパンでやらなければならないし、純正のシーケンシャルツインターボ仕様の場合では、劣化した部品の交換を含むタービン周りの点検メンテナンスなどにもお金はかかる。

それ以外の面に目を向ければボディや足回りにも弱点がある。

それはミッションを支えるパワープラントフレーム(PPF)が強度不足によりクラックが入り断裂してしまうというものだ。

 

しかし、そうした愛車の欠点や愚痴を一通り語る時ですらも、彼ら彼女らは笑顔のままであった。

 

 

 

3台ともにボンネットを開け、エンジンから熱気を立ちのぼらせている。

熱量を伴ってゆらゆらと揺れる陽炎越しに見る3台は、まるで融けあい混ざり合うかのようだった。

それは例え所属するチームは違えども、同じ空間を共にし、同じ道を駆け抜けた走り屋としての仲間意識の表れであるかのように、3人には思えてならなかった。

 




2022 / 12 / 28 10時55分 レッドサンズ側FDの仕様に関する記述の誤植部分を修正。さらに一部の表現を追加または変更。

2023 / 11 / 29 13時39分 誤植部分の削除と修正。

同じ車同士で隊列を組んで走ってるだけでもきっと楽しいですよ。
ひたすらシャカリキになって攻め込んで、ただ前だけしか見ない、見れない走りよりも、余力を持って流し気味に走った方が意識的なマージンがある分マシンの音やハンドリングに心を傾ける余裕があってそれはそれで良いものです。

ちなみに今後の予定ですが、あと数話で話が一気に進んで本番の交流会となる予定です。
リクエストはまだまだ募集中ですが、もし仮に採用された場合でも登場はレッドサンズ戦以降となる可能性がかなり高いです。


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第7話 第一次!秋名山恐怖のダウンヒル事件

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。

ちなみに作者は女子を相手に横乗りをしたこともさせた事もありません。
地元じゃ一番モテない男でしたから……。


少し時は遡り、3台のFDがスタートしたのを見送った残りのメンバーたちも動こうとしていた。

 

慧音「FD三人衆も走り始めたことだし、そろそろ私たちも練習を始めようか」

 

妹紅「そうだね。私たちも走ろう。もしよければ君達もどうかな?」

 

そう言うと妹紅は視線を守と四郎と滋の3人に向ける。

まさか自分たちに話を振られると思わなかった3人は一瞬惚けてしまうがすぐに再起動する。

 

四郎「え?……で、でも……」

 

守「昨日のあの調子だと、俺たちと君達じゃあ……釣り合わないって言うか、その……」

 

はたて「ヤマメも言ってたけど、誰かと一緒にやった方が楽しいし、そもそもこれは親睦を深めるための交流会なのよ。そう固くならなくったっていいじゃない。確かに走り屋はタイムアタックになればお互い敵同士。でもそれはあくまでタイムアタックみたいなバトルの時だけ。練習くらいはもっとワイワイやってもいいと思うけどね」

 

滋「えーっと、それじゃあ俺らもその練習に参加させてもらってもいいかな?……まぁ、なんつーかさ……地元のくせに情けないし恥ずかしいってのは承知の上でなんだけどさ、良ければどうしたら速く走れるのか、コツとかあれば教えて欲しいかな」

 

気が引けてしまいまごまごとした態度の四郎と守だが、一方で滋は覚悟を決めて運転のコツを教えてくれないかと正直に切り出した。

 

妹紅「もちろん。私の方から誘ったんだから当たり前だよ」

 

はたて「うん。それにここには私たちの先生もいるからね」

 

四郎「先生?」

 

そう言うと今度ははたてが慧音を見る。

少し困ったような表情を一瞬見せるも、誰かに頼りにされること自体に嫌な気はしないのかすぐにそれも元に戻った。

 

はたて「そう、先生。……妹紅や私を含めたうちのチームのメンバーの何人かに走りの基礎を教えたのがこの人なの」

 

守と滋の2人は昨日の時点でレッドサンズとスピードスターズを圧倒する驚異的な速さを見せつけていたはたてと妹紅の2人に走りを教えたと言う言葉に、思わず固唾を呑む。

弟子のうち2人がこれなら、果たして師匠はどれだけトンデモないのかと。

 

慧音「まぁ、私としても異存はないよ。久しぶりに新しい生徒を迎えるのもいいだろう。上達しようというその志があるのなら、わざわざそれを無碍にしたりはしないさ」

 

はたて「それじゃあ決まりってことで。……先ずはどうするの?」

 

慧音「早速だが、妹紅とはたてにも手伝って貰おうか。両チームでちょうど3人ずつ居るんだ、あれをしよう。君たち2人はする側に回ってくれ」

 

妹紅「あれをやるのか。まぁ慧音の講習受ける奴はどこかで絶対にあれをするのが通過儀礼だからな。しかし初っ端からするのか」

 

はたて「でも私、あれをする側に回るの初めてなんだけど、私にできるかな?」

 

妹紅「私も多少のことは何とかなるとは言え、慧音みたいに理屈っぽい話が得意なわけじゃないが……」

 

慧音「今の妹紅とはたてなら特に問題はないだろう。もう少し自信を持つといい。それにな、ここに居るメンバーの車を見てみろ。綺麗に両チームのスバル乗りとトヨタ乗りと三菱乗りが揃っている。まさにおあつらえ向きの状況じゃないか?」

 

四郎「た、確かに……ところであれって……?」

 

滋「あの……その、慧音……先生、でいいんですよね?あれって一体なんなん……ですか?」

 

ファンタジア組の意味深なやり取りに早くも怖気付きそうになる3人。

それに対して慧音と妹紅は特になんでもない風にあっさりと答えてみせた。

 

妹紅「いや、少々もったいぶったような形にはなったけどね、別に大したことじゃない」

 

慧音「私たちが君たちの車を運転するだけさ。もちろん、助手席に君たちを乗せた状態でね」

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

若干の困惑を持ちながらもとりあえずその「あれ」と言う奴を受けてみることとなった3人だった。

搭乗する組み合わせは四郎のアルシオーネVRは慧音が、滋の61スターレットははたてが、守のA170ランサーEXは妹紅が運転する事となった。

もちろんオーナーである彼らはそれぞれの助手席に乗ることが確定している。

 

言われたままに自らの愛車の助手席に腰をかけ、しっかりとシートベルトを付ける。

いつも運転席にしか座らない彼らにとって、そうそう座ることのない助手席からの視点というのが少しの違和感を抱かせる。

 

ファミレスでちらりと話題になった「女の子の運転で自分が助手席に座る」と言うシチュエーションを(教える側と教えられる側が真逆とはいえ)その日のうちにさっそく自らも体感する事となるなど思わなかったなと四郎は1人考える。

 

慧音「それじゃあ失礼するよ」

 

そう言うと慧音は運転席に乗り込みさっそく純正シートを動かしてシートポジションを整えていた。

ポジションはやや前に詰め気味で、背もたれは90度までは行かないがそこそこ立てている。

それが終わるとすぐにミラーの位置合わせをして純正のステアリングやシフトノブの感触を数度握って入念に確かめている。

青いワンピースに覆われた彼女の足へと視線を落とせば少しスカスカと動いているのが見てとれた。

恐らくはペダルの踏みしろをチェックしているのだろうかと考える。

 

慧音「ふむ、こんなものかな?四郎くん、シートベルトはしたね。……よし、それじゃあそろそろ個人レッスンと行こうか」

 

四郎「あの……よ、よろしくお願いします。上白沢先生!(こ、こここ個人レッスン……!美人先生との個人レッスン!な、なんて……なんて魅力的な響きなんだ!)」

 

慧音「ははは!そう緊張する必要はないよ。長いだろうし私としても呼ばれ慣れていない。ただ普通に『先生』とだけ呼んでくれて構わないよ」

 

四郎は一応成人式を終えているもののまだまだ若い、言ってしまえば「そう言うお年頃の男」である。

当然、自らの愛車に女性を乗せる妄想などは人一倍にしてきた自覚はある。

しかし実際に相当な美人の女性が自分の車の運転席に乗っていることを意識すると、さすがに緊張せずにはいられなかった。

しかも彼女の口から出てきた「個人レッスン」という言葉に、なおさら変なことを考えてしまいそうになり思わず顔が熱くなる。

 

慧音がキーを回してエンジンを始動させた音でなんとか意識を妄想の世界から目の前の現実へと引き摺り戻した四郎は、ゆっくりと動き出した愛車の進む先へと視線を飛ばす。

駐車場脇の定番となっているスタートのポジションへと出ると一度止まり、後に続くランサーEXとスターレットを待つ。

慧音はミラーを見て背後に2台が並ぶのを確認する。

 

 

 

♪ IN YOUR CAR / Claudia Vip

 

 

 

慧音「いくぞ。君の車の限界は遥か先にあるということを見せてやろう」

 

彼女がアクセルを踏みつけると、エンジンの大きな唸り声と共に車はとてもノーマルエンジンとは思えない勢いで飛んでいく。

四郎は強烈な加速Gでシートに押さえ付けられるような感覚に息を詰まらせる。

いくらメーカーが同じとは言え使い勝手の違う他人の車である筈なのに1発でロケットスタートを成功させたのだとようやく理解すると、初手から見せつけられたその実力の高さに思わず舌を巻く。

1コーナーまで少し間があるため、四郎は「彼女の操作を見て技術を学ぼう。この横乗りの体験はきっとそのためのものだろう」と思うと彼女の手元や足元へと視線を運ぶ。

 

冗談でも何でもなく、走り屋というのはシートに座った瞬間にガラリと人格が変わる人なんかもいるもので、動作の一つ一つが激しかったり何かと粗野な振る舞いをする事もあるようだが、彼女は乗る前と何も変わらない。

ただ自然に座り、力まずにステアリングを握っている。

 

エンジンの回転数が上がる。

慧音はレッドゾーンまで回し切る前にさっさと1速から2速へ、何でもなさそうにストンと収めてシフトアップする。

初めてだと言うのに、ガクンというシフトショックも殆ど無くスムーズに変速して再びエンジンを引っ張る。

さらに加速して3速に入れるが、その時点で回転数がほぼピタリと合わせられるようになったのか、もうこの時点でシフトチェンジが自分よりも上手いんじゃないかと思うと、四郎はもはやただただ驚嘆するばかりだった。

 

四郎(嘘だろ!?俺の車をまるで自分の車みたいに!普通なんかこう……初めて運転する車だからこそのミスみたいなもんがあるだろう!?俺なんかお爺ちゃんのミニクーパーや親父のレガシィ借りた時に、どっちもエンストさせて笑われたってのに!)

 

そうこうしているうちにアルシオーネは後ろにランサーとスターレットを引き連れながら加速していく。

緩い曲がりを駆ける愛車の横Gを足を突っ張らせて受け止めた。

ふとメーターを見れば既に時速にして100キロ近くにまで針が動いていることに気がついた。

 

四郎(ひゃ、100キロ!?……って、とにかく、今は先生の走りに集中しないと。まずはこの先の1コー……ナー……?)

 

慧音「まずは1コーナー、よく見ておけ」

 

前方に視線を戻すと四郎の眼前にはガードレールが迫っていた。

四郎は反射的に自分の頭を庇おうとした瞬間、今度は突然襲いかかって来た減速Gにガツンと背中を蹴り飛ばされてシートベルトに胸を締め付けられて思わずむせる。

そして慧音がステアリングを切り込んだのだろう。

四郎の視界と共に車は急激にグルンと回転し、車内の四郎を激しくシェイクした。

 

四郎「ゲェ!ゲッホ!(え!?いや……え?今何が……)」

 

気がつくとアルシオーネはアクセルを開けてコーナーを抜け、既に2コーナーに向けて突き進んでいた。

助手席から後ろを振り返ればいつものパワースライドのドリフトもどきではない、見惚れるほどに綺麗な姿勢でリアを滑らせ車体を流しているランサーとスターレットが見えていた。

ドリフトの収め方も滑らかで、カウンターステアを当てすぎてお釣りをもらうなんてことも全く無い。

先生が先生なら教え子も教え子か、あっちの方もとても初見の車でする動きとは思えなかった。

 

四郎(なんつーか、やべぇ人たちに捕まったんじゃねぇのかな……俺たち)

 

慧音「うん……初めて乗るから少し荒っぽくなってしまったな。古さは確実にあるもののなかなか悪くない車だ。特に車重が重すぎる感じはしないし、この程度のエンジンパワーがあればまず問題はないな。上りを速く走るならモアパワーが欲しくなるかも知れないが、だが下りを走る分なら必要十分だ。インタークーラーがあるとは言え、他のエンジンと比較して重心の低い水平対向エンジンもコーナリングには特に大きなメリットとなるだろう。さて、この車は4WDモデルだが、この年代の4WDは最近のものと比べてまだまだ発展途上でな。特にこのアルシオーネのVRはパートタイム4WDで、DCCDの様な便利なものなど当然ない。だからコーナリング時に発生するタイトコーナーブレーキング現象が大きなネックとなるわけだが、これは……」

 

一度飛びかけてしまった意識をなんとか繋ぎ止めながら、四郎は内心後悔していた。

2コーナーを抜けさらにヘアピンに突っ込み、自分の車が出して良いものとは思えない激しい減速と旋回のGで再び体をシェイクされる。

先ほどよりも激しく突っ込んだ今度は目の裏がチカチカと明滅した様な感覚に陥り、一瞬意識が飛びかける。

まだスケートリンク前ストレートにすら届かない最序盤にして、四郎はドリフトしながら平然と喋り続ける慧音の話を聞く余裕を既に失いつつあった。

 

そして、それは他の2台も同様であった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

秋名の峠には数人のギャラリー目的の若者がとあるコーナーアウト側のガードレール脇に陣取っていた。

ここはスケートリンク前ストレートの終点に程近いコースの中間にあたる左右に、かつ小刻みにやや緩めなコーナーが連続する区間。

 

彼らは走り屋たちを目当てに集まるギャラリーたちの中でも特に耳のいい者たちの集まりで、昨日の今日で既に「秋名山にレッドサンズと正体不明の県外チーム現る」の情報を聞きつけていたのだ。

しかも、今さっきここを走る3台のFDを発見していて、そのうちの2台はレッドサンズステッカーが貼られているモンテゴブルーとブリリアントブラックの個体であったため、2人で一軍メンバーとして在籍しているチーム内屈指の実力派の杉本兄妹であるらしいことも確認済みだった。

 

そして今も近づいてくる走り屋らしい車のエキゾーストに耳を傾けていた。

 

ギャラリー1「さぁ、来るぞ来るぞまた来るぞ。まだ少し遠いがこの音は走り屋だな。今日の走り屋はやけに元気だなぁ」

 

ギャラリー2「少し前にレッドサンズの杉本兄妹に煽られて下っていった、普段見慣れない固定式ライトのFDがその正体不明のチームって奴なのかな?恐らくは今日も秋名に来てるって読みは当たりみてぇだな」

 

ギャラリー3「レッドサンズと県外チームらしい車はさっき見たし、今度は地元のスピードスターズか?」

 

ギャラリー1「昨日は下にいた奴が地元のチームとレッドサンズとその謎の県外チームが時間に差はあれど上に登って行くのが見えてたらしいし、上で何か一悶着あって三つ巴のバトルに発展したのかもな」

 

ギャラリー3「ありえるな。地元と余所者の走り屋チームが複数同じ山にいれば些細なあれこれで揉める事なんか珍しいことでもなんでもないからな。むしろ日常茶飯事だ。走り屋って高橋啓介みたいな暴走族出身者とか結構ゴロゴロいるし気性も荒いし……そしてその手のトラブルの解決手段となれば、タイムアタックバトルと相場が決まってる。今日はその練習走行ってところか」

 

ギャラリー2「お、来たぞ。コーナーの奥でヘッドライトの光が見える」

 

まるで絶叫のようなスキール音をかき鳴らしてドリフトしながらコーナーの先から飛び出して来たのは3台のやや古めのスポーツカー、KP61スターレットにA170ランサーEX、AX7アルシオーネVR。

そしてその3台のボディには地元の走り屋チームである『秋名スピードスターズ』のステッカーが貼られていた。

 

バタバタ忙しなくもありながら、かといって特段速い訳でもない、迫力に欠ける走りをする彼らとはうって変わり、そして3台は「まるで別人のような走りで」短いストレートを全開で駆け抜け彼らのいるコーナーへと刺さるような勢いで飛び込もうとしていた。

 

ギャラリー1「地元のスピードスターズだ!」

 

ギャラリー2「な、何してんだアイツら!なんつースピードだよ!無茶だやめろ!」

 

ギャラリー1「こ、こっちに突っ込んで来るぞ!」

 

ギャラリー3「まさかブレーキ壊れてんのか!?アイツら減速しねぇ!」

 

ギャラリー2「来るな!う、うわぁぁぁ!」

 

彼らの待ち構えるコーナーの入り口。

仲間が「事故る!」と思い背後の樹木や茂みに隠れようとする中、1人だけ足がすくんで動けなかったがために最後まで目を反らせなかった。

しかしそれ故に彼の目は見ていた。

見えてしまった。

 

まるでレーシングカー用のブレーキでも積んでいるのかと見紛うばかりの「ガッガンッ!」という、まるで止まったかと錯覚する様な一瞬の急減速。

そして荷重が抜けたリアをブレイクさせ、3台は思い思いのアングルをつけてドリフト状態に持って行き一瞬でコーナーの出口へ向けて姿勢を作ったかと思えば、あっという間にタイヤのグリップを復活させそのまま飛ぶように加速し次のコーナーへと突っ込んで消えていった。

 

ギャラリー1(何が……何が起きたんだ……。本当にアイツらなのか!?ランサーとスターレットの信じられねぇほど派手で、それでいて綺麗なドリフト……そしてあの先頭のアルシオーネはなんだ……?なんだあのコーナリングは……信じられない速度で、まるでレールの上を走っているみたいに……!)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

一方その頃車内では……。

 

 

 

妹紅「お前のランサーEXはお世辞にも新しい車とも、ましてや特別飛び抜けて高性能な車とも言えない。だがな、かと言って走りのポテンシャルが低いわけでもないんだよ。こうやって旋回のための姿勢を作ってやればかなりの速度で曲がっていける。私がやっているようなドリフトはその解答の一つの形なんだ。……昨日後ろからお前の走りを見た時は、コーナーでの突っ込みの時に姿勢作りに失敗していたせいで、曲げるためにタイヤを使えてなかったし、何より旋回のために必要なヨーを作ることができていなかったから、あんなにアンダーと格闘するような苦しいコーナリングになっていたんだ。……これも慧音の受け売りにはなるんだけど、コーナリングにはコーナリングに適した姿勢というものがあってな、このランサーみたいな前寄りの前後重量バランスになるフロントエンジン車の場合なら、旋回時の遠心力に対抗するためにフロント側を……」

 

守(やばい!これはやばいって!全身の筋肉使って踏ん張ってねぇと旋回Gで体が持ってかれそうになる!景色が右に左にギュンギュン流れて何が何だか分からねぇ!妹紅さんはなんともなさそうなのになんで!?なんでケロっとした顔で普通に話してるの!?とにかく体がブレてねぇし足さばきもシフト操作もすげぇ速い!俺以上に俺の車を乗りこなしてる!……あとごめん!耐えるだけで精一杯で全然話してる内容頭に入ってこねぇわ!)

 

 

 

慧音「君のアルシオーネのような古い四輪駆動はよく「曲がらない」と言われるが、それの主な要因はタイトコーナーブレーキング現象によるものだというのは先ほど話した通りだ。残りのタイヤに駆動力が伝達されず惰性で回っているだけという二輪駆動には縁のない、四輪駆動特有の弱点という奴だな。これはセンターデフのない四輪駆動車特有のものだと勘違いしている人もたまにいるが、それは違う。ビスカスカップリング方式などの効きのマイルドなものでも、デフの効き具合それ自体に制限がある以上はこのタイトコーナーブレーキング現象が若干であるが発生しうるものだ。これが限界領域でのコーナリング時に邪魔をする。……だがそれはある程度乗り手の操作によって、今こうして私がやったみたいに打ち消すことができるんだ。これは私が考える四輪駆動車におけるコーナリングの……」

 

四郎(信じられねぇ!な、なんだよさっきから!どうなっちまったんだよ俺の車は!何よりこのブレーキングとコーナリング!何が起きたのか全く理解できねぇ!?前に放り出されそうになるほどの減速Gで一瞬意識が飛びかけたと思ったら車が滑り出して次の瞬間にはコーナーの出口が見えていた!?どんなトリックを使えば俺の古いアルシオーネでそんなことができるんだ!そもそもどうやってこんな一瞬のうちにブレーキの制動力をここまで立ち上げられるんだ!?なぜタイヤがロックしないんだ!それに今履いてるのは2年落ちの中古安物タイヤなんだぞ!なのになんだこりゃあ!なんで!なんでこんなに……まるでランエボみたいに強烈に曲がるんだ!?訳が分からねぇ!これ本当に俺の車なのか!?……あとすみません!きつすぎて怖すぎて速すぎて話を聞く余裕もないです先生!)

 

 

 

はたて「これはさっきも話した曲げるためのアクセルの話にも関わってくることなんだけど、タイヤって静止状態が最も高いグリップを持つと思われがちだけどそれは間違いらしいの。実はタイヤは静止状態よりもむしろ破綻して暴れ出す寸前の僅かにホイールスピンをしている時の方がより強くグリップが働くらしくてね、これを深く理解するにはタイヤの摩擦円や、タイヤグリップの非線形性の話なんかを知る必要があるんだけど、私はその辺の話を上手くできる自信が無くて、その辺は後で改めて慧音先生に……あれ?滋くん?」

 

滋「」

 

彼らが今まで出したことのないような速度で、彼らの愛車が慣れ親しんでいたはずの秋名の峠をスキール音をかき鳴らしながらまるでジェットコースターのように駆けていく。

今まで大したことのないと思っていたコーナーが、今だけは怪物のように恐ろしく感じていた。

 

妹紅の駆るランサーの中では守が、慧音の駆るアルシオーネの中では四郎が顔面蒼白で涙目になりつつもなんとか歯を食いしばって意識を保っている。

しかし、それはあくまで失神だけは免れている程度のことでしかなく、すでに隣で話している慧音たちの講義を聞く余裕は全く無かった。

イツキのようにタイヤのスキール音とほぼ同期した情けない悲鳴をあげていないのは走り屋としての最後の意地である。

そして、はたての駆るスターレットの中ではすでに限界を迎えた滋が白目を剥いて失神していた。

鈴仙の隣でスケートリンク前ストレート進入以前の段階で既に意識を手放していたイツキに比べれば、これでもよく頑張った方である。

 

慧音「この先はかなりタイトなヘアピンだったな。こういうところはグリップ云々を考えるよりも、さっきやって見せたように思い切ってドリフトさせて抜けた方が速いものだ。例えば……こんな風に」

 

そして彼ら彼女らは秋名中盤セクション最後の難所であり見せ場でもあるタイトなヘアピンへと差し掛かっていた。

2速へ叩き込んだことによる強力なエンジンブレーキとガツンと踏み込まれたフットブレーキによる急減速、そしてコーナーのイン側に向け一気にステアリングを切り込み荷重の抜けたリアを大きく振り回した。

容易くグリップが破綻してブレイクしたリアタイヤの悲鳴がスキール音となり周囲一帯を切り裂いた。

コーナーの出口に向けマシンを置くとそのままアクセルを踏み立ち上がる。

 

慧音「立ち上がりでアクセルを開けられるタイミングもドリフト走行とグリップ走行では違う。純粋なグリップ走行では踏めないようなタイミングでも、コーナー出口に先に車体を向けられるドリフトであれば先に踏み出せるし、何より僅かではあるが疑似的にストレート長を増やせるんだ。こうした小技はパワーの不利を背負ったバトルでは地味ながらも確実に効いてくる。モータースポーツの世界、特にサーキットのような環境では常識となっているグリップ走法によるアウトインアウトのコーナリングは、必ずしも正しいわけじゃない。コース、コーナー、マシン、タイヤ、そしてドライバー……『走り』を構成する全ての要素が複雑に絡み合うことでコーナリングの最適解というものは導き出されるんだ。かく言う私もまだまだだけどね」

 

だが、今までの自分たちの走りはなんだったのかと言うようなレベルの愛車の激走っぷりに、四郎は恐ろしさと同時に僅かに興奮も覚えていた。

 

慧音「……さて、どうやら1人脱落者が出てしまったようだからひとまずはこれまでにしようか。残りは下に降りてからだな」

 

慧音と妹紅の背後では、ハザードを点灯したスターレットがまるで誰かをいたわるかのようにペースを徐々に落としていた。

それを確認したランサーとアルシオーネもそれに合わせるように少しずつペースを落とす。

どうやら終わったらしいことを察した2人の生存者は深くため息をつくのだった。

 

守「ふぅ……(た、助かったのか……?あぁ、何度事故を覚悟して受け身を取ったことやら……。スピードスターズが危うく本当にお星様になるところだったぞ)」

 

四郎「はぁ……(生き残ったのか……お、俺たちは……。滋は……あ、スターレットがハザード焚いてるから多分ダメだったっぽいな)」

 

妹紅「1人ダウンしたらしいからここらで中断か。ちょっとやりすぎたみたいだ。ここから先はゆったり流しのペースでって感じかな」

 

そうは言うものの、妹紅やその先を走る慧音の運転は先ほどのような過激さはなりを潜めたものの依然として彼らの全力よりはなお数段速いものであった。

こうして言い出しっぺの滋の尊い(?)犠牲によりなんとか首の皮一枚繋がったスピードスターズだったが、慧音のセミナーは下に降りてからも続くのだった。

 




上手いドライバーに自分の車を運転させてオーナーがそれを横で直に見て体験するというのはそれなりにあることらしいです。

ちなみに、このスバルとトヨタと三菱の組み合わせ、特に考えたわけじゃなくて偶然気がついたんですよね。
それであれこれ筆が進んでいつの間にやら書いていたという、作者にしては珍しい書き方で書かれた話になります。
あと作者はリアルじゃローパワーMRなんかに乗ってるくせに、峠においてはラリーのテクニックや四駆の優位性を認めているタイプなので四駆優遇になる可能性があります。
実際の峠で速いのも、多くの場合は四駆ですし。

さらに余談にはなりますが、これより前の初日の時点でイツキが2連ヘアピンのあたりで鈴仙の180SXの助手席で失神して伸びていたのですが、そこはカウントしていません。

2023 / 01 / 16 13時37分 修正

2023 / 12 / 6 23時39分 誤字訂正


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第8話 東方塾(?)とハチロクの噂

第8話です。
もしかしたら現実でも役に立つかも知れない運転時の姿勢の話を挟みつつ、この辺から少しずつ本番に向け動き出します。

これは作者が最近知った、目から鱗の話なので作中でも登場させたかったというのと(これをやってからコーナリング時に踏ん張りが効いて楽になりました)、慧音先生に先生らしいことをさせて今後の作中における解説枠を確立させたかったという意図があります。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


脱落者一名を連れた3台は下の駐車場に降り立った。

先に出て行ったFDたちと合流する。

和やかに談笑する3人を見て慧音は「どうやらお互い上手いことやれたようだ」と内心安堵する。

 

滋「途中からの記憶が無い……。昨日のアレで絶対ヤバいとわかっていたのに、覚悟は出来ていたはずなのに気絶するなんて情けねぇよなぁ……俺」

 

途中で失神した滋がどうにか道中で復帰するが未だにしょぼくれて顔色が悪いままだった。

滋の状態を見てやりすぎてしまったことを悟ったはたての提案で一旦小休止を挟むこととなり、6人で自販機のジュースを片手に話していた。

するとそこにFD談義がひと段落ついたのか、FDの3人組がやってくる。

特にレッドサンズの2人組はスピードスターズの車の運転席からファンタジアの3人が出てきたことに何やら面白そうなイベントの空気を感じ取り、その一方で多少事情を知っているヤマメは何か察したような表情をしていた。

 

芳樹「お?なんだ?お前ら上手い奴に車を運転してもらったのか?」

 

尚子「スピードスターズだけで降りて来たと思ったら運転席にファンタジアの3人が乗ってるんだからちょっとびっくりしちゃったよ」

 

妹紅「あぁ、実はな……」

 

慧音に変わって妹紅とはたてが事情を説明する。

とは言え、これは彼女たちだけに限らず一部の走行会等で行われることでもあるが、練習生の人の車に教官役の人が乗って運転すると言うある種恒例のイベントをやっただけではある。

しかし肝心のスピードスターズのメンバーが途中で気分が悪くなってしまったためにスローダウンしつつ降りてきたのだ。

もちろん滋の名誉のためにも、はたてはスターレットの助手席で失神したことに関しては黙っていた。

 

芳樹「で、それで今度はそれを踏まえたお勉強会か?」

 

尚子「なんだか面白そうだね。私たちも少し聞いてても良い?」

 

ヤマメ「それなら私も。私って結構感覚派なところがあるからさ、こう言う理論的な話を聞いてみるのもたまには良いかなって」

 

レッドサンズの2人は高橋涼介以外の人間がどんな理論の元で走っているのかの参考とするために、そしてヤマメはお互い地底と人里というそこそこ距離が開いているところを本拠地としているせいで、同じチームに選抜されながらも普段接点がそれほど濃くは無い慧音の事が少し気になったが故にの事だった。

 

慧音「あぁ、良い心がけだな。……さて、生徒も増えたことだし小休止も兼ねて少し座学と行こうか。私たちが君たちの車を借りて走ってみたわけだが、率直に言ってどう思った?」

 

慧音がスピードスターズの面子に話を振る。

今回の本題はそこだからだ。

 

滋「とにかく、とんでも無く速かったとしか……。俺たちでも出来ない様なドリフトをバンバンしてたし……とても俺の車とは思えなかったぜ」

 

守「あと、運転してる時に体がほとんどブレてなかったな。俺のシート、純正のままなのに」

 

四郎「あぁ、先生は普通に運転してたのに、俺はあっちこっち振り回されて大変だったよ。あとはシフトチェンジも無駄がほとんど無かった。初見の車で出来る運転じゃあ……」

 

慧音の問いに少し戸惑いつつも答えていく。

 

慧音「なるほど、ドリフト云々はともかくとして、そうだな……じゃあ今回は基礎の基礎、運転する時にドライバーがとるべき姿勢について話しておこうか。今回は特にコーナリング中の踏ん張り方の話だな」

 

守「運転するときの姿勢?」

 

芳樹「なんか意外だな」

 

どんな話が飛び出してくるのかと思えば運転時の姿勢という派手さの無い地味な話題だったことにスピードスターズとレッドサンズの面々は首を傾げる。

 

慧音「まず、ドリフトにしろグリップにしろ、速く走るためにはペダル、シフト、ステアリングなどの精密かつ迅速な操作が求められるわけだが、その『精密かつ迅速な操作』とやらを遂行するために重要な事はなんだと思う?」

 

その問いに、はたてと妹紅以外の面々は思わず言葉が詰まる。

思えばそう言う事まで深く考えたことはなかったからだ。

 

尚子「うーん……慣れ、とか?」

 

四郎「運動神経かな?」

 

少し考えながらも2人が答えを絞り出す。

しかし慧音の答えは否だった。

 

慧音「近いといえば近いが、そうではないな。……答えは『姿勢を安定させること』なんだ。つまりは加減速や旋回のGに負けることなく体をシートに固定してブレないようにするんだ。もちろん、フルバケットシートや4点式シートベルトというものはあるのだが、それはあくまでも補助的な装備として私は考えている。何より大事なのがシートポジションを含めた乗り手の姿勢だ。正しい姿勢で走らなければ陸上選手は速く走れないのと同じように、ドライバーもまた正しい姿勢で運転しなければ速く走れない。……そうだな、一つ話をしようか。君たちは食事中にナイフとフォークで肉を切り分ける時、書道などで紙に文字を書く時、どうしている?」

 

守「そりゃあ、文字書くときはこうやって右手に筆持って、左手で支えて書くし……」

 

芳樹「ステーキとか食うときはこう……フォークで支えてナイフで……あ!」

 

慧音「そう、支えるんだ。今回話すのは右利きの場合の話だが、右手だけで丁寧に文字を書こうとしてもなかなか上手くいかないし、ナイフ一本だけで肉を切ろうと思っても切り辛い。人が何か正確で緻密な動作をしようと思った場合、大事なのは支えている側の方なんだ」

 

ヤマメ「あぁ……そういう事ね」

 

滋「確かに片足で立つとふらつくけど、両足で立つと安定するもんな」

 

慧音「うむ、そういうことだ。そしてそれは車の運転でも同じこと。走り屋は常に右へ左へ動き続ける車の中で正確なシフトやペダル、ステアリングの操作を要求されるものだが、バケットシートと比較してサポートの甘い純正シートに、固定の緩い3点式ベルトではそれは難しい。何故なら乗り手が旋回Gに振られてシートからズレたりギャップを乗り越えた際にそのショックでシートから浮いたりしてしまう可能性があるからだな。そうなれば手元や足元が狂ってそれぞれの操作に少なくない誤差が出てしまうかもしれない。……だが、あえて難しいと表現したのは不可能では無いからだ。今回はそれについて説明しようと思う」

 

慧音は片手に持っていた缶コーヒーを一口飲むと、周りの生徒たちに視線を配る。

先ほどと比べて少し真剣そうな表情の彼ら彼女らの様子を見て満足そうに頷くと、そのまま話を続けた。

 

慧音「まず、運転時にかかる様々な方向への揺れに対して姿勢を安定させるためにはどうすれば良いか。これは先ほど示した様に、うまく支えてやれば良い。……具体的にはステアリングを両腕で押して突っ張らせてやること、そして左足でフットレストを押し込む様に踏むことだ。この両手と左足の3つの点で体をシートに押し付けて強く固定させてやると、体重以上の力をシートにかけられる様になって、多少踏ん張りが効く。わざわざ高いフルバケットシートなどを使わずとも、ある程度の強い横Gなどがかかっても体を殆どブレさせずに姿勢を安定させやすくなるんだ……ただし、もちろんそうした装備を買える程度にお金に余裕があるならそれに越したことはない。今教えた様な姿勢をとっていても、フルバケットシートに4点式以上の競技用ベルトがあれば、より強力に体を固定させられるのは事実だからな。だが、それが出来る人ばかりでは無いだろうし、知っていて損はない筈だ」

 

そこまで聞きに徹していた彼ら彼女らは黙って頷く。

実際に理屈や例え話を交えて説明されると、確かに彼女の話は理に適っている様に感じられる。

だがここで芳樹があることに気づいて疑問を呈する。

 

芳樹「あれ?でもシートに体を固定するって言うのなら、シートの座面にかかってるお尻や太ももはどうなんだ?」

 

慧音「良い質問だな。確かに両手と尻とで既に3点ある様に思えるかも知れないが、大事なのは体重以上の力、要するに1G以上の力をかけてやる事ができるかと言うところなんだ。その点で言えば、通常のシートやシートポジションでは尻には体重以上の力はどうあってもかけられない。……天井に手を突っ張りでもすれば話は変わってくるが現実的ではないだろう」

 

四郎「まぁ……確かに」

 

慧音「そこで出てくるのが左足なんだ。左足で踏ん張る事で、本来ならば1G以上の力をかけられない尻や腰のあたりにもシートへ体を押し込む力をかけられる様になると言うわけだな。そしてこの両手と左足の3点で押し込むとシートの特に背もたれのあたりに乗り手の体重以上の、強く広い面の圧力をかけて固定できる様になる。特にこの姿勢は両手を突っ張らせて肩をシートに沈めて固定できるため頭がブレにくくなると言う点も大きいな……。なぜ頭部の揺れが少ないと都合が良いのかについては、また今度ということにしておこう。……そういうわけだから、私は本気で走る時はクラッチ操作以外に左足はそれほど多用しないんだ。まぁ、コーナーのど真ん中でクラッチを蹴り飛ばすことなんかそうそう無いからな。……便宜上、私はこのフットレストの事は『第四のペダル』と呼んでいる」

 

芳樹「なるほど……」

 

守「なんつーか、上手い人はそういうところまで考えてるんだなぁ……」

 

滋「俺なんか運転中の姿勢なんて自分が運転しやすいかくらいのもんだと思ってたわ」

 

芳樹「確かに、一から改めて説明されるとその通りなんだよな。正直今までその辺のところまで頭が回らなかったけどさ」

 

滋「走り屋にとって純正シートの何がネックになるかって言ったらサポート緩いせいで振り回されるからだし、振り回されることの何がいけないかっつったら体がズレると手元や足元がくるってミスを誘発するからってのも、言われてみれば確かにって感じ……」

 

そこまで話が進んだところで、彼ら……特にレッドサンズメンバーにとっては聞きなれたロータリーサウンドが駐車場へと進入してきた。

白いFCと黄色いFD……高橋兄弟だった。

 

慧音「よし、キリがいいからここらで中断としようか。私としても少ししゃべり疲れてきたところだったからな。……それより、はたては何か高橋涼介に聞きたいことがあるんじゃなかったのか?」

 

慧音の一言に、何かを思い出したようにハッとした表情を一瞬浮かべるはたて。

 

はたて「そうだったわ。それじゃあ少し話してくるわね」

 

ヤマメ「もしかして、昼間に話してたあの一件のこと?」

 

はたて「うん。その事でね、少し……」

 

はたてがそこまで言ったところで、杉本兄妹の隣に停めた車の中から2人が出て来た。

 

啓介「やっぱり、お前らも来てたんだな」

 

芳樹「あぁ、啓介がやたら褒めてた黒いFDの話を聞いた時からいても立ってもいられなくてね。ヤマメちゃん、正直予想以上だったよ」

 

啓介「あぁ、コイツはその辺のカスとは話が違えって言った意味が分かっただろ」

 

ヤマメ「そういうあなたたちも中々良い走りしてたじゃない。途中から多少好きな様に走ってたんだけど上手くドリフトを合わせてくれて、こっちも楽しかったわ。もちろん、啓介もね」

 

啓介「あったりめぇだろ」

 

ヤマメ「改めてお礼を言わせてもらうわ。昨日は私の走りに付き合ってくれてありがとう」

 

はたて「ところで、話に水を差す様で申し訳ないんだけどさ……涼介さんに一つ聞きたい事があるの。良いかな?」

 

涼介「構わないが……昨日現れたという、バトル中の啓介とお前をまとめてぶち抜いたハチロクの件なら、すでに啓介から大まかな話は聞いている。すまないが力になれそうにはないな」

 

滋(何ぃ!今さらっとすごい事が聞こえなかったか!?あの高橋啓介とはたてちゃんがまとめてやられた!?まさかあの話は……っ!)

 

四郎(な、何だってぇ!?こんなのに勝てるハチロクがいるのか!?)

 

守(この2人をハチロクがぶち抜いただって!?それってまさか……)

 

はたて「あら、どうして?県内にいる腕利きの走り屋に関する情報に関しては一番詳しいんじゃないかと思っていたんだけど……」

 

啓介「俺も聞いてみたんだがな……すまんがアニキも心当たりがないらしい」

 

滋「えーっと……そのハチロクの話なんだけど……」

 

その場の誰もが黙り込む中で、スピードスターズ組から滋が声を上げる。

そこに至って、はたても「そう言えば地元のスピードスターズに聞くのを失念してたかな」と思い出す。

 

守「俺らもまさかあんな伝説じみた走り屋が本当にいるとは思わなくて話半分で聞き流してた話なんだけどさ……」

 

四郎「うちのリーダーが働いてるガソスタの店長が昔、秋名の走り屋だったって言うんだけど……その店長が言うにはさ、秋名にはバカっ速いハチロク乗りがいるらしいんだよ。俺たちとは時間が違うっぽくてさ、肝心な俺らも一度も会ったこと無いんだけど……」

 

滋「その人は今麓に何件かあるうちの一つの豆腐屋のオヤジやってるらしくて、聞くところによると今でも秋名を走ってるって話なんだ。その辺探せば案外見つかるかもな。流石に走ってる詳しい日時は聞いてないからよく分からないけど……」

 

スピードスターズの面々がそう言うと、レッドサンズとファンタジアの面々は少し考え込むような表情を見せる。

 

妹紅「ハチロクか……車の性能差を考えるとにわかには信じがたい気がするな。2人はそいつの走りを間近で見たんだろう?……どうだったんだ?」

 

啓介「今でも認めたくはねぇし、思い出すだけで腹立つけどよ……すげぇ腕だったぜ。俺たちがまだ突き詰めきれてないコーナーを殆ど減速せずに突っ込んで、あっという間に慣性ドリフトで抜けて置き去りにしていきやがった。アレはこの峠を完全に知り尽くしてる奴の走りだった。確実に地元の走り屋だ。俺が動揺してスピンしなけりゃもっと追いかけられたんだがな。ただ、乗り手の腕もいいがあれはマシンも相当いじってるんじゃないか?普通のハチロクじゃあり得ねぇ様な距離の詰め方されたぜ。きっとアレはこの山だけのためにカリッカリにチューンしてセッティングを練られたモンスターマシンだ」

 

はたて「うん。凄まじい技量だったわ。とにかくコーナーワークが超人的の一言ね。ハチロクは進入スピードと脱出速度で私のセリカや啓介くんのFDを大きく上回っていたのは確実だと思う。だから加速力と最終的なストレートのトップスピードは私たちの方が上でも、その間に大きく差を縮められていたからパワーの有利があってもそれが役に立ってるとは言い難かったかな。……ただ、エンジンパワーはそれほどなかった筈。音を聞いた限りではターボ化やスーパーチャージャー化されている様には思えなかったし、音も普通の4AGとそう大差ないと感じたわ。……だからエンジンはノーマルに近いか、そこから派生したメカチューン程度なんじゃないかな?だから当然あのハチロクの馬力も現実的な数字の範疇に止まるんじゃないかと思うわ」

 

涼介「ボルトオンターボ化を伴わない、一般的な4AGのNA仕様のハイパワー化を目的としたチューンとして知られるのは、4スロ化とカム交換やピストン交換によるスタンダードなメカチューンだな。92後期の4スロハイコンプ仕様で大体180馬力程度が狙えるが……」

 

慧音「テンイチ(AE101)やイチイチ(AE111)ヘッドの流用も比較的によく見るな。あとは単純な排気量の拡大による5AG化か……過給機に頼らないとすると、大きく見積もって200馬力あたりかその手前が精々だろう(あとはうちのメカニックがやってる7AGを搭載してチューンするのもあり得るが、そこまでしてしまうと今度は明らかに音が違ってしまうな)」

 

啓介「いや……そんな訳はねぇはずだ。俺のFDは吸排気チューンと純正ツインターボのブーストアップ仕様で実測364馬力だ。姫海棠だったっけか、お前のセリカもそれなりに出てたんじゃないのか?それをあんなに簡単に2台まとめてぶっちぎるんだ。乗り手だけの問題じゃない筈だぜ」

 

はたて「一応、私のセリカは330くらいはあるかな?」

 

尚子「いくらダウンヒルが非力なハチロクに味方してたからと言っても、ものには限度があるよ。車重の軽さや地元としての経験値も込みで考えてもね。旧式のテンロクNAが、ターボで倍近い馬力を絞り出すスポーツカーを圧倒できるほどとは……ちょっと考えにくいかも」

 

四郎「コーナーにも強くてパワーもあるFRピュアスポーツのFDに、四駆ターボのラリーベース車のセリカなんて、それこそ走りのために生まれて来たみたいな車だぞ」

 

守「それを相手にハチロクで勝つなんて、普通は無理だよな……」

 

妹紅「もしセリカやFDの乗り手が下手ならそれもあり得ただろうが、今回に限ってはそれは当て嵌まらないからな。1人はこの辺りじゃ名の知れた赤城最速の走り屋、1人は正規代表メンバーではないとは言え慧音に走りを教えてもらって以降はかなり腕を上げたはたてだ。それを遥かに格下の車で圧倒したとなれば、それこそプロレベルの実力がなければな……。確かに、私もこれはあまり現実的な話じゃないと思うが」

 

芳樹「俺も話を聞く限りじゃ普通の4AG、普通のハチロクでそんな事ができるとはとても思えないな。何かもっと秘密があるのは確かだと思うよ。乗り手が奥の手を隠し持ってたとか、マシンに何かギミックが仕込んであるとか。ハチロクのテンロクNAとセリカの四駆ターボにFDのロータリーツインターボじゃ、車全体を見てもエンジン単体で見ても、いくら何でも戦闘力に差がありすぎる」

 

啓介「あぁ……おおかた、大掛かりなエンジンチューンでもしてるんじゃないのか?このFDのアクセルベタ踏みでもそれほど極端に突き放せなかったってことは、軽さを考えても200後半は最低でも出ている筈だ。乗り手の腕だけでアレができるなんて信じられねぇし……俺は信じたくもねぇ」

 

各々の意見を出して話し合っていくが、メンバー間で若干の意見の相違が生まれる。

あのハチロクはフルチューンされたモンスターマシンだと評する啓介たちと、乗り手の凄まじい技術が全てじゃないかと語るはたて。

しかし、それに対して涼介や慧音を含む他の面々は依然として難しい顔をしたままだった。

実際に見た訳ではない彼や彼女には判断するだけの材料が乏しかったのだ。

 

涼介「……今の時点では何とも言えないが、俺たちの方でも調べてみる価値はありそうだな」

 

慧音「私もそのハチロクに興味が出てきたな。手の空いているメンバーに頼んで、少しだけ探りを入れてみようと思う。接触をとるかどうかとなると話は別だが……まぁ、同じ山を走る以上はいつかどこかで会うことにはなるだろうからな」

 

しかし2人は片や自らの弟を、片や半ば愛弟子同然のチームメイトをいとも容易く千切ったというハチロクの存在に少なくない興味を抱いたのは同じだった。

 

特に、はたては代表には選出こそされなかったものの、下り最速の椛のS14シルビアや上り最速の文のR35GT-Rに次いで、妖怪の山でもトップ10には入るほどの実力がある。

それをいとも容易く圧倒しぶっ千切ることの出来る様な人は幻想郷の走り屋たちの中でもそうそう多くは居ない。

この場にいる幻想郷の走り屋である妹紅と慧音、そしてヤマメはそれをよく知っていた。

一部出来そうな怪物クラスの人は何人か脳裏に浮かぶものの、あんなのは少数派であり例外中の例外であって、そのレベルの奴がそうそういてたまるかとも思っていた。

 

だからこそ、まさかとは思うがもし今回の一件が全て事実であった場合に想定されるそのハチロクの速さというものが途方もないものであるという事実に頭がくらくらして来る様な感覚に襲われる。

 

妹紅「ところで、スピードスターズとしてはそのハチロクのことはどう考えてるんだ?今後探し出して接触するつもりはあるのか?」

 

滋「えーっと、一応うちのチームのリーダーがそのハチロクを探し出して助っ人として交流戦に出せないかって言ってたから、もしかしたら……」

 

本当にこれを言って良いのかどうか内心に少しばかりの葛藤を抱えつつも、滋はそのハチロクの様な腕のいい走り屋をリーダーの池谷が交流戦に引っ張り出したがっていることを伝えてしまう。

たとえ本人的に本意であったかどうかは関係なくそのハチロクのドライバー自身の行いで遭遇戦になって残る二つのチームからの関心を既に引いてしまった以上、どうせここで自分たちがすっとぼけたとしても遅かれ早かれそのハチロクは再び表舞台に出てくることはほぼ確実だろうと思い開き直ってしまったのだ。

 

啓介「そうか。ならこっちとしても都合がいいってもんだ。もし、スピードスターズがそのハチロクの走り屋を見つけたら、伝えておいてくれ。……交流会の本番、秋名のダウンヒルで待つってな。スピードスターズの助っ人でも何でもいい。俺ともう一度戦ってもらうぜ」

 

リベンジを誓う啓介。

その瞳には確かな闘志が宿っていた。

 

啓介(……今度は油断も侮りもしねぇ。マシンもきっちり仕上げてコースも走り込んで体に叩き込む!……何より俺は簡単に諦める様なタチじゃねぇ。雪辱は必ず果たすぜ!俺は一度負けた相手に二度は負けねぇ!絶対に勝つ!)」

 




既にこの時点で各チームの中で、のちの「秋名のハチロク」の存在が認識されていきます。

そしてリクエストに関してですが、1人採用1人採用検討中と言った感じになります。
多少調べて設定拾ったり、あとは細かい部分を変更したり補完したりして作品の中に落とし込んでいく必要があるので本格的な登場まではまだまだ時間はかかりますが……。
(設定の大幅な変更が伴う場合はこちらから確認と承諾のメッセージを送信いたします)

2023 / 12 / 7 11時33分 誤字訂正


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第9話 迫る交流戦、それぞれの動き(前編)

2022 / 12 / 17 16時00分
2000UA突破!
本当にありがとうございます!

今回は交流戦を控えた拓海たちやスピードスターズに焦点を当てた話になります。
バトルはまだまだお預けです。
まだもうちょっとだけ続くんじゃよ。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


翌日、群馬県渋川市のとある商店街。

この日は授業が早く終わったため拓海とイツキは2人でゆっくりと歩きながら帰っていた。

そして差し迫りつつある期末テストの話題を早々に終えて、この前に秋名の峠で遭遇した出来事についての話題に切り替わる。

 

イツキ「なぁなぁ拓海ぃ!この前のアレ、覚えてるだろ?」

 

拓海「アレって……この前峠に行った時の事か……」 

 

特にウキウキであったのはイツキだ。

自分の憧れた走り屋の先輩にその走り屋たちの世界に連れて行ってもらい、峠で横乗りまでさせて貰ったかと思えばその直後、群馬の走り屋では知らぬ者はいないという赤城レッドサンズが、さらにその次には見たことも無い美少女揃いの謎の走り屋集団のチーム・ファンタジアが立て続けに襲来。

 

話し合いの結果、来週土曜の夜にギャラリーを大勢集めて交流会をスピードスターズとレッドサンズとファンタジアの3チーム合同で開催する事が決まった。

さらに池谷先輩からあわや峠の駐車場に置き去りにされそうになったかと思えば、今度はその美少女走り屋チームのメンバーから下のバス停まで送り届けるまでだが横乗りのお誘いときたものであるから、その時点で既にイツキは心の中で感動の涙を流していたのであった。

 

結局あのあとスケートリンク前ストレート直前のコーナーで気絶してしまったイツキはバス停ではなく、そのすぐ側にある麓の24時間営業のコンビニまで連れて行って貰い、時間にして数分ほどではあるものの元気になるまで鈴仙が介抱してくれたという役得な経験をしていた。

お詫びにコンソメ味のポテチとペットボトルのスポーツ飲料まで奢ってもらったのだから帰ってからしばらくは「我が世の春ですよー」と言わんばかりの有頂天っぷりであり夜も眠れないほどだった。

 

その一方で拓海はというと、特に感慨にふける様なこともなくいつも通りにぼけっと過ごしていた……という訳ではない。

拓海も拓海でヤマメのFDに乗って駆け下りた時の不思議な感覚をいまだに抱えてそれについて考え込むことが多くなっていた。

 

拓海はこれまで他人の運転する車でダウンヒルを体験したことはほぼ無い。

これまで何度か父の運転するハチロクで秋名の道を走った時以来の事だった。

そんな折にひょんなことから乗ることになった2台の走り屋の車。

一方はお粗末すぎてまるでお話にならない、やたらと滑ってばかりでガタガタ揺れる上にちっとも前に進まない下手くそ過ぎるシルビア。

もう一方はその前者のシルビアを含めて何台もごぼう抜きにして、しかも自分と同じような走り方(ドリフト)を駆使する、めちゃくちゃ上手いFDと呼ばれた空でも飛びそうな羽をつけた派手な車。

 

奇しくもこの2台の対比が拓海の中での『走り』というものに対する意識を変えるきっかけになろうとしていた。

先述の2台のうち、前者の車はいつどこにすっ飛んで行くか分からずただ怖いだけだったが、後者の車は初対面の他人が乗るよく知らない車であるにも関わらず何故か、どういう訳だか少し心の中で楽しいと感じてしまった自分がいた事に気がついてしまったのだ。

 

これまで拓海にとって車とは、ただ豆腐の配達のためだけに存在するのみで楽しいなどという感情を抱いた事はなかった。

むしろどこか辛いこと、面倒くさいものという感覚すらあった。

その筈なのに……である。

拓海はあの日に起きたその不思議な体験に対して、未だに心の整理というのがついていなかったのだ。

 

イツキ「土曜日の夜……拓海ん家のハチロク借りられないか?今度の交流会、俺たちもギャラリーに行こうぜ!あの赤城最速レッドサンズの高橋兄弟の走りだって見れるしぃ……何よりファンタジアのあの子たちともう一度会えるんだぜ!くぅ〜〜〜!今から楽しみで楽しみでたまんないぜ!……拓海ぃ、お前だって覚えてるんだろ?あの走り屋の女の子の横乗りした時の……あ、でも池谷先輩のS13でギャーギャー騒いでたくらいだからなぁ……俺でもキツかったあの子たちの隣じゃあもしかして失神とかしちゃったり……?」

 

拓海「いや、そんなことねぇよ。……むしろ先輩の車よりも乗り心地良かったし、全然気持ち悪くならなかったっていうか……」

 

むしろ失神していたのはイツキの方なのだがその辺のことは綺麗さっぱり棚に上げている。

思い出しただけで口元が綻び、すぐに調子付いて言わなくてもいいことまで口を滑らせてしまう典型的なお調子者のイツキに対し、拓海の返答は案外そっけないものであった。

 

イツキ「またまた強がっちゃってさぁ!別にいいんだぞ拓海ぃ!俺とお前の仲なんだからさ!」

 

拓海「いや、マジでなんともなかったって。あの子の運転、すげぇ上手かったしさ。……やっぱりそういう感じ、お前に言ってもきっと分かってくれねぇよ」

 

イツキ「はぁ……?何言ってんだよ、また……」

 

池谷先輩の隣でげっそりしていた拓海とのやりとりでも似たようなことがあったと思い少しむくれた表情をするイツキ。

ただしそれもすぐに引っ込めて本来の話題へと回帰する。

 

イツキ「で、どうなんだ?お前も行くだろ?今度の土曜日!……お前ん家のハチロク、出せそうなのか?」

 

拓海「いや、まぁ……行くことに関しちゃ別にいいんだけど、あの車は親父のだし……勝手に持ち出せないんだ。一度聞いてみねぇと分かんねぇよ」

 

イツキ「それじゃあ、帰ったらすぐ聞いて電話してくれよ?約束だかんな」

 

拓海はヤマメとの出会いを経て少しだけ、ほんの少しだけ走りに対する興味や関心が湧いてきたという自覚はあるために友人であるイツキからの誘いであることを考えても、拓海としても観戦に行くことに対して特に否はなかった。

 

普段からお世話になっている職場の先輩の晴れ舞台であるし、もしかしたら自分を乗せて下まで送り届けてくれた彼女がタイムアタックとやらに出走するかもしれないなんていうことを考えているうちに、拓海自身も先輩や彼女の応援くらいなら行ってもいいかと考えるようになっていたのだ。

 

イツキ「そうだ拓海。今日は早く終わったし、バイト行く前にちょっとそこのゲーセンでセガラリーやってこうぜ!」

 

 

 

イツキに誘われるままにゲーセンへと入る拓海。

行きつけとも言えるほどの頻度で通い詰めている2人からすれば、このゲーセン特有のガヤガヤとした騒がしさにも既に慣れたもので、2人は迷うことなくセガラリーの筐体へと足を運ぶ。

この時間帯は人も少なくスイスイと歩を進める。

筐体の少し手前、他のゲーム機の死角となる曲がり角で偶然同じ学校の生徒と鉢合わせとなってしまい、お互い少しギョッとするも、軽く会釈するのみですれ違う。

 

たどりついた拓海とイツキが目にしたのは直前までプレイヤーがいたであろう無人のセガラリーと、そこに表示されていた走り終えた後のリザルト画面だった。

車種はランチアデルタ。

今までさほど車に対して熱心に興味を向けては来なかった拓海であっても、このセガラリーを通して名前と見た目くらいなら知っている数少ない外国車の中の一台だった。

タイムはそれなりにやりこんでいる拓海から見てもかなり良い。

もしかしてさっきの生徒なのかと思い一度拓海は振り返るも、当然もうそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

それから約1時間後。

ところ変わり、市内のガソリンスタンドではさっそく拓海とイツキの2人が池谷たちと共に働いていた。

とは言え、この時間帯はここのスタンドに立ち寄る車はそう多くは無いため、誰もいなければ必然的に彼らの雑談時間と化してしまう。

 

イツキ「先輩先輩。今度の土曜日、タイムアタックがどうとか言ってましたよね?やっぱり先輩がチームを代表して走るんですか?」

 

自らの愛車であるS13のタイヤを見つめて何かを考え込んでいた池谷に、イツキが声をかける。

 

池谷「あぁ、当然だ。リーダー名乗ってんのに肝心な時にチーム背負って走れないんじゃあ、走り屋失格だろ。レッドサンズ戦での下りは俺が、上りは健二が、ファンタジア戦での下りは滋が、上りは四郎が担当することにしたよ。一応助っ人も探していたりはするんだけどな。目星も付いてるし……。そうなったらその助っ人にレッドサンズ戦の下りを任せて俺は上りを走る。そうなった場合、健二はファンタジア戦の下りの担当にするって、もう決めてあるんだ」

 

イツキ「助っ人……?今の秋名に先輩たち以上に速い走り屋なんかいるんすか?そんなのに頼らなくたって、きっと先輩が本気出したら大丈夫っすよ!」

 

池谷「ありがとう、イツキ。でも俺たちは今のままじゃダメなんだ。今回の交流戦、正直言ってかなり厳しい戦いになる。だからこうやってタイヤやブレーキのチューンをして少しでもタイムを稼ごうと努力はしてるんだけどな……。それだけやっても俺たちの不利は変わらないんだ。助っ人を連れてこようってのも藁にもすがる思いでやってるんだよ……。アイツら、1人の例外もなくめちゃくちゃ上手いんだ。今までのやり方で走ってたんじゃ絶対に勝てない。初日に散々やられまくったおかげで、目覚めたんだよ……現実に」

 

いつになく神妙な面持ちの池谷に対して、流石のイツキも何も言えなくなってしまう。

自分の憧れの走り屋チームである秋名スピードスターズが数日後の交流戦を前にして相当追い込まれている事が、イツキにも分かるほどにその言葉の一つ一つから滲み出ていたからだった。

 

その池谷の見つめる先にあるシルビアの足は、確かに以前のものとは違った装いをしていた。

タイヤは国産トップレベルのドライグリップを誇る高額な国産スポーツタイヤのダンロップフォーミュラに、ブレーキパッドは高橋啓介の使用しているブランドと同じエンドレスになっている。

どちらも近所の店舗に運良く在庫があったため即断即決で購入を決めたのだ。

 

普段は安物のアジアンタイヤや中古タイヤに純正ブレーキでやりくりしている中で、前々から考えていたとは言え新品の国産ハイグリップの導入に有名ブランドのスポーツブレーキパッドの装着はかなり財布に堪えたはずである。

今日は仕事が終われば1日タイヤの慣らしとブレーキのあたり付けのために、ハードに走りこむことはせず地味な練習に終始するとの事だった。

それをした上でなお助っ人に頼らざるを得ないとなると、彼らの立たされているその苦境の程というのは想像するだけでも恐ろしいものがあった。

 

 

 

そんな時だった。

一台のスポーツカーがスタンドに入って来たのが彼らの目に止まる。

それはリアフェンダーにレッドサンズのステッカーを貼り付けた、純正色塗装のハイマウントリアスポイラーを装備した目立つ黄色のFD3S型RX-7……高橋啓介だった。

高橋啓介は給油装置の真横に車を付けると窓を開けた。

ハイオク満タンの注文だけすると、スタンドの奥に止めてあるS13に視線を飛ばした。

 

啓介「スピードスターズのリーダーが働いてるガソスタってのはここだったか。……いきなりで悪いが、秋名山のバカっ速いハチロクについて聞きてぇ。話の出どころはここの店長だって昨日お前んところのメンバーから話を聞いてな。ガソリン注ぐついでに寄ってみたって訳だ。出来ればそいつに直接繋ぎを取りてぇ」

 

池谷「いや、そうは言われましても、困りますよお客さん。そんな眉唾みたいな話……」

 

啓介「眉唾なんかじゃねぇよ。……俺は確かに見たんだ。俺とファンタジアのセリカとのバトルに乱入して来て、俺らをまとめてブチ抜きやがったハチロクを!」

 

池谷「え……」

 

啓介「何とぼけてんだ、あんだけヤバい車を地元が知らねぇ筈がねぇ。パッと見ただのハチロクでも、ありゃあ中身はカリッカリにチューンされたバケモンだぜ」

 

池谷「何を言ってるんだ……」

 

啓介「何だよ……あくまでバックレるつもりか。お前以外のメンバーにも黙って……秘密兵器のつもりだかなんだか知らねぇが、そっちがその気ならこっちも望むところだ。もしかしたら昨日話した他のメンバーからお前も話聞いてるかと思ったら、ここにまで伝わってねぇみたいだからな……例のハチロクへの伝言をお前にも伝えとく。……本番当日に秋名山で待つ。もう一度俺と戦え!一度目の負けは俺の油断とコースへの熟練度の差だが、次はねぇってな!俺は絶対に諦めねぇ!同じ相手に二度は負けねぇ!……きちんと伝えとけよ。あのお化けみてぇなパンダトレノにな!」

 

高橋啓介のその言葉に池谷は驚きのあまりに口を詰まらせる。

しかしその当人はその伝言だけ伝えると窓を閉めてとっとと出ていってしまった。

その場には呆気に取られた池谷たちだけが取り残された。

 

池谷(パンダトレノ……今パンダトレノって言ったのか?それに高橋啓介とそれとタメ張るレベルのファンタジアのセリカが負けたぁ……!?マジで知らないぞそんなハチロク……いや、まさか拓海の家の豆腐屋にあった車は間違いなくパンダトレノだった。店長が話していたそのハチロクのドライバーは豆腐屋の親父だって……まさか拓海の親父、マジで伝説の走り屋だってのかぁ!?)

 

心のどこかで半ば眉唾扱いしていた話が、高橋啓介自身が「バトル中に乱入されて負けた」と言った事で現実味を帯びてきた。

店長の話していた、かつて秋名最速の伝説を打ち立てた走り屋、豆腐屋のハチロク。

この人が出て来てくれれば、もしかしたら秋名の走り屋が下に見られる事もなくなるんじゃないか……。

そう考えずにはいられなかった。

 

池谷(今日の朝は本人が強く否定してたし、俺だって半分眉唾だと思ってたからはぐらかされて厚揚げだけ買って引き返しちまったが、明日また出直そう。その時にしっかり話通して出てもらえる様に説得してみるんだ!)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

翌日、藤原豆腐店。

 

池谷「ごめんください!」

 

池谷が店に入るとそこには仏頂面の中年男性がいた。

池谷の後輩である拓海の父、藤原文太だった。

 

文太「あんたか、今日はなんだ?」

 

池谷「厚揚げください!……美味しいですよ、ここの厚揚げは」

 

文太「そうかい。……あいよ」

 

文太がビニール袋に入れた厚揚げを手渡すと、池谷が本題を切り出した。

 

池谷「あの、あなたが秋名最速って噂のハチロクですよね?昨日も言いましたけど、ある人からお話を伺って……」

 

文太「昨日も言っただろう。人違いだ」

 

池谷「いえ、この辺でハチロクのパンダトレノに乗ってる豆腐屋の親父さんは貴方だけですよ」

 

文太「はぁ……。で、なんの用だ(あのバカ、余計なことを若い奴に吹き込みやがって……。面倒なことになっちまったじゃねぇか……。まさかこんなのが土曜まで続くなんて勘弁してくれよ……)」

 

文太がようやく話だけを聞く気になったので、池谷はポツポツと事情を話し始める。

 

この前の土曜日に赤城最速のレッドサンズと県外レディースのチームファンタジアが来て来週土曜の夜8時から12時まで大規模な交流会を開くことになったこと。

相手側の2チームとの実力が隔絶しすぎていて地元なのにまるで勝負にならないこと。

ギャラリーが大勢いる中で全戦全敗はなんとしてでも避けたいこと。

そのためにも自分の今までのドラテクをもう一度見つめ直したり、他所のチームの走り屋からきっかけ程度のアドバイスを貰ったり、予算の許す範囲でチューンをしたり、単純にチームで走り込みを行う時間を増やしたりなど、今出来る最大限の試行錯誤をしていても相当厳しい状況にあること。

そこで行われるタイムアタックバトルに出来れば高橋兄弟への対抗馬として出て欲しいこと。

 

それを一つずつ、順を追って話していく。

 

文太「……なるほどなぁ。県外の奴らはよく分からねぇが、そういや赤城の走り屋は俺が走ってた頃からやたらにレベルが高くて上手い奴らが多かったなぁ。……まぁ、あんたの気持ちは分からないでもねぇが、悪いが断らせて貰うぜ」

 

池谷「……何でですか?」

 

文太「そう言うのはお前ら若いもん同士でどうにかしなきゃいけねぇ問題だ。今更俺みてぇなオヤジが出張ったところで場違いってもんだろう。ガキの喧嘩に大人が首突っ込んでどうすんだ」

 

しかし池谷の説得も虚しく文太はそれを突っぱねてしまう。

ならばせめて走りはせずとも協力だけでもして貰おうと食い下がろうとする。

 

池谷「ならせめてアドバイスだけでも頂けませんか?秋名最速の伝説の走り屋と言われたあなたから助言を受けられれば、俺たちだけでもきっと……」

 

文太「悪いがそれも無理な話だ。他人から話聞いただけで解決するほどドラテクってのは甘くねぇ。誰かから教えて貰おうがその手の本を読もうが結局は受け手であるお前たちが自分の中にそれを落とし込んで自分だけのモノに出来なきゃ意味がねぇ。お前のドラテクはお前だけのもんだ。……そもそも、誰かの受け売りだけでどうにでもなる程度のものなら最初から俺もお前も苦労なんかしねぇよ。そしてその自分の中で自分だけのドラテクを作り上げるっつーのが一番大変なわけだ。そのためには寝る間も惜しんでそれこそ朝から晩までとことん考え抜いてとことん走り込まなきゃダメだ。余程の才能でもねぇ限り、走りってのは数日そこらで身につくもんじゃねぇ。少なくとも俺はそうだった。ましてや赤城や県外の強豪らしいチーム相手にやり合おうってんなら尚更だ」

 

池谷「…………」

 

文太「どうすれば車を思う通りに動かせるのか……そこを徹底して突き詰めるために俺が現役で走り屋してた頃はそれこそ夢の中でさえ秋名の山を走り込んで腕磨いてたぜ。文字通り寝ても覚めても飯食ってても何してても車、車、車……頭ん中は車のことばかりだ。……何か一つでも思いつくことがあれば夜中だろうが何だろうが家飛び出して峠に試しに行ってたさ。例えそれがどんだけ素っ頓狂でセオリーから外れた事でもな。それでも10個思いついたうちの9個はほぼ使い物になりゃあしねぇ……。ドラテクってのはそう言うもんだ。いくつもの失敗があって、何度も無駄足踏んで遠回りして、些細なことで何日も何日も悩んで、その繰り返しだ。残り1週間もねぇのに劇的に変わるなんて思わねぇ事だな」

 

文太がそこまで言い切ると、池谷は何も言えなくなってしまう。

その場に一瞬の静寂が訪れた。

 

文太「帰んな……力になれなくて悪かったな……」

 

池谷「俺は諦めませんよ藤原さん……また来ます。……俺は秋名の山に育ててもらった走り屋だから、何も知らないよその奴らに、俺たちだけならまだしも秋名の走り屋全体のレベルが低く見られるのがどうしても我慢ならないだけなんです。秋名にだって本当に腕の良い走り屋はいるんだって事を見せつけてやりたいだけなんです。……悔しいけど、それは俺には出来ない。……でも、貴方にならそれが出来る。あの赤城最速、高橋兄弟のFDをバトル相手のセリカごと纏めてぶっ千切って一度負かしてるんですから。……その高橋兄弟のFD乗りも、貴方との再戦を望んでいるんです」

 

それを最後に、池谷は愛車のシルビアに乗って走り去っていく。

文太は黙ってそれを見送ってから店に戻った。

 

文太(やれやれ、本当に俺じゃないんだけどな……。確か池谷だっけか……まぁ、悪い奴ではねぇんだろうな)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

その日の夜、閉店間際のガソリンスタンドに一台の旧型トレノが入って来た。

店長の立花祐一は一目見るまでもなく文太の運転するハチロクであることを察していた。

 

文太「いつも通り、ハイオク満タンだ」

 

祐一「おいおい、もう閉店だぞ」

 

文太「良いじゃねぇか、堅っ苦しいこと言うなよ。せっかく来てやったってのによ……」

 

祐一「それにしても毎回毎回ハチロクの癖にハイオクたぁ生意気な奴だ……」

 

むすっとした顔でハチロクにハイオクを注いでいく祐一。

そこに文太が今日あった話を切り出し問い詰める。

 

文太「ところで、池谷とか言う若い奴に余計なこと吹き込んだの、オメェだろ。昨日今日と立て続けに来てて困ってんだよなぁ。赤城の走り屋とのバトルで助っ人に来いとかさぁ……」

 

祐一「さ、さぁ……何のことやら」

 

あからさまにギクリと肩を跳ねさせ動揺する祐一。

祐一は元々から嘘をつくのが下手な性格であったし、尚且つそれが旧知の仲である文太が相手であれば尚更だった。

 

文太「オメェ以外に誰がいるんだ馬鹿野郎。とにかく、俺は出るつもりはねぇからな。お前からもあいつに伝えとけ」

 

祐一「なんだ。出れば良いじゃないか。久しぶりに走ってみたらどうだ」

 

文太「あの池谷って奴にも言ったがな、俺はガキの喧嘩に首突っ込むつもりはねぇ。こっちまでガキみてぇで大人気ねぇだろ。なんとかしてやりてぇって気持ちもまぁ、ない訳じゃないがダメなもんはダメだ」

 

祐一「中身は今でもガキのくせに(本当は首突っ込みたくてウズウズしてるんだろうなコイツ)」

 

文太「うるせぇ」

 

祐一「まぁ、お前が出たくねぇのは分かった。昔から頑固で俺が何言ったところで曲がらないのも相変わらずだからな。……だが、ガキの喧嘩にお前が出るのを大人気ないと思うなら、ガキの方を出せば良いだろう」

 

文太「拓海に出ろってか」

 

祐一「そうだ。中1の頃から拓海に豆腐の配達させてたおかげで、今では相当な腕があるんだろう?」

 

文太「まぁな。今なら秋名の下りを走らせりゃあ誰にも負けない程度にはなってるかもな。……ま、俺には負けるがな」

 

祐一「またそうやってすぐに負けん気を出す……」

 

文太「ま、とにかくそう言うわけだ。……もうぼちぼち帰るとするか」

 

文太はそう言うと黙ってハチロクに乗り込み帰っていく。

遠ざかる4AGの音を聞きながら祐一もまた閉店の準備に戻るのだった。

 

 

 

その様子を、店舗の片隅にある給油装置の影から一匹のネズミが覗いていた。

暗がりから向けられる小さな2つの瞳に、誰も気付くことはなかった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ところ変わって藤原豆腐店。

父がハチロクにガソリンを注いで帰って来たのを確認すると、拓海は土曜の夜にイツキから走り屋の交流会のギャラリーに、日曜日に茂木から海へのデートに誘われていたため、その日に車を使わせてもらえないかを目的をぼかした上で父の文太に尋ねていた。

 

拓海「なぁ、親父」

 

文太「なんだ?」

 

拓海「土曜日の夜と日曜日、車出していいか?」

 

文太「土曜日は良いが、日曜日はダメだ」

 

拓海「なんでだよ。豆腐の配達はきちんとやるからさぁ……」

 

文太「そう言う話じゃねぇんだ。日曜日はちょうど商工会の寄り合いがあるんだよ。それに行くのに車使うから日曜だけはダメだ」

 

最も肝心な日曜日に車を出せないと知って焦る拓海。

当日使えるかも分からないのに茂木の誘いにOKを出してしまった拓海が悪いのだが、それとこれとは話が別。

拓海としては当日車を出せないとなると全てが台無しになってしまうためにとにかくゴネるしか無かった。

 

拓海「どうしてもダメか?」

 

文太「ダメだ」

 

拓海「こうなったら当日無理やり持ってくからな」

 

文太「だからダメだっつってんだろ。もう車のキー首から下げとくか」

 

拓海「汚ねぇぞ親父!もう約束しちまったんだからどうしても車が必要なんだよ」

 

文太「汚ねぇのはどっちだ馬鹿。どうしてそんなに日曜日に拘るんだ?まさかデートの約束でもしたか?」

 

文太が何気なくはなったその一言に拓海がびくりと跳ねる。

 

文太(ははーん、さては図星だな?一丁前に色気付きやがって生意気な奴め)

 

ついさっき会ってきた友人の反応を思い出しながら文太は考える。

 

「日曜日に車使わせるのを条件に、土曜の交流会にコイツ行かせてみるのも面白いかも知れんな。走り屋と付き合いあるみたいだからどうせ土曜の夜に車借りるのもそれ絡みだろうし」と。

「赤城最速やら県外の女走り屋やらを配達帰りに千切ったのは確実に配達帰りのコイツだし、そんなにバトルがしたいならさせてやりゃいいか」と。

「池谷とやらに余計なこと言って迷惑被った事に対する補填も兼ねて日曜は祐一呼びつけて足にするついでに酒かタバコをたかるか」と。

 

文太「仕方がねぇ、そこまで言うなら日曜日も車を貸してやる」

 

拓海「本当かバカ親父!いいとこあるぜ!」

 

文太「バカは余計だバカ。……ただし条件がある」

 

拓海「……な、何すりゃ良いんだ?」

 

文太「一応確認しとくが、今度の土曜日に車借りるのは山の交流会絡みだな?」

 

拓海「あ、あぁ。……そうだけど」

 

山で交流会があることとイツキに誘われてギャラリーに行くことは黙っていたはずだけどと一瞬困惑し訝しむ拓海。

しかし拓海が固まっている間に文太は言葉を続けた。

それによって拓海の疑問も自然に氷解することとなる。

 

文太「昨日今日と立て続けに店に来た池谷とか言う奴が言っていた、その交流会のバトルにお前も出ろ。そして赤城最速とか吹かしてるガキをもう一度千切ってこい。向こうもそれがお望みみたいだしな」

 

拓海「なんだぁ、そりゃあ……」

 

文太「そうすりゃあ日曜日に車貸してやる。……しかもガソリン満タンのおまけ付きでだ」

 

拓海(ガソリン満タン……!)

