転生イノベイドのイオリア計画再生記 in C.E. (アルテミー)
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第一部 ソレスタルビーイング
変革を促す者



ガンダムSEEDも好き、ガンダム00も好き。
ならどうする?

A)混ぜる

絶対誰かは考えただろう組み合わせのやつ。



 

 

 西暦2307年

 ユニオン、AEU、人革連の三大国家による()(ともえ)の状態にあった世界に対して、宣戦布告(せんせんふこく)した組織が現れた。

 その名は"ソレスタルビーイング"。戦争根絶を(かか)げる私設武装組織であり、機動兵器"ガンダム"によってあらゆる戦争・紛争への武力介入を行った。

 

 ガンダムの力は凄まじく、三国家軍の主力モビルスーツをものともせず、三国家軍が協力して行った鹵獲(ろかく)作戦の(ことごと)くを打ち破り、逆に大きなダメージを与えるほどだった。

 

 しかし、彼等はやり過ぎてしまった。いや、そうなるように仕組まれていた。以前よりも過激になった武力介入は世界から予想以上の恨みを買ってしまっていた。ソレスタルビーイングという必要悪(ひつようあく)を基に世界は統一されようとしていたのだ。

 

 そして、遂にソレスタルビーイングという強大な組織を前にして団結。各国のエースパイロットを集めた"国連軍"を結成。組織の裏切り者から手に入れたガンダムの力でソレスタルビーイングを一度は壊滅(かいめつ)させた。

 

 その後、世界の合計328ヵ国加盟による"地球連邦政府"が樹立。各国の軍隊はそれぞれ解体され、"地球連邦平和維持軍"として発足(ほっそく)した。これによって一度は世界が統一されたかに思われたが、その影に人類を支配しようとする組織の影があったことをまだ誰も気付くことはできなかった。

 

 それから四年後。統一されたはずの世界は再び戦火(せんか)に包まれた。

 

 地球連邦平和維持軍から枝分(えだわ)かれする形で発足された独立治安維持部隊"アロウズ"。そして、彼等の反政府組織の弾圧(だんあつ)–––––という名の虐殺(ぎゃくさつ)等が目立つようになり、それに対して反抗の狼煙(のろし)を上げた反政府組織"カタロン"の衝突である。

 選び抜かれた精鋭という無意識の優越感(ゆうえつかん)が生んだ歪んだ心はアロウズを間違った方向性へと導き、非人道的な行為を行う彼等に対抗するためカタロンもまた武力に頼らざるを得ないという悪循環。

 各国が統一された現在も完全に世界が統一されたとは言い難く、毎日のように各地にて小規模な紛争が起きたのだ。

 

 西暦2312年

 そして、そんな紛争行為に触発(しょくはつ)される形で遂に"彼ら"が再び姿を表した。かつて戦争根絶を(うた)った私設武装組織ソレスタルビーイング。それが四年の月日を()て復活したのだ。

 

 幾度となくアロウズとぶつかり合ったソレスタルビーイングは戦いの果てにアロウズを影から操り、世界を手にしようと企む者たち––––––"イノベイター"の存在を知ることになる。

 

 イノベイター(革新者)、自らを人類を導く者と名乗る彼等はソレスタルビーイングの活動の根幹(こんかん)である量子演算コンピュータ"ヴェーダ"を掌握(しょうあく)し、イオリア計画を自分たちの計画へと変えようとしていたのだ。

 

 最終決戦にて、カタロン及び正規軍と手を組み、クーデターという形でアロウズとぶつかり合ったソレスタルビーイングはそれを撃破。アロウズを影から操っているイノベイターとの最後の戦いに挑む。

 

 結果、純粋種(じゅんすいしゅ)と呼ばれる真のイノベイターへと革新したガンダムマイスターの力もあってソレスタルビーイングはイノベイターを撃破。ヴェーダの奪還に成功し、長きにわたる戦いに終止符(しゅうしふ)を打つことになる。

 

 西暦2314年

 ソレスタルビーイングの創設者'イオリア・シュヘンベルグ"の計画は最終段階へと移行。アロウズとイノベイターを倒し、真の意味で統一されようとする地球はその日、初めての未知なる種との遭遇を果たすこととなる。

 それは、"ELS(エルス)"と名付けられた外宇宙からの来訪者(らいほうしゃ)。今までの地球圏では対応することすら不可能だった種族の壁を越えた対話の始まり。

 

 そして、西暦2364年現在。

 地球圏から戦争が消え、世界は外宇宙への進出を果たそうとしている。人類の約四割近くがイノベイターへの変革を果たした今、地球という星は(ゆる)やかな成長軌道へと乗ろうとしていた。

 

 

 これこそが一世紀以上前からイオリアが予見(よけん)していた計画の全貌(ぜんぼう)。それまでに多くの犠牲があれど、ようやく人類は正しい道へと歩み出そうとしている。

 

 こうして、イオリア計画は完結した………筈だったのだが。

 

「ここはどこだ……C.E.(コズミック・イラ)だと?」

 

 舞台は西暦を超えて新たな宇宙へ。

 これは、計画の根幹たるヴェーダとヴェーダに生み出された一人のイノベイターが歩むもう一つのイオリア計画の物語。

 

 

▽△▽

 

 

 "イノベイド"

 

 それはイオリア・シュヘンベルグが予見した「純粋種」を()して造られた人造人間。ヴェーダとリンクして情報収集や計画の遂行を()すとともに、人類の純粋種への覚醒を促進(そくしん)する役割を担っていた。

 彼等は言わば計画のために生み出された「模倣品(もほうひん)」なのだが、ナノマシンによる不老長寿(ふろうちょうじゅ)脳量子波(のうりょうしは)制御能力等、その能力は純粋種に引けを取らない。

 

 ただし、人と関わるために与えられた自我は、未だに戦いを続ける人間達の踏み台になることを受け入れることができず、リボンズ・アルマーク等イノベイドは自らを「イノベイター」と宣言(せんげん)して反逆(はんぎゃく)し、ソレスタルビーイングに敗れた。

 

 その後は、地球外生命体ELS(エルス)との対話をサポートし、本来の役目––––––人類の革新(イノベイター)化へと戻った。現在全てのイノベイドは、ヴェーダを管理する"ティエリア・アーデ"の管理下にあり、彼とヴェーダの判断で新たな命令を下されることになっている…筈なのだが。

 

「ティエリア・アーデの反応がない…いや、これは」

 

 薄暗い部屋の中、金色(こんじき)の瞳を輝かせる薄緑色(うすみどり)色の髪が特徴的な少年がいた。彼の姿は塩基配列(えんきはいれつ)パターン:0026のイノベイドに酷似(こくじ)しており、その金色の瞳も合わさって彼もイノベイドであることが伺える。

 

 困惑の表情を浮かべた彼の瞳から輝きが消え、本来の紫色が露わになる。

 

 彼の人格名は"レクシオ・ヘイトリッド"。

 

 ヴェーダによって生み出されたイノベイドの一人であり、性別のないマイスタータイプ。リボンズ・アルマーク等と同じ塩基配列で造られた存在である。

 

 そんな彼がどうして困惑の表情を浮かべているかといえば、それは彼の創造主(そうぞうしゅ)であるヴェーダに起きた異常に他ならない。

 

 先も述べたように、ヴェーダは現在ティエリア・アーデという一人のイノベイドによって管理されているはずなのだ。新たなイノベイドの製造、新型モビルスーツの建造等、西暦世界の情報を全てを握っていると言ってもいい。

 

 ()()()()()()()()()()()

 

 それだけではない。

 管理者であるはずのティエリア・アーデの不在に加えて、ヴェーダ内に記録されている情報の殆どが抹消(まっしょう)…いや、書き換えられているのだ。

 

 GNドライヴやガンダムに関する機密データやソレスタルビーイングに関する情報は勿論、西暦世界の詳細なデータすらも残っていない。

 

 ()()()()()()はまるで計画初期の時のようにデータ不足が目立つ。機能面においては問題がないものの、このヴェーダにはイオリア計画の情報も自分以外のイノベイドの存在も確認できない。

 幸いにしてレクシオの中には事前にインストールされた知識が残っているが、だからこそ、この状態に困惑を覚えたのだ。

 

C.E.(コズミック・イラ)…コーディネーターか」

 

 これまでの西暦何千年の歴史を内包したヴェーダ内のデータは全てC.E.(コズミック・イラ)という聞き覚えのない年号や"ジョージ・グレン"、"コーディネーター"というイノベイターではない存在などの情報に置き換わっている。

 

「まさかヴェーダごと外宇宙…いや、異世界に来ることになるとは」

 

 先程、()()()()()()()()()へとリンクした際にレクシオはこの不可解(ふかかい)な現象の全てを理解した。

 

 このC.E.(コズミック・イラ)という世界は、今までレクシオ達がいた西暦の世界とは全く異なる世界だということに。それも単に外宇宙へと転移したわけではなさそうだった。

 

「これがこの世界の地球………一気に石器時代に戻った気分だな」

 

 この宇宙には()()()()()()()が存在した。それもただ似ているだけの惑星ではない。ヴェーダから送られる地球の地理情報は、多少の違いがあれどレクシオの地球と酷似しすぎている。

 

 そう、レクシオは外宇宙を超えて異世界…(ある)いは並行世界(へいこうせかい)へと転移してしまったのだ。

 

「私は…僕はどうすればいい」

 

 ヴェーダは何も言ってはくれない。

 

 今のヴェーダはただの高性能すぎる量子コンピュータ。ただ世界の情報を記録(きろく)しているだけであり、それ以上もそれ以下でもない。

 

 –––––––ティエリア・アーデならどうするのか……。

 

 イノベイドの中で最も人間に近づき、人間というものを理解した彼ならこの事態(じたい)に何をするのだろうか。

 

 いや、彼ならば己の役目に忠実であれと言うだろう。

 

「僕たちの役目は人類を革新者(イノベイター)へと導くこと…」

 

 それこそがイノベイドのあるべき姿であり、生きる理由となる。

 計画はまだ終わっていない。ティエリア・アーデができないというのなら、イノベイドとしてこのレクシオ・ヘイトリッドが第二のイオリア計画を始める。

 

「その為にはこのC.E.(コズミック・イラ)について深く知る必要があるな」

 

 GNドライヴ、ガンダム、ソレスタルビーイング。やること考えることはたくさんある。イオリアに生み出された自分たちが彼の考えの全てを図ることは難しいだろう。

 しかし、こちらには一度完遂(かんすい)したイオリア計画の記憶がある。

 

 –––––––––––やって見せようじゃないか。

 

「僕たちこそ人類を導く者(イノベイター)なのだから」

 

 

 

 ……………やはり、塩基配列は裏切らないのかもしれない。





・レクシオ・ヘイトリッド
名前の由来はレスレクシオン(再生・復活)とヘイトリッド(憎悪)から。
西暦世界から転移してきたイノベイド。塩基配列はリボンズと同じで見た目も似てる。でもリボンズとビサイドくらいは違うかも。

気が向いたら続き書く


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運命の子


そうか…君にとって僕は神か。
それはそうだよ。

僕たちは君たちより遥かに高みにいるべき存在…人類を導く者–––––なんてね。

とはいえ、この世界の人類の愚かしさは筋金入りだ。君もそう思っただろう?



 

 

 漆黒の宇宙(そら)雲母(うんも)のかけらを落としたように、光るものが一つ、きらりと太陽の光に反射した。宇宙空間を()うそれは、限りなく人に近い形をした機体。

 

 白を基調に、青や赤で塗り分けられたその機体はMS(モビルスーツ)と呼ばれる人型兵器のそれだろう。ヘッドパーツのツインアイが特徴的なその機体は背中から光り(かがや)く粒子を散らしながら宇宙を泳ぐように進んでいく。

 

 緑色に輝く胸部(きょうぶ)の奥にあるコックピットの中では、機体と同じく白を基調としたパイロットスーツに身を包むパイロットの姿が(うかが)える。

 

 パイロットはコンソールとモニター上の各データを読み取りながら、操縦桿(スティック)を操っていた。ヘルメットの奥には、まだあどけなさの残る幼げな少女の顔。しかし、栗色の長髪から覗く瞳はどこか(うれ)いを浴びていて、外見以上に大人びているような印象を与える。

 

「240082。アステリア、目標地点を視認しました」

 

 小さな口元から(つぶや)かれた少女らしい声がコックピットに響き、髪と同じ茶色の瞳の先には、白銀(はくぎん)に輝く砂時計をした巨大な構造物が近づいてくる。ラグランジュポイント4に建造された新世代コロニープラントの一つ、"アーモリーワン"だ。

 

「GN粒子の散布を開始。侵入ルートA3より内部へ向かいます」

 

 彼女は操縦桿(スティック)を握り、光り輝く粒子を流しながら機体を巨大なコロニーへ回り込ませた。

 

 すると、モニターに映し出されたのはコロニーではなく(あざ)やかな青色。それは地球––––母なる青い惑星。その美しい姿を見るたび、息苦しいような苦痛と郷愁(きょうしゅう)が少女の胸を締め付ける。

 

「……オーブ」

 

 その視線が自然と赤道付近を探り、玻璃(はり)のような青い海に浮かぶ小さな島国へと吸い込まれる。

 

 オーブ連合首長国。それが彼女が生まれ、育った祖国の名前だ。南太平洋ソロモン諸島に存在し、大小さまざまな島から構成される島嶼国(とうしょこく)は、先の大戦のおり、一貫して中立を宣言し続けた平和の国。そして、彼女たちコーディネーターを受け入れてくれる最後の楽園であった。

 遺伝子操作により生まれてくるコーディネーターはナチュラルから排斥(はいせき)され、多くは宇宙–––プラントへ移り住み。その他はプラント支持国へと行き場を求め悩んだ。そして、ナチュラルとコーディネーターの間に戦端(せんたん)が開かれた時も中立国のオーブだけはナチュラル・コーディネーター問わずに国内の居住を認めていたのだ。

 

 しかし、その立場故に祖国は地球連合軍の侵略を受けることになった。彼女の耳には今でもその戦闘音は染み付いて離れない。飛来するミサイルが宙を引き裂く甲高い音、遠くから腹の底に響くような爆音、鳴り止まないサイレンーーーそして、自分の名前を呼ぶ兄の叫び声。

 

 それは彼女がまだマユ・アスカと呼ばれていた頃。忘れようにも忘れられない。自らの運命を変えることになった二年前のあの日の記憶。

 

 

▽△▽

 

 

 少女は()けていた。必死の思いで駆けていた。

 どこを向いても木ばかりの森の中、がむしゃらに駆け抜けていく。整理されていない森の獣道(けものみち)を歩いたがために既に足は痛みを通り越してじんじんと痺れているような感覚が走っている。

 

「はぁはぁっ」

 

 それでもなお少女–––––マユ・アスカは駆けていた。

 

「はぁはぁ…父さん!」

 

 –––何のために。

 死の恐怖から逃れるためだ。

 

 空の上で飛び交う銃弾(じゅうだん)、周囲から聞こえる爆発音。それらに巻き込まれればマユの華奢(きゃしゃ)な身体など簡単にバラバラになるだろう。死ななくても肉体は抉られ、激しい痛みに襲われる。目もくらむような恐怖。

 

「あなた…」

 

「大丈夫だ。目標は軍の施設だろう。急げ!」

 

 そして、その恐怖はマユに限らず一緒に森を駆ける両親、兄も共有しているものだ。頭上を通り過ぎた"何か"による突風に(おび)える母親と(あせ)りを覚えながらも必死に家族を(はげ)ます父親の姿、それを見てマユと兄も震える足を懸命(けんめい)に動かす。

 

 肩にかけたバッグが重い。息が苦しい。身体が、足が痛い。なぜ、こんなことになってしまったのか。どうして自分がこんな目に()わなければいけないのか。

 

「はぁ…はぁ…」

 

「マユ!頑張って!」

 

 母が(あきら)めそうになる自分を励ますようにそう言う。今更、運動不足を招いた自分の生活習慣を恨んでももう遅い。泣きそうになりながらも何とか気合いで走り続ける。

 

「あ、マユの携帯!」

 

 そうして、がむしゃらに走り続けていると何かが自分のスカートのポケットから落ちたような感覚を覚える。すかさず横目でそれを見れば、斜面(しゃめん)を転がるように落ちていくピンク色の物体…自分の携帯の姿が(うつ)った。

 

 幼少期にねだりにねだってやっと買ってもらった携帯電話。そのデータの中には父や母、兄と取った写真などのマユにとっての宝物がたくさん()まっている大事なものだった。

 

「…マユ?」

 

「そんなのいいから!」

 

 無意識に身体がそちらへと向いてしまったが、そんなマユを引き戻したのは手を繋いでいた母親。馬鹿なことを考えている自覚はあるが、それに反して身体はなかなかその場を離れなかった。

 

「はっ…俺取ってくる!」

 

「待ちなさいシン!」

 

 踏ん切りがつかないマユを見て、いち早く山の斜面を下ったのは兄のシンだった。家族の中でも一番運動ができる兄は急な斜面を滑るように下り、マユの携帯へと手を伸ばす。見事な身のこなしだ。

 

 兄の優れた身体能力には感心するが、迷惑をかけたという自覚は流石にある。この非常事態に自分の我儘(わがまま)を優先したことを()びようして–––––兄の上空に何らかの機影があるのを捉えた。

 それは10枚の翼を広げた白亜(はくあ)の巨神。空中を舞うように飛び回ったそれが五つの砲口を展開した。それを見てマユの背筋が凍りつく。モビルスーツに詳しくないマユでも予想できる。あれが上空から聞こえてくるビーム音の正体だと…!

 

「お父さん!お母さん!」

 

 マユが両親に声をかけるのと、白亜の巨神が五つの砲口から(ほのお)(ほとばし)らせるのは同時だった。思わずマユが地面に伏せた次の瞬間、耳を(ろう)する轟音が身体を殴りつける。

 

 何かに押されるような感覚を覚えたが、それを気にする余裕はマユにはなかった。背後で爆発が起きたと感じた時には既に爆風がマユの華奢な身体を宙へと舞い上げていた。当然彼女に受け身を取ることなどできず、まともに地面に叩きつけられて勢い余って地面を転げ落ちた。

 

「げほっ…うぅっ」

 

 ぶつかった衝撃(しょうげき)で上手く呼吸ができない。マユの口からはうめき声が漏れた。身体の節々が痛み、すぐには動くことができなかった。気絶しなかったのは不幸中の幸いか(ある)いは…。

 

 身体はふらふら、足はガクガクと子鹿(こじか)のように震えながらも何とか立ち上がる。そして、マユは何が起きたのか確認するために周囲を見渡し––––唖然(あぜん)とした。

 

 先程までマユが飛んできた方角にある山。そこがまるで背景がすり替えられたようにすっかり様相(ようそう)が変わっていた。抉られた斜面は赤茶(あかちゃ)けた乾いた土が露出し、木々は倒れ、一部は炭化(たんか)してぷすぷすと(けむり)を上げている。

 

「お父さん、お母さん、お兄ちゃん…えっ!?」

 

 思わずそこへ向かおうとして、歩き出した瞬間に肩から何かがボトリと落ちる音が聞こえた。慌てて振り返れば、そこには力無く投げ出された腕が落ちている。

 そう、()()()()

 

 それは見覚えのある衣服を纏っており、白い肌の指先には何度も見た銀色の指輪が付けられている。

 

「お母さん…?」

 

 それは変わり果てた母親の腕であった。おそらくあの時自分を押したのは母親だったのだろう。そして、爆風に煽られた母親の腕が自分ごと…。

 

 そこまで考えて、マユは途端に吐き気を催した。つい先ほどまで自分に触れ、話し、動いていた母親の腕が転がっている。彼女はもう限界であった。

 

「お父さんとお兄ちゃんは…きゃっ!」

 

 離れ離れになった肉親を探し求めて一歩を踏み出す、それと同時に背後から再び爆発音と衝撃がマユを襲う。それを何とか耐えたマユが頭を上げたところで、彼女は()()と目があった。

 

 マユの十倍はあるであろう大きな体躯(たいく)に武装したライフルとシールドをその手に持つ人型––––"ストライクダガー"と呼ばれる地球軍の次期主力量産機とされているモビルスーツだった。

 

 頭部のバイザー越しにストライクダガーがこちらを見据(みす)える。敵のライフルがゆっくりとこちらを––––マユへと狙いを定めた。それが何を意味するのか、マユにでも理解できる。

 

 マユは怯えた。どうしてこちらへ銃を向けるのか理解できない。しかし、このままでは死ぬのだということは理解できた。この世界から自分という存在がかき消されるのだ。そんなの嫌だ。

 

 だから、マユは心の奥底からこう願うことしかできなかった。

 

 –––––誰か助けてっ!

 

「え…?」

 

 赤い光が突き刺さった。だが、それはマユにではない。こちらにライフルを向けていたモビルスーツにだ。ストライクダガーは頭上から落ちてきた槍のようなビームにコックピットを貫かれ、潰れるように崩れ落ちた。それきり動かなくなる。

 

 当然のことに混乱し、落ちてきた方向である上空を()(あお)いだ。そこでは相変わらず目で追えない爆音とミサイルの音が聞こえてくるが、先ほどまでと大きく異なるものが見える。

 

 そこには光があった。その光から様々な方向へと赤い光の槍が放たれ、その度に各地から何かが倒れる音が聞こえる。マユからは確認できなかったが、その光はこのオノゴロ島に侵入してきたストライクダガーの(ほとん)どを沈黙(ちんもく)させるものだった。

 

「…太陽?」

 

 その光はあまりにも眩しく、始めは目を細めないと確認できないほどだった。

 やがて、目が慣れてくるとその光が少しずつ動いていることに気がつく。それはやがてこちらへと降下してくる。近づくにつれて徐々(じょじょ)に形を見てとれるようになり、光の点のように見えたそれはやがて人型へと変化していった。

 

 形はストライクダガーなどのモビルスーツと変わりはない。()いて言うなら、額に付いているVの形の装飾や人間のような二つの目が特徴的か。両手に武器を持つその姿は先ほど目撃した死の天使に酷似(こくじ)している。

 

「……天使さま?」

 

 ただ、背中から漏れ出すように排出(はいしゅつ)される光の粒子によって形成された大きな翼。重力を無視したように地上から見下ろすその姿は人ならざるもの、モビルスーツを超えた超常的なものがこの地に降臨(こうりん)してきたような様だった。

 

「……」

 

 人型の機械がマユを見つめた。一瞬、目があったような気がする。この時だけは、身体の痛みも家族と離れ離れになった悲しみも感じなかった。ただ、助かったという安堵(あんど)の思いと目の前の天使に対する複雑な思いがマユの中に渦巻(うずま)いていた。

 

 この時のことを忘れることはないだろう。家族を失い、己も身体の一部を失い、戦争というものを憎むようになるきっかけ。それがこれからの彼女の––––そして、離れ離れになった兄の行動原理の(いしずえ)になり、自己確信の源となり、何事にも変えがたい(おか)さざるべき聖域となった。

 

 

▽△▽

 

 

 青く輝く惑星を(なが)め、苦い思い出に身を(ひた)していた少女はスピーカーからの声で我に返った。

 

〈–––––()()()()、そろそろ時間です。準備はいい?〉

 

「大丈夫です」

 

 素早く気持ちを入れ替える。自分はもうマユ・アスカではないのだ。操縦桿を動かして、機体をアーモリーワン内部へと向ける。まるで身体の一部であるかのように、思いのままに動く機体に密かな満足感を覚えながらも、それは決して表にはおくびに出さない。

 

〈ファーストフェイズ、ミッションスタート〉

 

 ––––少女は力を手に入れた。

 

 いつの日にか焦がれた理想の姿。何者も敵わない不屈の在り方。この世の不条理の全てを()(はら)う光の輝き。

 

 自分は–––フェイト・シックザールはソレスタルビーイングのガンダムマイスターなのだから。

 

 

▽△▽

 

 

 C.E.71 6月15日 オーブ解放作戦

 

 オーブ連合首長国首都オノゴロ島に存在するマスドライバー基地「カグヤ」と、公営企業モルゲンレーテ本社施設掌握の目的で発動した大西洋連邦によるオノゴロ島侵攻作戦。

 

 戦局は物量に勝る大西洋軍有利に進んだが、翌16日、敗色(まけいろ)を悟った前代表ウズミ・ナラ・アスハ以下オーブ首脳陣等によってマスドライバーやモルゲンレーテもろとも地下軍事施設が自爆(じばく)、目的は未達成に終わり、以後オーブ本土は大西洋連邦の管理下に置かれた。

 時は流れて戦争終結後、一部のオーブ軍人や連合軍人が奇妙(きみょう)なことを話していたのが噂となった。当時、オノゴロの戦場で翼を広げた"光の天使"を目撃し、その天使は圧倒的な力で連合のストライクダガー、オーブのM1アストレイを殲滅(せんめつ)したという。

 

 オーブ軍司令部でもアンノウンの情報は話題になっていたものの、突如として味方に加わった"アークエンジェル部隊"や"フリーダム"、そしてザフト所属であるはずの"ジャスティス"や"バスター"などの参戦もあって司令部は混乱していたために対応が遅れたのだ。

 

 そして、その後は戦場が宇宙へと移ったことや、アンノウンがその後に姿を現すことがなかったためにその情報は闇へと消えた。今ではフリーダムと見間違えたのだという考えが殆どであり、戦後二年間の間にオノゴロのアンノウンの情報は軍上層部からも消えていった。

 

 

 それから二年後のこと。プラントの"アーモリーワン"というコロニーで起きた事件にて、そのモビルスーツは再び姿を表した。

 

 戦争根絶を掲げる私設武装組織"ソレスタルビーイング"の象徴『ガンダム』として……。





・マユ・アスカ
原作主人公シン・アスカの妹。二次創作で生かされることが多い。今作もそれに倣って刹那枠に無理矢理押し込んだ。
実は非公式でシンとは5歳差となっているのだが、そうなると今現在11歳でガンダムマイスターをすることになるので、年齢をご都合主義で14歳にまで引き上げた。これでも若いと思うかもしれないけど、14はヒイロ・ユイと同い年。

・フェイト・シックザール
上記のマユ・アスカのCB(ソレスタルビーイング)でのコードネーム。由来はどちらも英語とドイツ語の『運命』から。
パイロットスーツは白。携帯にちなんでピンクでもいいかとそれだと歌姫と被るから無難な白で。

・何で刹那枠をシンにしなかったの?
本当はシンをマユのポジションにしたかったんですが、彼がザフトにいないとなるとそれはもうガンダムSEEDDESTNYじゃない何かになってしまうので。
彼は本当に主人公です←ココ重要。

作者はガンダム00のシナリオとガンダムSEED(DESTNY)のキャラデザが絡むのが好きなので。
いや、刹那達も大好きだけどネ!


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天使降臨

 

 

 C.E.(コズミック・イラ)70

 プラント所属のコロニー"ユニウスセブン"に対する核攻撃"血のバレンタイン"に端を発する、地球・プラント間の戦争は、当初は物量(ぶつりょう)において(まさ)る地球連合軍が圧倒的な戦力差で持って勝利すると思われていた。

 しかし、プラント防衛軍ザフトが実戦投入した新型兵器モビルスーツ"ジン"は連合に対して目覚(めざ)ましい活躍を示し、戦線は泥沼化したまま、1年半の長きに渡り続けられる事になる。

 

 

 そして、一年半に渡った地球・プラント間の戦いは多大な損害と戦死者を出した末、両陣営の実質的なリーダーであったパトリック・ザラとムルタ・アズラエルの戦死を以てようやくの終結をみた。

 やがて双方(そうほう)の合意の下、かつての悲劇(ひげき)の地、ユニウスセブンにおいて締結(ていけつ)された条約は、今後の相互理解努力と平和とを誓い、世界は再び安定を取り戻そうと歩み始めている。

 

 しかし、戦争は終わっても、この世界から争いが消えたわけではない。冷戦の(ごと)く睨み合う地球とプラントの関係も悪化したわけではないが、良くなったわけでもないのだ。

 その優れた能力故にナチュラルを見下すコーディネーターと遺伝子操作によって生まれた彼等を()(きら)うナチュラルの構図はC.E.70以前から何も変わっていない。

 

 確かにヤキン・ドゥーエ戦役後に定められた"ユニウス条約"によって、保有兵器数や使用禁止技術のいくつかが定められ、(おおやけ)には両陣営共に軍縮(ぐんしゅく)という形で戦争は終結した。

 

 しかし、争いはなくならなかった。

 

 所詮(しょせん)は痛み分けという形で終わった戦争。地球・プラント共に争いの火種(ひだね)は未だに(くすぶ)っている。まさしく冷戦状態といえるような、お互いの腹を探るような緊迫(きんぱく)した空気が世界には(ただよ)っていた。

 

 勿論、それだけではない。

 地球には紛争があった。宇宙にはテロリズムがあった。各地で続く小競り合いのような内乱(ないらん)もあった。

 

 人は争うことをやめられない。そう言ったのは一体誰だったか。

 C.E.(コズミック・イラ)73年10月現在もなお、世界には戦争の影が色濃(いろこ)く残っていた。

 

 だからこそ、このような小さな火種一つで世界は簡単に戦争の道へと辿ってしまうのだろうか。

 

 

▽△▽

 

 

 アーモリーワンで行われたセレモニー。現プラント最高評議会議長のギルバート・デュランダルも来訪(らいほう)しているというこのパレードはザフト軍における新造戦艦の進水式(しんすいしき)を祝う目的で行われたものだ。

 

 新造艦は軍用艦と言っても実戦に投入するのはまだ先の話。あくまでザフトの軍事力は未だに健在(けんざい)だということをアピールすることが目的であり、それ故にプラント本国からこのパレードに(おとず)れる民間人も少なくなかった。

 

 また、関係者のみに知らされている情報ではあるが、ここにはオーブ連合首長国代表であるカガリ・ユラ・アスハが非公式に会談(かいだん)に訪れている。デュランダルがアーモリーワンに来た目的もこちらが主である。

 

 そんな数々の思惑(おもわく)渦巻(うずま)く現状の中で行われたアーモリーワンでの式典パレードだったのだが……。

 

〈発進急げ!〉

〈六番ハンガーの新型だ!何者かに強奪(ごうだつ)された!〉

〈モビルスーツを出せ!取り押さえるんだ!〉

 

 先程まで(にぎ)わっていたアーモリーワンは火薬(かやく)と返り血の(にお)い。そして、耳をつん裂くような爆音と悲鳴(ひめい)が響き渡る地獄のような有り様であった。

 

 次々と破壊されていく"ジン"や"ディン"、"シグー"といったザフトのモビルスーツ達をバックにその特徴的なツインアイを光らせる3機のモビルスーツ。

 

〈くそっ、ガイア、アビス、カオスが…!〉

 

 それらはかつて圧倒的な力を見せつけたフリーダムやジャスティスの開発の流れを()むザフト軍の次世代機"セカンドステージシリーズ"と呼ばれる機体群の内の3機である。

 

 しかし、本来ならばザフトの(つるぎ)となるべき3機の機体は逆に守るべきザフトへと牙を()いていた。

 

 モスグリーン色に変色した"カオス"、スカイブルー色の"アビス"、漆黒(しっこく)の"ガイア"。それぞれが圧倒的な機動性と火力でザフトのモビルスーツ群を破壊する。

 

「ハハハ、(もろ)い…脆過(もろす)ぎるぜ!」

 

 舞うように空中を飛行するカオスが同じく空中を戦場とするディンと交戦する。操縦するのは、偶然にも機体の装甲色と同じライトグリーン色の短髪を逆立(さかだ)てた少年スティング・オークレー。

 

 カオスはディンの銃弾を華麗(かれい)にかわすと、両肩に備えられた二基の機動兵装ポッドを展開し、内蔵(ないぞう)された"ファイヤーフライ 誘導(ゆうどう)ミサイル"とビーム突撃砲を発射し、ディン3機をあっという間に殲滅(せんめつ)する。

 

「ごめんね…強くてさっ!!」

 

 それに対して、地上で向かってくるシグーやゲイツRなどのおよそ6機に対応するのは、半紡錘(ぼうすい)形状の肩部が特徴的なアビス。操縦するのは、まだ幼さの残る顔立ちで無邪気に笑うアウル・ニーダ。

 

 連携(れんけい)して攻撃を仕掛けてくるザフトモビルスーツに対して、アビスは両肩の武装ユニットを展開。"カリドゥス複相ビーム砲"・"バラエーナ改2連装ビーム砲"・"3連装ビーム砲"の計9問にも砲撃で迎撃し、ザフトのモビルスーツをまるでシューティングゲームのように()としていく。

 

「えぇい!!」

 

 そして、かつてのザフトの地上用モビルスーツ"バクゥ"を思わせる四足歩行形態へと変形したガイアが棒立(ぼうだ)ちの"ガズウート"を背部の"ビーム突撃砲"で貫き、上空からしつこく銃弾を浴びせてくるディンを展開した"グリフォン2ビームブレイド"で一閃(いっせん)、真っ二つにする。

 

 暴れ回る3機の新型モビルスーツを相手にザフトの旧式量産機では全く相手にならず、残骸(ざんがい)と爆炎を増やすことしかできない。

 

「これで終わり…ん?」

 

 ガイアをまるで昔からの乗機のように操縦するパイロット、柔らかな金髪と幼げな顔立ちが目立つステラ・ルーシェは、全滅させたはずの周囲のレーダーに一つの反応があることを確認して眉を(ひそ)めた。

 

 瓦礫(がれき)の山から起き上がるようにして立ち上がった一機のモビルスーツ。レーダーでは『ZGMF-1000 Zaku Warrior』と表示されており、先ほどまでステラ達が戦っていたディンやゲイツ等とは全く異なる機体であることが(うかが)える。

 

「…邪魔」

 

 だとしても、なんであれステラには関係のないこと。機体奪取の邪魔になるものは排除するだけ。スティング達に遅れを取るわけにはいかない。

 

 牽制の意味も込めてビームライフルでの攻撃を行ったガイアだったが、目の前の"ザクウォーリア"はそれをぎりぎり避けた。

 

「なに?」

 

 続けてビームを連射するもそのどれも当たらない。まるでCPU相手から対人相手になったゲームかのようなズレがステラを困惑させる。

 

 そして、そんな一瞬の(すき)を相手は見逃さなかった。

 

 戦闘形態に入ったザクが行ったのは、ビームライフルによる攻撃でも携帯する"ビームトマホーク".による接近戦でもない。

 その特徴的な左肩に備え付けられたシールドを武器にしたタックルという極めて原始的な攻撃。だが、それ故にステラはその動きを見切(みき)ることができなかった。

 

「うぅっ…こいつ!」

 

 大きく吹き飛ばされるガイアだが、直接的なダメージはない。しかし、コックピットにダイレクトに伝わる衝撃はパイロットのステラから冷静さを(うば)うには十分過ぎるものだった。

 

 素早く体勢を戻したガイアはビームサーベルを抜き、白兵戦(はくへいせん)を仕掛けようとし、それを見たザクもシールドに収納(しゅうのう)されたビームトマホークで迎え撃った。

 

 

▽△▽

 

 

『こんなところで君を死なせるわけにいくかっ!』

 

 ガイアと斬り結ぶザクウォーリアを操縦するパイロット"アレックス・ディノ"改め"アスラン・ザラ"はそんな断腸(だんちょう)の思いで二年ぶりに再びモビルスーツに乗った。

 

 初めはただのボディーガードのつもりだった。「こんな自分でも戦う以外に彼女の何か役に立てれば」とこの役職に()くことを希望したのだ。

 しかし、時代はアスランに闘う以外の道を許さない。どこまで行ってもアスラン・ザラは"戦士"であった。

 

「アスラン…っ!」

 

「捕まっていろ!」

 

 手にしたビームサーベルで切り掛かってくるガイアの斬撃を機体を下げることで回避。こちらの近接武装であるビームトマホークでカウンターを仕掛(しか)けるが、それはあちらの対ビームシールドで防がれる。しかし、ガイアの体勢は(くず)れた。

 

「うぉぉぉぉ!!」

 

 その隙にアスランはザクを再び突進させる。完全に(きょ)を突いた一撃は無防備(むぼうび)なガイアにモロに直撃し、瓦礫の向こうへと吹き飛ばす。

 

「早く離脱を…敵襲!?」

 

 そんなガイアをよそに、ここからの離脱を(はか)ろうとしたアスランだったが、突如としてザクに向けてビームの嵐が飛んでくる。

 身体が無意識に反応したというべきか。すぐにその場から離れたものの、ザクの目の前をビームの雨が降り注ぎ、地を焼いた。

 

「カオスにアビス…味方は全滅したのか!?」

 

 アスランの坂の目の前に立ち塞がったのは、カオスにアビスの2機。かつてのGATシリーズやZGMF-Xシリーズを思わせるツインアイのそれらは、またもや何者かに強奪(ごうだつ)されて敵に回っている。

 

 かつての自分の所業(しょぎょう)を思い出させるようなこの現実にアスランとしては苦笑(にがわらい)の一つでもしたいところだが、懐に守りたい少女(カガリ・ユラ・アスハ)がいる以上はそんな余裕はない。

 

 牽制のためにビームライフルを発射するが、カオスとアビスはそれを素早く回避。倍以上の火力で反撃してくる。アスランはそれを卓越(たくえつ)した操縦技術で回避、時に防御するが、新型機相手にはそう長く持たないことを感じていた。

 

「くそっ…ジャスティスがあれば」

 

 大火力のアビスに正確無比な射撃のカオス、機動性のガイアの攻撃。一つでも直撃すれば、PS(フェイズシフト)装甲も持たないこのザクというモビルスーツでは終わりだ。

 

 あまりにもの無理ゲーぶりにアスランの口からはかつての愛機(ジャスティス)を惜しむ声が漏れるが、自ら手放(てばな)した今となってはどうしようもない。

 このザクウォーリアという機体もカタログスペックは最初の乗機(イージス)をも上回る優秀な機体なのだ。ただし、相手の新型機がそれを上回る性能を持っている以上は力不足と言わざるを得ない。

 

 それ故、生き残るためにアスランも多少乱暴な操縦をするしかなかったのだが……。

 

「うわっ!?」

 

「カガリ!?」

 

 このコックピットにはアスランの他にも人間が乗っているのだ。それも一人用のコックピットに無理矢理入れたためにシートベルトも何も付けていない状況で。

 アスランと一緒に乗っていたカガリ・ユラ・アスハは、モビルスーツの搭乗経験はあれどベルトもなしにここまで激しい戦闘の衝撃に()えられるほど頑強(がんきょう)な少女ではなかった。

 

「カガリ!大丈夫か!」

 

「私は大丈夫だ…うっ」

 

 衝撃で強く頭を打ったのだろう、頭から血を流す彼女を見て、声を荒上げたアスランだったが、その間動きが止まったザクウォーリアは誰がどう見ても無防備だった。

 カガリを気遣(きづか)うアスランにコックピットからの緊急のアラートが()(ひび)くのが聞こえてくる。見れば、体勢を立て直したらしいガイアがビームサーベル片手にこちらへと突進してくるのが確認できる。

 

「…しまったっ!」

 

 すぐにビームトマホークを構えたザクだったが、それを腕ごとガイアのビームサーベルが切断し、更にカオスからの援護射撃がザクのメインカメラを破壊する。

 

「ぐぅぅぁ!」

 

 衝撃からカガリの身を守るアスラン。体勢を崩したザクをガイアが蹴り飛ばし、ザクは地面へと吹き飛ばされる。更にそこへアビスからの砲撃が周囲に着弾する。

 

〈これで終わりね!緑のも!〉

 

 倒れ伏すザクを見下ろすガイアが(とど)めのビームサーベルを構える。

 気絶したカガリを守るように抱き、アスランは(せま)()る死を思って歯を食いしばった。

 

 ガイアのパイロット、ステラもまたこれで完全に終わりだと思った。

 

 しかし……、

 

〈何っ––––––!〉

 

 ガイアとザクの間に赤白いピンク色の光の槍が突き刺さった。ついでカオスやアビスを牽制するように次々と光の槍が周囲に降りかかる。

 

「なんだ…?」

 

 降りかかるであろう死の衝撃に備えていたアスランはそれがやってこないことに疑問を覚えて閉じていた目を見開く。

 

 初めに見えたのは視界全体に広がる緑色の光の粒子。そして、それを排出する丸びを帯びた円錐(えんすい)形の推進部(すいしんぶ)と思われる機関。

 

 振り返った際に機体の全貌(ぜんぼう)を確認することができた。

 

 ジンやザクなどのザフト量産型モビルスーツとは違い、より人型に近い形状。頭は丸く、額には鋭角(えいかく)なブーメラン状のV字アンテナ。黒で縁取られた二つの碧眼。口から顎の部分にかけては赤い突起物(とっきぶつ)がある。人間でいう鎖骨(さこつ)の部分から飛び出している2本の白いアンテナ状の突起。胸部は鮮明(せんめい)な青色、それ以外は無垢(むく)な白色。右腕には盾と長い刀身のような装備がされている。

 

「あれは……」

 

 それは"ガンダム"と呼ばれるモビルスーツ。

 

 彼等の登場によって、この世界がどのような(うね)りを見せていくのか、今のアスランには知る由もなかった。

 





インパルス「俺の出番は?」
→次で用意するで(スマン)


また、この小説における戦闘能力は

純粋種 > スーパーコーディネーター = イノベイド ≧ 超兵 > エクステンデッド ≧ コーディネーター ≧ ナチュラル

です。これはあくまで種族間における能力の差であり、個人の力は含まれていません。クルーゼやムウ、サーシェスやグラハムのようなスーパーナチュラルもいるので、あくまで参考です。


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天使降臨Ⅱ

 

「何だコイツは…っ!」

 

 目の前に音もなく静かに()()りた謎の機体。頭部の形状を見るにガイア等の新型と似通った見た目をしていることが分かる。しかし、この機体の索敵では『Unknown』と(うつ)されるだけ。新型の筈のガイアにもデータがない謎のモビルスーツ。

 

 "ヴァジュラビームサーベル"を構えるガイアだが、それにも関わらずに目の前の機体は微動(びどう)だにしない。まるで電源を落とされた機械(きかい)のようにただ立っているだけだ。

 

「コイツも…ザフトかっ!」

 

 しかし、先程こちらにビームを撃ってきたということは敵だ。敵が乗っているのだ。いや、そもそもこの場所に自分達以外に味方などいるわけがない。何せここはザフトの軍事基地で、自分たちはそこから機体を奪った強奪犯なのだから!

 

「えぇぇい!」

 

 ビームサーベルを突き出すように構え、敵に向かってガイアを突進させる。先程のザクのような油断なんてもうしない。全力で目の前の敵を()しにいくだけだ。

 

 敵機との距離(きょり)が近づく。間もなくビームサーベルが機体の装甲を切り裂く位置だ。にも関わらず目の前の敵は身じろぎひとつしない。機体の整備不良だろうか。

 

 しかし、ステラはそんなことを知らないし気にしない。そのまま敵機体を破壊しにいく!

 

 –––––––––もらった!

 

 だが一瞬の後、ステラの目が大きく見開かれた。

 

「なっ–––––」

 

 ステラが気づいた時には、既に敵機の右腕が大きく空に向かって()り上げられていた。見ると、敵の右腕に折り(たた)まれていた刀身が腕を延長するように真っ()ぐに伸びている。

 

 ガシャンッ、という(くだ)けた金属音が聞こえた。

 

 ガイアのコックピットモニター、その左(なな)め下のところにビームサーベルを握ったままのガイアの右手首が残骸(ざんがい)となって転がっているのが見えた。

 

「ぐうっ、何だこれは!?」

 

 ガイアはバルカンを放ちつつも後退(こうたい)するが、目の前の機体には傷一つ付かず、返す左腕に握られたビームサーベルの(やいば)がバルカンを放つガイアの頭部を切断する。まるで一陣(いちじん)の風が舞ったように、一瞬の内の出来事だった。

 

「ステラ!」

 

 アビスからの援護射撃が入るが、それを目の前の機体は剣と一体化したシールドで防御。その間にステラはガイアをMA(モビルアーマー)形態に変形させて離脱する。

 

「どういうことだ?あんな機体の情報は…っ!」

 

 しかし、アンノウンはMA(モビルアーマー)形態のガイアを上回る機動性でアビスに接近。アビスはその火力で迎撃するが、アンノウンはビームの雨の隙間(すきま)()うようにかわしていく。

 

「クソッ、何なんだよコイツはっ…!」

 

 アビスは火力だけは前世代機である"フリーダム"をも超える性能を(ゆう)しているものの、得意フィールドである水中以外では機動性は他の二機にやや(おと)る。

 

 それ故に懐に入り込まれたアンノウンに対抗する術をアウルは持ち得なかった。唯一の近接武装である"ビームランス"で攻撃を仕掛けるものの、アンノウンは華麗(かれい)に回避し、逆に右腕の実体剣でアビスのビームランスを破壊される。

 返しの攻撃は何とか受け切れたものの、対ビームコーティングされた筈の両肩部のシールドには()(ただ)れた傷跡が付いていた。

 

「アウルっ!」

 

 仲間の窮地(きゅうち)にスティングが駆けつけ、カオスの機動兵装ポッド内部のミサイルを発射する。先程はザフトのモビルスーツの多くを(ほうむ)ったミサイルの雨だったが、アンノウンは冷静に剣を収納(しゅうのう)。両腕から目にも止まらぬビームマシンガンが発射され、ミサイルは全て撃ち落とされた。

 

「チッ、こりゃどういう状況だ…ネオのやつ!」

 

 おかしい。地球軍の特殊部隊である"ファントムペイン"の"エクステンデッド"が三人に加えて、その全てがザフトの新型機に搭乗している。にも関わらず、三人はたった一機の謎のモビルスーツに圧倒(あっとう)されていた。

 

 

▽△▽

 

 

 アーモリーワン内部で新型の強奪(およ)びアンノウンモビルスーツの戦闘が始まったのと同時刻。アーモリーワン外部宙域でもまた、激しい戦闘が始まっていた。

 

 争っているのは、アーモリーワンに駐留(ちゅうりゅう)していたナスカ級二隻、ユーラシア級一隻のザフト軍とライブラリーの照合(しょうごう)には適合(てきごう)しない謎の新型戦艦だ。

 

 名を"ガーディ・ルー"という地球軍の新型艦は、ユニウス条約で禁止された(はず)の技術"ミラージュ・コロイド"を使用し、ザフト軍を奇襲(きしゅう)。不意打ちからの主砲の"ゴットフリート"の一撃でナスカ級一隻を撃沈(げきちん)させた。

 

 しかし、ザフトもただではいかない。港に(ひか)えていたナスカ級及びユーラシア級を前線に出し、現ザフトの主力機であるゲイツRを次々と出撃させる。

 

「ユーラシア級撃沈!」

右舷(うげん)後方よりゲイツ3…いや、5!」

「正面にナスカ級を(とら)えました!」

 

 そんなガーディ・ルーのブリッジ内は、迎撃の為に現れたザフト軍の対応に()われていた。初撃でナスカ級を一隻、続いてモビルスーツ隊によってユーラシア級を今しがた撃退したものの、状況は好調(こうちょう)…というわけにもいかない。

 

「アンチビーム爆雷(ばくらい)発射と同時に加速20%…10秒。1番から4番、スレッジハマー装填、後に迎撃しろ」

 

 だが、ガーディ・ルーの艦長イアン・リー少佐はあくまでも冷静に指示を出す。彼等は地球軍であると同時に特殊部隊ファントムペインに所属する人間である。目的のためなら何でもする彼等にとって、この手の法外(ほうがい)な電撃作戦はお手のものだった。

 

「ゲイツはモビルスーツ隊に対応させろ。ナナバ機とヘルガ機を応援に向かわせる」

 

 ガーディ・ルーのカタパルトから二機のモビルスーツが発進していくのをブリッジから見届けながら、イアンは隣に立つ己の上官へ視線を向けた。

 

「…彼等は失敗ですかね?港を潰したといってもあれは軍事工廠です。長引けばこっちが保ちませんよ?」

 

 イアンの言う"彼等"とは、わざわざザフトの軍事用コロニーに攻め込んでまで手に入れる必要があった新兵器を強奪する為にアーモリーワンに潜入した部下の三人の子供達のことだ。

 彼等(かれら)の能力はイアンも認めているが、軍人としての精神性は全く信用していない。潜入時についボロが出てザフトに拘束されていたとしても驚かない自信がある。

 

 それらを含めて、イアンは皮肉(ひにく)るように言った。

 

(わか)ってるよ。だが失敗するような連中なら、俺だってこんな作戦最初っからやらせはせんさ」

 

 戦場にそぐわない陽気(ようき)な口調とともにそう言ったのは、不気味な仮面で顔の上半分を(かく)した男。彼こそが、潜入した彼等ことエクステンデッドの子供達の上官であり、この部隊を指揮するネオ・ロアノーク大佐その人である。

 

「だがまぁ、このままじゃ(らち)があかんな」

 

 このままザフト相手に戦いを続けていても時間の無駄(むだ)だ。何せこちらにはタイムリミットがある。ミラージュ・コロイドによる奇襲のおかげで今はこちらが優位(ゆうい)に立っているが、それも時間の問題だろう。

 

 それはネオもよくわかっていることだ。(あご)に手を当てて幾分(いくぶん)か考え込んだ末、ネオは決断した。

 

「…よし、俺が出よう」

 

「大佐がですか?」

 

 現状、ザフトとこちらの戦局(せんきょく)は五分五分に近い。

 元々の戦力差は大きいが、あちらはミラージュ・コロイドの奇襲による混乱から立ち直っておらず、さらにあちらが出してくるのは旧式(きゅうしき)のジンやシグー、良くてゲイツR程度ばかり。こちらのダガー部隊が有利を取っている状況だ。そこにネオが加われば戦局は更にこちらに有利になるだろう。

 

「俺を出した後、ゴットフリートで前方のナスカ級を狙え。墜とせなくてもいい、当てさえすれば後は俺が何とかする。出来るな、イアン?」

 

「ハッ!」

 

 ブリッジを出るネオを敬礼で見送ると、イアンは命令通りに火器管制(かきかんせい)に主砲の射角(しゃかく)を取らせる。そして、ガーディ・ルーの二基の主砲ゴットフリートが旋回(せんかい)し、前方のナスカ級へと照準を定めた。

 

「照準…射角固定まで残り10」

 

「カタパルト用意…エグザスが出るぞ!」

 

 程なくして、ガーディ・ルーの左舷(さげん)下から赤紫(あかむらさき)色のMA(モビルアーマー)"エグザス"が出撃していく。かつての地球軍の主力機"メビウス・ゼロ"の流れを()むその機体は立ち塞がったシグーを呆気(あっけ)なく撃墜すると、彗星の如く敵母艦へと飛んでいった。

 

「照準固定…艦長、いつでも撃てます!」

 

「目標前方ナスカ級…ゴットフリート、撃てぇ!!」

 

 そして、イアンの号令の元、ガーディ・ルーの主砲であるゴットフリート…計4門からなる強力なビーム砲がナスカ級目掛(めが)けて放たれた。

 

 狙いは完璧だ。射線上(しゃせんじょう)のジンを何機か巻き込む形で放たれたゴットフリートを(のが)れる(すべ)をザフト側は持たない。このままいけば、ほぼ間違いなくナスカ級のブリッジを破壊できることだろう。

 あの仮面の上官には、()とせなくてもいいと言われたが、()とせるなら()とせたほうがいいに決まっている。

 

 既に脳内ではナスカ級の撃沈を確信していたイアンだったが、現実はそうはいかなかった。ナスカ級を貫く直撃コースだった筈のゴットフリートがその直前で斜め上に()()()

 

「な、何だ!?何が起こった!?」

 

 イアンの見間違え…目の錯覚(さっかく)でなければ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「映像、出ます!」

 

 やがて、ガーディ・ルーのブリッジに正面のナスカ級が(うつ)される。弾かれたと言っても無傷ではないようで多少の損傷箇所(そんしょうかしょ)あれど、全くの健在だ。

 だが、イアンが注目(ちゅうもく)したのはそこではない。そのナスカ級の手前に立ち塞がるように現れた小さな反応。それは戦艦でも何らかの防御兵器でもない。

 

 それは…。

 

「モビルスーツだとっ!?」

 

 それは、モスグリーンと白を基調としているのが見てとれた。右腕にはおそらくは砲撃装備だと思われるライフルを持ち、左腕はちょうど角度の問題でこちらからは見ることができない。しかし、腕を隠すほどの両肩部のシールド部分?から(あふ)れる緑色の粒子がベールとなって機体全体を(おお)っているのを見ることができる。

 

 それは確かに人型の形状した兵器…モビルスーツであり、頭部にはGATシリーズ等と同じく(みどり)色に光るツインアイが鋭くこちらを見つめていた。

 

『ガンダムセレーネ…作戦行動を開始する』

 

 周囲を覆う粒子フィールドの中、その機体"ガンダムセレーネ"のコックピットにて、中性的な少年がそう言うと同時に頭部のツインアイがきらりと(きら)めいた。

 





インパルス「俺の出番は?」
→本当にごめん。次で絶対出すから許して

ガンダムに傷付けられた記念すべき機体は…ガイアっ!
パイロットのステラちゃんには、炭酸こと『不死身のコーラサワー』の加護を与えます。なのでどうか長生きして幸せになってください。

アステリア、セレーネ等のオリジナル機体については後々に記載するのでしばしお待ちを。


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天使降臨Ⅲ

 

 アーモリーワンが揺れている。

 内部と外部の戦闘の余波(よは)は、文字通り地響(じひび)きとなって激しい揺れがアーモリーワン内部にいる人間達を襲っており、避難用のシェルターは多くの避難民でごった返していた。

 

「港が使えんとはどういうことだ!?」

「パパ〜どこ?」

「衛生兵!衛生兵!」

 

 アーモリーワンは確かにザフト軍の施設が存在するコロニーだが、(けっ)して民間人が住んでいないわけではない。おまけに新造艦の進水式を明日に(ひか)えていたこともあって、多くの民間人が訪れていたのだ。

 

 そして、そんな多くの人混(ひとご)みの中、多くのSPに(かこ)まれながら姿を表した黒髪の男。見るだけでその地位(ちい)の高さが伺える衣服を身に(まと)った彼は、ギルバート・デュランダル最高評議会議長その人である。

 

「誰だ!誰がここの指揮を取っている!」

 

 普段は政治家として油断(ゆだん)なく笑みを()やさない彼だが、今現在は赤の他人から見ても分かるくらいには(あせ)りを隠せていない。

 

「議長!?」

 

 この緊急時といえども…いや、緊急時だからこそデュランダルの命令は絶対だ。避難誘導をしていた一人がデュランダルを見つけ次第(しだい)小走(こびし)りでこちらへと向かってくる。

 

「あの三機はどうなった。状況を説明してくれ」

 

「いえ、こちらも例の新型が何者かに強奪された以上は何も…しかし、ここは危険です!」

 

 二人が会話している間でも、あちこちから爆音が聞こえてくる。その度に民間人達からは(おび)えと悲鳴の声が聞こえ、デュランダルは苛立たしげに顔を(ゆが)めた。

 

「見れば分かる!だがそれだけではなかろう!?」

 

 遠く離れたここからでも強奪された三機の新型と"何者か"が戦闘している様子は確認している。強奪犯はともかく、走っている最中に視界の(はし)(とら)えた謎のモビルスーツ。ZGMF-Xシリーズに似通った外見をしているその機体をデュランダルは認知(にんち)していなかった。

 

「ともかくここは危険です!有毒ガスも発生しています。議長もシェルターへお入り下さい!事態については後に軍司令部へ…」

 

「そんなことができるか!まだアスハ代表と()()()()()()()の姿すら確認できていないというのだぞ!」

 

 デュランダルの脳裏に二人の少女の姿が浮かぶ。まだまだ獅子(しし)とは呼べぬプリンセス(オーブの獅子の娘)の方はまだ希望はある。素性は隠しているようだが、デュランダルは真実を知っている。彼女の側には優秀な護衛(アスラン・ザラ)がいるのだ。

 しかし、もう一方の彼女。デュランダルをして腹の底を読み取ることのできなかった大西洋連邦から非公式にやってきたというクイーン(アズラエルの名を持つ女)の方はどうなっているのか…。

 

「しかし…ならばせめて"ミネルバ"へ!」

 

 "ミネルバ"

 その名が示すところをデュランダルはしっかりと認知している。とてもシェルター()わりに避難するようなところではないことも。しかし、この混沌(こんとん)とした現状において、あそこほど安全な場所がないこともデュランダルは知っていた。

 

「議長、こちらです!」

 

「ええい!」

 

 あの二人に何かあれば一気に国際問題になる。共に非公式でやってきたとはいえ、こちら(プラント)あちら(地球)側の人間へ被害を(もたら)せば、余計(よけい)な火種を生み出すことになってしまう。

 やってくるかもしれない最悪の未来の可能性を想像して、思わず悪態を吐きながらデュランダルはSPの後を追った。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 MA(モビルアーマー)形態となったガイアが飛び掛かるようにこちらへと突進してくるが、前脚(まえあし)に当たる部分を損傷(そんしょう)しているからか、動きに精彩(せいさい)がない。

 

 飛び込んでくるガイアを優れた運動性で真横(まよこ)にずれることでかわし、左腕に(にぎ)られたビームサーベルで左翼の"グリフォン2ビームブレイド"を切断する。時折カオスやアビスからの援護攻撃が飛んでくるが、あちらにはエネルギーに問題があるためか先程よりも火力は控えめであり、回避することは容易(たやす)い。

 

 一瞬にして三機の新型を蹴散(けち)らしたアンノウンこと"ガンダムアステリア"は真っ直ぐに手持ちのGNソードを3機へと向ける。

 

 そのコックピットの中で、フェイト・シックザールはシートに体を預け、軽く操縦桿(そうじゅうかん)(にぎ)っていた。

 

 彼女の目が静かにモニターを追っていく。GNドライヴ問題なし。GN粒子散布状態良好。他の装備・機関・駆動(くどう)系に関しても問題を示す表示はない。

 

「ファーストフェイズ継続…問題なし」

 

 ––––––––作戦を続行させる

 

 前方モニターでは、頭部及び右腕、ビームライフルなどの多くを損傷したガイアを庇うようにカオスとアビスが前に出てくるが、彼等もこのままでは勝ち目がないことを(さと)ったのかやや逃げ腰になっているのが見て取れる。

 

「…訂正、ファーストフェイズ終了します」

 

 フェイトは少しだけ操縦桿を握る指を(ゆる)める。ファーストフェイズは終了したとフェイトはこの状況を見て判断(はんだん)したのだ。

 

 ファーストフェイズの作戦目的は、ただ一つ。ザフトの新型モビルスーツであるセカンドステージシリーズの機体をガンダムでもって打ち倒し、敵に(かす)られもせずに圧倒することだ。

 

 そして、フェイトは無事にそれをやり()げていた。この強奪事件において、ザフト量産機を圧倒したカオス等の新型機体。そんな新型をもガンダムが蹴散らした。あの場にいた関係者達、そして目の前の新型の強奪犯達にも圧倒的な力の差を見せつけた。どんな新型を開発しても、それを凌駕(りょうが)する機体が存在するということを()()たりにさせたのだ。

 

 それが直ぐには効果がなく、返って彼等に余計な反発心を()きつけるだけだということは分かっていた。

 

 だが、それでいいのだ。彼等の意識の底にはっきりと、厳然(げんぜん)と、驚異(きょうい)的な力を持つこの機体の存在を刻み込む。それが今回のミッションの目的なのだから。

 

「…もう貴方たちに用はないわ」

 

 三機に向けていた実体剣…GNソードを下げる。

 今回の作戦の最終目的はガンダムという存在を世界に明示(めいじ)することにある。世界に新たな争いを生んだ存在である彼等を許すわけではないが、彼等にはその身で持ってガンダムの力を世界に伝えてもらわなければならない貴重な人材だ。()えて生かしておくのも作戦の内らしい。

 

 三機は戸惑(とまど)うような仕草を見せていたが、やがてこの場から離脱するためにアステリアから離れていく。フェイトとしては、ビームの一つでも撃ち込みたいと思ったが、この場は私情を優先するべきではないとして辞めた。

 

 ちょうどその時、アステリアのコックピット内の電子警告音(アラート)が鳴った。モニターに後方から接近する機影(きえい)の情報が表示される。距離は二千。接触までおよそ五秒。機影の数は三つ。

 

「来た…」

 

 機体パターンから接近する三機の内の二機は、ザフトの次期主力モビルスーツでたる"ZGMF-1000 ザクウォーリア"及び"ZGMF-1001 ザクファントム"であることが分かる。情報では連合のストライカーパックシステムを参考にしたウィザードシステムなる物を換装して戦うことができるようだが、この緊急事態故にか何も装備していない()の状態だ。

 

 そして、その二機のザクを引き連れるようにこちらへ向かってくる白亜の機影。アステリアと同じツインアイが特徴的なヘッドパーツをしたその機体は、ザクやジンとは違い、強奪された三機のモビルスーツに近い構造をしている。ヴェーダから送られてきた情報では"ZGMF-X56S インパルス"と言うらしい。しかし、それ以外の情報はまだ実践(じっせん)テストも行っていないために存在しないようだ。

 

「……ガンダム」

 

 それらのデータを瞬時(しゅんじ)に頭に走らせた後、フェイトは操縦桿を軽くずらした。

 

 同時にアステリアが機体を加速させる。先程までアステリアがいた場所を三筋のビームが通り過ぎていった。次いで中央のインパルスがビームライフルを撃ちながらこちらへと接近してくるが、フェイトは操縦桿を微調整(びちょうせい)して最小限の動きでそれをかわす。

 

 アステリアの右腕に装備されているGNソードは、折り(たた)み式の剣と内蔵式の(じゅう)を切り替えることができる。フェイトは展開していたGNソードを折り畳み、ライフルモードに切り替えてトリガーを引いた。ザフト軍の三機小隊はそれを散開することで避けたが、それは既にフェイトの術中に(はま)っていると言っていい。

 

 アステリアはライフルモードを解除し、折り畳まれていたGNソードを再び展開。一機だけ孤立したザクへと急速に近づき、振り下ろす。ザクのパイロットも優秀なようで早めに回避行動を取ったようだが、アステリアの攻撃の方が早い。振り下ろされたGNソードはザクのシールドごと左腕を切断した。

 

「流石に対応が早い…っ」

 

 アステリアが残りの二機に向き直った時、ザクとインパルスは隊列を崩さずにビームライフルの照準をこちらに向けていた。即座に発射されたビームだったが、アステリアは横滑(よこすべ)りするような鮮やかな動きだけで全てを回避した。

 

 一瞬、インパルスとザクの挙動に戸惑いが見えた。無理もないだろう。ガンダムは全てのマシンにおける運動性能の常識を逸脱(いつだつ)したモビルスーツだ。いくらザクが次期主力機、インパルスが新型機体だと言ってもガンダムには及ばない。敵パイロットはそのことに驚きを禁じ得ないのだろう。

 

 それでもインパルスがビームサーベル片手にこちらに向かってこようとしたその時、アーモリーワン全体にまで響く爆発音が外部から聞こえてきた。まるで戦艦が轟沈したような戦闘の音だ。それを聞き、フェイトは視線をコロニーの外へと向ける。彼女には外部での戦闘音に心当たりがあった。

 

「時間ですか…シエルさん」

 

 フェイトがそう呟くのと、カオスとアビスがアーモリーワンの外壁(がいへき)に穴を開けるのは同時のことだった。

 

 

 

▽△▽

 

 

 暗黒の宇宙(そら)の中、巨大なコロニーを背後に一機のモビルスーツが一方的な戦闘を展開していた。長距離射撃支援・砲撃型の機体"ガンダムセレーネ"だ。手には長距離射撃用のGNメガランチャーが(にぎ)られている。

 

 そのコックピットでは、パイロットのシエル・アインハイトがシートに身を(しず)め、静かに迫り来る敵モビルスーツを(なが)めていた。中性的な外見とは裏腹に、その目には確固たる信念が込められているのが伺える。

 

 セレーネに向けて、近づいてくる二機の機影。"ダガー"と呼ばれる地球連合軍の量産モビルスーツだ。ビームライフルを連射しながらこちらへ向かってくるそれらの機体色は宇宙に()()むような漆黒へ染められている。知らぬ人が見れば連合と異なる部隊が運用しているように見えることだろう。

 

「テロリストに見せかけているのか…あるいは作戦なのか…」

 

 どちらにしても無駄なことだ。彼等のザフトの新型強奪作戦は既にガンダムの力を披露(ひろう)するための舞台装置へと変わっているのだから。

 

 シエルの手が操縦桿を素早く動かす。セレーネの右手に()げられていたGNメガランチャーが大きく振り上げられ、フォアグリップを左手でがっちりと支えられる。そして、目標に向けて構えられた。

 

 セレーネのGNドライヴが(かがや)きを放ち始める。エネルギーをチャージしているのだ。光がキリキリと高まっていき、完全にエネルギーが充電(じゅうでん)されたところで、シエルはトリガーを引いた。

 

「セレーネ、目標を破壊する」

 

 GNメガランチャーから巨大(きょだい)なビームが発射され、正面のダガー二機を飲み込む。膨大(ぼうだい)な熱量に晒されることになったダガーは装甲がもがれ、消失し、やがて爆発。爆煙だけを残し、なおも煌めく粒子ビームの光は宇宙の果てにまで伸びていった。

 

 それを冷静に見届けたシエルだったが、セレーネのコックピットに電子警告音(アラート)が鳴る。後方から攻撃を仕掛けくる機影四。港から出撃したとされるザフト軍のモビルスーツだ。

 

「なるほど…素早い対応だ。といっても今回の僕たちにザフトと戦う予定はないんだけどね」

 

 だがしかし、あちらから攻撃を仕掛(しか)けてくるというのなら仕方がない。セレーネの肩部から(おびただ)しい量のGN粒子が排出され、それがフィールドとなってセレーネを覆うように展開する。ゲイツやシグー、ジンといったモビルスーツ達が各々の武装でもって攻撃を仕掛けてくるが、それはビーム・実弾を問わずにこのGNフィールドを突破することは叶わない。

 

「やれやれ、ザフトというのはこれだから…っと、こうしてプラントを悪く言うのは僕の悪い癖かな?」

 

 そう言いながら、シエルはGNメガランチャーを変形。大口径の砲身が閉じられ、砲撃モードから中距離用のライフルモードへと切り替える。そして、照準が敵機に重なったタイミングでトリガーを引いた。

 

 GNメガランチャーから放たれた細くとも正確な粒子ビームは、寸分の(くる)いもなく正面のゲイツの頭部カメラを貫く。続けて発射。残りのモビルスーツに対しても同じように頭部、武装、推進部などを撃ち抜いた。

 

「コックピットは外したんだ。早く離脱しなよ…って、新手?」

 

 全敵モビルスーツを撤退(てったい)させたことを確認し、GNフィールドを解除。GNメガランチャーを再び砲撃モードへと変形させると、それを先程から執拗(しつよう)にビーム攻撃を行ってくるナスカ級へと向ける。先程のGNメガランチャーの火力を見たのにも関わらずに、ナスカ級はこちらへ真っ直ぐにビーム攻撃を行いながら接近してくる。

 

「特攻?…死ぬ気なのか?」

 

 この砲撃がテロリストの物であり、それをアーモリーワンへ向けられるのではないかと思い込んでいることも考えられる。ただでさえ中と外とで混乱している状況だ。無理もない。だとすると、彼等は文字通り死ぬ気でこのコロニーを守ろうとしているのか。

 

「立派な物だよ最近のザフトは、連合にも見習って欲しいくらいさ。…けどね!」

 

 けれど、こちらとしてもだからといって引く理由にはならない。シエルは、セレーネのコックピット上部から精密狙撃用の専用スコープを引き下ろしてセットした。小型の接眼用モニターがせり出す。

 

「狙い撃つ!」

 

 シエルがトリガーを引くと同時にGNメガランチャーから再び巨大なビームが発射される。それはナスカ級を正面に捉えていると思われたが、狙いは外れ左舷(さげん)の一部を掠るのに留まった。しかし、それこそがシエルの(ねら)い。ナスカ級を掠った粒子ビームはその背後に控えていた二機のダガーを完全に消失させた。

 

「残存するモビルスーツ0。連合は撤退したか…。さて、フェイトの方はどうかな?」

 

 スコープを戻し、正面モニターを見つめるシエルの視界には、アーモリーワンに空いた大穴から飛び出してくる三機のモビルスーツ。そして、それに(つら)なるように現れた光の粒子を放つ機体…アステリアを映し出していた。





確かにインパルスは出した。しかし、パイロットを出すとは言っていない。シン達の視点はまた次回ということで。

作者はコロナのワクチンの副作用で数日寝込む予定なので暫く更新が遅れます。誠に申し訳ございません。


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ガンダムマイスター

 

 アーモリーワンの受けた被害は甚大(じんだい)だった。

 強奪された新型三機に破壊されたモビルスーツの数は数えるのも難しく、飛び交うビームや実弾の(なが)れ弾のいくつかは市街地へと被害を出している。軍司令部に指示を(あお)ごうにもにも通信は繋がらず、工廠は壊滅状態で一部の区画では有毒ガスまで発生していた。

 

 アーモリーワン内部の軍港近くの基地に()まる一隻の目新しい戦艦。これまでのザフト軍艦とは全く異なる形状のその船の名を"ミネルバ"という。そう、アーモリーワンで進水式を(ひか)えた新型軍艦とはこのミネルバのことだったのだ。

 

「駄目です!司令部応答ありません!」

「工廠内ガス発生。エスパスからロナウル地区までレベル4の退避勧告発令されました!」

 

 しかし、そんなミネルバのブリッジではまだ実戦を控えた若き精鋭達が慌てた様子でアーモリーワンの被害状況の対応に追われていた。

 

「インパルス及びザク、アンノウンモビルスーツと戦闘に入った模様…!あっ!…カオス、アビス、ガイアが障壁を破壊しました!」

「なんですって?」

「アイツら!あくまでも目標は強奪された三機だぞ!?」

 

 短く切りそろえた蜂蜜(はちみつ)色の髪をかき上げ、ミネルバの艦長であるタリア・グラディスは痛む頭を押さえた。こちらが被害の解決に悩んでいる間に事態は別の方向に進んでしまったらしい。どうにも現実は思うようにいかない。

 

「艦長…これまずいですよね?もしこのまま逃げられでもしたら…」

 

 弱腰の口調で(つぶや)くミネルバの副長アーサー・トラインの言葉に、タリアは疲れたように額を指で支えながらも頭を悩ませる。本来なら副長にそのナヨナヨした態度を叱責していたところだが、タリアにもそう余裕はない。

 

 そもそも例の新型三機が強奪されてからというもの、激動の連続だったのだ。工廠(こうしょう)施設及びモビルスーツはその(ほとん)どが破壊され、更にはコロニー外部からアンノウンモビルスーツが侵入。強奪された三機と戦闘し始めたという報告を受けた時はどんな三文小説かと頭を抱えた。

 新型の警備はどうなっているだとか、外部の駐留部隊は何をしていたのかと言いたいことは山ほどあったが、実戦もまだで所属部隊も定まっていないミネルバの艦長であるタリアにできるのは、ミネルバに搭載されたモビルスーツをそれぞれ発進させることだけだった。

 

「当たり前でしょ…まずいどころじゃ済まされないわよ」

 

 状況は(かんば)しくない。再三の通信にも応えないことから、駐留部隊は全滅かそれに等しい被害を受けている可能性が高い。強奪された三機を止めるだけの戦力は外部には残っていないだろう。頼みの綱であったインパルスを始めとするミネルバ小隊は謎のアンノウンモビルスーツに足止めされている。

 

「ザク小破!ルナマリア機帰投します!」

「えぇっ!この短時間であのルナマリアが!?」

 

 これは詰みという他ないだろう。あの三人は確かにルーキーだが、ザフトレッドを着用(ちゃくよう)することを許された立派な軍人だ。その彼等がここまで圧倒されるということは、敵のパイロットが上手なのか搭乗するモビルスーツの性能が高いかのどちらか。これ以上、タリアは分の悪い()けをする気はなかった。

 

「シンとレイを連れ戻して!これ以上続けても何もならないわ!」

「しかし艦長…」

「目的はあくまでも奪取された三機よ。これ以上あのアンノウンと戦ってインパルスまで失うことになったらどうするの!」

 

 完全にしてやられたと認めるしかない。これからのプラントの未来を担うザフトの精鋭達はたった三人の強奪犯とアンノウン一機にここまで(おど)らされたのだと。タリアの中でこれからの作戦は如何に最小限に被害を抑えるかに変わっていた。

 

 その時、ミネルバのブリッジの扉が開き何者かが入ってきた。コンディションイエローとはいえ、この非常事態に無許可でブリッジに上がり込んでくるなど何処の馬鹿者か。タリアが少しの怒りと頭痛を覚えながら声を上げようとしたその時…。

 

「議長!?」

 

 アーサーの(なさ)けない声がブリッジに響いたが、今回は無理もない。入ってきたのはこのザフト…ひいてはプラントにおいて誰よりも高い権力を持つ者だったのだから。

 

「状況は!?どうなっている!」

 

 それはこちらのセリフだ…と、相手が相手でなければそう言っていただろう。軍事の場に政治家が入ってくるほどやりづらいものはないが、今は仕方がない。

 

「それが––––––––」

 

 先程よりも酷くなる頭痛に苦しみながらも、タリアは白服を着るザフトの軍人としてやるべき事を優先した。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「くそっ!演習ではこんなっ!?」

 

 インパルスの"ヴァジュラビームサーベル"を一心不乱に振り回しながら、赤いパイロットスーツを着たシン・アスカは目の前のアンノウンモビルスーツに対して攻撃を仕掛(しか)けるが、それはいずれも虚空(こくう)()るだけだ。

 

「シン!あまり深追いするな!」

 

 そこへ後方から仲間であるレイ・ザ・バレルの正確な援護(えんご)射撃が飛んでくるが、正確なだけのビームではアンノウンを(とら)えることはできずに舞うように全て回避される。まるで機動性及び運動性が既存のモビルスーツとは違う異次元の動き。アカデミーでの最高レベルのシミュレータですらこんな馬鹿げた機動はしていなかった。

 

「くそっ、ルナがいれば!」

 

 もう一人の仲間であるルナマリア・ホークは既にこの場にいない。目の前のアンノウンによって腕を切り落とされた上にスラスターのトラブルでミネルバへと帰投(きとう)した筈だ。彼女がいれば勝てたとは言わないが、少なくとも今よりも状況は好転していたに違いない。

 

「そこを退け!俺たちが用があるのは…っ!」

 

 アンノウンの背後にポッカリと開いた穴。そこから青・緑・黒の三機が消えてからどれくらい()っただろうか。いや、そこまで時間は経っていない筈だ。

 

 シンはインパルスのシルエットシステムの一つ"フォースシルエットの機動性で穴へ向かおうとするが、それをアンノウンの射撃が妨害(ぼうがい)する。直撃コースではない。ただの威嚇(いかく)射撃だ。まるで遊んでいるかのようなその攻撃がシンをより苛立(いらだ)たせる。

 

「そうかよっ…あくまでも邪魔をするのかよ!」

 

 上司であるタリア・グラディス艦長からの報告(ほうこく)では、このアンノウンは強奪された三機を一人で相手していたという。始めにこの戦場に出撃した時も、ところどころを損傷した三機の姿を確認することができた。

 それに故に味方…とはいえないが、敵にはならないと思っていたところにこれである。まるで三機の離脱を援助(えんじょ)するようにこちらの行手(ゆくて)を阻むコイツは、あの新型が他所に奪われることにより起きることを分かっているのか!?

 

「どうしてこんなこと…また戦争がしたいのか!あんた達は!!」

 

 ビームサーベルを片手にシンは再び機体を突撃(とつげき)させる。背後から飛んでくるレイの援護射撃は正確だ。すばしっこく動くあの機体の牽制になるだろう。言わなくても通じてくれる親友(レイ)を頼もしく思いながら、シンはその(いか)れる瞳をアンノウンへ向けた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「ガンダムアステリア(およ)びガンダムセレーネ、ファーストフェイズの予定終了時刻を過ぎました」

 

 静止衛星軌道(きどう)線上、衛星の影に(かく)れるようにして一隻の船–––––––ガンダムの多目的輸送艦(ゆそうかん)であるプトレマイオス級二番艦"クラウディオス"が航行していた。

 

 そのブリッジでは、艦の人員というのには少なめな四名のクルーが各々(おのおの)のシートに座ってキーボードを叩いている。

 

「間もなくセカンドフェイズ開始予定時刻です」

 

 そう告げたのは、この艦のCIC(戦況オペレーター)であるウェンディ・ヘルシズ。CICとは言うものの、戦闘行為自体を目的としないクラウディオスにおいては、ガンダムマイスター達が行うミッションの報告や伝達(でんたつ)を主としている。

 

「上手くやれたのか。フェイトとシエルは?」

 

 そう言って視線を隣に向けたのは、砲撃担当のバッツ・グランツだ。ガッチリした体格と(ほお)(きざ)まれた古傷の跡は歴戦の戦士のようだが、それは事実である。元ザフト軍人の彼はクラウディオスの予備のガンダムパイロットも()ねていた。

 

「若い子だけじゃ心配ですか?師匠としては?」

 

 バッツの視線を受け、軽い調子で応えたのは操舵士(そうだし)のシド・ダミアン。彼はバッツによって操舵の教導を受けた過去を持っており、バッツのことを師匠と(した)っていた。

 

「おいおい、それを言ったらここにいる奴らは殆ど歳下だらけだそ?」

「そういうバッツさんだってまだ30過ぎたばっかりなんだからまだ若い方でしょ」

 

 「ねぇ?」とウェンディが同意を求めるように、隣の席のもう一人の戦況オペレーターであり、妹であるヴァイオレット・ヘルシズに顔を向けたが…、

 

「………」

 

 だが、巻き毛(カール)冷静(クール)な彼女は、興味なさそうにこちらを一瞥(いちべつ)しただけで直ぐに自分の作業に戻った。つれないの、とウェンディが(くちびる)を尖らせる。

 

〈まぁまぁ、ヴァイオレットも緊張してんだよ〉

「アキサム…」

 

 そう言ったのはメインモニターに映ったパイロットスーツの男。ヘルメット越しに覗く淡い緑色の髪が特徴的な彼の名はアキサム・アルヴァディ。見てわかる通りにモビルスーツのパイロットであり、ガンダムマイスターの一人である。

 

「…アキサムは不安じゃないの?」

〈フェイトとシエルがか?まぁ、フェイトの方は心配っちゃ心配だが、シエルも付いてることだし大丈夫だろ〉

 

 "ガンダムサルース"のマイスターが何故こんなところにいるのかといえば、ヴェーダから送られてきたミッションプラン故に他ならない。メインをガンダムアステリア、サブにガンダムセレーネの参戦を要請(ようせい)されており、アキサムともう一人のマイスターはこうしてクラウディオスで待機することになったのだ。

 

 それでも初めての実戦というのは不安なものだ。シエルはともかく、まだ14で女の子なフェイトのことがウェンディは心配だったのだ。

 

 すると、ブリッジの扉から一人の少女がパイロットスーツのまま入ってきた。無造作にヘルメットを脱ぎ捨てると、近くにいたウェンディの席へ手をかける。

 

「そうそう、あんまり固くならないの」

「フブキさん!?」

「フブキお姉ちゃん、あっちにいなくていいの?」

 

 誰かといえば、この白銀の髪の持ち主である少女もまたガンダムマイスターである。乗機である"ガンダムメティス"を格納庫(かくのうこ)に置き去り、自らはブリッジへと乗り込む。そんな彼女の名はフブキ・シニストラ。このクラウディオス女子組においては最年長で(まと)め役のお姉ちゃんでもある。

 

〈お、おいおい!いねえと思ったらお前なぁ…〉

「別にいいでしょ、今回のミッションは私たちは非番。むしろ貴方が真面目すぎるのよ」

 

 マイペースで自由気まま、悪く言えば自己中なフブキだが、マイスターの一人に選ばられる実力者だ。そんな彼女が余裕を持っていつも通りにいれば、みんなもそれに釣られて余裕が出る。彼女なりの初陣への激励(げきれい)というやつだ。

 

「何なら貴方もこっちくる?」

〈遠慮させてもらう。いつ何が起こるか気が気じゃねぇからな〉

「フェイト達が心配?」

 

 「…別に、大丈夫だろ」と言ってそっぽを向きつつもいつでも発進できるように待機する彼は間違いなくツンデレというやつではないか?とフブキは思ったが口には出さず内心で笑うのにとどめておいた…が。

 

『ツンデレカ?アキサム、ツンデレ』

「あ」

〈何だと?…っていうかお前"ハロ"に何覚えさせてやがる〉

 

 (あお)るようにそう言ったのは、フブキの服の中にいた小型球体ロボット、通称"ハロ"だ。フブキの持ち物だが、彼女自身が作ったわけではない。貰い物を改造したとか何とか言ってフブキがその性能を自慢した時には、脱走したハロのことを既にみんなも知っていて驚いたのは懐かしい記憶だ。

 

 そのことを思い出して、ふと微笑(ほほえ)みながらフブキはハロを撫でていた手をやめ、ウェンディの隣のヴァイオレットの席へと置いた。

 

「……?」

「もうファーストフェイズは終了。少しは気を抜くことも時には重要なの。彼等を信じてあげなさい」

「……はい」

 

 ヴァイオレットとウェンディもフェイトより二つ上とは言え、まだ16の少女達だ。多情多感(たじょうたかん)な彼女たちをこれからの活動に巻き込むのは……と、そこまで思い至ってフブキは独りよがりな偽善(ぎぜん)的な考えを捨てた。

 

「始まる…ソレスタルビーイングの戦争根絶への道が」

 

 ここにいるメンバーは…特にマイスターたちはその誰もが夢を見ている。戦争根絶というこの混沌とした世界を一つにすることを。ナチュラルもコーディネーターもなく、彼等はソレスタルビーイングという組織として、世界よりも一足先に一丸(いちがん)となって計画を進めるのだ。

 

「(でもそれは…悪行ね)」

 

 これから多くの人が死に、多くの悲しみが世界に(あふ)れるだろう。自分達のような存在を自分達が新たに作り出す。皮肉な話だ。

 

 だが、彼等はもう止まらないし、止められない。

 

 何故なら、彼等は戦争根絶を掲げる私設武装組織"ソレスタルビーイング"なのだから。

 

 





 西暦では、軌道エレベーターを制作した偉人として知られるイオリア・シュヘンベルグですが、C.E.では何もしていないために急に『全ての人類に〜』とか言っても、ただのハゲのおっさんが何か変なこと言ってるようにしか感じないという。

 …どうしよ?

 あ、ここで言っておきますが、この作品でロウや劾と言ったアストレイのキャラは書きません。にわかの私が書いてもキャラや設定がぶれぶれになるので。地の文で傭兵やジャンク屋に触れる程度はあるかもしれませんがね。
 圧倒的な知識不足っ!私は外伝のストーリーをクロスレイズで初めて知りました。


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ガンダムマイスターⅡ


お久しぶりです。
リアルが忙しいのとこれからの展開に自信がなくて筆が止まってました。
でもまぁ、書かないよりは書いた方がいいという事で、ゆっくりと更新します。


 

 背後で二つの機影が()(むす)び合うのが見える。それは次第に小さくなっているが、一度味わった恐怖(きょうふ)はそう中々消えないものだ。

 どこまでも暗黒な宇宙(うちゅう)の中、カオスのコックピットにてスティングはあの時のことを思い返して思わず身震(みぶる)いしながら機体を加速させた。

 

「おい、アウル!ステラの調子はどうだ?」

「もーだめだめ。うんともすんとも言わなくなっちゃったよステラのやつ」

 

 通信先のアビスが右手に(つか)むのは、左手首・頭部を損傷してフェイズシフトダウンして灰色の装甲へ戻ったガイアの姿。パイロットの操縦もなく力無く連れられるその鉄屑(てつくず)は、とても地球軍の特殊部隊に強奪されたザフトの新型モビルスーツには見えないだろう。

 

「生きてる…ステラ、生きてるの?」

「チッ…一体なんだってんだ」

 

 生まれたての子鹿のように震える身体を抑えるパイロット(ステラ)を見て、思わずスティングは舌打ちを()らした。ステラにではない。彼女をここまで追い詰めたアンノウンモビルスーツ、それとその情報をくれなかった上官(ネオ)…つまりお(えら)いさんに対してだ。

 

「おい、スティング!ステラ(ガイア)運ぶの代わってくれない?こいつ(アビス)もそろそろパワーが…」

「ああ?ったく、バカスカ撃つからガス欠すんだよ」

「文句言うならあの白いのに言えよ!あんなの情報にないぜ!」

 

 それはもう俺が言った…とスティングが言いつつも、カオスがアビスからガイアを受け取る。そして、それと同時にアビスのVPS装甲がダウンした。よく見れば、ガイアの損傷も大概(たいがい)だが、アビスとカオスも相当なものだ。

 アビスは内蔵(ないぞう)武器は無事なものの、ビームランスを失い、肩部シールドは斬り裂かれた傷跡が残っており使い物にならないだろう。カオスは比較的損傷が少ないが、ビームライフルを失っている。

 

 そして、それをやったのはザフトの防衛モビルスーツではなく、情報にはないたった一機の謎の機体。スティング達がコロニーに開けた穴付近で戦っているのがザフトの部隊ならば、地球軍でもザフトでもないあの機体はまさに所属不明(アンノウン)である。

 

 そんな時、三人の機体レーダーが一つの接近する機影を(とら)えた。こちらにゆっくりと近づいてくるその機体は赤紫(あかむらさき)色で細長いフォルムをしたMA(モビルアーマー)…エグザス。

 

 そしてその機体のパイロットは…、

 

「ようお前ら!無事(ぶじ)だったか!?」

「ネオっ!?」

 

 通信モニターに映ったのは、怪しげな仮面で上半分の顔を隠した男。間違いない。スティング達エクステンデッドの上司であるネオ・ロアノークだ。

 

「ネオっ!?ネオ!」

「ああもう、めちゃくちゃだぜ…」

 

 先程から情緒(じょうちょ)が不安定だったステラがネオの声に反応して手を伸ばすが、生憎(あいにく)とネオ本人は分厚い装甲の奥だ。半壊したガイアを引き連れながら、スティングはエグザスの後を追う。

 

「おいネオ、あの白い奴なんだよ。おかげでこっちは酷い目にあったっての」

「はは、それは確かに俺のミスだな。だがまぁ、お前達がこうして無事に帰ってきてくれて何よりだ」

 

 何とかザフトの新型の強奪に成功したものの、せっかく奪った機体はボロボロ。カオスはともかくアビスとガイアは(しばら)くの間データ収集と機体の修復に時間を(つい)やすことになるだろう。技術班は文句の一つでも言ってくるかもしれないが、その後のことはスティング達の知ったことではない。

 

 追撃に来るザフトもなく、スティング達は安全に母艦であるガーディ・ルーへと到着した。エグザス、ガイア…の順に次々と機体が着艦していく。……いつもならダガーで()まっているはずのモビルスーツデッキは奪った三機を除いてがらんとしているのが特徴的だった。

 

「…なんかもうどっと疲れたぜ」

「同感だな」

 

 互いに搭乗機から降り、見慣れた船の内装を見て、アウルとスティングはやっと一息を()く。今回ばかりは死ぬかと思った。何であのアンノウンが急にこちらを見逃すような真似(まね)をしたのかは不明だが、"九死に一生を得た"とはまさにこのことだ。

 

 一足先に降りたはずのステラ、そして上官のネオにもう一言言ってやろうかと二人が足を踏み出したその時、艦内(かんない)放送から艦長のイアンの声が聞こえてきた。

 

〈ロアノーク大佐、ロアノーク大佐!至急(しきゅう)ブリッジへ!〉

 

 いつも冷静なイアンらしくないどうにも慌てた声だ。この部隊の隊長であるネオを緊急招集するような何かがあったのだろうか?

 

「…何だ?」

「さぁ、まさかあのアンノウンがこっち来てるとかだったり?」

「そりゃ、ごめんだ…まぁ、出ろって言われれば出るだけだがな」

 

 不思議そうに顔を見合(みあ)わせた二人だが、特段気にせずに再び歩き出した。何が起こったかは知らないが、小難(こむずか)しいことはネオに全て任せているのだ。自分達が考えるのは戦う時だけでいい。スティング達"エクステンデッド"にとってはそれが当たり前の感覚だった。

 

 

▽△▽

 

 

「インパルス、ザク共に収容完了しました」

 

 ミネルバのCICを担当する"メイリン・ホーク"からの報告を受けて、艦長のタリアはようやく一息を吐く。

 パイロットのシンやレイは敵機を追うことに執着(しゅうちゃく)していたようだが、ブリッジにいるデュランダルの鶴の一声で大人しく帰ってきたので何よりだった。今だけはこの人がここにいることに感謝したい気分だ。

 

 だが、まだ悩みの種が取れたわけではない。

 というよりは、ミネルバ艦長であるタリアにとってはここからが大事な場面だ。

 

「気密正常、FCSコンタクト、ミネルバ全ステーション異常なし。行けますよ」

「インディゴ53、マーク22ブラボーに不明艦1、距離240、いや260…離れていきます!」

 

 副長のアーサーと索敵(さくてき)担当のパートが声を上げる。

 現在、ミネルバはその舞台(ステージ)を港口から漆黒の宇宙へと移していた。一足早い進水式といえば聞こえはいいが、その実態はセカンドステージシリーズを強奪した部隊の母艦を追うための仕方(しかた)のない出撃である。

 

「艦長!このままだと逃げられますよ!?」

「分かってるわ。諸元をデータベースに登録、以降対象をボギーワンとする。インパルスとザクの整備と補給(ほきゅう)を急がせて!」

 

 存在しないもの(ボギーワン)とは言い得て(みょう)である。タリアとしても今すぐに追撃戦に入りたいところだが、かなり距離が離れている。幸いにしてこのミネルバは高速艦なため追うことは可能だろうが時間はかかる。

 また、例のアンノウンモビルスーツのことも気掛(きが)かりだ。()えてインパルスとザクを見逃したのか、それとも更に優先する事情があったのかは知らないが、再びこちらへ攻め入らないという保証がない以上は気を抜く事はできない。

 

「…議長は医務室へ。これからは激しい戦闘も予想されます。乗船された客人の対応をお願いできます?」

 

 タリアは背後のデュランダルへ振り返りつつも憮然(ぶぜん)とそう言った。政治家にブリッジにいられたくないという気持ちもあるが、医務室にて待機していると言う外国の代表への対応を彼に任せたかった。

 

「…ああ、そうだったね」

「案内をつけます。ルナマリアをブリッジに呼び出して!」

 

 ーーーオーブ連合首長国の代表首長がミネルバにいる。

 

 ルナマリアからそんな報告を受けた時、タリアは動揺のあまり思わずひっくり返るかと思った。どこの国の代表がモビルスーツに乗って戦艦に乗ってくるというのか。おまけにやってきたのはオーブの姫君に留まらず……いや、あちらは()()()()()()()()()だそうなので気にするだけ無駄か。

 

「ではタリア、後は任せたよ」

「ええ、承知しました」

 

 しかしまぁ、それはこれからデュランダルが考えることだ。どうにかするだろう。政治家の相手は政治家がするのが道理だ。

 ならば、自分は軍人としての仕事だけを果たせばいい。タリアはレーダーに映るボギーワンの姿を捉えながら、クルー達に次の行動を指示するのであった。

 

 

▽△▽

 

 

 この(ふね)、戦闘に出るのか…?

 覚えのある振動にそんな疑問を思いつつ、アスランはいかに目の前の怒れる獅子(カガリ)を止めるべきか考えていた。

 

「どうなっている!? 状況は!」

「いえ…それは私にも」

 

 あの強奪騒動の後、何とかザフトの新造艦に避難することに成功したアスランとカガリだったが、当然ザフト兵達に囲まれた。カガリの身分(オーブの獅子の娘)偽りの身分(アレックス・ディノ)を公開することでとりあえず監視付きで士官室へ案内されたが、未だに何が起きたのかは分からないままだ。

 

「代表…そこまでにしておいた方がいいかと」

「アスランっ……」

 

 その名前で呼ばないでくれ…とは、言える状況ではなさそうだった。

 カガリが怒るのも無理はない。額に巻かれた包帯は痛々しく、これが国家代表に対する仕打ちとなれば普通なら大問題になっている。

 だが、それ以上にこの事態に対して何の情報も得られない…というのがカガリの焦りを助長させているのだろう。

 

「…わかっている。だが!」

カガリ(代表)っ…」

「っ!」

 

 何もわからない状況でじっとしていること…カガリが最も嫌いで苦手であろう行動だ。年月を経て経験を重ね、それなりの立場になった今でも彼女には昔の名残が垣間見(かみまみ)える。

 それを懐かしく思いつつも、今のアスランはアレックスとしてオーブ連合首長国代表首長であるカガリの行動を(とが)める必要があった。

 

「…君もすまない。ただ、代表も混乱している。君の方から何が起きているのか説明を(もら)えないだろうか?」

「……いえ、私も何も。すみません」

「そうか…」

 

 やはり、赤服といえど事態の全容は理解していないのか。それとも代表とはいえ、信頼できる確証のない他国の人間においそれと情報を渡すわけにはいかないのか。おそらく両方だろう。

 

 その時、艦内のアナウンスからオペレーターだろう少女の声が聞こえてきた。

 

〈ルナマリア・ホーク、至急(しきゅう)ブリッジへ。繰り返す、ルナマリア・ホーク、至急ブリッジへ〉

 

「えっと…そういうことで、失礼します」

「あ、おいっ」

 

 どうやらこの赤服の少女が呼ばれているらしい。アスランが視線を送れば、ルナマリアという赤髪の少女はザフト式の敬礼をカガリに向けた後、士官室を後にしてしまった。

 これで、何をどうしようと話を聞ける相手がいなくなってしまった。だが、それもいいのかもしれない。自分もカガリも少し落ち着ける時間が必要なのだ。

 

「アスラン……」

「カガリ、気持ちは分かるが少し落ち着け」

「…そうだな、すまない」

 

 きっと、カガリも分かっている。ただ、経験の浅さと事態に追いつけない状況から来る焦りが冷静な判断力を(うば)っているのだろう。

 

「大丈夫だ。もう少しすれば、デュランダル議長との連絡もつくだろう。そこで詳しく話を聞けばいい」

「ああ…」

 

 流石にこの状況で何も言わずにオーブに帰す、ということは出来ないだろう。互いに非公式の会談だったとはいえ、あの場にいたのはオーブとプラントという二つの国のトップなのだから。

 

「ーーー失礼」

 

 その時、そんな声と共に士官室の扉が開いた。

 やっと連絡役が来たか…と思って、二人が視線を向ければ、そこにいたのは先程のザフトレッドの少女でもなければ、ザフトの人間でもなかった。

 

「ーーーえ?」

「ーーーうん?」

 

 肩口(かたぐち)まで伸びた金色の髪は、硬質なカガリの物とは違ってさらさらと(なび)いていおり、ピシリと着整えられた黒いスーツは所謂(いわゆる)"出来る女"といった印象を与えるだろう。

 

 その麗人の姿に、アスランは見覚えがある程度だったが、今やオーブの代表であるカガリにとってはよく知っている人間だった。

 だからこそ、余計にわからない。何故彼女がこのようなところにいるのか。混乱する頭をよそに、口は勝手に彼女の名前を(つぶ)いていた。

 

「ーーー()()()()()()()()()()()()、理事」

 

 ……決して、ここにいるはずのない女性の名前を。

 

 

 

 





やっぱりカガリは政治家に向いてないと思う。
どちらかというと前線で指揮を取ってくれる方が勇気付くし。まぁ、周りが無能ばかりだと仕方ないけどね。

そして、アズラエル(妹)ですが、地球軍側のオリキャラです。
まぁ。ジブリールだけだと小物感が拭えないからしょうがないね。ホントDESTNYの地球軍のかませっぷりは異常。


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天上の宣言

 

 シャーロット・アズラエル

 

 あのアズラエル財閥の令嬢(れいじょう)であり、大西洋連邦の国防産業理事(こくぼうさんぎょうりじ)を務めていたムルタ・アズラエルの歳の離れた妹なのだが、実のところその名を知る者は少ない…いや、少なかった。

 コーディネーターと同等以上に優秀な才女ということで噂は広まっていたが、それは財閥関係での話。まだ子供だということもあってか、彼女が表舞台に姿を現すことはなかった。……()()()()()

 

 彼女の名が知られるようになったのは、二年前の終戦後のこと。

 大西洋連邦国防産業理事を務め、ブルーコスモスの盟主でもあったムルタ・アズラエルが第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で戦死(せんし)したことは、財界に大きな影響を与えた。

 特に実質的に彼が全てを管理していたアズラエル財閥、及びブルーコスモスは大きく弱体化し、解体(かいたい)寸前にまで追い込まれていた。

 

 そこで、両組織を立て直す(ため)に表舞台に立ち上がったのが、当時18歳のシャーロットであった。彼女は短期間で兄の残した業務を全て引き継ぎ、足りない部分はアズラエル家のコネなどをフルに(あつか)う事で何とか立て直したのだ。

 そんな手腕(しゅわん)を世界は大きく評価しており、ブルーコスモス盟主の座こそロード・ジブリールという男に譲ったものの、アズラエルの名の持つ影響力は(いま)だに健在である。

 

 カガリも今後オーブの代表となる上で注意・警戒すべき人物として、プラントのギルバート・デュランダル共々教えられた過去がある。

 "アズラエル"という名前には過去のことも(ふく)めて色々と思うところがあったが、没落(ぼつらく)寸前だった家と組織を立て直すというところには、同じ立場にあるカガリとて尊敬の意を感じざるを得なかった。

 

 いつか会う日が来るだろうとは思っていたが、まさかプラントの……それもザフトの戦艦の中で会うことになるとは、流石に予想できなかった。

 

 

▽△▽

 

 

「本当にお詫びの言葉もない」

 

 開口一番、デュランダルはそう言って頭を下げる。

 気にしないでくれ、と受け止めながらも、カガリはデュランダルと…そして、金髪の麗人(シャーロット)と対面する。

 

 あれから間も無く、硬直(こうちょく)が解けたカガリから互いに挨拶を交わしたものの、詳細はデュランダルを含めた三者で話し合うということになり、現在ミネルバの艦長室にて、こうして互いの身のあかしを立てることができたのだ。

 

「いや…こちらこそ、プラントの迅速(じんそく)な対応に助けられました」

 

 社交的な笑みを浮かべたシャーロットがそう返したが、デュランダルは鎮痛(ちんつう)な表情を崩さないままだ。彼にとっても今回の事態は、看過(かんか)しえない程の重大事なのだろう。

 

「それも、姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは。ですがどうか御理解いただきたい」

「ああ。それよりも、あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」

 

 ミネルバが現在、例の強奪部隊の敵艦の追撃任務についている事は聞いた。カガリやシャーロットが乗っているのだが、現状で追跡が可能なのがこの(ふね)しかないという事で、両者を連れたままこの艦はアーモリーワンを離れてしまったのだと。

 

「ええ、まあ……艦などにも、ハッキリ何かを示すような物は何も……」

 

 彼にしては、妙に歯切れの悪い答えだった。

 

 カガリとしては、あの部隊が何者であるかある程度は予測できていた。

 

 一つは、プラント内における旧ザラ派…もとい過激派の暴走だ。元ザフト兵が多くを()める彼等であれば、アーモリーワンに侵入する事は容易(たやす)かっただろう。しかし、それをデュランダルが見過ごすかと言われれば疑問が残る。

 

 また一つは、地球連合軍。二年前に停戦したとはいえ、プラントに(うら)みを持つナチュラルなど大勢いる。その筆頭であるブルーコスモスも最近になって活動が活発になってきていると聞くが……。

 

「………?」

 

 しかし、そうなると、大西洋連邦所属の彼女がここにいる理由が分からない。

 

「…しかし、だからこそ我々は一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならないのです。取り返しのつかないことになる前に」

 

 カガリにも予測できた事だ。おそらくデュランダルも分かっているのだろう。だが問題が微妙過ぎる為、直言(ちょくげん)を避けているのだ。

 

「ああ、(わか)ってる。それは当然だ、議長。今は何であれ…世界を刺激するようなことはあってはならないんだ」

 

 デュランダルの沈痛な言葉に、カガリもやりきれない想いと共に頷く。

 

 先の大戦以降、世界は危ういバランスの上に成り立つ平和を享受(きょうじゅ)していた。それはちょっとしたきっかけがあればあっさりと崩れてしまう程に非常に(もろ)い偽りの平和。

 あの新型モビルスーツ達は、そのバランスをいとも簡単に崩壊(ほうかい)させられるほどのものになる可能性がある。あれらを野放しにすれば、それこそ、前大戦の同じ(てつ)を踏むことになりかねない。

 

「ありがとうございます。姫ならばそうおっしゃってくれると信じておりました」

 

 そんなカガリの思いを汲んだのだろう。デュランダルもようやく表情を緩めた。

 カガリとしては、あちら(シャーロット)の考えも気になるところだが、自分よりも前からミネルバに避難していたところを見るに、彼等の間ではすでに話し合いがされていたのだろう。

 

 そう思って、カガリが一息吐いた時。

 (かたわら)でカガリとデュランダルの話を聞いていたシャーロットが、口を開いた。

 

「–––––––ところで議長、例の件について、彼女達にも知らせてあげる必要があるのではないでしょうか?」

「……例の件?」

 

 やはり、自分の預かり知らぬところで話し合いがあったのだ。仕方のないこととはいえ、一国の代表としては()け者にされたような思いだったが、今のカガリにとってはそれよりも気になることがあった。

 

「議長、一体何が…」

「…そうですね。ぜひ、姫に見てもらいたい情報がございまして」

 

 そういうと、デュランダルは手元の端末(たんまつ)を操作し、カガリから見て正面のモニターに映像が映った。

 

「これは…アーモリーワンの?」

 

 そこに映っていたのは、三機のモビルスーツ…アスラン達も相対した例の新型機体達が、一機のモビルスーツと交戦している様子だった。

 

「あの機体は…」

 

 アスランには、見覚えがあった。

 あれは、ピンチになった自分達を助けてくれたモビルスーツだ。暫く様子を見ていたが、あの三機相手に一機で渡り合っている様を見て、撤退すると同時に、まだ新型を隠していたザフトの技術力に思わず震えた記憶がある。

 

 最終的に黒い機体(ガイア)があしらわれる様に頭部を切り付けられる映像を最後に、カメラは止まった。おそらく、戦闘の影響でどこかが破損してしまったのだろう。

 

「……議長、これは?」

 

 カガリの問いに一瞬目を細めたデュランダルだったが、やがて重々しい口振りで答えた。

 

「実はこのモビルスーツ、我が軍のものではないのです」

「……何だって?」

 

 思わず声に出たのは、カガリではなくアスランだった。慌てて咳払(せきばら)いと共に謝罪したが、カガリとて同じ思いだったし、デュランダルもシャーロットも咎めるようなことはなかった。

 

「その様子を見るに、どうやらオーブによる者でもなかったようですね。良かったというべきか、残念というべきか…」

「議長、理事、このモビルスーツは一体?」

 

 カガリの疑問に対し、デュランダルは端末を一つ操作し、モニターの映像を別の物に映しながら口を開いた。

 

「それが、全くの不明なのです。地球軍のものでも、ザフトの物でも、オーブのものでもない。ジャンク屋などの線も疑いましたが、彼等がここで戦う意味はない」

「お二人が遭遇した一機とはまた別に、アーモリーワン外周にももう一機アンノウンモビルスーツが確認されていたのですが…」

 

 モニターの映像が切り替わる。こちらは映像ではなく画像のみだったが、そこにはザフト軍のモビルスーツを撃墜する見慣れないモビルスーツの姿が写っていた。

 

「このように、我々ザフトにも攻撃を仕掛けてくるとなっては、一体どこの組織だというのか…」

「デュランダル議長にも、(わたくし)にも心当たりがなく、アスハ代表ならあるいは…とも思ったんですがね」

 

 実質的な地球とプラントの代表が知らないと言っているのだ。地球軍でもザフト軍でもなく、強奪部隊とも敵対しているとなると、一体どこの陣営なのか…混乱するのも無理はない。

 

「………………」

 

 誰もが思考に走ったため、暫くは誰も喋らない無音の時間が訪れる。

 が、そんな沈黙も少しのこと、デュランダルがモニターを消したことで破られた。

 

「ここで考えていても仕方がない。よろしければ、息抜き…というのは語弊(ごへい)がありますが、まだ時間のあるうちに少し艦内を御覧(ごらん)になって下さい」

「いや、それは……」

 

 突然のデュランダルの申し出に、思わずカガリとアスランは顔を見合わせた。

 他国の戦艦に乗っているだけでも色々と問題なのに、そんな物見遊山気分(ものみゆさんきぶん)というか、観光気分で良いのだろうかと思ってしまうのが本音だ。

 

 だが、それはデュランダルも分かっているのだろう。そんなカガリ達を制するように言葉を続けた。

 

「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」

 

 そこまで言われてしまえば、断る方が逆に失礼というもの。気は進まないが、せっかくの好意を無為(むい)にするわけにもいかない。

 

「ああ、ではよろしく頼む」

「ではアズラエル理事は……」

 

 デュランダルが視線を向けたが、その先のシャーロットは薄く微笑んで首を横に振った。

 

(わたくし)が出歩いていては、アスハ代表にもご迷惑でしょう? 先の士官室で休ませてもらっても?」

「ええ、分かりました。先程の案内をつけますよ」

「助かります」

 

 どうやらシャーロットは付いてこないらしい。

 そんな会話をした後、デュランダルはカガリ達の方へ振り向いた。

 

「では姫、こちらへ。まずはご利用いただくことが多くなるだろう––––––––」

 

 そう言って、カガリ達を案内しようとしたその時だった。

 

 

「––––議長! 大変です!」

 

 大慌てで艦長室に突入してきた男。それは身なりから言って、ザフトの黒服……ミネルバ副長のアーサー・トラインだった。

 

「君はトライン副長だったね…どうかしたのかな?」

「は…失礼しました!」

 

 デュランダルが軽く声を()ければ、アーサーは部屋の状況に気付いたのか、顔を赤くして敬礼で答えた。その新人もかくやという慌て振りにカガリ達も苦笑していたが、彼の次の言葉に凍りつくことになる。

 

「例のアンノウンモビルスーツが所属しているという組織からザフトに…いえ、プラント全体に向けてメッセージが届けられました!」

「何だと!?」

 

 その声は誰が発したものだったか。或いは全員だっただろうか。

 

 事態は着実に、一つ一つ次の舞台へと世界を導こうとしていた。

 

「世界が変わっていく……」

 

 ここで彼等は初めて知ることになる。

 戦争根絶を掲げる私設武装組織ソレスタルビーイングという存在を……。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

『この世界で暮らす、全ての人類に報告させていただきます––––––––』

 

 その映像を、ミネルバ艦内の休憩所……クルーの多くが集まる場所でシン・アスカは同僚(どうりょう)のレイ・ザ・バレルやルナマリア・ホークなどと共に見つめていた。

 きっかけ…というより、緊急のアナウンスと共に流れ出したために自然と注目せざるを得なかったというところか。

 

 おそらく先の強奪事件に関わるものなのではないか、とクルー達の間では噂されていたが、実際に映像として流されたのは全く異なるものだった。

 

 まず映されたのは、確かに先程のアーモリーワンでの強奪事件に関する映像だった。しかし、それと共にシン達が遭遇したあのアンノウンモビルスーツが強奪部隊・ザフト問わずに攻撃を加えていく様子が映し出されてから、周囲は(ざわ)めきだした。

 

『私達はソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です』

 

「ソレスタルビーイング…?」

「ガンダム…あの機体のことか」

 

『私達ソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります。私達は、自らの利益のために行動はしません。戦争根絶という大きな目的のために、私たちは立ち上がったのです』

 

 やがて映し出されたのは、一人の男性の姿。おそらく彼がこの放送を発している声の主なのだろう。

 一般的な金髪に黒曜石(こくようせき)のような瞳。自信を感じさせるその姿に、シンは何処か見覚えがあった。だが、どこで見たのか…それが思い出せない。

 

 そんなシンをよそに、男の言葉は更に続いていく。

 

『ただ今をもって、すべての人類に向けて宣言します。領土、宗教、エネルギー……どのような理由があろうとも、私たちはすべての戦争行為に対して、ガンダムを使った武力による介入を開始します!』

 

『戦争を幇助する国、組織、団体なども、我々の武力介入の対象となります。私達は、ソレスタルビーイング。この世から戦争を根絶させるために創設された武装組織です。繰り返します……』

 

 何を言っているのか、シンには見当(けんとう)もつかなかった。いや、シンだけでなく周りのクルー達もポカンと固まっている。

 

「レイ、今のは…?」

「この映像のままの意味だろう。そして、奴らがあの時の戦場で妨害してきたモビルスーツ……ガンダムだったか、に間違いない」

 

 こんな時でも冷静な親友(レイ)の姿に安心しつつ、シンもまたソレスタルビーイングなる組織について思考を巡らせる……が、やはりイマイチ纏まらない。

 

「でも、こいつらの言っていることって…」

「ああ、戦争を戦争で解決させるとは…矛盾しているな。ソレスタルビーイング」

 

 そう、何せ言っていることの一貫性がないのだ。戦わせないために戦う……まるで噂に聞く前大戦の三隻同盟のようではないか。

 

 馬鹿げている。単なるテロリズムの一種だと。そう思ったシンに対して、レイは単なるテロ組織の妄言(もうげん)だとは思っていない様子だった。

 

「だが、奴らが単なるテロ組織だとは思えん」

「…どうしてだ?」

「ザフトの新型モビルスーツ相手にああも翻弄(ほんろう)する機体技術もそうだが……」

 

 そこで言葉を切ったレイは、改めてモニターに映る男の姿へ視線を向ける。そこには……。

 

「あの男の姿に見覚えがないか…」

「え、あぁ。どこかで見たような気がするんだけど…」

 

 レイの言葉に頷く。

 あの金髪の男にはどこか既視感(きしかん)があった。かといって、あまり思い出せないのを見るにそこまでシンにとっては重要な人物というわけではないのだが…。

 

「あの男は、ファーストコーディネーター。ジョージ・グレンに()()()()

「あっ!」

 

 そう言えば、アカデミーで死ぬほど学んだC.E.(コズミック・イラ)の歴史で出てきたあの人物と同じ容姿をしている。思い出してしまえば、後はもう彼本人にしか見えない。

 偶然というには、あまり似すぎているそれにシンは思わず驚きの声をあげた。

 

「…まぁ、だからといって特に何かあるわけでもないがな」

「え?」

「幸いにして今この艦には議長がいる。あの組織への対策はあの人が考えて下さるだろう。俺たちはそれに従って動けばいい」

 

 それだけ言って、レイは部屋を去ってしまった。おそらく、自室へ戻ったのだろう。あるいは、この(ふね)にいるというデュランダル議長の元に向かったのか。

 

『私たちはソレスタルビーイング。機動兵器ガンダムを所有する私設武装組織です』

『私たちソレスタルビーイングの活動目的は、この世界から戦争行為を根絶することにあります』

 

 戦争の根絶、それは家族を亡くしたシンにとっても最大の望みだ。その為にザフトに入ったのだから。

 だが、これは何かが違うと心が訴えている。

 

「ソレスタルビーイング……」

 

 武力を持って武力を制すソレスタルビーイングの登場に、思わず彼はポケットの妹の形見(携帯)を握りしめた。

 

 

 これを機に、大きく世界が動いていくこと。そして、自分もまたそれに大きく運命が左右されることを、今のシンはまだ何も知らなかった。

 

 

 





イオリア枠こと、ジョージ・グレン(?)の演説は00とそこまで変えませんでした。少しアレンジを加えても良かったんですが、原作のスピーチがあまりにも秀逸すぎたので。

※因みにジョージ・グレンの容姿はガワだけです。中身はオリキャラなのでご理解ください。中身は彼を使った天才研究者とかなのかも…?

戦争根絶のためのソレスタルビーイングと、戦争を止めるための三隻同盟ってよく比較されますが、その違いって何だと思います? やっぱり計画性とか?



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天上の宣言Ⅱ

 

 

 多目的輸送艦(ゆそうかん)クラウディオスのブリッジでは、フブキとアキサムの二人のマイスター、以下乗組員の全員が、固唾(かたず)を飲んで声明の放送を見つめていた。

 

 ソレスタルビーイングの一員である彼等にとって、この声明は自分たちのこれからの行動を開始させる号砲(ごうほう)でもあったのだ。いやがおうにも緊張感(きんちょうかん)が高まる。

 

「始まったな」

「始まりましたね」

 

 バッツがそう言い、隣の席に座るシドが相槌(あいづち)をうって追従する。

 

「でも、これで世界中に私たちのことが知られたわけですよね! ああ、良かった。これまでずっと下準備ばかりで、ようやく自由に動けるようになったって感じ」

「もう、これからが大変なんだからね」

 

 ウェンディが場違(ばちが)いに思えるほど明るい声を出して、フブキが苦笑(くしょう)して返した。

 

「………」

 

 ヴァイオレットは無言でモニターを見つめていた。

 その奥では、マイスターであるアキサムも険しい表情でモニターを見ている。

 

 アキサムは思う、遂に始まったのだと。

 長い年月をかけた計画が、この瞬間に幕を開けたのだ。ガンダムやクラウディオスが完成に(いた)る道程を含めて、ソレスタルビーイングという組織を形作るには、多くの時間と人員が必要となっただろう。アキサムはその歴史を知らない。どれほどの時間が流れ、どれほどの人員が参加し、どのような思いがそこに込められているのか。

 

 しかし、それを自分たちの手で遂行(すいこう)する。彼等の思いを、ソレスタルビーイングの理念を具現化するガンダムのパイロットとして。

 

「アキサム、どうかしたの?」

「いや、そうだな…バッツさんのいうとおり、遂に始まったと思ってな」

「そう…私も同じね。口では何とでも言えるけど、やっぱり何か込み上げるものがあるの」

 

 誰よりも計画を実行する立場にあるガンダムマイスターの二人は、この場の誰よりも重い責任感を感じていた。皆の前では強がっていても、心の中では様々な感情が渦巻(うずま)いている。

 

 今でも二人の中には、心の奥の奥の方に、僅かにだがまだ信じきれない気持ちが残っているのだ。

 

 戦争根絶なんていう大それたことを本当にやるのか?

 そして、それははたして実現可能なのか?

 

 でももう、この放送を見て引き返せないと思った。もう計画は始まってしまった。自分たちは前進するしかないのだと。

 

 二人の中で、完全に覚悟が決まった瞬間だった。

 

 

 

 

 その頃、残るガンダムマイスター、フェイト・シックザールとシエル・アインハイトの二人もそれぞれの乗機(ガンダム)に乗りながら、声明の映像放送を見ていた。

 

「……始まったんだ」

 

 シエルは携帯端末(けいたいたんまつ)を閉じて、放送を見るのをやめた。もう何度も声明のビデオデータは見てきたし、そらんじて言えるほど内容を記憶している。

 

 遂にソレスタルビーイングの活動が世界に知られるようになった。

 彼は自分自身に再確認するように「ね、フェイト」と(かたわ)らの機体(アステリア)に乗る少女へ声をかけた。

 

「これで僕たちは世界に喧嘩(けんか)を売ったってことだよ」

「……うん、わかってる」

 

 フェイトは、じわりとした責任と使命を感じていた。

 彼女は別に争いを好んではいない。人が死ぬのはとても悲しい。それが自分たちに敵対する人間だとしてもだ。彼女は任務だからといって盲信(もうしん)的に破壊(はかい)活動に従事できるほど、心の中で割り切りを作ることができないのだ。

 

「世界の歪み……破壊しないと」

 

 だが、フェイトは世界に悪意があることを知っている。それを行使する人間がいることを知っている。自分がその被害者(ひがいしゃ)の一人だからだ。

 

 だからこそ、嬉しい。自分がガンダムマイスターであることが。世界の歪みを止められる場所にいられることが。…戦争根絶をこの手でなせることが。

 これから自分たちの行動で多くの人間が死ぬことになるだろう。それを(うれ)う気持ちもある。苦しく思う気持ちもある。けど、その一方で戦争に対して武力介入を行える自分を(ほこ)りに思う気持ちもある。

 

「だって私たちは、ソレスタルビーイングのガンダムマイスターなんだから」

 

 そんな相反する思いが重なってか、フェイトは心苦しそうに曲がれた眉毛(まゆげ)と、()んでいるような口元という複雑な表情を作っていた。

 

 

▽△▽

 

 

 ソレスタルビーイングの声明が全世界に発信された数刻後、各国の首脳(じん)は突如として現れた私設武装組織に対し、どのような態度を取るか議論(ぎろん)に追われていた。

 

 無関係であると静観を決め込む国、単なるテロ組織の一つとして楽観(らっかん)視する国、彼等を維持費(いじひ)のかからない防衛部隊として活用できないかと画策する国–––––––国家の状況によってその対応策は様々である。

 

 例えば、地球連合…というよりは大西洋連邦。その裏に控える秘密結社(ロゴス)のメンバーなどはこの存在に難色(なんしょく)を示し、実質的な傀儡(かいらい)()しているコープランド大統領は、彼等を危険度の高い武装グループと大々的に発表した。

 

 未だに中立を(たも)っているオーブ連合首長国やスカンジナビア王国は態度を留保(りゅうほ)していた。特にオーブは代表不在なこともあり、国外よりも国内の問題の方が大きい彼等は単なるテロ組織を気にする余裕がなかったのだろう。

 

 ソレスタルビーイングのモビルスーツが、ザフトの新型モビルスーツを圧倒した…というのは、それほどに各国へ与えた影響は大きかったのだ。彼等の理念はともかくとして、自軍が彼等の武力介入を受けたことを考えて、どの国も慎重になっていた。

 

 

 勿論、その議論(ぎろん)は、プラントでも行われていたのだが、アーモリーワンでの騒動(そうどう)に加えて、議長不在であることもあって、プラント最高評議会は大きく荒れていた。

 

「我が方の最新鋭機がこうもあっさりと……」

「これは新兵器開発に対するけん制とみていいでしょうか」

 

 正面の映像には、アーモリーワンでのガイアとガンダムの戦闘の様子が映されており、カオスとアビスが加わってなお圧倒されている様子に複数の議員が顔を(しか)めた。

 

「扱ったのがナチュラルとはいえ…」

「何を言っている。ミネルバ隊のインパルスも良いようにあしらわれたという報告を受けただろう」

 

 ()いで、映像はインパルスとガンダムの戦闘記録に切り替わる。ザフトレッドが操る最新鋭モビルスーツですら、まるで歯が立たないという様子に議会はあらためて騒き始めた。

 

「地球軍の策略だという報告も受けていますが、極秘裏にあそこまでのモビルスーツを開発できるのは、先進国レベルの技術と予算が必要になります」

「そんなことはありえん!」

「そもそも例の強奪犯との関係性すら明らかになっていないのだぞ!」

 

 議会はますます白熱していく。いつもなら(いさ)める立場にいるデュランダルもミネルバに乗っているために生憎と不在なのだ。漠然(ばくぜん)とした不安が彼等を更にヒートアップさせるのだ。

 

「確かに、武装組織には有力なバックがいるでしょうな」

「とはいえ、各国の諜報機関も組織に関する有力な情報をつかめていません」

「どの国家がバックにいるのかは、今後の彼等の行動で明らかになるでしょうな」

 

 議会はまだまだ終わりそうにない。

 それでも彼等の心には刻まれた。ソレスタルビーイングという存在を、今現在においては、地球連合軍をも超える脅威なのではないか、という少なくない疑念が。

 

 

▽△▽

 

 

 一方、その頃。

 その映像は、ミネルバにいたカガリとデュランダル達も確認していた。

 

「ソレスタルビーイング……」

 

 神妙(しんみょう)な表情で、デュランダルが呟いた。

 

「このご時世に武力による戦争根絶だと…馬鹿げている! 悪戯(いたずら)に戦火を広げるだけだっ」

「……どうしたものでしょうか」

 

 考え込むような仕草のシャーロットとは対照的に、カガリは感情的にソレスタルビーイングの言動を否定した。

 何たる愚かな行動なのか。前大戦、止まらぬ憎悪を止めるために戦った自分たちとは違う。彼等は本気で第三勢力として戦争を止めようとしているのだ。そんなことをしても、新たな憎しみを人々に植え付け、争いの種をばら()くことになるだけだというのに…。

 

「議長、どうしましょうか」

 

 あの放送が送られてきた後、艦長室に戻ってきたタリアがそう言ってデュランダルへ指示を仰いだ。

 ソレスタルビーイングなる組織があの強奪犯とどう関係しているかは分からないが、彼等の持つ戦力であるガンダムと相対するとなれば、現在のミネルバの戦力では心持(こころも)たないと言わざるをえない。

 

「そうだな……艦長、ボギーワンの位置はどうなっているかね?」

「先程と変わらなければ、距離15000程度で捉えていますが…こちらから奇襲となるともう少し近づく必要があります。さらにいうと、この先にはデブリベルトが存在するため、本艦での戦闘は厳しいかと」

「ふむ……そうか」

 

 タリアの言葉に少し考える様子を見せた後、デュランダルは次の指示を口にした。

 

「では、仕方あるまい。ミネルバはこれより後退。本国より援軍に向かわせているジュール隊やポアソン隊と合流せよ。その後の指示は追って伝える」

「は…はっ!」

 

 やはり後退…しかし、この状況で攻める方が危険ということも分かる。彼にしては珍しく意見があったと、そう思いながらタリアはクルー達に指示を伝えるべく艦長室を後にした。

 

「議長! あの部隊を見逃すというのは!?」

「…姫」

 

 が、そんなデュランダルへカガリが待ったをかけた。カガリとしては、新たな争いの火種であるあの部隊を見逃すのは看過(かんか)できない問題であり、是非ともミネルバにはあの奴等を捕縛、(ある)いは撃破して貰いたいと思っていたのだ。

 

 しかし、事態は既に強奪犯などを気にする余裕のないところにまで来ている。

 デュランダルはカガリへ(さと)すように言葉を続けた。

 

「しかし、姫。貴女も見たはずでしょう。あのソレスタルビーイングという組織は、あらゆる戦闘行為に対して武力を持って介入すると」

「それは……」

「あのガンダムという機体を相手にするには、この艦だけではリスクが高すぎるのですよ」

 

 それはつまり、このままカガリ達が乗っている状況で戦闘することを流石のデュランダルも認められなかったということだ。

 

 アーモリーワンで見たガンダムの力を前にすれば、このミネルバ隊とて無傷で済むとは言い(がた)い。更にあの強奪部隊の詳細が分からない以上、物事は慎重に進めるべきだとデュランダルは考えていた。

 

「それに、この状況でいつまでも本国を留守にする訳にもいきますまい。それは姫、貴女も同じなのではないですか?」

「あぁ……そうだな」

 

 それは、カガリも分かっている。

 中立を守り続けているオーブに限ってソレスタルビーイングの介入を受ける可能性は低いと思うが、この事態に本国を留守にしているのはカガリとしても好ましくない状況なのだ。

 カガリの留守はセイラン家やその他氏族に任せているが、ただでさえ大西洋連邦から圧力をかけられている現在、更なる問題を代表である自分が不在で(まと)められるのか。

 デュランダルに言われて、カガリは急に祖国(そこく)のことが心配になってきた。

 

「…………」

 

 黙ってしまったカガリに変わって、シャーロットが前へ出た。

 地球に帰らなければいけないのは、カガリだけではない。特にアズラエルの名を持つ彼女の場合はもっと複雑な状況にあるのだ。安全に素早く地球に帰還する必要がある。

 

「では、デュランダル議長。我々は地球に降りれる……ということでよろしいのでしょうか?」

「最終的には、そうなりますね。残念ながら、地球に降りる為の使者を迎えるまでは、このミネルバに搭乗して貰うことになりますが……」

 

 シャーロットの言葉に申し訳なさそうにデュランダルは言葉を続けた。

 

「勿論、安全は保証します。ボギーワン…例の強奪部隊については、本国からの応援を加えて行い、ミネルバは後方支援に留まるつもりです」

「そうなれば、この艦は安全ということでよろしいので?」

「ええ。それでも心配なら、代表や理事には私と共に一度本国へ来ていただくことも可能ですが……」

 

 その言葉に、シャーロットは首を横に振った。

 大西洋連邦の人間が、プラント本国に(おもむ)くことは彼女にとってもデュランダルにとってもリスクの大きいことである。できれば、非公式という建前(たてまえ)を扱ったまま地球へ戻りたいと考えていた。

 

「お気遣い感謝します。いえ、ではもう暫くこの艦にお世話になることにします。アスハ代表はどうされますか?」

「あ…あぁ。議長、よろしく頼む」

 

 カガリも続けてそう言うと、デュランダルは安心したように笑みを見せた。彼としても、新型モビルスーツの強奪にソレスタルビーイングなるテロ組織の登場という想定外の事態の連続でやや疲弊(ひへい)したような様子だった。

 

 だが、そんなデュランダルの様子が気にならないほど、カガリは深い思考の沼に沈んでいた。

 

 想定外の連続は、カガリにとっても同じこと。

 寧ろ、祖国から遠く離れた宇宙にて、何の情報も分からない状況で何もできないというのは、想像以上に彼女へストレスを与えていた。

 

 本国は今、自分の状況をどこまで知らされているのか。

 セイラン達のソレスタルビーイングへの対応は?

 大西洋連邦は、ザフトはこれからどう動くのか。

 そして、やはり戦争はまた始まってしまうのか?

 

 考えれば考える程、より思考の沼へ沈んでいく気がする。

 

「カガリ、会談は終わったのか? 議長は何と…」

「アスラン……」

 

 今はただ、彼に相談に乗って欲しかった。

 

 

 

 

 





原作のデブリでの戦闘はカット!
ショーンとゲイル、生存!(誰だよ
まぁ、原作でもセリフなしのモブだったので描写はないです。画面外でヨウランやヴィーノとつるんでいるんじゃないかな?

