剣の世界の見習い吟遊詩人 (雷神デス)
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見習い美少女吟遊詩人、ぺルラ

 最近はまってるTRPGシステムの二次創作です。
 サクッと読める小説目指して頑張ります。


 

 

 吟遊詩人は、割と命がけな職業なのです。

 

 詩を歌うだけの奴らが何を言ってるんだ?なんて思うかもしれませんが、本当です。

 

 当たり前な話ですが、吟遊詩人は面白い詩を歌えなければお金を貰えたりなんかしません。完全なる実力主義で、かつ下手すれば冒険者よりセンスが問われ、しかも同じ詩ばかり歌ってしまうとすぐお客さんから飽きられます。

 

 幸いこのラクシアには英雄譚に溢れていて、そうそうお話が尽きることはないですが。

 

 そのお話だって、誰よりも早くそれを知り、詩にしなければ、他の詩人がそれを歌っちゃいます。一度聞いた詩を聞こうとするお客さんなんて殆どいませんから、自然と物語は獲り合いにとなり、詩人は誰よりも早く面白い冒険譚を知らなければならないのです。

 

 では、詩人がどうやって詩にできるような物語を手に入れるか。

 メジャーなのだと冒険者ギルドに直接話を聞いたり、情報屋にお金を払ったり。

 

 いろんな方法がありますが、私がやっているのは──

 

 

 

 

「うわああああああ!!師匠!?師匠早く!!可愛い弟子が死んじゃいますよ!?」

 

 

 楽器を手に持ち、背後から迫りくる亜竜から逃げ回っている、夜空のように輝くダークブルーな瞳がチャームポイントな美少女。つまりは私、美少女詩人見習いのぺルラなのですが。

 

 今、私は何度目かも分からぬピンチに遭遇し、その短い運命に『めでたしめでたし(なんもめでたくありませんが)』が付けられようとしています。

 

 

「私は美味しくないですよぉ!?狙うならどうか師匠を!ほら、野菜の味しそうで美味しそう!」

 

「アハハ、ぺルラ。ディノスに交易共通語は通じないよ?」

 

「んなことは知ってるんですよ馬鹿師匠!!早く、終律早くぅ!無敵の師匠の」

 

「ああ、それは分かっているんだけどね?彼に似合う終わりの歌は何なのかと、少し迷い中でさ。ぺルラはどれがいいと思う?春の強風か、冬の寒空か。獣の咆哮に蛇穴の苦鳴、惑いは──」

 

「んなもんどうでもいいからさっさと歌ってください!!」

 

 

 弟子の命の危機に呑気に悩んでる師匠を叱咤し、そのせいで足元が疎かになってしまう。

 

 

「あっ」

 

「おっと」

 

 

 少し大きな石に躓き、「へうっ」と間の抜けた可愛い悲鳴を上げ、すってんころりん。

 勢いよく転び、涙目になってる私を、3mはあるであろう理性無き竜が見下ろす。

 その眼光に思わず下半身が緩くなったとして、誰が私を責められるだろう?

 

 

「わあああああ!!これで死んだらアンデッドになって祟ってやりますからね師匠ぉ!!」

 

「ああ、それは困るな」

 

 

 ようやく、師匠の琴が軽やかな音を紡ぎ出した。

 終律により彩られた音はやがて火の竜の形を取り、冷気を放つ亜竜を飲み込む。

 苦しみ、悶え、焼かれていくディノスを見ながら、私は安堵の息を吐き。

 

 

「君がアンデッドになってしまうと、荷物持ちがいなくなる」

 

「鬼師匠め!地獄に落ちろ!」

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 焼いたディノスの肉にかぶりつきながら、私を前に平然と肉を師匠を睨みつける。

 分かってはいたが、この人はさっきのことを全然反省していないようだった。

 

 

「反省するも何も、ディノスに見つかって追いかけっこする羽目になったのはぺルラの自業自得だろう?その責任を僕に押し付けてもらっても困るなぁ」

 

「うるさいです。師匠は魔法でズルできるからそんなこと言えるんですよ。か弱いプリーストをこんな場所に連れ込んで、師匠は保護者としての自覚が足りません!」

 

「そうかな?」

 

「そうです!」

 

 

 そっかぁ、なんて漏らす師匠は相変わらずのんきで、今言ったこともすぐに忘れそうなくらいぽわわんとした雰囲気をしている。

 

 いかにも間抜けそうなこの人が、なんであんなに素晴らしい歌を奏でられるのだろう。 

 世界とは理不尽だ。おお、ライフォスよ。あなたは今寝ているのですか。

 

 

「この世界を作ったのは始まりの三剣だし、文句を言うならそっちだと思うよ?」

 

「ナチュラルに心の声を聴くのやめてもらっていいですか?テレパシーはティエンスの特権なんですけど」

 

「おおよその事象は魔法で再現できるものだ」

 

「おのれ魔法め」

 

 

 これだから魔法使いは。

 とはいっても、そんなインチクくさい魔法を使えるのは、ごく僅かなのだが。

 そのごく僅かなエリートの中にこの人が入っている、というのはやはり納得いかない。

 

 

「それより、いいのかい?詩を書かなくても。今日の冒険も、なかなかにネタになることで満載だったじゃないか。何かいい文が浮かんでくるかもしれないよ?」

 

「メモ帳には纏めています。それにどうせ、頑張って書いても師匠は全部没にしちゃうじゃないですか。新しい詩を書くのは、もっとどでかいネタがそろってからです」

 

「ふてくされないふてくされない。書かなきゃ成長しないよ?」

 

 

 師匠はいろんな所で噂を聞くくらいのは有名な、凄腕の吟遊詩人だ。

 この人が紡ぎ出す詩は人々を魅了し、離さない。私も例外なく虜になった。

 だからと言って、この人に弟子入りを願い出るのは早計だったかもと考え直す。

 

 

「師匠はいい加減、もう少し弟子を育てる気概を見せてくださいよ。技術も碌に教わっていませんし。そろそろ詩の書き方や歌い方の一つくらいは教えてください!」

 

「詩というのは、自分で紡ぎ出すものさ。僕から教わった音を奏でても、それは君の詩じゃない」

 

「……また逃げようとしていませんか?」

 

「アハハ」

 

「アハハ、じゃないですよ!」

 

 

 この人はいつもお気楽で、面倒くさがりで、ついでに言えば無責任だ。

 一度は彼に弟子入りして舞い上がったけれど、実際やらせてもらっているのは荷物持ちと、時々師匠に回復魔法を撃つくらいしか仕事を貰っちゃいない。

 せっかく素晴らしい詩人になろうと故郷を去ってまで彼についてきたというのに、これじゃ何も持ち帰ることなく私の青春時代が終わってしまう!

 

 

「ああ、ぺルラ。残った肉はディノスの冷却器官で冷やすんだ。そうすれば日持ちするから、保存食になる。しっかり覚えておきなさい。冒険者として生きていくためのコツだ」

 

「……私が知りたいのは、冒険者のコツじゃなくて吟遊詩人のコツなんですが」

 

「千里の道も一歩からさ。まずはいろんなことを知識として学びなさい。詩を書くのはそれからさ」

 

「むー……」

 

 

 はぐらかされている気もするが、渋々納得して今日もまたメモにアイデアを書きなぐる。

 私が吟遊詩人として大成するのは、果たしていつになるだろうか?