 

走り屋相手にバトルして勝てというよく分からない条件が父の口から出て来た時は首を傾げそうになったが、直後のガソリン満タンというワードに心を突き動かされた。

 

こう言ってはなんだが、拓海は大病院を営む地域屈指の名家に数えられる高橋家や、八雲家にスカーレット家という権力者や名門の後ろ盾があるファンタジアの走り屋とは違うため、そこまで懐事情にゆとりのある人間ではない。

特別燃費のいい車とは言えないハチロクで毎日豆腐の配達をする以上それなりにお金はかかる。

それをバイトで穴埋めしている現状で拓海が自由に使えるお金はそう多くはなく、ある程度妥協した生活というのを余儀なくされていた。

しかしその懐を圧迫しているガソリン代を、一度だけとは言え満タンで父が出してくれると言うのはかなり魅力的な提案ではあった。

 

しかし多少の心境の変化はあったとは言え、拓海にとっては車の運転というのはそれほど楽しいことではなく、それを競ったり見せあったりする集まりに友人と観戦に行くならまだしも、出場して勝ってこいと言うのは実際に出来るかどうかというのは別として、拓海にとってはなかなかに精神的ハードルの高いことの様に思えた。

 

だがその一方で、走り慣れた道で以前一度追い越したかも知れないスポーツカーをもう一度追い抜くだけで、翌日の日曜に車を借りる権利とそこそこな金額になるガソリン満タンがセットになって付いてくると思えば、それはそれで魅力的であるかも知れないとも考えていた。

 

拓海「うーん……ちょっと考えさせてくれ。明日までには決めとくからさ」

 

文太「おう、いくらでも考えろ」

 

悩ましそうに頭を抱える拓海を見る文太の口元は、少しだけ楽しそうだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

拓海「楽しい……のか?……車って」

 

早朝の配達に備えて寝るため、ベッドに寝そべる拓海。

1人考えるのは初めて走り屋という人たちと触れ合ったあの日の事だった。

消灯して暗闇の支配する部屋の中、彼の独り言に答える者はいなかった。

 




次回、レッドサンズとファンタジア側の動きを少しだけ書きます。
ちょっとだけ原作とは違って来た拓海くんの方も次回また絡みがあります。
その後は時間が少し飛んで交流戦前夜の話です。
今回は採用確定リクエストキャラがちらりと出て来ました。
今色々と補完する設定を練ったりどの部分を変えるのか変えないのか考えたりしていますので今しばらくお待ちください。

交流会本番のバトルパートは後少しだけ待ってください。
できるかどうかの保証は出来ませんが、可能であれば今年中にもう2話ほど更新したいなと思っています。

2022 / 12 / 19 19時28分 一部表現の訂正

2023 / 1 / 18 10時48分 一部表現の訂正


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第10話 迫る交流戦、それぞれの動き(後編)

予約投稿という機能を使って少し遊んでみました。
こちらはレッドサンズとファンタジア側の動向+αになります。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


ハチロクに関する噂でレッドサンズとファンタジアが意見を交換したその日、赤城山の麓にある大きな一軒家。

表札には高橋の文字があった。

その邸宅の一室で髙橋涼介は帰宅するや否やひたすらデスクトップパソコンに向かいあっていた。

周囲にはカタカタというタイピングの音が響いている。

 

啓介「入るぜ、アニキ」

 

そこに弟の啓介が入ってきた。

涼介が話をしたいからと呼んでいたのだ。

 

涼介「啓介、お前が遭遇したという例のハチロクについて、もう一度詳しく話してくれないか?そのハチロクの速さについて、何か理論的に説明できることが一つだけでもあれば良いんだが……。そのハチロクの走りが、俺が今書いている論文のヒントになるかも知れないと思ってな」

 

啓介「いや、マジで勘弁してくれよアニキ……。俺はそういう事はからっきしで、さっぱり分からねぇんだよ。……俺はアニキとは違って相手の車のゼロ発進加速を見ただけでパワーをほぼドンピシャで言い当てられたり、何本か左右のコーナリングを見ただけで相手のドライバーの癖とか腕を見抜ける様な、魔法使いみたいな目は持ってねぇ。……俺は『人間シャシダイナモ』とか言われてる様なアニキほど、賢くねぇんだよ。俺に言わせりゃアニキだってあのハチロクとは別な意味でバケモンみたいだぜ」

 

涼介「いつも言っているだろう。……ドラテクで一番重要なのは頭だってな。俺からすれば、何も考えずに俺とタメ張れる速さで走れるお前の方がよっぽどだ。……俺の理論に啓介の才能が加われば理想的と言えるんだが。……まぁいい。今度の交流戦、ファンタジアの件もあるし俺も気合を入れていく必要があるな」

 

啓介「まさか、アニキも走るのか?」

 

涼介「それはまだ分からない。スピードスターズには二軍で十分対応可能だがファンタジアには全力で当たる必要があるのは確かだ。FCのセッティングはまた一から練り直す必要があるかも知れない(例のチームの中には明らかに今の啓介では手も足も出ない様な奴が、俺が直に走りを見れたやつだけカウントしても複数いた。相当な実力者揃いというのは間違いないらしい。それと本番で当たれば確実に俺たちの戦歴に黒星が付くな。今回か、また次の機会か……ぶつかる機会はそう遠くはないはずだ。……俺も今後のことを少し考えておくか。いずれにせよ、今後の計画の修正とシミュレーションの再構築は必要だな)」

 

ここ最近、高橋兄弟の前に立ち塞がる相手は手応えのない相手ばかりだった。

勝負というにはあまりにも生ぬるいものであったそれらをきっかけに、高橋兄弟は「誰と戦ったところで勝ちは目に見えているから」と、赤城でのバトルを封印してしまう始末だった。

 

しかしここに来て、2人を取り巻く環境はガラリと変わった。

突如として現れた圧倒的な速さの正体不明のハチロクと、例のレディース走り屋集団『チームファンタジア』の存在だった。

彼女たちはとある車好きの富豪が金を使って集めた全国女子選抜チームだと謳っていたが、涼介の目から見てもその実力は粒揃いと言ってよかった。

 

涼介「そう言えば、芳樹が面白いことを言っていたな。……どうやらファンタジアの参謀役の1人らしいインプレッサ乗りとその派閥の四駆乗りのメンバーがスピードスターズに肩入れしてる様だと。お互い不完全燃焼に終わったとは言え、お前と互角の走りをしていたらしいあのセリカの師匠ポジションの女との事だ。……まぁ、スピードスターズは現状だとあまりにも弱すぎて張り合いがないからな。ライバルを育てようという試みも悪くはないか。……後から聞いてみれば、その内容もなかなかに面白いものだったぞ。……今度啓介も話を聞いてみたらどうだ?もしかしたら何か為になる知識が得られるかもな」

 

啓介「んなもんどうでもいいよ別に……知識お化けはアニキ1人いればそれで十分だぜ。……そもそも、よその走り屋からのアドバイスなんか俺には必要ねぇだろ。一番やりそうなあの黒いFDの女走り屋だって、俺の前を走った事は一度もねぇ。少なくとも、今の群馬に俺とアニキ以上の走り屋なんかいないんだ。あのハチロクだって、今度は絶対に俺が勝つんだからな」

 

涼介「全く、そういうところさえ無ければな……」

 

啓介「何か言ったか?アニキ」

 

涼介「いや、なんでもないさ(……俺の読みでは、啓介が例のハチロク以外でも意識しているあの黒いFDも、啓介よりも遅いから前を走ったことがないのではなく自分の速さを偽って手の内を本番まで見せないためにあえてそうしているんだろう。全く抜け目がない奴だ……。とにかく、あのチームには警戒すべき相手が多すぎる)」

 

やはりある程度わかっていたことではあったものの、涼介は今の啓介の中に渦巻く慢心に不安を抱く。

啓介はここのところ敗北どころか苦戦すら経験していない。

向かうところ敵無し。常勝無敗。

それが現状での満足という成長への足かせに繋がってしまい、今のままでいいという停滞を招いている。

 

今回の交流戦を企画した理由も、レッドサンズと高橋兄弟の名を関東の峠にコースレコードとして刻みつける関東最速プロジェクトの達成以外にも、その過程で啓介に外部からの刺激を与えて成長を促し、自身を覆う殻を破って自分から巣立ってくれることを期待してのことだったのだが、それもこの調子では望み薄であった。

ハチロクに敗れたことでさえ、走り込みで乗り手も車も消耗していたこととハチロクという車種に対する油断があったこと、秋名の峠に対する経験値不足が主原因と考えていて、自身の技量不足という視点は残念ながら抜け落ちている。

 

涼介「……とにかく、そのハチロクに俺も興味が出てきた。いずれ後を追って分析する機会を作ってみたいもんだな」

 

涼介はそう言うと、再びパソコンに向き合い何かを打っていく。

そして、その機会と言うのは彼の思う通りにそう遠くないうちに、しかし彼の想像とは少し違う形で訪れる事となるのだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

翌朝。

ところ変わり、渋川市内にある某安アパート。

八雲家が外の世界に所有する会社の名義で買い取ったもので、簡単な改装や補修をしてファンタジアのメンバーが宿泊できる様にしていた。

ここは隣に小さな空き地を挟んで寂れた自動車修理工場が建っており、走り屋チームが拠点とするにはちょうど良い立地であった。

隣の工場は幻想郷のチューニングショップでありチームとは協力関係にある山河わぁくすの所有となっている。

間に挟まれる空き地も買い取り、生い茂っていた草を刈り取って簡単に地面を均して簡易駐車場としているため、かなり恵まれた環境での活動が可能であった。

群馬を活動拠点として採用した理由も、偶然見つけたこの場所の利便性を考慮してのことだった。

 

一時的な遠征とは言えターゲットとなる場所も多岐に渡り、(メンバーの一部が常に幻想郷にいる様にローテーションを組んでいる以上、そこまで極端な悪影響はないものの)かなりの長期間の滞在となる。

そのためある程度腰を据えて活動できるセーフハウスの様な場所が必要があった事もあり、ここまで大掛かりな準備を行うこととなってしまったが、これでもあの手この手で安く仕上げている方ではあった。

 

そんなアパートの一室では数人の幹部メンバーが朝から卓を囲んで話し合っていた。

各々の側にはお茶の入ったコップが、中央にはお茶菓子として外の世界のお菓子が積んであるため絵面だけを見れば女子会か何かの様に思えただろう。

しかし話す内容は至って真面目でお茶会と言うよりは密会とでも言うべきものであった。

 

藍「……既に聞いているものとは思うが、高橋兄弟以外に本番に向け注意すべき存在、秋名山に現れたと言う謎のハチロクに関してだ。まぁ、ちょっとしたイレギュラーという奴だ。……なぜあんな高橋涼介クラスの奴が事前の調査では引っかからなかったのかは気になるが、しかし幸いなことに正体については案外簡単に判明したんだろう?」

 

白蓮「えぇ、ナズーリンが近隣での情報収集目的で放った数匹の妖怪ネズミのうちの一匹が近場のガソリンスタンドで情報を拾ってきました。例のハチロクはこれまた近所の豆腐屋を営んでいる親子らしくて、聞くところによると息子も相当な腕だという話ですよ」

 

今回の密会で中心的な役割を果たしている八雲藍が問いかけると、その後に続いて白蓮が答えた。

思いのほか早くに有力情報が手に入ったのは良かったが、かと言ってこちらからの何らかの積極的なアクションを取るかどうかはこの段階では決めかねていた。

 

慧音「あぁ、親子のどちらかは分からないがはたてと高橋啓介を仕留めたほどだ。まだまだ未知数なところは多いが、相当な実力の持ち主だろう。それに可能性としては低いが、万が一という事もある。……もし本番でスピードスターズの助っ人として、高橋啓介ではなくこちらにぶつけられた場合を想定して、出走メンバーの人選は良く考えた方が良いかもしれないな」

 

藍「とは言え、何か対策を講じるとしても、ここにいる面々が相手の走りを見てない以上はどうにもな。目撃者の二人を信頼していないわけではないが、双方で意見が割れてしまった以上は証言だけでは判断材料として少し弱いか」

 

このハチロクに対してどういう立場をチームとして取るのか、今後を見据えてどうすべきかと言うところになるが、藍からすれば情報の出揃わない現状では慎重に、少なくとも大胆な動きは控えるべきだと考えていた。

既にスピードスターズのリーダーである池谷が件の豆腐屋に通っては父親の方をタイムアタックに参加する様に説得をしているらしく、本番にどちらかが姿を見せる可能性は高かった。

また、レッドサンズの高橋啓介もスピードスターズのメンバーにハチロクに対する再戦の申し込みを伝言という形で頼んでいるため、それが上手く伝わればなおさら近いうちに表舞台に出てくるのは確実視されていた。

であればわざわざこちらから何か積極的なアプローチを取る必要性は特に感じなかったのだ。

 

ちなみにこのハチロクの噂ははたての口からファンタジアのチーム内にも既にある程度は浸透していて、興味を持っている代表メンバーもちらほらと居た。

本人たちのやる気も加味して、当日の対ファンタジア戦でハチロクが出てきた場合の担当は彼女たちの中から選出する事にはなるだろうが、相手の手の内が分からないうちに先走って色々決めてしまうのは得策ではない。

いくらこの場に頭脳派の面々が集まっているとは言え、不明点や不確定要素が多い以上は現状取れる選択肢はそう多くは無かった。

 

白蓮「なら、当面の間は様子見という事で良いのかしらね」

 

藍「まぁ端的に言えばそういう事だな。他のチームの様にバトルを申し込んだりスカウトしたりと言った積極的な行動を起こすというのは控えた方が良いだろう。会って話すくらいならば良いかもしれないが。今回はあくまで正体が判明しただけであって、相手の手札まで暴いた訳ではない。安易なバトルは禁物だ。……もちろん、チームとしていずれは勝ちたい相手ではあるものの、しばらくは相手の情報を拾い続けることに注力し、ここぞという時まで待ちに徹するべきだと考える」

 

白蓮「他の2チームが積極的に例のハチロクに対して動いているのを尻目に一歩引いた立場から虎視眈々と機を伺う……積極性はありませんが、しかし手堅いやり方であるとも言えますね」

 

藍「そうだ。……もしスピードスターズが上手くそのハチロクを交流会に引き摺り出して、高橋啓介がそのハチロクとの再戦を果たしてくれれば、勝敗に関わらず様々な情報が一挙に手に入るだろう。対ハチロクにおいてはあえて先手はレッドサンズに譲り、こちらはその情報を元に策を練ってからバトルをする。これが一番確実だろう」

 

慧音「ふむ……要するに、両チームの動きを利用してハチロクの脅威度と動向を探ろうという腹か。高橋啓介とのバトルを見てハチロクの手の内を把握した後に対策を練るのなら、勝率はぐんと上がるな」

 

藍「あぁ、勝ちたいと思うのであればこそ、ある程度慎重を期してかかった方がいい。未知の相手であれば尚更だ」

 

慧音「多少の強硬策も許されるのなら、いくらでもやりようはあるんでしょうけど、私たちにそれは出来せんからね。……もちろん、私個人としてもそうした手段を問わないような勝ち方は望みません。であればこそ、慎重策を取り準備を重ねてからというのも悪くはないでしょう」

 

白蓮の言う通り、手段を問わずにやろうと思えばそのハチロクに勝つ事は現状でも理論上は可能ではあるだろうと考えられた。

しかしこのチームの結成に際して設けられたルールというか制約がある以上は、それに則ったやり方で戦う必要があったのだ。

 

「美しく戦うべし」というのはそのうちの一つである。

と言ってもこれは簡単な話で、相手を物理的に潰してでも勝とうとするなとか、マシンを故意的にクラッシュさせるなとか、バトル中に能力を使うなとか、イカサマや八百長はするなとかの最低限のスポーツマンシップやマナーの尊守を義務付ける様な内容で、要はある程度のフェアプレーを心がけよと言うことだった。

もちろん、相手の方がむしろ「そういう奴ら」であればその限りではないのだが。

 

彼女たちは皆、そのハチロクを地元の秋名から引き剥がして地の利を潰した上で、パワーのある上によく曲がる様な性能的に遥か格上の車に乗るメンバーが戦うか、あるいは藍のシビックRや慧音のGDBが戦うかすれば楽に勝てるだろうと言う確信があったが、そんな大人気ない勝ち方をしても結局意味がないと言う点もまた、彼女たちは各々共有していた。

 

例えばの話、例のローパワーNAと推測されるハチロクの走り屋を直線や高速セクション主体の富士スピードウェイにまで引き摺り出してきてハイパワーターボの車でぶっちぎって勝ったとして、それは本当の意味で勝ったと言えるだろうか。

この問いにプライドのある走り屋であれば誰しも否と答えるはずである。

峠なら峠で、首都高なら首都高で、サーキットならサーキットで。

バトルというのはあえて堂々と相手の土俵に上がり込んで持てる全てをぶつけて勝ってこそと言えた。

 

藍「……それにな、高橋啓介本人が強く再戦を望んでいるのに、肝心の本番でこちらが下手な横槍を入れるのも野暮な話だ。もっと言えば、レッドサンズに加えてこちらまでスピードスターズを放置して露骨にそのハチロクへの執着や対抗心を見せれば、最悪の場合はせっかくこの交流会に賛同してくれたスピードスターズの顔を潰す事にもなりかねない」

 

白蓮「確かに……他の参加2チームやギャラリーの興味関心や注目が、自分たちが招いたとは言えたった一人の助っ人に全て掻っ攫われて、自分たちは蚊帳の外という訳ですからね。きっと、内心面白くは思ってはいないかもしれません」

 

慧音「本番では、ある程度スピードスターズの顔も立ててやらねばならないのは、私としても納得のできる話だ。何せタイムアタックの前座にあたる隊列走行が、初日にいたメンバーを中心として早くから立案された経緯も殆どそのためと言っていい」

 

藍「そう言う事だ。……もちろん、私としても他のチームを当て馬がわりにして美味しいところだけを掻っ攫うなんて無粋な事はしないさ。利用する形となったレッドサンズにもスピードスターズにもそれに見合った利益や見返りが出る様に動くことも考えている」

 

慧音「なるほど、分かった。……だが、一応私としてはメンバーのうちの誰かを本人と接触させてみて一度探りを入れるのも、情報収集という点ではありだと考えているがどうだろう?……相手が豆腐屋なら、誰かに豆腐を買わせに行けばいいだろう。何も不自然なことはないはずだ。そのついで程度でもそのハチロクを近くで観察できる機会があれば儲け物だな」

 

白蓮「それなら、例え短い時間の接触でも、車やその操縦技術の秘密の様な深いところは分からずとも、外装のようなさらりと分かる程の簡単な仕様や、乗り手本人がどういう人物か程度なら多少把握する事は可能ですからね」

 

藍「そうだな。その程度であれば良いだろう」

 

慧音「なら後で私の方から一人見繕って、夕飯の買い出しにでも出しておこう」

 

藍「それと、一つだけいいか?」

 

白蓮「……?どうかしましたか?」

 

藍「豆腐屋に行くなら是非とも油揚げを買って来るように頼んで欲しい」

 

慧音「はぁ……分かった。それも伝えておくよ……。まぁ……一応こんな感じで以上かな」

 

最後に空気が弛緩したところで、ハチロクの件に関しての話題を一度切り上げる。

それからは先ほどとは打って変わって、外の世界の空気はどうだとか、ナンパが酷いだとかといった他愛のない会話が続いていく。

半刻もしないうちに茶菓子が無くなり、後片付けをして自然解散となった。

 

白蓮は隣接する工場でマシンのセッティングを行っている他のメンバー(どうやらシルビア組が足の減衰やアライメントを本番に向け各々調整しているらしい)の手伝いに、藍は慧音から協力の承諾を取った上でレッドサンズの髙橋涼介に『ある提案』を持ちかけるためにその場を離れ、そして慧音は目星をつけて居たあるメンバーに午後の買い出しの依頼をしたあと、寺子屋の仕事ともう一つの野暮用のために愛車のGDB-Fを他のメンバーに預けて一度スキマを通って幻想郷へと帰って行った。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

その日の午後、少し日の傾きだした頃の藤原豆腐店。

父が近場の店までちょっとした用事で自転車に乗って出掛けていて、店を留守にしている間の店番を任されていた拓海の前に予想外の来客が現れる事になる。

 

店に近づく特徴的な車の音に気がついた拓海は、読んでいた漫画を閉じて傍に置くと店の入り口に目を向ける。

なおも近づくそれは店の前に差し掛かると路肩に寄せて停車した。

拓海にとって見覚えのあるその黒いスポーツカーは確かにあの日の晩に見た、とある少女のものだった。

 

ヤマメ「ごめんくださーい!……って、あれ!?拓海くん!」

 

車から出てきたヤマメが店の戸を潜ると、中にいた拓海に驚き声をあげる。

慧音からこの店に豆腐を買いに行く様にお使いを頼まれただけのヤマメにとってもこの店に拓海がいる事は予想外だった。

しかしそれと同時に心の中で納得した。

店の看板と彼の姓が藤原姓である事から考えれば、それは当たり前のことではあった。

 

ヤマメ「君、この店の子だったんだ!?」

 

拓海「ま、まぁそうだけど。……ところで、ヤマメちゃん……で良かったよな?どうしてここに?」

 

ヤマメ「私はちょっとしたお使いかな?私たちのチームはこの近くの安アパートを丸々借りてそこに泊まってるんだけど、慧音……今日の夕食当番のメンバーから豆腐が足りないから買ってきてくれないかって頼まれちゃってさ、ここの豆腐店を指定されたんだけどまさか拓海くんの店だったなんてね(多分何か理由があって私をここに寄越したんだよね、慧音は。……豆腐の買い出しを口実に。店の隣にあるハチロク絡みかな?)」

 

ヤマメはここまで来た理由を拓海に話しながらも頭を回して考える。

わざわざここを指定してヤマメを送り込んだという事は慧音はここに拓海かその父がいることを事前に知っていた事は確実だった。

そしてはたてが話していたハチロクの話と、ここのガレージにある側面に藤原とうふ店と書かれたハチロク。

そして自分が横に乗せた時にドリフトさせてもまるで動じなかった藤原拓海の姿。

ヤマメの中でそれらのパズルのピースがカチリと嵌る。

そして「ある考え」に至ったのだった。

 

拓海「……そうだったんだ。それで……」

 

ヤマメ「あ、そうだったね。私たちってチームで泊まってるからかなりの大所帯でさ、買い出しに頼まれてた豆腐の量もそれなりに多いんだけど大丈夫かな?」

 

拓海「量にもよるかな。多分大丈夫だと思うけど」

 

ヤマメ「じゃあ今から言うからそれ用意してもらえる?……絹が8丁に木綿が5丁、油揚げと厚揚げが10枚ずつ、おからを300gね。……そうだ。豆腐を用意してもらってる間に外のハチロクちょっとだけ見てて良いかな?変に触ったりしないからさ。やっぱり車が趣味だから気になっちゃってね」

 

拓海「えっと……まぁ、大丈夫だと思うけど」

 

ヤマメ「ありがとう。拓海くん……あ、先にこれお代ね。大した時間はかけないから、すぐに戻るわ」

 

拓海が大丈夫だと伝えるや否や、ヤマメは出口に向かいガレージへと消えていった。

渡された金額は彼女が注文した分の代金ぴったりの額だった。

思いのほか頭の回転が速いらしい彼女にちょっとした驚きを感じながらも拓海は言われた通りの豆腐を用意していく。

それから数分ほど、ちょうど拓海が彼女の伝えた分量の商品をプラスチック容器にパック詰めしたり袋に入れたりし終えた頃にヤマメが戻ってくる。

 

ヤマメ「改めてありがとう、拓海くん。それじゃあ……」

 

拓海「……ちょっと、いいかな」

 

ヤマメ「ん?どうしたの?」

 

それなりの量となった豆腐をビニール袋に小分けにしてヤマメに手渡す。

一つ二つ渡すと彼女はそれを左腕に通してぶら下げて行く。

そんなに豆腐を腕からぶら下げて重くないのかと思ったが彼女の顔を見れば至って平気そうな顔をしていた。

 

そこで、拓海は少し気になっていた事を切り出した。

 

拓海「今度の土曜日、交流会ってのがあるんだったよな」

 

ヤマメ「……?そうだけど」

 

拓海「その……ヤマメちゃんもさ、走ったりするのかなって。……その日、友達に誘われてギャラリーに行く事になったから」

 

緊張からか顔を赤らめて話す拓海が、今度の土曜日に山に行く事を伝える。

 

ヤマメ「そうだよ。私は一応チームの代表メンバーって事になってるからさ、タイムアタックの方でも選ばれるかも。もちろんその前のフリー走行でも何本か走るつもりだけどね。……拓海くんが来てくれるなら、尚更頑張んなくちゃ」

 

拓海はもしかしたらスピードスターズの助っ人としてバトルに出るかも知れないとは言えなかったが、そんな事を知ってか知らずか、ヤマメは少しだけ嬉しそうに口元を緩めながらそう答えた。

 

荷物の量が量のため、拓海は一応出口まで見送りに出る。

ヤマメは油揚げや厚揚げの入ったビニール袋を右手で持ちながらも器用にFDのドアハンドルを引っ張って助手席のドアを開けるとそこにはクーラーボックスが二つ鎮座していた。

一つは座面の上に、もう一つはフロアに。

 

ヤマメは夏場に買い物をするとき、氷や保冷剤入りのクーラーボックスを隣に置いて買い物をしていた。

彼女の車には軽量化のためエアコンがついていないため、冬はともかく夏に食料品の買い物をするときはこうせざるを得ないのだ。

加熱済みの食品ならまだしも、生モノを保冷剤も無しに車内に置いておけば帰るまでの間に腐ってしまう。

 

そのクーラーボックスに慣れた手つきで豆腐と油揚げ、おからなどを詰めていき、詰め終わると蓋を閉じて金属製の留め金を左右ともパチンとはめる。

ふぅ、と一息つくと助手席のドアを閉めて拓海の方を振り返る。

 

ヤマメ「じゃあ、交流会当日の秋名山で待ってるわ。……私たちもギャラリーを退屈させない様に頑張るからね」

 

拓海「あぁ……。ところでさ、走るのって……楽しいのかな?」

 

ヤマメ「うん。……すっごく楽しいよ。拓海くんも、そういう場所に来ることがあるなら、きっと分かる日が来ると思う」

 

拓海からの問いかけに一瞬首を傾げそうになるが、率直に楽しいと答えるヤマメ。

拓海はどう返していいのか分からないまま、黙り込んでしまう。

ヤマメは運転席側に回ってドアを開けた。

 

ヤマメ「それじゃあまたね、拓海くん。土曜の夜に会いましょう」

 

そのまま車に乗り込むと、エンジンをかけて走り去っていった。

拓海にはただ彼女の車が曲がり角へと消えて行くまで見送ることしかできなかった。

彼女のFDが完全に視界から消えると踵を返して店の中へと戻ろうとしたが、ふと止めてあったハチロクに目が止まる。

 

店に戻る前に何となくそのボンネットに手を置いてみたが、今の拓海には乾いた金属の感触しか分からなかった。

 

 

 

 

 

ヤマメ「やっぱり……はたてが言ってた例のハチロクのドライバーって、拓海くんなのかな……?」

 

一人呟くヤマメの言葉は、ただ車内に響く13Bのエンジン音にかき消されていった。

 




次回、前日の話を挟んでから本番へと移ります。
多くの二次創作作品でもさらっと流される交流戦前の1週間、ここまで書いたの自分だけでは……?

ちなみにですが、早いとこ皆を走らせたいのは作者も同じです。
あと、流石に10万字以上書いていると序盤のあたりとの微妙な齟齬がでてきてないか気になってきます。


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第11話 前夜祭と前哨戦

更新が遅れてしまいまことに申し訳ございませんでした。
年末年始にかけて色々なことが立て続けに起きてしまいパソコンに向かうことすら困難でした。
近いうちに活動報告にまとめさせて頂きます。

また、他の方の作品とか読んでいると自分の作品は1話あたりの文字数が多すぎるのではないかと思ったのでちょいちょい描写を削減して7000文字以下に留めてみました。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


少し時間は飛びこの日はついに本番前日となる金曜日の夜。

この日も各チームから多くのメンバーが秋名の峠に練習に訪れていた。

それはもちろんスピードスターズとて例外ではなく、池谷と健二たちのシルビア組は4台で隊列を組みながらサイドブレーキを使ったドリフトの練習をしていた。

本番に走る順番をある程度踏襲して先頭にはS12の隆春を置いた。

後ろに池谷と翔一、最後尾に健二の順だ。

 

今は彼らにとって最後の難所として立ちはだかる四連ヘアピン。

第二ヘアピンを抜けて第三ヘアピンへと突っ込んで行く。

このヘアピンの連続する区間はドリフトの始動と解除、そしてまた次のコーナーへのドリフトの姿勢作りへと移り……と、せわしなく右へ左へとステアリングを回しペダルに足を行き来させる必要のある場所だった。

最初のうちは操作が速すぎたり遅すぎたりあるいは他の操作と混ぜこぜになってしまったりであわやクラッシュかといった状態になることも多々あり割と散々な有様だったが、今ではそれなりに格好が付く様になって来ていた。

 

もちろん、そこそこの頻度でカウンターステアの当てすぎによってお釣りを貰うなどするためコントロールの精度の甘さは隠し切れるものではないものの、レッドサンズのメンバーたちをもってして「あの下手くそが一週間でここまで走れる様になれりゃあ上出来」と言わしめるほどの成長っぷりであった。

 

池谷(よし、段々ドリフトが理解できる様になってきた。ドリフトはさせるまでは簡単だがその後のコントロールとドリフト状態の解除の仕方、タイミングが難しいし大事なんだ)

 

翔一(影狼ちゃんやレッドサンズの人たちから教えてもらったサイドターンの練習が生きてる気がする。滑らせて曲がるってのが何となく体に馴染んできた。ただしまだカウンターステアの匙加減が難しい。当てすぎると今度は逆側に振り回される。なかなか上手く抑えられない!)

 

隆春(サイドドリフトは最初にやったサイドブレーキターンと本質は変わらないんだ。……今なら分かる。スライドってのは抑え付けるんじゃなくて、コントロールするものなんだ。アクセルとカウンターステアで)

 

健二(コーナー直前、一瞬サイドを引く。リアをわざと破綻させる。滑るリアをコントロールする。この流れを体に染み付かせていく。……大きくリアを振る大胆に見えるアクションを作るのは冷静さと緻密さなんだって、慧音さんたちの言っていたことが走れば走るほどに痛感させられる。やっぱりあの後頭下げてドラテク教えてくれって池谷と一緒に頼み込んだ甲斐があったな!)

 

池谷(……俺たちはもう先週までの俺たちじゃない。でもここはまだまだスタート地点であって、ゴールじゃない。まだ本番で結果を出せた訳じゃない。俺たちが胸を張って地元を名乗れるくらいにまで腕を磨いて生まれ変わるのは、これからなんだ)

 

本来の歴史ならば拓海という圧倒的な存在に半ば引っ張られる様にしか進まなかった彼らが身近なお手本や助言をくれる師を得て、なおかつ彼ら自身が考えて他者の技術やアドバイスを吸収しようとしていた。

彼らはレッドサンズとファンタジアという新しい刺激を受けて、ついに一皮剥けようとしていたのだ。

 

第三、第四ヘアピンをどうにか抜け、緩くカーブしているものの便宜上は短いながらも直線として扱われる区間へと差し掛かる。

 

健二(やっぱりキツいぜ!こう、何本も何本も繰り返してると精神力と体力をかなり使う!だけどこんなところで挫けてちゃダメだ。本番はもうすぐそこなんだ。絶対にモノにしてみせる!)

 

池谷(ステアリングがっしり握ってドリフトの旋回Gに耐える姿勢を取るだけでも体力的にキツい!でも、ここ一週間毎日コツを教わりながら走り込んだおかげで多少サマにはなってきたんだ!確実に練習の成果は出てるんだ!まだレッドサンズの一軍やファンタジアのみんなみたいに綺麗なブレーキングドリフトは出来ないが、それでもこれは貴重な一歩ってやつなんだ!)

 

次に迫るは4連ヘアピンに続く第五、第六ヘアピン。

スピードスターズのメンバーたちは今までとは違うことを、まだ本番前日であるにもかかわらず走り屋目当てに秋名に現れたギャラリーたちへアピールする様に、連なりながら突っ込んだ。

 

ギャラリー1「来た!スピードスターズのシルビアだ!」

 

ギャラリー2「あいつら上手くなってねぇか?なかなかいいツッコミだぜ!」

 

ギャラリー3「あぁ、前よりも腕上げたな!サイドドリフトも上手いぞ!」

 

ギャラリー1「レッドサンズに触発されたんだろ?ここ最近、毎日来てるってさっき小耳に挟んだよ」

 

ギャラリー3「もしかしたら、県外チームの女走り屋にも良いところ見せてあわよくばとか思ってたりしてな」

 

ギャラリー2「それはお前だろ。さっき乱入した挙句にちょうどそこのヘアピンでスピンなんかしやがって」

 

ギャラリー3「み、見てたのかよ……」

 

ギャラリー2「当たり前だバカ。ほら、あいつらお前がミスった奥のヘアピンに突っ込んで抜けてったぞ。ちったぁスピードスターズを見習って練習しろよ」

 

その思いが通じてか、ギャラリーたちの感触も悪くなかった。

これまでの練習期間中にちらほらと訪れていたギャラリーたちから各チームとの交流や合同での練習、走り込みなんかの様子が正誤が混じりつつも漏れ伝わって彼らの奮闘も知られる様になったが故のことだった。

 

だが本番はこの倍以上の人でごった返すことを思うと、池谷たちは今からプレッシャーを感じずにはいられなかった。

シートに強く押し付けた背中が湿っていくのを感じながら、池谷たちは秋名を攻め続けた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

秋名のダウンヒルスタート側の駐車場には何台もの車が止まっていた。

参加チームであるスピードスターズのスターレットやアルシオーネにレッドサンズのMR2にFD、ファンタジアのシルビアやシルエイティにシビックとランエボ、別の地元ステッカーを貼ったNAロードスターとCR-Xにギャラリーらしいグロリアとプレリュード、さらにレッドサンズにくっついて来たコバンザメみたいな赤城のチームのマークⅡにヴェロッサなどなど多種多様な車がひしめいている。

 

そんな中、とある一台の車とそれを駆る赤城の走り屋が来ていた。

後ろから見ればS13のテール、前から見れば180SXのフロントマスクという異色の珍車、ワンビアである。

その特徴的な車のオーナーの松木高広は秋名に到着するなり一度愛車を休ませるためにちょうど空いていたファンタジアのシルエイティの隣に停めた。

 

少し離れたところにいるギャラリーがワンビアとシルエイティが揃ったことに盛り上がって指を差しながら騒ぎ始めた始めた様子を尻目にボンネットを開けてからドアを開けて降りた。

ドアの一番出っ張った部分に手を当ててぶつけないように慎重に出ようとするあたりに、彼の高校球児のようなスポーツ刈りに長身かつ筋肉質な体と焼けた肌という厳つい見た目に反した慎重な性格が見て取れた。

 

ボンネットを上げて固定させるとさっそく赤いシルエイティと白いS15の間で談笑していた影狼、赤蛮奇、姫の三人組に挨拶をする。

 

松木「やぁお疲れさん。今日も随分早くから来てるね」

 

影狼「こんばんは、松木さん。今日は8時ごろから来て本番の隊列走行に備えて最後の調整をしているところよ」

 

姫「秋名に合わせて何度か減衰弄ったりアライメント変えたり色々やってるので……」

 

赤蛮奇「既に何本か走って来て、今はクーリング中ってところかな」

 

松木「そうか、しかし熱心なもんだなぁ。君たちみたいな若いのがそこまで真面目に走ってくれてるのを見ると、俺みたいな古い人間も、俄然やる気が出てくるよ」

 

しかしそういう彼もレッドサンズからのゲスト参加の誘いを二つ返事で了承してからは毎日欠かさず秋名の峠を訪れては走り込んでいた。

招待をくれたレッドサンズや地元のスピードスターズ、そしてファンタジアのメンバーとも数度打ち合わせを行い、今日は本番前の予行演習の為に少し予定よりも早くから来る事にしたのだが、既にそこには他のチームのメンバーが揃っていたのだ。

 

旅館の駐車場にはファンタジアの180SXが、最終コーナー手前ではファンタジアのS14が既にいて、それに少し遅れてやって来たスピードスターズのシルビアたちとすれ違い、スケートリンク前ストレート付近で今度はレッドサンズのシルビアが隊列を組んでいるところを目撃していた。

さらにそこから少し登った先のヘアピンではスピードスターズのアルシオーネとスターレットも見かけていたため相当な人数がここを走っているものと考えていた。

こうして松木と影狼たちが話している間にも、スピードスターズのランサーEXとレッドサンズのGC8が登り終えて駐車場に入ってきたかと思えばそのまま折り返してまたコーナーへと消えていく。

 

姫「いえ、私たちなんてまだまだですよ。今は走りに出てて居ませんけど、椛さんは今日の昼にも一度ここに来てたみたいで……」

 

影狼「実はここ1週間、結構な頻度で山に来ているらしいのよね、あの人。……暇さえあれば車のメンテしてるか走りに出てるみたいで、私たちも椛さんが休みらしい休みを取ってるところを見たことがないわ」

 

松木「マジか……随分とストイックなもんだな。流石はレッドサンズとタメ張るドラテク追求チームの上位メンバーってところか。そりゃあ上手いわけだわ」

 

姫「椛さん……才能もあるし努力家だし、すごく上手いし速いの。……ちょっと羨ましいわ」

 

影狼「私たちも頑張ってるんだけど、いつまで経っても溝を開けられてばかりでね……」

 

松木「俺も、そういうの何となく分かるなぁ。最初に高橋涼介が、次に弟の啓介が峠に現れて以降、俺ら赤城の走り屋はあまりにも差がありすぎて絶望してたもんだよ。……俺らが山であいつらに会うたびに、実力差が2割り増し3割り増しに跳ね上がってるんだ。俺らとあいつら、何がそんなに違うんだって思ったことも一度や二度じゃねぇし、最後は精神が擦り切れて山を降りた奴らだっていたよ」

 

今の赤城の峠は日夜ギャラリーと走り屋たちで盛り上がる華やかな場所というイメージを持つ人も多かったが、もちろんそんな輝かしい面ばかりではないのが峠というものだった。

高橋兄弟と後に彼らが設立したレッドサンズの登場以降、彼らに憧れて山を攻める若者もいれば、彼らとの差に打ちのめされて赤城を去って行く走り屋も多かったという。

 

特に走り屋という人種は大なり小なり自分の積み上げてきた技術や経験に自信を持っているもので、それはレッドサンズ以外の赤城の走り屋も、ファンタジアを始めとした幻想郷の走り屋もおおよそ例外ではない。

そしてそれは高橋兄弟以前の時代から山に来ていた様な経験豊富で年季の入った走り屋ほど強い傾向にあった。

そんな己の全てとも言える走りそのものを有り余る若さや才能で短期間のうちにねじ伏せられてしまうとなれば、多くの走り屋たちは悔しさや焦りで心の平静を保っていられないだろうことは容易に想像がつく。

 

赤蛮奇「やっぱり、そう思ってる人は多いんだね」

 

影狼「昔は私たちもちょっと調子に乗ってた時期とかあってさ、まだ例の事故を起こす前の話なんだけど、三人でチーム組んで走ってるうちに地元なら誰がきても負けないとか思ってた頃、たまたま遠征でやって来た椛さんに完敗してね。……それ以降ちょっと自信無くしてたんだ」

 

松木「……まぁ、そういうのは誰しも通る道なのかもなぁ。……っと、せっかくの祭りの前夜祭みたいな日なのにシケた話をしちゃあいけねぇな。ここいらでちょっと気分転換と行こう。……俺とバトルしねぇか?シルエイティの嬢ちゃん」

 

赤蛮奇「え?」

 

松木「いや、走り屋がバトルするのに大した理由なんか無いだろ?最近、俺たちドリフトの練習ばっかでパァーっとハジけたバトルをしてなかったなと思ってな。……一応涼介さんはエキシビションバトルの1本や2本程度なら捻じ込める様に余裕のあるプログラム構成にしてあるって言ってたが……流石にこのタイミングじゃ無理かもしれねぇし。……なら今から一本付き合ってくれねぇかと思ったんだがな。……どうだ?シルエイティとワンビアの組み合わせだ。ギャラリーも盛り上がるだろうからな」

 

赤蛮奇「……それなら、断る理由もないよ。確かに、ここ最近はバトルらしいバトルをしてなかったから、良いリフレッシュになるかも」

 

影狼「それなら決まりね!私たちも後ろから追いかけようかな。姫もどう?」

 

姫「うん。じゃあ私も走るよ」

 

影狼「それじゃあ2人とも、バトル頑張ってね。もし遅かったら2人ともぶち抜いちゃうんだから」

 

赤蛮奇「何言ってんの、三人組で一番ダウンヒルのタイムがいいのは私でしょ?誰にも前は譲らないわ」

 

松木「俺だって峠での走りのキャリアならレッドサンズ以上だ。赤城の古参走り屋のテクってもんを見せてやる。若い奴らに負ける気はねぇぞ」

 

唐突なバトルの誘いに一瞬呆けてしまう3人だったが松木が不器用ながらも気を遣ってくれたのだと察すると、硬くなっていた表情を少しだけ緩めつつそれを快諾した。

 

ボンネットを閉じてそれぞれが車に乗り込むと一斉にエンジンをかける。

CA18ターボとSR20ターボの唸り声にギャラリーの視線が彼ら彼女らに釘付けになった。

 

 

 

 

 

♪ STREET OF FIRE / DAVE MC LOUD

 

 

 

 

 

ギャラリー4「な、なんだ!?」

 

ギャラリー5「赤城のワンビアと県外ナンバーのシルエイティが出ていくぞ!もしかして、バトルすんのか!」

 

ギャラリー4「S15とS13も続いてく!後追いするつもりだ!」

 

ギャラリー6「血が騒いできたぞ!こうしちゃいられねぇ!俺たちも追いかけよう!真後ろから観戦だ!」

 

ギャラリー7「あ、おい待てよ!大丈夫なのか!?追いかける相手は赤城の古参だぞ!それとバトルしようってんだから対戦相手の女の子もそこそこやり手のはずだぜ!」

 

ギャラリー6「俺のS14はターボチューン済みだ!任せとけ!」

 

対向車を考慮してバトルは先行後追い形式で行われるようで、松木のワンビアと赤蛮奇のシルエイティの順で飛び出すと影狼のS15とわかさぎ姫のS13が付いていく。

さらにその後からおまけ程度にギャラリーのシルバーのS14後期が走り出した。

 

芳樹(あーあ、行っちまったよあのギャラリー。本人が望めばレッドサンズに入れるくらいの腕はあるワンビアの松木と、あの全く底が見えないファンタジアとかいうチームのメンバー相手に飛び入りで後追いなんかして追いつけんのか?)

 

それを自販機のジュース片手にFDのシートから眺めていた芳樹。

妹の尚子が啓介のプラクティスに付き合って走って行ってしまって暇を持て余していた芳樹だった。

かと言って止める理由も無いので黙って見送る事にはしたが、あのギャラリーのシルビアがどうなるかなど半ば分かりきっていたことではあった。

 

松木「ひさびさの全開走行だ!行くぞ相棒!」

 

赤蛮奇「外の世界の人間に私たちの速さを見せつけてやろう!シルエイティ!」

 

ワンビアとシルエイティ、2台が連なりブレーキングドリフトでコーナーに飛び込んでいく。

その後をS15とS13とついでにS14が追いかける。

次いで2コーナーと序盤の第一ヘアピンを抜けたあたりですでにギャラリーのS14は前を行く4台にジリジリと差をつけられていた。

 

松木(本気のブレーキングドリフトに付いてくるか……やっぱり上手いな)

 

赤蛮奇(……上手い。この前来た時に会った地元の人から、赤城の走り屋はレッドサンズ以外もレベルが高いと言われたけど、本当だったみたいだね)

 

スケートリンク前ストレート終点のコーナー。

今日に入ってからマーシャル役を買って出てくれていたギャラリーが対向車無しの合図を送ってくれているのを確認すると、前を走る2人はブレーキ性能と自分の足を信じて突っ込み勝負を仕掛ける。

 

赤蛮奇「よし、取った!」

 

松木「くそ!やられた!(ブレーキチューンの差が出たか!?だがそれだけじゃねぇな、大した度胸してるぜ)」

 

チキンレースを制した赤蛮奇がインを突いて鼻先を押し出し、前に出る。

再びコーナー区間へと突入するとそこには数人まばらにギャラリーたちが待ち構えていた。

 

ギャラリー8「キタキタ!ファンタジアの赤いシルエイティとファイヤーバーズの赤いワンビアだ!」

 

ギャラリー9「シルエイティが抜かした!バトルしてるぞ!」

 

コーナーを抜けるたびに小さく歓声が上がる。

さらに後半第六ヘアピン先のコーナーで守のランサーEXに追いつき、守がラインを譲る形でパスするとそのまま下りきって4台揃って旅館側駐車場へと車を入れた。

ちなみにギャラリーのS14は大馬力ドッカンターボ仕様が仇となり後半の連続ヘアピンでもたついて4台に大きく出遅れて置いていかれた模様。

 




異色(移植)の珍車ワンビア ←超絶!ウルトラスーパー激うまギャグ

2023 / 1 / 25 14時40分
誤字訂正。

2023 / 12 / 14 20時56分
誤字訂正。



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第12話 交流戦、秋名に集う走り屋たち!

今回、いろんな車、いろんなキャラがドバッと登場します。
それに合わせて更新当日からその翌日にかけて設定集への大幅な加筆を行います。
また、新たなリクエストキャラクターの登場の布石というか、匂わせ描写をこっそり忍ばせてます。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


秋名山の麓のガソリンスタンドでは、祐一が閉店に備えて準備をしていた。

ポールを立ててその間にロープを張って車が入れない様にし、併設された整備ブースのシャッターを下ろすと鍵を閉める。

 

ふと、道路の側へと視線を向ければ彼の目の前を勇ましい音を轟かせながら数台の車列が通過していく。

ここ1時間と少しの間だけでも何度も見た光景だった。

 

祐一(凄いな……31スカイラインに20ソアラ、その後ろは33ローレルと82スターレットか。……お、少し遅れて80マークⅡが2台も来たぞ)

 

エアロパーツで武装したりメーカーステッカーやチームステッカーで着飾った、見るからにいかにもな車の集団がぞろぞろと秋名山の方へと抜けていく。

祐一は以前に池谷たちから小耳に挟んだイベント絡みだろうとは思ったが、それにしても凄い台数だと感嘆せざるを得なかった。

 

そんなことを思いながら店の戸締りをしているとまた社外マフラーのサウンドが複数重なり合いながら近づいて来る。

 

祐一(今度はランタボに初代レガシィRS、185セリカ、ブルーバードにガゼールとはまた懐かしい奴らだ。少し前のWRCや全日本ラリーを思い出すな)

 

やはりこの車列も先ほどの一団と同じく、スタンドを横切って秋名山に向け登っていくルートを進んで行った。

 

祐一(まるでお祭りだ。……後で俺も顔を出してみるか。なんだか久々に血が騒ぐな)

 

祐一は走り去る数々の車たちを見送りつつ、そこにかつての自分や文太たちの面影を重ね、どこか懐かしさを抱くのだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

秋名山、そこはとてつもない数のギャラリーでごった返していた。

全面的にギャラリーに開放されている上りスタート側はもちろん、下りスタート側も事前に各参加チーム用に確保された指定枠以外はほとんど満車に近く、さらに展望台側の小さな駐車場に至ってはすでに所狭しとスポーツカーが並んでいた。

 

一区画が参加者用として区切られたダウンヒルスタート地点の駐車場には特に人が多く、なかには高橋兄弟の追っかけ集団まで詰めかけていた。

ギャラリー用の区画には既に30スカイラインや11レビン、EG・EKシビックにBPレガシィ、82スターレット、GDAインプレッサ、ストーリアX4をはじめ、中にはピックアップトラックのような風変わりなものも含めた多くの車が集結していて、その大半は他の山のチームステッカーを貼り付けた走り屋の車であることからも、この交流会に対する周辺勢力の注目度の高さが伺えた。

 

ギャラリー1「すげぇ人だ。まだ地元の奴らしか上がってきてないってのに大した盛り上がりだぜ」

 

ギャラリー2「あぁ、レッドサンズとしては初の本格的なチーム全体を挙げての遠征だからな。ここ最近は高橋兄弟2人はともかくとして、チームとしての大きな動きがなかっただけに、他の勢力からの注目もデカいさ。……ほらあそこなんかすごいぞ。赤城ファイヤーバーズや高橋兄弟の追っかけレディースチーム、赤城ホワイトローズの車が見える。妙義ナイトキッズ、桐生サンダースに碓氷の奴らまでいる。群馬中の走り屋が来てるな」

 

ギャラリー3「あっちには大垂水や筑波のステッカーを貼ってる奴もいるぞ。栃木や埼玉のナンバーだってある。あそこのR32は箱根の走り屋か?……確かどれもそれぞれの地元じゃ有名なチームだったはずだ。高橋兄弟目当てか?」

 

ギャラリー2「ほんと、レッドサンズと高橋兄弟のネームバリューはすげぇ」

 

ギャラリー3「高橋兄弟と言えば、今や走りの世界じゃあ『富士の北条兄弟、赤城の高橋兄弟』って並び称されるくらいだからなぁ……。それにレッドサンズの他のメンバー、特に一軍の奴らも侮れない実力者ばかりだ」

 

ギャラリー1「そんな凄腕集団に最初に目ぇつけられた他の2チームもかわいそうだよな。……秋名だって、昔は結構キレた走りをする奴がいるって話題になってたって聞くけど、最近の秋名はさっぱりだからな。タイムアタックはもう結果が見えてるぜ」

 

ギャラリー2「そう言うなよ。相手が相手だ……仕方がないさ」

 

ギャラリー4「おーい!レッドサンズが登ってくるぞ!駐車場開けろ!入口から離れてくれ!」

 

ギャラリー3「よし来た!レッドサンズのお出ましだ!」

 

レッドサンズが来ると聞いた瞬間、沸き立つと同時にゾロゾロとガードレールの裏などの邪魔にならない位置へとはけていくギャラリーたち。

それから十数秒もしないうちにレッドサンズの車列が最後のコーナーを抜けて駐車場へと進入して来る。

先頭を切って走る白いFCと黄色のFDの新旧RX-7コンビの登場に、ギャラリーは歓声をあげる。

 

ギャラリー2「おぉ!レッドサンズだ!高橋兄弟だ!」

 

ギャラリー5「きゃー!啓介様よ!本物よ!」

 

ギャラリー1「やっぱり高橋涼介のセブンはかっこいいぜ!」

 

ギャラリー3「あぁ、特にFCは良い……最高にシブいよなぁ」

 

レッドサンズのツートップである高橋兄弟を筆頭に、その後ろには外報部長の史浩にナンバースリーの賢太など、一軍や幹部陣を始めとしたメンバー次々と続いていく。

10台以上の車列が無事にレッドサンズのスペースに止め終わると、そこに黒山の人だかりがあっという間に形成された。

レッドサンズの熱烈なファンである彼ら彼女らはもう次に来るファンタジアという無名のチームのことなど頭からすっぽ抜けていた。

 

 

 

 

 

そしてその熱狂を複雑そうに見つめる一団がいた。

レッドサンズの登場でほぼ空気と化している、スピードスターズをはじめとする秋名の走り屋たちである。

 

四郎「すげぇや、レッドサンズ。……一瞬でギャラリーの大半を掻っ攫っていったぞ」

 

健二「高橋兄弟はもちろん他の一軍や二軍メンバーもみんな普通にちやほやされてやがるよ」

 

池谷「こうしてると、格の違いを改めて見せつけられてる様な気分だぜ」

 

隆春「まぁ、レッドサンズのメンバーは高橋兄弟を筆頭に走行会ではランカーって呼ばれるような上位の常連だし、プロからも注目されてて、さらに雑誌にまで出てるんだよ。そんな走り屋なんかそうそういないからな」

 

守「……それこそ、俺たちとは住んでる世界が違うって訳だ」

 

滋「……ほんと、羨ましいぜ」

 

健二「俺らもいつか、あんな風になれたらなぁ……」

 

あれほどのスター扱いともなると、そこまで至るには相当な努力と実績が必要になるだろうことは想像に難くないが、走り屋として憧れを抱かずにはいられなかった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

現在、秋名山の駐車場は秋名スピードスターズ用の区画、赤城レッドサンズ用の区画、そして一番の大所帯であるチームファンタジア用の区画に綺麗に仕切られていて、残りの枠を地元や県外からのギャラリー用として使われているのだが、まだファンタジアが来ていないため一部分だけ空きの目立つ状態であった。

そんな状態に疑問を抱いたのか、ギャラリーの1人が高橋涼介に一つの質問を投げかける。

彼はレッドサンズと同じく赤城山をホームとする数ある走り屋チームの一員で高橋兄弟とは見知った仲であった。

 

赤城の走り屋1「……ところで、涼介さん。この交流会に参加する3つ目のチームのファンタジアって、どんなチームなんだ?初めて聞くような名前のチームの割には、この枠の多さを見るに結構な大所帯っぽいじゃないか」

 

涼介「それについてだが、もうそろそろアイツらも来る頃合いだろうし、それは来てからのお楽しみということにしてくれないか。……この中には練習期間中からギャラリーに来ていて知っている奴もいるだろうが、後数分だけ我慢して欲しい。……ただし、今の内に一つ言うことがあるとすれば……ここ最近は群馬の峠には目立った動きはなかったが、あいつらの存在がいい刺激になるんじゃないかと、俺は思っている」

 

赤城の走り屋1「涼介さん……。それってどう言う……」

 

涼介の思わせぶりな言葉に、その走り屋が怪訝そうな顔で返したちょうどその時だった。

この場にいる走り屋やギャラリーたちの耳に届く複数のエキゾーストサウンドと、それに混じるコーナー脇のガードレールに陣取りに行ったギャラリーたちの歓声。

 

涼介「噂をすれば……どうやら来たようだな」

 

涼介がその車列が顔を出すであろうコーナーの先へと目を向けると、周りに居た他のギャラリーたちも、そしてある程度事情を知るスピードスターズやレッドサンズのメンバーたちもその方向へと視線を向かわせる。

レッドサンズの存在に湧き上がっていたギャラリーもそわそわとし始めた。

 

???「ファンタジア……か。どんなチームなんだろうな」

 

中にはどういう奴らなのか見極めてやろうと鋭い視線を向ける者もちらほらと見られた。

 

ギャラリー7「ついに来たぞ!あれが例のチームだ!」

 

ギャラリー6「きたきた!すげぇ奴らだぞ!お前ら度肝抜かれんなよ!」

 

そして、ついにその時はやって来た。

爆音を響かせなだれ込んで来た大量のスポーツカー、総勢20台以上。

 

先頭から、青い最終型FD、白いEK9シビック、黄色いZ33、黄色い後期GC8、シルバーのNBロードスター、白い80スープラ、青い後期MR-S、紫色の後期R33 GT-Rなど。

そしてシルビア組や四駆組を始めとした面々が続き、最後に赤いS15と黒いR34 GT-Rが現れた。

新旧様々な車両が指定区画内の各々好きな枠へと止め終わると、示しを合わせたかのように続々とドライバーたちが出てくる。

 

ギャラリー1「マ……マジだったのかよ。しんじらんねぇ……」

 

ギャラリー4「全員女……レディースチームか!聞いていた噂通り……いや噂以上だ!すげぇ……」

 

ギャラリー3「車もより取り見取りだし……ドライバーも……何つーか、やべぇわ……」

 

ギャラリー2「うっはぁ!美人ぞろいだ!車もすげぇ決まってるし最高だぜ!今日まで生きててよかった!」

 

ギャラリー5「何これ……私たちにも強力なライバル出現って感じぃ?でも私の啓介様は誰にも渡さないんだから!」

 

ギャラリー8「よっしゃあ!!テンション上がって来た!花があるってレベルじゃねぇや!」

 

ギャラリー6「ふぅー!影狼ちゃん、やっぱり来てくれた!相変わらず痺れる様なS15だぜ!」

 

赤城の走り屋「涼介さん……。すげぇ……こりゃあ、とんでもねぇサプライズだよ」

 

あまりに衝撃的なそれに、周囲の走り屋やギャラリーが騒然とする。

 

涼介「さて、役者は揃ったな。……史浩、予定通りに頼むぞ」

 

史浩「OK。……それじゃあ、まずは主役となる3チームの走り屋の紹介と行こうか。彼女達の事について今すぐにでも知りたい気持ちはわかるが、まずはこの交流会に賛同、そして事前準備に協力してくれた地元の走り屋である秋名スピードスターズから、俺たちレッドサンズ、そして最後にファンタジアの順だ」

 

そうして各チームのメンバーが自己紹介をしていく。

1人20秒もかからない簡単なものだが、これを池谷や健二たちから順に回していき、レッドサンズの二軍メンバーから一軍に、そして高橋兄弟へと回って来た。

高橋兄弟のところで追っかけたちの拍手と歓声が上がり、その人気ぶりを見せつけた。

 

そしてついにファンタジアの番がやって来た。

 

まずは先頭で入って来た、マツダスピード製のR-SPECフルエアロに身を包んだ青い最終型FDから出て来た、紫のドレスを着た金髪の女性からだった。

 

紫「私は八雲紫。このレディースチームの発起人兼チームリーダーを務めているわ。メンバーは私の伝手を使って集めた実力者揃い。……皆様のお眼鏡にかなえば嬉しいわ」

 

次にC-WEST製のフルエアロで着飾ったチャンピオンシップホワイトのボディにカーボンボンネットのEK9シビックの傍に立つ、白いブラウスに黒のタイトスカートという出で立ちをしたOL風のこれまた金髪の女性。

 

藍「私はリーダーの妹、八雲藍と申します。皆様、よろしくお願いします」

 

次はひまわりのように鮮やかな黄色のボディが目を引く、アミューズ製フルエアロで飾られたZ33と、その隣に佇む赤いチェック柄のベストとロングスカートを纏った緑髪で長身の女性。

 

幽香「私は風見幽香。別荘の管理人をしているわ、よろしくね」

 

次はその車種ではなかなか見ることのない珍しい黄色のボディ色にシンプルな純正フロントリップスポイラーを装備したGC8インプレッサと、その傍に立つ緑のフレアスカートに袖口にフリルをあしらった長袖の黄色い上着を着た、黄緑色の髪に黒い帽子が特徴的な少女。

 

こいし「私、古明地こいし!みんなよろしくね!」

 

次はトヨシマクラフト製のカーボンボンネットとS2レーシング製のフロントバンパーが特徴的なシルバーのNBロードスターと、そのオーナーの黒いワンピースにグレーの薄手のケープを羽織っている灰色の短髪をした小柄な少女。

 

ナズ「私はナズーリン。東欧からの留学生だよ。よろしく」

 

次はDo-Luck製フルエアロとTRD製リアウィングにVARIS製のカーボンボンネットで全身を着飾った白いA80スープラと、その隣に立つ青いワンピースに白いサマーカーディガンを肩に羽織った短い金髪に青い瞳のこちらも外国人であると一目見て分かる少女。

 

アリス「私はアリスマーガトロイド。イングランド生まれアメリカ育ちで、本職は人形師をしているわ」

 

次はバリス製カーボンボンネットにサード製フルエアロとGTウィングで外装をカスタムされている青いMR-Sと、その側に立っている白いブラウスに青いフレアスカート姿の長い緑髪にカエルの髪飾りをつけた少女。

 

早苗「東風谷早苗です!守谷神社で風祝という巫女の様な仕事をしています!」

 

次は紫色のボディカラーにNISMOエアロとJUN AUTO製ボンネットを装備したR33GT-Rに背を預ける、白い薄手のロングワンピースに藍色のケープを羽織った少女。

 

一輪「雲居一輪と申します。普段は命蓮寺というお寺で修行をしておりますが、この度は住職の許可を得てこのチームに参加させていただきました」

 

それ以降はすでにレッドサンズやスピードスターズのメンバーたちとは交流のあった面々の紹介が続いていく。

 

純正エアロに歴代WRXの定番色のWRブルーパールを纏う上白沢慧音のGDB-F型スペックC。

ボーダーレーシング製エアロを飾られた魂魄妖夢の緑のFC3S。

トミーマキネンエディションという特別仕様で専用のカラーリングが施された藤原妹紅のランエボⅥ。

純正エアロにTRD製のマグネシウムホイールへと装いを新たにした西行寺幽々子のアリスト。

R Magicのワイドボディキットとワンオフ品のカーボンGTウィングで全身を固めた固定式ライトが特徴的な黒谷ヤマメの黒いFD3S。

C-ONE製フルエアロにTRD製リアウィングが特徴的な姫海棠はたての黒いST205セリカGT-FOUR。

風間オート製のフルエアロにings製の大きなリアウィングを装備した白い鈴仙優曇華院イナバの後期型180SX。

純正エアロにボディ同色塗装のD-MAX製のカーボンボンネットとVOLTEX製カーボンGTウィングを合わせた犬走椛の白い後期型S14シルビア。

Jブラッド製のエアロとカーボンボンネットで統一された今泉影狼の白いS15シルビア。

フロントバンパーがD-MAXでリアバンパーがURASの赤い赤蛮奇のシルエイティ。

チャージスピード製のフルエアロにオリジンのダックテールスポイラーを装備したわかさぎ姫のS13後期シルビア。

 

そしてその次はVELTEX製エアロにC-WEST製GTウィングを身に纏う赤いS15シルビアと、そのオーナーである桃色のフレアスカートに白い薄手のブラウスを着て、その上から胴部分が赤に袖部分が白のフード付きパーカーを羽織った黒髪の少女。

 

霊夢「私は博麗霊夢。一応、このチームのダウンヒルエースを勤めてるわ」

 

次は黒いボディに白い二本のレーシングストライプを中央に走らせた特徴的なカラーリングにトップシークレット製のフルエアロという奇抜な外見のR34 GT-Rに背を預けている、ダボっとした黒の半袖シャツを着て膝に擦り跡のような加工のあるタイトなダメージジーンズを履いた金髪の少女。

 

魔理沙「私は霧雨魔理沙だ。いたって普通の走り屋さ。このチームのヒルクライムエースを任されてるぜ」

 

 

 

1994年7月某日。

秋名、赤城、そして幻想郷の走り屋たちが数多のギャラリーたちと共に秋名に集う。

この日、後の世で関東の走り屋たちの語り草となる伝説が始まろうとしていた。

 




イツキ「やったー!本番だー!」
作者「やったー!本番だー!」
イツキ「?」

2023 / 12 / 14 20時53分
誤字訂正。


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第13話 イツキの暴走とフリー走行!

なんか……イツキばっかが喋ってしまう。
原作だってなんかボケっとした拓海よりもお調子者でよく喋るイツキの方が何かにつけて出しゃばりがちだし、これはどうしようもない……のか?
いや、もしイツキがこんな感じの大規模なイベントに来たらこんな感じにはなるだろうなと考えたが故のことなんですけど。

ちなみにギャラリーモブの番号は1話ごとにリセットされます。
同じ空間、同じ時系列または連続した時系列の話でも話数をまたいでいれば番号が共通でも前話とは別人となっている可能性があります。

また、旧料金所跡の駐車場は建物と給水タンクを解体してそのスペースが舗装されてそのまま駐車場と休憩所となっているため原作(または史実)よりもかなり広くなっています。
凄い数の走り屋が大挙して押し寄せてきてても大丈夫なのはそのためです(ぶっちゃけ原作よりも大規模なイベントにするための苦し紛れの後付け設定ですが)。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

秋名山に現れた『チーム・ファンタジア』を名乗るレディース走り屋チーム。

彼女たちの紹介が一通り終わると、一瞬の間の後にワッとギャラリーたちが湧き上がりレッドサンズの時と比較しても見劣りしないほどの人だかりがあっという間に形成された。

 

ギャラリー1「ねぇねぇ。君たちのシルビア、カッコいいエアロ付けてるね。これどこのブランドの奴なの?」

 

ギャラリー2「君のアリストのホイール……。TRDのマグネシウムホイールだ!レア物じゃないか!すごいよ初めて見たよ!」

 

ギャラリー3「この黒いFDすげぇ!カーボンボンネットにカーボントランク、カーボンルーフの3点セットだぜ!シート貼っただけのガワだけチューンとは大違いだ!やっぱイジるなら本物志向じゃないとな!」

 

ギャラリー4「あそこの青いFDもいいぞ!R-SPECフルエアロのスピリットRなんてなかなか見れるもんじゃ無い!純正BBSに純正ドリルドローターが最高に渋いぜ!」

 

ギャラリー5「すげぇ!GDBにトミマキ、セリカのGT-FOURにGC8もいる!四駆好きにはたまんねぇ!あっちのギャラリーの32と33もいいけど、あそこの33と34のGT-Rもイカしてるぜ!」

 

ギャラリー6「シビックやシルビア系みたいな王道のイケてる車からR34や80スープラみたいなかっこいい車まで……天国だ」

 

ギャラリー7「幽香さん……貴方のその黄色いZはまさに君のような貴婦人(フェアレディ)にこそ相応しい。もしよろしければ記念にツーショットの写真を……」

 

スポーツカーの見本市の様なこの空間に、さらにそのオーナーも美女美少女揃いとあって、ギャラリーたちは狂喜乱舞し大いに盛り上がっていた。

少しでも親密になろうと積極的に話かけ、挙げ句の果てには歯の浮くようなキザなセリフを並べて本人と周囲のギャラリーから冷めた目付きで見られているのもお構いなしにナンパしようとする人まで現れるカオスっぷりだった。

 

 

 

 

 

そしてそんな人だかりの中に、今日という日を指折り数えて待っていたイツキと、助っ人と観戦のために訪れた拓海もいた。

 

今日を迎えてから終始ソワソワしていたらしいイツキが待ちきれなくなってしまい、本来の予定時間から前倒しで家を出ていく事となってしまったが、この大盛況ぶりを見るに結果的には正解だったと拓海は内心胸を撫で下ろした。

もし予定通りの時間に出て行っていたら、今こうしてこの駐車場に停められたかは正直分からなかったからだ。

 

到着直後にイツキはそのまま池谷先輩のところへ一直線に突撃して早速挨拶に出向いて行った。

拓海も自分が父の代わりに助っ人として参戦することを決めた旨を、今まで色々と間が合わずに伝えるタイミングを逸していたのでこの機会にできるだけ早め早めに伝えておいた方がいいと思い、イツキと共に挨拶を済ませると同時に伝えたのだが、そこからが大変だった。

 

藤原家からはすっかり父の方が来ると思っていた池谷が拓海が助っ人と知り仰天。

思わず声を上げそうになり慌てて健二に抑えられたり、拓海の気が狂ってしまったと勘違いしたイツキが殴って正気に戻そうとしたりとちょっとした騒ぎになってしまった。

結果的に、池谷が「あのハチロクのドライバーの息子としての拓海を信じる」と言ったことでひとまず落ち着きを見せた。

 

ただし幸いだったことに、スピードスターズの枠がレッドサンズの枠を隔てて駐車場の端の方であり人がいなかった事と、この時はまだギャラリーもそれほどおらず、その数少ないギャラリーも他のギャラリーや走り屋と話し込んで情報交換に勤しんでいたせいで彼らが注目を一身に集めることがほぼなかった事だろうか。

おかげで拓海が対レッドサンズ戦におけるスピードスターズ側の切り札であるとは漏れていない様に見えた。

 

 

 

そんな騒動がありながらもようやく始まった交流会は、車に関してはあまり興味がないと自負していた拓海をしても圧巻だった。

普段からそれほど多くの人が居るイメージの無い秋名の峠にこれほどまでの人が、特にスポーツカーなどの限られた車種の人たちがこれほどまでに集まるとは、拓海は思ってもみなかったのだ。

しかし、別に車好きと言う訳ではない拓海をしても何か感じ入るものがあるほどのこの光景は、特に生粋の車バカであり走り屋志望のイツキにとってはいささか刺激が強すぎてしまった様だった。

 

イツキ「くぅーーー!すげぇ、すげぇよ!最ッ高だよ!レッドサンズもファンタジアも、本番には仲間もギャラリーも大勢来るって聞いてたけどさ、まさか鈴仙ちゃんたちがこんなに仲間引き連れてくるなんて思わなかったよ!しかもみんな可愛くて美人だし超最高!それにさ、周り見てみろよ拓海ぃ!このスポーツカーの数をよぉ!まさに走り屋の世界って感じがたまんねぇ!あっちには先輩たちのスピードスターズ、向こうにはレッドサンズまでズラッと並んでるぞ!俺たちが止めたところの近く、あの端っこの方に止まってる黒のインテグラとか白のGT-Rとかはギャラリーに来た走り屋の車だろ!ミニバンや軽やエコカーばっかの退屈な昼間の山とはまるで違うまさに別世界!どこを見てもイケてるかっこいい車ばっかりだぜ!くぅーーー!本当に……本当に……この時代に生きてて良かったぜぇ!!」

 

拓海「はぁ……うるせぇぞ、イツキ。少しは周りを考えろよ……」

 

イツキ「これで静かにしてられるか!分かってないなぁ、拓海はよぉ!こんだけの走り屋の車が!しかもあんなに可愛い子たちが!この秋名の峠に来ることなんて、こう言うイベントでもなきゃあ普通あり得ないんだぞ!男として、これで興奮せずにいられるかよ!」

 

感動のあまり目に涙を滲ませながら絶叫するイツキにうんざりしながら、拓海はイツキの隣を並んで歩く。

周りを見渡せば様々な姿形をした色とりどりの車がひしめき合い、それを見て、触り、そしてチームや地域の垣根を越えて語り合う走り屋たちの姿があった。

このパーツがいけている。

この車のここがいい。

このエンジンのここが素晴らしい。

途切れる事なく語り合う彼ら彼女らの姿は、感極まって泣き出すイツキほど極端なものでは無いにせよ拓海を通して見てもとても楽しそうで、嬉しそうだった。

 

たかが車、されど車。

拓海にとっては車はただの仕事の道具でしかなくても、きっとこの場にいる走り屋たちにとっては道具や機械として以上の価値があるのだろう。

いつしか拓海にも、それが漠然とだが理解できるようになっていた。

 

 

 

イツキ「なぁ拓海ぃ、お前この楽園みたいな空間に本当に何も感じないのか?もし何とも思わないってんならお前はもう男じゃないぜ!」

 

拓海「別に何も感じないとまでは言わねぇよ。ただお前みたいに嬉し泣きしたり叫んだりするほどのもんじゃねぇっての」

 

無論、拓海とてこの場にいて何も感じなかった訳ではない。

拓海はこれまで既にファンタジアの数人の走り屋の車をイツキに引っ張られる形で見て来ていたが、あまり顔には出てないだけで拓海も普通の男子高校生であった。

 

少し遠目から紫を見ただけで、自然と彼女のドレスの開けた胸元へと視線が吸い込まれたこともあれば、スカートから覗く藍や慧音のスラリと伸びた足に視線が釘付けになりそうになったこともあった。

何なら、つい先ほどボンネットを開けてエンジンルームに身を乗り出しながらギャラリーにあれやこれやと説明している椛の引き締まった尻を、それを覆うタイトなジーンズの上からイツキや数人のギャラリーと共にガン見して鼻の下を伸ばしたばかりである。

 

だが車以外のことで思い返す事がこんな事ばかりなためか、拓海は急に恥ずかしくなり顔を赤らめてしまう。

 

 

 

鈴仙「あ、拓海くん!イツキくん!来てたんだ!」

 

そんなことを考えていると、愛車の傍でギャラリーやチームメイトたちと話していた鈴仙たちに声をかけられる。

それに即座に反応したイツキは飢えた魚がエサに飛びつくような勢いで駆け寄っていった。

 

イツキ「もっちろん!みんなが走るところを絶対に見ようと、今日までずっとずっと待ってたんですよぉ!他にも秋名の先輩たちの大舞台でもあるし、高橋兄弟のパラレルドリフトだって見れるかもしれないし……フリー走行からタイムアタックまで全部、楽しみで楽しみでたまらないっすよ!くぅーーー!」

 

イツキのあまりのテンションの高さに一瞬たじろぐ鈴仙だったが、期待感や嬉しさといった正の感情を向けられて嫌な気はしなかった。

若干引きつり気味になりながらも笑顔を見せてそれに応じた。

 

イツキ「バトルとなれば俺たちは秋名の側だから、やっぱり先輩たちの応援をするつもりだけどさ……対レッドサンズ戦の時は、鈴仙ちゃんたちのチームの方を応援しちゃおうかなー……なーんて!」

 

???「あら、嬉しいことを言ってくれるじゃない。それなら私もやりがいがあるわ」

 

イツキ「へぁ!?」

 

突然女性に後ろから声をかけられてビクつくイツキ。

慌てて振り向くとそこには金髪に青い瞳をした西洋人形の様な少女が居た。

 

拓海「確か、アリスさんでしたっけ」

 

アリス「えぇ、アリス・マーガトロイドよ。私はレッドサンズ戦の上り代表なの。よろしくね」

 

イツキ「はい!よろしくお願いします!……って、えぇーーー!本当にアリスさんが走るんですか!?」

 

ギャラリー8「マジかよ……おい聞いたか今の……」

 

ギャラリー9「あぁ、あの子がレッドサンズと戦うって……」

 

ギャラリー10「スープラはパワーのあるFRだし、勾配のきつい秋名のヒルクライムにだって対応できる車だと思うけど……」

 

ギャラリー8「レッドサンズ相手じゃ厳しいぞ……」

 

ギャラリー10「あぁ……」

 

赤城の走り屋1「ま、マジか……。あの子、超タイプだし……ちょっと応援してあげたくなっちまうよ……。元々レッドサンズ有利なんだしさ」

 

ギャラリー8「おいおい……」

 

ギャラリー9「赤城のくせにそれで良いのかよお前……」

 

ギャラリー8「ギャラリーのあのうるせぇガキンチョは、しっかり秋名の応援するって言ってたろ?」

 

対レッドサンズ戦の上り代表だと言う重大な事実がサラッと明かされたことで、周囲に居たギャラリーがどよめいた。

 

アリス「そうよ。これでもそこそこ走れる方だとは思ってるわ。まぁその辺は本番に証明してあげる」

 

イツキ「相手はあのレッドサンズですけど……その、タイムアタック……頑張ってください!俺、応援してますから!」

 

アリス「えぇ、もちろんあなたみたいに応援してくれる人たちのためにも、ベストは尽くさせてもらうわ」

 

そういうとアリスは思わせぶりな視線をある人物へと向けた。

それは先ほどからこそこそと話していたギャラリーの中で、赤城の人間らしい一人の青年だった。

彼と彼女の間でほんの一瞬、視線が交差する。

しかしそれだけでも彼の心を射抜くには十分すぎたようだった。

目があったことと、さっきのコソコソ話がバッチリ本人に聞かれていたらしいことを自覚すると、その青年は顔を真っ赤に染めながら慌てて目をそらしてしまう。

 

赤城の走り屋1(涼介さん啓介さん、そして俺のMR2の相談に乗ってくれた村田さん、ホントすんません……。俺、レッドサンズじゃなくてアリスさんの応援します!)

