おれの宝物 (Recent)
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ドレスローザ編(おれの宝物)
1話 大切な物をあずけて(ロー視点)


ロー視点です。

場面はドフラミンゴが鳥カゴを発動し、ルフィ達に懸賞金をかけたところから。
原作ではルフィがすぐに王宮へ向かいましたが、この時空ではウソップ達が合流するまでルフィがモタモタしていました。


ロー「始まった…!『鳥カゴ』だ…!」

 

天を覆う忌々しい糸の檻。嫌でも『あの日』を思い出す。あの男はまた、不都合な全てをこの閉ざされた籠の中で全て消し去るつもりだ。

 

王宮から放り出された俺と麦わら屋達は、ドフラミンゴが一方的に提示した『ゲーム』のルールを聞いた。『受刑者』か、面倒なことになりやがったな。

 

ロー「おい、麦わら屋…?」

 

横に立っている同盟相手を見ると違和感を覚えた。短い付き合いだがこいつがこんな状況で、一言も言わないなんてことがあるのか?

 

ゾロ「おいルフィ、今ロビンから連絡があった。ウソップと、それに『ウタ』も無事で一緒にこっちに合流するらしい」

 

どうやら子電伝虫でニコ屋と連絡をとったらしいロロノア屋が麦わら屋に話しかける。

 

ルフィ「…!」

 

王宮から放り出されてから一言も喋らず、ただドフラミンゴのいる王宮を睨み続けていた麦わら屋の肩が震えたように見えた。

 

 

ゾロ「…どうした?」

 

どうやら俺よりも遥かに付き合いの長いロロノア屋も違和感を覚えたらしい。

 

ルフィ「ゾロ、トラ男を頼む」

ゾロ「おい、お前どうした…?」

 

おそらく台地から飛び降りて一人で王宮へ向かおうとした麦わら屋を、ロロノア屋が肩を掴んで引き留める。

 

ルフィ「おれは、ドフラミンゴをぶっ飛ばしてくる」

ゾロ「それは構わねェが、お前なんでそんなに苛ついてんだ?

…ウタのことか?」

 

『ウタ』?確かいつもの麦わら屋の肩に乗っかっていたあの動く人形か?

そういえば姿が見えないが、まさか…!?

 

ルフィ「……」

ゾロ「おい!ルフィ!」

 

ロロノア屋の腕を振り払い、王宮へ向かおうとする麦わら屋に声をかける。

 

ロー「おい、麦わら屋。ドフラミンゴは生かしてカイドウと衝突させる作戦だったはずだ。今ここでドフラミンゴを討てば、俺達は怒れる『四皇』と直接対峙する羽目になるぞ…!」

 

どうやら頭に血が登っているらしい麦わら屋に当初の作戦を思い出させる。正直既に破綻し掛けている作戦だが、多少は頭が冷えるはずだ。

 

ルフィ「悪ィトラ男、そんな先の話じゃねェんだ。」

ロー「何だと!?」

 

ルフィ「おれが今、ドフラミンゴをぶっ飛ばさなかったらよ、あいつがまた…」

 

麦わら屋が続きを言いかけたところで後方から声が聞こえた。

 

ロビン「ルフィ!」

 

顔を向けると、ニコ屋と小人に運搬されるボロボロの長鼻屋、そしてニコ屋の肩を借りて歩く、髪が真ん中で赤と白の2色に別れた見慣れない女がこちらへ向かってくる。

 

ルフィ「……」

ロー「おい!待て麦わら屋!!」

 

一瞬だけそいつらに目線を向けた麦わら屋は、まるで逃げるかのようにそこから立ち去ろうとする。

なんだ、普段のこいつなら仲間と合流して喜ぶはずだろう?

ロロノア屋もこいつの態度に困惑しているようだが、肩を強く掴んでこの場に引き止めている。

 

??「ルフィ…?」

 

周囲の喧噪で聞き取りにくいが、妙な髪色の女が何事か呟いたように見えた。立ち去ろうとしていた麦わら屋の動きが止まる。先程まで怒りで張り詰めていた奴の顔に、何処か怯えたような表情が混じる。

踵を返した麦わら屋は、まるでその表情を相手に見せたくないかのようにトレードマークの麦わら帽子を深く被り、奇妙な髪色の女の前まで歩み寄る。

 

??「る、ふぃ…?」

ルフィ「ウタ、帽子あずかっといてくれ」

 

ポスン、と女の頭に麦わら帽子を乗せる。その声色はあいつの普段の底抜けに脳天気な声とも、先程の張り詰めた怒りを押し殺すような声でもない。まるで親が子供を安心させるような、そうだ、『コラさん』があの時俺に語りかけてくれた時のような…。

 

ルフィ「今からドフラミンゴをぶっ飛ばして来るからよ。それまで、もうちょっとだけ、待っててくれ」

ウタ「うん、わがった…」

 

ウタと、あの人形と同じ名前で呼ばれた女が涙を堪えながら返事をする。返事を聞いた麦わら屋はニコ屋と長鼻屋に目を向ける。

 

 

ルフィ「ロビン、ウソップ、ありがとう」

ロビン「ええ」

ウソップ「おう」

 

二人の短い返事に満足したのか、いつも通りの脳天気な笑顔を浮かべた麦わら屋は何故か俺の身体に腕を巻きつける。

 

ルフィ「よし、いくぞ!トラ男!!!」

ロー「おい待て!?どういうことだ!?」

ルフィ「どうって、今からドフラミンゴをぶっ飛ばしに行くんだろ?一緒に行くぞ!」

ロー「ふざけるな!行くのはいいがせめて錠を外せ!!」

 

海楼石の手錠のせいで能力どころかまともに動けないのに何いってんだこいつ!?

 

ルフィ「そのうち外れるよ」

ロー「外れるか!!!」

 

何をトンチキなことを言ってやがる!

 

ルフィ「ロビン!ウソップ!…ウタを頼む」

 

麦わら屋が台地に残る仲間に声をかける。その声はつい今しがたふざけた言動をしていたのと同じとは思えないほど真摯な声だった。こいつ、無理してふざけてやがったのか…?

 

ルフィ「待ってろ、ドフラミンゴ…!」

 

そして麦わら屋は台地から飛び降りる。王宮へ、ドフラミンゴへ最短距離で辿り着く為に。

錠がついたままの俺を抱えたまま。

 

 

ロー「待て!せめて錠の鍵を外せー!!」

 

 

 




次はウタ視点です。

因みに最初がロー視点なのは、この話を最初に書こうとした時に誰の視点で書けば悩んだとき、こいつ視点だと一番湿度が低くて客観的に書けそうなのと、エミュしやすかったからです。
逆にルフィエミュは恐ろしく難易度が高かった…。


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2話 それは私にとっても大切な(ウタ視点)

ウタ視点です。
心理描写とかは原作からかけ離れたホビウタ時空準拠なので、かなりオリジナル設定が入っています。
人間に戻ったばかりのウタは、体は21歳相当に成長していますがまだ上手く話せませんし、歌も歌えません。


呪いは解けた。

 

12年間、私を囚え続けた呪い。私の大好きなお父さんも、家族のように思っていた海賊団の皆も、共に遊び、競い合った幼馴染も、皆私のことを忘れてしまった。

大好きな歌は歌えなくなった。声を出そうとしても、出てくるのは“キィキィ”“ギィギィ”という壊れたオルゴールの音色だけ。

眠れなくなった。寂しいとき、いつもの逃げるように籠もっていた私の心の世界にも、入れなくなっていた。

小さなぬいぐるみの体は、眠ることも食べることも出来なくて、痛みを感じることも誰かの温もりを感じることもできなかった。

誰も私の名前を覚えていていなかった。でも、幼馴染の彼はそんな私を、「ウタ」と名付けてくれた。偶然かもしれなかった。でも、彼が名前を呼んでくれるから、そのたった一度の奇跡にすがって、必死に生きてきた。

希望なんて無かった。いつこの脆い体が動かなくなるのか、ずっと不安だった。でも、私の幼馴染はそんな私を仲間と呼んでくれた。船出して、仲間が増えて、だんだん過酷になってゆく航海の中でも、彼はずっと私を側に置いてくれた。

一味の仲間達も、私も船員(クルー)の一員だと認めてくれた。

だからいつしか、寂しく無くなっていた。私は海賊麦わらの一味のマスコット『ウタ』。いつかこの身体が壊れて動かなくなっても、それでもこの思い出があれば、私は幸せだった。

 

でも、奇跡はもう一度おきた。

 

 

「ヴゾッ…ブ、アリが…ど…う」

 

SOP作戦は成功した。トンタッタ族と、彼らに協力した私達はホビホビの実の能力者であるシュガーと彼女を護衛するドフラミンゴファミリーの最高幹部の一人、トレーボルの力に圧倒され、ボロボロにされてしまった。特にウソップは血塗れで立ち上がることもままならないくらいに痛めつけられ、作戦の切り札であるタタバスコを食べさせられてしまった。だがそれを食べた時のあまりの苦悶の表情を見たシュガーが、驚きのあまり気絶したことで、ホビホビの呪いは解かれたのだ。

 

人間に戻って、一番はじめに感じたのは痛みだった。9歳の時にオモチャになってから12年、久しく感じていなかった感覚に戸惑い、同じくらい喜んだ。何故か身体が12年分、ちゃんと成長してたせいで服はボロボロ、靴も合わなくて裸足になっちゃったから、足が凄く痛かった。でも、その痛みが私がおもちゃではなく人であることを、何よりもはっきりと教えてくれた。

合流したロビンが慌てて何処からか調達してくれた服を着せてくれたけど、ただでさえボロボロのウソップが鼻から血を吹き出して酷いことになってたな。

 

ロビン「ウタ、ウソップ、ゾロから連絡があったわ。今ルフィ達と合流して王の台地にいるそうよ。」

 

ドフラミンゴの鳥カゴが発動して、ウソップやロビンが『受刑者』として追い立てられる中で、ゾロと子電伝虫で連絡を取ったロビンが、私達をルフィ達のいる王の台地へ誘導する。

 

ウタ「る、ふぃ…」

 

早くルフィに会いたい。でも、それと同じ位に不安になる。オモチャから戻れたけど、ルフィは私のことを覚えていてくれているだろうか。人形のウタのことは仲間と思っていても、もう昔遊んだ女の子のことなんて覚えてないんじゃないか。ロビンに支えてもらいながら歩くうちに、不安はどんどん大きくなっていく。

一味の皆も、人形ウタのことは仲間と思ってくれていても、12年前のフーシャ村でルフィと共に遊んだ赤髪海賊団の音楽家「ウタ」のことは知らないんだ。もう、あの頃の私を知ってる人なんて…。

 

不安が震えになって、私に肩を貸してくれるロビンに伝わる。

 

ロビン「ウタ?大丈夫?」

 

無言で首を振り、苦労して笑みを浮かべる。仲間に心配をかけちゃ駄目だ。ただでさえ。こうして足手まといになってるんだ。これ以上、負担をかけたら駄目だ。

 

何とか王の台地まで辿り着くと、王宮へ向かおうとしているルフィと、彼の肩を掴んで引き留めているゾロ、あと何故か地面に転がっているトラ男君がいた。

 

ロビンもルフィ達に気が付き、彼らに声をかける。

 

ロビン「ルフィ!」

 

何かを言おうとしていたルフィは口をつぐみ、一瞬だけこちらを見た。遠目ではっきりとは分からなかったけど、その目には喜びと、微かな怯えが感じられた。

ルフィはこちらに声をかけることも無しに、まるで逃げようとするように、立ち去ろうとした。ゾロが肩を掴んで引き留めてくれなかったら、そのまま何処かへ行ってしまいそうだった。

 

立ち去っていくルフィに、何故だか“あの時”のシャンクスの後ろ姿が重なった。私の存在を忘れて、私を置いて行ってしまった大好きなお父さん。あの時の私は、壊れたオルゴールの音色しか奏でられなかった。シャンクスが行ってしまったのはそれが理由じゃないと解ってる。けど、あの時私が声を出せていれば…!

 

ウタ「ルフィ…?」

 

人間に戻れても、12年間使っていなかった喉からは片言の言葉しか出なくて、歌どころか話すことも上手く出来なかったのに、何故かこの時だけは、はっきりと彼の名前を呼べた。でも声も張れて無いし、周りの喧騒でかき消されて、本来なら距離の離れた彼に、声が届くはずなんて無かったのに…。

 

立ち去ろうとしたルフィはピタリと足を止めて、こちらへ踵を返した。表情は見えない。彼のトレードマーク、異名の由来でもある麦わら帽子を目深く被っているせいで、遠目からだと正面からでも表情が伺えない。

 

ルフィが近くまで来て、ようやく顔が見えた。唇を噛み締めて、今にも泣きそうな顔をして、でも凄く嬉しそうな、懸賞金4億の海賊には相応しく無いけど、私が出会った頃から変わらない、寂しがり屋で泣き虫だった幼馴染の顔だ。

だから分かった。ルフィは私のことを思い出してくれた、と。

 

沢山、伝えたいことがある。あの時、名前を呼んでくれてありがとう。仲間に誘ってくれてありがとう。今日まで私を守ってくれてありがとう。私を、救ってくれてありがとう。そんな沢山の感謝の言葉を伝えたいのに、私の口はまだ、うまく動いてくれなくて。

 

「る、ふぃ…」

 

出てきたのは、大好きな幼馴染の名前だけで。

ルフィはそんな私を見て、私を安心させるように微笑んだ。その笑顔はいつもの太陽のような明るい笑顔とはちょっと違って、少しぎこちなかったけど、まるで昔の、泣いている私を元気づけようとするシャンクスやベックマン達みたいだった。

そして私の頭にポスン、と麦わら帽子が載せられた。

普段のルフィからは想像出来ないくらい優しい手付きで。

 

「ウタ、帽子預かっといてくれ」

 

優しく私の頭に手を載せながら、私に大切な帽子を預けてくれた。私にとっても大切な帽子。シャンクスからルフィに預けられた、彼の宝物。

 

ルフィ「今からドフラミンゴをぶっ飛ばして来るからよ。それまで、もうちょっとだけ、待っててくれ」

 

そうだ、まだ何も終わっていない。私が人間に戻れても、まだこの国での戦いは終わっていないんだ。あのドフラミンゴを倒さないと、私もこの国の人達も本当の意味で開放されない。だからルフィは、泣くのを我慢して、私にこう言ってくれたんだ。

だから私も泣いちゃ駄目だ。いつもみたいにルフィがすぐに、あんな奴らぶっ飛ばしてくれるから。だから笑顔で送り出さないと。何も出来ない私だけど、せめてルフィの邪魔をしないために。

 

ウタ「うん、わがった…」

 

上手く笑えていたかな。泣きそうになるの、バレてないかな?

そんな私を見て、今度こそ嬉しそうにルフィは笑った。

でもすぐに真面目な、真剣な表情になってロビンとウソップの方を見た。

 

ルフィ「ロビン、ウソップ、ありがとう」

ロビン「ええ」

ウソップ「おう」

 

二人共、特に気負いの無い、まるで当たり前のことをしたような返事をする。そんな二人を嬉しそうに見て、ルフィは改めてこちらに背を向けて、トラ男君を抱えて王宮へ向かおうとする。何やらトラ男君と楽しそうに言い争ってるみたいだけど、なんだかちょっとだけ、無理してるように見えた。

 

ルフィ「ロビン!ウソップ!…ウタを頼む」

 

こちらを振り向かないまま、ルフィが二人に声をかける。その言葉は、信頼する仲間へ向けた、真摯な頼み。本来なら自分が守りたい、でもルフィにはドフラミンゴを倒す役目があるから。だから仲間に、自分の大切な幼馴染を託すための言葉。

 

その言葉を残して、ルフィは王の台地から飛び降りた。ドフラミンゴを、この悲劇の元凶を撃つために。ようやく取り戻した幼馴染を、二度と失わない為に。

 




次のルフィ視点で、ひとまずこの話はおしまいです。


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3話 いつでもキミは側にいた(ルフィ視点)

一番難産だったルフィ視点です。
映画でもそうですが、ホビウタ時空のルフィも、ウタに関してかなりバグった挙動をしている解釈で書きました。
あとウタへの感情は基本的に恋愛感情は無いですが、他の仲間と比較しても別ベクトルで物凄く重いです。


〜ドレスローザ 王宮〜

 

 

オモチャの兵隊と、ドレスローザの王女ヴィオラと一緒に、ドフラミンゴのいる王宮の部屋まで辿り着いたおれは、トラ男が捕まっているのを見つけてすぐに助けに行こうとした。

だがおれを引き留めたヴィオラが言った。

 

ヴィオラ「待って、彼らの作戦を台無しにしないで」

ルフィ「作戦〜!?」

 

よくわからないけど、どうやらオモチャの兵隊達には作戦があるらしい。もう少しで作戦が成功するからそれまで待てと言われたので、仕方なく待つことにする。ああ、確かウソップ達がやると言っていた作戦かな。えーっと、なんだったっけ?

 

横にいた兵隊はいつの間にか剣を持ってたけど、あの体で振るうには大きすぎるよな?それになんだかぼーっとしてるし。

 

ルフィ「おい、大丈夫か!?」

兵隊「はっ」

 

どうやら本当にぼーっとしてたらしい。ウタも眠らないけどたまに疲れてぼーっとしてるからな。こいつもさっきボロボロにされてたし、かなり疲れてるのかもしれないな。

 

ヴィオラが一階から敵が来ていると伝えてきた。

 

兵隊も作戦は失敗かもと言っている。ウソップ達なら大丈夫だと思うけど、タイミングが合わないなら仕方ねェか。俺があのフラミンゴ野郎をぶっ飛ばせばいいだけだしな!

 

そう考えながらよし、殴り込もうとまず見聞色で周りを警戒したとき、王宮どころか国中からとんでもない感情の波が押し寄せてきた!

 

それに面食らって一瞬気を抜いた間に、隣にいたはずの兵隊の姿が無くなっていた。

 

「おい!!兵隊は!?」

 

周りを見渡すとヴィオラが窓からドフラミンゴ達のいる部屋を覗き込んでいる。その視線の先にはさっき兵隊が持っていた剣を構えて駆けてゆく、片脚のない男の姿があった。

 

ヴィオラ「キュロス義兄様…」

 

ヴィオラが涙ぐんで呟いた。あの凄え強そうなおっさんは片脚の兵隊で、レベッカの父ちゃんだったらしい。それが10年前に悪魔の実の能力で玩具の兵隊に変えられた上に、周りの全ての人間の記憶から消えてしまっていて、能力者のシュガーという奴が気絶したことで姿と記憶が戻ったらしい。

 

ルフィ「キュロス…? それ銅像のおっさんじゃねェか!!」

 

あれ、でもレベッカの奴は知らないって言ってたよな?

…あれ?

 

ヴィオラ「忘れられてる間に自分の存在を伝える手段なんてない」

 

そっか、確かに言っても信じてもらえないか。なのにあいつ、レベッカのことを10年間側にいて守ってたんだな。すげェ奴だなー、あいつ。

よーし、俺も行って一緒にドフラミンゴをぶっ飛ばして…。

 

ルフィ「…あれ」

 

もう一度気合を入れようとして気付いた。

 

玩具が人間だった…?

玩具にされた人間は…忘れ…。

 

ヴィオラが言っていたことをもう一度思い出そうとした時…。

 

 

 

??『やーい、負け惜しみ〜!』

 

??『へた!なにこれ?』

ルフィ『おれたちの“しんじだい”のマークにしよう!』

 

 

突然頭の中に、知らない思い出が流れ込んできた。

いや、違う。知らないんじゃない!

 

 

思い出したんだ!

 

 

ルフィ「う…た……?」

 

そうだ、ウタだ。何で、なんで…。

 

ルフィ「なんでおれ、忘れて…?」

 

ついさっき、ヴィオラが言っていたことを思い出す。

玩具にされ、忘れられて、娘にすらそれを伝えることのできなかった男の話を。

そしてそれでもなお、娘を守るために10年間側に居続けた父親の話を!

 

 

ルフィ「ウタ…?」

 

気がついたら、頭を抱えて蹲っていた。ヴィオラが何やら声をかけてくるが、頭に入ってこない。

 

 

 

12年前、航海を終えてフーシャ村に戻ってきたシャンクス達。シャンクスの脚にくっついて“ギィギィ”と鳴っていた人形。

 

シャンクス『うちにこういう人形を喜ぶ娘はいないからな。そうだルフィ、お前にやるよ』

 

シャンクスがそう言っておれに渡した人形。

 

歌が好きだからと「ウタ」と名付けた人形。

 

シャンクスに麦わら帽子を託されて、彼を見送ったとき、シャンクス達についていこうとして引き剥がされて悲しそうに“ギィギィ”と鳴っていた人形。

 

シャンクス達がいなくなって寂しくて泣きそうだったおれと、一緒にいてくれた人形。

 

サボがいなくなって、エースも一足先に船出した後も、隣にいてくれた人形。

 

海賊として船出をする日、一番最初の仲間として一緒に旅立った人形。

 

東の海でも、偉大なる航路に入ってからも、古代の島で、冬島で、アラバスタで、空島で、エニエスロビーで、スリラーバークで、そしてシャボンディ諸島で、ずっと隣にいてくれた人形。

 

仲間達と離れ離れになって、エースを救えなくて自暴自棄になっていた俺のところに、真っ先に駆けつけてくれた人形。

 

2年間の修行の後、サニー号に帰ってきた時に嬉しそうに迎えてくれた人形。

 

魚人島からここまで、また一緒に冒険した、にん…、ぎょう…。

 

 

 

血が出るほどに頭を掻き毟る。何で気付いてやれなかったのかと、馬鹿な自分の頭に爪をたてる。

友達だと言ったのに!仲間だと言ったのに!あいつが苦しんでいることに、気がついてやれなくて…。

大好きな家族と引き離して、ずっとおれの都合で引きずり回して。それなのに、おれが寂しいとき、折れそうなときに側に居てくれて…。

 

ルフィ「こべん、ごべんな、うだ…!」

 

悔しくて、辛くて泣きそうになるのを必死に堪える。

早くウタに会いに行かないと!会って、それで…。

 

その時、ドフラミンゴのいる部屋が騒がしくなる。

キュロスの剣がドフラミンゴの首を落とした!

 

すぐに身体は動いた。とにかく今はトラ男を助けてここから出ないと!

 

部屋に突入して、トラ男の錠の鍵を開けようと苦戦してたところで気が付いた。首を落とされて死んだはずのドフラミンゴの気配が消えてねェ!

 

首だけになったドフラミンゴが何か言っている。キュロスのおっさんが止めを刺すために切りかかっていくが、まずい!

 

咄嗟にキュロスのおっさんを庇って床に伏せさせる。何故か首がないのに動くドフラミンゴと、ちゃんと首が繋がってるドフラミンゴの二人の攻撃で部屋のある塔が真っ二つになった。

 

 

 

ルフィ「“ゴムゴムのJET銃乱打(ガトリング)”」

 

 

ドフラミンゴに攻撃を叩き込むがあいつの武装色で全て防がれた上に、反撃でふっ飛ばされる。

ちくしょう、なに迷ってんだおれは!こいつをぶっ飛ばさないとおれは…!

 

自分でも動きが鈍ってるのがわかる。理由は分からない。くそっ!

 

反撃しようとした時、突然床や壁が歪んでいく。立ってられねぇ。何とかドフラミンゴを睨みつけて殴りに行こうとした瞬間、石で出来た腕でキュロスもヴィオラもトラ男も、あと何とかという王様のおっさんも外へ放り出された。

 

 

〜王の台地〜

 

この島の空に、糸で出来た巨大な籠が現れる。トラ男が「鳥かご」と言っていたけど、ドフラミンゴの能力らしい。

 

王宮が遠ざかっていく。それと同時にドフラミンゴの声と映像がデカデカと写った。

 

どうやらおれ達に賞金をかけて「ゲーム」をするらしい。

 

 

ルフィ「……」

 

戦いが仕切り直しになって、少し落ち着いたことで、ふつふつと怒りが湧いてくる。

 

あんな奴のせいで、ゲーム感覚で他人を苦しめるような奴のせいで、ウタは12年間も玩具にされていたのかよ!

 

そしてその事実を知らずに、おれはここまで冒険してきたのか!

 

この怒りは、ドフラミンゴに向けたものなのか、それとも自分に向けたものなのか、頭の悪いおれにはよくわかんねェ。

頭の中でぐるぐると、どうしようもない怒りが渦巻いている。

 

ゾロ「おいルフィ、今ロビンから連絡があった。ウソップと、それに『ウタ』も無事で一緒にこっちに合流するらしい」

 

後ろからゾロの声が聞こえた。そうか、あいつら無事だったか!流石だな!

 

そう思った時、ふと恐怖を覚えた。

 

あんなに会いたいと思ったはずなのに、今になって、ウタに会うのが怖くなった。

 

おれは、ウタに会っていいのか?  

おれは、ウタに恨まれてるんじゃないか?

だっておれは、ウタが苦しんでるのに気付いてやれなかったじゃねーか。ウタを人間に戻せたのだってウソップのお陰で、おれはエースの形見のメラメラの実を手に入れるために、あいつを放っておいて好き勝手して…、それで…。

 

一度その恐怖を意識し始めると駄目だった。必死にドフラミンゴへの怒りを思い出して、あいつのいる王宮を睨みつけてないと、恐怖で身体が震えそうになる。

 

ルフィ「…!」

ゾロ「…どうした?」

 

多分、体が震えたのを見られたんだろう。ゾロが声をかけてくる。

 

ルフィ「ゾロ、トラ男を頼む」

ゾロ「おい、お前どうした…?」

 

誤魔化すようにゾロにトラ男のことを任せて、ドフラミンゴをぶっ飛ばす為に王宮へ行こうとしたが、ゾロの奴が肩を掴んで引き留めてきた。

 

ルフィ「おれは、ドフラミンゴをぶっ飛ばしてくる」

ゾロ「それは構わねェが、お前なんでそんなに苛ついてんだ?

…ウタのことか?」

 

苛ついてる?そうか、それはそうか。頭がごっちゃになっててよく分かんねえけど、兎に角ここにいたら、怒りと怖さでおかしくなりそうだ。だから早く行かねェと!

 

ルフィ「……」

ゾロ「おい!ルフィ!」

 

肩を掴んでいるゾロの腕を振り払って、王宮へ行こうとする。そうだ、兎に角あのフラミンゴ野郎をぶっ飛ばしさえすれば、こんな怖さなんか忘れて…。

 

ロー「おい、麦わら屋。ドフラミンゴは生かしてカイドウと衝突させる作戦だったはずだ。今ここでドフラミンゴを討てば、俺達は怒れる『四皇』と直接対峙する羽目になるぞ…!」

 

地面に転がったままのトラ男が、以前おれ達に言った作戦をもう一度伝える。そうだ、トラ男と同盟を組んでここに来たのはそういう目的だった。

 

悪い、トラ男。お前がそんなボロボロになってまで、作戦を成功させようと頑張ったのはわかってる。だけどよ。今ここでドフラミンゴを倒さねェと、あいつに、ウタに、どうやって会えば…。

 

それに今ドフラミンゴを逃しちまったら、またウタが玩具に…!

 

ルフィ「悪ィトラ男、そんな先の話じゃねェんだ。」

ロー「何だと!?」

ルフィ「おれが今、ドフラミンゴをぶっ飛ばさなかったらよ、あいつがまた…」

 

言いかけたところでロビンの声が聞こえた。

 

ロビン「ルフィ!」

 

王宮と反対側から、ロビンとボロボロになって小人に運ばれているウソップ、それに『ウタ』がこちらに近づいて来るのが見えた。。

 

一目で分かった。体は成長していたけど、特徴的なあの綺麗な赤と白の髪、片目だけ隠れた紫色の瞳。

 

会いたかった。思い出した瞬間から、何もかも放り出して、会いに行きたかった。

会いたくなかった。まだ戦いは終わってなくて、もしあいつに、おれの初めての友達に恨まれていたら、嫌われてしまっていたら。それを知るのが怖くて。

 

ルフィ「……」

ロー「おい!待て麦わら屋!!」

 

だからそこから逃げるように、情けないと自分でも思うけど、立ち去ろうとした。

早くドフラミンゴをぶっ飛ばして、胸をはってウタに会えるように。ウタを、忘れられる恐怖から早く開放する為に。

そうやって言い訳して、おれを引き留めようと肩を掴んだゾロの腕を振り払った時、声が聞こえた。

 

ウタ「ルフィ…?」

 

小さい声だった。弱々しい声だった。

 

12年前、フーシャ村で何度も聞いた明るい元気な声。勝負で勝ち誇っておれに「負け惜しみ〜!」と楽しそうに言っていた声。マキノの酒場で、おれやシャンクス達に囲まれながら幸せそうに歌っていた、誰よりも綺麗な声。

 

忘れていた、忘れさせられていた。だから例え、どんなにか細い声だとしても、12年振りに聞こえたその声を、聴き逃がせなかった。

 

自然と足が止まった。

 

だめだ、ここで振り向いたら、きっとおれは、戦いに行けなくなる。それなのに…。

 

震えそうになる足で、ウタの方へと向う。怖くて顔が見れなくて、シャンクスに託された麦わら帽子を深く被って、顔を隠して。

 

ウタの前まで来て、ようやくウタの顔を見た。12年振りに見た、懐かしい幼馴染の顔。ずっと側にいてくれた、大切な仲間の顔。

 

嬉しかった、嬉しくて泣きそうになった。でも泣き顔を見られたくなくて、必死に堪えた。

 

怖かった。あいつに嫌われるんじゃないか、恨まれてるんじゃないか、それがわかるのが怖くて。

 

ウタ「る、ふぃ…」

 

ウタが、名前を呼んでくれる。さっきよりも呂律の回っていない声。でも嬉しさと、喜びが入り混じった声。

 

その声を聞いて、安心しちまった。こんな不甲斐ないおれを、ウタが恨んでないと、分かったから。

 

おれと再会して、ウタも安心したことが伝わってきたから。

 

沢山、伝えないといけないことがある。シャンクス達と、家族と離れ離れにしちゃってごめん、乱暴に扱ってごめん、そして、ずっとそばにいてくれて、ありがとう。

 

でもまだ、戦いは終わってないから、これから、命懸けの戦いに行かないといけないから。

 

だからこれ以上、ウタを不安にさせないように、必死に笑顔を作る。

 

そして被っていた麦わら帽子を、ウタの父ちゃん、シャンクスから託されたおれの宝物をウタに被せる。

 

ルフィ「ウタ、帽子預かっといてくれ」

 

命懸けで戦って、それでも負けて死んじまうかもしれない。死ぬのは怖くねェけど、このままおれが死んだら、ウタのことを、『赤髪海賊団の音楽家ウタ』のことを覚えてる奴がいなくなって、ウタがまた、一人ぼっちになっちまうかもしれないから。ウタがまた独りになるのは、死ぬよりもずっと怖いから。

 

この帽子を被っていれば、たとえおれに何かあっても、ウタの父ちゃんが、あの偉大な海賊が、きっとウタを見つけてくれる。

 

ウタに酷いことしたおれが今、ウタにしてやれるのはこれ位しかないけどよ…。

 

ルフィ「今からドフラミンゴをぶっ飛ばして来るからよ。それまで、もうちょっとだけ、待っててくれ」

 

ウタの頭を手を置いて、ウタに語りかける。謝罪もお礼も、今ここで伝えるには沢山ありすぎるから。全部終わらせてくるまで、もうちょっとだけ、待っててくれ。

 

ウタ「うん、わがった…」

 

ウタの、幼馴染の泣きそうな笑顔。

 

こんな顔、させたいわけじゃなかった。記憶にある、あの楽しげな笑顔を、もう一度見たかった。

それでも、嬉しい思いが込み上げてきた。12年振りに、幼馴染の顔を見られた。声を聞けた。それだけで、さっきまでの恐怖も、頭の中をかき回していた怒りも、どっかへ行っちまった。

 

ルフィ「ロビン、ウソップ、ありがとう」

ロビン「ええ」

ウソップ「おう」

 

幼馴染を、おれの記憶を取り戻してくれた頼もしい仲間に、お礼を言う。二人共、当たり前のことをしただけだと言うように短く答える。

 

もっと嬉しくなってきた。

 

嬉しい気分のまま、トラ男を掴んでドフラミンゴをぶっ飛ばしに行こうとする。トラ男が、ゴチャゴチャ言ってるけど、錠ぐらいまあどっかで何とかなるだろ。

 

ウタ、おれは大丈夫だぞ!

だから、安心してくれ!

 

恥ずかしくて、口には出せないからトラ男と言い合いながら出発しようとしたけど、でもこれだけは言わないとな。

 

ルフィ「ロビン!ウソップ!…ウタを頼む」

 

あいつらなら、絶対にウタを守ってくれる。おれが行っても、ウタは大丈夫だ。 

 

ウタと話してから心が軽い気がする。今なら七武海だろうが四皇だろうが、どんなやつが来ても、負ける気がしねェ!!

 

ルフィ「待ってろ、ドフラミンゴ…!」

 

とっととお前なんかぶっ飛ばしてやるからな!

 

台地から飛び降り、地面に着地する前に、改めてトラ男にお礼を言う。

 

ルフィ「トラ男、ありがとう」

ロー「…俺は何もしてないぞ」

ルフィ「しししし、お前と同盟を組んで、本当に良かった」

 

 

 

 

 

ウタ、ドフラミンゴをぶっ飛ばしたら皆で宴をしよう。サンジ達がいねェから、ちょっと寂しいかもしれないけど。サンジ達と合流したらあいつのうめェメシを沢山食ってよ、ブルックと一緒に歌おうぜ。

 

だからよ、待っててくれよな!

 




これにて一応完結です。
もともと某掲示板の神絵に触発されて、ウタに麦わら帽子を預けるルフィを書きたくなったのが、この短編を書くきっかけでした。
元々はブチ切れたルフィが覇気を撒き散らしながらドフラミンゴの所まで進撃する予定だったんですが、ウタのお陰でルフィの怒りが昇華して、気がついたら原作通りの余裕のあるルフィに戻ってました。
キャラが勝手に動くってこういうことなんですね(しみじみ)


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4話 “ゴッド”ウソップは見た!(ウソップ視点)

完結と言ったなぁ、あれはウソだ!
ウソップ視点だけにな!!


 

麦わら一味のマスコット『ウタ』。海賊“麦わらのルフィ”の最初の仲間。12年前、彼がまだ幼い子供だった頃から彼と共に過ごしてきた彼の親友にして生きた人形。

その正体はホビホビの実によって玩具へと変えられ、全ての人間の記憶から存在を抹消された、彼の幼馴染。

 

トンタッタ族と出会い彼らのSOP作戦の詳細を知る上で知ったホビホビの実の恐るべき呪い。だが彼らの仲間である生き人形もまたその呪いの被害者であるとウソップが気付いたとき、彼の中で逃げようとする気持ちは無くなった。

 

SOP作戦が成功し、全ての玩具が人間に戻ったとき、危なっかしい足取りで自分に近づいてきた、明らかにサイズの合わない子供用のドレスを着た、赤と白の2色の不思議な髪色をした少女。

 

『ヴゾッ…ブ、アリが…ど…う』

 

泣きながら、まるで長い間言葉を話せなかったかのようにたどたどしく自分へ感謝の言葉を口にした少女。

彼女こそが自分達と共に東の海からここまで共に冒険した『ウタ』なのだと、すぐに察しがついた。

女性だとは本人がジェスチャーで自己申告していたが、まさかこんな美人だとは思わなかった。年頃は自分やルフィと同じか、少し上だろうか。おそらく玩具にされた当時から体が年齢相応に成長したのだろう。子供用の服が破れあられもない姿に…!?

 

…サンジではないが不意打ちで刺激が強すぎたせいか、鼻血を噴き出してしまったのはキャプテン・ウソップ一生の不覚だ。

 

即座に合流したロビンの能力で目隠しされ、その間にロビンが調達した服をウタに着せて何とか人前に出しても大丈夫なようにしてくれていた。

 

やめてくれロビン、そんなゴミを見るような目で俺を見るな。明らかにウタを庇う立ち位置に立つな。おれはサンジじゃねえ!

 

そのあと、巨人に抱えられて何故か神扱いされたり、ドフラミンゴに最高額の懸賞金をかけられるとか色々あったが何とかルフィやゾロと合流するために王の台地へ辿り着いた。まあ、ボロボロで立てない俺は小人達に運んでもらったんだが…。

 

王の台地に居たルフィは明らかにいつものルフィと違っていた。初めはウタの姿に動揺したのかと思った。あいつ作戦もろくに聞いてなかったせいでウタが人間だってことも聞かずに通信を切りやがったからな。

…そう思ったんだが、なんだかこっちを、もっと言えばウタを見たルフィはどこか怯えてるようだった。

しかもあろうことか俺たちに、ウタに声もかけずに逃げるように王宮に向かおうとしやがった!

あいつ、ウタがお前に会いたがってたのわかってんのか!何やってんだ!?

 

即座に横にいたゾロが肩を掴んで止めてくれたが、そうじゃなけりゃさっさと台地から飛び降りて行きそうだった。それどころかゾロの腕を振り払って、やはり立ち去ろうとしていやがる。流石に文句を言ってやろうと口を開こうとした時…、

 

ウタ「ルフィ…?」

 

ウタがつぶやくように、だがまるで親と逸れた子供のような、そんな縋るような弱々しい声で俺達の船長の名前を呼ぶ。

人間に戻ってから今までも、たどたどしくしか話せなかったウタが、何故かあいつの名前をはっきりと発音して。

 

ルフィが立ち止まった。隣にいた俺でも聞き逃しそうなか細い声だ。距離もあるし周りもうるさいのに、まるで今のウタの声が聞こえたかのように。

 

あいつのトレードマークでもある麦わら帽子を深く被り、こちらに表情を見せないルフィが近づいてくる。

 

ウタ「る、ふぃ…」

 

さっきとは異なり、やはりたどたどしい口調でウタがルフィの名前を呼んだ。まるで迷子の子供が親とあったかのような、そんな喜びと安心が混ざった声色で。

 

俺からルフィの表情は見えない。だが、怯えていたルフィの雰囲気が明らかに変化したのは分かった。

 

ルフィは自分の宝物でもある麦わら帽子をウタに預けた。その声色と手付きは、普段の脳天気なルフィから想像もできないほど優しく、暖かだった。

 

ルフィ「ロビン、ウソップ、ありがとう」

ロビン「ええ」

ウソップ「おう」

 

ルフィの真剣な様子から、心からの感謝なのだと理解した。

何言ってやがる。仲間を助けるのは当たり前だろう。ロビンもそう思ったのだろう。特に誇るでも恩に着せるでもなく、短く感謝を受け取る。

 

あいつは嬉しそうにニカッと笑い、トラ男を抱えて走り出した。どうやら改めて王宮へ向うようだ。

 

ルフィ「ロビン!ウソップ!…ウタを頼む」

 

あいつが俺達に頼み事をしてきた。しかもいつになく真面目な口調で。

そこで何となく察した。あいつにとってウタは、ただ12年間一緒にいた仲間、というわけじゃないらしい。そういえば気にしてなかったが、そもそもウタが玩具になった時期はおかしい。ドレスローザをドフラミンゴが支配したのは10年前だ。12年間玩具だったウタは、じゃあいつどこで、玩具にされた?

もしかしたらウタは、玩具にされる前からルフィと知り合いだったのかもしれない。

 

ウソップ(だがまあ、今それを問い詰めるのは野暮か)

 

ルフィに被せてもらった麦わら帽子のつばを握りしめ、ポロポロと涙を流しているウタを見て、今そんな無粋なことをするのはやめておくべきだと、そう思った。

 

 

その後、能力でドフラミンゴ達を監視していたヴィオラが復活してルフィ達を騙し、玩具にしようとしているシュガーを見つけた。どうすればもう一度気絶させられるかと悩んでいた時、ウタが自分に任せてほしい、手伝ってほしいとまだ覚束ない口調と必死な身振り手振りで伝えて来た。

 

他でもないウタの頼みだ。それに他に妙案も出ない。

ウタを信じてあいつの頼み通り、小電伝虫を音声がシュガーに届く位置へ撃ち込む。

 

そこからの展開は驚きの連続だった。

呼吸を整え、集中していたウタは、徐ろに自分の持っている電伝虫に歌いかけた。その歌声は、さっきまでたどたどしく喋っていたのと比べ物にならない程に流暢で、その上とんでもなく上手かった。

ウタの持つ電伝虫は俺がシュガーの近くに撃ち込んだ小電伝虫と繋がっている。その電伝虫から響いた歌を聞いた瞬間、シュガーが崩れ落ちたと、能力でシュガーを監視していたヴィオラが報告した。

 

ウタウタの実、後になって聞いたウタの悪魔の実の能力。

歌を聞いた人間を眠らせ、ウタの見ている夢の世界“ウタワールド”へと連れて行く破格の能力。使うだけでかなり体力を消耗するらしく、一曲歌い終わり、シュガーと決着をつけたウタは疲れて眠っちまった。

お陰でルフィ達が玩具にされることは無くなった。お手柄だぜ、ウタ!