 

 

 

 




【登場人物】

◇ぺルラ
役割:一応語り手
種族:ティエンス
性別:女性
冒険者レベル:2
技能:プリースト(2) バード(1) セージ(1)
備考:家族は全員死んでるらしい


◇師匠
役割:師匠
種族:メリア
性別:不明(ぺルラ視点では男性)
冒険者レベル:不明
技能:不明
備考:なんも分からんが強いことは分かる

◇ディノス
役割:お肉
種族:動物
魔物レベル:4
特徴:冷気のブレスを吐ける亜竜。肉が美味しい


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真なる魔法使い

【詩の外の登場人物】

◇ぺルラ
役割:語り手
種族:ティエンス
性別:女性
冒険者レベル:2
技能:プリースト(2) バード(1) セージ(1)
備考:去年よりは詩が上手くなってるらしい


◇ガルス
役割:聞き手
種族:リカント
性別:男性
冒険者レベル:8
技能:グラップラー(8) エンハンサー(6) スカウト(7)
備考:かなり強い冒険者。街一番の強者だが、心優しい


 

 

 

「ネタをください!!」

 

 

 開口一番、目の前にいる身長2mはあるであろう強面男にネタをせびる。

 困惑しながらも、強面トラ顔男ことガルスさんは頬を掻き、困ったように言う。

 

 

「急にネタを、と言われてもなぁ。また師匠さんに没喰らったかい?」

 

「ええそうですよ!今回は傑作だったのに!三週間もかけて考えたのに!酷いと思いませんか!?あの鬼畜師匠めぇ!」

 

 

 唸る私に、虎のリカントであるガルスさんは苦笑いを浮かべる。

 顔に似合わず、この街の冒険者一優しいガルスさんは、よく皆から相談を受ける。

 一年振りにこの街にやってきたが、以前とさして変わった様子は無いようだ。

 

 

「ガルスさんくらいの冒険者なら、心躍る冒険譚の一つや二つ持ってるでしょう!?オラ、吐け!フランベルジュランクの冒険者が持つすっごい冒険譚を早く吐いてください!」

 

「どうどう、ぺルラちゃん落ち着いて。この時期は魔物も冬眠してることが多いし、蛮族も碌に動けないからそうそう冒険譚なんて無いよ?」

 

「それでも冒険者ですか!冒険者ならばもっとこう、前人未到の迷宮に潜ったりだとか!奈落の魔域に突っ込んで魔神と戦ったりだとか!そういうことをしてくださいよ!」

 

「相変わらず無茶を言うなぁ、君は……」

 

 

 ちなみに、フランベルジュランク云々の話は、冒険者ギルドが発行している、冒険者ランクというものがどれだけ高いかを表すものです。

 

 フランベルジュと言えば小さな街ならそこで一番強い冒険者であっても不思議ではないレベルのランクで、まず間違いなく期待以上の仕事をする一人前以上の冒険者であると認められます。

 

 そんな彼でさえ、魔物も眠るこの冬の時期ではろくに仕事を獲れないという。

 まったく情けない!それでも高ランク冒険者ですか!

 

 

「そういうぺルラちゃんは、何か面白い詩はないのかい?さっきも言ったけど、今ギルドにいる連中皆仕事がなくて暇なんだよね。何か一つ、聞かせちゃくれないかい?」

 

「え~?まったくもー、しょうがないですねぇ!この天才見習い吟遊詩人ぺルラちゃんが、こんな昼間っから飲んだくれてるみなさんのために一曲紡いであげましょう!」

 

「おうこら見習い、飲んだくれてるは余計だ!」

 

「お前だって暇でここ来てんじゃねぇかコラ!」

 

「外野はシャラップ!おとなしく私の鈴のような声を聴いていなさい!」

 

 

 まったく、これだから飲んだくれの冒険者達は。

 私のような将来有望吟遊詩人の素晴らしい詩を簡単に聞けるのは、今だけなんですよ?

 

 

「では、そうですね。今回は……」

 

 

 周囲を見てみると、去年は見なかった若い冒険者が何人か居るようだった。

 武器はピカピカ、防具も殆ど汚れていない所を見るに、新米の冒険者達なのだろう。

 きっと彼らは、これから始まる輝かしい冒険に胸をときめかせているに違いない。

 

 しかし、私は知っている。

 彼らが雑魚と侮るフッドやゴブリンに、考えなしで挑めばどうなるか。

 第一の剣の加護を受けた者達の最大の長所、知恵を捨てればどうなるか。

 きっとこのギルドにいる何人かは、妖魔達の餌食になるに違いない。

 

 というのならば、せっかくだ。

 以前師匠から聞いた、教訓めいたお話を聞かせてあげよう。

 この中にいるベテランの何人かも、きっと一度は体験したことがあるだろう。

 魔法使いがどれほど恐ろしく、そして頼りになるか。

 第一の剣より賜った恩恵が、どれだけ素晴らしいものか。

 そんなことを教えてくれる詩を、聞かせてあげるとしましょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇【真なる魔法使い】◇

 

 

 

「ちく、しょう」

 

 

 こんな依頼、簡単に成功するだろう。

 そんな吐き気がする程に甘い考えで、俺はゴブリンの巣に向かった。

 

 ゴブリンと言えば、数ある蛮族達の中でも最も弱い分類、【妖魔】と呼ばれる魔物だ。

 高位蛮族達にとっては使い捨ての駒程度の扱いで、俺も何度も倒したことがある。

 どれだけ群れても所詮はゴブリン、このロングソードで方を付けられる。

 そんな考えで、たった二人で依頼を受けたのが間違いだった。

 

 

「シャーマンがいるなんて、聞いてねぇぞ……!」

 

「アハハ!凄かったねあれ。一発で私ら瀕死」

 

「笑ってる場合か、畜生!」

 

 

 同行していた幼馴染のソーサラーは、カラカラと笑いながら俺を担いでいる。

 ゴブリンのクソ野郎共の親玉は、ゴブリンでありながら妖精魔法を扱う、ゴブリンシャーマンという変異種だった。魔法の威力はゴブリンが振るう棍棒の威力なんぞを容易に凌ぎ、俺の自慢の鎧すら貫通する破壊力を秘めている。

 

 それに加え、シャーマンは悪知恵も働く。巣穴の中には小さく巧妙な落とし穴が仕込まれており、俺は間抜けにもそれに引っ掛かり、一方的にゴブリン達よる攻撃を受け、瀕死になってしまったのだ。

 

 

「舐め過ぎたね。せめて四人で行くべきだったかな?プリーストとスカウトが欲しかったなぁ」

 

「お前は、救命草持ってないのかよ。傷を癒せば、あいつらなんか」

 

「無いね。そもそもレンジャーは君だろ?罠を見抜くのも、薬草を使うのも君の役目だ」

 

「ぐぬぬ……」

 

 

 これは万事休すだろうか。

 火事場の馬鹿力でどうにか逃げて、巣穴の倉庫のような場所に隠れたはいいものの、外からは大量の足音とグギャグギャ煩い妖魔語の叫び声が聞こえてくる。

 

