【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話 (れべっか)
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第1話 覚醒修行
俺こと転生者である
前世と今世で性別がどちらも同じ男であり性差のギャップがなかったこと、前世の不摂生・不健康を反省して小学生のうちから運動に力をいれたことから、運良くいじめにも合わずに過ごすことができた。
高校では長期休みのたびに、富士山登山&アウトドア・ツアーという表向きの看板で、山梨・星霊神社の【覚醒修行】に参加。
とはいえ、いきなりオカルトに人生全振りする勇気はなく【緩めコースの覚醒修行】を受けた。富士山往復登山、滝行、瞑想、オカルト知識座学といった緩めコースでも【霊地】ゆえに身体能力はすくすく伸びたが、そう簡単に覚醒できるわけもなく。
高校卒業後は大学に進まず、アウトドア・ツアーで仲良くなった人のコネで【ガイアグループ】に就職するという体面で、山梨に引っ越して覚醒修行を継続することとなり。
高校三年生の三学期、卒業間近で授業も最低限というころ、俺は職場の事前研修と両親に嘘をついて(大きな嘘ではない)、最後の追い込みを行っていた。
*
「前ぇー、ならえ!!」
自衛隊ニキ(ネキ?)の号令で隊列を作る。小学校の体育で習って以来の行動だが、ここ数日で身に染みついた。
在学中にいっこうに覚醒しなかった焦りから緩めコースの卒業を試みるも、トラウマ量産と噂の【本格覚醒修行】に踏み切る勇気を持てず、妥協点として自衛隊五島部隊主催のデモニカ覚醒コースに参加してみたのだが。
まずは集団行動に慣れることと体力づくり。次がデモニカや銃などの装備を安全に持ち運びできるようになること。ぶっちゃけズブの素人に銃を撃たせるなんて危険なことはできないと言われて、それはそうだと理屈では納得できるのだが。
「自衛隊体験入隊のガワを被ったこの
自衛隊ニキの先導で、暗い臭い汚いの3Kダンジョンへ突入だ。これで10日に及ぶ苦行も終わると思えば、何てことないさ。
何しろ、自衛隊員以外でこのデモニカ覚醒修行に参加する【俺たち】は俺が久しぶりの存在で、しかもかつての【俺たち】は軒並み訓練途中でドロップアウトしていったという。そのため自衛隊ネキが俺をドロップアウトさせまいと張り切って、しきりに世話を焼いてくるのだ、ときには色仕掛けっぽいことまでしてな!
神○蘭子のボディで色仕掛けとか、DTに耐えられるわけないだろ! ハードな訓練で肉体が疲労していることと、肉体は女でも精神が男の自衛隊ニキが男の視点で見てピントのずれた誘惑をしてきたから、ぎりぎり手を出さずに済んだけどな!
*
「デモニカのLvは上がったのに、自身は未覚醒のままとか……」
自衛隊体験入隊ことデモニカ覚醒修行を終えたが残念ながら、自衛隊ニキの献身も空しく俺は未覚醒のままだった。
次の訓練では規律行動やデモニカ着脱といった霊能以前の基礎訓練は省略できるからまた来てね、と自衛隊ニキは言ってくれたが、俺の直感だとデモニカ覚醒修行は遠回りっぽいので、丁寧にお断りした。
「あー、もう使わない
デモニカ覚醒修行を行うに際し、転生者割引が利くとは言え自前でデモニカを買ったのは失敗だった*1。俺が気づいた時には黒札用無料配布は締め切られてたし。
長い目で見れば購入の方が経済的とはいえ、まずは初回をレンタルで済ませてから次を考えた方が良かった。うーん、【俺たち】用に調整されたデモニカだから狩人ニキに売ればそこそこの損切りで済むか?
「お、戻ってたのか、どうだ? って、駄目っぽいな」
「ただいま帰りました、スタンクニキにドクオニキ」
気落ちしているところに声を掛けられ、見知った相手なので挨拶を返す。
スタンクニキとドクオニキは、どちらも俺にとってメンター(指導者・助言者)に当たる。俺が高校生のときは、学校の長期休み以外では実家で通信教育による覚醒修行を続けていたし、非覚醒者向けの
スタンクニキはフランク、ドクオニキは真面目と対になっているような存在だが、二人がコンビを組んでいるという訳でもない。まぁ二人とも俺にとって面倒見の良い先輩ということで、色々と頼らせてもらっている。
ひとしきりデモニカ覚醒コースの愚痴を聞いてもらい、気分が幾分すっきりしたところで、スタンクニキが凄く良い笑顔でこう言ってきた。
「なるほどなぁ、自衛隊ネキのお色気でメロメロと。よし、お兄さんが一肌脱いであげよう!」
「いや、そういうのじゃないんです! って、無理やり引っ張ってどこに連れて行こうってんですか?」
「い・い・と・こ・ろ。」
覚醒者二人がかりではどうにもできず、大人しく連れていかれた先はというと。
ミナミィネキの
──詳細は語らないけど、淫魔のお姉さんを複数相手にしたサバトに参加することで【覚醒】しました。
「こんな簡単に覚醒できるなら、今までの修行は何だっのか……」
「別に無駄じゃないと思うぞ。お前さん、
「ふふふ、それでもこれを切っ掛けに覚醒したのだから、飛び抜けた才能では無いとはいえ素質はあると思います。ようこそスケベ部へ、私たちは貴方を歓迎します(ハート)」
「はい、これからもよろしくお願いします」
俺はミナミィネキ、スタンクニキ、ドクオニキの3人に向かって丁寧に頭を下げた。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・18歳 転生者・覚醒済 Lv1
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効
スキル:パトラ
装備:デモニカ
仲魔:なし
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第2話 覚醒後の第一歩
自身が覚醒してどのスキルを得たのかというと、【パトラ】だった。
「補助系スキルってことは、俺には戦う素質がないってことですかね?」
「そんなことないよ、少なくともLv10くらいまで上げないと成長傾向は見えてこない」
ドクオニキは俺の疑問をきっぱり否定した。
「それにパトラだって悪くない。技術部で勉強してアイテム作成できるようになれば手堅く売れる」
「そうなんですか?」
「パトラの効果を持つアイテムは【イワクラの水】という名だったかな? 悪魔との戦闘で使うだけでなく、カフェインレスの眠気覚ましドリンクとしても一定の需要がある。技術部とかは喜ぶ」
「おっ、それを聞いてやる気が出てきました!」
「アイテム製造班に行くにしろ、レベルはある程度上げておいた方が良い。スタンクニキが最初のパワーレベリングを面倒見てくれると言ってたから、それに甘えたらどうかな?」
「ありがとうございます!」
後から振り返ると、あのときのドクオニキは出荷される豚を見るような顔だったかもしれない。
覚醒したことに浮かれていた俺は、全く気付かなかったのだが。
*
「じゃ、異界探索の基礎の基礎を教えるぞ。星霊神社には初心者向けの異界がある、というかショタオジに感謝しろよ、ここまで初心者に配慮してある異界なんておそらく世界でも唯一だ」
「ショタオジ、ありがとうございます!」
スタンクニキに引率されてダンジョンに潜る。
手にした獲物はソニックナイフ、未覚醒時に【異界発生地周辺の探索】のアルバイトで稼いだ報酬をガチャにつぎ込んで入手したものだ。転生者は覚醒後ならデモニカはむしろ邪魔ということで着用しておらず、防具も今回は不要とスタンクニキが言うのでそれに従った。
【仲魔】もなし。転生者用高級式神は発注したが納品は半年後で、それまではレンタル式神でやり繰りするところだが、今回はスタンクニキという引率がいるのでレンタルも無し。今回のパワーレベリングでLv3~4まで上がれば【アガシオン】を入手できるようになるから、それで手数を確保できるという見立てだ。
「ダンジョンの入り口だと、出現する敵は自衛隊ブートキャンプで入った地下下水道と大差ありませんね。光源や臭いなどの快適性は大きく違いますが」
出てくる敵はLv1未満の【外道スライム】や【悪霊ディブク】がせいぜいで、これはソニックナイフを振り回せばあっさり消滅する。
もう少し先へ進むとLv1になったスライムやディブクが出てくるが、未覚醒状態であればともかく、これも覚醒済みの俺の敵ではない。
「ぶっちゃけ、この程度であれば余裕ですね」
「そうだろうな。では、もうちょい強め、君の【パトラ】の出番がある敵に会いに行こうか」
スタンクニキはそう言うと歩き始め、俺は慌ててその後を付いていった。
*
ダンジョンの雰囲気が変わったような気がする。しかしスタンクニキは何も言わない。
何かを言わないといけないのではないか、そう気持ちが焦れた瞬間に、俺は不意打ちを受けた。
「ぁ痛っ?!」
「【地霊ノッカー】、今の君では格上の相手だ、頑張れ」
ノッカーの振り回した木槌が脛にヒットし、体勢を崩した俺に追撃の影が迫る。
「ノッカー複数の不意打ちか、これは厳しい」
「呑気なこと言ってないで、助け……」
『【シバブー】』
「!!……(金縛り!)」
俺はノッカーにぼこぼこにされた。金縛りにあってなければ、見苦しく泣きわめいて命乞いしていただろう。
今まで一方的に蹂躙する側だったが、逆の立場に追いやられ、パニックに陥って何もできなかった。
俺が力尽きた後、スタンクニキはノッカーを蹴散らし、俺に【リカーム】をかけて復活させてくれた。
「覚醒直後の万能感を長いこと引きずるのは良くない。早いうちにこうしてボコボコにされることを経験しておかないと、戦士としても人としても成長できないんだ」
スタンクニキの言うことは理屈としてわかる。それでも、見殺しにされたという悔しさが止められない。
俺は人目もはばからずわんわん泣いて、スタンクニキは黙って俺を見守るだけ。
やがて俺が泣き疲れたところで区切りがついて、俺達はダンジョンから脱出した。
「……お疲れ」
ダンジョンの出口にいたドクオニキが、ぼろぼろになった俺に声をかけてくれたが、俺は返事をできずに軽く手を振るだけで精いっぱいだった。
俺はほうほうの体で部屋まで戻り、布団に倒れ込んでそのままふて寝するしかなかった。
後から思えば、ドクオニキは憎まれ役になるスタンクニキに慰労の声をかけたのかも知れない。
*
翌朝。メンタルは上向かないが腹は空く。
シャワーを浴びて服を着替え、食堂で朝食を取りながら昨日のことを思い返す。
戦闘の恐怖とか、見殺しにされた悔しさとか、感情的には納得できていない。だがそれは飲み込むべきだ。
俺は人生二周目の男なんだ、中二だか高二だかの病を患うちっぽけな存在じゃないんだ。こんな屈辱、前世の社会人経験からすればありふれた出来事じゃないか。
食後のコーヒーをちびちび啜るうちに、マインドコントロールができてきた。
「よし、まずはスタンクニキに昨日はありがとうございましたと言わないと」
「そう言えるなら乗り越えられたようですね、おめでとうございます」
振り返ると、パチパチと拍手しながらミナミィネキが満面の笑みを浮かべている。その隣にいるスタンクニキとドクオニキは、肩の荷が下りたような安堵の顔だ。
「こちらも人生二周目ですからね。多少のことなら飲み込みますとも。ご心配をおかけしました」
そう言って俺は三人に頭を下げる。
「前と同じ言葉ですが、改めて。ようこそ平田さん、私たちは貴方を歓迎します」
「ありがとうございます、これからもよろしくお願いします」
単なる転生者の集まりから、一歩進んだ仲間意識が芽生える。ミナミィネキも単なるスケベ目的の人ではなく、気配りと配慮のできる素晴らしい人だ、いやー惚れてしまいそう。
「そうそう、心の底に溜まった不満は、うちの娼館で吐き出すのが一番ですよ。今日も利用します?」
「今のは感動のシーンでしょ、いきなり下ネタぶっこんで台無しにしないでください」
「何なら夜を待たず今からでも。利用します?」
「……」
あっ、ドクオニキが『ミナミィネキはこういう人だから諦めて?』って視線で訴えてる。
そっかー……
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・18歳 転生者・覚醒済 Lv2
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効
スキル:パトラ
装備:ソニックナイフ、デモニカ
仲魔:なし
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第3話 実家近所の異界
ダンジョンで一機乙った直後は気持ちが乗らないので、当面のダンジョンアタックは後回しにして製造班に顔を出した。
そこでオカルトアイテムの真贋鑑定やアイテム作成の基礎知識などを教えてもらい、【イワクラの水】の作成成功率が10%くらいになったところで製造班を辞し、再度のダンジョンアタックの準備を進めることにした。
これは、俺の懐具合という重大な理由がある。黒札割引があるとはいえ、デモニカと高級式神をどちらも注文したので、膨大な借金を抱えているのだ。早いとこLv10に到達して地方の異界探索に軸足を移せば、無理なく数年で返済できる額ではあるが、駆け出しデビルバスターには目も眩むような借金である。