 

こうして赤城勢の中に一人、小さな裏切り者が生まれるのだった。

 

 

 

ヤマメ「ちなみに私は対レッドサンズ戦の下りを走ることになったから、よろしくね!」

 

それはさておき拓海の姿を見つけて、いつの間にやらギャラリーの質問攻めから抜け出してきたらしいヤマメもこの場に加わる。

 

拓海「あぁ、それじゃあ俺も……あの時、麓まで送ってもらったお礼とかもあるし、うちの店も使ってもらったからさ。……レッドサンズ戦だっけ。その時は応援させてもらうよ」

 

ヤマメ「ありがとう拓海くん。タイムアタック、楽しみにしててね。絶対に勝つからさ。……とは言っても、まだまだタイムアタック本番まで時間はあるから、それまではみんなの車や走りを見ながらゆっくり楽しんでいってよね。ギャラリーだって大勢いるし、普段なかなか見ないような車とかもあるんだし。何か興味があれば周りのメンバーに色々聞くといいわ」

 

イツキ「うん、俺たちも1ギャラリーとして君たちの活躍をバッチリキッチリ見ておくよ!……よし、そうと決まれば拓海ぃ!まだまだ楽しむぞ!こんな機会滅多に無いんだからな!悔いの残らないようにここに止めてある車、全部見て回るんだ!ファンタジアの車を見たら次はレッドサンズだ!それから最後にスピードスターズのところに行って、フリー走行前には先輩たちにもう一度会いに行くぞぉ!」

 

拓海「ぐぇ!ちょっ……ちょっと待てよイツキ!引っ張んなってオイ!」

 

ヤマメ「い、行っちゃった……」

 

鈴仙「あはは……」

 

ハイテンションで暴走するイツキに引っ張られて拓海たちは去っていった。

彼の突撃していく進行方向の先には早苗のMR-Sや幽々子のアリスト、一輪のR33が鎮座していた。

どうやら今度はそこに行くらしい。

 

イツキ「幽々子さーん、どうもお疲れ様でーす!いやーお久しぶりですー!あの時は貴方達のメンバーに助けてもらっちゃって……」

 

依然として元気はつらつといった具合で、拓海を引き摺りながら幽々子たちに駆け寄るイツキの様子に、鈴仙、ヤマメ、アリスと周りにいたギャラリーはただ呆然としながら見送ることしかできなかった。

 

鈴仙(なんか緊張してたみたいな初日と違って、今日はすっごい元気だったなぁ……イツキくん)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

史浩「盛り上がってるところで申し訳ないけど、そろそろフリー走行の時間だ!ギャラリーのみんなは車の進路を塞がない位置まで移動して欲しい!」

 

フリー走行、走りを目当てにやってきた人たちにとっては待ちに待った瞬間だった。

史浩の言葉に応えるようにギャラリーたちが速やかに、しかし時折り名残惜しそうに各々の車がある位置やガードレール脇に避けていく。

それを確認した各チームのメンバーや一部の腕に自信のあるギャラリーは自らの愛車へと乗り込みそれぞれのタイミングで出ていく。

 

まずはレッドサンズの高橋啓介と髙橋涼介が先陣を切り村田と須崎が続く。

その後にファンタジアの鈴仙と一輪、早苗と幽香が続きスピードスターズの吉村と池谷がそのあとを追うように出て行った。

そうして一台また一台とギャラリーも交えて続々と車が出ていき秋名の峠は瞬く間に峠を駆け抜ける走り屋たちで埋め尽くされた。

 

 

 

 

 

コーナーに陣取っていたギャラリーたちも、次々に近づくスポーツカーやチューニングカーたちのサウンドに、待ちに待った瞬間が訪れたことを喜んだ。

 

ギャラリー11「ついにフリー走行が始まったぞ!3チームの走り屋が入り乱れてる!」

 

ギャラリー12「何台か飛び込んでくるぞ!こっちは対向車無しだ!コースマーシャルは合図出せ!」

 

ギャラリー13「先頭は……よっしゃあ!高橋兄弟だ!」

 

ギャラリー14「カメラ向けろ!名物のパラレルドリフト来るぞ!」

 

ブラインドコーナーに立てたマーシャルが合図を出すと、ドリフトやグリップなどそれぞれが得意とするスタイルで次から次へとコーナーに進入していく。

群馬の走り屋で知らない人はいないとすら言われる高橋兄弟や、パフォーマンスドリフトを得意とする影狼と赤蛮奇とわかさぎ姫のトリオ筆頭に、走り屋たちは各コーナーに陣取るギャラリーを沸かせていった。

コース中程のとあるコーナーで、殆どの車が通過し終わった後にギャラリーたちが口々に感想を話し合っていた。

 

ギャラリー15「やっぱすげぇよ高橋兄弟!あそこで2人ビタビタのまま並んで抜けてくなんて、普通出来ないぜ!」

 

ギャラリー16「あぁ、ほんと流石だよ。……だが他のチームも良かったな。あのレディース軍団のシルビアの3人組もガッツリ角度付けた息ピッタリのドリフトで、ガードレールまで拳一つ分くらい寄せててカッコよかったよ」

 

ギャラリー17「あとはさっき通ってったレッドサンズとファンタジアのFDとFCのロータリーサウンドがすげぇド迫力だったなぁ。……もうあれだけで俺は白米が食えるね」

 

ギャラリー16「地元チームだって、そりゃあレッドサンズには劣るかもしれないけどさ……なんだ、普通に上手いじゃないか。腕上げたのかな?下手くそだって言う前評判もあまり当てにならないな」

 

ギャラリー18「それにしても、61スターレットや12シルビアにランタボが並んで走って来た時は不意に懐かしく感じたなぁ。……昔を思い出すよ」

 

彼らの口から語られるその言葉には殆どネガティブなものは無く、むしろ走り屋たちの勇姿を褒め称えるものばかりだった。

髭を生やした中年の男のような、かつて走り屋だったギャラリーなどは、スピードスターズの車を見てかつての青春を思い出ししみじみと感慨に耽っていた。

 

ギャラリー15「お!また来たぞ!今度はMR-SとNBだ!」

 

ギャラリー17「後ろにはシルバーのGC8!レッドサンズだ!」

 

コーナーから飛び出して来る走り屋たちにギャラリーの視線が釘付けになる。

数秒後、スキール音とエンジンサウンドの中に盛り上がるギャラリーたちの歓声が混じる。

当初の目的通り、掴みはバッチリと言った具合でフリー走行は成功と言って良かった。

 

 

 

 

 

そしてフリー走行が終われば次はタイムアタックの前座となる3チーム合同のシルビア隊列走行だ。

史浩が各駐車場に配置されたメンバーたちと連携をとりギャラリーたちも含めて一旦流れを止めさせて、数分待機してコース上を走る車を無くす。

そうして一般車を含め対向車のいない環境を作り上げてから走り出す手筈だった。

 

先頭を走る事となった東隆春は愛車のS12シルビアのエンジンを始動させてスタート位置まで車を運ぶ。

後ろにリーダーの池谷を含む他のスピードスターズをはじめ、レッドサンズやファンタジアのメンバーがゾロゾロと続き、180SX、ワンビアにシルエイティ、S13、S14の前期と後期、そしてS15と歴代シルビアが一列にズラリと並ぶ。

 

ギャラリー18「シルビアがこんなに……すげぇ眺めだ」

 

ギャラリー19「あぁ、これだけの台数が揃うと壮観だよ」

 

特にこのシルビアたちの中には影狼たちや池谷に佐々木など、今日という日のために洗車までしてキッチリ車を整えてきたメンバーの方が多いくらいで、それがなおさらこのシルビアの隊列が持つ迫力というものをワンランク引き上げていた。

 

 

 

♪ RUNNING IN THE 90s / MAX COVERI

 

 

 

史浩「カウントダウン、行くぞ!」

 

この場を取り仕切る史浩が走り出しのカウントダウンを始める。

隆春のハンドルを握る手に汗が滲む。

 

史浩「5……4……3……2……1……」

 

先頭の車が全体のペースの基準となるために、この役目の責任は重大だった。

ましてやレッドサンズやファンタジアのメンバーと比べれば未熟な自分にはいささか荷が重いとは今でも感じている。

 

しかし、隆春はなぜ先頭をスピードスターズの車になる様に彼ら彼女らが順番を組んだのか、おおよそ推測される意図は池谷から聞かされていたためにそれを全身全霊でやり抜くことがチームのためになるとも理解していた。

 

あとは今まで以上に真面目に走り込んだその成果をギャラリーに見せるだけ。

ただそれだけだった。

 

史浩「GO!」

 

隆春から順に次々と、シルビア達が強くアクセルを踏み込んで走り出し、峠に消えていく。

 

ギャラリー18「走り出したぞ!すげぇ音だ!」

 

芳樹「タイムアタックに次ぐ見せ場だぞ!お前ら頑張れよー!」

 

早苗「隊列走行、上手くいくといいですね」

 

ヤマメ「うん。きっと大丈夫だよ」

 

そしてスタート地点のギャラリーやそれ以外のメンバーたちはそんなシルビアたちの勇姿を手を振り見送った。

 

 

 

ヘッドライトとテールライトが大蛇の様に連なり、夜の峠を光と音と歓声で彩る。

その大蛇が体をくねらせコーナーを抜けるたびに練習の時のまばらなものとは違う、万雷の拍手と歓声が響き渡った。

 

ギャラリー20「やっべぇ!S12からS15まで、全部揃ってる!こんな規模の隊列走行は初めてだ!」

 

ギャラリー21「あいつら最高だ!マジでいいもん見れたぜ!こりゃあ地元でしばらく自慢できるぞ!」

 

一台も欠ける事なく一続きのまま下りきった彼ら彼女らを迎えるのは、ゴール地点に詰めかけた大量のギャラリーたちだった。

 

 

 

 

 

ちなみに、中腹の展望台に詰めかけたギャラリーたちの1人が撮った、4連ヘアピンを隊列を組み続々と降っていくシルビアたちの姿を捉えた映像が、後の世に走り屋たちの全盛期の姿を伝える貴重な資料映像として長く残され続け、受け継がれていく事となるのはまた別のお話。

 




次回『伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(前編)』



セリフだけ登場した「幽香にウザ絡みしたキザなナンパ男」のその後に関してはご想像にお任せします。
ただし妖怪が外の世界に行く場合には人間の殺害を禁ずるという基本的な部分をはじめ、そこそこキツめの制約があると言う設定なので、例えば……もし仮に、万が一、口が空回りして地雷踏んだり引き際を誤ったまましつこく絡みすぎたりで彼女を怒らせたとしても、そう酷いことにはならないと思います。

うーん、それにしても会話シーンの台詞回しが難しい。
作者自身そこまで会話が得意なタイプじゃないんで上手く噛み合ったテンポのいい会話ってのがどうにも……。

2023 / 12 / 14 20時47分
誤植部分の訂正。


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第14話 伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(前編)

峠のバトルの時間だー!

ギャラリー「うおぉぉぉ!」
イツキ「うおぉぉぉ!」
作者「うおぉぉぉ!」
拓海「?」

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

夜9時半。

ギャラリーを交えてのフリー走行と前座にあたるシルビアの隊列走行が成功に終わり、いよいよ本日のメインイベントであるタイムアタックの時間が訪れた。

 

まずは上りの部から、対戦カードについては第一戦は「ファンタジア(若崎姫:日産 S13後期 シルビアK’s)対スピードスターズ(中山四郎:スバル アルシオーネVR)」が行われ、次に「レッドサンズ(佐々木正晃:日産 前期 180SX)対スピードスターズ(池谷浩一郎:日産 S13前期 シルビアK’s)」が、最後に「レッドサンズ(新田宏:スバル GC8 インプレッサ)対ファンタジア(アリス・マーガトロイド:トヨタ JZA80 スープラ)」となる予定だ。

 

続いて下りの部では、第一戦の「レッドサンズ(高橋啓介:マツダ FD3S RX-7)対スピードスターズ(藤原拓海:トヨタ AE86 スプリンタートレノ)」に始まり次に「ファンタジア(ナズーリン:マツダ NBロードスター)対スピードスターズ(高木健二:日産 中期 180SX)」が行われて「レッドサンズ(高橋啓介:マツダ FD3S RX-7)対ファンタジア(黒谷ヤマメ:マツダ FD3S RX-7)」が最終戦となる予定となっている。

 

ギャラリー1「なぁ、これどうなると思う?」

 

ギャラリー2「うーん、正直スピードスターズは他の両チームに勝ち目あるのか?」

 

ギャラリー3「厳しいだろ。いくら地元だからって相手は赤城レッドサンズ。無名のチームに勝ち目はないな」

 

ギャラリー1「ファンタジア戦もそうだろう。今日分かった事だが正直あの子たちは腕もかなり良いし、スピードスターズじゃどうにもならなそうだ。唯一勝てそうなのはNB相手のダウンヒルくらいか?」

 

ギャラリー2「だな。誰から見ても苦しいよ」

 

ギャラリー3「ファンタジアか……レッドサンズにはスープラやFDみたいな戦闘力が高そうな奴をぶつけた一方で、スピードスターズにはS13とNBを当てて他のランエボやらインプやらGT-Rやら、いかにもガチそうな奴らをあえて出さなかった。……これは単純な気遣いなんだろうな。

 

ギャラリー1「レッドサンズも下りの啓介はともかくとして、上りは二軍を当てている。涼介も出ないみたいだしな。……両チームともにスピードスターズ相手には本気を出さないってことだろう」

 

ギャラリー2「一方でファンタジアとレッドサンズの方は案外いいバトルしそうなんだよなぁ。それでも一軍ぶつけて来たレッドサンズが勝つんだろうけど」

 

ギャラリー5「特にあのスープラ、あれかなり弄ってるぞ。フリー走行の時に俺の70スープラで追いかけてみたがかなり速かった。特に立ち上がりが凄まじすぎてな、置いていかれちまったよ……」

 

ギャラリー1「マジかよ。お前のスープラだって350はあるんだろ?馬力だけなら高橋兄弟にも負けないって言ってたじゃないか」

 

ギャラリー5「あぁ、でも置いてかれた。……やっぱ2Jには勝てねぇや」

 

ギャラリー2「それにしても、最終戦は前期FD同士のミラーマッチか。涼介さんも結構なエンターテイナーだよな」

 

ギャラリー5「あぁ、スピードスターズのハチロク相手じゃマシンのスペック一つとってもどう考えたってバトルが成立しないだろうし、不完全燃焼になるもんなぁ。一方で相手が同じFDでしかもワイドボディ仕様のカスタムカーってのも見栄えがいいし、相手にとって不足はないだろう。……高橋啓介の走りが2度も見れるって言うのも俺たちギャラリー的には美味しいし、流石だよ」

 

ギャラリー3「ただ、そのダシに使われるファンタジアのFDの子はちょっと可哀想だよな」

 

ギャラリー1「……まぁな、ただ高橋啓介の走りを間近で見れるのは貴重な経験だし、無駄にはならないと思うぜ」

 

秋名に集ったギャラリーたちの盛り上がりも最高潮となり公開された各チームの対戦カードを元に口々に予想を立てていた。

しかしそれも麓にある上り側スタート地点に各マシンが出揃い発進準備が整うと、ギャラリーたちの喧騒も鎮まった。

 

 

 

♪ LOVE IS LIKE A FEVER / DANY

 

 

 

旅館側駐車場付近のスタート地点では上りの部第一戦のファンタジア対スピードスターズの戦いが始まろうとしていた。

それぞれの車をフロントバンパーの先端を基準に揃えて並べる。

 

ギャラリー6「頑張れ姫ちゃーん!」

 

ギャラリー7「中山ぁ!手ぇ抜くんじゃねぇぞ!」

 

バトル特有の緊張感と熱気にあてられたギャラリーたちは大いに盛り上がり参加者2人を囃し立てた。

その2台の間にはレッドサンズの芳樹が立ち、スタート時のカウントを担当する。

 

姫「チームファンタジアの若崎姫よ。今日のバトル、よろしくね」

 

四郎「秋名スピードスターズの中山四郎。よろしく」

 

芳樹「カウントダウン!5……4……3……2……1」

 

芳樹「……GO!」

 

カウントゼロで両者一斉にスタート。

マシンスペックは姫のS13がスピードスターズ戦のためにややデチューンを施し300馬力程度、四郎のアルシオーネは本番前に間に合わせた現車合わせのECUチューンとプラグ交換でノーマルの135馬力から170馬力までパワーを引き上げていた。

 

2倍近くあるパワーの差と排気量アップによるトルクの差、さらにS13の方がアルシオーネよりもやや軽いため、発進加速の勝負は二駆でありながらパワーで押し切り姫がリードする。

しかしながら4WDという駆動方式のために加速力の差は馬力差の数字ほど顕著には現れず、アルシオーネは何とか引き離されることなくギリギリS13を追えていた。

 

四郎(今までの練習は今日のためにあるんだ!みっともない走りなんかできない!何としてでも喰らいつく!)

 

姫(スケートリンク前ストレートまで逃げれば私の勝ち!たとえ相手が四駆でも、この馬力差は覆せない!勝てるバトルを落とすほど、私は甘くないよ!この勝負で大事なのは、まずミスをしないこと!)

 

四郎にとって、このバトルは序盤で全てが決まると言えた。

いくら四輪駆動と言っても、それは倍の馬力を覆せる魔法のシステムではない。

このまま姫の目論見通りにバトルが進み、パワー勝負となるスケートリンク前ストレートまで逃げられてしまえばあとは四郎に打つ手は無かった。

故に、後輪駆動の大馬力を活かしづらいこの勾配のキツくコーナーの多い序盤で一度は追い抜いてアドバンテージを確保しておかなければ中盤以降に勝負をする機会自体を失ってしまいかねなかった。

 

四郎(分かってたつもりだけどやっぱり上手い!……エース級でなくてもこれだけの腕だなんて。……だけど、キツい登り勾配にうねるようコーナーの連続するこの区間……より苦しいのは四駆じゃなくて二駆の筈なんだ!300馬力のパワーを活かしにくいここで詰めなきゃいけないのに!)

 

しかしそれでも中々差が縮まらず、それどころかコーナーを抜けるたびに離されてしまう。

秋名名物の連続ヘアピンを通過し終わり、もうストレート区間まで余裕がない。

 

ギャラリー8「ふぅー!あのS13いい音させてるぜ!ドリフトも上手いぞ!」

 

ギャラリー9「姫ちゃんがリードしてるぞ!すげぇ!」

 

ギャラリー10「中山ぁ!もっと踏んでけ!置いてかれてんぞ!」

 

コーナーごとに響くギャラリーたちの声をよそに、追いつかなければという思いと追いつけない現実が四郎の中で焦りを生み、その動きは次第に精彩を欠いていく。

曲げにくいパートタイム4WDを覚えたてのドリフトで曲げて行こうとするも、そのコントロールはおぼつかなかった。

マシンの性能とそれをコントロールするテクニック。

両方で負けている以上はもはやどうにもならない。

 

四郎(やっぱり、まだ届かないのか……)

 

コーナーで詰められなかった差をストレートで詰められる訳もなく、突き放された四郎は途中である程度の健闘を見せたものの、その差を埋めることが出来ず9.54秒差という大差で敗北を喫することとなった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

四郎が敗れたことで幸先の悪い出だしとなってしまったスピードスターズであったが次の試合も厳しいものになる。

池谷の相手は同じCA18を搭載する前期180SXだが、しかし相手は腕自慢が揃っているあの赤城レッドサンズのメンバー。

才能に溢れ、努力を重ね、マシンにもしっかりとお金と手間をかけているそれほどの相手に、果たして自分が勝てるのかと池谷はついつい考えてしまう。

しかも四郎が負けた後ということもあり、もしリーダーである自分が負けてしまえば下りのバトルにもこのままの悪い流れを引き摺らせてしまうかも知れない自然と表情を曇らせてしまう。

 

そんな時だった。

 

秋名の走り屋1「池谷……」

 

池谷「お前ら……どうしたんだ?」

 

突然、池谷に声をかける一団がいた。

池谷がふとそちらに顔を向けるとそこには曜日があまり合わないためにそれほど親密な交流こそないものの、幾度か共に走った経験のある地元秋名の走り屋たちがいた。

 

秋名の走り屋2「どうしたも何も、お前らスピードスターズを応援しに来たに決まってんだろ」

 

秋名の走り屋3「お前が辛気くせぇ顔してたからほっとけなかったんだよ。さっき登ってった中山は、もう少しマシなツラしてたぞ。リーダーのお前が不安がっててどうすんだ」

 

秋名の走り屋1「今日はお前らが秋名の走り屋の代表として走るんだろ?だったらせめて、勝てなくてもいいからレッドサンズの野郎に煽りの1発でもくれてやれよ」

 

池谷「……そうだな。とりあえず難しいことは考えずに、死ぬ気で走ってみるよ。……悪かったな、心配かけさせたみたいで」

 

秋名の走り屋2「気にすんな。……そんじゃあ行ってこい。上で他のメンバーが待ってるんだろ?」

 

池谷「あぁ、行ってくる(……そうだ。今の俺らはチームだけじゃなくて秋名の看板まで背負ってんだ。俺が弱気でどうする!例え相手が誰でも、バトルとなれば全力で走るだけだ)」

 

覚悟を決めた池谷は愛車に乗り込むとエンジンを回す。

ブボォン!という雄叫びの様な音と共に池谷のS13が覚醒する。

 

これまでのチューンでNISMO製マフラーと純正交換タイプの高効率エアクリにHKSの触媒を入れていた吸排気チューン済みの池谷のS13は、この交流戦に臨むにあたって近所のショップに持って行きECUの書き換えまでしてもらい200馬力にまで性能を引っ張り上げていた。

さらにタイヤとブレーキをダンロップとエンドレスに交換してしっかり強化している念の入れようである。

 

これで池谷はしばらくの間食費すら切り詰める極貧生活が確定してしまっているが、本人も後悔は無かった。

 

池谷「頼むぞ、シルビア。俺に力を貸してくれ」

 

 

 

♪ YOU BETTER CALL ME / Lolita

 

 

 

一度両手でしっかりと、感触を確かめる様にステアリングを握り込んで気合を入れてから左手をシフトノブへ移した。

 

スタート地点にまで車を移動させてお互い名乗り合うと再び乗り込んでカウントを待つ。

カウントダウンを担当するのはファンタジアのメンバーである一輪だった。

 

一輪「それじゃあカウント行くよ!……5……4……3……2……1」

 

一輪「……GO!」

 

2台が一斉にスタートする。

パワーに勝る佐々木が先行するが、わかさぎ姫と四郎の時ほどのパワー差は無いため2台が縦一列に並ぶテイルトゥーノーズの形でコーナーへと進入していく。

 

ギャラリー11「来た!佐々木が頭だ!」

 

ギャラリー12「おぉ!峠といえばやっぱこれだよなぁ!」

 

ギャラリー13「定番の180SXやシルビアが並んで抜けてくのは様になるぜ!」

 

ギャラリー14「2人とも最高だぜ!頑張れよ!」

 

しかし、少々のパワーの差以外にも根本的なセンスとテクニックの違いからか、池谷は徐々に離されて行ってしまう。

一つ、また一つとコーナーを抜けるたびに開いていく車間に思わず唇を噛んだ。

 

池谷(クソッ!全然詰められねぇ!それどころかテクニックの差で少しづつ開く一方だ!……やっぱりレッドサンズはすげぇ奴らばかりだよ)

 

連続ヘアピン区間を通過しスケートリンク前ストレートに差し掛かる。

2台がペダルを床に叩きつける様な勢いで踏み込み全開加速。

エンジンが唸りを上げてそのまま速度を伸ばし続け、3速から4速へ。

やがてストレート終点へと差し掛かる。

ここはコーナーと呼べるかすら微妙な緩い曲がりののちにキツいRのタイトヘアピンが待ち構える難所の一つ。

上り屈指の突っ込み勝負が行われる見せ場の一つであり、タイムの計測員と共に多くのギャラリーが詰めかけていた。

 

ギャラリー15「来た!180SXとシルビアだ!」

 

緩い曲がりの先から飛び出す2台にギャラリーが一斉に湧き上がる。

佐々木と池谷の順にフルブレーキング。

この時僅かに池谷が差を詰めながらコーナーへと突っ込んだ。

佐々木はブレーキングドリフトで、池谷はサイドブレーキドリフトでヘアピンに切り込みスキール音を鳴らして抜けていく。

 

秋名の走り屋4「がんばれ池谷!そのまま詰めろ!」

 

ギャラリー16「いいぞ秋名の13!やるじゃねぇか!」

 

窓を開け放ち走る池谷の耳に、ギャラリーたちの声援が響く。

秋名の見知った顔から知らない人まで、自分を応援してくれている人の存在に、再び池谷の心は鼓舞された。

 

池谷(あいつらの期待は俺の両腕両足にかかってんだ!まだ諦めるには早い!まだ終わったわけじゃ無い!……そうだ。俺は秋名の走り屋だ!地元のプライドにかけて、このまま突き放されてたまるか!せめて一矢報いてみせる!)

 

ギャラリー17「タイム差はどうだ!」

 

計測員「2.20秒!すげぇ!スピードスターズ、思いのほかやるぞ!」

 

ギャラリー16「すぐに千切られて終わりだと思ってたからな。意外とやるじゃん」

 

180SXに続いて、池谷のS13が後を追いコーナーの先へと消えて行った。

その直後に告げられた2.20秒というタイム差にギャラリーたちはどよめいた。

多くのギャラリーたちは、あのレッドサンズを相手にスピードスターズは手も足も出ないだろうと考えていたが、実際のところは少しずつ離されつつも善戦していた。

 

 

 

しかし奮闘虚しく、バトルの結果はレッドサンズの佐々木の勝利となってしまったが、タイム差は2.14秒と大健闘。

池谷はごく僅かな差ではありながらも、レッドサンズのメンバーを相手にタイムを縮めるという快挙を成し遂げていた。

 

池谷「すまん、みんな……負けちまったわ。健二、拓海……あとは下りを走るお前らに託すよ……」

 

チームのブースに戻ってきた池谷は開口一番そう言ってメンバーたちに頭を下げた。

だがこの場にいるチームメンバーに、秋名の走り屋たちに、池谷がバトルで負けたことを責める人は居なかった。

 

むしろ秋名の走り屋たちはあのレッドサンズを相手に最後まで食らいつき、最後は殆ど誤差レベルであっても僅かにタイムを詰めてみせたことを讃えられすらしたのだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

再び麓の駐車場へと場所は移る。

ここでは上りの最終戦であるレッドサンズ対ファンタジアの戦いが始まろうとしていた。

既に並べられた2台のマシンに、ギャラリーたちは大いに盛り上がりを見せていた。

 

ギャラリー18「すげぇ、めっちゃかっこいいぜこの80スープラ」

 

ギャラリー19「エアロも凄いがピカピカに手入れされてるし、乗り手の子も超美人。まるでワイルドスピードだよな」

 

ギャラリー20「あぁ、最高にクールだよ」

 

2人が名乗りを上げて車に乗り込む。

 

 

 

♪ PUSH ME / Odyssey

 

 

 

カウントダウンが始まる。

今回はレッドサンズの尚子が担当する様だ。

 

尚子「カウント行くよ!……5秒前!……4……3……2……1」

 

尚子「GO!」

 

シルバーのGC8と白いスープラがスタートダッシュを決めるがパワー差でスープラが前に出る。

だがGC8も離されることなく食らいつきそのままコーナーへ。

 

新田(パワー勝負と立ち上がり加速勝負ならあっちの方が上だがコーナーの突っ込み勝負はGC8と俺の得意分野だ。パワーがあるからってそう簡単に千切れると思うなよ)

 

アリス(FR化カスタムのGC8なんていう変わりもののマシンを上手く走らせてる。……大した腕ね。突っ込みの鋭さならレッドサンズ随一って評判も頷けるわ)

 

事実、専用のキットでセンターデフを加工しフロントドライブシャフトを撤去することでドリフト特化のFR仕様に改造された彼のGC8型インプレッサは、元々軽量なボディに後席の撤去を含む軽量化メニューの施工と低重心を実現するスバル自慢の水平対向エンジンの特性もあってか、大柄なボディに重い車重のスープラよりも鋭いツッコミを可能としていた。

連続ヘアピンに差し掛かる頃にはコーナー立ち上がりと僅かな直線でスープラが前に出て突っ込みでGC8が迫ると言う展開となる。

 

ギャラリー21「来た!スープラが先行してる!」

 

ギャラリー22「だがGC8も負けてないぞ!」

 

ギャラリー23「2台ともドリフト超うめぇ!めちゃくちゃかっけぇ!」

 

連続ヘアピンをクリアすれば次は左右にうねるコーナーがありその先にはスケートリンク前ストレートがある。

アリスはアクセルを踏み込み2Jのサウンドをギャラリーにばら撒きながら一気に加速。

 

ギャラリー24「うひょー!2J半端ねぇ!すげぇ音と加速だ!」

 

そのまま突き放しにかかる……かに思われた。

ストレート後半、ここでアリスはあえて適度にアクセルを抜いて少しずつ減速し始めた。

やがて全開で追いかけるGC8との車間も近づくこととなる。

 

ギャラリー25「お、おい!スープラがスローダウンしてるぞ!」

 

ギャラリー26「エンジントラブルか?」

 

ギャラリー27「いや、違う!インプを待ってるんだ!」

 

アリス(パワーに任せてストレートで千切ったと外野からケチを付けられたくはないし、悪いけど少し付き合って貰うわ)

 

馬力に物を合わせて千切ろうと思えば千切れるのに、それをしない。

せっかくのロングストレートで稼いだマージンを全て捨てる。

これの意味するところを理解できない新田ではない。

彼は彼女の意図を汲み取り思わず口角を上げた。

 

新田(あくまで勝負はコーナーで付けるってわけか。上等じゃないか。第2ラウンド、今度こそ勝つ!)

 

ストレート終点のヘアピン、2台同時のブレーキング。

スープラが頭を抑えたままだがGC8もどうにかスープラのインに鼻先を差し込もうとするが差しきれない。

 

新田(やはりブロックが上手いな。通りたいラインを的確に塞がれる。……やりにくい!……それに立ち上がりのアクセルワークは流石の一言だ。かなりの馬力がありそうなスープラに無駄なホイールスピンをさせる事なく滑らかに素早く立ち上がる。……全く隙がない。むしろこっちが見習いたいくらいだ)

 

前を走るアリスが新田が走りたいラインをその大柄なボディを使い上手く潰してしまうために攻めようにも攻められない。

虎視眈々と相手のミスを待つ事も考えたがここまで完璧なコーナーワークを見せつけられればそこに期待をしたところで望み薄だろうことは明らかだった。

これほどの余裕を見せる相手からミスを引き出すのは容易ではないだろう。

 

何より、こうしている間にもコースは消費されていく。

二つのヘアピンを通過しまた左コーナーへと突っ込むがやはりまたGC8は立ち上がりで遅れを取り離されてしまう。

これは両者の馬力の差だけではなく、マシンの特性のせいでもあった。

元々FRとして設計されていたスープラと比べて、4WDとして設計されていたものを後から本来想定されていないだろうFR化をさせたGC8では、足回りのキャパシティにどうしても差が出てしまっていた。

 

さらにGC8はターボが立ち上がりきらない負圧時やトルクの極端に細い低回転時と、ターボが立ち上がり正圧に入った時の中高回転時では出力の出方が他の車種と比べても激しく変わる、言ってしまえばピーキーなドッカンターボ仕様である。

その乗り手をシートの背もたれに叩きつける様な加速感を伴う独特なフィーリングは新田を含めた多くの走り屋たちを魅了する麻薬の様なものではあったがこうした場面ではやはり扱いにくさが出てしまう。

ブーストが垂れた時のもたつきがより顕著に出てしまうのだ。

 

言ってしまえば、彼のGC8はアリスの峠向きにパワーバンドを広く取る様にチューンされたスープラよりも踏みにくい車なのだった。

安定性よりも回頭性を取った彼のFR化と言うアプローチが裏目に出る形となっていた。

 

ましてや今はもうバトルも終盤に差し掛かり、新田には文字通り後がない。

今の焦りを孕んだ彼に出来ることはそう残されてはいない。

 

アリス(先行で自分よりも曲がりに強い車を相手にした時の戦い方は、相手に思い通りのラインを描かせないこと。苦しいラインを相手に強いること。……大柄なボディは一般的には峠では不利と言われるけど、デメリットばかりじゃないわ。こうやって前に出て少し振り回すだけでも、相手の望むラインを妨害する程度のブロックなら容易くできてしまう。もっと小柄な車でここまでのブロッキングを行おうとすれば多少の無茶は要求されるけどスープラにはそれが要らない)

 

新田(クソ!立ち上がりで負けてる以上はこっちが突っ込みで差し切って相手のラインを奪わないと行けないのに……悉く後手になっちまう!これじゃ相手の守りを突き崩せない!)

 

 

 

 

バトルはスープラが頭を抑えたまま逃げ切り勝ちを決めたことで決着となった。

群馬最速と目されていたレッドサンズに第三勢力のレディースチームが勝ったとあって会場は一斉に沸き立ちアリスの周りには人だかりが形成された。

 

ギャラリー28「すごいぞ!レッドサンズ相手に大金星だ!」

 

秋名の走り屋5「すげぇ!かっこいいぜ!最高だ!」

 

特にどこに行ってもモテモテでスター扱いのレッドサンズに対して嫉妬の様な忸怩たる思いを内心抱えていたスピードスターズ以外の秋名の走り屋たちにとっては、これまでほぼ常勝無敗だった破竹の勢いのレッドサンズに(相手が二軍とはいえ)スピードスターズの池谷が惜しくも敗れはしたものの1秒2秒を争う接戦を繰り広げ善戦し、さらにファンタジアが事前の予想を覆して大金星を挙げたことに対して胸のすくような気持ちだった。

そしてその大盛り上がりの群衆たちの中には当然イツキたちもいた。

 

イツキ「すげぇ!本当にすごいよアリスさん!!本当にあのレッドサンズの、しかも凄腕揃いの一軍メンバーに勝っちゃうなんて!ドリフトしながら最終コーナー抜けてスープラが入って来た時は鳥肌がたったよ!くぅーーー!一流の走り屋同士のバトルはやっぱり激アツだぜぇ!」

 

 

 

再び暴走スイッチが入り叫びながら群衆の中へと突撃していくイツキの姿を眺める拓海の胸の内に、静かに何かが灯る。

 

それに気づく瞬間は、そう遠くはないのかもしれない。




FR化キワモノGC8の新田くんを含むレッドサンズ一軍勢の実力を簡単に表すと、大体のメンバーはドライではケンタよりも速く、雨ではケンタよりも少し遅いレベルです。
新田くんはそのマシンの特性上、雨のバトルは苦手としています。



ちなみに作者は本来なら地の文で語るべきことをギャラリーに一部振り分けて喋らせるので今回もギャラリーがガヤガヤ喋ります。
あと、ギャラリーの人たちに時々あえて誤った認識で語らせたりする事で、各々が持ってる情報に差異があることを示すという意図もあります。

今まで書けなかったぶんを発散する様に、バトルの描写は自然と筆が進みました。


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第15話 伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(中編1)

本作における拓海くんはそこに至る経緯も含め、原作とは随分と異なる交流会を経験した事で原作とは違うルートを進むことになります。
今後はその辺のこともアンケート化してみようかと考えています。
本格的にルート分岐するのは、執筆のベースとなる下書き程度しか存在しないナイトキッズ編以降からになる予定なのでまだまだ時間的に余裕がありますが……。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


上りの部が終わるとしばらくインターバルが挟まれる。

その間に高橋啓介はマツダボンゴで乗り付け工具箱まで持参したチームメカニックと共にマシンのセッティングを行っていた。

フリー走行が終わるや否や、すぐにマシンをクーリングさせ油圧ジャッキで持ち上げ下回りやタイヤ周辺を点検し、拾った木の葉や砂利などをサッと取り除く簡易清掃をしていたかと思えば、今度はもう一度下ろしてエンジンフードを開け放ち、またゴソゴソと何かを調べたり弄ったりし始めている。

 

遠巻きからのため何を弄っているのかはよく分からないものの、そんなサーキットに足繁く通うレーシングチームさながらの光景を、隊列走行やバトルから戻ってきて一休みしていた池谷たちを含むスピードスターズのメンバーが眺めていた。

 

池谷「あいつら……本格的にやりやがって……」

 

四郎「お、おい……あいつら本気だよ。なぁ、あんなの相手にハチロクじゃやっぱり厳しいって」

 

滋「高橋啓介のFDは少し前の実測値が364馬力、ツインターボのモンスターマシンで、拓海のハチロクはNAなんだよな?NAのままだとパワーも稼ぎづらいし、特にストレートで置き去りにされちまう」

 

四郎「しかも経年のパワーダウンも考えると、実測だとノーマルの130よりちょい上くらいになるのか?150も無いんじゃあ……」

 

守「馬力なんか殆ど3倍近いじゃないか……。いくら元秋名最速の走り屋の息子って言っても、流石に……な」

 

翔一「あぁ、その元最速本人じゃない以上はどうしようもないって。リーダーの言う通りなら走りのキャリアも腕も俺ら以上なのは何となく分かるんだけど……」

 

池谷「でも、俺たちの誰が走ったって高橋啓介には勝てないんだ。今は拓海を信じるしかないさ。……それに、天下のレッドサンズだって無敵じゃないって事は、さっき証明されたばかりだろう」

 

健二「そりゃあそうだけどさ……」

 

徹底したマシンの管理を行い盤石の体勢でバトルに臨もうとする高橋啓介の本気ぶり見せつけられて、言葉に出来ないプレッシャーの様なものを感じるスピードスターズの面々だったが、同時に池谷は最後まで希望を捨てるつもりはなかった。

 

結局負けてしまったが、自身がある程度ではあるもののレッドサンズメンバーを相手に粘れたことと、この場においてはライバルチームではあるもののファンタジアのスープラがレッドサンズ一軍に名を連ねるGC8インプレッサと戦い見事に撃破してみせたこと。

何より高橋啓介本人が秋名の下で例の豆腐屋のパンダトレノらしい車に千切られたと言ったこともある。

たとえ相手が群馬有数の走り屋チームであるレッドサンズのナンバー2が相手でも、場合によっては勝機はあると、少なくとも勝てる可能性はゼロではないと思えてきていたのだった。

 

守「とにかく、もうすぐ10時だ。下りの部が始まる時間だよ。速く拓海のところに行ったほうがいいんじゃないか?」

 

池谷「あぁ、そろそろスタート地点に移動する様に伝えておこうか。俺たちもそこに集まって、チーム総出で送り出してやろう。……応援してやるくらいしか出来ないってのも、ちょっと悔しいけどな」

 

 

 

ギャラリー用の区画に行くとそこに止めてあるハチロクの中に拓海はいた。

イツキの姿が見えないものの、拓海に聞けば今はトイレに行って並んでいると言う。

 

池谷「拓海!もうそろそろスタートの時間だから車をスタート地点に動かして欲しい」

 

拓海「はい。……ところでどこまで移動させればいいんでしたっけ」

 

翔一「なら俺たちが誘導するから、後ろからついて来てくれ」

 

拓海「分かりました。それじゃあ、お願いします」

 

そう言うと、拓海は車に乗り込みエンジンを回す。

守や滋がギャラリーたちを退避させて道を作ると拓海はゆっくりとハチロクを転がした。

 

池谷(やっぱり……特別な何かがある様には見えないよなぁ。音も普通のハチロクと変わらない様に聞こえるし……)

 

その様子を黙って見届ける池谷だったが、やはりこのハチロクに特別なチューンなどがなされている様にはどうしても思えなかった。

そして、このハチロクに注目しているのは池谷たちだけではない。

近くにいたギャラリーやファンタジア、レッドサンズのメンバーたちも同様だった。

 

ギャラリー1「ん?なんだ……?あれがスピードスターズの代表か?」

 

ギャラリー2「助っ人でハチロクが来るって聞いたけど……なんだありゃ?」

 

ギャラリー3「藤原とうふ店って……まさか実家かどこかの社用車かぁ?」

 

赤城の走り屋1「そんな奴が啓介さんと戦うのかぁ?」

 

ギャラリー4「しかも乗ってんのはガキじゃないか。同じハチロクでも俺の5AGで走ったほうがまだマシなんじゃねぇの?」

 

ギャラリーたちがどよめく。

ハチロクで高橋啓介のFDに挑むと言うからてっきりバチバチに魔改造を施した様なマシンを想像していたら、出て来たのは殆どノーマルに近い見た目の社用車らしい車だった事で、多くのギャラリーたちは拍子抜けといった感じだった。

これなら同じハチロクでも、ギャラリーに来ていた他のハチロク小僧たちの車の方が幾分マシに思えてしまったのだ。

 

その一方で、はたてと啓介を経由して事情を知っているレッドサンズやファンタジアのメンバーたち、そして直感力や経験に秀でた一部のギャラリーは、あのハチロクに対して言い知れぬ不気味さの様なものを抱いていた。

 

斉藤「あれが……あのパンダトレノが……思っていたのと違うな」

 

須崎「話に聞くスピードスターズの秘密兵器ってアレか……?一見すると速そうに見えないのに妙な威圧感は感じるってのが、一番気味が悪いんだよなぁ」

 

ケンタ「あいつが……本当に啓介さんを……?」

 

啓介「やっぱり来たか……(スピードスターズの奴らの近くをどんだけ探してもいねぇと思ったら、ギャラリーに混じってやがったか。見落としてたぜ)」

 

藍「啓介くん、あれがそうなのか?」

 

啓介「あぁ、その筈だぜ。あの時のセリカのドライバーから話は聞いてなかったのか?」

 

藍「いや、話は聞いていたが実際に見てみない限りはな……」

 

啓介「ところでそいつは今どこにいるんだ?あいつだって、このハチロクの件は気にしてそうだったけどな」

 

藍「あぁ、はたてなら先に下に降りてるよ。2人のバトルをゴール側から写真に撮りたいと言っていたな」

 

啓介「そうか……。まぁいいや」

 

藍「確かに話に聞くようにあくまで外観上は大したものには見えないな。バキバキ鳴くタイプの機械式デフの音や強化クラッチの音も聞こえない……か」

 

椛「これではたてのNAらしいっていう推測が正しければ、やっぱり秘密はマシンじゃないって事になるね」

 

ナズ「一般的なNAのメカチューンである以上、どうあがいてもあのFDが出す350オーバーのクラスには届かない。排気量の拡大も込みで200馬力前半が関の山ってところかな?」

 

須崎「まぁ、4AGならそんなもんだろうなぁ。あれは確かに吹け上がりや伸びの良いエンジンではあるが、RBや2Jみたいに絶対的なパワーが出せる様なもんじゃない」

 

竹原「内部にロールケージも無い。車高はノーマルから少し下げているけどこれも峠を走る上での常識的な範囲だよな」

 

ナズ「ホイールはワタナベ製だけどこれもそこまで珍しいものじゃない。……私たちが使ってる練習用の車たちに混じってても分からないかもね」

 

魔理沙「あれってフルノーマルかそれに近い様な奴ばっかだったよな」

 

一輪「うん。あのマーチやアルトとかはあくまでドラテク練習用ですからね。あまりあちこち弄ると練習になりません。特にサスとエンジンには手をつけない決まりになってます」

 

妹紅「ま、とにかくそのハチロクの秘密って奴もこれから分かるようになるんだろ?私も個人的に気になってたからな」

 

藍「あぁ、楽しみにしておいてくれ。……とは言え、走るのは私じゃないんだが」

 

各々がそのハチロクを観察していく。

一般的に走り屋などから愛用されている様な、ダウンフォースを稼ぐためのエアロパーツや幅の広いタイヤを履かせるためのワイドフェンダー、軽量化のためのカーボンパーツなどが装着されているわけでもない。

剛性を格段に向上させるロールケージなど、何か外見から分かる派手なカスタムをしているわけでも無い。

 

それどころか運転席は純正シートのままで、必需品とさえ言われる社外のスポーツシートもなければ4点式ベルトも無い。

機械式LSDや強化クラッチ、ターボチャージャーやスーパーチャージャーなど、ノーマルとは違う中身を察せられるような特殊な音が聞こえるわけでも無い。

だからこそ、経験に裏打ちされた彼ら彼女らの走り屋としての勘がこのハチロクに対して警鐘を鳴らしていた。

 

「このハチロクを見た目だけで判断したらダメだ」と。

 

そしてハチロクが駐車場を出てスタート地点に進入し、既に止めてあった高橋啓介のFDの真横に車を停めると一度車外に出て車の傍に立った。

そこにスピードスターズのメンバーたちと、そしてトイレから解放されたらしいイツキが慌てた様子で駆け寄ってくる。

 

イツキ「拓海……マジで走るのかよ。もし先輩たちの前で情けねぇ走りしたら承知しねぇからな……」

 

拓海「分かってるって、イツキ」

 

池谷「拓海、改めて言わせてもらうが……下りのアタック、お前に任せる」

 

拓海「はい……こっちもガソリン満タンかかってるんで、何が何でも勝ちますよ」

 

池谷「はは……すまん、恩にきるぜ。でも絶対に無茶だけはするなよ」

 

 

 

啓介「終わったか?……随分若いな。名前は?」

 

拓海「藤原拓海です」

 

啓介「……高橋啓介だ。その名前、覚えとくぜ。……確かに、お前があの時のパンダトレノみてぇだな。まさかドライバーがお前みたいな奴だとは思わなかったが……ここに来てこうして車を並べたって事は何をするかは当然分かってんだろうな?」

 

拓海「まぁ………はい」

 

啓介「何だよそのハッキリしねぇ感じは……まぁいいや、とにかくやるぞ。……史浩、そろそろ時間だ。カウント頼む」

 

史浩「あぁ、分かった」

 

史浩の返事を聞き届けた啓介がFDに乗り込む。

続いて拓海もハチロクのシートに座りいつでも発進できる様に準備する。

 

慧音「さて……手筈通り、答え合わせと行こうじゃないか。……髙橋涼介」

 

涼介「あぁ、そうだな。俺たちも行くとしよう。啓介が負けたと言っていたあのハチロクの走り、見せてもらおうか」

 

その様子を見届けた慧音は涼介を伴ってあらかじめ近くに止めてあった自身のインプレッサへと歩いていく。

 

斉藤「あれ?涼介さん?」

 

竹原「どこか行くんですか?」

 

涼介「そう言えばお前たちにはまだ言ってなかったな。……なに、このバトルを記録するカメラカーを走らせるだけだ。……ついでに、俺はそれを特等席から見させてもらう。……改めて聞くが啓介も構わないな?」

 

啓介「あぁ、大丈夫だ」

 

慧音「拓海くんで良かったかな?君はどうだ?」

 

拓海「別に、それくらいならいいですけど……」

 

慧音「そうか。なら行こうか」

 

涼介は慧音と共に彼女のインプレッサに乗り込んだ。

慧音は運転席に座るとドアを閉めエンジンを回す。

腹の底に響く様な低音の強い水平対向エンジンのサウンドが周囲の視線を一瞬引きつけた。

慧音は隣に座る涼介がシートベルトをつける様子を横目に確認しつつ自分もそれを装着し、周辺に視線を配り安全を確認したのちに車を動かしてハチロクとFDの後ろに待機させた。

 

ファンタジア側からの提案により、涼介を乗せた慧音が一定の間隔を保ちながら追走し2人の走りを記録する。

交流会を控えたある日にファンタジア側から出された提案に、高橋涼介本人が乗った形だ。

 

ギャラリー5「なんだ?髙橋涼介がファンタジアのインプに乗り込んだぞ」

 

ギャラリー6「しかも居るのは運転席じゃなくて助手席だ」

 

ギャラリー7「FDとハチロクの後ろに付いた。追いかけるつもりだぞ」

 

ギャラリー8「でも運転するのはファンタジアの女の方なんだろ?インプレッサならドンガメのハチロクは余裕だろうが、高橋啓介のFDは無理だぜ」

 

ギャラリー6「それにしてもあのハチロク、覇気なさすぎだろ。カメラカーにすら置いていかれるんじゃないか?」

 

ギャラリー5「お、おいそれは思ってても言わないのがマナーって奴だぜ」

 

翔一「カメラカーが後ろにつくんだってさ。本当に、何かの収録みたいになってきたよな」

 

滋「うん。よく見るとダッシュカムがあるな」

 

隆春「FDも本気なら、あのインプもインプでやる気十分って感じだよ」

 

池谷「レッドサンズは高橋啓介が、ファンタジアははたてちゃんが、拓海かその親父さんに千切られてるらしいんだ。レッドサンズとファンタジアは、恐らくその走りの秘密に興味があるってところだろう」

 

健二「あぁ、俺ら以外の2チームは、メンバーの敵討ちだって視野に入れて動いてるかもしれないし、あのハチロクの件に関しては利害が一致してると思うからな……」

 

なんの苦もなくFDがハチロクを千切って終わりそうな、とても撮る価値があるとは思えない2人のバトルを撮影するというファンタジアとレッドサンズのやり方に、ギャラリーたちがどよめいた。

涼介は助手席の窓越しに視線で史浩に合図を送る。

史浩が2台の間に立ってカウントダウンを始めた。

 

 

 

♪ 1 2 3 4 FIRE / FAST WAY

 

 

 

史浩「じゃあ、カウント始めるぞ!」

 

その言葉にギャラリーたちの視線が2台に突き刺さる。

 

史浩「……5秒前!……4……」

 

カウントの数字が進むにつれ、加速度的に周囲一帯の緊張感が増していく。

 

史浩「3……2……1……」

 

史浩「……GO!」

 

ついに2台が走り出す。

まずは高橋啓介のFDがホイールスピンをさせながら飛ぶように加速していき開幕からハチロクを置き去りにせんとスタートダッシュを決める。

ハチロクは出足で遅れてしまい大きくリードを許してしまう。

そのハチロクの背後に乗用車1.5台から2台分の車間を開けて青のインプレッサがアクセル開度を調節しながらついていく。

 

池谷「拓海……頼むぞ」

 

イツキ「拓海ぃ……絶対に無事に帰ってこいよ……」

 

コーナーの奥に消えていくテールランプの光を、池谷たちは黙って見送った。

走り出せばもう待ったはかけられない。

時計の針は巻き戻せない。

彼らにはただ拓海を信じることしかできなかった。

 

 

 

啓介(直線で千切るのは不本意だがこれはタイムアタック。オーバー350の馬力を全開にしてストレートでマージンをキッチリ稼ぐ。そして国産最高クラスのコーナリングマシンでもあるFDが、コーナーも制する!……この日のために徹底的に走り込んでタイヤも変えた。マシンも俺自身もコンディションは万全に仕上げてきたと自負してる!もう負ける要素は何一つねぇ!このままぶっちぎってやる!)

 

1コーナー、さっそく高橋啓介が見せつけるようにブレーキングドリフト決めて走り去る。

 

ギャラリー10「うわ!FD超絶はえぇ!」

 

ギャラリー11「クラッチミートもばっちりだし、クリッピングもいい感じ!やっぱり上手ぇよ高橋啓介は!」

 

ギャラリー12「だよな……あのブレーキングドリフト、流石だよ。啓介のFDに比べりゃハチロクなんか止まって見え……は?」

 

ここでギャラリーの1人が異変に気付く。

後ろに続くハチロクと先ほどトランシーバーを持った計測員が話していたカメラカーらしいインプレッサが減速しないのである。

そして2台は動揺するギャラリーをよそに、そのまま殆ど減速せずにコーナーに侵入。

ハチロクはサイドブレーキを使わないブレーキングドリフトで、インプレッサはゼロカウンタードリフトで一定の間隔を保ったまま抜けていきさらに奥のコーナーへとFDを追いかけ消えていった。

 

ギャラリー11「な、何だ今のハチロク!すげぇドリフト!」

 

ギャラリー12「とんでもねぇ進入スピードでケツ振りながら入ってきて、そのまま抜けて消えてったぞ!」

 

ギャラリー13「あんなスーパードリフト、俺見たことねぇよ……。ガードレールまで拳一個分もなかったんじゃないか……?あんな数センチ単位のコントロール、相当な度胸と腕がなきゃ無理だ!」

 

ギャラリー11「あぁ、ぶつかるかと思ったぜ……。見てるこっちの肝が冷えちまった。……ハンパねぇよあいつ。俺だって地元の大垂水でアレやれって言われても出来る自信がねぇ……」

 

ギャラリー12「今のやつ、俺たちの考えてるドリフトとは、なんかちげぇ感じ……なんて言ったら良いのか分からないけど、とにかくかっけぇ……」

 

ギャラリー10「そんであのすげぇコーナリングについてくファンタジアのインプもやべぇよ……。あいつら何モンだぁ?すげぇ走りだぞ」

 

 

 

そしてハチロクの後を追うインプレッサの中では髙橋涼介と慧音が目の前の光景について言葉を交わしていた。

 

涼介「確かにマシンのパワー自体はそれほどではないな。スタートダッシュを見る限り精々150あればいい方だ。啓介の言うモンスターマシンには程遠い」

 

慧音「シフトポイントの速さはギヤをクロスレシオ化させているからだな。社外のクロスギヤセットを組んでいるのか、それともミッション自体を換装しているのか、その辺は分からないが……」

 

涼介「このハチロクなら、恐らくはラリー用のクロスミッションか何かを組んでいるんだろう」

 

慧音「なるほどな。それなら2速がこの秋名のタイトなコーナーに上手いこと噛み合うか。よく考えられている」

 

涼介「あぁ、しかし凄まじいな。まさかこれだけの若さでここまでの走りが出来る奴が秋名にいるとは……。やはりモンスターなのはマシンではなくドライバー……というわけか」

 

慧音「同感だ。私もまさか彼がこれほどまでの凄腕とは思わなかったよ。人は見かけによらないものだな」

 

涼介「あぁ……しかし、この走りを見るに見かけによらず運転の経験自体はかなりありそうだ。随所にモータースポーツの技術の片鱗は見えるが、それだけでは説明が上手くつかないな」

 

慧音「この走り方は秋名の峠に最適化されているように思える。無駄な減速をしない突っ込み重視のラインの取り方には相当な慣れを感じさせるし、コーナー手前での姿勢作りもなかなか素早く正確だ。この峠のコーナー1つ1つを熟知していなければ、ここまでの迷いのない走りは不可能だ。恐らくは、免許を取る前から……」

 

涼介「つまり、無免時代からここの峠をかなりの頻度で走り込んでいた可能性が高いというわけか……。確かにそういう奴も居るには居るが……」

 

そう言いつつも、涼介はおもむろに隣でこのインプレッサを運転する女性に視線を向ける。

ストレートは当然ながら、コーナリングでさえこのハチロクに涼しい顔をしながらついていく彼女に対しても同時に戦慄を覚えていた。

 

涼介(目の前のハチロクも凄まじいが、隣のコイツも大した奴だ。これほど驚異的なハイペースでダウンヒルを攻める軽量なハチロクに、より重いGDBを難なく追従させている……。マシンのチューンもさることながら、経験を含めた総合的な技量は相当なものだろう)

 

慧音「さて、そろそろハチロクが追いつくぞ」

 

慧音のその言葉に涼介は再び意識を前方へと向ける。

くだんのハチロクは2人の目の前で序盤からかなりの追い上げを見せていた。

わずかな直線区間で差が開くもコーナーでそれ以上の距離を一気に挽回し追い縋る。

ついには前方を走る啓介のFDを捉える。

 

 

 

一方で、先頭を走る啓介はどれだけ必死になって攻めても一向に千切れずむしろ食らいついて離れないハチロクを相手に焦りを感じていた。

 

啓介「くそっ!ハチロクが追いついてきやがったのか!ありえねぇ!(何だってんだ!何が起きてんだ!気がどうにかなりそうだぜ!)」

 

啓介(世代遅れのボロハチロクに出来て、このFDに出来ねぇ事なんか何もねぇ筈なんだ!)

 

左右へ蛇行する区間、右ヘアピンをドリフトで抜けて今度は左へ。

インを攻めて並んだまま抜けていく2台にギャラリーたちが歓声をあげる。

 

ギャラリー14「おぉ!何だありゃあ!3台連なって突っ込んでくるぞ!」

 

ギャラリー15「やべぇぞ!あのハチロク、すげぇ上手い!高橋啓介をビッタビタに煽ってやがる!軽量ローパワーの旧型車でパワーに勝るより新しい車を煽り散らすなんて走り屋として最高に渋いぜ!」

 

ギャラリー16「信じらんねぇ!みんなすげぇはえぇ!このバトルめっちゃレベルたけぇぞ!」

 

ギャラリー15「マジで今日来て良かった……鳥肌立ったぜ」

 

ギャラリー17「赤城最速の高橋啓介がコーナーで煽られてるなんて……あのハチロク何なんだぁ!?」

 

ギャラリー18「あいつ誰だ!?知ってるやついるか!」

 

ギャラリー15「わかんねぇ!見たことねぇ!あんな奴が秋名にいたのか!?」

 

序盤の見せ場である2連ヘアピンを抜け、3台分のサウンドが峠を駆け下りる。

先に待ち構えるのは秋名のダウンヒルにおいて最高速をマークするスケートリンク前ストレート。

ここで高橋啓介は一気にアクセルを踏み込んだ。

ターボパワーが炸裂し、車を前に蹴飛ばす様に加速させてハチロクに一気に差をつけようとする。

 

 

 

その頃、スタート地点の駐車場。

 

マーシャル1《こちら第一セクション中継地点、スケートリンク前ストレート!スタート地点聞こえるか!》

 

史浩「こちらスタート地点、どうした?」

 

マーシャル1《すげぇことが起きてるぞ!今目の前を撮影車含めて3台通過したんだが、啓介がビタビタに煽られてた!秋名代表のハチロクバカっ速!》

 

史浩「なにぃ!」

 

イツキ「えぇぇぇ!!」

 

池谷「はぁ!?」

 

ケンタ「なッ……?!啓介さんが!?」

 

ヤマメ「拓海くん……。まさか本当に……」

 

ギャラリー19「あの高橋啓介が煽られてるだぁ!?」

 

ギャラリー20「それもあんな冴えないハチロクにぃ!?」

 

コース脇に立つマーシャルの通信から伝わってくる情報に、場は騒然となる。

特に啓介の速さに惚れ込みまるでアニキ分の様に慕っているケンタは、完全に予想外であった啓介の苦戦という一報に、開いた口が塞がらないと言った感じで呆然としていた。

 

マーシャル1《見た限り、パワーはFDが圧倒してるからこのストレートでまた差を付けられると思うけど、この後は途中で少しの中高速セクションがある以外はタイトなコーナーの連続だ。これは不味いんじゃないか!?と、とにかく……こっちからは以上だ、通信終わり!》

 

そこで通信が途切れるとあたりが水を打ったような静寂に包まれる。

 

ヤマメ(高橋啓介は確かに荒削りなところがあるけど、でも決して下手ではなかった。赤城最速という触れ込みも、おそらく間違いではない。練習期間中、私自身が後を追ってその実力は確かめているし、はたてだって認めていた。……でも、その啓介のFDをパワーの劣るハチロクでこれほどまで追い詰めてるなんて……。ストレート到達前の時点で煽られるほど詰められてるのなら、啓介には悪いけどこの時点で啓介の勝ち目はほぼない。この勝負は拓海くんの勝ちね)

 

周囲が再びどよめき出す中で、ヤマメは静かに拓海の勝ちを確信していた。

そして、その計算高い狩人の頭脳はその先のこともまた見据えていた。

 

ヤマメ(……でもね、だからこそ……私も気になってきちゃったかな、拓海くんのこと……。これなら、外の世界での標的は拓海くんで決まりかな?)

 

ヤマメは不敵に口元を吊り上げほくそ笑む。

その顔は普段の気立ての良い少女のそれではなく、獲物を狙う妖怪のそれとなっていた。

 




はい、今回も2万字2分割です。
その代わり次回の更新は少し早めに出来そうです。


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第16話 伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(中編2)

前回少し触れた本作における拓海くんの扱いですが、一応今のところは原作をノーマルモードとして、原作よりも拓海くんに優しい「拓海くんイージーモード」と原作よりも厳しい「拓海くんハードモード」の2ルートを考えてます。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

ギャラリー1「思ったよりも粘ってるぞ!?やるじゃないかハチロク!」

 

ギャラリー2「ロータリーもいいが、4AGとEJ20もいい音させるぜ!」

 

秋名山で行われた交流会。

レッドサンズ対スピードスターズのバトルに助っ人として身を投じることとなり、現在はスケートリンク前ストレートを駆け抜ける拓海は、普段の静まり返った様子から一変した夜の峠を目の当たりにしていた。

峠の各所に人がごった返していて、前を走るRX-7や自分のトレノが通過するたびに手を振り、声を上げ、見送ってくる。

 

拓海(なんか……不思議な感じ。いつもと同じ道のはずなのに、全然違うところを走ってるみたいだ。俺なんか、ちょっと場違いかなって思うけど……でも、悪くはないのかな。こう言うのも)

 

この時、拓海の脳裏にはあの時交わしたヤマメとの会話が思い起こされた。

 

 

 

拓海『あぁ……。ところでさ、走るのって……楽しいのかな?』

 

ヤマメ『うん。……すっごく楽しいよ。拓海くんも、そういう場所に来ることがあるなら、きっと分かる日が来ると思う』

 

 

 

豆腐の配達の時とは違う。

目の前には競うべき相手がいて、コースの端にはそれを見守り応援する人たちがいる。

きっと、彼女みたいな走り屋と呼ばれる様な人たちは、こう言う世界の中で生きて来たんだ。

そして、きっと自分にもそう言う世界があることを、知って欲しかったんだ。

 

拓海には今まで、車なんていつもの気だるい豆腐の配達の道具でしか無いと思っていた。

車の運転なんて好きでもなんでも無いと思っていた。

そして実際にそうだった。

 

ついこの前までは。

 

だけど今は違うと、拓海ははっきりと感じていた。

拓海は自分の心の奥底に不思議な高揚感が湧き上がりつつあることを自覚しつつあった。

それがいつもの孤独や退屈とは無縁の、様変わりした峠の空気に当てられてしまったせいなのか、それとも今まで気づかないフリをして蓋をしていただけの自分の本心が顔を覗かせているのかまではまだ分からない。

 

拓海(カーブで追いつけても、この長い直線じゃガッツリ離されるな。……あのバカ親父、やっぱ抜かさないと勝ったとは認めてくれねぇだろうなぁ……)

 

拓海「仕方ねぇ……。アレ、やるか(この先にある連続カーブ、あそこで仕掛ける)」

 

自分の気持ちに整理をつけるのは後でいい。

頭を切り替え目の前のバトルに意識を戻す拓海。

RX-7のテールライトが遠ざかり一足先にブレーキランプを点灯させカーブの先へと消えていく。

 

しかし、それを見送る拓海の表情に焦りはなかった。

 

 

 

スケートリンク前ストレートの終点、ギャラリーたちはダウンヒルで戦う走り屋たちのブレーキング勝負を目当てにここに集まっていた。

ロータリーサウンドとスキール音を響かせてまずは啓介が突っ込んでくる。

後ろにはヘッドライトが2台分、少しだけ離れた位置から続いている。

 

ギャラリー3「良いぞ!啓介がリードだ!ブレーキングドリフトもうめぇ!」

 

ギャラリー4「でもおかしいぞ!ストレート終点なのにそこまで差が開いてねぇ!馬力を考えりゃあ本当ならもうこの時点でぶっちぎりでもおかしくねぇのに!」

 

ギャラリー5「後ろの2台も来るぞ!」

 

ギャラリー4「まずい!ハチロクがオーバースピード!」

 

ギャラリー3「こっちに突っ込んでくるぞ!……うわぁ!」

 

ギャラリーたちが思わず叫び声を上げる中で2台はガードレールのスレスレまでコーナーを使いきり曲がっていった。

 

ギャラリー5「ま、曲げた……?あのハチロク、あんなスピードで突っ込んできたってのに……曲げやがったのか!?」

 

ギャラリー4「あのハチロク、とんでもねぇ突っ込み重視のカミカゼ走法だ!峠を攻める恐怖ってもんがねぇのかよ!あんな無茶な走り方、命がいくつあって足りないぞ!」

 

ギャラリー5「すげぇ!何であれで曲げられるんだ!どうなってんだぁ!?あいつヤベェぞ!」

 

ギャラリー3「お前ら、次のコーナーに消えてく3台見たか?あのハチロク、FDとの車間ガッツリ詰めてたぜ……もうストレートで稼いだマージン、ほぼ残ってねぇよ」

 

ギャラリー5「なぁ……俺、普段首都高走ってんだけどさ……山っていつもこんな感じなのか……?こんな脳みそ震える様なドリフト、初めて見たぜ。マジでウルトラかっけぇ!痺れたぁ……」

 

ギャラリー3「いや、こんなに熱い走りはなかなか観れるもんじゃねぇ。運がいいぜ、お前……」

 

ギャラリー4「これはひょっとしたら……あるんじゃねぇのか?……大逆転が。……俺たち、もしかしたら歴史的なバトルの目撃者になれるかも知れねぇぞ」

 

 

 

拓海のハチロクはギャラリーたちに絶大なインパクトを与えながら秋名のダウンヒルを駆け抜ける。

そしてその衝撃は後を追う慧音と涼介にも少なくない影響を与えていた。

 

涼介「こうして近くで見てみると、その走りの完成度の高さがよく分かる。まるで芸術だな。このほぼカウンターステアを当てない全開の四輪ドリフト。これがどれほど凄いことか、分かるか」

 

慧音「彼はあのハチロクという車を、些細なミス1つで全てが破綻するような限界領域においても、まるで自分の手足の様にコントロールしている。それも、上りよりもはるかに難易度が高いと言われるダウンヒルで。……はっきり言って並大抵の走り屋では、こんな芸当はまず不可能だ」

 

涼介「そうだ。俺でさえダウンヒルでFCをここまでの精度で、しかも最初から最後まで一切のミスもなく継続的にコントロール出来るかと言われれば……正直あまり自信はない。……全く、鳥肌もんだぜ」

 

慧音「私たちのチームの中でもここまでのことが出来るやつは多くない。……本当に素晴らしい腕をしている。テクニックだけで言えばすでに日本でも指折りの領域にあるだろう」

 

涼介(しかし……そうやってハチロクのことを手放しに賞賛しておきながら、自分でそのハチロクのラインをトレースしてその走りをモノにしようとしているお前も大概恐ろしい奴だ、上白沢。……秋名のハチロクに、このファンタジアのインプレッサ。俺たちの越えるべき壁は高いか……。だがそれでいい。それでこそ燃えるってもんだ。1人の走り屋として、久々に熱くなれそうなライバルが出来てむしろ嬉しいくらいだ)

 

慧音(さて、ここまでの実力者が秋名にいたとは予想外だったが、だからこそ面白い。さて、このハチロクをどうやって攻略させようか。今後が楽しみだ。……それにこのハチロクの走りをあの子にも見せてやりたいな。同じハチロク乗りとしてどう思うか……。そう言えば確か、あの子は今度秋名のホテルに自分の商品を配達に行くとか言ってたっけな。その時にでも、この映像を見せてあげようかな)

 

今後に起こりうるこの秋名のハチロクとチームメンバーたちの化学反応を想像しながらも、しっかりと前を見据えてハチロクを追いかける彼女とインプレッサ。

ヘアピンを1つ、一度中高速セクションを挟みながらもう一つと抜けていく。

 

そしていよいよ、このバトルの勝敗を決する連続ヘアピンが目前にまで迫っていた。

 

 

 

コースも後半となる中で、依然として煽られっぱなしの啓介は苛立ちを募らせていた。

 

啓介「チッ!振り切れねぇ!今日に限ってFDがやけにノロマに感じるぜ!(クソッタレが!セカンダリータービン止まってんじゃねぇのか!)」

 

啓介はこの年式の前期FDにありがちな過給機系トラブルを疑い、視線をブースト計に持っていくがその値は至って正常なものであった。

しかし今度は視線をバックミラーに送れば、先ほどよりもさらに差を詰めてコーナー終盤で殆ど互角に近い立ち上がりを見せ背後に張り付くハチロクのライトが見える。

この先に訪れるのは秋名で最も高難度な区間であり同時に名物とされる見せ場の連続ヘアピン。

 

それを前に、啓介は自身の背中を湿らせる冷や汗と妙な胸騒ぎを感じていた。

 

 

 

それが起きたのは秋名の連続ヘアピンだった。

まずは第1ヘアピンを抜けて立ち上がり、両者ともにアウトに振る。

この時点でハチロクは完全にFDを射程圏内に捉えて煽っている。

続けて第2ヘアピン。

短いストレートで僅かに啓介が差を付けたところで、やはり突っ込みでハチロクがそのリードを帳消しにしてしまう。

立ち上がりで啓介のFDが次のヘアピンに備えてアウトに振るが、しかしハチロクは次のコーナーでインを刺すつもりかイン側を維持していた。

 

 

 

そして第3ヘアピン、ついに拓海が仕掛ける。

 

啓介がブレーキングに入るが拓海は減速せずそのままインをすり抜けほぼ横並びとなる。

それに驚愕する啓介とギャラリーたち。

 

ギャラリー6「な!?あのハチロク減速しねぇ!」

 

ギャラリー7「攻め込みすぎてブレーキぶっ壊れたかぁ!?」

 

啓介(ヘアピンなのに減速しねぇ!今度は何のつもりだ!)