 資金の殆どを剣と防具に使ったせいで薬草も購入できず、今はこの様だ。

 ソーサラーの奴も、覚えている魔法の中に回復を行えるものは無く、攻撃魔法もシャーマンを一撃で殺せるようなものは無い。俺自身、何度も妖精魔法の炎を耐えれる程頑丈ではない。

 

 シャーマンは必ずゴブリン達を前に出し、それらの処理に手間取っている所を魔法で後ろから攻撃してくるだろう。そうなれば俺達に勝ち目はなく、どうやっても敗北は確定だ。

 不意打ちしようにも、ゴブリン達はそれを警戒するようにシャーマンを囲っている。

 生半可な方法で、あの警戒網を潜り抜けることは不可能だ。

 

 

「クソ、クソ……!こんな、こんなところで……!」

 

 

 悔しくて、涙が溢れそうになる。

 ゴブリンは卑劣な蛮族だ。きっと俺の死体も辱められるに違いない。

 死体の損傷が軽ければ他の冒険者に回収され、蘇生してもらうこともあるかもしれない。

 しかし、身体の大部分を喰われたり、壊されたりすれば、それすらも望めない。

 

 考えうる限り最悪の状況で、俺は無意識に体を震わせる。

 そうしていると、ソーサラーはなんとも軽い様子で、俺の肩をポンと叩いた。

 

 

「大丈夫。なんとかなるさ」

 

「……大丈夫って、お前なぁ。この状況分かってるのか?」

 

「ああ、勿論。だがまあ、所詮相手はゴブリンだろう?」

 

 

 こいつは、さっき俺達がゴブリンに出し抜かれたことを忘れているのだろうか?

 怪訝な目で見るが、ソーサラーは良いことを考えた、という風に笑うだけだ。

 呑気なそいつが、なんだか妙に頼もしく見えて、俺もつられて少し笑う。

 

 

「そんなこと言うくらいなら、何か策はあるんだろうな?」

 

「勿論。ゴブリンの怖さはしっかり見せてもらったからね。次は人族の怖さを思い知らせよう」

 

 

 ソーサラーは、火口箱を手に持ちながらそう言った。

 

 

 

 

 

★★

 

 

 

 

 実に簡単なものだ、と人間を鼻で笑いながら。

 されど逃げ込んだ鼠を逃がさぬよう、配下の能無し共に巣穴の探索を命ずる。

 

 自分達が村からの略奪を繰り返せば、人間達はそれを止めるために冒険者を派遣するであろうことは想像がついていた。今回の本命は、村から奪った牛や安物の木斧などではない。

 冒険者共が持つ、頑丈な金属の鎧と、磨き抜かれた剣だ。

 

 ゴブリンの中でも天才として産まれた己は、何度も馬鹿な人間どもを出し抜いてきた。

 時には罠を仕掛け、時には妖精共を使い、はたまた時には馬鹿共の数を活かして。

 強い冒険者が派遣されない程度の被害に抑えながら、着実に力を付けてきた。

 

 その甲斐あって、今や己は一つの群れのリーダーとなり、十数匹の同族達の群れのリーダーとなった。そしてそれを証明するように、極彩色の鳥の羽根や宝石で作られた賢者の証を身に着け、今や高位蛮族であるドレイクやバジリスクからも目をかけられるような存在となったのだ。

 

 

「グッゲッゲッ」

 

 

 思わず笑いが漏れ出る。

 冒険者達から装備を奪い、配下のゴブリン共を更に強化し。

 やがては完全装備のゴブリン集団を率いて、己はゴブリンの王になるのだと。

 そんな野望を胸に秘め、配下の能無しゴブリン共に命令を出す。

 

 

「ミツケシダイ、コロセ。アソブナヨ。コロセタラ、ホウビヲクレテヤル」

 

「グゲ、グゲッ」

 

 

 馬鹿共の扱いはとても疲れる。

 簡潔に、されどこの馬鹿共が勝手な真似をしないよう命令を出さなければならない。

 欲に頭を支配され、堪えることも出来ないこいつらは、兵士としては実に無能だ。

 劣勢になればすぐ降参したり逃げ出したりするような、使えぬ駒だ。

 

 それでも、ここにやってきた冒険者共を殺すには事足りるだろう。

 思ったよりも強くはあったが、ソーサラーの方は己より低い魔力しかなく、ファイターの方も一撃の威力こそ低いが、魔法に対する対策は碌にしておらず、プリーストも居ないようだった。

 

 楽勝だ。見つけ出せば、あとは魔法を数発撃つ程度で片が付く。

 罠も見抜けぬような間抜けな冒険者達は、すぐに追いつめられ逃げて行った。

 出口は既に塞いでいる。となれば、奴らはこのうす暗い巣穴の中に隠れている。

 

 

「サア。ドコマデ、タエキレル?」

 

 

 嘲笑い、奴らを見つけ出したらどうしてやろうと考えていると、突如、倉庫に使っている部屋から眩い輝きを放たれた。おそらく火や道具で作られた光ではない。魔法によるものだろう。

 

 

「……?ナニヲ……」

 

 

 原因は分かっても、何故わざわざそんなことをしたのかが分からない。

 人間ではまともに戦えないこの巣穴で、明かりを付けるのは理にかなっている。

 しかし、わざわざ隠れている途中にそんなことをするものか?

 

 そう考えている間にも、馬鹿共はその部屋に向かって殺到していく。

 その時ふと、倉庫に入れておいた物の中に、ある物が入っていたことを思い出す。

 

 

「……!!キサマラ、ハイルナ!!」

 

 

 そう大声で怒鳴っても、褒美欲しさ目が眩んだ無能共は聞きもしない。

 我先へと、まるで誘うように開かれていた戸を通り抜け、光が包む部屋へと突進し。

 

 

「いやー。やっぱ、馬鹿で助かるわ」

 

 

 次の瞬間には、開かれていた扉の裏に隠れていたソーサラーが姿を現し。

 罠のために取っておいた、大量の油がぶちまけられている部屋に、ポイッと火の点いた松明を投げこんだ。

 

 当然炎は部屋に広がり、無能共は部屋から出ようと扉に殺到するが。

 

 

真、第一階位の封(ヴェス・ヴァスト・ガ・レガ)封印、閉鎖(シルト・グロス)──施錠(ハダルト)

 

 

 忌々しくも、ソーサラーは真語魔法の中で最も下位の魔法──手で触れもせずに錠を閉める魔法、【ロック】で扉を閉め切った。扉を壊そうとする無能共だが、そもそもあの扉は盗みをするような無能共への対策として取り付けた物だ。簡単には壊せない。

 

 

「キサマ!!」

 

 

 一気に大半の配下を失い、激情しながらも炎の魔法の準備を整える。

 『奴を焼き、殺してしまえ』と。そう命令しようと、宝石に魔力を与えるが。

 

 

「ハハハハハ!じゃ、お先に失礼!」

 

 

 ソーサラーは、笑いながら己から背を向け出口の方に走り去ってしまう。

 魔法の射程内ではあるが、曲がりくねった道ににげられてしまい位置が分からなくなってしまうと、上手く魔法を当てることもできない。

 砕けそうな程歯を軋ませながら、突然の出来事に驚く無能共に命ずる。

 

 

「ナニヲシテイル!サッサトオエ!!」

 

 

 無能共は命令を聴いて、ようやく全速力でソーサラーを追い出した。

 血管が浮き出る程の怒りに身を任せ、己もその後に続こうとして、気づく。

 もう一人の奴──ファイターは一体、どこに消えた?