武器は引き続き【ソニックナイフ】と、新たにガイア連合製の【退魔銃】。防具はガチャで当てた【足軽具足一式】で、デモニカは成長の邪魔になるので当面は封印。注文した高級式神が届くまではレンタル式神を使うが、高級式神と同じ人型の方が乗り換えた後に楽ということでタンク兼物理アタッカーの【妖鬼オニ】。
これで星霊神社の修行用異界・低層をLv4になるまで探索し、Lv4になったら【アギ】と【エネミーソナー】が使える【アガシオン】を購入して偵察兼術アタッカーにする。高級式神が届くころにはLv10になっていることが目標だ。
そのように目標を定めたところで、三月後半になった。山梨・星霊神社近辺に生活拠点を移すため、いったん実家に戻ることにする。
*
高校の卒業式も無事終了し、実家に残していた漫画雑誌など不用品も処分した。
両親と兄には【ガイアグループ】に就職したという表向きの事実だけ伝え、後は盆正月にちょいと実家へ帰省するだけになるだろう。
今年のゴールデンウィークには、初任給で両親に贈り物という名目で旅行券でもプレゼントしてやろうか。前世の記憶持ちなんていう世間とズレたガキを愛情たっぷりに育成してくれた両親には感謝している。
「さぁて。最後のご挨拶と参りますか」
生まれてからこのかた、夏祭りと初詣の年二回かかさず参拝していた、歩いてすぐの場所にある神社にお参りして、遠方の地に移り住むのでもう氏子ではありませんと報告するのだ。
かつては半信半疑であったが、覚醒してからは神の存在を疑っていない。生まれ故郷の産土神に今まで世話になりましたと頭を下げる、それくらいの義理を通しておいて損はないだろう。
スーパーで買った紙パックの日本酒にオカルトアイテム作成の要領でマグを注ぎ、お供えのお神酒も準備した。
夕方、人気のなくなる時間帯を見計らって、鎮守の森に囲まれたお社へ。そして、そこで見た衝撃の事実。
「覚醒してからの参拝が初めてとはいえ、異界を封じる結界なんてあったんだな、ここ……」
俺が未覚醒の頃に【異界発生地周辺の探索】のアルバイトで、この神社の周囲を探索したことがあり、結果は白だった。だから無いと思い込んでいたのだが……
結界の古さや綻び具合から敷設時期を推察するに、戦後にメシア教が日本各地の神を封じたという話と一致する。
「まぁメシア教はクソ。俺たちの共通認識」
とりあえず、お社にお神酒をお供えして二礼二拍手一礼。当初の予定通り引っ越しのご報告を済ませてから、改めて結界を観察する。
「経年劣化しているだけ、今すぐにも崩壊するってことはないな。結界の維持メンテを行っているようにも、逆に結界を解除しようとしているようにも見えない。地元のオカルト組織がまともに機能していない証拠でもあるんだが…… おっ、ちょい大きい綻び発見」
見つけた綻びは、俺なら隙間に体を滑り込ませる感覚で結界を壊さずに中に侵入できそうな気がする。何の準備もなくそんな暴挙はしないけど。
「まずは隙間から向こうを観察っと」
視界の先にあるものは、平地と山。山といっても裏山・里山と表現できる程度でさほど大きくない。平地の方は異界の八割ほどの広さを占めるが、家・道・田畑など人の手の入ったものは見当たらない。
そして、動物霊が多い。ざっと見た範囲では、鼠猫犬狐狸鳥牛馬と、人にも馴染み深い動物ばかりだ。そのほとんどはLv1未満の雑霊で、稀にLv1~3の動物妖怪がいる感じ。
「星霊神社の修行用異界低層と同レベル、とりあえず当面の脅威は低い。結界の綻びもLv1未満の存在しか通過できないほどに留まっているから許容範囲。一応マグ注いで補修しとこうか?」
補修といっても、ガタガタいってる扉に布ガムテープを張って、ガタガタしなくなったという応急処置レベルだけど。まぁ今までこの地で霊障が起きたとは聞いたことがないので、この異界の中の霊たちはあまり
山梨・星霊神社に戻ってから報告しても十分間に合う、そう結論付けて異界観察を終了する。
「ええと、お騒がせしました」
もう一度お社に頭を下げた後、先にお供えした酒が消えていることに気づいた。
*
その日の夜、実家で過ごす最後の一夜。
俺は神社の祭神様から神託を貰った。こっちのレベルが低いので明瞭なメッセージではなく、ぼんやりしたイメージとして受け取るだけであったが。
俺はあの異界の中で、馬に乗って平原を走っていた。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・18歳 転生者・覚醒済 Lv2
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効
スキル:パトラ
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、(デモニカ)
仲魔:妖鬼オニ(レンタル式神)
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第4話 マイナー地方神のネタばらし
今まで書いていなかったが、俺の実家は長野県上田市にある。昭和32年までは
これだけの情報でマイナー地方神の名を当てられたら凄い。正解は、
上田市のマイナー地方神といえば、おそらく最初に名が挙げられるのは名神大社である
馬背神社はwikipediaに記事が存在しないマイナー神だが、その起源ははっきりしない。社伝によると日本武尊が日吉の像を勧請したというから、お隣の生島足島神社と同様に、日本神話・伝説の時代からこの地に住む一族が奉る神であったと推測される。
なお勧請したのに日吉神社でない理由は、平安時代後期にこの地(浦野庄)が日吉神社の社領になったことで、日吉神社が権威付けのために馬背神社の縁起を改ざんしたという説がある。
また社伝によると白雉元年(650)に建御名方富命を合祀した。建御名方富命は諏訪大社の祭神であり、古代から信濃の国の一大勢力であったため、馬背神を奉じる一族は諏訪大社の勢力と同盟したと見ることができる。その後の『日本三代実録』では、馬背神は建御名方富命の孫神とされたあたり、諏訪勢力に屈したとみていいだろう。
また7世紀末に東山道が開通し、この地に浦野
こうした背景からか、馬背神社はとんとん拍子に出世する。『日本三代実録』によると、貞観二年(860)二月五日に従五位下、貞観七年(865)三月二十三日に従四位下、貞観九年(867)三月十一日には従三位を叙せられた。しかし927年成立の延喜式神名帳には馬背神社の名はどこにもなく、以降の歴史書にもその名は出てこない。
これは馬背神を奉じる一族が権力争いに負けて没落したと見ることができるが、従三位といえば京都の伏見稲荷や伊豆の三島大社と同格であり、それが僅か50年のうちに表舞台から消失して他の歴史書でもまったく触れられていないのは、正に歴史のミステリーである。
こうして歴史に埋もれた馬背神社であるが、完全には消滅していなかった。江戸時代には家畜として欠かせない馬の守護神として、この地の産土神として信仰され、明治六年に浦里村の郷社として列され、今に至る。
*
「神仏習合において馬背神は馬頭観音の一側面として扱われ、馬頭観音は馬のみならずあらゆる畜生類を救う観音ともされている。垣間見た異界に動物霊が多かったのも、馬背神=馬頭観音の影響ではないか、と推察する…… と」
山梨の星霊神社へ戻る道すがら、提出するレポートの文面を練ってメモ帳に書きなぐる。
「メシア教に雑に封印されたサクナヒメという前例もあるし、あの異界も同じだと嬉しいんだが。浅いとこは難易度低いし、上手いこと
まぁいいか、まずは星霊神社の修行用ダンジョンで鍛えるのが先だ。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・18歳 転生者・覚醒済 Lv2
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効
スキル:パトラ
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、(デモニカ)
仲魔:妖鬼オニ(レンタル式神)
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第5話 レベルアップ修行(1)
実家から山梨の星霊神社に戻ってきた俺は、実家近くの神社の異界について情報提供して(情報料は思ってたより高めの臨時収入になった)、いったんこの件は横に置くことにした。
レベル上げと資金稼ぎを目的にし、装備と回復アイテムを揃えて【レンタル式神】とのコンビで星霊神社の修行用ダンジョン低級層に突貫。レンタル式神である【妖鬼オニ】は【物理耐性】持ちの前衛タイプなので、タンク兼物理アタッカーとして前面に出し、俺がサブアタッカー兼アイテム使いのポジション。この陣形でかなり戦えている。
今は俺がダンジョン内で痛い目にあった【地霊ノッカー】が出現するエリアを主に徘徊している。適正レベルの狩場という意味ではここが一番戦いやすいのだ。
ノッカーが使ってくる
『死に覚えが一番効率良い』なんて魔人ニキは言ってたが、流石に【リカーム】前提の戦法は無理です。
そんなこんなで1か月ほど頻繁にダンジョンへ通い、俺はようやくLv3にレベルアップできた。
スキルは特に覚えなかったが身体能力(ステータス)が全般的にアップしたので、今まで通りの戦法でより楽に戦えるだろう。しかし、以下の理由で俺は戦法を見直すことにした。
一つ、
二つ、今の戦い方は銃弾と回復アイテム頼りなところがあり、アイテム購入費が馬鹿にならない。レスキューチームに助けられるとこれも大きな出費になるし、せめてディアを自前で使えるようになりたい。
ショタオジが言うには、適性がなくても修行をすれば【ハマ】【ムド】【ディア】【アギ】などの初級スキルは覚えられるのだとか。適性外のスキルを取得するのに長時間かけるくらいなら、ダンジョンに入ってレベル上げて適性スキルを覚える方が手っ取り早いよね? とも言ってたが、ダンジョンに入ってアイテム消費して赤字でしたを繰り返したくないのだ。
なお、金策としてパトラを付与した水(カフェインレスの眠気覚ましドリンクとしてそれなりに売れる)を頻繁に作成したこともあり、パトラの熟練度だけは鰻登りだったりする。
*
ダンジョンに入らない修行をしばらく重点的に行うということで、ミナミィネキから指導を受けることにした。
実は悪魔娼館にそれなりの頻度で通っており(懐が寂しいのはこれが原因だとか言わないでくれ、事実だから)、他人と肌を重ねることにある程度慣れたからこそ、ミナミィネキも下地はできていると認めて指導をOKしてくれた。
「目をつぶって── 呼吸はゆったり一定に── 左胸の心臓から血液と一緒に気・エネルギーが左腕を通って、相手の右腕に流れ込むイメージ。同時に相手の左腕から自分の右腕に、相手の発するエネルギーが流れ込んできて、自分の胴体へ。私とあなたでエネルギーが循環する──」
ミナミィネキの個人指導はヨガをベースにした気功法で、まったくエロくなかった。
互いに正面を向き合い、自身の右手と相手の左手を重ねて体で円を作り、気を巡らす。口で言うのは簡単だけど、気を巡らすって難しい! 自分の体内に気を通すってだけでも上手くいかないのに、気を他人に渡すなんて無理無理。しかもミナミィネキの左手からはポカポカ温かい気が俺の右腕にどんどん流れ込んでくるのが分かるんだよ!
あっあっあっ、ミナミィネキの気が俺の全身を満たしていく── やばい、めっちゃ眠くなってきた、温めの風呂に浸かって睡魔に襲われたみたいに思考がぼんやりして── ミナミィネキの気が俺の左腕を通って── これが、気の循環?
「はい、お終い」
ミナミィネキの左手から気の供給が遮断され、彼女の右手が俺の左腕から気を吸い込んでいく。気とともに体温を失った感覚があり、ぶるりと身を震わせると、急に眠気が去っていった。
「おぉー、何だ今の感覚」
「気を奪われるという経験は初めてですか? 応用すれば【エナジードレイン】だってできますよ」
エナジードレインって夜魔や吸血鬼なんかの専売特許じゃないのか。ミナミィネキの凄さを改めて思い知る。
「初めて気の循環を経験して、いきなりできるようになる人はいません。まずは、相手の肌に手のひらで触れて、そこから微弱な気を流し込むことを覚えましょう」
「あぁ、気を流し込まれて、うーん、布団の中で半覚醒状態で微睡んでいるときの心地良さというか、マッサージ中に寝てしまうような心地良さというか、上手く言えないなぁ」
「ふふ、この技術を覚えたら、腕の良いマッサージ師として一生食っていけますからね」
「納得です」
「それから、まぐわう前の前戯でこれを使えば、お相手はびしょびしょの濡れ濡れですよ」
「急に下ネタぶっこむの止めてください」
「まぐわっている最中に気を循環させれば、互いに肉欲だけでは得られない法悦を得ることができます。これはカーマ・スートラでも奥義とされています。仏教ですとそれのさらに上、まぐわい不要で肌を触れ合うだけで肉欲を超越した法悦を得て、最終的には視線を交わし微笑みあうだけで至上の歓喜だと」
「下ネタから学術的な方向に急転換されると、頭が追いつきません」
*
「相手に触れて、気を流し込むことで相手の肉体を活性化する…… あっ、なんか閃いた!」
ミナミィネキとの修行により、【ディア】を覚えた!