 

その後、ルフィがドフラミンゴと戦いドフラミンゴを追い詰めた辺で、王の台地まで鳥カゴがたどり着き次第に切り刻まれていくため、なんとか目を覚ましたウタや合流した革命軍のコアラと魚人のハック達と共に下に降り、混乱している国民達に避難と鳥カゴを押してなんとしてでもルフィが復活するまでの時間を稼ごうとしてたんだが…。

 

 

 

すまねェ、ルフィ。まさかあんなことになるなんて、俺がついていながら、本当にすまねェ…!!




白状します。
私は、ウタの歌をバックにルフィがドフラミンゴを追い詰めるシーンを書こうとしていたんだ。
でもそこにたどり着くまでの下拵えとして、そこに至るまでの状況を書いていたら、何故かウソップ視点のこの話が出来ていたんだ。

ゴッドウソップすげぇ(語彙消失)


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5話 太陽は陰り、悪鬼は嗤う

第三者視点の間章です。
この辺りの流れは原作とほぼ変化なし。



歓声が鳴り響く。

王下七武海の一角にしてドレスローザの国王“天夜叉”ドフラミンゴ。

10年間ドレスローザを支配し、その裏で闇の仲買人“ジョーカー”として新世界の裏社会を牛耳っていた男。

その男は今、一人の海賊の手によって王宮のそびえる丘の岩壁に叩きつけられた。

 

海賊“麦わらのルフィ”。

海軍の英雄ガープの孫にして、世界最悪の犯罪者“革命家”ドラゴンの息子。

世界政府の三大機関全てに殴り込み、2年前の頂上戦争を混乱に陥れた“最悪の世代”の一人。

 

彼の切り札である“ギア4(フォース)”はドフラミンゴを圧倒し、岩壁へ叩きつけた。

戦いの行方を追っていた者達は皆、麦わらのルフィの勝利を確信した。

 

 

だが、まだ闘いが終わっていない事を麦わらのルフィは直感した。

ドフラミンゴの能力によって発動したドレスローザ全体を覆う檻、ドレスローザの全ての人間を殺戮する処刑装置【鳥カゴ】は、未だ健在なのだ。

 

止めを刺すためにドフラミンゴの下へ翔んだルフィは、止めの一撃を入れる直前、覇気切れで墜落した。

 

覇気を消耗し、まともに立ち上がることも出来ないルフィに対してドフラミンゴは岩壁を崩壊させながら復活する。

 

身動きの出来ないルフィの息の根を止めるために、ドフラミンゴが近づいてくる。

 

 

ギャッツ「10分だ!頼むぞお前ら!」

コロシアムの参加者達「「「ウオオオオ〜!!!」」」

 

10分間、ルフィの覇気が回復するまでの時間を稼ぐために、ゴッドウソップに救われながらもドフラミンゴへの畏怖と賞金に目が眩みルフィ達と敵対していたコロシアム参加者達が、ドフラミンゴを倒す千載一遇のチャンスの為に命懸けで時間を稼ぐ!

 

だが加速する鳥カゴの収束は、無慈悲にドレスローザの住民達を追い詰めてゆく。

 

力無い者達は可能な限り収束の中心である王宮のある“新王の台地”へ、そして力ある者達は鳥カゴの収束を少しでも遅くするため鳥カゴを押す為に走る。

 

武装色の覇気を持つものは自分たちの手で、使えない物は海楼石で出来たSMILE工場やバルトロメオの張ったバリアーを使って鳥カゴを押す。

 

ゴッドウソップ「力ある者は街の東西へ行けー!!!」

 

 

小人族の姫マンシェリーのチユチユの実の能力で、麦わらの一味に味方した闘士達やドレスローザの国民達が復活したタイミングを見計らって、ウソップは国民達に鳥カゴを押させる為に叫ぶ。

 

彼らの奮闘により、ドフラミンゴは麦わらのルフィを見失い、更にルフィが復活するよりも前にドレスローザの住民達を鏖殺するはずだった鳥カゴの収束は一時的に止まった。

 

ドフラミンゴは苛立ちと共に舌打ちをするが、この状況は長く続かないことを即座に理解しほくそ笑む。

 

ドフラミンゴ「フッフッフッ、所詮は時間稼ぎだ。

チユチユの力で回復した奴らも時期に体力が尽きる」

 

事実、チユポポで回復した筈の闘士達が力尽き崩れ落ちてゆく。鳥カゴの収束も再び加速し絶望が再び国全体を覆ってゆく。

 

 

 

 

ウソップ「ヤバいぞ、もう糸がすぐそこまで来てる!

ウタ、早くもっと中心へ逃げるぞ!

…あれ?ウター!?」

 

革命軍のコアラやハックと行動を共にして国民達を誘導していたウソップは、つい先程まで一緒にいたウタがいつの間にか居なくなっていた事にようやく気付いた。

 

ウソップ「あいつ、さっきまで歌ってシュガーを止めた疲れで眠ってたのに一体何処に!?」

 

運の悪いことに探し人に長けたヴィオラは別行動、ウソップ自身も負傷で人に運ばれている状態だ。こんな混沌とした状況で、人間に戻ったばかりで歩くことも覚束ないウタと逸れるなど、彼女を見殺しにするも同然だ。

ウソップは慌てて自らを背負っていたハックの背中から降りてウタを探そうとするが、重症の彼では人混み弾かれまともに捜索など出来ない。

 

ウソップ「ウター!どこだー!」

 

声を枯らして叫んでも彼女の姿は見えない。いよいよ最悪のシナリオがウソップの頭をよぎったとき、ウソップの頭上に、否、ドレスローザの全域に、『歌』が鳴り響いた。

 

 

 

TO BE CONTINUE

 




原作と唯一違うのは、国民が力尽き倒れそうになる中で聞こえたのがコロシアムの実況者のカウントダウンではなく、とある海賊の歌だということ。


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6話 天空に響く歌声

【注意】
この回には、ウタウタの実の能力についてのかなり自己流の解釈が入っています。ご不快になられる方もいるかもしれませんが、私の解釈するウタウタの能力はこうなのだと、おおらかな心でお読み下さい。


夢を見ていた。

 

12年振りの微睡みの中で、私は懐かしい光景を見た。

まだ幼いルフィが人形の私を背負って森の中を駆けている。

 

ルフィ『●●ー、エースー!助けてくれー!!』

 

ルフィと私を追いかけ回していた熊は、二人の少年によって倒される。

 

エース『情けねェなルフィ、あんな熊一人で倒しやがれ』

●●『まあまあ、ルフィはウタを守ってたんだ。無茶を言ってやるな』

 

ルフィがいて、エースがいて、●●がいて、私がいる。

コルボ山での日々は、シャンクス達と離れ離れになり、ルフィしか頼れる人がいないと思っていた私のモノクロの世界に色をくれた。

彼らが私を仲間だと、妹だと言ってくれた。私をただの“モノ”ではなく人間として扱ってくれた。だから私は、辛くても寂しくても、耐えられた。

 

でも、そんな幸せはあっさりと壊れてしまった。

そして●●は…

 

ーーーーーーーー

 

〜王の台地〜

 

●●「…タ、ウタ!」

 

肩を揺すられる。懐かしい夢を見ていた気がするけど、はっきりと思い出せない。

 

人間に戻って12年ぶりに歌を歌った。12年ぶりに能力を使った。

ルフィをちょっとだけ手助け出来た私は、満足して意識を手放した。そうしてなんだか懐かしい夢を見ていたんだけど…?

 

ウタ「うぅん、るふぃ…?」

 

なんとなく、私に呼びかける声の雰囲気がルフィのように聞こえて応えたのだけれど。

 

●●「あいつじゃなくて悪いな。だけど、緊急事態だからしっかり起きてくれ、ウタ。」

ウタ「……?」

 

私を優しく揺り起こしたのは、どこか懐かしい雰囲気を纏った青年だった。癖のある金髪にシルクハット、左目に大きな火傷を負った青年。私とは初対面の筈なのにその顔に浮かぶ笑顔は親しげで…!?

 

ウタ「さ、ぼ…?」

サボ「お、もう気づいたか。昔からお前は勘が良かったからな!」

 

サボ!そうサボだ!

私とルフィにとっての、もう一人のお兄ちゃん! 

 

ルフィと私とエース、そしてサボ。3人と1体で交わした兄弟盃を私は今でも鮮明に覚えている。

だからこそ驚いた。だって彼は…。

 

サボ「お互い色々、積もる話はあるが、時間があまりなさそうだ。見てみろ。」

 

王の台地から、なんだか太ましくなったルフィが空を飛んで、ドフラミンゴを追い詰めている様子が見えた!よし、そのままあんな奴ぶっ飛ばしてちゃえ!

そう思っていたら何故だか、ドフラミンゴの周りの地面や建物が“糸”になってルフィの攻撃を防いだ。しかもその糸がルフィに襲いかかる。

 

サボ「悪魔の実の能力の“覚醒”だ。悪魔の実の能力は稀に“覚醒”して、自分以外にも影響を与えるらしい」

 

サボが説明してくれた。

ルフィが切り札を切ったけど、相手もまだ奥の手があったらしい。

それでも鳥カゴを止めるため、ドフラミンゴを仕留めるために大技を叩き込んだルフィだが、止めの一撃を放つ前に、覇気切れで墜落しちゃった。

 

ウタ「ルフィ!!」

サボ「ルフィなら大丈夫だ。死んだ訳じゃないし、どうやら助けも向かったらしい。」

 

あ、確かに知らないおじさんに担がれたルフィがその場を離れてゆく。

でも、よく見ると別の方向から変な笑い方のごついおじさんがルフィに向けて突っ込んで行くのが見えた。どう見てもルフィを助けに行く、という風には見えない。

 

サボ「俺はあのバージェスを止めてくる。ドフラミンゴはルフィが必ず倒すだろうから、お前はルフィの仲間と一緒にいろよ」

 

一方的に要件を言うと、こっちが何か言う前に王の大地を飛び降りて行った。

一緒にいたコアラさんがプンスカ怒ってたけど、まあサボは思慮深く見えて結構勝手なところがあるからね。コアラさん、苦労するなぁ…。

 

 

 

徐々に収束する鳥カゴをなんとかしようと、ゾロ達はカゴを押す為に別行動に。私はウソップやコアラさんと一緒に避難しながら逃げ惑う人達を誘導する。

 

ウソップ「力ある者は街の東西へ行けー!!!」

 

トンタッタ族のお姫様の力で一時的に回復した戦士たちや民衆達。彼らの奮闘で鳥カゴが僅かな間だが止まったとき、多くの人達は歓喜していた。

だけど私は素直に喜べなかった。

 

ウタ「…これ、じゃあまだ、だ…め」

 

 

見聞色の覇気。12年間、見ることと聞くことしか出来なかった私はルフィ達との冒険の中でいつしか、その力を覚醒させていた。

とはいえ出来ることははぐれた仲間(主にゾロだ)の位置を皆に大まかに伝えたり、遠くからくる敵の存在を皆に知らせるくらいだった。

 

2年間、私はサニー号をトビウオライダーズやはっちゃん、それに一味を崩壊させた元凶でもある王下七武海“暴君”くまと守る合間に、シャッキーのバーでアルバイトをしながら鍛えてもらった。

私が無意識に見聞色の覇気を使っていたことを知ったシャッキーは、私に覇気の使い方、そして人形でも戦える手段を伝授してくれた。

何故かバーテンダーをさせられたのは、初めの頃は釈然としなかったけどね!

 

 

ともかく、そうやって身につけた見聞色の覇気で私はこの島全体の声を拾っている。多くの人の歓喜や希望。だけどそれ以上に、もう皆疲れ切っている。カゴを押してる人達も、マンシェリー姫の能力が切れかけてバタバタと倒れている。

収束の中心である新王の大地近くまで辿り着いた人達も、そこでルフィを探しながら、時間を稼ぐため挑んできたコロシアムの猛者達を片手間に蹂躙するドフラミンゴを見て絶望し、足を止めている。

 

私の見聞色で感じられるルフィは、まだ覇気が回復していない。

トラ男君と一緒にいるみたいだから、まだ無事なのはわかるけど、ルフィが復活するよりも皆が鳥かごで切り刻まれる方が早そうだ。

 

ウタ「どうし…よう」

 

まただ。また私は何も出来ない。

皆の役に立つために、2年間修行したのに。ウソップのお陰で人間に戻ることができたのに。せっかく、ルフィに思い出してもらえたのに…!

 

ルフィに預けられた麦わら帽子のつばを握る。

ルフィの宝物。私のお父さんが、ルフィの憧れる偉大な海賊が、ルフィへ預けた大切な帽子。

 

私を忘れた大好きなお父さん。賑やかで楽しかった、私にはとっても優しかった赤髪海賊団の皆。

会いたいなァ。もう一度、あの人達に会いたいよ。

 

恐怖で足が縺れる。混乱の中でウソップ達とはぐれてしまって、どうにか人の流れを潜って脱出したが、ウソップ達とはかなり離れてしまった。

 

とても、心細くて。涙が出そうで。

 

 

ドレスローザを再び絶望が覆ってゆく。

力尽きる戦士達、再び動き出す鳥カゴ。未だ健在なドフラミンゴ。

あと一歩の所で届かない勝利に、ドレスローザの人々が諦念と絶望を抱き膝を折ってゆく。

 

そんな絶望に、私も膝をつきそうになったけど…。

 

ルフィ『ウタ、帽子預かっといてくれ』

ルフィ『今からドフラミンゴをぶっ飛ばして来るからよ。それまで、もうちょっとだけ、待っててくれ』

 

ルフィの、私の大好きな幼馴染の、私達の船長の言葉を思い出す。そうだ。ルフィなら!こんな絶望、ぶっ飛ばしてくれる!

ルフィが回復するまでのあとちょっとなんだ!国中の皆に、あとちょっとだけ頑張ってと伝えたいのに!

 

何か無いだろうか、そうだ、さっき王様が皆に声を届けるために使っていた電伝虫とか!

でも周囲を見渡しても、そんな都合よくあるわけがなくて。

そもそもまだ上手く話せない私じゃあ、皆に説明なんて出来ないよ!?

 

もしここがウタワールドなら、いくらでも遠くに声を届けられるのに…?

 

 

サボ『悪魔の実の能力の“覚醒”だ。悪魔の実の能力は稀に“覚醒”して、自分以外にも影響を与えるらしい』

 

 

唐突に、ついさっき再開したもう一人の兄の言葉を思い出した。

悪魔の実の“覚醒”。能力が自身だけでなく、周囲にも影響を及ぼす、能力者の次の段階(ステージ)。

 

できるか分からない。そもそも、物心ついた頃から既に能力者だったとはいえ、私はこの12年間、全く能力を使っていなかったのだ。

だけど、ここで勇気を出さなければ!ここで一歩を踏み出さなければ、私の大切な仲間が、私の大好きな幼馴染が死んでしまうから!だから…!!

 

 

気づいたら私は、瓦礫の丘の上に立っていた。

これからやることは部の悪い賭けだ。負けの目の方が遥かに多い。成功しても、私は真っ先にドフラミンゴに目をつけられ、殺されるかもしれない。

 

脚が震える。これは緊張か、それとも恐怖だろうか。人間の感覚が久々過ぎて、よくわかんないや。

 

大きく息を吸い込む。

つま先でトントンと、地面を叩く。

 

これから私は歌う。ここは私のステージ。

 

歌う曲は“私は最強”。

この曲は、もし自分が人間に戻れたら、皆に聞いてもらおうと私が書き溜めて、ブルックに清書してもらった曲の一つ。

 

これは応援歌。自分自身と、そして私の大切な仲間たちへ向けた、励ましと、鼓舞の歌。

こんな状況だからこそ歌うべきだと、私が決めた。

 

♪さぁ 怖くはない♪

♪不安はない♪

 

声量も技量も、とても満足のいくものじゃない。それでも再び歌うことが出来た万感の喜びと、仲間への感謝を込めて。

絶望に屈して膝を負った人々に希望を届けるために、力の限り歌う。

 

だからこそ今、奇跡は起きる。

 

初めは歌声だけだった。

だが、瓦礫の丘に響いた歌声に反応するかのように、美しく明るい楽器の調べが響き渡る。

エレクトーンが、ドラムが、トランペットが。彼女の周りに展開した様々な楽器の音色が、彼女の歌の伴奏を務める。

 

楽器の伴奏に導かれるように、彼女の歌声が、悪意の檻に閉ざされた天空(ソラ)に響き渡った!

 

 

TO BE CONTINUE




次回、ドフラミンゴ戦決着!(予定)


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7話 “悪鬼”と“救世主”

前回、ドフラミンゴ戦決着と書きましたが、書いてるうちに描写が膨れ上がったので3話に分割します。

書けば書くほど書きたいことが増えていく…。


歌声がドレスローザ中に響き渡る。

 

その歌声は、傷付き力尽きた戦士たちに最後の人押しをする力を、絶望に膝を屈した民衆に再び立ち上がる希望を届ける為に。

あともう少しだと。絶望が晴れる時が来るのはもうすぐだと伝えるために。

 

ゾロ「こいつァ、良い歌じゃねェか」

 

侍達や、何故か協力を申し出た盲目の海軍大将と共に鳥カゴを押していたゾロは、その歌声が、つい先程人形から12年ぶりに人間へと戻ることの出来た彼の仲間であると即座に理解した。

 

ゾロ「お前ら、気合入れろ!“あいつ”が応援してくれてんだ!

情けねェところ見せるんじゃねェぞ!」

 

共に鳥カゴを押している連中に発破をかけながら、自身も限界を越えて鳥カゴを押し返す。

 

フランキー「アウ!ス〜パァ〜な歌じゃねェか。オメェら!こんなのいい歌聞いといて、ヘタレんじゃねェぞ!!」

 

小人族達や余力のある民衆達と共に下に、海楼石で出来たSMILE工場で鳥カゴを押し返そうとしているフランキー達の下へも、ウタの歌声が届く。

ウタの声を知らないフランキーだが、歌に込められた覚悟と聴く人々への鼓舞の気持ちは伝わる。

セニョール・ピンクとの激戦で既に満身創痍な体が少しだけ軽くなったことに気を良くし、ここが勝負所と気合を入れ直し工場を押す腕に力を込める。

 

サイ「おい野郎共!くたばってる場合じゃねェよい!

こんないい歌に応援されてんだ!死ぬまで押し続けろ!」

戦士達「「「「おうよ!!!」」」」

 

ルフィ達を援護するためにドンキホーテファミリーと死闘を繰り広げたコロシアムの猛者達。彼らもまた、バルトロメオのバリアを用いて鳥カゴを押し返していた。だが既にチユチユの実の力による一時的な回復も効果を無くし、力尽き倒れてゆく戦士たち。彼らの耳にも届いた歌声は彼らに、あと僅かな時間だが立ち上がる力を与えた。

戦士たちは、こんな粋な応援をされて何もしないのは漢が廃ると死力を振り絞り、鳥カゴを押し返す。

 

そして奇跡は続く。

 

力尽き、鳥カゴに刻まれる寸前の住民の身体に音符が張り付き、その体を安全な所まで運ぶ。

他の音符は鳥カゴへと張り付いてゆく。そして鳥カゴは、まるで大量の重りを付けられたかのように、その収縮速度を減衰させてゆく。

 

そして戦士たちと奮闘と、“彼女”の歌声が、再び鳥カゴの収束を止めた。

 

 

 

 

超人系“ウタウタの実”

能力者の歌声を聞いたものを眠らせ、能力者の心の中の世界“ウタワールド”へと誘う。そして能力者はウタワールドでは万能の力を振るうことのできる強力な悪魔の実。

だが、ウタワールドでいかに万能な力を持っていたとしても、その力を現実世界で振るうことは出来ない。極論、耳を塞がれてしまえばなんの意味もない能力である。

 

 

ドフラミンゴ「……能力の“覚醒”か」

 

世界の闇に通じるドフラミンゴは、当然危険度が高い悪魔の実の能力は一通り把握している。同様に“音”をトリガーとする能力として“オトオトの実”が思い浮かぶが、あれは最悪の世代“海鳴り”スクラッチメン・アプーの能力であり、同時期に同じ能力者が存在しない以上、“歌”をトリガーとするウタウタの実の力だろう。だが歌を聞いて誰も眠らず、現実で能力者がウタワールドの如き力を行使している。これはおそらく、能力が自身だけでなく周囲の環境へ影響を与える超人系“悪魔の実”の覚醒なのだろう。

同じく“覚醒”した能力者であるドフラミンゴは結論を下す。

 

ドフラミンゴ「忌々しい。まさか12年前にシュガーに玩具にさせた赤髪の娘が今更、こんなところに現れるとはな。」

 

己を討ち取ろうと、この耳障りな歌で力を取り戻したコロシアムの闘士達を蹴散らしながら歩を進める。

 

ドフラミンゴ「フッフッフッ、それにあの麦わら帽子。まさか“麦わら”が連れ回していた玩具が赤髪の娘とは。つくづく“Dの一族”は祟るもんだ。」

 

このときに至るまでの数奇な巡り合わせに、多くの人間の運命を狂わせた悪鬼は嗤う。

 

 

そして悪鬼が、遂にこの“奇跡”を生み出した“救世主”と対峙する。

 

 

TO BE CONTINUE




書きたいシーンに説得力をもたせようとしたら、どんどん書くシーンが増えていくし、キャラが勝手に喋りだす。
キャラエミュ苦手なのに何で私はドフラミンゴの台詞を書いてるんだ…?

注意:キャラの言動に違和感を感じてもおおらかな心でスルーしてください


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8話 悲劇の元凶

ごめんなさい、ドフラミンゴ戦に決着までまだかかりそうです。
そしてすまないレベッカ、ホビウタ時空だとDR編のヒロインはウタなんだ。こんな扱いになってしまって本当にすまない。

それはともかく、今回はレベッカ視点でお送りします。


 

 

半壊し、瓦礫で覆われた街をレベッカはひた走る。

一時的に止まった鳥カゴが再び動き出した。もしルーシーが復活するとしても間に合わないかもしれない。

そう思うといても立ってもいられず、父やロビンから離れて一人でドフラミンゴを討つ為に街を走る。

 

レベッカ「いざとなれば私が、ドフラミンゴを…!」

 

私が悲壮な覚悟を固めた時、街に、いやドレスローザ全域に“歌”が響き渡った。

 

♪さぁ 怖くはない♪

♪不安はない♪

 

その歌声はドレスローザの人々に絶望に抗う希望を届けた。

力尽きかけた戦士達は最後の力を振り絞り、絶望に膝を折った民衆たちが希望を見出し立ち上がる。

 

レベッカ「凄い。これは、ウタちゃん…?」

 

つい先程、王の台地で顔を合わせたルーシーの仲間だという赤と白の独特な髪色の女性。父と同じく玩具にされながらも、ルーシーと共に冒険を続け遂に人間に戻ったのだと、ロビンさんが言っていた。

先程会ったときの、歩くことも覚束ず上手く話すことも出来なかった彼女から想像できないほど、素晴らしい歌声。そして歌声に合わせて響く楽器たちの伴奏。

 

再び止められた鳥カゴを見て、私も希望を見出す。これなら間に合う。国中の人たちが犠牲になる前にルーシーがドフラミンゴを倒せる!

 

だが希望を見出した私の視線の先に、あの男がいた。

 

ドフラミンゴ、この国を滅茶苦茶にした悪鬼。あいつはゆったりと歩きながら、自分に切りかかってくるコロシアムの闘士達を蹴散らしてゆく。

 

コロシアムの闘士「絶対に通すな!歌を歌ってるお嬢ちゃんを死ぬ気で守れー!!」

 

彼らもまた、あの“歌”が最後の希望だとわかっているのだ。だが彼らではドフラミンゴに、王下七武海の一角には届かない。

 

そして、“悪鬼”と“救世主”が対峙した。

 

 

ドフラミンゴ「フッフッフッフッ、大したもんだ。まさか小娘一人にこの俺の鳥カゴを止められるとはな」

 

ドフラミンゴがウタちゃんへと語りかける。

だけどウタちゃんはドフラミンゴと対峙して、その殺気に晒されながらも、歌を歌い続ける。

 

ドフラミンゴ「健気なもんだ。どこまでその耳障りな歌を続けられる?」

 

ドフラミンゴは不愉快そうにウタちゃんを睨みながら、人差し指をウタちゃんに向ける。

 

ドフラミンゴ「“弾糸(タマイト)”」

 

ドフラミンゴの放った糸の弾丸は、ウタちゃんの周りに展開した楽器が防御した。でも、それだけでも歌い続けるウタちゃんの負担になったのだろう。ウタちゃんの顔が苦悶に歪む。

 

ドフラミンゴ「この程度で音を上げるなよ?

“大波白糸(ビローホワイト)”」

 

周囲の建物や地面が糸と化し、ウタちゃんを全方位から攻撃する。だがウタの周りに展開した楽器と音符たちが、糸からウタを守る盾となる。

 

攻撃が晴れたとき、そこには崩れ去り消滅してゆく楽器たちと数多の音符の中心で歌い続けるウタがいた。

楽器がすべて壊れ、最早ドレスローザ全域に歌は行き届かない。

それでも、ルーシーが復活するまで時間を稼ぐ為に、彼女は命懸けでドフラミンゴと対峙して歌い続けている!

 

ドフラミンゴ「歌うのをやめろ!!!」

 

修羅の形相でウタちゃんを怒鳴りつけるドフラミンゴ。だがそれでも、ドフラミンゴを睨みつけながら歌い続けるウタちゃんに業を煮やしたドフラミンゴは、再びウタちゃんを攻撃しようとする。

 

レベッカ「やめなさい!ドフラミンゴ!!」

 

ウタちゃんを守るために、私は咄嗟にやつの死角から斬りかかる。

 

ドフラミンゴ「レベッカ、今更何の用だ?俺は今忙しいんだ。

後にしろ!」

レベッカ「なっ!?身体が!?」

 

ドフラミンゴはこちらを振り向く事すらなく、私を糸で拘束する。身動きできなくなった私を宙吊りにして、奴は楽しそうに嗤う。

 

ドフラミンゴ「だが、丁度良いところに来た。おい、小娘。

歌うのをやめないようなら、レベッカを切り刻む。

それでも良いなら歌い続けるがいい。このガキ一人とドレスローザの住民達、どっちの命を優先する?」

レベッカ「ダメ!ウタちゃん!」

 

私は助けになるどころか、人質にされて足を引っ張ってしまった。悔しい、私がもっと強かったら。

ダメだよウタちゃん、私なんかのために皆を、この国の人達を見捨てないで。

 

ウタちゃんはドフラミンゴを睨みつけるが、私の方を見て表情を緩め、歌うのを止めた。

鳥カゴを止めていた音符は消失し、鳥カゴが再び加速する。

 

ドフラミンゴ「フッフッフ、馬鹿な奴だ。歌い続けていれば、麦わらが復活するまで時間を稼げたかもしれないぞ?」

ウタ「そのこを、はなして…あげて」

 

先程の素晴らしい歌声と同じ声とは思えないほど、たどたどしい声。それでも彼女はドフラミンゴから目を逸らさず、私を助けようとしてくれている。

 

ドフラミンゴ「いいだろう、こいつは切り刻まないでおいてやる。だが、お前は別だ!小娘!!」

 

ドフラミンゴがウタちゃんを拘束し、ついさっき私がされたように宙吊りにされる。

 

ドフラミンゴ「厄介な歌だが止まってしまえばもうどうでもいい。それにその麦わら帽子、あの麦わらが被っていたものだろう?

お前を殺せば、麦わらは現れるか?」

ウタ「……」

 

ウタちゃんは口を引き結び、気丈にもドフラミンゴを睨み続ける。

 

ドフラミンゴ「フッフッフ、健気なもんだ。12年間、麦わらに可愛がられて随分と大事にされていたようだな。

 

   【赤髪の娘】   」

 

赤髪?娘?どういうこと?

それに今までの強気にドフラミンゴを睨み続けていたウタちゃんに、初めて動揺が見えた。

 

ドフラミンゴ「驚いたか?俺がお前を知っていることが。

俺も“思い出した”よ。お前の事をな。

 

俺がシュガーに命令したんだよ。赤髪の娘を消せ、とな。」

 

ドフラミンゴの口から語られた言葉に、ウタちゃんが目に見えて動揺し、怯え始める。

 

ドフラミンゴ「フッフッフ、傑作だな。あの時はまだホビホビの実の能力を測っている時期だったんだ。だからシュガーの忠誠を試すために、あいつと友達になったお前を玩具にするよう命令したのさ。まさかシュガーの友達が赤髪の娘とは思わなかったがな。命令した後に調べてみて驚いたもんだ。」

 

ドフラミンゴが楽しげに、ウタちゃんを嬲るように話し続ける。

 

ドフラミンゴ「だが結果としてシュガーは任務を果たした。友情よりもファミリーへの忠誠をとったのさ。フッフッフ、笑えるだろ?あの生意気な善人気取りの“赤髪”が、可愛がってた娘を捨てちまったんだ!!」

 

ドフラミンゴがここにいない誰かをあざ笑う。赤髪というのが誰かは分からないけど、きっとウタちゃんのお父さんなんだろう。

ウタちゃんが玩具にされて、ウタちゃんのことを忘れさせられてしまった。

 

怖気が走る。もし私とお父さんの立場が逆だったら。玩具にされたのが私だったら。あの優しくて強いお父さんも、私を捨ててしまったかもしれない。

 

ウタちゃんが涙を流す。それは辛い記憶を無理やり掘り起こされたからなのか、自分に降りかかった悲劇の元凶を前にして手も足も出ない自分への悔しさなのか。

 

ドフラミンゴ「お前が麦わらの一味の一員としてこの地に来ることになるとは、俺も想像すらしなかったよ。12年間の地獄から開放された気分はどうだ?嬉しかったか?

 

フッフッフ、だが奇跡は続かない。ローもお前も麦わらも、この地にいる誰も!俺を倒せねェ!!

 

どんなに奇跡を望もうが、力がなけりゃ何も出来ないんだよクソガキども!!」

 

ドフラミンゴがウタちゃんを、そして私を怒鳴りつける。そしてきっと、ルーシーにも聞こえるように。

 

ドフラミンゴ「これでも現れねェか、麦わら。

まあいい、だったら趣向を変えよう。」

 

隙を見て、もう一度ドフラミンゴに斬りかかろうとしていた私の身体の自由が再び奪われる。

 

ドフラミンゴ「“寄生糸(パラサイト)”」

 

ドフラミンゴの能力で私の体は意図に反して動かされる。

剣を構え、私の体が徐々にウタちゃんへと近づいてゆく!

 

レベッカ「いやだよ!やめて…!!」

ドフラミンゴ「さあ麦わら、さっさと出てこい。お前の大切な“人形”が壊されちまうぞ!!」

 

ドフラミンゴが愉快そうに嗤う。あいつにとってはこれは余興なんだ。この国を彩る悲劇に花を添える悪趣味な喜劇として。

 

レベッカ「やだよ、わたし。ウタちゃんを斬りたくないよ…」

 

涙を流し、必死に勝手に動く身体を止めようとするが、どうにもならない。

 

ウタ「れべっか…、だいじょうぶ」

レベッカ「…っ!?」

 

さっきまで怯えて、私と同じように泣いていたウタちゃんが私に笑いかける。それはまるで、私が子供だった頃、お母さんが私を安心させるために見せていた笑顔のようで。

 

ウタ「ルフィはきっときてくれる。もしわたしがしんでも、ルフィがきっとどふらみんごをぶっとばしてくれる。」

レベッカ「ウタちゃん…!」

ウタ「だからきにやまないで、あなたはちゃんとルフィのためにじかんをかせいだから」

 

私の見聞色の覇気で、彼女が怯えていることもが分かる。それでも彼女は、自分を殺そうとしている私の心を守ろうとしてくれている。

 

悔しい、悔しい…!私に力があれば。ドフラミンゴにいいように利用されずに彼女も、この国も救えるのに。

 

レベッカ「嫌だよう。助けて…。助けて…!

ル〜シ〜〜〜!!!」

 

私は叫んだ。ただ一心に、私を、彼女を救ってくれる救世主(ヒーロー)の名前を。

 

 

 

 

 

 

 




おかしい、予定ではもうルフィがドフラミンゴを倒してる予定だったのに、ルフィが登場すらしていない!?
あと書いてて思ったけどドフラミンゴ喋りすぎじゃない!?


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9話 おれは無敵だ!

満を持して主人公が登場します!

あと、序盤にウタシュガ概念が交じるのでご存知ない方は某掲示板のホビウタスレで検索を。


〜〜ウタワールド〜〜

12年ぶりに歌い、シュガーをウタワールドに引き込んだ私は決闘の末、私を12年間苦しめ続けた呪いの元凶を改めて撃破した。

 

ウタ「ねえシュガー、何であのとき私を玩具にしたの?」

 

現実ではまだうまく話せない私も、この世界なら流暢に話せる。そして私と彼女しかいない今だからこそ、聞きたかった。12年前友達になった少女の本心を。

 

シュガー「私はドフラミンゴファミリーの幹部“シュガー”よ。

若の命令は絶対。ただ、それだけ。」

 

彼女はそう言って目を閉じる。きっと何度質問しても返ってくる答えは同じだ。

 

ウタ「そっか。じゃあサヨナラだね、シュガー。

バイバイ、私の“友達”」

シュガー「ええ、さようならウタ。私の最初で最後の“友達”」

 

そして私はウタワールドは閉じた。

 

 

〜〜ドレスローザ 中心街〜〜

 

私を拘束したドフラミンゴが12年前の真相を語る。シュガーの忠誠心を測るために、そしてシャンクス達への嫌がらせの為に私の人生をメチャクチャにしたのだと。笑いながら、私の人生を踏みにじったと。

 

涙が溢れる。こんな奴に、人を人と思わない奴に。シュガー達自分の仲間ですら、心の底では道具としか考えていない外道に、私の十二年間は踏みにじられたのだ!

腕を拘束された宙吊りにされた私ではもう抵抗することもできない。歌おうとすれば即座にドフラミンゴは私を殺すだろう。

 

私を嬲っても現れないルフィに業を煮やしたのだろう。今度はレベッカちゃんを操り、私を殺そうとしている。

レベッカちゃんが泣いている。ごめんねレベッカちゃん、私のせいで悲しい思いをさせちゃうよね。

私は泣くのをやめて笑顔を作る。せめてレベッカちゃんが私を斬ってしまっても気に病まないように。

 

ウタ「れべっか…、だいじょうぶ」

レベッカ「…っ!?」

 

死ぬのは怖い。せっかく人間に戻れてルフィに思い出してもらえたのに。やっと思いっきり歌えるようになったのに。

でも目の前で泣いてる女の子が、私のせいで心に傷を負うのは嫌だったから。

 

ウタ「ルフィはきっときてくれる。もしわたしがしんでも、ルフィがきっとどふらみんごをぶっとばしてくれる。」

レベッカ「ウタちゃん…!」

ウタ「だからきにやまないで、あなたはちゃんとルフィのためにじかんをかせいだから」

 

そう言って目を閉じる。やっぱり斬られると痛いよね。でも、痛いのは生きてる証。私は人間に戻れて、人間として死ねる。

ルフィにもう一度会えないのは残念だけど、仕方ないかな。

あ、麦わら帽子返せてないや。私の血で汚れないといいな。ごめんねルフィ、せっかく預かったのに…。

 

レベッカ「嫌だよう。助けて…。助けて…!

ル〜シ〜〜〜!!!」

 

レベッカちゃんが泣いてる。ルーシー、ルフィの名前を読んでる。でも私には分かる。ルフィはまだ回復できてない。まだドフラミンゴを倒すには足りない。

だから来ちゃダメだよ、ルフィ。

 

ウタ「あ、あれ…?」

 

何故だか涙が零れてきた。レベッカが刃を振り下ろす寸前。怖くないように目を閉じてたのに、せめて最後は笑顔で死のうと思ってたのに…。

 

ウタ「ルフィ…、たすけ…て…。」

 

 

 

ルフィ「当たり前だ!!!!!!」

 

 

 

ルフィが、私の大好きな幼馴染がレベッカの振り下ろした刃を武装色の覇気で硬化した頭で粉砕する。そして私とレベッカを掴み、ドフラミンゴから距離をとった。

 

 

 

ドフラミンゴ「フッフッフ、遅かったな麦わら。辛うじて覇気は戻ったようだが、立っているのが精一杯だろ…?」

 

語りかけるドフラミンゴを無視して、ルフィは私とレベッカを優しく地面に下ろす。

 

ルフィ「レベッカ、ありがとうな。ウタを助けようとしてくれて」

レベッカ「ルーシー、ごめんなさい。わたし、ウタちゃんを」

ルフィ「気にすんな、二人とも無事だったんだからよ。な、ウタ!」

ウタ「うん、れべっかがぶじで、よかった。」

 

そしてルフィは私達を守るように、ドフラミンゴと対峙する。

 

ルフィ「トラ男ー!ウタとレベッカを頼む!」

 

ルフィが叫ぶ。さっき突然現れたのも多分、トラ男君の能力だったんだね。でも、ちょっと待った!

 

ウタ「ルフィ、まって。わたしも…、たたかう…!」

ルフィ「…!?」

 

ルフィだけでなく、私達のやり取りを見ていたドフラミンゴも、遠くで私達を回収する準備をしていたトラ男君も驚いているのが“分かる”。

 

ウタ「わたしも、あいつにおとしまえをつける。わたしも“かいぞく”だから…!」

ルフィ「ししし、そっかそうだな。よし一緒にあいつをぶっ飛ばそうぜ!ウタ!!」

 

ルフィも嬉しそうに笑う。

 

ルフィ「んじゃトラ男ー、悪いけどレベッカだけ頼む!」

 

ルフィが改めて叫ぶと、私の隣でへたり込んでいたレベッカが急に居なくなる。トラ男君が移動させてくれたみたい。ありがとう、トラ男君。

 

???「俺はタクシーじゃねェぞ!?」

 

何か聞こえた気がするけど、気の所為だよね?

 

私に背を向けて、ドフラミンゴへ向けて構えをとるルフィ。そのままルフィは私に言った。

 

ルフィ「なあウタ、さっきの歌また歌ってくれよ。あの歌すっげェ良かったからよ。」

ウタ「うん、わかった。つかれてるからいっきょくぶんしかうたえないよ?」

ルフィ「十分だ。ウタ。お前の歌があれば、おれは無敵だ!」

 

ルフィが嬉しい事を言ってくれる。リクエストには答えないと。それに海賊として啖呵を切ったんだ。しっかりと気合を入れないと。

私が立ち上がり、呼吸を整える。

 

ドフラミンゴ「無敵かどうかはともかく、俺が素直に歌わせると思ってるのか?麦わらァ!!」

 

ルフィに半ば無視され、怒りで覇気をまき散らすドフラミンゴがルフィへ叫ぶ。

 

ドフラミンゴ「“海原白波(エバーホワイト)”!!!」

 

周囲一帯の地面が糸に変化し、大量に生み出された糸の柱が私達を包囲する。

 

ドフラミンゴ「“千本の矢”“羽撃糸(フラップスレッド)”!!!」

 

糸の柱が細く枝分かれし、無数の矢のようにルフィとその後ろにいる私に襲いかかる。

 

 

♪さぁ 怖くはない♪

♪不安はない♪

♪私の夢は みんなの願い♪

♪歌唄えば ココロ晴れる♪

♪大丈夫よ 私は最強♪

 

歌が響く。まだまだ拙く未熟な歌。でもその歌は彼女の想いの詰まった歌。いつかまた歌えるようになったときに、大好きな幼馴染の、大好きな仲間たちの助けになれるように。そう願って作った歌だから。

今ここでこの歌を歌う私は、そしてこの歌を聞いてくれるルフィは“最強”だ!

