聖杯合戦絵巻 (Roku左衛門)
しおりを挟む

聖杯合戦 1日目
零ノ巻 聖杯合戦 開幕


※fate二次創作のオリジナル聖杯戦争です。fateシリーズの原作キャラは出ません。
※型月の設定に基本的に準じていますが、独自設定や自己解釈が含まれています。ご了承ください。


原文

ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

淀みに浮かぶうたかたは、かつ消えかつ結びて、久しくとどまりたるためしなし。

世の中にある人とすみかと、またかくのごとし。

 

 

流れ過ぎていく河の流れは絶えないが、それは、元の水とは違う。

よどみに浮かぶ水の泡は、消えたり生まれたりして、長く残っているものはない。

世の中にある人、家も、またこのようである。

 

鴨長明「方丈記」

 

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月22日 7時30分

 

 

けたたましいアラームの音で覚醒する。

ベッドの近くにあった目覚まし時計のスイッチを見ずにたたいて止めた。

ぼやけ眼で時間を確認する。

 

7時30分。

 

あと5分は眠れると思ってもう一度目を閉じる。

 

「司,時間よ!起きなさーい!」

 

母さんの声が聞こえるが無視してあと5分、あと5分と念じながら目を閉じる。

ドアをガチャリと開け母さんが入ってきて俺をゆする。

 

「司!いい加減にしなさい!遅れるわよ!」

 

俺こと高城 司は観念して目を擦りながらベッドから起き上がる。

これ以上抵抗しても母さんの機嫌が悪くなるだけだ。

食卓に行くと父さんがテレビを見ながら食事をしていた。

 

「おはよう。司」

「おはよ」

 

椅子に座って食パンにマーガリンを塗りたくりながら、半目でテレビのニュースを見る。

 

「…遺体の一部は繁華街のほど近い路地で見つかったようです。現場からは以上です。」

「一刻も早く犯人が捕まると良いですね。」

 

朝のニュースの音声を聞き流しながらパンを口に運ぶ。

 

「やだ、また殺人事件?物騒ねぇ。」

「北区の方らしいぞ、またバラバラらしい。司も気をつけろよ。」

 

父さんと母さんが会話をしている。

 

「さて次のニュースは開幕まであと少しと迫った聖杯合戦の特集です。

政府の発表では既に召喚を確認されたのは6組。残りは1組となりました。

遅くともあさってまでには開催が…」

 

「今年の合戦は東京だからな。いい迷惑だよ本当に」

「あたしと司は明日からお義父さんの所に行きますね」

「ああ、親父にはもう言ってある」

「え?生で見ないの?」

 

俺がつい口を挟む。

 

「何言ってるのよ。サーヴァントの戦いに巻き込まれたらケガじゃ済まないわよ。

明日からお祖父ちゃんの所に行きますからね。準備しときなさい。」

「えー」

 

じいちゃんは好きだけど、携帯も繋がらないコンビニもない所に何日もいるのは拷問に近い。

 

「司。どっちにしろシェルターに避難するから、生で戦いなんて見れないさ」

 

父さんが笑いながら言う。

 

「ご馳走様。もう行くわ」

 

食事を終えて、身支度を整える。

 

「あら、右手どうしたの?」

 

母さんに指摘されて右手の甲にうっすらと痣があるのを初めて気がつく。

寝てる時にぶつけたのだろうか?特に痛みは無い。

 

「大丈夫、大丈夫。行ってきまーす」

「母さん達、今日遅くなるからご飯食べてきてね」

「はーい」

 

適当に生返事しつつ、家を出る。10分ほど歩き地下鉄に乗り学校を目指す。

相変わらずこの時間は混んでいるが、いつもより気持ち少ないような気がする。

携帯をいじりつつ、15分ほど電車に揺られたらいつもの駅で降りる。

そこから少し歩いて学校に到着する。

教室にはホームルームの少し前に到着する。

 

「おはよ、相変わらずギリだな。」

 

席に着くと北原が話かけてくる。

 

「いーの、いーの間に合ってるから。」

「いやいや、もうちょっと余裕持ってこいよ。相変わらず呑気だなぁ。」

 

小久保も会話に入ってきて俺を茶化す。

 

「そういえば今日から部活休みなの聞いて無いよな?」

「え?何で?」

 

 

あの鬼コーチが夏休み初日から休みにする何て有りない。

 

「そりゃ聖杯合戦があるからな。部活なんてやってる暇ないさ。何時、避難勧告があるか分からないんだぜ。」

 

北原が訳知り顔で語る。

 

「いいよな~聖杯合戦!東京で開催されるのは12年ぶりらしいぜ。間近で見られるの興奮するよな~!」

 

朝からテンションが高い小久保が興奮しながら喋る。

 

「俺もマスターに選ばれないかなーそしたら聖杯で億万長者になるのになー」

 

「お前なんかすぐ敗退だわ」

 

「わかんないだろ~」

 

そんなたわいない話をしていたら、教室のドアがガラリと開き1人の生徒に目を奪われる。

肩までの切り揃えられた髪、凛とした瞳に絵画のように整った目鼻立ち、人形の如き白い肌。

 

綾部 安那。

それが彼女の名前だ。

 

「綾姫、今日は遅いな。」

 

「時間ギリギリなんて珍しいな。」

 

生徒会長を務め、成績は常に学年トップを維持し運動神経は抜群。

その上それらを鼻に掛けず誰にでも優しく、社交的で明るい。

極めつけはそこらのアイドルばり…いや以上のルックス。

当然教師からの信頼も厚く他の生徒から人望も絶大。

そんな容姿端麗、才色兼備、完璧超人の彼女を畏怖または羨望を込めて「綾姫」と呼んでいる。

 

「綾姫って親も金持ちなんだろ?」

 

「ああ、高そうな車で送迎されてるの見たことあるぜ」

 

「今時漫画でもいないな。」

 

笑いながら二人に相槌を打つ

正しく自分とは住む世界が違うってやつだな。

綾姫のすぐに先生が入ってくる。北原達も席に戻り、ホームルームが始まる。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月22日 12時33分

 

 

「アイツら遅いな。」

 

終業式の後に北原と小久保を校門の近くで待っているのだが、全く来る気配が無い。

日陰で座っているが7月も後半、今日も快晴で暑すぎる。早くクーラーが聴いてる建物に入りたい。

 

「にゃー」

 

自分の足元からいきなり声が聞こえてきて下を見ると真っ黒い猫がちょこんと屈んでいる。

いつの間に足元に潜りこんでいたのだろう。

鳴きながら俺の足に体を擦りつけている。

見たところ首輪などはしていない、野良の割には人懐っこい奴だ。

 

「よしよし」

 

指の腹でゆっくりと背中を撫でる。

猫は気持ち良さそうに目を伏せる。

猫は俺の膝に乗ってくる。

今度は顎の下をくすぐるように撫でてやる。

気持ち良さそうに猫は喉を鳴らす。

 

「高城くん?」

 

「あ 綾姫!?」

 

視線を下から上に戻すとすぐ傍に彼女がいた。

ヤバい、驚いて親しくも無いのに彼女をアダ名で呼んでしまった。

 

「その猫って高城くんの?」

 

彼女は特にそんな事気に止める様子は無く、俺の膝の上の猫を凝視している。

 

「この猫?野良みたいだよ」

「触っても良い?」

 

興奮気味にグイグイこちらに近づいてくる。

そんなに近づかれるとこっちが緊張する。

 

「ああ、どうぞ。」

 

彼女はゴクリと喉を鳴らし、両手をゆっくりと伸ばして猫に迫る。

撫でたいのか捕まえたいのかは分からいが、その目は真剣だ。

真剣すぎて怖いくらいである。

そんな彼女に猫は完全に怯えてしまい、一声鳴くと俺の膝から華麗に飛び去りあっという間に見えなくなってしまった。

 

「ああ!!」

 

彼女はガックリと肩を落として俯いてしまった。

猫に触れられなかったのがそんなにショックだったのだろうか。

 

「ほ ほら、野良猫って警戒心が強いからさ。」

 

何とかフォローを入れて彼女を励まそうとするが我ながら下手だと思う。

警戒心の強い猫は知らない人の膝に乗る訳が無い。

 

「いいんです。私は昔から動物に好かれない体質みたいなんです。」

 

泣き出しそうな顔でこちらを向く彼女はなんというか年相応で可愛らしかった。

凛とした立ち振る舞いしか知らなかった俺には新鮮な姿であった。

 

「高城くんその手はどうしたんですか?」

 

彼女は俺の右手を見て言った。

甲の痣に気がついたらしい。

 

「いや、朝起きたら出来てて、でも全然痛くないから!」

 

しどろもどろになりながら何とか答える。

一緒のクラスだがまともに会話をしたのは今が初めてだ。

憧れの彼女と話すだけで緊張する。

 

「いけませんよ。軽い怪我でも最初の処置は大切ですから。さあ手を出してください。」

 

言われるがまま右手を出すと、彼女は実に的確に自分のハンカチで俺の手を巻いていく。

 

「これで良し。ハンカチは差し上げますね。」

「あ ありがとう。」

「すみません。もう迎えが来ているので行きますね。」

「う うん。」

 

彼女の手の柔らかさや気恥かしさで頭がいっぱいで受け答えがまともに出来なかった。

 

「高城くん。」

 

ハッと我に帰り視線を右手から前に向けると少し離れた所で彼女が手を振っている。

 

「ごきけんよう。良い夏休みを。」

「ご ごきげんよう。」

 

俺が小さく手を振り返すのを確認すると彼女はクルっと向きを変え去っていった。

 

「つ~か~さ~く~ん」

「おわ!ビックリした。」

 

いつの間にか用事を終えた北原と小久保が俺の後ろに立っていた。

 

「何で綾姫と楽しそうにお喋りしてるんだよ!俺に許可無く!」

「いやお前の許可がいるのかよ。」

 

小久保が恨めしそうに俺を睨みつけてくる。ちょっと話してただけだろ。

 

「高城って綾姫と仲良かったけ?」

「いや、ほとんど無いや。そんなことより腹減ったからメシ食いに行こうぜ。」

 

話題を逸らすため食事に促す。

二人ともそうだなーと乗ってくれた。

ハンカチは夏休みにでも洗って返そうと考えながら歩き出した。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月22日 12時43分

 

 

三人で談笑しながら、目的の店まで街中を歩く。

茹だるような暑さだが半日で学校が終わり、部活も無いのでテンションは高い。

昼飯を食べてからはこのまま三人で遊びに行く予定だ。

 

「そういえば知ってるか?8月の終わりに世界は滅亡するらしいぜ。」

「お前そういうの好きだな。」

「20年くらい前にもそういうの流行ったらしいぜ。親が言ってたわ。」

「いやテレビで言ってたんだって。」

「はいはい。」

 

話題をコロコロ変えながら、どうでも良い話ばかりしている。

 

「世界が滅んだら受験しなくていいんだけどな~」

「本末転倒だろそれ。」

 

高校二年生の夏休みは本格的に受験を意識した勉強をしていかなければならない。

まあ本気のヤツはもっと前から始めているが。

 

「二人は将来成りたいものとかあるの?」

「俺は弁護士を目指してるぜ。モテそうだし。」

「北原らしいな。俺は記者とかやってみたいからそっち系かな。」

 

意外だった。

2人とも自分の将来のことちゃんと考えていたんだ。

 

「高城は?なんかなりたいものあるの?」

「いや、特に何も考えて無いわ。」

「大学は行くんだろ?まあ焦る事は無いよな。」

 

勉強も運動もそこそこ、昔から特別やりたい事も俺には無い。

このまま何となく大学行って就職して結婚して人生を終えるのだろうか?

それはそれできっと幸せなんだろうと思う。

 

でも一回でいい。

 

何か心の底から夢中になれる事をしたいと考えている自分もいる。

まあそれが見つからないのだが。

そうこうしているうちに目的地に着いた。

行きつけのラーメン屋だ。

味はそこそこだが安くて量が多いのが売りで、学生はさらに割引がある。

店内に入り案内されて席に着く。

注文を決めて店員さんを呼ぶと見知った顔の人が来た。

 

「百合さん?」

「あ、少年じゃん。久しぶり〜」

 

この人は松尾 百合さん。

以前、近所で配達の荷物を道にぶち撒けて困っている所を助けた事がきっかけで知り合いになった。

 

「またバイト変えたんですか?」

 

「いやーまたドジっちゃってさーあはは。」

本人曰く、ドジな上に飽きっぽいらしく会うたびに違う仕事をしている。

 

次店に来たらいないんだろうな。

 

「ラーメン大盛りを三つね。すぐ持ってくるからね。」

 

注文を取ると彼女は店の奥に消えていった。

 

「高城の知り合いにあんな奇麗な人がいるなんて…」

 

北原がボーと百合さんのいた所を眺めながら呟いた。

 

「司、実はモテる説とか?」

「いやいやいや!」

 

北原と小久保が大げさに手を振りながら否定する。

 

「俺だって女性の知り合いくらいいるわ!」

 

そんなことを喋っているうちにラーメンが運ばれてくる。

 

「百合さん。餃子は頼んで無いよ?」

「店長に友達来てるの言ったらサービスしてくれたの。

若い子はいっぱい食べないとね!じゃあゆっくり食べてね。」

 

にっこりと笑って彼女は次のテーブルに注文を取りにいった。

 

「女神だ…!」

 

北原はもう彼女信者のようになっている。

 

「ラーメン屋の女神とか可笑しいだろ。」

 

俺がツッコミを入れると小久保も面白そうに笑った。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月22日 19時38分

 

 

日が暮れるまで三人で遊び倒して、心地よい疲労を感じながら帰路につく。

当たりはもう薄暗く人通りは見えない。

自分の家の前でオートロックのを開けようと鍵を出そうとした時、猫の鳴き声がした。

 

「お前、あの時の。」

 

声がした方を見ると真っ黒猫がちょこんと座っていた。

学校で見た猫と多分同じだろう。

猫に近づき撫でようとしゃがみ込む。

本当に偶然しゃがもうと思っただけなんだ。

 

自分の後ろから槍が凄まじい勢いで頭上を通りすぎる。

そのまま立っていたら体を貫いていただろう。

 

驚いて尻餅も付きながら振り返ると鎧武者が立っていた。

全身黒い鎧に長槍を持ち、兜からは角のようなものが生えている。

武者?どうして?殺そうとした?と思考する時間や声も出すのも忘れ武者から背を向け、一目散に逃げた。

止まっていれば確実に殺されると感じるほど武者が殺気を放っていたからだ。

オートロックの鍵を開けエレベーターまで走る。今まで生きてきた中で一番速く走ったと思う。

 

「何でこんな時に!」

 

エレベーターは10階で止まっていた。

これでは武者に追いつかれてしまう。

早く降りてこいと念じながらボタンを連打する。

エレべーターが開く。

すぐに乗り込みドアを閉め自分の家の階のボタンを押す。

少し落ち着くとなんで?どうして?と疑問が頭の中を駆け巡る。

相手は多分サーヴァン卜だ。

あんな時代錯誤な格好で街中を歩く人間はいない。

ギリギラと輝く刃先は間違いなく本物の槍だと素人でも分かる。

どうしてサーヴァントが俺を殺そうとする?分からない。

分からないが逃げないと殺される。

ドアが開くと同時に飛び出しドアを開こうとする。

手の震えで鍵が入らない。

早く早くと思うほど上手くいかない。

ドアが開け、すぐに鍵をかける。

これでひと息つけ…

 

「遅かったな。」

 

家の廊下に武者が立っていた。

居間の方向から風が入ってくる。

窓から侵入したのだろう。

 

「あ…あ…」

 

驚きあまり声が声にならない。

自分でも気が付かないうちに腰が抜けて座り込んでいたようだった。

立ち上がろうと思うのに足がいう事を効かない。

 

「主命ゆえお命頂戴する。何か言い残したい事はあるか。」

黒い武者が俺に問いかけてくる。

 

頭の中はもう死にたくないだけでいっぱいでまともに考えることが出来ない。

 

「た…助けて…」

 

情けないくらい声が上擦る。

 

「すまんがそれは出来ない。」

 

当たり前だ。

命を貰うと言われたばかりだろ。

 

もっと聞かなきゃいけない事が山ほどあるのに頭が考えるのを放棄している。

ただ助かりたい死にたくないの一心だ。

武者が槍を構え、穂先を俺に向ける。

その一連の動きがすべてスローモーションようにゆっくり動いて見える。

ボクサーとか相手がゆっくり見えると聞くが本当にそう見えるんだなあと人ごとのように考えていた。

槍が俺を貫こうとした瞬間恐怖のあまり目をつぶってしまった。

 

鉄と鉄がぶつかる音が聞こえる。

槍が俺を貫く痛みは一向にこない。

何が起こったのか?確認するために目を開ける。

自分の前に巫女服を着た少女が背を向け立っていた。

黒い武者は態勢を崩したようで片膝を着いている。

 

玄関にはさっきまで無かった魔法陣が光り輝いていた。

少女と武者のみだと思ったが周りを良く見ると他にも人影があることに気がつく。

 

1人は上下真っ黒な和服に袴、革の羽織を着て髷を結び左目に眼帯をつけ刀を帯びている。

 

1人は軍服を着て髪を短く剃り込みこれまた刀を帯びていた。

 

「問おう。」

 

「おはんが。」

 

「俺達のマスターか。」

 

3人が静かに俺に語りかけてきた。

俺の人生最大の一週間が今始まろうとしていた。

 

 

 

 

同時刻、東京中に設置しているスピーカーから音声が流れ始めていた。

 

「残り3騎のサーヴァントの召喚が確認された事が、先ほど政府より発表されました。

これより第十八次聖杯合戦の開催をここに宣言します。」

 

その音声と共に東京各地で花火が盛大に上がる。

それらの花火をそれぞれの地区で見上げている人々がいた。

 

大鎧を纏った男と金髪の青年。

 

細身の男と馬に跨った赤い武者。

 

座禅を組んだ僧侶。

 

忍び装束の女性に菅笠を被った覆面の男。

 

少女と小袖に羽織を着て袴を履いた武士。

 

そしてビルの上から花火を眺める軍服にマントを羽織った少女。

 

「開戦の狼煙だ。」

 

少女がポツリと呟いた。その表情は軍帽に隠れて窺い知る事は出来ない。

 

「失敗は許されない。さあ世界の命運をかけた戦を始めよう。」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

壱ノ巻 初陣

皇紀2680年 平成32年 7月22日 20時12分

 

 

「こりゃひどいな。」

 

ベージュのトレンチコートを羽織った刑事が呟くように言う。

 

年は四十代の半ばくらいだろうか。

 

深く刻まれたシワが彼の経歴を表しているようだ。

 

「これで7件目ですね。河道さん。」

「ああ、世も末だな。まったく。」

 

遺体の状況を見ながら若い刑事、折田刑事と話す河道警部補。

 

賑やかな繁華街の裏の路地が凄惨な事件の現場だ。

 

「死因は鋭利な刃物で首を一撃で切断。被害者は即死。痛みを感じる暇もなかったようです。」

「首を一撃で切断なんて犯人は剣術の達人か?で仏の首はどこに行ったんだ?」

 

残された遺体はバラバラに刻まれていた。

 

それも丁寧に部位ごとに分けられ解体されていた。

 

残っていたのは胴体と右足のみ。

 

遺体は飲食店の裏のゴミ箱に入っているのを従業員が発見、通報で発覚した。

 

「内蔵もすべて摘出されているそうです。そこは今までの事件と一緒ですね。」

「なんだって頭と内蔵は必ず持って行くんだ?悪趣味な野郎だな。」

 

東京ではここ一週間の間に6人のバラバラの遺体が見つかっているが、ある共通点があった。

 

他の無い部位はマチマチだが、頭と内蔵はどの遺体も無いのである。

 

遺体から離れ、河道は一息つくためにタバコに火をつける。

 

河道は頭を抱えていた。

 

今週に入ってから東京各地で毎日のように遺体が見つかる。

 

目撃者は無し、防犯カメラにも何も写って無い、聞き込みも効果無し。

 

痕跡や証言が何も出てこないのである。

 

犯人はまるで煙のように消えてしまっているのだ。

 

「たく、犯人は幽霊とでもいうのかよ。」

 

河道を苛つかせているのは事件だけでは無い。

 

先程から頭上で上がる花火も苛つきに拍車をかける。

 

「さっき始まったらしいですよ。聖杯合戦。」

「知ってるよ。やかましいからな。あんなものありがたがるヤツらの気が知れん。」

 

河道は不機嫌そうにタバコの灰を携帯灰皿に落とす。

折田は河道の合戦嫌いを良く知っているので気に止める様子は無い。

 

「この辺りも戦闘区域に入るみたいですよ。早めに離れた方が良さそうですね。巻き込まれたら自己責任ですから。」

「自己責任ねえ...」

 

聖杯合戦において発生した損害は全て、国よって補填される。

 

むしろ終わった後、観光名所となる場合もあるため、うちで戦って欲しいという意見もあるほどだ。

 

ただし人命は別だ。

お祭り気分で見に行って死んでも自己責任で片付けられる。

 

「たまたま隕石が降ってきて当たっても、てめえが悪いってんだから笑えるよ。」

 

河道は戯けた口調で言うがその目は一切笑っていない。

 

「...」

 

折田も一切反論はしない。

 

その通りだと思っているからである。

 

しかし表立って批判すれば、反政府的な思想の持ち主とされてしまい、矯正施設という名の独房で一生を過ごす事になるだろう。

 

それ故に巻き込まれるのを恐れて期間中は開催都市に住んでる者は都市を離れる人々も少なくない。

 

「それでも参加したいってヤツが後を絶たないなんて世の中分からんな。」

 

聖杯合戦の開催直前になると開催都市は観光客が倍増する。

 

理由は二つある。

 

聖杯合戦の見物。

 

もう一つが参加である。

 

マスターは聖杯が都市の中からランダムで選出するため、いるだけで参加する資格があるのだ。

 

「優勝の商品を考えれば命を懸ける価値があると思う人もいるのでしょうね。」

「お前も参加したいか?」

 

まさかと折田は河道の問いに首を振る。

 

聖杯合戦を勝ち残った者には万能願望機である聖杯が与えられる。

 

優勝すれば何でも願いが叶うと聞けばこぞって参加しようとする者も多い。

 

過去にもそれで億万長者になった者達もいる。

 

河道は世の中は自分より馬鹿な者達が大勢いる者だと呆れていた。

 

「河道さん、そろそろ戻りましょう。これ以上は手掛かりは無さそうですし。」

「あいよ。」

 

煙草を携帯灰皿に押しつけしまい、車に乗ろうと歩き出そうとした時だった。

 

壁に貼ってある古びたポスターの一文に目を奪われる。

 

聖杯合戦、東京で開催決定!最高のエンターテインメントをあなたに!

 

「最高のエンターテインメントねぇ...」

 

何かの本で見た事がある。

 

人間にとって最高の娯楽は戦争であると。

 

ならばのポスターの謳い文句は全く偽りでも無いだろう。

 

そんな事にを思いを巡らせて河道は現場を後にした。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月22日 19時39分

 

 

花火の音が上がっているのを壁越しに感じながら、高城司は腰を抜かしたまま動けずにいた。

 

広いとは言えない廊下で自身を除いた4人の男女が対峙している。

 

1人は自分を襲った黒い武者。

 

1人は黒髪の巫女服を着た少女。

 

1人は左目に眼帯を付けた侍。

 

1人は軍服を着た坊主頭の剣士。

 

「流石にこの人数では手狭に…」

 

黒い武者の話が終わる前に最初に少女が斬りかかり、他の2人が続いて斬りかかったようにに見えた。

 

剣戟音だけが響くがその動きを目で追う事が出来ない。

 

速すぎるのだ。

 

テレビ越しに何度も聖杯合戦の映像は見たことはある。

 

しかし間近で見るのは司にとってこれが初めての出来事であった。

 

伝説の英雄同士の戦いに冷や汗が止まらず、喉がカラカラに乾く。

 

廊下から飛び引き、居間に躍り出る武者。

それを追う3人。

 

「ここならば少しは槍を振えよう。」

 

あの狭い空間で長槍を振るい、なおかつ3人の剣士を相手に一歩も引く事なく互角の戦いをを見せていた武者であるが、まだ本領を発揮出来ていなかったようである。

 

驚嘆すべき腕前であると言わざる終えない。

 

「ぬん!」

 

武者は左半身の正眼の構えから渾身の突きを繰り出す。

 

「受けるな!」

 

槍の一突きに対応しようとした軍服の男に少女が注意を促す。

 

しかしその声が届く前に軍服の男は槍の穂先を刀で捌く。

 

瞬間軍服の男の左腕から鮮血がふき出した。

 

「何だこや!」

 

軍服の男は思わぬ負傷に驚きの声を上げるがすぐに相手との距離を取る。

不可解であった。

槍の刀身を刀で払ったのみにも拘らず、全く関係無い左腕に槍傷らしきものが現れているのである。

 

「無作法お許しあれ。我が愛槍は切れ味が鋭すぎるゆえ触れるだけで傷つけてしまう。」

 

ニヤリと笑いながら武者が答える。

 

「その黒い鎧に鹿の角の兜、肩から掛けている数珠、そして槍とそれを操る腕前。よもや過ぎたるものと謳われた御仁ではござらぬか?」

 

眼帯の男が静かに武者に語りかける。

 

「名が広まっているというのは不便なものよなぁ。のう柳生の。眼帯にその剣の腕は誤魔化せんぞ。」

「確かに不便ですな。お互いに。」

「おい、お前。」

 

少女が武者にぶっきらぼうに話しかける。

 

外見は可憐な少女で声も可愛らしいのだが、喋り方がまるで男のようで愛想のかけらも無い。

 

「いい加減観念しろ。逃げられると思っているのか?」

「思っているさ。俺の相手ばかりしていていいのか?合戦は既に始まっているのだぞ。」

 

その言葉を言い終わらぬうちに少女が斬りかかる。

 

だがそれよりも速く武者は後方に跳躍。

 

そのまま窓ガラスを突き破り、ベランダから地上に向かって落下していった。

 

すぐにベランダに駆け寄るが既に武者の姿は何処にも見えなかった。

 

「どげんすっ?追か?」

 

「いや、やめておこう。彼奴の言う通り合戦は既に始まっておる。それに我らが主をいつまでも玄関先に座らせておくわけもいかんしな。」

 

と言うと眼帯の男はふふっと笑った。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月22日 19時52分

 

 

黒い武者が去って十数分たち、荒れ果てたリビングの真ん中で椅子に座りながら、

高城司はやっとこれが現実の事であると受け入れつつあった。

 

蛍光灯は割れ、ベランダの窓はバラバラになり、壁や天井は傷だらけで、廊下に繋がるドアはひしゃげて転がっていた。

 

悲惨状況の部屋であるが、サーヴァント同士の戦い巻き込まれたにしては軽微な損害であると言える。

 

「主殿、どうぞ。」

 

眼帯の男がキッチンでお茶を入れ、司の前に出す。

 

「あ ありがと。」

 

熱いお茶を一口飲むと、胸がじんわり暖かくなる。

 

だいぶ心が落ち着いてきた。

 

「主殿もだいぶ落ち着かれてきたようですので、ここで情報の整理と自己紹介をすべきだと思うが、みな異存はないか?」

「そんなことしてる暇あるのかよ。時間の無駄だろ。」

 

1人だけ離れ、窓際で立っている少女がブスっとした態度で口を挟む。

 

白衣と緋袴を着て、千早を羽織っている。

 

黒く美しい長い髪を丈長でまとめている。

 

顔立ちも同じ人間とは思えないほど整っており、凛とした瞳は強い意思を感じさせる。

 

口調が荒々しいことを除けば、完璧な大和撫子といえるだろう。

 

「これから背中を預け共に戦うのだ。お互いの名前も知らんと言うのはいかがなものだろうか?」

 

そう問い返されると少女は不機嫌そうにそっぽを向いてしまう。

 

眼帯の男はやれやれとかぶり振るが意に介さず話を進める。

 

「まずは拙者から。柳生十兵衛三厳と申す。以後お見知りおきを。」

 

十兵衛と名乗った男は頭を下げる。

 

「そん眼帯はまさかかと思もたが、やっぱい十兵衛どんでしたか!」

 

軍服の男が、嬉々として驚きの声を上げる。

 

柳生十兵衛。

 

歴史に詳しく無い人間でも剣豪の名前を1人挙げよと言われたら、宮本武蔵と二分にするほど知名度を誇る大剣豪である。

 

「拙者のことを知っているようだがお主は?」

 

十兵衛が軍服の男に問いかける。

 

「わがは桐野利秋と申しもす。中村半次郎の名前のほうが有名かな?よろしくお願いしもす!」

「幕末四大人斬りの1人、人斬り半次郎か。頼もしい男が味方になったのう。」

「うんにゃ、そやこっちの台詞もはんど。」

 

2人の男はお互いに豪快に笑う。

 

「そいで、おはんの名は?」

 

桐野が少女に聞く。

 

「名無しの権兵衛だ。」

「はぁ?」

 

少女の答えに桐野が呆れた声を出す。

 

「冗談にしては面白くないな。」

 

十兵衛の発言に少女はこう返した。

 

「召喚が不完全な上に突然だった影響かもな。名前どころか自分が何者なのかも分からない有り様だ。」

 

【ナナシ】はやれやれといった感じに両手を振る。

 

「ふうむ。それは困ったのう。」

 

「うんにゃ、そやおかしだろ。3人同時に召喚されてないごてわいだけがそなっちょっんだ。」

 

「心配ないマスターは私が守る。俺は強いからな。」

 

【ナナシ】は司の手をギュッと両手で包み込むように握る。

 

「こあ!無視するな!」

 

桐野を無視して。

 

「さっきから五月蝿いな。芋侍。」

「だいが芋侍だ!取り消せ!」

「喋り方が田舎臭いから芋で十分だ。」

「なんだと!」

 

売り言葉に買い言葉。

 

二人の口論はヒートアップしていく。

 

このままではマズイと思い、司は仲裁に入る。

 

「まあまあ、桐野さんもナナさんも落ち着いて。これから一緒に戦っていく仲間なんだから。」

「大将に免じて今回は引き下がっが次はねからな」

 

桐野は渋々といった様子で引き下がる。

 

「マスター、ナナというのは俺のことか?」

「ほら女の子だから名無しさんってのもあれだから…。いやだった?」

 

ななはそんな事は考えもしなかったという表情でキョトンとしていた。

 

「いや…ナナか…悪く無い名前だ。」

 

クスっと少し笑いななは少し照れたような表情を見せた。

 

気に入ってもらえたようだ。

 

「さて自己紹介も終わったようなので、我らの方針を立てたいがよろしいか?」

 

話が一段落したのを見計らい、十兵衛が本題に入る。

 

「我らが領地に隣接する空白地がある。速やかに兵を出し制圧すべきだ。」

「よーし善は急げだ。全員でひとに…」

「これこれ、他の陣営がどう動くも分からん状況で全員で攻め込むべきではないだろう。」

 

十兵衛が諭すように桐野に話しかける。

 

「俺が行こう。」

 

【ナナシ】が会話に割り込んで答える。

 

「頼めるか?」

「十兵衛どん。ちっと待った!」

 

桐野が手で制して十兵衛を止める。

 

「わがの名前もわからんやつに大仕事を任せられん。おいが行こ。」

「いや、信用出来ないからこそ良いのでござる。」

 

桐野の意見に反論しつつ十兵衛はこう答えた。

 

「この戦いでどの程度実力で忠誠心はあるのかといった事が測れる。試金石といった所でござる。」

「そんな事しなくても裏切ったりなんかしないがな。」

 

【ナナシ】は面白く無さそうな顔で答える。

 

「申し訳ない。しかし名無しの者に領地の防衛を任せるわけにもいかんのでな。」

「フン。まあいいだろう。後、マスターは俺と同行させたい。聖杯合戦がどういうものなのかを肌で感じさせたい。」

「うんにゃ!そらへ…」

「いいだろう。」

 

桐野の口を抑えながら十兵衛が許可を出した。

 

「マスター心配しなくてもいいぞ。そこの二人合わせたより俺の方が強いからな。どんな奴が来ても平気だ。」

 

【ナナシ】が笑顔でそう答える。

 

その顔からは邪な気持ちは一片も感じられない。

 

【ナナシ】が司から少し目を話したスキに十兵衛が司の耳元でこう囁いた。

 

「主殿。もしもの時は令呪で我らをお呼びください。」

 

【ナナシ】が裏切った時は自分達を呼べと言っているのだろう。司は十兵衛に向き直り答えた。

 

「ナナさんはそんな人じゃ無いから大丈夫。」

 

その言葉を聞いた十兵衛はにこりと笑い

 

「そうですか。今のは忘れてくだされ。」

と言った。

 

「兵はどうする?」

 

「足の早いのを3000連れて行く。マスター早く行こう。こっちだ。」

 

と【ナナシ】は誘導するが、何故か玄関とは逆のベランダ方に歩き出している。

 

「ナナさんこっちは出口と逆…」

 

「こっちのほうが早いだろ。ほらほら。」

 

猛烈に嫌な予感を感じた司はなんとか方向修正しようとするが、ナナは凄い力でグイグイと司を引きずっていく。

 

小柄な体格から一体どうしてそんな力が出るのか不思議なほどだ。

 