「一月とかからず習得するなんて、やはり、平田さんにはスケベ部の素質がありますね。私が見込んだ通りです」
「エロいことをまったくしていないのにスケベ部の素質を誉められた」
「至上の法悦を得る修行なので、スケベ部の範囲内です」
「そうかな? そうなのかも……?」
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者・覚醒済 Lv3
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効
スキル:パトラ、ディア
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、(デモニカ)
仲魔1:妖鬼オニ(レンタル式神) 物理耐性、かばう、挑発
仲魔2:妖魔アガシオン(発注済み、Lv4になったら入手予定)
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第6話 レベルアップ修行(2)
【ディア】を覚えたことにより、俺は星霊神社の
ディアを覚えたことで戦術面に変化はないのだが、HP回復アイテムを購入しなくても良くなったのでマグ・マッカ稼ぎ効率は大きく改善されると見て良いだろう。それによりアガシオンが購入しやすくなり、手数が増えれば更に稼げる。
固定のパーティメンバーを増やすという案は、正直難航している。自分と同程度の修行用異界低層を攻略している【俺たち】がいないのだ。現在、生身で異界に潜っているのは、中層探索をメインとするバトルジャンキー組しかいない。安全にレベル上げするためだけの養殖場こと【金札修業異界】に通っている人はいるけど、俺はあっちに通うつもりはない。
人じゃない存在なら多数が異界低層を攻略しているけど、他の黒札連中の専用式神だから、固定パーティは組めない。ダンジョンの入口で偶然出会って野良パーティ結成のお誘いはしたりされたりするときもあるが、確実ではない。
それに、式神たちの『専用式神も持てない可哀そうなヨワヨワ黒札さん』という無言の視線が痛いのだ。
後は、俺が【ソニックナイフ】や【退魔銃】、あるいはアイテムを使うという立ち回りをもっと上手くやるしかないのだろう。これについては掲示板で情報を集めても、とっさの判断という部分だとあまり役に立たない。戦闘巧者である源氏ニキとかの後ろに付いて行ってそこら辺を勉強したいところではあるが、あちらの都合もあるのでマッチングが成立せず、独学で試行錯誤している状態だ。
なお、スタンクニキやドクオニキは『若いうちの苦労は買ってでもしろってな?』と言って引率を拒否してきた。
そんな感じでレンタル式神と二人(?)で修行場低層に潜って【地霊ノッカー】と地味な殴り合いを繰り返している。
*
毎日が戦闘ばかりではモチベーションが続かない。そんな時は気分転換として製造班に行くことが多い。
一時は金策として【イワクラの水】制作のため頻繁に通ったが、今はどちらかというと装備・アイテムの新作情報を集める目的で、黒札用ショップ廻りとセットにすることが多い。
今度の新作は、八尺瓊勾玉(レプリカ)*1というネックレスタイプの装飾品。破魔耐性を下げる代わりに呪殺耐性を上げる効果がある。人は元から破魔無効なので呪殺耐性上げ得だが、人型式神に装備させるときは注意が必要。
レベル一桁前半の俺には直近だと無用だが、いずれ【悪霊】を相手にすることを考えて予約した。
「手ごろなスキルカードは入荷なし、と……」
【黒札専用高級式神】も【アガシオン】も発注済みで、アガシオンはもうすぐ手に入る。戦力アップの手段としてスキルカードはメジャーな手段であり、有用なカードは競争率も高い。
ショップでの品定めを一通り終えた後、雑談しつつイワクラの水の在庫でも作っておこうかと、製造班に寄る。
製造班のいつものゲスト用作業室に行くと、ちょっと珍しいものがあった。
「地霊の鉱石、【地霊コボルト】のフォルマねぇ。同じ地霊でも【スダマ】【ノッカー】【ドワーフ】などと比べて出にくい*2とは聞いているけど」
「出にくいとはいえ、しょせんコボルトだから入手難度はそこまで高くないけどね。いつもの【天使の羽】だけじゃ飽きると思って」
「確かにコボルトも天使もパトラを使うから、パトラのアイテムを製造する触媒になると思うけど」
班長さん*3の説明を受けながら、手のひらの上でフォルマを転がす。ついでにいつも扱っている天使の羽も手に取って、見比べる。
「んんー? 何か新しいことできそうな気がするな?」
ここのところノッカーとの戦闘でも金策のアイテム作成でも、どちらもパトラを使いまくったせいで、パトラに対する理解度が一段階深まったような気がする。
今まではパトラの効果をアイテムとして封じていたが、自身の中に根付くパトラという存在を、こう設計図の上にトレース台を置いて複写する感じで……
「ぉぉぉ…… 急速に体内マグ消費すると頭痛がぁ……」
「おい、大丈夫か?」
「大丈夫じゃないっす、まるでインフルエンザ貰ったかのような感じ、これ2日くらい寝込むかも…… でも、その甲斐あったかな?」
「いったい何を作ったんだ? って、これ! スキルカード?!」
「【パトラ】の【スキルカード】です。こんだけ苦労したんだから高く売れろ……」
「急病人が変なこと考えるな、私の式神に命じて部屋まで送るから、自室でゆっくり療養しとけ」
「ありがとうございます、お手数をおかけします……」
*
その後、体調が戻るまで3日ほどかかった。
しかも、コピーを取る技術が下手くそだったせいか、体内のパトラの設計図にゴミが付着したような感覚があり、どうにもパトラが使えない。その違和感が取れて元のようにパトラを使えるようになるまで7日ほどかかり、トータルで10日ほどダンジョン探索できなかった。
「パトラが使えない期間は不安でメンタルぼろぼろだったし、ダンジョン探索の実入りと比較すると、スキルカード作るメリットは薄いかもな」
世の中、楽してぼろ儲けとはいかないものだ。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者・覚醒済 Lv3
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性
スキル:パトラ、ディア
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:妖鬼オニ(レンタル式神) 物理耐性、かばう、挑発
仲魔2:妖魔アガシオン(発注中、Lv4になったら入手予定)
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第7話 マイ式神まで三か月
俺の成長速度は速いのか遅いのか。ふと不安に駆られることがある。
【覚醒】したのが三月前半くらい、今は四月末。およそ二か月弱でまだLv3。【俺たち】のなかには【高級式神】をダンジョン探索に出して自身は引きこもっていても一年でLv10まで上がるという*1。
やはり【高級式神】と【レンタル式神】の差か、それもと俺に戦闘センスが足りないからか。
「そりゃあ、平田君が『運命に愛された系俺たち』ではなく『半モブ系俺たち』だからさ」
ケタケタ笑いながらエドニキが茶化した物言いをする。エドニキは黒札用高級式神のパーツ作成担当で、こっちがシキガミ作成をお願いしている立場だ。
今日は式神素材の追加納品という形で顔を合わせている。ちなみに追加素材の中身は、ダンジョン探索中に負傷してこぼれた血肉の有効活用だ。
「そんな顔すんな、『運命に愛された系』ってカヲル君みたいにニャル案件で引っ張りだことか、試練が途切れず押し寄せてくるからな。『半モブ系』なら程々で済むから気楽なもんさ」
「そういう考えもありますか。確かに、運命に追い立て回されっぱなしで休む間もないのは勘弁ですね」
「モブうんぬんは半分冗談だが、やはりマイ式神とレンタル式神の差はある。レンタル式神もショタオジ謹製で性能は良いけど、マイ式神に比べると霊的結びつきが弱いのは事実だ」
そういう話を聞くと、やはりマイ式神が欲しくてしょうがない。黒札連中がこぞって注文するから、納品まで最長で一年待たされるなんてこともあるらしい。俺も覚醒してすぐに注文を出したが、納品時期未定(最低でも半年待ち)となっている。
「そんな君に朗報だ。なんと君の注文だが七月末頃、当初の半年から1か月短縮してロールアウトできそうな見込みだ」
「えっ! ありがとうございます!」
「君はダンジョン探索にアイテム作成にと頑張っているからな。モチベーションにも直結するし、ちょっとした贔屓さ」
「俺にとっては有難いですが、いいんですか?」
「贔屓と言っても元々こっちの裁量の範囲、同タイミングで注文された二件のうちどっちを先に捌くかってこと。いやぁ、引き籠ってばかりでロクに貢献していないのに催促だけはいっちょ前のクズとか、作成する側としても受けたくないんだよね、正直」
「あはは…… 心情お察しします」
「ま、今のは聞かなかったことにしてくれ、贔屓だ何だと変に揉めたくない」
「了解です」
「それより、君が注文した式神の外見を、製造側と意識合わせしたい。納品してからイメージが違うと言われてもこっちも困る。で、アニメ漫画などのキャラをモデルにしてる?」
エドニキが、俺が書いた発注票をノートPCのモニタに映し出す。
言われてみれば、巨乳とか赤茶色のロングヘアーとかおでこちゃんで髪型は額の中央で割れた二つのエアインテークとか、そんなキーワードでこっちの脳内にある外見イメージを推測できるはずもない。
「モデルは居ますが、前世のスマホゲームなんですよね。XXゲームズがリリースした動物擬人化の……」
「ウ○娘か?」
「え、なんで分かるんです?」
「注文される女性型式神の九割九分は何かしらモデルがあるんでな。前世今世とも合わせて、俺たちにアニメ・漫画・ゲームを聞き取り調査してデータベース化済み。ウ○娘でこの外見キーワードってことは、これ?」
エドニキがノートPCを操作し、モニタにとあるキャラクターのイラストが数枚表示される。
「あっ! これです! これ! うわー懐かしい、そういやこんな外見だったっけ……」
前世で大好きなゲームキャラだったが、今世ではまだゲームが開発されておらず。転生して20年近く、脳内イメージもかなり風化していた。
なにせ式神発注票の外見イメージ欄を書くときに脳内イメージをまとめ切れず、ミナミィネキの悪魔娼館に行ってサキュバス嬢に自分の深層心理に潜ってもらい、それで回収したぼやけたイメージを何とか補正して、それでも『何か違う』と違和感が拭えなかったシロモノだ。
あ、感動しすぎて涙が出てきた。
「あはは、泣くほど嬉しいか。よっしゃ、カワ○ミ○リン○スのイメージも共有できたし、きっちり作り込んでやるからな!」
「ありがとう、ありがとう、ございます……」
俺は米つきバッタのように何度も何度も頭を下げた。
あれほど切望していたマイ式神を具体的に入手できる算段が立ったことで、やる気がもりもり湧いてくる。ダンジョン探索、頑張るぜ!
*
エドニキの所を去るとき、彼は数枚のイラストをプリントアウトしてくれた。ありがてぇありがてぇ。
「うーん、これがあれば悪魔娼館でイメージプレイやり直せるか?」
なんか、スケベ部にドはまりしてるな、俺。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者・覚醒済 Lv3
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性
スキル:パトラ、ディア
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:妖鬼オニ(レンタル式神) 物理耐性、かばう、挑発
仲魔2:妖魔アガシオン(発注中、Lv4になったら入手予定)
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第8話 アガシオン入手しました
【高級式神】を入手する具体的な算段が立ったことで、ダンジョンアタックに対するモチベーションがウナギ昇り。しかし気分上々なときこそ勝って兜の緒を締めよ。
という訳で、修行用異界低層の探索だけに注力するのでなく、今まで通り製造班でアイテム作成とミナミィネキの個人指導もバランス良く。さらに将来日本各地の異界を回ることを考えて、自動車普通運転免許取得のため教習所にも通ってます。自分と式神の装備二人分を持ち運ぶにはステーションワゴンかミニバンが便利だからね。
しかし、こんな簡単に戦闘に対する意識が変わるとは思っていなかった。スタンクニキに嵌められて一度痛い目にあってから、心の底にずっと戦闘に関する恐怖を溜まっていて、それが無意識のうちに自分を縛っていたのだと思う。
自身の理想を投影した高級式神を迎えるに相応しい男になりたいとカッコつけてるだけなのに、高揚感で無理やり恐怖を押し込めなくても体が動くようになった。
もちろん、覚醒直後の勇気と無謀を取り違えた蛮勇ではなく、内心でリスクとリターンを計算していけるいけないの判断を冷静に下せるようになった。と思う。まぁこれは自分が一歩踏み出せたと感じているだけで、横から見たら五十歩百歩なのかも知れないけど。
そうそう、冷静な判断と言えば、エドニキに高級式神作成の注文を一つ追加した。
ウ○娘モデルのキャラをベースにするが、ケモ耳とケモ尻尾は無しの完全人型でお願いしますって。完全に人と同じ姿という方のメリットを重視した。
エドニキは理解を示してくれたが、製造班の一部の人が『ケモノっ娘の良さを分からぬ愚か者め!』と大騒ぎしたらしい。そんでもって『他人の性癖にケチ付けるな!』と言う人が出たあげく大乱闘に発展したとかしないとか。
【俺たち】ってほんと馬鹿だよね。もちろん俺も人のこと言えないけど。
*
世間がゴールデンウィークとなりお休み気分が蔓延する中も地道にお勤めをこなし、五月後半になって念願のレベルアップ。
Lv4になって新たに覚えたスキルは【ポズムディ】。物理サブアタッカー兼ヒーラーと、オールドRPGのクレリックスタイルをまんま踏襲してます。
それよりLv4になって【アガシオン】を入手でき、偵察と術アタッカーを任せられるようになったのが大きい。
現状は平均Lv4の【地霊ノッカー】を主に相手にしているが、今後の適性狩場としてはもう少し奥、平均Lv6【地霊コボルト】、平均Lv6【妖精ゴブリン】、平均Lv7【夜魔インプ】、平均Lv8【妖精ジャックフロスト】、平均Lv9【妖精ジャックランタン】あたりを狙う方向に切り替える。
……と思ったのだが。
アガシオンが戦闘に参加するには自立思考がいまいち弱い。逐一こっちが指示するのも面倒で、戦闘パターンを定型化しておかないといけない。
アガシオンがレベルアップすればAI部分も改善されていくとのことだが、狩場移動するにはもう少し時間がかかりそうだ。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者・覚醒済 Lv4
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:妖鬼オニ(レンタル式神) 物理耐性、かばう、挑発
仲魔2:妖魔アガシオン Lv1 物理耐性、氷弱点、ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第9話 俺の成長ツリー、変な方向に曲がってない?
【アガシオン】がパーティメンバーに加わり、【エネミーソナー】が使えることで異界探索が急に楽になった。
アガシオンに【物理耐性】を持たせたので、戦闘時は囮役として敵の背後を取る動きをさせるか、いつでも【ジオ】を撃てるように控えているかの2パターンで今のところ事足りている。なおジオの使用回数は少ないので切り札扱いにして、俺が指示しない限り打たせない。
本当は偵察役として【マッパー】や【アナライズ】も持たせたかったが、いくら黒札用高級アガシオンといえどそこまでの性能は盛れなかった。星霊神社の修行用異界低層ではエネミーソナーの優先度が一番高いと判断してそれを乗せ、通常のアガシオンが2耐性2弱点*1のところ1耐性1弱点にカスタマイズした。
アガシオンは式神と異なりスキルカードで後付け改造ができず、マッパーやアナライズをレベルアップで覚える可能性も低い。探知能力は【デモニカ】か【COMP】を中心に考える方が確実かもしれない。
*
戦闘の心構えで一皮剥けたこと、エネミーソナーが使えることで勝ち目の高い敵かどうか選別して戦闘を仕掛けられること、の二点が大きいのだろう。七月になってLvが2アップしてLv6になりました。
Lv5になって新しいスキルは覚えなかったときは、こういうこともあると慌てなかったが、Lv6になって連続で何も覚えなかったときは大いに焦り、ミナミィネキに相談したところ、個人指導を内容を見直ししてもらえることになった。
「気の循環というゴールに対し、房中術でいう『体交法』からアプローチしてみましょうか。セックスを動物の本能的行動(生殖活動)の一つ上の次元、男女のコミュニケーション手段として身に着けるところから。一方的に貪るのではなく、互いに気持ち良いと感じられること。まずはそこから始めましょう」
「なんか房中術の理論とか聞かされるとアカデミックに感じますね」
「具体的には肉棒なしの手技口技のみでイかせられるようになってください。悪魔娼館なら実践の場として周囲に迷惑かけないですし、頻繁に通っても良いですよ」
「いっきに俗っぽくなりましたねぇ」
「その後は四十八手、性感開発、菊門、言葉責めなどの基本を一通りマスターしましょう」
「基本、ですか」
「基本(スケベ部基準)ですよ。最終的には一時的性転換や尊厳凌辱・闇落ちといったアブノーマル(スケベ部基準)まで一通り経験してもらい、基本に立ち返ります。守破離の離まで到達すれば、平田さんなら【性交】の【スキルカード】を作成できるでしょう」
「スキルカードですか」
「黒札用高級式神に搭載される【汎用スキル】として、とにかく需要があります。通常スキルカードは【概念】を大量の【マグ】で固めるため製造の難易度はそれなりに高いのですが、汎用スキルは【記憶の転写】に近いので難易度は下がります*2。平田さんはすでに【パトラ】のスキルカード作成実績があるのですから、できます、できますとも」
あっ、ミナミィネキから『スキルカード製造要員として逃がさないぞ』という圧を感じる。
「平田さんは近々、ご自身専用の女性型式神を入手されるのですよね? その子にご自身できっちり仕込んであげてください。なんならあなたとその娘と二人まとめて実技指導してあげますよ。悪魔娼館の利用料を無料にしますから、早く覚えてください。私もう、スキルカードを作るのに飽きたんです、よよよ……」
ミナミィネキがすぐに分かる嘘泣きをしつつ、チラッチラッとあからさまな視線を投げてくる。
いやまぁ、俺も男だし? 恩人であるミナミィネキが助けてと頼ってきたなら恩返しするのは当然だし? スキルカード作成できるならがっつり稼げそうだし?
