変身せよ、強き自分へ 臆病者は変われるか? (カフェイン中毒)
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ニューヨーク・プロローグ

 「ハル、ライスボール2つくれ。カラアゲとヤキニクで」

 

 「なにトムさん、ダイエット中?ビールの飲み過ぎには気を付けてよ」

 

 「やかましい。ほれ3ドル」

 

 「まいど。んじゃこれおまけの梅干しね」

 

 「おいおい酸っぱいんだよそれ」

 

 「そういうもんなの」

 

 カラッと晴れた晴天のニューヨークの中、大きな大きな自己顕示欲に溢れてそうなビルの真下で俺はライスボール、すなわちおにぎりを売っている。なぜか、と言われれば2012年のアメリカと言えば日本食が話題になり始めたぐらいの年だから始めたらそれなりに売れるんじゃないかと思ったからだ。と言っても俺のフードトラックで売ってるのはおにぎりのみにあらず、日本特有の家庭料理を中心としたお手軽惣菜屋みたいなものだ。

 

 俺の名はハルト・ハヤカワ。この辺の忙しいニューヨーカーたちはみんなハルってあだ名してくれてる。年は今年で16才。高校には通ってない、というか通う金はない。両親も祖父もみんないない。学校に通うよりも自分の食い扶持を稼ぐので精一杯の立派な日系アメリカ人。今世では、とつくけど。

 

 そう、何と俺には前世の記憶があるのだっ!!!……まあこんなテンションをあげて報告することじゃないか。前世では完全に日本人、実家は定食屋、将来継ぐ予定だった。料理の専門学校の入学式の後に、倒れてきた大看板の下敷きになって以降の記憶はない。多分、そこで前の俺は死んだんだろう。

 

 つまり転生、正直サブカルには明るくないが定食屋でやってたテレビの流し見でそういうのが最近人気なんだってことは知ってた。あとサブカルで知ってることといえば日曜朝の特撮くらい、これも実家を手伝っていた時に流されてたのを見ただけ。だから、前の俺が生きた時代の10年前のアメリカに産まれて、何とか中学英語から英語を理解した。平和だったんだ、俺に持たされた余計な力というものを除けば。

 

 両親や祖父母は病死した。流行り病だった、俺が助かったのはなんてことない、感染が一番遅くて一番軽症だっただけ。もう過ぎたことだけど、俺という可愛げのなかった子供を貧乏なのに愛情深く育ててくれた両親と祖父母には感謝している。残してくれた少しの遺産と死亡保険で当面の生活のめどは立っていたが稼ぐ手段を求めた俺はアメリカ人相手に前世で培った日本食という武器で挑み、こうして細々と生きながらえている。本来本拠地はワシントンなんだけどニューヨークの方が売れ行きはいいのでここ最近は片道四時間かけてニューヨークで営業している。お昼のピークタイムが終われば帰る感じだ

 

 たれにつけた海老天を具にした天むすを握り終えてゴム手袋を外す。昼時のラッシュは終わった、俺はポケットからこの時代では珍しい滅茶苦茶にごついスマートフォンを取り出してインターネットに繋ぐ。これも持たされた力の副産物、どこのキャリアにもつなげてないのにネットにつながって電話ができる。似合わないほど高性能なスマートフォン。

 

 「スタークタワー、すごいな……」

 

 俺は慣れ親しんだスマホ用の表示ではなくPC用のレイアウトで表示されるネットニュースで割とホットなものを見つけてそうごちる。スタークタワー、巨大企業スタークインダストリーズの元CEOにして天才発明家、億万長者にプレイボーイという俺と対極の位置に存在するであろうスーパーマン、トニー・スタークが建造した超巨大なタワーだ。その完成を記者会見するというニュースを見て前にいた世界とは何もかもが違うんだな、と一抹の寂しさに襲われる。

 

 この世界じゃ一部の人間はスーパーパワーを持っている、なんて噂がある。というかさっきのトニー・スタークがまさにそうだ。鋼鉄のパワードスーツを身にまとうスーパーヒーロー「アイアンマン」自らが開発した鉄の鎧で悪をくじく、まるで特撮のような設定。ますます、己の持っている力が余計なものに思える。

 

 「明日、スタークタワーの近くでやってみようかな、店」

 

 スマホをしまって今度は運転席の助手席に無造作に置いてある黄色の蛍光色と黒で彩られたスタイリッシュな鞄のようなものを眺めながら、俺は日本食フードトラック「秘伝」、狭いながら俺の城の仕事に精を出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 「ハル、知ってるか?アイアンマンの噂」

 

 「さーね、この前までここら辺をビュンビュンしてたってのは知ってるよ」

 

 「ん、ああまあそれもなんだけどな。 ニュース見なかったか?ドイツの美術館近くでアイアンマンと共闘したヤツ……キャプテン・アメリカがいたって」

 

 「はー、キャプテン・アメリカねえ」

 

 翌日、俺はスタークタワー近くで店を出したにもかかわらずわざわざやってきたトムさんの世間話を俺は興味なさげに聞く。キャプテン・アメリカ、なんだっけ。戦時中に国債売ってた軍人の名前じゃなかったそれ?それが、アイアンマンと、共闘。しかもテレビでニュースとして放映されちゃいましたときた。詳細は規制されてるけど人の口に戸は立てられぬってことなんだろうなあ

 

 うわ、うさんくせー。けど、本当だとしたらきな臭いな。既にアイアンマン絡みで2回大事件が発生してるし、他にも明らかに超常現象としか思えない被害が出たりとか。ハルクとかいう緑色した大男が街を滅茶苦茶にしたっていう話もある。

 

 技術力はこの世界の方が前の世界よりも進んでいるが、治安については最悪の一言だろうな。一般市民としては今日のご飯と明日の睡眠が確保されてればいいんだけどね。

 

 俺がこの世界に産まれた時から物心ついた時にいつの間にかあった「力」使えば軍隊なんか目じゃない、腕を振るえば人が死ぬ、そんな力。1度だけ、1度だけ誰もいない山の中で使ったことがある。

 

 仮面を身に着けた俺は、大岩を簡単に砕き、大木をへし折ることが出来た。すごい、と思うと同時に恐怖した。俺が身に着けた力は俺の物じゃない、創作上の別の人物が持っていたものだ。俺は彼の軌跡の全てを偶然に手に入れてしまっただけの一般人。悪意を乗り越えて可能性を信じる彼のような精神を持っていない。

 

 その気になって振るえば人が死ぬ、そんな力は要らなかった。俺がいるアメリカが世界の警察なんて呼ばれているように大きい力にはそれ相応の責任ってやつが降ってくるんだ。俺はその責任を負うことが出来ない弱い人間だ。だから、力は使わない。けど、捨てることはできなかった。

 

 それはこの力が唯一前の世界の物だからだ。これを捨てた瞬間、前の世界との物理的なつながりがなくなる。それは前の世界の俺も捨てるような気がして捨て去る決断をついぞすることが出来なかった。

 

 それに、万が一これを捨てて誰かが拾ってそれが解析になんてかけられたらそれこそえらいことになる。本当に世界がひっくり返りかねない厄ネタの塊だ。服の内ポケットに入っている青と黄色のデータを保存するメモリのような板、そのレンズのような部分を上部分から軽く撫でて俺はトムさんの注文である豚丼をテイクアウト容器に入れて渡した。

 

 「あれ……?」

 

 かすかなジェット音がする。周りの人物が我先にと空に向かってデジカメを構えていた。俺もトラックから降りてみんなが指さす方向を見るとこっちに向かってくる金と赤の派手な鉄塊がふらふらと空を飛んでる所だった。

 

 「アイアンマン、まじか。直接見るの初めてだな……」

 

 ポロっと出た独り言。尊敬半分、羨ましさ半分のそれに自分で苦笑する。あんなに堂々と力を使って世界を守れることに対する尊敬。俺にはそれができないが故の羨ましさ、彼の豪胆さが少しでも俺にあれば、と思ったところで何かがおかしいことに気づいた。

 

 まず遅い、アイアンマンはもっと速いはずだ。さらには時々ジェットが消えてバランスを崩したりしてる。スーツが不調なのか?俺の疑問をよそにボッボッとジェットが消える音を響かせながらアイアンマンはスタークタワーの上に飛んでいった。

 

 いやな予感がする。俺は店を急いで畳んでいく。出発準備を整え始めたころにスタークタワーの上から轟音が響く。確信した、何かが起こる。周りもざわつき始めてパニックの兆候を見せ始めた。

 

 ダメだ、車は置いておこう。背に腹は代えられない。俺は助手席のバッグの中に今ある現金と貴重品を詰め込んで外に出る。どうせ来月には貯金で買い替えるつもりだったおんぼろ車だ、盗まれてもいい。

 

 車を降りた瞬間上層階から甲高い音がして何かが落ちてくる。ガラスと、人影。目を凝らしてみるとそれはトニー・スタークだった。ちょうど俺の真上からガラスを粉砕し落ちてきている。

 

 ヤバい、このままじゃ墜落して死んでしまうと思って内ポケットに手を突っ込んで黄色と黒の板,バッタの意匠が施されたものを取り出したところで正気に戻る。使わないと決めたものを咄嗟に使おうとした、自分の意志の弱さとそれ単体では使えないということを失念していた自分に一瞬止まってしまう。

 

 次の瞬間、またガラスを突き破って赤い何かが飛び出してくる。動けもせず真上に落ちてくるトニー・スタークを見上げるだけの俺をよそに赤い何かは空中で変形しトニー・スタークの体を覆ってスーツに変わってしまった。

 

 最後のマスクが下りる瞬間、トニー・スタークと目が合う。力強い覚悟を宿した目だった。彼の視線は俺と、俺の持っている板を射抜き、マスクが下りて俺の上ぎりぎりで止まり、そのままスタークタワーに戻っていってしまった。

 

 

 俺は右手に固く握りしめていた力の象徴をもう一度内ポケットに戻して駆けだす。責任から逃れるように、今から起こる何事かからも背を向けて。

 

 後ろから爆発音と甲高い音、ちらりと振り返るとスタークタワーの頂上から光の柱が昇り、空間に穴をあけていた。そしてその穴から見たこともない生物たちが見たこともない乗り物に乗ってわらわらと湧き出ていて、アイアンマンはそれにたった一人で立ち向かっていた。

 

 じくりと胸が痛む、戦う力はあるのに何もしない自分に嫌気がさす。けど足がすくむ、ビームが四方八方から飛び交う戦場に踵を返せない。臆病者はいつだって逃げることしかできない。よくわからない化け物たちは青いエネルギー弾をそこかしこに連射して街を壊し始めた。俺は手近な物陰に隠れて様子を見る。警察のパトカーがひっくり返り、悲鳴があちらこちらから響いてる。

 

 「なんだって……うわっ!?」

 

 物陰から顔を出した途端にエネルギー弾が飛んでくる。とっさに背を翻したが間に合わず、背中にまともにもらった。死んだ、と思ったが吹っ飛んで壁に叩きつけられたのが気つけになって意識が落ちることはなかった。俺の背中からずるりと落ちたのは黄色と黒のアタッシュケースのような何か、バッグは焼け焦げて見る影もないが、それだけは無傷で輝いていた。

 

 「は、はは……一文無しだ」

 

 こんな非常事態なのにこんなくだらないことを言ってしまう。迷ってる暇はない、俺はアタッシュケースをひっつかんでまた走り出す。命あっての物種、金は後から何とかすればいい。化け物たちは乗物から降りて地面に降り立ち人を襲い始めた。

 

 「やめろ~~!やめてくれ!」

 

 「トムさん!?」

 

 逃げる最中化け物の一人に追い詰められるトムさんを見つけた。エネルギー弾を打つ銃ではなく素手で殴ろうとしてるあたりいたぶる気満々だ。考えるより先に体が動いた、全力で走りトムさんに夢中で後ろを見ていない化け物の後頭部に向かって思いっきり振りかぶったアタッシュケースを角から叩きつける。

 

 エネルギー弾にも全く無傷の硬さがあるアタッシュケースは嫌な音と感触と共に化け物の後頭部にめり込んだ。脳震盪でも起こしたのか頭蓋骨がいってしまったのか分からないが倒れ込んだ化け物に一安心した俺はトムさんの安否を確認する。腰を抜かしてはいるが大丈夫そうだ。

 

 「トムさん!大丈夫ですか!?」

 

 「あ、ああ……ハルか……ありがとう、助かったよ。な、なあこれなんなんだ?映画の撮影か?」

 

 「……わかんないです。とにかく逃げましょうトムさん立てますか?」

 

 「大丈夫だ。俺は会社の社員に逃げるように言ってくるからハルは先に逃げろ。助けてもらって言うのもなんだがお前はまだ子供なんだ、いいか?とにかくパークアベニューまで行け!そしたら警察が非常線を張ってるはずだ!いいな!?」

 

 「あっトムさ……行っちゃった。パークアベニュー……」

 

 トムさんはそう言うと踵を返して近くの建物の中に入っていった。俺はトムさんに言われた通りにパークアベニューを目指すことにした。道中には悲鳴と血の匂いとそして、人だったものが転がっていた。我慢できずにそのまま胃の中の物を地面にぶちまけて、壊れたスタンドの売店から地面に転がっていたミネラルウォーターを走りながら拾って口をゆすいで水分補給した。頭がどうにかなりそうだ、まるで地獄、人が紙くずのように吹き飛ばされてその命を散らしていく。

 

 なんなんだ、なんなんだこれ。こんな簡単に人が死んでいいわけないだろう。こんな遊びみたいに日常が奪われていいわけないだろう。噛み締めた唇から血が漏れた。ボコボコにされた車、ガソリンに引火して爆発する音やにおいが鼻につく。あっちへこっちへ逃げ惑う人々。何してんだ俺は、逃げてばっかでいいのか?自分だけ良ければいいのか?

 

 自問自答を繰り返す中、大通手前の道でスクールバスが横転していた。ガンガンと天井から音がする当たり中にまだ子供たちがいる。回り込むとひび割れた前面のガラスを必死に叩く運転手の姿がある。運転手にジェスチャーで後ろに下がる様に伝えて俺はアタッシュケースを叩きつけた、が防弾フィルムか何かを張っているのかひびが入るだけで壊せない。それで逃げることが出来なかったのか。

 

 しょうがない、とアタッシュケースの別の部分に手をかけた瞬間運転手や中の子供たちが必死に呼びかけているのに気づいた。バッと後ろを振り向くとズチャ、ズチャ、と化け物、トカゲみてーなエイリアンが俺とバスのある道路に降り立っていたところだった。

 

 やばい、と思った瞬間にエネルギー弾の一斉射が来た。俺はアタッシュケースを前に出すが全てを守れるわけではない、焼け石に水だろう。来るであろう死にぎゅっと目を閉じると…………何も来ない。閉じていた目を開けると俺の服の内ポケットから出ている青色の光が防壁となってエネルギー弾を防ぎ続けていた。後ろでバスの中に居る人たちが驚愕する気配が伝わってくる。

 

 逃げられない、と思った。化け物相手じゃなく、俺が持つ力から……防壁を発し続けているゼロツープログライズキーと人工知能ゼアから。きっとこれは罰なんだ、今まで持つ力から目を逸らして、捨てもせず使いもせずなあなあに持ち続けた結果がこれなんだ。じゃあ、どうすればいいのか……決まっている。前の世界のテレビでやってた映画のセリフが頭によぎる「大いなる力には大いなる責任が伴う」俺は、責任を果たす。この力をもってしても今この地獄の人を全て守れるわけじゃない。けど、だけど!

 

 「目の前の人間くらいは助けるんだ。それくらいはやってみせる!」

 

 ゼロツープログライズキーを懐から取り出す。打ち出される青い弾丸を防御し続けている防壁がキーのレンズ部分から発生し続けていた。ゼア、俺はお前のことをずっと見ないふりしてきた。お前のもたらす力が怖くて使いもせずにずっと持ち続けてた。そんな俺をお前は今守ってくれてる。虫がいい話だと思うけど、力を貸してくれ!

 

 ぐっとゼロツープログライズキーを握りしめると俺の思考に答えるようにレンズ部分が発光し無数のレーザーが俺の目の前の空間になにかを形作っていく。レーザーが照射し終わったのを見計らって俺はそれを掴み、迷わず腰に当てた。思考が加速する、自己紹介をするように高らかに音声が鳴った。

 

「ゼロワンドライバー!」

 

 ゼロワンドライバー、かつて一度使った時、その力に恐怖してバイト先の廃棄予定の物を溶かした溶鉱炉の中に入れて壊した力の象徴。逃げた俺をもう一度試すかのようにそれを作り出したゼアに答える為に懐からさっきトニー・スタークを助けようとしたときに取り出したバッタの紋章が書かれた板、ライジングホッパープログライズキーを取り出してすぐさま親指でスイッチを入れ、ゼロワンドライバーの右部分にかざした。

 

「JUMP!」

 

「AUTHORIZE!」

 

 

 起動音が発声され、認証を受けたプログライズキーのロックが外れる。同時にゼロツープログライズキーのレンズ、ビームエクイッパーから巨大なバッタのようなナニカ、ライダモデルと呼ばれるデータの集合体が飛び出した。前の世界で放映されてた時は人工衛星から落ちて来てたはずだが、どうやらこの世界に人工衛星はないらしく、代わりにゼロツープログライズキーから出てくるようになったらしい。

 

 囚われ、やっと自由になったとでも言いたげにライダモデルのバッタはあたりを縦横無尽に跳ね回る。途中でエイリアンを踏みつぶしながら。重厚な待機音を待つことなく俺はライジングホッパープログライズキーを展開する。もう逃げない、変わってやるという覚悟を決めて俺は一言発した。

 

 「変身!」

 

 プログライズキーを親指で展開し、そのままベルトへ力任せにぶち込んだ。

 

 

 




 とりあえず実験作なので不定期更新です


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ニューヨーク・ホッパー

 力任せにプログライズキーをゼロワンドライバーに叩き込んだ瞬間、ドライバーがプログライズキーを読み取り俺の身体がスーツに覆われていく。真っ黒の素体、まるで骸骨のようなスーツだ。エイリアンを踏みつぶしながら飛び回ってたバッタが俺の真後ろのバスを飛び越えて分解されて俺の周りに漂う。

 

 

 「飛び上がライズ!ライジングホッパー!」

 「A jump to the sky turns to a rider kick」

 

 景気のいい音声が鳴り響き、分解されたライダモデルがアーマーとして再構成される。蛍光イエローのアーマー、バッタのようなデザイン。仮面ライダーゼロワンライジングホッパー……俺がこの世界に産まれ、前世からひきずって来たもの。いつの間にか俺と共にあった「力」……けど、今はどうだっていい。自分のためじゃなくて誰かのためにふるえるなら、きっと間違えないはずだ。

 

 「お前たちの力の責任は、お前たちが払え!」

 

 「ブレードライズ!」

 

 地面に落としていたアタッシュケース、アタッシュカリバーを変形させる。文字通り剣になったアタッシュカリバーを振るいバスの前面のガラスを大きく切り取った。紙より情けない手ごたえののち、バスの逃げ道が完成する。

 

 「逃げろ!」

 

 あんぐりと口を開けてポカンとしていた運転手と子供たちにそう言って俺はライダモデルに踏みつぶされた混乱から立ち直りつつある残りのエイリアンどもに突っ込んだ。ライジングホッパーの特徴である跳躍力を活かし、思いっきりジャンプをしてエイリアンどもの注意を引く。人工知能と同レベルまで加速された思考が対処の順番をはじき出す。構えられた銃から発射されるエネルギー弾をアタッシュカリバーで弾いて着地点にいたエイリアンを袈裟懸けにした。

 

 鎧のようなものを着ていたにも関わらずほとんど抵抗なく斬られ絶命するエイリアン、手に残る感触を気持ち悪く思いながら残りのエイリアンに斬りかかる。俺の素人丸出しの攻撃で防御の上から切り捨てられ、殴り飛ばされ、蹴りでぶっ飛ぶ化け物たち。こんな化け物相手でも仮面ライダーという力は過剰だったようだ。

 

 テレフォンパンチで防御された腕ごと殴りつぶし、前蹴りでビルにめり込むほど吹っ飛ぶエイリアン。こいつら本当になんなんだ?数だけは本当に多いみたいだが。奪った命の数が40を超えたあたりで周りのエイリアンはひとまず全滅したらしい。後ろでバスから逃げていく子供たちと運転手にほっと一息ついた。

 

 「なあ、あんた何者なんだ!?」

 

 「…………ゼロワン」

 

 最後の子供を下ろした運転手が尋ねてくる。俺はシステム名だけ言って走ってその場を後にする。だって俺はとても「仮面ライダー」なんて名乗れない。人の自由と平和を守る利他の戦士の力を自分の都合で使わず、今更になって人のためなんて言ってふるってる俺が名乗っていい名じゃない。俺は力を持っただけの臆病者だ。それでも、今この場だけは強くあろう。人を助けるんだ。

 

 黄色の残光を残しながら道を駆ける。後ろから乗り物に乗ったエイリアンがエネルギー弾を撃ちながら追いかけてきている。回避しながらジャンプ、壁を蹴って乗り物に飛び蹴りする。拉げた乗物からエイリアンが落ち、地面に体を叩きつけられて動かなくなる。道にいるエイリアンを切り捨てながら大通りに出るとそこには全身黒いスーツを着たスパイのような女と青い星条旗のようなコスチュームを着た男が盾を振り回しながらエイリアン相手に大立ち回りを繰り広げていた。

 

 多分関係者だ、と思った瞬間目ざとくこちらを見た盾を持った男に見つかる。明らかに戦闘態勢をとり始めた男に敵ではないことを証明するために俺は刺さっているプログライズキーを押し込んだ。

 

 「ライジングインパクト!」

 

 音声が鳴り響くと同時に足にエネルギーがチャージされる。俺は残像を残しながら周りのエイリアンを次々蹴り飛ばす。50を超えるエイリアンが次々ぶっ飛んでいく様子を見た男は困惑を隠せないでいるが俺はそのまま最後の一体に飛び蹴りを放つ。蹴りで地面に叩きつけられクレーターの中で絶命するエイリアン、俺は蹴り脚に残る感触を足を振るって払い、クレーターからジャンプで出る。男と女は警戒をにじませながらも俺に言葉を発してくれた。

 

 「そこで止まれ!単刀直入に聞く、君は味方か!?」

 

 「そこの化け物の敵、かな。今のところは」

 

 「そうか、僕たちもだ。ナターシャ、彼と協力しよう。少なくとも敵じゃない」

 

 女は無言、俺もそれでいいと思う。得体の知れない相手なのはお互い様だ、真上から俺を狙っている弓を構えた男もいるし敵対するつもりは俺にはない。持ったままのアタッシュカリバーを地面に突き刺し、両手をあげてアピールする、真上の男が弓を下ろし、他のエイリアンを撃ち始めたのを確認して手を下ろした。

 

 「指揮下に入ってもらうぞ。実戦経験は?」

 

 「ない、これが初陣なんだ。力を持っていたが使いたくなかった。目の前で人が死ぬのを許容できなくて今初めてつかってる」

 

 「……わかった。君は僕たちとここで戦闘を頼む。大丈夫だ、うまい事エスコートする」

 

 「脚を踏まないようにお願いするわ」

 

 「……了解」

 

 スタークタワーの上に空いた穴から湧き出てるエイリアンが道に到達する。時折雷がワームホールを貫くがその雷が途切れた瞬間に這い出てくる始末だ。緑色のでっかい男がそこかしこでモノをぶっ壊しながら暴れてるし、本当にどうなってるんだこれ、頭がどうにかなりそうだ。

 

 アタッシュカリバーを振り回し、エネルギー弾を撃ち返して別のエイリアンにぶち当て、近くにいるやつをぶった切る。増援がわらわら来るので一瞬の跡切れを狙ってアタッシュカリバーに別のプログライズキー、フレイミングタイガープログライズキーを取り出して底にあるスロットに叩き込んだ。

 

 「タイガーズアビリティ!Progrise key confirmed  Ready to utilize!」

 「フレイミングカバンストラッシュ!」

 

 「だああああああああっ!!!」

 

 ブレードモードへ変形させたアタッシュカリバーの刀身を炎が覆い、刀身が伸びる。俺は炎の剣を四方八方に振るって炎の斬撃を飛ばしてこちらに向かうエイリアンを丸焦げにしていく。だが多勢に無勢でその炎の斬撃を縫ってこちらに降り立つエイリアンども、きりがない!

 

 「くっ!放しなさい!」

 

 悪態がした方に目を向けるとナターシャと呼ばれた女の人が車に押し倒されるようにエイリアンに押さえつけられてた。盾の男の人は……遠い!仕方ない!やり投げのようにアタッシュカリバーを構えてぶん投げる、ギリギリでナターシャさんを押さえつけてたエイリアンにぶっ刺さった!ナターシャさんは俺が投げたアタッシュカリバーをエイリアンから引き抜いて他のエイリアンを切りつけている。切れ味に驚いたようで少し目を丸めながら。

 

 丸腰になってしまったが問題ない、俺は不格好ながらもファイティングポーズをとり、エイリアンに飛びかかって殴って蹴りまくる。ライジングホッパーの格闘戦能力は高い、特にキック力はぶっ飛んでいる。俺は転がってる車を蹴り飛ばして次々エイリアンを下敷きにしていく。

 

 近づいてくるエイリアンに構えたが真後ろから盾、真上から降ってきた矢が爆発しエイリアンを打倒した。盾は翻って盾の男の人に戻っていく。すっげ、どうなってんのそれ?俺は盾の男の人の真後ろに着地したエイリアンに向かって一足飛びにジャンプしてそのまま殴り飛ばした。

 

 「やるな!名前は?」

 

 「ゼロワン、貴方こそ」

 

 「スティーブ・ロジャース、キャプテン・アメリカだ」

 

 「戦時中に国債売ってた?」

 

 「……そっちを知ってる方が稀だと思ったんだが……」

 

 キャプテン・アメリカという名前に反応してポロっと出た言葉にマスクの下で苦々しい顔をするキャプテン・アメリカ。へー、本人じゃないにしろまだ続いてたのか。にしてはなんか苦々しさがえらいリアルな気がするけど。ナターシャさんも合流し俺にアタッシュカリバーを返してくれた。

 

 「いい武器ね、どこ製?」

 

 「システムが勝手に作ったものだからどこ製かどうかはわかんない」

 

 「……貴方、何歳?」

 

 「16」

 

 「……あとで詳しく聞くわ」

 

 「僕も聞きたいことが増えた」

 

 俺の話し方に違和感を覚えたらしいナターシャさんの質問に素直に答えると物凄くシリアスな顔をした二人に立て続けにそう言われた。言った後で気づく、素直に話すことじゃなかった。とっさで嘘が吐けなかった、終わったら逃げないと面倒くさそうだ。 

 

 「キャプテン、話してる場合じゃないぞ。やあイエローマスク、初めまして。サインいる?」

 

 ガン、と硬質的な音を立てて上空から降って膝立ちで着地したのはアイアンマン、中に入ってる人の人となりは何となく知ってるからこんな軽口を言われるとは思っていたが、イエローマスクって……近縁に緑色のマスクがいそうだからやめて欲しいんだけど……。

 

 「アイアンマン、噂は色々聞いてる。スタークエキスポ、行きたかったな」

 

 「中身を見せてくれるなら貸し切りで招待しよう。で、キャプテン。でっかいのがこっちに来る。ハルクとソーは少し遠い」

 

 そうアイアンマンが言うが早いか魚と戦艦を合体させたような巨大なエイリアンがビルにヒレを擦り付けながらこちらにやってきた。出てくるなり雷で落とされてたと思ったが生き残りがいるらしい、流石にあのデカブツの対抗策をサクサク思いつくわけではないらしいキャプテン・アメリカがダメもとのような雰囲気でアイアンマンに尋ねた。

 

 「スターク、最初にあれに使ったミサイルは?」

 

 「残念ながら弾切れだ。ペタワットレーザーで切ろうにもこっちのエネルギーが尽きる。いったん逃げるか?」

 

 「場所が悪い、後ろは非常線だぞ」

 

 険しい顔と声でやり取りしている当たり厳しい状態のようだ。多分、何とかできる。いったん逃げる、アイアンマンはそう提案したけどさっきこの力を使う時に決めたばっかりだ。もう逃げないって、なら!俺は手に持ってたフレイミングタイガープログライズキーを4回オーソライザーに読み込ませる。

 

 「ビットライズ!バイトライズ!キロライズ!メガライズ!」

 

 「おい!何して……」

 

 「押し返す!念のため防御してて!」

 

 アイアンマンの言葉に被せるようにして俺は刺さっているライジングホッパープログライズキーを押し込んだ。さっき以上にエネルギーが渦巻き右脚にパワーが集中する。宣言するように音声が鳴った。

 

 「ライジングメガインパクト!」

 

 「だらああああああああっ!!!」

 

 音声が鳴った瞬間道路が陥没するほどの力で飛んだ俺はほぼ水平に巨大な魚戦艦に向かっていく。そのまま右足での飛び蹴りの態勢をとり、魚戦艦のド頭に思いっきりキックを叩き込んでやった。4段階の強化を受けたキックは魚戦艦を押しとどめるどころか押し返すと同時に頭を陥没させる、頭を潰したことで息の根を止めることにも成功したようだ。魚戦艦は沈黙し、ヒーローたちの目の前で停止した。

 

 「なんとか、なった……」

 

 俺が一息ついて相変わらず嫌な感触が拭えない脚で魚戦艦の頭から降りると顎に手を当ててぶつぶつ何か言ってるアイアンマンと

 

 「なるほど、内蔵火器を排すことで余剰エネルギーを全てパワーに回してるのか。貯蔵エネルギーを解放する動作が今のってことは……」

 

 「おいスターク、興味が湧くのは分かったが後にしろ。ゼロワン、無茶をするな」

 

 「それよりも、あの通路を塞がないと。スターク、あのタワーの上まで運んでもらっても?」

 

 「ああ、いいぞ。イエローボーイ、終わったら詳しく話を聞かせてくれ。君の素敵なベルトとスーツについてな」

 

 「運んでる間は無防備だろうから援護する。キャプテン・アメリカ、いいよね?飛ぶ手段については問題なく」

 

 「……飛べるのか?」

 

 キャプテン・アメリカの困惑したような声に答える為に俺はもう一つ別のプログライズキーを取り出す。フライングファルコンプログライズキー、俺はそのままそれを起動しオーソライザーにかざした。

 

 「WING!AUTHORIZE!」

 

 ベルトがプログライズキーを認識し、ゼロツープログライズキーをしまっている部分からハヤブサの形をしたライダモデルが飛び出して空を飛ぶエイリアンにぶつかって次々墜落させていく。ライダモデル自体を披露するのは初めてなので3人とも驚いた様子で周りを見ている。俺は気にせずロックの外れたキーを展開してライジングホッパープログライズキーを抜いてそのまま差し込んだ。

 

 「Fly to the sky!フライングファルコン!Spread your wings and prepare for a force」

 

元々あったアーマーが移動し、分解されたライダモデルが開いた部分に埋まる様にアーマー化し、鎧をまとう。イエローとマゼンダの両方の色を手に入れた俺はふわりと浮かんで飛べることを示す。いの一番に正気を取り戻したのはキャプテン・アメリカで彼はすぐさま俺たちに指示をだした

 

 「逆で行こう、君がナターシャを運べ。スターク、君が援護しろ。いいな?」

 

 「わかった、遅れるなよイエローボーイ。あとそのやかましいのはスマートじゃないな」

 

 「よろしくね」

 

 「……失礼」

 

 俺はアタッシュカリバーをしまって一応声を掛けてナターシャさんを抱き上げる。アタッシュカリバーが消えたことにまた疑問が沸いたらしいアイアンマンだが後にするようでそのまま無言で先行し飛び立った。俺もそれに続きスタークタワーを目指し加速した。




 調子に乗ったのでもう一話投稿します


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プロローグ・エンド

 「イエローボーイ、エスコートは任せろ。君は彼女を落とさないように付いてきてくれればいい」

 

 「わかった。えーと、ナターシャさん?舌を噛まないようにお願いします」

 

 「落とさなければ大丈夫よ。それより急いで!」

 

 「了解!」

 

 先行するアイアンマンについていくように飛行する俺、お姫様抱っこみたいな状態になってるナターシャさんに気をやりながら後ろから連射されるビームを躱していく。ジェットコースターよりひどい軌道をしていると思うけどナターシャさんが全然余裕綽々だ。多分俺だったら平衡感覚失って落ちてると思う。

 

 「ほら、レディを連れた紳士を攻撃するなんて品がなってないぞ」

 

 アイアンマンは俺よりずっと奇麗で見事な飛行を見せながら掌から出るビームでエイリアンを次々撃墜していく、さっきのキャプテン・アメリカの盾投げやナターシャさんの格闘術、それにアイアンマンの射撃……どれもほれぼれする腕前だ。俺が戦闘について全くの素人だからというのもあるんだろうけど。

 

 いまも付かず離れずの位置を維持しながら敵の殲滅を同時にこなしているアイアンマン、両手がふさがってるので飛ぶしかできない俺でも何かできれば……そんなことを考える間もなく敵が湧き出るポータルの真下、スタークタワーについた。スタークタワー屋上を目指して一気に加速し昇り切った。ナターシャさんを下ろし、アイアンマンは用は済んだとばかりに別の方面へ行ってしまう。

 

 「ゼロワン、協力感謝するわ。まだ戦う意思があるんだったら、スティーブのところに戻って手伝ってあげて」

 

 「ナターシャさん、ご武運を(グッドラック)

 

 「あら、あなた日本人?」

 

 「……そんなところです」

 

 咄嗟に返した英語でのグッドラック、どうも前世からの日本語訛りが抜けてない俺の英語を聞いていてある意味確信を持ったらしいナターシャさんの問いに曖昧な答えを返して俺はスタークタワーの屋上から飛び降りる。飛行しながらすれ違いざまにエイリアンをぶん殴って撃墜を繰り返す。キャプテン・アメリカの方を手伝えって言われたけどこんだけ広域に被害が出てるなら逃げ遅れた人がいるはずだ、無限とも思えるほど湧いてくるエイリアンを潰すより被害を受けてる人を探して助けたほうがいいと思う。

 

 「……っ!いた!」

 

 「フライングインパクト!」

 

 どうやら地上を移動して逃げようとしていた一団が見つかったらしく、ビル影に隠れてはいるがエネルギー弾の弾幕にさらされていた。ベルトのキーを押し込んで必殺技を発動させる。背中から翼が展開した俺は弾幕の中に突っ込み体当たりでエイリアンを撥ね飛ばして翼で切断していく。あらかたエイリアンを倒し終わるが残党が逃げ回って面倒だ、ベルトの前に手をかざすとシステムに紐づけされた青いアタッシュケースが転送されてくる。どこから?っていうのは俺もよく知らないのでわからん。ゼロツープログライズキーが作ったわけではないから、俺はそれがどこにあるのかを知らない。

 

 

 そのままアタッシュケースを変形させてできるのは大型のショットガン、アタッシュショットガンだ。大型のスラッグ弾を発射するモードではなく散弾を発射するモードを選択し俺は避難者が隠れているビルの前に仁王立ちしてエイリアン相手に乱射する。一発700個に分散するショットガンの弾幕がエイリアンの包囲網に穴をあけていく。とどめを刺すために俺はもう一つプログライズキーを取り出して起動し、アタッシュショットガンに叩き込んだ

 

 「全員顔を出すな!」

 

 「ガトリングカバンシュート!」

 

 俺がエイリアンを相手にしているのを恐る恐る物陰から顔を出して様子を見ようとしていた避難者たちに警告して、エイリアン相手に正しくガトリングのごとく針のようなエネルギー弾を乱射する。あっという間にハリセンボンにされたエイリアンが次々と墜落、絶命していく。反動でずり下がった距離が2メートルを超えたあたりで俺は斉射をやめて安全確認する。よし、とりあえず安全だ。

 

 「いまだ!地下鉄まで走れ!」

 

 そう怒鳴った俺の言葉を聞いた避難民たちが弾かれたように地下鉄の階段まで走る。老若男女問わず傷だらけで汚れ切っているが致命的な怪我をしている人間はいなさそうだ。そこかしこから軍隊の装甲車が装甲車に据え付けられてる機銃を使ってエイリアンに対抗しているがエイリアンのエネルギー兵器の方が装甲車の装甲よりも強いらしい、貫通されたりしている、危ない!思わず装甲車の前に躍り出て変形させたアタッシュショットガンでエネルギー弾を弾いて同時にチャージ、再変形させてスラッグ弾をぶちかまして装甲車を助けてしまった。

 

 「なんだお前!?」

 

 「あっちの地下鉄に市民を大勢逃がした!エイリアンが入れないようにしてやってくれ!」

 

 「はあ!?待て!何言って……おわっ!?」

 

 軍人がこちらに小銃を向けてくるが俺はそのまま避難民の行き先を教えて軍人の真後ろに近づいてきたエイリアンを撃ち落とす。これ以上は構ってられないのでエイリアンを纏めて引きつけて俺は飛び立った。空中で大立ち回りをしているとアイアンマンが外の海にかかるブリッジを飛び越えて何かを追っているところだった。軽く音速は出ているだろうそれを目を凝らしてみると……ミサイル!?すぐさま追うが距離があるし追いつけない!

