してんのっ! ~魔王軍四天王のお仕事はアイドル活動~ (ぶしゅくろライオン)
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第0話:どうしてこうなったのっ!

 魔王城の大会議場(ライブステージ)には約一万もの魔族が集まり、新たな四天王(アイドル)の登場を今か今かと待ちわびていた。

 会場は立ち見が出るほどの超満員で、国境付近の防衛などで会場に来ることが出来ない不運な者のために、遠見の魔法によるライブビューイングも行われている。

 

 ひと月ほど前に四天王が一人欠けてしまい、皆悲しみに打ちひしがれていたため新四天王(新人アイドル)の誕生は大変喜ばしいことなのであった。

 そもそも『四天王』なのに三人しかいないというのは決まりが悪い。

 

 「それでは、皆さんお待ちかね! 新四天王のユーフィちゃんによる所信表明演説(デビューライブ)です!」

 

 司会をしていた金髪の少女がその言葉と共に舞台袖に消えると、反対側から一人の少女が姿を現した。

 

 その少女は先ほどまで舞台に立っていた少女よりも幼く、10歳くらいに見える。

 まだ幼さの残るその顔は誰が見ても非の打ち所がない美少女であり、大きくぱっちりとした眼はエメラルドのように深く澄んだ翠色を湛えていた。肩下まで伸びた銀色の髪はやわらかくふんわりと波打ち、少女が歩くたびに踊るように揺れて煌めいている。

 

 「天使だ――」

 「天使がいる――」

 

 舞台の中央へ歩みを進める少女を見つめ、会場から何処からともなくため息のように呟きがこぼれる。

 

 やがて少女がマイクの前にたどり着くと、彼女の言葉を一言も聞き漏らすまいと会場は水を打ったように静かになった――。

 

 「あ、あのっ! えーっと、ボクがこの度四天王に就任したユーフィです……」

 

 ユーフィと名乗った少女が喋り始めると、会場にどよめきが起こる。「ボクっ娘だ!」「ボクっ娘ロリktkr(キタコレ)!」といった囁きが漣のように会場に沸き立ったが、彼女の次の言葉を聴くためまたすぐに静寂が訪れた。

 

 「……正直なところ、まだよくわからないことばかりですが、精一杯がんばりますので、皆さんどうかよろしくお願いします!」

 

 少女がたどたどしく、言葉通り精一杯に気持ちを伝えると会場から割れんばかりの拍手と歓声が上がった。

 

 前任のショッキングな退任事件(スキャンダル)から部下(ファン)たちは悲しみや怒りを抱えていた。そんな部下たちにとって、この幼くも一生懸命で純粋な美少女は、傷ついた心を癒し、新たな夢を見させてくれる天使だと思えたのである。

 

 ――前任のビッチと違い、このユーフィたんのなんと初々しいことか。きっと今までに話したことがある異性は、お父さんやおじいちゃんだけに違いない。俺が、俺たちがお兄ちゃんだ!

 

 皆が好き勝手に妄想を垂れ流していると、ユーフィの後ろでギターやドラム奏者が準備を始めた。その様子をそわそわと見守っていたユーフィは、演奏者の準備ができたことを確認すると前を向いて口を開いた。

 

 「そ、それでは聞いてください『今日からボクが四天王!』」

 

 軽快なリズムでイントロが流れ出す。

 一斉に会場の魔族達が剣を掲げた。光る剣(サイリウム)である。

 しかし、ここで1つの問題に直面する――。

 

 『新四天王であるユーフィちゃんのイメージカラーはどうするのか?』

 

 だが、この会場にいる魔族は魔王城周辺勤務、つまりは魔王や四天王を守護する重要な任に就く一騎当千の精鋭達である。ユーフィちゃんは銀髪なのだから銀色……、は難しいので白色! と一瞬で判断を下し、初めての曲にも一糸乱れぬ完璧な合いの手を披露する。

 これくらいで動揺しては精鋭の名折れである。エリート魔族はうろたえない。

 

 新四天王ユーフィによる所信表明演説(デビューライブ)は、彼女の美声と部下たちの応援が一つになり大盛況で幕を閉じたのであった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 無事に所信表明演説(デビューライブ)が終わり、機材などが片付けられていく様子をユーフィは誰もいなくなった客席に座りながら眺めていた。

 お祭りが終わった後のような物寂しい気分がして、もう少しここに居たかったのだ。

 

 ユーフィがしばらくそうしていると、先ほどまで司会をしていた金髪の少女がコップを片手にこちらへやって来るのが見えた。彼女はユーフィに笑いかけながらコップを手渡し、隣の席に腰を下ろす。

 

 「お疲れ様~。はい、これお水」

 「ありがとうございます。ロザリーさん」

 「それで、どうだった? 初仕事(ライブ)の感想は?」

 

 

 

 ロザリーと呼ばれた少女はユーフィを見つめながら今日の初仕事について尋ねた。その表情はどこか楽しげであり、妹を気遣うお姉ちゃんのようであった。

 

 「うーん……。なんというか、すごかったです」

 

 ユーフィはそう答えると両手で持ったコップに目を落とし、ついさっきまでの光景を思い出しながら、ふにゃりと笑った。

 

 「ま、これが私たち四天王のお仕事だからね~。別に嫌ではなかったんでしょ?」

 「はい。前から歌うことは好きでしたし――」

 「じゃあ大丈夫だよ! ユーフィちゃんすっごくかわいいし歌も上手だし、これから一緒に頑張ろうね!」

 「あ、ありがとうございます……。よろしくお願いします」

 

 ユーフィの答えを聞いてロザリーは満足したのか嬉しそうに笑いながら立ちあがった。

 

 「――でも、男性関係(スキャンダル)には本当に気をつけてね? 前任がそれで一騒動あったし……」

 「そ、そんなこと絶っ対にありえません!」

 「そーだよね~。ユーフィちゃんにはまだ早かったかな」

 

 ロザリーは男性とのお付き合いについての忠告に顔を赤くして必死に否定するユーフィちゃんを見て、まだまだそういった感情を覚えるには早かったかなと考え、笑いながら去って行った――。

 

 一方、残されたユーフィは頭を抱えた。

 

 ユーフィにしてみれば男と付き合うなどありえないのである。

 その点で言えば、確かにユーフィは前任――部下(ファン)との爛れた関係を週刊誌にすっぱ抜かれて引退した――の穴を埋めるのに最適であろう。

 もし、二度も続いて四天王(アイドル)がどこぞの男とイチャイチャしたなんてことになれば繊細な魔王軍(ファンたち)は壊滅してしまうに違いない。

 

 絶世の美少女で――10歳なのでスタイルはつるぺたであるが――歌も上手く、男とチョメチョメの心配もない。まさに理想の少女(アイドル)であるユーフィちゃんであったが、実は一つだけ問題があったのだ。

 

 ――ユーフィは『元』男なのである。

 

 昨日まではこことは違う世界で普通に会社員をしていたのに、気がつけばこんな世界に召喚され、何故か10歳のゆるふわ銀髪美少女ロリになって魔王軍四天王という名のアイドルになっていた。

 訳が分からない。確かにアイドルを見るのは好きだったし歌うことも好きであったが、自分が美少女アイドルになるとは考えもしなかった。

 スキャンダルには気をつけろと言われても、そもそも男になんて何の興味もないのだ。

 

 「――どうしてこうなった」

 

 ユーフィちゃんの嘆きは、ため息と一緒に誰もいなくなった会場に吸い込まれて消えていった――。

 



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第1話:召喚するのっ!

 魔王城にある四天王専用の執務室(楽屋)では、三人の少女がティータイムを楽しんでいた。その三人は全員が紛うことなき、とびきりの美少女であり三者三様の魅力を備えていた。

 

 腰まで伸びた青い髪を持つ少女は女性的な魅力にあふれた体つきをしており、三人の中では一番大人びて落ち着いた雰囲気を感じさせる。

 対して、肩上までの短くまとまった赤髪に狼のような獣耳をもつ獣人の少女は健康的で活発そうである。

 最後に、三人の中で一番年下であろう少女は金色の髪をツインテールにまとめた、まさに正統派美少女といった感じであった。

 しかし、そんな美少女だらけのティータイムという夢のような空間には、どこか思い詰めた様な重苦しい空気がながれていた――。

 

 「……さて、そろそろなんとかしないといけませんわね」

 

 青い髪の少女が物憂げに呟く。豊満な体つきも相まって妙に艶めかしい。

 

 「そうは言うてもこの一ヶ月間、探しても誰も見つからんかったやん。エリーゼはなんかアテあるんか?」

 

 赤い髪の獣耳を持つ少女がその言葉に反応し、青いロングヘアーの少女に聞き返した。

 

 「ありませんわ……。コレットはないんですの?」

 「んなもん、あったらとっくに連れて来とる」

 

 赤い髪の少女――コレット――はお手上げだと言わんばかりに肩をすくめてエリーゼと呼ばれた青い髪の少女の問いに答えた。

 エリーゼは「その通りですわね……」と呟くとため息を飲み込むように紅茶を飲みほした。

 

 「まあ、はよなんとかせなアカンってのは確かやけどな。ビッチィが辞めてから魔王様の落ち込み様とか半端ないし」

 「魔王様は特にビッチィちゃん推しでしたから……。仕方ないですわ」

 

 彼女たちを悩ましている問題とは、ひと月ほど前に四天王を退任したビッチィちゃんの後任問題である。

 ビッチィちゃんは、男性とお城みたいなホテルから腕を組んで出てくる写真を週刊誌に掲載され、それを発端に爛れた男性関係が芋づる式に明らかになって引退を余儀無くされたのである。

 ビッチィちゃんが処女だと信じて疑わなかった部下(ファン)たちのショックは凄まじく、四天王の中でも特にビッチィちゃんを推していた魔王様の落ち込みっぷりは世界の終わりを告げられたかの様であった。

 

 その魔王様は「こんな思いをするのならスライムやひのきの棒に生まれたかった」と血を吐くように呟いたあと、自室に引き籠っている――。

 

 『ビッチィ・ショック』の傷を癒し、魔王軍を立て直すためにもできるだけ早く新たな四天王を見つけることが必要であった。しかし、四天王にふさわしい美貌と魅力を持つ者は、そう簡単に見つかるものではない。

 四天王(アイドル)とは魔王軍(オタクたち)の力の源である。何万もの魔族を夢中にさせ、この子たちのために死んでも良いと思わせるほどの魅力を持った者でないと四天王になることはできないのだ。

 

 「ロザリーは何かいい案はありませんの?」

 

 エリーゼが今まで沈黙を守っていた金髪の少女に問いかける。

 別に彼女は普段から口数が少ないというわけではない。それがここまで何かを考え込んでいるかのように一言も喋っていない。そのことが気になったエリーゼは、ロザリーには何かしらの案があるのではないかと聞いてみたのだ。

 

 「……ん~っと、多分ね、ビッチィちゃんの後任ってなると、きっと世界中探しても見つからないと思うんだ」

 

 そう話したロザリーの言葉に、他の二人は心を見透かされたような気分になった。もちろん必死に探してはいたが、心のどこかではそう思っている部分があったのだ。

 ビッチィちゃんは確かにビッチではあったが、彼女の魅力は間違いなく本物だった。その彼女の後任など誰に務まるのか――。もういっそのことビッチィちゃんに戻ってきてもらった方がマシなのではないかと思い始めていたくらいである。それくらいにビッチィちゃんの人気と魅力は絶対的であった。ビッチだったが。

 

 「いや、だからって諦めるわけにもいかんやろ――」

 「うん。だから、この世界を探しても見つからないなら、別の世界を探せばいいんじゃないかなって」

 

 そうは言っても後任探しを諦めるわけにもいかないだろうと言うコレットに対し、ロザリーは一つの考えを提示する。それはこの世界にいないなら別世界で探せばいいんじゃないという至極簡潔なものであった。

 『別の世界から探す』という言葉が意味するものは――。

 

 「――『召喚』ですの?」

 

 エリーゼがその答えを口にする。

 『召喚』とは、この世界とは別の世界から生物を呼び込む儀式魔法であり、人間が行う『勇者召喚』が最も有名である。

 この魔法を発動させるためには数十人分の膨大な魔力に加え、何千、何万もの『想いの力』が必要になる。したがって、この魔法は主に人間が勇者を召喚する際のみに使われるのが通例である。

 というよりもその発動条件から勇者の召喚くらいでしか成功しないのだ。

 どうしようもなく追い詰められ、戦う力のない無力な人間たちの救世主誕生を願う共通した想いがあるからこそ救世主である勇者の召喚が成功するのである。

 

 対して魔族は個人の力が非常に強い。戦えずに祈るだけの無力な者は存在しない。

 そうなると『召喚』に必要な『想いの力』が存在しないため、この魔法が成功することは本来なら絶対にありえないのだ。

 そう、本来であれば――。

 

 「今のこの状況ならきっと成功すると思う。ビッチィちゃんの事件で魔王様をはじめ数万人がショックでふさぎこんでる。そして、彼らの想いは一つ。裏切られ傷ついた心を癒してくれる新たな四天王。魔力に関しては人間たちなら数十人必要かもしれないけど、私たちならこの三人でも十分足りるはずだよ」

 

 「なるほどな。いけそうやん!」

 「……試してみる価値はありますわね」

 

 ロザリーの説明にコレットとエリーゼがうなずく。

 普段なら成功など絶対にあり得ないが、確かに今の状況ならば話は別だ。ビッチィちゃんの影響が大きかったからこそ『想いの力』は大きくなる。

 魔王軍の想いはただ一つにまとまっている。

 

 そうと決まれば早速『召喚』である。この一ヶ月悩み続けた問題の解決策がわかったのだ。今までくすぶっていた分、行動は早い。

 文献に従い『召喚』の魔法陣を描き、その周りに三人が立つ。

 

 「――じゃあ、いくよ?」

 

 ロザリーの確認に二人が無言で頷く。

 三人の魔力が魔法陣に流し込まれ、陣が光を放ち始める。やがて目を開けていられないほどの激しい光が生まれ、世界は光に包まれた。

 

 ――この時、絶望の淵に沈んでいた魔族たちは自身が救われたことを感じ取った。

 

 『召喚』の結果は使われた『想いの力』を通してその想いを持った者たちに伝わるのだ。

 ある者はもう二度と使わないだろうと封印していた伝説の光剣(サイリウム)を手に再び立ち上がったし、自室で首を吊る準備をしていた魔王は「生きねば」と涙を流して崩れ落ちた。

 

 「ど、どうなったん――」

 

 光の奔流がおさまり、目を開けたコレットが一点を見つめて言葉をなくした。他の二人も呼吸を忘れたかのように、ただそこを見つめている。

 

 ――光が消えた魔法陣の中心には全裸の天使がいた。

 

 歳は10歳ほどであろうか。不安げにきょろきょろと周りを見渡している。頭を動かすたびに柔らかそうな銀色の髪が躍った。

 

 「え、えっと、言葉はわかる? あの、あなたのお名前は?」

 

 見とれていた三人の中でいち早くロザリーが正気に戻ると、銀髪の天使に話しかける。

 

 声をかけられた彼女は初めてロザリーたちに気付いたようにビクリと動きを止めて、その吸い込まれそうな翠色の目で三人を見上げると、何か考え込むように俯いた後、ぽつりと呟いた。

 

 「――ユーフィ」

 

 この日、後に世界のアイドルとなるユーフィがこの世界に召喚されたのである――。

 



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第2話:召喚されたのっ!

 ――気が付くと彼は全く覚えのない場所にいた。

 

 ここはどこだろうと軽く周りを見渡す。さっきまで自分は神社にいたはずだ。お賽銭を入れて鈴をガラガラと鳴らしていたら、光に包まれて引っぱられるように体が浮き上がる感じがしたところまでは覚えている。参拝方法が間違っていたとかで神様の怒りにでも触れてしまったのだろうか――。

 

 「―、―っと、――――かる? あ―、―なた―――前は?」

 

 不意に誰かの声が聞こえてビクリとする。考え込んでいたために何と言ったのかは聞き取れなかったが、声が聞こえた方を見てみると、三人の美少女が彼を見つめていた。

 その三人をよく見てみると、赤い髪をした少女の頭にはケモ耳がついてピコピコ動いていた。地球にはケモ耳少女は実在しない。

 ――ここに来る前に謎の光に包まれて体が浮きあがったこと、そして目の前にいる地球人ではありえないケモ耳少女。これらから導き出される結論。そう、この場所はおそらく――。

 

 「――UFO」

 

 おもわず声に出してつぶやいてしまったが、ここはUFOの内部に違いないと彼は確信していた。光に包まれて浮き上がるなど、常識的に考えてUFOにアブダクションされた以外考えられない。

 そうなってくると自分はこの後どうなるのだろうかと不安になってきた。やっぱり目の前の美少女宇宙人たちによって解剖とかされてしまうのだろうか……。

 

 そう思って自分の身体に目を落とすと全裸であった。

 

 「――ふえぇっ!?」

 

 彼はここにきて初めて動揺した。知らない人たちの前でずっと全裸だったということも衝撃だったが、それよりも問題なのは自身の身体である。明らかに自分――男性――の身体ではない。女性の、というかロリっ娘の身体である。つるぺたであった。

 

 「あ、ごめんねユーフィちゃん。裸だと恥ずかしいよね? 私の服貸すからついて来て」

 

 金髪ツインテの少女がそう言いつつ、彼の手をとり歩き出す。どうやら彼女は、彼が自分の身体を確認して慌てふためいたのを、裸であることを恥ずかしがったためだと判断したらしい。

 

 彼はユーフィちゃんって誰のことだろうと思ったが、状況的に自分以外にはあり得なさそうである。

 

 別に名乗ったわけでもないのに、なぜユーフィと名付けられているのか。さっきおもわず上げてしまった驚きの声以外には、『UFO』くらいしか言っていないが……。

 

 ――ああ、UFO(ユーフォー)を聞き間違えてユーフィになったのか。

 

 そうなると、一番最初に聞こえてきた声は「お前は誰だ?」みたいなことを聞いていたのだろう。

 我ながら素晴らしい思考能力だと彼は自画自賛した。慌てず騒がず、冷静に考えて行動することには自信があった。履歴書の長所に『思慮深いこと』と書いてきたくらいである。ちなみに短所は『考え込んで周りが見えなくなってしまうことがある』だ。

 

 「――ねえ、ユーフィちゃん聞いてる? なんかドヤ顔してるけど、もしかして具合悪い? 大丈夫? かわいいけど」

 

 気付くと金髪ツインテ少女が心配そうな顔で見つめていた。思考の海に沈んでいる間にまた何か話しかけられていたらしい。

 

 「えっと、ごめんなさい。聞いてませんでした」

 「も~。……これと、これ、どっちの服がいい?」

 

 彼女はそう言いながら左手と右手にもった服を見せてくる。片方はシンプルな白いワンピース。もう片方はなんかフリルがフリッフリのお姫様みたいな服だった。

 

 「……そっちのシンプルな方でお願いします」

 

 その二択ならば消去法で白ワンピである。彼にとって白ワンピも厳しかったが、フリフリのお姫様みたいな服を着るのはもっと厳しかった。

 着替えが終わって鏡の前に連れて行かれたとき、彼は初めて『今の自分』(ユーフィ)を見た。

 

 ――とんでもない美少女ロリがこちらを見つめて立っていた。

 

 銀髪ロリの白ワンピ仕立て――サイズが少し大きいので肩ひもズレVer――である。これはちょっと、色々とまずいのではないだろうか。

 

 「お茶とお菓子の準備できたでー」

 「さあ、ユーフィちゃん、こちらに来てお話しましょう? 色々と説明することもありますし」

 

 アホみたいな顔で彼が自分自身と見つめ合っていると、ケモ耳少女と青髪おっぱいさんがお茶の準備ができたと呼びに来た。金髪ツインテ少女と着替えている間に、二人はお茶会の準備をしてくれていたらしい。

 

 「二人ともありがと~。ほら、行こ! ユーフィちゃん」

 

 またしても金髪ツインテ少女に手を握られて連れて行かれる。完全に子ども扱いである。

 

 「誠に遺憾である」

 「ユーフィちゃん難しい言葉知ってるんだね。えらいね!」

 

 彼は年下の少女から子ども扱いされていることに対し、自国の外交における魔法の言葉を使って気持ちを伝えたが、子ども扱いがさらに加速しただけであった。宇宙人との交渉は失敗に終わった。

 だが、彼女たちはどうやら友好的な宇宙人らしい。すぐに解剖とかはされずに済みそうだと彼は安心し、『色々と説明』してくれると言うお茶会へ参加した――。

 

 

 

 

 

 

 

 「――ということですの」

 「え、えっと、はい。だいたい分かりました。――多分」

 

 おっぱいさん――エリーゼ――から説明されたことを彼は頭の中で整理する。

 とりあえず、ここはUFOの中で彼女たちは宇宙人だというのは間違いで、正しくは、ここは異世界で彼女たちは魔王軍四天王らしい。そして自分は足りてない四天王の穴埋め要員として『召喚』された。

 また、彼女たち魔族側は、人間側――勇者もいるらしい――と戦争状態にあるということも分かったが、聞いてる限り魔王軍四天王のお仕事内容が想像していたのと違う気がする……。

 

 「あの、四天王のお仕事って、皆さんを『応援』することなんですか? その、戦ったりするのではなく?」

 「そやでー。部下が頑張れるように歌って踊って応援するんが、うちらのお仕事やな」

 「だいたい私たちあんまり強くないしね。そりゃ魔族だし普通の人間には負けないかもだけど、勇者とか強い人と闘うなんて無理無理。死んじゃうよ~」

 

 彼が疑問に思ったことを尋ねるとケモ耳さんとツインテさんこと、コレットとロザリーが答えてくれた。

 どうやらこの世界の魔王軍四天王はかわいいだけで雑魚らしい。でも、その四天王にカッコイイところを見せようと部下たちが頑張っちゃうことで魔王軍の戦力は維持、強化されている――。

 つまり、アイドルとその熱狂的なファンってことか……、と彼は理解した。

 

 ――いやいや、魔王軍なにやってんの!? バカばっかなの?

 

 彼も、自分が新四天王になるために召喚されたのだと聞かされたときには少しわくわくしたのだ。彼女たちの髪色から炎と水と雷属性なのかなと妄想し、じゃあ自分は何属性を司る四天王なのかなとか考えていたらこれである。

 ロリ属性の需要を満たす四天王であった。

 わざわざ召喚してくれた彼女たちには悪いが断ろう。そもそもこんな見た目になってはいるけど中身は男だし。

 彼がどうやって話を切り出そうか悩んでいるとお茶会はお開きになったのか三人が立ちあがった。彼も慌てて立ち上がる。

 

 「でも新しい子が見つかってよかったよ~。これでやっと新生四天王として活動できるね!」

 

 ん? 何かイヤな流れだぞ、と彼は思った。

 

 「そうですわね。魔王様のところへ行きませんと。一応、採用権限は魔王様がお持ちですから」

 「ちょ、ちょっと――」

 「ま、ユーフィなら一発合格間違いなしやろー」

 

 この子たち、話を聞いてくれない。彼は泣きそうになった。

 元男として四天王(アイドル)になるつもりはなかったのだが、彼女たちの中ではもう決定事項らしく、新たな仲間の手を握りながら魔王のところへ彼を連行していく。

 

 ――今ならまだ間に合う。手を振りほどいて『やらない』と一言伝えるだけだ。

 

 今断っておかないと絶対に面倒なことになるに決まっている。中身が男なのに美少女ロリアイドルなんてやれるはずがない!