【ナナシ】が軽く司を抱きかかえる。

 

司の嫌な予感は的中しようとしていた。

 

「じゃあ行くぞマスター!」

「ナナさん!ちょっとまっあああああ!!」

 

制止を無視してななはマンションのベランダから飛び降りた。

 

司をお姫様だっこしたまま。

 

地上がどんどん迫ってくる光景が見え、司は目を閉じるが激突の衝撃はいつまで経ってもこない。

 

目を開けるとななは司を抱いたまま透明な馬に乗っていた。

 

霊馬。

 

聖杯合戦に置いてサーヴァントやマスターの足となるものだ。

 

「飛び降りる必要無かったよね…」

「この方が早い。」

 

半泣きの司からの言葉を【ナナシ】は斬って捨てる。

 

「勇敢なる我が精鋭達よ!今こそ我が元に集え!」

 

ななが勇ましく号令を掛けると、何も無い空間から人が現れる。

 

背中に旗指物を指し、胴鎧に陣笠を被り、刀を持っている。

 

これぞ霊兵・足軽。

 

朱引陣の霊脈から生成される魔力を元に作成された兵士達である。

 

「目指すは千代田区!いざ進まん!」

 

号令と共に一斉進軍を開始する足軽達。

 

その先頭を霊馬で駆けるななと司。

 

高城 司の初陣が今幕を開けた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

弐ノ巻 陣取り

皇紀2680年 平成32年 7月22日 20時00分

 

 

 

「皆さんこんばんは。今年も4年に1度の聖杯合戦の季節がやってきました。司会は私、新田 文治と。」

「アシスタントの高嶺 華です。」

 

アナウンサー2人の挨拶で番組は始まる。

 

聖杯合戦は4年に1度の国を挙げてのお祭りであるため、臣民の関心度も高い。

 

当然マスメディアも報道には熱が入る。

 

この番組も日本放映連盟を中心に各民放テレビ局の共同制作の放送番組である。

 

「ゲストのお二人をご紹介させて頂きます。まずはタレントのジョージ申谷さんです。」

「どうも申谷です。ワイのようなもん呼んでいただいいてありがとうございます。」

 

胡散臭い関西弁を話す猿顔の中年は、ジョージ申谷と紹介された。

 

テレビで見ない日は無いと言って良いほどの人気タレントだ。

 

「もう1人のゲストを皆さんもご存じの。聖徳太子さんです。今、合戦の監督役のルーラーとして召喚されました。」

「いやーどうもどうも~。」

 

紹介された妙齢の美人はヘラヘラ笑いながら手を振る。

 

冠や服装が肖像画に描かれたそのままではあるが、その姿は伝承とは違い容姿端麗な美女である。

 

だが聖徳太子というには威厳や気品といったものが皆無であった。

 

表情も気が抜けて緩み切った顔をしている。

 

日本屈指の偉人というよりは、学生気分が抜けない若者のような印象を受ける。

 

「聖徳太子は諡ですから、生前の厩戸王又は厩戸皇子とお呼びした方がよろしいのですか?」

「どっちでもいいですよ~。めんどくさいですし。」

 

特に配慮した様子も無く質問にあっけらかんと答える。

 

その答えに新田は苦笑いする。

 

「肖像画では男性だったのですが、実際には女性だったんですね。」

「おっさんに描かれて大変不愉快です。描くならもっとイケメンか美少女にしてください。」

 

質問した高嶺アナやスタジオのスタッフも笑ってしまっている。

 

「あんたおもろいやっちゃな。もっとお固い人や思うとったわ。」

「ありがとうございます。貴方も面白いですよ。特に顔が。」

 

人を食ったような態度を聖徳太子はするが、申谷は特に気に留めていない様子だ。

 

「さて豪華なゲストを迎え番組を進行せていただきます。まずはこちらをご覧ください。」

 

スタジオの大型モニターに東京全体を空から撮影した映像が映る。

 

光の線で区域ごとに区切られており、その線も場所ごとに色が違う。

 

「今、合戦は東京23区の朱引陣を7人のマスターで取り合う事になります。」

「色分けしたものがこちらです。」

 

色分けされた23区が描かれたフリップが出てくる。

 

「セイバー陣営が青色、アーチャーが黄色、ランサーが緑、ライダーが赤色、キャスターが紫、アサシンが黒、バーサーカーが灰色になります。」

「各陣営には3騎づつサーヴァントが召喚されます。」

「サーヴァントは朱引陣の霊脈から魔力を得られるので、領地の数が多いほど魔力が増えていきます。」

「聖杯を得られるのは最後まで勝ち残ったマスターとサーヴァントのみ、領地を増やしながら戦い抜くわけです。」

 

新田アナと高嶺アナが交互に説明を行う。

 

次に甲冑を着た兵士の画像がモニターに映る。

 

本来、顔があるべき場所には顔が無くのっぺらぼうような状態だ。

 

一目で人では無いのが分かる。

 

「聖杯合戦最大の特徴がこの霊兵・足軽ですね。」

「ええ、彼らは朱引陣の魔力を元にした兵士達です。マスターやサーヴァントの命令することで行動します。」

「サーヴァントよりも弱い彼らですが1つの朱引陣から最大で1万人ほど作成できます。」

「ただしこれは朱引陣の魔力をすべて使用した場合です。サーヴァントの魔力供給がその分滞ってしまいます。」

「サーヴァントの魔力供給と兵士の数をバランスを取る事が聖杯合戦を勝ち抜く秘訣であると言えますね。」

「あのちょい質問なんやけど。」

 

申谷が手を上げて問いかける。

 

「朱引陣を制圧するのって、具体的にどないするんや?」

「朱引陣の中心にある石像に触れて、マスターかサーヴァントがパスを繋げる事で自分の陣地にする事ができますね。こちらの石像ですね。」

 

大型モニターが狛犬の映像を映し出す。

 

この像が朱引き陣の霊脈を制御しており、魔力が最も集中する場所である。

 

「千代田区と渋谷区は色が白いですが、誰の陣地なんですか?」

「空白地帯ですね。今回の合戦は1チーム毎に3つの朱引陣が与えられていますが、余りの朱引陣があります。

誰の物でも無いので領地を拡大するチャンスでもあります。」

 

「既に空白地帯に向かっているチームもいるもようです。現地と中継が繋がっています。猫戸さん聞こえますか?」

 

高嶺アナの呼びかけると画面が切り替わり、リポーターの女性が画面に映る。

 

「はい。現地の猫戸です。私達は今、千代田区上空にいます。

空白地帯の千代田区は戦闘区域になる事が予想されます。住民の皆様はお近くのシェルターに避難するか、建物の中から出ないようにお願いします。」

 

ヘリコプターに乗って猫戸が現地様子を伝える。

 

「あちらをご覧ください。空白地帯を制圧しようと進軍してくる一団を捉えました。」

 

遠目で蠢く人の塊らしきものをカメラに写す。

 

カメラがズームになるとハッキリと人物が分かった。

 

馬に乗った男女の姿。

 

高城司と【ナナシ】の姿だ。

 

 

 

携帯から番組を見ていた司は自分の姿が映ったことに驚く。

 

上空を見ると派手な音を出してヘリコプターが飛んでいる。

 

あれが自分たちを写しているのだ。

 

「…この地区はサーヴァント戦が予想されます。住民の方はお近くのシェルターか近くの建物に避難してください。この地区は…」

 

街中のスピーカーから同じ音声が流れ続けている。

 

ここまで馬に乗って街中を疾走してきたが、人影は全く無く道路も車の一台も走っていなかった。

 

「マスターもうすぐ着くぞ。」

「ナナさんは像の位置は分かるの?」

「ああ、だいたいな。魔力の1番集中している所だ。」

 

司を挟んで手綱を後ろから操っているななしが答える。

 

「マスター気をつけろ!敵だ!」

 

司達の前方の道路に魔法陣が展開され、そこから白色の旗と鎧を身につけた足軽達が現れる。

 

主が居ない朱引陣であっても自動防衛で展開される足軽だ。

 

「どうするの?」

「無論押し通る!」

 

彼女の剣を振り上げ、自分の兵達に命令を下す。

 

「全軍抜刀!突撃!」

 

青い足軽達は一斉に刀を抜き、雄叫びを上げ敵に躍りかかる。

 

「マスターはしっかり掴まっているんだぞ。俺はあいつらを蹴散らしてくる。」

 

そういうと名無しは馬から飛び降りて、先陣を切って駆けていく。

 

司はそれを見送り後陣の兵達に飲み込まれていく。

 

一番に切り込んでくる【ナナシ】を見つけて敵の兵は彼女に狙いを定める。

 

だが彼女は敵の白刃を躱し、逆に次々と敵兵を仕留めていく。

 

剣をひと振りするたびに敵兵が次々と崩れ落ちていく。

 

その姿はまるで踊りでも踊っているかのように美しさと気品があった。

 

【ナナシ】が1人で敵陣を崩して行くところに味方の兵が突撃してくるのだからたまらない。

 

あっさりと敵陣は崩壊し、勝敗はほぼ決した。

 

元々、所有者のいない朱引陣の足軽は指揮されている足軽よりも弱く、その上数も多く無い。

 

最初から負ける要素は無かったのだ。

 

後は石像にパスを繋げばこの朱引陣は自分達の物になると考えていたななしは別の敵が来ているのを感じ取った。

 

自分達とは別方向から軍勢が迫っていることを視認できた。

 

「黄色の旗指物…アーチャーか。」

 

この地区に隣接している陣営の一つだから別に不思議なことでは無い。

 

彼女も陣地の争奪戦は予想の範疇であった。

 

だがタイミングが良すぎる。

 

後もう少しで制圧できるというタイミングで現れたのだ。

 

黄色の足軽達は一定距離で立ち止まりこちらと対峙する姿勢を見せる。

 

その後ろから馬に乗った男が2人ゆっくりと歩いてくる。

 

「露払いご苦労!ワイらのためにわざわざ掃除してくれるとはなんと殊勲なやつらよ!」

 

先頭のサーヴァントらしき男がこちらに話しかけてくる。

 

引立烏帽子を被り、胴丸らしき鎧を身につけている。

 

その言葉で【ナナシ】は合点がいった。

 

奴らはわざと遅れてきたのだ。

 

自動防衛の足軽とななし達を戦わせて、無傷の自分達が領地を掠め取ろうと画策したのだろう。

 

「随分とセコい真似をするものだな。三騎士ともあろうものが。」

 

アーチャーと対峙しながら、霊馬ごと司を自分の後ろに付かせる。

 

弓兵を相手にマスターと距離を離すのは悪手だ。

 

「せこい?アホなこと言うな。これは戦や。勝つ為なら何でもやるもんや。そこに卑怯もひったくれも無いやろう?」

「まあその言葉には同意するよ。」

 

その言葉をを言い終わらぬうちに、【ナナシ】の姿が一瞬で消えアーチャーに斬りかかる。

 

虚を突かれたアーチャーだったが、冷静に和式の甲冑には不釣り合いなサーベルを抜いて迎撃する。

 

剣戟音が辺りに響きわたる。

 

一撃で決まらないとみるや【ナナシ】は嵐のような連撃で猛攻を掛ける。

 

アーチャーも負けじと打ち合う。

 

その攻防はまさに神速。

 

並の人間の目では捉えらない。

 

三十合近く打ち合ったすえ、アーチャーの水平斬りを避けつつ【ナナシ】は後方に下がって距離を取る。

 

「こんな熱烈な歓迎をうけるとはワイもまだほかしたもんでも無いな。」

 

アーチャーが余裕そうに軽口を叩く。

 

「あいにく髭面の親父は好みではないのでな。」

「アカン、振られたわ。」

「おい!おっさん!何やってるんだよ!」

 

アーチャー後方からマスターらしき人物が初めて声を上げる。

帽子にマスクをしている為その表情は読み取れないが、声から怒っている事は伝わる。

 

「さっきから防戦一方じゃないか!そいつはあんたより弱いんだからさっさと倒しちまえよ!」

「坊主それはほんまかいな?」

「ああ、そいつはステータスは殆どC止まり。おっさんの方が上だぜ!」

 

その言葉にアーチャーは訝しんだ。

 

マスターはサーヴァントの情報をある程度までは観るだけで読み取ることができる。

 

マスターは嘘をついていない。

 

しかし実際に刃を交えたアーチャーの勘はその情報に異を唱える。

 

膂力、身のこなし、そして技の冴え、どれを取っても一流であると言わざるおえない。

 

無論能力値が全てでは無いがその齟齬がアーチャーは解せない。

 

加えて彼女の剣である。

 

今まで剣と表現してきたが、彼女の得物は白い靄のようなものに包まれてその全貌は全く分からないのだ。

 

彼女の戦い方やおおよその得物の長さから剣だと予測できる程度だ。

 

いくら激しく振るっても靄から得物の姿が見える事は無い。

 

余程自分の正体を知られたくないらしいとアーチャーはほくそ笑んだ。

 

一方優勢に見えたななしもその実、攻めあぐねていた。

 

弓兵の得意な距離で戦わせまいと接近戦を仕掛けたのだが、一向に突き崩す事が出来ない。

 

剣の技量自体は自分の方が上にも関わらず、手傷一つも負わせられないのだ。

 

そのくせこちらの攻撃が甘いと隙を突いて反撃を仕掛けてくる。

 

まるで要塞の相手をしていると錯覚するような堅固さである。

 

お互いに構えを崩さずに睨み合い、膠着状態に陥っていた。

 

 

 

「影井さん!しっかり撮ってよね!」

「ああ、大丈夫だしっかり撮れてるよ。」

 

上空から2体のサーヴァントを撮影しているテレビクルー達も色めき立っていた。

 

大日本皇国、最大のイベントである聖杯合戦はすべて臣民が注目している。

 

だが現地の取材班にとっては過酷極まる仕事である。

 

今のように戦況は刻一刻と変化していき、予測が立てづらい。

 

最悪戦闘に巻き込まれて死亡した事例もある。

 

しかしここで見事この仕事を全う出来れば内外の評価はうなぎ登り。

 

間違いなく出世できる。

 

ここで名を上げ、一流キャスターになり適当なスポーツ選手と結婚して寿退社。

 

後は悠々自適なセレブ生活を送るのが猫戸 彩里の人生プランである。

 

「テレビをご覧のみなさん。セイバー陣営とアーチャー陣営の戦闘が始まりました。

どちらが勝つか予想してお手元のリモコンから投票をお願いします。」

 

聖杯合戦中継の最大の醍醐味、リアルタイムによる勝敗の予想である。

 

テレビからリモコン操作で投票し、予想が的中した場合それに応じた配当金が貰えるのである。

 

賭け金不要、外れてもリスク無し。

 

政府主導の公共ギャンブルであり、臣民のガス抜きも兼ねている。

 

聖杯合戦が支持されている最大の理由がここにあった。

 

「やはり最優クラスのセイバーが人気なようですね。果たしてどちらが勝つのでしょうか?」

 

 

 

 

夜の秋葉原で行われている2人のサーヴァントの戦いを見守る者は、両陣営のマスターとテレビ局のクルーさらにもう1人いた。

 

ビルの上から戦いを眺め、時折両マスターにも目線を送っていた。

 

男は小袖に袴を履き黒い頭巾を被っている為表情は伺え無い。

 

接近戦ではやはりセイバーの方に分があるが、アーチャーの手練手管によって戦況は拮抗状態に陥っている。

 

目の前相手にお互い夢中で周囲を警戒しているそぶりは無いようだ。

 

頭巾の男は白鞘に収められた自身の太刀をゆっくり引き抜く。

 

狙いはマスターだ。

 

どんな強力なサーヴァントでもマスターの存在は弱点である。

 

この位置からセイバーのマスターからは死角になる。

 

次に2体のサーヴァントがぶつかり合った時がチャンスである。

 

頭巾の男がそんな思惑を巡らせているところ、お互いに様子を伺っていた二体のサーヴァントの距離がジリジリと狭まる。

 

もう少しでどちらかが仕掛ける

 

頭巾の男はジッと時を待つ。

 

先に仕掛けたはやはりセイバーからだ。

 

脇構えからアーチャーに突進して距離を一気に詰める。

 

それを確認してから頭巾の男も太刀を左手に持ち、ビルの上から地上に飛び降りた。

 

計画通りセイバーのマスターに狙いを定めようとした時、予想外の事態がおきた。

 

アーチャーに向かっていたセイバーが突如反転して跳躍。

 

そのままこちらに向かってきたのだ。

 

セイバーの斬り上げに対して咄嗟に真っ向から刃を振り下ろす。

 

刃が重なり合い空中で鍔迫り合いの状態になった。

 

「がはあッ!?」

 

鍔迫り合いの最中、頭巾の男の右肩に予期せぬ衝撃が走る。

 

そのまま態勢を崩して地面に叩きつけられる。

 

すぐに確認すると矢が右肩に突き刺さっていた。

 

アーチャーがいつのまにか矢をつがえこちらに攻撃をしてきていたのだ。

 

「やっぱりいたな。出歯亀野郎。」

 

難なく着地したセイバーが頭巾の男に声をかけてくる。

 

「き 貴様ら!戦っていたのではないのか!」

 

くぐもった声だがなんとか聞き取れる声で頭巾の男は言った。

 

セイバーとアーチャーは争い合って、こちらに意識を向ける暇も無かったはずだ。

 

何故急に協力してこちらを攻撃したのか頭巾の男には理解出来なかった。

 

「これだけ大っぴらに戦っていれば、寄ってくるサーヴァントがまさかワイらだけで無いやろう。」

 

アーチャーが平然と言ってのける。

 

なんのことは無い。

 

2人は最初から乱入者に警戒しながら戦っていたのだ。

 

奇襲も想定内にすぎない。

 

一転して頭巾の男は窮地に追い詰められた。

 

そうして男が次に取る行動はおおよそ予測出来る。

 

「逃げたか。」

 

頭巾の男はゆっくりと立ち上がると同時に姿を消した。

 

恐らく霊体化して逃亡したのだろう。

 

名無しもアーチャーも追いたかったが、まだ目の前の戦いに決着はついていない。

 

ここは頭巾の男を見送るしかないのだ。

 

「どうする?続きをやるか。」

「いや、興が乗らへん。それよりもええ話があんのやけど?」

「どんな話だ?」

「ワイらで同盟を組まんか?組んでくれるならこの朱引陣はオノレらにやるわ。」

「おっさん!ちょっと待て!」

 

【ナナシ】とアーチャーとの会話にアーチャーのマスターが割って入る。

 

「聖杯を貰えるのは1組だけだぜ!何で同盟何て組む必要がある!それに朱引陣をくれてやるなんて...」

「アホ。ボウズなればこそよ。」

 

馬から降りて激昂しながら詰め寄ってくる自身のマスターを諭すような口調でアーチャーが続ける。

 

「まだ見たことも無い陣営が5つもあり15騎のサーヴァント達がおる。

ワイらだけで戦い抜くのは骨が折れる。早い段階で同盟を結んだらそれだけ有利になれるっちゅう寸法よ。」

「別にコイツらと絶対組む必要はねえだろ。他に強いヤツがいるかもしれねえし。」

「いや、こいつらは強い。ワイが太鼓判を押す。」

 

アーチャーのマスターは少し考える素ぶりを見せたが。

 

「わかったよ。おっさんの好きにすればいい。」

 

と答えた。

 

口調は乱暴だが、そこには確かに自分のサーヴァントへの信頼を伺わせている様子だった。

 

「こっちはまだ同盟を組むとは言って無いぞ。」

「ナ、ナナさん。」

 

ななしの言葉を司が慌てて止める。

 

「マスターが決めてくれ。俺はマスターの命令に従う。」

「いや、いきなり振られても...ナナさんはどう思う?」

「オレか?うん...」

 

腕を組み少し考えてからななしは答えた。

 

「悪くは無いだろうな。ただアイツらの正体なのかまだよく分からない。寝首を掻かないとも限らない。」

 

確かに一理ある。

 

彼らを信用するには時間が足りなさ過ぎた。

 

司は少し考えてからアーチャーに声を掛けた。

 

「あの1つ質問していいですか?」

「なんや?セイバーのマスターさん。」

 

司は少し気になっていたことを質問をしてみることにした。

「さっき自分が襲われた時にどうしてななさんを攻撃しなかったんですか?チャンスだったはずでしょ?」

 

そう頭巾の男の対応に【ナナシ】が背を向けた時、後ろから射ることも出来たはずだ。

 

何故【ナナシ】を援護したのかが司には気になっていた。

 

アーチャーは一瞬キョトンとした顔をしてすぐに豪快に笑い出した。

 

「確かにその通りや。頭巾の男、十中八九アサシンやろが、セイバーを射ればアサシンの奇襲は成功したかもな。

軍を率いておらんアサシンは撤退して、ワイらは陣地を物に出来る。ジブン、なかなか悪どいな。」

 

クックと心底可笑しいといった感じでアーチャーが司に言った。

 

「いや…そこまで考えたわけじゃなくて。」

 

司としてはそこまで考えて発言したわけでは無かったが。

 

「ただ、目の前の相手が突然背を向けたら攻撃するのが普通かなと思って。」

「そうやな。射らへなんだ理由の1つはアサシンが厄介やからや。攻撃移ってからやっと気配を察知出来よった。

こんなことが出来るのは、気配遮断スキルを持っとるアサシンしかいひん。こいつらを野放しにしてると後々厄介や。」

 

指を立ててアーチャーが説明する。

 

「2つ目は、あんたらに恩を売るため。助けてやった方が、同盟交渉の材料になると踏んや。先行投資やな。」

 

納得出来る理由だ。

 

既にその頃には同盟を組む構想をしていたらしい。

 

「3つ目は勘や。あんたらと組んだ方がおいしいとなんとなく分かったんや。」

「勘で決めたのかよ。おっさん。」

「結構重要なんやで勘は。ワイのは良く当たるで。」

 

アーチャー組のやり取りを見ながら司は考えていた。

 

アーチャーが腹を割って誠実に話してくれている事は分かった。

 

なら自分も自身の勘を信じてみようと。

 

「分かりました。同盟を組みましょう。」

「おお!さよか。それは、めでたい。」

 

自身の提案が受け入れられてアーチャーはご満悦な様子だ。

 

「ほら、手を出せよ。」

 

アーチャーのマスターが司に近づいて来て手を差し出してくる。

 

取り敢えず手を繋げば良いと解釈して司は手を握った。

 

瞬間、令呪を通して何かが繋がったのが分かった。

 

「よし、パスは繋がったな。これで同盟成立だ。」

「よっしゃ!同盟成立を祝して勝鬨やるか!」

 

俺達もやるのか?といった表情でななしも仕方ないといった表情で足軽達に指示をする。

 

「勝鬨やー!」

「鬨の声を上げろー!」

 

2人の声に反応して足軽達が一斉にえい、えい、おー!と声を出した。

 

両軍合わせて1万人近くの兵の声を凄まじくビルの合間に響き渡った。

 

「あの、すいません。少しよろしいですか?」

 

いつの間にかヘリから地上に降りていた取材班が司に声を掛けてきた。

 

「え、あ、はい。」

 

司は突然話しかけられたので、挙動不審な態度を取ってしまう。

 

「俺達はもう行くからな。」

「え?いやちょっと待って。」

 

質問を受けている司を尻目に立ち去ろうとするアーチャーのマスター。

 

それを何とか司は止めようとする。

 

「連絡先な。じゃあな。」

 

電話番号が書かれたメモを渡して、アーチャー組は騎乗して軍勢を率いて自身の陣地へと立ち去っていった。

 

必然、インタビューは司に集中する。

 

「まずはお名前と年齢を。マスターに選ばれた意気込みもお願いします。」

「え えっと高城 司。17歳です。マスターになったのは初めてですが頑張っていきたいと思っています。」

 

何とか絞り出して司はこう答えた。

こうして司は聖杯合戦の初日を無事に終えた

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

1日目終了時の朱引き陣図&挿話 2020年 聖杯合戦 ガイドブック

陣営事の勢力図です。
絵にした方が分かりやすいと思って作成しました。
話が進む事に更新します。


 

【挿絵表示】

 

青色 セイバー陣営

荒川区 台東区 文京区 千代田区

 

黄色 アーチャー陣営

墨田区 江東区 中央区

 

緑色 ランサー陣営

港区 渋谷区 品川区 目黒区

 

赤色 ライダー陣営

江戸川区 葛飾区 足立区 北区

 

紫色 キャスター陣営

板橋区 中野区 練馬区

 

黒色 アサシン陣営

大田区 世田谷区 杉並区

 

灰色 バーサーカー陣営

豊島区 新宿区

 

 

 

聖杯合戦のガイドブックという名の設定資料集です。

この世界だと一般に販売されているという設定です。

 

 

 

2020年 聖杯合戦 ガイドブック

 

2020年、夏。

東京は運命の舞台になる。

 

合戦概要

東京2008年から12年の時をへて東京に聖杯合戦がやってきます。

我が国最大の祭典を祝って日本中から東京に多くの人々がやって来ます。

合戦を通して日本中に感動と興奮を呼び起こし、「記憶」と「絆」が人々の心にいつまでも残るそんな合戦を目指していきます。

 

正式名称 第18回聖杯合戦2020年/東京

 

開催期間 2020年7月〜8月予定

 

会場計画

東京2020合戦は、東京都区部の23区内で開催し、23の朱引陣を賭けて戦います。

 

用語解説

ここでは聖杯合戦で使われる用語の解説及び説明を行います。

 

聖杯合戦

1948年から4年に1度行われる大日本皇国最大の祭典。

21騎のサーヴァントと7人のマスターが7つの陣営に分かれ朱引陣を取り合い最後の勝ち残った1騎と1人が聖杯を手に入れる事が出来ます。

2020年は18回目、開催都市は東京になります。

 

聖杯

聖杯合戦に勝ち残った者に与えられる万能の願望機。

広義の意味での聖杯とは異なります。

膨大な魔力の結晶であり、この世での願いなら殆ど叶えらられる代物です。

なお、聖杯が不要なら管理委員会に申請する事によって、公共交通機関の無料、年間の助成金、税金免除等の優遇措置を政府から生涯受け取れる権利と交換する事ができます。

 

サーヴァント

あらゆる時代の英霊達を使い魔として召喚したものです。

通常の使い魔とは一線を画し、本来ならば人間の手に余るものですが聖杯の補助によって顕現されています。

召喚された際に7つのクラスに振り分けられます。

聖杯合戦ではクラス毎に3騎づつ召喚される為、ルーラーを除いて21騎のサーヴァントが召喚されます。

 

サーヴァントのクラス

サーヴァントは召喚された際に、性質に応じて7つの枠組みに振り分けられます。

剣士セイバー、弓兵アーチャー、槍兵ランサー、騎兵ライダー、魔術師キャスター、暗殺者アサシン、狂戦士バーサーカーの基本7クラスです。

クラスによって基本的な能力値やスキルもクラス特性によって変わってきます。

 

 

朱引陣

聖杯合戦最大の特徴と言える要素。

開催都市の区域事に分断した参加者の領地のこと。

国内のあらゆる霊脈から魔力を持ってきているため通常より膨大な魔力を誇る霊脈と化している。

これによりマスターが魔術師で無くともサーヴァントは土地から魔力供給で必要な魔力を賄えるようになっている。

ある程度自動で陣の魔力は回復するが、1日の回復量微々たるものである。

今、合戦は東京都区部で線引きされており、23個の朱引陣が存在する。

 

石像

朱引陣の霊脈を運用及び管理しているものです。

マスター及びサーヴァントが直接触れ、パスを繋ぐ事で自身の陣地にする事が出来ます。

石像は動物の姿を模しており、陣地によって形が違います。

 

霊兵・足軽

朱引陣の魔力から生成される兵隊達。

聖杯合戦の名脇役。

マスターやサーヴァントが命令する事によって手足となって働く。

個々の戦闘能力は一般的な魔術師よりも劣るが人数が集まる事でサーヴァントでさえ打倒する。

1つの朱引陣から最大1万人の足軽を生成出来るが、反面朱引陣の魔力を枯渇させてしまう。

サーヴァントに使う魔力と足軽の人数はバランスを取る必要がある。

敵の足軽を倒す事は相手の陣の魔力を削る事になるため有効な手段と言える。

また指揮するマスターやサーヴァントの能力によって足軽の戦闘能力が変動する。

生前、大規模な軍を率いた者や戦史に名を残すほどの指揮能力があったものほど足軽の強さが飛躍した上がります。

 

刀足軽

霊兵・足軽が生成時に選択できる5つの兵種の1つ。

刀は他の足軽も標準装備ですが、近接戦闘時では能力が向上します。

また選択出来る兵種の中では最も機敏です。

 

槍足軽

霊兵・足軽が生成時に選択できる5つの兵種の1つ。

中距離での戦いを得意とします。

密集する事で槍衾を形成する事ができます。

反面動きは全兵種の中で4番目に遅いです。

 

弓足軽

霊兵・足軽が生成時に選択できる5つの兵種の1つ。

遠距離での戦いを得意とします。

弓矢による絶え間ない遠距離攻撃をする事ができます。

全兵種で2番目に早いです。

 

鉄砲足軽

霊兵・足軽が生成時に選択できる5つの兵種の1つ。

超遠距離での戦いを得意とします。

全兵種最長の射程距離と高い攻撃力を誇りますが、1発撃つ度に装填が時間が掛かるのと防御力が最低のため運用が難しいです。

 

矢盾足軽

霊兵・足軽が生成時に選択できる5つの兵種の1つ。

置き盾を装備もしくは設置する事が出来ます。

置き盾は物理的な攻撃はもちろん魔術的な攻撃もある程度は防ぐ事が出来ます。

全兵種最高の防御力を誇りますが、移動速度は全兵種で最低です。

 

防護シェルター、防護壁

サーヴァント戦による被害を抑える為のものです。

シェルターは各所に点在しており、サーヴァント戦開始の予測が出た場合開放されます。

防護壁も同じく予測が出た地域の建物への被害を防ぐ目的で展開されます。

 

 

東京2020合戦 協賛企業

 

皇国自動車

月録新聞

大楽重工業

大日本電話通信

遠野銀行

冬木瓦斯

その他 協賛企業多数

 

発行 聖杯合戦組織管理委員会

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖杯合戦 2日目
参ノ巻 一夜明け


皇紀2680年 平成32年 7月23日 午前8時2分 

 

 

 

日の光の眩しさで司は目が覚めた。

カーテンが少し開いていて、そこから朝日が入ってきているようだ。

目覚めた部屋が自分の家では無いのに気がつくのに数分かかった。

どうしてここにいるのか確認しようと目線を左に向けた。

 

「おはようマスター。よく眠れたか?」

 

司の隣で寝ていた【ナナシ】が囁くように言った。

予想だにしない状況に司はベッドから転がり落ちた。

 

「どうしたマスター?何かあったか?」

 

ベッドから転げ落ちた司をニヤニヤとした表情で【ナナシ】は見下ろしていた。

 

「か 勝手に同じ布団の中に入らないでください!」

 

「そうか。次は許可を貰ってからにするよ。」

 

出会ってまだ1日くらいしか経って無いが、司は【ナナシ】というサーヴァントがどういう性格なのか分かってきた。

司があまり女性慣れしていない事が面白いらしく、何かにつけてからかってくるのだ。

昨日もシャワーを浴びようとしたら、一緒に入ってこようとしたの必死に止めるはめになった。

 

転げ落ちた事で眠気は吹っ飛んでいた。

司は立ち上がり部屋を見回すと昨夜のことを思い出していた。

昨夜の戦いの後、朱引陣を手に入れてテレビの取材をそこそこで切り上げて十兵衛達と合流した。

既に自宅が敵に割れている事を考慮して、拠点を変えるべきだという十兵衛の意見で領地内のホテルに泊まっているのが今の状況である。

ホテルに着いてからも大変だった。

なにせテレビ中継に映ってしまったせいで親と知り合いから連絡が何件も入ってきたのだったから。

友人達からの連絡は凄いとか頑張れよとか暖かいものが多かったが、両親からお説教の電話だった。

特に母親は司がマスターになった事と家が滅茶苦茶になった事で大荒れであった。

今すぐマスターを止めて帰ってこいという返答がきた。

合戦を避け明日から祖父の家に行く予定だったので当然だろう。

父親は割と応援してくれているようだったが、母をなだめるのに精一杯な様子だった。

激論の末、母が折れ危険だと判断したらすぐに辞退する事を条件に聖杯合戦に参加する事を認めてくれた。

両親は予定通り祖父の家に行くことになった。

その後司は疲れからすぐにベッドで就寝したのだった。

 

昨晩の事を思い返しながら司は自分の手の甲に刻まれた令呪をジッと見つめる。

まるで現実離れした出来事が続けざまに起こっていたが、この紋章が夢では無い事を明確に示していた。

平凡な自分の人生の中でこんな日がくるなんてと考えるだけで口角が上がってしまう。

 

「大将!おはゆう!」

 

ドアが開き別の部屋にいた十兵衛と桐野が挨拶しながら入ってきた。

 

「主殿。起きてすぐで申し訳ないのですが、

今後の方針を立てたいのですがよろしいですかな。」

 

司としては特に異存は無かったのだが、ある事の方が気になった。

 

「その般若のお面はどうしたんですか?」

 

声で十兵衛だと分かったが、何故か般若のお面を付けていて服装も黒の着流しに変わっていた。

 