 

 アイアンマンはそのままミサイルに取り付き軌道を変えてスタークタワーの上にあるワームホールに向かってしまう。向こうに行ったらどうなるか分からない!クソ、追いつけないぞ!速度を上げているが向こうも音速以上だ、差は縮まれど追いつかない!しょうがない、俺は今度は別のプログライズキーを取り出して起動し、アタッシュショットガンに装填する。

 

「トラッピングカバンショット!」

 

 アイアンマンがワームホールに入ると同時にアタッシュショットガンからエネルギーのワイヤーを発射しアイアンマンに吸着させる。少々雑になるけど許してくれ!俺はそのワイヤ―を思いっきり引っ張ってアイアンマンをワームホールから連れ戻そうとするが音速以上の慣性が俺とアイアンマンに働いているのですぐさま反転することが出来ない。

 

 ワームホールギリギリまで引きずり込まれた俺が見たのは……宇宙の向こうに広がる無限ともいえるほどの数のエイリアンの戦艦たちだった。声が漏れそうになるのを歯を食いしばってこらえ全力で反転する。

 

 「ゴアアアアアアアッ!!!」

 

 「おわあっ!?」

 

 全力で下に行こうとした瞬間飛び上がってきた緑色の大男の大きな手で掴まれて思いっきり下にぶん投げられた。規格外の膂力で投げられた俺と繋がってるアイアンマンがワームホールから出てくる。きりもみしながらそれを確認した俺はワイヤーを消し体勢を立て直す。緑色の大男はアイアンマンをキャッチするとそのまま地面に降りてった。

 

 脱出するのを待ってたかのようにワームホールが閉じる。瞬間、周りでまだ破壊行為を続けていたエイリアンと魚戦艦どもが残らず電池が切れたように墜落し動かなくなった。まるで糸が切れた人形のように沈黙したのを見て気味が悪くなる。けど……終わったんだろう。多分。見える限り生き残りはいなさそうだ、俺も逃げよう。

 

 キャプテン・アメリカがこちらに何事かを呼び掛けているがもう関わる必要はない、力を使ったけど……俺は一般人で十分だ。仮面の下ではそれはもうひどい顔をしていることだろう。なんせ、一度に何百という異星人の命を奪った。まだアドレナリンが出て酩酊しているだろうからいいけど、正気に戻ったらどうなるか分からない。

 

 俺はアイアンマンがマスクをはがされて起きたのを確認してから一気に高度を上げて、雲の中に隠れてその場を離れる。心の中で世界を、街を救ったヒーローに深く頭を下げながら背を向ける。

 

 

 

 

 「う、げえええ……あ、はあ……」

 

 雲の中をずっと移動しワシントンの自宅になっている一軒家になんとかたどり着いた俺は仮面を脱ぎ去り、ゼロワンドライバーをソファに放り投げてトイレに駆け込む。胃液をすべて出し切り、今日あったこと、ワームホールの中身を思い出して一人ふるえていた。

 

 手に残る感触が、脚に残る重さが俺に戦いの恐怖を刻み込んでいた。けど、後戻りできない、するつもりもない。今回のようなことが俺の周りで起これば……もう一度戦おう。それが、力を持った者の責任だ。世界平和だとか、戦争根絶とか紛争介入とか大それたことはしない。周りの人を、手の届く範囲で。

 

 水で口をゆすいでベッドに倒れ込む。懐からゼロツープログライズキーを取り出して硬く握った。ゼア、今おまえがどう考えてるかなんてわからない。だけど見ててくれ、ニューヨークを救ったあの勇ましい人たちみたいにいつか俺も強くなって見せるから。

 

 そのまま、俺は襲ってきた睡魔に抗うことをせず、眠りについた。

 

 

 

 

 「……こんな奇跡あるのかよ……」

 

 3日後、州警察からの連絡で俺はまだ戦いの後が痛々しいマンハッタンにやってきた。現場でいろいろやっている警察や軍の人たちに付き添われてスタークタワーの真下にある一角には……車体は傷ついているもののほとんど無傷と言っても過言ではない俺のフードトラックがそのまま残っていた。荒らされた形跡もなく生鮮食品はダメになってたが缶詰などは無事だ。既に道路などは復旧が進んでいるので大通りは通れるようになっているので帰れる。

 

 だが渋滞を起こしているのですぐさま帰るということはできないだろう。そうなれば、と俺は保存してあった米を炊飯窯に入れて炊き上げることにする。炊き出しだ、家を失った避難民のキャンプも近くにあるみたいだし荷物を極限まで軽くして帰ることにしよう。

 

 俺は鮭の缶詰を開けて醤油とマヨネーズを混ぜてほぐし具を作り、それを中に入れたおにぎりを作っていく。2時間かけてラップに包まれたおにぎりの山を携えた俺はフードトラックからでる。そして近くの州兵に話しかけた。

 

 「こんにちは、これ差し入れなんですけど……受け取ってもらえますか?」

 

 「ライスボウルか?ああ、あのフードトラックの持ち主なのか。いいのかい?こんなに」

 

 「ええ、どうせ帰るにも時間かかりそうですし、荷物軽くしたくって」

 

 「悪いな、一つもらうよ。おい!差し入れだってよ!」

 

 そう州兵さんが周りに声を掛けると作業をしていた人たちがこちらへやってきて次々礼を言いながらおにぎりを受け取ってくれた。俺は食材が空っぽになるまでフードトラックと現場を往復し多くの人におにぎりを渡していく。ニューヨーカーたちはあんなことがあっても強かで、皆顔に絶望はなく、俺に笑顔で礼を言ってくれた。

 

 すっかり軽くなった車内を確認していく。エンジンはまあ元気に動く。フロントガラスもまあ無事、足回りも大丈夫そうだ。現金が全部とんでしまったから困ってはいたがとりあえず節約できそうかな……そう考えるとこんこん、とフードトラックを叩く音がするので車外に出ると、すでに撤収し始めた州兵の皆さんと警察はいなくなっており、代わりに一人の人間がいた。

 

 「やあ、まだやってる?驚いたよ日本食のフードトラックなんて」

 

 「店じまいしちゃいまして、ごめんなさい。トニー・スタークさんですよね?」

 

 「如何にも。困ったな、どこに行っても隠れられない。スターのデメリットだねこれは」

 

 そう、しげしげと俺のフードトラックにプリントされてるメニューを見ながら声を掛けてきたのはガーゼや包帯が痛々しいトニー・スターク、アイアンマンだった。顔に出なかったのは奇跡だな、冷静を装って聞かれたことに答える。何の用だろうか。

 

 「実は……僕のタワー周りで働いてる人たちに補償をすることになってね。いわゆる迷惑料というやつだ。君も分かるだろう?保険会社があんなエイリアンどもの襲来を予想してるわけないっていうのは。それで……こうして直接説明してるんだ」

 

 「……そうなんですね。それは、お疲れ様です。あんなに戦った後なのに」

 

 「いやあ、あれに比べたらなんてことないさ」

 

 ……嘘だ。多分この人俺のことに気づいてる。まず人っ子一人いないこの状況、人払いされたとしか思えない。そして元とはいえ大会社のCEOにして超絶お金持ちでヒーローがあんなことがあった後に直接謝罪して回る?冗談でしょ。もうバレてるものとして対応しよう。隠す努力は惜しまずに。

 

 「保障、というお話でしたけど見ての通りほとんど被害は受けてないです。怪我もありませんでしたし」

 

 「見りゃわかる。ま、形だけというやつだ。ほれ、とりあえずこれな」

 

 そう言ってスタークさんはピッとUSBメモリを渡してくる。いやな予感が拭えないが片手を出してそれを受け取るとスタークさんはそのままがっちりと俺の手を両手で捕まえた。グッと握りこんだその手を振り払わずに待っていると

 

 「ありがとう」

 

 そう言ってスタークさんは俺の手を放して足早に去っていった。渡されたUSBメモリを握ったままの俺は、追及されなかったことにほっとしながらも厄介なことになったなあ、と他人事のように考えていた。




 高評価、感想ありがとうございます。嬉しくて筆が加速します。もっとください(強欲


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ホッパー・インタールード

 昔の話を、しようと思う。昔と言っても4年前、俺が好奇心で無用に、無駄に、そして無理解のまま己が持つ力を無責任に使った時の話だ。これだけ言ってるように、当時の俺は何も知らなかった。己の持つ力の大きさというやつに。

 

 仮面ライダーと言えば前世ではよく知られた特撮作品だった。特別なベルトをつけた戦士が変身し悪をくじく、ドラマ性も高く子供から大人まで楽しめるストーリー。そしてその花と言えば戦闘にあるだろう。華麗なパンチやキックに必殺技、剣や銃を用いたエフェクトマシマシな攻撃。そのどれもが怪人を相手に放たれる。

 

 それがほんとに人に放たれればどうなるかなんて火を見るよりも明らかだったのに。俺はどこかでこう思ってたんだ「ちょっと強化されるくらいだろう」なんて甘く考えてたんだ。今思い出してもどうかしてると思う。だって、8トンのパンチや40トンの威力があるキックを受けた人が無事どころか原型をとどめてられるわけないなんてちょっと考えればわかるハズなのだから。

 

 12歳の俺は遊びに行くと偽って、バッグの中に隠していたゼロワンドライバーにライジングホッパープログライズキー、そしてゼロツープログライズキーをもってちょっとした山の中に入った。危険だとしても仮面ライダーの力があればどうとでもなるなんてワクワクを隠せずに、これから俺は「特別」になれるんだと確信して。

 

 人間特別ってやつには憧れると思う。物語の主人公たちはいつだって誰だって特別だった。前世の18年の生の中で特別じゃなかった創作上の人物を俺は知らない。2度目の生を経た今、俺も特別になれるんじゃないかという妄想が実現してしまったのだ。そりゃー調子に乗ってしまうだろう。

 

 誰もいない、野生動物と虫と鳥の鳴き声が響く中、えっちらおっちらとけもの道を進んで少し広い場所に出て、俺はゼロワンドライバーを腰に巻いた。バックルを腰に当てると俺のサイズに自動でベルトが巻かれて固定されるのを見て何とも嬉しい気持ちになったんだ。そして、ゼアと俺は繋がった。

 

 ジャラジャラとバッグの中に入れていたプログライズキーの山からライジングホッパープログライズキーを探し当てる。ゼアと繋がった俺に流れてきたのは……善意、いや無垢そのものだった。それが感情だったかどうかはわからないけど、少なくとも悪意じゃないと断言できた。俺という人間を観察し、そして気遣っていた。負担にならないように、と。

 

 ラーニング自体は全く問題なく進み、俺はゼロワンのシステムを全て理解していた。メタルクラスタホッパーやシャイニングアサルトホッパー、そしてゼロツーの力でさえも使えることを理解していた。プログライズキーも全てある、この世界において強大な力を手にしたことを俺は喜んでいた。

 

 そのまま俺は変身した。ライジングホッパー、ゼロワンの基本形態。蛍光イエローのアーマーに身を包んだ俺は、試しに地面に落ちていた石を握りしめた。容易く石は手の中でリンゴのように砕け、バラバラになった。俺自身はそこまで力を込めたつもりではなかったが、ゼロワンのパワーの凄さをそれは物語っていた。

 

 大岩にパンチしたら、岩が拳の形に陥没し、殴り続ければ砕くことが出来た。キックはそこに生えていた杉の大木を一撃でへし折った。ジャンプ力は何十メートルもひとっとびで飛べた。正しく超人、スーパーマンだ。その時点で俺はただ力を振り回してただけだった。

 

 そして、夕方まで暴れまわった俺は、帰ろうとしたときにここが山の中だったことを思い出した。目の前にいたのは熊、あとで知ったが日本でいう穴持たずと呼ばれる冬眠に失敗した狂暴な奴だ。当然だが、俺は逃げた。当たり前だ、対抗できる力を纏っていたとはいえ戦う覚悟なんて持ってなかったから。幸いゼロワンの足は速い、そう判断したが逃げたのがまずかった。

 

 熊は逃げる俺を弱いと判断し、追いかけてきた。ゼロワンは走れば時速80㎞は出るがそれは使いこなせばの話、初めてつかうシステムにフォームなど考えず走っていればフルスペックなんて発揮できるはずもなく、その内追いつかれた。俺は破れかぶれに、腕を振って威嚇をした。想いっきりだ。そして偶然、それは四足で追ってきた熊の顔を捉えた。

 

 いやな感触と共に、熊の頭が破裂した。ザクロのようにと文学的には表現するが、それは頷けるし、同意できなくもあった。血にまみれた手と奪ってしまった命を前にして俺は無我夢中で荷物を取って山を下りて変身を解き、家の庭で吐いた。そしてそれから、もう変身することはなかった。

 

 遊び半分で使うものじゃなかったんだ、当たり前だけど。人を救う力は一転して人を壊す力にもなる、よくわかる理屈だ。それからはもう、プログライズキーも、ベルトも全部封印した。見ないようにした、忘れようとした。捨てて誰かが拾ったらと思うと捨てられなかったけど。

 

 まあそれからは、別段面白くも何ともないし、そう過ごそうともしなかった。親が流行り病にかかって、ほどなくして俺もかかった。すんでの所で救急車が間に合ったが助かったのは俺だけ。政府からの支援金で治療費は賄えたけど俺はハイスクールへの進学を断念して、自分で稼いで自分で生活をせざるを得なくなった。

 

 まあ、それからは順風満帆とは行かずともくいっぱぐれないですんだよ。前世は結局高校生で終わったし、それ以降のキャンパスライフも未経験だけどそれよりも今日の飯と明日のパンツだ。とりあえずそれがありゃ生きていけるからな。

 

 ここは自己責任が基本のアメリカ、自分で責任を負えれば大体のことはできる。許可を得てフードトラックを経営することだって。それからは、両親が残した自宅のおかげできちんと食うに困らない程度に生きていた。

 

 「サムさ~ん、タマゴいくつ食べる?」

 

 「3つ」

 

 「はいはい」

 

 そんなことを考えながら俺はフライパンの中に卵を割り入れてスクランブルエッグを作る。あのニューヨークの決戦から1か月が過ぎようとしていた。何と俺にも政府から見舞金が降りたのでフードトラックを新調し、その納車日がつい昨日だった。ついでに紹介すると、俺の家のソファでテレビを見ているのはサム・ウィルソンさん。お隣さんで、ムキムキの退役軍人で今は軍人相手のカウンセラーだ。彼が越してきたのは俺の両親が死んだあとだったので、俺のことをよく気にかけてくれてこうやってたまに相手をしてくれる。

 

 勝手に俺がそう思ってるだけだけど兄みたいな存在だ。俺がニューヨークにいたことも知っていたけど退役軍人まで駆り出されていたのがあのニューヨークの決戦だ。だから俺が戦ってたのはバレてないし、そもそも戦えることすら知らない。騙してるようで心苦しいけど、話すわけにはいかないから。

 

 二人分のスクランブルエッグを皿に盛りつけて、ベーコンと自家製ドレッシングのサラダ、トーストされたパンとバターを出した。サムさんは大盛りだ、俺はまあ普通。サムさんは待ってましたと食前の祈りを捧げてからトーストにバターを塗って食べだした。俺もそのままトーストにケチャップとスクランブルエッグを乗せて食べる。食べながらサムさんが尋ねてきた。

 

 「ハル、お前ニューヨークがあんなことになっただろ?しばらく行くのはやめとけ。こっちで稼いだらどうだ?」

 

 「うん、そうするつもりだよ。再開今日からだし。サムさん仕事でしょ?ランチ届けようか?」

 

 「じゃあこっちに稼ぎに来いよ。買ってやるから」

 

 「ほんと?じゃあそっち行こうかな。久しぶりだな、ワシントンで開くの」

 

 「片道4時間かけてニューヨークに行ってるほうがおかしかったんだぞ?」

 

 「だってそっちの方が実入りいいんだもん。ガソリン代とか差っ引いてもおつりがくるし」

 

 サムさんが話してくれている通り、俺は今日からフードトラックでの稼ぎを再開するつもりだった。普通に生活する分には十分なお金が政府からもらえたけどソレに甘えていつまでもニートしてるわけにもいかないのだ。前のフードトラック君はいろいろガタがきはじめていたのでタイミングとしては悪くなかったし、現金は吹っ飛んだけどな!あのエイリアンどものおかげで!

 

 けどまあ、あの襲撃があったから……人を助ける力としてゼロワンを使えた。その覚悟が決まった……まだ、俺の周りではそういった事件は起こってないけどニューヨークではもうしっちゃかめっちゃかとのことだ。手の届く範囲、それ以上は正直抱えられないから。俺の周りで仮にそんなことが起きれば変身することにもう迷いはない。

 

 食べ終わったサムさんが俺がやると洗い物を買って出てくれたので有難くおねがいすることにし、俺は自宅のガレージの方へやってきた。ピッカピカのフードトラック、漢字の「秘伝」がでかでかとプリントされたそれに俺はうっきうきである。しかも前のトラックよりでかい!ひろい!燃費も悪い!それだけは何とかならんかったのかな……まあアメリカはガソリン安いしいいんだけど。

 

 前のトラックと違うのはフライヤーが付いたことである。この世界、前の世界より技術レベルが上がってるのでなんか超性能な車が多数あるのだ。このフライヤー付きトラックみたいな!まあ動かすときは油抜く必要があるけど!何でもかんでも揚げる文化のあるアメリカらしいトラックだと言えよう。食材オッケー確認よし!と俺は最終確認を済ませてリビングに戻った。するとサムさんが洗い物を終えてテレビを見ていた。

 

 『アベンジャーズの活躍にてニューヨークでの事件はひとまず解決しました。また新しく確認されたヒーロー「ゼロワン」については目下調査中とのことで……』

 

 「またこれかあ」

 

 「ここ一か月毎日それだからな。しかしゼロワンってのも不思議だな。あれから音沙汰なしときた。アイアンマンを見ろ、またチャリティーやってるぞ」

 

 「恥ずかしがり屋なんだよ、きっと、うん」

 

 「ヒーローがねえ」

 

 あーーーやめて欲しい!テレビのニュースに流れるのは誰が撮ったのか変身した後の俺、ようはライジングホッパーのゼロワンがアベンジャーズ達と一緒になって大立ち回りを繰り広げている動画だ。画角的に多分俺が助けた人が撮ったんだと思うんだけど、ひやりとするから怖い。

 

 あの俺の素顔を知っているであろうバスの運転手と子供たちはまだ出てない、まああんな非常事態で俺が変身したことはともかくザ・日系人という風体の俺を覚えてられるかどうか……希望的観測が過ぎるかなあ……。テレビの中で見覚えのある子ども、エイリアンから俺が飛び蹴りで救った子がゼロワンがいかにすごかったか語ってるのを見て、俺は尻が痒くなるような感覚を覚えるのだった。

 

 

 自分の車で職場に行ってしまったサムさんを見送った俺はそのままピッカピカのフードトラックのエンジンをかける。新車らしく景気のいいどでかい音を立ててエンジンがかかったフードトラックはそのまま滑り出すようにワシントンの街の中に進んでいくのだった。

 

 フードトラックというやつは町中のどこにでもあって、手軽に食べられるのが売りなわけだが俺のように日本食をメインにしてるのは相当に珍しい。みんなサンドイッチとか、ピザとかパンとかそういうあまり手がかからないものを好むからだ。まあお手軽飯に死ぬほど手間かける奴なんて馬鹿だよね。まあ俺はその馬鹿なんだけど。

 

 公園に面した道路に止めた俺はまず昨日のうちに仕込んでおいた唐揚げを揚げる。ニンニクと生姜のきいたいい匂いがワシントンの排気ガスの匂いを塗りつぶしていく勢いで外に香ってるだろう。炊飯窯で焚いたご飯、漬物、味噌汁、仕込んでおいた順に用意を進めてキッチンカーを開けると既に何人か待っていた。

 

 「お待たせしました~。ご注文は決まってますか?」

 

 「今揚げてるいい匂いのやつくれ!3つ!」

 

 「唐揚げですね?3つで9ドルになります」

 

 俺のから揚げはとにかくでかい、揚げたてのザクザクの衣に肉厚の肉、そしてガツンと来るニンニクが売りだ。3つ個別に紙に包んでお客さんに渡すと歩きながらはふはふと食べつつ去っていった。これが俺の日常、美味しいご飯を美味しく食べてもらう。やっぱりそれが一番だな。

 

 

 

 「なんだよ、繁盛してるなハル」

 

 「あ、サムさん本当に来てくれたんだ」

 

 「おいおい、俺を何だと思ってるんだよ。何人か引っ張ってきてやったぜ」

 

 「まいどー。サムさん何にする?他の人も!」

 

 「唐揚げと……そうだな、唐揚げ丼にしてもらえるか?」

 

 「もー、またメニューにないやつ~。いいよ、じゃあ12ドルね」

 

 結構な繁盛で俺がしめしめと思いつつお昼時に差し掛かると午前中の仕事が終わったらしいサムさんが、カウンセリング相手らしい軍人さんを何人かつれてやってきてくれた。注文を聞くとメニューにないものを言われたが対応できる範囲なので対応することにして、俺は紙の器にご飯を敷き詰め、レタスを敷き、甘辛のタレにくぐらせた唐揚げを乗っけてマヨネーズをトッピングした即席丼をサムさんに渡すのだった。

 

 この後同じものの注文が相次ぎ、ちょっと後悔したのは別の話。

 




 主人公がなぜゼロワンの力を封印していたか、というお話でした。あとお隣さんちのファルコンさん。ザイアスラッシュドライバーとバーニングファルコンプログライズキー渡してみたい。やらないけど。

 感想評価めっちゃ嬉しいです。エネルギーなので沢山ください。すると作者が調子に乗って筆が加速します


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エンカウント・アイアンマン

 「さて、これどうしようかな……」

 

 誰もいない自宅の中で、俺は一つの物体に向き合っていた。それは勿論、ゼロワンドライバーとゼロツープログライズキー、即ちゼア……ではない。じゃあ何かと言ったら前使ってたオンボロキッチンカーをニューヨークまで迎えに行った時にアイアンマンの中身ことトニー・スタークに渡されたUSBメモリである。

 

 別に外面はおかしなところはないし、俺のプログライズキーのように押すとアビリティの名前を叫ぶボタンが付いてるわけでもない。いたって普通のUSBメモリである。ちなみにこれは俺にとって最大の厄ネタになりつつある。あのお騒がせヒーロー、アイアンマンから手渡しされたUSBメモリだぞ?何が入ってるどころか差したらえらいことになりそうで……怖くて触れなかったのだ。

 

 「だけどこれ……いつまでもほっておくわけにはいかないだろうなあ……」

 

 多分どころか確定で俺の中身を知っているであろうアイアンマン、彼が黙ってくれてるから俺はいつも通りの生活をおくれてるわけで……ある意味で恩人なのである。まあ世界にとっても恩人なのだが。なのでいつまでもこの見るからに不穏なオーラを醸し出すUSBメモリを放置しておくわけにはいかないのだ。いやマジで。

 

 とりあえず、あれだ。全力で防御しつつ差してみることにしよう。そんなわけで俺のごっついスマートフォン、飛電ライズフォンにゼロツープログライズキー、即ちゼアを直結させた後、USBメモリをライズフォンにぶっ刺した。これならたとえハッキングを受けてもゼアが何とかしてくれるはずだ。なんせゼアは最強!ハイパームテキな人工知能だから!……え?トニー・スタークは天才?そうねえ……。

 

 「やっぱりハッキングしてきてるやん!」

 

 ライズフォンがピコピコ画面変わった後エマージェンシーの画面に変わる。ゼロツープログライズキーのレンズが青く点滅してハッキングプログラムを除去していき、綺麗になったUSBメモリの中身には動画ファイルが二つ入っていたが、一つはハッキングプログラムに紐づけされていたようでハッキングプログラムが除去された時点で破壊されて見れなくなってしまった。仕方ないのでもう一つのファイルを開いて再生してみる。

 

 『やあ、イエローマスクくん。君がこっちのファイルを見ているということは僕のハッキングを切り抜けたということだろう。素晴らしい、60点だ。おっと自己紹介がまだだったな。おいダミー!今度やったらスクラップにするからな!……んっん!改めて僕はトニー・スターク、巷ではアイアンマンなんて呼ばれてる』

 

 「なんだこいつ」

 

 やっべヒーローにとんでもない暴言を吐いてしまった。いやそれ抜きにしてもなんなんだよ。素晴らしいっつーんなら90点くらいくれよ、それはどうでもいいとしてハッキングに成功したパターンと失敗したパターン両方で動画を用意しているとか用意周到なのか何なのか……

 

 『さて、イエローマスク、いやゼロワン。いい名前だね、分かりやすい。余り君にとっては嬉しくないことだろうが、アレ以降……君の行方を追っている組織がある。まあ悪い組織じゃない、むしろ正義側だ。君は逃げてしまったから知らないだろうが、キャプテンはカンカンだった。湯気が出てたよ』

 

 「マジで?」

 

 『もちろん冗談だ。だが、君のことを知りたがってるのは間違いない。僕は偶然、君の正体を知ったからね。まだ誰にも言ってないけど』

 

 俺の反応を予想してたようにそうトニー・スタークが言うと同時に彼の後ろのディスプレイがライジングホッパープログライズキーをもって使おうとした俺、スタークタワーでトニー・スタークが落ちて来たときのやつと、フレイミングタイガープログライズキーをベルトにかざしてる所を捉えた動画が流れる。まあそこが分かれば正体まではすぐだよなあ。

 

 『そこで、だ。僕と少し取引をしてくれ。僕は、君の正体を隠し続ける協力をする。君は来るべき時に、僕に協力して欲しい。詳しくは、僕の家で話をしよう。もちろん、ただとは言わない。連絡先はこれだ。ハルト・ハヤカワくん、よろしくね』

 

 「なんだこいつ」

 

 もう隠さない。これほぼ脅迫じゃんか!ええ!?ヒーローの姿かこれが!本名までバレてるし!行く一択しかないじゃないか!いやまあ……気持ちは分かるんだけどさ。トニー・スタークと俺は唯一、あの宇宙を埋め尽くさんとせんばかりの異星人の軍隊を見てしまったんだから。あれがあのまま宇宙からやってきたら地球は詰みだ。焦ってどうにかしなきゃいけないとなるのは分かる。

 

 トニー・スタークの顔もなんだかよくない感じだ。激戦の後で包帯やガーゼにまみれてるっていうのを抜いても顔色が悪すぎるし、妙に焦ってる感じがした。正直あの光景は俺にとっては現実感がなさ過ぎて思い出したくもないものだけど、身近に迫りつつある危機なのかもしれない。一度関わった身としては、はいそうですか知りませんっていうのはないよね。

 

 「でもさー、遠いよ。飛行機じゃん、そんな距離を移動しろと?んな無茶な。誰も彼もが金持ちだと思うなよこのぼんぼんめ」

 

 真っ暗になったライズフォンの画面を睨みつけながら俺は銀行の預金残高を思い出して暫くは無理かな、などど思いつつ登録した電話番号を弄る。確かアイアンマンの家はマリブ、カリフォルニア州だ。俺の家があるワシントンとは数えたくなくなる程度には離れてる。あれ?でも住所言ってなかったな。連絡しろってこと?

 

 時差的には……まあ問題ないだろう。早いうちにかけてしまえ。あ、でも逆探知とか……ま、いっか。もうほとんどばれてるみたいだし、核心部分だけ守れれば、それでいっか。と俺は番号をタップしてそのまま電話をかける。ワンコールどころか一瞬でつながったのには閉口したが。

 

 『ハルト・ハヤカワ様とお見受けします。只今トニー様をお呼びいたしておりますのでしばらくお待ちください』

 

 「えーっと、これはどうもご丁寧に?」

 

 『申し遅れました、私トニー様の身の回りのお世話をさせていただいておりますJ.A.R.V.I.Sと申します。以後お見知りおきを』

 

 「あ、どうも。ハルト・ハヤカワです」

 

 電話口の落ち着きながらもどこか機械的な声の主、ジャーヴィスさん?に軽く自己紹介をした俺は異様に緊張していた。不意の襲来だったニューヨークの時と違って今回は自分の意思で、自分からあのスーパースターにしてヒーローに電話かけてるんだもん。なんか変な汗出てきた。

 

 『J.A.R.V.I.S、ご苦労。やあ、お待たせしたね」

 

 「あー、すいません。連絡遅くなって……あのUSB、なんか開くの怖くって」

 

 『いや?連絡なんてないと思ってたからな。まあ僕の言い方も悪かったかもしれない……どうやってアレを僕に気づかせず開いたんだ?ハッキングは切り抜けても探知は出来ると踏んでたんだけどね』

 

 「まあ、俺の持ってる人工知能は優秀だったってことにしといてください」

 

 『へえ!人工知能!ますます君に興味が出てきたよ。ああ、勿論変な意味じゃないぞ?』

 

 「わかってます」

 

 やりにくいな~。通話先に出てきたトニーさんはいかにも軽い調子で話し出したので俺はなんか拍子抜けしてしまった。なんか、動画の時の声とはずいぶんと違うような、明るくはあるんだけどなあ。なんかメディアで見てきたトニー・スタークとは違う感じ。もしかしたらこれが素なのかもしれない。

 

 『それで、僕に連絡を取ったということは……協力してくれる気になったと取っていいのかな?』

 

 「ええ、まあ。正直このまま普通の生活に戻ってもいいかなって思ったんですけど、あんなのを見たら……」

 

 『……そうか、君もか。その話題はよそう、電話で話すことじゃない。それで、僕の家にホームステイする気になったってことでいいかな?』

 

 「ホームステイかどうかはともかく、一度伺いたいとは思います。まあ、お金が出来次第という感じになりますけど……」

 

 『君は飛べるだろう、飛んでくればいいじゃないか』

 

 「未確認飛行物体の噂の的になるのはごめんです」

 

 『冗談だ。僕が迎えに行こう。その方が都合がいい、1週間分の準備をしてくれ。出発は明日だ』

 

 「……随分、急ですね」

 

 『日本では、思い立ったが吉日というそうだ。心配するな、給料は払う。僕のポケットマネーからね。J.A.R.V.I.S、空港の手配をしておけ。プライベートジェットで行くぞ。明日連絡しよう、それまでに準備をしておいてくれ』

 

 そう言って、トニーさんは電話を切ってしまった。明日……明日ぁ!?んな無茶な!どうしよう、どうサムさんに言い訳しよう。ま、まああれだ!急に生えた親戚の親戚に呼ばれたってことにしよう!もうそれほぼ他人やな?まあ暫くニューヨークのことを忘れる為に旅行に行くって言えばいいかな。お金はまあ、ないわけじゃないし。いや金欠だわ。トラックの元とらんといかんのだわ。でもカリフォルニアとか超楽しそう。観光しようかな?

 

 

 

 

 「というわけでサムさん、暫く家開けることにするよ」

 

 「急すぎないか?」

 

 「昨日決めたからね」

 

 「本当に急だな!?」

 

 「善は急げっていうから」

 

 翌日の事、マッハで身支度を終えた俺がサムさんに暫くワシントンを空けると伝える。幸い、食材は冷凍すれば日持ちするものばかりだったので帰ってきたら冷蔵庫が地獄絵図という展開は避けられると思う。ちゃちゃっと整理をしつつ昨日作ったキャラメルナッツアイスを容器ごとサムさんに押し付けたりして暫く家を空ける旨を伝えた。

 

 やっぱり滅茶苦茶急だったことに対して困惑を隠せないサムさんだったけど、理由が「ニューヨークのことが夢に出るから真反対の所まで行ってリフレッシュしてきたい」だったからまあ特に怪しまれずに済んだと思う。サムさん現職カウンセラーだからね、軍人さん、特にPTSDになっちゃった人の。そこら辺を察する力は余りあるよ。

 

 昨日、電話を切った後にトニーさんからメールで必要なもののリストと住所送れって言われたから素直に住所送ったよ。でかでかと強調された君のスーツという文字には苦笑せざるを得なかったけど。まあトニーさんは戦士っていうよりは生み出す側、技術者だ。どっかのインタビューで未来派芸術家って自称してたし。だからゼロワンのことについて非常に気になってるんだと思う。

 

 ただ、多分だけどゼロワン関連は俺しか使用することが出来ない、と思う。前サムさんが俺がほったらかしにしてたライジングホッパープログライズキーを拾ってボタンを押したらうんともすんとも言わず、壊れてるぞこの玩具って言って俺に渡してくれたことがあったし。ただ、確定じゃない。

 

 仕事に行くというサムさんにランチを持たせて台所の片づけを終えた俺が最後に戸締りしまくって厳重にフードトラックが入ってるガレージを施錠している。フレイミングタイガーで扉溶接しようかな、心配性をこじらせすぎか。仮にここで変身するとか無理だ。ゼロワンの変身音、結構うるさいし。バッタが跳ね回って物壊すし。潜入作戦とか一番できないやつだと思う。

 

 そうこうしてると呼び鈴が鳴らされた。こんな時に来客?めんどくさいなあ、宗教の勧誘じゃないだろうな?と思いつつドアを開ける。するとそこには

 

 「やあ、ハルトくん」

 

 「ヘアッ!?」

 

 「いいリアクションだ。やりがいあるね」

 

 ドアの前にアイアンマンいた。いやマジで、なんか前見た時より全然デザイン違うんだけど?金と赤と銀、なんだか胸の真ん中にある光ってるやつ、アークリアクターだっけ?を強調するデザインだ。というかクソ目立つわ!な何してるんだこの人!?人が集まって面倒くさくなるでしょ!?

 

 「……とりあえず目立つ前に中にどうぞ」

 

 「悪いね、失礼するよ」

 

 硬質な足音を立てて玄関の中に入るアイアンマン、なんてシュールな図だ。ご近所さんは……幸い誰も見てないみたいだ。よかった~~。無言のままリビングに入り、コーヒーでも、というとすぐ出発だからいいと断られた。そしてアイアンマンの前面が開いて、普段着のトニー・スタークが出てきた。

 

 「すごいですね。着脱、スーツのみでできるんですか?なんか、機械がいるとか雑誌で見たような……」

 

 「技術の革新ってやつだ。僕にかかれば一瞬さ、それに……そこに関しては君のスーツほどじゃない、今はね。会えてうれしいよ」

 

 確かにゼロワンは着脱、いや変身は一瞬だし何もないところから急に出てくるからそうなのかもしれない。トニーさんは僕に手を差し出して握手を求めて来てくれたので俺も流れで握手をした。そしてトニーさんは茶目っ気を含んでいた顔から一気にシリアスな顔になって俺に一つ、質問をするのだった。

 

 「さて、ハルトくん。いや、ゼロワン。君が持つ力、君はそれで何を、どうしたい?」

 

 鋼鉄の男(アイアンマン)は、そう俺を試してきたのだった。




 アイアンマン3、開始します。まあ映画の内容始まるのは作中時系列で5ヶ月は先ですが。MCUって作中で普通に数年開いたりしますからね。

 ちなみにトニーが着てきたスーツはマーク17です。ユニビーム強化型スーツですね。次回も社長が一緒です

 ちなみに社長は主人公のことがっつり心配してます。何だったらピーターくらいには心配してます。しかもスーツが自前なので補助輪も付けれない、これは心配になる。


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ホッパー・ホームステイ

 アイアンマンに問われた、俺はこの力、ゼロワンを使って何をどうしたいのか。はっきり言うが、そんなもんは分かんない。この前のニューヨークみたいなことになったから咄嗟に使ってしまっただけで、これからどうだという具体的なことは全く考えてなかった。ただ一つ、答えられるとすれば……

 

 「俺は、俺のこの力はきっと、何かを守るためにあると……そう思います。誰かを助けたくて手を伸ばした時に、助けを求める手を離さないようにする、そんな力だと。だから、俺はこの力で、誰かを助けたいと、今はそう考えてます」

 

 「……いい答えだ。120点あげよう。J.A.R.V.I.S!花火を打ち上げてやってくれ!」

 

 『はい、トニー様』

 

 「えっ!?どっから!?」

 

 「ああ、J.A.R.V.I.Sは僕が作ったAIだ」

 

 トニーさんの目をまっすぐ見て俺がそう答えると、シリアスだった顔を少し綻ばせてパンと俺の肩を叩いた。するとアイアンマンのスーツから昨日聞いたばかりのジャーヴィスさんの声がしてホログラムの花火が効果音と一緒に撃ちあがった。というかジャーヴィスさんAIだったのか。ゼアとは通じることはできても意思疎通は難しいからこれは凄いと思う。というかスーツが自立して動いてる。これは凄い。

 

 「じゃあ、出発しよう。スーツは持ったか?」

 

 「ここに」

 

 俺はあの時以来肌身離さず持ち歩いているゼロワンドライバーを懐から出して見せる。というか専用のホルダー作ったからね、作ったのは俺じゃなくてゼアだけど。ビームエクイッパー万歳。それを見たトニーさんは興味深そうに片方の眉を上げてドライバーに手を伸ばそうとしたが流石に無防備に渡すわけにはいかないので、さっとしまった。ヒュウ、と口笛を吹いたトニーさんは座ってた椅子から立ち上がる。

 

 「じゃ、行こうか。マリブの海でバカンスだ」

 

 「結局、俺に何をさせたいんですか?」

 

 「何かをしてほしいってわけじゃない。ただ、あの眼帯に渡すには惜しいって思っただけさ」

 

 「???」

 

 結局トニーさんが何を言いたいのか分からなかったけど、立ち上がったトニーさんの後をついて玄関へ……マジでスーツどうするの?え?一緒に車に乗るの?マジで?トニーさんのあとに続いて俺の荷物を持って自律的に歩いていくスーツがいつの間にか止まっていた車の後部座席に収まった。運転席についたトニーさんが助手席を指してくれたので俺も乗り込んでシートベルトをかける。良かった平日の昼間で、ここら辺ベッドタウンだから昼間人いないんだよね、アイアンマン出現で騒がれなくて一安心だ。

 

 道中、トニーさんはよく話しかけてきた。おそらく意図的に俺の持ってるテクノロジーの話は避けて、私生活を中心に……今やってるプロジェクトがどうで、こういうことをやってるんだ、とか恋人?らしいペッパーさんという人の話、まあ惚気とか。いわゆる雑談というやつだ。あとスーツが今後ろにあるやつで17着目だという話とか。一ついくらですか?って好奇心で聞いたらJ.A.R.V.I.Sさんが億単位、円じゃなくてドル換算で教えてくれてマジで腰が抜けかけた。君のスーツはもっとするぞ、と言われて納得しかけてしまったけど。そういえば暫定アイアンマンよりも超技術の塊だったわゼロワンって。

 

 人生初のプライベートジェットで5時間ほどのフライトを体感した俺は、そのままマリブに面したトニー・スタークの豪邸にやってきた。いやマジで豪邸だわ、とんでもない。すっげー家だな、と思いながら上がらせてもらうと中で女性が待っていた、彼女は入ってきたトニーさんを見つけるとため息をついて立ち上がる。

 

 「トニー、どこ行ってたの?それと後ろの子は?」

 

 「ああ、ちょっとワシントンまでね。こいつはあれだ、ホームステイ。1週間、な?」

 

 「え、ええまあ。暫く御厄介になります。ハルト・ハヤカワです、なんかすいません」

 

 「ごめんなさいね、彼思い付きでたまにとんでもないことするから……ヴァージニア・ペッパー・ポッツよ。ペッパーって呼んでね。それでトニー?あなた宛てにいろいろ届いてるから処理して頂戴」

 

 「あー、わかったわかった。ハルト、詳しくは明日だ。J.A.R.V.I.S!部屋に案内してやってくれ!」

 

 『了解しました。ハルト様、この屋敷の中でありましたら私に話しかけて頂ければいつでもお手伝いいたします。それではお部屋へご案内させていただきます』

 

 「またスーツ増やしたの?」

 

 「まあね」

 

 ガチャコン、ガチャコンと音を立てる自立稼働アイアンマンスーツに先導されて俺は荷物を持って客室に案内された。というかこの豪邸そこかしこにホログラムが漂ってる。触ってなんかあったら怖いから触らないけど。とっぷり夜だったこともあって、俺はシャワーを借りてそのまま睡眠をとることをJ.A.R.V.I.Sさんに伝えたあとベッドを借りるのだった。

 

 

 

 

 

 「さて、美味しい朝食ありがとうハルト。明日も期待するとしよう。それで、本題だ。君は……ニューヨークのワームホールの先を、見たな?」

 