 でも、彼の手をひきながら笑う彼女たちは本当に嬉しそうで、そんな彼女たちを悲しませたくなかったから――。

 

 他に誰かが見つかるまでなら、まあ、少しくらいやってみてもいいかなと思ってしまったのだ。

 

 それからは、休む間もなかった。

 コレットの言う通り魔王様から一発で採用を言い渡された後、翌日に控えたデビューライブに向けた曲の練習に衣装のサイズ合わせ等、次から次へとやることが押し寄せ、気が付けばライブが終わっていた。

 

 ライブが終わった後もどこか現実味のないふわふわした感じがして、彼は客席から撤収作業を独りで眺めていた。しかし、労いにやってきたロザリーとの会話で一気に現実に引き戻され、彼は頭を抱えて悶絶した。

 

 あまりの忙しさでランナーズ・ハイみたいな無敵状態になって忘れていたが、彼は自分の姿がロリっ娘であることを思い出したのだ。冷静になって、ミニスカートにヘソ出し衣装で歌って踊っていた自分を振り返ると恥ずかしさで死にたくなってきた。ポーズとかもバッチリ決めてた気がする。

 

「――どうしてこうなった」

 

 どうしてこうなったかと言えば、断れずに流された結果としか言いようがない。少しくらいと思っていたら、もう引き返せないところまで一気に流されてしまった。

 

 それでも、流されるままにたどり着いたその場所は、死ぬほど恥ずかしかったが悪くなかったように思う。次はもう少し落ち着いた衣装にしてもらえば――、などと考えていたことに気付き彼は苦笑した。何だかんだ言っても楽しかったのだ。

 

 今まではそんなこと、考えたこともなかったが――。

 

 

 

 アイドル(四天王)っていうのも案外悪くないかもしれないなとユーフィは笑った。

 



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第3話:お仕事するのっ!

 ユーフィのデビューライブから一夜明け、執務室(楽屋)には一ヶ月ぶりに四天王全員が揃っていた。

 四人が囲んでいる机には、今朝の新聞が集められて並んでいる。

 

 「やっぱりどの新聞も一面で昨日のライブについて取り上げてるね」

 

 机に広げた各社の朝刊を覗きこみながらロザリーは楽しそうだ。

 どの新聞にも、一面にはステージ上で歌っているユーフィの写真がデカデカと掲載されている。覗きこんだユーフィは顔を引きつらせながら、潰れたカエルのような呻き声をこぼした。

 

 「おおー、この写真よう撮れとんなー。ほれ」

 「や、やめてください!」

 「えー、恥ずかしがらんでもえーやん。かわいいで?」

 

 コレットが皆に見えるように持ちあげた新聞には、バッチリとカメラ目線でポーズを決めたユーフィが載っていた。まさにプロカメラマンによる珠玉の一枚であったが、恥ずかしさに耐えきれなかったユーフィによりコレットの手から即座に回収される。

 隣に座っているロザリーが「買わなきゃ……」と呟いていたがユーフィは聞かなかったことにした。

 

 「そうそう、ユーフィちゃんはまだユウさんに会っていませんわよね?」

 「ユウさんですか? ……会ってないと思います」

 

 エリーゼの口から出てきた名前について記憶を探ってみたが思い当たる人物はいなかった。そもそも、この世界では四天王と魔王くらいしか今のところ知り合いと呼べる人はいない。

 

 「ユウさんっていうのはね、私たちのマネージャーさんなんだよ!」

 「ユウ・ノゥって言うんやで」

 

 ユウさんとは四天王のマネージャーらしい。名前からしてすごく有能そうである。

 

 「すぐにユウさんが来ると思いますから、ユウさんが来たら今日のお仕事を確認するといいですわ」

 「そ、それって『本日は○○時から××で会食、その後△△へ移動し□□時からの食事会に出席となっております』みたいなやつですか!」

 「え、ええ。まあ、そんな感じですわ。というかその予定、食べてばかりですわね」

 「すごい! かっこいい!」

 

 普通のサラリーマンだったユーフィは、マネージャーが付くなどまるで芸能人みたいだと興奮した。三人はユーフィがいきなり喜んだので驚いたが、子どもらしくはしゃいでいるユーフィを微笑ましく見つめていた。

 その時、執務室のドアをノックする音が響き、四人の視線が自然とドアの方へ集まった。

 

 「失礼します」

 

 スーツに身を包んだ背の高い女性がドアを開けて入ってくる。

 すごい! なんか動きに無駄が全然ない! と一連の動きを眺めていたユーフィは感動した。スーツをびしりと着こなしたその姿から溢れ出す、仕事できますオーラ。この人が有能マネージャーのユウさんか、と理解する。

 

 「初めまして、ユーフィ様。私、四天王の皆様のマネージャーを任されております、ユウ・ノゥと申します。よろしくお願いします」

 「は、初めましてユーフィです。こちらこそよろしくお願いします、ユウさん」

 

 こっちへやって来たユウさんの丁寧な挨拶に、慌ててユーフィも立ち上がり対応する。

 彼女を見上げながら、背が高くてカッコイイなあ……、とユーフィは羨ましく思った。170cm近くあるんじゃないだろうか。

 

 ――ちなみにユーフィの身長は139cmということが昨日の衣装合わせで判明している。

 

 「本日の予定は皆様、主に取材と撮影となっております。特にユーフィ様は不慣れなうえ数も多く大変だとは思いますが、私もできる限りサポート致しますので頑張りましょう」

 

 ユウさんによると新生四天王始動ということで、しばらくは各メンバーへのインタビューや写真撮影でスケジュールが埋まっているとのこと。新メンバーが入ったということもあって、他の三人もグッズなどをユーフィと合わせて新しく作り直すらしい。部下(ファン)たちの信仰力が試されそうだ。

 

 午前中は撮影だというので、皆で連れだって下の階にあるという撮影スタジオに移動した。

 この魔王城はライブステージや撮影スタジオが完備されているが、もし勇者が魔王を倒しにやって来たら色々と大丈夫なのだろうか――、心配になってくる。

 撮影が始まるとユーフィはまるで着せ替え人形のように様々な衣装を着せられて、カメラの前でポーズをとったり笑ったり上目遣いで見つめたりさせられたので、心身ともにへとへとになっていた。

 三人とは違い水着撮影がなかったことだけは救いであったが、自分は水着撮影しなくていいのかとユウさんに確認すると「まだです。ここは、敢えてじらします」という戦略的な言葉が返って来たので、近いうちに着ることになりそうである。救いはなかった。

 

 「もう無理ー。疲れたー、死ぬー」

 

 午前の撮影が終わり、一度執務室に帰って昼休みになるとユーフィは机に突っ伏した。どうもこの体になってから、体力も見た目相応になったようで長時間の立ちっぱなしは中々にきついものがある。

 

 「お疲れ様、ユーフィちゃん。お茶でも飲んで元気だして」

 「あ、ありがとうございます。いただきます」

 

 ロザリーが淹れてくれた紅茶を一口飲む。口の中に香りと甘みが広がり、少し気分がすっきりした。

 

 「午後からは取材やから座ったままやし、ちょっとは楽なんちゃうかなー」

 「そうだといいんですが……。どんなこと聞かれるんでしょうか」

 「さあな~。ま、何聞かれても思ったこと正直に答えたらえーねん」

 

 実にコレットらしい単純明快なスタンスである。受け答えなど、事前にある程度決めておかなくてもいいのだろうか――。

 

 「みんなユーフィちゃんがどんな子なのか知りたいと思ってるはずだから、変に飾ったりせずに正直に答えていいと思うよ!」

 「それに、変なことは聞かれたりしないと思いますし。そのあたりは、ユウさんがしっかり相手の方と打ち合わせをしてくれているはずですわ」

 

 なるほど。難しく考えなくても大丈夫そうだな、とユーフィは安心した。

 取材はこの部屋で行うらしく、しばらくしてユウさんが記者の人を連れてやって来た。

 お互いに挨拶を交わして取材が始まったが、特に緊張することもなく順調に進んでいった。相手の記者が聞き上手ということもあって、単純なユーフィはすっかりごきげんである。

 ただ、「プロフィールの139cmは計測ミスで本当は140cm以上あるんです!」という訴えが、ユウさんによって棄却されてしまったことは不満であったが……。

 

 そうして、今日の予定を全てこなした後、ユーフィたちは執務室でのんびりとくつろいでいた。

 ――明日もきっと忙しいんだろうな。そんなことを考えていると、いつの間にか隣にユウさんが立っていたことに気付く。

 

 「公式サイトが更新されました。ユーフィ様の写真やプロフィールなどが追加されています」

 

 ユウさんがそう言いながらノートサイズくらいの電子端末を見せてくれた。

 端末を覗きこめば、確かに四天王の公式サイトと思われるものにユーフィの名前やプロフィールが追加され、午前中に撮った写真もいくつか掲載されている。

 他の三人も興味深そうにページを見ていたが、ユーフィはむしろ電子端末本体に興味を惹かれた。ちょっと触らせてもらうと、タブレットPCのように色々できるという訳ではなく、あくまでネットの閲覧や連絡ツールとしての機能しかないようだった。

 こっちに来てから、あまりゆっくりと話せるような時間の余裕がなかったので、丁度いい機会だと思い今まで気になっていたことを聞いてみることにした。

 

 「こっちの世界ってかなり技術が進んでますよね……。昨日のライブ設備とか、今日の撮影機材も。その端末とかどうなってるんですか?」

 

 遠隔地へのライブビューイングなども行っていたようだし、機能が限られているとはいえネット接続できる携帯端末まであるのだ。魔王や勇者がいるファンタジー世界にしては現代的すぎる気がする。

 

 「そうですね――。ユーフィ様のいた世界ではどうだったかは分かりませんが、こちらでは魔法を利用しています」

 

 ユウさんによると、ライブビューイングは遠見の魔法を利用した技術だし、ネットは意思疎通の魔法を応用しているとのこと。ちなみにライブビューイングは昨日のライブが初の試みだったらしい。

 

 ――つまり、魔法に頼った強引な力技で何とかしてるってことか。

 

 「じゃあ、魔法を使いこなせる方が珍しい人間たちの国ではどうなってるんですか?」

 「彼らの国ではこういった技術はありませんね。食事や衛生など基本的な生活水準はそこまで変わりませんがこういった技術の面では、はっきり言ってかなりの差があるでしょう」

 

 彼らはあまり魔法が使えませんから――、とユウさんは締めくくった。

 

 やはり魔法に頼らないで誰にでも利用できる科学技術として、このようなものが発達しているわけではないようだ。人間側ではもう少し中世風な感じの生活なのかもしれない。

 

 「お、ユーフィのスレ発見~!」

 「――え?」

 

 端末をいじっていたコレットの言葉が気になり覗いてみると、どこかで見た様なデザインの掲示板サイトに、『【四天王】新四天王ユーフィちゃんは139cmかわいい【Part21】』というタイトルのスレッドがあった。

 

 ――本当にここは異世界なんだろうか、とユーフィは頭を抱えた。

 



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番外編:ユーフィちゃんスレ集1

某匿名掲示板形式の小ネタ的番外編です。
普通の文章形式ではないのでご注意ください。
飛ばしても大丈夫な内容になっています。


【新四天王】新四天王のユーフィちゃんはボクっ娘ロリかわいい【誕生】

 

 

 

1.名もなき魔王軍

新四天王のユーフィちゃんかわいすぎやばい

 

 

2.名もなき魔王軍

銀髪ロリだった!

 

 

3.名もなき魔王軍

この世界に天使って実在したんだな

 

 

4.名もなき魔王軍

ユーフィたんの銀髪もぐもぐ

 

 

5.名もなき魔王軍

もう死のうかと思ってたけど生きることにした

 

 

6.名もなき魔王軍

かわいいかわいいかわいい

 

 

7.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんに切り替えていく

 

 

8.名もなき魔王軍

俺はユーフィちゃんに出逢うために生まれてきたって気付いた

 

 

9.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんんおほおおおおおおおおおお!

 

 

10.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんのおへそprpr

 

 

11.名もなき魔王軍

魔王様は復活した?

 

 

12.名もなき魔王軍

ユーフィたんの銀髪もぐもぐ

 

 

13.名もなき魔王軍

>>11

最前列でサイリウム振ってた

 

 

14.名もなき魔王軍

そういや最前列にバルログ持ちのやばいの居たな

 

 

15.名もなき魔王軍

>>14

それが魔王様やで

 

 

16.名もなき魔王軍

>>14

お前…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

―――――――

 

 

 

【四天王】新四天王のユーフィちゃんはゆるふわ銀髪かわいい【Part6】

 

 

 

136.名もなき魔王軍

そういえば今回ライブビューイングとかいうので遠くでもライブ見れたらしいな

 

 

137.名もなき魔王軍

>>136

遠征先でもばっちりやったで

 

 

138.名もなき魔王軍

>>137

マジか俺のとこのライブビューイングは無理だったわ

 

 

139.名もなき魔王軍

ユーフィたんの銀髪もぐもぐ

 

 

140.名もなき魔王軍

>>138

なんかあったのか?機械の不具合?

 

 

141.名もなき魔王軍

>>140

いや途中で勇者が来た

 

 

142.名もなき魔王軍

>>141

 

 

143.名もなき魔王軍

>>141

えぇ…

 

 

144.名もなき魔王軍

>>141

勇者空気読めてなさすぎで笑う

 

 

145.名もなき魔王軍

勇者さん「新四天王がロリと聞いて来ました」

 

 

146.名もなき魔王軍

うへぇ、ロリコンか

 

 

147.名もなき魔王軍

>>146

ユーフィたん「ロリコンってなに?」

 

 

148.名もなき魔王軍

ロリが嫌いな男の子なんていません!

 

 

149.名もなき魔王軍

男の子(おっさん)

 

 

150.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんの歌の途中で攻めてきやがったから全員でボコボコにしてブッ飛ばした

おかげで歌ほとんど聞けず仕舞いとかマジで空気読めよあのクソ勇者

あの空気読めなさは絶対に童貞だわアイツ

 

 

151.名もなき魔王軍

残念ながら勇者君はイケメンなんだよなあ…

 

 

152.名もなき魔王軍

イケメンでも童貞かもしれないだろ!

 

 

152.名もなき魔王軍

>>150

つーかさらっと言ってるけどすげえ戦果じゃね?

 

 

153.名もなき魔王軍

普通にすごい

 

 

154.名もなき魔王軍

戦果なんてどうでもいいからユーフィちゃんのライブ映像どっかにうpしてくれマジで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

―――――――

 

 

 

【四天王】新四天王のユーフィちゃんはほっぺたプニプニかわいい【Part17】

 

 

 

578.名もなき魔王軍

こんなスレ立ってたけどテンプレの関連スレに入れなくていいのか?

→ ユーフィたんの銀髪もぐもぐスレPart4

 

 

579.名もなき魔王軍

なにその闇が深そうなスレは

 

 

580.名もなき魔王軍

しかもすでにPart4っていうのが怖い

 

 

581.名もなき魔王軍

>>579

ユーフィたんの柔らかな銀髪をもぐもぐしたい人が集まるだけの健全なスレだよ

 

 

582.名もなき魔王軍

>>581

モグリストが出たぞ殺せ

 

 

583.名もなき魔王軍

>>581

モグリストは巣にお帰り下さい

 

 

584.名もなき魔王軍

就任ライブからわずか数時間でスレ進みすぎワロタ

だれかまとめてくれ追い切れん

 

 

585.名もなき魔王軍

新四天王ユーフィちゃん銀髪ロリのボクっ娘

ライブビューイング会場に勇者登場も怒りのフルボッコ

モグリストの台頭

 

 

586.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんかわいいって言ってたらここまでスレ進んでただけだからね

ライブでの情報以外何もないし、明日になってからだな

 

 

587.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんはもう疲れて寝ちゃってるのかな

 

 

588.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんの抱き枕になりたい

 

 

589.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんを抱き枕にしたい

 

 

590.名もなき魔王軍

今北産業

 

 

591.名もなき魔王軍

公式サイトの更新まだー?

ユーフィちゃんの新情報はよ!

 

 

592.名もなき魔王軍

>>590

5個前の書き込みくらい読めやボケ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

―――――――

 

 

 

【四天王】新四天王ユーフィちゃんは139cmかわいい【Part21】

 

 

 

11.名もなき魔王軍

公式サイト更新!公式サイト!更新!

 

 

12.名もなき魔王軍

スリーサイズきたぞおおおお!

 

 

13.名もなき魔王軍

写真きゃわわ

これ午前中に撮ったのかな?

 

 

14.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんプロフィールまとめ

 

年齢:10歳

身長:139cm

体重:28kg

スリーサイズ:60―52―62

好きな食べもの:ハンバーグ

嫌いな食べもの:マヨネーズ

 

 

15.名もなき魔王軍

見事な幼女体型に興奮してマヨネーズがでりゅうううう

 

 

16.名もなき魔王軍

>>15

処刑

 

 

16.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんハンバーグ好きとか子どもっぽくてかわいい

ハンバーグごちそうしてあげるから、おじさんのおうちに行こうねえ

 

 

17.名もなき魔王軍

>>16

お前勇者と一騎打ちの刑な

 

 

18.名もなき魔王軍

>>17

ユーフィちゃんとすごせるなら勇者にだって打ち勝って見せる

 

 

19.名もなき魔王軍

本当に勝ちそうで怖いんだよなあ…

 

 

20.名もなき魔王軍

まあユーフィちゃんが応援してくれたら勝てるだろ常識的に考えて

 

 

21.名もなき魔王軍

【速報】ロザリーちゃんが例の新聞を買ってるところが目撃される

 

 

22.名もなき魔王軍

>>21

キマシタワー!

 

 

23.名もなき魔王軍

ロザユフィ派大勝利か…

 

 

24.名もなき魔王軍

例の新聞ってなんぞ?

 

 

25.名もなき魔王軍

>>24

前スレで出てたエブリデイ新聞

ユーフィちゃんライブの神カットが載ってるから絶対買っとけ

 

 

26.名もなき魔王軍

ロザリーちゃんとの姉妹的百合

コレットちゃんとの先輩後輩的百合

エリーゼちゃんとのおねロリ的百合

 

ユーフィちゃんの可能性は無限大

 

 

27.名もなき魔王軍

実際今までロザリーちゃんが一番年下だったからユーフィちゃんがきて喜んでそう

 

 

28.名もなき魔王軍

次のイベントはロザユフィ本でいくわ

 



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第4話:勇者、報告するのっ!

 魔族たちの国『オータク国』から遠く離れた場所に位置する、人間たちの国『リアージュ王国』。その国を治める国王、リアージュ4世の前には、一人の若者が膝をつき頭を垂れていた。

 ――ちなみにオータク国の魔族たちは、リアージュ王国の人間たちをリアージュの住人ということで、『リア住』と略して呼んでいる。

 

 「勇者ドウティー、ただいま戻りました」

 「うむ、よく無事に戻って来てくれた。――それで、いったい何があったのじゃ」

 

 王は目の前の若者、勇者ドウティーの帰還を喜んだ。

 勇者と王国軍が、魔王軍と戦闘になり敗北を喫した――、という報告は受けていたが勇者が健在であればまだ反撃することは可能である。勇者はリアージュ王国の希望なのだ。

 だが、その勇者と精鋭を揃えた王国軍がなす術もなく敗退したとは、あの戦場で何が起きたのか。事前の情報によると、あの場所にそこまで強力な敵戦力は確認されていなかったのだが――。

 

 「新四天王が誕生したものと思われます」

 「なに! それは真か!」

 

 勇者の報告に国王や側近の間でざわめきが起きる。

 魔王軍四天王とは魔王に次ぐ強大な魔力を有すると考えられているが、人間側は四天王の親衛隊に阻まれて未だに四天王に近づくことさえできていない。

 

 「魔族たちが口々に『ユーフィ・タン』という名前を叫んでいたので間違いないかと」

 「……ふむ。『タン』の名を持つということは、四天王で間違いないようじゃな」

 

 ――彼らの言う『ユーフィ・タン』とはただの『ユーフィたん』のことである。

 

 戦闘中に魔王軍たちが「うおおお俺たちにはロザリーたんが付いてるぞー! リア住死ねやあああ!」とか言っているので、人間たちは『たん』とは四天王であることの証、称号か何かだと思っていた。

 したがって会議などでも「四天王のエリーゼ・タンが――」などと大真面目に言い合っているのだが、傍から見ると非常に気持ち悪い光景である。

 

 「新四天王によって強化された魔王軍の圧倒的な力に押し負けました。申し訳ございません――」

 

 勇者は自身の不甲斐なさを呪いつつ、敗北の理由を口にした。

 四天王は自らの部下に対し、非常に強力な『強化魔法』を施すという戦法をとり、自らが前線に立つ姿は確認されていない。

 

 しかし、一人に対して使うだけでも大量の魔力を消費する『強化魔法』を何百、何千という部下に使っているのだ。まさに無尽蔵とも思えるほどの莫大な魔力である。

 もし、その魔力を部下への『強化』に使わずに自身の戦闘へ使えば、どれほどの戦闘力になるだろうか――。四天王との直接戦闘は発生していないが、彼女たちの実力は容易に想像できる。

 

 ――というのが人間側の四天王に対する見解である。

 

 もちろん彼女たちは『強化魔法』など使っていない。ただちょっと歌って踊って、「みんな頑張ってね~」と言っているだけである。

 重要な戦局では直接戦地に赴き、開戦前に安全な場所で『頑張ってねライブ』を行い、戦闘中は安全な後ろで見守り、終わったら『お疲れ様ライブ』というのが四天王の戦場でのお仕事だ。

 

 「魔王軍がそれほど強化されたということは、新四天王はすぐ近くにいたのであろう? 姿は確認できたのじゃな?」

 「いえ、それが……、新四天王は魔王城から遠見の魔法で指示を出していたようなのです」

 

 王や側近は今までの戦いから、四天王が後ろで強化魔法を使っていたのだろうと考えていたが、勇者の言葉を聞き一斉に困惑した。四天王が出向いていないのに何故魔王軍が強化されているのか――。

 

 「むむむ……。大賢者マジーメよ、どういうことか分かるかの?」

 

 王は横に控えているローブを着た初老の男性――マジーメ――に意見を求めた。

 マジーメはあらゆる魔法を使うことができ、大賢者と呼ばれている。もう若くはないため戦場に立つことはなくなったが、その豊富な知識と真面目な性格で王や勇者を支えていた。

 

 「……恐らく、信じがたいことですが超長距離の強化魔法でしょう」

 「馬鹿な! 強化魔法は――」

 「はい。遠隔での強化魔法の行使など、今までどの四天王にも不可能でした」

 

 ――もちろん、ライブビューイングはユーフィのデビューライブで初めて導入された試みだからであり、別にどの四天王でも同じことをすれば彼らの言う『遠隔強化魔法』は使うことができる。

 

 「すなわち、ユーフィ・タンは他の四天王よりも遥かに強大な力を持つと考えられます。その魔力、もしかすると魔王キモ・オータにも匹敵するのかもしれません」

 

 大賢者マジーメの言葉を聞き、誰もが言葉を失っていた。

 それほどまでに圧倒的な力を持つ新四天王、ユーフィ・タンとは一体どんな者なのか。どうやって対抗すればよいのか――。とにかく情報が足りなかった。

 

 「勇者よ、新四天王ユーフィ・タンについてできるかぎり情報を集めよ」

 「はっ! お任せ下さい」

 

 王からの命を受け、勇者は退室した。

 

 今回は苦汁をなめさせられたが、次は負けるわけにはいかない。強大な敵にも、必ず何か弱点があるはずだと勇者は心を奮い立たせた。まずは、謎の新四天王ユーフィ・タンについて調べる必要がある。

 

 ――待っていろユーフィ・タン。貴様の弱点を調べ抜いて丸裸にしてやる。

 

 勇者ドウティーは、10歳の少女の弱いところを調べて抜いて丸裸にしてやるという決意を固めると、リアージュ王国を出発した。

 

 こうしてユーフィは知らぬ間に四天王一の脅威と認定され、勇者からは丸裸にしてやると狙われることになったのであった。

 



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第5話:夜の個人レッスンするのっ!