…ん?ヨウランって原作終了後死んだって言われてるけど、ホント?
世界で初めて「ラッキースケベ」っていう言葉を使った男なのになぁ。


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脈動する世界

 

 

『……わたしたちは、すべての戦争行為に対して武力による介入を開始します』

 

 モニターでは、ここ2日間ずっと同じ放送が放映されている。数刻前はそれなりの緊張感を持って受け止めていたそれも、ここまで来ると流石に見飽(みあ)きてくるというか何というか…。

 

「どの国のニュースも、僕たちの話題で持ちきりですね。謎の武装集団、全世界に対して戦争根絶を宣言するって。もっとも、ほとんどの人達は、信じてはいないようですが…」

「まぁね。どちらかというと、戦争根絶っていう大義よりはガンダムの力の方に注目されているってところじゃないの?」

 

 クラウディオスのミーティングルームにて、マイスターであるシエルとフブキは、世界各国のニュースを手持ちのディスプレイで(なが)めながら、各々の感想を口に出した。

 

 二人とも、(すで)にパイロットスーツに着替えている。これは、いついかなる時でもガンダムで出撃できる為の準備という意味もあるのだが……。

 

「–––––––では、信じさせようじゃないか」

 

 そう言って、中に入ってきたのは残るマイスターのフェイトとアキサム。二人と違って、彼等はそれぞれの私服(しふく)を着用している。

 

「ソレスタルビーイングの理念は、行動によってのみ示される」

「そういうことだ。二人とも準備しな」

 

 フェイトとアキサムはクラウディオスで待機。

 今回の任務は、シエル・アインハイトとフブキ・シニストラ。ガンダムセレーネとガンダムメティスの二機によるソレスタルビーイングの二度目の武力介入である。

 

「セカンドミッションだ」

 

 (いま)だその存在を信じきれない世界に向けて、ソレスタルビーイングの本気さを知らしめる為のセカンドミッション。ガンダムの力をより見せつけるいい機会だ。

 

 ––––––––次の彼等の目的地は、母なる地球。

 

 数刻後、クラウディオスより二機のガンダムが、美しいGN粒子の光を放って発進する。

 

 大気圏(たいきけん)を突破し、地球へ降りた二機の向かう先は………。

 

 

▽△▽

 

 

 世間を(さわ)がせるテロ組織が早くも行動を起こした…という知らせは、いち早く各国の首脳陣へと伝わる事となった。

 

 そして、それは少し遅れてミネルバに乗るデュランダルの元にも知らされる事になり、彼を通じてカガリの元にも……。

 

「ソレスタルビーイングが動いたというのは本当か!?」

 

 場所は再び艦長室。

 ソレスタルビーイングの情報を聞いてすっ飛んできたカガリが(けわ)しい剣幕(けんまく)で詰め寄る。傍にはバイザーを付けたアスランの姿もあり、その表情は共に険しい。シャーロットはというと、()り受けた自室にいるために不在だ。

 

「ええ。先程、大気圏を突破する二機のアンノウンモビルスーツが確認されました。内一機はアーモリーワンで目撃された機体と同一と見られています」

「つまり、私達の知らないもう一機が存在したということか。…彼等は一体どれほどの戦力を持っているというのか、恐ろしい限りだ」

 

 タリアの報告にデュランダルが思わず(うな)るように声を漏らしたが、ガンダムという機体の持つ力のことを思えば当然の反応だろう。

 

「それで、機体の進行ルートは?」

「元南アフリカ共同体、旧リベリア地区へ向かった可能性が高いと」

「リベリア? あそこは確か……」

 

 南アフリカ共同体。

 北アフリカ、西アフリカ地域の国家による経済・軍事同盟であり、二年前までは親プラント国という立場を取っていた(はず)だ。

 

「そうですね。あそこは現在ザフトと地球軍の勢力(けん)狭間(はざま)にある国で、今は地球軍と地域のレジスタンスの紛争(ふんそう)が起きていると聞いたことがあります」

「レジスタンス……」

 

 懐かしい名前にかつての仲間達を思い出す。

 南アフリカ共同体は、カガリ達「明けの砂漠」とアークエンジェル隊が「砂漠の(とら)」アンドリュー・バルトフェルドを打ち破ったことをきっかけに、地球連合軍の反抗(はんこう)作戦によってその自治が崩壊した地域だ。

 

 サイーブを始めとする彼等も戦っているのか…と、カガリは長らく会っていない戦友たちへ思いを()せる。

 

 そんな時だった。

 艦長室に備えられた電子通信にブリッジのメイリン・ホークから連絡が入ったのだ。

 

「……ええ、分かったわ。すぐに合流すると伝えて」

「艦長、何か分かったのか?」

 

 カガリの問いに、通信を切ったタリアは少し表情を和らげてその朗報(ろうほう)を告げた。

 

「ジュール隊とポアソン隊がもう間も無くこの宙域に到着するそうです」

「それはつまり…」

「はい、我が艦も間も無く発進します」

 

 援軍を待つ身であるミネルバは、現在ボギーワンから遠く離れた位置でゆっくりと追跡している。

 

 ボギーワンはソレスタルビーイングの存在を警戒しているのか、はたまた強奪した新型のデータ収集・修復に集中しているのか、ここ二日の動きは非常に緩慢(かんまん)だった。

 そのためか不幸中の幸いとして、ミネルバはギリギリボギーワンを補足(ほそく)することができていた。

 

「それと議長。最高評議会よりチャンネルワンでの通信があるそうです。緊急を要する為にブリッジへ…」

「ああ。それにしてもチャンネルワンとは…ソレスタルビーイングの件かね?」

 

 チャンネルワンとは、プラントにおいて緊急の場合にのみ用いられる最優先のホットラインだ。余程の事で無い限り使われる事は無く、ここ二年使われることは片手の数にも満たなかったはずだ。

 

 眉を顰めるデュランダルの言葉に、タリアもあまりよく分かっていないのか、不思議そうな表情を浮かべてブリッジから届いた報告を口にした。

 

「いえ、メイリン・ホーク曰くユニウスセブンについての報告だそうで…」

「何…?」

 

 そうして、自由に動くことのできなかったミネルバにようやく援軍が到着(とうちゃく)する。

 しかし、それは新たなる衝撃を彼等に与えることになる。それも、ボギーワンやソレスタルビーイングなどを気にしていられる余裕を奪うほどに…。

 

 

▽△▽

 

 

 世界中の注目が集まる元アフリカ共同体旧リベリア地区。木々一つない山岳(さんがく)地帯において、二つの勢力が渓谷(けいこく)を挟んで睨み合っていた。

 

 この場所を支配(しはい)したい地球軍側と、それに反抗するレジスタンスの対立は年々深刻(しんこく)となり、終戦を迎えた今となっても小さな紛争として各地で争いは発生していた。

 

 とはいえ、正規(せいき)軍である地球軍とあくまで抵抗戦力に過ぎないレジスタンスでは、その戦力に大きな開きがあるのも事実。

 

 地球軍側はその物量(ぶつりょう)に加え、あのGAT-X105ストライクと同等以上のスペックを持つ主力機ウィンダムを中心にダガーなどを含めた小隊(しょうたい)を複数派遣(はけん)

 それに対して、連合が低価格で売り払ったストライクダガーや鹵獲(ろかく)したジンなどの旧式が中心のレジスタンス側は、当然不利な戦局に(おちい)っていた。

 

 

 そして、そんな黒煙(こくえん)の立ち込めるリベリアの空にて、緑色に輝く粒子を放つ機体が二つ。

 

〈それでは二人とも、ヴェーダのミッションプランの通りに対応を。それなりの戦果を期待しているのでよろしく〉

「それなり…ね」

 

 GNメガランチャーを腰に備えるガンダムセレーネのコックピット内にて、黄緑色を基調(きちょう)としたパイロットスーツに身を包みながら、シエルはアキサムの下手くそな激励(げきれい)に苦笑した。

 

〈それじゃあ、朗報を期待するぜ〉

 

 そんなセレーネの隣を飛翔(ひしょう)する赤と白の色が目立つ戦闘機タイプのマシン。MA(モビルアーマー)形態への変形機構(きこう)を持ち、一撃離脱/先制攻撃戦法を得意とするガンダムメティスだ。

 そして、そのコックピットの中でマイスターのフブキはどこか陽気な()みを浮かべ、鼻歌混じりに眼下の戦況を(なが)めていた。

 

「さて、始めましょうか! ガンダムメティスとフブキ・シニストラの初陣(ういじん)を!」

 

 それは彼女なりの戦意(せんい)を高める為の方法だった。しかし、メティスがモビルスーツ形態へ姿を変えた時、その眼から笑みの色は消えていた。

 

〈セカンドミッション、開始!〉

 

 手始めにセレーネのGNメガランチャーが放たれ、それが開砲(かいほう)となってソレスタルビーイングの武力介入は始まった。

 

 

 その頃、リベリア渓谷地帯に展開(てわかい)していた地球軍のダガー小隊は、レジスタンス勢力の持つストライクダガー相手に完全に優位(ゆうい)に立っていた。

 

 何せ機体の量も質も上、パイロットの腕でさえも差があるのだ。レジスタンスにできるのは、戦闘という名の時間稼ぎが精一杯(せいいっぱい)なのである。

 

〈敵機、反応が消失しました!〉

「よぉーし…。敵部隊の30%をたたいた。このまま一気に殲滅させるぞ!」

 

 そんな彼等の元に天上なる存在が()い降りる。

 始まりは一発のビームだ。それは一体のダガーの左脚を貫き、それを機に次々と光の(はしら)がダガー小隊へと降り(そそ)いだ。

 

〈一体何事だっ!?〉

〈隊長、本部より入電。ソレスタルビーイングが現れました!〉

「何ぃ!? 本当に現れたのか……ソレスタルビーイングッ!」

 

 そして、空から光の尾を引いて現れた白と朱色の機体……ガンダムから放たれたビームがダガー小隊の武装を中心に破壊していく。

 

「止まっていてはただの的だっ…各機、迎撃せよ!」

 

 隊長機であるウィンダムを中心にビームライフルによる射撃を行なっていくが、そのビームの雨を簡単に回避したガンダムは素早くダガーの腹の中に潜り込むと、取り出したビームサーベルで一閃(いっせん)

 

〈ブライアンっ!? くそっ、ガンダムめ!〉

 

 それに対して、ビームサーベルを抜刀(ばっとう)したダガーが突進するが、ガンダムは向かってきたダガーを地面を(すべ)るような動きで回避すると、素早く背後に回り込んでビームサーベルごとその左腕を斬り落とした。

 

〈隊長、ダメです!動きがまるで違います!〉

〈この…うっ、ぐわぁ!〉

 

 そして、振り向き様にビームライフルで残るダガーのメインカメラを破壊すると、流れるような動きで四肢を解体(かいたい)する。

 

 幸いにも倒された三機のダガーのコックピット部は無傷のようだった。あれならばパイロットも無事だろう。いや、()えてパイロットを傷つけないようにガンダムは(ねら)ったのかもしれない。その戦闘スタイルに、噂で聞いたヤキンのフリーダムを思い出す。

 

「全滅だと……くそっ!」

 

 何という性能、何という圧倒(あっとう)的な力。噂に聞いたフリーダムに引けを取らない戦闘能力を前に、ウィンダムのパイロットは震えた。

 

 そして、真っ直ぐに自分へ向かってくるガンダムに、ウィンダムもまたその武装ごと両腕と右脚が破壊された。またしてもコックピット部分は狙われなかったが、片足だけになったウィンダムはバランスを(くず)して地面へ倒れる。

 

「これが……ガンダムか」

 

 倒れたウィンダムを見届けた後、もはや用はないとばかりに背面から光の粒子を噴出(ふんしゅつ)して、この場を離れていく。 

 その光を(まぶ)しそうに(なが)めながら、ウィンダムのコックピットディスプレイはプツリと消えた。

 

 

▽△▽

 

 

「よーし、ミッションクリア」

 

 沈黙した地球軍部隊を見届けて、フブキはメティスを上空へ飛翔させる。

 チラリと別の方角を向けば、そちらではセレーネがGNメガランチャーで猛威(もうい)を振るっており、その威力を前に連合は撤退を決断したようだった。

 

 セカンドミッションの目的は大方完了したと言ってもいいだろう。これでソレスタルビーイングが本気だということが世界に伝わるといいのだが…まぁ、いいか。戦争根絶のためにはまだまだこれからだ。

 

「シエル。こっちは終わったから先に戻って–––––––」

 

 これにてセカンドミッションはクリア。

 一足先に宙域を離脱しようとメティスを加速させようとしてーー。

 

〈…協力を感謝する!〉

「は?」

 

 撤退する連合を追うレジスタンスの集団を見て、取りやめた。

 

 …どうやら、まだセカンドミッションは続いていたようだ。無表情で操縦桿を握ったフブキはメティスの高度を下げると、モビルスーツ形態へ変形させて彼等の前に立ち(ふさ)がるように飛行する。

 

〈敵陣は崩れた。ソレスタルビーイングに続け…っ〉

〈連合め、今までの借りを返してやる!〉

〈ガンダムが味方になれば、お前たちなど–––––〉

 

 そして、すれ違い様にビームサーベルを一閃。ストライクダガーとジンを()()()()()()()()切り裂き、爆散させた。その姿に周囲のレジスタンス達も動揺したような反応を見せる。

 

 全く、何を勘違いしているのか。見飽きるほど放送されていたあのメッセージで、ソレスタルビーイングは一体何を表明していたのかを忘れたのか。

 

「…ああ、もう。ホント、馬鹿ね」

 

 武力による戦争根絶。

 ソレスタルビーイングは全ての戦争行為に対して、介入を行うと。そしてそれは、例えやられていた側の攻撃だろうと例外ではないのだ。

 

 馬鹿げていると世間は反応するだろう。

 戦いの双方に介入するなど、どちらからも反感を買うだけだと。

 

 しかし、そんなことは彼等も承知(しょうち)している。その上で行動しているのだ。

 

 一度で終わらないなら、何度でも介入する。

 戦争が終わるまで、世界が一つになるまで……憎しみが自分たちに向けられるまで。

 

「でも、これが私たちの……ソレスタルビーイングのやり方よ」

 

 ソレスタルビーイング。

 それは、物事を変える時の付き纏う痛みそのものなのだから。

 

 

 





>ユニウスセブン事件について
原作だと強奪事件のすぐ後に発生していましたが、今作ではソレスタルビーイングの活動によって、サトー達が慎重に行動している分遅れているという認識でお願いします。

>ガーディ・ルー何しているの?問題
タグのご都合主義が輝きます。中では、SEED時代のデュエルの如く、不思議な技術によってアビスやガイアの修復が行われていることでしょう。

まぁ、あまり難しいことは考えずに見ていてください。文才ないので、展開考えるのが難しくて…ほんとにごめんなさい


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脈動する世界Ⅱ

 

 ソレスタルビーイングがリベリアの争いに武力介入したという情報から(しばら)く。彼等についての詳細な情報を求めたカガリがデュランダルから聞いたのは、まるで寝耳(ねみみ)に水の、耳を疑うような情報だった。

 

「ユニウスセブンが動いてるって…本当なのか、それは!?」

 

 これで何度目になるか分からないカガリの叫ぶかのような声。それに対するデュランダルの沈鬱な表情も合わさって、軽いデジャビュを感じさせる。

 

 しかし、それを気にする余裕がないほど、その場にいる者達は重大な事態の中にあった。

 

「そんな、一体何故…!」

「判りません。だが動いているのです。それもかなりの速度で、最も危険な軌道を」

 

 ユニウスセブン。

 それはこのコズミック・イラの()の歴史を象徴するもの。「血のバレンタイン」と呼ばれ、地球・プラント間の争いが本格的な武力衝突に発展したきっかけの地でもある。

 

「それは本艦でも確認しました。簡易的なデータを作成したので、ご覧下さい」

 

 そう言ってタリアがモニターに映し出したのは、動き出すユニウスセブンの姿とそれがこの先どのようなルートを辿(たど)るかのシミュレーションデータ。

 そして、軌道(きどう)がズレたユニウスセブンが向かう先には……地球がある。

 

「…落ちたら、落ちたらどうなるんだ?オーブは…いや地球は!」

「あれだけの質量のものです。申し上げずとも、それは姫にもお判りでしょう」

 

 そんなこと、当然カガリにも判っている…いや、(むし)ろ想像もつかないというのが正しいだろうか。

 

 もはや戦争どころの話ではない。地球人類の生存を(おびや)かす問題にまで発展するだろう。それはカガリの住むオーブとて決して例外ではない。

 

「しかし、何故そんなことに? あれは100年の単位で安定軌道にあると言われていたはずのもので…」

「隕石の衝突か、はたまた他の要因か。兎も角動いてるんですよ。今この時も。地球に向かってね」

 

 努めて淡々というデュランダルの言葉に、アスランは表情を歪めた。

 

 ユニウスセブンは、彼にとって様々な思い入れのある地である。母を亡くし、父が戦争を……ナチュラルを憎む要因になった事件の起きた場所。だからこそ、あの地がこの先、何者にも触れられない安寧(あんねい)の地だと思って安心していたのだが…。

 

「では議長。プラントとしては、これに対してどのような対応をするおつもりで?」

 

 極めて冷静にシャーロットが言う。

 彼女にとっても決して他人事ではないはずなのに、あそこまで冷静にいられるのはやはり経験の差なのだろうか。

 心の中で自分を恥入(はじい)りつつ、カガリもその質問に追従した。

 

「またもアクシデントで、代表方には大変申し訳ないが、私は間もなく終わるジュール隊・ポワソン隊との合流を待って、このミネルバにもユニウスセブンに向かう命令を出しました」

「それは……事態の解決に協力いただけると言うことでよろしいのでしょうか?」

「勿論です。あのユニウスセブンは紆余曲折あれど、元は我等のプラントですし。この緊急事態の対処に全力で取り組む予定です」

 

 ハッとして、カガリは顔を上げる。

 デュランダルは、自ら直接現場に(おもむ)いて作業の監督(かんとく)に当たると言っているのだ。表面上は淡々としていても、彼がこの事態を非常に重く受け止めている証だ。

 

「幸い位置も近いもので。理事と代表にもどうかそれを御了承いただきたいと」

「勿論ですわ。これは私たちにとっても…いや、むしろ私たちにとっての一大事ですから。ねぇ、アスハ代表」

「あ、あぁ! 私…私たちにも何かできることがあれば…」

 

 答えながら、カガリは今の自分が成すべき事、できる事を模索(もさく)する。今までは見ていることしかできなかった。

 国から離れた今の自分には動かせる人員も、権力もない。そんな自分にできること、それは…。

 

 

▽△▽

 

 

 宇宙でザフトが動き出したユニウスセブンの対応に追われている頃、地球のユーラシア西部のとある邸宅(ていたく)の地下にて、とある集会が行われていた。

 

「…さてと。皆さん、この度はお集まりいただきありがとうございます」

 

 持ち主の育ちの良さが伺える豪勢(ごうせい)な装飾品や絵画が飾られた部屋の中、幾十(いくそ)のモニターに映る複数の老人達を前に一人の男が大仰(おおぎょう)に話しかけた。

 

「さぁて…とんでもないことになりましたねぇ」

 

 貴族のように整えた身なりに、心に秘める野心と自信を(のぞ)かせる鋭い眼光。

 

 その男の名は、ロード・ジブリール。

 前盟主ムルタ・アズラエルの亡き後、力を失っていたブルーコスモスを以前と同等以上にまで建て直して現盟主になった男である。

 

〈ふむ、いささか面倒なことになったのう〉

 

 ジブリールの言葉に、その言葉通りに面倒そうな表情を浮かべたのは、この中でも一際年配の男だ。だが、そんな彼はジブリールの知る限りでは、この地球において10%ほどの財を持つ権力者である。

 

〈まさに未曾有の危機。地球滅亡のシナリオということですかな〉

〈よもや書いた者がいるとでも言うのかね?〉

 

 彼等の議題は、今現在地球に迫っているユニウスセブンに関する物である。

 

「それはファントムペインに調査を命じています。時間的にも、そろそろ落下軌道に合流できるかと」

〈ほう、ザフトのオモチャを強奪した部隊か…だが、今更そんな情報が役に立つのかね?〉

「だから調べるんですよ、これからね」

 

 二年前より更に力をつけたブルーコスモス。そのトップであるジブリールは「ファントムペイン」という私設部隊を所有していた。アーモリーワンでザフトの新型機の強奪を命じたのも、彼の命による物である。

 

〈しかし、この招集の目的は何だ。ソレスタルビーイングといい、ユニウスセブンといい、我々が忙しい身であることを理解してもらいたいものなのだが…〉

 

 忙しい…というのは、己の趣味趣向(しゅみしゅこう)に割く時間がなくなっていることに関してだろう。彼等ほどの身分ともなれば「対策」は全部下の者がやるだろうし、彼等はただそれに許可を出すだけの仕事だ。

 

 だというのに、「忙しい」とはいいご身分である。老人どもの苦言に(ほお)をひくつかせながら、ジブリールは笑顔を貼り付けて言葉を続けた。

 

「それは失礼…しかし、このように皆様の手を煩わせるこの事態は一体どうして引き起こされたのかは、皆様にとっても重要な話ではありませんかな?」

〈うむぅ…〉

「一体、何故! 私たちがあんな『無様で馬鹿な塊』の為に逃げ回らなければならないのか!?」

 

 徐々に熱を帯びていくジブリールの言葉は、まるで教徒を(あお)る教祖の発言のような物だ。流石はブルーコスモスの盟主を務めるだけはある。

 

「この屈辱はどうあっても晴らさねばなりますまい。誰に? 当然、あんな物をドカドカと宇宙に造ったコーディネイター共にです!! 違いますか!?」

 

 だがしかし、怒りに熱くなるジブリールに対し、老人達は(かえ)って冷めた調子で話を聞いている。何せ彼等は感情論ではなく、己の損得を第一に動く死の商人(ロゴス)なのだ。

 当然、考えるのは己の安全と影響力の保全だ。

 

〈ふむ……それは構わんがの〉

〈だがこれでは………被る被害によっては、戦争をするだけの体力も残らんぞ?〉

 

 最悪、明日には彼等が支配する地球そのものが終わっている可能性もあるのだ。

 

 彼等にとって、自分達の安全とコーディネーターを滅ぼすことはイコールになり得ない。リスクとリターンが()り合ってない以上、素直にジブリールの提案に同意することは難しかった。

 

「無論、理解していますとも…そこでこんな提案はどうかと」

 

 だが、そんなことは、もう老人達とも長い付き合いになるジブリールとて理解している。彼等を頷かせるプランは既に()っているとも。

 

 手元でいくつかの操作を行い、モニターにこの事態による被害予測や、それの復興(ふっこう)のための費用・人員などの手配についての資料が提示される。

 そして、それに伴うものを全てブルーコスモスが負担するということも。

 

〈おぉ!〉

〈ジブリール、素早い対応だな…!〉

 

 計画は成功したようだと…ジブリールはほくそ笑む。こうして甘い蜜を向ければ、老人どもも考えを軟化(なんか)させるだろうという考えは当たっていたようだ。

 

「フフ…こちらはお願いする立場ですし、これくらいは当然ですよ」

 

 その代わり、と言葉を重ねる。

 ジブリールは胸の前に手を置き、ロゴスのメンバーへ優雅(ゆうが)に頭を下げた。

 

「例のプランの発動を。そのことだけは皆様にも御承知おき頂きたく」

 

 その言葉に彼等の表情が変わる。

 例のプランとは、ここ最近彼等が画策していたある計画のことだ。

 だが、それを実行するに当たって、何かしらのきっかけが必要だった。規模は大きいが、絶好の機会ともいえる。

 

〈なるほど、強気だな〉

〈だが、このままいけば、コーディネーター憎しでかえって力が湧きますかな、民衆は〉

〈残っていればの話ですがな〉

 

 老人達も、ブルーコスモスほどではないが、コーディネーターに悪感情を抱いている。安全に奴等を滅ぼせる機会があるなら、食い付くだろう。

 

〈…どうやら、皆プランに異存はないようじゃの、ジブリール〉

 

 その言葉は事実上の承認に等しい。

 下げた頭の下でニヤリと笑いながら、ジブリールは己の成功を(さと)った。

 

〈では次は事態の後じゃな。君はそれまでに詳細な具体案を〉

「はっ」

 

 それが、事実上の閉会宣言(せんげん)となった。

 

〈しかし、どれほどの被害になるのかね〉

〈戦争はいいがこういうのは困るね〉

〈どちらにせよ、青き清浄なる世界の為に、さ〉

 

 堅苦(かたくる)しい会議が終われば、始まるのは老人たちのプライベートな会話だけだ。といっても、ジブリールからすれば、彼等は公と私を履き違えているボケ老人どもだが。

 

〈しかし、シャーロット嬢が出席されないとは、随分とお忙しいようですな〉

〈あの若さで国防産業理事という異様な出世だからな。色々とあるのだろうさ〉

〈ふぅむ、もっと我々を頼ってもらっても構わないのですがな〉

〈まぁ、彼女にも譲れないプライドくらいはあるのでしょう〉

〈ハハハ、アズラエルに比べれば、だいぶん可愛らしいではないですか–––––〉

 

 –––––––––––––ブツッ!

 

 これ以上老人のボケ話に付き合っていられないと、ジブリールはモニターの電源を落とした。

 それから、持っていたグラスを下ろしてうんざりした様子で息を吐く。

 

「…バカな老人どもめ」

 

 全く持って、()(がた)い程の能天気さだ。無理も無い。連中の頭にあるのは、この事態がどう自分達の利益に繋がるかだけなのだから。

 

「さて……レクシオ」

「はい、ここに」

 

 まるで管楽器のような響きのよい声が聞こえた。

 部屋から出たジブリールの声に応えたのは、物腰の(やわ)らかそうな少年だった。さらりと流れるような髪、大きな眼にすらりと整った鼻筋、女性とも見間違うような中性的な容姿。

 

 名をレクシオ・ヘイトリッドという。

 レクシオは、ジブリールが今は亡きムルタ・アズラエルの紹介で引き取った少年だ。孤児院出身ということを抜きにしても、並のコーディネーターなどを歯牙(しが)にかけない優秀なナチュラルであり、ここ近年の活躍でジブリールが最も信頼している部下である。

 

「君が用意してくれた資料は非常に役立ったよ。ようやくバカな老人どもの腰を上げさせることができた」

「いえ、恐縮です」

「全く、老人どもはシャーロット・アズラエルを天才と言うが、私からすれば君の方が幾分も機智(きち)に富んでいて美しい」

 

 レクシオは何も(こた)えなかった。

 だが、ジブリールにとってはそれが一番心地いい。必要以上に口を出す部下など不快なだけだからだ。

 

「君には期待している。これからもよろしく頼むよ」

「はっ…」

「とはいえ、今は暫し待つ時でもある。ファントムペインが動くまでは私たちも最後の休暇を楽しませてもらおうか」

 

 そういうと、ジブリールは地下室を去った。

 おそらく、寝室へ戻ったのだろう。レクシオは無言でその後ろ姿を見守っていた。

 

 そして、完全に姿と足音が消えた後。

 無人となった地下室の中で、残されたグラスを見つめながら、その瞳が黄金に輝く。

 

「さて、バカは一体どっちかな…」

 

 小さく呟いたその一言は、暗黒の空間に溶けるように消えていった。





>ジブリールは大使枠?
どちらかというと、レクシオがリボンズを参考にしているだけ。
どっちも小物同士だけど、モビルアーマーにまで乗る大使とは小物レベル(?)が違うからね。

>ロゴス内でのシャーロット嬢のポジ
まだ若く、己の地位が脅かせることがないので老人達も可愛がっている。
実質、お爺ちゃんと孫みたいな関係。無駄にご賢しいアズラエルの代わりに可愛くて賢い美女が入ったので喜んでる。間違いなくボケ老人。


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星屑の墓場Ⅰ


※話の展開上、特定のキャラに厳しめの話になることもあります。ご了承ください。


 

 ジュール隊、ポワソン隊と合流したミネルバは、先行するマックスウェルとルソーに追従し、ボルテールと肩を並べながらユニウスセブンを追うコースを航行(こうこう)していた。

 

「メテオブレイカー…この数で足りますかね」

「一応、本国から更なる援軍も来ているが、この距離では間に合わないだろう」

 

 ユニウスセブンの落下を防ぐ方法…それはメテオブレイカーを使った出来る限りの破砕(はさい)だった。細かく砕いて、地表への被害を減らすこと。それが今のプラントにできる精一杯の手段だったのだ。

 

「あの、地球軍側に何か動きはないのでしょうか?」

「さてね。理事にも声をかけるようお願いしたが…今月から向かったところで同じことだろう」

 

 現在の地球軍の宇宙軍は、その大半が月に集結している。万が一シャーロットの声掛けで艦を出したところで、メテオブレイカーのような装備を準備できるとも思えないし、タイムリミットにも間に合わないだろう。

 

「あとは地球からミサイルでの撃破を狙うしかないだろうが………それでは、地表を焼くばかりで、さしたる効果は上げられないだろうな」

「ええ」

 

 デュランダルの言葉にタリアも頷く。

 何せユニウスセブンはプラントそのものなのだ。自分が暮らしている場所のことは、コーディネーターの自分達が一番よく知っている。

 

 あのユニウスセブンを破壊するとなると、余程の火力が必要となる。それこそ……いや、思わず先日の私設武装組織のことを思い出して、デュランダルは頭を横に張った。

 例えガンダムといえど、モビルスーツである以上は完全な破砕は難しいだろう。それに、今彼等は地球にいるはずだ。やはり自分たちが行動するしかない。

 

「出来る限り急ぐしかあるまい」

「えぇ、もうすぐミネルバへのメテオブレイカーの搬入も終了するはずです」

「なるべく急いでくれ……さて、待たせてすまなかったね」

 

 そう言うと、デュランダルは背後に控えるアスランへ振り返った。そこにカガリの姿はない。先に控え室に戻るように言って、彼はこのブリッジに残っていた。

 

「どうしたのかねアスラン、いや、アレックス君か」

「いえ…」

 

 正直なところ、まだアスランと呼ばれることに抵抗はあるのだが、アレックスという偽りの名で呼ばれるのも、どこか嫌だった。

 しかし、今はそんなことを気にしている場合ではない。アレックス改めアスランは頭を下げて、前代未聞の言葉を口にした。

 

「無理を承知でお願い致します。私にもモビルスーツをお貸し下さい」

「なっ!?」

「……ふむ」

 

 会話を背後で聞いていたタリアは、思わず驚きの声を口に漏らした。

 そんなバカな願いが通るわけがいないでしょう!と口に出そうとして、彼の会話している相手が議長だということを思い出してギリギリで口を閉じた。

 

「バカなことを言っているのは解っています。でも、この状況をただ見ていることなど出来ません。使える機体があるならどうか」

「そうだな……艦長、この艦にモビルスーツは?」

 

 なるほど。確かに説得するなら軍人のダリアではなくデュランダルの方が通じやすいだろう。流石は元最高評議会議長の息子と言ったところか。

 そんなアスランにとって皮肉にしか聞こえないだろうことを思いつつも、タリアは命じられたことに素直で答えるほかない。

 

「いえ…彼等の乗ってきたザクが一機。整備されて残っていますが」

「よし、ならば私が許可しよう。アレックス君、君の力を貸してもらおう」

「議長!?」

「戦闘ではないんだ、艦長。出せる機体は一機でも多い方がいい」

 

 それはそうだが、軍人として他国の人間を軽々しく機体に乗せることは(はばか)られる。

 しかし、デュランダルはそんなタリアの心境を知ってか知らずか、笑顔で言葉を続けた。

 

「それにこの艦で彼以上にモビルスーツの操縦が上手い人間を、私は知らない」

 

 彼の中では、既にそういうことになっているようだ。

 いつだって、折れるのは自分のほう。アスランへ激励の言葉をかけるデュランダルを横目に、タリアは本日何度めかのため息を吐いた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 一方その頃、アーモリーワンを出発したきり何の仕事もないミネルバクルー達は、動き出したユニウスセブンを始めとした話で盛り上がっていた。

 

 いきなり地球に隕石が落ちるから、これから破砕作業に向かうと言われても冷静に受け止めきれない人間の方が多い。経験の浅い新兵が多く属するミネルバなら尚更だ。

 

「聞いたか? ソレスタルビーイングが地球で武力介入したらしいぜ?」

「ああ、地球軍相手にたった二機で引かせたらしい」

 

 耳を()ませは、中にはソレスタルビーイングについて話している奴の声も聞こえてくる。初めてガンダムを目撃したということもあって、ミネルバクルーの間で私設武装組織(ソレスタルビーイング)のことはある種のブームになっていたりするのだ。

 

「地球への衝突コースって本当なのか?」

「うん、間違いないって」

「ジュール隊の隊長が議長に会いにミネルバにきているって本当?」

「多分、そっちも本当…なのかな?」

 

 とはいえ、話題の中心はユニウスセブンについてだろう。

 缶ジュースを受け取ったシンがテーブルに戻ると、そこではヨウランとヴィーノ、それとルナマリアとメイリンの姉妹が話し合っていた。

 

「それにしても、アレを砕くってすごい発想だよなぁ」

「メテオブレイカーだろ? 遠目に見たけど、あんなんでプラント一つ破砕できるのか?」

 

 ミネルバの整備班であるヨウランとヴィーノは、つい先ほどまでボルテールからメテオブレイカーの輸送の作業を行なっていたのだ。

 既に殆どの作業は終了しており、残りはチーフメカニックであるマッド・エイブスに任せて、若い二人は早めに休憩に入っていた。

 

「それに砕くって言っても………この数でか」

「デカイぜ、あれ。ほぼ半分に割れてるって言っても、最長部は8キロくらいはあるんだろ?」

 

 どこか信じられないようにヨウランとヴィーノが言う。

 メテオブレイカーの実物を見た今となっては、理論上は可能だということを理解できるが、それを信じられるかは別問題だ。人員も時間も足りていないこともあって、彼等はどこか不満げだった。

 

「––––––––––だが、衝突すれば地球は壊滅する」

「「…………っ!」」

 

 どこまでも冷静で現実を見ているレイの言葉に誰もが息を呑んで黙り込んだ。

 

 地球が終わり、そこには何も残らない。

 多くの生物が死に絶え、地球に住む人々は絶望に暮れることになるだろう。

 それはあまりに現実感のない話であり、それこそフィクションの世界で起こるような事だ。それが自分達の目の前で起こると言われても、どうにも実感が湧かないというのが彼等の内心だった。

 

「地球、滅亡…」

「………だな」

 

 そんな様子を、シンは複雑な気持ちで見つめていた。

 プラントで生まれ育った彼らと違い、地球はシンにとっては生まれ故郷である。もうそこに自分が愛した者が残っていないとしても、幸せだった時の大切な思い出は眠っている。

 

「……でもま、それもしょうがないっちゃあ、しょうがないんじゃないか?」

「は?」

 

 だからこそ、その無神経ともいえる言葉にシンは驚いて顔を上げた。

 ヨウランも本気で言っているとは思えないが、この場で言う冗談にしては、不謹慎(ふきんしん)すぎる気がしたのだ。

 

 だがヨウランとしても、落ち込みかけた空気を立て直したかったのか、シンの変化に気づくことなく言葉を続けた。

 

「だって不可抗力だろう? 逆に変なゴタゴタも綺麗に無くなって、案外楽かも。俺達プラントにはさ…」

 

 それが、生まれてから地球を知らずに育ったコーディネーター達の価値観だったのだろう。逆に、地球に住む人たちもプラント一つ滅んだところで何も気にしないだろう…という偏見もある。

 だからこそ、ヨウランも軽い気持ちで言い、周囲のクルー達も特に口を出すこともなかったのだろう。

 

 だがまぁ、彼等にとってタイミングの悪いことに、それを言ってはいけない人間に聞かれてしまった。

 

「よくそんなことが言えるな!お前達は!」

 

 鋭い怒声が、ヨウランの言葉を(さえぎ)る。

 びくりとした一同が視線を向ける中、部屋に入ってきたのは怒りに肩を震わせるカガリの姿だった。そこに随員(ずいいん)だと言っていたアレックスの姿はない。

 

「…しょうがない? 案外楽だと!? これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ほんとに解って言ってるのかッ!?お前達はッ!!」

 

 激昂したカガリが怒鳴りつける。

 不思議なことに、シンはその言葉に無意識に同意していた。ヨウランの言葉は仮に冗談だとしても言い過ぎだった。

 

「…すいません」

 

 立場上頭を下げざるを得ないヨウランは、おざなりな謝罪をするが、表情にはありありと不満が浮かんでいる。不幸中の(さいわい)いなのは、それがカガリに見えていないことだろうか。

 

「あれだけの戦争をして、あれだけの悲しい想いをして…やっとデュランダル議長の施政の下で変わったんじゃなかったのかッ!!」

 

 そんなカガリの言葉に対し、ミネルバのクルー達の反応は冷ややかだ。彼女の言い分は全く持って正しいのだが、それをいちいち指摘(してき)されれば、逆に反発心も芽生(めば)えて来ると言うもの。

 

 そして、元々カガリに対して反発心を抱くものなら、尚更だった。

 

「別に本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも」

「なに…?」

 

 カガリの金眼とシンの紅い眼が交差する。

 睨みつけてくるカガリに対して、シンも真っ向から立ち上がって視線を受け止めて睨み返した。

 

「ヨウランも謝った。なら、もういいだろ」

「なんだと?」

「そんくらいのことも分からないのかよ、アンタは」

 

 別に彼女の怒りを否定するつもりはない。しかし、ただただ怒りのみをぶつけてくるカガリの言葉など……「アスハ」の言葉などシンは受け入れるつもりは毛頭なかった。

 

「シン、言葉に気をつけろ」

「ああ、この人偉いんでした。オーブの代表でしたもんね。だったら、こんなところで油を売ってないで部屋に戻っていた方がいいんじゃないですか?」

「お前ぇッ!」

 

 売り言葉に買い言葉。レイの忠告も意味もなく、根っこが直情的な二人は更にヒートアップする。それをミネルバのクルー達はハラハラして見守っていた。

 

「––––––––そこまでだ!」

 

 その時、制止する声と共に誰か部屋へ入ってきたため、一同の注目は移った。半ば取っ組み合いのような睨み合いになっていたカガリとシンも思わず視線の主へ振り向く。

 

「議長を迎えに行こうとミネルバまで来てみれば、一体何をしている」

「………イザーク?」

 

 そこにいたのは、カガリが二年前の大戦で知り合った少年、イザーク・ジュールだった。関わりはほんの僅かだったが、アスランのかつての仲間であったことは聞いている。

 ただ、以前と違う印象として、真っ直ぐに切り(そろ)えられたプラチナブランドの髪から覗く、冷たく整った顔立ちからは、二年前に付いていた古傷は消えていた。

 

「よ、お久し」

「ディアッカまで…」

 

 イザークの後ろからゆらりと現れたディアッカ・エルスマンが、ニヒルに笑ってカガリへ片手を上げた。

 

「…イザーク・ジュールだって?」

 

 カガリが身を引いたことで頭に上った血が戻ったのか、シンは聞き覚えのある名前に思わず呟いた。

 

 イザーク・ジュールの名はシンもよく知っている。あのエリート(そろ)いのクルーゼ隊の隊員にして、ヤキン・ドゥーエでの戦いを最後まで戦い抜いた元ザフトレッド。

 アカデミーでは、あのアスラン・ザラに次ぐ成績で卒業しており、教官から名前を聞くこともあった。

 

「それで、中から大声で揉め事でもあったのか? 外にまで聞こえていたが…」

 

 ジロリと鋭い眼光がミネルバクルーを見据える。

 まさか国家元首のカガリに何か失礼なことをしていないかというような目線に、心当たりしかないヨウラン達はぶるりと肩を振るわせる。

 

「…すみません、我々がアスハ代表に失礼を」

「何?」

 

 だが、そんな視線に(ひる)まずに前に出たのはレイだった。不穏な出だしに、イザークの目がさらに鋭くなるが、レイは気にせずに言葉を続ける。

 

「……という次第で、我々がアスハ代表に不快な思いをさせてしまった次第です」

「………」

「うぉい、マジかよ…」

 

 無言で青筋を立てるイザークと、新人の無鉄砲さに呆れるディアッカ。その姿に申し訳なさそうにするミネルバクルー達。それを見て、イザークも呆れたように表情を崩す。

 

「どうやら流石に自分達がしでかしたことは分かっているようだな」

「はい」

「俺たちザフトは軍人だ……正式には軍ではないが、間違っても他国の代表と対等だと思うなよ。若かろうと女だろうと俺たちとは見ている視点が違うんだ」

 

 イザークとて彼等の気持ちが分からないわけでもない。二年前の視野が狭かった頃の自分なら、彼等と同じ意見だったことは間違いないからだ。

 

「フン、俺の部隊ならあと小一時間はその精神を鍛え直していることだが、生憎と今は時間がない。……後輩が失礼して申し訳ない、アスハ代表」

「あ、いや。私の方も頭ごなしに怒鳴ってしまって申し訳ない」

 

 カガリの方も、却って恐縮(きょうしゅく)したように返事を返す。

 落ち着いて考えれば、自分が代表だということへの理解が足りていなかった。発言に後悔はないが、言い方に関しては何というか…少し配慮が足りなかったように思える。

 

「寛大な処分に感謝を…行くぞ、ディアッカ」

「はいよー。全く、アスランの奴は姫様ほっぽり出して何してんだか…なぁ?」

「フン、俺が知るか…っ」

 

 それだけ言うと、嵐のように彼等は去っていった。

 議長に会いに来ているとうことなので、急いでいるのだろう。彼等も破砕作業の準備をしなければならないからだ。

 カガリもシンも、ヨウラン達も呆気(あっけ)に取られていたが、そんな彼等を他所にレイがカガリへ頭を下げた。

 

「先程の失礼な発言を謝罪します」

「「も、申し訳ありませんでした」」

 

 それを見て、ヨウラン達も続いて頭を下げた。今度は心から謝罪して、だ。…シンに関しては、ルナマリアが無理矢理手で下げさせたが。

 

 そして、頭が冷めた今、カガリとしても彼等に謝りたい気分だった。

 

「あ、いや。こちらこそ大人げなかった。一兵士に当たることではなかったよ。すまない」

 

 一国の代表として簡単に頭を下げようなことはしないが、カガリとて自分も悪かったことは理解しているので、反射的に謝罪する。つまりは、これで手打ちにしようということだ。

 

「それでは、私はここで失礼する。邪魔をしてすまなかった。……ザフトの皆には期待している。ユニウスセブンをよろしく頼む」

「はい、最善を尽くします」

「……助かる」

 

 小さくそういうと、カガリも部屋を後にした。

 同時に重苦しい空気が抜けたようにヨウラン達は崩れ落ちる。

 

「あぁー、びっくりした。アスハ代表に加えて、ジュール隊長って反則だろ〜」

「心臓止まったかと思ったわよ!」

「……次からは発言に気をつけることだな。あの状況では、俺たちの言葉はプラントの総意と受け止められてもおかしくはなかった」

 

 要するに外交問題にならなかったのが奇跡だということだ。

 対面したのがまだ政治経験の浅く、善良な性格のカガリだったから良かったものの、あの言葉を地球の人間…それこそシャーロット・アズラエルにでも聞かれていれば、それだけで地球とプラントの関係に悪影響を及ぼす可能性があった。

 

「………くっ」

「……シン」

 

 レイのその言葉は、軽率な発言をしたヨウランは勿論、個人的な感情で問題を起こしてしまったシンの心に暗い影を落とすのには十分なものだった。

 





>シンとカガリ
正反対なようで似たもの同士な二人。
でも、個人的にシンのカガリに対する当たりは、個人的な因縁を抜きにしても外交問題になりかねないと思ってこの話を作った。

>>イザークとディアッカ
アスランとは似ているようで違う立場の人達。
この話の為にミネルバに来させたと言っても過言ではない。この後、たまたま会ったアスランにイザークが不満を爆発させたとか何とか。


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星屑の戦場Ⅱ

 

 

 かつての悲劇がそのまま凍りついたように残るユニウスセブンの残骸の中、その瓦礫(がれき)に隠れるように潜む複数のモビルスーツの影があった。

 

 その姿は、かつての大戦の前半に大きく猛威を振るったモビルスーツ・ジンに酷似している。いや、実質的には同じなのだろう。何せこれも同じ"ジン"なのだから……。

 

「来たな…」

 

 そんなジンのコックピットの中、一人の男が向かってくるザフト軍に対して、どこか懐かしそうでいながら、忌々しげな表情を浮かべ、鋭い瞳をむけていた。

 

 彼の名はサトー。

 身に付けているパイロットスーツから分かるように、ザフトのモビルスーツパイロットであり、かつてのヤキン・ドゥーエでの戦いも経験している歴戦のパイロットである。

 

「……これは正当な復讐なのだ。ナチュラルには我等の怒りを、憎しみを思い知らせなければならない」

 

 サトーの顔には、一筋の大きな切り傷が入っている。かつての戦いによって負った傷だ。プラントの技術力なら簡単に消せるものも、サトーは戦後もずっと消さずに残していた。

 

 戦士が消せる傷を消さないのは、それに(ちか)ったものがあるからだ…というのは誰が言ったセリフだったか。サトーもその言葉通り、とある誓いを立てていた。

 

「世界は変わらなくてはならないのだ…そして、必ずや我等の無念を!」

 

 それは純粋なる復讐。

 娘を失い、妻を失い、友を失った彼は、ザフト軍人としての己すら捨て去り、己の中の狂気の炎を燃やしながらも、それだけのために生きていた。

 

 そして、それはサトーだけではない。

 ジンを駆る全員が皆、同じ怒り、同じ憎しみを抱いているのだ。この行動によって己が死ぬとしても、その復讐を果たすためなら何でもするという気持ちを。

 

「さあ行くぞ!我等一同!嘆きの声を忘れ、真実に目を瞑り、またも欺瞞に満ち溢れるこの世界を、今度こそ正すのだ!」

「「「はっ!!」」」

 

 吼え叫ぶサトーに呼応するジンのパイロット達。その瞳には復讐に燃える狂気の炎が揺らめいている。

 

 彼もまた、世界の歪みによって狂わされた人間の一人だった。

 

 

▽△▽

 

 

 ミネルバを始めとするザフト艦隊がユニウスセブン破砕作業のために向かっている頃、そこから離れた位置を航行する一隻の船があった。ソレスタルビーイングの多目的輸送艦であるクラウディオスだ。

 

 宇宙で起きているユニウスセブンの異変について、彼女たちソレスタルビーイングの元にも詳細な情報がヴェーダから届けられている。

 

「ユニウスセブンが動いている…?」 

 

 フェイトが思わずそう呟けば、アキサムは険しい顔で重々しく頷いた。

 

「そうだ。今頃、ザフトが破砕作業に向かってる」

 

 新武装の実験の為にたまたまユニウスセブンの軌道上に向かっていたクラウディオスの艦内にて、彼等はこの事態にどのように対応するかの話し合いを行なっていた。

 

「それで、ヴェーダは何と言っているんだ?」

「基本的には放置…と」

 

 黒い装いの私服に身を包んだアキサムがそう言うと、やや苦い顔でウェンディが答えた。彼女以外にも、バッツやシドなども険しい表情で動いているユニウスセブンの姿を見つめている。

 

 戦争根絶を掲げ、戦争行為に対して武力介入を行う彼等の存在意義を思えば、今回の事件はあまり関係のないこと。戦うことしかできない彼等には何もできない。

 

 とはいえ、この中には地球で生まれ育ったものもいるのだ。組織に身を置くと決めた時、己の過去も捨て去ると決めていたが、故郷が滅びの危機にあると聞いて、何の感情も抱かないことは難しかった。

 

 それから暫く、無言の時間が続いていた彼等の元に、ヴェーダから新たな情報が届けられた。オペレーターのウェンディが驚いた表情で声を上げる。

 

「新たな情報が入りました!」

「……ん?」

「これは…戦闘です。ユニウスセブンでザフト軍と何者かの戦闘行為が確認されました!」

 

 その言葉にクルー達の表情が変わる。

 あくまでも破砕(はさい)作業故に彼等も気を抜きつつ、無力感に(さいな)まれていたのだが、どうも事態は良くない方向へ進んでいるらしい。

 

「アンノウンモビルスーツ…数29、いや30。更にカオス・アビス・ガイアの三機を確認しました」

「はぁ? 何だってアイツらがあんなところに」

 

 ヴェーダの情報把握能力は完璧だ。

 アーモリーワンでの強奪部隊が地球軍の特殊部隊(ファントムペイン)であることはソレスタルビーイングは把握している。だというのに、その彼等が地球の危機にザフトの邪魔をしているとなると、双方の間に認識の齟齬(そご)がある可能性が高い。

 もしくは、それを知った上で彼等に乱入の指示を出した存在がいるのか…。

 

 流石に地球軍内部の指揮系統までは分からないため、彼等の行動の真意を知る術はないが、世界にとって良くない方向へ進もうとしているのは分かる。

 

 そして、そのきっかけを作ろうとしているのは…。

 

「アンノウン…例のザラ派ですかね?」

「今のデュランダル政権が進める宥和政策が気に入らないのだろう……とはいえ、コロニーを落とすとは何を考えている?」

「どこのどいつか知らねーが、やってくれるぜ」

 

 アキサムがバチンと(こぶし)で手のひらを(たた)いた。

 元ザフト軍人である彼は、旧ザラ派の暴走を重く受け止めていた。例え自分たちの行動が彼等と同じテロ行為だとしても、この蛮行(ばんこう)だけは認めるわけにはいかない。

 

「その組織は–––––––––」

 

 声が聞こえた。声はフェイトのものだった。

 一同が彼女に視線を向ける。フェイトは見渡すように言った。

 

「その組織は、ユニウスセブンを落とすというテロ行為を起こしました」

「フェイト…?」

「戦争を幇助する行為です」

 

 フェイトの言葉を聞いて、全員の表情に緊張感(きんちょうかん)(みなぎ)った。

 

「ならば、その紛争に介入するのがソレスタルビーイングであり…行動するのが、私たちガンダムマイスターです」

 

 フェイトの瞳は、使命感に燃えるように鋭く眼光を放っていた。

 

 

▽△▽

 

 

 ようやくユニウスセブンに到着し、ザフト軍によって始まったメテオブレイカーによる破砕作業だったが、状況は思ったより混沌と化しており、事態は想定以上に切迫していた。

 

 ただの破砕作業ならばここまで手間取ることはなかった。

 まさかユニウスセブンの中に敵性勢力が潜んでいるなど、誰が予想できたか。

 

〈隊長!うわぁぁ!?〉

〈ヘルガー!? 何だコイツら!〉

 

 メテオブレイカーを運びながらユニウスセブンに突入したポワソン隊・ジュール隊のゲイツR隊を待ち受けていたのは、漆黒のジンによる奇襲攻撃だった。

 

「イザーク、一体どうする!?」

「チッ…ハイマニューバとはいえ旧式でここまで…一体何者だ、奴らは」

 

 先行したポワソン隊のゲイツ部隊はジンによって壊滅。メテオブレイカーもそのままの状態で宙を泳いでいる。隊長のイザークとディアッカが現場に到着したことで、ひとまずのまとまりはなったものの、このままでは作業もままならない状況である。

 

 更にいえば、敵はどこかおかしい。

 

「くッ…どういうやつらだよ一体!ジンでこうまで…!」

 

 ディアッカのガナーウィザードを装備したザクによる"オルトロス"の砲撃もジンは簡単に回避し、こちらに的確な射撃を向けてくる。

 前大戦でバスターを駆ったディアッカの砲撃をああも簡単に回避することと言い、並の腕ではない。単なるテロリストではないことは明らかだ。

 

「くそっ…工作隊は破砕作業を進めろ!これでは奴等の思う壺だぞ!」

 

 イザークは青色のパーソナルカラーのザクファントムを駆り、スラッシュウィザードの"ファルクスG7 ビームアックス"でジンを真っ二つにする。

 あの大戦を経験したイザークやディアッカで何とか対処できる相手だ。新兵(しんぺい)には厳しい相手だろう。

 

「今だ! 俺とディアッカで護衛する。必ずメテオブレイカーを作動させるんだ!」

 

 敵機もイザーク達が歴戦の猛者であると感じたのか、ひとまず撤退していく。

 それを見て、イザークも部下達に作業続行の指示を出したのだが、ここで別方向から放たれたビームがメテオブレイカーごとゲイツ部隊を破壊した。

 

「何だ、新手か!?」

「いや…あの機体はっ!」

 

 次々と放たれていくビームを回避しつつ、イザークは接近する機影をレーダーで捉えた。見慣れない機体だが、熱紋照合の結果がイザークに驚きの事実を知らせる。

 

「カオス、アビス、ガイア…?」

「チッ、アーモリーワンで強奪された機体かっ!」

 

 なぜ今、ここでこいつ等が出て来るのか!?

 攻撃しながら接近して来る3機の機影を見つめ、イザークは思わず歯ぎしりした。

 

「おいおいイザーク、どうする。そろそろ時間もヤバいぜっ」

「くそっ、奴等を放置していては作業も何もあるか! メテオブレイカーを狙う相手には迎撃。それ以外は作業を続けろ!」

 

 ただでさえ、時間も人員も足りない状況から始まったというのに、予想外の事態で作業は更に遅れている。

 このままでは、本当に間に合わなくなる。そうすれば、地球に最悪の未来が待っているのだ。

 

 こんなにも余裕がない状況は前大戦以来だった。

 

 

▽△▽

 

 

 現場での混乱は、ミネルバからも確認していた。

 やはり目立つのは、漆黒のジンとアーモリーワンで強奪された三機の姿だろうか。

 あのどちらかが、ユニウスセブンを動かした元凶なのだろう。つまりはこの事態は自然発生ではなく人災ということになる。

 

「ジンを使っているのかその一群は?」

「…ええ。ハイマニューバ2型のようです」

 

 ジンハイマニューバ2型。

 前大戦で高い戦績を残したジンハイマニューバを再設計をした機体であり、主に強化されたのはスラスター。最大まで強化されたその性能は連合のダガーにも迫るとされている。

 

「付近に母艦は?」

「見当たりません」

「くそぉ…一体どこの部隊だ!?」

 

 ジンハイマニューバ2型はロールアウトされたのが第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦終結後だったこともあり、生産数が少ない。配属先もかなり限られていたため、そこから逆算すれば敵組織の人員について突き止められるのだろうが、生憎と時間がない。

 

「ポワソン隊、壊滅的な被害を受けている模様! ジュール隊もカオス、アビス、ガイアと戦闘中です!」

「ええっ!? あの三機は一体何がしたいんですか!?」

 

 アーサーが悲鳴混じりの驚愕の声をあげるが、無理もない。メテオブレイカーを設置する役目であったポワソン隊が壊滅し、ジュール隊も足止めされている今、自由に動ける戦力はミネルバしかいないのだ。

 

「状況は芳しくないな…せめて、例の三機の真意だけでも分かればいいのだが」

「議長、現時点でボギーワンをどう判断されますか?」

「ふむ…そうだな」

 

 こちらから確認できる限り、カオス等はゲイツ・ジンハイマニューバ2型問わずに攻撃を加えている。流石に設置されたメテオブレイカーは無視しているようだが、あの様子を見るにこのユニウスセブンが動き出したことについて、何も知らない、もしくは誤解している可能性がある。

 

「海賊と?それとも地球軍と?」

「んー…難しいな。私は地球軍とはしたくなかったのだが」

「どんな火種になるか解りませんものね」

 

 タリアは、アーモリーワンでの一件を見るに、ボギーワンの正体が地球軍である可能性が高いと睨んでいるのだが、そうなると少し面倒な事態になる。

 それはデュランダルも分かっているのか、完全に判断しきれないような様子だった。

 

「しかし、これでは破砕作業など出来ませんね。本艦も前に出ます。よろしいですか…?」

「ああ、私は構わないよ…代表方はどうかな?」

 

 振り返ったデュランダルが、背後で事態を見守っていたカガリとシャーロットにそう()いた。

 

「ああ、大丈夫だ…」

(わたくし)も構いません。彼等が地球軍となれば、私の言葉も伝わるはずです」

「ありがとうございます。では、彼等とコンタクトを取るためにも、ボギーワンへ近づかなければ…」

 

 事態は思った以上に進んでいる。それも更に悪い方向にだ。自然とデュランダルの顔も険しくなるし、それはタリア達やシャーロットも同様だ。

 

「あの、議長…」

「姫?」

「アスラン…あ、いや、アレックスの姿が見えないのだが」

 

 そんな中、カガリがおずおずとデュランダルへ話しかけた。

 聞きたいのは、デュランダルと話に行ったっきり姿が見えない彼のことだ。カガリの方もミネルバクルーと色々あったこともあり、この事態まで顔を合わせることがなかったのだが…。

 

「おや?ご存知なかったのですか?」

「え?」

 

 カガリの言葉に、デュランダルは心底意外そうな表情を浮かべた。

 

「彼は自分も作業を手伝いたいと言ってきて、今はあそこですよ」

「え…」

 

 デュランダルが向ける視線の先には、つい先ほど発進したミネルバの艦載機(かんさいき)の姿。インパルスを筆頭に三機のザクと二機のゲイツRが追従している。

 

「アスラン…」

 

 ブレイズウィザードを装備した緑色のザクウォーリアの中、そこにアスランはいるのだろう。

 

 これからきっと、戦闘になる。

 アスランの腕は微塵も疑っていないが、モビルスーツに乗って銃を撃つということに彼がどう思うだろうか…。

 カガリは遠ざかるその機影を不安げに見送った。





:操縦技術について

>サトー
緑服なところを見るに腕自体はそんなに高くないと予想。
ミゲルとかそこら辺のレベルじゃないかと。ただ、ヤキンでの経験でそれ以上の可能性もあると思う。

>イザーク
彼の実力に関しては、旧三馬鹿と同等か少し下と推定。
キラとアスランが強すぎただけで、シンもまだ経験不足なこの時点ではかなりの実力者なのは確実。

>ガンダムマイスターは?
まだ詳しくは決めていませんが、少なくともキラ・アスランより強いなんてことはないです。機体性能差は歴然だけどね。


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限界離脱領域Ⅰ

 

 

 ミネルバから出撃したシン達を出迎えたのは、ジンハイマニューバ2型によるビームの雨だった。

 

「ゲイル!ショーン!」

〈こんなひよっこ共に!〉

 

 シン達は当然のように回避するが、背後にいたゲイツRは回避しきれずに撃墜されてしまった。

 さらに、後方から現れたジンによる不意打ちの重斬刀によって残る一機も真っ二つになって、断末魔(だんまつま)を上げる暇もなく爆炎の中に消える。

 

「くっそー!こんな奴らに!」

「シン…っ!」

 

 シンがインパルスのスラスターを吹かせて、敵のジンへと突っ込むが、彼等は組織的に散開すると、ユニウスセブンの瓦礫(がれき)に隠れるように姿を隠す。

 

「シン…後ろだ!」

「なっ!」

 

 そして、姿が見えなくなって無防備になったインパルスを背後から奇襲。ギリギリでシールドで防御したが、少し遅れていれば直撃していた。思わずシンの背にヒヤリとした冷や汗が流れる。

 

〈我等の思い、やらせはせんわ! 今更!〉

「気をつけろ…こいつら、ただのテロリストではない!」

 

 レイがビームライフルによって正確な援護射撃を行うが、それがジンに命中することはなく、(およ)ぐように回避した後、雲に紛れるように瓦礫の奥へ消えていく。

 

「待て!…こんのっ!」

 

 機動力で大きく(まさ)るフォースインパルスがビームサーベルを用いて接近戦に臨み、ブレイズウィザードを装備したレイのザクファントムも援護に回るために後を追う。

 

「シン、レイ…ああ、もう!」

 

 置いていかれる形になったルナマリアが非難の声を上げるが、こちらにもジンは迫っている。この状況では、ビームライフルで牽制しつつ、眼下のメテオブレイカーを死守する以外に他はない。

 

「仕方がない。こちらは破砕作業の準備を…」

 

 そして、思わぬ形で戦場へ返り咲くことになったアスランも、できるだけ相手の武装を狙うように留め、随分と久しぶりの戦闘を行っていた。

 敵のジンは確かにかなりの手練れだが、対応しきれないほどでもない。メテオブレイカーの防衛はルナマリアに任せ、襲い掛かるジンの無力化に専念する。

 

 しかし、そんな彼等の戦場にも変化が起きる。

 突如、アスランと交戦していたジンが撃墜されたのだ。更に、メテオブレイカーを狙って次々とビームが放たれ始める。

 

「…え?」

「何だ…敵襲!?」

 

 迫り来る緑色と黒色の機体。

 識別ナンバーは、カオスとガイアと出ている。アスランも、アーモリーワンで強奪されるのは直接目撃した。ソレスタルビーイングの印象が強かったが、全ての始まりはこの機体達だった。

 

「こいつら…ええい!」

「あ…おい、お前!?」

 

 こちらへ向かってくるガイアに合わせて、ルナマリアのザクが突撃する。メテオブレイカーを留守にする彼女に思わず声をあげたが、既に戦闘に入ってしまっているため、呼びかけも通じなかった。

 

「ルナマリア・ホーク!……くそっ」

〈冗談じゃないぜ!こんなところでドタバタと!〉

 

 …仕方がない。

 アスランも向かってくるカオスと相対する。

 

「カオス…こいつも!」

〈あん?〉

 

 カオスは宇宙戦用に作られた機体だ。

 MA形態への変形と"機動兵装ポッド"により、宇宙での高機動戦闘は前大戦で活躍したフリーダム・ジャスティス等の機体にも匹敵、パイロットによっては凌駕(りょうが)する性能を誇る。

 

 パイロットのスティングが並のコーディネーターを上回るエクステンデッドだということもあり、慣れない機体・機体性能差も合わせてアスランにとっては久しぶりの手強い相手だ。

 

「くっ……ええい!」

〈何だこいつ…強い〉

 

 しかし、それはスティングにとっても同じこと。

 意気揚々と出撃し、早速ザフトのモビルスーツを撃破したはいいが、その次に現れたこのザクは何かが違う。今までのような(とろ)い相手ではない。

 

 本来なら一撃で沈めるはずのビームを容易く回避し、逆にこちらを的確な射撃で狙ってくる。

 

「やめろ…!」

〈何なんだコイツは…!〉

 

 機体性能差は歴然なはずなのに、まるでこちらが追い詰められているかのような息苦しさがスティングを襲っていた。

 

 

▽△▽

 

 

 一方、シンは思ったようにいかない状況に苛立ちを(つの)らせていた。

 

 ユニウスセブンは今も地球へ向かって進んでいる。こんな奴らに構っている暇などないというのに!

 

〈甘いな…そんな戦い方でっ!〉

 

 複数のジンが多角的にインパルスを攻め立て、360°至るところから狙われる形になったシン達は劣勢に立たされている。

 

「くそっ、なんだこいつら!」

〈全機、この若造共からかかれ!〉

 

 機体性能で大きく劣るはずのジンは、いとも簡単にインパルスの動きを見切ると、ビームライフルで三機かがりで攻め立てる。一機一機ならシンでも対処できるレベルだが、複数相手となると流石に厳しいものがあった。

 着いてきたレイも援護に回ろうとしていたのだが、二機のジンが向かって来ていてすぐには合流できない状況だ。とはいえ、二機程度であれば、彼の力ですぐに抜け出せるだろう…だから。

 

「––––––ここだ!」

〈なにぃっ!?〉

 

 相手の重斬刀の攻撃を見切り、その後ろに回ったシンは、ビームサーベルで重斬刀を持つ右腕を切断する。(とど)めまではいけなかったが、いい手応えだ。

 

 敵のジンは、極限まで強化された機動性が売りのようだが、それでも機動性はフォースインパルスの方が遥かに上だ。

 突然の奇襲によってペースを乱されたが、落ち着いて当たれば勝てないことはない…!

 

「時間がないんだ…邪魔だぁっ!」

〈ぐぉぉ!? アリッサァ!〉

 

 フォースシルエットの機動力で接近、防御もままならないジンのコックピットをビームサーベルでとどめを刺し、爆散させた。

 

「シン!」

 

 すると、レイもジンの包囲網を突破したのか、インパルスとザクは背中合わせになる形で合流する。敵も仲間が撃破されて陣形が崩れたのか、動揺しているように思える。…これはチャンスだ!

 

「待てシン!」

 

 レイのザクがインパルスを引き止める。

 何事かと思えば、目の前を色とりどりのビーム砲撃が通過し、眼前に展開していたジンを()ぎ払っていった。援護射撃ではない。インパルスのセンサーが新たな機影を知らせる。

 

「アビス…あいつらか!」

 

 それは水色の機体。アーモリーワンで強奪されたアビスだった。カオスとガイアは見当たらないが、それを気にする暇もなくアビスはその大火力をこちらに向けてくる。

 

〈お前らのせいかよ、こいつが動き出したのは!〉

 

 何とか回避したが、そのビームは背後のメテオブレイカーの設置を行っていたゲイツR部隊に直撃してしまう。

 

「…このままでは間に合わなくなる。シン、アビスはお前に任せるぞ」

「レイ…ああ、任せろ!」

 

 続けて飛んできたビームをシールドで防御。その間にレイのザクは作業及び援助の為にこの場から離脱していく。勿論、それを見過ごすアビスではなかったが、シンがビームライフルで牽制する。

 

〈へぇ、この僕とサシでやろうって…面白いじゃん!〉

「お前なんかに…!」

 

 ビームサーベルとビームランスが交差する。

 近づけばインパルスが、離れればアビスが有利なこの状況。互いに一歩も譲ることなく、混沌とした戦況は更に泥沼化していく。

 

 

▽△▽

 

 

 そして、アスランやシン達が戦う宙域から少し離れた場所にて、二人の少女が各々の機体を駆って激しい戦闘を行っていた。

 

「くっ…」

〈でぇぇい!〉

 

 ガナーウィザードを装備したザクを駆るルナマリアとガイアを操るステラの戦いは、やはり機体性能差を含めてステラの方へ軍配が上がっていた。

 

 ガナーウィザードは大型ビーム砲と専用エネルギータンクで構成される砲戦型の装備であり、味方の部隊との連携でこそ輝く為、ガイアのように素早く動く相手と一対一で戦闘することは想定されていない。

 

 対して、ガイアはカオスほどとはいかなくても、セカンドステージシリーズの持つ優秀な汎用性によって、宇宙空間でも高機動戦闘が可能だ。

 パイロットのステラも強化された人間であるエクステンデッドであり、経験豊富なアスランと違ってルナマリアが苦戦するのも当然であると言える。

 

「えぇい!」

〈はぁぁ!!〉

 

 ガイアの"ビーム突撃砲"とザクの"オルトロス"の熱線が交差する。

 ルナマリアはシールドで防御したが、ステラはガイアをモビルスーツ形態に変形させると、ユニウスセブンの瓦礫を駆けるように進み、動きの止まったザクへ飛びかかった。

 

〈これで終わりね、赤いの!〉

「なにをっ…!」

 

 しかし、ルナマリアとてアカデミーを"赤"で卒業している。冷静な判断力でオルトロスを引っ込めると、迫り来るガイアをその右脚で蹴り上げるように吹き飛ばす。

 

 だが、ステラはガイアを無理矢理変形させると、ギリギリの斜角でビームライフルを放ち、その光はザクの左脚を穿(うが)った。

 

〈くっ、こいつぅ!〉

「な…でもまだ!」

 

 素早く左脚を分離したルナマリアは、シールドに格納されているビームトマホークを引き抜くと、投擲(とうてき)。体勢の崩れていたガイアのビームライフルを破壊する。

 

〈お前っ! 何故墜ちない!〉

「こっちも時間がないのよ!」

 

 それ以降は、互いに決定打のないまま、ビームの撃ち合いが延々と続いていく。

 ただただ、徒らに時間だけが過ぎていった。

 

 

▽△▽

 

 

 その頃、イザーク率いるジュール隊は比較的順調に作業を進めていた。

 

 序盤こそ、未武装の状態で奇襲を受けたことで難航していた作業だったが、イザークやディアッカ等の隊長陣が牽制し、厄介だったカオス等をミネルバ隊が対応したことで、何とかいくつかのメテオブレイカーを作動させることに成功している。

 

 しかし、作業は順調でも全体的にみれば計画通りとは言い難い。

 敵のジンもだいぶ数を減らしてはいるが、まだまだ執拗に湧きでて来る。イザーク等も健闘しているが、攻める方と守る方では守る方が不利だ。

 

「急げ!モタモタしてると割れても間に合わんぞ!」

 

 そして何より、タイムリミットは刻々と迫っている。こうしている間にも、ユニウスセブンは地球に向けて落下しているのだ。例えジンを全て倒しても、ユニウスセブンが落ちてしまえば意味がない。

 

 優先すべきはメテオブレイカーを作動させること。

 

 だというのに…、

 

「ええい、貴様等! いい加減にしろ!」

 

 イザークは、スラッシュウィザードの装備"ハイドラガトリングビーム砲"を向けるが、ここまで来ると残っているジンのパイロットもエース級なのか、ただでは当たらない…だが。

 

「…ディアッカ!」

「万事OKってね!」

 

 そこをディアッカの"オルトロス"によって狙撃し、爆散させる。長い付き合いの二人だから可能なコンビネーションだ。

 

「ったく、これで五機目だせ…一体何機いやがる!」

「…このままではキリがないぞ!」

 

 新たに現れたジンをビームガトリングで牽制しながら、イザークは苛立ちを込めて叫ぶ。

 

 彼等の実力を持ってすれば、ジンの部隊を全滅させることも不可能ではないが、既にメテオブレイカーの数も限られている今、確実に破砕させる為にも作業部隊から離れることはできない。

 

 そして、さらに悪い情報が届けられる。

 

〈隊長、三番隊がメテオブレイカーの設置に失敗したとのことです! 付近にカオスとアビスの姿もあり、援軍を求めています!〉

「何ぃ!? ええい、ミネルバの奴らは何をやっているか!」

 

 このままでは、本当に間に合わなくなってしまう。

 作業もまだまだ終わっていない。細かく砕くところか、始めの亀裂すらまだまだ足りていないのだ。

 

「シホ、お前はメテオブレイカーを守れ! 俺とディアッカもすぐに向かう!」

〈は、はい!〉

 

 ジンはともかく、セカンドステージの二機はとてもじゃないが部下達では止められないだろう。

 

 イザークとディアッカが現場へ向かおうとするが、その前に三機のジンが立ち塞がる。

 

「くっ…邪魔だ!」

〈我等の悲願、邪魔させてたまるものか!〉

 

 二人の前に立ち塞がったのは、サトー達だった。テロリストのリーダーであるだけはあり、ジンハイマニューバ2型の性能を十分に引き出している。

 勝てないことはないだろうが、この急いでいる時には面倒な相手でしかない…!

 

「くっ…何とかならんのか!」

 

 苛立たしくイザークが叫んだ、その時だった。

 

 

《ガンダムアステリア、紛争を確認……根絶します》

 

 

 突如、戦場に舞い降りる天使。

 次の瞬間、イザークとディアッカに取りつこうとしていたジンが2機、飛来した閃光によって瞬く間に撃墜される。

 

「何だ…っ!?」

 

 目を見開くイザーク。

 その瞳に、美しい緑色の粒子を放つ、青色の機体の姿が映った。

 

「おいおい、イザーク…あの機体って」

「…資料で見たガンダムとかいうモビルスーツか」

 

 アーモリーワンでの一件は、プラント本国でイザーク達も聞いている。映像資料では何度も拝見したが、直接対面するのはこれが初めてだ。

 

 ザフトのセカンドステージすら凌ぐ、謎の機動兵器ガンダム。そして、それを使って戦争根絶を果たさんとする組織…それは。

 

「来たのか…ソレスタルビーイング!」

 

 混沌とした戦況は、より複雑さを増していく。

 カウントダウンが刻一刻と迫るこの非常事態において、ソレスタルビーイングの武力介入は、更なる混乱をザフトに(もたら)すのか……それとも?

 

《……絶対、守ってみせる!》

 

 迫る地球墜落へのカウントダウン。

 焼け落ちる死の流星を前に、ガンダムの真価が試されようとしていた。

 

 

 

 

 





>サトー達強過ぎない?
少なくとも、奇襲というアドバンテージとヤキンでの経験は彼等が有利を取るのに十分な条件だと思います。まぁ、始めだけでシンやレイには慣れれば突破される程度のものですが…。

>メテオブレイカー
原作より多く破壊されており、作業が遅れています。その分はソレスタルビーイングに頑張ってもらうということで…。

>タイトルについて
感想欄で指摘されたのですが、リボンズの名前があるのに肝心のレクシオが全く登場しないということで、何か別のタイトルも考えようと思います。
ある日、急にタイトルが変わっているかもしれないので、ご注意ください。


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限界離脱領域Ⅱ

 

 

 敵機が二つに割れた。

 ビームライフルを照射してくるジンの懐に入り込んで、横薙ぎに払う。続けて、重斬刀を片手に切り掛かってくるもう一機の手首を絡めとるように斬り上げ、返す刃で肩口からGNビームサーベルを振り下ろす。

 

「……………」

 

 袈裟(けさ)斬りにされ、爆散するジンをフェイトは冷たい目で見下ろしていたが、その目とは裏腹にレバーを握る腕には力強さが感じられる。

 

 簡単にいえば、彼女は怒っていた。

 ユニウスセブンを地球に落とすなどという馬鹿げた考えを実行したテロリスト達に。

 

 こんなことを行うことによって苦しむ人がどれほどいるか……その中にコーディネーターがどれほど含まれているかを考えていない。

 プラントがどれほど地球に依存しているのか、コーディネーターの何割が地球に住んでいるのか。それを分かっていて、こんなことをしているのか。

 

 いや、分かっていないだろう。

 何せ、彼等が信奉するパトリック・ザラもそこを理解せずにジェネシスという大量破壊兵器で地球を滅ぼしにかかったのだから。

 

『いいかフェイト、今回はザフトのユニウスセブン破砕作業の支援だ。目標はあくまでテロリストであり、戦闘の意思のないザフト軍に介入する必要はない』

 

 出撃前に言っていたアキサムの言葉を思い出す。

 チラリとザフトのモビルスーツ部隊を見つめれば、彼等はガンダムの姿に圧倒されているのか、呆気に取られた様子で固まっていた。

 

 …その練度の低さに呆れる。

 フェイトは、瓦礫に隠れたジンのビームライフルを狙撃し、その爆発がメテオブレイカーを揺らした。

 すると、その彼等もようやく己の役目を思い出したのか、隊長機だと思われる青色のザクファントムの指示の下、破砕作業に移っていく。

 

 そして、それを見た残りのジンが妨害しようと迫っていくが…その前にガンダムアステリアが立ち塞がる。

 

「…させない」

 

 GNソードをライフルモードにして射撃したが、相手は相当腕に自信があるのか、そのビームをすんでで回避し、こちらへ正確な射撃を行ってくる。

 だが、ガンダムの機動性の前では、まともに当たるとは考えられなかったし、仮に当たっとしてもその程度の威力ではガンダムの特殊装甲(とくしゅそうこう)には大したダメージにはならない。

 

「思ったよりやる……でも!」

 

 …ガンダムの敵ではない。

 続くビームライフルの射線をかわし、腰椎(ようつい)部から引き抜いたGNビームダガーを引き抜いて、ジンへ投げつける。

 

〈こんなものに…うっ!〉

 

 当然、それを回避することは想定済み。ジンが回避に走った瞬間、腕を走らせてそのシールドごと左腕を斬り飛ばす。……素早い対応だ。本来なら機体ごと両断するはずだったのに、わずかに重心を逸らすことで回避している。これほどのパイロットが何故…?

 

〈おのれぇ! 貴様ぁ!〉

 

 激昂したジンのパイロットの声が接触回線で聞こえてくる。

 

 その憎悪しかない声を聞いて、フェイトは納得した。

 彼等にはこの陣営の中で最も戦意があるのだ。彼等は決して退かないだろう。どれほど自分達が追い込まれても。彼等にはもう失うものは何もないのだから。

 

「だとしても…!」

 

 GNソードをライフルモードにして、敵のビームライフルを破壊する。

 

〈うぬぅ!〉

 

 そのまま、トドメを刺そうとしたのだが、リーダーを守るように背後から複数のジンがやってくる。ビームライフルの射撃を雨のように行ってくるが、それがアステリアに命中することはない。

 GNビームダガーを投擲(とうてき)し、メインカメラを破壊。その間に一気に近づいてGNソードで肩部から両断する。接近するジンに対しては、左腕でビームサーベルを引き上げて斬り裂く。

 

 こうして、敵ジン部隊は撃破したが、隊長機と思われるジンは姿を消していた。

 横目で見る限り、ザフトの作業は進んでいるようだが、残り時間に間に合うかどうか…。最悪の場合は、ガンダムセレーネの()()を使うことにもなるだろう。

 

「…貴方達の好きになんかさせるものですか」

 

 フェイトの脳裏に過去の惨劇が(よみがえ)る。

 家族を失った…自らの運命を大きく変えたあのときを。

 

 そうだ。あのような悲劇を二度と繰り返さない為に、自分はガンダムマイスターになったんだ。

 

「……プランA2に移行します」

 

 フェイトは、癒えない思いを胸に力強くレバーを押した。

 

 

▽△▽

 

 

 その頃、メテオブレイカーを使用したザフトのユニウスセブン破砕作業は佳境に入っていた。

 

 予定よりかなり遅れたものの、ミネルバ隊やイザーク等の健闘によって戦況を立て直したザフトは、次々とメテオブレイカーを作動させることに成功する。

 

 ザフトの希望であるメテオブレイカー。

 元々は資源衛星として運ばれてきた小惑星などを砕くために使用されていたものであり、当初は作業用外骨格などで運用されていた。

 起動させると無重力下において隕石中に潜り込み,仕込まれた爆薬で内部から破砕するという仕組みだ。

 

 それをユニウスセブンで使えばどうなるか…。

 

「おうおう…流石はザフトの技術力は優秀だねぇ」

 

 眩いばかりの閃光とともに、大きく二つに分かれたユニウスセブンの残骸の姿を視界に収め、アキサムは皮肉くるようにニヒルに笑った。

 

 しかし、まだまだだ。

 もっと細かく砕かなければ、依然として地球への脅威は残っている。もっと多くのメテオブレイカーを作動させなくてはいけない。

 ザフトもそれを理解しているのか、先ほど以上のスピードで次々とメテオブレイカーの設置準備を行なっている。

 

「さてと、俺も仕事をしようか。うちのお姫様もお怒りのようだし、な」

 

 その言葉と同時、混沌とした戦場に新たなガンダムが現れる。

 

 白と黒のモノトーン色の機体装甲。額に大きく存在を主張しているV字型センサー。左肩には折りたたみ式のGNランチャー。右肩にはマウントされたGNバスターソード。腰部にはGNビームサーベルが装備されている。

 

 ソレスタルビーイングの要する4機目のガンダム…その名は––––。

 

「ガンダムサルース、作戦行動に移る!」

 

 サルースの背部から、緑色のGN粒子が勢いよく放出され、同時に勢いよく機体を加速させる。

 

 機体前方には、必死に作業を続けるザフトとそれを阻止せんとする者たちが戦闘を行っている。

 大きく数を減らしてなお、諦めずにメテオブレイカーへ攻撃を加えようとするジンの姿を見て、アキサムは目を細めた。

 

 ヴェーダの調べで、あのテロリスト部隊が元ザラ派の残党であることは聞いた。ナチュラルへの憎しみを消すことができなかったものたちであると。

 

 アキサムは元ザフト軍人である。

 血のバレンタインで幼馴染を、ブルーコスモスのテロで家族を亡くした彼にも、その気持ちはよく分かる。

 もしもソレスタルビーイングにスカウトされなければ、自分もあの中の一員として戦っていたのかもしれない。

 

「……ままならないな、ホント」

 

 だが、アキサムは今ここにいる。それが全てだ。今も胸の内に渦巻くドス黒い思いを考えれば、彼等の行為は決して否定できないだろう。

 だからこそ、この場ではアキサム・アルヴァディという偽りの名の元にソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして彼等を否定する…!

 

 

▽△▽

 

 

 ソレスタルビーイングの出現。

 それはミネルバでも確認していた。ブリッジが慌ただしくなっているのは、何もメテオブレイカーの始動に成功したからだけではないのだ。

 

「…艦長!」

「分かってるわ! 議長!」

 

 揺れ動くに戦況に悲鳴混ざりの声を上げるアーサーの言葉に、苛立ち混じりに答え、タリアは背後のデュランダルへ指示を仰いだ。

 

「うむ…それにしてもソレスタルビーイングとは」

「どうされます?」

 

 どうするといっても、今のザフトに余裕はない。テロリストに加え、カオス、アビス、ガイア。そして、ガンダムまで相手をするとなれば、ユニウスセブン破砕作業は確実に失敗すると断言できる。

 

 ただ、それをタリアが決めるわけにはいかず、この現場にて最高の発言権を持つデュランダルへ訊いただけのことだ。

 

「そうだな…。艦長、今のところ、彼等…ガンダムはこちらへ攻撃を加えていないのだろう?」

「ええ、不思議なことに。彼等の攻撃の対象はジンに絞られているようです」

 

 そう、ガンダムは何故かこちらへの敵意がない。テロリストのジンのみを狙っていることから、ボギーワンの一味と違って、この非常事態を理解できていると言っていいだろう。

 

「であれば、無理に反応する必要もないだろう。むしろ、彼等も私たちの味方になってくれるのかもしれん」

「…だと、いいですがね」

 

 流石にそれは楽観が過ぎるかもしれない。

 だが、彼等が現れてからジュール隊含めてザフトの被害が急速に減っていることを考えると、そうあり得ない話でもないのだろうか。

 

「………っ」

 

 そこまで考えて、タリアは頭を横に張った。

 そんなことよりも、今は考えることがある。チラリとモニターを見て、そこに表示された数字にタリアは顔を険しくさせる。

 

 そして、正面に移る未だに巨大なユニウスセブンを見て、決断した。

 

「……こんな状況下に申し訳ありませんが、議長方はボルテールにお移りいただけますか?」

「タリア、何を」

「お気づきになりませんか?」

 

 そういうと、タリアはメイリンに指示してモニターを拡大する。

 それを見て、カガリもシャーロットも顔を険しくし、デュランダルも悩ましい表情で今の状況を口にした。

 

「……なるほど、高度か」

 

 あの大きさゆえに分かりづらいが、ユニウスセブンは既に、阻止できる限界点を越えて大気圏付近まで降下してしまっているのだ。

 メテオブレイカーの設置は、完璧に破砕するには間に合わなかった。そして、これ以上のモビルスーツでの作業はパイロットの命にも関わる。

 

 助けられる命と、助けられない命を天秤にかけて、決断する時間が迫っていた。

 

「そんな…地球が」

「くっ…!」

「………ですが」

 

 前置きを一度置き、タリアはデュランダル含めて各国の代表たちに真剣な眼差しで己が決断を口にした。

 

「ミネルバはこれより大気圏に突入し、限界までの艦主砲による対象の破砕を行いたいと思います」

「な…」

「ええっ!? か、艦長…それは」

 

 アーサーが驚いて、素っ頓狂な声を上げる。

 他のクルーも概ね同じような気持ちらしく、みな驚いた顔をタリアに向けていた。

 だが、タリアはこの決断を翻すつもりはない。今の状況で、自分たちにできることを精一杯行うのが、軍人としての務めだ。助けられる命が少しでも増えるなら、無茶でもなんでも行おう。

 

「どこまで出来るかは分かりませんが。でも出来るだけの力を持っているのに、やらずに見ているだけなど後味悪いですわ」

 

 この状況、大気圏へ突入可能な艦はミネルバだけだ。モビルスーツでの作業が難しいのなら、本艦で少しでも破砕作業を行うしかない。

 それに、自分よりも若い(アスラン)があそこまでの啖呵(たんか)を切ったのだ。軍人である自分たちがやらないでどうするのか。

 

「タリア…それは」

「彼の受け売りですが、本心です。それに、私はこれでも運の強い女ですから……お任せ下さい」

 

 今だけは折れるわけにはいかない。

 気遣うようにこちらを見るデュランダルに対して、タリアは極めて明るい笑顔で返す。

 

「すまない、タリア……それと、ありがとう」

 

 時間がないこともあり、やがてデュランダルの方が折れた。

 「いえ」とタリアは短く答えると、ボルテールの管制へと連絡を繋ぐ。そして、同時に艦載機への帰還信号の発信を指示。

 

 ここで、それまで黙って聞いていたカガリが、思いつめた顔でタリアの前に立った。

 

「すまないが…私はここに残らせていただきたい」

 

 その言葉に、タリアだけでなくデュランダルも驚いてカガリを見た。

 今現在ミネルバに残るというのは、あまりに危険すぎる。オーブの獅子の娘であり、国を纏める立場の彼女に何かあれば、オーブという国は崩壊しかねないのだ。

 しかし。そのリスクを知ってか知らずか、カガリは断固たる意志でこの場へ残ることを求めた。

 

「アスランがまだ戻らない。それに、ミネルバがそこまでしてくれるというのなら、せめてこの私も一緒に!」

「代表…」

 

 カガリのその叫びに、この場にいる誰もが言葉を無くす。

 地球に住み、地球の国を統治する彼女の気持ちに共感できる人物は、ここに一人しか存在しない。

 

(わたくし)もアスハ代表と同じ気持ちです。ザフトの皆さんがここまで頑張ってくれたということを、最後までこの目で見させてくださいな」

「アズラエル理事…」

 

 そんなカガリの肩に手を置いたのは、カガリと同じく地球の国家代表でもあるシャーロットだ。彼女は集まる視線を感じると、デュランダルとタリアへ優雅に一礼した。

 

「我々の身勝手な願いを、どうか聞き入れてもらえないでしょうか?」

「代表がそうお望みでしたらお止めはしませんよ。地球までは、ミネルバが安全にお送りします」

「議長!」

 

 何を勝手に…とタリアは視線を向けるが、デュランダルは薄く微笑んだ後、ブリッジを後にした。これでは、もう彼女達を止めることはできないだろう。

 

 結局、自分が折れるのは変わらない。政治家というのは、どうしてこうも面倒な性格の人間が多いのか…。

 軽い頭痛に頭を抑えながら、タリアは大気圏突入の指示を出した。

 

 





>残りのマイスターは?
前回の介入で地球へ降りたので、今は地上です。

>アスラン達は?
ユニウスセブンが砕けた衝撃で、アビス・カオスとは一旦離れました〈原作通り)

>ガンダムサルース
スローネアイン+スローネツヴァイみたいなもの。


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ユニウスの光

 

 全てを燃やし尽くす灼熱の大気圏。

 周囲に砕かれたユニウスセブンの破片が散らばる中、美しい地球を眼下にして、スティング達ファントムペインは何と戦うわけもなく、ただただ焼け落ちるユニウスセブンの景色に呆気に取られていた。

 

「どうなったんだこりゃ?」

「割れたぜ、おい!」

 

 彼等に与えられたのは、ザフトと思しきモビルスーツと戦えという任務のみ。このユニウスセブンで戦闘を行っている意味も理解していない。敵だから倒す、ただそれだけだ。

 

 しかしまぁ、ここまで来れば彼等にもこれから起こる事態を理解できる。

 

「おいおい、スティング。このままだと、アレ、地球に落ちちまうぜ」

「分かっている。詳しくはネオに話を聞いてからだ」

 

 言いながら、前方から攻撃してくるジンを機動兵装ポッドで牽制し、その間にアビスが"3連装ビーム砲"と"カリドゥス複相ビーム砲"の一斉放射で避ける間もなく破壊する。

 

 こちらに積極的に攻撃を仕掛けてくるジンと、仕掛けてこないゲイツ等の行動性の違いは謎だが、スティング達はザフトの指揮系統など知る由もない。ザフトのモビルスーツなら破壊するだけだ。

 

 難しいことを考えるのは、上官のネオの仕事。

 自分たちは彼の指示に従って生きていればいい。それが"普通"である彼等エクステンデッドは、この事態において、次なる指示を仰ぐため、ネオのいるガーディ・ルーの元へ機体を飛ばす。

 

「ほら、ステラ…行くぞ」

「あ…」

 

 ガイアのコックピットの中で、落下するユニウスセブンの姿を見ながら、ステラは思う。

 

 本体から小さく剥がれた破片が流星群のように降り注ぐ光景は、ある種の幻想的な風景を感じさせる。しかし、これからあの破片が堕ちた先では多くの人たちが死んでいくのだろう。

 

「死ぬ…みんな、死ぬ」

 

 そうだ、これから大勢が死ぬのだ。

 それはステラ達ではないけれど、世界のどこかで誰かが死んでいく。

 

 それは一体、誰のせい?

 あの黒いジン達? そう、間違いない。

 ザフト? このユニウスセブンは彼等のものだから、彼等のせいでもあるし、ネオも悪いと言っていた。

 

 なら、ステラ達は?

 この非常事態に戦いをしていた自分たちは悪くないのか? いや、ワルモノであるザフトと戦っていたのだから、正しいはずだ。

 

 でも、他に何かやり方があったんじゃないか…。そう思えば止まらない。『死』という単語をブロックワードとするステラにとって、大勢の人間の死は正常な思考を奪うには十分なものだった。

 

「おいステラ! 避けろ!」

「…っ!」

 

 スティングの大声に顔をあげれば、動きを止めたガイアにユニウスセブンの大型破片が向かってきているのを確認できた。

 

「この馬鹿、ぼぉーとしてるからだよ!」

 

 カオスとアビスが最大火力で砲撃を行うが、それは表面を大きく削るだけで完全に破砕するまでは至らない。ザフトがメテオブレイカーをいくつも使ってやっと破砕できただけのことはある固さだ。

 

 ガイアがVPS装甲を持っているとはいえ、アレほどの質量が機体にぶつかれば、機体はともかくパイロットはただでは済まない………と、そう思わせるだけの"死の恐怖"があったのだ。

 

「あっ…いやぁっ!」

 

 それを理解し、狂乱状態に陥ったステラは、ビームライフルと"ビーム突撃砲"で破砕を狙うが、やはり表面を削るだけにとどまってしまう。

 

「「ステラ!」」

 

 –––––––その瞬間の閃光!

 コックピットにて、眩い光が視界の端を走った。

 

「え…」

「なっ!」

 

 白熱した光が、破片の中心を貫き、カオスやアビスの攻撃と合わせて完全に破砕した。大きく二つに砕かれたそれも、次々と放たれた光の槍によって細かく砕かれ、大気圏へ散らばっていく。

 

 その光景にスティングもアウルも言葉を失う。

 何せ、この閃光が放たれた方向は……。

 

「地上からの狙撃だと!?」

 

 スティング達がいる大気圏外からは遠く離れた地上にて、煌めくビームの光が次々と放たれた。

 

 

▽△▽

 

 

 大気圏へ突入しようとしているユニウスセブンから遠く離れた母なる地球の大地にて、彼等はいた。

 場所は、連合もザフトも管理が行き届いていないとある無人島。ソレスタルビーイングの地上用の拠点となっているそこで、二機のガンダムが地上へ落ちようとしている赫耀(かくよう)の流星を見上げていた。

 

『全弾命中、全弾命中!』

「ヒュー、やるじゃん」

 

 専用ポッドに収まった独立AI小型マシン・ハロの電子音声でアナウンスする。ガンダムメティスのコックピットの中でフブキは、その命中精度に思わず感嘆の声を洩らした。

 

「流石、セレーネの狙撃能力は伊達じゃないわね」

 

 シエルの乗るガンダムセレーネは、腰部(ようぶ)に取り付けられた反動防止用テールユニットでしっかりと地面に固定し、(ちょう)高々度射撃用の巨大ライフルを空に向かって構えていた。

 そんなセレーネの横には巨大な円盤(えんばん)も設置されている。これはGN粒子を粒子加速させつつチャージして強大なパワーを発揮させるためのGN粒子コンデンサー。

 

「…………フブキさん」

「はいはい。GN粒子の供給、いくわよー」

 

 そんなガンダムセレーネの横に立つガンダムメティスからは、GN粒子供給用のコードが伸びており、成層圏の彼方(かなた)まで狙撃するための粒子ビームの生成を補助している。

 

『GN粒子、高濃度圧縮中。チャージ完了マデ20、19、18…』

 

 メティスのコックピットに搭載されているハロの声が、通信を通じてシエルの耳に届く。

 

 超長距離狙撃モードに入ったセレーネのコックピットの中、超高々度射撃用ライフルとカメラリンクした専用の精密射撃スコープを構えながら、シエルはカメラに映るユニウスセブンの瓦礫を捕捉(ほそく)した。

 

 全長10キロメートル近くはあるというユニウスセブンは、ザフトの懸命な破砕作業によって大きく二つに割れ、残る一つにしても細かく破砕されている。

 だが、まだまだだ。あの大きさでは、地球に落ちれば甚大な被害を起こすことは間違いない。

 

『チャージ完了、チャージ完了…狙イ撃テルゼ?』

「はい、どうも…」

 

 ゆえに、その巨大な破片をこの超ロングライフルで更に細かく砕くのが、シエルとガンダムセレーネの役目だ。

 あの規模となると、例えガンダムの性能とは言えど完全に破壊することは難しいだろうが、被害を最小限にすることはできる。そして、それを可能とする兵器はこの世界でガンダムだけだ。

 

「––––––––狙い撃つ!」

 

 シエルはトリガーを引く。

 銃口(じゅうこう)から(ほとばし)りでた熱線が空を渡って行った。

 

 

▽△▽

 

 

 地上から放たれた熱線が次々とユニウスセブンの瓦礫を破砕していく。流石に大きく残った残骸を破壊することは難しいだろうが、このままいけば地表への被害は想定の最低限で済ませることができるかもしれない。

 

 そして、それを成したのは……。

 

「ソレスタルビーイング……」

 

 ミネルバのブリッジでは、その光景に誰もが呆気に取られてモニターを見つめていた。落下ルートを計測していたグラフィクスが、残す一つの残骸を残して、次々と最小限の物へと変化しているのを示している。

 

「艦長…」

「まさか地上から狙撃するなんてね…」

 

 タリアはうめくような呟きを洩らした。

 今回は驚かされることばかりだった。ソレスタルビーイングがテロリストの排除行動を行う方は予測できたが、まさかユニウスセブン破砕作業の協力…人命救助を行うとは。

 

 何より、地上から瓦礫を撃ち()く射撃性能もそうだ。あんな高々度射撃の性能は地球軍・ザフトのどこを見渡しても存在しない。

 

「…はっ! 降下シークエンス、フェイズ2」

 

 バート・ハイムのその言葉にタリアはハッとするように思考の海から現実へ意識を引き戻した。

 

 ミネルバは現在、大気圏に突入しながら主砲での最後の破砕作業を行おうとしていた。既にジュール隊はボルテールに帰還し、この場から離脱している。

 ミネルバの艦載機も、ルナマリアとレイが帰還している。無念ながら撃墜されたショーンとゲイルを除けば、この場に帰ってきていないのは残る二機のモビルスーツ。

 

「インパルスと彼のザクは?」

「駄目です!位置特定できません!」

「チィ!」

 

 タリアは歯軋りをし、強く拳を握り込んだ。

 このまま待っていれば、ミネルバとて砲撃どころではなくなる。ユニウスセブンを主砲で狙うには、もう時間がないのだ。

 

「アスラン…」

 

 だが、今主砲を放てば、ユニウスセブンを破砕できても、同時にインパルスとザクを巻き込み、最悪失う可能性があるのだ。

 

「…間もなくフェイズ3!」

「砲を撃つにも限界です!艦長!」

 

 これから多くの人間が死ぬことになる。

 それを少しでも減らすためには、ミネルバの主砲を使う他にない。細かく砕けば、あとはソレスタルビーイングのガンダムが更に細かく狙撃してくれるだろう。

 

 そのためには…。

 

「…タンホイザー起動」

 

 誰もが息を呑む音を聞いた。

 それでも、淡々とタリアは言葉を続ける。

 

「ユニウスセブン落下阻止は、何があってもやり遂げねばならない任務だわ」

 

 それはまるで、自分に言い聞かせているかのようだったが、ミネルバのクルーたちはタリアのその言葉に意識を切り替えた。

 艦長であるタリアの指示によって、普段は格納されているミネルバの主砲"タンホイザー"の砲口がその姿を表す。

 

「タンホイザー照準。右舷前方構造体」

 

 その照準が赤く溶け落ちるユニウスセブンの残骸を捉える。

 砲口にエネルギーが集まっていき、それが発射可能をブリッジに知らせたとき、タリアは赤く染まる視界の中で叫んだ。

 

「–––––てぇッ!!」

 

 閃光が迸るとミネルバの主砲は周囲の破片を薙ぎ払い、残った大地を粉々に打ち砕いた。構造物は陽電子砲によって砕かれると同時に大きな爆発が起こし、散らばった破片が炎を(まと)って地球に落下していく。

 

 

▽△▽

 

 

 ユニウスセブンの破砕作業が完遂せぬまま帰還命令を受けたシンは、無力感とそれに伴う苛立ちに(さいな)まれながら、渋々ミネルバに帰還しようとしていた。

 

 だが、その途中シンの目に作業を続ける一機のザクが映った。見覚えのない機体だが、識別はミネルバの艦載(かんさい)機であることを示している。僚機のルナマリア、レイともに専用のカラーにしており、通常色のザクは積んでいなかったはずだが…。

 

『あいつも出るんだってさ。作業支援なら一機でも多い方がいいって』

『へぇ~。ま、モビルスーツには乗れるんだもんね』

 

 ふと、そんな話をヨウランとルナマリアがしていたのを思い出した。戦闘になってからはほとんど気にしていなかったが、破砕作業にはアレックス…もといあのアスラン・ザラが参加していたはず。

 

「……何やってんだ、あの人は!」

 

 何はともあれ、放っておくことはできない。シンはインパルスをザクの元へ走らせた。

 

「何をやってるんです!帰還命令が出たでしょう。通信も入ったはずだ」

「ああ、解ってる。君は早く戻れ」

「一緒に吹っ飛ばされますよ?いいんですか?」

 

 シンの言葉には、苛立ち混じりの非難が込められていたが、アスランはそんなシンに淡白(たんぱく)に返すと、必死にメテオブレイカーの作動作業へ専念した。

 

「どうしてここまで…」

「ミネルバの艦主砲と言っても外からの攻撃では確実とは言えない。これだけでも…」

 

 非難の言葉は戸惑いへ変わる。

 シンには、この男がここまでする理由が分からなかった。確かにミネルバのタンホイザーの威力でもこの破片の消滅は不可能だろうが、彼一人が命をかけたところで大して変わらないというのに…。

 

 はぁ…と溜め息をついたあと、インパルスを近づけて揺れるメテオブレイカーを支える。

 

「な…」

「アンタは馬鹿だ…でも、嫌いじゃない」

 

 あらゆる可能性を信じ、多くの人を救おうとしている。そして、その為なら、自分の命をも危険に晒しても構わないと思っているのだ。その考えはとんでもなく愚かだが、シンにとっては好感を持てるものだった。

 

 だからこそ、つい口に出た。

 

「貴方みたいな人がなんでオーブになんか…」

 

 そう呟いたとき、二人のセンサーに新たな反応が現れる。

 

〈うおぉぉ!〉

〈これ以上はやらせん!〉

 

 現れたのは、もう機体がボロボロなジン部隊の生き残りだった。隊長機のジンは左腕とシールドをなくし、その他二機もあちこちに戦闘の痕跡が見られる。

 

「こいつらまだ!」

 

 シンはアスランを庇うように前に出るが、ジン二機を囮にインパルスを突破したサトーがアスランに迫る。

 

 失うものは何もないとばかりに重斬刀片手に突っ込んでくるジンの攻撃を、アスランはシールドで受け止める。

 

「我が娘のこの墓標、落として焼かねば世界は変わらぬ!」

「通信…?」

 

 接触回線を通して伝わってきたのは、悲痛なまでの怒りと憎しみの叫びだった。

 

「此処で無惨に散った命の嘆き忘れ、討った者等と何故偽りの世界で笑うか!貴様等は!」

「何を!」

「軟弱なクラインの後継者どもに騙されて、ザフトは変わってしまった!何故気付かぬかッ!」

 

 強引に蹴りを入れられ、大きく吹き飛ばされる。

 苦悶(くもん)の声を上げるアスランだったが、その後に聞いた言葉で彼の思考は凍り付く。

 

「我等コーディネーターにとってパトリック・ザラの執った道こそが唯一正しきものと!」

「何だって…うぐっ!」

 

 愚かだが、決して悪い人ではなかった。

 厳格ながらも、誰よりも家族を愛し、誰よりも家族を奪った相手を恨んだ男。止まらない憎悪が更なる憎悪を生み、多くの人間を巻き込んだ末に死んだ父。

 

 そんな父が正しいだと? あり得ない!

 

 アスランは敵のジンに父を重ねる。この男の所為で多くの人命が失われた。かつては大量破壊兵器のジェネシスを用い、そして、今度はプラントを落とすと言うのか、あの男の幻影は…!

 

「我等のこの想い、今度こそナチュラル共にぃぃ!」

「ぐっ!」

 

 ジンの重斬刀が、トマホークを持つザクの左腕を斬り飛ばす。

 アスランは後退を図ったが、その左脚にしがみつくようにサトーのジンがまとわりつくと、スラスターを全開にして道連れにするようにメテオブレイカーへと突っ込む。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

 迫り来る大地に自分の死を覚悟したとき、突如として閃光が迸り、ジンの右腕を破壊する。

 唖然とした両者だったが、その間に飛び込んできたのは、青と白を基調とした背部から緑色の粒子を発しているのが特徴的な機体…。

 

「ガンダム!?」

 

 ガンダムは、その手に展開した剣で一閃し、ジンの上半身と下半身を真っ二つにして爆散させると、アスランのザクを掴んで後退する。

 

「何を…?」

 

 そして、右腕の刀身を折り畳んでビームライフルに変形させ、インパルスと対面するジン二機を狙い撃って撃墜した。

 

「あ、そいつは…!」

〈何やってるんですか。撤退命令が出たでしょう〉

 

 シンが声を上げるより早く、インパルスの右腕を掴み取ると、すぐにユニウスセブンの残骸から離脱を始める。

 突然のことに、シンとアスランは呆気に取られていたが、聞こえてきた通信の声に気付いた。

 

〈もう貴方達の船に戻るのは無理です。このまま大気圏に突入しますから、各々で姿勢の制御を行ってください〉

「女…?」

 

 それは、年若い少女の声だった。

 カガリやルナマリアと同じか、それより遥かに下であろう若さを感じさせる幼い声。こんな少女が、あのガンダムを動かしているというのか…?

 

「君は…」

 

 そのとき、割れた大地が一段と激しく揺れた。

 離れた位置で行われた、ミネルバのタンホイザーによる砲撃だった。最後のメテオブレイカーが功を奏したのか、次々と粉砕されていくユニウスセブンの残骸たち。

 

 その衝撃に巻き上げられ、ザクも、インパルスも、ガンダムも灼熱の大気圏へと吸い込まれるように落ちていく。

 





>超高々度射撃用ライフル
00一期でデュナメスが使ったアレ。目標物が大きいのでメティスから直接粒子を供給している。

>ハロ
メティスのコックピットにいるハロ。フブキの持ち物で、昔友人に貰ったらしい。

>マユ
ちなみに声優はステラ(第一話)、ルナマリア(それ以降)
人助けに必死になってる姿につい助けに入っちゃった。


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報われぬ魂

 

 

 その日、地球に星が落ちた。

 決して手の届かない位置にいたそれが、流星となって空を流れている。

 

 これがただの流星群ならばたいそう美しい光景だっただろうが、生憎と現実は違う。この流星は、燃え尽きることなく地上にそのまま落下するのだ。

 

 降り注ぐ灼熱(しゃくねつ)と化した火の玉は、地上を地獄へと作り変える。

 落下した場所は一瞬にして閃光に呑まれ、生き物も、無機物も、(へだ)たりなく飲み込んでいく。

 

 ある場所では大地が(えぐ)られ、ある場所では溢れた海水が高波となって襲いかかる。

 

 まさにこの世の地獄と例えるしかない光景が広がっていた。

 

「……なんて、酷い」

 

 その様子をアステリアのコックピットから見下ろしながら、フェイトは表情を歪めて苦々しく呟いた。

 

 もちろん、守れた命もある。

 避難勧告で国の用意したシェルターで難を逃れた人々もいるだろうし、当初の被害想定よりはかなり規模は小さくなり、被害範囲もかなり(せば)まった筈だ。

 

 そして、ソレスタルビーイングとて、この事態に何の行動もしなかったわけではない。

 

 宇宙にいたフェイト達はテロリストの殲滅に励んでいたが、地上ではシエル・アインハイトとガンダムセレーネによる超高々度射撃が行われていたのだ。

 ヴェーダの予測演算をもとに、大都市へ落下するルートを取る瓦礫を狙撃するというガンダムにしかできないもう一つの破砕作業を行う為に…。

 

〈…くッ!損傷のせいか?右足の温度上昇が早い!〉

「ん…?」

 

 繋いだままの通信から聞こえてきたのは、若い男の声。シールドを盾に大気圏突入を行おうとしているザクのパイロットの声だ。

 

 しかし、そんな彼のザクはボロボロだ。

 戦闘で損傷していた上、そんな状態で大気圏を突破したものだから、既に機体は限界寸前にまで追い込まれていた。失った右腕と右脚のせいで機体のバランスが取れておらず、装備しているバックパックからは黒煙が立ち込めている。

 

〈… やはりブースターがなければ大気圏は!〉

 

 パイロットは大気圏突入の経験があるようで、今の機体の状況を理解しているらしい。

 

「……あれは」

 

 すると、シールドを盾に大気圏を突破したインパルスがこちらへ向かってくるのを確認した。こちらを見て動揺したような様子を見せたものの、この非常事態ゆえにかアステリアを無視して仲間のザクの元へ向かっていく。

 

〈大丈夫だ! 俺のことはいいから、君は戻れ!〉

 

 インパルスのパイロットの音声は聞こえないものの、どうやらザクを助けようとしていることが男の声で伝わってきた。

 

〈よせ!いくらインパルスのスラスターでも二機分の落下エネルギーは…お前の方が危なくなるぞ!〉

 

 男の言う通りだ。

 インパルスは最新鋭機だけあって大気圏突入にも問題なく()えたものの、ユニウスセブンでの戦闘が響いたのか、VPS装甲がダウンしている状態だ。

 そんな状態でザクを抱えて体勢を維持させるのは、どんなエースパイロットでも不可能に近いし、そのまま地表に墜落するようなことがあれば、ただでは済まない。よくて機体は形を保っても、中のパイロットの命はないだろう。

 

「ああもう…!」

 

 ––––このままでは二人とも共倒れになる。

 

 そう思ったフェイトは、無意識にアステリアを動かしていた。

 一番損傷の酷いザクを懐に抱えるインパルスの片腕を掴み、GNドライヴの推力で持ち上げる。ガンダムの推力ならば、例えモビルスーツ二機分だろうと抱えることは可能なはずだ。

 

〈なっ! おい、何を…〉

「死にたくなかったら黙って捕まっていてください! そっちのザクのパイロットも!」

 

 一方的なようで申し訳ないが、こちらにも立場がある。怒鳴るようにインパルスのパイロットにそう言い、ゆっくりと機体を降下させていく。

 

 まるで墜落するように落下していた二機は、アステリアに支えられるように体勢を立て直す。ザクは、ボロボロになったバックパックをパージし、インパルスは邪魔になるシールドを投げ捨て、ザクをがっしりと抱える。

 ここまで来れば、ザクはともかくインパルスはバックパック装備で飛行できるだろう。

 

「この反応は…戦艦?」

 

 すると、そんな彼等の下に巨大な影……ミネルバが迎え入れるように現れた。随分と距離は離れていたようだが、アステリアが支えていたおかげで着艦場所の到着が間に合ったようだ。

 

〈…ミネルバ!〉

 

 …もういいだろう。

 フェイトは握っていたレバーを離し、アステリアの手からインパルスが解放される。いきなりの解放に彼等は戸惑っていた様子だが、眼下のミネルバの姿を見て、着艦姿勢に入ったようだ。

 

〈あ…あんたは!〉

「……今回は特別。もういいでしょう」

 

 ザクを抱えたインパルスが、舞い降りるようにミネルバの甲板に着艦するのを確認し、フェイトはアステリアを上空へ上がらせる。

 

 元々予定していた帰還時間を超えている。大気圏内に突入したのは半ば故意的な事故だったが、軍に捕捉(ほそく)される前にすみやかに基地へ帰還しなければならない。

 

「貴方たちが戦争を続けるようなら、またどこかで会うこともあるでしょう」

 

 それだけ伝えると、一方的に通信を切る。

 この勝手な行動については、後でたっぷりと叱責を受けるだろうが、彼等は戦争をしていたわけではないのだ。反省はしているが、後悔はしていない。

 

「…………」

 

 最後にこちらを見上げるインパルスを見つめた後、フェイトはアステリアを上空へと大きく飛翔させた。

 

 

▽△▽

 

 

 ユニウスセブンの破片が落下したことによる史上稀に見ない大災害…通称"ブレイク・ザ・ワールド"。

 

 世界中が混乱の中にあり、多くの人達が苦しんでいる状況の中、ロード・ジブリールは機嫌良くワインを嗜んでいた。

 

《……この未曾有の出来事を、我々プラントもまた沈痛な思いで受け止めております。信じがたいこの各地の惨状に、私もまた言葉もありません》

 

 ディナー後のひと時のBGMとしては、いささか不愉快なデュランダルの演説も、今の彼にとっては心地良く聞こえる。この顔がいかに苦痛と焦燥に歪むのかを想像するだけで、ワインの味が何倍にも美味しく感じるからだ。

 

〈やれやれ、やはりだいぶやられたな…〉

〈パルテノンが吹っ飛んでしまったわ〉

 

 モニターには、いつものように老人どもの姿が映っている。苦々しくユニウスセブン落下の被害映像を見つめる彼等の言葉に、ジブリールは鼻で笑って答えた。

 

「あんな古くさい建物、なくなったところで何も変わりはしませんよ」

〈うぅむ。まぁ、首都圏が無事だっただけでもマシ、ということか〉

 

 とはいっても、()()()()()()()()()()()()()ということもあって、老人共の表情には余裕がある。勿論、一人で巨大なシェルターを有するジブリールとて今回の事態は何の痛手も負っていないが。

 

〈…で、どうするのだジブリール。デュランダルの動きは早いぞ。奴め、もう甘い言葉を吐きながら、なんだかんだと手を出してきておる〉

 

 で、そんな彼等の議題が何かといえば、この事態に素早く対応したデュランダルにある。老人達は、プラントから届けられた彼の演説を苦々しく見つめていた。

 

《……受けた傷は深く、また悲しみは果てないものと思いますが、でもどうか地球の友人達よ、この絶望の今日から立ち上がって下さい。皆さんの想像を絶する苦難を前に我等もまた援助の手を惜しみません》

 

 既に手を打ちつつあるデュランダル。その動きは迅速かつ丁寧だ。地球へと友好的な態度を示しつつ、プラントからの支援を行うことで自らの立場を明確にしている。

 老人達は、せっかく反プラント感情を(あお)るきっかけになったと思ったら、デュランダルに先手を取られたと思っているのだろう。

 

「ふふふ、皆さん。まさかあれがデュランダルの本心だとでも?」

 

 しかし、ジブリールはあくまで余裕の態度を崩さない。何せ、こちらには全てをひっくり返すカードがあるのだ。

 

「もうお手元に届くと思いますが、私の部下がたいへん面白い物を送ってくれました」

〈ほう、ファントムペインがかね〉

 

 正確には、ファントムペインではなくジブリールの腹心であるレクシオ・ヘイトリッドからの情報なのだが、彼の存在はロゴスのメンバーにも秘匿にしているため、特に公開するようなことはしない。

 

〈…ん? なんだこれは〉

 

 それに、ファントムペインからの情報というのもあながち間違いではない。黒色のジンと交戦するファントムペインの画像も含めて、更に重要となるジンがユニウスセブンに何かしらの細工を(ほどこ)す映像が老人共の元へ送られる。

 

〈おいおい、まさかこれは…そういうことなのか?〉

〈ほう、なるほど。やはりか…〉

 

 送られた画像を見て、老人達は(うめ)き声を上げる。

 彼等の目から見ても、その画像は興味深く、それでいて利用価値の高い物だった。

 

「思いもかけぬ最高のカードです。そうは思いませんか?」

 

 この黒色のジンがザフト正規軍なのかなど、彼等には分からないし、知る必要もないだろう。

 ジンといえば、ザフト。ザフトといえば、コーディネーター。それだけでプラント側の陰謀という疑惑を民衆に植え付けるには十分な証拠となる。

 

「これを許せる人間などこの世の何処にも居はしない。そしてそれは、この上なく強き我等の絆となるでしょう」

 

 分解した地球圏はプラントへの憎しみで再び一つになるのだ。

 

「まずはそう…オーブあたりを取り込むとしましょうか」

 

 全ては青き清浄なる世界のために…だ。

 ワインを傾けながら笑うジブリールの瞳には、残忍で冷酷な光が宿っていた。

 

 

▽△▽

 

 

 無事に大気圏を突破し、インパルスとザクを回収したミネルバは、オーブに向かって航行していた。

 

 本来ならば、地球におけるザフトの拠点であるカーペンタリア基地に向かうべきなのだろうが、当のミネルバの状態が良くない。

 

 アーモリーワンにおけるいきなりの初出撃から始まった戦闘や、大気圏内ギリギリでのユニウスセブン破砕作業は、思った以上にミネルバへダメージを与えていたのだ。

 また、他国の代表のカガリを乗せていることもあり、無理な航行よりも未だ中立を保つオーブで補給と最低限の修理を受ける方が現実的な策といえる。

 

 それにクルー達も初めての実戦からのここまでの連続で疲弊している。彼等の殆どは新兵であり、そろそろ落ち着いた休息が必要であったこともある。

 

 そして何より、オーブの国家代表であるカガリが提案したというのが一番大きい。彼女がいれば、オーブとてミネルバを(ないがし)ろにはできないだろうし、ザフトとしては流石にカーペンタリアまで彼女を連れて行くというのは避けたいところだった。

 

 そのような理由もあり、損傷したミネルバは、無理な航行を避けてゆっくりとオーブ連合首長国へと向かっていた。

 

「……海か」

 

 シンは、開放されたミネルバの甲板にて、地球でしか見れない青い海の流れを眺めていた。

 

 随分と久しぶりだ。こんな形で帰ってくることになるとは思わなかったが、やはり地球の空気と景色は懐かしさを感じさせる。……同時に切なさと怒りもだ。

 

「……っ」

 

 あの日のことを忘れた時などなかった。

 突然壊された平和。迫り来る死の恐怖と怯える家族の姿。空を舞う青翼の天使と暴虐(ぼうぎゃく)の化身。全てを失って、代わりに得たのは行き場のない怒りと喪失感。

 

《はい、マユで~す。でもごめんなさい。今マユはお話出来ません。後で連絡しますのでお名前を発信音の後に…》

 

 妹の…マユとの思い出は毎晩悪夢となって現れている。どんなに幸せな思い出でも、必ず全員死んでしまい、最終的には辛い現実へと引き戻されるのだ。

 

 既に初出撃から含めて何度かの戦闘を経験したが、決して充実感は得られない。他のクルーと違ってプラント出身ではないシンには母国を守るといった使命感もなければ、待っていてくれる家族もいない。どんなに敵を殺しても、失った家族は帰ってこないのだ。

 

 全てを守れる力が欲しいと思ったから銃を取った。誰にもこんな思いをさせたくないと思ったからだ。

 

 けれど、結局はユニウスセブンの落下から地球を守れなかった。この大地のどこかで、自分のように家族を亡くした人々が生まれたのだろうか。

 

「戦争なんて、なくなればいいのに」

 

 そう思って、ふと"戦争根絶"を掲げる武装組織のことを思い出した。

 この世界から戦争をなくす。その考えには賛成できる。けれど、あんな過激なやり方で世界が平和になるとはどうしても思えない。

 

 なのに、彼等はそれを信じて今も世界のどこかで戦っているのだろうか。……あのパイロットも。

 

 通信を聞いた時は、まさかと思った。想像していた声とは全く違ったから。同じテロリストでも、ユニウスセブンを落下させた男のような人間がパイロットだと思っていたら…。

 

《死にたくなかったら黙って捕まっていてください!》

 

 ガンダムのパイロットの声の主は幼い女の子だった。

 どうしてあんな子が…!と思ったし、何のためにこんなことをという疑問もあったけど、何よりも…。

 

《はい、マユで~す。でもごめんなさい。今マユはお話出来ません。後で連絡しますのでお名前を発信音の後に…》

 

「………っ」

 

 失った妹の肉声に似ていたものだから…なんて、考えてシンは首を横に振った。

 

 妹があんなところにいるわけがない。きっと気のせいだ。初めての実戦の連続で、自分も少し疲れているのだろう。オーブに着くまではまだ時間がある。少し仮眠を取ろうと思って、シンは甲板を後にした。

 

 

 





>ブレイク・ザ・ワールド
ソレスタルビーイングの狙撃によって、大都市やその付近の海への直撃は防ぎました。人気の無い世界遺産や郊外地域については…まぁお察しということで。

>シンの悪夢
実は原作でも毎晩見ていたという衝撃の設定。シンの精神状態は最初から最後までボロボロだったのよ…。

>シスコン
アニメの都合上とはいえ、「はいマユでーす」をしょっちゅう思い出すあたり間違いなくシスコン。そんな彼なら妹の声ぐらい覚えてるに決まってるよね。


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曇天の空

 

 

 ソレスタルビーイングが所有する基地の一つに、大西洋連邦の丘陵地帯(きゅうりょうちたい)に建つ一軒の邸宅があった。

 

 広大な敷地(しきち)の中にそびえる豪奢(ごうしゃ)な白磁色の壁は、背景の森の緑とよくマッチしている。管理もよく行き届いており、季節の花が(やしき)に彩りを()え、中庭のプールは太陽の光を浴びて金波銀波を揺らしていた。

 

 ここはソレスタルビーイングのエージェントの一人が所有する別荘だ。今の所、本人は不在だが、実働部隊のクラウディオスのクルー達はここを自由に扱うことが許されていた。

 

「……こちらです」

「ありがとうね、執事さん」

 

 そんな屋敷の大広間にて、彼等は地上でのオペレーションベースを展開していた。

 

 中央正面には巨大なスクリーン。その前には二席分のオペレーションコンソールパネル。脇には最新鋭の演算装置が並列に繋がれている。

 

「……そろそろ時間じゃないの? お姉ちゃん」

「あ、ホントだ。やるわよ、ヴァイオレット」

 

 そう言ったのは、宇宙からこちらへと降りてきたウェンディとヴァイオレットのヘルシズ姉妹だ。二人とも、地上用のカジュアルな装いを身につけており、側から見ればバカンスに来た女学生のような姿をしている。

 

 そして、彼女達がコンソールキーを叩き始めると、モニター上にとある地図が映し出される。

 

「これは…キルギスプラントですか?」

「ブレイク・ザ・ワールドの影響って大きいから、ガンダムの出番も多くなっていてね」

「それにしても、いつの間に…」

「ちょっと、ハックしてね」

 

 二人の指が流れるようにコンソールキーを叩き、モニターに映る地球連合軍キルギス基地の地図の上を、ガンダムを示す赤い光点が、ミッションプラン通りに動いていく。

 

「セレーネ、敵機に視認されたとの報告。誤差マイナス02セカンド」

「メティス、ポイントE33にて敵飛行部隊を捕捉。プラン02通りに迎撃行動を開始」

 

 ガンダムの性能は非常に高い。

 次々と連合を襲うテロリスト……ザフト脱走軍の残党を示す光点が消えていく。最新鋭のザクはともかく、旧式のジンやバクゥなどではガンダムに触れることすらできないだろう。

 

「セレーネ、フェイズ1をクリア。フェイズ2に移行」

「メティス、予定空域の敵航空戦力を制圧。フェイズ2に移行」

「アステリアのミッションプランをC25へ変更」

 

 現在、ミッションに参加しているガンダムは三機。地上にいたメティスとセレーネに加えて、思わぬ事故によって地上へ墜ちたアステリアだ。サルースは非常時に備えて宇宙(そら)のクラウディオスへ残っている。

 

「…これが、ガンダムの力」

 

 うめく様に、屋敷の主に仕える執事が言った。

 彼はガンダムについて何も知らない。ソレスタルビーイングに関しても、主が援助している関係ということしか聞かされていない。

 しかし、二年前の大戦を知る彼からすれば、基地一つをたった三機で鎮圧してしまえるガンダムの力はまるで鬼神の如く感じられた。

 

「ヴァイオレット、アステリア…フェイトの状況は?」

「予定通り、T554で敵部隊と交戦中です」

「そう…あの子、大丈夫かしら」

 

 思わぬ形での大気圏突入、計画に特に影響はなかったものの、フェイトがザフトのパイロットと独断で音声通信を行ったことは厳しく罰せられた。ガンダムマイスターの情報は、太陽炉と同レベルの秘匿義務があるからだ。

 誰よりも戦争根絶を望んでいた、妹よりも歳下の少女の気持ちを思えば、ウェンディは心配せずにはいられなかった。

 

 

▽△▽

 

 

 画面の奥で、最後の機体(バクゥ)が倒れた。

 頭部を破損し、武装を破壊された機体からパイロットが離脱するのを確認し、GNソードをライフルモードへ折り畳む。

 

「……………」

 

 アステリアのコックピットの中、フェイトは無言で操縦桿を握っていた。

 

 連合を襲ったテロリストはあらかた殲滅させた。

 このタイミングで狙ったということは、宇宙でユニウスセブンを落とそうとしたテロリスト達の仲間…あるいは呼応した志を同じくする者たちと言ったところだろう。

 

 ユニウスセブンが大地に落ちるという史上稀に見ない大災害…ブレイク・ザ・ワールドに見舞われてからというもの、地上では毎日の様にテロ行為が続いている。

 インフラが麻痺したところを狙った小悪党のような小規模のものから、今回のようにモビルスーツまで持ち出してくるような本格的な武装組織までと様々だが、紛争を起こすのならフェイト達ソレスタルビーイングは真っ先に行動を起こす必要があった。

 

 ザフト軍のパイロットに独断で音声通信を行ったフェイトは、厳しく罰せられたが、状況が状況だったために今回は皆の判断で不問となっていた。だからこそ、今日もフェイトはアステリアを駆って武力介入を行っている。

 

「フェイズ2終了。敵部隊の沈黙を確認、これより宙域を離脱…ん?」

 

 そのフェイトの言葉は、コンソールの警告音によって遮られた。

 

「敵襲?」

 

 フェイトが操縦桿を引くと、足元を着弾の土煙が走っていく。上空からの射撃だった。

 顔を上げれば、黒色の機体色に黄色く光るツインアイの機体がこちらへビームライフルによる射撃を行いながら近づいてくる。

 

 フェイトは操縦桿とペダルを(たく)みに操り、その攻撃を回避。その間にデータバンクで機体を検索するが、該当反応はない。つまりは完全な新型というわけだ。

 

「新型…っ!」

 

 しかし、その機体には見覚えがある。

 二年前の大戦で活躍したストライクを改修した機体、ヴェーダの戦略分析データで見たストライクEに近い外見をしている。だが、そのパックアップにはデータにないストライカーを装備していた。

 

 そして、それだけでなく…。

 

「援軍…連合が到着したの?」

 

 そのストライクを援護するように次々と現れる黒色のダガー部隊。おそらくは地球軍だろうが、わざわざ黒色に統一しているあたり何かしらの特殊部隊である可能性が高い。

 

「なんであれ、沈黙させます」

 

 フェイトはGNソードを展開し、敵部隊の放つビームの雨を避けながら、突入し、ダガーを上下二つに斬り刻んで破壊する。そのまま続く刃でシールドごと右腕を破壊し、左腕で取り出したビームサーベルで両足を切断して無力化。

 

「……っ!」

 

 更なる攻撃を加えようとして、ストライクの放つビームによって中断を迫られた。ガンダムの運動性で回避するが、その間に陣形を立て直したダガー部隊が連続したビームを打ち込んでくる。

 フェイトはそれを完璧に回避するが、それゆえに飛び込んできたストライクへの対応が遅れる。

 

「ぐっ!」

 

 振り下ろされた対艦刀をGNソードで受け止めるが、姿勢の問題でアステリアがパワー負けする形で地へと落とされる。GN粒子の慣性(かんせい)制御で難なく体勢を立て直したが、このストライクの実力は高いことが分かった。

 

 とても考え事をしながらあしらえるレベルではない。相手はエースパイロットだ。

 

「はぁぁ!」

 

 アステリアの胸部にあるジェネレーターが(かがや)きを放ち、GNドライヴに貯蔵されていた高濃度圧縮粒子を一時的に解放し、アステリアの運動性能を高める。

 

 そして、向上したスピードでストライクに接近。GNソードではなく、ビームサーベルの二刀流で攻撃を仕掛ける。

 

「ええい!」

 

 ストライクは対艦刀で受け止めようとしたようだが、最大限まで出力を引き上げられたGNビームサーベルは、対艦刀のビーム刃を侵食するように食い破り、実体剣の部分を切断。続けて蹴りを入れ、体勢を崩したストライクの左手首をビームライフルごと斬り刻む。

 

 だが、コックピットに響くアラートが新たな援軍の接近を知らせる。

 

「…また援軍?」

 

 奇襲とばかりに放たれたビームを回避し、その方向に機体を向ければ、こちらを狙う二つの機体。こちらはデータにある。バスターとデュエルの再改修機体である"ヴェルデバスター"と"ブルデュエル"だ。

 しかし、そんな二機のモビルスーツはいずれも損傷している。おそらく他のガンダムと交戦した結果だろう。

 

〈フェイト、大丈夫?〉

 

 すると、そんなフェイトの元に仲間からの通信が入る。それはガンダムメティス…フブキからだった。

 

「…はい。エースが一機、苦戦はしましたが問題はありません」

〈そう。こっちもよ。とはいえ、これでミッションは終了ね〉

 

 介入対象であったテロリストは沈黙させた。後から現れた連合の部隊にしても、その大部分をセレーネが殲滅させたはず。敵のエースを撃墜することこそしなかったが、無力化には成功した。ミッションは成功したと言っていいだろう。

 

「了解です。作戦行動を終了、これより離脱します」

 

 飛行形態に変形したメティスの後を追うように、フェイトもアステリアを黒煙を上げるキルギス基地から離脱させる。その後は、もうビームの一つも飛んでくることはなかった。

 

 

▽△▽

 

 

 キルギス基地を離れて暫く。

 大西洋連邦の領空内にて、ガンダムマイスター達は秘匿基地への帰還任務についていた。

 

「開戦って…本当ですか!?」

 

 アステリアのコックピットの中、フェイトは画面の奥のアキサムの言葉に食い入るように画面を見つめてそう叫んだ。

 

〈ああ、確定ではないが、ほぼほぼ確定していると言っていいだろう。ヴェーダも俺の予想に賛成しているみたいだ〉

「そんな…」

 

 宇宙に残っているアキサムからの情報。

 それは、月の地球連合軍主力部隊がプラントへ攻撃の兆しを見せているという衝撃のものだった。

 

〈まさかこんなにも世界が愚かだったなんてね…〉

〈連合…というよりは戦争を望むブルーコスモスによる無理な開戦だと思いますが〉

 

 フブキもシエルも驚きの表情を隠さず、激動する世界の流れに己の感情を吐露(とろ)している。

 

 二年前の戦争によって、多くの人間が死んだ。フェイトの大切な人たちも皆死んでしまった。そんな思いをしたくない、誰にもさせたくないから戦争根絶のためにガンダムマイスターとなったというのに…。またあのような悲劇が繰り返されるのか。

 

「………っ」

 

 操縦桿を握る手に力がこもる。怒りと悲しみで身体が震えていた。

 

〈戦争が始まるってことは、必然的に僕らの出番も増えるわけですね〉

〈まぁ、そうね。そこのところ、そっちはどうなってるの?〉

 

 その声にフェイトは下げていた顔をあげる。

 そうだった。戦争が起きるなら、それに介入するのがソレスタルビーイングの役割だ。開戦となれば、地上と宇宙のあちこちでそれが起きることになる。

 

〈まだヴェーダからのミッションはないが、いずれ俺らも出撃することになるだろうさ。一先ずは宇宙が戦場になるだろうし、お前らもさっさと上がる準備しておけよ?〉

〈えー、この間地上に降りたばかりなのにもう宇宙?〉

〈仕方ないですよ。ガンダムマイスターは多忙ですから…特にこれからは〉

 

 そんな会話をしていると、目的地への反応が近づいてきた。

 ソレスタルビーイングのエージェントにして支援者。"シャーロット・アズラエル"の所有する別荘の一つだ。今頃、オペレーターのヘルシズ姉妹が待機しているはず。

 

〈ともかく、宇宙へ上がる準備をしておけよ。それに、本当に開戦するならそんな軽口も叩く暇もなくなるぞ。一日の猶予はある。しっかり休んでおけ〉

 

 それだけ言うと、アキサムは通信を切った。

 同時に、雲が晴れて森林の中に立つアズラエル邸が視認できるようになった。飛行形態から変形したメティスを先頭に、セレーネ・アステリアの順に森林の中にある秘密ドックへ降り立つ。

 

「休暇って言ってもねぇ。せっかくの地上だし、ここの施設でも楽しもうかしら」

「いいんじゃないですか? 僕もここの図書館に興味がありますし」

 

 コックピットから降りたフブキとシエルがそんな会話をしているのをよそに、フェイトもアステリアから降りていく。二人の視線がこちらへ集まった。

 

「そうだ。フェイトは何処かないの?」

「…何処とは?」

「ほら、アキサムが言ってたでしょ。一日休暇だって。これからはミッションで忙しくなるでしょうし、プライベートな時間なんてもらえないわよ?」

「それは……」

 

 自分が行きたい場所。

 このブレイク・ザ・ワールドの中で、ずっと心残りとして考えていた国がある。

 でもあそこは、フェイトにとって一番幸福な思い出と一番思い出したくない思い出が同時に眠っている…"マユ・アスカ"が死んだ国なのだ。

 

「…オーブ」

 

 フェイトは、もう二年は訪れていない故郷に思いを馳せた。

 

 





>ファントムペイン(Stargazer)
特別スポット参戦。
時系列的に登場させられる。

>スウェン
仲間のシャムスとミューディーが緑服以上赤服以下の実力だと考えると、その二人を相手に五分で勝利したスウェンは少なくとも並の赤服パイロット以上の実力者だと仮定。
比較となるのは、ディアッカクラスだろうか。

>ストライクノワール
個人的にめっちゃ好きな機体。
ノワールストライカーの開発時期は、ガイア等の技術が使われているのを見るにブレイク・ザ・ワールド前後である可能性が高いと思う。


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故国思う

 

 

 特にトラブルもなく、オーブ国内へと到着したミネルバ。

 事前にカガリを乗せている旨を伝えたからか、港には何人ものオーブ政府関係者が出迎えに来ていた。

 

「……歓迎されていないわね」

「えぇ、まぁ」

 

 艦を降りた瞬間、聞こえないようにタリアがぼそりと呟いた言葉にアーサーもなんとも言えない表情で頷く。

 タリアの言葉通り、出迎えたオーブの人間はタリア達ザフトの人間を冷たい視線で見つめており、中にはあからさまに顔を顰めている者もいる。

 

 ブレイク・ザ・ワールドの被害は、オーブにも出ているとも聞く。仕方がないと分かっていても、破砕作業を行なった身でそのような視線を受けるのは少し堪えた。

 

 

 そして、タリア達がカガリを伴って彼等の元へ向かったとき、中から身なりの整った一人の男が飛び出してきた。

 

「カガリ…!」

「ユ、ユウナ? 何を…」

 

 ユウナ・ロマ・セイラン。

 この国の宰相であるウナト・エマ・セイランの息子であり、カガリとは婚約者として今の所発表されている人物である。

 

「おお、よく無事で。はぁ、ほんとにもう心配したよぉ!」

 

 駆け寄ったユウナがカガリを抱きしめようと両手を広げて…、

 

「そこまで」

「へ?」

 

 眼前に差し出された扇子(せんす)に動きを止めた。

 ユウナもそうだが、カガリも驚いたような表情で固まる。何せ止めたのは、隣を歩くシャーロットだったからだ。

 

「失礼。けれど、こんな場でやるにはちょっと華がないんではなくて?」

 

 つまり、公衆の面前でいきなり女性に抱きつくのは、婚約者とはいえどうなのか…ということだ。そんな当然の疑問にカガリは同意し、ユウナは顔を真っ赤にして後ずさる。

 

「これ、ユウナ! 何をしておるか」

「父上〜!」

 

 そんな息子の醜態(しゅうたい)を見ていられなかったのか、現れたのは父親であるウナトだ。ユウナは父の登場に安堵したのか、彼の後ろへ隠れるように下がったが、当のウナトはシャーロットの姿に冷や汗を流している。

 

「ア、アズラエル理事までご一緒だったとは。いえ、息子が失礼を…」

「わたくしは気にしていません。それよりアスハ代表を出迎えるのが先ではなくて?」

 

 その言葉にハッとして、ウナトはカガリの方へ向き直る。どうやら始めに見せていた余裕は、シャーロットの登場で崩れ切ってしまったようだ。

 

「お、おかえりなさいませ代表。ようやく無事なお姿を拝見することができ、我等も安堵致しました」

「いや、こちらも大事の時に不在ですまなかった。留守の間の采配、有り難く思う。被害の状況などどうなっているか?」

 

 だがまぁ、カガリはあえて普段通りに接した。普段ならそりが合わない相手のセイラン家だが、ザフトの面々の前であまり恥を晒すわけにもいかなかったからだ。

 

「沿岸部などはだいぶ高波にやられましたが、幸いオーブに直撃はなく……詳しくは後ほど行政府にて」

「分かった。すぐに向かう」

「では…」

 

 そう言うと、ウナトはタリア達の視線に気がついたのか、カガリへもう一度頭を下げた後に前に出た。それを見て、艦を代表してタリアとアーサーが前に出る。

 

「ザフト軍ミネルバ艦長、タリア・グラディスであります」

「同じく副長のアーサー・トラインであります!」

「オーブ連合首長国宰相、ウナト・エマ・セイランだ。この度は代表の帰国に尽力いただき感謝する」

 

 ウナトは、穏やかさを感じさせる笑顔でタリア達へ礼を述べる。

 やはり宰相というだけあって外交向けの仮面を貼り付けるのが上手いが、この手の人間はデュランダルと同じで形上の言葉とその裏に隠された言葉を使い分けるタイプの策士だ。

 直情的で分かりやすいカガリとは対照的で、良く言えば政治家らしい印象を受ける。

 

「いえ、我々こそ不測の事態とはいえアスハ代表にまで多大なご迷惑をおかけし、大変遺憾に思っております。また、この度の災害につきましても、お見舞い申し上げます」

「お心遣い痛み入る。ともあれ、まずはゆっくりと休まれよ。事情は承知しておる。クルーの方々もさぞお疲れであろう」

 

 その言葉の裏には、色々な策略が巡らされているだろうが、タリアは言葉通りに受けることにした。首長であるカガリがクルー達の身を保証している以上、必要以上に警戒する必要を感じなかったからだ。

 

「限定的ではありますが、みなさんの下船許可も出す予定です。どうぞオーブの街並みを楽しんでください」

「重ね重ね、ご配慮ありがとうございます」

 

 ひとまずはこの人道的な配慮を信じて感謝するとしよう。タリアとて、ここまで緊急事態の連続で疲弊していた。休息ができるならありがたいと思う。

 

「では代表、まずは行政府の方へ。ご帰国そうそう申し訳ありませんがご報告せねばならぬ事も多々ございますので…」

「ああ、分かった…あ」

 

 ウナトの言葉に頷き、カガリが彼等の後を追おうとして、アスランと目があった。

 

 着いてこないのか、という意味合いの視線だろうが、生憎と今のアスランの立場ではここより先にはいけない。

 

「…代表、私はこれで失礼してもよろしいのでしょうか」

「あ、ああ。本当に助かった。アスラ…アレックスもゆっくり休んでくれ」

 

 小さくなっていくカガリの背中。

 その姿を、アスランは複雑な思いを抱いて見つめていた。

 

 自分は何をしているのか、これから何をすべきなのか。それをしっかりと考える時間が必要だった。

 

 

▽△▽

 

 

 二年ぶりのオーブの街並みは、以前の戦争が嘘のように活気ついている。変わっているところもあれば、昔と変わっていないところもあり、時代の流れを感じさせる。

 

 結局、フェイトはフブキやウェンディに押される形で久しぶりの故郷を訪れていた。入国はエージェントの手配によってスムーズに行えた。一日…厳密には半日程度の休暇だが、二年ぶりのオーブを実感することができる。

 

「へぇ、ここがオーブかぁ…」

「平和の国…前はそう言われていた」

 

 ウェンディの声にヴァイオレットが無表情で答える。

 現在、フェイト達が向かっているのは、かつて軍港が設置されていた場所……フェイトの家族が亡くなった土地だ。ウェンディは街へ行きたそうにしていたが、そんな時間はないとヴァイオレットに嗜められていた。

 

 港へ続く道には人気がなく、海から吹き付けてくる風は、記憶にあるものよりも少し重い。

 

 あの日、爆撃を受けた軍港はすっかり(おもむき)が変わっていた。

 アスファルトは石畳(いしただみ)の遊歩道に変わり、港への斜面は芝生に覆われ、規則的に花が植えられた公園になってる。

 

「……っ」

 

 確かにそこで、家族が亡くなったはずなのに、まるで何事もなかったかのように綺麗に整えられたその風景を見て、胸の内にどうしようもない怒りと哀愁が込み上げる。

 

「あ、あれって…」

「ん?」

 

 同行者の二人の声に、涙を振り切るように立ち上がると、彼女達の視線の方向に小さな石碑(せきひ)が立てられているのが見えた。

 

 植え込みを回り込んで石碑の場所へ進めば、海水がパシャリと側の丘にぶつかって跳ねる。ここも、ブレイク・ザ・ワールドの高波の影響を受けたのだろう。丘のを覆う芝生は赤茶け、花も色褪(いろあ)せている。

 

「慰霊碑…」

「これ、オーブ解放戦線の時のもの?」

 

 それは、小さな慰霊碑だった。

 フェイトの両親を含めて、あの日に死んだ人々を弔うためのもの。ところどころが苔むしているが、そこには確かに小さな花が添えられている。

 

「………っ」

 

 ただの石の塊だ。そこには遺骨が埋葬されているわけではない。戦いの中でそれらは失われている。

 

 けれど、そこには父と母が本当に眠っている気がして、フェイトは思わずグッと拳を握った。

 

「フェイト、あの…」

「いえ、大丈夫です」

 

 気遣うように声をかけるウェンディの声に強く答え、フェイトはゆっくりと石碑へ近づき、懐から取り出した花を添えた。

 

「……お父さん、お母さん」

 

 フェイトは、改めて亡き両親へ誓う。この世から、絶対に戦争を根絶させてみせると。そのために人を殺すことを決して彼等が望まないと知りつつも、がむしゃらに理想を追い続ける。

 

 ––––––これでいい。

 これで、フェイトはこれからも戦える。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして、ガンダムと共に…。

 

「あれ…?」

 

 すると、背後からそんな声が聞こえる。

 そこには、慰霊碑への階段を登ってきた一人の青年がいた。

 褐色(かっしょく)の髪にアメジスト色の瞳、東洋の血が混じった柔らかな容貌(ようぼう)は、フェイト達よりもずっと歳上に見える。18歳のシエルと同程度だろうか。

 

〈トリィ…?〉

 

 青年の肩には、メタリックグリーンの鳥が留まり、首を傾げている。

 

「うわぁ、可愛い…」

「ロボットの鳥、よくできてると思う」

 

 そう、よくできているがヴァイオレットの言うとおりペットロボットだろう。フブキが持ち歩くハロと同じだ。

 

「……貴方も、ここで?」

 

 なんとなく、フェイトは青年に話しかけた。

 それは、青年の持つ若さにそぐわない落ち着きと、どこか静謐(せいひつ)な雰囲気がそうさせたのかもしれない。

 

「いや、ここに住み始めたのは二年前からで。あの大戦のことは…その」

 

 フェイトは、そのあやふやな答えに、訝しげに相手を見やる。

 

「よくは知らないんだ。僕もここに来るのは初めてだから…自分でちゃんとここに来るのは…」

 

 青年は悲しげに言った。

 彼は自分と入れ替わりにオーブに住んだらしい。元々住んでいた場所はどうなったのか。彼の瞳を見れば、言われなくてもわかる。自分のように色々と大切なものを失ったのだろうと。

 

「私は…ここで家族を失ったんです」

「…え?」

 

 だから、自然とフェイトも言葉が漏れた。

 あるいは、今この瞬間の彼女は、フェイト・シックザールからマユ・アスカへと戻ってしまっていたのかもしれない。

 

「二年前のオーブ解放戦線で…連合のモビルスーツと青い翼を持った機体の戦いの中で」

「……っ」

 

 フェイトは、ソレスタルビーイングに入ってから、ヴェーダを使ってあの時のことを調べた。あの青い機体が"カラミティ"という連合のモビルスーツで、あの青い機体がヤキンの"フリーダム"であることも知っている。

 だけど、このオーブにおいて、フリーダムは英雄らしく、その名を口にするのは(はば)られたため、敢えてぼかして呟いた。

 

「両親はもう遺体も残らないほどボロボロで、唯一生き別れた兄ももう長年会っていません…」

「フェイト…?」

「私は絶対に許さない。あのモビルスーツのパイロットも。その人に銃を取らせたこの戦争も––––」

 

 そこまで言って、フェイトは周囲が呆気に取られているのに気づいた。

 初めてフェイトの経歴を知ったウェンディは目を見開いて驚いており、ヴァイオレットもいつもの無表情を崩してこちらを見つめている。

 

「君は……」

 

 そして、青年は少し動揺した様子で揺れる瞳をこちらに向けていた。

 

「……いえ、いきなりすみません。変なこと言って」

 

 フェイトは気まずくなり、慌てて(きびす)を返す。

 ウェンディとヴァイオレットも心情を察してくれたのか、青年に頭を下げてから、着いてきてくれた。

 

「………」

 

 初対面の人間にいきなりそんなことを言うなんて、どうかしていた。オーブに来たことで、マユ・アスカに戻り過ぎてしまったのかもしれない。押し留めていた感情が、つい溢れてしまうほどに…。

 

 

 

 そんな心あらずの状態で帰り道を歩いていれば、突如として三人の横に黒塗りの車が停車した。

 

「はーい、三人とも。しっかり休めた?」

「フブキさん…」

 

 降りていく窓ガラスから顔を出したのは、暫く別行動を取っていたフブキの姿だった。顔を()せるフェイトの姿を見て何かを察したのか、特に触れることなく扉を開いた。

 

「まぁ、とにかく乗りなさい。こっちも時間ギリギリなんだから」

「…はい、お邪魔します」

「うわぁ、これ全部お土産?」

 

 車のトランクには、いくつもの紙袋が入っており、それに驚きながらもウェンディは手荷物を収納する。

 

「いいでしょ。オーブって品揃えがいいのよね」

「いいなー。私も後でエージェントさんにお願いしとこうかな」

 

 フェイトはよく知っている。

 オーブの品揃えは良かったと、昔母が言っていたからだ。それだけではない。オーブにはいいところがいっぱいあるのだ。

 

 こうして、この国に来てその大地を歩いてみて分かった。

 自分は、まだオーブが好きなのだと。かつてあった平和な日々を守っていきたいのだと再認識できた。

 

 この後、自分はガンダムマイスターとして、多くの戦争に介入することになる。いずれ来る戦争根絶を思い、フェイトは流れる景色に身を任せていく。

 

 日が落ちかけ、夕暮れが街を照らすようになった時刻。

 慰霊碑と青年の姿が小さくなり始めた頃、車内が少し騒がしくなった。

 

「……お、人だ」

「彼もあの慰霊碑?に行くのかもね」

 

 ウェンディとフブキの会話に、フェイトも視線を反対側へ向ける。

 そこには、顔に垂れ掛かる黒い髪と血の色を透かしたような紅い瞳が特徴的な少年が憂鬱げな表情を浮かべて歩いていた。

 

「………え」

 

 フェイトは目を見開いた。

 見間違いかと思った。生きていることは知っていても、ここには絶対に来ないと思っていた人物が、そこにいた。

 

 –––––––––お兄ちゃん?