 

そして2台がヘアピンへと突入する。

ハチロクにインを取られたためにアウト側に膨らんだラインを取る啓介の真横をオーバースピードの筈の拓海のハチロクがガリッという音を小さく立てながらすり抜け前に出る。

 

涼介「何っ!」

 

慧音「あれは……ッ!」

 

啓介「な、何だそりゃあ!?」

 

突然の事に狼狽える啓介。

そして2台の後を追うインプレッサの車内で、涼介と慧音がその生半可ではないスーパーテクニックに舌を巻く。

 

涼介「はは……やられたな、啓介。……このバトル、俺たちの負けだ」

 

慧音「本当に凄まじい奴だ。……アウトに振らずインに残った時点でそんな予感はしていたが、まさか本当にやってみせるとはな。……まさに彼の走りは、君の言う通り芸術的だ。ここまで高次元の走りはそうそうお目にかかれるものじゃない」

 

慧音は今度は啓介の後ろについて第4ヘアピンに突っ込んでいく。

立ち上がりでFDの前から覗くハチロクのテールランプは離れつつあった。

 

 

 

スタート地点にもその衝撃的なオーバーテイクの瞬間は伝わり大きなインパクトを与えた。

 

マーシャル1《あああぁぁぁぁぁぁ!!》

 

史浩「お、おいどうした!?何があった!……つーかいきなり叫ぶなよ!うるさいだろ!」

 

マーシャル1《ぬ……抜かれたぁ……》

 

史浩「……え?」

 

マーシャル1《け、啓介が……抜かれちまった。……あっけなく、インからスパーンと……》

 

イツキ「えぇーーー!」

 

池谷「拓海……」

 

ケンタ「んな……嘘だろ!?」

 

史浩「そんなバカな……いくら何でも、こんな狭い道で抜くのは無理があるだろ。……一体何が起きたんだ。もうちょっと詳しく説明してくれ!」

 

マーシャル1《それが、見てた俺たちも何が何だか分からねぇんだ。誰がどう見てもわかる様なオーバースピードで突っ込んできたと思ったら、そのままインベタをなぞる様な苦しいラインをオンザレール的に走ってそのまま行っちまった……。明らかにタイヤのグリップの限界を超えてる無茶な速度とラインで曲がっていきやがったんだ。そうとしか言えないんだよ!意味が分かんねぇ!あんなの人間技じゃねぇ!》

 

まるで超常現象じみたその話に誰もが言葉を失う。

 

しかし、そのトリックを一発で見抜いた人間がギャラリーたちの中で1人だけ存在していた。

彼はその奇跡のオーバーテイクが起きた現場、第3ヘアピンにいた。

レッドサンズと同じ群馬の走り屋として妙義山で一大勢力を築いた妙義ナイトキッズ、そのリーダーである中里毅だ。

 

中里(俺には分かったぜ。……あのハチロクが何をしたのか。バカバカしい事だが、あんなのは誰にも真似出来ねぇ。しかも絶妙な条件が整った、ほぼ秋名専用の地元スペシャルみたいなもんだ)

 

中里(この世の中にはとんでもねぇ奴らがいる。あのハチロクもその1人だったってわけだ。……このとんでもなく上手い秋名のダウンヒルスペシャリスト、奴を仕留めるのはこの俺だ。……素直に認めるのは悔しいが、俺にはあいつほどのテクニックは無い。同格の車同士のバトルになれば正直分が悪いだろう。……だが、俺にはコイツがいる)

 

彼は静かに自身の愛車に向き直った。

光沢を放つ黒のボディには『GT-R』のバッチが付いている。

 

中里(R32GT-R……かつてサーキットでマツダもトヨタも、並いるライバルをみんな蹴散らして最強伝説をぶち上げたコイツにかかれば、いくらドライバーが上手かろうとハチロクなんて旧式車なんぞ目じゃないぜ)

 

ナイトキッズの走り屋1「中里さん?もう帰るんですか?あと2本、下りのバトルが残ってますけど」

 

そんなことを考えていると、同じチームのメンバーから声をかけられる。

踵を返して車に向き直った事が、どうやら帰ろうとしている様に見えてしまったらしいかった。

 

中里「いや、少し考え事をしていただけだ。まだ帰るつもりはない。これほどのバトルが観れるとは思えないが、残り2本もきっちり見届けてから帰る」

 

それだけ言うと、中里は愛車に背を預けつつまた思索を巡らせる。

ハチロクのこと、今日現れたそれ以外の走り屋のこと。

しばらくしてからもたらされる高橋啓介敗北の一報に騒然となる他のギャラリーたちの声を聞き流しながらに思う。

 

中里(……これだから峠はやめられねぇ。楽しみがまた増えた。……それにしても、今日はここに来て良かったぜ。このハチロク以外にも色々見れたしな。群馬の峠は、これからもっと楽しく、面白くなる)

 

これから訪れるだろう数々のバトルに思いを馳せる中里は、自身の心の奥底で闘争心が疼くのを感じ取っていた。

 

 

 

 

 

峠を下り切って駐車場に入った拓海を待っていたのは熱狂する大勢のギャラリーたちだった。

 

ギャラリー8「マジかよお前!本当に高橋啓介に勝っちまったのか!?」

 

秋名の走り屋1「すげぇ、マジすげぇよ!とんでもねぇジャイアントキリングだ!」

 

秋名の走り屋2「お前本当に最高だよ!池谷の奴、とんでもねぇ奴を掘り当てやがったもんだぜ!」

 

ギャラリー9「マジですげぇぜ秋名のエース!お前ほんとにカッケェよ!」

 

車を降りるなり拓海はすぐに興奮の絶頂にあるギャラリーたちに囲まれてしまう。

特に地元秋名の人からはまるで胴上げでもされるんじゃないかと思う様な勢いで詰め寄られ誉めそやされる。

ただいつも通りに峠を下って車一台を抜いただけなのに、あっという間に一躍人気者となったことに少しのむず痒さを感じるとともに戸惑いを隠せなくなるのだった。

 

 

 

そして、拓海に遅れること7秒。

ようやくゴールした啓介とその後に続く撮影車のインプレッサが入るとさらにギャラリーの騒ぎは大きくなる。

どんな走りだったのか、一体あの時何が起きたのか、彼ら彼女らの興味は尽きる事はなかった。

 

それと同時に撮影車の運転席に慧音が座っていたこともちょっとした驚きを与えていた。

髙橋涼介が撮影車に乗り込んで走っている事自体は事前に行われた無線連絡によって知っていたがそのドライバーがまさかの涼介ではなく女の方であったとは思わなかったのである。

 

そしてそんな彼女が涼介と共に拓海に向かって歩くとその進路上にいたギャラリーたちが少しずつはけていき、そこへ至るまでの道が出来上がる。

この場にいる全ての人の予想を大きく裏切っての大逆転勝利。

それを間近で見たであろう2人が何を口にするのか、ギャラリーたちは固唾を飲んで見守った。

 

慧音「拓海くん、まずはおめでとう……と言わせてもらおうかな。倍以上のパワー差を覆しての大逆転勝利……いいものを見させてもらったよ」

 

まずは慧音が拓海の勝利を祝い褒め称える。

 

この空気感の中で、敗北したレッドサンズ側の涼介に第一声を委ねてしまうのは、彼にとっても彼の弟の啓介にとっても少し重いだろうと気を利かせたのだ。

 

涼介「これだけ突き放した上でのゴールなのだからもはや言い訳を挟む余地もない。見事だ」

 

涼介もそれに続いてハチロクの走りを認める言葉を口にするが、これに対して負けた啓介は少しばつの悪そうな表情をする。

絶対に勝つと意気込んでいたバトルで、しかも後ろで兄が見ていると言うのに負けてしまった事は啓介にとっては屈辱そのものだった。

だがここで下手に噛みついて場の空気をさらに悪くしたところで、何一つ良いことなどないと理性の部分では分かっていたため、啓介はこらえるしかなかった。

 

啓介「あぁ、大したもんだぜ。こんだけやられちゃあ俺だって文句の一つも言えねぇよ」

 

バトルの相手とそれを見届けた2人の言葉が出揃うと、再び周囲は『秋名のハチロク』の勝利を讃える歓声で包まれる。

 

ギャラリー9「すげぇ!今夜は伝説になるぞ!」

 

秋名の走り屋3「夢じゃねぇんだよな……秋名の走り屋があのレッドサンズに勝つなんて……!」

 

こうして秋名の峠に歴史的な1ページが刻まれた。

赤城レッドサンズ、妙義ナイトキッズの二大巨塔とされていた群馬の峠の勢力図の中に『秋名のハチロク』と秋名スピードスターズが名乗りを上げた瞬間だった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

それからしばらく時間が過ぎ、伝説的なバトルの主役たちはスタート地点の駐車場に戻ってきていた。

啓介はともかくとして、初めての本格的な峠のバトルにしてこのお祭り騒ぎのど真ん中に飛び込んでしまったせいで、拓海は相当に参っていた。

下でも上でも駐車場に入った途端からギャラリーに囲まれてやんややんやと騒がれたり質問攻めにされたりしたせいで精神的に消耗してしまっていたのだ。

 

あまりの大騒ぎっぷりに、最終的にはスタート地点のそばに場所を確保してそこに止めさせて、くたびれた拓海を見かねたスピードスターズやファンタジアのメンバーが周囲を張ることでギャラリーをシャットアウト。

拓海本人も車の中に引き篭もる事でどうにかしているのが現状である。

 

現在はインターバルを挟んでスピードスターズの健二とナズーリンのバトルが始まった頃、啓介はまた次のファンタジア戦に備えて少し離れた位置でジャッキアップを行い、マシンのクーリングとタイヤの交換、ブレーキや足周りの再点検も済ませていた。

 

そしてそれを見るスピードスターズとファンタジアのメンバーたち。

未だにどこかオロオロしてるイツキたちとは違い、ファンタジアの面々はいかにも余裕そうな態度を一貫してとっていた。

 

イツキ「な、何かすげぇことやってるぞ……レッドサンズ」

 

四郎「今度はタイヤ丸ごと交換してるよ。しかもBBSにポテンザ組んでる。あれタイヤもホイールもめちゃくちゃ高いんだよなぁ……」

 

池谷「あぁ、俺が買ったタイヤやホイールよりもなお高い。あのサイズを新品で買うってなったら俺の稼ぎじゃ難しいぜ。そんなもんをポンと出せるなんてさすがは大病院の院長の息子ってところか……」

 

隆春「走りの上手さはガスとタイヤをどれだけ無駄に使ったかで決まるって言葉もあるくらいだしなぁ……。俺たちみたいにケチケチしなくてもいいってのは素直に羨ましいぜ」

 

滋「なんかさ……レッドサンズ、拓海の時よりもガチになってねぇか?」

 

妹紅「そりゃあそうだ。レッドサンズ、上りでアリスに負けて下りで拓海に負けて、今日はあまり良いとこないからな。最後のFD対決くらいは勝っておきたいんだろう」

 

椛「特に啓介個人としては、相手が同じFDだからこそってのもあるよね。群馬最速ロータリー使いとしてのプライドだってかかってるし」

 

慧音「それでいて既に下りを一本落としてるからね。しかもよりにもよって、本人的には万全の準備をして、確実に勝てて当たり前と考えていたバトルで負けている。……これが今、とにかく響いてる。拓海に勝てていれば一応は一勝一敗として何とか体裁だけは取り繕えるが連敗すればそれすら出来ない文字通りの完敗だ」

 

藍「ハチロクに対するリベンジにも失敗して、同じFD同士のバトルにも負けたとあっては高橋啓介のプライドはズタズタだろう(そして、兄の涼介はそれをあえて望んでいる節がある。……今後を見据えて弟の伸びた鼻をこの機会に折らせておくつもりだろうな)」

 

早苗「あとさ、やっぱり走り屋って上りのタイムよりも下りのタイムを重要視する傾向があるでしょう?」

 

守「それは……まぁ、確かに。ミスをしてもある程度リカバリー出来る上りとは違って下りはミスを取り繕うことすら難易度高いもんな」

 

早苗「うん。だからこそ下りで上手くて速い拓海くんみたいな人が尊敬されるわけ」

 

椛「だからレッドサンズは上りでは一軍と二軍から1人ずつメンバーを引っ張ってきて下りは高橋啓介を二度走らせるって言うちょっと変則的なやり方を取ってきた訳だし、私たちだって上りは2人とも予備メンバーを、下りは絶対にバトルに勝てる様に準エース級のメンバーをそれぞれ2人ずつ選出して走らせることにしたんだよ」

 

イツキ「そうだよな。……走り屋にとって下りの勝ちは上りの勝ちよりもずっと重いから……」

 

翔一「そうだ。自分達から仕掛けた遠征で肝心な下りを2戦とも落としたとあれば、高橋啓介だけじゃなくてレッドサンズの自体の評判も落ちちまう」

 

池谷「個人的にもチーム的にも、あいつらは相当な窮地に立たされてるんだな(助っ人の拓海頼りとは言え、何とかダウンヒルで一矢報いて一勝をもぎ取った俺たちの方が、状況的にはまだ救いがあると言えばその通りなんだがな……しかし、ここで健二にも勝って次の高橋啓介にも勝ったとくれば、この交流会はファンタジアの一人勝ちじゃないか)」

 

藍「その通りだ。高橋啓介個人としても、レッドサンズのナンバー2としても、ヤマメとのバトルは何が何でも絶対に落とせない状況となってしまったわけだが……」

 

妹紅「そうだな。……だがはっきり言って高橋啓介はヤマメとは最悪の相性だよ」

 

四郎「え?それって……」

 

慧音「私が見た限り、高橋啓介はその時その時の感情がそのまま走りに出てしまうタイプだな。だから拓海に抜かれた後なんかは後ろで見てても分かるくらいには焦りがそのまま操作に反映されていた。ムキになって相手を追いかけて、無茶をした挙句にミスを重ねていく。そしてみるみるうちに突き放されて結果は7秒差の大敗。そう言う点を見れば彼はまだまだ未熟者だ。……そして、そう言う御し易い走り屋を掌の上で転がし手玉に取って遊ぶのがヤマメなんだ。まぁ、詳しい事はバトルが始まってから教えてあげよう」

 

あの高橋啓介を未熟と言い切った慧音の言葉もそうだが、そのヤマメの勝利を疑わない彼女たちの態度に、スピードスターズの面々は内心で戦々恐々としていた。

ただの根拠のない自信とは違う、確信めいた何かが彼女たちの中にはあるのだ言うのがヒシヒシと伝わってきていた。

 

 

 

マーシャル2《おぉ!……こちらスケートリンク前ストレート終点!ファンタジアのロードスターがコーナー手前のブレーキング勝負でスピードスターズの180SXをあっさり仕留めちまった!ブレーキングドリフトも上手いぞ!良いラインに乗せてった!》

 

ギャラリー10「ファンタジアのロドがスピードスターズの180SXを抜いたらしい!これで勝てば3連勝だぞ!」

 

ギャラリー11「おっしゃあ!ナズちゃんやるぜぇ!」

 

ギャラリー12「よし!俺はあの子に1万賭けたんだ!このまま逃げ切れ!」

 

ギャラリー11「俺もだ!多少パワーは劣っても、やっぱり車も乗り手も軽い方がパワーウェイトレシオで有利だからな。特にあの子は他の女の子達と違って胸が」

 

ギャラリー13「お、おいお前それ以上は」

 

史浩の握るトランシーバーから、ナズーリンが鮮やかなオーバーテイクを決めて健二を抜き去った事が伝えられ、周囲は再び歓声に包まれる。

 

池谷(健二……やっぱり厳しかったか……)

 

しかしその中から漏れ聞こえる「カチ……カチ……」というFDのタイヤナットを増し締めするトルクレンチの音が、池谷には健二の敗北と次のバトルが迫ることを示す秒針の音のようにも聞こえていた。

 

 

 

この交流会も残すところあと一戦。

もう一つの衝撃は、間も無く訪れることとなる。

 




健二「拓海のあのバトルの後で走らされた俺の気持ち考えて?しかも尺の都合でカットってさぁ……」
作者「正直すまんかった。でも拓海に負けた後の啓介の調子を戻させて次のバトルに挑ませるためには時間が必要だったから……せや、もう一本のバトルをここに挟んだろと思って。マシンも熱々でタイヤも消耗してるのに間髪入れずに次を走らせるのもこっちはこっちで啓介が可哀想だったし、何よりフェアじゃないでしょ」
健二「ぐぬぬ……」


それはそれとして、運転が上手すぎたためか不幸にも黒塗りの高級スポーツカー2台に目をつけられてしまう拓海くんであった。
「既にこの時点で拓海くんハードモードに入ってね?ついでに啓介にも厳しくね?」と言われれば反論も出来んぞこれ……。

追加
2月某日、遊びに行ったイニD聖地の某峠でランチアデルタを発見したのでちょっと見させてもらいました。
グレードはHF インテグラーレ エボルツィオーネでボディは赤。

ただ一言……めっちゃ良かった。


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第17話 伝説の夜、三つ巴のタイムアタック(後編)

【祝】5555UA突破しました!これまで応援してくださった読者の皆様、ありがとうございます!今後とも本作をよろしくお願いします!



ナズ「ところで、前回は最後に健二くんが作者に噛み付いてたけど、出番カットされてるのは私も同じなんだよね」

作者「2人の見せ場については今後考えとくからマジで許して。番外編でも閑話でも何でも書くから!」



今回は最後にアンケートを実施しています。
そして幻想郷側の中でも上から数えた方が速いヤマメの大まかな実力が今回のバトルで明かされます。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。



 

秋名山で行われた走り屋たちの一大イベントであるこの交流会もいよいよ佳境へと差し掛かる。

メインイベントであるダウンヒルバトルは初戦のレッドサンズ対スピードスターズ戦から衝撃の展開の連続で、当初のギャラリーたちの予想を覆してAE86を駆るスピードスターズの助っ人が高橋啓介のFDに大差をつけて圧勝。

このとんでもない大番狂せは見る人を熱狂させ、当の本人である拓海は一躍注目の的となる。

 

その後はファンタジアの代表メンバーであるナズーリンがNBロードスターでスピードスターズの健二が乗る180SXを相手に大勝を収めたことで、いよいよ最後の一戦、高橋啓介VS黒谷ヤマメのFD使い同士の対決を残すのみとなった。

 

このバトルで勝たなければレッドサンズはダウンヒルを全て落としてしまい、なおかつファンタジアのパーフェクトゲームを許してしまうことになる。

そのためレッドサンズメンバーや、その応援のために駆けつけたギャラリーや追っかけたちの中にはピリピリとした緊張感が漂っていた。

 

 

 

ケンタ「まさか……今でも信じられねぇけど、あのハチロクが啓介さんに勝っちまうなんて……」

 

芳樹「俺も正直信じらんねぇよ。でも啓介も涼介も認めてる以上は俺らだって受け入れないとだろ。気持ちはわかるけどさ」

 

尚子「まぁ、そうだよね。……でもこれかなり不味い状況なんじゃない?だってウチらもう後ないよ。しかもよりにもよって相手はあのヤマメちゃん。ハチロク戦のショックがある今の啓介じゃあ……」

 

芳樹「……厳しい、か。……かと言って俺らが走るわけにもいかねぇよな。それは啓介自身が許さねぇだろ」

 

その言葉に他のメンバーも頷く。

視線の先にはスタート地点に並ぶ2台のFDの姿があった。

ワンオフのハイマウントタイプのウィングにマツダスピード製エアロを合わせ、先ほど交換したばかりのホイールとタイヤが眩しい高橋啓介の黄色いFDと、R magic 製ワイドボディキットとワンオフ品を含むカーボンパーツが特徴の黒谷ヤマメの黒いFDだ。

それぞれのFDの傍らに立つのはそのオーナーである高橋啓介と黒谷ヤマメ。

 

彼ら彼女らにとって、一方は自分たちのチームのサブリーダー的なポジションのエースであり、もう一方はライバルチームの選抜メンバーだった。

同じメーカーの同じ車種に乗る2人ではあるが、しかし両者の様子は大きく違っていた。

表情を強張らせて額に脂汗を滲ませている啓介に対し、ヤマメはほとんど自然体といった感じであり、彼女にラブコールを飛ばしながら手を振るイツキに笑顔で手を振りかえす余裕すら見せていた。

 

啓介「こんなに早くお前とバトルできる日が来るとは思わなかったぜ。同じFD乗りとして、負けられねぇな」

 

ヤマメ「負けられないのは私も同じだよ。啓介に勝ってこの子が最速のFDだって証明するの」

 

啓介「……残念だが、そいつは無理だな。勝つのは俺と、俺のFDだ」

 

ヤマメ「やってみなきゃ分からないでしょ?チームの代表メンバーの地位を実力でもぎ取った私の走り、見せてあげる」

 

そう言い合うとお互いの車に乗り込んだ。

まもなく始まるバトルへの期待を胸に宿した大勢のギャラリーたちの視線が主役の2台に突き刺さる。

 

 

 

 

 

♪ Spider’s blood / A-One

 

 

 

 

 

ギャラリー1「いよいよ始まるぞ!ラストバトルが」

 

ギャラリー2「高橋啓介はタイヤ1セット丸々交換して気合い入ってるな。さっきの負けをFD同士のバトルで取り戻すつもりだ」

 

赤城の走り屋1「今度こそ勝ってくれよ啓介!このFD対決は絶対に負けられないだろ!」

 

ギャラリー3「俺はファンタジアを応援するぞ!」

 

ギャラリー4「あぁ、レッドサンズに負けた先輩の敵討ち!期待せずにはいられねぇ!」

 

ダウンヒル第一戦の余韻が残る中での最終戦。

そのカウントダウンがついに始まった。

カウントを担当するのはスピードスターズの健二だ。

 

健二「カウント始めるぞ!……5……4……」

 

厳しい戦いの予感にレッドサンズ側の表情が一段と強張る。

 

健二「3……2……1……」

 

スピードスターズやファンタジアのメンバー、ギャラリーたちもただ一言も発さず2台を見守る。

 

翔一「GO!」

 

 

 

カウントが0となり、2台のFDがスキール音混じりのロータリーサウンドを轟かせて走り出す。

 

ギャラリー1「飛び出してったぞ!2台ともスタートダッシュばっちりだ!」

 

ギャラリー3「どっちが先行だ!」

 

ギャラリー2「高橋啓介だ!」

 

多くの走り屋やギャラリーが固唾を飲んで見守る中、鼻先を出し先頭に踊り出たのは啓介が駆るFDだった。

ヤマメはほんのわずかにアクセルを弱めて啓介の後ろに張り付いた。

 

啓介(まず先頭は抑えたか。ならこのまま逃げ切るだけだ!ハチロク相手に負けた分をここで取り返す!チームのためにも俺自身のためにもここは絶対に勝つ!)

 

ヤマメ(後ろに付けた。あとはいつも通りに狩るだけ……勝たせてもらうよ)

 

啓介が先行しヤマメが後追いの形となって、まずは1コーナーに突っ込んでいく。

2台のテールランプがコーナーの先に消えていき、エキゾーストサウンドも遠ざかる。

 

 

 

池谷「走り出しのパワー勝負は高橋啓介が勝ったか。こっから先、後追いのヤマメちゃんがどれだけ食らいつけるかってところだな」

 

守「でも、パワーで劣る以上はコーナリングで勝負をするしかないけど……あの高橋啓介が相手ともなれば同じFDでも厳しいよ」

 

滋「俺も聞いててよく分からなかったんだけど、さっきの拓海の時みたいに地元スペシャルっぽい奥の手的なトリックがある訳でもないし、無免時代からの秋名の経験値がある訳でもない以上、勝つのは難しいんじゃないか?」

 

初動を見て池谷はヤマメの方が馬力に劣ると考えて他のスピードスターズメンバーがヤマメの不利を予想するが、しかし涼介たちはそれにすかさず異を唱えた。

 

涼介「いや、練習期間中に見させてもらったが、彼女のFDは軽く見ても啓介と同じ360馬力には届いているだろう。仮に馬力やトルクの面ではほぼ互角だと仮定しても、軽量化チューンが効いている彼女のFDの方がパワーウェイトレシオに関しては上だ。先行を啓介に譲ったのは、間違いなく戦略によるものだ」

 

アリス「えぇ、彼女のFDはビッグシングルタービン仕様で最低でも350馬力以上、少々高めに見積もって380馬力の手前程度は恐らくあるわ。加速勝負はほぼ互角かわずかに上よ。前に出ようと思えば、容易く前に出れたわ」

 

涼介の言葉を肯定するようにアリスが補足する。

 

イツキ「でも、パワーがあるならそのまま頭抑えて逃げちゃえばいいだろ?何でわざわざ後ろについたんだ?」

 

しかしそれにイツキは納得がいかないようで、思わず疑問を口にする。

 

妹紅「パワーの有利に任せて頭抑えてそのまま千切っても勝ったとは言えないってのもあるんだが、主にアイツの走りのスタイルの問題だな。彼女は後追いの方が得意なんだ。あんなムードメーカーみたいな態度に無害そうなツラをしてても、いざバトルとなればヤマメは意外と性格の悪い戦い方をするよ」

 

椛「馬力に任せて逃げ切りを狙うよりも、馬力に多少の差はあっても初動で調整を効かせて自分が後追いになるようにする。詳しくは言わないけれど、自分の腕に自信がなければできない戦い方なんだ。……あれに引っかかると思いっきりペースを崩されて思うように走れなくなる。一度私も黒星をつけられた」

 

涼介「後追いには後追いの戦い方というものがあるからな。俺だって先行を相手に譲ってから隙を突いて抜かしにかかるというやり方は知っているし、実際に何度もやったことがある。別に珍しいものではないさ」

 

藍「まぁ、そういうやり方があるとでも思っておけば十分だな。ヤマメの場合は他の走り屋とは一味違うというだけで、一応似たようなものではあるとは言える」

 

依然として釈然とはしないものの、走り屋としてのキャリアもあって自分よりも圧倒的に博識で腕の立つ面々にそう言われてしまえば、イツキはそれ以上なにも言えなかった。

 

幽々子「彼女はトップエースの2人には及ばずとも、チーム内ではそれに準ずるベストメンバーに入るほどの走り屋よ」

 

慧音「そんな彼女を相手にどれだけ持つか、見させてもらうよ」

 

その言葉に涼介は難しそうに眉をひそめた。

 

涼介「……分かってはいたことだが、マシンも十分仕上がっていてそれに自分なりに戦術を考えるだけの賢さも、それを確実に実行するだけの腕もある……か。センス一本の今の啓介では分が悪いのは事実だろうな。勝ち目は多くても三割あればいいか」

 

史浩「え?涼介……ここでも啓介が負けるかもしれないって言うのか!?だったら何で……」

 

涼介「啓介はこれまで才能のみに頼りきりでも勝ち続けていた。だから不利な条件の中で必死に策を考えて活路を見出すという様な経験を啓介はして来なかった。だからこそ、走らせてみることにしたんだ。たとえ負けるかもしれないと言うリスクを背負ってでも、そう言う強敵とのバトルは経験しておくべきだ。今回のダウンヒルの2戦は、そのちょうど良い機会だと思ったんだ」

 

影狼「あら、身内が走ってるっていうのに意外とドライなのね。よりにもよって負けるかもだなんて言うとは思わなかったわ」

 

涼介「この際だから言っておくが、ハチロクの時もそうだがこの交流会で啓介を走らせた最大の目的は経験と成長だ。……啓介はともかく俺としてはこのバトルの勝敗にはそれほど執着してはいないんだ。今回のハチロクやFDとのバトルで啓介が得られるものは、勝ち負けに関わらず多いだろう。速い奴と共に走る事、そこから学びを得て自分の走りにフィードバックすることこそが、成長への何よりの近道だからな(それに勝ちが続くと油断や驕りに繋がる。むしろある程度の敗北を経験した方がプラスに働くこともある。特に啓介のような負けん気の強い奴ほどな)」

 

幽香「……そう言うものなのね」

 

涼介「あぁ、それに、彼女の車も同じFDだろう。同じ車種を扱う走り屋の中に新しいライバルができるのならば、ハチロクの時とはまた違った意味での刺激にもなる。そうやって影響し合う関係の奴がいれば、いい意味での化学反応もお互い期待できる」

 

このバトルに関して、涼介の意識は常に弟の成長を促す方へと向いていることを理解した。

純粋にバトルを楽しんでいる啓介本人やヤマメとは違い、涼介はあくまで監督やコーチとしてここにいるのだ。

 

涼介(負けたら負けたで得るものはあるさ。それも今の増長してしまった啓介にとってはいい薬になるはずだ。ただし……その負けた分の借りは、いずれは俺のFCで返させてもらうつもりだがな)

 

高橋涼介とは結果的にそれが弟のためとなるならば、負けるかもしれない、むしろ負ける確率のほうが高いかもしれないバトルに平気で送り出すような人間であった。

ある意味では冷徹にすら感じられるが、その根底にあるのは走りの世界に身を投じた弟の成長を願う、不器用ながらもひたすらに純粋な心があった。

しかし、それでいながら負けたままでは終われないと、弟の仇打ちを兼ねて自らのFCを走らせる事もまた考えていた。

 

突如として現れた秋名のダウンヒルスペシャリスト『秋名のハチロク』と、その正体が謎に包まれたミステリアスな凄腕揃いのレディース走り屋集団『チーム・ファンタジア』。

『赤城の白い彗星』と呼ばれた北関東最速のカリスマ、髙橋涼介が彼ら彼女らとぶつかる日はそう遠くは無いのかもしれない。

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ギャラリー4「来た!接戦だ!すげぇ腕だぜ2人とも!」

 

ギャラリー5「頑張れヤマメちゃん!レッドサンズなんかに負けんなよ!」

 

ギャラリー6「啓介行け!逃げ切れ!そのままぶっちぎれ!」

 

一方で、バトルに興じる2台のFDは煽るヤマメに煽られる啓介という構図で戦況が膠着しだす。

 

啓介「やっぱりついてくるかよ!分かっていたつもりだが、大した奴だぜ(頭押さえたのは良いが振り切るまでは行かないか。むしろピッタリくっついて離れねぇ。マシンの総合スペックに大差がないからな、ハチロクみたいに直線で突き放してマージンを稼ぐことができない以上、コーナーワークだけで勝つ必要があるか)」

 

ヤマメ(八雲の2人からも徹底的にやってくれても構わないと言われてるし、バトルとなれば手加減なんかしない。……さて、私のFDの方が速いってこと、教えてあげる)

 

ギャラリー7「来たぞ!2台くっ付いてるみたいにビタビタだぁ!」

 

ギャラリー8「そのまま突っ込んでくるぞ!」

 

ヤマメは迫る前半第2ヘアピンで早速ギャラリーに見せつけるように啓介と並んで突っ込んだ!

 

ギャラリー9「な……す、すげぇ!FD同士のビタ付けのパラレルドリフトだ!マジかよ!」

 

ギャラリー7「ガッツリ寄せてそのまま抜けやがった!」

 

ギャラリー8「あの黒いFD何もんだ!2台連なってのドリフトは前走よりも真横で合わせる追走の方が圧倒的に高難易度なんだぞ!ましてやそれを涼介さん以外がやってみせるなんて……!」

 

ギャラリー9「しかもタイムアタックの途中に即席でやるなんて何考えてんだ!」

 

ギャラリー7「確か、金髪の若い子だったけど、まさかこんなとんでもねぇ奴だとは思わなかったぜ」

 

ロータリーサウンドを響かせ次のコーナーへと消えていく2台を見送るギャラリーたち。

ハチロクの時とはまた違った驚きが場を支配していた。

 

 

 

コース前半、2連ヘアピン手前。

黄色と黒の2台がピッタリくっ付いたまま駆け抜ける。

 

コーナーでは好き勝手に煽られまくり、直線では得意のベタ踏み加速でも突き放せない。

啓介は早くも焦りを感じていた。

 

啓介にとって、ハチロク戦は圧倒的な経験値とテクニックに基づくコーナーワークの暴力で殴り付けられたように感じられたバトルだったが、このFD戦ではマシンの性能とテクニックの両面で劣る様を見せつけられているように感じられた。

また、ハチロクには「FDに対して速力で圧倒的に劣る」と言う覆しようのない弱点があった都合上、限られた箇所でしか仕掛けることが出来なかったが、彼女のFDは違う。

速力も含めたマシンの総合力でハチロクを圧倒し啓介のFDすらも上回る性能を発揮する彼女のFDは、ドライバーである彼女自身の優れたテクニックもあり、いつでも自分を仕留めることが出来ることを啓介に対して常時訴え続けている。

それはハチロクの時とはまた異なる、それ以上の恐ろしいまでのプレッシャーを啓介に与えていた。

 

啓介「クソ!さっきからおちょくりやがって!ハチロクの野郎も大概だがコイツもコイツで腹立つぜ!(まるでアニキみたいにガッツリ超至近距離まで寄せてきやがってヒヤヒヤもんだ!こっちは削れるもん削って限界ギリギリの全力で走ってんだぞ!なのにアイツは余裕ぶっこいてるのが丸わかりだ!)」

 

今まで決して自分の前を走ろうとしなかったこのFDの少女の、練習走行の際には鳴りを潜めていた本来の走りに啓介は終始驚かされっぱなしであり、その隠されていた本性に対して恐怖すら感じていた。

背中を焦がす様なそのプレッシャーのせいか、ステアリングを握る手が普段よりも汗ばんでいるのを感じるも、その原因となっている相手の黒いFDは啓介を攻め立てる手を一切緩めるつもりはないようだった。

 

啓介(純粋な走り屋としてのテクニックじゃハチロクに負けて、同じFDを走らせても今度はコイツに負けるってのかよ!畜生!こんな屈辱初めてだぜ!)

 

 

2連ヘアピンを難なくパスして2台はスケートリンク前ストレートに差し掛かる。

ヤマメがアウト側に寄せる素振りを見せれば啓介がそれをブロックする様に寄せていき、それを見たヤマメが今度はイン側に付こうと車体をずらせば啓介も張り合う様にインを塞ぐ。

長い様で短いこのストレートでフェイントを掛け合う様な攻防に、一方のヤマメはほくそ笑んでいた。

 

ヤマメ(やっぱり。こっちが少し仕掛けるフリをするだけで、タイヤの負荷を度外視しした様なオーバーリアクションで張り合ってくる。こっちの動きに釣られて、本来の走りを完全に見失ってる。そんな走りじゃ、最後までタイヤがもたないよ)

 

彼女の考える通り、啓介はヤマメの走りに意識を引っ張られすぎていた。

対戦相手ばかりに気を取られすぎているあまり、自分の走りが疎かになってしまい、なおかつ自身ではそれに気が付かないという状態に陥っていた。

 

相手が持つ本来の走りに集中させず、後ろを走る自分に意識を割かせる事で、自分が起こす小さなアクションに対して相手が過敏に、かつ過剰に反応する様になる。

そうしてタイヤやブレーキのマネジメントを失敗させたりライン構築やペース配分を誤らせる事で致命となる隙を生じさせ、そこをこじ開け仕留める。

プレッシャーという名の糸で相手の心を絡め取り、ミスという名の毒を蓄積させ、敗北という名の死を与える。

それこそがヤマメの編み出した戦い方だった。

 

プレッシャーに対する耐性の無さと言う弱点を抱える啓介にとって、プレッシャーを与えることに長けているヤマメは、まさに天敵と言えた。

 

ヤマメ(それに、元々荒さのあった操作がさらに雑になっているのを感じるね。立ち上がりでアクセルを踏むタイミングが早め早めになっているから姿勢が安定しきらないうちから加速しようとしてタイヤが暴れそうになっているわ。それをステアリングをこじって修正して、無理やり整えてるからタイヤへの負担はより大きくなる。これじゃあ後半の勾配がきつい連続ヘアピンのあたりで完全にタイヤが熱ダレを起こしてしまう)

 

ヤマメの目の前には、小さなミスを繰り返し続けてロスを積み重ねる啓介のFDの姿があった。

 

 

 

思い通りにならない試合展開に、思わず歯ぎしりをする啓介。

背中をどっしりと湿らせる冷や汗が自らの窮地を否応なしに自覚させる。

ルームミラーを照らすそのFDの固定式ライトが、啓介には獲物を狙う毒蜘蛛の眼光の様に思えてならなかった。

 

まだコースも半分だと言うのに何度も何度も煽られ、詰められ、攻められて、いつどこから抜かれるかも分からない。

そんな常に気を張り詰めていなければならない極限の環境下とハチロク戦での敗北によって、もう絶対にチームとしても個人としても負けが許されないと言う重圧により啓介の精神は徐々に蝕まれていく。

 

何が何だか分からない、幽霊のように得体の知れないハチロクとは違う、明確に「狩る」という意思を激しくぶつけ続けてくる黒いFDに対して、啓介は今だかつてない重苦しさを感じていた。

 

迫るストレート終点のブレーキング勝負。

啓介は恐怖を振り払い覚悟を決める。

限界ギリギリまでアクセルを踏む時間を長くしてブレーキングは出来る限り奥にする。

ハチロクの時のようなマージンがない以上は、ここが正念場となる事くらいは啓介にも分かっていた。

 

そして、それは観戦する側のギャラリーたちにとっても同じ事だった。

対戦する車同士が同じマシンである以上はスペックの差は小さい。

啓介が優勢と見る向きもあったが多くは先ほどのハチロクに対する敗北を踏まえて、抜きつ抜かれつの互角に近い差し合いになるとの予想がされ、もつれたままこのストレートを駆け抜けてくると考える者は相当に多かった。

走り屋たちにとっては見せ場であり、ギャラリーたちにとっての名物として知られるこのストレートは必然的に多くの人の目を集める事となった。

 

ギャラリー8「見えたぞ!高橋啓介が先行!だがファンタジアも負けてねぇ!」

 

ギャラリー9「すげぇ近いぞ!ビッタビタだぁ!」

 

ギャラリー10「来た来た!同じマシン同士の拮抗したバトルなんてこんな美味しいもんなかなか見れるもんじゃねぇ!」

 

コーナーへと近づく両者、そしてそれを見守るギャラリーたち。

コーナーへ突入する寸前、その0.1秒や0.2秒のほんの僅かな時間がとてつもなく長く感じる。

両者のブレーキングの直前、誰かが唾を飲む音が聞こえる。

 

啓介(……今だ!)

 

ヤマメ(……そこ!)

 

2台ほぼ同時、全力のフルブレーキング!

啓介はありったけの力でブレーキペダルを底付きさせる勢いで踏み抜き、ヤマメはブレーキペダルを『一瞬のうちに2度』ガツンと蹴り付けた。

 

そしてその軽さを活かし、ヤマメは啓介に先んじる形で鼻先をコーナーのインに捩じ込み、そのままインベタギリギリを狙って刺し貫く。

 

ギャラリー8「さ、刺した!黒いFDがインを刺した!」

 

啓介「まずったか!」

 

一瞬のうちにインを掻っ攫われてさらに鼻先を前に出された以上、啓介はドリフトのラインも制限されてしまう。

アウト側に追いやられた啓介は立ち上がりでだけはなんとか追い縋ろうとするも、そこで自身の犯したミスに気がつく。

 

啓介(まずい!ブレーキングばかり意識しすぎて回転数の管理をミスった!ターボの息継ぎで立ち上がりがもたついて伸びねぇ!)

 

啓介のFDに搭載されている純正シーケンシャルツインターボは、低回転領域ではプライマリーを、中回転から高回転にかけてはプライマリーとセカンダリーを両方回すことでターボ車特有の弱点でもあるターボラグを克服しようと設計されたシステムであるのだが、実はそのターボの切り替え時にブースト圧が減じてタービンが回らなくなりトルクが落ち込むと言う致命的な欠点がある。

 

本来であればそれをシフトダウンや左足ブレーキなどの技法によって回転数の管理をして常に高回転域を維持することにより誤魔化してやる必要があるのだが、啓介は目の前のブレーキング勝負にのみ意識を割かれてしまっていたがためにその回転数の管理を疎かにしてしまっていた。

そのためそのトルクの谷に嵌り込んだ啓介のFDは、立ち上がりでそのトルクの谷の無いヤマメのシングルタービン仕様のFDに対して遅れをとってしまう。

 

しかし、気がついた時には後の祭り。

既にヤマメのFDは啓介の前に躍り出て大きくリードしていた。

 

ギャラリー10「な……!高橋啓介がまた抜かれた!?」

 

ギャラリー11「信じられねぇ!本当に抜きやがった!あの黒いのすげぇ!」

 

啓介「チッ……!(マズイ!同じロータリー使いのプライドにかけても絶対に負けるわけにはいかないってのに、このザマかよ!)」

 

啓介(だがまだだ……まだ負けが決まったわけじゃない!俺は諦めねぇ!今度こそ、今度こそもう一度抜き返す!)

 

啓介は前を走る黒いFDに対して猛追を開始する。

右左右とうねる様に連続するコーナー群を高速で駆け抜け続くタイトな左ヘアピンをスキール音を鳴らして抜けていく。

盛り上がるギャラリーたちの姿も、今の啓介の視界には入らない。

ただ目の前を走るとんでもないオーラを放つ黒いFDにのみ注がれていた。

そして、直後に訪れるタイトヘアピンを飛び出す頃には、すでにヤマメのFDは啓介の射程圏外へと逃れていた。

 

啓介(クソ!クソ!クソ!なぜだ!俺とアイツらで何が違う!何がダメなんだ!……どうして抜けない!どうして追いつけない!どうしてもっと速く走れない!なぁFD……お前はアイツと同じ車種なんだ!アイツに出来るならお前にだって出来る筈なんだ!頼むFD……!今だけは俺の言うことを聞いてくれ!もう俺には後がないんだよ!アイツには……目の前のアイツにだけは何が何でも負けたくねぇんだ!)

 

必死にハンドルをこじり、ペダルを踏み締め、ただ前を走る影を追う。

しかし、それも長くは続かなかった。

連続ヘアピン最後の第4ヘアピン、タイヤを酷使し続けた啓介のFDがアンダーを出して大きく外に膨らみ大失速。

それと同時に辛うじて見えていたヤマメのテールランプもついには姿を消して完全に千切られてしまう。

 

啓介(クソッタレ!また負けた!今日のダウンヒルで、一度だけじゃなく、二度までも……!すまん、アニキ……)

 

そして、9秒という大差を付けられてゴールをするその瞬間まで、啓介の目はその黒い車体を捉えることは出来なかった。

 




ついに書き切りました。
遅筆も遅筆な自分が何とか1ヶ月以内に書き終えようとあれこれ手を尽くしてギリギリ間に合わせました。
いやぁ、大変でした。
でも、これでいよいよリクエストキャラの登場まで見えてきましたよ。
次の話でようやく一区切りといった感じですかね。
その次に少し間を空けてから次の章の更新を行う予定です。



・アンケート選択肢の補足

『拓海くんイージーモード』
バトルにおける拓海くんの出番が減ります。
原作における拓海くんのバトルの一部をオリキャラ、リクエストを含むゲストキャラ、東方キャラのいずれかが代わりに受ける形となるため拓海くんが楽を出来る一方でバトルによって得られる経験値は原作と比較してやや減ります。

『拓海くんハードモード』
バトルにおける拓海くんの出番が増えます。
難敵とのバトルや不利な条件でのバトル、峠以外のフィールドでのバトルも発生し得るため正直言ってなかなかの茨の道になります。
しかしながら、その困難な道のりも結果的には拓海くんの知識や経験値等にはプラスに働くので拓海くんが原作よりも強くなる可能性もあります。

2023 / 09 / 01 12:53 誤字訂正


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第18話 種明かしと伝播する衝撃

6000UA突破しました!
ありがとうございます!

さて、第一章ももうそろそろ終わりになります。
ここまで熱を入れて書いた作品、初めてかもしれません。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

慧音「啓介くん、君に見せたいものがある。悪いが後で少し付き合ってくれないか?」

 

涼介「啓介、俺からも話がある。上白沢と一緒にある場所を見てもらいたい。ギャラリーがはけてからの方が都合がいいからしばらく後で構わない」

 

 

 

二度の敗北により珍しく沈んでいた啓介を待っていたのは、二つのチームの頭脳からの招集だった。

自身の兄とファンタジアの教官役らしい女から揃って呼び出しを喰らう羽目になった啓介は内心穏やかとは言えなかったが渋々応じる事としたのだった。

 

しかし、兄である涼介はともかくとして、なぜあのインプレッサの女が一緒なんだと思いかけるも、そう言えば自身とハチロクのバトルを涼介と共に観察していたのが彼女であったことを思い出す。

そこまで思い当たると、話の内容というのもハチロクの件に関してだろうと察する事ができた。

 

そうしてかれこれ数時間後……。

「あの時はもっと詰められた」「あれは正直失敗だった」「あそこは相手に気を使わせてしまった」「あそこでミスをしなければまだ行けた」などと、各々の参加チーム間での反省会やら何やらをしているうちに、一部のメンバーやギャラリーたちもその大半が1人、また1人と帰っていく。

 

そして深夜。

峠も先の熱狂はどこはやらと閑散として来た頃合い。

啓介は涼介を伴って慧音のインプレッサの後席に乗りとある場所までやってきていた。

それは啓介自身に新たに刻まれた苦々しい思い出の場所、秋名の連続ヘアピンの3番目、第3ヘアピンだ。

 

慧音「今日のハチロクとの戦いの際、この第3ヘアピンで何が起きたのか……分かるか?まずは啓介くん、君の考えを聞きたい」

 

啓介「は?……そんなの分かんねぇよ。いきなりだったし、アイツの走りは俺の理解を超えていた。何が何だか……」

 

涼介「それじゃあダメだ、啓介。……まず少しずつでいい、とにかく自分で考える癖をつけるんだ」

 

啓介「そうは言ってもなぁ、アニキ……。急にインベタにねじ込まれて、無茶苦茶なラインとスピードでぶち抜かれたんだ。インベタの苦しいラインを通ったハチロクが、アウト側を走っていてコーナーのRをより広く利用できていた俺のFDよりも速く曲がれるなんて事は絶対にありえない筈なんだ。どう考えてもまともな理屈じゃ説明できないぜ。アニキたちも見てたんだろ?……アイツ、もしかしたら本当の幽霊かもしれねぇ」

 

涼介「いや、幽霊や怪物の類いなんかでは断じてないさ。アレは理屈としては単純な、ある特殊なテクニックによるものだ」

 

しかし、涼介にそれをキッパリと否定されたことにより頭に疑問符を浮かべる啓介。

どう考えても理屈に合わないはずのアレがただのドラテクの一環と言われても、今の啓介には全くピンと来なかった。

 

そこに慧音がさらに付け加える。

 

慧音「仕方がない……。啓介くん、君がなぜ負けたのか教えてやろう。それはな……これだ。」

 

彼女が靴のつま先であるものをコツコツと叩く。

それはコーナー端に設けられた側溝だった。

 

啓介「……?」

 

だが啓介は未だに何が何やらわからない様でキョトンとしている。

どうやら理解できていないらしいことを察した慧音はそこに補足する様に続けて話す。

 

慧音「分からないか?……溝だ。あのハチロクはこのイン側の排水用の溝にわざとタイヤを落としたんだ」

 

高さにして5センチも無さそうなそれには、確かにハチロクがつけたと思われるタイヤ痕がその淵に付いていた。

 

啓介「な……!?そんなところにタイヤ引っ掛けたってのかよ!」

 

啓介はそれを聞くや否や、何が起きていたのか、何をされたのかをようやく理解して驚愕の表情を顔に浮かべていた。

 

慧音「そうだ。こうした溝落としと呼ばれる技法にはいくつか意味があるんだが、今回はこの数センチ程度の側溝にタイヤのサイドを引っ掛けて遠心力に対抗させ、本来の限界以上のコーナリングフォースを強引に引き出した……と言ったところだろう」

 

涼介「そういう事だ。バカバカしいまでに単純明快な思いつきだ……が、いきなりやろうとしても成功しないだろうな」

 

慧音「あぁ、危険すぎる。……こんな事は何度もできないはずだ。タイヤのサイドウォールに対するダメージが尋常ではない上、バーストのリスクもある。あとはアライメントにも狂いが出るかもしれない。最悪、タイロッドなどの足回りの各部を痛めてしまい高額修理となる可能性だって無いわけではない。……何より、些細なミス一つで廃車クラスの事故に繋がるし、とにかくリスクやデメリットが大きすぎるんだ。こんなのは博打みたいなものだよ」

 

涼介「……だが恐らくはこんな事でも出来る様になるために、アイツはこの峠を走り込んでるんだ。恐ろしいが、同時に面白いとも思うな。まさかこんな奴がこの秋名にいるだなんて思いもしなかったぜ」

 

2人のこのやり取りの中で、啓介は圧倒されてしまい黙り込むしかなかった。

 

涼介「啓介……。車は究極的には物理法則、物理現象の塊だ。車はどんなに頑張ったところで、物理の通りにしか動かない。一見して説明がつかない様に思える事でも、それが現実である以上はそうなるだけの理由が必ずあるものなんだ。『なぜか分からないけどそうなった』とか『やってみたら何とかなった』とかそういう漠然とした理解のままでは、いつまで経っても上手くはならない。……こればっかりは口を酸っぱくして言い続けているが、速さのためにドラテクを追求する上で一番大事なのは、何よりも頭なんだ。それだけは覚えておけ、啓介。……それじゃあ、そろそろ戻ろうか」

 

慧音「そうだな。いつまでも道路を封鎖しておくわけにも行かないか」

 

啓介にそれだけ伝えると、涼介は慧音のインプレッサに乗り込んだ。

慧音もそれに賛同し運転席へと戻る……かの様な素振りを一度見せるも、何か思い立った様に啓介へと向き直った。

 

慧音「啓介くん、もう少しだけでいいから、君のお兄さん……涼介くんの話に真面目に耳を傾けてやってほしい。いつかうちのヤマメやあのハチロクに対してリベンジしようと言うのなら……もっと上手く、もっと速く、より高みを志すつもりなら……知識だけは疎かにするんじゃない。きっと、彼と彼の教えてくれる知識は君の強い味方になってくれるはずだ」

 

普段の啓介なら、兄である涼介以外からこんな事を言われても余計なお世話の一言で切り捨て、反発するところだっただろう。

でも今の啓介は違った。

ライバルに二度も抜かされ、ムキになって追い回して、それでも勝てなくて、散々に悔しがって、そして一周回って冷静になっていた。

そんな時だったからこそ、その2人の言葉は啓介の中にストンと入り込んでいった。

 

啓介(もっと……もっと速くなりてぇ。……俺も、きっと変われるのか?あいつらみたいに)

 

啓介の脳裏に浮かぶのはあの秋名の地元チームの面々だった。

初日に会った時は覇気というものを一切感じない、テクニックもお粗末なその辺の取るに足らない木っ端走り屋同然だった彼ら。

それが今日に至るまで、会うたびにその面構えが変わっていった。

レッドサンズやファンタジアと積極的に交流を持ち、毎日のように練習を重ねてその腕も少しずつ、ほんの少しずつだが上げていった。

最終的に、彼らのリーダーはその才能を開花させてレッドサンズの二軍メンバーを相手に、勝てはしないまでもそれなりにいい勝負をするまでに至った。

 

「同じ相手に二度は負けない」と豪語しておきながら本番で7秒差というぐうの音も出ないほどの大敗を喫した自分と、初日の大敗をきっかけに奮起して本番でどうにか地元の意地を見せた彼ら。

 

啓介は、急に自分が情けなく感じてしまっていた。

 

 

 

上の駐車場まで戻ると、時間も遅いために今日のところはもう解散となった。

前方をゆったりと流して下る兄の車を視界に収めながら、啓介は思う。

 

啓介(今日のことは絶対に忘れねぇ。……あのハチロクにも、あのFDにも、いつか絶対にリベンジしてみせる。この俺が負けたまま逃げるなんてあり得ねぇ。そんなのは俺のプライドが許さねぇ。……そのためにも、まずはアニキに色々聞いて腕磨いておくか)

 

 

 

 

 

深夜の峠に控えめなロータリーサウンドを鳴らしてゆっくりと去っていく高橋兄弟を見送りながら、慧音も帰り支度をする。

参加者もギャラリーも、もう残っている走り屋は殆どいない。

残っているのは遠距離から来てここで仮眠をとってから帰るというタイプの人たちなので軒並み愛車の中で眠りこけていた。

 

そんな静まり返った峠の片隅で、ほぼほぼ満タンになりかけているゴミ箱に飲み干したジュースの缶を捩じ込みながら考える。

 

慧音(よりにもよって今後チームのメンバーに再戦を申し込むことは確実で、一つの壁になるかもしれない啓介くんにアドバイスなんて、少し私らしくないことをしてしまったかな)

 

だが一時の気の迷いか、どうにもあの時の啓介の姿が竹林の中で孤独に暮らしていた頃の、まだ心がささくれ立っていたどこかの誰かさんに重なって見えたような気がした。

だから、ついついお節介で余計なことを口走ってしまったのだろうか。

 

慧音(もしもあの子が……あの子達が、お互いに高め合えるような関係になってくれれば、この外の世界への遠征にも大きな意味を持たせられるかもしれないな……)

 

そんな考えごとも、GDBのドアを開け、シートに腰を下ろし、車のエンジンを立ち上げればすぐに霧散してしまう。

麓の宿舎に戻るため、周囲の車のオーナーを起こさないように慧音もエンジンを無駄に回し切ることなくゆっくりと駐車場を出て峠へと消えていった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

秋名山で行われた交流会のタイムアタックで、スピードスターズのハチロクとファンタジアのFDがレッドサンズの高橋啓介を撃破した。

この群馬の絶対王者と目されていたレッドサンズの大敗は県内のみならず関東中の峠に衝撃をもって受け入れられる事となった。

 

この妙義山でもナイトキッズのメンバーたちが現地にいたメンバーたちも交えて先日の交流会について言葉を交わしていた。

 

ナイトキッズの走り屋1(弘道)「昨日の交流会、マジで面白かったぜ。走る前にタイヤ変えたりやたらと張り切ってた割には肝心のダウンヒルで高橋啓介2連敗だからな。赤城の奴らの慌てっぷりときたら傑作だったぜ」

 

昨日のあの場の様子を語るのはリーダー中里の後輩で中堅メンバーとして知られる安井弘道だった。

 

ナイトキッズの走り屋2(正一)「全くいい気味だ。胸がスカッとしたぜ。しかも女にまで負けるなんてマジで情けねぇよなぁ。……レッドサンズと高橋兄弟の最速伝説ももう終わりだ。これであいつらはしばらくデカい顔できねぇだろうな」

 

それに同調するのは弘道とは昔馴染みであり慎吾とも仲のいい藤巻正一だ。

彼も当日あの場所で高橋啓介の敗北を目の当たりにしていた1人であり、自身が待機していた後半第6ヘアピンアウト側で、高橋啓介に先行した状態で飛び出してくるハチロクの姿を確かに見届けていた。

 

ナイトキッズの走り屋3(章夫)「いくらドライバーが凄いらしいとは言え、たかがハチロクみてぇなオンボロの旧型車に、カリカリに弄ったFDで挑んで負けちまうなんてなぁ。赤城最速が聞いて呆れるぜ!そんな面白そうなもんが見られるなら俺も行っとくんだった」

 

そこにすかさず続けたのは平章夫。

彼は赤城レッドサンズのライバルとして扱われているナイトキッズのメンバーの中でも特にレッドサンズに対しては対抗心を燃やしていた。

そのためレッドサンズが秋名で他の2チームにボコボコにされたと言う(やや誇張された)噂話を小耳に挟んでからは分かりやすく喜びの感情を発露させている。

 

ナイトキッズの走り屋4(高田)「あとさぁ、駐車場に行けば走り屋の車がよりどりみどりでさ、しかもファンタジアとかいう女だけの走り屋チームの車が超カッケーんだよ!しかもあのレッドサンズ相手に一戦も落とさず完封勝ちときたもんだ」

 

章夫「マジかよ。写真とか撮ってるか?」

 

高田「そりゃあもちろん。ほら、ちょっと待ってろ……」

 

 

 

こうして盛り上がるメンバーたちをよそに、中里は愛車の脇でタバコを吸いながら1人考え込んでいた。

もちろんあの交流戦の時に見たものについてだった。

 

中里(あの日の交流会……。今思い出しただけでも震えるぜ。来て早々にヘアピンに陣取って、走ってくるマシンを見ていたらあんな奴らが出てきやがったんだからな。県外ナンバーの多い派手な車のレディース軍団……『チーム・ファンタジア』か)

 

思い起こすのは交流会が始まる直前、中里を含むナイトキッズのメンバーが連続ヘアピンのギャラリーに仲間入りしてすぐのことだった。

レッドサンズの車の話題で盛り上がるギャラリーたちの喧騒を塗り替える様にけたたましいサウンドを響かせ登ってきた彼女たち。

走り屋としてそれなりに長いキャリアを積み上げてきた中里も聞いたことのないその走り屋たちは、中里の目には眩しいほどの凄まじいオーラを放ちながら秋名の峠を登っていったのだ。

レッドサンズですら髙橋涼介が唯一輝きを放つ鮮明なオーラを持っていて、高橋啓介がギリギリうっすら見える程度という中で、全体の半数以上が明らかなオーラ持ちというその光景に、中里は圧倒されるしかなかった。

 

中里(あの中には例のハチロクや髙橋涼介に引けを取らないレベルでヤバい奴が何人かいた。……バチバチと痺れる様な赤いオーラのS15、星の様な弾けるオーラを撒き散らして走る黒いR34、青緑の静かながら力強いオーラを迸らせるGDB、黄金の炎みたいなオーラを纏ったEK9シビック……。コイツらは特にヤバい。オーラの強さはあの髙橋涼介に並ぶほどだった。恐らくあいつらには慎吾でも勝てねぇ……。他にも黒いFDや赤いランエボを含めて少なくとも高橋啓介以上の奴がゴロゴロと……。あのクラスが複数人いるチームなのか……ファンタジアとか言う連中は)

 

秋名のダウンヒルエース、そして謎のレディースチーム。

中里率いるナイトキッズの前に立ちはだかる数多の強豪たちの姿と、そんな強敵たちとの血湧き肉躍るようなバトルを想像する。

正直に言えば今の自分とGT-Rでも厳しい戦いになると言わざるを得ない様な難敵、強敵ばかりだが、それだからこそ中里は心が躍った。

中里もまた、GT-Rに乗り換えて以降レッドサンズ以外に良さそうなライバルが存在しないために近頃は退屈さを覚えていたところだった。

そんなところにあのハチロクとファンタジアの登場である。

 

中里(次の相手は、そうだな……。まず秋名のハチロク、アイツからだ。その次にあの黒いFDだ。高橋啓介に勝った2人を俺が倒せばレッドサンズもファンタジアも黙ってないだろう。……だがそれで良い。髙橋涼介やファンタジアのエースたちを俺の前まで引き摺り出すにはそのくらいがちょうど良い。その過程でスピードスターズやファンタジア、レッドサンズの他のメンバーが俺の前に立ち塞がろうもんなら、それこそ喜んで相手してやるだけだ。……群馬最速はこの俺と、R32 GT-Rだ)

 

全身が熱くなる様な本気のバトルを求めていた中里にとって、自分の挑むべきライバルとして相応しい相手が新たにこれだけ現れたことは何よりも喜ばしいことだった。

 

中里(そうと決まれば明日から早速動く。まずはスピードスターズに繋ぎを取ってバトルを申し込む。……聞いた話じゃスピードスターズのメンバーが根城にしてるガソリンスタンドがあるらしい……そこを探すか。もし見つからなきゃあ、そん時は山に直接乗り込むとするか)

 

レッドサンズを撃破した拓海たちに狙いを定めた次の挑戦者は、虎視眈々とその機を伺っていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

翌日の夕方、赤城山の麓にある高橋邸。

 

啓介「アニキ、入るぜ」

 

そこでは髙橋涼介がパソコンに向かい合って難しい顔をしたまま唸っていた。

そこに弟の啓介が入ってくる。

 

啓介「また例の論文か?」

 

啓介は涼介がライフワークとしている公道最速理論に関するあれこれでまた何か考えているのかと思いながら軽く声をかけるも、その返答は啓介の予想とは少し違うものだった。

 

涼介「いや、それについてももちろん色々と書き足したいことや修正したいことはあるが、今回はそうじゃない。……彼女たち、ファンタジアのメンバーの素性について簡単に調べている」

 

啓介「はぁ?何でまたアイツらのことなんか……」

 

涼介「啓介、おかしいとは思わなかったか?秋名の峠に現れる前の彼女たちについて、誰一人として知る者がいない事を……。あれだけの実力を持っていながら、その姿を誰も見ていないなんてことは通常あり得ない筈なんだ。だからまずは走り屋たちが使うマイナーな匿名掲示板で該当する車種やドライバーの目撃情報を探したり、ネット記事などにヒットするものがないかどうかを調べているんだ。…………一応、この短時間でもいくつか成果は出たが、それでもこの程度だ」

 

そうして涼介が啓介の前に提示したのはネット記事や個人ブログ、掲示板のスレッドのスクリーンショットをプリントアウトしたものを、ホチキスで止めた簡易資料の様なものだった。

 

 

 

1枚目は『貿易会社 八雲商会』と言う会社のサイトに記載された社長姉妹である八雲紫と八雲藍の紹介ページ。

輸入車販売や海外製パーツの輸入などを行っているらしい。

 

2枚目は『巨大森林火災をトヨタスープラで強引に突破か。逃げ遅れた老夫婦を女性が救出』と言う米国カリフォルニア州の地方紙の小さな記事で、そこに登場するスープラオーナーの女性の名前がアリス・マーガトロイドとなっている。

 

3枚目はブンブン丸モータージャーナルという自動車系ブログで、創設者である射命丸文の下の共同運営者の名前欄に姫海棠はたての名前がある。

最初の記事は数ヶ月前のもので、最新の記事は昨日の交流戦の概要に関する記事で日時は本日正午ごろとなっている。

比較的新しいサイトのようだ。

 

4枚目は『白玉楼』という名の京都と奈良の間にある山奥の旅館のホームページ、その旅館の支配人の名前にやはり西行寺幽々子の名前がある。

さらにホームページの片隅にはその宿に泊まったVIPの1人として八雲紫と八雲藍の名前があった。

 

5枚目はその旅館のすぐそばに建っているらしい剣術道場に関する個人ブロガーの記事で、魂魄妖夢自身の名前は出てこなかったものの魂魄家という変わった名前の一族が営んでいるとの記載がある。

 

6枚目は長野の山奥で別荘の管理人をしつつ麓に小さな花畑が持っている風見幽香という女性のインタビュー記事。

背景には青空駐車の黄色いフェアレディZが見切れた状態で映り込んでいる。

 

7枚目は諏訪湖のほとりにある小さな神社の美少女巫女を取り上げた地方紙の記事の写真で、この記事に書かれている巫女の名前が東風谷早苗。

 

8枚目は走りやすそうな峠道を探していたら結果的に地図マニアになったという元走り屋のブログで、幕末ごろから明治期初頭にかけて記された地図に関する記事の中に博麗神社の記載があった。

場所は旧国名の表記だがおおよそ長野県のあたりだと思われる。

 

9枚目は車好きの尼さんを取り上げた自動車系ブログの記事で、写真にはR32とR33のGT-RにランエボⅤとNBロードスターの姿があった。

特にR33とロードスターは微妙に仕様は違う様だが、概ねあの交流戦の時の車両と酷似している。

さらにはそのブロガーの取材を受けた尼僧のお弟子さんの名前には雲居一輪の名前がある。

 

10枚目は今日の日付が見えるインターネット掲示板のスクリーンショットを関係する部分だけ切り貼りして印刷したものだ。

先日の交流戦の一件は北関東の走り屋たちに衝撃を与えていて、そこに現れた美少女走り屋集団の正体について、涼介がわざわざ尋ねるまでもなくその話題で持ちきりだったらしい。

 

一応、いわゆる学校裏サイトのような表向きには秘匿されたアンダーグラウンドな場であるが故に、そこまで人口の多いスレッドでは無いものの数多くの憶測や仮説がそこでは唱えられていた。

しかしながら、あの場にいたギャラリーたちもちらほらといるらしいこの掲示板の住人たちを持ってしても、あの『チーム・ファンタジア』と名乗るレディース軍団の正体については分からずじまいであったようだ。

ネットを活用するような、一般的に走り屋の中でもインテリ系とか情報通とかに分類されるタイプの彼らですらもお手上げ状態となるともうどうしようもないとすら言えた。

 

 

 

このように、彼女たちが実在の人物であると言うところまではある程度把握するに至った涼介だったが、未だにどこか腑に落ちないところがあったが、実際に話してみても素行に問題のある人もいなければ現に実害などは啓介が負けたこと以外は特に無い。

それすらも増長していた啓介に、上には上があることを教えてくれたことを考えればかえって良かったとさえ考えている節が涼介にはあったし、涼介本人もそれを自覚していた。

 

むしろ彼女たちの走りには涼介をして参考になる部分はそれなりに見て取れたしメンバーたちにとってもいい刺激になっている側面はある。

そして秋名のスピードスターズに対しても悪く無い影響を与えているとの事で、現状ではどこの誰だか良く分からないということ以外は別段何か懸案になることもない。

ましてや現時点ではどれだけ調べてもそれが解決するわけでも無さそうなため、涼介はあえて話題を切り替える。

 

涼介「現時点ではこんな感じだな。何もヒットしなかったメンバーもいるが、一般人もいるだろうしそれは折り込み済みだ。……今のところ分かる範囲では、特に不審な経歴のメンバーはいなさそうだが。ちなみに、これは後で他のメンバーにも希望する者には共有するつもりだ。……この動画と一緒にな」

 

それは一枚のディスクだった。

真っ白な表面には当日の日付と『AKINA / FD3S VS AE86』と言う簡単なタイトルが記されていた。

 

今朝にファンタジアの幹部から涼介に電話があり「昨日のバトルの録画映像を提供する」と言うので適当な時間に近場のカフェを待ち合わせに指定して、涼介が受け取って来たのだ。

 

涼介「今夜、早速メンバーを集められるだけ集めて上映会をしよう。このバトルの映像には、それだけのことをする価値がある。……啓介、お前がなぜ負けたのか改めて第三者の視点から見てみろ。お前を負かしたあのハチロクの走りがどれだけ凄いものなのか、きっと分かるはずだ」

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

そしてその日の夜。

高橋家ではテレビのある客間を一つ貸し切ってそこにレッドサンズのメンバーが大勢詰めかけ、一つの映像を食い入るように見つめていた。

この場に居るのは一軍の杉本兄妹に須崎、新田に加えて、ケンタ、史浩、佐々木、竹原、村田にメカニックの松本だ。

殆どフルメンバーである。

そんな彼らの視線の向かう先には例の映像が映し出されていた。

 

そして、その映像は走り出した直後から驚きの連続だった。

 

かなりの速さで攻めているはずの啓介すら上回るほどのコーナリングスピードで攻め込みながら追いかける撮影者のGDBとハチロクの2台。

その光景にレッドサンズの面々は目を丸くしていた。

ロケットスタートを完璧に決めたFDに置いて行かれたハチロクとそのハチロクに合わせて速度をセーブしていたGDBがとてつもない勢いでコーナーを詰めていく様は圧巻と言う他なかった。

 

地元でかなりの研鑽を積んで相当な技術と経験があるであろうハチロクはもちろん、そのハチロクを相手に重い四駆をしかも初見で追従させているカメラカーのGDBとそのドライバーに対してもレッドサンズの面々は驚愕することとなった。

 

須崎「速すぎねぇか……?コイツら……」

 

新田「あぁ、何キロ出てんだ……」

 

村田「コーナーのRを最大限に使い切り最小限の減速で抜けていく突っ込み重視のコーナリング……。涼介の言う通りだ。……このハチロク、やべぇ」

 

芳樹「コーナーへの突っ込みがハチロクの方が圧倒的に速いから、たとえパワーに優れていても啓介は立ち上がりで踏んでも振り切れないのか。軽さとダウンヒルの下り勾配が味方してるとはいえ、200馬力近いパワーの差を突っ込み一つで覆すコーナリング……。恐ろしいなんてもんじゃないな」

 

涼介「それに、クロスされたギヤ比の関係で、セカンドの立ち上がりだけならハチロクとFDは、ハチロクがやや劣る程度でほぼ互角となっている。たとえサードではFDが優位になってもそれも長くは続かない」

 

尚子「……なるほどね。スケートリンク前ストレートを含む一部の区間を除けば秋名のストレートはそれほど長くはないし、さらにタイトなコーナーと短いストレートの組み合わせの多い秋名では3速を全開にして加速できる区間が短いから思うようにマージンを稼げないのね」

 

涼介「そうだ。それに、この秋名のコーナーに対して啓介のFDは若干ギヤ比が合っていなかったところがあるが、一方でハチロクはクロスミッションの2速が秋名のタイトなコーナーにピタリと噛み合う。まさしく、あのハチロクは秋名のために練られたようなマシンだと言っていいだろう」

 

片やその軽量コンパクトなボディを自由自在にひらりひらりと舞わせるように、片やデフの効きをドライバー自らコントロールできる高性能な四駆システムを最大限に活かしきって、瞬く間に啓介との間を詰め切ってしまう。

 

佐々木「マジで追いついた……」

 

スケートリンク前ストレートで再度差が開くも、それすらあっという間に元通りとなってしまうのだから、これをやられた啓介としてはたまったものではなかった。

 

涼介「もうそろそろだ。目を離すなよ」

 

涼介の言葉にレッドサンズのメンバーが固唾を飲んで見守る。

画面の中ではすでにバトル中の両者が問題の連続ヘアピンへと差し掛かろうとしていた。

そして……。

 

涼介「ここだ」

 

第3ヘアピンでインベタに車体を捩じ込んでタイヤを溝に落とし、そのままインベタをなぞるようなラインでコーナーを抜けて啓介を抜き去ったハチロクの姿が映し出された。

 

その尋常ならざる常識はずれの走りとそれを本番で一発成功させる超人的なテクニックを前に、流石のレッドサンズのメンバーもただただ言葉を失うばかりだった。

 

啓介「…………」

 

ケンタ「な、なにぃ……!?」

 

史浩「マジか……」

 

尚子「そりゃあ負けるわ……。こんな事されたら」

 

新田「こりゃ完敗だな。このハチロクとんでもねぇよ」

 

 

 

数秒間固まった後にようやく再起動したメンバーたちが口々につぶやいた。

啓介が最後のヘアピンを抜ける頃には、すでにハチロクのテールランプは遙か彼方に消えていた。

 

また、こうして追走するカメラカーからの映像という形でこのバトルが記録された事は、後の走り屋たちに少なくない影響を与えることとなるのだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

所変わって、群馬県某所のとあるアパートの管理人室にて。

そこで2人の女性が話し合っていた。

チームの発起人にしてリーダーを務める八雲紫と、外の世界ではその妹という扱いになっている式神の八雲藍だ。

 

藍「……メンバーたちも外の世界に慣れてきましたし、初戦のスピードスターズ戦やレッドサンズ戦で幸先よく連勝できたので士気も高いです。出だしは上々と言っても良いかと」

 

紫「そうね。想定外のこともあったけれど、思いの外上手く行ったわね」

 

藍「はい。……次に、こちらは想定通り、事前に作成して流しておいた私たちのカバーストーリーやニセの経歴を一部の人たちが早速掴んでくれたようです。結成前の段階で数人のメンバーを偵察と称して極短期間、外の世界に派遣してあえて目撃されるように立ち回らせ、こちらにおける活動実績を作った事も効いています。急にこれだけの人数の走り屋が、一つのところから生えて来ては怪しまれますからね。……とは言え、アリスのあれはほぼ事故ですが」

 

紫「……それじゃあ私たちも次の段階に進みましょうか。まずは群馬の上毛三山を制するところから……。次は妙義に行くわ。妙義の次は赤城……そして最後に秋名の再攻略。もちろん目的はあのイレギュラー、秋名のハチロクよ」

 

藍「はい。承知いたしました、紫様。……それで、そのハチロクとのバトルですが、やはり私が出た方が良いでしょうか?強化途中の特待生を含む予備メンバーではおおよそ手に負えませんし、一部の代表メンバーでも厳しいものがあります。もし勝つ事のみを考えるのであれば、私や慧音が出るのが最も勝てる確率が高く、手っ取り早いと考えられますが」

 

紫「えぇ、でもそれには及ばないわ。それはあくまで最終手段。メンバーの育成と対策の構築によって勝つ事を優先しなさい。もちろん戦うのは秋名の峠でね。……実際に映像を確認したから分かるけど、確かにあのハチロクは私たちからしてもとんでもない難敵になるわ。でも霊夢や魔理沙はもちろん、ヤマメや妹紅たちでも充分に勝ち目はあるはずよ。あなたももう少し仲間を信じなさい」

 

藍「はい。ではそのように。他の幹部にも伝えておきます」

 

紫「……あと、あなたならすでに気づいているでしょうけど、あのハチロクにはエンジンやマシンの基本設計の古さによる非力さや剛性不足以外にも、乗り手の方にだってある欠点があるわ。そこを突けば、あのハチロクも案外脆いはずよ」

 

藍「無論です。必ずや、勝たせて見せましょう」

 

紫「えぇ、期待しているわ。藍」

 

藍「……それでは、失礼致します」

 

藍の退室を見届けた紫はオフィスチェアをくるりと翻して自らのデスクに向き直る。

 

紫(さて、次は裏の目的の方の進捗も確認しなくちゃね。レミリアや文たちがこっちの世界でも上手くやれているといいのだけれど……)

 

 

 




幻想郷の住人たちが外の世界に出てくるにはそれ相応の理由があります。
理由が理由なので若干バトル漫画的要素が絡みますが、ただしあくまで本作においてはおまけみたいなもんなので……。

あと、今更ながら拓海くんは現時点ですら原作よりも不利なバトルを強いられるフラグが立っています。

・アンケート選択肢の補足

『拓海くんイージーモード』
バトルにおける拓海くんの出番が減ります。
原作における拓海くんのバトルの一部をオリキャラ、リクエストを含むゲストキャラ、東方キャラのいずれかが代わりに受ける形となるため拓海くんが楽を出来る一方でバトルによって得られる経験値は原作と比較してやや減ります。

『拓海くんハードモード』
バトルにおける拓海くんの出番が増えます。
難敵とのバトルや不利な条件でのバトル、峠以外のフィールドでのバトルも発生し得るため正直言ってなかなかの茨の道になります。
しかしながら、その困難な道のりも結果的には拓海くんの知識や経験値等にはプラスに働くので拓海くんが原作よりも強くなる可能性もあります。


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第19話 交流会後、走り屋系の掲示板にて【幕間】

すこし短めですが、初めて掲示板形式というものに挑戦してみます。
これは普段やらないスタイルを(あくまで実験的に)書いてみるというだけの事なので、今後似たような話を書くかどうかは分かりません。
好評であれば章の間なんかにこうして挟むくらいはするかと思います。
もし不評であれば今後(少なくとも本作においては)採用されることはないでしょう。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。



『走り屋総合スレ 北関東エリア30』

 

13.名無しの走り屋

ところでさ、昨日の秋名の交流戦来た奴いる?