 「……ええ、見ました。あの……ニューヨークの比じゃないくらいのエイリアンたちを」

 

 「……そう、それだ。あれが将来、こっちに来るかもしれない。そして、僕らはあいつらに打ち勝つ必要がある」

 

 お世話になるからと翌日に朝食の準備を買って出た俺は、予想外に何もない冷蔵庫の中を工夫してパンケーキプレートを作り上げ、スタークさんに提供した。セレブで舌が肥えてるであろう彼は、俺が作った朝食を奇麗にぺろりと平らげたあと、コーヒーブレイクを挟んで語りだした。マリブの海に面したリビングルームで、テーブルを挟んで話すトニーさんの顔色は、悪い。

 

 「あの光景を見たのは、僕と君だけだ。正直に言おう、このままでは決して勝てない。いくら僕が世紀の大天才でも、あの物量差をカバーするには単純に時間が足りない。これはどこかの古い人の受け売りだが……チームワーク、協力が必要だ」

 

 トニーさんの言葉は、本音だろう。同じ光景、同じ絶望を見てしまったからこそ理解できる。あれは、いくらなんでもあれはないだろう。それこそ、地球を真正面からすりつぶすことすら出来るかもしれない。

 

 「一つ言っておくのは、僕は君に戦えと言いたいわけじゃないってことだ。君は子供だ、立派に社会人やっててもまだ若い。力を隠しつつ、周りの人たちを助けるくらいでいいだろう。地球の軍隊になる必要はないんだ」

 

 トニーさんは恐らく俺を心配してくれて、ここに連れて来てくれたんだ。USBの動画で語ってた、俺を探している組織というのもおそらく政府側、国のはずだ。見つかればおそらく非合法な手段を用いてでも俺をアベンジャーズかそれに類する組織に突っ込もうとするはず。つまりそれを防ぐために多少強引な手を使ってトニーさんは俺を迎えに来てくれたってことだ。

 

 「確かに、俺はアベンジャーズに入るほどの覚悟はありません。正直言えば、エイリアンを殺した感触が、まだ体から離れない。でも、それでもです。目の前で、同じことが起こったら、俺は同じように仮面を被って、戦います」

 

 あの時エイリアンを殴りつぶした感触を思い出して、震える右手を左手で押さえながら俺はトニーさんにそう返した。何をしたいか、何をするべきなのかは全く以て見当がつかないが、目の前で人が傷つき、死んでいくのはもうどうやったって看過できない。それを見逃すくらいなら戦う方が万倍ましだ。

 

 「キャプテンが気に入りそうだ。いや、実際気に入ってたか。よし、決めた!僕が君の後ろ盾になろう。必要なら支援もしよう、武器でもお金でもね。差し当って何か僕に頼みたいことはないかい?何でもいいよ?」

 

 「あー、あの……じゃあ一ついいですか?その、手加減って……どうやってます?」

 

 「手加減?」

 

 パンと手を打ったトニーさんが俺に対して後ろ盾になってくれるというありがたい話をしてくれたので俺はちょうど気になっていたことを聞くことにする。ゼロワンの戦闘力は尋常じゃない、そりゃああのハルクみたいな規格外には負けるけど、そんじょそこらのやつにスペックで負けるようなことはない、と思う。俺のそんな言葉を聞いたトニーさんは目を丸くして尋ねてくるので改めて話した。

 

 「ええあの時はエイリアンだったから良かったんですけど……変身した後、例えば人を殴れば……どう頑張っても殺してしまうくらいには力があって……」

 

 「……なるほど。ちょうどいい、なら一通り全力を見せてもらってもいいか?色々気になっていたんだ、僕のスーツのスペースより狭いはずなのにあのパワーだ。確かにその心配も分からなくもない。J.A.R.V.I.S!ラボの準備をしておけ!」

 

 『承りました』

 

 「今から君のスーツのスペックを測ろう。スーツの準備をしておけ」

 

 「わかりました」

 

 

 

 

 

 「あー、あー、よし!これよりゼロワンシステムのスペックテストを行う。ハルト、スーツを着てくれ」

 

 現在、トニーさんの私設ラボらしい地下の部屋に来ている。雑多にスポーツカーとか、アイアンマンスーツの部品やらがあるところを二台のロボットアームが片付けていた。開けてある場所でカメラをセットしたトニーさんの合図で俺はゼロワンドライバーを腰に巻く。直結したゼアにライダモデルを動かさないように命令する。プログライズキーをオーソライズすると鳴り出した待機音とライダモデルが正面に出現し、俺はプログライズキーをスロットにというところでストップがかかった。

 

 「待った!なんだこれは……?実体があるにもかかわらずホログラムみたいだな、ハルト!これなんていうんだ?」

 

 「ライダモデルっていいます。そのモデルになった動物の能力をデータ化したもの、らしいです」

 

 「なるほど……つまり君が今からなろうとしてるのはバッタ男ってことか?あとこの音楽いいな」

 

 「ええ、そういうことになります。基本の形態ですね、じゃ行きます!変身!」

 

 俺はスロットに展開したライジングホッパープログライズキーを装填する。ライダモデルが分解されてスーツを纏った俺に鎧のように組みついた。ライジングホッパーに変わった俺を見たトニーさんがふむふむ、と感心しながら周りをくるくると回って観察している。

 

 「J.A.R.V.I.S!装甲材質に心当たりはあるか?」

 

 『合金製のようですが一致する合金はデータベース上に存在しません。簡易硬度計の結果はヌープ硬度にして8200以上です』

 

 「ワオ!ダイアモンド以上じゃないか。それでいて薄く、頑強。作ったやつは僕に及ばないまでも天才だな。ノーベル賞ものだ。J.A.R.V.I.S、出せ」

 

 『了解。次回採用予定の装甲材のテストを開始します』

 

 コンコン、とゼロワンの装甲をノックするトニーさんがそう言うとアームロボットが何やら鉄板を運んできた。俺の大きさくらいある、それなりに分厚い類のやつだ。何なのだろうと仮面越しに頭を掻くと鉄板が俺の前で固定されてトニーさんがちょっと離れた。

 

 「それは次のスーツの装甲にしようと考えてる合金でね。いくつか試作したうちの一つで一番頑丈な奴だ。ちょうどいいからその合金の耐久実験を兼ねて君のパンチの威力を測るとしよう。思いっきり殴ってみてくれ」

 

 「わかりました。いきますっ!」

 

 スタークさんに促されて拳を構えた俺は合金製の鉄板、厚さ5㎝はあるであろうそれに思いっきりパンチをした。最近サムさんに習いだした軍隊式の格闘術のパンチで脚から練り上げた力を思いっきり叩きつけたんだけど、凄まじい音を立てて俺の拳は鉄板を貫通してしまった。あと床も思いっきり陥没した。や、やばい!と思ったがトニーさんはヒュウッ!と口笛を鳴らして拍手をしている。

 

 『推定パンチ力、約8トン。撃力はそれ以上と推定されます』

 

 「だろうな。これは確かに手加減の方法が必要か。バッタというにはキック力の方が凄そうだが……」

 

 「カタログスペック上は49トンありますけど」

 

 「そのスーツ何を目的に開発されたんだ?いったいどこで手に入れた?まさか君が作ったわけじゃないだろう?いやもう蹴らなくていいぞ。威力過剰なのは十分に分かった」

 

 大穴が開いた合金の板と傷一つない俺の拳を見たスタークさんが訳が分からないという感じで手を横にしてやれやれのポーズ、パンチでこれならキックはもっとというのが分かったのだろう。あ、でも

 

 「実は、物心ついた時から持ってて……なので誰が製作したかは分かんないんです。それとまだこの上に武器と必殺技があるんですけど」

 

 「やめとこう、家ごと壊れそうだ」

 

 「ですよね。あ、一応どうぞ」

 

 そう言って俺は持ってきてたアタッシュカリバーを渡す。指で示すと理解したトニーさんはアタッシュカリバーを変形させ、徐に穴の開いた合金の板に真一文字に振るった。トニーさんの手でも使えるアタッシュカリバーは抵抗なく合金を斬り裂く。俺はトニーさん側に倒れてきた合金を持ち上げてゆっくりと地面におろすのだった。




 というわけでホームステイ開始です。社長と楽しく珍道中


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ゼロワン・イン・ラボ

 「ふむ、興味深いな。そのキーの数だけスーツがあるのか」

 

 「スーツがあるわけじゃなくて、一つのスーツの上に鎧を追加して機能を替えるって考えた方がいいかと。基本的な形態はあのライジングホッパーで、その上から能力を追加するんです」

 

 「なるほど、武器を持ち替えるようなものか。いいなそれ、僕も試してみよう。いいアイデアを貰ったよ」

 

 ずらっと並んだプログライズキーの前で唸るトニーさん。目の前にあるプログライズキーはゼロツープログライズキー、メタルクラスタホッパープログライズキー、シャイニングホッパープログライズキーを除いたものだ。流石にそれらは戦闘力が爆上がりすぎてみせられるものじゃない。

 

 ライジングホッパーですらアレなのだ、シャイニングホッパーは言うに及ばずそれ以上のスペックの物なんか人に使おうなどとすら思えない。それこそホントに最終戦争とかそんな感じだろう。特にメタルクラスタホッパーは質が悪い。アークがこの世界にないから、あれは純然たるゼア製になってる。暴走の危険性はない、と思う。俺が最初に持ってたのはゼロツープログライズキーだけだった。それ以外の全てはゼアが作ったもんだから、そこにアークの意思は介在していない。

 

 その質が悪い部分っていうのがクラスターセルだ。あれは、設定上分子ごと全てを破壊できる、らしい。ゼアの受け売りだから試すわけにはいかないが、危険極まりない。正しくあのすべてを食い尽くすバッタの群れのようなことを何に対しても行えてしまう。とりあえず絶対に変身したくない、過剰すぎる。ゼロツー?多分一人で戦争できるよアレあれば。無理。

 

 今は変身を解いてトニーさんのラボの椅子に腰かけている。デスクを挟んで座るトニーさんの前ではホログラムの画面が3つ並んで裏側から見る限りライジングホッパーの全体像が写ってるようだ。ガトリングヘッジホッグプログライズキーを弄るトニーさん、さっきボタンを押したけど反応がなくて、やっぱり俺が押すと反応する。どうやって識別してるのか?静脈パターンか?と言ってたけど俺にはよくわかんない。

 

 『トニー様、現状の技術ではヒデンアロイの再現は不可能です。いくつかの未知の元素が検出されました。ですがアタッシュカリバーの外装の構造は時間をかければ模倣可能です。必要時間は推定5ヶ月以上です』

 

 「十分だ。いいね、脳みその体操になる。そろそろ腹が減ったな……」

 

 後ろでロボットアーム2機がガランガランと音を立てて合金を片付けるのをBGMに面白そうに笑うトニーさん。未知のシステムを見ただけだが、トニーさんの目はらんらんと輝いてこれを基にしてどうしてくれようかという感じだろうか。

 

 ちなみにの話だけどあの後ゼロワンのパワーに対抗心を燃やしたらしいトニーさんがスーツを着てきてがっぷり四つ組み合う相撲みたいなことをしたが、やっぱりゼロワンで勝ててしまった。アイアンマンの強さは素手の殴り合いじゃなくて内蔵された兵器だからそこで対抗してもと思うんだけど。特にリパルサーレイだっけ?あの威力の調節が効く攻撃は実に羨ましい。

 

 「あ、じゃあ何か作りましょうか?あ、でも冷蔵庫の中食材なかったですね。いったん買い物に……」

 

 「家にプロがいるといいな。僕の家のシェフになるか?」

 

 「食いっぱぐれたら考えますけど、まだそうじゃないので遠慮しときます」

 

 「残念だ、J.A.R.V.I.S。ローディを誘っとけ。食事に行こう。ハルト、その車に乗れ、レストラン行くぞ」

 

 「ハルでいいですよ、みんなそう呼びます。しかしかっこいいですねこのスポーツカー。アイアンマンの色だ」

 

 「分かってるじゃないか。ちなみにそのホットロッドがスーツの色の元だ」

 

 アイアンマンっぽい色をしたスポーツカーがひとりでに動き出す。トニーさんは運転席に乗り込んで俺も助手席に失礼する。トニーさんはかなり多趣味のようでその一つがバイクにスポーツカーのようだ。どれもこれも高級車で変身した時ぶつかったらとひやひやしたけど。ガレージと直結してるらしい扉が開いてスロープを上ってスポーツカーはトニーさんの運転で道路に飛び出したのだった。

 

 

 

 

 

 「トニー!いきなり会おうだなんてどうしたんだ?それとそっちのは?」

 

 「ああ、あれから結局なかなか会えなかったからな。タイミングが良かった、この後暇か?うちに来て欲しいんだが。そっちのはホームステイだ」

 

 「わかった。しかしお前がホームステイ?どういう風の吹き回しだ?ああごめん、俺はジェームズ・ローディ・ローズ。アメリカ空軍大佐だ」

 

 「なんだ昇進したのか?言ってくれればいいのに」

 

 「いう暇なくてな」

 

 「大変だな、お互い」

 

 「あ、ハルト・ハヤカワと言います。なんかトニーさんからお誘いいただいて……」

 

 「ああ、察するよ。大変だなお互い」

 

 「おいそりゃどういう意味だ?」

 

 海を臨むレストランでトニーさんに紹介されたのは黒人のムキムキな人だった。軍人さんかぁ、トニーさんの親友らしいローズさんは俺の自己紹介を聞くなり肩にポンと手を置いて俺を慰めてきた。トニーさんはそれに対して怒っているけど、やり取りがかなり気やすいからかなり仲がいいんだと思う。

 

 トニーさんの紹介だけあって、レストランの料理はかなり美味しく、職業柄レシピが気になったりしたが味は覚えたので帰ったら再現を試みようかな。そしてどうやらローズさんもスタークさんの家に来るようなので自分の車に乗り込んでついてくるようだ。そうすると道中トニーさんは

 

 「ハル、君の事……ローディには話しておこうと思う。軍の方で君の正体がばれないように動いてもらう」

 

 「……あんまり正体をばらしたくはないんですが」

 

 「ローディは大丈夫だ、僕が保証しよう。それと、君の悩み事である手加減の事もなんとかしよう。考えれば簡単な話だ」

 

 にやりと笑うトニーさんに若干の不安を覚えたが、ローズさんが信頼できるであろうことは何となくわかったので俺は何も言わずにトニーさんに任せることにしたのだった。

 

 「それで?一体全体なんで、よりによってお前がホームステイなんか始めたんだ?」

 

 「ああ、それはこいつが今巷で話題のこれだからだ」

 

 スタークさんの家に帰ってきた後、ラボでコーヒー片手にしたローズさんがスタークさんに尋ねた。スタークさんは待ってましたとばかりに手をパンと叩くとホログラムの画面が一斉に先ほど撮影した俺がゼロワンに変身する場面に切り替わる。ぱちくりとそれを見たローズさんはふか~~~いため息をついてコーヒーをぐいっと一気飲みした。

 

 「あ~~~……なるほどな。分かった。それで?俺に何をしてほしいんだ?」

 

 「いいね、話が早い。流石はローディ!軍の方でちょっと工作して欲しい。まあ単純だ、誤魔化せ」

 

 「それかなり無理言ってるって分かってるか?まあいい、一応聞くが……君は軍隊に興味はないか?」

 

 「……ないですね、すいません」

 

 「だろうな。気にしなくていい。そういうのはトニーで慣れっこだ。ただあまり派手に暴れるなよ、俺の権限にも限度ってもんがあるからな」

 

 「あんなことがない限り正直戦おうとは思わないですね」

 

 「それでいい、それが一番だ」

 

 うんうんと頷くローズさん。この人も優しい大人だな、両親もそうだけど俺は周りの人に恵まれてると思うよ、ほんと。それで、とローズさんが言葉をつづけた

 

 「アベンジャーズのメンバーには言うのか?」

 

 「いや、言わない。フューリーに見つかると面倒だ。少なくとも今は、正体不明のスーパーマンでいてもらおう」

 

 「妥当なところか。お前のことだ、隅々まで見るんだろう?」

 

 「勿論、ケツの穴の中までな」

 

 「え?」

 

 「おい」

 

 「冗談だ、暫く研究のネタには苦労しないな。できればどうやってそのエネルギーを生み出してるかまで知りたいところだが……分解はよそう」

 

 なんかトニーさんがすげえ怖いことを言っているけど聞かなかったことにしよう。ゼロワン分解しようとかゼアが黙ってないぞ。ビームエクイッパーからシャインシステムが飛んでくるかもしれないからな!というかそのフューリーって人が昨日言ってた眼帯の人のことかな?二人してそこまで言わせるなんて相当なことやる人なんだろうなあ、こっわ。

 

 「さて、それではお待ちかねの話と行こう。ハル、君の目下の悩みである手加減が効かないという話だが……手加減できるようにすればいい」

 

 「それができないから悩んでるんですが?」

 

 「まあ慌てるな。君が殴るときに力を抜けとかいう話じゃない。単純だ、君のスーツの方にリミッターを設置すればいい。つまり、スーツの出力そのものを抑えるんだ」

 

 「……おお!なるほど!」

 

 「だろう?ボクのスーツのリパルサーなんかもそういうシステムだ。君の持ってる人工知能にリミッターを設定するようにしよう」

 

 「わかりました。やってみます」

 

 「何だったら僕がプログラムを書こうか?」

 

 「いえ、多分ゼアならやれると思うのでちょっとこっちで試してみます」

 

 トニーさんが俺に提案してくれたのは目から鱗だった。思いっきりやっても人が死なない程度にパワーそのものを抑え込んでしまえばいい。圧倒的すぎるゼロワンの強化率そのものを弱くしてしまえばいいのだ。流石は天才トニースターク、スーツそのものを弱くするなんてなかなか思いつかないだろう。だって普通それは強くしていくものだから。

 

 「なあ、何の話してるんだ?」

 

 「ハルのスーツの話だ。そのまま使う、まあ例えばテロリストなんかと戦うと皆殺しにしてしまうくらいにパワーが強い。それを抑え込む方法について議論してたんだ」

 

 「お前のスーツよりもか?」

 

 「残念ながら、ゴリラもびっくりだ『POWER!』ハル、アイテムで遊ぶな」

 

 ゴリラもびっくりというトニーさんの声にお応えしてパンチングコングプログライズキーを鳴らしたら怒られてしまった。解決の糸口が見えてちょっと調子に乗ってしまった俺が改めてどのくらいの感じに設定すればいいかなとスタークさんに聞いてみる。

 

 「とりあえず僕のスーツを参考にするといい。対人戦の非殺傷のデータが……これだ。今回は何も仕込んでないから安心しろ」

 

 スタークさんが端末をぴっぴっと弄ってデータを表示させて俺にホログラムの画面をパスした。俺はゼロワンドライバーを腰に装着してゼアにアイアンマンスーツのデータを基にしたリミッターを設置するようにゼアに提案すると、ゼアはこれを受け入れてデータを基にしたプログラムを作成しだした。

 

 「あ、作り出しました。行けそうです」

 

 「お、いいねえ。その人工知能、どうなってるか見たいもんだ。J.A.R.V.I.Sの方が上だろうがな」

 

 『光栄です』

 

 「対話インターフェースは搭載されてないみたいですからね。ただ、優秀だとは思いますよ」

 

 「僕のハッキングをはじいたからな」

 

 「なんか根に持ってません?」

 

 「いや?」

 

 「とにかくわかった。仕事を抜け出してきてるから俺はこれで失礼するよ。トニー、あまりティーンエイジャーに無茶させるなよ」

 

 「当然だ、僕を何だと思ってる?なあハル?」

 

 「自意識過剰な正義のヒーロー、ですかね?」

 

 「いいなそれ採用!」

 

 「……意外と相性いいみたいだな。心配するだけ無駄みたいだ、ハルト……根を詰めすぎないようにな」

 

 苦笑しっぱなしだったローズさんだけど、最後に力強く俺の背中を叩いて颯爽と去っていった。ゼアのプログラムの変更はどうやらしばらくかかるみたいなのでそれまで変身はできないみたいだ。なので俺はトニーさんのアイアンマンスーツの研究について詳しく聞くことになった。というかトニーさんが説明してくれてる。と言っても詳しい話は学がない俺には理解できない話だけど、ようは……かっこいい!つよい!最先端!こんな感じだ。

 

 「おお、すごい。こんな感じなんですね……結構思ったより軽いです」

 

 「だろう?軽量化と耐久力の両立は難しいが、それを何とかしてしまうのが僕ってわけだ。そういえばハル、君……ハイスクールは通わないのか?」

 

 「あー、それなんですけどね。両親が死んじゃってから自分で稼がないといけなくって……もう少し落ち着いたらGEDを受けるつもりです」

 

 現在開発中だというアイアンマンスーツの腕部分を付けさせてもらった俺がトニーさんの難しい解説を頑張って聞いていると、トニーさんはハイスクールには通わないのかと聞いてきた。まあ、確かにミドルスクールは卒業できたけどハイスクールに入れなかったし通ってないから疑問に思うのも無理はない。

 

 だけど別に俺はこれでいいと思ってる。アメリカ版高卒認定試験であるGEDに向けて毎日こつこつと勉強自体はしているし、試験自体も3か月に1回、受けようと思えればいつだって受けられる頻度だ。俺がやってるフードトラックなんて学歴関係ないからね。

 

 「GEDか。勉強してるのはいいな。僕を見ればわかる様に学は身を立てるからね。ああ、勉強で分からないことがあったら聞いてくれ、そこらの大学より分かりやすい講義をしてやろう」

 

 「天下のトニー・スタークが家庭教師なんて、贅沢ですね」

 

 工具を使って俺の手からアーマーを外すスタークさんにそう言われたので、とりあえず俺は素直に礼を言うことにするのだった。




 次回でホームステイ編は終了ですが、9時ごろ間違って次の話を投稿するバグを発生させてしまいました。ネタバレ食らった人は申し訳ない。

 次からは気を付けますですハイ。ゼア君が有能すぎるがそれはそれでヨシ!

 ではまた次回、次回以降投稿間隔を少し開けます。ストックが切れました!


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ホッパー・レインフォースメント

 『テスト結果、ゼロワンのスペックの大幅な下降を確認。現状のアイアンマンスーツと同性能と思われます』

 

 「だろう……なっ!!」

 

 「ですよ……ねっ!」

 

 J.A.R.V.I.Sの報告を変身した俺とアイアンマンスーツ、マーク18を着こんだトニーさんが力いっぱいアームレスリングをしながら答える。なんてシュールな図だ。あの後ゼアのシステムの書き換えは5日間にも及んだ。流石にゼロワンのシステム全てとフォームチェンジ全てにリミッターを設置するのはゼアでも大仕事だったらしい。

 

 それで、リミッターの内容は攻撃に関してのみ、大幅なパワーの制限が付加される。それでもやっぱり人間よりは上のスペックではあるが、それ以上は下げるなってトニーさんから言われてしまった。それ以上下げれば素早く相手を無力化するのに支障が出るだろうって。あと、武器の威力に関してはリミッター効かなかった。まあアタッシュカリバーの切れ味をどう鈍くさせるかとか考えても無駄よね。素直に峰で殴るわ。アタッシュショットガンは封印です。

 

 あ、機動力、防御力に関しては据え置きです。必殺技も据え置き、あくまで通常状態の徒手格闘にリミッターがかかります。実際はゼロワンの筋力強化スーツ、ライズアーキテクターの強化率を落としているだけなので、少しずつパワーをあげたりとかもできる。ゼア君有能、超便利。

 

 リミッターの開放は俺の判断でレスポンスゼロで行われるみたい。ただ、人相手にライダーはかなり過剰なのでリミッターを解放する予定は正直ない、パンチ一発で人殺すとか冗談でしょ、俺は絶対ヤダ。俺は人を殺すために変身するんじゃなくて人を守って助けたいんだ。悪いやつでも生かして法の裁きを受けて欲しいと思うし。

 

 ただ、そこら辺の考え方はトニーさんたちとは違うかも。トニーさんも殺したくはない、とは言ってるけど殺すのもやむなしという手段をもって選んで使っている。ミサイルとか、レーザーとか、直撃したら人は死ぬ。基本のリパルサーレイがどれだけ有情か、紛争に介入するようなことをしてたらそれくらいの武装は欲しいかもしれないけど。

 

 物理学だ、とトニーさんが言って両手を使ってきたので俺はアームレスリングに負けてしまった。大人気ないですと抗議しても、ルール違反はない、と言われたのでリミッターを解除してやろうかと思った。

 

 

 

 

 

 「このランチを食うのも最後か、残念だな」

 

 「いい台所なんですから使ってあげてくださいよ。もったいない」

 

 「僕が作るのは料理じゃなくて夢の技術だからな」

 

 なんだかんだで初日のレストラン以来、俺が食事を用意していたんだけど……トニーさんは意外にも普通にペロリと平らげてくれている、全部だ。まあ好きな料理なんですか?って聞いて食の好みを把握してご飯作ってるから嫌いな味付けじゃないとは思うんだけど。

 

 あ、夜よくペッパーさんが来るのでトニーさんはディナーに行ってるよ、俺は別に一人でいいから。まあJ.A.R.V.I.Sにお勧めのレストラン聞いて一人でライズホッパーを運転して出かけたりとか俺も俺で楽しんだ。ライズホッパーは俺のライズフォンが変形してなるバイクなんだけど……トニーさんにみせたら質量保存の法則はどうなってるんだ!?と過去一の興奮を示していた。

 

 一週間一緒に過ごすうちにトニーさんとは結構仲良くなることが出来た。まあ皮肉屋だけど、この人自分の感情を素直に表に出すのが苦手なだけで普通にやさしいいい大人なんだな。個人的に話してて面白い人は大好きだ。フードトラックにやってくる困ったお客さんに比べたらスタークさんなんか可愛いもんだね。

 

 「君の当面の目標はGEDか。勉強は……君なら心配いらないだろう。なんせ僕よりも勤勉だ、そこは素直に負けを認めるよ。ま、これからはいつでも頼ってくれ。勉強でも、就職に困っても。女の落とし方でもな」

 

 「ペッパーさんに言いつけますよ」

 

 「おお、こわいこわい。真面目なハルにはプレゼントだ」

 

 そう言ってトニーさんは机の上に一つ何かを放った。見ると……腕時計だ。スマートウォッチとかいうやつ。しげしげと見つめるとトニーさんがスマートウォッチの電源を入れる。するとホログラフが浮かび上がり、時間が立体的に表示される。おお、すごい。

 

 「勿論ただの時計じゃないぞ。なにせ僕のお手製だ。それは時計というよりも携帯……いや、パソコンだな。そんじょそこらのハイエンドモデルが裸足で逃げだすだろう。そして、J.A.R.V.I.Sに直通でつながることが出来る。もちろん優先は僕だがな」

 

 「いいんですか?そんないいものを貰っちゃって」

 

 「当然だ、君専用なんだから。ああ、たまに僕からも連絡入れるからちゃんと出るんだぞ。それと、護身用機能付きだ」

 

 そう言ってトニーさんがスマートウォッチのボタンを3回クリックすると画面からバチッと音がした。スタンガンの機能だろうか?実演を終えたトニーさんが机の上を滑らせて俺の前に時計を置いた。俺はありがたくそれを左腕に巻いた。ロボットアームが食事に使った皿を片していく。

 

 「トニーさん、1週間ありがとうございました。まだ戦うかどうかは決めてませんけど、道しるべは見つかったと思います」

 

 「気にするな。僕もまあ……だいぶ楽しかったからな。特にいいアイデアが沢山浮かんだよ。それじゃ、行こうか……おっと!忘れるところだった!これ、一週間分の君の給料な」

 

 「え、あ、はい……っっ!?!?こんな受け取れませんよ!?」

 

 「何言ってる、適正どころか安いくらいだぞ。君のスーツはオーバーテクノロジーの塊なんだからな?」

 

 「だとしても10万ドルって……」

 

 「小切手で悪いが銀行に行って金に換えてくれ」

 

 トニーさんがぽんっという感じで俺によこしたのは小切手、アメリカじゃあ小切手は珍しくないけど書いてある額が珍しすぎる。10万ドル、日本円にして1500万円なり、目玉飛び出るかと思った。スタークさんにとってははした金かもしれないが俺にとってはとんでもない超大金だ。慌てて返そうとしたがトニーさんはそのまますいーと行ってしまった。えー、いいの?いうてゼロワン見せただけだよ?どっちかっていうとお世話されたの俺だよ?いいの?ほんとに?ねえ?暫くニートできるよ?

 

 思い出のほとんどが吹っ飛びそうな俺は、来たときと同じようにトニーさんの飛行機に乗ってワシントンに帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 「ニューヨークのあれといい、マンダリンといい、テロといい……物騒になったな」

 

 「マンダリンってあの爆破テロの?」

 

 「ああ、場合によっては俺ら退役軍人の動員も検討中だとよ」

 

 「物騒だねえ」

 

 「全くだな」

 

 トニーさんにお世話になってはや5ヶ月が過ぎようとしている。帰ってから全身に冷や汗をかきながら銀行で小切手を換金した俺は相も変わらず、フードトラックで生計を立てていた。変わったことといえば家にある調理器具が豪華になったこと、筋トレの成果が出てちょっと体が引き締まってきたこと、それと格闘術がさまになってきたことくらいか?

 

 トニーさんとは1週間に一度くらい、メールなり通話なりで連絡を取り合っている。大抵はトニーさんの新しいスーツが出来て今度はどんな性能だっていう話を聞く感じだけど。J.A.R.V.I.Sにはかなりお世話になってしまっている感じだ。いやだって便利すぎるもん、何か聞いたらすぐ答えが返ってきて気が利いてるし!凄いなゼアより優秀だわ、お前は俺に何も言ってくれないもんな。一番好きだけど!

 

 ただ、最近心配なのはトニーさんの目元にクマがくっきり浮かんでて、明らかに寝不足によるハイテンションなのが見て取れるってことだ。スーツの製造速度も日に日に上がっていて、いま何か42番目のスーツだそうだ。自動キャッチ型スーツと名付けられたそれをいっそ狂気を孕んだ目で語るトニーさんに寝てくださいと言ったのも昨日の話だ。

 

 正直、心配だ。仕事に行ったサムさんを見送りながらそう考える。いっその事またトニーさんの所に行って生活の管理をした方がいいんじゃないかとすら考えてるくらいだ。J.A.R.V.I.Sからも寝てないって話は聞いてるし、俺には無理するなとか言ってるのに自分が無理してちゃ世話ないよ。どうしたもんかな。

 

 ここ何ヶ月かはテレビをジャックしてのマンダリンとかいうイカレ老人のショーが話題だ。いや話題もクソもないが、血も涙もないテロリストで、あまりにもあんまりだからいまゼアと一緒に個人的に調べているところだ。初陣がエイリアンで次がテロリストとはちょっと俺の人生ジェットコースターに乗りすぎじゃないか?

 

 おそらくトニーさんも調べているようで、スマートウォッチのメールに首を突っ込むなという連絡が来ていたが……調べるだけならセーフだろう。もし俺のほうが先に確信に至ればトニーさんと共有すればいい。無差別爆弾テロ……周りが巻き込まれでもしようものならと思うと動かずにはいられない。

 

 とりあえずテレビでも見るか、と俺はGED用の過去問題を開きながらテレビをつける。昨日から新レシピの考案で勉強に手がついてなかったし、今日は休もうと思ってたところだ、真昼間から働きもせずにテレビかじりつくとかこの時代においては最高の過ごし方かもしれないな。

 

 『私はトニー・スターク、お前など恐れない!臆病者め、お前の命はここまでだと思え』

 

 「待って何してんのあの人!?」

 

 飲みかけのコーラをぶふっ!と噴き出しながら突っ込みを入れる。テレビの中ではトニーさんがマンダリンに向かって挑発をしていた。しかも半ば公然の秘密とは言え自分の家の住所まで公開してると来たもんだ。トニーさん、見る限りにカンカンに怒ってる。何があったんだ?

 

 「J.A.R.V.I.S!昨日何かあった!?トニーさんカンカンじゃないか!?」

 

 『はい、ミスターハッピーがマンダリンの爆破テロに巻き込まれ重傷を負いました。サーはそれによって直接こいと仰せです』

 

 「何やってんの……!危ないよ!テロリストだよ!?」

 

 『肯定いたしますが、トニー様はそれで……ザッ……と、ザッ……!!』

 

 「J.A.R.V.I.S?どうしたの!?J.A.R.V.I.S!?」

 

 とりあえずJ.A.R.V.I.Sにどういうことか聞いてみるけど、話してる途中でJ.A.R.V.I.Sがおかしくなってしまった。トニーさん優先っていうのは当然の話だけど話してる途中でトニーさんの方に行くときは必ず断って挨拶があったからいきなりぶちぎられるようなことは今までなかったぞ!?なんかあったか!?

 

 「トニーさんの方は繋がらない……?ゼア、J.A.R.V.I.Sへのアクセスを補正して何があったか詳しく頼む」

 

 とりあえず何かあったのは確定なので、スマートウォッチにゼロツープログライズキーを繋いでゼアに探らせる。するとJ.A.R.V.I.Sに不具合が生じていると同時に、エマージェンシーコールが見つかった。俺は家を飛び出して慌てて鍵をかけて、ライズフォンのアプリを選択して空中に投げる。

 

 「モーターライズ!ライズホッパー!」

 

 「J.A.R.V.I.S!応えなくていいからトニーさんの居場所もしくは目的地を送って!ゼア、手伝ってやってくれ!」

 

 スマートウォッチにそう叫んでライズフォンが変形したライズホッパーに飛び乗る。正直このままマリブに行くのは難しい、どこかで変身して飛んでいくのが吉だが……トニーさんと合流するのがベストだろうか?思いっきりライズホッパーを飛ばしてとりあえず人通りの少ない山道でマリブ方面に繰り出す。

 

 数十分後、J.A.R.V.I.Sからトニーさんの目的地と無事を知らせる文字だけが送られてきた。テネシー州の、ローズヒル……?何でそんなところ……いや、マンダリンの爆破テロの前に、爆弾を使った自殺があったところだ。何か関係があるとみて間違いない。テネシー州なら俺の方が近い、多分トニーさんより先につくはずだ。そうなれば合流できるようにしておかないと、怒られるだろうけどね。

 

 「ゼア、何があったか分かるか?」

 

 ゼアに尋ねるとヘルメットの裏のディスプレイにニュースが表示された。スタークさんの家が襲撃にあった……?トニーさんが巻き込まれて死んだかもしれないというのはJ.A.R.V.I.Sからの情報で嘘だとわかったけど流石に行動が急すぎる。マンダリン……イカレたやつだ。俺はとにかく急ごうとゼロワンドライバーを腰に巻いた。最速最短、一番速いのはこいつだとプログライズキーを取り出して、ボタンを押した。

 

 「INFERNO WING!」

 

 「トニーさん、とりあえず助けに行くから!変身!」

 

 運転しながらベルトにバーニングファルコンプログライズキーをかざし、ロックが外れたキーをスロットへ叩き込みながら俺はそう呟くのだった。




アイアンマン3、開幕します。トニーと仲良くなった主人公君の活躍をお楽しみに。


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エクストリミス・エンカウント

「Revive like phoenix!バーニングファルコン!The strongest wings bearing the fire of hell」

 

 バーニングファルコンプログライズキーを装填したゼロワンドライバーとゼアがライズホッパーを運転する俺の両脇にバッタのライダモデルと燃え盛るハヤブサのライダモデルを生成する。俺の体をスーツが覆い、ハイブリッドライズでバッタとハヤブサが鎧に変わる。変身が完了した俺はバイクごと飛び立ち、ライズフォンにバイクを戻してテネシー州ローズヒルに向けて音速を超えて飛び立ったのだった。

 

 「しかしまあ、ひどいなこれは」

 

 仮面の下に映るニュース映像、もうクリスマスだから分厚い雪を降らせる冷たい雲の中を燃え盛るハヤブサが進んでいく。ニュース映像ではボロボロに崩壊したトニーさんの家とトニーさんが死亡したというニュースが繰り返し放送されていた。J.A.R.V.I.Sからは……反応がない。本当に大丈夫だろうか。

 

 念のためトニーさんの携帯に繰り返し電話をかけてみるけど反応はない、携帯ごと海の下に沈んでしまったのだろうか?あ!そうだ!ペッパーさん!トニーさんと一緒だったのだろうか?とりあえず連絡入れないと……!ワンコール、ツーコール……!つながった!

 

 「ペッパーさん!?大丈夫ですか!?ご無事ですか!?」

 

 『……ハル?ハルなのね?ごめんなさい……!今少し立て込んでて……』

 

 「わかってます!だから電話したんです!いいですか!トニーさんは無事です!J.A.R.V.I.Sから俺に最後の連絡がありました!今、スーツでどこかに飛んでいってるみたいです!」

 

 『……ほんと?ほんとなのね?……トニーは、無事なのね?』

 

 「少なくとも生きてはいます。ニュースのいうことは嘘っぱちです。ですけど、トニーさんが反撃しやすいようにマスコミに漏らさないようにお願いします。またテロリストに狙われたら冗談じゃない」

 

 『ええ、分かったわ。ハル、教えてくれてありがとう』

 

 「はい、取り敢えず俺はJ.A.R.V.I.Sの反応が消えたところを探してみます。場所はテネシー州、ちょうど近くにいるので」

 

 『……分かったわ。ごめんなさい、お願いします』

 

 「はい」

 

 最初は泣きはらしたような声で電話に出たペッパーさんは、トニーさんの無事を知ると声に覇気が戻ってきて、電話を切る頃にはできる女という感じの気丈な声に戻っていた。俺がちょうどJ.A.R.V.I.Sの反応が消えたところの近くにいるという話を信じたらしいペッパーさんの了承も得たので、一層頑張らないと。

 

 

 

 

 音速で移動すれば州をまたぐ移動だろうがそう時間はかからない、真反対のカリフォルニア州のマリブならともかく、昼に飛び出した俺は、テネシー州ローズヒルに夕方に到着した。とりあえず拠点が必要だと思ったので近くにあるモーテルの一室を借りることにする。林の中で変身を解いた俺が降りしきる雪に耐え切れずモーテルに駆け込んでそのまま部屋を借りた。

 

 「さて、ここからが勝負だな」

 

 独り言を呟きつつ、スタークさん製のスマートウォッチにゼアを直結する。そこらのハイエンドパソコンが裸足で逃げだすとトニーさんが豪語してただけあって超々高性能なんだ、ゼアのパワーをそれなりに受け止めることが出来るくらいには、だから……このスマートウォッチとライズフォンをリンクさせて……ローズヒル中のオンラインな監視カメラをジャックしてトニーさんを探す!