 

 それは、プラントへ行って以降の消息が分からなかった生き別れの兄…シン・アスカの姿だった。

 

「……あ」

 

 しかし、二人が交差したのも一瞬のこと。

 フェイトと兄のことを知りもしないフブキが運転する車は、スピードを緩めることなく過ぎ去った。

 

 見間違いなんかじゃない。

 記憶にある姿と変わらない…いや、身長が少し伸びて大人っぽくなっただろうか。

 

 戦争根絶を成すまでは、会うことはないと思っていた兄がここにいる。

 だというのに、会って話すことも抱きしめることもできない。それは、自分がソレスタルビーイングのガンダムマイスターだから。兄と会うには、時間も立場も何もかもが邪魔をする。

 

「フェイト…そろそろ宇宙に上がるわよ。名残り惜しいかもしれないけど、ミッションの時間よ」

「…はい」

 

 なれど、今の行動に後悔はしていない。

 戦争根絶を成せば、再び兄と再会することができる。二年前から変わらず、オーブは中立を守ってくれる。兄が戦争に巻き込まれることなどないはず…。

 

 フェイトはまだ世界を知らず、そんな願望を希望と信じて、次の戦場へ向かうためにオーブを後にするのだった。

 

 





>セイラン家
皮肉混じりにカガリを出迎えようと思ったら、ザフト艦からまさかのアズラエル登場で心臓が止まるかと思った。とはいえ、シャーロットの登場で大西洋連邦との同盟は完全に締結だと確信している。

>オーブ・フリーダムへの感情
憎いわけでもないが、許せるわけでもない。
ソレスタルビーイングに入って、当時のことを客観的に見渡せるようになってからは、オーブのこともある程度許容している。

>マユ(フェイト)
携帯に兄の写真を撮りまくる妹。シンも大概だが、マユもかなりのブラコン。
シンがザフトのパイロットだとは気づいていない。
戦争が根絶したらオーブへ会いに行こうと思っている(勘違い)

>キラ
まぁ、お察しです。
この後、シンと原作通りの会話したよ。で、「もしかして彼も…?」ってなった。


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悪意の矛先

 

 

 ブレイク・ザ・ワールドは、(ザフトによる破砕作業によって最悪の事態は避けられたものの)地球に多大な被害を出した。

 

 今回の事件を受けて、大西洋連邦やユーラシアなどの地球連合を構成する国々は、プラントを激しく糾弾(きゅうだん)する姿勢を取った。

 

 今回の事件はプラント側の自作自演であり、ユニウスセブンを落とすことで、地球に対して有利な状況に立とうとしたのではないか、という疑いだ。

 

 無論、プラント側はそれを否定したが、連合は逆に関係がないのなら、この事件を起こした首謀者達(テロリスト)を地球連合政府へ引き渡せと要求した。

 更に、どこから手に入れたのか、テロリストグループの使用していたモビルスーツ"ジンハイマニューバ2型"の画像が公開され、ザフト軍との関係性も追求されている。

 

 しかし、事件を起こしたテロリストグループは全員死亡している。死んでいる者をどう引き渡せばいいというのか。最高評議会議長のデュランダルも(ねば)り強く交渉を続けたが、開戦は避けられない状況になってきていた。

 

 既に月面のアルザッヘル・ダイダロスの両基地には、着々と連合の宇宙軍が集結してきているのが確認されており、その矛先がプラントに向くのは時間の問題となっている。

 

 そして、プラントとしても、何もせず撃たれるわけにはいかない。武力で侵略を受けるなら、武力で持って対抗するしかないのだ。

 

 そうなれば二年前の続きが始まることになる。それは、ユニウスセブンを地球に落とした者たちの、ブルーコスモスの、ロゴスの思う壺であった。

 

 世界は、破滅への道を着々と進み始めている。

 変わりゆく時代の中、ソレスタルビーイングは……。

 

〈これより私は全世界の皆さんに、非常に重大かつ残念な事態をお伝えしなければなりません……〉

 

 大西洋連邦のコープランド大統領が発表した緊急声明を、地球・プラント問わずに全ての国の人々が息を呑んで受け止めた。

 

 フェイト達、地上にいたソレスタルビーイングも全員が宇宙へ上がったところで、その声明は発信されたのだ。

 

〈––––––この事態を打開せんと、我らは幾度となく協議を重ねてきました。が、いまだに納得できる回答すら得られず、この未曾有のテロ行為を匿い続ける、現プラント政権は、我等にとって明らかな脅威であります〉

 

 モニターの中で大統領は、いかにも裏切られたといった(おも)持ちで、これを見ているであろう国民達に語りかけている。(むこう)が悪いのだ。やむを得ない仕儀(しぎ)なのだ–––––と。

 

「…とんだ茶番だ」

 

 その声明に、シエルが吐き捨てるようにそう言った。

 他の皆も、かねがね同じ心持ちである。これは、明らかに作為(さくい)的な力が働いているに違いない。

 

〈–––––よって、さきの警告通り、地球連合各国は本日午前零時をもって、武力によるこれの排除を行使することを、プラント現政権に対し、通告いたしました〉

 

「開戦ってこと…?」

 

 ウェンディが震える声でそう言った。

 始めから想定されていたことであり、ヴェーダの予測でほぼほぼ確定していることを知っていたが、改めてその現実に直面すると、色々と心に来るものがあった。

 

「こうも強引に開戦に持っていくとは…怒りを通り越して呆れるぜ」

「戦争なんかしている場合じゃないのに…」

 

 ユニウスセブン落下の被害は、まだ癒えたとは言えない。セレーネの狙撃によって、首都圏への直撃を避けられたとはいえ、地球の各地ではブレイク・ザ・ワールドによって苦しむ人々が大勢いるはずなのだ。それを見てなお、戦いを挑もうとする地球連合の意図を、プラント育ちのウェンディは理解できなかった。

 

「そういう奴等なのさ、地球軍…ブルーコスモスはね」

「まぁ、プラントとてテロリストのことを持ち出されれば、何も言えんがな…」

 

 かつてブルーコスモスにいたシエルが低い声で吐き捨て、旧ザラ派のことを思い出したアキサムも苦い顔でそう洩らした。

 

「なんにせよ、開戦しちまったんだ。俺たちは、それに介入する必要がある」

「でも、これからは本当の戦争が始まるんですよね。今までとは、違いますよ…」

 

 ここにいるメンバーは、皆が皆二年前の大戦のことをよく知る…あるいは知らされた人間達である。あの狂気渦巻(うずま)く滅し合いを知っているからこそ、ウェンディが不安そうに弱気な声を出した。

 

「それでもやるのが、ソレスタルビーイングです」

 

 しかし、ガンダムマイスター達は揺るがない。既に心に覚悟を決めているからだ。いや、覚悟無くしてガンダムになることはできない。

 ソレスタルビーイングが掲げる紛争根絶という理念を実現するためには、こんなところで折れるわけにも曲げるわけにもいかないのだ。

 

「…………そうですね」

 

 フェイト達の見つめる先、クラウディオスのモニターには既にヴェーダから送られた次のミッションデータが表示されていた。

 

 

▽△▽

 

 

 遂に始まった地球・プラント間の戦争は、始めから大規模な艦隊を派遣した地球連合軍と迎え撃つ少数のザフト軍といった形で火蓋(ひぶた)を切ることとなった。

 

 この戦闘におけるザフトの旗艦"ゴンドワナ"は、全長1200メートルにも及ぶ巨大な大型空母であり、モビルスーツに留まらず、内部に艦船までもを収容することができる動く要塞だ。

 

 そして、そのゴンドワナから次々とナスカ級やローラシア級が発進し、ハッチからは次々とモビルスーツが射出され、旋回して前方に迫り来る地球連合軍艦隊へ向かっていく。

 

 そんなモビルスーツ部隊だが、やはり目立つのは専用のパーソナルカラーに染められたザクが率いるジュール隊やヴェステンフルス隊だろうか。

 

「ええい、くそっ! 防衛線を崩すなよ!」

 

 宇宙に映える青色に染められたザクファントムを駆るイザークが、こちらを狙うビームの驟雨(しゅうう)に逆らって敵陣へ斬り込んでき、ダガーLやウィンダムが反応する暇を与えずに、腰部から取り出したビームアックスでその胴を薙ぎ払う。

 

「そらよっ!」

 

 更に、背後から強襲しようとしたウィンダムをディアッカのオルトロスが火を噴き、コックピットを貫いた。

 

 しかし、ユニウスセブン破砕作業終了後すぐに戦場へ蜻蛉返りすることになった彼等に比べて、非常に動きのいいザクが連合のモビルスーツを圧倒している。

 

 それはオレンジ色にカラーリングされたザクファントムを中心とした部隊であり、肩にオレンジ色のカラーリングをしたザクウォーリアの小隊とともに華麗な連携攻撃で瞬く間に連合の戦艦を爆散させた。

 

「ハイネ・ヴェステンフルスの隊か…っ!」

「ヒュ〜、やるねぇ」

 

 ダガーを続けてさまに射落(いお)としたディアッカが、友軍機の活躍を見て陽気な声をあげる。連合がいかに数で押そうと、彼等ほどの歴戦のパイロットになると殆ど相手にならない。

 

 しかし、そんな彼らの元に別動隊からの通信文が届けられれば、その表情は一変した。そこには、信じられないことが書かれている。

 

「核攻撃!?極軌道からだと!?」

 

 それは、核を持った別動隊が死角からプラントへ接近しているという報せだった。思わず我が目を疑ったイザークとディアッカだったが、レーダーには確かに遠く離れた位置に複数の機影が確認できる。ミサイルと思しき装備を身につけるウィンダムの姿が。

 

「おいおい、核って…こいつら本気かよ!?」

「くっ…!ディアッカ、なんとしても止めるぞ!」

「分かっている!…けど、この物量…全部囮か!?」

 

 イザークとしても、プラントへの攻撃は何としても阻止したい。だが、連合も二人をエースパイロットだと理解したのか、10機単位で攻めてくるのだ。ミサイルに気を取られて油断すれば、流石のイザーク達とて危うくなるほどの物量だ。

 

「くっそぉぉぉ!」

 

 怒りと焦りを覚えながらも、全ての敵を破壊した時には、既に核ミサイルを搭載した部隊は遠く離れた位置にてプラントへ接近しつつある。

 そして、イザーク達が機体を向けたとき、ついに先頭にいたウィンダムからミサイルが放たれた。

 

「くそぉぉぉ!間に合わん!」

 

 イザークは悲痛な叫びを上げながら、必死にミサイルを狙うが、それはあまりにも遠い。ディアッカを始めとするザフトのモビルスーツが立ち続けに熱線を放つが、それが(かす)ることはなくミサイルは突き進む。

 その先には、周り続ける巨大な砂時計の群れがある。あそこには何十万人もの同胞がおり、中にはイザークの肉親もいる。あそこに核が撃たれれば、あのユニウスセブンのように……っ!

 

「ああっ…!」

 

 イザークが次に自分が見ることになる光景を想像して、悲痛な叫びを洩らした……その時だった。

 

 イザークの背後から、数条のビームと何十発ものミサイルが放たれた。それらは彼を追い越して、まるで豪雨のようにプラントへ向かう核ミサイルへ襲いかかる。

 

「なんだ…っ!?」

 

 プラントの目の前でミサイルは目も(くら)む閃光を発して爆発し、周囲のミサイルを誘爆してさらに閃光の輪を広げていく。

 

 モニターを白く()いた光が過ぎ去ったとき、真空に浮かぶ砂時計はただの一つも失われておらず、無傷のまま残されていた。イザークは強張った全身の力を抜けるほどの安堵を覚えながらも、故国を救ってくれた者の姿を求めて背後を見ようとしたのだが…。

 

「…っ!?」

 

 だが、ザクファントムの前を素早い何かが矢のように通り過ぎていくと同時に、手に持っていたビームライフルと背部のスラッシュウィザードが破壊されたことに気がつく。

 

 慌ててライフルを手放し、スラッシュウィザードをパージしたイザークの前で、見覚えのある緑色の粒子を放つ機体がウィンダムやザクなどを片っ端から無力化していた。

 

「––––ガンダム!? ソレスタルビーイングか!」

 

 さらに、イザーク達の眼前をモビルスーツの3倍近くはある極大なビームが横切る。それは、運悪く射線上に(おど)り出てしまったダガーやウィンダムを巻き込み、後方にあった地球軍艦をも飲み込んで宇宙の(ちり)にした。

 

「なんだ…、一体何が…」

 

 ガンダムが出現しただけで、戦況が何もかも変化した。こちらの司令部も混乱しているだろう。

 

 とにかく、失った装備を補給しなければ…と、イザークは破壊された残骸が散らばる宙域を後にした。

 

 

▽△▽

 

 

 モニターに映る白い閃光–––––––核ミサイルが誘爆していく光景を、ザフトと連合軍の戦闘宙域から少し離れた小惑星の上からアステリアは眺めていた。

 

「目標沈黙、再チャージまで…」

 

 アステリアが構えているのは、巨大な砲口を有する巨大なライフルだ。その全長はセレーネのGNメガランチャーよりも大きく、ライフルから伸びたケーブルが大型GNコンデンサーを内蔵したシールドへつながっている。

 

「GNハイメガランチャー。チャージ完了まで、20、19…」

 

 GNハイメガランチャー。

 セレーネのGNメガランチャーをも上回る威力と射程を持つ大型兵装であり、様々な武装との相性が良いアステリアのオプション装備の一つである。

 その威力は絶大で、遠く離れた位置から敵モビルスーツを数機纏めて撃墜できるほか、その威力と射程から戦艦をも撃沈させられることがこうして実戦で証明された。

 

「敵核搭載部隊の全滅を確認。続いて、特殊装備のナスカ級を捕捉…」

 

 開戦にあたって、今回のソレスタルビーイングのミッションは至って単純。ガンダムの力で持って、ザフト・連合に致命的なダメージを与えることで。これ以上の戦いの継続を不可能にすること。

 

 GNハイメガランチャーを装備したアステリアとGNメガランチャーを持つセレーネが後方から狙撃し、中距離をサルースが()け負う。そして、新型のオプション装備––––––大量のミサイルコンテナを積んだテールユニットを装備したメティスが敵部隊を撹乱する。

 

「アステリア、目標を破砕します」

 

 長いチャージを経て、GNハイメガランチャーから極大の粒子ビームが放たれる。狙いは特殊装備…ニュートロンスタンピーダーを装備したナスカ級だ。それは誰にも止めることはできず、いくつかのモビルスーツを巻き込んだ後、ナスカ級のスラスターを貫いた。

 

〈メティス、目標の破壊を確認。核部隊は全滅させたわ〉

〈セレーネ、地球連合軍の撤退を確認。プラン13に従って、離脱行動に入る〉

〈サルースも同じく〉

 

 各々のマイスターからの戦況報告を聞き、フェイトは自身の周囲を確認する。連合は完全に撤退し、ザフトも母艦の多くが航行不可能になった上に多くのモビルスーツが損傷している。これ以上の戦闘は不可能だろう。

 

「ザフト軍の完全沈黙を確認。周囲に連合軍の反応はなし」

〈宙域を離脱後、ルート41を通って合流を〉

「了解」

 

 次々とガンダムが離脱していき、目の前を飛行形態になったメティスが通り過ぎたのを確認して、フェイトもアステリアを宙域から離脱させる。

 

 

▽△▽

 

 

 こうして、"フォックストロット・ノベンバー"と呼ばれる第二次地球・プラント間の前哨戦は、戦争根絶を掲げる私設武装組織"ソレスタルビーイング"の武力介入によって両者痛み分けといった形で終了した。

 

 地球連合艦隊は悪戯な消耗を避けるため月軌道へ撤退。以降宇宙では月とL5宙域を挟み地球連合艦隊とザフト艦隊が睨み合いに終始し、小競り合いを繰り返す事になる。

 

 たった4機のモビルスーツが地球軍・ザフト両軍を撤退まで追い込んだことで、世界は改めてソレスタルビーイングという組織に注目することになった。

 

 しかし、彼等の武力介入という痛みを持ってしても、ナチュラル・コーディネーター間の溝を埋めるには足りず、世界では新たな争いが展開されていくことになる。

 

 それは非常に愚かな行動だった。

 

 だが、それは()にとっては想定の範囲内の出来事でもある。こんな光景は何十年も見てきた。年々増していくニンゲンの愚かしさ。成長していくにつれて純粋さを失っていく彼等を見て、彼は生命体として鈍化(どんか)していくように思えて仕方がない。

 

「……大人は嫌いだね」

 

 だから、彼はそう呟く。

 人は痛い思いをしなければ何も覚えない。そして、それは生優しいものでは意味がない。例えどんなに辛く厳しい痛みであろうと、世界を変えるためにはそれは必要なことなのだと。

 

 そう笑う少年の目の前には、白銀の機体が鎮座していた。

 

 頭部の額に付いているV字形のパーツ、その下には二つの碧眼。口から(あご)にかけて付いている赤い突起。全体的に肉感的な人間のようなフォルムをしており、背部には円錐形のスラスターが装備されている。

 

 それはまさしく–––––––ガンダムだった。

 

 

 





>GNハイメガランチャー
アストレアのプロトタイプと同じもの。ただし、粒子制御能力と連射性は向上している。

>テールユニット
キュリオスのミサイルユニットと同一モデル。使用後はパージして爆破した。


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選ばれし道

 

 

〈冗談ではないよ、ジブリール〉

 

 モニターの中で老人達が、さも軽蔑(けいべつ)したという表情でジブリールを見下ろす。

 

〈いったい何だね、この醜態は?〉

 

 整然と優雅だったシェルター内部は、嵐の過ぎ去ったあとのようなありさまだった。割れたガラスが散らばり、倒れたボトルから流れ出した酒が絨毯(じゅうたん)に染みを作っている。

 

 ジブリールは血色の悪い顔をさらに青ざめさせて、椅子に身を(うず)めていた。

 

〈しかしまぁ、ものの見事にやられたもんじゃのう〉

〈ソレスタル…なんだったか? あの組織のガンダムとかいう兵器は何だ?〉

 

 男たちは彼の沈黙など構わず、他人(ひと)ごとのように話し合っている。

 

〈意気揚々と宣戦布告をして出かけていって、本命のプラントに辿り着くどころか、たかがテロリストにおめおめと退却とは。君の書いたシナリオはコメディなのかね?〉

 

 強烈な痛罵(つうば)に、ジブリールはギリギリと椅子のアームを握りしめた。

 

 こんなはずではなかった。

 開戦と同時に核攻撃で持って、一気に片を付ける–––––それがジブリールの理想のシナリオだった。だからこそ、大西洋連邦もしぶしぶながら乗ったのだろう。

 

〈これでは大西洋連邦の小僧も大弱りじゃろうて〉

 

 老人たちは平然と、世界最大国家の大統領を「小僧」呼ばわりする。それだけの力が彼等にはあるからだ。

 

〈……さて、どうしたものかの?〉

 

 嘲弄するような老人どもの会話の中で、一人がジロリとジブリールを睨んだ。

 

〈我等は誰に、どういう手を打つべきかな?––––– ジブリール、きみにかね?〉

 

 その声音(こわね)に含まれていたものに、ジブリールの背筋がそそけ立つ。眼前のモニターにずらりと並んだ老人たちにとって、ジブリール一人をブルーコスモス盟主の座から引き摺り下ろすことなど容易なのだ。

 

 彼等がジブリールを斬り捨てることを決断すれば、次の日にはブルーコスモス盟主の座には、彼等お気に入りのシャーロット・アズラエルが座っていることだろう。

 

 そんなふざけた未来を想像して、ジブリールは頭に血が昇るのを感じた。

 

「ふざけたことをおっしゃいますな! この戦争、ますます何としても勝たなければならなくなったというのに!」

〈…………〉

 

 その怒気に、老人たちはいったん押し黙る。それに力を得て、ジブリールは声を張り上げた。

 

「それに、あのガンダムとかいうモビルスーツ…あんなものを個人で所有するソレスタルビーイングなんていうテロ組織を放置して、いったいどうして安心していられるというのですか!?」

 

 ガンダムについては、まだ何も情報が入っていない。ファントムペインから戦闘データが送られているが、それは現行のモビルスーツを大きく上回る性能を持っているということだけ。

 それこそ、地球軍とザフト軍を相手にして、撤退まで追い込めるほどの性能だ。そんなものをテロ組織が有していて、いつでも攻撃ができるという方が、恐ろしいではないか。

 

「皆さんこそいいんですか?『戦争根絶』なんて思想を掲げる奴等を野放しにしておいて!」

〈それは……うぅむ〉

 

 戦争を糧にする彼等ロゴスにとって、それは問題だ。ジブリールとしては、コーディネーターさえいなくなれば、世界が平和になろうがどうしようが構わないが、目の前の老人たちはそうはいかない。

 

「奴等にいい顔をさせておくのは、皆さんも困るでしょう?」

〈それはそうだが……〉

〈だが、勝てるのかね? あのガンダムというモビルスーツ…とても艦隊の一つや二つで押さえられるとは思えないが〉

 

 しかし、どうも老人たちは弱気になっているらしい。よほど先ほどの戦いが堪えたようだ。これだから、自分の保身だけを考えた人間は…。ジブリールは鼻を鳴らして答えた。

 

「だからこそ!今、地球圏を統一する必要があるのです!」

〈地球圏統一だと…?〉

「ええ! この際、宇宙にいるバケモノどもには目を瞑りましょう。しかし、地球に奴等がいたままじゃ、テロリスト退治もできはしない!」

 

 傷つけられたプライドと、コーディネーターに対する嫌悪と憎悪が入り混じり、ジブリールの顔を彩っていた。彼は老人たちを鼓舞(こぶ)するように叫ぶ。

 

「手始めにオーブやスカンジナビアなどを取り込み、この星からコーディネーターどもを追い出さなければ!」

 

 それはもはや暴論だった。

 戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングへ対応するために地球圏を一つにすることはともかく、そのためにザフトを攻めるということは決してイコールではない。

 

 しかし、彼の中では、自身の計画の邪魔をしたソレスタルビーイングよりも、コーディネーターへの憎しみの方が、はるかに凌駕していたのだ。

 

 

▽△▽

 

 

「では、プラント最高評議会は、議員全員の賛同により、国防委員会より提出の案件を了承する」

 

 同じ頃、プラント最高評議会の議場でも、ひとつの決定が下されていた。提議の通ったタカオ国防委員長が安堵(あんど)の表情を浮かべ、最後までそれに対抗していたデュランダル議長は、心痛をその顔に(ただよ)わせている。

 

 地球軍の核攻撃を見て、プラントでは地球連合への武力行使が選択されたのだ。

 

「–––––––しかし! これはあくまでも()()()()()()の行使だということを、決して忘れないでいただきたい」

 

 デュランダルの念に念を重ねた注意喚起に、議員たちも神妙な面持ちで頷く。

 地球軍に対しての武力行使を選択した彼等の間には、ある不安要素が存在していた。

 

「これ以上ソレスタルビーイングの介入を招くわけにはいきますまい」

「あのガンダムというモビルスーツ……かつてのフリーダムやジャスティス等を遥かに上回りますからな」

 

 議題は、彼等を(なや)ます私設武装組織ソレスタルビーイングについてのものへと移っていく。

 

「ソレスタルビーイング…一体何が目的なのか」

「何を言う。奴等が言っていたであろう、『戦争の根絶』だと…」

「バカな! そんなことができるわけがない!」

 

 フォックストロット・ノベンバーにおける四機のガンダムの出現。たった4機で核攻撃を行った地球軍を撤退まで追い込み、ザフトにも多大な損害を与えたソレスタルビーイングの存在を彼等は重く見ていた。

 それこそ、前大戦で地球・プラント間の争いに第三勢力として介入した三隻同盟以上に…。

 

「あの映像の男は何者なのか。素性はまだ分かっていないのか!?」

「いえ、まだです。しかし、身に付けていた衣服や映像内における部屋の備品などを見る限り、相当昔に取られたものだと…」

 

 騒がしくなる議会の様子を見て、デュランダルは誰にも聞こえないように小さな息を吐いた。

 

 実のところ、デュランダルは映像の男が()()()()()()()()()()()()()。知っている人は少ないが、彼は政治家である以前は遺伝子研究者として有名であったのだ。そこで活躍していた中で、その男の顔と名前を見たことがある。

 

「ならばジョージ・グレンとの関係性は! あそこまで容姿が似ていて無関係なわけがなかろう…!」

「はぁ…しかし、彼に関する情報は–––」

 

 そう、あの容姿を見れば、誰もがジョージ・グレンの関係を疑うだろう。無理もない。確かにあの男はジョージ・グレンの関係者なのだから。

 

 だかしかし、それを議員たちは知らないし、デュランダルも素直に教えるつもりはなかった。

 

「議長!」

 

 そんなデュランダルのもとに、秘書の男がひっそりの近づいて報告を行った。

 

「オーブよりアレックスと名乗る使者が改めて会談の申し込みを要請していますが…」

「あぁ、もうそんな時間か…」

 

 開戦してから、デュランダルの予定はより忙しくなっている。()との会談は、デュランダルも心待ちにしていたのだが、ガンダムの出現も合わせて、随分と予想外の事態の連続で時間が押してしまっているようだ。

 

「ガンダムを鹵獲するべきでは…?」

「それにしても、まずは新型モビルスーツの開発を…」

「では、例のサードステージシリーズを…」

 

 終わる様子のない議会の様子に、デュランダルは改めて溜め息を吐いた。

 

「ままならんな…本当に」

 

 

▽△▽

 

 

 地球・プラント共に各々の行く道を定めた中、ミネルバが停泊するオーブ連合首長国もまた選択を迫られていた。

 

「ダメだ、ダメだ、ダメだッ!」

 

 カガリは、並び立つ閣僚(かくりょう)を前に一人、孤独の戦いを強いられていた。訝しげにこちらを見つめる閣僚に対して、彼女は憤りもあらわに叫ぶ。

 

「冗談ではない! 何と言われようが、今こんな同盟を締結することなどできるかっ!」

 

 連合国の宣戦布告以来、カガリはあらゆる手を()くして、開戦を回避する手段を模索(もさく)したが、その努力は実ることなく、戦端(せんたん)は開かれてしまった。

 そして、彼女が次に迫られたのは、自分たち(オーブ)の立ち位置を決定することだった。

 

 カガリからすると信じがたいことに、ウナト・エマ・セイランを始めとする閣僚たちは、大西洋連邦との同盟に固執(こしつ)しているのだ。

 

 断固としてそれを拒むカガリの姿に、ウナトが苦い表情を浮かべる。

 

「しかし、代表…」

「大西洋連邦が何をしたか、お前たちだってその目で見ただろう! 前大戦のことはともかく、今回の一方的な宣戦布告、そして核攻撃だぞ!」

 

 カガリは義憤(ぎふん)に震えながら怒鳴(どな)り返した。

 

「そんな国との安全保障など、どうして受け入れることができるか、お前たちは!」

「…代表」

 

 閣僚たちがいきりたつカガリを宥めようとする中、ウナトの隣に座るユウナがすっと立ち上がる。

 

「そのような、子供じみた主張はおやめいただきたい!」

「なっ!」

 

 ユウナは、まるで手に負えないというようにカガリを見やり、ハッキリとした主張で答えた。

 

「何故? 失礼ですが、状況を理解できていないのは代表の方ではないですか?」

 

 その言葉に、顔には出さないが閣僚達も賛成の意を示し、それに気を良くしたユウナは小馬鹿にしたような口調で言い放つ。

 

「あの宙域で起きた戦闘、もしや代表は地球軍がただ核攻撃をしただけだと思っているのですか? 彼等の存在をご存知ないと!」

 

 そう言うと、ユウナはモニターに映る四機のモビルスーツを指差す。あれは、ガンダムと呼ばれるソレスタルビーイングという組織の機体だ。次々と連合及びザフトの機体を破壊するその姿に閣僚がどよめく。

 

「大西洋連邦は、あのテロリストの持つ強大な力を恐れています。だからこそ、地球の一国家として、オーブも共に手を取り合ってテロリストへ対応しようと言ってくれているのに…代表は一体何がご不満なのですか!」

「それは……しかし!」

「それともこの同盟を跳ね除け、『オーブの理念』を理由に地球の国々とは手を取り合わず、この惑星の上でまた一国、孤立しようとでもいうのですか?」

「違うっ!」

 

 なぜそういうことになるのか。

 カガリの言いたいのは、そういうことではない。だが閣僚達は皆、まるで駄々っ子を見るかのような視線で、うんざりとした表情でこちらを見つめている。

 

 確かに彼等の言い分も分かる。いくらソレスタルビーイングが「戦争根絶」なんて聞こえのいい理想を並べても、ガンダムという強大な武力を行使する以上、地球やプラントからすれば脅威でしかない。

 

 だが、ならば何故、未だに武力を放棄せず、世界を敵と味方に分けて、手段を選ばずに全てを力で解決しようとする者たちに加担しようと思うのか。

 

「では、どうするというのです?」

「それは…けど、それがなぜプラントを敵性国家と認めることになる。むしろ、彼等とも手を取り合って…」

 

 ユウナが厳しい声で問いただし、カガリはそれに気圧(けお)されそうになりながら、懸命(けんめい)に言葉を紡ぐ。

 

「代表…世界はそんな簡単にできていないのです」

「は?」

「地球が一つになり、平和のために共に手を取り合う…それに何のご不満があるのです」

 

 元々大西洋連邦寄りだったセイランはともかく、他の閣僚達もブレイク・ザ・ワールドの件でプラントへいい感情を持っていない。積極的に敵視をすることはなくても、彼等の言う「平和な世界」の中にプラントは含まれていなかった。もはや、連合にとってプラントもテロリストと同列なのだろうか…。

 

「代表、平和と国の安全を望む気持ちは、我等とて皆同じです。だからこそ、この同盟の締結を申し上げている」

「ウナト…」

「伝統や正義も構いませんが、今の世界……何よりも国と国民を第一に考えていただきたい」

 

 ウナトの声が、重くカガリの上にのしかかる。

 今のオーブ閣僚に、カガリの味方は誰一人としていないのだと、悟らざるを得なかった。

 

 

▽△▽

 

 

「カガリ!」

 

 後ろから朗らかに声をかけられ、カガリは疲れた顔を向けた。

 閣議が終わり、閣僚達がぞろぞろと閣議室から出てくる中、ユウナがカガリの元へ駆け寄ってくる。

 

「大丈夫? 疲れてるみたいだけど」

 

 さっきのことを忘れたような馴れ馴れしさに、カガリは反射的に嫌悪感を抱いたが、流石の彼女も態度には出さない。すると、彼はそれに気づかずに言葉を続けた。

 

「さっきは悪かったね。でもほら、あそこで君に意見を言うのが僕の役目だからさ」

「分かっている、そんなことは……」

 

 そう、分かっている。

 カガリという"アスハ"に対抗するため、"セイラン"の彼が意見を口にしただけのこと。それを咎めるつもりは一切ない。

 

「大丈夫、みんな分かっているよ。ただ、今度の問題が多すぎるだけだ…君には」

 

 ユウナが隣を歩きながら、慰めの言葉を口にする。疲れ切っていたカガリは、その言葉に含まれた無意識の見下しに気づくことはなかった。

 

 二人はそのまま執務室へ辿り着き、ユウナはカガリを労るように中に迎え入れた。

 

「さ、ともかく少し休んで。なにか飲むかい? それとも軽くなにか食べる?」

「いいや、大丈夫だ…」

 

 カガリは沈むようにソファに腰を下ろし、背をもたせかけて目を閉じる。ユウナの気遣いはありがたいが、疲労感ゆえか鬱陶しく感じる。こんな時は、ユウナではなくアスランにいて欲しかった。彼ならば、何も言わなくても自分の気持ちをわかってくれるのに。

 

 しかし、彼はここにはいない。いや、それどころかオーブにもいないのだ。

 

「可哀想に…君はまだ、ほんの18歳の女の子だっていうのにね」

 

 その言葉の中に含まれた意味に、思わずムッとするが、口でこの男に勝てないのは分かっていたので、カガリは彼の施しを拒否することで小さく反抗した。

 

「それにしても、アレックスのやつも薄情だねぇ。こんな状態のカガリを放って、プラントへ行っちゃうなんてさ」

「………っ!」

 

 アスランを軽蔑するかのようなユウナの発言に、カガリは思わず目の前の男をぶん殴りそうになった。それを必死に理性で押さえて、伏せた顔の下で歯を食いしばる。

 

 アレックス・ディノことアスランは、現在プラントへ向かっている。開戦することによってプラントがどのような対応を取るのかを、オーブからの特使としてデュランダル議長に確かめるためだ。

 

 カガリとて、アスランには側にいて欲しかったが、彼の覚悟を思えばそれを無為にしてまで引き止めることはできなかった。彼は今も"ザラ"の名の呪縛に苦しんでいるのだ。それを解決できるのならと、カガリも彼の背中を後押しした。

 

「でも大丈夫だよ。彼と違って、僕はいつでも君のことを–––––」

「ユウナ」

 

 だからこそ、彼の覚悟を弄する発言は許しておけない。これ以上ユウナの耳障りな発言を聞いていれば、カガリとて我慢の限界を迎えそうだった。

 

「お前のいうとおり、私も少し休むことにする。一人にしてくれると助かるんだが…」

「え、あ、うん。お疲れ様…でした」

 

 溢れる怒気がカガリに似つかわしくない低い声となって口に出た。それにユウナは面食らった様子であり、明らかに不機嫌な様子のカガリに気圧されたようにゆっくりと執務室を後にしていった。

 

「…はぁ」

 

 カガリ以外無人となった執務室で、彼女は深い溜め息を吐いた。

 

 自分でも政治の類は向いていないと分かっていたが、こうもうまくいかないと流石に自信をなくす。自分の信じる物は間違っていないと思っているが、それがどうにも閣僚達には伝わらないのだ。

 

「お父様…私は」

 

 そんなとき、父が生きていれば、どんな決断をしたのだろうか。今自分がやっていることは、本当に単なる我が儘なのではないか。そんな不安がカガリの肩に見えない重みとなってのしかかっていた。

 

 





>地球連合(大西洋連邦)
ガンダム強すぎだろ
→これは地球国家全てで団結して、鹵獲・破壊するしかねぇ!(00と同じ展開)
→そのために邪魔なザフト軍を地球から追い出そうぜ!(は?)

>プラント(ザフト)
ガンダム強すぎだろ
→できれば鹵獲したい
→よし、新型モビルスーツ開発しよう!(デスティニー・レジェンド)
→それまではできるだけ争いは避けようね!(小並感)

>オーブ
ガンダム強すぎだろ
→これは地球国家全てで〜以下同文
→よし、連合と同盟結んで、ついでに邪魔なザフトも排除して連合に恩売っとこうぜ!(は?)



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それぞれの剣

 

 

 オーブ近海を抜けた先、そこでは空母四隻を含む地球連合艦隊が列を成して群青の海を航行している。

 

 彼等は、これからここを通るであろうザフトの新型戦艦"ミネルバ"を迎え撃つため、この海域に(あみ)を張っていたのだ。

 

「もう間も無くオーブ領海近くです」

「分かった…それにしても、オーブも必死だな」

 

 索敵班の言葉に今回の作戦を任された艦隊司令が、悠然と座したまま群青の海を眺めてそう呟いた。

 

 今回、彼等地球軍はオーブからの情報提供を受けてここまで進軍していた。情報提供者は、オーブのセイラン家からだ。同盟を有利に進めるための手土産にでもしたつもりなのだろう。

 

「さぁて、では暫しの待機というわけか。ザムザザーはどうだ?」

「はい。整備は完璧。パイロットも含めて、いつでも出撃可能です」

 

 今回の彼等の目的は、もちろんザフトの新型戦艦なのだが、それとは別に新型モビルアーマーのデモンストレーションという意味合いもあった。隣を航行する空母の中には、地球連合が次期主力機体として注目している新型機"ザムザザー"が搭載されている。

 

「よろしい。モビルスーツ部隊にも第二戦闘配備を出しておけ」

「はっ!」

 

 司令官は、これからの時代はモビルスーツではなく、ザムザザーのようなモビルアーマーが主戦力となることを期待していた。

 いつまでもザフトの真似をして作ったモビルスーツで戦うことは、前大戦より以前から戦ってきた彼にとっては屈辱だったからだ。

 

 しかし、これでザムザザーが結果を出せば、彼の望みは現実のものとなる。更なる改良型が作られて、時代はモビルアーマーの物になるだろう。

 

 そう思って司令官の口元が(ゆる)んだ、正にその瞬間だった。

 

「上空より熱源接近!モビルスーツ?いや速い!」

「何だ?」

 

 オペレーターの一人が悲鳴じみた声を上げた瞬間、上空より二機の機影が彼等の前に舞い降りた。その姿は、最近連合を騒がしている組織の機体…。

 

「ガンダムだと!? 我々はまだ何もしてないぞ!」

「少佐、ガンダムがザムザザーを積んだ艦へ!」

「何ぃ!迎撃させろ、急げ!」

 

 司令官の指示で各艦隊が砲撃を開始するが、素早く動くガンダムに命中させることは叶わず、二機のガンダムの内、青色の機体色のモビルスーツが右腕に折り畳まれた大剣を展開し、艦船の甲板にそれを突き刺して斬り刻む。

 

「…少佐!」

「ええい! モビルスーツ部隊を発進させろ! ザムザザーも出せ!」

「はっ!」

 

 各艦から一斉にミサイルが発射されると同時に、艦載機である"ジェットストライカー"を装備したウィンダムが次々と出撃していく。

 

 そして、その中に異様な機体がせり上がった。ほぼ半球形を(えが)くボディの四方から、太く短い(あし)のような突起突き出した、ヤシガニを思わせるようなフォルムの機体、ザムザザーだ。

 

「ガンダムめ…返り討ちにしてくれる。このザムザザーがな!」

 

 

▽△▽

 

 

 ガンダムアステリアを駆るフェイトは、次々と迫り来るウィンダムの攻撃を回避し、展開したGNソードとビームサーベルで次々と斬り刻む。

 機体を真っ二つにされたウィンダムは空中で爆散し、黒煙を後に引きながら落下していった。

 

「ええい!」

 

 敵は隊列を成して攻撃を加えてくるが、そのどれもがガンダムの反応速度に追いつくものではない。フェイトは素早く機体を旋回させ、ライフルモードにしたGNソードでウィンダムの"ジェットストライカー"を上空から狙い撃つ。

 フライトユニットを破壊されたウィンダムは重力に従って、群青(ぐんじょう)の海へ落下していく。

 

〈フェイト、張り切りすぎじゃない? 大丈夫?〉

「…大丈夫です!」

 

 そこから少し離れたところでは、フブキの駆るガンダムメティスが大気圏内で存分にその機動性を発揮してウィンダムを翻弄(ほんろう)している。

 鬼気(けっき)迫る様子を心配したフブキの通信に、問題ないと伝えて、フェイトは連合艦隊の方向へ機体を向かわせた。

 

 こちらに砲撃を行ってくる連合艦隊の中を突き進むように、緑色の見慣れない機影が接近してくる。こちらのデータバンクにはない機体だ。今回の任務の目標でもある。

 

「あれが連合の新型モビルアーマー…!」

 

 モビルアーマーは、その巨体(きょたい)からは予想もできない機動力を見せ、アステリアに向かって接近してくる。流石のガンダムとて、あの巨大と質量が直撃すれば、ただではすまない。

 

「はぁっ!」

 

 フェイトは、機体をずらしてその巨体とすれ違うと、GNソードをライフルモードにしてビームを放つ。が、そのビームは敵機の直前で見えない壁に当たったかのように弾かれた。

 

「あれが陽電子リフレクター…厄介」

 

 遠距離からのビーム兵器を無効化するという新型の防御兵装。ビーム兵器を主体とするガンダムとは相性の悪い武装である。

 尤も、ガンダムセレーネのGNメガランチャーのような高威力の粒子ビームまで耐え切れるかはまだ分からないが。少なくともアステリアのGNソードによる射撃では突破は難しいだろう。

 

「……っ!」

 

 高速ですれ違ったモビルアーマーは、そのまま後方脚部の砲口から強烈(きょうれつ)なビームを放った。フェイトは機体を急上昇(じょうしょう)させてそれをかわす。

 

「…やる!」

 

 少なくとも非太陽炉搭載機にしてはかなりの火力とパワーだ。あれほどの火力、直撃すればガンダムの装甲とてかなりのダメージを受けることになるだろう。……当たりさえすればの話だが。

 

 フェイトは、上空から飛び込むようにモビルアーマーへ突っ込んだ。敵機が両脚部の砲口から強力なビームを放ったが、ガンダムの機動力を捉えるには至らない。フェイトは、そのまま二発のビームライフルを撃ち込むと同時に、腰部のGNビームダガーを投擲(とうてき)する。

 

 モビルアーマーは再度リフレクターを展開してビームを防いだようだが、続いて投擲されたGNビームダガーに発生装置を破壊され、小さな爆発と共にリフレクターは消え去った。

 

「アステリア、目標を破壊する!」

 

 そして、何が起きたか分かっていない様子のモビルアーマーに飛び乗り、GNソードで表面を斬り裂く。GN粒子でコーティングされた剣は分厚い装甲をいとも簡単に両断し、その切り傷から血が(あふ)れるように火花が散る。

 アステリアが飛び退いた次の瞬間、その巨体は爆発四散した。

 

「フブキさん、こっちは終わりました!」

〈オーケー、こちらでも確認したわ。もうこの辺にしときましょう〉

 

 上空を見れば、あれほどいたウィンダムも数を大きく減らしている。いずれもメティスに撃墜・無力化されたのだろう。

 

〈敵連合艦隊、撤退していきます。目標対象のモビルアーマーの撃破を確認。各マイスターは撤退行動に移ってください〉

〈りょーかい。メティス、撤退行動に移ります〉

 

 地球軍の開発した新型モビルアーマー。それがどれほどの性能を持っているのかを調査するのが、今回フェイトに課せられた任務だった。初めはアステリアのみの単独任務だったのだが、連合艦隊の規模を考慮してバックアップにメティスが派遣されたのである。

 

「………」

 

 撤退するメティスをよそに、フェイトは広がる海の向こう…辛うじて見ることができる島々(オーブ)へ視線を向けた。あそこには、フェイトの故郷がある。その故郷には、生き別れた兄がいる。

 

 オーブが大西洋連邦と同盟を結ぶことが決まったのは知っている。何せソレスタルビーイングに大西洋連邦の中心人物がいるのだから。

 

 だが、紆余曲折あれど、家族を殺し、兄と離れ離れになる原因を作った大西洋連邦と同盟を結んだオーブのことはどうしてもよく思えない。自分たちのような人間を出してまで貫こうとした中立の理念はどこに行ってしまったのか。

 

「……アステリア、撤退行動に移ります」

 

 変わり果てた故郷を見つめた後、フェイトは静かに機体を翻した。

 

 

▽△▽

 

 

 ソレスタルビーイングのガンダムが、空母四隻を有する地球連合軍へ武力介入し、地球軍が投入した新型モビルアーマーを物ともせずにたった二機で撤退まで追い込んだという情報は、すぐに距離の近かったオーブへと届けられた。

 

 その光景は、オーブ軍司令部でも確認されている。が、その海戦の結果に誰もが呆気に取られていた。

 

 ソレスタルビーイングと聞いてすっ飛んできたカガリや、それに腰巾着のようにくっついてきたユウナも口をポカンと開けて固まっている。

 

 特に、ミネルバを狙うように連合と内通していたユウナは、茫然自失(ぼうぜんじしつ)の状態であり、常に浮かべている軽薄な笑みは今や見る影もなかった。

 

 それほどまでに圧倒的だったのだ。ガンダムの力は。プラントや連合からの情報でしかその力を知らないオーブは、眼前で初めて直接その力を目撃することとなった。

 

 

▽△▽

 

 

 ミネルバのブリッジでも、オーブ軍から送られてきた情報に誰もが呆気に取られた様子でモニターの映像を眺めていた。

 

 今現在、ミネルバはようやく長い修理を終えたものの、カーペンタリアからの連絡待ちといった理由でオーブに停泊し続けていた。その最中にオーブから届けられたのがこの戦闘記録である。

 

「艦長……」

 

 アーサーとバートが困惑ぎみの表情でタリアを見つめている。

 だがまぁ、彼等の気持ちも分かる。今現在、オーブもミネルバも複雑な状況に置かれているのだ。

 

「カーペンタリアと連絡は取れない?」

 

 タリアは、少し迷いながらバートに命じた。

 

 ミネルバがオーブで修理を受けている間に、様々なことが起きた。突然の開戦に始まり、ソレスタルビーイングの武力介入。そして、オーブが大西洋連邦との同盟の可能性。

 このまま何もせずに待機していることは、もうできそうにないとタリアは思った。

 

 すると、様々な通信手段を試していたバートが、ややあって首を横に振った。

 

「ダメです。地球軍側の警戒レベルが上がっているのか、通信妨害激しく、レーザーでもカーペンタリアにコンタクトできません」

「あぁ…」

 

 ある程度予測していた答えだったが、アーサーが暗澹(あんたん)たる表情を浮かべて肩を落とした。

 

 だが、それを聞いてタリアは心を決めた。

 

「いいわ。命令なきままだけど、ミネルバは明朝出航します」

「艦長……」

 

 何より、わざわざオーブ近海で連合が空母四隻も率いて航行していたというのが不自然だ。新型モビルアーマーの件といい、ソレスタルビーイングに介入されたことといい、何か作為的なものを感じてならない。

 

「全艦に通達! 急いで!」

「は、はい!」

 

 オーブ連合首長国。

 国も、国のトップ(カガリ)も、気の合いそうなメカニック(マリア・ベルナス)もそう悪いものでなかっただけに、タリアも少し寂しく思いながら、オーブを後にすることを決意した。

 

 

▽△▽

 

 

 そして、地上から遠く離れたプラントでも、一人の男が決意を新たにしていた。

 

 彼、アスラン・ザラは差し出された赤い上着を、しばし感慨(かんがい)深げに見つめた。アスランにとっては、久しぶりで見慣れた制服だ。手慣れた様子でそれを羽織り、(えり)を止める。

 

 再びこの制服の(そで)に手を通す日が来るとは思ってもみなかった。やはり、人は取り巻く状況と時間の作用によって変わっていくということだろうか。

 

「わぁぁ…!」

 

 隣で見ていた少女、ミーア・キャンベルが惚れ惚れとした様子で声を上げた。昔の婚約者(ラクス)とよく似た少女の姿にアスランは少しばつの悪い思いを抱いたが、すぐにそれを振り捨て、もう一人、自分を見守っていた人物へ向き直る。

 

「アスラン…」

 

 デュランダル議長が、静かな称賛を込めて自分を見つめていた。アスランはもう迷わず、"アスラン・ザラ"として彼の前に進み出る。

 

《だからお前も、何かできることをしろ! オーブのためでも、プラントのためでもいい! それほどの力、ただ無駄にするつもりか!》

 

 プラントへ来て、デュランダル議長の言葉を聞き、久しぶりにあった戦友(イザーク)たちの言葉を聞き、迷っていたアスランの心も決まった。

 

 カガリは未熟ながらも政治家として戦っている。イザークたちもプラントを守るために必死に戦っている。

 

「………?」

 

 そして、ミーアという少女もまた、平和のために自分にできることを精一杯頑張っているのだ。彼女のやっていることは、正直()められたことじゃないが、もはや手段を選んでいる場合じゃないのだろう…世界は。

 

 デュランダルはアスランの顔を感慨深げに見つめた後、手にしていた箱を差し出した。その中には、銀色に光る徽章(きしょう)が入っている。

 

「これは、フェイスの…?」

 

 フェイスとは、特務隊と呼ばれるプラント国防委員会直属の指揮下に置かれる部隊であり、国防委員会及び評議会議長に戦績・人格ともに優れていると認められた者が任命されるものだ。個々において行動の自由を持ち、その権限は通常の部隊指揮官より上位で作戦の立案及び実行の命令権限までも有している。

 

「でも、なぜ?」

 

 アスランはかつて親友を…ストライクを討った際にこれを受賞しているが、その後ザフトを脱走したために取り消されている。

 かつての決断を後悔はしていないが、一度軍服を脱いだ自分が、再びフェイスを受け取るのに相応しい人物だとは思えない。

 

 しかし、デュランダルは、そんなアスランを安心させるように微笑む。

 

「君ほどの人物を通常の指揮系統に組み込むのは難しいし、君も困るだろう? そのための便宜上の措置だよ」

「議長…」

「…君は己の信念や信義に、忠誠を誓ってくれればいい。それを裏切らないと誓ってくれるなら」

 

 その表情には、アスランに対する信頼がこもっていた。

 己の信念、信義に従う–––––––それ以外の何も従わなくていい。しかし、それは自由であると同時に、とてつもない重圧を伴う責任だ。議長は、それをアスランに誓えと言っているのだ。

 

「君にならできるさ。だからその力を、どうか必要な時に使ってくれたまえ。この混沌とする時代の中で、君のその力が正しく平和のために使われることを祈っているよ」

「はい……!」

 

 そう言うと、デュランダルはアスランをその場所へ送り出した。アスランの新たなる剣が眠っている、その場所へと。

 

 

 連れてこられたのは、ザフトでも最重要秘密であろうモビルスーツの格納庫(ハンガー)だ。しかし、今のアスランは真紅のパイロットスーツに身を包むザフトレッドのフェイスである。

 

「…セイバー」

 

 ZGMF-X23S "セイバー"

 そこに立つモビルスーツをアスランは既に一度見ている。だが、"ザフトのアスラン・ザラ"としてこの機体に対面するとなると、また違う気分になる。

 

 コックピットですぐに機体を立ち上げ、エンジン音と共にメンテナンス用のケーブルが次々と外されていく。まるで戒めから解かれた巨神の如く、目覚めたセイバーのツインアイに光が(とも)った。

 

 前方のゲートが開き、かつてのジャスティス発進の時のように、切り取られた星の海を真っ直ぐに見据(みす)え、アスランは強い意志に彩られた言葉を吐き出した。

 

「アスラン・ザラ、セイバー、発進する!」

 

 

 





>ザムザザー
安定の噛ませ。まぁ、原作でも最初以降は噛ませだったしいいよね?

>陽電子リフレクター
GNドライヴ搭載機のビームを防げるかは不明ですが、今作では防げるとしました。大型モビルアーマーだからということもありますが、あまりガンダムを有利にし過ぎると展開の問題があるので…。

>セイバー
肩サーベル以外は好き。
動力以外フリーダムの上位互換ってのも好き。
是非ともアスランにはキラと本気でぶつかり合って欲しかった。

>アスラン
彼は本気を出せば、上記のセイバーでガンダムとも互角に戦えます。



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ガンダム強襲

 

 

 沈む夕日が反射し、その美しい景色で見るものを魅了する。

 その光景を見て、黒髪の少年–––––––キラ・ヤマトは、何も言わずに海辺に(たたず)んでいた。

 

 背後には、アスハ家から提供された邸宅がある。先のユニウスセブンの災害で住んでいた住居を失ったキラ達は、カガリの配慮(はいりょ)でこの邸宅に居を移したのだ。

 

「…まぁ、気持ちは分からんでもないがな」

 

 そんな少年を見守るように、テラスで二人の大人が海を眺めている。

 それは、先の大戦で、キラと共に戦ったアンドリュー・バルトフェルドとマリュー・ラミアスだった。あの大戦の後、一人、また一人と仲間たちがバラバラになっていく中で、彼等はせめて少年達を見守ろうとオーブに居残り続けていた。

 

「…まぁ、オーブの決定はな。残念だが、この情勢では仕方のないものでもあると思うよ」

「ええ、カガリさんも頑張ったんだろうと思いますけど…」

「僕も政治のことはてんで分からんが、この情勢の中でも政治が難しいのは分かるよ。彼女を責める気はないが…問題はこっちだ」

 

 そう言って、マリューとバルトフェルドが見つめる先にいるのは、キラ…そして、彼に寄り添うように側にいる少女…ラクス・クラインだ。

 

「キラ君も…色々と心配ね」

 

 先の大戦でフリーダムを駆り、伝説的な活躍をしたという少年は、この生活に馴染んでないように思える。人との関わりをさけ、世捨て人のように、無為(むい)に過ごす日々。そこに、マリューが見た友人達と笑い合っていた二年前の姿はかけらもない。

 

「まぁ、君も僕も…キラには負担をかけすぎてしまったからね」

 

 それほどまでに、年若い心に大戦が刻んだ傷は、あまりに深いものだったのだ。親友(アスラン)と殺し合い、その過程で友人(トール)を失い、大切な少女(フレイ)も失った、辛い戦争の記憶は…。とても民間人だった子供が耐えうるものではなかった。

 

「そうね…」

 

 マリューは、彼を戦争に巻き込む引き金を引いてしまったし、バルトフェルドに至っては、その存在が彼の古傷のようなものである。二人とも、それに罪悪感を覚えていた。

 

 そして、今回の大西洋連邦との同盟締結。今後はプラント–––––コーディネーターが敵になる。国内から追放とまでいかないだろうが、キラやラクス、バルトフェルドにとってはもうオーブは安住の地ではなくなってしまうだろう。

 

「全く、ままならんな世界は…」

「連合は強引に開戦し、オーブもほぼセイランに掌握されていると……嫌な世の中ね」

「かといって、前回みたいなことは……できそうにないねぇ」

 

 かつてマリューとバルトフェルド、キラやラクスは三隻同盟を率いて互いを滅ぼさんとする地球・プラント間の争いを止める為に奔走したことがある。それこそが、彼らを『大戦の英雄』と言わしめている経歴なのだ。

 

「ソレスタルビーイング…か」

 

 そして今、彼等の代わり…というには少し違うが、地球とプラントを相手に動いているのが、ソレスタルビーイングという組織だ。その根本は「戦争根絶」というシンプルなもの。

 

「あら、やっぱり気になる?」

「まぁねぇ…でもま、やっぱり違うよ。僕らとは」

 

 彼等はテロリストだと言われていると聞く。前大戦でやったことは同じなのに、バルトフェルド達は「英雄」とまでもてはやされている。それがどこか気持ち悪く感じていた。

 戦争を止めたいというのは同じだ。しかし、バルトフェルド達には「戦争を根絶したい」という思いまでは存在しない。二年前は、あれしか止める方法がなかったから銃を取ったにすぎないのだ。

 

「ただ平和に暮らせて、ゆっくりとコーヒーでも飲みながら死んでいければいい……そういう意味では、彼等には是非とも戦争を根絶してもらいたいものだな」

 

 どこかわざとらしく、バルトフェルドは飄々とした口調でそう言う。その姿にマリューも肩をすくめるように笑って返した。

 

 

▽△▽

 

 

 その夜、波の打ち寄せる崖下に、浮かび上がった黒い影があった。ひそやかに一つの影が岩場に上がると、それに続いて複数の人影が上陸する。暗視ゴーグルにライフルと、明らかな対人用の装備をした数人ほどの部隊だ。

 

「いいな、標的(ターゲット)の死の痕跡は決して残すな。しかし、完璧に仕留めろ」

 

 特殊部隊を率いるヨップ・フォン・アラファスは、部下達にそう指示し、男達は崖上へ続く坂を走り始める。足音を殺した、無駄のない動きだ。その上には、標的(ラクス・クライン)が暮らすアスハ家の別邸が見えていた。

 

 何事もなくそこに到達し、ヨップ達は余裕の表情を浮かべた。

 いくら自分たちがザフトの特殊作戦部隊だとはいえ、気づかれずに他国に侵入するというのは難しいと思っていた。しかし、結果はこの通り。オーブはモビルスーツ数機が侵入しても気づかないような寝惚(ねぼ)けた国だったらしい。

 

「必要とあれば、控えているモビルスーツ隊の使用も許可されている。オーブ軍に気づかれる前に確実に仕留めるぞ」

 

 彼等はいとも簡単に屋敷の中へ侵入し、ラクス・クラインを巡った熾烈(しれつ)な銃撃戦が始まったのだ。

 

 

▽△▽

 

 

 ––––––どうして自分はここにいるのだろう。

 

 自分にとって馴染み深いモビルスーツ…フリーダムのコックピットの中で、キラは一人そう思った。

 

 仕方のないことだった。

 突如、侵入してきた謎の特殊部隊にラクスの命が狙われた。元軍人のマリューやバルトフェルドが迎撃してくれたが、多勢に無勢だった。何とかシェルターまで逃げ込んだものの、敵部隊はモビルスーツまで持ち出してきたのだ。

 

 本当は乗りたくなかった。

 レバーやペダルがまるで手足の延長のように吸い付くこの感覚に、どうしても嫌悪感が(ぬぐ)えないのだ。

 

 でも、本当に仕方のないことだった。

 あの場には子供達がいて、ラクスがいた。子供達の泣いている声を聞いて、ラクスが辛そうに"鍵"を手渡そうとしていたのを見てしまったから。だから、またキラはここにいる。

 

「………また力を借りるよ、フリーダム」

 

 そう言うと、まるでその言葉に応えるようにツインアイに光が灯った。同時に長い眠りから解かれるように装甲が色付いていく。そして、己の身体を(しば)っていた鎖を(ほど)くように点検コードが次々と抜けていく。

 

『私は…ここで家族を失ったんです』

『いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす…!』

 

「……っ!」

 

 一瞬だけ表情を歪めた後、見えた幻影を振り払ってキラはフリーダムを上空へ飛翔させる。

 

 調整された最高の肉体は、二年間のブランクなど感じさせてくれなかった。

 

 

▽△▽

 

 

 波間から立ち上がった数十機のモビルスーツは、水中用特有のずんぐりと丸みを()びたシルエットを見せていた。

 

 UMF/SSO-3 "アッシュ"

 ザフトがグーンやゾノなどの機体群の流れを汲む特殊戦支援機として開発した水陸両用モビルスーツだ。

 背中に背負った多目的ミサイルランチャー、両肩のビーム砲という武装の殆どを()き出しになったシェルターへ向けている。

 

「一点を集中して狙え! 壁面を破壊できればそれで終わる!」

 

 アッシュのコックピットの中で、ヨップは苛立ち混じりに部下へ指示を投げかけた。

 

 彼は焦っていた。

 まさかここまで手こずることになるとは思ってなかったのである。警備の甘さから楽な任務だと思っていたが、標的の側には腕のある護衛があるようで、白兵戦による暗殺は不可能だった。

 

 おかげで、わざわざアッシュを持ち出すことになったのだ。この機体はザフトの最新鋭の機体ということだけあってヨップ達からも信頼は厚いが、今この場では扱いづらいと言わざるを得ない。

 

「早く目標を探せ!! オルアンとクラムニクは…」

 

 出来るだけ手早く任務を終わらせようと、ヨップが次の命令を出そうとした時だった。

 ふいに背後の斜面から一筋の光が払暁(ふつぎょう)の空を駆け抜けていき、それに遅れて一つの機影が空へ飛び上がっていく。

 

「何だ!?」

 

 明るみ始めた空を背に、白く輝く機体が、十枚の青い翼を広げ、まるで本物の天使のようにこちらを見下していた。

 

「あれはまさか……フリーダム!?」

「ええっ!?」

 

 ZGMF-X10A "フリーダム"

 第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦において、ラクス・クラインの下で伝説的な活躍をした機体だ。当時の最新技術の全てを盛り込んだ性能と、それを巧みに操るパイロットの常人離れした技量等と全てが伝説クラスとして伝わっているモビルスーツの名前だった。

 

 そのモビルスーツが今、目の前にいる。

 その衝撃に動きが遅れたヨップ達を、フリーダムは見逃さなかった。

 

 フリーダムは翼を広げると、腰から引き抜いたビームサーベルを片手にこちらへ斬り込んできた。

 

「くそぅ、全機迎撃!」

 

 しかし、ヨップが僚機にそう指示した時には、一機のアッシュの手足が斬り飛ばされていた。

 

 何という速さ!何という操縦技術!

 

 離脱するフリーダムを目掛けて、慌てて両手のビームを放つが、フリーダムはそれを重力や空気抵抗が存在するとは思えない動きで鮮やかに砲撃をかわすと、その五つの砲門が火を()いた。

 

 マルチロックシステムの恩恵か、それともパイロットの技量ゆえか、ヨップの周りのアッシュは回避も許されずに一方的に撃破されていく。

 

 全てのアッシュが一機のモビルスーツを集中的に狙っていると言うのに、まるでビームの方から避けているのかと思うくらいに命中しない。なのに、お返しとばかりに放たれた閃光に次々と残ったアッシュを無力化されていった。

 

「そんなバカなぁ!うぉぉお!!」

 

 遂に自分一人になってしまったヨップは、雄叫びを上げながら、マニピュレーターから展開したビームクローで攻撃を行うが、フリーダムはそれをシールドでいなし、逆に持ち上げるようにアッシュを投げ飛ばした。

 

「ぬぉぉぉ!」

 

 ヨップは素早く機体の体勢を立て直したが、それよりも早くフリーダムから放たれたビームがアッシュの武装を、腕を、脚を破壊していく。達摩(だるま)にされたアッシュが地へ転がっていく。

 

「ぐぅぅ…くそっ」

 

 ミッションは失敗した。

 そして、彼のような特殊部隊は失敗した場合の手段は決まっている。情報の漏洩や証拠を残すことを防ぐために、ヨップはアッシュの自爆コードを入力する。

 

「………っ!」

 

 しかし、彼が結果的に自爆の引き金を引くことはなかった。

 覚悟を決めた彼が自爆の選択をするよりも先に、目の前が真っ白になるのを感じるとともにヨップの意識は途絶(とだ)えた。

 

 

▽△▽

 

 

 青い翼を広げたモビルスーツが空を舞い、次々と敵機体を無力化していく。

 

 その光景を、彼は上空から見つめていた。

 ザフトの最新鋭の機体"アッシュ"、同じくかつての最新鋭であった"フリーダム"。そのどちらの情報も、彼の頭の中には全てが詰め込まれている。

 

 彼は、世界と繋がっていた。

 いや、世界を見通すヴェーダと繋がっている…というべきか。彼にとって地球上だけでなく、月やプラント、火星のマーシャンに至るまで、コズミック・イラにおけるありとあらゆる情報とリンクしていた。

 

 だからこそ、今回の開戦の理由も知っている。

 地球連合を強引に動かしたロード・ジブリールは言わずもがな。同胞にすらその本心をひた隠しにしているギルバート・デュランダルの思惑すらも、彼はある程度把握(はあく)していた。

 

 前回の大戦を見届け、彼は(うれ)いた。

 ヒトというものは、何故にこうも愚かになれるのかと。

 リボンズ・アルマークが人間を上位者として認められなかった気持ちが分かったような気がする。

 

 鏡に写る自分の姿を見て、彼は溜め息をつく。

 何故、自分はそんな愚かな存在を模して作られたのだろうかと思った。まるで出来の悪い生徒に手を焼く教師の如く、彼は何度もヒトに期待を裏切られた。

 

 しかし、彼はヒトという存在を見捨てない。

 彼等が、いつの日か刹那・F・セイエイ達のようにイノベイターとして覚醒することを期待しているからだ。一度成功した計画。例えイノベイドが自分一人だろうと、彼はイオリア計画を成功させる自信と覚悟があった。

 

 眼下に広がる戦場……フリーダムによる一方的な攻撃の跡を見て、彼はふと思った。

 

 あのフリーダムのパイロット–––––––キラ・ヤマトは、どんな思いでその機体を駆っているのかと。自分たちイノベイドとは似て非なる存在…"スーパーコーディネーター"は、イオリア計画に何を思うだろうか。

 

 アスラン・ザラ、ラクス・クライン、カガリ・ユラ・アスハと、純粋種へ革新できるだけの素質(SEED)を持つ者はいるが、やはりその中でもキラ・ヤマトが一歩前を行く。

 

 この世界で一番、イノベイターに近い人間。

 

 彼は、この世界の人類を導く存在になり得るのか。

 その真意を知りたいという、ただそれだけの気持ちで、彼は機体をフリーダムの下へ向かわせた。

 

 

 





>ラクス暗殺部隊
本編では誰が黒幕か分からずじまいだったが、結局彼等に命じたのは議長であっているの? 証拠はないけどね。
あと、オーブ軍は島国のくせに海から上陸を許すとかホントに寝ぼけるんですか?

>SEED(優れた種への進化の要素である事を運命付けられた因子)
今作では、純粋種への覚醒因子という独自設定で行きます。種割れ回数が多いキラ君が一番素質があるということで。あとは、GN粒子さえあれば本人の意思次第で変革を迎えそうです。

>彼?
まぁ、分かるだろうけど、オリ主のレクシオです。
次回、新たなガンダムとともにキラのフリーダムに対話(物理)しに行きます。


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折れた翼

 

 全てのアッシュを圧倒し、無力化したフリーダムの周りには、武装や手足を失った機体(アッシュ)たちが転がっていた。

 

「………」

 

 自分たちを害そうとする相手は倒さなければならない。けれど、キラはその命までは奪いたくなかった。人の命を奪う時のあの感触を思い出したくなかったから…誰にも死んで欲しくはなかったから。

 

 それは、フリーダムという剣とキラという常人離れしたパイロットだから可能となる、圧倒的な力量の差があるからこそできる戦い方だった。

 

 そのとき、最後に撃破した機体がだしぬけに爆発した。いや、それだけではない。周囲に転がるアッシュ達も立て続けに爆発していく。

 

 –––––––そんな、何故!?

 

 キラは愕然(がくぜん)と目を見開く。

 自分は動力系は一切の攻撃を加えていないはすだ…と。

 

 そして、そんなキラの戸惑いに応えるように彼の第六感がその存在を感じ取った。まるで、頭の中に電流の矢を撃ち込まれたような感覚。決して不快なものではないが、心地よいものでもない。

 

「何が…っ!?」

 

 視覚で捉えるよりも、フリーダムのレーダーが捉えるよりも早く、キラは反射的にそこへビームライフルを撃ち込んでいた。

 

 すると、虚空(こくう)を突き進む閃光が、とある空間で弾かれるように消え去る。そこには、フリーダムを見下すように空を飛行する一機の白い影がいた。

 

「あの機体は…」

 

 それは、モビルスーツだった。

 (のぼる)る朝の陽射しが照らす、白雪のように純白の機体色。空色(そらいろ)のクリアラインの入ったその機体は、どこか冷たい氷のような印象を受け、スラスターも必要とせずに緑色の粒子を排出するだけで滞空するその姿は神秘的なものであった。

 

 見てとれる武装は、その手に握られた双頭の槍だろうか。他にも武装はあるだろうが、外見からはそれしか分からない。様々な武装を搭載するフリーダムと比べれば、随分と細身で身軽な機体に見える。

 

 キラの頭を襲う奇妙な感覚は、あの機体から発されている。あの機体のパイロットが、この現象を引き起こしているのだろうか。そんな思いを込めて、フリーダムの…キラとあの機体との視線が交差する。

 

「……来たっ!」

 

 しかし、それも一瞬のこと。

 敵機体はその双頭の槍をこちらに向けると、先端部を展開してこちらへビームを撃ち込んできたのだ。フリーダムのいる場所に光条が殺到(さっとう)し、さながら光の槍を(はり)に見立てた剣山のようだった。

 

 ––––––––なんて素早い攻撃っ!?

 

 キラは、巧みに操縦桿を動かし、機体を(おど)らせるようにしてそれらの攻撃をかわしていくが、やがてビームの発射速度に追いつかれ、その一部をシールドで防いだ。

 

「くっ!」

 

 こちらからもビームライフルで応戦するが、敵は(なめ)らかな動きで回避すると、こちらへと接近してくる。そのスピードもフリーダムより遥かに早い。キラの動体視力で何とか対応できる速度だ。

 

 敵機の振り下ろした槍をシールドで受け止め、その間に両腰部の"クスィフィアスレール砲"をゼロ距離で撃ち込んで吹き飛ばしたが、これといってダメージは見られない。

 

「フェイズシフト装甲なのか…!?」

 

 ならばと、両翼内の"バラエーナプラズマ収束ビーム砲"を発射したが、当然のように回避されてしまう。しかし、それは想定の範囲内。キラはビームサーベルを引き抜くと、久々の"あの感覚"を発動させる。

 

 頭の奥で、何かが(はじ)けるような音が聞こえる。

 同時に全ての方面の視界がクリアになり、周囲の全ての動きが指先で触れられそうなまでに精密に感じ取れるようになる。前大戦からキラが戦いの中で身につけた、砂漠の虎には"バーサーカーとまで称された特別な力。

 

 キラはクリアになった視界で相手のビームを回避すると、フリーダムのスラスターを全力で(ふか)し、常人では耐えられない高機動戦闘へと移した。

 

 

▽△▽

 

 

「これがSEEDを持つ者の力か…」

 

 途端に動きが鋭くなったフリーダムを見据え、コックピットの中でレクシオ・ヘイトリッドは感心したように呟いた。その瞳は金色に輝いており、彼の放つ脳量子波(のうりょうしは)は、キラの覚醒しつつある脳量子波を刺激している。

 

 CB-9999G "ガンダムレナトゥス"

 

 それがレクシオの乗るガンダムの名前だ。

 西暦で開発されたガンダムアストレアやアイズガンダム等のデータを基に開発された汎用機であり、世代としてはアステリアやセレーネ等の一つ前にあたる。

 

 主な武装は、西暦のジンクスⅢに装備されていたGNランスを参考に複雑な複合兵装を内蔵した双頭の槍型兵装であるGNパルチザン。そして、両肩にマウントされている計二本の大型GNビームサーベル。左腕のGNシールドや背部のコーン型スラスターを囲うように装備されているGNファングだ。

 

 開発した時期ゆえに世代は昔だが、レクシオというイノベイド専用に開発された機体というだけあって、その性能はアステリア等を凌駕(りょうが)している。

 

「そんな機体でよくやるね…」

 

 キラ・ヤマトの搭乗するフリーダムと比べれば、その性能差は雲泥(うんでい)のものである。確かに核分裂炉エンジンから来る強力なエネルギー供給は現行のモビルスーツの性能にも劣らないだろうが、ガンダムは更にその先をいく。

 

 GNパルチザンをライフルモードにして、フリーダムを狙う。本来なら撃墜しているはずのそれを、フリーダムは紙一重で回避し、こちらへビームライフルを撃ち込んでくる。

 

 実に見事だ…キラ・ヤマトの操縦技術は。常人離れしていると言っていい。彼の持つ変革者(イノベイター)への因子は、覚醒するのに十分なものを有している。

 

 ––––––––––しかし。

 

「それは傲慢だよ…キラ・ヤマト」

 

 彼はこの状況でもコックピットを狙っていなかった。狙うのは手足やメインカメラ。この性能差を持ってしても彼はレクシオを殺さないように戦っている。

 

 それがイノベイドであるレクシオの(かん)(さわ)った。所詮は造られた最優の人間に過ぎない。にも関わらず、まるで自らが上位者であるかのように戦うその姿が気に入らない。

 

「–––––行くよ」

 

 だから、レクシオも少し力を見せることにした。

 彼の全力を見るため…その裏に隠された本心を感じ取るために。

 

 

▽△▽

 

 

 敵機体の動きが変わったのを対応するキラも確認した。目の前の機体のツインアイが光ったと同時に、その動きが今までのものから明らかに変わる。

 

 ––––––––まだ速くなる!?

 

 突如上昇したスピードに、キラは目を見開く。

 あちらから飛んでくるビームの正確さはより鋭くなり、逆にキラが撃つビームはその全てが(かす)りもしない。これは機体性能だけではない。敵にキラの動きが読まれているのだ。

 

 それは、キラに大きな恐怖と焦りを与え、その隙はこの戦闘においては致命(ちめい)的なものとなる。

 

「こんな…これはっ!?」

 

 キラがシールドの(かげ)から撃ち返そうとしたとき、その一発がフリーダムのビームライフルを撃ち貫いたのだ。即座に手放すと同時に爆発し、その隙に敵機体が槍を構えてこちらへ接近してくる。

 

 –––––––いけない!

 

 このままでは、間違いなく()ちる。

 

 キラは目を見開き、自分の上に振り下ろされる槍刃を見つめた。目の前の機体から発せられる、痛いほどのプレッシャー。それは、キラの防衛本能を刺激し、彼の中に眠る殺意(本音)を強引に引き()り出す。

 

 キラは、スラスターを逆噴射して体勢をわざと崩すことで強引に敵の攻撃をかわし、振り上げたシールドで敵機体を殴り付けて吹き飛ばす。その間に何とか体勢を立て直したものの、敵機は既にビームを放ってきていた。

 

「………っ!」

 

 しかし、キラはその閃光をシールドで受け止めると同時に手放し、ビームサーベルを握って敵機へ飛び込んでいく。

 

 振り下ろしたサーベルは敵のシールドで受け止められ、逆にカウンターとばかりに敵の槍刃がフリーダムの左腕を切断した。が、それはキラにとっても承知の上。右腕に握るサーベルを敵機のシールドへ押し込み、その間にフリーダムの全砲門を向ける。

 

 ゼロ距離でのフルバースト攻撃。

 撃てばフリーダムのボディとてただでは済まないその攻撃を、キラは己の死を覚悟で撃ち込んだ。

 

 全ては、無意識下の行動だった。

 ただ自分を、ラクスの命を脅かす敵を排除するための効率的な手段だったからと。SEEDに覚醒したスーパーコーディネーターの頭脳が判断したのだ。

 

 そして、フリーダムの"バラエーナプラズマ収束ビーム砲"と"クスィフィアスレール砲"が発射され、二機を大きな爆炎で包み…互いに大きく吹き飛ばされた。

 

 

▽△▽

 

 

「やるじゃないか…」

 

 巻き上がる煙から舞い上がる"レナトゥス"の中で、レクシオは小さく称賛の言葉を口にした。その純白の機体に傷はない。直前でGNシールド及び内部のGNファングを犠牲にすることで彼は砲撃の直撃を免れたのだ。そして、直撃さえしなければGN粒子でコーティングされた装甲には大したダメージは与えられない。

 

 遠くでは、斜面にもたれかかるように中破したフリーダムが見える。あの機体はPS装甲を搭載しているので装甲面は無事だっただろうが、パイロットスーツも着ていないキラ本人への衝撃はかなりのものだったはず。脳量子波が途絶(とだ)えているのを思うに、意識を失っているのだろう。

 

 しかし、まさか捨て身の特攻でダメージを与えてくるとは思わなかった。ヴェーダの予測では、機体性能込みでキラが勝利する確率は10%を切っていたはずだったが、勝敗はともかく武装を破壊してくるとは…。

 

「その力…それが君の本音というわけか」

 

 イノベイドであるレクシオには、キラ・ヤマトが胸の内に秘める本当の思いが、彼の放つ脳量子波を通じて感じ取れていた。彼の叫びが…彼の悲鳴が。

 

「…………」

 

 彼の心は泣いていた。

 だけど、もう涙が出ないから、心で泣いていたのだ。決して誰にも悟られないように…。

 

《どうして自分は生きているのか》

《どうして自分には力があるのか》

《どうして自分だけ生き残ってしまったのか》

《どうして…また、自分はここに座っているのか》

 

 それはまるで幼い子どものようだった。

 いや、事実子どもなのだろう。世界の時は流れていくが、彼の中の幸せな思い出は二年前で止まっている。今はただ、小さな幸福に(すが)って惰性(だせい)に生きているに過ぎない。

 

「………困ったな」

 

 結局、最後の最後まで()()()()()()()()()()()

 いや、本気は出していたのだが、そこに殺意はなかった。遺伝子操作による人間の限界まで突き詰めた(才能)はあったが、そこにキラ・ヤマトという人間の意思は感じなかった。

 

《やっぱり、もう誰も殺したくない!》

 

 そんな思いが、最後に聞こえた彼の本音だった。

 

 ……ああ、これは筋金入りだ。

 

「君を傲慢だと言ったが…訂正するよ。君は少し謙虚がすぎる」

 

 謙虚も過ぎれば傲慢になる…という言葉があるが、キラ・ヤマトはその典型だろう。全ての人類の頂点に立てるだけの肉体を持ちながら、彼自身のパーソナリティは凡人かそれ以下だ。

 

「君はきっと、革新者(イノベイター)にはなれない…」

 

 革新者(イノベイター)の本質は、「過去の柵から自ら抜け出し、平和実現及び維持の為に踏み出せる意識の革新を遂げた人間」であり、肉体の変革はGN粒子が(もたら)す必然的変化に過ぎず、()わば本質的な意味でのイノベイターになり易いアドバンテージといった程度。

 

 今のキラの本心を思うに、彼はこんな思いをするなら()()()()()()()()()と考える人間だ。平和の為に手に入れた力よりも、戦争で失った命の方を重く考えてしまうに違いない。

 

 いくら革新者(イノベイター)への覚醒因子が高くても、本人に変革の意思がなければ、革新はなり得ない。それは、西暦でのソレスタルビーイングの関係者、沙慈・クロスロードの例を見ればよく分かる。

 

「今はね」

 

 だがそれは、彼の周囲の環境と人間によって決まるだろう。

 ラクス・クラインにカガリ・ユラ・アスハ。亡くなった人間も含めれば、フレイ・アルスターなども含まれるだろうか。

 

 彼女たちに被害が及べば、彼はおのずと戦いの道を選ぶに違いない。全てはこれから次第だ…彼がどのような道を進むかどうかは。

 

「となると……やはり彼女か」

 

 一番可能性の高かったキラ・ヤマトに変革の意思がない。となると、彼と共にいるラクス・クラインも今の所は同じ意思と見ていいだろう。

 

 そうなるならば、やはりレクシオがイノベイターの第一候補として挙げるのは、彼が直接見出したフェイト・シックザール…いや、マユ・アスカという少女だ。

 始めは単なる気まぐれだったが、まさか彼女がSEEDを持つ者だとは思わなかった。まさに運命だったのだ。変革の意思も高く、後は経験と肉体の完成を待つだけだ。レクシオは彼女に期待を寄せていた。

 

「…………悪いことをしたかな」

 

 レナトゥスの眼下、折れた翼を休めるように横たわるフリーダム…キラ・ヤマトを見て、レクシオは少し申し訳ないように思った。

 

 それは、イノベイドである彼らしくもない人間らしい感情だったが、どこか自分とよく似た境遇の彼を憐れむような気持ちがあったのかもしれない。

 

 しかし、彼は止まるわけにはいかない。

 

 基本的に人道的な配慮はする。

 けれど、ヒトが変革に痛みを必要とするならば、レクシオは容赦なくそれを与えるつもりだった。

 人類を革新へ導くためなら、何でもすると決めたのだから。

 

「また会う時が来るさ…じゃあね、キラ・ヤマト」

 

 遠くからこちらにオーブ軍のモビルスーツが緊急発進したという情報をヴェーダで確認し、彼は機体をその場から離脱させたのだった。

 

 

 





>ガンダムレナトゥス
アストレアとアイズガンダムを足して2で割ったような感じ。
武装で分かるだろうけど、外見イメージは「ガンダムビルドファイターズトライ」に出てくる「トランジェントガンダム」ってやつ。

>レクシオ対キラ
機体性能差がとんでもないのでパイロットとしては比較にならない。
レクシオ(実力の三割)vsキラ(本気だけど殺意なし)みたいな感じ。

>キラの強さ
イノベイター抜きなら作中最強。
しかし、文中に書いたようにキラ自身が戦いに向いていないので、アスランやシンに押されることも負けることもある。

>キラが訓練していて、なお己の運命を受け入れていたら
フリーザが真面目に修行したらどうなるかと考えてください。


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愚者の鎖

 

 

 何故こうも、世界は自分たちに優しくないのか。

 

 セイラン家の控えの間で、カガリは無表情で座り込んでいた。大事な話があるということで、ユウナにセイラン家の邸宅へ呼び出されたのだ。

 

「やぁ、カガリ。突然呼び出して悪かったねぇ」

「ユウナ…」

 

 苦い思いで座り込むカガリに対して、ユウナの相変わらずの軽薄(けいはく)そうな声がかけられる。この声にも慣れたものだが、やはりカガリにとっては聴き心地の良いものではない。

 

「……で、何のようだ?」

 

 カガリは、ぶっきらぼうに尋ねる。

 それは彼女の素であると同時に、あまり好きではないユウナに対するささやかな反抗だった。

 

「用があるから呼んだんだろ? わざわざ? だったら早く言えよ」

 

 すると、ユウナは大仰(おおぎょう)にため息をつく。

 

「やれやれ。確かに立場を考えれば代表を呼び出すなんて真似をした僕も悪かったけれどさ…」

 

 もう少し、言葉遣いどうにかならない? というユウナの視線にカガリは無言で目を逸らして答えた。

 

 着飾った言葉に何の重みがあるというのか。父もアスランもカガリにそんなものを求めたことはなかった。彼等はありのままのカガリを認め、導こうとしてくれた。言葉遣いなどより、語られる内容の方に耳を(かたむ)けてくれたのだ。

 

「…まぁ、いいか。それより、先日の件なんだけど–––」

 

 カガリが(いだ)いた反感に気づく様子もなく、ユウナは珍しく神妙(しんみょう)な調子で言い、その言葉にカガリは思わず表情を暗くした。

 

 先日の件…それは、ユウナがカガリに持ち込んできた結婚の件だ。オーブが大西洋連邦と同盟を結ぶのにあたって、今までの中立の姿勢から変化するのに先立ち、今まで良い関係でなかったアスハ家とセイラン家の繋がりをアピールするためのものである…らしい。

 

「全く、子供の時間も終わりにしないと…僕もカガリもね」

「ユウナっ!」

「おいおい、勘弁してくれよ。僕だって好きで君と結婚したいわけじゃない。けど、これは国のためだ。分かるだろ?」

 

 ウズミ・ナラ・アスハの子供ならね、と。

 そう言われて、カガリは言葉に詰まる。

 

「君と『彼』のことは僕も分かってはいるけど…。それがどれほど難しいかは、君が一番よく知っているんじゃないかな?」

「っ!」

 

 そう、今この情勢で、アスランとの関係など認められるはずもない。分かっている。互いがどれほど相手を必要としていようとも。カガリは国を背負っているのだ。その責任から(のが)れることはできない。自分のことの前に、国民のことを考えなければならないのだ。

 

「–––––––––というつもりだったんだけどさ」

 

 そこで、ユウナは一度言葉を切り、いつもの軽薄な笑みではない神妙な表情で続けた。

 

「実は僕、君との結婚の話、見送ろうかと思ってるんだよね」

「…何だって?」

 

 突然、予想もしなかった告白をされ、カガリは頭の中が真っ白になる。

 セイラン側が強引に推し進めてきたこの婚姻を、セイラン側が棄却(ききゃく)するとは…どう言うことだ?

 

 混乱するカガリをよそに、ユウナはあっけらかんとした様子で笑う。それは、心底カガリを馬鹿にしたような嘲笑(ちょうしょう)だった。

 

「だって、君と僕では釣り合わないだろう?」

 

 その時、部屋の扉からライフルを携えた集団が入ってきた。その銃口の全てが、カガリに向けられている。そして、その集団の中から一人の男が姿を現した。

 

「ウナト…どういうつもりだ!」

 

 カガリの前に現れたふくよかな男、ユウナの父であるウナト・エマ・セイランは、静かな口調で告げた。

 

「代表、貴方を拘束させていただきます」

 

 そう言って、ウナトが見せた書類には、見覚えのある機体の姿が映っていた。

 

「それは…フリーダム!?」

 

 白い機体色に青い翼を広げたモビルスーツ。間違いなく、カガリの弟の乗機だ。戦後、密かに修復した機体が保管されていたと聞いているが…。しかし、それが何故…?

 

「先日、アスハ家の所有地にて、フリーダムとソレスタルビーイングのモビルスーツ"ガンダム"との戦闘が確認されました」

「なっ!?」

 

 ソレスタルビーイング…カガリが宇宙(そら)で遭遇し、ついこの間オーブ近海でも地球軍相手に武力介入を行った私設武装組織。だが、ガンダムが一体どうしてキラを!?

 

「軍が到着したときには…既にフリーダムは大破。ガンダムの姿はありませんでした」

「大破!?…負けたのか!キラは!?」

 

 キラが負けるなど、カガリは信じられなかった。ストライク時代から彼の力を側で見てきたのだ。アスランと並んで、彼等はカガリが最も信頼するモビルスーツパイロットだったというのに…。

 

「弟君は無事…とだけ言っておきます。しかし、代表の返答次第では、どうなるかはわかりませんな」

「な…どういうことだ!」

「いくら我らオーブがユニウス条約に直接の関わりはないとは言え、個人であのような機体を所有することが問題なのですよ……それに」

 

 そして、ウナトが書類をめくると、二枚目の写真に映っていたのは、カガリも乗ったことのある白亜の不沈艦(アークエンジェル)。秘密裏に隠されていたはずのそれが今、カガリに突き出されている。

 

「アークエンジェル!?…何故それが!」

「…やはり、アスハ家の独断ですか」

 

 鋭い眼光で睨まれ、カガリは言葉に詰まった。

 確かに政府に無断でアークエンジェルを匿っていたのは事実だ。カガリとて、そこを突かれれば痛いものがある。

 

「困りますな。これから我らオーブは大西洋連邦と同盟を結ぶというのに、その大西洋連邦から強奪した戦艦を隠し持つなど…この国の信用に関わります」

「そ…それはっ」

 

 何とか言葉を口にしようとしても、それは言葉にならない言葉となって言い淀むことしかできない。そんなカガリの様子を見てニヤリと笑ったウナトは、彼女にこれらの証拠を突き付けた。

 

「しかも噂ではアスハ家で、あのラクス・クラインの姿を見たとか…代表、ひっそりとプラントと通じているのではないですか?」

「何だと!?」

 

 その言いがかりに流石のカガリも怒りで立ち上がったが、そこで気付いた。自分が策に()められたということに。彼女がつい先日までデュランダルと非公式の会談に向かっていたことや、アスランがプラントへ向かったことなども状況を悪くする。

 

「何であろうと、これ以上の勝手は目に余る。代表、貴女の存在は今のオーブにとっては害にしかならない。よって、本日ただいまを持って、貴女の持つ全権限を剥奪し、身柄を拘束させていたたきます」

 

 ウナトの命令で、セイラン派の人間たちが部屋に雪崩込み、カガリを連行していく。彼女は反論の言葉を持たず、無抵抗のまま連れていかれることしかできなかった。

 

「だから言っただろ? もう君と僕では釣り合わないってさ…!」

 

 オーブはセイランの手に落ちたのだ。それはつまり、中立国オーブが完全に地球連合の一員になったことを意味していた。

 

 

▽△▽

 

 

 その頃、オーブを出航したミネルバは、無事何事もなくカーペンタリア基地へ到着することができた。ソレスタルビーイングがオーブ近海の地球軍へ武力介入したこともあり、結果的にミネルバはここまでの道筋を連合軍と遭遇することなく進むことができたのだ。

 

 終戦後、カーペンタリア基地は西のジブラルタルと並んで、ユニウス条約の監視常駐(かんしじょうちゅう)基地及び在地球公館としザフトに残されたものだ。表向きは軍事拠点ではないと表明されていたが、格納庫(ハンガー)に並ぶモビルスーツの数を見れば分かるだろう。

 

「へぇ…カーペンタリアって初めてきたけど、案外ボロボロじゃない」

「仕方ないよ。開戦と同時に地球軍と戦闘になった挙句、ソレスタルビーイングまで介入してきて、少し前まで大変だったみたいだし」

 

 買い物(かご)を掲げたメイリンとルナマリア・ホーク姉妹の会話が聞こえてくる。

 ここは基地のドラッグストア(P.X.)であり、店を出ようとしたシンは少し足を止め、彼女達へ目をやる。

 

「だからさ、いつ出航命令でるかわかんないじゃない? やっぱ、今のうちに買っとかなきゃ!」

「あ、そう…なにがなんでそんなに要るんだか知らないけど」

 

 そう言って棚に手を伸ばしたメイリンの籠に、既に化粧品らしきものやシャンプーなどがずっしり入っているのに対して、姉のルナマリアは軽そうな籠を掲げて、すたすたとレジに向かっていく。

 

 …姉妹と言っても、性格は違うものだ。マユとは何をするにも一緒だったシンからすれば、彼女たちのような姉妹関係は新鮮だ。

 

 シンは、すれ違ったルナマリアに軽く手を挙げた後、ドラッグストアを出た。

 

 基地の内部といっても、この辺りはちょっとした商店街のようなもので、日用雑貨、本やゲームなどのメディア、衣料品などの店舗が並んでいる。

 

 暫くはあちこちの店を(のぞ)いた後、シンは昼食にハンバーガーを選び、包みを抱えながら適当に辺りをぶらついた。近くのゲームショップではヨウランとヴィーノが騒いでおり、準備中らしいレストランの内部ではレイがピアノを弾いて美しい音色を(かな)でている。

 

 どうやらミネルバのクルーはみな、オフを楽しんでいるようだ。

 

 格納庫(ハンガー)の間を歩いてミネルバへ向かいなから、シンはつらつらと考える。

 ミネルバのこの後、どこへ配備されることになるのか。まだ何も通達されていないらしいが、当初の噂通り月軌道(きどう)だろうか。元々宇宙用のミネルバなのだから、宇宙が本来の行き場だろう…しかし。

 

《…最新の情報です。ソレスタルビーイングが再度の武力介入を行いました。対象はガルナハンの連合軍基地であり、連合は軍を一時撤退させたようで……》

 

 今の世界情勢が混乱していることくらいシンにも分かる。アーモリーワンの強奪事件に始まり、ユニウスセブンの落下、それによる強引な開戦。更に全ての戦争行為に武力介入を行う私設武装組織の存在など、二年前と比べて世界は混沌(こんとん)に包まれているのだ。何が起きるか分からない。

 

 包みからドリンクを出して飲みながら歩いていると、目の前を歩行するモビルスーツの姿に目が行った。今更、ジンやディン、ザクを目撃したところでシンは驚かない。が、その機体は彼の見たことのないものだった。

 しかも、進む先はミネルバのドックである。シンはドリンクをつかんだまま走り出した。

 

 息をせき切ってハッチのなかに()け込むと、格納庫(ハンガー)のなかにはやはりあのモビルスーツがあった。しかも、その隣にはこれまた見たことのないオレンジ色の機体もある。

 

「おい、さっきの…」

 

 すると、ディアクティブモードの灰色に変じた機体から、搭乗者(とうじょうしゃ)が降りてくるのが見え、その姿にシンは息をのんだ。

 

「あんた…!」

 

 深い紅のパイロットスーツを身につけた搭乗者は、オーブで別れたはずのアスラン・ザラだった。シンは訳が分からず、険悪な表情で()め寄る。

 

「何だよ、これは…何でアンタがっ」

「んもう! 口の聞き方に気をつけなさい!」

 

 先に帰ってきていたらしいルナマリアが、慌ててシンを(いさ)める。

 

「彼はフェイスよ!」

「えっ…」

 

 言われて、シンはアスランの胸にマークされていた紋章に気付いた。

 フェイス。最高評議会議長直属の特務隊といえば、軍部のエリートだ。だけど、それがどうしてこいつに?

 

「…ザフトに戻ったんですか?」

 

 ルナマリアが「シン!」と言わんばかりの表情で睨んでくるが、シンはそれを無視して真っ直ぐにアスランを見つめていた。相手がフェイスだからって、そう簡単にはいそうですかって受け入れられるものか!

 

 アスランはそんなシンの視線に少し居心地(いごこち)を悪そうにした後、小さく頷いた。

 

「そういうのに…なるのかな」

 

 その返事の曖昧(あいまい)さが、何となく気に入らなかった。シンは噛み付くように()く。

 

「何で…だって、アンタは…!」

「シン!」

 

 アスハの…オーブの人間じゃないのか、と言おうとしてルナマリアに腕を掴んで強引に下げさせられた。アスランはどこか罰の悪そうな顔をしていたが、それが尚更シンの(しゃく)にさわる。

 

「––––––おいおい、到着早々揉め事か?」

 

 その時、彼等の真上から男の声がした。

 見れば、その声はアスランの乗っていた機体の横、見慣れぬオレンジ色の機体のコックピットから顔を出す一人の男のものだった。

 

 全員の視線が集まるなか、オレンジ色のパイロットスーツに身を包む青年がゆっくりとドックへ降りてきた。

 

「ハイネ・ヴェステンフルスだ。本日付けでミネルバの世話になることになる……って伝えるつもりだったんだが」

 

 その胸元には、アスランと同じくフェイスの紋章が刻まれている。年齢は、アスランより2、3歳程度上だろうか。イザークのように大人びた印象を受ける青年だ。

 

 彼はジロリとアスランへ視線を向けると、ニヤッと笑って肩を叩いた。

 

「何だよアスラン、早くも馴染んでるじゃないか」

「ハイネ…」

 

 どこがだよ…とでも言いたげなアスランの視線に、ハイネは屈託のない態度で答えると、シン達の方を向いた。

 

「おーおー、お前らがミネルバのひよっこどもか! 議長期待のルーキー達っていうからどんな奴らかと思ったが…既に一皮剥けたって感じじゃねえか」

「アンタは…」

「お前、インパルスのパイロットだろ? あれに選ばれるってことはかなり腕に自信があると見た。これからは期待してるぜ」

 

 ハイネは、どこか人をまとめるムードメーカーのようなものがあった。他の人にはない。どこか彼独自のキャラクター性を感じさせる。それは、アスランの着艦で不穏な方向に傾いてた場の空気を持ち直すほどに。

 

 先程までアスランに噛み付いていたシンも、ハイネの掴みどころのない陽気な態度に毒気(どくけ)を抜かれたようにその牙が引っ込んでいる。

 

「よーし、じゃあそんな期待のルーキーどもにフェイスである先輩二人を艦長のところまで案内する任務を与える。誰かいないかー?」

 

 そんなハイネの言葉に一番に反応したのは、メイリン……ではなくその姉のルナマリアだった。

 

「確認してご案内します!」

「サンキュー。ほら、行こうぜアスランも」

「あ、ああ。よろしく頼む」

 

 ハイネは微笑み、アスランを引きつれるようにルナマリアの後に続いてエレベータに向かう。

 

 その背中をシンは、黙って見つめていた。

 オーブにいたはずのアスラン・ザラがザフトに戻ってくる。それが何故だか無性に気に入らなかった。

 





>カガリ
この後はセイラン家で軟禁状態。
アスハの名を待つ彼女を逮捕というわけにもいかないので、表面上は体調が芳しくないと発表している。

>フリーダム
よくユニウス条約違反と言われてるけど、実はオーブは関係なかったりする。まぁ、そもそもオーブ所属でもないのでキラの個人所有モビルスーツということになるのが正しい。
でもそれって許されるの? 許されるなら僕もフリーダム欲しいけど。

>ハイネ
今作ではフライング登場。
今後は彼の仲間、オレンジ・ショルダー達も出るかもしれない。
生き残ってくれれば、シンとアスランの緩衝材になってくれる……かもしれない。
幻のハイネ専用デスティニーもあるかもしれない。
あらゆるIFが満ちている可能性の獣

>ガルナハン
さらっとニュースで武力介入されてた。
なので、原作でのローエングリン攻略作戦はカット。ローエングリンはGNメガランチャーで破壊されました。


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見えない傷跡

 

 

 タリア・グラディスは、アスランが預かってきたというデュランダルからの命令書に(だま)って目を通していた。彼女の隣には副長のアーサー・トラインが(ひか)えており、アスランの隣には同じフェイスのハイネ・ヴェステンフルスがタリアを見つめている。

 

 ややあって、タリアが小さく息を吐つく。

 彼女は命令書とともにアスランが(たずさ)えてきた小箱を手に取り、開いた。そこにはもう一つの"フェイス"の徽章(きしょう)が輝いている。

 

「貴方をフェイスに戻し、最新鋭の機体を与えてこの艦によこし…私までフェイスに?」

 

 その意向はアスランもハイネから聞かされて知ったので、そんな用心深げな視線を向けられても困る。

 

「一体何を考えているのかしら、議長は…それに貴方も」

「……申し訳ございません」

 

 だが、自分という存在が周囲の混乱を招くことは予測していた。一度はザフトを捨てたのに、その罪を問われるどころか以前と同様の地位に返り咲いたのだ。それでは疑惑(ぎわく)隔意(かくい)を呼ぶのも仕方ないだろう。

 

 だから、アスランはただひたすらに頭を下げることしかできない。タリアもそれが分かっているのだろう。小さく肩をすくめるだけで特に何も言うことはなかった。

 

「まぁ、いいじゃないですか。前線で戦う分には、こいつの力は頼もしいですよ、俺たちモビルスーツパイロットにとっては」

「ハイネ…」

 

 そんなアスランを励ますように言ったのはハイネだった。第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦にも参加していたという彼は、この中ではアスランと並んで経験豊富な軍人だ。そんな彼の言葉に、タリアの表情も和らぐ。

 

「別に謝ることじゃないわ。議長が認め、命令が下ったなら私たちに異論はないもの。貴方がフェイスなこともね」

「……ありがとうございます」

 

 とりあえず、アスランが爪弾きにされるということはなさそうだ。アーモリーワン以降の件でミネルバのクルーには馴染みやすいとも馴染みづらいとも思っていたが、幸いこの艦長は公と私を分かられるタイプのようだった。

 

「それで、この命令内容だけど、貴方たちは聞いているの?」

「いえ、我々も聞かされていません」

「そう? 中々面白い内容よ」

 

 タリアは皮肉っぽい調子でいい、書面に再び目を落とす。

 

「––––––ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへ向かい、到着次第、対ガンダムの調査を命じるとのことよ」

 

 彼女が命令書を読み上げると、アーサーが呆気に取られた顔になる。

 

「ガンダム…!? あの組織を我々がですか!?」

 

 アスランも議長の意図がよく理解できない。

 確かにソレスタルビーイングと名乗る私設武装組織は、連合・ザフト問わずに武力介入を行う危険なテロリストとして報道されているが、それにミネルバのような特殊な立ち位置の部隊を動員する必要があるのだろうか?

 

「上はそれだけ事態を重く見ているというわけね」

「しかし、ジブラルタルへ向かえというのは…」

 

 アーサーが遠慮(えんりょ)がちに問いかける。

 確かに南半球のオーストラリアにいるミネルバが、何故わざわざユーラシア大陸とアフリカ大陸の中間にあるジブラルタルまで向かわなければなるないのだろう。

 

 しかし、タリアはどこか悟ったような様子だった。

 

「––––ユーラシアの紛争があるからでしょうね」

「え?」

「あ、スエズの…」

 

 状況を飲み込めていないアスランと違い、アーサーやハイネはハッとした様子で考え込んでいた。そんなアスランを見てハイネが説明するように口を開いた。

 

「今、ほとんど大西洋連邦の言いなりになってるユーラシアの一部の地域で独立運動を叫んでいるらしい。つい最近のことなんで、俺も詳しいことは分からないがな」

「彼の言う通り。そして、紛争があるとなれば、そこにきっと彼等は姿を現すはずよ」

 

 それが、ガンダムというわけか。

 つまり、ミネルバは表向きは支援部隊として各地に赴くものの、その本質はソレスタルビーイングのモビルスーツ、ガンダムの破壊もしくは鹵獲を目的としているということだ。

 

「プラントの戦う理由は、あくまでも()()()()()()()()使()であり、そこに領土的野心はない。––––––––なんて言っている以上、積極的に連合と戦うことはないでしょうけど、今この状況で自由に動ける部隊がこの艦だけというのなら仕方がないわ」

 

 前大戦で優秀な兵士の多くを亡くしたザフトは人員不足だ。元々少数精鋭が主のザフトだったが、地上戦力となるとユニウス条約のこともあって更に戦力は少ない。

 各部隊に各々の任務が任されている以上、謎に包まれたガンダムと対するのにミネルバはピッタリの配役だった。

 

「一応、俺とアスランの他にも応援部隊が来る予定だそうですが、もう少し時間がかかるようで、合流はジブラルタルでになりそうです」

「…なるほど、フェイスが三人なんてどういうことかと思ったけど、厳密には貴方達は独立した部隊というわけね」

 

 そう、アスランとハイネはミネルバ所属のモビルスーツパイロットになるものの、厳密には特務隊所属である。言わば、対ガンダム調査の任務を命じられたのはアスランとハイネであり、タリア達ミネルバ隊はそれをサポートするのが仕事というわけだ。

 

「ま、俺たちはあくまで現場の指揮権があるってだけですので、基本的には艦長さんの命令に従いますよ。な、アスラン」

「はい。フェイスが三人もいれば指揮系統が混乱すると思うので…」

 

 ハイネの言葉に遠慮がちにアスランが答えれば、タリアはホッとしたような表情で小さく息をついた。

 

「助かるわ。では、貴方たちにはモビルスーツ隊の指揮を任せます」

「「了解」」

 

 ハイネもアスランも、どちらかと言えば現場で指揮をした経験の方が圧倒的に多いので、その申し出は(わた)りに船だった。(むし)ろ、背後に優秀な艦長が指揮をとっているとなれば安心して思う存分に戦えるもの。

 

 タリアの言葉にアスランとハイネは頼もしさを感じさせる敬礼で応えた。

 

 

▽△▽

 

 

 開戦後、宇宙での一件で慎重(しんちょう)になったプラント・地球だったが、地球の各地では大西洋連邦とそれに反発する者たちによる紛争行為が相次いでいた。

 

 そうなれば、ソレスタルビーイングによる武力介入の回数も増えることになる。ヴェーダは、主な介入場所を地上に限定し、四人のガンダムマイスターたちも全員地上に降りてきていた。

 

 ソレスタルビーイングが所有する地上拠点のうちの一つ、赤道周囲に存在する孤島(ことう)に集まったガンダムマイスターたちは、各々の行動で時間を(つぶ)していた。

 

「そういうわけで、セレーネとメティスは数日ほどメンテナンスだ。次のミッションはアステリアとサルースで行ってくれ」

 

 フェイト達四人は浜辺に集まり、クラウディオスの総合整備士(メカニック)であるバレット・アサイラムから己の乗機の状態を知らされていた。

 

「まぁ、仕方ないかぁ」

 

 フブキはやや不満気な表情を見せたものの、納得したように呟いた。

 モビルアーマー形態への変形機構を持つメティスは、同世代のガンダムの中では駆動(くどう)部への負担が大きいため、流石にここまで連続して運用したとなっては真っ先に整備する必要があるのだ。

 

「…あれだけ介入したからね。大人しく海でも見てるさ」

 

 セレーネは介入初期から続けての運用やユニウスセブンの破片破砕の際の超高々度狙撃などを含めて、機体に不具合が出ているとのことらしく、シエルは小さく肩をすくめた。

 

「ま、あとは俺たちに任せな」

 

 対して、サルースはトレミーでの待機任務が多かったために機体の整備は完璧であり、次のミッションにも問題なく参加できるとのことだった。パイロット的にもまだまだ余裕があり、暫くは整備の必要はないだろう。

 

「……了解」

 

 アステリアは初めの武力介入から立て続けに運用されており、最も機体への負荷(ふか)が大きかった。しかし、同時にアステリアが汎用(はんよう)性と整備性の高いフレームを使っていたこともあり、整備自体はごく短時間で終了していたのだ。

 

「それにしてもホント忙しいわよね、ここんとこ働きづめじゃない」

「それだけ世界で紛争が起こっているってことだ」

 

 眉を寄せるフブキの言葉にアキサムが呆れるように言った。あらゆる紛争行為に介入する彼等、今の世界の状況をよく知っている。だからこそ、皆戦うことをやめない世界に不平不満を抱いていたのだ。

 

「あーもう、それにしても暑い! 冷えたスムージーとかないの? 南国のやつ〜!」

 

 うがー!と心の内に()める苛立ちを現すように背筋を伸ばしたフブキは、森林の中…秘密ドックの内部へと向かっていった。

 

「神経が太いというか、なんというか…」

「強がってんだよ。お前ら歳下に弱みは見せられないってな」

 

 遠ざかるフブキの背にアキサムが小声で言った。

 

「歳下って…フェイトはともかく僕とは2歳差ですよ」

「ハッ、生憎とプラントじゃ15で成人だ。18のお前とはまた違うんだろ、意識が」

 

 そういうと、アキサムも整備が終わった己の乗機の元へ向かって行った。

 

「あの人もナチュラルなんだけど…まぁいいか」

 

 シエルはどこか納得いかないような表情を浮かべつつも、一人浜辺で太陽の光を反射する(きら)めくインド洋を眺めていた。

 

 海を見つめてるのは、シエルの数少ない趣味の一つだ。地球出身の彼にとって、海というのは慣れ親しいものだった。朧気(おぼろげ)だが、幼い頃は海でよく遊んだ記憶がある。

 

 それからしばらくたった頃、シエルは物陰からじぃーっと己を見つめるフェイトの視線に気がついた。後ろにはウェンディとヴァイオレットの姿もある。

 

「ん? どうしかしたかい?」

 

 不思議そうな顔のシエルに、ぞろぞろと前に出てきたフェイトは少しの不安を覚えながらも言葉を続けた。

 

「海…好きなんですか?」

「え?」

「いや、昨日もずっと見てたから…」

 

 ははん…とシエルは彼女達の思惑を(さと)った。

 

 ソレスタルビーイングは、あくまで『戦争根絶』という理念の元に志を同じくした者達が集まっている集団に過ぎない。エージェントや支援組織まで(ふく)めると、その人員はシエル達も把握しきれないほどだ。

 

 実働部隊であるトレミーも同じだ。

 メンバーの個人情報はヴェーダによって秘匿(ひとく)されており、一見、良好に見えるメンバー間にもある程度壁があるのだ。

 

 きっと彼女たちはその壁を少しずつでも壊したいと思っているのかもしれない。みんな世界を敵に回した仲間であり、志を同じくする家族のようなものなのだと。

 だから、シエルも表情を和らげて微笑みを浮かべ、自らその壁を破壊した。

 

「幼い頃、海をよく見ていたっていうのもあるけど……海を見ていると落ち着くんだ」

「………」

「僕は地球軍の生体CPUだったんだ」

 

 シエルの告白に、誰もが息を呑む。

 フェイト達も、ヴェーダのデータベースで地球軍がどんな違法行為をしていたのかを把握している。その中の一つ、親のいない子供などを薬物や洗脳などで強化して戦わせるという非道を行っていると聞いた。しかし、まさかシエルがその本人だったなんて…。

 

「偶然の事故で逃げ出せたんだけど。頭の中が全部ぐちゃぐちゃでさ。自分が何をしているのも分からなくて…」

 

 (まぶた)を閉じれば、今にもあの地獄のような光景が思い出せる。

 (せま)い密室の中、周囲には無数の少年少女の死体が転がっており、目の前には怯えた顔をした少年。それを目にして、自分は容赦なくナイフを突き立てた。

 殺し合った。自らを守るために戦う。他人の命を奪う。それが当然だと思っていたから。そう教えられてきたから。

 

 けれど、自由の身になってからそれが異常だったことに気づいた。命を奪った感触(かんしょく)を思い出して毎日嘔吐した。人工的に(いじ)られた頭が悲鳴をあげていた。

 

「でも、大きな海を見ていると気持ちが落ち着いたんだ。今はもう普通にしてても平気なんだけどさ」

「どうして…?」

 

 それは、どうして教えてくれたのか? という意味だろうか。ソレスタルビーイングには守秘義務があるのに…何故?と彼女達の目は(うった)えていた。

 

「自分たちが聞いたくせに…」

「え…あ、いや」

 

 悪いことを聞いたと思ったのだろう。

 ハッと申し訳なさそうにあたふたする彼女達が微笑ましくて、ついシエルは吹き出してしまった。

 

「フフッ、冗談だよ」

 

 ガンダムマイスターに年齢や人種は関係ない。ナチュラルだろうとコーディネーターだろうと何歳であろうと仲間は仲間だ。そう思ってシエルは優しく微笑んだ。最年少故に少し壁のあったフェイトや無表情がデフォのヴァイオレットも笑みを浮かべている。

 

「うーん、どうして教えたか…か」

 

 それは、似ているからだろうか。

 一見、とても戦いとは無縁そうなフェイト達の姿が、記憶の中の()()と重なった。他の全てを忘れても、彼女だけは忘れはしない。

 

「まぁ、歳上だからさ、僕」

「えー、何それ。フェイトとヴァイオレットはともかく、私とシエルは同い年でしょ」

 

 適当に(にご)したつもりだったのだが、無自覚の年齢マウントはウェンディの反感を買ったようだ。その姿が、先ほどの自分の姿と重なって、シエルはクスリと小さく微笑みをこぼした。

 

 

 





>ミネルバ
表向き:スエズ攻防戦の支援(原作通り)
 実際:ガンダムの調査(できれば鹵獲か撃墜)


これからはところどころオリジナル展開が多くなると思いますが、基本的には原作沿いです。少なくともベルリン編くらいまでは原作の面影が残ると思います。


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深海の剣

 

 大小の島影(しまかげ)が散らばるインド洋上に、巨大な艦影(かんえい)が浮かんでいる。地球連合軍が海洋にて運用する空母、J(ジョン).P(ポール).ジョーンズだ。

 

〈J.P.ジョーンズは○9(マルキュウ)○○(マルマル)出航。第一戦闘配備発令。整備各班、戦闘ステータススタンバイ〉

 

 J.P.ジョーンズの艦内にアナウンスが響き渡った。全ての機体とパイロット達に発進命令が出され、艦内が慌ただしい雰囲気に包まれる。艦橋(ブリッジ)ではネオ・ロアノークが通信機の向こうと交渉(こうしょう)していた。

 

〈––––––当部隊のウィンダムを全機出せだと!? 何をふざけたことを…〉

 

 こちらの正気を疑うかのように通信の相手は怒鳴(どな)り声を上げる。きっと怒鳴れば己の意思を貫き通せると考えるような連中(てあい)なのだろう。

 だが、ファントムペインのネオはその手の効く相手ではない。

 

「ふざけてんのはどっちさ。相手はボスゴロフ級にあのミネルバだぞ」

 

 彼はぞんざいな口調で返す。相手に自分が誰に向かって話しているか分からせてやるために。

 

「…それでも墜とせるかどうか怪しいってのに。戦闘になれば、噂のガンダムって奴らが介入してくるかもしれないんだぜ?」

〈そういうことを言っているのではない! 我々はここに対カーペンタリア前線基地を造るために派遣された部隊だ! それを…〉

 

 そんな言葉をネオは鼻で(わら)った。

 

「その大事な基地をこの間ガンダムに破壊された奴がよくいうぜ。とにかく、寝ぼけたこと言ってないで、とっとと全機出せ!」

 

 今度はネオが相手を頭ごなしに怒鳴りつける。何故なら、この場でそれができるのはネオの方だからだ。

 

「ここの防衛にはガイアを置いていってやる」

〈いや、しかし…〉

「命令だ。急げよ!」

 

 相手の反論を黙殺し、ネオは一方的に通信を切った。

 

「カオス、ガイア、アビスは?」

 

 彼の言葉に、モビルスーツ管制担当兵が答える。

 

「全機、発進準備完了しています」

「よぉし、ジョーンズは所定の場所を動くなよ」

 

 艦長に命じた後、ネオはもう一度モニターを見下ろし、仮面の下の顔に楽しげな笑みが浮かべられる。全ては、自分の楽しみを追求するために、彼はパイロットらしい身軽な動作で艦橋(ブリッジ)を後にした。

 

 

▽△▽

 

 

 アスランとハイネが命令書を(たずさ)えて到着するのと前後して、カーペンタリア基地にも本部からの正式な指示が届き、ミネルバはつい今朝方、ボスゴロフ級潜水艦"ニーラゴンゴ"と共にカーペンタリアを出立した。

 

 そして、それからわずか数時間後、索敵担当のバートが緊迫(きんぱく)した声を上げたのだ。

 

「艦長!」

 

 彼の前にある熱源感知モニターが、ミネルバに接近しつつある光点を複数、(とら)えていた。その声に一気に艦橋(ブリッジ)の空気が張り詰める。

 

「敵? 数は?」

「熱紋照合––––ウィンダムです。数、30!」

「30ですって!?」

 

 バートが口にした数字を、思わずタリアは聞き返した。

 

 連合の最新鋭量産機であるウィンダムが30機もいるということは、偶然(ぐうぜん)付近を哨戒(しょうかい)していた訳ではないだろう。

 完全に待ち構えていた。敵は必勝の構えで攻撃してきている。

 

「うち一機はカオスです!」

「あの部隊だっていうの!?」

 

 ボギーワンという不明艦によって強奪された機体。それが地上に降りてきた。ウィンダムと共にいるのを見るに、彼等はやはり地球軍だったのだ。

 

「一体どこから?……ニーラゴンゴに回線を繋いで!」

「はい!」

 

 タリアは通信機を手に取り、僚艦(りょうかん)であるニーラゴンゴへの回線を繋いだ。

 

「––––付近に母艦は?」

《まだ確認できん! すぐにグーン隊に捜索させる!》

「お願いします」

 

 同時にミネルバの隣に浮上したニーラゴンゴから、次々と"グーン"や"ディン"が発進していく。

 

 それを横目で確認し、タリアはすぐに頭を切り替えて戦闘の指示を出そうとするが、そんな彼女にバートが強張った表情で補足(ほそく)する。

 

「それとアンノウンモビルスーツ…これは、ストライクです!」

「なんですって?」

「えぇ! まさかあの!?」

 

 "ストライク"

 それは前大戦において、地球軍で伝説を作った機体であり、バルトフェルド隊やモラシム隊など多くのザフトの精鋭(せいえい)部隊を壊滅させた恐るべき敵。ザフトでは未だに恐れられている存在だ。

 何せ、ストライクがそこまでの強敵だったからこそ、それを討ったアスラン・ザラが英雄として扱われているのだから。

 

 思わぬ機体の登場にミネルバの艦橋(ブリッジ)がざわめくが、タリアは冷静だった。ストライクはモビルスーツだ。再建造されていてもおかしくない。それよりもここを突破することに集中しなくては…。

 

「出てきたものは仕方ないでしょう。あれこれ言っている暇はないわ。ブリッジ遮蔽、対モビルスーツ戦闘用意。彼等へも応援を頼んで!」

 

 艦内に警報が鳴り響き、艦橋(ブリッジ)が戦闘ステータスへ移行する。それと同時に格納庫では艦載機の発進準備の指示を出す。

 モビルスーツ部隊の指示は、フェイスの彼等に任せればいいだろう。そう思い、タリアは目の前の戦闘へ意識を集中した。

 

 

▽△▽

 

 

〈インパルス、セイバー、グフ、発進願います。ザクは別命あるまで待機〉

 

 メイリンの声が告げる。

 シンは発進シークエンスに従って、コアスプレンダーの中で発進の準備を行なっていた。並行してセイバー及びグフがカタパルトに運ばれていく。見慣れない機体が通り過ぎるのを横目に見ていると、シンの元に通信回線が開いた。

 

〈シン・アスカ〉

 

 画面に映ったのは、アスラン・ザラの顔だった。専用の赤紫色のパイロットスーツを身につけた彼の声に、シンは反射的にビクリとしたが、アスランはそんな彼の表情を気にすることなく、きびきびとした口調で告げた。

 

〈発進後の戦闘指揮は、俺たち…いや、ハイネが執ることになった〉

「え…?」

 

 困惑の声を上げたシンだったが、そこで新たにグフ––––ハイネ・ヴェステンフルスからの通信が入る。

 

〈まぁ、そういうことになる。基本的に俺の指示、状況次第でアスランの指示にも従ってもらうぜ〉

「……はい」

 

 どこか釈然(しゃくぜん)としない気持ちであったが、シンは頷いた。アスランはともかくハイネは正真正銘のフェイスである。自分よりも年上だし、経験も技量も上回っているのだ。仕方がない。

 

〈それと、今回の戦闘でもガンダムが現れる可能性が高い。気をつけておけよ〉

 

 –––––ガンダム!

 

 脳裏に自分たちを助けてくれた少女の声が思い出される。彼女はこの戦闘にも介入するのだろうか。戦争をなくすために…。戦争をなくしたいという思いはシンも同じはずなのに…一体何故?

 

 シンは小さな不安を抱きながら、操縦桿(スティック)を握った。

 

「シン・アスカ、コアスプレンダー、行きます!」

 

 射出時のGが身体をシートへ押し付けるのも慣れたものだ。続けて、射出されたパーツとの合体をすますと、フォースシルエットのスラスターを全力で蒸して戦闘宙域へと機体を突っ込ませた。

 

 

▽△▽

 

 

「ん?」

 

 迫り来るディンの弾幕を回避し、ミネルバへと接近するスティングは、眼下の戦艦から発進された三機のモビルスーツに気がついた。見慣れた合体野郎(インパルス)の他に、紅い機体とオレンジ色の機体。コンピュータでの照合すると、『不明機』という答えが返ってくる。

 

「何だ、あの機体は?」

「へぇ、また新型か。カーペンタリアか? ザフトはすごいねェ」

 

 軽薄(けいはく)に自分たちの敵を称賛する指揮官(ネオ)の言葉を聞き、スティングはムッとする。

 

「ふん! あんなもの…!」

 

 ––––新型だろうが何だろうが、全部自分が墜としてやる!

 

「おいおいスティング!…ま、いいか」

 

 急加速して集団から突出するスティングだったが、ネオは放っておくことにした。止めようと思えば止めれるが、敵の新型を引き付けてくれるならそれはそれでいい。

 

「俺はあっちの白いのをやらせてもらおう!」

 

 ネオは今回、地上で行動するにあたって、宇宙用のエグザスに変わる機体––––ストライクEを受領(じゅりょう)していた。

 かつての大戦で活躍したストライクを再設計した機体であり、ファントムペインにおいて一定数使用されているものだ。背部には専用のストライカーパックであるソニックストライカーが接続されており、大気圏内における高機動戦闘を可能としている。

 

 ストライクというこのモビルスーツは、まるで昔からの愛機だったかのように不思議とネオの操縦に馴染んでいた。

 

「さぁて、俺と一曲円舞(ワルツ)でもいかがかな!」

 

 既にウィンダムを二機撃墜している白い機体へ、ネオは獲物を狙うハイエナのようにビームライフルで奇襲する。相手が回避することを予測した正確な二射だ。

 

 案の定、敵は突然の攻撃に回避を選択し、それを読んでいたビームはその特徴的な主翼の一部を()かす。

 その(すき)にネオはソニックストライカーの主武装である"オルキヌス2連装ビーム砲"でミネルバを狙うが、それは展開されたアンチビーム爆雷に(はば)まれた。

 

「チィ、この距離からは難しいか…おっと!」

 

 復帰したらしい白い機体が背後からビームを浴びせてくるが、それをネオは全て回避。両腰部から取り出した"ビームライフルショーティー"を連射して敵の動きを(しば)る。

 

「敵の動きが止まるぞ!囲い込め!」

 

 動きの止まった白い機体を囲むようにネオの背後からウィンダム部隊が現れる。

 

「悪いな…これも戦争なんでね」

 

 そして、ウィンダム部隊が次々とビームライフルを連射した。その精度はネオからすればお粗末(おそまつ)だが、これだけのビームの嵐ならば掠らせるくらいは出来るだろう。

 

 ネオは不敵に笑ったあと、目標であるミネルバへ向けて機体を飛翔させた。

 

 

▽△▽

 

 

「…シン!」

 

 複数のウィンダムに囲まれたシンを見て、アスランはセイバーを変形させ、インパルスの方向へ向ける…が。

 

「ええい! カオスか!」

 

 先程からしつこくこちらを狙ってくるカオスがそれを邪魔する。カオスの兵装ポッドからミサイルが発射され、アスランはそれを回避せざるを得ない。

 ミサイルを全て迎撃したものの、カオスはライフルで執拗(しつよう)に攻撃を仕掛けてくる。アスランの技術とセイバーの機動力があれば問題のない攻撃だが、決して余裕があるわけでもない。

 

〈––––アスラン!〉

 

 その時、セイバーに通信が入る。

 それは、ミネルバの近くでウィンダムの相手をしているハイネからのものだった。

 

「ハイネかっ!」

〈こっちは少し落ち着いた!そっちはどうだ!〉

「俺は大丈夫だ! しかし、シンが…」

 

 ハイネと通信を行いながらも、眼前のカオスから注意は外さない。撃ってくるビームをかわして撃ち返し、上昇させる。

 

〈チッ、ならお前は? カオスを振り切れるか!?〉

「大丈夫だ!」

 

 アスランはセイバーの変形を繰り返しながら攻撃を加え、カオスを翻弄(ほんろう)する。どちらもモビルアーマー形態への変形機構を持つ同じ型番号の機体だが、宇宙用のカオスと違い、セイバーは大気圏内でもその機動力は健在である。

 

 結果として、アスランはカオスを圧倒していた。

 

「ハイネ、そっちは!」

〈ダメだ! 何だこいつ…ストライク!?〉

「なっ!」

 

 ストライクだって?

 アスランは動揺した。機体を寄せればその姿が確認できる。ミネルバの付近でグフと交戦しているのは、細部こそ異なっているものの、確かにかつて親友が乗っていたストライクに似ていた。

 

 そして、動揺したアスランの隙を狙ってカオスが攻撃を加えてくる。それをかわし、撃ち返しながらもアスランの脳裏には嫌な思い出が浮かんでいた。

 

 敵は地球軍のストライク、自分はザフト所属のパイロット。それがかつての親友との殺し合いの悪夢を思い出させる。

 

「くっ!」

 

 敵はキラではない。

 ストライクといえど、同じモビルスーツなどいくらでも作れるのだ。

 

 アスランは迷いを振り払うようにセイバーをカオスへと走らせた。

 

 

▽△▽

 

 

 インド洋でのミネルバ隊とファントムペインによる戦闘は、彼等も確認していた。戦闘の背景が見えるほどの位置で海面を飛行する二機のモビルスーツ…ガンダムアステリアとガンダムサルースだ。

 

 先頭を飛行するアステリアの両腰には大小二本の実体剣が装備されている。今回、アステリアにはオプション装備として、GNロングブレイドとGNショートブレイドが装備されていた。

 

「ポイント228へ到着。アステリア、潜水します」

〈了解。空は任せな〉

 

 先行するアステリアがゆっくりと海中へと潜水していくと同時にサルースが速度を上げて戦闘空域へと介入を開始した。

 

 空と海。

 その二つの戦場をソレスタルビーイングは、アステリアとサルースで分担することで対応した。ガンダムは放出するGN粒子によって、宇宙や大気圏内にとどまらず、海中での自在に行動することが可能なのだ。

 

 とはいえ、ガンダムといえども海中でのビーム兵器の使用は難しい。大きく威力が減衰してしまうのだ。

 

 そこで、GNソードやGNブレイドといった実体剣を持つアステリアが海中でのミッションを担当する役として決まったのだ。海中で動きが鈍くなるといっても、運動性に優れたアステリアならば問題もない。

 

「…ミッションスタート」

 

 目標はザフト艦ボスゴロフ級及びその艦載機のグーン。またはファントムペインの運用するザフトから奪取した機体…アビスだ。

 

 日の光が届かず、どこまでも暗い海中の中、緑色の粒子を輝かせながら、アステリアは水中を進んでいった。

 

 

 





>ストライクE+ソニックストライカー
VPS装甲の色は I.W.S.Pと同じ。
ネオ・ロアノークの正体を考えれば、悪堕ちストライクも似合うと思って。

>ソニックストライカー
形式番号
AQM/E-00S1
武装
ES04B ビームサーベル
M105 オルキヌス2連装ビーム砲
Mk1323 無誘導ロケット弾ポッド

ジェットストライカーの発展型で大気圏内の機動力マシマシ。フォースインパルスと同程度は動ける。近接用がノワールストライカーなら、こっちは中距離用。

>M105 オルキヌス2連装ビーム砲
強奪したアビスのバラエーナ改のデータを流用したもの。
意味はラテン語で「シャチ」
アニメだったら、太っとい緑ビームが出てる。



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深海の剣Ⅱ


新年度になるのでリアルが忙しいのです。
更新もゆっくりになりますが、気長にお待ちください。申し訳ないです。


 

 

 空で各々のモビルスーツが戦闘に入ると同時に、海上のミネルバも残存するウィンダムの対応に追われていた。

 

「ランチャーワン、ランチャーツー、てーっ!」

 

 突出したインパルスはウィンダムの集団に包囲され、セイバーはカオスと交戦中。先程までウィンダムの相手をしていたグフもストライクの足止めで精一杯だ。

 

 そして、彼等をすり抜けてきたウィンダムが上空からミネルバへ襲いかかる。飛び交うビームとミサイルの数々と迎撃するCIWSの弾幕が厚い壁を(きず)いていた。

 

「ほんとにもう、どうなってるのかしらね」

 

 これだけの大軍を展開するとなると、必ずどこかに基地なり母艦なりがいるはずなのだが、タリア達はその影すら未だに(つか)めずにいた。彼等がどこからやってきたのか、疑問は()きない。

 

 そのとき、バートが新たな反応を発見した。

 

「艦長! 海中でモビルスーツの戦闘を確認…これはアビス?……それと、ガンダムです!」

「何ですって、海から!?」

 

 タリアは思わず息をのんだ。

 まさかガンダムが海中に姿を現すとは思ってもいなかったからだ。

 

「それと、3時方向にアンノウンモビルスーツ…ガンダムを確認!」

「やはり来たのね…ソレスタルビーイング」

 

 想定していたことではある。

 報告では、強奪されたアビスと交戦しているとのことだが、こちらとしてもそれを放っておくことなどできない。漁夫(ぎょふ)の利などという考えは戦争では通用しないのだ。

 

「艦長…どうします?」

「どうもなにもないでしょ。レイとルナマリアに水中用の準備をさせて! 完了次第、発進!」

 

 必要以上に戦闘する理由はない。

 しかし、ミネルバに水中用への対応手段がないのも事実だ。水中でなにが起こっているのかを把握するためにも、レイとルナマリアには慣れない水中戦を頑張ってもらうしかないだろう。

 

「か、艦長」

「こちらに確固たる戦闘の意思なくとも、ただで連合に墜とされる理由にはならないわ。敵機として対応。指揮はアスランとハイネに任せます。全機に通達!」

 

 改めて艦橋(ブリッジ)に緊張が走る。

 ガンダムの介入にどう対応すべきか、タリアは思考を(めぐ)らせる。

 水中用のアビスやまだ性能が未知数のガンダムを前にして、グーンやザクだけで対応し切れるのか…。彼女は彼等を信じて待つことしかできなかった。

 

 

▽△▽

 

 

 水中はアビスの独壇場(どくだんじょう)となっていた。

 ボスゴロフ級から発進していたグーンは懸命にアビスを迎撃しようとしていたが、瞬く間に全て海の藻屑(もくず)となって消えていった。

 

「お前もここじゃこいつには勝てないってね、このやろう!」

 

 グーンを易々と撃破したアウルの次なる戦闘相手は、宇宙で散々苦しめられたガンダムだった。前回は圧倒的な性能差を前に破れ去ったアウルだったが、こと水中というステージにおいてアビスの性能はガンダムと同等以上に向上していた。

 

 水の抵抗を極限まで殺した潜航形態へ変形したアビスの機動力は、流石のガンダムも追いつけないようで自由自在に動くアビスの動きに翻弄(ほんろう)されているように見える。

 

 その姿に優越(ゆうえつ)感を覚えたアウルは、勝ち誇ったような笑い声を上げた。

 

「アハハハッ! ごめんねェ、強くてサァッ!」

 

 ガンダムの背後を取ったアウルは、シールドから"高速誘導魚雷(ゆうどうぎょらい)"を放つ。流石にグーンと違い、ガンダムはそれを簡単に回避したが、その先にはアウルのアビスが待ち構えている。

 

「そぉら!これでっ!」

 

 シールドが展開し、内部からネイビーブルーの機体が(おど)り出ると同時にアウルはガンダム目掛けてランスを振るう。

 

 しかし、ガンダムは両腰部から取り出した剣でランスを受け止めると、そのままアビスを押し返して弾き飛ばした。

 

「ちっ、なんてパワーだ…ん?」

 

 水中でも変わらずのガンダムのパワーにアウルが舌打ちをしたとき、新たな敵の出現を告げる警告(アラート)が鳴り始めた。見ると、ザクが二機、見覚えのある白いのと赤いのが降下してくるのが確認できる。ザフトのモビルスーツだ。

 

 ザクがバズーカを片手にこちらへ接近してくるが、アウルは危機感(ききかん)のかけらもなく、不満げに口を(とが)らせた。

 

「ハッ、小物じゃん!」

 

 迫り来るガンダムを連装砲で牽制し、アウルはひとまず邪魔者であるザクを排除することを決めた。

 

 ザクが地上用バズーカを撃ち込んでくるが、水中では空気銃みたいなものだ。アウルはその砲弾を軽くかわし、潜航形態へ変形させてトップスピードで二機のザクへ突っ込む。

 

 そのスピードたるや、背後のガンダムとてついてこれない。

 

「そんなんでこの僕をやろうって!?」

 

 アウルには分かる。

 こと水中において自分と互角に戦えるのはガンダムだけだと。それなのに、前座も前座のお前(ザク)達が、そんな装備で自分に挑むだって?

 

「舐めんなよ、コラァ!」

 

 

▽△▽

 

 

 シンは、高速でインパルスを飛行させながら、斜め下に回ったウィンダムへビームライフルを向ける。一度は数で押さえつけられたシンだったが、インパルスの加速について来れないウィンダムが分散し始めていたのだ。

 数に物を言わせて火線を集中されれば手も足も出ないが、一対一に持ち込めば機体性能もパイロット能力もシンの方が上だ。

 

「こいつを…こいつさえ落とせば!」

 

 後方から浴びせられるウィンダムの射撃を回避しながら、シンは前方に見える紺色の機体を睨みつける。先程シンを一蹴してミネルバへ向かったようだが、ウィンダムが隊列を崩したのを見て戻ってきたのだろう。

 

 インパルスやガンダムに似たツインアイをしたその機体…技量から見ても隊長機で間違いないだろう。なら、この機体さえ倒せば戦闘は終わる!

 

 だが意に反して、すばしこく動き回る指揮官機は照準(しょうじゅん)に捉えられず、逆に背後からウィンダムに撃たれるのを回避するしかない。

 

「くそっ、数だけはごちゃごちゃと…うっ!」

 

 ライフルで背後のウィンダムを撃墜したシンに向けて、敵の指揮官機からのビームが飛んでくる。それはシールドで受け止めたものの、そのまま接近されて蹴りをシールド越しに喰らった。

 

「こんな奴らに…!」

 

 シンが体勢を立て直した時、突如として目の前を薄赤色の光が過ぎ去った。シンに照準を向けていたウィンダムがその光に貫かれて爆散(ばくさん)し、煙を上げて破片が海へ落ちていく。

 

「何だ…!?」

 

 そして、インパルスのコックピットに鳴り響く警報音(アラート)。シンが慌てて機体を浮かせれば、先程まで滞空していた場所を閃光が通り過ぎていく。

 

 サイドモニターに黒い機体が映った。背部から緑色の粒子を放つ肩のランチャーが特徴的なモビルスーツ。

 

「ガンダム!?」

 

 シンがそう叫んだ時、ガンダムのランチャーから放たれたビームがインパルスの左脚を(かす)めた。その威力に掠っただけでも装甲が()かれ、小さく爆発する。

 

 続く二射目はシールドで受け止めたものの、高威力のビームは対ビームコーティングされたはずのシールドをいとも簡単に破壊した。

 

〈シンっ!〉

 

 アスランの(さけ)びが耳を打つ。

 あわやというところで、セイバーが跳ね上げた両肩の砲身(ほうしん)からガンダムへ向けて牽制(けんせい)用のビームが放たれる。それと同時にライフルで地球軍へも狙い撃つ。

 

〈シン、ミネルバへ戻れ! 換装するんだ!〉

 

 ガンダムもセイバーへ狙いを定めるが、アスランは機体を変形させて最高速度で砲撃を回避し、タイミングを見計らってはガンダムへ砲撃戦を仕掛けている。

 

「わかってる!」

 

 アスラン・ザラに助けられた。

 シンの中に屈辱(くつじょく)感と、妙な嬉しさが込み上げるが、すぐさまそんな自分の気持ちを打ち消し、機体を離脱させる。

 

 –––––––あんなやつに助けられて嬉しいものか!

 

 そんな反発心がシンの中で渦巻くが、どのみち今の機体状況では足手纏いになるだけだ。

 

「ミネルバ、レッグフライヤー!デュートリオンビームを!」

 

 ガンダムと戦うセイバーの姿をチラリと見て、シンはどこか複雑な思いを胸にその場を後にした。

 

 

▽△▽

 

 

「チッ、正義のテロリストさんの登場か…」

 

 ネオはライフルを連射してザフトの紅い機体を追い込みながら、カオスと交戦するモノトーンの機体をチラリと(のぞ)き見る。

 

 先程までザフトの新型と戦闘していたガンダムは、ネオ達がミネルバに向かおうとするや否や、即座にこちらへ砲撃を加えてきたのだ。まるで漁夫の利など許さないとばかりに…。

 

「そろそろ限界か…悪かったのは場所か時間か、どっちかな?」

 

 残り少ないウィンダムがカオスとともにガンダムへ射線を集中させるが、まるで空中を舞うように全てを回避され、肩にあるランチャーが火を()く。

 それは立て続けにウィンダムを撃墜し、スティングのカオスをも追い詰めていった。

 

〈なんだっていうんだよ、オマエもっ!?〉

 

 苛立ちのこもったスティングの声が通信越しにネオの耳に届く。かなり頭に来ているようだ。このストレスを除去するのは"ゆりかご"でも時間がかかるだろう。

 

「スティング!」

 

 ネオはスティングを援護するためにビームライフルショーティーを放ったが、ガンダムは取り出した大剣でそれを防ぐと、そのままネオに向かって突っ込んでくる。

 

 –––––––来る!