今回はちょっとだけ、えっちぃ感じかもしれないです。


 すっかり夜の帳が下り皆が寝静まった頃、魔王城の一室には未だ明かりがともっていた。

 その部屋からは、パン! パン! と一定のリズムで何かを打ち付けるような音と、許しを乞う少女の喘ぎ声がドアの隙間から漏れ聞こえていた――。

 

 「あっ、も、もうっ無理ぃ! はっ、はぁん! ロザ、ロザッリィ! んあっ! もぅ、許してぇ!」

 

 ユーフィが息も絶え絶えに懇願する。その小さな体では激しすぎて耐えきれないのだろうか、足をガクガクと痙攣させながらロザリーに訴えた。

 

 「――駄目だよユーフィちゃん。これくらいじゃ、まだまだ満足できないよ。今夜は寝かさないからね」

 

 しかし、ロザリーは笑顔のまま首を振り、ユーフィを攻め続ける。パン! パン! と打ち付ける音がより強く、無慈悲に部屋に響いた。

 

 「はっ! んっ、はぁっ! あっ! もっ、死ぬっ! ひんじゃうぅっ!」

 

 ユーフィはもう限界であった。彼女の美しい銀色の髪は汗に濡れ、じっとりと顔にへばりついている。

 

 「んっ! あっ、イイよその表情! すごくイイ! もっとよく見せて、ほら!」

 「や、んぅっ! やだぁ――」

 

 不意に表情を褒められて、ユーフィは恥ずかしくなり顔を背ける。

 しかし、ロザリーはそれを許さず、クライマックスに向けて容赦のないラストスパートをかけた。

 

 「口ではイヤイヤ言ってても本当は悦んでたんだね! イイよ! その顔みんなに見てもらおう!」

 「ちがっ! はっ、あひんっ! ちっが、うのぉっ!」

 「あっ! ほらっ! イクよ! 最後はどうするのかちゃんと覚えてるよね!?」

 「はぁっ! あんっ! ぴ、ぴーすしましゅっ!」

 「違うでしょ! ほら最後イクときはどうするって教えた? ほら、イクよ!」

 「だ、だぶるぴーしゅしましゅううぅっ!」

 

 ――音楽の終わりに合わせて、ユーフィはテヘ顔ダブルピースでポーズを決めた。

 

 「はぁい、オッケー。休憩しよっか。とりあえず、一通りは踊れるようになったかな~」

 

 パァン! と今までリズムをとっていた手を叩き合わせてロザリーは休憩を告げた。

 

 「い、いや、もう無理! ほん、っと無理。死ぬぅ」

 

 肩で息をしながらその場にへたり込む。ユーフィの足腰はとっくに限界であった。

 

 「もー! まだ二時間しか経ってないよ? 今夜はまだまだやる予定なんだから! 最初は恥ずかしがってばっかりだったけど、さっきはイイ表情できるようになってきてたし」

 「そんなこと、言ったってぇ……」

 

 無理だよぉ――、と瞳を潤ませながらだらしなく口を半開きにして見上げてくる少女を見て、ロザリーは顔を赤らめて目をそらす。何かイケナイ気持ちに目覚めそうであった。

 とはいえ、ユーフィがこの調子では今日の個人レッスンはここまでということになりそうだ。

 

 

 

 ――事の発端は昼のダンスレッスンに遡る。

 

 ユーフィのデビューから四日が経ち、撮影や取材が落ち着いてきたため、ついに新生四天王デビュー曲のレッスンが始まったのである。だが、他の三人に比べてダンスに慣れていないユーフィは皆について行くことができず、上手く踊ることができなかった。そのためロザリーに頼んで個人レッスンをつけてもらっていたのだ。

 

 さすがに、ここまでスパルタなレッスンだとは予想していなかったが――。

 

 「じゃあ、レッスンはここまでにして一緒にお風呂入ろっか」

 

 

 

 その提案にユーフィは固まった。

 ――今この少女は何と言ったのか? 聞き間違いでなければ『一緒にお風呂に入ろう』と言われなかっただろうか? つまり、一緒にお風呂に入っていいってことだよね? レッツすっぽんぽん! 

 

 いやいや、絶対駄目だろうとユーフィの良心が訴えかける。

 

 いくら見てくれが十歳美少女になっていても中身は男なのだ。たとえどんなにカワイイ衣装を着せられたとしても、心までは決して染めることはできないという『捕らわれの女騎士精神』を持って――最近はもう慣れてきている気がするが――今まで耐えてきたのではなかったのか。

 そんな自分が年端もいかぬ少女と一緒にお風呂に入るなど、大問題では……。

 

 ――いや、何も問題はない! だってボク、女の子だもん!

 

 ユーフィは都合よく『今の自分』を利用した。

 実際、傍から見れば女子小学生が女子中学生のお姉ちゃんと一緒にお風呂に入るだけのことだ。第三者に知られたところで、微笑ましく思われても通報されることはない――。

 ちなみにユーフィは、四天王を外見と雰囲気からロザリーが中学生、コレットとエリーゼが高校生くらいと勝手に前世界の基準に当てはめて考えている。

 

 「入らないの? シャワーにしとく?」

 「入る入る、入ります。ボク、お風呂大好きー」

 「そう? 変なユーフィちゃん。じゃ、行こっか」

 

 悩んでいると、各自シャワーで現地解散になりかけていた。危ない危ない。

 

 やはり仲間との信頼関係を築くために、裸の付き合いというのは大事なのだ。自らのプロ意識の高さにユーフィは満足しドヤ顔を決めていたが、下心を誤魔化すためにそれっぽく理由をでっち上げただけである。実に見上げたプロ意識であった。

 

 「そういえば、ユーフィちゃんってここのお風呂使ったことなかったよね? 自分の部屋のと違って、広くてすごいんだよー」

 「はい! 『楽しみ』です!」

 

 ユーフィは遠足中の子どものように、うっきうきでついて行った――。

 

 四天王専用設備の中でも、大浴場は特に充実した造りになっているらしい。アイドルたち専用のお風呂なのだから、そりゃ造る方も気合が入って当然なのかもしれないが。

 

 「ほえー……。しゅごい――」

 

 生まれたままの姿になり、浴室を見渡したユーフィは感嘆の声を漏らした。もうここ、魔王城から四天王城に名称変更した方がいいんじゃないかな。

 

 「ほら、こっちこっち。頭洗ってあげるから座って?」

 

 ロザリーの前に座らされて頭を洗われる。

 風呂場なので、自分の前には鏡がある。そして後ろには膝立ちしたロザリーがいる。

 目をつぶってる場合じゃねえ! とユーフィは頭を上げ目を開いた。ドバっと目に泡が入った。

 

 「目が~! 目がぁ~!」

 「もうっ! なにやってるのユーフィちゃん! ちゃんと目を閉じてなきゃだめでしょ? まだシャンプーハットが必要だったかなぁ……」

 

 シャンプーハットが必要な子ども扱いを受けてしまった。甚だ遺憾である――、とユーフィは思っていたが、ただの自業自得であった。

 髪を洗い終え、体も洗いレッスンの汗を流していく。ちゃっかりと背中の洗いっこも達成した。

 

 「気持ちいいね~」

 「そうですね~」

 

 二人で並んで湯船につかる。この世界のお風呂には、謎の光や妙に透明度の低いお湯は存在しなかった。

 

 風呂は良いものだ――。ユーフィがとても人に見せられない顔で、夢のような空間を満喫していると隣のロザリーが遠慮がちに声をかけてきた。

 

 「その、今日はごめんね。レッスン、きつかったよね?」

 「――まあ、想像していたよりもスパルタでしたけど」

 「あはは……。つい、自分の練習と同じような感じでやっちゃった。ごめん」

 「え、いつも一人であれくらい練習してるんですか?」

 

 今日のレッスンは二時間ぶっ通しでその後もまだ続けようとしていたが、あれがロザリーの普段の練習量らしい。正直やり過ぎな気がした。

 

 「――うん。私って、なんて言うか『平凡』だから。コレットちゃんみたいにダンスが得意とか、エリーゼちゃんみたいに歌が上手だとか、そういう自分にとっての『武器』っていうのが、私にはないし」

 「そんなこと! だいたいそれならボクだって――」

 「ユーフィちゃんはね、人を惹きつける『魅力』がある。私たちの中で一番」

 

 えー、それは無いんじゃないですかね――、とユーフィは思ったがそんなことを言える雰囲気ではなかったので空気を読む。

 

 「でも、ロザリーさんは誰よりも頑張ってるじゃないですか」

 「それは、他の子に比べて私には何もないから練習しなきゃって思って――」

 「そうやって健気に頑張ってる女の子は、他のどんな子よりも魅力的なんです」

 

 これは、元男として心からの言葉であった。

 仕事で疲れているとき、嫌なことがあったとき、テレビのアイドルが一生懸命に歌って踊っている姿を見ると自分も頑張ることができた。

 本当に疲れているとき、癒しと笑顔をくれるのは『一番の美貌』とか『一番の歌唱力』を持つ子ではなく、その中でひたむきに頑張っている子の姿だと思ったのだ。

 

 「だから、ファンの人たちも惹かれて応援してくれてるんじゃないですか。だったらそれがロザリーさんの『武器』なんです。何もないなんて言わないでください。優しくて、いつもボクやみんなのことを気にかけてくれて、そして『誰よりも一生懸命』な、そんなロザリーさんのことがボクも大好きです」

 

 ――なんかすごい恥ずかしいこと言った気がする。いや、思ったことを正直に言っただけなのだが、最後の方は告白みたいなこと言ってなかっただろうか。

 

 「……ユーフィちゃん、よくそんな恥ずかしい台詞言えるね」

 「うぐっ」

 

 ロザリーちゃんジト目である。

 

 「うん、まあ……、ユーフィちゃんが言いたいことは分かった、かな。……そうだよね、私のこと応援してくれてるファンの人たちのためにも、そんなこと言っちゃ駄目だよね。ありがとう、ユーフィちゃん」

 「どういたしまして」

 「あ~あ……、妹分のユーフィちゃんに励まされるなんてお姉ちゃん失格だ~」

 

 恥ずかしくなってきたのか、誤魔化すようにロザリーはわざとらしく落ち込むそぶりをしていた。

 

 「ま、ボクはこれでもみんなと違って大人ですからね!」

 

 この世界に来てから子ども扱いばかりされていたので、今回悩める少女を導くことができてユーフィはごきげんだった。渾身のドヤ顔で大人アピールをキメた。

 

 「大人ねえ……。こんなちびっこいユーフィちゃんの、どこが大人なのかな~っと!」

 

 そんなユーフィを呆れたようにじと~っと見つめた後、ロザリーはニヤリと笑いながらユーフィに跳びかかった。

 

 「ちょっ、ちょっと! ロザリーさん! どこ触って、ちょ、やめっ!」

 「ん~? どこが大人なのかな~って思ってね~?」

 「んっ! やめっ、ほんっとに、ちょっと! あんっ、だめぇっ!」

 

 ロザリーが、ふにふにと捏ねまわすようにユーフィのちっちゃな、わずかな膨らみを撫で回す。

 ユーフィは今まで感じたことのない刺激に思わず甘い声を漏らした――。

 

 「……うわぁ、ユーフィちゃん、なんか大人っぽいかも? というか、えっちぃ」

 「んっ! ふっ、誰のせい、だとっ! んぅ! 思って、というかっ、いい加減にぃっ、んっ!」

 

 ちょっと、これ以上は色々と駄目な感じになりそうである。ユーフィは必死に抵抗するが、ちびっこの体ではどうすることもできなかった。

 

 

 

 「だーめ! すぐに調子にのっちゃうユーフィちゃんにはお仕置きです! ユーフィちゃんは大人なんでしょ? だからぁ、もっと……、ユーフィちゃんの大人っぽい、やらしぃ声、聞かせて?」

 「ひっ! ら、らめえええええええ」

 

 レッスン中にも思ったけど、この子絶対ドSだ!

 

 ユーフィの悲鳴が浴室に響く――。

 

 『裸の付き合いで親睦を深めよう計画』は仲間の新たな一面も発見でき、結果的に大成功だった。

 しかし、その代償としてユーフィはすっかりのぼせて倒れてしまったのであった――。

 



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第6話:ファンクラブを設立するのっ!

 「――『ユーフィ軍』設立の決起集会、ですか?」

 

 執務室(楽屋)で皆と休憩していると、マネージャーであるユウさんから何やら物騒な言葉が飛び出してきた。

 

 「はい。魔王軍は、それぞれ自分が応援する四天王の軍に所属しています。ユーフィ様が新四天王に就任して一週間。漸くユーフィ様の軍を設立する準備が整いました」

 

 つまり、四天王個々のファンクラブという認識で間違いなさそうである。

 

 「要するに、『○○軍』っていうのはそれぞれのファンが集まってるってことですよね?」

 「そそ。だから軍ごとに特徴があっておもろいで。ウチのとこは……、まあ、脳筋的な感じやし。エリーゼのとこはその逆、ロザリんのとこはバランス型やな」

 

 コレットが言うには四天王のファン層が違うから、その特徴がそのまま軍に出るらしい。

 

 ――じゃあ、ユーフィ軍ってただのロリコンの集まりになるじゃないか! やばい。史上最も使えない軍として歴史に名を残しそう。

 

 「コレット様のおっしゃる通り、コレット様の軍は近接戦闘に特化している方々が多く、エリーゼ様の軍は魔法戦闘を得意とする方々が多く所属しています。ただ、それは弱点がはっきりしているということでもあるので、どんな相手にも対応できるロザリー様の軍がなければ、我が国は苦戦を強いられていたことでしょう」

 

 ユウさんが補足する。特化タイプは型にハマれば強いけど、確かに対策もしやすい。

 『近距離最強』のコレット軍に『遠距離最強』のエリーゼ軍、そして『最良』のロザリー軍、といったところか。

 

 そこに新たに、『最低(ロリコン)』のユーフィ軍が加わるのだ。……泣きたい。

 

 「それで、決起集会って何をするんですか?」

 

 ユーフィは気を取り直し、最初に言っていた『軍設立の決起集会』についてユウさんに尋ねた。

 詰まる所、ファンとの交流会みたいなものだとは思うのだが、一応は『軍』なので少し真面目な感じなのかもしれない。

 

 「握手会とトークショー。その後、企画イベントを行い、最後に記念撮影ですね」

 

 全然真面目じゃなかった。

 

 「ユーフィ様には、この企画イベントで何をするのかを決めていただきます。四天王にとって部下との交流は、軍の士気を高める重要なお仕事です。また、部下の方々も非常に楽しみにしています」

 

 まあ、応援するアイドルと直接交流できる貴重な機会と考えれば、その気持ちは分からなくはないのだが――。

 良い案が思い浮かばずにユーフィが悩んでいると、ユウさんが助け舟を出してくれた。

 

 「実は、部下の方からいくつか企画の提案が届いていますが、お聞きになりますか?」

 「へえ。どんなのがきてるんですか?」

 

 ファンがやりたいことを提案してくれるのであれば、それを参考にするのが一番だ。

 

 「そうですね、例えば……、『ユーフィちゃんとおままごと』」

 「……は?」

 

 思わず聞き返すユーフィに、ユウさんはこの案を推すファンの声を伝えた。

 

 「『ご飯にする? お風呂にする? それとも――のテンプレ新婚プレイがしたいです』『兄妹プレイがしたいです。「お兄ちゃん」呼びの甘々妹、「兄さん」呼びのしっかり系妹、「馬鹿にい」呼びのツンツン妹といった、妹キャラ基本三大タイプを希望。また、基本的に兄妹間の血縁関係はあるものとするが、義理の妹という関係も特定条件において可とする。その場合、妹だけが兄と血がつながっていないということを知っており、その葛藤を――(以下略)――』『ユーフィママー!』などの賛同意見が寄せられています」

 

 「却下です! 却下! というか妹属性の人、こだわりが面倒くさいなっ!」

 

 きっと『妹萌え』派閥も一枚岩ではないのだろう。どうでもいいが。

 あと、母性を求められても困る。ロリコンでマザコンとか業が深すぎるのではないか。

 

 「他には――。『ユーフィちゃん vs 部下たち ~野球拳ガチンコ勝負~』」

 「却下」

 

 詳細を聞くまでもない。即断であった。

 だが、一応部下の声を届ける必要があるため、ユウさんは続きを読んでいく。

 

 「『ユーフィちゃんが絶対負けると思われがちだが、もしかすると勝てるかもしれないしやってみないと分からないので、とりあえず騙されたと思って一度やってみるべき』『次第に脱がされていき、もじもじと赤面しながらも立ち向かうユーフィちゃんを見れば元気になれそう』『適度に負けてあげて、希望を見せながらじわじわ脱がしたい』といった賛同意見が――」

 「もう! まったく! 下心隠せてませんけど!」

 

 思わず立ち上がり、机をバンバン叩きながらユーフィは叫んだ。

 いったいどこが『元気になる』のか。もはや下心を隠す気のないノーガード戦法である。えっちぃことは、いけないと思います!

 

 「あとは……、『水風船を投げ合って楽しく遊ぶ』」

 「おっ? ちょっと面白そうかも……」

 

 次の案は中々に面白そうだ。

 ユーフィは、子ども時代に夏の暑い公園で同じように水風船を投げ合って遊んだことを思い出した。たまには童心に返って遊ぶのも悪くない――。

 

 「『ただしユーフィちゃんは被弾がわかりやすいよう、よく透ける白系の服を着用すること』『透けろ!』『濡れ透けユーフィたん』『遊びに夢中になって透けてること気付かなさそう』」

 「……」

 

 楽しそうかも、と思ったらこれだよ。うわっ……ボクの部下たち、変態すぎ……?

 

 「なんつーか、色々とおもろいことなっとんな」

 「ふふっ。ユーフィちゃんはファンの皆様に愛されてますわね」

 「ユーフィちゃんはかわいいからね!」

 

 こんな愛は叩き返したい。愛などいらぬ! 愛を捨てた闇ユーフィの誕生である。

 

 「そういえば、皆さんは決起集会の企画で何をしたんですか?」

 

 ファンクラブからは参考にならない変態案ばかり挙がってきたので、他人事だと思って楽しんでる先輩たちに聞いてみることにした。

 そして、あわよくば「なるほどー。そんなことをしたんですね~! ボクもそれやってみたいんですけどよくわからないので~、一緒にやってください!」とか言って企画イベントに引きずり込んでやる――。死なば諸共だ。一人でやるよりマシである。だってボクたち仲間だもんね!

 闇ユーフィと化した自分の神算鬼謀にユーフィは我ながら恐ろしくなった。

 

 「自分から質問したのに、なんか考え込み始めてまたドヤ顔してるよ……」

 「どうせアホなこと考えとんねんで」

 「ほんとユーフィちゃんは子どもらしくてかわいいですわね」

 

 この一週間ほどの付き合いで、ユーフィが考えこんだあげく何か納得したようにドヤ顔をするときは、大抵しょうもないことを子どもながらに一生懸命考えているのだと三人からは思われていた。

 

 「……それで! 三人は何したんですか?」

 「ウチらはユーフィの前任(ビッチィちゃん)含めて四人でいっぺんに就任やったから、全員合同でやったし参考にならんと思うで?」

 「えっ」

 

 なにそれずるい。そんなこと聞いてない!

 

 「四人の軍対抗で大運動会みたいなのしたんだよ。もちろん私たち自身も参加してね」

 「じゃ、じゃあ、それ、もっかいやりましょう! みんなで!」

 

 ただのロリコン集団であるうちの軍が惨敗する未来しか見えないが、とりあえずそれでいいじゃないか! とユーフィは食い付いた。

 ――しかし、その言葉にエリーゼが首を振る。

 

 「いえ、今から四軍全体の調整となると、さらに時間が必要になりますし現実的ではないですわ」

 「そうですね。ユーフィ様の提案は面白そうなのでまた別の機会にやってみてもいいかと思いますが、今回はユーフィ様の軍だけの決起集会なので他の軍と合同に何かをする、ということは難しいと思います」

 

 エリーゼの指摘にユウさんが続いた。

 ユーフィの完璧な計画は失敗に終わったようである。

 

 「ちぇっ、どうにかして誰か巻き込んでやろうと思ったんですけど――」

 「――へえ、ユーフィちゃん、かわいい顔してそんなイケナイ事考えてたんだ?」

 「ふぇ!? ちが、今のは違くてっ!」

 

 思わず声に出てしまったつぶやきを必死に取り繕うが、もう遅い。

 ユーフィの前には、目の前の獲物をどう料理してやろうかと目を細める先輩方の姿があった。

 

 「これは、ちょっと、おしおきせなあかんなあ?」

 「あらあら、うふふ」

 「ひぃっ!」

 

 三人共、笑っているくせに目は笑っていない。

 

 「大丈夫だよユーフィちゃん。私たちが一緒に考えてあげるからね。ユウさん、他にファンの人たちからの案はないんですか?」

 「え、ええ。こちらです――」

 

 ユウさんが若干怯えながら、ファンの提案をまとめた書類を差し出した。

 その紙に目を通しながら三人が話を進める――。

 

 「ふ~ん……。あっ、これとかいいんじゃないかな?」

 「どれどれ。くっ、『魔法少女ユーフィたん』って! くくっ、ええやん!」

 「ですが、劇ではファンの方々も一緒に、というのが難しいのではなくて?」

 「それはね、これを――こうして――こんな感じに――」

 「なるほど。ではここを――このように――」

 「ほんなら、ここも――したら――ええんちゃう――」

 

 『一緒に考えてあげる』とは何だったのか。ユーフィは完全に蚊帳の外であった。

 このままでは『魔法少女ユーフィたん』とやらに決まりそうだ。もう、名前からして死ぬほど恥ずかしい目に遭いそうなので、なんとしても阻止しなければいけない。

 

 「あ、あの……。ボク、別のがいいな~って――」

 「あ、ユーフィちゃん。見てこれ。衣装のデザインラフまで載ってるんだよこれ」

 

 ロザリーが有無を言わさぬ満面の笑みで『魔法少女ユーフィたん』の衣装デザインを見せてくる。

 ――それは、子ども向けアニメの魔法少女ではなく、魔法少女モノのエ○ゲー的なデザインの衣装であった。

 

 「ユーフィちゃんもこのかわいい衣装、着たいよね?」

 「い、いえ。絶対に――」

 「うふふ。ユーフィちゃんに絶対よく似合うと思いますわ。着たいでしょう?」

 「あ、あの――」

 「そんな照れんでもえーやん! わかっとるでー。ホンマは着たいんやろ?」

 「……」

 

 あ、これ知ってる。『いいえ』を選んでも『はい』を選ぶまで繰り返されるやつだ。

 そういうのは魔王軍四天王の自分ではなく、勇者相手にするべきではないのか――。

 

 「はい……。着たい、です」

 

 全てを諦めたユーフィの答えに三人は満足したように頷いた。

 

 

 

 

 

 ――彼女たちの監修の下、企画された『魔法少女ユーフィたん』は大好評であった。

 

 『邪神ロリ・コーン』によって操られ、邪な心に染まった部下たちを魔法少女に変身したユーフィが助けて回ったのだが、部下たちの鬼気迫る迫真の演技(?)にユーフィは身の危険を感じた。

 というかあれは絶対演技ではない。『邪神ロリ・コーン』は皆の心の中に潜んでいるのだ。

 一度きりでは勿体無いと、続編の制作や再演が叫ばれているがユーフィは断固として拒否している――。

 



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第7話:勇者が現れたのっ!