 

 

「よぉ」

 

 

 悲鳴が聞こえなくなった、炎で満ちた倉庫の中から、声が響く。

 そうだ、ファイターの方の種族を忘れていた。

 メスであるということにだけ気を取られ、種族としての特殊性を忘れていた。

 こいつは、子供のように小さく、されど己の身長ほど大きな剣を持つこのメスは。

 

 

「久しぶりだな?ゴブリン野郎」

 

 

 炎を寄せ付けぬ、ドワーフであったのだと。

 

 

「オイ!カベヲ……!?」

 

 

 急ぎ前衛を配置しようとして、周囲に無能が一体も居ないことに気づく。

 奴ら、まさか、一匹残らずあいつを追いかけて行ったのか!?

 まさか、己を守るという役割も忘れて!?

 

 

「上手く行くとは思わなかったけど。統率もクソも無いんだな、妖魔って」

 

 

 剣を振り上げ、思い切り力を籠めるドワーフのファイター。

 咄嗟に土の壁を作ろうと妖精に命令するが、もう遅い。

 奴の剣は、すでに己の目と鼻の先まで迫っていて──!?

 

 

 

 

 

★★★

 

 

 

 

「あ、終わった?」

 

「……なんつーか。ほんとに、頭いいのってあいつだけだったんだな」

 

 

 自分達が掘った落とし穴に嵌り、魔法によりこんがり焼けたゴブリンを見下ろし、呆れながら呟く。こんな奴らに追いつめられたのか、と。

 

 

「舐めれば痛い目を見るのはお互い様さ。ドワーフに与えられた剣の加護は、こういう場面だとほんと便利だね。ちょっと羨ましいよ」

 

「こういう場面じゃないと役立たないけどな。しかし、普通自分で作った罠にはまるか?」

 

「嵌るとも。力と繁殖力の代わりに、知恵を失ったのがゴブリンだ。シャーマンとてそれは例外じゃない。配下を統率しきれなかったのが敗因だね」

 

「もし完璧に統率が取れたゴブリン軍団だったとしたら……ゾッとしないな」

 

「そういうのは、もっと上のランクの冒険者達の役目だよ」

 

 

 相変わらずの胡散臭い笑みを浮かべ、ソーサラーは詠唱を唱える。

 

 

真、第三階位の感(ヴェス・ザルド・ソ・セナ)敵意、探知(イヴィル・ディスカーバ)──索敵(ミィシブ)

 

 

 何度聞いても、長い詠唱だ。俺には唱えられる気がしない。

 

 

「……あ、まだ生きてたか」

 

 

 どうやら死んだ振りをしていたらしいゴブリンに、情け容赦なく魔力の矢を撃ちこむ。

 それで本当に、巣穴のゴブリン達は全滅したようだ。疲れる依頼だった。

 

 

「次からは、ちゃんとプリーストとポーション。後はスカウトも入れなきゃね」

 

「だな。……しかし、あんな魔法を使うゴブリンによく勝てたな、俺達」

 

「どれだけ強力な魔法を持っていても、それを正しく使えなきゃ弱いってことさ。覚えておくといい。真の魔法使いというのは、必要な時に必要な魔法を唱えられる者を指すのさ」

 

 

 こいつだけは、敵に回したくないものだ。

 真の魔法使いの背中を見ながら、俺は戦利品を片手に笑うのだった。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……以上!ご清聴、ありがとうございました!」

 

「いやー、相変わらずいい声だったよ。はい、おひねり」

 

 

 詩を終えると、周囲からは歓声と共にいくらかのガメルが投げ込まれます。

 まあ今のでは大した額は貰えませんが、吟遊詩人にとっては立派な資金源です。

 

 

「どうもどうも!どうです?なかなか様になってたでしょう?」

 

「うん、去年見た時より上手くなってたよ。成長したねぇ、ぺルラちゃん」

 

「えへへ……」

 

 

 師匠は碌に褒めてくれないので、こういう褒め言葉は素直に嬉しいものです。

 私は褒めれば伸びるタイプのティエンスなので、是非もっと褒めてもらいたい。

 

 

「お嬢ちゃん!もう一曲頼むわ!今日は飲み明かそうぜ!」

 

「続きあるんだろ?それもたのまぁ!」

 

「しょうがないですねぇ!夜通し歌ってあげましょう!」

 

 

 そうして、小さな街の小さな酒場で、私の歌声は響き渡るのでした。

 今はこんなもんですが、いつかはでっかい王国の、すっごい貴族の前で歌いたいものです。

 それこそ、師匠みたいに!

 

 

 




【詩の中の登場人物】

◇ドワーフ戦士
役割:登場人物A
種族:ドワーフ
性別:女性
冒険者レベル:3
技能:ファイター(3) レンジャー(2) エンハンサー(1)
備考:迂闊なロリっ子ドワーフ。ピンチになることが多い


◇人間魔法使い
役割:登場人物B
種族:人間
性別:男性
冒険者レベル:3
技能:ソーサラー(3) セージ(3)
備考:ドワーフ戦士の幼馴染。普段は細目で胡散臭いらしい


◇ゴブリンシャーマン
役割:敵役
種族:蛮族(妖魔)
性別:男性
魔物レべル:5
特徴:賢いゴブリン。群れにいるとなかなかに危険


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ディア・エピック

 

 

 

 

「いるね」

 

「ほへ?」

 

 

 いつものように一日中歩き回って、へっとへとになった夜のことだ。

 テントを設置し、焚火を作り、森にあった湖の傍で野宿しようとしていると、師匠が唐突に杖を持って立ち上がった。

 周囲を見渡しても、特に動物や魔物がいるわけでも無い。

 

 

「いるって、何がですか?」

 

「おや、ぺルラ。分からないかい?」

 

「言ってくれなきゃ分かりませんよ。舐めないでください師匠。私未だにキュア・ウーンズ以外の回復魔法碌に覚えちゃいないへっぽこプリーストですからね?」

 

「ハハハ、そうだったそうだった」

 

 

 美しいピンク色の花で彩られた銀髪を靡かせながら、師匠は湖を指さした。

 つられて私も松明を手に目を凝らしてみると、灯火に照らされた水面に、魚のヒレのような形の影が浮かび上がった。

 

 

「ひゃあ!?」

 

 

 驚き、尻もちをついた表紙に、松明を湖に落としてしまう。

 消えるはずだった灯火はしかし、火が水面を蹴る直前に。

 湖からぬっと現れた、細くしなやかな腕に掴まれました。

 

 

「な、な、な!なんですか!?」

 

「アハハ!君は本当に面白い反応をするなぁ。──光明(アレステル)

 

 

 師匠は相変わらず私の痴態を見て爆笑し、掌からポウっと眩い明かりを灯しだす。

 真語魔法の第一の階位、ライト。本来なら長い詠唱と共に効果を表す魔法です。

 しかし、師匠はそれをたった一言の詠唱で魔法の効果を顕現させた。

 

 

「魔法使いか。それも相当に高位の」

 

 

 湖の中から、凛とした声が響いた。

 水の中で声を出すなんて普通は不可能なのだが、一体どうやっているのでしょうか?