「……分かりました、頑張ります」
途端にミナミィネキが嘘泣きをやめて、満面の笑みを向けてくれる。
見え見えの罠と分かっていも、美女が喜んでくれるなら、飛び込むのが男ってもんだよな!
*
(一輪挿しの椿の花がぽとりと落ちるイメージ)
*
俺は【房中術(劣化)】を覚えた!
「専用式神をお迎えする前に最低限のスキル取得が間に合って良かったですね。早くスキルカード作れるようになってくださいね(圧)」
あぁ、ミナミィネキが本音を隠さなくなったのは、それだけ遠慮がいらない仲になったということで、良い事のはずなんだがなぁ。強すぎる圧は止めてください、ちびりそうです。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者・覚醒済 Lv6
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
汎用スキル:房中術(劣化)
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:妖鬼オニ(レンタル式神) 物理耐性、かばう、挑発
仲魔2:妖魔アガシオン Lv2 物理耐性、氷弱点、ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第10話 専用式神デビューしました
この程度の描写でも駄目と、サイゲ公式またはハーメルン管理者様が判断したなら、謝罪&取り下げます。
七月後半になり、黒札専用【高級式神】が納品されました! 目出度い!
外見は、前世の某動物擬人化ゲームのキャラクターをイメージした。さすがにケモ耳とケモ尻尾は省略して完全人型たけど。
式神向け偽装戸籍サービスには『川上 姫』という名前で登録してあり、普段の呼び名は<ヒメ>としたがその時の気分で<プリン>とか色々呼ぶことかも知れない。
そういえばアガシオンには名前つけてないな。命名した方が良いのだろうか。
*
<ヒメ>は物理アタッカー兼タンクのパワーファイターとしてデザインした。
【俺たち】の中には高級式神を戦闘の前線に出したがらない奴もそれなりにいるが、俺はそうではない。共に前線で戦って絆を深めるって良いよね。
専用式神を入手するまでの繋ぎとして使っていたレンタル式神は、今月末まではレンタル期間が残っていること、<ヒメ>と同じくパワーファイター型であることから、今しばらくダンジョンアタックに連れて行って俺とレンタル式神のコンビネーションを<ヒメ>に学習させるつもりだ。
しかし高級式神といえど、レベルが低いとAIがこなれていないね。
汎用スキル【会話】を持たせたので会話はできるが、まるで家電のスマートスピーカーへ話しかけているような印象を受ける。短文の応答なら問題ないが、会話のキャッチボールをそこそこ長く続けると馬脚を露す。
それから主人である俺に最初から懐いてくれるのは嬉しいけど、鴨の雛が親の後を追いかけるように、何につけ俺と一緒にいようとする。流石にトイレにまでくっ付いてくるのはストップかけたが。きっちり命令すればお留守番もできるが、今のところ1時間以上俺と離れていると挙動不審になりだす。これは俺の式神特有の思考ルーチンなのかね? 式神のみ異界探索に出す【俺たち】に、低レベルのときの式神の挙動を聞いてみたい。
ミナミィネキは俺に自身の式神をきっちり仕込めと言ってたが、まるで幼子を相手にしているような気がして、まずはハグや頭を撫でるといったスキンシップからスタートするのが良いような気がする。
*
<ヒメ>とレンタル式神(妖鬼オニ)を連れて修行用異界低層に潜る。オニとは半年近くコンビを組んでいるが、ショタオジ謹製だけあって結構高性能だ。物理アタッカー兼タンクとして【かばう】や【挑発】にはだいぶ世話になった。
まずは<ヒメ>には後ろに控えてもらい、オニと俺の連携を見て学んでもらう。オニのレンタル期間が終了したらそのままオニとポジション入れ替わりになるし、<ヒメ>も【かばう】は持っているので見取り稽古になるはずだ。
基本的な連携パターンを一通り見せた後は、今度は<ヒメ>が前に出てオニは後ろに下がってもらう。早速の実践稽古だ。
とはいえ、オニが<ヒメ>に手渡しは武器は貧相だな。ホームセンターで購入した鉄パイプの空洞部に発泡ウレタンを入れたお手製こん棒(空洞が埋まっているので野球の金属バットより頑丈)だ。<ヒメ>がそんな物でも喜んで振り回しているのを見ると、何だか申し訳なくなってくる。
一応言い訳すると、レンタル式神はあくまで繋ぎという意識があったので、最序盤は金策が苦しかったこともあり、武器防具をケチったのだ。防具なんか裸の筋肉が見苦しいという理由で防御力度外視のTシャツと短パン。レンタル式神は呪符に戻すと使用者の消費マグを減らせるが、代わりに装備品を自分で持ち運ぶ必要があり、その手間を惜しんでしっかりした防具を用意しなかったという理由もある。
「っと、偵察に出したアガシオンから、雑魚一匹の報告が来た。まずは<ヒメ>の物理攻撃力を見せてもらおうかな」
「任せてください! とりゃぁーっ! ワン・ツーからの、必殺! プリンセス☆パンチ!」
平均Lv4の【地霊ノッカー】はこのパーティから見れば雑魚だが、Lv1の<ヒメ>からすれば格上。それを【ひっかき】スキル一発で撃破するのだから悪くないのだが、俺は通常の物理攻撃力を見たかったんだよね。
どや顔で俺から褒められるのを待っている<ヒメ>を見て、今のは俺の伝達ミスなのか、彼女の思考AIが弱いのか、どっちなのか少しだけ悩む。
ここで流れに負けて彼女を褒めるだけにすると、彼女が脳筋一直線に育つ下地になってしまう可能性がある。さて、褒めると窘めるを両立させるには、どう言葉を選んだものか。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv6
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
汎用スキル:房中術(劣化)
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ*1
汎用スキル:会話
装備:こん棒
仲魔2:妖魔アガシオン Lv2
耐性:物理耐性、氷弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第11話 違う意味での式神デビュー
黒札専用【高級式神】である<ヒメ>との初ダンジョンアタックは無事に終わり、これからじっくり<ヒメ>を育成していけば良いと思っていたのだが。好事魔多しというか、順風満帆には行かないというか。
七月下旬のある日、母親から電話が掛かってきた。
『維茂、お父さんがギックリ腰で寝込んだから、今週末戻ってきて』
「親父が? ギックリ腰なら生死に関わることじゃないし、戻って来いって何かあったの?」
『祇園祭のお神輿を担いで欲しいの、今年は家が町内会の役員だから』
「兄貴は?」
『大学の方で都合がつかないんだって。長男のくせにだらしない』
「そっか、町内会役員なら仕方ない。お盆の帰省を早めると思ってスケジュール調整するよ、土曜日の午前に山梨を出発して、そっち到着は夕方か? 日曜にお神輿担ぎ終わったらそのままトンボ返りすることになると思う」
祇園祭というのは、俺の実家の近くにある長野県上田市・馬背神社で毎年行われる例大祭だ。
毎年七月末の土日に行われ、男衆がお神輿を担いで地域一帯を2~3時間ほど練り歩くだけの、特に祭りの屋台とか出ることもない、簡素なお祭りだ。ちなみに祇園祭という名前だが京都の八坂神社とは全くの無関係で、共通点は七月末という実施時期だけ。なぜ祇園祭と呼ばれているか不明だ、俺が物心ついたときからそう呼ばれていることしか知らない。
母親との通話を終えて、急な帰省の交通手段を検討する。自動車の運転免許はまだ取得できていないので、実家へは電車とバスを乗り継ぐことになる。
山梨からだとJRで松本・長野を経由して上田に行くか、それとも距離的には遠回りとなるが東京まで出て長野新幹線に乗る方が手軽か、と考えたところで、<ヒメ>の存在に思いあたった。
「あっ、どうしよう」
<ヒメ>は低レベルが理由なのか思考AIが未成熟で、四六時中俺に引っ付こうとする。それに【会話】スキルこそ持たせているが、単純な受け答えならともかく、それなりに長い会話はまだ上手くこなせない。後、【食事】スキルを持たせていないので飲食もできない。
実家を巣立っていった息子が彼女を連れて戻ってきたら、母はガンガン飯を食わせようとしながら根掘り葉掘り事情を聞き出そうとするだろう。そうなると頭の可哀そうな娘扱いされるか、最悪だと人間ではないモノとして認識されてしまう。
かといって、<ヒメ>を連れて行かないという選択肢もない。2時間のお留守番が限界の今、丸2日のお留守番を命令しても、半日程度で俺を探し出そうとして思いつかないようなトラブルを引き起こす可能性が高い。
「うーん、いや<ヒメ>は悪くないんだよ」
雰囲気を感じ取って申し訳なさそうな顔をする<ヒメ>の頭を撫でながら、さてどうしたものかと考える。
*
三人寄れば文殊の知恵、一人で考えても駄目なら他人の知恵を借りる。
そういう訳でスタンクニキに相談したところ、ノータイムで<ヒメ>を連れていくと回答された。
「彼女を両親に紹介してやんなよ。精いっぱいフォローして、そんでも周囲からの疑い目が厳しいと思ったら、致命的なボロ出す前に彼女を連れてさっさと帰ってくりゃいい。次男なら家のメンツより惚れた女を優先するってことにして実家と疎遠になっても許されるし、仮に絶縁されても3年もすれば復縁できる」
「そんなもんなんですか?」
「考えすぎるな、何とかなるって。【食事】スキルがなくても出された飲み物で唇を湿らすくらいはできる、食物を口に含んだ後に気道に入ったふりで咳込む演技して吐き出すとかな。一泊二日なら腹の調子が悪いで何も食わなくても騙し通せる。会話は最低限にして、相手と視線を合わせてから軽く微笑んで会釈するだけで、ミステリアスな美人扱いで乗り切れることも多い」
「アドバイスありがとうございます。もしかして実体験?」
「ふふっ、亀の甲より年の劫ってな」
スタンクニキは俺の質問にイエスともノートも答えなかったが、それに突っ込む野暮なことはしない。
とりあえず<ヒメ>には食物を咀嚼・嚥下しようとして咽る演技の練習をさせよう。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv6
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
汎用スキル:房中術(劣化)
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ*1
汎用スキル:会話
装備:こん棒
仲魔2:妖魔アガシオン Lv2
耐性:物理耐性、氷弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第12話 馬背神社祇園祭(1)
七月最後の週末、<ヒメ>を連れて実家へ帰省する。初任給で両親にプレゼントとか考えたときもあったが結局忘れていたので、代わりにお土産として山梨名産の高級フルーツを大盤振る舞いすることに。
土曜日の午後、電車とバスを乗り継いで実家近くのバス停に降りたとき、バス停近くの蕎麦屋の駐車場に法被を着た小学生の一団がいるのが見えた。
「そういえば土曜は子供神輿の日だったな」
馬背神社の祇園祭は、土曜日は小学生の担ぐ子供神輿が地域を練り歩き、翌日に大人が本神輿を担ぐ。
ここの駐車場は担ぎ手の休憩・交代の場所として使われており、小学生の餓鬼どもがいる理由も、もうじき子供神輿がここに来るのだろう。
子供たちを引率する大人は…… ありゃ、母さんだ。うん、これは素通りできないな、挨拶しよう。
「母さん、ただいま」
「維茂、あんた、その娘は?」
「俺の彼女」
「はじめまして、
そう言った瞬間、餓鬼どもが大騒ぎだ。興味本位で<ヒメ>にまとわりつく子供たちの対処は彼女に任せ、母との会話を続ける。
「お土産に持ってきたけど、このメロンどうする?」
「みんなに見られているから家で独占できそうにないね。そこに入れて冷やしな、それから次からは見られないよう宅急便で送るんだよ」
<ヒメ>よりも俺が持ち帰った土産の高級メロンの方に興味津々だった子供たちから歓声が上がる。
七月の炎天下で神輿を担ぐと当然ながら汗をかき水分が欲しくなる。そのため休憩場所では子供用ビニールプールに水を溜めてスイカを冷やしておくのだ。
「それにしても、高校卒業まで女っ気の無かった息子に、あんな美人で…… パワフルな…… 彼女ができるなんてねぇ」
「まぁ、山梨って土地が俺と相性良かったってことで」
<ヒメ>は見た目こそ人型だが人外の存在、そのパワーは人並外れている。近寄ってくる餓鬼を片腕で小脇に抱え、二人いっぺんにグルグル振り回すことなど造作もない。公園の遊具のごときコミュニケーションだが、彼女の力加減が思ったより上手で、彼女も子供たちも楽しそうなので何も言わないでおく。
そういや、神輿の担ぎ手は男と相場が決まっており、ここにいる小学生たちもみな男なんだよな。パワフル美人なお姉さんに担がれ密着されて、性癖が歪んだりしないかちょっと心配だ。
「母さん、暑い中ただ立っているのも辛いから、先に家に戻るよ」
「母を手伝わない薄情な息子だねぇ。ま、スイカを切るくらいしかやることないから別にいいけど。今神輿を担いでいる子たちへお披露目しないのかい?」
「明日、俺が神輿を担ぐときに彼女も同行するから、お披露目はそれで十分。おーい、<ヒメ>、そろそろ行くよ」
<ヒメ>を連れて駐車場を後にし、実家へと向かう。母とのファーストインプレッションはボロを出さずに済んだので上々か。
実家では腰にコルセットを巻いた父がテレビをだらだら眺めていた。お土産の高級フルーツのうち桃とブドウは提供していないので台所に置いて居間に戻ると、<ヒメ>が腰を痛めて立ち座りに難儀している父を補助していた。成人男性をひょいっと持ち上げる力強さに父も驚いている。
「ギックリ腰をやったと聞いたけど、思ったより平気そうだね。紹介するよ、俺の彼女」
「はじめまして、
「それにしても、高校卒業まで女っ気の無かった息子に、こんな美人で…… パワフルな…… 彼女ができるなんてねぇ」
「母さんとまるっきり同じ台詞だな。と、挨拶もそこそこだけど、今のうちに神社に二人で参拝してくるから。夕食前には戻るよ」
実家について早々、荷物(一泊二日分の着替え程度だが)を部屋の端に放り出して、再び家を出る。これは<ヒメ>と家族が長く会話して馬脚を露すことを避けるためだ。幸い父とのファーストインプレッションも上々、あとは散歩中に体調を崩したことにしてさっさと布団に寝かせ、気分が悪いので夕食も不要と言えば、両親が必要以上に構うこともないだろう。
翌日は、女性はお神輿を担げないがお神輿に同行してわっしょいわっしょいと囃し立てるのは許されているから、囃し立てに専念させて余計な会話をさせないようにすれば良い。
うん、スタンクニキの言う通り何とかなりそう。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv6
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
汎用スキル:房中術(劣化)
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ*1
汎用スキル:会話
装備:こん棒
仲魔2:妖魔アガシオン Lv2
耐性:物理耐性、氷弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第13話 馬背神社祇園祭(2)
馬背神社は本殿が裏山を少し上った所にあり*1、社務所は山を下りた地元の公民館に併設されている。
そのため普段の神社は無人であり、小学生が山遊びのついでに境内で休んでいるか、大晦日から初日の出までの二年参りのときに焚火を監視する人がいるか、人がいるとしたらその程度である。今日は祇園祭(子供の部)なので子供がいるはずもなく、ここで里を一望しながらゆっくり日が傾くのを待つつもりだ。
今日は神社のお祭りだからなのか、注連縄にぶら下げられた
<ヒメ>と並んで二礼二拍手一礼。
『三月に出ていくと挨拶しましたが出戻りました、明日お神輿を担がせて頂きますがよろしくお願いします。それから無事覚醒できました、これも神様のおかげでしょうか、ありがとうございます。できれば<ヒメ>が人外とばれずに何事もなく終わりますように』
内心で適当に(この場合はアバウトにという意味で)報告と簡素な祈りを込め、下げていた頭を上げる。
神前から下がるついでに、以前に見つけたこの神社の異界を検分する。
「あれ、前より結界の綻びが大きいような気がするな。<ヒメ>は何かわかる?」
常人が見れば何もないところでしゃがみ込んで首をかしげる。前回は応急手当としてないよりまし程度の補修をしたはずだが、それは跡形もなくなっている。緊急ではないが、以前より注意ランクを一つ上げた方が良さそうだ。
「ほう、それを見抜くとは、此度の氏子は優秀だの」
「?! 誰だ?!」
<ヒメ>が<ヒメ>ではない。表情も声音も仕草も、<ヒメ>のはずなのにまったく違う。
「そう警戒するでない、
「げぇーーっ?!」
ショタオジ、高級式神はハッキング対策ばっちりって言ったじゃないですかーっ! 乗っ取られているんですけど?!