 

 

ルフィ「“ギア2(セカンド)”」

 

ルフィの身体が赤熱し、蒸気が立ち昇る。

“ギア2(セカンド)”。ルフィが私達を、仲間を守るために編み出した戦闘法。

 

ルフィ「“ゴムゴムのJET銃乱打(ガトリング)”」

 

ルフィの拳が、ドフラミンゴの糸の飽和攻撃をすべて粉砕する。

 

ドフラミンゴ「……!!!だったらこれでどうだ!?

 

     “大波白糸(ビローホワイト)”!!!」

 

今度は糸の大波が私とルフィを押しつぶすように上空から叩きつけられる!

 

 

♪私の声が♪

♪小鳥を空へ運ぶ♪

♪靡いた服も踊り子みたいでさ♪

♪あなたの声が♪

♪私を奮い立たせる♪

♪トゲが刺さってしまったなら ほらほらおいで♪

 

 

ルフィが大きく息を吸い込む。ルフィのお腹が膨れ上がって風船みたいになる。ルフィはそこから体をひねって風船みたいなお腹がねじれて鏡餅みたいな見た目になった。

ルフィが一気に息を吐き出す。

ルフィは吐き出した息の勢いとひねった体のバネでクルクル回転しながら空へと飛び上がった!

 

ルフィ「“ゴムゴムのJET暴風雨(ストーム)”!!!」

 

ルフィの暴風雨のような拳が私達を押しつぶそうとした糸の津波を霧散させる!

 

だが、ドフラミンゴは能力を用いて空を駆け、空中へ飛び上がって無防備なルフィを狙う!

 

 

ドフラミンゴ「俺を相手空中へ飛び上がるとはいい度胸だ!!

消し飛ばしてやる!!

 

    “超過鞭糸(オーバーヒート)”!!!」

 

一撃必殺の糸の鞭が空中では身動きのとれないルフィを襲う。

 

 

♪見たことない 新しい景色♪

♪絶対見れるの♪

♪なせならば♪

♪生きてるんだ今日も♪

 

だが必殺の一撃は空を切る。そしてあり得ない軌道で攻撃を躱しドフラミンゴよりも更に上空へ駆けたルフィが、大技を繰り出して隙を見せたドフラミンゴへ一撃を加える。

 

ルフィ「“ゴムゴムのJET斧(アックス)”」

 

ルフィの一撃を辛うじて防御したドフラミンゴが、街の尖塔を粉砕しながら地面へと叩き落される。

 

ドフラミンゴ「なんだ今の動きは!?……っ!?」

 

あり得ない自体に一瞬困惑したドフラミンゴだが、即座にからくりに気がついたようだ。

 

ルフィ「ししし、言ったろ。あいつの歌があればおれは無敵だ!」

 

空中でルフィが乗っている音符。私が能力で生み出した実体のある足場。空を駆けるドフラミンゴにルフィが対抗するための切り札。

 

 

♪さぁ 握る手と手♪

♪ヒカリの方へ♪

♪みんなの夢は 私の幸せ♪

♪あぁ きっとどこにもない アナタしか持ってない♪

♪その温もりで 私は最強♪

 

12年前のあの日、アナタが私を見つけてくれたから私はここにいる。アナタの笑顔が、アナタの言葉が何も感じられなくなった私の心にもう一度温もりをくれたから!

 

ルフィ、一緒にあいつを倒そう!

ドフラミンゴを。この悲劇の元凶を!

 

 

王下七武海“天夜叉”ドンキホーテ・ドフラミンゴ

         VS

海賊“麦わらのルフィ”&“歌姫”ウタ

 

開戦!!

 

 

TO BE CONTINUE

 




ようやく、ようやくここまで書けた!
ここまで本当に長かったー!

次でついにドフラミンゴをぶっ飛ばせるはず!

追記:あとちょっとしたことですが、この話を書こうとした時からこの場面でルフィが使う技だけは決まってました。
何故かはまあ、映画を観て察して下さい。


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10話 わたし達は“最強”(挿絵あり)

先程、挿入する場所を間違えて投稿してしまい大変失礼しました。
こちらはドレスローザ編の最新話です。

追記:春風駘蕩様より挿絵を頂きました
この話のクライマックスにドンピシャ過ぎる絵なので泣いて喜んでおります。


【挿絵表示】


pixivへのリンクはこちら↓
https://syosetu.org/?mode=url_jump&url=https%3A%2F%2Fwww.pixiv.net%2Fartworks%2F102527977


 

♪回り道でも♪

♪わたしが歩けば正解♪

♪わかっているけど♪

♪引くに引けなくてさ♪

 

 

まだまだ未熟な、それでいて魂の込もった歌声をバックに麦わら屋がドフラミンゴを追い詰めてゆく。

 

レベッカ「ルーシー凄い!」

ロー「…あいつ、防御に全く覇気を使ってないな。全部躱して覇気を温存してやがるのか。」

 

歌姫屋の歌で生み出された音符を足場に、あのドフラミンゴ相手に空中戦を仕掛けた麦わら屋。能力で自在に空を駆けるドフラミンゴ相手にそれをやったあいつに、初めは正気を疑ったがどういうわけか麦わら屋が圧倒している。

 

お互いに満身創痍、麦わら屋の覇気が切れかけていた分だけ体力的にはドフラミンゴの方が優位のはずだ。だからこそ一撃でドフラミンゴを沈めるために逃げ回り覇気の回復を待ったってのに、歌姫屋を助けるために飛び出して行こうとしやがった。

 

ルフィ『跳ばしてくれトラ男!ここで行かなかったら、おれは死ぬほど後悔する!!!』

 

みっともなく涙まで浮かべて懇願するから仕方なく送り出した。最悪あいつらを即座に回収して俺が時間を稼ぐかと考えていたが、どうやら杞憂だったようだ。

 

自在に飛び回る麦わら屋と足場を生み出す歌姫屋。余程息が合わなければ墜落するかドフラミンゴに翻弄されて殺される状況の筈なのに現状は麦わら屋の動きにドフラミンゴが振り回されている。

 

ロー「まるで麦わら屋が次に何がしたいのか分かってるみてェだな。いや、案外本当に分かってるのか?」

 

今歌っている奇妙な髪色の女は、どうやらパンクハザードであいつと出会ったときにあいつの肩に乗っていた人形の正体だったらしい。どうやら玩具にされる前から麦わら屋とは親しい間柄だったらしいが、だからといって12年間も、あんな破天荒なやつの側に居続けるとは随分と健気な奴だ。

だからこそ、麦わら屋が何がしたいのか分かるのか?

 

ロー「だがもう時間がない。とっとと終わらせろ、麦わら屋!」

 

 

♪無理はちょっとしてでも♪

♪花に水はあげたいわ♪

♪そうやっぱ したいことしなきゃ♪

♪腐るでしょ?期待には応えるの♪

 

 

ドフラミンゴ「俺の頭上に立つんじゃねぇ!!!」

 

ドフラミンゴが激昂しながら地面や建物を変化させた糸でルフィに攻撃を仕掛ける。だけどあんな単調な攻撃、今のルフィには通用しない。音符を足場に、時に腕を伸ばして方向転換したりと地面の上よりもより一層、自由にルフィは空を駆け回る。

 

ルフィ「ししし、悔しかったら落としてみやがれ!」

ドフラミンゴ「てめェ…!!!調子に、乗るなァ!!!」

 

ついに業を煮やしたドフラミンゴがルフィに突っ込んで行く。大雑把な攻撃ではルフィを捉えられないからと近づいて確実に当てる気だ。

多分糸を周りの建物とか空に浮かんでる雲に引っ掛けて移動してるみたいだけど、今のルフィは捕まえられない。わたしがルフィが欲しいと思う場所を先読みして音符を動かして、ルフィが野生の勘でドフラミンゴの攻撃を躱していく。

 

ドフラミンゴ「この、猿かてめェは!!」

ルフィ「ウッキッキー!!」

 

あ、ルフィが完全におちょくってる。ちょっと、もう時間が無いんだよ!

 

歌にもう時間が無いから急げと思いを込める。思いが伝わったのか流石に真面目になったルフィが勝負を仕掛ける。

 

ドフラミンゴ「ハァ…、そっちが突っ込んで来るなら苦労はしねェ。返り討ちにしてやる!」

 

ドフラミンゴが先程の意趣返しと、突っ込んでくるルフィの攻撃を躱してカウンターを叩き込もうとする。

でもね、遠目から見てる私にはドフラミンゴが何をしようとしてるのか簡単にわかるから。

 

ドフラミンゴ「…っ!? なんだ!!?」

 

突然ドフラミンゴを空へと浮かべていた力が無くなる。

 

ドフラミンゴが空に浮いてるからくりがあの糸なら、切っちゃえば身動きは取れないよね?それに、万全な時ならともかく、今の消耗した状態で移動用の糸にまで覇気は通ってないでしょ?

 

わたしが音符でルフィをサポートする傍ら、こっそり一部の音符に貼り付けていた剣やナイフ。ありがとう、わたしを守るために闘ってくれたコロシアムの闘士のおじさんたち。おじさんたちが使ってた武器を拝借して、あいつに一矢報いてやったよ!

 

そして無防備になったドフラミンゴの腹に、ルフィの一撃が突き刺さる!

 

ルフィ「“ゴムゴムの火拳銃(レッドホーク)”」

 

♪いつか来るだろう 素晴らしい時代♪

♪今はただ待ってる誰かをね♪

♪繰り返してる 痛ましい苦み♪

♪日を灯す準備は出来てるの?♪

♪いざ行かん 最高峰♪

 

 

ドフラミンゴ「がはァ…っ。」

 

ドフラミンゴが再び地に墜ちる。

だけどわたしも、ルフィも油断していない。ドフラミンゴの戦意はまだ折れてない。ここまで痛めつけても、まだあいつは立ち上がってくる。

 

ルフィが覇気を込めた自分の黒い腕に息を吹き込む。

 

ルフィ「“ギア4(フォース)”」

 

♪さぁ怖くはない?♪

♪不安はない?♪

♪私の思いは皆には重い?♪

♪歌唄えば霧も晴れる♪

♪見事はまでに 私は最恐♪

 

ルフィの体がボールのように膨れていく。全身を覇気で覆った、ルフィの最強形態。でも、覇気が残り少ない今、あの姿は長くは保たない!

 

その姿でルフィは最後の大技を放つために!上空へと飛び上がる!

 

ドフラミンゴ「ハァ…、ハァ……。忌々しい!歌も、てめェも!どいつもこいつも!

お前達は俺に操られて生きて死んでいくゴミの分際で!!!」

 

ドフラミンゴもまた糸を操りルフィを追う。

 

ドフラミンゴ「“蜘蛛の巣がき”!!」

ルフィ「!!」

 

ドフラミンゴが盾のように蜘蛛の巣状の糸を自分とルフィの間に展開する。

そしてルフィではなく、地上で歌い続けるわたしを見た!

 

 

♪さぁ 握る手と手♪

♪ヒカリの方へ♪

♪みんなの夢は 私の願い♪

♪きっとどこにもない あなたしか持ってない♪

♪その弱さが 照らすの♪

 

ドフラミンゴ「ハァ…、フッフッフ。そこでお前の“お人形”が死ぬのを見ていろ!

 

     “弾糸(タマイト)”!」

 

ドフラミンゴの指から放たれた糸の弾丸が、無防備な私に襲いかかり、私のお腹を貫いた!

 

 

 

 

 

だけど、ドフラミンゴの弾丸に貫かれた“わたし”は小さな音符になって霧散した。

 

ドフラミンゴ「…!!?」

 

 

ほんの刹那の間だけど、呆気にとられたドフラミンゴは即座にルフィを振り向く。そしてルフィの背中に隠れるようにしがみつきながら歌い続けるわたしを見て、そのただでさえ怖い顔が怒りで鬼神のように歪む。

 

悪い人の考えることなんてよくわかるよ。こっちだって“海賊”だからね。ルフィの攻撃を食らってこっちを見てない隙に、音符で作った分身を残してルフィの背中に隠れるように音符を使って移動してたことに、ドフラミンゴは気付いていなかったみたい。

 

♪最愛の日々♪

♪忘れぬ誓い♪

♪いつかの夢が わたしの心臓♪

 

 

わたしはルフィの首に手を回し、彼の頭の横、人形だったわたしの定位置に頭を乗せる。人間に戻ったけど、今の大きくなったルフィだとサイズ感が変わらなくて、ちょっと可笑しかった。

ルフィもそれに気付いたのか、楽しそうにニカッと笑う。

 

ルフィ「これでトドメだ!ドフラミンゴォ!!!」

 

ルフィが腕に追加の空気を送り込み、右腕をもっと大きくする。

 

ドフラミンゴ「散々コケにしてくれやがって、てめェらだけはここで確実に殺してやる!」

 

ドフラミンゴもまた、背後の地面を糸に変えて最後の大技を放つ!

 

♪何度でも 何度でも 言うわ♪

 

ドフラミンゴ「十六発の聖なる凶弾…!」

 

ルフィ「“ゴムゴムのォ”」

 

♪「私は最強」♪

 

ドフラミンゴ「“神誅殺(ゴッドスレッド)”!!!」

 

ドフラミンゴが私達を確実に殺すために放った、16本の鋭く研ぎ澄まされた糸の弾丸。

いくら今のルフィが頑丈でも、ルフィを貫いてわたしごと切り刻むであろう殺意と強力な武装色の乗ったドフラミンゴの切り札!

 

♪「アナタと最強」♪

 

でも、今のわたし達は“最強”だから。

 

ルフィ「“大(キング)”!!

    “猿王(コング)”!!!

    “銃(ガン)”!!!!!」

 

ルフィの巨大な拳の一撃が、ドフラミンゴの放った糸の凶弾ごとドフラミンゴを打ちのめす。

そしてドフラミンゴを地面へと叩きつけたルフィの巨大な拳は岩盤を砕き、そのままの勢いでドフラミンゴを地面の底へと叩き込んだ!

 

♪「アナタと最強」♪

 

わたしが歌い終えた瞬間、ドレスローザを覆っていた鳥カゴは消滅した。

 

国中が歓声に包まれる。

 

 

ようやく、悲劇の幕は降りた。

そして歌い疲れたわたしは、幼馴染の背中の上で、わたしが世界で一番安心できる場所で、意識を手放した。

 

 




次回のエピローグをもってドレスローザ編は終了です。


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最終話 おれの“宝物”

エピローグです


ロー「終わったか」

 

ゆっくりと、背中に背負った荷物を気遣うようにゆっくりと麦わら屋が地面へと降りてゆく。

 

 

ルフィ『トラ男、ありがとう』

 

ロー『…俺は何もしてないぞ』

 

ルフィ『しししし、お前と同盟を組んで、本当に良かった』

 

王の台地から、ドフラミンゴの下へ行くために麦わら屋に抱えられながら飛び降りる羽目になったときのことを思い出す。

終始ふざけた態度をしているあいつが、あの時だけやけに真摯で真面目に俺に礼を言った。

 

ロー「……、俺は何もしてねェよ。だからまあ、これで貸し借りは無しにしておいてやる。」

 

聞こえないと分かっていながら、麦わら屋に呼びかける。

声は歓声に遮られ、ルフィに届くことは無かった。

 

 

 

 

 

ドレスローザを歓声が包む。

 

偽りの王が倒れ、絶望の檻が消え去った。

10年間、苦しみ続けてきた国民たちは今、ようやく安堵と共に喜び合っている。

中でも玩具にされた者、家族や親しい人を玩具にされた者たちは互いに抱き合い、今日という日の奇跡を喜び合う。

 

 

 

 

 

ルフィ「ぶへェ〜〜〜〜」

 

ルフィの口から空気が抜けてゆく。限界を超えて戦い覇気を使い切ったルフィは、もはやギア4の姿を保てず地上へと落ちてゆく。

それでも背中に背負った彼の仲間を傷つけないよう、疲れ切った体であるがゆっくりと地面に降り立った。

 

ルフィ「ウタのやつ、まーた夢ん中か。」

 

そう言ってルフィは、腕の中に抱え直したウタの顔を見つめる。麦わら帽子を被り、安心しきった顔で眠る幼馴染の寝顔は、昔よりずっと大人びていた。だけどその幸せそうな寝顔が12年前、フーシャ村で歌を歌った後によく眠ってしまっていた幼馴染の顔と重なって見えて…。

 

ルフィ「ししし。」

 

ルフィはウタを起こさないよう、小声で笑う。そして両腕に幼馴染の重さを感じながら歩いてゆく。

周囲の喧騒から遠ざかるように。

 

自分は海賊だから。自分は救世主(ヒーロー)なんかでは無いから。

 

ルフィが命懸けで戦ったのは、友達が、そして何より自分の仲間がドフラミンゴのせいで泣いていたから。

彼にとって戦う理由はそれで十分で、結果的にこの国を救っただけだとルフィ自身が理解している。

 

だから今の自分に感謝の言葉や称賛の言葉は必要ないのだと、ドレスローザの民衆から離れてゆく。

 

 

だが彼は何も手に入れなかった訳では無い。

 

彼は彼にとって、何者にも替えがたい報酬をもう手に入れた。

だからもうこれ以上の物は要らないと、腕の中の“宝物”を優しく抱きながら、仲間たちのところへ歩き去って行った。

 




これにて私にとってのドレスローザ編(ホビウタ時空)は完結です。
しばらく誤字脱字を修正してから、活動報告に今回の話を書くきっかけや裏話なんかを書こうかなと考えています。


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おまけ わたしの“宝物”

ドレスローザ編の後日談
戦いが終わった後、一味達がキュロスの家で治療された後に休んでいる夜の一時を、ウタ視点で。


〜丘の上の家(キュロス宅)〜

 

 

眼が覚めたとき、ルフィの顔が目の前にあった。

 

ウタ「……!!?(どういう状況!?)」

 

あまりの驚きで声が出なかったのはある意味幸運だったのかもしれない。周りは暗く、ルフィ以外の寝息も聞こえてくる。

なんとか呼吸を整え、周りの音に集中する。

 

ウタ「(この心音は…。ゾロにウソップ、ロビン、フランキー、あとトラ男君かな?他に二人男の人がいるけど皆が安心して寝てるみたいだし、大丈夫かな?)」

 

どうやらルフィも含めて、ドレスローザに残った仲間たちは皆ここにいるみたい。ナミ達がいないのはちょっとさみしいけど、改めて皆が無事で良かった…。

 

身動ぎをしようとしたら、どうやら私がルフィに抱きしめられて眠ってることがわかった。どうしてこうなったのか分からなくて顔が真っ赤になるのがわかる。

 

「(でも、なんだか凄く安心する…)」

 

人形だったとき、いつも聞いていたルフィの心臓の音。聞いているこっちまで楽しくなって踊りだしたくなるような、宴のようなリズム。今の私は、いつもみたいにルフィの近くにいる。でも人形の時と違って、ルフィの暖かい体温や息遣い、それにルフィの匂いを感じる。

 

「(なんだか凄く懐かしい。小さい頃、シャンクスと一緒に寝てたときみたいで安心する。…あれ?でもあの時と比べるとなんだか胸がドキドキしすぎるような?)」

 

12年ぶりに感じる様々な感覚に困惑しながらも、とりあえず今どうなってるのか何となく察しがついた。

そうやってルフィの腕の中でもぞもぞしていたからなのか、ぐっすり眠っていたルフィがうっすら目を開ける。

 

ルフィ「…ムニャ。ウタ…?」

ウタ「……おはよう?」

 

寝ぼけ眼のルフィに小声で声をかける。

 

ルフィ「ウタ!!」

ウタ「ちょっ…、ルフィ、こえ、おおきい。みんなおきちゃう…」

 

ルフィも皆が寝てるのに気がついたのか、声を抑える。

 

 

ルフィ「いやー、よかったよかった。どうやっても起きないし、それなのにおれに抱きついて離れないしで心配したぞ?

医者は疲れてるだけで怪我はないって言ってくれたけど、本当に大丈夫か?」

ウタ「…え?」

 

起きたらルフィに抱きつかれてたから意識してなかったけど、よくよく考えたらわたしの腕もルフィに抱きついてる。ルフィの体には包帯が巻いてあるから、わたしが抱きついた状態で治療してもらったのかな?

…本当に申し訳ない。

 

ウタ「ご、ごめんね。」

ルフィ「気にすんな。それにまあおれも…」

 

最後の台詞はゴニョゴニョしてて聞き取りにくかったけど、ルフィは気にしてないみたいで良かった。

流石に恥ずかしくなってルフィから離れようとしたけど、ルフィがギューっと私を抱きしめてきた。

 

 

ウタ「る、ルフィ…?」

ルフィ「ウタ。ごめんな。本当にごめん。おれ馬鹿だからよ。お前がずーっと苦しんでたのに気付いてやれなくて…。」

 

さっきまで嬉しそうにしていたルフィの声に、だんだんと涙が混じる。

 

ルフィ「ずっど一緒にいでぐれだのによォ、おれおまえのごど乱暴にあずがっで、ボロボロにしぢまって…」

 

ルフィが泣きながら私に謝り続ける。

 

ルフィ「シャンクスだちども離れ離れにしぢまっで、おれ…」

ウタ「ルフィ、…ルフィ!」

 

謝り続けるルフィに、大声で声をかける。

…皆起きちゃわないかな?大丈夫だよね?

 

ルフィ「ウダ…?」

ウタ「ルフィはわるくないよ!あやまらないで!」

 

気がついたら私も涙が出ていた。

 

ウタ「ルフィはずっとわたしをたすけてくれた。ルフィがいたから、わたしはいまここにいる。だから、あやまらないでいいんだよ。」

 

涙を流して、ルフィにもっと強く抱きつく。

 

ウタ「しゃんくすたちに、みんなにわすれられちゃってすごくつらかった。だれもわたしのなまえをよんでくれなかった。」

 

12年前、シュガーに玩具にされた私は世界から忘れられた。大好きなお父さんも、優しかった赤髪海賊団の皆も、そして大切な幼馴染も、皆私のことを覚えていなかった。

 

ウタ「でもルフィが、わたしのことを“ウタ”だってよんでくれた。」

 

 

ルフィ『おまえ歌が好きなのか?じゃあおまえの名前は“ウタ”だ!よろしくな!ウタ!』

 

 

12年前の大切な記憶。今日この日まで決して忘れることのないわたしの“宝物”。

 

皆に忘れられて、わたし自身も忘れてしまいそうだったわたしの名前。あの日、ルフィがわたしの名前を呼んでくれたから、その奇跡があったからわたしは生きてこれた。

 

ウタ「ありがとう、ルフィ。わたしをみつけてくれて。ほんとうにありがとう」

 

ルフィの胸の中で泣きながらお礼を言うわたしを、ルフィが優しく抱き返してくれる。

 

どれくらいそうしていただろう。

二人ともようやく涙が止まって、顔を見れるようになった。

 

ウタ「えへへ…」

ルフィ「ししし」

 

どっちも涙で眼が赤くなってる酷い顔で、なんだか可笑しくなって笑っちゃった。

いつも一緒にいてくれた幼馴染。ずっと、こうやって話せる日を夢見てた。人間に戻れる日がくるなんて、もうほとんど諦めていたけど。いつかのそんな日が来るならって、奇跡を願っていた。

 

ウタ「ルフィ、わたしルフィにたくさん、いいたいことがあるの」

ルフィ「ウタ?」

 

ずっと話せなかった。だから今、ちゃんと言わないと。

 

ウタ「わたしをすくってくれてありがとう。わたしをずっとまもってくれてありがとう。わたしを…、ともだちだって、なかまだっていってくれて、ありがとう。」

 

沢山、沢山お礼を言いたかった。名前を呼んでくれたあの日から今日までの沢山の感謝の気持ちを伝えたかった。

 

ルフィ「ウタ…、おれもだ。おれも、お前のお陰でここまでこれた」

 

ルフィがわたしを優しく抱きしめながら言う。

 

ルフィ「ありがとう、ウタ。お前がずっと一緒にいてくれたから、おれは寂しくなかった。それに、お前だっておれをいつも助けてくれたじゃねェか。

なあ、覚えてるか?昔おれが海賊に捕まったときさ、お前がエースとサボを連れてきてくれたから、おれは助かったんだ。」

 

それはルフィがまだ幼かった頃、エースとサボとまだ兄弟じゃなかった頃。

悪い海賊に捕まっちゃったルフィは、エース達の宝物の在処を吐かせるために、海賊に拷問された。一緒に捕まった私も、珍しい動く玩具だって売り飛ばされそうになった。暴れるわたしに怒って壊そうとする海賊たちに、ルフィが無謀にも立ち向かって…。

 

ルフィ『ウタに手を出すな!!』

 

自分もボロボロなのに、わたしを庇ってもっと血塗れになった。それでも隙を見てわたしを逃してくれた。

 

逃げ出したわたしは、必死でエースとサボを探して彼らに助けを求めた。

エースとサボに助けられたルフィは、立つこともできないくらいボロボロにされてたのに、エース達と一緒にいるわたしを見て笑っていた。

 

ルフィ『ウタが無事でよかった…』

 

 

 

ウタ「うん、おぼえてる。あのときのルフィ、かっこよかったよ」

ルフィ「……そっか」

 

あ、ルフィがちょっと照れてる。

 

そうやって昔の思い出を語り合った。フーシャ村で一緒に“勝負”をしていた時の話。私が人形になってから、コルボ山でエースやサボと修行してた頃の話。そして船出してから沢山冒険をした頃の話。

 

ルフィ「……なあ、ウタ。シャンクスに会いたいか?」

 

思い出話が途切れた時、ルフィが私に尋ねた。

 

ウタ「…あいたい。でも、わたしはルフィのふねのくるーだから。」

 

ルフィが、今はまだシャンクスに会おうとしていないことは分かっている。約束があるから。立派な海賊になるまで、ルフィはシャンクスに会わないつもりなんだろう。

でも、わたしがそう言うとルフィが辛そうな顔をした。

 

ルフィ「でもよ、ウタが父ちゃんに会えないのは…」

ウタ「だいじょうぶ。ルフィといちみのみんながいるからさびしくないよ。それにルフィなら、もうすぐしゃんくすにあえるよ」

 

だってルフィは…。

 

ウタ「ルフィは、かいぞくおうになるから。かいぞくおうになれば、むねをはってしゃんくすにあえるよ」

 

ルフィの夢。幼い頃のわたし達の約束。

わたしのことを忘れてしまったルフィが、それでも覚えていた夢の果てを、わたしは知っている。

 

ウタ「だからね、ルフィ。かいぞくおうになって、むぎわらぼうしがいまよりもっと、もーっとにあうおとこになって、わたしをしゃんくすにあわせて。」

 

 

わたしはそう言って、ルフィから預かったままだった麦わら帽子をルフィの頭に載せる。

 

ルフィ「おう、まかせとけ!!」

 

ルフィの太陽みたいに暖かな笑顔を見て安心した私は、ルフィの腕の中でまた眠りの世界に旅立った。

 

 

 

---------------------

 

以下、同じ部屋で二人の会話を聞いていた一味+αの(目線だけの)会話

 

 

ウソップ「(なあ、これ俺たちが起きてることバレたらヤバイよな?)」

ロビン「(ダメよウソップ。ルフィはともかくウタが恥ずかしさで死んでしまうわ。)」

フランキー「(アゥ!泣ける話じゃねーか!まあ、ここで泣いちまったらバレるから我慢するしかねーがよ)」

ゾロ「(酒の肴にちょうど良さそうだが、今飲むのは野暮だな)」

ベラミー「(何でおれはこんなところに…)」

ロー「(おい動くなハイエナ屋!俺達が起きてるのがバレるだろうが!)」

キュロス「(良かったな、ルフィランド…)」

 

 




可哀想なベラミー、ひとえにお前がルフィの友達扱いで回収されたばっかりに…。

実は最後の会話(?)を先に思いついて書き始めた話だったりします(笑)


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おまけのおまけ みんなで歌おう!

某掲示板のホビウタスレがついにpart100を突破したので記念に書きました。

ドレスローザ編の後日談兼、アルバムだとこの歌を一人で歌っていたウタちゃんが聞いてて辛かったので船に乗ってる面子を巻き込みました(笑)


〜ゴーイングルフィセンパイ号〜

 

新世界の荒れ狂う気候を乗り越え、ひとまず波も落ち着いた夕方の一時、わたしは癒やしを求めてルフィに抱きついた。

 

ウタ「つ~か~れ~た~…」

ルフィ「おう、ウタ。ご苦労さまだったな!」

ウタ「ほんとだよー、なんでこんなことにィ…」

 

ルフィに後ろから抱きつき、顎をルフィの肩の上、人形時代からの私の定位置にのせながら愚痴を言う。

 

ウタ「まさか航海士無しでここまでたどり着ける海賊がいるなんてねー…」

ルフィ「ししし、あいつらすげェよな!」

ウタ「笑い事じゃないよー…。まあルフィのファンなら仕方ないのかなァ…」

 

ルフィの大ファンだという海賊バルトロメオと彼の率いる海賊団バルトクラブ。わたし達麦わらの一味はドレスローザからゾウへと先行したナミ達に追いつくために彼らの船に乗せてもらったんだけど…。

 

この船には航海士がいなかったのだ!なんで“新世界”まで辿り着けたのか本気で謎だけど、まあそういうものなんだろう。

 

ともかく、それがわかってから大変だった。

ルフィとゾロは論外として、器用なウソップも航海術は持ってない。フランキーも船を修理したり改造したりはできるけど気候や波を読める訳では無い。頭のいいロビンも海図を読んだり風や気温から天候を予測する術までは持っていない。

辛うじてトラ男君は知識があったけど、彼はこの船唯一の医者だ。つい先日まで重症で休んでたのに航海士の仕事までさせたらまた倒れちゃう!

そんな中、頼りにされたのが、9歳から12年間玩具にされて、先日人間に戻ることが出来たわたしだった。

 

わたしは人形時代、ルフィが船出する前から彼の助けになればとせっせといろんな知識を吸収していた。航海術や最低限の医術など、眠りも食事も必要ないわたしはルフィの寝ている夜中にマキノさんやダダンから貰った本をよんで勉強していた。

 

仲間が増えてからも、時間があればナミから海図の見方や天候の予想の仕方、星の位置から現在地を知る方法等を教えてもらっていた。少しでも皆の役にたつためにと学んでいたことが活かされて、最初は結構嬉しかった!

けど…。

 

ウタ「うぅ…、ナミー。早く会いたいよォ!」

ルフィ「そーだなー。やっぱナミは凄い奴だよなァ…。でもウタもすげェ頑張ってるし、お陰で助かったよ。ありがとうな!」

 

まだまだ慣れない体で、必死に声を張り上げみんなに指示を出し、ビブルカードとにらめっこしながら船の針路を確かめ、海流や海王類に襲われる影響でズレてゆく針路を調整する。

 

口で言うのは簡単だが、ナミがいつもどれだけ大変だったのか身をもって思い知った。

 

ウタ「ゾウでナミに会ったら早速お礼を言わないとね。いつもわたし達を無事に目的地まで連れて行ってくれてありがとう、ってさ!」

ルフィ「おう!そうしようぜ!」

ウタ「エヘヘ〜」

 

そんな風にルフィと雑談してると、ちょっとずつ気力も回復してきた。

 

ウタ「よーし、休憩終わり!針路の確認してくるよ!」

ルフィ「…おう!頼むぞ、ウタ!」

 

なんだかちょっとだけ名残惜しそうなルフィを残して、わたしは甲板に向かい、ビブルカードの指針を確認する。

うん…、大丈夫。

 

ふと目を向けた先に、水平線に沈んでゆく夕日が見えた。

 

 

ウタ「綺麗…」

 

 

夕日は人形のときも何度も見たはずなのに、わたしはその光景に見惚れてしまった。

 

♪ビンクスの酒を届けにゆくよ♪

♪海風 気まかせ 波まかせ♪

♪潮の向こうにで 夕日も騒ぐ♪

♪空にゃ 輪をかく鳥の唄♪

 

自然と口ずさんだのは、小さい頃から何度も聞いて歌った思い出の歌。ルフィと一緒に船出した後、ブルックが仲間になってからは船の上でよく聞いていた“海賊の歌”。

 

12年間ずっと、わたしはこの大好きな曲を聞くだけだった。皆が楽しそうに歌うのを見るのは好きだったけど、わたしだけ仲間外れな気がして、時々寂しくなった。

 

♪♪♪ヨホホホー ヨーホホーホー♪♪♪

 

気がつくと、周りにルフィや一味の皆、それにバルトクラブの人達にトラ男君まで現れて、皆で“ビンクスの酒”を歌っていた。

 

♪♪♪ビンクスの酒を届けにゆくよ♪♪♪

 

皆が肩を組んで、わたしもルフィやロビンと肩を組みながら歌っている。

 

 

わたし達の陽気な歌声が、波が穏やかになった新世界の海に響いてゆく。

 

 

ここにいない仲間達に、盃を交わしてルフィの子分になった大船団の皆に、ドレスローザのレベッカやキュロスさん達に、そしてこれまで冒険でお世話になったいろんな島の人達に、そして、シャンクス達に、どうかこの歌声が届きますように。

 

 

わたしは、わたし達は元気だって、皆に伝わることを願ってわたし達は夕日が沈むまで、“ビンクスの酒”を歌い続けた。

 

 



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おまけ番外編 俺たちの“宝”

要望が結構あったDR編直後のシャンクス達の反応。
某スレやpixivにある神SSと違う視点を書きたかったのですが、ようやく形になりました。


ーーーーー新世界 とある海域ーーーーー

 

レッドフォース号、四皇赤髪のシャンクス率いる赤髪海賊団の本船はその日もいつも通り、元気に宴をしていた。

 

ルウ「お頭〜、まだルフィに会ってやらねェのか?」

シャンクス「あいつも頑張ってるみたいだがまだまだだろ?

せめて懸賞金が10億を超えねェとな!」

ホンゴウ「ワハハ、厳しいなお頭は!それこそ四皇の最高幹部でも討ち取るくらいじゃなきゃ無理じゃねーか!」

ヤソップ「おれの息子もいるんだ、そんくらいできねえとな!」

ベックマン「お前は息子に合わせる顔が無いからだろうが」

 

船長も幹部たちも、12年前に東の海で別れた小さな友人の活躍を肴にいつものように酒を飲んでいたが…

 

ガシャン!!

 

突然、船長のシャンクスが持っていた酒瓶を取り落とした。

 

ロックスター「どうしたんですお頭?あんたが酒瓶を落とすなんて勿体無い真似するなんて…!?」

 

新入りのロックスターが疑問に思ってなんの気無しに尋ねる。

 

シャンクス「………ベック」

ベックマン「…ああ」

 

シャンクスはロックスターを無視して最も信頼する副船長の名前を呼ぶ。そして副船長のベックマンはそれだけで意図を察し、即座に船室へと消えた。

 

他の幹部たちや、12年以上船に乗っている古参の船員達も酒や料理を置き、即座に行動を開始する。

 

ロックスター「み、皆さんどうしたんで…」

ヤソップ「悪ィなロックスター、他の奴らに宴は中止だって言ってきてくれ。」

ロックスター「わ、わかりやした。でも、皆さん顔色が…」

ホンゴウ「いいから、行ってくれ。事情は後で話す…」

 

全員、まるで幽鬼のように青い顔になった幹部たちの様子に只ならないものを感じたロックスターは直ちに他の困惑している船員たちの所へ向かった。

 

 

 

ベックマン「お頭…」

 

船室へ何かを探しに行っていたベックマンは戻ってくると、悲しそうに首をふる。

 

ベックマン「案の定、何も残ってねェ。服も楽譜もな…」

シャンクス「そうか…。ビブルカードは?」

ベックマン「ない。もう12年も前だが確か、持ち主がわからないビブルカードを処分したはずだ。

…なあお頭、確かあんた切れ端を持ってなかったか?」

シャンクス「…麦わら帽子の中だ。今はルフィが持ってる」

ベックマン「…そうか」

 

船長と副船長の会話を無言で聞いていた幹部達も青い顔のまま項垂れる。

 

ルウ「お頭、最後にウタのことを覚えてるのは…?」

シャンクス「12年前、ルーツイマ島に停泊していた時だ…」

ルウ「おれもだ。他の奴らも…」

スネイク「まだフーシャ村を拠点にしてた頃だな。

クソ!今から偉大なる航路の前半の海のその島までかなりかかるぞ!」

ベックマン「…どの位かかる?」

スネイク「偉大なる航路を逆走するなら手間が掛かるが…、ここからなら一度凪の海域を突破してリヴァースマウンテンから向かったほうが早いな」

ベックマン「かなり危険な航海になるな…」

シャンクス「構わねェ、とにかくウタの手がかりを探すぞ!」

幹部達「「「おう!!」」」

 

その後、夜を徹して航海し一週間で新世界から凪の海域を突破し西の海へ到達したレッドフォース号は、脇目も振らずリヴァースマウンテンを通り、双子岬へ到着した。

 

ーーー双子岬ーーー

 

シャンクス「ラブーン、久しぶりだな!それにお前、そのマーク!」

ベックマン「下手くそだがあれは…」

ルウ「ルフィのマーク…だよな?」

ヤソップ「なにやったんだあいつ…?」

 

不眠不休でここまでたどり着いた赤髪海賊団の船員達は、双子岬の名物クジラの頭に描かれたマークを見て、一週間ぶりに口元に笑みを浮かべていた。

補給と休息の為に一度錨を下ろしたレッドフォース号へ一人の人物が近づいて来た。

 

クロッカス「シャンクスか!?」

シャンクス「クロッカスさん、久しぶ…!?」

 

船から飛び降り、懐かしい人物へ声をかけようとしたシャンクスの顔面を、双子岬の灯台守であり海賊王の船の元船医でもあった男が殴り飛ばした。

 

ロックスター「こいつ…!?」

ベックマン「待て!」

 

異常事態に気色ばむ船員たちを副船長が抑える。

 

シャンクス「…な、何を」

クロッカス「何故新世界にいるお前がこんなところにいる!!

ウタはどうした!!!」

 

双子岬の灯台守であり、シャンクスの古い知人でもあったクロッカスは当然、シャンクスの“娘”であるウタとも面識があった。

 

シャンクス「待ってくれクロッカスさん、俺たちはそのウタを探しに…」

クロッカス「…知らなんだのか?新聞を見てなかったのか!?」

シャンクス「あ、ああ。凪の海を通ってきたからニュース・クーも来なかっ…」

 

もう一度シャンクスの顔面を殴り飛ばすクロッカス。その威力は老人とは思えない程で伊達に海賊王の船に乗っていた訳では無いことをうかがわせた。

 

クロッカス「これを見ろ!」

 

二度も殴り飛ばされ情けなく尻餅をついたシャンクスに、クロッカスは数日前に届いた新聞を投げ渡す。

 

そこには、海兵に追いかけられながらも満面の笑みのを浮かべる麦わら帽子をかぶった少年と、彼にお姫様抱っこされ赤面する赤と白の特徴的な髪色をした少女が写っていた。

 

シャンクス「こ、これは!?」

クロッカス「その様子だと、ドレスローザの事件も知らず慌ててここまで来たようだな…」

 

新聞に写った二人を、かつて麦わら帽子を託した少年と、彼に抱かれる少女を食い入るように見つめるシャンクス。

四皇と恐れられる海賊からかけ離れたその姿に呆れたように、クロッカスは毒気を抜かれ、シャンクスと彼を心配して船から降りてきた幹部たちに新聞の内容を説明した。

 

ベックマン「ドレスローザでそんなことが…」

ヤソップ「あの人形が…」

ルウ「ルフィのやつ、本当に立派になったんだな…」

スネイク「どうする、お頭?