「これは失礼。」

 

面を取りながら十兵衛が説明を始めた。

「拙者どうも姿が特徴的すぎるゆえ変装する事に致しました。

名前の方も人前では【般若】と及びください。」

 

聖杯合戦においてサーヴァントの真名を隠す事は基本中の基本である。

真名が分かってしまった場合、武器や戦い方はもちろん弱点なども分かってしまう

恐れがあるため極めて危険だからだ。

 

「ナナシは良いとして、桐野はどうするかの。」

「コイツは知名度低いから隠さなくていいだろ。」

 

ナナシが揶揄する口調で言った。

 

「第一正体を隠すならその妙な喋り方を変えるべきだろ。」

「なんだとこあ!聞き捨てならんぞ!」

 

すぐさま桐野がその言葉に噛み付く。

顔を合わせればこの2人は口喧嘩ばかりしている。

あまり相性は良くないようだ。

 

「待て待て、そう喧嘩ばかりするな。今から現状を話し合わなければならんというのに」

 

そう言うと十兵衛は机の上に地図を広げた。

東京23区の地図のようだ。

 

「まず我らセイバー組だ。荒川区、台東区、文京区を拠点に昨夜新たに千代田区を手に入れ陣地を4つに増やした。

ランサー組は港区、目黒区、品川区を抑え我らと同じく昨夜、空白地の渋谷区を手に入れ陣地は4つ。

ライダー組はバーサーカー組の北区を襲撃しこれを獲得した。陣地は4つ。

バーサーカー組は1つ減らし陣地は2つ。アーチャー、キャスター、アサシンは変わらず3つのままだ」

 

十兵衛が地図にペンで色を塗りながら現在の戦況を説明する。瞬く間に23区の地図が7つに色分けされていく。

 

「夜通しテレビとにらめっこしていると思っていたが、情報を集めてたのか。」

「一歩も動かずとも情報が手に入るとは便利なものよの。」

 

十兵衛がニヤリと笑い話を続ける。

 

「陣地4つとアーチャー組との同盟の効果によって我らが1番人気のようです。主殿お喜びください。」

「めでたか!まこてめでたか!」

 

はしゃいでるでいる桐野とは対象的に司の心境は複雑であった。

 

「喜んでいいのかな...」

 

1番人気ということは現状ではもっとも優勢であると言えるが、裏を返せば他の勢力から狙われやすくなるということでもある。

過去の聖杯合戦でも突出した勢力が袋叩きあって敗退した事例は少なく無い。

出る杭は打たれるというやつだ。

昨日の事を司は唐突に思い出した。

アーチャーのマスターと連絡する約束をしていた事を。

早速昨日貰ったメモに書いてある電話番号にかけてみる。

2コール目で電話の主は出た。

 

「よう。」

 

昨夜と同様のぶっきらぼうな口調だ。間違いなくアーチャーのマスターだろう。

 

「ええと...昨日はどうも。」

 

何がどうもなのか。

どんな話からしてよいのか分からずついこんな言葉が出てしまった。

 

「どうも。高城司くん。」

 

その返答に司は動揺する。

 

「どうして俺の名前を?」

 

アーチャーのマスターには自分の名前を言って無いはずだ。

司は思わず聞き返す。

アーチャーのマスターは心底呆れたようにため息をついて。

 

「テレビつけてみろ。」

とだけ言った。

 

言われるがままリモコンを手に取りテレビをつける。

聖杯合戦の情報を報道している番組のようだ。

 

「…それではセイバーのマスターである高城 司くんのインタビューの映像をどうぞ」

 

画面に自分とナナシの姿が映る。

 

「…あ」

 

名前を知っていて当然だ。テレビでいやというほど流れているのだから。

 

「高城くんは都内高校に通う高校生で、部活は剣道部に所属してるとのことです。」

 

マスコミの取材の時に名前以外は情報を一切しゃべっていないが、すでに調べてあるようだった。

 

「おい!どこの世界に自分から名乗るマスターがいるんだ!」

「ご ごめんなさい!」

 

司は電話越しの怒鳴り声に謝ることしか出来なかった。

 

「まあもうしょうがないか。それで今お前どこにいるんだ?まさか自宅にはいないよな?」

「えーと、駅前のホテルです。」

「よーし、そこは賢いな。自宅だと他のマスター襲撃されるかもしれないからな。」

 

もう既に襲撃されてるんだけどと思いながら司は話を聞いてる。

 

「今後の方針を話し合いたい。そうだな、昼の1時に今から言う場所で落ち合おう。」

 

アーチャーのマスターが指定した場所は中央区の中華料理店のようだ。

すぐに机にあったメモ用紙に書き込む。

 

「盗聴の危険もある。電話はこのへんにしよう。じゃあな、遅れるなよ。」

 

それだけ言うとアーチャーのマスターは電話を切った。

電話を終えた途端にグーとお腹がなり、空腹感を覚える。

そういえば昨日の夜から何も食べて無い。

 

「ははは!やっぱいふとしが減っているよな。そげん思もしこわんなときましたぞ大将。」

 

桐野が笑いながら皿を持ってくる。

皿の上にはトーストにハム、ゆで卵、サラダが乗っている。

 

「用意してくれたの?ありがとう。」

 

司は桐野に礼を言う。

腹はペコペコで動く気力も無かったので本当に助かる。

 

「てっきりお前が食べるのかと思ったぜ。食い意地張ったサーヴァントって言ってやろうかと思ったのに。」

 

横から【ナナシ】が茶々を入れる。

 

「いちいちやぞろしな。さあ、大将うっくれんか。」

 

司が食事に手をつけようとした時、十兵衛が制止する。

 

「主殿、しばしお待ちを。桐野、この食事どこから持ってきた。」

「るーむさーびすってやつじゃ。わいが席をはじちょっ時に給仕がふんできた。」

 

ふむと十兵衛は自身の顎を触る。

これは考え事をする時の十兵衛の癖のようだ。

そうして十兵衛はトーストをほんの少しちぎり持っていたコップの中に入れた。

 

「何をやってるんだ?」

 

【ナナシ】が十兵衛に問う。

 

「ロビーに熱帯魚がいたであろう。あれを一匹拝借してきたのよ。」

 

見ると確かにコップの中に小さな熱帯魚がパン屑をつついている。

十兵衛は暫くその様子を眺めていたが、急に眼を細めてから司に声を掛けた。

 

「主殿、すぐにここを離れたほうがよろしゅうかと思います。」

 

そういうと十兵衛はコップ中をこちらに見せた。

さっきまで元気泳いでいた小魚は痙攣しながら水面に浮かんでいた。

 

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午前8時30分

 

 

「鮫洲です。」

「鷺宮です。」

「笹塚です。」

「芝です。」

「高尾です。」

「立川です。」

「中里です。」

「野毛です。」

「町田です。」

「青山です。」

「はいストップ。ストップ。」

 

ここは陸軍省の会議室の一室。

それなりに広い部屋の中で聖徳太子は軍服の男達に囲まれていた。

 

「あのですね。そんな一斉に喋られても聞き取れないですし、名前も覚えられるわけないでしょう。

そこのところ考えてくださいよね。」

 

辟易とした顔で太子は答える。

 

「はっ!申し訳ありませんでした。太子様の逸話は余りにも有名なのでこのくらいは造作もなくこなされるかと思いまして。」

 

先頭に立っている鮫洲 少佐が答える。

 

「いや毎回10人の受け答えしているわけじゃ無いですよ。簡便してくださいよ。それで何の話でしたっけ?」

 

露骨に嫌そうな顔しながら太子は話を促す。

 

「先ほどもお話した通り憲兵隊から参りました鮫洲です。本日より太子様の身の回りのお世話をさせていただきます。」

 

敬礼をしながら鮫洲が明快に答える。

 

「帰ってもいいですか?」

 

太子は立ち上がってそそくさと部屋を出ようとする。

しかし鮫洲の部下たちに回り込まれて扉にたどり着けない。

 

「太子様。聖杯合戦の裁定者を憲兵隊が補佐するのは第1次から習わしです。勝手を言われては困ります。」

 

鮫洲は鉄仮面のように表情を一切変えずに言った。

「特に手伝って貰う必要も無いんですけどねー。

無駄に多すぎないですかそんなに頭数要ります?男だらけでむさ苦しくてしょうがないですしね。

こういう時はもっと女性を補佐につけてくださいよー。気遣いが足りないなまったくもー。」

 

聖徳太子はくどくどと愚痴をこぼしている。

昨日の生放送が終わってからホテルに案内され、朝からこうして陸軍省に呼び出される。

丁重な対応こそ受けているものの、行動を拘束されるのは太子にとって不愉快なことであった。

 

「申し訳ありません。しかし聖杯合戦は我が国にとっては一大行事です。

臣民の関心も高い。万が一にも失敗することは許されないのです。そのためなら我ら何でもやるという所存です。」

 

「今なんでもやると言いました?」

一切表情を変えない鮫洲 少佐の顔を覗き込みながら太子は言った。

 

笏で口元を隠しているが、明らかにニヤついた表情であることが伺える。

 

「言いました。」

 

一切淀み無く鮫洲は言い切る。

「いや素晴らしい心意気です。この聖徳太子、感銘を受けました。つきましてはあなた達に重要な任務を与えます。よろしいですね。」

「はっ!何なりと。」

「大至急、美味しいお茶とお茶請けを持ってきてください。後むさ苦しいから全員この部屋から出ていくように。」

 

何でもやるとさっき言ったよね?といった表情でニヤニヤしながら太子はそう言った。

 

「…承知しました。太子様はここでお待ちしてください。勝手に出て行かれることはなきように。」

 

少し間を置いてから鮫洲が答えて、部下に指示をする。

 

「はいはい、分かってますよ。お茶はぬるめでお願いしますよー。」

 

椅子にだらしなく座りながら太子は鮫洲達が出て行くのを見送った。

 

 

 

「あいつ俺達をお茶くみ程度にしか思ってないぜ。」

 

苦々しく鷺宮曹長は文句を言ってる。

部屋から出るように言われた憲兵達は別の会議室に集まっていた。

部屋の内装は太子がいた部屋と同じ間取りである。

大きく違うのはモニターがいくつかあり、モニターには太子が映っていることだった。

彼ら憲兵隊の本当の任務はルーラーの補佐では無い。

ルーラーの監視である。

サーヴァントごときに仕切られては困る。

あくまで仕切るのは政府でなければならないというのが、大日本皇国の見解である。

 

「何が英霊だ。所詮使い魔ではないか。何故俺達がヤツのお守りをせねばならんのだ。」

 

吐き捨てるように言った鷺宮の言葉に他の憲兵もそうだそうだと同意する。

彼らはルーラー監視のために選抜された優秀な兵士達だ。

それゆえに誇り高い。

小間使いのような扱いに我慢できないのである。

サーヴァントは所詮魔術師の使い魔だ。

魔力が無くなればたちまち霧散する程度の存在という考えがある。

これは彼らに限らず軍全体を覆う考えだが。

加えてあの聖徳太子を名乗るサーヴァントである。

彼らもサーヴァントを見たことが無いわけでも無い。

彼らが見てきたサーヴァントはどのサーヴァントも圧倒的存在感があり威厳に満ち溢れており、まさに英雄を名乗るに相応しい者達である。

ところがあの聖徳太子はそういった威厳や威圧感といったものが皆無であった。

そこらを歩いてる人間と同じようにしか見えなかったのである。

おまけにふざけた言動ばかりしている。

そういった要素もあり彼らは聖徳太子を腹の底では侮っていた。

 

「例えばこんなことをしてもあいつは気が付かないぜ。」

 

会議室の机に太子用のお茶と菓子がお盆に乗せて用意してあった。

鷺宮はお茶を持つとペッと唾を吐いて入れた。

鷺宮のその行為に他の仲間達は面白そうに下品に笑っていた。

ひとしきり笑いが収まると会議室のドアが開く。

上司への報告をしに席を外していた鮫洲中尉が入ってきた。

 

「用意は出来たか?」

「はい。この通りです。」

「よし。では鷺宮と芝は一緒に来い。他の者はここで待機だ。ヤツが怪しい動きを見せたらすぐに私に知らせろ。」

「了解しました。」

 

鷺宮が盆を持ち、3人は太子が待つ会議室に向かう。

距離はさほど離れていない。

すぐに部屋の前に着く。

鮫洲がノックしてから声を掛ける。

 

「太子様、失礼します。」

「はい、どうぞ。」

 

その声がしてからドアを開ける。

太子はだらしなく座り、暇なのか笏をいじっている。

 

「お茶をお持ちしました。どうぞ召し上がってください。」

 

鮫洲の言葉に反応して、鷺宮が太子の横に移動しお茶と菓子を置く。

すぐにお茶に手をつけるかと思われたが、聖徳太子はお茶をジッと見つめるだけで飲もうとしない。

 

「太子様、いかがされました?最高級の玉露ですよ。」

 

太子が動かないので見かねた鮫洲が声を掛ける。

 

「鷺宮くんでしたね。」

 

太子が鷺宮に声を掛ける。

突然、自分に声を掛けられた鷺宮は内心驚いたが表情は変えずに答える。

 

「はっ。何でしょうか?」

「このお茶あげますよ。飲んでください。」

 

ドキリとした。

まさかバレているのか。

いや、そんなはずは無いと鷺宮は返答しようとする。

 

「これは太子様のために用意したものですから私が…」

「私は飲めと言ったのです。飲めないのですか?鷺宮くん。」

 

鷺宮の返答を遮って太子は静かに答える。

その声は先程までのふざけた口調とは明らかに違っていた。

太子は真っ直ぐに鷺宮を見据えている。

その視線は氷のように鋭く、まるで浅はかな腹の底まで見通しているようだった。

 

「…あ…」

 

その視線を受けた鷺宮は一歩も動くことが出来なくなっていた。

辛うじて呻き声を上げるのがやっとであった。

まさに蛇に睨まれた蛙である。

鷺宮 曹長は臆病な男では無い。

むしろ常に先陣切って飛び込む優秀な兵士であった。

その男が身じろぎすら出来ないほど固まってしまっている。

 

「まさか毒でも入っているんですかね?怖いなぁ。」

 

太子のその言葉に反応して鮫洲が動いた。

太子の近くまで歩みより湯飲みを掴むと一気に中のお茶を飲み干した。

 

「部下が大変失礼をしました!」

 

そう言うと鮫洲 少佐は深々と頭を下げた。

太子はその姿を横目でしばらく見つめるとふーと息を吐いて。

 

「新しいお茶をお願いしますね。今度は熱いのを。」

「はっ。ただいま。」

 

鮫洲はそう答えるとすぐに茶器類を片付け部下を連れ退席した。

廊下に出てしばらく歩くと部下達に問い詰める。

 

「貴様ら何をした。」

 

鷺宮たちを白状させ何が起きていたか把握した鮫洲は、静かにだが確かに怒っている口調で言った。

 

「馬鹿な真似をしたものだ。いいか、我らの作戦に失敗は許されない。

例えどんな下らない仕事でも完璧にこなすという気概を持て。そうでなければ貴様らを罷免させる。」

「中尉お話は分かりましたが、一つ解せない事があります。」

「何だ?」

 

鷺宮は質問する。

 

「ヤツはまるで我らのやったことを全て分かっているようでした。あの部屋から一歩も出ていないのにどうして…。」

「ヤツは見ていたのだ。部屋から一歩も動かずにな。」

「どういうことですか?」

「兼ねて未然を知ろしめす、兼ねて未だ然らざるを知ろしめす。兼知未然。つまりヤツは未来を見通す。」

「そんなまさか…。」

 

鷺宮の顔が真っ青になる。

 

「いいか今一度言う。我らが相手にしているものは常識を超えた超常の存在だ。けして気を抜くな。

その気なれば我らを皆殺しにするなど容易い。それを肝に銘じろ。」

 

それだけ言うと鮫洲は一瞥もせず廊下を歩いていった。

 

 

 

湯気が立った湯飲みを眺めつつ聖徳太子は一人会議室で思案に耽っていた。

補佐といい付けられた憲兵は大方、自分への監視だろうということは察しがついてた。

一体自分に何を嗅ぎまわれたくないのか今の所見当もつかない。

 

「面倒ですね…。」

 

聖徳太子の心の底からの言葉である。

ただでさえ21騎のサーヴァントのによる規格外の聖杯戦争である。

その上軍部、いやこの国自体にもどうやら秘密があるようだ。

ただ聖杯戦争の運営だけすれば良いというわけにもいかないないようだ。

 

「まったく無茶ばかり言いますよね。私、仕事したくないタイプなんですけどね。」

 

心底めんどくさそうな表情で太子は独り言を言う。

当面の方針は情報収集に徹っし、相手の出方を待つ。それでいこう。

考えが纏まったところで太子は湯飲みを手に取り、熱いお茶を啜った。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

肆ノ巻  百術千慮

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午前10時04分

文京区 根津神社

 

 

 

あの後、ホテル内を調べたが毒の出どころは分らなかった。

 

「今後は開封してある食べ物や飲み物は口にしないようにしましょう。」

 

十兵衛の意見を入れホテルを後にした。

知られてしまった以上留まるのは危険が伴う。

昼頃にアーチャーのマスターと会うまで時間があるので自身の陣地の確認をすることになった。

 

聖杯合戦の本質は朱引陣の取り合いだ。

その要となる石像が設置されている周辺は戦場となる可能性が高い。

あらかじめ戦場になりうる場所を確認するのは、今後の戦いに役に立つだろう。

 

昨日手に入れた千代田区を除いた荒川区の小塚刑場、台東区の上野公園を回りそして最後に文京区のここ根津神社に来ている。

 

司は神社の中はあらかた確認したので、境内の石段に座って休憩をとることにした。

午前中とはいえ7月も後半。歩きまわったせいですっかり汗だくになっていた。

蝉の騒ぎしい鳴き声が余計に暑さを誘う。

 

3人のサーヴァント達はというと、それぞれ思い思いに境内の中を見て回っている。

 

ふと、司の視界にナナシの姿が写った。

他の陣地を見まわっていた時は一通り辺りをを見たら

司の近くに待機していたが、ここではそんなことはなく興味深そうに辺りを見まわしていた。

その姿が妙に司は印象に残った。

 

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午前10時24分

千代田区 警視庁 

 

 

 

「捜査中止ってのはどういうことだ!」

 

捜査一課の課長室で川道の怒号が飛ぶ。

 

今朝、川道と折田が課長室に呼び出され、都内連続バラバラ殺人事件の捜査の打ち切りと捜査本部の解散を課長から告げられたのである。

それを聞いた川道が激怒しているのである。

 

「犯人がまだ捕まっていないのに捜査をやめろってのはどういう了見だ!犯人を野放しにする気か!」

「川道さん落ち着いてください。」

 

課長に食って掛かる川道を折田は必死に宥める。

 

「上からの指示だ。従う他無い。」

その言葉に川道はピクリと反応して大人しくなる。

 

「またかよ。」

「ああそうだ。まただよ。」

 

川道の言葉に課長が同意する。

その時部屋の外からドアをノックする音が聞こえ、部屋の扉が開く。

憲兵の軍服を着た男達がゾロゾロと部屋の中に入ってきた。

 

「捜査一課の諸君。今日も勤務ご苦労様。」

 

先頭にいた男がこちらに声を掛けてくる。

胸元の勲章の数や服装からかなり階級の高い人間であることが伺える。

 

「これはこれは。神田 中将が直々に御越しでしたか。今お茶をお出ししますね。」

 

そう言いながら、課長が慌てて立ち上がる

陸軍憲兵隊の長がわざわざ警視庁まで出向くのは只事では無い。

 

「いやいや、すぐに本部に戻るのでお構いなく。」

 

にこやかに笑顔を浮かべながら神田大佐はそう言った。

しかしその目は一切笑っていない。

川道はまるで蛇のような男だと印象を持った。

 

「例の連続殺人事件の捜査を我々で対応することになってね。今日は捜査資料などを受け取りに来たのだよ。」

「わざわざ大佐殿が来られるとは珍しいですな。」

「なにせ今は聖杯合戦中だろう。人手が足りなくてな。お上にも困ったものだよ。」

 

課長と談笑しながら神田は続ける。

 

「しかし我ら憲兵隊は臣民の安全を守る義務があるからね。

私自身が動くことでその規範を示せるのではないのかと思ってね。ほら、まずは隗より始めよとも言うからね。」

 

憲兵の横槍で捜査が中止になるのは一度や二度では無かった。

きっと捜査されると上の人間にとって都合の悪い事実が明るみに出てしまうのであろう。

その度に憲兵達がこうして警視庁まで乗り込んできて、捜査資料や証拠物品など差し押さえてしまう。

川道はそれを毎回苦々しく見送るしかなかった。

 

「ところで君は川道警部ではないかね?」

神田が川道の方を向き話しかけてくる。

 

「ええ、そうですが。」

と川道は仏頂面で答える。

 

「いやあ、噂は聞いているよ。とても優秀な刑事だそうだね。同じ皇都の治安を守る者として誇らしく思うよ。」

「そりゃどうも。」

川道は耳をほじりながら、神田の話を聞き流している。

 

「しかしだね、同時にこんな噂も聞いているのだよ。

たびたび政府を非難するような言動を繰り返していると。

君がそういったことをするようになったのはそうだな…八年前のあの事故かららしいね。」

八年前という言葉を聞いた時、川道の動きがピタリと止まった。

 

「あれは確かに痛ましい…とても痛ましい事故であった。しかし国もあの事故を教訓に今までの体制を一新して新たな対策を立てている。

分かるかな?けしてあの事故は無駄にはなっていないのだよ。日々の仕事で不満を持つのは分らんでも無いが、

今後そういった言動は慎みたまえ。何処の誰が聞いているか分らんからね。

もちろん私は君が忠実な臣民だと信じているがね。」

 

饒舌に喋り続ける神田とは対照的に川道は呻き声一つ立てず黙っていた。

やがて神田の話が一段落すると笑顔を作りながら

 

「心遣い感謝します。今後気を付けます。」

 

とだけ言った。

誰が見てもその笑顔は無理やり作っているのが分かるものだった。

 

「ははは、いや分って貰えて嬉しいよ。それでは課長、我々はこの辺で失礼するよ。今度来る時には菓子折りでも持ってくるよ。」

 

川道の肩をとんとんと軽く叩き、神田 中将と部下の憲兵達は部屋から出ていった。

 

「糞ったれが!!」

 

神田たちが退出した瞬間、川道は近くに置いてあったゴミ箱を蹴り飛ばした。

中に入っていたゴミが部屋に転がる。

川道の軍と英雄嫌いを知っている折田と課長はよく我慢したと褒めたい所であった。

いつもの川道なら間違いなく神田を殴り倒していたからだ。

 

「課長!どうにかならねぇのか!どうせあいつ等ろくに捜査なんてしないぞ!」

 

捜査の引継ぎというが憲兵の担当になった事件が解決したという話は聞いたことが無かった。

本当に捜査しているのかどうかも疑わしい。

 

「無理だ、川道お前もよく知っているだろ。ああなったらどうにもならん。それよりもおまえ達二人には別件を調査して貰いたい。」

「別件だぁ?」

 

課長が机から書類と一枚の写真を取り出した。

写真には十代後半の少女の姿が映っていた。

 

「三日ほど娘が帰ってこないと届があってな。お前たちにはこの娘を捜索して欲しい。」

「ふざけんな!十代の家出なんて捜査一課のやることじゃ…」

「川道さん!ちょっと待ってください。」

 

激高する川道を折田が制して課長に質問する。

 

「課長、確認ですがこの事件捜査を我々二人だけですか?」

「そうだ、お前たち二人だけだ。途中報告もいらん。」

「もしも、もしもの話ですが捜査中に別の事件の犯人と遭遇したらどうすればよろしいですか?例えば近頃話題のバラバラ殺人犯人とか。」

 

その言葉に川道はハッとした表情になる。

 

「警察官としての職務に尽くせ。」

 

課長はにやりと笑いそう言い放った。

 

「了解しました。では失礼します。」

 

折田も微笑み、川道と一緒に課長室を後にした。

2人は廊下を足早に歩きながら今後の方針を話す。

 

「課長の野郎そういうことなら、そう言えばいいじゃねえか。」

「あくまでも黙認するという形なんでしょうね。発覚した時にかばいきれないでしょうし。

あの写真の子もきっと事件に巻き込まれた可能性が高いということで選んだでしょう。」

「しかし証拠も資料も何も無しってのはキツイな。憲兵どもが持っていっちまったからな。」

「何も無いわけでは有りませんよ。」

「何?」

 

折田がUSBメモリをポケットから取り出す。

 

「捜査資料の一部ですがここにあります。念のためバックアップを取っておいて良かった。」

「お前にしちゃ上出来だ。」

 

川道がUSBメモリを取ろうとすると折田がさっと躱す。

 

「何やってんだ。早くそれをよこせよ。」

「川道さん一人で捜査するつもりですね。」

 

折田の言葉に川道の表情が曇る。

 

「分かってんだろ。今回ばかりはヤバい案件なのは。だから俺1人でやる。」

 

勝手に捜査してるにが軍部にバレれば矯正施設にぶち込まれるのは明白だろう。

いやそれでも生きてる分まだマシかもしれない。その場で殺される事も十分考えられる。

軍部のやり方に納得できず独自に捜査をして行方不明になった同僚を川道は何人も知っている。

自分のような失う物が何も無い人間はいい。

だが未来ある若者を自分の我儘につき合わせることは出来ない。

 

「危険なのは重々承知ですよ。それでも自分は警察官です。

こんな終わり方は納得できません。被害者の方々のためにも自分も捜査させてください。」

 

驚いた。

折田が現場に配属されてから今日までコンビを組んで刑事のイロハを教えてきたが。

まさかこんないっちょ前なこと言えるようになっていたとは知らなかった。

 

「勝手にしろよ。」

「はい、勝手にさせて頂きます。」

 

お互いにフッと少し笑う。

折田の成長を嬉しく思う反面、死なせたくないという思いも強くなる。

 

「それで川道さんは何か手がかりはあるんですよね?」

 

正直な所、普通に捜査していても八方塞がりの状態であったのだ。

今の状況では川道だけが頼りである。

 

「手がかりって言えるほどのものじゃないが、当てはあるぜ。」

「お前さっきの憲兵の親玉についてどう思う。なんかクサくねえか。」

「神田 中将ですか、そうですね…」

 

今までも捜査の打ち切りの件で憲兵が警視庁に乗り込んでくることは何度かあった。

 

「憲兵隊の長が直接乗り込んでくるのは妙ですね。」

 

皇都の治安を守る憲兵の最高責任者である中将がわざわざ警視庁まで出向くのは些か大げさともいえる。

 

「これがどういう意味を持ってるかわかるか?」

「…今の状況を考えれば聖杯合戦関係ですかね。」

「もったいぶらずに結論から言うか。この一連の事件にサーヴァントが関わっていると俺は考えている。」

「川道さん流石にそれは…」

 

川道の英雄嫌いもここまできたかと折田は思った。

 

「おい、あくまで可能性の話だ。そんな顔すんな。」

「過去の偉人達が殺人事件に関与しているなんて言ったら大バッシングされますよ。」

 

それに超常的な存在に真相を丸投げするなんて思考停止もいいところだ。

 

「英雄様つっても所詮使い魔だ。ご主人様の命令には逆らえないだろ。」

「マスターが主導でサーヴァントに殺人をやらせているということですか?」

 

聖杯合戦におけるマスターは超法規的措置であらゆる犯罪が罪に問われない。

率先して犯罪を行おうとするものは過去にいなかったわけではない。

 

「マスターがそういった人物の場合ありえないとはいえないですね…」

「そうだろ。」

 

どちらにしろ手がかりは何も無いのだ。可能性はすべて調べるべきだ。

 

「でもマスター達は自分の居場所を隠すのが普通ですからね。そう簡単には見つからないと…いや1人いますね。」

「ああ1人いるだろ。」

 

2人はロビーのテレビに視線を向ける。

画面にはインタビューを受ける青年、高城司の姿が映っていた。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午前12時07分

墨田区 某中華料理店

 

 

 

司達は陣地の確認を終え、アーチャーのマスターとの待ち合わせ場所である店の前に来ていた。

店は昔ながらの町の中華料理屋といった佇まいをしている。

ナナシ達は霊体化した状態で司の近くに控えている。

同盟関係を築いているとはいえ、ここはアーチャーの陣地。

油断禁物、敵地に居るという気持ちを忘れてはいけない。

 

「それじゃあ、行くよ。」

 

意を決して司が店のドアを開ける。

 

【挿絵表示】

 

昼時ということもあり店はそれなりに繁盛しているようだ。

 

「いらっしゃいませー!何名様ですか?」

 

店員がすぐに司に声を掛けてくる。

 

「予約していた鈴木の連れなんですが。」

「奥の座敷の方になります。どうぞ。」

 

予め聞いていた予約名をいうと奥の座敷に案内される。

障子を開けると少し広め一室に見覚えのある帽子とマスク姿の青年が座っていた。

 

「よう。昨日振りだな。」

 

件のアーチャーのマスターである。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

伍ノ巻 柯会之盟

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午前12時12分

墨田区 某中華料理店

 

 

 

「よう。昨日振りだな。」

 

アーチャーのマスターは昨日と同じく帽子にマスクの出立ちで座敷に座っていた。

昨日はじっくりと確認することが出来なかったが、近くで見ると年齢は司とそう変わらないようだ。

 

「おい、ボサっとしてないで戸を閉めて座れよ。話ができないだろ。」

 

アーチャーのマスターに催促されてはっとする。

これからする話は人に聞かれてはマズイものだ。

司は戸を閉めてそそくさと席に着いた。

司が席に着くやいなや、何も無い空間から人が現れた。

霊体化していたナナシ達とアーチャー陣営側のサーヴァント達だ。

お互いに3人づつ、計6人が突如として出現した。

それなり大きな部屋だったが司達も含めると手狭に感じる人数だ。

対面にいるサーヴァント内1人は、昨日見た関西弁の壮年のアーチャーだ。

後の2人は初めて見る。

1人は大鎧を身に纏った大柄な男だ。

鎧の下からでも筋骨隆々である事がわかるほどの体だが、それに対して顔つきはシャープな美形である。

大柄な体と小顔がアンバラスであり何とも滑稽な姿になっている。

もう一人は金髪のセミロングに修道服を着ている女性だ。

 

「約束通りちゃんとサーヴァントは3騎とも連れてきたみたいだな。」

 

帽子とマスクを取り素顔を見せるアーチャーのマスター。

 

「まずは自己紹介から始めようや。俺は岸 錬矢。大学1年。18才だ。お前は…てもう知ってるけどよ、改めて自己紹介ってことで。」

「高城 司です。高校生で年は17です。」

「おう、よろしくな。高城。別に敬語じゃなくていいぜ。年も近いしな。」

 

錬矢は髪を茶髪に染めて言葉遣いも荒いが、意外に律儀な性格なようだ。

 

「主君が名乗ったならばそれがしも名乗らねば、我こそは…」

「Piacere!私の名前は…」

「お前ら勝手に名乗ろうとすんじゃねえ!このデカイのが【能登】でこっちの女が【シスター】だ。そっちは?」

 

2人が勝手に名乗ろうとするのを錬矢が慌てて止めてこちらに促してくる。

司も自分のサーヴァント 達を紹介した。

 

「【ナナシ】に【般若】に【隼人】だな。よし分かった。」

「なあ、ちょい提案があるんやが。」

 

関西弁のアーチャーが司に話しかけてきた。

 

「お互いに1人だけサーヴァントの真名を明かさへんか。」

「真名をですか?」

「せや。同盟を組んだ以上はある程度はお互いの情報を共有したいのと真名を知るだけで戦力を測る事もできるちうわけや。もちろん教えたくないなら教えんでかめへんぞ。真名を教えるのはリスクが大きいさかいな。」

 

なるほど。

たしかにお互い手の内ををある程度知っておくことが重要であろう。

今後の協力して作戦を立てる上でも役に立つだろう。

司はナナシ達の方を見る。

3人とも頷く。

異論は無いようだ。

 

「分かりました。良いですよ。」

「おお、さよか。ほなまず言い出しっぺからやな。ワイは楠木正成や。改めてよろしゅう。」

 

正成が名乗ると少しナナシ達が騒ついた。

 

「南北朝の名将、楠木正成殿でござるか…」

「大楠公が味方とな頼もしか!」

 

あまり歴史に詳しく無い司でも聞いた事がある名前だ。

十兵衛達の反応にも納得だ。

向こう側が名乗った以上次はこちら側だが…

誰を選ぼうか?