「案ずるでない、其方の式にいっとき憑依しているのみ。吾の氏子が使役している式といえど、
「つまり、俺が
「其方に分かりやすい表現ならそうなる。さらに言えば、其方がこの式を何とかしてくれと吾に願ったからこそ成立している」
あっ、これ源氏ニキの式神<ライコー>が源頼光と本霊通信したのと同じパターンか?*2
「そう警戒するでない。吾が忌々しい天使どもに封印され、才ある氏子たちが根切りされて以来、還暦ぶりの見込み有る氏子。別に取って食ったりせぬ」
「はぁ、では、馬背神様はいかなる御用で顕現なされたので?」
俺の腰の引けっぷりが可笑しかったのか、馬背神はくすりと笑ってからお願いという形の命令を口にした。
「其方にはこの異界を攻略して貰いたい」
「えっ?!」
「吾が天使どもに封印された後、ここは吾の庭として我の分霊が管理していたのだがな、近年の地脈の乱れ、其方にはゲートパワー増加と言う方が伝わるか? により、望まぬ野良悪魔が湧くようになって、恥ずかしながら異界ボスの座を奪われてしまった」
「ええっ?!」
「吾が結界を維持しているので今はまだ悪魔が現世に溢れることはないが、それも時間の問題よ。季節が一巡りするまでにこの異界のボスを討伐するのだ、頼んだぞ、我が氏子よ」
最後の方はこちらに分かりやすい表現に寄せてくれた*3馬背神は、言いたいことを言い終わったのか、<ヒメ>への憑依を止めて気配が去っていく。<ヒメ>の体勢ががくりと崩れたので慌てて支えると、眠りが必要ない式神のはずなのに深い眠りについているようだ。なんだろう、低レベルの式神では神降ろしに負荷が掛かったのだろうか。
とりあえずは実家に連れ帰って布団に寝かせてやらないと。熱中症とか適当な嘘ついて仮病させるつもりだったが、瓢箪から駒になってしまった。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv6
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
汎用スキル:房中術(劣化)
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ*1
汎用スキル:会話
装備:こん棒
仲魔2:妖魔アガシオン Lv2
耐性:物理耐性、氷弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第14話 馬背神社祇園祭(3)
意識を失っている<ヒメ>を担いでどうにか山道を下り、実家に戻る。霊地で修行してレベルアップした肉体強化の恩恵がなければかなり苦労したはずだが、今なら彼女一人を背負うくらいは造作もない。
母はまだ帰宅しておらず、父は腰を痛めて居間でごろごろしているので、とっとと元・自室に<ヒメ>を運び込み、客用布団を敷いて彼女を寝かせる。
改めて彼女を観察すると、特に苦しんでいるようには見えない。式神なのでそれで大丈夫かと言われると窮するが、こちらに打つ手がない以上は様子見に徹するのが得策かもしれない。馬背神もこちらを害するそぶりを見せなかったし。
彼女のことは考えてもどうにもならないので、思考を切り替えて馬背神の依頼/命令/試練について検討することにする。
今回の帰省は異界探索するつもりがなかったので装備はなし、この状態で異界に突入など自殺しに行くようなものだ。三月に異界を覗いたときは低レベルの動物霊・妖怪が多かった印象だが、ボスが交代したなら大きく様変わりしても不思議ではない。入口周辺の情報だけでもと欲を出すのも危ないだろう*1。
幸いなことに馬背神はタイムリミットを一年以内としてくれた。それまでは自分を鍛え、年末年始の帰省である異界調査をある程度して、戦闘系【俺たち】の助力も貰って春にボス攻略、というスケジュールで間に合うはずだ。
「Lv10が成長の壁と聞くので、まずはそこまでレベルアップかな…… あ、母さん帰ってきた。<ヒメ>のこと説明しなきゃ」
その後、<ヒメ>が体調不良で寝込んでいると両親に説明し、親子三人で半年ぶりの水入らずで夕食となった。
新しい職場でやっていけているのか、<ヒメ>との出会いは、などあれこれ聞かれたが、オカルト業界と無関係のカバーストーリーをスタンクニキに相談するとき一緒に練り上げておいたので、やり過ごせた。
なお、ディアの力を込めたマッサージは両親に好評で、特に父はギックリ腰の具合が良くなったと大喜びだ。スタンクニキの霊能マッサージが女性を引き付ける理由が垣間見えた。
*
翌朝、目を覚ますと<ヒメ>が俺のそばに佇んでいた。良かった、目を覚ましたのか。
「おはよう、<ヒメ>」
「おはようございます、主様」
あれ、会話と仕草と表情の連動がめっちゃスムーズなんだけど。搭載AIが大規模バージョンアップして、今なら長時間会話しても、常識知らずとか話のピントが合わないとか思われることはあっても、人間ではないと疑われることはないんじゃないか?
「馬背神から知恵と力を授けていただきましたの。貴方の愛馬として今後ともよろしくお願いしますわ」
可愛いこと言ってくれる。しかしやる気満々な表情とガッツポーズから可愛いというよりは頼もしいという気持ちが先に来る。ここら辺はパワーファイター型でデザインされたそのままだ。
「それから【食事】できるようになりましたわ」
「おぉ、周囲に人外とばれないようにと願ったけど、ここまでフォローしてくれるのか。馬背神には素直に感謝だ」
「これ以上の加護は、異界攻略してボスの座を取り戻すまで頂けませんの」
「手付の報酬としては十分だよ」
<ヒメ>の頭を軽く撫でてから起き上がる。今日は快晴、良い祭り日和になりそうだ。
*
馬背神社の例大祭は宴会から始まる。
正午に公民館兼社務所に集合し、広間でビール、漬物、お握り、モツ煮が振舞われ、まずは男衆の酔っぱらいを製造する。
俺は<ヒメ>と共に公民館に行き、皆から質問攻めにあった。昨日の今日で噂が広まるのが本当に早い。
<ヒメ>はいつの間にマスターしていたのか、宴会スキル【ビールを注いで回る】で一躍皆の人気者になっていた。その後、うら若き乙女と思えぬ食欲でお握りとモツ煮をパクパクデスワーしていたが、酔っぱらいの皆さんはそれで大いに盛り上がっていたようだ。
俺は嫉妬から執拗に絡んでくる元同級生を適当にあしらった後、トイレに行って一息つくことにした。すると、俺と連れ小便するかのように一人の男性が後を追いかけてきた。
「宮下のおじさん、今日は父の代わりに頑張ります」
ご近所の宮下さん、かつてこの地が浦里村と呼ばれていたころの村長の家系で、市会議員でありこの地域の顔役、そして馬背神社の氏子総代を務めている。この人の娘さんが兄と小学校の同級生だったこともあり、俺が中学生くらいまでは家族ぐるみで仲良くしてた。俺が高校生になってからは【覚醒修行】に力を入れたこともあり、顔を合わせる機会も減ってしまったのだが。
そんな宮下のおじさんだが、しかめ面を崩さずに小声でぼそっと問いかけてきた。
「維茂君、少し見ないうちに人外の存在を使役するようになったんだね」
「あ。あー…… おじさんも分かるんですね」
この地に霊能者はいないと思い込んで油断してた。霊能者ならガイア連合製高級式神を人間ではないと見破ることもできよう。おじさん相手に下手に誤魔化すよりは、正直にゲロった方がマシかも知れない。
「実は高校卒業直後に【覚醒】しまして。今は【ガイア連合】所属の霊能者見習いという立場です」
「ガイア連合…… 今一番勢いのある組織だね」
「親父が腰をやったのでお神輿担ぎの代理として急遽呼び出されたんですが、何の偶然か馬背神から神託を頂きまして。一年以内にあの異界を攻略しろって」
「……これ以上は社務所で話そう、ついてきて」
おじさんに従って公民館の廊下を渡り社務所の小部屋に入る。
「おじさんはいわゆる、地元の霊能組織というやつに所属してるんですか?」
「そうだ、『馬背神社連』という名だが、戦後のごたごたで資料は散逸するし有力な血筋は途絶えるしで、今は私一人という見る影もない状態さ」
おじさんの霊能力ポテンシャルをざっと観察したところ、Lv1で本当に最低限という感じ。地方の霊能力者がロバに例えられ、黒札俺達がサラブレッドに例えられるのも納得できる。
「私も神様から啓示を頂いたのだが、私の才能では夢でぼんやりしたイメージを受け取るのが精いっぱいでね。神社の異界が綻んでいると教えられても、修復するだけの知識も力もない。娘を生贄にすればとも思ったが、生贄の儀式すらやり方を知らなくてね」
「生贄は駄目です。おじさんが変に思い詰めたら、悪戯好きの
「……やっぱりそうか、誘惑に乗らなくてよかった」
おいおい、俺の地元でニャルが策謀を巡らせていたとか、洒落にならん。これはカヲル君に通報案件。
「とにかく、有望な霊能力者が氏子に生まれたことは目出度い。神様が維茂君へ異界を攻略するよう試練を課したなら、私はサポートに喜んで回ろう」
「それ、馬背神も俺のこと氏子と呼んだんですけど、俺はもう親元から独立して山梨に移住した身、もう氏子ではないのでは?」
「ははは、何を言ってるんだ。君を逃がすわけないだろ? なに、無理強いして本気で縁切りされては元も子もない、馬背神社連とガイア連合の二重所属で構わないし、なんなら
「……それについては
黒札俺たちが地元霊能組織に取り込まれるパターンって、女性を宛がって結婚に持ち込むとか弟子をつけて人情に付けこむとか人の縁で縛るのが主流と聞いていたけど。地縁でがっつり縛られるのは珍しい部類だろうか。
生まれ育ったこの地が嫌いというわけじゃないし、
*
馬背神社のお神輿は、酔っぱらった男衆が担ぐ。伝統である。
長年の課題の解決に糸口が見えた宮下のおじさんは、めっちゃハイになってお神輿を先導している。サッカーやバレーボールの主審が吹くホイッスルをピッピッと鳴らし、それが移動ペースを作るのだ。
「わーっしょい! わーーっっしょい!」
お神輿の担ぎ手と、お神輿についていく女子供が、威勢良い掛け声で囃し立てる。これも伝統である。
酔っぱらいが担ぐので、旧・浦里村の地区を練り歩くお神輿そのものが右へ左へとふらふら千鳥足。他のお祭りはいざ知らず、馬背神社の祇園祭では、お神輿を真っ直ぐ運ぶのではなく左右にふらふらと道路の幅いっぱいまで使うのが作法なのだ。そのため道路の端、これ以上は側溝に落ちるというところで踏ん張ってお神輿を逆ベクトルに転換させるのにパワーが必要で、担ぎ手はかなり重労働。担ぎ手は頻繁に入れ替わって休憩を取るのだが、俺は若いんだからという理由でなかなか交代させてもらえなかった。
またお神輿についていく女子供は、全長2mほどもある巨大団扇を使って担ぎ手に風を送るのが伝統だ。巨大団扇も重量があるので扇ぎ手も頻繁に交代するのだが、これは<ヒメ>が大活躍した。
午後一時過ぎにお神輿が出発し、夏の炎天下を三時間ほど練り歩いて公民館兼社務所に戻ったらお祭り終了。公民館でビールを飲みなおすストロングスタイルな人もいるが、俺は素直に実家へ戻り、シャワーを浴びたら山梨へトンボ返りだ。
帰りの電車の中では疲労でうつらうつらしながら、帰省と馬背神のことをぼんやり思い返す。
今日のお祭りで生じたマグは、馬背神にとって美味いものになっただろうか。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv6
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ
汎用スキル:房中術(劣化)
称号:馬背神の加護(微)*1
装備:ソニックナイフ、退魔銃、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ、(デモニカ)
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ*2
汎用スキル:会話、食事
装備:こん棒
仲魔2:妖魔アガシオン Lv2
耐性:物理耐性、氷弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー
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第15話 レベルアップ修行(3)
実家で産土神との遭遇を終えて山梨の星霊神社に戻ってから、真っ先に事務のちひろさんに報告・相談した。
俺の所属については、あちらの規模が小さく実質乗っ取りになることも承知しているようなので、
馬背神からの異界攻略の試練に関しては、地方霊能組織から手に負えなくなった異界の攻略依頼を【俺たち】が請けることはさほど珍しいことではないようで、猶予が一年近くあるのでその間に強くなりましょうとさほど役に立たないアドバイスしか貰えなかった。
「戦力の安売りは他の黒札さんにも迷惑かけるから、異界攻略を依頼されたら謝礼をたっぷり搾り取るのが通例ですが…… まぁ
「半分身内ですから搾り取るのは勘弁してください」
「大丈夫ですよ、Lv1が一人だけのほとんど看板降ろしてる組織なんて、ロクなもの出ませんから絞っても意味ないです」
そういうブラックジョークを言うから、一部で守銭奴とか呼ばれるんですよ、ちひろさん。
*
修行用ダンジョン低層に潜ってすぐに、<ヒメ>が今までより大幅に戦力増強していると分かった。
単純なパワーやスピードは前と変わらないが、馬背神の恩恵で思考AIがバージョンアップした結果、とっさの判断がワンテンポ速くなった。また汎用スキル【食事】を得て人としての概念がより強くなりディアの効きが良くなった*1ことも上げられる。
ショタオジ謹製のレンタル式神を悪く言うつもりはないが、やはり黒札専用高級式神はモノが違う*2。
これなら【地霊ノッカー】を相手にするのは卒業して、狩場をもう少し奥へ移動しても大丈夫だろう。