 

 監視カメラをジャックすること数時間、目を皿のようにしていくつかの監視カメラをホログラフに写してあれでもないこれでもない、と見ているとゼアが一つの監視カメラを俺の前に移動させた。一致率99%、間違いなくトニーさんがここの近くのバーに入っていくところだった。すぐさま部屋を飛び出す、念のためアタッシュカリバーを持って、俺もバーに転がり込んだ。

 

 バーに入ってすぐトニーさんを探す、奥の方だろうか、ビリヤードをやってる人の近くに……いた!老年の女性と、スーツ姿の女性と一緒にいる。近づいて声をかける、前にスーツ姿の女性がトニーさんを押さえつけて手錠をかけてしまった!騒ぎになってきた、まずい。

 

 保安官らしき人がスーツ姿の女性と何か話してる、人をかき分けて近くづいていく。なんか、変じゃないか?保安官と言い争っている女、不自然だ。保安官の前に立った女が保安官の腹を殴ろうとしたので、慌てて割り込んでアタッシュカリバーを間に差し込んだ。

 

 「あら、あなた誰?」

 

 「言わなきゃいけない?その熱い手、どけなよっ!」

 

 「ハル!?」

 

 アタッシュカリバーに当たっている手が周りに陽炎ができるほどに高温になっている。このままだったら保安官の人、死ぬところだった……!間一髪で間に合った!アタッシュカリバーを振るって女の手を払いのけ、ハイキックで女を蹴飛ばす。相手が転んだ隙にトニーさんの側に立った。

 

 「やっと見つけました。トニーさん、無事でよかった」

 

 「ハル、お前何でここに……?」

 

 「トニーさんの家が襲撃を受けてた時、ちょうどJ.A.R.V.I.Sと話してたんです。いきなりJ.A.R.V.I.Sが消えちゃったから、何かあったと思って。遅くなってごめんなさい」

 

 「いや、最高のタイミングだ。これ切ってくれ」

 

 「了解」

 

 いい感じにクリーンヒットしたキックのダメージから立ち直りつつある女の前でアタッシュカリバーを変形させてトニーさんの手錠を切断する。危ないところだった、いや、今も危ないか。なんせ目の前にいる女、普通じゃない。木製の床は燃えてるし、服の下の身体が光で透けるくらいに赤熱してる。

 

 「場所が悪い、外でやるぞ」

 

 「了解です、トニーさんこれどういうことか分かります?」

 

 「さあな!僕が知りたいくらいだよ。とにかく今分かってるのは……あれが3000度を超える熱を持ったファイアーガールだってことだ!」

 

 「え、なにそれ?とにかく人のいないところまで行けば巻き添えとか気にせずに行けます!?」

 

 「いや、もう遅い」

 

 「トニーさん……一応聞きますけどスーツは?」

 

 「目下修理中だ」

 

 「……了解。とりあえず殺さないように頑張ってみます」

 

 バーから飛び出した俺とトニーさんが会話を交わしながら道を逃げる。後ろから走って女が追いかけてきた。速い、確実に人間の速度を超えている。ベルト付けて変身する隙が無い!仕方がないと道半ばで反転した俺がアタッシュカリバーの峰を思いっきり女に振るったが、あっさりと女は受け止め、アタッシュカリバーを溶断しようと手を握る、が異次元の切れ味を誇るアタッシュカリバーの刃に指を切断されて痛みに悶えている。指は……再生してる!?もう、いったいどうなってる!?けど再生するなら遠慮はいらない!

 

 とりあえずもう一度後ろ回し蹴りで手を押さえてうずくまってる女の顔面を蹴っ飛ばした。サムさんから習った格闘術がこんなところで活きるなんて人生何があるかわかんないもんだ。真後ろから倒れ込んだ女、俺の靴底から焦げた匂いがする。一瞬の接触でこれか、持ち替えたほうがいいかもしれない。

 

 「おいハル、もう一人お客様だ」

 

 「……トニーさん、これ持っててください」

 

 女のそばに近づいた一人の男、明らかに雰囲気がプロのものだ。トニーさんに変形させたアタッシュカリバーを渡して、ゼアから転送されてきたアタッシュショットガンを新たに握る。そのままスラッグ弾を立たせてもらっている女の膝にぶち込んだ。生身で使うには反動が強いけど、どうにかなりそうだ。両膝から下が消し飛んだ女の絶叫が響く、俺が持ってる銃を警戒したのか男が距離をとった、その隙に俺は男にアタッシュショットガンを向けたまま走って女に近づき、首元を踏みつけて無理やり意識を奪った。

 

 「……まだやる?」

 

 「いや、やめとっ!?」

 

 「悪い、隙だらけだった」

 

 アタッシュショットガンの威力と距離的に俺が外す可能性が低いということが分かっていたらしい男は両手をあげて撤退の意向を示していたが、俺に集中してたせいでノーマークだったトニーさんが放ったリパルサーレイを顔面に受けて沈黙した。リパルサーを外したトニーさんが倒れて気絶した男の懐を探って車のキーを奪う。女の方も足の再生は終わってる。気絶したまんまだけど

 

 「次からそれ始めからやってくれません?」

 

 「悪い、一発しかないんだ」

 

 「いっちゃうの?」

 

 自衛手段あるんじゃんという俺の突っ込みにそう返すトニーさんに近づいてきたのは男の子だった。どうやら俺が見つける前にトニーさんと一緒に行動してたらしい。

 

 「ああ、やらなきゃいけないことがある。相棒がたった今来てくれたからね。あいつら見ただろう?すぐに家に帰れ、そしてスーツを守ってくれ。電話するかもしれないからその時は出ろよ」

 

 「……うん、わかった。ねえ、またあんなの相手にするの?」

 

 「いい子だ。そうだな、わんさかいる。だから僕には……スーツが必要なんだ」

 

 素直に頷いた男の子が踵を返してローズヒルを後にする。追いかけようかと思ったけどトニーさんに腕を掴まれて大丈夫だ、奥の手を持たせてあると言われた。そういう問題じゃないような……男が乗ってきた車に乗り込んだトニーさんに促されて俺も車に乗り込む。乱暴に車が発進した。

 

 「ハル、来てくれたのは嬉しいが一つ君に頼みたいことがある。君にしかできない」

 

 「なんでしょう?」

 

 「僕の家まで飛んでくれ。J.A.R.V.I.Sの本体サーバーが僕の家の駐車場の地下にある。君の時計があれば入れるからそこでJ.A.R.V.I.Sの修理をしてほしい。やり方は簡単だ、その時計をJ.A.R.V.I.S本体の機械につなげ、バックアップが作動する」

 

 「……その間トニーさんどうするんです?」

 

 「いっちょ前に心配してくれるのか?大丈夫だ、僕はマンダリンについて調べる。ただ、スーツがなけりゃ何もできない。それとサーバールームに予備のアークリアクターがある。今のスーツ不具合が多くてな、エネルギーも不足してるんだ」

 

 「わかりました。ただ、往復で半日はかかります。修理に時間がかかればそれ以上」

 

 「分かってるみなまで言うな。あいつらには挑まない、少なくとも今は」

 

 人通りのない雪が固められた道路に差し掛かると車は急停車する。ここから行けと言うことか、俺は扉を開いて外に出る。ゼロワンドライバーを起動してバーニングファルコンプログライズキーを作動させて変身した。飛び立とうとする俺にトニーさんが声をかける。

 

 「ハル、向こうにいったら睡眠をとれ。落ち着いてから、僕に連絡してこい」

 

 「了解です。とりあえずトニーさん、これ渡しときます。バイクにはなりませんけど、そこらのパソコンよりは高性能ですよ」

 

 「ああ、貰っとくよ」

 

 「それじゃ、行ってきます」

 

 そう言ってトニーさんに今生成したライズフォンを渡す。ただの携帯よりは便利なはずだ。そのまま飛び立った俺は進路をカリフォルニア州のマリブにとった。ここからだと3時間くらいか、ああ……クソ。遅れてやってきた、震えと過呼吸。人を……人を撃った。ふー、ふー、と呼吸を落ち着かせながらトニーさんの言葉を思い出す。

 

 「眠れそうに、ないですよ……トニーさん」

 

 自嘲気味にそう笑って、根性を奮い立たせる。七転八倒して苦しむのは全部終わらせた後だ。俺しかやれないなら、俺がやるしかない。マリブに向かって俺は音を超えて進んでいった

 

 

 

 

 「こんなところに……家の崩壊に巻き込まれなくてよかった」

 

 『ようこそ、ハルト様』

 

 無機質な歓迎の音声を聞きながらJ.A.R.V.I.Sの本体を確認する。頑丈な金属に囲まれたそれは、見た目傷一つついてないようだった。超特急でマリブにやってきた俺はまだ警察の捜査があると踏んで海側からトニーさん家に入った。目立つ色をしているゼロワンの変身を解いて、時計が指し示す場所へ静かに向かう。

 

 深夜なので誰もいない、駐車場の隅にカモフラージュされた入り口を発見したので時計をかざすとロックが解除される。そのまま俺はサーバールームに誰にも知られずに入ることが出来た。時計の復旧プロトコルに従ってJ.A.R.V.I.Sの本体に時計を繋ぐ、するとプログラムが立ち上がって残り時間が表示される。

 

 バックアップ適用まで、5時間。どうやら不具合は結構致命的なところまで行ってるらしい。俺は、5時間後まで体を休めることにした。今日は少し、いや大分疲れた。リノリウムの床の上で横になる。女を撃った光景がフラッシュバックする、根性出せ。全部終わってからでいい。精神的には興奮してたけど、体は疲れてたらしく、俺の意識は闇に溶けていくのだった。

 




 作者がやりたかった「仮面ライダー映画お約束、変身前の生身アクション」を書きたかっただけ。ごめんなさい次はちゃんと変身してのバトル書きます。

 アタッシュショットガンの反動についてですが主人公がゴリラなのではなくゼアくんが頑張って調整して反動を極限まで抑えたものになったからです。そういうことにしといてください

 主人公が戻れば社長製42番目スーツのエネルギー問題が解決します。車のバッテリー繋いでる絵面から解放されるわけですね。

 やっぱ空飛べるとと便利やな、ゼロワンくんありがとう。では次回に会いましょう


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ホッパー・フライング

 「ああ、くそ……体がガチガチだ」

 

 『おはようございます。ハルト様、バックアップの実行に感謝します。お疲れ様でした』

 

 「J.A.R.V.I.S!よかった、直せたんだ」

 

 『はい、ですが予想外に時間がかかり現在復元開始より10時間かかっております。また、アーマーとのアクセスも不調です』

 

 「問題だらけってわけか……って俺10時間も寝てたの!?ごめんトイレあったりする?」

 

 『非常用のトイレがあります。そちらです』

 

 どうやら思いっきり寝坊した俺は、とりあえずJ.A.R.V.I.Sにトイレの場所を聞きながらつなげてあった腕時計を立ち上げる。どうやらトニーさんから連絡があったわけではないようだ。ライズフォンにも何もない、あぶねえ。SOS聞き流してたらと思うとマジで冷や汗が止まらない。

 

 「J.A.R.V.I.S、眠らない方法に心当たりない?」

 

 『私の立場としてはお勧めしかねます』

 

 「だよね、了解。とにかく一回テネシー州に戻るよ。あ、予備のリアクターがいるってトニーさん言ってたから出してもらえる?」

 

 『こちらです』

 

 慌ててトイレやらを済ませた俺がドタバタと準備する。あ、カロリーバーがある。悪いけど失敬させてもらおう、いいよねJ.A.R.V.I.S?ありがと。J.A.R.V.I.Sの本体が開いてケースに収められたアークリアクターが出てきたので俺は二つケースをひっつかむ。そのままドアを少し開けて外の様子を伺う。やっぱりいるよな、警察。さてどうやって逃げようか。

 

 「J.A.R.V.I.S、家の方のオンラインに何か無事なのある?」

 

 『スピーカーがオンラインです』

 

 「オッケー、それじゃ爆音でなんか流して外の注意引いてくれない?その隙に崖からジャンプするから」

 

 『了解、3秒後に開始します』

 

 カロリーバーを咥えてもごもごとしながら外の様子を伺い、きっかり3秒後にトニーさんの家のあらゆる場所に設置されたスピーカーから爆音でトニーさんの好きな曲がいくつか流れ始めた。外で何かやってた警察官が慌てて家の中に入っていったのを見計らってサーバールームから出る。

 

 急いで崖際まで走り、ためらいなく飛び降りる。今回は傷つけちゃいけない荷物があるので燃えながら飛ぶバーニングファルコンじゃなくてフライングファルコンプログライズキーだ。崖の壁からジャンプしたバッタのライダモデルの上に着地して、キーを展開、スロットに入れて準備完了。マゼンタの装甲を纏って俺は空へ舞い上がるのだった。変身後の姿は多分思いっきりみられたと思う、困った。

 

 ケースに入れられたアークリアクター二つを両手に持って、俺はテネシーへの進路をとる。

 

 「あー、J.A.R.V.I.S、ゼア。マンダリン関係でなんか進展ある?」

 

 『現状特に進展はありませんが、ローズ大佐と連絡が取れません』

 

 「……聞くんじゃなかった。ゼア、ペッパーさんに連絡。今どうなってるかな」

 

 J.A.R.V.I.Sは他のスーツとの連携取り戻すのに今しばらく時間がかかるそうで、マーク42にパワーを割いてるらしい。俺は時計のおかげで不自由なくサポートを受けてるが、トニーさんにはないはずだ。仮面の裏に映し出される映像に閉口しながらゼアにペッパーさんが無事かどうかを聞く。途端ゼアの方から報告が入る、ペッパーさんが行方不明!?冗談だろ、昨日の今日だぞ!?クソ、行動に迷いがない上に速い!どっち優先だ!?

 

 「J.A.R.V.I.S、トニーさんに連絡!」

 

 『つながりません、電源そのものを落とされていると考えられます』

 

 「わかった、加速する!J.A.R.V.I.Sナビして!いくよっ!」

 

 『了解』

 

 フライングファルコンの最高速度であるマッハ2に達し、J.A.R.V.I.Sとゼアのナビゲーションで俺はアメリカを横断していく。トニーさんに連絡を続けるけど全く出る気配がない。連絡入れろって言ったのそっちじゃないかもう!こうなったら最終手段!航路の大部分を進んだ俺がしびれを切らしてゼアに命令する。

 

 「ゼア、トニーさんのライズフォンを強制起動!位置情報を取得!」

 

 『マーク42の再起動に成功しました。これよりスーツの調整を開始します』

 

 「ナイスJ.A.R.V.I.S!」

 

 ゼアが遠隔で電源ごと切られてしまったらしいライズフォンの電源を強制的に入れて位置情報の取得をする。場所は……マイアミ!?クソッ!テネシーにいないのか!移動する旨くらいメールしてくれよ!ゼアがマップを更新し飛行ルートが変更される。俺は思いっきり体を捻って方向を転換する。音速以上の衝撃波が雲を爆散させた。

 

 「ゼア、画面映さずにライズフォン周辺の音を拾ってくれ!」

 

 必死こいてスピードを落とさず進路を変更し終え、ルイジアナを越えて直線ルートで海をまたぎマイアミの海上にやってくる。情報収集のためにライズフォンをゼアに遠隔で操作してもらい搭載されてるマイクで音声を拾う。ゼアは無言ながらもベルトで直接通じてることもあってか声に出さない細かい指示も聞いてくれる。同時にJ.A.R.V.I.Sがトニーさんが向かったらしい場所をスーツと同期したことで入手した情報を精査して示してくれた。

 

 「ここからならこの速度で5分もかからないな。J.A.R.V.I.S、スーツの方は?」

 

 『ハルト様よりおおよそ5分遅れて到着いたします』

 

 「じゃあ俺が突っ込む方が早いな」

 

 そう言いながらトニーさんのライズフォンが発する位置情報をもとに、大きな豪邸ともいえる家を海の上からロックオンする。ゼアがトニーさんがいるであろう場所を指し示し、そこの音声を流しだした。

 

 『おい、そこの兄ちゃん。テネシーからマイアミの距離知ってるか?』

 

 『ああ?大体1340キロってとこだろ。悪いな、記憶力いいんだ』

 

 『残念、正解は1338キロだ。さて、最終通告だ。そこに座ってお互いを縛れ、そうすれば命だけは助けてやる。3、2、1……』

 

 『面白いこと言うな、黙れ』

 

 「……J.A.R.V.I.S、スーツ予定より遅れてるよね?トニーさんの感じだと」

 

 『はい、現在中間地点より少々進んだところです』

 

 「だよね、じゃあ……俺が行くよ!ご期待のものじゃなくてごめんねトニーさん!」

 

 「JUMP!」

 

 音速から少し速度を落とし、上空でフライングファルコンプログライズキーからライジングホッパープログライズキーに入れ替えて、蛍光イエローのアーマーに戻った俺が飛び蹴りの態勢でピンポイントに豪邸の壁を文字通りのライダーキックで突き破る。トニーさんの声と重なった。

 

 「ドカンッ!……いったろ?」

 

 「ドカン!お求めの品を配送しに来ました!」

 

 「なんだお前!?」

 

 壁を突き破った真っ黄色の俺を見たテロリストの一味が銃を向けてくるがゼロワンに変身してる今全く怖くない。気にせず横を向いて手を上にされて縛り付けられてるトニーさんの所まで行ってそのままゼロワンの怪力で拘束を解いた。背中にバスバスと銃弾がささるけど俺には衝撃どころか接触したことすらわからない。俺の体に接触した瞬間アーマーに弾かれたりして地面に落ちてる。

 

 「トニーさんすいません、遅れました」

 

 「いやまたまた最高のタイミングだ。突入するの狙ってただろ」

 

 「いやまさかそんな。あ、これリアクターです」

 

 目の前に立ってトニーさんを銃弾から守りながらリアクターを渡して手軽になる。銃撃が一瞬止んだ隙をついてプログライズキーを押し込んで、高速移動を開始する。突入してきた援軍を含めて超高速で移動する俺を捉えられない。全てがスローモーションの中で俺はテロリストの全員の銃を奪ってトニーさんの足元に置き、一番壁際にいるテロリストの顔面真横に蹴りを突き入れた。

 

 「警察に自首することを勧めるけど?」

 

 「あ、ああ……今すぐ行くよ」

 

 俺の感じていた時間の流れが元に戻る。俺に蹴られた壁がまるで砲弾に貫かれて開いたような大穴に変わっていた。顔の真横にある俺の足を冷や汗と脂汗を流しながら目を見開いて見た髪をくくったテロリストがへなへなと腰を落として座り込む。武器がいきなりなくなったテロリストたちが自分の手を見つめて呆然としてるとスタークさんがマシンガンを天井に威嚇射撃した。それで正気に戻ったテロリストが冷や汗をかきながら両手をあげる。

 

 「なあ、お前。僕が言ったこと覚えてるか?」

 

 「あ、ああ……頼む撃たないでくれ。俺ホントはこの仕事嫌なんだ、あいつら変だし」

 

 そう言って手をあげたテロリストが自分で自分に手錠をかけて縛りだした。それを見た残りのテロリストも手錠を自分にかける。トニーさんはそれを満足気に見つめていた。そして、遅れてアイアンマンスーツがやってくる。トニーさんの全身にスーツが装着され、マスク部分だけは自分でキャッチしたトニーさんがそれを付けた。

 

 「ふぅ、落ち着く。やあJ.A.R.V.I.S」

 

 『トニー様、ご無事で何よりです』

 

 「トニーさん俺に言ったこと覚えてます?」

 

 「あー、何だったかな?怒るなちゃんと理由がある。それよりもペッパーが攫われた。エクストリミスの実験台にされてる」

 

 「エクストリミス……?ペッパーさんが行方不明なのは道中で気づきましたけどそれは何ですか?」

 

 アタッシュショットガンを構えた俺が先行しながらトニーさんの話を聞くと、テレビに映ってたマンダリンは影武者の舞台役者で、真の黒幕はエイムというシンクタンク、そこが開発したのがエクストリミスというナノマシンなのだそうだ。で、そのエクストリミスというのがあの3000度の熱を生み出す強化人間の元で、適合に失敗すると人間爆弾に変わると……あー、その、なんていうか……

 

 「どう考えても欠陥品ですけどそれ売る気なんですか!?しかもペッパーさんにも注入してるって!?」

 

 「ああ……イカれてるよ。止めに行かないと」

 

 「ええ、今更ですけど止められても俺も行きますからね。もう他人事じゃないです」

 

 「わかってる、ああ、おいローディ?スーツ着てるよな?なに?着てない?どこやった?」

 

 「完全にあれですね、追いかけて潰します」

 

 「いや、待て。おそらく本拠地に飛ぶはずだ、スーツの方の位置情報を頼りにペッパーの居場所を探ることにしよう。ローディ、屋敷まで来てくれ。考えがある。J.A.R.V.I.S、追跡を怠るな」

 

 話し合ってる途中で屋敷から飛び立つ一つのスーツを見つける。ローズさんのアイアンパトリオットスーツだ。トニーさんに連絡が入って、おそらくローズさんのスーツが奪われたということが分かった。俺は飛ばしたらまずいと考えてスーツを飛行不能にしようとバーニングファルコンプログライズキーを取り出す、がトニーさんに止められてしまったのでそのまま見送る。

 

 

 

 

 「マンダリンをかく……ぐわっ!?」

 

 「ぐふっ!?」

 

 「……テレビで見るより覇気がないんですけど」

 

 「だろう?売れない大根役者だそうだ」

 

 「おい、お前!動いたら頭に叩き込んでやるからな」

 

 真正面から部屋に乗り込んだ俺が銃弾を浴びつつもパンチで壁までテロリストを吹っ飛ばす。窓からダイナミックエントリーしてきたローズさんが銃を片手にクリアリングを済ませ、酒の缶をすすっているテレビをお騒がせしてた老人、マンダリンの影武者に銃を突きつけた。ペラペラと聞いてないことをしゃべりだすおっちゃんにエネルギーを吸われそうな俺がこれがアレ?とトニーさんに尋ねる。

 

 ああそうだ、とやれやれとした声を出すトニーさん、胸部装甲を開けてアークリアクターを交換しながらそう答えたのでコレがマンダリン本人で間違いないようだ。なんかテレビで見てたような凄みみたいなものがないなあ、え?名前?いいよ興味ない。トレバー・スラッタリー?まってそれリア王やってた人じゃん。何してんの。

 

 「あ、ああそうだ計画だ。確か大統領をどうにか……おっきいタンカーでなんかするって言ってたな」

 

 「なんだって大統領?」

 

 「ローディ、心当たりがあるのか?」

 

 「ああ、このあと大統領がマイアミから首都まで戻るんだが……ってことはおい!あのアーマー、そういうことかクソッたれ!」

 

 「まずいな流石に追いつけない……」

 

 偽マンダリンは銃を突きつけられて抵抗するすべを失ったからなのか、ただ単に酒に酔ってるだけなのか計画、まあ穴だらけだけど知ってることを語りだした。その中に、大統領を誘拐することがあった。ローズさんのアーマーを奪ったのは大統領専用の飛行機をハイジャックするため、やばい。こんなの許したらアメリカがひっくり返るぞ!?

 

 「おいお前、確かモーターボート持ってるって言ったよな?」

 

 「ああ、あるけど……使う?鍵ならそこの机の上だ」

 

 「いくぞ、ローディ、運転できるよな?ハルもだ」

 

 トニーさんの号令で、俺たちは偽マンダリンのモーターボートまで走っていくのだった。




 ストックが切れたので更新頻度落ちます

 お許しください


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バーサス・AIM

 「ベースキャンプまで20分ってとこか」

 

 「副大統領に連絡を入れた。警備を敷くそうだ」

 

 「それ嘘っぱちですよ。何も問題ないって言ってます。もしかして副大統領グルだったりしません?」

 

 「なに?」

 

 「いや、ゼアに頼んで回線遡って盗聴したんですけど、警備なんてしないでなんも問題ないって言ってますよ副大統領」

 

 「「……」」

 

 偽マンダリンのモーターボートの上で作戦会議をする俺たち、トニーさんの伝手で副大統領に直接ホットラインを繋いで状況を説明したローズさんの期待を裏切る結果に終わったことを携帯に潜り込んだゼアの報告を受けた俺が伝えると二人そろって無言になった。上が裏切ってたか、って感じだよね。

 

 「そうなるとペッパーを助けるか大統領を助けるか……どちらもは無理だぞ!?」

 

 「俺が大統領助けに行くのがいいんじゃないですか?トニーさんたちはそのままペッパーさんを助けに行けば……」

 

 「いや、ハルには居てもらわないと困るな、君はこの状況に於いてのワイルドカードだ、全てをひっくり返せるかもしれない」

 

 「じゃあどうする!?」

 

 「僕がやろう、J.A.R.V.I.S、飛行システムは?」

 

 『マーク42の全機能のリブートを確認。使用可能です』

 

 「よしきた、船室借りるぞ」

 

 ガチャガチャ、とスーツを脱ぎ捨てたトニーさんが船室に入る、あ、そういえばスーツだけで遠隔操縦できる機能を搭載してるんだっけ、つまり移動中に助けてしまえっていう感じか。いかにも軽い感じで始めたけど大丈夫かな……

 

 「J.A.R.V.I.S、ゼアを補助に入れるから受け入れてもらえるかな?指示をくれればその通り動くから」

 

 『了解、ゼアとの接続を了承します』

 

 ゼロツープログライズキーの中のゼアをJ.A.R.V.I.Sとリンクさせてトニーさんの補助に乗り出した。ふぅー、と息をついて座り込む。ゼロワンドライバーはつけたままだけど変身は解いてる。傷一つないけど精神的な疲労がどっと襲ってきてる感じだ。特に、リミッターかかった状態とはいえ人を思いっきり殴った、これが結構きてる。まだ俺がそういうのに慣れてないからかな……

 

 「どうした?大丈夫か、ひどい顔色してるぞ」

 

 「……思いっきり人を殴ったの、初めてだったんです。感触が消えなくって……」

 

 マーク42が飛び立ち、トニーさんが救助に移ったのを見て、船をクルーズモードにしたらしいローズさんが手を握ったり開いたりしてる俺を心配そうに話しかけて来てくれた。思いっきりエイリアンを殴った経験も最悪だったけど、生身の人間の感触はもっと最悪だったな。顔面思いっきりいったから歯とか頬骨とか折れてるかも……

 

 「……そうか、こんな状況だから、逃げていいなんて言ってやれないが……あまり自分を追い詰めるなよ。全部終わったら……そうだな、俺のとっておきの武勇伝でも聞かせてやろう。爆笑必至だ」

 

 「はは、ありがとうございます。楽しみにしてますね。あ、向こういったらこれ使ってください」

 

 真面目ゆえか不器用ながらも慰めてくれるローズさんの言葉をありがたく受け取ることにした俺はスーツがないんじゃ不安だろうと思ってトランク状態のアタッシュショットガンをローズさんに手渡した。俺は反動に振り回されて大雑把な狙いしか付けられないけど現役軍人のローズさんならショットガンは使い慣れてるはずだ。

 

 「俺は変身すれば銃弾も、あの強化人間でも問題なく戦えます。拳銃一丁よりは格段にましかと……ただ、直撃させればほぼ確実に殺してしまうほど威力があります。テロリスト相手ですから手加減はしないでしょうけど……」

 

 「銃なんて当てれば殺すことなんて当り前さ。ありがとう、使わせてもらうよ。これ何発撃てるんだ?」

 

 「1000発くらいなら多分大丈夫かと。弾切れしたことないですし」

 

 「……そうなのか。君が持ってる装備はトニーに負けず劣らず不思議だな」

 

 しげしげとアタッシュショットガンを変形させて構えるローズさんがそんなことを言って、俺もそれを肯定する。そのあとは、無言。トニーさんの作戦が成功するように、俺はただ、祈るのだった。

 

 「二人とも、終わったぞ。落下した人間は全員助かった……が、大統領が攫われた」

 

 「そうか、スーツがあってもそのザマじゃ生身でペッパーを救えるか?ハルトにおんぶにだっこというわけにもいかないぞ」

 

 大統領が攫われたという報告と専用機が爆発したが、犠牲者は出てしまったものの落ちた人間は助けられたというトニーさんの話を聞いたローズさんはぼやきながら運転席に行ってしまった。まあ言いたくなる気持ちも分かるけどさ……ゼア、ありがとね。トニーさんもJ.A.R.V.I.Sもお疲れ様。

 

 「トニーさん、スーツが戻ってくるまでどのくらいですか?」

 

 「流石に距離があるからな、時間がかかる。J.A.R.V.I.S、パーティの時間だ。盛大に頼む」

 

 『ホームパーティープロトコルですか?』

 

 「ああ、そうだ」

 

 「なんです?それ?」

 

 「今日の夜にやるパーティーの名前さ。埠頭で盛大にやつらをもてなそうと思ってね」

 

 「……?」

 

 「それよりも作戦会議だ、ハル。君が主役だぞ」

 

 「……冗談ですよね?」

 

 ぴっと指を立てて俺を指すトニーさんに、俺は冷や汗をかきながらそう聞くのだった。

 

 

 

 

 『ハル、そっちはどうだ?』

 

 「ええまあ、物々しいと言いますか何といいますか……ほんとにいいんですね?」

 

 『ああ、というかそれしか手がない。君が思いっきり暴れれば、やつらは大混乱だろう』

 

 「わかりました。やりますよ」

 

 『頼んだ。なに、すぐに楽になるさ。パーティーの準備が終わればね』

 

 トニーさんの軽口を聞き流して俺は埠頭に躍り出る。まだ誰も気づいていない。とっぷり日が暮れて真っ暗になったマイアミのとある埠頭についた俺とトニーさんローズさんは二手に分かれることになった。まあスーツがない二人は潜入してペッパーさんと大統領を救出する。俺は真正面からカチコミして陽動、あわよくばテロリストの全滅を狙うって寸法だ。

 

 「……とりあえず、邪魔させてもらう!変身っ!」

 

 「飛び上がライズ!ライジングホッパー!」

 

 「なんだ……ぐわっ!?」

 

 「て、敵襲~!うわああっ!?」

 

 ライジングホッパーに変身した俺は恐らくエクストリミスの強化兵ではない一般のテロリストにパンチとキックをお見舞いして気絶させる。派手にやったのですぐに気づかれた、トニーさんたちはその隙にタンカーに潜入できたことがJ.A.R.V.I.Sからの報告で分かった。ゼアに指示してエクストリミスの特徴である高温を視界で識別できるようにチェック、そのままジャンプで飛んで俺もタンカーに乗り込んだ。

 

 「……お前は……ゼロワン!?何でここにいる!?」

 

 「くそっ!大事な時に!」

 

 「悪いけど、邪魔させてもらいに来たよ」

 

 まあニューヨークのアレで連日俺は報道されたし、外見は有名だろう。そのあと全くヒーロー的な活動はしてないから、余計にこんなところにいるのが不思議でならないのだろう。漏れるへまはしてないって感じだろうし。だけどそれは、俺には関係ない。ここまで来て、トニーさんたちを傷つけて、ペッパーさんをさらって、挙句の果てには国家転覆紛いなことをしている。

 

 はっきり言えば、俺は怒ってる。ニューヨークのエイリアンと同じだ、罪もない無数の人を殺し、人間を人間とも思わない扱いをしてる。いい加減プッツン来てるんだよね。ちゃんと捕まってさ、裁きを受けて欲しいんだ。だから……本気で殴って止めるぞ、エクストリミスだろうが知ったことか。

 

 わらわらと集まってくるテロリストと強化兵に囲まれた俺は、習い途中のファイティングポーズを取る。それが合図となったのか銃弾が降り注いできた。けどヒデンアロイ製のアーマーにいまさら銃弾程度が通用するはずもなくむなしく弾かれるだけ、それを見た強化兵が銃弾とは比較にならない威力と速度で鉄パイプをやり投げのように投げてくる。

 

 真正面から迎撃する、鉄パイプをキャッチし、投げ返す。強化兵を貫いて鉄の壁を深々と貫き、その場に縫い留める。強化兵は痛みに顔をゆがめるがありえない高温で鉄パイプを溶かして脱出してしまう。トニーさんの話では頭や心臓と言った急所を一瞬で破壊すれば殺せるって話だったから……ある程度無茶しても大丈夫そうだ。

 

 一般兵の銃器を蹴り飛ばしたり、アタッシュカリバーで真っ二つにして峰でぶっ叩いて気絶させたり海に向かって蹴飛ばして無力化する。俺に対して遠距離でどうこうするのは無理だということを察したらしいエクストリミス強化兵が3人、殴りかかろうと近づいてくる。

 

 「はっ!」

 

 「うぐあっ!?」

 

 リミッターを一部開放して殴りかかろうとする拳に合わせるように拳を入れて相手の腕を潰した。高熱をあげて再生していく腕を押さえた相手に顔面蹴り、鉄骨にぶち当たって一人は沈黙した。もう二人へ蹴りをぶち込んで海に落とす。捕まえる理由なんて山ほどあるけど殺す理由は持ってないからね。殺してなんてあげるもんか、きちんと刑務所に入ってくれ。数が多いので対処の方法を変えよう。

 

 「TERRITORY!」

 

 「Impossible to escape!トラッピングスパイダー!No one can escape its web」

 

 トラッピングスパイダープログライズキーを装填する。上から降ってきた蜘蛛のライダモデルが電流が流れた電磁ワイヤーで兵士をからめとりながら俺の後ろに無音で着地しばらけて俺の体にくっつきアーマーに変わる。蛍光イエローとバイオレットのアーマーを纏ってガラッと様相を変えた俺と電流で気絶した兵士をみた一般兵の顔色が一層悪くなる。

 

 「悪いけど、警察に突き出すまでは捕獲させてもらうよ!」

 

 近づいてくるエクストリミス強化兵も一般兵も関係なくトラッピングスパイダーのアーマーから射出される特殊電流が流れた電磁ワイヤーにからめとられて電流で動けなくなって気絶している。何とか意識を保ってるらしいエクストリミス強化兵が体の熱をあげて電磁ワイヤーを切ろうとしているが、ダメ押しで3重巻いたら気絶した。よし!

 

 『マーク42及びアイアンマンスーツ接近中』

 

 『やっときたか……ハル、お疲れ様だ。お待ちかねの援軍だぞ』

 

 「……トニーさん今まで作ったの全部保存して整備してたんですね……」

 

 『当然だろ?現に今役だった』

 

 周りを一掃した俺に通信が入る、J.A.R.V.I.Sからの連絡とトニーさんからの軽口に合わせるように、流星のようにリパルサーの尾を引いて次々とアイアンマンスーツが遠く離れたトニーさんの自宅から飛んでこのマイアミのタンカー上に姿を現した。そしてばらけたマーク42がトニーさんの身体に纏わりついて、カチンとマスクを下ろし、戦闘準備が完了する。

 

 俺はそれを確認したのち、大統領に向けて突っ走るローズさんを援護することにした。アタッシュショットガンを巧みに操り、強化兵の手や足を撃ち抜いて行動不能にし、拳銃で一般兵を無力化するローズさん。トラッピングスパイダーの能力である壁を垂直に上る機能を使って大統領に接近した俺は、アタッシュカリバーでアイアンパトリオットスーツを拘束している鎖を断ち切り、スーツごと大統領をさらってローズさん近くに着地する。

 

 「どうも、大統領。スーツ返してもらってもいいですか?」

 

 「あ、ああ……これどうやって脱げばいいんだ?」

 

 「ゼロワン、これ返しておくよ。大統領、お運びします」

 

 ローズさんが変形させてアタッシュショットガンを投げ渡してくれる、俺は無言でそれを受け取り、大統領がスーツから出てローズさんが入れ替わる様にスーツを着るのを確認すると。アタッシュショットガンを変形させてスラッグ弾を強化兵の手足にぶち込んでワイヤーで拘束する。そのまま飛び去るローズさんと入れ替わる様にアタッシュショットガンとアタッシュカリバーの1丁1剣状態で反対側にジャンプして一般兵を電磁ワイヤーで拘束する。

 

 「数が多い……!」

 

 『全くだ。ハル、こっち来れるか?ペッパーを見つけたんだが、目の前のやつが邪魔でね』

 

 「すぐ行きます!」

 

 トニーさんの位置をゼアが表示する立体マップで確認して壁を三角跳びして、下からトニーさんの相手してるヤツに奇襲をかけた。アタッシュショットガンで殴り飛ばした相手を改めてみると……トニーさんが言ってたマンダリンの正体、アルドリッチ・キリアンだった。横目でトニーさんを確認してみるとマーク42はところどころ赤熱してるものの、壊されてはいないようだった。

 

 「代わります。ペッパーさんを」

 

 「任せた」

 

 「おいおい、寂しいじゃないか。盛大にパーティーしてるなら、俺のダンスの相手も替わらないで欲しいね」

 

 「俺じゃ不満か?ドレスだってピッカピカだぞ」

 

 「生憎君はお呼びじゃない」

 

 「そりゃ悪かったな!」

 

 アタッシュショットガンとアタッシュカリバーを投げ捨て、俺とマンダリンは殴り合いの態勢に入った。

 

 

 




 現在の映画のアイアンマンスーツと本作のスーツの違いは、主に装甲です。アタッシュウェポンの装甲構造を簡易的に再現(ヒデンアロイが再現不可なため)しているので熱、衝撃への防御その他諸々が強化されてます。具体的にはキリアン君の手刀でスーツが両断されないくらいには強い。実装はマーク38からです。

 マーク42くんはアークリアクターを入れ替えてエネルギー問題が解決&主人公がJ.A.R.V.I.S本体を直したので普通に間に合ってます。キリアン君と殴り合っても壊れないくらいに強くなってます。ぽんこつの汚名返上や!