 

「主殿。では拙者が。」

 

十兵衛が真っ先に手を挙げたので任せる事にした。

 

「柳生十兵衛三厳と申す。以後お見知り置きを。」

 

般若の面を外して十兵衛は名乗った。

 

「あの高名な柳生十兵衛殿やったとわ。」

「お味方でなければぜひお手合わせ願いたかったのう!」

 

やはり十兵衛の名前は絶大のようだ。

「お互いに紹介も終わったし、メシでも食おうぜ。注文はすでにしておいたぜ。」

 

机の上にはすでに色々な中華料理が並んでいた。

しかし司は今朝の事件が頭をよぎり料理に手をつけるのを躊躇した。

 

「どうした?食べないのか?」

 

司の様子がおかしかったのを察して練矢が話しかけてきた。

 

「実は…」

 

司は今朝の一件やこれまで自分にあった出来事をすべて練矢に話した。

 

「メシに毒をね…なるほど」

 

練矢は司の話を聞いて何か考え込んでいるようだ。

 

「マスター。念のため俺がこの食事の毒味をする。サーヴァント なら人間の毒なら大丈夫だからな。」

 

ナナシが提案してきた。

練矢を信じてない訳では無いがこちらとしては安全を確かめたい。

 

「その辺は好きにしていいぜ。それよりも司。ホテルが敵バレてるのが不味い。これからは毎日拠点にする場所を変えろ。いいな。」

 

練矢は強い口調と表情で言う。

 

「でもおかしいくないか?聖杯合戦てサーヴァント 同士を戦わせるものだろ?マスターは人間だぞ。それは殺人じゃないか!」

「違うな、高城。マスター殺しは1番効率的な方法だ。むしろ常套手段と言っていい。」

「な…」

 

練矢の言葉に司は言葉を失う。

 

「でもそんな話テレビでも新聞でも聞いたことがない!」

「マスコミも政府も隠蔽してるのさ。だから一般人は知らない。テレビで殺し合いの生中継が行われていることもな。」

 

司は絶句した。

しかし思い返してみれば自分はすでに3度も命の危機に会っている。

最初のランサーの襲撃。

アサシンらしき者の不意打ち。

そして今朝の毒入りの朝食。

司も聖杯合戦の黒い噂は少しは知っている。

開催に反対した人達は反政府主義として有無を言わさず矯正施設送りなるという話だ。

あくまでそんなものは噂でしかないと思っていたが。

 

「こんなの狂ってる…」

「イカれてるのさ。この国は。」

 

何も知らなかったとはいえそんなものを喜んで見ていた自分にも嫌になる。

 

「ビビったかい?まあ辞めるなら近くの教会にでも…」

「辞めない。」

 

司は今までに無くキッパリと言い切った。

 

「確かに怖いけど殺し合うなんて間違ってる。だから殺し合いを止める。」

 

司の強い口調に錬矢は少しあっけに取られた。

 

「聖杯合戦をどう止めるのかしらんけど、まあビビッて降りるって言われるよりはマシか。」

 

ボリボリと頭を掻きながら錬矢は話を続ける。

 

「そんなイカれた国のイカれたイベントだが喜ぶべきことが1つある。」

「喜ぶべき事?」

「聖杯さ。聖杯の力は本物な所だ。」

「確かに拙者達が召喚されている以上。効力は本物でござろうな。」

 

十兵衛が顎を触りながら会話に入る。

 

「そう力は本物だ。どんな願いでも叶えるという力はな。」

続けて錬矢が喋る。

 

「元々聖杯合戦ていうのは、冬木という土地で行われていた聖杯戦争が元らしい。

冬木の聖杯を引きついでルールをいろいろ変えたのが聖杯合戦なんだよ。」

「おずややけに詳しな。」

 

桐野が質問した。

 

「確かボウズのとこのひい爺さんが魔術師だったんやろ。」

「じいさんの頃には没落して親父は普通のサラリーマンさ。俺も魔術なんて欠片もつかえねぇよ。

ただカビ臭い本だけは腐るほどあるからな。普通ヤツよりは詳しいわけ。」

「魔術師?」

「冬木の聖杯戦争のマスターの条件は魔術師であることらしいからな。まあ聖杯合戦は関係なく完全にランダムらしい。」

 

一通り説明すると錬矢は喉が渇いたのか水を飲んでひと息ついた。

 

「聖杯合戦の概要についてはこんなもんでいいだろ。そろそろ本題に入るぜ。おっさん、説明頼むわ。」

「待ちくたびれたで。よっしゃ、こっからは戦略の話や。」

 

正成は予め用意してきたであろう地図を出した。

東京23区を色分けした地図のようだ。

昨日、十兵衛が作っていたものと似たようなものだ。

 

「ワイらの提案としてはここ。ライダー陣営を一緒に攻めて欲しい。」

 

正成が赤く塗られた場所を指差した。

 

「攻める理由を聞いても宜しいかな。」

 

十兵衛が正成に質問する。

 

「まず第一に、ライダー陣営が接しとるエリアがワイらアーチャー組にとって後方に位置するってこっちゃ。」

 

なるほど。

ライダー陣営が抑えている地区は、江戸川区、葛飾区、足立区、北区の4つ。

陣地が23区の最も東に固まっている。

 

「ワイらとしてはあんたらと同盟を結べた以上は次に後方の安全確保をしたいってのが本音や。」

 

確かにアーチャー陣営のエリアはほとんどライダー陣営と接している。

司達と敵対しなくなったということでライダー組に戦力を集中させたいのは道理だ。

 

「どうりで気前良く陣地をくれるわけだ。」

 

毒味していたナナシが食べながら口を挟んだ。

ほっぺにはベッタリと赤いタレが付いている。

 

「まあそういうことや。二つ目にライダー組は初日でバーサーカー組から陣地を奪っとる。

こないな積極的に攻勢に出てくるとこは危険や。次の標的はワイらかもわからんさかいな。早めに叩いときたいんや。」

「ovviamente。ライダー組を攻めるメリットは私達だけでなくあなた達にもありますヨ。陣地が接しているのは同じですカラ。」

 

その通り。

司の陣地である荒川区、文京区はライダー組の陣地に接している。攻め込まれる可能性はゼロでは無い。

 

「なあ、ちょっといいか?」

 

練矢が挙手して司に聞いてきた。

 

「えっなに?」

「一つツッコミたいんだけどよぉ・・・ナナシ!おまえ食いすぎだろぉ!」

 

練矢の発言でナナシの方を見ると机に並べられた料理がいつの間にか綺麗に無くなっていた。

とても1人で食べられる量ではなかったはずだが。

 

「いやいや、話に夢中でまったく気がつかなかった!実に見事な食べっぷりよの!」

 

【能登】がガハハと豪快に笑う。

 

「笑ってるんじゃねえ!俺達のメシだぞ!サーヴァントはメシ食わなくても大丈夫だろうが!いったいどういうつもりだ。」

 

練矢が激昂しながら【ナナシ】に詰め寄る。

 

「なんだ別にいいだろ?聖杯合戦参加者は無料なんだし。ケチケチするな。」

 

【ナナシ】は悪びえる様子も無く言った。

 

「俺の金だよ!顔バレするのがいやだったから払ったんだよ!」

「おかわりいいか?」

「無視すんな!あとまだ食うのかよ!」

 

漫才のような2人のやり取りを横目に、正成が話を続ける。

 

「ワイらの提案としては以上なんやが…どや?」

 

この提案に乗るか?ということらしい。

司も何か方針があったわけでは無い。

この提案に乗らせて貰うことにした。

 

「分かりました。それで行きましょう。」

「おおきに。ほんでライダー陣営を攻める手筈なんやが…」

「おい司、コイツ知ってるか?」

 

声をかけられた方を見ると練矢がいた。

わざわざ厨房の方まで行って注文を取ってきた後のようだ。

練矢の手には携帯があり、その画面を見せてきた。

報道番組のようだ。

画面中央でインタビューを受けている男を知っているか?ということか。

イケメンだが、どこか軽薄そうな印象を与える

確かに司はこの男に見覚えがあった。

 

「確か、来栖拓也だったよね」

 

この男の姿を知らない日本人おそらく少ない。

第十六次聖杯合戦の優勝者にして、第十七次聖杯合戦にも出場した有名人だ。

テレビに映る来栖は右手の甲に刻まれた令呪を見せびらかしている。

それが意味することはつまり…

 

「こいつも今回のマスターらしい。この映像自体は一週間前のものだ。調べたがこの番組以降、来栖は目撃されていない。賢いヤロウだぜ。」

 

三回連続の聖杯合戦の参加は聖杯合戦史上、1人もいないはずだ。

しかも一度目は優勝している。

これは強敵だ。

 

「これで3人のマスターが確定したわけだね。」

 

俺と錬矢と来栖拓也の3人だ。

 

「いや、たぶんもう一人は予想できる。」

「えっ?心当たりがあるの?」

「秋津の魔術師だ。見たことは無いがな。」

 

秋津?誰だ?

 

「秋津は政府お抱えの魔術師だ。代々この国の魔術防衛を担ってきた一族らしい。さっき冬木の聖杯戦争の話したよな。」

「うん。」

「聖杯合戦は基本的にランダムで選出と言われているが、元になった聖杯戦争の参加条件は魔術師であることだったらしい。おそらく聖杯合戦

でも魔術師である方が参加しやすいと俺は考えている。」

 

確かにその可能性は高い。

歴史ある家の魔術師か...これも油断できない相手だ。

 

「おい、これ見ろよ。」

 

練矢がまた携帯の画面を見せてきた。

今度はなんだ?

画面を見ると場面は先程の報道番組のスタジオからは切り替わっていた。

どこかの町を上空から撮影している映像のようだ。

速報のテロップを見るとそこにはこう書かれていた。

歌舞伎町付近でランサー陣営対バーサーカー陣営激突!

 

「おっぱじめたみたいだぜ。さてどっちが勝つかな。」

 

当たり前だがこうして司達が話している間にも聖杯合戦は進行しているのだ。

 

「おい、どこ行くんだ?」

 

立ち上がって扉に手をかけた司を練矢が呼び止めた。

 

「止めないと。」

「ランサー組とバーサーカー組か?ほっとけよ。お互いにに潰しあってくれた方がライバルが減ってくれて助かるしな。」

「ランサー組はマスター殺しも躊躇しない連中だよ!バーサーカー組のマスターが危険だ!ほっとけないよ!」

 

自分もランサーに殺されかけた。

ナナシ達がいなければどうなっていたか想像もしたくない。

他の人にもそんな恐ろしい目に遭って欲しくない。

 

「ごめん。練矢、もう行くよ。」

 

言い終わるか終わらないうちに司は飛び出して行った。

 

「ライダー組と戦いどうするんだよ!…ってもういねぇか。」

 

錬矢が声を掛ける前に司の姿は無くなっていた。

【ナナシ】達もいない。

大方、霊体化して司の後を追ったのだろう。

 

「たく、何なんだアイツ。」

 

錬矢の第一印象としては司はどこかオドオドしていて、頼り無い印象だった。

それが殺し合いを止めると宣言したのだ。

どういう心境の変化だ?

ここ一番だと肝がすわるタイプか?

変なヤツ。

錬矢は人物像を少し改めた。

 

「慌せやけどいヤツやな。」

「おっさんはどうみる。司は。」

「うん?せやな。」

 

正成は少し考えて口を開いた。

 

「ええんちゃうか。少なくともいきなり裏切ってはこないやろう。」

 

カラカラと笑いながら正成は答えた。

 

「まあ、そうか。」

「それよりも坊主。一つ気になった事がある。」

 

先程より正成の声のトーンが少し下がる。

重要な話のようだ。

 

「なんだよ。」

「高城が襲撃された話があったやろ?」

「三回な。」

「気になったのは最初のランサーの襲撃や。まだサーヴァントを召喚する前やったのに、何故マスターだと分かったんか?」

 

言われてみればそうである。

ランサーは司をマスターだと何故分かったのか。

サーヴァントが近くにいるなら気配でわかるだろうが、ナナシ達は召喚されていなかった。

司から魔力の気配を感じたのか?

いや魔術師ならともかく司は一般人だ。

令呪の魔力も相当接近しなければ特定出来ないはずだ。

たまたま偶然遭遇したのか?

馬鹿な。この皇都に何千万の人がいると思っているのか。

 

「あくまで推測でやけど、ランサーのヤツは初めから知っとったな。話を聞く限り動きに迷いがあれへん。」

「知ったって…どこでだよ?」

「そんなん知らへんわ。あくまで推測や。」

「そこが重要なんだろ!そこがよ!」

 

そんなやり取りをしていると

 

「すいません。お料理お持ちしました。」

 

と店員が部屋の外から声を掛けてきた。

一瞬で正成たちは煙のように消えた。

 

「まあ、なんにせよ。メシ食ってからからにするか。」

 

錬矢は1人、運ばれてきた料理を食べ始めた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

陸ノ巻 刀光剣影

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時07分

文京区 公道

 

 

 

練矢たちと別れ、司たちは台東区に一度、戻り兵を率いててからランサー陣営と

バーサーカー陣営が戦っている新宿区を目指す事になった。

司たちの乗っている霊馬は、通常の生きている馬の最高速度である

60キロ〜70キロくらいの速度で走る事が出来る。

しかも普通の馬がその速度を維持出来るのは数分なのにたいして霊馬のスタミナは無限。

トップスピードも維持出来る。

さらに操作も乗り手の意思を汲んでくれ自動で進んでくれる。

現に馬に乗ったことのない司でも問題なく乗れている。

しかし…

 

「うわ!おとと」

 

司はバランスを崩しかけ、馬にしがみつく。

当たり前と言えば当たり前なのだが馬という生き物は走っているのだからかなり揺れる。

今の速度は霊兵たちを率いるので速さを合わせているので大体20キロくらいか。

馬としては駆け足くらいの速度だ。

ただそれでも揺れる。

これが土の上ならまだ少しはマシだろうが、コンクリートジャングルの大都会東京ではそれも望めない。

車の快適さとは雲泥の差だ。

司のように馬に乗り慣れていない者は乗っているだけでも疲れてしまう。

 

「みんな止まれ!あいを見れ!」

 

桐野の言葉にみな進軍を停止して指差された方を見る。

見上げた先にあるのは街頭モニターがあった。

そのモニターにはニュース映像が映っている。

 

速報 新宿区陥落 ランサー陣営の勝利

 

「間に合わなかった…」

 

テロップを見た司がうなだれる。

どうやらバーサーカー組が破れ、新宿区はランサー組のものになったようだ。

 

「いや、マスターまだ終わってないようだ。」

 

【ナナシ】の呼びかけに反応して司はモニターを再度見上げる。

映像の中の緑の旗を掲げている兵士たち、ランサー陣営の兵士たちは既に敵がいないにも関わらず進軍を止める事はない。

どこかに向かおうとしているようだ。

 

「ありゃつっの朱引陣に攻め込む気じゃな。」

「マスター!目標変更だ。豊島区に向かおう!。」

 

ランサー組はこのままバーサーカー組の最後の陣地に攻め込んで、そのままバーサーカー組を敗退させるつもりのようだ。

 

思い通りにさせるものか。

 

「主殿!こちらの道でござる。」

 

十兵衛が先導して豊島区に進軍を再開する。

しばらく走るとなだらか坂を上り、料金所が見えた。

ここから先は首都高だ。

そのまま無人の料金所を突っ切り、一直線に進む。

既に一般の車は退避した後なのだろう。

道路には1台も車は無かった。

 

「いつの間にこんな道を覚えたんだ?」

「暇さえあれば地図を見ていたおかげでござろう。」

 

司と【ナナシ】達は豊島区を目指して首都高を疾走する。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時18分

豊島区 サンシャインシティ付近

 

 

 

普段ならば人が賑わうこの場所も今は戦場となっていた。

視界にうつる場所全てで霊兵同士が刃を交えている。

その戦場の最前線から少し離れた場所で1人、戦場を見守る者がいた。

全身黒色の具足に槍を携えた武者。

初日で司を襲撃したサーヴァント だ。

約2万もの兵士たちを引き連れ、バーサーカー組から新宿区を奪いとったのは何を隠そうこの男だ。

黒色のランサーはその勢いのままにバーサーカー組の最後の陣地を奪い取りにきていた。

それもすぐに終わるだろう。

緑色と灰色の霊兵たちが至るところで戦闘しているが、一方的な展開をみせていた。

どこを見てもランサー陣営の兵士が圧倒している。

バーサーカー陣営の兵士たちは何とか凌いでいるが、数の上でもランサー陣営が優っている。

この陣地が陥落するのは時間の問題なのは誰の目に明らかだった。

 

「分せんな。」

 

戦況を見ながらランサーはつぶやいた。

霊兵の強さは生前に名将として歴史に名を刻まれた者や、大軍を率いた事のある将軍や王など

のサーヴァントが指揮するほど霊兵はそれに合わせて強さを変える。

これほど兵たちの強さに差があるのは率いる将の能力に問題があるのである。

加えて兵の数でもランサー陣営が2万近く、バーサーカー陣営がせいぜい3千ほどだろうか。

軍勢対決では最早戦局を覆すことは極めて困難であろう。

それならばサーヴァント自身の個人的武勇を持って前線で戦い戦況を打開するのが道理であろう。

しかし。

 

「打って出て来ないか…」

 

これだけのピンチでありながらもバーサーカー陣営のサーヴァントは姿を表さない。

先程の新宿区での戦いでも最後までバーサーカー陣営のサーヴァント やマスターが姿を表すことは無かった。

近くで兵を指揮はしているのだろう。

気配は感じる。

だがなぜ戦わない?

それとも戦えない理由が他にあるのか?

 

「いかんな。悪い癖だ。」

 

ランサーは少し自省した。

強者と戦い、武を競い合いたいという願望。

サーヴァントとして呼ばれる者は英雄として歴史に名を刻まれた者達だ。

間違えなく、猛者であろう。

異なる時代で英雄として名を残した者たちと戦う。

まさに武人としてこれ以上に無い夢のような戦場である

自然とどこか心が踊ってしまっているようだ

だが今は自身の願望を優先出来る状況ではない。

新たな主のためにただ勝つこと優先すべきだ。

敵の状況を考察するのは良い、が配慮する必要は無い。

戦わないなら好都合。

陣地を奪い取るまでだ。

朱引陣を失えばたとえサーヴァント が生き残ったとしても魔力供給の手段を失い、事実上敗退となる。

自分は余計な事を考えずに敵を倒すことに専念するべきである。

 

「ランサー、聞こえるか?」

 

ランサーの頭の中で声が響きわたる。

周囲には霊兵とランサー以外の人はいない。

実際に声をかけられたのではなく、魔術のよる思考通信である。

 

「殿。どうなされた。」

「敵が来る。セイバー陣営だ。さきほど連絡があった。」

 

北区の面している場所は自分たちの陣地だけではない。セイバー組の陣地も隣接している。

攻めこんで来てもおかしくはない。

 

「なるほど。漁夫の利ということですな。我らが疲弊したところで横から奪い取ろうという魂胆。」

「いや、それはない。」

 

声の主、ランサーのマスターはその予測を否定する。

ランサーは若輩だが常に冷静で魔術師としても優秀な自身のマスターに信頼を置いているが、いつになく語気が強い返答を少し訝しんだ。

 

「ではその根拠は?」

「セイバーのマスターがお人好しだからだ。」

「お人よし?」

「おそらくただ単純にバーサーカー陣営が困っているだろうと考えて助けに来たのだ。」

「マスター同士が知り合いの可能性は?」

「バーサーカーのマスターは確認出来ていないがおそらく違う。それに合戦が始まってから接触はしていない。」

「戦の最中に赤の他人の世話をするとは。セイバー陣営は余裕ですな。」

 

ランサーはカラカラと笑う。

セイバーのマスターは馬鹿か剛毅かその両方だな。

 

「後、数分でここにくる。【権兵衛】と共に迎撃しろ。」

「御意」

 

バーサーカーの軍はすでに抵抗力は薄い。

最低限の軍勢を抑えにあてれば問題無い。

 

「あれか。」

 

ランサーは頭上にある高速道路に目をやる。

確かに青い旗をたなびかせた軍勢が見えた。

ランサーはすぐさま首都高の出口に軍勢を移動させ、迎撃準備をする。

はたして地響き共に青色の兵士たちが殺到してきた。

 

「かかれ!」

 

ランサーの一声で緑色の兵士たちが踊り掛かる。

あっという間に辺りは兵士で入り乱れ乱戦状況になった。

その乱戦状況の中、兵士をかき分け、騎乗した者が一直線にランサーの元に向かってきていた。

遠目からでもランサーはその人物がすぐにわかった。

 

「来たか!セイバー!」

 

セイバーこと【ナナシ】は手綱をひきつつ馬上に直立した。

馬の疾走している勢に乗せ、馬上から跳躍。

そのままランサーに斬りかかった。

 

「でやあああ!」

「ふん!」

 

気合一閃と共に振り下ろした【ナナシ】の一撃をランサーは迎撃する。

甲高い金属音が辺りに響き、お互いの武器から衝突した際に火花が零れる。

【ナナシ】は着地に成功するとすぐにランサーの方に向き構える。

ランサーもゆっくりと馬から降り、ナナシの方を向く。

ランサーはすぐに周りの状況を確認する。少し離れたところにセイバーのマスターを確認。

護衛の兵がガッチリと守っているようだ。

手を出すのは難しそうだ。

 

「1人か?お仲間がいなくて大丈夫かな?」

 

ランサーはナナシに問いかけた。

目の前以外に他のセイバーの姿はいないようだ。

 

「はっ!テメェなんざ俺1人十分てことだよ。本多忠勝さんよぉ!」

「ほう…」

 

おそらく柳生十兵衛から聞いたのであろう。

だが自身の真名がバレるのは時間の問題だ。

初めから分かっていたこと。

仔細ない。

 

「その意気は良し。セイバーよ。お主の名は?」

「名前なんてねえよ。名無しの権兵衛さ。」

「では【ナナシ」よ。ぞんぶんに武を競おうぞ!」

 

忠勝、【ナナシ】両者同時に踏み込み獲物を振りかぶる。

忠勝は表情には一切出さないが、内心歓喜していた。

バーサーカー達との戦は歯応えが無く、どうにも物足りない戦だった。

だが目の前のサーヴァントは一目で分かる。

強者であると。

待ち望んでいた戦が今こそ来た。

願わくは長く楽しみたいものだと。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

漆ノ巻 秋津の魔術師

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時12分

文京区 首都高

 

 

 

「1人で戦いたいだと?」

 

時間はランサー陣営と戦闘に入る少し前に遡る。

北区を目指して首都高を走っている司たちは【ナナシ】の意見に眉をひそめていた。

 

「ああ、本多忠勝とは俺1人で戦わせてほしい。」

「またワガママをゆやがって。そげん目立ちたいのか。」

「お前と一緒するな。オレはちゃんと考えて戦ってるんだ。」

「なんじゃと!」

「やるか?単細胞。」

「待て待てナナシ、なぜ1人で戦いのか聞かせてくれぬか?我ら3人を軽くあしらったほど相手だ。危険では無いのか?」

 

すぐにでも喧嘩を始めそうな2人を制して十兵衛がナナシに促す。

十兵衛の懸念はもっともだろう。

初日の襲撃の際に忠勝と交戦したが、3人掛りにも関わらずまんまと逃亡を許してしまった。

その相手と1人で戦うのは些か無謀に感じるのは無理の無いことだ。

 

「何となくなんだが、本多忠勝はああいう戦いが得意なんだと思う。」

「ああいう戦いとは?」

「1対多数の戦いだな。実際に戦ってみてそう感じた。だからアイツとの戦いでは数の優位は意味が無いと思う。

むしろ敵が多ければ多いほど忠勝は勢いづく。飢えた猛獣に羊の群れをやるようなもんだ。」

「なるほどそれで1人で戦うと。」

「そうだ。」

 

一理ある。

本多忠勝の多くの逸話では、自軍が少なく戦局が劣勢の場面での活躍が多い。

そういった逸話が昇華され、サーヴァントの本多忠勝には何らかの能力が与えられている可能性がある。

 

「かんげて戦うちゆっるわれいな根拠はカンなんじゃな。」

「うるさいぞ、かっぺ。」

「おずやいちいちむかっぱらがつくのう。」

「よく分った。ナナシよ、おぬしの意見を採用しよう。」

「な!よかか十兵衛殿!けつん勝手にさせてん!」

 

反論する桐野を手で制して十兵衛は続ける。

 

「してマスターの護衛はどうする?」

「マスターはオレの後方に置く。お前らは他の敵の相手を頼む。なぁに忠勝を相手しつつマスターを守るなんてわけないさ。」

「承知した。そしてナナシよ一つ言っておきたい事がある。」

 

少し十兵衛の語気が強くなる。

 

「おぬしのわがままを許しているのは、おぬしの戦いのセンスが我が陣営の利益になると信じているからでござる。

もし少しでも不手際があれば、直ちに拙者たちの指示に従ってもらう。その事をゆめゆめ忘れるな。」

 

般若の面の下からでも鋭い瞳がナナシの姿を見据えているだろうというのがわかる。

 

「好きにすればいい。まあそんな状況になることはないがな。」

 

ナナシは鼻で笑ってそう答えた。

 

「桐野。もしナナシが崩れるかマスターの危機があった場合は我らですぐ救援できるように備える。これで手打ちとしてはくれんか。」

「…あらよう十兵衛殿がそげんゆじゃればおいはよかぜ。」

「主殿もよろしいかな?」

「う、うん…」

「うむ重畳、重畳。では皆、力を合わせて共に戦おうぞ。」

 

十兵衛のみがワハハと豪快に笑うが、場の空気は重い。

桐野はまだ不満があるような顔つきで、ナナシに至っては完全にそっぽを向いてしまっている。

チームワークが取れてるとはお世辞にも言えない状況だ。

こんな状況で戦えるのかな。

心中では不安に思っているが、それを口に出すことはなく司は先を急ぐことにした。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時18分

豊島区 サンシャインシティ付近

 

 

 

十兵衛と桐野は手筈通りにナナシたちとは別行動を取ることになった。

すでに戦端は開かれており前線の兵たちはランサー陣営の兵と戦闘を開始している。

数が多いな。

敵軍を一目見て十兵衛はランサー軍の兵の数が自軍より多いのを察した。

十兵衛たちは約1万5千の兵を連れてきている。

ランサー陣営は約2万といったところか。

バーサーカー陣営の協力を得たいが、なにせ今まで攻め込まれていたのだ。前線を維持することでで精一杯だろう。

いや、突然別の陣営の軍が現れたのだ。最悪の場合こちらを新たな敵と認識する可能性もある。期待は出来ない。

ランサー陣営が両面に敵を抱えている今こそが攻め時である。

 

「フン!」

 

十兵衛たちは馬を疾走させながら、馬上から刀を振るい次々と敵兵を仕留めていく。

霊兵1人1人ならやはりサーヴァントの足元にも及ばない。

突然、十兵衛たちのいる位置のさらに前線で味方の兵が宙を舞う。

なにかに吹き飛ばされたのか真っすぐにこちらに飛んでくる。

咄嗟に身を低くし、吹き飛んできた兵を避ける。

危ない。

もう少し遅ければ直撃して馬から叩き落されるところえあった。

 

「【般若】殿!サーヴァントや!」

 

やはりというか、ランサー陣営も忠勝1人ではなく別のサーヴァントを連れて来ていたようだ。

直ぐに兵士が吹き飛ばされた方向に馬を走らせる。

程なくして敵のサーヴァントの姿が見える。

だがそのランサーのサーヴァントは異様であった。

陣羽織をはおり、背格好は成人男性くらいで見た目は普通である。

異様なのは手に持っている武器だ。

それは武器というにはあまりにも大きすぎた。

大きく。

分厚く。

重く。

そして適当すぎた。

それはまさに巨木だった

 

「みんな棒は持ったな!!、行くぞ!」

 

ランサーのサーヴァントは棒…と呼ぶには大きすぎる丸太を振り回して突撃してきた。

 

「危ねぇ!」

 

ランサーが振るってきた丸太を避けるため十兵衛と桐野は同時に馬を乗り捨て、大地に降りる。

さっきまで乗っていた馬にランサーの一撃が直撃。

2頭とも吹き飛ばされ遥か後方に飛んでいきあっという間に姿が見えなくなった。

 

「さあ始めようか!死合い(しあい)を!」

 

ランサーは一声かけると丸太を振るって十兵衛たちに突進してくる。

 

「うおおおおおお!」

 

雄たけびを上げ連続で丸太を振り回すランサー。

反撃に出たい桐野であったがその圧倒的なリーチと振り回す速度に成す術がない。

 

「ちっ!」

 

自然と防戦一方となり、後ろに下がり距離を取る他ない。

しかし桐野が避けられても近くにいた味方の兵が逃げ遅れ、ランサーの攻撃に巻き込まれてしまう。

ランサーが丸太を振るたびにで5、6人がまるで強風の中の木の葉ように吹き飛ばされて宙を舞う。

ただの振り回しでこちらの被害はどんどん増えていく。

だがこちらも手をこまねいて見てるだけではない。

 

「いまはだ!放てい!」

 

ランサーが突出したところを狙って桐野が弓兵たちに一斉射の命令を下す。

僅かな一瞬の間隙をぬっての不意打ちである。

加えて10人以上の弓兵の一斉射撃。

避ける事は不可能だ。

だが…

 

「ふんっ」

 

ランサーは丸太で一閃。

飛んできた矢を全て叩き落とした。

何本かは丸太に突き刺さっているが、それでも見事に防ぎ切った。

 

「なっ」

 

流石の桐野も驚きを隠せない。

通常ならば必中といって良いほどのタイミングで放った矢だ。

いくら強力なサーヴァントであっても全てを防ぐのは不可能であったはずだ。

相手が常識内の武器であったならば。

だが目の前のランサーの持っている武器は普通では無い。

武器とも呼べないたかが木の幹と侮っていたが、盾代わりにも使える厄介な武器だとは予想外だ。

 

「ハっ!こんなもんか?大した事ねえな!。」

「ちっ、待っとれ!いっきうてしてやる。おずやら!下がれ!下がれ!けするぞ!」

 

ランサーの挑発に流しつつ、桐野は冷静に兵を下がらせる。あの巨大な獲物のせいで兵をいくら繰り出しても打ち取れまい。

ならば自分が戦うまで。

 

「【隼人】よ、待て。」

突撃しようとしていた桐野を十兵衛は片手を上げ静止させた。

 

「【般若】殿、なして止むっ!」

 

桐野が言い終わってから気づく。

なるほど、2人で戦えば良いということか。

それならばあの丸太相手でも有利であろう。

だが十兵衛の返答は違った。

 

「拙者にやらせてくれまいか?」

 

この状況でこの返答を返すということは…

 

「…一騎打ちで戦おごたっちゅう事じゃなあ。」

 

桐野はジっと十兵衛を見据える。

その意味が分かっているのかとという目で訴えている。

理に合わない。

果たし合いなら反対はしない。

だがこれは戦だ。戦ならどんな汚い手を使ってでも勝たなければならない。

負けてしまえば取り返しがつかない事になるかもしれない。

ここは2人掛りでランサーと戦い迅速かつ確実に対処すべきだ。

 

「頼む。」

 

十兵衛は一言だけそう言った。

般若の面で顔は見えないが、桐野には十兵衛がどんな表情はしているかすぐに想像できた。

桐野は少しだけ笑い。

 

「まこて!しょうがなかとう!うちん連中はどいつもこいつもわがままなやつばっかいじゃ!」

 

桐野は刀を納め、十兵衛の後ろに下りドカっとあぐらを組んで地面に座った。

 

「かたじけなし。」

 

そう言うと十兵衛はランサーのいる位置に向き直り、ゆっくりと歩いて行く。

理にかなっていないのは百も承知。

だが痛いほど良く分かるのだ。

聖杯合戦という別の時代を生きた英雄と戦えるという舞台において、自身が生涯かけて磨いてきた技がどこまで通用するのか、

どこまで戦い抜けるのか。

試してみたくなるのだ。

これは武で名を上げた人物にとっては避けては通れない性さがとも呼べるものだ。

そして何よりもう一つの理由は。

見てみたい。

十兵衛の戦いをこの目で見てみたいのだ。

 

柳生十兵衛三厳。

 

数ある剣豪たちの中でも抜群の知名度を誇る人物であるが、具体的な戦歴や戦い方は後世には記録として殆ど残っていない。

本当に強いのか?

どう戦うのか?

是非見てみたい。

桐野は嬉々としてこの戦いを見守るつもりだ。

 

「あんたが十兵衛だな!本物の柳生十兵衛!」

 

対峙した十兵衛に対してランサーが嬉々として言った。

こちらが忠勝の正体を知っているように、十兵衛の真名もランサー陣営に知れ渡っているらしい。

 

「なるほど。面は不要のようでござるな。」

 

十兵衛は般若の面をとり、投げ捨てて刀を構える。

左足前にして、刀を返して刃を上に向くように置く、耳の横や肩の高さに刀を位置させ、柄をクロスさせるように握り、切っ先を相手に向ける。

十兵衛が最も得意とする構え。霞の構えだ。

 

「柳生十兵衛三厳。参る。」

「行くぜぇ!」

 

言葉と同時にランサーが踏み込み薙ぎ払いを放つ。

左からの横一閃。刀が届かないこの距離でもランサーからは十分に射程内だ。

対する十兵衛は一歩も動かない。ランサーの攻撃は丸太の横振りとは思えないほど鋭く早い。

このままでは直撃だ。

 

「十兵衛殿!ないばしちょっ!」

 

動かない十兵衛を見かねて桐野が声を上げる。

だが桐野が予想していた事態は起こらなかった。

何故ならランサーの攻撃は十兵衛に当たらなかったからだ。

 

「なっ」

 

桐野とランサー同時に驚愕声を上げる。

左横からの薙ぎ払いである。

外れることはありえない。

確実に直撃コースであった。

だが目の前の光景は十兵衛は構えたままの状態で微動だにしていないままである。

 

「があああああああ!」

 

ランサーはありえない光景を振り払うかのように猛烈な連撃を浴びせる。

突き、右袈裟、左薙ぎ、右薙ぎ、怒涛の如き攻めである。

だが当たらない。

十兵衛にはかすりもしない。

 

「何だコイツ!凄ェ避けるぞ!」

「凄ェ!流石、十兵衛殿!」

 

桐野もランサーもここにきて気が付いてきた。

何故十兵衛にランサーの攻撃をが当たらないのか?