ウタはルフィの所にいるならひとまず安心だとは思うが?」

 

シャンクス「……ドレスローザへ行くぞ」

 

悩んだ末に、シャンクスは船長として答えを出す。

ルフィ達の行き先は分からないが、ドレスローザに行けば手がかりは得られるはずだ。

 

シャンクス「クロッカスさん、ありがとう」

クロッカス「…ルフィ君達は、人形だったウタを仲間として大切にしていたよ」

シャンス「…そうか」

クロッカス「早く行ってやれ」

 

そしてシャンクス達は再び新世界へ向かう為に、まずは進路をシャボンディ諸島へ向けた。

 

 

ーーーシャボンディ諸島 シャッキーのぼったくりバーーーー

 

 

ドゴォォォン!!

 

全速力で偉大なる航路前半の海を駆け抜け、シャボンディ諸島へ2週間でたどり着いたシャンクス達は魚人島へ向かう為に、古い知り合いであり、現在はコーティング職人でもある海賊王の元右腕“冥王”シルバーズ・レイリーを訪ねて、彼の住むバーを訪ねたのだが…。

 

シャッキー「………」

 

シャンクスは再び、地獄の獄卒も裸足で逃げ出す程の怒気を放つ店主に蹴り飛ばされ、ドアをぶち抜いて外へと叩き出された。

 

ベックマン「あー、これは一体…?」

レイリー「すまないなベックマン、彼女は2年間、人形だったウタに修行をつけてくれていたからね。」

ベックマン「……なるほど」

 

そしてバーを訪ねた赤髪海賊団の幹部達は全員、シャッキーの手厳しい制裁を受けて地面に沈むことになった。

 

 

 

レイリー「コーティングは請け負おう。可能な限りすぐに出発できるよう準備をしておけ」

シャンクス「ありがとうレイリーさん」

レイリー「ふふ、お前がそこまで取り乱すとは長生きはするものだ」

シャッキー「慌てるのはわかるけど、なんで新世界から偉大なる航路をもう一周するようなことになるのかしら…」

ベックマン「面目ない…、俺達も冷静ではいられなかったみたいでな…」

 

ひとまず溜飲を下げたシャッキーとレイリーに事情を話し、船のコーティングを依頼したシャンクス達はバーでもてなしを受けた。

 

シャッキー「ウタちゃんは、命懸けでルフィ君の航海について行こうと頑張ってたわよ。ルフィ君もあの子のことを本当に大切にしてたわ」

シャンクス「そうか…、あいつ本当に成長したんだな」

レイリー「戦争の後、あの子がわたしにしがみついてルフィ君の所に行かなければ、ルフィ君があれほど早く立ち直れなかっただろうな」

シャンクス「ウタ…」

 

 

3日後、コーティングの完了したレッドフォース号で赤髪海賊団は魚人島へ向けて出港した。

 

 

ーーードレスローザーーー

 

ドレスローザへたどり着いた赤髪海賊団は、彼らを待っていたという片足の戦士キュロスから、ルフィとウタの伝言を受け取った。

 

シャンクス「ウタァ…、すまん……」

ベックマン「ルフィの奴、いっちょ前なこと言うようになったな」

 

ウタからは“自分は元気にルフィの船に乗って冒険をしているから気に病むな”と、ルフィからは“ウタはもうおれの仲間だからシャンクス達には返さねェ、でも父ちゃんには会わせてやりてェから海賊王になったら会いに行く”とそれぞれ慣れないだろうにわざわざ手紙に書いてキュロスへ託していったとのことだった。

 

シャンクス「そうか、ルフィとウタはきちんとケジメをつけたんだな」

キュロス「ああ、あの二人と仲間たちのお陰でこの国は救われた。それと…彼らは“ゾウ”へ向かうと言っていた」

シャンクス「ゾウか…、あそこはログがないからな」

ベックマン「お頭、どうする?」

シャンクス「一応ウタが無事にルフィ達といることはわかった。早く会いたいが…」

キュロス「手掛かりとまでは言わないが、ルフィランド達がこの国に来た目的は、四皇カイドウを倒す布石だったそうだ」

シャンクス「カイドウを…?」

キュロス「そうだ、ただ計画がだいぶ狂ったとも言っていたな」

 

キュロスから断片的にだがルフィとローの海賊同盟の目的を伝えられたシャンクス達は呆れたようにため息をついた。

 

ヤソップ「あいつら、とんでもないことをやろうとしてやがる」

ルウ「ルフィらしいじゃねーか」

ホンゴウ「いくらなんでもいきなり四皇は無茶だろ!?」

スネイク「そんぐれェ気合はいってないとうちの娘を預けらんねェだろ、お頭!」

シャンクス「この先はあいつらの航海だ、邪魔も手助けもするのは野暮だ。俺たちは俺たちの航海に戻るぞ!」

ベックマン「縄張りも随分と放っておいたからな、取り敢えずその見回りだ!」

幹部達「「「おうよ!」」」

 

こうして赤髪海賊団はドレスローザを出港し自分達の縄張りへと戻った。

 

シャンクス「ウタ、ルフィ。待ってるぞ、この海の先で…」

 

ドレスローザから出港した日、シャンクスは久しぶりに酒を飲んだ。愛する娘と、己の帽子を託した少年を想いながら。

目に浮かぶのはかつて宝箱の中から見出した子供、その子供を“娘”として育てた懐かしい記憶…。

 

 

シャンクス「ルフィ…おれの、おれ達の“宝”を頼むぞ…」

 

 

 

彼らが、ルフィの子分だというバルトロメオが自分の縄張の旗を燃やすという事件をおこしたことを知るのは、もう少し先のお話…。

 

 

 




因みにクロッカスさんがシャンクスに見せた新聞の写真は春風駘蕩様から頂いた↓の絵を参考にさせて頂いてします。

https://syosetu.org/?mode=url_jump&url=https%3A%2F%2Fwww.pixiv.net%2Fartworks%2F102732375


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おまけ番外編その2 彼女の思い出を知る人達

前回投稿したシャンクス達視点のお話の裏側です。



ーーーーー双子岬ーーーーー

 

ラブーン「ブオォォーーー♫ ブオォォーーー♫」

 

双子岬の名物クジラは今日もグランドラインの入口であるリバースマウンテンに向かって楽しげに吠えていた。

賢い彼は2年前、彼の心を救ってくれた海賊達が元気に冒険を続けてくれることも、またその海賊団に彼が50年間待ち続けた大切な仲間が所属したことも、50年間、彼を世話してくれている老人から知らされ理解している。

そのため今日も、彼らが山の頂から運河を降って現れることを心待ちにしながら嬉しそうに吠え続けていた。

 

ラブーン「ブオォォーー♫ブオ……?」

クロッカス「…? どうしたラブーン?」

 

いつものように楽しげに吠えてきたラブーンの声が唐突に途切れ、彼が困惑していることに驚いた灯台守でありラブーンの主治医でもあるクロッカスはラブーンに声をかけた。

 

クロッカス「お前が急に吠えるのをやめるな…ぞ……?」

 

その時クロッカスもまた、突然頭に浮かんだとある“少女”の記憶に困惑した。

否、自分がその“少女”の存在を今の今まで“忘れていた”ことに困惑したのだ。

 

 

シャンクス『お久しぶりですクロッカスさん!』

クロッカス『シャンクスか、暫く見ないうちにお前も立派な海賊になったようだな!…ところでその女の子は?』

シャンクス『ああ、こいつは“ウタ”。おれの“娘”だ!』

 

 

もう12年以上前、かつてクロッカスが船医として乗っていた海賊船の見習いだった男が海賊船の船長としてこの岬に現れた時、自分の“娘”だと言って紹介した赤と白の特徴的な髪色の少女。

歳の割にしっかりした子供で、まだ10歳にもならない子供とは思えないほど素晴らしい歌声を持った少女だった。

 

ウタ『ビンクスの酒を♪届けに行くよ♪』

ラブーン『プオー♪』

 

彼女の歌声には、当時自暴自棄になっていたラブーンですら聞き入るほどだった。

 

クロッカス「…なんということだ。

お前も“思い出した”のか、ラブーン!」

ラブーン「ブオー!」

 

肯定するかのように吠えるラブーン。彼もまた、彼の心を癒やしてくれた優しい歌声の少女を今の今まで“忘れていた”ことに困惑していた。

 

数年前に再び双子岬を訪れたシャンクスは左腕を失い、トレードマークだった麦わら帽子を東の海の少年に託したとどこか嬉しそうに話していた。だがその場に、彼の“娘”はいなかった…。

 

そしてクロッカスの目に、正面を向いたラブーンの頭に描かれた下手くそな海賊のマークが映る。

 

クロッカス「そういえばルフィ君の連れていた人形の名前も…いや、流石に偶然か?」

ラブーン「プオ?」

 

クロッカスは2年前、ラブーンの心を救ってくれた麦わら帽子の海賊とその一味を思い出した。船長のルフィの被っている麦わら帽子がシャンクスから託されたものであることはすぐにわかった。その一味の仲間に今思い出した少女と同じ名前の“動く人形”がいた事が今更になって妙に気になりだした。

 

クロッカス「まさか…、いやだが…。」

 

あの人形こそが、自分が今“思い出した”少女なのではないか?

 

かつて海賊王の船に乗り修羅場を潜ってきたクロッカスですら、そのおぞましい想像に慄く。だが、この海に存在する数多の悪魔の実の能力の中には他人の肉体を変化させる能力も、記憶を操作する能力も無いとは言えないと、彼は知っている。

彼は数ヶ月前の新聞の記事を思い出す。

2年間、音沙汰のなかった麦わらの一味がシャボンディ諸島に姿を現し、新世界へと出港したという事件。その写真に映る麦わら帽子の少年、そして彼の肩に乗っていた人形を。

 

クロッカス「ルフィ君、ウタ…、どうか無事でいてくれ。」

 

 

〜数日後〜

 

クロッカス「ワッハッハッハッハ!!」

ラブーン「ブオォォーーー♫」

 

双子岬に灯台守と名物クジラの笑い声が響く。

灯台守の老人が掲げる新聞の一面には、満面の笑みで海軍から逃げる麦わら帽子の少年と、彼にお姫様抱っこされて赤面する赤と白の特徴的な髪色の少女が写っていた。

 

 

彼らが何故かリバースマウンテンから現れた赤髪海賊団と遭遇するのは、更にその数日後のお話…。

 

 

 

ーーーシッケアール王国跡地ーーー

 

その日、いつも通り農作業を終えた王下七武海“鷹の目のミホーク”はお気に入りの本を読みながらワインを傾けていた。

 

ミホーク「……!?」

ペローナ「どうした? ワインの味が悪かったのか?」

 

ミホークの隣でタルトを食べていた居候のペローナが、急に顔色を変えたミホークに声をかける。

 

ミホーク「……」

ペローナ「なんか言えよ! あんたが無言だと怖いんだよ!」

 

無言のまま虚空を睨むミホークの威圧感に怯むペローナ。だが彼女の抗議も虚しく、ミホークはしばし無言のまま、物思いにふけっていた。

 

 

〜2年前 偉大なる航路のとある島〜

 

 

シャンクス『鷹の目お前も飲んでけ!! な!!』

 

鷹の目のミホークから、自分が麦わら帽子を託した少年が海賊となり賞金首として名を上げ始めたと聞いたシャンクスと赤髪海賊団の幹部達は大喜びで二日酔いにも関わらず宴を始めた。

 

巻き込まれたミホークもなんだかんだと酒を飲み、自分が東の海で出会ったまだ未熟だが強い心と志を持つ剣士と、その男を従える器の大きな船長の話を、かつてのライバルに話した。

 

 

…だがその場に、かつて片腕を失う前のライバルが自分の“娘”だと自慢していた少女の姿はなかった。

そしてシャンクスも赤髪海賊団の船員たちも、もちろん鷹の目も、誰もがそのことに疑問を感じることはなかった。

 

 

ーーーーーーーーーー

 

つい先程まで“忘れていた”とある少女の記憶。

12年以上前、シャンクスと決闘した後の宴の席で“娘”だと紹介された、赤と白の特徴的な髪色と類稀な歌の才能を持つ少女。

宴で彼女の歌声が無いのはありえないと、父親だけでなく赤髪海賊団全員から太鼓判を押され、可愛がられていたことを、今ならば鮮明に“思い出す”ことができる。

 

だからこそ2年前に会った赤髪海賊団の様子の異常さに、今更ながらに気がついた。

 

 

ミホーク「ウタ…だったか?」

ペローナ「ウタ? 麦わらの所にいた人形がどうしたんだ?」

ミホーク「…? ゴースト娘、今なんと言った?」

ペローナ「だからウタだろ? この間の写真でも麦わらの肩に乗ってたカワイイ人形の。 いいよなー麦わらは。 モリア様のゾンビでもないのにあんな動くカワイイ人形と一緒にいられるなんて! …ってどうしたんだよ、あんたが冷や汗かくなんて、槍でも降るのか!?」

ミホーク「…偶然か? いや、だがありえなくはないか。

ゴースト娘、麦わらはいつからあの人形を連れている?」

 

 

自分がつい今しがた思い出した記憶の中にある少女の名前と同じ名前の生きた“人形”、それをあのシャンクスが自らの麦わら帽子を託した少年が連れていることに、偶然では流せない違和感を覚えた鷹の目が、居候に問いかける。

 

 

ペローナ「そんなの知るわけ…いや確かロロノアの奴が言ってたな。確か麦わらが子供の時に麦わら帽子を貰った海賊が航海のお土産だって言ってくれたらしいぞ? しかもその海賊、あの“赤髪のシャンクス”だって言ってたな!」

ミホーク「…ほう」

ペローナ「なんだよリアクション薄いな! お前が聞いたんだろ…っておい!」

 

疑念が確信に変わり、酒を飲む気も失せた鷹の目が席を立つ。

ペローナは身勝手な同居人に文句を言うが、彼女の言葉を無視して鷹の目は寝室へと戻った。

 

 

〜数日後〜

 

ミホーク「ワッハッハッハッハ!」

ペローナ「ど、どうしたんだよ鷹の目!? お前と同じ七武海が負けたんだぞ!? お前ドフラミンゴのことそんなに嫌いだったのか!?」

ミホーク「あんな男のことなど興味はないが、今日は気分がいい。 ゴースト娘、キッチンの棚の奥に酒が隠してあっただろう。 お前にも飲ませてやるから持ってこい!」

ペローナ「え!? お前あの酒、ロロノアに勝手に飲まれないように隠した超高級酒じゃねーか!? いいのか!?」

ミホーク「構わん。ああ、一本は残しておけよ? もしロロノアが来たらあいつにも飲ませてやろう。」

ペローナ「本当にどうしたんだよ!? ドレスローザの事件でお前がそんなに機嫌が良くなるなんて。 確かにロロノアが活躍したのは嬉しいかもしれねーけどよ!」

 

なんだかんだ言いつつ、2年間共に過ごした緑髪の剣士の活躍を喜んでいる居候が酒を取りに行くために部屋を出ていく。

 

ミホーク「奇妙な縁もあったものだ。 この俺が、あの男の“娘”を助ける手助けをすることになるとは。」

 

 

テーブルの上の新聞の一面には、彼が2年間鍛えた緑髪の剣士を従える海賊団の船長が満面の笑みで、赤面する赤と白の特徴的な髪色の少女をお姫様抱っこしながら海軍から逃げる様子が写っていた。

 

 

 

 

 

ーーーーーシャボンディ諸島 シャッキーのぼったりくバーーーーーー

 

ガシャン!

 

客の絶えた店内に、皿の割れる音が響く。

皿を拭いていた店主のシャッキーが、急に放心したように固まり、手に持っていた皿を落としたのだ。

 

レイリー「どうした? 君が皿を割るな…ど……?」

 

その様子を心配して声をかけた同居人であり、かつて海賊王の右腕と恐れられた“冥王”シルバーズ・レイリーもまた、突然“思い出した”とある少女の記憶に混乱し、動きを止めた。

 

 

〜12年以上前〜

 

レイリー『まさかお前に娘ができるとはな。』

シャンクス『ああ、血は繋がってないがこいつはおれの“娘”だ』

レイリー『ハッハッハ、ならば私の孫のようなものだな!』

シャッキー『羨ましいわね、こんなに可愛くて歌も上手な娘が孫なんて』

 

 

ーーーーーーーーーー

 

かつて自分の船の見習いとして息子同然に育てた男が、“娘”を連れて挨拶に来た日のことを、レイリーは“思い出した”。

 

レイリー「シャッキー、君も“思い出した”のか!?」

シャッキー「ええ、ええそうよ…。レイリーさん、もしかしてだけど…」

レイリー「ああ、確証はない。だがルフィ君と一緒にいる彼女は…!」

 

2年間、レイリーが鍛えた麦わら帽子の少年。未熟だが、かつての己の相棒を彷彿させる彼と、彼と常に共にあった生きた“人形”。

そして自分達が今、突然“思い出した”少女と同じ名前をもつ人形。

 

 

シャッキー「わたしは、あの子になんてことを…」

レイリー「私も同罪だ。恐らく何らかの悪魔の実の能力なのだろう。 私達ですら今の今まで忘れていたことに違和感さえ感じなかったのだ…。 おそらくシャンクス達も…。」

 

嗚咽するシャッキーにレイリーが言葉をかける。

シャッキーは2年間、このバーで彼女を鍛え、もはや“人形”として限界に近かった彼女を死出の旅路に送り出したのだ。

その“人形”が、忘れていた自らの“孫”も同然の少女だと今更になって“思い出した”彼女の苦しみは、いかほどであろうか。

 

レイリー「シャッキー、大丈夫だ。 あの娘は君が2年間鍛えたのだろう? それにルフィ君も、彼の頼れる仲間達もいる。」

シャッキー「ええ、そうね。 それに私たちがこうやってウタちゃんを思い出せたのも、きっとモンキーちゃん達が、こんな巫山戯たマネをしてくれた連中をどうにかしてくれたからよね!」 

レイリー「ああ、そうだとも。 彼らのことだ、きっと明日には世界を揺るがせる大ニュースが飛び込んでくるさ!」

 

お互いに励ますように、自分の自慢の弟子たちを信じて彼らは笑いあった。

 

 

 

数日後、彼らは新聞の一面に掲載された、海軍に追いかけられているのに満面の笑みのルフィと、彼にお姫様だっこされて赤面する赤と白の特徴的な髪色をした女性の写真を眺めながら、乾杯することになるのは、また別のお話。

 

 

 

 

 

 

 

後日、新世界にいるはずのウタの“父親”が何故かバーに現れ、怒れる店主に店外へと蹴りだされることになるのは、更に別のお話……。

 

 




前話と、備忘録にあるシャッキーとウタのお話とも関連するお話でした。
興味のある方はぜひそちらもお読みください。


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おまけDX 未来視と忘却と

某まとめサイトでの、原作最新話のシャンクスの未来視についての考察から着想したネタです。
赤髪海賊団視点からのホビウタ第0話的なお話になればな、と。


ーーー12年前 偉大なる航路 ルーツイマ島ーーー

 

 赤髪海賊団船長“赤髪のシャンクス”は、港に停泊した自分達の海賊船であるレッドフォース号の前でウロウロしていた。

 

ベックマン「お頭、鬱陶しいし荷物の積み込みの邪魔だぞ」

シャンクス「いや、だがウタがまだ帰ってこないんだぞ! 心配で心配で…」

ホンゴウ「ウタももう9歳だ、一人で友達の所に別れの挨拶ぐらい行けるだろうよ…」

ルウ「そもそも行ってからまだ15分も経ってないぞ?」

 

 シャンクスは、彼の“娘”ウタが、この島の滞在中に友達になった少女にお別れの挨拶を告げに行く為に一人で街に行ってから、ずっと心配でソワソワとしていた。

 

ベックマン「フーシャ村ならいつも笑って送り出してたじゃねえか」

シャンクス「ここは偉大なる航路だぞ! いくら治安が良くても万が一があるだろ!?」

ヤソップ「あんたの見聞色の覇気なら、ウタに何かありそうならすぐわかるだろ、大丈夫だって」

 

 シャンクスの心配を他所に、他の船員達はウタの動向をそこまで心配していなかった。

 

シャンクス「そうだとしても心配は心ぱ…!!?」

スネイク「どうしたお頭?」

 

 

??『ごめんなさい…ウタ』

ウタ『え…シュガー…!?』

 

 シャンクスの鍛え上げられた見聞色の覇気が奇妙な未来を捉える。愛する娘と、彼女と同年代の女の子が何かを話している。はっきりとは見えないがウタと話している女の子は泣いているような…。

 

??『()()()()()()()()()()()()()()()

??『ギィ!?ギィギィ!!』

 

 何故かウタと一緒にいたはずの女の子が奇妙な人形と話している。奇妙な未来に胸騒ぎを覚えたシャンクスはウタの元へ急いで向かおうと脚に力を込める。

 

ベックマン「どうしたお頭?」

シャンクス「ベック、ウタが危な………うん?」

ベックマン「…? なんだ、今…?」

 

その瞬間、世界が切り替わる。

 

シャンクス「なあベック、俺は今何処に行こうとしてたんだ?」

ベックマン「いやそれは俺たちが聞きてえよ!? あんたが突然走り出そうとしたんだろうが!」

シャンクス「ああ、なんか人形が見えてな…うん?」

ヤソップ「人形ォ〜?本当にどうしたんだよお頭、ボケたか?」

シャンクス「んなわけないだろォが、俺はまだ若い!」

船員達「「「ワハハハハ」」」

 

 船員達に笑われたシャンクスは憮然としながら、船員達に指示を出す。

 

シャンクス「お前ら、積込みは終わったな? ()()()()()()()()()()、そろそろ出港するぞ!」

ベックマン「お頭、あんたもそろそろ船に乗れ。むしろなんで手伝いもせずにそこでウロウロしてたんだよ?」

シャンクス「そりゃあお前…何でだ?」

船員達「「「ワハハハハ」」」

 

 船員達に笑われながら、シャンクスも自らの海賊船に乗ろうと縄梯子を登ろうとした時、彼の背中に衝撃が走る。

 

??「ギィィィ!!!」

シャンクス「ぐォ!!」

 

 シャンクスの背中に“何か”が突撃し、その衝撃でシャンクスがよろける。

 

シャンクス「な、何だこいつ?」

??「ギィィ!ギィギィ!!!」

 

 シャンクスが背中に張り付いた“それ”を引き剥がす。

 “それ”はシャンクスに掴まれたまま、何かを訴えかけるようにジタバタと暴れている。

 

ベックマン「お頭、大丈夫か?…なんだコイツ?」

ルウ「動く人形?」

シャンクス「うん…? この人形、さっきの?」

 

 珍しい動く人形に困惑する船員達に対して、シャンクスだけはその人形に奇妙な既視感を覚えた。

 

ベックマン「お頭、この人形のこと知ってるのか?」

シャンクス「いや、さっき見聞色で見たような…」

ヤソップ「なんだお頭、もしかしてその人形に突撃される未来でも見えてたのか?」

シャンクス「そうだったのか?いや、うーむ」

 

 何かを思い出そうとするように首をかしげるシャンクス。その間にシャンクスの手から逃れた人形は、ヒシッとシャンクスの足にしがみつく。

 

シャンクス「なんだお前、俺達と一緒に来たいのか?」

ベックマン「懐かれたのか?」

シャンクス「とはいってもなあ、おい“人形”、俺達は海賊で()()()なんだ。一緒に来るのは危ないぞ?」

人形?「ギ…?ギィィ!ギィィィィ!!!」

 

 その言葉を受けた人形はショックを受けたかのように固まるが、すぐにより力強くシャンクスにしがみつく。

 

ルウ「連れてってやれよお頭、なんか可哀想だぜ?」

ホンゴウ「軽く言うなよ、俺達の航海は人形にゃ過酷すぎるだろう」

 

 船員達も困ったように奇妙な動く人形を見る。

 

シャンクス「悪いな、俺達は海賊だからお前を連れて行ってやれないぞ。“娘”でもいればプレゼントしてやったんだが、生憎うちはむさ苦しい男所帯なんだ」

 

 シャンクスがどこか申し訳無さそうに、人形を引き剥がそうとする。だが人形は、まるで泣いているかのように“ギィギィ”とけたたましく背中に背負ったオルゴールを鳴らし、シャンクスの脚にしがみつき続ける。

 

ベックマン「どうするんだお頭?」

シャンクス「参ったな…だがまあ、これも何かの縁か…」

 

 シャンクスは先程見えた奇妙な未来を思い出した、この人形を放っておくのも寝覚めが悪いと思い直す。

 

シャンクス「ま、取り敢えずフーシャ村まで連れて行くか。

ルフィのやつに土産として渡してやるか」

??「キィ!? キィィ…」

 

 シャンクスの言葉でようやく人形が大人しくなる。

 

シャンクス「よーしお前等、準備はいいな? 出港た!!」

船員達「「「おう!!!」」」

 

 

 

 

 この動く不思議な人形は、赤髪海賊団が拠点にしていたフューシャ村の少年にお土産として託され、後に彼によって“ウタ”と名付けられることになる。

 

 

 

 

ーーー偉大なる航路 双子岬近海ーーー

 

 記憶を取り戻した赤髪海賊団は、娘の痕跡を探して最後に彼女の姿を見た偉大なる航路のルーツイマ島を目指し、新世界からわざわざ凪の海を突破して双子岬へ辿り着いた。

 だが、双子岬の灯台守クロッカスから受け取った新聞記事から、愛する娘が玩具に変えられ、かつて彼が麦わら帽子を託した少年と共に冒険していたこと、そして新世界のドレスローザでその呪いが解けた事をようやく知った。

 

 

 深夜、レッドフォース号の甲板でシャンクスは一人ボンヤリと新聞記事を眺めていた。

 その新聞には、海軍から満面の笑みで逃げる麦わら帽子をかぶった少年と、彼に抱えられて赤面する赤と白の特徴的な髪色の少女の写真が一面に掲載されている。

 

ベックマン「おーいお頭、まだそこにいたのか?」

シャンクス「…ベックか」

ベックマン「まだその記事見てたのか」

シャンクス「…ああ」

 

 シャンクスの眺めている記事は、双子岬の灯台守クロッカスから渡されたものだった。

 

 12年前、記憶から消えてしまった自分達の“娘”。娘を守るためなら命など安いものだと思っていた筈なのに、つい先日までその“娘”が玩具に変えられていた事にすら気づいていなかった。

 それどころか、折角記憶が戻ったのに明後日の方向へと向かい、近くにいた娘から遠ざかる始末だ。

 シャンクスは双子岬の灯台守に、かつて彼が見習いをしていた海賊団の船医だった男に殴られた頬を擦る。

 

シャンクス「痛かったなァ…」

ベックマン「…だろうな」

 

 いかに元海賊王の仲間とはいえ、現役の四皇であるシャンクスが殴られることなどありえない。よしんば殴られたとしても、彼の武装色の覇気ならばまともにダメージが通ることはない。

 

 だが、かの灯台守の拳は痛かった。体の芯に響くほどに。

 

シャンクス「クロッカスさん、怒ってたな…」

ベックマン「…そうだな」

 

 かつて同じ船に乗っていた、尊敬できる先達だった老人の烈火の如き怒り。それは“娘”を守ってやれなかった己の弱さにだったのか、それとも“娘”がいる場所と正反対の場所にノコノコと現れてしまった愚かさについてなのか、怖くて聞けなかった。

 だが奇妙な事に、叱られた御陰か、記憶を取り戻してから張り詰めていた心が少しだけ落ち着いた気がすると、シャンクスは思った。

 だからこそ、思い出したことがあった。

 

シャンクス「なあベック、12年前にルーツイマ島を出港した時のこと、覚えてるか?」

ベックマン「ああ。“ウタ”がアンタにしがみついて、必死に俺達に付いてこようとしてたな…」

シャンクス「あいつが俺の背中に飛びついてきた時、俺は何故だが人形姿のあいつを始めて見た気がしなかったんだ」

ベックマン「なんだ? その時はまだ記憶が残ってたのか?」

シャンクス「いいや違う。俺はあの時、見聞色の覇気でウタが人形に変えられるところを見てたんだよ…」

ベックマン「…!!? お頭…だからアンタあの時駆け出そうと!?」

シャンクス「だけど俺は、あの人形が“ウタ”だって忘れちまってた…クロッカスさんに教えてもらうまで、“ウタ”がルフィと一緒に冒険してるなんて思いもしなかったんだ…」

 

 見聞色の覇気を極め、限定的ではあるが未来すら見通す力を手に入れた男が、大切な娘の危機を察知しながら助けられなかった…。四皇と畏れられ、その実力で多くの傘下達を守ってきた男が、本当は娘一人守れてはいなかったなど、皮肉にも程がある。

 シャンクスは片腕で新聞記事を持ちながら、情けなくも涙を零す。

 

シャンクス「すまない…ウタ…本当に、本当にすまない…」

ベックマン「……俺達も同罪だ。俺達はあの時あんたを笑うだけで、なんの危機感も感じちゃいなかった。ウタの危機を感じられただけ、あんたの方が上等さ」

 

 ベックマンは煙草をふかしながら、船長を慰める。

 そして副船長として、船を束ねる船長に活を入れる。

 

ベックマン「そらお頭、あんまり泣いてるといざウタに会ったときに笑われるぞ? 一緒にルフィだっているんだ、あいつらに幻滅されたくねェだろ?」

シャンクス「……そうだな。少し感傷的になりすぎた。

まだまだドレスローザまでは遠い。泣くのはウタにもう一度会ってからだな!」

ベックマン「ああ」

 

 シャンクスは信頼する副船長の言葉に気合を入れ直し立ち上がる。

 

シャンクス「ウタ…今会いに行くからな…」

 

 小声で呟かれたその言葉は、誰にも聞かれることなく、偉大なる航路の夜の闇の中に溶けていった。

 

 

 

 

 シャンクス達赤髪海賊団が船のコーティングを行うために訪れたシャボンディ諸島で、ウタの師匠でありアマゾン・リリーの先々代皇帝でもあるとあるバーのマスターにボコボコにされるのは、また別のお話。

 

 

 




https://syosetu.org/novel/309815/

新連載始めました。
内容はバトルあり、笑いあり、曇らせありの王道オリジナル戦記…の予定です。


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おまけEXTRA 10年分の感謝の手紙

この人だけ書かないのも不誠実だと思ってたので、ようやく書けました。


ーーーゴア王国 フーシャ村ーーー

 

村長「ルフィのやつ、ニュースになるごとにとんでもないことをしでかすのお…」

マキノ「まあまあ村長さん、あんまり目くじらを立てるとシワが増えますよ?」

 

マキノの酒場ではルフィの育ての親である山賊タダンとその一家、そして村人達がルフィの活躍の載った新聞を肴に昼から宴をしていた。

 

 

 

「七武海」トラファルガー・ロー

“麦わらの一味”と異例の同盟

 

 

新聞には、満面の笑みのルフィとその肩に乗っている紅白の色合いの人形が写っていた。

彼ら二人を小さい頃から知っている村人や山賊たちは、彼らが元気に活躍していることを素直に喜び、村長も内心は孫のような少年が無事にいることを喜びつつも、海賊として悪名を上げていくことを苦々しく思っていた。

 

タダン「マキノ、あの子は寝かしつけて来たよ」

マキノ「ありがとうございます、ダダンさん。 ごめんなさい、お客さんに子守を任せてしまって」

ダダン「構いやしないよ、昔のルフィ達に比べれば天使みたいさ」

 

ルフィ達の育ての親でもあるタダンは昔のルフィ達を思い出して豪快に笑い、マキノと村長もまたは苦笑した。

 

そうやってタダン達もまた、ルフィやウタとの思い出話に花を咲かせていた時、突然店内の喧騒が止んだ。

 

タダン「どうしたんだいアンタ達、顔真っ青だよ?」

 

先程まで楽しそうに酒を飲んでいた村人達が急に黙り込み、酒で赤くなった顔を真っ青にしている様子に、一緒に酒を飲んでいた山賊達も、そしてタダンも困惑する。

 

ガシャン

 

そしてダダンの背後では、拭いていた皿を取り落とし、まるで何か取り返しのつかないことをしてしまったかのような、絶望と悲しみの混ざった表情でマキノが涙を流し、村長もまた、青い顔で頭を抱えていた。

 

その様子にただならないものを感じたダダンは、嗚咽するマキノを椅子に座らせ優しく背中を擦りながら、比較的冷静さを保っている村長に問いかける。

 

ダダン「一体何があったんだい。皆突然、まるで誰かが死んだのを今まで忘れてたみたいな顔してるじゃないか。」

村長「忘れてたいた…か。そうじゃな、どうやら儂らは今の今まで、一人の女の子を忘れておったようなんじゃ」

 

村長がぽつりぽつりと、まるで罪を懺悔するかのように語り始める。

 

かつて1年程、この村を拠点に活動していた海賊団に、船長の娘でルフィより2歳年上の少女がいたこと。彼女はすぐにルフィと仲良くなり、船が停泊している間はよく勝負と称して競い合い、遊んでいたことを。

 

ダダン「赤髪のシャンクスに娘がいたのは初耳だけど、そんな仲のいい友達がいるなんて、ルフィのやつ一言も行ってなかったけどねえ」

村長「ああ…そうじゃろうな。なにせ、儂らはつい先程までその少女がいた事をすっかり忘れてたおったのじゃよ。」

ダダン「…? いやいや、いくらなんでも、そんなことが?」

村長「……その少女の名前は()()、赤と白の目立つ髪色をした、とても歌の上手い女の子じゃった」

 

村長の言った名前にタダンもまた驚愕する。

何故ならその名前は…

 

タダン「ま、待っとくれ村長! その名前は…!」

村長「儂が覚えておる限り、あの子のことを最後に見たのはあの人形を赤髪達が連れてくる前までじゃ…。

まるで入れ替わるようにあの人形はルフィや儂達の前に現れ、そしてルフィも儂らも、赤髪海賊団の者達も誰も、あの子がいないことに違和感を覚えなかったのじゃ…。」

 

村長の話を聞いたダダンと山賊達もまた、彼らと同じく顔を青くし、悍しい想像に身を震わせる。

わずか9歳の少女がその身を人形に変えられ、家族や仲の良かった友人から忘れられる。そして自分達はその少女の苦しみに気づくことなく、彼女を人間ではなくただの動く玩具として扱っていたのではないかと。

 

嗚咽を漏らし続けていたマキノが突然立ち上がり、店の裏手の物置へ向かう。

 

ダダン「ちょっ、待ちなマキノ!」

 

ただならぬ様子を感じたダダンが慌ててマキノを追いかける。

マキノは物置の中にあった箱をひっくり返し、何かを探すように散らばった中身を漁る。

 

ダダン「マ…マキノ?」

マキノ「あった…」

 

マキノは雑貨の中から、一枚の写真を見つけ出し大切そうに抱きしめる。その写真には12年前のまだ若い赤髪海賊団の船員達、そして幼き日のルフィと、赤と白の特徴的な髪色の少女が写っていた。

 

タダン「この女の子が…()()ウタなのかい?」

マキノ「ずっと…ずっとこの写真に写ってる女の子が誰なのか分からなかったんです。ルフィも村長さんも、それに船長さんも誰も知らなくて、皆気味悪がって捨てようとしたんです…。

でも…ウタちゃんが写真を捨てようとするわたしに必死にしがみついて、まるで捨てないでって泣いてるみたいだったんです…」

 

それを思い出したマキノが再び涙を流しうずくまる。

 

マキノ「ごめんなさい、ウタちゃん…ごめん、ごめんね……」

 

ダダンはただ無言で、泣き続けるマキノの背中を擦ることしかできなかった…。

 

 

ーーー数日後 フーシャ村ーーー

 

村長「わが村から生まれた英雄に!!」

八百屋の店長「お姫様を救った英雄(ルフィ)に!!」

 

 

「「「乾杯!!!」」」

 

 

村の広場で、普段なら苦言を呈するはずの村長が音頭をとり、村中の人間とコルボ山の山賊が集まり、ルフィが成し遂げた偉業を、そして彼の救った女の子の無事を祝福している。

 

マキノ「よかった…本当に、本当によかった…」

 

喜びで涙を流す彼女の手には、ルフィと彼にお姫様抱っこされ赤面する赤と白の特徴的な髪色の少女の写真が掲載された新聞が握られていた。

 

 

 

 

 

 

ーーー数週間後 マキノの酒場ーーー

 

マキノ「♫〜♫〜」

 

マキノは機嫌よく鼻歌を唄いながら、開店準備をしていた。

 

カラン

 

マキノ「すみません、まだ開店準備で…」

藤虎「すいやせん、貴方がマキノさんでよろしいでしょうか?」

 

店に現れたのは、村人でもコルボ山の山賊でもなく、正義のコートを羽織った盲目の海兵だった。

 

マキノ「は…はい、そうですが…貴方は?」

藤虎「わっしは海軍本部で大将をさせていただいている藤虎と申します。…とはいえ今は謹慎中でさぁ」

マキノ「えーっと、ガープさんのお知り合いですか?」

藤虎「ああ、すいやせん。今回は麦わらさんと歌姫さんからの手紙を届けに来たんでございやす。」

マキノ「ルフィと…ウタちゃんの?」

 

海兵が海賊の頼みを聞いて届け物をするというあり得ない状況にマキノは困惑する。とはいえガープなら笑って似たようなことをしそうなのでそういうものかと納得した。

 

藤虎「麦わらさんと歌姫さんにはちょっとしたご恩がありやして、こうして一度だけ借りを返させていただいております」

マキノ「そうでしたか。ルフィとウタちゃんは…元気でしたか?」

藤虎「ええ、二人とも元気すぎて捕まえられやせんでした」

 

藤虎は楽しそうに笑う。

彼が言うには、ドレスローザで逃げる二人を捕まえようとした際に、ウタに一瞬だけウタワールドに招かれ、ゴア王国のフーシャ村でお世話になったマキノという女性に手紙を届けて欲しいと頼まれたらしい。

 

藤虎は懐から、可愛らしいデザインの便箋を取り出す。

その便箋には、黄色い瓢箪のようなマークの中に“UTA”と書かれた絵が描かれていた。

 

そのマークが、人形だったウタに頼まれて自分が彼女の左手に縫い付けてあげたマークであることに気づいたマキノは、震える手でその便箋を受け取り、中身の手紙を無言で読みすすめる。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 

マキノさんへ

 

お元気ですか。

わたしはルフィと一緒にフーシャ村を旅立って2年間、今でもルフィや一味の仲間達と一緒に元気に冒険しています。

ドレスローザでルフィと仲間達のお陰で人間に戻れました。ルフィにも思い出して貰えて、きっとシャンクス達もわたしのことを思い出してくれてると思います。

マキノさんもきっと、わたしのこと思い出してくれてるかな。それに村長さんとか八百屋のおじさんとか、村の皆も。

 

マキノさん、わたしが玩具にされてから10年間、破れたわたしを繕ってくれたり、新しい服を作ってくれてありがとう。村の皆もタダンさん達も、玩具だったわたしに優しくしてくれてありがとう。

 

マキノさん達のお陰で、わたしはルフィと一緒に旅立つことができました。皆が優しくしてくれたから、わたしは希望を捨てずに、ルフィと一緒に生き抜けました。

 

だからマキノさん、わたしを忘れてたことを気に病まないで。確かに忘れられたのは辛かったけど、そのことでマキノさん達が辛い思いをするのは、わたしも辛いから。

 

 

ルフィが海賊王になったら、一緒にまたフーシャ村に帰ってきます。

だから体に気をつけて、元気でいてください。

 

 

“麦わらの一味”歌姫 ウタ

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

読み終わったマキノは、涙を流しながらも笑顔で、藤虎に感謝の言葉を伝える。

 

マキノ「ありがとうございます、藤虎さん」

藤虎「あっしは麦わらさん達への借りを返させていただいただけでさあ。…それに素晴らしい歌も聞かせていただけましたんで、こいつァその代金替わりでもありますんで」

 

そう言って藤虎は店から立ち去ろうとする。

その藤虎を、マキノは呼び止めた。

 

マキノ「あ、待ってください。 折角来ていただいたんですから、何か食べて行きませんか?」

藤虎「よろしいんで?」

マキノ「はい。 それにルフィとウタちゃんの話、もっと聞かせてくれませんか?」

藤虎「わかりやした。ではうどんをいただきやしょう。」

 

 

嬉しそうに微笑んだ藤虎が席につき、のんびりとうどんを啜りながら、自分がドレスローザで出会った気持ちの良い麦わらの少年と、彼に寄り添う美しい歌姫の話を店主に話し始めた。

 

 




初めはガープ爺ちゃんに届けて貰うつもりだったんですが、最後の描写を書きたくなったので爺ちゃんには海軍本部で留守番してもらうことになりました。


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ホビウタ備忘録
まどろみの中で


ワノ国編が終わったあと辺りの時系列です。
衝動的に書きました。
本編の続きはもうしばらく待ってください。


麦わらの一味の歌姫ウタ、彼女はよく昼寝をしている。

12年間眠ることが出来なかったからなのか、または彼女の悪魔の実の能力の特性故か、夜だけではなく日中も気が付くと眠っていることが多い。

天気の良い日は甲板の芝生の上でお昼寝をしているし、アクアリウムやキッチンのソファで眠っていることもある。

また場所ではないが、彼女の幼馴染にして一味の船長であるルフィの隣で微睡んでいることも多い。本人にとっては世界で一番安心できる場所なのかもしれないが、慣れていない人間からすれば距離が近すぎるのではないかとやきもきしてしまう光景だ(事実、一味では新入りであるジンベイは初めて見たときはかなり驚いていた)。

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

曖昧でぼやけた世界。

自身の能力で生み出した世界ではなく、普通の人と同じように起きたら内容を忘れてしまう、そんな夢の世界。

 

あー、これは夢だなぁ。

偶に、夢の中で自分が夢を見ていると自覚するけど、今回もそんな感じ。フワフワしてるし、なんとなくぼんやりしてるし。

 

なんとなく周りを眺めていた私の視界に、奇妙な光景が映る。

 

 

“わたし”が船に乗っている。今は存在しない、懐かしいゴーイングメリー号に。ルフィやウソップ、チョッパーと楽しげに笑いながら騒いでいる“わたし”。今の私よりも能力を使いこなして、ルフィ達と一緒に戦っている“わたし”。

 

ここは夢の中だけど、もしかしたらこんな世界もあったのかな?