ダンジョンアタックだけでなく、アイテム作成とミナミィネキの個人指導もバランス良く。以前の成長方針は変わらぬまま、合間に<ヒメ>を可愛がったり(意味深)、<ヒメ>がミナミィネキへの嫉妬心を見せたと思ったら二人纏めてミナミィネキに指導(意味深)されたり、ゴールデンウィーク前から教習所に通っていたが無事に普通運転免許を取得できたり。
ダンジョン外の修行では陰陽和合に力をいれた結果、気の循環ができるようになり、汎用スキル【房中術(劣化)】から劣化が取れた。それに連動して<ヒメ>も新たな汎用スキルを取得し、更に連動して【性交】のスキルカードが作成できるようになった。
今までスキルカード作成を一手に引き受けていたミナミィネキは負担軽減に大喜びし、俺に『スケベ部幹部』と名乗る許しを与えてくれたのだけど…… 幹部を名乗る意味も特典もないので丁重に辞退した。
スキルカード作成により稼いだぶんは全部ガチャにつぎ込んで<ヒメ>用の装備とスキルカードを揃え、さらなるダンジョンアタックに備える。
そんなこんなで九月も終わるころには、俺はLv9、<ヒメ>はLv5、アガシオンもLv3までレベルアップした。アガシオンが高級式神にレベルアップ速度で負けるのは仕方ないところだが、アガシオンが【念動】を取得したためアイテム使用(主にデビルポイズンやデビルスリープ)という戦闘の幅が広がったのは良いことだ。
*
星霊神社の修行用異界低層の最深部は、平均Lv10~15*3の【邪鬼オーク】【魔獣カーシー】【地霊ファハン】【夜魔キャク】【妖魔キンナリー】などが出現する。ここら辺になると敵も全体攻撃や状態異常など使ってくるので、高級式神の物理耐性に任せたゴリ押しが通用しにくくなってくる。安全重視の黒札だとそもそもここに来ないか、黒札複数名でパーティを組んでの探索となる。
そんな場所を俺は狩場と定め、単独パーティで挑んでいる。理由はいくつかあるが、修行用異界低層には安全地帯(通称セーブポイント)が用意されているのが大きい。
「撤退! てったーいっ!」
カーシーと戦いが終わった直後、ちょっと気を抜いたところでファハンに遭遇し、出会い頭に【マハーブフ】を貰ってパーティ半壊。俺と<ヒメ>はともかく、アガシオンは氷結弱点なのでマハーブフ一発でHPが危険水域に落ち込む。ここの狩場は少し格上の敵が出るので、アガシオンの【エネミーソナー】で敵を検知できないとマジで死ぬ。俺はアガシオンを失わないようにディアを掛けながら、<ヒメ>を
「な、何とか逃げ切れた……」
這う這うの体で安全地帯に逃げ込み、無様に寝転がって荒い呼吸を深呼吸で整える。
気持ちが落ち着いたところで改めてアガシオンにディアを掛け、とりあえずの立て直しが出来たことを確認してから、先ほどの反省を始める。
「戦闘終了時に気を抜かない、それができていない」
「ごめんなさい主様、私が不甲斐ないばかりに……」
「いや、あれは俺が悪いな。カーシーとの戦闘の趨勢が決まった時点でアガシオンを警戒に回すべきだったし、あの気の抜きようでは、アガシオンからの警告があってもまともに受けられなかっただろう」
アガシオンは【テレパシー】でエネミーソナーの結果を教えてくれるが、その対象は契約者である俺だけだ。
「ファハンやキンナリーを相手にするのは分が悪いので、場所を変えますか?」
「うーん、修行場中層に挑むにはまだ早いかな。
「ガイアカレーを食べるほど消耗してませんわ。主様のお側におります」
「そっか」
俺は安全地帯に持ち込んだ荷物の中からペットボトルの水を取り出して喉を潤し、タオルで顔の汗を拭ってから、地面に腰を下ろし座禅を組んだ。目をつぶり、呼吸をゆっくり大きく、意識は丹田に。丹田から発する気エネルギーはまるで温泉の湯面から湯気が発するかのように。その湯気を集め、円を描くように練る。
【チャクラウォーク(劣化)】、俺が新しく覚えたスキルだ。本来は歩くたびにMPが回復するスキルだが、気の循環を目標として房中術を収めた俺は、歩く代わりに瞑想することでMPを回復する。
この修行用異界低層には、ショタオジの好意で【エストマ】が常に掛かっている安全地帯が設置されている。本来ならこの安全地帯は一時的な休憩場所でしかないのだが、俺はチャクラウォーク(劣化)とディアが使えるので継戦能力が落ちない。
安全地帯を拠点にして、エネミーソナーで敵を選別して少し格上の敵に挑み、戦闘が終わったらすぐに安全地帯に戻って戦力再編する。なんと効率の良い稼ぎか!
とはいえ、安全地帯が存在することと万が一のレスキューサービスが受けられる、修行用異界低層ならではの稼ぎ方なので、他所では通用しないのだが。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv9
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(微)*2、スケベ部幹部*3
装備:ソニックナイフ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、足軽具足一式、八尺瓊勾玉レプリカ
予備装備:デモニカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、ハイレグアーマー、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン Lv3
耐性:物理耐性、氷結弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動
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第16話 馬背神社異界探索
修行用異界低層の最深部でやや格上相手と戦っているうちに、Lv10にレベルアップした。
【黒札俺たち】にはだいたいLv10を境にしたレベルアップの壁というものがあり、自身は引きこもりで式神に修行用異界へ行かせるだけでは、この壁で成長が頭打ちになる。そのためこの壁を乗り越えた黒札はある程度の修羅場を潜ったとみなされ仲間内からの扱いも変わる。
俺もミナミィネキ、スタンクニキ、ドクオニキらスケベ部の有志から祝いの言葉とプレゼントを貰った。大体は消耗品かエログッズだったが、ミナミィネキから頂いた封魔管(脆)は急速な戦力増強を欲している俺にとってとても有難いものだった。やはりミナミィネキは気配りできる佳い女!
なお、封魔管を使う悪魔との契約は、COMPと異なり悪魔との契約をがっちがちに縛るものではないので、悪魔の機嫌次第で使役手が襲われることが普通にある。ショタオジはそれを嫌ってCOMP推奨しているが、現時点でCOMPは一部の黒札が開発中であり黒札一般にはまだ出回っていない*1。ミナミィネキからは、手に負えないと思ったら
*
十月後半になり、スキルカード作成とダンジョンアタックで稼いだ分で装備を充実させ、いよいよ馬背神社の異界探索に着手することにした。まずは異界の入口近辺を探索し、出現する悪魔や地形マップの情報を揃えることが今回の目標で、ボス討伐はよほどボスが弱くない限り行わない。
レンタカーでミニバンを借りて装備品や消耗品を積み込み、山梨県から長野県までドライブ。親にはオカルト関係のことを伏せているので、今回は実家には顔を出さない。そのため宿を上田市別所温泉に取った。
この別所温泉は馬背神社のある浦野地区からは峠一つ越えた所にあり、自動車で15分の距離である。また別所温泉は霊地であり、共同浴場『大師湯』には平安時代に北向観音を建立した円仁慈覚大師が好んで入浴した、安楽寺の木像が夜な夜な入浴した、といった伝説が残っている。
温泉宿で<ヒメ>といちゃいちゃして英気を養った後、日が傾くころに馬背神社に向かう。さすがにオカルト装備をフルセット着用して白昼堂々と歩くわけにはいかない。
現地に到着したらまずは神社に参拝し、以前と同じようにお神酒をお供え。その後、いったんミニバンに戻って武器防具を着用し、人目を避け宵闇に紛れて異界入口へと向かう。
「平田君、なんというか、こう、近代的な装備だね」
「これは【デモニカ】です、聞いたことありませんか?」
地元霊能組織から見届け人として宮下のおじさんが来たので挨拶する。
今回デモニカを持ち出したのは、【マッパー】と【デビルアナライズ】のためだ。それを別手段で解決できるなら、こんなクソ重いスーツなど着用しないのだがな……
「今日は入口周辺の探索に留めるつもりですが、丸一日経過しても俺達が戻ってこないようなら、【ガイア連合】に連絡してください」
「分かった、武運を祈る」
俺は<ヒメ>と視線を合わせ、互いに軽く頷いてから馬背神社の異界へと突入した。
*
「鳥居が異界出口の目印か、分かりやすい」
平原が広がるなか、ポツンと朱塗りの鳥居が立っている。程よく目立つので帰り道に困ることはないだろう。
暑くもなく寒くもなく、強いて挙げるならやや風が強いか。空は赤いが夕焼けとは違うようだ。地震の前兆で異常な空模様、という話をどこかで聞いたような気がするが、それに近いかも知れない。
異界の中にはダークゾーンや毒沼といった行動を制限されるものもあると聞いていたが、今のところその心配はなさそうだ。
「三月に覗き込んだときは、もっと雑多な低級動物霊がいたんだが、あまり見かけないな」
「いいえ、こちらを警戒しているだけで狐狸や犬猫などの動物霊はいますわ」
「<ヒメ>は眼が良いな、こっちに襲い掛かってくる雰囲気はあるかい?」
「こちらから手出ししなければ問題ないでしょう」
アガシオンの【エネミーソナー】とデモニカのマッパーを併用しながら周囲を見回す。
「オープンなフィールドだから、どこから手を付けるべきかな。ざっと1km四方はありそうだ」
「あっちに川が見えますわ、行ってみましょう」
「そうだな、先行偵察を頼むぞ、アガシオン」
ふよふよと宙を浮くアガシオンの10mほど後ろを歩き、まずは全体の地形を把握するところから始める。
*
馬背神社異界地形図
ときにはアガシオンに精いっぱい上空まで上がってもらい、三時間ほどで馬背神社異界の大まかな地形図が完成した。
北と南に山があり、中央の平地は西がやや標高が高く、東はやや低い。平地の中央と南をそれぞれ西から東へと川が流れ、二本の川は合流して北東へと流れていく。
真ん中の十字マークが異界の出入り口である鳥居のあるところ、それを中心として半径600mほどの円(黄色線)を描いた内がこの異界の行動可能な範囲だ。異界の端は見えない壁で遮られている。
道中、こちらを襲ってきたの悪魔は大別して二種類に分けられる。
一つは【餓鬼】【亡者】【鬼】といった地獄の住人。もう一つが地獄の陰気に侵されて狂った動物霊。どちらもLvは10未満で、多数の群れでなければ今の俺達なら苦戦することはない。
「元は馬背神の庭だって言ってたよな、ここ。ボスの座を奪い取った悪魔って、地獄の住人かな?」
「その可能性は高いと思います」
「ボスの居場所は山を少し上ったとこ、マップで赤い点を置いた所だろう」
「自信満々な物言いですが、根拠があるのですか?」
「ああ、この地形は現実の地形に相似している。出入り口の鳥居が現実の社務所に相当するから、現実の馬背神社の場所に何かあると判断した」
慎重に山を進むと、想像通りの場所にボスがいた。
向こうはこちらを待ち構えるようで、突進してきていきなり戦闘になることは避けられた。ならば存分にアナライズしてあげようじゃないか。
「
「Lv15なら修練場で何度も戦いましたが、やりますの?」
「撤退だ。ここは修練場ではないし、取り巻きもいる」
馬頭鬼は撤退する俺達を追ってこなかった。少人数の俺達を囮と判断したのかもしれない。
俺達はそのまま異界から脱出して、今回の異界探索ミッションは終了した。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv10
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(微)*2、スケベ部幹部*3
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、足軽具足一式、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
予備装備:ソニックナイフ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン Lv4
耐性:物理耐性、氷結弱点
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動
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第17話 異界攻略に向けて
馬背神社異界の本格調査を終えて、本腰を入れて攻略プランを練ることにした。
異界ボスは馬頭鬼、アナライズ結果はLv15で破魔耐性、呪殺耐性、氷結弱点、火炎反射。攻撃手段は物理と、火炎吸収を持つのでアギラオかマハラギを使うと推測される*1。<ヒメ>が物理耐性と火炎耐性を持つので、<ヒメ>がタンク役をして俺とアガシオンがブフストーン系アイテムで削る戦法になるだろう。
取り巻きは【妖鬼オニ】たちでLvは一桁後半、物理耐性、雷撃弱点、破魔弱点*2。物理耐性があるのでちまちま削るのではなく、【退魔銃】の破魔属性弾で先に大きく削ってから物理攻撃で止めを刺すのが良さそうだ。
それを踏まえてパーティの戦力増強方針だが、属性攻撃手段、できるなら氷結系と破魔系が欲しい。アガシオンの【ジオ】と俺の退魔銃、後はアイテムで補えるが、銃弾と攻撃アイテムはお値段が高くつくので可能なら自前で使えるようになりたい。また全体攻撃手段もそろそろ欲しい。<ヒメ>が【暴れまくり】を覚えるか、アガシオンのジオが【マハジオ】に進化してくれると嬉しいが、直近で覚えてくれるかどうかは分からない。