 「みんな~、応援ありがと~! 元気でね~!」

 

 アンコールに応えた四天王が手を振りながら舞台袖へと消えていき、舞台には幕が下りる。

 満席の会場からは拍手と歓声がいつまでも聞こえていた――。

 

 ユーフィたち四天王は、魔王城からかなり西の町へ来ていた。彼女たちはついに完成した新生四天王のデビュー曲を引っ提げ、国中を回るライブツアーを行っていたのだ。

 この世界に召喚されて以来、魔王城周辺から離れたことがなかったユーフィは、今回のツアーをかなり楽しんでいた。他のメンバーはツアーに乗り気な彼女を見て、ユーフィも四天王としての自覚が出てきたかと喜んでいたが、当の本人からすればただの観光旅行気分である――。

 

 そんな『新生四天王お披露目ライブツアー』も昨日の公演で無事に終了。今日の夕方にはこの町を発つ予定なので、それまでは自由時間となっている。

 観光か、はたまたご当地グルメの食べ歩きか。彼女たちは早めの昼食を摂りながら、この後の予定について話を弾ませていた。

 

 「――申し訳ございませんが食事が済み次第、すぐに魔王城へ帰ることになりました」

 

 しばらく席を外していたユウさんが、戻ってくるなりそんなことを口にした。

 

 「えー? せっかくちょっと観光できるかなって思ってたのに……」

 「んー、なんかあったんか?」

 

 ロザリーとコレットも自由時間を楽しみにしていたのだろう。残念だという感情がその声からも伝わってくるが、有能マネージャーのユウさんに限ってスケジュールミスということはないはずだ。彼女たちもユウさんが悪いとは思っていないのか、別に責めるつもりはなさそうだった。

 

 「はい。あまり大きな声では言――」

 「わかりました! じゃあすぐお土産買ってきますね!」

 

 何があったのかは知らないし残念でならないが、予定が変わったというのならば仕方がない。

 見た目通りの子どもであれば駄々をこねるのかもしれないが、ここは大人として冷静に事実を受け止め、帰る前にせめてお土産を買ってこなくては――、とユーフィは店を飛び出していった。

 

 「ユーフィ様!」

 「もー、ユーフィちゃん落ち着きがないなあ。迷子にならないといいけど……」

 「いつものことやん。まだまだ子どもやからなあ」

 

 ――ユーフィの自己評価とは裏腹に、完全にただの子ども扱いである。

 

 とはいえ、さすがに一人で買い物もできないほど子どもだと思っているわけではないので、待っていればすぐ帰ってくるだろうと残された四天王は落ち着いていた。

 だがそんな彼女たちとは対照的に、いつもは冷静なユウさんが目に見えて慌てている。

 

 「ユウさん? どうかしましたの?」

 

 何をそこまで心配する必要があるのか――、とエリーゼが問いかける。

 ユウさんは声をひそめると、先ほど四人に言おうとしていた言葉を三人へ伝えた。

 

 「この町で、勇者を見たという目撃情報があるんです!」

 

 その言葉に彼女たちは顔を見合わせ、一斉に立ち上がった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな仲間たちの心配など知る由もないユーフィは、お土産屋さんに向かって一生懸命走っていた。目当ての店はすぐ近くにあるのだが、ここからだとグルっと迂回する必要があるため時間がかかるのだ。

 

 「――むっ」

 

 走っていると細い路地裏のような道を見つけた。ここを通れば向こう側まで、迂回する必要なく貫通できるのではないか。

 ――そう考えたユーフィはその道を走り抜けようと駆け出し、横から出てきた誰かにぶつかり尻もちをついた。

 

 「ご、ごめんなさい――」

 「い、いや、こちらこそすまない。大丈夫か――」

 

 謝りながらぶつかった相手を見上げると、野暮ったいローブを着た、さわやか系イケメン野郎がこちらを見下ろしていた。

 

 傍から見れば、美少女が街角で美青年とぶつかってしまったという運命的な状況。恋の一つや二つ始まってもおかしくはなかったが、如何せんユーフィちゃんの中身は平凡な男である。燃え上がったのは恋の炎ではなく、イケメンへの妬みと怒りの炎であった。イケメン死すべし!

 

 ユーフィが警戒したように見つめていると、イケメンは慌ててローブのフードを目深に被った。ぶつかったときにフードが外れたのだろうか。

 イケメンのくせにわざわざ顔を隠そうとするのは、きっと嫌みか何かに違いない。

 

 「君は……、君も魔族なのかい?」

 「ええ、まあ……、一応」

 「そうか……。そうだな、当たり前か――」

 

 イケメン君のよくわからない質問にユーフィは戸惑いつつ答えた。

 

 ――この国の住人なんだから当たり前じゃないか。それはあれか? 『お前みたいなちびっこい奴が、本当にこのイケメンで完璧な俺と同じ魔族なの?』という皮肉ですか。

 これだからイケメンは――、とユーフィは腹立たしく思ったが、もはや完全に被害妄想である。

 

 「急いでるみたいでしたけど、時間は大丈夫なんですか?」

 「あ、ああ。いや、別にそういう訳ではないんだ」

 「……そうですか」

 

 暗に、『さっさと行け』と伝えたのだが失敗に終わる。

 仕方がないので「じゃあボクは用事があるから、これで」と言おうとしたユーフィは、彼の呟きを聞いて言葉をなくした。

 

 「新四天王のユーフィたんがこの町に来ていると聞いて、その姿を見ておきたかったのだが……」

 「――えっ?」

 

 今、『ユーフィたん』とか言ったよ、この人……。うわぁー……、マジかー。

 

 さすがにドン引きであった。目の前の男は、憎むべきさわやかイケメン野郎だと思っていたが、どうもかなり残念な部類の人らしい。というか気持ち悪い。きんもーっ☆である。

 

 「君、ユーフィたんについて何か知っているのか?」

 

 ユーフィの反応を見て何か勘違いしたのか、興奮した様子で詰め寄ってくる元イケメンの現キモメン。

 もちろん、その人物についてはよく知っているが。それこそ何でも。

 

 ――というか、『ユーフィたん』とか言ってるくせに、本人を見てもわからないんだ……。

 

 恥ずかしげもなくユーフィたんユーフィたん言うから熱狂的なファンなのかと思いきや、その本人に対し「ユーフィたんって知ってる? ハァハァ」と聞いてくる意味不明さ。

 

 その矛盾からユーフィは一つの答えにたどり着いた。この変な男の正体、それは――。

 

 

 

 ――この人、『ニワカ』だ!

 

 間違いない。

 本来、仲間内くらいでしか使うべきでない呼び方を、ファンであることをアピールするかのように見知らぬ相手に平気で使う。そのくせ、本人を目の前にしても判別できない程度の認識しかない。

 この分別のついてない感じ、まさに勘違いしちゃってる『ニワカファン』である。

 

 「頼む! 何かユーフィたんについて知っていることがあれば教えてくれ!」

 

 だが、この必死な態度は自分がニワカであることを理解したうえで、少しでも知識を深めようと努力しているようにも見える。

 もしかすると、下っ端で給料が少なくてCDを買ったりライブに来たりする機会がないのかもしれない。まだ若いし弱そうだし、きっと日々の生活で精一杯なのだ。魔王軍の給料がどの程度なのかは知らないが。

 

 まあ、一応は自分のファンらしいので、その想いに応えてあげてもいいかなとは思うのだが――。

 

 「え、えーっと。さすがに、ボクから教えられることはない、というか、その……、うん」

 

 いったい何を教えればいいのかわからないし、何か気恥ずかしい。

 

 そう思ってニワカ君を見ると、すごく辛そうで悔しそうな表情をしていた。そんなにショックか。

 

 「あっ、でも、なんて言うか、あなたの気持は伝わってると思いますよ! その、きっとあなたのことも、いつも見てると思います!」

 

 あまりにも可哀そうだったので、ありきたりな言葉でフォローしておく。一人のファンを特別扱いはできないので、「あなたのこと『も』いつも見てるよ」という表現にするプロ意識。褒めて欲しいものだ。

 

 しかし、ユーフィの言葉を聞いたニワカ君は驚いたような表情をして彼女を見つめると、ブツブツとなにか呟いて考え込みはじめた。「まさか――」とか「――バレていたのか?」とか聞こえてきたが、最初からニワカだとバレバレだったので今更である。

 

 「教えてくれて感謝する。俺は、一度戻ることにするよ」

 「はあ……。そうですか? お気をつけて」

 

 よく分からなかったが、彼は満足したようだ。

 

 去っていくニワカ君の背中を見送り、次に会ったらサインでもしてあげようかなと考えていると後ろからパタパタと数人の足音が聞こえてきた。

 

 「――ユーフィちゃん!」

 「ふぎゅっ」

 

 走って来たまま勢いよく抱きついたロザリーを受け止めることができず、ユーフィはそのまま押し倒され不様に潰れた。タックルの練習か何かだろうか。

 

 「まったく――。何もなかったようで安心しましたわ」

 「ほんまに。心配したんやで~」

 

 いや、少し出歩いただけで何故ここまで心配されているのか。皆揃って追いかけて来たみたいだが、いくらなんでも子ども扱いしすぎである。あと、今まさに潰れて死にかけてるんですけど――。

 

 「あのね、ユーフィちゃん。この町に勇者が潜入してるかもしれないんだって!」

 「えっ! 勇者ってあの勇者ですか!?」

 「どの勇者か知らんけど、多分その勇者やで。勇者って一人しかおらんし」

 

 ユーフィは前々から、勇者を見たいと思っていたので興味津々だった。魔王側が想像と違ったので勇者には期待しているのだ。やっぱり伝説の剣とか持ってるのだろうか。

 

 「勇者ってどんな人なんですか?」

 「……さあ?」

 

 噂の勇者について聞いてみると、意外なことに四天王は誰も見たことがないらしい。

 

 「いや、ウチら前線に出えへんし。会ったことないしなあ」

 「一人で魔王軍数十人と渡り合えるほどの化け物だと聞いていますわ」

 「筋肉モリモリマッチョマンの変態だよどうせ。ユーフィちゃん、見かけても絶対に近づいたら駄目だからね?」

 「……はぁい」

 

 勇者について好き勝手に想像している四天王たちを見守りながら何事もなくてよかった、とユウさんは胸をなでおろした。

 

 ただ、勇者は彼女たちの想像している風貌(マッチョマン)とはまるで違うということは、教えておいた方がよさそうであった。

 

 



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第8話:勇者、再び報告するのっ!

直接的ではないですが、少し下ネタ的な感じがあるかもです。


 「――さて、どうしたものかな」

 

 勇者ドウティーは路地裏に身を潜めながらつぶやいた。

 

 ここは魔族たちのオータク国でも、西方に位置する小さな町である。

 謎の新四天王ユーフィ・タンについて調べるためオータク国へ潜入していたドウティーは、この町に四天王たちがやって来ると聞いて駆けつけた。しかし、四天王に会うためには『チケット』と呼ばれる許可証のようなものが必要らしく、会場に紛れこむことはできなかったのだ。

 

 だが、思わぬ収穫もあった。その会場の周りでは四天王のポスターが売られており、今まで前線に出てこないために謎とされてきた四天王たちの姿が判明したのである。

 勇者は四天王たちが見目麗しい少女であることに驚愕し、近くにいた魔族の男にあれは本当に四天王のポスターなのかと問いかけてしまった。信じがたいことにどうやら彼女たちが四天王らしい。

 そのポスターは――なぜか四天王たちは水着を着ていた――ユーフィ・タンの分だけは売っておらず、三人分だけのようだった。ユーフィ・タンのポスターはないのかと聞いてみたが、このポスターは三人分しかないのだと言われてしまった。

 

 ユーフィ・タンの姿が分からないのは残念であったが、他の三人について国王へ報告するためにもドウティーはポスターを三枚購入した。妙に高かったため昼食を抜くことになりそうだが仕方がない。

 だが、予想外の収穫で完全に気が緩んでいたのだろう。反対から歩いてきた男と肩がぶつかってしまい、その拍子に顔を隠すために被っていたフードが外れてしまった――。

 

 「おっと、すまん。――お、お前っ! まさか!」

 「――っ!」

 

 ドウティーはすぐさまフードを被り直し、その場を離れた。

 しかし、ドウティーの顔を見たあの男の反応からして正体がバレたと考えるべきだろう。すぐに追手が探しに来るかもしれない。ひとまず何処かに身を隠すべきだと判断し、ドウティーは路地裏通りへ滑りこんだ――。

 

 さて、どうするべきかとドウティーはこの後の動き方に考えをめぐらせた。

 

 ユーフィ・タン以外の四天王についてはポスターを入手し、ついに正体が明らかになった。その一方、恐るべき力を持つと考えられているユーフィ・タンについては、未だその姿は謎のままだ。

 追手が来ている様子もないし、もう少し調べてみるか――、と歩き出したところで何かがぶつかって来た。

 

 「ご、ごめんなさい――」

 「い、いや、こちらこそすまない。大丈夫か――」

 

 すぐに逃げるべきだと思ったが、謝られたのでついこちらも返してしまった。声が聞こえた方を見ると、目を疑うほどの美少女が尻もちをついてこちらを見上げている。

 

 銀色の髪に深い翠色の目、そして純白の下着――。

 顔が熱くなるのを感じ、フードを被り直して誤魔化した。見ていたことがバレていないだろうか。

 

 ――童貞勇者ドウティーに美少女のパンチラは劇薬であった。

 

 「君は……、君も魔族なのかい?」

 「ええ、まあ……、一応」

 「そうか……。そうだな、当たり前か――」

 

 目の前の少女があまりにも可憐で、思わず馬鹿な質問をしてしまった。そもそもこんなことを聞いてしまっては、自分は人間だと言っているようなものではないか――。

 少女が彼の正体に気付いたかは分からなかったが、少なくとも警戒心は抱いたようで睨むようにこちらを窺っている。

 いくら敵対している魔族とはいえ、子どもの命を奪うつもりはない。だが、ここで騒がれでもしたら魔王軍が集まってくるだろう。かわいそうだが、少しの間だけ気絶させておくべきか――。

 

 

 

 「急いでるみたいでしたけど、時間は大丈夫なんですか?」

 「あ、ああ。いや、別にそういう訳ではないんだ」

 「……そうですか」

 

 そんなドウティーの考えをよそに、少女は純粋にこちらの心配をしてくれていた。まさに天使である。背中に白い翼はないが、スカートの中には純白のぱん――。先ほどの光景を思い出し、彼はまた赤面した。

 そして、アホなことを考えて動揺していたからか、彼はつい自分がこの町に来た理由を呟いてしまった。

 

 「新四天王のユーフィ・タンがこの町に来ていると聞いて、その姿を見ておきたかったのだが……」

 「――えっ?」

 

 『ユーフィ・タン』という名前を聞いた瞬間、少女の表情が大きく変わった。彼女の顔に浮かんでいた感情は『嫌悪』。彼女はその感情で美しい顔をゆがませていた。

 

 「君、ユーフィ・タンについて何か知っているのか?」

 

 『ユーフィ・タン』の名前を聞くたび、彼女は苦痛に耐えるかのようにその身を強張らせている。

 こんな幼い少女が、味方であるはずのユーフィ・タンに何故そこまで強い負の感情を募らせているのか。

 

 ――なにか酷い事をされているのかもしれない。ここまで美しい少女なのだ。ユーフィ・タンが男ならば下劣な欲望を、女ならばその容姿への嫉妬を、この少女へぶつけているのではないか……。

 

 「頼む! 何かユーフィ・タンについて知っていることがあれば教えてくれ!」

 

 恐らく彼女と自分の目的は一致している――、とドウティーは確信していた。

 彼女も自身をユーフィ・タンから助け出してくれる誰かを待っているはずだ。

 

 「え、えーっと。さすがに、ボクから教えられることはない、というか、その……」

 

 少女は迷った末に「自分からは教えられない」と答えた。

 ユーフィ・タンによって植えつけられた恐怖が彼女を縛っているのか。ドウティーは目の前の少女を救うことができない自身の力不足を悔やんだ――。

 

 「あっ、でも、なんて言うか、あなたの気持は伝わってると思いますよ! その、きっとあなたのことも、いつも見てると思います!」

 

 少女が必死に、何かを伝えるように紡いだ言葉に彼は愕然とした。

 『あなたの気持は伝わってる』という言葉が示すことは一つだ。

 

 ユーフィ・タンは自分を調べようとしているこちらの動きにとっくに気付いている――。

 

 なるほど、それならばあのポスターの件も納得がいく。ユーフィ・タンのポスターだけがないというのは不自然だったが、相手がこちらの動きに気付いていたのであれば、自身のポスターを隠すように指示を出していたということだろう。

 そして、ユーフィ・タンは就任時から遠見の魔法を用いていた。『あなたのこともいつも見ている』というのは、自分を嗅ぎまわっているこちらをその力で監視しているということか。

 

 ――待てよ。あなたのこと『も』? では、他に誰を監視しているというのだ?

 

 そこまで考えてドウティーは目の前の少女に気付いた。

 彼女はユーフィ・タンに監視され逃げられないのだ。慎重に言葉を選ぶように伝えてきたのは、今この瞬間もユーフィ・タンによって監視されているからではないか。

 きっとこの事実をドウティーに伝えたことで彼女はまた酷い目に遭わされてしまうだろう。にも拘らず、彼女はドウティーをユーフィ・タンの魔の手から逃そうと勇気を出して教えてくれたのだ――。

 

 「教えてくれて感謝する。俺は、一度戻ることにするよ」

 「はあ……。そうですか? お気をつけて」

 

 ユ-フィ・タンがこちらを最初から監視していながら、今まで何もしてこなかったのは油断させるためだろう。このまま何も知らずに留まっていれば、逃げ場のない絶好のタイミングで襲ってきたはずだ。

 だが、この少女の勇気ある行動によってドウティーは監視に気付いてしまった。こうなれば、今すぐにでも追手が来るだろう。

 彼女の想いを無駄にしてはいけない。ドウティーはすぐさまリアージュ王国へ向けて移動を開始した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 帰還したドウティーが、国王への報告を行っている謁見の間には何とも言えない空気が流れていた。

 彼がオータク国から持ち帰り、提出したポスターには今まで謎とされてきた四天王の姿が写っていたのである。

 ……写っていたのだが――。

 

 「……勇者よ、こやつらが本当に魔王軍四天王なんじゃな?」

 「はい。四天王の、ロザリー・タン、コレット・タン、エリーゼ・タンの三人です」

 

 国王の問いかけにドウティーは間違いないと断言した。

 この場にいる人間たちが思ったことは一つである。

 

 ――四天王ってこんなにかわいいの?

 

 自分たちを苦しめている、あの四天王がこんな美少女たちだったとは夢にも思わなかった。

 しかも水着とはけしからん。どういうことだ、もっとやれ。

 

 「ふむ。このポスターは国王であるわしが責任を持って保管しておく――」

 

 国王が深刻そうな顔でふざけたことをのたまった。王権乱用である。

 そうはさせるかと周りから反論の声が上がった。

 

 「お待ちください! 戦場ですぐに見分けられるよう、王国騎士団長の私が引き取ります!」

 「いいえ! 魔法師団長の私が保管いたします!」

 

 「いや、俺のとこも――」「それなら、うちだって――」と、ポスターを巡って各自が好き勝手に主張を始め、謁見の間は大混乱に陥った。

 

 「ええい! 静まれ! ――大賢者マジーメよ、お主の考えを聞かせてくれぬか」

 

 このままでは埒があかぬと国王はマジーメに助けを求めた。マジーメが「国王が適任でしょう」と言ってくれれば誰も文句は言えまい。

 大賢者マジーメは渦中の『四天王水着ポスター』をしばらく見つめた後、口を開いた――。

 

 「私が引き取りましょう」

 「なん……じゃと……?」

 

 マジーメの裏切りに国王は言葉を失くした。一体いつからマジーメが賛同してくれると錯覚していた?

 

 「先ほどの混乱からそのポスターには、精神に働きかける何らかの魔法が施されている可能性が高い。したがって、私の自室でじっくり鑑賞――、いえ観察を行いたいのです」

 

 マジーメの言葉を聞き、ポスターを我が物にしようと争っていた人々は己の未熟さを反省した。

 

 自分たちは、いとも簡単に敵の魔法にかかってしまったというのに、マジーメだけは冷静に状況を把握している。さすがは『大賢者』だ。

 

 「さすがに私もこの強力な四天王の魅力――、ごほん! 魔力には我慢が――、あー、障壁が持ちそうにありませんので、今すぐ自室で儀式を行いたいのですが……。よろしいですかな?」

 「ふむ、わかった。頼んじゃぞマジーメよ」

 

 マジーメはポスターを大事そうに抱えて退室していく。彼の拳が小さくガッツポーズしていたように見えたが、国王は見間違いだろうと気持ちを切り替えた。

 

 「――ところで、勇者よ。例の新四天王、ユーフィ・タンの調査はどうなったのじゃ? ユーフィ・タンの、その、ポスターはないのか?」

 

 国王は何かを期待するようにドウティーに尋ねるが、彼は首を振る。

 そして、ドウティーは魔族たちの町で出会った少女との一件を国王に報告した――。

 

 「なるほど。敵とはいえ、その少女には感謝せねばならんな。――むっ」

 「ふぅ……。皆さん、会議は順調ですかな? ふぅ……」

 

 国王の視線の先には大賢者マジーメが立っていたが、先ほどまでとは明らかに雰囲気が変わっていた。溢れだす魔力は強大でありながら、波紋一つない静かな湖面のように穏やかである。

 ――それは、現役を退いてからめったに見せることのなかった大賢者マジーメの『賢者モード』であった。

 

 「戻ったか。まさか『賢者モード』を再び見られるとは……。無事に封印できたかの?」

 「……いえ、まだ安全になったとは言えません。一人につき一回の儀式では鎮めることができなかったので二回ずつ行ってようやく、一時的にですが沈静化に成功しました。ふぅ……」

 

 席を外していたわずか10分足らずで、六回も封印儀式を行っていたとはさすが大賢者であった。驚くべき早さである。――別に深い意味はない。

 

 「大賢者とはいえ、三枚全ての封印となると厳しいのではないかの? ほれ、試しにエリーゼ・タンのポスターはわしに任せてみるというのはどうじゃろうか?」

 

 国王は巨乳好きであった。

 

 「バラバラに保管することには賛同できませんな。四天王とは本来、四人で一つ。今は三人分しかありませんが――、揃えることで真価を発揮するのです。そのおかげで残る四天王、ユーフィ・タンの正体について見当がついたのですから」

 「なに! それは真か! マジーメよ、ユーフィ・タンとは何者なのじゃ!?」

 

 お国柄、外交的で活発な人々が多いリアージュ王国の住人――リア住――たちの中で、マジーメはただひたすらこの歳まで独りで『自己研鑽』に努めてきた。その本質はオータク国の魔族たちに近いものがあるだろう。

 そんな彼だからこそ、三人のポスターで何度も儀式を行い『賢者モード』となって気付けた()()()()

 

 ――四天王は四人で一つ。その余ったピースを埋め、完全な四天王をつくり上げるであろうユーフィ・タンの正体。

 

 「ユーフィ・タンの正体、それは四天王に足りていない『ロリ枠』を埋める存在。――つまり、美少女ロリです!」

 「な、なんと――」

 

 マジーメの言葉を聞いて、皆が想像を働かせる。

 あの三人に美少女ロリが加わることで完成する四天王の姿――。まさに完璧である。付け入る隙がないではないか。

 だが――。

 

 「しかし、マジーメ様。ユーフィ・タンは、いたいけな少女をいじめて楽しんでいる可能性があります。ユーフィ・タンの正体が、その……、ロリだというのは無理があるのではないでしょうか」

 

 ドウティーがマジーメの予想に異を唱えた。

 彼はあの美しい少女が『ユーフィ・タン』に対し浮かべていた感情を忘れることができなかった。

 

 「――なるほど。腹黒系邪悪ロリか。いい……」

 「は?」

 

 しかし、マジーメはドウティーの指摘に対し恍惚の表情を浮かべる。

 

 「勇者よ、何を疑問に思うことがある? 圧倒的な力を持ったロリが自身の力に溺れ、驕り高ぶるのはむしろ当然ではないかね。そんな邪悪ロリをおしおきするのもいい……。いや、むしろ馬鹿にされ、罵倒されながらおしおきされるのも――」

 

 マジーメはそこまで言いかけて突如目を見開き、虚空を見つめたまま動きを止めた。

 大賢者の異様な様子に人々は不安にかられた。

 

 「あの、マジーメ様――」

 「見えた! 今! まさに! 『大賢者』を超越した『超賢者』への道が! ユーフィ・タンだ、彼女こそが私を『超賢者』へと導いてくれる!」

 

 齢五十を超え、大賢者マジーメは新たな自分(ドMロリコン)を見いだした――。

 

 「『超賢者』じゃと! それが本当であれば、我が国にとってなんと心強いことか。ユーフィ・タンのポスターをなんとしても入手するのじゃ!」

 

 『大賢者』マジーメの魔法と知恵がなければ、リアージュ王国はオータク国に敗北していただろう。そのマジーメが、その上の『超賢者』へとランクアップできると言っているのだ。国王はユーフィ・タンの水着ポスターを、是非とも手に入れなければと興奮して立ちあがった。

 

 「勇者よ、この仮面を授けよう。必ず君の助けになるはずだ」

 「――これは?」

 

 マジーメはドウティーに怪しげな仮面を渡した。仮面といっても顔全体を覆うものではなく、ゴーグルのように目元を隠す物のようだ。――あまりセンスが良いとはいえないデザインをしている。

 

 「その仮面は認識阻害の魔法がかかっている。その仮面をつけていれば、相手からは『仮面の人』としか認識できないようになっているのだ。魔族たちから勇者とバレる心配もなくなるだろう」

 

 「おお! さすがは大賢者マジーメじゃ! では勇者よ、その仮面をつけ再びオータク国へ潜入しユーフィ・タンのポスター、及びエリーゼ・タンのグッズを入手してくるのじゃ!」

 「あっ、国王様ずるい。私もロザリー・タンのグッズを――」

 「俺はコレット・タンの――」

 

 国王の言葉を聞いた人々が、自分が気に入った四天王の物も買ってきてくれと騒ぎ出す。

 

 「静まらんか! 重要な任務なのじゃぞ! 自分の好みを押し付けよってまったく――」

 

 お前が言うなよとその場の全員が思ったが、相手はこれでも一応国王様なので口には出さなかった。

 

 「仕方がない。勇者よ、四天王のグッズをできるだけ多く入手してくるのじゃ! 領収書はちゃんと貰っておくのじゃぞ」

 

 こうして勇者は四天王のグッズを集めるために再び旅立つことになった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 勇者を見送った後、マジーメが国王へ問いかける。

 

 

 「――領収書の宛名はどうするので? まさか『リアージュ王国』と書いてもらうわけにはいかないでしょう」

 「それは……、なんとかするじゃろ? ほれ、『上様』とか」

 「それでは経費として落とせませんな。その場合、費用は国王様が負担するということで」

 「えっ……」

 

 国王は縋るような目でマジーメを見たが涼しい顔で受け流されてしまった。

 そちらがその気なら――、と国王は反撃にでる。

 

 「そういえば、お主が勇者に渡したあの仮面じゃが……」

 「なんですかな?」

 「十年ほど前に、謎の仮面をつけた覗き魔が世間を騒がせておったことを思い出しての――」

 「国王」

 「なんじゃ?」

 「費用は折半ということでどうでしょう」

 

 なんだかんだで、リアージュ王国も意外と平和そうである。

 



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第9話:お料理するのっ!