 エルフならば、剣の加護によって一応は可能だが、どうやらそういうわけでも無いようだ。

 

 ザブリ、という音と共に、その影たちは水底から姿を現しました。

 美しい人間の上半身と、それと相反するような異形の魚の下半身。

 所謂『人魚』という姿を取っている魔物に、私は心当たりがありました。

 

 

「あ、マーマンですか!こんばんわ!」

 

「夜だというのに、まるで鶏のような声だな。こんばんわ」

 

 

 呆れながらも、律儀にあいさつを返してくれるマーマンの美女。

 この時点で、彼女が善よりの人間なのはなんとなく分かりました。

 人間との関係は比較的良好なこともあり、敵対する気は無さそうです。

 勿論、分類上は蛮族なので油断はできませんが。

 

 

「湖に住んでいるとは珍しい。マーマン達は基本、海に住んでいるものだと思っていたけど。数も少ないし、訳ありかな?」

 

「見ただけでそこまで分かるとは。随分と長生きなメリアのようだ」

 

 

 少しだけ驚くそぶりを見せるマーマンですが、多分彼女が想像しているよりも遥かに、師匠は長生きをしています。200年以上は確定として、もしかすれば本来の長命種のメリアの寿命である300年を超えて生きているかもしれないのですから。

 

 まあ要は年増ですね。

 コツンと杖で叩かれました。なんて師匠だ。

 

 

「随分と仲の良い師弟のようだな。君も魔法使いか?」

 

「一応はそうですが、魔法使いの弟子じゃありません。吟遊詩人としての弟子です!」

 

「なに?となれば、あなたは吟遊詩人なのか?それほどの魔力を持ちながら?」

 

「そうなるね」

 

「なんとまあ。随分と変人だな」

 

 

 そうですそうです。師匠はとても変人です。

 どれくらい変人かというと、師匠の友達が口を揃えて「あいつは変」って言うくらいです。

 ちなみにその友達の中には、ドレイクやバジリスクも含まれています。

 蛮族と友達な時点で大分変人な気がしますが、まあそこは今更です。

 

 

「変人ですけど、魔法と詩の腕は確かですよ!」

 

「そのようだ。吟遊詩人殿、どうか一つ頼み事を受けてくれないだろうか?」

 

「聞こう」

 

 

 さて、マーマンさん達の依頼なのですが。

 彼女達は本来、他のマーマンと同様に海辺に住んでいたそうなのです。

 そんな彼女達がどうしてこんな場所にいるかというと、水生の蛮族達の中でも特に凶悪な蛮族、タノンズ達との争いが原因なんだとか。

 

 

「我らマーマン達の国を荒したタノンズ達は、海底で生じた魔剣の迷宮を根城にしていたのだ。軍隊を組み、その魔剣の迷宮に攻め入った我らだが、その内の一部隊、つまり私が率いる四人のマーマンが、迷宮の罠にかかってしまった」

 

「テレポーテーションかな。随分と高度な罠だね」

 

「うむ。それにより、私達は本来の住処である海から遠く離れた陸地に放り出された。我らは海でなら無類の強さを誇るが、陸では弱い。それ故に、帰ろうにも魔物達との遭遇が心配で帰られぬ状況なのだ」

 

 

 なんとも運が悪いマーマンさん達です。

 マーマンさん達の頼みというのは、海辺に帰るまでの護衛をお願いしたいというものでした。

 一応彼女達も陸地で歩くことはできますが、マーマンとは本来水中で生きる蛮族。

 陸地ではその戦闘力は著しく低下し、ぴょんぴょんと跳ねて移動しなければならぬため逃げ脚も遅くなってしまうのです。

 

 

「……おい。何故笑っている?」

 

「い、いえ何も……」

 

 

 美しい彼女達がヒレを使いぴょんぴょん跳ねる姿を想像すると、ちょっとシュールで笑いが漏れます。いえまあ、彼女達には死活問題なのですが。

 

 

「どうか受けてはくれぬだろうか、吟遊詩人殿。あなたの魔法の腕を見込んでの頼みだ」

 

「残念ながら。僕らの今の目的地は冒険の国グランゼールなんだ。ここから海辺まで君達を連れていくのは、何日もかかってしまう。そう長い時間を使うわけにはいかない」

 

「……そうか」

 

「師匠!」

 

 

 残念そうにシュン、と項垂れるマーマンさん。

 思わず口を出しそうになるが、師匠は「けど」と付け加えて。

 

 

「対価があるなら話は別だ」

 

「それは勿論。あなた方が望むなら、私達は出来る範囲で金品を……」

 

「ああ、そうじゃない」

 

 

 師匠は首を振って、トントンと彼女の額を指で小突く。

 なんとなくやることが予想できた私は、新たな物語が作られる予感に目を輝かせる。

 

 

「君の物語が欲しいんだ」

 

「……もの、がたり?」

 

「僕は君に、今からある魔法をかける。君はそれに抵抗せず、受け入れてほしいんだ」

 

「……害がある魔法ではない、という認識で構わないか?」

 

「勿論。それが終われば、君達を故郷へと帰らせてあげよう」

 

 

 彼女の部下であるマーマンさん達は、どこか心配そうに彼女を見る。

 けれどそんな部下を優しく諭して、彼女は師匠を正面から見つめ力強く頷いた。

 

 

「分かった。やってくれ」

 

「ありがとう。感謝するよ」

 

 

 彼女達は、悲壮な覚悟をもって受け入れる覚悟をしているのだけど。

 実際には滅茶苦茶弱い、戦闘では大して使い道の無い、人を害さぬ魔法です。

 師匠が信仰しているドマイナー神格、『“物語の神”イルシオン』。

 その特殊神聖魔法の一つであるその魔法を、信者である師匠はこう呼びます。

 

 

「【ディアエピック】」

 

 

 額に指を当て、そう唱える師匠。

 実際には詠唱の必要などは無いのですが、師匠はやたら恰好を付けてその魔法名を口ずさみます。まあ、いろんな魔法を使っているから、それが慣れになっているのでしょうか?

 

 魔法による効果は、実に単純明快です。

 術者が望んだ記憶か、もしくは対象が望んだ記憶を、対象から術者に受け渡す。

 逆に、術者が望んだ記憶を、術者から対象に受け渡すこともできるというもの。

 ちなみに、抵抗されれば誰でも簡単に弾けます。一般人も例外じゃありません。

 

 はい。お察しの通り、操霊魔法の【スティールメモリー】の劣化版です。

 情報を抜き取るならあれで済みますし、師匠も操霊魔法を習得してるのでマジで産廃です。

 普通情報の受け渡しなんて口で交えればいいので、魔力を支払ってまで使う必要ありません。

 

 けれど、師匠は好んでこの魔法を使います。

 ディアエピックは、対象の記憶をただ知るのではなく、追体験という形で情報を得られる、という理由からだそうです。

 

 

「つくづく、詩のためだけにあるような魔法だなぁ」

 

 

 ただ冒険者の話を聞くだけでは分からない色んな情景を、この魔法は術者に与えます。

 詩を作るには情報が必要です。その情報をかき集めることができるのが、この魔法です。

 冒険者には見向きもされないその魔法ですが、吟遊詩人はその有用性を十二分に理解できます。

 だからと言って、私がイルシオンを信仰するわけではありませんが。

 