答えは簡単、攻撃を避けているからである。

問題はその避け方だ。

十兵衛は大きく回避行動をとるのでは無く、ほんの少し、ほんの少しだけ僅かに後ろに後退しているのだ。

桐野とランサーが十兵衛がまるで瞬間移動したかのように錯覚するほど僅かな移動距離と素早さで。

ランサーの連続攻撃で初めてそれがわかったのだ。

衣服にかするか、かすらないかぐらいギリギリのところで躱している。

一つでも読み間違えば致命傷を負うであろう攻撃を巧みな足捌きだけで回避している。

完全に見切っていなければ出来ない事だ。

流石の桐野も舌を巻く。

こんな芸当が出来る者は今まで見たことが無い。

 

「ふんっ」

 

真っ向からの振り下ろしも難なく躱す。

地面に叩きつけられた一撃はドスンという重い音と共に地面を少し揺らす。

その一瞬を十兵衛は見逃さなかった。

攻撃を避けるとすぐさま跳躍し、丸太の上に着地する。その丸太を足場に駆け出す。

一転攻勢。

これでランサーとの距離を一気に詰めるつもりだ。

 

「危ねェ!」

 

危ういと感じたランサーはすぐさま丸太を跳ね上げ、十兵衛を振り落とした。

空中に投げ出された十兵衛だが危なげなく着地。

再び刀を構える。

 

「闇雲に武器を振り回しているように見えてその実、術理に裏付けされた技の数々、見事にござる。

だが少々獲物が大きすぎるな。その大きさと重さゆえに大振り成らざるおえず、攻撃を見切られやすい。」

 

桐野のには適当に丸太を振りまわしていると見えていた攻撃だったが、しっかりとしたランサーの技だったようだ。

ランサーはハァハァと肩で息を息を切らせ丸太を構えている。

対照的に十兵衛は息一つ乱さずに構えている。

ランサーの攻撃に対して十兵衛は全て最小の動きで回避していた。

そのため無駄に動く事が無く、体力の消耗も最低限で済む。

また回避する移動距離が少ないほど間合いを離す必要が無くなり、回避してすぐさま反撃に転ずる事も容易に出来る。

紙一重で回避する十兵衛の戦闘術理とはまさにここにあった。

ランサーが息を整え終える。

その顔は笑っていた。

 

「大した腕前だ、感じ入ったよ。だがこっからは俺も本気でいかせてもらうぜ。」

 

空気が変わる。

先程と変わらずランサーは中段に構えたままだが、明らかに様子が違う。

攻撃をすべて躱され激高するものかと思われたが、意外にも冷静であった。

 

「フッ」

 

まず中段突きから始まる。

早い。

さっきまで突きよりもさらに早く鋭い。

だが十兵衛は難なく回避。

ランサーは意に返さずそのまま突きから左横薙ぎに移行。

真向からの振り下ろし、右からの横薙ぎ。

十兵衛も変わらず避け続けるが、ランサーの連続攻撃はどんどんスピードを上げていく。

力任せに丸太を振るっていた先程と違い、今のランサーは丸太を完璧に操っていて丸太の重さをまるで感じさせない。

ある種軽やかさのようなものを感じさせるほどである。

 

「ぬっ?」

 

猛攻を避け続けていた十兵衛であったが、後ろに下がりすぎてしまったため、自軍の兵士の列に突っ込んでしまった。

 

「もらった!」

ランサーは構う事なく丸太を振るう。

十兵衛自身は跳躍して攻撃を避けるが、兵士たちは避けられない。

5、6人ほど立っていたそのまま真っ二つに切り裂かれた。

 

「なっ。」

「なんと。」

 

十兵衛と桐野は同時に驚きの声を上げる。

兵士たちはまるで鋭利な刃で胴体を切断され、粒子になって消滅した。

ただの丸太で人間を切断するのは有り得ない。

人間の出来る技術の領域を超えている。

即ちこれは貴い幻想ノウブル・ファンタズムこと宝具による力。

 

「突けば槍、払えば薙刀、打てば太刀と謳われたその技の数々。夢想権之助殿とお見受けする。」

「バレちまったか。まあしょうがねぇな。」

 

ランサーこと夢想権之助は悪びれることなく十兵衛の問いに答える。

夢想権之助。

その名前は桐野も聞き覚えがあった。

 

「気をつけ!十兵衛殿!そんたは宮本武蔵に勝ったただぞ!」

 

十兵衛と権之助は再び武器を構え対峙する。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時22分

豊島区 サンシャインシティ付近

 

 

 

剣道三倍段という言葉がある。

一般に流布している意味では、武器を持っている剣道に対して、無手の空手や柔道などの武道をしているものが相対する時は、

段位としては三倍の技量が必要という意味であるが、本来の意味は違う。

槍または薙刀を相手にするために剣術の使い手は三倍の技量が必要という意味である。

つまり槍と剣のリーチの差はそれほど大きいということだ。

では槍術の腕前が達人レベルだった場合はどうなるか。

 

甲高い金属音が連続して聞こえる。

武器同士がぶつかりあうたびにその速度と衝撃ため火花が発生しては消えていく。

忠勝が槍を片手で大きく振り回す、それを回避するためナナシが大きく後退し距離を取る。

スキが無い。

刀対槍との戦いはつまるところ距離の戦いである。

刀側は如何にしてリーチの差を埋め、一足一刀の距離まで迫れるか。

槍側は如何にして懐に潜り込まれずに有利な距離を保てるか、そこに尽きる。

だがナナシは近づけない。

リーチの差もあるが、忠勝の腕前がそれほど凄まじかったからだ。

中段の構えから忠勝が踏み込んで仕掛けてきた。

頭部、上半身、下半身を狙った三連突きだ。

当然どの突きも当たれば一撃で勝負が決まるほどだが、忠勝は罠を仕掛けている。

一撃目と二撃目は陽動、本命は三撃目にあった。

頭と心臓はサーヴァントといえど致命傷になる弱点だ。

確実に守らねばならぬ箇所である。

そこに注意を割くことによって下半身の防御が疎かになったところを狙うわけである。

まず機動力を奪い、そこから有利な展開にするのが忠勝の算段だ。

しかしナナシは一撃目、ニ撃目、本命の三撃目も難なく剣で捌く。

しかも刀身である穂の部分に触れずに口金で捌き切っていた。

 

「ほう。見事なものだ。」

「相変わらずクソ煩わしい槍だな!オイ!」

 

忠勝の持つ宝具、蜻蛉切りは刀身に触れた者に体のどこかに無作為にダメージを与えるという能力があるが、

すでに【ナナシ】たちにもタネがバレているためそうそうダメージは与えられない。

再び対峙した2人であったが、ここにきてナナシは構えを変えた。

先程までは刃を下に向け、脇構えのような構えだったが、今は剣を上に振り上げ、上段の構えのような姿勢に変化していた。

忠勝もその変化に合わせて穂先をやや上に上げて目標をナナシの上半身に合わせる。

お互いに構えたまま微動だにしない。

迂闊に動けばそれが致命傷になってしまうことをこの2人は熟知しているためである。

周りでは両陣営の兵士たちが乱戦を繰り広げる最中ではあるが、2人が対峙しているこの空間だけはまるで空気が違い静寂といえる。

ナナシはスゥーと少しだけ息を吐き、整えると次の瞬間飛び出した。

神速のような速度で突撃してくるナナシにも忠勝は焦ることなく狙いを定める。

大上段の構えで体が大きく開いている上半身に渾身の突きを放つ。

だが槍が到達する瞬間ナナシの姿が消えた。

否。消えたのでは無い。

上段の構えから重心移動を行う事によって、屈むような姿勢に切り替えて、槍を掻い潜ることに成功したのである。

いける。

すでに相手の懐のうちだ。

槍を戻すのは間に合わない。

狙うは相手の逆胴。

このまま鎧ごと切り裂く。

そう考えていたナナシの目の前に何かが見えた。

金属同士がぶつかり合う音。そして衝撃。

石突だ。槍の刀身とは逆の部分である石突での打撃だ。槍を半回転させる事によって近接戦でも対応出来る攻撃なのであろう。

ギリギリで剣の握りの部分で防御したが、直撃していたら肋骨が2、3本は折れていただろう。

予想していなかった攻撃に虚をつかれ、ナナシは後ろに下がる。

せっかく距離を詰めたのにまた開けられてしまった。

 

「ランサー、何を遊んでいる。早くトドメを刺せ。」

 

突然、誰かの声が聞こえる。

周囲のビルに反響して響いて聴こえてくるため、何処から喋りかけけているのかは分からない。

だが声の主はすぐに姿を表した。

ナナシたちが戦っているすぐ近くのビルの屋上のから突然、人影が出てきた。

大方、魔術で姿を消して戦況を見ていたのだろう。

ランサーのマスターとの初遭遇だったが、司はその姿に見覚えがあった。

 

「あ、綾姫…」

 

ビルの上にいた人物は司と同じ学校の同級生の綾部 安那だったのだから。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

捌ノ巻 清風明月

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後13時24分

豊島区 サンシャインシティ付近

 

 

 

未だ戦闘の渦中で対峙した彼女はビルの上から司を見下ろしていた。

 

その姿は日頃の見慣れている学生服ではなく、上から下まで茶褐色の軍服に身を包んでいた。

 

軍帽を被り軍刀を腰に挿し、マント羽織っており重々しい雰囲気を纏っている。

 

唯一女性らしい要素といえばスカートを履いているくらいだろうか。

 

普段の彼女からは考えられない姿をしている。

 

そして何より普段の彼女とは決定的に違った事は瞳だった。

 

司が知っている彼女は常に微笑みを絶やさずまるで穏やかな春の日差しを感じさせるよな暖かな目をしていたが、

今の目の前にいる彼女は氷のように冷たい目で司を見ている。

 

司が一瞬、別人と感じてしまうほど冷酷な瞳である。

 

見下ろしていた彼女だったが、ビルの上から飛び降た。

 

まるで重さがないように、フワリと着地して地上に降り司を見据えこう言った。

 

「セイバーのマスター直ちに戦闘を中止しなさい。今ならこちらに投降すること許します。」

「投降?ふざけんな!するわけねぇだろ!」

 

安那は反論してきた【ナナシ】を横目で少し確認し、すぐに目線を司に戻して話を続ける。

 

「セイバーのサーヴァント 。私は貴方とは話していません。マスターと話しています。」

「綾部さんどうして…」

 

どうして君がマスターなんだと言おうとしたが言葉に出てこない。

目の前の光景が信じられずあまりにもショックだったからだ。

だが安那は司が何を言いたかったのか察したようで静かに答える。

 

「それは私が魔術師でランサーのマスターだからです。それで返答は?投降するのですか?しないのですか?」

 

取りつく島もない冷徹な声色である。

 

「し しない!」

 

吃りながらだったが司は何とか声を振り絞って答えた。

 

その返答を聞いて安那は目を瞑ってかぶりを振る。

 

呆れた様子のようだ。

 

「勘違いしているのかもしれませんが、投降を勧めているのはいちよう顔見知りだから善意で言っているのです。

聖杯合戦は遊びではありません。一般人の貴方では間違いなく死にます。今のうちに合戦から降りた方が賢明です。

ああ、もしかして聖杯が欲しいのですか?投降に応じるのでしたら聖杯とまでいきませんが私のツテで政府からお金を…」

「違う!そうじゃない!」

 

矢継ぎ早に捲し立てる安那を制するように司が声を張り上げる。

 

「聖杯のためにこんな殺し合いするなんて間違ってる!」

「それが聖杯合戦ですから。必要とあれば行うだけです。」

「綾部さんにそんな事して欲しくない!」

 

その言葉を聞いた安那は少しだけ目を見開いた。

司の言葉にほんの少し驚いているようだった。

しかしすぐに表情を戻した。

 

「呆れました。素人とはいえ、誉れ高き聖杯合戦のマスターに選ばれた者の言葉とは到底思えません。

言葉で止まらない以上は力づくでいかせて頂きます。ランサー!」

「承知。」

 

安那の言葉に反応して忠勝は再び臨戦態勢に入る。

 

「最初っからやめねえって言ってんだろうが!来やがれ!」

 

【ナナシ】も戦闘態勢に入る。

 

再び戦端が開かれようとした瞬間、南方向から鬨の声が上がる。

 

予期せぬ場所から音に【ナナシ】も忠勝も構えを崩さず、横目で確認する。

 

既に戦闘している司や安那の軍勢では無い。

 

かと言ってバーサーカーの陣営側からでも無い。

 

第4の陣営がこの地に現れたのだ。

 

「間に合いませんでしたか…」

 

安那だけはその新手の軍勢の正体を知っているようだった。

 

新手の黄色の旗を掲げた兵士たちがランサーの軍勢と衝突する。

 

その中から一騎、飛び出してこちらに走り

 

その姿は司たちには見覚えがあった。

 

「やあやあ!遠からん者は音に聞け!近くば寄って目に物見よ!我こそは平能登守教経!

平中納言教盛の子にして、平常陸介維衡が末なり!腕に覚えのある者よ!いざ尋常に勝負せん!」

 

戦場に響き渡るほどの大音声に司たちは呆気にとられる。

 

「バカ野郎!自分で真名を名乗ってるんじゃねえ!」

 

追いついた練矢が教経の頭を叩く。

 

かなりの勢いで叩かれたが教経は何事も無かったかのように平然としている。

 

「だが御主君!名乗りも上げずにいきなり斬りかかるのは卑怯者でござろう!」

「そういう問題じゃねえ!」

「aspettato!2人とも敵の前で喧嘩しないで!」

 

【シスター】が慌てて2人の仲裁に入る。

 

「敵を目の前にして随分と余裕ようですね、岸 練矢。」

「あんたが秋津の魔術師さんかい?俺の事もよく調べてるようだな」

 

安那は懐から手帳を取り出し読み上げる。

 

「岸 練矢、18歳。都内私立大学の一回生。家は没落した元魔術師の家系。多少、魔術の知識が有りそうなのはそのためですか。

ですがその程度で勝ち抜きけるほど聖杯合戦は甘くありません。命を落とす前に投降しなさい。」

「ライバルを減らしたいんだろうがそうはいかないぜ。教経!」

「御主君!某にお任せあれ!」

 

練矢の合図に合わせて教経は自身の大弓を引き絞り狙いをつける。

 

「平家随一と謳われた教経の弓を受けてみよ!」

 

引き絞った弦から矢が解き放たれる

 

サーヴァントが放つ矢である。

 

当然だが人間が放つ弓矢とはわけが違う、矢の速さは音速を超える速度で標的に突き進む。

 

だが忠勝は少し体を捻るだけでその剛矢をあっさりと避ける。

 

万全の状態でのサーヴァント同士の戦いではこの程度の攻撃では戦いの決定打になることは無いのだ。

 

忠勝が避けた矢はそのまま突き進みランサー側の霊兵に命中した。

 

しかし矢は兵士に命中したにも関わらず勢いが落ちずに兵士ごと引きずりながら吹き飛ばし、そのまま後方の兵士も貫いた。

 

「ほう」

 

流石の忠勝もこれには目を見張る。

 

矢の命中率や弓の精妙さを売りにする射手は数多見てきたが、一本の矢で2人の兵士を貫く程の剛腕の射手は見たことが無かったからだ。

 

「よくぞ避けた!だが一矢で終わると思うな!それそれそれそれぇい!!」

 

一射、ニ射、三射。

 

教経は続けて矢を放ち、敵の兵士たちを射抜いていく。

 

忠勝には命中しないが、一矢で2人ずつ敵兵を射抜いてい時には三人を団子のように射抜いた。

 

「…撤退します。ランサー、後は任せます。」

「御意。殿はお任せあれ。」

 

当初はバーサーカー陣営のみを相手にする予定であったが、セイバー陣営とアーチャー陣営も参戦した現状は流石に分が悪い。

 

既に陣地は得ている以上早々に撤退するべきと安那は判断した。

 

安那は忠勝に後を任せ、まるで煙のように姿を消した。

 

「もの共!退却だ!」

 

忠勝の合図共にランサー陣営の兵士たちは整然と撤退していく。

 

その姿にある種の美しさのようなものを感じるほどである。

 

「待てぃ!逃げるか!」

「追うな教経!オッサンにも追撃はするなって言われただろ!」

「ぬう…」

 

追撃飛び出して行こうとしていた教経はその言葉で止まる。

 

正成の言葉は流石に無視できないようであった。

 

ランサー陣営の兵士たちが撤退していくのを見送りながら、練矢は司たちと合流した。

 

「たく、飯食ってる途中で飛び出していくなよ。」

「練矢どうして?」

 

練矢たちとは同盟を結んでいるが、まさか援軍に駆けつけてくれるとは思いもよらなかった。

 

「同盟組んでいきなり敗退されたらこっちとしても困るんだよ。それにランサー陣営のヤツらの情報も欲しかったしな。」

「ありがとう。来てくれて安心したよ。」

「よせって、もういいよ。」

 

練矢は照れ臭そうに頭をかく。

 

「それよりも早くバーサーカーのマスターとご対面と行こうぜ。向こうは戦う気は無いみたいだしな。」

 

バーサーカー陣営の兵士達は武器も構えずに立ち尽くしている。

 

少なくとも敵対するつもりは無いように見える。

 

バーサーカー陣営の兵士をかき分けて司たちは奥へ奥へと進んでいく。

 

この兵士たちの最奥に指揮官がいるからだ。

 

しばらく進むと壁が崩れたビルの中から人影が現れた。

 

「助けて頂きありがとうございます。お陰で最後の領地を失わずに済みました。」

 

現れた男は体は細身だが身長は高く、小袖の上に羽織を着て、袴を履いている。

髪は総髪で髷を結っている。

目は細いが表情は柔和で人好きのする顔立ちであり、声色も穏やかであり人を安心させるような柔らかさだ。

 

「あんたが指揮官か。」

 

練矢の言葉にサーヴァントはうなづくと

 

「バーサーカー、吉田松蔭と申します。」

 

と穏やかに答えた。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月21日 午後17時41分

豊島区 廃レストラン

 

【挿絵表示】

 

ランサー陣営との戦いからすでに数時間が経過していた。

 

夏で日が高いとはいえ、太陽は傾きつつあり夕暮れになっていた。

 

松陰に導かれ、司たちは彼らの拠点に招かれていた。

 

そこはビルの一階ですでに閉鎖されたファミレスチェーンの店舗であった。

 

店を閉めたのはつい最近らしく店内は埃も無く綺麗であり、電気も水も使えるようであった。

 

彼らの拠点に着き、松蔭のマスターと対面した司たちは彼らがなぜ戦いに消極的だったのかを理解することができた。

 

「入江くん、ご挨拶しなさい。」

「はーい!せんせー!入江椿です!よろしくお願いしまーす!」

 

手を挙げて元気よくあいさつするこの子こそバーサーカーのマスターなのだ。

 

年齢は10歳くらい、髪型はハーフアップのロングストレート。

髪は茶色味がかかている黒色。髪を結んでいる大きな赤いリボンも特徴的だ。

目はクリっとしていて大きく、何よりも天真爛漫な笑顔がとても可愛らしい。

 

だがこんな小さい子が戦いの指揮など取れるはずもない。

 

それどころか自分が置かれている状況すら理解していないだろう。

 

「こら!まてまて!」

「きゃ!きゃ!」

 

当人はそんな状況知ってか知らずか、教経と追いかけっこを楽しんでいる。

 

「ねえねえ。お姉ちゃんも遊ぼやぁ。」

 

部屋の隅で椅子に座っていた【ナナシ】に椿が声をかける。

 

声をかけられた【ナナシ】はというと短く舌打ちをするとそっぽを向いて椿を無視した。

 

「ねえねえ!遊ぼやぁ!」

 

だがその程度で椿はめげない。

今度は【ナナシ】の服を引っ張って先程より大きな声で声をかける。

 

「やかましい。ガキは嫌いなんだ。」

「やだやだ!遊んでくれんやぁやだ!」

 

無視する【ナナシ】にごねる椿。双方一歩も譲らない。

 

「椿くん、その辺りでやめてご飯にしましょう。」

 

厨房から出てきた松陰が睨み合ってる椿に声をかけた。

 

両手には料理が乗った大皿を持っている。

 

椿はそれを見るやいなや、あっという間にイスに着席する。

 

【ナナシ】との遊びはもうどうでもいいらしい。

 

肉だんごのトマトソース煮とサラダが椿の前に置かれる。

 

出来立ての肉だんごから湯気が立ち、食欲を刺激するトマトソースの匂いが部屋中に広がる。

 

「ミートボール♪せんせぇのミートボール♪」

「椿くん、ダメですよ。食べる前にすることは?」

 

上機嫌で箸を持って料理に手をつけようとする椿を松陰は嗜める。

 

「はい、せんせぇ。いただきまぁーす!」

 

椿は行儀よく手を合わせていただきますをしてから食べ始めた。

 

「ほう。上手いものですな。お手前が作られたのですかな?」

「はい、召喚されてから作り方を調べました。なにせ僕の時代には肉を食べることは稀でしたから。」

 

十兵衛の質問に松陰は答えた。

 

「しかし今の世は勉強になる事ばかりだ。どれから学ぼうか目移りしてしまうほどですね。」

「流石は松蔭先生!勉強熱心じゃな!長州のヤツらから先生んはなっはよく聞いおいもした。」

「今世において高杉くんや桂くんの話ができるとは思いませんでしたよ。しかし伊藤くんが大成するとはね……」

 

同じ時代に生きたもの同士、桐野と松蔭は和気藹々と会話している。

 

「じゃっどん敵は本多忠勝か。徳川ん犬とは腐けっされ縁があっな。」

「それを言ったら拙者も徳川の犬でござるが。」

「んにゃんにゃ!十兵衛殿は十兵衛殿じゃっで!」

 

必死に訂正する桐野を十兵衛は面白そうに笑った。

 

2人の会話を聞いていた司だったが、急に腹からグゥーという情けない音が鳴った。

 

そういえば昼飯を食べる前に店飛び出してしまったから食事は朝しか食べて無かった。

 

緊張が溶けたせいか今頃になって空腹感を感じ始めていた。

 

司の大きなお腹の音に反応したのか、椿がこちらををジッと見てからフォークで突き刺した肉団子を司に差し出した。

 

「お兄ちゃんも食べる?」

 

本当は絶対に上げたくないのだが仕方ないなと言う心の声が漏れてきそうな絶妙な表情である。

 

とても優しい子なのだろう。

 

差し出された肉だんごからは湯気が立ち登り、ミートソースの匂いが堪らない。

 

空腹の司には抗い難いものがあった。

 

しかし椿の表情を見ているとここで肉だんごを取り上げてしまうのは可哀想だと司は感じてしまった。

 

「僕は大丈夫だから椿ちゃんが食べなよ。」

 

そう司が言うと椿の表情は先程とは一転して、満面の笑顔になり肉だんごを再び頬張り始めた。

 

よほどこの料理が好きなんだろう。

 

「司、俺たちも腹ごしらえしようぜ。近くのコンビニに行くから【般若】と【シスター】も一緒に来てくれ。」

「御意。」

「Ricevuto.」

 

練矢たちと一緒に司は玄関に向かう。

 

「いってらっしゃ〜い」

 

椿は大きく手を振って司たちを送り出してくれた。

 

建物から外に出て、周り角を曲がり十分に建物から離れると練矢は司に話しかけてきた。

 

「どう思う?」

「どう思うって…椿ちゃんと松蔭さんのこと?」

 

練矢はそうだと言う代わりにコクリと頷いた。

 

司は少し考えてから

 

「悪い人には見えなかったし、嘘は言って無いと思う。」

「なるほどね。十兵衛は?」

「松蔭殿以外でもう一騎サーヴァントの気配を感じました。最初の話通りなら辻褄は合いまする。」

 

店に移動するまでの間に松蔭からこれまでのバーサーカー陣営の動向の話を聞いていた。

 

松蔭たちが召喚されてすぐ後にライダー陣営が攻めてきて陣地を奪い取られた。

10歳の椿にが指示を出すことは勿論出来ずし、松蔭たちは命からがら逃走。

その過程で初日から仲間のサーヴァントを1人失ってしまったのだと言う。

松蔭以外のもう1人のサーヴァントは狂化のランクが高いため意思疎通が取りづらく、加えて陣地が減り魔力の消費を抑えるため霊体化して大人しくして貰っているそうだ。

 

椿の親を探しているのだが、この地区にはいないようで自分たちも自陣以外は迂闊に移動出来ない上に椿がいないと困るということで

あの店を拠点にして静観していたところをランサー陣営に襲撃されたとのことだった。

「どっかに隠れているんじゃねぇか?」

 

練矢は松蔭の話を信じておらず、3騎目サーヴァント が何処かにいると考えているらしい。

 

「tuttavia、最後の陣地が攻撃されている最中でもsignore吉田以外のサーヴァントは姿を表しませんデシタ。これは動かさなかったと言うよりは動けなかったと言う何よりの証拠では無いデスカ?それにいくら腕に自信があると言っても別の陣営のサーヴァントが5騎も自分のマスターの周りを彷徨くなんて気が気ではありまセン。やはりバーサーカー陣営は2騎しかいないのデハ?」

 

陣地を失えば全て終わる。通常なら自分たちの持てる戦力全て戦うだろう。

 

司たち援軍がくるなんて予想もしていなかったなら尚更だろう。

 

「いっそのこと脅して聞いてみるか?」

「No, non si può!あんな小さい子を脅す何てひどいデス!」

「だが何か隠しているような印象は受けまするな。信用するのは危ういかと。」

「まあ、そうだわな。」

「ちょっと待って。なら椿ちゃんたちはどうするの?」

 

司の問いに錬矢は答える。

 

「正成のおっさんに相談してからにするが…たぶんバーサーカー陣営とは組まないし手を出すことも無い。」

「僕は反対だ。あんな小さい子をほっておく事なんて出来ないよ。せめて親御さんが見つかるまでは守ってあげないと。」

 

おそらく椿は自分がいかに危険な状態に置かれているかを理解していないであろう。

 

このままほって置けば他の陣営に餌食になってしまうであろう。

 

「あの子が危険じゃなくても松陰は何を考えているのかわからねぇ。味方に引き入れるのは危険だ。爆弾を抱え込むようなもんだぞ。」

 

確かにその通りだ。

 

だが。

 

「もし次にランサー陣営が攻め込んできたら…綾部さんは椿ちゃんを殺すかもしれない…。」

 

あの凍るような視線をしていた秋津の魔術師なら躊躇なく実行するだろう。

 

「certamente、可能性はありますネェ…。」

 

錬矢も【シスター】と同じ意見のようだ。

 

「そうだ!椿ちゃんが聖杯合戦をやめてもらえばいいんだ!」

 

聖杯合戦は何も1度参加したら絶対に辞めることが出来ないわけではない。

 

各地区にある教会で辞退を申し込めば聖杯合戦の参加を辞める事ができる。

 

「No. No.それはやめた方がいいと思いマス。」

 

【シスター】はいつになく真剣な表情だ。

 

「なんでさ。」

「perché、聖杯を求めているのは何もマスターだけではありまセン。

ワタシたちサーヴァントもまた聖杯を求めてこも戦いに参加しているのでデス。」

 

聖杯という万能の願望機を魅力的に思うのは今を生きている人間だけでは無いということだ。

 

過去の英霊達がサーヴァント(召使い)という枠に収まってでも聖杯を欲するのは至極当然と言えよう。

 

「もし松蔭殿が聖杯合戦に降りることに納得がいかなかった場合、どう行動するか分かりかねまするな。」

「マスターとサーヴァント との関係が拗れて自滅したやつらなんか、過去の合戦にも山程いたんだぜ。」

「それに加えて相手がバーサーカーという事が問題にござるな。彼らの行動原理は読みづらい。どう動くか皆目見当がつかない。」

 

バーサーカー

 

7騎あるサーヴァントの基本クラスの一つ

 

特徴としては狂化クラス特性を保有している。

 

狂化によってサーヴァントのステータスを底上げする事ができる。

 

反面、狂化の特性によりサーヴァントは理性や思考能力、技術や言語能力を失う。

 

また魔力消費量が膨大になるという短所を持っている。

 

あまり強くないサーヴァントを強化して使うのが基本になる。

 

総じて扱いづらく、聖杯合戦を勝ち抜きづらいクラスである。

 

「それじゃあどうすれば…」

 

見捨てれば敗北は決定的。

 

かといって同盟を結ぶには信用できる材料が無い。

 

司たちだけ同盟を結ぶという手もあるが万が一があった時に自分が泥を被るのはしょうがないにしても

 

練矢たちまで迷惑を掛けてしまうかもしれない。

 

合戦を降りることも出来ない。

 

八方塞がりである。

 

司は暗然とした気持ちだった。

 

「…練矢殿。この件、拙者に預けてくださらぬか?」

 

全員が静まる中、十兵衛が発言した。

 

「おいおい、どうするつもりだ。」

「バーサーカー陣営が信用出来ない以上同盟を結ぶことは出来ませぬ。

そこで彼女たちは我らセイバー陣営のみで保護しまする。彼女らが危機の時は我らのみが援軍として向かいまする。」

「あんた達だけでケツ拭くってわけか?」

「左様。アーチャー陣営には迷惑はかけませぬ。もし仮にバーサーカー陣営が裏切った場合、

彼女らは我らの陣地を通らなければ練矢殿たちのところまでは行けませぬ。」

「in altre parole、セイバー陣営が壁になるということデスネ。

しかしsignore柳生。あなたの口ぶりからは彼女たちと付き合うのは反対なように読み取れましたが、何故そのような提案ヲ?」

「拙者としては反対にござる、が主君の意向を組むのもまた侍の務め。

であるからこそ妥協案を考えてみたしだいにござる。いかがにござるかな?」

 

練矢は少しだけ考えるようなそぶりをみせ

 

「おっさんがなんて言うかだが、まあそれでいいぜ。」と言った。

「十兵衛さん、ありがとうございます。無理を言ってすいませんでした。」

 

司は十兵衛に頭を下げて感謝を述べた。

 

「主殿を頭を上げてくだされ。たいしたことはしておりませぬ。義を見て成さざるは勇なきなりと思ったまでのこと。」

と笑って十兵衛は答えた。

 

「oops、少し時間がかかりすぎましたネ。早く食事を買って帰りまショウ。」

【シスター】に促され3人はコンビニに向かって歩き始める。

 

「しかしよぉ、あの子の親は何やってんだよ。子供がいなくなって心配じゃないのかねぇ」

「今も必死に探しているのかもよ。」

 

その後コンビニで食べ物を買い、店に戻り食事をとった。

 

振り返ればこの時が聖杯合戦中で一番穏やかな夜だった。

 

司はまだ何も知らなかった。

 

目の前の小さな女の子のことも。

 

同じクラスの同級生のことも。

 

サーヴァントのことも。

 

聖杯合戦の意味も

 

そしてこの世界のことも。

 

まだ何も。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

2日目終了時の朱引き陣図&挿話 第十八次聖杯合戦 参加マスター及び関係者 名簿

人間側の設定資料集です。
話が進むたび更新する予定


 

【挿絵表示】

 

青色 セイバー陣営

荒川区 台東区 文京区 千代田区

 

黄色 アーチャー陣営

墨田区 江東区 中央区

 

緑色 ランサー陣営

港区 渋谷区 品川区 目黒区 新宿区

 

赤色 ライダー陣営

江戸川区 葛飾区 足立区 北区

 

紫色 キャスター陣営

板橋区 中野区 練馬区

 

黒色 アサシン陣営

大田区 世田谷区 杉並区

 

灰色 バーサーカー陣営

豊島区 

 

 

 

 

セイバー陣営 マスター

 

【挿絵表示】

 

高城 司

 

偶然にもセイバー陣営マスターになった都内公立高校に通う高校2年生。17歳。

一般人であり魔術の素養や才能も無いため特筆する点は無い。

本人は運動能力も学業ともに普通だと思っているが、学校内でも優秀な部類な方に入り、顔だちも整っているため隠れファンが多い。

これといって将来の希望や夢中になれることが無いのが悩み。将来の夢を語る友人たちを羨ましく思っている。

剣道部所属。

家族構成は父親、母親の3人家族

 

 

アーチャー陣営 マスター

 

【挿絵表示】

 

岸 錬矢

 

都内私立大学に通う大学1回生。18歳。

元は魔術師だった家系の生まれ。しかし祖父の代に完全に没落し、錬矢には魔術刻印は引き継がれていない。

祖父の家の書庫に魔術知識関連の本が大量に死蔵されており、それを読んでいたため魔術や聖杯合戦の知識は豊富。

金髪で目つきが悪いため初対面ではとっつきづらく見えるが、実際には情に厚く面倒見が良い性格。

ある目的のために聖杯を求めている。

家族構成は父親、母親、妹の4人家族。

 

 