 

 そう思ってビームサーベルを構えた時、ストライクEの右腕が根本から切断されていた。同時にガンダムの蹴りがストライクEを海面へ叩き落とす。

 

「–––––っ!」

 

 ぐるぐると回転するコックピットが揺れる。

 衝撃で口の中を切ったのか、金臭(かなくさ)い血の味が広がる中、ネオはソニックストライカーの推力で機体を立て直すと、こちらへ迫るガンダムの姿を睨む。

 

〈ネオっ!〉

 

 だが、そんな時一筋のビームがガンダムの行方を(さえぎ)る。森林の中から飛び出してきたのはガイア…ステラだ。モビルアーマー形態のまま背部のビーム砲を放ち、ガンダムを牽制する。

 

〈ネオ、大丈夫?〉

「ああ、助かったよステラ…」

 

 モニターに映るステラへ微笑みつつ、ネオはその仮面の下で表情を曇らせた。

 

「なるほど、大した性能じゃないか。こりゃ、どうやっても敵いっこないぜ」

 

 ネオはガンダムの力をその身で味わい、苦々しくひとりごちる。だが、すぐに悪びれない口調で決断を下した。

 

「ジョーンズ、撤退するぞ! 合流準備!」

 

 既にウィンダムは全滅に近いだろう。少なくともガンダムと戦闘した機体は全機が撃墜された。ミネルバの方に向かった機体もザフトの新型相手にそう長くは持たなかっただろう。

 

 作戦は失敗。

 (ジブリール)にはぐちぐちと文句を言われるだろうが、機体性能の問題ならいくらでも言い訳ができよう。

 

「アウル! スティング! ステラ! 終了だ。離脱しろ!」

 

 その言葉にスティングは了承を、ステラは安堵をあらわにしたものの、これといった苦戦をしていないアウルだけが不満を示して通信を切った。

 

 

▽△▽

 

 

 突如として動きの変わったアビスを前にして、フェイトは眉を(ひそ)めた。空ではアキサムが敵主力部隊の無力化に成功したとの報告を受けている。

 

 インパルスの他にザフトは新型機を二機投入してきたようであり、その情報の不透明さが一つの不安材料だったが、アキサムは撃退したらしい。

 

 となると、フェイトも早いところアビスを無力化・撃退する必要があるようだ。

 

「………サードフェイズに移行します」

 

 眼前でバズーカを構える白いザクの射撃を回避し、水中を難なく移動したアステリアがGNソードでその右腕ごとバズーカを切り離す。これでザクは水中での攻撃手段を失っただろう。

 

 続いて、赤いザクを弄ぶかのように痛ぶるアビス目掛けて機体を走らせる。減衰すると分かっていても、GNソードをライフルモードにして粒子ビームを放てば、アビスは(ひる)んだように距離をとった……が。

 

「逃がさない!」

 

 それよりも早くアステリアがGNブレイドを振り下ろす。アビスはビーム刃を消したランスで受け止め、(つば)迫り合いの衝撃が波となって水中を揺らす。

 

 フェイトは、アビスの動揺した様子を感じとる。

 先程まで自分の機動性が圧倒していたと考えたからだろうか。もしそうなら、それはソレスタルビーイングの作戦プランに騙されたというしかない。

 

 今回のミッションは、この時代の最新鋭水中用モビルスーツの性能を確かめることも兼ねていた。優れた汎用(はんよう)性を持つガンダムだが、それゆえに水中での戦闘力は平凡なものとなってしまう。水中に武力介入を行うことは稀だろうが、これからその可能性がないとは言い切れない。

 

 だからこそ、フェイトは序盤アビス相手に様子見の戦闘を行っていたのだ。それを自分が優位に進めていると勘違いさせてしまったのは、相手がガンダムの基本性能の限界を知らないからだろう。

 

「…これでっ!」

 

 アステリアの胸部にあるジェネレーターが(かがや)きを放つとともに、GNドライヴに貯蔵(ちょぞう)されていた圧縮粒子が解放され、GNブレイドの出力が最大限にまで引き上げられていく。

 

 次の瞬間、アビスのランスがGNブレイドによって真っ二つに()け、それと同時にもう片方のマウントラッチから取り出したGNブレイドでアビスの左肩を突き刺して駆動系を使い物にならなくさせた。

 

 そこまでして、ようやく自分の不利を悟ったアビスがモビルアーマー形態に変形させて水域を離脱していく。それを静かな目で見送った後、フェイトは機体をザフト軍艦ボスゴロフ級の元へ向かわせる。

 

 まさかこちらに向かってくるとは思っていなかったのか、ボスゴロフ級はアステリアの接近に反応できずにおり、魚雷の一つも撃ってくることない。

 

「ターゲット、ロック」

 

 使うのは、先程ザクが落としたバズーカだ。ザフトの武装は引き金を引くだけでどのモビルスーツでも使える機構を持っているので、当然ガンダムであろうと使うことができる。

 

「………ごめんなさい」

 

 そうして、フェイトはバズーカの引き金を引いた。その弾速はノロノロとした遅いものだったが、不意打ちに近い攻撃だったため、それはボスゴロフ級の横っ腹に吸い込まれるように命中した。

 

 小さく爆発し、煙を上げるボスゴロフ級だが、それでもまだ撃沈には至っていない。痛手を受けただろうが、すぐにカーペンタリアに引き返せば問題ないだろう。

 

 そして、フェイトもこれ以上損害を与えるつもりはなかった。地球軍も撤退したようなので、これで今回のミッションも終了だろう。海中でのアビスの機動性は確かに厄介だった。できれば水中戦はもうごめんだと言いたいところだ。

 

 爆発による荒々しい水流をもろともせず、アステリアは速度を落とすことなくその場を駆け去った。

 

 

 

 





>アビス
宇宙でも地上でも戦えて尚且つ、とんでもない数の砲門を持っている火力お化け。水中ではビーム減衰の上にVPS装甲で防御もバッチリという攻めも守りも可能な万能機。
顔のマスク部分が渋くて好きです。

>ウィンダム、ディンなど
描写はなかったが、画面外でガンダムやセイバー、インパルス、カオスなどに撃墜。

>アステリア
元がエクシアなので水中戦もできなくはない。けど、アビスに比べると水中での機動性や旋回性能は劣る。ただし、GNドライヴ搭載機なのでパワーや運動性能などが優っている。


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正義の在り方


訂正
白のキングを黒のキングに修正


 

 それを目撃したのは偶然だった。

 

 デュートリオンビームによる補給を済ませ、ミネルバへ迫るウィンダムをハイネと共に次々と撃墜したシンは、ガンダムと戦闘を行っているアスランの援護に向かおうとしたのだ。

 

 しかし、連合の撤退を確認したアスランはその場から切り上げており、ガンダムも既にこの場からは居なくなっていた。仕方なくシンもそれに(なら)ってミネルバへ戻ろうとした…まさにその時だった。

 

 上空を通り過ぎようとしたその時、眼下に広がるアスファルトの地面が視界に飛び込んできたのだ。続けて、作りかけの滑走路(かっそうろ)迷彩(めいさい)色で塗られた格納庫(ハンガー)がジャングルのなかに並んでいるのが見えた。

 

 –––––––基地?

 

 けれど、基地というにはあまりにもお粗末な出来だ。きっと建設し始めてからまだ時間が経っていないのか、それともザフトに一度破壊されたのか。いや、ソレスタルビーイングが介入していたのかもしれない。

 

 そんなことを思いながら、上空を飛行していたシンだったが、基地の中に軍服を着ていない男たちと、彼等へ呼びかける女子供達––––民間人の姿を見て、シンは凍りついた。

 シンの目の前で、連合の軍人が脱走しようとした男たちを撃ち殺したのだ。まるで木が倒されるように唐突(とうとつ)に、命が奪われたのだ。

 

 目の前で大切な者を奪われた女たちの叫び–––それはシンの魂の叫びでもあった。強き者が弱い者の命を一方的に搾取(さくしゅ)する。それは彼にとって一番に許せないことであり、行き場のない怒りと憎しみが出口を求めて荒れ狂った。

 

 しかし、今のシンにはインパルスという力があった。たとえ小さくても、かつての自分にはなかった誰かを守るための力が…敵を倒すための力がある。

 

 そう思ったら最後、シンは気づけば銃の引き金を引いていた。降伏の意思を持つ連合の兵士にも気付かずに、己の正義を信じて"悪"と決めつけた連合の基地を破壊していた。

 

 –––––シン!なにをやってるんだ!?

 

 怒鳴り散らすようなアスランの声で、シンは我に返った。

 敵への怒りと憎しみが一時的に鎮まり、目の前の現実が視界に飛び込んできて、シンは少したじろぐ…が。

 

 –––––お前、何をやっているのか分かっているのか!?

 

 何をしているのか?

 そんなの、人助けに決まっているじゃないか!?

 

 シンはアスランの言葉を無視して、僅かに残った建物にビームを撃ち込んだ後、怒りを全身に漲らせてインパルスを引き返させる。向かう先は、脱走しようとする男たちと女子供を分けるように設置されたフェンス。

 それをモビルスーツの力で簡単に引き抜き、シンは彼等を安心させるように機体を上空へ飛ばした。

 

 すると、シンの意図を疑い、物陰(ものかげ)に隠れていた人々が、おずおずと足を踏み出し、やがて走り出す。引き離されていた家族が手を取り、抱き合い、笑いあう。

 

 それはシンの理想の景色であり、かつて望んだ光景でもあった。

 

 ––––––そうだ、こんな人たちを助けるために俺は軍人になったんだ…。

 

 それを己が力で実現できたことを静かに誇りに思う。この時のシンは己が行動が正しかったと信じて疑っていなかった。

 

 

▽△▽

 

 

 戦いは、地球連合軍とザフト軍ともに痛み分けに近い形で終わった。

 

 地球連合軍は、ウィンダム全機を失い、建設途中だった基地も破壊されるという大損害を被り、これ以上の戦闘行為を仕掛けることは難しくなっただろう。

 ザフト軍も、ニーラゴンゴの艦載(かんさい)機であるディンとグーンが全滅。ニーラゴンゴ自体も航行不能なまでの損傷を受けたことで、修理のためにカーペンタリアへ引き返すことになってしまったのだ。

 

 ミネルバには損害らしい損害は無かったものの、護衛戦力を失い、厳しい船出となってしまった。連合もすぐに仕掛けてくるとは思えないが、決して安心はできない。

 

 ––––––パシンッ!!

 

 そして、全機が無事帰還してきたミネルバの格納庫(ハンガー)の中で、乾いた音が響き渡る。

 

 誰だ?どうした?とクルー達の注目が集まる中、その中心にいたのは、頬を叩かれたシンと平手打ちしたアスランだった。

 

「殴りたいのなら別に構いませんけどね! けど、俺は間違ったことはしていませんよ!」

 

 打たれた頬がジンジンと熱い。

 それでも、シンは反抗(はんこう)的な目でアスランを睨みつけた。

 

「あそこの人達だって、あれで助かったんだ!」

 

 脳裏に笑顔で抱き合っていた人たちの姿が思い浮かぶ。その光景は幸福なものだったはずだ。ならば、それを実現するための自分の行動が間違っているはずがないっ!

 

 しかし、彼の誇りは、二度目の平手打ちで(むく)われた。アスランが触れれば、切れるほどの鋭い目でシンを見据(みす)え、言った。

 

「戦争はヒーローごっこじゃない!」

 

 呆然(ぼうぜん)とするシンに対して、アスランは厳しい口調で続ける。

 

「自分だけで勝手な判断をするな! 力を持つ者なら、その力を自覚しろ!」

「な、なにを…!」

 

 シンには、アスランが何を言っているのか分からなかった。アスランは一番近くでシンの行動を見ていたはずである。ならば、あの基地で何が起きていたのかを理解しているはず。

 

 その上で、"ヒーローごっこ"だの"力を自覚しろ"だって? 意味が分からない。アスランはなにを言いたいのか。

 

「なにを言ってるんですか、あんたは!」

 

 今ひとつ意味を読み取れないアスランの言葉は、シンに伝わることなく、余計に反発心を(あお)るだけ。彼等は厳しく睨み合った。

 

「そこまでにしとけ、お前ら」

 

 もう少しで暴力沙汰に発展するんじゃないか、というところで間に入ったのは、ハイネだった。振り上げていたアスランの腕を軽くつかみ、いつものような声のトーンでそう言う。

 

「アスランも少し頭冷やせよ、後は俺が言っといてやるから」

「……ああ、すまない」

 

 同じフェイスであるハイネの介入で、アスランも冷静さを取り戻したのだろう。最後にシンに一つ視線を向けると、(きびす)を返して去っていった。

 

「なぁ、シン・アスカ…だったよな」

 

 その背中を最後まで睨みつけていたシンだったが、ハイネが声をかけたことで我に帰ったように視線を戻す。

 

「…そうですけど」

 

 特にハイネに思うところがあるわけではないが、同じフェイスであるためにどうしてもアスランの仲間=気に入らない相手のように考えてしまう。

 不貞腐(ふてくさ)れたように返事をするシンに苦笑して、ハイネはいつものように明るく言葉を続けた。

 

「まぁ、なんだ…俺もまだお前のことをよく知らないわけだが––––」

 

 そこで一度言葉を切り、ハイネはシンの目を見て話した。

 

「お前は間違っちゃいない」

 

 シンは思いもかけない返答に戸惑う。まさか肯定されるとは思ってもいなかったからだ。

 

「連合に強制的に労働させられていた民間人を助けた…それは正しい行動だっただろうさ。別に軍規に違反したわけでもないし、わざわざ殴られる必要もないだろうぜ」

 

 あっさり認められてしまった。

 シンは呆気に取られつつ、何となく、いま自分に重大なことが起こりつつあるのに気づく。

 だが、それが何であるかを見極めるよりも早く、ハイネは言葉を続けた。

 

「けど、俺たちは軍人だ。お前の機体…インパルスもそうだし、アスランのセイバーも俺のグフも同じだが、その銃口を個人的な感情で向けることは許されていない」

「それは…」

 

 反射的に否定したくなったが、ハイネの正論に言い返すだけの言葉が見つからず、黙り込むことしかできなかった。

 

「確かにお前や俺たちからすれば、あの基地の連合の人間は悪だったかもしれないが、それをお前自身の怒りで排除することが本当に正しかったと思うか?」

「………」

「別に全てが間違っていたわけじゃない。ただ、順序と方法というものがある。俺たちは軍人だからな」

 

 そんなハイネの言葉は、シンの胸にスッと入り込んできた。理解することは難しいが、何となく、彼がなにを言いたいのかが分かるような気がして…。

 

「ただ己の正義を振り回して敵を撃つなんて、そんなのあのソレスタルビーイングとかいうテロリストと何も変わらないぜ?」

 

 ソレスタルビーイング。戦争根絶のために武力を用いるテロリスト。彼等の理念に少しの共感を覚えていたのが、シンがハイネの指摘通りだという証拠だ。

 

 シンの心にふと、不安が忍び込む。今まで信じてきたものが根本から崩れ去っていくような感覚だ。

 

「そこのところをアスランも言いたかったんだろうが…ま、いきなり殴られたらわからねぇよな」

「………」

「ったく、そんな拗ねんなよ。子供じゃあるまいし」

 

 ()ねてなどいない。

 既にシンの心に怒りなどないのだ。ただ、冷静になった心に渦巻く気恥ずかしさと罪悪感が上手く言葉を(つむ)がせてくれないだけだ。

 

「俺たちはすぐ戦場に出る。その時にそれを忘れて、勝手な理屈と正義で、闇雲に力を振るえば、それはただの破壊者だ」

「…わかってますよ、そんなの」

 

 それでもつい反抗的な言動を取ってしまうのは、もはやシンの癖なのかもしれない。それともこれがよくルナマリアが言ってくる『子供っぽさ』なのだろうか…。

 

「ま、それならいいさ。本来、ルーキーに話すようなことでもないしな。アスランも、お前を心配してるからつい、口出ししちまうのさ」

「俺を…?」

「そうそう。アスランからすりゃ、見てて危なっかしいお前が心配なんだろうさ」

 

 確かに、言われてみれば、戦場でアスランは常にこちらへ気を遣ってくれていた。あのガンダムを相手にしながらも…。

 

 シンの中で、言いようのないもどかしさが渦巻く。

 それを見てか、ハイネがポンと優しく肩を叩いた。

 

「ま、分かってるならいいさ。もしもお前がまた何かを間違えるようなら、今度は俺が一発ぶち込んでやる。俺のはアスランのとは一味違うぞ?」

「えぇ…」

「殴られるのが嫌なら、もう失敗するなよ。お前は俺たちと同じザフトレッドなんだからな」

 

 それだけ言うと、ハイネはドアの向こうへと消えていく。

 

「さぁーて、センチメンタルなアスランの奴でも慰めに行ってやるかー」

 

 その姿をシンは呆然としたまま(なが)めていた。

 

 結局、彼にはアスランやハイネの言葉の意味がよく分からなかった。

 言われたこと、やられたことを思い返すと、やっぱり腹立たしい。だが、不思議なことに、さっきまでの憂鬱(ゆううつ)(いか)りはすっかり吹き飛ばされていた。

 

 

▽△▽

 

 

 同時刻、ディアキアに建設されたザフト軍駐留基地では、宇宙(そら)から降りてきたプラント最高評議会議長であるデュランダルがカーペンタリアから届けられた報告書に目を通していた。

 

「そうか…ミネルバが彼等と戦闘を」

 

 インド洋における地球連合軍との戦闘。その舞台の中にカオスとアビスを確認できたことから、アーモリーワンでの強奪部隊が連合であった可能性はより濃厚になったことがわかる。

 

 だが、デュランダルにとっては武力介入に現れたソレスタルビーイングの方が重要だった。宇宙での連合との戦闘が一時的に収まり、この地上が主な戦場となった今、彼等の出現情報は貴重だ。

 

「–––––ああ、分かった。報告ご苦労、新たな指示は追って伝える」

 

 そんな中、デュランダルが目をかける部隊であるミネルバ隊がガンダムと戦闘を行うことになったのは幸運と言えよう。最新鋭のモビルスーツや優秀なパイロットが多く属するミネルバ隊を派遣することで、より洗練(せんれん)されたガンダムのデータが集まるからだ。

 

「しかし、機体で彼等に不便をさせることになってしまったか」

 

 その結果分かったことは、やはりインパルスやセイバーといったセカンドステージシリーズでは、例えアスランのようなエースパイロットが搭乗してもガンダムに勝利するのは難しいというものだった。ザクやグフでは言わずもがなだろう…。

 

 今現在確認されているガンダムは全部で四機。それが同時に武力介入を行ってきた回数は少ないが、あれだけの機体性能を誇る機体が四機もいるとなっては、流石のアスランやレイ、シン・アスカ達でも撃墜を(まぬが)れない可能性が高い。

 

「となると……」

 

 デュランダルは、手元にある別の書類へ視線を移す。

 そこには、ザフトの開発する次世代型最新鋭モビルスーツについてが記載されている。

 

 仮決定した機体名はZGMF-X42S デスティニー

 

 形骸(けいがい)化したユニウス条約を無視する形となってしまうものの、核エンジンやミラージュコロイドなどのこの時代における最新鋭の技術をふんだんに投入した新型モビルスーツ……であるそうだ。

 

 その機体がガンダムにどこまで食い下がれるかは分からないが、技術班によるとセカンドステージの機体に比べて数倍の性能アップを()げているデスティニーならば、今集まっているデータ上のガンダムであれば、互角に渡り合えるらしい。

 

 とはいえ、機体はまだジブラルタルで開発途中だ。

 デスティニー開発の副産物として造られたデスティニーシルエットの改良型は用意しているものの、更なる余剰戦力がミネルバには必要になるだろう。

 

 と、そこまで考えて、デュランダルはアーモリーワンでのカガリの言葉を思い出した。

 

 ––––––強すぎる力はまた新たな争いを呼ぶ!

 

 それに対して、デュランダルは全く反対の意見で反論したが、今の結果を見るに彼女の言い分も正しかったのだと実感できる。ソレスタルビーイングという強大な力の存在が、ザフトに条約を超えた新型モビルスーツの開発を決断させたのだから。

 

「……ままならんな、全く」

 

 そのような世界の動きも、彼等にとっては計画通りなのだろう。

 文字通り世界を変える彼等の力を目の当たりにして、デュランダルは己の計画(デスティニープラン)がとても上手くいかないだろうことを理解していた。あるいは、実行するにしてもそれは更に先の時代へと先延ばしになったのは間違いない。

 

「やれやれ…道化というのは、中々気づかないものだな。ジブリールよ、君はどうする?」

 

 疲れたように溜め息を吐くデュランダルの手元では、黒のポーン達が次々と討ち取られ、ナイト、キングにまでその手が伸ばされていた。

 

 

 





>シンの独断行動
ヒーロー物なら大正解の行動も、人の生死にが関係する戦争ならば、限りなくアウトに近いセーフ。少なくとも命令無視はダメだが、連合が素直に投降していれば、シンも無差別破壊まではしなかったはず。

>ハイネ
本編での活躍が限定すぎたため、殆どオリキャラみたいな役目を押し付けることに…。キャラ崩壊が激しくなりますが、どうかご容赦を。

>デュランダル
彼は一旦デスティニープランを諦めました。
イオリア計画の第一段階【破壊と再生】を推測し、統一された世界に向けて行動を始める予定です。

>チェス盤
原作では、
白のクイーン=ラクス
白のナイト=キラ
という風だったので、

黒のキング=デュランダル
黒のナイト=シン、レイ
黒のポーン=ザフト
という描写になっています


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決意の影で

 

 

〈このデモによる死傷者の数は、既に千人にのぼり、赤道連合政府は……〉

〈十八日の大西洋連邦大統領の発言を受けて、昨日、南アフリカ共同体のガドウ議長は……〉

〈この声明に対し、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルは、昨夜ふたたび、プラントはあくまでも……〉

〈ユーラシア西側地域では、依然激しい戦闘が続いており、私設武装組織ソレスタルビーイングの武力介入も合わさって、周辺都市部には深刻な戦闘の被害が発生しています…〉

 

 カガリは重苦しい思いを胸に、モニターから目を逸らした。

 眼前のマルチモニターでは世界各地のニュースが流れており、カップを片手にそれを(なが)めながら、バルトフェルドもやれやれと息をつく。

 

「毎日毎日、気の滅入るようなニュースばかりだねぇ」

 

 オーブ連合首長国、アスハ家の管理する別邸にて、バルトフェルドたちはその身を隠していた。()められた形になったカガリたちだが、未だ国内にアスハ派は多く、こうしてセイランに見張られることなく再び顔を合わせることができているのだ。

 

「しかし、何か変な感じだな。プラントとの戦闘の方はどうなっているんだ? 入ってくるのは連合の内乱と…ソレスタルビーイングのニュースばかりじゃないか」

 

 ここのところ伝えられるのは地上での内戦やデモ、紛争。そして、それに武力介入を行なっているソレスタルビーイングのニュースがほとんどで、まるで連合がプラントよりもソレスタルビーイングの方を敵視しているようにも見える。

 

「プラントはプラントで、ずっとこんな調子ですしね」

 

 ラクスがそう言い、マルチモニターの一画面を切り替える。

 そこには派手なコンサート風景が映しだされ、ラクス–––––いや、ラクスにそっくりな少女が観客の歓声(かんせい)を一身に受け、楽しげに歌っている。

 

〈勇敢なるザフト軍兵士のみなさぁーん!〉

〈平和のため、私たちもがんばりまぁす! みなさんもお気をつけてぇーっ!〉

 

 一見それらしいが、間違いなく本人なら言わないだろうことだ。本物を知るカガリたちからすれば、まるでラクス本人のことを(ぞく)っぽい戯画(ぎが)にまで(おとし)められているかのようだ。

 

「みなさん、元気で楽しそうですわ」

 

 ラクスはにっこり笑っているがその目は笑っていない。むしろ音色は冷ややかだ。それを感じ取ってか、普段は飄々としているバルトフェルドがぎくりと身を引く。

 

「それだけじゃないわ。プラントも連合に関することは一切報じないし。どこのニュースも地球でのテロとソレスタルビーイングについてばかりよ」

 

 まるで、誰かが情勢を操作しているのかと言わんばかりに、世界の注目は彼等に集まっている。それも敵意という名の注目を…。

 

「くそっ、こんな時に何もできないなんて!」

 

 カガリは焦りを懸命に押し殺しながらも、混沌と化す世界情勢を前に居ても立っても居られない気分だった。

 

「そりゃ、なんとかできるもんならしたいけどねぇ…。今の僕らには力もなければ、それを振るう場所も理由もないわけだ」

 

 彼等は現在、プラントからのスパイという名のセイラン家からの嫌疑が掛けられている。かつての大戦の英雄である彼等をどうこうするのは表向きに難しかったから特に罪は問われなかったものの、セイランに見張られているおかげで自由に動けない身だ。

 

「でも、なんとかしなくちゃ」

「–––キラ」

 

 それまで黙っていたキラがポツリと(つぶや)く。

 包帯を巻いた彼の姿は痛ましいものの、特に重傷はしていない。フリーダム自身は中破したものの、パイロットのキラは少しの治療で済んだのだ。

 

「今はまだ何も分からないことだらけだけど、このまま何をしなかったら、きっと後で後悔する」

「そうね…」

 

 マリューも考え込みながら相槌を打つ。

 情報というのは戦争において大きなアドバンテージだ。それを手に入れることができない彼女たちは、戦う理由すら見失っていた。

 

「何故ガンダムがキラ君を襲ったのかも分からないし、何よりも……」

 

 彼等の視線がマルチモニターに映る四機のモビルスーツ…ガンダムへと集まる。

 

「キラを襲ったあの機体、この映像のどこにも映っていない」

「でもあの機体は確かに…」

 

 現状、ソレスタルビーイングの持つ人型機動兵器ガンダムの持つ特徴は大きく二つ。一つ目はストライクやフリーダム等と共通したツインアイの頭部形状をしていること。そして、二つ目が重要であり、それが背部から出す緑色の粒子だ。

 旧型とはいえ、あのフリーダムを単純な機体性能で圧倒したあのモビルスーツはガンダムで間違いないはずなのに、その機体はどの国のどのメディアでも取り上げられていない。

 

「彼等の真意を…知らなくてはなりませんね」

 

 静かにラクスがそう言う。

 隠しておくというのは、つまりは隠しておきたい理由があるということなのだろう。戦争根絶を掲げる彼等も一枚岩ではないというのか…。

 

「でも、どうやって?」

 

 結局はそういう結論に行き着く。

 名が知れているラクスやバルトフェルドには厳しい監視が付いているし、彼等の剣であったアークエンジェルも中破したフリーダムも接収されている。

 今の彼等にできるのは、こうやってオーブの片隅でひっそりと暮らしていくことだけだった。

 

「わかりませんわね…」

 

 ラクスは深いため息をついた。

 そして、突如としてカガリ達に振り返る。

 

「ですからわたくし、見て参りますわ」

「え?」

 

 目を瞬かせるカガリ達に向かって、ラクスは微笑みながらも告げる。

 

「プラントの様子を」

「ええっ!?」

 

 カガリは思わず声を上げた。

 だってそれは、ラクスをオーブから追い出すことになる。そして、連合と組んだオーブは二度と彼女の帰国を許さないだろう。それに何よりプラントは…!

 

「プラントにも、私に賛同してくれる方はいらっしゃいます」

 

 それはそうだ。

 カガリはよく分からないが、バルトフェルドのようなラクスの味方が二年経った今もプラントに残っているのは間違いないだろう。しかし、それでも…。

 

「大丈夫です、みなさん」

 

 その笑顔の底には、真っ直ぐ通った信念があった。

 立ち止まっている時間はおわり、再び動き出す時が来たのだ。全ては情報を集めてから。剣を取るか判断するのはそれからでいい。

 

「……分かったよ、ラクス」

「キラ!?」

 

 一番反対するだろうと思っていた弟の言葉に、カガリは驚きの声を上げた。しかし、傷だらけの彼はまっすぐな瞳でラクスを見つめ返して笑った。

 

「君は決めたことはやり通す子だから。僕は止めないよ」

「キラ…」

 

 まずは決める。そしてやり通す。

 それが彼女(ラクス)のやり方だというのをキラはよく知っていた。だからこそ、そんな彼女に自分は惹かれたのだ。

 

「だがどうする? 俺もラクスもそう簡単に動ける身ではないぞ?」

「…それなら、僕に考えがあります」

 

 そう言ったのはキラだ。

 ラクスを見て、小さく頷いたキラが話す内容について、カガリは心当たりがあった。

 

「実はこの間、僕とカガリでセイランと話し合ったんですが…」

「キラ、まさかお前! …ダメだ!」

 

 声を荒あげるカガリに、びっくりした様子でマリュー達も呆気に取られる。

 

「カガリ。僕は大丈夫」

「…でも、お前」

「アスランもカガリも、ラクスも皆自分に出来ることをやっているんだ。僕だけがここでじっとしているなんて、できない」

 

 キラは心配そうに見つめるカガリを微笑み返すと、覚悟を決めた瞳で全員を見据えた。

 

「––––––––僕も戦う」

 

 それは二年前から成長した戦士の姿だった。

 

 

▽△▽

 

 

「これはどういうことだっ!」

 

 ()ざされた空気を、怒りの声が震わせた。

 怒りの声の主、ロード・ジブリールは乱暴にデスクを(たた)き、モニター画面の男を睨みつける。

 

〈それは君だって知っているだろう?〉

 

 モニターの中から大西洋連邦大統領コープランドが嫌味(いやみ)たらしく言う。

 

「プランの準備が整ってもいないところで強引に開戦して、あの被害。それも敵に一矢報いることもできずにおしまいとは」

「ぐっ」

 

 それは、言われるまでもなくジブリールとて理解していることだ。今日もロゴスの集会で老人どもに口煩く言われたばかりだと言うのに…。

 

「私は、そんな話を聞きたいのではない! 私はそんな現状に対して、あなた方がどんなを手を打っているのかを聞いているのです」

 

 その言葉に今度は画面の奥のコープランドが苦い顔になった。それを見たジブリールが畳み掛ける。

 

「コーディネーターを倒せ、滅ぼせとあれだけ盛り上げて差し上げたのに、その火を消してしまうおつもりですか?」

「いや、それは…」

 

 結局のところ、この男とて自らの失態の責任を他の誰かに負わせたいだけなのだろう。ジブリールは目の前の無能者に溜め息を内心で吐きながらも、勢いついて言葉を続けた。

 

「弱い者は、どうせ最後には強い方につくんですよ! 勝つ者が正義なんですよ! そんな簡単な法則すらお忘れですか、大統領!」

「ジブリール……」

 

 実のところ、密かな焦りがジブリールの(うち)にはあった。

 ヤキン・ドゥーエ攻防戦において、当時の盟主ムルタ・アズラエルを失ってから、ブルーコスモスはいっときの弱体化の一途にあったのだ。

 

 その体制を立て直し、元通り連合の首脳を凌ぐまでの発言力を取り戻したのはジブリールの功績なのだが、実際はその半分以上がシャーロット・アズラエルの功績であり、ジブリールはおこぼれを貰ったような者にすぎない。

 

 故にここで今、打つ手を誤っては、コープランドらに侮られるだけでは済まず、本当にシャーロットに盟主の座を乗っ取られることになりかねない。

 

 だからこそ、ジブリールはあえて強気の態度を崩すことはできない。相手の反論を抑え込ように言葉を続ける。

 

「我らが力を示さないから、跳ねっ返りが出るんです。なら、まずはそこからちゃんと手を打ってください。だらだらちまちまと戦っているから、舐められんですよ?」

「だが、我等とて精一杯なのだ!」

 

 流石にコープランドも憤然(ふんぜん)と言い返す。

 

「戦力は限られているし、人員の問題も…。それにソレスタルビーイングのこともある。だいたい、君のファントムペインとやらも、大した成果は上げられていないじゃないか!」

 

 ジブリールは虚を突かれたように言葉に詰まった。

 

「それは…」

 

 彼は歯軋(はぎ)りしながら、部下であるネオ・ロアノークの仮面で覆われた顔を思い浮かべる。彼等がいつまでも、たかが一隻の艦を沈められないから、こんな奴に弱みを見せてしまうのだ。

 

 しかし、戦力の問題は重要だった。

 コープランドが無理と言う以上、戦力は他から引っ張ってくるしかない。ユニウスセブン落下の影響で使える人間が少ない今、いたずらに消費し過ぎればそのままザフトに逆転される恐れもある。

 おまけに地球連合軍お得意の物量作戦もソレスタルビーイングのガンダムの前ではよく動く的でしかない。全てがうまくいかないのだ。

 

「ですから……」

 

 苛々と言葉を継ごうとしていたジブリールの頭に、その時ふと閃いた国名があった。都合よく行使できて、それなりに戦力がある国、それは…。

 

「オーブですよ!」

「はぁ」

 

 怪訝そうなコープランドに、ジブリールは会心の笑みを浮かべる。

 

「黒海には、彼等に行って貰えばいいんですよ。ちょうど、彼等には軍事協力の約束を取り付けたはずです!」

「ああ、()()()()()()()()()()()()()()()()()、あの国だね?」

 

 わざとらしくシャーロットが、と強調するコープランドに青筋を立てながらも表面上は笑顔を貼り付けてジブリールは笑う。

 

「今度こそ、あの疫病神の艦を撃ってもらわらないと…テロリスト退治もできやしないですからねェ」

〈テロリスト退治…ねぇ〉

 

 勝利の笑みを浮かべるジブリールに対して、コープランドは訝しむように考え込む。

 

 オーブの軍事力は先の大戦でも身を持って理解しているが、とてもオーブ軍だけでガンダムとミネルバを倒せるとは思えない。というかミネルバを倒す必要性があるとは思えない。プラントは敵だが、必ずしも滅ぼさなくてはならない相手ではない。

 

〈やはりブルーコスモスはよく分からん…〉

 

 それすらも気付かずにただ意味のない指示を出すジブリールのことを、傀儡のはずのコープランドが見切りをつけ始めていたことに、笑い続ける彼が気づくことはなかった。

 

 





>ラクス陣営
プラントへ。物語終盤まで情報収集に努める。

>キラ&カガリ
オーブ残留。キラ、戦いを決意。

>ジブリール
K・A・M・A・S・E
多分少数派だろう彼のファンのために行っておくと、彼の活躍(?)はもうないとだけ言っておきましょう。


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オーブの姫獅子


お久しぶりです。
ちょっと、この小説に関して心に傷を負うメッセージがありましてね。筆が止まっていました(涙)

ただ、止めている間に評価・お気に入り登録してくれた人も多くいましたし、最後までやり遂げようかと思いまして、ゆっくりですが進めていこうと思います。

久しぶりなので文体が少し変わっているかもしれませんが、ご注意を。


 

 

 ロード・ジブリールが戦力として利用しようとしている国––––––オーブ連合首長国は揺れていた。

 

 長年守ってきた中立の理念を捨て、同盟を結んだ大西洋連邦から来た最初の命令は、ザフト軍艦ミネルバを落とす為に黒海へ軍を派遣しろというものだった。

 

「この状況で黒海へ軍を出せだと!? 馬鹿を言うな! そんなことに何の意味がある!?」

 

 カガリが感情的に叫ぶ。

 以前はここで一人、孤独な戦いを強いられたカガリだったが、しかし、今この場においては彼女の意見に同調するものが多かった。

 

 確かにオーブは大西洋連邦と同盟を結んだものの、彼等の言いなりになると(ちか)った覚えはない。シャーロット・アズラエルと結んだ条約からしても、両領土への侵略時やテロリスト––––ソレスタルビーイングへの対応などに限ってオーブは軍を動かすと言うものであり、このようにプラントへ積極的に攻撃する姿勢を受け入れたわけではないのだ。

 

「そもそも、この状況でザフトへ攻撃する理由が我々のどこにある!?」

 

 今、ユニウスセブン落下の影響によって世界各地では被害が出ているはずだ。宇宙でも戦闘行為は(ほとん)ど行っていないというのに、なぜわざわざザフトの軍…それもミネルバを攻撃しなければならないのか…。

 

「うぅむ…」

「確かに開戦後の連合の動きは少々強引と言わざるを得ませんな」

 

 政治の経験がまだ少ないカガリからしても、ここ最近の大西洋連邦の動きは奇妙(きみょう)だと分かる。

 

 声高にプラントへの攻撃を叫びながらも、実際に起こっているのは反発するユーラシアとの内紛行為ばかり。初戦から()み外した宇宙の月基地は沈黙し、地上でも一部を除いてザフト・連合間の戦闘は小規模なものになりつつある。

 

 ソレスタルビーイングが(かか)げている紛争根絶は、着々と進められているのだ。その手段が完全に悪だとしても、事実として世界は変わっていく。オーブも、この変わりゆく世界の中で正しき道を選ぶ必要があった。

 

 ラクスもキラも…そして、アスランもみんな自分にできることをやっている。だから、カガリもオーブ連合首長国の代表として、国のため、国民のために本当に何が必要なのかを真剣に考えるようになっていた。

 

「まぁまぁ、いいじゃないですか。連合に恩を売っておけば、戦後のオーブの地位も安泰ですし…」

「ユウナ…お前、正気か?」

 

 対して、段々とメッキが剥がされてきているのがこの男、ユウナ・ロマ・セイランだ。

 

 始めは現実的な思考を持つカガリとは対極(たいきょく)的な将来有望なオーブの政治家として注目されていた彼だったが、いざ大西洋連邦との同盟を可決させたと思うと、それ以降はやや自己中心的…というよりもむしろ彼の方が現実を見据(みす)えていない発言が目立ち始めたのだ。

 

「正気もなにも、私たちは大西洋連邦と同盟を結んだじゃないですか。彼等の要請に従うのに何の間違いがあるんですか、代表?」

「………」

 

 少し前までは厳かに感じていたユウナの言葉だったが、自分を見つめ直したカガリには何も恐れるものはない。むしろ、このような男の発言に踊らされていた過去の自分に怒りすら()いてくる。

 

「それとも、代表はまだこの同盟にご反対されるおつもりで?」

「……いいや」

 

 あれから暫くの間、この同盟についてカガリなりに真剣に考えた。

 オーブの中立の理念か、国民の安全か、何が大切なのか。亡き父は何を考えていたのか…と。

 

「私もあの同盟は仕方のなかったものだと、今は受け止めている」

 

 その言葉に数名の議員たちがホッとしたような表情をする。またカガリが感情的に否定すると思っていたのだろう。

 

 勿論、カガリの中に大西洋連邦との同盟について、未だに納得しきれないものがあるのも事実だ。尊敬する父が築いた中立を守れなかったことに対する無念の気持ちもある。

 

 しかし、父の決断とて絶対ではない。

 結果としてシン・アスカのような被害者を生んでしまったのは事実なのだ。二度と彼のような生まないためには、このような決断も仕方のなかったものなのかもしれない。

 

 何より、既に同盟は結ばれてしまったのだ。

 後からあれこれ言っても議員たちは納得しないだろうし、何も変わらない。ならば、代表首長としてオーブの未来について考えることのほうが重要だった。

 

 そして、オーブ連合首長国代表首長として、今回の大西洋連邦からの要請に首を縦に振ることは、どうしてもできなかった。

 

「だがしかし、黒海への軍派遣はやはり許可することはできない」

「代表…いつまでも子供じみたことを言うのは––––」

 

 ユウナが呆れたように口を開いたが、そんな彼の発言を遮るようにカガリは立ち上がった。そして、真っ直ぐな視線でユウナを睨むように見据(みす)える。

 

「ユウナ、お前は前線に出たことがあるのか? 軍事訓練の経験は?」

「は?…」

 

 突然のカガリの言葉に、ユウナは目を丸くする。周囲の議員たちも何事かと言わんばかりに騒めき出したが、カガリはそれを無視して言葉を続けた。

 

「皆の知っての通り、私は学生時代に士官学校で正規の訓練を受けている。戦の経験については前大戦を思い出して欲しい」

「代表…何を…?」

 

 そして、ユウナにそのような経験はないだろう。客観的に見ても甘やかされて育った彼は銃すらまともに撃ったこともないのではないだろうか。

 

「今、政治家になったからこそ分かることがある。……お前たち、私たち政治家の一言でどれほどの軍人が戦い、死して行くかを知っているか?」

 

 無論、彼等も数値上では知ってはいるだろう。

 しかし、その過程にある悲しみと苦しみ、恐怖は本人にしか分からないものだ。

 そして、残された者に残るのは言いようのない怒りと憎しみ。ミネルバで出会ったシン・アスカが(あか)い瞳に抱くような(ぬぐ)いきれない感傷だけ。

 

「黒海へ行けば、ザフトと戦闘になる。そして、戦闘になればソレスタルビーイングもやってくるだろう」

「……っ!」

「そうなれば、精鋭たるオーブ軍の彼等でも無傷ではすまない。最悪、地球軍と心中することになる可能性もある」

 

 士官学校へ通ったカガリだからこそ、分かることがある。彼等がどんな思いで軍へ志願したのかを…。

 全ては中立という理念を持つオーブを守るため、愛する人がいるこの国を守るためだと。

 

 国家元首となった今でも、あの時の光景は昨日のように思い出せる。

 

「この要請、要はオーブ軍を尖兵として利用しようという魂胆なのだろう。そんなことでいいのか、お前たちは!」

「カガリ様…貴女は」

 

 そんな彼等が地球軍の使いっ走りとなって意味もなく戦闘に参加し、命を落とすなど、そんな寂しいものがあっていいのだろうか。

 

「私が父の理念に固執しすぎていたのは認めよう。中立を注視するあまりに視野が狭くなっていたのも認める––––––しかし!」

 

 父が守った中立と父が守れなかった国民。

 それを天秤にかけ、カガリは後者を選んだ。娘として、後継者として、父には申し訳なく思う気持ちもあるが、それでも後悔はしない。

 

「軍人だろうとオーブの国民であることに変わりはない。そんな彼等の命を国のためにでもなく、誰かを守るためにでもなく、ただの使い捨てとして利用することなど、私にはできない」

「カガリっ!」

 

「(…代表、とも呼ばなくなったか。お前の余裕のないところを見るのは初めてだ)」

 

 ユウナが立ちあがろうとして、父であるウナトに制止されているのが見える。カガリの言葉に胸を打たれたような反応を見せる議員たちが多い以上、不利をさとったのだろう。

 

「(どういうつもりだ!…とでも言いたそうだな)」

 

 目線でこちらに(うった)えかけてきているのが分かる。

 だが、キラ(フリーダム)やアークエンジェルの件で弱みを握ったと思っているのなら、それは大間違いだ。弟が覚悟を決め、懸念点であったラクス達が国を脱出した今、カガリに恐れるものはない。

 

 こちらを睨むセイラン家の視線を無視して、カガリは議員たちへ深く頭を下げる。

 

「これも私の我儘なのかもしれないが、今一度よく考えて欲しい。本当にオーブのためを思うのなら、何が正しい選択なのかを–––!」

 

 カガリのその言葉は、静まり返った議会室に小さく響き渡った。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「––––––というわけで、何とか軍の派遣は押しとどめることができた」

「…すごいね、カガリは」

 

 疲れたようにそう言った(カガリ)の言葉に、キラは心底感心したという風に呟いた。

 

 そこに先日の戦闘で負った怪我の様子は見られない。流石はコーディネーターというべきか、キラの身体の傷は順調に回復していた。もうモビルスーツに乗れるくらいにはなっている。

 

「まぁ、こんなことをしでかして、セイランが何を言ってくるか…頭が痛い」

「でも、カガリの言ったことは決して間違いじゃないと思うよ」

 

 カガリが大西洋連邦との同盟の可決を認めると言ったとき、キラは裏切られたような気持ちになった。

 

 それでは、今までの戦いで自分たちが戦ってきた理由は? 

 ウズミの意思はどうなる? 

 

 そんな思いの数々が胸を巡ったものの、カガリの言葉に納得せざるを得なかったのも事実。

 

《二年前のオーブ解放戦線で…連合のモビルスーツと青い翼を持った機体の戦いの中で》

《いくら綺麗に花が咲いても、人はまた吹き飛ばす…!》

 

 自分が戦った結果で大切なものを失った人がいる。中立を貫こうとすれば、自分はまた戦うことになる。

 

 そうなったときに、また彼等のようなものを生み出すという事実に、キラは自分が耐えられるとは思えなかった。

 

 だからこそ、刃を向けずに、ウズミのものではない自分なりの理念を持って平和を願い戦うカガリのことをキラは誇りに思っていたのだ。

 

「とはいえだ。私の身柄をセイランが握っているのも確か。こうやって元首の立場にいられるのも後どれほどか…キラ、お前も」

「僕は大丈夫だよ。覚悟はある…つもりだし」

 

 あの日、セイランはいくつかの条件をつけてフリーダムやアークエンジェルの件を黙認すると言った。

 

 その内の一つが、フリーダムのパイロットであるキラの徴兵である。

 前大戦の英雄であるキラの力を手に入れようと考えたセイランがカガリを人質にして、キラを自分たちの強力な兵器として好き勝手運用しようとしている。

 

 勿論、カガリはそれを否定した。

 前大戦でのキラが負った戦争の悲しみを知っているからこそ、彼をこれ以上戦争に関わらせることだけさせたくなかったのだ。

 

「セイランが設けた期限も後少しか…私たちも身の振り方を決めなければならないな」

「そんなの…答えは一つ、決まってるでしょ?」

 

 カガリが自分を戦いから遠ざけようとしていることくらいはキラにも分かっている。彼女なりの弟への思いやりなのだろう。

 

 だが、カガリがまだまだ未熟な女の子だということもキラはよく知っている。誰よりも国のことを思う彼女のことだ。きっと本当は不安でたまらなかったのだろう。

 

「(僕もいつまでも昔のままじゃいられないんだ)」

 

 想いだけでも、力だけでも駄目なのだ。

 キラにできないことをカガリはしているのかもしれないが、カガリにできないことがキラにはできる。

 

 ならば、今の自分にできることをするだけ。

 それが今はいないアスランの代わりなのだとしても、今は側で彼女を支え続けよう。

 

 だって、自分は弟であると同時にカガリの兄なのだ。

 なら、妹を守るのは兄である自分の仕事だ。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「くそっ、どういうつもりだ! カガリのやつ!」

「ふむぅ……」

 

 同時刻、ユウナ・ロマ・セイランとウナト・エマ・セイランの二人は困窮した様子を突き合わせていた。

 

 それは当初想定していたものと違う方向に舵取りが進んでしまったからだ。

 

 ()()()()()から手に入れたフリーダム及びアークエンジェルの情報。それと共に促されたオーブ政権の奪還方法。

 

 未熟なカガリ相手であれば、なんとでも言いくるめることができると思っていた。だからこそ、その為に邪魔なアスラン・ザラやキラ・ヤマトを排除しようとしたのだ。

 

 幸いにして、アスランは自分からオーブを去り、理由は不明だがキラはソレスタルビーイングに敗北して寧ろ弱みを(つか)み取ることができた。

 

 完全に自分たちに流れが来たと思っていたのに。

 

「連合からは相変わらず黒海への軍の派遣を要求されているが…」

「ここで連合に逆らえるわけない! 父上!」

「うむ…」

 

 とんだ誤算だ–––––ウナトはズレた眼鏡をもと通り掛け直しながら、(ほぞ)をかむ。

 

 連合についておけば間違いはないと思い、強情なカガリを言いくるめて同盟条約に可決させた。

 

 息子のユウナは知らないが、この同盟の裏にはロゴスの一人であるブルーコスモスの盟主、ロード・ジブリールからの圧力があったのだ。

 現在オーブにいるシャーロット・アズラエルは、それを強めるものなのだろう。

 

 ジブリールは以前、ロゴス幹部の集会の元で顔を合わせたことがあるが、親交があったわけではない。命令通りに動く()れはないが、無視するにはジブリールの力は大きすぎる。

 

 一度その手を取ってしまった以上、彼の言う通りにするしか、ウナト達が生き残る道は残されていないのだ。

 

「これ以上、返答を無視すればこちらが危うい…か」

「父上!」

 

 もはや後戻りはできない。

 今更、馬を乗り()えることなどできないのだから。

 

「ユウナ、例のプランを発動する。軍を動かすぞ」

 

 そうして、セイランの二人は悪魔の手を取ったのだった。

 

 

 





次回予告
「オーブ内戦! 乱入、ソレスタルビーイング!」

00でいうアザディスタン編みたいなものですね。

励みになるので、まだの方は評価・お気に入り登録お願いします。


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世界の歪み

 

 

 セイラン所有の邸宅(ていたく)にて、シャーロット・アズラエルとカガリ・ユラ・アスハは対談を行なっていた。

 

「……では、どうあっても黒海への派遣は検討いただけないと?」

「ああ。申し訳ないが、今のところは」

 

 そうですか…とシャーロットは、カガリの愚直なまでの答えに小さく息を吐いた。

 

 これはユウナとウナトの意向によるものであり、シャーロットを利用してカガリへ圧力をかけようという魂胆(こんたん)なのだろう。

 

 しかし、カガリは全く折れず、決して頭を縦に振ることはなかった。一皮剥けたと言っていい。ミネルバに乗っていた頃と比べて何かが変わった。

 

「なるほど、ではそのように伝えましょう」

「…申し訳ない。しかし、我々も決して貴女方との争いを求めているわけではない。ユニウスセブンのこともある。我々は–––」

「ええ、分かっておりますわ」

 

 良くも悪くも直情的で、根っからの平和主義者。

 

 彼女はそのような人間なのだろう、とシャーロットは思う。今は政治家の仮面を張りつけているのだろうが、そんなものデュランダルに比べれば可愛いもの。

 

 普段から野心の透けて見える男たちばかり相手しているからか、カガリのような人間は相手していて楽だ。根っこに秘めるものが何もないからこそ、素直に会話を続けられる久しぶりの人間。

 

「あなた方から見れば、我が国の行いが身勝手な行動に見えるのも当然のこと。我々も責めるようなことしません」

「アズラエル理事…」

 

 そう、シャーロットもコープランドは勿論、ロゴスのメンバーもオーブが軍を派遣しなかったからといって別に何もしない。せいぜいオーブの軍事力の利用価値が下がるだけだ。そもそも、今はザフトの相手で手一杯な大西洋連邦にオーブを攻める余裕などないのだから。

 

「………我々はね」

 

 だが、癇癪(かんしゃく)持ちのジブリールの対応は知ったことではない。シャーロットとて、自分を目の敵のように接してくる彼に関わりたくないのだ。

 ロゴス内でのシャーロットとジブリールの力関係はほぼ互角と言っていいが、それは国防産業理事・アズラエル家当主という表向きの顔での話。

 

 天上の存在(ソレスタルビーイング)のエージェントという裏の顔を持つ彼女にとって、ジブリールもブルーコスモスも道化がいいところであり、そんな道化の駒であるセイランなど興味の外にいる人間である。

 

 だからこそ、彼女はセイランの企みについて何も言わないし、何もしない。興味もないからだ。

 

 どのみちセイランの企みはうまくいかない。彼等の頼りの先にいるのがジブリールならば、その行く先は破滅(はめつ)だ。

 この内戦はその破滅にオーブが巻き込まれるか否かが決まる戦いになるだろう。最も、ソレスタルビーイングの存在を抜きにしてもセイランの勝率はかなり低いと言わざるを得ないが。

 

「(お手並み拝見といきましょう…カガリ・ユラ・アスハ)」

 

 シャーロット・アズラエルは余裕を(くず)さない。

 例え、この後のセイラン家の国家元首誘拐に巻き込まれたとしても。

 

 彼女にとっては、まだ計画の第一段階に過ぎないこの世界はまだまだ白黒の世界に過ぎないのだから。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 きっかけは些細(ささい)なこと。

 それが爆発するのも突然のことだった。

 

 一時期はセイランに(かたむ)きかけたオーブの情勢だったが、カガリが力強く宣言をしたことで元から高かった支持率を持ち直したのだ。

 

 それに困ったのがセイラン家であり、今回に限ってはカガリに一切の落ち度がないためにそこを責めることもできない。

 元々政治経験の未熟なカガリの揚げ足を取る形で自分たちの思い通りにしていただけであり、セイラン家自身にはオーブを率いるだけの能力はないのだ。

 

 そも、ただでさえカガリの国内人気は高い。

 前大戦の英雄の一人であり、前々代表のウズミのことも合わさって国民の大半はアスハ派である。

 そして、そのカガリが政治的カリスマをも身につけたとなれば、その人気はますます高くなることだろう。それもセイランが付け入る(すき)がなくなるほどに。

 

 アスハ派がセイラン派を取り込むのも、時間の問題だった。

 

 だからこそ、セイランは強硬策に出た。

 それも愚かとしか言いようのない愚策(ぐさく)にだ。それとも、それが彼等に考えられる作戦の限界だったのかもしれない。

 

 武力によるオーブ制圧。

 カガリを誘拐し、セイラン家の支配下にある国防軍を私物化。

 カガリがいない間に政権を手に入れる。

 

 そんな夢物語を見ている彼等は、確かに道化以下だった。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「カガリが誘拐って…本当ですか!?」

 

 アスハ家が所有する邸宅にて、キラはオーブ軍陸軍一佐のレドニル・キサカに姉がセイランに誘拐されたという情報の真偽(しんぎ)について問いただしていた。

 

「残念ながら事実だ。セイランによるクーデター…ということなのだろう」

「そんな!?」

 

 アスハ家とセイラン家の仲がよくないのはキラも知っていたが、前大戦で身を(てい)してオーブの理念を守ったウズミらの存在を知るからこそ、まさかセイランが権力の為にクーデターを起こす氏族なのだとは思ってもみなかった。

 

「既にオーブ海域にて演習を装った複数の海軍…という名のセイランのクーデター軍が展開している。軍においてセイランの持つ影響力は大きい。奴等は武力で持ってオーブの政権を手に入れるつもりなのだろう」

「そんな…そんなことを」

 

 なんて愚かな行為なのだろうか。

 今まで母国のため、誰かを守るため、復讐のためと様々な理由で戦うものたちを見てきたが、まさか権力欲しさにここまでする人間がいるとは…キラは言葉もなかった。

 

「…戦うんですか?」

「それも選択肢の一つだが、そんなことをすればオーブが戦場となる。国が焼かれることをカガリは望まないだろう」

「それはそうだけど…でもそれは」

 

 理念よりも国民を選んだカガリのことだ。

 確かに権力などを求めて国を焼くことになるのなら、彼女は自らそれを手放すだろう…。

 

「…って、まさか!」

「そう。カガリ自身に代表を辞任してもらう。それが奴らの目的だろう」

「でもそんなこと、みんな認めるわけが–––––!」

 

 国内においてのカガリの人気は高い。

 そんな卑怯な手で政権を握ったところで、国民が納得するわけがない。

 

 キラが疑問に思ったところで、キサカが苦い顔で言った。

 

「セイランめ、かなり用意周到な手を打ってきたようだ。既に情報統制が敷かれており、多くの国民に真実は伝わっていない」

 

 さらに間が悪いことに、今の国民の認識はセイランの意思=カガリの意思であり、今は白紙になったとはいえ一時期は二人の結婚の可能性も報道されていた。

 真実さえ知らなければ、カガリからセイランへの政権交代も自然に受け止められるものであるだろう。

 

「じゃどうやって…」

「カガリさえ取り戻せばなんとかなる。我々も全力で捜索しているが、その間に国防本部が制圧される可能性が高い」

 

 一度軍を動かして戦えば総力戦になる。

 そうなれば、否が応でも市街にも被害を(もたら)すことになる。カガリのことを思えばそれはできない。

 

 一番求めているのは時間稼ぎ。

 だとすれば、それができるのは単機で軍を混乱させることができる––––––ソレスタルビーイングのガンダムのような力だ。

 

 そして、今いる戦力でそれができるのは…。

 

「……僕が戦います!」

「キラ、しかし…」

「僕にできること、僕がやるべきことがあるのなら、もう僕は逃げません」

 

 もう二年前とは違う。

 

 –––––想いだけでも、力だけでも駄目なのだ。

 

 ウズミが守り、形は違えどカガリが必死に守ろうとしているもの。それを壊させるわけにはいかない。

 

「…わかった。ならば、エリカ・シモンズのところへ行け」

「え…?」

「お前の機体がある」

 

 キラはその言葉に強く頷き、モルゲンレーテ社に向けてその場を後にした。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 オーブ北部の領空国境付近、雲に紛れるように飛行するソレスタルビーイング所有のステルス輸送機の姿があった。

 

 機内にあるキャビンの中では、フェイト・シックザールとアキサム・アルヴァディのガンダムマイスター二人がシートに(こし)を下ろしている。ガンダムアステリアとガンダムサルースは、機体に輸送機の貨物ブロックに揃って搭載し、待機させていた。

 

『オーブ連合首長国において、このままではセイラン派によるクーデターが成功するのは確実視されています』

 

 モニターには、今回の二人のサポートを任されたヴァイオレット・ヘルシズが映っており、同時に画面端には今回の事件…セイランによるクーデターについての詳細なデータが記載(きさい)されている。

 

「ということは、何か策があるのかい?」

 

 アキサムが尋ねた。(とな)りではフェイトが射抜くかのように画面に映る男…ユウナ・ロマ・セイランの顔写真を睨みつけている。

 

『今回のクーデターを止めるには、誘拐されたカガリ・ユラ・アスハ代表首長を保護し、彼女自身から全国民に真実を知らせる必要があります』

「誘拐された嬢ちゃんの行方は?」

『まだ特定に至っていません。ただ、カガリ・ユラ・アスハ代表首長を誘拐した組織は、セイラン家によるものではない可能性が高いと、ヴェーダが推察しています』

「…おいおい、まさか連合か?」

 

 アキサムが(なげ)いたような声を出した。

 

『確証はありません。しかし、セイラン家は連合…それもブルーコスモスとの結び付きが特に強いとされているので、彼等が第三勢力へ介入を依頼した可能性は高いです』

「なるほど、な。だが、いつまでも見ているわけにはいかねぇな」

 

 ソレスタルビーイングとしては、このクーデターに関わる理由は薄い。まだ戦闘にもなっていないということだし、本格的に武力介入をする必要がやってくるのはクーデターの後になるだろう。

 

 …しかし。

 

「止められるなら早いうちに止めておいた方が楽だ。俺は動くぞ」

 

 あえてアキサムは行動することを選択した。

 長い目で見たとき、セイランよりもアスハにオーブを治めていて欲しいという感情的な考えもあるが、万が一セイランが主権を握ればそれこそ国内で内乱が起こる可能性が高いと予測したからでもある。

 

「なら私も行きます。戦闘になる可能性があるなら」

 

 シートから立ち上がったフェイトにヴァイオレットとアキサムが視線を向ける。

 

『フェイトが?』

「私はこの国の出身だから」

 

 オーブ連合首長国出身––––フェイトの言葉にアキサムは逡巡(しゅんじゅん)する。

 彼女の家族は二年前のオーブ解放作戦で地球軍の侵攻を受けて帰らぬ人になったと聞いている。

 

 そして、今またそのオーブが戦火に巻き込まれようとしている。

 それも自国のトップの身勝手によってだ。

 

 もしや彼女はそれを……いや、違うか。

 

 アキサムは自分の考えを苦笑(くしょう)で否定し、フェイトに言った。

 

「…フェイト。故郷の危機だからって、感情的になりすぎるなよ」

「分かってます」

 

 

 

 

「…………」

 

 口ではそう言ったものの、ガンダムアステリアのコックピットに戻ったフェイトは故郷に起きた内乱についてを考えていた。

 

「(ユウナ・ロマ・セイラン…クーデターを起こした男)」

 

 己が権力の為に過去オーブを焼いた連合に()びを売る。それだけでも許せないのに、オーブを手に入れる為に国を犠牲にし、無駄に戦火を広げるなど論外だ。

 

「……っ!」

 

 彼等は二年前にオーブがどうなったのかをもう忘れたのだろうか。

 

 二年前のオーブ解放作戦。今でも思い出せる。

 (はだ)()がす硝煙(しょうえん)の匂い。(かわ)いた土の匂い。黒煙の広がる空を飛翔する敵モビルスーツの姿。押し潰されそうなほどの巨大に、本能的に感じた戦慄(せんりつ)

 

 そして、あちこちに広がる死体の数々。

 消えていった両親の姿。

 泣き叫ぶ自分と生き別れた兄。

 

「(あんなことを…また続けるつもりなの…!)」

 

 フェイトの頭にかっと血がのぼった。

 それは過去から何も学ぼうとしない世界への怒りであり、無念のうちに死んでいった両親や残された自分たちの気持ちなど一顧(いっこ)にしない、生者たちへの苛立(いらだ)ちでもあった。

 

 

 

 

 





>セイラン親子
キャラ改悪…かも。
かなりアホで現実を見てないキャラになっちゃいました、

>お前の機体
フリーダムでもストライクでもアカツキでもないです。

感想、評価、お気に入り登録に感謝です。
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評価バー赤切りそう…。
無言評価1とかやめてくださいよぉ
せっかく一言記入欄あるんだから、ダメならダメでアドバイス欲しいんです。


 

 

 海上を悠々(ゆうゆう)と進み、こちらへ向かってくる三隻の巨大空母は、そのいずれも本来なら肩を並べて国を守る為に共に戦うはずだった相手である。

 

 タケミカヅチ級大型空母。

 

 オーブ海軍が保有する大型航空母艦(スーパーキャリア)であり、オーブの国防戦略の変化…本土・沿岸の領域警備重視から外洋制圧力強化による積極防衛への転換にともない建造されたものだ。

 

 既に建造されていた四隻が実戦に投入されている。

 だが、1番艦"タケミカヅチ"を除いた2番艦"タカミツガタ"、3番艦"ハヤマツミ"及び4番艦"タヤマツミ"はセイラン側によって運用されており、本来ならば忠誠(ちゅうせい)を誓うはずのカガリに弓引く結果となっていた。

 

「遂に来たか…」

 

 アスハ派に残された1番艦タケミカヅチの艦橋(ブリッジ)において、艦長であるトダカ一佐は、オペレーターからの報告を受けて、低い声で(つぶや)いた。

 

 セイランが離反する前はオーブ護衛艦隊の指揮を()っていたトダカ。

 昔気質(むかしかたぎ)の軍人で、少々癖のある人物だが、それ故に部下からの人望は厚い。

 

「"僕とカガリの意見は一致している。カガリの意思を理解していないのは君たちの方だ"……か」

「…一佐」

 

 それを聞いて副官のアマギ一尉も鈍色(にびいろ)にうねる海原(うなばら)を眺めながら、憂鬱な気分で小さなため息を吐いた。

 

「セイランめ、よくもまぁ、ぬけぬけと…」

「まさか中立の理念を守ってきたオーブ軍が自軍へその矛を向けることになろうとは」

 

 アマギは項垂(うなだ)れる。

 (ほま)れあるオーブ軍人として、いつでも戦場に出る覚悟はできているが、まさか仲間であるはずの自軍と戦うことになるとは、彼等には(なげ)かわしいことばかりであった。

 

「トダカ一佐、やはり我々も戦うべきでは!? このままではオーブはセイランにいいように利用されてしまいます!」

 

 トダカの目が、副官である彼の上に留まる。

 言っても仕方ないことだと理解しつつ、アマギは堪えきれない憤懣(ふんまん)を吐き出す。

 

 アマギは勿論、トダカにもユウナ・ロマ・セイラン…セイラン家に対する根強い強い反感があった。

 軍人である彼等から見ると、ユウナ・ロマは親の威を借りた、口だけ達者な軟弱者(なんじゃくもの)に過ぎない。ウナト・エマに至っては利益の為に人の揚げ足を取ることしかしない政治家の鑑だ。

 

 ウズミの遺志を継いで立ったカガリは、かつて一般兵士と同様の軍事教練を受け、前線に立って戦ったことさえあるのだ。彼女に対する忠誠と同じものを、セイランに対しては抱くことなどできようもない。

 

「ああ、わかっている。だがこれも、国を守るためだ」

 

 トダカは怒ったようなぶっきらぼうな口調で返した。

 

「確かにここで我らが争うのは無駄に犠牲を払うだけ…それは分かっています。しかし、このままでは…」

「わかっている。だが、既にこれは政治の問題なのだ。我々にできることは、もうない」

 

 無駄に戦火を広げ、国を焼くことをトダカ達は望まないし、きっとカガリも望まないだろう。セイラン側が撃ってきていない以上、こちらから発砲もできないのでは、どうしようもないのだ。

 

「……我らには何もできまい。せめて、カガリ様が戻られることを祈るしかない」

 

 軍人である自分達には、国の命令に逆らって戦うことしかできない。

 ならばせめて、カガリがセイランから政権を奪い返してくれることを願うしかない。

 

 そう思い、アマギもせめてもの希望にしがみ付くように力強く頷いた…その時だった。

 

「これは……艦長、接近する機影があります!」

 

 次の瞬間、セイラン側で警護にあたっていたM1アストレイが一機、赤い光に貫かれて爆発した。

 

「なに!?」

 

 トダカ達が視線を向けると同時に、何本もの赤い光が次々とM1を貫いていき、黒煙を上げて海へ墜落する。

 

「光学映像、でます!」

 

 モニターに映るのは、右腕に剣を装備する青と白のモビルスーツ。

 

「やはりガンダムか!?」

 

 セイランによる戦争幇助(ほうじょ)行為に対する返答として、ソレスタルビーイングが武力介入を開始したのだ。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 武力介入を開始した途端、オーブ艦隊(かんたい)から一斉にミサイルが打ち上げられた。

 フェイトはアステリアを駆ってその合間をくぐり抜け、どうしても避けきれないものはGNバルカンで迎撃する。

 

「…………っ」

 

 フェイトは空を覆うように押し寄せてくるモビルスーツの群れに、瞬く間に迫る。先頭にいたのはM1"アストレイ"だ。

 

 見慣れた–––––郷愁(きょうしゅう)さえ誘うその姿に、一瞬トリガーに置いた指が止まる。何も知らなかった幼い日、その機体はオーブに住む全ての少年の憧れだった。兄がその機体のパイロットを目指していたのを思い出す。

 

 ––––––オーブ連合首長国。

 

 フェイトの故郷。今は亡き家族が眠る場所。生き別れた兄がいる場所。

 

「–––––違う!」

 

 あれはフェイトの愛していたオーブではない。

 連合に踊らされ、セイランに利用され、今再び国を焼こうとする"世界の歪み"そのものだ!

 

「…アステリア、目標を駆逐する!」

 

 怒りが躊躇(ためら)いを凌駕(りょうが)した。

 フェイトの指に力がこもり、トリガーを引き絞る。ライフルモードのGNソードの銃口からビームが(ほとばし)り、向かってくるM1アストレイを貫いた。

 

 追加フライトローターである「シュライク」を装備したM1アストレイがこちらへビームライフルを撃ってくるが、それはこちらに当たることはない。

 

 GNソードを展開し、空中を泳ぐように飛行してM1を一閃、撃墜する。

 

 シュライク装備によって空戦能力を得たM1アストレイだが、元は二年前の機体。その性能は旧式の域を出ない。ガンダムは勿論、連合のジェットストライカーにも劣っている。ガンダムの敵ではない。

 

『敵モビルスーツ出撃を確認。オーブ軍主力モビルスーツ「ムラサメ」だと思われます』

 

 敵タケミカヅチ級大型空母から次々と戦闘機形態のMS(モビルスーツ)、"ムラサメ"が飛び立ち、こちらへと向かってくる。

 

「そんなもの…!」

 

 変形機構を有し、従来のモビルスーツを超える空戦能力を得ているという。

 白兵戦を得意とするアステリアには相性の悪い相手だが、ガンダムメティスほどではないだろう。未だに機体性能差は歴然(れきぜん)としている。

 

 ムラサメは翼部に搭載しているミサイルを発射し、機関銃(バルカン)を放ちながら突っ込んでくるが、フェイトは操縦桿(レバー)を動かして回避。

 背部に回ると、腰部のGNブレイドを取り出して縦に両断する。それから僅かな間をあけて機体は爆発四散した。

 

「………っ」

 

 故国の機体を破壊することに思うところがないわけではない。

 だが、彼等はその故国を裏切ったも同然のセイランについた軍人達なのだ。連合に従い、言いなりとなって生き延びることを選んだ人間たち。

 

 それは、フェイトにとって断じて許せるものではなかった。

 

「貴方達は…本気でっ!」

 

 一機ムラサメを撃墜すれば、更にその倍以上のムラサメやアストレイが現れ、放たれたミサイルやビームの数々が雨のようにアステリアへ降り注いでくる。

 

「数が多い! くっ」

 

 それらを迎撃、或いは回避しながらもフェイトは敵機を一体ずつ撃墜していく。

 

 だが、いかんせん数が多い。

 殲滅戦の得意なセレーネには頼れず、火力の高いサルースはパイロットが並行した別ミッションに(おもむ)いているために暫くの間は合流は難しい。

 

 しかし、ヴェーダの予測ではアステリア一機で遂行可能と予測されているのだ。強引に作戦決行を決めたフェイトをクラウディオスのメンバーが認めたのも、その理由が大きい。

 

 なのに、フェイトは今オーブの軍勢を前に追い詰められていた。撃墜されていないのは一重(ひとえ)にアステリアの性能故だろう。

 

「これは機体のせいじゃない…私の気持ちがっ」

 

 未だこの後に及んでも、自分は力を出しきれずにいる!?

 

 形は違えど、あのオーブが自分を攻撃してきているという事実は着々とフェイトのメンタルを削っていた。

 

 これが現実。これこそが裏切り。

 割り切れたつもりになっていたのは自分だけであった。

 

 –––––やっぱり、自分達はオーブに捨てられたの?

 

 そんな気持ちがフェイトに一瞬の隙を作り出した。

 気づけば回避し損ねたミサイルが着弾。それを機にどんどんと機関銃(バルカン)とビームが被弾していく。

 

「……うぐっ!」

 

 コックピット内で警報音(アラート)が響く。

 これしきのことで破壊されるガンダムではないが、ダメージは段々と蓄積(ちくせき)されている。

 そして何より、激しい攻撃の衝撃がパイロットであるフェイト自身にダメージを与えているのだ。

 

 このままでは、時間が間に合わずにミッションは失敗する。

 そうなれば、セイランが主権を握ったオーブはますます大西洋連邦と癒着(ゆちゃく)し、プラントを撃とうとその武力を振るうだろう。そうなれば、今度はザフトとの戦闘でかつてのオーブ解放作戦のようなのが起きかねない。

 

 あのような悲劇がまた繰り返される?

 

 そんなこと…そんなこと!!

 

「–––––させるもんかぁぁぁっ!」

 

 その瞬間、頭の奥でなにかが弾ける音が聞こえたような気がした。

 同時に全方向に視界が広がり、周囲の全ての動きが指先で触れられそうなまでに精密に感じ取れる。まるでどこかでスイッチが切り()わり、時間が止まったかのようだ。

 

 フェイトは素早く機体の体勢を立て直し、海上すれすれを飛行する。

 飛んでくるミサイルも再生速度を緩めたかのようにスローモーションに見える。今のフェイトにとって無数のミサイルも飛び交うビームも見切ることは容易だった。

 

「アステリア、目標を…破壊する!」

 

 GNバルカンで迎撃し、爆散したミサイルの爆風を抜けてその奥にいるムラサメをGNソードで()ぎ払う。同時に腰部のGNダガーを投擲(とうてき)し、二機のM1アストレイを沈黙させる。

 

「まだっ!」

 

 敵巡洋艦からの砲撃を機体を転身させることで回避し、砲撃の隙間を()うように進んで接近する。その変則的な動きは、GNドライヴを搭載するガンダムだからこそ可能な操縦技術である。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 ライフルモードにしたGNソードで敵巡洋艦の火器を破壊して無力化し、発生した爆炎を切り裂くように展開したGNソードで艦橋(ブリッジ)を薙ぎ払った。

 

 巡洋艦が沈黙し、乗組員が脱出する間もなく海に沈む。

 

 けれど、アステリアは止まらない。

 すぐ目の前に会った次の巡洋艦に狙いを定め、行く手を(はば)むアストレイやムラサメを蹴散(けち)らして突き進む。

 

 GNソードを振るい、ビームサーベルで切り、GNブレイドで突き刺す。

 

 何機の機体、何隻の艦を(ほふ)ったかは分からない。

 

 気づけば、フェイトは全ての巡洋艦を葬り、その先の四隻の空母にまでその刃を向けていた。

 

「これで…最後っ」

 

 四隻あるタケミカヅチ級大型空母。そのどれかにユウナ・ロマ・セイランに乗っているのだ。奴を倒せば全ての戦いが終わる。

 

 フェイトは両腕にGNブレイドを構え直し、敵空母に向かってアステリアを急降下させていく。

 

 だが、その切っ先が艦橋(ブリッジ)に届く寸前、横合いから来た青い衝撃によって海中へと叩き落とされた。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「なにをしている!? 敵のモビルスーツはたったの一機だ! どんどん追い込め!」

 

 タケミカヅチ級大型空母二番艦である"タカミツダカ"の艦橋(ブリッジ)では、ユウナ・ロマ・セイランが口から泡を飛ばして怒鳴っていた。

 その怒りようは、とても先程まで自室で船酔いで嘔吐していたとは思えない。

 

 –––––つく陣営を間違えたか?

 

 タカミツダカの艦長であるマホロ二佐は、どうしようもない己の上官に内心でため息を吐きつつも現状の戦局にある程度の納得と諦めの心を持っていた。

 

 敵はソレスタルビーイングのガンダムである。

 ユウナはたったの一機というが、そもそもその一機で世界に喧嘩を売ったのが彼等であり、それだけの力を持つ機体ということでもある。

 

 だからこそ、数を生かした波状攻撃で一時的に封じ込めることができた時は「もしや」とも思ったが、結局はこうしてたった一機に追い詰められている。

 

 だが、ユウナは現実を理解できていない。

 納得できずに、怒りで顔を真っ赤に染め、今にも癇癪(かんしゃく)を爆発させて暴れ出しそうだ。

 まるで、彼の目論見(もくろみ)を邪魔するために、こちらのパイロットがわざと負けているとでも言うかのようだ。

 

 マホロは気付く。

 この男はこれまで、思い通りにならぬことがなかったのだろう。そういう人間にとって世界は、彼の望みを実現するドラマの書割に過ぎない。彼は失敗する可能性など考えていない。失敗を知らずに育ったから、そういうものの実在を頭から否定するのだ。

 

「モビルスーツ隊、全機発進!」

「は…しかし、それは」

 

 ユウナが青筋を立てて命じ、マホロは躊躇った。

 

 いくら出撃させても無駄だ…と彼には分からないのだろう。

 無駄に命を散らすだけだというのに。それとも政治家の彼にとって戦場の命などどうにも思っていないのか。

 

「これは命令だぞ!」

「しかし!」

 

 早い話、マホロは適当なところで白旗をあげて降参するつもりであった。既に前衛を担っていた巡洋艦が全て没している以上、これ以上は兵士たちに無駄な血を流させるだけに過ぎない。

 

「お前、上官の命令を忘れたのか! その更に上の立場の僕が命令しているんだぞ! 言うことを聞け!」

「くっ…」

 

 ユウナが居丈高(いたけだか)に叫んだ、その時オペレーターがハッと息をのんだ。

 

「敵モビルスーツ、本艦に接近!」

 

 モニターに映すまでもない。

 肉眼で確認できる距離にまで近づいたガンダムがその剣先をこちらへ向けている。

 

「なにぃ!?」

 

 ユウナのうわずった声にかぶせて、マホロは命じた。

 

「迎撃! とりつかせるな!」

 

 しかし、その今から回避するにはあまりにも遅い。

 間に合わない–––––マホロの背筋が冷たくそそけ立つ、まさにその時。

 

 艦橋(ブリッジ)を斬りさかんとしたガンダムが横から現れた青い何かによって海中へと蹴り落とされた。

 

「なんだと…?」

 

 水飛沫(みずしぶき)が消えた時、マホロ達の前に()()はいた。

 

 こちらを背に、十枚の翼を広げて舞い降りたのは–––––。

 

 彼は低く、オーブの守護天使の名を唱えた。

 

 

 

「–––––"フリーダム"……!」

 

 

 

 

 

 

 

 





>フェイト(マユ)
初種割れ。以後、ガンダム無双。
これでもシンより弱いぞ?

>トダカ
普通に考えてアスハ派なので、こっち。

>マホロ
オリキャラ軍人。
トダカの代わりにアホの面倒を見ることに。

>ユウナ
アホ

>青い翼のお兄さん
見てられなかったので…



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自由の名の下に


皆さん、評価ありがとうございます。
誤字報告にも助けられてます。
マジで感謝!


 

 

 突如として襲来した何かによって海へ落とされたアステリア。

 

「なんで!? 一体どこからっ!」

 

 衝撃に揺れるアステリアのコックピットの中でフェイトは声を上げながら体勢を立て直す。

 

 素早く操縦桿(レバー)を操作して海上へと浮上する。

 その目前に、白い天使を確認した。十枚の翼、白いボディに装甲の隙間に輝く金色の間接部。

 

 これは–––––このモビルスーツは……?

 

 フェイトは突然現れたモビルスーツを(にら)みつけた。この機体がアステリアを海へ叩き落としたのだろう。何というスピードだ。全くもって気付けなかった。

 

 データバンクに眼前の機体の照合データはない。

 だが、その特徴的な外見はデータなどなくても分かる。

 

 あれは…間違いない。

 幼き頃見た機体であり、連合・ザフト問わず伝説と言われるオーブの守護天使…。

 

「–––––フリーダム」

 

 その機体についてはよく知っている。

 オーブ解放作戦においては、オーブを守るための戦力の一つとして戦っていた…つまりフェイト(マユ)達からすれば味方の立場だったということも。彼等が祖国を守るために戦場に立っていたということも。

 

 だが、理屈で納得できるほど家族を失った悲しみは小さくない。例え味方だったとしても、彼/彼女の砲撃によって両親が死んでしまったのは事実なのだから。

 

 それが今目の前にある。

 何もせずにこのまま表舞台に姿を現さないのなら、フェイトとて胸の奥にしまっておくつもりだったが、彼/彼女はわざわざこうやってフェイトの前に姿を現したのだ。

 

「ヤキンのフリーダム……!」

 

 ならば好都合。

 ミッションの妨害をする敵機体ならば、攻撃しても何の問題もない。ここで父と母の(かたき)を…!

 

 GNソードを構え、ライフルモードでビームを放ちながら機体を飛翔(ひしょう)させる。

 もはや他のオーブ軍など有象無象(うぞうむぞう)、視界にも映らない。目指すはフリーダムただ一機。

 

「はぁぁぁぁっ!」

 

 しかし、フリーダムは放たれたビームを左腕から展開したビームシールドで防ぐ–––––旧フリーダムには見られなかった武装だ。

 大きさ・角度を自由に設定できるそのシールドは、とても通常の射撃兵装では突破できないだろう。

 

「…だったら!」

 

 左腕でGNビームサーベルを取り出し、近接戦闘を仕掛ける。射撃主体のフリーダム相手なら、非常に有用な戦術だ。

 

 …相手が普通のパイロットならの話だが。

 

 光の刃が敵機を()()かんとしたその瞬間、フリーダムの動きが変わった。腰に備え付けられたサーベルに手をかけた瞬間、それが引き抜かれる。

 

「なっ!?」

 

 フェイトは目を見開いた。

 フリーダムと(つば)迫り合いに持ち込んだと思ったのも一瞬、GNビームサーベルの(つか)の部分が綺麗に斬り裂かれていた。ドロリとした音と共に崩れ落ちる。

 

 何という天才的な操縦センスなのだろうか。サーベルの柄だけを狙い斬るなど普通のパイロットにできるものではない。

 

 間違いなくマシンポテンシャルはこちらの方が上。

 不思議なことにフェイト自身もかつてないほどに好調である。

 

 だというのに、フリーダム相手に押し切れない。

 力そのものはこちらが優っていても、決定打に至るような攻撃は(ことごと)(さば)かれている。

 

「まだ終わってないっ!」

 

 両手に剣を構えたアステリアが突撃し、フリーダムは回避に集中しつつ時々反撃する。そのような争いが続いた。

 

 側から見ればそれは、暴れ回るフェイトを何とか止めようとしているように見えただろう。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 フェイトがフリーダムを強敵と感じたように、何とかガンダムと対等に渡り合っているキラもまた、敵のその力に舌を巻いていた。

 

 既にあの感覚(SEED)は発動済みであり、今持てる力の全てを使って戦闘を行っている。手加減して戦える相手ではないことは分かっていたからだ。

 

 やはりガンダムの力は脅威(きょうい)であり、気を抜けば直撃を喰らいかねない。キラの卓越(たくえつ)した反射神経と操作技術のお陰で、回避に集中することで何とかガンダム相手に互角の戦いになっているのだ。

 

 それでも、あの時の敗戦とは違う。

 それはあの時とは戦うガンダムが違ったり、キラ自身に戦闘の心構えができているということもあるが、一番の理由はこの新しい機体だろう。

 

 –––––ストライクフリーダム

 

 それが彼の新たな剣の名前であった。

 中破したフリーダムを元にモルゲンレーテが改修・再設計を行なった機体であり、既に二年前の旧式と化していたフリーダムを今持てる技術を使ってアップデートした改修機である。

 

 更に完成した機体はキラ専用にカスタマイズされており、旧型のフリーダムと比べて倍近く性能が上昇。既にフリーダムでは追いつかなくなっていたキラの反応速度について来れるだけの力を手に入れていた。

 

 とはいえ、ガンダムを相手にすれば分が悪いのには変わりはなく、足りないところはキラの操縦技術で補っている状況である。

 

 今は対等に渡り合っているが、そう長くは持たない。

 

 そう思ったキラは手早く通信のスイッチを押した。その先はユウナ・ロマ・セイランのいるタケミカヅチ級空母である。

 

「何してるんです!?  早く退艦してください!」

〈な…なんだと!?〉

 

 コックピット上部のモニターにただでさえ白い顔色を青白く染めたユウナの姿が(うつ)る。

 

 何だとは何だ。まさか彼は援軍として自分が来たと思っているのだろうか。カガリの弟である自分が姉を()めようとしている相手を助けるために動くと?…そこまで単純な頭をしているというのか。

 

「このまま戦ったら全滅しますよ! 軍を引かせてくださいと言ってるんです!」

 

 勘違いしてもらっては困るが、キラは別にセイランを助けに来たわけではない。むしろ、当初はこのフリーダムを使ってセイラン相手に一機で足止めと時間稼ぎをするつもりであった。

 

 だが、キラが現場に到着した時、セイラン側の軍は既にソレスタルビーイングに武力介入を受けていた。それも壊滅的な被害を受ける形でだ。

 

 それだけならキラも静観していたのだが、その光景があまりにも凄惨(せいさん)で残酷なものだったから……決めたのだ。そこに助けられる命があるのなら、自分は助けたいと思ったから。

 

「僕が彼を止められているうちに、早く!」

 

 キラがセイラン側へ呼びかける間にも、ガンダムはその刃をこちらへ向けてくる。その攻撃は先ほどよりも激しい。

 

「…くっ!」

 

 敵が振りかぶった大剣を機体をそらせることで回避し、ビームライフルで牽制(けんせい)することで距離を取る。

 

 不幸中の幸いか、ガンダムはこちらに狙いを定めているらしく、その剣先がオーブ軍に向けられることはないだろう。

 

 そう思ったのも束の間、キラの元へ帰ってきたのは信じられない返答だった。

 

〈そ、そんなことできるか! そんなことをしたら僕は!〉

「な、何を言って…このままじゃ」

〈僕は…僕はオーブの代表だぞ!〉

 

 ユウナは錯乱(さくらん)していた。

 敗北を知らない彼に訪れた初めての不都合な展開に加えて、初めての死の気配。そして、このまま行けば自分は反逆者として父共々処分されるという恐れ。

 それらが彼から冷静な判断力を奪っていたのだ。

 

〈ハハ…僕は…僕は!〉

「ああもう…どうして!」

 

 キラは両腕に持ったビームライフルを連結させて放つが、ガンダムはそれを紙一重で回避し、こちらへ向かってくる。今までの荒っぽい動きと比べて洗練された動きにキラは戦慄(せんりつ)した。

 

 ––––––学習している!?

 

 間違いなく、相手はキラの動きに慣れ始めている。

 そうなれば、マシンポテンシャルで劣るキラには勝ち目どころか、逃げ切ることすら難しいだろう。

 

 こうなったら仕方がない。

 キラは通信に乗せて、らしくもない大声をあげた。

 

「もう一度言います、全軍退却! …確かマホロ二佐でしたね。早く退艦の準備を!」

〈ハッ…しかしそれは〉

「えっと、これはカガリ・ユラ・アスハ代表首長の言葉として受け取ってもらって構いません!」

〈それは…わかりました!〉

 

 そこまで言って、ようやくセイラン軍は退却(たいきゃく)の準備を始めた。色々文句を言うユウナがああなっているなら、彼等の行動を邪魔するものはいないだろう。

 

「よし、後は……速い!?」

 

 ホッと息を吐いたのも束の間、いつの間にか至近距離にまで近づいていたガンダムが剣を向けていた。

 

 即座に盾にしたライフルを犠牲(ぎせい)にすることで危機を脱したが、ガンダムは左腕にもう一本の剣を握ると、「逃がさない!」とばかりにフリーダムに向けて振り下ろしてくる。回避は難しい一撃だ。

 

 キラが反射的にビームシールドでそれを受け止めた……その瞬間。

 

「ぐっ…何だこれ?」

 

 鋭く頭を刺すような…まるで電流の矢に(つらぬ)かれたような感覚が走った。

 ただ、それは痛みというわけでもない。何かに干渉されている…?

 

「この感覚は…」

 

 誰かが心で泣いている…?

 それはきっと、目の前のガンダムのパイロット。

 

 無理をして、心で泣いて、そして––––––。

 

「一体君は…っ!」

 

 だが、それを考える時間も()しい。

 キラは不可思議(ふかしぎ)な現象に疑問を問う(ひま)もないまま、オーブ艦隊が撤退するまでの時間稼ぎの戦闘を続行した。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 同時刻、オーブ連合首長国においては比較的市街地の少ない島…アカツキ島にて、日の光の届かない薄暗(うすぐら)い森林地帯にある廃屋(はいおく)に怪しげな集団がいた。

 

 武装した集団だ。

 軍用のジャケットとパンツを身に(まと)い、手にはマシンガンを抱えている。仲間全員で六、七人といったところか。オーブの人間でないことは一目で分かった。

 

「…っ!」

 

 彼等に取り囲まれるようにして、全く異なる体勢の二人の金髪の女性がいた。

 

 その内の一人、それは誘拐されたカガリだった。

 誘拐される際に乱暴に(あつか)われたものの、目立った外傷はなく意識もしっかりしている。彼女はいま後ろ手に(しば)られ、廃屋を装った誘拐犯の拠点の中に監禁(かんきん)されていた。

 

「はぁ……ねぇ貴方たち、雇い主はいつになったら私たちを解放してくれるのかしら?」

 

 カガリは窓際(まどぎわ)の席に座る彼女に視線を向ける。

 そこにいたのは、カガリと違って特に身体を縛られることなく、自由の状態で椅子(いす)に座っているシャーロット・アズラエルだった。

 

 カガリとの会談中に巻き込まれる形で誘拐されたという彼女は、その端麗(たんれい)な顔立ちを不機嫌そうに歪めている。

 

「いえ…申し訳ないがそれには答えられません」

「ハッ。下っ端とはいえ、こんなお粗末な誘拐…ファントムペインも落ちぶれたものね」

 

 ファトムペイン…? 聞き慣れない単語だ。

 シャーロットが知っているのをみるに、大西洋連邦の手の物だろうか。だとすると、この誘拐には連合の手が関わっている…? いや、となると大西洋連邦の人間であるシャーロットも誘拐したことが()に落ちない。

 

 その後もシャーロットがいくつかの言葉を投げかけていたが、相手は会話する気はないものの、無視することもできないのか適当な返事で(かたく)なな態度を崩さなかった。

 

 

 変化が訪れたのは、日が沈もうと空が夕暮れ色に染まり始めた時のこと。

 窓の外で慌ただしそうに男たちが怒鳴(どな)り合う声が聞こえたかと思えば、地響きのような音が振動(しんどう)として伝わってくる。

 

「何事だ!?」

〈敵襲らしい! 未確認のモビルスーツが一機。こちらも予備の部隊を動かしたが相手になってない! 早く移動を–––––〉

「おい、返事をしろ!––––––チッ、オーブ軍は全部海じゃなかったのか?」

 

 どうやら助けが来たらしい。

 まさか誘拐犯がモビルスーツまで持っているとは思わなかったが、連合の手の者だとすれば分からなくもない。だとすれば、この地響きはモビルスーツの足音か。

 

 外で異常事態が起きたからなのか、男たちは次々と外へ出ていき、廃屋の中にいたのは一人の男のみであった。

 

「あら、どうやら助けが来たみたいね。貴方も早く降参したらどうかしら」

「なに–––––をぉ」 

「…お休みなさい」

 

  その隙をついたのがシャーロット。

  その華奢(きゃしゃ)な外見からは想像できない蹴りで男の意識を()り取ると、男の(ふところ)から奪い取ったナイフでカガリを縛るロープを切断する。同時に口元を縛っていた布も外され、新鮮な空気がカガリの元に返ってきた。

 

「カガリさん、大丈夫ですか?」

「…あぁ、助かった。だが、この男たちは…」

「心当たりはあります–––––が、まずはここから脱出しましょう。助けが来ているみたいですし」

 

 カガリはその言葉に深く頷いた。

 事態が事態ならば、今国には重大なピンチが迫っている可能性が高い。キラやキサカがいるとはいえ、いち早く自分が戻らなければ…。

 

 そう思って廃屋から外に出れば、そこには倒れ()す男たち。その中心には二丁(にちょう)のライフルを持つパイロットスーツの男がいた。その顔はバイザーか何かで遮られており、顔も表情も読み取ることはできない。

 

「おっと、お目覚めかい。お姫様方」

 

 だが、カガリは男のことなど視界に入らなかった。

 それよりももっと目を引く存在が、男の後ろに立っていたからだ。

 

 そこにいたのは、白と黒のモノトーンカラーが特徴的なモビルスーツ。

 頭頂部から()り出している(えい)利的なトサカのようなパーツに加えて、額の部分にある黄色いV字型のパーツ。左肩にはランチャーを、右肩には身の(たけ)ほどの大剣を装備している。

 

「あれは……」

 

 見間違いようもない。

 知る由もない機体名はガンダムサルース––––––カガリが以前目撃したのとはまたタイプが異なるが、それはまさしくガンダムだった。

 

 

 





>キラ
覚醒しかけの脳量子波。
SEED覚醒同士だと……?

>ストライクフリーダム
原作よりも早期での登場。
その分、デスティニーやジャスティス等も早期に登場させる予定です。旧フリーダムやインパルスはゴメンね!

※ストフリは原作版ではなく、旧フリーダムのチューン版なので性能は少し劣ります。

>シャーロット・アズラエル
ナチュラルの男程度なら不意打ちで倒せるお嬢様


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リターン

 

 

 かつては伝説とまでに(うた)われたキラ・ヤマトのフリーダムと現在世界を混乱に(おとしい)れているソレスタルビーイングのガンダムによる戦闘。

 まさに夢のカードともいえる両者の戦闘は、互いに決定打を得られないまま終結を迎えた。

 

 

 きっかけは両者に入った通信からの情報だった。

 少しずつフリーダムの動きに慣れ始めたフェイトの元に、ガンダムサルースからの通信が入ったのだ。モニターに映ったのはアキサム。

 

〈フェイト、ミッションは完了した。撤退するぞ〉

「撤退?…だってまだ!」

 

 フリーダムを倒せていない。

 ようやく動きにも慣れてきて、次こそ奴を倒すチャンスだというのに…!

 

〈セイラン側の艦隊も降伏したみたいだし、俺たちの任務は終わりだ〉

「でもっ!」

〈撤退する相手を後ろから撃つのがソレスタルビーイングのやり方なのか?〉

 

 チラリと海岸を見ると、白旗を上げたタケミカヅチ級母艦がアスハ派のオーブ軍に(ひき)いられていくのが確認できた。もう戦闘…というよりはクーデターを続ける意思がないのだろう。

 フリーダムもそれに気がついたのか、こちらとの戦闘を放棄(ほうき)して離脱していく。

 

 ここで強引に戦闘を続行すれば、それは「戦争根絶」を掲げるソレスタルビーイングの理念に(はん)するだろう。命令無視は重罪。最悪ガンダムのパイロットから降ろされる可能性もある。

 

 それは誰よりも戦争を憎むフェイトとしては望まないこと。折角手に入れたガンダムパイロットの座を手放したくはなかった。

 

「……了解」

 

 ガンダムマイスターならば、任務に私情を(はさ)んではいけない。フェイトは()き上がる激情を()み込み、(ほこ)を収めた。

 だが、モニターの向こうにいるアキサムにはその不満顔はお見通しだったようだ。

 

〈どうした、そんなに戦いたかったか? 『ヤキンのフリーダム』と〉

「…いえ」

 

 戦いたかった…?

 いや、違う。そんなのじゃない。戦わずに済むなら戦わない方がいいに決まっている。

 

 でもあの時、自分は確かにフリーダムのパイロットを殺そうとした…。それは何故? 怒り? それとも憎しみ?

 

 フェイトの瞳に光が戻った。

 同時に取り戻した冷静で沸騰(ふっとう)した頭が冷めていく。

 

〈相手も新型らしいが、まさかガンダム相手に競り合うとは…噂に恥じない強さってやつかな〉

「アキサムさん……わたし–––––」

〈…ん? なんだ、どうした?〉

 

 夢から()めたような気分だった。

 オーブ軍と戦った時のあの感覚、あれは一体何だったのだろうか。ガンダムの隠された機能というわけでもなく、疑問は()きない。

 

「……いえ、大丈夫です」

〈そうか…まぁ、お前はよくやったさ。ここ暫く作戦続きだったんだし、少し休めよ〉

「…はい」

 

 確かに、あの時の反動だろうか。身体がどことな気怠(けだる)く、その疲れを表すように一筋の汗が(ひたい)を伝っていった。

 

「アキサムさん、次のミッションは?」

〈暫くはなし。いくら物騒な世の中でもそんな頻繁に戦争しているわけじゃないからな。今は」

「そうですか…」

 

 今は、という言葉に含みを感じたが、フェイトは()えて触れなかった。いや、それに()れる余裕もなかったというべきだろうか。重苦しい疲労感が彼女の身体を(むしば)んでいたのだ。

 

〈疲れたなら自動(オート)操縦に切り替えておけ。後は基地へ帰還するだけだ〉

 

 それだけ言うと、アキサムは通信を切った。

 後は好きにしろ、ということだろう。もしくはこちらに気を遣ったのか…。

 だが、今はその気遣いがありがたかった。

 

「…はい、今はそうします」

 

 GN粒子の制御モードを戦闘から粒子散布モードに切り替え、操縦を手動(マニュアル)から自動(オート)に変更したフェイトはそう小さく呟くと、ようやく肩の力を抜いた。

 

 そうして、オーブ領空を抜けた二機のガンダムは、美しい緑色の光の()を引きながらその場を後にした。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 ガンダムがオーブを後にするのを見送りながら、キラはフリーダムをタケミカヅチ級母艦1番艦"タケミカヅチ"へ着艦させた。

 格納庫(ハンガー)にて、出動することのなかったM1アストレイやムラサメの隣にフリーダムが並び、キラも機体から降りた。

 

 その顔には強い疲労の色が浮かんでいる。

 それもそのはず、新型のフリーダムとはいえ、本来の機体ポテンシャル以上の動きで強引に操縦していたのだ。パイロットにかかる負担は例えスーパーコーディネーターといえども大きい。

 

「よく帰ってきた。大丈夫か?」

「はぁ、はぁ…大丈夫ですよ、なんとか」

 

 ぐらりとよろついた身体をキサカに支えてもらい、医療室まで移動する。港に戻ってきた"タケミカヅチ"の内部は(あわ)ただしく人が歩き回ってきたが、今のキラにはそれを気にする余裕もなかった。

 

「…キサカ一佐。それで、カガリは?」

 

 軽くベットに横になり、身体も回復してきたところでキラは姉の所在について尋ねた。

 

 –––––カガリが見つかった。

 

 そのような情報がキラの元に届くと同時に二機目のガンダムが現れた際にはキラも死を覚悟したが、幸いにして彼等もこのクーデターの終了を(さと)ったらしく、撤退していったのだ。

 

「それが––––––」

 

 念願のカガリ保護の(しら)せだったのだが、キサカの説明ではそこに意外な付録(ふろく)がついていたのだ。

 

「ソレスタルビーイングが!?」

「ああ、ソレスタルビーイングを名乗る人物から国防本部にメッセージが届いてな。先程無事保護された」

 

 キラは困惑した表情でキサカを見る。

 

「どうして、ソレスタルビーイングが…」

「さぁな。カガリを保護した方がこの内紛が早く終わると判断したのかもしれん」

「なら、先程の戦闘は…」

「おおよそお前と同じ目的で止めようとしたのだろう。やり方は過激だったが」

 

 キサカの言葉を聞き、キラはあのガンダムのパイロットへ思いを()せた。

 

 怒り、憎しみ…そして悲しみ。

 ガンダムのパイロットが持つ鮮烈(せんれつ)なまでの感情の暴力をキラは感じ取っていた。

 

 理由は分からない。

 ただ、何となく分かるのだ。相手はきっと本来は優しい心を持っていて、それでもなお堪え切れない感情の嵐が殺意となってこちらを狙っているのだと。

 

 まるで、互いに殺し合うしかなかったあの時の自分とアスラン、忘れようにも忘れられない仮面の男(ラウ・ル・クルーゼ)のような言葉にし尽くせない憎悪の感情。

 

「…っ」

 

 それが自分へ向いているという事実にキラは震えた。

 

 誰かを殺す以上、誰かに恨まれるというのは2年前に分かっていた。それが真理なのだから互いを滅ぼすまで戦争が終わらないのだと砂漠の虎(バルトフェルド)は言ったし、それを繰り返したくないから中立を維持するのだとオーブの獅子(ウズミ・ナラ・アスハ)は言った。

 

「僕は…」

 

 キラは己の両手を見つめた。

 その手は女性のように白く(つや)やかだが、実際は多くの血で染まっている。

 キラも多くの大切な人を失ったが、それ以上に誰かの大切な人の命を奪っているのだ。

 

 それに耐えられなくて、この2年間をラクスと共に過ごした。時が傷を(いや)してくれると信じて。

 

「ソレスタルビーイングは撤退したか…。だが、まさかあれほどの力だとは。あれが本気で武力介入をしてきたらオーブはどうなるか…」

「–––––っ!」

 

 何気なく呟いたキサカの言葉にキラはハッとした。

 

 そうだ、きっとまた銃を取る時が来る。

 それはオーブのためか、カガリのためか、ラクスのためかは分からないが、きっと何かを守るための戦いであることは確かだ。

 

 誰かのために戦うことは決して間違いではないとラクスは言った。奪った命はあれど、それ以上に救えた命もあるのだと。

 

 彼女の言葉を思い出して、キラは自分に力がみなぎるのを感じた。

 例え偽善者と呼ばれようとも、救える命を救いたいと思うことは間違いじゃないのだと…。

 

 そう思えば、自分はまだ戦えるから。

 

「(だから、僕は大丈夫だよ。ラクス)」

 

 自分は自分にできることをする。

 だから彼女も彼女の戦いを…どうか自分がそこへ向かうまで。

 

 キラは宇宙(そら)へ思いを馳せた。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 一方、解放されたカガリは誘拐されたということを全く思わせない的確な指示で混乱する行政府を取りまとめると、セイランから主権を奪還(だっかん)した。

 

 主犯であるウナトはその場で拘束、息子のユウナも帰港次第(しだい)身柄を拘束。ユウナに関しては一度…いや、二度ほど顔面をぶん殴ったが。

 とはいえ、事態が事態のためにセイランに対する正確な処分は後回しになっている。

 

 何せカガリには、セイランや国のことよりも優先すべき相手がいたのだから。

 

「今回は我が国の問題で貴女を巻き込んでしまって本当に申し訳ない」

 

 アスハ家の所有する屋敷の部屋の中、カガリは真っ直ぐに頭を下げた。

 正面には、出された紅茶を受け取るシャーロットの姿がある。同じ良家の出身でもカガリと違い、カップに口をつけるその姿も様になっていた。

 

 やがて、彼女はカップをテーブルに戻すと、頭を下げるカガリを見つめて(つぶや)いた。

 

「頭を上げてください、アスハ代表」

 

 その言葉にカガリは頭を上げる。

 カガリの金色の瞳とシャーロットの水色の瞳が交差した。

 

「確かにそちらの問題に巻き込まれたのは事実ですが、今回の件はただ単にセイラン家のクーデターとは言い切れないのでしょう?」

「…ええ、まぁ」

 

 どこか(ふく)みのあるシャーロットの言葉に頷く。

 

 ウナト・エマ・セイランとユウナ・ロマ・セイランの二人が主犯となって行われたクーデター。

 国家元首のカガリを誘拐して強引に主権を握ろうという、その現実性のない反逆方法は彼等らしくあったが、その過程にはどこか違和感を覚えざるを得ない。

 

 後情報だが、セイラン家は水面下で連合との深い(つな)がりがあったと聞いている。加えて、自分達を誘拐したあの男たちのシャーロットへの態度を考えれば、可能性は一つに(しぼ)られる。

 

「"ファントムペイン"と聞いたが、アズラエル理事は彼等について何か心当たりが?」

 

 誘拐されたあの時、シャーロットは彼等について何かを知っている様子だったし、男たちの方も彼女にだけは特殊な扱いをしていた。そこにはセイランとはベクトルが異なれど、決して小さくない繋がりがあったのだと推測できる。

 

「後の調査によると誘拐犯が使用していたのは黒色に塗装されたダガーらしい。しかも、その機体色はアーモリーワンでの強奪部隊が使用していたものと同一とのことだ」

 

 故に、カガリは少し失礼ながらも問い詰めるような形でシャーロットに(たず)ねた。

 

 ダガーだから連合…と素直に結びつける訳にもいかないが、今の連合に色々ときな臭いものを感じるのも確かだ。

 オーブを支配する為に邪魔なカガリを排除して扱いやすいセイランをトップに()えようという考えもなかったとは言い切れない。

 

 そして、その答えはシャーロットの口から知らされることとなった。

 

「ファントムペイン…それは連合の非正規特殊部隊のことですわ」

「……やはりか」

 

 当たって欲しくなかったが、やはり今回の件は連合が裏で糸を引いていたらしい。

 

 だが、大西洋連邦の要人であるシャーロットまでも巻き込まれたのはどういうことなのか。いや、誘拐犯の反応を見るに彼等も不本意といった様子だった…となると。

 

「その、非正規部隊というのは?」

「正式名称"第81独立機動群"…あまり大声では言えませんが、彼等は"ロゴス"が部下として運用する私兵集団です」

「…ロゴス?」

 

 聞き覚えのない単語だった。

 頭を(かし)げるカガリの様子を待て、シャーロットは小さくため息を吐いた。

 

「知らないなら知らない方がいいんですが……まぁ、アスハ代表にはお話しておいた方がいいでしょうね」

「…あ、ああ」

「いいですか? ロゴスというのは––––––」

 

 シャーロットから語られた内容は、カガリの戦争に対する認識を変えるには十分なものであった。

 

 "ロゴス"

 自らの利益のために地球とプラント間の戦争を求める死の商人。あのブルーコスモスすら金(もう)けに利用されているに過ぎず、この長らく続く戦争の最大の原因。

 

 –––––信じられない…!

 

 カガリは呆然(ぼうぜん)としていた。

 自分たちの利益のために戦争を起こす? 金儲けのために、他人を蹴落(けお)としたり、環境を破壊したりする人がいるのはカガリも知っていたが、これはそんなのとは次元が違う。

 

 戦争なのだ。

 破壊されるものは物ではなく命なのだ。そんな理由で何千、何万もの人間を殺して、そいつらは平気なのだろうか? 人の血で(しぼ)った金で生きていくことに何も感じないのか?

 

「信じられないかもしれませんが、事実です」

「………そのようだな」

 

 あまりに理解を()えた話に、カガリは怒りさえ覚えなかった。代わりに感じたのは、(はだ)(あわ)立つような気持ちの悪さだけだ。そんな理由と比べれば、コーディネーターだから、という理由を持つブルーコスモスの方がまだ理解できる。

 

「カガリさんは、私の兄…ムルタ・アズラエルのことをよく知っていると思いますが…」

 

 ムルタ・アズラエル。

 その名はカガリもよく知っている。目の前の女性の実の兄であるということと同時にかつてオーブを焼くことを指示したブルーコスモスの盟主。

 

 ––––––口で分かるならこの世から戦争なんてなくなります…分からないから敵になるんでしょう?

 

 かつてコロニー・メンデルで初めてその存在を認知した男。アークエンジェルの同型艦であるドミニオンに乗り込み、最期はマリューによって討たれた。

 

「兄はブルーコスモスの盟主でしたが、ロゴスの中ではその地位は非常に低かった。あの兄ですら、ロゴスの前では一方的に利用されていたに過ぎないのです」

 

 カガリは言葉を失っていた。

 父はアズラエルこそが地球軍を支配している男だと言っていたが、実際はそのアズラエルですら利用されていたのだ。あの地獄のような核による滅し合いも、彼等にとっては金儲けの過程に過ぎなかったというのだろう。

 

「…ロゴス。戦争で商売をする人間か」

 

 初めはとても信じられないと思っていたが、アーモリーワンでの強奪に始まり、その後の強引な開戦の展開を考えれば、十分にあり得る話だった。

 

「…彼等がいる限り、地球とプラントが互いに争い合うことは止められないでしょうね」

 

 シャーロットが心底(あき)れたような様子で言った。

 彼女のプラントへの対応といい、そのファントムペインの誘拐に巻き込まれた事といい、もしかすると彼女はロゴスと敵対関係にあるのかもしれない。

 

「こんなことでは世界は変わらない……だからこそ–––––」

 

 小さく呟いたその言葉はカガリには聞き取れなかった。

 

 しかし、ここで彼女と話せたことは大きかった。

 

 世界の真の敵…ロゴス。

 戦争を商売道具とする彼等の()の手は、セイランを通じて既にオーブにまで()びているのだ。オーブの代表としては、そんな集団を野放しにしておくことはできない。

 

 きっとカガリ一人では対処できない相手だ。

 だが、今のカガリはデュランダルとシャーロットという各陣営における穏健(おんけん)派の人物と友好関係を(むす)んでいる。きっとかつてのような滅し合いにはならないだろうし、させるつもりはない。

 

 –––––戦争を商売の道具にはさせない!

 

 真の平和を守り通すことを思い、カガリは力強く拳を(にぎ)り、そう(ちか)った。

 

 





>キラvsフェイト(マユ)
時間切れによる引き分け。
あのまま続いていたとしたら、長い戦いの末に機体性能でフェイトの勝ち。

>デュランダル&シャーロット
穏健派(笑)
実はどっちも真っ黒。カガリはまだまだですね。

>ストライクフリーダム(今作オリジナル)
形式番号:ORB-02F
装甲材質:ヴァリアブルフェイズシフト装甲
 動力源:核分裂炉
  武装:MMI-GAU2 ピクウス76mm近接防御機関砲
     73W2式改ビームライフル「ライメイ」×2
     73J1式試製ビームサーベル
     PS-03T ビームシールド
     71R式改電磁加農砲×2
     (クスィフィアレスレール砲改)
     71R式改高エネルギービーム砲×2
     (バラエーナ改・プラズマ収束ビーム砲)


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ディオキアへ


時系列はオーブ内戦のすぐ後ぐらい。


 

 

 タラップに出たとたん、アーサーが感嘆(かんたん)の声を()らした。

 

「ディオキアかあ…綺麗な街ですねえ」

 

 横を歩いていたタリアも足を止め、港の向こうに広がる風景に目をやった。

 

 カーペンタリアから発進し、地球軍及びソレスタルビーイングと交戦したミネルバは、地球軍の残存部隊が占拠(せんきょ)していたガルナハン基地を奪還し、そのまま内陸部を抜けてこのディオキアにいた。

 

「ミネルバも結構ボロボロだし、整備と補給を受けれるのは嬉しいことね」

「凄かったですねぇ、ガルナハンのガンダム…! 今ミネルバが無事なのは奇跡ですよ!」

 

 ガルナハン攻略作戦。

 以前はローエングリンという厄介な砲台と陽電子リフレクターを構えたモビルアーマーという厄介な布陣を展開していたようだが、ミネルバが攻略に乗り出した際にそれらは既に破壊されていた。

 

 当然、それを()したのはソレスタルビーイングのガンダム。彼等はガルナハンの作戦にも武力介入を仕掛けてきた。

 相対したのは羽付きの朱色の機体と狙撃タイプの機体。アスランのセイバーとインパルスの換装システムでなんとか対応したものの、やはり性能差は大きく、タリアたちは撤退まで追い込まれることになった。

 

 結果として作戦は失敗。

 不幸中の幸いなのは、ガンダムを恐れた連合もスエズ基地へ部隊を引き上げたということであり、漁夫の利を得る形でザフトはガルナハンを奪還している。

 

「何だが随分と久しぶりですよ、こういうところは」

 

 アーサーがしみじみと言い、タリアも思い当たって小さく(うなず)く。

 

「海だの基地だの、山の中だのばかり来たものね。…こういうところで少し羽を伸ばせれば、みんなも喜ぶでしょうね」

 

 何せこのディオキアは非常に落ち着く場所だからだ。

 (けむ)るような緑の山を背に、白い家並みが広がり、その中から美しい尖塔(せんとう)が明るく冴え渡った空をさす…そんな穏やかな街並みはプラントを思い出させる。

 

 ミネルバのクルーの殆どがプラントの都会育ちということもあり、自然豊かなディオキアの街並みはいい息抜きのできる場所となることだろう。

 

 そう考えながら基地司令部に向かうタリア達だったが、その過程で気になるものを見つけたために足を止めた。

 

 前方にできた大勢の人だかり。

 その多くはザフト軍の兵士だということが見て取れるが、フェンス一つを(また)いで民間人らしき人物達も集まってきているのを確認した。

 

「何かしら…?」

「うっはぁ! 艦長、ラクス・クラインの慰問ライブですよ! まさかこんなグットタイミングだなんて!」

 

 なるほど、人混みの上空から降下してくるピンク色に塗装されたザクウォーリア…肩部分に「LOVE!」と書かれているのを見るに、あの機体はラクス・クラインのものか。

 

〈みなさーん! ラクス・クラインでーす!〉

 

 スピーカーから可愛らしい声が響き渡り、それに応えるように盛大な男達の歓声で盛り上がった。熱狂的なファンがいるのは知っていたが、ここまでとは思っても見なかったと、タリアは少し目を丸くする。

 

「はぁ…慰問ライブね」

 

 突然の開戦へ戸惑う兵士たちを鼓舞(こぶ)するためか。

 だとしても、アイドルの活動にわざわざモビルスーツまで使うというのはタリアには理解のできない感覚だが、隣の冴えない男はそうでなかったらしい。

 

「うぉぉぉ! まさかあのラクス・クラインの生ライブを見ることができるとは! 自分、人生の幸運を使い果たしたかも知れません…っ」

「そう…それは良かったわね。できればその運は戦場で使って欲しかったけど」

 

 かつてないほどの勢いで盛り上がるアーサーに対して呆れたように溜め息を吐きつつ、タリアはラクス・クラインのライブ会場の奥…ザクの後に続くように降下してきたヘリコプターから降りてきた男を見て目を細めた。

 ギルバート・デュランダル議長。本来ならば、決してここにいるはずのない男の姿だった。

 

 この状況で彼がわざわざここに来る。

 その理由はきっと、自分たちミネルバに対してのものだろう。タリアには想像がついていた。

 

 目的はきっと、例の新型機。

 タリアは、自分たちの仮想敵であるガンダムに対する性能差の不安を、常に本国にて訴え続けてきた。フェイスであるアスランやハイネのおかげでなんとか致命(ちめい)的な被害を(こうむ)ることなく、戦い続けてきたが、このままではいつかどこかで死者が出かねない。

 

 だからこその新型機の受領なのだろう。その性能が如何なるほどのものかはまだ分からないが、これで戦闘における不安が減ることになる。艦長としてはこれ以上心強いことはない。

 

「ほら、いつまで突っ立ってるのアーサー。早く本部に向かうわよ」

「え、はい。でも、ラクス・クラインが…」

「ライブは明日でも見れるでしょ! 今は軍務に集中なさい!」

「は、はいっ!」

 

 新型機はもちろんだが、まずはこのどうしようもない副長をどうにかしてくれないものかと、タリアは頭を抱えた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「やれやれ…随分な人気だね」

 

 シエルがひとこと()き捨て、サングラスをかけて運転席に飛び乗った。フェンスの向こうではまだ、歌と歓声が続いている。シエルはそれに小さな溜め息を吐きつつ、アクセルを踏み込む。

 

 ラクス・クラインの慰問ライブ。

 シエルとしては全く興味のないものだったが、プラント出身のフブキとしては彼女のライブに思うところがあったようだ。

 

「ホント…変わったわよね、彼女(ラクス)

 

 彼女が広い後部座席にのけぞって言うのをミラーで確認しながら、シエルは車を街の方へ向けて走らせた。喧噪(けんそう)がゆっくりと背後に遠ざかっていく。

 

 実のところ、彼等は別にラクス・クラインのライブを見るためにわざわざここにいるわけではない。このディオキアにいるのもミッションのため。

 フェイトとアキサムがオーブ内戦に武力介入をしていたのに対して、シエルとフブキはここ最近の戦闘の中心である例の戦艦(ミネルバ)の付近に待機し、いつでもミッションに赴けるようにしていた。

 

「…で? 結局、私たちっていつまであの(ふね)を追うのかしら」

 

 ガンダムマイスターにもプライベートに時間はある。気の抜けた様子でフブキがそう聞くと、シエルは前を向いたまま答えた。

 

「さぁ。ヴェーダからミッション終了の命令が来るまでですかね」

「そりゃそうでしょうけど…いつまでもこのままってのも変な話ね」

 

 フブキはシートにのけぞりながら言う。逆さまになった視界に小さくミネルバの艦橋(ブリッジ)が覗いた。

 

 思えばあの艦とはアーモリーワンでの強奪事件…即ちソレスタルビーイングにおけるファーストミッションからの付き合いだ。フブキ達も先日ガルナハンで一戦交えたばかりである。

 これは彼等の存在が、前大戦におけるアークエンジェルのようなものだからだろう。彼等の周りには戦いが集まってくる。そうなれば、ソレスタルビーイングとしては武力介入をせざるを得ない。

 

 だからだろうか、フブキ達がヴェーダの指示で彼の艦の行方に常について回っているのは…。

 

「他のミッションプランも届かないし、どうなってるのかしらね」

「ユニウスセブン落下の影響もあるし、世界は戦争どころじゃないのかも…いや、普通はそうなんだろうけど」

「まぁ、私たちからすれば良いことだけどね」

 

 ソレスタルビーイングの目的は『戦争根絶』だ。

 どのような形であれ、それが実現に近づいているというのは嬉しいことだし、ミッションへのパッション(情熱)も上がるというものだ。

 

「…でも、ブルーコスモスがこれで終わるとは思えない」

「シエル…」

 

 だが、シエルには連合…ブルーコスモスがこのまま黙って終戦を受け入れるとは思えなかった。

 

 今は嵐の前の静けさに過ぎないだろうという確信。ブルーコスモスという連中は、きっと止まらない。コーディネーターを殺して、殺して、殺し尽くすまで…。

 

「そうね。プラントも一枚岩じゃないみたいだし、オーブなんてクーデターまで起きちゃうし」

 

 フェイトとアキサムが武力介入を行なったオーブ連合首長国。二年前は『平和の国』なんて呼ばれていた国でさえも争いの(うず)から抜け出せずにいる。世界から争いが消えるのにはまだまだ時間がかかるだろう。

 

「オーブの件、フェイト達に任せっぱなしだし、おまけにフリーダムまで出て来て……大丈夫かしらあの子」

 

 フェイトの過去はある程度聞いている。

 彼女がオーブに対してどのような複雑な思いを抱いており、どのような気持ちでガンダムに乗るのか…少しは理解できているつもりだ。年齢もまだ14で本来なら戦場に出るような歳ではない。それ故に彼女の精神状態をフブキは心配していた。

 

 だからこそ、解せない。

 

「アキサムが付いてる以上、戦闘に関しては問題ないでしょう。ただ、ヴェーダ考案にしては妙なミッションでしたね」

「えぇ。機械的なヴェーダにしては少し杜撰さが目立つミッションプランだったわ」

 

 ガンダムアステリアは高い汎用性が売りの機体であり、その機動性は敵エースのモビルスーツとの白兵戦において最も真価を発揮するというのは周知の事実だ。

 だというのに、海上で一機で敵部隊と戦闘を行わせるなど、正気の沙汰(さた)ではない。殲滅力の高いサルースやセレーネではなく、なぜアステリアだったのか。これではパイロットに余計な負担がかかる上に成功率が下がる。

 

 確かにヴェーダは人間を遥かに超えた演算処理装置だが、人の心を持たないが故に作戦に人道的配慮がないのが欠点である。しかし、それを考慮(こうりょ)しても、今回のミッションは合理的とは言えない。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。二人は完璧だと信じていたヴェーダの采配(さいはい)に少しばかりの疑問を抱き始めていた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「司令部から?」

 

 アスランが聞き返すと、どこか期待に満ちたような表情のハイネが答えた。

 

「ああ、出頭命令だそうだ。俺とお前、後は…ミネルバのパイロットに。特にシン・アスカは絶対とのことだそうだ」

「シンが?」

 

 不審(ふしん)に思ってアスランはたずねたが、ハイネもまだ分かっていないらしく「さぁな。けど、行き先は工廠(こうしょう)らしいぜ」と答え、先に立って歩き出す。

 

 本来はフェイスが二人も並び歩いていれば、妙な緊張感が周囲に(ただよ)うものだが、既にいくつもの死闘(しとう)を制して来た二人に対するミネルバクルーの対応は次第に(やわ)らかい物となっていた。

 

 ディオキアの街並みに盛り上がるクルー達をよそに艦を降りれば、タラップの向こうに出迎えの車輛(しゃりょう)が来ていた。後席にはシンとレイの姿が確認できる。ルナマリアは先程メイリンと街へ出たのを見たので、ミネルバにはいなかったのだろう。

 

「なんなんです? これ」

「いや、俺も詳しくはなんとも…」

 

 シンの疑問ももっともだが、アスランにも分からないのだ。揃って頭に?を浮かべながら車輌に乗り込むと、静かに発進した。

 

 それにしても、入港して間もなく司令部が自分たちモビルスーツパイロットを呼び出すとは、一体どういう用件なのか。それに名指しでシンを指名するというのは…?

 

「工廠ですか…?」

 

 車輌は司令部のある基地中心部から外れ、格納庫(ハンガー)が建ち並ぶブロックに入っていく。アスラン達がますます不思議に思い始めたころ、なかでも巨大な格納庫(ハンガー)の前で車は停まった。運転席から降りた兵士が「こちらへ」と先に立つ。

 

 三人はそろって顔を見合わせたが、表情を崩さないレイが先んじて一歩を踏み出し、三人も習って後に続いた。

 

「失礼します! アスラン・ザラ、ハイネ・ヴェステンフルス、シン・アスカ、レイ・ザ・バレルを連れてまいりました!」

 

 ドアが開くと薄暗(うすくら)い空間に先導の兵士の声が響き渡り、高い天井(てんじょう)から跳ね返ってくる。

 

 中央を走るキャットウォークの上に、ほっそりと長身な男の姿が見えた。デュランダル議長だ。

 どうやら自分たちは、議長本人に呼び出されたらしい。

 

 アスランはやや重い気持ちで、ミネルバのモビルスーツパイロットの代表としてデュランダルの前に歩み出た。

 

「お久しぶりです、議長」

 

 敬礼して挨拶(あいさつ)すると、ハイネを筆頭にシン達も礼を取った。

 

「いや、悪いね。こんなことろに呼び出して。君たちの活躍は聞いているよ。本当に色々あったと思うが、よく頑張ってくれた」

「いえ…」

 

 アスランはデュランダルの差し出した手を握り返し、辟易(へきえき)しながら形式的に言葉を返した。デュランダルは端正な顔立ちに、柔和な笑みを浮かべている。

 

「さて、話したいこともいろいろあるが–––––まずは見てくれたまえ」

 

 議長はそんなアスランを楽しげになだめ、おもむろに背後へ目をやった。

 

「わざわざこんなところにまで来てもらったからね。先程から、目もそちらにばかり行ってしまっているのだろう?」

 

 確かにアスランとレイはともかくシンやハイネの目は、暗い空間にその輪郭(りんかく)(おぼろ)に浮かび上がらせている、巨大な影の存在を見てとっていた。

 

 だしぬけに、ライトが()いた。

 アスランは目を(まばた)かせながら、キャットウォークの両側に現れたスチールグレイの機体を見上げる。

 

「ZGMF-X42S "デスティニー"」

 

 議長は(ほこ)らしげに機体番号と名称を告げ、シンが感嘆の息を吐く。デザインはセカンドステージシリーズの流れを引くものだが、一見して分かるほどフレームや装備に向上が見られる。

 

 だが、アスランはそんな"デスティニー"など視界に写っていなかった。

 

「この機体は…」

 

 デスティニーの反対側、キャットウォークの左側に立つ機体。それはアスランにとって非常に見覚えのある姿であった。

 

「ZGMF-X19S"インフィニットジャスティス"…」

 

 多少のマイナーチェンジが図られているようだが、その姿形は見間違いようがない。VPS装甲が作動すれば、その機体は深紅(しんく)に色づくことだろう。

 

「アスラン、君の新しい機体だよ」

 

 無限の正義(インフィニットジャスティス)

 そんな機体を自分に––––? 救世主(セイバー)といい、正義(ジャスティス)といい、自分の機体の名はどこか皮肉がきいているように感じる。

 

 鎮痛な思いで黙り込むアスランを、ディアクティブモードのインフィニットジャスティスは静かに見下ろしていた。

 

 





>ガルナハン基地攻略作戦
オーブ内戦の裏で行われた連合の残存勢力とミネルバ隊による武力衝突。
ソレスタルビーイングはガンダムメティスとガンダムセレーネが武力介入し、インパルスやセイバー等と激しい戦いを繰り広げた。

>シエル&フブキ
戦闘を行う勢力の中で一番目立つミネルバの追跡に当たる。
元々Seed Destinyの戦争が変則的な為に00本編ほど世界各地で武力介入が発生しているわけではない。

>インフィニットジャスティス
機体設定は殆ど原作と同一。
ただ、キラが設計に関わっていないという一点のみが原作と異なる。

>セイバー
破壊されることなく任務終了。
以後はレイかルナマリアに与えられることだろう。ハイネは…専用機があるので。

>レジェンド
大気圏内が戦場なのに優先する意味は?
本国にて開発はされているもののまだ未完成。


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銃口の行方


突貫作業だから、誤字多かったらすみません。


 

 

 デュランダルも工廠(こうしょう)で話を続ける気はなかったらしく、彼なりに簡単にデスティニーとジャスティスの紹介を済ましたあとは、全員とも近くにある宿泊施設…ザフト軍保養施設に場所を移していた。

 

 デュランダルやラクス・クラインのような要人も使用しているというだけあり、この街でも一際豪勢(ごうせい)な場所だ。テラスから見える景色が美しい。

 

「艦長! それにルナまで」

 

 そこには既に先客が来ていた。

 出されたカップに口をつけるタリアとこちらを見て手を挙げるルナマリア。アスラン達が移動するまでの間にこちらに来ていたのだろう。

 

「どこ行ってたのかと思ったら…」

「悪かったわね。だって、まさか議長に呼ばれるなんて思いもしなかったんだもの。じゃなきゃメイリンと街へ行ったりしないわよ」

 

 この様子を見るに出頭命令の際にシンは相当ルナマリアを探したのだろう。

 どこか非難(ひなん)するような視線を向けるシンに対して、彼女も自覚があるのか、どこか罰が悪そうにそっぽを向いていた。

 

 そんな会話を微笑ましく思いつつ、アスランやハイネも席へ着く。正面にいるのがデュランダルとタリアであり、アスランとハイネのフェイス二人が左、シンやレイ、ルナマリアが右側の席だ。

 

「さて、色々とまわりくどいことをしてすまなかった。口でいうよりも見てもらった方が早いと思ったものだからね」

「議長…次からは事前にお伝えくださいな」

「ハハ、気をつけよう。タリア」

 

 ため息混じりにタリアが苦言(くげん)を申したが、デュランダルも穏やかな笑みを崩さない。アスランは、この二人には単なる上司と部下という関係ではない何かを感じていた。

 

 その後、話は現在の戦況(せんきょう)に向かう。

 

「ともかく今、世界中が実に複雑な状況でね」

 

 デュランダルが嘆息(たんそく)まじりに言うと、タリアが誰もが気になっていたことをたずねる。

 

「宇宙の方は今、どうなっていますの? 月の連合軍などは」

「あいかわらずだよ」

 

 デュランダルはうんざりしたように答える。

 

「時折、小規模な戦闘はあるが…まぁ、それだけだ。()()の存在が良くも悪くも抑止となっているのだろう」

 

 それを聞いてシンも少しだけ安堵(あんど)する。

 少なくともプラント本国に危険がないというだけで、本国に家族のいるルナマリアやヨウラン達には何よりもいい知らせになる。

 

「–––––そして地上は地上で、何がどうなっているのか、さっぱり分からん。この辺りの都市のように連合に反抗し、我々に助けを求めてくる地域もあるし…」

 

 デュランダルは小さく肩をすくめながら、続ける。

 

「一体何をやっているのかね、我々は…」

「停戦、終戦に向けての動きはありませんの?」

 

 タリアがたずねると、デュランダルは苦笑して彼女に目をやる。

 

「そうだね…実のところ、ないわけでもない」

「えっ!?」

 

 意外な言葉にシンはつい声を上げたが、全員がその事実に驚いていた。停戦、終戦を望みつつも、軍人として最前線で戦う彼等にとっては夢のまた夢のようなことに思えたからだ。

 

「君たちは連合といえば前大戦のブルーコスモスなどを思い浮かべるかもしれないが、実際のところ戦争などしない方がいいと思うのは彼等も同じだ…」

 

 デュランダルが静かに席を立った。彼はゆっくりと手すりに歩み寄りながら、語り始める。

 

「そうだな…私が言うまでもないが、君たちもソレスタルビーイングの存在によって、既に戦争が戦争として成り立っていないのはわかるだろう?」

 

 その言葉にシンは彼等の存在を思い出す。

 圧倒的な力で戦闘に介入し、力づくで争いそのものを破壊してしまう…そんな存在。

 

「君たちも知っている通り、連合は開戦に伴っていきなり核兵器をプラントに撃ち込み、地上でも次々と新たな戦力を投入しているわけだが、その尽くが失敗に終わっている。彼等のお陰でね」

 

 ソレスタルビーイング。

 彼等の理念は極端(きょくたん)で単純なものであり、シンにとって心の底から望んでいるものだ。

 

 ––––––戦争の根絶。

 

 ならば、今この状況は…少なくとも宇宙においては、彼等の目的は達成しつつあるということなのではないか…? 力で以て力を制すという彼等の考えは本当は正しいのではないだろうか。

 

 複雑な現実に対して思い悩むシンをよそに、デュランダルは(かわ)いたような口調で続けた。

 

「確かに始めは我々への敵意から始まった戦争かもしれないが、この状況では戦争などしようがないだろう」

 

 ようは警察のようなものだ。

 いくら連合が戦争をしようと思ってザフトに戦闘を仕掛(しか)けても、それはすぐにソレスタルビーイングの耳に届き、ガンダムによる武力介入で全てが無に帰すことになる。

 

「数が自慢の連合といっても、それは無限ではない。このまま戦いを続ければいずれ限界が来るのは間違いない」

 

 兵器は無限に近い数を作れるかもしれないが、人員には限界がある。仮にソレスタルビーイングを退(しりぞ)けることができたとしても、そんな状態でザフトと争おうとするのは難しい。

 

 だからこそ、そこが停戦の落としどころだとデュランダルは言っているのだ。

 

「時間頼り、他人任せだと笑ってくれて構わんよ。しかし、この情勢を前に今の我々にできることは遥かに少ないのだよ」

「議長…」

「連合が攻めてくる以上、我々は身を守るために銃を取ることしかできない。だが、連合の強大な物量は勿論、ソレスタルビーイングのガンダムの前に我々はあまりにも無力だ」

 

 (なげ)くかのような議長の言葉にシンは心の中で同意した。

 インパルスやセイバー、グフといった新型の機体が配備された新造艦のミネルバでもガンダムには太刀打(たちう)ちできていない。撤退・時間稼ぎが精一杯であり、それでは守るものも守れない。

 

 何かを守るためには力が必要なのだ。ソレスタルビーイングのガンダムのように。

 力なき正義など、世界には通じない。あの時のオーブのように…!

 

「だから議長は、あの機体を私たちに…?」

 

 デュランダルの言葉の余韻(よいん)がまだ残っているところへ、アスランの低い声が入り込む。その目には不安と小さな不信感が宿っていた。

 

 "デスティニー"と"インフィニットジャスティス"

 

 対ガンダム戦の切り札であり、ザフトの最新鋭のモビルスーツ。それがシンとアスランが受領することになった機体である。

 

「それはつまり…これからソレスタルビーイングと戦っていくために……ということですか?」

 

 ジャスティス。

 その機体はアスランにとっては頼れる機体であると同時に、復讐に取り()かれた亡き父、パトリック・ザラが開発を推し進めた禁忌(きんき)の機体でもある。

 

 それが再び目の前に現れたことにアスランはシン達とは全く別の意味を(さと)っていた。

 

 前大戦の折、フリーダムとジャスティスのデータが流出したことにより地球軍は核を発射し、ザフトは"ジェネシス"を撃ち返すという悲劇の連鎖が繰り広げれられることになった。

 

 例えソレスタルビーイングを退(しりぞ)けられたとしても、アスランはそれが再び起きるのではないかと危惧(きぐ)していたのだ。

 

「ふむ…そうだな。アスラン、君の思うところも分かる。君の不安もね」

 

 だが、デュランダルはそんなアスランの内心を見透かしたように微笑んだ。

 それから鋭い表情でアスランの瞳を見つめ返す。

 

「だが、彼等はテロリストだ。以前、オーブの姫が言ったことを覚えているかね?」

 

 強過ぎる力はまた争いを生む、そう言ったのはカガリだ。

 

 デュランダルは冷ややかに言い放つ。

 

「ザフト軍最高責任者として、私はあんな訳のわからない強大な力を、ただ野放しにしておくことはできない」

 

 そう、強大な力だ。

 ザフト軍も連合軍も敵わない最強の力を持つモビルスーツを運用するのは戦争根絶を(かか)げるテロリスト。確かに彼等をそのままにしておくことはできないだろう。

 

「しかし、彼等の目的は戦争の根絶…こちらが銃を取らなければ–––––」

「何故彼等の目的が戦争根絶などと信じられる?」

 

 デュランダルがピシャリとアスランの言葉を(さえ)った。彼らしくない言葉の強さにアスランだけでなくシン達も呆気にとられる。

 

「戦争根絶など今までの人類史の中で多くの人間が唱えてきたことだ。しかし、そのいずれも達成することなく人類は新たなる戦争を引き起こしている。それをどう解決しようというのかね、彼等は」

「議長…いえ、それは」

「争いへ武力介入をしたところでまた新たな争いを生むことになる。それが分からない彼等ではあるまい」

 

 だが、それに気付かずにデュランダルは少し熱の入った言葉を続けた。そこにはアスランにとって初めてのデュランダルの人間らしい感情が垣間見えた。

 

「私は彼等が戦争根絶ではない何かを狙っていると思っている。そもこの武力介入も彼等にとっては–––––」

「議長!」

 

 表情に困惑を浮かべるシンやルナマリアをはばかるように、タリアが声をあげる。まるで父親が、子ども達の前ですべきでない話をした時の母親のように。

 

「…む、すまないタリア。少し熱くなってしまった」

「らしくないですよ、議長」

「ハハ、最近私も色々あってね。彼等の前だということを忘れていたようだ」

 

 まさか、と言った表情で謝罪するデュランダル。

 そこにはいつもの政治家らしい雰囲気など全く感じさせない、一人の男性の姿があった。

 

「考え込んでしまうのは私の悪い癖でね。彼等については私にとっても悩みの種なのだよ」

 

 背後でタリアが呆れたように溜め息を吐いた。まるで夫婦のような会話にシン達が別の意味で呆気に取られる。

 

 デュランダルは再びその顔に議長としての仮面を貼り付けると、アスランに向き直った。

 

「アスラン、確かに君には思うところもあるだろうが、どうか私を信じて受け入れてほしい。あれだけの力、リスクはあるが君ならばその使い道を理解していると信じているよ」

「…はい」

 

 ジャスティスについて思うところのあったアスランであったが、先ほどのデュランダルの言葉を聞き、その関心はソレスタルビーイングの目的へと移り変わっていた。

 

「これからの情勢、ますますその混乱は増していくだろう。何が起きるか分からない状況だ。しかし、どうか頑張ってほしい。そのために私にできることならば、なんでもする予定だ」

 

 その言葉にシンは身体が(ふる)い立つのを感じた。

 それはかつてインパルスのパイロットに選ばれた時と同じ。誰かに認められている、応援されているという事実が彼に力を与えていたのだ。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 デュランダルとの会談を終えた後。

 なんとシンとルナマリア、アスランは、議長の勧めでこの施設に一泊泊まっていくことになった。

 

 アスランは辞退しようとしたのだが、彼を立てたレイの発言によってそれもできなくなった。謙虚(けんきょ)なレイの言葉を、アスランもこのときばかりは恨んだ。

 

 だが、それも仕方ないと思い、デュランダルに先程の会話の続きを願おうとしたそのとき。

 

「アスラ〜ン!」

 

 こちらに走ってくる少女の姿を見た途端、アスランは硬直(こうちょく)した。ラクス––––のフリをしたミーア・キャンベルだ。

 

「ミ……」

 

 どうしたらいいか分からず立ちつくすアスランに、ミーアは真っ直ぐに()け寄って抱きついた。流石にこの場でミーアの名を出すわけにもいかず、なんとか彼女の身体を押し戻す。

 

「ホテルにおいでと聞いて、急いで戻ってまいりましたのよ! 今日のステージは? 見てくださいました?」

 

 声を弾ませて、いかにも嬉しそうに話しかけてくるミーアに、アスランはぎくしゃくと頷く。

 

「え…ああ…まぁ」

「本当に!? どうでした?」

 

 なんとか自然に振る舞いたいが、じっとこちらを見つめるシンやルナマリアの視線が気になってどうしようもない。アスランの困惑を(あお)るように、デュランダルがにこやかに声をかける。

 

「彼等にも、今日はここで泊まってゆくように言ったところです。どうぞ久しぶりに、お二人で食事でもなさってもらおうかと…」

「議長!?」

 

 議長を見れば、隣のタリアと共にニコニコと笑っている。ミーアのことを知っている癖に…酷い裏切りを受けた気分だ。

 

「しかし、ラクス。その前に少しアスランとお話しさせていただいてもよろしいでしょうか?」

「はい…?」

「はい! 私も議長とお話ししたいことがありまして、いい機会かと」

 

 ミーアの不思議そうな表情をよそに、アスランは真っ先に彼に従った。ミーアから離れたかったのもあるが、彼と話すにはいい機会だったからだ。

 

 

 

 

 いつの間にか日が落ち、藍色(あいいろ)の闇が下りた庭園に、デュランダルはアスランを連れ出した。

 

「実はラクス…いや、本物のラクス・クラインのことなのだがね」

「ラクス?」

「君もオーブのことは聞いているだろう?」

 

 アスランはハッと表情を変えた。

 

「…はい」

 

 オーブでクーデターが起きた。

 まさかと思ったが、自分がいない間にことはかなり進んでしまっていたようだ。カガリのピンチに、何もできないでいる自分の無力さに拳を強く握った。

 

「彼女はオーブにいる…いや、いたというべきなのかな?」

「ええ。今、ラクスがあの国にいるとは考えにくいです」

 

 大西洋連邦と手を結んだオーブの中では、ラクスは危険だ。フリーダムが現れたというのを聞くに、キラはオーブにいるのだろうが、ラクスはバルトフェルドらが避難させたはず。

 

「そうか…」

「あの議長、ラクスのことは…」

「ああ、我々プラントも確認していない。今、どこで何をしているのやら」

 

 もしかすると本当にオーブに潜んでいるということも考えられる。だとすると、敵国であるプラントのトップであるデュランダルやアスランでは彼女に会いにいくこともできないだろう。

 

「こんな情勢のときだ。彼女が戻ってきてくれれば…と思わざるを得んよ」

「ええ。しかし、それではミーアは?」

 

 視線が退屈そうにベンチで待つ、ラクスと瓜二つの容姿の少女に移る。本物のラクスが戻ってくるとしたら、彼女はどうなる?