 「エリーゼの――」

 「三十分クッキング~!」

 

 ちゃら~っちゃっちゃちゃちゃ♪

 タイトルコールのあと、軽快な音楽が流れてタイトルが画面に出ているであろうこの微妙な時間。横にいるエリーゼのマネをして、ニコニコしながらカメラを見ているとディレクターさんがサインを送って来た。

 

 3・2・1――

 

 「――皆さま御機嫌よう。今週もはじまりました『エリーゼの三十分クッキング』、四天王のエリーゼでございます。先程のタイトルコールでお気付きかと思いますが、今日はかわいいゲストの方が遊びに来てくれました。……ご紹介いたしますわ、四天王のユーフィちゃんです!」

 「はい、どうも皆さんこんにちは。四天王のユーフィです。今日はよろしくお願いします!」

 

 ――今回、ユーフィがゲストとして呼ばれている『エリーゼの三十分クッキング』とは、毎週放送されている人気お料理番組である。

 料理が得意なエリーゼが担当しており、マネして作ることでエリーゼの手料理と同じ味を堪能することができると魔王軍では評判らしい。放送が終わると、紹介された料理の材料が売り切れることが日常化しているので、魔王軍の寂しい男たちは頑張って独りで料理をしてエリーゼちゃんの手料理の味を再現しているのだろう……。

 

 「今日のお料理はこちら、『夏野菜たっぷりドライカレー』。これから暑さも本番を迎えますし、しっかり食べて夏バテを予防するには最適のメニューですわ」

 「へ~、ドライカレーですか。スパイスが食欲をそそりますし冷やしてもおいしいから、確かに夏にぴったりですね」

 

 中々に気のきいた知的なコメントを返せたことにユーフィは満足していた。これは、名アシスタントとして伝説になるレベルではないか――。

 

 「ボクも普通のカレーは作れるんですが、ドライカレーの作り方は知らないですね……。簡単に作れるんですか?」

 「――えっ」

 

 「HAHAHA! 安心しなよユーフィ、そんなの簡単SA~☆」みたいな返しを期待していたのだが――エリーゼはそんなキャラではない――何故か彼女は驚いたようにユーフィを見つめていた。

 

 「……ユーフィちゃんってお料理できるんですの?」

 

 何を驚いているのかと思ったら『カレーつくれる』発言に驚いていたらしい。まあ、確かに今の見た目はゆるふわ銀髪美少女ロリなので仕方のないことかもしれない。

 しかし、元の世界では一人暮らしをしていたのだ。料理の一つや二つくらい作れて当然である。ここは少し、大人として人生経験の違いってやつを見せつけておく(わからせてやる)か――、とユーフィはニヤリと笑った。

 

 「いやいや。掃除とか洗濯とか、大抵のことはできますよ? こっちに来るまでは独りで生きてたんですからね!」

 「――なっ!」

 

 だが、ドヤ顔で自分の生活能力の高さをアピールしてみたところで、その実、単純に独身で女っ気もなかっただけである。そのことを思い出すと、ひじょーに悲しくなってきた。どーしよ? 泣きそうかも。

 

 「あ、なんか思い出したら悲しくなってきました――」

 「ユーフィちゃん!」

 「ふぎゅぅ……」

 

 感極まった様子のエリーゼが抱き締めてきた。

 はわわ、柔らかくて良い匂いがしましゅ! くんかくんか。

 

 「大丈夫! もうユーフィちゃんは一人じゃないですわ!」

 

 彼女は、まだこんなにも幼いユーフィが一人で生きていたということを聞いて慰めてくれているようだ。

 なるほど、元の世界での姿を知らなければ、さっきの発言は確かに不憫な生い立ちを想像させる。

 これは訂正しておいた方がいいかな、とユーフィは考えたが――。

 

 「うぇへ、ふひぃ……」

 

 四天王の中でも一番の高さを誇る二つの山に顔をはさまれ、ユーフィの理性は溶けてしまった。細かい事はどうでもいい。今はこの感触を堪能するのだ!

 しかし、くんかくんかしながら、頭をぐりぐり動かしたりしているとエリーゼは離れてしまった。

 

 「あ、ごめんなさい。苦しかったですわね」

 「むふぅ……。いえ、大丈夫です! ありがとうございます!」

 

 苦しくてもがいていると勘違いされてしまったようである。

 もう少し堪能したかったが仕方がない。気持ちをお仕事に切り替えていこう――。

 

 「でも、エリーゼさんが料理が得意なのも意外、と言うか驚きなんですが」

 「え?」

 「ほら、だってお嬢様っぽいキャラだし。料理とか全くしたことないのに作って、変な謎の物体を錬成しそうな――」

 「……あらあら?」

 

 あらあら、うふふ。エリーゼさん激おこであった。

 

 「――しそうな一般的なお嬢様キャラとは一線を画する感じなので、料理が得意なのも納得ですね!」

 「……ほんと、ユーフィちゃんは調子がいいんですから。……めっ! ですわ」

 「ごっふぅ!」

 

 してんのうの エリーゼの めっ! こうかは ばつぐんだ!

 

 お姉さん系美少女に不意打ちで『めっ!』されたユーフィは崩れ落ちた。危うく死にかけたが、なんとか生命活動は維持できたようだ。

 

 「そ、そんなにショック受けなくても……。大丈夫ですの?」

 「だ、大丈夫です。エリーゼお姉ちゃん」

 「うぐっふぅ!」

 

 してんのうの ユーフィの おねえちゃん! こうかは ばつぐんだ!

 

 エリーゼの『お姉さん属性』にやられていたユーフィは、思わず『エリーゼお姉ちゃん』と呼んでしまった。

 呼ばれたエリーゼは変な呻き声を出した後、苦しそうに俯いているがどうしたのだろう。まさか、そんなに嫌だったのか――。

 

 「あ、ごめんなさいエリーゼさん。つい――」

 「ユーフィちゃんがそう呼びたいなら……、いえ、やめておきましょう。あまりに破壊力が強すぎますわ。私、理性が持つ自信がありませんもの」

 「えー……」

 

 これ以上『お姉ちゃん』呼びを続けるとブチ切れるらしい……。

 

 「――さて、とりあえず、ユーフィちゃんには玉葱の皮剥きをお願いしますわ」

 「はい、まかせてください」

 

 気を取り直し、与えられた仕事をこなしてやろうとユーフィは張り切った。

 むきむき……。むきむき……。

 玉葱の皮を剥いている横でエリーゼが味付けに使うものを紹介している――。

 

 「おろしにんにくを小さじ1杯、ソースを大さじ1杯用意しましょう――」

 

 アシスタントとして呼ばれたくせに黙ったままというのもアレだし、気のきいたコメントをしておこうかとユーフィは横から口を挟んだ。

 

 「小さじが『ピャッ』って感じで、大さじが『ビャッ』って感じで入れると良いと思います」

 「よ・く・あ・り・ま・せ・ん・わ! 何ですのそれは!」

 

 ……怒られてしまった。

 

 「いや、小さじっぽいスプーンを持ってない人とか、量るのが面倒な人向けへのアドバイスですよ! こういうのは、多めに入れるのか少なめに入れるのかだけ分かってれば、後は目分量で大丈夫なんですって!」

 「……」

 

 エリーゼちゃんがジト目で睨んでいるよ! かわいいね!

 

 「――はぁ。この番組は、これを観て同じように作った方が、同じ味を再現できることが大事なんですから、そこをきちんとしないと毎回違う味ができてしまうでしょう? 慣れている方なら、それでもいいのかもしれませんが」

 「なるほど……。少し上級者向け過ぎるアドバイスだったようですね」

 「なんでドヤ顔してますの……」

 

 レベルが高すぎるアドバイスだったようだ。もう少し初心者に合わせてあげないと駄目らしい。

 しかし、その後も何かと『できるアシスタント』っぷりを発揮しようとしたユーフィだが、玉葱のみじん切りのやり方を知らないことが明らかになるなど、『ぽんこつアシスタント』化が加速していった――。

 

 「――と言う訳で、『夏野菜たっぷりドライカレー』の完成です。皆さまが本日のまとめをご覧いただいている間に、私たちはお食事の準備をしたいと思います」

 「はい、しっかり復習して下さいね!」

 

 冒頭での、料理できますオーラは何処へやらのぽんこつユーフィに振り回されながらも、エリーゼがしっかりと料理を完成させたところで一度カットが入った。放送では、この間に『今日のまとめ』が表示されているらしい。

 そして、作った料理を食べるところから再び撮影がスタートする――。

 

 「では、いただきますっ!」

 「はい、召し上がれ」

 「……はむっ! ――おいひいです! ね!」

 「――ふふっ」

 

 「おいしい、おいしい」と言いながら、もっきゅもっきゅとほっぺを膨らませてご飯を頬張っているユーフィ。そんな彼女を見つめながら、エリーゼはやさしく微笑んだ。

 

 「ユーフィちゃん、一度にそんなにいっぱい詰め込まなくてもお料理は逃げませんのよ? ふふっ、ハムリスーみたいですわ。かわいい」

 「むっ」

 

 別にユーフィもわざとそんな食べ方をしている訳ではない。

 この体になってからというもの、前と同じ感覚で食べ物を入れると、小さくなった今の口では容量がいっぱいいっぱいになってしまうのだ。ハムリスーみたいだと笑われたので抗議の一つでもしたかったが、口いっぱいにご飯が入っていたので諦めた。

 

 ――ハムリスーとはこの世界にいる、愛くるしい顔をしているがどこかアホっぽい小動物である。後先考えずにエサを頬張り、よく巣穴の入り口などで詰まるアホかわいい生き物だ。

 思慮深い自分とは、似ても似つかない生き物じゃないかとユーフィは思った――。

 

 「でも本当にユーフィちゃんはおいしそうに食べてくれますから、こちらとしても作りがいがありますわ」

 「えへへ。なんなら毎回ゲストに呼んでくれてもいいんですよ!」

 

 グラビア撮影のお仕事とかより、よっぽどマシである。おいしいご飯が食べられるし、良い事尽くめだ。

 

 「そうですわね……。次はユーフィーちゃんの料理も見てみたいですし――」

 「おっ! じゃあカレー作ってあげますね!」

 「いえ、カレーはちょっと……。今回がドライカレーでしたので」

 「え……。じゃあ、カレーうどん?」

 「――カレーから離れてくださいます? 他に得意なお料理はないんですの?」

 

 「カレー以外に何が作れるのか」と問われてユーフィは答えに窮した。

 

 ――自炊はしていたが、カレー以外でまともに料理を作ったことはなかった気がする……。

 

 お米だけ炊いておけば、後は納豆とかスーパーの惣菜を買ってくれば生活できていたのだ。たまに、豆腐を入れるだけで完成する『麻婆豆腐の素』を買ってきて麻婆豆腐とか作っていたので、すっかり自炊できている気になっていたが、イチから自力で作れる料理なんてカレーしかないのでは……。

 エリーゼを見るとユーフィの様子から全てを察したのか、残念な子を見るような慈しみの目でこちらを見ていた。これはまずい。何か、何かいつもよく作っていたメニューを言わなければ――。

 

 「お肉焼いたりも……、できます」

 「大丈夫ですわ、ユーフィちゃん。その歳でカレーを作れるだけでもとってもえらいですわ。他のお料理も一緒にお勉強していきましょう」

 「……」

 

 頭を撫でられ、完全に子ども扱いされている。だが、ここで何か言うと余計に子どもっぽくなりそうなので、ユーフィは黙ってご飯を食べることにした。沈黙は金である。

 

 ――もっきゅもっきゅと拗ねたように無言でご飯を頬張るユーフィを、エリーゼや現場のスタッフたちは微笑ましく見つめていた。

 

 この回が放送されたところ、料理なんて簡単だと背伸びしたがるユーフィちゃんと、それをやさしく導く料理上手なエリーゼちゃんという『おねロリ』が人気を博し、ユーフィはアシスタントとしてレギュラー出演することに決まった。

 おいしい料理が食べられるのでユーフィも喜んでいたのだが、『名アシスタント』ポジションではなく、普段料理をしない視聴者の声を代弁するような『ぽんこつアシスタント』枠として採用されたことは、唯一の不満であった。

 



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6年ぶりだし登場人物まとめたのっ!

なろうで6年間も放置からの投稿だったのでこのタイトルです。

お気に入りや評価、誤字報告などいつもありがとうございます。
なにより感想がとても励みになっています。完結までよろしくおねがいします。


―――――魔族の国『オータク国』サイド―――――

 

 

 

魔王軍四天王『ユーフィ』

 

魔王軍四天王の一人。本作の主人公。めっちゃかわいいロリ。

元日本人の成人男性。この世界に召喚されて10歳のゆるふわ銀髪ロリになった。

神社の鈴をガラガラ鳴らして遊んでたら召喚されたらしい。

 

現四天王の4人の名前だけは真面目に、名前メーカーで目に付いたのを選んだ。

でもその結果、なんでユーフィになったのかということですごく困った。多分この小説書いてる中で一番時間かかって考えた結果、UFOの聞き間違いということでなんとかした。なんとかなったか?

 

 

 

 

魔王軍四天王『ロザリー』

 

魔王軍四天王の一人。金髪ツインテール幼馴染系正統派美少女。

14歳。身長150cm。胸はBカップ。メインヒロイン1。

 

 

 

 

魔王軍四天王『コレット』

 

魔王軍四天王の一人。赤髪ショートボブ関西弁系ケモ耳美少女。

16歳。身長158cm。胸はCカップ。サブヒロイン。

 

 

 

 

魔王軍四天王『エリーゼ』

 

魔王軍四天王の一人。青髪ロングお嬢様系おっぱい美少女。

17歳。身長160cm。胸はEカップ。サブヒロイン。

 

 

 

 

マネージャー『ユウ・ノウ』

 

四天王のマネージャー。めっちゃ有能。名前は『有能』から。

スーツできめてるバリバリのキャリアウーマン系女子。……女子?

 

 

 

 

魔王『キモ・オータ』

 

オータク国の王。つまりオタクたちの頂点。

名前は『キモオタ』から。『ドル・オータ』とちょっと迷った。

 

魔王の特典として四天王それぞれのファンクラブ会員ナンバー0が与えられる。

また、彼女たちが書く最初のサインが貰える。

魔王には『イエス四天王、ノータッチ』の掟がある。権力でぐへへってことはできない。

 

ユーフィの前任、前四天王ビッチィちゃんの大ファンだったが、彼女のスキャンダルが発覚し自殺寸前まで落ち込んでいた。

ユーフィが就任してから無事に復活。今はユーフィ推しである。もちろん全員推しでもある。

 

ただのキモオタみたいだがめっちゃ強い。一応魔王なので。

 

 

 

 

元・魔王軍四天王『ビッチィ』

 

元魔王軍四天王。ユーフィの前任。淫乱ピンク髪小悪魔系ビッチ美少女。

17歳。身長161cm。胸はDカップ。

四天王の中でも頭一つ抜けた人気だったがビッチだった。名前は『ビッチ』から。

 

種族は間違いなくサキュバス。別に殺されたとかいう訳ではなく引退後は自由に暮らしているらしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――人間の国『リアージュ王国』サイド―――――

魔族からは、リアージュの住人は『リア住』と略して呼ばれている。

 

 

 

 

勇者『ドウティー』

 

勇者。さわやか系イケメン男。童貞。一生童貞。名前は『童貞』から。

25歳。身長178cm。

勇者なので普通に超強い。強いけど基本的にギャグなお話なので推しパワーでバフがかかったオタクたちにぶっ飛ばされる。一人でシリアスしてろ。

 

最近は大賢者マジーメからもらった認識阻害の仮面をつけ、ユーフィちゃんの水着ポスターを求めて魔族の国を駆け回っている。

 

1話で勇者召喚についてロザリーちゃんたちが言ってたけどこいつは天然勇者。ふつうに突然変異的にこの世界で生まれた系。多分突然変異だからリア住のくせに童貞。

 

 

 

国王『リアージュ4世』

 

とりあえず4世にした。おっぱい星人なので四天王水着ポスターを見てエリーゼちゃん推しになった。

ちゃんと妻と子供はいる。跡継ぎとして、勇者と同い年の王子とユーフィちゃんと同じ年のかわいい王女(メインヒロイン2)がいる。王子は勇者狙いだし、王女はユーフィちゃんと百合百合する(ネタバレ)。

 

 

 

大賢者『マジーメ』

 

独りで『自己研鑽』し続けた結果、大賢者となった真面目な人。名前は『真面目』から。

『儀式』を行うことで『賢者モード』を発動することができる。下ネタの化身かコイツ。

50歳超えてるけど10分で6回も儀式をした強者。まだ謎のベールに包まれていた新四天王ユーフィちゃんが、ロリであると見破った慧眼の持ち主。同時に、ロリにいじめられることへ目覚め、すべてを超越した『超賢者』への道が見えたらしい。

 



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番外編:ユーフィちゃんスレ集2

某匿名掲示板形式の小ネタ的番外編その2です。
普通の文章形式ではないのでご注意ください。
飛ばしても大丈夫な内容になっています。


【四天王】ユーフィちゃんはドヤ顔かわいい【Part30】

 

 

942.名もなき魔王軍

決起集会の企画イベント何するんだろ

何か意見出した?

 

 

943.名もなき魔王軍

ユーフィちゃん水着撮影会

 

 

944.名もなき魔王軍

お医者さんごっこ!

 

 

945.名もなき魔王軍

野球拳しようぜ!

 

 

946.名もなき魔王軍

>>945

男同士で脱がせ合ってなんか楽しいのか?

 

 

947.名もなき魔王軍

俺たちでやるんじゃねーよ!

 

 

948.名もなき魔王軍

鬼ごっこしたい

ユーフィちゃんが逃げる役

 

 

949.名もなき魔王軍

捕まったユーフィちゃんはどうなるんですか?

おじさん、気になります!

 

 

950.名もなき魔王軍

残念だけどユーフィちゃんと俺の結婚式をするってもう決まってるから

 

 

951.名もなき魔王軍

>>950

狂ってる暇あるなら次スレ立ててこい

 

 

952.名もなき魔王軍

>>950

寝言言ってる暇あるならスレ立てしてね

 

 

953.名もなき魔王軍

>>950

殺される前に先に次スレ立ててきてね

 

 

954.名もなき魔王軍

>>950

魔王様こいつです

 

 

955.名もなき魔王軍

>>950

もう手遅れだわ

病院行く前に次スレ立ててから逝け

 

 

956.名もなき魔王軍

ひどすぎワロタ

 

 

 

 

 

――――――

―――――

 

【四天王】ユーフィちゃんは魔法少女かわいい【Part36】

 

80.名もなき魔王軍

魔法少女ユーフィたん放送まだなの?

 

 

81.名もなき魔王軍

ちょっとあの魔法少女衣装は性的すぎて危険

 

 

82.名もなき魔王軍

デザインした奴は絶対ロリコン

 

 

83.名もなき魔王軍

むしろロリコンじゃない奴おる?

 

 

84.名もなき魔王軍

魔法少女ユーフィたんのバッドエンドルートまだ?

 

 

85.名もなき魔王軍

薄い本が厚くなるな

 

 

86.名もなき魔王軍

えっちなのはいけないと思います!

 

 

87.名もなき魔王軍

びゅびゅっ!

 

 

88.名もなき魔王軍

※登場人物は全員18歳以上です

って書いとけば大丈夫って魔王様が言ってた

 

 

89.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんは10歳ってプロフィールに載ってるんですが

 

 

90.名もなき魔王軍

魔法少女ユーフィたんとユーフィちゃんは別人だから大丈夫

 

 

91.名もなき魔王軍

性的な目で見てもいいのはどっちのユーフィちゃん?

 

 

92.名もなき魔王軍

>>91

両方

 

 

93.名もなき魔王軍

邪神ロリ・コーンの影響が残ってるやつ多すぎ問題

 

 

94.名もなき魔王軍

邪神ロリ・コーンに操られてたって言えば無罪になる可能性が?

 

 

95.名もなき魔王軍

自らの罪を邪神ロリ・コーンに押し付けるのはやめろ

 

 

 

 

 

――――――

―――――

 

【四天王】ユーフィちゃんはツアー初体験かわいい【Part42】

 

108.名もなき魔王軍

昨日でツアー終わったのか

はやかったな

 

 

109.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんはやく帰って来て

 

 

110.名もなき魔王軍

>>109

昨日のライブで今日1日はうちの町で観光してから帰るって言ってたから!

俺ら田舎もんの大勝利なんだよなあ

 

 

111.名もなき魔王軍

【速報】西の町に勇者が出たらしい

 

 

112.名もなき魔王軍

>>111

マジ?四天王狙いか?