ランサー陣営 マスター

 

【挿絵表示】

 

秋津【綾部】安那

 

高城 司と同じ高校に通う高校生2年生。17歳。

その正体は代々国家の呪術防御を担う秋津家の第19代目当主。

学校では父方の姓の綾部を名乗り、病弱な生徒会長を演じている。

学校では綾姫のあだ名で慕われてる。

3年前に前当主であった母親が亡くなったため、当主の座と今回の聖杯合戦のマスター役を引き継ぐことになった。

父親とは幼い頃に離縁しており、母親は死去したため家族はいない。

好きな食べ物はシベリア

 

 

ライダー陣営 マスター

 

不明

 

 

キャスター陣営 マスター

 

不明

 

 

アサシン陣営 マスター

 

不明

 

 

バーサーカー陣営 マスター

 

【挿絵表示】

 

入江 椿

挿話 第十八次聖杯合戦 参加マスター及び関係者 名簿の挿絵4

10才くらいの少女。

天真爛漫で誰にでも人懐っこい性格。

本人が何も喋らないため、家や家族など不明。

自身のサーヴァントである吉田松陰を「せんせぇ」と呼んで慕っている。

少し変わった喋り方をする。

好きな食べ物は肉

 

 

おそらくマスターの人物。

 

【挿絵表示】

 

来栖 拓也

 

テレビタレント。25歳。

2012年の第十六次聖杯合戦の優勝者にして、続く2016年の第十七次聖杯合戦、そして2020年の第十八次聖杯合戦にも出場。

前人未踏の3度も聖杯合戦参加している人物。

7月15日にTV出演して以来消息を絶つ。

どこかの陣営のマスターになっていると思われる。

 

 

その他関係者

 

警察関連

 

河道 敏和

 

警視庁捜査一課所属の警察官。階級 警部。46歳。

この道20年以上のベテラン刑事。

敏腕刑事であり何度も表彰されたこともあったが捜査方針で度々上位と衝突してきてため、疎んじられ万年警部の地位にいる。

聖杯合戦に否定的であり、特にサーヴァント嫌いで有名。

妻子がいたが8年前に死別している。

 

 

折田 英司

 

警視庁捜査一課所属の警察官。警部補。24歳。

いわゆるキャリア組と呼ばれるエリート。河道の相棒。

キャリア組だがその事をおくびにも出さない慎み深い性格。

冷静であり、無理な捜査をしがちな河道のブレーキ役。

タッグを組んでから2年ほどしかたっていないが、河道を警察官として深く尊敬しており、また河道も折田のことを深く信頼している。

河道が公然と政府批判することやサーヴァント嫌いには少し辟易としている。

なぜ河道がサーヴァントが嫌いなのか理由は知らない。

 

 

 

大日本皇国軍関係者

 

 

神田 徳一郎

 

大日本皇国陸軍 憲兵司令官。中将。49歳。

陸軍憲兵隊の長であり、皇都 東京の治安を司っている。

また第十八次聖杯合戦の運営側の人間である。

かなりのやり手であり、反政府組織との戦いで頭角を現し、若くして憲兵隊の最高指揮官まで駆け上がった。

本来は組織内の規律や秩序を正すのが憲兵の役割であるが、神田のテロ対策と言う大義名分の元で組織改革と軍拡が行われ、

関東第1師団や近衛師団に次ぐ規模にまで憲兵隊を成長させた。

その反面で反政府組織の疑いあるまたはそういった思想を持っている疑いがあるだけで収容所送りにさせたりと、その強硬な政策に反発覚える者も少なくない。

弁舌がたち、人脈も広いため彼が一声かければ第1師団や近衛師団からも兵を集められるだろうと言われている。

部下にも気安く話しかけ、とっつきやすい人物に見えるが、蛇のように執念深い一面も持っている。

 

 

 

鮫洲 仁

 

大日本皇国陸軍所属。少佐。30歳。

神田の腹心であり、鉄仮面の鮫洲と恐れられている。

大柄かつ屈強な肉体を持っており、頭脳明晰であり任務に忠実という兵隊の鑑。

特に判断力に優れており、現場指揮官として極めて優秀。

若い頃は反政府組織との戦いで神田と共に戦場を駆け巡った。

大抵の事では動じず無表情を貫いているが、娘のことになるとデレデレになる。

 

 

 

報道関係者

 

 

 

猫戸 彩里

 

富士放送局所属のアナウンサー。24歳。

美人女子アナでそこそこ人気だが、腹黒く、ぶりっ子でありAD使いが荒いので有名。

イケメンとお金が大好き。

聖杯合戦のリポーターは危険だが出世が約束されていると聞き、志願してリポーターをかってでた。

順調にキャリアを積み、スポーツ選手と結婚して悠々自適のセレブ生活するのが夢。

学生時代は地理専攻だったため、歴史に疎く興味も無い。

趣味は相撲観戦。

 

 

 

影井 謙三

 

富士放送局所属のカメラマン。38歳。

ベテランカメラマンであり、過去の聖杯合戦にもカメラマンとして参加してことがある。

実家は長野県。

 

 

 

史野 文哉

 

富士放送局所属のAD。26歳。

歴史オタク。過去の英雄が見れるということで聖杯合戦の大ファンである。

 

 

 

羽田 翔

 

東日本航空所属のパイロット。34歳。

猫戸たちが乗る報道ヘリのパイロット。

家族からは聖杯合戦のヘリパイロットをやることを反対されている。

 

ジョージ申谷

 

テレビタレント。

歯に衣着せない口調でお茶の間で人気。

彼をテレビで見ない日は無い。

今回の聖杯合戦放送のゲストの1人。

 

 

高城 司の周辺の人物

 

 

北原 修二

 

司の友人。イケメンだが少しナルシスト気味で女性に弱い。

将来の夢は弁護士。

 

 

 

小久保 大助

 

司の友人。情報通で話好き。

将来の夢は報道関係。

 

 

 

松尾 百合

 

知り合いのお姉さん。司のことを少年と呼ぶ。

会うたびバイト先が変わっている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第十八次聖杯合戦 参加サーヴァント 名簿

現在判明しているサーヴァントの設定資料です。
話が進むごとに更新する予定


セイバー陣営

 

【挿絵表示】

 

【CLASS】 セイバー

 

【マスター】高城 司

 

【通称】【ナナシ】

 

【真名】繝、繝槭ヨ 繧ソ繧ア繝ォ

 

【出典】蜿、莠玖ィ倥??譌・譛ャ譖ク邏?

 

【身長・体重】157㎝・42Kg

  

【属性】秩序・中庸

 

【性別】逕キ諤ァ

 

【好きなもの】蠑滓ゥ俶抄

 

【嫌いなもの】猪 蛇

 

【特技】螂ウ陬

 

【天敵】父親

 

【聖杯にかける願い】辷カ荳翫?逵滓э繧堤衍繧

 

【ステータス】 筋力C 耐久D 敏捷C

 

        魔力C 幸運D 宝具A

 

<クラス保有スキル>

・対魔力 A

Aランク以下の魔術を完全に無効化する。事実上、現代の魔術師では、魔術で傷をつけることは出来ない。

 

・騎乗 C

正しい調教、調整がなされたものであれば万全に乗りこなせ、野獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

 

・霊兵指揮 D

聖杯合戦に参加したサーヴァント全員に付与されるスキル

生前に大軍を率いた、将軍として名声を残した英霊ほどランクが上がる。

ランクが高いほど率いている霊兵1人1人が強化される。

Dランクは率いている一部の霊兵が強化される。

 

 

<固有スキル>

・神性 B 

螟ゥ辣ァ螟ァ蠕。逾槭?逶エ邉サ

 

・勇猛 A+

威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

 

・蠑滓ゥ俶抄の加護 B

水場の近くで有利な判定を受けられる。水面上を地面と同じように歩けるようになる。

 

・心眼偽A

直感・第六感による危険回避。虫の知らせとも言われる、天性の才能による危険予知。視覚妨害による補正への耐性も併せ持つ。

 

 

<宝具>

・譁主ョョ縺ョ陦」陬 C

対人宝具 レンジ0 最大捕捉 1人

繧ソ繧ア繝ォ縺悟諸豈阪?蛟ュ蟋ォ蜻ス縺瑚イー縺」縺溯。」陬ウ

繧ソ繧ア繝ォ縺後け繝槭た繧ソ繧ア繝ォ繧定ィ弱■蜿悶k髫帙↓菴ソ逕ィ縺励◆縲

蟋ソ蠖「繧??ァ蛻・縺セ縺ァ螟峨∴繧句、芽コォ螳晏?縺ァ縺ゅj縲√∪縺溯?霄ォ縺ョ豁」菴薙↓郢九′繧狗ョ?園繧帝國阡ス縺励◆繧翫?

繧ケ繝??繧ソ繧ケ繧?繝ゥ繝ウ繧ッ荳九′縺」縺滓焚蛟、縺ォ隱、隱阪&縺帙k縺薙→縺悟?譚・繧九?

 

 

<武器>

・闕芽侭縺ョ蜑」

常に白い靄が掛かっており、どんな武器か判別できない。

ナナシがどんなに激しく振るっても靄は消えない。

長さから恐らく剣であるとわかる程度である。

 

 

〈英霊解説〉

高城 司のサーヴァントのうちの1騎

白衣と緋袴を着て、千早を羽織ってる巫女の姿に黒く美しい長い髪を丈長でまとめている。

黙っていれば理想の大和撫子といってよい美貌だが、言動は完全に男性のソレである。

一人称はオレ。

ぶっきらぼうでなおかつ挑発的。自分の技量に絶対の自信を持っているらしく、他者を下にみた言動をとる一匹狼。

陣営内でも孤立しがちだが、本人は気にも留めてない様子。

何故かマスターである司にだけは忠実で真摯態度をとる。

一方で司にも自身の正体や宝具については話さず、正体は隠している。本人は召喚のショックで忘れたの一点張り。

自信に違わず、戦闘能力は極めて高く他のサーヴァントにも遅れを取らない。

勝ちさえすればいいという考え方であり、不意打ちや騙し討ちも躊躇なく行う。

戦いの場で正々堂々などバカがすることだと公言している。

総じて謎の多いサーヴァントである。

 

 

 

【CLASS】 セイバー

 

【マスター】高城 司

 

【通称】【般若】

 

【真名】柳生十兵衛

 

【出典】史実 講談 伝説

 

【身長・体重】184㎝・81Kg

  

【属性】中立・中庸

 

【性別】男性

 

【好きなもの】酒、剣術、美人

 

【苦手なもの】酒[過去に酒で大失敗をしたため、嗜む程度で止めている。]

 

【特技】利き酒

 

【天敵】沢庵和尚

 

【聖杯にかける願い】強敵との戦い。自身の剣技を存分に振るう事。

 

【ステータス】 筋力B 耐久C 敏捷A+

 

        魔力E 幸運A 宝具B

 

 

<クラス保有スキル>

・対魔力 B

魔術詠唱が三節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法などを以ってしても、傷つけるのは難しい。

 

・騎乗 B

大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

 

・霊兵指揮 D

Dランクは率いている一部の霊兵が強化される。

 

 

<固有スキル>

・新陰流 A++

柳生新陰流の奥義を修めている。

幼少から十兵衛は父 宗矩から直接剣を学び、育った。

本スキルをAランク以上で有する十兵衛は、剣のわざのみならず、精神攻撃への耐性をも有している。参禅を必須とする新陰流の達人は、惑わず、迷わない。

 

・転まろぼし B

柳生新陰流に於ける極意の一つ

懸・待・表・裏は一隅を守らず、敵に随って転変して、一重の手段を施すこと、恰も風を見て帆を使い、兎を見て鷹を放つが如し

 

・無刀取り A

剣聖・上泉信綱が考案し、柳生石舟斎が解明した奥義。

たとえ刀を持たずとも、新陰流の達人は武装した相手に勝つという。

 

 

<宝具>

・奥義 十文字 D

対人奥義 レンジ 1〜10 最大捕捉 100人

十兵衛の超人的な見切りが宝具として昇華されたもの。敵の攻撃術理を瞬時に理解することで紙一重で回避する事ができる。敵の技量が低い、獣のように素早いが直線的な攻撃に対して絶大な効果を発揮できる。僅かな足捌きの移動だけで回避を成功させるため傍目には攻撃が十兵衛が棒立ちなのに攻撃が外れたように錯覚する。敵の攻撃を最小で回避して返し技で迎撃するという柳生新陰流の基本理念にも合致している。またこちらの攻撃時に相手の全体を見て隙があるところに打ち込む事で攻勢にも転用できるというまさに攻防一体の宝具と言える。

欠点は自身が理解できない攻撃術理や相手の技量が自身より高い場合は機能しなくなるという点がある。後年この相手の攻撃を紙一重で回避して返し技を当てるという技を十文字や合撃がっしと十兵衛の死後に名付けられるが、この原点と言えるのが十兵衛の見切りである。

 

・奥義 朔望月 A

対人奥義 レンジ- 最大捕捉1人

詳細不明

 

・柳生十兵衛見参 EX

対人宝具 レンジ0 最大捕捉1人

柳生十兵衛という高名すぎる名前が宝具化したもの。相手に真名が知られた場合に十兵衛の宝具ランク以外のステータスを一時的に全てワンランク上昇できる。

相手と相対していることと初見の敵にしか使えず、

また事前に十兵衛の真名を知っている者には使えない。適用範囲は狭いが、真名を看破された場合でもある程度有利に働くという宝具である。

 

 

〈武器〉

・三池殿太 

十兵衛の生前からの愛刀。三池殿太作。無銘。

 

 

〈英霊解説〉

江戸時代初期の人物

柳生石舟斎の孫にして、将軍家剣術指南役である柳生宗矩の子であり、宮本武蔵と知名度を二分にするほど大剣豪

人呼んで無敵の剣豪。

高城 司のサーヴァントの1騎であり、陣営内では司の相談役兼参謀役に収まっている。

通常時の服装は上下真っ黒な和服に袴、革の羽織を着て髷を結び左目に眼帯をという姿だが、現在は風貌から真名バレを防ぐため般若の面に黒い着流しの着用している。

冷静で落ち着いた態度だが、機知に富んだ面もある。

なぜかござる口調で喋る。

考え事をする時に顎を指で触る癖がある。

衝突しがちな【ナナシ】と桐野の仲裁役でもある。

 

 

 

【CLASS】セイバー

 

【マスター】高城 司

 

【通称】【隼人】

 

【真名】桐野 利秋/中村 半次郎

 

【出典】史実

 

【身長・体重】179㎝・80Kg

  

【属性】中立・中庸

 

【性別】男性

 

【好きなもの】西郷大先生、お洒落、へそ石餅

 

【苦手なもの】政治

 

【特技】さつまいもの栽培

 

【天敵】 大久保利通

 

【聖杯にかける願い】聖杯戦争を剣士として最後まで戦い抜く事。

 

【ステータス】 筋力B 耐久B 敏捷C

 

        魔力E 幸運C 宝具C+

 

 

<クラス保有スキル>

・対魔力 E

魔術の無効化は出来ない。ダメージ数値を多少削減する。

 

・騎乗 B

大抵の乗り物なら人並み以上に乗りこなせるが、幻想種あるいは魔獣・聖獣ランクの獣は乗りこなすことが出来ない。

 

・霊兵指揮 C

Cランクは率いている全ての霊兵が強化される。

 

 

<固有スキル>

・人斬り A

刀で人を斬ることに特化した剣術スキル。

勝つことのみを目的とした実践的な剣術であり、求道者的な精神とは無縁の物。それ故に強く、脆い。

 

・猿叫 B

示現流に伝わる独特の掛け声。

人とは思えないほど凄まじい叫び声を発する。

相手を威圧し、一時的にたじろかせる。

 

・維新の英雄 B

幕末という動乱の時代を駆け抜け、明治維新という史上稀に見る一大改革に貢献した者に与えられるスキル。

 

・薩摩示現流 B

薩摩藩御留流の剣術。

二ノ太刀要らずを信条とする比類なき剛剣。

ランクが高いほど、精神干渉に対する耐性を得る。

桐野は基礎こそ示現流や薬丸自顕流だが、以降は独自に鍛錬をしてきたため、このランクになっている。

 

 

<宝具> 

・いざ!飛ぶが如く! C

対人宝具 レンジ1~10 最大補足 1人

詳細不明

 

 

〈武器〉

・西蓮 薩摩拵

桐野の生前からの愛刀。鎌倉期作。無銘。

拵とは刀の外装のこと。

薩摩拵は装飾を一切排した無骨な作りとなっている。

また鍔が小さく、示現流に最適な拵になっている。

 

 

〈英霊解説〉

江戸幕末の人物。

幕末4大人斬り1人にして、維新三傑の1人である西郷隆盛の懐刀。

またの名を中村半次郎。

人斬り半次郎の名で知られる人物。

セイバーとアサシンとバーサーカーの適正がある。

セイバーとして召喚された場合、名前が桐野利秋となり武士としての要素が大きく出る。

アサシンとして呼ばれた場合は中村半次郎の名前になり暗殺者としての要素が大きくなる。

人斬りという汚れ仕事を請け負っていたにも関わらず、性格は明朗快活で後ろ暗い様子は見せない。

戦に臨んでは豪胆であり、ぼっけもんの名に違わない男。薩摩隼人の鑑。

直情的に見えるが、幕末時代には主に諜報の仕事をしており、情報の分析能力に長けている。

そのため戦場では意外にも冷静で慎重な態度をとる。

外見は軍服を着て髪を短く剃り込んでいる。

陣営内ではムードメーカー的な存在だが、真名を明かさない【ナナシ】を疑っており、度々衝突している。

 

 

 

アーチャー陣営

 

【CLASS】アーチャー

 

【マスター】岸 錬矢

 

【通称】【おっさん】

 

【真名】楠木正成

 

【出典】史実 太平記

 

【身長・体重】174㎝・69Kg

  

【属性】秩序・悪

 

【性別】男性

 

【好きなもの】博打 ヒリつく戦い

 

【苦手なもの】平穏な生活 権力闘争

 

【特技】値切り交渉

 

【天敵】公家

 

【聖杯にかける願い】自身の軍略を存分に振るう。

 

【ステータス】 筋力C 耐久A 敏捷C

 

        魔力B 幸運D 宝具A

 

 

<クラス保有スキル>

・対魔力 D

一工程シングルアクションによるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

 

・単独行動 A

マスターからの魔力供給が途絶えても一週間は現界可能。

 

・霊兵指揮 A+

A+ランクは率いている霊兵全員の戦闘能力が飛躍的に向上し、手足の如く霊兵が動くようになる。

また霊兵は混乱や怯えなど抱かなり、精神干渉に対して耐性を得る。

 

 

〈固有スキル〉

・悪党 A

鎌倉後期に出現した幕府や荘園領主に反抗した武士たちのこと。

広義の悪党の意味である悪人とは異なる。

正成は悪党の代表格である。

奇策、不意打ち、騙し討ちといった正道とは異なる奇道を行った際に成功率が上がり有利な判定を受けられる

 

・軍略 B

多人数を動員した戦場における戦術的直感能力。

自らの対軍宝具行使や、逆に相手の対軍宝具への対処に有利な補正がつく。

正成は守戦において、さらに追加でボーナス補正を得られる。

 

・大楠公 EX

その鮮烈な生き様が後世の人々から称賛され、付与されたスキル。

一度でも契約を結んだマスターを裏切る事や背信行為を絶対にしなくなる。また契約の破棄を強制的に強いる宝具などの効果を無効に出来る。

たとえ正成の自意識が無くなってもマスターを傷つける事や間接的にマスターを裏切る行為すら出来なくなる。

反面、正成からはマスターとの契約を切る事が出来ない。

ある種、呪いのようなスキル。

 

 

<宝具>

・金剛鉄壁 千早城 B+

城塞宝具 レンジ 1〜50 最大捕捉 1000人

詳細不明

 

・大楠流守城術 D

対軍宝具 レンジ0〜20 最大捕捉 100人

正成の卓越した軍略が宝具として昇華されたもの。対峙した敵に対して攻城戦を仕掛けることができる。

自身の耐久力を上昇させて、相手は正成に対してした攻撃に不利な判定を受ける。

また正成との戦闘が長引くほどに対峙した敵の魔力消費が増えていく。

弱点は敵が攻城戦を得意する逸話を持つサーヴァント場合には有利な判定を与えてしまう。

 

・七生転生 怨霊報国 A

対人宝具 レンジ0 最大捕捉1人

詳細不明

正成は例え自身が消滅するほどの窮地でもこの宝具を使うことは無い。

使わせるには令呪で強制的に使わせるしかない。

 

 

<武器>

・小竜景光 サーベル式軍刀拵

正成の佩刀。長船景光作。

はばきのもとに倶利伽羅竜のの彫り物がある事からこの名前がついた。

別名、楠公景光。

現界した際に何故か拵えがサーベル拵になっていた。

正成は「人の刀の拵えを勝手に替えたヤツをどついてやりたいわ。」と言っていたが、なかなカッコいいので気には入っている。

 

・和弓 無銘

正成の弓。

アーチャーのサーヴァントとして呼ばれただけあって十分に一流と呼べる腕前。

 

 

<英霊解説>

鎌倉時代末期、南北朝時代の人物。

この時代を代表する武将であり、また日本史上でも屈指の名将である。

彗星の如く現れ、時の天皇に尽力し幕府軍100万騎相手に籠城戦を仕掛け奇想天外な作戦で幕府軍を撃退し続けて、遂には鎌倉幕府滅亡の日まで戦い抜いた英雄である。

その華々しい活躍とは対照的に悲劇的な末路を辿ったのにも関わらず、最後まで後醍醐天皇に忠義を尽した。

その生き様は後世の人々に賞賛され、大楠公と称された。

本人曰く「ワイが忠義者ってわけやなくて、他のやつらが裏切りすぎなだけや。」とのこと。

40代くらいの中年の男性。髭を生やしている。引立烏帽子を被り、胴丸と呼ばれる鎧を着ている。

性格は陽気でお喋り。大英雄とは思えないほど気さくさ。関西弁で喋る。

しかしいかなる場面でも冷静物事を値踏みしており、決断も早い。

武士は勝ってなんぼという信条であり、勝つためにあらゆる手段を使う。

マスターである錬矢の一本気なところが気に入っており、また錬矢も正成を頼りにしているため関係は良好。

アーチャー陣営の中核だが他の2騎が無鉄砲のため振りまわされている苦労人。

 

 

 

【CLASS】アーチャー

 

【マスター】岸 錬矢

 

【通称】【能登殿】

 

【真名】平 教経

 

【出典】史実、平家物語

 

【身長・体重】190㎝・115Kg

  

【属性】中立・善

 

【性別】男性

 

【好きなもの】平氏、正々堂々、狐、妻

 

【苦手なもの】源氏、卑怯者、狸

 

【天敵】源 義経

 

【聖杯にかける願い】平家の再興

 

【ステータス】 筋力B + 耐久B 敏捷D

 

        魔力C 幸運E 宝具C

 

 

<クラス保有スキル>

・対魔力 C

Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

 

・単独行動 B

マスターからの魔力供給が途絶えても2日は現界可能。

 

・霊兵指揮 B

Bランクは率いている霊兵全員が強化され、さらに霊兵たちが恐れを抱かなくなり精神干渉に若干の耐性を得る。

 

 

<固有スキル>

・勇猛 A

威圧、混乱、幻惑といった精神干渉を無効化する。また、格闘ダメージを向上させる。

 

・乱戦の心得 B

敵味方入り乱れての多人数戦闘に対する技術。

軍団を指揮する能力ではなく、軍勢の中の一騎として奮戦するための戦闘技術。

 

・戦闘続行 B

瀕死の傷でも戦闘を可能とし、決定的な致命傷を受けない限り生き延びる。

 

・舟戦の心得 A

水上、船上での戦闘に対する技術。

あくまでも戦闘技術であり操舵とは異なる。

瀬戸内海航路の治安を維持していた平氏は海戦を得意としていた。

教経は大荒れの船上からでも矢を目標に命中させる事が出来る。

 

 

<宝具>

・王城一の強弓 C

対人宝具 レンジ 2〜30 最大捕捉1人

詳細不明

 

・死出山の共 B⁺

対人宝具 レンジ1 最大捕捉2人

詳細不明

 

<武器>

・長巻 無銘

太刀の一種。

大太刀の柄の長さを伸ばし、振り回しやすくした武器。

一般には南北朝時代に誕生し、室町時代、戦国時代に流行した。

教経はそれに先駆けて使用していた。

 

・長弓 無銘

五人張りの大弓。

教経ほどの膂力がなければ扱うことは出来ない。

 

・桜丸

教経の佩刀。古備前友成の作

 

 

〈英霊解説〉

平安時代末期の人物。アーチャー陣営のサーヴァントの一騎。

源平合戦における平家方における最強の将であり、衰勢する平家の中で気を吐き続けた。

その弓の腕から、王城一の強弓精兵と称えられた。

顔立ちは涼やかなイケメンだが、体は大鎧の下からわかるほど筋骨隆々である。

なんともアンバランスな印象を受ける風貌をしている。

性格は正々堂々を好み、猪突猛進。マスターの意向を無視して勝手に名乗りを上げてしまう一面もある。

暴走しがちだが基本的にはマスターを尊重し、指示にも従ってくれるため扱いやすいサーヴァント。

 

 

 

【挿絵表示】

 

【CLASS】 アーチャー

 

【マスター】 岸 錬矢

 

【通称】【シスター】

 

【真名】 不明

 

【出典】 不明

 

【身長・体重】168㎝・乙女の秘密

  

【属性】秩序・善

 

【性別】女性

 

【好きなもの】主君、父なる神

 

【苦手なもの】お餅

 

【聖杯にかける願い】自己の存在を確立させる

 

【ステータス】 筋力D 耐久D 敏捷C+

 

        魔力C 幸運B 宝具B

 

 

<クラス保有スキル>

・対魔力D

一工程シングルアクションによるものを無効化する。魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

 

・単独行動B

マスターからの魔力供給が途絶えても2日は現界可能。

 

・霊兵指揮C

Cランクは率いている全ての霊兵が強化される。

 

 

<固有スキル>

・信仰の加護 C +

一つの宗教に殉じた者のみが持つスキル。

加護とはいっても最高存在からの恩恵ではなく、自己の信心から生まれる精神・肉体の絶対性。

ランクが高すぎると、人格に異変をきたす。

 

・射撃 C

銃器による早撃ち、曲撃ちを含めた射撃全般の技術。

十分に一流の腕前。

 

・医術 D

自身及び味方の治療ができる。

Dランクは応急処置ができるくらい腕前。

なお、このスキルは現代の基準で比較するのではなく、サーヴァントの生きた時代の基準で判定するものとする。

 

・羅馬式軍法術 A++

本人曰く、祖国のローマの用兵術と言っているがかなり疑わしい。

予言めいた戦況分析と神がかり的な指揮により、味方の士気を最大にし、率いている兵士を大幅に強化できる。

ただし効果はランダムに変わるため安定はしない。

 

 

<宝具>

・獅子を讃えし大砲聖歌 B (イオ ラモ イル シィーニョォーレェィ)

対軍宝具 レンジ 2〜100 最大捕捉 500人

詳細不明

 

 

<武器>

・ロングソード

中世ヨーロッパで使用された両刃の剣。

両手で扱うほど重さだが彼女は片手で軽々と操る。

 

・ホイールロック式ライフル

火縄式の発展型の銃。

ゼンマイによってまかれたホイールとハンマー部分の火打ち石を擦り付けることによって火花を発生させ弾を発射する仕組み。

火縄式の欠点を補える一方で、構造が複雑で高価なことと、火花が発生せず不発率が高く信頼性が無かったため普及しなかった。

レオナルド・ダビンチが考案したとされる。

 

・盾

赤い十字架が刻まれた片手持ちの盾。

右手に剣と左手に盾を持つのが彼女の戦闘スタイル。

 

<英霊解説>

アーチャー陣営のサーヴァントの1人。

修道服を着た長いブロンドの髪の女性。

陽気でおしゃべりな性格。言葉の合間に母国の言葉を挟んだ独特な話し方をする。

戦闘時にはフルプレートアーマーに白色に十字架が刻まれたマントを羽織った姿になる。

軍勢指揮も出来るが戦闘時は興奮するらしく、イケイケどんどん状態になる事が多くひたすら突撃する悪癖がある。

同じく正面から突撃を好む教経とは気が合うが、正成は頭を抱えている。

 

 

ランサー陣営

 

【CLASS】ランサー

 

【マスター】秋津安那

 

【通称】【中務大輔】

 

【真名】本多 忠勝

 

【出典】史実

 

【身長・体重】173㎝・75Kg

  

【属性】秩序・中庸

 

【性別】男性

 

【好きなもの】槍 戦 蜻蛉 主君

 

【苦手なもの】他人に槍術を教えること

 

【特技】仏像彫り

 

【天敵】本多正信

 

【聖杯にかける願い】主君のために戦う

 

【ステータス】 筋力B 耐久D 敏捷A

 

        魔力D 幸運A 宝具B+

 

 

<クラス保有スキル> 

・対魔力 C

Cランクでは、魔術詠唱が二節以下のものを無効化する。

大魔術・儀礼呪法など、大掛かりな魔術は防げない。

 

・霊兵指揮 A

Aランクは率いている霊兵全員の戦闘能力が大幅に向上し、霊兵が自在に動くようになる。

また霊兵は混乱や怯えなど抱かなり、精神干渉に対して多少の耐性を得る。

 

 

〈固有スキル〉

・無窮の武練 A +

ひとつの時代で無双を誇るまでに到達した武芸の手練。極められた武芸の手練。

心技体の完全な合一により、いかなる精神的制約の影響下にあっても十全の戦闘能力を発揮できる。

武装を失うなど、たとえ如何なる状態であっても戦闘力が低下することがない。

 

・直感 B

戦闘時、つねに自身にとって最適な展開を「感じ取る」能力。

視覚・聴覚への妨害を半減させる効果を持つ。

忠勝は特に守勢時に効果を発揮し、視界の外からの不意打でも彼に傷をつけることは難しい。

 

・殿の矜持 A

防衛戦、撤退戦など不利な状況であればあるほどに力を発揮する。

一言坂の戦いにおける撤退戦において徳川に過ぎたるものと敵方から賞賛されるほどの活躍見せた。

 

・一騎当千 A+

ただ1人で1軍に匹敵すると呼ばれた人物に与えられるスキル。

味方より敵の数が多い際に、ステータスが向上し戦闘時に常に有利な判定を受けられるようになる。

味方の人数が少なければ少ないほど敵の数が多ければ多いほど上昇値が上がる。

忠勝がその真価を発揮したのは常に相手より小勢であった時である。

 

 

<宝具>

・蜻蛉切り C

対人宝具 レンジ2〜5 最大捕捉1人

槍の穂先に止まろうとした蜻蛉が槍の穂先に触れただけで両断されてしまったという逸話が昇華された宝具。

この槍の刃に触れたものは体のどこかにランダムで槍傷を受ける。

武器で刃を受けるや服が触れたなどの物を介していても触れたと判定されれば発動する。

運悪く霊核にダメージをうけた場合そのまま消滅もあり得る。

常時発動型の法具であり、忠勝の意思に関係無く刃に触れれば自動で発動する。

ただし蜻蛉切りでダメージを負った場合は追加でこの効果が発動することは無い。

 

・古今独歩 東国無双 B +

対攻撃宝具 レンジ1 最大捕捉1

詳細不明

 

 

<武器>

・蜻蛉切り

忠勝の相棒であり、日本三名槍の内の1つ。

藤原正真作の大笹穂槍。

槍身には梵字が彫られている。

柄の長さは6メートルあるが、室内であっても忠勝は苦もなく槍を操る。

 

 

<英霊解説>

ランサー陣営のサーヴァントの内の1騎。

戦国時代の人物。徳川家康の家臣。

綺羅星の如く名将、智将、猛将が現れた戦国時代でも無双の名を冠するほどの武将。

織田信長、豊臣秀吉からも称賛された戦国最強の将の1人

また桶狭間の戦いから関ケ原の戦いまでの家康の主要な戦にすべて参加し、徳川家康の窮地を何度も助けた。

徳川の覇業を武の面で支え続けたまさに徳川家の守護神。

性格は三河武士らしく質実剛健を好む忠義者。

若輩ながら当主を務める安那を主君として認めている。

強敵と戦うことを楽しむ性格でもある。

槍の腕前も天下一だが軍の指揮者としても超一流である。

戦場で槍術を鍛えてきたため、言葉で槍術を教えるのが苦手。

 

 

 

【CLASS】ランサー

 

【マスター】秋津安那

 

【通称】【権兵衛】

 

【真名】夢想 権之助

 

【出典】史実

 

【身長・体重】175㎝・63Kg

  

【属性】中立・善

 

【性別】男性

 

【好きなもの】いくら 豚汁

 

【苦手なもの】鬼

 

【特技】独り言

 

【天敵】宮本武蔵

 

【聖杯にかける願い】武蔵との再戦

 

【ステータス】 筋力A 耐久C 敏捷B

 

        魔力E 幸運C 宝具D

 

 

<クラス保有スキル> 

・対魔力 D

Dランクでは、一工程シングルアクションによるものを無効化する。

魔力避けのアミュレット程度の対魔力。

 

・霊兵指揮 E

霊兵を率いることは出来るが強化ボーナスは無い。

 

 

〈固有スキル〉

・武の求道 B

地位も名誉も富も女も無視して、ただ一心に武を磨いた者たちに付与されるスキルの一つ。

夢想権之助は棒を持つ限り、戦闘能力が向上し、精神攻撃に対する耐性をある程度獲得する。

 

・心眼{真} B

修行・鍛錬によって培った洞察力。

窮地において自身の状況と敵の能力を冷静に把握し、その場で残された活路を導き出す戦闘論理。

逆転の可能性が1%でもあるのなら、その作戦を実行に移せるチャンスを手繰り寄せられる。

 

・棒術 A ⁺⁺

神道夢想流棒術の開祖であり、日本でも有数の棒術使い。

日本の棒術は特に対刀を想定として作られているため、

刀や剣を使用している相手に対して有利な判定や特攻効果を得られる。

 

 

<宝具>

・千変万花 夢想棒術 D

対人宝具 レンジ 2〜6 最大捕捉1

突かば槍、払えば薙刀、持たば太刀の棒術の理念が宝具となった。

権之助の振り下ろし、突き、薙ぎ払いがそれぞれ太刀、槍、薙刀の攻撃と速度に変化する。

ただの棒であっても斬撃や刺突が可能になる。

実質的に太刀、槍、薙刀の三つの武器を持っていることになる。

この宝具の真価は棒術の達人である権之助のが使用することにより真価を発揮する。

宝具の効果と棒術の技を自在に組み合わせることにより千の攻め方、いや万の攻め方が可能になるのだ。

 

 

<武器>

・樹齢600年の丸太 武蔵殺し

権之助が棒術を開眼した神社の御神木。

武蔵の二刀流に対抗するため権之助が選んだ丸太。別名、武蔵殺し。

長大なリーチを誇るが、途轍もない重量を誇る。しかし権之助はこれを苦も無く自在に操る。

また御神木であったため神秘を宿しており、一流の英霊の宝具とも打ち合える。

ちなみ許可なく切り倒したらしい。

 

 

<英霊解説>

みんな棒は持ったな!!、行くぞ!