 

「うん、ありがとう。素晴らしい冒険の記憶だったよ、フィナ君」

 

「……あ、ああ。そうか。……なんともまあ、不思議な感覚だな」

 

 

 師匠は機嫌良く己が得た情報の記憶に舌鼓を打ち、思い出したかのように向き直る。

 報酬には仕事で報いる。子供でも知っている常識だ。

 それはそれとして、名乗っても無いのに相手の名前を呼ぶのは非常識だと思う。

 ほら見ろフィナさんも引いてるじゃないですか。

 

 

「さーて。すこし下がっていてくれたまえ」

 

 

 師匠はそう言って、長い詠唱を唱える。

 師匠ですらも簡単には使えない、超超高度な真語魔法。

 魔法の達人に辿り着いた賢者のみが扱える、次元を超える魔門。

 

 

真、第十四階位の転(ヴェス・フォルツェル)解放、移動、空間、次元(オブカ・クリル・コーロス・ディメント)──魔門(ザールヴァロータ)

 

 

 空間を繋げる巨大な門が、マーマン達の前に現れました。

 

 

「……!これは、第十四階位か!?まさか、これほどの魔法を……」

 

「これを超えれば君達の故郷さ。さ、向かうといい」

 

「……もしやあなたは、この門で私達の故郷を座標にするために?」

 

「いえ。ただ単純に詩のネタが欲しかっただけだと思いますよ、師匠は。だから気にしなくていいのです。報酬はしっかり頂きましたから」

 

 

 そう告げると、果たして彼女はどう受け取ったのか。

 何かに納得するように頷いて、私達に頭を下げ恭しく口を開きました。

 

 

「ありがとう、吟遊詩人殿。この恩は決して忘れない」

 

 

 そう言うと、次々と門へと飛び込んでいくマーマンさん達。

 師匠が魔法をしくじるはずも無いので、まあ無事に帰られたのでしょう。

 

 

「良いネタが手に入ってね。さっそく詩を考えようか」

 

「ラッキーですね、師匠!」

 

 

 私達も私達で、新たな詩のネタに目を輝かせながらペンを手に取る。

 吟遊詩人にとって一番楽しい時間の始まりだ!

 



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記憶の断片/壁の英雄

 

 

 

 

 

 英雄に憧れていたんだと思います。

 皆を助けられるような、兄のようなかっこいい英雄に。

 

 

「なれるよ。ぺルラなら」

 

「ほんと?」

 

「ほんとさ。だってぺルラは、とってもいい子なんだから」

 

「……それ、英雄になるのと関係あります?」

 

「勿論!壁の守人になるには、清い心を持ってなきゃいけないからね。英雄になるのだって、正しい心を持たなきゃできないことだ。力と知恵も、勿論大事だけどね」

 

 

 兄さんは、はにかむように笑って。

 私の頭を撫でながら、いつもかっこよく言うのです。

 

 

「英雄ってのは、皆を守れる人のことだから」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 

 

 

 剣戟の音は、基本的には煩くて不愉快です。

 鉄と鉄がぶつかり合う音だから当然ですけど、耳に変に残って嫌な感じがします。

 それが理由で、私と近い歳の女の子は皆、守り人の訓練場に顔を出そうとはしません。

 けれど、兄さんがいる時だけは、そんなことが気にならないくらいに楽しくなります。

 

 

 リィン

 

 

 鈴のような音が鳴って、次いで剣が落ちる音が響きました。

 まるで演奏会のように、その日の訓練場は綺麗な音に満ちていました。

 

 

「お疲れ様。流石の腕前だったよ、フレム」

 

「よく言うぜ、メタロ。これで俺は何回目だ?」

 

「僕が73勝目。君は27勝目だ。まだまだ追いついちゃいないさ」

 

「お前がガキの頃の記録だろ。その27勝。ったく、強くなりやがってまあ」

 

 

 兄さんは、振ると音が出る剣を使って戦う。

 初めて見る人はそれを玩具だとか、ふざけているとか言うけれど、何にも分かっちゃいない。

 兄さんにとっては、剣だけではなく、それが奏でる音すらも武器となるのだ。

 

 

「メタロさん!俺、いいですか!?」

 

「威勢がいいね、ミカ。かかっておいで」

 

「はい!」

 

 

 ついで兄さんに挑んだのは、最近になって壁の守人になったミカさんだ。

 以前は冒険者をしていたらしく、入ったばかりだというのにもう実戦で何度も戦果を挙げている、たしかな実力と実績のあるティエンスの守人だ。

 

 

「フゥ~……!」

 

 

 深く深呼吸したミカさんの目は、まるで猫のように鋭くなり。

 力を込めた両腕は、まるで熊の腕のように筋肉が膨張し、血管が浮き出る。

 一部の冒険者が扱う、錬技という技術だ。

 

 

「ハァ!!」

 

 

 尋常じゃない筋力で振るわれた両手剣は、兄さんの持つ細剣程度なら一発の打ち合いで弾きそうな程に強く、そして重い。

 

 そんな攻撃を前にしても、兄さんは特に顔色を変えるでもなく。

 ほんの少しだけ細剣を前に出し、ミカさんの刃に触れさせて。

 

 

「流石ッ!」

 

「力だけじゃ足りないよ、ミカ」

 

 

 まるで滑らせるように剣の軌道をずらし、兄さんが立っていた場所からほんの数センチだけ横の地面へと矛先を移動させる。

 最小限の力で逸らされた攻撃、されどミカさんもそれで止まるような人じゃない。

 躱されるのは織り込み済みとばかりに、剣の柄を足で踏みつけ、地面に埋まった刃を跳ね起きさせて、再びその刃を兄さんに向け振り抜いた。

 

 

 リィン

 

 

 再び、鈴のような音が鳴った。

 

 

「技だけでも足りない」

 

「ならどうしろと……!」

 

「心技体。全てを揃えてこその守人だよ」

 

「ハハッ、無茶言うなぁほんと!」

 

 

 兄さんの突きが、ミカさんを襲う。

 どうにか避けようと体を捻るミカさんだけど、それでも間に合わないくらいに速い。

 避けきれずに肩から血を流しながらも、彼は楽しそうに笑う。

 

 

「戦闘狂、ってやつなんですかね?」

 

「冒険者なんてだいたいがそんなもんだよ嬢ちゃん。戦いよりも、スリルが楽しくなってくる」

 

「へ~。冒険者って変な人達なんですね」

 

「そりゃそうさ。皆変人だよ、冒険者も、守人も」

 

「むっ」

 

 

 兄さんを含めたことに反論しようとするが、そんな間も無く音が響いた。

 いや、今回の場合は音というよりも、演奏でしょうか?