アイツらマジで誰だったんだ?

 

17.名無しの走り屋

>>15 アイツらってファンタジアとかいう奴らだろ。

俺も上の駐車場にいたけど誰1人として知らないんだが?あんな走り屋美女軍団。

群馬でかれこれ8年走り屋やってるけど顔も名前も車も見たことねぇんだけど。

人も車もあんなキャラの濃さなのにだぞ?

 

ついでにあの信じらんないくらい速いバケモンハチロクも知らねぇ。

埼玉や栃木や長野みたいな近隣県の峠にだって顔出したことあるけど一度も見たことない。

おかしくね?あんな凄腕連中どっからやって来たんだよ。

普通あんなにバカ上手けりゃ例え嫌でも目立つだろ。

 

23.名無しの走り屋

実は交流戦の時にギャラリーしてたら碓氷の知り合いとばったり出くわしてさ、そいつ捕まえてあの長野ナンバーのすげぇ上手いシルビアとかFDとか知ってるかって聞いても「知らん」って言われたからな。

少なくとも長野県側の碓氷峠や軽井沢から嬬恋方面、ビーナスラインあたりには居ないはず。

そいつと同じエリアの峠走ってんならそいつが知らない訳はない。

 

29.名無しの走り屋

ダウンヒルで高橋啓介2連敗とか予想できた奴いる?

マジであのハチロクとFDヤベェだろ。

それにしてもめっちゃカッコよかったなぁ。

美女美少女揃いで車もイカしてて腕までいいとくれば文句なしだろ。

 

34.名無しの走り屋

>>29 俺の知り合いは高橋啓介の2戦全勝の方に全賭けして大損こいてたわw

それはそうとして地元の秋名の奴ですらあんなハチロク知らんって言ってたしマジで何なんだろうな。

ファンタジアにしろハチロクにしろ、誰も見たことも聞いたこともないポッと出の奴が揃いも揃って超絶バカクソ速いの何かのバグだろ。

絶対におかしい。

何かがおかしい。

集団幻覚とかじゃないよね?

狐か何かに化かされてたりしない?

 

46.名無しの走り屋

昨日の事はなんかよく知らんけど、レッドサンズ買収でもされたんか?

気にはなってたけどさ、茨城からじゃ行く気になれなくてなんも分からん。

 

48.名無しの走り屋

>>46 それはないだろ。

あの時下の駐車場でタイム見させてもらったけどあれは八百長で出せるタイムじゃねぇわ。

地元の奴が目ん玉丸くしてた。

その啓介よりも7秒も速いタイムを出せるあのハチロクがめちゃくそ頭おかしいだけ。

たかが旧式のテンロクNAでどうやったら高橋啓介のフルチューンFD千切れるんだよ。

 

52. 名無しの走り屋

>>48 2Jスワップとか?

 

56. 名無しの走り屋

>>52

んな訳あるかw

普通に4AGのNAサウンドだったわ。

 

61. 名無しの走り屋

今北産業

 

65. 名無しの走り屋

>>61

昨日秋名に県外レディースチームとレッドサンズが侵攻。

秋名の地元チームに下りで負けて県外チーム相手にボコボコ。

俺ら「高橋啓介を千切ったアイツら誰?」←今ここ

 

66. 名無しの走り屋

>>61 秋名山で県外と地元と赤城の三つ巴のバトルがあった。

県外のチームが全員奇跡みたいな美少女揃いで大盛り上がり。

その県外勢がレッドサンズ完封、地元も下りで啓介撃破。

 

↑俺らポカーン( ゚д゚)

 

68. 名無しの走り屋

>>65 >>66

サンクス。

 

昨日そんな事があったのかよ。

つか啓介が負けたってマジ?

アイツのタイム涼介のタイムと一緒にいまだに俺の地元のサーキットのランキングボードに居座り続けてるんだが?

そんなバケモン兄弟のチームが秋名で負けたって言われても信じられん。

 

69. 名無しの走り屋

妙義ならナイトキッズのGT-Rがいるし碓氷にはインパクトブルーがいるけど最近の秋名はそういうの居なかったもんな。

昔は赤城の連中とタメ張るレベルでやばいくらい速いパンダトレノとかS30Zとかいたんだけど、近頃はその手の噂も聞かなくなって久しかったんだよ。

そんな時なのに今回いきなりこれだから俺もビックリしたわ。

 

70. 名無しの走り屋

なぁ、マジで誰なんだよあいつら。

本当の本当に誰も見た事ない様な奴らだったのか?

 

71. 名無しの走り屋

>>70 少なくとも俺は誰もあのレディースチームのメンバーに心当たりは無い。

サーキット巡りしてても少なくともトップランカーたちの中にあのチームのメンバーはいなかったように思う。

クソガキとクソオヤジとクソジジィばっかの男臭いサーキット勢の中にめちゃくちゃ上手いあんな美人の女が紛れ込んでたら普通にみんな話題にする。

あと、あんなバラバラの出身地のメンバーがこんな一塊で活動できるわけはない。

 

 

73.名無しの走り屋

少なくとも一般的なアマチュア集団ではないんじゃないか?

聞いた話によると金持ちのバックがいるらしいが、多分だけど概ね事実だと思う。

 

74.名無しの走り屋

リーダーらしい社長やってる女が自分でスカウトして集めた的なことを言っていたみたい。

自分は当日に友達から連絡受けて初めて知って、そんで後半戦の直前にようやく会場に着いた感じだからそれ以前のことはその友達の話でしか知らないが、そういう金持ちの道楽的な集まりが恵まれた環境を背景にメキメキ腕伸ばしたとかそんな感じじゃなかろうか。

 

75.名無しの走り屋

恵まれた環境ってどんな環境だよ。

峠にしろジムカーナにしろサーキットにしろあんな美女美少女軍団があんなチューニングカーや希少車種で集まって練習してたら絶対にお前らが黙ってないだろ。

有名なスポットには鼻の効く奴らだっている。

だけどあのナンバープレートの地名で引っかかりそうなエリアのスレ見てても誰もアイツらの話なんかしてねぇぞ。

自分も気になって調べてるが甲信越エリア、東海エリア、近畿エリア、南関東エリア、各スレ全部めぼしい手がかりなし。

ちょっと過去ログ遡ってみても、少なくともあの奈良ナンバーの奴らがいそうな近畿エリアのスレは過去2ヶ月はその手の話題なし。

他の地域のスレもダメ。

「もしかして?」と思う書き込みはいくつか見つけたが確証もない。

ほとんどこの北関東エリアでしか触れられてない。

しかもここ数日の間のみ。

やっぱり変だわ。

 

77.名無しの走り屋

外国人のメンバーもいたらしいし海外で練習してたんじゃねぇの?

それなら日本国内の走り屋の情報網に1ミリも引っかからないのは当たり前じゃね?

 

78.名無しの走り屋

>>77 日本人主体のチームが日本で活動してんのになんで練習だけ海外でやるんだよアホ。

あんな台数のスポーツカーとそのドライバーを国内と海外往復させんのにいくらかかると思ってんだ。

全部日本国内で完結してると思うぞ。

 

79. 名無しの走り屋

リーダーの名前で検索してみたら一発で出てきた。

外車やそのパーツの輸入とか手掛けてる会社らしい。

規模はそこまで大きくないけど中古車販売業とかもやっていて、縁があって『山河わぁくす』とかいう小さなチューニングショップと提携してるっぽい。

あと、もう1人資金出してる車好きの金持ちがいる。

 

82. 名無しの走り屋

>>79

あの和服美人のアリスト乗りだろ?

旧家の娘で旅館所有してるとかすげぇわ。

軽く調べた程度では文化芸術方面でもちょっとだけ名前が上がる。

ブンブン丸モータージャーナルっていう自動車系ブログの記事を参照すると車好きらしくて複数台持ってるらしい。

その時の画像のアリストはぶっちゃけヤクザセダンみたいな見た目してたけどさ、そっちの家系とかではないんだよな?

その辺のことは調べてもわからん。

あとそのアリストの奥にフロントバンパーだけ見切れて写ってる緑のFCらしい車が気になるな。

 

83. 名無しの走り屋

いいなぁ、俺も他人の金で車チューンしてぇなぁ……。

 

84. 名無しの走り屋

背後関係はある程度分かったとはいえ、あのメンバーがどこから来たかすらまだ分からずじまいか?

イギリス人やらロシア人やら中国人やらの海外勢は除いて。

もうその辺はシラネ。

 

なんかみんな可愛いからあとはもうどうでもいいやとすら思えてきた。

秘密は女を美しく見せるとも言うしな。

 

85. 名無しの走り屋

近畿スレから来ますた。

何人か該当しそうな奴はいるけど本人かどうかの特定は難しい。

ナンバーとか分からんよね。

 

86. 名無しの走り屋

>>84

最後の一文でサブイボ出たわきっしょ。

 

埼玉の知人が黒のFDに乗るかなり速い女走り屋を知ってるらしい。

啓介千切ったのそいつじゃね?

 

87. 名無しの走り屋

>>85 いや、何枚か判別できる写真を昨日撮ったけどさ、流石に晒すのはまずいって。

別に何か悪い事やってんじゃないんだからさ。

 

88.名無しの走り屋

>>87

俺らが普段やってることを思い出せよw

感覚麻痺してんだろww

 

89.名無しの走り屋

>>87 思いっきり悪い事やってるんだよなぁ。

それはそれとしてナンバーを板に晒すのはやめようってのには賛成。

誰がみてるか分からんし。

 

ナンバー以外の特徴でなんかそれっぽいのない?

 

90.名無しの走り屋

写真をもとに外装のカスタムわかる範囲でまとめてみるか?

 

92. 名無しの走り屋

あいつら誰なんだって気になるのは分かるけどさ、そこまでして特定しようとすんなよ流石にキモいぞお前ら。

 

93. 名無しの走り屋

>>86

そいつ長野ナンバーなんだけど。

本人から直接話聞いたらちょっとぼかされたけど出身地もその辺と言われた。

 

94. 名無しの走り屋

長野エリアの奴らなら誰か1人はアイツらのこと知ってそうなんだけどな。

 

95.名無しの走り屋

ところでなんか最近女の走り屋多くない?

そんでさ、そいつらやたらに速くない?

 

97.名無しの走り屋

そう言えば元首都高最速のパープルメテオが自分の勤めてる出版社の部下の車好きを弟子に取っててな、そいつが近頃有名なR33使いの女走り屋らしい。

南関東エリアのスレ民が言うにはそいつが今神奈川エリアとか東京の峠や首都高で結構名を上げてんだよな。

仲間とつるんでてさ、そいつらも速いのなんのって……。

箱根のワンメイクの連中や幾つかのチームの連合に目ぇ付けられた時も走りで黙らせたって聞いた。

中々にロックな奴だよな。

一度会ってみたいわ。

 

98.名無しの走り屋

長野方面でもバカ速い白い全塗のカプチ乗りの女がいるしな。

さっき出て来たインパクトブルーや埼玉の黒FDの走り屋も女だよな。

 

>>97 そいつ最近R34のVスペだかN1だかあたりに乗り換えたってよ。

そいつも実家がなかなかの金持ちらしくて歴代の愛車を残してメンテしてるってのは地元の奴らなら有名でさ、よく車が変わるしなんなら昔乗ってた車でふらっと山に顔出すこともあるらしい。

知り合いが言うには美人なんだけど深夜に会うとドキッとするから正直心臓に悪いらしい。

 

99.名無しの走り屋

他にも割と速い女走り屋の噂は関東エリアでもちらほら聞くよ。

例のパープルメテオの弟子とよくつるんでる3人の女走り屋なんか特に有名。

黒い100チェの方は元々関西エリアで有名な新進気鋭の走り屋だったらしいし、もう1人の白いS15の方も昔東北で流行った違法な公道レースで活躍した最速カップルの娘らしい。

もう1人の黄色のミラージュスーパーRの方も大垂水のダウンヒラーとして有名だよ。

 

100.名無しの走り屋

>>99

特にチェイサーの子なんか六甲のマウンテンゴリラ共がアイドル扱いしてたしなw

まあ、群馬県内でも女走り屋はいるっちゃいるけど、あれは実質レッドサンズの追っかけだし。

 

とは言え、もう群馬中心に相手が女だからって舐めてかかる走り屋はもう居ないだろ。

今回の件でも明らかだしさ。

 

101.名無しの走り屋

分からんぞ。

最近はなんか勘違いしてるフカしたガキがちらほらいるし。

日光の走行会で俺の33ローレルを公然とバカにしやがったオタク臭い2台のシルバーのs15の奴らとかな。

そいつらは他の女走り屋見つけるとナンパしてるらしい。

ドラテク教えてやるって言ってさ。

気に入らねぇ。

妙義の奴らも赤城と比べてガラ悪いし近くにいる赤城の女走り屋が頭アレだからなぁ。

 

あと女走り屋の話題で思い出したけど、地元の近くの土坂峠がきな臭い。

そこそこ速かったNCロド乗りの女走り屋が新参のランエボとトラブルになって山降りた事件があったし、あの近辺で謎の悪評が立ってる。

栃木でもランエボチームが暴れてるっぽいしそれで一部の栃木の走り屋が群馬に流出してるらしい。

それで群馬は爆速ハチロクと謎のレディースチームの襲来だろ?

なんか最近の北関東やべぇな。

どうしちまったんだよ。

 

102.名無しの走り屋

これさ、追い出された栃木の奴らがスピードスターズかファンタジアを担ぎ出して栃木に侵攻させてランエボチームをつぶさせようとするみたいな事件が起きたりしないよね?

 

103.名無しの走り屋

>>102

それどこの戦国時代だよ。

 

ところで話変わるんだけどさ、お前らそんなにアイツらのことが気になるんだったら >>79 みたいにドライバーの名前で検索したらよくね?

有名な人ならヒットするかも。

 

105. 名無しの走り屋

早速試しにレッドサンズに勝ったスープラのドライバーの名前で調べてみたらすんげぇ英語記事ヒットしてワロタwww

逃げ遅れた老夫婦乗せて森林火災のど真ん中をスープラで爆走して逃げ切ってんのアグレッシブすぎんだろw

 

106. 名無しの走り屋

>>105 嘘やろwwwwwwwwwwww

 

107. 名無しの走り屋

>>105 マジやんけwwwwww

名前と車が一緒やwwwwwwwwwwwwwwwwww

 

108. 名無しの走り屋

>>105

はぁ?!?!!!???!?!?

 

109.名無しの走り屋

>>105 こんなの映画の主人公だろwwwww

 

110.名無しの走り屋

そらこんな事してたらチームからスカウトも来るわw

 

111.名無しの走り屋

もしかしてこんな奴らばっかなのか、あのチーム。

これから目が離せんわ。

 

112.名無しの走り屋

だよなぁ。

関東の峠始まったわ。

このやべぇ奴らの襲来でレッドサンズがやられた以上、妙義か桐生か、絶対に周辺勢力は黙ってねぇだろうな。

知り合いの話だと、当日は箱根や相模の神奈川ナンバーもごく少数だけど秋名にいたっぽいし、下手すりゃ話に尾鰭つけながらあの辺にも影響出るかもしれん。

 

あとは茨城あたりから来てる奴も居たらしい。

パープルシャドウの下部チームあたりが独断で遠征企画するとかなら多分ありえるかもな。

 

113.名無しの走り屋

そのレディースチームのことも気になるがあのハチロクの件も気になるよな。

だいぶ前に聞いた話だからうろ覚えになるけどな、秋名の峠にはその昔、べらぼうに速いハチロクがいたらしい。

青いS30の走り屋といい勝負してたらしくて昔の秋名の名物だったそうだ。

ハチロクの方はその噂と何か関係があるんじゃねぇかなと。

東北生まれの走り屋サラブレッドみたいにそのハチロク乗りの息子とかならあの速さも納得だろうし。

 

114.名無しの走り屋

>>113

なるほどな。それにしてもAE86とS30Zなんて時代を感じるよ。

もう2台ともだいぶ前の車になるんだよな。

でもさ、とりあえず詮索はほどほどにしとけよおまえら。

下手すりゃ藪蛇かますかもしれんし。

 

なんにせよ、まずはあの辺の今後の動向をチェックしておいた方がいいかもな。

群馬エリアは特にホットになるだろうし今後が楽しみだわ。

 

115.名無しの走り屋

俺もしばらく群馬方面にアンテナ張っとくわ。

知り合いが群馬エリアで走り屋してるしなんか話し聞けるかも。

久しぶりに俺もあの辺まで足伸ばしてみるか。

 

116.名無しの走り屋

北関東エリアは少し前までは目立った動きなくて多少マンネリ化してたし、こうやってごたついてた方が外野の俺らとしちゃあ面白そうなんでこれはこれで。

 

117.名無しの走り屋

まぁ確かに面白くなってきたよな。

俺ら、本当にいい時代に生まれたのかもしれん。

 

 

 




これにて一応第一章は終了です。
これからはちまちま東方キャラやリクエストキャラを絡めて話を進めていくつもりです。
一部のオリキャラとリクエストキャラの登場フラグも建築しました。
あとは長い時間をかけながら回収していくだけです。
次回、早速誰かが登場予定です。
次章のナイトキッズ編が本作の区分的にはセカンドステージとなります。
原作の章分けとはその辺が明確に異なります。

また、リクエストキャラの登場順に関しては実際の先着順とは限らず、順不同となる可能性が高いです。



・アンケート選択肢の補足

『拓海くんイージーモード』
バトルにおける拓海くんの出番が減ります。
原作における拓海くんのバトルの一部をオリキャラ、リクエストを含むゲストキャラ、東方キャラのいずれかが代わりに受ける形となるため拓海くんが楽を出来る一方でバトルによって得られる経験値は原作と比較してやや減ります。

『拓海くんハードモード』
バトルにおける拓海くんの出番が増えます。
難敵とのバトルや不利な条件でのバトル、峠以外のフィールドでのバトルも発生し得るため正直言ってなかなかの茨の道になります。
しかしながら、その困難な道のりも結果的には拓海くんの知識や経験値等にはプラスに働くので拓海くんが原作よりも強くなる可能性もあります。


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Second Stage
第20話 新たなる挑戦者


読者「逝った(エタった)かと思ったよ」
作者「とんでもねぇ、(地道に)書いてたんだ」
と言うわけで、新章開幕にして本当に本当の久しぶりの更新となります。
そしてもう遅いような気がしますが100系チェイサー実装記念回です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。
今回は久しぶりの投稿となりますので、一応気をつけてはいますがもしかしたらガバってる部分もあるかも知れません。



 

秋名山。

夜が深まり日付が変わろうとする頃合い。

交流会もとうに終わったと言うのに、この日はいつも通りに赤城に戻ったメンバーとは別に、高橋涼介を筆頭として数人のレッドサンズのメンバーが秋名に再び訪れていた。

その中の1人、二軍メンバーの村田は定期メンテナンスのついでにサスペンションの設定を一新して戻ってきた愛車のスーパーブライトイエローのMR2を駆る。

後ろにはスピードスターズのメンバーである吉村のイエロイッシュシルバーツートンのS13シルビアが追走している。

お互いのスキルアップのために練習走行に付き合ってほしいと吉村が頼み、村田がそれを了承した形だった。

 

村田(後ろのシルビア……前よりも食らいついて来る!一皮剥けたと思ったらこの上達スピード……!流石に地元か。俺たちもうかうかしてられないな!)

 

吉村「速い……!(こっちはほぼ全力なのに、まだまだ追いつけないか……徐々に離される!マジでいい腕してるぜ!二軍でこのハイレベルっぷりなら一軍の本気は……やっぱりレッドサンズの壁は分厚い!)」

 

上りのバトル。

スタートした直後のキツい勾配の右コーナーを双方が3速を維持したまま駆け上がる。

キツい勾配のせいで勝手に荷重が後ろに抜けてしまい、旋回姿勢が取りづらいが故にアンダーステアとの戦いとなる急な上り坂で、両者共にステアリングをこじりスキール音を掻き鳴らして走った。

続いて目の前に左のタイトなコーナーが顔を出した。

 

今度は2速進入。

ステアリングを切り、サイドブレーキを引いてリア流し、そしてカウンターステアを当て、アクセルを煽りながら姿勢を整える。

コーナーの出口ではそのスライドするリアを可能な限り滑らかに収束させることを意識してステアリングを戻し、その後の短いストレートへと車を進ませていく。

この上り勾配のおかげで姿勢変化が滑らかでコントロールしやすい点は吉村にとってはむしろ良い点でもあった。

アクセルの開度とステアリングの舵角がカチリと噛み合いお釣りを貰わずに上手い事ドリフトを決められた。

 

吉村「よし、上手くできた!(だんだん掴めてきた!これをダウンヒルで、より速いスピードレンジで、安定して出来るようにならなきゃな!リーダーはこのスピードスターズを本格的な走りのチームに生まれ変わらせると宣言したんだ!俺もしっかりついて行くんだ!)」

 

吉村は先週覚えたばかりのドリフトを体に馴染ませるべく、ひたすらに走り続ける。

 

このレッドサンズのメンバーを誘ってのバトル形式でのプラクティスは彼にとって実りのあるものであったし、誘いを受けた村田にとっても赤城以外の峠で現地の走り屋を相手に実戦形式で新しいマシンのセッティングを試せる機会が、向こうのほうからやってくると言うのは願ってもない幸運だった。

ゆえに、これは双方にとって利のあるバトルと言えた。

 

村田「よし、乗れてる。いい感じに仕上がってきたな(前より踏ん張りが効く。やはりスタビの硬さを変えて正解だった。この新品の車高調も中々馴染んできたし、新しいモデルだけあって路面の追従性が良い。……もう少し走り込んでネガを洗い出したらまた足回りの再調整だな)

 

その左コーナーを抜けて短いストレートののちにまた右の突っ込み。

そこで吉村は背後に一瞬ヘッドライトの光が照射されたように感じた。

しかし今は目の前のライバルに集中すべきと考えた彼は気のせいと思い再び前を見据える。

徐々に前のMR2に離されていく事に悔しさを感じつつも気を取り直し次のコーナーを見据えるが、そこに真後ろから光が飛び込んでくる。

そこで一瞬前に感じていたその存在が気のせいではなかった事を思い知る。

 

 

 

 

 

♪ FAST & FURIOUS HERE WE GO / Marcus D

 

 

 

 

 

吉村「何だ!誰だ!?(慧音さんのインプじゃない!あの人は先に登っていったはず!他に走ってるレッドサンズのシルビアでもない!このヘッドライトはスカイラインか!?……いつの間にこんなに詰めてきやがった!)」

 

村田(なに!シルビアの後ろに誰かいる!知らない奴だ!……ファンタジアか?それとも地元の別の走り屋か!?)

 

そこでようやく村田も猛烈な勢いで追い上げるその車の存在を認識する。

そして2人はその車がR32スカイラインであることに気づく。

 

???「おせぇ!どけって言ってんだよこの雑魚!」

 

続く第3コーナー手前で既に至近に迫っていたその車は、コーナーの立ち上がりで2人がイン側を守るラインを取るとアウトから大胆に被せてそのまま猛然とぶち抜いた。

 

2人の眼前、その黒いボディのテールには、確かにGTRの3文字が見えた。

 

村田(R32……GT-Rか)

 

それから2つほどコーナーを抜けると既にそのGT-Rは圧倒的な速さで秋名の上りを駆け抜けて2人の前から姿を消していた。

 

中里「……こんなもんかよ。スピードスターズもレッドサンズも!」

 

GT-Rの運転席でドライバー、中里が吠える。

彼の意識は既に抜き去ったシルビアとMR2ではなく、その先にいるだろう他の走り屋たちに向いていた。

 

 

 

上り側の連続ヘアピン、その第3コーナーで高橋涼介は流しのペースで自分の走りと例のハチロクの走りとを擦り合わせながら走っていた。

自分のライフワークである公道最速理論の構築。

あのハチロクやファンタジアの上位メンバーたちの走りが、彼の執筆するその論文の大きな糧となっていた。

 

ゆっくり、そして正確に。

あのハチロクのドリフトを可能な限り再現しようと己の持つスキルを動員しながら、何度もあのビデオを見てこの頭に叩き込んだハチロクのラインをトレースしていく。

 

涼介「ストレートの速い車が追ってくる。少し様子を見てみるか」

 

そんな中、彼に横槍を入れるが如く猛烈なプレッシャーを放ちながら迫る車が一台。

中里のGT-Rだ。

 

中里「白いFCか。次はコイツだ!」

 

中里が白いFCの背後に張り付くと、そのFCが明らかにペースを上げて逃げに入る。

バトル開始だ。

 

涼介「バトルがお望みか。……ならやってやろうじゃないか!7割くらいのペースでぶっ飛ばしていく!ついて来れるもんなら、ついて来い!」

 

中里「よし来たぁ!そう来なくっちゃなぁ!」

 

続く第4ヘアピンを抜ける時に中里の目には確かにFCのリアフェンダーに貼られたレッドサンズのステッカーが見えた。

 

中里「やっぱりお前か……!高橋涼介!」

 

白と黒、FCとGT-Rが第4ヘアピンを立ち上がりストレートを駆け上がる。

2ローターターボと直6ツインターボが唸りを上げ、目の前にいたレッドサンズの竹原のシルビアを圧倒的な速さでぶち抜き、続く左へ突っ込んだ。

 

竹原「今のFC……涼介さん!バトルしてるのか!?」

 

須崎「後ろのGT-R……まさか妙義の中里か!一瞬ナイトキッズのステッカーが見えたぞ!」

 

ドライバーの竹原が驚きの声を上げると隣の助手席でコドライバーをしていた須崎があのGT-Rが妙義ナイトキッズの中里ではないかと察する。

2人のバトルを見届けようと竹原もアクセルを踏みちぎって追いかけようとするも、2人のデッドヒートはコーナーを抜けるたびに遠ざかっていった。

 

 

 

スケートリンク前ストレート。

ペースを上げて駆け上がる涼介と中里の前には青いGDBのテールが現れる。

先に流し始めていた慧音のインプレッサに2人が追いついたのだ。

 

慧音(あの白いFCは高橋涼介か。見慣れない車とバトルしているな……。どんな奴か、少し見てやろうか)

 

ハザードを炊いて脇に寄せてラインを譲る意思表示をすると2台が慧音の真横を飛び抜けていく。

FCとGT-Rが前に出たことを確認すると慧音もアクセルを踏み締めて共に加速していく。

13BとRB26にEJ20が加わり、夜の秋名に三重奏の咆哮が響き渡る。

 

中里「後ろの例のGDBも来たか!それでこそだ!……こんなに燃える展開は久しぶりだぜ!」

 

中里の燃え上がる心に応えるようにRB26が唸りを上げて加速する。

360馬力を発揮するFCに食らいついて離さない。

その後ろからは3速全開加速でGDBが迫る。

 

ストレート終端のヘアピンコーナーを3台がドリフトやグリップで、それぞれ三者三様のスタイルで駆け抜ける。

コーナーの先にいたスピードスターズのスターレットを3台並んで抜きあっという間に置き去りにすると、続くもう一つのヘアピンに飛び込んだ。

 

中里「ついて行けるぜ……。あの高橋涼介に(どんなにドライバーが優れていても、所詮は型遅れのロータリーか)」

 

涼介(進入時にしっかり減速し立ち上がりで力強く加速する。中々まともだな……。ちゃんとついてくるじゃないか)

 

慧音「なるほど、やるな(R32の泣きどころのアンダーステアを荷重移動で上手いこと打ち消しながらのグリップ走法か。中々堅実な走りをする。……荷重移動とマシンの特性をよく理解している証だ)」

 

3人の思うことは様々ながらも3台もつれたまま走り続け、最終コーナーを抜けていった。

 

 

 

走り終えた3台は旧料金所跡の駐車スペースに進入していく。

適当な枠に中里、涼介、慧音の順で車を並べて止めるとそれぞれが運転席から出てくる。

 

中里「俺は妙義ナイトキッズの中里毅だ。……一応聞いておくが、お前たちは?」

 

涼介「俺は高橋涼介。赤城レッドサンズのリーダーだ」

 

慧音「私は上白沢慧音だ。チームファンタジアのメンバー兼コーチ役なんかもやらせてもらっているよ」

 

中里の問いかけに涼介と慧音が答える。

 

涼介「妙義の中里か。名前くらいは俺でも聞いたことがある。そんな妙義の走り屋が、秋名の峠で何をしているんだ?」

 

中里「それならお前も人のことは言えないだろうが。レッドサンズは赤城の、そしてファンタジアに至っては県外からの長期遠征組って話だっただろう?」

 

慧音「目的なら同じなんじゃないか?秋名の峠に現れた超人的な速さのハチロク……。彼に会いたくて来たんだろう」

 

中里「あぁ、今日は秋名の峠の下見も兼ねて来てみたんだ。もしかしたらスピードスターズの溜まり場のガソスタを経由するなんて言う回りくどい真似をしなくても良いかもしれないと思ったんだが、結果は空振りだ」

 

涼介「そうか。……だが分からないな。380馬力程度にまでチューンしたGT-Rで、馬力の上では半分も無いだろうハチロク相手に噛みつこうなんてな」

 

中里(ん?なんでコイツ俺の車のエンジンパワー知ってんだ?いつの間にか俺も有名になってたのか?)

 

慧音「馬力のある重量級の四駆ターボに軽量級のローパワーNAか。確かに……これ程までに噛み合わない取り合わせも珍しい。殆ど真逆にあるマシンだな」

 

涼介「それに、やる前から結果なんか分かりきってるぜ。……上りなら、GT-Rのパワーの前にハチロクは手も足も出ずに負けるだろう。だが、下りでは逆にGT-Rはあのハチロク相手に絶対に勝てやしない」

 

中里「なんだとぉ!?ダウンヒルで俺が負けるってのか!」

 

涼介のその言葉に、中里は眉を吊り上げ反応する。

カチンと来た様子の中里はそのまま涼介を相手に食ってかかる。

 

涼介「悪く思うなよ。俺はただ思ったことを言っただけだ」

 

中里が涼介を睨みつけるが、とうの涼介はどこ吹く風といったふうにさらりと受け流した。

そしてその眼光はその隣で2人の様子を見守っていた慧音にも向けられる。

 

慧音「中里くんには申し訳ないが、私も涼介と同意見だ。上りはGT-Rの圧勝だが、下りはハチロクが勝つだろう」

 

上りでは勝つと2人に言われた事に関して、特に中里は嬉しく思わなかった。

上りでバトルをしてもテクニックの有無に関係なくマシンのスペックで勝つ事になるのは、何よりも中里自身がとある経験から身をもって理解している事であった。

それよりも、技術こそがものを言う下りで負けるだろうと思われていることが何よりも我慢ならなかった。

 

中里「なに……!そりゃあどう言うつもりだ!特に高橋涼介!お前……弟がやられて怖気付いてんのかよ!……いくらドライバーが凄腕とは言え、相手はたかがハチロクだぞ!」

 

やはりと言うべきか、中里は内心でそのハチロクのことを侮っている節があるのだという事を涼介と慧音は察する。

あの走りを真後ろから観察できた2人には理解できたことではあるが、例えGT-Rだろうとフェラーリだろうと、あのハチロクはその手の油断や慢心を持ったまま戦って勝てるような相手とは思えないというのが2人の共通認識だった。

 

涼介「一度共に走れば分かるさ。あのハチロクの凄さがな。良い車、速い車に乗っているだけでは、到底勝てない。少なくともマシンはもちろん、それを扱う腕が伴っていなければ、勝負の土俵にすら上がれない。あれはそう言う奴だ。お前ほどの腕があればそれなりにやり合えるだろうが、勝てるかどうかは別問題だ」

 

慧音「あぁ、言い方は少し悪くなってしまうが私からも一つ、忠告させてもらう。あのハチロクをたかがハチロクと考えているのなら……そう思っているうちは、勝ち目はない。その慢心に必ず足元を掬われることになるぞ。あれをそこらの走り屋と同列と考えるな。……秋名の下りのためにチューンされたマシンに、秋名の峠が育てたドライバー。今日わざわざ下見と称してここに来たと言うことは、それを相手にお前は秋名で挑むつもりなんだろう?であればなおさらだ。……涼介の言う通り、厳しい戦いになるのは間違いない」

 

まるで「お前では勝てないからやめておけ」とでも言わんばかりのこき下ろされっぷりに中里の中で何かが切れた。

 

中里「ふざけんなよ……。2人揃って随分と弱気なもんじゃねぇか!それに、そこまで言われちゃこっちも引き下がれねぇだろ!俺はあのハチロクに勝つ!下りで勝ってその言葉を撤回させてやる!……お前らがデカい顔できるのも今のうちだぜ!妙義には中里毅がいるってことを忘れるなよ!ロータリーだろうが水平対向だろうが、そんなもんGT-Rの敵じゃねぇってことを教えてやる!」

 

中里はそう啖呵を切ると愛車のGT-Rのエンジンを回して走り去っていった。

 

慧音「ふふ……君も意外と言うものだな」

 

遠ざかるサウンドとコーナーの先に消えていくテールランプを2人で見送ると、クスリと小さく笑みを浮かべながら慧音がそう切り出した。

 

涼介「……さて、何のことかな?」

 

涼介はわざとらしくとぼけてみせる。

 

慧音「なんだ、わざわざ隠す必要もないだろう?……ああやって挑発的な態度を取ってGT-Rをハチロクにけしかけて、そのGT-Rを相手にハチロクがどうやって戦うのかを見ることで、その走りのスタイルを把握しようと言う腹だろう。私たちが君たちのリベンジマッチを同じ目的で利用したように、君もあのGT-Rを利用するつもりだな?」

 

涼介「……そこまで分かるか。まぁ、そうだな……兄としては遺憾ながら、うちの啓介ではあのハチロクの本気を吐き出させるには至らなかったようだからな。そちらが提供してくれた追走の機会とその映像は大きな助けになってくれたのは間違いない。その事については感謝しよう。……だが、欲張りだと言う自覚はあるがもう少しデータが欲しいと思っていたところだ」

 

慧音「なるほどな。それは私も分かる気がするよ。……例えば、相手によって走りを切り替えるタイプか、そうでないのかは今回のGT-R戦が実現すればそれで明らかになるだろうと考えている」

 

涼介「あぁ、同じく格上のハイパワー車であっても、軽量で小回りの効く後輪駆動のFDと重いが加速に優れる4WDでは、その走りの性質は当然異なるからな」

 

慧音「それに、だ。……あわよくばそれを、私が交流戦でやったように後ろから観察できれば、あのハチロクの攻略にまた一歩、大きく近づける。……これは他のメンバーの言葉の受け売りだが、『研究するならサンプルは多ければ多い方がいい』……らしい」

 

涼介「……それにしても、あの瞬間にそれを即座に理解して、すぐに乗っかってきたお前も、俺からすれば大概恐ろしい奴に思えるな」

 

自分の思惑をほぼドンピシャで当てられた事に内心驚くする涼介。

だがこの企み自体が彼女たちがとったやり方のほぼ受け売りであることを思えば気づかれて当たり前だと思い直した。

 

一呼吸おいて2人が峠に目を向けると先ほどの涼介たちのバトルを見て心に火がついたらしいスターレットとシルビアが折り返して、今しがたすれ違ったはずのGT-Rを追うように、アクセルを踏み込み再び峠に吸い込まれていく。

この時間になっても依然として元気な彼らを眺めつつ、2人の話は続いていく。

 

慧音「……これでも、伊達に頭脳派を名乗っていないからな。私なんかは運転の才能があまりなかった分、努力と頭脳でどうにかするしかなかったと言うだけだ。……とは言え、随分とハイリスクな事をする。もしもあのGT-Rがハチロクに勝ってしまったら、啓介くんに勝ったハチロクに勝ったGT-Rとして、彼の名は一気に群馬どころか関東中に轟くことだろう。それと引き換えにレッドサンズの名は地に落ちてしまう(……今、あの子の肩には秋名の走り屋や彼自身の名誉だけではなく、赤城レッドサンズのプライドまで重たくのしかかっている。本人がそれを理解しているかどうかは疑問だが、私には少し酷な話に思えるよ)」

 

涼介「あぁ、もちろん承知の上だ。……だがそれはあくまであの中里が勝てばの話。俺としてはアイツが秋名のハチロクに勝つ可能性は殆どないと考えている。……さっきの言葉は確かに中里を挑発する意味もあっての事だが、同時に俺は嘘を言ったつもりはない。……それこそ、お前には言わずとも分かるとは思うが、R32 GT-Rとそれに乗る中里の運転にはある致命的な弱点がある。そしてその弱点が顕著に出てくるのが……」

 

慧音「……よりにもよって、あのハチロクが最も得意としている、勾配のキツい秋名のダウンヒル……その後半セクションだ」

 

涼介「そう言う事だ」

 

少しだけ得意げな様子で慧音がそう言うと、涼介もそれを肯定した。

思った通り、慧音があの中里の弱点を既に看破している事を理解すると、自然と涼介の口元も綻んだ。

彼自らスカウトした杉本兄妹の妹である尚子を除けば、彼にとってここまで話の合う異性はそう多くは無かったからだ。

普段の赤城で周りに付きまとう、控えめに言って頭のそこまでよろしくない女性ファンたちと比較すれば、慧音はまさに天と地ほどの差があるとすら思えるほどだった。

 

慧音「……それじゃあ、私はそろそろ行くとするよ。明日は仕事だからね」

 

そう告げると、彼女は愛車のインプレッサに乗り込むと静かにエンジンを回しながら峠を降りて行った。

 

涼介(上白沢慧音か……。しかし、彼女もまた秋名のハチロクとは違った意味で侮れないものだな。……あのハチロクを研究したい。あのハチロクを超えたいという共通目標があるからこそ、彼女とはこうして緩いながらも良い関係を構築できてはいるが、それも長くは続かないだろうな。いずれは、彼女たちのチームと俺たちとは再度必ずぶつかる事になる。……その時、俺は勝てるのか?彼女に)

 

中里を追いかける時も、ハチロクを追いかける時も、マシンの優位があるとは言え本気を出している様子の無かった彼女を見て、珍しく弱気な己が顔を出す。

 

涼介(だが、俺は俺に出来ることをするだけだ。どんな走り屋が相手でも、必ず勝つ。……俺の技術に、破綻はない)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

交流戦後の7月某日。

ここは秋名から遠く離れてここは静岡県、長尾峠。

草も眠る丑三つ時と呼ばれる深夜2時。

ここでもまた、走り屋たちがバトルへと打ち込んでいた。

暗闇と静寂が支配するはずの深夜の峠をヘッドライトとエキゾーストサウンドで切り裂きながら2台の車が疾走する。

 

長尾の走り屋1「クソ!速い!地元の俺が逃げ切れねぇだと!何もんだ、コイツ!」

 

愛車である赤い三菱FTOの運転席で男が唸る。

地元でもそれなりの走り屋であると自負している彼は背後に張り付く追跡者のヘッドライトを睨みつける。

彼が走り込み続けてきた長尾のダウンヒルで、己にピタリとくっつき離れないそれは、車種までは分からないものの黒いトヨタのセダンの様に見えた。

 

前方を走るFTOの男がFF車特有のタックインを利用して左右にうねるようなコーナーをイン攻め気味に抜ければ相手はいかにもFRらしいドリフトでそれに応じてくる。

 

長尾の走り屋(全開で走ってんのに全然距離が開かねぇ、それどころかむしろ煽られてる!)

 

地元の彼を相手に圧倒するそれはホイールベースの長いセダンが不得意とするはずの低中速コーナーでも一向に離れず、それどころか煽るほどにまで車間を詰めてきていた。

 

続く中速コーナーでFTOの男が前輪の酷使によってアンダーを誘発するとその黒いセダンはインから悠々と抜き去り前へと躍り出た。

彼の車のヘッドライトに照らされるそのテールには、TRDのリアスポイラーと共にチェイサーの名を示すバッジがついていた。

 

長尾の走り屋1(トヨタの黒いチェイサーか……コイツ、もしかして最近南関東エリアで幅利かせてるって噂の奴じゃあ……。まさかこれ程までにすげぇ奴だったとはな……完敗だ)

 

甲高いサウンドとスキール音を鳴らしてコーナーの先へと消えていくそのテールを、男はただ見送ることしかできなかった。

 

 

 

 

 

長尾峠を下り切った麓にあるコンビニに、一台のチェイサーが止まっていた。車内には買ったばかりの缶コーヒーをドリンクホルダーに突き刺して、友人からかかってきた電話に出て話す女性が1人。

 

???「もしもし?苗ちゃん?……うん、起きてるよ。……っていうかまだ山なんだけど。……そっちは辰巳にいるんだ。じゃあ今日は首都高だったんだね。……そうそう、今日は普段滅多に行かない長尾峠まで足伸ばしてみたの。……北関東最速チームを破ったっていうレディースチームの話を聞いたらさ、いてもたっても居られなくてね。早速遠征想定して走り込み。来週の連休、店長にシフト調整してもらって休み1日増やしてさ、早速行ってみようと思うの」

 

彼女から苗と呼ばれた電話の相手は彼女にとって気心の知れた走り屋仲間でもあり、共に高め合うライバルでもある女性の走り屋だった。

彼女から情報収集のために辰巳PAの集まりに顔を出しているという話を聞くと、早速収穫があったようでその女性は今日手に入れた情報について話してくれた。

 

例のレディーチームには外国人を含め様々な出身や職業の人間が在籍しているらしいこと、車も様々でありながらそれなりに完成度の高いマシンが揃った資金力のありそうなチームであるらしいこと、そしてその実力もかなりのレベルに達しているらしいことなど。

チェイサー乗りのその女性にとっては友人がもたらしてくれたそれらの全ての情報が喜ばしい朗報のように思えてならなかった。

 

それと同時にある欲望もまた湧き上がってくる。

その人たちと一緒に走りたい。

その人たちと一緒に戦いたい。

その人たちと一緒に語らいたい。

1人の車好きとして、1人の走り屋としては当たり前ながら強烈なその気持ちを彼女は自覚する。

北関東の雄とされた強豪チームを下した走り屋たちの走りに、今までよりもより強い興味が湧いてきた。

 

???「……うん。わざわざありがとう。それじゃあ今日はもう遅いからさ、あと少ししたら適当に切り上げて帰るね。……うん。そっちも気をつけてね。それじゃあまたね」

 

電話を切り、羽織っていた薄手のジャケットのポケットに折り畳んだ携帯電話を突っ込むと早速エンジンを始動させる。

吠えるようなマフラーの音にシャランという剣を抜き放つような強化クラッチの音が重なる。

ステアリングを回しコンビニの駐車場から出て行くと、パキパキと社外デフが鳴き出した。

目指す先は再び山へと昇る道。

 

???「ファンタジアか、どんな人たちなんだろう。……楽しみだね、チェイサー」

 

もう一走りくらいしなければ、この昂る心を抑えられそうになかった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

翌朝、渋川市のとあるガソリンスタンド。

普段ならスピードスターズの溜まり場として機能しているそこは閑散としていた。

店長はどこかから液漏れを起こしてしまったらしい常連客のセルシオの整備にかかりきり、拓海は店長の車を借りて書類を届けに行き、池谷も軽トラで配達に出かけ不在。

 

そんな中でイツキはほぼワンオペ状態で働いていた。

とは言え、この辺りの時間ともなるとこのガソリンスタンドを訪れる車も殆どいなくなる。

すっからかんになったスタンドでただ1人ボケーっと立っていたイツキだが、そんな彼を目覚めさせる排気音が近づいてくる。

 

腹の底に響く社外マフラーのサウンドにイツキの車センサーがビリリと反応する。

黒いボディのその車は車が好きであれば誰しもが知る名車中の名車であるR32 GT-Rだった。

 

イツキ(うおぉ!R32だ!すげぇ渋いよ!かっこいい!)

 

退屈に殺されそうになっていたイツキの前に現れた突然のスポーツカーに、彼のテンションは一気に跳ね上がる。

 

イツキ「いらっしゃいませー!」

 

そのハイテンションぶりが反映されてか、イツキがいつもより大きな声での挨拶をすると、そのGT-Rは給油機の前に止まり一度エンジンを切る。

中から出てきたのは黒髪の男、中里だった。

 

中里「ハイオク満タンを頼む」

 

イツキ「ハイオクですね。かしこまりましたー!」

 

中里「あといくつか聞いていいか?……このガソリンスタンドに来ればスピードスターズに繋ぎが取れると聞いてきたんだが」

 

その言葉に一瞬フリーズするイツキ。

よりにもよってリーダーである池谷は不在で、他のメンバーも今日この時間はそれぞれの仕事があり遊びに来ていない。

 

中里「……どうした?俺が言ってることが分からないのか?……まさかお前、スピードスターズのメンバーじゃないのか」

 

イツキ(へ?……ス、スピードスターズのメンバーって言ったのか!?この俺がぁ!くぅー!なんて魅力的な響きなんだ!)

 

中里の放った何気ないその言葉が、イツキの変なスイッチを入れてしまう事になる。

 

中里「ここに来れば間違いないと聞いたんだが……間違えて違うスタンドに来ちまったのかも知れない。今の事は忘れてくれ」

 

イツキ「いや、それなら間違いじゃ無いよ。実はそのハチロクなら、俺とすげぇ仲良いんだよな」

 

中里「本当か!?」

 

中里のその食いつきっぷりが気持ちよかったのか、ハイオクを注ぎながらもイツキはさらに調子に乗り、またしても作り話を織り交ぜて好き勝手に話し出してしまう。

 

イツキ「うちのチームの中では、俺とあいつで下り最速ハチロクコンビなんて言われてて有名なんだぜ。まぁ、俺はレビンなんだけどさ」

 

中里「そうなのか。ハチロク乗りは中々腕のいい奴が多いからな。……俺がRに乗り換えてからはライバルではなくなってしまったが、以前S13に乗ってた頃はよく妙義のハチロク乗りと下りで競り合ってたもんだぜ。……それにしても、この頃は評判いいぜスピードスターズも。俺からすりゃあまだまだだが、前と比べて腕上げたそうじゃないか」

 

中里に自分の憧れのスピードスターズを褒められたことにさらに気をよくしたイツキ。

中里から受け取ったカードで給油料金の精算を済ませると、いい気になったイツキはさらに続けていく。

 

イツキ「いやぁ、それほどでもないけどね。俺のレビンに比べてトレノの方がちょっと上手いって感じでさ。……それはともかくとして、あんたの探してるそのパンダトレノに俺が連絡取りましょうか?何と言っても俺とアイツはマブダチなんでね」

 

中里「なら頼むぜ!……今週土曜の夜10時、妙義ナイトキッズの中里が秋名山の山頂で待ってるって!勝負は下り一本だ!必ず伝えてくれよ」

 

イツキ「へ?」

 

そこで正気に戻ったイツキ。

突然のバトルの申し込みに一瞬惚けてしまうが、その一瞬が致命となった。

その間に中里は愛車のGT-Rのシートに潜り込んでいた。

 

イツキ「あ、あの……ちょっと……」

 

イツキのそんな弱々しい引き止めの言葉はGT-Rのマフラーから吐き出された爆音に容易くかき消される。

なす術なくそのまま走り去るGT-Rの姿を見送ることしか出来なかった。

 

イツキ(え、エラいことになった……。これっていわゆる挑戦状じゃねぇか!?超困った、拓海になんて言おう……)

 

しかしそんな事を今更考えたところで時すでに遅し。

このイツキのやらかしが、数日後には群馬の峠を再び湧かせる大ごととなる事を、彼はまだ知らない。

 




モブとか原作での不遇キャラとか不遇車種、未登場車種に焦点を当てみたりしたいってのが理由の一端として始まったが本作ですが、実は中里くんもその1人なんです。
彼、原作ではあまりいい見せ場がなかったので。
とは言え中里くんは強化フラグもその回収も後回しになりそうなので、本作でもしばらくは原作通りになりそうなんですよねぇ……。

追記
赤バー付いてるのに気がつきました。
本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
これからも頑張ります。

2023 / 12 / 21 11時35分
誤字訂正。


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第21話 狐の手も借りたい?

リクエストキャラ第一弾!
どどんと2人登場や!(なお、作者は内心で本当にこんなキャラで良かったのか、こんな書き方で良かったのか分からずガチ悩み中の模様)
もちろん出番はここで終わりではありません。
今後はいつになるかは未定なものの、せっかくマシンとセットで送ってくれた訳だしと、バトルシーンなんかに関しても構想中です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

あのイツキのやらかしから翌日、群馬某所の車好きが集まるという喫茶店。

そこには早朝から今に至るまで、様々な車が入れ替わり立ち替わりで訪れていた。

今も白の100系マークⅡやシルバーの31グロリア、青いGDAインプレッサ、黒いDB8型インテグラのようないかにもな車が集まっていた。

そこへさらに2台、特徴的な見た目の車が入ってくる。

 

1台は人気色のベイサイドブルーのボディに純正オプションのオイルクーラーフィニッシャーがついたフロントバンパーにサイドとリアにはNISMOのエアロを装備したR34GT-R、もう1台は日本では見かけることのないピックアップトラックであるホールデンのVU型ユートの2Jスワップワンオフワイドボディ仕様にAPR 製リアスポイラーを合わせたという奇抜な車だった。

2台はカスタムの王道として知られる鍛造ホイールであるRAYS製TE37を揃って足下に奢っている。

 

道中で合流した2台は並んで駐車場に進入すると、店舗の奥側のグロリアとインテグラの間にある2枠空いているスペースに並べて止める。

 

泊「よう、アキ」

 

秋永「先週ぶりだな、ハク」

 

ユートのドライバーである首からヘッドホンを下げた黒髪の青年の高本泊と、R34GT-Rのドライバーである同じく黒髪だが少し癖のある髪質をしている青年の月宮秋永は、お互い挨拶を交わすと2人並んで喫茶店のドアを潜った。

慣れた様子でアイスカフェオレを注文するとさっそくお互いが知り得た情報や先週ギャラリーをしたバトルについて話していく。

 

先週あった出来事といえば、土曜日にあった秋名山での交流会だが、その交流会以降はハチロク対高橋啓介の衝撃的なバトルの展開と結末や、地元チームとレッドサンズを蹴散らしてワンサイドゲームを展開した謎の強豪レディースチームの正体に至るまで様々な噂話が群馬どころか関東中の峠を席巻していた。

そんな中で、秋永はその独自のツテで昨晩活きの良い話を仕入れてきたためにここで会う約束を取り付けたのだ。

もちろん、電話があるのにわざわざこうしてこの喫茶店を指定したのもここ最近はお互い別行動が続いていた友人の顔をこの機会に見ておきたかったという理由もあった。

 

ここには彼らと同じ様な理由で仲間内で集まったりして話し合う走り屋や車好きたちがそれなりに居た。

この喫茶店を営む白髪混じりの男性も昔は群馬で走り屋をしていたらしく、こうした走り屋や改造車乗りに対しては理解があったため、その手の人たちにとっては居心地のいい店でもあった。

 

2人はマシンの調子やいつどこに遊びに行ったとかと言った、お互いの近況を雑談も交えて十数分ほど話し合うと、それからは本題となる例の情報の話となる。

 

秋永「……それで、ちょうど昨日の夜、妙義の走り屋からいい話を聞けたからここに呼んだんだ。また秋名の峠が面白い事になるかもな」

 

泊「お?まさかまた何かの集まりでもあるのか?でも少し前に例の3チームの交流会があったばかりだろ?」

 

秋永「そのまさかなんだよ。今度は妙義の中里っていうGT-R使いが例のハチロクに挑むらしい。本人がスピードスターズの溜まり場のガソリンスタンドにわざわざ出向いて申し込んだってギャラリー集めるために言いふらしてたよ」

 

ちょうど昨晩妙義に顔を出していた秋永が、ナイトキッズの中里がスピードスターズのハチロクとのバトルを申し込んだという話を聞いていたのだ。

 

泊「へぇ……。レッドサンズのFDに勝ったハチロクに、ナイトキッズのGT-Rが勝てばナイトキッズの方がレッドサンズよりも格上だと示せるからな。その辺を考えてのことかな?」

 

秋永「それもあるかも知れないけど単純にその中里って人はバトル好きらしいよ。おおかた新しいライバルの出現に喜んでってところだと思うけど。……ちなみにそのバトルがあるのは今週土曜の夜10時だって」

 

泊「お、その日だったら空いてるな。俺も行こうかな」

 

秋永「じゃあその時は俺も一緒に」

 

泊「おう、もちろん」

 

秋永「先週の交流会みたいにフリー走行とか、前座に何かあるかも知れないし、本番直前は車が多くていい位置取れないからかなり早めに行っておいた方がいいと思うよ。前回は人がごった返して大変だったし、今回はもっと人が集まると思う」

 

泊「だな。じゃあ当日……」

 

???「すみません、そこのお二方……」

 

と、そこで2人を呼び止める声がかかる。

2人が振り返ると、そこには黒髪短髪でやや色白な肌をした、白シャツに黒いスカートというありきたりな格好ながら、2人が一目見て美人と思わせるだけの美しさを感じさせる1人の女性が立っていた。

 

文「わたくし、ブンブン丸モータージャーナルという自動車系のインターネットブログを運営している射命丸文と申します。現在はこの辺りの走り屋たちの情報に関して調べていまして……。今話されていた次の土曜日の交流会について、少しお話を伺ってもよろしいでしょうか?」

 

そう話す彼女が差し出した名刺の下部両端には黒いR35 GT-RとDB8インテグラのイラストがあしらわれていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

正午前の日が照りつける渋川市のガソリンスタンド。

そこにはスピードスターズのメンバー達とファンタジアのサブリーダー的な立場にある八雲藍が集まっていた。

彼女は今日はいつものオフィスレディらしいフォーマル寄りな格好ではなく、私服の白いロングワンピース姿で現れていた。

 

彼女は今日、挨拶がてらスピードスターズのために例のハチロクとFDのバトルの録画をコピーしたディスクを持参してここまでやってきていたのだ。

ついでに給油と洗車を頼んでちゃっかりとスタンドに利益を落としている。

 

藍以外の客が全く居ないのをいい事に、ガソリンスタンドの建物の中で藍の持参したノート型パソコンに映して見ているのだが、その反応は面白いくらいにバラバラだった。

 

この動画を持ち込んだ当の本人である藍は後日チーム内で行われたプチ鑑賞会的なものに出席しているため、当初こそは驚いていたものの今となっては平然としている。

拓海自身は特に何も考えてなさそうなボケっとした表情のまま画面を眺めているし、池谷は拓海の信じられないほどに速い走りにあんぐりと口を開け、イツキは口をパクパクさせながら画面と拓海を交互に見ていて、店長の祐一も食い入るように画面を見つめていた。

 

藍(何度見ても凄いな。これだけのテクニックをこの年で……。やはり拓海くんの攻略は一筋縄ではいかないだろうな。これに秋名で挑んで勝つと豪語したらしいのだから慧音の話していた中里という男も中々に豪胆な奴だ)

 

拓海(なんか自分の運転を他人の視点から見るのって変な感じ……)

 

池谷(こ、これ……本当に拓海なのか……!?知った上で見てもやっぱり信じらんねぇ!こんなの、うめぇなんてもんじゃねぇ!ファンタジアにぶっちぎられた時を思い出す走りだ)

 

イツキ(すげぇ!何が起きてんのかわかんねぇけどとにかくすげぇ!こんなボケた顔した奴の運転とは思えねぇ!なんだこりゃあ!?)

 

祐一(これはとんでもないぞ……。文太の運転と瓜二つだ!すんげぇスピードでドリフトしながら、非力なハチロクで性能差ひっくり返して格上のターボの背中をつつくところなんかまさに……)

 

それぞれの胸中で様々な思考が渦巻く中、一台の車が駆け込んでくる。

客の車かと思うのも束の間、池谷たちにとっては見慣れた姿である白い中期型180SX……それは健二の車だった。

 

そこから慌てた様子で出てくる健二の姿に祐一を除く全員がただならぬものを感じ、建物から出てその180SXに向き直る。

 

池谷「健二、どうした?そんなに血相変えて」

 

健二「どうしたもこうしたもねぇって!池谷、お前ナイトキッズっていう妙義のチームの交流戦受けただろ!そういう大事なことは1人で勝手に決めたりせずに、事前に相談してくれよな」

 

池谷「はぁ?俺は知らねぇぞそんなの。何言ってんだ?」

 

健二「いや、知らねぇなんてことあるかよ!そこらじゅうで話題になってるぜ!俺が知ったのも、さっき立ち寄った喫茶店のマスターさんとお客さんのインテ乗りの人が教えてくれたからなんだよ!今度はレッドサンズに勝った話題のハチロクと妙義のGT-Rの下り一本勝負だって!」

 

池谷「……って言われても、知らねぇもんは知らねぇよ」

 

健二「だってお前……ナイトキッズの中里が、昨日直接このガソリンスタンドに来て自分でスピードスターズのメンバーに申し込んだって言ってるらしいぞ!」

 

池谷「はぁ?いや、マジで知らねぇよ。そもそも、その中里って奴に会ったこともねぇし……」

 

幾度も話が行き違い混乱する2人は、ここでようやく何かがおかしい事に気がつく。

 

藍「一ついいか、拓海くん……。そのバトル、受けたのか?」

 

拓海「え?知らないっすよ?そんなの初耳なんですけど」

 

藍「……おかしいな。一応そのバトルの話はほんの数時間前、今朝あたりにうちのチームのところにも入ってきてるんだよ」

 

池谷「えぇ!?」

 

自分たちが一切預かり知らない話をまさかファンタジアが知っているとは思わなかった池谷。

思わず驚いてしまい声を上げた。

 

藍「そのメンバーは県内のとある喫茶店で小耳に挟んでその場にいた客から直接話を聞いたと言っていたが……。拓海くん、本当に君の耳には今回のバトルの話は何も来ていないんだな?」

 

拓海「……はい。俺、本当に何も知らないっすけど、そんな話。……もちろんやるつもりもないですし」

 

藍「その前にも慧音が秋名での練習走行中に中里とやらと直に会ってな……。そこでも中里本人が、秋名のハチロク……つまりは拓海くんに挑んで絶対に勝つと断言していたと話している。……申し込んだ側の、いわば挑戦者であるナイトキッズは当然としても、私たちのような他所のチームやギャラリーたちが知っていて、なぜ受けた側の拓海くんやスピードスターズだけは、本来ならば知っていなければおかしいはずの事を誰1人として知らないんだ?私も当然君たちはこの件について把握しているものと思っていたが……」

 

池谷「そ、それは……」

 

拓海「……???」

 

イツキ「…………(ま、まずい!この流れは……!)」

 

ここで藍がバトルに出るらしい拓海に直接聞くが、ここでもやはり知らないという言葉しか出て来ない。

ファンタジアやその他のギャラリーたちはこのバトルの話題を知っているどころか、その話で持ちきりと言った具合であるのに、なぜか当事者であるはずのスピードスターズのみ知らないと言う奇妙なこの状況。

誰かが嘘をついているか、黙っているか、あるいはこの状況は第三者の策略によるものではないのか?