 

 

113.名もなき魔王軍

勇者っぽい奴の目撃情報あったらしい

確定ではない

 

 

114.名もなき魔王軍

四天王は念のため早く帰るべき

 

 

115.名もなき魔王軍

>>110にはかわいそうだが早く出発した方がいいな

 

 

116.名もなき魔王軍

>>110

田舎もんは大勝利できたか?

 

 

117.110

は?

勇者殺すわ

 

 

118.名もなき魔王軍

110君がマジギレでワロタ

 

 

119.名もなき魔王軍

>>117

一応マジレスしとくがはやまるなよ?

勇者見つけたら仲間呼べ

お前が死んだらユーフィちゃんも悲しむぞ

 

 

120.名もなき魔王軍

俺たちはもしかしたら英雄が生まれる瞬間に立ち会えたのでは…

 

 

121.名もなき魔王軍

実際どうなってんだよ

ユーフィちゃんたち大丈夫なのか?

 

 

122.110

ああああああああああ!

 

 

123.名もなき魔王軍

おちけつ

 

 

124.110

ユーフィちゃいがロzあリーちぃあに押し倒されtってる!

 

 

125.名もなき魔王軍

オータク語でおk

 

 

126.名もなき魔王軍

>>124

ユーフィちゃんがロザリーちゃんに押し倒されてる?

マジ?なんで?キマシなの?

 

 

127.名もなき魔王軍

あの町でいったい何が起こってるんだ?

 

 

128.名もなき魔王軍

>>127

キマシタワー建設中っぽい

110君は現場の写真うpはよ

 

 

129.110

見た瞬間幸せすぎて死んでたから無理

 

 

130.名もなき魔王軍

110君はアンデッドかな?

 

 

 

 

 

――――――

―――――

 

【四天王】ユーフィちゃんはかわいかわいいかわいい【Part49】

 

1.名もなき魔王軍

 

ユーフィ(○月×日、四天王就任)

 

年齢:10歳

身長:139cm

体重:28kg

スリーサイズ:60―52―62

好きな食べ物:ハンバーグ

嫌いな食べ物:マヨネーズ

 

 

四天王公式サイト

**********************

 

前スレ

【四天王】ユーフィちゃんはお土産にひのきの棒買っちゃうかわいい【Part48】

 

 

2.名もなき魔王軍

関連スレ

【魔王軍】四天王総合スレpart1492【四天王】

 

【四天王】ロザリーちゃんはかわいい【Part501】

【四天王】コレットちゃんはかわいい【Part501】

【四天王】エリーゼちゃんはかわいい【Part502】

 

 

3.名もなき魔王軍

>>1乙

 

 

4.名もなき魔王軍

スレタイおかしなことなってんぞ

 

 

5.名もなき魔王軍

あああああ!

初めてスレ立てしたからミスったごめん

 

 

6.名もなき魔王軍

>>1乙

とりあえず落ち着け

 

 

7.名もなき魔王軍

どんだけかわいい連呼してるんですかね

 

 

8.名もなき魔王軍

>>1がやらかしたようだな

 

 

9.名もなき魔王軍

フフフ…>>1はユーフィ軍の中でも最弱…

 

 

10.名もなき魔王軍

スレ立ても満足にできぬとはユーフィ軍の面汚しよ

 

 

11.名もなき魔王軍

そのテンプレ久々に見たわ

 

 

12.名もなき魔王軍

最近スレ立て失敗する奴いなかったから

 

 

 

 

 

――――――

―――――

 

【四天王】ユーフィちゃんは小動物かわいい【Part55】

 

203.名もなき魔王軍

今日のエリーゼクッキングのユーフィちゃんまとめ

 

・カレーつくれるよ!

・ユーフィちゃん前世界では一人で生きてきた発言

・そのため家事スキル高いらしい

・エリーゼちゃんに濃厚なハグされる

・エリーゼちゃんをエリーゼお姉ちゃんと呼ぶ

・ユーフィちゃんによる皮剥き

・ドヤ顔いっぱい

・量なんか目分量でいいんです発言

・できあがった料理をもきゅもきゅ頬張って撫でられる

・作れる料理がカレーのみと判明

 

 

204.名もなき魔王軍

濃厚なエリユフィでよかった

 

 

205.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんによる皮剥き…

 

 

206.名もなき魔王軍

カレーしか作れないのに自信満々のユーフィちゃんかわいい

 

 

207.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんと結婚したら毎日カレー

 

 

208.名もなき魔王軍

>>206

お肉も焼けるって言ってただろ!

 

 

209.名もなき魔王軍

今日でドライカレーも作れるようになったから

 

 

210.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんはエリーゼちゃんと結婚すれば問題ない

 

 

211.名もなき魔王軍

ユーフィちゃんぽんこつかわいい

 

 

212.名もなき魔王軍

エリーゼちゃんとの絡みが予想外にハマってておもしろかったから

ユーフィちゃんぽんこつ助手枠でレギュラー化してくれないかな

 

 

213.名もなき魔王軍

>>207

毎日カレーにすることでユーフィちゃんとの結婚生活を疑似体験できるな

 

 

214.名もなき魔王軍

>>213

こいつ天才じゃね?

 

 

 

 

 

 

――――――

―――――

 

【四天王】ユーフィちゃんはカレー作れるかわいい【Part56】

 

709.名もなき魔王軍

そういやまたロリコン仮面出たらしいぞ

 

 

710.名もなき魔王軍

都市伝説でしょ

 

 

711.名もなき魔王軍

>>709

ロリコン仮面ってなに

 

 

712.名もなき魔王軍

ロリコン仮面知らないとかモグリかよ

 

 

713.名もなき魔王軍

>>711

ダサい仮面付けた四天王のおっかけ

四天王全員のグッズを買い漁ってるけど特にユーフィちゃん推しらしい

口癖は「ユーフィたんの水着ポスターはないのか?」

 

 

714.名もなき魔王軍

ロリコン仮面ヤバすぎでしょwwwwwww

 

 

715.名もなき魔王軍

一番の謎はこれだけ目撃情報あるのに

仮面つけた男って言う特徴しか上がってこないこと

 

 

716.名もなき魔王軍

最近勇者の目撃情報は聞かなくなったけど、かわりにロリコン仮面がでてきたな

 

 

717.名もなき魔王軍

実はロリコン仮面が勇者だったりして

 

 

718.名もなき魔王軍

ないない

 

 

719.名もなき魔王軍

ロリコン仮面じゃないけど、そろそろあの水着ポスターユーフィちゃんVer出してほしい

 

 

 

 

 

――――――

―――――

 



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第10話:1日魔王になったのっ!

 「――そう言えば、さっき廊下で魔王様に会ったんですけど、魔王様って普段何してるんですか?」

 「何してるかって……。そりゃ、お仕事でしょ?」

 

 ユーフィがふと気になったことを執務室(楽屋)にいたみんなに問いかけてみると、ロザリーから、何言ってるのこの子……。みたいな反応が返ってきた。

 

 というのも、さきほどお花を摘み(トイレ)に行った帰りに、魔王とばったり出くわしたのだ。お仕事の場以外では初めて――しかも二人っきりで――魔王と会い、珍しさから思わずじ~っと見つめてしまった。

 無言ですれ違う訳にもいかないので「こんにちは」と挨拶すると、魔王は「えっ、あっ、あっ、こん、こんにちはっ、ふひっ」と目を泳がせながらボソボソ返してきた。その様子が、かわいそうなくらい『典型的な女性に縁のない人』の反応だったので、魔族たち(オタク)の頂点ってそういう――と、ユーフィは改めて納得したのだった。

 だが、トップがアレだと、いよいよこの国は大丈夫なのかと心配になってくる。

 ライブでは『四天王シャツ』を身に着け、両手に『四天王ブレード』を装備(片手に4本ずつの八刀流)した魔王が最前列で飛び跳ねていることは知っていたが、普段部屋から出てきたところは見たことがない。

 

 ――どう考えても魔王とは名ばかりの、ただの引き籠り気味コミュ症オタクである。

 

 いったい魔王の仕事とは何なのか、普段は何をしているのか――。ユーフィは前からとても気になっていたのだ。

 

 「いや、ライブとかイベント以外で部屋から出てきたところを見たの、今日が初めてだったので……。魔王様って、あれでちゃんと魔王としてのお仕事できてるんですか?」

 

 ユーフィの凄まじく失礼な疑問に、コレットが苦笑いしながら答えてくれた。

 

 「まあ、確かに魔王様は、あんま積極的に喋ったりせえへんし物静かな感じやけど、その戦闘力は歴代の魔王の中でも最強なんやで? 戦闘になっても魔王様が血を流したとこなんか見たことないって噂やし」

 「――あぁ、なるほど。歴代最強の『戦闘力』ね。うんうん」

 

 その『戦闘力』ってつまり『購買力』とかそういうアレなんでしょ? 一人でCDを百枚買うとかの偉業を成し遂げたんだよね。わかってますって。もうだまされないぞ、とユーフィは言葉に隠された真意を勝手に創造して読み取った。

 

 「なんかユーフィちゃんがまた変な勘違いしてる気がするよ……。かわいいから写真撮っちゃお」

 

 ロザリーが呆れたように見つめてきたが、酷い言いがかりである。

 

 「ふむ……。なるほど、良い機会かもしれませんね――」

 

 今まで何やらスケジュール帳とにらめっこしていたマネージャーのユウさんが顔を上げ、話に加わって来た。

 

 「ユーフィ様はこちらの出身ではありませんし、魔王様のお仕事が想像しにくいのかもしれません。一度、魔王様のお仕事を体験してくるのは如何でしょうか?」

 「えっ――」

 

 それはアイドルとか有名人がよくやっている、『1日○○』というやつだろうか?

 しかし、『1日魔王』なんて許されるのか……。元の世界で考えるなら『1日大統領』とかそういう事になるのでは――。

 

 「おっ、ええやんそれ。おもしろそう」

 「魔王様のお仕事を国民のみなさんに改めて知ってもらう機会にもなりますわね」

 「どんな衣装がいいかな! カワイイのがいいよね!」

 

 どうやら許されるらしい。当事者をほったらかしに、勝手に話が進んでいった(衣装が選ばれた)……。

 

 

 

 

 「失礼しまーす……」

 「あっ、ど、どうぞっ! あっ、よ、ようこそ、ふひっ」

 

 『1日魔王体験』の当日。魔王モード衣装(黒いゴスロリワンピ)に身を包み、取材や撮影を終えたユーフィは魔王の執務室へやってきていた。

 ここに入るのは、この世界に召喚された日以来である。あの時は分からないことだらけで余裕もなく、じっくり見ている暇もなかったが、きらきらと華やかな四天王の執務室とは違い威厳に満ちた重厚な造りをしている。

 

 ――だが、その執務室の壁には四天王のポスターが所狭しと貼ってあった。

 

 威厳もなにもなかった。特に、中心にでかでかと飾られているポスターは、魔王の特権によりそれぞれの直筆サイン付きである。『魔王様へ☆ ユーフィ』という自分のサインを見ながら、ああ、これが初めてのサインだったなあ……と、ユーフィは遠い目をしていた。

 

 「あっ、えっと、そこにある書類に目を通して、あっ、こっ、この机と椅子を使ってもいいから、あのっ、確認の判子を押してもらってもいい、いいかな?」

 

 少し当時を思い出していたユーフィが立ち尽くしていると、やることがわからず困っていると勘違いしたのか、魔王が急いでやることを説明してくれた。

 

 「わかりました! そんなに緊張しないでください。よろしくおねがいします」

 「えっ、あっ、その、はぃい」

 

 魔王があまりにもかわいそうな陰キャオタク君ムーブだったので、ユーフィは優しく声をかけてあげた。元の世界では『オタク君に優しいギャル』の概念が好きだったので少しサービスだ。

 これが、前にぶつかったあのさわやかイケメン下っ端ニワカファン野郎なら塩対応するところだが、元同類として魔王に対しては親近感があったのである。一応上司でもあるし。

 

 魔王が普段使っているであろう椅子に腰かけて書類に目をやると、『ブタドラゴンの群れによる作物被害』『市街地近郊でのクマドラゴンの目撃情報』『ハムリスーがポストに住み着いた』などなど、ヤバそうなことからくだらないことまで、いろいろな報告や要望が書かれていた。

 やっぱり様々な問題が起こるんだなあ……、と思いながらユーフィはバンバン判子を押していった。書類に判子を押すという仕事が、いかにも偉い人になった感じがして嬉しかったのだ。

 

 ――魔王用の椅子のため、足が地面につかずにプラプラさせながら得意げな顔でお仕事をするユーフィを、撮影班と魔王は幸せそうに眺めていたが、ユーフィが気が付くことはなかった。

 

 しばらくして、与えられた書類に判子を押し終わったので、顔を上げて魔王の方を見てみると、彼も真面目に書類に目を通していた。

 

 ――実際のところは、一生懸命判子を押しているユーフィをコソコソ眺めていたが、ユーフィが顔を上げる気配を感じて一瞬で自分の書類に目を落としたのである。目なんて合わせられないからね。陰キャだからね。

 

 ユーフィはそんな姿を見つめながら、ちゃんと仕事をしてたんだな、と非常に失礼なことを考えていた。おそらく、普段あまり出歩かないのはこうやって書類を処理していたんだろうと納得した。

 

 「魔王様、判子押し終わりました!」

 「えっ、あっ、あっ、あのっ、おつ、おつかれさま」

 「今の書類にも何件かありましたけど、魔物退治も魔王様がするんですか?」

 「あっ、うん。あっ、でも、あの、ぜん、全部、に対応するわけじゃないっていうか……」

 

 仕事が終わったことを報告し、ついでに気になったことを聞いてみると、魔王は魔物退治もするようだ。ただ、全部魔王がやるわけではないらしい。

 

 ――多分、弱くて安全なやつだけ倒すとか、周りががんばった後にトドメだけさすんだろうなあ……。

 

 ユーフィは勝手に納得していたが、実際は強くてヤバいやつにだけ魔王が対応するので真逆である。

 

 「あっ、えっと、つ、つぎは魔物退治を、た、体験してもらおうと思うんだけど――」

 「いいですね! やりましょう! やりましょう! ひのきの棒持ってきていいですか!?」

 「えっ、あっ、武器は、その、危ないから……」

 

 初めての魔物退治にはやっぱりひのきの棒だよね!と、ユーフィは以前にお土産やさんで買ったひのきの棒を装備してこようとしたが、危ないからとあっさり却下されてしまった。

 どうやら、素手で殴り倒せということらしい。元の世界で部屋の電気の線相手にシャドーボクシングで鍛えた拳が、この世界でどこまで通用するのか試す時がきたようだ――。

 シュッ! シュッ! と、パンチをくりだしてアップを始めたユーフィを、皆でたっぷり鑑賞してから一行は馬車へと乗り込んだ――。

 

 

 

 

 数十分馬車に揺られたユーフィたちと撮影班は、魔物退治のため、街の中心から少し離れた森の近くにある一軒家の前までやってきていた。

 

 「えっと、きょ、今日退治してもらうのは、あの、あ、あれっ」

 

 いったいどんな魔物だろう、と魔王が指さす先を見てみると、家のポストからひょっこり顔を出してるアホかわいい感じの小動物がいた。

 

 「あれって……、ハムリスーじゃないですか」

 

 1日魔王ユーフィの魔物退治のお仕事とは、ポストに住み着いたハムリスーを追い払うというものらしい。ハムリスーはアホなので手紙もかじってしまうため、とても困っているとのことであった。

 てっきり、スライム退治くらいできるかなと思っていたので、あまりにも子供むけな内容にユーフィは内心ガッカリした。

 

 ――まあ、でも1日魔王がスライム退治なんてやっちゃったら、本物の魔王様の立場がなくなっちゃうか。多分、魔王様もスライムくらいしか倒せないだろうし。

 

 しょうがないから四天王として魔王様の顔を立ててやるか、とユーフィは謎の上から目線でドヤ顔をキメてハムリスー退治に取り掛かった。

 

 「ほら、おいで~。こんなとこに住んだらダメなんだぞ~。森へお帰り」

 

 ユーフィがハムリスーを捕まえて、撫でたり舐められたりしているところをしっかりと撮影した後、無事にハムリスーは森へと帰されていった。

 ハムリスーを撫でながら「かわいいな~」と言っているユーフィを見て、「お、おまかわ。ふひゅ」とつぶやいていた魔王は非常に気持ち悪かったが、美少女と小動物の絡みは非常に尊いので責めるのは酷である。

 

 「――はい! 無事に魔物は退治されました! 魔王として、こうやって日々みなさんの安全を守っているんですね!」

 

 魔物退治も終わったので、今日の1日体験を締めくくるため、ユーフィがカメラにむかってセリフを言っていると、辺りに耳をつんざくような声が響き渡った。

 

 「クマアアアアアア!」

 

 突然の大きな鳴き声がした方へ皆が目を向けると、そこにはクマにドラゴンっぽい要素が混ざったような生き物が数匹、森の中からこちらに向かって走り出してきていた。

 

 「なっ! クマドラゴンだと!?」

 「ユーフィ様! 後ろにおさがりください!」

 

 魔物の姿を確認した魔王の緊迫した声が響き、撮影班として同行していたマネージャーのユウさんがユーフィをかばうように飛び出してきた。

 

 ――クマドラゴンとは、クマみたいなドラゴンである。ドラゴンのパワーがクマサイズに凝縮されており、神出鬼没な上、群れで行動するため非常に危険な上級魔物として知られている。

 

 「ひ、ひゃああああ! やばばばば――」

 

 クマだかドラゴンだか知らないが、魔王がなんとかできるとも思えないしあんな狂暴そうな魔物たちに襲われたら一巻の終わりである。素人でもわかるくらいに殺意マシマシで走ってくる魔物を見て、ユーフィはパニックになった。

 

 「魔物共が! 失せろ!」

 「――えっ?」

 

 まさに一閃であった。

 魔王が軽く腕を振るったかと思うと、黒い閃光が走り、こちらに向かってきていた魔物たちを飲み込んだ。

 光が収まると、地面は大きく抉れ、魔物たちは跡形もなく消し飛んでいた。

 

 「あ、あの、だ、大丈夫?」

 

 先ほどまでの勢いはどこへ行ったのか、いつものコミュ障陰キャモードに戻った魔王が振り返り、たどたどしくユーフィに話しかけてきた。

 

 「――いい」

 「ふひっ?」

 「すごくいいです! 魔王様ほんとに強いじゃないですか! ボク勘違いしてました! やっぱり『魔王』はこうじゃなきゃですよね! ヒュバッ! ドバーンって! うわぁ~、すっごい……。かっこいいなぁ――」

 「えっ、あっ、あっ……」

 

 召喚されてから、魔王軍がなんか思ってたのと違うし、そのトップも期待できないだろうな――、と思っていたところでコレである。理不尽なまでの圧倒的な力――。その姿が、まさしく『魔王』であったことにユーフィは大興奮した。

 ファンタジーっぽい世界に魔王軍四天王として来たはずなのに、今までやってきた事といえば歌ったり踊ったり。魔法バトルなんて見たこともなかった。

 ユーフィは興奮のあまり、魔王に詰め寄って尊敬の眼差しで見上げながら「かっこいい! すごい!」とベタ褒めした。ユーフィからして見れば、男友達に対する「うおおお、かっけえ! お前すっげえじゃん!」というノリだったのだが、魔王にとってはたまったものではない。

 

 「くぁwせdrftgyふじこlp!」

 

 魔王からすれば、大好きなユーフィちゃんに詰め寄られ、上目遣いで見上げながらベタ褒めされたのだ。興奮が限界を突破し、謎の奇声を上げながら体中から血を噴き出して倒れてしまった。

 

 「ひええええええ! ま、魔王様!? しっかりして下さい!」

 「ふ……ふひっ、……ひ……」

 「あわわわわわわわわわわわわ」

 「だ、大丈夫です、ユーフィ様! 少し離れてあげてください!」

 

 ユウさんがいち早く状況を飲み込み、処置を施し始める。

 目の前で、魔王が突然血を噴き出してぶっ倒れるというグロテスクな光景に、ユーフィは軽くトラウマになった。

 

 

 

 

 この話を聞いた四天王の面々からは、「何をどうしたらそんなことになんねん」「今度は一体何をやらかしましたの」「それ、放送できるのかな~」と呆れられた。断じて何もしていないと言っても信じてもらえず、ユーフィは遺憾の意を表明したが普段の行動を鑑みると自業自得である。

 

 ある程度の編集(モザイク)を加えられ、『ユーフィちゃんの1日魔王体験』は無事に放送された。

 そして、歴代最強魔王を血の海に沈め、病院送りにしたという話は『ユーフィたん伝説』の1つとして語り継がれることになったのであった――。

 



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第11話:筋トレするのっ!