防御はタンク役の<ヒメ>をメインに強化しているが、現時点で手の届く店売り防具は購入済みだ(黒札技術部謹製のハイエンド装備にはまだ手が届かない)。想定される敵から逆算して、俺の防具は氷結弱点がついてもいいから火炎耐性のあるものを用意したい。後は、<ヒメ>に持たせる耐性はいくらあっても良いので、【衝撃耐性】【電撃耐性】【破魔耐性】のスキルカードは優先的に購入したい。
なお、メガテンの女性用防具で序盤から使えるといえば定番のハイレグアーマー。ガイア連合技術部の皆さんは浪漫を分かっているのでガイア連合の黒札向け売店には普通に売っていた。
ただし購入して<ヒメ>に着用させたところ、ミ○ノ○ル○ン勝負服を想起してついで前世でチョコボンガチャ爆死した辛い記憶まで連想してしまった。俺の精神安定を理由にハイレグアーマーは封印することにして、代わりに赤色を基調としたオフショルダーのパーティドレス風衣装を技術部に特注した。防御力自体はハイレグアーマーとさほど変わりない性能だが、特注だけあって将来的には耐性付与などのカスタマイズも出来るようになる見込みだ。
こうしてみると、【アガシオン】の力不足が目に付く。いや、潜在能力がバカ高い黒札俺たちと、その俺たちの血肉を素材にした高級式神が飛び抜けて高性能なだけで、アガシオンが悪いわけではない。パーティ内で貴重な属性アタッカーであり偵察役とアイテム係もこなし、物理耐性を生かして壁役もできる。ただレベルアップ速度が俺と高級式神に追い付いていないだけだ。
うーん、アガシオンに固有名を名づけたら俺との霊的結びつきが強くなって、改善されたりしないだろうか。<ヒメ>入手前からの付き合いだし、俺も結構な愛着持っているから、命名しよう。
確か、源氏ニキはアガシオンの後ろ部分から<シオン>と命名したはずだ。じゃあ俺は前の部分から…… アガ…… アグ…… アグネス、うん、アグネスが良さそうだ*3。よし、アガシオン、お前の名前は今から<アグネス>だ。これからもよろしくな。
最後にガチャで装備を揃えることについて。最初期は俺のレベルが低く、ハズレ品がなく全部使える+極稀に大当たりという回し得状態だったからガチャの世話になったけど。今は俺のレベルもそれなりに上がりハズレ品の割合が増えたので、店売り装備を一通り揃えるまではガチャ禁している。
なお毎日1回の割引単発ガチャはコスパが良いのでガチャ禁対象外です。
*
ミナミィネキの個人指導は【房中術】が取得できた時点でいったん終了となったので、ショタオジの『適性無くても【アギ】【ムド】【ハマ】などは習得しやすい方だよ』*4という言葉を信じて【ハマ】取得修行に切り替えた。自分の成長パターンは回復・状態異常解除とクラシックRPGの僧侶タイプなので、攻撃魔法で一番取得しやすいのはハマと信じてのことだ。
しかし、レベル1桁前半の頃はレベルアップごとに何らかのスキルを得ていたが、1桁後半になって以降はスキルを得る頻度が下がっている。ドクオニキに相談したらそれは珍しくないと返されたが、俺の成長はこれで頭打ちなのかという不安が常に付きまとう。自分が状態異常解除に適性があるなら、【デクンダ】からカジャ・ンダ系を覚えられれば最高で、そうでなくても【パララディ】【ペトラディ】など覚えられるはずなのだが。
秋が深まり季節が冬、冬至を少し過ぎたころ。いつものように星霊神社の修行用異界低層・最深部を狩場とし、もう何度やられたかも数えていない敵の【ブフーラ】先制攻撃によるパーティ半壊とそこからの立て直しにすっかり慣れたころ。
アガシオン<アグネス>がレベルアップして【氷結弱点】が消えた。<アグネス>、お前はやればできる子だと信じてたよ!*5
弱点が消えたことで低層最深部の狩りがぐっと楽になり、適性狩場として修行用異界中層に移動することにする。
だがその前に、馬背神社異界の攻略を再開だ。敵が二か月前にアナライズしてから変化ないようならば、助っ人を頼まずに俺達だけでボスを撃破できるだけの自信も付いた。<ヒメ>とのクリスマスデート先が異界というのはちょっと格好付かないが、ボスを討伐して馬背神から貰える追加報酬は最高のクリスマスプレゼントになるだろうし。
え、取らぬ狸の皮算用などせずに兜の緒を締めておけって? ごもっとも。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv13
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(微)*2、スケベ部幹部*3
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*4、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
予備装備:ソニックナイフ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、精神状態異常無効、破魔耐性、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*5、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv6
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動
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第18話 馬背神社異界攻略・伝承再現
十二月二十日、俺と<ヒメ>は上田市別所温泉に再び宿泊した。年末年始は馬背神社にとっても人の出入りが多くなる時期なので、オカルト関連で人目に付かないようにするため、早めの決行にしたのだ。
「<ヒメ>、戦勝祈願で北向観音に参拝に行くから、武器の入ったケースを持ってきて」
「馬背神以外に、戦勝祈願…… ですか?」
<ヒメ>がキョトンとした顔をしている。こういう表情も可愛いね。
「ああ、この前異界に潜ったとき、鬼や餓鬼が出てきただろ。北向観音の本尊は千手観音、餓鬼道を摂化するとも地獄の苦悩を済度するとも言われている」
「なるほど、千手観音様に助力を請う理由があるのですね」
「他にも理由がある。馬背神社異界が地獄に侵食されている理由だが、『日本霊異記』第二十二話に、男が死後地獄に落ちるが生前に法華経を写経した徳により土葬から生き返った話があってな。それが信濃国小県郡の跡目の里という場所なんだが、今でいう青木村当郷地区、昭和32年に浦里村が二つに割れる前は当郷地区も馬背神社の守護範囲だった」
「それは、馬背神の守護範囲に地獄とつながる道があると?!」
「北向観音は天台宗の寺、天台宗は最澄が法華経を至上の教えとしたくらいだ。納経の代わりにお札を収めるだけでもご利益があるだろう」
「分かりましたわ! 行きましょう、主様!」
「もう一つ、北向観音と鬼退治には縁がある」
「まだあるんですの?!」
「平安時代、
「
「俺は平氏の血を引いていないし、漢字は同じでも読みが違うけどな。そういや親父にどのような意図でこの名をつけたのか、聞いてないなぁ」
──後から振り返れば、フラグを積み重ねてるって感じの会話だった。
*
前回と同じく夕闇に紛れて馬背神社に赴く。今回は奮発して大吟醸の一升瓶をお神酒としてお供えし、いざ異界へ突入というところで見届け人の宮下のおじさんが彼の娘さんと一緒にやってきた。
「こんばんは、おじさん。それから知佳さん、お久しぶりです」
「維茂君も中学生のときと見違えるわ、こんな美人な彼女まで連れちゃって」
「あはは、照れますね。おじさん、知佳さんをこの場に連れてきたってことは」
「ああ、未覚醒だが私の後継者として知識は伝えてある。今後のことを考えると早めに顔合わせした方が良いと思ってね」
「【ガイア連合】の式神って凄いのね、触っても人間と見分けつかない。私、式神なんてせいぜい一反木綿みたいな姿してると思ってた」
「そのような姿の式神もありますよ。【ガイア連合】には技術力を持った馬鹿が複数いましてね、そいつらが馬鹿やった結果です」
知佳さんは俺と<ヒメ>を交互に見やり、ふぅとため息を一つついた。
彼女は俺の兄と小学校の同級生だったので、ご近所付き合いで小さいころから世話になった人だが、彼女も霊能者の家系だったのか…… 父親と同じで霊能の才能はロバと評される程度だけど。
「今回の突入では、なるべくボス討伐を目指します。俺達が逃げ帰るようであれば、ガイア連合から助っ人を募って三月ころに再突入のつもりです。万が一、俺達が戻ってこなかったときは」
「そのときはこちらがガイア連合に連絡する、だね。そうならないよう武運を祈るよ」
「ありがとうございます、行ってきます」
俺と姫は、軽く会釈してから異界へと突入した。
*
馬背神社異界の中は、二か月前の前回突入時と変わりなかった。ただ、今回は俺達を出迎える存在がいた。
「ブルルッ」
「馬か。サラブレッド…… じゃないな、大きさとしてはポニーの部類、日本在来種の木曽馬か?」
ずいぶんと大人しい。俺がそっと手を伸ばして首筋を軽く撫でたが、俺にされるがままだ。
「主様、ただの馬ではありませんよ、私の先輩です」
「<ヒメ>の先輩って、あっ、異界ボスの座を追われた馬背神の分霊か?!」
「ブルルルッ」
「『失礼な!』だそうです」
「いや、通訳しなくても今のは分かる。無遠慮な物言いでした、すいません」
頭を下げて謝罪したところ、馬背神(分霊)は許してくれた。しかし、【アナライズ】するとLv5しかないよ、この馬。ボスの座を追われたとき、一緒に力も失ったのだろう。
「ブルルッ」
「ボス討伐を支援してくださるそうです! 心強いですね!」
「ああ、今日は雑魚討伐は行わず、真っ直ぐボスの所に直行して討伐の予定だからな、じゃあ行くよ」
俺達はRPGで魔王城に単騎乗り込む勇者パーティのごとく、いうなればボス暗殺計画を遂行するのだ。余計な消耗はしないでなるべく忍び込む方針で俺達は進む。
*
「北向観音の加護、マジ凄い」
道中で鬼が何度か出たのだが、俺の獲物である小烏丸レプリカが北向観音の加護を得て破魔の力を宿している。一緒に参拝した<ヒメ>の獲物には、俺のには劣るがこちらも破魔の力が宿っている。ゲーム的表現なら巴の薙刀+1と小烏丸レプリカ+5くらいだが、小烏丸レプリカは小刀なので基礎ダメージでは薙刀に勝てず、最終的に与えるダメージは同じくらいだ。
それでもばっさばっさと敵を薙ぎ倒し、長い石段を登って馬背神社境内に該当する山中の広場に到着すると。そこに待ち構えていたのは馬頭鬼ではなかった。
「よくぞ参った余五将軍*1、此度こそ
十二単を纏った美女がいるんですが? アナライズすると【鬼女紅葉】って名前なんですけど?
Lv20で物理耐性、破魔弱点、呪殺無効。馬頭鬼と耐性違って用意したブフストーンが無駄になったんですけど?
「ふふふ、妾の美しさに声も出ぬか、
なんだよ、源氏ニキの酒呑童子討伐と同じ、伝承再現かよ! というか、源氏ニキの話を後追いしまくって恥ずかしくないのか作者!*2
「山中歩き詰めでさぞ疲れたであろう、まずは持て成してやろうぞ。酒でも飲んで喉を潤すが好い── 『夢ばし覚まし給ふなよ』」
「【パトラ】!」
間一髪、【ドルミナー】を弾いたのは幾度となく使ってこの身に染み付いた状態異常対策スキルだった。
「くそっ、<ヒメ>は前に出てタンク、<アグネス>はデビルポイズンとデビルスリープ、出し惜しみなし!」
馬背神(分霊)は戦力として当てにならないし、連携訓練もしたことないので指示は無し。
「我が名は
どこかで読んだ時代劇小説の一部を使った下手くそな名乗りを上げると、鬼女紅葉は牡丹の大輪のような顔から一変、般若になった。
*
サイゲームスの二次創作ガイドラインに従い、暴力的シーンはカット。
<ヒメ>の活躍シーンは各自で脳内補完していただくようお願いします。
*
「勝った……」
【鬼女紅葉】の主な攻撃手段は物理、マハラギ、ディア、ドルミナー。俺と<ヒメ>はどちらも攻撃耐性と精神異常対策があるし、また鬼女紅葉は物理耐性、破魔弱点なので物理攻撃主体のこちらもダメージを与えづらいのだが、北向観音の加護を得た破魔武器が特攻となり、Lv20 vs Lv13&10という戦いを辛くも勝利できた。
なお<アグネス>は早々にマハラギで焼かれてHPが危険水域に入ったので、戦力外通告して装身具に戻した。やはりLv6ではLv20を相手にするのは無理だった。
「おのれ、またしても、またしても──」
倒れ伏した鬼女紅葉が苦悶の表情で呪いの言葉を吐こうとしたが、馬の姿の馬背神(分霊)が鬼女紅葉を踏みつぶして終わらせた。
「勝つのは<ヒメ>、当然の結果ですわーーーっ!!」
<ヒメ>が勝利の雄たけびを挙げている。なお残念ながらスキルではない。
俺は疲労でその場にへたり込み、装身具に戻した<アグネス>を再び出すのが精いっぱい。
「ブルッブルルッ」
馬背神(分霊)は鬼女紅葉の遺骸を丁寧に踏み砕き、マグネタイトに戻して吸収している。
俺はそれをぼんやり見ながら、異界ボス攻略の試練を達成したことにようやく実感が湧いてきた。
「ああ、勝てたんだな──」
「うむ、よくぞ試練を乗り越えた、平田維茂。我が氏子よ」
いつぞやのように馬背神が<ヒメ>に憑依して発言しているなと思いながら視線を向けると、<ヒメ>が鞍も手綱もない裸馬に騎乗している。おいおい、同じ分霊同士で人馬一体状態かよ。いや、接触することで分霊同士の通信負荷を低くするとか理由があるのだろうけど、騎乗する必要あるのか。
「其方には褒美をやろう」
「あ、ありがとうございます」
褒美か。絵に描いた餅になるからと今まで具体的に何かを貰うと意識したことなかったんだよな。しかし、馬の権能を持つ馬背神から頂けるとなると── 馬、馬ねぇ。人よりも速く移動できて大量に荷物を運べる── ああ、そうか。
俺は【トラポート】を覚えた! <ヒメ>は【勝利の小息吹】を覚えた!