 

「ああ、ラクス…ミーアも頑張ってくれてるのだがね。この情勢では彼女に求められるのはアイドルではなく、かつての彼女…ということになりかねない」

「それは…」

 

 それは難しいと言わざるを得ないだろう。

 確かにミーアはラクスそっくりだし、歌もパフォーマンスも彼女と同等以上だ。

 

 だが、二年前のラクスのように立ち上がれるかと言ったら、立ち上がれない。良くも悪くも彼女は普通の少女なのだ。

 

「彼女がこれ以上追い込まれる前に、本物のラクスには戻ってきてもらいたいものだ。私も彼女を支援…いや、この議長の座を譲るくらいの覚悟はできているからね」

「いえ議長、それは––––!」

 

 そのとき、アスランとデュランダルの間に、赤いハロが飛び込んできた。

 

〈ハロー、ハロー、グッバーイ!〉

 

 待ちくたびれたミーアが向かわしたものだろう。デュランダルが苦笑した。

 

「いや、すまなかったね、引き留めて。だが、私自身も二年前はクライン派…そう呼ばれる陣営に属していた身だ。彼女の影響力の大きさは理解している。もし今後、彼女達から君の元に連絡が入った時は、私にも教えてくれたまえ」

 

 確かに、議長はラクスにちゃんと事情を説明する必要があるだろう。そして、力を貸してもらいたい。だから、彼はラクスの行方が知りたいのだ。

 

「はい、分かりました。議長の方も何か分かったら、お願いします」

「ああ、分かった。そうしよう」

 

 議長がいつもの微笑みを浮かべて、その場を去る。

 途端にベンチから立つように駆け寄ってくるミーアをぼんやりと見ながら、アスランはまた、友と愛する人たちのことを思った。

 

 ––––––キラもラクスも、カガリも放っておいて、いったい自分は何をしているのか、と。

 

 

 





>デュランダル
真っ黒な議長から灰色な議長にチェーンジ!!
例のプランのことを考えなくて良くなったので、50%くらい胡散臭さが抜けたよ。

>デスティニー
パイロットは原作通りシン。
これはデスティニーの武装構成がインパルスの各シルエットを統合したものだから。

>アスラン
俺は一体何をやっているのか…(迷いマイマイ)

>ミーア
カワイイね。それだけ。
放送当時は議長の駒としてモビルスーツ乗ってくるかと疑ってました。


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リユニオン


先日、念願の免許を取りました。
年齢的に乗る機会は少ないですが、安全運転を心がけたいですね。



 

 

 先月が初陣とは思えないほどの貫禄(かんろく)を身につけ、ディアキアのザフト軍基地に入港したミネルバ。その格納庫(ハンガー)では、ミネルバの整備士達が(せわ)しなく艦載モビルスーツのチェック作業に追われていた。

 

「注文通り、センサーの帯域を変えてみた。確認してみてくれ」

 

 整備主任であるマッド・エイブスがレイに言い、レイが身軽な動作でリフトに飛び乗り、コックピットに向かう。その機体は見慣れたザクファントムではなく、ディアクティブモードになっているセイバーだ。

 

「ザラ隊長とお前では操縦に違いがあるからな。OS以外に変更が必要になったらいつでも伝えてくれ」

 

 エイブスの言葉に小さく頷き、レイはキーボードを取り出して機体設定(OS)を書き換えていく。

 

 その頃、セイバーやグフの隣に並ぶ見慣れないモビルスーツの前ではヨウランとヴィーノが楽しげに会話しながらキーボードを操作していた。

 

「–––––でも、すげえよな。この新型!」

「インフィニットジャスティスとデスティニーだっけか? よくやるよ、インパルスやセイバーも十分に新型だったのにさ」

 

 見慣れない機体…インフィニットジャスティスとデスティニーを前にヨウラン達のテンションも高くなっていた。整備士だからこそ分かる、その機体性能の高さゆえにだ。

 

「ジャスティスがすげーのはなんとなくわかるけどよ、デスティニーも中々だよな」

「単純な機体スペックだけでもインパルスの倍以上なんだろ? こんなのに勝てるモビルスーツなんてあるの?」

「そりゃ仮想敵はガンダムなんだから、性能は高いに越したことはないってことだろ」

 

 どちらかというと口の方がよく動いて、手の方はお留守番になっているようだが、現在は休暇なためにエイブスもゲンコツを落とすことはなかった。

 

 新たにミネルバに配備されることになったジャスティスとデスティニーは、最低限の整備を済まして後は機体の主による調整を待つ状態となっている。

 

「で、ジャスティスは勿論ザラ隊長が乗るんだろうけど…デスティニーは誰が乗るんだっけ?」

「おいおい、聞いてないのかよ…」

「仕方ないだろ。あの時はラクス・クラインのライブ見に外出たたんだから」

 

 ヨウランもそうだろ? というヴィーノの言葉にヨウランは喉を詰まらせた。

 ラクス・クラインの生ライブということで艦から飛び出したはいいものの、肝心(かんじん)の仕事が中途半端だったため、こめかみをひくつかせたエイブスにしょっぴかれたのは苦い思い出だ。

 

「ああもう、パイロットはシンだよ、シン!」

「シン?…ハイネ隊長じゃないの?」

 

 ヤケクソとばかりに放たれたヨウランの言葉に疑問を浮かべるヴィーノ。彼の中ではデスティニーのパイロットはハイネを想定していたようだ。

 

「知らね。エイブス主任が言うには、デュランダル議長直々にこれはシン・アスカ専用機だって運ばれてきたものらしい」

「え、議長直々!? それってすごいじゃん!」

「まぁ、最近のシンの活躍とデスティニーの武装構成を考えれば…」

 

 機体データを閲覧(えつらん)したが、デスティニーの機体コンセプトはインパルスの各シルエットの統合のようだ。それを()まえれば、インパルスを使いこなしているシン以上に相応(ふさわ)しいパイロットはいないだろう、とヨウランは考えた。

 

「あ、じゃあインパルスは?」

「そっちはルナマリアが乗るんだとよ、ほら」

 

 二人が視線をチラリと向ければ、コアスプレンダーのコックピット内にて、技術者からインパルスについての機体運用説明を受けるルナマリアと付き添いのメイリンの姿がある。

 

「へぇ…じゃ、ハイネ隊長は?」

「あの人はグフのままだとよ。本国に新型を発注しているらしいが、まだ未完成らしい」

「えぇー」

「グフも十分最新鋭の機体だろ。というか、いつからお前そんなにヴェステンフルス隊長と仲良くなったんだよ」

「へへへ…この間、ラクス・クラインのライブでね」

 

 用が済んだ二人はわいわいと盛り上がりながら格納庫(ハンガー)を後にする。

 

「そういえば、シンは?」

「あいつも休暇。ザラ隊長はラクス・クラインとデート…らしいぜ」

「え、何それ!?」

 

 その後ろ姿を主を待つデスティニーが静かに見送った。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 かつて"ジャスティス"を駆った伝説の英雄であり、現在はザフト軍"フェイス"でミネルバのモビルスーツ部隊の指揮官でもある男、アスラン・ザラは生来の苦労人(くろうにん)である。

 

 それは彼が非常に人当たりがよく、面倒見が良いこととか、その(くせ)に言葉が足りなくて余計な誤解を生むとか、一人で何でも抱えすぎるとか、彼の持つ性格に由来しているのは間違いない。

 

 例えば月での幼年学校での幼少期。

 当時から天才と言われていたアスランは"優秀な癖にいい加減"な親友のキラ・ヤマトの面倒(めんどう)を自発的にみていた。それは彼等の母親同士が親友であったこともあるが、個人的に気が合う相手だったからということもある。

 だから、これはいい。問題は次だ。

 

 時は流れてザフトのアカデミー時代。

 血のバレンタインの悲劇を見て、何かをせねばとザフトに入隊したアスランに待っていたのは、優等生としての待遇(たいぐう)と厄介なライバル達の存在であった。

 勿論成績がある以上、常に成績トップのアスランを目の敵にする人間がいるのは当然のことであったが、その中でもアスランにとって非常に手を焼く人間が一人いた。

 

 それがイザーク・ジュールだ。

 同じくプラント最高評議会の親を持つ彼は、何かとアスランに突っかかってきた。しかも、なまじ優秀なものだからアスランにとっても無視できるものではない。

 おまけに何かとアスランを敵視する彼は、アスランが隊を率いると同時にキリキリと嫌味の応酬を浴びせてくる始末。まさに手に負えなかった。

 

 だが、アスラン自身も彼を意識していた節はあったし、皮肉にも戦争を通じて彼とは分かりあうことはできた。だから、問題はない…はずだ。

 

 

 そして、問題は二年後。

 様々な理由があってザフトに復隊(ふくたい)した彼を待っていたのは、個性豊かな後輩達と中々本心を読めない議長、そして頭痛の種である歌姫の存在。特にシン・アスカとミーア・キャンベル。この二人が最近のアスランを悩ませていた。

 

 シンはどこかイザークを思い出させる苛烈(かれつ)な性格をしているため、やはりアスランにとっては相性の悪い相手だ。

 しかも、歳下といえば、温和(おんわ)で穏やかなニコル・アマルフィくらいしか関わってこなかったアスランにとって、どうやって接すればいいかが難しいところにいる後輩なのだ。

 

 対してミーアは、見てわかるようにラクス・クラインを名乗る偽物である。容姿も歌もそっくりなので皆気づいていないのだろう。…いや、本物のラクスを知っていればすぐに気づけるほど性格に差があるのだが、アイドルという偶像ゆえに一般の人間では気づけようもない。

 

 そも、ラクス・クラインとアスラン・ザラが婚約関係にあったことは有名だが、二年前にそれが自然消滅したことを知っている人間はかなり少ない。

 ヨウランとヴィーノなんかは露骨に婚約者だとヒソヒソ話をして(うらや)んでいたし、何故かメイリンとルナマリアのホーク姉妹はミーアとアスランが一緒にいると機嫌が悪くなる。

 

 二年前にラクスとの諸々の関係は終わったと思っているアスランにとって、ミーアは過去のラクス・クラインの虚像であり、それ故にザフトに所属する以上は厄介な存在であった。

 

 そんなミーアだが、本物のラクスと似ているところもある。

 それは、常に彼女の方からアスランを引っ掻き回しにくるということだ。

 

「その…やはり基地へ戻った方がいいんじゃないのか?」

 

 潮風(しおかぜ)の吹き込むディオキアの街にて、アスランは遠慮がちにラクス…いや、ミーアに問いかけた。二人きりということで敬語は外している。何よりミーアがそう望んだのだ。

 

「確かにここはザフトの管理下にある街だが、安全というわけじゃないぞ」

 

 きっかけは朝の騒動(そうどう)にある。

 久しぶりにしっかりしたベッドで眠れたかと思えば、朝起きると隣にはミーアが寝ていたり、それを運悪くルナマリアに目撃されたりとだ。

 不幸中の幸いなのは、ラクスとアスランの婚約関係が一部のミネルバクルーに(いま)だに信じ込まれており、ルナマリアもその一人であったことだ。

 

 だが、その一件以降ルナマリアの機嫌はただ下がりであり、アスランに対して(とげ)のある言葉遣いをするように…。まるでシンがもう一人増えたかのようだとアスランは胃が痛くなった。

 

「でもアスラン、いっつも顰めっ面ばかりしてるんですもの。少しは気分転換した方がいいに決まってるわ!」

「それは…そうだが」

 

 その原因は君にある…とは言えない。

 悪いのは状況と巡り合わせであり、ミーアは本当に善意で行動しているのだろう。ラクス・クラインを演じていることも含めて…。

 

「ほら、ちゃんと変装もしてきたのよ!」

 

 自信満々と言った表情のミーアだが、ちょっとフードを(かぶ)りメガネをかけたからといって、ラクス・クラインの姿を隠し切れているとは思い(がた)い。

 一般人相手ならともかく、アスランのように軍で訓練を受けた相手には少し観察すれば見破られる程度のものだ。流石にこの街は安全だと思うが、プラントではない以上絶対はないだろう。

 

「それにちゃんと私を守ってくれるでしょ? アスランは!」

 

 フードの下から(のぞ)く彼女の顔は、いつもと違って見える。それは今の彼女がラクス・クラインではなく、ミーア・キャンベルとして振る舞うことが許されているからだ。

 

「あ…あぁ」

 

 ラクスとしてのミーアと接する分には疲れるが、ただのミーアと接する分には特に何もない。むしろこちらの方がいいに決まっている。

 

 自分を偽り続ければ、きっとどこかで限界が来る。アスランがアレックス・ディノでは何もできなかったように。

 

「…まぁ、こういうのも悪くないか」

 

 本物のラクスがプラントに戻るようなことがあれば、ミーアもこうして普通の女の子に戻ることができるのだろうか。

 

「(ラクス…君は今、どこにいる?)」

 

 アスランは居場所の分からない、かつての婚約者へ思いを()せる。

 キラが側にいるなら大丈夫だと思っていたが、それももういない。おそらくバルトフェルドや旧クライン派の人間と行動を共にしているのだろうが、そうなれば今のアスランに彼女を探し出す術はない。

 

「アスラーン、こっちに面白そうなお店があるわよ!」

 

 顔を上げると、手を振りながらアスランを呼ぶミーアの姿が映った。どうやら考え事をしすぎて、歩くスピードが遅れていたらしい。気を引き締めなければとアスランは自身を()じた。

 

「ミーア、声だけは隠せないんだからそう大声を出すな。誰かに気づかれたら––––ん?」

 

 危ないじゃないか––––と続けようとして、アスランの視界に何か気になる物が映り込んだ。それは人混みに紛れた一つの人影であり、より正しく言えばカメラのレンズが反射した光だった。

 

「あれは…まずい!」

「きゃっ!? ちょっと、アスラン!?」

 

 アスランはミーアの手を取って抱き込むと、彼女を連れて急いでその場を後にする。ミーアは驚きと困惑の声を上げているだろうが、それはこの際仕方(しきた)がない。

 

 あれはアスランがオーブに復隊する前、プラントへ行った時のことだ。イザークとディアッカに案内され、ニコルの墓参りに行った際、ディアッカがこんなことを言っていた。

 

 ––––アイツ、戦場カメラマンになるって聞かなくてさ。それで揉めて揉めて…そのまま、さ。

 ––––フンッ、いつまで女のことでメソメソしているディアッカ! 情けない!

 ––––イザーク! 女のことでお前にだけは言われたくねえっての!

 

 彼女はミリアリア・ハウ。

 キラの友人であり、ディアッカと一時的に付き合っていた女性の名だ。アスランとも深い因縁のようなものがあり、アスランはミリアリアのことをよく覚えていた。

 

「全く、なんてタイミングだ」

 

 戦場カメラマンとなって世界を飛び回っているとは聞いていたが、まさかディアキアにも来ていたとは。世界は(せま)いというか何というか…だ。

 

 幸いこちらには気づいていなかったようだ。

 本物のラクスを知る彼女にミーアを知られるのはマズイ。

 いや、ミーアにこんなことは辞めさせるべきなのは分かっているが、それにもタイミングがある。バレれば問題となるのは議長だけはない。

 

 何せ議長が自軍すら騙して(おこな)っている所業だ。

 きっと議長はそんなことをしないと信じてはいるが、アークエンジェルから降り、ただの民間人になったミリアリアが真実を知れば無事で済むとは思えない。

 

「ちょっとアスラン!」

「あ…すまない」

 

 人気(ひとけ)の薄い通りへ出た後、アスランは謝罪混じりにミーアを解放した。

 そんなアスランを不審そうにミーアが見つめる。

 

「一体、どうしたのよ?」

「…いや、ちょっと昔の知り合いがいてな」

 

 知り合いといっても、自分は彼女の恋人を殺した人間である。親友(キラ)の友人であり、友人(ディアッカ)の元恋人。そんな複雑な関係だ。

 

 が、それを馬鹿正直に言うわけにもいかず、アスランは若干言葉を(にご)して伝えた。

 しかし、ミーアはその懐疑的な表情を崩すことなくたずねる。

 

「…ねぇ、もしかして、それって女の人?」

「え? あぁ、そうだけど」

「…へぇ」

 

 それがどうかしたのか?と、軽い気持ちで答えたアスランだったが、彼女の表情が見る見るうちに不機嫌そうに歪んでいくのを見て、己の語弊(ごへい)を招く発言を悟った。

 

「いや、ちょっと待てミーア。彼女は…!」

「ふーん、ラクス様ともあろうお方がありながら…へぇ」

「だからラクスもだなっ」

 

 必死に弁明しながらも、アスランの脳裏では今朝(けさ)もこんな会話をルナマリアとしていたな…と早朝の記憶を思い出していた。

 

 ミリアリアは論外であり、ラクスに至ってももう違う。何とか理解してもらおうと四苦八苦(しくはっく)するアスランだが、ミーアはツーンとした表情を崩さない。

 

「–––––あら、こんなところでカップルの喧嘩かしら?」

 

 そんな時、アスランの背に声がかけられた。女性の声だ。どこか愉悦混じりなその声にアスランは少しの苛立ち混じりに振り向く––––その時。

 

「なんだ、冷やかしなら帰ってくれ…ない……か?」

 

 そこにいたのは、白銀に煌めく銀髪が特徴的な少女だ。

 シックな装いに身を包んだ彼女を見て、アスランの脳裏にノイズが走る。

 

『きっとまた会えるわ。また、3人で…きっと』

 

「–––––()()()?」

 

 アスランの口からその名が、意識しないうちにこぼれ落ちる。その声に、相手の瞳が揺れるのを感じ取れた。

 

 意思の強そうな銀の瞳が、アスランの姿を映して見開かれていた。

 

「––––––嘘、まさかアスラン?」

 

 その声もあの頃と変わっていない。

 暗い思い出と共に記憶の奥底に封じ込められていた少女が成長した姿で目の前にいる。

 

 その名をリリベット・ホワイト。

 アスランとキラが月の幼年学校に通っていた際の先輩であり、ナチュラルでありながら常にアスランの壁であり続けた()()()()()()()

 

 実に6年ぶりとなる再会に、二人の間は時間が止まったように凍りついていた。

 

 

 

 

 





>アスラン
元カノ(ラクス)のそっくりさん(ミーア)と寝て、それが原因で後輩の女の子(ルナマリア・メイリン)が不機嫌になって、その後セカンド幼馴染(リリベット)と再会するというラノベ主人公。
なお、今カノ(カガリ)は放置したまま出張している模様。

>ミーア
終盤空気。
自分含めてもアスランの女性関係の広さにビックリ。

>リリベット・ホワイト
フブキさんの本名判明。
実はアスランやキラとも知り合いでした。詳細については次回。


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リユニオンⅡ


オリキャラ、オリ設定による原作キャラの経歴の改変があるので、そういうのが苦手な方はブラウザバックをお願いします。



 

 

 幼少期、アスランは両親の(すす)めもあって月面都市コペルニクスにある幼年学校に3歳から13歳までの10年の間通っていた。

 

 その為、プラントで働く両親と共に過ごした思い出は限りなく少ない。

 父親であるパトリックは地球からのプラント独立のためにシーゲル・クラインと共に尽力(じんりょく)していたし、母親であるレノアは"プラントの食糧問題の改善"のためにその能力をフルに使って働いていたからだ。

 

 寂しくなかったと言えばそれは嘘になるが、幼なくとも既にある程度完成された頭脳と早熟(そうじゅく)した心を持っていたアスランは、プラントの為に働く両親を(ほこ)りに思い、自分の中にある"甘え"を徹底的に押し留めてきた。

 

 そんなアスランにとって、転機となったのが4歳の時に出会った少年、キラ・ヤマトだ。キラの母であるカリダとアスランの母親レノアが親友同士だったということもあり、2人は何かと行動を共にすることが増えた。

 家を留守にしがちなレノアに代わってアスランの面倒を見てくれたのはカリダたちヤマト家であり、アスランにとっては第2の家族のような存在となっていた。

 

 キラはまさに年相応の子供であり、早熟のアスランからすれば手のかかる弟のようなものだった。

 だというのにその能力だけはアスランにも匹敵(ひってき)するほど高かったものだから、2人は兄弟のようでありながら、切磋琢磨するライバルであり、心から通じ合える親友になれたのだ。

 

 

 

 

 それから3年後、2人が7歳の時のことだ。

 コーディネーターの中でも一際(ひい)でているアスランとキラは学校内でもそれなりに有名となり、飛び級と称して多学年の授業に参加することが増えた。

 当時のコペルニクスにはナチュラルも多くいたため、歳下でありながら自分よりも高い能力を持つ2人を(ねた)むものも多くいたが、特に嫌がらせだとか、排斥(はいせき)運動とか、そのようなものは決して起きなかった。

 

 何せ、クラスをまとめるリーダーがそれを許さなかったからだ。

 

 リリベット・ホワイト。

 アスランたちよりも2つ年上であり、地球からやってきた留学生。ナチュラルでありながら、そのトップクラスの能力でクラスのリーダーに君臨していた白銀の少女。

 彼女は地球出身のナチュラルであっても、コーディネーターにそこまで偏見(へんけん)の目を持たない珍しい人物であり、飛び級で授業を共にすることの多いキラとアスランのことも弟のように面倒を見てくれていた。

 

 それに、何より彼女は優秀だった。

 2年離れているとはいえ、その成績は両親に最高のコーディネートを施されたアスランを上回るものである。

 素直に(なつ)いたキラとは対照的にアスランは彼女に少しの対抗心を抱きながらも、初めての自分と同格以上の歳上の友人ということでその存在は年々大きなものとなっていた。

 

 その後、リリベットとの付き合いは、キラとアスランが機械工学を専攻してからも続いた。何せ2人の進む先には、常に彼女が『先輩』として存在していたからだ。

 

 きっかけは、アスランが作った"トリィ"という鳥型ロボットと"ハロ"という小型ロボットの存在である。

 

 アスランとしては趣味で偶然に作成した物なのだが、キラもリリベットもそれらを大層気に入ったようであり、アスランは日頃お世話になっているという意味も込めて、キラには"トリィ"を、リリベットには"ハロ"をプレゼントしたのだ。

 

 それがきっかけでリリベットも機械工学に興味を持ったようで、アスランたちが機械工学を選択した時には、ハロに更なる改良を加えマルチタスクに対応するように改造していたほどだ。

 

 

 

 

 しかし、そんな3人の関係は今から6年前、アスランが12歳の頃に終わりを告げた。

 

『お父さんもお母さんも、ちょっと気が早すぎると思うのよね』

 

 別れの日、彼女は14歳とは思えない大人びた口調で言った。雪のような白銀の髪、どこか勝気そうでいて、大人っぽくなってきた顔立ち、()き通るような瞳が印象的だったのを覚えている。

 

『大西洋連邦か…地球に帰るのは久しぶりだけどさ』

 

 理由は彼女が地球にある大学に進学することが決定したことだ。両親が決定したことらしく、明らかな奇才(きさい)を持つリリベットをさらにいい学校に入れようという考えなのだという。

 

 プラントにある大学に来ればいいじゃないか、とアスランは言った。それはきっと、あまりにもリリベットが優秀すぎる故にナチュラルということを忘れていたからだ。

 

『気持ちは嬉しいけど…私、ナチュラルだし』

 

 当時は今ほど厳正されてはいなかったけれど、ナチュラルがプラントに入国することなんて、やはり禁止されていた。アスランは、それとなくレノアに尋ねてみたが、母は悲しい顔で首を横に張るだけだった。

 

 キラは泣いていたし、アスランも今だから言えるが、こっそり自室で泣いていた。

 

 何せ、その理屈で言うのなら、コーディネーターである2人とナチュラルであるリリベットがまた会える確率は著しく低いものだったからだ。

 

『大丈夫。地球とプラントが戦争になんてならなければ、月でも地球でも…それこそプラントでも会えるわ』

 

 うん…とキラは頷いていたが、アスランはそれが難しいんじゃないかとそれとなく勘付(かんず)いていた。たまに会う父から、それはもう大西洋連邦のめちゃくちゃな言い分に対して漏らす愚痴(ぐち)を聞いていたから。

 

『もう、キラもクヨクヨしない! 今生の別れってわけでもないんだから』

 

 リリベットは(うつむ)いたキラを励ますように言った。

 

『きっとまた会えるわ。また、3人で…きっとね!』

 

 その言葉に込められた希望が、少しだけキラとアスランを慰めてくれた。やっと目を上げて見ると彼女は綺麗(きれい)な銀の目を細めて笑った。

 

 –––––きっとまた、会える。

 

 そう信じて別れた。

 だから、キラもアスランもまた会えると信じて2人きりの時を過ごした。

 

 あの"ニュース"を聞くまでは–––––。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 潮の匂いが混ざる海風が吹く街、ディオキア。

 その一角に、モダンな雰囲気を(かも)し出す一件のカフェバーがあった。内装も外装も、今どき(めずら)しく、全て天然の木材で(そろ)えられている。

 照明の光量は絞られ、()茶色のニス塗りが(ほどこ)された店構えは、敷居(しきい)の高そうな(おもむき)があった。

 

 木製の扉を開け、アスランは店内に足を踏み入れた

 

 そのまま数歩足を進めると、サングラスを外して店内を見渡した。サングラスをしていては薄暗(すうぐら)い店の中が殆ど見えないからだ。ほどなく、アスランは待ち合わせの相手を見つけた。

 

 アスランは白銀の髪を持つ女性の座るボックスシートまで行くと、その向かい側に腰を下ろした。

 

「待たせてすまない」

「お姫様はちゃんと届けてきたの?」

「…ああ。できれば、彼女のことは、黙っていてくれると嬉しい」

「ふーん、訳ありみたいね」

 

 ま、いいけど––––とリリベット・ホワイトは微笑んだ。その姿が幼少期の思い出に重なり、アスランはどこか目を細めながらも「助かる」と頭を下げる。

 

 ここディアキアの街並みで思わぬ再会を果たした2人は、とりあえず居場所を変えてこのカフェで語り合うことにした。

 アスランとリリベットの関係を知らぬミーアには、基地で彼女のプロデューサーに引き取ってもらっている。ミーアは不満げだったが、必ず埋め合わせはすると約束して何とか納得してもらった。

 

 ウェイトレスが注文を取りに来たので、リリベットはコーヒーを、アスランは紅茶を頼んだ。テーブルにそれぞれの飲み物が並ぶのを待ち、それからアスランが言った。

 

「それで、リリー。単刀直入に言うが、君は今までどこにいたんだ?」

「…いきなりね」

 

 リリベットは困ったように苦笑(くしょう)する。 

 

 背が伸び、一人前の大人として成長したアスランの姿は、しかし、記憶にある性格と全く変わらない。一人称が『僕』から『俺』に変わったのも、時間の流れゆえの変化なのだろうと、彼女は思った。

 

「あの日、ニュースで君の乗っているシャトルが事故で行方不明になったと聞いて、俺もキラも、クラスのみんなもすごく心配していたんだぞっ!」

 

 あの別れの日の後、リリベットの乗ったシャトルが事故で行方不明になったというニュースがコペルニクスに流れているのを見て、学校に通う誰もが言葉を失った。

 すぐに捜索隊が向かったものの、シャトルの痕跡ひとつ残っておらず、この件はそのまま行方不明事故として終わってしまったのだ。

 

 当時、アスランは納得できずに、無理を承知で父に話をした結果、その事故に人為的な事情が(から)んでいる可能性が高いという話をされた。ナチュラルとコーディネーターの共存が進む月をよく思わない人間の仕業なのかもしれない…と。

 

 今思えば、そこにブルーコスモスによる人為的なテロが関係していた可能性が高いという報道が、アスランがナチュラルへの偏見を持つ始まりだったのかもしれない。ザフトへ入隊する理由の一つにも…。

 

「…それは悪かったと思ってるわ」

 

 少し怒鳴(どな)り気味になったアスランの声に、リリベットも少しの罪悪感を込めて謝罪した。

 

「私だって、最初は後から連絡くらい入れるつもりだったの。でもまさか、地球とプラントで戦争が起こるとは思ってもみなかったから」

 

 それはそうだが、とアスランは言葉に()まった。

 

 あの頃は、キラもアスランもまさか本当に戦争が起きるとは思ってもいなかった。今は亡き父パトリックにしても、当時はそこまでナチュラルに対して敵意も憎悪(ぞうお)も向けていなかったのだ。

 各地で小さな小競り合いが起きるにしても、まさかそれが国同士の本格的な武力衝突に発展するとは誰が想像できただろうか。

 

「あの状況でナチュラルの私がプラントに行こうなんて言っても誰も許してくれないし、仮に私が生きていたと知ったとしても、貴方も私に会いにこれる状況じゃなかったでしょ?」

「…そうだな」

 

 あの時の父はもはや"ナチュラル"という単語にアレルギーの(ごと)く反応していた。例え息子の旧き幼馴染といえども、ナチュラルであるというだけで関係を断つことを命令するだろう。

 

「今まで、ずっと地球へ?」

「ええ、運のいいことに戦争に巻き込まれることはなかったわ」

「…そうだったのか、それはよかった」

 

 なら尚更(なおさら)、2年前に"ジェネシス"の発射を止められてよかったと思う。復讐に狂ったとはいえ、リリベットと交友のあった父に幼馴染を撃たせるなんて真似をさせるわけにはいかなかった。

 

「それでアスランは? やっぱりザフトにいるの?」

 

 リリベットの言葉にアスランは小さく頷く。

 

「そう…。何故、とは言わないわ。色々あったんですもの」

 

 色々とは『血のバレンタイン』や『ヤキン・ドゥーエ攻防戦』のことを指しているのだろう。リリベットの表情に苦いものが浮かぶ。

 

「…怒らないのか?」

「ん? 何をよ」

「俺が…僕が戦争しているということをだ」

 

 2年前、ヘリオポリスで友と再会した際に、ザフトに所属して戦争をしていることを強く批判(ひはん)されたことを思い出す。

 当時のザフトといえば、ナチュラルを滅さんとする勢いで地球軍と戦っていたのだ。それをナチュラルのリリベットによく思われないことは覚悟している。

 

「…はぁ、やっぱりアンタの頭ハツカネズミは治ってないようね」

 

 しかし、彼女はそんな様子は見せずにこれ見よがしに大きなため息を吐いた。

 

「私だって、プラントに行けなくてもアンタの情報くらい調べられるわ。ラクス・クラインと共に戦ったジャスティスのパイロットさん?」

「お前、それは…っ」

 

 自分の経歴を言い当てられ、アスランは胸がドキリとした。

 プラント…特にザフトの人間に知られていることは、ルナマリア等の反応で理解していたが、まさか地球に住むリリベットにまで自分のことが知られているとは思ってもいなかった。

 

 だが、リリベットはあっけらかんとした様子で当たり前のことのように言った。

 

「ザフトならみんな知ってることでしょ? なら、私だって知ってるわよ」

 

 それは逆にいえば、ザフトに所属してでもない限り知り得ないということでもある。それを地球住まいのナチュラルであるリリベットが知っているということは………。

 

 その時、アスランの脳裏に、幼少期の思い出が(よみがえ)った。

 月の幼年学校で、その頭脳ゆえに教師に内緒(ないしょ)で彼女がこっそり行っていたことといえば…。

 

「お前…まさかハッキングしたのか!?」

「"もう"してないわよ!? 人聞き悪いこと言わないで、たまたまプラントの知人にヤキンの話を聞いただけよ!」

 

 が、そんな最悪の考えは本人よって即座に否定された。

 それを聞いて安心する。もしそんなことをしていたとなれば、"フェイス"として彼女を見逃す訳にはいかなかったからだ。

 

「まったく、失礼しちゃうわね」

「それは…悪かったな。どうしても6年前のイメージが抜けきらなくて」

 

 目を()じれば、今にもあの頃の記憶を思い出せる。

 もうあの時の3人が揃うのは叶わぬことだと(あきら)めていたが、こうして再会することができた。

 

「あれから6年か…あ、そういえばキラは? プラントにいるのかしら?」

「ああ、あいつは…」

 

 ––––キラ、死んだと思っていたリリーに会えたぞ。

 

 アスランは、遠き地にいるであろう友に思いを()せる。

 あの時から一番リリベットに会いたがっていたキラに、すぐにでもこの再会のことを伝えたいと思いつつも、ザフト軍"フェイス"という身がそれをなかなか許してくれない。

 

「–––––あいつなら、今はオーブさ」

 

 だからこそ、今のアスランは友の居場所をそれとなくリリベットに伝えることしかできなかった。

 

 

 

 

 





>リリベット(フブキ)
愛称はリリー。
アスラン視点が主な時は、リリベット表示。
それ以外ではフブキ・シニストラ表示として書き進めていきます。

>アスラン、キラ、リリベット
コペルニクス幼年学校の天才トリオ。
リリベットと別れた一年後、アスランがプラントへ避難。キラはヘリオポリスへ。


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さまよう眸


皆さんの高評価のおかげで続けての投稿です。
まぁ、今回は原作通り…というより省略できないでしょってところを書きました。

一方、その頃…ってやつ。


 

 

〈私は、過ぎたことをいつまでもネチネチという男ではないがね…〉

 

 モニターの向こうで、言葉に反して男はねちっこい調子で言った。

 

〈……だが、失敗にいつまでも寛大なわけでもない〉

「は……」

 

 地球連合軍空母"J.P.ジョーンズ"の中に与えられた自室にて、ネオは神妙(しんみょう)そうな面持ちを作ってその言葉を聞いていた。通信の相手はロード・ジブリール。ブルーコスモスの盟主にして、ネオたち"ファントムペイン"の『主人』だ。

 

〈ここ最近の戦果も、まあ、仕方ないさ。戦闘となれば敵も必死だ。そうそう君の思った通りには行かんだろう。それも、分かってはいる〉

 

 だが––––と来るのだろう、とネオは白けた気分で思う。ジブリールは目を上げ、モニター越しにネオを睨むように見据(みす)えた。

 

〈だが、目的は達せられなければならないのだよ? 全ての命令は、必要だから出ているのだ。遊びでやっているわけではない〉

「ええ、そのことは充分に––––」

 

 言いかけたネオの言葉を横取りして、ジブリールは嫌味っぽく言う。

 

〈––––分かっているというのなら、さっさとやり遂げてくれないかね。言われた通りのことを。でないと、こちらの計画もみな狂う〉

 

(計画ねぇ…)

 

 ネオは正直、うんざりしながら思う。

 『勝負は水物』と、誰かこういう口だけの偉い人たちに教えてやってはくれまいか…と。

 

 大体、脅威の戦力(ガンダム)を持つソレスタルビーイングの登場は、この人たちの計画表には書かれていたのか? ユーラシア西側の反乱は? ザフトの対応の早さは?

 

 自分たちに都合のいい青写真を引いて、それに現実が合致(がっち)しないからといって、(した)()を責めるのは勘弁(かんべん)して欲しい。

 

 だがジブリールは徐々(じょじょ)に怒りを募らせ、語気を荒くする。

 

〈あの"ミネルバ"は今や、正義の味方のザフト軍だなどと、ソレスタルビーイングに対抗できる唯一の勢力として祭り上げられ、ヒーローのようになってしまっているじゃないか。全く、コーディネーターどもの艦だというのに!〉

 

 まるで口にするのも汚らわしいといった調子で、ジブリールは吐き捨てる。その言葉に連合やファントムペインは含まれておらず、現状においていかに連合が小さな戦力と化しているかが(うかが)える。

 

「しかし…それほどまでに"ガンダム"は強敵です。ザフトなどよりもはるかに」

 

 ネオは意味ありげに返した。

 それが事実だからだ。前線で一度刃を(まじ)えたが、ネオのストライクEは勿論、ザフトから強奪したカオス等でも相手にならないガンダムという存在は指揮官の立場からして十分に脅威だった。

 

 ジブリールは一瞬ムッとした表情になったが、すぐにせせら笑うように言う。

 

〈ネオ、確かに君の言うことも分かるが、相手はたかがモビルスーツ四機だ。コーディネーターどもを始末した後にどうとでも料理できるさ〉

「それは…」

 

 ネオとしては賛成しかねる発言だ。

 ジブリールは"たかが4機"というが、その"たかが4機"で世界を混乱させているということに気がつかないのか。そもそも敵が四機だけと誰が決めたのか。

 浅慮(せんりょ)が過ぎるジブリールには呆れるばかりだが、立場上ネオは彼に口答えすることはできない。

 

〈既にスエズから増援を向かわせている。データは君のところにも送っているはすだが?〉

「は…しかと」

 

 確かに届いてはいる。

 ウィンダム20機、ダガー30機の計50機と新型モビルアーマー'ザムザザー"2機と"ゲルズゲー"2機の計4機。更に追加で空戦用モビルスーツ"レイダー"と水中用モビルスーツ"フォビドゥンヴォーデクス"。基地攻略戦でもするのではないかという布陣だ。

 

〈これだけの数だ。今後こそ撃てよ、ネオ。そのためのお前たちだということを、忘れるな〉

 

 ネオは密かに溜め息を吐きつつ、答えた。

 

「ええ…肝に銘じて」

 

 フンッと鼻を鳴らしてジブリールがモニターを切る。

 その後もネオは暫く暗くなったモニターを(にら)みつけていた。この仮面は思った以上に重宝なものだ。相手に表情を(さと)られずにすむ。

 

「随分と焦ってるな、盟主殿も」

 

 そう一言(つぶや)く。

 ネオとて、まさかここまで現実を見えていない人物だとは思ってもみなかった。いくら数を(そろ)えたところでガンダムに勝てるわけもなく、ザフトを確実に倒せるのかも疑わしい。

 このまま行けば、よくて撤退成功。悪ければ全滅といったところだ。勝率は限りなく低い。

 

(さぁて…どうするか)

 

 だが、何にせよネオたちには戦いを選ぶことはできないのだ。できることなら生き延びたいと思いつつも、戦いの中でしか生きられないという皮肉だった。

 

(噂に聞くシャーロット・アズラエルにでも鞍替えするかね?)

 

 そんな時、デスクの上にある通信端末が反応した。街へ潜入調査へ向かったスティングたちからの連絡だ。ネオは手を伸ばして、彼等と通話を繋いだ。

 

「どうした…?」

 

 そこで分かったのは、やはりディオキアの基地にミネルバがあるというのは間違いないということ。ラクス・クラインのライブもやっていたとの報告もあったが、そちらはどうでもいい。

 

「何? ステラがいない…?」

 

 何せ、そんなことよりももっと重要なことがスティングから知らされたのだから。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 シンは基地で借りたバイクを()り、海沿いの道を辿(たど)っていた。

 身体に吹き付ける風と疾走感、エンジンの響きが五感を満たし、その視線は風景を切り捨てて路面に集中する。いつもなら余計な雑念や(なや)みは振り捨てられ、自分が空っぽになる瞬間だ。

 

 だが、今シンの頭の中では色々な思いが、ぐるぐると出口もなく渦巻(うずま)いていた。

 

 ZGMF-X42S デスティニー。

 それがインパルスに代わるシンの新たな(つるぎ)である。自分の働きが議長に評価されたことは嬉しい。あのアスラン・ザラと共に新型機体を受け取るということは、自分もそこまで彼に劣っているわけではないということだ。

 

 しかし、先日知った"とある事実"が、シンにどうしようもない(むな)しさを抱かせた。

 

(オーブでクーデター…アスハとセイランが?)

 

 自分の知らない間に、故郷に危機が(せま)っていたというのだ。

 オーブが連合に参加したことは知っている。あれだけ中立を叫んでいた癖にどういうつもりなのかと嘲笑う気持ちと、これでもう連合に国を焼かれることはないと安堵(あんど)する思いがあった。

 

 だというのに、オーブは今度は内戦で戦火を自国にもたらしたのだ。あまりもの馬鹿さ加減に怒りと悲しみ、多くの激情が(うず)となってシンの心に吹き荒れていた。思わずアスランに八つ当たりしてしまったのも、無理からぬことである。

 

(何やってるんだ、アスハは!)

 

 かつてオーブに住んでいたシンだが、セイランなどという家名は知らない。かつてはアスハが政治の中心だったし、ウズミが引退した後もシンたち一般市民はそのように受け止めていたからだ。

 

 アスハ嫌いを公言するシンだが、かつて国を焼いた連合に尻尾を振るようなセイランは話を聞いているだけでも不快な相手だ。セイランをよく知るアスランも顔を(しか)めていたようだし、きっとアスハが可愛く思えるような嫌な奴なのだろう。

 

 そういう意味では、アスハとセイランの争いにアスハが勝利したのはシンにとっては良いことだったのかもしれない。少なくともアスハは国民を巻き込まないために最後まで銃を取らなかったという。

 

 そして、代わりにセイランを沈めたのは…。

 

(ソレスタルビーイング…っ)

 

 ガルナハンでシンたちが戦ったタイプとは違うガンダム。彼等が同時期に別動隊がオーブでのクーデターに介入したらしい。

 そして、そこにはきっと、ユニウスセブン落下の時に助けられた青色の機体もいたのだろう。

 

 デュランダル議長は、彼等のことをテロリストと言った。実際、その通りなのだろう。それを否定することはできない。

 

 だが、彼等の存在によって戦争が減りつつあるということも事実だ。オーブでのクーデターでは武力介入し、結果論とはいえ、その圧倒的な力でオーブの危機を救っている。

 

 もしもセイランのクーデターが成功していればあのアスハこそ政治の世界から追い出することになっただろうが、代わりにその席に座るのはセイランとなる。

 そうなれば、連合と組んだオーブはその剣をこちら…プラントに向けることになると、アスランが苦い顔でそう言っていたのを思い出す。

 

 シンはそんな故郷を見たくはなかった。

 だからこそ、ザフト軍人としての心情とは別に、ソレスタルビーイングに(わず)かに感謝する気持ちがある。

 戦乱のオーブをガンダムという、かつて望んだ力の具現化のような機体で救う彼等の姿は、シンにとって理想の姿だった。

 

(…いや、あいつらは敵だ…っ)

 

 そこまで考えて、シンは強く頭を横に振る。

 議長はあんなことを続けても決して戦争はなくならないと口にした。アスランは力はただ力でしかないと言った。ハイネはただ己の正義を振り回す破壊者と吐き捨てた。

 だから、彼等のやり方は間違っている。そのはずなのだ。

 

 波の打ち寄せる(がけ)突端(とったん)に辿り着き、シンはバイクを()めた。海の中に杭を打ち込んだような、奇岩(きがん)のつらなる(なが)めのいい場所だ。

 ヘルメットを取ると、海風が汗ばんだ髪の間を吹き抜けていく。静寂(せいじゃく)が身体を押し包み、突然身ひとつで世界に投げ出されたような心待ちになった。海鳥の鳴き声が遠く聞こえる。

 

「…声?」

 

 波の音に混じって、かすかな歌声が耳に届いた。シンはそちらに目をやる。

 女の子が一人、歌いながら踊っていた。柔らかそうな金髪と、ドレスの白い(すそ)が風にあおられはためく。少し離れた崖の上で、すんなりした腕をさし上げ、少女はさも楽しげに、くるりくるりと舞う。出鱈目(でたらめ)に踏んでいるステップは、それでも生きる喜びに満ちて美しかった。

 

「…この街の子かな」

 

 シンはしばし、()せられたように彼女に見入った。

 純粋無垢なその表情は、どこか記憶の中の妹と重なって、何故だか胸が締め付けられる。

 シンは、彼女から海の向こうへ視線を転じ、ため息をついた。

 

 ––––––––あっ…!?

 

 かすかな叫び声がして、彼は何気なく視線を戻す。僅かの間にさっきの崖の上から、少女の姿が消えている。

 

「……えっ!?」

 

 まさか、と思いつつ、シンはバイクを置いて走り出す。少女ごさっきいた場所へ、岩を辿(たど)って向かいながら、彼は首を伸ばして下を(のぞ)きこんだ。

 崖の突端にたどり着くと、打ち寄せる波の合間に金の頭が見える。

 

「えええーっ! 嘘だろ!? 落ちたあぁ!?」

 

 シンはあまりのことに唖然(あぜん)として崖から身を乗り出す。水の中で少女は必死にもがくが、打ち寄せる波がその頭に被さる。そして、それきり浮かんでこない。

 

「って泳げないのかよっ!?」

 

 崖の高さは十メートルくらいだろうか。少しは高いが、コーディネーター…それも軍人であるシンにとっては問題のない高さだ。

 

 シンの中にある選択肢は一つだ。

 

 ––––海に飛び込んで、少女を助け出す!

 

 シンは急いで上着を脱ぎ捨て、迷うことなく群青の海へとその身を(おど)らせる。

 

 海面が噛み付くように身体をうつが、シンはそれに構わずに水中へ身体を潜り込ませる。波間に(しず)んでいく少女の姿を見て、その方向へ懸命(けんめい)に抜き手を切る。暴れる少女の手足が顔や足にあたるが、その痛みさえ感じる余裕がない。

 

 少女はパニックに陥っているのか、めちゃめちゃに手を振り回してシンにしがみつこうとするが、シンはそれを逆に利用して、少女を海上に引っ張り出す。

 

「はぁ、はぁ…一体何だよ」

 

 ようやく大人しくなった少女を抱いて、シンは何とか浅瀬(あさせ)まで辿り着いた。少女はひとしきり暴れ尽くしたせいか、ピクりとも動かない。最悪の事態を想像したが、呼吸はしっかりしているようだ。

 

「死ぬって言ったら暴れたよなぁ…この街の子じゃないのか?」

 

 自分で言うのも何だが、シンは自分のことを割と怒りっぽい性格をしていると認識している。ムッとすれば文句は言わずにいられないし、カッとすれば口からは暴言が出ることも多い。

 

 だからこそ、シンは焦りや疲れもあって、つい少女に「死ぬ気か、このバカ!」と怒鳴(どな)ってしまったのだ。すると、「死ぬのはイヤっ!」と少女はますます暴れ出してしまう始末。

 もしかすると、少女が戦争で何か心に傷を負っている子供なのかもしれない。そこまで考えて、軽率な発言をしてしまったと、シンの胸が痛んだ。

 

 だから、始まりは軽い贖罪(しょくざい)のつもりだった。

 

「大丈夫…君は俺が守るさ」

 

 それは無意識に妹を重ねていたからなのか。

 この時、シンは自分の全てをかけて、この、今にも砕け散ってしまいそうな(はかな)い命を守ろうと思ったのだ。

 

 

 

 それはきっと、シン・アスカとステラ・ルーシェにとっての運命の出会いだった。

 

 





>ジブリール
まだ現実を理解していない(アホ)
裏にデストロイあるから大丈夫だと思ってる?

>ネオ
もうやだこの上司。
アズラエル派に鞍替えすることを検討中。

>シン
アスハとセイランなら、苦渋の決断の末にアスハなシン君。
ソレスタルビーイングのやり方って…(?)


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あんなに一緒だったのに


もうすぐ試験…試験だぁ。
更新したいのに、頭の中がまとまらない。モチベーションが出ない。
→つまり、ヤバい。



 

 

 やはり嘘というのは、嫌いだ。

 一度は捨てたはずなのに、幼馴染とも思わぬ再会で再び"リリベット・ホワイト"の仮面を(かぶ)らなければならないなんて…。

 自分という存在に嫌悪感さえ抱きながらも、フブキはポーカーフェイスを保って会話を続ける。

 

 先程アスランはザフトとして軍に入ったことを怒っているかと聞いたが、それはこちらのセリフだ。

 

 アスラン・ザラ。

 元ザフト軍クルーゼ隊。あの"ストライク"を討った功績(こうせき)でネビュラ勲章を授与され、特務隊(とくむたい)へ配属される。

 その後は、ZGMF-X09A"ジャスティス"を受領し、ラクス・クラインの言葉に同調して軍を脱走、戦争を止めるために第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦を戦い抜いた。

 

 フブキはアスランがそのような経歴を持っていることを知っているが、アスランはフブキがソレスタルビーイングのガンダムマイスターであることを知らない。

 守秘義務があるためにフブキはそれを一切口にする気はないし、フブキ自身もアスランには今の自分を知って欲しいとは思わない。

 

 だから、ここディオキアでアスランに会ったのは本当に偶然だったのだ。本当は死ぬまで会うつもりはなかったというのに…。

 

「オーブ…? それって大丈夫なの?」

 

 アスランの話すキラの居場所について、フブキは思わず心配の声を洩らしていた。

 

 てっきりアスランと共にプラントへ向かったのかと思っていたが、まさか今話題のオーブ連合首長国にいるとは…。いや、アスランと違って両親がナチュラルという以上、あそこほど都合のいい国はないかのも確かなのだが。

 

 だが、確かに2年前までは中立を(うた)っていたかもしれないが、今や大西洋連邦と同盟を結んだ国である。今すぐ追い出されるということはないだろうが、国内でのコーディネーターの居場所は狭く小さなものになっているはすだ。

 

 つい先日、仲間たちが武力介入に向かったということもある。オーブはもはやかつての"平和の国"ではないのだ。フブキにとって、そんなところにキラを置いておくのは心配だった。

 

「お前の気持ちもわかる……」

 

 アスランは少し影のある笑顔で返した。

 

「けど大丈夫さ…オーブにはカガリがいる」

「カガリ・ユラ・アスハ…オーブの姫ねぇ。知り合いなんだっけ?」

 

 脱走艦"アークエンジェル"と"エターナル"、オーブの元輸送艦艇"クサナギ"–––––––通常、三隻同盟の一員として共に戦争を終わらせるために戦った"英雄"。

 

 それが今の幼馴染の姿なのだ。例えオーブの姫と知り合っていたとしても驚きはしない。

 

「あぁ…俺の大切な仲間だ」

「……そっ」

「アイツがいる限り、オーブは大丈夫だ。俺は、そう信じている」

 

 その言葉に秘められた(おも)いを理解し、フブキは幼馴染の心の成長を感じ取った。それと同時に彼の不器用さは全く変わっていないことに内心で大きなため息をつく。

 

「なら、アンタはさっさとザフトなんかやめてオーブに帰るべきね」

「…え?」

 

 思わず口を出してしまい、ハッとした時にはもう遅かった。アスランが目を丸くしてこちらを見ている。

 

「……いえ、気にしないで。これは私の意見よ」

「そうか。だが、俺はプラントを…」

 

 これ以上はプライベートな問題だと分かっていた。

 でも、6年前のあの日まで、彼の面倒を見ていた身としては口を出さずにはいられなかった。

 

「はぁ、いっつもアンタは考えすぎなのよ。本当に守りたいのがなんなのか、心の底では分かってるんじゃないの?」

「………」

「オーブの姫さまのこと、心配なんじゃないの?」

 

 (うつむ)くアスランの心情を、今のフブキでは完全に理解することはできない。それはもう、別の誰かの役割なのだろう。だからこれは、ただの感傷(かんしょう)なのだ。

 

 そも、今の自分にアスランに口を出す資格などないのだと、フブキは己を恥じた。

 

「ま、私は軍人じゃないし、これ以上口を出す気はないわ」

「…すまない」

「全く、何に謝ってるんだか…相変わらず生真面目馬鹿ね」

「………」

「………」

 

 自然と減った口数。無口な方のアスランに対して、フブキが言葉を止めれば、その場は視線と沈黙が包み込んだ。

 

 それから少し、沈黙の時間を破ったのは、アスランの通信端末へ入った一つの連絡だった。

 

「通信?…はい、こちらアスラン・ザラです…え、シンがエマージェンシーを!?」

 

 入ったのは軍からの連絡らしい。それも緊急を要するような様子だ。シン、というのは仲間の名前だろうか。

 

「…えぇ、分かりました。しかし、エマージェンシーとなると緊急を要します。こちらも独自に捜索しますが、よろしいでしょうか……えぇ、発信地点へは私の方が早いので…はい、任せてください」

 

 完全に軍人モードに移ったアスランをよそに、そろそろ潮時(しおどき)かとフブキは荷物をまとめて立ち上がる。元々長居をするつもりはなかったのだ。

 

「…リリー、行くのか?」

「ええ。貴方も用事、できたんでしょう?」

「ああ。…ディオキアにはいつまで?」

「私も仕事でね。もうすぐここは離れるわ」

 

 ミネルバが発進すると同時にフブキたちも機体を隠しているソレスタルビーイングの基地へ移動することになる。アスランとはここでお別れだ。

 

「そうか。せっかく会えたのにすまないな」

「仕方ないわ。…大丈夫、互いに生きてさえいれば、また会えるもの」

 

 また、会える…なんて笑ってしまう。自分はこうして、またも彼に嘘を吐くのだ。

 

 いや、ある意味嘘ではないのかもしれない。

 

「ああ、また会おう。今度は、キラも一緒に」

「ええ、じゃあまた」

 

 そう、今度会うのは、きっと戦場だ。

 リリベット・ホワイトではなく、フブキ・シニストラとして出会うことになる。ソレスタルビーイングのガンダムマイスターとして…。

 

「………さようなら、アスラン」

 

 それを思うと、幼馴染との6年ぶりの再会ですら、(せつ)なさと悲しさで胸が締め付けられる。

 

 けれど、今の自分はソレスタルビーイングのガンダムマイスター。フブキ・シニストラ。

 

 目指す目的はただ一つ。

 

 ––––––戦争の根絶。

 

 そのためならば、どんな痛みも乗り越えられる。

 

 フブキはそう信じて、胸の痛みを誤魔化(ごまか)した。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

「……ここか」

 

 ディオキアから少し離れ、マルマラ海からゲリボル半島を()えると、いくつもの島が散らばるエーゲ海に出る。

 

 その上空を地球軍用モビルスーツ、ウィンダムがゆっくりと飛翔(ひしょう)していく。セレーネのマイスターであるシエルは、(きら)めく青い海を下方に(なが)めながら、海岸線に沿って飛行を続けた。

 

 今回の任務は武力介入ではなく、シエル自身がヴェーダに申請した探索ミッションであるため、ガンダムセレーネではなく、組織の所有する非太陽炉搭載機体を使用している。

 

 目的地は北方に延びる山脈の(ふもと)近くだ。

 眼下を家々や耕作地が流れ、やがて森や荒れ地が目立ち始める。めっきり人の気配が絶えた雰囲気(ふんいき)のなか、木々の向こうに開けた場所が見えてきた。

 

「間違いない…この場所だ」

 

 一応、注意して上空を旋回(せんかい)したが、攻撃の気配はない。いや、それどころか、かなりの広さの敷地(しきち)内には人影(ひとかげ)ひとつ見当たらない。

 立ち並ぶ建造物はどれも古びた印象で、アスファルトで整備された地面も随分と(いた)みが目立つ。それは、ここが当の昔に廃棄(はいき)された施設だからだろう。

 

「…ロドニアのラボ、か」

 

 シエルは小さく呟き、施設内へウィンダムを降下させた。

 

 機体から降り立つと、静粛(せいしゅく)が彼の身体を押し込んだ。人を不安にさせる嫌な空気だ。

 

 しかし、シエルはそれを全く気にせずに並んだ建物の内の大きめの方の施設へ足を踏み込んだ。外観上こそ大きい施設だが、目指す場所は地下にある。

 

 地下へ入ると、階段を降りる段階でも(ただよ)っていた異臭が、シエルの嗅覚(きゅうかく)に暴力的に襲いかかる。血と……腐っていく屍肉の臭いだ。手にしていたライトが床を()め、そこがどす黒く染まっているのを見せつける。

 

 そして、その上に折り重なるものを見て、さしものシエルも顔を顰めた。

 

「…くっ」

 

 それは、半ば折り重なるように倒れている二つの死体だ。10歳前後の子供が、片目のあった空洞(くうどう)血溜(ちだ)まりに変え、ほっそりした手足を妙な角度に投げ出して、仰向けに倒れている。その足に重なるように頭をもたせかけた男は、白衣を血に染め、こちらに生気のない虚な目を向けていた。

 

 怒りにギリギリと歯を食い縛りながらも、シエルは奥へ進むことを選んだ。

 

 点いたままのコンピュータ画面から放たれる光が、薄く室内を照らしている。部屋の至る所に死体が転がっていた。大人のものも、子供のものも。腐敗(ふはい)が始まっているが、死んでからまだ数日と経過してないだろう。

 

 ひび割れたガラスケースの中に、何か液体で満たされ、奥に白っぽいものが浮かび上がる。その正体は、身体の至る所にチューブを繋がれた子供–––––その死体だ。ガラスのような目を見開き、液体の中を(ただよ)っていた。

 それも一人ではない。

 壁を取り巻くように()えられた長いケースの中には、様々な年齢、性別の子どもがずらりと並んでいた。その様はまるで博物館の展示ケースを思わせる。

 

「やはり、自爆に失敗したのか…」

 

 セキュリティールームの中、端末(たんまつ)を操作したシエルはこの状況をそう結論つけた。

 おそらく、自爆させようとする大人とそれを阻止しようとする子供の間で内乱が発生したのだろう。

 

「くそっ…なら」

 

 シエルはコンピュータを操作し、目的のデータを画面に映し出す。

 

 それは、多くの子どもたちの個人データ。

 ブースデットマンとも、エクステンデッドとも呼ばれる、戦うための子供たち。薬物や洗脳、様々な違法な手段でもって連合…ブルーコスモスが造り上げた生きた兵器。戦うためだけの人間。

 

 ここ(ロドニアのラボ)は、その製造施設ともいえる場所なのだ。

 

C.E.(コズミック・イラ)70年12月22日、12番体、廃棄処分……違う。もっと最近なのか?」

 

 被験体の入出記録。

 それは、施設に居られれば『入所』、不要になれば『廃棄』という意味とさて扱っているのだ。虫唾(むしず)が走る思いだ。

 

「これは…彼等はっ」

 

 そのとき、スクロールした画面の中に、見知ったデータを見つけ、シエルは目を見開く。

 

 GAT-X370 "レイダー"–––––その搭乗者についてまとめられたデータだ。()えられた写真の中から、赤い髪の、まだ幼さを残す少年の姿が見えた。

 

「クロト…君もか」

 

 その少年は、シエルにとって同胞であり、同年代の仲間だ。そこまで親しかったわけではないが、知り合いではある。彼にその記憶が残っていたのかは分からないが…。

 

 そして、レイダーといえば、2年前の大戦で地球軍の主力モビルスーツとして活躍し、その(すえ)に撃墜されたとされている。つまりクロトはもういないのだ。仮に生きていても、その後も薬漬けにされて、死ぬまで永遠に戦い続けることになっていたかもしれない。

 

 ブルーコスモスにとって、彼等は生体CPUという部品なのだから。

 

 シエルの頭に過去の記録が呼び起こされる。

 身体中にコードをつけられ、薬や洗脳だけにあらず脳みそまで弄り回される自分。

 同じ処理を受け、耐えられずにどんどんと死んでいく子供たち。

 直接神経に触れられた時の悪寒(おかん)と苦痛。

 

 そして、自分を見捨てた両親の代わりに守り抜くと(ちか)った妹の、変わり果てた姿。戦えと命じられ、自分を兄と認識してなお、ナイフを片手に迫る少女の姿を前にして…。

 

 だからシエルは、仲間を、妹を見捨てて施設(しせつ)から逃げ出した。「処分」から(のが)れるために。全ての「怖いもの」から目を(そむ)けるために。

 

「–––––……」

 

 シエルは痛みに怯えるように目を閉じた。

 今更、過去を悔やむな、と自分で自分を叱咤(しった)する。過去は取り戻しようもない。だから、今を見据(みす)える。これからなすべきことに覚悟を決める。自分がすべきことは十分に理解していた。今日ここにいるのは、過去との決別のためなのだ。

 

 となれば、シエルの取るべき道は二つに一つだ。

 また後悔に背を向け、逃げるか。それとも立ち向かうか。

 

 逃げれば–––––ブルーコスモスは、また強化人間を造り出すことを続けるだろう。今も次々と子供たちが「実験」「教育」と称して改造を行われ、「処分」と称して殺されている。仮に生き残ったとしても、歪んだ教育を(ほどこ)された彼等は、"エクステンデッド"として戦場で敵の兵士を容赦(ようしゃ)なく殺し続ける。

 

 立ち向かうことを選べば、自分は心を鉄にして彼等を殺すことになる。ロドニアだけではない。ブルーコスモスは完全に壊滅(かいめつ)させる。

 その中には、自分に優しくしてくれたあの金髪の女性…「母さん」もいるかもしれないし、自分の後輩…緑髪の彼(スティング)青髪の彼(アウル)もいるかもしれない。或いは、自分の妹である彼女も…。

 

 どちらにしても人は死ぬ。

 

「………()()()

 

 シエルは、苛立ち混じりにコンピュータを殴り付けた。そして、そのまま無言で部屋から出ていく。

 

 彼はまだ、心を決められないでいた。

 

 

 

 

 





>フブキ
別にアスランを恋愛的な意味で好きだったとかはない…はず。
幼馴染は負けヒロインだった…?

>シエル
世代的には"ブースデットマン"と分岐した強化人間。
薬物や肉体改造は勿論、脳味噌まで弄られている。高い空間認識能力を手に入れられるのが特徴といえば特徴かもしれない。
今は、CBで治療されているために身体は完治。それでも全盛期に近い動きはできる。



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迷える道筋


今回の話は次章への補完のために書いたものです。次から少しづつ動かしていきます…話をを



 

 

 走る車の中から、シンはいつまでも背後を見ていた。助けた金の少女とはどんどんと遠ざかり、その姿が小粒(こつぶ)のように小さくなり–––––今、見えなくなった。

 

 それを少し(さび)しく思いながらも、姿勢を直して正面を向く。それを見て、自身を迎えに来た上司は、やや間を開けて口を開いた。

 

「それで、休暇(きゅうか)中にエマージェンシーとは、やる時はホント、派手にやってくれるヤツだな、君は」

「別に…俺だって好きでこんなことしたわけじゃないですよ」

 

 きっと、アスランも揶揄(からか)うつもりはないのだろう。ただ、この男の前で少し"素"を出してしまったことがどこか恥ずかしくて、シンはいつものように口を(とが)らせて拒む姿勢をとった。

 

「ただ、あの子…ステラを放っておけなかっただけです」

 

 自分の行動には自分が一番驚いている。

 ザフトの軍人として戦うだけの人生––––––戦争が終わるまではそれを貫くと決めていたのに…。

 

『おにいちゃーん…!』

『シン…行っちゃうの?』

 

 妹に似た、ステラの心細げな声が、信頼しきって自分を見上げる目が、いつまでも胸を()め付ける。

 

 これまで、こんな思いを抱いたことはなかった。あんなにも強く、誰かに必要とされたことなど、いままでなかった。

 

 だからこそ、あの時だけはザフトのモビルスーツパイロットであるシン・アスカから、オーブにいた頃のただのシン・アスカに戻れたのかもしれない。

 

「ディオキアの街の子だったのか…?」

「いえ、それははっきりしてないです…ただ」

「ただ…?」

「多分、戦争で親とか亡くして…だいぶ怖い目に遭ったんじゃないかと」

 

 だって、あんなにも必死に…自分を傷つけてさえ『死ぬ』ことを怖がっていたのだ! 

 

 殺したのは連合か、もしくは自分たちザフトか…。議長の言葉を思い返せば、全ては『ロゴス』という連中に収束するのかもしれないが…どちらにせよ、彼女が被害者であることには変わりはないじゃないか!

 

「…そうか」

 

 シンの思いを(さっ)したのか、アスランはそれ以上何も言わなかった。そのことをシンは少し、彼に感謝する。

 

 シンはポケットに手を突っ込み、ステラがくれた貝殻(かいがら)を握りしめる。

 

 –––––いつか必ず、彼女に会いに行こう。

 

 戦争が終わったら––––いや、次に休暇がもらえたときでもいい。ディオキアに来て彼女を探そう、と。

 

 –––––そう、ステラ…必ずまた会える…。

 

 もう(マユ)の時ようにはいかせない。必ずこの手で守り抜くのだ。新たに手に入れたこの『力』で!

 

 海風に吹かれながら、シンはいつまでも背後(はいご)の闇を、その中に置いてきた少女の姿を見続ける。

 

「また会えるといいな…彼女に」

「はい…でも、アスランも戦争が終われば会えますよ、アスハにだって」

 

 いつもの反抗的な態度に含まれた僅かな己への気遣い。

 自分に似てどこか不器用な少年を見て、アスランは静かな笑みを浮かべながら車を基地へ向けて走らせた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

「まったく、大変なことになったな。今回は」

 

 J.P.ジョーンズの中にある一室にて、静かに眠る子供達の様子を見ながら、ネオは溜め息混じりにそう言った。

 

 ここはメンテナンスルーム。

 ステラたち"エクステンデッド"に必要な『処置』を加えるための部屋であり、ネオたちはこの施設のことを『ゆりかご』と呼んでいる。

 

「だから反対だったんですよ大佐。エクステンデッドをザフトの街で自由にさせるなんて」

「悪かったって。メンテナンスは入念に頼むよ」

 

 研究者の苦言にもやんわりと対応する。

 ステラたちを"部品"として扱い切れないネオにとって、今回の外出許可は、少しでも人生の楽しみを味合わせてやりたいという僅かばかりの仏心だったのだが、今回それが仇になってしまったというわけだ。

 

「しかしまぁ、我ながらなかなか悪いおじさんになった気がするよ」

 

 あどけない顔で眠るステラを見つめ、ネオは自嘲(じちょう)した。

 

「何が『大切なものを()ったりしない』…だか」

 

 彼等は今、何より大切もの…記憶を奪われていくというのに––––。

 

「毎度毎度、お見事ですよ」

 

 ネオの罪悪感をよそに、研究員は笑う。『悪いおじさん』ぶりを褒めてくれているのだ。

 

「それにしても、またステラ・ルーシェですか…」

「また?」

「彼女に関しては記憶操作が効きにくいので、いささか面倒なんですよね…」

「…ほう」

 

 それはネオにとっても初耳の情報だ。続きを(うなが)せば、彼はまるで仕事の愚痴を漏らすように話した。

 

「過去に随分と大きな記憶を消したようでしてね。こちらも慎重かつ丁寧に対処が求められるんですよ」

 

 操作するといっても、『記憶』というのは人間の身体上でも謎の多いものだ。ある程度の操作が可能になったとはいえ、その手順には複雑さが求められる。

 ネオには全く関わりのない話だが、研究員にとってはステラほど操作が難しい相手はいないらしい。

 

「大きな記憶、ね」

 

 ––––それを聞いて、少しだけ安心する自分がいた。

 

「おそらく肉親か何かでしょう。まぁ、なんであれ、貴重なエクステンデッドを使い物にならないような真似だけは避けなければいけませんからね」

「…そうか」

 

 結局、ステラたちに自分の人生などないのだ。

 あるのは兵器としての用途(ようと)だけ。それならば、叶わぬことに身を焦がすより、忘れてしまった方が楽なのかもしれない。

 

「次はミネルバ…そして、"ガンダム"が相手だ。しっかり頼むぞ」

 

 ネオはメンテナンスルームを出ていきながら、自分に語りかけるようにつぶやいた。

 

「あれほど死ぬのを怖がるあの子が、死なずにすむには…敵を殺し続けていくしかないんだ……」

 

 次の戦い、気を抜けばすぐに死ぬような激戦になるであろう。彼等"エクステンデッド"も兵器として前線に投入されることは決定している。

 

 ならば、今のネオにできるのはステラが生き残るように…敵を殺せるように万全な状態に『最適化』させることだけなのだ。

 

 最後に目をやると、ステラは胸にハンカチを抱き、微笑みながら眠っていた。誰かに貰った、ステラにとって大切なものなのだろう。だが、それと記憶と共に消えてしまう。

 

 それを見ていられなくて、ネオは仮面の下で小さく目を閉じた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 フェイトたちがオーブから帰還し、フブキたちと合流を果たしてから数刻。四人のガンダムマイスターは地上にあるアジトの一つ、アズラエル家所有の別荘に集合していた。

 

 地下にある情報収集機器の前には、ウェンディとヴァイオレットのヘルシズ姉妹がオペレーターとしての仕事の準備をしている。ディスプレイには、ザフト・連合の動きと、それに付随(ふずい)するデータが幾重(いくえ)にも表示されていた。

 

「どうです?」

 

 背後から声をかけられた。パイロットスーツに身を包んだシエルが靴音(くつおと)を鳴らしてフブキの側に近づいてくる。フブキは振り返らずにモニターを手で示した。

 

「見ての通りね。ヴェーダからのミッションプランが届いたわ」

「戦闘が起こると?」

「確実にね」

「場所は?」

 

 ヴァイオレットがコンソールパネルのキーを押す。ディスプレイに、小島だらけの海域が映し出された。

 

「マルラ海の入り口…ダーダネルス海峡ですか」

「既に連合の艦隊が展開しているわ。狙いは…ミネルバ」

「これまた随分とすごい布陣だな、おい」

 

 確認しているだけでも空母五隻。そこから予測できるモビルスーツの数はおよそ50機以上。更にその中には陽電子リフレクターを搭載したモビルアーマーやアーモリーワンで強奪された3機もいるだろう。そして、敵は連合だけじゃない。

 

「それだけじゃないわ。情報によると、ザフトも新型機体を投入し始めようとしているみたい」

「おそらくNジャマーキャンセラーを搭載した新型…現存する機体の中では、限りなくガンダムに近い性能を誇る機体」

 

 ヴェーダの予測では、性能自体はガンダムには及ばないとされているが、操縦するパイロット次第では敗北の可能性もあり得る。そのことを十分承知しながらも、フェイトは言った。

 

「すぐにでも武力介入の準備を」

「…これまで以上に厳しいものとなるわ。生半可な気持ちじゃ失敗するわよ」

 

 そう、いくらガンダムが最強のモビルスーツだとしても、中に乗っているのは人間である。持久戦で拘束(こうそく)されれば脱出は容易ではないだろう。

 また、先の大戦で使われた"サイクロプス"や"ジェネシス"のような大量破壊兵器を使って自爆覚悟で攻めてくる可能性だってないわけではないのだ。

 

 しかし、フェイトは揺るがなかった。

 

「それでもやるのが、ソレスタルビーイングでしょう?」

「フェイト…ええ、そうね」

 

 フブキはフェイトの言葉に頷いた。

 こちらを真っ直ぐに見つめる少女の視線が、フブキをガンダムマイスターたらしめてくれる。

 

 彼女らしい発言だ、と思うと同時に幼馴染よりも更に幼いフェイトにそんな発言させている自分にどこか腹が立った。

 

「…ミッションを始めましょう」

 

 ソレスタルビーイングが掲げる紛争根絶という理念を実現するためには、こんなところで()れるわけにも曲がるわけにもいかない。

 

 迷っている段階はとうに終わったのだ。

 

 フブキの足は既に、ガンダムメティスのある格納庫(ハンガー)へ向けて歩き出していた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 彼は目の前に浮かぶ数多くの情報を眺めていた。

 プラント、大西洋連邦、ユーラシア連邦、オーブなどの世界各国にある主要報道機関によるニュース。

 更に通常では決して見ることのできない情報–––––ソレスタルビーイングの動静。

 

 それがまるで(かべ)のように彼の前面を覆っていた。

 

 これからソレスタルビーイングは武力介入を行う。ダーダネルス海峡における連合軍とザフト軍の紛争に関する武力介入。

 

 対する連合軍は50機という一戦艦として過剰(かじょう)なまでのモビルスーツと空母五隻を布陣しており、ザフトは新型モビルスーツを用意して突破を(はか)ろうとしている。

 

 そうでなくては困る…と、彼は独りごちた。

 

 ソレスタルビーイングのガンダムという兵器は圧倒的だ。何せ彼自身が()()()から持ち得た技術でもって完成させた異世界の機体に等しいのだから。

 彼がこの世界に転移するようなことがなければ、ソレスタルビーイングもガンダムも現れることはなかっただろう。

 

 だが、ガンダムに負けず劣らずこの世界の技術力は高い。

 例えば、このC.E.(コズミック・イラ)で完成した史上初のモビルスーツ、"ジン"。彼のいた世界の機体と比べれば大きく劣るであろうその機体は、たったの数年で"フリーダム"や"ジャスティス"というレベルにまで技術が革新している。

 これは、三国家軍による冷戦状態にあった西暦と戦争状態によって革新せざるを得なかったC.E.(コズミック・イラ)だからこそ、という理由もあるだろう。

 

 そして今、ザフトは"デスティニー"と"インフィニットジャスティス"というこの時代で最高峰の機体を開発した。その性能は、非太陽炉搭載機にしては素晴らしいの一言にすぎるだろう。ガンダムに(かな)わずとも、パイロット次第では渡り合える可能性は十分にある。

 

 やるじゃないか、と彼はこれを指示したデュランダルを称賛(しょうさん)した。

 

 対応の早さも、先を見据えた洞察力も、彼が傀儡(かいらい)…というよりも人間観察の一環の対象としているロード・ジブリールに比べれば…いや、比べるまでもない。

 

 流石は調律者(コーディネーター)といったところか。

 

 彼は満足そうに頷く。

 計画は順調だ。ソレスタルビーイングの登場から、混沌と化した世界まで。全ては彼の計画通りに世界は動いてくれている。

 

 となれば、計画を少し前倒しにすることにしようか。

 今回の武力介入でSEEDを持つ者であるアスラン・ザラやフェイト・シックザールの兄であるシン・アスカの変革の可能性も確認できる。キラ・ヤマトも含めてこれだけの候補がいるのなら、予定を早めても問題ないだろう。

 

「さて…表舞台に上がってもらうのは、誰がいいかな?」

 

 彼の後ろの空間に光が(とも)った。

 そこはどこかの地にある地下格納庫であり、その中央には白い物体が30個ほど整然と並べられている。

 

 そう、それはガンダムの性能を生み出す機関部–––––GNドライヴに違いない。

 

「連合かザフトか…はたまたラクス・クラインというのも面白いかもしれないね」

 

 世界は、変革への蠢動(しゅんどう)を始めようとしていた。

 

 

 





祝・劇場版ガンダムSEED FREEDAM公開日決定!!
来ない来ないと思っていたところへの不意打ちだったので、舞い上がるような気持ちですよ!!


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ダーダネルスの死闘

 

 

 ディオキアの街を出港してしばらく、ミネルバはたった一隻で辺りを運航していた。

 

 狙いはスエズから派遣(はけん)されたという連合軍に対する牽制(けんせい)だ。目的がディオキアの基地なのか、ガルナハンの方か、それともカーペンタリアなのかは不明だが、ザフトとしてはここ最近不審な行動の目立つ連合の動きを黙って見過ごすことはできなかったのだ。

 

 そして、ミネルバがある地点に到着したと同時に戦端(せんたん)は開かれようとしていた。

 

「熱紋確認! 一時の方向! 数二十! 及び背後に地球軍空母!」

 

 バートが告げたとき、クルーの間に漂ったのは、「まさか」という驚きと「やはり」という相反する雰囲気(ふんいき)だった。

 

 場所はマルラ海、ダーダネルス海峡。

 仮に地球軍が攻めてくるならここだと、タリアたちが防衛戦に予想した海域だ。

 

 だが、まさかこの情勢で戦いを続けようとは正気とは思えない。ソレスタルビーイングの介入でどこも疲弊(ひへい)しているというのに、いたずらに戦力を割く余裕はないはずだからだ。

 

 しかし、現に連合は五隻もの空母で持ってミネルバを囲っている。

 

「モビルスーツです! 機種特定! "ダガー"、"ウィンダム"、"カオス"、"アビス"!」

「…あの部隊だっていうの?」

 

 これは完全な待ち伏せだ。

 どういうわけかは知らないが、ミネルバがディオキアにいるという情報は敵に筒抜(つつぬ)けだったのだろう。

 

「全く。毎度毎度、人気者は辛いわね…」

 

 元々、次世代を担う新造艦として建造されたミネルバだ。更にインパルスやセイバーといったセカンドステージシリーズを積むことを想定されたこの艦は、確かに戦果に(とぼ)しい連合にとっては士気を上げる意味でも最重要の相手だろう。

 

 しかし、タリア達としてもただで落とされるつもりはない。それに、逆にここで連合の地上での主力部隊を撃破すれば、停戦に近づける可能性もあるのだ。

 

「"デスティニー"と"ジャスティス"、発進準備。同時に取り舵10」

 

 タリアの命令に従って、パイロットが搭乗機へと移っていく。十分な休息は取ったものの、各々新しい乗機で初の実戦となる。更に言えば、数的に圧倒的に不利な状況だ。パイロットに無理はさせられない。

 

「"インパルス"と"セイバー"、"グフ"は艦の防衛に回します」

 

 タリアは通信をフェイスの二人に繋いだ。

 

「アスラン、貴方にはシンと共に前線を。ハイネにはレイとルナマリアのサポートをお願いすることになるわ」

〈了解しました〉

〈了解です〉

 

 二人が力強く頷く。

 アスランとハイネは優秀なパイロットだ。勿論、シンやレイ、ルナマリアも。艦載機、パイロット含めてもザフトでここまで優秀な人材が(そろ)っている部隊はないだろう。

 

 だからこそ、タリアは強気に出た。

 

「モビルスーツ部隊、発進! これより連合艦隊を突破する!」

 

 タリアの力強い号令にクルー達も応え、ミネルバは戦闘体勢へ移行した。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

「シン・アスカ、"デスティニー"、行きます!」

 

 シンは(さけ)び、ミネルバから飛び出した。

 翼を広げたデスティニーが、赤・青・白灰色に色づくと同時に真っ直ぐに加速していく。

 それだけでもかつてのフォースインパルスの数倍のスピードだ。シンは自分の動きに完璧についてくるデスティニーに感激しながらも、機体をダガーとウィンダムの群れに突っ込ませた。

 

「アスラン・ザラ、"ジャスティス"、出る!」

 

 すぐにその後から、インフィニットジャスティスが機体を真紅に染めて発進し、同時にレイの乗るセイバーとルナマリアの乗るコアスプレンダーが合体して続き、ハイネのグフと共にミネルバの防衛に移る。

 

「シン!」

 

 気持ちが先走りがちな部下の後を追うために、アスランもこちらを狙うウィンダム・ダガー部隊へ飛び込む。

 

「くそっ、こいつらぁ!」

 

 しかし、アスランの心配に反して、デスティニーは次々とウィンダムやダガーを撃墜していた。

 右手のビームライフルで二機のウィンダムの動きを(ふう)じ、左手で背面のビーム(ほう)をはね上げる。

 

「しつこいんだよっ!」

 

 太いビームが正面から敵機を串刺(くしざ)しにする。

 更に息もつかせず(かた)のビームブーメランを抜き放つや、デスティニーに射線を集中し始めたモビルスーツ隊めがけて投げつけた。ブーメランは()(えが)いて二機をその刃にかけ、回避しようとした一機をライフルで狙い撃った。

 

 ––––––やれる! 俺とこのデスティニーなら!

 

 それはシンだけでなく、その戦闘を見たアスランにとっても同じ気持ちだった。

 

〈シン、モビルスーツ部隊は任せられるか?〉

「え!? 平気ですけどっ!」

〈俺はこれから敵艦を撃ちに行く。ミネルバはハイネ達に任せて、お前は敵を倒すんだ!〉

「…了解っ!」

 

 敵モビルスーツを倒す、シンプルな任務だ。

 それに反して、敵艦を一機で(おさ)えようとするアスランを心配に思ったシンだったが、(あざ)やかな動きでダガーを無力化するジャスティスを見てその考えを改めた。やはり、フェイスは味方として心強い。

 

 既に五機ほど撃墜したシンの元にアラートが鳴り響く。それは新たな敵の襲来を知らせていた。

 

 有視で確認できるのはウィンダムとダガー。倒しても倒してもたくさん()いてくる。おそらく狙いはミネルバ。当然だ。母艦さえ倒せば勝ちなのだから。

 

「こいつら、まだっ!」

 

 シンが苛立ち混じりにライフルの照準を合わせようとしたその時、いくつものビームがデスティニーへ迫った。当然、反応できないシンではなく、展開したビームシールドで放たれたビームを受け止める。

 

 放たれた方角…センサーには、見知った反応が映っていた。

 

「"カオス"に"アビス"かっ!」

 

 空と海。

 それぞれの地形からデスティニーに迫る二機のモビルスーツ。各々が放つビームを回避し、シンは空へ飛んだ。

 

 海の中で厄介なアビスは後回しだ。まずはカオスを確実に落とす!!

 

 そんな思いで、シンはデスティニーに搭載(とうさい)された機能の一つである光の翼を展開すると、背中の長剣(ちょうけん)–––––MMI–714"アロンダイト"を抜き放ち、スラスターを全開にしてカオスへと突っ込む。

 

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 カオスがこちらへビームを放ってくるが、それは高機動状態のデスティニーには当たらない。デスティニーの光の翼––––"ミラージュ・コロイド"による幻惑(げんわく)がライフルの照準を(くる)わせているのだ。

 (らち)が開かないと考えたのか、カオスは機動兵装ポッドからミサイルを撃ち込んでくるが、それもデスティニーには当たらない。そのスピードにミサイルが追いつかない。

 

「そんなもんにっ!」

 

 渾身(こんしん)の力が込められた長刀が振り下ろされる。

 カオスはシールドでそれを防ごうとしたようだが、対艦刀であるアロンダイトはシールドごとカオスの左腕を()(はら)った。

 

「逃がすかっ!」

 

 右肩から引き抜いたビームブーメランを投げ放つ。その刃は体勢を崩したカオスのビームライフルの銃身を引き裂き、爆散(ばくさん)させた。

 

「これが…デスティニーの力だっ!」

 

 インパルス時代はあれほど苦戦したカオスが、こうも容易(たやす)く追い詰められる。

 

 シンに与えられた新たなる剣、デスティニー。

 

 その力をシンは十分に使いこなしていた。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

「すごい…」

 

 "ブラストシルエット"を装備したインパルスを駆るルナマリアは、前線で戦う戦友の姿に感嘆の言葉をもらした。あれほど苦戦したアーモリーワンの機体をここまで圧倒するなんて…。

 

〈ヒュ〜、やるなぁシンの奴。俺らも負けてられないぜ! 行くぞ、レイ〉

〈了解!〉

 

 フェイスであるハイネから見ても見事な戦い振りのようだ。

 シンの戦いに感化(かんか)されたハイネがミネルバへ迫るウィンダムへ攻撃を仕掛け、いつもの冷静さを崩さないレイがMA(モビルアーマー)形態のセイバーで援護をする。その動きは、かつてのセイバーのパイロットであるアスランに勝るとも(おと)らない。

 

 アカデミーの時代から分かっていたことだが、やはりレイはパイロットとして操縦がダントツに巧い。そして、新型を任されるまでに成長したシンも。

 

「…私も負けていられないっ」

 

 自分だって"赤"なのだ。

 二人に及ばずとも、せめて足手纏(あしでまと)いにならないくらいの働きはしなければ!

 

 ルナマリアは、両脇(りょうわき)から巨大な砲身のビーム砲––––––M2000F"ケルベロス"をはね上げて、油断して上空を飛行するダガーを撃ち貫いた。

 

 "ブラストシルエット"は対艦攻撃・対要塞(ようさい)攻撃を想定した火力強化用のシルエットである。"フォースシルエット"と違って飛行能力を持たないが、海面をホバリングすることで移動はできる。

 

 今回、ルナマリアはミネルバの"海"を任されている。

 こればかりは、セイバーもグフもできないことであり、インパルスにしかできないことだった。

 

 続けて、前方のウィンダムの隊を狙おうとしたとき、目の前の海面を割って、ネイビーブルーの機体が(おど)り出た。

 

「くっ…アビスね!」

 

 ルナマリアは海面を(すべ)るようにして旋回(せんかい)し、アビスの開いたシールドから放たれたビームをかろうじて避ける。同時に腰にためた"ケルベロス"を放つが、その時には青い機体は既に海中へと姿を消している。

 その後を追って、両肩のレールガンを撃つが手応(てごた)えはなく、その航跡(こうせき)すら見失ってしまった。

 

「このぉ…ちょこまかとっ!」

 

 ルナマリアは忙しなく周囲に目を配る。

 海面には自機のスラスターがおこす円形の波ばかりが立ち、その下で動く気配は伝わらない。ソナーでもあればともかく、海中を接近する敵はどこから攻撃してくるか、全く見当もつかなかった。

 

 そして、そんな彼女の迷いを見透かしたように、全身を緊張(きんちょう)させて待ち受けるルナマリアの背後からその機体が飛び出す。

 

 アビスは空中で、シールドと胸部から一斉にビームを叩きつけ、ルナマリアはその一部をシールドで受け止めると、お返しとばかりに肩部のレールガンを放つ。

 

 しかし、それがアビスに当たることなく、ビームランスを掲げてこちらへと踊りかかってくる。

 

 ––––––そんなへなちょこで当たるかよ!

 

 敵パイロットのそんな声が聞こえた気がした。

 

「なにをっ!」

 

 こちらは、前回ザクでアビスに酷い目に遭わされたのだ。

 

 しかし、今は違う。

 以前のようにはいかない。"赤"のプライドを見せてやる!

 

 ルナマリアは、すかさず抜き取ったビームジャベリンでランスを受け止めると、そのまま相手の機体を押し(もど)し、勇敢に突きかかった。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

「取り舵30! "タンホイザー"の射線軸を取る」

 

 ミネルバが戦闘体勢に入って間も無く、タリアは命じる。彼女の決断にアーサーが(おどろ)いて振り返るが、構わずにたたみかける。

 

「海峡を塞がない位置に来たら薙ぎ払う! アスランにもそう伝えて!」

「は、はい!」

 

 ミネルバは一隻。敵は物量で圧倒的に勝る。

 いくらこちらのモビルスーツ部隊が個で圧倒しようとも、ミネルバがやられては意味がないのだ。

 

 だからこそ、このタンホイザーの一撃で機先を制して(たた)いておこば、心理的にも優位に立てる。連合もまだ全ての部隊を投入してきたわけでないだろうが、それならそれでいい。敵が油断してくれるならタリアとしても願ったりだ。

 

 現状の戦局はミネルバ側がやや有利といったところだ。

 特出したデスティニーは問題ない。シンの力と合わさって、その能力を十全に発揮してくれている。ハイネとレイの方も、やはり問題ないだろう。となると、心配なのは慣れない機体でアビスの相手をしているルナマリアか。

 

 なんにせよ、数で劣るミネルバ側にとっては短期決戦が望ましい。

 

 マリクが艦首を連合艦隊へ向け、アーサーが射線を確認する。

 

「"タンホイザー"、射線軸よろし!」

「よし、起動! 照準、敵地球軍空母!」

 

 タリアの号令に応じて、チェンが発射シークエンスを開始した。

 

「"タンホイザー"起動。照準、敵地球軍空母。プライマリ兵装バンク、コンタクト。出力定格。セーフティ解除–––––」

 

 艦首が開き、巨大な砲口(ほうこう)が姿を現す。

 

 そして、その砲口から収束した光が放たれんとした、まさにそのとき––––。

 

 一筋の光条が上空から降り注ぐ。

 それは天から降り注いだビームであり、今にも艦首砲を撃とうとしたミネルバの艦首をうち貫いていた。

 

「なに!?」

 

 艦首を吹っ飛ばされ、大きく傾くミネルバの艦橋(ブリッジ)で警報が鳴り響く。

 

「上空より熱源接近! これは––––ガンダムです!」

 

 想像していなかったわけがない。

 だが、連合の猛攻を前にそちらへの警戒が(うす)れ、神出鬼没の相手に対してこちらの対応が遅れたのだ。言い訳をするつもりはない……ないが。

 

「…なんてタイミングなのかしら」

 

 まるで、いつまでも愚かな争いを続ける人類を裁く天使かのように、彼等は空から舞い降りた。

 

「–––––ソレスタルビーイング」

 

 これで遭遇(そうぐう)するのは何度目になるだろうか…。タリアは敵の名を重く低い声でつぶやいた。

 

 

 

 





>カオスvsデスティニー
スティングはよく頑張ったよ…うん。

>シン
ガンダムとの戦いで急成長。
多分ドラマCDとかで語られるタイプの裏話として、ハイネ考案の戦闘シミュレーション訓練とかでアスラン相手に戦ってたりもするから、という理由もある。

>アンケート
ジンクスタイプの場合は、そのまま西暦の機体流用。一部のエースパイロットには各スローネ系武装などのカスタム機体などを配備しようと思います。かなり先の話になりますが、レグナントとかも出るかもしれませんね。

ダガー・ジンタイプの場合は、C.E.の系譜にのっとり、連合ならダガータイプ、ザフトならジンやザクなどの一つ目タイプを継続したいと思います。

オリジナルでいいよーって人は、作者が適当に両方混ぜて設定作ります。多分、扱い的には最初はジンクスタイプを登場させ、アヘッドポジションに各陣営の発展型を配置したいと思います。

説明遅れてすみませんね。
ああ、キラたちにはちゃんとガンダムタイプに乗ってもらうので安心してください。

 


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ダーダネルスの死闘Ⅱ


誤字報告ありがとうございます。


 

 

 J.P.ジョーンズで、両者の戦いを見守っていたネオは苦々しい表情で口を開いた。それはネオ以外の将官たちも同じであり、この戦いが彼等にとって本意でないことをよく表している。

 

「また新型とは…ザフトめ、聞いてないぞ」

 

 敵なのだから当然なのだが、自分たちと比べて明らかな待遇(たいぐう)の違いに不満を持たずにはいられない。

 

 特に次々とウィンダムやダガーを撃墜するあの翼持ちの機体は異常だ。今のファントムペインのエースであるカオスでさえ相手になっていない。頼みの(つな)のモビルスーツ部隊もミネルバの艦載機に守られて一太刀も()びせられないでいる。

 

 予定では、ザフトの主力である紅い可変機と合体する白い機体をカオスとアビスで抑え、ウィンダム・ダガー部隊でミネルバを攻撃するはずだったのだが、それがあの新型によって大きく(くる)わされた。

 

「様子見のつもりだったが、まさかここまでとはねぇ」

 

 本来なら、既に一度撤退を宣言するところだが、自分たちの飼い主であるジブリールはそれを許すつもりはない。

 もしそうなれば、当然失敗続きのネオは解任。ステラたちエクステンデッドは新たな道具として、より非人道的な扱いを受けるだろう。ネオとしては、それだけは避けたかった。

 

「よし、控えのモビルスーツ部隊全てだせ」

「はっ…しかしそれでは」

「何悠長なこと言ってんの。このままだと相手に流れを持っていかれるぜ?」

 

 いや、既に持っていかれかかっている。

 実際はこちらから仕掛けたはずなのに、既にこちらが追い詰められているのだ。このままでは志気にもかかわる。

 

「それに、ここで引くことなんて俺たちに許されるわけないだろ」

「っ!」

 

 ここで撤退してもジブリールは決してネオたちを許さないだろうが、新型相手に奮戦(むな)しくとなれば話は別だ。彼が自信満々に言っていた"増援"が全くもって役に立たなかったことを知れば、彼とてネオだけを責めることはできまい。

 

「ほら、ザムザザーとゲルズゲーも出せ。俺とステラも出る」

 

 言っては悪いが、彼等増援部隊はネオにとって生け贄だ。せいぜいミネルバを消耗(しょうもう)させ、ヘイトを買ってもらう。そして、自分たちは激戦の末になんとか撤退する。それが今のネオに許された唯一の方法だった。

 

「それに、もたもたしてると"あいつら"がくるぜ…」

 

 そう、ネオたちの目標はミネルバだが、敵は彼等だけではない。ネオが恐れる真の敵は別にいる…それは––––。

 

「熱源接近! これは…ガンダムですっ!」

「チィッ! おいでなすったか!」

 

 やはり来たか…ソレスタルビーイング。いつもいつもご苦労なことだ。

 

 ネオは厄介な存在が現れたと仮面の下で顔を(しか)める。ただでさえザフトの新型モビルスーツに苦戦しているというのにガンダムが4機も戦場に現れるなど…。

 

 スティングやアウルには手早く帰還してもらおう。負ける戦いに無理をする必要はない。

 せいぜい、ジブリールご自慢のモビルアーマーたちが代わりに仕事してくれることを祈ろうじゃないか。

 

「ジョーンズは前に出るなよ、死ぬぞ! いいな!」

「は、はっ!」

 

 慌ただしくなるブリッジへ指示し、ネオは格納庫(ハンガー)へ向かった。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 遂にソレスタルビーイングの武力介入が始まり、戦場は混沌さを増している。

 

 連合の艦隊から異形のモビルアーマー、ザムザザーとゲルズゲーが飛び出し、空からはレイダー、海からはフォビドゥンヴォーデクスが出撃する。それを率いるのは隊長機と思われるストライクEと強奪された最後のセカンドステージシリーズであるガイアだ。

 

 対して、それらに単身突っ込んだアスランは、その物量にやや怯(ひる)みながらも、その類稀(たぐいまれ)な操縦センスとインフィニットジャスティスの性能差によって互角以上に渡り合っていた。

 

「…っ!」

 

 上空から雲を切り裂いて現れたレイダーの砲撃を回避しつつ、ライフルでミネルバへ向かうストライクEを牽制(けんせい)する。

 地上からガイアがビームを放ってくるが、アスランは"ファトゥム01"を分離して回避し、ストライクEへのオールレンジ攻撃に使用。

 その間にレイダーとの距離を詰め、すれ違い様にビームサーベルを一閃した。その光刃(こうじん)は正確にレイダーのコックピットを()いでいる。

 

 その隙に母艦を…と思ったアスランの前を一筋のビームが(さえぎ)った。

 

「なにっ?」

 

 更に連合側にもビームが降り注ぎ、ストライクEとガイアを戦場から引き離し、回避が遅れた残る一機のレイダーを撃墜する。通常の射撃精度ではない…これは。

 

「ソレスタルビーイングか!」

 

 それは、空から舞い降りる戦闘機––––いや、モビルスーツ。セイバーと同じく変形機構を持つ"羽付き"と呼ばれる朱色(しゅいろ)のガンダムだ。

 

 さらに、ミネルバからの通信で4機のガンダムが現れたということを知る。今まで2機ずつだったことを考えると、今回は異質だ。連合の軍勢はともかく、シンとアスランの新型機のことまで把握(はあく)していたというのだろうか、彼等は。

 

 …途端にミネルバが心配になる。

 ハイネが付いているとはいえ、ガンダムを相手にグフではどうにもならない。他のガンダムも現れたということだし、慣れない機体に乗るレイやルナマリアも心配だ。速やかにミネルバに戻る必要がある。

 

 そして、そのためには、目の前の機体を振り切らなければならない。セイバーに乗っていた頃は変形を活用して互角に渡り合うのが精一杯だった羽付き。その機体性能は未だに未知数(みちすう)だ。

 

「だが、やるしかないっ」

 

 分離していた"ファトゥム01"と再びドッキングし、アスランは腰から"シュペールラケルタ ビームサーベル"を抜くと、ガンダムに向けて加速した。

 すると、それに呼応(こおう)するようにガンダム側もビームサーベルを引き抜き、ジャスティスを上回るスピードでこちらへ向かってくる。

 

 –––––やはりスピードはあちらが上か!

 

 アスランはジャスティスでもっても追いつかない敵のスピードに歯噛(はが)みする。アスランが知る限り、ザフトでの最高速度を持つ機体はデスティニーだが、おそらく大気圏内での羽付きの機動性はそれよりも上だ。

 

 それでも、ここで引くわけにはいかない。

 今の自分は、"ザフトのアスラン・ザラ"であり、プラントの剣なのだから。

 

 光刃を(きら)めかせて打ちかかってくるガンダム。アスランもまた決意を胸に、ビームサーベルをその機体に斬りつけにかかった。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 押し寄せるウィンダムに、シエルはGNメガランチャーを容赦(ようしゃ)なく発射した。敵はシールドで防ごうとしたようだが、圧縮されたビームはシールドごと貫通して機体を貫き、空中で四散した。

 

 連合軍のパイロットの中に自分と同じ強化人間がいる可能性は高い…が、今はそれを思考の外に置く。それを考えるのは機体を降りた後だ。

 

 シエルは冷静な表情でGNメガランチャーを構えた。

 死角からダガーが()ってきたビームをGNフィールドで防ぐ。現在連合軍にフィールドを抜く武装はないため、まんまとセレーネにGNメガランチャーのチャージを許してしまっている。

 

「チャージ完了まで…10、9」

 

 砲口(ほうこう)から放たれた戦艦の主砲と同等以上の火力が牙を向く。狙いは地球軍の戦艦だ。主力部隊はミネルバを狙いに行ったために不在であり、ザフトの新型はメティスが引きつけている。そして、ダガーやウィンダムではセレーネを止めることはできない。

 

「セレーネ、GNメガランチャー、撃つ」

 

 そして、それが解放される。

 圧倒的な光の柱が突き進み、射線上にいたウィンダムを巻き込んで地球軍の戦艦を呑み込み、(またた)く間に海の藻屑に変えた。即座に続く二射目を放ち、連合の空母は残り二隻となる。

 

 これで終わりだ、とシエルが引き金を引こうとしたその時、海岸線からビームを浴びせられた。即座にGNフィールドを展開し、シエルは撃ってくる敵を見定(みさだ)める。

 

 いつの間にか空母から陸に飛び移ったのか、黒い四足獣型のモビルスーツが背面砲とライフルでこちらを狙っている。ザフトから奪取(だっしゅ)された機体の一つ、ガイアだ。

 

「あれは…」

 

 ガイアはこちらへとビームを放ちながら近づいてくる。

 シエルはそれを回避しながらGNメガランチャーを発射するが、ガイアは絶妙(ぜつみょう)なタイミングでモビルスーツ形態へ変形して急制動をかけると、ビームを回避してビームサーベルを片手にこちらへ接近戦を仕掛けに飛びかかってきた。

 おそらく、GNメガランチャーを見て接近戦が不向きな機体だと考えたのだろう。

 

「………」

 

 確かにガンダムセレーネは砲撃・狙撃を得意とした機体だが、生憎接近戦ができないわけではない。ガンダムの売りは汎用性の高さにあるのだから。

 

 シエルはGNメガランチャーを投げ捨て、逆にガイアに向けて急加速する。まさか接近戦を仕掛けてくるのとは思わなかったのか、間合いを乱されたガイアの動きが鈍る。

 

 シエルはその(すき)を見逃さない。ビームサーベルを引き抜くと、逆にガイアの右腕を切り裂き、返す(やいば)でコックピット周辺を引き裂いた。

 

 しかし、ガイアのパイロットも手練(てだ)れなのか、上手く機体を()らされたせいでダメージは小さい…だが!

 

「浅い…けど、動きは止まった!」

 

 無防備になったガイアの両手足及び背面砲を切り裂いて無力化し、シエルはトドメを刺そうとする。当然だ。これはソレスタルビーイングとしてもミッションであり、自分はガンダムマイスターなのだから。

 

–––––もしもこの機体のパイロットが"彼等"だったら?

 

 しかし、そんな考えが頭をよぎり、シエルにトドメを刺すことを一瞬躊躇(ためら)わせた。

 

 だが、その間だけで敵にとっては十分だったのだろう。ガイアに剣を向けるシエルの元に次々とビームが撃ち込まれた。GNフィールドを展開してその場を離れれば、まるでガイアを守るように立ち塞がるストライクEの姿が見える。

 

「–––––なにをやってるんだ、僕は」

 

 シエルは自分を叱咤(しった)する。

 こんなところで迷っている場合なんかじゃない。そんなことでは戦争根絶など達成することはできないのだ。

 

 –––––今度は躊躇いなどしない、絶対に!

 

 そんな思いを胸にシエルはこちらへ切り掛かるストライクEへとその剣先を向けた。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 目の前のウィンダムに、ハイネは手首の四連装ビームガンを向けた。細切れに切り裂かれた機体が空中で四散する。それがミネルバに押し寄せる最後の連合のモビルスーツとなった。

 

「くそっ、やってくれるぜ」

 

 チラリとミネルバを見るが、その灰色の装甲は至るところに損傷(そんしょう)が見られる。いくらハイネとレイが敵を倒しても、数だけはどうしようもなかったのだ。彼等の手を逃れた敵の攻撃でミネルバが攻撃されたのは、ハイネの責任でもある。

 

「レイ、シンの方を頼む。俺はルナマリアを」

〈了解しました〉

 

 レイのセイバーがミネルバからの"デュートリオンビーム"でエネルギーを回復し、デスティニーの援護に向かうのを確認した後、ハイネは機体を海上へ向かわせた…その時だ。

 

 凄まじいまでのビームの光がグフの行く手を(さえぎ)った。一瞬ガンダムか!?と構えたハイネだったが、その勘は正しかった。

 

 やってきたのは、白黒のモノトーン色のガンダム。左肩のビームランチャーから放たれた光がハイネを狙っている。…いや、狙いはハイネだけじゃない。

 緑色の(かに)のような形状の機体が、ガンダムと戦闘を行っている。ガンダムの射撃を"陽電子リフレクター"で受け止め、逆に倍以上の砲撃で反撃しながらこちらへ接近して来ていた。

 

「おいおい、連合のモビルアーマーか!?」 

 

 どちらも凄まじい火力だ。

 あれが一発でも今のミネルバに当たったら不味(まず)い。なればこそ、ハイネは自分の仕事を把握していた。

 

「なんであれ、こっから先は行かせねぇ!」

 

 ハイネは、シールドから巨大な剣––––"テンペスト ビームソード"を引き抜くと、両者の戦闘空域へ飛翔(ひしょう)した。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 緑色の異形の機体–––––"ザムザザー"へGNランチャーを放つが、敵の放つ"陽電子リフレクター"はそれを正面から受け止めた。流石のGNランチャーでも、連射モードでは傷一つつけることは叶わないようだ。

 

 なるほど、大した防御兵器だ。陽電子リフレクターという完璧な守りと、モビルスーツでは再現できない火力。モビルアーマーを連合が信頼するのも頷ける。

 

「–––––けどな!」

 

 アキサムはザムザザーの砲撃を回避すると、右肩からGNバスターソードを取り出し、接近戦をしかける。

 

 GNランチャーやGNバスターソードなどの大型武装の関係で鈍重(どんじゅう)に見えるサルースだが、GN粒子によってその機動性はそこらの可変機よりも高い。

 

 –––––どんな強力な攻撃も、結局は当たらなければ意味はない!

 

 迫り来るビームの全てを回避したサルースが、GNバスターソードを力任せに振るう。その斬撃はザムザザーの陽電子リフレクターを貫通し、発生機器ごとコックピットを(えぐ)り取った。やや遅れて、操縦者を失った機体が爆発する。

 

 爆炎の中、アキサムは自分に迫る一機の機影(きえい)を確認した。

 

 オレンジ色のグフイグナイテッド。

 ザフト軍では、一部のエースパイロットに機体の色に変更を加えることが許されている。アキサム自身もザフト時代は黒色のジンを使っていた。つまり、彼もその一部に含まれるエースパイロットなのだろう。

 

「へぇ…オレンジ色ということは」

 

 そして、彼はその機体色のパイロットを知っていた。

 

 オレンジ色と聞いて思い出すのは二人。

 その内の一人である『黄昏の魔弾』ことミゲル・アイマンは既に死亡しているため、自ずと彼の先輩に限られる。

 

「ハイネ…ハイネ・ヴェステンフルスか!」

 

 なんという偶然か。まさかかつての戦友と戦うことになろうとは…。

 

「だが、今の俺はソレスタルビーイングのガンダムマイスターだ!」

 

 ザフト相手に戦うことになる以上、このようなことになるのは組織に加入するときから覚悟の上だ。

 

 アキサムは己を鼓舞(こぶ)するように()え、GNバスターソードを構える。

 

 そして、オレンジ色に染められたグフのビームソードとサルースのGNバスターソードが激しくぶつかり合った。

 

 

 





アンケートはジンクスタイプが多いかな。やっぱみんな好きなんだね。

面白いと感じたら、高評価、お気に入り登録をお願いします。


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ダーダネルスの死闘Ⅲ


文才の無さに絶望した!


 

 

 

〈アウル、撤退だ。ほどほどにして切り上げろ〉

 

 ネオからの通信を聞き、インパルスと交戦中だったアウルは不満げに口を(とが)らせた。

 

「何で!?」

 

 モニターの中で彼のボスは、何でもないことのように答える。

 

〈盟主ご自慢の部隊が全滅だ。お前も見たろ?〉

「ええーっ!? あんだけいたのに、何やってんだよ、ボケ!」

 

 アウルが口汚く(ののし)ったが、そんな彼の対応にも慣れたネオには応えた様子はない。まるで"蛙の面に水"だ。

 

〈言うなよ。こっちはガンダムの相手で手一杯なんだ。ステラはやられちまったし〉

「えー? んだよ出オチじゃんか」

 

 アウルは、妹分の撃墜情報にため息を吐く。これだから、ステラみたいな優しいだけの奴は戦場に出るべきじゃないというのだ。ネオはそこのところを分かっていない。

 

〈…ガンダムにな。だから、さっさと撤退するぞ〉

「分かった。でも、こっちは今いいところなんだ。せめてコイツだけでもいい加減!」

 

 そう言いつつ、アウルは海上へ飛び出した。

 こちらの姿を見失っていたのだろう。不意打ちに等しい形でインパルスの背後から"3連装ビーム砲"を放つ。敵はなんとか回避したが、アウルは潜航状態へ変形させたアビスで直接体当たりを行った。

 たちまち、スラスターのバランスを崩したインパルスは海に水没する。そうなれば、後はこっちのものだ。

 

 まんまと自分たちのフィールドに落ちたインパルスを三機の機影が囲む。アウルのアビスと同じ水中用モビルスーツのフォビドゥンヴォーテクスだ。

 水中で動きの鈍るインパルスに"トライデント"を構えたフォビドゥンヴォーテクスが迫る。水中ではビーム兵器が役に立たない以上、奴に攻撃する術はない。

 

 –––––これで終わりだ!

 

 アウルがそう思った時、背後のフォビドゥンヴォーテクスの胸元から鋼色の金属片が飛び出す。剣先ほどには(するど)くなく、かといってそれほど(にぶ)くもない。

 それは、グググッという鈍い音とともに機体を切断し、破壊された機体の奥から猪突(ちょとつ)するように青色のモビルスーツが姿を現した。

 

「アイツは––––!」

 

 この間、自分をコケにしたガンダム!

 

 アウルは自然と操縦桿(レバー)に力を入れるが、ガンダムはアビスを無視してフォビドゥンヴォーテクスを次々と無力化する。その剣捌(けんさば)きはとても水中とは思えないほどに(あざ)やかであり、気づけば全てのフォビドゥンヴォーテクスが解体されていた。

 

〈アウル!〉

「分かってる! でも、コイツが!?」

 

 水中だというのにガンダムは素早い。以前とは大違いだ。やはりあの時は手加減をしていたのだろう。それがひどくアウルのプライドを刺激する。

 

 だが、ネオはそんなアウルの鬱憤(うっぷん)を知ってなお強い言葉で続けた。

 

〈いいから撤退だ! リベンジの機会ならまたいくらでも用意してやる!〉

「ちぃ…分かったよ!」

 

 アウルとしては、ガンダムは無理でも、ここでザフトの機体の一つや二つを撃墜しておきたかった。少しでも功績(こうせき)を上げれば、ネオが"上"からぐちぐちと文句を言われなくて済むと思ったからだ。

 

 しかし、それも命あっての物種だ。

 アウルは機体を潜航状態へ変形させると、真っ先にその海域を離脱し始める。勿論、最後っ屁とばかりに"M68 連装砲"を放つのを忘れない。

 

 だが、ガンダムは見事にそれを回避すると、海上へと浮上していく。まるで相手にもされていない。

 

 思わず舌打ちまじりに見送った後、アウルは母艦であるJ.P.ジョーンズへ機体を向かわせた。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

「ルナッ!」

 

 海上で奮闘(ふんとう)していた仲間がアビスに海へ引き摺り込まれたのを見て、シンは悲鳴のような叫びを上げた。ボロボロになったカオスがフラフラと戦線を離脱するのにも構わず、シンは急いで機体を海上へ向かわせる。

 

 その時、大きな水飛沫(みずしぶき)と共に海の中から何かが飛び出してきた。

 

 一瞬、インパルス–––––ルナマリアか?と疑ったシンだったが、その水飛沫の中から現れた機体を前にして、その表情を(けわ)しくする。

 

 青と白を基調とした機体。右腕には折り(たた)まれた剣。切り替え式らしきライフルがこちらに銃口(じゅうこう)を向けている。背中からは見慣れた緑色の粒子を放っていた。

 

「…ガンダム!」

 

 同時に放たれるビームライフル。

 シンはそれをビームシールドで受け止め、右手に持つビームライフルで撃ち返す。

 ただし、その引き金を引く指は震えていた。

 

 –––––死にたくなかったら黙って捕まっていてください!

 

 ユニウスセブン落下の際に聞いた、目の前の機体のパイロットの声…今は亡き妹に似た声。その声が、過去の記憶とともにシンを揺さぶる。

 

 何故、どうしてこんなことを…? 誰かに戦わされているのか?

 そして、君は一体だれなんだ…?

 

「くそっ…どうしてこんな!」

 

 テロリストというには想像以上に幼い少女を前にして、シンは本気を引き出せずにいた。

 

 そして、そんな油断を見逃してくれるガンダムではない。少しの戸惑いが回避行動を(にぶ)らせ、一筋のビームがデスティニーのライフルを破壊する。

 

「…ちぃっ!」

 

 即座にライフルを手放したシンは、両肩のビームブーメランを引き抜くと、ガンダムに向けて投げつける。

 クロス状に弧を描く光の刃がガンダムに迫るが、青い機体は両腰からビームサーベルを引き抜くと、迫るビームブーメランへ向けて投擲(とうてき)した。

 空中に投げつけられた二つの刃は交差し、その後爆散する。

 

「…くっ」

 

 ビームブーメランならまだしも、ビームサーベルを投げナイフのように扱うことなど本来ならあり得ない。軍で訓練を受けた自分たちには想像も付かないやり方であるし、そもやろうと思ってできる技術ではないからだ。

 シンは相手の腕前に舌を巻きながらも、ガンダム戦において必須(ひっす)となる格闘武装を一つ喪失(そうしつ)したことに歯噛みする。

 

〈–––––シンっ!〉

 

 そこへ紅い機体が流星の如く現れ、展開した四つの砲台からガンダムに向けてビームを発射する。

 

 それはハイネと共にミネルバの護衛にあたっていたセイバー…レイだった。

 辺りを見渡せば、ミネルバに群がるように飛行していた連合のモビルスーツの姿が見えない。どうやら、ハイネとレイは守り通したようだ。

 

 ガンダムはセイバーの放った初撃のビームをシールドで受け止めると、それ以降のビームを回避しながらセイバーへ(せま)った。

 レイは機体を変形させてその場からの離脱を(はか)るが、それよりもガンダムの方が速い。スピードが乗り切らないセイバーに向けてガンダムが折り畳んでいた剣を展開して振り下ろす。

 

〈ぐうっ!〉

 

 レイはかろうじてモビルスーツ形態に変形してシールドで受け止めたようだが、ガンダムの一撃はセイバーを大きくのけ()らせ、レイはそのまま大きく蹴り飛ばされた。

 

「レイっ!」

 

 友の危機にシンはハッと我に返る。

 慌てて背部の大型ビーム砲を放つが、ガンダムは空中でとんぼ返りして、(あや)ういところで回避した。

 

 シンは背部の"光の翼"を展開し、敵機に向けて加速した。光の翼が大きく後方に流れ、幻影を生み出していく。

 

「ええいっ!」

 

 ガンダムの放つビームを幻影を利用して回避し、ウェポンラックより抜き取った長刀(アロンダイト)を構えて大きく振り下ろすと、ガンダムは展開した剣で受け止めた。

 

 シンはスラスターを全開にして、アロンダイトに力を込めた。

 躊躇ってはいけない。それは弱さだ。そんなことで仲間を失ったらどうなる!?

 

「俺は…俺はっ!」

 

 体の中で何かが弾け、意識が鮮明(せんめい)()え渡る。極限の緊張状態、シンの中から敵パイロットの少女に対する躊躇いは消えていた。

 

 シンは強く相手を突き放しなから一旦下がり、次にいきなり加速する。それに対して、ガンダムは向かってくるデスティニーにその剣を振り下ろすが、それはシンの読み通りだった。

 シンが素早くスラスターを操作し逆制動をかけると、ガンダムの振るう刃がコックピットすれすれの空を切り、逆にガンダムが無防備になる。そこが勝機だった。

 

「––––はぁぁっ!」

 

 この至近距離では長刀(アロンダイト)は使えない。故にデスティニーのもう一つの切り札である掌のビーム砲"パルマフィオキーナ"を使用する。

 

 そして、その選択は正しかった。

 まさか(てのひら)にビーム砲を搭載しているとは思わなかったのか、ガンダムの動きが一瞬鈍る。

 その隙にシンはガンダムとの間にシールドのように立ち塞がる敵の折り畳み式の剣を(つか)み取り、掌底部から放たれたビーム砲が敵の剣を破壊した。

 

 –––––やれるっ!

 

 後退する青い機体を前にして、シンはそう確信した。

 今の自分とデスティニーならば、相手がガンダムだろうと渡り合える。どんな敵とでも戦える…と。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 ザフト・連合などから"羽付き"と呼ばれているガンダムメティスには、ハロという小型サポートメカが搭載(とうさい)されている。

 

 少数精鋭で活動するソレスタルビーイングでは、回避運動などMSのサブパイロットから専属の小型ロボットによるメンテナンス活動など、あらゆる面をこなす独立型マルチAIとして活躍しているのだ。

 

 4機のガンダムの中でも指揮官機という立場にあるメティスには、膨大(ぼうだい)なミッションデータを処理するため、そしてパイロットのフブキをサポートするためとして、サポート用のハロが搭載されていた。

 

『アステリア、ソンショウ。アステリア、ソンショウ』

「フェイト…?」

 

 コックピットに搭載されたハロからの報告に、フブキは眉を(ひそ)めた。それは、その報告が一瞬信じられなかったからだ。

 

 –––––アステリアが損傷? あり得ない。

 

 ガンダムは時代の最先端をいくモビルスーツであり、それは例えザフトが開発した新型機でもっても追いつけるものではない。それほどの技術力の差があるのだ。

 そして、それを操るフェイト・シックザールという少女もまた、その幼さに見合わない優れた操縦センスを持っているのだ。そうでなければ、誰がまだ14の少女をマイスターにするものか。

 

 だが、指揮官としてのフブキ・シニストラが"物事に絶対はない"と冷静に告げていた。

 

 だからこそ、フブキは動揺(わず)かに速やかに状況を確認する。

 

「損傷度合いは?」

『ケイビ、ケイビ。GNソード、ソンシツ』

 

 それを聞いて少し安心する。

 確かにガンダムが武装を失うともなれば、それは"損傷"となるだろうが、機体にもパイロットにも何事もないようだ。

 

 とはいえ、ガンダム–––––それも白兵戦に特化したアステリアが武装を損失したとなれば、それは敵パイロット或いは敵機体の想定外の力によるものだろう。

 

 だというのなら……。

 

「ウェンディ、ヴァイオレット、連合軍の様子は?」

〈殆どの機体が沈黙。既に撤退行動を始めています〉

「なるほど、計画(プラン)通りね。では、各マイスターの判断で撤退行動に移行します」

 

 連合とザフトの争いが終わったのなら、ここにいる意味はないだろう。敵新型の件もこの後ヴェーダの指示を(あお)げばいい。

 

「フェイトに関しては、私が…くっ」

 

 フブキはフェイトの援護に向かおうとするが、目の前の真紅の機体がそれを許さない。振るわれたビームサーベルをシールドで受け止め、こちらもビームサーベルを相手のシールドに叩きつける。

 

「ジャスティスっ…!」

 

 特徴的なリフターに鮮やかなまでの真紅機体。

 それはかつてヤキン・ドゥーエ攻防戦で活躍し、その末に失われたはずのZGMF-X09A"ジャスティス"に酷似(こくじ)しており、ザフトが開発した発展機であることが窺える。

 

 そして、それをここまで完璧に操るとなれば、当時のジャスティスのパイロットである彼以外にいない。

 

「アスランっ!」

 

 このタイミングでディオキアにいるのだから、いずれ戦場で会うことになると覚悟していた。だが、こうして対面して、全く感情を乱さないほどフブキは機械的になれなかった。

 

 フブキはビームサーベルを押し込むが、ふと寒気を感じて機体を上昇させる。先程まで機体があった場所をビームブレイドを展開して振り上げたジャスティスの右足が通り過ぎた。

 距離をとったフブキはビームライフルを放つが、ジャスティスはそれを回避し、シールドから取り出したビームブーメランを投げつけてくる。

 

「っ!」

 

 フブキはそれをシールドで受け流したが、その(すき)にジャスティスはその機体ごとシールドでメティスに体当たりを仕掛けてきた。大きく機体は後ろに吹き飛ばされ、コックピットが目まぐるしく揺れ動く。その中でフブキは幼馴染の強さに確信する。

 

 –––––強いっ!

 

 認めるしかない。

 アスラン・ザラはモビルスーツパイロットとしてフブキの一歩も二歩も先を行っている。搭乗しているのがガンダムでなければ、とうに墜とされていたかもしれない。

 

「くっ!」

 

 ガンダムを上手く扱えていない自分に怒りを覚えながらも、フブキは機体体勢を立て直す。

 

「アキサム、聞こえる?」

〈ん? どうしたフブキ〉

 

 把握しているデータの内、グフ一機を相手にしているアキサムへ通信を繋ぐ。撤退行動に移ろうとしていたのか、その表情には余裕(よゆう)があった。

 

「フェイトの援護をお願い。例の新型機、思ったよりやるみたい」

〈あぁ、了解した。すぐに向かう。そちらは?〉

「ある程度やったら離脱するわ。それまでにお願い」

 

 今離脱すればアスランは自分を追ってこないだろう。だが、そうなれば味方を助けるためにアステリアの元に向かうはずだ。それだけは避けたい。

 

 ––––––アスランは…彼は危険だ!

 

「悪いけど、もう少しだけ付き合ってもらうわよ!」

 

 脳裏に浮かぶ彼等との思い出、その全てを打ち消し、フブキはビームサーベルの光刃をその真紅の機体に叩きつけた。

 

 





 群像劇というが、視点がバラバラで見づらいといった理由で怒涛の低評価を貰いました。ガンダムなら仕方なくない?と思いつつも、納得する理由でもあったので作者も反省しております。
 今更、全部書き方を直すのは難しいので、もしも別作品を書くことがあったら気をつけようと思います。

 こんな書き方でこれからも進めると思いますが、こんな私の作品でも面白い・続きが見たいと思ったら高評価・お気に入り登録をお願いします。

 そして、今まで応援してくださった方はこれからももう少しお付き合いしてくれると嬉しいです。

 後、始めて低評価に理由をつけてくれたので、それはそれで嬉しかったです。


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すれ違う視線


CB的には勝てなければ負けと同義。ザフト的には負けなければ勝ち。そのような認識でお願いします。


 

 

〈フェイト…!〉

 

 耳を打つアキサムの声で、フェイトは我に返った。

 いつの間にか、隣にはモノトーン色の機体が肩を並べている。別の地点で戦闘していたはずのガンダムサルースだ。

 

「…あ」

 

 周囲に連合やザフトのモビルスーツは見られない。気づけば、戦闘は終わっていた。

 

 フェイトは目を(もど)し、信号弾とともに自分たちから遠ざかる赤い翼の機体を見やった。

 

 以前までは見られなかった…情報にあったザフトの新型モビルスーツの一機。非GNドライヴ搭載機にしては非常に高い性能を持つモビルスーツであり、特に幻影を生み出す光の翼に関してはガンダムにもない特異の技術といえよう。

 

 だが、この機体と刃を(まじ)えたフェイトが感じたのは、言われるほどそこまで脅威ではないのか?という感覚だった。

 

 確かに今まで相手をしていた"インパルス"やその他セカンドステージシリーズの機体と比べれば、強敵だっただろう。それもあの"フリーダム"と同等以上なまでに…。

 

 しかし、見切れない相手ではなかった。

 それ以上の機動性を誇るガンダムメティスの性能を知っていたからだ。

 

 実際、フェイトは無難に敵機体の動きに対応できていた。

 だからこそ、増援がやってきて2対1となってなお、ミッション遂行に何の支障もないと思っていたのだ……あの時までは。

 

「………私は」

 

 己の機体をチェックする。

 機体そのものに大きな損傷はないが、アステリアのメイン武装であり、"剣"であるGNソードを失い、右腕にも小さな傷跡が目立つ。本来ならあり得ない姿だった。

 

「………っ」

 

 –––––負けた……。

 

 彼女は呆然(ぼうぜん)と思う。

 これまでどんな敵にも()れさせなかったこの機体を、突如として動きを変えたあの新型はいとも容易(たやす)く傷つけたのだ。怒りと屈辱(くつじょく)を感じるよりも、己の無力さに絶望する思いだった。

 

 本気で相手を殺そうと思えば、負けることはなかった–––––というのは、例え事実であっても言い訳に過ぎない。ミッションにおいて、機体の性能を100%引き出すのはガンダムマイスターとして当然の義務。

 

 戦争をする人間–––––世界の歪みに負けた……。

 

 その事実が、自分の正しさまで打ち(くだ)いたように感じた。

 

〈…俺たちのミッションは終わりだ。撤退するぞ〉

「……了解」

 

 アキサムのサルースが機体をひるがえして撤退ルートへ向かっていく。

 

「………赤い翼」

 

 フェイトは最後に自分の"剣"を打ち砕いた赤い翼のモビルスーツを冷たい目で見つめた後、どこか後ろめたいような思いでアキサムの後に続いた。

 

 瞳を閉じれば、過去の自分が––––マユ・アスカが自らに問いてくる。

 

 なぜ、私は戦っているの?

 どうして、ソレスタルビーイングに入ったの?

 私はなんで、アステリアに乗っているの?

 なんのために戦ってきた? なんのためにガンダムに乗ってきた? なんのために?