得体の知れない疑念がモヤの様に立ち込める。

 

健二「……なぁ、なんで俺らだけ誰もバトルのこと知らねぇんだ?やっぱり、なんか変じゃねぇか、そんなの……?」

 

この不可解な状況に誰もが頭に疑問符を浮かべる中、1人だけ土気色の顔色を悟られない様に俯いていた元凶がついに耐えきれなくなり声を上げる。

 

イツキ「ご、ごめんなさーい!俺が……俺が勝手に受けてしまったんだよぉ!」

 

健二「えぇ!?」

 

池谷「なにぃ!?」

 

拓海「イ、イツキ…… 」

 

藍「はぁ……(さっきから1人だけ様子がおかしいと思っていたら案の定か)」

 

イツキ「ナイトキッズの中里って人は本当に来てたんだよ。……でも、その時はたまたま拓海も池谷先輩もいなくてさ……。で、俺……その時にスピードスターズのメンバーだってその人に思われてたのが嬉しくって……つい、調子に乗ってメンバーのフリして話してたら、いつの間にかそういう話になっちゃってたんだよ。……なんかヤバいと思った時には遅くてさ、慌てて訂正しようと思った時にはもう出ていかれちゃって……」

 

犯人の自白によりあっけなく判明した事の真相に、緊迫しかけていた場の空気が一気に弛んでしまう。

 

池谷「あのなぁ……そんな大事なこと、どうして今まで黙ってたんだよ」

 

イツキ「いやぁ……その、言おう言おうとは思ってたんですよ。でも、言い出せるような雰囲気じゃなくて……。だって、まさか……色々なチームを巻き込んだこんな大きな話になるだなんて、俺思わなくて……」

 

話しているうちに段々と涙声になっていくイツキ。

 

藍「全く仕方のない奴だ。……大体の事情は分かった。だが、イツキくん。わざとではない事は承知したが、メンバーでもない君が独断でバトルを受けてしまったせいでこの有様だ。まずは池谷くんたちスピードスターズや拓海くんに何か言うべきことがあるんじゃないのか?結構な大ごとになってしまったようだが」

 

藍のその言葉にイツキは大きく頷くと、膝から崩れ落ちて頭を下げて土下座した。

 

イツキ「先輩、拓海……本当にごめんよ。勘弁してくれ……。俺が、俺が悪かったよ……」

 

イツキはそのまま涙声で謝罪の言葉を述べていくが、どんどんとその声は弱っていって見ている側が可哀想に感じるほどだった。

 

藍(これでスピードスターズは思わぬ窮地に立たされたわけか。それも、部外者の暴走という望まない形で。……はぁ、ここまでの事は流石になかったが、このトラブルメーカーっぷりはなんか昔の橙を見ているようだな。とは言え、どうしたものか……。これでは少しスピードスターズの彼らが可哀想だ。……しょうがない、今回は少しフォローしてやるかな。要は、バトルする気のない拓海くんをその気にさせればいいんだろう。やる気満々のナイトキッズを宥める方が苦労をしそうだ。何せこっちはナイトキッズには伝手がないからな。……それにレッドサンズの髙橋涼介やうちのチームの一部のメンバーもこのバトルを望んでいる。その流れに竿を刺してしまえばのちに軋轢になるのは目に見えている。……ここは拓海くんの方を動かした方が良いだろう。バトルを実現させようとしている髙橋涼介や慧音の動きに、私も少し便乗しようか。……悪く思わないでくれ、拓海くん)

 

 

 

 

 

そんな事があったその日の晩に、スピードスターズの池谷たちは相談があると言われて藍の奢りで近所のファミレスに呼び出されていた。

 

藍「しかし……君たちも災難だな。随分とまずいことになってしまったじゃないか。まさかイツキくんが勝手にバトルのセッティングをしてしまうとは……しかも相手は妙義の最大勢力、ナイトキッズのGT-Rと来たものだ」

 

ドリンクバーのファンタグレープを片手に藍は、同情的な言葉とは裏腹に小さく口角を上げた微笑みの表情を崩すことはなかった。

その一方でスピードスターズの池谷と健二はどんよりとした表情でかなり沈んだ様子だった。

 

健二「うーん、今度はGT-Rかぁ……。こればっかりは、いくら拓海でも厳しいものがあるよ」

 

池谷「あぁ、普通に考えたらハチロクじゃ勝ち目ないよなぁ……しかも乗り手の方だって腕自慢で通ってる妙義トップクラスの走り屋だ」

 

健二「乗り手が俺らとそう変わらないレベルだったらマシンがGT-Rでもまだ勝てると思えるけどさぁ、よりにもよって相手が相手だ。……負ける可能性が高いバトルに無理に参加しろなんて言うのも気が引けるって気持ちもあるけど、でも流石に後がねぇもんなぁ俺らも。実は来れませんで相手の顔に泥塗る訳にもいかねぇ。ギャラリーにだって話は広まってるし今更何をどう訂正すりゃ良いんだか。……拓海には厳しくても出てもらうしかないよなぁ。そんでどうにかこうにか勝ってもらうしか……」

 

池谷「そうだよなぁ……。今更本人が乗り気じゃないから出来ないとか言って逃げるのも無理だ。気が重いが、今回も拓海にやって貰うしかねぇ……」

 

健二「現状拓海1人が頼みの綱ってのも、情けない話ではあるけどさ」

 

池谷「……拓海に挑むならまずは俺に勝ってからだってビシッと決められるくらいの腕が俺にありゃあなぁ」

 

健二「……あぁ、でも無いものねだりしても仕方ねぇし、やっぱり今の俺らじゃどうにもならねぇよ」

 

池谷「交流会も終わってこれからさっそく強化期間だと意気込んでた矢先にこれは堪えるぜ」

 

藍「……とは言うものの、肝心の拓海くんはまだこのバトルを走るつもりはないらしい。あの後に私も少しだけイツキくんから話を聞いたんだ。見かけによらず頑固なところがあるらしくてな、付き合いの長いイツキくんも説得が難航しているとの事だ」

 

池谷「……そこなんですよね。今はイツキが必死になって説得してるらしいけど、なんかそう言うところは筋金入りだって話らしくて、どうなるかは当日になってみないと分からないって……」

 

健二「勝手に設定されちまったバトルに乗り気じゃねぇのは分かるんだけどさ、こうなってしまったからにはもうチーム総出で拝んででも出てもらうしかねぇって。ガソリンでもタイヤでもなんでも奢るからってさ。……もう俺らのチームの看板がどうとかそう言う話だけじゃなくなっちまった。あっちのメンツもかかってるし、今この瞬間も話は広がり続けてる」

 

揃って頭を抱えるスピードスターズの2人組。

今日の時点で既に火曜日であり土曜日のナイトキッズとの交流戦までには時間がそれほど残されていない。

かなり切羽詰まった状況となってしまったが、そんな中での肝心の拓海の説得がイツキ単体で成功する見込みは現状ないようだった。

しかし、そんな2人に藍から助け舟が出される。

 

藍「それなら私が一計案じようか。明日はちょうど拓海くんの豆腐屋に買い物に行く予定なんだ。その時に一声かけておこう」

 

池谷「本当ですか!?助かります!」

 

健二「マジでお願いします!今は猫の手も借りたいくらいなんです!」

 

藍(ははは……私は猫ではなく狐なんだがな……)

 

藍「100%の保証はできないが微力ながら協力させてもらうよ。……私もその場に居合わせていたからな。今更知らぬ存ぜぬで部外者を気取るつもりはない。……それにね、拓海くんのバトルや走りに興味があるのは髙橋涼介や慧音だけじゃない。私も同じなんだ。無論、私だけじゃない。きっと多くのギャラリーたちも私たちと同じ気持ちだろう。拓海くんにその自覚はないだろうが、彼の走りには見る人を魅了するだけのものがあるんだ」

 

池谷「それは……。俺にも分かる気がするなぁ」

 

池谷の脳裏に浮かぶのはあの3チーム合同の交流会とその熱狂。

みんなが拓海の走りに度肝を抜かれ、その逆転勝利に沸き立ち、凱旋してきた拓海を取り囲んで大騒ぎだった。

あの時の様な熱い時間をもう一度。

そう思う人は確かに多いだろうことは彼にも当然察することができた。

 

藍「……さらに付け加えるなら、拓海くんが来なかった結果としてこのバトルが無くなれば、君たちはもちろんレッドサンズもナイトキッズもその名に傷が付く。ナイトキッズに至っては、ハチロクに何かしたんじゃないかと一部のギャラリーたちから探られる事にもなるだろう。……アレだけの腕を持った走り屋が、マシン的には不利でも条件的には有利な地元のダウンヒルバトルに現れず、挑戦者に不戦勝を献上するなど普通はあり得ないからな。何か裏があるんじゃないかと思われても仕方がない」

 

健二「た、確かに」

 

藍「あと、噂によるとナイトキッズはガラの悪い連中が多いとも聞くな。脅すわけじゃないが、イツキくんが危ないんじゃないかと私は懸念している。半ば自業自得とはいえな……。あと、ナイトキッズはイツキくんをスピードスターズのメンバーだと認識しているはずだ。となれば、当然彼の言葉はスピードスターズの意思だと向こうは判断しているのは分かるな」

 

健二「あぁ……」

 

藍「で、イツキくん本人はもし失敗したら責任を取ってナイトキッズに頭を下げに行くと言っているが、『実は自分はメンバーじゃなかったんです。嘘をついてその場の思いつきであれこれ答えてしまったんです』などと言ってみろ」

 

健二「スピードスターズが蜥蜴の尻尾切りよろしく末端メンバー1人犠牲にして、ハチロクがバックれた事と自分たちのチームの看板に傷をつけた事の責任取らずに逃げた様に思われる」

 

藍「そうだ。例えそれが事実であるなしに関わらずな。……それに、走り屋の世界において不戦勝ほど意味のない勝利はない。中里本人とナイトキッズは不完全燃焼になる」

 

池谷「……も、もし拓海が来なかったら……」

 

健二「……本当にどうなっちまうんだ、俺たち」

 

もしイツキが説得に失敗して当日拓海が来ないなんてことになってしまえば一体どうなるか、考えただけでも嫌な汗が止まらなくなる2人。

 

藍「まぁ、今回の君たちは巻き込まれた被害者みたいなものだ。……今回私たちはスピードスターズの肩を持っていざとなれば仲裁に入る様に動こうと思う。この事に関しては、一応姉……リーダーには電話越しにこそなってしまったが既に簡単に事情の説明を済ませて承認をもらっている。他のメンバーにも私自ら根回しをしておこう。……その代わり、もし私が拓海くんの説得に成功したら貸し一つという事でどうだ」

 

大人の余裕かそれとも本人の性格なのか、池谷たちにはどうにも八雲藍という女性が分からなかったが、この時の彼女はやけに頼もしく見えたという。

 

藍(急な頼み事になってしまうが、聖に少し尋ねてみるか。命蓮寺のR32を借りて見せに行けば、何か反応が引き出せるかもしれないからな)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

翌日、水曜日の午後。

藤原とうふ店に一台の車がやって来た。

ダークブルーパールに塗装された純正エアロのR32 GT-Rだ。

突然の頼み事にも関わらず聖は藍の頼みを快諾し、藍は聖の車であるこのGT-Rを借りてわざわざここに来たのだった。

 

拓海「いらっしゃいませー」

 

藍「失礼するよ、拓海くん。厚揚げと油揚げを10枚ずつ、そして木綿を3丁くれるかな?」

 

拓海「あ、はい。かしこまりました」

 

商品の受け渡しと会計を済ませながら、拓海はなぜ彼女が昨日の今日でわざわざここに来たのかを察する。

今日、彼女が来る少し前に来店していたイツキと池谷のやたらとしつこい説得の件もあって、彼女もおおよそバトルの事についてだろうと考えると、本人がその話題を切り出す前に釘を刺しておくために先んじて否定する拓海。

 

拓海「えーっと、例のバトルの話であれば、イツキにも先に話しましたけど、出るつもりはありませんよ。売られたケンカは絶対に買わなきゃいけないみたいな走り屋のノリにもついていけないし、あとは俺に走る理由なんかないし、まぁそんなところです。……ところで、藍さんでしたっけ。今日の車、昨日のとは違うみたいですけど、どうしたんですか?」

 

入り口のガラスドアの外から見える車は、昨日彼が洗車したEK9シビックタイプRとは似て非なる、鈍い輝きを放つダークブルーの車だった。

それが拓海には引っかかってしまった。

 

藍「よくぞ聞いてくれたな拓海くん。実は私のシビックは今ちょっとだけミッション周りの整備に出していてな、その間の代車として他のチームメンバーの車を借りているんだよ。……そしてこの車こそ君に挑みたがっている妙義の走り屋が乗る車とちょうど同じ型式のBNR32 スカイラインGT-Rという訳さ」

 

芝居掛かったような口調で、わざとらしく拓海の注意を引くように喋る藍。

 

拓海「GT-R……」

 

GT-R、ここ1日2日の間にやたらと耳にするその3文字。

みんなが凄い凄いと持て囃し、戦うのはやめておけとすら言う人もいるその車。

それが目の前にある。

いくら拓海でも、それだけの事を言われる車とくれば興味は出てくる。

そしてその好奇心が口から漏れたが如きその呟きを、人より遥かに優れた聴覚を持つ九尾の狐が聞き逃すはずもなかった。

 

藍「なんだ?やはりこの車が気になるか?……いいだろう。今回は私からの特別授業だ。GT-Rについて軽く教えてやろう。慧音だってスピードスターズを気にかけてたまにそれとなくアドバイスをしているみたいだしな。私だってこういう事をしてみるのもまた一興、と言ったところか」

 

拓海はもしかしたらイツキのように変なスイッチを入れてしまったかと一瞬考えるも、もう後の祭り。

藍は拓海の困惑をあえて無視してそのまま続けた。

 

藍「R32 GT-Rは端的に言えば重量はあるがパワフルでいてかつよく曲がる車だと言えるな。エンジンはRB26DETT直列6気筒ツインターボエンジンが搭載されていて、このエンジンの特徴といえば何と言ってもとにかくパワーが出る事なんだ。最大600馬力程度までチューンして出せる様に想定して設計されている都合上、ライトチューンでサクッと400馬力かその手前くらいは出せる。それでいて必要十分な耐久性も兼ね備えている。……拓海くんのハチロクが高く見積もって150馬力前後として考えると、例の妙義のGT-Rであれば2.5倍前後、この私の友人のGT-Rであれば3倍くらいの馬力がある。パワー勝負になる直線区間は正直言ってハチロクでは相手にならん。圧倒されるだろうな」

 

最後にわざとハチロクを下げる様な言い回しを取る。

一言多いと思われるその言葉が、本人すら殆ど無自覚ではあるがハチロクに対して愛着とプライドのある拓海の心をほんの僅かにチクリと刺激した。

 

拓海「そんなに……?」

 

さらに食いついて来た。

藍は内心でこの調子ならイツキくんや池谷くんにいい報告ができそうだとほくそ笑む。

 

藍「あぁ、これはそれだけ本気で作られた、凄まじい性能のエンジンなんだ。だがな、動力系だけじゃない……GT-Rは駆動系もまた凄いんだ。駆動方式は日産独自の四輪駆動システムであるアテーサE-TSが搭載されていて、これは後輪側で受け止められないパワーを前輪側に振り分けて、本来ならば有り余るような大馬力のエンジンパワーを有効に使い切ることをが出来るんだ。普段はハチロクと同じFRとして動くが、一度乗り手が全開加速の意思表示をしてアクセルを踏み込めば、この車は途端に四駆に化けて4つのタイヤを全て前進するために使えるようになる。これは後輪側がホイールスピンをした瞬間に発動して後輪の空転を抑えてきっちりトラクションをかけて走れるということだ。加速力という点ではハチロクどころか君と戦ったあのFD……RX-7をも凌駕するだろう。……しかも、このFRと4WDを切り替えられるというアテーサE-TSはその特性上、コーナーの入り口では君のハチロクのようにFR車として振る舞い鋭くコーナーに突っ込みながらも、コーナー出口ではランエボの様に四駆として振る舞いFR以上に力強く立ち上がれるという事でもあるんだ。……これを誰にでも分かる様に噛み砕いて説明するならば、FRと4WDのいいとこ取りと言った感じになるのかな」

 

拓海「は、はぁ……?」

 

いかにGT-Rが優れた車であるかを、まるで自分の車を自慢するかの様な態度でひたすら力説する藍に、若干引き気味になる拓海。

軽くと言いつつも、次から次に語りに語って語り倒す藍。

しかしながら、拓海は次第に藍の話のペースに乗せられていく事になる。

 

藍「この辺で一つ、結論を言って纏めてしまおう。……GT-Rは動力系や駆動方式を含め、その他ボディ剛性といった面でも極めて優秀だ。同年式程度のものであれば、ポルシェやフェラーリですら食い散らかせる様な、そういう性能の車なんだ。当時の国産最速の名に恥じない戦闘力がある。……気を悪くしないで欲しいが、ハチロクと比較しても圧倒的に格上だと言っていい。まぁ、そもそも開発コンセプトからして、ハチロクとGT-Rは大きく違うのだからな」

 

拓海「コンセプト……?」

 

藍「そうだ。日産のスカイラインGT-Rという車は、ただひたすらに速く走るために作られた車だ。モータースポーツに勝つというたったそれだけの事をひたすらに、愚直に追求して作られた車なんだ。そしてそれはモータースポーツの世界でも並み居るライバルたちを軒並み叩きのめしてのグループA全戦全勝という実績を伴って証明されている。先ほど述べたRB26もアテーサも、そのために当時の日産の技術を結集した結果なんだ。その方向性自体は代を重ねたR33型やR34型でも変わらない。スカイラインから独立してただのGT-Rとなった最新モデルのR35型でもそうだ。……だがハチロクはそうではない。確かにハチロクはスポーツカーを名乗るに足るだけの性能をしている、率直に言っていい車だ。軽くて速くて楽しくて、それでいて実用的でもある。しかし、GT-Rの様に勝利をストイックに追求した車かと言えばそうではない。カローラ系、あるいはスプリンター系の中のスポーツカーとしての位置付けでしかないと言われればそれまでだし、エンジンもミッションも足回りも、そこまでスパルタンなスポーツ仕様ではない。ボディもGT-Rと比較すれば軽さにおいて秀でる反面、剛性はどうしても劣ってしまう。性能とコストの間での妥協というものもある」

 

拓海「…………」

 

彼女の話に完全に引き込まれ、黙って聞き入る拓海。

 

藍「……車本来の性能の差というものは、乗り手の技術だけで埋める事は不可能とまでは言わないが、かなり困難ではあるんだ。……そして、いつかその差は君自身と君のハチロクの限界を超えてしまうかもしれない。きっと、その日はそう遠くないうちに来てしまう。その事だけは心に留めておけ」

 

その付け足された言葉が、拓海の心に不思議と重たく響く。

 

藍「少し、語りすぎてしまったな。……話を戻そうか。今回のバトルだがな、受けてもいいし受けなくてもいいと、私は思っている」

 

てっきり何が何でも受けて欲しいとイツキや池谷先輩の様に懇願されるのかと思っていたため、拓海は肩透かしを喰らった様になる。

 

藍「もちろん受けてくれたらそれに越した事はない。私個人としてもその方が望ましい。スピードスターズもイツキくんもそれを望んでいる。もちろんギャラリーたちもだ。逃げる事なくバトルを受けるだけでイツキくんの顔を立てる事にもなるしスピードスターズの名誉も君自身の名誉も守られる。受けた上で勝つことが出来れば、赤城と妙義に君臨する群馬の両雄を打ち砕いた秋名のヒーローとして君の名声も鰻登りだろうさ。受けるメリット、勝つことで得られるメリットはもちろん多い」

 

拓海「でも俺、別に走り屋として名を上げる事とか、そう言うのには別に興味ないですよ。……そもそも俺は走り屋なんて名乗った事、一度も無いですし」

 

藍がそこまで言ったところで遮る様に拓海が切り出す。

しかし藍はそれにも動じず拓海を宥めながら話を続けた。

 

藍「まぁまだ話は終わってない。まずは落ち着いて聞け。……だが、受けないと言う選択肢もそれはそれでありだと私は思う。何よりも君自身が受けたくないと思っているのだから、それを私にどうこう命令する権利もないだろう。それに、自分自身が望んだ結果セッティングされた訳でもない上に、仮に受けたところで性能差に押し潰されて負けるかも知れない不利なバトルに出るのは、先ほど述べたメリットを天秤にかけたとしても、非常にリスキーだと言う事には変わりはないんだ。……言わずとも分かる。君はそれを恐れているのだろう?やる気が起きないのも当然だ。何せ相手はサーキットにおいて不敗神話を誇るGT-Rだからな。しかもせっかくレッドサンズのナンバー2を下して手に入れた勝ち星も今回負ければ帳消し。不利な賭けに飛び込む事は蛮勇と紙一重だし、それは決して賢いやり方じゃない。……勝てない相手とは戦わない。そう言うやり方で勝ち星を守るのも立派な戦略だ。君の選択は何も間違ってない」

 

藍の言葉はもっともであったし、拓海の「バトルを受けない」という選択を肯定すらするものではあるのだが、不思議とその言葉の端々にトゲを感じてしまう拓海。

何よりも、もし戦えば自分が負けると彼女に思われている事が察せるだけに、それが癇に障った。

その後の勝てない相手と戦うなと言う言葉も拓海の自尊心に小さく傷をつけた。

もちろん藍は拓海の中に眠る闘志を焚き付けるべく、わざとそうやって煽る様な嫌味な言い回しをしているのだが拓海はそれに気付かない。

 

藍「ただ、君がバトルをするつもりがない以上は代役として誰かがバトルをしなければナイトキッズの腹の虫が治らんだろう。君の代わりにうちのメンバーを誰か当てがって走ってもらうことも考えている。なんなら私がシビックで出てもいい。ダウンヒルであれば、たとえ君の恐れるGT-Rであろうと私は負けるつもりはない」

 

君にはできなくても私には出来る。

そう挑発するその言葉が、拓海の何かに触れた。

 

拓海「別に……俺は怖くなんかないですよ、GT-Rなんか」

 

藍「おや?それはどう言う事かな?」

 

拓海「そこまで凄い凄いって、ハチロクじゃ勝てないって言われると、そのGT-Rってのがどれだけ凄い車なのか、どうしても見たくなって来るんですよ」

 

拓海の目つきが変わる。

藍は拓海を焚き付ける事に成功したと確信した。

 

藍「分かった。では、ようやく出てくれる気になったんだな?イツキくんと池谷くんたちにも……そして、ナイトキッズの方にもうちのメンバーを使いに出してそう伝えておくよ。構わないね?」

 

 

 

その藍の問いかけに拓海は黙って頷いた。

 

 

 




2023 / 07 / 13 21:18 聖のR32のボディカラーに関する記載ミスを訂正。

Q.泊と秋永に話聞いてそれを藍に知らせてから文はしばらく喫茶店に滞在してたみたいだけど、何してたの?

A.レミリアと密会。

思ったんですけどイツキくん、特に原作の序盤はトラブル作ったり巻き込まれたりで割と散々な目にあってますよね。
そして片や涼介と慧音の挑発に、片や藍の煽りにまんまと乗せられてバトルへと突き進んでいく中里と拓海なのであった。
ちなみにこの時点で拓海くんの走り屋気質は開花しつつあります。

藍「ところで今回私の出番が多すぎないか?セリフ多くて疲れたぞ」
作者「いや、なんかこの作品の頭脳ポジ、慧音と涼介にばかり持ってかれてるなと思って……」


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第22話 燻るレッドサンズ、叫ぶスピードスターズ



リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

群馬県赤城山。

ナイトキッズとスピードスターズの交流会を数日後に控えた今になっても、赤城の峠は以前と遜色の無い盛り上がりを見せていた。

 

ギャラリー1「また来たぞ!今度はワンビアとスカイラインだ!」

 

ギャラリー2「かっこいいぜ!やっぱり峠と言えばドリフトとバトルだよなぁ!」

 

今日も複数のチームが赤城の峠を舞台にパフォーマンスやバトルを繰り広げ、ギャラリーたちがそれを見ては歓声を上げる。

 

栃木の走り屋「クソ!なんでたかがテンパチターボのCA18にRB25が追いつけねぇんだ!こっちはチューンして280まで持っていったんだぞ!(正直赤城のレベルを舐めてたぜ!レッドサンズですらねぇのにこの走りかよ!)」

 

栃木ナンバーの白いECR33型スカイラインGTS25tのドライバーは、前を走る赤いS13前期ベースのワンビアを駆る相手に苦戦を強いられていた。

しかし、それも当然である。

ECR33のドライバーはサイドブレーキを使ったテールを大きく振り乱すドリフトで、しかも進入時から脱出時にかけてのカウンターステアの舵角がおおよそ大きすぎるために、肝心の立ち上がりで姿勢を上手く決められずにお釣りを貰うことがたびたびあり、それが馬力の有利を帳消しにするほどの大きなロスとなっていた。

 

対するワンビアのドライバーはサイドブレーキを用いないブレーキングドリフトで曲げていて、双方の技術の違いが明確に現れていた。

そのワンビアのドライバーは高橋兄弟が台頭する以前の赤城山を知る比較的古株の走り屋である赤城ファイヤーバーズのリーダー、松木だった。

 

松木「レッドサンズに挑みに来たって言うからどんなもんかと下り一本誘って試してみりゃあこれか……(交流会でのレッドサンズの黒星をきっかけに舐められる様になっちまったのかなぁ?ここ数日こんなのばっかだぜ……)」

 

結局、バトルはそのまま松木の勝ちとなり、ECR33の走り屋はレッドサンズに挑む事すらなく帰っていくこととなるのだった。

 

 

 

そのバトルからしばらく経った山頂側の駐車場、今日の挑戦者も去り夜も深まったことで人の数もまばらになってきた頃合い。

赤城の走り屋たちは各々の車のそばで休憩していた。

 

秋名での三つ巴の交流会にて高橋啓介が2連敗を喫した事が原因か、レッドサンズに対する挑戦者がここ数日の間で増加していた。

その原因は明らかで、例の交流会における負け越しによってレッドサンズの格が低くみられる様になってしまったのだ。

「相手が二軍などの平メンバーであれば、あるいは負けた弟の方の啓介であれば、もしかしたら自分たちでもレッドサンズに勝てるのでは?」という甘い幻想を抱いてやってくる者が続出していた。

 

中にはアリスに負けた一軍の新田やヤマメに負けた高橋啓介を引き合いに出して「女にすら勝てない奴ら」だと公然と罵りながら乗り込んでくる素行の悪い者すらいたほどだった。

 

最初はレッドサンズがそうした者たちをちぎっては投げちぎっては投げを繰り返して走りの腕でもって黙らせていたが、最近は手応えが無さすぎてすでに面倒くさそうにすることが多くなっていた。

今ではそうした空気を察知した他の赤城のチームが、その手の挑戦者たちの相手を買ってでている状態で、既に「レッドサンズ以外のチーム→レッドサンズの二軍→レッドサンズの一軍→高橋兄弟」という流れがゆるーく構築されつつあった。

もっとも、その第一段階であるレッドサンズ以外の走り屋を相手にさえ勝てない様な人が多いのが現状である。

 

松木「あー、参った参った。最近こんなのばかりだよなぁ」

 

須崎「悪いね。アイツら受け持って貰っちゃってさぁ……」

 

疲労の色を隠しもせずにマシンに背中を預けて休憩している松木の元に、缶コーヒーを2本携えてレッドサンズ一軍のシルビア使いで、角刈りがトレードマークの須崎がやってくる。

 

須崎「はい、これ。……奢りだよ」

 

松木「あぁ、わざわざすまん。ありがとう」

 

須崎「いやいや、本来ならこっちが相手すべきだったのを変わって貰ったんだ。このくらいは当然だよ」

 

松木は須崎から缶コーヒーを1本受け取ると、それをカシャリと開けて大きく一口。

買ったばかりの缶コーヒーの冷たさとカフェインが疲れた体を潤した。

 

松木「とは言え、もうそろそろしたらこれも落ち着くだろうよ。あと数日後にはスピードスターズとナイトキッズの交流会だし、それが終われば一息つけるだろう。あとはお宅らのリーダー、髙橋涼介の動向次第かな」

 

須崎「その辺は俺たちも知らないんだよなぁ。啓介に聞いてもよく分からないって言うし……。ただ、このまま黙って見てるなんて事はないだろうなってのは言えるかな。涼介もいずれ、あのハチロクと戦うかも」

 

松木「今回のバトルも興味津々だって聞いてるよ。……次はあのバカっ速だって噂の秋名のハチロクと妙義のGT-Rか。どっちが勝っても面白いことになりそうだ。それにな、髙橋涼介だけじゃない。ファンタジアだっているだろう。あの子たちだって今回のバトルを注視しているに違いない」

 

須崎「それに関してなんだがな、上白沢慧音っていうファンタジアのコーチ役らしい幹部メンバーと涼介が何やら話し込んでいるところ、俺たまたま見ちまったんだよなぁ。……確か例の、秋名と妙義の交流会の噂が一気に広がった日の前日だったかな」

 

松木「お?なんだなんだ?」

 

須崎「やっぱり気になるか?」

 

松木「あったり前だろ」

 

須崎の話に松木が食いつく。

松木のその食いつきを見て須崎はその日に経験したことを話し始めた。

 

その日は他のメンバーのプラクティスに付き合って秋名まで来ていたこと。

その過程で竹原のシルビアに横乗りしている時に中里のものらしいナイトキッズのステッカーを貼ったGT-Rと髙橋涼介の白いFC3Sのバトルに遭遇したこと。

そのあとで上りゴール付近で再びGT-Rにすれ違いそれを追う形で折り返したこと。

そしてその折り返しの時にFC3SとGDBを並べて何やら話しているらしい2人の姿を見つけたこと。

 

須崎「どんなことを話してたのかあとで聞いてみたらさ、2人で中里に喧嘩を売ってしまったと言ってたんだよな。これはもうバチバチだぞ。中里の奴、ハチロクの次は涼介のFCとファンタジアのGDBに挑むつもりだ」

 

松木「そりゃまた……随分と面白そうだな。今年は群馬の峠がとことん熱いか……。若い奴らが言ってたな。そりゃあみんな騒ぐわけだよ。俺もチームの後輩連れてギャラリーに行くかな」

 

須崎「俺らも行くつもりだよ。今回は俺らが主役じゃないしギャラリー目的だから台数絞って行くつもりだ」

 

松木「あぁ、そうした方がいいだろうな。今回も凄いギャラリーの数になるぞ」

 

須崎「……それじゃあ、当日また会おうか。今日のところはもう帰るわ。明日明後日とまた遅番だ」

 

松木「じゃあな、また今度」

 

須崎「おう、またな」

 

こうして、また赤城の夜は更けていく。

彼ら赤城の走り屋と赤城の峠に再びスポットライトが当たる日は、まだ先になりそうだった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ところ変わってここは秋名山。

そこには珍しく秋名のハチロクこと拓海の姿があった。

 

イツキと池谷の鬼気迫る必死の説得に加えて、わざわざGT-Rで乗り付けてきた藍にこれでもかと闘争心を煽られた事で参戦を決めた拓海だったが、その日のうちに池谷先輩から「ハチロクの横乗りをさせて欲しい」とお願いをされ、それに応じるために山にやってきたのだ。

 

山頂側の旧料金所の駐車場にはすでにスピードスターズのメンバーが集結していて、複数台の車が一塊に止めてある。

そんな時に1台の車が入ってくる。

 

イツキ「おぉ!ハチロクだ!ハイメタルのツートンなんて渋かっこいいぜ!」

 

健二「ファンタジアのステッカー貼ってるぞ!」

 

守「お、てことはあの子たちの仲間かな?」

 

ハイメタルツートンのAE86スプリンタートレノGT-APEXの拓海のものと年式の近い、河城にとりのハチロクだった。

前回の交流会以降一気に名を上げた秋名のハチロクという凄腕らしいハチロク乗りに、同じハチロク乗りとして興味が湧いてきたのだ。

そのハチロクが今日スピードスターズを相手に試乗会を開催するという話を、閉店間際のガソスタに訪れたヤマメがイツキから聞き出していた。

その話を耳にすると居ても立っても居られなくなり、乗り手が仕事漬けだったり車自体がトラブルで入庫してたりで、最近は満足に乗れていなかった自身のハチロクを出して山に来たというわけだった。

 

彼女は駐車場に入るなりすぐに拓海のハチロクを見つけるとそこから1枠開けて隣に止めて拓海たちの元へと歩み寄っていく。

 

にとり「やぁ、こんばんは!君たちがスピードスターズとあの噂の秋名のハチロクこと藤原拓海くんで合ってるのかな?」

 

拓海「……?……はい」

 

若干戸惑いながらも拓海が肯定すると、にとりはそのハイテンションを隠すことなく満面の笑みで自己紹介をはじめる。

 

にとり「はじめましてだね、私は河城にとり。チームファンタジアのメカニックを務めているよ。よろしくね」

 

それに応じて拓海や池谷たちが各々自己紹介をすると話は早速ハチロクの事になる。

 

池谷「それにしても、そのシルバーツートンのハチロク、随分綺麗に乗ってるなぁ。いい趣味じゃないか」

 

にとり「そうでしょうそうでしょう!だってこのハチロク、私が引き取って一からレストアしたんだからね!」

 

イツキ「えぇ!?」

 

滋「マジか!」

 

にとり「もちろん、みんなの手伝いもあってのことだけど、一部の部品はワンオフで自作したんだ」

 

健二「すげぇ……」

 

自分とそう変わらない年頃に見える少女が一から手掛けたというその一言にスピードスターズの面々が驚愕の声を上げる。

 

にとり「ただ当時は今ほど腕に自信があったわけじゃないし、実際に技術的に未熟な部分もあったからさ、流石にエンジンやミッションは技術のあるショップに持ち込んで手を入れてもらったけどね」

 

池谷「へぇ……。タイヤもいいの履いてるし、ホイールも決まってる。中々に手が込んでるな」

 

にとり「へへへ……ありがとうね、池谷くん。この車は私がメカニックとして一番最初に修理を手がけた車でさ、やっぱりそれだけ思い入れも人一倍って訳なのよ。……この子は私の自慢なんだ」

 

褒められて満更でもないと言った具合でにとりに、スピードスターズの面々もつられてほっこりする。

 

四郎「こう言うのがあるから良いよな車は。自分であれこれ手を入れて時間と手間をかけてきたんならなおさらだよ」

 

健二「自分で育てて来た車なんてかっこいいじゃないか。やっぱりいい車にはそれだけのドラマってものがあるんだなぁ」

 

拓海(自分で手間をかけて育てた自分だけの車か……。俺にもそんな車が出来る日が来るのかなぁ……?)

 

イツキ「いいなぁ、すっごい憧れるよ。……ところで、エンジンはどうなってるんです?やっぱり拓海と同じで4AGかなぁ……?」

 

にとり「あぁ、エンジンなんだけどね、実は……」

 

続いてエンジンに話題は移る。

イツキのその問いに答えるようににとりはイグニッション下のレバーに手を伸ばすと引っ張り、ボコンと音を立ててボンネットの固定が外れる。

運転席からフロントに回ったにとりがボンネットを持ち上げるとスピードスターズの面々と拓海が覗き込む。

 

池谷「……ん?」

 

隆春「……?」

 

拓海「……あれ?なんかちげぇ……?」

 

にとり「この子のエンジン、実は4AGじゃないんだよね」

 

翔一「え?これ92ヘッドだよね?でも……」

 

翔一が92ヘッドであることを言い当てるが何か腑に落ちない様子。

そこに拓海がまさかのボケを重ねる。

 

拓海「……?92って、なんですか?」

 

拓海のそのすっとぼけた様な呟きにイツキと池谷がズコッとずっこける。

 

イツキ「拓海ぃ……。お前本当に何も知らないんだな」

 

池谷「いや何となくは察してたが、まさか92もか」

 

にとり「92ってのはAE92の事なんだ。AE86の後継機に当たる車だね。駆動方式はハチロクのFRからFFに変わってるんだよ。それで、そのAE92はハチロクと同じエンジンの4AGってのを積んでるんだけど、私のハチロクのエンジンはその92後期のヘッドに、AE115スプリンターカリブの7AFEの腰下を合わせて1.6から1.8に排気量を拡大した、通称7AGって呼ばれるエンジンを搭載しているんだ」

 

健二「あぁ、そういう事か。……なんか違うと思ったら」

 

翔一「違和感の正体は腰下か。腰下が違うのか」

 

池谷「なるほどな……。テンロクの4AGをくり抜いてテンパチにするよりも、元々からテンパチとして作られてる7AFEを利用してテンパチにすれば、排気量拡大のデメリットになる耐久性の低下ってのも抑えられるからな」

 

にとり「その通り!……構造上のリスクを負うことなく部品コストも抑えられる。それでいて排気量拡大のメリットである全域でのトルクアップというメリットは最大限に受けられる。ローリスクハイリターン、それでいてコストパフォーマンスにも優れるチューンなんだ」

 

その説明を聞くと、ある程度の知識のあるスピードスターズのメンバーは納得した様に頷くが、その辺の知識がからっきしの拓海からすれば何が何やらである。

しかしそんな拓海をよそに、にとりとスピードスターズで盛り上がるハチロク談義の標的は拓海のハチロクに変わっていく。

 

にとり「ところで、拓海くん。君のハチロクも見せてくれないか?」

 

守「そう言えば、拓海のハチロクをまじまじ見て調べる機会ってあまり無かったな」

 

健二「確かに。意外なところに速さの秘密があったりして」

 

イツキ「拓海、メカの知識に関しては本当にさっぱりだもんなぁ」

 

池谷「乗り手本人にマシンの知識がないから分からないだけで、マシンの方にも何かあったりしてな」

 

拓海「いや……あんまり面白いものとか、ないと思いますけど……」

 

とは言え、頑なに断るだけの理由もないため拓海は興味津々の走り屋たちを拒むことはなかった。

拓海もにとりに倣ってボンネットを開けると、にとりや池谷たちの視線がエンジンルームへと注がれる。

 

にとり「へぇ……」

 

滋「ストラットバーも付いてるし、確かに弄られてるのは分かるけど……」

 

翔一「意外と普通だな。でもヘッドを見る限りエンジンはトイチ(AE101)か」

 

池谷「吸気系のエアクリも見た限りはノーマルだ。中のフィルターとかは分からないけどさ」

 

にとり「ヘッド以外だと補器類に社外パーツが何点かあるよ。インマニだってAE86純正のものではなく101の流用だね。オルタネーターは私のものと同じテックアート製に見えるね。バッテリーはパナソニック製のニューモデル。でもエンジン本体は4AGのNAのままで、16バルブから20バルブ化させている以外は確かに普通だね。ターボ化みたいな目立つ改造は無いよ(……はたての予想していた通りだね。髙橋涼介が言っていた、大きく見積もっても150馬力かそれ未満しかないという推測もこのチューンならほぼ納得のいく数字かな?)」

 

拓海がメカ方面に弱く自分の乗っているハチロクの仕様を全く把握していなかったため、これまでとは別な意味でスピードスターズの面々には驚かれていた。

 

イツキ(すげぇ、拓海よりも拓海のハチロクの仕様知ってるじゃん……)

 

健二(初見の車でよくここまで分かるよなぁ)

 

守(流石チームのメカニックってとこか。すげぇ知識量……)

 

その一方で、にとりは自分の乗る車と同車種であるためにある程度その仕様を見て把握し、スピードスターズに解説していく。

にとりのそれとは違い、拓海のハチロクはそれほど大胆な改造は施されている様には見えなかった。

AE101用の20バルブ仕様となっていてある程度しっかりとチューンされてはいるものの、エンジン形式は4AGのままで純正エアクリボックスと純正流用品や社外品が数点見られる程度で、爆発的なパワーを生み出すボルトオンターボなどに頼ったチューンはしていない様だった。

 

続いて足回り、内装と2台のハチロクを見比べていくが、スピードスターズのメンバーにはどうしてもにとりのハチロクの方が速そうに見えてしまう。

内装に至っては殆どフルノーマルに近く社外のバケットシートすら見られない拓海のハチロクと、バケットシートに四点式ハーネスと言う定番ながら必須の組み合わせのにとりのハチロク。

 

同じ車でもチューンの度合いは大違いで、このパンダトレノがあの信じがたい程に強烈な走りを見せ、高橋啓介に完勝して群馬の話題を掻っ攫ったマシンの中身とは到底思えないものだった。

 

四郎「やっぱりドライバーが肝だったのか?」

 

翔一「そう言えば今日は横乗りがしたいって言うから呼んだんだっけ。実際に乗ってみればわかる事もあるかもな」

 

池谷「そうだったな。じゃあ早速俺から行ってみようか。……拓海、助手席借りるぞ」

 

拓海「いいですよ」

 

拓海の承諾を得た池谷がハチロクに乗り込む。

胸の内の興奮が抑えきれない様子の池谷は、走り出す前から既ににやけきった表情をしていた。

拓海が続いて運転席に乗り込むとエンジンを始動させる。

 

池谷「おぉ、楽しくなってきたな。……拓海、遠慮は要らない。俺だって走り屋の端くれだ。全開走行で頼む」

 

健二「いいなぁ、羨ましいぜ」

 

池谷「なんだぁ?1番は譲らないからな」

 

健二「分かってるって。……そうだ、にとりちゃん。俺たちも後ろから追いかけないか?映像だけじゃ分からない、自分の目で見ないと理解できない事とかやっぱりあると思うんだよ」

 

にとり「いいねそれ!じゃあ行こうか」

 

翔一「拓海の走りも気になるけど、エンジンスワップしたハチロクがどんなもんかってのにも興味はあるよな」

 

拓海を追いかけようと言う感じの提案ににとりも否はなかった。

 

にとり「じゃあまずは健二くんから行こうか」

 

健二「よっしゃあ!」

 

池谷に続いて健二の参加が決定すると健二もまた喜色満面と言った風にウキウキとした表情でにとりのハチロクに乗り込んだ。

にとりが運転席に座りエンジンを回すと2台のハチロクは出口に向けてゆっくりとタイヤを転がしていく。

 

にとり「最近噂の秋名のハチロクの後追いなんて、こんな機会は滅多にないからね。……健二くん、悪いけど全力で行かせてもらうよ」

 

健二「お、おう。……俺も走り屋だ。どんと来いだぜにとりちゃん」

 

拓海が先行、にとりが後追いの形で並ぶと、まずは拓海がスタート。

エンジンのスペックの差を考慮してわざとワンテンポ遅れてにとりがスタートした。

 

イツキ「いいなぁ……」

 

翔一「2台ともいい音してんなぁ」

 

守「ターボじゃ絶対出ない音だよ」

 

滋「これがNAでしか出せない味ってもんなのかなぁ」

 

残りのメンバーはその様子を羨ましそうに眺めている。

聞こえてくる音からだけでもそのNA特有の、ターボにはない吹け上がりやフィーリングの良さみたいなものが伝わってくるようだった。

 

拓海(池谷先輩は全開でって言ってたけどやめとこ。まずは70パーくらいで行くか)

 

にとり(私なんかが勝てるとは思わないけどやれるだけやってみよう。全力全開で追いかけるよ)

 

競技用クロスミッションのおかげもあってかなり良い加速をする拓海のハチロクだったが、7AG仕様のにとりのハチロクもさらにそれを上回る加速を見せて徐々に距離を縮めていく。

 

池谷・健二(は、速い!もうキンコン鳴ってる!?)

 

ハチロクには速度が一定以上になると警告音を発するギミックが搭載されていて、それはオーナーたちからキンコンチャイムなどと言われて親しまれているのだが、それが発動する一定の速度というのはなんと105キロである。

つまり2台は既に1コーナー手前でそれだけの速度を出していたのだった

2人が同時にそんな事を考えていると猛烈な勢いで最初のコーナーが迫る。

ガードレールが壁の様に迫り、助手席の2人の表情を瞬く間に恐怖へと染め上げた。

 

池谷と健二であればとっくのとうに踏んでいるところでも運転席に座る2人はまだ踏まない。

助手席に横乗りする2人の背中には既に冷や汗が流れていた。

 

池谷「た、拓海……?」

 

健二「……にとりちゃん?」

 

池谷・健二「ブ、ブレーキィィィ!」

 

まずはにとりのハチロクが、もうワンテンポ遅れて拓海のハチロクがブレーキング。

拓海は4速→3速→2速と目にも止まらぬ速さでシフトダウンし、にとりは4速から一気に3速を飛ばし2速へガツンと落とす。

リアをブレイクさせた2台がドリフト走行に入ると助手席では、未だかつて経験したことのない様なドリフトの横Gを伴って景色がものすごい勢いで真横へと流れていた。

 

池谷「おわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

健二「うおぉぉぉぉぉぉ!?」

 

サイドブレーキを使わない2人のハイレベルなドリフトに池谷と健二はすっかり飲まれてしまい既にテクニックの観察どころではなくなっていた。

 

池谷(な、何がどうなってんだ!?よ、四輪が……四輪が全部滑りやがった!なんでこんなに滑ってんのにコントロールが効くんだ!?滑ってんのは四輪全部なんだぞ!何が何だかわからねぇが、俺らの付け焼き刃みてぇなドリフトとは全く次元がちげぇ!)

 

健二(うおぉ!体が持っていかれる!とんでもないGだ!それにしてもなんて走りとパワーだよ!立ち上がってアクセル全開でもうキンコン言ってるよ!この2人、俺らと速度のアベレージが段違いだ!)

 

突っ込みのタイミングと速度の差で拓海のハチロクがやや差を広げて先行したものの、加速力の差で少しずつ距離を詰めるにとりのハチロク。

次の2コーナー目掛けて突き進む2台は、片や手抜き片や全力と力量に差はあるものの、この秋名の短いストレートを既に105キロオーバーで激走していた。

 

にとり(拓海くん、本当にすごいよ。こっちの全力の突っ込みでもなお突き放される!コーナーを最大限に使い切って無駄な減速が一切伴わない、かつ出来るだけ最短を突っ切る様なライン。コーナーを曲がるというよりも、貫く様に見える。これがハチロクという古い非力な車で、格上のスポーツカーと戦う唯一の方法……!)

 

拓海(なんか普通に付いてくるな。良いエンジンに変えてるって言ってたけど、それだけじゃない。曲がりも普通に上手い。突っ込みの時に少し離れるけど、そのあとで巻き返してくる。立ち上がりってのが上手いのかなぁ……?バックミラーから見える感じ、あの時の池谷先輩の運転みたいにぐわんぐわん揺れてるって感じもなさそうだな)

 

コーナー1つを抜けただけで当初のワクワクはどこへやら、実際に体感する格上のドライバーのドリフトに圧倒されて顔面が蒼白を通り越して土気色になりつつある助手席の2人をよそに運転席側の2人、特に拓海はケロッとしていた。

 

拓海(……それにしても、こう言うことをしてると、不思議とやる気が出てくるんだよな。何でなのかよくわかんねぇし、なんか変な感じ。……よし、もうちょっとペース上げるか。……次のコーナー、一気に90パーくらいで行くか)

 

にとり(あと少し、もう少し、奥まで踏ん張れる。ハチロクの限界はそこじゃないと、拓海くんのハチロクがこの子と私に教えてくれている!)

 

そこから再び、親の仇のようなフルブレーキングからのドリフトで2コーナーへ進入。

 

とくに秋名に関して、にとりは地元民すらいない仕事終わりの深夜に数度走りに来ただけで大した経験値を持っていない。

それでもチームのメカニック兼ドライバーとして、何より圧倒的なツートップである文と椛、そしてそれに次ぐはたて、雛たちなどと並ぶ妖怪の山の上位10人、通称『山の十指』に数えられる走り屋、その一角としてのプライドがにとりにはあった。

それ故に実力的に格上の拓海を相手にも全く引くことはなかった。

 

池谷「うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

健二「あああぁぁぁぁぁぁ!」

 

拓海とにとりが1コーナーよりもさらに奥に、さらにギリギリを、さらに過激に攻めたおかげで拓海はコーナーアウト側のガードレールに僅か6センチと言うところまで余裕しゃくしゃくで、にとりが本人も内心冷や汗ものながら11センチまで寄せていく。

 

助手席に座る2人に迫るのは顔面の真横をとてつもないスピードで流れるガードレールと、その向こう側に覗く深い秋名の谷底である。

マシンがそのガードレールにほんの1センチずつ近寄るにつれ、池谷と健二は寿命が10年は消し飛ぶような恐怖を感じて肩を縮み上がらせた。

もはや乗り手のテクニックがどうとか、マシンのチューンがどうとか、そう言う話はとうに2人の頭から吹き飛んでいた。

 

そんなにとりの全力を持ってしても、やはりコーナーで距離が空く。

歴然とした技術と経験の違いが、彼女の前に立ちはだかった。

 

にとり(抜けたぁ!まだまだやれる車だよ、私のハチロク!このまま次のコーナーもついていくよ!同じハチロク乗りとして、やっぱり負けたくないからね!)

 

池谷(まただ、またキンコン言い出したよこのハチロク!この短いストレートでなんでぇ?本当にどうなってんだぁ!?これが本当に車の動きなのか!?)

 

健二(ガ、ガードレールまで手が届きそうだった……!こんなありえねぇスピードで限界スレスレまで攻めて、なんで本人は平気なんだぁ?)

 

ヒートアップする運転席組2人に対して、助手席組はと言うと2人して既にグロッキーになり意識も飛びかけていた。

だが熱くなっているドライバーたちは止まることは無い。

そして3コーナー、全開の四輪ドリフトで飛び込む拓海に続いてにとりがどうにか喰らいつこうと突っ込んだ。

ハードなフルブレーキングで荷重を前へと移してリアをブレイクさせて再びドリフト状態へ。

アウト側からインベタスレスレまで攻めてまたアウトに膨らませていく。

再度迫るガードレールの姿に2人の精神は恐怖に押し潰されそうになっていた。

 

池谷・健二「ギャアァァァァァァァァァァァァ!!!!」

 

もはやスキール音と区別のつかない悲鳴をあげる2人。

しかし、そのコーナーの立ち上がりで思わぬイレギュラーが生じることとなる。

 

拓海(あ、やべぇ)

 

拓海が気づいた時には遅かった。

ガードレールの根元付近に誰かが投げた潰れかけのアルミ缶があったのだ。

それを拓海のハチロクの後輪が上へと巻き上げる様に撥ねて、それがガードレールにヒット。

その時に聞こえたコツンという金属音を聞いた池谷がついに事故ったと思い込み失神。

そのガードレールに反射した空き缶が描く放物線の先には、不運なことに後続のにとりのハチロクがあった。

 

にとり(まずい!避けられない!)

 

跳ね返った空き缶はちょうど健二のある助手席側へと飛んでいく。

健二は自分めがけて飛んでくる空き缶を目視した途端、即座に「あ、終わった」と思い込みこちらも意識を手放した。

 

図らずも走り屋のダブルキルを決めたその空き缶はシルバーツートンのハチロクのピラーとルーフの境目あたりの上端を掠めてカッと音を鳴らし、塗装を削って薄く掠り傷を残しながら消えていった。

 

拓海(やっちまったかなぁ。当たってたらどうしよう)

 

にとり(うわぁ!ごめんハチロク!やっぱり当たっちゃった……)

 

この予期せぬインシデントによって、熱くなっていた2人もすぐにクールダウン。

速度をゆっくりと落としていく。

冷静になった2人がふと助手席を見ると、そこには失神した2人が居た。

 

 

 

 

 

一方で再び山頂の駐車場。

ここでは先ほど聞いたばかりの2台のエンジンサウンドが近づいてくる様子に、何やらトラブルの気配を感じ取っていた。

 

イツキ「あれ?なんか戻って来てねぇか?近づいてくるぞ?」

 

四郎「2人とも、下まで完走して戻って来たにしては早いよな」

 

翔一「何かトラブルか?」

 

四郎「マシンかドライバーか……。何があったんだろうなぁ?」

 

守「この辺は猪とかも出るからな。野生動物とか轢いちまったら一大事だぞ」

 

隆春「あぁ、先月あたりに四郎と一緒に見たよ。EFシビックが猪轢いちまってレッカーされてったぞ。バンパーひしゃげてラジエーターが逝ってお漏らししてた」

 

四郎「フォグランプも取れてて痛々しかったよ。あれ高く付くだろうな」

 

滋「明日は我が身だ。やっぱり怖いよなぁ……」

 

イツキ「何ともなければいいけど……」

 

スピードスターズの面々がハチロクを案じていると早速ガードレールと木々を照らしながらハチロクが戻ってくる。

2台揃って目立った損傷は見られない様だが、何事も蓋を開けてみるまでは分からない。

駐車場に入って来た2台を固唾を飲んで見守る。

拓海とにとりの順でエンジンを止めるとそれを合図にイツキとスピードスターズが駆け寄ってくる。

 

滋(ま、まさか……)

 

滋は何か心当たりがある様で既に顔を青くしていた。

彼らが並ぶ2台の助手席を覗き込むと、そこには……。

 

イツキ・守・滋「あああ!」

 

四郎「し、失神してる」

 

翔一・隆春「うわぁ!」

 

イツキ「こっちもだぁ!」

 

守「け、健二……お前もかぁ!?」

 

安らかな寝顔で2人仲良く気絶している秋名スピードスターズのリーダーとナンバー2の姿があった。

 

拓海「あ、あの……。さっきのアレの事なんだけどさぁ……」

 

失神した2人の姿を見て大騒ぎする面々をよそに、運転席から降りた拓海は少し申し訳なさそうな態度でにとりに話しかける。

 

にとり「いいよ。確かにちょっと掠っちゃったけどほぼ不可抗力だし、こんなのちょっと大きな飛び石傷みたいなもんだよ。……山に出ればこれくらいは日常茶飯事だし、自分で直せるから。……だからさ、気にしないでよ」

 

拓海「そう言ってくれるなら、俺も助かるけど……」

 

にとり「君と走れて今日は私もいい経験ができたし、同じハチロク乗りとして勉強にもなった。それに、ハチロクでもまだ頑張れる、まだやれるって勇気付けられた様な気分だよ」

 

しかし、にとりは何でもない風に返してあっさりと拓海を許してこの話を終えた。

こうして、今日もまた一つ秋名の峠に新しい物語が刻まれていく。

後の世で第二次恐怖のダウンヒル事件と呼ばれる一件は思わぬトラブルがありながらも幕を閉じたのだった。

 




次回、いよいよ本番……かな?

プロジェクトD以前、原作ファーストステージあたりの豆腐屋ハチロクのエンジンについてなんですが、資料が無いんで原作の描写からの推測となっています。
髙橋涼介の精々150馬力程度という発言に関しても、その150という数字がネット値ベースなのかグロス値ベースなのかのはっきりとした言及が無かったため、作者の独断と偏見により勝手に「おおよそネット値に近いもの」として計算させていただきました。
髙橋涼介のあだ名『人間シャシーダイナモ』→シャシーダイナモで算出するのってエンジン単体のグロス値よりも補器類とかの諸々のパワーロスを含めたネット値の方が近いよね?と言う考えに基づくものでもありますね。

で、グロスで150馬力だとネットで120〜130馬力未満、シャシダイ実測値換算で推定110〜120馬力未満くらいになってしまい、流石にそれで(おそらくシャシダイの実測で)350馬力は軽く出てるらしい高橋啓介のFDを相手に4連ヘアピン3つ目で抜いてゴールで7秒差は現実的に考えて厳しいと判断し、まあまあそれなりにパワーは出ていたと言う前提で計算して、エンジンの仕様を捏造……じゃなくて推測しました(それでも原作拓海のあの戦績は驚異的と言えば驚異的なんですが)。

ちなみに作者が知っているAE86の殆どフルノーマルに近い16バルブ仕様の個体が出すシャシダイ実測値での馬力が87〜93馬力(令和3年時点)程度、20バルブ仕様の個体が119馬力ですので、拓海のハチロクは仮に実測150馬力手前くらいと仮定、時代背景的に経年による劣化がリアルタイムの個体ほど見られない事を加味しても、ハチロクとしてはかなり頑張ってパワーを出している方であると言うことになります。

ちなみにこんな小説書いててあれですが、生活ゴミであれ産廃であれ不法投棄は犯罪なのでやめましょう。
名も顔も知らぬ誰かの投げた空き瓶の破片でタイヤパンクした事のある作者より。


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第23話 ナイトキッズとファンタジア(前編)

皆様お久しぶりの更新でございます。
何とか、どうにか、8月31日中に間に合わせました!

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


藍から「拓海が走る意思を示した」との知らせを受けたその日の晩のこと。

 

ヤマメは今日は藍の部屋に行き藍、はたて、文、ナズーリン、幽香、にとり、妹紅、慧音たちとテーブルを囲んで食べていた。

今日は藍が当番のため豆腐とネギの味噌汁を始め、手製の稲荷寿司などの豆腐やお揚げを使った料理がメインであった。

もちろんその豆腐は藤原とうふ店のもので、これはメンバーからの評判も軒並み好評であった。

大量生産される工場製の量販品と少数生産の手作りのものとでは、やはり風味の違いが顕著に出るのかそうした市販品よりも美味しく感じられていた。

これはそもそも工場生産品の食品が幻想郷では流通していないために味に馴染みのないことも影響しているのだろうとも思われた。

実はヤマメ自身も先日の買い出しで補充した豆腐で冷奴を作って昼に食しており、密かにハマっている1人と言えた。

 

ちなみにそれ以外のメンバーたちに関してだが、草の根妖怪ネットワークのシルビア3人組は、正規メンバーではないがサボりでチームに遊びに来ていた小町のS13 K’s(前期のクランベリーレッド)を引き連れて赤城山に遊びに行き、聖は一輪を連れて一時的に幻想郷に、幽々子も冥界に帰っている。

魔理沙は一仕事終えて帰って来たフランドールを労うために、彼女のFD2シビックタイプ Rを連れて金山まで足を伸ばしているため不在。

そして妖夢と椛、早苗と鈴仙は今日はある用事のために妙義に向かっていて麓のファミレスで食べると言っていた。

 

こうしてヤマメは少し早めの夕食を取り終えて、アパートの廊下で夜風にあたりながら涼んでいた。

 

 

 

外の世界の夜。

改めて見ると地底との違いに感心する。

上を見上げれば地底暮らしの長い彼女にとっては珍しい、洞窟のような岩石の蓋が存在しない、宇宙へと続く正真正銘の星を散りばめた大空が広がっている。

外の世界の人間はあれを天の川銀河と呼ぶらしいことを、彼女は最近早苗に教えてもらったばかりだった。

 

そして正面を見れば人々の営みの光で彩られた渋川市の街並みを望む事ができた。

改装したとは言え所詮古いアパートの2階の廊下から眺める景色であり、東京などに比べれば大した夜景でもないが、それでもつい最近まで幻想郷の夜景しか知らなかったヤマメにとって、外の世界のそれは新鮮な眺めである事には違いない。

やはり長らく地底で暮らしてきたヤマメとしては暮らし慣れた地底にいる方が落ち着きこそするものの、外に飛び出してこう言う眺望を味わうこともたまには悪くはないと彼女は思っていた。

 

これに酒の一杯でもあればなお乙なものであっただろうが、生憎ここ外の世界では酒を飲んで運転することを禁止しているらしい。

それもあってかファンタジアの多くのメンバーは外の世界では極力飲酒を控えていた。

そうした外の世界独特のルールという奴に異国情緒ならぬ異界情緖とでも言うべきか、言語化しにくい趣きを感じる。

 

だが、普段から地底と妖怪の山とを結ぶ、通称『山底線』と称されるそこを、泥酔しながら走ってはよく刺さっている鬼たちを見ていたヤマメとしては、少し残念に思うと同時に理解も納得もできるものでもあった。

外の世界の交通事情はここに来てまだ日の浅いヤマメにはよく分からないが、ここでもあんな連中ばかりになられたらきっとたまったものではないだろうと言うのは容易に察せた。

 

ただし、鬼の側からしてみれば「車乗るなら酒飲むな」ということの方がむしろ酷な話だと、多くが口を揃えて言っていた。

旧都や地獄においては屈指の走り屋である勇儀や萃香、残無たちが、もしかしたら代表になれたかも知れない程の実力を持ちながらも今回の遠征への参加を辞退したのも、紫から「外の世界における飲酒運転の封印」を条件にされたからであるし、ヤマメが容易く地底代表の座を掴めたのも、勇儀のコルベットや萃香のストーリアX4を始めとした鬼のライバルたちのうちの多くが、酒と車を天秤にかけて酒の方を取った事が間接的な要因となっていたとも言えた。

 

そんな事を考えつつ、『地続きの異世界』とでも言うべき外の世界と幻想郷との違いに思いを馳せるヤマメの元に、チームのリーダーである紫がやって来た。

 

紫「こっちに来てからの調子はどう?」

 

ヤマメ「今まで知らなかった峠を新鮮な気持ちで走れるし、いい気分転換にはなってるわ。少し行き詰まりを感じてた走りの方も、啓介とのバトルが丁度いい刺激になったと思う。もっと色々な人と色々な場所を走れれば、また何か掴めそうかな」

 

この外の世界での遠征は、すでにそれなりの収穫をヤマメに与えていた。

同じロータリー使いの高橋兄弟と杉本兄妹との出会いもあるし、交流会での高橋啓介との貴重なバトルももちろんあるが、何より藤原拓海とのファーストコンタクトは今思えば運命的とすら言えるだろうか。

大抵の人は肝を冷やし顔を真っ青にするような、走り屋たちのお家芸でもあるドリフト走行を体験しても平気な顔をしている時点で普通の少年とは違うとは思っていたが、まさかその彼が秋名最速伝説を築いた走り屋の息子と言うのだからやはり世の中不思議な事もあるものだと思わされた。

 

紫「そう。……それは良かったわ。……でね、実はあなたを見込んで頼みがあるの」

 

普段の軽薄そうと言うか胡散臭そうな態度とは違い、少し改まった様な態度で話を切り出してきた紫にヤマメも少し表情を引き締めた。

 

紫「この遠征の表向きの目的は外の世界との交流や腕試し。具体的に目標を言えば、可能であれば関東最速を目指す事よ。そのためにはまず当面の目標は群馬の制覇に主眼を置く事になるわ。まずは先週の秋名山の秋名スピードスターズ、その次は妙義山の妙義ナイトキッズ。そして赤城山の赤城レッドサンズをそれぞれ地元で撃破することによる上毛三山の完全攻略から、続いて碓氷、桐生、金山、さらには草木ダムまで総なめにするつもりよ。……でもね、そこまでしてもまだ物足りなさを感じるでしょう?」

 

たったそれだけの、あえて本質を濁らせたような勿体ぶったその問いかけの意味を何となくではあるがヤマメは察してしまう。

先週の秋名山に始まり妙義、赤城、碓氷、桐生、金山、草木ダムとくれば群馬の完全制覇を宣言しても良いと思うかもしれないが、そのままでは『とある大事な一戦』を取りこぼしたまま他の県へと挑戦する事になってしまう。

 

紫「ヤマメ……。あなたにね、群馬攻略のフィナーレを飾る、秋名山への再挑戦……秋名のハチロクとの一戦を任せたいの」

 

一瞬、辺りを静寂が支配した。

 

ヤマメ「…………」

 

ヤマメにとっても、その提案に驚きは無かった。

むしろ、戦いたいとすら強く思っていた。

でも、勝てる自信は100%とはいかなかった。

 

先週のあのバトルにおいて、共に高橋啓介を相手に勝利を収めた拓海とヤマメのタイムの比較をすると、高橋啓介をオーバーテイクした後のコース後半、連続ヘアピン付近からゴールまでの区間タイムはむしろ拓海の方が速かった。

トータルのタイムでも、ヤマメは拓海のタイムに対して僅かに遅い。

 

恐らくはネット値換算で最低でも120馬力から最大に見積もって150馬力未満と推測されるハチロクで、いくら軽さで勝るとは言え一方は350〜360馬力、もう一方は370〜380馬力の啓介やヤマメのFDを凌ぐタイムを出しているのだからまさに驚異的の一言だった。

このタイムの数字一つにマシンの差を覆すほどの技術と経験の差が表れていると言って良かった。

秋名最速のハチロク、その想像を遥かに上回る速さにレッドサンズメンバーたちと共に身震いする思いだった。

 

秋名の下りのバトルにおいて、自分が相手に対してパワーで勝る場合のセオリーとして、スタート時のゼロ発進加速で圧倒する事で先行を取り、スケートリンク前のストレートまで先行を守り切って、再度その直線にてマージンを確保して後半も逃げ切りを狙うと言うのが王道の戦法だ。

しかし、その戦法をとって負けたのが高橋啓介なのだ。

ヤマメが同じ事をして確実に勝てる保証はない。

同様の戦法を取る場合、少なくとも高橋啓介を遥かに上回るタイムで走り連続ヘアピンで仕掛けられる溝落としのオーバーテイクを防ぎ切り、最終ストレートまで完全防衛する必要があった。

 

ヤマメ「……もちろん、受けさせて貰うわ。拓海くんなら、相手にとって不足はないもの」

 

自分に勝てるのかと言う一抹の不安を、心に燻っていた闘争心とバトルへの期待で押し返して、ヤマメはその紫からの申し出を受けることとした。

 

紫「そう言ってくれると信じていたわ。……もちろん私や藍も、他のみんなも本気で勝つために色々とサポートさせて貰うから、その辺は安心してもらって良いわ。それじゃあ、よろしく頼むわね。私はこのあとあのブン屋から話があるって呼ばれてるから」

 

 

 

要件を伝えた紫が管理人室の方向へ立ち去るのを見届けると、再び夜景に視線を戻して大きく息を吸い込んだ。

夏場のしっとりとした夜風が彼女の肺を満たす。

 

秋名のハチロクこと藤原拓海との戦いを見据えて、これからはより密度の濃い練習に打ち込んでいくことになるだろう。

特訓のメニューを提示されるか、あるいは自分で考案する必要もあるかもしれない。

そう言う努力を積み重ねて経験を身につけ、技を磨き、マシンを煮詰めていきようやく互角に立てるかと言ったところだろうか?

そのコースに対する経験値で上回れないのならば、それ以外の領域での勝負となる。

地元の持つ圧倒的な経験に裏打ちされた、あの洗練された走りに対抗できる様になるにはまずはマシンとテクニックの両面で互角かそれ以上に立たねばならないのはヤマメにも理解できていた。

マシンは問題ないとして、残る課題はテクニックとなる。

目指すべき高みは遥かに遠いが、その高みに愛車のFDと共に挑める事に、プレッシャーと同時に嬉しさもまた感じていた。

 

ヤマメは静かに黒いタンクトップの上に羽織っていたカーキ色のシャツの胸ポケットに触れる。

布越しに確かに感じるFDのキーが、少しばかりの勇気を分けてくれた様な気がした。

ヤマメは廊下の手すりで組んでいた手を解き1階へと降りた。

多目的スペースにいるナズーリンたちに一足先に練習に行ってくる旨を伝えて1人、静かに外へと歩き出す。

向かう先はもちろん駐車してある自身の黒いFDの運転席だった。

 

気合いを入れる様に響いた始動音の数秒後、ゆっくりと進み出したFDのテールランプが駐車場から出て行った。

 

向かう先は、秋名山。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

駐車場を出ていくヤマメの姿を、ブラウン管テレビから聞こえるニュース番組の声をBGM代わりに管理人室の窓から眺める紫。

彼女の姿が見えなくなると同時に、タイミングを計っていたかのようにドアがノックされる。

紫が入室を許すとドアを開け文が入ってきた。

 

文「さてと、紫さん。……例のお土産の件でお話があります」

 

紫「ようやく……と言った感じね。目当てのお菓子を探すのに随分苦労したみたいね」

 

文「はい。まずは単刀直入に伝えますね。……以前からあなたが所望していた永田屋と霞屋のお菓子、中々に手間がかかりましたようやく全て揃いましたのでお持ちしました」

 

お菓子を持ってきたと言うが、彼女の手には何も無い。

 

紫「ご苦労様。それで、中身は何かしら」

 

文「永田屋のものは白胡麻団子が4つで黒胡麻団子が1つ、これがレミリアさんと咲夜さんから。……霞屋の方は黒糖あんの饅頭が3つに白あんの饅頭が6つで、これがフランドールさんと美鈴さんからになります」

 

文「あと……実は先日私も美鈴さんと一緒に港の方に行ったんですけど、露草亭の方は売り切れでした。残念ながら収穫はゼロです」

 

紫「そう……。そっちは簡単には手に入らなさそうだし、気長に待つわ。……それはそうと今回の分、あとであなたの所にも一つ回すから、食べ終わったら味の感想もよろしくね。後で藍にも私から渡しておくから」

 

文「あはは……分かりましたよ。では、私はこれで失礼しますね」

 

符牒を用いて暗号化された会話を終え、退室する文を見送る紫。

 

紫(表も裏も少しずつ事態の進展が見えて来た。……どちらも肝心なのは私たちがアクションを起こすタイミング。今はまだ、少し時期尚早かしら?)

 




この最後の設定ちょい出し意味深会話だけで幻想郷側の抱える血生臭い裏事情みたいなのを読み取れる人って居るんですかね……?
いないと思いますよ(自問自答)。

後からちょっとずつ、ちょっとずつ今後も大っぴらには語られない裏事情みたいなのを匂わせるコメントややりとりみたいなのは作中に織り交ぜて小出しにする形で明かしていきますが、この手の話は「まだ」本筋では無いので今のところはあくまでおまけ程度にとどめておこうと思います。

ちなみに、この最後の密談の元ネタ……ではないんですけど、発想の源は『Sweet time』の裏歌詞です。
(※ ただし検索は本当に本当に自己責任でお願いします。検索した結果気分が悪くなっても責任は負えません)

やっぱり、なんでも無いように聞こえる歌や会話の裏に、一部の人にしか分からない様な物騒な意味が隠されているのっていいよね。
それで作者はスパイアクション系の作品も好きだったりするので「普段は気のいい友人達でも、自分の知らないところでは表には出来ないような活動をしていたり……」みたいなのも大好物なんです。

特に幻想郷の妖怪たちって殆ど人間襲わなくなって多少性格丸くなってるだけで一応「そう言う存在」なので、まぁ必要に迫られればやりますよみたいなのは今後ちょくちょく挟むことはあり得ますかね。

例えばもしもの可能性の話として、土坂のチンピラ集団が路面にオイルばら撒いて啓介のではなく紫かヤマメのFDを事故らせた場合とかだとブチギレ不可避で実力行使解禁になります。
特にヤマメはFDへの思い入れが強いので本気でバチクソにキレます。
普段はあまり手荒な事をしないようにと暴力に対して大なり小なりの制約を自主的に設けている彼女たちですが、流石に「意図的にマシンを事故らされる」レベルのことをされたとなるとあのチンピラ共の命はありません。

まぁそれはさておき、近日中に分割した後編の方を更新させて頂きます。
そちらの方は今回チラッと触れられた妙義山に向かっていったメンバーたちの話なのですが、ナイトキッズとの絡みに加えてバトル描写ありで頭文字Dらしい感じに出来たかなと思います。

それではまた次回お会いしましょう。


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第24話 ナイトキッズとファンタジア(後編)

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
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一方その頃。

ファンタジアの一部のメンバーたちは秋名麓の拠点から少し足を伸ばして妙義山へと赴いていた。

椛のS14後期を頭に妖夢のFC3Sと鈴仙の180SX、早苗のMR-Sの4台が並ぶその車列は、走り屋の見物に来ていたギャラリーたちの目を引きつけながら山頂へ向け登っていった。

 

ギャラリー1「あ!おい見たか!?今の車、アレはファンタジアの車だ!」

 

ギャラリー2「それって、あの噂のレディースチームか!」

 

ギャラリー3「あの車、俺も見覚えがある。あの4台は交流会当日にも来ていたぞ。あの緑のFCに至っては練習期間中の話らしいが、秋名で高橋涼介を相手に互角に走ったって噂もあるんだ」

 

ギャラリー2「マジか!あの高橋涼介と互角!?」

 

ギャラリー3「……赤城の奴らの話してた噂話を小耳に挟んでな。もし事実ならとんでもない腕利きの走り屋だぜ」

 

ギャラリー4「そんな連中がどうして妙義に……?」

 

ギャラリー5「ま、まさか秋名の次は妙義攻めのつもりか!?」

 

ギャラリーたちの屯する道の駅の駐車場を通過し、走り屋たちの集う中之嶽神社方面に向けて駆け上がる。

彼女たちが通過した先には、遠く響いていくエキゾーストサウンドの残滓と何事かとどよめくギャラリーたちが残されているのみだった。

 

 

 

 

 

中之嶽神社の駐車場では今日もナイトキッズをはじめとした妙義の走り屋たちが集結していた。

地元最大のチームである妙義ナイトキッズが早速秋名のハチロクにバトルを挑むらしいということで少しソワソワしている感はあるものの、いつもと変わらない走り屋たちの日常風景が今日も過ぎていく……はずだった。

 

最初にそれに気付いたのは黒いS13 後期の運転席で休憩していたナイトキッズのメンバーの田中吾郎と、その隣で愛車の180SXに背を預けてコーヒー片手に一服していた天田浩二だった。

 

浩二「ん?何台か纏まって来てるな。聞き慣れない音だぞ……?」

 

吾郎「毅!多分お客さんだ!何台かこっちにくるぜ!」

 

中里「また他の山から来やがったか?お前ら、一応出迎えるぞ!」

 

中里がそう言うと、周りに散っていたナイトキッズのメンバーたちがゾロゾロと集まってくる。

吾郎と浩二も愛車を離れて他のメンバーたちの脇へと移動する。

他にもS15シルビアの安井弘道やMR2に乗る宮原朋一、ベルベットブルーのS13後期の高田康、赤い80スープラに乗る小谷勝敏が揃う。

それを妙義の他のチームの走り屋やギャラリーたちが少し遠巻き気味に様子を伺っていた。

 

彼らが見守る中で、ようやくその車列が姿を見せた。

S14にFC3S、180SXにMR-Sといかにも走り屋らしい車が一列に並んで入ってくる。

止め終わった車から続々と乗り手が出てくるとナイトキッズの一部のメンバーたちは下心混じりでありながらも盛り上がりを見せた。

 

弘道「こいつらあの時の……」

 

高田「あぁ、間違いない。あの子たちだ」

 

吾郎「ヒュー……たまんねぇ。なぁどう思う、浩二」

 

浩二「なかなか美人揃いだよな。悪かねぇ」

 

宮原「これで腕まで良いってんだからさ、文句なんかねぇぜ」

 

双方が3歩半ほど距離を空けて向き合うと、中里が口を開く。

 

中里「お前ら……確かファンタジアって言ったな。俺はナイトキッズの中里だ。先週の交流会は俺らも見させて貰ったが、いい腕してたぜ。なかなかやるじゃないか」

 

妖夢「ありがとうございます、中里さん。私は魂魄妖夢と申します。今日はちょっとした用事がありまして、ここ妙義に来たんですよ」

 

椛「群馬エリアに活動拠点を置いて活動し始めてから、上毛三山のうち赤城と秋名の主要なチームには既に挨拶を済ませてるのに、妙義のチームには一度も顔を出してなかったからね。妙義だけ仲間外れはダメだと思ったから今日はその挨拶に来たんだ」

 

浩二「そりゃあいい心がけじゃねぇか。俺としてもお前らみたいな子は腕に関わらず大歓迎だ」

 

弘道「あぁ、正直言ってお前たちには感謝してんだぜ?交流会でスピードスターズとファンタジアが高橋啓介を千切ってくれたおかげで、最近増長気味だった赤城の野郎どもが急に静かになったからなぁ」

 

高田「連中との小競り合いも減ったから気が楽になったよ」

 

章夫「俺は当日居なかったが、話聞くだけでもスカッとしたもんだぜ」

 

妙義の走り屋はガラが悪いという事前情報とは裏腹に、意外にもナイトキッズは初対面から好感触な様子だった。

と言うのも、彼女たちが先週の交流会で妙義とはライバル関係にある赤城山の最大勢力、赤城レッドサンズをナンバー2の高橋啓介ごと完膚なきまでに叩きのめしていた事が効いていた。

このレッドサンズの敗北を内心「ざまぁみろ」と思っていた妙義の走り屋は少なくなかったし、妙義の走り屋が苦戦を強いられていたレッドサンズを容易く撃破して見せたファンタジアは、赤城への対抗心からか実力主義的な気風のある妙義の走り屋たちからはウケが良く、既にその一部からは実力を認められるに至っていた。

赤城とはライバル関係にある妙義の走り屋だからこそ、赤城の走り屋たちの速さや手強さはよく理解しているし、その赤城の最大勢力を一捻りにしてみせた彼女たちはその美貌もあって妙義では既に一定の人気を集めていた。

 

もちろん、車好き兼女好きなナイトキッズの一部の面々に関しては当然女には少し甘くなってしまうため、それも理由の一端となっていた。

特にドライバーの男性率が高い峠などを含む公道レースの世界では、この様に女っ気に飢えている人間がボチボチの確率でいるものである。

 

鈴仙「それともう一つ、スピードスターズから伝言を預かってるわ」

 

小谷「伝言?……しかもスピードスターズか」

 

吾郎「もしかして、毅が言ってたバトルの件か?」

 

椛「そうだ」

 

中里「でもどうしてお前たちが?」

 

椛「実はあの後、スピードスターズ内でちょっとしたトラブルあったらしい。あのガソリンスタンドの、調子の良さそうな若い子がいただろう?」

 

中里「あぁ、居たなそういえば」

 

中里はあのガソリンスタンドでの会話を思い出す。

レビン乗りと名乗る少年の顔がぼんやりと浮かんで来た。

 

鈴仙「あの子が見ての通りのお調子者らしくてね、本人に何の相談もなくあのパンダトレノのドライバーが走る方向でチーム内でも話を進めてしまったらしくて……」

 

椛「自分は正規のメンバーじゃないのに勝手に決めるんじゃないって、そのトレノのドライバーがちょっとへそを曲げちゃったみたいでさ……。走る走らないでチーム内が少し乱れてたんだよ。そんな時に私たちのチームのサブリーダーがそのスタンドに寄った時に偶然その話を知ることになったんだ」

 

早苗「それで、私たちのチームが仲裁に入って秋名のハチロクが無事に走れる様な方向に説得と調整を手伝ったって感じなんです」

 

ところどころにフェイクを織り交ぜながらスピードスターズ側で話の行き違いが生じた事と、その仲裁を自分たちのチームが行なった事を説明する。

ちなみに、イツキが実はスピードスターズのメンバーではないと言う点も彼女たちは黙っていた。

それを今言ったところで変に話が拗れるだけであるし、わざわざいう必要のある話とも思えなかったからだ。

 

実はあの秋名のハチロクがスピードスターズのメンバーではないと知らなかったナイトキッズの一部のメンバーからは驚きの声が上がる。

 

小谷「え?あの秋名のハチロクってスピードスターズの正規メンバーじゃないのか?」

 

吾郎「噂じゃスピードスターズの秘密兵器なんて話だったし、てっきり正規のメンバーなのかと思ってたぜ……」

 

弘道「聞くところによるとチームに属さないフリーらしくてな、助っ人としての参戦らしい」

 

事情を知らない小谷たちに当日ギャラリーをしていた弘道が補足する。

 

鈴仙「……そう言うこと。一応、本人曰く昔馴染みで仲がいいって言うそのスタンドの子が、これを機に正式にチームに入らないかってスカウトしてるみたいだけどね」

 

小谷「なるほど……。そう言えば、今日はまだ見てないが妙義にもやたらに上手い黒リミのハチロクトレノが居るんだよなぁ。そいつもどこのチームにも入らないで、フリーで走ってるんだ。……トレノ乗りは独立独歩の気風でもあるのか?」

 

椛「確かに、もしかしたらそう言うのはあるのかも」

 

これは椛たち妖怪の山の走り屋にとってはやや心当たりのある話であった。

何を隠そうファンタジアに属するメカニックの河城にとりは友人同士の椛や文たちとはよく走っていたが、かと言ってこのチームの結成以前に椛が属していた『妖怪の山四輪自動車同好会』を始めとした特定の走り屋チームに所属していた訳ではない。

 

話に聞く拓海を始め、その父の文太もどこかのチームに所属していたと言う事実はない。

そう聞くと、昔はともかくとして今に生き残るハチロク乗りはそう言う傾向があるのではと思われるのも、ある種の極論に近いが納得のできる話だった。

 

椛「まぁ、それはともかくとして、そう言う訳でバトルは無事に承諾されたから、今日はそれを伝えにね」

 

鈴仙「土曜の夜10時、楽しみにしているわ」

 

早苗「当日は私たちも見に行きますね」

 

妖夢「今度はギャラリーの立場として楽しませていただきますね。両チームの健闘を祈ります」

 

中里「あぁ、サーキットで不敗神話を打ち立てたGT-Rの速さを公道でも証明してやる。いくら乗り手が凄いらしいとは言え、マシンはこっちが圧倒的に上だからな」

 

先週の活躍もあり、腕利き揃いの美少女チームとして知られている彼女たちから期待を寄せられていると知れば、中里たちナイトキッズも悪い気はしなかった。

浩二や吾郎たちに至ってはあからさまに顔を綻ばせ、鼻の下を伸ばしていてその上機嫌ぶりを隠しきれていなかったし、何ならその視線は鈴仙や早苗の程よい膨らみに時折向けられていた。

 

妖夢「そして、実はあともう一つだけ話があるんです」

 

椛「今、ナイトキッズとしてはハチロクとのバトルに注力したい筈だから、それが終わって落ち着いてからになると思うし、まだまだ先の話になるはずだけど……。今度、ここ妙義で私たちのチームと交流会をして欲しいと思ってるんだ」

 

その言葉にナイトキッズとその周囲で聞き耳を立てていた他の走り屋やギャラリーたちの顔色が変わる。

 

鈴仙「日程については追々、お互いに都合の良い日を詰めていくことにしたいからまだ特には決まってないんだけどね」

 

早苗「ナイトキッズの方たちさえよろしければ、どうですか?」

 

彼女たち曰く「まだまだ先の話」「日程も特には決まってない」との事だったが、ナイトキッズにとってもこの誘いを受けない手は無かった。

特に中里は秋名のハチロクへの挑戦後、ファンタジアへの挑戦を視野に入れていたため、ファンタジアの方から来てくれた事は誘う手間が省けて助かったとすら思っていた。

 

さらにナイトキッズにとって良かった事は、ファンタジア側は「お互いに都合のいい日を後で決める」としている事だ。

かくいう中里たちも人のことは言えないが、この手の走り屋同士のバトルではどちらかが日時を指定して、指定を受けた方がそれに合わせると言う形で取られることがそれなりに多くあった。

 

事実として、先週執り行われたレッドサンズとファンタジアとスピードスターズの三つ巴の交流会は、レッドサンズとファンタジアという挑戦者側の2チームが同時に「来週土曜日の夜9時」と言う日時をしていたがスピードスターズ側から異論が出てくる様なこともなく、そのまま開催され好評を博して終わっている。

 

これは殆どの場合、学生にしろ社会人にしろ大抵の人が土日休みである事が多いため、土日の夜かその前日の金曜夜を指定しておけばまず間違いはないと言って良かった。

そのため勝手にその日を指定しても相手側から拒否されることが殆どないので双方話し合い、打ち合わせ等を行った上でバトルをしたいと言う今回の様な提案は少数派であるのだった。

今回はまず直近にハチロク戦を控えているというナイトキッズ側の事情を考慮してか、バトルの日時を「後々決める」としてくれたその提案が、ナイトキッズにとっては素直にありがたかった。

 

一応、中里たちナイトキッズのメンバー同士がお互い顔を見合わせて意思を確認し合う事こそあったものの、既に彼らの中で殆ど結論は出ていた。

 

中里「構わないぜ。あの秋名のハチロクを仕留めたら、お前たちにはこっちから挑みに行くつもりだったからな。……確かに今はそのハチロクに集中したいから、日取りは少し後の方が良いな」

 

妖夢「であれば決まりですね。あとで連絡先を交換し合いましょう。今後はそれで連絡を取り合うと言う事で構いませんね」

 

中里「あぁ、分かった。……今日はせっかくここまで足伸ばして来たんだろう?少し走っていけ」

 

それは中里なりの不器用な歓迎の仕方だったが、彼女たちとてまた走り屋である。

その意を汲んで誘いに乗る事にした。

 

妖夢「はい。元よりそのつもりです。では遠慮なく走らせていただきますね」

 

椛「さっそく行こう。この機会に妙義の峠がどんなところか、走りながら知っておくのも良いだろうからね」

 

弘道「よし、なら俺たちも走るか。妙義の走り屋の走りを見せてやらァ!」

 

宮原「俺も行こう!やっぱり走り屋は走ってこそだ!」

 

高田「せっかく来たんだし、そう来なくっちゃな!」

 

小谷「それなら俺も行くぜ!コンピュータ変えたスープラの試運転のいい機会じゃねぇか!」

 

浩二「おっしゃあ!俺らも行こう!」

 

吾郎「おう!ただし走るからには本気で行くぜ!」

 

 

 

 

 

♪ BEAT DOWN / A-One

 

 

 

 

 

妖夢や椛たちが走ると言うとノリノリで車に乗り込みファンタジアの面々よりも先に弘道、小谷、宮原、高田、吾郎、浩二の順でその上機嫌ぶりをサウンドに反映させながら飛び出して行った。

それを追う様に妖夢、椛、鈴仙、早苗の順で出ていく。

 

ギャラリー6「おぉ!ナイトキッズとファンタジアの車が出て行くぞ!」

 

ギャラリー7「走りに行くのか!?すげぇ音と迫力だ!」

 

ギャラリー8「よし来た!盛り上がってきたぞ!俺たちも追いかけようぜ!」

 

ギャラリー9「後ろから観戦だ!行くぞ!」

 

中里(出る奴は全員出て行ったな。……さて、俺も行くか)

 

中里はナイトキッズとファンタジアのメンバーが、そしてその後を追うギャラリー目的の他の走り屋たちが全員飛び出していくのを見届けると、自身の愛車であるGT-Rに少し遅れて乗り込み、エンジンをかける。

 

そして駐車場を出るや否や一気にアクセルを踏み締め1速2速とシフトアップしながら稲妻の如くガツンと加速していく。

 

ギャラリー8「うおっ!後ろから中里が来やがった!……アイツには勝てねぇからな……仕方ない、譲るか」

 

ギャラリー9「中里のGT-Rか……。譲るっきゃねぇよなぁ……。前のファンタジアの車にも置いてかれちまうよ。……トホホだぜ。速すぎんだろ……」

 

先に飛び出したギャラリーのBE5型レガシィB4とAE101型カローラレビンをサクッと抜いて置き去りにすると、コーナーに消えていく。

 

 

 

時はわずかに遡りスタート直後。

妙義の下りは中之嶽神社からスタートするが、コース序盤に僅かな登り区間がある。

そこで弘道のS15シルビアと小谷のA80スープラの300馬力を上回るハイパワーコンビが頭ひとつ抜けて独走態勢に入るが、その後方では張り切りすぎたせいで無駄に力んでしまい、シフトをミスって出遅れた浩二が早速妖夢と椛に直線加速で食われていた。

 

浩二「く、くそー!(いい加速してんじゃねぇか!だがコーナーなら地元の俺の方が……)」

 

浩二は地元妙義の走り屋として走ってきた自分のキャリアとテクニックを信じて目の前に迫るゆるい右へとステアリングを切り込み殆どノーブレーキで進入する……が。

 

浩二「……ってコーナーでも追いつけないだとぉ!?(しかもやっぱり後ろの2台もグイグイ詰めて来てるじゃねぇか!悔しいが、レッドサンズ蹴散らしたのも納得の腕だぜ!めちゃっぱや!)」

 

突っ込み勝負で負けて先行するFCとS14に大きく差をつけられて後ろからは逆に大きく詰められる。

すでに立ち上がり加速の違いと馬力の優位によって吾郎のS13もFCに追い抜かれてしまい、次の左で今度はインからS14に落とされた。

序盤のストレートの終点にあたる下り勾配のS字へと侵入する頃には、浩二と吾郎は後続の鈴仙と早苗にも仕留められて仲良く戦意喪失していた。

 

浩二「クソォ……!正直女だからって舐めてたぜ!(やっぱり噂の通りだったか。いや噂以上かよ!マシンもいいのに乗ってるが腕もいい!)」

 

吾郎「だ、駄目だ勝てねぇ……!(悔しいぜ……!手も足も出ないってのはこう言う事か!……これじゃあ地元の面目丸潰れじゃねぇか!)」

 

前を走る高田と宮原もいとも容易く撃墜されてしまったようで宮原のMR2の頭を取りながら明らかにオーバースピードに見える速さでコーナーの先へと消えていった。

 

宮原(チクショウ!コイツら信じられねぇ!めっちゃ速いじゃねぇか!しかもこのMR-Sなんなんだぁ!?すげぇいい音させてるじゃねぇか!この快音は2ZZか?)