江戸時代初期の剣客。ランサー陣営のサーヴァントの1人。

棒術として現代まで伝わる神道夢想流棒術の開祖。凄ェ!

背中に大きな朱の丸と「兵法天下一」「日下開山」と金字で書いた羽織を着ている。

背丈こそ平均的だが、超人的な腕力の持ち主であり棒いや丸太を自在に振り回す。なんて力だ。

宮本武蔵と対決し、敗北。ちくしょう!

しかし刀を捨て、神社に祈祷した際に棒術を開眼。

二度目の武蔵との戦いにおいては勝利したと伝えられている。さすが権之助。

本人は勝ったと言っているがどう聞いても引き分けに聞こえる。やめんか、これには訳があるんじゃ。

性格は武芸者らしく勇猛果敢。

その巨大な得物を生かして特に対軍戦では適当に振り回すだけでも5,6人は余裕で吹き飛ばすため相手にすると厄介。

軍勢キラーと呼べる存在である。大丈夫です伝わりました。

 

 

 

ライダー陣営

 

詳細不明

 

 

キャスター陣営

 

詳細不明

 

 

アサシン陣営

 

司が初日に遭遇したサーヴァント。

小袖に袴を履き黒い頭巾を被っており、白鞘の太刀を持っている。

【ナナシ】と正成の戦いの最中に司を襲ったが撃退された。

攻撃するまでの間、周りに感知させなかつたため恐らく気配遮断を有しているだろうという分析から

恐らくアサシンであると思われる。

 

 

 

バーサーカー陣営

 

【CLASS】バーサーカー

 

【マスター】入江椿

 

【通称】【先生】

 

【真名】吉田 松蔭

 

【出典】史実

 

【身長・体重】180㎝・70Kg

  

【属性】混沌・善

 

【性別】男性

 

【好きなもの】勉学 生徒 大福

 

【嫌いなもの】ふぐ

 

【特技】授業

 

【天敵】既成概念が強い人物

 

【聖杯にかける願い】信念を貫く

 

【ステータス】 筋力D 耐久D 敏捷C

 

        魔力E 幸運D 宝具C

 

<クラス保有スキル> 

・狂化 EX

理性と引き換えに驚異的な暴力を所持者に宿すスキル。

身体能力を強化するが、理性や技術・思考能力・言語機能を失う。

また、現界のための魔力を大量に消費するようになる。

理由は不明だが松陰は理性や言語機能は問題無いように見える。

 

・霊兵指揮 D

Dランクは率いている一部の霊兵が強化される。

 

〈固有スキル〉

・カリスマ C⁺

軍団の指揮能力、カリスマ性の高さを示す能力。団体戦闘に置いて自軍の能力を向上させる。

カリスマは稀有な才能なため、一国の王としてはBランクで十分とされる。

Cランクでは国家運営は出来ないが、志を共にする仲間とは死を厭わない強固な繋がりを持つ。 

 

・維新の英雄 A

幕末という動乱の時代を駆け抜け、明治維新という史上稀に見る一大改革に貢献した者に与えられるスキル。

 

・松下村塾 B

松陰の指導力がスキルとなったもの。

松下村塾とは松陰の私塾の名前。

松陰は僅か1年ほどしか教鞭をとっていなかったが、この塾から明治維新の原動力となる多くの志士たちが誕生した。

バーサーカークラスのサーヴァントの理性を少しだけ取り戻させ、ある程度理性的な行動を取らせることが出来る。

また耐久が1ランク上がる。

ただし言語能力を失っているものを喋らせることは出来ない。

松陰自身にはこのスキルの効果は適用されない。

 

・鋼鉄の決意 B

痛覚の全遮断、超高速移動にさえ耐えうる超人的な心身などが効果となる。

複合スキルであり、本来は勇猛スキルと冷静沈着スキルの効果も含む。

死の間際であっても自身の信念を曲げなかった松陰の精神がスキルなったもの。

 

 

<宝具>

・諸君 狂いたまえ C

対軍自軍宝具 レンジ1〜50 最大捕捉100人

詳細不明

 

・草莽崛起 回天の礎 B

対軍自軍宝具 レンジ1〜99 最大捕捉1000人

詳細不明

 

 

<武器>

・打刀 無銘

松蔭の生前からの愛刀

 

 

<英霊解説>

江戸幕末時代の思想家。バーサーカー陣営のサーヴァントの1人。

11歳で長州藩内の藩校の講師を務めるほどの秀才。

高杉晋作や伊藤俊輔など数多の維新志士を育て上げた人物でもある。

彼自身は明治維新を見ることなく獄死したが、その思想は弟子たちに受け継がれ維新の原動力となった。

長身で細身で細めの人物。

総髪の髪型に、服装は小袖の上に羽織を着て、袴を履いている。

バーサーカーとは思えないほど柔和な雰囲気で穏やかな口調で喋る。

生前は尊王攘夷主義者であったが、既に弟子たちによって目的は成されたと理解しているためさほど拘りは無いようだ。

本人曰く武芸は苦手。

現世のことに興味あるようで積極的にいろいろな事を学ぼうとしている。

椿からは「せんせぇ」と呼ばれ慕われている。

 

 

 

 

聖杯合戦運営側

 

【挿絵表示】

 

【CLASS】ルーラー

 

【マスター】なし

 

【真名】聖徳太子

 

【出典】古事記 日本書紀 太子信仰

 

【身長・体重】163㎝・44Kg

  

【属性】秩序・善

 

【性別】女性

 

【好きなもの】カレー、犬、惰眠

 

【嫌いなもの】勤労、仕事を増やすヤツ

 

【特技】仕事をしてる風にみせかける

 

【天敵】抑止力

 

【聖杯にかける願い】なし

 

【ステータス】 筋力C 耐久B 敏捷A

 

        魔力A 幸運A 宝具EX

 

 

<クラス保有スキル> 

 

・対魔力 EX

聖徳太子の対魔力に加え、揺るぎない信仰心によって高い抗魔力を発揮する。

ただし、魔術をかわしているだけなので、広範囲魔術攻撃の場合、助かるのは聖徳太子だけである。

 

・真名看破 B

直接遭遇したサーヴァントの真名・スキル・宝具などの全情報を即座に把握する。

あくまで把握できるのはサーヴァントとしての情報のみで、対象となったサーヴァントの思想信条や個人的な事情は対象外。

また、真名を秘匿する効果がある宝具やスキルなど隠蔽能力を持つサーヴァントに対しては、幸運値の判定が必要となる。

 

・神明裁決 B

「ルーラー」としての最高特権。

召喚された聖杯戦争に参加している全サーヴァントに対して、2回まで令呪を行使できる。

他のサーヴァント用の令呪を転用することは出来ない。

 

・騎乗 A⁺

A⁺ランクでは竜種を除くすべての獣、乗り物を乗りこなすことができる。

 

・霊兵指揮 C

Cランクは率いている全ての霊兵が強化される。

 

 

〈固有スキル〉

 

・豊聡耳

10人の話を同時に聞き、理解してそれぞれに的確に答えを返したという逸話がスキルになったもの。

同時知覚共有と呼ばれるもの。

通常は群衆から1人に注目してその人の細かい情報を得るが,彼女はただ漫然と群衆を見るだけで1人1人の細かい情報まで拾う事が出来る。

そのため些細な出来事であっても多くの情報を得られる。

彼女はこれを五感全てで行う事が出来る。

欠点として情報の処理を行う脳は一つのため負担が多く掛かってしまう点。

太子曰く「疲れるからあんまやりたくない」

 

・兼知未然 B

兼ねて未然を知ろしめす、兼ねて未だ然らざるを知ろしめす。未来予知の一種。

ある程度先の未来を見ることができるスキル。

ただし未来は刻一刻と変わるため一度見た未来であっても行動次第では大きく変わる可能性がある。

そのため確定ではなく、遠い未来ほど変化する可能性が高い。

近しい未来ほど変化しにくいため、太子はこれを戦闘にも応用して相手の行動を読む。

太子曰く「疲れるからやりたくない」

 

・聖徳太子流 A

仏教共に伝来してきたインドのカラリパヤット、中国の拳法、それをいい感じなんかまとめた武術らしい。

徒手空拳や武器のみならずあらゆる物をなんかそれっぽく戦闘で活用出来るようになるらしい。

太子曰く「天才ですから」

 

 

<宝具>

・冠位十二階 B

対人宝具 レンジ1~50 最大補足12人

詳細不明

 

・十七条憲法 B

対人宝具 レンジ1~50 最大補足10人

詳細不明

 

・甲斐の黒駒 C

対人宝具 レンジ0 最大補足1人

詳細不明

 

・仏犬 雪丸 E

対人宝具 レンジ0 最大補足 1人

詳細不明

 

・天王寺 四天王像 C

対人宝具 レンジ1~30 最大補足4人

詳細不明

 

・天皇大帝 七剣星 A⁺⁺

対城宝具 レンジ1~99 最大補足1000人

詳細不明

 

・日出処の天子 EX

対界宝具 レンジ1~999 最大補足2人

詳細不明

 

 

<武器>

 

・七星剣

聖徳太子の佩刀

北斗七星の意匠が施された直刀。

中国の道教思想の流れを汲み、国家鎮護や破邪滅敵を目的にして作られた。

太子曰く「剣術の腕は三流ですので」とのこと。

 

・笏

太子が持っている細長い棒状の物。

本来は重要な儀式や神事にたいして持つ人の威儀を正すために持つもの。

太子は寝転びながらリモコンを引き寄せるためにつかったり、背中の痒いとこをかくために使う。

 

<英霊解説>

飛鳥時代の人物。第十八次聖杯合戦の監督役として呼ばれたサーヴァント 。

日本史において説明不用の大人物かつやんごとなき血統を持つ人物だが、

召喚されてから未だに監督役の仕事をしていないダメサーヴァント 。

何故か女性。

イケメン大好き。

しかしながらそれは聖杯合戦運営側の皇国軍人たちを騙すための仮の姿。

いやマジでそうだから!サボりたいとか思ってないから!

この世界の聖杯戦争の奇怪しい気がついており、独自に調査を開始しようとしている。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

聖杯合戦 3日目
玖ノ巻 声東撃西


一条強士の人生は最悪だった。

強士が幼い頃に両親が離婚し、母親が1人で姉と強士を育てた。

家計が苦しかったので中学生の頃からバイトをして家計を助けた。

私立の大学まで進学は出来たが学費は奨学金で賄った。

単位ギリギリだったが何とか3流大学を卒業する事が出来た。

しかし彼が卒業した年は就職氷河期であり,彼もなかなか就職することは出来なかった。

何とか就職することができたがその会社は所謂ブラック企業であった。

度量なるサービス残業と上司のパワハラで彼は鬱病

1年でその会社退職することになった。

その後はいろいろな職に就いたが長続きせず,現在は無職である。

だがそんな彼に幸か不幸か転機が訪れた。

聖杯合戦のライダーのマスターとして選ばれたからだ。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 7時00分

江戸川区 一条強士のアパート

 

 

 

郊外の小さなアパートの一室。それが彼の住居である。所々剥がれた壁紙、色褪せた畳、錆と油がこびり付いた台所。

全てがこのアパートの年月の経過を現していた。

そして家の主はというと押入れの中で格闘していた。

 

「ここを開けないさい!出てきなさい!」

「嫌だ!絶対嫌だ!」

 

強士は汗だくになりながら内側から襖を必死に押さえる。

だが善戦虚しく襖はあっさりと開けられてしまう。

強士は扉を押さえて勢い余って押入れのから転がり落ちてしまった。

強士が頭を上げると目の前に少女が立ってこちらを覗き込んでいた。

水干(すいかん)の上から鎧を見に纏い、手には薙刀を握っている。

すらりと長く水色の長髪を束ねてポニーテールにしている。

凛々しく整った顔立ちをしており、瞳は強い意志を感じさせるように凛としており正に大和撫子といった美貌をしていた。

だがその表情は憤怒の表情で強士を見下ろしていて、まるで仁王のようだ。

 

「いい加減にしなさいよ!いつまで引き篭もっているのですか!さあ!出かけますよ!」

 

少女は強士のTシャツの襟首を掴んで玄関の方向に引きづって行く。

可憐な少女とは思えないほどの力だ。

 

「いやだ!なんで俺も行かなきゃならないんだ!初日みたいにお前らだけで戦えばいいいだろ!」

「ええい!何を情けない事を!それでも日本男子(やまとおのこ)ですか!」

 

少女が更に力を加えて引っ張ろうとすると強士の着ているくたびれたシャツはビリッと音を立てて破れてしまった。

あっと少女が気を取られた瞬間、強士は素早く四つん這いになりながら駆け出し、先程までいた押入れに再び閉じこもってしまった。

 

「はあ…本当に情けない…最近の若者ときたら…」

 

深くため息をつきながら少女は呟く。

ちなみにこのやり取りは本日3度目だ。

 

「ねえねえ、姉ちゃん暇だよ。一緒に遊ぼうよ。」

 

少女の袖を引っ張りながら少年が話しかけてきた。

年齢は8才くらいだろう。

膝丈のまでの長さの木綿の着物を着た元気な少年だ。

首元には緑色の小さな蛇を巻きつけていて、その蛇も少年と一緒に少女を見つめていた。

 

「ごめんなさい。今忙しいから後にしましょう。」

「ちぇ、つまんないの!じゃあいいや!」

 

そう言う【坊】は台所に走り出し、料理器具を引っ張り出して遊び始めた。

少女は小さくため息をつくと。

 

「【やかた殿】、本当に主を戦場に連れて行くのですか?」

 

少女は部屋の隅に居た男に話しかけた。

その男は小さな部屋に似つかわしくないほど大きい男だった。

身長も高く肥満気味で身体的に大きい事もあったが、何より無視できない存在感を放っている。

そこに存在するだけで相対した者は畏怖の念を覚える。

彼が只者で無いことは素人でも分かることであろう。

部屋の中でも紅い兜と鎧を身に付けており、面頬を付けているためその表情を伺い知ることはできない。

唯一見えるのはギョロリと大きい目だけだ。

 

「ん〜【おつる】よ。主はまだごねておるのか?」

 

だがその威厳在る姿とは対照的に気の抜けた返事が返ってきた。

【やかた殿】は大きな背中を丸め、手に持った小さな機械のボタンを押すことに集中しているようだ。

【おつる】が召喚された時には既に彼は先に召喚されていたが、その時から今のように小さな機械をいじり倒していた。

 

「引きづり出してもすぐに押入れに戻ってしまいます。目の前にいたのに見ておられなかったのですか?」

「すまん、すまん。忙しくてのう。」

 

口では悪いと謝っているが、機械を弄る手は止まっていない。

 

「あれでは戦場では足手まといですよ。本当に連れて行くのですか?」

「今度の策は頭数がいるでのう。アヤツの役割で命落とす心配は無し。それに今のうちに戦場の空気を味わせておく必要があるからな。」

 

【おつる】と話している最中も【やかた殿】の目線は機械を見ていて、指は忙しなくボタンを押している。

 

「それ、そんなに面白いのですか?」

「面白いのぅ。」

 

【おつる】は少々呆れ気味だ。

だがそれでも【やかた殿】に対する信頼は少しも揺るがない。

【やかた殿】も【坊】も強力なサーヴァントだ。それこそ自分とは格が違う。

現に初日の時点で【やかた殿】は鮮やかな手腕でバーサーカー陣営から一領地奪い取ってみせた。

私達の主は幸運だ。これほどのサーヴァントを従えているのだから。

間違いなくこの聖杯合戦を勝ち抜くだろう。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 9時12分

台東区 ビジネスホテル

 

 

「もしもし、練矢。ニュースは見てる?」

「ああ、確認した。予想通りライダー陣営は動いたな。」

「椿ちゃんの所にはもう応援に向かってもらったから。」

「手筈通りだな。じゃあ準備ができ次第合流しようぜ。じゃあな。」

 

手短に要件を伝えると練矢はすぐに電話を切った。

昨夜、松陰に支援する旨を伝え、バーサーカー陣営とは同盟こそ結んでいないが協力関係を築いた。

その後バーサーカー陣営と別れた後、密かにセイバー・アーチャー陣営のみで話し合いを行った。

その内容を司は思い返した。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月23日 午後 20時22分

台東区 同ホテル

 

 

 

「バーサーカー陣営はエサにする。」

 

正成は事もなげにそう言った。

 

「おいおい、いきなり見捨てるのかよ。」

 

練矢が正成の発言に疑問を投げかける。

 

「まあ聞かんかい。今もっとも弱い陣営はバーサーカー陣営なのはみんな知ってる。高確率でバーサーカー陣営を攻めてくる。

ほんで逆にワイらが攻め込んできた陣営の領地に攻め込むんや。」

「他の陣営は我らがバーサーカー陣営と協力関係とは知らないでござるからな。囲魏救趙という訳でござるな。」

「囲魏救趙?」

「中華の戦国時代のこと魏に攻め込まれた趙を救うために斉の国が行った作戦でござる。ガラ空きの魏の首都に攻め込むことで趙への攻撃を中止させたのでござる。」

 

司の疑問に十兵衛が答える。

 

「で具体的にどうするんデスか?」

 

【シスター】の問いに正成はこう答えた。

 

「バーサーカー陣営が隣接しとんのはワイら以外やとランサー・ライダー陣営や。

どちらかの陣営が攻め込んできたらワイらは部隊を二つに分ける。

バーサーカー陣営の救援隊と攻め込んできた陣営の領地に攻め込む侵攻部隊や。

救援部隊はバーサーカー陣営の支援し、侵攻部隊はガラ空きになった敵の領地を攻め取るちゅう策や。」

「松陰先生ん危機を放ってはおけん。救援にはおいが行っど。」

 

桐野が1番に手を上げたので救援部隊はすんなり決まった。

侵攻部隊は【ナナシ】、十兵衛、正成、教経の4名。

【シスター】は他の陣営の侵攻に備えて防衛で残ることになった。

「正成殿!ランサー陣営とライダー陣営はどちらが先に侵攻してきますかのう!」

 

教経が正成に詰め寄りながら質問する。

 

「暑苦しいわ!まあそやな…おそらくライダー陣営や。

初日にバーサーカー陣営とはやり合ぉて手応えの無さに気がついておるやろうしぃ。

ランサー陣営は昨日今日で攻めてくる可能性は低いやろ。」

 

段取りは決まったため、その夜はこれで解散した。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 9時13分

台東区 同ホテル

 

 

 

果たして正成の予想通りに事は進行した。

 

「じゃあ、みんな作戦通りに。」

「オイは松陰先生んとことこに向うぜ。」

「我らも急ぎ合流しましょうぞ。」

 

すでに司は準備万端。身支度と食事を済ませ、睡眠も十分に取れている。

 

「待て。」

 

部屋を出ようとする司を【ナナシ】が制止した。

 

「外に誰かいる。」

【ナナシ】の言葉に全員が身構える。

「じゃっおるな。2は。」

「魔力の気配は無い。サーヴァントではなさそうだが。」

 

全員が扉を見つめる中、外から扉をノックする音が聞こえる。

 

「朝早くすいません、高城さん。警視庁の者です。お話伺ってもよろしいですか?」

 

その声に反応して4人はそれぞれ目配せをする。

警察がなぜ?

どうする?返答するか?

居留守が得策か?

だが名前も知られて場所までバレている。厄介だ。

無視するのは得策ではない。

素直に従い穏便に帰って貰うのが良い。

練矢たちと早く合流するにはそれが1番早そうだ。

いざとなれば押し通るまで。

結論は出た。

 

「出るよ。」

 

司の言葉に3人とも頷く。

扉を開けると男が2人いた。

 

「朝早くからすいません。警視庁の折田と申します。」

「同じく川道です。」

 

あいさつをしつつ2人は一瞬だけ警察手帳を見せすぐに懐にしまった。

川道たちが司を発見できたのは運によるものがあるが、司の顔と名前が分かっているのことが大きかった。

セイバー陣営の領地は4つある。

その中に根城があるのは確実なので、宿泊できる場所を一つ一つシラミに潰しに聞き込みと防犯カメラの確認で調べたのだ。

それでもこの東京で青年1人を見つけることができたのは幸運と呼ぶできだろう。

 

「えと、あの…何ですか?」

 

司はなぜ警察が自分を訪ねてくるのか分からなかった。

サーヴァントの戦闘による器物破損?

ホテルの無銭飲食?

だがそれらは聖杯合戦の参加者なら権利として許されているはずだ。

 

「都内で最近行われている連続殺人事件の調査をしておりまして、7月12日はどちらにいましたか?」

 

10日ほど前だ。

 

「その日は部活で学校にいました。」

「なるほど、それではサーヴァントを召喚したのはいつですか?」

「一昨日です。」

 

何故そんなことを聞くのか?

事件には関係ないだろうに。

 

「一ついいですかな?」

 

中年の方の刑事、川道が話しかけてきた。

 

「今近くにサーヴァントはいるのですかね?いやねえサインの一つでも書いて貰おうと思いましてね。」

へらへらと笑いながら川道はそう言った。

【ナナシ】たちはドアを開ける前に霊体化していて姿は見えない。

 

「あの…事件とは関係ないなら話は終わりにしたのですけど…忙しいので。」

 

なんだこの刑事はと思いながら司はドアを閉めようとした瞬間、川道は素早くドアの内側に足を入れ閉めるのを阻止した。

 

「おっと、関係は大いにありますよ。事件の犯人かもしれないのですから。」

「そんなことを聞いたら、黙ってはいられないな。」

 

その発言と同時に【ナナシ】たちが霊体化を解除して姿を現した。

司の隣に【ナナシ】が、十兵衛と桐野が川道と折田の後ろに出現した。

刑事2人を囲むような形だ。

 

「おー英雄様が雁首揃えてお出ましだ。手間が省けたぜ。」

「川道さんやめてください。あくまでその可能性があるというだけです。そのために我々は捜査しているのですから。」

 

川道の挑発的な言葉を折田が諫める。

折田は連続殺人事件の情報を少しだけ司たちに話した。

 

「そんなまさか。人間が犯人じゃないんですか?」

「それを含めて調査中ですが、この事件は不可解な点が多すぎるのです。私たちもサーヴァントという超常現象な存在を

犯人と決めつけるのは捜査を放棄しているようなものだから疑いたくは無いのだが。」

「でもサーヴァントたちは英霊なんですよ。そんなことをするはずが…」

「いや、無いとは言い切れない。」

 

司の言葉を【ナナシ】な遮る。

 

「バーサーカーとして呼ばれた場合は正常な判断はできぬだろうし、令呪で殺人を命令された場合は抗えぬでござろうな。」

「単純に呼ばった英霊が外道ん可能性もあっな。」

 

桐野の発言に【ナナシ】と十兵衛も頷く。

 

「あんたらは得意だろ人殺しが。」

「川道さん。」

 

川道は直情的な性格であり、相手が誰であろう歯に衣を着せない発言をすることは折田も短くない付き合いで重々承知している。

だがここまで挑発的な物の言いようは一緒に仕事をするようになってから初めて見る。

【ナナシ】は黙って聞いてが、ゆっくりと川道の正面に立ち真っすぐに川道を見つめた。

 

「なんだい?嬢ちゃん。さすがに腹が立ったかい?」

「アンタは随分とオレたちが嫌いらしいな。久しぶりだよ。そんなに憎しみが籠った目で見られるのは。」

「はっ!なんも間違っちゃいないだろ!何十人も何百人もぶっ殺したんだよな!そうやって英雄様になったんだろ!

今更1人2人殺すのも変わらねぇもんな!あんたらからしたら虫けら踏みつぶすのと大して変わらねぇだろ。」

 

突然爆発したかのように川道は【ナナシ】たちを捲し立てる。

憎悪。

殺意。

厭悪。

それらがありありと込められているのが分かる。

司や折田はその迫力に息をのむほどだった。

だが【ナナシ】たちサーヴァントは川道の憎悪をぶつけられても平然と受け止めていた。

川道がひとしきり捲し立て終わると【ナナシ】は言った。

 

「アンタが言ってることは結果だけ見れば正しい。大抵の英霊は人殺しだ。

中には外道なヤツらもいる。それは否定しねぇよ。」

【ナナシ】は淡々と冷静な口調で話しを続ける。

 

「だがなオレたちはその行動に対して後悔はねぇよ。オレたちにもやらなきゃいけないことがあった。

例えその過程で外道、非道を行ったとしてもだ。それが英霊ってもんだ。」

 

十兵衛も桐野も【ナナシ】の言葉に頷く。

 

「アンタに何があったかは知らん。好きなだけオレたちを恨めばいいさ。

英雄ってのは恨まれ慣れているもんだからよ。」

 

真っすぐに川道の目を見て続ける。

【ナナシ】の瞳には一点の曇りも無かった。

川道はその目に少しだけ気圧された。

 

「…そんな言い分で戦いに巻き込まれた奴らはたまったもんじゃないぜ。」

そう吐き捨てるように川道は言うと踵を返してエレベーターの方へ歩き出した。

「川道さん!待ってください!これ我々の連絡先です。またご連絡しますので。」

 

折田は司に電話番号が書かれたメモを渡すと川道をの後を追いかけて行った。

その後ろ姿を司は見送っていった。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時04分

中央区 道路

 

 

 

「はあ。そんなことがあったのか。朝から災難だった。」

 

錬矢と合流すると司はさきほどおきたことを話していた。

 

「本当だよ。おかげでここに来るまえにもう疲れたよ。」

「おいおい、今からが本番だぜ。頼むぜ。」

 

彼らは今、ライダー陣営の領地である江戸川区の葛西臨海公園に向かってる。

桐野はバーサーカー陣営の援軍のため豊島区に向かい、【シスター】は拠点の守備のため残ることになった。

今この場にいるのはマスターである司と錬矢。

【ナナシ】。

十兵衛。

正成。

教経の6人だ。

率いる霊兵の数はセイバー軍1万5千とアーチャー軍1万。合計2万5千の軍勢。

1陣地で龍脈から1万の霊兵を作成することが出来るが、実際にはサーヴァントの魔力も陣地から補給しなければならないため、

定石では1領地で作成する霊兵は5千が最適である。

4領地を保有している司は2万5千。

3領地の錬矢は1万5千が彼らが運用できる霊兵の実際の数だ。

加えて桐野の援軍で1万、【シスター】が5千を率いて行ったため、この2万5千はセイバー・アーチャー同盟の持てるすべての兵力である。

対するライダー陣営は4領地有していおり、恐らく運用できる霊兵は2万5千。

だが今はバーサーカー陣営の豊島区で戦闘を始めている。

江戸川区方面は手薄なはずである。

豊島区攻略部隊が戻ってくるまで江戸川区を奪い取らなければならない。

陣地さえ奪い取ればライダー陣営の兵力を削ぐことができる。

速さが肝要だ。

そのため正成はどこから手に入れたのか、ワゴン車を用意していた。

 

「セイバークラスやったら騎乗スキルで運転できるやろ。」

 

とのことだったが…

 

「なかなか面白いな!これは!」

 

【ナナシ】に運転を任せたのが間違えであった。

面白がって【ナナシ】は車の速度をドンドン上げ、人気の無い大通りを疾走する。

付いてきていた兵士達はすでに遥か後方だ。

 

「アホ!!飛ばしすぎや!止めや!止めや!」

「バカ!ハンドルつかむんじゃねぇ!!」

 

…………………………………………………………

 

「ふむ、中身は見た目ほど壊れていないようでござるな。問題なく動くようでござる。」

「さよか。まあ運転は十兵衛はんに任せるで。あのアホより安心やろうからな。」

「いや、本当に申し訳ない。」

「十兵衛はんのせいとちゃうやろ。おいそこのアホ!なんか言うことあるやろ。」

 

運転手の【ナナシ】と助手席に座っていた正成でハンドルの奪い合いになり、運転操作を誤り電柱に正面衝突。

とっさにブレーキをかけたおかげで車の損傷は思ったより少ないが、フロントガラスは粉々になっていた。

助手席に座っていた正成がシートベルトをしていなかったため、ぶつかった衝撃で車外に投げ出されたためである。

 

「あぁ?おまえがハンドル掴むからこうなったんだろうが…ギャア!」

【ナナシ】が言い終わらぬうちに正成の拳骨が炸裂する。

「このアホタレ!少しは謝らんか!」

「やんのか!てめぇ!」

「まあまあ!ご両人!喧嘩で力を使うよりこれからの戦で使うべきでござろう!」

 

取っ組み合いが始まる寸前、教経が2人の間に割って入り仲裁を行う。

 

「せや、こないなとこで無駄に油売っとる暇はあれへんさかい!」

「覚えとけよ。正成。」

 

運転手は十兵衛に代わり、不貞腐れた【ナナシ】は後部座席に座る。

再び助手席に座った正成は今度はしっかりとシートベルトを締めた。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時32分

江戸川区 葛西臨海公園近辺

 

 

 

霊兵たちが駆け足くらいで進む速度で車を走らせていても、すぐに目的の場所の近くまできた。

大きな観覧車が見える。

葛西臨海公園。

面積は約80haを誇る東京でも三指の大きさに入る大規模公園である。

本来ならば駐車場に止めて園内に入るべきだが、十兵衛は車のまま園内を進む。

それを咎める人間はひとっこ一人居ない。

 

「いやに静かだな、おっさん。なんか気になるのか?」

 

錬矢は助手席に座っている正成に後ろから話しかける。

いつもは饒舌が正成が江戸川区に入ってから言葉数が減っている。

 

「…石像まで後少しのところにまで来とるのに敵兵とまったく出会わへん。」

 

十兵衛はその言葉に反応して車を止める。

 

「確かに妙でござるな。」

 

その陣地を所有しているマスターやサーヴァントを石像が感知した場合、自動で防衛用の霊兵を出現させる。

だが今の所それは無いようだ。

 

「全部の兵士で豊島区に攻め込んでいったからもう兵が残っていないのだろう!がはは!」

 

教経の言う通りこちらの作戦に見事ハマって陣地ががら空きという可能性もある。

 

「こっちの策がハマったのか敵のなんらかの策なのか、どちらにせよ石像まで進むしかないぜ。

敵の朱引陣に入った時点で感知はされてるんだ。ここで留まっているていう選択は無いぜ」

 

自身の所有している朱引陣に敵のマスター、サーヴァント、霊兵が侵入した場合、マスターの令呪で感知できる。

バーサーカー陣営に攻め込んだライダー陣営が急いでこちらに引き返しているかもしれない。

 

「…せやな。行くしかあれへんな。」

 

十兵衛はゆっくりと車を動かす。

しばらく進むと開けた場所に出た。

 

「あっ!石像があったよ!」

 

ガラスで出来た展望台に続く道の真ん中に石像が立っているのを確認できた。

形的に虎の石像のようだ。

車がそのまま石像に近づこうと瞬間、展望台の裏から何かが空に飛んでいった。

それを何かか司たちは認識できなかった。

何故ならその瞬間、司たちが乗った車は凄まじい衝撃と光に包まれていたから



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾ノ巻 虎の口

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時33分

 

 

 

ヘリコプターでセイバー陣営を追っていた猫戸たちは突然の衝撃と暴風に

巻き込まれていた。

 

「何!?何なの!」

「皆さん!大丈夫ですか!?」

ヘリコプターのパイロットの羽田がヘリコプターに乗っている報道チームに声をかける。

衝撃が発生した場所からは離れていた影響のおかげか、ヘリコプターは大きく

揺れただけで機体事態に問題は無いようである。

 

「猫戸さん見てください!あれ龍ですよ!龍!」

 

ADの史野が指差す。

先程までそこには何も無かったはずだった。

しかし今、目の前には鮮やかな緑色の巨大な龍が空に浮かんでいた。

 

「ウソでしょ…」

 

猫戸は聖杯合戦のリポーターの仕事をするに当たって記録が残っているものだけだが、

過去の聖杯合戦の映像や資料を確認していた。

当然参加したサーヴァントのデータも確認しているのだが、ドラゴンや龍を使役していた

サーヴァントは片手で数えるほどしかいなかった。

それほどまでに珍しいのだ。

 

「誰かいる!?」

 

史野が指差した龍の頭の付近に人が座っているように見える。

背丈はあまり大きくないようだが…

 

「ありゃ泉小太郎だ。」

 

機体が大きく揺れた際にも黙々とカメラを回していたベテランの影井

が初めて声を出した。

 

「影井さん、知っているですか?」

「俺の田舎の伝承でな。お前らも昔話のアニメ見たことあるだろ?