 

「––––そんなの決まってる」

 

 戦争をなくすため。あの日の自分のような人間をもう生み出さないため。

 そのための力。そのためのガンダム。二年前のあの日から、それだけを求めて必死に生き抜いてきた。

 

 なのに…。

 なのに……っ。

 

「私はっ…」

 

 フェイトの瞳から、一筋の涙が流れた。

 それは少女が流さぬと決めてから随分と久しい、悲しみの涙。

 

 だが、その涙を拭ってくれる兄は、もういなかった。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

「シン! やったな!」

 

 着艦したデスティニーに、ヴィーノたち技術スタッフが()け寄った。

 

「すごいじゃないか、"スーパーエース"!」

「驚いたぜ、あの"ガンダム"に手傷を合わせたんだろ!?」

 

 ラダーで降りてきたシンを、スタッフの拍手(はくしゅ)激励(げきれい)が迎える。それに対して少しの気恥ずかしさを覚えながらも、シンは満足感を()みしめていた。

 

 あの強敵–––––おそらく世界で一番の強さを持つガンダムに打ち勝った。

 

 それに、ミネルバも仲間も無事だ。

 クルーたちの熱気が伝染したように、シンの心まで熱くなる。

 

「シン!」

 

 ルナマリアがシンに駆け寄り、夢中になって賞賛(しょうさん)する。

 

「すごかった! あのガンダム相手に––––びっくりしちゃったわよ!」

「そう? でも、ルナも無事で良かったよ…ホントに」

 

 内心の喜ばしさを隠しつつも、落ち着いた様子で言葉を受けると、後ろから進み出たレイを見やる。

 

「よくやったな、シン。見事だった」

「ありがとう。でも、レイのおかげだ」

 

 セイバーの援護がなければ、あの勝利は得られなかっただろう。互いに新機体で、即席の連携ができたのは相手がアカデミー時代から付き合いのあるレイだったからだ。

 

 するとレイが、滅多に見せない笑みを浮かべるのが見えた。

 

「……やり遂げたのはおまえだ」

 

 その言葉に嬉しくなる。

 アカデミー時代から常に自分の前を歩いていたらレイからの称賛の言葉は、シンの胸を打った。

 

 ひそかな満足に(ひた)る彼に、ジャスティスから降りたアスランが歩み寄る。

 シンは笑顔で彼を見やったが、相手の顔に暗く沈み込んだ表情を見つけて驚いた。

 

「どうしたんですか? どこかやられましたか–––––あなたともあろう人が?」

 

 皮肉っぽく発した最後の言葉には、実のところシンの本心がこもっている。

 何せここしばらく、英雄アスラン・ザラの実力を側で見続け或いは実際に体感もしている。その実力は疑いようもない。悔しいが、自分よりも遥か高みにいることは認めざるを得ないだろう。

 

 だからこそ、シンはアスランに対して何の心配もしていない。そこには、自分よりも強いのだから、例え相手がガンダム相手でも負けるはずがないという信頼があった。

 

「ああ、いや…」

 

 アスランは始めて自分がどんな顔をしているか気付いたように、慌てて笑みを浮かべる。

 シンは傷つきながらも五体満足で立つデスティニーを見上げながら、(ほこ)らしげに言った。

 

「作戦、成功でしたね」

「ああ、ミネルバもみんなも無事…大成功だな」

 

 アスランが肩を並べて、静かに同意する。

 

「よくやった、シン。君の力だ」

「……そんなことないですよっ」

 

 シンは俯いて小さく答えた。

 体の奥から湧き上がってくる喜びを、何とか抑え込もうと努力しながら。

 

 –––––この人に、認められた。

 

 有頂天になりそうな気分を隠すために、シンは話題を切り替える。

 

「隊長…アスランもよく戦ってたって言ってましたし…あっ、えっと…メイリンが!」

「あ、ああ」

「それに、結局俺も落とし切ることはできませんでした。今回の勝利もレイのお陰で…だから、別に…」

 

 褒められたい、認めれたいと思いつつも、実際に褒められるのには慣れていない。

 そんな彼の様子にアスランが苦笑を浮かべ、シンの顔はますます赤くなる。

 

「それで十分だ。俺たちの役目は敵を倒すことじゃない。この艦を守り切ることなんだからな」

「…はい!」

 

 シンはアスランの目をしっかりと見上げ、答える。

 

 これまで感じたことのない、満ち足りた思いを抱きながら。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

「グフ、収容完了。これで全てのモビルスーツが帰投しました」

 

 メイリンのその言葉にブリッジの人間が皆安堵(あんど)する。それは艦長のタリアも同じだった。

 

 圧倒的に数で勝る連合の艦隊に加えて、4機ものガンダムの出現。いくらこちらが新型のモビルスーツが配備されたといっても、タリア達には大きな不安感が残っていた。

 

 実際、セイバー、インパルス、グフは酷いありさまだ。それを言うなら艦もボロボロ、自分たちもボロボロと言った感じだが。

 

 それでも、いつまでも虚脱(きょだつ)してはいられない。タリアは艦長席にしゃんと身を起こし、口を開いた。

 

「もうこれ以上の追撃はないと考えたいけれど、わからないわね。パイロットはとにかく休ませて。アーサー、艦の被害状況の把握、急いでね」

「は、はい!」

 

 アーサーはホッと緩めた顔を戻し、各部と連絡を取り始める。その他クルー達も気を取り直し、各員の作業に戻った。

 

 タリアは満足して彼等を見やった。(たよ)りないかと思ったが、なかなかどうして、みんなよくやってくれた。今回の戦闘でクルー達は大きく能力を伸ばしただろう。

 

 そして、その最もたる者が誰かは明らかに。

 

「でも、まさかガンダムを追い払えるなんて…本国は大喜びでしょうね」

 

 彼女がしみじみと感想をもらすと、アーサーが振り返って大きく頷く。

 

「ええもう! 信じられませんよ! 開戦以来誰も敵わなかったあのガンダムに!?」

 

 彼は興奮した口調で繰り返す。

 

「これはもう勲章(くんしょう)ものですよ! シンをインパルスのパイロットに選んだ私は正しかった! ええ!」

「…貴方は彼に搭乗機体を伝えただけでしょう…全く」

 

 シンを褒めちぎる副長(アーサー)を微笑みながら見やった後、タリアはため息混じりに言った。

 

「でも、あれがデスティニー–––––というかインパルスを任されたシンの力なのでしょうね…あの力を見れば分かるわ」

 

 ミネルバにおいてのパイロットとしての能力は、"フェイス"の二人を除けばレイが一番高かった。判断力・落ち着きなどをとってみてもだ。タリアから見るとシンはまだまだ子どもで、操縦にも気分次第でムラが出る。そのような評価だったのだ…以前までは。

 

「–––––まさか、ここまでわかっていたのかしら、デュランダル議長には…?」

「かもしれませんねぇ。議長はDNA解析の専門家でもいらっしゃいますから」

 

 アーサーが感心したように同意し、なおも繰り返した。

 

「いやぁ、それにしてもすごかったです。アスランとハイネのおかげですかね? シンの急成長っぷりには驚きましたよ!」

「あの二人が訓練をつけてくれていたのは知っているけど、こんな短時間でここまで成長できたのは間違いなくシンの才能ね…」

「ついこの間が初陣だったなんて驚きですよね! 噂に聞く"ヤキン・ドゥーエのフリーダム"だって、もう超えたんじゃないないですか?」

 

 冗談っぽく呟くアーサーの言葉に吹き出しそうになりながらも、タリアは揶揄うように言った。

 

「ジブラルタルに入ったら、報告とともに叙勲の申請をしなくちゃならないわね。軍本部もさぞ驚くでしょうけど」

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

「–––––全く、無茶しすぎだ」

 

 呆れたようにアスランは呟いた。

 パイロットスーツから制服に着替えた彼の姿は、格納庫(ハンガー)から場所を移して医務室にあった。

 

「おいおい、それがミネルバを守るためにたった一人で頑張ったヒーローにかけるセリフか?」

 

 アスランに対して、ムッとした表情でそう言ったのは、医務室のベットに横たわるハイネだった。(あらわ)になった上半身には、いくつかの包帯が巻き付けられているが、その外見に反して本人は軽快な様子を崩さないでいる。

 

「だからこそだ。一人でこっそり抜け出そうとして…」

「チッ、バレてたか。けどよ、後輩達にカッコ悪いところは見せられねぇだろ?」

「ハイネ……」

 

 理解できるようで理解できない。アスランは大きくため息を吐いた。

 

 ハイネは現在、身体を軽く負傷して医務室で治療を受けていた。

 機体の限界を超えた、無理な動きをしたせいだ。ジャスティスでも追いつけないガンダムを相手に、ジャスティスどころかセイバーにすら劣るグフで渡り合ったのだから、流石のコーディネーターといえどもその反動が来ているのだろう。

 

「それで、俺のグフは?」

「見た目は普通だが、中身はガタガタ。特に駆動系に問題があるみたいで、機体ごと変えたほうが早いって、エイブス主任は言っていたな」

「…くっ」

「しばらく大人しくしておけよ。少なくとも今はな」

 

 現在、ミネルバに艦載されている機体で満足に動かせるのはデスティニーとジャスティス、インパルスだけだ。小破したセイバーはともかく、ハイネが強引に動かしたグフは使いものにならない。

 

「はいはい、わかりましたよ」

 

 不貞腐(ふてくさ)れたようにハイネがベットに横になる。それを微笑ましく見守りながらも、アスランは口を開いた。

 

「あの後、シンたちも心配していたよ。ハイネは大丈夫なんですか!?ってな」

「っておいおい、バレてたのかよ。ダッセェな、俺」

 

 気恥ずかしそうにハイネが顔を(そむ)ける。そこをさらに追求するのはかわいそうだと思ったアスランは、話題を変えて言葉を続けた。

 

「それで、ミネルバの次の目的地はジブラルタルだそうだ」

「へぇ。こんな短いスパンでカーペンタリアからジブラルタルまで横断するとは。地球一周でもすんのかな?、俺たち?」

 

 茶化すようにハイネが言うが、アスランは否定しなかった。

 

「まぁ、情勢次第ではそれもあり得るかもな。地球軍の動きも気になるところだし…」

 

 あれだけの部隊を率いて来たのだ。

 それを撃退した今、すぐに立て直すだけの戦力的余裕が今の連合にあるとは思えない。

 

「ま、全ては議長次第だな」

「あぁ、はたしてどうなるか」

 

 できれば、このまま停戦に持ち込めると嬉しい。

 そうすれば、カガリに会うことも、ラクスを探すこともできるのだから。

 

 

 





>フェイトvsシン
初見機体+シン種割れ+訓練により原作より強化+レイの援護などの理由もあり、シンの勝利となりました

>シンとアスラン
ハイネが間に入ったこと以上に、模擬戦や戦闘シミュレーションで叩きのめされたので、シンはアスランのことを認めていますし、アスランもシンの扱い方を理解しつつあります。

>ハイネ
少しの負傷。
逃げながらとはいえ、サルース相手にグフで生き残ったというヤバさ。その代償にグフはスクラップに…。

高評価、お気に入り登録はもちろん、毎回毎回誤字報告も恐れ入ります。
励みになるので、些細なことでも感想に書いてもらえれば、いつか必ず返します。


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旧きは消えて


今回は少し長いです。

訂正)アンケート再設定しました


 

 

 

〈これはどういうことかな、ネオ〉

 

 モニターの中、その青白い顔を真っ赤に染めたジブリールがネチネチと嫌味っぽく口にした。モニターの(わず)かな隙間から見える部屋の荒れ具合を見ても、彼が怒りを覚えているのは言うまでもない。

 

「…申し訳ありません」

 

 ネオとしては、ない頭を下げるしか他にない。それがもはや通じないと分かっていてもだ。

 

〈はぁ…そのセリフを私が何度聞いて来たと思っているのかね?〉

「…は」

〈君の能力は疑っていないが、全ては結果を出さねば意味がない〉

 

 ジブリールはその頭に血管を浮き出させるほど怒り狂っている。おそらく、"上"の人間にまたも何か言われたのだろう。それは、大佐とはいえ実働部隊の人間に過ぎないネオではお目にかかることもないような大物たち。それを相手にヘコヘコするジブリールの姿は、想像するだけで滑稽(こっけい)だ。

 

〈またこれだ。『正義のザフト軍艦ミネルバ、ガンダムに希望の一太刀!』だと…? 私を馬鹿にしているのか!〉

 

 すると、返事をしないネオに苛立ったのか、ジブリールはついに声を荒上げた。

 

〈あれだけの部隊だぞ…戦艦一つも墜とせないとはどういうことだと聞いている!〉

「…報告書にて提出したはずですが」

 

 半ば恫喝(どうかつ)のように怒鳴り散らすジブリールだが、ネオは極めて冷静に返答する。ジブリールがネオからの失敗報告に慣れたように、ネオも彼のネチネチとした癇癪(かんしゃく)加減にはウンザリしていた。

 

〈フン、確かに拝見した。ガンダムが4機現れたことも、ザフトが新型を投入して来たことも理解している…が、それが今回の失敗の言い訳になるのか、ネオ?〉

「…いいえ」

〈全く、たかがモビルスーツ4機に2機相手に何をしているのか…〉

 

 ネオは内心で舌打ちしながら仮面の下で顔を(しか)めた。

 自分たちが必死に戦っている間、のんびりと猫と家で過ごしているような男に、戦場の何が分かるというのか。そもそも、この戦局で未だにその認識でいることに理解に苦しむ。

 

「–––––しかし」

〈なんだ、ネオ?〉

 

 だからこそ、ネオは少し反抗的な態度をとった。

 確かに自分たちにも多少は作戦失敗の責はあるかもしれないが、そもそも勝率が限りなくゼロに近かった作戦を強行させたのは目の前の男である。なのに、ここまで言われて黙っていられるほどネオはこの男に忠誠(ちゅうせい)を誓ってはいない。

 

「…私も含めて、エクステンデッドは結果的にガンダム二機を足止めに成功。その間にミネルバを攻める手筈も整っていました。問題は…むしろ盟主の送った部隊にあるのではないかと」

〈な、なんだと!?〉

 

 これまで従順だった部下からの苦言に、ジブリールは眉をひくつかせて驚いている。

 

 しかし、ネオからすればここが最後のチャンスだった。ジブリールさえ言いくるめることができれば、ステラたちがこれ以上無駄に戦わされる理由はなくなる。

 

「いくら盟主といえど、無限に戦力があるわけではないでしょう。このままではただ兵士が死んでいくだけで何にもなりません」

 

 いくら冷酷無比のファントムペインに所属する、生体CPU扱いのエクステンデッドとはいえ、死ぬと分かっている戦場に出させるような真似はしたくはなかった。

 

「我々が生き残り、彼らが戦死したのが全ての証拠です。いい加減理解してください、盟主。ガンダム相手に数で攻めたところで–––––」

〈––––黙れっ、この無能めが! よりにもよってこの私に指図するつもりか!〉

 

 だが、激昂(げっこう)したジブリールにネオの言葉は届かず、むしろ神経を逆撫でしただけであった。持っていたグラスを投げつけたジブリールは、ガラスが割れる音ともに怒りの声を上げる。

 

〈もうよい! お前に任せた私が間違っていたのだ…!〉

「盟主っ!」

〈駒は大人しく私の指示に従っていればよいものを! ネオ、貴様…覚悟はできているな?〉

 

 ジブリールがモニター越しにジロリとその血走った目を向ける。ネオは尚も食い下がろうとしたが、何を言っても通じないと分かり、ゆっくりと項垂(うなだ)れた。

 

 最悪、脱走という形で軍を抜けようかと思っていたが、連合でも()れ物扱いのファントムペインを受け入れてくれる勢力などありはしない。飼い犬は野良犬になった時点で人間には受け入れられないのだ。

 

 –––––スティング、アウル、ステラ…すまない

 

 ネオがジブリールからの処分の覚悟を決めた時、彼の言葉を(さえぎ)るように新たなウィンドウがモニターに浮かび上がった。

 

「貴方は…」

 

 その人物をネオは知っていた。それは、ジブリールとの通信に割り込めるほどの権限を持つ人物…。

 

〈その話、"待った"と言わせてもらおうかしら〉

 

 モニターに映ったのは、金髪の女性……オーブにいるはずのシャーロット・アズラエルだった。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

「その話、"待った"と言わせてもらおうかしら」

 

 シャーロット・アズラエルは口にしていたティーカップから顔を(はな)して正面を見据えた。

 

 横に設置された窓からは、美しい青空と真っ白い雲が映る。彼女の乗るファーストクラスの飛行機に置かれている高級ソファーは座り心地がよく、それを身を沈めて、モニターの向こうに視線を向ける。

 

〈どういうことですかな、アズラエル女史〉

 

 左右に映る男、そのうちの左側…ロード・ジブリールが不満を隠そうともせずに声をかけてくる。そこには自分の言葉を(さえぎ)られた苛立ちと、シャーロットが介入したことへの困惑が垣間(かいま)見える。

 

「いや、失礼。ただ、ここまで頑張ってくれた"自分の部下"にそのような態度…見過ごせなくてよ」

〈なんだと…〉

 

 案の定、ちょっと突けばすぐに化けの皮が()がれる。何せ元々、シャーロットを敵視していた男だ。

 

〈これは私とファントムペインの問題です。私の部下をどう扱おうと貴女には関係ないと思いますがっ〉

「………フフッ」

 

 ジブリールの言葉に、シャーロットは失笑で返した。

 それは、どこまでも鈍臭いこの男が(あわ)れであり、旧い時代の人間に見えてしょうがないと思えたからだ。

 

〈っ! 何がおかしいと言うんです?〉

 

 ほら、今も怒鳴りたいのを我慢して必死に敬語を使っている。

 それは、彼自身が自分の立場がシャーロットよりも下にあるということを理解しているからだ。

 

「いえ、無理をなさらなくてもいいんですよ、盟主様?」

 

 敗戦に続く敗戦によって彼の地位は下がりに下がり、既に対等であった関係はシャーロットを見上げるしかないところにまで落ちている。それが哀れで仕方がなかった。

 

〈ぐっ、貴様っ!〉

「私はメッセンジャーとして貴方と()()()()をしに来ました」

 

 なので、話は手早く終わらせる。

 シャーロットとしても、ジブリールは好き好んで会話したい相手ではない。

 それでも、()()()()()だと思えば、少しの気遣いもしたくなるというもの。

 

〈…最後だと?…まさかっ!」〉

「ご想像の通り。今回の失敗を持って彼等は貴方に見切りをつけたようですわね。ロード・ジブリール」

 

 ただでさえ下がっていた地位は、今回の失態でもってもう取り戻せないところにまた来ていたのだ。

 

 それに、"ロゴス"老人たちは狡猾(こうかつ)だが保身的な人間だ。このままジブリール一人が失脚するならまだしも、害が自分たちに及ぶとまでなれば優先することは決まっている。

 

〈ば、馬鹿な…〉

 

 ジブリールは赤く染めていた顔を真っ青にして、ソファーに倒れるようにもたれかかった。まるで生きる力全てが奪われたように燃え尽きた様子だ。

 

 無理もない。"ロゴス"から切り捨てられるというのは、それだけで実業家として人生が終わったことを意味するのだ。ロード・ジブリールという人間は消え、代わりの人間がその役目を引き継ぐことになる。

 

「今回を以て、"ブルーコスモス"は解体。貴方の私兵である"ファントムペイン"も同様です」

〈そんな…私は…〉

 

 茫然自失(ぼうぜんじしつ)な彼に、シャーロットの言葉は届いていない。

 だが、それでもいい。これは決定であり、命令であり、ジブリールに口答えする権利はないのだ。

 

〈あの…〉

「ん? ああ、突然すみませんね。ロアノーク大佐」

 

 突然の上司の失脚(しっきゃく)に、仮面の男は戸惑っている様子だった。

 

 …それにしても、自分たちの飼い主がここまで追い詰められれば反発の一つや二つあるかと思ったが、見る限りそれはない。

 仮面の下で何を考えているかは分からないが、どうやらジブリールに人望がなかったことだけは確かなようだ。

 

〈あー、話は聞かせてもらいましたが、我々の今後は…〉

 

 なるほど、自分たちの心配か。

 ファントムペインといえば、連合でも腫れ物扱いだというそうだし、エクステンデッドなどの面倒な人間の集まりであることを考えれば、(いや)が応でもジブリールの下でしか生きられないと考えるのも無理はない。

 

「安心してください。貴方たちは今まで通りに任務をこなすだけです。ただ、上の人間がジブリール元盟主から私に変わるだけですから」

〈は、はぁ…〉

「今後の指示は追って伝えます。それまでは補給・整備に務め、人員を休ませてください」

 

 流石に混乱している様子だが、ネオ・ロアノークという仮面の男が物分かりがいいらしく、シャーロットの命令を素直に受け入れた後「失礼します」と通信を切った。

 

「さて、と……ファントムペインに関する情報、用意できるかしら」

「はっ」

 

 (つか)えの男にそう命じると、シャーロットはモニターの中で項垂れるジブリールを見つめる。

 

 以前はあれほど自分につっかかってきて、どこから()いてくるのかもわからない自信と傲慢(ごうまん)さに(あふ)れた男だったが、今はそれが影も形もない。未だ現実を直視できていないらしく、飼っているらしい猫が顔に触れてもピクリとも反応を示さなかった。

 

 哀れな男だと思う。

 もう少し現実を理解し、受け入れる余裕があれば生き残れたものを。せっかく、変革する世界を目にできるところだったというのに…。

 

 せっかちなのだ、彼は。

 そこだけは自分の兄によく似ている。戦場になど首を突っ込まずに大人しくビジネス界に留まっていれば良かったというところも。

 

「…はぁ」

 

 シャーロットは憂鬱そうにため息を吐き、窓の外へ視線を向けた。

 

 雲を抜けた先には、既に後にしたオーブ連合首長国の街並みが写っている。

 空港近くの高速道路の(わき)林立しているビルが、照明やネオンの光によって、(きら)びやかな夜景を作っている。おそらくシャーロットと同年代の女性が見れば、多少は心を(おど)らせるだろう。

 

 しかし、彼女にとってはただの空々しい明るさにしか見えなかった。

 

「こちら、ファントムペインについての資料です。お待たせしました」

「…そう、ご苦労様」

 

 シャーロットが指先で鼻筋を緩く()でる。

 

「ジブリール氏について、()に連絡を」

「畏まりました」

 

 シャーロット・アズラエルという少女にとって、世界は灰色だった。色が識別できないのではない。彼女にとって、どんな美しい光景もただの灰色でしかないのだ。 

 

 ヒトは求めるものがある、欲求があるからこそ、行動し、妬み、戦争につながる。

 

 ソレスタルビーイングという組織に出会うまで、シャーロットにはその「欲求」が欠落していた。いや、求めようとしても何もないのだ。莫大(ばくだい)な財力を持つアズラエル家の長女として生まれた彼女に手に入らないものはなかった。それこそ、多くのナチュラルが求めるコーディネーターの能力すらシャーロットは上回っていたのだ。

 

 だからこそ、戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングの理念に彼女は飛びついた。この灰色の世界を変えるという「欲求」が彼女の中に芽生えたのだ。

 

 たとえ、その過程に兄を失うようなことがあったとしても。

 

「これでいいんですね、レクシオ・ヘイトリッド」

 

 たとえ、イノベイターの傀儡と成り果てようとも…だ。

 それで世界が変わるというのなら、歓迎(かんげい)しよう。

 

 そのために、自分は動いているのだから。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 月–––––地球から38万4400キロメートル離れた衛星。自転周期と公転周期が一致(いっち)しているため、地球上からその裏側を観測することはできない。

 

 その月の裏側付近に、それはあった。

 まるで、月の裏側にひっそりと建造された地球軍の"ダイダロス"基地を見下ろすように、その(ふね)顕在(けんざい)していた。

 

 それは全長15キロメートルにも及ぶ艦だった。

 まさに現代の神殿。誰が人類の未来の担い手であるのかを示す御旗(みはた)のような威厳を示していた。

 

 コロニー型外宇宙航行母艦"ソレスタルビーイング"そのものである。

 

 だが、計画において重要なものはこの艦の中にある。

 

 それは艦の中央に存在していた。

 ()の宝庫。偉大(いだい)なる頭脳。ソレスタルビーイングの中枢(ちゅうすう)。戦争根絶を成すための根幹。

 

 量子型演算処理システム"ヴェーダ"。

 

 その本体が、そこに存在した。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 部屋と呼ぶには、あまりにも大きな空間である。

 宮殿(きゅうでん)を大広間を思わせる造りのそこは、床面が強化ガラスに()()められており、その下で燐光(りんこう)を放ちながら稼働(かどう)している巨大な演算装置を見ることができた。

 

 部屋の入り口から奥に向けて赤い歩廊(ほろう)が真っ直ぐに伸びている。歩廊の先、部屋の三分のニほど進んだところには三段作りになった台座があった。

 

 それこそ、まさしく"ヴェーダ"と呼ばれるソレスタルビーイングの根幹をなす量子演算装置である。

 

 その上にある一台のコンソールパネルの前には、一人の少年がいた。その瞳は黄金に輝いている。

 

(ようやく…か)

 

 少年–––––レクシオ・ヘイトリッドは、この世界で初めて自身が起動した場所…ヴェーダを見つめながら思った。

 

 ここまで来るのに随分と時間がかかった。

 この世界の人類の争い合いは、本当に見るに耐えなかった。人間の汚い部分のぶつかり合いであった。レクシオが人類に絶望しなかったのは、ひとえに西暦での歴史のおかけだ。

 

 だが、それもここまでだ。

 これから世界は大きく変わっていく。全ては革新者(イノベイター)を生み出すため。"来るべき対話"のために。

 

 計画の要となるGNドライヴを完成させた。

 それを搭載させるためのガンダムも造らせた。ソレスタルビーイングを組織化し、機体を使役するためのガンダムマイスターもスカウトした。

 

 そして、ついに始まった武力介入。

 ソレスタルビーイング–––––クラウディオスチームはよい働きをしてくれている。

 

 連合はジブリールを通じてコントロールして来た。彼が用済みとなった今、連合のその後はエージェントであるシャーロット・アズラエルに任せている。

 

 そして、ザフトの方も想定通りだ。

 ギルバート・デュランダルの動きを封じつつ、彼に期待通りの行動をさせている。いささか早いが、新型の開発および各国との協力体制は理想的な展開だ。

 

 問題があるとすれば、この間の戦闘か。

 シン・アスカのSEED因子が発現したことは喜ばしいが、彼の搭乗機であるデスティニーがガンダムアステリアに手傷を負わせたこと…これは良くない。

 

 太陽炉を搭載したガンダムが、核動力とはいえ旧世代機に敗北することは許されない。よもやフェイト・シックザールが敵パイロットの素性に気付いたというわけでもないだろうに。

 

(君たちのやり方は甘すぎるんだ)

 

 生半可な武力介入では、世界は応えてくれない。

 もっと世界に危機感を、ガンダムへの恐怖感を、敵意を与えなければならないのだ。

 

 

 ナチュラルだの、コーディネーターだの、と気にする余裕がなくなるほどに…。

 

 計画の要である擬似太陽炉は既にロールアウトしている。あとはそれを搭載する機体だけだが、そのためにはこれらの問題をなんとかしなくてはならないな。

 

 暗闇の中、少年の瞳だけが黄金の光を放っていた。

 

 

 

 世界の変革まで…あと–––––

 

 





はい、これで物語の半分まで来ました。
ただ、第二期まで想定しているので、全体で見れば4分の1といったところです。ヤバいね。

そこで問題なのですが、『チームトリニティ』に相当するキャラクターは必要でしょうか。作者的にオリキャラが増えるのは読者さんが分かりずらいんじゃないかと不安です。
ただでさえ、登場人物の多いDESTNIYにフェイトたちオリキャラを投入しているので空気になるキャラが増えると思うんですよね。ラクス達なんかが最もたる例ですが。

トリニティは確かに過激でしたが、プトレマイオスチームも見方を変えればやっていることは同じ以上、ガンダムへの敵意や恐怖感が生まれるとは思うんですよねぇ。
けど、そうなるとフェイトたちが素直に過激な武力介入を受け入れるか?って話になりますし…。そうならそうで、それらしい理由付けはしますが。

またアンケート取るので、皆さんの意見をお願いします。

それ次第でストーリーも変わると思いますし、暫くは執筆作業に専念したいと思います。
遅くて更新は8月ぐらいになるかな…。
それまでは設定資料等をあげられればと思っています。

ー追記ー
ファントムペイン三人組をトリニティポジにするという案も感想欄でありましたので、そちらも考慮の上でアンケートにお答え下さい。作者的にも今は悩みどころです。


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現在公開可能な情報(キャラクター編)


最新話までをまとめた設定集です。
続きは後日投稿します。


 

【ガンダムマイスター】

フェイト・シックザール

《プロフィール》

誕生日:C.E.59年9月3日

星座:乙女座

年齢:14歳

性別:女

人種:コーディネーター

身長:155cm

体重:42kg

血液型:O型

肩書き:ガンダムマイスター

 

《概要》

ガンダムアステリアのマイスター。オーブ解放作戦にて家族を失った少女で戦争根絶を望む。元々は天真爛漫な少女だったが、現在はあまり己の感情を表に出さないように変貌してしまった。

 

《組織外の関係人物》

シン・アスカ

生き別れの兄。

オーブにて彼を目撃したが、ザフトに所属していることは知らない。

 

キラ・ヤマト

間接的な加害者。

オーブにて出会ったが、彼がフリーダムのパイロットであることは知らない。

 

 

シエル・アインハイト

《プロフィール》

誕生日:不明

年齢:18歳(推定)

性別:男

種別:ナチュラル(強化人間)

身長:178cm

体重:60kg

血液型:B型

肩書き:ガンダムマイスター

 

《概要》

ガンダムセレーネのマイスター。金髪に赤紫色の瞳をした中性的な男。穏やかな性格をしている。かつて地球連合軍の強化人間プロジェクトで実験台になっていた過去を持つ。

 

《組織外の関連人物》

ステラ?

生き別れの妹。

ロドニアの研究所で離れ離れになっており、彼女の現在の居場所は知らない。

 

スティング、アウル

ロドニアの研究所時代の後輩。

ロドニアの研究所で離れ離れになっており、彼等の現在の居場所は知らない。

 

クロト・ブエル

ロドニアの研究所時代での同期。

脱走の際に離れ離れになっており、研究所の潜入任務で彼の死を知った。

 

 

フブキ・シニストラ

《プロフィール》

誕生日:C.E.53年8月24日

星座:乙女座

年齢:20歳

性別:女

人種:ナチュラル

身長:163cm

体重:48kg

血液型:AB型

肩書き:ガンダムマイスター

 

《概要》

ガンダムメティスのマイスター。クラウディオス女子組の中で年長の女性。頭の回転が早く、作戦行動中は指揮官としてマイスター達をまとめ上げる。

 

《組織外の関係人物》

アスラン・ザラ

月の幼年学校時代の後輩。

コーディネーターだからと色眼鏡で見ることなく接してきた幼馴染のような存在。

彼の今までの経歴は全てを把握している。ディオキアの街で再会し、その後の戦闘で剣を交えた。

 

キラ・ヤマト

月の幼年学校時代の後輩。

コーディネーターだからと色眼鏡で見ることなく接してきた幼馴染のような存在。

アスランからオーブにいるということは聞いてるが、過去の経歴は把握しておらず、フリーダムのパイロットだということは知らない。

 

 

アキサム・アルヴァディ

《プロフィール》

誕生日:C.E.46年11月29日

星座:射手座

年齢:27歳

性別:男

人種:コーディネーター

身長:184cm

体重:64kg

血液型:O型

肩書き:ガンダムマイスター

 

《概要》

ガンダムサルースのマイスター。マイスター中では最も年長で兄貴分。口調は軽いが生真面目な性格で仲間からの信頼も厚い。元ザフト軍人で、戦争によって幼馴染や家族などの全てを失った過去をもつ。

 

《組織外の関係人物》

ハイネ・ヴェステンフルス

ザフト軍時代の同僚であり、後輩。

一時期は彼を部下として任務に赴いていたことも。

 

 

【クラウディオスクルー】

ウェンディ・ヘルシズ

《プロフィール》

誕生日:C.E.55年11月22日

星座:さそり座

年齢:18歳

性別:女

人種:ナチュラル

身長:162cm

体重:47kg

血液型:A型

肩書き:戦況オペレーター

 

《概要》

戦況オペレーター。かなり明るい性格をしているが、その分生真面目で心配症。実の妹のヴァイオレットはもちろん、最年少のフェイトのことも妹のように可愛がっている。

 

 

ヴァイオレット・ヘルシズ

《プロフィール》

誕生日:C.E.52年12月28日

星座:やぎ座

年齢:15歳

性別:女

人種:ナチュラル

身長:157cm

体重:44kg

血液型:A型

肩書き:戦況オペレーター

 

《概要》

戦況オペレーターでウェンディとは姉妹。巻き毛カールで冷静クールな性格をしており、やや内向的。その分戦闘時には頼れるCICとして活躍する。

 

 

シド・ダミアン

《プロフィール》

誕生日:C.E.52年4月4日

星座:おうし座

年齢:21歳

性別:男

人種:ナチュラル

身長:170cm

体重:60kg

血液型:B型

肩書き:操舵士

 

《概要》

クラウディオスの操舵士。一見すると軽薄なお調子者に見えるが、実は元はいいとこのお坊ちゃんだったりする。歴4年の家出少年。

今は宇宙にあるクラウディオスにいるために空気。

 

 

バッツ・グランツ

《プロフィール》

誕生日:C.E.38年7月3日

星座:かに座

年齢:34歳

性別:男

人種:コーディネーター

身長:188cm

体重:75kg

血液型:B型

肩書き:砲撃士

 

《概要》

クラウディオスの砲撃士。場合によって操舵士も兼ねることも。元ザフト軍人で実戦経験豊富。予備のマイスターであり、アステリアのパイロット候補に選ばれたこともある。

実はアキサムとは古い付き合いで彼をスカウトした人物でもある。

 

 

バレット・アサイラム

《プロフィール》

誕生日:C.E.20年2月15日

星座:水瓶座

年齢:52歳

性別:男

人種:コーディネーター

身長:171cm

体重:66cm

血液型:AB型

肩書き:メカニック

 

《概要》

クラウディオスの整備士兼ガンダムの開発者の一人。元プラント在住の技術者であり、今では旧式となったジンの開発に携わった過去もある。職人気質というわけでもなく親しみやすい"おやっさん"キャラ。

現在はGNアームズ及び次世代ガンダムの開発を行っている。

 

 

【ソレスタルビーイング関係者】

シャーロット・アズラエル

《プロフィール》

誕生日:C.E.53年1月1日

星座:やぎ座

年齢:20歳

性別:女

人種:ナチュラル

身長:168cm

体重:47kg

血液型:AB型

肩書き:アズラエル財閥現当主

    大西洋連邦国防産業理事

    

《概要》

現アズラエル財閥の跡取りであり、大西洋連邦の国防産業理事。

密かにソレスタルビーイングの支援を行っており、基地や拠点の提供、活動資金の出資者。

 

《組織外の関係人物》

ムルタ・アズラエル

10歳離れた兄であり故人。

幼少期は懐いていたらしいが、兄の方は自身よりも優秀な妹にコンプレックスを抱いていた模様。

 

ロード・ジブリール

兄の死後、ブルーコスモス盟主を引き継いだ人物。

嫉妬のあまり自分に対して当たりの強い彼のことを苦手に思っていた。

 

ネオ・ロアノーク

ジブリールの失脚に伴って引き取ることになったファントムペインの隊長。その正体については情報で知っている。

 

 

レクシオ・ヘイトリッド

《プロフィール》

誕生日:不明

星座:不明

年齢:不明

性別:中性

人種:イノベイド(マイスタータイプ)

身長:177cm

体重:61kg

血液型:不明

肩書き:イノベイター

    ガンダムマイスター(第一世代)

    西暦からの来訪者

 

《概要》

この世界唯一のイノベイド。西暦からの来訪者。

愚かな人類に絶望しつつも、西暦の歴史ゆえに人類への希望を捨てずに独自のイオリア計画を実行する。

 

勘違いしていけないのは、彼自体はリボンズタイプのイノベイドであり、その傲慢さは彼に負けず劣らずだということ。計画のために必要ならば人間はいくらでも犠牲にするし弄びもする。

 

簡単にいえば、リボンズのロールプレイをしている。

オリ主なのに影が薄いのは、黒幕だから。

 

 

ジョージ・グレン?

ソレスタルビーイングの犯行声明に映っていた人物。

その正体についてクラウディオス実働部隊も正確には把握しておらず、知っているはレクシオだけである。

 

 

【ザフト軍】

シン・アスカ

原作主人公の一人。

インパルスも含めて最も出番的な意味で割をくったキャラクター。ただ、成長度合いという意味では原作よりもかなり強化されている。

原作であったアスランとのわだかまりもなく、頼れる上司ハイネもいるおかげで精神的にはかなり余裕がある。

彼に関しては、第二期での活躍を予定しているので、ご期待ください。

 

 

レイ・ザ・バレル

デュランダルから黒幕成分が抜けたので、彼も敵役からただのシンの相棒と化した(=空気化ともいえる)

とはいえ、種割れなしでもその実力は上位に食い込むほどなので、彼が太陽炉搭載モビルスーツに乗ればかなりの強敵になるだろう。

 

 

ルナマリア・ホーク

原作ヒロインの一人。

赤ザクの頃からガンダムにボコされて不遇だった子。早期にインパルスもらったけど、インフレ激しい本作だと性能的に厳しい。

妹生存の本作でシスコンのシンのヒロインになれるかは不明。

 

 

アスラン・ザラ

原作主人公の一人。

元々原作が彼目線の物語なので出番は比較的多め。今作ではシン達のいい先輩をやっている。ハイネのおかげ。

種割れなしでガンダムと対等に渡り合うという最強キャラクター。

 

 

ハイネ・ヴェステンフルス

声優のせいで人気出たけど、声優のせいで早死にしたキャラ。

本編の活躍が少なく、正確な設定が定まっていないために二次創作では設定モリモリにできる。今作ではクルーゼレベルの腕前を持つコミュ力高い人物というある意味最強キャラクターと化した。

 

 

ギルバート・デュランダル

原作でのラスボス。

今作ではソレスタルビーイングという強大な敵を前にして黒幕の座をレクシオに譲った。

そのため、ただの策略家(白)となってしまった。ガンダムの強さに猫の手も借りたいところであり、ラクス暗殺を指示したことを後悔している。

 

 

【地球連合軍】

ネオ・ロアノーク

原作序盤での強敵。

ジブリールの無茶振りのせいで、今作だととにかく苦労人のイメージしかない。

原作でのステラの件を考えても、彼にトリニティポジをさせるなんて鬼畜である。

 

 

スティング・オークレー

通称オクレ兄さん。

宇宙ではそれなりに善戦したが、地上ではガンダムにあしらわれ、つい最近の戦闘ではC.E.最強のデスティニー相手に宇宙用のカオスで戦わされるという苦労人の一人。

 

 

アウル・ニーダ

三人組の中ではそれなりに善戦した方。

とにかく水中用のアビスが優秀だった。が、その度にしょっちゅうアステリアにボコされている。

 

 

ステラ・ルーシェ

原作ヒロインの一人。

シンだったり、シエルだったりと色んな人物とフラグを立てている。個人的に生存させたいのでトリニティポジにするかは悩みどころ。今のところアリよりのナシ。

 

 

スウェン・カルバヤン

スポット参戦の外伝主人公。

今のところ出番は一度だけだが、第二期では各国のエースパイロット枠で出るかもしれない。他二人も同様に。スターゲイザー強奪事件やデストロイ護衛任務がないので、みんな生き残ってるよ!

 

 

ロード・ジブリール

原作での中ボス。

デュランダルはまだどうにかなったが、彼にすら利用されていたジブリールはキャラとして生き残ることはできなかった。盟主王ぐらいまともならまだ出番があったものを。

 

 

【オーブ連合首長国】

カガリ・ユラ・アスハ

原作ヒロインの一人。

自分の政治能力の低さには自覚しつつも、通すところはしっかり貫き通す姿勢は原作のまま。ただ、物事を柔軟に受け入れられるようになったので人間として一皮剥けたのは間違いない。

悩みの種は多いが、その中でも大きいのはアスランがいないこと。

 

 

ユウナ・ロマ・セイラン

原作小物の一人。

ジブリールに煽られてクーデターをやった結果失敗。ガンダム恐怖症を患った上にカガリに頰を2回殴られてカガリ恐怖症にもなった。

 

 

ウナト・エマ・セイラン

原作小物の一人。

ジブリールに煽られてクーデターをやった結果失敗。親子揃ってその地位は失墜したが、生き残っただけ原作よりもマシだといえる。

 

 

トダカ一佐

シン・アスカを助け、プラントへ導いた恩人ともいえる人物。

今作ではカガリが国に残りアスハ派の力があるため、ユウナに従うことなく、タケミカヅチの艦長を務めている。

 

 

マホロ二佐

セイラン派閥としてクーデターに参加したオリキャラ軍人。

クーデター失敗後は軍を退役しようとしたが、トダカの声掛けで軍学校の教官として働いている。

 

 

【無所属】

キラ・ヤマト

原作主人公の一人。

ラクス襲撃事件に際してフリーダムに搭乗したが、そこをレクシオに目をつけられて戦闘し、機体性能の差もあって敗北。機体は大破したが、いつものように本人は軽傷で済んだ。

その後は、プラントへ行ったアスランの代わりに側でカガリを支えている。クーデター戦ではストライクフリーダムに搭乗し、ガンダムアステリアと互角に渡り合った。

オーブやラクスがどう動くかで動きが変わる人物であり、アスラン同様にガンダムと互角に渡り合える数少ないキャラクター。

 

 

ラクス・クライン

原作ヒロイン…ヒロイン?

元アイドルなのに行動力が凄すぎる人。

襲撃事件でプラントに疑念を抱いたものの、ソレスタルビーイングの件も疑わしく思っており、調査するためにプラントにいるクライン派と合流した。

その後の行動はデュランダルもキラも把握していない。彼女はいつ行動に移すのか…はたして–––––?

 

 

アンドリュー・バルトフェルド

元中ボスで頼れるおっさん。

片腕が義手で中身銃というロマン武器を持っているおっさん。クライン派の代表のような立場にある。現在はラクスとともにプラントに行ってダコスタ達と合流した。

 

 

マリュー・ラミアス

元アークエンジェル艦長。

ラクスやバルトフェルド達と別れ、キラ達のもとでモルゲンレーテ技術士"マリア・ベルネス"として働いている。

 

 

 





以上、キャラクター全集となります。
原作キャラに関しては、原作との違いをまとめました。
このキャラの現在は?というのがありましたら、感想欄にお願いします。


>トリニティについて
エクステンデッドの三人をチームトリニティポジションにあげよう、という案があったんですが、一晩考えた結果ナシとしました。

理由としては、今更捨て駒にするには彼等のキャラが立っていること・指揮官のネオの心労を考えた結果などがありますが、一番な理由は捨てキャラにするには勿体無いということです。
今後、第二期などで地球軍サイドを出す時、ネームドがカケラもいないというのは問題なので、そこは旧ファントムペインの面々に出払ってもらおうと考えました。

なので、チームトリニティポジションに関しては登場させないことにしました。
上手く辻褄合わせで物語を進めるので、どうかそのようによろしくお願い致します。

アンケートに協力してもらった皆様。
結果に反するものとなりましたが、どうかご理解を…。



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現在公開可能な情報(メカニック前編)

 

【ソレスタルビーイング】

ガンダムアステリア

《機体スペック》

  分類:第3世代型ガンダム

生産形態:ワンオフ機

形式番号:GN-001CE

 頭頂高:18.3m

本体重量:57.2t

 主動力:GNドライヴ

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ソレスタルビーイング

  所属:クラウディオス

 搭乗者:フェイト・シックザール

 

《特殊機能》

トランザムシステム (TRANS-AM)

オリジナルのGNドライヴのブラックボックス内に組み込まれていたシステム。機体各部のGNコンデンサー内に蓄積している高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を通常の3倍以上に引き上げるというもの。ただし、限界時間があるうえ、使用後はしばらく性能が大幅にダウンしてしまうという短所もある。

 

オーバーブーストモード

GNドライヴの安全装置を解除した状態。コーン型スラスターのパネルを展開することで、一時的にではあるが、出力を最大にまで高められる。技術の発展によって出力を調整できるようになった。

 

外部迷彩皮膜

光学迷彩によって姿を隠す。戦闘ではなく機体を隠しておく為に使用される機能である。

 

《武装》

GNバルカン

両腕部に1門ずつ計2門内蔵されている速射式の小型ビーム砲。GNソードのライフルモードより威力が低いため用途は牽制などに限定される。

 

GNソード

右腕部に装備される折り畳み式の大型実体剣であり、本機の主武装。刃の中にGNコンデンサーが搭載されており、使用時にGN粒子によってコーティングされることで、ビームサーベルと実体剣の両者の特性を併せ持つ武装となる。これによってPS装甲を貫通する切断能力が付与されているが、逆にこの機能をオフにすることで粒子消費を全くしない実体剣として扱うことも可能である。

また、折り畳むことでライフルモードへと変形し、ビームライフルの銃口が現れる。

 

GNビームサーベル / GNビームダガー

両肩部と腰背部に計4本装備されるビームサーベル。

ビームダガーはビームサーベルより短いビーム刃を形成するが、その分ビームが拡散しにくくエネルギー消費も少ないため、投擲武器として使用するのに適している。

 

GNロングブレイド / GNショートブレイド

大小2振りの実体剣。刃をGN粒子で包み込むことにより、脅威的な切断能力を発揮する。非使用時にはロングブレイドは左腰部、ショートブレイドは右腰部にマウント可能。

 

GNシールド

左腕部に装備されるアステリア専用の小型シールド。表面にGNフィールドを展開することでビーム・実弾問わずに非常に高い防御力を発揮する。

 

GNハイメガランチャー

携行式の長砲身ビーム砲。GNメガランチャーを超える火力を求めて開発された長距離大火力砲であり、パワー供給のためにGNコンデンサーを内蔵したGNシールドと連結して使用される

粒子消費が激しいために使用されることは少ない。

 

《概要》

C.E.の世界において、ガンダムアストレア及びガンダムエクシアのデータを基に開発された機体。彼等の高い運動性と汎用性を受け継いでおり、フレームを複雑化することで人間と同様の稼働範囲を実現。同世代のモビルスーツとは一線を画す運動性能を持つ。

由来はギリシャ神話の女神。意味は「星座」「星の女」より。

 

 

ガンダムセレーネ

《機体スペック》

  分類:第3世代型ガンダム

生産形態:ワンオフ機

形式番号:GN-002CE

 頭頂高:21.7m

本体重量:60.4t

 主動力:GNドライヴ

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ソレスタルビーイング

  所属:クラウディオス

 搭乗者:シエル・アインハイト

 

《特殊機能》

トランザムシステム (TRANS-AM)

オリジナルのGNドライヴのブラックボックス内に組み込まれていたシステム。機体各部のGNコンデンサー内に蓄積している高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を通常の3倍以上に引き上げるというもの。セレーネの場合、機動力や火力だけでなく、センサー系と演算処理能力の上昇により命中精度も向上する。ただし、限界時間があるうえ、使用後はしばらく性能が大幅にダウンしてしまうという短所もある。

 

ガンカメラ

頭部に内蔵されている狙撃用カメラ。使用時にはアンテナを下方に下げて露出させ、コクピットのライフル型スコープと連動することで精密射撃を行う。

 

GNフィールド

両肩部のGNフィールド発生装置により展開されるGN粒子で形成されるバリア。様々な攻撃を防ぐ事ができる。

 

《武装》

GNバルカン

両腕部に1門ずつ内蔵されている小型ビーム砲。威力は低いが連射性は高く、主に牽制に使用される。

 

GNメガランチャー

本機の主兵装となる大型ビーム砲。通常時は3連装GNロングライフルとして機能するが、砲門を展開し銃身でレールを形成することで高出力の粒子ビームを発射可能。

粒子は両肩のGNコンデンサーから供給されるが、腰部や砲身後部にエネルギーパックを追加することで、チャージ時間の短縮化や連射性の向上が図られている。

 

GNビームサーベル

サイドアーマー内に1基ずつ収納されている接近戦用のビーム兵器。砲撃戦機である本機は接近戦を行うことが少ないため、基本的には接近された際に対処する為のフェイルセーフとして使用される。

 

超高高度射撃銃

地上から衛星軌道上への高高度射撃が可能な超長距離砲。巨大なGNコンデンサーでGN粒子を高濃度に圧縮してビームを放つ武装で、絶大な威力と射程を誇る。当然チャージにはかなりの時間を要するため、連射は不可能。また、砲を含めたシステムがあまりに大きいため可搬性は低い。

使用時にはガンカメラとスコープを直結し、射撃時安定用に腰部のGNバーニアをメティスと同型のテールユニットに換装する。

 

《概要》

ガルムガンダム、ガデッサ、ガラッゾ等のGNZシリーズのデータを基に開発された機体。GNフィールドやGNメガランチャーといった砲撃仕様を受け継いでいる。

機体そのものはラファエルガンダムの形状を受け継いでいるが、肩部にガラッゾのGNフィールド発生機器及び大量のGNコンデンサーを積んでいる。

由来はギリシャ神話の月の女神。

 

 

ガンダムメティス

《機体スペック》

  分類:可変モビルスーツ/第3世代型ガンダム

生産形態:ワンオフ機

形式番号:GN-003CE

 頭頂高:18.9m

本体重量:54.8t

 主動力:GNドライヴ

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ソレスタルビーイング

  所属:クラウディオス

 搭乗者:フブキ・シニストラ

 

《特殊機能》

トランザムシステム (TRANS-AM)

オリジナルのGNドライヴのブラックボックス内に組み込まれていたシステム。機体各部のGNコンデンサー内に蓄積している高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を通常の3倍以上に引き上げるというもの。メティスは高速戦闘を得意とする機体のため相性が良く、その特性がストレートに強化される。ただし、限界時間があるうえ、使用後はしばらく性能が大幅にダウンしてしまうという短所もある。

 

GNフィールド

機首部から展開されるGN粒子で形成されたバリア。飛行形態における大気圏突入時に展開される他、MS形態でも機首部を上方に展開することで全方位バリアを形成することが可能。

 

変形

汎用性の高いMS形態から飛行形態へと変形する。突出した機動性と運動性に加え、機体上部にMSを搭載する事も可能な他、上半身のみをMS形態に変形させるなど、可変機構を活かした高い運用性も有している。

 

換装

飛行形態時の後部に接続されるテールユニットの換装が可能。

 

《武装》

GNビームライフル

本機の主兵装となる携行式の2連装ビームライフル。高い連射性能を持ちながらも威力を上げることに成功している。上部の銃身は可動式となっており、飛行形態時に機体下部に装備されるため地上攻撃が可能となっている。

 

GNビームサーベル

リアスカート裏に計2本収納されている第3世代ガンダム共通のビームサーベル。一撃離脱を基本とするため使用頻度は少ない想定だったが、パイロットのフブキは近接戦闘を好んだために想定以上に多く使用された。

 

GNシールド

腕部に装備されるメティス専用の実体シールド。飛行形態時の空力特性を考慮して細身の形状が採用されている。

 

GNシールドニードル

シールド内部に収納されている伸縮式ブレイド。シールドをクローに変形させた状態で使用可能で、高周波振動を発生させ対象を容易に貫通・切断する。

 

テールユニット

飛行形態時に機体後部に装着される多目的ユニット。作戦目的に応じて各種ユニットを選んで装備する。使用後は機体軽量化の為、使い捨てられる事も多い。なお、既存の技術で作られているため秘匿性が低く、組織が回収する必要もない。

 

《概要》

ガンダムキュリオス等の可変機の流れを汲む機体。大気圏内での高機動戦闘を得意としており、その機動性は同世代のガンダムをも凌ぐ。キュリオス等と同様の方式で変形するため、機体の変形プロセスが少なくほぼ一瞬で変形することが可能。

由来はギリシャ神話で「知恵」を意味する女神メティス。

 

 

ガンダムサルース

《機体スペック》

  分類:先行試作型量産モビルスーツ

生産形態:ワンオフ機

形式番号:GNW-005CE

 頭頂高:18.6m

本体重量:67.1t

 主動力:GNドライヴ

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ソレスタルビーイング

  所属:クラウディオス

 搭乗者:アキサム・アルヴァディ

 

《特殊機能》

トランザムシステム (TRANS-AM)

オリジナルのGNドライヴのブラックボックス内に組み込まれていたシステム。機体各部のGNコンデンサー内に蓄積している高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を通常の3倍以上に引き上げるというもの。本機では主に単機でのGNハイメガランチャーの発射時に使用される。ただし、限界時間があるうえ、使用後はしばらく性能が大幅にダウンしてしまうという短所もある。

 

《武装》

GNランチャー

背部左側に1門装備されている太陽炉直結の高出力粒子ビーム砲。砲身を展開する事で長距離狙撃も可能となる他、折り畳んだままでも発射が可能で、射程・威力が犠牲になる代わりに速射性が高まる。

近接戦闘におけるデットウェイトを防ぐため、非常時は折りたたまれている。

 

GNバスターソード

サルース専用の大型実体剣。内部に高濃度GN粒子を蓄積可能で、刀身を展開してGN粒子を放出することで、実体剣とビームサーベル双方の特性を得ている。さらにGN粒子の重量軽減効果で、斬撃の瞬間に最大荷重をかけることで威力増強が可能。大型故に精密な攻撃は不得手だが、アステリアのGNソード以上の破壊力を有し、シールドのように扱うこともできる。非使用時には右肩部側面にマウント可能。

 

GNビームサーベル

両肩に1基ずつマウントされている近接戦用の武装。

 

GNビームサーベル

両脚部爪先に計2基内蔵されているビームサーベル。基部は可動式となっており、変則的な蹴りのモーションで目標を斬撃・刺突攻撃することが可能。外見から搭載位置を判別しにくい隠し武器でもあり、奇襲や三次元戦闘で特に効果的である。

 

《概要》

ガンダムスローネ及びGN-X系列のデータを基に開発された機体。GNランチャーやGNバスターソード、隠しビームサーベルなどの扱い辛い武器が揃う玄人向けのカスタム機。

由来はローマ神話の健康や衛生を司る女神。ギリシャ神話ではヒュキゲイアとも呼ばれる。

 

《余談》

ガンダムサルースは計画に存在しない機体であり、レクシオがGN-Xシリーズの量産のために開発したもの。そのため、サルースは正確にはスローネシリーズに連なる機体であり、本機の実戦配備は、その試験運用的な意味合いも込められているとされる。

 

 

クラウディオス

《艦船スペック》

  分類:多目的MS輸送艦

艦載番号:CBS-70CE

  全長:251m

  全高:74m

  全幅:84m

 主動力:GNドライヴ

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ソレスタルビーイング

  所属:ソレスタルビーイング

 指揮官:フブキ・シニストラ(非出撃時)

 搭乗員:【戦況オペレーター】

     ウェンディ・ヘルシズ

     ヴァイオレット・ヘルシズ

     【操舵士】

     シド・ダミアン

     【砲撃士】

     バッツ・グランツ

     【総合メカニック】

     バレット・アサイラム

 

《特殊機能》

GNフィールド

GN粒子で形成されるバリア。様々な攻撃を防ぐ事ができる。

 

強襲用コンテナ

武装の施されているコンテナで、通常は本艦とドッキングして武装として使用されるが、乗員を乗せて単独行動をとる事も可能。内部にガンダムを1機搭載できる他、GNアームズとドッキングする事で単機での重力下飛行や大気圏突入・離脱も可能である。

 

《武装》

GNキャノン

強襲用コンテナの機首部に2門内蔵されている粒子ビーム砲。

 

GNミサイル

強襲用コンテナの上部に2門、両側面に2門ずつの計6門を装備。

 

《概要》

ソレスタルビーイングの宇宙輸送艦でガンダムマイスター達の母艦。西暦世界で運用されたプトレマイオスを参考に建造された。

初期のプトレマイオスと違い、それなりの武装をしているがそれでも非戦闘用の輸送艦であることに変わりはない。また、内部にオリジナルのGNドライヴを一基内蔵しているおかげでガンダムからの補給なく行動を可能としている。

由来はクラウディオス・プトレマイオス(実在の人物)のファーストネームから。

 

 

 





トランザムシステムに関しては、積んであるというだけでまだ解放されていません。システムについても、知っているのはレクシオだけでマイスター他関係者は認知していません。



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現在公開可能な情報(メカニック後編&その他)


今作オリジナルの機体と感想で多かったQ&Aについてをまとめました。

なお、先行公開としてネタバレ機体があるので、一応ご注意ください。



 

【ソレスタルビーイング】

ガンダムレナトゥス

《機体スペック》

  分類:イノベイド専用モビルスーツ

生産形態:ワンオフ機

形式番号:CB-9999G

 頭頂高:19.4m

本体重量:70.1t

 主動力:GNドライヴ

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ソレスタルビーイング

  所属:無所属

 搭乗者:レクシオ・ヘイトリッド

 

《特殊機能》

トランザムシステム(TRANS-AM)

元々はオリジナルのGNドライヴのブラックボックス内に組み込まれていたシステムで、機体各部のGNコンデンサー内に蓄積している高濃度圧縮粒子を全面開放する事で機体性能を通常の3倍以上に引き上げるというもの。ただし、限界時間があるうえ、使用後はしばらく性能が大幅にダウンしてしまうという短所もある。

 

《武装》

GNパルチザン

本機の主兵装で、機体の全高に匹敵する大型の槍。GN-XⅢのGNランスの強化発展型であり、2本に分割して使用する事も可能。攻撃だけでなく防御にも使え、GNフィールド効果を付与しつつ高速回転させて相手の攻撃を弾く。攻撃も格闘以外に粒子を圧縮して振るう事で遠距離から対象を切断する、大型の刀身を展開して射撃兵装として使用するといった多様な使い方ができるようになっている。

 

GNファング

背部に大型の物を4基、腰部とGNシールドに小型の物を4基ずつの計12基を装備。本体から分離して敵機を攻撃する無線式の誘導兵器である。小型の物はビームサーベルを形成可能な他、シールドに装着したままで小型ビーム砲としても使えるようになっている。

 

大型GNビームサーベル

背部に2本装備。高出力のビーム刃を形成可能。

腕部の大型GNコンデンサーから直接粒子供給を受けることで、大出力のビーム刃を形成する。

 

GNシールド

レナトゥス専用の実体盾。表面にはGN粒子を定着させており、ビーム・実弾を問わず防御可能

 

《概要》

レクシオ・ヘイトリッドが1ガンダム及びリボーンズガンダムのデータを基に開発したイノベイド専用のガンダム。開発世代としてはアステリア等の一つ前にあたるが、基となった機体が機体なためにその基本性能は非常に高い。

由来は「生まれ変わる、再生する 」を意味するラテン語が起源の名前。

 

 

 

【地球連合軍】

ストライクE+ソニックストライカー

《機体スペック》

  分類:汎用型試作モビルスーツ

生産形態:少数生産機

形式番号:GAT-X105E+AQM/E-00S1

 頭頂高:17.72m

本体重量:90.51t

 主動力:バッテリー

装甲材質:ヴァリアブルフェイズシフト装甲

開発組織:アクタイオン・インダストリー社

所属組織:地球連合軍

所属部隊:ファントムペイン(ロアノーク隊)

 搭乗者:ネオ・ロアノーク

 

《特殊機能》

ヴァリアブルフェイズシフト装甲

フェイズシフト装甲の改良型。装甲に掛ける電圧を調整できるようになっており、エネルギー消費の効率化を図っている。その影響で装甲の色が変化するようになった。本機の場合は I.W.S.Pと同色となる。

 

ストライカーパックシステム

各種ストライカーに換装可能。

 

《武装》

M2M5 トーデスシュレッケン12.5mm自動近接防御火器

頭部に左右一対2門内蔵されている近接防御機関砲。ダガーLやウィンダムの物と同型。

 

M8F-SB1 ビームライフルショーティー

両腰部に2挺装備されている専用の小型ビームライフル。取り回しと速射性に優れる反面、威力と射程はフルサイズモデルより劣る。

 

EQS1358 アンカーランチャー

両掌、両爪先、踵裏に1基ずつ計6基内蔵されているアンカーランチャー。パイロットの技能次第で無限の活用法がある。

 

ソニックストライカー

ジェットストライカーの発展型。

パイロットに複雑な操縦を要求するものの、その機動性は大幅に向上しており、フォースシルエットにも匹敵する。近接用がノワールストライカーなら、こっちは中距離用といったところ。

 

 Mk1323 無誘導ロケット弾ポッド

4連装式のロケット弾射出ポッド。使用されるロケット弾は、ミサイルと異なり誘導機能を持たないため、ミサイルや航空機などの動的目標の迎撃には向かない

 

 ビームサーベル

 バックパックに装備される標準的な近接格闘兵装。

 

 M105 オルキヌス2連装ビーム砲

 バックパックに計2基装備されている大型ビーム砲。強奪したアビスのバラエーナ改のデータを流用したものであり、バッテリー機でありながら核動力のフリーダムにも劣らない火力を実現している。

 由来は、ラテン語で「シャチ」意味する言葉。

 

《概要》

ストライクEに中遠距離用のソニックストライカーを装備した機体。

このストライカーは複数の武装と大型ウイングで構成された大型ユニットとなっているが、機体の運動性能は高く保たれるよう設計されており、可変翼により本体のスラスターのみでの飛行能力を獲得している。また、ストライカー自体にヴァリアブルフェイズシフト装甲が採用されているため、シールドは装備されていない。

 

 

 

【オーブ連合首長国】

ストライクフリーダム

《機体スペック》

  分類:殲滅型対モビルスーツ用モビルスーツ

生産形態:改修機

形式番号:ORB-02F(ZGMF-X10AR)

 頭頂高:18.03m

本体重量:71.5t

 主動力:核エンジン

装甲材質:ヴァリアブルフェイズシフト装甲

 原型機:フリーダム

開発組織:ザフト

  改修:モルゲンレーテ

  所属:オーブ連合首長国

 搭乗者:キラ・ヤマト

 

《特殊機能》

改良型能動性空力弾性翼

内蔵された小型スラスター群の推力とコンピューター制御によって形状及び角度を変化させる左右5対の翼の広域可動によって姿勢制御を行う、背部の複合可変翼。

モルゲンレーテによって改良され、原型と比べて1.5倍ほどスラスターの加速スピードが上昇している。

 

ヴァリアブルフェイズシフト装甲

旧式となっていた装甲部分はVPS装甲に変更され、より効率的なエネルギー消費と共に優れた対弾性を得ることとなった。

 

《武装》

MMI-GAU2 ピクウス76mm近接防御機関砲

原型機同様、頭部に装備される機関砲。オーブ軍が採用している「MSM5D12.5mm自動近接防御火器」よりも大口径で威力が高い。

 

73W2式改ビームライフル「ライメイ」

旧フリーダムに装備されたMA-M20 ルプスの改良モデル。両手で計2挺を携行し、二つのビームライフルを前後に連結することで、より長射程・高出力となる。非使用時には、両腰にマウントされる。

 

73J1式試製ビームサーベル

2本が分離された状態で、両腰部にマウントされる。このまま柄の両側からビームを展開して使用することも、連結して使用することも可能。後にアカツキに採用される「73J2式試製双刀型ビームサーベル」の試製品とされる。

 

PS-03T ビームシールド

両前腕に内蔵された防御兵装。エクリプスに搭載されたものの改良型であり、攻撃用のアームソードとしても転用できる

 

71R式改電磁加農砲

旧フリーダムのM15を発展させた両腰の電磁レール砲兼AMBACユニット。砲の格納形体は従来の3つ折り式から2つ折り式に小型化されているが、威力はむしろ向上している。また、M15と同様ビームサーベルラックおよびスラスターユニットとしての機能も有している。ビームライフルを両腰にマウントする際には、レール砲は後部にスライドされるため、その間は使用できない。

 

71R式改高エネルギービーム砲

M100の改良型であり、ストライクフリーダムが持つ武装の中で最大の射程と破壊力を持つ大口径・大出力ビーム砲。原型機同様、姿勢制御用の能動性空力弾性翼に挟み込む形で砲身を保持させている。

改良によってエネルギー効率が向上している他、核エンジンの恩恵によって、その威力はアビスの「M107 バラエーナ改2連装ビーム砲」を上回る。

 

《概要》

ガンダムとの戦闘によって大破した"ZGMF-X10A フリーダム"を改修した機体。

核エンジンによる恩恵は強大だが、それ以外は既に二年前の旧式と化していたフリーダムを最新技術でアップデート。旧フリーダムの運用データを基にパイロットであるキラ専用にチューニングしたモビルスーツ。

元々機体完成度が高かったフリーダムを改修しただけあり、その性能はザフトのセカンドステージを上回るが、C.E.73の最新鋭機であるデスティニーやインフィニットジャスティスには一歩及ばない。

 

 

【Q & A】

Q.GN粒子による通信障害はどうなっていますか?

A.既にNジャマーがある関係上、通常の通信手段は使用していない。よって、00世界と同様に光通信もしくは量子通信を使用しているものとする。そのため、ガンダム側も粒子散布モードにする必要が薄い。

 

Q.フェイズシフトとGNソードの関係性

A.粒子を惑わせることでビームサーベルの特性も得るという関係上、切断は可能。ただし、水中では粒子が分散するために通常の実体剣の性能に近くなる。

 

Q.外伝(SEED、00問わず)の設定については?

A.作者の知識が薄い(クロスレイズで入門の)ため、読者方の解釈違いを可能な限り起こさないためにも基本無視。スターゲイザーのように拾えるものがあれば拾っていく感じです。

 

Q.ビームサーベルの鍔迫り合いについて

A.GNビームサーベルの場合は干渉可能。GNビームサーベルとC.E.製ビームサーベルでも干渉可能としました。ただ、SEEDキャラは無意識に鍔迫り合いを避けてしまうかもしれませんね。

 

Q.ガンダムの定義について

A.流石にガンダムは00の方優先でお願いします。OSの方は偶然だとかなんとか……00の世界でOSがあまり出てこないせいでもありますが。

 

Q.フェイズシフト装甲をガンダムに採用しないことに関して

A.ビーム主体ということもありますが、フェイズシフトの装甲表面に電流を流すという特性がGN粒子とかみ合わず、両立できなかったというのが理由です。でもいずれ……?

 

Q.今作のガンダムの性能(世代)は?

A.開発世代は第3世代機ですが、実質的には3.5世代並みの性能。ようはセカンドシーズンのアリオスやケルディムと同等ということです。ただし、量産前提のサルースだけは第3世代相当。

 

Q.今のところ、性能だとどのような順位?

A.ガンダム ≧ VL全開の運命 > 通常運命 ≧ 隠者 > ストフリ* > セカンドステージなど > その他

 

*勿論、ストフリとは今作の劣化ストフリ(VLなし)のことです。

 

Q.現在のメインパイロット能力の順位だと?

※人数が多いので「≧」を多用しています

A.種割れキラ ≧ 種割れシン ≧ アスラン = キラ ≧ 種割れフェイト > アキサム = レイ ≧ シエル = ハイネ = イザーク ≧ シン = ディアッカ = ネオ = フブキ ≧ エクステンデッド = ルナマリア = フェイト

 

爆発力に定評のあるアスカ兄妹と、本気を出さないのにこの順位のザラ隊長でした。

スウェンやレクシオのようなゲストキャラは番外なので、続編で真の力が明らかになるでしょう(適当)

 

 

 

【追加Q&A】

Q.フェイト(マユ)が目撃したガンダムは?

A.現時点では不明です。ただ、レクシオはレナトゥスだけのマイスター

ではないとだけ言っておきましょう(言ってるようなものですが)

 

Q.ガンダムマイスターのパイロットスーツ色は?

A.フェイト→白、フブキ→赤、シエル→青みがかった緑、アキサム→黒

 

Q.ガンダム四機のメインカラーは?

A.アステリア→白と青、セレーネ→白と緑、メティス→白と朱色、サルース→白と黒

 

 

 

 

 

 

 

 

【ちょい見せ】

リィンジンクス

《機体スペック》

  分類:擬似太陽炉搭載型モビルスーツ

生産形態:少数量産機

形式番号:GNX-603T/CE

 頭頂高:19.0m

本体重量:70.4t

 主動力:GNドライヴ[T]

装甲材質:不明(非PS装甲の新素材)

開発組織:ヴェーダ(設計)

     ???(再生産機)

  所属:???

 搭乗者:???

 

《武装》

GNバルカン

頭部に左右一対2門内蔵された速射式小型の粒子ビーム砲。主な目的は牽制等。

 

GNビームライフル

本機の主兵装。威力はガンダムの物と同等で、こちらは近距離での連射用。内蔵された大型GNコンデンサーからエネルギーを供給する。

 

 GNロングバレルビームライフル

 GNビームライフルにロングバレルを装備した物で、こちらは長距離狙撃用。射程が延びた代わりに連射性が低下している。

 

GNビームサーベル

両脚部の膝アーマーの内側に1本ずつ格納。性能はガンダムのもの同等であり、優れた切れ味を発揮する。

 

GNブレード

両腕アーマー内に仕込まれた短剣であり、GN粒子でコーティングされた実体剣。パイロット次第では奇襲によってGNフィールドを貫通すること可能。

ただし、本来はエネルギー切れの際の最後の手段と言うべき非GN粒子武装であり、速い話がアーマーシュナイダー(折り畳みではない)

 

GNシールド

腕部に装備される実体盾。耐久性能はアステリアのシールドと同程度とされる。

 

《概要》

レクシオ・ヘイトリッドが開発した擬似太陽炉搭載モビルスーツ。設計自体は西暦のGN-Xシリーズを参考にしつつ、計画にないガンダムサルースの実戦投入など、入念な検証を重ねて完成した機体。

 

最大の特徴は両肩と両腰のGN粒子発生器であり、GN-Xと同様にガンダムのクラビカルアンテナを強化・再設計している。その為に粒子制御能力が高く、またX字型に配置する事で空中でも高い安定性を保ちながら立てるようになった。ちなみにこの装備は粒子制御に慣れていないパイロット向けに採用された装備である。

また、操縦方法もザフト、連合のMSに近い物となっており、パイロットは機種転換訓練も殆ど必要はない

 

「リィン」は「リィンカーネイション––––転生」を意味し、C.E.版のジンクスということが由来である。

 

 

 

 

 

 

 





機体設定はなるべく公式に準じましたが、パイロット能力などの非公式部分は、あくまでも今作オリジナルであるということを留意していただけるとありがたいです。

「こうじゃないだろ!」とか「ここはどうなってんの?」などの質問がありましたら、感想欄までお願いします。


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焦燥感


ちょっとやる気と余裕が出来たから書きました。
タイトルの由来は無言低評価への焦燥感からだったりもする(ヤバい)


 

 

 

 ザフトの使用するモビルスーツ–––––グフイグナイテッドがライフルモードのGNソードから放たれた粒子ビームを受けてオレンジ色の機体を爆散(ばくさん)させる。

 続いてモニターに飛び出してきた真紅(しんく)のモビルスーツ–––––セイバーに照準を合わせてトリガーを引いたが、それはいとも簡単にかわされて空の彼方へ飛び去ってしまった。

 

 そして、フェイトがセイバーに気を取られている間に、真下から緑色の機体–––––ブラストインパルスがその火力をこちらへ向けてくる。ビームによる攻撃を回避したが、放たれたミサイルの雨はアステリアに直撃し、その機体を大きく吹き飛ばした。

 

「ぐっ!」

 

 ダメージ1。爆風に包まれた視界を見つめながらフェイトは小さく舌打ちした。

 

 敵のコンビネーションが読みきれない。ガンダムの機動性で撹乱(かくらん)して何とか一機を撃墜したが、それにしても時間がかかり過ぎている。

 

 フェイトはこちらへ放たれたビームを回避すると、セイバーへ突っ込んだ。セイバーもビームサーベルを構え、こちらへ接近戦を仕掛けようとする。

 

 ––––ここだっ!

 

 フェイトはセイバーの一瞬の隙をついた。

 こちらへ振り下ろされたサーベルをシールドで受け止めると、そのままシールドを投げ捨てた。わずかに鈍ったセイバーの刃先(はさき)をくぐり抜け、左手で抜き打ちにサーベルを払う。

 

 セイバーの右腕が宙を()った。

 だが、フェイトはそこで動きを停滞(ていたい)させることなく、複雑な舞いのようになおも二本のサーベルを振るう。縦横に弧を描いた光の刃が、赤い機体の頭部を、腕部を、脚部をほとんど同時に破壊した。

 

 –––––次っ!

 

 セイバーを撃墜したアステリアを上空からのビームが襲った。

 いつの間にか換装したのか、高機動使用のフォースシルエットになったインパルスはライフルでフェイトを立て続けに狙い撃つが、今のフェイトにはその全てが止まって見える。

 

「はぁっ!」

 

 降り注ぐビームを簡単に回避し、アステリアの得意とする接近戦へ持ち込む。インパルスはカウンターとばかりにビームサーベルを振るったが、フェイトの方が早い。

 (きら)めく光の刃がサーベルごとインパルスの右手首を斬り飛ばし、返す刃が胴体を両断する。合体を防ぐためにも、飛び出した小型戦闘機(コアスプレンダー)はGNブレイドの投擲で撃墜した。

 

 だが、これしきのことでフェイトの気持ちは全く満たされない。

 

 –––––まだまだっ! あいつはどこ!? あの機体は–––!

 

 焦れたように心の内で叫ぶフェイトに呼応するように、アイツは現れた。間違いない、白灰色の翼ある機体はダーダネルスにアステリアに手傷を合わせた相手––––デスティニーというモビルスーツだ。

 

「っ!!」

 

 フェイトは声もなく()えると、アステリアをデスティニーに加速させた。それに対してデスティニーはその悪魔のような翼から光を放ち、こちらを撹乱しながら攻撃を仕掛けてくる。データで見たミラージュコロイドによる幻惑だろう。

 

 –––––そんなものっ!

 

 フェイトが手早く操縦桿(レバー)を操作して迫るビームを全て回避すると、いつまにかデスティニーの姿は消えていた。いや、消えたわけではない…!

 

「––––そこっ!」

 

 いたのは後ろ––––ではなく上。フェイトの冴え渡る感覚は全てを見切っていた。

 長刀(アロンダイト)を振り下ろすデスティニーの攻撃を回避し、GNソードをライフルモードにして発射する。デスティニーはそれを回避して肩のブーメラン(フラッシュエッジ2)を投げつけてきたが、フェイトはGNダガーを投擲することで対処した。

 

 以前…ダーダネルスの時と同じく、まさに一進一退の攻防だ。

 

 だが、以前と違うのはパイロットにある。

 手強いとはいえ、()()()()()()()()()()()デスティニーのパイロットと、フリーダム戦の時の極限の感覚を発動させているフェイトでは、明らかに後者に分があった。

 

 –––––こんなものじゃないっ!

 

 憤るフェイトは、再びアロンダイトを振りかぶってきたデスティニーの下からビームサーベルを走らせ、その長刀を切断する。さらに、振り返ると同時に左腕に握ったサーベルで離脱を(はか)るデスティニーの右脚を切り裂いた。

 

 –––––アイツは、もっと強かった!

 

 目に見える格闘兵装を失ったデスティニーがその(てのひら)からビーム砲を覗かせるが、タネの分かっている奇襲に引っかかるフェイトではない。GNブレイドで迫る右腕を切り刻むと、左腕でそのままコックピットに突き刺した。

 

 遅れて、光を失ったデスティニーが空中で爆散する。今回はアステリアに損害はなく、フェイトの完全なる勝利だ。

 

 だが、これはフェイトの求める完全な勝利ではない。一時的な勝利の喜びも、浸る間も無く機体から鳴る機械音で現実に引き戻される。アステリアのモニターに文字がツラツラと並べられていく。

 

 

 戦闘シミュレーション タイプD ––– レベル4

 対象 ––––– フェイト・シックザール

 判定:B+(マイスターとして十分の適正あり)

 

 

 その結果を見て、フェイトは小さくため息を吐く。

 

 激闘となったダーダネルス海峡への武力介入から既に一週間が経過している。

 エージェントの手配で宇宙(そら)のクラウディオスに帰投したフェイトは、アステリアのコックピットを使ったシミュレーション訓練に日々(はげ)んでいた。全てはあの時のような敗北をもう味合わないためである。

 

 しかし、彼女の努力とは裏腹に、なかなか結果は出せない。

 マイスターとしてはB+評価は及第点だが、フブキはA評価をキープしているし、シエルとアキサムに至ってはA+評価を得ている。現クラウディオスの砲撃士であり、予備マイスターであるバッツ・グランツがB評価だったことを考えると、正規のマイスターとしては不甲斐ない結果だ。

 

 勿論、かつてはB評価ギリギリだったのを思えば、成長はしている。だが、計画は既に始まっているのだ。せめて他のマイスター達と同じレベルにまではならなくては…。

 

「……こんなんじゃダメ」

 

 誰に言うでもなく一人(つぶや)くと、フェイトは再びシミュレーションを開始する。

 その目は、彼女の心を表すように暗く輝いていた。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 ソレスタルビーイングが活動を開始してから数ヶ月。

 機動兵器"ガンダム"を所有する彼等は、(たび)重なる武力介入によって世界を更なる混沌に包み込むことで、世界に大きな印象を与えた。例え一度の介入で意味がなくとも、彼等は何度でも介入を重ね、世界は一つになりつつある。

 

「とはいっても、なかなか争いはなくならねぇものだな」

「仕方ないさ。この程度でナチュラルとコーディネーターの溝が埋まるなら、ここまで長引はしないだろ?」

「ハッ、そりゃそうだ」

 

 この世界の真理を突いたシエルの言葉に、自嘲(じちょう)するようにアキサムが笑った。シエルも同調するように頷く。

 

 地球軍とザフト軍で違うとはいえ、本来なら互いに銃を向け合う関係にあった二人だからこそこぼれた言葉だった。ソレスタルビーイングに入るまでは、二つの種族が和解する未来など想像もできなかっただろう。

 

「それでも、私たちは介入行動を続けていくだけ。そうでしょ?」

 

 扉から入ってきたフブキがそんな二人への答えを出す。

 三人のガンダムマイスターは、クラウディオスの作戦室で顔を合わせた。他のクルーはブリッジで己の作業に勤しんでいる。機体メンテナンス中のマイスターたちだけがここで待機していた。

 

「まぁ、その通りですね」

「で、フェイトの奴はまだあそこか?」

 

 あそこ––––格納庫(ハンガー)を指差すアキサムにフブキは頷く。

 残る一人の年少のマイスターは先日から戦闘シミュレーションにどっぷりだ。よほどダーダネルスの件が堪えたらしい。宇宙へ上がってからあんな調子だ。

 

 彼女の気持ちがわかるだけに、頭が痛くなりながらもフブキは整備士から聞いた情報を二人に話した。

 

「タイプDのレベル4で特訓ですって。バレットが言うにはA+を取るまでは辞める気はないらしいわ」

「んな無茶な」

 

 呆れたようにアキサムが呟いた。

 

「タイプDってあれだろ、パイロット能力がオールAに加えて––––」

「仮想敵はこの間のミネルバ隊、それも多対一。アステリアの戦闘スタイルでは最悪。それでA+なんて無茶よ」

 

 実戦でも証明されたように、本来多対一を得意とするのはセレーネやサルースであり、アステリアの性能は一対一の白兵戦で真価を発揮する。

 

 …いや、だからこそ、この間の敗北を重く受け止めているのだろう。いくら取り(とりつくろ)ってもフェイトはまだ子どもだ。簡単に感情を受け止められるわけではない。

 

「全く、ヴェーダもどういう意図であのシミュレーションをフェイトに…」

 

 フェイトにあのシミュレーションを推奨(すいしょう)したのは、きっとヴェーダだ。というよりも、()()が提案したものをヴェーダが採用したというのが正しいのだろうか。

 

 思考に耽るフブキをよそに、アキサムはあっけらかんと言った。

 

「ま、いいだろ。マイスターとして腕を磨いておくことに間違いはない。やりすぎだと思えば指揮官権限で辞めさせればいい」

「あまり気負いすぎない方がいいですよ。いつミッションが来るか分からないですから」

「……かもね」

 

 確かに、シエル達の言う通りだ。

 今は気持ちの整理という意味も込めて、温かく見守るとしよう。

 

(なんでも悪い方向に考えるのは、私の悪い癖ね)

 

 そう思ってフブキが顔を上げた時、三人がいる通信室のモニターにウェンディの顔が浮かび上がった。ブリッジからの通信だ。

 

「–––––なるほど、噂をすればなんとやらってやつね」

 

 それは、これまでがこれまでだった彼等にとっては少しばかり久しぶりの、武力介入の再開を告げるものだった。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 軍産複合体"ロゴス"

 

 かの有名なブルーコスモスの母体であり、地球各国の政府・軍部と深いつながりを持つ、人類の有史以来存在し続けてきたという秘密結社。

 悪く言えば、自らの利益のために地球とプラント間の戦争を求める死の商人である。

 

 当然、"ヴェーダ"を有するソレスタルビーイングもその存在を古くから認知していた。

 

「–––––つまり、彼等が今後の私たちの主な武力介入対象ということになるわね」

 

 ソレスタルビーイングの掲げる理念の上で、そんな連中は紛争幇助対象になるのは当たり前。規模が規模だけに計画でも後回しにされていただけなのだ。

 しかし、これまで多くの武力介入を実行し、地球・プラント間の争いが停滞(ていたい)した今だからこそ、社会の陰に潜む彼等を()つ絶好のタイミングとヴェーダは判断したらしい。

 

「…でも」

「どうした、シド? 何か気になることがあるなら言っておけよ」

「え、あ…はい」

 

 何かが引っかかったシド・ダミアンが声を洩らす。

 アキサムが続きを(うなが)すと、彼はまるで言いたくないことを言うかのように渋々口を開いた。

 

「ロゴスは勿論、僕ら的に介入対象なのは当然だと思うんですけど…それって本当に可能なんすか?」

「……というと?」

「ほら…出家した身ですけど、僕の実家ってかなりの資産家でして…そこでロゴスって単語は元々知ってはいたんすよ」

 

 シドの言葉に、(あらかじ)め聞いていたバッツ以外の人間が驚きの表情を浮かべる。どこか軽薄なようでいて、よくできた後輩のような態度のシドがそのような家に生まれた人間には(いい意味で)見えなかったからだ。

 

 それは自分でもよく分かっていたらしく、皆の反応を見て苦笑すると、シドは話を続けた。

 

「ロゴスって言っても、所属している人間はみんなバラバラで、部下の部下とかまで考えると、その影響力はとんでもないものになるっす」

「軍事だけじゃないのか…?」

「はい。大きなところだけでも、金融、科学、医療、食品と…。もしかすると、世界中の全ての企業と関わりがあるんじゃないかと思いまして…」

 

〈–––––その通りです〉

 

 シドの言葉をモニター越しに引き継いだ声があった。皆の視線が自然と声の主に集まる。

 

「シャーロット…」

 

 モニターに映ったのは、ソレスタルビーイングのエージェントであるシャーロット・アズラエルだった。

 計画が始まって以来、ユニウスセブン落下などの事情により本人と連絡を取る機会がなかったため、クラウディオス組が彼女と対面するのは随分と久しぶりとなる。

 

〈お久しぶりです、みなさん。本日は"ロゴス"が介入対象ということで、わたくしから彼等についてのご説明をさせていただきたいと思います〉

 

 そうして、シャーロットはロゴス–––––"世界の陰"について話し始めた。

 

 (いわ)く、ロゴスは決して「戦争を操る絶対悪の組織」というわけではなく「巨大な資本そのもの」というのが正しい認識なのだという。

 

 ロゴスは単なる秘密結社ではなく、既に世界システムの一部として存在してしまっている為、ロゴスの構成員全てを消したところで何も変わらない。

 

 世界そのものを変えない限り、ロゴスというシステムは旧時代の象徴としていつまでも存在し続けるだろう…と。

 

「はぇ〜…なんか、すごい話」

「まさか俺たちがしていた戦争の裏に、そんな理由があったとはな」

 

 それは、文字通り世界の裏側に潜む現実だった。

 表側で何も知らずに生きてきたヘルシズ姉妹やシド、国を守るためにと戦ってきたバッツやアキサムがいまいちピンと来ないのも仕方がない。

 

 だが、ここにはロゴスの被害を直接受けた人物たちもいる。

 

「………っ」

「………やはり、ブルーコスモスの裏には」

 

 シエルは苦々しく顔を歪ませ、フェイトは怒りで強く掌を握った。

 

 そして、フブキは強気に言い放った。

 

「戦争根絶のためには、どのみち世界を変える必要があるもの。そこは問題にならないわ」

〈…フフ、言いますわね。今の世界システムを破壊しようすれば、世界そのものが敵になりますわよ〉

「何を今更。そんなものは計画の始まった時から覚悟しているわ」

 

 それに、とフブキは言葉を続けた。

 

「そうでもしなくちゃ、世界は変わらないもの………」

 

 ソレスタルビーイングの計画は、また一つ先の新たなステージへ進もうとしていた。

 

 

 

 





>戦闘シミュレータ
タイプDレベル5になるとストフリと隠者と運命を同時に相手しなくちゃいけなくなる。

>ロゴス
原作後の状況で、ロゴス壊滅後に経済が大恐慌になったのを見るに、ロゴスという組織は世界システムに含まれていると仮定。
経済をロゴスに頼っているという状況を解決=世界を変えるでもしない限り、彼等を本当の意味で壊滅させるのは難しいと仮定。

>ロゴス関連企業
例え彼等の息がかかった軍需企業がデストロイを作っていると言っても、世間一般からすれば、そこは一般企業である。そこへ武力介入をするとなれば、それはつまり過激な武力介入と受け取られるのではないか?

…というちょっと無理矢理な展開を考えていたりいなかったり。
クロスオーバーが難しすぎる!

たまに来る高評価の温かいメッセージが嬉しいです。待ってくれてる人がいるって強く感じれて…。


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武力介入


たまにランキングに乗る本作。
読者が増えると書く側のやる気も増えるよね。


 

 

〈こちらジブラルタル・ポートコントロール。LHM–BB01"ミネルバ"の到着を歓迎する〉

 

 ジブラルタル基地からの連絡が入ってきた。

 ミネルバはダーダネルス海峡での激戦の後、進路を変えてジブラルタルへ向かい、そして今、ようやくその港を一望できる場所まで辿(たど)り着いたのだ。 

 

 ダーダネルスからここまでは、連合の勢力圏も通ってきたのだが、あの一戦で多くの被害を受けたからなのか、あれ以降ミネルバに戦闘を仕掛けてくることはなく、それ故にソレスタルビーイングも姿を見せないでいる。

 

〈これより貴艦を二番プラットフォームに誘導する。激戦の疲れ、ゆっくりと癒してくれたまえ〉

「こちらミネルバ、了解。ビーコンを確認後、二番プラットフォームへ移動する」

 

 バートが管制に答え、艦橋(ブリッジ)にホッとした空気が流れる。

 それほどの激戦だったのだ、ダーダネルスでの一戦は。その証拠とばかりにジブラルタルに入港するミネルバはボロボロであり、搭載するモビルスーツにしても、武装を含めて損害がなしなのはジャスティスのみという有り様だ。

 

 だが、それを差し引いても得たものがあったというわけだ。連合を追い払い、本命であるソレスタルビーイングを撃退するという"勝利"を。

 

「いや、凄いですねぇ。まるで英雄扱いじゃないですか、私たちは」

 

 分かりやすいのはアーサーだ。港を埋め尽くす艦影(かんえい)に目をみはり、声を(はず)ませている。

 

 確かにこれほどの戦力が集結しつつあるのは壮観(そうかん)だろう。今までほぼ単身で戦場を切り抜けてきたミネルバクルーとして、これほど心強い感覚は初めてだ。

 

 前線に復帰したばかりのアスランを含めて、ほぼ新人ばかりのメンツだというのに、よくここまでやってくれたと誇りにも思う。

 

 だが、タリアは今の状況を単純に喜ぶことができずにいた。

 

「このまま済むとは思えないわね」

「え?」

 

 唐突なタリアの言葉に、アーサーだけでなく横にいたメイリンも目をぱちくりさせる。

 

「ソレスタルビーイングよ。一度"勝利"を送られたといっても、戦術的には見逃されたという方が大きいわ……それに」

 

 自分たちザフトがここまでムキになっている時点で、ソレスタルビーイングは通常のテロリストの枠を逸脱(いつだつ)している。そも、一組織で連合とザフトを相手に戦いを挑んでいる時点で異常なのだ。

 

 ならば、そんな組織がたった一度の敗北で大人しくしているはすがない。敗北したままで終わりにする程度なら、世界に喧嘩を売ったりはしないはず。

 

「あの、艦長?」

「…ごめんなさい。今はただゆっくり休んでちょうだい」

 

 話について来られずに、目を(またた)かせているアーサーに、タリアは苦笑を向ける。

 

 心配性になりすぎているかもしれない。だが、それをクルーたちにまで伝染させるのは良くないことだ。ここまでよくやってくれたクルーたちを、どうにか休ませなければ…。

 

 だが、タリアにはどうしても、彼等––––ソレスタルビーイングがこのまま大人しく黙っているとは考えられなかった。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

〈これより本艦は、ジブラルタルへの入港シークエンスを始めます。各科員は所定の部署に()いてください。繰り返します、これより本艦は–––––〉

 

 艦内にメイリンのアナウンスが(ひび)(わた)り、クルーの動きが慌ただしくなった。レクリエーションルームから飛び出していくヴィーノたちを見送りながら、シンはふと呟く。

 

「ジブラルタル入って…次はどうすんのかな、俺たち…?」

 

 ある意味で全ての始まりとされた地球軍の強奪部隊は撃退した。

 アスランの報告ではガイアはガンダムに大破(たいは)されたのを確認したそうだし、カオスは自分が中破させた。アビスは健在のようだが、母艦がああもやられていては再び攻撃するにはかなりの時間がかかるだろうというのが艦長たちの見解らしい。

 

 となると、次は自分たちは何と戦えばいいのか。

 やはり、地球軍と戦い続けるのだろうか。それとも…。

 

「さあな」

 

 (かたわら)に立ったレイが、淡々と答える。

 

「だが、間違いなく言えるのはまだ戦争は終わっていないということだ。俺たちはザフトとして、いつでも戦える準備をしておかなければならない」

 

 自動販売機でドリンクを買ったルナマリアが、こちらへ歩み寄りながら話に加わる。

 

「でも、どうやったら戦争が終わるのかしら。だってほら、今それどころじゃないでしょ?」

「…ああ、そこが問題だ」

 

 戦争を終わらせるには、どこか上手い落とし所を見つけなければならない。国民たちを納得させるだけの理由とともに。

 

 しかし、今地球とプラント両国には、簡単に武装解除するわけにはいかない事情があった。

 

「ソレスタルビーイング。奴等の存在が、世界を消極的にさせている」

「…変わることが怖いんだ。アイツらは強いから。どの国だって、被害を受けたくないだろ」

 

 ソレスタルビーイングの行動方針はシンプルだが複雑でもある。少しでも戦争に繋がるような動きを見せれば、たちまち彼等はやってくるだろう。最強のモビルスーツ、ガンダムとともに。  

 

 本気になれば一国の軍隊と正面から戦って勝利してしまうような組織が近くにいて、和平を結べるほどどの国も日和(ひよ)ってはいない。皮肉にも、彼等の存在がこの(おろ)かとしか言いようのないゼロサムゲームを引き伸ばす理由となっていた。

 

「だが、その間に人は死ぬ」

 

 その言葉に、シンはハッとして親友の顔を見上げた。

 

「確かにこのまま武力介入が続けば、戦争は終わるだろう。モビルスーツはいくらでも作れるかもしれないが、それに乗って戦う兵士はそうはいかない」

「でもっ、そんなの!」

 

 シンは反射的に声を上げて立ち上がったが、その続きは言葉にならなかった。

 

「奴等に関しては圧倒的に情報が足りない。敵の機体が四機だけとは限らないし、戦争根絶という目的が本当なのかも不明。だが、奴らは一貫して武力介入を続けている。俺の言ったような未来になる可能性は十分にある」

 

 そこまで多くの犠牲(ぎせい)の果てに手に入れる平和は、はたしての正しいのだろうか。

 

 シンにはソレスタルビーイングが理解できなかった。彼等の理念がどんなに崇高(すうこう)なものだとしても、それは誰かの大切な人やその家族を悲しませてでもだ果たすべきものなのか。

 

 分からない。まるっきり分からない。

 自分はまだ16で、ザフトレッドのエースといってもまだ新米だ。知っていることよりも知らないことの方が多すぎるのだ。議長やレイのようにどこか先を見越したような考えは浮かびそうにない。

 

「…アスランとハイネに話を聞いてみる」

 

 そう言って、シンはレクリエーションルームを後にした。

 あの日、独断行動を取った自分を叱りつけた上司達……自分に見えない何かを見えているとすれば、あの二人しかいないと考えたからだ。

 

 

 そして、それから数時間後、ソレスタルビーイングが武力介入を再開したということが情報で届けられた。

 

 その介入先は––––––。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 ユーラシア連邦、旧ロシア国––––モスクワ。

 そこにある一際大きな建物、アドゥカーフ・メカノインダストリー社に向かって、二機のガンダムが降下していた。

 

 いかにも軍需工場といった景色と雰囲気が、機体にある全方位コックピットモニターから一望できる。

 

「目標ポイントに到達。避難警告終了後、攻撃を開始する」

 

 降下した内の一機、ガンダムセレーネのマイスターであるシエルは、サブウィンドウに映るフェイトに声をかけた。

 

〈…アステリア、了解〉

 

 フェイトは感情を押し殺したかのような声で答える。

 

 今回、二人のマイスターに下ったミッションは、連合のMA開発を支えるアドゥカーフ・メカノインダストリー社の完全破壊だった。正確には、その内部で(つく)られている新型モビルアーマーを、完成させるまでもなく抹消(まっしょう)させろという命令だ。

 

 そのために、殲滅力の高いガンダムセレーネとGNハイメガランチャーを装備したガンダムアステリアが最適として選ばれたのだ。

 

 アドゥカーフ・メカノインダストリー社は、軍需企業の中でも特にロゴスと繋がりの深い会社の一つだった。先日戦闘したゲルズゲーやザムザザーを開発した会社でもあり、その特徴的な技術が陽電子リフレクターである。

 しかし、その優秀な会社実績の裏には、人体実験や非合法な製造方法が関わっているとヴェーダの調査によって明らかになった。

 

「警告開始より15分経過を確認。これより、ファーストフェイズを開始する」

 

 そして、(くだん)の機体開発に生体CPU–––––エクステンデッドが含まれていると知り、シエルの中に残っていた僅かな迷いはなくなった。

 

「GNメガランチャー…チャージ開始」

 

 ヘルメットのバイザー越しに、シエルは眼下に見えるアドゥカーフ・メカノインダストリー社の様子を(なが)めていた。わらわらと各所から社員らしき人間が出てきて、こちらを見上げている。大慌てで会社の外へ車を走らせる者の姿も見えた。その中には、目標の兵器とは全く関係ない人物もいるかもしれない。

 

 だからこそ、警告をした。それで生き残れるかは彼等次第だろう。

 それでも、シエルは自分のような強化人間を兵器のパーツとして扱う企業を許すつもりはなかった。

 

「GN粒子、チャージ完了…一気に殲滅させる」

 

 圧縮粒子が最大まで充電されたGNメガランチャーの照準が目標を(とら)える。そこまでして、ようやく眼下の人間達はこれから起こる事態を理解したようだ。

 だが、もう遅い。彼等の命運はシエルのトリガー一つに握られているのだ。これから、シエルがトリガーを引くだけであそこにいる生命は簡単に(ほうむ)られることになるだろう。

 

「ガンダムセレーネ、GNメガランチャー、撃つ」

 

 怒りを使命感で(まぎ)らわし、シエルは速やかにトリガーを引いた。

 

 空気を切り()くような衝撃音が聞こえ、GNメガランチャーの砲口(ほうこう)から淡い桃色の粒子ビームが(ほとばし)り出る。単機のモビルスーツなど容易に飲み込んでしまうほど巨大なソレは、コンクリートで舗装(ほそう)された敷地面を(えぐ)り返して焦土(しょうど)とかしていった。

 

 大型GNコンデンサーを積んでいるセレーネの砲撃は終わらない。

 シエルは、GNメガランチャーの射線を動かし、地面に黒い線を引いていくように工場内の施設を破壊していった。

 

 まず狙うのは、やはりモビルスーツなどを保管している格納庫(ハンガー)。続いて、武器庫、整備室、資財庫と、ローラーで潰されるように緋色(ひいろ)の光条を()びて焼け焦げた鉄骨とともに瓦礫(がれき)に変容していく。

 

 避難せずに中にいたであろう人間たちは、みな苦痛を感じる間も無く蒸発してこの世から消えていった。

 

 

 軍需工場を破壊するには、まだまだ終わらない。

 セレーネの砲撃が終了し、交代するようにアステリアのGNハイメガランチャーが発射される。その粒子消費量に比例して、セレーネのそれよりも遥かに強力な粒子ビームは、いとも簡単に大企業の施設を破壊していく。

 

 圧倒的な光の奔流(ほんりゅう)は、GNメガランチャーが作り上げた瓦礫の山をも薙ぎ払い、モビルスーツ開発が行われている地下施設まで到達した。

 

 会社員たちの働くオフィスが、技術研究部の研究室が、そして開発されていた新型モビルアーマーが、焼失(しょうしつ)し、融解(ゆうかい)し、倒壊(とうかい)し、大破(たいは)し、爆発の(ほのお)を上げた。

 

 時間にして、わずか三分にも満たなかった。

 強大な粒子ビームを照射され続けたアドゥカーフ・メカノインダストリー社は、反抗(ほんこう)する暇も与えられないまま、炭化した土くれと瓦解(がかい)した建造物に姿を変え、完全に沈黙した。

 

「……ミッション終了」

 

 自分の成果を確認したシエルは、GNメガランチャーの砲身を閉じて背腰部に装着する。アステリアもまた、GNハイメガランチャーのバレルを縮小・砲身を折りたたんで元の形態に戻した。

 

「それにしても…これは一方的だ」

 

 眼下に広がる光景は、とても大企業があった跡地とは思えない。

 自分たちがやったこととはいえ、ここまで過激な武力介入をして、何の良心も痛まないわけではない。だが、やるしかないのだ。ガンダムマイスターとして。

 

「作戦終了、これより撤退行動に移る」

 

 これから、このような武力介入が続くのだろう。それがソレスタルビーイングの計画に必要ならば、マイスターとしてそれに応えるのがシエルの仕事だ。

 どんな汚名も受け止めるよう。いかなる処分も甘んじて受け入れる。だが、それは全てが終わった後、戦争根絶が達成された後の話だ。

 

 そう心に決めて、シエルが機体を離脱させた時だった。背後をついてくるガンダムアステリアと繋がる通信スピーカーからノイズのような音が聞こえてきた。

 

 何事かと思って耳をすませる。

 それは、ノイズではなく、人の声…フェイトの声だった。

 

 …ごめんなさい、と彼女は言っていた。

 

 短い呼吸音が繰り返される。

 それは必死に泣くのを我慢している様子だった。(あふ)れる涙を堪えきれず、しゃくりあげるような嗚咽(おえつ)

 

 気のせいかもしれないし、そうでないのかもしれない。

 

 しかし、本当にフェイトが涙を堪えているのだとすれば、それをシエルには聞かれたくはないのだろう。

 

 彼女は人一倍ガンダムマイスターであることに誇りを持っていた。ガンダムに対して深い思い入れがあることも知っている。そんな彼女に取っては、今回のミッションは酷な物だったのだろう。

 

 それでも、マイスターとしての誇り故に任務に私情を持ち込まないように堪えている。まだ14歳の少女がだ。

 

 シエルは何も言わなかったし、何もいえなかった。

 これはヴェーダの下したミッションプランである。ソレスタルビーイングはテロリストである以前に組織であり、自分たちガンダムマイスターはガンダムという象徴を操ってはいても、決して組織を率いる者ではないのだ。

 

 機械的なヴェーダの指示に対して、疑問を持つことはいくつもあった。だが、組織とはそういうものだと思っていたから。今のシエルには迷うことが多すぎるから……結局はヴェーダの命令に従うことしかできないのだ。

 

「……フェイト」

 

 だから、せめてこれが仲間としてできることだというように、シエルは静かに通信のスイッチを切った。

 

 

 

 黒煙の上がるアドゥカーフ・メカノインダストリー社跡地をバックにして、2機のガンダムがその場を後にしていく。

 

 望まずとも、過激化していくソレスタルビーイングの武力介入。それによって、世界は大きな変革の始まりを迎えようとしていた。

 





なるべくCB側を悪役っぽく書かなきゃいけないんだけど、それが一番難しい。トリニティというキャラクターがいかに(役割として)重要だったかが分かる。

今回の章では、物語を一気に加速させていきますので、続きが気になる方は評価・感想をお願いいたします(挨拶)


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閃光の牙


fgoのデスティニーオーダー召喚で星5を5枚抜きしたので投稿します。

やはり、デスティニープラン(違う)は素晴らしい。
議長は正しかった!(違う)


 

 

 ガンダムアステリアとガンダムセレーネが地上でアドゥカーフ・メカノインダストリー社に対するミッションのために出撃した後、ガンダムメティスとガンダムサルースを載せたクラウディオスは、プラント本国の裏側にあるラグランジュポイント–––––L4へと針路(しんろ)を取った。

 

 地上とは同時並行となる、久しぶりの宇宙でのミッションを遂行するためである。

 

 暗い宇宙を進むクラウディオスの先には、白銀に輝く砂時計の形をした巨大な建造物が存在した。プラントの規模にはとうてい及ばないものの、まとまった数のコロニー群が並んでいる。

 

 今、そのコロニー群に向かって、ガンダムサルースが発進していった。後ろにはクラウディオスが(ひか)えている。

 

『あれがL4の廃棄コロニー…』という感嘆(かんたん)のようなヴァイオレットの言葉と、『隠れるにはうってつけだな』と吐き捨てるようなバッツの声がサルースのコックピットにいるアキサムの耳に届いた。

 

 アキサムは操縦桿(そうじゅうかん)を握り、じっとL4コロニー群の姿を見つめていた。

 

「まさか…またここに来ることになろうとはな」

 

 開戦の頃から破損し、次々と廃棄コロニーと化していたこの場所を、かつてアキサムはザフト軍時代に調査したことがある。

 当時はテロ組織や海賊達が根城としていたこの場所だが、現在もていよく利用されているらしい。呆れたものだ。先の大戦でも三隻同盟にコロニー群の一部を利用されていたと聞くのに、ザフトは管理を怠っているのか?

 

〈旧ザラ派の面々はこのコロニー群を拠点としているはず。作戦開始は1400。対象は、私たちに敵対するモビルスーツ・施設……人員の全てよ〉

「了解。ガンダムサルース、アキサム・アルヴァディ…ミッション行動を開始する」

 

 クラウディオスから届けられたフブキの通信に応えると、アキサムは機体をコロニーへ加速させた。

 

 今回のミッションは、このL4コロニー群を在処とするザラ派を名乗るテロリストに対する武力介入である。元ザフト軍人が多く属しているということもあって危険度が大きく、先日ユニウスセブン落下事件を引き起こしたということもあって、ヴェーダはこの組織を優先対象と見做(みな)したようだ。

 

「…このタイミングで新装備。どうやら計画は想定以上に進んでいるようだ。これも世界の歪みと言うべきかね」

 

 こちらのミッション相手はテロリストだが、地上のフェイト達の介入対象は民間人も働く軍需工場だという。避難勧告は出すだろうが、少なからず犠牲(ぎせい)は出るはずだ。

 だが、それもソレスタルビーイングの理念からすれば当然の行為。これからも生半可な覚悟で戦い続けることは難しくなることだろう。

 

 元軍人で年長という立場からすれば、ガンダムマイスターの責任を負うには仲間達はまだ若過ぎるように感じてならない。ここまで来てもなお、できることなら引き金を引くのは自分だけでありたいという独りよがりな偽善もあるのだ

 

〈前方に敵モビルスーツ確認。接近してきます〉

「…了解」

 

 すると、コロニーの中から数機のモビルスーツが飛び出してくるのが見えた。彼等は旋回(せんかい)するように弧を描いて、真っ直ぐこちらに向かってくる。

 

 コックピットのコンピュータが接近する機体を照合してモニターに映し出した。

 

 ジンハイマニューバ二型が五機、ゲイツRが四機、ザクが三機。更にあれは…。

 

「おいおい、ありゃグフイグナイテッドじゃないか。正規軍にも正式配備されてないってのに、どっから持ってきたんだ」

 

 呆れたように呟くアキサムは、その軽快な口調に反して強く操縦桿を握った。

 

「やはり軍或いは軍需企業との癒着は明らかか……だがま、新装備の性能実験にはちょうどいい相手だ」

 

 アキサムはそう言ってニヒルに笑うと、機体を敵部隊に向かわせる。

 エースだろうか?–––––青色のグフがこちらの動きに勘付いて対応したようだが、既にもう遅い。

 

「ハッ! 行けよ、ファング!」

 

 アキサムがトリガーを引くのと同時に、サルースに装備された追加装甲であるスカート状のアーマーから、六つの(きば)(おど)り出ていった。

 左右に二つの刃を持つ槍頭(そうとう)のような金属の牙は、自在に宇宙を()かけ回り、目にも止まらぬ程の超高速で、瞬く間にジンを3機を(ほふ)った。かろうじて回避しようとした残り2機もGNランチャーで続けざまに撃墜させる。

 

 圧倒的な制圧力を見せた新装備のGNファングだが、それでも隊長機と思われるグフを筆頭に何機かは必死に食い下がっている。

 

「…ドラグーン対策はしている。流石はヤキンの生き残りと言ったところか」

 

 アキサムはレバーを引いて六つの牙を呼び戻した。

 槍頭が左右のスカートに三つ格納され、即座にGN粒子が充填(じゅうてん)される。

 

「…だかな、ファングはドラグーンとは一足違うぜ」

 

 アキサムに空間認識能力がないためにその性能をフルに引き出さないとはいえ、GNファングの性能は既存のあらゆる遠隔操作兵装を上回る。ドラグーンより素早く、ドラグーンよりも攻撃的で、ドラグーンよりも汎用性が高い。

 

「悪いがテロリスト相手に…手加減はしねぇぞ!」

 

 サルースのスカート部から、再び六つのGNファングが飛び出し、四方八方から残存部隊へ遅いかかっていく。

 忽ちそのスピードに圧倒され、(すき)を見せたゲイツRがその牙に切り裂かれ、宇宙の(ちり)となった。

 

 隊長格のグフイグナイテッドは、必死にスラスターを()かしながら、右腕からビームガンで応戦するが、無秩序に動くGNファングの軌道(きどう)に翻弄され、その光は(むな)しく闇に消えていった。

 

 そして、彼等に牙を()くのは決してGNファングだけではない。飛び交う光の刃の相手に精一杯な彼等の元に、GNバスターソードを取り出したガンダムサルースが近づいていく。

 

「切り裂くっ!」

 

 GN粒子の効果によって、この瞬間に重量が増加したGNバスターソードはグフが突き出したシールドを呆気なく切り裂き、その隙に背後のGNファングから放たれた光がグフのコックピットを貫く。

 

 続けて、隊長機をやられたことで動きが鈍くなった三機のザクをGNファングが襲う。そこにサルース本体からの追撃も合わされば、敵部隊が全滅するのにそう時間はかからなかった。

 

「敵迎撃部隊の沈黙を確認。続けて、セカンドフェイズへ移行する」

 

 道を阻むものが消えたことを確認し、GNファングを回収したアキサムは、機体をテロ組織の本拠地があると思われるコロニー内部へと向かわせた。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 ソレスタルビーイングが武力介入を再開したというニュースは、(またた)く間に世界中に広まった。互いに冷戦状態になっていた地球・プラント間において、それは大きな刺激を与える情報であった。

 

 それは、セイランが行ったクーデターによる混乱も落ち着き、カガリ・ユラ・アスハの元で纏まりを取り戻したオーブ連合首長国も同じである。今や大西洋連邦と同盟を結んでいるオーブにとっては、彼等の存在は無視できるものではない。

 

 たった一機でセイラン派のモビルスーツ部隊を壊滅させ、あのフリーダムとも互角以上に渡り合ったガンダムという刃が、いつ自国に振り下ろされることになるのか、皆口にせずとも(おび)えていたからである。

 

 荒れに荒れた議会を終えたカガリは、弟のキラやマリューが暮らす屋敷の一室に集まっていた。

 

「ソレスタルビーイングが宇宙で武力介入を行っただと?」

 

 カガリは、キラへ視線を向けつつ()いた。

 ソレスタルビーイングに関する新たな情報が、ラクスとキラを通じて、プラントに向かったラクス達"クライン派"の面々から届けられたからである。

 

「うん、そうみたい」

「場所は?」

 

 カガリはすぐに訊き返した。今はすぐにでも多くの情報が欲しかったからだ。

 

「L4のコロニー群。どうやらザラ派を名乗る武装組織が根城にしていたみたいだけど…」

「ガンダムの武力介入で組織は壊滅。コロニー内の施設は全て破壊されたみたいよ」

 

 ザラ派…詳しくは知らないが、聞いたことがある。

 今は亡きパトリック・ザラの意思を継ぎ、強硬(きょうこう)路線を主張してザフトを脱走した人員で構成されたテロリスト。先日のユニウスセブン落下事件も彼等が起こしたことらしい。

 

 だが、そんな彼等もたった一機のガンダムの武力介入で壊滅し、その思いを果たすことなく消えた。

 

「…当然、生存者はなしか」

「詳しくはザフトが調査しているそうだけど、その可能性が高そうね」

 

 相手がテロリストとはいえ、アスランを通じてパトリック・ザラという人物を知るからこそ、彼等の命が奪われたことに関するやるせなさは感じる。

 

 だが、それはカガリ達が気にしていても仕方のないことである。

 話題を変えるためか、キラはカガリに逆に()いた。

 

「それで、カガリ…地上の方はどうなの?」

「あぁ…聞いての通りだ」

 

 カガリが顔を向ける。

 

「ユーラシア北側の軍需工場を二機のガンダムが襲撃。まだ正式な発表はされていないが、300名以上の従業員が死亡したらしい」

 

 そう説明し、備え付けのテレビの電源を付ける。

 どのチャンネルもソレスタルビーイングのニュースを放送しており、チャンネルを変える必要すらなかった。

 

 ニュース画面では、戦場…いや、襲撃場所となったアドゥカーフ・メカノインダストリー社跡地にて、亡くなった従業員の家族と思われる人々が取材に答えている様子が映し出されている。

 

 答えているのは、おそらく奥さんだろう。隣にはまだ小さく幼い子供もいた。涙を浮かべる母とは対照的に、まだ事態を理解できておらずに不思議そうに跡地を見つめている。

 

 ソレスタルビーイングへの憎しみすら感じさせる妻の悲しみの叫びは、見る人の心を打つ。それはカガリたちのよく知る、大切な人を奪った理不尽への怒りの叫びだった。

 

「…シン」

 

 その姿が、ついこの間ミネルバで出会った紅い瞳の少年を思い出させる。彼もこのような思いをしたのだろう。理不尽に家族を奪われた。このオーブの地で。自分の父の決断によってだ。

 

 そのことが国家元首として重く肩にのしかかり、カガリは顔を()せ、思うところがあるだろうキラも(うつむ)いた。

 

「……酷いものだな」

「ええ」

 

 カガリがボソリとそう言い、マリューはそれに頷いて答えた。

 

 ニュースはそれだけでは終わらず、とても大企業の工場があったとは思えない破壊跡や入院中の大勢の負傷者などを放送し続けた。テロップには『極悪非道、ソレスタルビーイング』と振られており、世間が彼等の行動を批判していることが分かる。

 

「オーブは…」

 

 キラはそっと言葉を挟んだ。全員の視線が彼へと集まる。

 

「オーブは、これからどうしていくつもりなの?」

 

 その言葉に、カガリはすぐに答えることができなかった。それは、カガリ自身もずっと考え続けていることだったからだ。

 

「それは…まだ分からない。連合もプラントもまだ動きはないようだし、今の私たちは自由に動ける立場にないからな」

 

 立て直したといっても、オーブはかなり危うい状況にある。他国の侵略を防ぐこともできないし、自国を守るための兵力も足りていない。下手に行動に出てソレスタルビーイングの介入を招ければ、今度こそタダではないすまないという確信があった。

 

「僕は…やっぱりラクスが心配だよ」

「キラ君…」

 

 カガリと違って、キラ達は屋敷で待機していることが多かった。元首の弟といっても、カガリ以上に政治に疎いキラ達が議会でできることなどないし、戦いが好きではないキラを軍に所属させるということはカガリがしなかった。

 だが、それは弟の現実への無力感を引き立てるだけだったようだ。

 

「…分かった。合流の手筈は整えておこう。勿論、向こうとの連絡が取れればだが」

「ごめん、カガリも忙しいのに」

「気にするな。私にできるのはこの程度だからな」

 

 カガリはそう言って自嘲するように笑った。

 実際、政治に関しては議会員におんぶに抱っこな現状だ。カガリなりに勉強は重ねているのだが、この激動する世界では付け焼き刃の政治知識は通用しそうにない。

 ならばせめて、国民の…家族の助けになりたいと思う。それだけは間違っていないはずだから。

 

 すると、部屋の扉が開いてキサカが入ってきた。

 

「カガリ、大西洋連邦からの連絡だ。通信越しだが、これからのことについて同盟国として会談したい…と」

「…来たか」

 

 どうやら事態は進み始めたらしい。

 若き政治家、オーブの姫獅子カガリ・ユラ・アスハにとっては、これからが正念場だ。オーブの未来がかかっている。

 

「そういうわけだ。すまないが、私はここで」

「ええ、カガリさんも頑張って」

「ありがとう、カガリ」

 

 仲間たちの応援に心温まる物を感じながら、カガリは屋敷を後にした。

 

 

 今、まさに世界は変革を迎えようとしている。

 本人達が望もうにも望まないにも、その大きな唸りの中に、オーブ連合首長国も少しずつ飲み込まれようとしていた。

 

 そこに革新を促す者の介入があったとしても…。

 





>GNファング
まんまスローネツヴァイなものです。搭載数も同じ。
アキサムに空間認識能力や脳量子波がないため、AI操作となっております。

>極悪非道のソレスタルビーイング!
遺族たちの悲しみなどは本当。
これは00本編前半の絹枝の取材内容で分かるように、刹那たちも同じようなことをやっている。

ただ、レクシオがヴェーダを使ってソレスタルビーイングの悪側面を強調して伝えているということも事実。


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混沌の先に


ここから急スピードで物語が進んでいきます。
覚悟はいいですか…?


 

 

 ソレスタルビーイングによる武力介入は熾烈(しれつ)を極めた。徹底的に目標を(つぶ)すスタイルを貫いているのである。非生命体であろうと生命体であろうと、構わずにだ。

 任務のためならば、民間人を巻き込むことも厭わないその冷酷さは、世界に恐怖と戦慄(せんりつ)という形で刻みつけられていった。

 

 勿論、それら一連のニュースは、ヴェーダを通じて逐一(ちくいち)クラウディオスのクルー達にも伝えられていた。彼等は、苦い表情を浮かべて眉に寄せる(しわ)を深くさせていく。

 

「すっかり嫌われ者っすね、俺たち」

 

 意気消沈したようにシドが呟く。

 

「今さらだろ」

「当然の反応だな」

 

 それに対して、覚悟の上だったのだろう、アキサムとバッツはなんてことないように答えた。銃を撃つということは、誰かに恨まれることだと元軍人である彼等はよく理解していた。

 

 彼等は、決して自分たちのことを"正義の味方"だとは思っていない。自分たちの行った武力介入によって犠牲(ぎせい)になる人々が出てくることなど分かっていたことだ。

 歴史上、誰もなしえていない「戦争根絶」という理念のために働いているとはいえ、ガンダムという力を武器にしている以上、犠牲になった人々からすれば間違いないが"悪"なのだろう。

 

「けど、これで連合もザフトもより軍備を増強されていくんじゃ…」

 

 しかし、人から…世界から悪意を受けることに慣れていないウェンディは弱気そうに言葉を洩らす。口にはしないが、隣の席に座るヴァイオレットも同じ意見のように思えた。

 

「不安なの?」

 

 二人を気遣うようにフブキが言った。

 

「そうわけじゃ…ただ、私たちの行動が、逆に新たな紛争の火種になる気がして」

 

 後悔があるわけではない。しかし、疑問に思うことは多くあった。

 

 特にザフトがデスティニーやジャスティスを投入してきたからこそ、よりそう思う。ガンダムの存在が、逆に強力なモビルスーツ開発を促し、戦争の原因を生み出しているのではないか…と。

 

 そんなウェンディの言葉を聞き、暫く思案した後にフブキは静かに口を開いた。

 

「警察の存在意義と同じね。警察は犯罪組織撲滅や犯罪抑止を目的として存在しているけれど、実際に犯罪がなくなれば、彼等の存在意義は失われる。かといって、警察機構を全部なくしてしまえば、犯罪は飛躍的に増えることになる」

「それって…」

「ハナから矛盾しているのよ。私たちの存在は」

 

 フブキはあっけらかんと言った。

 戦争を止めるために武力で介入する。それは喧嘩を止めるために暴力を振るうのと同じだ。人は痛みに敏感(びんかん)だ。そして憎しみは敵意へとすり替わる。

 

 敵意となった憎しみは根深く残り、常に争い事の発火点となる可能性を(はら)んでいる。そして戦争が起こる。堂々巡(どうどうめぐ)りだ。この堂々巡りを武力介入によって断ち切ろうなどということは、到底(とうてい)不可能な夢物語に見えることだろう。

 

 しかし、彼等はこの不可能を実現させるために活動を開始したのだ。その過程でいかなる犠牲を払うことになろうとも、今さら止めるなどということはできない。

 

「奴等が軍備を増強するなら、その上で叩き潰すだけだ。奴等が戦争を諦めるまでな…」

 

 アキサムは強気にそう吐き捨てた。あるいは、不安そうな彼女達を鼓舞(こぶ)するつもりもあるのかもしれない。その本心を見透かしてバッツは何も言わずに頷いて同意した。

 

「–––––その果てに待つのが、計画の第一段階というわけね」

 

 フブキがやや感傷めいた口調で言った。

 地球とプラント間にある(みぞ)をソレスタルビーイングへの憎しみで()め、両者が手を取り合う世界を作り上げること。それがヴェーダによる「戦争根絶」を実現するための計画の第一段階だった。

 

 そして、そのためには世界中の敵意をソレスタルビーイングに集める必要がある。過激とされているここ最近の武力介入も全てはそれが理由なのだ。

 そうでなければ、誰がここまで過激な武力介入を好き好んで行うものか。ここにいる皆が皆、いい仲間だからこそ、その現実に苦しんでいるのだ。

 

 それでも、戦争根絶という叶えたい目的があるから…。

 

「フェイト達には、辛いミッションが続くかもしれないがな…」

 

 おそらく、地上では次々と武力介入が行われていく。その過程で、自分達が世間からどう思われているかは、あの二人もよく知っていくことだろう。表に出さなくても、ショックは受けるかもしれない。

 

 ならば、それをサポートするのも仲間として、年長としての務めだ。アキサムはそう思って気持ちを一心した。同時に、ヴェーダから届いた次のミッションプランを思い出す。

 

「さてと、俺も地上へ降りるか。艦のことは任せたぜ、フブキ」

 

 その数時間後、クラウディオスから整備を終えたガンダムサルースが発進し、大気圏へと降下していった。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 プラント最高評議会議長であるギルバート・デュランダルは、ザフト軍が地上の拠点として利用しているジブラルタル基地内にある彼のオフィスでデータの検証を行っていた。

 

 デュランダルは、ミネルバ隊の集めてくれたガンダム戦闘データや、ソレスタルビーイングの活動パターンから、彼なりの視点と見解で彼等を分析(ぶんせき)していた。

 

 マスコミ等のメディアが現在起きている事象と過去に起きていた事象との因果関係を(さぐ)って真実を導き出そうとしているのに対し、デュランダルはそれらに加えて、ソレスタルビーイングの犯行声明に映っていたジョージ・グレンによく似た男の線から、真実を探ろうとしていた。

 

 そして、彼は遂に映像の男の正体を確信を持って突き止めた。デスクにあるコンピュータモニターの画面には、とある一人の人物とそれに纏わるデータが映し出されている。

 

(…私の仮説通り、彼の正体が本当に"あの人物"だとすれば、こんなバカげた計画を立てていたのにも納得できる。ジョージ・グレンがファーストコーディネーターと告白したのも、我々コーディネーターに未だに欠陥が残っていることも……)

 

 だが、分からないこともある。

 デュランダルは眉を顰めながらも、画面にガンダムに関する調査・考察データを映し出した。

 

(これほどの性能を持つ機体…たった数十年で造り出せるものではない。ガンダムが四機しか確認されていないことを考えても……おそらく、秘密はあの動力部にあるのだろう)

 

 デュランダルは決して機械工学に詳しいわけではない。専門は遺伝子分野だし、モビルスーツに関しては専門外だ。

 だが、それでもあのガンダムの特殊性の高さには気がつく。調査にあたった技術者達も、皆口を揃えて機体の動力と光の粒子を気にしていた。

 

 そして、遂にプラントの優秀な技術者達は、ガンダムの光の粒子の正体について、後一歩のところにまで迫ろうとしていた。その情報は、既に纏められてデュランダルの元にも送られている。

 

(ガンダムの放つ特殊粒子が生成可能な環境は–––––木星)

 

 木星。その高重力下でのみ可能な加工作業。

 とはいっても、遠く離れた木星に渡航(とこう)し、それを完成させる為には、多くの人的資材と物的資材を必要とする。普通の人間には、不可能だろう。

 

 しかし、デュランダルには引っかかるものがあった。

 ソレスタルビーイングを創設したのが"あの人物"なのだとすれば、丁度いい機会があったはずだ。

 

 まだプラントがなく、ナチュラルという言葉すら世界に知られていなかったC.E.15年に、ジョージ・グレンが自身が設計した木星探査船「ツィオルコフスキー」に乗り込み木星を目指したというプロジェクト。同時に彼が「コーディネーター」という存在を世界に告白した出来事でもある。

 

 だが、その計画の本当の目的が、有人による木星探索でも、コーディネーターの告白でもなく、もっと別のものにあったとすれば……。

 

(絶対ではなくとも、ソレスタルビーイングに関わっていることに間違いないか)

 

 研究者の立場からすれば、まさか…という思いもある。

 だが、それ以外、ガンダムという特殊な機体を実現させる方法など考えられなかった。

 

(だとすれば、やはりソレスタルビーイングの真の目的は、戦争根絶ではなく…)

 

 そこで、デュランダルの思考が中断させられた。基地内に鳴り響く警報が彼に異変を伝えたからである。

 

「どうした? 一体、何が起こった?」

〈…襲撃です! ガンダムと思われる機体を確認!〉

 

 デュランダルが席を立つと同時に、大きな爆発音が発生。彼の部屋をも大きく揺らす。

 

「ガンダム…ふむ、やはりここも狙ってきたか。ならば、あの申し出を受けざるを得んな」

 

 それは、ガンダムの襲来を(しら)せる災禍(さいか)であると同時に、世界の変革の始まりであった。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 ザフト軍における北半球最大の駐屯(ちゅうとん)拠点であるジブラルタル基地に、爆発の光芒(こうぼう)がひらめいた。

 

 ガンダムの接近を知ったザフト軍兵士たちが、ありったけのモビルスーツを発進させ、光の粒子を撒き散らす三機に向かって迎撃の銃火(じゅうか)を放ったが、それはさしたる成果を生み出すことはできない。

 

 上空にいる三機のガンダムに向かって、戦車型モビルスーツであるTFA-4DE"ガズウート"と可変型モビルスーツTMF/A-802"バクゥ"が砲火を放ち、空戦用モビルスーツAMA-953"バビ"がミサイルを浴びせかける。

 

 だが、その数十分の一の反撃で、それらザフトの機体はパイロットの命と共に次々とオレンジ色の炎に姿を変えていった。

 

(無駄なことを…どうして命を無駄に散らすんだ)

 

 トリガーを引きながら、シエルはガンダムセレーネのコックピットの中でその表情を歪めながらも冷然(れいぜん)と地上を見下ろしていた。

 

 ジャスティスやデスティニーのような特別な機体にエースパイロットを乗せるならともかく、量産を前提としたモビルスーツではガンダムとは戦いにすらならない。それはこれまでの戦闘で幾度(いくど)となく証明されてきた事実だ。

 にも関わらず、彼等はガンダムと火線を交えようとする。それではただの自傷行為、自殺志願者と何ら変わりがないではないか。

 

 攻撃を仕掛けたのはこちらであり、あちらにも軍としてのプライドがあるということは分かってはいるが、それでも命を簡単に捨てるような彼等の行動に対して、シエルは理解に苦しんだ。

 

 そのような捨て身の行動で無駄な抵抗を繰り返すからこそ、組織の行動方針が次のステップに進んでしまったのである。基地の武装解除及び紛争行為の停止さえしてくれれば、こちらも過激な武力介入をせずに済んだはずなのに…。

 

「くそっ!」

 

 何ともいえない苛立ちを込めてトリガーを引く。

 GNメガランチャーから放たれた光は、射線上のモビルスーツのいくつかを巻き込みつつ、ジブラルタル基地を破壊していく。モビルスーツが収容されている工廠(こうしょう)からその他施設におけるものまで、全てを。

 

 その時、コックピットから鳴り響く警報音とともに、数条の光が空間を貫く。密集していた三機のガンダムは、素早く三方に散開した。

 

「…来た」

 

 モニターに、敵機体のデータが映し出されるよりも早く、シエルはその姿を視認した。

 

 ビームによる攻撃を仕掛けてきたのは、その特徴的な光の翼を広げたモビルスーツ–––––デスティニー。それを援護するように背後からジャスティスがこちらへビームライフルを向けている。

 その背後には、既に見慣れたグレー色の戦艦がこちらへ砲撃してきており、同時にセイバーやインパルスといった艦載機が発進するのが見て取れた。

 

 ミッションの障害をできるだけなくす為にも、彼等が出てくる前に終わらせたかったが、思いの他、ザフトのモビルスーツ隊相手に時間を使い過ぎてしまったらしい。

 

〈フェイト、シエル、奴らが出てきたぞ。準備はいいか?〉

 

 アキサムから二人–––––特にフェイトを鼓舞するように通信が届いた。

 

〈……了解〉

 

 続いて、やや間を開けてフェイトがそれに応える。どうやら、デスティニーを前にしても冷静さを保っているようだ。それでこそ、ガンダムマイスターだとシエルは思った。

 

「–––––了解。セレーネ、目標を破壊する!」

 

 最後のシエルの答えと共に放たれたGNメガランチャーが、激戦の幕開けを告げた。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

「なるほど、ではプラントは我が国の申し込みを受け入れると?」

〈ああ。先程連絡があった〉

 

 場所はアズラエル家が所有する別荘の一つ。元はジブリールという名家が所有していた土地に建てられたその別荘の部屋の中で、シャーロット・アズラエルは通信相手の男からの言葉に笑みを深くした。

 

〈流石に奴らも、ジブラルタルを失いたくはあるまい〉

「仕方なく…と言ったところですか」

 

 やれやれ…と彼女は肩をすくめた。

 

「では、後はこちらで。ご苦労様でした。コープランド大統領」

〈あ、あぁ…〉

 

 シャーロットはそう一言礼を付けると、通信を切る。

 

 通信相手は、大西洋連邦大統領であるジョセフ・コープランドであった。直接命令を下す立場にあったロード・ジブリールが失脚(しっきゃく)したことで後ろ盾を失い、孤立無援となった彼は、助けを求めてシャーロットの元で協力体制を築いていた。

 シャーロットにとっても、表舞台に出ることなく連合の方針を左右することができるため、コープランドにはある程度の利用価値があったため、それを了承したのである。

 

「…全く、好きなだけやって好きに逃げるなんて、自分勝手な人たちね」

 

 コープランドがシャーロットを頼った理由として、彼女以外のロゴスのメンバーと連絡が取れなかったことにある。

 それもそのはず、彼等はソレスタルビーイングの過激な武力介入の後処理とそれによる自己保身に追われ、コープランドに構っている暇などないのだ。

 

 そして、もう一つが…。

 

「お嬢様。フランスのバルセロナ様、イギリスのスペンサー様ともに、こちらへ従うという旨を伝えていただきました」

「…そう。追って指示を出すと伝えて」

 

 シャーロット自身が、ロゴスのメンバーを"選別"していることだ。

 

 今のロゴスとは、影より世界を支配していた老人達の組織ではない。彼等に代わる、新たなる地球の指導者たちの集まりのことを指すのだ。

 

 老人たちの中でも、こちらに従うと誓った者や権限を放棄すると決めなかった者以外は、その全てを排除していく。今のアズラエル家には、それだけの力があった。

 

 時代に適応できない老害たちは必要ない。それはレクシオ・ヘイトリッドという上位存在からの命令であり、シャーロット自身の意思でもある。いささか面倒だったが、これであの老人たちの相手をせずに済むと思えば安いものだった。

 

「–––––そして、"彼等"に出撃命令を」

 

 これから全てが変わる。

 ナチュラルだのコーディネーターだのと(みにくく)く争い合う時代は終わりを告げ、革新者による新たなる秩序社会が生まれるのだ。

 

 そして、その為にはもう少しソレスタルビーイングに頑張って貰わなければならない。変革が果たされるまで、存在し続けてもらう必要がある。

 

「だから、こんなところで負けてはいけなくてよ…ガンダムマイスターたち」

 

 言葉とは裏腹に、彼女の口元には小さな笑みが浮かんでいた。

 

 

 





>教授と化したデュランダル
ただ、彼は教授ほど色んな分野に精通しているわけではないので、あくまでまでも予測の範疇に留まっています。だからこそ、「貴方は知りすぎた」をされずに済んだ。

>ザフト技術者
コイツらが一番ヤバい。
地味に太陽炉の秘密に迫りつつある。流石はたった数年でジンをデスティニーレベルにまで技術発展させるコーディネーターたち。

>新生ロゴス
老人たちは殆ど舞台から消えました。
新生ロゴスのイメージとしては、00本編でアロウズに出資していた金持ちや各国の元大統領などをイメージしていただけると分かりやすいです。
あくまで普通の企業家たちの集まりに戻り、戦争に介入したりはしません。


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リベンジャー


ネタ不足でここまで駆け足気味になってしまった…




 

 

 光の翼を展開したデスティニーとインフィニットジャスティスを先頭に、セイバーとフォースシルエットを装備したインパルスが続き、その後ろにはミネルバが控えている。

 その行く先には、緑色の粒子を排出している三機のガンダムの姿があり、その下では各地が焼け(ただ)れたジブラルタル基地が無惨な姿を晒していた。

 

「くそっ、遅かったか…!」

 

 ジャスティスのコックピットの中で、アスランは苦悶(くもん)の声を上げた。

 

 つい先日ジブラルタル基地に到着したミネルバは、その艦載(かんさい)機を含めて技術部による修理・修繕を受けていた。それ故に、今回の緊急発進に出遅れたことが悔やまれる。

 

〈くっそぉぉ! よくもこんなことをっ!〉

 

 その惨状(さんじょう)を前にして、怒りの声と共にシンがデスティニーをガンダムへ向かわせる。ビームライフルによる射撃が、密集するガンダムを分散させた。

 

「レイ、ルナマリア、連携して叩くぞ!」

〈〈了解!〉〉

 

 デスティニーが因縁(いんねん)深い青色の機体に向かっていくのを尻目に、アスランはレイとルナマリアと共に残りの二機へ機体を向かわせる。まずは隙を見せると厄介なタイプを優先して叩く。

 

 すると、巨大なライフルを持つ狙撃型のガンダムが、その砲口をこちらに狙いを定めるのが確認できた。

 

「散開っ!」

 

 アスランが素早く操縦桿を動かすと、それに(なら)ってセイバーとインパルスも距離を取る。次の瞬間、直撃すれば撃墜は(まぬが)れない威力のビームが三機の間を通り過ぎていった。

 

〈このぉっ!〉

 

 ルナマリアがビームライフルで敵機体を狙うが、狙撃型のガンダムはその両肩のシールドから機体を覆うように粒子を放出し、放たれたビームのことごとくを弾いて無効化した。

 情報にある通り、あのフィールドの前で既存の遠距離攻撃は通用しないようだ。

 

「ええいっ!」

 

 レイのセイバーによる援護を背後に、アスランはビームサーベルを引き抜いて接近戦を仕掛ける。わざわざ相手の得意な距離で戦う必要はない。狙撃型のガンダムの苦手とするだろう近距離戦こそが、アスランの得意とする戦い方なのだから。

 

 フィールドの内から外へは攻撃できないのか、ガンダムはわざわざ解除してこちらへの狙撃を行ってくるが、アスランはそれらを紙一重で回避していく。

 

(正確な狙撃だ…だが、だからこそ避けやすいっ!)

 

 やがて、ジャスティスは相手の間合いに入った。同時にアスランはビームサーベルを振り下ろす。相手にシールドを張らせる隙を与えない為だ。

 

 しかし、振り下ろされたビームサーベルは横から飛び出した巨大な剣によって受け止められた。そのまま力任せに剣は振り払われ、アスランは大きく機体を後退する。

 

「くっ…残りの一機か」

 

 それは、長射程の砲塔と巨大な実体剣を持つモノトーンカラーのガンダム。アスランがセイバー搭乗時にいくらか戦闘を行った機体だ。

 しかし、以前と異なる特徴として、腰部にスカート状の追加装甲が見られる。正体は分からないが、ただの装甲ではないだろう。

 

(何らかの武装か…?)

 

 だが、敵はアスランの思考の時間は与えてくれない。アスランは、続けて振り下ろされる大剣をシールドで受け止めたものの、そのあまりもの衝撃にシールドごと大きく吹き飛ばされた。

 

(力負けした!? なんてパワーだっ!?)

 

 基地沿いにある海中へ沈没する中、アスランが最後に見たのは、孤立したインパルスへ向かっていく六つのミサイルではない"何か"であった。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

「アスラン!? このぉぉ!」

〈待て、ルナマリア!…ぐっ〉

 

 尊敬する隊長がやられて激昂したルナマリアが機体を白黒のガンダムへ向かわせる。セイバーをモビルスーツ形態に変形させたレイもそれを追うが、狙撃型のガンダムの攻撃がそれを許さない。

 

 こうして、ミネルバ隊は物の見事に分断されてしまった。そして、一対一になればガンダムには勝つことはできない。それこそアスランやシンのような例外でなければ。

 

 ルナマリアは敵の大剣を警戒し、距離を取ってビームライフルでの攻撃を仕掛けたが、白黒のガンダムはそれを空を()うように回避し、代わりにそのスカート状の装甲から"何か"を射出した。

 

 ミサイルかと警戒したルナマリアだったが、彼女の予想に反してその"何か"は空を縦横無尽に飛び回ると、真っ直ぐにインパルスへ向かってくる。明らかに通常兵器ではない。これは…カオスなどに装備されているものと同じ。

 

「なによ、これ…まさかドラグーン!?」

 

 ライフルで迎撃するが、小さく素早い目標に命中させるのは非常に難しく、回避するので精一杯。四方八方から迫る金属の牙(GNファング)を前にルナマリアは完全に防戦一方であった。

 

「ドラグーンは地上では使えないんじゃなかったの!?」

 

 自重の関係で、ドラグーン等の遠隔操作兵装は無重力でしか使用できないはずだが、ソレスタルビーイングの技術はそんな常識すら打ち砕いた。常識はずれの兵器にルナマリアが混乱するのも当然のことである。

 

 だが、彼女にとっての常識は敵にとっての常識ではない。

 ルナマリアが遠隔操作兵装に気を取られたその隙をガンダムは見逃さなかった。

 

 インパルス目掛け、ガンダムの左肩部から展開された砲身からビームが放たれる。ルナマリアは間一髪シールドでそれを受け止めたが、その威力を前にシールドは一発で破壊されてしまった。

 

 だが、ルナマリアは驚きはせど焦りはしない。

 

「くっ…舐めんじゃないわよ!」

 

 続く二射目をルナマリアは両腕で受け止めた。正確には、両腕から展開されたビームシールドによってだ。

 

 ルナマリアがシンより受け継いだインパルスは、改修にあたって改良されたチェストフライヤーを受領しており、新装備としてデスティニーと同型のビームシールドが新設されていたのだ。これにより、インパルスはおおよそデスティニーと同等の防御能力を手に入れたのである。

 

「私だって"赤"なんだからっ!」

 

 迫る金属の牙(GNファング)を展開したビームシールドではたき落としたが、背後から放たれたビームによってフォースシルエットが被弾(ひだん)した。

 

「メイリン、"デスティニーシルエット"を!」

〈お姉ちゃん!? でもあれはっ!〉

「早く、このままじゃやられる!」

 

 エネルギー補給のためだろう。ガンダムの遠隔操作兵器が一旦姿を消し、代わりに暴力的なビームの光が動きの鈍いインパルスを襲う。ルナマリアはビームシールドでそれを防いだが、その一撃で発生装置が負荷に()えきれずに破壊された。

 

〈ルナマリアっ!〉

 

 そこで、復帰したアスランがビームブーメランと共にガンダムへ突撃する。ガンダムはその大剣でブーメランを弾き飛ばすが、その間にアスランはビームサーベルを振り抜いていた。

 

 だが、遠目でそれを見ていたルナマリアはガンダムの動きがよく見えていた。

 

「アスランっ!」

〈…なっ!?〉

 

 ガンダムが大剣を振るうと同時に振り上げられた右脚から、ビームサーベルが飛び出したのだ。咄嗟(そくざ)に引っ込めたジャスティスの右肩を(かす)める。そして、左脚から飛び出したサーベルがジャスティスのシールドを吹き飛ばした。

 

〈…デスティニーシルエット、射出しました〉

「了解!」

 

 その間に、ルナマリアはインパルスを新たなシルエットに換装(かんそう)する。デスティニーを彷彿(ほうふつ)とさせる悪魔のような赤い翼が装着され、同時にVPS装甲がザフトレッドのような真紅に色づく。

 

「はぁぁぁっ!」

 

 ルナマリアの咆哮と同時に、その翼に光が(とも)った。背部ウェポンラックから取り出した"エクスカリバー"を構え、ミラージュコロイドによって生み出した幻影と共に接近する。

 

 振り下ろした長刀はガンダムの大剣と激しくぶつかり合い、火花を散らした。

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 その頃、ジブラルタル基地から少し離れた海上近くでは、ガンダムとデスティニーによる激しい戦闘が行われていた。ステージのこともあり、ダーダネルス海峡での戦いを思い出させるが、以前とは違い、シンはどうにも敵に攻めきれずにいた。

 

(なんだ?…動きを読まれている!?)

 

 光の翼–––––ヴォワチュール・リュミエールによる機動性とミラージュコロイドによる幻惑によって、デスティニーはガンダムにも迫る性能を手に入れたはずだ。

 にもかかわらず、敵のガンダムはこちらの射撃を、斬撃を読み切り、その全てを回避している。それどころか、逆にシンの方がギリギリの攻撃を受けることが増えてきていた。

 

 シンが手加減をしているわけではない。むしろ、この数日でアスランを相手に訓練してきた分、その実力はレイに迫るほどまでに成長しているのだ。デスティニーに関しても、今まで以上に使いこなしている自信がある。

 

 ならば、なぜ…?

 ガンダムのパイロットの能力が自分を上回るとでもいうのだろうか…?

 

「くっそぉッ! 何でこんなっ…!」

 

 シンは苛立って、一人コックピットの中で毒づく。

 撃ち、かわされ、剣を振り、またかわされる。デスティニーと青色のガンダムの戦闘は、まるで際限なく続くように思えた。

 

 –––––ここで一気にケリをつけてやる!

 

 その瞬間、シンの中で何かが弾けた。以前にも見せた極限の集中状態。視界がクリアになり、思考が()える。

 

 シンは立て続けにライフルを連射して、ガンダムを追い込みながら急迫(きゅうはく)する。周到(しゅうとう)に散らされた射撃が敵の退路を断った。

 素早くライフルから長刀の(つか)に手を伸ばしながら、シンは確信する。

 

 –––––やれるっ!

 

 体勢を(くず)した敵機が眼前に迫る。シンは叫び声を上げながら、刀を抜き打ちに振り下ろした。

 

 ガンダムは大きく体勢を崩したままだ。その上にシンの(やいば)が降りかかる。刃がその純白の装甲を切り裂かんとするその時–––––ふっとその機体が消えた。

 

 いや、シンにはそう見えた。

 そして、背中に冷たいものが走った。ほぼ直感に従って、シンは操縦桿を動かす。

 

 次の瞬間、デスティニーが振り下ろした長刀(アロンダイト)が、ガンダムの振り上げた剣に半ばから切り裂かれて宙を舞った。敵は、シンの斬撃をかわすと同時に、背後へ駆け抜けながらサーベルを一閃(いっせん)させたのだ。

 

 それは、ここ数日で更に上昇したシンの知覚をも上回る早業(はやわざ)だった。

 

 超えた–––––と、思ったのに…!?

 一度は勝利した相手なのに…っ!?

 

 その困惑と焦りがシンに付け入る隙を作らせる。動きを止めたデスティニーを敵は見逃さなかった。

 

〈シンっ!〉

 

 その光景を遠目に見ていたアスランからの声で、シンは目の前に迫るガンダムの振り上げた剣に気がついた。咄嗟(とっさ)に左手をかざし、掌底(しょうてい)からビームを放とうとする。

 

 が、またもガンダムは彼の攻撃を上回るスピードを見せる。放たれたビーム砲を機体を逸らすことで回避したガンダムは、手に持つサーベルでビーム砲ごとデスティニーの左腕を(ひじ)まで引き裂いた。切り裂かれた左腕は一泊おいて誘爆し、機体バランスを大きく崩す。

 

 シンは唖然(あぜん)として、失われた左腕を見つめた。

 

 –––––こんなに、簡単に…負けるのか?

 

 怒りが込み上げる暇もなく、ガンダムの次なる刃がデスティニーのコックピットを(えぐ)り取った。

 

 ハッチが破壊され、外の景色があらわになる。だが、それについて認識するよりも早く、デスティニーは地上へ叩き落とされた。さらに運が悪いことに、緊急発進のためにヘルメットを着用していなかったため、シンはダイレクトに頭を打ってしまった。

 

「ぐぅっ!?」

 

 衝撃で頭がグラグラと痛む。視界も点滅しており、イマイチ焦点が定まらない。顔を伝う暖かい液体は、紛れもなく己の血だろう。

 

「くそっ…敵はっ!」

 

 それでも、シンは破壊されたコックピットハッチからガンダムを紅い瞳で精一杯睨み付けた。

 

 …まさにその時だったのだ。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

「はぁ…はぁ…」

 

 浅い呼吸を繰り返し、フェイトはガンダムアステリアのコックピットから眼下を見下ろす。

 

 今の彼女は、以前オーブ海域でフリーダムとの戦闘時に見せたあの感覚(SEED)を発動していた。今までは機体性能に振り回されていたとも言えるガンダムアステリアを完璧に操り、その性能をフルに引き出している。

 

 戦闘シミュレーションの甲斐(かい)があった。

 あちらも時間が()って己の機体をモノにしていたようだが、生憎と機体性能はガンダムの方が上だ。ならば、完璧に機体性能を引き出したフェイトに軍配が上がるのは当然のこと。

 

 さらに、デスティニーのパイロットは前回の戦いで勝利したことで慢心していたようだ。高機動での射撃が苦手なフェイトにとって、光の翼を展開したデスティニーを相手に撃ち合いをするのは避けたいところだったのだが、敵はわざわざアステリアの得意とする接近戦で挑んできてくれた。

 

 だからこそ、フェイトは勝利したのだ。

 デスティニーの振り回す対艦刀に対しては、取り回しの悪いGNソードよりもGNビームサーベルの方が有効と即座に判断。折りたたみの関節部を切断した後は、繰り出してくるであろう(てのひら)のビーム砲を回避し、逆に腕を破壊してやった。

 

「はぁぁっ!」

 

 そして今、動きの(にぶ)くなったデスティニーのコックピット目掛けてビームサーベルで切り付ける。運動性の極めて高いアステリアがだからこそ可能となる近接格闘だ。

 

 –––––浅い!

 

 とはいえ、やはり距離が遠かった。切り結んだ一瞬の間合いの浅さに、フェイトは歯噛(はが)みする。流石に敵の行動も早い。

 

 だが、コックピットの一部を破壊することには成功したようだ。デスティニーはそのまま失速し、破壊跡となったジブラルタル基地に叩きつけられた。

 

 それきり、動きを止めたデスティニーを、上空からフェイトは観察する。

 

 –––––やった……っ!?