 キリアン君が最初から外に出てるのは主人公が暴れまくったので「なんだお前!?」「エクストリミスに勝てるわけないだろ!」と外に出てきてくれたからですね

 では次回で決着とさせてもらいます。感想評価よろしくお願いします


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マンダリン・ストライク

 ゴキャァン!と生身の拳とぶつかったとは思えない音がタンカーの上に響く、俺の目の前にあるのはへし折れたマンダリンの再生する腕と、リミッターがかかってるとはいえ押し返されたという事実、すぐさま電磁ワイヤーを3本射出しマンダリンを拘束する。

 

 「この程度……!」

 

 「お前だけおかしくないか?」

 

 電磁ワイヤー3本分の電流にあっさりと耐え抜いたマンダリンは体を超高熱にしてワイヤーを焼き切ってしまった。冗談だろ、エクストリミスって強化段階とかあるの?人を超えた速度で殴りかかってくるマンダリンの攻撃が呆気にとられた俺にモロに入った。ヒデンアロイが赤熱してるが変形するほどではないらしい。だが、変身した俺を殴り飛ばすとは……本当に油断できない。

 

 「なんだ?思ったよりも弱いじゃないか」

 

 「いや、あまりに化け物じみてるからびっくりしちゃってさ。手加減要らなそうだね」

 

 「いーや?何せ見ての通りか弱いからね。存分に手加減してくれていいとも。そっちの方が楽だ」

 

 俺を殴った時にへし折れた腕をプラプラと見せながら気障ったらしい口調で俺を煽ってくるマンダリン。嘘つけお前他のエクストリミス強化兵より明らかに強いだろ。寄りかかってる金属製の手すり真っ赤になって溶けだしてるぞ。確かにこれはトニーさんも梃子摺るわ。ペッパーさんを見つけて焦ってたら猶更。

 

 ゼアに命じてリミッターを半分カットした。俺はそのまま突撃してマンダリンにタックル。壁に押し付けて拘束した。このまま壁にたたきつけ続けてやろうと画策していると。急にパワーが上がった俺に手を拘束されて外せずもがくマンダリンは焦ったのか文字通り顔面を真っ赤にして口から火を噴いた。大丈夫と分かってても生理的な反射で顔を覆って防御してしまう。その隙に蹴り飛ばされた。

 

 「火まで吹けるなんてびっくりどっきり人間だな。大道芸人でもやったら?」

 

 「おいおい、このスーツ見て分からないか?俺は社長なんだ、金にゃ困ってない」

 

 「真っ黒こげで溶けてるよ。マフィアの間違いじゃないかな?テロリストだし」

 

 「確かに言う通りだな、まあそれも今日までだが。俺が死ぬか君たちが死ぬかだ」

 

 「捕まる気は?」

 

 「ないね」

 

 そのままお互いに駆け寄って殴り合いのインファイトに突入する。正直いくら殴っても手ごたえというものがない、ダメージは入っているけどすぐに回復されてしまう。そして、相手の攻撃の威力は俺のスーツを貫通するほどではない。ヒデンアロイがいくら高温になろうとも、ライズアーキテクターにいくら打撃を打ち込もうと、中身の俺まで届かない。だが、相手の基礎性能は当然ゼロワンの中身である俺より高い。

 

 殴り合いでは有効にならないと察したらしいマンダリンは全身を赤熱化させて俺にタックルして押し倒そうとしてくるが、パワーなら俺が圧倒的に勝ってる。そのまま倒されずに持ちこたえて逆にマンダリンを持ち上げて地面に叩きつけてやった。ゲホ、とマンダリンが口から吐いた血が、鉄網の床を溶かす。

 

 「いつまでやる?言っとくけど、お前の作戦は全部台無しだ。大統領は助かったし、強化兵も俺がほとんど拘束するかアイアンマンにやられてる」

 

 「黙れ……!確かにAIMは終わりだ、だが俺はスタークに、やつに復讐するまでは……!」

 

 「トニーさんに何の恨みがあるかしらないけど……どんな理由があろうと今おまえがやってることの正当性の確保にはならないんだよ。というか人を殺す方向じゃなくて人を助ける方向でエクストリミス使えばよかったんだ。なくなった腕が生えたり、下半身不随の人が立てるようになったりするんだろ?」

 

 追い込まれて後がなくなったマンダリンはスタークさんに向かって呪詛を吐いて尚も立ち上がる。俺が与えたダメージも完全に回復しているのだろう。ほんとに、なんでテロなんか始めたんだか。エクストリミスがあれば、何人の人が助かるか。もちろんまだ研究は必要だろうけど……手や足を失った人にとっては、希望の福音になるのにさ。こんなことしたら……封印されるに決まってるじゃん。

 

 「お前は知らないんだ……!あの夜のことを!あのみじめさを!」

 

 「知らないね!同情の余地はあったかもしれないけど!今のお前はただのテロリストだろ!だからここで、俺がお前を止める!」

 

 「トラッピングインパクト!」

 

 プログライズキーを押し込んで必殺技を発動する。俺の体から発射された夥しい数の電磁ワイヤーが次々とマンダリンの身体に纏わりついていく。まるで蜘蛛の巣にとらえられた哀れな獲物のようになってしまったマンダリンは、打ち込まれ続ける電流にも耐えて拘束から抜けだそうともがく、俺はプログライズキーを取り出してスイッチを入れ、そのままトラッピングスパイダープログライズキーと入れ替える。

 

 「BLIZZARD!」

 

 「Attention freeze!フリージングベアー!Fierce breath as cold as arctic winds」

 

 「フリージングインパクト!」

 

 俺の背後に降ってきたシアンのホッキョクグマに抱きかかえられるようにしてアーマーを切り替えた俺は、間髪入れずにフリージングベアープログライズキーを押し込んで必殺技を発動させる。両手のポーラーフリーザーから凍結材を噴射してマンダリンごと区画一帯を氷漬けにする。マンダリンは体温をあげられるようだから凍死なんかしないだろう。拘束の上から拘束を重ねてもなおも意識を保ち続けているマンダリン、恐ろしいなエクストリミス……!だからダメ押しだ!

 

 「POISON…!」

 

 「Dangerous warning!スティングスコーピオン!Stung with fear by the power claws」

 

 ダメ押しにもう一度ハイブリッドライズ、スティングスコーピオンになった俺はマンダリンの顔に拳を当てて、これまでの戦闘データからゼアが得たデータをもとに生成した麻痺毒をマンダリンに注入した。もちろん殺すためじゃなく体の自由を奪うためだ。対毒に特化したスティングスコーピオンだが、薬も過ぎれば毒となるという言葉がある様に多少の毒なら生成できる。3日もあれば動ける。エクストリミスがあればもっと速いかもしれないけど。

 

 全身が弛緩したマンダリンが抵抗できなくなる。俺はそれを確認して踵を返した。後ろで何かを言おうとしているマンダリンに俺は、どうしてもいいたかったことを言ってやった。

 

 「人を殺すんじゃなくて、助けてみろよ。罵倒よりも、感謝の方がみんな好きだろ。よく考えてくれ」

 

 それだけ言って、俺はタンカーから飛び降りる。アイアンマンスーツがテロリストを完全に鎮圧し、マーク42でエクストリミス強化兵士5人を殴り飛ばして気絶させ、ペッパーさんを取り戻したトニーさんの元に。

 

 

 

 「ああ、ハル。お疲れ様だ……今日はホント、助かったよ」

 

 「あ、トニーさんそれ」

 

 「ハル?今ハルって言った!?ハルトなの!?トニー、貴方なんで子供にスーツを……!」

 

 「あー、おいおいそれは誤解だ。ハルのスーツは自前だよ、僕のプレゼントじゃない。何より僕にいわせりゃスマートさが足りないからね」

 

 「結構ひどい言われようですね。俺このスーツ好きなんですけど」

 

 「とりあえずそのやかましいの消そうな?」

 

 飛び降りて目の前に着地した俺を見たトニーさんがつるっと口を滑らせてくれたおかげで思いっきりペッパーさんに正体がばれてしまった。まあ今更ペッパーさんにバレたところでと思ってたんだけどペッパーさんは俺が戦ってたという事実にたいそうお冠のようでエクストリミス強化兵と同じように瞳をオレンジにして怒っている。ペッパーさんは適合に成功したのか、でも……

 

 「トニーさん、ペッパーさんを元に戻せますよね?」

 

 「当然だろ。何だったら一度正解を導き出してるからな、僕の得意分野だぞ。ああ、それと同じくらい大事なことがある。ペッパー……君にプレゼントだ。ハルも、見てろ。J.A.R.V.I.S」

 

 『了解』

 

 トニーさんがJ.A.R.V.I.Sに指示を出すとトニーさんの身体から離れていったマーク42が飛び立ち、空中で爆散した。えっ!?と俺とペッパーさんが目を白黒させていると生き残っているスーツたちが次々と爆発して夜空に爆炎を咲かせていった。まるでクリスマスを祝う花火のように。そういえば、今日はクリスマス当日だった。サムさん何してるかな、急に姿を消したから驚いてるだろうな。

 

 「メリークリスマス!戦ってて気づいたよ。スーツがアイアンマンじゃない、僕が、トニー・スターク自身がアイアンマンだったんだってね。あのスーツは僕を守る卵の殻だったってワケ。……気に入った?」

 

 「ええ、とっても……!」

 

 なんか、トニーさんからずっとあった焦りのような何かが消えてる。俺の主観だから実際どうなのかなんてわかんないけど……スーツがないのにも関わらずペッパーさんを抱きしめるトニーさんはスーツを纏っている時よりも強く、逞しく、頼りがいがあるように見えた。正直これ以上は邪魔かな……恋人たちの夜だ、お手伝いさんはさっさと帰宅するに限る。

 

 「……トニーさん、ペッパーさん。メリークリスマスです。俺は一足先に帰って……適当なホテルで寝ることにします。それじゃ」

 

 「おいおい僕を甲斐性なしのダメ男にするつもりか?って言いたいがな……こんだけやった後だ。フューリーも間違いなく僕と君の関係に目を付ける。僕がフューリーと話を付けよう。揺するネタは山ほど持ってるからな。君のことは必ず何とかする」

 

 「いえ、いいんです。俺、決めましたから。何もしないでもこんな事件が起こるなら……戦った後で後悔したほうが万倍ましです。だから俺は……戦います」

 

 仮面越しにトニーさんの瞳をまっすぐ見つめ宣言する。マンダリンと戦ってて気づいた。俺が何もしなくても悪いやつは勝手な理由で悪いことをするんだ。今回みたいに大勢巻き込んだりすることもある。なら、俺が出張ることで止められるのに何もしなけりゃ後悔する。戦って後悔するか、見ないふりして後悔するか……そんなもん決まってるはずなんだ。

 

 「……そうか。いや、君が君の考えで決めたことだ。どうやら僕が何を言っても無駄らしい、ようこそこちら側へ。いつでも頼ってくれ、今度は僕が助ける番だ」

 

 そう言ってトニーさんは俺をスーツの上から軽くハグをして、パンと背中を叩いた。俺はそれをありがたく受け取ってから、バーニングファルコンプログライズキーを起動して飛び立った。ライズフォンが振動する、相手は……サムさんだ。俺はゼアに命じて空を飛んだまま電話に出る。

 

 「ヤッホーサムさん、メリークリスマス。え?今?自分探しの旅しててさ、いやールイジアナは寒いねえ。うわっ、そんな怒らなくてもいいじゃない。旅に目覚めただけだよ」

 

 まあ正直、親しい人につく嘘だけは慣れないかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サムさんにメタクソ怒られてから数日、結局俺はマジでルイジアナのホテルに泊まってクリスマスを過ごした。寂しいのでホテルの部屋でクラッカー鳴らしたら余計むなしくなったけど。トニーさんたちとはもうあれから連絡を断ってる。連日ニュースを騒がせてる二人は忙しそうだし、ここで連絡を取って関係を気取られるのも面倒だから。

 

 マンダリン本人は、どうやら大人しく捕まったみたい。連行される姿をニュース映像で見たけど……ワイヤーは解かれて、氷も溶けていたにも関わらず大人しく手錠をかけられてパトカーに乗っていた。それもやろうと思えば皆殺しにして逃げれたはずだ。軍人に囲まれる中護送されるマンダリンの顔は、何かを思い出そうとしてるような、そんな顔だった。

 

 まあ俺がいない間、サムさんはたいそう俺を心配してくれたみたいで、そこに関しては申し訳なかった。一応家を空けることについてはゼアを通じてメールしたんだけどそれ以降ごたごたで連絡全カットしてたからね、マジで心配かけたと思う。

 

 まあ、正直言えば疲れたんだ。戦闘ってやつはどうしてもその……ストレスがたまる。実戦を2回しか経験してない俺が言うのはちゃんちゃらおかしいかもしれないけど……戦場帰りでPTSDになってしまう人のことが分かった気がする。ホテルに滞在して1日は食事も喉を通らずにずっとベッドとお友達だった。人を殴った感触や、アタッシュカリバーで手足を切り落とした光景、アタッシュショットガンの銃撃の光景が時たまフラッシュバックする。

 

 ゆっくり、俺のことを誰も知らない、気にしない場所で休んだおかげで、食欲もまあ戻ってきたし、精神的にも何とか回復してきた。戻さなかっただけあのニューヨークの時よりはましだ。だけど正直、慣れても忘れたくはないと思う。これは俺が負うべき責任で、俺が与えた痛みなんだから、全て覚えていたい。

 

 そう考え、ホテルのランチに出かけて、食事を済ませる。資金に関してはまあ、前にトニーさんから頂いたお給料で当面の生活に不自由はない。クリスマスシーズンくらいは休んでもいいだろう、誰も何も知らないとはいえ一応の一応アメリカを救ったわけだし。実感ないけど。

 

 何となく脂っぽくて持たれそうなランチを済ませた俺がホテルの部屋に戻り、扉を開ける。扉の鍵を閉めて、ベッドメイキングを済ませてあるであろうベッドルームに入ると、窓際のチェアに招かれざる客がお邪魔していた。トニーさんから聞いた通りの風貌、黒人のスキンヘッドで左目が眼帯、分厚い黒いコートに気難しそうな顔。そう、確か名前は……

 

 「お休みの所邪魔させてもらってる。S.H.I.E.L.D.長官、ニック・フューリーだ。少し話をさせてもらおう」

 

 そう、ニック・フューリー。トニーさん曰く信用できない男、人望ゼロの眼帯野郎。その男が、鷹揚にそう告げてきたので、俺は彼の目の前の椅子に黙って腰掛けるのだった。




 元々この小説の構想は「キャップにはファルコンっつーサイドキックがいるけど社長にはいなくね?」というところでした。スパイダー坊やとかローディはなんか違うような感じですし

 次回はフューリーとのお話しあいです


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カモンズ・フューリー

 ニック・フューリー、トニーさんから耳にタコができるくらい聞かされた名前だ。主に愚痴で。胡散臭いだの人望が無いだの、秘密主義だの悪口ばっかり聞かされてた気がする。というかそれ一部トニーさんにブーメランしてない?と思ったけど言ってもしょうがないし、トニーさんにはいい方向に進みだし始めてたと思うから気にするほどでもないと思う。

 

 話が逸れたけど今俺の前にいる不法侵入スキンヘッドガングロマンはどうやら国のお偉いさんということで間違いないようだ。多少口が悪いのはホテルとはいえ自分の部屋に我が物顔で鎮座してたら流石の俺でも思うことはある。思うことがあるだけでまあいっか程度だけど。トニーさんが言うにはこの人元スパイらしいしそういうお約束的な奴があるのかな。

 

 「あー……初めまして?まあトニーさんが話したか調べたか知りませんが知ってる前提で挨拶させてもらいますけどハルト・ハヤカワって言います。一応よろしくとだけ」

 

 「ああ、初めましてだ。まず断っておくが、俺は君を今すぐ組織に引きずり込みに来たわけじゃない。将来的にリクルーティングはするが、今すぐは不可能だ」

 

 「へえ、そうなんですね。何か理由が?」

 

 「偏屈な発明家の協力がなくなったら困るからな」

 

 「あー、なるほど。俺より有能ですからねえそりゃ」

 

 フューリーさんがまず俺に指を立てて言うことにはどうやら彼は今ここで権力を盾に俺からライダーシステムを取り上げたり、S.H.I.E.L.D.とかいう国防組織に所属させたりするつもりはないらしい。ふーん、じゃあなんで俺に会いに来たんだこの人?不思議すぎるんだけど?まあ学もなければおつむもいまいちな俺が考えることの上を行く理由があるんだろう、多分。

 

 「じゃあなんでわざわざ不法侵入して俺に会いに?」

 

 「一つは人柄の確認。君が力を持つ人間なのは分かっているが、それをどう振るうかは未知数だ。アルドリッチ・キリアンをやりこめたそれを犯罪に使われたら面倒くさいからな」

 

 「俺の力はトニーさんと同じ外付けのスーツです。取り上げることも可能ですよ?」

 

 「ふん、出来るなら最初からそうする。その言い草だと取り上げたら何かしらありそうだがな」

 

 だめだ舌戦じゃ勝てねえわこれ。俺とゼロワン……正確にはゼアは一体であることを証明するためにゼロツープログライズキーでも取らせて一杯食わせてやろうと思ったけどすぐに狙いを見抜かれてしまった。素人判断でもいいセン行ってると思ったんだけどなあ。今このタイミングでシステムを取られるのはまずい超えてやばいので抵抗を試みたが無駄だったようだ。

 

 「一応聞いておくが……君のテクノロジーを公開する気は?」

 

 「ありません、というか俺じゃできません。外側から分析する分には結構ですけどね。これが大本ですけど……俺から引き離せば襲い掛かってきますよ。所有者の変更も受け付けません。これに至ってはシステムの方が上位です」

 

 「だろうと思っていた。スタークのとこのAIが突破できない時点で何か怪しいと踏んでいたが……テクノロジーに使われているのか」

 

 「……まあ、見方によっては。ただ、ゼアと俺は対等です。こいつは俺を使うんじゃなくて俺に協力してくれている、そこをはき違えないでください」

 

 ゼロツープログライズキーを見せて聞かれたことに答える。トニーさんからある程度人柄を聞いていたから意図的に俺を怒らせようとしている、あるいは俺から正常な判断を奪おうとしているのかどちらかだろうという前提で対応することが出来ているのでまだ俺は冷静な方だ。まあ俺は短絡的に力を使おうなんて思えない、というか思えてたら初めて変身したあの時からニューヨークのあの日まで使いまくってたに決まってる。自己防衛ならともかく、ムカついたとか、そういう理由で使うことはしない。

 

 「それで?一つ目の確認は終わりましたか?」

 

 「ああ、マイアミの映像とニューヨークの振る舞いを見ても合格だ。では本題に入らせてもらう。君を雇いたい」

 

 「……S.H.I.E.L.D.とやらに入れと?」

 

 「いや、そうではない。俺が個人的に君を雇いたい。理由としては自由に動ける個人戦力が欲しいから、と言えば納得か?」

 

 「何を期待してるのか知りませんが俺は素人ですよ。殴り合いならともかく、潜入だの任務だのというのなら正規軍人の方が100倍役に立ちます」

 

 何だこの人、S.H.I.E.L.D.に今入れないと言ったと思ったら今度は個人的に雇いたいだって?真っ黒いことさせようってのがありありに見えるな。というか貴方調べてか聞いたかしたなら俺の本業がフードトラックとはいえ料理人っての忘れてないか?すでに手に職あるんだぞ?店開かないと怪しまれるんだぞ?監視カメラを誤魔化すのも面倒なんだぞ、ゼア任せだけど。

 

 「……俺に何させようっていうんです?」

 

 「紛争地帯への介入、テロリストの鎮圧、不穏分子の排除……まだ聞くか?」

 

 「……専門のプロにさせた方がいいでしょうそれは」

 

 「だが必要なことだ。生憎真正面から突っ込んでスターク以上の防御力を持つ存在など他に一人くらいしか思いつかなくてな」

 

 「じゃあその思いつく人にやらせればいいでしょう」

 

 「怒りに支配された緑の大男にできると思えればな」

 

 おちょくってんのかこいつぅ!まあ、何だ……言われたことはそりゃあ、戦うって決めた時点で経験するであろうことだ。この世界において仮面ライダーが打倒するべき怪人は存在しない。怪人じみた存在はいるんだけどそれでも大多数相手するのは人間だ。しかもエクストリミスみたいな強化もされてないやつら。それに戦うって覚悟決めたばっかりだ。でっかくため息をついた俺はいくつか彼に質問をすることにする。

 

 「……いくつか質問します。俺は素人です、仮にテロリストの鎮圧を求められても真正面から突っ込んで殴ることしかできません。内密に、とかなかったことに、なんてのは不可能です。そこら辺如何するつもりなんですか?」

 

 「それでいい。君に足りないものを一つ教えてやる。経験だ、君が望むと望まざるとにかかわらず俺のような手合いには会うだろう。その際にいくら力が強かろうが経験がなければ話にならない。チームにも入れない、その経験を積むチャンスを俺から与える、そのためだ」

 

 「有難迷惑もいいところですね。べつに俺の力が特別必要なわけじゃないでしょうに」

 

 「いや、戦力はいくらあっても足りない。あのニューヨークのようなことを起こさないためにも」

 

 その言葉で俺は閉口することになる。確かにあのニューヨークのようなことが再び起こる可能性は高い。なんせあのエイリアンの艦隊を見てしまったから。もうあんなことが起こるわけないなんて口が裂けても言えない。この人が言ってることはかなり自分勝手で俺の都合を考えてない事柄だ。突っぱねようと思ったが、トニーさんの話を聞くにホントに何を仕掛けてくるか分からない不気味さがある。

 

 「……聞きますが、俺が断ったらどうなるんですか?」

 

 「俺の方で止めているお偉いさんがたが君に直接いろいろ言ってくるだろうな。まだ君の中身は知らないが」

 

 「それ脅しってわかってやってます?……条件があります。受け入れてもらえないのなら、俺はこの国から消えます」

 

 「言ってみろ」

 

 「殺人はしません。それが絶対の条件です。今の仕事もやめません。俺はヒーローじゃないし、なろうとも思わない」

 

 俺はヒーローになりたいとは思わない。正直、守りたいもの守れればそれだけで満足できる。ニューヨークの時の一般市民や、今回のトニーさんのことだって。彼らの助けになれたという事実だけで正直十分だ。名声とか、お金とかそんなもんは必要な分だけあればいい。名声なんて無くてもいいぐらいだ。ありがとう、その言葉だけで十分なほどに。

 

 「いいだろう。もともとそのたぐいの仕事はさせないつもりだった。依頼という形で一つの任務に相応の報酬という形をとらせてもらう。君が成人するまでは、君の正体を誰かに知らせることもしない」

 

 「……随分と俺に都合のいい話ですね」

 

 「まず一つ、S.H.I.E.L.D.は少年兵を必要としない。そして、今君にへそを曲げられたら面倒だ」

 

 困る、ではなく面倒ときたか。断ったら余計に面倒なことになる感じだな。この人、多分トニーさんが出した条件を潜り抜けるようにここにやってきて色々俺に言ってるんだ。うっわ~、こういう人苦手だわ。マジでトニーさんが真顔でメタクソに言うだけあるわ、しかも断ったら多分法に則って色々ありそうだし、ここは受けるしかなさそうだ。即答で俺の条件に乗ってきた当たりこれ以上譲歩を引き出せる気がしない。S.H.I.E.L.D.に入らなくてもいいというだけ儲けもんか。

 

 「……わかりました。いいでしょう、貴方に雇われますよ。ただ、毎日出ずっぱりは勘弁してください、俺にも生活があるんで」

 

 「交渉成立だな。誤魔化せることはこちらで誤魔化す。君はいつも通りの生活の中に、仕事を溶け込ませろ」

 

 「勝手な人ですね」

 

 「よく言われる。すまないがこちらも必死でな。何でもやらないと、世界なんて守れない。清濁併せ吞むと日本では言うだろう?汚い部分から目を背けるのは感心しないな」

 

 「じゃあその汚い部分を学ばせてもらいますよ」

 

 「期待して待ってろ」

 

 やなこった、と言おうとする前にフューリーさんは立ち上がって懐から見たことない携帯端末を置いて去っていった。窓から。ホテルとはいえそれは如何なん?俺はどでかい溜息をついて、ソファーと一体化しそうなほどめり込んで座って天を仰ぐのだった。天井しか見えないけど。

 

 

 

 

 

 「……なに、これ」

 

 「あー、お前知らなかったのか?なんかスタークインダストリーズの方から見舞いだっつって色々やってたんだけどな……如何せんお前の家の隣だから何も言えなくてな……」

 

 「そうですかぁ……」

 

 フューリーさんと嫌々雇用契約を結んで2日たった。あの後もう家に帰ろうかと思ってライズホッパーでバイク旅をし、ワシントンまで戻ってきた俺の目の前にあるのは俺の家……はいつも通りなのはいいとして俺の家の隣、つまりサムさんの家の反対にある空き地にでかでかと立っている近未来的な建物である。超目立つ!何してんのあの大富豪!?怪しまれる要素マックスだろ!

 

 「というかいつお前アイアンマンと仲良くなったんだ?」

 

 「あー、実はカリフォルニアに行ったとき偶然会って……話してるうちに意気投合して暫くホームステイさせてもらったんですよ」

 

 「なんだそれ。じゃあアレつまりクリスマスプレゼントか?富豪のやることはスケールが違うな」

 

 「ですねぇ……とりあえず入ってみます。サムさんは来ますか?」

 

 「いや、実は退役軍人省から呼ばれててな。すぐ行かなくちゃいけないんだわ。まあ、お前が無事に戻ってきてよかったよ」

 

 「いや、ご心配かけてすいませんでした。ただ、結構これから同じようなことあると思うんで、気にしないでくださいね。きちんと連絡はしますから、しなかったらなんかあったかもですけど」

 

 「心配させるようなこと言うなよ。まあ、お前の生活だからな、任せるけど……大人として心配はさせてくれよ。それじゃ、行ってくるわ」

 

 俺の肩をポンと叩いてサムさんは車に乗って出かけてしまった。うーん、流石にサムさんに噓つきまくってるからめっちゃ罪悪感が……しかもこの先何年も嘘をつきまくるのが確定だ、胃に穴が開いちゃう。そして目の前の建物にも胃にダメージを与えてくる。覚悟を持って玄関らしき場所に立つと、俺のことを認識したのかドアが独りでに開いた。うわぁ……ハイテクぅ……

 

 「……やりすぎでしょトニーさん……」

 

 『いや、そうでもないだろう?ハッピーメリークリスマス&ニューイヤー!まずは祝わせてくれ。そしてお礼を言わせて欲しい。君のおかげで僕は大切なものを2つ失わずにすんだ。僕自身と、ペッパーだ。この建物と其処にある車はそのお礼だよ』

 

 「お久しぶりですトニーさん。いくらなんでも受け取れませんよ、お礼の言葉だけで充分です」

 

 『そう言わないでくれ、僕の気が収まらない。それに……話を付けたとはいえフューリーが感づいたんだ、準備は必要だろう。急ピッチとはいえそれは君の前哨基地だ、隣のお兄さんに知られたくない物でも置くといい』

 

 「……そうですね、わかりました。ありがたく受け取ります。ああ、そうです。紹介したいものが。イズ、自己紹介して」

 

 『はい、ハルト様。お初にお目にかかります、人工知能ゼア、対話型インターフェースを務めます「イズ」と申します。今後ともよろしくお願いいたします』

 

 『ワオ!ついに君もJ.A.R.V.I.Sの便利さに気づいたようだな。いつ出来たんだ?』

 

 「ちょうど昨日ゼアが作りました。J.A.R.V.I.Sの仕組みをラーニングしたみたいです」

 

 家の中に入った途端に繋がった通信に舌を巻きつつトニーさんと久しぶりな感じのやり取りをする。トニーさんに紹介したのはゼアが俺がJ.A.R.V.I.Sに頼りまくってるせいで対話型インターフェースの必要性に気づいてしまったらしく、マイアミの件の後に組み上げていたらしい新しい人工知能兼インターフェースの「イズ」である。うん、声とかアバターとか番組そのまんまだよ。それでいいのかゼア。そんなに俺に頼られないのが不満だったのか。

 

 ゼロツープログライズキーの上でアバターの頭を下げたイズを見たトニーさんは通信先で面白そうに笑うのだった。

 

 




 えー、忙しくて更新が遅れたことを謝罪させてください、申し訳ありませんでした。というわけでフューリー来襲の話でした。未成年を表立ってS.H.I.E.L.D.に入れられないならこういうことするだろうなあ多分みたいな感じです。
 
 そんなわけで次回もしくは次々回までオリジナル挟んでウィンターソルジャー二位以降と思います。

 ちなみにイズが生えてきたのはゼア君が「頼って……もっと頼って……」ってなったのでJ.A.R.V.I.Sを真似すれば頼ってもらえるのではないかと思った結果生えてきました。やったぜ。


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ホークアイ・エンカウント

 「イズ、今日の売り上げどう?」

 

 『はい、ハルト様。本日は昨日と比べて300ドルプラスです』

 

 「おっやり~。新メニューは好調だね」

 

 『喜ばしいです』

 

 トニーさんの重たい感謝の気持ちを受け取ってからはや1ヶ月、新年も終わってそろそろバレンタインとかいう魔の行事が始まろうかという季節に差し掛かった。俺は今ワシントンにて営業の休憩をしているところである。トニーさんが俺が持ってるトラックとは別のでかいフードトラックをくれたのでそっちで今営業してる。

 

 なんでわざわざ新調した自前トラックではなくトニーさんがくれた方を使ってるかと言えば俺の目の前にグラフを出して売り上げの推移をダッシュボードの上に立って報告してくれてる2頭身のSDミニイズの存在があげられる。端的に言えばトニーさんの技術力を無駄遣いして元のトラックの影も形もないくらいに魔改造されたトラックは、車内にはホログラム、あと車体をディスプレイとして映像を投影することが出来、イズはそれを使って俺とコミュニケーションをはかってくれてるのだ。

 

 フロントガラスは防弾、内側はディスプレイ、動力はアークリアクター、俺の武装やアイテムを仕舞うラックが車内につき、それでいて前のトラックの比じゃないくらい調理器具も充実、ベッドスペースまであるくらい。後使ったことないし使いたくもないけど垂直離陸システムといざという時にリパルサーレイを始めとした自動防御機能が付いてるとか。ほんとにトラックかこれ?

 

 車体自体もアタッシュウェポンの外装を模倣したものらしくて防御力抜群、起動キーはゼロツープログライズキーという俺専用設計だ。だからゼアが勝手に運転する自動運転にも対応しているハイパーフードトラックなのだ!やっぱこれフードトラックのスペックじゃねえよ……戦場に営業しに行くわけじゃないんだからさ!でもミニサイズとはいえイズと面と向かって話せるのは感謝してる。

 

 両手を腰の前で組む、よく見るポーズをしてるミニイズに手を差し出す、ハイタッチのアレである。ピコ?という音を立てて首を傾げたミニイズがゆっくりと俺の手に自分の手を重ねた。感触なんてなかったけど、ホログラムだし。生まれたばかりの彼女は今あらゆる事柄をラーニングしているところで、番組の彼女そのものの記憶などは持ってないし、シンギュラリティにも達してない。

 

 おそらくゼアはゼロワンシステムの根幹を担うイズというヒューマギアのデータを流用する形でインターフェースとしてのイズを作り上げた。だから俺が知っている番組の彼女ではないし、そう見るつもりもない。彼女のしたいように、学びたいように学んでいつか自分の感情を持ったら、トニーさんにお願いして体を用意出来れば、なんて思ってる。これが父性か……?

 

 まだまだイズはJ.A.R.V.I.Sのようにジョークで返せるほど発展はしてないのでこれからが楽しみだ、と思いつつハイタッチの体勢をやめてまた次の指示を待つ体制に戻ったイズを眺める。にしてもいい車だなあ、トニーさんこれどうやって陸運局に通したんだろう。ダメだって言われたら前の車使うけどさ。

 

 うん、まああれだ。俺にとって前の車使うよりはこっちの車使った方が得なんだよな。トニーさんありがとう大事にするよ。そう考えながら俺は運転席から後ろのスペースに移って冷まして味を染みこませた肉じゃがのコンロに火をつけて、すき焼き丼のタレと薄切り牛肉、玉ねぎ、しらたきを煮込むことにするのだった。

 

 

 「はーい、10ドルちょうどね、まいど~」

 

 『ありがとうございました』

 

 「おう、サンキューな!」

 

 休憩後の営業も滅茶苦茶好調である。というか俺と一緒にカウンターに立っているミニイズの存在が大きい。手のひらサイズのアニメっぽい2頭身SDキャラがホログラムで動いて接客してくれるというのは派手好きアメリカ人に大いに受けており、写真撮影禁止とでかでかと車体に表示させているがあまり効果がないかもしれない。で、イズを珍しがって寄ってくるアメリカンな人たちに俺は日本食を売りつけてるってワケ。

 

 マジでイズ効果ヤバいな、イズ自身は微笑んでメニューを表示させるだけだけどそれが逆に受けてるらしい。かわいいだのキュートだのどこで売ってるのだの言われてもうてんてこ舞いや。イズが出来てからJ.A.R.V.I.Sに頼ることも減って、というかイズがJ.A.R.V.I.Sに聞こうとしたことを「お困りですか?」とインターセプトしてくるので減った。トニーさんに連絡とるときぐらいしかJ.A.R.V.I.Sとはもう話してないかも。

 

 「すき焼き丼をもらおうか」

 

 「…………まいど」

 

 「態度が悪いな」

 

 「そりゃすいませんで」

 

 ニコニコで接客していた俺の顔が一瞬で無になったであろう。その原因と言えばカウンター前に居座っている眼帯の黒人のせいである。つまりフューリーさんである。なんでここにいるの。仕事を溶け込ませろと言われた手前若干固まってしまった顔をほぐしてできるだけ初対面を装って接客をする。イズがドルマークと共に金額を表示させるとフューリーさんは1ドル札を複数枚重ねて出した。俺は無言でそれを受け取ってレジとは別の場所に置いて代わりにすき焼き丼を渡した。

 

 「悪くない匂いだ。如何せんオフィスに缶詰だと手料理に飢えていてな、ありがたく頂こう」

 

 「自信作なんで熱いうちにどうぞ」

 

 「ああ」

 

 フューリーさんはさりげなく、ポケットを撫でてから踵を返して雑踏の中に消えていった。俺はピン札の中からメモ用紙を見つけてどでかい溜息をついて、仕込んだものがなくなったタイミングで本日閉店と車体に表示して車内にイズと共に引っ込むのだった。

 

 「んもー、今まで特に連絡してこなかったくせに今になって突然現れるなんてな~。イズ、端末の方連絡入ってたりする?」

 

 1ドル札の合間に挟まってたメモには「仕事だ。3日後、端末の住所に左手に黄色のリストバンドをしていけ」とだけ書いてあった。はぁ?と切れつつイズに確認するとフューリーさんが置いていった端末に潜り込んだイズが複雑に暗号化されたメールを解錠して中身を読み上げてくれた。時間と住所、それにおもりだという人が両手に赤のリストバンドをして現れるから、その人に端末見せろっていう指示だけ書き込まれた簡素な内容だった。

 

 仕事の内容は書いてない、現地で説明する気なのだろうか?お付きの人も大変だね、それはともかく……気が重いけどやらなきゃなあ。トニーさんはメタクソに言ってるけどフューリーさんは多分手段を択ばずに確実な方法で平和を勝ち取ろうとしているのだと思う。トニーさんの話から推測するに、だけど。

 

 これから俺がやることになるであろう仕事もつまりは困っている人を助けるため、なのだと思いたい。多分あの人1を切り捨てて9を取るくらいは平然とやりそう。知らないうちに俺が1を切り捨てたりしないように用心しないといけない。やる気をなくした俺はイズに家まで運転して、と言ってベッドを引っ張り出して倒れ込んだ。運転席にイズのホログラムが投影されて自動運転が開始され、トラックは緩やかに俺の家に向かって出発するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 「イズ、目的地までナビよろしくね」

 

 『了解しました。ジョージタウンまでのナビを開始します』

 

 そんなわけで3日後、時刻はほぼ深夜に俺は左手に黄色のリストバンドを付けた後ライズホッパーで指定された場所に出発した。サムさんには昨日の夜に別の州の日本料理のイベントに行くというのは話してあるので大丈夫。実際にあるイベントだったから言い訳が立ってよかった。だからまあ、深夜に出発するのは知らないけど明日の朝に俺がいないことは多分サムさんも分かってる。ほんとごめんね。

 

 ヘルメット内側のディスプレイに投影されたナビに従ってジョージタウンの路地裏にやってきた俺は指定の時間の10分前に待ち合わせ場所につくことが出来た。ライズホッパーをライズフォンに戻してそこに座ってろとメールに指示があったベンチに座り込んでライズフォンを弄る。画面にイズが出てきて御用でしょうかとテキストで訪ねてきた。俺はそれにほっこりしながら適当にイズとテキストで会話する。

 

 約束の時間ぴったりになると、俺の真横に座る人がいきなり現れた、監視カメラを監視していたイズは写っていませんでしたと俺に教えてくれる。無音で監視カメラを避けつつ俺の真横に座り込んだらしい男の人は両手に赤いリストバンドをしていた。サングラスで顔を隠した男の人に俺は無言でフューリーさんからもらった端末を見せると彼ははぁ~~とどでかい溜息をついた。

 

 なんかすげえ気持ちは分かる。きっとこの人も俺よりは知ってるにしろ唐突にあのフューリーさんにここに行って協力者と合流しろと言われたとかそんな感じで行ってみればいるのが若造とか何の冗談だと思う。無言で立ち上がった彼はハンドサインで着いてこいとだけやって歩き出した。俺もそのまま彼についていくと、そこにあったのは真っ黒の車、メン・イン・ブラックみたいだな、と思ったけど助手席を指されてそのまま乗り込む、彼も運転席に乗り込んでエンジンをかけ、郊外に向かって車を走らせた。

 

 「本当にお前が任務のバディなのか?フューリーのやつは何考えてるんだか……」

 

 「お気持ちお察しします。3日前俺もフューリーさんにここにこれ付けて来いって言われただけで全く何も知らなくて……」

 

 「そうか、自己紹介が遅れたな。クリント・バートンだ。ホークアイって言った方が通りがいいか?」

 

 「ハルト・ハヤカワです」

 

 サングラスを外した彼の顔には見覚えがあった。あのニューヨークの時に、弓を操ってエイリアンを次々撃ち落としていた人だ。俺はあのニューヨークで彼とは絡まなかったから印象が薄かったので今思い出した。そうか、あの場にいたってことは彼もアベンジャーズのメンバーでS.H.I.E.L.D.のエージェントかもしくは協力者って立ち位置だったんだ。

 

 「それで、フューリーからは何も聞いてないってことでいいな?見る限り素人みたいだが……何ができる?」

 

 「ニューヨークでやったことは一通り」

 

 「それは……!?」

 

 俺は懐からゼロワンドライバーを取り出して膝の上に置いた。横目でそれを見たバートンさんは目をむいて唸る。そしてフューリーのやつ……と軽く悪態をついた。フューリーさんせめていろいろ教えてあげたらどうなの?俺はともかくこの人は身内だろうし……偉い人の考えることはよくわからんね。

 

 「……ニューヨークでは世話になったな。お前がいてくれたおかげで何人も人が助かった。感謝してる」

 

 「いえそんな。もっと早く戦えばよかったってずっと後悔してるくらいで……」

 

 「いや、それでもだ。その決断はお前にとってはとてつもなく重かったはずだ、逃げずに立ち向かった……勇気ある行動だと俺は思う」

 

 「……ありがとうございます。それでなんですけど……フューリーさんに見つかってから仕事を頼まれるのがこれが初めてなんです。マイアミの件以降戦ってないので……」

 

 「ああ、おそらくフューリーもそれを織り込んで俺を引っ張り出したんだろう。安心しろ、任務は簡単な部類、テロリストの捕縛とそいつらからのデータの奪取、以上だ」

 