ちょっと嬉しい気持ちになった。

 

 

場面が切り替わる。

そこは私が知らない場所。おそらく何処かの家の中。

その家に“わたし”がいた。小さな子供、どこかルフィに似た顔立ちの男の子を抱っこしながら幸せそうに歌う“わたし”。そんな“わたし”の所に近づいてくる、別の子供、こちらはどこか私に似ている女の子をおんぶしたルフィ。仲睦まじそうに、まるで夫婦のように寄り添う“わたし”達。

 

え!?ええェ!?

わ、私とルフィが!?で、でも子供たちの顔が…!?

 

夢だとわかっているのに動揺して、顔を真っ赤にしながら頭を振る私。

でも、こんな世界もあるのかと、ちょっと幸せな気持ちになった。

 

 

また場面が切り替わる。

 

そこでは海軍の制服と“正義”のコートを羽織ったルフィが戦っていた。相手は海賊だろうか?沢山の敵を相手をルフィが縦横無尽になぎ倒してゆく。そしてそんなルフィと一緒に、やはり海軍の制服を着て、“正義”のコートを羽織った“わたし”が戦っていた。

 

ルフィが海軍になるなんて、想像も出来ないはずなのに、すごく様になってるしカッコいいなー。あ、あの“わたし”空飛んでる!

あれってCP9が使ってた六式かな?

 

海軍になったルフィと一緒に沢山の人に感謝される“わたし”。何処かの、多分海軍の基地で正座をさせられながら、ヤギを連れたアフロのおじいちゃんにお説教をされているルフィと“わたし”。

そんなあり得ない、でもどこか楽しそうな“わたし”達。

でも気がついたら、“わたし”はルフィに手を引かれて何かから逃げていた。

海軍の制服を着た“わたし”達を追いかけるのは、同じ海軍の制服を着た人達。

追いかけ回され、時に“わたし”を守りながら戦い、傷だらけになっていくルフィ。ボロボロになりながらも、決して“わたし”を見捨てないルフィ。

そして何処かの洞窟の中で、“わたし”を守るように抱きしめながら眠るルフィ。

 

とてもとても、辛い気持ちになった。

 

 

 

夢の中で色んな“わたし”を見た私の耳に、歌声が届く。

 

 

また、場面が切り替わった。

何処かの部屋で、“わたし”は一人で歌っていた。

とても上手な歌。12年間歌えなかった私とは比べ物にならない位、声量も技量も隔絶した“わたし”。

もしも私が玩具にならなくて、ずっと歌の練習をしていたら、こうやって歌えたのかなと、ちょっと悔しい気持ちになった。

 

よく見ると部屋には“わたし”の他に、奇妙な物があった。

“映像電伝虫”。でもその電伝虫はサニー号に置いてあるようは普通の電伝虫と違った奇妙なデザインの殻を背負っていた。そしてその電伝虫の写す映像の中に、沢山の人達がいた。

その人達は“わたし”の歌を心からの称賛してくれていた。まるで“わたし”が救世主かのように言う人もいた。

そんな人達と嬉しそうに、でもよくよく見るとどこか辛そうに話す“わたし”。

電伝虫の映像が切れて、一人ぼっちになった“わたし”は、悲しそうに歌を口ずさむ。

 

『♫〜♪〜』

 

それは私にとっても思い出の歌。フーシャ村でルフィや赤髪海賊団の皆の為に何度も歌った、私のとっても大切な歌。

 

そこで私は気が付いた。今まで見た“わたし”と、今見ている“わたし”の大きな違いに。

どんな“わたし”とも一緒に居てくれた幼馴染が、彼女の側にはいないのだと。

だって彼が、私の大切な幼馴染が、“わたし”がこんな寂しそうに歌っているのを放っておくはずがないから!

 

この“わたし”は、ルフィと出会えなかったのかな?だからこんな寂しそうなのかな?

そう思って“わたし”を見ていた私は気付いた。寂しそうに歌いながら彼女が見つめているアームカバーに描かれたマークに。黄色いひょうたんのようなデザイン、普通の人ならそう思うだろう奇妙なマーク。

でも私は知っている。私はあのマークが麦わら帽子だということを知っている。だってあのマークは昔、ルフィが私に書いてくれた“しんじだい”のマークだから!

 

何で“わたし”がルフィと一緒にいないのかは分からない。でも、寂しそうな“わたし”を見ていると私も寂しくなってきて。何とかあの寂しそうな“わたし”を励ましてあげたくて。

 

「♫〜♪〜」

 

自然と私も歌っていた。

これは夢。この光景は私の記憶が見せた幻かもしれない。でも何故だが、今何もしなかったらとても悲しいことになる予感がしたから。

せめて彼女の寂しさが少しでも癒やされるように。そしてきっとルフィが、あの太陽のような笑顔をした私の幼馴染が、彼女を救ってくれることを願って。

 

 

〜〜〜〜〜〜〜

 

 

???「…タ、ウタ?おーい、どうした?」

 

肩を揺すられて目を覚ます。またルフィの隣で寝ちゃってたみたい。目を開けると不思議そうに私の顔を覗き込むルフィの顔が写った。

 

 

「どうしたんだお前、寝てたら急に泣き出して。

心配したぞ?」

 

どうやら寝ながら涙を流していた私を心配して起こしてくれたらしい。どんな夢を見てたのかもう覚えてないけど、なんだかすごく悲しい夢を見てたみたい。

 

たんだか急に寂しくなって、ギューっとルフィに抱きついた。

ルフィは何も言わず、ただ優しく私を抱きしめ返してくれた。良かった。私の隣にはルフィがいる。

 

そうだ、たとえ何が起こっても、きっとルフィなら、私の大好きな幼馴染なら、私を見つけて救ってくれる。

 

だから大丈夫。大丈夫だよ、“私”。

 

 

ーーーーーーー

 

〜エレジア〜

 

あと1週間で、ライブが始まる。

私の人生で初めての、そして最後のライブ。

 

配信を終えて、疲れた頭で“計画”を確認する。皆を“新時代”へと連れて行く私の“計画”を。

私を見つけてくれた皆を救う為に、私が出来る唯一の手段。

準備は整えた。もう後は、ライブで皆に最高の歌声を届けるだけだ。

 

なのになんだか急に寂しくなって、左手につけたアームカバーを見る。そこに印刷された“しんじだい”のマークを見つめながら、寂しさを紛らわせるのように歌う。

 

「♫〜♪〜」

 

楽しかった頃の思い出に浸る。私はシャンクスの船に乗っていて、あのフーシャ村でルフィと他愛もない勝負を繰り返していて。でも、もうあの頃には戻れなくて。

考えれば考えるほど、悲しみが湧いてくる…。

 

『♫〜♪〜』

 

その時、“歌”が聞こえた気がした。

辺りを見回すが当然誰もいない。ゴードンは夕飯の支度中で近くにいない。そもそもこのエレジアには私とゴードンしかいない。

映像電伝虫も起動していない。ここにいるのは私だけ。

 

『♪〜』

 

また聞こえた。そして気が付いた。この歌声は私の歌声だと。

だけど、その歌声はまだまだ未熟で。同じ声だけど私に比べれば何もかも足りない歌声だった。

 

…なのになぜだか聞き流せなかった。

それはこの歌に、今の私にはない物を感じたからかもしれない。

ただ寂しくて、その寂しさをから逃げる為に歌う私。でも今聞こえた歌声は、誰かを、私を励まそうとする暖かな思いが乗っていて。

 

なぜだが分からないけれど、『大丈夫だ』と、そう言っているように思えたから。

 

ふと“しんじだい”のマークを見つめる。

私にこのマークをくれた男の子。私の幼馴染。

もし彼が迎えに来てくれたら…。

 

他愛もない考えを、頭を振って追い出す。

罪深い私に、そんな物語のような都合のいい奇跡が起こるはずがない。それに、12年前に僅かな期間だけ遊んだ女の子のことなんて、あいつが覚えてなんかいないだろうから。

 

それでも、ルフィのことを思い出した私は少しだけ、この未熟な歌声に感謝して目を閉じる。

もう眠ろう。眠ってしまえばきっとこの迷いも忘れてしまえるから…。

 

 

 

 

1週間後、ライブ会場で彼女は思いがけない再会をする。

その再会が彼女の運命をどう変えるのか、それは彼女と彼の選択次第だろう…。

 

 

 

 

 

 




ちょっと某掲示板で展開されている様々なif世界を交えた番外編かつ、原作ウタちゃんとのクロス展開でした。


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これが新時代…?

ちょっと息抜きにルフィとウタのイチャラブを書いてみました。
時系列は多分かなり後になるというか、ほぼ本編とはパラレル扱いです。


スリラーバーク編の続きはもう少しお待ちを。


ーーーとある天気の良い昼下りーーー

 

いつものようにサニー号の船主の上でご機嫌な様子で針路を眺めているルフィにわたし、麦わらの一味の“歌姫”ウタは後ろから飛びついた。

 

「ル〜フィ!」

「おっと。おいウタ、あぶねェから気配消して抱きつくなよ!」

「エヘヘー、びっくりした?だったらわたしの勝ち!」

「いや勝負じゃねーだろ!?それにびっくりなんてしてねェからおれの勝ちだ!」

「でた!負け惜しみ〜!」

 

わたしとルフィがいつものようにじゃれ合う。

わたしが人形から12年ぶりに戻ってから何度も繰り返した、ルフィとの他愛ないスキンシップ…、だったんだけど。

 

 

ーーー夜のサニー号ーーー

 

「ねえナミ、わたし故しょ…じゃなかった、どこか悪くなっちゃったのかな?」

「どうしたのウタ?そんな顔して。」

 

夜中のサニー号の女子部屋で、わたしはナミにとある相談をした。因みにロビンは今日は夜の見張りでここにいない。

 

「あのね、最近ルフィに抱きつくとその…、胸がドキドキするの。それにルフィの匂いを嗅ぐとなんだかボーっとしちゃうし…。」

「…あー、そういうことね。いつかそうなるとは思ってたけど、思ったより早かったというか、むしろ遅かったというか…。」

「???」

 

わたしが首を傾げると、ナミが教えてくれた。わたしがここ最近、ルフィに抱きつく度に感じていたいろんな感覚がどんなものなのか。

 

「あ、アワワワワワ! わ、わたしその!えっと!!?」

「うーん、予想以上に可愛い反応してくれたわね。これをロビンに見せられないのが申し訳なくなってきたわ。」

「な、ナミ!?」

「とーもーかーく!あんたがルフィ大好きなのなんて一味の皆わかってるし、健康な男と女があれだけ毎日くっついてて何もありません、なんてあり得ないでしょ?

いい機会だから、いざというときの知識も教えてあげる!

恥ずかしがらずにちゃんと聞きなさい!」

 

 

…そうしてわたしはナミから、雄しべと雌しべ(意味深)の知識を伝授され、最後は顔を真っ赤にしながらヘロヘロとベッドに倒れ込んだ。

 

因みにロビンは話の一部始終を能力で盗聴していたことを翌朝知り、わたしはお昼までベッドから起き上がれなかった。

 

 

ーーー数日後のサニー号ーーー

 

「る、ルフィ…」

「…?どうした、ウタ?」

 

夜の見張りをしているルフィのところへ、わたしはちょっと顔を赤らめながら近づく。

ここ数日、ルフィの顔を見るたびに顔が赤くなるし、胸がドキドキしすぎて抱きつくなんて恥ずかしくて出来なかった。

 

でもそうすると凄く寂しくてモヤモヤした気持ちになって、だから夜、近くに誰もいないタイミングを見計らってルフィに声をかけた。

 

「え、えっとさルフィ。わたしいつもルフィにギューって抱きついてたでしょ?その…、嫌じゃなかった?」

「……うーん」

 

勇気を振り絞って聞いてみると、ルフィが何故かちょっと顔を赤くして考え込むように唸り始めた。

…なにこの反応?

 

「あのよ、ウタ。よーく聞いてくれ。」

「う、うん。」

 

ようやく唸るのをやめたルフィがとっても真剣な顔でわたしを見た。

 

「おれよ、最近お前に抱きつかれたらなんか胸がドキドキしてよ。別に悪い気分じゃねーし、むしろ嬉しかったんだけど変な気分になっちまってよ。」

「ふぇ!?」

 

あれ、なんだか最近誰かが相談したことに似てるような…。

 

「そんでよ、その話をウソップとかフランキーに相談したんだよ。そしたら…」

 

 

そしてルフィが話した内容は、わたしがナミにした相談と全く同じで、返ってきた答えも、あとついでに教えられた知識まで同じだった!

 

…結論として、どうやらわたし達はとっても似た者同士だったらしい。

 

「な、なあウタ。おれは…」

「ま、待ってルフィ!ストップ!」

「!?」

 

しどろもどろになりながらとても大事なことを言いそうなルフィに待ったをかける。

私だって女の子だ。そういう事はどうせならなし崩しじゃなくて、もっとちゃんとした雰囲気で言ってほしい。

 

「ねェルフィ。この際だからはっきりさせよう?

…ルフィはわたしのこと、女の子として“好き”?」

「……ああ、お前が好きだ、ウタ。」

 

ルフィがさっきまでのオロオロした顔でも、いつもの能天気な顔でもなく、たまーに見せるとっても真剣で格好いい顔で答えをくれた。だからわたしも…。

 

「わたしもルフィが好き。仲間とか友達とかだけじゃない。

女の子として、ルフィが好き!」

 

そう言って、数日振りにルフィに抱きついた。

ルフィの体はやっぱり逞しくて、お肉と汗の匂いがして、ちょっとクラっとくる。

そしてそんなわたしを、ルフィも優しく抱きしめてくれる。

 

「…ウタ」

「…ルフィ」

 

ピッタリとくっついたわたしとルフィは、お互いの真っ赤になった顔を見つめながら、口づけを交わした。

 

 

 

 

………このあと、色々あって何故か完全防音の船長室がフランキーとウソップの手で作られることになったけど、悪いのはわたしじゃないよね?




因みにR18描写を追加して後日短編としてR-18の方に投稿しようか悩んでます。

匿名機能使うと盗作扱いされないかな…?


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ワノ国の物語

特典目当てにFILM RED見てきて思いついたネタです。

5回見たのにまだあのシーンで涙が出てきます…。


むかし、わたしがまだ人形になる前にシャンクスの船で読んだ絵本のお話。

 

詳しいお話はもう覚えていないけど、小さな男の子と女の子が井戸の前で身長を比べあっていた。

大きくなるに連れてお互い一緒に遊ぶことも少なくなって、だんだん会わなくなってしまった。

 

そんなとき女の子に縁談が来たけど、女の子の頭に思い浮かんだ結婚相手は昔井戸の前で背を比べあった男の子で…。

 

 

ーーーサニー号甲板ーーー

 

 

ウタ「うーん、思い出せない…」

ウソップ「どうしたウタ、深刻な顔して?」

ウタ「あ、ウソップ!実は昔読んだ本の内容が思い出せなくて」

ウソップ「へー、どんな話だったんだ?おれも結構本は読むし、もしかしたら知ってるかもしれないぜ?」

ウタ「う~んと、こんな話で…」

 

ここで冒頭のお話をウソップに話してみたんだけど、ウソップも心当たりはないみたい。まあ女の子向けのお話だったと思うからね。

 

ウソップ「そうだロビンなら知ってるんじゃないか?

おーいロビーン!」

 

ウソップが、ちょうど飲み物と本を持って現れたロビンに声をかける。

 

ロビン「ウタにウソップ、どうしたの?」

ウタ「実はねロビン、昔わたしが読んだお話なんだけど…」

 

ロビンにもウソップにしたのと同じ説明をする。

 

ロビン「あら、そのお話は多分だけどワノ国の古いお話ね。ただ、残念だけどわたしも粗筋しかわからないわ…」

ウタ「そっか〜。ロビンがわかんないなら仕方ないかな?

でもなんでわたし、子供の頃にそのお話読んだんだろう?」

ウソップ「確かお前の父ちゃんは昔は海賊王の船に乗ってたんだろ?お前の父ちゃんがワノ国に行ったときにその話の載ってる本を手に入れたとかじゃないか?」

ロビン「それに海賊王の船にはモモの助君のお父さんも乗っていたんでしょう?彼から聞いた話を本か何かにして貴方に読ませてあげたんじゃないかしら?」

 

そっか、確かによく覚えてないけどあの絵本はもしかしたらシャンクスにとっても思い出の本だったのかも?

そう思うと、内容を詳しく覚えてないことが悔しいし寂しく思えてきちゃった。

 

ウタ「もうワノ国は出発しちゃったし、今更本を探しに戻るわけにもいかないよねー」

ウソップ「そうだな。ま、長い航海だ。どうしても気になるなら偉大なる航路を一周してまた来ればいいさ!」

ロビン「それもそうね。わたしも次の島に着いたらワノ国の古典がないか本屋さんを探してみるわ」

ウタ「あ、わたしも行きたい!」

 

そうやってウソップやロビンと談笑していると、笑い声に引き寄せられたのかお昼寝をしていたゾロが目を覚ましてこっちにやってきた。

 

ゾロ「どうしたんだお前ら?ワノ国に戻るだのどうだの」

ウタ「ああ、違う違う。ワノ国の古典のお話をどこかで調べられないかなーって話てたんだ」

ゾロ「ワノ国の昔話ねェ。どんな内容だ?」

 

この手の話に疎そうなゾロが話に乗ってきた。でも考えてみたらゾロの故郷は昔ワノ国出身の人が移住した集落だったそうだから、もしかしたら何か知っているかも?

 

ウタ「うん、こんなお話でね…」

 

本日3度目の説明で、わたしもだんだん手慣れてきた。

 

ゾロ「…ああ、あの話か」

ウソップ「え!?ゾロ知ってるのか!?」

 

ウソップが物凄くビックリしてる。まあ、気持ちはわかるよ。

 

ゾロ「むかし村の爺さんがおれとくいな…、まあおれの親友だな。そいつに話してくれた昔話にそんな話があったはずだ。

あれは確か…」

 

ゾロがポツリポツリと、昔を思い出すように話してくれた内容はこうだった。

 

 

縁談を断り続けていた女の子のところに手紙が届いた。その手紙には和歌、ワノ国独特の詩が書かれていた。

その内容は要約すると“貴女と合わない間に、わたしの背は貴女と背を比べあっていた井戸を囲む縁を越えてしまいました”だったそうだ。

女の子はお返しの手紙には同じように詩を添えた。

“貴女と遊んでいた頃は短かった髪も、今では肩より長くなりました。貴方以外に髪を結った姿を見せたくありません”

 

後でロビンに聞いたけど、昔のワノ国だと髪を結い上げるのは成人の証で、当時の女の子は成人と同じくらいのタイミングで結婚したらしい。

つまりこのやり取りはラブレターであり、愛の告白だったらしい。

 

そしてめでたく結ばれた二人は、女の子の両親が亡くなって貧しくなってからも仲良く幸せに暮らした。めでたしめでたし。

 

 

ゾロ「とまあこんな話だったな」

ロビン「ふふ、素敵なお話ね」

ウタ「うん、離れ離れになった二人はちゃんと幸せになれたんだね」

ウソップ「しっかし、ゾロからこんなロマンチックな話が聞けるとは。は、もしかしてこれから異常気象が!?」

ゾロ「んなわけねーだろ!!」

 

わたしとロビンは素直に感動して、ウソップは余計な茶々を入れて怒られていた。

ちょうどそのタイミングでサンジ君が晩ごはんの時間だと呼んでくれたので、わたし達はキッチンへと向かった。

 

キッチンでもこの話で盛り上がって、気が付いたらサンジ君とゾロが喧嘩してたけど、まあいつも通りの賑やかな晩ごはんだった。

 

 

ーーーサニー号 夜ーーー

 

ウタ「ねェルフィ、ちょっとこっちに来て!」

ルフィ「なんだよウタ。夜食の肉ならやらねェぞ?」

ウタ「ちーがーう。それに夜食ならさっきサンジ君からパンケーキ貰ったからいいの!」

 

他愛無いおしゃべりをしながら、ルフィがわたしの隣にやってくる。

 

ウタ「うーん、やっぱりルフィの方が高いかァ」

ルフィ「急にどうしたんだよ?」

 

ルフィの横にピタッとくっついて、身長を比べてみたけどやっぱり私よりルフィの方が背が高い。

 

ウタ「昔は私のほうが背が高かったのになー」

ルフィ「なに言ってんだ、身長対決はおれの勝ちだっただろ!?」

ウタ「えー、フーシャ村で勝負したときはわたしの方が高かったよ!」

ルフィ「あれはウタがズルしたんだ!」

ウタ「出た、負け惜しみ〜」

 

舌を出してルフィをからかう。

まあ、ルフィにロマンチックなお話は似合わないか…。

そうやってルフィに寄り添いながら昔話に花を咲かせる。人形になる前の話や、なってからの修行時代の話。

 

ウタ「ねえルフィ?もしさ、昔わたしが人形にならなくて、でも遠くに行ってルフィと長い間離れ離れになってたらさ、わたしのこと、覚えててくれてた?」

ルフィ「……わかんね」

ウタ「むう、ちょっと真面目に考えてよォ」

ルフィ「だってよ、ウタと離れ離れになるのもウタのこと忘れるのも嫌だからよ。そんな嫌なこと考えたくねェよ」

ウタ「……そっか」

 

 

さっきより少しだけ強くルフィに寄りかかって、ルフィの肩に頭を預ける。

 

ウタ「ありがとう、ルフィ」

 

 

夜の海を眺めながらわたしとルフィは暫く無言で寄り添い合った。

 

 

 

 

ーーーサニー号 トレーニングルームーーー

 

夕食を摂ってからトレーニングルームへ来たゾロは一人、トレーニングをするでもなく一本の刀を見つめていた。

 

ゾロ「幼馴染か…」

 

昼に仲間達に話した昔話を思い出す。あれを聞いたとき、隣にいたくいなが頬を染めていた。あの頃はよく分からなかったが最近のうちの船長とその幼馴染を眺めていると、あのときあいつが何を考えていたのか今更になって多少は理解できた。

 

ゾロ「……良かったな、ルフィ」

 

 

ドレスローザでのことを思い出す。

せっかく人間に戻れたウタに会おうともせず、あいつはドフラミンゴを殴りに行こうとしていやがった。妙な感じがして引き止めたがあの顔は明らかに普段のあいつじゃなかった。

ずっと一緒にいた相棒が人間だったからだけじゃねェ、もっと深い何かがあると思っていたが、ウタが玩具にされる前からの幼馴染だったとはな。驚いたし、あのお気楽頭のルフィがあそこまで混乱するのも納得できた。

…あいつは馬鹿だか、それでも幼馴染を守り通した。

だからまァ、あいつらが人目も憚らずにくっついてるのもわかる。アホコックがうるせえが、気にするほどももんでもねェ。

 

剣を仕舞い、トレーニング用のダンベルを持ち上げる。

 

ゾロ「もっと鍛えねえとな」

 

世界一の剣豪になって、おれの親友の約束を果たすために。

それとうちの鈍感な船長とその幼馴染が無邪気に笑っていられる船を守るために。

 

 

 





実は、前回書いたルフィとウタが“新時代”するお話の18禁版も投稿しました。

ご興味のある方はホビウタで検索してください。


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女の子の生き様

某掲示板で最近生まれた限界ウタ概念を取り入れた短編です。



ーーーシャボンディ諸島 シャッキーのぼったくりバーーーー

 

シャッキー「はい、できたわよウタちゃん」

ウタ「キィ!キィキィ!」

 

シャッキーさんにピカピカの新品同然に補修してもらったわたしは元気にバーのカウンターの上で飛び跳ねる。

 

今日はわたしたち麦わらの一味の再出発の日だ。

2年前、このシャボンディ諸島で完全崩壊した麦わらの一味は2年間の修行を経て、再びこの島に集結した。

麦わらの一味の“マスコット”であるわたし、“ウタ”もまた、2年間修行したシャッキーさんのもとから一味の皆のところへ戻る。

 

この2年間、サニー号を守るためにはっちゃんやトビウオライダーズ、そして七武海くまと共に戦った。またサニー号の清掃や芝生の水やり、ナミのオレンジの木の手入れや冷蔵庫の整頓を行い、余裕のある日はシャッキーさんのバーでアルバイトをしながら戦い方を教えてもらった。

 

もともと素質のあった見聞色の覇気と、シャッキーさんの手ほどきで習得した合気の技、あとカクテル作りがわたしの2年間の修行の成果だ。

 

ウタ「キィキィ!」

シャッキー「フフ、忘れ物しちゃダメよ?」

 

はしゃいで飛び跳ねながら出口へ向かおうとするわたしを、シャッキーが優しく見送ってくれ…

 

ポテン…

 

わたしは何もないところで躓いて転んでしまった。

 

シャッキー「ウタちゃん!」

ウタ「キ…ィ、キィ!キィ!」

 

慌てて駆け寄り、わたしを抱き上げたシャッキーさんの腕を、ポンポンと優しく叩く。

“まだ”大丈夫だと彼女に伝えるために。

 

シャッキー「ねェウタちゃん。ずっとここにいても、…いいのよ?」

 

シャッキーさんが、とても優しい目でわたしに語りかける。

その言葉はわたし達の冒険を否定する言葉。でも、その言葉が心の底からわたしを気遣ってのものだとわかるから、わたしも否定しづらい。

 

ウタ「ギィィ…。キィキィ!!」

 

それでも、この優しい師匠のもとから旅立たないといけない。

わたしは麦わらの一味の仲間だから。こんな人形のわたしを仲間と呼んでくれたルフィと、そして一味の皆と“最期”まで一緒に冒険をしたいから。

 

ピョンっとシャッキーさんの腕から飛び降り降りる。

 

ウタ「…(ペコリ)」

 

改めて頭を下げて、この2年間お世話になったことを感謝する。

言葉を話せないわたしは、直接お礼を言う事が出来ないのがちょっと残念だけど。

 

そんなわたしに目線を合わせるようにしゃがみこんだシャッキーさんが、優しくわたしの頭についていた埃を払ってくれた。

 

シャッキー「ウタちゃん、貴女に最後のアドバイスよ」

 

シャッキーさんがわたしの頭を優しく撫でながら語りかける。

 

シャッキー「女の子はね、大切な人の前ならどんなときでも綺麗でいないとダメよ。どんなに苦しくても、どんなに辛くても。

たとえ死んでしまう直前でも、綺麗でいないといけないの。

…だからねウタちゃん。最期まで、身嗜みには気をつけなさい。」

ウタ「……、キィ!」

 

…シャッキーさんは、わたしのこの体がもう長くは保たないことを察している。たとえ見た目を綺麗に取り繕っても中身はもう限界が近い事は、2年間も身近にいた彼女はよく分かっている。

それでもこうやってわたしを綺麗に補修して、わたし用のフード付きのパーカーまで用意してくれた理由は、きっとさっきの言葉の通り、わたしが女の子として“最期”まで綺麗でいられるようにという気遣いなんだろう。

 

わたしは2年間お世話になったバーから外に出る。

きっとわたしはもう、ここへ戻ることはないだろう。

だからこそ振り返らず、真っ直ぐにサニー号へ、仲間たちのもとへ向かった。

 

 

 

…ありがとうシャッキーさん。わたしの優しい師匠。

…わたしの、お母さんみたいだったひと。

 

 

 

ーーー数ヶ月後 シャッキーのぼったくりバーーーー

 

レイリー「おや、今日は一段と機嫌がいいな、シャッキー」

シャッキー「あら、レイさんこそ。とってもご機嫌じゃない」

 

臨時休業したバーのカウンターで、シャッキーは店で一番高いお酒を二人分グラスに注いだ。

 

レイリー「ルフィ君達の活躍に」

シャッキー「ウタちゃんの無事に」

 

          「「乾杯!!」」

 

 

バーのカウンターに置かれた新聞の一面に載った写真には、海軍に追いかけられているのに満面の笑みのルフィと、彼にお姫様だっこされて赤面する、赤と白の特徴的な髪色をした女性が写っていた。

 

 

 




因みに新聞の一面の写真のイメージは、春風駘蕩様から頂いた↓の絵を参考にさせて頂きました。

https://syosetu.org/?mode=url_jump&url=https%3A%2F%2Fwww.pixiv.net%2Fartworks%2F102732375


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喜べ歌姫、君の願いはようやく叶う

中の人繋がりのコラボ(?)
ウタワールドが変な時空と繋がりました。


ウタ「♪〜♪♪〜」

 

サニー号のキッチンで、わたしは歌いながら中華鍋を振るう。

人間に戻ったらわたしは、人形の時には出来なかったいろんなことに挑戦した。

歌うのはもちろんだけど、最近はサンジ君に教わってこうやって料理作るようになった。

 

ウタ「でーきた!うん、美味しそう!」

 

完成したのは特製激辛麻婆ラーメン!

調味料はウソップとチョッパーが協力して作ってくれた、辛そうで辛くない、むしろ辛かったことを脳が認識しようとしてくれないラー油!

 

ウタ「うぅ~ん、美味しい…!」

 

ズズーっと麺を啜り、ハムハムと具の麻婆豆腐を匙で口に運ぶ。

何度も失敗を繰り返し、試作段階でつまみ食いしたルフィの舌に大ダメージを与え、チョッパーの鼻を数日使い物にならなくしたことも、今ではいい思い出だ。

 

サンジ「な、なあウタちゃん。コックの俺が言うのもどうかと思うが、本当に美味しいのか…?」

ウソップ「明らかに人間が食べていい色をしてないんだが、体は大丈夫なんだよな…?」

 

サンジ君とウソップが冷や汗をかいてるけど、こんなに美味しいものが体に悪いはずないよ?

 

ウタ「大丈夫だよ?それに人形の時は何にも食べられなかったし、匂いも分からなかったから、この刺激が癖になるの!

あ、それとサンジ君。デザートもお願いね♡」

 

丼一杯をまるごと平らげたわたしは満足してサンジ君にデザートをおねだりした。

サンジ君は釈然としない表情をしながらも口直しにパンケーキを作ってくれた。

 

 

ーーー約一月程前ーーー

 

ウタ「う〜ん、変な夢みちゃったなァ…」

ロビン「あら、どうしたの?」

ウタ「あ、ロビン!実はね…」

 

わたしは今朝観た奇妙な夢についてロビンに語った。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

夢の中でわたしは、奇妙な喋るステッキの力でファンシーな衣装に変身して戦っていた。

その私には同じように喋るステッキで変身する友達もいて、彼女やその他の仲間と一緒に街の平和を脅かす存在と戦っていた!

 

とっても楽しい夢だったんだけど、途中で場面が切り替わった。

 

 

…荒廃した町並みを、夢の中では私と親友だった可愛らしい白髪の女の子が一人で歩いていた。わたしはその子の背後霊のように、実体も持たずについていっているようだった。

その女の子はお腹が空いたのか荒廃した街唯一、まともに営業していたご飯屋さんに入った。

 

…なんだか本当にコックさん!?という見た目のとってもマッチョで渋かっこいい声のおじさんが女の子に振る舞った料理にわたしは目を見開いた。

 

“麻婆ラーメン”

 

わたしはその料理に魅力されてしまった。

残念なことに、女の子は食べることを拒否して、なのに何故か食い逃げ扱いで追い出されちゃった。

 

夢の中で、実態はなく食べられるはずもないのにわたしの眼はその“麻婆ラーメン“に釘付けだった。

 

???「食うか?」

ウタ?「食う!」

 

なんと麻婆ラーメンを作った店員さんは、何故か見えないはずの、そもそもその世界に存在していないはずのわたしに目を向けて、麻婆ラーメンを食べさせてくれた。

 

夢の中だけど、辛そうで辛くない、一周回って辛くないと脳が認識する程の刺激で長い間人形として食べることも痛みを感じることもなかった私にとって未知の感覚だった!

 

ウタ?「ごちそうさまでした!」

???「フム…。少女よ、そろそろ帰りなさい。“ここ”は君のいるべき場所ではない」

ウタ?「ありがとう、おじさん。美味しいご飯まで食べさせてくれて」

 

おじさんにお礼を言ったあと、わたしの意識は急速に薄れていった…。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ロビン「随分と具体的な夢ね?」

ウタ「うん。時々、ウタワールドの中みたいなはっきりした感覚のある夢を見るの。ただ、今回は普段ともかなり違って、そもそもわたしが全く知らない世界のお話だったんだ」

ロビン「でも、ちょっと楽しそうね。」

ウタ「うん!それにね、お陰でちょっとやりたいことができたの

!」

 

 

そうしてわたしは夢で見たあの麻婆ラーメンを再現するために、一味を巻き込んだ一大プロジェクトを実行することになったのだ!

 

 

 

因みにこうして開発したラー油が、ウソップの新兵器扱いで戦いにも投入されることになるのは、もう少し先の話。




某掲示板で激辛好き属性を付与されたウタちゃんと、激辛といえばな外道神父のコラボでした。

今更だけど美遊とウタは結構共通点多いな。


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歌姫と叛逆者

Fateコラボ(?)第二弾!!
もしもピンチのホビウタがドレスローザでとあるサーヴァントを召喚してしまったら…?というアイデアを受信してしまったので書いてしまいました。


その漢は筋肉(マッスル)だった…

 

 

ーーードレスローザ 地下貿易港ーーー

 

SOP作戦は失敗した。

小人達の勇気も、勇敢な海の戦士の決死の覚悟も、圧倒的な力の前に粉砕された。

仲間を玩具にされ、その開放の為に奮戦した彼らはドンキホーテファミリーの最高幹部トレーボルの前に力尽き、全員が彼の粘液に拘束された。

 

トレーボル「べへへへ!ど、毒入りのグレープかと思ったら激辛のグレープとは!

小人はどこまでも馬鹿だな!んねー!」

シュガー「きたない、死んで」

トレーボル「死なねェ!! お前さっきびっくりして気絶仕掛けたんだからもっと緊張感もて!!」

 

切り札のタタバスコを食べさせられたウソップは悶絶したが、その顔を見て驚いたシュガーは気絶することなく、彼らを嘲笑っている。

 

ウタ「ギィ…ィ…」

 

麦わらの一味の“マスコット”ウタも、彼らと共に戦ったが力及ばず拘束されてしまっていた。

 

シュガー「何この玩具? わたしの命令に従わないなんて、どういうことかしら?」

トレーボル「んねー! だったらこいつらとまとめて燃やしちまうか?」

シュガー「そうね」

ウタ「ギィ……」

 

そして可燃性の粘液に拘束された彼らに、トレーボルはライターを放り投げようとするが…

 

 

ウタ(悔しい…、せっかく希望が見えたのに。ウソップも小人族の皆も…あんなに頑張ったのに…!

……あれ?)

 

そのとき、拘束されているウタの左腕が淡い光を放つ。

光はその腕に縫い付けられた黄色いひょうたんの様なマークから発せられ、徐々に強さを増していく。

 

シュガー「なにこれ? この玩具に光る機能でもあるの?」

ウタ「ギィ!?ギィギィ!!(わたしが聞きたいよ!? なんなのこれ!!)」

 

意味不明な事態に突然腕が光りだしたウタだけでなくシュガー達も困惑する。

 

 

???「過酷な圧政に耐え続けた少女よ、力を貸そう!

さあ、私の名前を呼びたまえ!」

ウタ「ギ、ギィ!?(だ、誰!!?)」

 

突然、ウタの頭に響く謎の声。

混乱し幻聴を疑うが、声は続く。

 

???「我が真名は●●●●●! さあ少女よ! 圧制者に鉄槌を下す為に、我が名を叫べ!」

ウタ「ギィィ…ギィ!(わ、訳がわからないけど…悪い人じゃないのかな。だったら!)」

 

直感で少なくとも悪人では無いと判断したウタは覚悟を決める。そもそも現状が最悪なのだ。ここから何があっても悪化することはないだろうと割り切り、声にならない声で彼の者の名を叫ぶ!

 

ウタ「ギィィーーー!!!(スパルタクスーーー!!!)」

 

ウタが叫んだ直後、ウタの腕に縫い付けられたマークが眩く輝く!

その光に、目を閉じることの出来ないウタを除く周囲の全ての人間は目を灼かれ、彼女から目を反らした。

 

シュガー「な、なんだったの…一体…?」

 

光が収まった後、至近距離で光を目にしたシュガーは状況を確認する為に涙目になりながら目を開けた。

 

…そして彼女はそれを目にしてしまった。

 

 

それは、筋肉(マッスル)だった。

 

 

くすんだ金色の髪、狂ったように朗らかな笑顔。そして鍛え上げられた青白い体には全身の至る所に傷が走っている。

 

腰布を除いて一切防具をつけず、手足に枷を嵌められたその男は、一見するとコロシアムの奴隷闘士のように見える。

だが、彼とこの国の奴隷闘士達では大きな違いがあるだろう。

ドフラミンゴファミリーの支配するこの国の闘士達の眼は、支配者を恐れ、諦め、妥協し、屈服した諦念に満ち濁りきっている。

 

だがこの男の澄んだ瞳には、そのような諦めの感情は欠片も無い。

 

彼こそはスパルタクス。弱者を守り圧制者を打倒するために大帝国に戦いを挑んだ大英雄である。

 

彼は自らを召喚した“玩具”を肩に乗せ、小さな“圧制者”へと歩み寄る。

腰を屈め目線を会わせ、シュガーへと静かに問いかける。

 

 

スパルタクス「問おう! 君は圧制者かね?」

 

 

シュガー「きゃあああああ!!!!!!」

 

 

至近距離で彼の笑顔と威圧感にさらされたシュガーはその恐怖で叫び、そして気絶してしまった。

 

そしてここに、10年間ドレスローザを支配し、そして12年間、一人の少女を苦しめ続けた呪いが解けた。

 

 

ーーードレスローザ 中心街ーーー

 

ウタ「と、とまって…とまってよぉ…」

スパルタクス「フハハハハハハ! いざ征かん!

圧制者を倒す為に!!」

 

人間に戻ってはいいが、そのままスパルタクスを名乗る謎の大男の肩に担がれたまま、彼とともにこの国を支配するドフラミンゴが待つ王宮へと進撃する羽目になったウタ。…彼女の抗議は欠片も聞き取ってもらえない。

 

ウタ「うぅぅ…たすけて……ルフィ…」

 

か細く、彼女がこの世で最も信頼する幼馴染の名前を呼ぶ。この喧騒では、人間に戻ったばかりで話すことすら覚束ない彼女の声など彼を抱えているスパルタクスにすら聞こえない…はずだった。

 

ルフィ「ウターーー!!!」

ウタ「ルフィ!」

 

彼を討ち取ろうと襲いかかる雑兵を覇王色の覇気で尽く気絶させ、反逆の英雄と彼に担がれた最愛の幼馴染のもとへ、未来の海賊王が現れる!