 「んっ、ふっ、腕立てはこうやってっ、胸が床につくくらいまでっ、しっかりと、んっ、下ろすんやでっ」

 

 動きやすいトレーニングウェアを着たコレットが、腕立てのフォームを説明しながら実践している。

 説明した言葉通りに胸が床につき、その谷間に汗が一筋流れ落ちたのを見つめながら、ユーフィはこの番組のすべてを理解した――。

 

 あ、これ知ってる。えっちなやつだ。

 

 美少女が真面目に運動してるのに、吐息やアングルでなんかえっちな感じになっちゃってて、それを言うに言えないやつである。なぜなら真面目にエクササイズしに見に来ているはずなのに、そんなことを口に出そうものなら、お前はナニしにきてるんだと思われてしまう。

 

 元男のユーフィは詳しかった。

 

 ――今回、ユーフィは四天王のコレットが担当しているトレーニング番組にゲストとして出演していた。コレットは運動を得意としており、四天王でダンスといえばコレットというのは周知の事実である。

 そんなコレットが、筋トレや軽い運動を紹介しつつ、運動不足な視聴者たちと一緒にトレーニングするというコンセプトの人気番組だ。

 

 「……でも、コレット軍のみなさんに運動不足の人なんていないのでは?」

 

 ユーフィは至極当然の疑問を口にした。コレット軍と言えば魔王軍の中でも近接特化の高い戦闘力で有名なのである。ロリコン集団のユーフィ軍とは大違いだ。

 

 「まあ、そうやな。だから、どっちかって言うとこの放送は、技術職とか引きこもりがちな人ら向けに、ウチと一緒に運動しよーって感じやねん」

 「なるほど。みなさん、お仕事も大事ですけどしっかり運動もしてくださいね!」

 「ユーフィもお菓子ばっかり食べとるし、ほっぺたプニプニになっとんちゃうか~?」

 「ちょっ、や、やめてください!」

 

 ユーフィのほっぺたをぷにぷにするコレットと、抵抗するユーフィのいちゃいちゃはたっぷりと撮影された。四天王同士の絡みは非常に素晴らしいので仕方ない。いいぞもっとやれ。

 ただ、あまりの尊さに撮影していたカメラマンが、あら~と言って尊死したので一度カットが入った。

 

 

 

 「じゃあ、ユーフィも腕立て10回がんばってみよか。最初は膝つけてやるのもオススメやで」

 

 カメラマンも蘇生させ、一通りの説明とコレットによるお手本が終わったので、いよいよユーフィが挑戦する番になった。

 ――なったのだが、ちびっこだと思って随分と低い目標設定のようだ。見くびられては困る。

 

 「腕立てをするのはいいですけど――。別に、10回以上やってしまっても構わないんでしょう?」

 

 ユーフィは、コレットに背を向けて顔だけ振り返りながら、過去最高のドヤ顔で言い放った。

 

 「いやいや、初心者にとっては腕立て10回でも結構キツイで?」

 「まあ、運動不足の人がマネしちゃうと危険ですからね」

 「もうなんかそのドヤ顔見たらオチわかったわ……」

 

 人生で一度は言ってみたいセリフの1つをキメてご機嫌のユーフィを、いつものドヤ顔ぽんこつユーフィか、とコレットは生暖かい目で見ていた。

 

 しかし、今回はユーフィなりにちゃんと勝算あっての発言である。

 

 確かに今までは、体がロリになったことでその違いから結果としてぽんこつ化していたが、今回は腕立て伏せという自重トレーニングだ。体が縮んだと同時に体重も軽くなっているので、自重トレーニングにおいて影響はほぼないはずである。

 むしろ軽くなった分、有利まであるかもしれない。

 

 わからせてやるか――、とユーフィは腕立てを始めた。

 

 「い~ち、にぃい~……っい!、……さ、さ~……」

 「……まだ3回目やで」

 

 ――2回目からすでにあやしくなっていたユーフィは、3回目でなかなか体が上がらずにプルプルしていた。

 

 「……さぁ~ん! ふぅ……。」

 「10回どころか3回やったな」

 

 なんとか3回やったところで限界がきたので、いかにもやり遂げましたよという雰囲気で終わってみたが、コレットに冷静に突っ込まれてしまった。ごまかせなかったらしい。

 

 「ほら、きつかったら最初はこうやって、膝ついてやってみ」

 

 コレットに促され、膝をついて3回追加でやったところで、やはり限界を迎え、ユーフィの腕立て収録は終わりとなった――。

 

 

 

 「ダンベル持ち上げるときは、反動をつけないようにしてっ、んっ、下ろす時もゆっくり下ろすんやっ」

 

 腕立ての次は、ダンベルを使ったトレーニングらしい。

 コレットが3kgのダンベルを持ってアームカールについて説明している――。

 

 「よしっ! じゃあ、ボクも3kgでやってみますね」

 「初心者は無理せず1kgとか『錘スライム』にしといた方がええで」

 

 ちなみに『錘スライム』とは、小さいスライムに水を吸収させていい感じの重さになったもののことである。元の世界でいうところの「ダンベルがない人は、まずは2Lペットボトルでやってみよう」というやつだ。

 

 「ダンスの練習とかで結構動いてますし、これくらい余裕です」

 「さっきの腕立てから、なんでそんな自信持てんねん……」

 

 元の体なら5kgのダンベルでも10回はいけていたが、今はロリになってしまった――。

 それでも普段から体を動かしているし、3kgならいけるだろうとユーフィはダンベルに手をかけた。ユーフィはダンスやってるからな。

 

 「ん゛お゛っ!」

 

 軽く持ち上げようとしたが、重くて持ち上がらずガクンっとなりユーフィは無様な声をあげた。

 ダンベル君によるイキりロリわからせ完了である。ダンス万能説は否定された。

 

 「だからゆったやん。その様子やと1kgも無理そうやから、スライムから始めとき」

 「……は~い」

 

 コレットが励ますように頭をなでながらスライムを渡してきた。

 さすがに反論の余地もなかったため、子ども扱いにだけはジト目で抗議しながらスライムを受け取る。

 大人しく渡されたスライムに水をコポコポ飲ませていると、その間にコレットがカメラに向かって説明していた――。

 

 「いつもゆっとるけど、一番大事なんは重さとかじゃなくて、毎日続けていくことやからな。みんなも無理せず続けて習慣にするんが大事やで」

 

 毎日努力して未来のびゅーてぃふるすたーを目指そうかなぁ――と、思いながらコレットを眺めていると、こちらを見たコレットが慌てて駆け寄ってきた。

 

 「ちょっ、それ飲ませすぎや!」

 「――へ? わわわ、でかっ! おもっ!」

 

 余所見をしながらスライムに水をやっていたら、どんどん大きく重たくなってユーフィの腕では抱えきれなくなっていた――。

 

 「わぷっ!」

 

 膨らんだスライムでバランスを崩したユーフィは、スライムを落としてその上へ倒れこんだ。ユーフィに上から押し潰されたスライムはパンパンに膨らんでいたこともあって弾け飛び、その破片はユーフィの顔や胸へと飛び散った。

 

 「うえぇ~、ベタベタする……」

 

 へたり込んだユーフィが、顔や胸元についたベタベタと糸を引く粘液を拭いながら涙目でつぶやいた。

 

 「あ~あ~、大丈夫か? ユーフィはまだちっこいねんから無理したアカンで?」

 

 慈愛の表情を浮かべたコレットが、タオルで顔をぐしぐしと拭いてくれた。もはや完全に背伸びをして裏目に出て涙目になっている幼女扱いである。

 ――ほとんど合っているのでは?

 

 

 

 後から聞いた話では、筋トレ番組のはずなのに、トレーニングとは全く関係のないこの『粘液ベタベタユーフィちゃん』のシーンが何故か視聴率が一番高くなったらしい。

 

 やっぱりえっちな番組じゃないかっ! と、筋肉痛に悩まされながらユーフィは思った。

 



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第12話:誘拐されたのっ!

物騒なサブタイトルですが当然シリアス要素はありません


 「ラーメンが食べたい……」

 「さっきお昼食べたやろ」

 

 昼食後のティータイム中に出た、ユーフィのアホなつぶやきにコレットがつっこんだ。

 

 ――今日は夕方からライブビューイングで遠隔ライブをする予定だったのだが、機械の調子が悪いらしく、延期となったため四天王の4人は執務室(楽屋)で暇を持て余していた。

 

 「ん~、それならココとかどうかなっ! 最近できたラーメン屋さんで、お店はきれいだしデザートもおいしいんだって。予定空いちゃったし、今夜行ってみる?」

 「あら、いいですわね」

 

 ロザリーがオススメのラーメン屋を調べてくれたが、いかにも女子受けしそうなお店であった――。

 

 この世界に召喚されてからというもの、ユーフィは美少女にふさわしいキラキラした生活を送ってきた。キラキラ生活では、食事はヘルシーで健康にいいもの、お菓子はオシャレ~でバエル~な感じのものばかり出てくる。

 

 夜中にカップラーメンとかポテチをキメることなんて許されない。

 

 初めのうちは珍しさもあり、おいしいので特に不満はなかったのだが、それがずっと続いてくるとガワだけ美少女のユーフィには耐えきれなくなってきた。

 清すぎる水には、濁り水にいた生き物(元男)は住めなかったのである。

 

 たまには、なんかもっとこう、体に悪いものが食べたい! 具体的には、背油こってりの豚骨ラーメンがだべだい゛! ギョウザとライスもつけちゃうもんね! 炭水化物と炭水化物の夢のコラボや!

 

 ユーフィの脳内はアブラ不足でかなりゆるふわになっていた。

 

 実は既にいい感じのお店も調べてあり、行けるチャンスを虎視眈々と狙っていたところにスケジュールが突然空いたのである。これぞまさに運命のいたずら――!

 

 「ちょっと、部屋に忘れ物したので取ってきます!」

 「……なんで忘れ物宣言でドヤ顔してるんだろ。ユーフィちゃん、絶対また変なこと考えてるでしょ」

 

 決行するなら今しかない――、とユーフィは席を立った。ロザリーが何か言ってきたが気にしない。

 とはいっても、さすがに四天王であるユーフィが町のラーメン屋に現れようものなら、大騒ぎになってラーメンを楽しむどころではなくなってしまう。

 それはいけない。ラーメンを食べるときは、誰にも邪魔されず自由でなんというかってやつである。

 ユーフィは自室に戻ると、机の引き出しからこの作戦における最重要アイテムを取り出した。

 

 「てれれれってれー! 『瓶底グルグル眼鏡』~!」

 

 通販で買った『瓶底グルグル眼鏡』――「これであなたも、教室の隅にいる目立たないキャラになれる」というキャッチコピーで、簡単な認識疎外魔法がかかっている――を装備する。

 髪も三つ編みにしようとしてみたがよくわからなかったので、なんとかおさげっぽく自力で結ってみた。

 

 ――うん。いいんじゃないかな。読書好きの地味な眼鏡モブ子っぽいぞ。

 

 鏡で確認し、自身の変装技術に満足したユーフィは豚骨ラーメンを求めて街へと駆け出していった――。

 

 

 

 

 眼鏡をかけた銀髪の少女が昼下がりの街を走っていた。

 その眼鏡のせいか少し地味な印象を受けるが顔立ちの良さは隠しきれておらず、不慣れながらも結った髪型からは、慣れないおしゃれに奮闘したことが見て取れる。

 デートの待ち合わせ時間に遅れないように走っているのだろうか――。

 

 まあ、一見するとそんな感じに見えなくもないが、実際はただ豚骨ラーメンを求めて走っているだけのアホである。

 

 変装しているとはいえ、あまり人目につかないほうがいいだろうと考えたユーフィは、メイン通りから外れた狭い道を選んで移動していた。

 目的地までの道のりを思い出しながら走っていると、不意に横から人が出てきた。

 

 「ぷぎゅっ!」

 

 注意力が散漫になっていたユーフィは、避けることができずに出てきた誰かにぶつかって無様に尻もちをついた。

 

 「っ! 君は、あの時の――!」

 「え? ――ヒッ!」

 

 ぶつかった相手を見上げると、そこには変な仮面をつけた男がいた。

 タキシードとか着て女子中学生を見守っていそうである。着ていたのはローブだったが。

 

 へ、変態だーー--!!!!

 

 ユーフィは、初めてリアル変態に出会った恐怖と衝撃から心の中で叫び声を上げた。

 

 「ああ、そうか……。これをつけたままでは認識できなかったな」

 

 ユーフィの反応を見た変態仮面が仮面を外すと、その正体はいつか同じようにぶつかったさわやかイケメン野郎であった。

 どうやらしばらく見ないうちに、ニワカファンから変態仮面にクラスアップしていたらしい……。

 

 ――何なんだコイツは。

 

 ユーフィは大変困惑したが、多分カッコイイと思ってつけてるんだろうし、馬鹿にして変態を下手に刺激しないよう、慎重に言葉を選んだ。

 

 「あなたでしたか。……その、えーっと、素敵な仮面ですね?」

 「い、いや、これは認識阻害の魔法具なんだ。別に好きで装備しているわけじゃない」

 

 変態が苦笑しながら言い訳をしてきた。どうやら、ユーフィが装備していた眼鏡と同じようなものらしい。

 そういえばあの眼鏡はぶつかったときに外れたみたいだけど、どこに吹っ飛んだんだろう――、と周りを見渡すと少し離れたところに転がっていた。

 実は結構なお値段だったので、レンズが割れていなくてユーフィは安心した。

 

 「――なにか落としたのか?」

 「あ、大丈夫です。この眼鏡を探してただけなので」

 

 ユーフィがキョロキョロしていたのを見て変態が気にしてきたが、問題ないと眼鏡を装備し直した。

 手伝ってもらって変態に借りをつくっては、何を要求されるかわかったものではない。

 

 「その眼鏡、認識阻害魔法がかかっているのか。子どものおもちゃレベルの低級だが……」

 「……」

 

 えぇ~……。これ、結構高かったんだけど……。

 

 子どものおもちゃレベルと言われてユーフィが地味にショックを受けていると、少し離れたところからよく知っている声が聞こえてきた――。

 

 「あのちびっこ、どこ行ったんや」

 「も~、遊びに行くなら『どこに・誰と・何をしに・何時に帰るか』を言ってからって教えたのに」

 「見守り機能付きのアクセサリーを持たせるべきですわね」

 

 どうやら3人がユーフィを探し始めたようだ。

 なんかめちゃくちゃ子ども扱いされているが、残念ながら当然である。

 

 「やばっ!」

 

 声が近づいてきたので、変態の後ろに隠れてこっそり様子をうかがっていると、こちらには来ずメインストリートをそのまま通り過ぎていった。とりあえず一安心である。

 そんなユーフィの様子を見て、変態は驚いたように尋ねてきた。

 

 「君は、まさか……、逃げてきたのか!?」

 「え……? まあ、はい。だから、見つかりたくないので逃げないと――」

 「そうか、何故か四天王が遠見の魔法を使えないというこの状況……。確かに、逃げ出すチャンスは今しか――」

 「?」

 

 ユーフィの返答を聞いた変態は、なぜか深刻な顔をしてブツブツ言い始めた。

 遠見の魔法とか言ってるしライブビューイング参加予定だったのかな? もしかしてライブ中止になって怒ってる?

 

 ユーフィからすれば、目の前の男は『変な仮面をつけはじめたけど推しを目の前にしてもまだ本人と気づかないやっかい系ニワカファン』なので変に刺激しないようビクビクであった。

 

 「――だが、この国にいる限りすぐに見つかってしまうのでは?」

 「まあ、確かにすぐに見つかってしまうとは思いますけど、それまで少しだけでも楽しみたいなって思いまして……」

 「君は……、そんな悲壮な覚悟で――」

 「? えっと、だからもう行ってもいいですか?」

 

 変態がなんか泣きそうな顔で下を向いてよくわからないことを言っているが、よくわかんないからヨシ! とりあえずさっさと離れよう。

 替え玉が待っているのだ――、とユーフィは立ち去ろうとしたが、そのタイミングでうつむいていた変態が顔を上げ、まるで世界を敵に回すことを決意をしたかのような目でみつめてきた。

 

 「――わかった。君には以前、四天王の魔の手から逃してもらった恩がある。今度は俺が君を助ける番だ!」

 

 いきなり覚悟完了オーラをまとって再び仮面を装備した変態仮面は、ユーフィに近づくとお姫様抱っこで持ち上げてきた。

 

 「ちょっ! えっ!? なにしてんのっ」

 

 元男のユーフィは人生初のお姫様抱っこに思わずトゥンク――、するはずもなく、名実ともに変態仮面と化した男から逃げようとジタバタした。ついでにタイトルコールもした。

 

 「君をリアージュ王国まで連れていく」

 「――は?」

 

 変態仮面の口から出た意味不明な発言に、ジタバタしていたユーフィは思わず動きを止めた。

 

 「大丈夫、わかっていると思うが僕は勇者だ! 信用できる立場の友人に匿ってもらう。君が傷つけられることはないから安心してくれ!」

 「――え?」

 

 え、この変態、勇者なの? ナニソレ知らない。初めて聞いたんだけど?

 

 ヤバい。四天王本人を見ても気づけない残念なニワカ変態仮面だと思ってたけど、その正体は思いっきり敵対してる勇者だった。

 こんなの、もし自分が四天王なんてバレたらきっと殺される!

 

 ユーフィは めのまえが まっくらに なった!

 

 思考停止している間に、ユーフィを抱えた勇者はすさまじいスピードでぐんぐん走っていく――。 

 というかこの状況が普通に怖い。車とか馬車ならともかく、むき出しで抱えられてる状況でこんな人外の速度で移動されたら怖くて死にそう。

 

 ユーフィは落とされて死なないよう、半泣きになりながら勇者にぎゅっとしがみついた。

 

 こうしてユーフィは勇者の善意(勘違い)によって人間たちの国、リアージュ王国へと連れていかれたのであった――。

 




1週間ほど人間の国をエンジョイしたら帰るらしい


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番外編:ユーフィちゃんスレ集3

【四天王】ユーフィちゃんは1日魔王かわいい【Part59】

 

 

124:名無しの魔王軍 ID:nOIkimNjq

1日魔王体験の放送始まるぞー

 

125:名無しの魔王軍 ID:+SqeBqWON

魔王モード衣装かわいい

 

126:名無しの魔王軍 ID:7zM+bUpl/

ゴスロリ黒ワンピ!

 

127:名無しの魔王軍 ID:8XXFm3XTf

天使かな?

 

128:名無しの魔王軍 ID:4OGiSsPUF

天使でしょ

 

129:名無しの魔王軍 ID:chtkf7UDF

今日は魔王なんだよなあ

 

130:名無しの魔王軍 ID:hjOi+MJof

天使と魔王が両方そなわり最強に見える

 

131:名無しの魔王軍 ID:22jryuaex

ユーフィちゃんのかわいさ最強!ユーフィちゃんのかわいさ最強!

 

132:名無しの魔王軍 ID:PY3eZljXV

魔王様めっちゃ緊張してて笑う

 

133:名無しの魔王軍 ID:W1nEe36pC

これはしゃーない

 

134:名無しの魔王軍 ID:XxV8U15g7

魔王様がんばえー

 

135:名無しの魔王軍 ID:uQL6rlkXU

今のうちに俺もユーフィちゃんが部屋に来たときのイメージトレーニングしとくわ

 

136:名無しの魔王軍 ID:c/LPaoh/P

>>135

ユーフィちゃん「この部屋なんかイカ臭いですね!」

 

137:名無しの魔王軍 ID:tD+2Qqh+s

あのサイン入りポスターほしい

 

138:名無しの魔王軍 ID:rmvG06hwv

俺もほしい

 

139:名無しの魔王軍 ID:qxbOr1TPk

あれは魔王特権やぞ

 

140:名無しの魔王軍 ID:ju7a7mzIa

ハンコ押すだけなのに楽しそうにしててかわいい

 

141:名無しの魔王軍 ID:EfeBtP30B

ちっちゃい子はスタンプとか好きだからね

 

142:名無しの魔王軍 ID:kQckkbD1i

足がついてなくてぷらぷらしてる!

 

143:名無しの魔王軍 ID:IzVrZD5YM

かわいすぎて死んだわ

 

144:名無しの魔王軍 ID:cQzn18ZPh

魔王様めっちゃチラチラ見てて草

 

145:名無しの魔王軍 ID:61Kn+zU6B

そりゃこんなかわいい子が部屋にいたら見るでしょ

 

146:名無しの魔王軍 ID:qIumsATSY

次は魔物退治体験か…

大丈夫かな?危なくない?

 

147:名無しの魔王軍 ID:TKUfE5agr

ユーフィちゃんめっちゃノリ気やん

ひのきの棒好きすぎやろ

 

148:名無しの魔王軍 ID:A0a8aRoRe

ユーフィちゃん謎のひのきの棒推しを受けてグッズにひのきの棒出たしな

 

149:名無しの魔王軍 ID:H5Kq0ZdVP

おじさんのデラックスひのきの棒見せてあげるねえ

 

150:名無しの魔王軍 ID:x0tOa0XWs

>>149

死ね

 

151:名無しの魔王軍 ID:0+JaXyWup

>>149

へし折るぞ

 

152:名無しの魔王軍 ID:ZPd4Qj3Os

魔物殴り倒す気で草

へにょへにょパンチかわいいね

 

153:名無しの魔王軍 ID:s7FFTNqwj

へにょへにょパンチしてドヤ顔のユーフィちゃんかわいい

 

154:名無しの魔王軍 ID:Hhtkc5JLv

でもお前らあのユーフィちゃんパンチくらったらどうする?

 

155:名無しの魔王軍 ID:G1IFrtaZp

>>154

うわああああやーらーれーたー

 

156:名無しの魔王軍 ID:tL0t8l5Pc

>>154

ぎゃあああつーよーすーぎーる~

 

157:名無しの魔王軍 ID:WWGZusS5m

娘溺愛パパかな?

 

158:名無しの魔王軍 ID:MXvKeeALB

ハムリスーと戯れてるユーフィたん

 

159:名無しの魔王軍 ID:AVUg00jGp

こんなん無差別破壊魔法やろ

かわいすぎて死んだわ

 

160:名無しの魔王軍 ID:uOlrpQ6jF

俺も死んだ

 

161:名無しの魔王軍 ID:5Z4+/BArh

ワイも

 

162:名無しの魔王軍 ID:im7HHjQAN

アンデット族多すぎ定期

 

163:名無しの魔王軍 ID:0K044PEAB

おじさんはハムリスーおじさんだよ

ユーフィたんぺろぺろするリスー

 

164:名無しの魔王軍 ID:P7BxkMlid

>>163

きっっっっっっしょ

 

165:名無しの魔王軍 ID:ft/klqD9a

 

166:名無しの魔王軍 ID:asvW5yKkL

oi

 

167:名無しの魔王軍 ID:+LtQUJ0eG

やば

 

168:名無しの魔王軍 ID:M2EiGaJCb

クマドラゴンじゃん!!!

 

169:名無しの魔王軍 ID:nekeJPZkI

魔王様がんばえー

 

170:名無しの魔王軍 ID:lqsLAwQK3

ちょwwww魔王様本気だしててワロタwwwww

 

171:名無しの魔王軍 ID:P+BVjf3ji

あの人やっぱすげえな

ユーフィちゃん無事でよかった

 

172:名無しの魔王軍 ID:MBUtE8yNu

魔王様鬼つええ!

逆らう奴ら全員ぶっ殺していこうぜ!

 

173:名無しの魔王軍 ID:TfAHQ2R2R

ユーフィちゃんこわかったよね

ぎゅってしてあげたい

 

174:名無しの魔王軍 ID:fzVEyT+Xr

>>173

へんたいおじさんの方がこわいでしょ

 

175:名無しの魔王軍 ID:Ke5Oguf5H

あ^~大はしゃぎしてるユーフィたんがピョンピョンするんじゃ^~

 

176:名無しの魔王軍 ID:S/b43Z6nU

ベタ褒めやんけ!うらやましい!

 

177:名無しの魔王軍 ID:keaLqtxQs

魔王様死んだw

 

178:名無しの魔王軍 ID:98vLuDlBA

【速報】ユーフィたん魔王様を血の海に沈める

 

179:名無しの魔王軍 ID:aqvL6MfXI

ワイ魔王直属部隊

あの人が血流すとこ初めて見て困惑中

 

180:名無しの魔王軍 ID:wlN+uuHR7

>>179

スーパーエリート様がいて草なのだ

 

181:名無しの魔王軍 ID:KNFD9XAfW

ユーフィたんはオータク国にて最強

 

 

 

 

 

 

 

【四天王】ユーフィちゃんは筋トレがんばるかわいい【Part62】

 

 

500:名無しの魔王軍 ID:BmQCa5v+R

毎週のおたのしみタイムきたぞ

 

501:名無しの魔王軍 ID:07L9xQuDC

美少女と一緒にトレーニングするぞー!

 

502:名無しの魔王軍 ID:jC9Gf65tw

トレーニング(意味深)

 

503:名無しの魔王軍 ID:txYe25X+o

週1かな~やっぱww

こないだダンベル持った時も気が付いたら意識無くて倒れてたしなwww

俺、これでも魔王軍ですよ?

 

504:名無しの魔王軍 ID:GQx7YwC7U

>>503

もっと鍛えろ定期

 

505:名無しの魔王軍 ID:FlTQW5ezP

しかも今回はユーフィちゃんがゲスト登場や!

 

506:名無しの魔王軍 ID:Bn2lN1X01

ユーフィちゃん年齢的に出演して大丈夫?

 

507:名無しの魔王軍 ID:ipy8r52+t

なぜ心配するんだい?

この番組は健全なトレーニング番組だよ

 

508:名無しの魔王軍 ID:BfmUv1LJ3

そーだそーだ

見るだけで固く大きくなれるんだぞ!

 

509:名無しの魔王軍 ID:h3dfp6t9h

>>508

見るだけで?

…妙だな

 

510:名無しの魔王軍 ID:BJ4njJ367

開幕イチャイチャいいですわよ~

 

511:名無しの魔王軍 ID:5g2Ggrfmk

ユーフィちゃんのほっぺたはプニプニ

 

512:名無しの魔王軍 ID:Ychy7TMV5

ひらめいた!

 

513:名無しの魔王軍 ID:VacEE4Vm/

>>512

通報した!