 

 仰向(あおむ)けに倒れたデスティニーの胸部装甲は大きく()け、隙間(すきま)からコックピット内部まで見通すことができた。ガンダムのビームによって破壊された基地の跡地が、周囲にオレンジの光を投げかけている。

 

 そして、フェイトは見た。

 デスティニーのコックピットの中にいるパイロットの姿を…。

 

 中にいたのは、ザフト軍赤服を身にまとった黒髪の少年。おそらく、緊急出撃ゆえにパイロットスーツの着用が間に合わなかったのだろう。衝撃でどこかぶつけたらしく、頭からは一筋の血が流れていた。

 

「子ども?…それに–––––っ!?」

 

 どこか引っかかる物を感じたフェイトがカメラの倍率を切り替えようとした。ぼやけながらも、こちらを鋭く睨む紅い瞳に、吸い込まれそうになったからだ。

 

 しかし、結果として彼女にカメラ倍率を操作する時間は与えられなかった。突如として、コックピットに緊急のアラートが鳴り響いたのだ。

 

 明るい赤色の光条が空間を貫く。回避運動に入ったアステリアを(かす)めたその光は、次々と彼女に襲いかかった。

 

「くっ…なにっ!?」

 

 攻撃を行ってきた敵機を索敵しようと、フェイトはサブモニターを起動させる。データ分析が行われるよりも早く、フェイトはその異常に気がついた。

 

「あれは…ザフトじゃない」

 

 モニターには、編隊を組んで飛行してくるモビルスーツ部隊の機影が映し出されていた。しかし、それはザフトのモビルスーツではなく、かといって連合のものでもない。

 

「GN粒子…ガンダムっ!?」

 

 なにせ、接近してくる未確認のモビルスーツの背部からは、明るいオレンジ色の粒子……GN粒子が放出されていたのだから。

 

 

 

 





>セレーネvsレイ(セイバー)
クルクル回転で何とか回避に専念。しかし、攻撃もGNフィールドで効かないのでこのままいけばレイの敗北だった。

>サルースvsアスラン&ルナマリア(デスティニーインパルス)
隠しビームサーベルを初見で避けるアスランは頭がおかしい。
後、ファングをビームシールドで殴りつけるルナマリアさん流石です…。
地味にデスティニーインパルス最初で最後の活躍。

>アステリアvsシン
慢心+わざわざ相手の得意土俵で戦う+相手もSEED持ち+相手はデスティニー相手の訓練履修済み…などの理由があって完敗。

>オレンジ色(緋色)
環境・人体に配慮したGN粒子となっております。赤は赤でカッコいいけどね。
ちなみにガンダムだけどガンダムじゃないです(00特有のアレ)


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天使に牙向く者


早く更新したいと思うのはいいのだが、そのせいか誤字が多くなってしまう(泣)



 

 

 GNX-603T/CE"リィンジンクス"、通称GN-X(ジンクス)

 それがGNドライヴ[T]を搭載(とうさい)した新型のモビルスーツの名称である。

 

 全体的に丸みを帯びたフォルム、灰と白の機体カラー。曲線を(えが)く頭部のほぼ中央、額の部分には大きな紫色のメインセンサーが()えられており、X字を形作るように左右の胸郭(きょうかく)から肩上部に向けて、両側部から後方に向けて、それぞれ長いパーツが伸びている。両腕と両脚は、この機体の出自が示す通り、ガンダムの形状に似通っていた。

 

 各機の頭部にはメインセンサーの両側にバルカン砲が、左前腕部には取り回しに障害にならない程度のスケールの実体盾が、両(もも)部の装甲の下にはビームサーベルが装備されている。

 

 十機のうち六機はロングビームライフルを(たずさ)え、残り四機 ––––– 旧ファントムペインの面々が搭乗する機体は、ガンダムとの近接戦も考慮して取り回しのいいビームライフルを右手に携えていた。

 

「よーし、始めようか。全員、迎撃行動に移るぞ」

 

 編隊の先頭を飛ぶ、ネオ・ロアノーク大佐の搭乗機から、後続の僚機(りょうき)に指令が下された。

 

 雇い主であるジブリールに代わり、ネオらファントムペインを引き取ったシャーロット・アズラエルから最初に下された命令は、新型モビルスーツの戦闘訓練だった。それも、ガンダムに搭載された物と同型のエンジンを積んだ機体のだ。

 

 詳しいことは分からないが、ソレスタルビーイングに裏切り者が出たらしい。手土産にガンダムのエンジン–––––GNドライヴとやらをシャーロットに提供したようだ。

 

 そして、ネオたちが機体の制御に慣れた矢先の出撃命令。その目的はガンダムに襲撃されているザフト軍の援軍…救助であり、この機体はガンダムと戦うためであった。

 

(は…そのザフト軍からモビルスーツを強奪した俺らが奴らの援軍とは、笑っちまうぜ)

 

 その常識はずれの命令に、ネオは内心で笑ってしまった。まさか元地球連合の特殊部隊である自分たちにザフトを助けろ…とは。ブルーコスモスからは絶対に出ない発言だろう。

 

 しかも、こちらからはあれほどしつこく追跡したミネルバの姿も見える。ガンダムと戦闘していたのはミネルバ隊だったようだ。それも合わせて、つくづく妙な巡り合わせを感じずにはいられない。

 

(だが、これから"何か"が変わるのは確かだ)

 

 今までの連合ならば、取得したGNドライヴを独占し、それを武器にプラントへの攻撃に利用していたはずだ。しかし、シャーロットはそれをしなかったをそれどころかザフトと組んでソレスタルビーイングを叩けという。どう考えても、これは普通じゃない。

 

 政治的な意向は、所詮は部下に過ぎないネオたちには知らされていないが、この戦いから世界が大きく変わるのではないか…?という予感がネオにはあった。

 

(ま、俺たちは俺たちでやることをやるとしますか)

 

 だが、ネオはひとまず気にしないことにした。

 

 何せ、これから戦うのは今まで散々敗北を(きっ)してきたガンダムである。圧勝とまではいかないまでも「ガンダムに対抗できる」というだけの結果を弾き出さなければ、自分たちの立場も危ない。

 

「虎の子の十機だ、あまり派手に壊すなよ…!」

 

 とはいえ無茶はしないでくれよ…と、部下や子供達に内心で思いつつも、ネオは指示を出す。

 

 すると、ネオに追従する三機のGN-Xに搭乗する三人が意気揚々と声を上げた。

 

〈はいよ、おー任せってねっ!〉

〈今までの借りを返してやるぜっ!〉

〈敵…倒す!〉

 

 六機のGN-Xがロングビームライフルで放つビームを背後に、"エクステンデッド"のスティングたちが、ガンダムに襲いかかる。ネオも三人の背後からビームライフルで敵を狙った。

 

 敵機はそれぞれに熱線をかわし、搭載したビーム兵器で応戦してきた。しかし、降り注ぐ敵の粒子ビームは、灰色の機体のいずれにも着弾することなく、彼方(かなた)の空へ消え去っていった。

 

 –––––かわせる。

 

 ネオは(わず)かな交戦期間で手応(てごた)えを感じていた。

 

 この速度、この機動性–––––これがガンダムか。これがGNドライヴの性能か。現行のモビルスーツが児戯(じぎ)のように破壊されていったわけも頷ける。

 

 訓練で新型の能力の高さは感じていたが、戦闘によってそれが確信に変わった。

 

「随分と好き勝手やってくれたな、ガンダムさんよ!」

 

 ネオは白黒のモノトーン色のガンダムへビームライフルを乱射した。白黒の機体は素早く反応すると、ネオの放ったビームを回避し、両腰のスカートから金属の(きば)を放出する。

 

 それは今までガンダムが見せていなかった新武装。ドラグーンのように思えるが、先のザフト機との戦闘を見るに射撃だけでなく、サーベルを展開しての吶喊(とつかん)も可能なようだ。

 

 流石はガンダムの武装。既存の概念を壊すことには定評がある。

 

 しかし–––––––!

 

「地上でドラグーンとはめちゃくちゃだな、おい!」

 

 その言葉とは裏腹に、ネオは操縦桿(そうじゅうかん)をなめらかに動かすと、金属の牙から放たれる粒子ビームの群れを右へ左へとかわしていった。

 モニターに映るデータとネオの卓越した空間認識能力と反射能力、それらが空中に散らばる金属の牙の位置を残らず把握(はあく)して、一瞬ごとに攻撃を無力化する最適な場所を割り出していく。

 

 GN-Xは、彼の求める動きに遅れることなく的確に応えていた。

 

 ネオはビームライフルのトリガーを引き、六つある内の半分を炎の玉に変える。

 

「悪いが、何故かその手の兵器には嫌な思い出があってな」

 

 残り三つの金属の牙も、頭部に付いているバルカンで破壊する。ネオにとってGN-Xの性能があれば、この金属の牙(GNファング)は大した脅威にはならなかった。

 

 視界の端では、エクステンデッドの三人が青色のガンダムを相手に優勢の状況で戦いを進めているのが見える。三人とも–––––特にスティングとアウルは新しい機体に乗って随分と高揚しているようだ。今までの手痛い敗北を糧に闘志を燃やしているらしい。

 

〈おいおい、その程度かよ。ガンダムゥ!〉

 

 ガンダムの射撃を鮮やかな動きで回避したスティングがビームライフルで動きを封じ込め…。

 

〈ステラ、お前は左!〉

〈わかった〉

 

 アウルとステラが左右から攻撃を加える。ガンダムは上手く回避したようだが、その動きは精細(せいさい)に欠けており、ネオの目から見ても焦りが感じられる。

 

(よし、心配だったが上手くやれそうだな)

 

 新しいおもちゃを手に入れたようにはしゃぐ彼等のことをネオは心配していたが、この様子を見るに大丈夫のようだ。シャーロットの指示で彼等に課した連携訓練の数々は実を結んでいる。

 

 そして、反対側では四機のGN-X部隊が狙撃型のガンダムを相手に撃ち合いを続けていた。敵ガンダムが展開するフィールドは厄介だが、逆に素早く動く彼等を狙撃することはガンダムとはいえ難しいようで、一進一退の攻防が続いている。

 

「おぉっと!……よーし、いい調子だ」

 

 白黒のガンダムが左肩の砲口から放つビームを回避しながら、ネオは自身達がガンダムと対等以上に渡り合えていることに震えた。そして、確信する。

 

 –––––ガンダムなどもはや、恐るるに足らんと…

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 緋色(ひいろ)のビームが次々と放たれ、フェイトはデスティニーから機体を大きく離れさせ、上空にいるアキサムとシエルと合流しようとした。

 

「二人とも、これはっ!」

〈俺にも分からん…が、あれはGN粒子……なのか?〉

〈…とにかく迎撃を!〉

 

 しかし、背部からオレンジ色の粒子を排出する十機のモビルスーツは、その手に持つビームライフルを撃ちながら、数機ずつに分かれてこちらへ向かってくる。仕方なくフェイト達は散開し、各々迎撃態勢を取った。

 

〈三人とも、どうしたの!?〉

 

 通信からクラウディオスで待機しているフブキの声が聞こえる。ミッション予定時間を大きく超えていることと、未確認の新型モビルスーツ部隊の出現に思わず通信を(つな)いだのだろう。

 

 だが、それに答える余裕はフェイトになく、機体のモニター映像をクラウディオスと同期することで言葉の代わりに説明した。

 

 その間にも、敵機体から放たれるビームライフルがアステリアを追い詰めていく。幾多(いくた)にも放たれた緋色の閃光は、着々とアステリアの回避コースを(せば)めていった。

 

「なんて射撃精度…!」

 

 フェイトには、目の前の機体に対して疑問を与える暇も与えられなかった。敵機体を少しでも引き離すため、GNソードをライフルモードにしてビームを放つ。

 しかし敵部隊は、アステリアの(たま)を食らう()を犯さず、機体位置をずらして射線を回避するか、左腕の実体シールドでダメージを防ぎきっていた。

 

 そして、敵もお返しとばかりに反撃してくる。

 一の攻撃が五にも十になってアステリアに帰ってくる。フェイトも回避運動を繰り返していたが、やがて粒子ビームの一つが着弾し、機体が大きく後方に吹き飛ばされる。

 

「くっ…このっ!」

 

 得意とする近接戦闘を仕掛けようにも、三機の敵モビルスーツの連携の精度は高く、アステリアの機動性を以てしても被弾なしには近づけない。一機を撃破するために隙を見せれば、残り二機に瞬時に撃墜されてしまう可能性が高い。

 

 そのため、フェイトも動きを慎重にならざるをえず、互いに致命傷(ちめいしょう)を与えられず、粒子ビームのエネルギーだけが消費されていく。

 

 視界の端では、GNフィールドを展開したガンダムセレーネが四機の敵の猛攻を受けており、GNメガランチャーの砲撃も狙撃も、敵機体の装甲を掠らせるのが精一杯の様子が見える。

 ガンダムサルースも六つのGNファングを破壊され、三機の敵機体による攻撃を何とかいなしていた。GNバスターソードやGNランチャーのような大ぶりの攻撃は、いくらアキサムの腕でもそうそう当たってくれない。

 

 統制の取れた敵モビルスーツ部隊を前に、ソレスタルビーイングのガンダムは完全に押されていた。

 

「これは一体…っ」

 

 眼前の機体から放出されているのは、色彩こそ異なるものの間違いなくGN粒子だ。だが、どこの部隊がそれを運用している。自分たちソレスタルビーイング以外にGNドライヴを保有する組織など存在しないはずだというのに。

 

 その思考の混乱が隙になる。

 敵機の放ったビームがアステリアの肩部へ直撃し、機体のバランスを崩した。それをチャンスだと思った二機の敵機体が緋色のビームサーベルを展開し、その刃をアステリアに振り下ろす。

 

「っ!!」

 

 咄嗟(とっさ)にGNブレイドで受け止めたが、フェイトは想像以上のパワーに圧倒された。左右両方から次第に押されていき、その刃が力づくで押し込められようとしたとき、フェイトはGNブレイドを手放すことでその場を離れる。

 

 離脱のためにビームダガーを投擲(とうてき)したが、敵機はなんてことないかのようにそれを弾き、ビームライフルを構えた。

 

「––––––やるっ!」

 

 今までの戦い方が何一つ通じない。

 そのことに歯噛(はが)みしつつ、フェイトもGNソードをライフルモードにして構える。

 

 その時、フェイト達の元にフブキから通信が入った。

 

〈三人とも、今はとにかく撤退なさい!〉

「しかしっ!」

〈反論はなし。ガンダムを失ってもいいの!?〉

 

 そう言われて、フェイトは機体状況と敵部隊を確認する。

 機体状況–––––小破。七本中四本の武装喪失。未だ敵部隊に損害を与えることも叶わない。他のマイスターたちも押されている。確かに、このままではガンダムを失ってしまうだろう。

 

 そう考え、フェイトは渋々納得した。続いて、アキサムとシエルも了承の意を伝える。

 

〈こちらサルース、了解した〉

〈セレーネ、撤退行動に移る〉

「………了解」

 

 セレーネが煙幕を展開し、敵機体から姿を隠した。すかさずフェイトも機体をそこへ向かわせる。敵機は逃さないとばかりに追跡してきたが、サルースが残りのGNファング二基を使って牽制(けんせい)し、その間に離脱行動を開始する。

 二基のGNファングが稼いだ時間は微々たるものであったが、撤退するのには十分な時間だった。煙が晴れた頃には、姿が見えなくなっているはずだ。

 

 その後、何故か敵は追って来なかったが、それが逆にマイスター達の心にしこりを残す。マイスター達は終始無言であったが、考えること・思うことは同じだった。

 

「……ガンダム」

 

 以前フェイトがデスティニーを相手に感じた屈辱を…見知らぬモビルスーツが放つオレンジ色の粒子に対する疑問を胸に抱きながらも、三人は基地へと機体を向かわせる。

 

 これが、ソレスタルビーイングの初めての完全な敗北であった。

 

 

 そして、この戦いがきっかけで世界は大きく変わっていく。

 

 

 





>リィンジンクス
外見の認識は1stシーズンのジンクスⅠでOKです。
性能的には、原作同様にガンダムとほぼ同等です。

>ネオvsGNファング
不可能を可能にする男にAI操作のビット攻撃など通用しない

>エクステンデッドvsフェイト
数の有利+フェイトの動揺(種割れ終了)+ステラ達の強化(訓練)によって、フェイトの不利。


ここから怒涛の展開で物語は進んでいきますので、続きが気になる方は高評価・感想を書いていただけると作者のモチベーションがアップします。
最近は低評価が多くてね…どうにかしたいけど、難しいぜ。


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記憶と再会、疑惑


ただただ、ごめんなさいと言いたい。

ただの説明回ですが、どうぞ。


 

 

 

 プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルと、最新鋭艦ミネルバ艦長タリア・グラディス、副長のアーサー・トライン、モビルスーツ部隊であるアスラン・ザラを始めとするパイロットたちは、半壊した基地の中で、何やら事情を知っているらしきデュランダルと対面していた。

 

「それで議長。勿論、ちゃんと説明はしていただけるんですよね?」

 

 やや棘のある口調で、タリアが正面のデュランダルに問う。その隣に座るアーサーはそんな彼女の様子にあわあわと口を動かしているが、問われた当の本人は、とても申し訳なさなど感じさせぬ表情を浮かべながら、空を見上げて言った。

 

「ああ、勿論だ。–––––しかし、話は彼等を交えた方がしやすいと思ってね」

 

 デュランダルに(なら)って全員が空を見上げると、ガラス越しに大きな影が写った。それは、先程の戦闘でガンダムとアスラン達の間に割って入った白と灰のツートンカラーの見たこともないモビルスーツ。

 

「あの機体は…あの時の」

 

 数にして十機の白と灰のモビルスーツは、その背部からガンダムのものと酷似(こくじ)した粒子を排出しながら、ゆっくりと基地へと着地した。続いて、作業員の案内に従って基地内部の格納庫(ハンガー)に向かっていく。

 

「議長!?」

「安心したまえ、彼等は味方だ」

「しかしっ」

 

 自分らの窮地(きゅうち)を救った相手とはいえ、未確認のアンノウンを容易く基地内部へ侵入させたことにタリアやアーサーから困惑と驚きの声が上がるが、デュランダルはそれ以上何も言うことなく十機全ての収容を見送った。

 それからゆっくりとこちらに振り返ると、デュランダルはその笑みを崩さないままに言った。

 

「––––––何を隠そう、ここに彼等を呼んだのはこの私なのだから」

「えぇ!?」

 

 アーサーがお手本のような驚愕(きょうがく)の声を上げるが、驚いているのは皆同じだ。そのような情報はフェイスであるアスランは勿論、艦長であるタリアにも知らされていない。いや、おそらく基地にいるザフト軍の誰もが知らされていなかっただろう。

 

 シン達の驚愕の表情、アスランやタリアからの(いぶ)しむような視線を受けながらも、デュランダルはそのまま言葉を続ける。

 

「いや、すまない。私も時期を見計らって君たちにも説明するつもりだったのだが、想定以上に早くガンダムがここに武力介入をしてきたものだからね。たまらず、彼等の助けを借りたというわけだ」 

 

 彼等––––––その言葉を聞いて、すかさずアスランがデュランダルへ()き返す。

 

「その…彼等とはいったい…?」

「あぁ、彼等は–––––」

 

 デュランダルの口が答えるよりも、部屋の扉が開く方が早かった。皆の視線が集まる中、扉の向こうから数名のパイロットスーツを着た人間たちが姿を現す。おそらくは例のモビルスーツ部隊のパイロット達だろう。

 

 警戒混じりの視線を向けるタリアたちに対し、隊長であろう先頭の一人がデュランダルの存在に気づいて軽く目礼してヘルメットを外した。同時に、その容姿があらわになる。

 

 中から現れたのは、端正な金髪の男であった。

 

「着陸許可をいただき、感謝する。地球連合軍第81独立機動群のネオ・ロアノーク大佐だ」

 

 年齢はおそらくまだ若い。タリアとそう変わらないだろう。

 額に垂れかかる金の髪、端正(たんせい)ともいえる顔立ちには、戦いの経歴を表すかのような傷が刻まれていた。

 

(連合軍ですって? それも大佐……)

 

 だが、タリアはその容姿よりも彼のいう所属部隊に反応した。聞き間違えじゃなければ、彼は"地球軍"と言ったのだ。それも階級が大佐であることから、かなりの立場にいることが予測できる。

 

(一体どういうつもりなの…ギルバート)

 

 そんな人物とプラント最高評議会議長が繋がっていたことに大きな疑問と不審を感じながらも、タリアはあくまで表情には出さずに冷静に彼等の話を聞く姿勢を取った。

 

 しかし、もう一人のフェイスであるアスランは、その容姿を見て黙っていることなどできなかった。

 

「フラガ少佐!?」

 

 ムウ・ラ・フラガ。

 かつて『エンデュミオンの鷹』の異名で呼ばれていた地球軍のエースパイロットである。

 

 その腕前は通常のナチュラルの比ではなく、そのことはかつて敵対したアスランだからこそよく知っている。アークエンジェルと共に地球軍を追われ、オーブ脱出と同時にキラ達を通じて知り合った相手だ。

 

 関わった時間こそ少なかったが、第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦では終わらぬ戦争を止めるために"三隻同盟"所属のモビルスーツパイロットとして共に戦った仲間でもある。

 

 しかし、彼は乗機であった"ストライク"と共に宇宙へ消えたはず…。

 

「…まさか生きていらしたんですか?」

 

 だが、アスランの問いに対してムウ––––––のはずの男ネオは、訝しげな瞳を向けた。

 

「少年、どこかで会ったか」

「え…?」

「俺はネオ・ロアノーク大佐だ。悪いが、人違いじゃないかな?」

 

 赤の他人のような対応。

 確かにアスランとムウの間にあった関係は、キラのようなものではなかったが、忘れるはずもない。その容姿、声が記憶にあるムウ・ラ・フラガそのものと一致している。

 

 なのに、彼はムウではないという。

 

「……いえ、失礼しました。人違いだったかもしれません」

 

 どこか釈然としない感情を覚えながら、アスランは一歩引いた。彼がムウでない以上、連合の上官にザフトのフェイスが突っかかるわけにはいかない。

 

 普段は冷静沈着なアスランが取り乱したことで困惑するシン達。そして、彼の口から出た『フラガ』という名前に一人の少年が反応したのを尻目に、タリアはどこか微妙な空気を咳払いで誤魔化し、ネオに先を促した。

 

「…さて、続きをお願いしても?」

 

「ああ。で、こいつらが–––––」

 

 ネオが手で合図をすると、背後に控えていた三人のパイロットたちが前に出てヘルメットを取る。そして、あらわになったその容姿は、タリアたちが想像するよりも遥かに幼い少年少女たちだった。

 

「スティング・オークレー、階級は少尉だ」

「…同じく、アウル・ニーダ」

 

 スティングという青年は感情を(さと)らせないような表情で冷静に、対して、アウルという少年はやや警戒したような表情で渋々名と所属を名乗る。

 

「ステラ…ルーシェ」

 

 そして、三人目の幼なげな金髪の少女は、とてもあの戦いをしていたモビルスーツのパイロットとは思えない(はかな)げな様子でステラと名乗った。

 

 おそらく、年齢はシンやルナマリア等と同年齢だろう。

 だが、それは成人年齢が高く、人材不足のプラントだからこその特例であり、ナチュラルの常識で考えるならば兵士としてモビルスーツに乗るには若過ぎる。

 

「その、彼等は–––––」

「ステラっ!?」

 

 タリアの言葉を遮る形で叫んだのは、シンだった。

 先程のアスランと同じように…いや、それ以上に動揺している様子だ。まるであり得ないものを見たかのような表情を浮かべている。

 

「何で、君が…どうして」

「………誰?」

 

 忘れようはずもない、ディオキアで出会った少女。名前まで聞いたのだ、人違いでもない。

 

 向かい合うシンとステラ。

 困惑するシンに対して、隣の少年たちは訝しむような視線を向けてくるが、その彼等にしてもディオキアで出会っているはずだ。…そうだ。あの時ステラは「ネオ」という言葉を使っていたじゃないか!

 

「まさか、ディオキアの…」

「……あー、なるほど。そういうことね」

 

 ふとアスランが漏らした言葉を聞き、ネオは全てを悟ったというように溜め息を吐いた。

 それから、デュランダルの方を向いて口を開く。

 

「互いの部下にも少々混み合った事情があるようで……ここはゆっくりお話といきませんか?」

「ああ、そうしよう。こちらの席へ来たまえ」

 

 デュランダルの案内で、ネオ達がタリア達ミネルバ隊と向かい合うように席に着く。

 

「まずは俺たちのことについて話をしよう。俺たちファントムペインは–––––」

 

 それから、ネオはこれまでの何もかもをタリア達に話した。

 それは、シン達ザフト軍の地球軍への印象を大きく一変させることとなる。

 

 そして、少年は辛い現実と直面することとなった。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 クラウディオスのブリーフィングルームでは、ガンダムマイスターであるフブキ、戦況(せんきょう)オペレーターのウェンディとヴァイオレット、操舵士のシド、砲撃士のバッツが集まっていた。

 また、青色に光る床面(ゆこめん)モニターを通じて、地上にいるガンダムマイスター三人も通信を繋いでいる。

 

 現在、先日遭遇した新型について、シャーロットから送られてきた情報を基にバレットが解析を行なっており、クルー達は一言も話さず緊張感を漂わせながら結果を待っていた。

 

 それから間も無く、端末を片手にバレットがブリーフィングルームに入ってきた。同時に床面(ゆかめん)モニターに次々と新たなデータが表示されていく。

 

「結論からいえば、この新型機体––––––コードネーム"GN-X(ジンクス)"とやらには我々と同じシステムや装甲が使われておった」

「やはり同型機なのね…」

 

 フブキが目を細める。

 そうであって欲しくないと思いながらも、ガンダムとあそこまで対等に渡り合う機体があるとすれば、それが"ガンダム"しかないことは簡単に想像がついていた。

 

「けど、GN粒子が違う」

 

 モニターに映るGN-Xを見て、ヴァイオレットがボソリと言った。

 

「確かに、粒子の色が…」

「…違うっすね」

 

 赤黒い光を放つビームの元であるGN粒子は、やはりソレスタルビーイングが有するガンダムと違って赤く染まっており、どうしようもない違和感を感じさせる。

 

「ああ。機能的には同じだが、炉心部にTDブランケットモジュールが使用されていない」

「つまり…?」

「ドライヴ自体の活動時間は有限……言ってみれば、こいつは擬似太陽炉ってところだ」

 

 フブキとて本職はパイロットであり、専門的な理論や技術にまつわる話は専門漢だが、要するに、敵はGNドライヴのレプリカを使用しているということだろう。

 

「といっても、性能面じゃ殆どオリジナルと変わりはしない。むしろ、稼働を停止させられる分整備性の面では向こうさんの方が上だろうさ」

「そんな…」

「だけど、そんなものを地球軍はどこで…」

 

 自分たちソレスタルビーイングですら知らない技術を、組織外である連合が使用している。そこにメンバーは疑問を覚えた。

 

「…整備士としての勘だが、おそらく素体となったのはサルースだろう。機体各部に面影が見られる」

「……何者かがソレスタルビーイングの技術を盗み、GNドライヴを搭載したモビルスーツを建造したというわけね」

 

 バレットの言葉を聞き、フブキがそう言う。

 

 だが、それはつまり––––––。

 

「だから、どうやって…ってまさか!」

「ガンダム及び太陽炉のデータはヴェーダの中にしか存在しないわ。…つまり、そういうことなんでしょう」

 

 推測されうる可能性は一つ。

 何者かにヴェーダをハッキングされ、そこから太陽炉やガンダムのデータを盗み出されたということ。

 

「そんなこと…」

「物事に絶対はない。可能性の一つとして受け止めないと」

 

 反射的に否定しようとしたウェンディをヴァイオレットが嗜める。

 それでも、彼女とて簡単には信じられないのだろう。いつもの無表情に困惑の色を浮かべて呟いた。

 

「仮にヴェーダがハックされ、太陽炉を作ったとしても、時間が合わない」

 

 彼女達のやり取りをモニター越しに聞いていたアキサムは、重々しく両腕を組んで呟いた。

 

〈少なくとも、組織の中に裏切り者がいるのは確かだろうぜ〉

「残念ながら、そのようね…」

 

 認めたくはないのだが、既にことは現実になっている。フブキは首肯するしかなかった。

 

〈これからどうする?〉

〈仮にヴェーダがハックされているとなると、ミッションプランにも期待できそうにないよ〉

 

 こうなると、いかに組織がヴェーダとガンダムに頼り切りだったのかが分かる。

 

 敵は遂にガンダムと同性能の機体を手に入れ、しかもそれを量産していく可能性がある。オリジナルの太陽炉とガンダムマイスターという期待値を加えたとしても、戦力比は絶望的だ。

 

「それでも……諦めるわけにはいかないわ」

 

 ソレスタルビーイングに沈黙は許されない。既に戻れないところまで来ているのだ。

 いくら相手が強大だとしても、自分たちは乗り越えるしかない。ガンダムとともに、自分たちの意思で。

 

「…ん? なんだこのデータは?」

 

 バレットの声で我に帰る。

 見ると、彼は(いぶか)しむ様子で端末を操作していた。

 

「どうしたの、バレット?」

「いや、突然未確認のファイルが見つかってか。ヴェーダから…か? ちょっと確かめてみる」

 

 そう言うと、バレットは端末を片手にブリーフィングルームを後にした。

 

 途端に静かになった部屋。

 皆が皆、分からないことだらけで不安なのだ。かわす言葉すらなくなるのめ無理もない。

 

〈–––––––私は戦う〉

 

 それでも、彼女だけはその意思を保ち続けていた。

 

「…フェイト」

〈私は絶対に戦争を無くしたい。なら、こんなところで挫けてられない〉

 

 きっぱりとフェイトは言った。

 いや、彼女の心はずっと変わらないのだろう。誰よりも戦争根絶を望む少女の心は既に決まっていた。

 

 確かに世界は新たな局面を迎えた。それは認めざるを得ない。

 

 擬似太陽炉搭載型モビルスーツの登場。地球連合軍がザフト軍の増援に向かったという事実。

 

 掌握されたヴェーダ、現れた裏切り者。

 

 GNドライヴ対GNドライヴ。

 ガンダム対ガンダム。

 

 世界は混迷をもって、その歪みを加速させようとしていた。

 

 





 –––––後半に続く。


 一月も更新ストップしてたのにも関わらず、高評価してくれた方々…ありがとうございました。
 大学の課題が忙しくて遅れてましたが、なるべく早く更新できるように頑張ります。


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失くした記憶


何とか10月以内に投稿することができました。
でも、更新ストップしていた自身の罪は認めます。



 

 

 

〈今回の戦争は互いの勢力の中の一部の者達によって仕組まれていたものであり、我々はこうして再び手を取り合うことができました…〉

 

 モニターでは、大西洋連邦のトップとプラント最高評議会のトップが手を取り合うという誰もが一度夢見て、決して(かな)わぬと諦め、切り捨ててきた奇跡の光景が現実のものとなって映し出されている。

 

〈全ては悲しいすれ違いだったのです。ですからどうか皆さん、もう互いにいがみ合うのはやめましょう。我らは仲間として、これから同じ道を歩んでいきたいと…私たちも思っております〉

 

 大きな拍手と共にコープランドとデュランダルが手を取り合うその映像を、シンはジブラルタル基地に停泊しているミネルバの自室で眺めていた。

 

 地球とプラントの和平。それは(すなわ)ち、この長いようで短かった戦争の本当の終わりを意味する。あくまで停戦で収まった前大戦と違い、真の意味で戦争が終わるのだ。

 

 勿論、政治的な意味では様々な問題が残っているし、小さな(いさか)いも絶えることはないだろう。

 

 とはいえ、連合とプラントが武力で争うことはなくなれば、幼き頃の自分たち家族のように、戦争の都合で巻き込まれる人間も減るはすだ。そういう意味では、平和を求めて軍に入隊したシン・アスカの望みは半分ほど叶ったといえる。

 

 だが、シンの曇天のように曇った心は晴れることはなく、言い表しようのない気持ち悪さが胸の内を渦巻いていた。

 

「……はぁ」

 

 小さく溜め息をついた時、部屋の扉が開き、誰かが入ってきた。

 それは勿論、シンのルームメイトであるレイ・ザ・バレルに他ならない。

 

「レイ、機体調整は終わったのか?」

「ああ、一通りはな。ルナマリアの方ももうじき終わるだろう」

 

 連合と正式な和睦、同盟が成り立った為、その証として送られた擬似太陽炉搭載型モビルスーツ"ジンクス"。そのパイロットに選ばれたレイとルナマリアの二人は新たに受領した新型機の調整に追われていた。

 

「それで、どうだった? 例の新型っての」

 

 それとなくレイに()く。

 彼らと違い、デスティニーのパイロットのままであるシンからすれば、ガンダムとあそこまでの戦いを繰り広げた新型機の性能はそれとなく気になっていた。

 

「…今までの常識を覆すような技術が使われていたのは間違いない」

 

 そう言うと、レイは自分のデスクにある端末を立ち上げ、(ふところ)から取り出したデータディスクを差し込んだ。おそらくは整備班から渡された新型モビルスーツに関するデータだろう。

 

 それに釣られて、シンもベッドから立ち上がり、横から覗き込むように画面を見つめる。そこにはやはり例の新型機の機体情報が簡易的にまとめられていた。

 

「俺たちの知っての通り、このジンクスという機体は基本性能は勿論、機動性・パワー共にセカンドステージシリーズを大きく凌駕している」

 

 続いて、ジンクスとガンダムとの先日の戦闘の映像が映し出される。

 

「平均的に見れば、その性能はデスティニーやジャスティス以上と言える。逆に言えば、特化した部分ではこちらが上回っているということでもあるが……」

 

 シンは、どこかぼんやりとした表情でその戦闘映像を眺めていた。

 

 画面に映る灰色の機体はガンダムに勝るとも劣らない機動性でガンダムを翻弄し、(たく)みな連携で追い詰めている。独りよがりな慢心で敗北した自分とは全く違う。

 

 何より、それを為したパイロットは……。

 

「シン、大丈夫か」

「…あ、あぁ」

 

 レイの声で我に帰る。

 思わず空返事(からへんじ)を返したものの、そんなシンの様子をしばらく見つめていたレイはおもむろに口を開いた。

 

「…あのエクステンデッドたちのことか」

「っ!」

 

 やはり親友には全てお見通しだったらしい。確信を突いた言葉にシンはピクリと肩を振るわせ、小さく頷いた。

 

 あの時、ネオ・ロアノークと名乗った新型モビルスーツ部隊の隊長らしき男はシンたちに全てを教えてくれた。まるで自らの罪を告白するように。己の後悔を語るように。

 

「だって、あんなのおかしいだろ。自分たちは俺たちコーディネーターのことを化け物だのなんだの言っておいて…っ!」

 

 エクステンデッド。

 それは薬物や外科手術によって人為的に強化された連合の()()()()()。つまり、モビルスーツを動かすためのパーツとして扱われている子供たちのことである。

 まさか今まで自分たちが戦ってきた相手がそんな事情を抱えていたとは思いもしなかった。

 

「ステラだって、本当は普通の女の子のはずなのに…っ!」

 

 ディオキアで出会ったステラという少女。

 彼女は連合のエクステンデッドだった。元ガイアのパイロットであり、本当は戦場で何度も彼女で出会っていたのだ。敵同士として。

 

 その衝撃はシンに大きな困惑と怒りを抱かせた。

 

「だが、それを行っていたブルーコスモス…いや、ロコズという連中はもういない」

「それは…わかってるっ。わかってるさ」

 

 シンの怒りとは裏腹に、既にそれを向ける先がいないことも事実だった。

 エクステンデッドなどの強化人間プロジェクトを支持していたブルーコスモス及びロゴスという連合内の組織は融解して散り散りになり、各地に存在する研究所は閉鎖(へいさ)が決定している。データもプラント側に引き渡されることになっているのだ。

 

 残る人間といえば、彼等の上官であったネオ・ロアノークのみだが、アスランの言によれば彼も何かしらの記憶措置を受けている可能性が高いという。

 その正体は『エンデュミオンの鷹』で名高いムウ・ラ・フラガだとか。後にデータを見せてくれたが、確かにあそこまで似ていると疑いたくなる気持ちも分かる。

 

「あのネオって奴も被害者なんだろ? なら、もうどうしようもないだろっ」

 

 どこか不貞腐れたようにシンは言った。

 ステラのことが気がかりだが、生憎とシンのことは記憶で消されているらしい。ネオは申し訳なく謝っていたが、その彼自身も記憶操作をされているというのなら、怒ろうにも怒れない。

 

 結果として、シンはその怒れる炎の行き場をなくし、(くすぶ)るような思いでここ数日を過ごしていた。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 大幅な人員再編がされた地球連合軍において、改めて第81独立機動群を正式に率いることになったネオもまた、現状に対して言いようのないもどかしさを胸に抱えていた。

 

 彼の悩みは大きく二つ。そのどちらも旧ロゴスが行ってきた非道の数々についてだ。

 

(まさかステラを助けたのがあの坊主だったとはねぇ…)

 

 それは偶然か、はたまた運命の悪戯(いたずら)か。死を恐れる少女を救ったのは今まで殺し合ってきた少年だというのだから、運命的な以上に悲劇的で笑えない。

 

 ネオにだって人の心はある。

 少年(シン)のことを覚えていないステラと、ステラ達の真実を知った彼の怒りの表情を見て、流石に罪悪感は浮かんできた。ジブリールからの命令があったとはいえ、直接彼等の記憶を消したのはネオなのだから。

 

 既にジブリールは表舞台から去り、もはやロゴスの影に怯える必要はない。戦争が終わり、いずれネオの思うがままにスティング達を保護することもできるようになるだろう。

 

 だが、あの時の少年の怒りの瞳がネオに己の罪を思い出させてくれる。

 

(分かってるさ。いずれ俺も咎を受けるべきだってことくらい)

 

 命令とはいえ、いたいけな少年少女を道具として戦争に投入した罪は決して消えることはないだろう。ネオにとってはそれでよかった。

 

 それに、今のネオは他人の心配をしている場合ではなかった。

 

「ネオ・ロアノーク。C.E.42.11月29日生まれ。大西洋連邦ノースルバ出身、血液型O(ブラッドタイプ)…」

 

 何となく、己の経歴を誰にでもなく読み上げていく。それだけで頭の中にある違和感が言葉という形となって現れていった。

 

「…C.E.60入隊、現在、第81独立機動群"ファントムペイン"大佐」

 

 これまで送ってきた人生が、頭を駆け巡る。

 生まれ育った街のうらぶれた風景、物心つく前に家を出て行った母の(おぼろ)げな面影(おもかげ)と、飲んだくれて死んだ父。つるんでは悪さをした仲間たち。上官のしごきと散っていった戦友。重傷を負ったものの、何とか生き延びた第二次ヤキン・ドゥーエ…。

 

 それらの記憶は到底否定できない質感と感情をともない、ネオの脳裏に刻み込まれているのだが…。

 

(…のはずなんだがなぁ)

 

 アスランという青年に"フラガ"と名を呼ばれた時、妙な感覚が身体に走った。まるで自分の意思ではないかのように身体が勝手に反応しそうになったのだ。

 

 ムウ・ラ・フラガといえば、かつて『エンデュミオンの鷹』の異名で連合・ザフトで知られていた連合のエースである。確かにガンバレルを巧みに扱うその戦術も、容姿もネオに酷似しているのは認めざるを得ない。

 

(それに…記憶ってのを好きに弄れるのは俺がよく知っているしな)

 

 ステラ達の記憶を好きに操作してきたのは自分だ。上の命令で、都合の悪い記憶は消してきたのだ。ならば、ネオ自身の記憶が操作されていない保証はどこにもない。今ある記憶が本当だと証明することは難しいことだ。

 

 シャーロットにいえば、すぐにでも確認を取ってくれるだろう。もしくは、彼女自身ネオの正体を既に掴んでいて、あえて教えていないのかもしれない。

 

 これまで信じていた全てが、手の込んだまがい物(フェイク)に変わる。それは、踏みしめていた大地が避け、虚空(こくう)へ投げ出されるようなものだからだ。

 

「ムウ・ラ・フラガか…」

 

 改めて、その名を呟く。ネオ自身、未だに実感は伴わない。

 ただ、かつて母でも戦友でもない誰かに、この名を呼ばれていたような気がするのだ。

 

 そう…大切に思っていた誰かに––––––––。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 –––––嘘だ、嘘であって欲しい…っ。

 

 フェイトは焦りを隠そうとしない様子でアステリアのコックピットのキーボードを操作していた。

 

 ジブラルタルでの一戦によって損傷した機体はメカニックであるバレットによって完璧に修理されている。GNドライヴ搭載機同士の戦いということもあって、アステリアに限らずガンダムの損傷は大きかったようで、三機全てを短期間で修復してみせたバレットは不満をぼやきながらも休憩に入っている。

 

 だが、今のフェイトはそんな彼に(ねぎら)いの言葉一つをかける余裕すらなかった。

 

 次々とキーボードを操作し、画面に展開するのはつい先日の戦いでのカメラ映像。問題となった擬似GNドライヴ搭載機との戦闘映像をよそに、カメラの映像は前哨戦であったデスティニーとの戦闘映像へ移る。

 

 違和感を覚えたのはデスティニーとの近接戦闘に勝利した後のこと。あと一歩のところまで追い込んだフェイトの一太刀が、デスティニーのコックピットを僅かながら切り裂いた時だ。

 

 デスティニーは墜落し、破壊されていたジブラルタル基地へ叩きつけられた。

 

 この時、フェイトはデスティニーのパイロットを目撃している。緊急出撃故にかパイロットをスーツを着ていなかったため、血に()れたパイロットの少年の姿を…。

 

 その姿が忘れられなかったフェイトは、戦闘後も残る心のしこりをなくすためにこうして確認しようと思ったのだ。

 

 頭の中に残る最悪の想像を否定するために…。

 

「……嘘」

 

 しかし、現実は非情である。

 世界はどうしようもなく残酷で、運命は悲劇へと定められていた。

 

 黒髪に特徴的な赤い瞳…間違いなく、その少年はフェイトの兄であるシン・アスカ。声を聞いたわけでも、直接会ったわけでもない。それでも分かる。何せ仲の良かった兄妹だったのだから。

 

「どうして…」

 

 オーブにいると思っていた。

 –––––あの時、オーブには降下してきたミネルバも停泊(ていはく)していた。

 

 争い事とは無縁(むえん)の読書が好きな優しい兄だった。

 –––––そういう自分は昔どうだったのか?

 

 どうしてザフト軍にいる。

 –––––兄はプラントに向かった。そして、ガンダムマイスターの自分よりも兄は優秀だった。

 

 決して考えなかったわけではない。

 考えて考えて、結局は「あり得ない」と見て見ぬふりをしてきた最悪の可能性が現実となってフェイトの前に立ち塞がっているのだ。

 

「なぜ…貴方が…」

 

 それでも、今では唯一の家族であった兄とこれまで殺し合っていたという事実は、一度は決意で凝固(ぎょうこ)したはずの心を締め付け、マユ・アスカとしての幼き心は悲鳴を上げる。

 

 いつか、平和になった世界で再会できればいいと思っていた。もう誰にも邪魔させたくなかったから。

 

 そのために戦争根絶を目指すソレスタルビーイングに入ったし、ガンダムマイスターになることも受け入れ、多くの人の命を奪ってきたというのに…。

 

 どうして、なぜ、なんで…。

 

「どうして、そこにいるの…お兄ちゃん」

 

 それは不幸な再会。

 少女の戦う理由を根底から揺るがすものであった。

 

 

 





>超ブラコン鋼メンタル妹(14歳)
お兄ちゃんとのその後のために戦争根絶を目指していた妹。
なお、敵対していたのが兄と知って流石にショック。

>不可能を可能にする男?(30歳)
昔の女のことを思い出しつつある三児のパパ。娘のボーイフレンドのことを気にしている。

 …とまぁ、茶番はここまで。

 最低でも一月に一回は更新していくので、どうか許してください。
 くっ、劇場版さえ見ることができれば、一気に完結まで持って行けそうなものを…!


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歌姫の疑念


こんなに間が空いてるのに高評価くれる兄貴姉貴たちには感謝しかないです。ありがとナス!


【注意】オリキャラ登場!
とはいえ、本格的に出番が出るのは二部の方なので、とりあえず名前と容姿だけ。


 

 

 ラクス・クラインとは誰なのか?

 

 その答えはきっと、本人かキラ・ヤマトのどちらかしか答えることはできないだろう。ギルバート・デュランダルやアスラン・ザラは部分的に彼女を理解しているが、それでも全貌には至っていない。

 ナチュラルもコーディネーターも絶大なカリスマを持つアイドルという偶像(ぐうぞう)を前に彼女自身の本質を理解するのは非常に難しいといえる。

 

 そもラクスといえば、民衆にとっては第二次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で三隻同盟の中心となって活躍し、大戦を終わらせた英雄の印象が強い。それは彼女の思想に賛同して行動したクライン派の人間たちとて同じである。

 

 だが、実際は違う。

 彼女自身は確かに非凡なカリスマ性を持った歌姫であるが、その本質はどこまでいってもアイドルどまりだ。決して革命だの武力介入だのを進んで行う少女ではない。

 

 これまでの英雄と呼ばれる功績にしても、ラクス・クライン自身は何もしていない。

 彼女が何もしなくても、周囲が勝手にその意図を理解したつもりになって行動していたからだ。あくまでもそのカリスマと存在感で見守り、ただ見送るのがラクスであり、彼女が動くのは本当にそれ以外どうしようもないときだけだ。

 そして、その"どうしようもないとき"が前大戦だっただけのこと。彼女が動かなければどうにもならなかったからこそ、父を失くすという悲劇を受け入れてなお、平和の為に歌を歌ったのだ。

 

 

 では改めて、ラクス・クラインという少女は一体誰なのか?

 

 それはきっと、何の変哲(へんてつ)もない平凡な毎日を望む普通の女の子という他ないだろう。皆を奮い立たせる演説よりも、家で料理をつくって掃除や洗濯をし、好きな人と好きな暮らしをするのを望んでいるような、どこにでも普通の……。

 

 そして、それを心の底から理解できているのはキラ・ヤマトだけである。"そうであれ"と望まれて生まれた彼と"そうであれ"と生き様を他者から求められる彼女達が出会い、惹かれ合うのはまさに"運命"だったのかもしれない。

 

 キラ・ヤマトが行動するのは常にラクス・ラクス・クラインのためであり、ラクス・クラインもまた、キラ・ヤマトの為にだけ自発的に行動する。(なか)ば共依存に見えるそれは、単に"好きな人のため"という何の変哲もない理由でしかないのだ。

 

 

 総じて何を言いたいのかというと、ラクス・クラインはあくまで平凡な毎日を望むごく普通の女の子であり、そこに他者が考えるような思想や思惑などそこまで存在しないということである。

 

 ただ他者より賢くて、他者よりカリスマ性があり、他者より意志が強いだけだ。

 

 それをどこまでの人が理解できているかは別として、だ。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 多くのデブリや小惑星の漂う星の運河(うんが)にて。

 漆黒の宇宙をバックに、特徴的な桃色の装甲色の戦艦が泳ぐように進んでいく。

 

 FFMH-Y101 "エターナル"

 前大戦においてザフトによって開発され、クライン派によって奪取されたフリーダム・ジャスティス等ファーストステージシリーズのモビルスーツ専用の運用艦である。

 前大戦にて三隻同盟の旗艦の一つとしてアークエンジェル・クサナギと共に戦い抜き、二年経った今も修復・改修を経て旧クライン派の艦として密かに運用されており、宇宙へ上がったラクスとバルトフェルドはエターナルを拠点に調査活動を続けていた。

 

〈シャトル帰還。ハノーバールートで接近中〉

 

 艦橋(ブリッジ)からの通信が入り、艦長であるバルトフェルドは自室を出た。途中でラクスの部屋に寄り、インターフォンで己の副官(ダコスタ)の帰還を伝える。

 

「ラクス、ダコスタが戻ってきたぞ」

〈今、まいります〉

 

 ほどなくドアが開き、ラクスが姿を見せる。二人は艦橋(ブリッジ)へ向かった。

 

 途中、ふとバルトフェルドは口を開く。

 

「それにしても、まさかプラントと連合が和睦するとは…」

 

 バルトフェルドはかつて『砂漠の虎』との異名までを得ていたザフト軍人である。それこそ地球とプラントの開戦時からずっと戦い続けてきた。多くの同胞を失ったし、多くのナチュラルを殺してきたのだ。

 だからこそ、戦争の無慈悲さ・残酷さを嫌というほど知っている。ナチュラルの嫉妬深さ、コーディネーターの傲慢さもだ。

 

 それ故だろうか、余計に今の現状が夢物語のように見えてしまってしょうがない。

 

「最も、二年前の僕らに言っても誰も信じてくれないだろうねぇ」

 

 二年前、バルトフェルド達クライン派が行動を起こしたとき、既に両者の対立のシナリオは最悪のところまで深刻化していた。互いに互いを滅ぼし合い、ラクス達が動かなければ、いずれ両者共倒れ、そのまま人類滅亡なんて最悪の展開を迎えていたかもしれないほどだ。

 

 そうして、戦いの果てに失った恋人(アイシャ)を思い返し、バルトフェルドはどこか自嘲気味な笑みを浮かべながら皮肉げに言った。

 

「ま、停戦するっていうならこちらも大歓迎なんだが」

「ええ………ですが、少々早すぎる気がします」

 

 対して、ラクスは静かにそう言った。

 バルトフェルドは直ぐにはその言葉の意味が分からず、()き返す。

 

「早すぎる…とは?」

「…此度の停戦からの和睦、同盟というのは少し上手く行きすぎているような気が…いえ、私の考えすぎならいいのですが」

 

 (いぶか)しげな表情を浮かべるバルトフェルドに対して、ラクスも上手く言葉にならないようである。彼女が言葉に詰まるなんて珍しいと思いつつも、バルトフェルドは彼女の言葉の続きを待った。

 

「二年の時を経ても埋まらなかった溝がこうも簡単に埋まるとは思えません。必ず何か裏があるはずです」

 

 そもそも…とラクスはなんとか言葉を滑り出す。

 

「今回の開戦の原因になったのはユニウスセブン落下事件だと聞いています」

「そうだねぇ。旧ザラ派の反抗なんて言われているが…」

 

 今やその旧ザラ派もソレスタルビーイングに滅ぼされちゃったかもねぇ…と内心で言葉を叩ける。

 

「ええ。アスランからも話を聞いてますし、おそらく事実でしょう」

「だが、その裏にはデュランダル議長の意図があったわけだ」

「あくまでも可能性の話ですが…」

 

 ラクスはあくまでデュランダルを信じたいようだが、ラクスの偽物といい、この間の襲撃事件の件といい、バルトフェルドにとって彼に対する信用はかなり低い。

 そもそも政治家のやり方というものをよく知らないバルトフェルドにとっては、小綺麗なことばかりを言う割に腹黒い手段も平然と使うデュランダルは露骨(ろこつ)に怪しく見えていた。

 

「仮に連合を焚き付けたのがデュランダルの思惑だとして、今この状況は奴の計画通りだと思うか?」

「…いえ、おそらく彼にとっても想定外のことが起きたのでしょう。私たちに対してあの後何のアクションもないのがその証拠です」

「で、それがソレスタルビーイングってわけか」

 

 ラクスは頷く。

 確かにあの集団の出現は全ての勢力の思惑を破壊したと言っていい。連合ではブルーコスモスが沈黙したというし、デュランダルとて色々と策を巡らせていたようだが、あまりもの武力介入のスピードにそれを実行する余裕なかったのだろう。

 

 だが、バルトフェルドとてデュランダルの気持ちが分からないでもない。

 

「まぁ、本当に謎の多い組織だからねぇ。ソレスタルビーイングって奴らはァ」

 

 あれだけの大立ち回りに加え、キラとフリーダムをも圧倒する力。バルトフェルド達旧クライン派としても警戒しない理由はなく、宇宙に上がってから幾度となく調査を重ねてきたのだが、不自然なほどに情報は手に入らない。

 

 いくらテロリストといえど、活動すれば自然と行動の痕跡や情報の漏れがあるものだが、ソレスタルビーイングにはそれがない。少数精鋭だとすれば納得はするが、逆にあれだけの技術力を少数で開発・保有し、運用していることに説明がつかない。

 

 考えれば考えるほど、謎が尽きない連中なのだ。

 

「…そのソレスタルビーイングについて、気になる点がいくつかありまして」

「気になる点?」

 

 謎が多すぎて考えることを諦めたバルトフェルドに対して、ここ暫く彼らについて調べていたラクスには別のところが見えているらしい。

 

「ここ最近のソレスタルビーイングの武力介入はかなり過激さを増していました」

「ああ、あちらこちらでニュースになっていたな。今まで以上に"破壊"を重視するようにした武力介入で多くの被害が出たってね」

 

 軍事関係施設へ片っ端から武力介入。地球では多大な被害が出たそうであり、あまりもの凄惨(せいさん)さに遠く離れたプラント国内でも彼等を恐れる人々が多くいたという。プラント最高評議会もかなり荒れたそうだ。

 

 まぁ、バルトフェルドからすれば今更といったところだが。

 

「そして、それが今回の同盟に繋がった。…そう考えると、彼等は自ら望んでこのような展開を招いたように思えないでしょうか」

「裏切り者の出現も含めて、か」

「…はい、タイミングが良すぎると思いませんか。あれだけの隠蔽ができるほど纏まっている組織に限って」

 

 あり得ない、と一言で切り捨てるにはラクスの考えは通りにかなっている気がしなくもない。少なくとも一考の余地はあるだろう。

 

「過度な武力介入で前大戦から続く地球・プラント間の溝を強引に埋め、そのタイミングで都合よく裏切り者がでる…確かに出来過ぎた話だ。あれだけの組織力を持つ奴らだけにな」

「ですが、結果的に地球・プラント間の戦争は終結しました。彼等は自らの理念に従って、戦争を根絶しようとしているに過ぎないと考えられます」

「自分たちを犠牲にして…か。それともまだ隠し玉があるのか。気味が悪いのには変わらないけどねェ」

 

 その時、エレベータのドアが開き、二人は艦橋(ブリッジ)へと入っていった。中にはラクスの使いで出ていたダコスタが待っていた。

 

「待たせたな、ダコスタ」

「それで、調査の方は?」

 

 ダコスタは頷くと、さっそく(たずさ)えていたアタッシュケースを開きながら報告する。

 

「いやもう、参りましたよ。当時の情報は殆ど抹消されていましたし、どのコロニーも空気が抜けて荒れ放題…ほんと"これ"を見つけ出すのには苦労しましたよ」

 

 ダコスタは自らの苦労を息を吐くように話すと、表情を自信ありげに変え、ケースから一つのUSBデータを取り出した。

 

「でも、ラッキーなことに目的のデータは残っていまして。この通り…」

「よし、でかした!」

 

 バルトフェルドがダコスタを褒めるように背中をバシッと叩くのを尻目に、ラクスはそのUSBをエターナルの端末へと繋いだ。データが次々と浮かび上がり、バルトフェルドとダコスタも視線をそちらに向ける。

 

「ここですわね –––––– きっとここに彼等のことを知る手掛かりがあるはずです」

 

 そこには、"プロフェッサー.グレンについて"と書かれたデータが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 それはどこでもない場所であった。

 どの国にも、どの権力にも属さず、本来はあり得ることのない場所である。

 しかし、そこは実在した。青々でした葉を(しげ)らず森の中にひっそりとたたずむ豪邸(ごうてい)。暖かな陽光が降り注ぎ、一年を通じて寒暖の差が少ないこの地にあって、人が快適に暮らすことのできる広壮(こうそう)さと設備を十二分に備えている。

 

 それは、人間の住処ではなかった。

 まるで俗世(ぞくせ)隔離(かくり)したような鬱蒼(うっそう)とした深い森の中央にたたずむこの豪邸は ––––– レクシオ・ヘイトリッドが所有する地上の拠点であった。

 

 ここは()()イノベイドが独自に所有する拠点であり、その情報は所属を同じくするソレスタルビーイングのメンバーですら認知していない。

 

「気に入ってもらえたかな、僕からのプレゼントは」

 

 バスケットコートが入るほどの広いリビングに置かれたソファーにて、レクシオはそう呟く。彼の視線の先…いや、脳量子波が繋いだとあるコロニーの監視映像では一人の男(ダコスタ)がデータの吸い出しを行っている様子が見えている。

 

「わざわざあんなデータを送って何の意味があるのか…私には疑問なのですが」

 

 背後から、聞き障りのいい声が聞こえた。

 

「…あぁ、君か」

 

 レクシオは振り返ることなくその人物を特定する。

 ここにいるのはイノベイドだけであるというのもそうだが、それ以前に脳量子波でその人物の接近には気がついていた。

 

「指示された工程は全て完了。問題は一つもありません」

「そうか…それは何より」

 

 栗色の長髪を揺らして二階から降りてきた少女は、その幼なげな顔立ちを無表情に染めながらレクシオに声をかけた。

 いや、少女というのは誤りか。彼女には性別なんて不完全な物は存在しないのだから。

 

「ご苦労だったね、フォルトゥナ」

 

 フォルトゥナ・ロット。

 この世界に来てレクシオが生み出したイノベイド達の一人。レクシオのような西暦の人物ではなく、C.E.の人物の遺伝子を元に誕生させたこの世界で最も初めに誕生したイノベイドだ。

 

「それで、いいんですか? わざわざ敵に塩を送るようなことをして。ラクス・クラインがこちらの意図に気付くとも限りません」

 

 ここでは便宜上『彼女』としよう。

 フォルトゥナが問えば、レクシオはフッと薄く笑い、言った。

 

「あの歌姫は敵にはならないさ。人間にしてはかなり賢いからね。別に構わないよ」

 

 むしろ、その賢さでこちらの意図に気付いてくれることをレクシオは期待している。何しろ計画の主役は自分たちイノベイドではなく彼等人間なのだ。

 

「この世界で彼女の影響力は大きい。変に勘繰られるぐらいなら情報を与えてやった方がいい。別にあの程度の情報、組織のメンバーなら誰でも知っていることだしね」

 

 それに色々と面倒な過程をスキップできる。

 レクシオがこの世界で目覚めてから何十年、くだらない人種差別での争いを見てきたと思っているのだ。ナチュラルだのコーディネーターだの、レクシオにとっては全てがどうでもいい。

 これまでは仕方なく両者の溝を埋めるべく暗躍していたが、代わりにラクス・クラインがイオリア計画を理解し、両者をまとめ上げてくれるなら、こちらとしては面倒ごとか減って楽である。

 

 今回の意図的な旧クライン派への情報流出は、将来への投資…未来の指導者ラクス・クラインへの期待を込めての物である。

 

「つまり、貴方は彼等にヒントをあげたに過ぎないということですか」

「さぁ、どうかな」

 

 レクシオは、はぐらかすように微笑んだ。

 ほんの一瞬だけフォルトゥナの表情が不快げに歪むが、それをレクシオは見逃すことはない。

 

 見逃すことはないのだが、そのような『人間的』な感情をレクシオは敢えて否定しない。人間らしいイノベイドといえばティエリア・アーデの名が真っ先に浮かぶが、彼は結果的に計画を完遂まで導いている。そのような理由もあり、彼女の持つ人間性が不必要だとは思えなかったのだ。

 

「ともあれ…だ」

「おや、君もここに来るとは珍しい」

 

 背後から聞こえた新たな声に、レクシオは思考を現在の論点に引き(もど)した。フォルトゥナとは異なる声の主が、鮮やかな足音と共に近づいてくる。

 チラリと向けたその先で、金色の髪をした端正な顔立ちの男が言葉を続けた。

 

「そろそろ私たちの出番かね、レクシオ」

「…ヒュブリス・ドゥーム…」

 

 男の名を口にしたフォルトゥナの目が、冷ややかに挟まって再び感情をこぼれ落とす。

 嫌われたものだ、と言わんばかりに本人は肩を含めたが、その軽薄な態度が彼女の神経を逆撫でしているというのは…脳量子波でわかっているだろうに。

 やれやれ、とレクシオは仲間たちの不和に首を傾げた。まぁ、彼等の持つ「人間らしさ」を作ったのもレクシオ自身なのだが…。

 

「計画の第一段階も終わりを迎えようとしている。このままではソレスタルビーイングは消えてしまうぞ?」

「……まさか」

 

 レクシオが膝の上で噛んでいた指を軽く立てる。

 

「彼等にはここで終わってもらっては困る。その為の例のシステムだしね」

「例のシステム?」

 

 フォルトゥナが()いた。ヒュブリスも意外そうな顔で訊ねた。

 

「ほう、GNドライヴにはまだ隠された機能が?」

 

 レクシオは顔を縦に頷いた。

 

「贈り物だよ。それでいて諸刃の剣だ。扱えるかどうかは彼等––––––マイスター次第だけどね」

 

 世界は変わろうとしている。

 ならば、そろそろ解禁してもいい頃合いだろう。

 

 そのシステムの名は––––––––––。

 

 

 

 

 

 

 





>過労歌姫
また戦争かよ…と内心ご立腹だった。
ようやく安心できると思いつつも、世界の裏で暗躍する者たちの気配を察知して、一息吐けたらまた一苦労な過労歌姫。

>レクシオ
ヒント上げるから頑張って辿り着いてね。貴女(ラクス)には期待しています…って感じ。

>イノベイド二人
誰が元になったかは…まぁ、いずれ分かります。容姿で分かるのが一人いますけど、想像通りです。



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歌姫の疑念Ⅱ


前半は過去回想という名のオリキャラ伏線回収。
後半はラクス&キラ陣営でお送りします。



 

 

 これは一つの挿話(そうわ)である。

 私設武装組織ソレスタルビーイングが活動を開始する、少し前の話。

 

 

 石油枯渇によるエネルギー不足によって世界中が不況に陥り、環境汚染や排他的経済ブラックの分割が始まり、宗教や民族紛争による再構築戦争に突入。さらに追い討ちとばかりにS型インフルエンザが流行し、世界中の人口が大きく減少していた、そんなA.D.(西暦)と呼ばれる時代から数年後。

 後にC.E.(コズミック・イラ)と呼ばれる時代が始まったばかりの時期のこと。

 

 世界中が新たな時代への変化を見せている中、人類の活動圏からかけ離れた秘境、地中海に浮かぶとある孤島(ことう)の上に一軒(いっけん)広壮(こうそう)な屋敷が存在した。

 波も風も穏やかで、やや陽射しは強いが透き通るような青空は、見る者の目を吸い寄せ、心に一瞬(いっしゅん)の空白を作り出してしまうほどに深く、清く、美しい。

 

 その屋敷の一室に、一人の科学者がいた。足元に広がるコード、いくつものモニターに囲まれたデスクの前にて、憂鬱げな表情を浮かべている。

 どうやらその部屋は、彼の研究室兼書斎(しょさい)兼プライベートルームであるらしく、デスクの左側には山積みになった本が、右側には作りかけの人型の模型が立てかけられていた。

 

 そして、その部屋には科学者の他にもう一人、年若い青年がいた。

 青年は屋敷の主と同じ目的を有し、彼の背中を追うように研究を続けていた。悲しいことに青年には科学者のように"天才"の称号を得るほどの才は有していない。

 それでも、当時はまだ軽視されていた理論の構築や冷静で的確な情報分析などの面で非凡(ひぼん)な才能を発揮し、その面を買われた青年は科学者の唯一の助手兼友人として共にこの屋敷で研究を行っていた。

 

 科学者と青年は親と息子というほどに歳が離れていたが、それでも互いに自分が持ち合わせていない才能を相手に認め、親交も深かった。もしかすると、彼等の共通の趣味であるチェスの好敵手(ライバル)であることも、その一因かもしれないが…。

 

 部屋の主に(すす)められた椅子(いす)に座り、モニターと向き合っている科学者の背中を見ていた青年が、おもむろに口を開いた。

 

「……意識を伝達する新たな原初粒子の発見、粒子を製造する半永久機関の基礎理論の構築、外宇宙より飛来した量子型演算処理システムの発見及び解明、遺伝子操作による新たな人類の創造……どれも我々人類を豊かにする大変な技術だ」

 

 科学者は無言を貫き、青年は言葉を続ける。

 

「…でも君は人間嫌い。その情報の全てを公開することなく、こうしてこんな孤島で世界の成り行きを見守っている」

 

 そんな青年の言葉に対して、モニターに目を向けたまま、振り返りもせずに科学者が応じる。

 

「…私が嫌悪しているのは、知性を間違って使い、思い込みや先入観にとらわれ、真実を見失う者たちだ。それらが誤解を呼び、不和を招き、新たな争いを生む………私は人間という者を信用できないでいる」

 

「……それでも、世界は先へ歩みを進めているよ? 国家は再構築され、人類は新たなまとまりを見せている。それは、君の望んだ人類意思の統一化とは異なる物なのかい?」

 

「…君の言うことは正論だ、レーゲン。だが、もっと未来に目を向けるべきだろう。私の、私たちの持つ技術はそのどれもが人類の明日を左右する物であり、使い方を誤ればそれこそ人類の未来に待っているのは破滅だけだ」

 

 実のところ、二人の研究はある程度の終わりを見せている。だからだろうか、ここ最近はこうして二人で人類の未来についてを語り合う日々が続いていた。

 

「…人類は知性を正しく用い、進化しなければならない…」

 

 そこで、科学者が振り向いた。

 

「そうしなければ、宇宙へ、大いなる世界へ旅立つことはできない。例え宇宙へ行けたとしても、新たな火種を生むことになる………その辺をまだ今の人類は理解していない」

 

 科学者は嘆くように言った。

 彼の言葉に嘘がないことは、その表情が物語っている。正真正銘、この世界における天才である彼の顔には、人類の未来を(うれ)い、そこに生じるであろう戦乱と戦火の被害者たちを(あわ)れむような、悲しみの色がたたえられていた。

 天才であるが故に、彼は預言者のごとく人類の未来が見えてしまうのかもしれない。

 

()()()()にはその辺を理解して欲しかったがな」

 

「フフ、多彩な才能を持つ君だけど、子供を育てるのは苦手だったみたいだね」

 

 青年は、彼に共感したように薄い(さび)しげな笑みを浮かべて、科学者の名を呼んだ。

 

「……エドワード…」

 

 これがソレスタルビーイングを組織した天才科学者イオリア・シュヘンベルグの意を継ぐ者にして、C.E.における随一の天才エドワード・チャールズ・グレンの50歳当時の姿であり、後にレクシオ・ヘイトリッドが得る肉体の基となった浅緑色の髪をした青年の姿であった。

 

「–––––––––ところでレーゲン、君が書いてるそれは日記か」

 

「いや、記録と言ったところかな。君について、僕について、人類の未来について…ってね」

 

「それは何故だ?」

 

「だってほら、見ての通り人間嫌いの君と僕だけど…誰かに自分の存在を知っていてほしいって思うのは…別に普通だろう?」

 

 これは挿話(そうわ)である。

 A.D.(西暦)時代において最高の天才と呼ばれた彼等のことについては、何故か歴史上から抹消されている。彼等について知る人物はこの世に亡く、彼等について書かれた情報も残っていない。

 

 そう、ただ一つの量子型演算処理システムを除いて。

 

 この時より、およそ七十年近く経ったC.E.73。

 彼の、彼等の計画は、とあるイノベイドの手によって本格的なスタートを遂げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 『全ては人類の変革、来るべき対話のために』

 

 短くそう纏められたデータには、歴史上から抹消されていた事実…即ちファーストコーディネーターであるジョージ・グレンの生みの親についてが記録のように何者かによって(つづ)られていた。

 

 記入者の名は不明。

 おそらくC.E.でも創始期に書かれ始めたと分かるこの記録データには、ジョージ・グレンの親であるエドワード・チャールズ・グレンについての人となりや研究内容について触れられている。

 

「こいつは驚きだな…」

「ああ、それはホント、歴史上の大発見ですよ。まさか今まで謎だったジョージ・グレンの生みの親が判明したんですから」

 

 ジョージ・グレンの親、つまり初めてコーディネーターをこの世に生み出したとされる研究者については、謎の集団として今まで謎とされていた。

 それが数十年の時を経て判明したという事実に、ダコスタとバルトフェルドは小さく感嘆の声を漏らす。

 

 対して、ラクスはあくまでも冷静に、データを一つ一つ見送っていく。

 

 『コーディネーターとは人間の今と未来の間に立つ者。即ち変革者(イノベイター)とヒトとを繋ぐ調整者(イノベイド)、そのプロトタイプである。』

 

 そして、見つけた興味深い一文にラクス達は目を止める。見知らぬ単語、知られざる真実に思わず視線が吸い込まれるように集まった。

 

「人間の今と未来…? どういう意味だ」

変革者(イノベイター)調整者(イノベイド)。また、よく分からない単語が出てきましたね」

 

 『しかし、GN粒子に対応できないコーディネーターでは変革を促す者としては不適格であり、計画に相応しくない。よって、計画はコーディネーターではなくイノベイドの完成を待って開始されるものとして…………』

 

 出てきたのはGN粒子という単語。

 ソレスタルビーイングのガンダムが放出する粒子の名前であるが、その名前はつい先日彼等の組織から裏切り者が出るまではラクス達とて認知していなかったものだ。

 それはつまり、この記録を書いた人物及びエドワードはソレスタルビーイングと繋がっているということになる。

 

「GN粒子…! やはりエドワード・グレン博士はソレスタルビーイングと関わりがあったのでしょう」

 

「そうなると、あの犯行声明の男とやらの正体も分かってきたな」

 

『計画に必要不可欠とされるGNドライヴの量産には木星での活動が必須となる。第一期はA.D.時代に行ったが、再び赴く必要がある。その機会は木星探査船で宇宙へ出るジョージ氏に任せ……』

 

 情報はそこで途切れた。

 ラクス達が何かしたわけではない。単純にダコスタの持ってきたデータ媒体に蓄積された文章が終わりを告げただけのこと。

 

「すみません、何せオリジナルの方は殆どのデータが破損していまして…ここまでが限界でした」

 

「いや、十分だ。よくやった、ダコス––––––」

 

 バルトフェルドが部下を労おうと言葉を投げかけたその時、それを(さえぎ)るように艦橋(ブリッジ)に警報が響き渡った。バルトフェルドはさっと振り返る。

 

「なんだ!?」

「これは…戦闘ですっ! 前方で戦闘らしき機影を確認!」

 

 周辺宙域に張り巡らせたセンサーが、何かに反応したらしい。当直についていたオペレーターが慌ただしくキーボードを操作したところ、モニターに嫌というほど見てきた戦闘の光景が映し出された。

 

「何故もっと早くに気がつかなかった!」

「それが、例の特殊粒子の影響で磁場が乱れて…」

「チィ、厄介な機能を…っ」

 

 特殊な粒子(GN粒子)ということは、ソレスタルビーイングが関わっていると見て間違いない。

 だが、今やその独自性も彼等だけのものではない。地上で彼等と交戦した連合はもちろん、今まで後ろ手に回っていたプラントも…。

 

「…モビルスーツを確認! 光学映像、モニターに出しますっ!」

 

 モニターに映るのはいくつもの光条。それがビームの光だというのはいうまでもない。その光を撃ち合う姿にはもはや見慣れた姿…ガンダムの姿がある。

 

 そして、そのガンダムと戦っているのが…。

 

「あれが例の新型モビルスーツ…」

「後方にナスカ級二隻及びユーラシア級一隻を確認。ザフト軍とソレスタルビーイングの交戦だと思われます」

「くそっ、遂にデュランダルも動いたか」

 

 となると、ラクスたちがここにいるのは不味い。何せ彼等旧クライン派は今のプラントと微妙な関係性である。敵対こそしてないものの、つい先日の件もあって信用しきれない。

 当然、ソレスタルビーイングは論外。むしろ、ターミナルなども介入対象にしていた彼等こそ明確な敵対関係にある。

 

「すぐに後退の準備をしろ、巻き込まれたら終わりだぞ!」

 

 今のエターナルにまともな戦力はない。例えあったとしても、GNドライヴとやらを搭載する両者の戦いについて行くことはバルトフェルドでも不可能と言わざるを得ない。

 

 バルトフェルドは舌打ちしながら後退の命令を出す。

 とはいえ、後ろ手に出てしまったこの状況ではそれが非常に難しいことをクルーの誰もが実感していた。高速艦と呼ばれるエターナルだが、ガンダムや新型モビルスーツの前ではウサギとカメに等しいのだから。

 

「最悪はオーブに頼むしかないか…」

 

 活動こそしていたものの、戦闘となれば二年ぶりとなる。久しぶりの戦の緊張感が、エターナルの艦橋(ブリッジ)を包んでいた。

 

 

 

▽△▽

 

 

 

〈キラ君、すぐに艦橋(ブリッジ)へ!〉

 

 いきなりのマリューからの呼び出しにキラは若干気圧されながらもモビルスーツのコックピットから顔を出した。

 キラが現在身を寄せているアークエンジェルは秘密裏にオーブ海軍のドックにて修理を受けており、キラ自身は乗機である"ストライクフリーダム"のOSの調整を行いながら世界の情勢を見守っていたのだ。

 

〈"エターナル"が危ないと、ターミナルからの連絡よ!〉

「え?」

 

 周囲にいたマードックたちも顔色を変え、キラは弾かれたようにコックピットから飛び出した。

 

 ザフトの探索を避けつつ、ソレスタルビーイングや世界の情勢について探っていたラクスたちに危険が迫ったということは––––––。

 

 その答えをマリューが告げる。

 

〈ザフトとソレスタルビーイングの戦闘に巻き込まれるかもしれないって––––––〉

 

 リフトが下りきるまで待たず。キラはそこから飛び降りて艦橋(ブリッジ)へ走った。

 

 エターナルの、ラクスの身に危険が迫ってる。

 まだ敵対したわけではない。ソレスタルビーイングはともかく、ザフトは全大戦の功労者であるラクスに剣を向けるようなことはないと、そう信じたい。今のザフトにはアスランは勿論、プラントへ戻ったディアッカもいるのだ。

 それでも、オーブでの襲撃事件がキラにどうしようもない焦燥(しょうそう)をもたらす。

 

 艦橋(ブリッジ)へ駆け込むと、マリューやノイマンと言ったアークエンジェルクルーの面々は既に集まっており、モニターにはカガリの姿もある。

 

「どのくらいの戦闘か分からないけれど、既に戦端は開かれているのは確かね」

〈おそらく、連合とザフトの同盟軍による対ソレスタルビーイング殲滅作戦––––––エンジェルダウン作戦が始まったんだろう〉

「エンジェルダウン作戦…」

 

 ガンダム……即ち天使を墜とすということだろうか。

 実際にガンダムと戦闘したキラだからこそ、その力が分かる。だからこそ、そのガンダムと同等の性能の機体がひしめく争いがいかに恐ろしいか……想像もつかない…!

 

「カガリ…!」

 

 そこまで考えた時、キラの心のうちは既に決まっていた。そして、それは姉にも以心伝心で伝わっていたようだ。

 

〈分かっている。政治的な問題はこっちでなんとかするから、お前はさっさと行けよ〉

「うん、ありがとう…!」

 

 姉の承諾を得るや、キラは来た道を引き返すかのように格納庫(ハンガー)へ足を走らせた。

 

「マードック曹長にブースターの準備をさせて!」

〈国防軍に通達。フリーダムが出る、とな〉

 

 頼りになる仲間たちの声を背に受けながら、キラは愛する人を救うべく宇宙へ思いを()せた。

 

 

 

 

 

 

 

 





>エドワード・チャールズ・グレン
今作におけるイオリア枠の天才科学者。
ジョージ・グレンの生みの親。つまりはコーディネーターをこの世に生み出した存在。

>レーゲン
今作におけるE・A・レイの男。
レクシオのボディの遺伝子提供元の科学者。

>エンジェルダウン作戦
今作におけるフォーリンエンジェルス枠の作戦。意味が似てるのでそのまま流用した。


 エドワードやレーゲン、今作でのイオリア計画に関する情報は後々ゆっくりと公開していくものとして……。

 いつの間にか展開されていたエンジェルダウン作戦については、次回で触れていくので、ザフトvsソレスタルビーイングの戦いをお楽しみに。例のシステムの公開も…?

 ※低評価が目立つので、少し方針変えるかもしれません





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変革の序曲


色々な人から応援のメッセージでやる気回復!
なるべく早くの更新を心がけたいですね…!

どうでもいいですが、作者はイザークが好きです。



 

 

 ザフト・連合同盟軍によって行われることとなったガンダム殲滅作戦。

 

 その名も『エンジェルダウン作戦』

 まさに天上の存在かの如く好き勝手、天罰という名の刃を下してきた天使(ガンダム)に対して、遂に人類が反撃の狼煙(のろし)を上げたのだ。

 

 まだ公表はされていないが、今回の戦果次第では世界国家で正式に認められることになっている。既に地上では連合軍がその新型機の性能を遺憾なく発揮し、ガンダムの撃退に成功しているため、次のステージは宇宙。ソレスタルビーイングに相対するのは今まで苦渋を飲まされてきたザフト軍。

 

 ただし、今までと異なるのはこれまで一方的に武力介入を受けていたザフト側が、初めてソレスタルビーイングに対して攻勢を仕掛けるということだろう。

 

 投入されたモビルスーツは全部で30機。そのうち13機が擬似太陽炉を搭載した新型モビルスーツ。地上(ミネルバ)に配備された2機を除いて、所有するその全ての機体(GN-X)を実践投入したのだ。

 

 今まで詳細不明だったソレスタルビーイングのスペースシップへの奇襲。擬似太陽炉を積んだ機体を13機も使ったザフトならではの電撃作戦が今、天上の存在に牙を剥こうとしていた。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 ソレスタルビーイングから裏切り者が出たことによって、世界はガンダムに対抗し得る新型のモビルスーツを手に入れた。それが世界に与えた影響は非常に大きい。

 地球連合・プラント共に対ソレスタルビーイングに向けての同盟を大々的に宣言し、ジブラルタルでの戦闘を嫌というほど報道している。ザフトのピンチに連合が駆けつけるという光景は、見る者にその認識を強く与えた。

 そんなこともあり、世論の熱気も彼等の行動を後押ししている。世論というのは移ろいやすいものであり、皮肉なことに今や完全に対ソレスタルビーイングに向けて世界がまとまっていた。

 

 先日の勝利で勢いついている同盟軍。

 遠からず、彼らは攻勢を(こうせい)に出てくる。

 

 その可能性をガンダムマイスターであり、前線指揮を()ることもあるフブキ・シニストラは9割近くの確信を持って予測していた。幼少期より神童、天才と呼ばれて育った彼女の頭は既にいくつものミッションプランを作成しているが、どうにも確実性に欠ける。

 

(…状況からみて、ヴェーダのシステムを何者かが利用しているのは確実……ヴェーダが使えない…それどころか敵に回るなんて、最悪ね)

 

 どう言い(つくろ)っても、ヴェーダの存在は大きい。

 ヴェーダが使えないだけならまだしも、敵に回るなどどうやっても人間の頭では太刀打ちできない。

 どんなに気丈(きじょう)に振る舞っても、考えれば考えるほど吹雪の心を不安と憂慮(ゆうりょ)が満たしていった。

 

 そこに、ガンダムマイスターの一人、アキサム・アルバディが現れた。

 よう、と軽く手を挙げてブリーフィングルームに入ってくる。

 

「悩みごとかい?」

「アキサム……ええ、そうね。私は不安なのよ」

「気持ちは分かるがあまり考え過ぎるなよ」

 

 アキサムは床面モニターに目を向けた。先日の、ジブラルタルでのガンダムとジンクス部隊との戦闘映像が流れている。

 

「…フェイトのこと、聞いたろ?」

 

 フェイト・シックザール。

 その本名、マユ・アスカの実の兄であるシン・アスカがミネルバのエースパイロットであったということは、彼女の身元引受人であり、他のクルーよりワンランク上のヴェーダへのアクセス権を持つフブキだけが知り得た秘匿情報である。

 急に様子のおかしくなったフェイトを怪しんだフブキが彼女を尋ねたところ、ヴェーダへのアクセス記録から真実が明らかになったのだ。

 

「えぇ、まさか敵に……ザフトにお兄さんがいたなんて」

 

 それを聞いた時、色々な感情がせめぎ合ってフブキは頭痛で倒れそうになった。生き別れの兄弟の巡り合わせに思わず神を恨んだとも。

 

「確かミネルバのデスティニー……だったよな。そうなると、アイツは今まで」

「…お兄さんと殺し合っていた、ということになるわね」

 

 考えるだけでも(おぞ)ましい。

 似た例を挙げれば、フブキは幼馴染のアスランと、アキサムは昔の部下であるハイネ等と刃を交えているが、彼等は片や軍人で片や組織の人間として覚悟を決めた者である。

 それに対して、互いに互いが血を分けた肉親となると、いくらガンダムマイスターとはいえまだ14の少女が受けた衝撃は相当なものだろう。

 

「本人は大丈夫なんて気丈に振る舞っているが…」

「…次にミネルバと対面するようなことがあれば、フェイトは後方へ下げるわ」

 

 出撃させない、とは言えない。

 今はどうにも戦力が足りず、そんなことをしている余裕はないからだ。

 それでも、フブキは兄妹同士の殺し合いなど見たくはなかった。

 

「それに……言ってもフェイトは聞かないわ」

 

 そもそも、戦いをやめるなんて選択、彼女自身の中に残っていないのだろう。

 あるのは戦うか戦争をなくすかの二つだけ。

 だからこそ、今まで奪ってきた命と戦争根絶への信念、それと家族への情。その二つに彼女は苦しめられている。

 

「くそっ、これだから運命ってやつは」

「これが戦争なのよ、きっと…」

 

 思い返せば、あの日の少女の姿が脳裏に浮かび上がる。

 フェイトに初めて出会ったのは計画開始(ファーストミッション)の一年半ほど前のこと。

 組織にあんな少女が入ると聞いた時は誰もが反対した。戦う者にしては若過ぎるし、幼過ぎる。フブキがガンダムマイスターに現れた時でさえそんな空気感はあったが、フェイトの場合は段違いだ。

 

 だが、それでも身に(まと)うその怒りの(まゆ)は確かに戦争への憎しみを宿していた。そんな全てに絶望し、悲しみ、行きどころのない怒りを押し殺している姿は、どこか昔の自分に似ていた…。

 

 だからこそ、フブキは人一倍フェイトのことを気にかけている。既にない家族の代わりなのか、単純な仲間意識の強さなのかはわからない。ただ、仲間/彼女を守りたいという思いはハッキリとしていた。

 

「とにかく、何かあればすぐにフォローに回るわよ」

「当然、任せな。そっちは今まで通り俺が引き受けるさ」

 

 その時、ブリーフィングルームの壁面(へきめん)に、シエル・アインハイトの顔が映し出された。通信モニターだ。後方には話題の少女、フェイト・シックザールの姿もある。

 シエルはアキサムとフブキな姿を確認すると、艦橋(ブリッジ)からの連絡事項(れんらくじこう)を告げた。

 

〈ブリッジから連絡だ。索敵にザフト艦の反応が感知されたらしい。襲撃の可能性がある…!〉

「了解したわ。マイスターはガンダムに搭乗してコンテナで待機。今回は私も出るわ。あらかじめ作成したミッションプランがあるから、ウェンディに伝えておいて」

〈了解!〉

 

 フブキの返答に、シエルが通信モニターを切ろうとした時、アキサムが言葉で(さえぎ)った。

 

「フェイト」

〈………!〉

「フェイト、これだけは言わせてくれ。状況が悪い方に流れている今だからこそ、四機のガンダムの緻密な連携が必要になる」

 

 いつも通りの無表情に見えていても、アキサムにはその奥に覗く戸惑いの感情が感じ取れた。

 

「…大丈夫なんだな?」

〈………うん〉

 

 念を押してそう聞けば、フェイトはその問いに暫くを間を開け、深く頷いた。

 

「ならば、よし…!」

 

 そう言い、今度こそ通信を切る。

 そうして、フブキに向かってフッとカラッとした笑みを浮かべた。

 

「そういうことだ。これからのことにしろ、フェイトの兄貴のことにしろ、まずはここを生き残ることを考えようぜ」

「…ま、それもそうね」

 

 フブキもおどけるような笑みを返し、己が機体の元へ向かった。

 

 多くの不安はあるが、それでも仲間たちを信じて……いつものように、戦いの場所へ。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 己の隊の旗艦であるナスカ級高速戦闘艦"ボルテール"の格納庫(ハンガー)内にて、イザークは新たに受領した擬似太陽炉搭載型モビルスーツ"リィン・ジンクス"のコックピットにて戦端が開かれるのを待っていた。

 

 その専用の白色のパイロットスーツの胸元には、選ばれし者である証–––––––フェイスの紋章が象られている。

 

 そう、彼ことイザーク・ジュールは今作戦に赴くにあたって司令部からフェイスの資格を受け取っていた。これは異例の措置である。

 確かにイザークは優れた能力を持つコーディネーターだが、特段目立つ戦果を上げたわけではなければ、アスランのように議長に便宜をはかったわけでもない。

 あくまでこれは、対ソレスタルビーイングに向けて戦場での独自行動を許可する為の便宜的な措置であり、イザーク自身もそのように受け止めている。

 

 ガンダムを相手にし、場合によっては地球軍との共闘もあり得るこの状況。混乱するであろう戦場を予測したのか、今回の作戦はイザークを含めた3人のフェイスが指揮を取ることになっている。

 

 一人はイザーク。二人目は後方で艦隊指揮を取るオイゲン艦長。

 

 そして、三人目が……。

 

〈よう、イザーク。久しぶりの実戦だそうだが、勘は取り戻してきたか?〉

「フン、アイツ(アスラン)と一緒にするな。開戦では一緒だっただろうに。お前こそ、ガンダムにコテンパンにされた傷は癒えたのか、ハイネ」

 

 言ってくれるなぁ、後輩…と笑うのは三人目のフェイスであるハイネ・ヴェステンフルス。

 

 フェイスとして地上でミネルバでアスランと共にガンダム調査任務についていた彼は、ガンダムとの戦闘で負傷し、本国で治療を受けていたのだが、つい先日身体が完治。その後、かつてのヴェステンフルス隊を率いる形で急遽本作戦に参加が決まったのだ。

 

「それで、お前は例の新型に乗らなくてよかったのか?」

〈ん?〉

「申請すればGN-Xが配備されただろうに……ワンオフ機とはいえ既存の機体で戦えるのか?」

 

 ここからは伺い知ることはできないが、急遽(きゅうきょ)参戦の決まったハイネは己の乗機をグフから変えている。ただし、それはイザークやディアッカの乗るGN-Xではなく、つい先日までザフトの最新鋭機として扱われていたZGMF-X42S"デスティニー"である。

 

 地上ではシン・アスカなるミネルバの若き新エースが搭乗していたらしいが、このGN-Xが配備された現在ではガンダムに一歩及ばないデスティニーの優先度は僅かに低い。

 エース用に配備されたGN-Xにも関わらず、それを受け取らないハイネのことをイザークは不思議に思っていた。

 

 そんなイザークの問いを、ハイネは笑って一蹴する。

 

〈別に理由なんてないさ。強いていうなら、せっかく俺専用にカスタムされたなら使わない手はないってだけだ……シンのこともあるしな

「何か言ったか? まぁいい。今回の部隊員で一番ガンダムとの戦闘経験があるのはお前だからな。アテにさせてもらうぞ」

〈ハハ、じゃあ期待に応えるとしようか。ザフト一と呼ばれたヴェステンフルス隊の力、見せてやんよ〉

 

 そう言うと、ハイネは通信を切った。

 きっとフェイスとして軍人として先輩である彼なりに、まだ若輩のイザークを気遣っての言葉だろう。部下である親友であるディアッカに堅物と呼ばれるイザークにはできない芸当だ。

 

「あれがハイネ・ヴェステンフルスか…アイツ等をおもいだすな」

 

 名前はよく聞いていたが、彼が特務隊所属ということもあって直接会うのはこれが初めてである。しかし、イザークはどこか懐かしい感覚を抱いていた。

 それは、その気さくかつフレンドリーな態度がかつてのミゲル・アイマンやラスティ・マッケンジーを思い出させるからだろう。既に戦死してしまった二人だが、共に赤服でアカデミーを卒業した同期は勿論、何かと面倒を見てくれた先輩を忘れることは永遠にない。

 

 死んでしまった二人。そして、ニコル。

 彼等の思いを継ぐ意味でも、イザークはプラントを守るために戦い続けると、ディアッカと共に三人の墓の前で誓ったのだ。

 

 イザークが僅かな感傷(かんしょう)に身を浸っていたその時、コックピットのモニターに通信が入った。

 

〈隊長、全機出撃準備完了いたしました〉

 

 部下であるシホ・ハーネンフースからだった。イザークはすぐに身を引き締め、通信を部下全員と繋げて対応する。

 

「了解した。ヴェステンフルス隊の発進後、我らも出撃する。相手はガンダムだ、死にたくなければ一ミリたりとも油断するなよ! いいな!」

〈〈〈ハッ!〉〉〉

 

 気の緩みなど欠片も感じられない様子の部下たちに頷き返し、イザークは射出口から覗く暗黒の宇宙を睨むように見つめる。

 そして、オペレーターから届けられた作戦開始の合図と共に機体をカタパルトから発進させた。

 

〈リィン・ジンクス ジュール機、発進どうぞ〉

「こちらシエラ・アンタレス・ワン。ジュール隊イザーク・ジュール。出るぞ!」

 

 それから、機体の一部をオレンジ色に染めたヴェステンフルス隊––––––オレンジショルダーの発進に合わせ、イザーク率いるジュール隊もボルテールから全てのモビルスーツが発進した。

 

 狙うは天より見下す天上の天使。

 漆黒の宇宙に赤い光が尾を引きながら飛び出した。赤い彗星のように真っ直ぐと。

 

 

 

 

 

 

 

 





>ハイネ&イザーク、ディアッカ
久しぶりの再登場!!
特にハイネはあの幻の専用機を引っ提げて戻ってきました。オレンジショルダーとの荒熊並の連携プレイをご期待ください。


>本作品について
低評価の方にありがたいアドバイスをいただきました。
どうにも、本作には特別ここが不快と言ったところはないそうなんですが、逆に面白い、続きが気になるっとなるようなインパクトが足りないそうです。
私はまともに小説書くのはこれが初めてなので、両作品のバランスを気にしすぎたのかもしれませんね。後半では面白くできるように頑張るからよろしくお願いします。


…とまぁ、暗い話はここまで。
次回は半年?ぶりの戦闘回。今まで長々と会話回ばっかりですみませんでした。
どうぞ、ザフトのトップガンvsガンダムマイスターの熾烈な戦いにご期待ください。



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新世界へ


ちなみに今回のザフト軍のパイロットは全員が赤服、もしくはディアッカのようにそれ並の実力を有しています。



 

 

 

 ザフト軍がクラウディオスに向けて発進させたモビルスーツは全部で30機。内13機が擬似太陽炉を搭載したGN-Xであり、その他にしてもデスティニーや"グフイグナイテッド"等といったザフト製の機体群が並んでいる。

 対するクラウディオスは、ガンダム四機を全て発進させ、艦前面にて迎撃態勢を取った。ザフト側は奇襲をかけたつもりなのだろうが、それより前にザフト或いは連合軍の攻撃を予測していたため、迅速(じんそく)な対応で展開することができたのだ。

 

 いつもブリッジで指揮を取ることが多かったガンダムマイスターのフブキは、パイロットスーツに身を包み、ガンダムメティスのコックピットにて座って目の前から向かってくる赤き機影を睨みつけていた。

 

 前方には近接戦闘に秀でたガンダムアステリアが先行し、後方には狙撃に秀でたガンダムセレーネが追従している。遠近共にバランスの取れたメティスとサルースはその中間にて敵機の攻撃に備えていた。

 

「–––––––作戦は以上の通りよ。戦闘開始後、最大船速でトレミーを後退させて」

〈は、はい!〉

 

 今回の戦闘は時間が鍵となる。

 そもそもが30対4と不利な戦いにおいて、おまけにその内13機がガンダム対等の性能を持っているとなれば、真正面から戦って勝つことは困難に等しい。仮に相手のパイロットもガンダムマイスターに匹敵するとなれば、ほぼ不可能とも言えるだろう。

 

 だからこそ、今は時間を稼ぐ。

 防衛対象であるクラウディオスを戦場から引き離し、少なくとも守りの姿勢から攻めの姿勢に転じなくてはいけない。

 

 フブキは苦虫を噛み潰したような表情でコックピットモニターを見つめた。

 敵機の接近を既に深いところにまで許してしまっている。敵の奇襲は予測通りだが、予測よりも接近が早かった

 

「予測していたとはいえ…!」

 

 あれだけの軍の規模だ。

 ザフト軍はまるでこの宙域にクラウディオスがいることを知っていたかのような正確さで、こちら側に軍を派遣している。

 

 そこから導き出される答えは一つ。

 ()()()()がクラウディオスの位置情報をザフト軍にリークした。それもおそらくは、ヴェーダを使って。

 

 くっ、とフブキが歯噛みする。

 これで、今後の戦闘においてどのような被害を被ろうとも、奇跡的に逃れられたとしても、クラウディオスは常に敵の襲撃に備えなければならないことになる。

 

 それは傷だらけで逃げ回る獲物(えもの)の姿を連想させた。

 傷が()える前に新たな傷が重ねられ、その流血の後を追跡者が辿る。

 やがて疲弊(ひへい)し、抵抗の(こぶし)が実効を(ともな)わなくなったところで……。

 

(いずれ狩られる…それは分かっているけどっ)

 

 そこまでフブキが思考を巡らせた時、モニターに緋色の光条が(きら)めいた。

 敵GN-X部隊からの攻撃が始まったのだ。

 

「各自、フォーメーションで対応を!」

〈〈〈了解!〉〉〉

 

 セレーネのGNメガランチャーによる最高威力での砲撃。それによって集結していたモビルスーツ部隊が四方に散らばり、逃げ遅れた"ザクウォーリア"を一機飲み込んだ。

 続けて、飛行形態のメティスがビームの雨の間を()うように先行し、その背後をアステリアが追従する。

 

「はぁっ!」

 

 GNビームライフルを連射しながらメティスの個性である機動性で撹乱(かくらん)する。流石の機動性に敵のビームライフルが命中することはないが、逆にメティスからの攻撃も敵機に命中することはない。

 

 ザフト軍は機体性能の高いGN-Xを前方に配備してガンダムと交戦させ、グフやザクといった旧式の機体を後方援護、或いはクラウディオスの攻撃へ向かわせている。

 

 クラウディオスには最低限の武装、及びGNフィールドが搭載されているためにすぐにはピンチに陥ることはないだろうが、それでもあくまで輸送艦の域を出ないクラウディオスでの対モビルスーツ戦闘には不安が残る。

 

「このっ!」

 

 滞る戦況に焦りを覚えながらも、フブキは追加装備であるテールユニットから多数のミサイルを放った。装填(そうてん)されてきる弾頭は特に何の捻りもない通常のものだが、面制圧という意味では役に立つ。

 視界を覆うミサイルに対してGN-Xのバルカンが、或いは"ガナーザクファントム"の砲撃が撃墜していく中、テールユニットをパージしたメティスはモビルスーツ形態に変形すると、爆炎の中からビームサーベルによる奇襲を行った。

 

 メティスの攻撃を目視したGN-Xもまた光の刃を出現させ、両者は(つば)迫り合いとなる。視界をバチバチと(まばゆ)いスパークが覆い尽くした。

 

「ちっ、流石に対応が早いわね…でもっ」

 

 フブキは機体を前後に動かし、フェイントをかける形で鍔迫り合いの体勢を解除、機体をその場から離脱させる。つんのめる形となったGN-Xの体勢が一瞬崩れた。

 

「シエル、今!」

〈了解!〉

 

 そして、フブキの叫びと同時に後方から飛んできたGNメガランチャーによる砲撃が、GN-Xの左上半身を(とぐ)り取った。撃墜にこそ至らなかったものの、戦闘継続が困難なところまで追い込んだだろう。

 

 まずは一機撃破。残りのGN-Xは12機となる。対してこちらはテールユニットを失ったのみ。まだ希望は消えていない。

 

 しかし、フブキが出来たのはそこまでだった。

 仲間をやられたことで火が付いたのか、敵からの攻撃が激しくなった。即座にGNシールドで防御しながら後退するも、回避する場所はどこにもない。ひたすらにビームの雨あられが降りかかり、シールドへの着弾の衝撃がぐらりとコックピットを揺さぶる。

 

 これでは攻撃のしようがない。

 反撃しようにも一瞬でも隙を晒せば、機体は蜂の巣になるだろう。

 

 フォーメーションをと思い僚機の姿を探せば、少し離れた場所でガンダムセレーネも周囲を取り囲まれ、ひたすらに耐え忍ぶ作業に追われていた。どうやら先ほどのGNメガランチャーによる砲撃で目をつけられたらしい。

 これまで鉄壁の防御力を誇ったGNフィールドも、防壁(ぼうへき)のための粒子圧縮率が知られているのか、敵GN-Xのビームを防ぎきることができず、完全に作用していない。

 

「シエル!…くっ!」

『回避ポイントナシ、回避ポイントナシ!』

 

 だが、今のフブキに他人を気にする余裕はない。

 次々と襲いかかるビームがメティスを掠め、受け止めたシールドにぶつかり、機体を大きく揺らす。

 

 これが多数対少数の戦いの恐ろしさ。

 性能が同等の相手を前にして、フブキはそれを強く実感していた。

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 仲間のピンチに手が届かないほどに、シエル・アインハイトは苦戦していた。

 初めはメティスとのフォーメーションでGN-X一機を戦闘不能に追い込んだものの、それ以降は完全に後ろ手に回っている。後方からの狙撃が主であるセレーネはしかし、既に他のガンダムへの援護がままならない程に追い込まれていた。

 

「…狙い撃つ!」

 

 トリガーを引いてGNメガランチャーを砲撃モードで発射する。しかし、敵機は先ほどの砲撃によって射程範囲を把握(はあく)したのか、ビームを()らうような()を犯さず、機体位置をそらして射線を回避する。

 

 そして、反撃が始まった。

 粒子を大きく消費したセレーネにその何倍もの攻撃が()ね返ってくる。GNフィールドでは敵の粒子ビームを防ぎきれないため、防御ではなく回避を選択するが、それでも避けきれない部分が肩や脚に(かす)っていき、装甲を削っていく。

 

「これ以上は…っ!」

 

 被弾を覚悟でGNメガランチャーを狙撃モードにして発射、近づいてきたGN-Xに着弾したが、腕一本を()ぎ落とすことしかできない。

 片腕だけになったGN-Xが粒子ビームでセレーネに応戦してくる。その熱戦は回避したが、いきなり他方から飛んできた粒子ビームにGNメガランチャーが射抜(いぬ)かれ、メインウェポンの長物が千切れた金属片に変わってしまう。

 

「しまっ…くそっ」

 

 視界の端に映った一機のGN-X。ロングバレルを取り付けたビームライフルを携えたあの機体が狙撃したのだろう。おそらくパイロットはエース級。あの距離から当ててくるとは……。

 

 スナイパーとして狙撃で得物を失ったことに悔しさを感じながらも、用途を失ったGNメガランチャーを手放し、サイドアーマーからビームサーベルを取り出す。

 

 セレーネの強みである狙撃と砲撃は封じられ、GNフィールドも完璧とはいいがたい。今のセレーネには、バルカンとビームサーベルしかまともに扱える火器は存在しなかった。

 

(このままだと負ける…)

 

 自身の敗北。それは四機のガンダムの敗北に繋がり、ひいてはソレスタルビーイングの敗北を意味する。

 それはつまり、戦争根絶のためにと、これまで費やしてきた時間、人材、そして犠牲の全てが無に還すということだ。

 

 そうなれば、何のためにこれまで自分が戦ってきたのか意味が分からない。

 仲間を見捨てて施設から逃げ、友を、妹を生贄にガンダムマイスターになった。任務のためとはいえ、武力介入で罪のない人の命を奪った。

 

 全ては戦争根絶のため、自分のような存在(強化人間)をこれ以上この世に生み出さないため。

 

 それらがただの裏切り者の存在で無に消えるなど……

 

「––––––そんなことがあっていいはずがないっ」

 

 シエルはらしくもなく感情的に叫んだ。

 左腕からGNバルカンを連射しながら、ビームサーベルを片手に敵機へ向けてスピードを上げていく。まさか遠距離仕様の機体が突っ込んでくると思わなかったのか、一機のGN-Xの反応が遅れた。

 それを見逃すシエルではなく、一瞬の間でビームサーベルを一閃。頭部を突き刺すように引き裂く。

 

「ぐぅあ!」

 

 しかし、敵も手練(てだ)れのパイロット。頭部を破壊したと同時に腹部に蹴りを入れられ、機体を大きく引き離された。そして、損傷した仲間をフォローするようにGN-Xやザクからの攻撃が集中する。

 それからは先ほどと同じ、ビームの雨に押されながら隙を見出す多勢に無勢な戦いが始まった。

 

「まだまだ!」

 

 それでも、シエルは諦めずにバルカンとビームサーベルで4機のGN-Xに立ち向かった。

 

 ソレスタルビーイング対ザフト軍の戦いはまだ始まったばかりである。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 ガンダム対ザフト軍モビルスーツ部隊の戦闘。

 その様子は、追撃してくるザフト軍艦隊及びモビルスーツ部隊を迎撃するクラウディオスでも逐一(ちくいち)確認されていた。

 

「メティス、テールユニットを破棄。敵モビルスーツ四機と交戦中」

「セレーネ、GNメガランチャーを破損。現在、敵GN-X部隊からの集中攻撃を受けています」

 

 ウェンディとヴァイオレットが戦闘状況を知らせるが、やはり戦況は(かんば)しくない。

 

「アステリアとサルース、デスティニー及びGN-X部隊と交戦。フォーメーションS24で対応も効果見込めず…」

 

 これまではガンダムという圧倒的な存在が戦場を支配していたが、今やそれも過去の話。擬似太陽炉の登場によって性能の差がなくなり、数で劣るソレスタルビーイングは劣勢に回らざるを得ない。それは彼らにとって初めての経験だった。

 

 シドが操舵士としての腕を遺憾(いかん)なく発揮し、砲撃士のバッツが次々とモビルスーツを撃退しているために、クラウディオスは今のところザフト軍の襲撃を(しの)げているが、頼みの綱のガンダムがやられるようなことがあれば形勢は一気にザフト側に傾くだろう。

 

 展開したGNフィールドに攻撃が着弾した衝撃が艦橋(ブリッジ)を揺らしながらも、クラウディオスは何とか戦闘宙域の離脱を図っていた。

 

「それで、どうしますっ?」

〈どうもこうもない。フブキの言われたポイントまで後退するだけだ〉

 

 –––––––このままではマイスターが危ない。

 

 言外(げんがい)にそのような意味を込めて言ったシドの言葉に対して、モニター越しのバッツはあくまで冷静に返事を返した。

 

〈俺も出撃したいところだが、トレミーの安全が確保されない以上は厳しいな〉

 

 今現在バッツがいるのは、クラウディオスのMS(モビルスーツ)コンテナを交換する形で接続された戦闘ユニット–––––強襲用コンテナのコックピットである。

 武装を持たないクラウディオス用に開発された武装コンテナであり、単独での大気圏離脱や飛行、戦闘も可能な設計となっている強襲用コンテナだが、その反面クラウディオスのほぼ全ての火器を担っているため、おいそれと戦場へ飛び出していくことはできないのが欠点だった。

 

「六時の方向に新たに敵モビルスーツ部隊接近。数3!」

「死角を狙って!?」

 

 そして、もう一つ。

 コンテナに接続される形をとっている強襲用コンテナは、その大掛かりな武装に比例して射線が極端に狭い。特に艦の反対方向に敵が向かってしまった場合は、追尾機能があるGNミサイルしか効果の見込める武装が存在しないのだ。

 この短い戦闘で敵がそれを理解したというのなら、よほど優秀な指揮官がいるということだろう。それだけ敵は本気なのだ。

 

〈そうはさせるかっ!〉

 

 だがそんなこと、砲撃手であるバッツは当然理解していた。

 即座にコンテナをクラウディオスから切り離し、変形。機首に2門の大型GNキャノン、側面に2門のビームガン、そして8基のGNミサイル発射装置を備えた大型MA(モビルアーマー)となる。

 

 そして、大型GNキャノンから放たれた光は、射線上にいた二機のザクファントムを飲み込み、爆発させた。更にビームガンから放たれた粒子ビームが先頭を進んでいたグフイグナイテッドを牽制(けんせい)する。

 

 新たな敵機の力を見せつけられたザフト軍は、しかしいささかも取り乱す様子は見せず、ビームを応射するも、強襲用コンテナはGNフィールドを発生させ、それら全てをシャットアウトした。

 

 その時、索敵(さくてき)を担当しているヴァイオレットから新たな敵影の情報がもたらされる。

 

「進行ルート上に新たな敵艦を確認」

「もしかして、罠?」

 

 だがしかしそれは、ソレスタルビーイング・ザフト両陣営にとって予想だにもしない存在だった。

 

「熱紋照合。"エターナル"と断定」

「えぇ!?」

「それって…」

「ラクス・クラインが来たってこと?」

 

 モニターに映ったのは、桃色の装甲をした特徴的な戦艦。三隻同盟の旗艦の一つとして前大戦で活躍した歌姫の乗る艦。クラウディオスの進行ルート上から待ち構えていたかのように現れたその艦の姿に、クルー達にも動揺が走る。

 だが、今もモビルスーツ部隊と交戦するバッツはいち早く叫んだ。

 

〈あの艦は元々ザフトの艦だぞ。すぐにフブキに連絡するんだ。どんな罠か見当もつかん!〉

「は、はい!」

 

 何にせよ、戦争根絶を掲げるソレスタルビーイングにとっては世界そのものが敵といえる。世間一般では英雄だの何だのと呼ばれているからといって友好的な存在のはずがない。

 むしろ、ラクス・クラインはプラントの歌姫なのだから、デュランダルと組んでいると警戒しておく必要があるだろう。ガンダムが出払っている今、新たな増援は厳しいところ。速やかな対応が求められていた。

 

 ウェンディがフブキへ繋ぐと、彼女からはすぐに通信が返ってきた。

 

〈シエルを向かわせるわ。バッツはセレーネとの連結も視野に入れて対応して!〉

「じゃあ、エターナルは…」

〈シエルが着くまでは手を出さないように。トレミーはその場で待機。GNフィールドと強襲用コンテナで何とか凌いで!〉

 

 こうして、クラウディオスは前門にザフト軍。後門にエターナルを迎え、停滞を余儀なくされた。ザフト軍もまた、立ち塞がる強襲用コンテナを前に一時撤退し、以降は両者による睨み合いが展開されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 





>フブキ、シエル対ジュール隊
数の差でザフト軍が有利。
ちなみにGNメガランチャーを破壊したのは、ご察しの通り某炒飯の男です「グゥレイト!」
影でイザークやシホも活躍してる。ガンダムに攻撃当ててるのは主に彼ら。

>アステリア、サルース対ヴェステンフルス隊
彼らについては次回。

>強襲用コンテナ
GNアームズtypeDと同型を内蔵。武装に関しても同様に。

>エターナル
こうして、前回の話に繋がっていくわけです。
何か思惑があるとかではなく、あくまで巻き込まれ枠なんですが、偽物(ミーア)がデュランダルのところで働いてたりするせいで誤解に誤解が重なり……まぁ、うん。



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運命の刻


映画観てきたぞー!!
良い意味でも悪い意味でもSEED全開で最高だったぜ!!

それはそれとして、あとがきにて劇場版の内容について少し触れるので『ネタバレNG』の方は本文読了後に速やかにプラウザバックだ!!



 

 

 

 太陽炉搭載機を投入してきたザフト軍との戦闘。

 戦場はは大きく三つに分かれて、左翼をセレーネ、メティスが対応しているなか、アステリアとサルースは右翼側の部隊と接敵していた。

 比較的GN-Xが多く配備されていた左翼側に対して、右翼側はザフト製の機体群が多く、アステリアとサルースは素早くこれらを撃破してセレーネとメティスの援護に向かう必要があったのだが…。

 

「クラウディオスが…早くしないと」

 

 しかし、想像以上に敵部隊の抵抗が激しい。

 機体性能、パイロットの能力共に優っているはずなのにザフト部隊はその(たく)みな連携で互いをフォローし合うようにガンダムを相手に互角に渡り合っていた。

 

〈フェイト、フォーメーションE88で対応。敵陣へ切り込め!〉

「っ! 了解!」

 

 GNダガーによる投擲(とうてき)が、正面に立ち塞がったザクのメインカメラを穿ち、破壊。戦闘能力を失った機体を切り裂きながらアステリアが先陣を切る。

 

 当然、味方をやられたザフト部隊はビームライフルで迫り来るアステリアを迎撃しようとするが、それを背後からサルースによるGNメガランチャーが牽制(けんせい)。その隙にアステリアは得意フィールドである近接戦闘領域に侵入する。

 

 咄嗟に敵部隊は対近接戦闘に切り替えて散開するが、それよりもアステリアの方が早い。展開されたGNソードが高く振り上げられ、逃げ遅れたGN-X一機を捕捉(ほそく)する。

 

(もらった!)

 

 フェイトがそう思った時、真横から何かが迫ってきていることをコックピットの警報が伝える。それにフェイトが反応するよりも早く、アステリアとGN-Xの間に割り込んできたオレンジ色の何かが振り下ろしたGNソードと激しくぶつかり合った。

 

「な、なに!?」

 

 初めに見えたのは淡く輝くオレンジ色の翼。そして、同じ色をした装甲にガンダムと同じツインアイ。だが、それに反してGN粒子は放出されていない。

 

 それでも、どこか見覚えのあるその機体は手にした(アロンダイト)でGNソードを振りかざすアステリアと(つば)迫り合いに持ち込む。

 

「デスティニー…!?」

 

 フェイトは思わず叫んだ。

 同時にオレンジ色のデスティニーの背後から現れたGN-Xがビームサーベルを片手にこちらへ振りかざす。

 

 咄嗟(そくざ)に腰部から展開したGNブレイドで受け止めるが、アロンダイトとサーベルを両方向から力を加えられれば、さしものガンダムといえど力負けし、GNブレイドを手放す形で距離を取った。

 

「なんで、デスティニーが……同型機?」

 

 データ上ではデスティニーと出ているが、色から()()まで地上で交戦した(兄の)機体とは異なっているが、同型機と見て間違いないだろう。

 ワンオフ機故に量産には向かないだろうと思っていたデスティニーの同型機の参戦にやや(ひる)みつつも、GNソードをライフルモードにして牽制するが、デスティニーはその特徴的な光の翼によって照準をずらしながらも、ビームライフルでコチラを狙ってくる。

 

 互いに命中することのない撃ち合いを続ける中、コックピットのモニターが背後から二つの反応がアステリアに接近してきていることを伝えた。

 

 近づいてきたのはザクウォーリア二機。

 まさかアステリア相手にその機体で接近戦を仕掛ける気なのか、とフェイトがライフルの照準を移した時、二機のザクは(ふところ)からハンドグレネードを取り出し、アステリアに向けて投げつけた。

 

 フェイトは反射的にライフルで迎撃したが、ビームによって破壊されたグレネードは爆散し、コックピットモニターは白煙で覆われた。

 

「煙幕!? そんな小細工が…」

 

 すぐさま機体を煙幕の範囲内から離脱させたが、それを待っていたかのように現れたのは対艦刀を振り被ったデスティニーだった。煙幕による奇襲をかけてきたのだ。

 

 フェイトはGNソードを展開してそれを受け止めたが、四方から煙を割いて三機のグフイグナイデットが現れる。アステリアはデスティニーの攻撃を受け止める為に動けず、その隙を狙った"スレイヤーウィップ"が左腕と右脚、左脚を絡め取る。

 

「しまった!」

 

 直後、フェイトの全身を凄まじい電撃が貫く。

 グフのウィップによる電撃。一機ならまだしも三機により放たれた電流(パルス)は膨大な光となって、まるで避雷針(ひらいしん)を求めるかのようにアステリアに襲いかかった。

 

 いくらガンダムの装甲が頑丈といっても、コックピット内部への電流までは防げない。

 電撃はフェイトの視神経にまで介入し、閃光のような白黒の世界と現実の世界を激しく明滅(めいめつ)させ、肺腑(はいふ)から空気を(しぼ)り出させる。

 

 電流の走るコックピットの中、少女の悲鳴がこだました。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 敵に捕えられたアステリアの姿を見て、アキサムは思わず舌打ちした。

 多対一といっても相手は旧式だから大丈夫だろうと慢心していたのが(あだ)となった。敵は自分たちが性能が劣っているのを理解しており、巧みな連携と戦術でガンダムを封じ込めたのだろう。

 

「流石はハイネ、連携・協力はお手のものってか…!」

 

 ナチュラルに比べて秀でているザフト軍には協調性というものが低い傾向があった。単体で敵一個小隊分の能力があるからこそ、連携を軽視していたのだ。

 しかし、そんなコーディネーターの中でも一部の物は協力・連携の重要性を理解し、実践する者もいる。

 

 今回敵部隊の前線指揮を取っているだろうハイネ・ヴェステンフルスもその一人だ。仲間との連携を重視し、コミュニケーションを大切にする…そんな軍人。

 

 それもそのはず。何せ部下だった頃に当のアキサムがそう教えてきたのだから…。

 

 敵部隊の動きに変化がみられた。

 アステリアを封じ込めたのをいいことに、GN-X部隊がサルースへ狙いを集中したようだ。ビームの雨がサルースを襲い、アキサムはGNバスターソードを盾にしながらも何とか(しの)ぎ、隙を狙ってサイドスカートアーマーからファングを射出する。

 

 射出されたGNファングは綺麗な弧を描きつつ縦横無尽に動き回り、敵部隊へその牙を向くが、敵部隊の対応は迅速だった。数の利を生かした背中合わせのフォーメーションによる迎撃によってファングが次々と撃墜されていく。

 

「くそっ!」

 

 これ以上は無意味だと悟ったアキサムはファングを回収し、GNランチャーを発射するが、敵部隊は分散するように鮮やかに回避した。

 

「おい! 大丈夫か、フェイト!」

〈…こんな……で……!〉

 

 アステリアに通信するが電撃(パルス)による障害なのか上手く繋がらない。もしくは通信に出られないほどにパイロット(フェイト)自身に影響が出ているのか。

 

 どちらにしても状況は最悪だ。

 アステリアは行動不能、サルース一機であの数を撃破するのは難しい。かといってメティスやセレーネも己が戦い精一杯である。頼みの綱のGNアームズもクラウディオスの防衛の為、その場を離れることはできない。

 

「ちっ、こうなったら撤退するしか…っ!?」

 

 アキサムがフブキ達へ通信を繋ごうと思った時、コックピットモニターの端に対艦刀を振りかぶるオレンジ色の機体(デスティニー)の姿が映った。

 狙う先は身動きの出来ないアステリア。いかにガンダムといえど、真正面から対艦刀の直撃を受ければ致命傷は避けられない。

 

 ーーー最悪、死ぬ。

 

「避けろ! フェイト!!」

 

 アキサムは通信越しに怒鳴(どな)るように叫んだが、やはり反応はない。

 今すぐに救援に向かいたいが、敵部隊はまるでそれを邪魔するように立ち塞がる。

 

「どけ!!」

 

 GNランチャー出力を高めてを発射するが、簡単にいなされ、逆に放たれたビームのうちの一つがGNランチャーへ直撃した。ひしゃげた砲身がスパークを起こし、誘爆する。

 即座に砲台ごとパージしたが、これでサルースは主砲となる射撃兵装を一つ失ってしまった。

 

「く、フェイト…!」

 

 追撃とばかりにライフルを向ける敵部隊の攻撃を凌ぎながらも、アキサムは今にも引き裂かんとされるアステリアへ手を伸ばした。

 

 だが、無常にも刃は堕ちた天使へと振り下ろされーーー。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ハイネ・ヴェステンフルスは高揚していた。

 己専用に整備されたデスティニーは間違いなく自分の腕に付いてくる性能を示しており、信頼する部下達との連携は確実にガンダムを追い込んでいる。

 かつての愛機であるグフが頼りなかったということは決してないが、ガンダムと戦うには心許ないと思っていたのも事実。とはいえ、そのグフの受けた屈辱はこうして部下たちが果たしてくれた。

 

 もう一機のガンダムの方は別動隊上手く抑えてくれている。どうやら敵のドラグーン(ファング)対策の戦法も上手く行ったようだ。

 

 ジュール隊の方も上手いっているようだが………。

 

「エターナルだって? 何だってこんなところに…」

〈俺が知るか! とはいえ、このまま戦闘に巻き込むわけにもいかないだろう!〉

 

 どうやらボルテールらと敵のマザーシップとの戦闘に第三者…それも歌姫の旗艦として名高い"エターナル"が巻き込まれたらしい。何でこんなところを航行しているのか、とかこれまでの消息についてだとか、ザフトとしては問い詰めたいところは多くある…が。

 

「でもラクス嬢なら地上じゃないのか? いや、そりゃあの船をこのまま見過ごす訳には行かないけどよ」

〈あれはザフトの船だ! このまま戦闘に巻き込むわけにはいかん!〉

 

 断固としたイザークの主張も間違ってはいない。

 仮にラクス・クライン本人が乗っていないとしても、おそらく乗っているのは旧クライン派の面々。ソレスタルビーイングやフォーリンエンジェルスの件でプラントへ向かっていてもおかしくはないからだ。

 

 だからこそ、ハイネも前線指揮官の一人として決断を下した。

 

「分かったよ、すぐに向かうさ。とりあえず一機仕留めときゃ、上も納得するだろ」

 

 援護には向かうし、必要以上に攻めることしない。

 だが、今作戦において成果を上げる為、そして死んでいった仲間のためにもここで一機は確実に()とさせてもらう。

 

「悪いが、ここで終わりだぜ……ガンダムっ!!」

 

 そう言って、ハイネは"スレイヤーウィップ"によって動きを封じられた青色のガンダムに向け、対艦刀(アロンダイト)を振り下ろした。

 

 

 しかしーーー。

 

「なにっ……!?」

 

 振り下ろした対艦刀(アロンダイト)が宙を切った。

 確実にガンダムを切断したはずの実体剣には何の手応えもなく、そこには残滓(ざんし)のように残されたGN粒子の光が輝き、そして消えていくのみである。

 

 ーーー避けられた!?

 

 そんな考えがハイネの脳裏(のうり)を掠め、あり得ないと否定する。あの距離で、あの状況で避けられる筈がなかった。

 

 しかし、事実、デスティニーの前に沈黙したはずの青色のガンダムの姿は欠片もない。

 すると、コックピットに部下たちからの通信が入った。

 

〈た、隊長! 機体が…〉

「おい、どうしたお前ら!」

〈機体が引きづられて…ガンダムが赤くーー〉

 

 そこで部下達の通信が途切れ、同時に機体反応も消失する。それはつまり、彼等が戦死したということだ。

 

「どういうことだ…お前ら!」

 

 彼等の機体反応が消失したポイントへ機体を向けると、そこには破壊されたグフの残骸が漂っていただけだった。そこにガンダムの姿はない。

 

「…そこか!」

 

 思わず歯噛みしたハイネの視界の端に光る何かがよぎり、反射的にビームライフルを放つ。

 だが、ビームが届くよりも前に、それはその空間から消えており、ハイネは己の予感に従って機体を動かすと、先ほどまでいた場所を粒子ビームが()いでいく。

 死の予感に冷や汗をかきながらも、機体を旋回させてビームライフルを放つが、その熱戦は的外れな場所を貫くだけでおり、高速で動き回るそれを捉えることはできない。

 

「一体なんだ、あの動きは!?」

 

 データにはない。

 まるでデスティニーのように、いやそれ以上の残像を残す勢いで敵のガンダムはかわし続け、両手にビームサーベルを握って接近してきた。

 

「くそっ、ここに来て新装備かよ。この野郎、生意気な!」

 

 直後、背中から衝撃を受ける。ハイネの動体視力を上回る動きで接近してきた機体が、デスティニーを通り過ぎ、その背中に蹴りを放ったのだ。

 

「速すぎる!」

 

 対艦刀(アロンダイト)を取り出した時にはもう遅い。ビームサーベルの光の刃は実体剣の折り畳み部分を捉えており、気づいた時には対艦刀(アロンダイト)は真っ直ぐに切断されていた。

 

〈隊長!!〉

「よせ! くるなお前ら!」

 

 旧ヴェステンフルス隊の面々がハイネの援護に回るが、異常なスピードを誇るガンダム相手には止まった的も同じだった。デスティニーと同じように背後を取られ、ビームサーベルで腕を飛ばされ、コックピットが切り裂かれる。

 ハイネの制止(せいし)(むな)しく、GN-X二機とグフ三機、ザク三機はたちまちと宇宙の光となって消えていった。

 

 その光景を前にハイネは小さく舌打ちし、速やかに母艦及びイザークらへ通信を繋いだ。

 

「こちらヴェステンフルズ隊。俺以外は全滅だ。ジュール隊と合流してそちらへ向かう」

 

 これ以上戦っても勝てはしない。それはハイネのフェイスとしての冷静な判断であり、正しい選択だった。

 それでも込み上げてくるものがない訳じゃない。怒りや悔しさ、悲しみなどの多くの感情を飲み込み、せめてもの八つ当たりとしてハイネはペダルを強く踏み込んだ。

 

「ふざけた冗談だぜ……!」

 

 最高速度で宙域を後にするデスティニーを、背後のガンダムはこれ以上の追撃をすることなく、まるで見下すように見送った。

 

 ガンダムを包むその光は、まるで胸に抱く熱情を発散するかのように、己の生命を赤く輝かせているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

「これは…なに」

 

 フェイトは、今まで見慣れてきたはずのコックピットの中を今初めて目にしたような眼差しで(なが)めていた。

 

 あの時、グフのウィップに囚われ、電流に襲われながらも、フェイトはなんとか操縦桿を動かした。それはほとんど無意識に近い行動であり、朦朧(もうろう)とする意識の中で起きた偶然だった。

 

 結果的にいえば、ガンダムはその動きに想像以上のスピードで答えてくれた。

 自分が瞬間移動したのではないかと錯覚(さっかく)するほどの機体速度。想像するだけで不可能だと思っていた敏捷(びんしょう)四肢(しし)の動き。フェイトが望むことを、望む以上に体現した。

 

 その現象にフェイトは不思議な高揚を覚えていた。一種のトランス状態だったと言っても良い。痺れと痛みに苦しんでいた身体は暖かな光と共に回復し、ささくれ立っていた心には安寧が戻ってきた。

 

 今のフェイトには、兄のことだとか、戦争根絶の是非だとか、余計な思考は一切ない。

 

 ーーーただ生き抜くこと、それだけだ。

 

 その時、フェイトの元にクラウディオスからの通信が届いた。モニターに映ったのは汗だくのバレット・アサイラムであり、戦場の最中も例のシステムの解析を行っていたのか。

 

〈間に合ったか。どうやらギリギリだったみたいだな〉

 

 バレットは額から垂れてきた汗を宙に浮かせながらも、達成感に満ちた表情で言った。

 

〈今アステリアに起きているのが例のシステム…通称"TRANS-AM"だ。そっちでも見えてるだろう?〉

「……はい」

〈こいつはヴェーダがハックされる疑惑が出る直前…擬似太陽炉搭載機が出る前からワシの元に送られてきていた物だ〉

 

 バレットが続ける。

 

〈かなり複雑にロックがかけられていた…が、ワシに必ず解けるようにもしてあった。おそらくはワシらにあらかじめ使わせるつもりだったのだろうな〉

 

 誰が…といえば、答えは一人しかいない。

 この世界において初のコーディネーターを作り出した研究者にして、同時にソレスタルビーイングをも創設したとされる人物……。

 

「エドワード・グレン……」

 

 エドワード・チャールズ・グレン博士。

 彼についてはソレスタルビーイング内でもよく知っている者は少ない。何せフェイトらが組織に所属した際には既に彼は死去しており、計画自体はヴェーダが中心となって実行していたのだ。

 

〈グレン博士がなんのためにワシらへこれを残したのかは知らんが、一先ずはこれを使いこなすしかあるまい。これは博士からワシらへの応援ということだ。ソレスタルビーイングは存在する意義があるというな〉

 

 そう言うと、バレットの映像は消えた。おそらく他のマイスターについてシステムを伝えにいったのだろう。

 

「トランザム……」

 

 アステリアのコックピットモニターには先程からこれまで見られなかった表示が映し出されていた。【TRANS-AM】と黒いバックを背景にルビーのような光で文字取られたそれを読み上げ、フェイトは思いを固める。

 

 兄と敵対し、世界に拒まれ、追い込まれているソレスタルビーイングを前に一度は気持ちが諦めかけた。

 

 自分たちに存在する意味があるのかと。

 

 しかし、今になって思う。

 

「私たちには存在する意味がある……必ず!」

 

 だって、私たちはガンダムを託された。GNドライヴという希望を託されのだから…!

 

 

 

 

 

 

 

 

 





>フブキ、アキサム対ヴェステンフルス隊
チームプレーで後一歩まで追い込むも例のシステムが解放されたことによって形成逆転。それでもハイネはしぶとく生き残った(やったね!)
やっと本作で例のシステムを出せたのですが、映画のインパクトには絶対に勝てないから仕方ないね。

>フェイト(マユ)のメンタル
一時的な回復というか応急処置。
テストで赤点取ったけど親や教師などに励まされて復活したようなもの。
シンと対面したら覚悟は鈍るだろうけど、それ以外ならちゃんと戦える。


□劇場版について本作への影響
・新キャラに関して
アコード「人類は優れた存在に導かれるべきだ」
某イノベイド「へぇ、よく分かってるじゃないか」
アコード「!!?」
某イノベイド「ほら、優れた存在に従ってよ」
アコード「…」
…だいたいこんな感じになる。
後、アグネスは二期で味方キャラとして出すけど…もしかしたらアンドレイ的な敵キャラになっちゃうかもしれない。

ちなみにアコードの連中は二期でアロウズポジションとして登場するかも。freedom本編に比べて、実際に世界を従えられる期間が長い分、明智光秀みたいに三日天下にはならないと思います。

・シン「これが本当の分身だ!」
デスティニー強すぎ問題。しかもspec2といいつつ殆ど変化がないため、TV本編でも本調子なら映画並みの活躍ができたということになり、本作ではギリギリかませ役になっているデスティニーに申し訳なくなってくる。
腕なきゃ戦えないとか、対艦刀とかモビルスーツ戦で使えない欠陥武器だとか、色々言って本当に申し訳ありませんでした!!

・新機体に関して
外見や武装設定はそのままに動力源だけGNドライヴに変更して登場させる予定。少なくともデュエルとバスターは出したい。ライフリとイモジャは前半の繋ぎ機体として非常に優秀だったので多分出す。ミレニアムについてもモビルスーツと同様に。

FT(フェムテク)装甲に関しては、存在そのものが太陽炉搭載モビルスーツ(CB除く)に対する天敵と化すので考え中。GジェネでPDの機体殴る時の鬱陶しさみたいなものです。
なので、完全に設定資料待ちです。これでヤタノカガミみたいに生産コストがバカ高いとかだったら問題ないんですが…。

・コンパス
フォーリンエンジェルス後に色々世界情勢が変わるからその時にもしかしたら……って感じ。
まぁ、やってることは非公式から公式に認可されたソレスタルビーイングみたいなものなのですが…。

他にも色々ありますが、それも踏まえて今後の展開を模索していきます。






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運命と自由と


映画パワーで更新の筆が進む進む。
早く種自由のキャラ出したいし、機体も出したい。



 

 

 

「ハイネがやられただと…?」

 

 ハイネからの撤退の通信にイザークは驚愕の声を上げた。

 正確にはやられたのはハイネではなく部隊員なのだが、隊を率いる者として部下を死なせた時点で自身の敗北も同じである。

 とはいえ、自身よりも先輩かつ"フェイス"の称号を持つあの男がそう簡単にやられるなど(にわ)かには信じられなかった。軽薄かつ気さくな態度に隠れているが、彼の実力はかつてザフトでも随一と言われた自分たち旧クルーゼ隊の面々にも負けず劣らずである。

 

 そのハイネが撤退に追い込まれたということにジュール隊の面々にも動揺が走る。

 

「馬鹿者! 動きを止めるな!」

 

 GNドライヴを搭載した機体同士の戦闘では動きを止めることは死に繋がる。案の定、油断なくこちらを狙っていた羽付きのガンダムによるビームが部下の一人へ着弾し、左肩を(くだ)いた。

 すかさずイザークとディアッカでフォローに入り、ガンダムを後退させる。

 

〈おいおい、イザークどうするよ。このままじゃ、流石にこっちもヤバいぜ〉

「分かっている!」

 

 ハイネが撤退したため、手が空いたガンダム二機がこちらへ迫っている。しかもその内の一機は異常な速度だ。一分も経たない内にこちらへ到達してしまうだろう。

 

「くそっ、なんだってようやくエターナルと合流した時に…!」

 

 背後に控える桃色の装甲色の戦艦を見ながら、イザークは悪くなっていく状況に歯噛(はが)みする。最初はこちら優位の戦況だったはずだが、エターナルの登場や敵ガンダムの新システムなどの予想外の出来事に状況は滅茶苦茶だ。

 

 イザークとしても何とかしたいところであるが、会敵している朱色のガンダムがジュール隊を押し留めているせいで思うように動けない。撃退しようにも可変機構を持つガンダム相手に致命傷を与えるのは難しく、逆にこちらもやられるわけにはいかないため、ただただ膠着(こうちゃく)状態のまま時間が流れゆくのみ。

 

「くっ、どうすれば…」

〈イザークっ!!〉

「っ!?」

 

 ディアッカの叫びに思わず機体を動かせば、眼前を巨大な粒子ビームが通り過ぎていった。狙ってきたのはいつの間にか装備を新調したらしい狙撃型のガンダム。少しでも回避が遅れれば、イザークらはあの光の束の中に消えていただろう。

 

 だが、彼等の間に自分が助かったなどという安堵の思いは全くない。むしろその逆、何せイザークらの背後にいるのは……。

 

「しまった! エターナルがっ!」

 

 イザークが回避したことで放たれたビームは背後にいたエターナルへと一直線に進む。あの威力の粒子ビームにはアンチビーム爆雷や並の装甲など意味をなさず、簡単に(つらぬ)かれてしまうだろう。

 

 イザークの声にならない叫びが喉元まででかかった時、視界の端から青色の"何か"が飛び込んでくるのが見えた。

 

「なんだ…?」

 

 疑問に思ったのも一瞬、その何かから分離した小さな物体––––––おそらくはドラグーンがエターナルの前面に飛び出した。

 数にしておよそ三。展開されたドラグーンからビームが放たれたかと思うと、それは三角の形を描いてフィールドと化し、真空を突き進んだ粒子ビームはエターナルの直前で見えない壁にあたったかのように弾かれた。

 

 そして、そのまま青色の何か…光の翼を展開したモビルスーツがエターナルの前で守るように立ち塞がる。あれはデスティニーではない。その姿に変化あれど、イザークやディアッカにはすぐに分かった。

 

 だからこそ、()()()の登場にイザークとディアッカはこの不利な状況で笑みを浮かべたのだ。

 

「遅いぞ、"フリーダム"!!」

 

 ラクス・クラインを狙った怒りを表すようにガンダムの持つ狙撃ライフルを狙い撃ったフリーダムは、その光の翼でエターナルを包み込むように(たたず)んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ––––なんとか間に合った。

 

 守り切ったエターナルをバックにキラはホッと息を吐いた。

 守り切ったと言っても桃色の装甲のあちこちは傷だらけであり、左方部に取り付けられていた"ミーティア"は被弾したのかパージされている。

 だが、それでもなんとか最後の一撃だけは防ぐことができた。

 

〈フリーダム…キラかっ!?〉

「バルトフェルドさん! よかった!」

 

 エターナルからの通信。

 モニターには別れてから(しばら)くの"砂漠の虎"ことバルトフェルドの姿があり、その背後にはキラが一番意識して止まなかった大切な存在がいた。

 

「ラクスっ!」

〈キラ!〉

「……また、話そう。絶対にっ!」

 

 随分と久し振りに見た彼女(ラクス)の笑顔。

 ただそれだけでキラは彼女を守るために戦える。例えそれが望まない、苦しみの中にある戦いだとしても。

 

「エターナルは後退を。ここは僕と……ザフトの方々で抑えます!」

 

 オーブでの出来事からは信じられないことだが、今状況的にザフトは味方らしい。現に例のGNドライヴ搭載機やザク、グフと言った機体はエターナルを守るようにガンダムと交戦している。

 

 ならば、自分もそのように(なら)うまで。

 キラは展開していた"スーパードラグーン"を回収し、機体をガンダムの方へと向かわせる。

 

 現在キラが搭乗している"ストライクフリーダム弐式"は、あくまで旧フリーダムの改修機という立ち位置であったストライクフリーダムをエリカ・シモンズを始めとしたモルゲンレーテの技術者が更なる改良と最新技術を加えて完成させた新型機体だ。

 急遽(きゅうきょ)もたらされたGNドライヴ関係の技術は使われていないものの、これまで最新鋭とされたザフト製のデスティニー等の開発ノウハウも生かされ、今現在の非GNドライヴ搭載機としては破格の性能を誇る。

 

 だが、それだけに通常の機体よりも操縦に難があり、キラでしか本領を発揮することができず、ある意味でのワンオフ機としての側面をより強くしている。

 流石にガンダムには及ばないとエリカは語っていたが、それでも向上した機体性能はキラの操縦についてきた。

 

「これ以上…いや、ここで!」

 

 戦いをやめろ、とは言わない。

 戦いを仕掛(しか)けたのはザフトであるが、その相手であるソレスタルビーイングは私設武装組織のテロリスト。いかな思想であれ、彼等による被害が出ている以上、軍としては動かない理由はないのだろう。

 

 キラとしてはそれに異議を唱えるつもりはない。

 確かに戦闘が起こり、人が死ぬのは悲しく、辛いことだが、自分一人の力では何も守れないことを先の大戦で思い知らされたから。

 結局、大局(たいきょく)に影響を与えられるのは自分のような突出したモビルスーツパイロットではなく、(カガリ)やラクスのような指導者なのだろう。

 

 それでも、キラは銃を取る。

 大切な人を守るため。例えザフトと協力してでも。

 これは平和のためでも世界のためでもなく、(まぎ)れもない自分自身の願望だ。

 

「ここは絶対に通さない!」

 

 フリーダムの機動兵装ウイングから再び"スーパードラグーン"が射出された。それらはガンダムの無線遠隔兵装には及ばずとも、キラの空間認識能力に従って複雑な軌道を描きながらもガンダムを襲う。

 先程の攻撃で主兵装の狙撃ライフルを失ったガンダムは全身にGN粒子によるバリアーを展開しながらも、バルカンで迎撃を行なっているが、その間にキラは敵の懐に迫っていた。

 

「至近距離なら弾を弾かれても!」

 

 四方八方から放たれるドラグーンによる攻撃に加え、至近距離からのレールガンの一撃がガンダムへ直撃。流石の防御力というべきか装甲にダメージはみられないが、爆発による衝撃で吹き飛ばすことには成功した。

 

 その隙にビームサーベルを抜刀し、敵の無力化へ向かうと、敵のガンダムもサイドアーマーから取り出したサーベルで防ぎ、両者は(つば)迫り合いとなる。

 

 だが、その時フリーダムのコックピット内にて警報音(アラート)が鳴り響く。キラが反射的に機体を後方に下げると、その場所をいくつもの粒子ビームが通り過ぎた。

 

「モビルアーマー…っ!」

 

 キラを狙ったのは青と白を基調としたモビルアーマーだった。反撃によるビームを放つが、やはり展開されるフィールドを突破することは叶わず、逆に多数のミサイルが放たれる。

 

 すかさず放たれたミサイルをマルチロック。"スーパードラグーン"、腹部ビーム砲、ビームライフル、レールガンによるフルバーストによって全てを撃墜するが、今度は逆にガンダムがビームサーベルを片手に迫ってきていた。

 フリーダムはフルバースト体勢のままであり、例えパイロットのキラが攻撃を認識したところで機体が追いつかない。

 

(避けられないっ!?)