 

 

ルフィ「ウタを返せーー!!!」

 

ルフィの拳が、スパルタクスの顔面を捉える。

だが、岩をも砕く彼の拳を受けても、スパルタクスはわずかに仰け反っただけだった。

 

ルフィ「!!? 」

ウタ「る、ルフィ! まって、このひとは…」

スパルタクス「少年よ! 君がわたしのマスターの主人かね?」

ルフィ「主人…? 何言ってんだ? そいつはおれの仲間で、おれの大事だ友達だ!

返さねェならぶっ飛ばすぞ!!」

 

忘れさせられていた記憶を取り戻したルフィは、自分の仲間を、そして大切な幼馴染を連れ去ろうとする大男にかつてないほどの怒りをぶつける。

 

そんなルフィの真っ直ぐな感情を目の当たりにし、スパルタクスは嬉しそうに笑い、肩に担いでいたウタを優しく抱き上げ、ルフィへと差し出す。

 

スパルタクス「マスターよ、どうやら迎えが来たようだ。 さあ、行きなさい。」

ウタ「あ、ありが…とう……?」

ルフィ「ウタ!!」

 

唐突な行動に困惑しながらも、ここまで彼女を連れてきてくれたスパルタクスに感謝を伝えるウタと、ようやく再開できた幼馴染を抱きしめるルフィ。

 

ルフィ「ウタ…よがった……無事で本当に……」

ウタ「うん…しんぱいかけてごめんね…」

 

12年間共にいて、ようやく再び言葉を交わし抱き合うことのできた二人。その二人の様子を見ながら、反逆の英雄は告げる。

 

スパルタクス「誰よりも自由を愛する少年よ、我がマスターを頼むぞ。」

ルフィ「当たり前だ! おれは仲間を絶対に守る!!」

スパルタクス「マスターよ、過酷な圧政に耐え、決して心折れなかった強き少女よ。君と君の伴侶の将来に、幸多からんことを願おう。」

ウタ「えぇ、い、る、ルフィはそういうのじゃ…」

スパルタクス「さて、名残惜しいがマスターよ。最後にわたしの願いを聞いてくれ。」

 

顔を赤くして困惑するウタを置き去りにして勝手に話を進めるスパルタクス(狂人)。

 

スパルタクス「我が真名はスパルタクス。圧政に反逆する者なり。本来ならばマスターであっても我に命令すること能わず。されど此度の召喚は、マスターの、そしてこの国の人々の願いを受けたもの。

故にマスターよ、その左腕に宿る力を私に託してほしい。」

ウタ「力…?」

 

ウタは人間に戻ったあとも何故か左手の甲に貼り付き、光を放っている奇妙なひょうたん型のマークに目を向ける。

 

ルフィ「…! それ、おれが書いたやつか!」

ウタ「そっか、おもいだしてくれたんだ。そうだよ、これ、わたしたちの“しんじだい”のまーくだよ。」

 

マークを愛おしそうに撫でるウタと、懐かしそうにそのマークを眺めるルフィ。

 

ウタ「でも、たくすってどうすれば…?」

ルフィ「このマークはウタの宝物だ。勝手に持って行かせねェぞ!」

 

スパルタクスの言葉に困惑するウタを見て、ウタの宝物を奪わせまいとルフィが彼女を背中に庇う。

 

スパルタクス「マスターとその伴侶よ、心配するな。君たちの大切な物を略奪する気はない。

君はただ一言命じればいい。

決意を込めて“戦え”と!! “圧制者を討ち倒せ”と!!!」

 

ウタは、反逆の英雄のマスターに選ばれた少女はおずおずと問いかける。

 

ウタ「それだけでいいの…?」

スパルタクス「然り! 」

ウタ「…わかった」

ルフィ「ウタ…大丈夫か?」

ウタ「うん。ちょっとこわいけど、すぱるたくすはわるいひとじゃないから」

 

まだ慣れない大人の体でふらつき、ルフィに支えられながらも、ウタは真っ直ぐに立ち、スパルタクスと向き合う。

 

そして光を放ち続ける“しんじだいのマーク”の貼り付いた左手を突き出し、宣言する。

 

ウタ「おねがい、すぱるたくす。たたかって、あいつを、どふらみんごをたおして!!」

 

たどたどしく、だがそれ以上に力強く、人形として12年間を過ごした少女は反逆の英雄へ“命令”する。

 

そして左手の、“しんじだいのマーク”が輝く。

 

これは、幼少時代に競い合った少年から贈られた拙い、彼女の父親のかぶっていた麦わら帽子を模したマーク。

世界に忘れられた少女にとって数少ない、大切な人達との絆の証だった。

 

絆を取り戻した少女は、それを取り戻してくれた恩人のために、そこに宿った力を全てその恩人へと託す。

 

スパルタクス「ヌハハハハッ! 承知した!!!」

 

ウタの腕から発せされた光が全て、スパルタクスへと吸収されてゆく。

 

そして光を受け取ったスパルタクスの肉体が、その鍛え上げられた筋肉が肥大化してゆく。

 

ウタ「す、すぱるたくす…?」

ルフィ「うォォ! すっげェなマッチョのおっさん!」

 

肉体が肥大化し、もともと大柄だったスパルタクスの体は元の数倍に膨れ上がりる。

そして彼は目の前にそびえ立つ王の台地、そしてその上に存在する圧政の象徴たるこの国の王宮へ向き直る。

 

 

スパルタクス「おおッ、今まさにッ! 我が両脚は引力に叛逆せり!

人よ、刮目して仰ぎ見よ! この飛翔こそ解放の極致! 大逆境を覆す大理不尽! 自由なる翼ッ!

おおッ、今まさにッ! 我が両脚は引力に叛逆せり!」

 

そして彼は、圧政の象徴へ、そこにいるであろう圧制者の元へ翔び立つ!

 

スパルタクス「さあ圧制者よ! 我が愛を受け取りたまえ!

 

『極大逆境・疵獣咆哮(ウォークライ・オーバーロード)』!!!!」

 

 

重力に反逆し超高速で翔び立ち、ドフラミンゴ目掛けて飛翔したスパルタクスは王宮直上で彼の宝具の真名を開放し、圧制者を圧政の象徴ごと爆砕した。

 

 

ドフラミンゴ「な、何だこ…」

 

 

突然の強襲を受けたドフラミンゴは言葉を最後まで発することもできずに、その大爆発に巻き込まれた。

 

ウタ「すぱるたくす…」

ルフィ「マッチョのおっさん…」

 

一部始終を見届けたウタとルフィはただ呆然と、名前しか知らない大英雄の勇姿を見届けた。

 

 

 

 

その日、ドフラミンゴファミリーは彼らがかつて奪い取った城と共に完全崩壊した…。

 

 

後に、復興したドレスローザには2つの銅像が作られた。

一つは小人達と共に勇敢に戦った勇敢なる海の戦士、そしてもう一つは、圧制者を城ごと粉砕した偉大なる反逆者(マッスル)だった。

 

 




本当だったらドフラミンゴvsスパルタクスとかも書いてみたかったんですが、途中で力尽きました…


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失われなかったモノ

某掲示板で新たな電波を受信したので書いてみました。
匂いのフェチで石鹸作りが趣味になってしまっまルフィと、匂いを嗅がれるウタのお話です。


ーーーーー東の海 とある島ーーーーー

 

ルフィ「ナミ〜、買い物したいからお小遣いくれ!」

ナミ「お小遣い? あんたどうせ肉買うだけでしょ?」

ルフィ「肉は買うけど、今日は他のものも買うからちょっと多めにくれよ」

ナミ「…? あんたが肉以外に買いたい物があるなんて珍しいわね。 何買うのよ?」

ルフィ「そろそろ石鹸が無くなりそうだからよ。ちょっと材料買ってくる」

ナミ「そうね〜確かにそろそろ無くなりそうだものね。いいわよ。」

 

ナミからお小遣いをもらったルフィはいつものようにウタを肩に乗せて、島のマーケットへと繰り出して行った。

 

ナミ「……あいつ今、“材料”って言ってなかった?」

ウソップ「……ああ、言ってたな」

ナミ「今更だけど、メリー号でいつも使ってる石鹸って誰が買ってきてたの?」

ウソップ「ェ…!? おれはてっきりお前が買ってきてるもんかと」

ナミ「わたしは確かに自分が使う分は買ってるけど、わざわざシャワー室とかキッチンに置いてないわよ。

そのあたりのはてっきりあんたかサンジ君が買ってるとばっかり…」

サンジ「…俺は優しいナミさんがいつもの置いといてくれるものとばっかり思ってたんだが。」

ウソップ「なあもしかして、今までの俺たちが使ってた石鹸もルフィが作ってたのか…?」

ナミ・サンジ「「………」」

 

 

その日の夜、彼らは夜中に石鹸を作っているルフィとウタを目撃することになる。

 

 

 

ーーー2年後 サニー号ーーー

 

ウタ「ねーねールフィ、今回の石鹸の匂いはどうする?」

ルフィ「そーだなー、前にバニラの香りの石鹸作ったら美味そうな匂いになって楽しかったし、次はチョコの香りとかどうだ?」

ウタ「うーん、楽しそうだけど今度はオヤツと間違えて食べちゃってお腹壊さないようにしないと、チョッパーに怒られそうだね」

ルフィ「確かにな!」

 

ルフィとウタはサニー号の船室で、もはや日課となった石鹸作りを行ってた。

まだウタが玩具だったメリー号時代から、船で使う石鹸を自作することがルフィとウタの大事な仕事兼趣味だった。

 

ウタ「昔はよく失敗してエースとサボに呆れられてたよね〜」

ルフィ「マキノに色々教えて貰ってだいぶ上達したからな〜。 それにエースが船出するときはちゃんと持ってってくれただろ?」

ウタ「うん、そうだったね。 ドレスローザでサボにも渡したかったんだけどねェ」

ルフィ「あいつおれ達が寝てる間に行っちまったからな〜。今度会ったら渡さないとな!」

ウタ「きっとびっくりするよね。ルフィがこんなに上手に石鹸作れるようになるなんてさ」

 

楽しそうに会話しながら手際よく材料を混ぜ合わせ石鹸造りを進めていく。

 

 

ウタ「ねェルフィ、なんで子供の時からずっと石鹸作り続けてたの?」

 

ふと、ウタが昔から疑問に思っていた事を口にする。

まだウタが玩具にされる前、ルフィと一緒にフーシャ村で遊んでいた頃は、ルフィが石鹸を作るなんて想像すら出来なかった。

それなのに、ウタが玩具になってシャンクスからルフィに渡された後からしばらくして、ルフィは石鹸を自作するようになった。

当時言葉を話すことの出来なかったウタはその理由をついぞ聞くことは叶わなかった。

 

ルフィ「なんでって…なんでだっけ?」

ウタ「えェ…?」

ルフィ「あーでもそっか、ウタのお陰だったんだな」

ウタ「わたしの…?」

 

普段は能天気で過去のことは振り返らないルフィが、珍しく過去を懐かしむように目を細める。

 

 

 

それは遠い昔の淡い記憶。

ふとした拍子にウタに抱きつく形になったルフィが、ウタからいい匂いがすると言い出したことがあった。

それからたびたびウタの匂いを嗅ごうとしてはウタに殴られるルフィを赤髪海賊団の面子が笑って眺める一幕があったが、そんな幸せな日々はウタが玩具になり、世界から忘れ去られたことで失われてしまった。

 

だが、記憶が失われたとしても、残ったものはあった。

 

 

 

ルフィ「きっとお前が人形にされて、忘れちまってたからなんだろうな。シャンクス達と話しててもなーんか寂しい気がしてよ。 そんとき久々に風呂に入ったときに見つけたんだよ、お前から貰った石鹸をさ」

ウタ「あの石鹸のこと、思い出してくれたの?」

ルフィ「ああ、この間まで忘れちまってたけど今はちゃんと思い出した。」

 

 

何度もルフィに匂いを嗅がれることに羞恥と怒りを覚えたウタが、自分が使っているのと同じ石鹸をルフィに贈り、せめてそれでしっかり体を洗って綺麗にしなさいと叱ったことがあった。

記憶を失っても、物まで消えることはないためルフィの家にそのまま置いてあった石鹸を子供だったルフィは使っていたのだろう。

 

ルフィ「なんでかわからないけど、これだ!って気がしてよ。 その匂いを嗅いだらなんか懐かしくて嬉しい気持ちになったんだよ。」

ウタ「そっか…、だからルフィ、わたしが玩具になってからよくお風呂に入るようになってたんだね」

ルフィ「おう!…ただ、毎日使ってたらすぐに石鹸がなくなっちまってよ。 マキノとか村長に石鹸貰ったりしたけど匂いが違うし、だから自分で作ることにしたんだ!」

ウタ「急にアグレッシブな方向に行くのがルフィらしいよね…。でもそっか、それであんなに頑張って石鹸作ってたんだね」

 

ウタは昔の、フーシャ村やコルボ山で夜な夜な石鹸を作りあーでもないこーでもないと悩んでいたルフィを思い出す。

そしてある日、どうやら納得のゆく石鹸を完成させたルフィと一緒にお風呂に入って洗われたことも…。

 

ウタ「そーいえばルフィ、洗ったわたしの匂いをずーっと嗅いでてエースとサボに笑われてたよね」

ルフィ「あー、そういやそうだったなー。でもあのときのウタ、すっげー懐かしくていい匂いがしたんだよ。

……そんでずっと嗅いでたいと思っちまってよ。」

ウタ「そっか……ありがとう、ルフィ」

 

それは偶然だったのかもしれない。そもそも玩具だった彼女に体臭などなかったはずでただの石鹸の香りだったのかもしれない。

それでも、世界から忘れ去られたはずの自分の存在をわずかでも感じ取ってくれていた幼馴染に、ウタは感謝の言葉をかける。

 

 

その後二人はただ無言で作業を終えて、部屋を後にした。

そして幼馴染二人は久々に一緒にお風呂に入り、懐かしい匂いのする石鹸でお互いを洗いあった。

 

 




ここからR-18展開に続けるべきか悩みましたが、取り敢えず今は全年齢版だけで勘弁してください。

年末の仕事が片付いたらちまちま書くかもしれません。


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歌姫と鎧の錬金術師

某掲示板で新しい電波を受信したので、折角だから書いてみました。
タイトルから分かるとおり、ホビウタと鋼の錬金術師のコラボです。

時系列はヒューズ中佐が殺される前辺り。




ーーー新世界 ゾエ・アワカラ島ーーー

 

ワノ国を出港した後、奇妙な海流に流され麦わらの一味がたどり着いた島は、大陸とよべる程の大きさの島に複数の国が成立し、錬金術と呼ばれる独自の技術を発展させた島だった。

 

この島の国々は高い技術力と軍事力を持つが、いずれも世界政府には加盟せずお互い相争っていた。

 

 

沿岸部の厳しい警戒網に補足された麦わらの一味は、突然の大嵐に紛れ、おまけにクードバーストを使用し内陸に侵入することに成功した。

 

そして一味は、物資の補充やこの大陸の独自の技術を学ぶため、この大陸でも大国であるアメリストス国に上陸することになった。

 

 

 

ーーーアメリストス国南部 とある地方都市ーーー

 

 

「「「乾杯!!!」」」

 

紆余曲折を経て、とある街で圧政を敷く軍人と町長をぶっ飛ばしたルフィ達麦わらの一味は、街の住民達や、同じく圧政を敷く軍人達を捕縛する為に街に潜入し、なし崩し的に共闘する事になった国家錬金術師、エドワード・エルリックとその弟アルフォンス・エルリックと宴を開いていた。

 

ルフィ「エド! お前ちっちェのに強ェな〜!」

エド「誰が豆粒ドチビじゃぁ〜!!」

ウソップ「いやそこまで言ってねェだろ!?」

 

ルフィの不用意な言動でエドが叫んだり。

 

ロビン「あれが噂の鋼の錬金術師エドワード・エルリックね。

でも確か、錬金術を使用するには錬成陣が必要なのに貴方のお兄さんは手を合わせるだけで使用していたわね?」

アル「兄さんは天才なので…」

 

アメリストス国の事情をある程度知っているロビンがアルフォンスに突っ込んだ質問をしたり。

 

フランキー「アウ! しっかしこの国の技術はスゲェな!

特にこの機械鎧(オートメイル)、是非もっと詳しく知りてェぜ!!」

ウィンリィ「貴方のサイボーグ技術も凄いわ、特にワポメタルについてもっと詳しい話を聞かせて!」

 

エルリック兄弟の幼馴染であり、専属の機械鎧(オートメイル)技師でもあるウィンリィ・ロックベルがフランキーと意気投合したり。

 

夕方から始まった宴は日を跨いで深夜まで続いた…。

 

 

 

アルフォンス「あーあー兄さん、またお腹出して寝てる」

 

エルリック兄弟の弟アルフォンスは、お酒を飲んでフラフラになったウィンリィを宿屋に送った後、騒ぎ疲れて眠る兄に毛布をかけてあげていた。

 

ウタ「こうやって見るとアル君の方がお兄ちゃんみたいだね」

アル「あ、ウタさん。 起きてたんですね」

 

そんなアルに話しかけたのは、宴の序盤で見事な歌を歌った後、疲れたからと早めに休んだはずの麦わらの一味の“歌姫”ウタだった。

 

ウタ「あはは、目が覚めたらなんだか眠れなくなっちゃってねー

だから眠っちゃったルフィとかゾロに毛布を持ってきてあげたんだ!」

アル「そうでしたか、僕も…あまり()()()()ので…」

 

見た目は大きな鎧の姿だが中身は14歳の少年のアルは、見た目は21歳相応だが何処か幼さが残り距離感の近いウタの雰囲気に、少したじろいでいた。

 

そんなアルの葛藤を知ってか知らずか、ウタがアルの鼻先まで近づき、アルの鎧の胸元に耳を当てる。

 

アル「あ、あわわわわ! ウタさん!?」

ウタ「うーん、やっぱり。」

 

急に美人のお姉さんにくっつかれて困惑するアルの困惑を無視し、ウタは一人何かを納得したのか頷き、決意を込めた眼でアルを見つめる。

 

ウタの菫色の眼で見つめられたアルはアワアワしながら後退する。

 

アル「う、ウタさん…そのぉ…」

ウタ「ねェ…アル君…」

 

ウタの瑞々しい唇から言葉が紡がれる。

 

ウタ「君、その鎧の中…空っぽでしょ?」

アル「…!!?」

 

ウタの唇から発せされた言葉は、アルが想像していた言葉とは全く違っていたが、その言葉は驚きでアルの体を硬直させるには十分だった。

 

ウタ「エド君の右手と左足が機械なのは、さっき皆で一緒に戦った時に教えてもらったけど、アル君は体そのものがないんでしょう?」

アル「…よく、わかりましたね。」

ウタ「これでも耳はいい方だからね。

あと、ごめんね。 もしかしたら、聞いてほしくなかった話題だった…?」

アル「い…いいえ、そこまで厳密に隠してるわけじゃないんで…」

 

若干申し訳ない顔をしたウタが、上目遣いにアルを見上げるとアルが少し恥ずかしそうにしながら答える。

実際、彼の体の秘密は気付く人間は気付くものなので、そこまで積極的に隠してはいない。

 

ウタ「そっか…じゃあ失礼ついでにもう一つだけ、教えてもらってもいい?」

アル「…? はい、いいですよ?」

ウタ「うん、不快にさせたら申し訳ないんだけどさ…アル君、食べたり眠ったり…出来ないんじゃないの?」

アル「……」

 

ウタの質問に、改めてアルは驚愕で固まる。アルの体の状態を知った人々は、肉体が存在しない事に驚愕することはあっても、初見でそのリスクにまで気が付く人間は殆どいない。

 

アル「そう…ですね。この体になってから、眠ることも食べることも、それに痛みや疲労も感じることはなくなりました。」

ウタ「そっか…」

 

アルの言葉を聞いたウタは、その美しい瞳に悲しみを讃えながら背伸びをしてアルの頭を撫でる。

 

この体になってから初めて女の子に頭を撫でられたアルは喜びと恥ずかしさで困惑しながら、ウタに問いかける。

 

アル「う…ウタさん、どうして僕にこんなことを…?」

ウタ「わたしも…同じだったからね、何だか他人事じゃなくってさ」

アル「同じ?」

ウタ「うん…実はね。わたしも少し前まで…玩具だったんだ。」

アル「玩具…?」

 

そうして語られた彼女の半生は、過酷な人生を歩んできたアルフォンスですら背筋を凍らせる程の内容だった。

 

自分が鎧の体になった歳よりも幼い少女が、肉体を人形に変えられ、眠ることも食べることも、それどころかまともに話すことすらできなくされた。そして大好きな家族からも、仲良く遊んだ幼馴染からも忘れ去られた。

 

もしも自分が兄や幼馴染から忘れ去られたら、想像するだけで吐き気がしそうな恐怖に襲われる。

目の前で優しく微笑む女性が、そんな怖気の走る環境に12年間耐え続けてきたのだという事に、アルは畏怖を覚え、失礼かもしれないと自覚しながらも、彼女に質問をする。

 

アル「ウタさん…なんで、そんなふうに笑って…いられるんですか?」

ウタ「…?」

アル「だって…だってそんな環境、耐えられないじゃないですか!」

 

膝をついたアルは、周りに寝てる人たちがいることも忘れて感情のまま叫ぶ。

 

ウタはそんなアルを優しく見つめながら言葉を紡ぐ。

 

ウタ「うん…そうだね。玩具になってからずっと、死んでしまいたいって、こんな苦しい世界から逃げてしまいたいって思った。」

アル「それは…」

ウタ「でもね、わたしにはルフィがいてくれたから…」

 

そう言ってウタは、満腹になって気持ち良さそうに眠るルフィの頭を膝に載せ、彼の髪を優しく撫でながら語る。

 

ウタ「シャンクス…わたしのお父さんや、赤髪海賊団の皆に忘れられて、ルフィ達にも忘れられて、もう名前を呼んでもらえないって諦めてたんだ…。

でもね、ルフィがわたしにもう一度名前をくれたんだ。」

アル「名前を?」

ウタ「うん。人形のわたしを抱き上げて“歌が好きなのか? じゃあお前はウタだ! 宜しくな、ウタ!”って。

だからわたしは、どんなに辛くてもルフィと一緒に生きていこうと思ったんだ。もし途中で力尽きてこの人形の体が朽ち果てても、ルフィの旅路を見続けたいって。」

 

この決意は、彼女が仲間にも話していない彼女の原点。

本来ならば一生誰にも言わないまま、墓場まで持っていくはずだった思いだった。

そんな思いを、今日初めて出会った少年に語ったのは、ウタの持つ強い見聞色の覇気がアルフォンスの苦しみを感じ取ったからだったのだろう。

 

アル「そっか、ウタさんにも一緒にいてくれる人がいたから、諦めずにいられたんですね。」

ウタ「うん、そうだよ。ルフィがずっと一緒にいてくれたし、マキノさんやフーシャ村の人達、それにダダンさんとコルボ山の山賊さん達がとっても優しくしてくれたし、エースとサボは人形のわたしを妹だって言ってくれた。それに一味の皆は、わたしを仲間だって認めてくれた。

沢山の人達に助けられて、わたしは今ここにいる。」

 

立ち上がったウタが、アルの鎧の頭を優しく抱きしめる。

温もりを感じられないはずのアルは、彼女の暖かな優しさが鎧の体に染み渡るように感じられた。

 

ウタ「だからアル君も、きっと元に戻れるよ」

アル「ウタさん、僕たちの目的を!?」

ウタ「わかるよ、だってエド君もウィンリィちゃんもアル君をとっても大切に思ってる()がずっと聞こえて来たからね」

 

ウタは見聞色の覇気が感じ取った感情から、彼らの目的を正確に推測していた。

そしてアルにも、彼を大切にする人達がいるからきっといつか元の体に戻れると、彼女は確信していた。

 

ウタ「でもね、それでも辛い時もきっと何度もあるよ」

アル「はい…」 

ウタ「だから、ちょっとだけお姉さんが、頑張ってるアル君にごほうびをあげる…」

アル「う…ウタさん!?」

 

そしてアルを抱きしめていたウタは、彼の耳元でささやくように()を歌う。

 

♪あの日見た空 茜色の空をねえ 君は覚えていますか♪

 

ウタの美しい歌声と共に、彼女の悪魔の実の能力が発動する。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

そこは長閑な田舎の村。

丘の上に見える家は、かつてアルと兄のエドワード、そして優しい母、思い出は少ないが自分達を可愛がってくれていた父と過ごした、もはや存在しない家が見える。

 

アル「ここは…」

ウタ「ここはウタワールド、わたしの歌を聞いた人が招かれる夢の世界だよ」

アル「これが、悪魔の実の…能力…」

ウタ「風景はアル君の記憶から再現させてもらったけど、いいところだね…」

 

アルフォンスは、懐かしい故郷と我が家を呆然と眺める。

そしてアルは、自分が涙を流していることに気がついたら。それどころか、涙に濡れる頬の感覚も、そして涙を拭う手の温もりも感じられることに驚く。

 

そしてウタは、何処からともなく取り出した鏡をアルに手渡した。

 

鏡にはエドワードに似た、それでいて彼よりもいくらか柔らかい印象の少年が写っていた。

 

アル「こ…これは」

ウタ「ウタワールドは精神の世界。この世界なら、失ったはずの体も再現できるし、ご飯も食べられる」

 

そう言ってウタは、虚空からパンケーキの載った皿とフォークを取り出す。

 

皿を受け取ったアルフォンスは、恐る恐るそのパンケーキを口に運ぶ。

 

アル「美味しい…」

ウタ「エヘヘ、サンジ君のパンケーキを再現してみました!」

 

ウタがドヤ顔をしながら胸を張る。

そしてパンケーキを平らげたアルフォンスは、ポロポロと涙を流す。

鎧の身体になってから初めて食べた食事、そして懐かしい身体の感覚に、アルの感情が溢れ出す。

 

アル「う…うあぁぁぁぁ!!!」

ウタ「うん…うん、沢山泣きなさい。この世界は仮初でわたしが眠ったら消えてしまう。でも今だけは、好きなだけ泣いていいんだよ…」

 

子供のように泣きじゃくるアルフォンスを、ウタが優しく抱きしめる。まるで母親が子供をあやすように、背中を撫でながら。

 

そうしてアルフォンスは、ウタが眠ってウタワールドが解除されるまでウタの胸の中で泣き続けた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

ウタ「ねえ皆、お願いがあるの!」

 

翌朝、宴の後片付けを終わらせた一味の仲間たちに、ウタが一つの提案をする。

 

ウタ「わたしはアル君とエド君が元の体に戻る手助けをしてあげたい!

ログが貯まるまでの間でいいから、あの子達を手伝ってあげたいの!」

 

ウタの真剣な頼みを、彼女の頼れる船長は快諾する。

 

ルフィ「おう、いいぞ! あいつらはもう友達だしな!」

フランキー「アウ! それにこの国の技術にも興味があるしな!」

ロビン「そうね、それにこの国の歴史にも興味があるわ。もしかしたら、わたしが把握していない歴史の本文(ポーネグリフ)もありそうだもの」

 

そうして一味の賛同を得たウタの提案の元、麦わらの一味とエルリック兄弟の同盟が成立した。

 

 

 

そしてこの同盟が、後にアメリストス国の存亡を揺るがす陰謀を崩壊させる切欠になる事を、彼らはまだ知らない…。

 

 

 

 

 

 

続……かない!




ホビウタの境遇とアルの境遇があまりにもそっくりだったので、折角なので二人の会話を書きたいなと軽い感じで書き始めたら結構な文章量に…


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喜べ少年、君の願いはまもなく叶う

明けましておめでとうございます。

ジョージボイスでこのセリフを聞きたい…
そのモチベーションで書いてしまいました。


これはまだ、ウタが人形だった頃、偉大なる航路のとある島であったかもしれないお話…。

 

 

ーーー新世界 マーリハ島ーーー

 

ウタ「ギィィ…(迷った…)」

 

新世界に突入した麦わらの一味は、補給と休息の為に近くの島に上陸した。その島では丁度、大晦日のお祭りが行われていた為、宴好きな船長以下、船員(クルー)達もその祭りを楽しんでいたのだが…。

 

ウタ「ギィィ、ギィィ〜(子供に追いかけ回されて、逃げ回ってたらここがどこかわからないよ〜)」

 

麦わらの一味のマスコット“ウタ”は仲間とはぐれ、途方にくれていた。

 

彼女の名誉のために書いておくが、彼女は決して方向音痴ではない。むしろ本能のままに動き勝手に何処かへ行ってしまう彼女たちの船長や、方向感覚が異次元に突き抜けたファンタジスタ迷子な剣士を、何度も目的地まで導いた実績すらある優秀なナビゲーターなのだ!!

 

だが、お祭りで人がごった返す町中で仲間と離れ離れになってしまい、その上、珍しい動く玩具に目を輝かせる子供達の無邪気な追撃を躱し、野良犬たちに餌だと思われて追いかけ回される内に、気がつけば人気の途絶えた丘の上までたどり着いてしまったのだ。

 

ウタ「ギィ…(なんとか皆と合流したいけど、一人だとまたあの人ごみに流されちゃうよ…)」

 

ウタは自らの布と綿でできた人形の柔らかい手を見つめる。

9歳の時に一人の少女にこの人形の体に変えられ、それから12年間付き合い続けた不自由な体は、非力で人ごみに混ざれば容易く踏み潰されてしまうだろう。

 

ポテンとその場にへたり込み、寂しさに涙を流すことも出来ない体でぼんやりと、丘の下の喧騒を眺める。

 

ウタ(もし私が人形になってなかったら…ルフィとか一味の皆と、それにシャンクス達と、あんな風にお祭りを楽しめたのかな…)

 

12年間、何度も考え、そして諦め続けてきた想いが込み上げてくる。

 

ウタ(わたしも皆みたいにかわいい服を着て、美味しいご飯を食べて…歌を歌いたい…)

 

だが彼女の願いは叶わない。どんなに真摯に神様に祈っても、彼女にかけられた悪魔の呪いは解けることなく、彼女を苛み続けている。

 

 

♪〜♪〜〜

 

そんな彼女の耳が、丘の上から響く美しい音色を拾う。

 

 

ウタ「キィ?(なんだろう? 綺麗な音…)」

 

 

その音に導かれるように、彼女は丘の上に建つ小さな教会へと足を向けた。

 

 

 

ウタが耳にした美しい音色は、丘の上にこじんまりと佇む小さな教会の、少しだけ開かれた扉から聞こえていた。

 

少しだけ躊躇ったウタは、好奇心を抑えられずその扉を自分の体が通れるだけ開いて、教会の中に足を踏み入れた。

 

♪〜♪〜〜

 

教会の奥に設えられた大きなパイプオルガンを、神父服を着た一人の男が神妙な面持ちで奏でている。

 

精悍な顔立ちと、服の上からでも分かる鍛え上げられた肉体。およそ神父と呼ぶにはやや無骨すぎる雰囲気を醸し出す男は、しかしその無骨な指でパイプオルガンを奏で、繊細で美しい音色で無人の教会の中を満たしている。

 

教会の入り口でウタがぼんやりと、その美しい音色に聴き惚れてどれくらいの時間が経っただろうか。曲を奏で終わった神父は顔を上げ、予定外の観客に声をかける。

 

 

神父「そんな所にいないでもっと近くに来るといい。

ここは神の家。救いを求め、祈りを捧げる者を拒むことはない」

 

その渋みと深みのあるとても耳に残る低音な声で話しかけられたウタは、おずおずとオルガンの前の椅子まで歩み寄り、ポスンと椅子に飛び乗った。

 

その様子を眺めていた神父は薄っすらとその強面な顔に笑みを浮かべ、再びオルガンを奏で始める。

 

♪〜♪〜〜

 

ウタは人形の体を揺らしながら、その天上の調べに酔いしれる。

曲名は分からない。もしも彼女が人形になることなく、例えば音楽の島でひたすら音楽の勉強に励んでいれば、その曲名やその由来もわかったかもしれない。

だが、そんな“もしも”は存在しなかった。彼女は人形として12年間、幼馴染と共に生きるために航海術や医学を学び、時にバーテンダーとしてアルバイトし、人形でも戦えるようにと合気を学んだ彼女は、音楽の知識は仲間の優しい骸骨が教えてくれたものしか無く、賛美歌等の教会の音楽とは無縁だったのだ。

 

初めての聞く荘厳で美しい調べに、ウタは迷子になっていたことすら忘れて聞き惚れていた。

 

そして曲を奏で終え、腕を下ろした神父にポムポムと、人形の腕で拍手を送った。

 

 

神父「ところで少女よ、何故この場所へ来たのかね?」

ウタ「キッ…!?キィィ…(ああ、そうだった!?わたし迷子なんだった…)」

 

神父にこの教会へ来た経緯を尋ねられたウタは、ようやく自分が迷子なことを思い出して慌てふためく。

事情を説明しようにも、まともに話すことのできない自分では彼に助けを求めることすらできない。

 

神父「フム…迷子か。大方、街の祭で連れ合いと逸れてしまったと言ったところかね?」

ウタ「キィキィ…ギィ!?(そうそう、皆とはぐれちゃって…てわたしの言葉がわかるの!?)」

 

そんなウタに、まるで彼女の言葉がわかるかのような反応を示す神父。そんな神父にウタが驚愕していると、彼が苦笑を浮かべながら説明する。

 

神父「なに、言っていることが全てわかるわけではないが、これでも聖職者の端くれなのでな。救いを求め懺悔する子羊達の“声”は、それなりに聞き取れるよう訓練を積んでいるのとも」

ウタ「…キィ?(…見聞色の覇気?)」

神父「まあ、そんなところだ」

 

そして神父は立ち上がり、ウタの正面まで歩み寄る。長身で引き締まった体格の神父に見下されたウタは、その威圧感にやや後退する。

そんな彼女の内心を知ってか知らずか、ウタの人形の体をマジマジと見つめた神父は彼女に問いかける。

 

神父「少女よ、これも何かの縁だ。君が私の信仰する主を信じているかどうかは分からないが、どうかね。君の悩みを打ち明けてみるつもりはないかな?」

ウタ「……?」

 

ウタは奇妙な提案に首を傾げる。

その様子に言葉が足りなかったかと少し反省した神父は言葉を続ける。

 

神父「先程も言ったが、私は多少は君の言っていることが理解できる。君の悩みや嘆きを解決することは出来ないかもしれないが、誰かに話すだけでも気持ちが軽くなることもある。

これでも聖職者の端くれだ。一年の終わりに信者の懺悔や告解を聞くのも仕事の一つだ」

ウタ「キィ…(確かに…)」

 

12年間、誰にも打ち明けられなかった心の内の暗い嘆き。

神父はそれを話すことで、彼女の抱え続ける闇を多少なりとも軽くしてくれようとしているのだと、ウタは感じ取った。

 

ウタ「キィキィ…キィィ…(神父さんあのね…わたしは本当は…)」

 

 

 

 

そうしてウタが身振り手振りを交えて語ったのは、12年前から今までの彼女の歩み。

一人の歌が好きな少女が人形に変えられ、大好きな父親や海賊団の仲間たち、そして仲の良かった幼馴染に忘れられた嘆きと絶望。非力な体で、自らを守ろうとする幼馴染や、同じ海賊団の仲間たちが傷つくのを見ていることしか出来ない無力感。自分と違って眠ることも食べることも出来る()()()人達に対する醜い嫉妬心。

そして徐々に迫る人形の体の限界に対する恐怖…。

 

気がつけば、ウタは震えながら、縋るように神父に己の境遇を訴えていた。

神父は彼女の隣に座り、時折相槌をうちながら、彼女の地獄のような半生を受け止め続ける。

 

そして語り終わり、改めて己の境遇を嘆き、泣くことも出来ない体で俯くウタに語りかける。

 

神父「…残念だが、私には君の呪いを解くこともその体の限界を延命させることも出来ないだろう」

ウタ「…ギィ(…そう)」

神父「だが…少なくとも今君が進むべき方角程度なら教えることができるだろう」

 

そう言って彼は教会の入口を指差す。

 

 

ルフィ「ウ〜〜タ〜〜!!!」

 

 

外から彼女を呼ぶ声が聞こえてくる。

 

ウタ「キィキィ!!(ルフィ!!)」

神父「どうやら迎えが来たようだな」

 

神父はウタを抱えて教会から外へ出る。

そうすると丁度、丘の下からルフィがこちらへ駆け上がってくるのが見えた。

 

ウタ「キィィ〜!!!(ルフィ〜!!!)」

ルフィ「ウタ〜〜!!!」

 

 

ウタは神父の腕から飛び出し、ルフィへ向かって飛び出す。

そしてルフィが腕を伸ばし、飛び出したウタをキャッチして引き寄せる。

 

ルフィ「ウタ〜心配ししたぞ!」

ウタ「ギィ…(ゴメンね)」

 

再開を喜ぶルフィとウタのもとに、神父が歩み寄る。

 

神父「どうやら待ち人は来たようだな」

ルフィ「おっさんがウタを見つけてくれたのか? ありがとう!!」

神父「なに、彼女は自分の足でここにたどり着いた。私は彼女の悩みを聞いただけに過ぎんよ」

ウタ「キィキィ(ありがとう、神父さん)」

 

ルフィもウタも、神父へ頭を下げる。

二人の感謝をやんわりと受け止めた神父は、仲間と合流出来たことで先程とは打って変わって明るくなったウタを見つめる。

 

ルフィ「ところでおっさん、ウタの悩みって…おっさんウタの言ってることわかるのか!?」

神父「なんとなくだが…概ねはな」

ルフィ「そっかァすげェな。俺でもなんとなくしかわかんねェのに」

神父「これでも一応、聖職者としてこの教会を任された身だ。それに人の()を聞くのはそれなりに得意なのでな」

 

ルフィはそういうものかと納得すると、更に言葉を重ねる。

 

ルフィ「ところで、ウタはなんて言ってたんだ?」

神父「それは彼女のプライベートに当るものだ。聖職者として軽々に他人に話すことは無い」

ウタ「ギィギィ」

 

神父にやんわりと否定され、怒ったウタに頭をペシペシと叩かれたルフィはあっけらかんと言葉を続ける。

 

ルフィ「そっか、じゃあいっか!」

 

そう言ってこれ以上、深く追求しようとはしなかった。

 

ルフィ「よーし帰るぞ、ウタ。サンジが年越し蕎麦作ってくれるってよ!」

ウタ「キィ!(うん!)」

 

仲間の元へ一緒に戻ろうとするルフィの背中に、神父が言葉を投げかける。

 

神父「ところで少年、ここで会ったのも縁だ。君も教会で悩みや自らの罪を懺悔するつもりはないかね?」

ルフィ「懺悔ェ〜?」

ウタ「……」

 

ルフィがそもそも懺悔の意味を知らなそうな反応をし、それをウタが残念な生き物を見る目で見ている。

 

神父「罪や後悔ならいくらでもあるのでは無いかね、海賊“麦わらのルフィ”」

ウタ「ギッ!?」

ルフィ「おっさん、俺のこと知ってんのか!?」

 

ルフィが驚いた顔で神父を見つめると、神父は呆れた顔でルフィに答える。

 

神父「知っているとも。エニエス・ロビーでは政府の旗を撃ち抜き、シャボンディ諸島では天竜人を殴り、インペルダウンに乗り込めば数多の犯罪者を引き連れ脱獄した。その果に頂上戦争に兄を助けるために乗り込んだ“最悪の世代”の一人…だろう?」

 

神父はゆっくりとルフィとウタに歩み寄る。長身の彼はルフィ達の目の前まで来ると、二人を見下ろしその濁った、感情の読めない目で真っ直ぐにルフィを見つめる。

 

神父「海賊“麦わらのルフィ”…君は一度、あの戦争で心が折れたのではないかね?