 

514:名無しの魔王軍 ID:KWe6U9qg/

ユーフィちゃん腕立て自信あるのか

 

515:名無しの魔王軍 ID:53yt8dshl

腕立て自信ロリ(3回)

きゃわわ

 

516:名無しの魔王軍 ID:7pjY+PUFT

3回もできてえらい

 

517:名無しの魔王軍 ID:0lLwHKKtF

なぜ10回以上できると思ったのか

 

518:名無しの魔王軍 ID:SRmV+raIT

膝つき腕立ても合わせれば6回だから四捨五入で実質10回達成

 

519:名無しの魔王軍 ID:WJiFFqkU9

ユーフィちゃんって見た目に反してパワーというかバトル系好きだよね

 

520:名無しの魔王軍 ID:xCNPzV6zE

ちびっこはバトルもの好きだから

 

521:名無しの魔王軍 ID:X1+AioaP/

3kgのダンベル持てないユーフィちゃん

 

522:名無しの魔王軍 ID:ejfW00ElV

すごい声でたなw

 

523:名無しの魔王軍 ID:Rz1rEt72T

コレットちゃんに頭撫でられるユーフィちゃん

 

524:名無しの魔王軍 ID:lhUanvxL9

あら^~

 

525:名無しの魔王軍 ID:+HbkKQwJU

ちょっと拗ねてるのかわいい

かわいいかわいいああああああああああああ

 

526:名無しの魔王軍 ID:cmaqyzXCV

尊い

 

527:名無しの魔王軍 ID:iuFCRluvT

俺もユーフィちゃんに抱っこされてお水飲まされたい

 

528:名無しの魔王軍 ID:V9Olje7Vb

俺がスライムや

ユーフィママに水のませてもらうわ

うらやましいか

 

529:名無しの魔王軍 ID:dKxckxwfo

スライムめっちゃふくれてて草

 

530:名無しの魔王軍 ID:ct5B8trO1

破裂するやろアレ

 

531:名無しの魔王軍 ID:7RvbgkLf3

破裂したw

 

532:名無しの魔王軍 ID:URKHDAPZ6

>>528

あちゃースライム兄貴死んじゃったかー

 

533:名無しの魔王軍 ID:hm5pUjix1

>>528

成仏しろよ…

 

534:名無しの魔王軍 ID:JvKtAACe2

エッッッッッッッッ!

 

535:名無しの魔王軍 ID:0NocM5Hlf

エチチチチチチチチチ!

 

536:名無しの魔王軍 ID:KJY7QaQDX

えっちコンロ点火!

 

537:名無しの魔王軍 ID:J0Sb9unsc

あーこれはいけません

えっちすぎます

 

538:名無しの魔王軍 ID:WSApMB5nx

録画しててよかった

 

539:名無しの魔王軍 ID:FIxHYqskm

粘液まみれのユーフィちゃんを見た時……その…下品なんですが…フフ……

 

 

 

 

 

 

【四天王】ユーフィちゃんは腕立て伏せ3回かわいい【Part64】

 

 

911:名無しの魔王軍 ID:ALPp0uz5J

ユーフィちゃんがスライムの粘液まみれになってる画像貼ってください

お願いします

 

912:名無しの魔王軍 ID:1w3jcL65p

【悲報】ユーフィちゃん体調不良で1週間ほど休むらしい

 

913:名無しの魔王軍 ID:lhL5XjJxy

マジ?

 

914:名無しの魔王軍 ID:mjIuEykZt

四天王公式からお知らせ出てるな

 

915:名無しの魔王軍 ID:h64A0vvHH

ちょっと重めの風邪ひいたから大事をとってとのことらしいけど心配だ

 

916:名無しの魔王軍 ID:dD0JoXm8v

写真なしの報告は珍しいな

 

917:名無しの魔王軍 ID:SBxbQGdIi

>>916

風邪で寝込んでるとこは写真とられたくないでしょ

そんなんだから童貞なんだよ

 

918:名無しの魔王軍 ID:XmR24wcj0

>>917

チクチク言葉やめてね

やめろ

 

919:名無しの魔王軍 ID:oG8Dl5Ku4

筋トレがんばりすぎたのかな

 

920:名無しの魔王軍 ID:Z2GgI3qc/

>>919

かよわいいきものすぎる

 

 



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第13話:お姫様のメイドになったのっ!

 リアージュ王国の中心にある王城の一室。

 厳重な警備に守られたこの部屋は、部屋の主である王女と、その専属メイドの2人きりの空間となっている。

 

 「クラリス様、クッキーをお持ちしました」

 「ありがと! フィーも一緒に食べましょう?」

 「わーい。いただきます」

 

 いくら誘われたからとはいえ、何の躊躇もなく、姫と一緒にお菓子を食べ始めるフィーと呼ばれたこのメイド。

 

 ――その正体は言うまでもなく、『ゆるふわ銀髪ぽんこつロリ』こと魔王軍四天王のユーフィである。

 

 仮にも戦争中の相手国でいったい何をやっているのかという話だが、どうしてこうなったのかというと、ユーフィが王国に連れてこられた2日前に遡る――。

 

 

 

 

 

 オータク国からユーフィをお持ち帰りした変態仮面こと勇者ドウティーが、ユーフィを連れて行った場所はリアージュ王国の王城であった。

 なんかよくわかんないけど「君を助ける」発言をしていたので、ひどいことにはならないだろうと油断していたら、まさかの初手ラストダンジョンである。

 

 ――え、これやっぱり処刑されるやつ?

 

 銀髪だけでなく頭の中もゆるふわなユーフィだったが、これにはさすがに焦り始めていた。

 玉座の前で公開処刑でもされるのかとガクブルしていると、勇者は正門からではなくお城の裏にある木箱を動かし、そこに現れた隠し扉のカギを開けて入っていった。

 お城にはやっぱり隠し通路とかあるのか~、とユーフィが感動していると長い通路が終わり、開けた空間に出たようだ。

 そこには金髪のイケメンと、その後ろに隠れるようにしてこちらを覗き見る、同じく金髪の美少女が待っていた。

 

 ――あ、これ絶対、王子と姫だ。頭に王冠とティアラのってるし、金髪だし。

 

 ユーフィは『ファンタジーの王族8割金髪説』を提唱していた。ちなみに残りの2割は銀髪である。

 

 「よう、ドウティー。久しぶりに連絡が来たと思ったら、またとんでもない頼みでビビったぜ」

 「すまない。こんなことを頼めるのはお前しかいなかったからな」

 「フッ、気にすんなよ勇者様。俺とお前の仲じゃねえか」

 「そうか。ありがとうな王子様」

 

 なんかイケメン2人組が軽口を言い合って楽しげに小粋なトークを始めていた。

 

 ――陽キャオーラ撒き散らして会話するな。絶対サッカー部だろコイツら。

 

 そんな様子を見たユーフィは、謎の怒りを胸に、憎悪を燃え上がらせていた。イケメンは敵なのである。

 イケメンの絡みになんて興味はないので、予想通り王子様だった男の後ろに隠れ、こちらをジッと見ている少女に手を振ってみることにした。

 おそらく、このイケメン王子の妹で、お姫様であろう彼女も非常に美しい顔立ちをしていた。

 歳はユーフィと同じくらいに見えるが、仮に四天王と並んだとしても全く見劣りしない、世界トップクラスの美少女である。

 同じ金髪美少女のロザリーと並べば姉妹みたいになりそうだなあとユーフィは微笑ましく見つめていた。

 そんな金髪少女は、へにゃへにゃと手を振っているユーフィに最初は驚いた様子だったが、次第に不機嫌そうにジト目になって見つめていた。

 

 「で、匿いたいってのは、この子か」

 「ああ、以前話しただろ? 俺を助けてくれたこともある。やさしい子だ」

 

 なんとか少女との交流を図ろうとしていると、イケメンどもの話題が自分のことに移り、皆の視線が集まってきたのでユーフィは気恥ずかしくなって縮こまった。

 

 「ああ、怖がらなくてもいい。確かに互いの国は争っているが、別にキミ個人が何かしたというわけではないだろう。なにより、コイツ(ドウティー)がキミを信用してるというなら、俺としてはそれだけで十分だ」

 「は、はあ……。ありがとうございます?」

 

 ユーフィからしてみれば、勇者のイメージは変態仮面しかないので、王子の勇者に対する信頼が意外だった。

 まあ、人間側からすれば英雄だし当たり前なのかもしれないが、変態仮面だしなあ……。

 

 「そういえば、お互い自己紹介がまだだったな。俺はリアージュ王国の王子、チャラウェイだ。こっちの隠れてるのは妹のクラリス。ほら、クラリス。魔族だからって、別にこの子は怖くないだろ? きちんと挨拶しなさい」

 「お、お兄様! 別に怖がっていたわけではありません! 怪しい者でないか自分の目で観察していただけです! ……コホン、私はリアージュ王国の王女、クラリスですわ」

 

 お姫様の名前はクラリス姫というようだ。

 どうやらユーフィが魔族ということで、怖がっていたらしい。かわいいね!

 チャラくてウェイウェイしてそうな王子の名前は刹那で忘れたユーフィであるが、名乗られたからには、こちらも名乗らねば不作法というもの……、と名乗ろうとしたところで、重要なことに気付く。

 

 あ、やば。名前どうしよ――。

 

 「ボクは、え、えーっと、フィ、フィーです! よろしくお願いします!」

 

 ユーフィ? 贅沢な名だね! 今日からお前はフィーだ!

 とっさに名前をいじって、いい感じの偽名を名乗ることができた。

 嘘にはある程度の真実を混ぜることが大事って聞いたことがあるからね!

 

 「ふ~ん。あなた、なんかダサい眼鏡してるし、髪型もパッとしないわねぇ……。そんなんだから、仲間から虐められるんじゃないの?」

 「え゛」

 

 ユーフィは自分が虐められていたという衝撃の事実(誤解)に硬直した。

 クラリス姫はそんなユーフィの顔をじ~っと眺めると、眼鏡と髪留め(変装セット)に手を伸ばしてきた――。

 

 「素材は悪くなさそうだし、そんな眼鏡とって、髪もほどいてみなさいよ。ホラ、少しはマシに――」

 「あっ」

 

 ユーフィの素顔を見たクラリス姫は、ポーッと見つめたまま黙ってしまった。

 隣の王子も驚愕の表情を浮かべて凝視している。

 これは、四天王だとバレたかとユーフィは死を覚悟した。

 

 「――て、天使様?」

 「え、違いますけど」

 

 正体がバレたかと思いきや、お姫様はわけのわからないことを言い出した。

 

 「いや、こりゃ驚いた。なるほどな。この容姿に嫉妬して――ってところか……」

 「ああ、おそらく」

 

 王子と勇者も何か納得し合っている。

 さっきのクラリス姫の言葉も合わせて考えると、なぜかオータク国で虐められていて、勇者に助けられて亡命してきたということになってるみたいだが……。

 

 ――え? なんで??????

 

 君たちが何を言っているのか、ボクにはわけがわからないよ――、とユーフィは宇宙猫状態になった。

 

 「決めたわ! フィー! あなた私の専属メイドになりなさい!」

 「あっ、はい。……えっ?」

 

 クラリス姫の勢いに押されて、つい返事をしてしまった結果、魔王軍四天王から王女専属メイドにジョブチェンジを果たしたユーフィであった。

 

 「あ、でも普段は変装しときなさいよ! 悪い虫が寄ってきたら大変だし、あなたの事情を考えれば目立たない方がいいでしょ。フィーのかわいさは、私だけが知っていればいいから!」

 

 

 

 

 

 そんなことがあって、ユーフィはリアージュ王国の王女、クラリス姫の専属メイドとして働くことになったのである。

 

 「――それでね、次の祝日が私の誕生日なんだけど、10歳になるからってお父様がはりきっちゃって、大変なのよね」

 「次の祝日ということは、5日後ですか。お姫様の誕生日パーティともなれば、とっても豪華なんでしょうね」

 

 メイドも護衛として、おいしいもの食べられたりしないかな?

 

 「そんなに面白いものではないわ。つまんない人たちの相手をして、つまんないダンスを踊るだけよ」

 「ほえ~」

 

 やっぱり王族に取り入ろうとする、権力争いとか派閥争いとかあるのかな~と想像してみたが、よくわからない世界だったので、ユーフィはアホみたいな相槌を打つので精いっぱいだった。

 

 「ちょうどいいわ。フィーは私と身長も同じくらいだし、ダンスの練習相手になりなさい」

 「うええ!? ボク、社交ダンスなんてできませんよ!」

 

 この世界に来てから、アイドル的なダンスなら練習してきたが、しゃるうぃーだんす的なものは前の世界も含めて、一度も経験はない。

 せいぜい子供の頃にバラエティー番組で、社交ダンス部を見ていたくらいだ。どこぞの海峡とかも横断してたやつである。

 

 「大丈夫、私が教えてあげるわ! それに私のメイドなら、それくらいできるようになってもらわないとね!」

 「ええ~……。お手柔らかにお願いします」

 

 明日から特訓よっ! と楽しそうなクラリス姫を見て抵抗しても無駄だと悟ったユーフィは、明日からの練習が厳しくないことを祈ることにした――。

 

 

 

 

 

 「ふぅ……。つかれたー。今日も1日がんばったぞいっと」

 

 王城での慣れない仕事を終えて自室に戻ったユーフィは、変装を解いて現状を改めて確認していた――。

 

 よくわからないまま人間の国に連れてこられて2日がたったが、四天王だとバレてないどころか、その四天王に虐められていた哀れな少女だという、謎の勘違いのおかげで温かく迎え入れられた。

 しかもこの国のお姫様の専属メイドに任命されるという謎の展開。

 それでいいのかリアージュ王国……、と思わなくもないが、命の危険はなさそうなので一安心である。

 とはいえ、みんな心配してるだろうしなんとかして帰らないとなあ――と考えていると、自室のドアをノックする音が聞こえてきた。

 

 「はーい」

 

 こんな時間に誰だろう? 明日の仕事の連絡かな? と思いながらユーフィはドアを開けた。

 

 「こんばんは♡」

 「えっ――」

 

 ドアを開けるとそこには、なんかピンク髪のめっちゃえっちなお姉さんがいた。

 別に露出をしているわけでもなく、このお城のメイドの恰好をしてるんだけど、えちえちオーラが全身から迸っている――。

 まるで、男と生まれたからには誰でも一生のうち一度は夢見る「地上最エロの女」って感じである。

 ユーフィの脳内で、神イントロッッッが流れ出した。

 

 「ちっちゃくてかわいぃ~♡ ちょっとつまみ食いしちゃおうかな♡」

 「えっ、あっ、ちょっ、い、一体何の用ですか!? というか誰ですか!」

 

 甘く、くすぐるような声と蠱惑的な瞳に蕩けそうになりながらも、ユーフィは何とか相手の目的を尋ねた。

 

 「ん~、アタシの後任の子がぁ♡ どんな子なのか気になっちゃって♡」

 「後任? 姫様のお付きのメイドだった方ですか?」

 

 今まで姫様専属のメイドはいなかったって話だったけど、違ったのかな? まさかこの人がえっちすぎてあまりにも情操教育に悪かったから存在を抹消されたとか――、とユーフィは考え込んだ。

 えっちなお姉さんは、そんなユーフィの様子を少しの間楽しそうに眺めていたが、そっと屈んでユーフィの耳元へ口を近づけると囁いた――。

 

 「ちがうちがう♡ ……あなた、今の四天王でしょ?」

 「――っ!」

 

 ひゃあぁいい匂いがしましゅ~とドロドロに溶けかけていたユーフィだが、さすがに正体バレというヤバすぎる展開に理性を取り戻し、弾けるように相手から距離をとる。

 

 「なっ、なんでっ! いや、違います! 眼鏡だって――」

 

 ユーフィは、眼鏡もしてるし人違いだと言いかけたが、変装を解いたまま対応していたことに、今更ながら気づいて絶句した。

 あわあわと慌てふためくユーフィに、えっちなお姉さんは妖艶な笑みを浮かべながら自分の名を告げた――。

 

 「アタシ、元四天王のビッチィよ♡ はじめましてユーフィちゃん♡」

 



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第14話:元四天王とお話しするのっ!

 前略

 四天王の皆様、元気にお過ごしでしょうか。

 ボクは今、人間たちの国でお姫様のメイドをやっています。

 いろいろあったけどボクは元気です。

 ただ、今夜、とうとう大人の階段を上ってしまうかもしれま――。

 

 「もう♡ そんなに緊張しなくても、まだ食べたりしないわよぉ♡」

 「ひゃ、ひゃいっ!」

 

 元四天王のビッチィが訪ねてきたのだが、ユーフィの部屋は使用人用の小さな部屋のため、来客用のイスなどあるわけもなく、2人してベットに座ることになった。

 夜にえっちなお姉さんと2人きりでベットに並んで座っている、という状況にユーフィはガッチガチに緊張していたが、ビッチィちゃんは余裕の表情で楽しそうにしている。

 悲しいほどの経験値(意味深)の差であった――。

 

 「えっと、ビッチィさんって、どうして四天王を辞めて、ここでメイドしてるんですか?」

 「え? アタシはお城で働いてるわけじゃないわよ? この服は、ここまで来るのにメイドの恰好の方が怪しまれないから、ちょっと借りただ~け♡」

 

 なんかスパイみたいでかっこいい……。えっちだし、不○子ちゃんかな?

 

 「あと、四天王を辞めた理由は、ん~、ユーフィちゃんにはちょーっと早いかもしれないんだけどぉ、なんというか部下の人たちと()()()なりすぎちゃって♡ それで大騒ぎになっちゃったのよねぇ……」

 「あっ――」

 

 スキャンダルがあったというのは聞いていたが、そういう内容だったのか。

 しかも、『部下の人たち』ってことは複数人とってこと? えちえち四天王すぎるでしょ。

 

 「――あらぁ♡ どういうことかわかっちゃってるかんじぃ? 意外とおませさぁん♡ せっかくだからぁ、お姉さんがいろいろ教えてあげましょうか?」

 「エッッッッッッッッ!」

 

 蠱惑的な笑みを浮かべた経験豊富なお姉さんに押し倒されたユーフィは、奇声を上げて硬直した。

 ビッチィはそんなユーフィを見下ろして「なんか反応が魔王様みたい」とクスクス笑っていたが、何かを思い出したように真面目な顔になると、口を開いた。

 

 「ってぇ、ユーフィちゃんの反応がおもしろくて、本題を忘れてたわ。5日後にお姫様の誕生日パーティがあるでしょう? そのタイミングで逃げ出しなさいな」

 「――確かにパーティはありますけど。でも、警備も厳重になりますし、そんな簡単に逃げられないですよ」

 

 押し倒してきていたビッチィが上からどいたので、ユーフィは起き上がって座り直しながら答えた。

 一国の姫の記念すべき誕生日パーティなのだ。当然、警備は厳しくなるはずなので逃げられるわけがない。

 そう主張するユーフィに対し、ビッチィは「甘いわねぇ♡」と首を振る――。

 

 「あなたの主であるお姫様を含めて、王族や主要なメンバーは会場から動けないし、当日は城に入るのは難しくても外に出るのは簡単なはずよ。それこそ、一応はメイドなんだからぁ、足りなくなった食材の買い出しを頼まれたとか言って堂々と出ていけばいいんじゃなぁい?」

 「な、なるほど……!」

 「城から出られさえすれば、救出組と合流できるから、後はもう心配いらないわね♡」

 「救出組? 誰が来るんですか?」

 

 助けに来てくれるというのが嬉しい反面、なんか囚われのヒロインみたいで恥ずかしくなってきた。

 とりあえず『殲滅組』じゃなくて一安心。

 王国を滅ぼしてやろうとか言って魔王様が乗り込んできたら大惨事が起きるので。

 

 「ユウさんと、四天王の子たち。それと、それぞれの親衛隊のナンバー1が救出組として来るらしいわ」

 「『親衛隊ナンバー1』!? なにそれ、かっこいい……!」

 

 それって、ユーフィ軍序列1位『殺戮者』(ディストラクション)みたいなアレ!? 

 

 そういう、組織の強さ序列ランクみたいなのが大好きなユーフィは大興奮した。

 1位が最強と思わせといて、実は第0位とかもいたりするんでしょ!?

 

 「ユーフィちゃんは何もしらないのねぇ……。ファンクラブの会員番号1番の人のことよぉ。あ、ちなみに魔王様は0番ね♡」

 「そんなオチだと思いましたよっ!」

 

 そんなの絶対、ユーフィ軍ファンクラブ会員番号No.1『ザ・紳士(ロリコン)』とかが来るじゃん!

 

 まったく役に立たなさそう。むしろ他のメンバーの足を引っ張りそうだと、ユーフィは頭が痛くなってきた。

 

 「……というか、ビッチィさんはリアージュに潜入してるオータクのスパイみたいな立場なんですか? 今回はすごく助かりましたけど」

 「違うわよぉ。別にどっちの味方ってわけじゃないし。どっちかっていうとぉ、アタシとしてはこっち(リアージュ)の雰囲気の方が合ってるからね。だからってオータクを滅ぼそうとか思ってないけどぉ」

 

 たしかに、いろいろと開放的だし、彼女にとってはリアージュ王国の方が合っているのかもしれないな――、とユーフィは思った。

 

 「ま、今回は特別サービス♡ なんか勇者くんが勘違いで暴走しちゃっただけみたいだし、このままだとキレた魔王様が乗り込んできて全面戦争になりそうだったから。アタシは、オータクにもリアージュにも仲のいい人がいるし、どっちかが滅んじゃうのなんて嫌じゃない」

 「……そうですね」

 

 ビッチィの言葉を聞いたユーフィには、こっちに来てから仲良くなったクラリス姫のことが浮かんでいた――。

 

 もし魔族側が勝利したら、どうなっちゃうんだろう……。やっぱり争ってるのって嫌だな……。

 

 珍しくユーフィはしんみりした。しんみりユーフィである。

 

 「そういう意味では、アタシたちって似てるかもしれないわね♡ ユーフィちゃんにも、こっちに大事な人ができたわけだし。まさかお姫様を落とすなんて、ユーフィちゃん、幼いのに魔性の女ねぇ♡」

 「そ、そんなんじゃないですっ!」

 

 しんみりユーフィ終了のお知らせ。

 

 「昔は、お互い仲よくやってたらしいんだけどねぇ……。当時の四天王がこっちでライブしてたっていう話もあるし」

 「へえ……。それは初めて聞きました。それなのに、なんで仲違いしちゃったんでしょうね」

 

 今でこそ両国は争っているが、昔は四天王のライブで一緒に盛り上がっていた仲だったらしい。

 やはり音楽は国境を越えるということなのだろうか――。

 

 「さあねぇ、アタシたちが生まれるずっと前のことだし。でも、きっかけは案外つまらないことかもしれないわよ? 推しに対する解釈違いとか」

 「さすがに、そんなくだらない理由で戦争なんてしないですよ~。……たぶん」

 

 魔王軍を見ていると、ないと言い切れないのがおそろしいところである。

 

 ――「やっぱ、Aちゃん×Bちゃんは最高や」

 ――「いやAちゃん攻めはないでしょ。Bちゃん×Aちゃんでしょ常識的に考えて」

 ――「「は?」」

 

 みたいなやりとりが、当時の魔王と王の間であったのかもしれないと思うと、いろんな意味で泣けてくる。

 

 「でも、やっぱりアタシは『カワイイは世界を救う』と思うの♡ きっとユーフィちゃんのかわいさは世界を平和にするわ!」

 「いやいや、それならビッチィさんの方がよっぽど魅力的じゃないですか。ボクにはそんなのないですから」

 

 ユーフィ的には『元男の自分にそんなもの(カワイイ)はない』という意味だったのだが、客観的にはつるぺたロリがセクシーお姉さんをうらやましがっているようにしか見えなかった――。

 

 「ん~……、じゃあアタシがやってたみたいにぃ、ユーフィちゃんもファンを罵ってあげると喜ぶんじゃない? 試しに、ざぁーこ♡ざぁーこ♡ とか言ってみたら?」

 「言・い・ま・せ・ん!」

 「え~。絶対役に立つと思うわよぉ? ほら、アタシのマネをして――」

 

 元四天王の先輩によるメスガキ講座(夜間コース)を受講するはめになったユーフィは、翌朝寝過ごしてしまい、クラリス姫にお仕置き(わからせ)されたのだった――

 



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