 「それ簡単なんですか?」

 

 「S.H.I.E.L.D.の任務の中ではな」

 

 うへぇ、という顔をした俺を見るバートンさんの顔はプロそのものの目つきだ。しかし初任務がテロリストの居場所へと潜り込んで全員を捕らえつつデータを持ち帰るとか何それ高難易度すぎないか?いや、多分この人ならソロでやれるどころか余裕だから足手まといが一人いても大丈夫とかそんな感じ?うーんこの。

 

 「とりあえずは潜入からだ。先にデータを確保してから掃討に移る。消される前にな、データの中身は不明だが、あのエイリアンどもに関する何からしい」

 

 「場所は分かってますか?」

 

 「ああ、住所は……ここだ。この山の中腹にある研究所、S.H.I.E.L.D.を裏切ってテロリストについたらしい」

 

 「イズ」

 

 『はい、ハルト様。スヴェン研究所にアクセス成功。監視カメラのハッキング、及びスタンドアローン以外の内部データのコピーが完了しました。データを精査し表示します』

 

 「バートンさん、目的のデータありますか?」

 

 住所まで分かってるなら話が早い。イズに呼びかけると彼女は速やかに目的の研究所の衛星画像をホログラムに呼び出して確認し、そこだとわかると完全に内部を掌握してしまう。ゼアにかかれば、それがたとえ携帯の電波だろうと糸口になり、そこからネットワークを介して全ての手の内を丸裸にできる。流石にネットを介さずに動いているものは無理だが、入り口さえあればこのくらいは余裕だろう。

 

 一瞬で表示されるデータの海にイズが精査をかけて関係のありそうなフォルダをピックアップして表示する。バートンさんはその様を驚いた感じで見ていたが気を取り直したらしくいったん車を停めてホログラムを見る。バートンさんが手元の端末と表示されるデータを見比べ、最後までみて一言

 

 「無いな。どうやらネットに転がってるわけじゃない、か……やるな、ハヤカワ。予想してたよりも楽に終わりそうだ」

 

 「いえ、そんな。けどそうなると潜入するしかないですね……俺にできるかな……」

 

 「出来るさ。そのために俺がいる。エージェントのイロハを、現地で叩き込んでやる」

 

 にやりとニヒルに笑うバートンさんの頼もしさに、俺は無言で頷くのだった。正直言おう、かっこいい。




 というわけでホークアイとの共闘イベント入ります。次回でvsテロリスト、次々回でウィンターソルジャーに入ろうかな。オリジナルつまんないかな、どうかなあ。

 今回から更新を5日に1回くらいを目安に、つまりいつも通りの更新頻度で頑張ろうかなと思います。目標はエンドゲーム、頑張ります。

 ホークアイのトレースが難しいのでドラマ版を100周して勉強するのでそれ終わったら会いましょう。感想くださると超嬉しいですお願いします(懇願


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ホークアイ・リード

 車が走る。どうやら目的のデータというものは研究所内のスタンドアローンの端末、バートンさんが持ってる情報とイズが研究所の中身を覗き見た情報を照らし合わせるととある研究者の私室のパソコンにある可能性が高いという結論が出て、とにもかくにもいったん研究所の中に入ってみないことにはわからないということになってしまった。

 

 『付近一帯の監視カメラ映像の改竄が終了いたしました』

 

 「ん、ありがとイズ」

 

 「なるほどな、スタークのAIも便利だとは思っていたが……俺にも1台欲しいくらいには便利だ」

 

 『お褒めに預かり恐縮です』

 

 ゼロツープログライズキーの上で腰の前で腕を組んだミニイズが恭しく頭を下げる。深夜とはいえ人目は避けられない、人目を最小限に避けるためにバートンさんは監視カメラの少ない道を通っていたが残念ながらアメリカは俺の前世の日本と違って治安が世紀末な場所もあるので監視カメラが当たり前のようにそこかしこにある。

 

 そこで出番なのがイズ、もといゼアである。フルスペックを発揮すれば0.1秒に2兆通りの行動予測が可能なゼア、その機能を発揮すればダミー映像をここら全てのオンライン監視カメラに忍ばせることなど容易いのである。潜入ってことは万が一にも気づかれちゃ困るだろうし。

 

 目的地の研究所は山の中腹にあるので山の麓に車を捨てるらしく、この車は目的を果たすと自動運転で本部に戻るのだとか。じゃあ俺たちは如何するのかと言えば研究所の職員全員とテロリストをしょっ引いてぐるぐる巻きにして、S.H.I.E.L.D.の他の部隊が来ると同時にとんずらするらしい。

 

 「逃げる必要ありますか?」

 

 「表向きは「勇敢な研究所の職員がテロリストを鎮圧」ってことにする気らしいからな。よし、降りるぞ」

 

 んな無茶な、と思わなくもいないけどここは銃社会アメリカ、ありえないことではないのだろう。路肩に止めた車から降りる俺たち、バートンさんは運転席の椅子をスライドさせると椅子の下には真っ黒の矢が詰まった機械的な矢筒とダイヤルが付いた折り畳み式の弓矢、ダガーナイフなどがあった。バートンさんは俺の椅子を指さすので俺もスライドさせるとその下に防弾ベストなどが詰まっていたので俺も無言でそれに着替える。

 

 「スーツ、着なくていいんですか?」

 

 「あの真っ黄色のスーツは目立つからな、真正面から殴り込みに行くわけじゃない。最小限の力で最大の成果を見せるのがプロだ。力で何でも解決できるならソーを連れてきた方が早い」

 

 手袋をつけて、矢筒を背負ったバートンさんはワンスナップで弓を変形させて構える。やべえ超クール、超かっこいい。あと実際ゼロワンが派手なのはまあ……うん、うるさいし。いやまあ仮面ライダーの中では静かな部類だけどうるさいのは事実。待ってイズ、不思議そうに俺を見ないで、変身しないんですかみたいな顔しないの。

 

 「何かスーツ無しで使える武器はないか?」

 

 「あるにはありますけど……」

 

 そう言って俺はアタッシュショットガンを見せて変形させる。毎度おなじみ威力過剰なマスターキーの登場である。盾にもなって便利なことこの上ない、人に当てられないことを除けば。今回の相手ってエクストリミスもなにもない一般人間なんだよね、いやまあそれが普通なんだけど……

 

 「……今回は閉所での戦闘もあり得る。流石にそれは小回りが利かないだろう。他にはあるか?」

 

 「他には……うーん」

 

 『ハルト様、でしたらこちらを』

 

 アタッシュショットガンは確かに大型銃だから狭い廊下でこれ振り回す余裕はないか……と思ってたらイズからの提案でゼロツープログライズキーのビームエクイッパーが稼働し、空中に一つのものを作り出した。それを見た俺はああ、と納得した。青い拳銃型デバイス、エイムズショットライザーである。変身機能はないだろうけど。

 

 変身機能がないのはエイムズショットライザーとゼロワンシステムは別物で中身が全く違うからである。まああれだ、武器としては全く同じだけど変身機能がないパチモンです。ゼアの中に設計図があるというのは分かってたけどね。でもこれあんまりアタッシュショットガンと変わんないんだよなあ。

 

 威力はそりゃアタッシュショットガンの方が高いんだけど、こっちもこっちで威力過剰なんだよね。なんせ発射するのは50口径対ヒューマギア徹甲弾、つまり対物拳銃という物騒なジャンルなのだ。うん、50口径ってことはあれだから、デザートイーグルとかのおっきいやつと一緒だから。マグナムだから、それが徹甲弾で対物仕様ってことは威力は推して知るべし。うーんこの。一緒に生成されたホルダーを腰につけてショットライザーを収める。

 

 「……一回それ構えてみろ」

 

 「こうですか?」

 

 「違う、両手で、こうだ。そう、トリガーに指をかけるな。誤射するぞ。トリガーガードに指を置いて両足を肩幅に開け。よし。いいか、銃は危険だ、正しい扱いを学べ、というのはお前の立場じゃ難しいか。狙うのは……真ん中から少し外れた場所でいい。肩や足の付け根だ。当てても死ににくい。末端は難しいからおすすめしない、いいな?」

 

 「……はい」

 

 俺が両手でショットライザーを構えるとそれを見たバートンさんは即座に構えを矯正してくれた。凄い気が回る人、さすがプロだな。その後、ホルダーから抜いて構えを7,8回繰り返して構えがとりあえず形になったのでバートンさんはそれでいい、と言ってくれた。

 

 「いくぞ。姿勢を低くしてできるだけ音を立てないようについてこい」

 

 そう言ってバートンさんは静かに藪の中に入っていく。渡されたインカムで通信は繋がり、車の中で覚えさせてもらったハンドサインを頼りに道なき道を上って山の中腹を目指す。中腰なので正直キッツいし、慣れない装備のおかげで息が上がるのも早いが、バートンさんは俺のペースに合わせてくれるので何とかついていけてる。初仕事がこれってハードだなあ。

 

 バートンさんがとまれのハンドサインをしたので俺は素直に止まる。彼は矢筒から一本矢を取ると、木の陰から弓を構えて放った。くぐもった声がしてどさりと何かが倒れる音がする。藪から出たバートンさんについていくと、先端にゴムのようなコルクが付いた矢が地面に落ちていて、額が真っ赤になった男が倒れていた。バートンさんは手短に男に猿轡代わりの布を咥えさせて両手両足を縛って藪に放り込む。手際がよすぎるなあ。

 

 「よし、この先は研究所の中に入るから、俺の前に出るなよ。銃は抜いておけ、両手で持って、トリガーからは指を離すのを忘れるな」

 

 バートンさんの言う通り、俺の前には研究所の裏口の一つがあった。裏口は電子キーじゃなくて物理キーだったのでショットライザーで鍵を壊す。中に潜り込んでいるイズ曰く、近くに人はいないので手っ取り早い方法をとった。そのまま中に入る。

 

 バートンさんは取り回しの悪い弓を仕舞う、ことはなくそのまま持って潜り込んでる。バートンさんクラスになると武器を変えるほうが不利ということなのだろうか。トニーさんだったら……ハッキングして何とかするだろうなあの人なら。もしくは研究所を丸ごと買い上げて真正面から行くに違いない。

 

 イズのおかげで研究所内の監視カメラを完全掌握してるので俺たちは止まることなく目的の部屋を目指す。途中で会う研究員や警備員たちはバートンさんが鮮やかな手際で締め落とすとか気絶とかさせられて手近な部屋に放り込まれてついでにイズが電子ロックをかけてしまう。俺いる?これ。

 

 「ここだ、開けられそうか?」

 

 『問題ありません。ですが他より少々ロックが堅いです……開錠終了』

 

 目的の部屋についた俺たちがドアの前に着くとバートンさんの問いかけに答えてイズが電子キーを外してしまう、がほとんどノータイムで開けられた今までのそれと違い3秒ほどの時間を要した。中には部屋の主がいるようだったので監視カメラと通信に細工を施したイズのおかげで素早くかつ無音でドアを開けて部屋に入ったバートンさんの見事な右フックが顎に突き刺さり、部屋の主の禿げ散らかしたデブいおっさんは沈黙する。

 

 「このパソコンかな?イズ、繋ぐから中身全部移して」

 

 ドアを閉めて念のため鍵をかけなおしたバートンさんを後ろに俺は部屋にあった端末にライズフォンをつなげてみる。すると出るわ出るわ汚い金のやり取りの記録とか人体実験の記録とかエイリアンの解剖記録とかえげつないものが。顔をしかめてしまった俺だがバートンさんは顔色一つ変えずに中身を確認して持ってきていたメモリに移した。情報量が多すぎるため5分ほど時間がかかるらしい、するとイズから警告が入った。

 

 『ハルト様!気づかれたようです。現在小隊がこちらに向かっております、1分もかかりません。装備構成にC4爆弾を確認。扉ごと爆破するようです』

 

 「ええ~……」

 

 「なりふり構わずという感じだな……仕方ない。お前はここで……」

 

 「いや、俺が行きます。爆弾程度なら問題ありません」

 

 「しかしだな……」

 

 「やらしてください。足手まといではいたくない」

 

 やると決めた手前、ここで何もせずにバートンさんにおんぶにだっこ状態になるのは憚られる。これがいくらあのフューリーさんが強制してきたことといえど、やると決めたのは俺なんだから、責任を持つのが筋ってやつだろう。俺はプログライズキーを手に取ってゼロワンドライバーを腰に巻く、音声にバートンさんが顔をしかめた。

 

 「潜入には適してないな、それ」

 

 「まったくです」

 

 「……終わったら飯食いに行くか、奢ってやるよ」

 

 バートンさんが俺の緊張をほぐそうとしてそんなことを言ってくれる。最初から今までずっと俺のことを気遣ってくれるバートンさんの気持ちはとても嬉しいしありがたい気持ちになる。率先して俺に手を出させないように配慮してくれていたのもそうだ。今度は俺がこの人を気遣う番、プログライズキーのスイッチを入れる。

 

 「POWER!」

 

 「変身っ!」

 

 「剛腕GOGO!パンチングコング!Enough power to annihiate a mountain.」

 

 壁を殴り壊して現れたゴリラのライダモデルが分解されて俺に纏わりつく。パンチングコングに変身した俺は仮面の内側に映される監視カメラの様子を見て、小隊がドアの前にやってきたタイミングで頑丈な金属の機密性ドアを思いっきり殴る。ドア枠ごとぶち抜いた俺のパンチがガチガチに防御を固めていた小隊の隊員を巻き込んで吹き飛ばした。どうやって気づいたんだろうか?監視カメラはこっちが掌握してるのに。

 

 「なんだお前!?」

 

 「誰だと思う?」

 

 そう尋ねる隊員をボディブローで沈黙させる。ドアから出た俺を襲ったのはアサルトライフルの弾幕だった、が戦車砲とかならともかく歩兵が使える火器程度じゃノックバックもしない。ずんずんと歩いていくと恐慌状態に陥った一人の隊員が破片手榴弾を投げる。あぶっ!?爆発させたら相手に被害が出るので慌ててキャッチして握りつぶす。ぐしゃり、と形が変わった破片手榴弾は俺の手の中でしょぼい爆発を起こして不発した。

 

 「あぶないだろっ!?」

 

 「うぐあっ!?」

 

 我ながらどの口が言う、という感じではあるが走り寄った俺の拳が次々と隊員を捉えて壁に叩きつける。拳での格闘性能を高めるパンチングコングプログライズキーは狭い所での戦闘に非常に適していると思う。ただ、パワーが強すぎるのが玉に瑕か、リミッターなかったらえらいことになってるわ。

 

 『増援、きます』

 

 「了解!」

 

 「待たせた。ここからは俺もやる。あとは、全員を眠らせれば終わりだ」

 

 メモリをポーチにしまい込んだバートンさんがドア枠から出てくる。俺はその言葉に頷くとまっすぐ前に突っ込んだ、後ろでバートンさんが逆側の廊下に向かって弓を構える。任務の結果は、言うまでもないだろう。しいて言うならば、やっぱり俺には向いてない仕事だっていう話くらいだ。うるさいのは仕様なのでそんな顔しないでバートンさん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なに?スタークはお前のこと知ってるのか!?」

 

 「ええまあ、成り行きというかあのニューヨークの時から」

 

 「あいつ……まあフューリーのことがあるからか」

 

 「らしいです。なので結構目をかけてもらってます」

 

 「あのスタークがか?」

 

 「どんだけ信用ないんですかトニーさんは」

 

 翌日の事、簡単に全員をのしてふん縛るとバートンさんの連絡でS.H.I.E.L.D.の待機していた部隊が到着した。幸い俺は変身したままなので面が割れることはなかったけどなんでゼロワンが!?と銃を向けられた。バートンさんが「協力者だ、下ろせ」って言ったら普通に見逃された。バートンさんもしかして結構えらい?それともアベンジャーズだから?

 

 まあそのまま正面玄関から帰ろうとしたらテロリストの最後っ屁で武装ヘリがこんにちわしたので殴って落とそうとしたらなんとバートンさんが弓一発で落とした、すげえ。S.H.I.E.L.D.の部隊が確保に走る中、自動運転の車に乗り込んだ俺は変身を解除し、バートンさんとそのままちょっと離れたレストランにいるのである。

 

 今回は頼れる人が一緒だったからか戦闘後でも食事ができる程度には落ち着いていた。最中常にバートンさんが冷静で余裕だったから破片手榴弾のアレ以外俺は焦ったりすることなく事を運ぶことが出来た。パスタを食べてるとバートンさんが紙切れにさらさらとアンケート用のペンで何か書き込んでテーブルの下に隠して俺に渡した。

 

 「俺の連絡先だ、困っても困らなくても連絡してくれ。なんだかお前危なっかしいからな。一応な」

 

 「ありがとうございます」

 

 「気にするな。今日はよく頑張った!好きなもん頼めよ、約束通り奢りだ」

 

 そう言ってメニューを渡してくれるバートンさんに甘えて、俺はバーガーを追加するのだった。なんか既視感あると思ったら父さんみたいな感じの人なんだわ。空気がそんな感じする、初対面の人には失礼だけど、何となく懐かしい気分に俺は浸るのだった。




 駆け足だけどオリジナル終了よし!次回からウィンターソルジャー!ホークアイのキャラは結局つかめず。お許しください

 それはそうと基本的にバルカンとかバルキリーとかは出しませんがアイテムは出します。便利だから。変身システムの違いから変身はできないという設定です。あるいはブラックボックスだとかそんな感じ。

 ではでは次回をお待ちください。感想くれると作者喜びます


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アンノウン・インベイション

 「やあ、ハルト。元気そうでよかった」

 

 「クリントさん!どうしてこちらに?」

 

 「任務終わりでな。暫くこっちにいる、と言っても本部には近寄らないし別の任務で出ずっぱりになるみたいだけどな」

 

 「そうなんですねー、何か頼んでかれます?」

 

 「そうだな……」

 

 俺の初任務からはや1年が経とうとしていた。めでたく俺は17を超え、トニーさんに誕生日を教えなかったことを怒られたりしつつもまあ無事に過ごすことが出来ている。あれから1か月に1回あるかないかくらいの頻度で任務をフューリーさんから受け続けたんだけどまあ、勉強にはなったよ。やっぱり悪いやつはどこにでもいるもんだ。

 

 で、その際結構な確率でバディになるのが今目の前にいるクリントさんなわけで、この人のおかげで生身での戦闘力も上がったし、うっすらだけど腹筋割れたし、まあいいことづくめなわけだ。ホントならみんな暇なのが万々歳な感じなんだろうけどね。

 

 フードトラックと見習いエージェント戦闘員の二足の草鞋生活はハードだけどやりがいがある。戦闘にもまあ……慣れた。気持ちのいいものじゃないし、楽しいとは思わないけど。殴らないと止められないこともあるというのは骨身にしみた。

 

 「イズには世話になり通しだけどな。いいのか?この携帯」

 

 「便利でしょ?ねえイズ」

 

 『問題ありません。リソースは十分に余っています』

 

 「お駄賃を考えておかないとな」

 

 注文を受けた俺がフードトラックに引っ込んで肉じゃがコロッケと牛丼を渡すとクリントさんはライズフォンを見せてそう聞いてきた。そのライズフォンはイズと直結型の潜入に必要そうな機能を特化させたクリントさん専用のライズフォンで、クリントさんの誕生日を聞いた俺がイズと一緒にあれじゃないこれじゃないと考えながらカスタマイズして作成して渡したものだ。

 

 トニーさんには俺が直接行って料理を振舞ったりしたけど、クリントさんは休みが不定期で予定が合わないから役に立つ何かがいいだろうなって。トニーさんが俺にくれたスマートウォッチみたいなもんだ。ゼアの莫大なリソースがあればこその出来である。現状のスパコンより高性能ですぜ、マジで。クリントさんにはお高い料理用ナイフセットを貰った。来年は何がいいかなあ。

 

 これから夜に任務があるからとクリントさんは足早に去っていく。わざわざ会いに来てくれるなんてありがたい話だなあ。イズを通して元気そうなのは確認してたしなんかあったら文字通り飛んで駆けつける気概でいるわけだけどね~。

 

 「イズ、そろそろ帰ろうか。最近売り切れるの早くなったね」

 

 『SNSで話題になっています。日本の家庭料理をリーズナブルに楽しめると。固定店舗を持ってみてはどうでしょう?』

 

 「気が早い気が早い。それに、臨時休業ばかりになっちゃうよ」

 

 「なんだもう閉めるのか?ハル」

 

 「あれ!?サムさん!?どうしたの?隣の人は?」

 

 「ちょっと前に知り合って仲良くなったんだ、なんと驚きキャプテン・アメリカ様さ」

 

 「よしてくれよ、スティーブ・ロジャースだ」

 

 「ハルト・ハヤカワです。トニーさん……アイアンマンからお話はかねがね」

 

 「彼を知っているのか?」

 

 「ちょっと前にいろいろありまして」

 

 やっべえええええ!?なんでサムさんがキャプテン・アメリカと知り合ってるんだ!?というかワシントンにいたのか!?まずいまずい非常にまずい!思いっきりニューヨークで会ってるからこの人!というか最近やってる戦時中のイベントで知ったけどこの人ホントに70年前から氷漬けで眠ってて最近目覚めたとかいう話じゃん!本物のキャプテン・アメリカだったやん!

 

 彼は俺の声に疑問を覚えたようで首をかしげている。だよね、変身してても声はちょっとエコーかかるくらいでそのままだからね!聞けばわかるよね超人兵士なら!

 

 「なあ、君……どこかで会ったことないか?」

 

 「いえ?ああ、でも最近はここら辺で商売してるので呼び込みとかの声を聞いたりしてるんじゃないですか?キャプテン・アメリカに会ったなら俺は忘れませんけどね」

 

 嘘ですビンビンに覚えてます。ありがとうクリントさんポーカーフェースの作り方教えてくれて!今めっちゃ役に立ってる!バレてるかもしれないけどめっちゃ今俺何でもない風を装えてる!イズは一応トニーさん製ということになってるので一応紹介する。サムさんの手前追及するのはやめてくれたらしいロジャースさんは興味を俺のトラックに移してくれたらしい。

 

 「そのトラックもスタークが?」

 

 「ですです。去年のクリスマスに出先で助けただけなんですけどね……余り物でよければ持ち帰られますか?」

 

 「いいのか?」

 

 「はい、と言っても日本食なのでお口に合うかは分かりませんけど」

 

 彼が眠りにつく前、当時日本は敵国だった。彼が敵対していたヒドラとかいうテロ組織はドイツのものだったけど国としては日本は敵国だったから彼もその意識があるかもしれない。気を悪くしないかな、と思ったけど彼はそういう感じはない。イズがぴょこっと顔を出して残ってるメニューを表示すると彼は大盛りの牛丼を選んだのでニューヨークでのお詫びも兼ねて特盛にして袋に入れて渡す。サムさんも同じものをと言ったので用意して渡した。

 

 「味が気に入られましたらまた来てくださいね~」

 

 「ああ、ありがとう。いい店知ってるんだな」

 

 「だろ?俺のおすすめだぜ」 

 

 牛丼の袋を持ったマッチョメンたちはお互いに軽く肩を叩いて去っていった。俺はサムさんに新しい友達ができたことを嬉しく思いながらフードトラックの片づけを進めるのだった。

 

 

 

 

 『ハルト様、近辺に不審な動きを発見しました』

 

 「不審ってどんな?」

 

 『警察の出動記録がないにもかかわらず警察車両と特殊部隊が数ブロック先に出動しています』

 

 「……きなくさいな……そこ避けて帰ろうか」

 

 『……!! 現在警察車両が一つの車両を挟んで動きを止めました!無警告で発砲中!乗っているのはフューリー様です!』

 

 「ごめん前言撤回!トラック家に戻しといて!」

 

 片づけを終えて、家に帰ろうとトラックの運転席に収まった俺に帰りの道路状況をナビするべく周辺の監視カメラを見ていたらしいイズがとんでもないことを言ったもんだから運転席を転がり落ちるように外に出た俺が人目がないことを確認し大慌てでライズホッパーを呼び出してヘルメットをかぶりフルスロットルで道路に飛び出す。

 

 イズのナビに従うまでもなく銃声が響き渡っていて車が我先にと逃げている。俺はそれを逆走するようにライズホッパーを操って現場へ向かう。フューリーさんが何したかとか何があったかなんてわかんないけど偉い人のはずで、その人が乗る車をいきなり実力行使で止めて銃弾を浴びせまくるのは明らかにおかしい。銃社会のアメリカとはいえ無警告での発砲はいくら警察でもあり得ない。たとえフューリーさんが何かをしたとしても、殺されてからじゃ遅い!殺される前に事情を聞かないと!

 

 「JUMP!」

 

 「変身!」

 

 「飛び上がライズ!ライジングホッパー!」

 

 ドライバーを腰に巻き走りながらライジングホッパープログライズキーを起動して変身する。道路を跳ねまくってバイクに追随するライダモデルが分解されて鎧に変わった。俺はアクセルを全開に吹かして角を曲がると、SWATやら警察のパトカーがフューリーさんが乗るであろう車に向かってアサルトライフルで銃弾を浴びせているところだった。助手席側に設置された杭打機のような機械が窓に向かって強烈な打撃を打ち込んで、車体が跳ねる。俺はすぐさまバイクから飛んで杭打機をアタッシュカリバーで真っ二つにして仁王立ちで警官や特殊部隊に向き直る。

 

 「イズ、中と通信繋いで、オフラインのものは全部リブート」

 

 『リブート終了、垂直離着陸システムのみ完全破壊されています』

 

 「ゼロワンか、うっぐぁ……!よく来てくれた……」

 

 「一応聞きますけどこんな事される心当たりは?」

 

 「ハァ……恨まれてる相手なら山ほどいるが、殺されるいわれはないな」

 

 「信じても?」

 

 「お前次第だ」

 

 「じゃ、逃げてくださいっ!」

 

 俺が来る前に何か怪我をしたのか通信先のフューリーさんの声は苦悶が挟まっていた。回りくどいフューリーさんの言葉をとりあえず信じることにしよう。突然現れた俺に対してライフルを構えて警戒している部隊のやつらの隙をついて体を反転させ、フューリーさんが乗る車の前を陣取っているパトカーを蹴り飛ばして無理やり道を開ける。その隙に車内システムを乗っ取ったイズが車を発進させ、逃げる。

 

 「ゼロワンだと……!?」

 

 「バカな、フューリーと繋がっていたのか!?」

 

 「一体全体何が何だか説明してくれると嬉しいんだけどね?」

 

 俺のその言葉の返答は無言と銃弾の雨だった。俺は地面にアタッシュカリバーを刺してアタッシュショットガンを呼び出し、慌ててフューリーさんの乗る車を追跡しようとしているパトカーや特殊車両のタイヤをスラッグ弾でぶち抜いて止める。浴びせられる銃弾を気にせずに全ての車両を破壊した俺はアタッシュショットガンを仕舞う。アサルトライフルからグレネードが飛んでくるがアタッシュカリバーを引き抜き一閃、真っ二つにする。俺の背後で起こる爆発をよそに、俺はライズホッパーに乗ってフューリーさんを追いかけた。

 

 「まだ追われてますか?」

 

 『ああ、奴さんうようよいる。市街地から外れるぞ』

 

 『了解しました、ルートを表示します』

 

 「すぐ追いつきます」

 

 大混乱のカーチェイスに割り込む俺は、ライズホッパーでアメリカらしい大型車や小型車が行き交う混沌とした道路を車の間を縫ってフューリーさんに追いついた。それでも警察車両は追いついてくるので、俺がしかたなくショットライザーを呼び出して片手撃ちでタイヤを撃ち抜いて行動不能にしていく。

 

 大通りから外れ、渋滞をあちこち車体をぶつけながら強引に抜けた俺たち、追ってくる警察車両は粗方撒いた、あとは姿を隠すだけ……というところでシステムに強化された俺の視力が道路のど真ん中に立つ髪を伸ばし、サングラスとマスクをつけた男を捉えた。明らかに怪しいのでフューリーさんより前にライズホッパーで飛び出し、警戒する。なんかわかる、格が違う雰囲気だ。男はそれを見ると、円盤状の何かを俺に構うことなく地面に滑らせるように発射した。

 

 「フューリーさん、あれ止めるのでそのまま逃げてください。イズ、監視カメラ全部止めといて」

 

 『はい、ハルト様』

 

 フューリーさんの返事を聞かず俺はこちらに滑ってくる円盤を掴んで上空に放り投げる。ゼロワンの超膂力で投げられた円盤はフリスビーのように上空100mほどまで飛んで空中で爆発した。やっぱり爆発物か……!ウォンッ!とライズホッパーのアクセルを唸らせた俺はそのまま男にぶつかるつもりで突っ込む。寸前で躱そうとした男の動きを予測して、片手で男を掴んで持ち上げ、フューリーさんとは逆方向の道に男をバイクで引きずるようにしながら入る。

 

 ギャリギャリギャリ!と異音がしたので下を見ると、左手を地面につけた男と、地面と左手から散る火花、地面に走る5本の線……こいつの手、トニーさんや俺と同じスーツか?持っていた右肩を握りしめてぶん投げて壁に叩きつける、が男はまるで猫のように壁で受け身を取ると何事もなかったかのように立ち上がった。

 

 「……素直に捕まってくれると嬉しいんだけど?」

 

 「……」

 

 男は何も言わずに腰の後ろに手を入れると拳銃を取り出した。そのまますさまじい速度で狙いをつけて発射された銃弾は正確に俺の頭と心臓を狙ってきた。俺は腕で銃弾を払い、男に向かって殴りかかる。一発目で銃を払った俺の拳、もう一発は左手に防がれる。金属を殴った感触がして、男がたたらを踏んだ。

 

 俺のパワーを警戒しているのか右手でナイフを抜いた男がじりじりと後ずさる。逃がすかっ!俺は先読みで後ろに回り込むと男もそれを読んでいたらしく、右手のナイフを左手で支えてタックルするように俺に突き立てようとする。左手が甲高い機械音を立てて駆動する。受け止めたけど、男の左手のパワーが強い、負けるとは思えないけど体勢が悪い。押し込まれたナイフが俺の腹に突き刺さるが、ヒデンアロイに阻まれて無残に折れ曲がる、男はナイフを捨てて、左手一本で俺を持ち上げて投げた。冗談だろ、今の俺が何キロあると思ってるんだ。

 

 まずいな、これ。スペックで負ける気は全然しないけど技術で負けてる。押しきれない、なんだこいつ……!今度は男が攻めてきた。対抗できるのが左手だけなので、甲高い音を立てて駆動する左手がガンガンと俺に叩きつけられる。動きの一つ一つが洗練されてる、まるでずっと戦い続けて研ぎ澄まされたような動き……!防げるけど、俺に捕まらないように徹底しているせいで拘束することが出来ない。

 

 殴られるのを無視して左手を掴んだ。握力を強めて左手を潰そうとする。メキメキと男の左手の外装に音を立てて俺の指がめり込んでいく、男は獣のような声をあげて左手を振り回す、咄嗟に離せなかった俺が振り回されて投げられる、男はその隙に俺に向かって手榴弾を3つ投擲した。

 

 「しまっ!?」

 

 3つのうち一つは閃光手榴弾だったようでそれがいの一番に炸裂し、一瞬視界が真っ白に染まった途端時間差で残りが爆発、俺は吹き飛ばされて壁に叩きつけられた。すぐさま復帰した俺があたりを見渡すが……いない。クソ、逃げられた。

 

 慌てて俺はフューリーさんが無事かイズに通信を繋ぐのだった。




 ウィンターソルジャー、開幕します。ウィンターソルジャーはそこまで流れを変える気はないですけどこんくらいやってもええやんくらいの改編はします。そのためのハルト君です。

 よくよく考えれば対人間だとゼロワン強すぎないか?戦闘経験の差で負けることはあってもスペック勝負なら負ける気がしないんじゃが……

 あ、重要な設定ですが今作品のビブラニウムについてです。今作品のビブラニウムの強度は大体ヒデンアロイと一緒とさせてもらいます、が。それは素の硬さであってビブラニウムの特性である「衝撃を吸収して強度を上げる」特性がありますので総合的な硬さはビブラニウムの勝ちです。

 Wikipediaの記述で申し訳ないですけどダイアモンドよりも硬い、という記述がヒデンアロイと同じなので……あれです、アダマンチウムみたいなもんです。

 また映画の描写から吸収できる衝撃にも限度がありそうなのでノックバックもします。ウィンターソルジャーでもグレネードを受けて吹っ飛ばされてましたので

 MCU版ですと盾はビブラニウム単体でできてるみたいですし、エンドゲームで壊れてましたのでビブラニウムは破壊可能物質として扱わせてもらいます。もちろんそれはヒデンアロイも同じとさせてもらいます。

ではでは次の更新でお会いしましょう。感想よろしくお願いします


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ファインド・C

 「イズ!フューリーさんは!?」

 

 『現在車を降りて下水道に入られました。車の自爆システムを作動させるように仰せつかってます』

 

 「逃げ切れたのか……?まあ、とにかく今は」

 

 『はい、逃走箇所への部隊の到達を阻止することが最優先かと』

 

 「オーケー、じゃあ……もうしばらく付き合ってくれ」

 

 ライズホッパーを起こして跨りながらイズに状況を聞く。どうやらフューリーさんは車じゃなくて地下に潜って逃げることを選んだようだ。もともとスパイのプロフェッショナルな彼を広大な下水道で探すことは容易じゃないだろう。今から俺がやることは彼が逃げ切るまで囮になることだ。

 

 『フューリー様よりの伝言があります。「Cに従え」「誰も信じるな」とのことです』

 

 「また回りくどいね……」

 

 どうやらライズホッパーを起こす必要はなかったらしい、俺のいる道路に入って来た警察車両と軍用車から降りてきた人間たちがアサルトライフルやショットガンを構えて俺に無警告で発砲してくる。カンカンカン、とむなしい音を立てて銃弾が跳ね返される。

 

 「どけ!」

 

 「流石にやりすぎじゃない、かっ!」

 

 俺に銃弾が効かないことは分かり切ってたらしく、出てきたのはみんな大好きロケットランチャー、発射された弾頭を拳で迎撃する。大爆発、だけど踏ん張ってたので俺は動かない。煤けた装甲を気にせずに、俺は刺さっているプログライズキーを押し込んで、車に向かって突っ込むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「結局、Cってのは何なんだろうなあ」

 

 『何かの頭文字と推察しますが情報が不足しております』

 

 翌日の事、俺はフューリーさんの情報を得ることが出来ず、残された伝言も分からなくてどうにも困っていた。昨日は結局、車両を全てぶっ壊して派手に暴れるだけ暴れて空を飛んで撤退した。今俺がいるのはニュージャージー州だ。ワシントンの自分の家に戻るとどうにも足がついて面倒くさそうなので、イズにトラックを持ってきてもらうまで適当なホテルに泊まって、一夜を過ごした。

 

 S.H.I.E.L.D.のメンバーじゃない俺がS.H.I.E.L.D.の機密にアクセスすることはできない、ハッキングすればできなくはないが腐っても国の最前線を担う組織の防御は固い、いくらゼアと言えど気づかれずに侵入するのは骨だ。気づかれていいのなら余裕らしいんだけど、つまり今俺は情報不足にあえいでいるわけだ。

 

 「とりあえずワシントンに戻ろう。トラックはもう来てるよね?」

 

 『はい、現在ハイウェイを通行中です』

 

 「じゃあ来るまで寝ることにするよ。帰る前にニュージャージーでなんか観光していこうか」

 

 『観光地の選定をしておきます。良い夢を、ハルト様』

 

 正直昨日の戦闘の疲れが抜けてなかった俺は、ホテルのランチをかきこんだ時点でどうしようもない睡魔に襲われていた。フューリーさんが逃げ切ったことを信じるしかない以上、彼の残した伝言を俺が理解してそれに従う必要がある。観光だなんて冗談めかしているけど、休んだらすぐにワシントンに戻って情報収集しなきゃ。

 

 

 「イズ、今何時?」

 

 『午後8時と13分です。睡眠時間は7時間と43分』

 

 「細かいところまでありがと、とりあえず帰ろうか」

 

 ベッドの上で目覚めたのはもうすでに日が完全に沈んでしまった夜になってからだった。イズに聞くとがっつりと眠ってしまったらしいのでもうそろそろワシントンに戻らないとサムさんが心配するだろう。メールと電話で出張してくるとは連絡したけど急なのは急だったから。うーん、いい加減誤魔化すのもきつくなってきたしそろそろ話すべきかなあ。

 

 お金を払ってチェックアウトを済ませると、ホテルの車止めにちょうど俺のトラックがイズの操作でやってくる。ある意味でVIPみたいな感じだな、と思いつつ助手席に乗り込んで出発後に運転席に移動してハンドルを握った。ここからだとウィートンの道路を通ったほうが早いかなあ。

 

 イズのナビに従って運転すること少し、眠ったお陰かすっきりとした頭を持て余していると俺のライズフォンがけたたましい音を立てて警告音を発し始めた。ビックリとして慌てた俺にイズが警告音の内容を教えてくれる。

 

 『ハルト様、短距離ミサイルです!発射先はキャンプ・リーハイ、現在は廃墟になっている軍事施設です』

 

 「廃墟にミサイル……?おかしいね、近くまで行って様子を見に行こうか?何かあるかも」

 

 『その、お勧めできません。現在空をS.H.I.E.L.D.の航空機が飛んでいます』

 

 「猶更いかないとダメじゃないか。ハイウェイ降りたら逆反射パネルを起動して。ステルス全開で」

 

 『了解しました』

 

 キャンプ・リーハイは山中にある。S.H.I.E.L.D.は敵に回ったと考えていいだろう、フューリーさんを襲ったやつらの車の中にS.H.I.E.L.D.のストライクチームの車があった。バートンさんと任務をするうちに知識だけ教えてもらったキャプテン・アメリカ率いるチームだ。もしかしたらキャプテン・アメリカとも戦うことになるかもしれない……。

 

 イズの報告でミサイルがキャンプ・リーハイに着弾したことを知らせてくれた。山中の爆炎を捉えることは難しかったが幸い過疎地域なので俺以外行く車はいない。そして、上から俺は逆反射パネルとステルス機能により見えなくなっている。電気自動車なので音も小さければ排気ガスもない。ライトも消してカメラで捉えた映像でイズが運転してくれている。

 

 『前方にS.H.I.E.L.D.の航空機を発見、ルートを変更し一時停止します』

 

 「じゃ、一旦俺は外に降りるよ。様子を見るだけだから待ってて」

 

 そう言って俺は俺たちに気づかずキャンプ・リーハイに向かう航空機の姿が見えなくなってから車を降りる。車止めに姿を現した俺のトラックにもたれかかって外で何が起こってるかを観察する。何かが焦げる臭いにおいが近くにミサイルが落ちていたことを如実に表していた。