仲間も連れず、たった一人で世界に戦いを挑み、無様に倒れ、兄を救うこともできず惨めに敗走して…」

ルフィ「……」

 

ルフィは何も答えない。ウタもまた、先程までと異なる神父の威圧感に圧倒され何も言うことが出来ない。

 

神父「あの時君は知ったのではないかね? 己の未熟さを…己の非力さを…そしてこの世界の恐ろしさを…」

 

それはルフィがかつて負った()。兄を救えず、瀕死の重症で更に自らを傷つける程に錯乱した…彼にとっての最悪の心的外傷(トラウマ)だ。

 

ルフィは神父の言葉に何も言い返さない。そして神父は更に言葉を重ねる。

 

神父「あの戦争から2年が経った。この2年、君が何処で何をしていたのか…興味はあるが」

ルフィ「それは言えねェ」

神父「そうかね、まあ今は関係ないことか」

 

ルフィが素っ気なく答えると、神父もまた深く追求することなく話を続ける。

 

神父「先日の新聞で、君達が再びシャボンディ諸島から新世界へ向けて出港したという記事を読んだ。まさかこうして会えるとは思わなかったがね」

 

神父はルフィに背を向け、コツコツと教会の入口へと歩いてゆく。そして教会の扉の前に立った神父は再びルフィ達を振り返る。

 

神父「“海賊”麦わらのルフィ、君は何故この海へ再び戻った?

世界の厳しさを知り、それでもなお何を求める?」

 

教会の壁にはめられた荘厳なステンドグラスを背に、神父はまるで裁定者の如くルフィに問いかける。

ルフィもまた普段とは異なる真剣な表情で、短く答える。

 

ルフィ「海賊王になるためだ」

ウタ「キィ…(ルフィ…)」

 

その答えは、彼を知るものなら必ず一度は聞く彼の目標だ。あるものは笑い、あるものは驚く。だがごく一部を除いて、彼の目標が達成できると信じる者はいない。

だが教会を背に立つ神父は、ルフィの言葉を若者の大言壮語と受け取らず、一人前の海賊と認めた上で現実を語る。

 

神父「できるのかね? たった10人の海賊団が?

この海を支配する四皇を、白髭海賊団との戦争に勝利し君の兄を殺した海軍本部を乗り越えて、ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)を手に入れると?」

ルフィ「できる!俺は…海賊王になる男だ!!

 

ルフィが力強く叫ぶ。

神父に心の傷を抉られながら、それでも彼の信念は揺らぐことなく、まるで神の代理人の如く超然と佇む男へ堂々と己の夢を叩きつける。

 

そのルフィの様子を愉快そうに眺める神父は彼に、疑問を投げつける。

 

神父「では未来の海賊王よ。君は海賊王となり何を成す?

かつて海賊王ゴールド・ロジャーは、その死を以てこの大海賊時代を生み出した。君は海賊王になって、この海を支配でもするのかね?」

ルフィ「支配なんてしねェ。この海で一番自由なのが、海賊王だ」

神父「ならば、なんの為に海賊王を目指す? 今の君は十分に自由ではないかね?」

 

それは、彼の仲間ですら疑問にすら思わない彼の夢の先にあるものを問う言葉だった。

彼と出会う多くの人達は、彼の大きすぎる目標に目が眩み、その夢の“果て”を彼がどう考えているのか疑問に思うことは無かった。

 

他人の心の傷を開き、その心の奥底を覗き込むことに長けた神父だからこそ、本当に極一部の人間しか知らない、海賊“麦わらのルフィ”に、確かな夢の果てがあることを察することが出来たのだろう。

 

ルフィ「新時代を創るためだ…」

ウタ「キィ…(ルフィ…)」

 

ルフィが静かに答える。だが、その言葉は先程の海賊王を目指す宣言とは異なり、どこか地に足のついていないようにウタには感じられた。

それを神父も察したのだろう。彼はゆっくりとルフィに歩み寄りながら問を重ねる。

 

神父「新時代か…君はいつ、どこでその目標を定めたのかね?

君の祖父ガープの影響か? それともその麦わら帽子の前の持ち主である赤髪のシャンクスに何かを吹き込まれたのかね?」

ルフィ「……約束なんだ」

神父「約束?」

 

今まで、たとえ心の傷を抉られようと揺らぐことのなかったルフィの言葉が震える。ルフィ自身も、なぜ自分がいい知れない不安に襲われているのか分かっていない。まるで今まで当たり前に立っていた地面が突然崩れ去り奈落の底に落ちていく様な…そんな漠然とした恐怖が彼の心を蝕む。

 

神父「それは()との約束なのかな?」

ルフィ「……分からねえ」

 

ルフィが頭痛を堪えるように頭を抱える。ウタはそんなルフィを悲しそうに見つめることしか出来ない。

そしてルフィは頭を抱えたまま、地面に膝をつく。

 

ルフィ「分かんねえんだよ…大事な約束だったはずなのに…、思い出せねえんだよ…俺は確かに誓ったんだ……なのにその誰かを、俺は思い出せねえ!!」

 

ルフィが地面を殴りつける。石で舗装された地面が砕け、鋭利な破片がルフィの手を傷つける。血が滲んだ手で、それでもルフィは地面を殴り続ける。

 

ルフィ「何でだよ!…なんで…なんで思い出せねえんだよォ!!」

 

涙を流しながら、何かに抗おうかとするようにルフィは地面を殴り、果ては頭を地面に叩きつける。

手や頭から血を流しながら、それでも●●のことを思い出せない自分自身に怒るルフィは、武装色の覇気で黒く染まった手で、己を殴りつけようとする。

 

 

ウタ「ギィィ!!!」

 

己を更に傷つけようとするルフィに、ウタが必死に取り縋る。かつて兄を救えず、自暴自棄になった彼を止めた時のように。

 

ルフィ「ウ…タ……?」

ウタ「ギィィィィ、ギィ!ギィ!!」

 

まるで彼女も泣いているかのように、悲しそうに壊れたオルゴールを鳴らしながら、ウタは傷ついたルフィに抱きつき、柔らかな人形の手で、必死に血を流す彼の傷を止血しようとする。

 

そんな健気な、彼の最初の仲間の様子に冷静さを取り戻したルフィは涙を拭い、ウタを抱き上げる。

 

ルフィ「ありがとうな、ウタ…」

ウタ「キィ!」

 

ニカッといつものように明るく笑ったルフィは、ウタを肩に乗せて改めて神父に向き直る。

 

ルフィ「神父のおっさん、悪いけどおっさんの質問には答えられねえ。だっておれにもわかんねえからよ!」

 

先程まで、気が狂いそうな程に思い悩んでいた少年は、まるでそのことが大したことでは無いかのように笑う。

 

ルフィ「だからよおっさん、おれ決めたんだ」

神父「ほう、何をかね?」

ルフィ「おれが誰と約束したのか、まずしっかり思い出さないといけねえ。思い出さないと、おれは多分、海賊王になれねえ」

 

だから…と未来の海賊王は宣言する。

 

ルフィ「おれは絶対に、おれが約束した誰かにもう一度会う。そんでもってちゃんとおれの“夢の果て”を伝える」

神父「できるのかね?今の今まで、忘れていたことにすら気づけなかった君に?」

ルフィ「できるできないじゃねェ、やるんだ!

おれ一人じゃ無理かもしれねえけど、おれには仲間がいる。ウタと、あいつらがいれば、おれに不可能はねえ!」

ウタ「キィキィ!!」

 

ルフィが胸を張り、彼の肩の上で相棒が嬉しそうに飛び跳ねる。

そんな二人の様子を、神父は愉快そうに眺める。

 

神父「成る程…どうやら君は良い仲間を持ったようだ」

 

そして神父は二人に背を向けて、教会のステンドグラスへ目を向ける。

 

神父「少し愉しみすぎた詫びだ。君に一つアドバイスをするとしよう」

ルフィ「…?」

ウタ「…?」

 

先程の禍々しい雰囲気を霧散させた神父は、ただの聖職者として、一人の大人としてアドバイスを送る。

 

 

神父「大切な者なら決して手を離すな。目の前で死なれるのは、中々に堪えるぞ」

ルフィ「…」

 

それは目の前で兄を亡くしたルフィへの皮肉なのか、それとも自分自身への戒めなのか、どちらとも取れるような言葉だった。

だが少なくとも、そこにルフィの無力さを揶揄する響きはなかった。

 

ルフィは神父に背を向け、ウタを肩に乗せたまま歩き去っていく。

 

ルフィ「…当たり前だ

 

小さく呟いた彼の言葉は、隣の相棒にはしっかりと届いていた。

 

 

 

ーーーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

ーーー

 

数週間後、マーリハ島の丘の上の教会で、神父は秘蔵のワインを飲みながら、大晦日の夜に出会った人形の少女の事を思い出していた。

 

破綻者であり、他者の苦痛と不幸にしか“幸福”を得られない彼にとって、彼女が語った身の上は極上の酒の肴だった。そして彼女が頼りにする男が、彼女の境遇に気付くことなく彼女を側に置き続けていることが余りにも滑稽で、ついついその男の心の傷を深く抉ってしまったが、後悔は欠片もしていなかった。

時間が経った今でもこうしてそのことを思い出しながらワインを傾けるのがここ最近の日課になっていた程だ。

 

そんなある日に、彼の元に号外を持ったニュースクーが現れた。

 

そのニュースクーの運んできた新聞記事を読んだ神父は、普段の彼からは珍しく声を上げて笑った。

 

神父「ハハハハハ! 成る程、運命とは分からないものだ」

 

そんな彼の様子を見た、教会で修行している若いシスターが驚いて声をかける。

 

シスター「コトミネ神父、何かあったのですか?」

コトミネ「いやなに、私事だ」

 

そう言って新聞をシスターに渡したコトミネは、教会を出て、破壊された石畳を眺めていた。

そしてまるで、大晦日の夜に涙を流しながら石畳を破壊した少年がそこにいるかのように語りかける。

 

 

「喜べ少年、君の願いはまもなく叶う」

 

 

 

 

シスターが受け取った新聞の一面には、こんな記事が載っていた。

 

「七武海」トラファルガー・ロー

“麦わらの一味”と異例の同盟

 

ドンキホーテ・ドフラミンゴ「七武海脱退・ドレスローザの王位を放棄」

 

 

 




おかしい、当初はホビウタと外道神父のハートフルな交流を書くつもりだったのに、気がついたらルフィが外道神父の餌食になってただと…!?



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ネタバレ出来ない悪役令嬢はちょっと大変(ホビウタ×拓銀令嬢)

※ホビウタとライトノベル“現代社会で乙女ゲームの悪役令嬢をするのはちょっと大変”(通称拓銀令嬢)のコラボです
※もしも拓銀令嬢が転生前に読んでいたワンピースがホビウタ版だったら…これはそんな与太話です。

時系列はお嬢様が富嶽テレビ(フジテレビ)を買収した中学生(2003年〜2004年)位の時期を想定しています。


現実の日本とは少しだけ違う歴史を歩んだ平成の日本に悪役令嬢として転生した桂華院瑠奈。

前世知識を活かして膨大な富を手に入れ、そのお金をバブル崩壊で不景気に苦しむ日本を救うために惜しげもなく注ぎ込み、気がつけば10代前半で超巨大企業グループの長に成り上がってしまった少女。

富、名声、権力(力)、この世の全てを手に入れたと言っても過言ではないそんな彼女でも、思い通りにいかないことがあるのが世の中だ。

 

ーーーーーーー

 

「なんでよーー!!? これだけお金を入れてもなんでまだ取れないのよーー!!!」

「が、頑張って! 瑠奈お姉ちゃん!」

「これはもう諦めたほうがいいのでは…?」

「…(コクコク)」

 

学校帰り、親友の春日乃明日香、開法院蛍、そして妹分の天音澪ちゃんと私、桂華院瑠奈の四人は学園の近くにある桂華グループ系列のゲームセンターに遊びに行った。

ゲームセンター内にあるUFOキャッチャーの景品であるとあるぬいぐるみを欲しがった澪ちゃんの為に、長女の威厳を示すため私が挑戦したのだが、どれだけお金を投入しても()()をUFOキャッチャーの檻の中から救い出せずにいた。

 

「待っててね()()ちゃん、今そこから救い出してあげるから!」

「…瑠奈ちゃん目が据わってるわよ?」

「…(プルプル)」

 

私の気迫に押された明日香ちゃんと蛍ちゃんが若干引いているが関係ない。私は彼女を、麦わらの一味のマスコット“ウタ”を救い出す使命があるのだから!

 

 

ーーーーーー

 

私、桂華院瑠奈は転生者だ。

かつてはしがない一般庶民として日本に生まれ、バブル崩壊から続く不景気でまともな職につくことも出来ず、リーマンショックの荒波で致命傷を負った日本の不景気の中でブラック企業で働き体を壊し、命を落とした。

かつて私の生きた日本とは少しだけ違う歴史を歩んだこの日本に、桂華院公爵家の娘として新たな生を受けた私は、この世界が私が前世で遊んだ乙女ゲームの世界であり、私がその世界で主人公に断罪され破滅する悪役令嬢であることを知った。

まあ、主人公に倒されるのなら本望なのだがそれはそれとして色々やった結果、今では日本有数のグループ企業となった桂華グループの実質的なオーナーになったのだが、その話をすると少なくとも単行本で4-5冊は必要になるので割愛する。

 

今重要なのはこの世界が、多少の差異はあっても私がかつて生きた日本とほとんど同じ世界であり、その()()には、様々なサブカルチャーも含まれるということだ。

何がファイナルなのかよくわからないファンタジーやもはやドラゴン関係なくない?なクエストのゲームが発売され、超大作アニメ映画は日本歴代最高の興行収入を叩き出した。

そして私が前世で愛読し、苦しい生活の中で心の支えとなった海洋冒険ロマン漫画“ワンピース”もまた、この世界でも少年ジャンプで連載され、今では押しも押されぬ日本で最も売れている少年漫画として漫画界に君臨している。

 

ーーーーーーー

 

「何やってるんだ、瑠奈?」

「人だかりが出来てて何事かと思ったけど、やっぱり桂華院さんだったか…」

「桂華院の奇行は今始まったことじゃないが、流石に店に迷惑じゃないか?」

 

UFOキャッチャーの前で奇声を上げながら筐体を操作している私に、背後から声がかかる。

可哀想な物を見る目で私を見ている三人は、この乙女ゲー世界の攻略対象だった。帝亜栄一、泉川裕次郎、後藤光也。私達と同じ学園で学ぶハイスペックなイケメン男子達であり、いつか主人公と共に私を断罪する男たちだ。

とはいえ今は、私と共に学習館学園で学ぶ仲の良い男子達だ。

そんな彼らに憐れみの目線を向けられるのは若干不本意なので、きちんと事情を説明したのだが…。

 

「いやこれ、頭の飾りに引っ掛ければ簡単に取れるだろ?」

 

栄一君の最低な発言が私を怒らせた!

 

「栄一君サイテー。女の子の大切な髪の毛を引っ張るなんて男の風上にもおけないわよ!!」

「いやこれ人形…」

「ウタちゃんは女のコよ!」

「いや桂華院さん、これ景品の玩具…」

「たとえ玩具でもウタは大切な仲間よ!」

「駄目だ、こうなった桂華院はどうしようもない…」

 

…しまった、ちょっと地雷を踏まれ過ぎてヒートアップしすぎた。

 

「…ごめんなさい、ちょっと興奮しすぎたわ」

「まあそれはいいんだが…」

 

ちょっと気まずくなった私と栄一君の空気を察した裕次郎君が、雰囲気を変えるために私に質問する。

 

「そういえば桂華院さん、ワンピースというかウタのことになるとよく興奮するよね」

「確かにな。それにマスコットなら横にチョッパーのぬいぐるみもあるのに目もくれずにウタを取ろうとしていたな」

 

光也くんも気になったのか裕次郎君に続いて発言する。

UFOキャッチャーの筐体には、ウタちゃんの他にもワンピースのマスコットキャラであるチョッパーのぬいぐるみもいて、実はウタちゃんよりチョッパーのぬいぐるみの方が人気なのか残りが少なかったりする。

 

「チョッパーが嫌いな訳じゃないけど、ウタちゃんは特別なのよ。ね、澪ちゃん!」

「は、はい。それにもともとウタちゃんの人形が欲しいと言ったのは私でして…」

 

私が水を向けると、澪ちゃんが少し恥ずかしそうに答える。

 

「ああ、そうだったのか。俺はてっきり瑠奈のやつがまた暴走したのかと」

「ちょっと、酷いわよ!?」

「だって、ねえ…」

「前に喫茶店でワンピースの話題になった時に帝亜が“ウタはいてもいなくてもいいキャラだろ”といったときのお前の怒り様を知ってるとな…」

「…瑠奈ちゃん、帝亜君たちにも文句を言ってたんだ」

「うぅぅ〜だってぇ〜」

 

栄一君達や明日香ちゃんが私を呆れた目で見ている。

確かに、傍から見れば私のウタちゃん愛は異常なのかもしれない…。

 

 

大人気少年漫画“ワンピース”。1997年から連載を開始したこの漫画に私は前世でも、転生した今世でも魅了され続けている。

主人公ルフィと彼の率いる麦わらの一味の痛快な冒険譚は、私にとってとても眩しく、そしてワクワクする物語だった。

そんな麦わらの一味の仲間達の中で、私が一番好きだったのが一味のマスコットである生きた人形“ウタ”だった。

私が彼女に惹かれたのは、はじめは単に私が(ウタ)が好きだったからだ。でも読み進めるうちに、歌が好きなのに自らは歌うこともできず、力不足で仲間を助けられなくてもどかしい想いをするウタに、自らの境遇を重ねて惹かれていったのだ。生活苦で歌を仕事にできずいつしか歌うことを忘れてしまった自分を、いつしか健気に仲間達を助けようと奮闘する彼女に投影していたのだと、今なら思う。

 

だからこそだろう、前世の私の晩年に巻き起こったあの騒ぎは、もはや人生に絶望していた私にとって数少ない幸せな思い出になったのだ。

 

頂上戦争で兄を救えなかったルフィが、2年間の修行を終えて再開した新世界での冒険。最悪の世代の一人“トラファルガー・ロー”と同盟を組み、四皇カイドウを倒す為の準備の一貫として訪れた“愛と情熱と玩具の国”ドレスローザで発覚した衝撃の事実は、私のような一般読者だけでなく、日本全体を、それどころか世界すら震撼させた。

 

ドレスローザを訪れたルフィ達が目にした、人と共存する“生きた玩具”達。この島こそが謎だったウタの故郷であり、漸く彼女の正体が判明するのかと、私を含めた多くの読者はワクワクしていた。だが同時に、ドレスローザ編の冒頭で書かれた「麦わらの一味の“マスコット”ウタ、最後の冒険」という一文に、かつてのメリー号と同じように、ウタとのお別れが近づいているのかとワクワクと同じくらいに恐怖に身構えていた。

そんな読者に叩きつけられたドレスローザの闇。人間と同じように生きている玩具の正体が、本当は“人間”だったという悍ましい真実。そして悪魔の実の能力で玩具に変えられた人間は他の全ての人々の記憶から消えてしまうという設定に多くのファンは衝撃を受け、そして多いに盛り上がった。

連載から約15年、作中の時間でも12年間もルフィの側に居続けた彼女は本当は何者なのか。“ルフィの母親説”や“姉(妹)”説、“全く関係ない一般人説”など、様々な考察がインターネット上を踊った。

そして作中でも、大切な仲間を人間に戻すために奮戦する長鼻の狙撃手に、読者である私達もまた声援を送り、彼が悲劇の元凶を、ホビホビの実の能力“シュガー”を顔芸で気絶させた時、私達読者は笑いとともに喝采を送った。

 

だがそこまでも衝撃も興奮も、記憶の戻ったルフィの視点で始まった過去回想に比べればまだまだ前菜だったのだと、私達は思い知らされた。

 

赤髪のシャンクスと出会う前、まだ何者でもなくそれどころか海賊を嫌ってさえいたルフィが初めて出会った“海賊”の少女ウタ。

赤髪のシャンクスの“娘”であり、フーシャ村でルフィと何度も勝負を繰り返し、彼が“夢の果て”を思い描くきっかけとなった、ルフィというキャラクターの根幹に関わる少女。

歌が好きで、父親のシャンクスや赤髪海賊団に可愛がられ、ルフィと仲良く勝負をする彼女の姿を漫画で読んだ私達の衝撃がどれ程のものか、説明するのは難しいだろう。

そんな彼女がシュガーと出会い、玩具にされてしまったことで物語は第一話に繋がってゆく。

父親からも、家族同然だった海賊団の皆からも、そして幼馴染のルフィからすら忘れられ、大好きな歌も歌えなくなったウタ。悲しみと無力感に苛まれ、もはや生きる気力を無くした彼女の心に再び焔を灯した主人公の言葉に、私達読者は涙した。

 

15年間、伏線をばら撒きながらも決定的な真実を隠し通し、とてつもないインパクトと共に明らかにされた“ウタ”の真実は、日本中を駆け巡り、それどころかフランスの大統領府が声明を出すという訳のわからない展開に発展したのは、今思い出してもいい思い出だ。

 

呪いを解かれたヒロインが、主人公と共に元凶となった巨悪を打ち倒す美しい物語は、きっと前世の世界でも語り草になっただろう。まあ前世の私は、ドレスローザ編が終わるのを見届けた辺りで肉体の限界を迎えて転生してしまったが。

 

「アニメで見たかったなぁ…」

「…? どうした瑠奈?」

「あ、何でもない何でもない。ちょっと上の空になっちゃっただけよ」

 

物思いに耽り、ボソッと呟いた私の独り言を聞き咎めた栄一君に、誤魔化すように手を振りながら答える。

 

そう、私は…おそらくワンピース原作者と編集担当、そしておそらくアニメ制作の上層部のみしか知らない真実を私だけは知っているのだ。

今の段階では誰も知らない特大の()()()()を誰にも言えない筆舌に尽くしがたいもどかしさに、ワンピースの話題になる度に襲われるのだが、あの衝撃と感動をリアルタイムで経験して欲しいと私の魂が切実に訴えているので自重しているのだ。まあ、そのせいでワンピースの話題の度に奇行を繰り返すことになるのだが、仕方ないだろう。

 

そんなこんなで私の思考が別世界に旅立っている間に、男子達もまたはウタのぬいぐるみを獲得するために試行錯誤してくれていたようだ。

 

「くそ、思った以上に難しいぞ」

「うーん、頭の飾りを掴まないで取るとなるとこのアームの力だとすぐ落ちちゃうね」

「……取れたぞ」

 

そして複数回の試行の末、光也くんが上手く頭の飾りを避けてウタのぬいぐるみを獲得した。

 

「ありがとう、流石は光也くん!」

「ありがとうございます、光也お兄さん!」

 

私と澪ちゃんに褒め称えられた光也くんは、そっぽを向きながらも顔を赤らめていた。…かわいい。

 

そして光也君にコツを教わった私と栄一君もウタのぬいぐるみを獲得し、満足してその日はお開きとなった。

 

ーーーーーーーーーー

 

その日の夜、九段下の自室でウタのぬいぐるみを抱きしめながら私は歌を口ずさむ。

 

♪この風は どこから来たのと♪

♪問いかけても空は何も言わない♪

 

前世の私も、ウタのぬいぐるみを持っていた。けれど苦しい生活の中でいつしか大切にしていたそのぬいぐるみも手放してしまっていた。

 

♪この歌は どこへ辿り着くの♪

♪見つけたいよ 自分だけの答えを♪

♪まだ知らない海の果へと 漕ぎ出そう♪

 

苦しい生活の中で、ウタの真実を知った私は喜びと共に嫉妬もした。自分と同じように歌えないと思っていた存在が、呪いを解かれ、そして仲間を守る為に歌い、巨悪を打ち倒すその様子に、感激と共に自らの惨めさを思い知らされたから。

 

♪ただひとつの夢 決して譲れない♪

♪心に帆をかけて 願いのまま進め♪

♪いつだってあなたへ届くように歌うわ♪

♪大海原をかける新しい風になれ♪

 

前世の私は、あの物語の先を知らない。ドレスローザでドフラミンゴを打倒したルフィとウタ達が、その先でどんな冒険をするのか。ルフィの夢の果てに何があるのか、命を落とした私はそれを知らない。

 

♪それぞれに 幸せを目指し♪

♪傷ついても それでも 手を伸ばすよ♪

 

私は過去に想いをはせる。

 

『北海道拓殖銀行を買収するわ』

 

今の私が、こうして九段下のビルの最上階に住むきっかけとなったと言える出来事。

あのとき私を突き動かしたのは、私が惨めに寂しく死んだ前世の、そんな社会を産んだ“時代”への怒りだった。悪役令嬢として、そして先の世界の破滅を知っているが故に“時代”なんてどうしようもないものに負けたくなくて、私は安穏を捨て去って“時代”に戦いを挑んだ。

 

♪悲しみも強さに変わるなら♪

♪荒れ狂う嵐も越えて行けるはず♪

♪信じるその旅の果まで また会いたい♪

 

私の選択が正しかったのかは分からない。私が必死に戦っても、ワールドトレードセンターにはハイジャックされた飛行機が突っ込み、イラクでは泥沼の戦争が続いている。

それでも、前世の私のような人間を一人でも減らすために、私はこれからも戦い続けるだろう。

 

例えその先が、約束された破滅だとしても。

 

♪目覚めたまま見る夢 決して醒めはしない♪

♪水平線の彼方 その影に手を振るよ♪

♪いつまでも あなたへ 届くように 歌うわ♪

♪大きく広げた帆が 纏う 青い風になれ♪

 

それでも、私のように未練を残しながら逝く人が減らせるならそれが私の勝ちだから。少なくとも、大好きな漫画の結末すら知ることができず死んでしまうなんて、嫌だったから。

 

♪ただ一つの夢 誰も奪えない♪

♪私が消え去っても 歌は響き続ける♪

♪どこまでも あなたへ 届くように 歌うわ♪

♪大海原を駆ける 新しい風になれ♪

 

例え私が破滅しても、きっと残るものがある。

少なくとも私は破滅しても、きっと歌うこともできるし、このぬいぐるみを取ってもらったような楽しい思い出は、きっと心の中に残り続ける。

 

「おやすみ、ウタちゃん。()()()絶対に失くさないからね」

 

ウタのぬいぐるみを優しく机に置いて、私はベットに潜り込む。

 

 

さあ、明日からもまた戦い続けよう。この“時代”に打ち勝つために。

 




歌唱限定でお嬢様の声帯がAdoになる、という謎の電波を受信しましたが多分気の所為です。
あと、このお嬢様原作だとフジテレビの親会社の筆頭株主になってるので、ガンガンお金を流し込んでアニワンのクオリティが上げてそう…。


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ホビウタ(文才ルフィif)

最近引越やオリジナルの新作の投稿でこちらを全然書けていなかったので、お詫びに私が初めて某掲示板に掲載したSSを手直しして投稿します。




〜解説〜

これは“もしもONE PIECEが世界経済新聞に連載されている実話をもとにした小説(著者はルフィ)だったら”(通称文才ルフィ)という某掲示板サイトのスレッドに、ホビウタ(文才ルフィver)として投稿したものです。

語り手はルフィですが、このスレではルフィの一人称は地の文でのみ“私”です。

 

ーーードレスローザ 王宮ーーー

 

 

 

キュロス「十年間お待たせして!!! 申し訳ありませんっ!!!

     今!! 助けに来ました!!!」

 

 愛する妻を殺され、娘からも忘れられ苦しみ続けた10年間の怒りを込めた一撃が、王下七武海の一角、【天夜叉】ドフラミンゴの頸を一撃で切り落とした。

 

 ホビホビの実、触れた者を玩具に変え、更に玩具にされた者はたとえ家族や親友にさえ忘れられてしまう。その呪いは今この瞬間解かれた。玩具としてドフラミンゴファミリーの奴隷となっていた者たちが開放され、その怒りが全て元凶であるドフラミンゴとその一党に向かっている。奴らを倒す千載一遇のチャンスだ。  

 本来なら私もキュロスと共に戦い、同盟相手であるトラファルガー・ローを救わなければならないはずだった。

 

 

 だが、この時の私は戦うどころか立ち上がることさえできなかった。

 

ルフィ「ハァ、ハァ……」 

 

 隣にいた片足の兵隊が人間に戻り、ドフラミンゴへ斬り掛かっていく瞬間、私の頭に流れ込んだ、否、私が思い出した記憶。

 

 

??『やーい、負け惜しみ〜!』

 

??『へた! なにこれ?』

 

ルフィ『おれたちの“しんじだい”のマークにしよう!』

 

 

ルフィ「なんで、おれ、忘れて…」

 

 これは10年以上前、私がまだ‘彼’から麦わら帽子を託されるよりも昔、共に遊び、時に競い合った淡い記憶。

 

 

ルフィ「あ、あぁぁ」

 

 

ウタ『ギィギィ、ギィィィ!』

 

 かつて‘彼’からお土産として渡され、私が名前をつけ、人生で最も長く共に歩んだ‘仲間’。

 

 

 思い出した、何てことはない。私もまた忘れていたのだ。この国の人々と同じように。   

 

 自分に父親はいないと言っていたレベッカのように。

 

 誰よりも近くにいたのに、ずっと側にいてくれたのに、もう何も失わないために、強くなったはずなのに。

 

 

 

ルフィ「忘れちゃいけなかったのに…、おれは…」

 

 

 ぬいぐるみの体で、それでも彼女は自分と共にいてくれたのだ。サボが死に、エースも一足先に船出して一人になってしまった私に、ずっと寄り添ってくれていた。

 

 二年前、兄を救えず自暴自棄になっていた私の所へ、真っ先に駆けつけてくれた。

 

 

 

ルフィ「ごめん、ごめんな……」

 

 

 

 どれほど辛かったのだろう。彼女は‘彼’が、そして‘彼’の海賊団が大好きだった。父親である‘彼’から忘れられて、まるで物の様に扱われることがどれ程に悲しかったことか。

 

 大好きな歌をずっと歌えず、眠ることも食べることも出来なかったことがどれ程に苦しかったのだろうか。

 

 

 

ルフィ「ウタ…」

 

 

 

 血が滲む程に拳を握り込む。私はこの12年間、取り返しのつかないことをしていたのだろう。謝っても、許して貰えないだろう。

 

 それでも謝らなければ。そうでなければ私は、私は…。

 

 だがまだ、今ここでやらなければならないことが残っている。この悲劇の元凶を、私の幼馴染を、私の大切な仲間を傷付けた男を倒さなければ、私は彼女に、謝りに行く資格さえ失くしてしまう。

 

 

 

ルフィ「もうちょっとだけ待っててくれ。あいつを…ドフラミンゴを!」

 

「ブッ飛ばす!!」

 

 

 

 

 




オリジナルの新連載を始めました。一応18禁なのでご注意を。

https://syosetu.org/novel/309815/

チマチマとスリラーバーク編の続きも書いているので、気長にお待ち下さい。


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スリラーバーク編(おれの忘れ物)
1話 わたしの名前は…


ハロウィンコスのウタちゃん、可愛かったですよね?
可愛過ぎるウタちゃんに触発されて、もともと構想だけあったスリラーバーク編を書くことに決めました!

場面はウタ(人形)がルフィと一緒に捕まってモリアに影を奪われる場面から。


〜スリラーバーク〜

 

敵に捕まったナミ達を助けるため、王下七武海ゲッコー・モリアの海賊船“スリラーバーク”へ乗り込んだわたし達“麦わらの一味”。

でも、道中でゾンビを成敗しながら進んでいたら気がついたらサンジくんとゾロがいつの間にかいなくなっていた。ゾロだけならまた迷子になっただけだと心配はしないですむんだけど、サンジくんまでいなくなるのは異常事態だと皆警戒していた。

戦闘で役に立てないわたしも、ルフィの肩の上で聞き耳をたてて、敵が来たらすぐにルフィに伝えることができるようにしていた。

 

そして、鎧を着たゾンビの軍勢に取り囲まれた大乱戦の最中、ルフィの肩にしがみついていたわたしは天井からの奇妙な気配に気がついた!

 

ウタ「キィ!」

ルフィ「上か!」

 

わたしの声に反応したルフィが、上からわたし達を捉えようと伸びてきた糸を回避した。だけど…。

 

ウタ「ギィィー!?」

ルフィ「ウター!!」

 

ルフィが回避したはずみにルフィの肩から落ちてしまったわたしは、糸を回避しきれず捕まってしまった。そしてわたしが捕まったせいで注意が削がれたルフィも…。

 

ルフィ「しまった!?離しやがれー!!」

 

複数の鎧ゾンビに取り押さえられ糸でぐるぐる巻にされたルフィと一緒に、わたしとルフィは天井に空いた穴から回収され棺に放り込まれた。

 

こ、これからどうなっちゃうの…?

 

 

〜ダンスホール〜

 

粘着性のある糸で捕縛されたわたしとルフィは檻に入れられてらっきょみたいな体格の大男のいる部屋に連行された。

こいつがブルックやあの傷だらけのお爺さんから影を奪った、王下七武海の一人“ゲッコー・モリア”なのかな?

そしてわたし達が連行されてすぐ、部屋に四人の人影が入ってきた。

一人は丸っこい体格で後ろに綺麗なお姉さんを引き連れたサングラスのおじさん、一人は顔面がライオンの偉そうな大男、もう一人はファンシーな衣装を着た可愛い女の子。

彼らが入ってくると、デカらっきょ…じゃなかった、ゲッコー・モリアが彼らに呼びかけた。

 

 

モリア「オウ、来たかおめェら!キシシシシシシ!!

早くおれを海賊王にならせろ!!!」

 

モリアの発言にルフィが「海賊王になるのはおれだ!!」と叫んでいる。それにゾロ達のことも聞いたけど、捕まったのはわたし達以外だとゾロとサンジくんだけみたい。

 

モリア達が何やら話し合ってる隙にルフィが鉄の檻を文字通り食い破る。

 

ルフィ「逃げるぞ!ウタ!」

ウタ「キィ!」

 

手を使えないルフィがわたしを口で咥えてウサギ跳びの要領でぴょんぴょん逃げようとする。敵の攻撃が来るかもとハラハラしていると…。

 

ペローナ「“ネガティブホロウ”!!」

ルフィ「!!?」

ウタ「ギィィー!?」

 

まずい、さっき森で出くわしたオバケが、何故かあの可愛い女の子から呼び出されてわたしとルフィの体をすり抜けていった。

このオバケがさっきの奴と同じだとすると…、わたしもルフィもネガティブになっちゃう!?

 

ルフィ「もし生まれ変われるのなら…、おれはナマコになりたい…、死のう」

ウタ「ギィィ!ギィギィ!?」

 

ルフィーー!?い、いつもポジティブで明るいルフィがこんなにネガティブに!?

……あれ?でもわたしはいつもと変わらない?

 

アブサロム「さっきまで海賊王になると言っていた男がナマコとはむごい」

ペローナ「…?“麦わら”はともかくあっちの人形は特に変わってないな?

人形だからか?」

 

可愛い女の子が首をかしげていたけど、とにかく逃げないと。でも非力な私じゃあ無駄に鎧なんて着たルフィを運べるはずないし!

 

混乱した私を、可愛い女の子が抱き上げた。

 

ウタ「ギィ!?」

ペローナ「よく見たら可愛い人形じゃねーか!ご主人様!この人形わたしのにしていい?」

モリア「……あー、そんな縁起の悪い“玩具”はやめとけペローナ。」

ウタ「ギィギィ!ギィィ!!」

 

なんだとォ!わたしのどこが縁起が悪いんだ!この可愛い紅白ボディになんて失礼なことを!

 

抗議しようとモリアの顔を見て、わたしはゾッとした。

普段、動く人形であるわたしを初めて見た人間はたいてい怪訝な表情や珍しい物を見るような好奇心を含んだ表情をする。

だけどこの男は、私のことを値踏みするような、そしてわたしを通して何か嫌なものを見るような表情をしている。

何故だがわからないけど、その表情がわたしを怯えさせた。

そしてペローナと呼ばれた可愛い女の子から、ヒョイっとわたしを取り上げた。

 

モリア「手配書を見てまさかと思ったが…。だがまあ折角だ。ちょっと試してみるとするか。」

ウタ「ギィィー!!」

 

モリアがわたしをつまみ上げ、何かをしようとした、その時。

 

ルフィ「ウタを…、仲間をはなしやがれェ!!」

ペローナ「な…!?こいつ!?」

 

ネガティブになっていたはずのルフィが立ち上がり、唯一自由になる頭をを伸ばしてモリアに頭突きを放とうとした。

だけど…。

 

ドォン!!ドォンドォン!!!

 

突然ルフィが爆発した!?いや、ルフィがバズーカーか何かで撃たれたみたいに爆発して吹っ飛んだ!

 

アブサロム「油断するなペローナ!相手は曲がりなりにも3億の男だ!」

 

ライオンの顔をした男が何故か手をルフィの方に向けている。あいつが何かしたの!?

ボロボロになったルフィは改めてゾンビ達に念入りに拘束されてしまった。

 

ウタ「ギィ!ギィ!!」

モリア「キシシシシ!どうやら随分大切に扱われているようだな。さて、改めてこの“玩具”の影を頂くとするか。」

ルフィ「ウ…タ……」

 

ゲッコー・モリアがハサミみたいな形状の奇妙な剣を構える。

そして地面に落ちたわたしの影を掴んで…。

 

ウタ「ギィィ!!」

ルフィ「ウターーー!」

 

ルフィが叫ぶのが聞こえる。ごめん、ルフィ。わたし…。

 

ジョキン!!

 

影を斬られたわたしは、10年振りに意識を失った……。

 

 

 

 

 

 

 

『静まれ!!“玩具”の影よ!!』

 

声が聞こえる。…誰?

 

『おれがお前の新しい主人だ!!』

 

主人…?そっか。わたしは“影”だけど、元の体から切り離されたのか…?

 

『今からお前がゾンビとして生きるための声と肉体を与える』

 

肉体。…それに声?でも“わたし”は声なんて…?

 

『過去の一切の人間関係を忘れ去り、俺に服従する兵士となれ!!』

 

忘れる…?嫌だ!もう忘れるのも、忘れられるのもコリゴリだよ。でも命令には…逆らえな…い……。

 

 

 

 

 

 

動物ゾンビ「おい新入り、早くしろ!ペローナ様を守りに行くぞ!」

??「……(コクリ)」

 

わたしは動物ゾンビ177番。御主人様、王下七武海ゲッコー・モリア様の忠実な部下で、3怪人の一人、“ゴーストプリンセス”ペローナ様の指揮下にある。

 

わたし達動物ゾンビは個別の名前はない。ペローナ様に気に入られれば気紛れに名前をつけてもらえるらしいけど、大抵は番号で呼ばれるだけだ。だからわたしも名前はな…。

 

 

???「ウターーー!!!!!」

 

……?遠くから声が聞こえる。

 

???「待ってろよ!お前の影も絶対取り返してやるからな!!ウターーー!!!」

 

 

………。何故だろう。過去の記憶は忘れたはずなのに、過去の光景が思い浮かぶ。

 

 

 

これはとてもとても大事な記憶。たとえ“わたし”が壊れて朽ち果てても、決して忘れてはいけない“わたし”の原点。

 

 

 

『歌が好きなのか?じゃあお前の名前は“ウタ”だ!よろしくな!ウタ!』

 

 

 

太陽のような眩しい笑顔。“わたし”が覚えている最古の記憶。

 

そうだ。なんで忘れていたんだ!

 

 

 

“わたし”は…、わたしの名前は……、“ウタ”!!

 

 

 

TO BE CONTINUE




スリラーバーク編は基本ウタ(ゾンビ)視点で進行していく予定です。
ウタゾンビの見た目は、FILM REDでロミィちゃんがウタから貰ったぬいぐるみのゾンビアレンジでイメージしています。

あと、ウタゾンビが名前を思い出せたのはカゲカケとホビホビの能力が干渉しあってバグっているから、と想定しています。


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2話 影を奪われた“玩具”

先日、春風駘蕩様から素晴らしい挿絵を頂きました。
目次とドレスローザ編10話に掲載していますので是非ご覧下さい。

今回はウソップ視点から。


 

ルフィの影が入れられて復活したとんでもなくデカい巨人のゾンビに驚き、隠れていたクマシーと呼ばれる中身の空っぽなぬいぐるみのゾンビから転がりだしてしまった俺とナミ、チョッパーの三人は必死に逃げ回った。何とか追手を引き離して逃げ切れると思ったとき、突然俺とチョッパーは“何か”の砲撃でふっとばされ、ナミはアブサロムと名乗った顔面がライオンの男に連れ去られてしまった!