 兄さんは、まるで指揮棒を振るかのように剣を振り、曲を奏でる。

 

 

「あ、やっべ……!」

 

「唸り、示せ。獣の誇り、王者の咆哮!」

 

 

 兄さんの剣が奏でた音は、やがて実体を伴い現れる。

 その音は、まるで獣の咆哮のごとく訓練場を揺らし。

 凄まじい衝撃を間近で受けることになったミカさんは、それに耐えきれず吹き飛んでいく。

 

 

「ぐぅ!」

 

 

 倒れたミカさんの首元に、兄さんの細剣がピタリと添えられた。

 ミカさんは諦めたように笑いながら、両手を上げて降参のポーズ。

 

 

 

「チェックメイトだ」

 

「ちょっと気障(キザ)ですよ、兄さん」

 

「え、そう!?」

 

 

 恥ずかしそうに頬を染める兄さんを見て、周囲からは笑いが漏れる。

 私もそれに釣られて笑い、それを兄さんに咎められほっぺを抓られる。

 ずっと続くと思っていた、幸せな日常だ。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

 

 

「ごめんなさい」

 

 

 何もできずに、ただ震えることしかできなかった。

 一人で勝手に行動して、誰一人救えずに、隠れることしかできなかった。

 

 

「ごめん、なさい」

 

 

 英雄になる、なんて。

 できるわけが無かった、叶うはずが無かった。

 才能も無いのに出しゃばって、勇気を出した振りしてる自分に酔って。

 

 

「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 

 兄さんの死体に縋りついて、涙を流す。

 街の存亡をかけた戦いは終わった、兄さんが終わらせた。

 街は救われた、奈落の魔域は消滅した、兄さんは打ち勝った。

 

 そして、兄さんは英雄として、生きて帰るはずだった。

 私がいなければ、そうなるはずだった。

 

 

 私を庇ったせいで、兄さんは致命傷を負った。

 魔神から私を庇わなければ、あんな奴の攻撃幾らでも避けれてたはずだった。

 逃げれば済む話なのに、私はずっと逃げれなかった。

 怖くて震えて、ただそれを見ているだけしかできなかった。

 

 

 

 ごめんなさい

 

 

 我儘言って、ごめんなさい

 

 

 一人で行って、ごめんなさい

 

 

 助けようとして、ごめんなさい

 

 

 英雄になろうなんて考えて、ごめんなさい

 

 

「主役になろうとして、ごめんなさい」

 

 

 涙は、雨に濡れて掻き消えた。

 

 主役は死んだ。

 私が殺した。

 

 英雄は死んだ。

 私のせいで死んだ。

 

 

 

 私は

 

 

 

 

◆◆◆◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小鳥の囀り、風の音。

 窓を貫き輝き太陽、不快な寝汗。

 

 

「……」

 

 

 最悪の気分だ。

 一番見たくない、最悪の奴の物語を見た。

 

 

「おはよう、ぺルラ」

 

 

 師匠の声が聞こえてくる。

 珍しく、先に起きて食事の支度をしてくれていたらしい。

 香ばしい匂いが鼻をくすぐる、今日の朝ごはんはベーコンとスクランブルエッグだろうか。

 

 

「ごはんできてるよ。お食べ」

 

 

 背を向く師匠の背中に抱き着いて、ギュっと服を掴んだ。

 師匠は何も言わずに背中を貸してくれた。

 ごはんが冷めちゃいけないから、すぐに離すつもりだ。

 涙が堪えられなくなったから、それが止まるまではこうさせてほしい。

 きっと、ほんの少しだけ流せば、すぐ止むはずだから。

 

 

「ぺルラ。君は良い子だよ」

 

 

 師匠は、いつものようにそう言った。

 冷えた朝ご飯は、存外美味しかった。

 

 

 

 



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出来損ない 前編

 

 

 

 さて、どうしてこんなことになったんだろうか?

 ああそうだ、師匠と一緒に奈落の魔域(シャロウアビス)の発生に巻き込まれて、分断されて。

 その中にいたアザービースト(下位の魔神で、狼みたいな形をしてます)に追われて。

 泣き言を吐きながら逃げていたら、目の前の男に助けられたんだった。

 

 

「アッハッハッ!いやー、驚いた!まさかティエンスの女の子を助けるとは!」

 

 

 一見すれば、気の良い小年だ。

 幼さが残る端正で中性的な顔立ちは、芸術品のようにも思える程。

 けれどそんな美しさも、その頭に生えた角を見れば吹き飛んでしまう。

 

 

「ド、ドレイク……!?」

 

「へぇ。見ただけで分かるのか。迷い込んだ村人とかでは無さそうかな?」

 

 

 笑いながら、蛮族社会における最大の権力者は赤い雷を纏う槍を手にした。

 その身から発する威圧は他の蛮族の比ではなく、その目に宿す眼光は恐ろしく。

 蛮族の王、その一角を見た私は──

 

 

「きゅう」

 

「……ん?あれ、おーい。……え、気絶した?」

 

 

 バタンキュー、と気絶してしまうのでした。

 

 

 

 

 

 

 

 さて、困った。

 この倒れている少女を、僕はどう処理すればいいのだろうか?

 

 

「流石に、ここに放置するのはなぁ……」

 

 

 ドレイクのことを理解しているし、てっきり冒険者かと思ったのだが。

 (バルバロス)を見て気絶するような様子を見る限り、それは思い違いだったようだ。

 自分は別に人族を取って食うようなドレイクでもない、と先に説明しておけば、もう少し何とかなったのだろうか?

 

 

「いや、まあ信じてもらえるわけもないか」

 

 

 バルバロスと人族の間には、分厚く巨大な壁がある。

 バルバロスは人族を傷つけ、人族はその報復として蛮族を殺し続けてきた。

 バルバロスして人族と調和することは無く、人族もまた我らを拒むであろう。

 

 

「どっちでもいいんだけどね、僕としては」

 

 

 少女は気づかなったようだが、自分は真っ当なドレイクではない。

 魔剣を失い、翼を捥がれ、バルバロスの輪からも弾きだされた剣無しのドレイクだ。

 人族の間では、『ブロークン(不完全な)』という呼称で呼ばれる、竜の力を失った者だ。

 

 だから、己にとってはバルバロスも人族も、大した違いは存在しない。

 どちらも己の身方ではなく、どちらも己の敵ではない。

 産まれた時から魔剣を持たなかった自分は、まさに出来損ないの放浪者だ。

 

 だからこそ、この少女の匂いが気になった。

 自分と同じ、種族からはみ出たような、出来損ないの匂いを放つこの少女が。

 

 

「謎のティエンス。君は一体、どんな人生を歩んできたのかな?」

 

 

 答えはないと知りながらそう問いかけて、彼女を背負い歩きだす。

 入る時に感じた強大な魔力の発生源は、この少女では無かった。

 とすれば、おそらくこの魔域にはもう一人誰かがいるのであろう。

 

 多分、それと出会えば自分は負ける。

 竜にもなれず、翼も無く、分不相応の魔剣を振るう己では決して叶わぬであろ存在だ。

 できるならば出会うこと無く、さっさと魔域のコアを見つけ出し、脱出したいところだが。

 

 

 

『ジュブル』

 

 

 

 嫌な音が聞こえて、トンッと軽い音を立て10m程後ずさった。

 予想通り、先ほどまで立っていた場所に巨大な触手が鞭のように打ち付けられた。

 タコのような触手を二本持ち、胴体に巨大な一つ目を持つ魔神。

 

 

「ナズラックか」

 

 

 嫌なタイミングに来られたものだと、迫る触手を槍で受け流しながら打開策を考える。

 少女を降ろせばどうとでもなる相手だが、そうすればこいつの狙いは彼女に向くだろう。

 魔神にとってティエンスは邪魔で不快な存在で、優先して倒すべき障害だ。

 