 

 さてどうするか、キャンプ・リーハイに行くべきか、それともこのままニュースになるのを待つべきか。フューリーさんと連絡が取れれば一番いいんだけど……そう考えながらトラックにもたれかかって考えを纏めようと四苦八苦しているとがさごそと目の前の林が揺れる。誰かいたのか!?気づけなかった!咄嗟に懐に手をやってドライバーを掴む、銃を掴んだように見せつけるためと万が一のためだ。

 

 俺が目の前の林を脂汗を流しながら警戒していると林の中から大柄な影が姿を現した、いよいよ人前で変身するか、と思ったけど見知った顔なことに気づいてしまった。林の中から現れたのは煤けた私服に身を包み、丸いシールドを手に持った男の人……キャプテン・アメリカことスティーブ・ロジャースと彼に支えられるブラック・ウィドウ、即ちナターシャさんだったからだ。俺が懐から手を抜いたタイミングでロジャースさんが声をかけてくる。

 

 「すまない、驚かせた」

 

 「……どうしてこちらにいるんですか?ああ、俺はニューヨークからの帰りで、今さっき爆発音がしたから見に来ただけです」

 

 「……少し、複雑なんだ」

 

 「中で話を聞きます。なんだか訳ありみたいですから、乗ってください」

 

 実際ニューヨークの帰りでニュージャージーを経由することもあったので嘘ではあるが真実でもある。だけど、無傷ではあれど汚れまくったシールドとほとんど気絶して朦朧としているナターシャさんの様子を見る限りあまりいい状況ではないようだ。後ろのドアを開けてロジャースさんたちを促すと、彼らは警戒しながらも乗ってくれた。俺は運転席に戻って静かに車を出す。

 

 「イズ、逆反射パネル起動して。あと監視カメラ誤魔化して……周囲の無線を傍受」

 

 『了解、逆反射パネル起動。オラクルグリッドへ侵入、無線を傍受します』

 

 「君は一体……」

 

 「必要なら後で話します。信用できないのでしたら貴方たちの行き先に案内して俺は去りましょう。イズ、ベッド出して」

 

 ベッドが展開されるとロジャースさんはナターシャさんをベッドにおろして、自分もそこへ腰かけた。シールドを立て掛けて、大きく息を吸う。相当なことがあったようだ、もしかしてミサイルの爆心地にいたのだろうか。そしたらなんで生きてるとしか言いようがないが……流石は超人兵士というべきだろう。

 

 「すまない……助かったよ。その、僕たちを助ければ君に危害が及ぶかもしれない。適当な大通りに着いたら降ろしてくれても大丈夫だ」

 

 「本当にそれでいいんですか?トニーさんが作ったこの車なら監視カメラにも目視でもバレずに行けますけど」

 

 『戦車砲の直撃を受けても問題なく走行が可能です』

 

 「ああ、それでいい。君を巻き込むわけにはいかない」

 

 山道を走りながらそう問答する。どうやら詳しいことを話してくれる気はないらしい。当たり前の話か。それならそれで俺から情報を明かすべきだろう。今さっきこの人に会ってフューリーさんの伝言の意味が分かった。「Cに従え」……C、captain、キャプテン・アメリカに従え。そういうことなのだろう。

 

 「フューリーさんが襲われたのと関係がありますか?」

 

 「っ!?なぜその名を知っている!?答えろ!」

 

 俺のその言葉でシールドを跳ね上げて腕につけたロジャースさんが臨戦態勢に入って尋ねてくる。寝たふりをしていたらしいナターシャさんが拳銃を抜いて俺に向けていた。一歩間違えば殺されるだろうなあ、と思いつつ運転をイズに任せて俺は両手をあげる。そしてそのまま懐に手を入れ、ドライバーをロジャースさんに放り投げた。ベッドの上に落ちたドライバーを見た二人が、息をのむ。

 

 「見覚えがあると思います。ニューヨークではお世話になりました」

 

 「君が……君がゼロワンだったのか……!?」

 

 「はい。フューリーさんとは去年のクリスマスに知り合いました、マイアミの埠頭の件と言えばわかってもらえると思います。それでまあ、雇われてました」

 

 「そう、だったのか……フューリーのやつ……ナターシャ」

 

 「知るわけないじゃない。知ってたら流石に言うわよ」

 

 盾と銃を下ろした二人が沈黙する。俺は運転席を立って後ろに行った。イズのホログラムが運転を代行し、俺は二人の前に座る。改めて二人も居直った。

 

 「俺はフューリーさんが連絡を断つ前に「Cに従え」「誰も信じるな」という伝言を受けてます。Cというのはきっとあなたのことです、キャプテン・アメリカ。協力させてください」

 

 「……ワシントンの、とある場所に行ってほしい。詳しくはそこで話したい」

 

 「サムさんの家、ですか?」

 

 「知っているのか?」

 

 「お隣さんなんですよ」

 

 世間は狭いってやつだ。ロジャースさんが伝えてくれた住所はサムさんのものだった。多分俺に出会わなかったらサムさんの所にそのまま行ってたのだろう。それならそれで俺と遭遇したかもしれないけど。俺は冷蔵庫をあけて中からミネラルウォーターを取り出して二人に渡した。

 

 「きっと何か大事なんだとは思いますけど……休めるときに休んでてください。ドライバーは渡しておくので。それがなければ俺のスーツは使えません」

 

 「それには及ばない。君が僕を信じてくれるなら、僕も君を信じよう。聞きたいことは山ほどあるが」

 

 藪蛇つついたか?という俺の苦々しい顔を見たナターシャさんは猫のように笑っていた。俺は諦めて質問攻めを素直に受けることにするのだった。

 

 

 

 

 

 「サムさーん、起きてる~?ちょっと用事あるんだけど!」

 

 「おー、ハル。お前どこまで行って……なんかあった?」

 

 「すまないが、匿ってほしい」

 

 「知り合いが全員殺しにくるの」

 

 「……俺とコイツ以外はな。入ってくれ、ハル。朝飯作ってくれよ、俺はちょっと話があるから」

 

 「うん、あと俺もサムさんに言わなきゃいけないことがあるんだ」

 

 明け方になってワシントンの俺の家に着き、隣のサムさんの家をノックする。俺だということが分かってたからなのかサムさんがあっさり扉を開けてロジャースさんとナターシャさんを見て眉を顰めた。二人の言葉に何かを察したサムさんが二人を招き入れて、話し合いの場を設けるのと俺に話を聞かせないためにキッチンに追いやろうとする。俺も話すことあるんだけどな。

 

 いい加減、俺も腹をくくるべきだと思った。ロジャースさんもナターシャさんも俺がサムさんに話していないということは道中で話してあるし、何も言わない。だけど俺もこのまま隠し続けるのは苦しいし嫌だ。だまして、嘘をついていたことを謝りたいんだ。たとえそれで絶縁されても、しょうがないとは思う。

 

 3人をベッドルームまで見送って、俺はキッチンに入る。手を洗って消毒して冷蔵庫の中から食材を取り出しながら、スマートウォッチを起動する。表示されたホログラムの連絡先一覧から二つの連絡先を呼び出して、グループ通話をかける。どうやら二人とも時間があったみたいですぐに出てくれた。

 

 『やあ、ハル。随分朝早くの連絡じゃないか。どうかしたのか?』

 

 『ハルト、どうし……スターク?』

 

 『バートンじゃないか、最近どうだ?』

 

 「おはようございます、お二人とも。少しお時間いいですか?どうも、世界の危機らしくて」

 

 俺は電話口に出てくれた、アイアンマン、トニー・スタークとホークアイ、クリント・バートンに対してそんな言葉を投げかけるのだった。




 鋼鉄の男と鷹の目が参戦します。同じユニバースにいるからね、仕方ないね。やったねキャプテン!アッセンブルできるよ!当然ですが敵側にもてこ入れ入れないと面白くないのでいろいろやりますのでお楽しみに。

 あれもしかしてこれヒーロー側過剰戦力……?いやそんなことはないはず、戦艦相手なら……やっぱ過剰説ある……?

 では次回お会いしましょう。感想よろしくお願いします!


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コーポレーション・A

 「そんなわけで、どうもアメリカ巻き込んでの面倒事が起きてるみたいなんですよ。短距離ミサイルですよ?人相手に」

 

 『それでもキャプテン相手には不足だったわけだ、なるほど……フューリーと連絡とれないのはそういうわけか』

 

 『俺の方もだ。意図的に情報が寸断されてると見て間違いない。よし分かった、準備しよう』

 

 『だな、とりあえず僕はいまニューヨークにいる。スタークタワーだ、もうすぐアベンジャーズタワーになるけどな』

 

 『スターク、お前今スーツ持ってるのか?』

 

 『生憎、全部燃やしちゃってね。だがまあ、僕にできることをやるさ、なんせ僕は……アイアンマンだから』

 

 トニーさんはクリスマス以降、ペッパーさんとの約束でアイアンマンスーツを作成していない。それでも参加に意欲的なのは、彼自身の覚悟と矜持があるからだろう。

 

 「とりあえずみんなで作戦会議してからでいいですよね?どれだけ食べるんだろうな……」

 

 『キャプテンは大食いだぞハルト』

 

 そうなのか、と考える傍らで俺はパンを焼き、トマトを切り、レタスを千切ってベーコンを焼き上げ、それを次々挟んでBLTサンドを作っている。どんだけ作ればいいのやら……聞けばほとんど食べずにキャンプ・リーハイに行ったみたいだからお腹空いてるだろうしホントに大盛りにしちゃうぞ。並行でポテトサラダのサンドとホットドッグ、タマゴ余ってるし出汁巻き卵巻いてやれ。

 

 トニーさんはニューヨーク、クリントさんはペンシルベニアに今いるらしい。意外と近いな……そう考えると寝室のドアが開いて3人が姿を現した。シャワーを浴びたみたいでロジャースさんもナターシャさんもこざっぱりしてる。俺はスマートウォッチのホログラムを大きくして、立て掛ける。二人が目を見開いた。

 

 「スターク!」

 

 「クリント……?」

 

 『やあ、キャプテン。水臭いじゃないか僕に連絡がないなんて、楽しくお話といこう』

 

 『ナターシャ、連絡ぐらいくれよ。それとも俺も敵だと思ったか?』

 

 「口が暇してたので、連絡付けときました。積もる話もあるでしょうしどうぞ。サムさん、ちょっといいですか?大事な話をしたくって」

 

 「ああ、俺もだ」

 

 スマートウォッチと二人を置いて、俺とサムさんは部屋を出た。サムさんも何となく察しているに違いない、ここ1年の違和感の理由を話すときが来たんだ。嘘をつき続けてきた日々が、終わる。肩の荷が下りると思うか、それとも胃に痛みを感じるか……俺の場合は両方かな。

 

 「サムさん、俺はここ1年ずっと……嘘をついてきました。あのニューヨークの事件に巻き込まれてから、ずっとです」

 

 「……続けてくれ」

 

 「本当は俺……ニューヨークの時からずっと戦ってたんです。仮面を被って、誰にもバレないように。サムさんにもずっとバレないようにしてました」

 

 「だろうな、とは思ってたよ。急に格闘技教えてくれとか言いだしたり、ランニングについてきたりさ。いいんだ、それで。お前は当たり前のことをしただけ、力だけ持ってても、それに見合う立場がなければ面倒事は山ほどやってくる。それを防ぐには、秘密を持つのが一番手っ取り早い。それで?お前はなんて呼ばれてるんだ?」

 

 「ゼロワン……俺がゼロワンです」

 

 「かっこいいな。ちなみに俺はファルコンだ、イカすだろ?」

 

 「ええ、とっても」

 

 サムさんの返答は軽いものだった。もちろん彼も俺のことを考えて飲み込んでくれた言葉もあるのかもしれない。彼の言う通り、近しい人の前では俺の行動はバレバレだったのかもしれない、マイアミの時とかは確かに結構強引だったと思うし、サムさんが聞かなかったから続けられていたのは間違いない、感謝しないと。

 

 「ま、これでお互い秘密はなしだ。これ終わったら、もっと本格的に鍛えていくぜ」

 

 「……お願いします」

 

 サムさんの言葉に俺は、お礼を言ってリビングの扉を開けて、部屋の中に戻るのだった。

 

 

 部屋の中に戻ると、スマートウォッチのホログラムに映ったトニーさん、クリントさんとロジャースさんとナターシャさんが話し合ってる所だった。特にトニーさんが口元に手を当てているところから見るに、かなり真剣に考え事をしているらしい。シリアスな問題を考えるときは、彼は必ず口元に手を当てる、彼の癖だ。それが俺にとっては問題の大きさをそのまま語っているので、やはり大ごとなのだと実感する。

 

 『インサイト計画か……確かにそれは僕も一枚かんでいる、といってもヘリキャリアの改造のアイデアを出したに過ぎないけどね。僕はS.H.I.E.L.D.に入ってないからアクセスする権限はない』

 

 『俺もインサイト計画については概要しか知らない。ヘリキャリアのルームに入る権利もない』

 

 「……正攻法での強襲は無理か」

 

 「あの船にはシットウェルもいたわ、彼を拉致してDNAスキャンを潜りぬけるしかないでしょうね」

 

 「問題はお尋ね者二人と顔が割れてる二人でどうやってそれをやるかだ」

 

 「あんたらじゃなければいいんだろそれ。手伝わせてくれ」

 

 「もう話はいいのか?」

 

 「ああ、俺もこいつもすっきりしたよ」

 

 そう言ってサムさんは、リビングの金庫から何やら書類を取り出して、卓上にパサリと置いた。ファルコン計画、と書かれたそれを見たロジャースさんが書類をぺらりとめくると、そこには飛行用と思しき翼を広げた機械を装着したファルコンさんの写真が図解と共に有った。これが、サムさんの秘密……所属してた部隊を教えてくれないと思ったら、秘密部隊だったのか。図解に見覚えがあったらしいトニーさんが解説する。

 

 『確かそれは空軍の秘密部隊用のメカだったはずだ。うちの会社にそれ用のジェットエンジンの発注が来たことがある、勿論秘密裏にだけどね。君がそれに入ってたのか』

 

 「君に助けてくれとは頼めない……戦場を離れて、やりたいことをやってるんだろう?」

 

 「まあね。だけど、偉大な大先輩が助けを求めてるなら、力を貸すのもやりたいことだ。こいつが巻き込まれるならもっとさ」

 

 そう言って俺の頭をポンポンと叩くサムさん、それを見たロジャーズさんは有難そうにする反面、こう返してきた。

 

 「彼は巻き込めない。彼はまだヒドラに顔が割れてないんだろう、もしここで巻き込んだらヒドラに彼の情報を渡すことになる。絶対にダメだ」

 

 『あー、キャプテン。ハルなら問題ない、というか戦闘でも電子面でもこいつの力は必要になるぞ。素直に頼っておいた方がいい』

 

 「スターク、実力云々の問題じゃない。成功した後でどうなるかだ。彼の今後を歪ませるわけにはいかないんだ」

 

 『キャプテン、ハルトはそこら辺の覚悟もしている。じゃないと俺だって一緒に任務をやったりしない。というか指揮下に置いとかないと勝手についてくるぞ』

 

 「まあ確かに勝手について行きますけどその言い方はひどくないですか?」

 

 『『ほらな』』

 

 「君は……それでいいのか?僕が軍の入隊試験を受けたのは20を超えてからだった。当時はそれが普通だったけど今は違う、軍は人をかき集めなければならないほど人材不足じゃなくなった。便利な機械も増えた。仕事の選択肢もだ。戦争を知らない世代の君がいつ終わるか分からない戦場に飛び込むには、若すぎると僕は思う」

 

 俺に向き直ってそう諭してくるロジャースさん、彼が心配してくれてるのはここで俺を巻き込めば、その後のごたごたで完全に俺の正体がバレるかもしれないということだろう。俺にはトニーさんのような莫大な財産も、ナターシャさんやクリントさんのような立場もない。サムさんのように自分で自分の責任を取れる大人ですらないからだ。自分一人で何とかするには、若すぎて、俺の自由そのものがなくなると彼は言っているのだ。

 

 「いいんです。結局俺は力を隠して生き続けるのは出来なかったと思います。ニューヨークのアレがなくたって多分、どこかで誰かを助ける為に使ったと思います。トニーさんには言いましたけど、俺の力は誰かの助けを求める手をつなぎ留めるための力だと思ってます。そして……今俺が掴むべきなのは貴方の手です、キャプテン・アメリカ」

 

 俺はロジャースさんの理知的で優しい目を見ながら手を差し出す。貴方が俺を最大限心配しているように、俺も貴方たちが心配なんだ。人を助けるのに理由はいらないなんて言葉を前世で聞いたことあるけど、実際その通りだ。こんな緊急事態に「へー大変だね」で指くわえてみてろって?冗談じゃない。

 

 ロジャースさんは俺の目をじっと見つめると、やがて俺の手をグッと取ってくれた。伝説の英雄の手は思った通りにがっしりしてて、力強く、そして優しかった。

 

 「世話になるよ。スティーブって呼んでくれ」

 

 「話はまとまった?それじゃ、詳しく詰めていきましょ」

 

 「あ、朝食作ったんでどうぞ。たくさん食べられますよね?」

 

 『なに?おいハル、僕の分はあるか?』

 

 「ホログラムで何言ってるんですか。全部終わったらパーティーでもしましょうか?」

 

 俺が作った朝食を食卓に並べるとそれを見たトニーさんがそんな茶々を入れてくる。スティーブさんとクリントさんはそれに呆れた感じで笑い、ナターシャさんも緊張が解けたように微笑んだ。しばし食卓には無言で食事をする音とトニーさんがジョークを飛ばして俺が突っ込みを入れる音が響いた。

 

 

 

 

 

 「まず二手に分かれよう、僕とナターシャ、サムはフライトスーツを奪取した後にシットウェルを確保する。ハルトはバートンとスタークを迎えに行ってほしい。合流地点はシットウェルを確保した後に連絡する」

 

 『妥当なところか。まだハルトに隠密行動は難しい、スタークはスーツがないから近接戦闘ができるやつも欲しいしな』

 

 『僕はスタークタワーで情報を集めておく、S.H.I.E.L.D.の中にも入ってみるがあまり期待はできないだろうな。プレゼントを持っていくから許してくれ』

 

 「プレゼント?」

 

 『パーティーにはドレスコードが付きものだろう?といってもまだ試作品だけどね』

 

 軽口を言ったトニーさんの通信が切れる。クリントさんも、準備をするといって通信を切った。イズの操作で俺のトラックが動いて道に出る、スティーブさんたちはサムさんの車で行くようだ、とりあえず先にトニーさんを拾った後にクリントさんを拾いに行こうかな。運転席に乗り込んで窓を開ける、あっやべ!忘れるところだった!

 

 「スティーブさん!これ持ってってください!イズが監視カメラを誤魔化してくれますし、回線も秘匿なので盗聴されることはないです」

 

 「随分とごついスマートフォンだな……有難く使わせてもらおう。よろしくなイズ」

 

 『よろしくお願いいたしますスティーブ様』

 

 ゼロツープログライズキーのビームエクイッパーが動作してライズフォンを作り出す。まあごついよね確かに、普段使いにはちょっと大きいし重い。イズ入りだから俺は苦労しないけどね、しげしげとライズフォンを見たスティーブさんはライズフォンをポケットにしまって車に乗り込んだ。俺も向かう場所は別なのでシートベルトをつけて出発する。

 

 「インサイト計画ねえ……凄い壮大な計画だな。トニーさんらしいというか何というか……」

 

 そんなことを独り言ちた俺はニューヨークへと続くハイウェイにのり込んだ。こっから片道4時間だ、ペンシルベニアまではニューヨークから2時間、長旅だけどニューヨークのあの件までは毎日ニューヨークまで稼ぎに行ってったんだから苦じゃない。今じゃ可愛いマスコットが話し相手になってくれるし、と俺はダッシュボードの上にぺたんと座るイズを見て、道を急ぐのだった。

 

 そしてついたスタークタワーで、すぐさまトニーさんがアタッシュケースを3つほど抱えて車に乗り込んだ。直接会うのは久しぶりだけど、トニーさんの目は真剣そのもので電話口でジョークを飛ばしてたのがそれこそ冗談のようだった。

 

 「ああ、全くフューリーのやつ……あとで文句言ってやる」

 

 「フューリーさんは……でも」

 

 「生きてるよ、あいつが死ぬようなタマか。そんなのだったらとっくにアメリカはエイリアンの餌になってるさ。ハル、生きたり死んだりはスパイの常套手段だ、勉強になったな」

 

 「そうですね……そう思うことにします」

 

 フューリーさんが死んだという情報はスティーブさんを拾った帰路に聞いている。俺はそれを聞いてまさかと思ったし、あの時の襲撃の傷が悪化したのかと思ったがトニーさん曰く、手術中に心臓が止まったのに違和感を感じていたらしい。傷と出血量の具合のデータからの予測だから何かをフューリーさんがやったのだろうとのこと、つまり……死を装ったのだ。

 

 「そこら辺のことについてはバートンの方が詳しいだろう。それよりもハル、僕の分のサンドイッチは?」

 

 「……後ろの冷蔵庫です」




 話が進んでない気がする……あと2回か3回の更新でウィンターソルジャーは終了ですかねえ。

 では次回にお会いしましょう。感想評価よろしくお願いします


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セット・ハイドアウト・プレイス

 「お待たせしました、クリントさん」

 

 「いや、結構早いじゃないか」

 

 「当然だろ、僕が作った車なんだから」

 

 トニーさんを乗せた俺のトラックはそのままペンシルベニアに行き、クリントさんと合流することが出来た。普段着姿ではあるけど、どうやらトニーさんと同じで持ってるトランクケースに装備を纏めて入れているらしい。今はイズがいつも通り無線を傍受しつつ監視カメラを誤魔化して情報収集している。

 

 「キャプテンの方はうまくいったらしいな」

 

 「はい、今はシットウェルという人の確保に向かってるらしいです」

 

 「……シットウェル……思い出したぞ。確か衛星関連の技術者だ。レムリア・スターにも乗ってたはずだ。S.H.I.E.L.D.の表向きの情報だけどな」

 

 後ろに乗り込んだクリントさんがスティーブさんがフライトスーツを奪取したことと、トニーさんは技術者の情報を教えてくれた。レムリア・スターというのはよく分からないけどとにかく3人そろったからこれであとはスティーブさんと合流するだけだ。

 

 「あ、クリントさん。サンドイッチ食べたかったら冷蔵庫の中にあるのでどうぞ」

 

 「僕のついでだけどな」

 

 「一言余計ですよ~」

 

 「仲がいいな、一つもらうよ」

 

 なんかトニーさんにだけサンドイッチ用意してクリントさんにはないのは不公平な気がして彼の分も作っておいたんだけどまあ食べてくれるようなのでよかった。俺の方もスティーブさんの方もうまくいってるのでこのままS.H.I.E.L.D.の本拠地の方に向かった方がいいのかもしれない。

 

 「ああ、そうだバートン。先に渡しておきたいもの、正確には紹介しておいた方がいいものがある。君のご要望のものなんだが……まだ試作品ってことは覚えておいてくれ。これだ」

 

 そう言ってトニーさんがトランクから取り出したのは長方形の黒い箱、手のひらサイズのものだ。それをクリントさんに渡したトニーさんは、黒い箱の上面にあるスイッチを押す。すると箱の中からクリントさんがいつも使っている矢がにゅっと束になって出てきた。

 

 「矢切れについてはこれをいくつか携行することで解決できるとは思うが……今はまだ強度不足でね。普通に矢として射るなら問題ないが、矢じりを付けたり、手に持って直接突き刺そうとすると簡単に曲がってしまうだろう。ギミックを使う時は注意してくれ」

 

 「いや、十分だ。いくつある?」

 

 「とりあえず10個だ、脚につけるホルダーも一緒に持ってきた。改良案があったら終わったら教えてくれ」

 

 「わかった。もしかしてほかのトランクもそうか?」

 

 「ああ、まだ試作品の段階のものばかりだがこの際贅沢は言わないでくれよ?そっちがウィドウので、そっちがキャプテンのだ」

 

 なるほど、プレゼントというのはトニーさんがアベンジャーズの面々のために手ずから作った新装備のことだったのか。おそらくニューヨークのあの戦いで出た問題点を科学で解決できる部分はトニーさんの力で解決してやろうと研究してたものをこの窮地に持ってきてくれたらしい。

 

 トニーさん自身はスーツを作れなかったらしいけど、多分こっちを優先したんだろうなと思ったが俺はそれを言わないでおくことにした。指摘されると多分、この人拗ねるだろうから。

 

 

 

 

 

 

 『ハルトか?こっちは今シットウェルを確保した。合流地点はS.H.I.E.L.D.の本拠地から南西の……ここだ。恐らくほぼ同時に着けると思う』

 

 「わかりました。イズ、合流地点をマーク。最短ルートで行くよ」

 

 スティーブさんからの秘匿通信に応答した俺がイズに指示を出すと彼女は座ってたダッシュボードの上に立ってマップを表示し分かりやすいようにマークを付けてそこに通じるルートを検索してくれる。トニーさんは持ち込んだツールをせわしなく動かしてJ.A.R.V.I.Sと一緒に何やら作業をしていた。クリントさんは弓の調子を確かめている。

 

 そうして30分ほどハイウェイを進んでいくと……何やら物々しい感じになってきてしまった。前後左右に黒塗りの車がぬっと現れて、俺たちの進路を塞いだのだ。トニーさんの表情が険しくなり、クリントさんが矢筒を背負う。トニーさんの指示で俺は運転席を彼に譲ってドライバーを腰に装着した。

 

 『ハルト様、スティーブ様がウィンターソルジャーに襲撃を受けました!現在交戦中!』

 

 「ウィンターソルジャーがあっちならこっちは……!」

 

 「S.H.I.E.L.D.の他のチームだな……ハル、いけるか?ここで付き合う時間はないし飛んで逃げようじゃないか。J.A.R.V.I.S、垂直離陸を開始しろ。ハルは飛んだ瞬間外に出てやつらを驚かせてやれ」

 

 「いえ、このままサプライズとしゃれこみましょう。動物パーティです」

 

 「JUMP!」「POWER!」「BLIZZARD!」「BULLET!」

 

 4つのプログライズキーを連続でオーソライズする。ここ1年で発見したゼロワンドライバーの裏技的活用法だ。トラックの底面についているリパルサーエンジンが点火して車体を浮かすと同時に蛍光イエローのバッタ、ブラックのゴリラ、シアンブルーのホッキョクグマ、群青色のオオカミのライダモデルが出現し、俺たちの進路を塞ぐ車に襲い掛かった。

 

 これはライダモデルが物体に干渉することが出来るのを逆手にとってライダモデルに戦ってもらえるのではというのを試してやったら出来たので囮とかそういうのに使えるだろうと隠し玉的に秘密にしてたのを今ここで披露した形になる。まあ原作でもサウザンドジャッカーで似たようなことやってたからできるでしょと思ったら出来ただけなんだけど。

 

 「便利なベルトだなそれ」

 

 「さしずめサーカス団といったところかな?」

 

 「応用というか裏技ですけどね。スティーブさんの所に急ぎましょう」

 

 バッタが車を潰し、オオカミがドアを引き裂いて人をぶん投げ、ホッキョクグマとゴリラが車をひっくり返すというまさに相手にとっては地獄絵図という状況ではあるが正直もう敵に手加減してる場合じゃないのだ。殺さないようにはするけどあとは知らない、逆反射パネルを起動し透明になったトラックが空をとぶ。十分離れたと判断した俺はドライバーを外してライダモデルを消した。

 

 『ハルト様、ウィンターソルジャーが撤退しました。ですがスティーブ様たちは捕縛されています。シットウェルもウィンターソルジャーに殺害されました』

 

 「……どうしましょうか」

 

 「輸送中を襲うしかないだろうな……おいスターク、これもっとスピード出ないのか?」

 

 「無茶言うな、航空力学を半分無視して推力だけで飛んでるんだぞ。ハイウェイより速いからそれで許してくれ」

 

 「じゃあハルト、お前だけ変身して先に行ってくれ。足止めでもぶっ壊してもいい」

 

 「そうですね、行きます」

 

 もう一度ドライバーを装着し、フライングファルコンプログライズキーを起動しようとした瞬間、一応持ってきていたフューリーさんとの連絡用の端末が着信を知らせた。この端末に連絡してくる相手なんか一人しかいない。フューリーさんだ。いったんドライバーを置いて端末を手に取る。イズに目配せするとダッシュボードの上に連絡相手のホログラムが表示される。その相手はやっぱり、フューリーさんだ。

 

 『随分と派手にやっているようだな』

 

 「貴方の今の状態ほどではないと思いますけど」

 

 「フューリー、言いたいことが山ほどあるんだが後に置いておくぞ。キャプテン達が襲撃を受けて捕まったから助けたい、何か手段はあるか?」

 

 ホログラムのフューリーさんは見た感じ激しく負傷してベッドの上に寝転んだままこちらに連絡をしてきている様子だ。トニーさんが軽口をたたく前に後ろから顔を出したクリントさんがそう尋ねる。

 

 『それに関してヒルが潜入済みだ。今脱出したと連絡があった。こっちのアジトに案内する。お前らも来てくれ』

 

 その言葉と同時に届いた位置情報をJ.A.R.V.I.Sが確認するとS.H.I.E.L.D.の本拠地に割と近い場所にあるダムだった。灯台下暗しとはいうけどそんな場所に……早く来いとだけ言い残して切れる通信、3人のため息がシンクロした。相変わらず勝手なんだから。ドライバーをホルダーに戻した俺がトニーさんを見ると彼は肩をすくめて進路を変更した。そしてパンと手を叩くとJ.A.R.V.I.Sが彼好みの音楽をスピーカーでかけだす。俺はとりあえずそれを聞いて椅子を思いっきり後ろに倒した。

 

 

 「キャプテン、ロマノフ、ウィルソン君、皆無事でよかった。あとフューリーも」

 

 「ああ、スターク。すまない……失敗した」

 

 「失敗は成功の母だ。まだ手はある、それでそこのミスターミイラマン、提案があるなら聞くけど?」

 

 「そうだな、まずは……これだ」  

 

 トニーさんの運転で指定されたアジトについた俺たち、入るときにアサルトライフルを向けられたけどクリントさんが声をかけただけで降ろされたので味方で間違いなかったようだ。あ、そういえば俺アベンジャーズの人たち以外の謎組織に顔を公開するの初めてだ。だから誰だお前って顔なんだね。

 

 そこで案内された部屋で重症という言葉を形にしたフューリーさんとご対面し、そこにいたスティーブさんたちとも合流することが出来た。スティーブさんは声をかけたトニーさんに謝るけどトニーさんは頭の中でいくつか組み立てているらしく心配するなと返した。トニーさんは自分の考えを話す前にフューリーさんに意見を聞くことにしたみたいで話をフューリーさんに振ると彼は傍にいた女性に目配せをする。

 

 目配せをされた女性が持ってきたアタッシュケースの中には4枚のカード型の基盤とも言うべき精密機械が入っていた。それを全員が確認したのを見たフューリーさんが話し出す。

 

 「ヘリキャリアの制御を奪うチップだ。これをヘリキャリアの制御盤の一つと入れ替えればインサイトヘリキャリアを乗っ取ることが出来る」

 

 なるほど、と俺が思った時トニーさんとスティーブさんが同時に言葉を話した。

 

 「1枚多くないか?」

 

 「1枚少ないぞ」

 

 「「なに?」」

 

 同時に全く真逆のことを口走った二人は顔を見合わせてから、僕から話そうと、スティーブさんが話を引き継ぐ

 

 「僕が格納庫で見たヘリキャリアは5機だ、これでは一枚足りない。スタークの聞いてる話とは違うみたいだな」

 

 「ああ、僕がフューリーから聞いたヘリキャリアの数は3機だ。増やしたな?そうすれば何で1枚足りない?」

 

 「意味がないからだ。インサイト計画は一旦白紙に戻った後に変更が加えられた。衛星とリンクする4機とそれを統括する1機という形にだ。この1機はスタンドアローンで動き、ハッキングを受け付けない。故に4機の制御回路を乗っ取りさらに完璧に同時のタイミングでスタンドアローンの1機を撃墜しなければならない。この制御チップがあっても統括ヘリキャリアがあれば命令下に戻せるからな。余裕があれば他のヘリキャリアを回収――「いや、させない」……なに?」

 

 話を分析すると、ヘリキャリアというでかい戦艦があって、それと衛星がリンクをすると大虐殺が可能な状態になる。それを防ぐためハッキングツールをヘリキャリアに侵入して入れ替え、スタンドアローンの1機を他のヘリキャリアの攻撃もしくは別の手段で落としてから残りは回収しようという作戦か。それを語るフューリーさんに待ったをかけたのはスティーブさんだ。

 

 「ヘリキャリアがあれば同じことが起こるだろう。S.H.I.E.L.D.もヒドラも、すべて倒す。これが絶対だ」

 

 「……S.H.I.E.L.D.は何の関係もない」

 

 「ああ、もう既に中身はヒドラだ。S.H.I.E.L.D.を残しても中身がヒドラなら同じことの繰り返しになる。ここですべて蹴りをつける」

 

 「キャプテンに賛成だな。同じ組織が必要なら組みなおせ。ゼロから」

 

 「そうだな、そうしたほうがいい。心配するな、資金なら貸してやる」

 

 「……ふん、なら今後は君が指示を出せ、キャプテン・アメリカ」

 

 スティーブさん、クリントさん、トニーさんの言葉を聞いたフューリーさんは半分予想していたらしくあっさりと指揮権をスティーブさんに渡した。頷いたスティーブさんが改めて席に座っているメンツを見渡す。

 

 「とりあえず現場の指揮は僕が執る。目標はヘリキャリアの全機撃墜、ヒドラの壊滅だ。まずヘリキャリアを落とす手段だが……フューリー、先に4機を制圧した後でその4機からの攻撃で落とすことはできないか?」

 

 「限りなく不可能に近いが可能だ。ヘリキャリア4機の攻撃で10秒以内に致命的な部位に攻撃すればな……」

 

 「無理だな。照準だけでタイムオーバーだ」

 

 フューリーさんの可能性だけならあるという言葉を完全に否定したのは女性から受け取った端末でヘリキャリアの仕様を読み込んでいたらしいトニーさんだ。彼は端末から目線を外して全員を見渡す。

 

 「このヘリキャリアはニューヨークのあの時に使ったもののアップグレード版だ。僕が噛んでる時点で性能は上だが……10秒で落とせるほど柔らかくない。まあ、一応これよりも可能性がある案がないわけじゃない」

 

 「なに?もったいぶらずに教えて」

 

 ナターシャさんが撃たれたらしい肩の治療をされながら急かすように聞くとトニーさんがここを見てくれと端末の中のヘリキャリアのあるポイントをマークした。ヘリキャリアの中央、ほぼど真ん中といえる位置を指し示しながらトニーさんが説明を始める。

 

 「ここはヘリキャリアがヘリキャリアであるうえで消せないウィークポイントだ。4つのリパルサーエンジンが生み出す力を支える場所でもある。仮にここが壊れると……」

 

 「どうなる?」

 

 「真っ二つになる、プリッツを折るみたいにな。だが簡単じゃない、分かりやすくいうとだな……大体Mark84、ベトナム戦争のアレだ。あれを数発ぶち込んでやるくらいの威力がいる。ソーやハルクがいてくれればいいんだがな」

 

 「どっちもいないぞ」

 

 「もう一人いる」

 

 「誰です?」

 

 「君だ、ハル」

 

 トニーさんは真剣な目で、俺にそういうのだった。




 ヘリキャリアが増えたドン!頑張りましたねヒドラの皆さん。難易度イージーになるならハードになるまで増やせばいいのです。

 あと話数増えました。多分3回か2回くらいで終わります。お許しください

 ではでは感想評価よろしくお願いします


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オーダー・スタート

 君だ、の一言で俺に視線が集中する。ヘリキャリアの言うなれば要となる部分を破壊することが出来る人物、トニーさんはそれに俺をあげた。できるかできないかでいえば、出来る。ライジングホッパーではなくその上の形態に変身して、リミッターなしの全力で必殺技を放てばトニーさんの言うようにヘリキャリアを真っ二つにすることはできるだろう。乗っている人員の命を全て犠牲にする、という注釈が付いてしまうが。

 

 「ここにいる面々は分かってると思うが、ハルが持ってるスーツのパワーは現行のテクノロジーを大きく上回る。破壊力も、ニューヨークで実証済みだ。これが僕が現時点で提案できる最も効率的かつ簡単で、時間がかからない作戦だ」

 

 「おいスタークさんよ、それは流石に……」

 

 「理にはかなっているな。衛星へリンクするヘリキャリアはクインジェットのパイロット以外は無人だが、統括機体には人が乗る必要がある。ゼロワンがいくのが最も安全だろう」

 

 「フューリー!」

 

 「四の五の言ってられないのは分かるはずだ」

 

 俺が人殺しのスイッチを入れるという前提の作戦に難色を示したのはサムさんとスティーブさん、トニーさんも提案はしてみたものの余りいい気はしてない様子だ。ナターシャさんは中立、そして完全に賛成の立場にあるのがフューリーさん、まあ予想通りというか何というか言っときますけどこれ半分貴方の組織のせいですからね?