 

そして俺たちを捕まえるために現れたゾンビ達に捕まりそうになったとき、突然俺達を抑え込んでいたゾンビ達が苦しみだし、口から黒い魂のようなものを吐き出して動かなくなった!

 

フランキー「アウ!!アウ!!!

…おれの弟分達から手ェ離せやコラァ!!!」

 

チョッパー「ア”ニギ〜〜〜!!!」

ウソップ「ロビ〜〜〜ン!!!」

 

 

助けに来てくれたロビンとフランキーと一緒に、サニー号の停泊している場所まで駆け戻った俺達は、二人にルフィとウタの影が奪われてしまったこと。ルフィの影がデカい巨人、あいつらが“オーズ”と呼んでいる怪物に入れられたことを説明した。

 

とにかくまずはサニー号に戻り、先に船に運び込まれたであろううちの一味の主力達を叩き起すことになったんだが…。

 

ウソップ「美女の剣豪が肉持ってやってきたぞ!!!」

サンジ「美女!!?」

ルフィ「肉!!?」

ゾロ「剣豪ォ!!?」

 

チョッパー「ダメだコイツら!!」

 

ダイニングで見事にデコレートされていたダメな三人をどうにか叩き起こしたはいいが、大きな問題が一つ残っている。

 

ルフィ「ウター!!起きろーー!!!」

 

どんなに呼びかけてもウタが、うちの一味のマスコットが目を覚まさないのだ。

 

フランキー「アウ!まさかとは思うが、壊れちまったのか…?」

ウソップ「おい!フランキー!…ふざけたこと言ってんじゃねェ!」

 

ロビン「…ねえ、そもそもなんだけど。みんなウタが眠っているところを見たことある?」

一味全員「「「「「「……?」」」」」」

 

フランキーの不謹慎な発言にツッコミを入れた後、ロビンの疑問に全員が首を傾げた。

 

ゾロ「そういやあいつ、夜の見張りの時はいつも寝ずの番の奴に飲み物差し入れてたな。」

ウソップ「洗濯されて乾かすのに吊り下げられてるときも、別に寝てはいなさそうだったな。」

サンジ「メリー号の頃からウタちゃんには夜に冷蔵庫の門番を任せてたが、今までつまみ食い犯を見逃したことはなかったな。」

チョッパー「たまに甲板とか芝生で横になってるけど、声をかけたら反応があったし、昼寝とかしてる感じじゃなかったぞ?」

フランキー「…おれはまだ付き合いは短いが、たしかにあいつが眠ってることなんざ見たことねェな。」

 

ルフィ「…ウタの奴、昔から眠くならねェみたいでよく夜中はマキノに貰った本を引っ張り出して読んでたな。」

 

一番長い付き合いのルフィも含めて、誰もウタが眠っているところを見たことが無かった。

 

ロビン「私も、ウタが眠ってるところは見たことないわ。そもそも、人形の彼女は睡眠が必要ないのかもしれない…と、思っていたのだけど。」

ウソップ「でもよ、現にウタは全然目覚めねェじゃねーか!

どうしちまったってんだよ!?」

ロビン「影を奪われると、奪われた人間は気絶する。

ウタの場合は、本来眠らないはずなのに無理やり眠らされた訳でしょう?…そのせいで人間とは少し違う結果になってるんじゃないかしら?」

 

……?どういうことだ?

おれ以外の一味の皆も首をかしげる。

 

ロビン「いくつか仮説があるわ。一つは単に他の皆と比べても眠りが深くてなかなか起きないだけ。暫く待てば自然と目覚めるかもしれない。」

フランキー「だがよォ、こんだけ騒がしくして麦わらが大声で呼びかけてるのに起きねェのは、不自然じゃねェか?」

 

そうだ。いつものウタならルフィが呼びかければ嬉しそうに飛び跳ねて行くはずだ!

 

ロビン「そうね。だからもう一つ仮説があるの。影はわたし達にとってもう一つの魂。それが無理やり引き剥がされたせいで気絶する。もしかしたらウタは、影が戻らないと目を覚まさないかもしれないわ。」

サンジ「おいおいロビンちゃん。いくらなんでもそんな…」

ロビン「わたし達はウタが何故動いているのか、ほとんど知らないのよ?そのウタが動かなくなった。そしてその原因が影を奪われたから。

人形のウタにとって、魂の一部を奪われただけでも、人間のわたし達に比べて負担が大きいのかもしれないわ。

だから、とにかく影を取り戻すのがウタを目覚めさせる一番の近道だと思うのだけど、どうかしら?」

 

ロビンがウタの状況を丁寧に説明してくれてようやく理解できてきた。確かにおれ達はウタがなんで動いてるかも知らないんだ。

 

だったらここであーだこーだ議論するより、まずは盗られた影を取り返してやるのが一番の近道か。

 

ルフィ「なァロビン、影を取り返したらよ。

ちゃんとウタの奴、起きてくれるかな?」

ロビン「…分からないわ。これもあくまで仮説だもの。

ただ、可能性は高いと思ってるわ。」

ルフィ「……よし!わかった!!」

 

一瞬、辛そうに顔を顰めたルフィがウタを抱えたまま立ち上がる。

 

ルフィ「行くぞ野郎共っ!!!スリラーバークを吹っ飛ばして!おれ達の“影”と“ナミ”と“めし”を取り返すぞ!!!!」

一味「「「「「「おう!!!」」」」」」

 

…今何か意外な物がランクインした気がするけど、とにかくうちの船長もエンジンがかかってきたみたいだ。

怖いけど、仲間を救うためだ。気合入れねェとな!!

 

…ウタ。W7でお前に酷いこと言っちまったけどよ、お前も俺たちの大切な仲間なんだ。だから、こんなところでお別れなんて嫌だぜ?

 

だからお前やルフィ達の影も、攫われたナミも、絶対取り戻してやるからな!

 

その後、全員で状況を再確認してあの骸骨、ブルックの事情についても知った俺たちはより一層気合を入れ、スリラーバークへ乗り込んだ!

 

 

ルフィ「ウターーー!!!!!」

 

ルフィがサニー号に、いやサニー号の船室の中に置いてきたウタに大声で呼びかける。

 

ルフィ「待ってろよ!お前の影も絶対取り返してやるからな!!ウターーー!!!」

 

TO BE CONTINUE




長くなりそうなのでここで一区切り。
ウタが目を覚まさない理由に理屈をつけるのに苦労しました…。
完全に独自設定なので設定の粗への突っ込みはお手柔らかにお願いします…。


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3話 ゾンビウタの冒険

色々脇道に逸れましたが、スリラーバーク編もちゃんと書いてます。

あと某掲示板の限界ウタ概念がかなり刺さったので、ちょっとその概念も話に取り入れようと思います。


ーーースリラーバーク ーーー

 

私の名前は“ウタ”。正確には本体の影だけど、わたしにとってもこの名前は特別だから今のわたしは“ウタ”だ。

 

名前と記憶を思い出したわたしは、他の動物ゾンビ達からこっそり離れて、周りの状況を探るために耳を澄ませる。

 

もともと人形だった本体の“わたし”はとても耳が良かった。

まあ、そもそも人形に耳なんて無いんだけど、聴覚はあったからそこは深く考えないようにしよう。

頑張ればかなり遠くでも、一味の仲間の心音を聞き取ることもできた。

 

しかも今のこのゾンビの体はなかなか高性能みたいで、人形の時より更に耳が良いみたい。この屋敷とメインマストを繋ぐ庭からでも、集中すれば一味の皆が何を話しているのか何となく聞き取れた。

 

ウタゾンビ「声も出せる。匂いも感じるし、お腹は減らないけどご飯も食べれる…」

 

10年間、人形の体で過ごした本体の“わたし”がどれほど願っても手に入れられなかった物を、影の“わたし”がこんな風に手に入れてしまったことに戸惑うし、申し訳無くも思う。

 

ウタゾンビ「せっかく話せるんだし、一味の皆に、ルフィに会いたいけど…」

 

今のわたしはいつもの人形ボディじゃない。見た目はウサギみたいなゾンビなんだ。たとえ話せたとしてもわたしがウタだなんて信じてもらえない。

 

 

 

ウタゾンビ「……嫌なこと思い出しちゃったな」

 

 

わたしの一番古い記憶。本体の“わたし”が麦わら帽子を被った赤い髪の海賊に必死にしがみつき、しかし無下に振り払われた記憶が蘇った。

 

???『なんだお前は、動く人形か?』

 

まるで知らない“モノ”を見るかのような訝しげな眼。

 

???『悪いな、俺達は海賊だからお前を連れて行ってやれないぞ。

“娘”でもいればプレゼントしてやったんだが、生憎うちはむさ苦しい男所帯なんだ。』

 

諭すように本体の“わたし”に語りかけ、わたしを振り払う“お父さん”だった人…。

 

……そこから“わたし”の記憶は曖昧だ。

どうやったかはっきり覚えていないけど、本体の“わたし”は彼の船に忍び込んでフーシャ村まで、ルフィのもとまで辿り着き、ルフィに“ウタ”と名付けて貰えた。

 

影の“わたし”には、本体が人形だった時の記憶しかない。でも、本体の“わたし”が本当は人形じゃないことはわかっている。

 

???『待って!!やだよォ!!置いてかないでよ!!!

ベックマン!! ルウ!! ホンゴウさん!!

なんで!!? なんで誰もわたしを覚えてないの!!?

わたしを置いてかないでよォ!!!

シャンクスーーー!!!!』

 

誰にも聞こえなかった本体の“わたし”の心の声。

彼らは人形になる前の“わたし”にとっての家族だったのだろう。その彼らが何故“わたし”を忘れたのか、そもそも何故“わたし”が人形になったのかはわからない。

 

でもこの記憶は“わたし”にとって最悪のトラウマだ。

 

 

…もう大切な誰かに忘れられるのは、あんな知らない“モノ”を見る目で見られるのは嫌だ。

 

ウタゾンビ「塩を食べれば、影(わたし)は本体のところに帰れるんだね…」

 

聞こえてきた会話から、ゾンビの弱点が塩で、これを口にすればソンビに入れられた影は元の持ち主のところへ戻るみたいだ。

本当なら今すぐ元の体に戻ったほうがいいのかもしれないけど。

 

ウタゾンビ「非力な人形じゃあ無理だったけど、今のわたしなら、皆の助けになれるかな…」

 

ルフィ達も本体の“わたし”と同じように影を奪われた。それに幽霊船で出会ったあの面白おかしい骸骨さんが、自分の影を取り戻すために戦っている。

それにナミが攫われて、何故かあのライオン顔の男と結婚させられそうになっている!!

 

ウタゾンビ「…ごめんね本体の“わたし”!

早く帰ってあげたいけどちょっとだけ、皆の手助けをさせて!」

 

…これは言い訳なのかもしれない。

本体から離れて、本体が出来ない事を、本体が10年間望んでも得られたかった事が出来ると時間を手放したくないわたしの醜いワガママなのかもしれない。

 

だけど…!

 

たとえ仲間に気付いてもらえなくてもいい。それでも本体の“わたし”を、役に立たない人形を仲間だと呼んでくれた大切な人たちの力になる為に、今わたしに出来ることをやらないと!

 

決意を抱いて、わたしは駆け出した!!

 

 

 

TO BE CONTINUE

 

 





補足説明:
原作には“影は生まれたときから本体に従うもう一つの魂”という説明がありました。そこから考えると、ホビホビの実の能力で玩具にされたウタにとって、人間だった頃の影と玩具になった後の影は別の存在なのではと作者は考察した次第です。
ですのでゾンビウタに入っている影は、玩具になる前の記憶は無く、はっきりと覚えているのはルフィに名付けられてからで、その前の記憶は曖昧です。


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4話 頼れる仲間達

寄り道したりR-18な番外編を執筆したりしましたが続きもちゃんと書いてます


ーーースリラーバーク 結婚式場ーーー

 

 

牧師ゾンビ「新郎アブサロム、健やかなるときも病める時も、新婦ナミを永遠に愛する事を誓いますか?」

アブサロム「ああ!! 誓おう!!」

牧師ゾンビ「では新婦ナミは、新郎アブサロムを永遠に愛する事を誓いますか?」

助手ゾンビ「はい、腐れ誓います(裏声)、アブ様大好き♡」

 

スリラーバークの結婚式場で、とんでもない茶番劇が行われているのをわたし、ウタ(in動物ゾンビ)は物陰に隠れながら見ていることしか出来ない。

式場にはルフィ達でも苦戦する将軍ゾンビ達が参列者として集合していて、わたしなんかでは手も足も出そうにない。

 

牧師ゾンビ「では誓いの口づけを…」

将軍ゾンビ達「「「ウオオ〜〜〜!!」」」

 

 

ま、まずいまずい!!

あんな変な顔の男なんかにナミの唇を奪われるなんて、神様が許してもわたしも一味の皆も、それにココヤシ村の皆も絶対に許さーん!!

こうなったら一か八か突入して…。

 

 

わたしが覚悟を決めて結婚式場に突入しようとした時、突然地面がグラグラと大きく揺れ始めた!

 

兵士ゾンビ「うわーっ!!」

将軍ゾンビ「わ~っ!!」

アブサロム「ちゅぱ(ハズレ) ちゅぱ(ハズレ)

―ってオォイ!! ちょっと待てェ!! 何なんだこの揺れは!!!

誓いのキスもできやしねェっ!!!」

 

揺れのせいでナミへキス出来なかったアブサロムが叫ぶ。ざまァみろ!

 

それはともかく、この揺れ、ルフィの影が入ったゾンビが勝手に舵を操作したせいみたい。ナイス、流石はルフィの影!

 

アブサロム「将軍ゾンビ!! 今すぐ全員出撃せよ!!!

オーズを止めろォ〜〜〜!!!」

 

アブサロムの命令に従って、会場にいた厄介な将軍ゾンビ達がルフィの影の入った巨人のゾンビ、オーズを討伐するために全員出撃した。

 

今こそナミを助けるチャンスだ。でも見た目は変だけど間違いなく強いアブサロムはまだ結婚式場に残ってる。どうすれば…。

 

 

サンジ「んん〜ナミさァ〜〜ん!!! 嫁にはやらんぜ〜〜〜!!!」

ウタ「…!!」

 

遠いけどこの声は、サンジ君!

そうだ、わたしにはとっても頼れる仲間がいるんだ。だったら…。

 

ウタ「コホン、ま~マ~マ~」

 

軽く声を整える。幸いわたしの声はちょっと低いけど女の子の声だ。…本体の“わたし”の声を影のわたしは知らないけど、きっとこんな声なのかな。

ともかく、声の調子を整え可能な限りナミに近い音程に合わせる。

 

 

 

距離があるけど、サンジ君なら絶対に気付いてくれる!

 

 

ウタ「サンジ君〜!! 助けて〜〜!!!」

 

 

アブサロム「!? 誰だ!!?」

 

 

突然響いた叫び声に、アブサロムが怪訝な表情で周囲を見渡す。

わたしは小さな体を活かしてすぐに物陰に隠れたから気づかれてはいないだろう。それにすぐにあいつはわたしを探す余裕なんてなくなる。だって…。

 

サンジ「んナ〜〜〜ミさァ〜〜〜〜ん!!! 貴方の騎士(ナイト)が助けに来たよ〜〜〜!!!」

 

 

とっても強い頼れるコックさんが来てくれたからね!

 

 

サンジ君が来てくれたからナミはもう大丈夫。戦いを見届けたいけど、さっきからウソップの悲鳴が遠くから聞こえてくるから、早く助けに行ってあげないと…。

 

TO BE CONTINUE

 




ちょっと短いですが今回はここまで。
次回はペローナvsウソップ&ウタの予定です。


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5話 仲間だから

色々寄り道してますが、こっちもちゃんと書いてます。


ーーーマストの屋敷内 ペローナの部屋近傍ーーー

 

ウソップ「助けてくれェ〜〜〜!!!」

 

俺は勇敢なる海の戦士ウソップ。

俺の仲間たちの影を奪った王下七武海ゲッコー・モリアから影を取り戻すために奴の屋敷に乗り込んだ俺は、奴らの幹部の一人“ゴースト・プリンセス”ペローナに決闘を挑んだ!

たか卑怯なことに、あの女は神聖な決闘に援軍を呼んだんだ!

 

クマシー「ま〜て〜

ウソップ「畜生ォ! あいつさえなんとかなりゃあのホロホロ女になら勝てるってのに!!」

 

あのぬいぐるみみないなゾンビ、背中のチャックも開けられないくせに結構俊敏だ、このウソップ様のダッシュでも引離せねェ!

 

クマシー「ペローナ様に…! 手を出すなー!!

ウソップ「ギャー!!!」

 

しかもあのクマ、やっぱりゾンビだけあって腕力もヤベェ。

ウタに比べてブサイクなヌイグルミの分際で俺様の邪魔しやがって…、こうなったら!

 

ウソップ「必殺!!火炎玉!!!」

クマシー「うおおおお〜〜!!

 

んなっはっはっは!炎にビビって逃げていきやがった!

このキャプテン・ウソップ様にかかれば火に弱いゾンビなんざこんなもんだ。

 

だが、俺の快進撃もここまでだった…。

 

 

 

 

ペローナ「“ゴースト・ラップ”」

 

ドパパパパパパァン!!!

 

ウソップ「ゲファ…」

 

追いついたゴースト娘は何故だが空を飛び回り、巨大化するわ壁や天井、挙げ句にこっちの攻撃はすり抜けるわとやりたい放題してきやがった。しかも、こっちの攻撃が効かないならあっちの攻撃も効かねェとたかを括ってたら、小さなゴーストが爆発して俺をふっ飛ばしやがった…。

 

ボコォン

 

しかも最悪なタイミングで、あのクマのキグルミゾンビが追いついてきやがった…。無言で俺を殴り続けるあいつは、気の抜ける間抜けなヌイグルミではなく本物のクマみたいな迫力がありやがる…。

 

意識が遠のいていく…、ごめん皆。俺、調子に乗っちまったのかな…ウチのクルーが手も足も出ないあの女の能力に、俺だけが太刀打ち出来るって息巻いたのに…。

()()何も出来ないのか…。ゴメンな皆…、ゴメンなウタ…。

酷いこと言って傷つけちまったウタを助けられる機会だって息巻いたのに、結果がこのザマかよ…。

 

それでも抵抗しようと手を伸ばすが、武器が入ったバックがさっきの衝撃で吹っ飛ばされちまってる…。クソ…ここまで…かよォ。

 

殴られすぎてぼやける視界の先に…、吹っ飛ばされた俺のバックを漁る一体のゾンビが見えた…気がした……。

 

 

 

ーーーside ウターーー

 

ウソップの悲鳴を聞いて急いで駆けつけたわたしの目の前で、ウソップはクマのヌイグルミ、確かクマシーと呼ばれていたゾンビにボコボコに殴られていた。

まだ生きてるけどあのままじゃ殺されちゃう!!

 

私なんかじゃ役に立たないかもしれないけど、それでもウソップを、仲間を助けるために決死での覚悟で駆け寄ろうとしたわたしの目の前に、ウソップの、彼の武器が満載された鞄が衝撃で吹っ飛ばされてきた。

 

 

カラン…

 

その鞄から、一枚の仮面がこぼれ落ちてきた。

わたしはその仮面を手に取る。

 

ウタ「これ…そげキングの……」

 

その仮面はエニエス・ロビーで私達を助けてくれた心強い援軍…ウソップの友達だって言う狙撃の島のそげキングが、顔を隠すために着けていた仮面だ。

その仮面はまるで、無謀に突撃しようとする私を諌めるように、私の目の前に現れた。

そして周りを見ると、他にもウソップの鞄からパチンコや、ウソップ特性の弾薬が散らばっている。

そっか…、ありがとうそげキング!

 

わたしはそげキングの仮面をかぶり、ウソップのパチンコに()()を装填し構える。

 

ウタ「必殺!!“塩星(ソルトスター)”!!!」

 

わたしの撃った弾は、ウソップが必死の抵抗で剥がしたクマシーのマスク!その下にある口の中へ狙い違わず吸い込まれていった。

 

クマシー「おおお〜〜〜

ペローナ「クマシー!!?」

 

クマシーの体から影が抜けていく。それに驚いたペローナちゃん、かわいい服を着た何故か浮いてる女の子がこちらを睨みつけてきた。

 

ペローナ「お前! ゾンビなのになんで麦わらの一味の味方を!?」

 

そんな彼女に、わたしは胸を張って告げる!

 

ウタ「ゾンビ…? わたしの名前はそげクイーン、狙撃の島から麦わらの一味を助けるためにやってきた、ヒーローだよ!」

ペローナ「嘘つけェ!!!?」

 

ふっふっふ、これならウソップ達に怪しまれないで済むね!

なんだかペローナちゃんには疑われてるけど、流石は動物ゾンビの指揮官だけあって、勘がいいのかな?

 

それに、まずはウソップを回収しないとね。

 

わたしは鞄から次の弾を取り出す。

 

そげクイーン「必殺“煙星”!!!」

 

煙幕を張って、どうにかウソップを担いでこの場から逃走した。

 

 

 

ーーーside ウソップーーー

 

クマシーとかいうキグルミゾンビに好き放題殴られ、気を失っていた俺が目を覚ますと、なぜかウサギみたいな見た目のゾンビが俺を手当していた。

 

ウソップ「うおお〜!? ぞ、ゾンビ!?」

???「…!? シー! 大声出したら気づかれちゃうよ!」

 

そのゾンビは、何故かそげキングの仮面を着けていて、テキパキと俺の傷に応急処置を施していった。

 

???「できた! チョッパーに応急処置を習っておいて良かった

 

その人形は、俺の顔に包帯を巻き終わると満足そうに胸を張った。ボソッと何か言ってたけど、聞き取れなかったぜ。

 

???「コホン、えーっとはじめまして! わたしは狙撃の島から来たそげクイーン! そげキングの代わりに助けに来たよ!」

ウソップ「…???」

 

何言ってるんだこのゾンビは?

狙撃の島もそげキングも、俺がとっさについた()なのに…。

 

俺の困惑を感じ取ったのか、そげクイーン(仮)も困ったように頭をかいた。 

 

そげクイーン(仮)「上手くいくと思ったんだけどなァ…と、とにかく君は休んでいたまえ()()()()()! わたしがなんとか時間を稼ぐから、任せてくれ!」

 

そう言ってそげクイーン(仮)は、俺の武器の入った鞄からパチンコや予備の塩星、それにいくつかの武器を取り出し、装備していく。

 

そげクイーン(仮)「悪いが武器は借りていく!」

ウソップ「いや待て待て待て! なんで()()()が俺を助ける! それに手当までしてくれて、お、俺を人質にしたって意味はねェからな!!?」

そげクイーン(仮)「…その怪我だとすぐには動けない。少しの間だけどわたしが、時間を稼ぐから…。だからウソップ…君は早く逃げてね。」

 

そげクイーン(仮)は俺の質問には答えず、俺に背を向けて去っていこうとする。その背中からは、今から決死の戦いに赴く覚悟と、とてつもなく深い悲しみが感じられた。

そうだ、あの姿…どこかで…。

 

 

 

ーーーside ウターーー

 

ペローナ「あのネガッぱなと裏切りゾンビ、どこ行きやがった!」

 

ペローナがわたしとウソップを探している。

なんとか煙幕で撒けたけど、このままだと見つかっちゃう…。

できればルフィがモリアを倒すまで隠れていたいけど、流石に無理そうだよね。でもウソップはボロボロだし、せめてウソップが逃げる時間くらいは稼がないと!

 

ウタ「わたしはここだよ!」

ペローナ「出やがったな裏切りゾンビ!」

 

隠れていた物陰から飛び出すと、ペローナが憤怒の形相でわたしに向かってくる。

 

ペローナ「ネガティブホロウ!」

 

ペローナがゴーストをわたしにけしかけてくる。あれを食らうとわたしもルフィみたいにネガティブになっちゃう!

 

ゾンビの身体能力を駆使してなんとか躱したわたしの足元に、小さな丸いゴーストが現れる。

 

ペローナ「ゴーストラップ」

 

パァン!

 

小さなゴーストが弾け、足元を崩されたわたしは着地に失敗して転んでしまう。

そして動きの止まったわたしの体を、ゴーストがすり抜けて行った。

 

ペローナ「ホロホロホロ、これで動けねえだろ!

そいつを捕まえろ、カバ紳士!」

 

ペローナの後ろから、剣と盾を持つカバのゾンビがのそのそとわたしを捕まえる為に近づいてくる。

 

カバ紳士「裏切り者め、ご主人様に突き出してやる!」

ペローナ「ホロホロホロ、モリア様ならお前を」()()()だろうよ」

 

地面に這いつくばったわたしにカバ紳士が手を伸ばし…。

 

咄嗟に飛び跳ねはわたしはカバ紳士の腕を躱して、その大きな口の中に、ウソップ特製の塩玉(ソルトボール)を放り込んだ!

 

カバ紳士「うおおお〜〜!!!」

ペローナ「カバ紳士ー!? こ、こいつも私のネガティブホロウが効かないのか!?」

 

ペローナが目を見開いて驚いている。そうだね、多分だけど無理矢理人をネガティブにする彼女の能力はわたしには効かない。

だって、わたしは…。

 

ウタ「死にたいなんて、自分が惨めだなんて、そんな()()()()()()()()()で今更動けなくなったりしないよ?」

 

だってそんな思い、10年前から今まで毎日毎晩思い続けてきたことだから。

それでも、こんなわたしを友達だと、仲間だと呼んでくれた人達がいるから、わたしは、膝をついてる暇なんて無いんだ!!

 

ペローナに向けてパチンコを構える。効かないかもしれないけど、それでも威嚇位にはなるかな。まだまだ、時間を稼がないと…。

 

ペローナ「お前があのネガっ鼻と同じなのは分かった。だったら、お前に効く攻撃をするだけだ。

“特ホロ”!!!」

 

冷たい目をしたペローナが、さっき爆発した小さなゴーストとは比べ物にならない大きさのゴーストをわたし目掛けて投げつける。

なんとか躱そうとするけど、大きすぎて避けきれず体をまるごと包まれてしまった!

 

ペローナ「あばよ裏切り者、さっさと新しいゾンビをモリア様に作ってもらわないとな」

 

そう言ってペローナはパチンと指を鳴らす。

そして爆発したゴーストはゾンビのわたしの体をバラバラに……

あれ?

 

衝撃が怖くて目を閉じてしまったわたしを、誰かが抱き上げてくれている。

 

???「“衝撃貝(インパクトダイヤル)”…」

 

その男の右手から微かに湯気が上がっている。本来ならわたしの体をバラバラにするはずだった()()は、その貝の中に吸収されたのだろう。

 

男が優しくわたしを下ろす。

そしてわたしを庇うように、敵の女幹部と対峙する。体は血まみれでボロボロ、体は恐怖で震えてるけど、その大きな背中は、勇敢な海の戦士そのものだった。

 

ウタ「ウソップ…」

ウソップ「悪いな()()、ちょっと遅れちまったか?」

 

そうしてウソップはいつものように剽軽に、わたしの名前を呼んでくれた。

 

ウタ「なんで…わたし、見た目も違うし、声だって…」

 

呆然とするわたしの声を背に、ウソップが堂々と胸を張る!

 

ウソップ「仲間だからだ!!!」

 

わたしの目から涙が溢れる。10年間流せなかった涙が、ゾンビの偽りの体から溢れ出し、わたしの頬を濡らしていた。

 

 

この先は語るべくもないだろう。

 

敵の能力を見破ったウソップが、いつもみたいに格好良く敵幹部を粉砕しただけだから。

 

 

 

でもこの島での戦いはまだまだ終わってない。

ルフィの影の入ったスペシャルゾンビ“オーズ”と、七武海ゲッコー・モリアをなんとかしないと!!

 

 

 

TO BE CONTINUE

 

 




決着は端折りましたが、正直やることは原作と変わりないので温かい目で見てください。


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6話 ウタの決意

今日でFILM REDは終演ですが、この作品はもうちょっとだけ続きます。


 

ーーースリラーバーグ ペローナの部屋近傍ーーー

side ウタ

 

ペローナを撃破したわたしとウソップは、他の仲間と合流するために廊下を駈けていたんだけど…。

 

ウソウタ「「助けて〜!!!」」

 

突然の地響きと共に、屋敷を破壊しながらこっちに向かって突き進んでくる巨大な怪物オーズから、私とウソップは逃げ惑っていた。

 

ウソップ「お、おいあれルフィの影が入ってる巨人じゃねーか!?」

ウタ「さ、さっきまで自由に舵いじったりしてたのになんで〜!?」

 

さっきまではモリアの命令なんて無視して勝手に出歩いてたけど、あの動きは明らかに私達を探している。

 

 

 

ウソップ「や、やべェぞ!?」

ウタ「どうしたの!?」

 

どうにか逃げきって一息ついた私達は、双眼鏡でオーズを観察していたんだけど、ウソップが何かを見つけたのか慌てて叫ぶ。

 

ウソップ「お、オーズの腕に…俺たちの手配書が貼ってある!

あいつの狙いは完全におれ達だ!!!」

ウタ「そんな!!」

 

わたしとウソップが絶望的な事態にアタフタしていると、遠くから聞き慣れた声が聞こえてきて、私の体が地面から生えた()に拘束された!

 

チョッパー「ウソップ!! そこから離れて!!」

ウソップ「チョッパー!! ロビン!!?

待て待て待て、落ち着け!!」

ロビン「ウソップ、貴方の後にゾンビがいるわ!!

早くそこから離れて!!」

 

チョッパーとロビンがわたし達に向かって駆け寄ってくる。きっと拘束した私に塩を食べさせるつもりなんだろう。

…仕方ないよね、わたしは皆の仲間の“ウタ”じゃない。わたしはあの子の“影”で、今は自由に動けてるけどきっともう少ししたらルフィのゾンビみたいにモリアの命令に従うようになっちゃうから。

わたしは抵抗せず、口に放り込まれるウソップ特製の“塩星(ソルトスター)”を受け入れようとする。

 

なのに、ウソップはロビンが能力で生やした手からわたしを引き剥がし、わたしを庇うようにロビン達と対峙する。

 

チョッパー「ウソップ!? いったいどうしたんだよ!」

ウソップ「二人共、待ってくれ!! こいつはウタだ!

おれ達の仲間だ!!!

 

チョッパー「な、なに言ってるんだ! おれ達はルフィ達とウタの影を取り返しに…!」

ロビン「…!? 待ってチョッパー。

ウソップ、その子…ウタの影が入れられたゾンビなのね?

そして他のゾンビと違って、記憶も自我も縛られていないということかしら?」

 

ウソップが力強く頷く。

わたしはわたしを庇って立つウソップの陰から恐る恐る顔を出す。

ロビンもチョッパーもまだ警戒を解かず、身構えながらわたしを見つめている。まるで()()()()()の相手を見るかのように。

当たり前だ。わたしの体は動物ゾンビで、いつも皆と一緒だった人形の体じゃない。

 

 

???『なんだこいつ、動く人形か?』

 

 

不意に10年前の記憶が蘇る。あれは“人形の影”であるわたしが生まれた日だ。必死にしがみつく本体のわたしを引き剥がして、今のロビン達と同じようにわたしを()()()見るかのように見つめる、麦わら帽子をかぶった赤髪の海賊。

ギィギィと、言葉にならない壊れたオルゴールの音色を響かせる本体のわたしを鬱陶しそうに払い除け、それでもついてきた本体のわたしをフーシャ村まで連れていってくれた()()()()だった人…。

 

 

 

気がついたら、わたしの目から涙が溢れていた。

 

ウタ「チョッパー…ロビン…わたし……わたしは……」

 

震える声でか細く仲間の名前を呼ぶ。

伸ばそうとした手は、途中で力なく垂れてしまう。名前を告げたくても、否定されて…拒絶されるのが怖くて声が震えて言葉が続かない。

 

そんなわたしを、ウソップが優しく抱き上げてくれる。

 

ウソップ「信じられないかもしれねえ、姿も変わってるかもしれねえ。でもこいつはウタだ!

こいつは、こんな姿になってもおれ達を助けに来てくれたんだ!!

だから、おれを…ウタを…信じてくれ!!」

ウタ「……」

 

震えながら、それでもわたしを信じてくれるウソップの姿にわたしは涙を流す。

そんなわたし達に、ロビンが近づいてくる。

そしてウソップからわたしを受け取り、わたしをギュッと抱きしめてくれた。

 

チョッパー「ろ…ロビン!?」

ロビン「ごめんなさい、ウタちゃん。怖い思いをさせてしまったわね」

ウタ「ロビン…?」

ロビン「わたしも信じるわ、貴女のこと」

ウタ「あ"りがどう…ロビン……」

 

泣きじゃくるわたしを、ロビンは優しく抱きしめてくれた。

 

 

ーーーーーーーー

 

ーーーーー

 

 

チョッパー「え〜〜!! ルフィのゾンビの腕に手配書!?」

ロビン「どうやら暴れすぎたみたいね。

ルフィの影さえあれば私達の影はいらないというところかしら?」

 

ひとまず落ち着いたわたし達は情報共有をしたんだけど、事態は深刻だ。

 

ウソップ「ウタ、ナミはサンジが助けたんだよな?」

ウタ「う、うん。危うく誓いのキスされそうになったけどサンジ君が間に合ってくれたから、もうあの変なライオン顔をボコボコに…」

ウソップ「ウタ…あれを見ろ…」

 

 

ウソップの視線の先、わたし達のいる巨大な渡り廊下の庭の下、メインマストとホグバックの屋敷の間で巨大なルフィのゾンビ、オーズと一人で対峙しているサンジ君がいた。

 

ロビン「ナミは…一緒じゃないみたいね」

ウタ「そ…そんなァ」

 

サンジ君があんな変な顔の男に負けるはずが無いけど、何か事情があってナミを再び攫われたみたいだ。

 

 

サンジ「そこを退きやがれ!! 首肉(コリエ)フリッ…」

オーズ「ふんっ!!!」

 

サンジ君は自分をを叩き潰そうとするオーズの攻撃を躱して、オーズの首を蹴り上げて反撃しようとしたけど、オーズのカウンターの頭突きを食らってふっとばされる!!

オーズはその巨体から想像出来ないで程の敏捷性で、地面に叩きつけられて跳ね返ったサンジ君に追撃を加え今度は屋敷の壁まで殴り飛ばす。そして意識を失ったサンジ君をその巨大な手で掴む。

ま、まずい!!

 

ウタ「ウソップ!!」

ウソップ「任せろ! “火の鳥星”」

 

ウソップの攻撃で髪に火がついたオーズは、しかし他のゾンビとは異なり冷静に頭を振って火を消す。そして右手に持ったサンジを地面に投げ捨てるとわたし達の方へと向かってくる。

 

チョッパー「こっち来たァ!!!」

 

ズンズンとこちら目掛けてオーズが進軍してくる。まずい、このままだと逃げ切れない!!

 

ドドドドドドド

 

その時、オーズを狙って屋敷の屋根の上から砲撃が放たれた。

あれはフランキーと、ゾロ!!

 

喜んだのも束の間。砲撃を躱したオーズは、大ジャンプしてゾロたちのいる塔を飛び蹴りで破壊した。

反撃したゾロは斬撃を躱された上に空中へと蹴り上げられ、フランキーとブルックもオーズに尖塔の瓦礫を叩きつけられKOされてしまった。

 

ロビン「“百花繚乱(シエルフルール)”“蜘蛛の華(スパイダーネット)”」

ウタ「ナイスロビン! で、でもオーズが…!!」

 

ロビンが能力で落下してくるゾロをキャッチしたのはいいけど、目立つ動きをしたわたし達を、オーズがギロリの睨む。

 

ウソップ「ちっくしょう…これでもくらいやがれ!!

必殺“塩星(ソルトスター)”」

オーズ「…?」

 

ウソップがオーズの口に塩星を撃ち込むけど、微量過ぎて効果がない!!

 

ウタ「ロビン!!」

ロビン「…!?」

 

わたしは咄嗟にロビンを庇ってその場から突き飛ばす。

 

 

バゴォォン!!

 

ウタ・ウソ・チョ「「ぐああああああ」」

 

オーズがわたし達に巨大だ瓦礫を叩きつけ、わたし達は立っていた渡り廊下ごと地面に叩きつけられた…。

 

わたしもウソップもチョッパーも、そして他の皆もボロボロで立ち上がることも出来ない。

 

ウタ「ル…ルフィ……」

 

オーズ「おめェらなんか知らねェぞ。

おれはモリア様の部下、オーズだ!!!」

 

ルフィのゾンビの言動に、また涙が溢れる。

あいつは、あのゾンビの中に入っている“影”は、()()忘れてたしまったんだ。わたしのことを、そして仲間のことを、そして何よりも彼の夢を!!

 

ボロボロの体で悔し涙を流しながら、それでもわたしは心に誓った。

 

あんな奴に、人の思い出を踏みにじるような奴(ゲッコー・モリア)に、絶対に負けるもんか!!

 

 

オーズ「3人足りねェな……どこにいるんだ?」

 

オーズは倒れているわたし達に背を向けて、多分ルフィとナミを探しに去っていく。

 

わたしはボロボロの体で立ち上がり、瓦礫に埋まっていたウソップの道具箱を探し出す。

 

そしてその中から、ハンマーや衝撃貝(インパクトダイヤル)を取り出し装備する。

 

ウタ「よし!!これで…」

ゾロ「なに一人で行こうとしてやがる」

 

わたしが勇んで立ち去ったオーズを追いかけようとしたら、わたしの体がヒョイッと持ち上げられた。

わたしを持ち上げたゾロがわたしの顔を覗き込む。

 

ウタ「ゾ…ゾロ!?…ってあ、わ…わたしは敵じゃなくてその」

 

アワアワと自分が味方だとアピールしようとするけど!慌ててるから上手く言葉が出てこない。

そんなわたしを、ゾロはニヤリと笑ってる自分の肩を乗せる。

 

ウタ「!!?」

ゾロ「やる気があるのはいいが、()()を放って行くのは関心しねえぞ、()()

ウタ「…え、なんで」

ゾロ「それなりに長い付き合いだ、それくらいわかる」

 

ゾロはぶっきらぼうにそう言うと、わたしを肩に乗せたまま歩き出す。

 

何故だがまた、涙が溢れてきた…。

 

 

サンジ「てんめェクソマリモ!! なにウタちゃんを泣かせてやがる!!!」

ウタ「さ…サンジ君!」

サンジ「ウタちゃん、さっきはありがとな。お陰でナミさんがあのライオン野郎にキスされる前に助けられたぜ!!」

ゾロ「なんだ、疲れてるならお前は寝てていいぞぐるぐる眉毛」

サンジ「なんだとクソマリモ!!」

 

わたしを挟んで二人がまた喧嘩し始める。

…そっか、サンジ君はわたしの声真似に気づいてたのか。

なんだか嬉しくて、それでもやっぱり涙が止まらない。

 

フランキー「アウ、なんだかよくわかんねーがウタの影が入ったゾンビは味方でいいんだな?」

ロビン「ええ、勿論よ」

 

フランキーとロビンも立ち上がり、わたし達の後に続く。

 

ブルック「すいません…私…体が…」

ウソップ「おめェはしょうがねェよ」

チョッパー「応急処置はしたから、ちょっと休んでろよ」

 

一番重症で動けないブルックを安全なところまで運んだウソップとチョッパーも、少し遅れてわたし達に合流した。

 

もう、涙は引っ込んだ。

 

そしてわたし達は、改めてオーズと対峙する。

 

ゾロ「おいオーズ!!

てめェの中身がルフィの影なら…」

サンジ「てめェの仲間の底力……!!」

ウタ「見くびらないでよね……!!!」

 

 

 

 

TO BE CONTINUE




ギャグ回としてパイレーツドッキング回をする予定だったのに、気がついたらシリアスな話になってしまった…。

次回こそはパイレーツドッキングを書きます!!


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