 

 

 

キツい右を抜けると短い擬似的なストレート区間が現れる。さらにその先には再度左右にうねる様なタイトなコーナー区間となる。

序盤の上り区間をアクセル全開で駆け抜けてたっぷりマージンを稼いでいた弘道と小谷だったが中盤のコーナーが連続するテクニカルなセクションでは自慢の馬力を全開にはできていなかった。

コーナー進入時にチラリと何かに照らされる。

仲間が追いついたかと思った小谷だったが、脱出で大きく迫ってきたそれに瞬く間に射程圏内に捉えられる。

 

小谷「なにぃ!?あれは……FCにS14!もう追いついたってのか!(冗談じゃねぇ!何つー速さだ!あいつら全員捌ききってここまで来たのか!このあっという間に!?こっちは300馬力オーバーのチューンドだぞ!何故追いつける!?)」

 

弘道「嘘だろ!?ファンタジアの車がもう!?後ろの奴は全滅かよ!(まさかファンタジアのマシンは全員俺のマシンに匹敵する馬力でもあるのか?どうしてこんなに速いんだよ!なんで地元の俺に追いつけるんだ!?)」

 

次の左コーナーを抜けてさらに続けて右コーナー。

立ち上がってもう一度短いストレート。

後ろに迫る4台は車種が判別できるほどの距離までさらに差を詰めてくる。

深緑のFCに白いS14と180SXに青いMR-S、さらにその後ろにワンテンポ遅れてギリギリのところを置いていかれてたまるかと、妙義のプライドだけで粘る宮原の黄色いMR2が小谷のミラーに映り込む。

 

小谷「妙義の走り屋として、何とか前だけは守らなきゃいけねぇってのにこの煽られっぷりはたまんねぇよ……!」

 

馬力を生かして何とか立ち上がりで守り抜いているものの差は詰まる一方で食らいついて離れない。

300馬力超級となる2人のマシンは妙義の走り屋の中でも指折りのハイパワーを誇るが何も一番というものではない。

妖夢のFCも椛のS14も鈴仙の180SXも数字の上でさほど劣るものではない上に、この2人は技量に関して多少お粗末なところがあった。

流石に以前までのまともにドリフトも出来なかった程度のスピードスターズほどではないにしても、パワーに頼りすぎている感は否めないよく言えば力強い、悪く言えば力押しが過ぎる走りであった。

ドリフトもサイドブレーキを使ってしか出来ない上にアングルも対向車線にはみ出るほどに大きいためそれが抵抗となってしまい速度が落ちるので見た目ほどに速くもない。

マシン単体の馬力は互角かそれに近いクラスでありながら乗り手の技量はファンタジアの方が遥かに格上と来れば、地元の経験値を打ち消し覆す事は十分にあり得てしまう事だった。

 

コーナーを数個経てコース中盤のストレート区間に差し掛かる頃には守りきれずにファンタジアの4台全てに先行を許してしまう事となる。

 

弘道「負けた……!クソ、悔しいぜ!(だが流石にここまでされちゃあ認めるしかねぇよな。……いいマシンだぜ)」

 

小谷「やられた……。地元なのに……」

 

前方に遮るもののなくなった彼女たちはコーナー1つ過ぎるたびに遠ざかり、食い下がろうとする2人を置いて行ってしまった。

射程圏外に逃げられてしまい、戦意を挫かれて少しずつペースを落としていく2人の脇を対向車の70スープラが通り過ぎるとその数秒後、コーナーを立ち上がってヘッドライトの光が飛び込んでくる。

 

小谷(あれは……)

 

そのマシンは2人の真横を猛スピードで飛び抜けて行くと特徴的な丸目4灯のテールを赤く光らせて次のコーナーへと消えていった。

 

弘道(今のは毅のGT-Rだ。やっぱりアイツに任せるしかないのか……)

 

中里(地元の癖に初見の奴らに歯も立たないで全滅かよ。アイツらも不甲斐ねぇな。……とは言え、あの緑のFCと白のS14はオーラ持ちだ。高橋啓介とほぼ同等クラスかあるいは僅かに上回るレベルの走り屋相手にむしろよく頑張った方か?)

 

そう考えつつもアクセルを踏む足から力を緩める事なく加速していく中里とそのGT-Rは、その先にいるであろうファンタジアの車列に追いつくためにほぼ全開走行に近い攻め方で走っていた。

 

 

 

 

 

♪ BACK ON THE ROCKS / Mega Nrg Man

 

 

 

 

 

コースは後半のロングストレートを含む高速セクションへと突入する。

そのストレートで中里は大きく差を詰めて来ていた。

この後にコーナーをさらに2〜3個抜ければ、ようやく前方にそれらしき車を視界に捉えた。

 

ウィングを付けた青いMR-Sの前に180SXが、さらに差を詰めればその先にいるS14とFC3Sが中里には見えていた。

 

中里(アイツらが妙義の全てだと思われちゃ困る。ここは俺が本当の妙義の走り屋の走りってもんを教えてやる。どこまで耐えられるか、見せてもらおうじゃねぇか!)

 

 

 

早苗(背後に一台……?あれは、R32?)

 

椛(やっぱり来た。あれはリーダーの中里か?かなり速い。このマシンでどこまで出来るか、試させてもらおうかな)

 

そこでナイトキッズのリーダー中里の走りに興味の出た椛は一つ、彼の腕を試す事にした。

右コーナー立ち上がりで対向車がいない事を確認した椛は対向車線側にマシンを寄せると、アクセルをわざと抜いてハザードを焚いくことで合図を送り、後ろの鈴仙と早苗を先行させる。

2人の先行を確認した椛はそのまま走行車線側に復帰して徐々に速度を落とし中里を待つ構えを見せた。

 

中里(なるほど……。お前がそのつもりなら乗ってやる!がっかりさせるんじゃねぇぞ!)

 

前方の3台が逃げ切りを狙って離れていく一方で、椛のS14と後方のGT-Rとの差は詰まっていく。

2台が椛を先行、中里を後追いの形で並ぶと椛は再加速して続く左コーナーへと突っ込んでいく。

突っ込みは車体の軽い椛がブレーキングのタイミングを遅らせてギリギリワンテンポ速くに進入出来るが、立ち上がり加速では馬力と経験と駆動方式の優位を見せつけるように中里が圧倒していた。

 

椛(言ってた通り、ブレーキングでしっかり前に荷重を移してプッシングアンダーを殺しながらのグリップ走法……。中々の熱血漢らしいのに走りは堅実と来たか)

 

中里「クソ!カニ走りなんかしてる癖に中々やるじゃねぇか!(初めてでそこまで攻めれるなら上出来だ!認めるのは癪だが、中々に良い突っ込みしやがるぜコイツ!だが俺の走りはそんなもんじゃねぇ!もうすぐコース終盤のラストスパート、もっと追い込んで行くぜ!)

 

中里が愛車の380馬力を全開にして追い込みをかける。

 

椛(ペースを上げてきた……。ここまで来たら、前に出したくはない。最後まで逃げ切る!)

 

2台がほぼ同時に全開走行へと入る。

ハイペースで逃げる前方の3台に再びS14とGT-Rが近づくが、コースはあと1キロも残っていない上に残るコーナーはあと数個。

椛のブロックにより本来のラインで走れない中里は苦戦を強いられるが、続くタイトな左コーナーでインをこじ開けて奪うも続くコーナーは右。

再びインを奪い返されてオーバーテイクに失敗する。

ABSが作動するほどのガツンと叩き込むが如きブレーキングにインを抉り込む様な激しい突っ込み。

野生みすらも感じさせる、一見するとかなり無茶に見えるが決して破綻せず、中里の攻めにも耐え切るそのドライビングは中里をもってしても認めざるを得なかった。

 

だがバトルは唐突に終わりを告げる。

前を走る3台がハザードを点灯した事でコース最後の右コーナーに突っ込もうとしていた椛が左側の走行車線に戻りスローダウン。

中里もこの後に起こることを瞬時に察知し椛に続く形で走行車線に戻る。

そして現れたのは道の駅から登る他の走り屋たちの車だった。

S15シルビアと180SXの2台を頭に、AE92レビン、91スターレット、NBロードスターが間隔を置いて続く。

その後ろにもコーナーを照らすヘッドライトの光が見えていた。

それは妙義の他の走り屋たちだった。

先行する妖夢たちがこの車列の存在に気付き、バトルを中断させるためにハザードを点灯させて合図としたのだ。

 

中里(これからって時に水を刺されたが、まぁいいか。オーラを見れば一目瞭然だがやはりコイツも上手い!……ファンタジアは例の黒いFDだけじゃないってのがよく分かったぜ。ここ数日は俺を満足させるに足るレベルの走り屋がどんどん出てきて退屈知らずだ!……これだから走り屋はやめられねぇぜ!)

 

椛(何とか首の皮一枚繋がったってところかな?残りわずかなコーナー、地元最速のGT-Rを相手に最後まで前を守り切れるかは微妙なところだった。結果として、対向車の集団に救われる形になったな。……私もまだまだか)

 

 

 

中里から前を守り抜いた椛と、椛を追い詰めた中里。

ファンタジア陣営とナイトキッズを含む妙義陣営とでお互いの捉え方こそ異なるが、双方に「ナイトキッズは紛れもなくレッドサンズと並ぶ強豪の一角」「ファンタジアの実力は妙義においても健在。侮りがたし」とのイメージを刻み付けるに至っていた。

 

この日、ファンタジアとナイトキッズとのファーストバトルはこうして幕を閉じた。




何となく当て馬とか悪役とかにされがちなナイトキッズ(慎吾含む)とそのモブの面々ですが、本作では作者自身もかなり扱いに悩みました。
悩んで悩んで結果難産となりましたが、かなりマイルドな感じにする事を決定しました。
全ての業を背負ってもらうつもりのとあるチンピラ集団(これも作者お得意の元ネタありの半オリキャラ集団みたいな感じになる予定です)をのぞいて、出来る限り悪者を作りたくないと思ったのでナイトキッズにも活躍の場を用意していくつもりです。
が、それはまだもう少し先の話になる……かなぁ?

2023/09/25 9:45 誤字訂正。
2023/10/08 23:53 ナイトキッズメンバーの1人の名前を訂正。


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第25話 熱狂の秋名再び

人名〈セリフ〉 ←電話越しの声です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


7月某日、土曜日の今日は先週に続き走り屋たちの一大イベントである交流会の日だった。

一般の観光客や生活利用者が殆ど帰って行くのと同時に、まるで入れ替わる様にやって来た者たちがいた。

ギャラリーと走り屋たちだ。

早いものでは県外から来た走り屋が本番前の休憩として山頂の駐車場で仮眠をとっていた。

県外からの来訪者である事を示す相模ナンバーを付けたBH5レガシィツーリングワゴンの中で野郎3人が窓を小さく開けて雑魚寝状態である。

 

山頂の駐車場には彼ら以外にも数台おり、そしてその台数は増え続けていた。

まずは地元秋名の走り屋が乗るクイントインテグラRSiとギャランシグマ2000GSRターボ、R30スカイライン2000ターボRSが、次にファイヤーバーズを中心とした赤城の中小チームのワンビアとS14後期が2台と180SXが1台、アルテッツァが1台立て続けにやってくる。

さらに金山のチームステッカーを貼った31セフィーロツーリングNと三菱スタリオン2000GSR-V、桐生のチームステッカーを付けたZC31Sスイフトスポーツが2台、ぞろぞろ入ってくるとその後ろから数分おきに様々な車が秋名入りを果たしていく。

そして8時半過ぎごろの時間帯となると、下の旅館側駐車場やコース中盤にある展望台駐車場にも車が続々と現れ辺りを埋め尽くす。

そんな中で本日の主役たちも続々と姿を見せる。

 

ギャラリー1「来た!スピードスターズだ!」

 

まず来たのはスピードスターズだった。

池谷と吉村のS13に健二の180SX、守のA170ランサーEX1800GSRターボに滋のKP61スターレット、隆春のS12シルビアRS-Xに四郎のアルシオーネVRが一団を形成して駐車場に侵入する。

空いている一角に各々の愛車を止めるとその盛況ぶりに、池谷は思わずため息を漏らす。

 

翔一「この時間でこれかぁ……」

 

池谷「途中にフリー走行もあるとはいえ、バトルまであと1時間半も時間があるんだぞ」

 

健二「それなのにこの盛り上がりってのがすごいよなぁ」

 

四郎「あぁ、でもまだ空きも目立つしギャラリーも気を使って端に止めてくれてるからまだマシかも」

 

滋「それにしても緊張するよなぁ。今回の交流会はあっちが拓海を目当てにしてるとはいえ、一応スピードスターズとナイトキッズの交流会ってことにはなっているからな」

 

守「押しの強そうなアイツら相手に、フリー走行あたりである程度こっちの存在感出しとかないと地元としてはまずいかもな」

 

地元としての重責を肩に感じながらも、スピードスターズのメンバーもナイトキッズが来るまでの間はある程度気ままに過ごすこととした。

彼らがギャラリーに混じってこの場に集まったスポーツカーたちを見ていると、今度はレッドサンズが上がってくる。

 

ギャラリー2「おぉ!レッドサンズが来たぞ!」

 

ギャラリー3「白と黄色のセブンだ!間違いない!」

 

ギャラリー4「涼介様ぁ!こっち見て!」

 

ギャラリー5「キャーーー!啓介様ぁ!今日も最高よ!」

 

高橋兄弟の2台に続くのは中村賢太のオレンジのS14と杉本尚子のモンテゴブルーのFD、そして村田昌和の黄色いMR-2だ。

啓介のFDは隣に須崎を、賢太のシルビアは隣に斎藤と後席に竹原を、尚子のFDは隣に兄である芳樹をと言った具合に、1人1台で来る事はなく車を出さないメンバーをそれぞれ隣に載せて来たのだ。

主役の一角として振る舞っていた先週の交流会とは違い、今回はほぼギャラリー目的であるために、台数を節約する目的でそうした手段を取っていた。

そしてそれはレッドサンズが来た直後にやって来たあるチームも同じだった。

 

ギャラリー6「来た!やっぱり来た!ファンタジアの車だ!」

 

ギャラリー7「これが高橋啓介を破った例のレディースチームか……」

 

ファンタジアだ。

今回は八雲紫のイノセントブルーのFDの助手席に藍が乗り、黒い魔理沙のR34 GT-Rの隣には霊夢が乗り込んでいた。

続くダークブルーパールの白蓮のR32 GT-Rの助手席には影狼が乗りその後席にはわかさぎ姫と赤蛮奇が、ミッドナイトパープルの一輪のR33 GT-Rの助手席にはナズーリンが乗り後席には古明地こいしが、射命丸文の黒いR35 GT-Rの助手席に椛が乗って後席にははたてが乗り、白いアリスの80スープラの助手席には幽香が乗り、緑の妖夢のFCには幽々子が乗る。

そして、さらにその後ろにはヤマメの黒いFDと紅美鈴の赤いS2000が付いて来ていた。

合計9台、前回の半数以下とはいえ中々の大所帯であった。

 

イツキ「す、すげぇ!GT-Rがこんなに……」

 

隆春「こりゃあたまんねぇよ。最高すぎるぜ」

 

ギャラリー8「後ろのS2000もカッコいいぞ!」

 

ギャラリー6「居た……。あれが例の黒いFDだ!」

 

啓介「けっ……GT-Rか(どうせアイツらの事だ。腕は確かなんだろうが……。でもやっぱりGT-Rはやたらとアニキに突っかかってたあの野郎を思い出しちまう。どうにも見ててイライラするぜ)」

 

スピードスターズが止めている区画のさらに奥、最奥寄りの位置に空いていた枠に各々がピタリと収めると、それぞれメンバーが降車してギャラリーたちに顔を晒した。

後続のヤマメのFDからはヤマメとパルスィが、美鈴の赤いS2000からは紅美鈴とフランドール・スカーレットが降車した。

 

ギャラリー7「おぉ、みんな女の子だ!」

 

ギャラリー8「しかも超美人!」

 

ギャラリー1「な、言ったろ?見て損はないってさ」

 

イツキ「くぅー!カッコいい車と可愛い女の子のセットはサマになるよなぁ」

 

ギャラリー9「すごいや!早速見に行こう!」

 

昨今かなり珍しい女性のみの、しかもそれなりに規模のデカい走り屋チームとあってあっという間にギャラリーたちの視線を掻っ攫い注目の的となった。

先週を思い出す様な光景がまた形成されて、会場は一段と盛り上がりを見せていた。

 

ギャラリー1「すげぇ、GT-Rが32から最新モデルの35まで勢揃いだ!」

 

ギャラリー3「これ、君の車だよね?ちょっと見せてもらっていいかな?」

 

美鈴「えぇ、構いませんよ」

 

ギャラリー3「このS2000、アミューズのボンネットとリアスポイラーが付いてるぞ。高かったんじゃあ……」

 

ギャラリー6「このR35かっこいいぜ!生で見るとやっぱり写真にはない迫力があるぜ」

 

ギャラリー2「エンジンルームとか、見せてもらっても……?」

 

文「大丈夫ですよ。その代わり、後であなたたちの車も見せてくれませんか?少しお話もお伺いしたいので……」

 

ギャラリー6「ありがとう!もちろんいいぜ!俺のはあっちに止まってるカーボンボンネットの青のGC8で、こっちのはその隣に止まってる白の185型セリカなんだ。俺たちWRCのマシンに憧れて走り屋になったクチでさぁ、それで……」

 

ギャラリー9「この青いFDすげぇ!マジでカッケェ!」

 

ギャラリー7「ほぼ全身が純正オプションかマツダスピード製ってところがいいよな。社外エアロもいいけどこれはこれでいい味してるよ」

 

ギャラリー5「これが啓介様を負かした黒いRX-7なの?……これを倒して敵討ちすれば、啓介様も私を……」

 

そんな事がありつつも時間は流れていき、ついに時計の短針が9を指し示す頃、ついに彼らがやってくる。

 

ギャラリー11「黒い32Rだ!ナイトキッズが来たぞ!」

 

ギャラリー12「来た来たぁ!いい音してるぜ!」

 

ギャラリー13「やっぱりシルビアもGT-Rもいいよなぁ、かっこいいぜ!」

 

中里のGT-Rを先頭に数台の車が連なり入ってくる。

黒いS13や黒いS15シルビア、白いNCロードスターや黄色いMR-Sなどがゾロゾロと列を成し入ってくる。

ギャラリーたちがメインで止めている区画とスピードスターズの止めている枠の丁度中間に止めると、メンバーたちは出迎えのためにすでに集結していたスピードスターズの方へと向かった。

 

中里「俺は妙義ナイトキッズの中里毅だ。お前らが秋名スピードスターズであってるか?」

 

池谷「そうだ。俺は池谷浩一郎。秋名スピードスターズのリーダーだ」

 

それから各々のメンバーが簡単な自己紹介を済ませると、早速話題は今日のバトルの事となる。

 

中里「……早速フリー走行と行きたいところだが、一つ確認しておきたい。例のハチロクは見えない様だが、まだ来てないのか?」

 

健二「あぁ、実はまだなんだ」

 

池谷「後で電話かけてみる。あのハチロクの店の番号は俺が知ってる」

 

中里「分かった。最後のお楽しみって訳か」

 

池谷「立ち話してばかりじゃあれだし、それじゃあフリー走行にしよう」

 

中里「それもそうだな。……おい!お前ら行くぞ!フリーだ!」

 

ギャラリー10「おい聞いたな?……フリー始まるぞ!」

 

ギャラリー12「お前ら避けろ避けろ!車が出るぞ!道を開けてくれ!」

 

 

 

 

 

♪ GO WILD / Dusty

 

 

 

 

 

フリー走行の合図が出ると、ギャラリーが興奮を伴ってざわつき参加者たちは各々の車へと向かう。

 

正一「よし、ナイトキッズ出陣だ!」

 

吾郎「俺も出るぞ!」

 

章夫「気合い入れろよ!走るぞ走るぞ!」

 

ナイトキッズが喜び勇んでマシンに飛び込むと、続々とエンジンを回し始めた。

弾ける様な始動音と低く唸るアイドリングが秋名に響く。

 

池谷「よし、そうと来れば俺らも行こう!しっかりギャラリー沸かせてから拓海にバトンタッチだ」

 

健二「地元の秋名でよその奴らにばかり偉い顔はさせられないからな!行くぞ!」

 

四郎「俺たちだって少しは上手くなったんだ!妙義の奴らに秋名の走りを見せてやろう!」

 

続いて地元のスピードスターズが張り合う様にエンジンを始動させる。

妙義と秋名、二つのチームの車両が続々と動きを見せていく中で、他のチームや走り屋たちにも動きがあった。

 

啓介「アニキ、俺たちはどうする?」

 

涼介「ひとまず、俺はパスだな」

 

啓介「なら俺もだ。……尚子、健太、村田、お前らは?」

 

健太「啓介さんが行かないなら俺もパスで」

 

尚子「じゃあ私はちょっと走ってこようかな?……レッドサンズが走らないんじゃギャラリーも退屈しちゃうかもだからね!」

 

村田「俺も行こうかな。秋名はいい道してるし、楽しいからさ。ちょっくら妙義の奴らの背中つついて遊んでくるよ」

 

須崎「おう、いってらっしゃい」

 

芳樹「ナオ、途中で変わってもらっていいか?俺もちょっと走りたくなってきたよ」

 

尚子「うん。もちろんいいよ。……それじゃあ行ってくる」

 

レッドサンズは杉本尚子と村田昌和が、スピードスターズに続く様に出ていき……。

 

魔理沙「レッドサンズが出ていくみたいだし、私たちも行こうぜ」

 

一輪「私も行きますよ。聖もどうですか?」

 

聖「なら、私も行きましょうか。丁度第二世代の3台が揃いますからね」

 

文「私とはたてはインタビューがあるのでフリーは辞めときますよ」

 

妖夢「お嬢様、私も走りたいです」

 

幽々子「いいわよ、妖夢。行ってきなさい」

 

ヤマメ「じゃあ私も」

 

ファンタジアは一輪、聖、魔理沙、妖夢、ヤマメが出る事にした様だった。

そんなレッドサンズやファンタジアの様子を見て、我も我もと腕自慢の走り屋たちが名乗りを上げるように続々と駆け出していく。

その中に、泊と秋永もいた。

 

秋永「フリー走行、俺たちも走ってみるか」

 

泊「そうだな。行くか」

 

ファンタジアのGT-RにレッドサンズのFD、ギャラリーの100系チェイサーなど、次から次へと駆け出していく車たちを見送りながら、彼らも自身の愛車へと乗り込んでいく。

こうして、秋名は再び熱狂へと染まっていった。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

最初にナイトキッズとスピードスターズが、次にファンタジアとレッドサンズの順で出ていきその後にギャラリー組の腕自慢たちが駆け出していく。

フリー走行はスタート直後から、ナイトキッズとスピードスターズが入り乱れての乱戦となっていた。

特に最初の一本目だけは対向車の存在を考慮する必要がそれほど無いため、最初で最後の楽しみとばかりに攻め込む走り屋は多かった。

上りの車両と下りの車両が入り乱れる2本目以降は対向車を想定して各1車線ずつのみ使って走ると言う決まりが、秋名のみに限らず多くの峠に存在しているため、この場にいる走り屋たちもその通りに振る舞っていた。

 

弘道「ちっ!秋名の走り屋も中々やるじゃねぇか!(ストレートでターボパワーを全開にしてガツンと突き放してもコーナーで少しずつ差が詰まる……古くて非力なS13前期でも、流石に地元って訳か!ついて来てるぜ!)」

 

池谷「今度こそ……今度こそはやってやる!(秋名には俺たちがいるって事を、ナイトキッズにもギャラリーにも見せつけてやらなきゃな!地元の俺たちがしっかりしなきゃあ、秋名が舐められるんだ!)」

 

正一「クソ!スピードスターズ、思っていたよりやるな!腕上げたって噂はマジみてぇだな(この俺でも振り切れないかよ!チクショウ!)」

 

健二「肝心の地元で俺らが引く訳には行かねぇ!やってやろうじゃねぇか!(最初の1本目だからこそ、ガッツリ飛ばして追い回してやる!やっぱり地元が情けない姿を見せる訳には行かないからな!)」

 

そんな中で、弘道のS15は池谷のS13と、正一のNCロードスターは健二の180SXとのバトルに発展していた。

各チーム入り乱れながらダウンヒルを駆け降りるその様子はギャラリーたちを沸かせるには十分な熱量を伴っていた。

 

ギャラリー14「始まったぞ!フリー走行だ!」

 

ギャラリー15「来た!ナイトキッズとスピードスターズだ!」

 

ギャラリー16「競り合ってんのか!?早速バトルなんて魅せてくれる!」

 

ギャラリー14「いいぞお前ら!かっこいいじゃないか!」

 

熱を持ち始めるエンジンにシンクロするが如く、 1コーナーから2コーナー、2コーナーから3コーナーと飛ぶ様に駆け抜けていく走り屋たちの姿にギャラリーからは歓声が上がり、秋名の峠に熱気が立ちこめた。

 

ギャラリー17「おぉ!さっそくオーバーテイクだ!ファンタジアのGT-Rが3台、並んでスピードスターズのランタボとナイトキッズの180SXをまとめて仕留めちまった!」

 

ギャラリー18「32、33、34が揃い踏みだぁ!こりゃあ痺れるぜ!」

 

ギャラリー17「このど迫力のRBサウンドの三重奏がたまんねぇ!来て良かったぁ!耳が幸せになるよ!」

 

ギャラリー19「後ろからまだまだ来るぞ!あの車は……レッドサンズとファンタジアのFDだ!その次はMR-2とチェイサー!」

 

ギャラリー18「おぉ!あのFD、2人ともすげぇ!2台ビタビタのまま立ち上がって抜けてったぞ!さすがはファンタジアの選抜組とレッドサンズの一軍!ライン取りもうめぇ!」

 

そして泊と秋永が2台揃って通過する。

RB26の迫力あるサウンドに2Jの快音が重なる。

しかし、その2Jサウンドを奏でる車の姿にギャラリーたちは困惑していた。

 

ギャラリー20「な、何だあの車は!……ピックアップトラック!?」

 

ギャラリー19「見た事ねぇぞあんなの!」

 

ギャラリー21「何て車だぁ?分かる奴いるか」

 

ギャラリー17「分かんねぇ、何だアレ?」

 

ギャラリー22「ほう、あれはホールデンのユートですか。大したものですね」

 

ギャラリー23「知っているのか、雷電!……じゃなくて、サンダースのあんちゃん!」

 

ギャラリー22「ユートはFRと4WDのモデルがラインナップされているオーストラリア車で、見ての通りピックアップトラックです。しかし原型はクーペベースとなっていて、ピックアップトラックらしからぬ空力の優秀さが魅力ですね。このロングホイールベースの素体にワイドボディの仕様は回頭性を犠牲にするため、極低速域のタイトヘアピンなどを不得手とする一方で安定性に優れます。それにユートは素の状態でもそれなりに剛性がいい。この車なら大抵の車が持て余してしまうハイパワーな2Jも受け止めてくれるでしょう。また、この個体は荷台を塞いで空力を改善しつつ剛性を確保していますね。荷重の変動による急な姿勢変化を大柄で頑強なボディが抑えてくれるためにコントロール性も悪くは無いでしょう。その素性の良さとFRモデルがあると言った理由から、中にはドリ車のベースとして愛用する人もいるほどです」

 

ギャラリー21「な、なるほど……」

 

日本ではそうそうお目にかかれないレア車の登場もあり、その歓声は次第に大きくなっていった。

 

 

 

一本目はファンタジアのGT-R軍団が他を許さぬ快走を見せて最初に下りきると、その次に泊と秋永のペアが続き、その後にレッドサンズとナイトキッズとスピードスターズが団子状態にもつれたままフィニッシュ。

ヤマメはあえて尚子のペースに合わせて2台でドリフトさせながら下っていった。

最後にその他のギャラリーたちの車が続々と降りてくると言った具合で、2本目は上りの車両とと下りの車両が入り乱れてしまうため、各自走行車線のみを使った控えめなパフォーマンス走行にとどまったが、それでも多種多様な車たちと地域やチームの垣根を超えた数々の走り屋たちが峠を駆け抜けていく様子はギャラリーたちを大いに満足させていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

それから十数分後、フリー走行のために駆け出していったりまたは戻って来ては再び折り返したりしていく走り屋たちに熱狂するギャラリーをよそに、高橋涼介はファンタジアのメンバー達のたむろする中からひとっ走り終えて再びこの駐車場に戻って来たヤマメを呼び出し、ある話を持ちかけようとしていた。

 

涼介「黒谷、わざわざ呼び出してすまないな。突然になってしまうが、少し頼みたいことがあるんだ」

 

ヤマメ「……どうしたの?涼介。」

 

涼介「一応昨日の晩に上白沢とは一度電話で話したんだが、本人に聞いてみてくれと言われてしまってな。……今回の中里と藤原拓海のバトル、啓介を隣に乗せて2人の後ろを走ってみてくれないか?」

 

確かに突然の申し出ではあったものの、前回の追走の動画にレッドサンズのメンバーがやたらに食いついていた事をFD3S繋がりの友人でもある尚子や芳樹から聞いていたヤマメとしては理解できない話ではなかった。

要するに、あれをもう一度、今度は涼介ではなく啓介の目で、と言う事なのだろうと言う事は何となくは察せていた。

 

涼介「……啓介に勝ったあのハチロクを、啓介自身の目で観察する機会を与えてやりたいと思ったんだ。敗北を経験して驕りが見えていた精神面での欠点は多少マシにはなったが、かと言って啓介自身の運転ではまだあのハチロクの全開走行には追随しきれないだろう。だからこそドライバーは他の誰かにさせる必要があった訳だ。そこで、お前ならもしかしたら……と思ったんだ」

 

ヤマメ「話は分かるけど……なら、涼介が走れば良いんじゃない?わざわざ他のチームの私を指名しなくても、涼介なら拓海くんにも、もちろん私にも劣らない走りが秋名でも出来るはず。……でしょ?」

 

涼介「随分と高く評価してくれているな。……確かにそれでも可能だ。だが、それではファンタジアの利にはならないと判断した。……先週の交流会の時は俺が隣に乗せてもらう立場であったし、走行時に撮影した貴重なデータまで複製して分けて貰った。俺たちにもそれなりにメリットのある策を練って実際に一枚噛ませてもらった以上は、こちらもそれ相応の利を与えて配慮をする必要があると思っただけだ」

 

ヤマメ「まぁ、拓海くんの走りに興味があるのは私も同じ。後を追う機会があれば欲しいと思ってたところよ」

 

涼介「なら、頼めるか?」

 

ヤマメ「もちろん、啓介を乗せて走る分には構わないよ。ただし私は慧音みたいにチームでも別格に速いわけじゃないから先週の時みたいにできる保証はないかな。それでもよければ引き受けるよ」

 

涼介「なら、本番はよろしく頼む」

 

ヤマメ「うん。私も出来る限り頑張ってみるよ」

 

こうして、ヤマメと啓介のペアの出走が密かに決められた。

 

涼介(無論、負けた分の借りを忘れた訳じゃない。それはいずれ俺自身の手で返したいと言う思いに嘘はないが、こっちの別な意味での借りも返さないわけにはいかないからな。貸し借りの問題は後で話を拗れさせない為にも、面倒の種にさせないためにも、出来る限りイーブンであるべきだ。……何より、ファンタジア側がこちらにある程度友好的な態度で接してくれている上に、うちのメンバーに対してもいい刺激となってくれている現状で、下手に敵意やライバル心を出して対立姿勢を明らかにしたところで側から見れば大人気なく見えるだろうし、こちらとしてもメリットもないからな)

 

涼介の元から離れて弟の啓介や杉本兄妹やギャラリーとして訪れた他のマツダ乗りやロータリー使いたちとの会話の輪に入っていき、にこやかに雑談を始めるヤマメの姿を遠巻きに眺めながら涼介は静かに考えを巡らせた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

フリー走行もひと段落した9時半過ぎ。

本番のバトルまでは30分を切っていたが未だに姿を見せない秋名のハチロクに対して、ナイトキッズやスピードスターズだけに止まらず会場全体がソワソワとした空気感に包まれていた。

 

池谷が本人の自宅である藤原とうふ店へと電話をかけると、出たのは父の文太ではなく拓海であった。

何と拓海はまだ家にいるらしい。

 

拓海〈その……バトルの件なんですけど……〉

 

池谷「何だ?どうした?……何かあったのか?」

 

拓海がかなり言いづらそうにしている事から途端に不安に駆られる池谷だったが、次に続く言葉に衝撃を受ける事となる。

 

拓海〈実は、親父が何も言わずにハチロク持ってっちゃって、まだ帰って来てないんです〉

 

池谷「なっ……!う、嘘だろぉ何だよそれ……」

 

思わず叫びそうになるも、咄嗟にナイトキッズに聞かれたらまずいと思った池谷はその絶叫を何とか押し殺すことに成功してそのまま話を続ける。

もうこの期に及んで出れませんは流石に通用しないが、かと言って肝心のハチロクがないのでは話にならない。

 

池谷「くそー!こんな事態は予想外だったなぁ……。うーん、どうにかならないか?今夜の山はとんでもない大騒ぎなんだ。ナイトキッズと俺らスピードスターズだけじゃ無い。レッドサンズもファンタジアもみんな来てて凄い事になってんだ。他にも碓氷や桐生みたいな県内のチームはもちろん、秩父や大垂水の県外から来てる走り屋だっている。水戸や長野のナンバーだってここから見える。一番遠いところじゃ熱海ナンバーのワーゲンまで来てる。みんな拓海が目当てで来てるんだ」

 

拓海〈そう言われても……。一応心当たりのある親父の行きそうな飲み屋とかには電話したんですけど全部ハズレで……。もし親父が来たら俺が呼んでるから戻ってくるようにとだけは伝言を頼んでおきましたけど〉

 

池谷「な、なぁ……もし良ければなんだけどさ、俺らの誰かから車借りて走るってのはどうだ?俺や健二の車ならハチロクよりもパワーがあるぞ。それに駆動方式も同じFRだからそこまで挙動も違わないだろうし……」

 

拓海〈ダメですよ、先輩〉

 

池谷「え……ま、まぁそうだよな。拓海が普段乗ってるのはNAで、ターボじゃ無いし、CA18やSR20のターボって結構ドカンと来るタイプだし……。しかも俺のはタービンちょっと弄ってハイフロー化して貰ってるからなおさらドッカン具合はでかい。……それじゃあこれならどうだ?この前あったファンタジアのにとりちゃん!彼女のハチロクを借りよう。それなら同じ車種だし彼女の車はNAエンジンだ。パワーがありながらターボのデメリットもない。俺がどうにか向こうに頭下げて頼み込んでみるからさ」

 

拓海〈先輩、そう言うことじゃ無いんですよ。俺、他人の車じゃ走りませんから〉

 

池谷「……確かに、そりゃあそうだよな。大事な交流戦で、自分の愛車が使えないからって他人の車借りて戦うなんて、あんまり褒められたことじゃないか……」

 

拓海〈……別にそう言う話でも無いんですけど、まぁいいや。とにかく俺は他人の車でバトルに出るつもりはないですよ。いつものウチの車じゃなきゃだめなんです〉

 

池谷「そうか……」

 

その言葉に明らかな落胆を見せる池谷。

貸し1と引き換えにファンタジアのナンバー2である藍の協力を得て、何とか拓海をその気にして参戦させることには成功したものの、そこで油断してしまったのがいけなかったのか、まさかの「車が無くて戦えません」と来たものだから頭を抱えてしまう。

こんなことになるとは思いもしなかったのだ。

これからナイトキッズやギャラリーにどう言えばいいのやら分からず、脳みそをレブリミットまで全開で回すものの出てくるのは「もうどうにもならない。現実は非情である」という事実上の死刑宣告と冷や汗ばかり。

 

拓海〈一応、ギリギリまで待ってみますよ。……とは言っても、ウチの親父は一度飲みに行ったらほぼ毎回朝帰りなんで99%諦めてますけど〉

 

拓海のその言葉が追撃となって池谷の心を打ち付けた。

 

池谷「そんなぁ……なんてこったー!こんなの悔しすぎる……ッ!」

 

拓海〈なんて言うか……その……期待に添えなくて、すみません〉

 

拓海が行けなくなってしまい詰みの状態に陥り一気にお通夜モードなる池谷だったが、まだ運命の女神は彼を見捨ててはいなかった。

 

拓海〈…………あ、帰って来た〉

 

池谷「え?」

 

咄嗟の事でよく聞き取れなかったために思わず聞き返す池谷。

 

拓海〈国道を曲がって帰ってくる時の2回吹かすあの音とリズム……。親父の車だ。親父が帰って来た〉

 

それを聞くと池谷は瞬く間に調子を取り戻し、青くなりかけていた顔色も復活していく。

 

池谷「ほ、本当か!?エキゾーストだけで分かるのか?」

 

拓海〈分かりますよ。絶対間違いない〉

 

池谷「た、助かったぁ……!」

 

拓海〈これで、無事にバトルには行けそうなんですけど、38分過ぎ……もうそろそろ40分は回りそうだし、今から準備して向かってもちょっと10時までには間に合うかどうかは分からないので、向こうにも事情を話して少し待って貰って良いですか?こっちもすぐに親父に話し付けて、出来る限り早くに出て行けるようにはしますけど。……それじゃあ、電話切りますね。先輩、山頂で待っててください〉

 

 

 

池谷「分かった。その辺のことは任せておけ。じゃあな、拓海。……頼むぞ」

 




またもや丸1ヶ月の感覚が……。
投稿遅れてすみません。

今回はこれまたちょい出しリクエストキャラやネームド化モブ、オリキャラに東方キャラが入り乱れててんやわんやで書き分けがががが……。
でも自分で始めたことだし書いててなんだかんだで楽しいからヨシ!

2023 / 2 / 7 2時30分
誤植部分の訂正。


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第26話 揃う役者

ついに拓海くんの登場です。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

拓海は池谷からの電話を切ると、ハチロクの帰還を知らせるエキゾーストを奏でながら戻って来た父の文太を店先まで出て迎えるべく、ギシギシと軋む階段を駆け降りた。

免許証の入った長財布をズボンのポケットに突っ込み、脱いでいたスニーカーを履いて玄関の戸を開け、生暖かい7月の夜風を浴びながら外へと出る。

 

店の脇に止められたハチロクに、逸る心を隠す事なく駆け寄る様に近づくと、いつものボヤッとした顔の文太が運転席のドアを開けながら顔を覗かせた。

 

拓海「こんな時間まで、どこ行ってたんだよ親父……」

 

文太「まぁ、ちょっとな」

 

文太らしいと言えばらしい、そのパッとしない返しに思わずため息の漏れる拓海。

 

拓海「この後すぐに用事が入ってるんだ。今すぐハチロク借りていいかな?」

 

文太「なんだ、またどこぞの走り屋とバトルでもするのか?」

 

拓海「……うん。……まぁ、そうだけど」

 

文太「……分かった。そう言うことなら構わねぇ。乗って行きな」

 

拓海「ありがとう、親父」

 

あっさりと承諾する文太。

拓海はエンジンがかけっぱなしのハチロクのシートに座ると、そのままドアを閉める。

 

拓海「……なぁ、親父。……GT-Rって、速いのか?」

 

ふとそんなことが溢れた。

今更聞いても大した意味のないことくらいは分かっていたが、拓海は聞かずにはいられなかった。

 

文太「……まぁ、速いだろうな」

 

拓海「俺……勝てるかな?」

 

文太「心配すんな。秋名の下りに限って言えばお前よりも速いやつなんかそうそういねぇだろう」

 

拓海「行ってくる」

 

文太「……あぁ、行ってこい」

 

エンジンを吹かすとハチロクが走り出す。

文太の目の前からテールランプが遠ざかっていく。

 

文太「……やっぱり、今度はGT-Rか」

 

いつもと変わらぬ仏頂面のまま、文太は小さくつぶやいた。

 

 

 

 

 

文太の見送りを受けて、拓海はハチロクを走らせていく。

目的地はいつもの配達で訪れる秋名山。

しかしそのいつも訪れる見知ったはずの秋名山は、またいつもとは違った顔を見せてくれるだろうと拓海は予感していた。

前回のあのバトルの時に感じた不思議な高揚感が、秋名山を目指してハチロクを走らせる拓海の胸に再び芽生えていた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

池谷「……と言う事が今さっきあったんだ。今から親父さんに事情話して車借りてこっちに来るにしても10時はちょっと過ぎちまうかもっていうから、その間少し待って欲しいって……」

 

中里「あのハチロクが借りもんだってのにも驚いたが……。それにしても、主役は最後に……か。大した役者だぜ。とにかく多少遅れようが来てくれるんなら問題ねぇ。必ずしも時間きっちりに始められるとはこっちも考えてなかったからな」

 

紫「まぁ、そう大きく出れるだけの腕が彼にはあるのだから、私としては異存はないけどね」

 

涼介「……しかし、この数のギャラリーをどうするかだな」

 

池谷は秋名のハチロクが少し遅れるかもしれない事を対戦相手のナイトキッズと、親交のあるレッドサンズとファンタジアにも伝え、フリー走行の時間を少し延長したいという旨を伝えていた。

 

中里「ならせっかくの交流会だ。フリー走行の時間を伸ばすんじゃなくて、即興で組ませてバトルさせてみるか?今日連れて来たメンツにもフリー走行以外の見せ場作ってやりてぇからな。ギャラリーの参加もいいって事にしておくから、お前らの中でも走りたい奴がいるならコイツらの相手をしてやってほしい。……そういう訳だ、お前ら出番だぞ!」

 

弘道「本当か!?毅!」

 

正一「俺らもバトルできるって!」

 

中里「あぁ、俺だけ走ったんじゃつまらねぇだろ。お前らも派手にかましたくてウズウズしてんじゃねぇのか?」

 

正一「おうよ!」

 

章夫「さすが毅!話が分かる!」

 

紫「なら私たちがたまに使うやり方でやってみるかしら?これなら短時間でそこそこの人数を出走させられるし、短い間隔で次々に車が来ることになるからギャラリーを沸かせるにはうってつけのはずよ。麓の豆腐屋からここまでならそれほど時間はかからないでしょうから、案外ちょうどいいかもしれないわ」

 

涼介「よし、聞こうか」

 

池谷「どう言うやり方なんだ?」

 

藍「それに関しては、私が経験した事のあるルールですので説明は私が」

 

そのルールを要約するとこう言うものだ。

とは言っても割と簡単で、スタートは先行後追い方式で馬力の勝る車を頭に前後2台が並んでスタートする形式で、そこから対戦する各組が前の組のゴールを待たずに一律20秒間隔で次々とスタートしていくと言うものだ。

これは走り屋チームの抗争が多発していた公道レース黎明期の妖怪の山で発生したルールであり、主に集団戦を短時間でこなすやり方として普及したものだ。

 

勝敗の判定も簡単で、先行が抜かれるか、後続が千切られたら負けとなる。

千切られたと判定される車間は約5間から7間ほどで、これはメートル法に直せば約10メートル前後と意外にシビアだ。

目測の基準としては先行車のリアバンパーから後続車のフロントバンパーまで、普通自動車2台から2台半以上、ガードレールの支柱2本分より少し長い程度の差をつけられてゴールしたら後続の負けという事になる。

 

逆に先行車が後続に対してそれ以下の車間しか稼げず、両者が近接していてもつれたままゴールした場合は引き分けか、あるいは後追いの判定勝ちとなる。

今回の場合は引き分け判定を採用する。

なお、後続車がフロントバンパーで先行車のリアバンパーをしばいたら勝ちという変わった勝敗の判定法を用いた変則バトルもあるにはあるが、こちらも今回は不採用とした。

 

ちなみに、これに関しては説明を省略したが、先行した組の車両が20秒の差を埋められて後続の組の車両に追い付かれた場合は問答無用の失格となり、無条件で前を譲らなければならないと言うルールもある。

これの前例となったのは椛のS12シルビアと文のバラードスポーツCR-Xのダウンヒルバトルで、この2人が先行してバトルする河童と天狗の走り屋を仲良くぶち抜いてしまったがために新たに策定されることとなった。

 

藍がこれを発祥とその経緯などを省きながら、ルールの要点だけをかなり簡潔に、手短にまとめて説明する。

 

中里「分かった。それで行こう。……聞いてたな!お前たちもそれでいいか」

 

正一「あぁ、構わないぜ」

 

弘道「おうよ、毅!」

 

中里「なら3番勝負だ!安井、藤巻、平!今すぐ車並べろ!お前たちから順番に走れ」

 

その後、即興で対戦カードが組まれることとなったがこれは数分とかからず極短時間ですんなりと決まった。

ファンタジア、スピードスターズ、レッドサンズから各1名の立候補者が即座に現れていたからだ。

 

一輪「なら私が走りますよ。久しぶりにバトルがしたかったので」

 

池谷「俺も走ろう。こう言う肝心な時にこそ、地元の出番だろ。……それに、さっきのバトルの続きをしたい」

 

村田「じゃあレッドサンズからは俺が出たい。妙義のMR-Sと戦おう」

 

章夫「レッドサンズのMR2か……。上等だ!望むところだぜ!ミッドシップ使いの群馬頂上決戦と行くか」

 

レッドサンズの村田昌和は本人の希望もあって、お互いライバル関係に当たるナイトキッズの平章夫とのミッドシップスポーツ対決に挑むこととなった。

ファンタジアの雲居一輪は中里を除けばナイトキッズで最もパワーのある車に乗る安井弘道のS15(350馬力)を相手に選び、残る池谷は藤巻正一のNCロードスターと戦うこととなった。

 

こうして1分と経たずにすぐ組み分けが終わる。

スタート順はファンタジアの一輪のR33 GT-R(470馬力)を先行に弘道のS15(350馬力)を後追いとする日産ハイパワー組、次はレッドサンズ村田のMR2(220馬力)を先行に章夫のMR-S(160馬力)を後追いとするミッドシップ組、そしてスピードスターズ池谷の前期S13(210馬力)を先行に正一のNCロードスター(190馬力)を後追いとするFR組となった。

 

時計の針が50分を回ったことを示す頃、ついにバトルは始まった。

 

拓海の遅れを埋めるためにエキシビションマッチが急遽組まれることとなり、再び数台のマシンが前後にならびスタート位置につく。

 

ギャラリー1「お、なんだ?ぞろぞろ車が出てきたぞ?バトルすんのか?」

 

ギャラリー2「本番前の前座らしい。ナイトキッズがスピードスターズとファンタジアとレッドサンズの3チームを相手にバトルするってさ」

 

ギャラリー1「おぉ、いいねぇ!そりゃあ楽しそうじゃないか」

 

ギャラリー3「複数のチームが絡み合うバトルも乙なもんだよなぁ。来て良かったぜ」

 

???「ファンタジアはR33が出るのね。勝つか負けるか、お手並み拝見ね」

 

ガヤガヤと騒ぎ出すギャラリーの中に1人、眼光鋭くファンタジアの面々を見つめる1人の女性がいた。

薄手の茶色いサマージャケットの下、腰からキーチェーンと共に顔をのぞかせぶら下がるその鍵は、トヨタの100系チェイサーのものだった。

 

 

 

 

 

♪ UP & DANCE UP & GO / LOU MASTER

 

 

 

 

 

史浩「GO!」

 

カウントを終えてスタートの合図が出るとスカイラインGT-RとシルビアスペックR、RB26改とSR20改、日産の名車が名機を携え、雄叫びを上げながら走り出す。

 

隆春「一輪ちゃん頑張れー!」

 

正一「行ってこい弘道!」

 

章夫「R33がなんだってんだ!ぶっちぎってやれ!」

 

ギャラリー2「よし始まったぁ!バトルの時間だぁ!」

 

ギャラリー3「すっげぇ加速で飛び出してったぞ!めちゃくちゃはえぇ!2台ともアクセル全開だ!」

 

ギャラリー4「ハイパワー同士のガチンコバトルだ!迫力あるぜ!スキール音が痺れるぜ!」

 

一輪は白蓮の指示でグリップ走法縛りで、弘道はサイドブレーキを使ったスタンダードなスタイルのドリフトで1コーナーに突っ込んでいくが、流石にR32から大幅な性能向上を果たしたR33 GT-R相手にはいくら軽さが効くと言われる峠のステージでも分が悪く、徐々に差を開けられていく。

 

一輪(重量のあるロングホイールベースのマシンの特性上、低速コーナーはやや厳しい。その辺りはシルビアの方が有利。……でもそれを何とかするのが私の仕事。そのためのドライバー。……乗り手がしっかり仕事をしてこそ、マシンも力を貸してくれる。走ることもお寺の修行も本質的には一緒。自分がやるべき仕事をただ真面目にやる。そうすれば、結果は自ずとついてくる。……だって、車は裏切らないから)

 

弘道「くっ……!加速もすごいがコーナーでも離される!(俺のパワーが……ドライビングが通用してない!?まるで毅を相手にしてるみたいだ……めちゃくちゃうめぇ!超はえぇ!こんなバカっぱやのマシンが本当に日産の失敗作だと?冗談キツいぜ!世間サマの評価ってもんがいかに下らねぇか身に染みるってもんだ!)」

 

R33を駆る一輪がドリフトを縛られている事で、その車重が響くヘアピンなどの低速コーナーへの突っ込みでは多少差を詰められるが、それでもテクニックと馬力に勝る一輪とR33に弘道とシルビアは追いつけず、スケートリンク前ストレートでお互いがパワーを全開放する頃にはその差と勝敗は明らかとなっていた。

 

弘道も意地を見せて慣れない秋名の峠を果敢に攻め込みギャラリーを沸かせるも、結果は8.73秒の大差をつけて一輪が勝利した。

 

 

 

 

 

魔理沙「GO!」

 

最初の組のスタートから20秒後、後続のレッドサンズVSナイトキッズのライバル対決。

お互いにミッドシップ使いであるためにバトル前からバチバチと火花を散らしていた両者が同時にアクセルを踏み締め飛び出した。

 

啓介「行け!ナイトキッズなんかに負けんじゃねぇぞ!」

 

ケンタ「村田、勝ってこいよ!」

 

正一「レッドサンズにゃ負けられねぇ!頼むぜ章夫!」

 

小谷「妙義の意地見せて来い!レッドサンズのケツ蹴っ飛ばしてやれ!」

 

それぞれのメンバーたちからの声援を受けて走る2台がコーナーへと突っ込んでいく。

MR2の方がパワーがあるために開幕こそ村田が優位であったが章夫のMR-Sも必死に食い下がる。

ミッドシップ乗りとしてのプライドがある2人としては互いに落としたくない一戦、双方が死力を尽くした全開バトルになるのは必然だった。

 

ギャラリー4「来たぞ!鋭い突っ込み!流石にミッドシップだぜ!」

 

ギャラリー5「レッドサンズもナイトキッズも良い腕してるなぁ」

 

ギャラリー6「あぁ、お互い伊達に地元で最速名乗ってねぇ!クリッピングもバッチリだ!コーナーの立ち上がりも綺麗に決めたぞ!」

 

ライバルチーム同士の2人の全開走行にギャラリーたちも盛り上がる。

 

村田「俺の肩にはチームのプライドと期待が乗ってんだ!一歩も退かねぇ!譲るもんか!(1世代先の車買ったからって速いわけじゃねぇ!型落ちの古い車で次世代の車に勝ってこそ燃えるってもんだろうが!)」

 

章夫「パワーが上だからっていい気になってんじゃねぇのか!トータルで速く走れてこその走り屋だろうが!(今に見てろよ……!そのケツこじ開けてぶち抜いてやる!……それになぁ、俺の乗るMR-Sこそが、トヨタミッドシップの最高傑作なんだよ!型遅れの出る幕はねぇ!今からそれを教えてやるよ!)」

 

車はガソリンを、乗り手は闘志を燃やして2台は夜の峠を駆け抜ける。

赤城のレッドサンズ、妙義のナイトキッズ。

群馬の二大勢力としての意地が2人にはあった。

 

ギャラリー7「良いぞ良いぞ!2人ともイカすぜ!魅せてくれるじゃねぇか!」

 

ギャラリー8「なぁ、どっちが勝つと思う?」

 

ギャラリー9「俺はレッドサンズの逃げ切り勝ちに賭ける!」

 

ギャラリー7「俺はナイトキッズが勝つと思う。パワー差を埋めて勝ってくれたら熱いじゃねぇか」

 

このライバルチームの宿命の対決はギャラリーたちを大いに盛り上げた。

お互いのホームである赤城や妙義ではそれぞれの地元を守りぬいて勝ち星を上げていたレッドサンズとナイトキッズだったが、両チームどちらのホームでもない秋名ではどう転ぶかわからなかった。

その場その場で即興で賭けが行われ、そのギャラリーたちの声は途切れることがなかった。

 

村田のMR2と章夫のMR-Sはもつれたまま走り続け、スケートリンク前ストレートでパワーの利を生かして村田がリードするが、ストレート終点のブレーキング勝負で章夫が差を詰めた。

しかし立ち上がりでテールが流れてしまったせいでもたついたために再度村田がリードを広げるという一進一退の展開となる。

こうして以降のテクニカルなセクションへと突入していく2台。

続いて左右にうねるコーナーを抜け、ついに後半の連続ヘアピンに突っ込んだ。

 

お互いにホームコースではないとはいえ、ここに来て過去に高橋涼介から受けた敵地攻略の指南と先週から今週までに至る練習走行の成果が村田を助けることとなる。

 

村田(相手は徐々に離れてる。チューンも練習も、無駄にはなってないんだ!このままミスなく駆け抜けるだけでいい。いつも通り力を出し切って、勝ちに行く!前を守り抜け!突っ走れ!高橋兄弟だけじゃないんだってところをギャラリーに見せなきゃ行けないんだ!俺たちだって、レッドサンズなんだ!プライドってもんがあるんだよ!)

 

章夫「クソ!ここに来て離される!(後半になる程にキツくなる勾配とこのタイトなヘアピンの組み合わせが想像以上に厳しいぜ!回頭性のためにスタビリティを犠牲にしたミッドシップじゃあ、少し踏み方をミスっただけでさっきみたいにとっ散らかると分かっちまうだけに……どうしても突っ込みが甘くなる!……まだ踏める、もっと突っ込めると分かっていても、俺の方が勝手にブレーキをかけちまう!余計なマージンを削り切らずに残しちまう!……だけど目の前のアイツは俺のコーナリングスピードを僅かに上回る速度で抜けていく!……走り屋の見せ場の連続ヘアピンで、コーナーで……よりにもよってレッドサンズのMR2相手に負けるなんて、こんなに悔しいことがあるかよ!)」

 

章夫はヘアピンで差をつけられたことに焦ってしまい、そこから先は精彩を欠いていってしまう。

最終コーナーを通過しゴールするまでにさらに差を広げた村田が勝利する結果となった。

車間距離は歴然で、タイムにして2.74秒の差があった。

 

 

 

 

 

フランドール「GO!」

 

そしてミッドシップ組のスタートからさらに20秒後、池谷と正一が走り出す。

アクセル全開のフル加速。

2台のエンジンが咆哮を上げて車体を前へと蹴り出した。

 

イツキ「センパーイ!頑張ってくださーい!」

 

翔一「頼むぜリーダー、勝ってくれよ!」

 

姫「頑張ってね!池谷くん!」

 

須崎「池谷!応援してるぜ、頑張れよ!」

 

吾郎「行け正一!」

 

小谷「頑張れ!負けんなよ!」

 

重量や馬力がほぼ同等のクラスに属しており駆動方式も同じFRである2台だったが僅かに池谷のシルビアの方が馬力が高く、なおかつターボを搭載しているために直線加速で優位に立つことに成功していた。

 

池谷「よし、徐々に離れていく……直線加速ならシルビアの方が上だ!(ここで稼いだマージンを生かして逃げ切ってやる!地元秋名のプライドにかけて、何が何でも前は守り抜く!……何のために俺たち腕磨いてきたと思ってんだ!こう言う時のためだろうが!むざむざ負けてたまるかよ!)」

 

正一「クソ!出遅れたか!……だがまだ始まったばかりだ。じきにぶち抜いてやる!(馬力は殆ど同クラス、重量だって大差ない。排気量じゃむしろこっちが上でも、やっぱりターボのある無しは響くか!だが俺だっていっぱしの走り屋だ!ファンタジアやギャラリーの女の子たちに良いところを見せるためにも、カッコ悪い走りはできねぇ!地元の奴をぶち抜いて、男ってもんを見せてやる!)」

 

1コーナー、2コーナーと抜けていき前半区間の第一ヘアピンも無事にクリアしていくがここで僅かに池谷の方が差を広げていた。

 

ギャラリー8「来たぞ!こっちも接戦だぁ!」

 

秋名の走り屋1「池谷ぃ!地元の意地見せたれぇ!」

 

やはりギャラリーたちの声援も地元の池谷を推す声が多かったがそんなアウェーの中であってもナイトキッズの正一は引き下がることはなかった。

伊達に実力主義的な風土のある妙義で第一線を張ってはいない。

これ以上突き放されまいと必死に喰らいつく。

 

池谷はスケートリンク前のストレートでは直前のコーナーで多少お釣りをもらって姿勢を乱してしまったせいで立ち上がりが遅れてしまい、車速が伸ばせず後方のロードスターに追いつかれてしまった。

こちらのバトルも後半までもつれにもつれてしまう。

スケートリンク前ストレートのブレーキング勝負でも突き放しに失敗した池谷はここで窮地となってしまう。

 

背後に迫る正一の白いNCロードスターはストレート直後の左右に蛇行するコーナー群で積極的に仕掛けていく。

 

池谷「クソ……。まずったな(ヘッドライトの光が眩しい。すぐ背後に相手がいるってのがヒシヒシ伝わってくるし、プレッシャーも感じる。……だがもしかしたらこの状況は使えるかもしれないな。何せ秋名にはいくつかミスを誘発するような危ない場所がある。そこに乗っかるだけで一気に荷重が抜けてラインがブレて、立て直しのために減速を強いられるような場所が。そのうちの一つはもうすぐそこにあるんだ。俺が頭を取り続けている以上、ラインの選択権は俺にある。……悪く思うなよ!これが地元の戦い方だ!)」

 

 

 

 

 

♪ GET YOURSELF THE REAL THING / LUO MASTER

 

 

 

 

 

正一「追いついたぜ(上手くミスに付け込めたおかげでようやく射程圏内に入った!大した事ねぇなぁ、地元の走り屋も。ぶち抜いてやる!)」

 

右左右左とうねるコーナーを一つ、また一つと抜けていくS13シルビアとNCロードスターの2台。

しかしシルビアの後ろのロードスターはアウトから被せるか、インを掻っ攫うか、虎視眈々と狙いを定めていた。

連続する中高速コーナーの最後、直後にヘアピンを控える左の中速コーナー。

そこで正一が襲いかかる。

 

正一「(貰った!インを気にし過ぎてアウトがガラ空きだ!これなら被せられるぜ!)おりゃあ!行ったれぇ!」

 

池谷はインは渡さないとばかりに思いっきりインベタに寄せる。

下手にサイドを引いてドリフトさせるよりもグリップで走った方が速いためグリップのまま。

だがそのおかげでアウト側がガラ空きとなる。

そこを逃さず正一はアウトをなぞるようにラインを取って被せにかかる。

 

……が、それが罠だった。

地震などの地殻変動の影響か、それとも木の根が地面を押し上げるなどの何らかの悪さをしたのか、コーナーのアウト側にある僅かな路面の歪みに、ロードスターは左リアタイヤを取られてしまう。

一気に荷重が飛び、グリップがすっぽ抜ける。

ほんの一瞬だけリアの流れたロードスターは遠心力に対抗できなくなりラインが一気にアウトにはらんでいく。

立て直しが僅かに間に合わなかったために、ロードスターはカツンとガードレールにテールランプを軽く接触させ、レンズを割って部分的に欠けさせた。

 

正一「なっ……(し、しまった!俺としたことが……ミスっちまったぁ!)

 

自らのやらかしに気づき、顔を青くする正一。

そしてその様子はコーナーに陣取っていたギャラリーたちにも衝撃を与えていた。

 

ギャラリー9「うわぁ!ナイトキッズのロードスターがケツぶつけやがった!」

 

ギャラリー10「あーあ、やっちまった!……まぁ、軽傷みたいだからいいけどさ」

 

ナイトキッズのミスに騒ぎ出すギャラリーたちの中に1人、異なる思いを抱く者がいた。

 

???「すげぇ……(あの秋名スピードスターズのシルビア、相手のロードスターが路面の歪みにタイヤを取られることを狙ってたな。インをなぞるようなラインを取ってわざとアウトを開けたんだ。地元の走り屋だからこその戦略でロードスターのオーバーテイクを防いで前を守り切ったのか……最高にかっこいいぜ!俺もデルタが来れば、いつかはこんな風に戦えたら……)」

 

地元の走り屋の面目躍如たるその瞬間に目を輝かせるその少年は、続くヘアピンにドリフトで突っ込むシルビアの姿を静かに見送った。

 

 

 

 

 

 

その頃、下側の駐車場ではバトルを終えた車両が既に2組4台揃っており、ギャラリーたちは最後の1組がくるのを今か今かと待っていた。

 

ギャラリー11「エンジン音が聞こえて来たな。最後の1組もゴール間近だ」

 

ギャラリー12「……あのナイトキッズが2連敗か。ファンタジアもレッドサンズもレベルが高い。そして最後の相手はよりにもよって地元……か。今んところフリー以外は良いとこ無しだぜ、ナイトキッズ」

 

ギャラリー13「最後の組は地元のシルビアとだったかな?まぁ、これに負けても次は中里がGT-Rでハチロク千切るだけだ。そんな余裕の1勝でも勝ち星は勝ち星。総合的には負け越してもチーム自体の面目は立つと来れば、気楽なもんだ」

 

妙義の走り屋1「それにしても、そんなのが中里にとっては本命のバトルとはなぁ……。何考えてんだか。妙義にだってそこそこ速いブラックエディションだったかリミテッドだったかのトレノが居るが、中里がGT-Rに乗ってからは大差が付くようになっちまったからなぁ。そんな車と今更バトルだなんて」

 

ギャラリーに来た車好きや走り屋たちがそんな話をしていた矢先に麓から上がってくるエンジン音が耳に届く。

すぐそこまで車が上がって来たのだ。

 

ギャラリー11「お、この音は4AGか?」

 

妙義の走り屋2「って事はまさか……?」

 

ギャラリーたちの詰めかけるゴール地点である旅館側の駐車場を『藤原とうふ店』の文字が書かれたハチロクが登っていく。

先週の交流会を知る者はついに現れた本命の姿ににわかに湧き立ち、逆に知らない者はギャラリーか一般車だろうとすぐ視線を逸らしてしまう。

 

ギャラリー14「来たぞ!あいつが秋名のエースだ!」

 

ギャラリー11「待ってたぜ!秋名のハチロク!」

 

ギャラリー15「嘘だろ!?今のはその辺の豆腐屋の社用車じゃないのか?」

 

妙義の走り屋2「いや、あの車こそ先週の交流会で高橋啓介を千切った走り屋だ!俺、先週もここで見てたんだよ!高橋啓介に大差を付けて、すんげぇ速さでドリフトしながら最終コーナーに突っ込んでいくあのパンダトレノを!」

 

ギャラリー16「何だって!?」

 

妙義の走り屋1「あんなのがかぁ!?」

 

ギャラリー11「あぁ!俺も見たぞ!誓って嘘じゃねぇ!一度見てみりゃ分かるぞ、あいつの凄さは!」

 

そんな会話が各所で繰り広げられる。

巷で噂のハチロクの登場に、ギャラリーたちのボルテージは上がりっぱなしだった。

 

 

 

 

 

 

拓海が麓の駐車場を通過した直後、池谷と正一のバトルも大詰めであり、コース終盤にある右の中速コーナーを2台で通過する。

池谷の作戦が功を奏して2台の間には2秒程度のマージンが生まれており、車間距離は十分であった。

しかし、池谷は依然として油断なくコースを攻略していく。

 

池谷「行ける……!行けるぞ!(練習の成果は確実に出てる!前よりも走れてる!このままミスなく完走すれば、勝てるんだ!)」

 

正一「くっそぉ!(思う様に走れねぇ!追いつけねぇ!テールをぶつけちまったことが文字通りに尾を引いてんだ!大きなミスで一度リズムが崩れると、立ち直んのがまた難しい!ミスがミスを呼んで、それをリカバリーしようと思ってさらに焦ってミスをする!分かってる筈なのにどうにもならないなんて、もどかしいったらないぜチクショウがぁぁぁ!)」

 

続いて顔を見せた左のコーナーに突入しようとした池谷だったが、ガードレールを照らす光に気がついた。

 

池谷(このタイミングで対向車……?まさか)

 

アウトに振っていたシルビアをインに寄せて走行車線をなぞる様にグリップで抜けていく。

コーナーの頂点を通過し立ち上がるその瞬間、その対向車とすれ違った。

白黒のパンダトレノ……拓海のハチロクだった。

 

池谷(やっぱりだ。来てくれた!……俺は俺で出来ることをやるからさ、後のことは任せたぜ……拓海!)

 

 

 

拓海(今すれ違った車……シルビアだっけ?あれ、先輩のだったな。後ろにもう一台いたし、バトルしてたのかな?)

 

池谷たちとすれ違い峠を登る拓海。

先週と変わらないどころかむしろ多く感じるギャラリーたちの熱気に当てられたのか、それとも今しがたすれ違ったバトル中の池谷たちに触発されたのか、先ほどから拓海の中で燻る熱は静かに、しかし確実に強くなっていく感覚がした。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ギャラリー17「下の奴から電話だ!3番目の組もゴールしたぞ!勝者はスピードスターズの池谷だ!」

 

ギャラリー18「おお、流石に地元だなぁ!」

 

イツキ「よっしゃあ!流石っすよセンパーイ!」

 

吾郎「クソー!3連敗かよぉ!」

 

下のゴール地点に居たマーシャル役のギャラリーから最後のバトルの結果がもたらされた事で、上の駐車場の面々も盛り上がりを見せた。

レッドサンズとスピードスターズのメンバーや、それを応援していたギャラリーたちは喜びを露わにし、一方でナイトキッズとそれを応援していた妙義の走り屋やギャラリーたちは地元最大勢力の思わぬ大苦戦に戸惑いや落胆を見せていた。

 

中里(僅かにオーラを纏っていたR33は厳しくても、オーラを感じないレッドサンズの二軍や地元相手になら勝ち目はあると思っていたが、まさかここまでとはな。……特にスピードスターズ。俺を相手に戦えるだけの腕はないにしても、思っていたよりはやるって訳か。レッドサンズにしろスピードスターズにしろ、少し敵を甘く見過ぎていたってのか?)