 

 さて、俺にできるだろうか?破壊そのものは出来ると断言できるが、その場で俺は何百もの命を自分の意思でゼロにする覚悟が持てるだろうか?土壇場で怖気づいて逃げたりしないだろうか?初めて変身して命を奪った時のように。今までは誤魔化してこれたがいつか直面することに今直面している。やれるか?殺せるか?俺に。エイリアンではなく人を殺すことが。いや、やらなければならないんだ。ヒドラの命も、そうじゃない命も奪う覚悟をする時が来た、それだけ。

 

 「やりま「ただ、時間がかかって戦力が減って非効率的かつ難易度が上がっていいなら、もう一つ手段がある。たった今思いついた」」

 

 「……聞かせてくれ」

 

 俺が作戦を受け入れようと口を開くのと被せるようにトニーさんが発言した。トニーさんは頷いて改めてヘリキャリアのホログラムを表示して今度はリパルサーエンジン4つをポイントしつつ説明を始める。

 

 「まず前提としてさっきの作戦と比べれば成功率は低いだろう。ハルの持ってるAIを統括ヘリキャリアに接続して主導権を奪う。そして水上に誘導し、キャプテン達がインサイトヘリキャリア4つの回路を入れ替えた瞬間から10秒以内、つまりインサイトヘリキャリアの制御を取り戻される前に、リパルサーエンジン4つを同時に破壊する」

 

 「……なるほどね、リパルサーエンジンを破壊すれば電力が断たれるってわけ?」

 

 「そうだ、いくらヘリキャリアでも同時に主電源を失えば補助電力に切り替わっても不時着が精いっぱいになる。だが、ゼロワンという大きな戦力がヘリキャリア一機にかかり切りになる。さらには、失敗すればヘリキャリア5機を生身の人間とスーツを着た一人でどうにかしなきゃならなくなるだろう。まあ、あえてメリットを上げるとすれば」

 

 「ヘリキャリアに乗ってるヒドラの命を救える」

 

 トニーさんの言葉を引きついだのはスティーブさんだ。彼は口元に手を当てて思案をしているようだった。トニーさんは今度こそ空っぽだ、といって椅子に深く腰掛ける。フューリーさんは無言、だがおそらく前者の作戦を推したいのだろう。さっきスティーブさんに全権をゆだねたから口出しはしないつもりらしいけど。俺も、スティーブさんに任せよう。どっちになってもやってやる、やってやるんだ。逃げないって決めたから。

 

 「……後者だな。みんな、付き合ってくれ。ヒドラは滅ぶべきだが、人命はそれより上だ。助けられる命は助けよう。それに、乗組員の全員がヒドラだとは考えにくい。もしそうなら、僕らはとっくに殺されてる」

 

 「いいのか?「頭を落としても二つの頭が生えてくる」……残したやつらが二つ目三つ目の頭になるかもしれんぞ」

 

 「そしたら何度でも刈り取ってやる。罰を受けた上でまたやるなら何回でも止めるさ」

 

 「頑固ジジイめ」

 

 「よく言われる」

 

 確認するようにフューリーさんはスティーブさんに皮肉を言うがそれをスティーブさんはさらりとかわした。ナターシャさんもしょうがなさそうな顔をしているが反対意見は言わず、トニーさんは肩をすくめて終わり、サムさんは元からスティーブさんの指示に従うつもりだったから特に何もない、そして俺も反対しない。

 

 「よし、作戦は決まった。各自休んでくれ、作戦開始は1時間後だ」

 

 スティーブさんのその言葉に、俺たちは頷くのだった。

 

 

 

 

 「キャプテン、少しいいか?」

 

 解散から30分後、椅子に座って休んでた俺の隣の机で携帯だのパソコンだのを分解していろいろ組みなおしていたトニーさんがUSBサイズの何かを完成させて机の上に放り、そのタイミングで戻ってきたスティーブさんに話しかけた。彼はトニーさんが自発的に自分に話しかけてきたことに少しだけ片方の眉をあげて疑問を持ったようだが今回の件に関係あることだろうと思ったのか聞く体制に入った。

 

 「手短に頼む、戦闘服を取りに行きたいんだ」

 

 「おお、それならちょうどいい。プレゼントがあるって言ったろ?ほら」

 

 そう言ってトニーさんは持ってきたひときわ大きなアタッシュケースを開ける。するとそこには、かなり古びてはいるけど状態は完璧に近いであろうキャプテン・アメリカのコスチュームが入っていた。けど、なんか違うな……あ!思い出した!これ最近博物館でやってたキャプテン・アメリカの生還を祝ったイベントで展示されてた70年前当時のコスチュームにそっくりなんだ!いくつか違いはあるけど、レプリカ品の展示物と違って生地もしっかりしてるし、頑丈そうに見える。

 

 「それは……?」

 

 「……父が事故で死ぬ直前まで作っていたものだ」

 

 「ハワードが!?」

  

 「ああ、君の装備品やコスチュームを作るときの参考にしようと思って遺品からアベンジャーズタワーまで持ってきてた。父は君が生きていると信じていたんだ、僕の成績や才能ばかり気にしていた父が僕に話す数少ない例外が、君だった」

 

 そう言ってトニーさんはコスチュームをスティーブさんに渡す、卓上に広げたそれを見たスティーブさんは、それを見て懐かしむように言葉をこぼした。

 

 「……僕が最後にリクエストしたものが、きちんと反映されてる。ハワード、さすがだ」

 

 「一部未完成な部分は僕が手を加えさせてもらったが、色塗りくらいだったよ。だからそれは正真正銘、父が君のためだけに作ったものだ。そしてこれも」

 

 トニーさんはアタッシュケースの底から、革製のガンベルトと拳銃を取り出した。拳銃はコルトM1911ガバメント、まだアメリカ軍に採用され続けている傑作自動拳銃、けどどうも拳銃店で見慣れているデザインではない。グリップの青と赤の星条旗の星っぽいデザインとか特にそうだ。

 

 「これも、父が君専用にカスタマイズを施したものだ。手の大きな君に合わせてグリップを調整し、ロングマガジンで装弾数は12発。君にドイツで初めて会った時から渡すべきかどうか悩んでた、けどやはり渡さなきゃいけないと思ったんだ。それは、僕に遺されたものじゃないからね」

 

 「スターク……これは」

 

 「受け取れない、なんて言うなよ?僕は僕に遺されたものをきちんと受け取ったんだ、君宛のものを届けたに過ぎない」

 

 銃身をもってM1911をスティーブさんに差し出したトニーさん、スティーブさんはトニーさんに差し出されたそれを見て断ろうとする。けどトニーさんが機先を制して釘を刺した。トニーさんの父親のハワードさんという人物はどうやらスティーブさんの装備を開発していた戦友らしい。トニーさんは父親に対してあまりいい感情を持っているわけではなさそうだったけど、それを飲み込んで装備を持ってきたというわけか。

 

 「それに今回の敵はヒドラ、なんだろ?父も戦っていた、ヒドラだ。最終決戦だっていうのに置いてけぼりは可哀想だと思わないか?キャプテン、父も連れて行ってやってくれ」

 

 「わかった。恩に着るよ、スターク。ハワードも、僕の仲間だ」

 

 「トニーでいい、父も僕もスタークだからね」

 

 「じゃあ僕も名前で呼んでくれ」

 

 スティーブさんはそう言ってトニーさんの手からM1911を受け取った。トニーさんは満足げにそれを見てパン、と手を叩く。それで意識を入れ替えたらしいトニーさんは俺に向き直ると同時にしっしっと手を振ってスティーブさんを追い出す

 

 「着るのに時間かかるんだろうからさっさと着替えて来い。僕はハルと話があるから」

 

 「……ああ、そうさせてもらう」

 

 苦笑したスティーブさんはコスチュームをもって部屋を出ていく。トニーさんはそれを見送って作っていたUSBメモリのような機械を俺に見せる。そういえばさっきから気になってたんだけどそれなんだろう。

 

 「というわけでハル、即席で悪いがこれが作戦の最重要アイテムだ。壊したりしないように全力で守ってくれ」

 

 「え?なんですか、これ」

 

 「統括ヘリキャリアに挿して君のAIが入り込む隙間を作る万能鍵だ。僕特製のプログラムが防壁をこじ開ける、その隙にイズに命令してヘリキャリアを乗っ取れ」

 

 「そんな大事なものを投げてよこさないでください!落としたらどうするんですか!」

 

 「僕が作ったものが地面に落ちた程度で壊れるわけないだろう」

 

 まるでコントのようなやり取りをしながら、俺とトニーさんは和やかに話していく。先に着替えを終えたサムさんが合流すると、トニーさんは早速サムさんのスーツのヒアリングを始める、かと思いきや空を飛ぶことについて語りだした。それにサムさんも乗っかり、ついでに俺も飛べるっちゃ飛べるので乗っかる、なんと飛行機のパイロットもできるらしいクリントさんも加わり、飛行談義に花を咲かせるのだった。

 

 

 「いくぞ。さっきは飛んだあとのことを相談したが、飛ばさせないという選択肢もある。トニー、頼んだぞ」

 

 「ああ、出来る限りやってみる。バートン、守ってくれよ」

 

 「ノイズ一つ聞こえないようにしてやるよ」

 

 クラシックなコスチュームに着替え、腰にガンベルトを巻いたスティーブさんが最終ブリーフィングを開始した。まず実働部隊、というかメインの戦闘は俺、スティーブさん、サムさん。S.H.I.E.L.D.を中から引っ掻き回すのがトニーさんとフューリーさん腹心のマリア・ヒルさんでクリントさんはその護衛役、怪我してるナターシャさんとフューリーさんは別動隊として正攻法で潜入するとすでに出発している。

 

 で、俺は変身してGO!ではなくまだ生身である。なんでかといえば目立つから、蛍光イエローが超目立つから。ハイブリッドライズしようと蛍光イエローのアーマーは残るのでどうしようもない。潜入する前に気づかれると前倒しでヘリキャリア飛ぶかもしれないからアタッシュショットガン抱えて戦闘が避けられなくなったら変身するということになりました。

 

 「ハル、緊張……はしてないみたいだな」

 

 「サムさんこそ。俺はまあ、ほら……色々あって腹をくくる方法を学んだっていうか、さ」

 

 アタッシュショットガンを変形させ、構えて、もう一度変形させて戻すという動作確認をしてきた俺に話しかけてきたのはごっつい飛行スーツを身に着け、赤いゴーグルをつけたサムさんだった。どうやら俺が実戦を前にして不必要に緊張してないかどうかを確認してくれたらしい。

 

 まあ、ここ1年何度か俺も実戦を経験してるので緊張感は保ちつつも体が固まらない、動かないみたいなことはない。というかアメリカの危機は3回目だから変な意味で慣れちゃった。1回目はエイリアンで、2回目は大統領処刑未遂で、3回目が第二次大戦から続く秘密結社。そろそろバラエティーが豊富過ぎて胃もたれ起こしそう。

 

 ああ、でも今回こそは人を殺してしまうかも、実戦のたびにそう思って幸か不幸かまだそうなってはいないけど……いつも戦いに赴くたびにそう思う、思ってしまう。けど、止まれない、止まってはならない。止まれば、この手で奪うかもしれない命よりも多くの命が失われる。ヘリキャリアが飛べば犠牲になるのは2000万人を超えるという試算がJ.A.R.V.I.Sとイズから示されているからだ。

 

 「あんまり思いつめるなよ。お前のそれ、感覚が麻痺してる兵士のもんだぞ。いいんだよ、怖くたって。俺だって怖い」

 

 「……そうかもね。でもサムさん、それを考えるのは後にするよ。今は、助けることだけ考える」

 

 「アメリカを?」

 

 「目の前にいる人を」

 

 わかり切ってる答えをわざと尋ねるサムさんの胸をこつんと小突く、サムさんの鍛え抜かれた体はびくともしなかった、頼もしい。サムさんはお返しだとばかりに俺の胸を小突く、早く行こう。俺の中の勇気と決意が、しぼんでしまわないうちに。助けられるだけ助けるんだ。

 




 ようやく次回から戦闘です。長かった~。トニーのプレゼントはトニーパパが作っていたスティーブの装備でした。トニーが後生大事に保管してたので古びていますが性能は博物館に展示してあったレプリカよりは高いです、当然ですね。

 この作品ではこれ以降キャプテン・アメリカの装備にM1911が追加されます。強化といえば強化かもしれませんけど、こういうのもありかなと思って。

 そして最後の感想、書いてて思った。これトニーか……?


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ブレイク・インサイト

 「あっさり入れましたね」

 

 「勝手知ったる我が家というやつだ、特にこの盾の男にとってはビル一棟の地図を覚えることなんて容易いだろうしな」

 

 「トニー、褒めてるのか揶揄ってるのかどっちなんだ」

 

 「両方」

 

 「全く……」

 

 「それよりも、だ。J.A.R.V.I.S、始めろ」

 

 『了解、S.H.I.E.L.D.本部のパラボナアンテナ統括システムへ攻撃を開始、システムダウンに成功』

 

 ヒルさんが所持してたS.H.I.E.L.D.本部のマスターキーのおかげで裏口を難なくパスして通った俺たちは、堂々とビル内に侵入し、人通りの少ない所を通ってS.H.I.E.L.D.本部の通信室の前までやってきた。こんな時にも変わらないトニーさんの軽口にため息をついたスティーブさんを面白そうに見るトニーさんがJ.A.R.V.I.Sに指示を飛ばし、J.A.R.V.I.Sはシステムの一部へ攻撃を仕掛け一瞬でダウンさせた。

 

 当然中の人たちは疑問に思い、外に確認にくる。ドアのセキュリティキーが開錠され、細身の男がドアを開けた瞬間に、サムさんのサブマシンガン、クリントさんの弓、俺のアタッシュショットガン、ヒルさんの拳銃が男に向けられる。どれか一つが火を噴けば死ぬのを理解したおそらく善良な職員はゴクリと息をのんで両手をあげる。スティーブさんの失礼するよ、という声を聞いた男は素直に道を開けて壁に向いて手をあげたままになる。

 

 「やあやあ諸君、お仕事ご苦労!色々あってね、とりあえずそこの君、通報システムは今機能しないから諦めるといい」

 

 『現在、全ての通信はこちらが管理しております』

  

 「イズ、完璧」

 

 『それほどでもありません』

 

 「さー始めるぞ~、キャプテン、オッケーだ」

 

 J.A.R.V.I.Sがシステムに攻撃すると同時に開けた穴から侵入したゼアが通信システムを乗っ取ったので必死にこちらに銃を向けながら通報ボタンを連打してる職員にトニーさんが無駄な抵抗をやめるように指示し、そのまま席について鍵盤でも弾くように次々とキーを叩いてシステムを開いていく。職員放送を乗っ取ったところでトニーさんはスティーブさんに向かって顎をしゃくってマイクを差した。スティーブさんはそのままマイクに向かって話し出す。

 

 S.H.I.E.L.D.は乗っ取られた、ヒドラがもしかしたら君の隣にいるかもしれないと。長官であるフューリーさんを暗殺し、ヒドラの現指令であるアレクサンダー・ピアーズが黒幕だと。ヘリキャリアが打ち上がり、インサイト計画が為されれば何千万の人が死ぬ、という言葉に管制室に残っている人たちはざわつく。いち早く銃を抜いてこちらに向けた人をクリントさんの弓が射抜いた。ハイル・ヒドラの叫びは信憑性を高めるだけなのに。

 

 「僕たちだけでも立ち向かう。だが、僕ら以外にも立ち上がると、そう信じている」

 

 そう言ってスティーブさんは通信を切る。トニーさんはヒュウッと口笛を吹きつつもすさまじい速度でキーを叩き続ける。ここで俺たちは分かれることになる。トニーさんたちはここに残ってここからS.H.I.E.L.D.の中身をしっちゃかめっちゃかにしていく。そして俺たちは、物理的にヒドラを排除する。

 

 「ああ、くそ……スペックが足りない。ダメだ、インサイト計画の中枢プログラムに入るにはここのメカじゃマシンパワーが足りない!マザーボードが燃えても無理だなこれは」

 

 「トニー、英語で頼む」

 

 「システムを乗っ取れない、入る隙間を作れないんだ。ヘリキャリアが発進する」

 

 「想定内だ、行くぞ」

 

 「ああ」

 

 「はい」

 

 トニーさん曰く、ここのマシンではインサイト計画に使用されているスパコンを乗っ取るのは不可能とのことらしい。このまま横やりを入れまくるというトニーさんに後を託して、イズは撤退。J.A.R.V.I.Sが後を引き継いだ。クリントさんとヒルさんはここでトニーさんの護衛をするので残る。俺たちは……戦う。

 

 「ハル、頼んだぞ。思いっきりやってこい!」

 

 トニーさんの言葉を受けて、俺たちは管制室を後にする。俺はアタッシュショットガンを仕舞って、走る2人を追う。水をかき分けてヘリキャリアがせりあがる。クインジェットが規則正しく並ぶ中に、黒づくめの戦闘服を着た集団がアサルトライフルをもってこちらに向かってくる。

 

 「キャプテン、敵と味方は如何見分ける?」

 

 「撃ってきたら敵だ」

 

 「じゃあ少なくともあれは敵なわけですね」

 

 「ゼロワンドライバー!」

 

 走りながらそんな言葉を交わして俺はドライバーを腰に巻く。初めて聞くであろうそれにぎょっとしたサムさんだったけど気を取り直して背中のジェットパックから翼を広げて飛び立った。スティーブさんは走る速度を上げて盾を投擲する。複雑な軌道で跳弾した盾はヒドラの戦闘員を打倒してちょうどスティーブさんの手元に戻っていく。残された俺はプログライズキーのスイッチを入れた

 

 「JUMP! AUTHORIZE!」

 

 「すぅーっ……変身っ!」

 

 「飛び上がライズ!ライジングホッパー!A jump to the sky turns to a rider kick」

 

 顔を隠すことない初めての変身、大きく息を吸った俺はオーソライズし展開させたライジングホッパープログライズキーをベルトに装填する。こちらに向かってくる装甲車のエンジン部分を踏みつぶすように出現したライダモデルが分解され、走り続ける俺に組み付いて鎧を形成する。変身が完了した俺は脚力に任せて思いっきりジャンプし、こちらに飛んでくるクインジェットの片翼をエンジンごと変身と同時に現れたアタッシュカリバーで切断、同時に手を操縦席に突っ込んで操縦者を引っ張り出した。

 

 『ハル、統括ヘリキャリアは胴体に1本赤いラインが入ってる。それで見分けろ』

 

 「了解!」

 

 基地内を走り回りながらトニーさんの通信にそう返す。正直もう半分やけくそに片足突っ込んでるので超スペックを活かして直進行軍をすることにした。積みあがった資材も、コンクリの壁も、モルタルの壁も全速力で走ってぶち抜き、離陸して浮いている統括ヘリキャリアに近づく。そうして走って車を撥ね飛ばすという我ながら頭がおかしいことをした後にライジングホッパーの超脚力で思いっきりジャンプし、統括ヘリキャリア、ではなくその隣のヘリキャリアに飛び乗る。

 

 ヘリキャリア4機を二人で相手取るのは厳しいので俺が2機、サムさんが1機、スティーブさんが2機という受け持ちで作戦は決まっている。なので俺はこのヘリキャリアを制圧し、そのあとに統括ヘリキャリアに乗り込むのだ。俺が甲板に着地したのを感知したらしい自動攻撃システムが砲口をこちらに向ける。俺は慌てずにプログライズキーを押し込む。

 

 「ライジングインパクト!」

 

 甲板に蜘蛛の巣状の罅を入れて飛び上がった俺はこちらに向かって砲弾を放とうとする砲塔全てにキックを叩き込み、最後の一発で甲板を蹴り割って内部に侵入する。イズが表示するマップに従い、隔壁を蹴り壊したりしていたが途中でアタッシュカリバーで切ったほうが早いことに気づいて、アタッシュカリバーを振り回して時に地面を、時に壁をぶっ壊し無理やり道を作って最下層にあるサーバールームにカチコミをかける。

 

 途中でこちらに向かってくる人間がいるかと思ったが本当にほぼ無人らしく、甲板で見かけたクインジェットの中で冷や汗をかいていたパイロット以外は本当に無人なのかもしれない。そう考えながらサーバールームの扉を一刀両断して中に入り、中央のサーバーを操作しておりてきた回路の一つを入れ替える。

 

 「こっちは終わりました!」

 

 『こっちもだ!サム、どうだ!?』

 

 『あー今立て込んでる!……入った!3機目終了!』

 

 『よし、4機目の制圧に向かう。ハルトはそのまま統括ヘリキャリアに乗り込め!』

 

 「はいっ!」

 

 『ハル、すぐ追いつくからお前はのんびり行けよ』

 

 「お茶用意しとくよ!」

 

 サムさんの心配の言葉をジョークで返し、強化ガラス張りのサーバールームの外壁をチャージしたカバンダイナミックですっぱりと切り飛ばして大穴を開けて飛び降りる。そのままフライングファルコンプログライズキーを起動して、ライジングホッパープログライズキーと入れ替えた。

 

 どうやら俺がヘリキャリアを制圧しているうちに統括ヘリキャリアはかなり高度を上げているらしい。だいぶ上まで行ってしまっている、がフライングファルコンならその高度でも問題ない。俺はすぐに音速を越えて舞い上がり、対空砲火を躱しながら統括ヘリキャリアの甲板に降りたった。すぐさま展開していた部隊が弾幕を張ってくるが俺は気にすることなく突っ込む。

 

 「ゼロワンを援護しろ!」

 

 「キャプテン達の力になるんだ!」

 

 「ありがとう!この船ぶっ壊して不時着させるから安全なところまで逃げて!」

 

 ヒドラの戦闘員たちをなぎ倒しているとどうやらヒドラじゃない正規のS.H.I.E.L.D.職員たちがヒドラの態勢が崩れたのを好機ととらえて俺を援護してくれた。一応このヘリキャリアはリパルサーエンジンをすべて失っても不時着できるように作られているので艦内にはセーフティースペースが用意されていると教えてもらっている。なので甲板にいる最後のヒドラを気絶させると俺はそう彼らに伝えた。

 

 「いや、このまま手伝わせてほしい。俺たちだってS.H.I.E.L.D.の職員なんだ、キャプテンにあそこまで言われて黙ってられない」

 

 「わかった。このまま管制室に行ってこの船を乗っ取る!手伝ってくれる!?」

 

 「もちろんだ!」

 

 どうやら彼らはスティーブさんが放送で行った演説を聞いて立ち上がってくれたらしい。俺たちだけではなかったという事実を嬉しく思いつつ、俺よりもこの船に詳しいであろうから同行してもらった方がいいと判断し、10名の職員と一緒にヘリキャリアの中に入る。他の人たちはヒドラを縛り上げてセーフティーゾーンを確保するそうだ。

 

 『残り6分だ、急げよ。おいバートン、もうちょっと静かにならないのか』

 

 『悪い、やつらジュークボックスを持ち込んだみたいでな。音がそっちまで響いちまった』

 

 『じゃあスクラッチ音消して曲変えてくれ。よしこっちは8割がた終わりだ。あとはロマノフとフューリー次第だな。撤収の準備を始めるぞ』

 

 トニーさんたちもトニーさんの方で銃撃戦に陥ってるらしい。衛星とのリンク圏内まであと少し、職員たちの援護を受けながら次々とヒドラの戦闘員を倒していく。俺が突っ込めば銃撃は俺に向くので援護もしやすいだろう、それに誤射されても全く問題ないからね。他にも戦ってる人たちがいたようで道中でまた10人ほどの職員と合流できた。職員の案内で近道をし、管制室の隔壁を蹴破って俺が突入する。

 

 ドガガガガ!とアサルトライフルを連射してくるヒドラの戦闘員たちだが、俺には効かない。そのまま殴りかかって次々と壁にキスをさせてやる。援護射撃もさすがS.H.I.E.L.D.の職員で俺が囮になってるからなのか撃たれてるのにもかかわらず躊躇なく俺の近くまで突っ込んできて正確にヒドラの戦闘員を撃ち抜いている。すっごい。制圧を終えて俺は近くのポートにトニーさんにもらった端末を差し込む。すぐさまトニーさん特製のプログラムが作動して乗っ取りを始めた。

 

 「よし、イズお願い!」

 

 『お任せくださいハルト様!システム起動、ヘリキャリア中枢プログラム開錠、運転システムハッキング完了!これより移動を開始します!』

 

 「ありがとう!他の人は逃げ遅れてない!?」

 

 「ああ、恥ずかしながら……これで全員だと思う。他のやつら多分、ヒドラだ」

 

 「……そっか。じゃあここで衝撃に備えてて。この端末ぬいちゃだめだよ!絶対、助けるから!」

 

 管制室に集まったS.H.I.E.L.D.職員は総勢、30人いるかいないか。怪我人も何人かいるけど手当てが間に合っているので問題なさそうだ。何百人も収容できるヘリキャリアでヒドラじゃない人たちが、たったの30人。イズにお願いしてセーフティールームの隔壁と緊急シャッターを閉じる。

 

 「じゃあ、俺は行くよ。ありがとう、助かりました」

 

 「いや、こっちのセリフだ。ゼロワン、君が誰なのかは分からないが……俺たちを助けてくれたこと、感謝する」

 

 S.H.I.E.L.D.職員に見送られて管制室を出る。すぐさまイズの操作でセーフティーシャッターが下りた。俺はそのまま来た道を逆走して甲板まで出る。イズが動かすこのヘリキャリアが完全に水の上に入った瞬間か4つのヘリキャリアを制圧した瞬間にリパルサーエンジンをほぼ同時に破壊しなければならない。なんてハードゲームだ……時間もない。

 

 「スティーブさん?大丈夫ですか!?」 

 

 返答がない、助けに行くべきか?いや……信じて待つんだ。最後の最後まで。俺はフライングファルコンプログライズキーを抜いて変身を解く。これから使うプログライズキーは今までのシステムとは異なるのでいったん変身を解かなければならないんだ。俺は今の今まで封印してきたそのプログライズキーを手に取る。蛍光イエローとクリスタルのようなブルーに彩られたプログライズキーをグッと握る。

 

 『残り一分だ!ハル、準備しろ!」

 

 『ハルト様、水上へ移動完了しました!』

 

 「うん、ありがとう。いくよっ!」

 

 スティーブさんよりイズの方が早かった。俺はもう一度深呼吸をして、握っているプログライズキーのスイッチを強く押した。

 

 「JUMP!」




 お待たせしました戦闘シーンです。といいたいところなんですけどやっぱ普通の人間相手じゃ強すぎますねゼロワンは……。

 サー次回に出てくる強化形態は誰かな~?まあバレバレですよね。でもスペックを考えてここまでしとかねば不安でしてな……

 ではでは次回に会いましょう。感想評価よろしくお願いします


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リアライジング・ジャンプ

「JUMP!」

 

 ライジングホッパープログライズキーと同一のアビリティボイスでありながら、どこか違う起動音。俺が握っているのはゼロワンという存在の極致への鍵。ライジングホッパープログライズキー ゼロワンリアライズver……なっげえ。リアライジングホッパープログライズキーと呼称するけどそれでも長い。まあ御託はいい、つまりこいつがこの作戦の鍵だ、文字通り。

 

「AUTHORIZE!」

 

 ベルトの前にキーをかざすとオーソライズされてロックが解除される。同時に俺の後ろにイエローのバッタが降り立った。いつものごとく飛び跳ねるでもなく、号令を待つ犬のように頭を上下させているだろう。重低音の待機音が響く中、俺は片手で展開したキーをゼロワンドライバーに叩き込んだ。プログライズ!と音声が鳴る。

 

 「変身!」

 

 「イニシャライズ!リアライジングホッパー!A riderkick to the sky turns to take off toward a dream」

 

 ライダモデルのバッタが量子に分解されるように消え、ドライバーと反応する。いつものように鎧に変わるわけじゃなく分解された粒子が俺に纏わりついて徐々にゼロワンを形作っていく。下から上へ、俺の顔が仮面で覆われる。この形態こそがゼロワンとしての最上最高、最強の形態。ドライバーへの過負荷と引き換えに埒外の強化に成功した姿だ。文字通り、今までのゼロワンとは桁が違う。この戦艦だって真正面から潰せるほどに。

 

 「イズ、行くよ!」

 

 『はい!ハルト様!』

 

 協力プレイの相手であるイズにしっかりと合図をして俺はライジングホッパープログライズキーを取り出し、ベルトの前にかざす。その回数は、6回。そのままリアライジングホッパープログライズキーを押し込んで、必殺技の態勢に入った。

 

 「ビットライズ!バイトライズ!キロライズ!メガライズ!ギガライズ!テラライズ!」

 

 「おおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!!」

 

 「リアライジングテラインパクト!」

 

 気合の雄たけびを上げた俺の全身にエネルギーが迸る。ただでさえドライバーに過負荷をかけるリアライジングの状態で必殺技の強化を最高の6回重ねるという暴挙、全身から制御しきれない量のエネルギーがあふれ出す。碧と黄色のエネルギーを全身が覆う。ドライバーから火花が散る。ただ破壊するだけならここまではいらない。けど、中に人がいる以上、悠長に一つずつ4つのリパルサーエンジンを壊してられない!バランスが崩れるからだ!

 

 つまり、俺の絶対条件は、ヘリキャリアのバランスを崩すことなくリパルサーエンジンを壊すこと、その手段はほぼ同時ともいえるスピードで上から4回リパルサーエンジンをたたいて壊す!だから、強化に強化を重ねる。思考をゼアと同期する。繋がったゼアから最適のルートが流れてくる。スーパーコンピューターを凌駕するAIの思考能力を手に入れた俺が、上に飛ぶ、飛んだ衝撃波が雲を爆散させ、無事な砲塔を折り曲げた。

 

 「はあああああああああっ!!!」

 

 空中をエネルギーの爆発で空中ジャンプした俺は、右足を前に出してライダーキックの態勢で一つ目、右前のリパルサーエンジンを蹴りぬいた。余りの速度にすべての時間が遅くなってスローモーだ。爆発すら目で追えるほど遅い。その中でさえも今の俺の速度は速すぎるほど。イズとゼアの補助がなければとっくの昔に制御に失敗している。

 

 貫いた瞬間に空中を蹴り上げてまた上に戻り、今度は左後ろ、続いて左前を蹴りぬく。ビシリ、と嫌な音を立ててドライバーに亀裂が入った。イズからドライバーの損壊が30パーセントを越えたという報告。まだ持つ、最後の一発くらいは!再度空中を蹴りあがって飛び上がり最後の右後ろに向かって俺は青と黄色のエネルギーの残光を残しつつ、流星のように突っ込んだ。

 

 「はあっ……!はあ……!」

 

 視界のスローモーションが元に戻る。ドライバーの損壊でゼアとのリンクが切れかかってる。同時に上空から爆発音、コンマの差はあるもののほとんど同時に蹴りぬかれて壊されたリパルサーエンジンの爆発が多重に重なる。そしてそれと同時に他の場所に浮いてる4機のヘリキャリアがお互いにお互いを砲撃し始めた。どうやら一方に集中しすぎてもう一方の作戦の行方を確認できていなかったらしいが、無事成功しているようだ……よかった……。

 

 『ハル、気を抜くのはまだ早い、キャプテンが4号機から脱出出来てない。迎えに行ってくれ』

 

 「っ!?はい!」

 

 なんてことだ、スティーブさんがいる状態のまま撃ったのか!?なんで、じゃない。スティーブさんがそうしろって言ったのが音声ログに残ってる!水の上に爆発するように着水した俺が水の底を蹴り上げて大ジャンプし4号機のヘリキャリアへ向かうが、遠い!クソ!離れすぎた!ドライバーが壊れるまでに間に合うか!?

 

 『おい、クソなんてことだ!ウィルソン!すぐそこから離れろ!2号機が本部に直撃する!』

 

 「サムさん!?」

 

 青と黄色の残光を残しながら俺が全力で疾走して4号機のヘリキャリアへ向かってる途中にビルに向かって墜落しようとしているヘリキャリアが見える。トニーさんの通信を聞くに本部にはジェットパックを失ったサムさんがストライクチームのリーダー格とやり合ってる最中だと。まずい、まずい!どっちを助ける?どっちも助けないと!

 

 『サムの方へいけ!僕なら大丈夫だ!脱出できる!』

 

 『スティーブ!?どうやって出る気だ!?』

 

 『いつもスカイダイビングでやってる!サムの方が危険度が高い!僕を信じろ!』

 

 「……信じますよ、スティーブさん」

 

 どうしようか俺が足を止めずに迷っているとすぐさまスティーブさんから通信が入る。脱出できるからサムさんを優先しろと。引っかかるものがないわけではなかったけど、指揮を執ってるのはスティーブさんだ。なら俺はそれに従わなければいけない。素人判断よりプロの判断の方が信用できるから。俺は速度を上げて加速し、S.H.I.E.L.D.本部のビルへ向かう。

 

 「イズ、サムさんの位置は?」

 

 『北側46階です。ですが、推奨できません。変身を維持できる可能性が低く、賛成しかねます。右足の骨折、全身への負荷を考えると行動不能に陥る可能性が高いです』

 

 「ごめん!でも俺はいかなきゃならないから!」

 

 既にベルトの過負荷は致命的なレベルに達している。やはり、リアライジングだけならともかく、テラライズまでしてさらにその状態のまま超高速移動の上に必殺技のレンチャンときたらそれは確かに異常な負荷だろう。リアライジングそれ自体がゼロワンドライバーの設計限界を超えているのでそこにさらなる負荷を倍率ドンしたらこうなるのもしょうがない。

 

 おまけに吸収しきれなかった衝撃が中身の俺を傷つけている。うまい事誤魔化せているが右足の感覚がもうない。無理しすぎた!イズの強い反対を受けるがそれでもやらなきゃいけないんだ!

 

 『統括ヘリキャリア着水成功。S.H.I.E.L.D.本部46階北側への最適ルートを表示します』

 

 「ありがと、いこう!」

 

 イズの反対を押し切ると彼女は諦めたのか46階への最短ルートを表示してくれる。俺はそれに従って最速でS.H.I.E.L.D.本部を目指す。ビルにたどり着いた俺は左足だけ使って46階までジャンプで飛び上がり強化ガラスをタックルで突き破る。すると同時にヘリキャリアがビルに接触する。ミシミシメキメキと破滅的な音が鳴る。時間がない!急げ!

 

 「ハ―――っ!?」

 

 「なん―――!?」

 

 喋る余力はない。俺は奥のヒドラの戦闘員であろう男と、その手前にいるサムさんをひっつかんでそのまま46階からできるだけ遠くにジャンプするように飛んだ。壊れかけとはいえリアライジングのジャンプ力はライジングホッパーの数倍、一瞬でS.H.I.E.L.D.本部を離れる。二人抱えて着地する余裕もパワーも余ってない。俺は自分を下にして背中から地面に落ちて叩きつけられる。抱えてる二人は意地でも怪我させないようにだ。

 

 「ぐうっ……っつ痛ぅ……!」

 

 「ハル!?おいハル!大丈夫か!?」

 

 「だ、大丈夫です。それよりも……!」

 

 二人を手放した俺、転がったサムさんがいの一番に起き上がって動けない俺を揺する。俺は何とかそれにこたえながらサムさんの後ろでゆらりと起き上がった男が拳を振りかぶるのを見て咄嗟にサムさんを投げて自分が前に出る。その瞬間、ドライバーから大きな火花が散り完全に割れてしまった。変身が解ける。空気に溶けるように消えた仮面、素顔になった俺の顔を男の拳が捉えた。重い音を立てて殴り飛ばされる、視界がぐらぐらする……!

 

 「ハルっ!お前……!!」

 

 「……」

 

 頭を振って体を起こす。サムさんが怒りでこぶしを握り締めるのが見えた。だが男の視線はサムさんには向いてない。彼の目は俺を、まっすぐに俺を見ている。男はどうやら、俺を見て驚いているようだった。ゼロワンの正体が俺だっていうのが分かったからか?サムさんが拳を振るおうとズンズンこちらに向かってくると男は座り込んで両手をあげる。そして

 

 「……降伏だ。俺の負け、素直に逮捕でも何でもされてやる」

 

 「何?……どういうつもりだ」

 

 「そのままだ。お前らに正義がある様に俺にも俺の正義がある。今回だってそうだ。俺がヒドラに入ったのは世界を平和にしたかったからだ」

 

 サムさんが握った拳を振り下ろす先を見失かったかのように解いた。男は手をあげたまま自嘲気味に話し始める。

 

 「俺らが汚れることで平和を作り、次の世代に託す。そういうやつもヒドラにはいるってだけだ……託すべき次の世代に否定されたら、負けなんだよ。そういう、俺らみたいな汚いやつらは」

 

 それだけ言って、男は黙り込む。上空からヘリコプターの音がして、上を見上げるとヘリコプターが降下してくるところだった。ヘリのドアが開いて、クリントさんが飛び降りてくる。すぐさま男に弓を向けるが男に敵意がないことに気づいて弓を下ろした。そのまま手錠をもって男に近づく、男は素直に両手を出して手錠をかけられる。俺は、起き上がろうと体を起こすが、シャイニングホッパーすら使ったことない俺がいきなりリアライジングなんか使ったせいでバックファイアが起きて俺の体を散々に痛めつけてくれたおかげでうめき声しか漏れない。

 

 「おいハル、大丈夫か?」

 

 着地したヘリからトニーさんが飛び降りてきて俺の体を起こしてくれる。答える気力はあまりないが大丈夫です、とだけ答えて素直に肩を借りて立ち上がる。

 

 「ぐぅ……トニーさん、スティーブさんは……?」

 

 「喋るな。まだ見つかってない、J.A.R.V.I.Sがバイタルサインを確認してるから生きてはいる。迎えに行くぞ」

 

 立ち上がった時にバチッという破裂音がして俺の腰からドライバーがバラバラになって落ちる。トニーさんは残骸と化したドライバーの中からリアライジングホッパープログライズキーを拾い上げて俺に返してくれる。気になってはいるだろうに、何も聞かずに。クリントさんは男を連行するために残るといって、残る俺たちはヘリに乗り込む。操縦桿を握ってるのはフューリーさんだ。

 

 「手ひどくやられたようだな。麻酔だ、ないよりましだろう」

 

 「全部自業自得ですけどね。ありがとうございます」

 

 いつも通りの皮肉を言われ、投げ渡された麻酔をキャッチしたサムさんが俺に打ってくれる。右足はもともと感覚が死んでるからまあいいとしても全身に走る筋肉痛を10倍ひどくしたような鈍痛からは解放された。あー、くそ。もうちょいスマートに頑張れればなあ!後で自己反省会をしないと。そう思っていると麻酔の効果なのか意識が遠のいてきた。俺はそれに抗えず、そのまま暗闇に意識を手放すことにするのだった。

 

 

 

 「ん、あ……」

 

 「起きたか」

 

 「スティーブさん!よかった!無事だったんですね!」

 

 「君が一番重症だったんだぞ。ともかく無事目が覚めてよかった」

 

 ふっと意識が浮上した。眩しさに目を細める、消毒液の匂いがする。そう考えてると隣から声をかけられる。首だけ動かして、隣を見ると俺と同じくベッドに横たわっているのはスティーブさんだ。顔中擦り傷やら青タンやら腫れやらで結構ひどいことになってはいるが元気そうだ。そのスティーブさんに言われて自分の様子を見ると、ギプスを付けられた足が吊り下げられていた。あーやっぱだめだよねえそりゃ。

 

 「無茶しすぎました」

 

 「お互いな。トニーは「僕の知らない機能を勝手に使うのは禁止だ禁止」とぼやいてたよ……ありがとう。君が頑張ってくれたおかげで、ヒドラの野望を阻止することが出来た」

 

 「頑張ったのは、俺だけじゃなく皆そうでしょう。そうですねえ、治ったらパーティでもしませんか?祝勝会です」

 

 「そうだな、そうしよう。僕も久しぶりに……呑みたい気分だ」

 

 俺とスティーブさんはそう言ってお互い不格好な顔を歪めて笑い合うのだった。




 ラムロウ君無傷逮捕ルート解禁!リアライジングでも無茶が過ぎればまあこうなるよね敵な感じです。

 次回は祝勝会とその後のお話書きます。

 ではでは感想評価よろしくお願いします


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