 

「しょうがない」

 

 

 深い溜息を吐き、短い呼吸と共に筋肉を膨張させる。

 錬技と呼ばれる技術を利用し、ケンタウロスの如き縦横無尽の敏捷さで魔神に近づく。

 ナズラックの巨大な目も、見る相手を捕えられぬのならば意味は無い。

 

 

「速攻で決める方向で行こう」

 

 

 槍の穂先を触手に突き刺し、力任せに振り抜いた。

 ぶちぶちと嫌な音を立てながら、ピンク色の肉が引きちぎられていく。

 悲鳴のような音を立て、ナズラックはもう片方の触手を振り抜いた。

 

 

「知性が無いんだっけ?可哀想に。あったのなら、この世界はもっと輝くというのに」

 

 

 技とは、知恵と身体、そして経験が合わさり始めて形を成すものだ。

 知恵も経験もろくに無い、図体だけの怪物(モンスター)では、本当の怪物(理不尽)には敵わない。

 とは言っても、自分もそこまで技を極められているわけでも無いのだが。

 

 

「哀れみと慈悲を以て終わらせてあげよう。僕はバルバロスの中ではかなり優しい方なんだ」

 

 

 錬技を使って己の筋力を熊のように引き上げ、魔力を穂先に込めて槍を突く。

 緋色の魔力は槍と共にナズラックの肉を削ぎ、巨大な目玉に大穴を開ける。

 片腕が塞がっているので全力で振り抜けなかったが、まあこんなものだろう。

 

 

「う、うぅん……」

 

「おっと、揺らし過ぎたか。……グロテスクなのは見せたくない」

 

 

 少女をこの場に置いていく、なんていう選択肢は最初から存在しない。

 自分の美学に反するし、一度助けた命には最後まで責任を持たなければならない。

 気まぐれに命を助けて、その後は「頑張ってね」じゃあ夢見も居心地も最悪すぎる。

 

 

「さて、さっさと先に──」

 

 

 進もうとした瞬間、自分とは格が違う『怪物(理不尽)』側の気配を感じ取ってしまった。

 どれほどの経験を積んでもたどり着けないかもしれない、才能と実力の暴力。

 ドレイクという種族ですらも及びつかぬ、神のきざはしを登りし者。

 

 

「……もしかしなくても、彼女の保護者かな?」

 

 

 見られている、という疑念は確信に変わっていた。

 それほどの実力を持つ何者かが、僕如きを相手に遠視する術が無いとは思えない。

 殺気は無いようだし、もしかすればこの状況を楽しんでいるのかもしれない。

 どちらにせよ性格が悪い。見ているならば、さっさと助けてあげればいいのに。

 

 

「まあ、いいや」

 

 

 助けに来ないということは、それなりに信頼されている子なのだろう。

 軽く頬を叩いてあげると、ティエンスの少女は呻きながら目を開ける。

 暫くの間状況を理解できず目をぱちくりと瞬かせていたが、すぐに異変に気付いたようだ。

 

 

「うわああああ!?な、なんですか!?なんで私の目の前にドレイクが!?」

 

「よくわかったねぇ、ドレイクだって」

 

 

 素直に感心する。何せ、今の僕にはドレイクであることを示すものは額に生えた二本の角しかない。本来ならば存在する翼は捥がれ、手に持った魔剣とて、ドレイクが本来所有する、産まれつき持つ魔剣ではなく、成り行きで拾ったものだ。

 

 その角だって、ナイトメアが持つ角とは少し大きさが異なるだけでさして違いは無い。

 彼女の観察眼と知識量は、それなりのものらしい。

 

 

「安心してくれ。別に取って食べたりはしないさ。ほら、ドレイクはドレイクでも、壊れた方だから。君が敵意を見せない以上、戦う理由は無いさ」

 

「……ドレイクブロークン。魔剣を失ったドレイク、ですか。あれ、けど……」

 

「これは外付けだ。僕自身、これを扱いきれる程の技量が無くてね。竜の形態になるには剣の結晶がいるし、魔剣自身も僕を認めてくれてない。だからまあ、誇りも尊厳も失った、哀れな元ドレイクとして扱ってくれればいいさ」

 

「な、なるほど。つまり、あなたは私を助けてくれたんですかね?踊り食いしようとか、そういう思惑があるわけでも無く、純粋な善意で?」

 

「そうそう。だから安心していいよ」

 

 

 彼女は少し動揺しつつも、敵意が無いと分かったのか、安心したように息を吐く。

 よくよく見れば、彼女の右手には聖印が刻まれており、その聖印の形は妖精神アステリアのものだった。どの程度の階位かは分からないが、神聖魔法は使えるらしい。

 

 

「蛮族にはあんまり拒否感が無いタイプかな?これでライフォス神官とかだったら、話し合いも出来なかったかもしれないし助かるよ」

 

「ラージャハ帝国では、ドレイクブロークンを名誉人族として扱う文化もありますし。味方してくれるなら、裏切らない限りはそう敵意を向ける必要はないですから」

 

「柔軟だね。冒険者に向いていそうだ」

 

「あ、一応名前は教えておいた方がいいですかね?ぺルラ、と申します」

 

「ぺルラちゃんか。僕の名前はカユマルス、よろしくね!」

 

 

 ひとまず意思疎通は可能で、蛮族に対して敵意だけを持つ人物ではないと分かった。

 これならば、少なくとも奈落の魔域を脱出するまでは協力してくれそうだ。

 神聖魔法を使える人間は貴重だし、後衛としてこれほど頼りになる魔法使いもいない。

 

 

「お互いに困っているようだし、この場所から脱出するまでの間は共闘しないかい?君に戦う力は無いようだけど、癒す力はあるんだろう。僕は癒す力は無いが、戦う力は持っている。利害は一致すると思うんだ」

 

「……そう、ですね。いつもなら頼る師匠もいませんし。少しの間ですが、よろしくお願いします、カルマユスさん」

 

「話が早くて助かるよ!よろしくね、ぺルラちゃん」

 

 

 彼女とていきなり蛮族に心は開きはしない、現に今だって警戒の眼差しは解けていない。

 それならば、お互いの利益を提示し、短い間の共闘とした方がお互いのためだろう。

 それに、ここはそれなりにレベルの高い場所のようだし、回復役はほしい。

 

 

「じゃ、アビスコアを目指してレッツゴー!」

 

 

 何よりも、彼女個人のことが気になった。

 彼女が僕に向ける目は、警戒もそうだが、何よりも好奇心が籠っている。

 確信する。多分彼女は僕の同類で、同じように致命的な何かを失った者なのだろうと。

 

 

「(だと言うのに、なんで君はまだ諦めちゃいないんだろうね?)」

 

 

 希望を追い求め、光を目指して歩むような彼女の瞳が気になった。

 自分と彼女の違いは何か、彼女の目指す物が何か、それに興味が湧いた。

 

 

「(暇つぶしにはちょうどいい)」

 

 

 自分は所詮ドレイクだ。人間に興味以上の感情が湧き上がることは無い。

 けれどもしかしたら、仲間が出来るかもなんて思いながら、少し上機嫌に歩を進める。

 



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