 

腕を組みながら考え込む中里。

ここで1勝くらいは上げれるかと思っていたがなかなかに現実は厳しいと感じていた。

 

中里(ただ、ここで俺が勝てばいい話だ。いくらドライバーが優れているとは言え相手は旧式のFRで、しかも馬力は俺のGT-Rの半分以下だ。……負ける道理はねぇ。一番美味しいところは貰っていくぜ。サーキットを席巻したマシンの戦闘力を見せつけてやる)

 

ここでナイトキッズメンバーが全敗と来た以上はなおさら負ける訳にはいかない状況へと追い込まれることとなってしまったが、中里には勝算があった。

 

単純明快、テクニックで向こうが上ならマシンの性能で上回る。

それに尽きた。

中里は自分を打ち破ったR32に乗り換えてから、自分がかつて乗っていたS13の戦闘力の低さを痛感していた。

それと大差ないどころか幾分劣る性能のAE86では勝負にならない。

そう考えていた。

 

ギャラリー17「もう一つ報告だ!3組目のゴール直前に一台、AE86が通過したらしい!ハイテックツートン、パンダトレノだ!」

 

その言葉に思わず中里の口角が上がる。

噂をすれば何とやら、ついに本命現れた。

ついにバトルの時が来たことを確信した中里はスタート位置へと並べるため、自らの愛車、黒いBNR32 GT-Rへと乗り込んだ。

 

秋名に再びハチロクが現れた。

それは熱戦が再び繰り広げられることをギャラリー達にも予感させた。




原作とはまた違う感じの話にしましたが、とりあえずレッドサンズ、ナイトキッズ、スピードスターズの出番を増やしたかったのと、あとは東方勢のスポットの当たってないキャラへの出番の提供も兼ねてこう言う形にさせていただきました。
度々書いてはいますが一応この小説の目的の一端には「モブやマイナー車種にも出番を与えてあげること」が含まれてますからね。
特にレッドサンズやスピードスターズは比較的頻繁に名前が出てくるのに高橋兄弟や拓海ばかりが前に出ていて活躍はほぼ皆無でしたから。

ちなみに作者は筑波にてR33とのバトル経験があります。
野良で走ってるらしき人に勝手に突っかかって勝手にちぎられました。
もし富士なら勝負にもならなかったでしょう。
なのでR33 GT-Rを過小評価する人に対しては一言物申したい気持ちはありますね。

2023 12 / 14 8時18分
池谷くんのセリフの追加。


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第27話 激走!限界バトル

大変お待たせいたしました。
遅くはなりましたが皆様新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いいたします。

ハチロク VS GT-R、ついに始まります。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


 

ーーープルルルルルル

 

電話の着信音を聞きそれを手に取る文太。

 

文太「はい、藤原とうふ店……」

 

祐一〈おい文太!〉

 

文太「……何だ、お前か」

 

こんな時間に客から電話かと思い応答する文太だったが電話の主は旧友にして悪友でもある祐一だった。

 

祐一〈何だとは何だ!それより拓海はどうした?〉

 

文太「拓海ぃ?……アイツならついさっき血相変えて飛び出してったよ、秋名山に。……なぁ、どうなってんのかなぁ?祐一。……アイツが車の運転を楽しいとかいきなり言い出したり、挙句さっきみたいに自分からバトルがどうとか言い出したりするなんて青天の霹靂だぞ。……明日は雪降るんじゃねぇか?」

 

祐一〈何言ってんだ。夏に雪が降るかよバカ。……まぁ、カエルの子はカエルって事だろうな。……それよか文太、噂の通りなら今日のバトルはGT-Rなんだろう?何かアドバイスとかしたのか?そもそも勝ち目があるのか?〉

 

文太「別に何も言ってねぇけど……ま、弱点はあるからな、GT-Rとは言え」

 

祐一〈弱点……?〉

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

ギャラリー1「き、来たぞ!ノーマルのボディに社外フォグ!あれが例のパンダトレノだ!」

 

ギャラリー2「スタート地点に誘導するぞ!」

 

ギャラリー3「みんなガードレールの内側に引っ込んでくれ!バトル始まるぞ!」

 

ハチロクの登場にざわめくギャラリーたちをよそに、高橋兄弟もまたレッドサンズのメンバーと共にスタート地点へとゆっくり車を進めるハチロクを眺めていた。

 

涼介「やっぱり来たな、ハチロク」

 

啓介「……」

 

涼介「啓介、GT-Rの弱点をあのハチロクに教えてやるんじゃなかったのか?」

 

啓介はしばらく無言で件のハチロクを睨みつけていた。

そしてドアを開けて拓海が出てくると、ようやく口を開いた。

 

啓介「……やめた。アイツのツラ見たらだんだん腹が立ってきた。やっぱりアイツは敵だ」

 

尚子「あっはは!啓介めっちゃ拗ねてるね。可愛い!」

 

啓介「うるせぇ」

 

同じ赤城レッドサンズの紅一点、杉本尚子がそう言って軽く揶揄うと、啓介が顔を赤らめる。

自分たちが走るわけではないとは言え、バトルの前にはそれ相応の緊張感が場に充満するものだが、ほんの少しだけその緊張の糸がいい意味で緩んだような気がした。

 

 

 

レッドサンズ以外のギャラリーたちも、拓海の姿を見て思い思いに言葉を交わしていく。

 

フランドール「ふぅん。あの子が話題のハチロクのドライバーなんだ」

 

美鈴「随分と若いですよね」

 

白蓮「えぇ。でもそれでいながら速い走り屋が持つ独特の雰囲気のようなものは確かに感じます。不思議なものですね」

 

文「でもたまにいるんですよねぇ、ああ言う人が」

 

文はそう言うとある方向に視線を向けた。

そこには魔理沙と共に談笑しながらも時折拓海の方へと目を運ぶ霊夢の姿があった。

若いうちから信じられないレベルの高等テクニックを身につけて、よりキャリアの長い熟練者を圧倒してしまう様な大天才。

まさしく彼女たちがそうだった。

 

文「……私も霊夢さんたちがあそこまで大化けする才能の塊だとは予想外でした。藤原拓海さん……きっとあなたも、そう言う突然変異的なドライバーなんでしょう?」

 

ファンタジアはその若さに似合わぬ卓越した走りに対する興味を抱き、好奇心のこもった目線を向けるものが多かった。

 

 

 

イツキ「やっぱり来てくれたんだな、拓海ぃ!」

 

池谷「あぁ、これで一安心だな。あとは信じるだけだ」

 

健二「とは言え、相手はあの妙義最速のGT-Rだ。流石の拓海でもきっと一筋縄ではいかないよな」

 

隆春「やっぱり、不安になるよ。マシンのスペックが違いすぎる」

 

守「でも拓海が無理なら俺らが束になっても勝てないだろ?なら最後まで信じてみようぜ」

 

翔一「あぁ、あの高橋啓介にも勝ったんだ!きっと今回もやってくれるさ!」

 

スピードスターズは期待と不安の入り混じったまなざしを注いだ。

 

 

 

 

ギャラリー4「あれが噂のハチロクなのか?こういう言い方すんのもあれだけどさぁ……なんつーか、パッとしないもんだな」

 

ギャラリー5「あぁ、フォグ以外は前期のノーマルだ。……しかもなんだよ『藤原とうふ店』ってさぁ。到底走り屋の車には見えないな」

 

妙義の走り屋1「しかも出てきたドライバー、相当若いぜ。こんなのが高橋啓介に勝ったってのか?マジかよ。……俺には信じられねぇなぁ。中里さんの32Rが相手じゃ勝負にならねぇよ。あの人マジで速いんだからな」

 

ギャラリー3「でも地元の奴らが言ってたんだ。秋名最速は豆腐屋のパンダトレノだって。あれで間違いないはずだぜ」

 

ギャラリー2「俺は先週見てたから分かる。あのハチロクは見た目からは信じられないくらい速いんだ」

 

ギャラリー6「思い出しただけでも鳥肌立つぜ。後半第5ヘアピン抜けてく時の全開ドリフト!一度見たら夢に出てくるぞ」

 

そしてギャラリーたちはやはり先週のバトルを知る者と知らない者とで反応が二分された。

そんな彼らのやりとりが偶然にも中里の耳へと入る。

 

中里(ドリフト……か。……確かにドリフトは見た目が派手だしやってる側も楽しいのは確かだ。……だがぬるいぜ。バトルをするからには速く走ってこその走り屋ってもんだろうが。ドリフトを卒業した走り屋がグリップさせて走るのが一番速いんだ。それが俺の見つけ出した走りの最適解だ)

 

そして中里は大きく息をついて思考を切り替えると隣に車を停めている拓海の方へと向き直ると同時に、腕時計にチラリと視線を向ける。

すでに時計の針は10時5分を少し過ぎたところを指していた。

 

中里「(随分と若いな。若い奴だと噂に聞いてはいたが、予想以上だな。免許とって何年も経ってねぇ様に見えるがどこであんな芸当を身につけたんだ?……もうちょっと年季の入ったやつだと思っていたぞ)……俺は妙義ナイトキッズの中里だ。お前は?」

 

拓海「藤原拓海です」

 

中里「その名前、覚えておくぞ。……時間も丁度いい。早速始めるとするか」

 

バトルの始まりを悟ったギャラリーたちが少しずつ静かになっていく様子を耳で感じ取りながら、2人はそれぞれの愛車に乗り込んでいく。

レッドサンズの史浩が間に立ち、スタートの合図をいつでも取れるように備えている。

 

ヤマメ「啓介、私たちも準備しようか」

 

啓介「あぁ。そういえばさっきアニキが言ってたっけか。……お前の追走であのハチロクの速さの秘密を直接見て、映像だけじゃ分からない『何か』を掴んで来いって」

 

黒いFDの助手席に啓介が、運転席にヤマメが乗り込み、ハチロクとR32 GT-Rに続いてエンジンを回す。

 

ヤマメ「行くよ。シートベルトはしっかり締めてね。あと、窓は手回し式に改造してあるから閉めたいと思った時に自分で閉めて」

 

啓介が4点式シートベルトを締めながら少しだけシートを後ろへと引っ張り姿勢を整える。

 

その様子に幾人かのギャラリーがにわかにざわつき出す。

 

ギャラリー3「お……おい。あのFD、動くみたいだぞ」

 

ギャラリー4「なんだぁ?何のつもりだ?」

 

秋名の走り屋1「まさか、先週みたいにあれやるつもりか?」

 

ギャラリー7「なぁ、中を見ろよ。ダッシュカムが付いてるぞ」

 

ギャラリー8「あの車……啓介様を乗せて走ろうとしてるわ!なんて羨ま……じゃない!もし事故ったらどうすんのよ!」

 

ギャラリー9「良いなぁ、横乗り。……啓介クン、いつかアタシのFDにも乗ってくれないかなぁ」

 

先週を知る者はこれから起こることを察し、知らない者は首を傾げる。

そして赤城で高橋兄弟の追っかけをしている女走り屋たちは羨んだり嫉妬心を見せたりと言った反応を見せていた。

 

史浩「カウント行くぞ!」

 

そのガヤガヤといったざわめきを吹き飛ばす様に史浩がカウントを告げる。

 

涼介「啓介、シンデレラ城のミステリーツアーだ。……このバトル、特等席で観戦して来い。こんな機会は滅多にないぞ」

 

啓介「あぁ……行ってくるぜ、アニキ(ついでにコイツの走りも見てやる。俺とコイツとあのハチロク、何が違うのかキッチリ見させてもらうぜ)」

 

 

 

 

 

♪ BACK ON THE ROCKS / Mega nrg man

 

 

 

 

 

史浩「5秒前!」

 

黒いFDの側に立つ涼介が開けられた窓を覗き込んで啓介と話すが、カウント開始とともに離れていく。

 

史浩「……4!」

 

気が付けば周囲の雑踏はすっかり消え失せていた。

ヤマメが車内に取り付けられたカメラの録画ボタンを押し、ピッという小さな電子音が響く。

隣に座る啓介には、それがやけに大きく感じられた。

 

史浩「……3!」

 

FDの助手席では啓介がハンドルを回して窓を閉めた。

上側に小さな隙間を残して半開きの状態にする。

 

史浩「……2!」

 

ヤマメがほんの一瞬、確かめる様にアクセルを開けてから戻した。

乾いた小気味の良いロータリーサウンドが、控えめに周囲に漏れる。

 

史浩「……1!」

 

極限まで張り詰めた空気の中で、スピードスターズのメンバーたちの中から誰かが唾を飲む様な音が聞こえた様な気がした。

 

史浩「……GO!」

 

4AGとRB26が唸りを上げ、拓海と中里がスタートする。

それを見届けた13Bターボが続いて吠えると、一拍遅れたタイミングでヤマメがスタート。

バトルの始まりにギャラリーたちからはドッと歓声が上がる。

 

池谷「頑張れよ!拓海!」

 

イツキ「いっけー!拓海ぃ!」

 

ギャラリー10「R32が頭だ!やっぱり良い加速してるぜ!ハチロクなんか敵じゃねぇな!エンジンのデキがちげぇよ!」

 

妙義の走り屋2「行けぇ中里!そのままぶっちぎれ!」

 

ギャラリー5「FDも飛び出していくぞ!やっぱり追走する気だ!」

 

ギャラリー6「あのFD……ファンタジアの車だぜ!先週のFD対決で高橋啓介に勝ったのがアイツだ!」

 

ギャラリー10「まさかの三つ巴か!?このバトルどうなるんだ!?」

 

ギャラリー11「このバトルで勝った奴が高橋涼介への挑戦権を手にする。……なんて話が裏でされてたのかもな」

 

ギャラリー12「こんなスーパーバトルに立ち会えるなんて滅多に無い事だぜ!俺たちも追いかけよう!」

 

ギャラリー11「やめとけやめとけ。アイツらはここ最近の走り屋たちの中でも別格だ。お前や俺たちが追いつけるわけがねぇ」

 

ギャラリー12「そ、そうだよなぁ……。トホホ……」

 

本日最高潮の盛り上がりを見せるギャラリーたちの中で、コーナーの先に消えていく3台を鋭い眼光で見送る者たちがいた。

レッドサンズやファンタジアの頭脳派の面々だった。

涼介や慧音、藍を始めとした一部の頭のいい走り屋たちは、中里のGT-Rが1コーナーに消えていくタイミングとハチロクが消えていくタイミングを見て双方の距離や速度をおおよそ見極めていたが、そこであることに気がついていた。

 

涼介「中里のGT-Rはスタート時のゼロ発進加速を見るに、やはり380馬力前後が妥当なところだろう」

 

池谷「さ、380馬力……!」

 

滋「嘘だろ……。そんなにパワーあんのか……!?」

 

翔一「すんげぇハイパワーじゃんか……」

 

ケンタ「あのハチロクは150くらいって言ってたから、やっぱり勝負にならないぞ……」

 

佐々木「啓介さん以上じゃないか!そんなカリッカリのモンスターだったのか。GT-Rは乗ったことないからよく分からないけど、相当無茶な弄り方したんじゃ……」

 

380という、自分たちの車を遥かに上回るビッグパワーを耳にし慄くスピードスターズのメンバーたち。

レッドサンズのケンタと、若手の佐々木もそれに反応して呟いた。

 

涼介「いや、R32からR34までのいわゆる第二世代型と呼ばれる歴代のGT-Rに搭載されているRB26DETTはライトチューンでも400馬力手前程度であれば軽くポンと出せる。そのくらいには、パワーを出させる事に対するハードルが低く、またエンジンの耐久性も高いためにチューニングに対する懐も深い」

 

藍「各エンジンの製造ロットによってはシリンダーブロックの肉厚に個体差が出ることもあるから正確なことは言えないが、一般的には600馬力台から最高1000馬力程度なら耐えられる耐久性を持っていると言われているな。……380馬力なら低いとまでは言わないが、まだまだ余裕と言っていいだろう。『大馬力を無理なく簡単に、確実に出せる』これもまた、GT-Rが誇る強みのうちの一つだ」

 

涼介「その400馬力近いビッグパワーと優れた四輪駆動システムを持ってすれば、この直線でハチロクをちぎるくらいは本来ならば容易いはずなんだがな」

 

慧音「その大パワーをフルに生かして加速していったにしては、車間がそれほど離れていない様に、私には見えた」

 

涼介「あぁ、3台が纏まって連らなるようにして飛び込んでいったからな。……ほぼ間違いなく、全開にせずに途中でアクセルを抜いていた。俺にも、あれは本気で踏みちぎっている様には見えなかった」

 

慧音「おおかた、ストレートで圧倒するだけではつまらないとでも考えているんだろうか。……あのハチロクを地元で相手にする以上、驕りや油断は致命傷となりかねないから全力で当たれと、一応は私は忠告したはずだが……」

 

涼介「あぁ……。この油断が、後々の命取りにならなければ良いがな」

 

 

 

それはGT-Rの後ろを走っている者たちも当然気がついていた。

 

拓海(この車……本気でアクセル踏んでねぇな)

 

啓介(中里の野郎、アクセル抜いてハチロクの事を待ってやがるな?……やっぱり気に入らねぇぜ)

 

拓海はもちろん、啓介にとってもあまり見ていて気分が良いものでは無かった。

それは拓海にとっては露骨に手を抜かれているように、啓介にとってはバトルを舐めているようにも見えてしまっていた。

 

中里「直線で千切ったらつまらねぇだろうが。俺はバトルがしたいんだよバトルが。……本当のスタートはコーナーに入ってからだ!」

 

ギャラリー13「おぉ!3台並んで来やがった!」

 

ギャラリー14「もう一台は何だ!?あのテール……黒いFD?」

 

ギャラリー13「もしかして……高橋啓介を千切ったもう1人の走り屋か!」

 

ギャラリー15「すげぇぞ三つ巴だ!群馬最強決定戦が始まるのかぁ!?」

 

そして1コーナーに3台が一気に突入し、立ち上がりで中里がアクセルを全開にして加速していく。

その後ろをハチロクとFDがブレーキングドリフトで追いかける。

こうしてバトルが幕を開けた。

 

中里「なにぃ!……そんなオーバーアクションのカニ走りで、この俺について来れる訳がねぇぜ!」

 

バックミラーに映るハチロクの姿に思わず毒づく中里。

一方、付かず離れずの距離感を維持して走るFDの車内では感嘆の声が漏れていた。

 

ヤマメ「凄い……。拓海くん、凄く上手い。限界ギリギリの際どい領域でもしっかりと車をコントロール出来てる。まるで自分の半身みたいに……。突っ込みの鋭さならGT-Rと互角以上!車重1トン未満の軽量なFRをタイヤのグリップを使い切っての四輪ドリフトで曲げていってる。……本当に上手い。でもやっぱり少しずつ離れていく」

 

啓介「あぁ、序盤は直線も長いし勾配も緩い。ハチロクには厳しいはずだぜ。俺にはよく分からねぇけど、アニキが言うにはあのハチロクは高く見積もって150馬力あれば良いほうだって言ってたからな。倍以上……下手すりゃ3倍近い馬力の差はどうあっても覆せないか。だがこのGT-Rが速いのはパワーとか駆動方式だけが理由じゃねぇ。中里の奴も流石にデカい口叩くだけあって上手いな」

 

ヤマメ「うん。ブレーキングでしっかり減速しつつ前に荷重を残しながら走ってる。四輪駆動でも後輪駆動でも、後輪が回る大パワーの車は、コーナーで踏み方を間違うとフロントの荷重が抜けて、後輪に持っていかれちゃうからね。荷重の抜けた前輪はグリップしなくなるから当然曲がれない。それを防ぐために前輪の荷重をかなり意識した走りをしてる。熱血漢の割に堅実だって評価は的を射てるよね」

 

啓介「少し一緒に走ったらしいアニキは、面白みはない走り方だなんて言ってたが、その分だけヘンな無駄も無ければ隙もねぇ。……ったく、嫌な相手だぜ」

 

150馬力が精々のローパワーNAのFRと、380馬力近くのビッグパワーを軽々と捻り出すツインターボの4WDでは加速の差はあまりにも歴然だったが、中里のそのドライビングテクニックにも目を見張るものがあった。

 

中里「これだぜこの感じ!この全身の血が沸騰する様なこのハイテンション!これこそバトルだ!とことん突っ走るぜ!どこまでついて来れる!」

 

GT-Rは叩き込む様なフルブレーキングで前半セクションの第一ヘアピンに突っ込んだ。

後ろを映すミラーには、先ほどまでそれなりに距離のあったハチロクが一気に距離を縮めてくる様子が映っていた。

 

中里「突っ込みで一気に差を詰めただと!?(……上等だぜ。そこまでやられちゃあハチロクが型遅れの旧車だって意識は完璧に吹っ飛んだぜ!一級品の戦闘力を持った良いマシンじゃねぇか、お前のハチロク!)」

 

中里(……そうと来ればもう遠慮は無しだ!ゾクゾクするくらい嬉しいぜ!こんな美味しいバトルはこのR32 GT-Rに乗り換えてから初めてだ!)

 

立ち上がりでアクセルを踏み込めば中里のGT-Rは四駆化して全てのタイヤが地面を蹴り付け加速していく。

四駆の強みをアピールするかの様に爆発的加速でハチロクを再度引き離しにかかる。

 

中里(こう言う低速のヘアピンこそGT-Rが最も得意とするコーナーだ!強力なブレーキできっちりと車速を落としてやればダウンヒルでは嫌でも荷重が前に残るからな。……R32最大の泣きどころのプッシングアンダーは出にくいぜ!それにコイツは低いギヤからの加速は他のどんな車よりも得意なんだよ!……この感じがたまらねぇぜ!剛性たっぷりのボディはビクともしねぇ!)

 

啓介「このヘアピンみたいな低速コーナーでは、ハチロクがどんなに突っ込みで食いついても立ち上がりでまた差が開いちまう。圧倒的な加速のGT-Rについて行けてない」

 

ヤマメ「GT-Rのアテーサは、ホイールスピンを検知した瞬間に四輪駆動になって前輪にもトルクが配分されるから、立ち上がりで踏み込めばその大馬力を余す事なく加速に使える。4つのタイヤ全てで加速していける。こればかりは私たち二輪駆動乗りにはどうにもならないよ……」

 

啓介「それに、認めんのは癪だが中里もいい根性してるぜ。あの重量級のGT-Rで臆することもなく猛然とダウンヒルを攻め込んでいってるんだからな……」

 

そして緩いRを描く高速コーナー。

FDの前を行くハチロクは全く減速することなく四輪を全て滑らせる四輪ドリフトで、ガードレールまで僅か3センチ未満と言うギリギリの幅まで道路を使い切ってそのまま駆け抜けた。

ハチロクの車内では終始キンコン、キンコンと、チャイムが鳴り止まずに響いていた。

それはこのハチロクが105キロを上回るスピードを維持しながらコーナーを走り切ったことを意味していた。

 

ヤマメ「ハチロクが離れた!」

 

啓介「なんてこった!高速コーナーで一気にGT-Rとの差を詰めた!100キロを超えるようなスピードで、四輪ドリフトしながらガードレール掠めるようなギリギリのライン取り!こればっかりは車の性能がどうのこうのとかって話じゃねぇ!(……あの野郎!頭のネジ2、3本吹っ飛んでやがる!……ありゃあ1つでもミスしたら絶対に死ぬぜ!アイツ、分かってんのかぁ!?)」

 

これまで一定の間隔を保持したまま後追いを続けていたFDとの車間が離れ、GT-Rに詰めていくハチロク。

そのあまりのコーナリングスピードの高さにヤマメと啓介は思わず圧倒される。

 

ヤマメ「でも、こうして一緒にそのラインを追いかけながら走ることで初めて分かった気がするよ。拓海くんの……このハチロクの速さの秘密が。……パワーに劣るNAのハチロクじゃあ、一度失速するとその立て直しに時間がかかる。だから無駄な減速を一切しない。常に限界スレスレを攻め切って最短最速のラインを突き抜けていく様な走り方(にとりが言ってたっけ、まるでコーナーを突き抜けていくみたいに鋭いコーナリングだったって……)」

 

啓介「高いアベレージをキープするためのドリフトって訳か。……先週あのハチロクとバトルした時、いくら逃げてもまるで背後霊のようにケツに食いつかれちまう理由がようやく身をもって理解できたぜ!(頭の中でだけ理解してんのと体が覚えるのとでは違うからな。……それにしても、GT-Rとハチロクのバトルがこんなにいいバトルになるなんてな。……まさに限界バトルだ!この勝負、どうなる?勝つのはどっちだ!?)」

 

序盤のヘアピン区間を過ぎれば中高速コーナーの続く区間が訪れるが、それもそう長くはない。

再び2連ヘアピンが現れる。

拓海は突っ込みでベタ付けと言っていい位置まで詰め切って、オーバーテイクを仕掛けられる射程圏内にGT-Rを入れるが、やはり立ち上がり加速の差が出てしまう。

脱出後のスケートリンク前ストレートではGT-Rは全開にはしていないのにも関わらず、またジリジリと差をつけられるハチロク。

当然、ハチロクはアクセルを床に付くまで踏みちぎるフル加速の状態だったが、その差は明らかだ。

 

啓介「さっきまで詰まってた車間がここに来て離れていきやがる。だけど中里の奴はまたアクセルを全開にはしてねぇ(……やっぱり気に入らねぇな。油断してんだか余裕なんだか知らねぇが、舐めやがって)」

 

そこまでの区間で詰めた車間が帳消しどころか、より大きなマージンを取られた状態で後半セクションに突入する。

だが後半になればなるほど勾配のキツくなる秋名の峠。

序盤よりもハードな急坂降りとなるコースは次第に拓海の味方となっていき、同時に中里に対して牙を剥くようになっていく。

スケートリンクリンク前ストレートの終点となるコーナー、フルブレーキングで大きく詰めていくハチロクの姿に、コーナーのガードレール脇に陣取っていたギャラリーたちは大いに沸いた。

 

ギャラリー16「来た!GT-Rが頭だ!でもハチロクも負けてないぞ!」

 

ギャラリー17「あのパンダトレノ、とんでもねぇ進入スピードで突っ込んでそのまま抜けていきやがった!何の変哲もなさそうなハチロクがあんな速さで走れるもんなのかよ!……やべぇ!信じらんねぇ!」

 

ギャラリー18「と、鳥肌たったぜ……!すげぇぞアイツら。……マジで痺れるようなドリフトだぜ」

 

ギャラリー16「ド迫力のRBサウンドでGT-Rが飛び込んできたと思ったら、次の瞬間にはハチロクとセブンが上手くて速い文句なしの最ッ高のブレーキングドリフトで抜けてくんだ……!たまんねぇ!」

 

ギャラリー19「これぞ峠って感じだ。俺はこれが見たかったんだよ。特にハチロクでGT-RやFDと互角のコーナリングってのがすげぇぜ。……忘れられない1日になった。……やべぇ、涙出てきた」

 

ギャラリー17「……それにしてもすげぇ接戦だな!ハチロクとGT-Rじゃあ、ハチロクはいつ千切られてもおかしくないくらいのスペック差があるのに!」

 

ギャラリー16「そんだけ上手いんだ、あのハチロクのドライバーが」

 

ギャラリー18「もしかしたら今回も起きちまうのか!?……奇跡の大逆転が!」

 

ブレーキランプを点灯させながら一瞬のうちにコーナーの彼方へ消えていくGT-RとハチロクとFDの姿を、彼らは二度と忘れまいとその目に焼き付けた。

 

バトルは、ついに後半戦へと差し掛かる。

 

 

 




年末年始にかけて親戚宅で酒盛りをしたりその親戚の人たちと一緒に福島に行ったり仕事が繁忙期に入ったり、幼馴染みの結婚式に出席したりと色々あって執筆時間が殆ど取れない時期がありました。
お待たせいたしました誠に申し訳ございませんでした。


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第28話 決着!ハチロク対GT-R!

前回の話の続きになります。
なので今回の更新スパンはいつもよりちょっとだけ早めです。
なんとか3月までには間に合わせましたよ。

リクエスト(キャラ、車両、エピソード等問わず)はまだまだ募集中です。
感想や評価、または誤字誤植の指摘等もよろしくお願いします。


後半セクションのコーナー区間で、驚くべきペースでハチロクはGT-Rとの差を詰め返していた。

 

中里(やっぱりコーナーで詰めてきやがる!振り切れない!それどころかむしろ食いつかれたままの時間がどんどん長くなっていく!スッポンみたいにくっつきやがって。……クソッタレ、手強い!生きてて良かったぜぇ!!)

 

車内では想像をはるかに上回るハチロクの速さに驚嘆を見せる中里の姿があった。

後ろから感じるプレッシャーに緊張や苛立ちを感じない訳ではない。

だが同時に嬉しかった。

この強敵との手に汗握るバトルこそ、中里が心から求めてやまなかったものだった。

闘志をたぎらせ歯を食いしばりつつ、その口角は静かに上がっていた。

血湧き肉躍る熱いバトルに、中里は歓喜と高揚感を抑えられなかった。

 

啓介「インをデッドに攻めるってのは言ってみりゃあ走り屋の口癖みたいなもんだが、コイツは半端じゃねぇ!こんなのは初めてだぜ!(……見た感じ、中里くらいの腕があってもよその峠じゃ20から30センチくらいってところか?アニキみてぇな別格の走り屋を除けば、上手い走り屋でも大体そんなもんだ。なのにあのハチロクはガードレールにバンパーを擦り付けるみたいにしてほんの数センチから下手すりゃ数ミリのところを攻めてやがる!……はっきり言って桁違いだぜそんなのは!何であんな正確なドリフトのコントロールができるんだよ!……何なんだ!一体何モンなんだあいつは!)」

 

底知れない秋名のハチロクの実力に戦慄するばかりの啓介だが、ふと隣が静かであることに気づいて何となしに運転席の方へと視線を運ぶ。

すると、そこには先ほどまでとは全く違う、ギラつくような目つきでただ前一点を睨みつけながら車を走らせるヤマメの姿があった。

 

啓介(さっきから喋んねぇと思ったら明らかに面構えが変わってる。……コイツ、まさか本気で走ってるのか!?)

 

練り上げられたこのチューンドのFDを駆り、自分をあっさりと千切ってしまったドライバーが話す余裕すらも無くして殆ど全開走行をしなければ、直線はともかくコーナーで置いて行かれかねないほどの状況なのだと気付かされる。

 

啓介(それにしても、コイツもコイツですげぇ腕してるぜ。FDを労わるような気さえ感じるってのにそれでいながらシフト操作が素早いし、変速ショックとそれによる荷重や姿勢の乱れもねぇ。どんな時でもほぼドンピシャで回転数を合わせてるからギクシャク感が一切ねぇ。ハチロクほどじゃ無いにしてもブレーキングだって相当に鋭いし、ライン取りも中里よりも攻めたいいラインを走ってる。まぁ、アニキが言うにはFRと4WDだと理想のラインは少し違ってくるらしいけどな。……もしかして、コイツこのハチロクのラインをなぞってんのか?……流石に地元のハチロクにはこうして手こずってるが……悔しいけど俺より良い線行ってるぜ)

 

そして啓介は自分よりも若く見えるヤマメのその運転スキルの高さにも同時に驚かされていた。

 

啓介(……それに、同じFD乗りを贔屓したい気持ちが多少入ってるのは否定しないが……多分、中里相手の1対1だったらコイツは勝っちまうんじゃねぇか?)

 

ヤマメ(コーナーが速すぎる!勾配がキツくなるにつれてみるみるうちにペースが上がっている!後半セクションに入ってから私の余裕がなくなった!……何よりもハチロクのライントレースがおぼつかない!どんなに頑張っても寄せきれずに、殆どのコーナーでほんの数センチだけ甘えたラインを走ってしまう!……でもこれは全部私のせい。私が攻め切れてないんだ。FDは決してハチロクに劣るような車じゃない!拓海くんとハチロクには出来ているのに、私にはまだ出来てないのなら、劣っているのは私の腕の方……!まるで私の未熟さ見せつけられているみたいで、それが悔しくて悔しくてたまらない!)

 

コーナーでついていくために殆ど限界に近い領域まで攻め込むヤマメだったが、幸いにもブレーキやタイヤはまだ持ち堪えられていた。

これは軽量コンパクトなロータリーエンジンを採用したFDの持ち味である、良好な前後重量バランスに加え、フルレストア時に行われたカーボンパーツを用いたカスタムや不要な装備の撤去による軽量化チューン、そしてドライバー本人に染み付いたマネジメント能力によるところが大きかった。

 

中里「くっ……アンダー気味だぜ(今のコーナーは危なかったな。ここに来てフロントタイヤの応答性が少し怪しくなってきた。今この瞬間も少しずつ、少しずつアンダーの傾向が出てきやがる。ここまでABSを効かせながらこじるようなステアリング操作をし続けてきたからな。……フロントタイヤにかかる負担が俺が予想していたよりも遥かにデカい!まだ連続ヘアピンもクリアしてねぇってのに!厳しくなって来たな!……だがGT-Rがハチロク相手に負けるわけにはいかねぇ!……絶対に!)」

 

一方で、中里の方はヤマメ以上に走りに苦しさを抱えるようになっていた。

今この場を走る3台の中で最も劣悪なスーパーフロントヘビーの前後重量バランスと、1500キロオーバーという最も重い車重がこの急勾配の秋名のダウンヒルで足かせとなってしまい、アンダーステアが出て来てしまっていた。

 

プッシングアンダーへの対策として中里が身につけた、突っ込み時のハードなブレーキングにより車速を落としてコーナーで常にフロントに荷重をかけ続けるグリップ走法というのは、R32からR34までの第二世代型GT-Rの中で最も前後重量バランスが悪いR32とは、はっきり言って相性が悪かった。

フロントタイヤを過剰に酷使するその走法ではフロントタイヤの負荷が後輪よりも圧倒的にデカいため、R32 よりも軽量なFRでありなおかつフロントタイヤのみにかかる荷重と負荷が集中しない四輪ドリフト走法を取る後ろのハチロクやFDがタレない様なシーンでも、中里のR32 GT-Rはフロントタイヤやブレーキが熱ダレを起こしてしまう。

 

ハチロクを追う側と、ハチロクに追われる側。

マシンと走り方が功を奏した側と、マシンと走り方が裏目に出た側。

ヤマメと中里の2人はある意味対照的と言えた。

 

そして、このバトルの運命を決する秋名最大の勝負エリア、後半の連続ヘアピンへと3台は突入していく。

 

 

 

 

 

ギャラリー1「ついに来たぞ!ハチロクとFDがGT-Rにピッタリついて行ってるぞ!」

 

ギャラリー2「先行の中里が苦戦してんのか!?ここまで差が全然ねぇぞ!」

 

松木「来るぞ……。見とけよ塚本、これがあの高橋啓介を千切ったハチロクの走りだ」

 

塚本「……」

 

連続ヘアピン区間、第一ヘアピン。

そこに詰めかけるギャラリーたちの中に、赤城の走り屋である松木とその後輩でありチームの新入りメンバーである塚本はいた。

先週のレッドサンズとスピードスターズとファンタジアの交流会に刺激を受けた彼らファイヤーバーズを始めとした赤城の走り屋たちもまた、このバトルに関心を寄せていた。

特に松木は新人を含むチームのメンバーたちに発破をかける意味でも、このバトルの存在は大きいと考えていた。

 

今か今かと近づいて来る3台を見つめる彼ら。

そしてついに待ち望んでいた瞬間がやって来る。

弾けるような三重奏のエキゾーストサウンドを轟かせ、悲鳴のようなスキール音を立てて第一ヘアピンに突入していく。

インベタを果敢に攻めるGT-Rとアウトギリギリの際どいラインを駆け抜けて外から猛然と仕掛けるハチロクの攻防は見るものを湧かせた。

 

ギャラリー2「すげぇ競り合いだ!ハチロクが外から仕掛けやがった!」

 

ギャラリー3「おっしゃ!よく守り切ったぜ中里も!……鳥肌もんのバトルだぁ!」

 

塚本「すんげぇ突っ込みだったっすよ!これが今噂のハチロクかぁ……」

 

ギャラリー4「や、やべぇ……噂通りのカミカゼ走法だ!」

 

ギャラリー5「すげぇよ!最高にキレてるぜ。あんな狭っ苦しいラインを滑らせながら行くんだからさぁ……」

 

松木「どうだ?塚本」

 

塚本「すげぇっすよ先輩!めっちゃかっこよかったっすよ!白線の外側を通して一瞬砂埃が上がった時なんか鳥肌が立ちましたよ!マジでやべぇっす!」

 

松木「あぁ……。だがかっこいいだけじゃない。何より速いんだ。あれはそんじょそこらの走り屋とは文字通り次元が違う。その辺のドリフト小僧の走りとは根本の部分からまず違うんだ。秋名のハチロクのドリフトは、速く走るってことを突き詰めたドリフトだからな」

 

塚本「速く走るためのドリフト……?」

 

松木「あぁ、派手な音と見た目のせいでドリフトってのはパフォーマンスや曲芸としての側面にばかり注目されがちだが、そもそもの発祥はいかに速くコーナーを抜けるかを追求した結果として生まれたテクニックだ。あのハチロクやその後に続くFDの走りはその本来のスタイルである『速く走るためのドリフト』そのものだよ。……高いスピードのアベレージとエンジンのパワーバンドを維持するために、タイヤのグリップを目一杯に使い切ってガンガンに踏みながら曲げていくんだ。……言うだけなら簡単だが俺でも出来ない様な高等テクだぜ、あれは。コイツらに匹敵する様なコーナリングスピードは俺ですら無理だ。……これが、トップレベルの走り屋たちの走りなんだ。今日見たこと、よく覚えとけ」

 

松木の話に耳を傾けつつも、目を輝かせながら3台を見送る塚本。

そんな彼の様子を横目に松木は腕を組んで思考に耽る。

 

松木「R32 GT-Rの様な、スペックでハチロクを遥かに上回るマシンを相手に戦うのは、それ自体が危険な綱渡りの連続になる。……ほんと、大したもんだぜ(相当な腕と度胸が無けりゃあ、普通は直線で置いてかれてそれでお終いだ。コーナーで詰められないローパワーに勝ち目なんか無いんだ。ここまで食らいついて行けてる時点で俺にはまるで奇跡に思える。……だがこのハチロクはその奇跡の更に上をいっている。……思わず目を疑う様なことだが、コイツはよりにもよってハチロクでそのGT-Rを追い詰めていやがるんだ。それはお互いの走りを、もっと言えばタイヤを見れば分かる。……この第一ヘアピン、GT-Rはタイヤを引きずってアンダーと戦いながら無理にインを締める様なコーナリングをしていたが、ハチロクはそうじゃない。ここで外から被せて大胆に仕掛ける姿勢を見せてきた。それだけの余裕がまだあるんだ。……決定的な違いは後ろをドリフトしながら走る2台はタイヤの温存に成功しているが、GT-Rは熱ダレに苦しんでいる節がある。……この時点でこれなら、ゴールまでタイヤが持つかどうかは疑問だな。なんせ秋名の下りは前半よりも後半の方が勾配がキツく、タイヤやブレーキを酷使するコーナーが多くなる。……俺もこのヘアピンは正直怖い。ましてや、中里のマシンは俺のワンビアよりもはるかに重いスーパーフロントヘビーのR32 GT-Rだ。状況は厳しくなる一方だぜ。……アイツはコースを見誤ってタイヤマネジメントを失敗したんだ)」

 

ギャラリー6「また外から行ったぁ!」

 

誰かがそんな声をあげる。

彼らの視線の先には競り合いを演じながら猛烈な勢いで第二ヘアピンへと消えていく2台と、それを追うFDの後ろ姿が見えていた。

 

 

 

 

 

ギャラリーたちがその走りに湧き立ち感嘆する一方、中里はこの第一ヘアピンを眼前に捉えた時、ある策を講じるために走り方を切り替えていた。

 

中里「ついに来たか、この区間が(あのハチロクは路肩の側溝を使ってとんでもないコーナリングをしやがるんだ。俺はこの連続ヘアピンであの高橋啓介が抜かれるのを見ていたからな。……だが、要は内側に飛び込ませなきゃ良いんだろうが!インは絶対に開けないぜ!)」

 

コーナーの侵入から立ち上がりまで徹底してインを開けずに曲がることで、秋名のハチロクが先週の高橋啓介戦において中里たちの前で披露した例の地元スペシャルのコーナリングを封じる構えだ。

こうすればあのハチロクは奥の手を防がれて中里の背後に封じ込められる事となる。

 

だが、拓海はそんな中里の予想を裏切る様な行動に打って出た。

 

中里「なに!……外からだとッ!?」

 

拓海はインベタのラインを塞がれて締められたのなら、外から抜かせばいいと言わんばかりにアウトに振って被せにかかる。

溝落としを警戒してインベタのラインを通るため、ただでさえ熱ダレ気味のブレーキをよりハードに踏み込まねばならない中里はどうしても速度を犠牲としてしまう。

そのせいで拓海に外からの攻撃を許すだけの余裕を与えてしまっていた。

これはタイヤマネジメント戦略の失敗に次ぐ中里第二の失策だった。

 

中里「舐めてんじゃねぇぞ!外から行かすかよ!」

 

だが流石のGT-R、なんとか踏ん張り立ち上がりでまた前に出る。

そしてイン側を塞ぐ様に再びハチロクの前へと立ち塞がりそのまま第二ヘアピンへと突っ込んだ。

 

中里「ムカつくぜ!コーナーのたびにチョロチョロと外側に出られちゃあ目障りでたまんねぇぜ!」

 

だが性懲りも無く外から抜きにかかろうとしてくるハチロクに中里は苛立ちを募らせ、次第に集中を欠いていく。

特に相手が背後にピッタリと食いつき執拗なまでに仕掛け続けてくる今のような状態では、中里だけに限らず多くのドライバーは平常心を保ってはいられない。

攻撃的に、猛烈にプッシュして来る背後の敵に意識を割かれれば必然、どうしても走りは疎かになる。

 

本来のものとはズレたブレーキの踏み込みとリリース、立ち上がりのアクセルワークが徐々に、僅かにGT-Rの挙動と姿勢を乱していく。

その小さなミスの連続がさらにドライバー自身の心すら蝕んでいき余計に集中を奪っていく。

そのサインを見逃すほどヤマメの目は節穴ではなかった。

他でもないヤマメ自身が、そうした相手の精神的動揺を誘い、その隙をつくことに特化したドライバーであるが故のことだった。

 

ヤマメ「立ち上がりで少し姿勢が乱れた。多分本来のリズムを上手く刻めてないのね。GT-Rの挙動が怪しいわ。……この大事な時に集中力が落ちてきてる。これなら決着はもう直ぐね。……多分ハチロクが仕掛けに行くよ」

 

啓介「仕掛けに行くって……どうやって?」

 

先頭を走る中里のペースが落ちてきたことで再度余裕が生まれたヤマメの言葉に、啓介が疑問を口にする。

 

中里(クソッ!屈辱だぜ!こんなに大勢ギャラリーが出てる中で、こうも好き勝手に外から突き回されちゃあな……。タレたタイヤに無理させて強引にインに付こうとするから不自然なラインになって突っ込みが甘くなるんだ。車一台入らない程度にギリギリに寄せられさえすればそれで良いはずだ。……それならもっと進入スピードを上げられるぜ!)

 

そして第四ヘアピン。

背後のハチロクが先ほどまでと同様に外側に陣取ろうとするのをミラーで確認すると車一台入るか入らないかという程度にあえて甘めにインを締めつつ突っ込む中里。

 

 

 

 

 

♪ Heartbeat / Nathalie

 

 

 

 

 

中里(ハチロクがアウトに振った!……インにはこねぇな!)

 

だが、そこである異変を感じ取る。

 

中里(なに……!?さっきまで居たところにハチロクが居ない!)

 

自身のアウト側、いるべきところからハチロクが消えていた。

先ほどまでと中里を運転席側から照らしていたヘッドライトの光はもうそこには無かった。

 

中里(どこへ行った?……まさか!)

 

中里にとっては非常に不味いある可能性に思い当たる。

そして、それを証明する様に今度は助手席からその光が飛び込んで来る。

ハチロクが一瞬にしてインに飛び込んで溝落としを決めていたのだ。

 

啓介「さっきまでの外はフェイント……本命は中か!?」

 

ヤマメ「外に振った後にフルブレーキングしながらラインを変えた!(中里のイン側の締め付けが甘くなったその瞬間を逃さなかったんだ!)」

 

その一部始終を見届けていたFDの車内でもその手際に思わず驚きと感心の声が漏れていた。

 

中里(外に振ったと油断した瞬間に強引に捩じ込んで来やがった!……こんな芸当が出来る車なのかよハチロクは!……鮮やかなもんだぜ。だがこれで勝ったと思うなよ!このまま並んで立ち上がれば2速からの全開加速で俺は前に出れるんだ!RB26の底力を見せつけてやるぜぇ!!)

 

負けられない。

負けたくない。

その強い思いがコーナーの立ち上がりで中里にアクセルを踏み込ませる。

RB26DETTのツインターボがそれに応えるために一気にパワーを立ち上げて大きく吠えた。

 

ヤマメ「(まずい!GT-Rが滑る!)啓介!掴まって!」

 

ヤマメがそう叫ぶと何かを察した啓介はドアを掴むと同時に蹴り込む様に足を突っ張らせて、即座に横Gに耐えるための体勢を取る。

直後、ベストなタイミングから早くに踏みすぎてしまったため、中里のGT-Rがタイヤのグリップの限界を超えてしまい破綻。

ズルズルに熱ダレしたタイヤは立て直そうにも最早まともに路面に食いつかない。

遠心力に引っ張られて車体はガードレール目掛け膨らんでいく。

 

中里(しまったぁ!肝心なところでアンダーを出しちまったぜ!)

 

さらに思い切り踏みちぎったが故の大パワーを受け止められなかったリアタイヤもまた破綻。

大きく姿勢を乱させてテールスライドを起こす。

そして車体後部をアウト側に振られたR32は、中里の腕を持ってしてもコントロールを取り戻せないまま、なす術なくガードレールにテールをヒットさせる。

 

そんな中里の様子を尻目にハチロクはそのまま溝落としを成功させて綺麗に離脱していく。

中里の後ろにいたヤマメは中里が外に膨らむのを察知したその瞬間、コーナーアウト側からインに向かって逆ドリフトの様に車体を振り返し、捻り込んでいく。

ヒットしたガードレールから跳ね返ったGT-Rが今度はスピンを起こしながらイン側へと向かうが、その脇をすり抜ける様にFDは通り過ぎていった。

 

 

 

遠ざかる2台のエキゾーストサウンドをバックに、中里は1人暗い峠に取り残されていた。

 

中里(……負けた。俺とRがバトルで負けた……?いや、違う。負けたのは俺だ。これはR32 GT-Rの敗北じゃねぇ。……ショックはショックだけど、不思議と爽やかな気分だぜ。……全力を出し切って、それでも負けたんだからな)

 

中里「とは言え……」

 

そう言うと中里は一呼吸置くとポケットからタバコを出し一本だけ吹かす。

ガードレールにヒットして凹み、塗装が剥げたリアバンパーとフェンダーを軽く撫でる。

 

中里「いってぇなぁ……。また板金7万円コースかぁ……」

 

しかし、自走可能であった事は不幸中の幸いであった。

再びマシンに乗り込み、気を取り直して峠を降りていく。

 

中里(世の中には俺が考えていたよりもよっぽどすげぇドライバーが居る。……峠は奥が深い。……また腕磨いて出直すとするか)

 

物悲しげなエキゾーストサウンドを響かせつつ、手負のGT-Rは駆けていった。

 

 

 

 

 

啓介「……なぁ、どう思う?あのハチロクのこと……」

 

時は経ち、ハチロクの勝利を見届けた2人はスタート地点へと戻るために再度来た道を戻り峠を登る。

そんなFDの車内にて、啓介がそう切り出した。

13Bの奏でるロータリーサウンドをBGMに、2人は拓海の走りを見てそれぞれが感じたことを話し合う。

 

ヤマメ「……すごく速かった。前にいたGT-Rが上手くブロックしてたからこっちも着いて行けたけど……。もし、ハチロクの前に何も障害がなかったら……きっと今さっき見せてた以上のコーナリングをしていたと思う。……実際に、GT-Rが脱落してからゴールまでのわずかな区間でさらにペースを上げてたから」

 

啓介「中里の野郎だって中々いい腕をしてたが、アイツは……あのハチロクはこうもあっさり仕留めちまった。まぁ、最後はあれは中里のミスだが、そう言うところまであのR32を追い詰めたのは紛れもなくあのハチロクの実力だ。……世の中、とんでもねぇ奴がいたもんだ」

 

ヤマメ「でもね、だからこそ、私たちは熱くなれるんじゃないかな?……挑戦しがいのない楽勝な壁なんて、そもそも越える気にならないでしょ?弱い相手とのバトルなんかじゃあ、満足出来ないでしょ?……バトルの相手は強ければ強いほどいい。狩りは獲物が強ければ強いほど興奮する。……それこそ、自分よりも格上じゃなきゃあ、勝つ意味がないよ」

 

啓介「……あぁ、確かに今の俺じゃアイツにはきっと勝てないかも知れねぇ。……だがそれでも俺は逃げるつもりはねぇ。今よりも上手くなって、いつかアイツにリベンジマッチを挑むつもりだ」

 

ヤマメ「私も、あのハチロクと戦いたい。あのハチロクに勝ちたい。……他でもない、この秋名の峠であのハチロクを越えたいの」

 

啓介「……あと、俺はお前につけられた黒星だって当然忘れちゃいねぇからな。お前もアイツも、いつか絶対に超えてやる。レッドサンズの関東最速伝説は俺が打ち立てる。こんなところで躓いてられねぇぜ」

 

ヤマメ「……もちろん、その時は受けて立つよ。私たちだって、自分たちの速さを証明するために戦ってるんだから」

 

お互いに同じ車を操り、同じ目標を共有し、同じ高みを目指す。

ライバルであると同時に、仲間でもある。

その実感が2人の心の距離を縮めていく。

 

啓介「……それじゃあ1つ、約束してくれねぇか?」

 

ヤマメ「……?なに?」

 

啓介「……負けんなよ、俺以外の奴に。……俺も、誰にも負けねぇから」

 

ヤマメ「……うん。いつか、最速を決める戦いをしよう。啓介」

 

それぞれの想いを明かし、決意を確かめて2人は登っていく。

歓声に包まれる頂上の駐車場に着くまで、ただ静かにエンジン音だけが車内を満たしていた。

 

 

 




何故か頭文字Dの世界でGT-Rと言えばブレーキやタイヤの過労死からのアンダーやオーバーランが伝統芸みたいになってますよね。
リアルだと峠のダウンヒル程度でタイヤがあそこまで垂れてズルンズルンになる事って無いはずなんですけど……。

2024 / 2 / 26 19時14分
表現の訂正。


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外伝
外伝1 ハロウィーンの幽霊スポーツカー


ハロウィーンのために書いたちょっとした短編になります。


199X年10月31日、茨城県笠間市。

筑波山から吾国山を通るフルーツラインこと、県道42号線のとある区間。

道祖神峠(どうそじんとうげ・どうろくしんとうげ)と呼ばれるその道路は、毎週土曜から日曜にかけては多くの走り屋で賑わう有名な走りのスポットでもあった。

そんな道祖神峠にわざと賑やかな週末を外して人や車の少ない平日深夜に走りに来る走り屋がいた。

『彼』のように混雑とトラブルを回避するためにわざと日時をずらすタイプの走り屋は少なくなかったが、幸か不幸か今日は麓の小さな砂利の駐車場には彼一人。

もし上にも誰もいなければ今日はほぼ一晩全て貸切状態であっただろう。

 

彼の愛車は白いY31グロリアスーパーカスタム。

人気のない深夜の静寂を、先日交換したばかりの柿本製マフラーのサウンドで引き裂きながら駆け上がる。

2速へ落として終盤の見せ場となるタイトなヘアピンへと突っ込んで、けたたましいスキール音を鳴らしながらテールを派手に流したドリフト状態のまま通過していく。

そのグロリアの走り屋、加藤は進入から立ち上がりまで思い通りのベストなラインにビシッと乗せられたことに気を良くして口角を上げる。

 

加藤(いいねぇ、この音。今までのマフラーもよかったが底打ちして穴開けちまったからなぁ……。だが変えて正解だったぜ。流石天下の柿本様だ!たまんねぇや!……走りの方も調子がいい。今のは我ながら上手くドリフト出来たんじゃないか?)

 

加藤はそのままのリズムを崩さないように道幅を目一杯使いきってドリフトさせて次のコーナーもパスしていった。

対向車の心配がほとんどないこの曜日、この時間帯の道祖神峠は彼のお気に入りでもあった。

 

しかし、今日はそんな彼を害意を持って待ち構える存在がいた。

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

???「おうおう、ようやくお出ましかぁ?……相変わらず下痢便みてぇに下品な音出しやがって」

 

山を駆け上がり近づいて来るスポーツカーらしき音に不愉快さを隠すことすらせず顔を歪める、耳から金のピアスをぶら下げた金髪のガラの悪い男が一人。

上り側ゴール地点の駐車場の手前に道路を塞ぐように停めてある、親から借りたシルバーの100系ハイエースに背を預けて立っていた。

その右手に、バイト先の工事現場からくすねてきた鉄パイプを握りしめながら。

 

???「おい、オメェら出てこい。獲物だぜ」

 

彼がそう言うと後部座席からぞろぞろと4人の男が出てきた。

金髪の男に劣らず人相の悪い彼らの手にはバットや木刀などの凶器が握られていた。

 

???「打ち合わせ通りにやるぞ、難癖つけて車潰して走り屋ボコして有り金全部巻き上げて、そんでサツ来る前に撤収だ。分かってるよな?」

 

手下1「もちろんです、斗塚さん」

 

手下2「任せてくだせぇ」

 

斗塚(走り屋みてぇなアウトローの連中を襲って潰すんだから、これからやんのはある意味じゃあ慈善事業みてぇなもんだ。社会のゴミ掃除って奴だ。……良いことして金稼ぎとは、我ながらよく考えたぜ)

 

 

 

走り屋狩り、または走り屋潰しとも呼ばれる行為を企んでいる不良集団の彼らは、平日夜は襲撃するのに程よい少人数の走り屋が現れると言う情報を仕入れてこの曜日の深夜に狙いを定めてやって来たのだった。

流石の不良集団の彼らも、関東有数の勢力を誇る暴走族上がりの人間が率いるチームに目をつけられて数の暴力で対抗されると勝ち目がない事は分かっているために、そう言う勝てそうにない走り屋が集う土日の夜に堂々と乗り込むことはせず、あえて彼らの定例会がない平日のこの時間帯を選んで待ち伏せるようにしていた。

 

斗塚「来たぜ、クソッタレの走り屋がよぉ」

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

コーナーを立ち上がって目の前に飛び込んで来たハイビームの光に、加藤は思わずブレーキペダルを踏みしめる。

道路のど真ん中にハイエースが停めてありその脇に手に何かを持った数人の男が立っている。

この先にあるキャンプ場に天体観測か何かが目的で来ていた一般車がトラブったかと思ったが、どうにも様子がおかしいように見えた。

 

一番手前側にいる金髪の男が手に持っている何かは最初タイヤ交換用のレンチかと思ったがよくよく見れば鉄パイプであるし、その他の男が持っているものはバットに木刀ときていた。

どう考えてもまともな連中ではなさそうだった。

 

斗塚「ようようセダンの兄ちゃん、こんな夜中の山道で何してんだ?」

 

金髪の男が近寄りながら話しかけてくる。

緊張からか、加藤のシフトノブを握る手に自然と力がこもる。

 

加藤「何って、走りに来てんだよ。あんたらこそ、そんな物騒なもん担いで何やってんだ」

 

加藤は何か不穏なものを察しつつも努めて冷静に対応しようとするが、話はどんどん悪い方へと転がっていく。

 

斗塚「見てわからねぇか?検問だよ検問」

 

加藤「検問だぁ?」

 

斗塚「おう、俺たち最近お金に困っててなぁ、ちょっとしたビジネスってもんを考えたんだよ。ここでテメェらみてぇな走り屋相手に検問張って一回通過するたびに十万円ぽっちもらおうって簡単な話だ。こんなご大層なセダンに乗って弄ってるくれぇだ、そんなもん端金だろ?ほら、お前らいつもこの奥まで行って折り返してんのは調べがついてんだ。通りたかったら早く金払えよ。払えねぇってんなら今すぐココでテメェとその車をボコボコにして崖から突き落としてやってもいいんだぜ?」

 

加藤「おいガキ、今なんつった?黙って聞いてりゃあまるでお話にならねぇな。……あれか?良い歳こいてカツアゲかぁ?チューンドエンジンの400馬力で轢かれたくなかったらとっとと退きな」

 

あまりにも支離滅裂で無茶苦茶な言い分に加藤も思わず喧嘩腰になる。

いくら冷静な対応を心がけていようとも加藤の方もそれなりに沸点は低いタイプであったし、ボサボサの茶髪に無精髭に太い眉という悪人ヅラに違わぬ素行の悪さも兼ね備えていた。

 

だが、何より「愛車を潰す」と言われて黙って居られるほどに、加藤という男の走り屋としてのプライドは安くはなかった。

 

斗塚「テメェ、クズの分際で誰に舐めた口聞いてんだ!殺されてぇか!テメェがその気なら今すぐ廃車にしてやっても……」

 

手下3「斗塚のアニキ……」

 

斗塚「あぁ!!?」

 

手下3「ヒィ!」

 

話を遮られて思わず怒鳴る斗塚に思わずその小太りの手下が怯むが、おどおどしながらも話を続ける。

 

手下3「も、もう一台登って来てますぜ。こいつのダチならちょっと厄介なことになるんじゃあ……」

 

ここに来て加藤もようやく登ってくる車に気がついた。

目の前の不良の相手をすることに神経を割きすぎて分からなかったのだ。

しかし加藤の方も手下の男とは違った意味でまずいと考えていた。

 

加藤(まずい……こんなところにもう一台来やがった。……誰だ?この音は1Jか?2Jか?とにかくこっちに来るんじゃねぇ!なんとかならねぇか!変なところに止まられたらこっちの逃げ道がなくなる。そうでなくてもこのキチガイどもの標的にされちまう!クソ!)

 

斗塚「今更増えたくらいで何なんだ?むしろ金ヅルが増えるんだから盛大に歓迎してやろうぜ。……それともあれか?テメェ日和ったか?」

 

手下3「い、いえ……そういう訳じゃあ」

 

そうこうしているうちにその車がやって来てしまう。

暗い青の大柄なボディに丸目の四灯、なぜか室内灯を明滅させながら走って来たアリストだ。

 

だが、その車のある部分に視線を運んだ瞬間、加藤を含めたその場の全員の背筋に氷水がぶちまけられたかのような冷たい衝撃が走り、みるみるうちに顔面蒼白となっていった。

かつてとある高校の番長を名乗り度胸自慢を自称していた斗塚でさえ鉄パイプを握る手が震えていた。

 

 

 

 

 

♪ HORROR FANTASY / SCREAM TEAM

 

 

 

 

 

加藤「え?……あ、あぁ……!」(あ、あり得ない。なんだこりゃあ!……車の中に、人が居ない!!)

 

手下1「」(無人の車……ナンバー『冥界 36 し 42 - 731』なんだよ……これ……!)

 

あるべきところに人が居ない無人の車。

あの世を示す絶対に存在してはいけない地名。

42731(死になさい)という縁起が悪いどころではない、不吉と殺意の極みの様なナンバー。

命の危機が迫っていることを知らせるように全身の鳥肌が立ち、汗が溢れて止まらなくなる。

全員が目の前の現実を受け入れることを拒んだことにより生じた一瞬の硬直が場の空気を支配するも、それはすぐに破られる。

 

手下2「う、うわぁぁぁ!あああぁぁぁぁぁぁ!!」

 

恐怖の限界を突破した不良集団の手下の一人がバットを投げ捨て駐車していたハイエースへと駆け込む。

それを皮切りに不良集団は完全に逃げに入った。

 

手下4「あぁぁぁ!出た!出たぁぁぁぁぁぁ!!」

 

斗塚「お、おおおおお前ら逃げるぞ!」

 

斗塚が大慌てで運転席に駆け込むとシートベルトをつけることも忘れてバックにギアを入れてアクセル全開ですっ飛んでいく。

しかしコントロールを誤って土手に乗り上げて木へと激突し、テールゲートを思いっきりひしゃげさせリアガラスを粉砕する。

テールゲートに取り付けられていた後方足元を確認するためのリアミラーはその衝撃で脱落し茂みの中へと落ちていった。

 

加藤「な、何だよ!何だってんだよ!今日は!……クソッタレがぁ!」

 

 

加藤(クソ!今日はなんて日だ!走り屋狩りに絡まれたと思ったら今度はお化けだとぉ!?前門の走り屋狩りに後門の無人お化けアリストなんか冗談じゃねぇぞチクショウがぁ!まだ丑三つ時にすらなってねぇってのにとんだバケモンが出て来やがった!……とにかくこんなところに居たら命がいくつあっても足りゃあしねぇ!なんとしてでも逃げてやらぁ!)

 

とっさに我に返った加藤もブレーキをかけた状態で思い切りエンジンをぶん回しバーンアウトを引き起こさせる。

そのままタイヤの出す白煙に車体を隠しながら煙の隙間から見える僅かな手がかりを頼りにステアリングをこじりつつフロントを軸として車を半回転させた。

 

加藤(見えた!煙の隙間からお前の四つ目が!こうなりゃヤケだ!思いっきり突っ込めぇ!)

 

ブレーキを離し車は一気に加速体制へと入る。

目指すは真正面の幽霊アリスト……の真横だ。

 

免許をとってから早10年、これまで積み上げて来た己の走り屋としてのテクニックや経験と、幽霊アリストが捨て身で道を塞いでこない可能性を信じて飛び込んだ。

不良集団も加藤と同じ考えだったのか、それともただ単純にヤケクソを起こしたのか、テールのひしゃげたハイエースがノロノロと白煙へと飛び込んで未だに動かない不気味な幽霊アリストの隣をすり抜ける。

そのままホイールスピンによるスキール音をかき鳴らして峠を駆け降りるグロリアをガーガーと鳴く調子の悪いエンジンを必死に回して追いかけていくが、当然ながら走り屋を相手にたった今事故車になったクラッシュドハイエースでは追いつけるはずも無かった。

 

そして2台が通り過ぎた直後にその幽霊アリストも短い助走を付けながらサイドターン。

甲高いスキール音と共に180度きっちりマシンを回転させると、その2台の後を追うように走り出した。

 

 

 

 

 

斗塚「ヤバいよヤバいよヤバいよ!ヤバい!ヤバいって!本当にヤバいよこれはヤバい!」

 

手下1「もうダメだ。……おしまいだぁ」

 

手下2「南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏……」

 

手下3「ひぃぃぃ!追ってきてる!追ってきてるよぉ!追いつかれたら殺されちまう!助けてくれぇ!」

 

手下4「…………………………」

 

ハイエースの車内は阿鼻叫喚の地獄絵図で、手下の1人に至っては後部座席で口から魂が出かかっている状態で失神している始末だった。

金属バットや鉄パイプなどの凶器を携えて通りすがりの走り屋相手に威嚇していた先ほどまでの威勢の良さは完全に消失し、今となっては狼に追われる兎のように逃げ惑うばかりであった。

彼らは前を逃げるグロリアのテールを目印にしながら、時折ガードレールに車体を擦りつつも深夜の峠をアクセル全開でただがむしゃらに走った。

しかし、無情にも自分たちより先に逃げたグロリアの走り屋は、もうテールランプが一瞬見えたのみでコーナーの先へと消えていってしまった。

 

走り屋の経験もなければ車にもドライビングにも詳しくなく、実際に運転の技量もお粗末な斗塚が曲がりなりにも地元でそれなりに経験があり年季の入っている走り屋を相手に追いつける道理はなかった。

しかしその一方で後ろから迫る正体不明の謎の幽霊アリストはそれ以上の勢いでグイグイと迫ってきていた。

 

ヘッドライトの光が後部座席から飛び込んできて、ぐしゃりと潰れたハイエースのテールゲートを照らした。

 

手下1「あぁ!追いつかれたぁ!な、何とかしてくれよ、斗塚のアニキぃ!」

 

斗塚「ま、ままま任せ……任せとけ!こここ……この、この車は四駆だぜ」

 

とは言うもののコーナーのたびに酷いロールで右に左に慌ただしく揺られるだけで全然前に進まないハイエースは、後ろの幽霊アリストから煽られるばかりでまるで前に進まむ事はない。

 

斗塚「曲がれこのポンコツが!曲がれってんだよ!」

 

手下3「ダメだ曲がらねぇよ!うわぁぁぁぁぁぁ!!」

 

手下1「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

そこでさらに焦って無駄にアクセルを踏みちぎったせいでアンダーを出して再び土手に乗り上げ、今度はフロント側を木に強打してしまう。

コーナー僅か数個の出来事だった。

 

手下2「……死んでんじゃねぇの?」

 

斗塚「……生きてるぜ」

 

その真横をするりと抜けていく幽霊アリストを呆然と眺めながら彼らは呟くのみだった。

 

斗塚(も、もうこんな所、二度と来るもんか!峠なんかもう懲り懲りだぜ!……それはそうと、この車どうすっかなぁ……。親父になんて言えばいいんだチクショウ)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

加藤「ま……撒いた?やったか?(……いや、峠は殆どこの一本道だ。油断するにはまだ早いか?まずは俺が一番前を先行してて、後ろにはあのハイエースが走ってるはずだ。一瞬見えたライトはあのお化けアリストの奴じゃなかった。なら追ってきてる場合でも少なくともあの不良のガキ共のハイエースが障害物になってるはず。一番いいのはそいつらに標的が移ってて、俺の事なんか忘れられてるのがベストだが油断大敵だ。まずはこのまま攻めきってとっとと逃げることだけを考えるんだ)」

 

大パニックに陥って事故った不良集団とは違い、伊達に地元で走ってはいないと自負する加藤は今の状況を分析しながらも走る手を止めなかった。

 

加藤(ここを抜ければ中高速コーナー主体の俺が最も得意とするセクションに入る。そしてその次はヘアピンだ!ここが正念場だぜ!)

 

加藤は気合いを入れ直して道路の続く先を見据え、目の前に迫るコーナーへ突っ込む。

その瞬間、ほんの一瞬背後を照らした四つ目のセダンの存在に気がつくのが遅れてしまった。

 

加藤(よし上手く抜けられ……は?)

 

コーナーの立ち上がりで盛大に自身と愛車を照らす光が飛び込んでくる。

左右2対2の四つ目が加藤の背後に迫っていた。

 

加藤「おわぁぁぁぁぁぁ!?(嘘だろぉ!?来やがった!マジで来やがった!やったか?なんて思っても口に出すんじゃなかったぁぁぁ!?)」

 

背後に張り付く命の危機に、額のあたりから吹き出してきた汗が顎髭まで伝い滴っていく。

ほんの少し前まで余裕を取り戻しつつあった心臓が再び早鐘を打つ様にバクバクと鳴り、呼吸は過呼吸寸前と言った具合に荒くなる。

 

加藤(逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろぉぉぉぉぉぉ!!)

 

そこそこな勾配が付いていてS字にうねる様なダウンヒルのコーナーを加藤は地元の意地を示すが如くの全開ドリフトで抜けていくが後ろのアリストは離れない。

むしろ自らもドリフトで加藤の真横に付けてきた。

 

加藤(追走で合わせて来やがったぁ!いやドリフト上手すぎるだろこのお化けアリスト!?なんか思ってたお化けとなんかちげぇ!?室内灯ついてて運転手が居ないからステアリングの動きが良く見えて参考に……って感心してる場合じゃねぇ!とにかく今は逃げるんだよぉ!)

 

真横を走る幽霊アリストの見事なドリフトとカウンターの当て方に一瞬感嘆しかけるも、なんとか正気に戻った加藤はそのまま車体を振り返して続くコーナーへと突入する。

だか、やはりその幽霊アリストはギリギリ接触しない程度の車間を維持したまま離れる気配がなかった。

それどころか仕掛ける素振りすら見せておりそれが余計に加藤を追い詰めた。

 

だが現時点ですら限界ギリギリの走りであるのに、もうこれ以上はマージンの詰めようが無かった。

 

加藤(だ、ダメだ!抜かされる!)

 

続く直角コーナーで鼻先を捩じ込まれてインをこじ開けると憎らしいほどの快音を響かせながら前へと躍り出るアリスト。

 

加藤(も、もうダメだ!次のコーナーを抜けたらもうコーナーらしいコーナーもねぇ!負けちまったら絶対殺される!)

 

冥界というあり得ない地名に殺意の高い数字の羅列されたナンバープレートが加藤の視線を嫌が応にも引き付ける。

だがその一方でわずかな時間の間にも差は開く一方だった。

 

だがバトルは加藤の予想を裏切る形で終わりを告げる。

次のゆるいRを描く左に間髪入れずに続くタイトな右のコーナーを抜ける。

まだテールランプが見える位置にいる。

だがその次の左右にうねるRのゆるい高速コーナーを加藤が抜けると、何とそこで今さっきまで走っていた幽霊アリストは忽然と姿を消していた。

ブレーキを強く踏み締めて止まり、窓を開けて辺りを見渡すも、もうそこにはなんの痕跡も残ってはいない。

 

加藤(な、なんだったんだ……?何を見ていたんだ?俺は……。まさか、山に出るっていう噂の、走り屋の幽霊だとでも言うのか?)

 

遠ざかる2Jの音さえ聞こえない虫の声だけが広がる深夜の峠に、加藤はぽつんと取り残されていた。

 

加藤(そう言えば、今日の日付は10月31日。……ハロウィン、か。……やられた。とんだ悪戯好きのお化けもいたもんだぜ)

 

 

 

 

 

● ● ● ●

 

 

 

 

 

幽々子「あー楽しかった」

 

紫「それは良かったわ。私のスキマを開くタイミングもバッチリだったでしょう」

 

幽々子「えぇ、さすが紫ね」

 

紫「私にかかればこのくらいは楽勝よ。任せなさい」

 

妖夢「幽々子様、まーた紫様と一緒に変なことしてたんですか?」

 

紫「あら、変なこととは心外ね」

 

幽々子「そうよ、妖夢。ちょっと普段行かない様な峠でツーリングを楽しんでただけよ。この普段のナンバー付けたままね」

 

妖夢「いや、その私たちの冥界ナンバーって外の世界じゃつけてちゃ駄目なんですよ。びっくりしちゃいますよ?あっちの人たち」

 

幽々子「でも、こういう日くらいはいいでしょう?何と言っても、今日は外の世界ではハロウィンなのよ。だから私たちにとってはありのままの、でも外の世界の人にとっては特別なこの姿で、たまには亡霊らしく振る舞ってみるのもありじゃない?ちょっとしたドッキリ企画みたいなものよ。……そんな訳だから、あともう何本か、今度は別の峠に繋いでもらってそこで走って来るわね。……さぁ、行きましょう、紫」

 

紫「そうね、幽々子。今度は医王山か阿蘇山なんてどう?普段は行かない峠だし気分転換にはちょうどいいわよ」

 

幽々子「あら良いじゃない!じゃあそこに繋いで……」

 

妖夢「ちょ、ちょっと待って下さいよ!まだ行くつもりなんですか!?」

 

幽々子「そうよ、妖夢。……もしかしてあなたも行きたい?」

 

妖夢「べ、別にそういう訳では……いえ、やっぱりついて行きます。幽々子様が暴走して誰かに迷惑をかけてしまうかも知れませんから、私が後ろからついて行ってやりすぎない様に監視させていただきます」

 

幽々子「あら妖夢ったら、またまたそんな事言っちゃって〜。本当は楽しそうだからついて行きたいんでしょう?そういうところは本当に可愛いんだから」

 

妖夢「違いますってば!幽々子様ぁ!」

 

 

 

この日を境に、ある都市伝説的な噂話が日本各地の山々で実しやかに囁かれることとなる。

ハロウィンの日、峠には山に訪れる者たちを恐怖に陥れる幽霊たちのスポーツカーがあの世からやって来るという。

 

 

 

 

 

ハロウィン特別企画

 

〜 ハロウィンの幽霊スポーツカー編 〜

 




前書きにも書きましたが、ハロウィン向けの短編になります。
一応これは頭文字Dと東方的なオカルト要素のミックスに挑戦するにあたっての試験的な意味合いもある話にはなりますかね?
時系列も飛んでいて、現在の本編で執筆中のナイトキッズ編よりもかなり後になります。

ちなみになんですが、この話はノンフィクションをベースに創作やアレンジや脚色を混ぜて作った話なんですよ。
今年の9月の中頃に筑波山の地元の走り屋の方から話を伺う機会がありまして、その人の話をちょっとだけ拝借した形です。
なんでも、道祖神峠はかつて走り屋狩りが出たと言う話も、深夜に幽霊が出ると言う話もどうやら事実なようで……。

その辺の話のいくつかを下敷きに、設定を捏造したり単純に脚色して盛ったり幽々子様をぶち込んだりして一つの話として作り上げてみました。

ちなみに作者はその話にガチビビりして以降、夜の峠には顔を出しておりません。


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