 あれのオープニング出てくる竜の子太郎ってやつの話の元になったやつさ。」

 

猫戸は目の前の光景に改めて戦慄していた。

同時に今回の聖杯合戦は普通ではないと予感した。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時34分

 

 

 

龍に乗った少年。小泉小太郎は上機嫌であった。

 

「虎のおっちゃんの言う通りだったな。おっかあ、これでオイラたち勝ちさ。」

 

小太郎はカラカラと笑いながら言った。

その言葉に反応するように龍は首振って合図している。

「え?まだ油断するなって?大丈夫だって。絶対倒したから。」

小太郎の宝具の一撃で舞い上がった土煙でセイバー・アーチャー組の安否は

まだ確認できない。

全員絶対倒したと小太郎自身は思っている。

それほど自身の宝具の威力に自身があるのだ。

土煙が少しづつ晴れていき、辺りの様子が徐々に確認できるようになってきた。

 

「なんだあれ!」

 

全く予想もしていなかったものが煙の中から現れ、小太郎は驚きの声を上げた。

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

「みな、無事か!」

 

正成の声に司は我に返った。

さっきの閃光のせいでまだ眩暈がするが、どうやら無事なようだ。

 

「おい、どーなってんだよ!」

「さっきのは敵の攻撃だ。ここに踏み込んだ瞬間、ドデカいのを撃ち込んできたんだよ。」

 

錬矢に【ナナシ】が素早く状況を説明する。

十兵衛の目線の先、車の前方には巨大な壁、いや山が聳え立っていた。

彼らには山に見えたかもしれないが正確には山では無い。

正確に言うならこれは城、山城である。

これこそが楠正成の宝具。

太平記において鎌倉幕府軍の坂東武者100万騎の攻撃を跳ねのけた難攻不落の名城。

千早城である。

敵の攻撃にもっとも早く対応したのが正成であった。

攻撃がくるより一瞬だけ早く、車外に飛び出し千早城を前面に展開。

敵の宝具での一撃を防ぎ、味方を全滅から救ったのだった。

フロントガラスが全壊のおかげで素早く飛び出せたのは怪我の功名であった。

正成は城の上から辺りを確認しようとしていた。

攻撃を仕掛けてきた敵が次にどうくるか見定めなければならない。

土煙が徐々に晴れ周辺が確認できるようになってきた。

 

「おいおい。」

「これは…マズイでござるな。」

「あかん。」

 

視界が開け最初に飛びこんできたのは空中に緑鮮やかで巨大な龍。

さらに遠くに自軍を囲むように展開した赤色の敵兵たちの姿であった。

兵数もこちらと同じくらいるようだ。

 

「ブチかませ!」

 

最初に動いたのは正成だった。

正成の号令と共に城の中の人影が動きだす。

よく見るとそれらは人では無い。

藁人形だ。

鎧兜を装備した藁人形たちが弓や礫を持ってそれらを一斉に龍に向かって放った。

しかし龍はゆらりと動いたたけで矢や礫を全て回避してしまった。

 

「今のうちや!撤退するで!」

 

城からは雨あられと矢と礫を放ち続ける中、正成が城から飛び降り車の前に降り立った。

 

「何でだよ!敵の陣地は目と鼻の先だぜ。それなのに戦わずに逃げるのかよ!」

「アホ!今しかへんのや!」

 

練矢の発言を正成は怒鳴り一蹴する。

 

「こっちの策にハメるつもりが逆に敵に誘い込まれた形になってもうた。

只者やあれへん。敵に包囲されサーヴァントの数もわからんこの状況で戦うたら全滅や!

せやけど今は完全には包囲されとらん。今ならまだ逃げられる。今しかあれへんのや。」

 

正成の言葉に全員が黙るしかなかった。

戦場でも常に余裕を持った態度の正成がここまで必死な表情を見たことが無かったからだ。

それ程までに状況は切迫しているのだ。

 

「ワイが殿をやる。十兵衛はん、マスター達を連れて先に道を逃げてや。」

「承った。」

「死ぬんじゃねぇぞ!おっさん!」

「みんな!気を付けて。」

 

十兵衛が車を素早く反転させると急発進して来た道を猛スピードで引き返し始めた。

それについて行く形で霊兵たちも撤退を始めた。

 

「何やってる。自分らもはよ逃げな。」

 

すでに車から降りていた【ナナシ】と教経に正成は声を投げかける。

 

「今日はまだ一戦もしてないから体が鈍ってしょうがないんだよ。

 それにこっちの方が面白そうだしな。」

「左様!退却するにせよ敵軍に我らが力を思い知らさねばならぬ!」

 

2人ともサーヴァントとして呼ばれるほどの英霊である。

この窮地に対して少しの気後れも無いどころかむしろ楽しんでいる様子だ。

 

「アホが!勝手にせい!これより退却戦開始するぞ!」

 

3人は霊馬を召喚し同時に跨ると一目散に退却開始した。

 

 

 

…………………………………………………………

 

 

 

「あいつら逃げようとしているな。」

 

小太郎は城から延々と飛んでくる矢や礫が飛んでくる状況に対して攻めあぐねていた。

空から状況を確認していたが、セイバー・アーチャー陣営は退却を開始しようとして

いるのは見てとれていた。

 

「逃がすもんか。おっかあ、追いかけよう!」 

 

敵が逃げるならこんな城、飛び越えて無視すれば良いだけだ。

小太郎が追いかけようとした瞬間、何かの機械音がし始めた。

携帯電話の着信音だ。

小太郎は懐から携帯を取り出しすぐ電話に出た。

 

「もしもし。」

「坊よ。何をしておる。」

 

電話の相手は年配の男性のようだ。

声を聴いただけでもある種の威厳をかんじる声色だ。

 

「あいつらが逃げようとしてるから追いかけて…」

「ならん。最初の取り決め通りにせよ。出会い頭の宝具で仕留めきれなかった

場合には追撃をわしに任せるという手筈のはずじゃ。」

「ちゃんと戦えばおいらとおっかあは負けないよ!」

「確かに、戦えば坊たちが勝つであろう。しかしおぬしらが戦えば大量の魔力を消費する。

 今後の事を考えれば出来るだけ魔力の消耗は避けるべきじゃ。わかるのう?」

「でも!」

「坊よ…」

 

電話の声の主のトーンが一段階下がる。

 

「2度は言わぬぞ。引け。」

 

これ以上駄々をこねればどうなるか分かっているのだろうなという意味が込めれた言葉

なのは明白であった。

 

「わ、わかったよ…虎のおっちゃん。」

 

小太郎は渋々といった感じだが従ったようだ。

はねっかえりの強い小太郎でも声の主に一目置いているようだ。

小太郎とのやり取りを終え声の主は電話を切り、また電話を掛ける。

1コールですぐに相手は電話に出た。

 

「もしもし?」

 

電話の相手は女性、【おつる】だ。

 

「敵が網にかかりおった。そちらはどうじゃ?」

「動かずに防衛に徹するようですね。あなたの予想通りです。」

「それは重畳なり。手筈通り戦闘は小競り合い程度に抑え暫くは

 敵を引き付けておいてくれ。30分程度で良い。」

「承知しました。」

 

【やかた殿】は電話を切ると持っている電話をまじまじと見る。

 

「それしても便利な物だ。これ持って家督相続の頃からやり直したいわい。

 

そうして展望台から眼前を見る。

 

「城を盾に退却するか。うむ、良い判断じゃ。」

 

戦において攻めるのは簡単で、撤退するのは極めて困難である。

タイミングを見誤れば大損害を出してしまうからである。

ましてもう少しで財宝が手に入る場面で手を伸ばしてしまうのが人情というもの。

だがその迷いこそが命取りである。

一瞬の判断の遅れがが致命傷となり、敗北していった者たちを【やかた殿】自身何度も

この目で見てきたのだ。

だがセイバー・アーチャー陣営は朱引陣という財宝を投げ捨て逃げるという判断を

瞬時にやってのけた。

正確な状況判断とそれを信じる強固な精神、すぐさま撤退戦に切り替える頭脳。

並みの将にはこれは出来ない。

 

「菊水の旗か…」

 

【やかた殿】は城に掲げられてた旗に注目していた。

旗印とは武家の誇りであると同時に合戦においては敵、味方の識別をする役割を持つ。

菊水とは家紋の一種である。

家紋を見ればどこの武家の者なのかたちどころに分かる。

菊水の家紋の旗を掲げ、宝具と思われる城を持つサーヴァントといえば…

 

「敵は大楠公か。面白くなってきのう。」

 

【やかた殿】は膝を打って喜んでいる。

 

「ではボチボチ行くとするかのう。皆の衆。」

 

【やかた殿】が軍配を掲げると、遠くから法螺貝と陣太鼓の音が聞こえてきた。

 

 

 

…………………………………………………………  

 

 

 

「おい、なんだこの音は?」

 

ライダー陣営の包囲が唯一敷かれて無かった道から撤退していた。

【ナナシ】たち最後尾の耳に何かの音が聞こえてきていた。

 

「気ぃ付けい!来るぞ!」

 

後方からの音はどんどん大きくなっていき地響きまで聞こえるようになっていた。

【ナナシ】たちを何かが猛然と追ってきている。

それも大軍が。

 

「バカな!早すぎる!」

 

選択した武装によっては霊兵の進軍速度は多少は変わるが、それでもこの速度

はありえないことだ。

だが追手の姿を見た瞬間に答えはすぐに分かった。

 

「騎馬武者やと!?」

 

追ってきていたのは騎兵だったからだ。

 

「我が矢を食えい!」

 

敵の姿が見えた瞬間、教経は即座に矢を放った。

しかし騎馬武者たちは軽々と教経の強弓を躱した。

その一糸乱れぬ淀み無い動き一つで騎馬武者たちが並みの兵士では無い

事は明らかであった。

徐々に近づいてくる騎馬武者たちの全容を【ナナシ】たちは眼前に捉えていった。

まず目を引くのが全身赤色の鎧である。

ライダー陣営の霊兵たちも赤色の鎧を装備しているが、目の前の騎馬武者たちの赤色はそれよりも

さらに深い色、真紅の輝かしい色をしている。

その真紅の鎧を騎馬武者全員が装着している。

そして極めつけは旗である。

日の丸の旗、諏方南宮法性上下大明神と書かれた旗、花菱の旗。

大小様々な旗を騎馬武者たちは背負っている。

その中でもっとも目を引く旗にはこう記してある。

 

疾如風  徐如林

侵掠如火  不動如山

 

「真紅の鎧に騎馬隊、そして風林火山の旗!敵は…!!」

 

…………………………………………………………  

 

「ここからは詰め将棋よ。さて、どう詰めるかね。」

 

武田信玄は静かに戦場を見据えていた。



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

拾壱ノ巻 百人斬り

 

 

 

合戦において最も難しいことは何か?

古来よりそれは撤退戦であると言われている。

撤退を決めるタイミングは難しく、また敵と対峙している状況では

敵が追撃している来るのは必定である。

ではそのような状況の場合どうするか?

答えは戦いながら逃げるである。

軍の最後尾の部隊を本隊から切り離し足止めとして敵の追撃部隊と戦い

追撃部隊をひるませるもしくは追撃部隊の攻勢が止んだ隙に足止め部隊が逃げる。

これを繰り返す。

この最後尾の足止め部隊を殿と呼ぶ。

殿は敵の追撃を少しでも送らせねばならない。

敵の追撃が逃げている軍の本隊まで届いてしまった場合、全軍崩壊してしまう

からである。

そのため殿の部隊を率いる指揮官は必ず実力者が選ばれる。

殿に選ばれることは侍にとって最大の名誉とされる。

だがこの殿の仕事は口で言うほど簡単では無い。

味方を逃がすために最後まで戦場に残った殿の部隊が玉砕することは珍しく無い。

撤退戦が決まった時点で血みどろの死闘になることは決定されていることなのだ。

 

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時42分

江戸川区 首都高速道路

 

 

首都高速道路は車は1台も見えず徒歩の人、いや霊兵たちで溢れ帰っていた。

彼らは一様にセイバー・アーチャー陣営の兵士たちであり、声一つ上げずに

無言で退却していた。

その遥か後方の軍団の最後尾では熾烈な追撃戦が行われていた。

 

「オラぁ!」

 

気合の掛け声と共に【ナナシ】が馬上から剣を振り下ろす。

しかし赤備えの1人を狙ったそれは空を切る。

赤備えの武者は【ナナシ】の斬撃に合わせて乗っている馬を巧みに操り

回避したのだ。

 

「ハエみたいにブンブンとうっとおしいヤツらめ!」

 

【ナナシ】は吐き捨てるように悪態をつく。

武田の赤備えたちの個々の戦闘力はサーヴァントには及ばない。

だが【ナナシ】たちに対しては常に4人一組での連携と囲い込み、馬術の巧みさで

互角の戦いを演じていた。

前後左右から【ナナシ】たちの馬を囲い込み、誰か1人対して集中して攻撃しようと

するとすかさず周りの赤備えが攻撃を行い、お互いの隙を補い合っている。

見事な連携と言わざる負えない。

それに加えて赤備えたちの狙いは【ナナシ】たちでは無かった。

彼らの狙いは霊兵たちであった。

【ナナシ】たちサーヴァントを複数人で足止めし、その間に他の赤備えたちが霊兵たちを

次々と討ち取っていた。

単独ではサーヴァントに勝てない赤備えたちでも霊兵たちなら易々討ち取れた。

せめて霊兵たちに連携させ迎撃態勢を取らせることができればここまで易々と負けることは

なのだが、体制を整えさせないように赤備えたちは猛烈な攻勢をかけ、まるで雑草ように

霊兵たち刈り取っていった。

隊列を離れる者、勝手に単独で戦おうとする者、動けなくなった者を打ち捨て、ひたすら

逃げに徹する。

 

「あかんな。このままじゃジリ貧や。」

 

霊兵たちは朱引陣の魔力から生成している兵隊だ。

言わば魔力そのものと言っていい。

霊兵が倒されるということは朱引陣からその分だけ魔力が消滅するということだ。

すなわち陣地から魔力を供給されているサーヴァントの魔力の枯渇にも繋がるという

事になるのだ。

追撃部隊の赤備えたちの人数はせいぜい200騎ほどだが、その200騎にセイバー・アーチャー

連合軍は蹂躙されつつあった。

【ナナシ】はチラリと両側で戦っている正成と教経の様子を見た。

どちらも自分と同じ状況で赤備えたちに取り囲まれて身動きが取れないようだ。

霊兵たちを助けねばならないが、それにはこの囲みを突破しなければならない。

敵の連携は完璧と言って良い。

だが。

 

「あっちが完璧ならこっちは滅茶苦茶をやるだけだ。」

 

完璧というものは時としてあっさりと崩れてしまうものである。

付け入るならそこしか無い。

【ナナシ】は霊馬の手綱を左手でしっかりと握り直し、ゆっくり鞍の上に立った。

確かに馬上に立つことによって左右どちらにも攻撃を行える利点はあるが、

それ以上に足場が不安定な馬上であることと、騎馬同士戦いでは攻撃される場所

が増えるという欠点の方が大きい。

四方から【ナナシ】を囲んでいる赤備えたちはその行動に対しても冷静に槍を構え直し。

合図も無しに四方から【ナナシ】の体を目掛けて一斉に槍で突いた。

槍が【ナナシ】の体を貫く瞬間、【ナナシ】の姿が突如として消えた。

【ナナシ】は飛び上がりながら槍を避け、馬を飛び降り後方の赤備えの一人に

斬りかかったのだ。

 

「でいやあああああ!!」

 

抱きつくように赤備えの首元に剣を突き立て、崩れ落ちる赤備えと共に地面落ちていく。

地面スレスレのところで着地し、態勢を整えた。

 

「【ナナシ】!!」

 

それを見ていた正成と教経が同時に叫んだ。

 

「先に行け!オレはこいつらと遊んでから行く!」

 

走り去っていく仲間たちを見送りながら【ナナシ】は叫ぶ。

赤備えたちもさるもので、仲間がやられて時点で残り3人はその場で反転して【ナナシ】に

突撃してきた。

古来より騎兵というものは戦場の花であり、名将と呼ばれた人物は騎兵を重用した人物が多い。

現代なら戦闘機や戦車に相当するであろう。

馬上からの精神的威圧感と高低差から攻撃、そして馬という動物の圧倒的な力と速度を生かした

突撃による衝力に人間は勝てない。

歩兵が騎兵と戦うには、長柄の武器を集団で構え突撃をけん制する。

障害物を利用して戦う。

飛び道具を使う。

以上のような対策が必須と言える。

単独の歩兵が騎馬突撃を止めることは自殺行為に近いのだ。

ただしそれは人間の常識である。

突撃してきた3騎の赤備えに対して【ナナシ】は。

 

「うおおおおおおおおお!!」

 

すれ違いざまに馬ごとすべて叩き斬った。

一騎当千のサーヴァントに人の理は通用しない。

両断された赤備えたちは粒子となって消滅していく。

他の赤備えたちは異常気づいたようで追撃を取りやめ、【ナナシ】の近くに集まりだした。

良し。

一旦はこれで追撃を止めることはできた。

集まってきた赤備えたちは一定の距離を取り【ナナシ】に攻撃を仕掛ける気配は無い。

 

「どうした!武田の赤備えは雑兵狩りしかできない臆病者ばかりか!

 かかってこい!」

「…」

 

【ナナシ】の挑発を無視して赤備えたちは無言で徐々に徐々に包囲を【ナナシ】の後ろ

まで伸ばしていた。

そして赤備えたちの後方からも後詰が続々と到着しているようで赤備え以外の

徒歩の霊兵たちも姿を現していた。

首都高のど真ん中で【ナナシ】は完全に包囲されようとしていた。

 

「仲間のために己を犠牲にして敵軍を一手に引き受ける。泣かせるのう。」

 

赤備えたちの後方からのっそりと大柄な男が現れた。

金色の角に頭頂部から肩にかけて施されたヤクの白い毛が印象的な諏訪法性兜。

朱色の鮮やかな赤糸威 二枚胴具足。

愛馬の黒雲。

そして右手に持った鉄軍配。

 

「お前が武田信玄か。」

「左様。こんにちは、お嬢さん。」

 

【ナナシ】は素早く信玄の周囲を確認する。

信玄の正面に槍霊兵と刀霊兵を全面に押し出している。

両脇には赤備えを配置している。

【ナナシ】は心の中で舌打ちする。

備えが硬すぎる。

大将であるサーヴァントを倒しさえすれば指揮している霊兵たちはすべて消滅し

朱引陣の魔力に戻る。

この危機的状況を逆転できる。

だが敵もそれは重々承知のようだ。

無理矢理に切り込んで行っても、兵士たちを盾にして逃げられるのがオチであろう。

 

「おいおい、女1人に御大層なことだな。武田信玄はとんでもなく臆病らしい。」

「ほほほ、わしは臆病者なのでのう。厠に行くにも部下がついて

 こねば用も足せぬのよ。」

 

ダメか。

直接対決だけは絶対にしないつもりのようだ。

 

「では臆病者らしく数に頼るとしよう。嬲り殺しせい。」

 

信玄が軍配を振ると同時に全面の刀、槍兵が一斉に【ナナシ】に襲い掛かってきた。

 

「やれるもんならやってみやがれ!」

 

【ナナシ】も同時に切り込んで行く。

一斉に突いてきた槍を搔い潜り、最初の横一文字斬りで5人もの兵を切り倒す。

袈裟斬り

左逆袈裟斬り

真向斬り

左一文字斬り

逆袈裟斬り

左袈裟斬り  

次々に襲いかかってくる兵士たちを切り裂いていく。

その麗しい見た目に反して、猛獣のような荒々しい野性味溢れる戦い方だ。

脛を切り、倒れた相手の喉元に剣を突き立てる。

防御した相手の槍ごと真向から叩き斬る。

右手の剣で相手を突き殺し、左手で別の兵の襟元を持って相手を掘り投げる。

敵の槍を奪い取り、投げつけて3人まとめて団子刺しにする。

ひたすら目の前の敵を斬る。

切る。

伐る。

截る。

剪る。

切って伐って斬り捲る。

最後の一人を兜ごと叩き斬る。

この間わずか数分の出来事である。

 

「97、98、99、100。おお、ちょうど百人じゃ。見事な百人斬りじゃったぞ。」

 

自身の兵たちが倒されてにも関わらず、信玄は楽しそうに手を叩いて【ナナシ】

を称賛する。

 

「ぜえ…ぜんぜん…大したこと…無いな…はあ…」

 

眼に見えての負傷こそ無いものの、明らかに【ナナシ】は体力を消耗している

ようで肩で息をしていた。

 

「いやあ、大立ち回りを楽しませてもらったわい。だがここらでお開きとしよう。」

 

信玄が左手を上げ合図すると【ナナシ】を包囲していた兵士たちが一斉に弓と鉄砲

を構えた。

先程までと違い、アリも這い出る隙間も無いほどの完全包囲である。

どうやら【ナナシ】が戦っている間に信玄は兵士の配置を済ませていたらしい。

 

「信玄、お前…」

「いくら強かろうと個人の武勇などせいぜい百人斬るのが限界であろう。まあ、宝具

 でも使えば話は別であろうがな。」

 

誘っている。

宝具を使うことを。

信玄はこちらの正体を知りたいのだ。

確かに絶対絶命のこの状況、宝具を使えば切り抜けられるだろう。

だが使えない。

まだここで使うわけにはいかない。

 

「だんまりかね?まあ、わしはどちらでもでもいいがね。」

 

信玄が手に持った軍配を頭上に掲げる。

一か八か兵士たちの一斉射撃が始まると同時に信玄に切り込むしか活路は無い

そう覚悟すると【ナナシ】は息を整えるのに専念して神経を研ぎ澄ます。

信玄が軍配を振り下ろそうとした瞬間、一条の矢が信玄の近くの霊兵を貫いた。

 

「御屋形様!」

「何やつ!」

 

信玄の両脇の赤備えが信玄の前に割って入る。

矢が飛んできた後方を【ナナシ】が振り向くと遠方には見知った2騎の

姿を確認した。

 

「やあやあ!我こそは平能登守教経!義によって助太刀致す!」

 

遠くからでも十分に聞こえる声で教経が名乗り口上をあげている。

正成たちは霊兵を先に逃がし、僅か2騎で【ナナシ】を助けにきたのだ。

この一瞬だけこの場にいる者が正成たちを見ていた。

 

「【ナナシ】!走りや!」

 

正成の叫び声の意図を瞬時に理解して【ナナシ】は動いた。

包囲していた兵士たちが【ナナシ】から目を離している隙に後ろから切り倒し

包囲の一角に穴をあけた。

そこから包囲をすり抜け、全速力で正成たちの方向に向かって走り出した。

【ナナシ】を援護するため、正成と教経は馬上弓で兵士たちを射抜く。

 

「放て。」

 

突然の援軍にも全く焦らずに信玄は兵に命令を下す。

乱入者のせいで態勢を崩された兵士たちもすぐに3人に向かって一斉射撃を始めた。

矢と弾丸をギリギリで弾き落としながら防御し【ナナシ】は突き進む。

 

「掴まらんかい!【ナナシ】!!」

 

【ナナシ】とあと少しで合流するというところで正成は馬の速度を落とさず

に左に急旋回しながら、【ナナシ】に向かって手を伸ばす。

【ナナシ】の体ごと右腕でがっしりと掴むと正成たちは馬を車線を区切っている

防護柵の方向に向かわせる。

そのまま防護柵を跳躍して飛び越え、反対車線に着地して反転。

速度そのままの状態で走り去っていった。

この間僅か数十秒の出来事である。

 

「御屋形様。いかがいたしますか?」

「すぐに追撃を!」

「まあ、待て。」

 

すぐにでも追いかけようとする赤備えたちを手で制止ながら信玄は何か考えているようだ。

 

「…殺れんか。」

 

あれだけ有利な状況にも関わず、敵サーヴァントを取り逃がし、

赤備えを4騎、霊兵を100人以上失った。

やはり霊兵たちのみでサーヴァントを討ち取ることはよほどの事が無い

限り無理なようだ。

それほどまでにサーヴァントと霊兵の戦闘能力の差は隔絶しているのだ。

戦は数だが箸にも棒にも掛からなければ意味が無い。

今回は実験的に無造作に霊兵たちを突撃させてみたが、その価値に見合うだけの

の結果は十分に得られたと言える。

陣形を組み兵士たちを連携させより洗練された指揮をしなければサーヴァントは

殺せない。

 

「隊列を整えたのち前進、追撃する。」

 

 

皇紀2680年 平成32年 7月24日 午前 10時56分

江東区 首都高速道路

 

 

 

 

首都高速の車線を逆走する2匹の霊馬に3人のサーヴァント

それを咎めるものは誰もいない。

 

「追うてきてるか?」

「ああ、だいぶ遠くだが、来ている。」

 

教経が後方を確認すると、遠目にもライダー陣営の兵士たちがこちらに向かっている

のが分かる。

 

「…何で来たんだ。信玄の首取り損ねたじゃねえか。」

「アホたれ、死ぬ寸前やったがな!おおきにくらい言えんのか!」

 

【ナナシ】は正成の後ろに共に乗馬していた。

助けられたのが不満なようでぶうをたれていた。

 

「全く、1人であの数に突っ込むなんて無謀がすぎるわ!」

「いやいや、実に胸のすくような活躍であったぞ!感服いたしましたぞ!【ナナシ】殿!」

「まあ、お陰で兵士たちを逃がすことが出来たから良しとしたるわ。」

「おい、方向が違うぞ。こっちに石像がは無いだろ。」

 

正成たちは首都高速を降り料金所を通り抜けて、右に曲がっる

【ナナシ】の言う通りの石像はこちらには無い。

てっきり石像のところまで退却するものと思い込んでいたが。

 

「こっちで合ぉてる。ワイに任せとかんかい。」

 

しばらくの間、まっすぐ進むと道の真ん中に障害物のように

車が横一列に並んでいた。

 

「ナナさん!こっち!」

 

車と車の隙間から司が顔をだして【ナナシ】たちに声をかけた。

 

「無事で良かったマスター。」

 

【ナナシ】は馬から飛び降り、司の元に駆け寄る。

 

「おっさん!教経!無事か!」

「おお!我がマスターも壮健の様子!十兵衛殿のお働きに感謝致す。」

「いえ、拙者は何も。」

 

錬矢たちが無事合流できたことを喜びあう中、正成は後方を確認していた。

 

「【ナナシ】!追手は見えるか?」

「まだ見えないがすぐにここに来ると思うぜ。さっきまで追って来てたからな。」

「ボウズ!手筈はどうなっとる?」

「おっさんの指示通り配置完了済みだぜ。」

 

錬矢の言葉と共に兵士たちがぞろぞろと車両の前に出てきた。

弓兵と鉄砲兵が車両の全面や車上や車と車の隙間から得物を構える。

 

「よっしゃあ!ほな反撃と行くか!」

 

【ナナシ】たちはその言葉に驚く。

命からがら逃げ帰ってきたばかりだ。

ここはまずは守りを固めるのが定石であろう。

 

「敵影確認でござる!」

 

十兵衛の言葉と共に全員が前方に注目する。

赤い兵士の一団が真っすぐこちらに向かってきているのを確認することができた。

 

「まあ、ここはおっさんに任せとけって」

 

錬矢たちは車両の後ろに移動する。

正成のみは車上に立ち、霊兵たちを指揮する。

 

「ええか!ワイが合図するまで絶対に撃ちなや。敵を引きつけい!」

 

正成は大声で兵士たちに指示する。

敵兵はすでに肉眼でも確認できるほど近づいて来ている。

 

「まだや!まだ撃ちなや!」

 

すでに射程圏内だがまだ正成は撃たせない。

敵の顔が確認できるほど肉薄するかしないかというその瞬間。

 

「今や!撃て撃て撃てぇい!!」

 

正成の合図と共に兵士たちは一斉に矢と弾丸を放った。

それだけでは無い。

道路を挟んだ両側の建物からも射撃音が同時に響き渡ったのだ。

 

「あんなとこにも兵士を隠していたのか!」

 

この両側の建物に配置した兵士たちは陣地防衛用に残していった兵士たちだ。

 

「おまけや!こいつも持ってけ!」

 

轟音と共に敵兵がいた場所が爆発した。

これは宝具による砲撃。

これこそが【シスター】の宝具。

獅子を讃えし大砲聖歌(イオ ラモ イル シィーニョオーレイ)である。

前列の車両による防御陣地と配置せれた兵士たちは本命では無い。

両側の建物に伏せていた射手による側面から射撃。

正成たちよりさらに後方の建物の上からの宝具による砲撃。

これこそが本命の攻撃だったのだ。

 

「よーし!撃ち方やめぇい!」

 

正成が合図すると霊兵たちは攻撃をやめる。

硝煙と砲撃と土煙で敵軍の様子は確認できない。

だが前列の射撃と合わせて4方向の攻撃である。

敵兵は完全に消滅しているだろう。

 

「最初からこうなる事を分かっていたのか?」

 

攻撃が止むと【ナナシ】は正成に話しかけた。

ライダー陣営もある程度は反撃は想定していだろうが、ここまの罠が用意

されているとは思ってもみないことであっただろう。

 

「まあな。【シスター】にはワイらが逃げ込んできたら、侵攻作戦は失敗やさかい

迎撃に作戦変更。この場所に兵士を配置しとくように事前に伝えとった。

でこの場所に敵を誘い込むのがワイらの仕事ってわけや。

負けた時のことを考えておくのも武将の務めや。」

「その話聞いてないんだが?」

「敵を欺くには先ずは味方からちゅうやろ!上手ういったんやさかい許さんかい!ガハハ!」

 

正成は大げさに【ナナシ】の肩を叩く。

【ナナシ】は不快そうな態度をとっているが、内心この策に舌を巻いていた。

この男が味方であって良かったと。

攻撃による煙は徐々に晴れてきていた。

少しだけ早く十兵衛が気が付くのが早かった。

 

「皆!まだ戦闘態勢は解くな!」

 

十兵衛の言葉に全員が身構える。

煙が晴れた場所から赤い兵士たちが出現したのだ。

それも無傷で。

 

「何と!これは一体どういう事だ!?」

「まさか今の攻撃が効いていないのか!」

 

練矢と教経が慌てて霊兵たちに戦闘態勢をとらせる。

 

「…いや、敵兵は確かに倒した。あれは囮やったんや。」

 

正成は敵兵の足元に注目していた。

砲撃による着弾により道路は穴が空きボロボロになっていた。

しかし今、敵兵いる位置の道路は綺麗なままでボロボロな道路より後ろなのだ。

そう最初の一斉射撃で倒したのは先兵部隊。

信玄は全軍で追撃しても良い場面であえて本隊を停止させ、先兵として霊兵

300人を威力偵察として突撃させたのだ。

先兵部隊を捨て石にすることで兵の損失を300人で抑えたのであった。

セイバー・アーチャー連合とライダー軍の兵士たちはそのまま睨みった状態で

どちらも動かなかった。

ライダー側としては先ほどの攻撃を見せられては迂闊に飛び込むことは出来ない。

一方、セイバー・アーチャー連合もライダー軍の布陣している位置はギリギリ射程圏外

なるのだ。

建物からなら射程圏内だが有効打にはなり絶妙な場所だ。

ライダー軍はそれを完全に見定めているようだ。

【シスター】の宝具なら射程圏内だが、砲弾自体が若干、山なりに飛んでいくため砲撃から

着弾までタイムロスがある。

その隙を信玄を見逃すとはとても思えない。

おそらく砲撃と同時に全軍で突撃してくるであろう。

4方向からの同時攻撃でなければライダー軍を押しとどめるには至らず、そのまま大乱戦になるだろう

そうなれば誤射を恐れて建物からの射撃と砲撃は止めなくてはならず、防御陣地の

優位性は失われる。

双方10分ほど睨み合いを続け、遂にライダー軍が動いた。

来るか!とセイバー・アーチャー連合が身構えた瞬間、ライダー軍は反転して撤退していった。

さながら風のように。

 

「完敗や。」

 

正成はそう言いながらドカッとその場に座り込んだ。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。