 

 サーベルで防ぐか、ビームシールドを展開するか。

 キラが思考を巡らせた時、一筋のビームがガンダムの行く手を(はば)んだ。

 続いて、後方から放たれた複数の粒子ビームがガンダムを牽制(けんせい)し、後退させる。

 

 キラの危機を救ったのはザフト所属の二機のGN-Xだった。

 

〈何をやっている"フリーダム"! とっととエターナルの護衛に移れ!〉

「あ、えっと……イザークさん?」

 

 怒声と共にモニターに映ったのは、ザフトのパイロットスーツに身を包んだ銀髪の端正な顔立ちの青年、イザーク・ジュール。

 思い出すのに時間はかかったが、確か元"デュエル"のパイロットでアスランの同期で仲間だったザフト軍人だ。

 

〈まぁ、そうかっかするなよイザーク。ガンダムは俺らが相手するから、お前はエターナルの護りを頼むって素直に言えばいいじゃんか〉

〈ディアッカ、貴様!〉

 

 そう言って気さくな態度で割って入ったのは、会うのが終戦以来となるディアッカ・エルスマンだった。ザフトに復隊したと聞いていたが、まさか対ガンダム戦に参加しているとは…。

 

「ディアッカ…」

〈お久し。ま、そんなわけでここは俺たちが抑えるから、お前はさっさとお姫様んとこへ行けよ〉

 

 イザークやディアッカだけじゃない。ザフトのモビルスーツ部隊は皆キラとエターナルを援護するようにガンダムを牽制(けんせい)している。迅速かつ(たく)みな連携だ。

 

「…ありがとう!」

 

 そう言うと、キラはフリーダムをエターナルの方へ戻した。

 狙撃型と可変型のガンダム、及び支援機と思われるモビルアーマーは追ってくることはなく、それぞれイザークらの部隊との交戦に集中したようだ。或いは彼等にもキラとフリーダムを相手する余裕まではなかったのかもしれない。

 

「ラクス、もう少し待っててね」

〈キラ…〉

 

 今すぐにでもエターナルへ着艦してその身を抱きしめてあげたいが、状況がそれを許してくれない。情報では今のエターナルにモビルスーツは積んでいないとのことだし、モビルスーツ一機通すだけでも致命傷となる。

 キラは歯痒(はがゆ)く思いながらも戦闘宙域を離脱するまではと、桃色の戦艦の横部でその姿を見守った。

 

〈戦闘宙域離脱まであと距離150。あと少しだ!〉

 

 バルトフェルドからの通信が聞こえる。

 既にイザークらとガンダムの戦闘宙域からは距離を取っており、ザフトがガンダム殲滅からエターナルの離脱へ主目的を移したことで、なんとか被害は(まぬが)れていた。

 

 このままゆっくりとは離脱できれば…と考えていたキラの頭に鋭い痛み–––––敵意のような感覚が走った。

 

「敵っ!」

 

 次の瞬間、コックピットに鳴り響く電子警告音(アラート)と共に一筋の粒子ビームが飛び込んできた。

 

 すかさずビームシールドを展開して防ぎ、連結したビームライフルを向ける。

 その先には、赤色に発光し、残像が見えるほどの速さでこちらに接近するガンダムの姿があった。

 

「君は…!」

 

 あのガンダムはオーブ近海にて剣を交えた機体。

 しかし、その赤い輝きは初めての光景であり、データにもない。とても通常の攻撃では(かす)らせることもできない為、キラは素早く背部の"スーパードラグーン"を射出した。

 同時にドラグーンの抜けたウイングスラスターから光の翼––––––"ヴォワチュール・リュミエール"を展開することでフリーダムの加速スピードと機動力を強化させる。

 

「くっ、早いっ!」

 

 それでもガンダムの速度には到底及ばない。

 放たれるドラグーンの攻撃は一射たりとも(かす)ることなく、粒子ビームを放ちながら真っ直ぐこちらへ向かってきている。

 キラはそれをビームシールドで受け止めながらも回避に専念。背後からはエターナルの援護も行われているが、焼け石に水と言わざるを得ない。

 

〈キラ!〉

「エターナルは一刻も早く離脱を。ここは何としても僕がっ!」

 

 不安げなラクスの言葉もよく聞こえない。

 極限の集中状態の中、ついにガンダムとの距離が敵の近接武器の有効範囲に入った。

 

 振り下ろされるビームサーベル––––––––はおそらくブラフ。サーベルによる攻撃を防いだキラは己の勘に従って機体背後からの攻撃に備えて機体を強引に動かす……が。

 

「追いつけないっ!?」

 

 だが、赤き輝きを放つガンダムはその更に上を行った。ビームサーベルを伸ばしたフリーダムの右腕が(なか)ばから断ち切られ、頭部に蹴りを入れられる。

 

「これは…」

 

 すかさずドラグーンによる攻撃によってそれ以上の攻撃を阻止するが、不利であることに変わりはない。ガンダムは四方から放たれるビームを簡単に回避しつつ、フリーダムへの追撃を狙っている。

 

 まさかガンダムがあれほどの機能を隠していたとは…。

 

 やがてガンダムは両手にビームサーベルを持ち、再びフリーダムへ接近戦を仕掛けてきた。運動性能で負けている上に片腕しかないこちらは圧倒的に不利。

 

 –––––––やられる!?

 

 そう思った時、ガンダムの赤い輝きが消えた。

 同時に視界がスローモーションのように遅くなり、ギリギリでガンダムの刃を回避する。胸部を浅く傷つけられたが、コックピットにはなんの異常もない。

 その後も返しの刃が振るわれたが、その攻撃は先程に比べて動きが鈍く、キラは余裕を持って距離を取った。

 

「時間切れ? それとも…」

 

 あの機能には時間制限があったのか、ガンダムの超次元的なスピードは()りを潜め、動きが鈍くなっている。先程までは簡単に回避していたドラグーンによる攻撃に手間取っている様子であり、明らかな性能の低下或いはパイロットの疲労が見られた。

 

 それでもガンダムはしつこくフリーダムに追い(すが)ってくるが、鈍くなった動きではキラへ致命傷を与えることはできず、かといってキラの方もドラグーンだけでガンダムを墜とすことはできなかった。

 

 そんな膠着状態からしばらく、戦闘しつつ宙域を離脱しつつあるキラの元にエターナルからの通信が届く。

 

〈キラ、宙域から離脱したぞ。お前も早く戻ってこい!〉

「…はい!」

 

 抱く疑問は多いが、助かったのは事実。

 これ以上、ガンダムと戦闘を続ける理由もない為、キラは一度だけ動きを止めたガンダムを見つめた後、エターナルのある宙域へ機体を(ひるがえ)した。

 

 ガンダムはそれ以上追ってくることはなかった。

 

 

 

 

 





>ストライクフリーダム弐式
映画に先駆けて登場。
ドラグーンでビームバリアも展開できるし、基本性能も向上している。
トランザム状態のガンダム相手にはどうしようもないが、通常状態のガンダムとなら負けない程度に戦うことができる。

>キラとイザーク
お互いに名前だけは知っているが、面識はなし。
ドラマCDでもさん付けだったので、それに倣う。

>キラvsフェイト
流石にトランザム状態ではフェイトが圧倒的に有利。
ただ、第3世代機のトランザムの限界時間は短い上に中断できないことが勝負の明暗を分けた。



□劇場版キャラについて
・新キャラや機体の強さ
個人的に新キャラで圧倒的に強いと思ったのはシュラ。機体性能で優っていたとはいえ、あのアスラン相手に近接で腕を奪ったのはかなりの快挙。ジャスティスinアスランの無傷伝説を破ったのは大きい。

マイティストライクフリーダムの強さは今のところ考え中。流石にクアンタやダブルオーライザー(トランザム)などには及ばないだろうが、並の太陽炉搭載機なら圧倒できそうな雰囲気はある。設定資料待ち。

ブラックナイトスコードの機体群に関しては擬似太陽炉を乗っけても違和感ない見た目なので助かる。ただでさえ(作画のせいもあって)トランザムみたいな動きしてたものだから親和性は高そう。


ちなみにアルバート・ハイライン君にはビリーもびっくりな活躍させられそう。トランザムシステムは勿論、ツインドライヴまで辿り着きそうな恐ろしさがある。
流石はノイマンと並ぶC.E.の二強有能。種編からいたかなような安心感だ。







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果てなき輪舞(ロンド)

 

 

 

 ザフト軍による第一次ソレスタルビーイング殲滅作戦は痛み分けといった形で失敗に終わったものの、敵の新兵器(GNアームズ)新システム(トランザム)を引きずりだすことに成功し、"エンジェルダウン作戦"の前哨戦(ぜんしょうせん)としてはそう悪くない結果となった。

 これまで圧倒的な性能を示してきたガンダムを相手に一時は優勢に立っていたこともあり、これから先の戦いにおけるいいプロパガンダになったとも言える。

 

 対してソレスタルビーイング側は敵の擬似太陽炉搭載機を二機撃破、他にも数機へ損傷を与えることができたが、地上に地球軍の保有する機体があることを考えると素直に安堵(あんど)することはできずにいた。

 

 

 そんなソレスタルビーイング–––––クラウディオスの姿は先程まで戦闘していた宙域から少しばかり離れたラグランジュ1の衛星の影にあった。

 月と地球の間を結んだ直線上、その中でも月寄りにあるそこは、地球軍側の勢力圏であり、ザフトが踏み入るにはそれなりの時間がかかるだろうというフブキの読みによるものだ。

 

 結果としてその読みは当たっており、エターナルの離脱を確認したザフト軍はすぐさま撤退を開始し、それ以上追ってくることはなかった。おそらくは離脱したエターナル––––––ラクス・クラインの方を優先したのだろうと思われる。

 

 そして、フブキを始めとしたガンダムマイスターたちはブリーフィングルームの床面(ゆかめん)に映るトランザムシステムのシステム解析図(かいせきず)に目を向けていた。

 

「機体に蓄積した高濃度圧縮粒子を全面開放し、一定時間、スペックの三倍に相当する出力を得る…」

 

 胸元で腕を組み、フブキが言った。

 システムに関する概要(がいよう)は既に全員が把握(はあく)している。

 

「トランザムシステム…」

「オリジナルの太陽炉のみに与えられた機能ってことは…」

 

 アキサムとシエルも、それぞれ解析図を見つめながら呟いた。

 

「そう、まだ私たちの計画は続いている。きっと知らされていなかった、計画の続きがあるのよ」

 

 フブキがシエルの言葉を引き継ぐ。

 確かにヴェーダは何者かに掌握(しょうあく)され、擬似太陽炉が世界中に回ってしまったが、まだ終わりではない。ガンダムの存在、トランザムシステムの存在がソレスタルビーイングの希望となっている。

 

 トランザムシステムによるスペックの三倍。それは擬似太陽炉搭載機にはできないことであり、再びガンダムの優位性を世に示すには十分な力だった。

 

「これなら敵のGNドライヴ搭載機とも渡り合えるっすよ!」

 

 場を明るくしようとしたのか、シドが陽気に言った。

 

「でも、トランザムを使用した後は機体性能が極端に落ちる。そう簡単には使えない…」

 

 だが、フェイトの言葉に一同が沈黙(ちんもく)()す。

 先の戦いでトランザムシステムを使用した彼女の言葉には重みがあった。

 

 解析されたデータ通り、トランザムシステムには蓄積された圧縮粒子を一気に解放して爆発的に機動性を高めることができるが、それでは短時間のうちに圧縮粒子を消費してしまう。

 貯めていた圧縮粒子を使い切ってしまえば、どうなるのかは先程の戦闘でアステリアが証明している通りだ。運動性能は極端に低下し、下手をすれば非GNドライヴ搭載機にすら迫られかねない。

 

 要は諸刃(もろは)の剣なのだ。

 使い方さえ間違えなければ、決定力に欠ける対GNドライヴ搭載機同士の戦いにおいて非常に有利になる。それは間違いなくこれからのミッションにおける切り札になり得るカードであった。

 

「それで、ガンダムの修理状況は?」

〈今は急ピッチで行っている。幸いにして大きなダメージはなかったが、それでも修理にはもう少しかかりそうだ〉

 

 格納庫(ハンガー)とを繋いだ通信モニターの中で作業中のバレットが答える。その背後では修理用のオプションを起動したフブキ製のハロたちが作業に(いそ)しんでおり、その近くではヴァイオレットとウェンディが機材のデータチェックに(はげ)んでいる。

 

 ガンダムと同等の性能を持つ擬似太陽炉搭載モビルスーツ複数体との戦闘は想像以上に機体へ負担を()いており、目に見えた傷跡はないものの、装甲や駆動(くどう)系に多数のダメージが存在するらしい。

 

「できるだけ早くお願いします」

〈おう!〉

 

 宇宙のザフト軍は一度退却したかもしれないが、今度は地上から連合やミネルバが来る。

 

 フブキはモニターから目を離し、遠くに視線を向けて自分の思考に没頭(ぼっとう)した。彼女の顔には憂慮(ゆうりょ)の暗雲が立ち込めている。

 

(補給が終わるのが早いか、それとも地上の戦力が宇宙に上がるのが早いか。……いずれにしてもラグランジュポイントでの戦いになりそうね)

 

 その予測は、(はか)らずも彼女の優秀さを実証するかのように的中していた。

 彼等には知り得ないことであったのだが、この時既に地上にいた地球軍旧"ファントムペイン"とGN-X10機を乗せた戦艦"ガーディ・ルー"、そしてザフトの地上戦力であるミネルバは、宇宙に上がっていたのだ。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 大気圏を突破した"ミネルバ"は司令部からの伝令に(のっと)り、ソレスタルビーイング殲滅作戦"エンジェルダウン作戦"の参加のため、本国から送られた別働隊であるジュール隊及びヴェステンフルズ隊との合流を目指して、戦場となるであろうラグランジュポイントへ向かっていた。

 

 久しぶりに見た宇宙(そら)の光景はやはり暗く、それでいて懐かしいと思うのは彼等がコーディネーター故だろうか。

 

 そんなミネルバの艦橋(ブリッジ)の中、コンディションイエロー状態で待機するクルーたちは、自らに追従するように航行する一隻の戦艦を見て少しのざわつきを見せていた。

 

「それにしても、まさかあの艦を再び見ることになるとは思わなかったわ」

「はい…しかもあの艦が本艦に追従とは、情勢とは分からないものですね」

 

 それは、かつてボギーワンと呼ばれていた戦艦。

 宇宙に溶け込むような暗い(あお)と白のツートンカラーを基調としたその艦は、やはり地球連合軍が所有している戦艦だったらしいが、その存在は"ファントムペイン"と同様に非正規軍として扱われているようだ。

 

「ボギーワン…いえ、確か"ガーディ・ルー"だったかしら」

 

 連合の大佐…ファントムペインの男に正式な名を教えられたタリアは、自分の中でその名を覚させるよう(つぶや)いた。

 

「まぁ、元強奪犯の元非正規部隊だとしても、今となっては連合軍の代表みたいなものよ。私たちと作戦行動を共にさせているのも、地球とプラントの関係改善を表にアピールさせるためでしょうね」

 

 そう、非正規部隊と言ってもそれはもはや昔の話。

 ロアノークら旧"ファントムペイン"の面々は現在連合の正規軍として扱われている。

 

 …というより、連合に動かせる戦力が彼等しか残っていないのが正しいか。開戦後にいきなり派手にザフトとやり合い、加えてソレスタルビーイングの武力介入を受けた連合にまともに動かせる部隊は彼等しか残っておらず、仕方なく元ブルーコスモスの私兵を正規軍に編入させたのだろう。

 

「なるほど、だからわざわざXナンバーの機体を返還してきたわけですか」

「というか、しなきゃいけなかったんでしょ。大っぴらにできることじゃないでしょうけど、隠し通す方がもっと不味いもの」

 

 アーモリーワンで強奪された"カオス"、"アビス"、"ガイア"の三機はジブラルタル基地にて"ファントムペイン"から直々にザフトへ返還(へんかん)されている。全てのきっかけといっていい機体にしてはあっさりとした返還だった。

 無論、既にデータは吸い出されているだろうし、ソレスタルビーイングの裏切り者によってGNドライヴが手に入った今では、GN-Xどころかデスティニー等にさえ(おと)る性能のセカンドステージシリーズの機体だが、それでも形式上必要な演出だ。

 

「この間の救援の件と合わせて、これで強奪の件はチャラにしろってことでしょ?」

「えぇー!? んな無茶苦茶な…」

「その無茶苦茶に同意したのがうちのトップよ」

 

 痛む頭を抑えるようにタリアは言った。

 アーサーの気持ちも痛いほどわかるが、政治家の考えなど前線に立つ軍人には分からないものだ。

 

「とはいえ、ソレスタルビーイングを相手に連合と組むことは必要不可欠よ。ザフトだけでの作戦がいかに難しいかは、この間の作戦報告書で知っているでしょ?」

「は、はい! まさかあのハイネ率いるオレンジショルダーやジュール隊が失敗するとは…」

 

 先のソレスタルビーイングとの前哨(ぜんしょう)戦とも呼べる戦いについては、ガンダムの()()()()()と思われる追記と共に先程報告を受けとった。今頃は同じフェイスであるアスランの元でモビルスーツパイロット達にも詳しい通達が行われているだろう。

 

 GNドライヴ搭載機の新型に加え、作戦成功率が最も高いジュール隊や前大戦を含めて高い実績を持つオレンジショルダー達ヴェステンフルズ達が作戦を失敗したというのはザフトに決して少なくない衝撃を与えた。

 何せ全員が全員ともザフトが誇る精鋭であり、作戦も完璧に()られていたのだから。

 

 だが、タリアとしてはそこまで意外に思ってはいない。

 元々、セカンドステージシリーズの機体を最新鋭としてところにGNドライヴなんて代物を持ち出してきた組織だ。あそこまであからさまに連合とプラントが手を取り合っていれば、狙われている自覚もするだろうし、対策もする。

 

「ソレスタルビーイングの方が一歩上手だったってだけよ。元々GNドライヴなしで進めるつもりだったのだから、難易度が元に戻っただけ」

「はぁ…それにしても厄介な組織ですね。一体どれほどの秘密兵器を持っているのやら…」

 

 アーサーがぼやくように言った。

 

 そう、問題はそこだ。

 ソレスタルビーイングは一体いくつ隠し球を持っているのか。タリアの持つ常識がこの布陣(ふじん)で挑めば負けるはずないと判断しているが、敵は常識はずれに定評のある相手だ。

 

 少なくとも艦隊戦で負けるつもりはないが、問題はガンダムの方。あれほどの機動力とパワーに取りつかれてしまえばミネルバもガーディ・ルーも終わりである。

 

 つまりはこれからの戦いの肝を握るのもモビルスーツ戦ということになる。

 頼みの綱はアスラン率いるミネルバモビルスーツ部隊だ。彼等がガンダムを相手に有効な策を思いついてくれることを願うばかりである。

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 ミネルバのミーティング室。

 集まっているのはシンとレイ、ルナマリアとアスランのミネルバ所属のモビルスーツパイロット達であり、今は先遣部隊とガンダムとの戦闘映像を元に隊長であるアスランが実行役となって作戦会議が行われていた。

 

「この状態のガンダムの運動性能はデスティニーやジャスティスの数倍であり、GNドライヴを持つGN-Xでも届かない。数での優位性は失われ、追いついた性能差も再び引き離されたと言っていいだろう」

 

 映像ではオレンジ色のVPS装甲を起動したデスティニーが赤く発光するガンダムを相手になす術もなく翻弄(ほんろう)され、迎撃したGN-X二機があっという間に撃破される姿が映し出されている。

 同型機…それも自身以上の技量を持つハイネがやられる姿にシンは瞳を(けわ)しくし、GN-Xを搭乗機とするレイとルナマリアも油断なく頷いた。

 

「…対策としては、この機能の限界時間まで時間を稼ぐことが重要とされる」

 

 続いて映し出されたのは、ガンダムと戦闘する青い機体…紛れもなく"ヤキンの伝説"ことフリーダムの姿だった。

 

「ちょ、ちょっと! なんでフリーダムが!? オーブにいるんじゃないのか!?」

 

 思わずシンが立ち上がり、アスランへ詰問する。ルナマリアもおっかなびっくりといった様子であり、レイも(わず)かに目を細めた。

 

 前大戦で三隻同盟のエースとして多大な活躍をしたフリーダムの存在は当然シンも知っている。つい数ヶ月前のオーブでのクーデター未遂事件にて、オーブ…アスハ派の機体として復活を遂げたこともだ。

 

 だからこそ、ザフトが主体となって作戦行動を行なっている戦場にザフト所属でもなければ、連合でもないフリーダムがガンダムと戦闘を行っている理由が分からない。

 

「はぁ…これを見てみろ」

 

 シンの言葉にアスランはため息混じりに手に持った端末を渡す。代表してルナマリアが受け取ると、そこにはハイネから直接届けられたのだろう簡易的かつ分かりやすい作戦報告がまとめられていた。

 

「…戦闘半ばまでは順調だったものの、ガンダムの新システムおよびエターナルの発見という予想外の状況によって作戦は中断……これって」

「エターナル……つまりはラクス・クラインが乗っていたということだろう」

 

 ルナマリアの言葉をレイが静かに続ける。

 

 エターナルといえばラクス・クラインが前大戦で搭乗した戦艦であり、三隻同盟の旗艦でもあった。

 前大戦後の消息は不明であったが、仮にあの艦がピンチだとすればフリーダムが駆け付けてきてもおかしくはない。実際にエターナル強奪事件の際はフリーダムがヤキンドゥーエの迎撃部隊を無力化している。

 

「どうですか、隊長?」

「……いや」

 

 レイの問いに言葉を(にご)すアスランにシンは、彼が前大戦でフリーダムやラクス・クラインと共に戦っていたということを思い出した。おそらく、アスランは自分たち以上に彼等のことについて知っている。

 

 そんな思いでシンとルナマリアも視線を向けたが、アスランは頭を横に張るばかりで明確な答えを口にはしなかった。

 

「俺にも詳しいことは分からない。だが、フリーダムについてはカガリから議長に何かしらのメッセージが送られるはずだ。いずれ本国から正式な通達が送られてくるだろう」

「そうですか。いえ、お話の途中に失礼しました」

 

 その様子にレイが一礼して話を取り下げたが、シンとしては納得しきれない部分も多い。

 

(ラクス・クラインって、ディオキアにいた女の人だろ? あの人が戦艦乗ってソレスタルビーイングとの戦いの場にいたのか?……なんっていうか場違い感があるよな)

 

 ディオキアで会ったラクス・クラインは、良くも悪くも普通の少女という印象だった。噂で聞くような高いカリスマ性や第三勢力を立ち上げるような実行力は、あまり感じられない。

 

(というか、ラクス・クラインってアイドルだろ? 確かに英雄って呼べるようなことをしたのかもしれないけど、たった一人のためにモビルスーツまで持ち出して…どういうことなんだ?)

 

「話を戻そう。ガンダムの新システムについてだが––––––」

 

 アスランから対ガンダム戦における説明が再開されても、シンの頭の中からラクス・クラインとフリーダム、そしてオーブに対するわずかな疑問は残り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





>トランザムシステム
本作のガンダム達はエクシア等第三世代ガンダムと同様にトランザムシステムに対応して作られていないため、途中で中断もできませんし、大きな性能低下のデメリットがあります。

>地球連合軍(ファントムペイン)
宇宙軍は開戦のタイミングでボロボロ、地上軍はジブリールの癇癪で動かされてボロボロ。
なので、まともに動かせる部隊で戦力があるのがファントムペインのみ。なお、描写はしていないが別働隊だったホワキン隊とも宇宙で合流している。

>シン視点でのラクス・クライン
ミーアが贋物ということを知らないため、ラクス・クライン=ミーア・キャンベルの認識のまま。
本人の活躍を歴史でしか知らない為にどれだけ重要視されているかを理解しておらず、混乱中。


次回はあの戦いの後のラクス達やデュランダルなどについてを描写していきます。










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果てなき輪舞(ロンド)


議長とラクスの心理描写が難しすぎてキラ視点にするしかないという。
後、カナーバさんの口調がイマイチ分からない。



 

 

 

 ザフト、連合共に『エンジェルダウン作戦』に向けての準備が行われている中、その前哨戦に巻き込まれる形となったラクス・クラインらを乗せたエターナルは、複数のザフト艦(ナスカ級)に護衛される形でプラント本国へ寄港(きこう)した。

 なお、ザフト勢力権までの道中は念のためにジュール隊のボルテールが護衛し、プラント本国の駐留軍にバトンタッチしてからは『エンジェルダウン作戦』のことも考慮して作戦宙域へととんぼ返りしている。

 

 オーブでの一件もあり、素直にプラント…ザフトを信頼できずにいるラクスらではあるが、向こうが対話を求めている以上はいきなりフリーダムを持ち出して逃走を(はか)るわけにもいかず、ラクスの身の安全と引き換えにデュランダルの元へ向かうことになった。

 

 そして今、ラクスの父シーゲル・クラインと親交の深かったプラント前議長アイリーン・カナーバら旧クライン派の案内の元、ラクスとキラはデュランダルの待ち受けるプラント最高評議会のビルへと向かっていた。

 だが、そこにバルトフェルドやダコスタといったエターナルクルーの面々の姿はない。デュランダル側から会う人間はラクスとキラの二人が望ましいという指定を受けていたからだ。

 

「でも、本当に良かったの? バルトフェルドさんにも来てもらった方が良かったんじゃ…」

 

 キラは隣のラクスに不安そうな声を上げた。

 仮にこれが(わな)だった場合、自分はフリーダムなしでラクスを守りながらここから脱出しなければならない。外にはバルトフェルドらと共にエターナルが控えているとはいえ、二年前のアスランのような奇跡がそう何度も起きるとは思えず、また彼のように白兵戦が得意ではないことも大きかった。

 

「そう不安に思うことはない」

 

 そんなキラの考えを否定したのは、カナーバだった。C.E.72年ユニウス条約締結と共に議長を辞任した彼女だが、旧クライン派の人間としてはかなりの力を持っており、今でも"ターミナル"を通してラクスに援助してくれている人物でもある。

 

「今ここにいるのはプラントのアイドル"ラクス・クライン"とオーブ軍所属の"キラ・ヤマト准将"だ。デュランダルを疑うのも分かるが、奴とて公の舞台…それもここ(プラント)で策をろうすることはできんよ」

「それは…そうですけど」

 

 そう、望ましいことではないが、今のキラはフリーダムに乗るにあたって、オーブ軍の元で正規の軍籍を得ていた。キラとしては姉の身内人事だろうが故に高い階級(准将)なんて物は遠慮したかったのだが…

 

「逆に君の言う"砂漠の虎"は名が売れすぎている。言い方は悪いが、"ザフトからの脱走兵"である以上はここにいる方がかえって居心地が悪いだろう。おそらくデュランダルは気にはしないだろうが––––––」

 

 そんな話を続けながらも、ラクスにとっては久しぶり、キラにとってはあまり馴染(なじ)みのないプラントの街中を進んでいく。

 街中といっても既に"アプリリウス"の軍事(ザフト)関係施設の領域へ足を踏み入れており、時折ザフトの制服を着用した兵士たちの姿も見られた。

 

 やはり、それでも一番目を引くのは"彼女"の姿。

 

『静かな〜この夜に〜♪』

 

 街中に設置されたモニターで歌う"ラクス・クライン"。

 その容姿はキラの隣を歩く彼女にそっくりであり、それでいて二年間一緒に過ごしてきたキラにとっては違うと分かる別人だ。

 

「………」

 

 とはいえ、やはり自分と同じ容姿、同じ声をした贋物(にせもの)がかつての故郷で歌っているのは本物のラクスとしても思うところがあるらしく、無言でモニターの"ラクス・クライン"を見つめていた。

 

「ラクス……」

「あの"ラクス・クライン"についても、デュランダルから話されるだろう。君たちにとってはあまりいい気分のものではないだろうが…」

 

 と、カナーバが言いかけたところで車が停まった。どうやら目的地に到着したらしい。辿(たど)り着いたのはプラント最高評議会からすぐ近くにあるビルであり、おそらくここにデュランダルがいるのだろう。

 

「こっちだ。現状が現状なので少し慌ただしいが、あまり離れないでくれ」

 

 キラとラクスは車を降り、先導するカナーバらに付き従う形でビルの中へと入っていく。

 

 カナーバの言う通り、ビルの中はやけに(あわ)ただしかった。

 目に見えて分かる地位の高い人物たちが騒がしくしており、おそらくは最高評議会の議員たちだろうが、どうしたというのだろうか?

 

 そんな風に思っていると、キラたちの元に一人の議員が()け寄ってきた。

 

「カナーバ前議長!」

「これはシュライバー国防委員長。『エンジェルダウン作戦』について、議長とのお話がお済みになったですか?」

 

 カナーバがそう言うと、シュライバーと呼ばれた男は頷く。

 国防委員長ということは、二年前のパトリック・ザラと同じでザフトの実質的なトップということだ。

 

「議長の許可も得ました。作戦はまもなく開始されるでしょう。今は念の為、既に太陽炉搭載モビルスーツの量産体制を視野に入れ始めているといったところです」

「おお…それはそれは」

「前線はフェイスや一部のエースに任せ、念の為に後方にはグラスゴー隊やアルバート隊も控えさせる予定です。万が一があろうとも、決して連合に遅れは取りませんよ」

 

 何を話しているのかキラ達に分からないが、おそらくザフトの機密に当たる情報なのだろう。ならば、それをこのまま盗み聞きする形になるのはどうも(しの)びない。

 

 なのでそろそろ一言申そうかとキラが思っていると、それより先にシュライバーがカナーバの背後にいる二人に気がついたようだ。

 

 当然、真っ先にプラントの歌姫であるラクスに気が付き、声をかける。

 

「おおっ、これはラクス様ではありませんか。それに貴方は……」

「こちらはオーブ軍所属のキラ・ヤマト准将。我々なりにいうのなら、フリーダムのパイロットといった方が分かりやすいでしょう」

「なんと! まさかフリーダムの!?」

 

 カナーバの紹介にシュライバーは分かりやすく驚いた表情を浮かべる。

 キラとしても強奪したフリーダムのパイロットというのはあまり誇りに思うことではないため、居心地悪く思いながらも軽く会釈(えしゃく)する。

 

「シュライバー委員長も先日の戦闘の報告は受けているでしょう。その件に関して、これから議長とお話しされるのです。我々はその案内でして、話の続きは後ほど…」

「あぁ、そうでしたね。お時間をとらせて失礼しました。ラクス様も…えぇっと…ヤマト准将も」

 

 そう言うと、シュライバーは申し訳なさそうにラクス達の方を見て頭を下げた後、道を開けるように横に移動した。

 

「いえ、僕たちこそ、このお忙しいときに騒がせてすみませんでした」

 

 キラとラクスもそんなシュライバーに深く頭を下げた後、先に向かったカナーバを追ってビルの奥へと向かう。

 

 向かう途中でも二人は周囲の注目を集めた。

 プラントでも議長であるデュランダル以上に顔が売れているラクスは当然として、その隣を歩くキラにも視線が集まる。

 ラクスはともかくオーブ軍人であるキラがデュランダルの元を訪問するのは極秘となっており、それこそシュライバーのような最高評議会に名を(つら)ねる人物しか知り得ないことだからだ。

 

 そんなこともあり、集まる視線に居心地の悪さを覚えながらもキラ達はビルの中を進んでいき、やがて最奥の扉へ続く道で立ち止まった。

 

「我々の付き添いはここまでだ。後は案内の者に従ってくれ」

 

 この先の部屋がデュランダルの執務室(しつむしつ)なのだろう。

 厳重…とまではいかないが、少なからずの警備の人間がおり、そこに引き継ぐようにキラ達とカナーバ達は入れ替わった。

 

 キラ達はカナーバ達に頭を下げた後、案内の人間の指示に従って移動し、議長室へ足を()み入れる。

 

「議長。ラクス・クライン様とキラ・ヤマト様をお連れいたしました」

 

 デュランダルは部屋の中央に設置された席に座っていた。こちらからは顔が見えないが、デュランダルの対面には三名の人物の姿が見える。どうやら会談中だったようだ。

 

「…ああ、もうそんな時間だったか」

 

 デュランダルはキラ達の入室に気が付いたようで、手を上げて答えると席を立った。つられて、対面に座っていた者達も腰を上げる。

 

「では、申し訳ないが今日の会談はここまでということで」

「いえ、こちらこそ。独立の件に関しては、プラントにも前向きに検討いただけるということでよろしいですか?」

「勿論だとも。女王陛下にもよろしく伝えておいてくれたまえ」

 

 デュランダルと話していたのは三人の青年だった。

 主に代表となってデュランダルと話しているのが金髪の青年。(やわ)らかな物腰や紳士的な対応が自然と様になっている彼は、どこかキラと似た顔立ちをしている。

 そして、控えるように一歩下がる位置にいるのが、どこか鋭いナイフのような冷たい印象を受ける銀髪の青年と中性的な容姿をした掴みどころのない印象の青年だ。

 

「ご苦労だったね。では"ファウンデーション"の方々を出口まで案内してくれ。ラクス嬢とヤマト准将との会談は私だけで十分だ」

「はっ!」

 

 デュランダルがそういうと案内役の人間は敬礼(けいれい)し、三人の青年はキラ達とすれ違うように出口へと歩き始める。自然とキラは彼等の姿を目で追い、あちらもこちらを見て目が合った…その時。

 

「……ふ」

「っ!」

 

 –––––––お前がキラ・ヤマトか。

 

 確かにそう問われたと感じた。

 理屈は分からない。確かな憎悪と敵意、己の心を探られるような悪寒(おかん)が身体に走ったのだ。

 

「今のは……」

 

 しかし、実際には彼等との間に会話が交わされることなく、互いに一例挨拶(あいさつ)をしただけで終わっている。彼等とは一瞬だけ目が合っただけだ。何もない…はずである。

 

「キラ…?」

 

 ラクスに声をかけられてハッと我に帰った時には既に彼等は部屋を退出していた。

 辺りを見渡(みわた)せば、心配そうにラクスがこちらを見つめており、デュランダルはテレビで見た時と同じように穏やかな笑みを浮かべてこちらを待っている。

 

「大丈夫ですか…?」

「…うん。行こう、ラクス」

 

 ラクスを不安にさせるわけにはいかない。

 キラは()き上がる違和感を何とか心の奥に押し留め、デュランダルとの会談へ気持ちを切り替えて前へ進んだ。

 

「やぁ、すまなかったね。少し予定が遅れていて、君たちを待たせることになってしまった」

「…いえ」

「こちらへ」

 

 デュランダルは穏やかな口調でキラ達を対面のソファへと案内し、キラとラクスは遠慮を覚えながらも案内された席へ着いた。

 

 同時にデュランダルはつい先程すれ違った青年たちについてを軽く説明する。

 

「彼等はユーラシア連邦からの独立を果たした新興国の者たちでね。大西洋連邦とプラントにその自治を認めてもらおうとここで来ていたんだ。…最も、君たちが私に聞きたいことはそんなことではないだろうがね」

 

 そう言うと、デュランダルに対してラクスが単刀直入に切り出した。

 

「デュランダル議長。オーブにて私を暗殺しようとしたのは事実ですか?」

 

 その瞬間、空気がピリついたように感じた。

 

「…ふむ、どうして私だと?」

 

 デュランダルは仮面のような笑みを貼り付けているが、キラとラクスは表情を険しくして言葉を続けた。

 

「UMF/SSO-3"アッシュ"。正規軍でしか運用されていない最新鋭機だと思われるモビルスーツに私たちは襲われましたわ」

「だから僕は、またフリーダムに乗ったんです。本当は戦いたくないけど、ラクスを守るために」

 

 キラ達がデュランダルを信じきれない最大の理由。それがオーブで暗殺部隊を送り込まれたことである。今のプラントで活躍している贋物(にせもの)のラクス・クラインの存在と合わせて、そこを明らかにしない限りは彼のことを信じることができない。

 

「バルトフェルドさんは送り込まれたのは訓練されたコーディネーターだと言っていました。最新鋭のモビルスーツもあって、僕たちはザフトによるものだと疑っています」

「………なるほど」

 

 問いというよりは、半ば追求(ついきゅう)である声を受けて、デュランダルは小さくため息を()くと、深く背もたれによたれかかった。

 

「この情勢で君たち相手に誤魔化す必要もないか…」

 

 そして、その一言を発する。

 

「そうだ。私が君たちを殺そうとしたのだよ、ラクス・クライン。キラ・ヤマト」

 

 デュランダルはその顔に政治家としての仮面を貼り付けたまま、変わらぬトーンでそう告げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 





>エンジェルダウン作戦(ザフト側)
メインをフェイス部隊やミネルバ隊で固める。
後方をC.E.版コンスコンで有名なグラスゴー隊。アルバート隊には『月光のワルキューレ』ことアグネスさんがいたりもするが、出番は多分ない。

>キララク→デュランダル
暗殺されかけたんだから好感度は高くないけど、DP(デスティニープラン)は公開されてないし、原作版エンジェルダウン作戦も行われてないので、原作ほど敵対関係にあるわけではない。

>デュランダル→キララク
アコードのラクスは放っておくと危険だから始末したかったが、失敗して眠れる(キラ)を呼び覚ました上に、CBが思ったよりヤバかった為に指針変更。
暗殺事件を認めたのは、素直に話してラクス達に信用してもらうため。公表されれば失脚は間違いないが、デュランダルとしては議長の椅子を手放すのに何の躊躇いもない為に全然平気というのもある。

>ファウンデーション
大西洋連邦(連合)とプラントが手を組んだのをいいことにユーラシア連邦から独立。
オルフェとシュラを特使としてデュランダルの元へ送った。


>一応オリ主扱いの転生イノベイド
暗躍・暗躍・暗躍中。
不仲説出ているデュランダルとアコード達(アウラ)が協力体制になっているのも、デュランダルがDPを諦めたのも、ラクス暗殺を認めたのも全てはこの男が暗躍していたからなのだ!

???「デスティニープランとイオリア計画。人類の未来に相応しいのはどっちかな?」










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決戦の狼煙 ーファントムペインー


一方その頃–––––ってやつ。
デュランダルとラクス達の会談の結果はまた後ほど。

いよいよ、エンジェルダウン作戦が始まります!!



 

 

 

 プラントにてデュランダルとラクス達が会談を行なっている一方、決戦の舞台となるラグランジュ1では連合・ザフト両軍による同盟軍がソレスタルビーイング壊滅作戦『エンジェルダウン作戦』の発動に向けて集結していた。

 エターナルの登場やガンダムの新システム(トランザム)という想定外の要素こそあったものの、作戦自体はプラントへエターナルを送り届けたジュール隊の帰還と共に発動されることとなっている。

 

「ここか、奴らが隠れ潜んでいるのは」

「おそらくは…」

 

 二つに分かれた大部隊の内の右翼側、ザフトからは"ボギーワン"と呼ばれていた戦艦(ガーディ・ルー)の他にもう一つ、同型でありながら薄紫色に塗色(としょく)されたガーディ・ルー級二番艦"ナナバルク"の艦橋(ブリッジ)にて、今回連合軍を指揮する二人の将校が険しい目つきで暗黒の宇宙(そら)を睨みつけていた。

 

「全く、宇宙の化け物共と組んでまでソレスタルビーイングを討てとは…新盟主様も滅茶苦茶な命令をくださる」

「ええ…」

 

 "ガーディ・ルー"艦長のイアン・リー少佐と"ナナバルク"艦長のホワキン中佐 –––––––– 彼等が睨みつけていたのはナナバルクの横を悠々と進むザフト軍の戦艦たちだ。

 旧ファントムペインのメンバーである彼等にとって、命令とはいえ()まわしきコーディネーター達と共に戦わなかわなければいけないことは非常に遺憾(いかん)なことであった。

 

「だが、ソレスタルビーイングが厄介なこともまた事実。仕方あるまいか」

「…ここ暫く我らの"本業"は見納めとなりそうですな」

 

 ホワキンのぼやきにイアンが返す。

 彼等とて根っからのブルーコスモス主義だが、非正規の部隊を率いて戦場に出ていたため、今の世界情勢を正しく理解していた。主義や思想もいいが、それを強引に貫き通せばどうなるかはジブリールが証明している。

 

「我らも…今後の軍での身の振り方を考えなくてはならんか」

「…はい」

 

 地球軍第81独立機動群"ファントムペイン"。

 軍内でも非正規という扱いゆえにこれまで多くの条約無視、独自行動を行なってきた彼等だが、それは同時に連合軍内で都合が悪くなればいつでも切り捨てられるということを意味していた。

 今でこそ精鋭不足の地球軍の主力としてその存在を公に認められているが、自分たちがファントムペインという組織に所属している以上、新ロゴスのトップである彼女(シャーロット・アズラエル)の匙加減で簡単に影に葬られる可能性もあり得る。

 

 そして、今のファントムペインはそのまさかを招きかねない大きな爆弾を抱えていた。

 

「ええい、ロアノーク大佐め。あんな不良品どもさっさと排除してしまえばいいものを」

「…有用な戦力でしたが、今後は邪魔なだけですな」

 

 それこそがネオ・ロアノーク率いるロアノーク隊の主力メンバーである三人の"エクステンデッド"の少年少女達だ。

 

 いや、彼等だけではない。

 今のファントムペイン…連合にとっては"ブースデットマン"にしろ"エクステンデッド"にしろ、旧ロゴスの負の遺産とも呼べる強化兵士達の存在が非常に痛かった。

 プラントにとっての獅子身中の虫が旧ザラ派だとすれば、連合にとっての(うみ)が彼等である。

 

 既に旧研究施設等の隠滅は行なっているが、完全とはいえない。これから本格的な終戦を迎えるに当たって、ファントムペイン指揮官である彼等はこれらの存在を完全に抹消(まっしょう)したかった。

 

 だが、彼等の身柄は上官であるネオが保護しており、"エクステンデッド"に対して手を出す術を彼等は持たなかった。少なくともいまは。

 

「とはいえ、対ガンダム戦ともなれば貴重な戦力の一つ。相討ちにでもなってもらうのを願いましょう」

「…ふむ、それもそうだな」

 

 イアンの言葉にホワキンは黒い笑みで返した。

 ジブリールと同様、彼等もステラ達エクステンデッドへの認識は単なるパーツ…今となっては不良品であったのだ。

 

「ホワキン中佐、ザフト軍から進軍準備が整ったとのことです」

「ふん…やっとか」

 

 そこで管制(かんせい)担当からの報告が入る。

 ホワキンは動きの遅いザフトを内心で(ののし)った後、言葉を告げる。

 

「では、リー少佐はガーディ・ルーへ。事前の作戦通り、GN-X部隊はロアノーク大佐の指揮に任せる」

「はっ」

 

 イアンが艦橋(ブリッジ)を退出し、艦内には第一種戦闘準備の警報が鳴り響く。

 

「…チッ、癪だが"あいつら"は大佐に任せる他ないか」

 

 これまで従えてきた"非強化人間のモビルスーツパイロット"をエクステンデッドなどと同じ部隊に加えることに抵抗を覚えつつも、ホワキンはこちらの作戦を実行に移す準備をするのだった。

 

 …そう、"ファントムペインらしい"作戦を

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

「で、なんなの? アイツら」

「……おそらくはエクステンデッド。人工的に薬物で強化した兵士だろう」

 

 ガーディ・ルーの格納庫(ハンガー)の中、旧ファントムペインホワキン隊所属のモビルスーツパイロットだったスウェン・カル・バヤンが同僚の言葉に冷めた表情で答えると、それを聞いたミューディー・ホルクロフトとシャムス・コーザは微妙な表情であからさまに顔を(しか)めた。

 

「ケッ、生体CPUかよ」

「ま、コーディネーターよりはマシじゃないの。世界の害じゃないって意味で」

 

 二人の向ける視線の先には彼等よりも歳下の少年達が上官であるネオからの命令を聞いている姿がある。

 別働隊で動いていたロアノーク隊と合流するということで多少の興味を持っていたミューディーとシャムスは彼等がエクステンデッドだと知った途端に興味が(うす)れたようだ。

 

 それはシャムスが言うように彼等が生体CPUと呼ばれているからなのか、それともその幼さに毒気が抜かれたのか。スウェンには分からなかったが、当のスウェンにしても今は任務以外に意識を割く必要を感じなかった。意識を逸らし、前を向く。

 

「ま、そんなことはどうでもいいか。それよりもガンダムだ、ガンダム。この間の借りを返してやるぜ!」

「ま、私としてもデュエルをあそこまでやられたお返しがしたいわよね。…コーディネーター共と組むっていうのが気に食わないけど」

 

 二人ともキルギスプラントでの敗戦のリベンジに燃えているらしい。スウェンとしては特にそういった感情はないが、あれ以降自分なりにガンダムに対する研究を重ねてきたつもりだ。

 新たな搭乗機であるGN-Xの性能も高い。一年ほどの付き合いとなったストライクを手放すことになったことに少しの(さび)しさを感じるが、任務の為には仕方がないだろう。

 

 ストイックなスウェンにしては珍しい感傷のようなものを内心で抱いていると、三人の元に仮面の男こと上官のネオ・ロアノークが近づいて来た。

 

「ネオ・ロアノークだ。今回はモビルスーツ部隊の指揮をとらせてもらうことになった。よろしく頼む」

 

 そう言って敬礼したネオに対して、スウェンもまた敬礼を返す。シャムスとミューディーもやや遅れて続いた。

 

「はっ、スウェン・カル・バヤン大尉です」

「シャムス・コーザ。階級は中尉」

「ミューディー・ホロクロフト。同じく階級は中尉よ」

 

 スウェンはその能力の高さとガンダムと一時的に対等に渡り合った功績から大尉へと昇進していた。それでも気さくに話しかけてくれているシャムスとミューディーの二人の存在は内心嬉しく思っている。

 

「で、今回の対ガンダム戦だが、おそらく混戦が予想される。俺もアイツらのお守りで忙しいだろうし、状況次第では大尉が指揮を務めてくれても構わない。」

 

 –––––– っていうか、そっちの方が楽だろ?

 

 そんなネオの意見に困惑しながらも頷く三人。

 同じファントムペインとはいえ、元々別働隊だった為に連携も何もない彼等にとっては元の小隊で動く方が戦いやすいのが本音だった。

 

「じゃ、そういうことで。作戦開始まで一○八八だ。準備が済み次第搭乗機で待機するように」

「「「はっ」」」

 

 それだけ言って立ち去るネオ。その後をエクステンデッドと思われる少年達が付いていくのを見送り、スウェン達も作戦開始に向けて行動を開始した。

 

「なんか、思ったより"分かってる上官"じゃないの?」

「さぁな。ま、好きなように戦わせてもらえるってのは悪くねぇ」

「……急ぐぞ」

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

(ま、こんなところか…)

 

 背後から受ける視線を感じながら、共にネオは内心でそう独りごちた。

 

 先程はああ言ったが、ネオ自身にモビルスーツ部隊の指揮をまともにとる気はなかった。最初から各々の判断にまかせ、自身はスティング達と共に戦うつもりである。

 

 先程の激励は対ガンダム戦に対しての先鋒を任せることを意味しており、新システム(トランザム)の登場で不透明なった対ガンダム戦線における保険のためであった。

 

 いかにGN-Xの性能が高いとはいえ、先のザフト対ソレスタルビーイングの戦闘を見るに決して楽な戦いではないだろう。

 だからこそ、ネオはスティング達を後方に下がらせ、スウェン達に最前線を任せることで必要以上のリスクを排除しようとしていたのだ。

 

(イアンの野郎…あそこまで考えてやがるとは)

 

 イアンやホワキンがエクステンデッドの廃棄(はいき)を考えていることをネオは知っていた。イアンは元々ステラ達の存在に懐疑(かいぎ)的であったし、ホワキンはあからさまに戦闘パーツ扱いの態度を隠さない。

 今回の作戦にしても、上手いことステラ達とガンダムを相討ち…あるいは勝利の犠牲という名の戦死扱いにしようとしているという情報をネオは信頼に足る部下から得ていた。

 

(くそが…させるかよ!)

 

 ギリッという歯軋りと共にマスクの下で表情を歪めた。

 自分が言えた立場ではないが、これまで散々利用しようとしておいて用が済んだ途端にポイっと捨てるような真似は反吐が出る。

 

(とはいえ、それは俺も同じか……悪いな坊主ども)

 

 スウェン達へのある種の捨て駒のような扱いはネオが嫌うジブリールと似たやり方であり、罪悪感と己への嫌悪感でいっぱいになる。それでもネオにはそうする理由があった。

 

(けどよ、こいつらを死なせるわけにはいかねえからな)

 

 視線の先の前を歩く三人の少年少女たち。

 己の記憶すら定かではないネオにとって、エクステンデッドである彼等を何としても平和な世界に帰すことが第一の目的だった。第二が己の記憶であり、ガンダムだのザフトだのは二の次である。

 

 なんにせよ、全てはこの戦いを終わらせてから考えることだろう。

 

「おいおい、何ボォーッとしてんだよ、ネオ」

「難しい顔してる…?」

「緊張でもしてんのかぁ?」

 

 ––––––– ったく、生意気なガキどもだ

 

 こちらを小馬鹿にするような言葉は信頼の表れ。

 ネオは小生意気な少年二人の頭をわしゃわしゃと()でると、不安そうにこちらを見つめるステラの頭を優しく撫でる。

 

「なんでもないよ。さぁ、行こうか。今日も生きて帰ってくるぞ!」

 

 やや大袈裟(おおげさ)に声を張り上げると、ネオは己の搭乗機へ向けて足を進めた。その姿を不審そうに三人が見送る。

 

「変なネオ…」

「ま、生きて帰るってのには賛成だな。もちろん、ガンダムを倒すのは俺だが」

「はぁ? この間ガンダムにビーム当てたのは僕なんだけど…!」

 

 薬物と洗脳の影響は大きく、スティング達はこれから挑む戦いがどれほど重要なものか理解していないらしい。彼等の中ではいつものように戦い、帰ってくる予定になっているのだろう。

 

 だが、それでいい。

 戦争の(みにく)さを象徴したかのような存在である彼等だが、だからこそ知らなくていいことは知らなくていいのだ。今までの戦いは単なるゲームだとでも思っていればいい。ただ、生きていてくれれば。

 

(終戦は迎えたんだ。アイツらの管理権を持っていたジブリールもいないし、新たな盟主も強化人間には魅力を感じていない……チャンスはある)

 

 ネオにはファントムペインに未練はない。この大佐という階級もジブリールが与えたものであり、名前も記憶も偽りとなればそこに価値はないのだ。

 ジブリールが無理でも、自分一人が責任を負うことができるなら、ネオはステラ達を戦争被害者として戦場から解放したいと思っていた。

 

 もちろん、"ゆりかご"による調整ありきでも普通の人間より長く生きることはできないだろうが、それでも戦闘続きの今よりはずっと長く生きられる。

 

 スティングとアウルはバスケットに興味を持っていた。来歴故に公式の大会などに出られはしないだろうが、それでも彼等の能力なら大きく活躍できるだろう。

 

 ステラは…海が好きだと言っていた。

 向こうが許してくれるなら、ザフトにいるシンという少年に任せるのもいいかもしれない。ステラは何故か記憶調整が効きにくい体質ということもあるし、彼のことを思い出す可能性は高い。

 

(まぁ、まずはガンダム相手に生き残ることから考えるようか。最悪、無理そうならザフトに任せればいいだろ)

 

 本作戦における第一目標はスティング達の生還。ガンダム討伐は絶対ではない。

 

 ネオは意識を切り替えて乗機であるGN-Xに乗り込んだ。

 

 

 

 

 

 





>イアン、ホワキン
色々語ってたけど端的には己の保身が目的。
今後の清廉潔白な連合()での居場所探しに必死。

>スウェン、シャムス、ミューディ
貴重な地球軍側のネームド。
スウェンは空間認識能力除けばネオと同等の戦闘センスがあるのでともかく、残り二人は一般ザフト赤服にも劣る(設定)なので……フラグが。

>ネオ
別に勝っても負けてもいいけど三人を生き残らせたい人。
ムウ・ラ・フラガの記憶は戻っていないが、性格的な意味で少しずつ戻ってきている。

>今後の地球連合
潔白にはならないけど、劇場版みたいな感じにはなる。
ちなみにユーラシア連邦はファウンデーションを区切りに次々と独立が始まっている模様。


というわけで、次にザフト側。その次にソレスタルビーイング側を描いて最終決戦となります。





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決戦の狼煙 ーザフトー


SEED二次の人気がすごい。
インパクトの強い新作に埋もれていくのが怖いぜ……これぞ弱肉強食よ。



 

 

 

 

 ファントムペインで動きがあるのと同じく、左翼側に展開するザフト軍もエンジェルダウン開始に向けて各々の部隊が出撃準備を整えていた。

 

 先の作戦でガンダム相手に決して少なくない消耗(しょうもう)をしたザフト軍だが、連合軍及び地上軍最高戦力と名高いミネルバ隊と合流したことで再び士気(しき)を高めていた。

 また、プラントへラクス・クラインを送り届けたジュール隊は本国からの増援部隊を引き連れてきており、数という意味ではこれ以上ない大部隊を展開している。

 

「–––––そうだ。ジュール隊からは俺とディアッカ、シホで行く。残りの奴らはボルテールとミネルバの護衛に回せ」

 

 そんな中、ジュール隊の母艦であるボルテールにて、プラントからとんぼ返りしたばかりのイザークは到着して早々に戦闘準備の作業に追われていた。

 

「メインはあくまでミネルバに任せろ。ボルテールは後方支援だ。前に出るなよ、死ぬぞ!」

 

 イザークは艦長を務める副官にそう言い残すと、返事も待たずに艦橋(ブリッジ)を後にする。その後を親友兼部下のディアッカが続いた。そのままキャットウォークを進み、格納庫(ハンガー)へ向かう。

 

「良いのか? 本国から連れてきたやつらを後ろに回して? 上からの命令だと…」

「…構わん。この戦い、とてもザクやグフでは付いて来れんだろう。わざわざ死なせるくらいなら俺たちの帰る場所を守らせておいた方がマシだ」

 

 先日ガンダムと直接交戦したイザークにはソレスタルビーイングとの間にある戦力差がある程度理解できていた。新型機であるGN-Xの性能は非常に高く、あのままディアッカやシホと共に戦っていれば勝てていたという確信もあった。

 だが、ソレスタルビーイングもただただやられるばかりではなく、謎の新システムや新型MA(モビルアーマー)なども投入してきている。どこまで伏せ札を持っているのか、イザークらには予想もできなかった。

 

 だが、少なくとも非GNドライヴ搭載機であるザクやグフでは太刀打ちできないほどの戦力差があるということは分かる。フリーダムに乗った"アイツ"でさえも苦戦していたのだ。赤服だろうとフェイスだろうと並のパイロットでは瞬殺されるだけである。正直、イザークもあの状態(トランザム)のガンダム相手に生き残れる気はしない。

 

 が、それでもやるしかない。

 イザークはフェイスであり、ザフトの軍人だからだ。

 

「俺とお前とシホで連携して動く、この間と同じだ」

「りょーかい。ま、やるだけやってみますか」

 

 正確にはイザークが中近接。シホが中遠距離。ディアッカが支援射撃のスリーマンセルだ。ジュール隊には他にもアカデミーで優秀な成績を残したエリートが入隊しているが、それでもヤキン・ドゥーエを経験した三人の技量にはほど遠い。

 本気でガンダムと相対するのなら、余計なお守りを気にしなくて良いこの三人が最適解だった。

 

「問題は連合だな。今でこそ同盟なんてことになっているが、ソレスタルビーイングが壊滅すれば話は変わってくるぞ」

 

 連合とザフトは対ソレスタルビーイングの為に史上初の軍事同盟を結んだが、元々は互いを滅ぼし合ったほどの仲である。あれほど(ヤキン)の戦いをしてもたった二年しか平和が続かなかったことを考えれば、たかが一時的な停戦では安心もできない。

 

 (わず)かながら文官議員としてイザークは、既にソレスタルビーイングが壊滅した後のビジョンを見据えていたが、そこに安定した未来は見えなかった。

 

「まぁ、そこはデュランダル議長の采配に期待するしかないんだけどさぁ…はてさて、どうなることか」

「…ちっ、考えても埒があかん。まずはソレスタルビーイングとの戦いに集中するぞっ!」

 

 思い悩むことはいくつもある。

 連合との同盟だったり、プラントの未来だったり、デュランダルだったり、ラクス・クラインだったり…。

 

 それでもイザークは考えを断ち切って前を向いた。戦場に余計な考えを持ち込むのは死へ直結するからだ。

 

「そういや、アスランの奴も来てるって言ってたっけ…」

「チッ、復隊したらしたで俺たちに何の情報もよこさんとは…しかもフェイスだと!? ふざけた真似を…!」

「やれやれ…」

 

 だが、ある意味では奴らしいとも言えるだろう。

 怒りの口調とは裏腹にイザークとディアッカの表情には不思議と笑みが浮かんでいた。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 エンジェルダウン作戦においてザフト側の旗艦を務めるミネルバのミーティングルームには、今作戦に参加する全てのパイロットが集まっていた。

 

 特務隊"フェイス"であり、モビルスーツ隊隊長を務めるアスラン・ザラ。

 

 ザフトの若きエースであり、ここぞという場ではアスランにも迫る力を見せるシン・アスカ。

 

 常に冷静沈着に物事を見通し、優れた空間認識能力を持つレイ・ザ・バレル。

 

 他のメンバーにやや劣りつつも、赤服の中ではトップクラスの実力を持つルナマリア・ホーク。

 

 そして……。

 

 ––––––– いや、お早い再会だな。改めて、ハイネ・ヴェステンフルズだ。よろしく頼むぜ!

 

 アスラン、タリアに次ぐ"フェイス"であり、少し前まではミネルバに搭乗していたハイネ・ヴェステンフルズ。

 

 彼の復活と帰還はミネルバのクルー達に大きな歓声で迎えられた。滞在期間はそう長い者ではなかったが、彼の部下を従える者としてのカリスマ性がそうさせていた。

 

「ハイネ、もう大丈夫なんだな…!」

「大丈夫…と言いたいところだが、前の戦いで部下たちを失っちまった。あまり復活をいばれる気分じゃないぜ…」

 

 アスランの言葉にハイネは彼らしくもない、力無い様子で返した。先の対ソレスタルビーイング前哨戦で部下を失ったことが相当(こた)えているようだ。

 

「GNドライヴ搭載モビルスーツを手に入れて、少し浮かれていたんだろうな、俺たちは。忘れるところだったぜ、誰のせいでミネルバを降りることになったのかをよ」 

「ハイネ…」

 

 少し影のある表情を見せるハイネ。

 それに対してアスランは何も言えなかったが、言葉に込められた思いはハイネに伝わったようだ。

 

「ま、これはただの愚痴だ。誰かに聞いて欲しかったってのもある。…そんなことより作戦会議するぞ、会議を!」

 

 そう言うと、ハイネは気持ちを切り替えるように"パイロットの顔"にし、ミーティングルームのモニターを付けた。そこにはハイネやイザーク達がガンダムと戦う姿が映し出されている。

 

「まずは仮想敵の振り返りからだ。今回の戦いで色々な情報も追加されたからな」

 

 最初に映ったのは、大型のライフルを構え、GN粒子によるバリアを展開する新緑のガンダム。アーモリーワンで目撃された二機の内一機だ。

 

「コイツのヤバさは皆も知っていると思うが、奴の砲撃は強力かつ正確だ。できれば防ごうとはせずに回避に専念しろ。シールドは役に立たねえ」

「火力だけなら現行のモビルスーツでも随一ですからね」

 

 受け止められるとすれば、それこそ陽電子リフレクターを備えた連合のモビルアーマーぐらいだろう。モビルスーツの武装では到底不可能であり、(かす)っただけでも致命傷となる。

 

「だが、その一方でコイツは砲撃を行う際に一瞬だけ動きを止める。そのタイミングを見極めるくらい俺たちには楽勝だ。それに、このライフルさえ潰してしまえば奴の火力は大きく減衰するだろう」

 

 次に映し出されたのはMA(モビルアーマー)形態への変形機構を持つ朱色のガンダム。地上ではアスランと何度も激突した相手だ。

 

「この"羽付き"はとにかく速い。特にモビルアーマー形態のスピードはな。一度スピードに乗られたらビームの一つも当たらないだろう」

「おそらくGN-Xでも追いつくのは難しいかと」

 

 レイがそう付け加えると、ハイネも頷いた。

 ザフトからは"羽付き"と呼ばれるこのガンダムの速さはGN-Xを手に入れた今でもトップだということは戦った皆が理解している。

 

「更に場合によっては追加装備としてミサイルユニットなどのユニットを装備していることもある。地上での奴と同じだと思わないことだ」

「だが、火力自体は他のガンダムよりも低い。幸いこちらは数で優位に立っている。連携で包囲するんだ」

 

 ハイネの言葉をアスランが引き継ぎ、スライドは次のガンダムへと移る。

 次に映ったのは、大剣を武器に肩の大型ビームランチャーを発射する白と黒のツートンカラーのガンダム。地上でハイネをプラントでの療養まで追い込んだ機体だ。

 

「コイツは…おそらくガンダムで一番強い。俺を堕としたという贔屓目抜きに見ても、扱いづらい大剣やらビーム砲やらを使いこなしている。パイロットの技量は随一だ」

「えっと、地上ではドラグーンに似た武装を展開していました。多対一においても遅れを取ることはないと思います」

「ああ、その通りだ」

 

 地上で交戦したルナマリアの言葉にハイネも頷く。

 このガンダムはまるでデスティニーのように全距離に対応した武装を持っており、それを使いこなすパイロットの腕も含めて非常に厄介だ。

 

「だが、戦えないわけじゃない。悪いが、タイミングを見て俺はコイツと戦わせてもらうぜ」

「リベンジ……ですか?」

「それもあるが、この戦い方はきっと……いや、何でもねえ。まぁ、戦況次第だ。場合によっては連合に任せることもあり得る。あくまで俺の願望だな」

 

 シンの言葉にも()え切らない言葉を返すハイネは、そこで話を終わらせると次の機体へとスライドを移す。

 シンはそんな彼のことを不審(ふしん)に思ったが、ハイネにはハイネなりの考えがあるのだろうと思い、何も言うことはなかった。

 

 そして、モニターには4機目のガンダム。青と白を基調とした近接装備を多く装備しており、ユニウスセブン落下事件でのこともあって、シンとアスランにとっては印象の強い機体だ。

 

「で、最後はコイツだ。見ての通りの近接特化…かと思いきや、狙撃ライフルを引っ提げてきたこともあるから油断はできねえ。そして、何よりも…」

「例の新システムですね?」

「あぁ、報告書は言ってると思うが、この機体は全身を赤く発行したと同時に機体性能がぐんと上がる謎の機能がある。俺も部下たちもそれにやられた。情報じゃあの"フリーダム"も防戦一方だったらしい」

「––––––っ!」

 

 "フリーダム"という言葉にアスランの表情が歪を(ゆが)むが、ここにいるクルーは皆彼とフリーダムの間にある関係を察して何も言わなかった。興味がないわけではないが、それを聞くのは戦いが終わった後でもいいと思ったからだろう。

 

 対して、シンもまた浮かない表情を浮かべていた。それは敵ガンダムの力や新システムに対する不安からではない。

 

「…パイロットの少女のことを気にしているのか?」

 

 ボソリと呟いたレイの言葉が周囲から音をなくす。思わずどきりとしたシンに対して、ハイネとアスランは彼の言うガンダムパイロットの情報を思い返した。

 

「確か報告ではこのガンダムのパイロットは女…というか幼い少女ということだったな」

「あぁ、俺も直接声を聞いたから間違いない。シン、お前はまだ迷っているのか?」

 

 アスランの言葉にシンは痛いところを突かれたという表情を浮かべだが、やがて開き直るように内心を告白した。

 

「っ! ええ、そうですよ。これまで散々戦っておいてなんですけど、躊躇してしまう俺がいます。軍人としては情けない話でしょうがね」

 

 怒りのままに戦った。殺そうともした。

 それでもステラと再会し、その真実を知って頭が冷めた今ではあの少女のことが気になって仕方がなかった。

 

「もしかするとあの子も連合のエクステンデッドみたいに戦わされているかもしれないと…つまりはそういうことか?」

「別に…そこまでは思っちゃいないですけど、あんな小さな女の子がテロリストなんて、何か理由があるだろうなって考えていただけです」

 

 バツが悪いようにそう言ったシンに対して、アスランとハイネは顔を見合わせて、フッと苦笑した。

 

「シン、お前は優しい奴だな」

「は、はあっ!?」

「手伝いはしてやる、お前の好きにやってみろ」

 

 アスランからの思わぬ言葉にシンは動揺した。

 またいつものようにくどくどとしたお説教という名の正論の嵐が来るものだと思っていたからだ。

 

「別に俺たちだって別に奴らを殺したくて戦ってるんじゃない。殺さずに済むならその方がいいだろう」

「アスラン…」

「だが、それも可能ならの話だ。変に手加減なんかしてみろ、死ぬのはお前だけじゃない。そこのところをよく考えておくんだぞ」

「分かってますよ…!」

 

 単なる犬猿の仲…というだけではない二人の関係。

 レイとルナマリアは見慣れた光景に苦笑していたが、久しぶりのミネルバであるハイネはシンとアスランの距離感に「いつの間に仲良くなったん?」と僅かに戸惑(とまど)っていた。

 

 が、やがて気を取り直して、咳払いと共に話を戻す。

 

「ゴホン、それで話を戻すが、この新システムについてだ。この状態のガンダムの性能は……客観的に見て数倍の域に達していると推測される。俺たちの機体じゃとても追いつけない」

「……厄介だな」

「幸い、限界時間がある可能性が高いため、各自はガンダムがこのシステムを発動させた際は攻撃をやめ、時間稼ぎに徹するようにとのことだ」

 

 また、憶測でしかないがこの新システムは全てのガンダムに搭載されている可能性もある。ハイネはアスランを通じて事前にこれらの情報を伝えていたが、話し合ってみると、改めてガンダムが厄介な存在であることが理解できた。

 

「他にも奴らは新型のモビルアーマーも投入してきたりと腹の底が見えねえ。母艦は連合が叩くことになっているらしいが––––––」

 

《コンディションレッド発令、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機して下さい》

 

 入ったのはメイリンのアナウンス。どうやら遂にソレスタルビーイングを捉えたようだ。

 

「…どうやら時間らしい。とにかく俺らはガンダムの相手だ。なるべく多対一の状況を作り、連携で仕留めるぞ」

「「「了解!」」」

 

 言葉を遮られた形になったハイネは肩をすくめると、締めと一言と共に格納庫(ハンガー)へ向かった。その後はアスラン、ルナマリアが続き、部屋にはシンとレイが残される。

 

「––––––シン」

 

 シンも後に続こうと席を立った時、背にレイから言葉が投げかけられる。

 

「…死ぬなよ」

「…? ああ、お前もな!」

 

 突然の言葉に不思議そうな表情を浮かべたシンは、自分も同じように激励の言葉を返して格納庫(ハンガー)へ向かった。

 

 

 

 こうして、遂にソレスタルビーイング殲滅作戦「エンジェルダウン作戦」が始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 





気づけば70話近く投稿していたという恐怖。二次創作を書き始めていたあの頃はまだ高校生でした。

ここまでメインキャラの死者ゼロ。
ジブリールやユウナみたいなかませキャラは出ても、明確な悪人もゼロ。
群像劇にしたせいでオリキャラのキャラも薄い。

……うーん、よくこんなんでここまでこれたな。
全てはSEED人気と00人気のおかげですね、感謝!!

というわけで、早く皆が楽しみにしている第二期に話を続けたいと思います。
とはいえ、第一期最終決戦も見逃さずに。

ちなみに第二期では勢力図や人間関係がガラッと変わるのを予定しています。
立ち位置が変わったコンパスやチート盛り盛りのブラックナイト、そして新マイスター候補のあの原作キャラとか…ね。




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決戦の狼煙 ーソレスタルビーイングー


最終決戦…といいつつオリキャラの肉付け回。
次回から本格的な戦闘が始まります。
どうか第一部完結に持っていくためにモチベーションをくれぇ!!



 

 

 

 

 

 接近する敵軍の艦隊はザフトのユーラシア級三隻、ナスカ級二隻、そしてミネルバ。また、地球軍のガーディ・ルー級二隻だ。

 だが、これだけで攻めてきたというわけではないだろう。あくまで主力の部隊であり、後方には援軍が控えている可能性が高い。

 

 対するクラウディオスは、資源衛星群を(かく)(みの)に利用しつつ後退し、連合・ザフト同盟軍との距離を保った。資源衛星群に身を(ひそ)ませ、それら巨大な岩石を障壁(しょうへき)代わりにしたのである。

 

 現状のソレスタルビーイングの弱点は母艦であるクラウディオスだ。今回の戦いは全てのガンダムが出撃する必要があり、なおかつフブキも戦闘に集中しなければならない。変に母艦を気にし過ぎてマイスター達が満足に戦えなくなることを避けるためのフブキの判断だった。

 

「…そっか、私たちを守ってくれてるんだね。フブキさん」

「仕方ないっスよ。トレミーには大した戦闘力がないっスから」

「…足手纏い」

 

 マイスター達が発進準備を行なっている中、クラウディオスの艦橋(ブリッジ)では残されたクルー達が各々自分の思いを吐露(とろ)していた。

 クラウディオスに残ったのはウェンディ、ヴァイオレット、シドの三人。バッツとバレットの二人はGNアームズの方で待機している。唯一のクラウディオスの武装を兼ねる強襲用コンテナとして使える為、コーディネーターかつ元軍人の二人がもしもの時のために備えていた。

 

「あーあ、私もフブキさんみたいにもう少し頭がよければ、フブキさんの仕事ももう少し負担できるんだけどなぁ」

「無力は辛いっスね。自分も出来ることならバッツさんのお手伝いがしたかったっスけど」

 

 己の力量不足を嘆くように二人がぼやく。口には出さないがヴァイオレットも同じ気持ちだった。

 

 世界を敵に回してまで活動するソレスタルビーイングの実行メンバーであるクラウディオスチームだが、その人員構成は極めて特殊かつ極端(きょくたん)である。

 

 まず年齢層が若過ぎる。

 構成員の半分以上が10代〜20代であり、マイスターのフェイトや戦況オペレーターのヴァイオレットに限ってはまだ14歳と15歳である。正規軍ならあり得ないことだろう。

 

 とはいえ、その特殊さに相応した高い能力を持っていることも確かだ。各々が他者がそう持ち得ないスキルを持っており、ヴェーダが直々に選抜したことからその能力は疑いようもない。

 

 しかし、その一方で一部の人間に大きな負担がかかっているのも確かだ。

 その代表例がフブキ・シニストラであり、ガンダムマイスターとクラウディオスチーム全体の指揮官も兼ねる彼女には、その能力に比例して多大なオーダーがヴェーダから求められていた。

 

「このままじゃ流石のフブキさんも倒れちゃう……フェイトも最近見てて危なっかしいし」

 

 ウェンディの見る限り、クルーの中でも男性陣は問題がないように見える。少々女々しいところのあるシエルはともかく、軍人上がりのアキサムやバッツはいつも冷静沈着で頼れる兄貴分だ。

 

 対して、最年少でここのところ様子のおかしいフェイトや疲れの表情を見せるようになったフブキは(はた)から見ていて非常に心配である。

 

「この戦いが終わったら、皆でパーティでもする?」

「いいっスね、それ。自分が奢りますよ」

「そういや、シドって実家でかいんだっけ?」

 

 ウェンディは彼の席に近づいて()いた。シドはちらりと一瞥(いちべつ)すると視線を戻し、何でもないように答える。

 

「まぁ、そうっスね。今は知りませんけど…」

「ふーん、ご両親は?」

「さぁ? 生きているんだか死んでいるんだか。ブルーコスモスの思想は俺には合わなかったですし、今さら向こうも俺に興味なんかないと思うっスよ」

 

 ウェンディの問いに答え、シドはどこか遠い目をして言った。

 どこか気まずい雰囲気になり、ウェンディも自らのことを告白する。

 

「…私たちは元々孤児で、たまたま能力を見込まれて組織で拾ってもらったの……」

「…生きているなら大切にしたほうがいいっスよ、そういう人は」

 

「…うん…先生、元気にしてるかな」

「………だといいッスね」

「………」

 

 何を話しても気まずい雰囲気に変わりはない。こう言った雰囲気は苦手なウェンディはどうにか空気を変えようと考え、諦めて肩をすくめた。

 

「…だめだね。やっぱり、昔話はあんまり盛り上がらないなぁ」

「そりゃ、"ここ"にいるんだから当然っスよ。そうでもなきゃやってられないさ」

 

 ソレスタルビーイングは加入した時点でこれまで経歴や人物データが破棄され、「公には存在しない人間」として扱われることになる。世界を変えるだなんて夢想的な目的のためにこれまでの自分を捨てられる人物が抱えている闇の深さは、考えるまでもない。

 

「フブキさんが…」

「?」

 

 そこで静かに言ったのはこれまで黙っていたヴァイオレット。彼女は通信画面から顔をこちらに向け、フブキからの受け寄りを口にする。

 

「"大事なのは過去じゃなくて未来。過去は変えられないけど、未来は変えられるから"…って」

「それは…なんとも」

「フブキさんらしいっスね」

 

 そう言って二人は笑い合った。ヴァイオレットもまた、その笑みにつられてその表情を緩める。

 

「じゃあ、私たちも未来のために戦いますか!」

「えぇ、まずは俺たちが生き残らないと…!」

「…うん!」

 

 そうして三人はあらためて決意を新たにする。

 

〈…ま、そういうことだ。罰を受けるにはまだ早い〉

〈ああ、ワシらがここ死ぬわけにはいかんからな〉

 

 その姿をコンテナから見守っていた大人達もまた、若者たちに触発され、未来への決意を胸に戦闘開始へ備えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、既に格納庫《ハンガー》に向かっているフブキを除く、三人のガンダムマイスター達はパイロットスーツに身を包み、格納庫(ハンガー)へ続くキャットウォークを移動していた。

 

(連合とザフトの同盟軍か…計画通りとはいえ)

 

 ブルーコスモスの元生体CPU実験の被験者だった過去を持つシエルは、かつての仲間達があれだけ()み嫌っていたコーディネーターと組んで自分を殺しにくる展開に少しの嫌気を感じていた。

 

 勿論、それだけの変革を(うなが)すダメージを与えてきたのはシエル達であるし、その変化自体は喜ばしいことだ。これ以上、自分のような存在が生まれなくなるのだから。

 それでも、コーディネーターを殺すために人を勝手に誘拐・洗脳・改造しておいて、不利を悟れば自らの利益損得のためにあっさりと思想を(ひるがえ)した怨敵(おんてき)の変貌に思うところがないわけでもない。

 

「なぁ、お前ら…」

 

 沈黙の時間を破ったのはアキサムだった。

 振り向くことなく先頭を進む彼の言葉に他のマイスター達も耳を(かたむ)ける。

 

「仮に俺らがここで死んだとして、奴等は戦争根絶なんてできると思うか?」

 

 それはアキサムがずっと抱いてた疑問。

 計画通り、ソレスタルビーイングへ敵意を集中したことにより、連合とプラントは停戦し、対ソレスタルビーイングの元軍事同盟を結んだ。C.E.始まって以来、ずっと歪みあってきたナチュラルとコーディネーターが手を結んだのである。

 

 だが、果たしてそれで戦争は根絶できるのか。

 ナチュラルからコーディネーターへの悪意の根は深く、それは逆もまた(しか)り。二年前までは互いを絶滅させんと戦争をしていた仲である。冷戦状態の国同士が手を取り合ったのとは訳が違うのだ。

 

「ガンダムマイスターになってなお、俺は時に血のバレンタインのことを思い出す。家族を、愛する人を奪ったナチュラル共を憎む心が今でも捨てられねぇ」

 

 情けない話だろ?、そう言ってアキサムは自嘲(じちょう)する。

 

 だが、誰も彼の気持ちを否定できない。

 組織に所属する者は皆心に傷を()っており、戦争の犠牲者達ばかり。シエルにしてもフブキにしても何かを憎む気持ちは簡単に捨てられないのは同じなのだ。

 

「けどよ、ソレスタルビーイングに入って、いろんな奴と出会った。中にはナチュラルも沢山いた。お前らみたいにな」

 

 ナチュラルだろうとコーディネーターだろうと良い奴はいる。

 そんな当たり前のことを昔の自分は、そして世界は理解していなかった。

 

「そうだね、僕たちはみんなバラバラの集まりだけど、目指す目的は一緒。そんな当たり前の話なんだ」

 

 元ザフト軍人のアキサムやバッツ、ナチュラルを多く殺害したモビルスーツを開発したバレット達コーディネーター。

 

 元連合の強化人間であるシエルやその才能ゆえにコーディネーターの反感を買っていたフブキ、ブルーコスモスの思想に家族を歪められたシド達はナチュラル。

 

 そして、元は平和に暮らしていたのにも関わらず、戦争によって歪められたヘルシズ姉妹やフェイトのような被害者の子供達。

 

 ソレスタルビーイングに集まったのはみんなみんな経歴や人種がバラバラの集まりだが、戦争根絶のために団結し、前を向いて生きている。

 

「そんな世界が未来に待っているなら、俺はここで死んでも良いと思ってる。戦争根絶のためとはいえ、俺の手も多くの犠牲者を生んでいるのは確かだからな」

「……うん」

 

 アキサムの言う自分たちは憎まれて当然だという覚悟。自分にはそれが足りていなかったとフェイトは己自身を振り返る。

 

「だが、俺たちはまだ世界の答えを聞いていない。俺たちの行った武力介入が本当に正しく世界に働いたのかをな」

「……本当に戦争が根絶するまで、僕たちは戦い続ける」

 

 アキサムの言葉をシエルが引き継ぐ。

 その言葉はフェイトの胸に大きく突き刺さった。

 

「お前はどうだ? フェイト」

「……私は」

 

 フェイトに二人のような立派な覚悟はなかった。

 オーブで家族を失ったあの日、戦争に対する憎しみとガンダムに対する信仰が今のフェイト・シックザールを形作っているに過ぎない。

 

 しかし、これまでの数々の戦いと故国への帰郷、兄との戦場での再会、仲間達の言葉などが彼女の心に変化を(うなが)していた。

 

「戦いの中で生み出せる平和があるなら、私は–––––」

 

 だが、そんな決意への思いは艦内(かんない)を揺らす突然の衝撃によって()たれた。

 

「なんだ!?」

「どうやら同盟軍の攻撃が始まったらしい。働き者だぜ、まったく」

 

 フブキに聞かされていた時間よりも早い。どうやら敵はこちらの想定を上回ったらしい。あるいは……。

 

「フェイト、帰ってきたらさっきの答えを聞かせてくれ。約束だ」

「…うん」

 

 アキサムの言葉に頷き、フェイトも己のガンダムの元へ向かうため、キャットウォークを()る。

 それはエンジェルダウン作戦の始まりの号砲であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

「なに、どうしたの!?」

 

 クラウディオスの格納庫(ハンガー)の中、ガンダムメティスのコックピットへ移ったフブキ・シニストラは突然の衝撃にすぐさま艦橋(ブリッジ)へ通信を繋いだ。

 

〈フブキさん、同盟軍からの攻撃です。おそらくは背にした衛星を反対側から狙い撃たれたのかと…!〉

「まさか…!」

 

 そして、届いたのは敵襲の知らせ。

 衛星の影で敵部隊を待ち伏せし、奇襲するというフブキの策は失敗に終わったらしい。

 だが、どうにもおかしい。どうやってこの隠れ場所を見つけたというのだ。見つかるにしても早過ぎる。

 

(私の想定よりも早い。居場所が割れていた? いや、最初から尾けられていたというの?)

 

 二人の戦況オペレーターが必要な情報をフブキに伝えていく。その声を聞きながら、フブキはパイロットスーツに収めた身体がじわりと汗ばんでいるのを感じた。

 

(駄目…こんな時こそ落ち着いて考えないと!)

 

 答えは簡単、緊張しているのだ。それも仕方がないだろう。

 そもそもフブキの本職はモビルスーツパイロットであり、戦術指揮などはできるからやっているに過ぎず、軍隊での訓練経験はなかった。こちらに攻めてくる職業軍人に比べて、いささか戦術の幅が狭まるの当然のこと。

 

 そして、それはウェンディやヴァイオレット、シド達も同じである。彼等もヴェーダによって選ばれ、スカウトされた()()()の乗組員だが、それ故に戦闘経験などないし、訓練経験もない。これが2回目の戦いなのだ。

 

〈センサーに反応、モビルスーツ三機…いえ、反応消失しました!?〉

 

 ウェンディからの報告と共に爆発音が(ふね)を揺らす。

 

「消失…まさかっ!」

 

 フブキは躊躇うことなくメティスをカタパルトから発進させた。一刻も早く状況を理解する必要があったからだ。

 

 暗黒の宇宙へテールブースターを装備したメティスが飛行形態で飛翔する。

 すると、すぐさまビームが飛んできた。上がった機動性で回避し、フブキは攻撃の仕立人を睨みつける。

 

 データ照合はない…が、類似したモビルスーツとしてGAT-X207 "ブリッツ"が存在する。ブリッツといえば、ヘリオポリスでザフトに強奪された地球軍のモビルスーツであり、その特徴は……。

 

「やはりミラージュコロイドっ! 条約違反機を堂々と…流石はファントムペインね!」

 

 眼前の機体はフブキの問いに答えるように姿を消すと、こちらが姿を見失ったと同時に姿を現し、ビームライフルでクラウディオスへと攻撃を加える。攻撃自体は展開されたGNフィールドによって阻まれたものの、その卑怯とも言える戦術は戦争と分かっていてもフブキの(かん)(さわ)った。

 

「このっ、よくも舐めた真似を!」

 

 敵機はまたも姿を消したが、それは読めている。フブキはメティスの追加武装であるミサイルユニットを展開すると、そこからミサイルの雨を面で覆うように浴びせる。

 流石に敵機も迎撃のためにミラージュコロイドを解除したが、それが命取りとなる。動きを止めたその瞬間、クラウディオスのコンテナから直接放たれたガンダムセレーネによるGNメガランチャーによる砲撃がその機体を飲み込んだ。

 

〈フブキさん!〉

「敵に捕捉されたわ! ガンダム各機出撃、敵モビルスーツが来るわよ!」

 

 同時にクラウディオスを新たな資源衛星の影に隠すようにシドに指示を出し、四機のガンダムを展開させて迎撃体勢を整える。

 

 やがて、大きな爆発と共に爆散した資源衛星跡を中心に、左右からザフト・連合両軍のモビルスーツ部隊が現れる。その数にしてGN-X26機、ザク6機、グフ4機、ウィンダム10機。更に後方には2機のザムザザーの姿も見られた。

 

 こうして、宇宙(そら)を舞台にしたソレスタルビーイングとザフト・連合同盟軍による直接対決が始まったのである。

 

 

 

 

 

 





>NダガーN
ファントムペインの誇る忍者。核動力による無制限ミラージュコロイドによって奇襲を行った。

>ユニウス条約
対ソレスタルビーイングに限り仕方ないよね?と両者が合意した(元々無視してたけどね)
なのでデスティニーもジャスティスもミラージュコロイドも公に使い放題。GNドライヴに勝るかどうかは別として。




>オリキャラのキャラ薄さ
他の陣営を書いているとやっぱりオリキャラが原作キャラに負けちゃうというのは自分の文章力の無さ…というか書き方のせい。コイツいる? 刹那達の方が良くね? と思う人たちは多分正解です。
とはいえ自分のキャラなので愛着はあるし、変に刹那達を出して設定変えるのも嫌だったので、どうか受け入れてくれる一部の猛者達は評価・お気に入り登録等で応援をお願いします。


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エンジェルダウン作戦Ⅰ


誤字報告ありがとうございます。
どうしても間違えてしまうもので、非常に助かります!!


 

 

 

 GN-Xが一機、爆発する。

 それは衛星裏からソレスタルビーイングの母艦を奇襲しようとしていたのだが、逆に衛星の影から現れた白緑(びゃくりょく)の機体の攻撃によって失敗に終わったのだ。

 

 撃破したのはガンダムセレーネ。

 資源衛星を先回りし、GNメガランチャーの一撃を加えたセレーネは、続けて粒子ビームを発射したが、それらは着弾の(ほのお)を上げることなく、敵モビルスーツの前に常闇(とこやみ)へと消えていった。

 それでもシエルは粒子ビームを放ち続ける。

 

「ここから先には行かせないよ…っ!」

 

 シエルに与えられた任務(ミッション)はクラウディオスへ擬似GNドライヴ搭載機を近づけないことであり、敵の殲滅ではない。耐久戦ならオリジナルGNドライヴを持つこちらに分があり、敵の擬似GNドライヴ搭載機には限りがあるからこその作戦である。

 

 だが、シエルは素直にその任務を守るつもりはなかった。

 可能なら敵機を全て撃墜させる。それが己の信念と覚悟を貫くための唯一の道筋であるから。

 

 とはいえ、相手は連合・ザフトそれぞれのエースパイロットが所属している。性能差もほとんどない。隙の多いGNメガランチャーに当たってくれるはずもなく、無数のビームがGNフィールドに着弾していく。

 

 だからこそ、シエルは躊躇いなく一つ目の隠し札を切った。

 

「今だ、食らえっ!」

 

 同盟軍との決戦にあたり、各ガンダムにはバレットが急増で用意した新武装が装備されている。それぞれが各ガンダムの戦術の幅を広げるものであり、おいそれと使えないトランザムシステムの代わりの切り札であった。

 

 ガンダムセレーネに追加された武装は大きく二つ。シエルはそのうちの一つであるサイドアーマーに仕込(しこ)まれたGNミサイルを一斉に発射した。

 

 GNミサイルは従来のモビルスーツに使われていた弾薬と異なり、内部に小型のGNコンデンサーを内蔵し、着弾と同時に内部に粒子を注入して破裂させる仕組みとなっている。

 装甲自体にダメージを入れられないPS(フェイズシフト)装甲とは相性が悪いものの、幸いにしてGN-Xは非PS装甲機であり、ミサイルは逃げ遅れたGN-X二機へ突き刺さった。

 やがて注入された粒子により装甲が膨張(ぼうちょう)し、爆発。GN-X二機の右肩と左肩をそれぞれ(とぐ)り取った。

 

 しかし、シエルの顔色は晴れない。

 想定ではこの隠し札で少なくとも一機を持っていくはずだったが、流石は同盟軍が誇る精鋭というべきか、敵も機体に命を乗せており、そう簡単に撃墜されてはくれない。

 

 仕返しとばかりに数々の熱戦が放たれ、展開したGNフィールドに着弾していくが、その内の数発はフィールドを抜けてセレーネの装甲に直撃した。

 

「くっ…」

 

 揺れるコックピットの中、シエルはちらりとコックピットパネル…そこにあるボタンへ目を向ける。

 

「トランザムにはまだ早すぎる…!」

 

 仮にその機能を解放すればたちまちセレーネは敵部隊を圧倒するだろうが、それだけではダメなのだ。求められるのは完全なる殲滅。それができなければ、粒子不足による性能が低下したセレーネでは生き残ることは出来ない。

 

 まさに諸刃(もろは)の剣。

 それを使うには、あまりにも早すぎる。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 ザフト軍モビルスーツ部隊はジュール隊とザラ隊に分かれ、資源衛星の陰を移動しつつ、左右から敵艦との距離を()めつつあった。

 こうして進めば、どちらかの部隊がガンダムとの戦闘に入るはずであり、仮に両方が戦闘状態に入ったとしても、敵戦力を分断できたのなら問題ない。

 

 眼下には、大きめの資源衛星を盾に身を隠しているだろう敵の青白い機体が視認(しにん)できる。このような場所、ファントムペインによるミラージュコロイド戦術がなければ見つけることは困難だっただろう。

 

〈アスラン、敵艦を捕捉しました〉

 

 アスラン・ザラ率いるその部隊には、ミネルバに所属していた四名に加え、ハイネの他にもう二人のパイロットが配属されることになった。GN-Xのパイロットに選ばれるだけはあり、経験豊富な優秀なパイロットだ。

 先行するのはジャスティスと二機のデスティニーであり、その後にルナマリアとレイのGN-X。その更に後ろに二機のGN-Xがついて来ている。

 

 だが、そんな彼等の布陣に対してガンダムは最後まで姿を現さない。このまま敵戦艦がこちらの武装の射程内に入るまでもう少し……。

 

〈ガンダムはイザーク達の方か……?〉

「よし、君たちは母艦を頼む。俺たちはイザーク達の方へ–––––––」

 

 ならばとアスランが指示を出そうとした時、レーダーに敵戦艦の陰から高速で接近する何かが反応する。

 

「散開っ!!」

 

 まず最初に見えたのはこちらを飲み込まんとばかりの粒子ビーム。即座にアスランは散開の指示を出したものの、ミネルバ隊以外の一機のGN-Xは回避が間に合わずに飲み込まれる。

 

〈アイツら…くそっ〉

〈今は戦いに集中するんだ…くるぞっ!〉

 

 次々と放たれる粒子ビーム。それを放った機体がようやく姿を現した。

 黒を基調とした戦闘機型の機体。まるでセイバーのような可変型モビルスーツのそれを想起(そうき)させるその機体は真っ直ぐにこちらへ突っ込んでくる。

 

「新型か…!?」

〈いや、あれは……ガンダムだっ!〉

 

 見覚えのない姿にみな敵の新兵器を警戒していたが、ハイネはその機体形状に既視感を覚えていた。案の定、新型モビルアーマーと見られた敵機体は変形し、やがてジャスティスのように巨大なバックパックを背負った白黒(モノトーン)のガンダムに姿を変える。

 

 そして、ガンダムは見慣れた大剣をバックパックから取り出してすれ違い様にGN-Xへと振り抜く。狙われたパイロットは即座にビームサーベルで防ごうとしたものの、敵は冷静にその刃を見切り腕ごと胴体を両断した。

 

「コイツ…!!」

 

 一瞬にして失われた命。

 一時的とはいえ、預かった部下達を易々(やすやす)と死なせてしまったことに怒りを覚えながらもアスランはビームライフルを向けるが、 敵はまるで背中に目があるかのように回避する。アスランはその操縦センスに舌を巻いた。

 

 すると、ガンダムは再び機体を変形させ、そのままミネルバ隊に背を向けて離脱していく。

 

〈逃げる気!?〉

「いや…あの方向は…」

 

 シンやルナマリアが遠ざかる背中に向けてビームを放つが、ガンダムはそれらを紙一重(かみひとえ)で回避していく。

 対して、アスランとハイネは一瞬罠かと疑ったものの、やがてガンダムの狙いに気が付いた。

 

「まさか狙いはミネルバか!?」

〈くそっ、そりゃそれが一番だけどよ…!〉

 

 つまり、こちらの戦術と同じだ。

 いくらこちらがガンダムを圧倒したところで、帰るべき母艦を失ってしまえば全てが終わりである。そして今、ミネルバ等ザフト軍の戦艦には非GNドライヴのモビルスーツしか存在しない。壊滅させることなど余裕だろう。

 

「全員、すぐにミネルバに–––––––」

 

 アスランがシン達に指示を下そうとしたその時、七時の方向から放たれたビームがそれを(さえぎ)る。

 

「新手か…!」

 

 視界に入ったのは見慣れた緋色(ひいろ)の可変型ガンダム。"羽付き"と呼ばれるそのガンダムは飛行形態のまま二門の粒子ビームを放つと、背部に備えられたブースターユニットから無数のミサイルを放つ。

 

「シンっ!」

〈分かってますっ!!〉

 

 アスランとシンは放たれた弾幕にデスティニーとジャスティスで入りこみ、展開したビームシールドで粒子ビームを防ぎ、ミサイルはフェイズシフト装甲で無効化した。

 

 そして、アスランは通信を他の面々に繋げて言う。

 

「羽付きは俺とシンが抑える。ハイネ、レイ、ルナマリアはミネルバを頼む!」

〈アスラン!?〉

 

 ビームライフルによる攻撃はガンダムを捉えることができないが、あちら側の攻撃もジャスティスのビームシールドを抜けてくることはない。少なくとも高機動による近接戦闘以外ではこちらが致命傷を負うことはないだろう。

 行動するなら敵の攻撃が甘い今のうちだ。母艦であるミネルバをやらせる訳には行かない。

 

「合わせろ、シン!」

〈ああもう、やってやるよ! ルナ達はミネルバを守ってくれ!〉

 

 シンのデスティニーが光の翼を展開して"羽付き"を追う。その速度は飛行形態のガンダムのスピードには遠く及ばないものだったが、しつこく攻撃を加えるシンの動きは敵パイロットの意識をそらすに十分なものである。

 アスランは高速に動くガンダムの動きを見極め、一瞬のタイミングで"ハイパーフォルティスビーム砲"の一撃を放つ。放たれたビームはガンダムのミサイルユニットを穿(うが)ち、ガンダムはたまらず用済みになったユニットをパージした。

 

〈分かった。無理はするなよ、お前ら!〉

 

 お返しとばかりに放たれた粒子ビームがジャスティスの左肩を()がすが、その間にハイネ達はモノトーン色のガンダムを追ってミネルバの方へと向かう。

 当然、"羽付き"ガンダムはそれを追おうとしたが、今度はアスランとシンがその行手(ゆくえ)を阻んだ。

 

「悪いが、ここで俺たちに付き合ってもらうぞ」

〈ミネルバには近づけさせない!〉

 

 アスランはシンの援護のもと、連結したビームサーベルを片手にガンダムへ斬りかかり、ガンダムのシールドとぶつかって激しいスパークを()らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 

 背部ユニットから放たれた二本の粒子ビームが暗黒の宇宙(そら)疾走(しっそう)した。それらは真っ直ぐに同盟軍の戦艦群に突き進み、ユーラシア級一隻の艦橋(ブリッジ)を貫通、爆発四散させる。

 

 一射の元にそれを成したのは、遠方より長駆(ちょうく)してきたガンダムサルース。それに強化兵装であるトゥルブレンツユニットを装備した形態であるガンダムサルーストゥルブレンツによるものであった。

 先程の粒子ビームは背部のGNキャノンによるものであり、大型GNコンデンサー搭載によってその火力は戦艦を撃沈してなお余りある。

 

 メティスをも凌ぐスピードと戦艦を撃破する火力。大した火力と戦果であると言ってよかった。しかし、それは同時に戦艦に乗っていた兵士たちの命を百人単位で消滅させたことに他ならない。

 

 後悔はしていないが、罪の意識はある。アキサムは敵兵とはいえ同胞を(ほうむ)ったことに対し、歓喜と達成感を覚えるほど、単純な精神構造をしていない。

 

 それでもやるしかない。ソレスタルビーイングの理念を実現するため、自分たちの存在意味を証明するため。

 アキサムは重くなったトリガーを引き、次々と攻撃を加えていく。その攻撃でナスカ級一隻が沈み、ガーディ・ルー級を撃沈寸前まで追い込んだ。

 

「…今は撃つしかないんでね。悪いが、容赦しねぇぞ」

 

 同盟軍艦隊はようやくサルースの襲来を認識したのか、バルカンやビーム砲といった艦載火器で応戦してくるが、トゥルブレンツの加速性を手に入れたサルースに命中することなく、(むな)しく宇宙へ消えていった。

 

「いけよ、ファングっ!」

 

 アキサムは機体をモビルスーツ形態に変形させると、サイドスカートアーマーからGNファングを射出した。ファングから放たれる粒子ビームが次々とミサイルを撃墜し、隙を見て放つGNキャノンの砲撃が戦艦火器を破壊していく。

 

 たまらず同盟軍も残存のモビルスーツ部隊を発進させるが、自由自在に動くGNファングの前に足止めを食らっている。旧式のモビルスーツでありながら撃墜されていないというのは流石エースと言ったところだろうか。

 

「……ん?」

 

 すると、GNファングによる攻撃から抜けてきた機体が二機。白と赤の機影がビームを放ちながらサルースに向かって近づいてきた。

 即座に放たれたビームをかわし、振り下ろされたビームサーベルをバスターソードで受け止める。

 

「インパルスにセイバー…? そういやまだ残ってたっけな」

 

 向かってきたのはセカンドステージシリーズの二機。てっきりミネルバのパイロットはGN-Xに乗り換えたものだと思っていたが、使える戦力は全て使うつもりなのだろう。

 

 とはいえ、ガンダムの相手ではない。

 アキサムはインパルスの攻撃をパワーに任せて強引に弾き返すと、脚部のビームサーベルで右腕を斬り上げ、蹴り飛ばす。

 その隙をついてセイバーがビームサーベルで突っ込んでくるが、アキサムはバスターソードで受け止めた。

 

「動きが若いな…ルーキーか?」

 

 動きはいいが、連携がなっていない。これはアカデミーを卒業した新兵にありがちな癖の一つだ。実践経験が少ないために動きも読みやすく、アキサムには一眼で分かった。

 

 だが、だからといって手加減はしない。残してきたクラウディオスや他のマイスター達のとこもあり、アキサムとてこんなところで時間を取られるわけにはいかないのだ。

 

 (つば)()り合いになっていたサルースとセイバーだったが、やがて四方八方から飛来した金属片がセイバーの右腕、左腕を、頭部を、翼を貫いた。その正体は敵モビルスーツを全て蹴散(けち)らし、帰還したGNファングである。

 

「………悪いな、恨んでくれて構わない」

 

 トドメとばかりにフェイズシフトダウンした機体をバスターソードで両断。爆散するセイバーをバックにアキサムは棒立ちのインパルスの上半身をGNキャノンで吹き飛ばしたが、インパルスからコアスプレンダーに切り離され、パイロットはゆらゆらと撤退していった。

 

 それをあえて見送ったアキサムは一瞬の隙もなく背部のGNキャノンで残存したモビルスーツ部隊を撃墜していく。デスティニーやジャスティスでも不可能だったガンダムの攻撃をザクやグフで止められるはずもなく、数分も立たずに壊滅した。

 

 それでもアキサムが攻撃の手を緩めることはなく、GNファングを射出。多くのビームが各戦艦の火器を破壊し、装甲を(えぐ)っていく。

 

「これで終わりだ…!」

 

 アキサムがミネルバへ向けたGNキャノンのトリガーを引く指に力を込めたそのとき、どこからか放たれたビームがトゥルブレンツユニットへ直撃した。

 

「くそっ、もう来やがったか…」

 

 続けて放たれた粒子ビームが次々とトゥルブレンツユニットに着弾していく。このままでは不利だと判断したアキサムは素早く背部のユニットをパージした。

 

 攻撃したのはこちらを追ってきたと思われるオレンジ色のデスティニーと二機のGN-X。どうやらモビルスーツ隊との戦闘に時間を取られすぎたらしい。

 

 だが、厄介な相手であるジャスティスともう一機のデスティニーはフフギが押し留めてくれている。この程度の戦力差なら、やってやれないことはない…!

 

「いいぜ、付き合ってやるよ。ハイネ・ヴェステンフルス…!」

 

 放たれる粒子ビームをバスターソードで防ぎながら、アキサムはかつての部下である同胞へ機体を加速させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





>シエル対スウェン率いるGN-X部隊(10機)
セレーネの追加武装はGNミサイルともう一つ。場合によってはGNアームズとドッキングする選択もあるが、数の差が大きく、奥の手であるトランザム込みでもやや劣勢の状況。

>フフギ対アスラン、シン
メティスの追加武装は通常ミサイルコンテナとテールブースターのみ。両者ともにトランザム、種割れを残しており、互いに本気ではない状況。

>アキサム対ハイネ、レイ、ルナマリア
サルースの追加武装はスローネアインに装備されたトゥルブレンツユニットの改良型。詳しくは第一部完結後に設定上げる予定。
なお、ユニット自体はハイネ達の奇襲で破棄されたために素の状態で戦う。

>トレミー、フェイト対ジュール隊、ノアローク隊
アステリアの追加武装も含めて、こちらは次話にて触れていきます。

>インパルス
ミネルバとは別型のインパルス。
パイロットは功績を求めて志願した月光のワルキューレさんだが、性能差を前に完敗。機体特性のお陰でなんとか生き残った。

>セイバー
乗り手の居なくなったミネルバから移された。
パイロットはアグネスに誘われて志願した無名の大型ルーキー。腕は悪くないが経験不足だった為に達磨にされるまでもなく両断されて撃墜された。

>カオス、ガイア、アビス
描写されていないが後方支援部隊に投入されている。
ファング相手になんとか生き残り、その後はハイネ達に任せて現在は傷ついた母艦を守る為に護衛している。



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エンジェルダウン作戦II


試験、就活、卒論…その他諸々が私を苦しめる。
でも、なんとか第一期完結はさせるのでそのつもりで!!



 

 

 

 ガンダムサルースがトゥルブレンツユニットを()って、敵艦隊へ攻撃を仕掛けていた頃、ソレスタルビーイング側の母艦であるクラウディオスも同盟軍による攻撃を受けていた。

 

 攻撃しているのはザフト軍ジュール隊の面々である。イザーク、ディアッカ、シホのジュール隊のエース陣に加え、他部隊から派遣されたザフトのエースパイロット達、合わせて10機近くのGN-Xが次々とクラウディオスに襲いかかっていた。

 

 対して、クラウディオスは追加武装を(ほどこ)したガンダムアステリアを発進させ、艦自体にはGNフィールドを展開し、近づいてきた敵を強襲用コンテナで迎え撃つ姿勢を見せる。

 

 クラウディオスの護衛兼接近する敵の迎撃を命令(ミッション)されていたフェイトは、強化されたアステリアを駆って敵モビルスーツ部隊と相対していた。

 

「遅い…!」

 

 高速で()いだGNソードがGN-Xの右腕をライフルごと切り飛ばす。フェイトは更に蹴りを加えたが、それ以上の追撃を行うことなく距離を取った。

 その判断は正しく、損傷した仲間を(かば)うように敵モビルスーツの弾幕が激しくなる。やはり敵の数は多く、一度撃てばそれが十倍になって帰ってくるほどの戦力差だ。

 

 しかし、フェイトはその戦力差相手に対等に戦っていた。

 放たれた粒子ビームを冷静に見極め、ペダルを踏んで回避する。本来ならば避けきれないほどの弾幕なのだが、今のアステリアにはそれを可能にするだけの力があった。

 

 ––––––ガンダムアヴァランチアステリアダッシュ

 

 それが今のアステリアを表す名称である。

 高機動用追加ユニット「アヴァランチ」と宇宙戦闘用ユニット「ダッシュ」を装備しており、同盟軍との戦い向けてバレットが不眠不休で仕上げた最終決戦仕様のガンダムアステリアだ。

 

 各部にGNバーニアや大量のGNコンデンサーを搭載され、アステリアの強みであった運動性や機動性が向上したほか、脚部の「ダッシュユニット」にはGNクローやビームサーベルなどが装備され、格闘性能も強化されている。

 

 本来ならかわしきれない攻撃をかわし、追いつけない敵機を簡単に追い越せる。今やアステリアの性能はトランザムを使わなくともGN-Xの一段階上を行っていたのだ。

 

「高速移動モードから高機動モードへ移行…!」

 

 数の差などもろともしないアステリアの猛攻を前にたじろぐような様子を見せる敵部隊だが、対照的にパイロットのフェイトの表情に余裕(よゆう)の色はなかった。

 

(残り60%…早く勝負を決めないと……!)

 

 気にしているのはアステリアの粒子残量だ。

 優れた機動性と運動性能を持つアヴァランチアステリアダッシュだが、それに比例して消費する粒子の量も多い。それこそ、発進の一時間前から粒子をチャージする必要に迫られるほどには……。

 今のところはユニットに搭載されたGNコンデンサーによって誤魔化(ごまか)しているが、奥の手であるトランザムシステムの使用も視野に入れるなら、これ以上の必要粒子の消費は避けたいところである。

 

 しかし、斬っても斬っても敵の数は減らない。

 機動性の向上したアヴァランチアステリアダッシュの攻撃は確かに敵にダメージを与え続けているが、全体の数を通して見ればまだまだ。

 

〈フェイト、大丈夫!?〉

「大丈…夫っ!」

 

 ウェンディの通信に応えるフェイトだが、その息は荒い。そこには連戦に続く連戦に加え、多くの敵機に対応しなければならないことへの疲労もあるのだが、それだけではない。

 

 フェイトは出撃前のバレットの言葉を思い出す。

 

『コイツは確かに今のワシに出来る最大の強化兵装だ。敵の擬似GNドライヴ搭載機も圧倒できるだろう。けど、それだけに大きな欠点がある』

『……欠点?』

 

 思い返せば、バレットはやけにアヴァランチダッシュの使用に反対し、GNアームズとの合体を進めていた。

 ただ、GNアームズは強襲用コンテナとしてクラウディオスの護衛に当たるために使用できなかったため、前者を採用するに(いた)ったのだが…。

 

『コイツ自体、相当のじゃじゃ馬でな。GN粒子のおかげでパイロットへの肉体的な負担は軽減できるが、操縦の方はそうはいかない』

『……というと?』

 

 どこか申し訳なさそうにバレットは言った。

 

『性能に反して、OSの方が未完成なんだ。お前さんはヴェーダに認められた優れたマイスターだが、それでもコイツを満足に操るのは相当難しいと思う……本当にすまない』

『いえ、大丈夫です。ありがとうございました』

 

 あの時は確かにそう言ったが……。

 

(これは…確かにっ)

 

 確かに相当のじゃじゃ馬だと思う。

 数々の強敵に相手にしながらの複雑かつ素早いAMBAG操作はガンダムマイスターであるフェイトでも難しい……けれど。

 

「でも、だからって!!」

 

 敵GN-Xがビームライフルを構えるが、それを先読みしたフェイトはアヴァランチアステリアダッシュの速度に任せて背後に回っていた。そのまま、GNソードで胴体を両断する。

 

 とはいえ、敵の数は8機と未だに多い。

 しかし、その内2機は手負(てお)いである。フェイトは(ひる)むことなく前進のペダルを踏んだ。

 

「こんなところで、負けるもんかぁぁ!」

 

 フェイトの中で何かが弾ける。

 同時にGN粒子最大開放モードになったアステリアが敵の視界から消えた。

 クリアになった視界、無意識下に向上した反応速度がアヴァランチアステリアダッシュの複雑な操縦を(いと)も簡単に可能にする。

 

 ––––––– 私たちが生き残る! そして、戦争をこの世から…!

 

「だから今は…貴方たちが邪魔だ!」

 

 そうして、覚醒したフェイト、そしてアステリアの猛攻が敵GN-X部隊へ襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 眠れる獅子を目覚めさせてしまったのか…。

 鬼神と化したガンダムを前にザフト軍ジュール隊の面々は逆に追い詰められていた。

 

 ミネルバのザラ隊を新時代を担う期待のルーキー部隊とするのなら、ジュール隊はベテランパイロットを集めた堅実な部隊と言える。

 隊長のイザーク・ジュールを始め、所属するパイロットは皆あのヤキン・ドゥーエを生き抜いた猛者(もさ)たちばかりであり、新型機体であるGN-Xと合わせてザフト上層部は大きな戦果を期待していた。

 

 しかし、結果としては前哨戦で痛み分けという名の敗北。敵側に隠し球があったとはいえ、連合が一度勝利しているというのにこの結果はザフトにとっては喜ばしくない。

 

 そんな雪辱の意味も込めての今回のエンジェルダウン作戦だったのだが、またしてもザフトはソレスタルビーイングにいいようにしてやられている。

 連合はミラージュコロイドによる奇襲で敵の母艦を捕捉し、航行を阻止するほどの損傷を与えたのに対し、ザフトは未だ何も()していない。

 

 戦果もなく、部下を次々と失っていく現状に"フェイス"としてプレッシャーを背負(せお)っているイザークには大きな焦りが生まれていた。

 

「……こりゃ、本当にヤバいかもなぁ」

 

 そう呟いたのはイザークの副官でもあるディアッカ。

 隊を率いるようになって落ち着いたとはいえ、比較的直情的なイザークと比べて、元から一歩引いた立場で物事を見ていたディアッカは、追い詰められるこの状況を冷静…というより諦めのような気持ちで受け止めていた。

 

〈ディアッカ、援護しろ!〉

「はいよ…!」

 

 遂に(しび)れを切らしたイザークがビームサーベルを抜いて突っ込み、ディアッカは背後からライフルで援護するが、敵のガンダムはその異次元な反応速度で回避する。

 そして、イザークを無視してそのままディアッカの方へ向かって速度を上げてきた。

 

「おいおい…俺狙いかよ!?」

 

 ディアッカは即座(そくざ)に距離を取ったがガンダムの方が速い。ロングバレルのGNビームライフルの銃身がビームサーベルで断ち切られ、失われた。

 

〈貰ったぁぁ!!〉

 

 しかし、そこにイザークの()るGN-Xのビームサーベルが襲いかかる。振りかぶった体勢のガンダムには避けられまい。誰もがそう思っただろう。

 

 だが、ディアッカは確かに見た。

 ガンダムはスラスターを逆噴射でもしたのか、機体に急制動をかけてイザークの一撃を紙一重で回避したのだ。

 

〈何!?〉

「イザーク!」

 

 ディアッカの掛け声も遅く、カウンターとばかりに放たれたビームサーベルがイザークのGN-Xの右腕を斬り落とし、更にトドメとばかりに腰から引き抜いた実体剣が頭部と胸部の(さかい)へ突き刺された。

 

「おい、イザーク…!?」

〈…………〉

 

 (さいわ)い、腰部にあるコックピットは無事だが、イザークからの返答はない。衝撃で気絶したのか、はたまた…。

 

「くそっ!」

 

 親友の危機にディアッカは慣れない近接戦闘を仕掛けるが、明らかにソレに(ひい)でたガンダム相手に通用するはずもなく。

 

 かわし、斬られ、追い詰められる。

 

 かつてエリート部隊と言われたクルーゼ隊所属の赤服の力も、地獄のようなヤキン・ドゥーエを生き抜いた力も、ガンダムの前では通じなかった。

 

(これは…コイツは違う!)

 

 ディアッカは何となく感じていた。

 この力はガンダムの機体性能だけではない。その正体はガンダムを操るパイロットの力……。

 

「コイツは…キラやアスランと同じっ!」

 

 左腕がシールドで防ぐ暇もなく切断され、右脚が断ち切られる。だが、なおもガンダムの猛攻は止まらない。

 モビルスーツを限界性能まで操るその変態的なセンス、間違いなくディアッカの思う最強の二人(キラとアスラン)に匹敵している…!

 

「ぐっ、くそっ!」

 

 ディアッカの抵抗も(むな)しく、圧倒的な格闘性能を見せつけたガンダムはその凶刃(きょうじん)をGN-Xへ振り下ろした。

 

(スマン、ミリアリア…)

 

 迫る刃を見つめ、心の中で今も想い続ける少女へ別れを告げるディアッカ。

 

 しかし、彼の思うようにはならなかった。真横から飛び込んできたGN-Xがガンダムに体当たりを仕掛けたのである。

 そのおかげで刃は右肩部へ狙いが外れ、持ち主であるガンダムは大きく吹き飛ばされた。

 

『エルスマン!!』

『隊長たちを救出しろ!』

 

 イザークとディアッカの危機を救ったのは、ジュール隊の面々…というよりも今作戦においてジュール隊に合流する形になったザフトのベテランパイロットの面々であった。

 

 彼等は半壊したディアッカとイザークのGN-Xを回収すると、後方に控えていた小破しているシホへと引き渡す。

 

〈ハーネンフース! 隊長とエルスマンを頼んだぞ!〉

「お、おい! おっさん!」

〈おっさんじゃない! ったく、敵の力も分からん内に突っ込みおって…〉

 

 そう言うと、三機のGN-Xがガンダムと相対する。

 

〈お前らはプラントの未来だ。それを守るために死ねんなら、ユニウスセブンで死んだ妻も許してくれるだろうよ……そうだよな、お前ら!〉

〈〈おう、隊長!!〉〉

 

 ディアッカにとっては、会ったばかりの先輩たち。

 しかし、彼等はまるでここを死地と定めたかのようにガンダムへ戦いを挑むことを選んだ。

 

〈もう隊長じゃねぇよ。…まぁ、そういうわけだ。プラントを頼んだぞ、ガキンチョども!〉

 

 待てと言う暇もなく、彼等の()るGN-Xがガンダムへと襲いかかる。

 

「お、おい!……くそっ」

 

 数の利では有利とはいえ、彼等も機体を損傷させていることには変わらないし、急に俊敏(しゅんびん)な動きを見せたガンダム相手に通じるとは思えない。

 

 だが、今のディアッカには何もすることはできず、伸ばした手はぶらりと下がった。

 

「シホ、撤退するぞ。一先ずはアスラン…ザラ隊と連絡を取るんだ」

〈でも……〉

「気持ちは分かる……けど、アイツらの思いを無駄にする訳にはいかねぇだろ」

 

 三機のGN-Xが上手く互いをフォローし合うようにガンダムと激しいを繰り広げている。ディアッカたちの撤退する時間を(かせ)ごうとしているのだ。

 

〈何をしている! さっさと行け!〉

「…わかってるよ!!」

 

 通信越しに怒号が響き、ディアッカはムカムカと込み上げる苛立ちを声に出して行動に移した。

 

 現在出せる最高のスピードでこの宙域を後にする。その後ろをイザークのGN-Xをけん引するようにシホが付いてきた。

 

「くそ……おっさん」

 

 後ろを見れば、一機のGN-Xがガンダムにコックピットを貫かれるのが確認できた。きっと、先ほどまで陽気に話していた三人のうちの誰かが死んだのだろう。

 

 全ては自分たちを生かすために。

 

「振り返るな、行くぞ!」

 

 そして、粘り強く追い縋った二機目も()ちる。

 だが、ただでは死なないとばかりにガンダムに組み付いた最後のGN-Xは、そのボロボロの身体で必死にしがみつき、やがて自爆することでガンダムにダメージを与えた。

 

「あの…馬鹿野郎。イザークになんて説明すりゃいいんだよ」

 

 –––––– ラスティ、ミゲル、ニコル、ムウ。

 

 戦場を共にした仲間の死は既に経験している。

 それでも嫌な気持ちには変わりがない。己の無力感と世界のやるせなさに苛立ちばかりだ。

 

 ディアッカは目を覚さない親友の分まで怒りと悲しみの感情を胸に抱いてその場を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





>フェイト
悩み悩んで怒りで種割れ。
もう実力的には原作種死編のシンと同じ。メンタルも同じく。
それでも強い…というか気付けばイザークたちでは手に負えないくらい成長してた。

>ガンダムアヴァランチアステリアダッシュ
みなさんの予想通り宇宙戦ということでこちらを採用。
燃費も悪けりゃ操縦性も難ありという欠点こそありますが、その性能は現行のモビルスーツでトップクラス。

>ジュール隊
相手が悪かったとしか…。
種割れ+アヴァランチアステリアダッシュを相手によくやったと思います。

>名もなきおっさん達
血のバレンタインで家族を失った男たち。
それでもザラ派に所属しなかったのは、彼等がプラントのことを心から想っている証。
若者に未来を託すために犠牲となった。
00で言うミン中尉枠。皆、覚えてるかな?





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エンジェルダウン作戦Ⅲ


更新遅れてごめんない。
やはり、新年度ということで忙しくて忙しくて…。
早く種自由の円盤が欲しいです。あれ見ながらなら毎日更新もできそうなのに(大盛)



 

 

 同盟軍が攻め、ソレスタルビーイングも攻める。

 まさに一進一退の戦況において、初めにその均衡(きんこう)を崩したのは同盟軍所属のファントムペインだった。

 ザフトの(ほとん)どと連合軍の半分をガンダムとの戦いに当てがった一方、ミラージュコロイドによる奇襲を行えるファントムペインはロアノーク隊によるソレスタルビーイングのスペースシップ奇襲作戦が行われていたのだ。

 

 隊長であるネオとエクステンデッドの三人が駆るGN-X4機と対艦戦用の大型モビルアーマー"ザムザザー"2機による攻撃がクラウディオスへ襲いかかる。

 サルースは敵艦隊への遊撃、メティスにその支援。シエルとアステリアがそれぞれの場所で敵部隊の迎撃を行なっていたのだが、彼等はミラージュコロイドによってフブキがしいた警戒網の穴を突いてきたのだ。

 

 ガンダムは全て出払っている現状、クラウディオスは即座に強襲用コンテナとGNアームズによる反撃を試みたが、元マイスター候補でもあるバッツの腕を持ってしても支援機で敵エース格と渡り合うのは難しかった。

 

「っ、これ以上行かせるか!」

 

 背部の大型GNキャノンでGN-Xを狙ったが、庇うように出てきたザムザザーの展開した陽電子リフレクターによって阻まれる。そして、大きく吹き飛ばされたザムザザーと入れ替わるようにGN-X2機が攻撃を仕掛けてくるという息の合った連携。

 バッツはそれをGNフィールドを展開することで防いだが、その隙に残る2機のGN-Xともう1機のザムザザーのクラウディオスへの進行を許してしまう。

 

「くっ、しまった!」

〈任せろ、こっちで…!〉

 

 クラウディオス側もバレットが強襲用コンテナによる迎撃を試みる。放った大量のGNミサイルがGN-Xに迫ったが、入れ替わるように前に出たザムザザーによる迎撃でほとんどが撃墜され、残りもGN-X2機のバルカン等によって対応された。

 

 バッツは舌打ちする。

 まさかここに来てザムザザーのような旧式モビルアーマーに邪魔されるとは…!

 

「くそっ、まずはあのデカブツを潰さなくちゃいけねぇな…!」

 

 しかし、GNアームズは当然ながら搭載武器の殆どがビーム兵器であり、ザムザザーのような陽電子リフレクターを有した機体との相性は良くない。

 リフレクターを貼れるのが前面故に背後に回ろうにも、それにはGN-X2機が邪魔だ。

 

〈バッツ、一旦戻れるか!?〉

「っ! 今から向かう!」

 

 また、このままではバッツはともかくクラウディオスの方が持たない。今はなんとかシドの操舵(そうだ)とGNフィールドによって持ちこたえているが、それにも限界がある。

 時折、バッツもクラウディオスの方へ援護射撃を入れているが、それすらも命懸けだ。気を抜けば一瞬で墜とされてしまうだろう。

 

「ちっ、コイツもトランザムさえ使えれば…」

 

 そして、ここで更なる不運がバッツを襲う。

 

「…粒子残量か! くそっ、こんな時に!」

 

 元々、GNアームズはガンダムの支援機であり、こうして敵機体と直接戦闘することを目的としていない。武装は比較的揃っているものの、逆にその分消費する粒子も多い。

 そんな中でバッツはGNフィールドやGNキャノンを何度も使用していたのだ。エネルギー切れも無理はない。

 

 攻撃の頻度(ひんど)が落ちたGNアームズを狙い、敵モビルスーツが回避ポイントのない正確な射撃を仕掛けてくる。今のバッツにはGNフィールドを展開してそれをやり過ごすことしかできなかった。

 

「この…嬲り殺しかよっ」

 

 減りゆく粒子残量に「もうこれまでか」と思ったそのとき、前方のザムザザーにどこからか放たれた粒子ビームが直撃した。あまりの威力にザムザザーも大きく吹き飛ばされる。

 

 見れば、その粒子ビームを放ったガンダムセレーネがこちらへ接近してくるのが確認できた。厳しい状況の中でこちらの支援に来てくれたのだ。

 

〈バッツ!〉

「シエルか…! よく来てくれた!」

 

 しかし、セレーネの後ろでは、追って来たのだろう同盟軍のモビルスーツが数機ほど攻撃を仕掛けてきている姿が見える。

 それを見て、画面越しのシエルが申し訳なさそうな顔で謝罪した。

 

〈ゴメン、倒しきれなくて…〉

「…いや、グッドタイミングだ!」

 

 ガンダムセレーネが戦線に加わった代わりに敵部隊にも増援が来た。本来なら絶望的な状況だが、それを気に留めることなくバッツは行動を開始する。

 

「シエル、ドッキングだ!」

〈…了解っ!!〉

 

 バッツの声に応じ、セレーネがGNメガランチャーを手放してGNアームズとのドッキング体勢に入った。

 戦闘機に似た形状をしていたGNアームズが変形し、上下へと機体が展開し、セレーネのGNドライヴと連結するように合体。"GNアーマーtype-S(セレーネ)"と呼ばれるセレーネの強化形態となる。

 

 敵モビルスーツ部隊は突然の合体にも取り乱さずに攻撃を仕掛けてくるが、それらは粒子貯蔵量の上昇によって強化されたGNフィールドで弾かれた。

 逆にお返しとばかりに放つGNキャノンが敵部隊を襲う。敵部隊は先程と同じように陽電子リフレクターを装備したザムザザーによって防御の隊列を組んだが、二人にとってそれらは全て想定内である。

 

「クロー展開…!」

 

 そのままの勢いで突進したGNアーマーtype-Sは脚部先端からのクローを展開させると、それをザムザザーのリフレクター発生機器に突き刺すように掴んだ。

 

〈これでっ!〉

 

 そして、右腕に装備された対艦・モビルアーマー用大型GNソードで薙ぐようにザムザザーの表面装甲を斬り裂いていく。

 たまらずザムザザーも左右のクローを展開したが、その時には既にGNアーマーtype-Sは離脱していた。

 

「喰らえっ!」

 

 リフター消失の隙を見逃さなかったバッツによって左腕部のGNミサイルコンテナから多数のGNミサイルが放たれ、ザムザザーの装甲に突き刺さる。

 同時に内部にGN粒子が挿入されていき、やがて限界を迎えたザムザザーはボコボコと膨れ上がってその巨体を火の玉へと変えた。

 

〈戦いはまだまだ––––––〉

「––––––これからだ!!」

 

 そうして、シエルとバッツが操るGNアーマーtype-Sは残存するGN-X部隊へと反撃を仕掛けたのだった。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 一方、ソレスタルビーイングと同盟軍両軍の母艦のちょうど中間に位置する宙域では、ガンダムメティスとインフィニットジャスティス、デスティニーが入り乱れるように乱戦を繰り広げていた。

 

 戦況はほぼ互角。

 ジャスティスとデスティニーは共に高い性能を持つ機体だが、ガンダムには及ばない。

 だが、そこをアスランとシンという並外れた技量を持つエースパイロットが操ることによって勝負を互角にまで持ち込んでいた。

 

〈このっ! いい加減に…!〉

 

 デスティニーが背部ウェポンラックに背負う大型ビーム砲を放つが、飛行形態のガンダムはそれを機体をそらすことで回避し、そのままデスティニーへと直進。

 そして、ぶつかる直前で変形して蹴りを浴びせた。

 

〈うわぁ!?〉

「シン!」

 

 アスランはビームライフルでガンダムを牽制し、デスティニーから遠ざけると、シールドに搭載したビームブーメランを放つ。

 

「ええい!」

 

 ガンダムはそれをシールドで弾いたが、その隙にアスランはシールドに搭載されたもう一つの武装であるアンカーを射出。放たれたアンカーはガンダムが右手に持つビームライフルをそのまま奪い取る。持ち主を失ったライフルは暗い宇宙に消えていった。

 

(よし、これで奴の遠距離攻撃手段はなくなった……以前と同じ装備なら、の話だが)

 

 油断はできない。

 先程遭遇し、今まさにハイネ達が戦っているモノクロ色のガンダムは明らかな追加装備を使っていたし、敵の使う新型モビルアーマーの出現情報もある。

 

〈アスラン…!〉

「シン、お前は敵母艦の攻撃に向かえ」

 

 こちらへ迫るガンダムをビームライフルで牽制しながら、アスランはシンへ通信でそう伝えた。

 

〈はぁ!?〉

 

 アスランの突拍子もない命令に訳が分からないとシンが声を上げる。

 

 敵母艦への攻撃はジュール隊と地球軍が担当しているはずであり、あくまで自分たちは対ガンダム戦に集中するのが作戦のはず……と言いたいのだろう。

 

 だが、実際の戦場では事前に立てた作戦などそこまで当てにできない。

 

「状況が変わった。どうやらイザークたち…ジュール隊は敗走したらしい。そのせいで向こうの手が足りない」

〈でも、だからって…コイツは!〉

 

 デスティニーがビームライフルを向ける先にいるガンダムは、こちらと睨み合うように対峙している。ビームライフルを失わせたとはいえ、その脅威度は健在だ。

 

 素直じゃないが、さしものシンもアスランとガンダムを一対一にさせるのは避けたいと表情に示す程度にはアスランのことを心配しているらしい。

 

 だが、アスランは断固たる覚悟で言った。

 

「こいつの相手は、俺がする」

〈アスラン…!〉

「聞け、シン。今戦ってる地球軍の別働隊はステラ・ルーシェ達ファントムペインだ」

〈っ!?〉

 

 ステラという名を出されて、シンの表情が揺らぐ。

 

「それだけじゃない。ジュール隊を蹴散らしたガンダム…おそらくは例の少女が乗った青色のガンダムもあちらへ向かっているだろう」

〈そんな…!〉

「向こうはガンダムが2機に支援機と思われるモビルアーマーもいる。戦況は不利だ」

 

 それはつまり、少女とステラが殺し合う……いや、最悪ステラがガンダムパイロットの少女に殺されてしまう可能性を示唆(しさ)していた。

 

「だから、さっさと行って助けてこい。これは"フェイス"としての判断だ」

〈…………分かりました!〉

 

 わずかばかりの沈黙の後、シンは頷いた。

 

 それを見てアスランも笑みを浮かべる。

 アスランとしては、あの二人には幸せになって欲しいと思っている。それに、生体CPUとして扱われるのがこの戦いで最後だとするのなら、何としても彼女達を助け出すべきだと判断したのだ。

 

(軍人失格だな…いや、相変わらずか)

 

 ザフト軍モビルスーツ隊隊長として、フェイスとしてはシンを送ることに全く利を感じない。ここで協力してガンダムを一機討ち取った方が遥かに戦況が有利になるだろう。

 

 だが、強さだけが、勝ちだけが戦いではないとただのアスラン・ザラは知っているのだ。

 

「–––––今だ! 行け、シン!」

〈了解! アスラン、俺が戻るまでやられないで下さいよ!〉

 

 そんな一瞬の通信の後、デスティニーがトップスピードでこの場を離脱していく。敵ガンダムは少しばかり(いぶか)しんだ様子を見せた。

 やがて、狙いを理解したのかその後を追おうとしたが、アスランはビームライフルで牽制することで動きを止める。

 

「ここから先は行かせない。…お前の相手は俺だ!」

 

 そうして、ガンダムとジャスティス、互いの光の刃が交差した。

 

 

 

 

 

 

▽△▽

 

 

 

 

 

 

 

 ガンダムサルースとハイネの駆るデスティニーの戦いは熾烈(しれつ)を極めていた。

 

 互いの剣がぶつかり合い、ビームが飛び交う。

 サルースはGNファングを射出したが、それらはハイネの仲間であるルナマリアとレイのGN-Xが対応している。ルナマリアはともかく、レイはこの手の無線兵器との相性が良く、優れた空間認識能力を活かして次々とファングを撃墜していた。

 

「…やるじゃないか」

 

 額に走る僅かな冷や汗。

 アキサムは想定以上の抵抗を見せるザフト相手に舌を巻いた。既に背後に控える母艦やモビルスーツ隊はボロボロだが、ミネルバ隊と思われるハイネ達がしぶとく、攻めきれない。

 

 ソレスタルビーイング唯一の遊撃担当として出撃したアキサムとしては、何としても母艦と擬似太陽炉搭載モビルスーツの数を減らしておく必要があった。

 そのうちの母艦は多くを撃沈させたものの、モビルスーツ部隊の方は未だに不完全。藪蛇(やぶへび)をつつくつもりはないが、もう少しダメージを与えておきたいところである。

 

〈–––––聞こえるか、ガンダムのパイロット〉

 

 そんな時、突如としてサルースのコックピットに通信が入った。仲間からの物ではない。接触回線、つまりはデスティニーのパイロット……ハイネ・ヴェステンフルスからだ。

 

 アロンダイトをバスターソードで弾きながらも、アキサムは無言で通信を繋ぐ。

 

〈お前、"アディン・セファート"だろ?〉

 

 そして、ハイネが告げた言葉に思わず思考が一瞬止まった。

 

 アディン・セファート。

 それはアキサムの本名であり、過去とともに捨て去ったはずの名前である。

 

 それ自体はいい。

 アキサムはザフト軍人時代はハイネを部下として率いた身であり、当時のザフトのエースだったラウ・ル・クルーゼと並び称されたエースパイロットでもある。前大戦に生じて表舞台から姿を消したアキサムだが、その名声自体はザフトに残っていることだろう。

 

(どこでバレた…?)

 

 問題はどこから情報が漏れたかだ。

 こちらはパーソナルカラーからパイロットがハイネだということを把握していたが、フェイスとはいえ組織に関わりのないはずのハイネが自分のことを知っている理由がわからない。

 

(まさか…裏切り者から教えてもらったのか…?)

 

 最重要機密であるGNドライヴと共に寝返った裏切り者だ。最高レベルの機密であるマイスターの情報を流すぐらいのことはしただろう。

 

「チッ、バレちゃあしょうがないってか…?」

 

 改めて、アロンダイトとバスターソードが激しくぶつかり合う。アキサムは開き直るようにハイネの問いを肯定すると、推力に任せてデスティニーを押し出した。

 

〈…まさか、本当にアディン隊長だったとは〉

 

 ハイネもただではやられない。

 剣をそらすことでサルースを受けながすと、ビームライフルで狙い撃ちながら吠えた。

 

〈アンタは、一体何をやってるんだ!〉

「…見ての通りだ。世界から戦争を無くすために戦っている」

 

 アキサムはビームをバスターソードの刀身で受け止めながらも、GNランチャーで反撃していく。

 

〈こんな馬鹿げたことをして、本気で叶えられると思ってるのかよ!〉

「それでもやらないよりはましだ。何もしなけりゃ、ナチュラルとコーディネーターが互いを滅ぼしあってこの世界は終わるだけなんだよ!」

 

 GNランチャーの砲撃がデスティニーの片翼を吹き飛ばす…が、同時に放たれたビームがGNランチャーを破壊した。

 

 思わず、舌打ちするアキサム。

 ただし、攻撃の手は緩めない。爆炎を割くようにバスターソードを振りかざすと、デスティニーもアロンダイトで受け止めた。

 

〈…プラントと地球は停戦した! もう戦争は終わったんだよ、だからこんなことはさっさと辞めて投降しろ!〉

「ハッ、そんな条約。俺たちが倒れればすぐに消えてなくなるさ。ユニウス条約を思い出してみろ!」

 

 アキサムは一度機体を引くと、振り回すようにバスターソードをアロンダイトへ叩きつけた。バスターソードの攻撃力に耐えきれず、アロンダイトが折れるように断ち切られる。

 

〈デュランダル議長は、戦争のない世界を目指している!〉

「政治家はみんなそういう! だが、それが成ったことはこれまで一度もない。少しは成長したようだが…青臭いぜ、ハイネ!」

〈––––くっ!〉

 

 ハイネはウェポンラックから高エネルギービーム砲を取り出したが、それを見切ったアキサムは素早く懐に潜り込み、爪先(つまさき)のGNビームサーベルで破壊した。

 

「そうさ。俺は知っちまったんだ…この世界がいかに病んでいるかをな」

 

 命令に従ってプラントを守り、敵対するナチュラルを殺す。そんなことを続けている限り、この世界に未来はない。だが、誰もそれを止められない。アキサムはソレスタルビーイングに入り、そんな現実を理解させられた。

 

「誰かがやらなきゃいけない。そして、俺にその力があった。それだけの話だ!」

〈…アディン隊長っ!〉

「隊長はお前だ! 俺の敵、ハイネ・ヴェステンフルス!」

 

 今更ただのザフト軍人に後戻りなどはできない。立ち止まることも。

 自分はプラントを守る戦士"アディン・セファート"ではなく、"戦争根絶"を掲げるソレスタルビーイングのガンダムマイスター、アキサム・アルヴァディなのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





>シエル&バッツ対ファントムペイン
GNアーマーが強いので、対大型用の武装を持つシンが到着するまでは連合側が不利。粒子残量の問題でトランザムできないのが救い。


>フブキ対アスラン
性能差でフブキの方が有利だが、タイマン最強の男(アスラン・ザラ)もまだ本気を出していないので、全てはトランザム次第である。


>アキサム対ハイネ(+ルナ&レイ)
アキサムがリードしているものの、ファングを撃墜したルナとレイの参戦次第で戦況が大きく変化する。
地味だが、GN-Xに乗ったレイの強さはデスティニーに乗ったシン(通常)やジャスティスに乗ったアスラン(通常)よりも上なので、まだまだ勝負は分からないといったところ。



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