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv13
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
予備装備:ソニックナイフ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、精神状態異常無効、呪殺無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv6
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動
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第19話 伝承再現・おかわり
しばしの休憩時間も終わり、俺たちはこの異界を出ることにした。
馬背神からは、年に二回はこの異界の雑魚掃除を行うよう指示があったが、それは大した労力ではないので了承した。
異界から現世へと戻るときにふと空を見上げると、赤く染まっていた空の色が青に変わっていた。
この異界は正常に戻った、そう予感させる青空に、大きく安堵のため息が自然に出た。
「何だかんだで苦労もあったけど、終わり良ければ全て良しってか。<ヒメ>が居てくれて本当に良かった」
「主様のお役に立てることが私の喜びですわ」
「……ありがとうね、さ、戻ろうか」
*
現世に戻った俺たちは、宮下さんに討伐成功の報告をした後、別所温泉の宿に戻った。
疲労困憊なのでさっさと布団に潜り込んで疲れを癒すはずだったのだが。
「討伐お見事でした」
「はぁ、あ、加護ありがとうございます。あれが無ければ鬼女紅葉に勝てませんでした」
「それは重畳。温泉も気に入ってくれたようですね、もし貴方が引き続きこの地に拠点を持つというなら歓迎しますよ」
北向観音様が俺の夢に現れ、褒めてくれるのはともかく。え、勧誘されてる?
「私の氏子にコナかけるのは禁止です!」
「まあまあ、同じ仏法の守護神*1として、隣地区とも仲良くすべきです」
あ、夢の中に馬背神が乱入して来た。とはいえ北向観音様も馬耳東風とばかりに受け流している。
「そうじゃ、隣地区とも仲良くするなら、同じ国津神同士でえぇじゃろ」
新たに夢に乱入してきたのは、腕の長い老人と脚の長い老人の二人組。これは生島足島神社の祭神である生島神・足島神の二柱ですねぇ。
「同じ国津神というなら、祖父神に当たり神社に合祀されている吾が先であろう」
今度は諏訪大社の建御名方富命ですか。あーもう滅茶苦茶だよ、人の夢の中で喧嘩しないで貰えます?
「よう
その
「俺は諏訪神の子、馬背神は諏訪神の孫だし、諏訪一族ってことでよろしくな。どうだい、『スケベ部』なんて称号持ってるんだし、俺なんかぴったりだろ?」
あーもう滅茶苦茶だよ(60秒ぶり二回目)。
高位の霊能者は複数の神格から勧誘されることがあるって聞いたけど、体験するとウザいことこの上ない。
*
「……じ様、主様! 起きてくださいまし、緊急事態です!」
俺が夢の中で複数神格からの勧誘合戦に閉口していたとき、<ヒメ>が焦って俺を起こそうとしてきた。ナイスタイミングでのアシスト、ありがとう。
「すいません、現世に呼ばれているので先に戻ります、あと俺は馬背神の氏子ですんで」
そう言い残して、<ヒメ>の声がする方へと走り出す。夢の中からぐんと引っ張り上げられるような感覚で意識が浮上した。
「……酷い夢だった、起こしてくれてありがとう、<ヒメ>」
「随分とうなされていたようですが、それとは別に緊急事態です、近くに新たな異界が急速に生成されています!」
「は?」
<ヒメ>が指し示す方向をマグ感知すると、100mほど先で周囲のマグが急速に一点に集まっている。
時計を見ると時刻は草木も眠る丑三つ時、仮眠程度だが休息は取れてある程度は回復している。俺は腹を括った。
「この時間なら人目もない、装備を身に着けろ、闇に紛れて突入するぞ」
「分かりました、主様! あ、えぇと、こういうときは40秒で支度するのが『お約束』と聞いたのですが……」
うちの式神は順調に世俗に染まっているようですね! 誰だよ教えた奴!
宿から出て100mほど、別所温泉の観光客用無料駐車場のすぐ近くにある『将軍塚』が異変の中心地だった。
これは古墳時代の遺跡だが、この地には一つの伝承が伝わっている。鬼女紅葉を退治した平維茂だが討伐時に負傷し、別所温泉で湯治するが甲斐なく死亡し、ここに葬られたという内容だ。ちなみに歴史的には平維茂はここで死んでいない。
つまり、鬼女紅葉の伝承再現イベントが連鎖したと見ていいだろう。
「できたばかりの異界だ、低レベルの敵しかいない。このまま踏み込んで制圧する」
「主様、お任せください!」
本日二回目の異界突入(午前零時は過ぎているが夜が明けていないので一日扱いだ)、想像通り生成されたばかりなので出てくる敵が弱い。大半はLv1未満の【スライム】か【ディブク】、稀にLv1の【餓鬼】。北向観音から授けられた武器への加護は失われているが、敵の弱さはそれを必要としない。
ダンジョンとしての規模も小さく、30分ほどで最深部へとたどり着く。そこで待ち受ける異界ボスとは──
「ここが汝の死地ぞ、余五将軍*2」
十二単を身に纏った【鬼女紅葉】再び。それは容易に想像できたことだが。
前の彼女が二十代半ばの大輪の牡丹を思わせる美女とするなら、今の彼女は十代半ばの咲きかけの百合を思わせる美少女だ。
「ちっちゃいですわーっ!」
「ああ、縮んでるな」
やはり討伐され異界ボスの座を追われたことで、パワーダウンしているのであろう。
鬼女紅葉は俺たちの素直な感想を聞き、屈辱にその身を震わせた。
「妾が力を失いしは事実、だが汝の神仏の加護が失われたからには、汝の血肉を喰らいて力を取り戻そうぞ」
「そいつは御免被る」
【アナライズ】した結果、鬼女紅葉はLv10と半減している。耐性は物理耐性、破魔弱点、呪殺無効と変わりない。
「さっきの戦いは格上だったから通用しないと思って使わなかったけど、格下なら通用するかな」
俺はガイア連合製【退魔銃】を取りだし、破魔弾が込められているそれの引き金を引いた。
*
サイゲームスの二次創作ガイドラインに従い、暴力的シーンはカット。
<ヒメ>の活躍シーン(二回目)は各自で脳内補完していただくようお願いします。
*
「おのれ、平維茂…… 妾を二度も打ち破るとは……」
再び倒れ伏した鬼女紅葉が苦悶の表情で呪いの言葉を吐こうとしたが、<ヒメ>が止めを刺そうと近づいたので口をつぐんだ。うーん、美少女化した紅葉だと凄んでも迫力ない、むしろ逆に微笑ましく感じる。
「嫌じゃ嫌じゃ、死にとうない、現世に
「あら、命乞いですの?」
血と泥にまみれた紅葉の顔に浮かぶ雑多な感情と、その瞳から流れる一滴の涙。俺はそれを勿体ないと感じた。
俺は<ヒメ>に指示して下がらせ、代わりに紅葉に近づいた。
「俺は
ミナミィネキから貰った封魔管(脆)を取り出し、紅葉の瞳をじっと見つめる。
「俺に従え、俺のものになれ。俺の使い魔となれば、今しばらくの現世を過ごせるぞ」
「───────汝に降ろう。妾は鬼女紅葉、コンゴトモヨロシク」
「ああ、今後ともよろしく」
「私は
「……コ、コンゴトモヨロシク」
紅葉は<ヒメ>の勢いに押されたまま封魔管(脆)の中に入った。あの短い間に、<ヒメ>と紅葉の力関係が決まったのかもな。
異界ボスを失った異界は消滅するので、急いで脱出したところ、まだ夜明け前だった。
人目がないうちに宿に戻り、軽く仮眠をとって、北向観音へ願解きの参拝をしたら、これ以上の
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv13
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
予備装備:ソニックナイフ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、呪殺無効、精神状態異常無効、破魔耐性
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv6
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動
仲魔3:鬼女紅葉 Lv10
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、変化、酒の宴(劣化)*5
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第20話 斜め上の角度から何か降ってきた
山梨・星霊神社に戻って遠征終了と異界討伐成功をちひろさんに報告したところ、彼女には大いに喜ばれた。
「【トラポート】取得おめでとうございます! 輸送の仕事依頼は過労死するぐらいありますから、ばんばん受けてくださいね」
「俺の命の心配とか、依頼成功してガイア連合の面子が保たれたとか、そっちを喜んでくださいよ。そういうこと言うから守銭奴とか陰口叩かれるんですよ」
「小粋なジョークですよ、ジョーク。それよりトラポートの性能は把握されました? 個人差が大きいスキルですし、トラポートのベテラン*1を紹介しましょうか?」
「それは年明け以降に紹介していただけるなら助かります。年内は骨休めと戦力再編したいので」
そう告げてちひろさんの所を辞し、スケベ部のミナミィネキの元へと移動する。
馬背神社異界を攻略したとき鬼女紅葉を仲魔にしたが、COMPによる契約と異なり使役魔が術者に反抗可能な契約となっている。契約時に暴力で紅葉の心を折ったが、それは一時的なものでいずれ俺の寝首を掻こうとすることは十分にあり得る。そのため、彼女を自身の戦力に組み込むために『きっちり縛る』ことが必要なのだ。
「それで、『メスガキ』を『わからせ』る手伝いが欲しいと? 協力しますよ、こんな面白いこと逃しませんから!」
これが今生の生きがいだとばかりに心底喜ぶミナミィネキ。天使堕天使その他多数を悪魔娼館に引きずり込んだその手際はとても心強いんだけど、素人に毛が生えた程度の俺がガチ勢(ミナミィネキ)を見上げると、追いつけないって直感的に思う。
*
鬼女紅葉への『躾け』は、まぁ性交もとい成功したんじゃないかな。本作はR-15指定なので本番シーンをねっとり描写しないので、各自の脳内でお楽しみください。
釣った魚に餌をやらないといけないので、俺が戦力として保持できる限界は<ヒメ>と紅葉の二人だけかな。ハーレムを維持できるって才能が必要なんだと強く身に染みる。
それはそうとして、異界ボス討伐と伝承再現クエストを達成したことで、俺のレベルが上がっていた。北向観音の加護で破魔の力を身近に感じたからか、いつの間にか【ハマ】を覚えていたよ。事前に通常のハマ取得修行をしていたのも効果があったのかもしれない。
紅葉との再戦前に気づいていれば退魔弾の節約になったかもしれないが、命が掛かっているときに金銭をケチっても仕方ない。生き延びたのだからそれで良しとしよう。
*
年末、星霊神社近隣の黒札用アパートの自室で。俺と<ヒメ>と紅葉の3人でのんびりTVを見ている。
紅葉は契約時に『現世を楽しませる(意訳)』と条項を(口約束だが)結んだので、出しても問題ない状況ならなるべく封魔管(脆)に入れっぱなしにせず出すようにしている。まぁ戦闘しないなら維持用のマグもそこまで必要じゃないからね。
今TVに移っているのは、競馬の年末総決算である有馬記念。<ヒメ>が馬背神社異界攻略時に馬に跨ったことを発端として、彼女が乗馬に対して大いに興味を持ったのだ。
今年は春天・VM・宝塚・秋天・JC・エリ女と古馬G1レースの勝鞍がすべて違う馬であり、この有馬記念を勝って二冠達成すれば年度代表馬という点から、豪華な顔ぶれとなっている。
「パドックを見て<ヒメ>はどう思う? 俺は1-5-7のボックスでお年玉を稼ごうと思うんだけど」
「私は3-5-7です」
「妾は賭け事には興味がない、純粋に競べ馬を楽しもう」
インターネットで勝ち馬投票券が買えるって便利だよね。そういや19歳で公営ギャンブルはできないんじゃないかって? スマホのメッセージアプリでちょいと連絡してスタンクニキに代理購入してもらってます。あくまでお小遣いの範囲で少額だけな。
──第XX回有馬記念、今スタート! ハナを取るのはアクアリバー、2番手は1馬身差でドカドカ、その外にミニリリー……
最終コーナーを回って最後の直線、逃げたアクアリバーの足が鈍る。一番人気のルンバステップは馬群の中でも藻掻いている、外からバイトアルヒクマ追い上げる、中からトモエナゲとジュエルルビー、ルンバステップはまだ抜け出せない……
バイトアルヒクマ、ジュエルルビー、和田龍の闘魂注入鞭が飛ぶ、バイトアルヒクマ差し切れるか、ジュエルルビー、ジュエルルビー! クビ差逃げ切った!──
俺たちはお年玉の入手に失敗しました。一番人気が着外はだらしない。俺には終始馬群に揉まれるうちに馬がやる気を失ったように見えた。やはり一番人気ということで周囲からのマークが厳しかったのだろうか。
「下手糞なジョッキーですわっ! あれなら私が乗った方がマシですの!」
「当代の競べ馬はただ走るだけなのか、僅かな馬体の接触もなしでは詰まらぬ」
ヒートアップする<ヒメ>とそれを呆れたように見る紅葉。中世の競べ馬は走行妨害有りだったらしいけど、現代競馬はそのようなルールではないので諦めて欲しい。
「主様! 私たちも馬を飼いましょう!」
「急にどうした、馬に乗りたいなら乗馬クラブに通えばいいだろ」
「馬を育て走らせるのです! 馬背神の本霊も、あの異界を使って良いと同意してくださいました!」
「えっ?!」
斜め上の角度から神意とやらが降ってきた。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv15
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv7
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv10
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第21話 なんのご利益もない初夢
俺の【トラポート】の性能を実地検分したところ、行先は俺が行ったことのある霊地のみ、輸送できる荷物の大きさ・重さは俺個人が持ち運びできる範囲という制限があると分かった。30kgの米袋を両手で抱えて一度に運ぶなら頑張っても4袋120kgが限度。覚醒して常人より身体能力が上がっているとはいえ、荷物の重さに気を取られすぎるとトラポートを発動する集中ができないので、まぁこんなものかというのが正直な感想だ。俺のレベルが上がりトラポートにも習熟したなら、輸送量が改善される可能性があるが、トラポートの輸送依頼だけでは食べていけないだろう。
「それでもトラポート持ちは数少ないし便利です。全国のガイア連合支部・派出所を一通り廻って移動先を増やしつつ、各地の異界で武者修行というのも悪くない選択肢では?」
ちひろさんにそう言われると、それはそれで悪くない気がする。トラポートの転移先を増やすことは理にかなっているし、ショタオジも星霊神社の手厚いサポートで戦闘ができるようになったら地方遠征して自分のスタイルを確立するのが大事と言ってた。*1
「そうですね、来年は地方遠征します。それよりちひろさん、転居の処理お願いします」
「ファミリータイプをご所望ですね、一軒家とマンションで物件をそれぞれ探しておきます」
「そうそう、年末年始は実家に帰省しますが、ちひろさんはお土産に希望あります? お菓子が好きならクルミを使った焼き菓子とか、それともクラフトビールや地酒とか、食べ物よりファッション系が良いとか」
俺が実家から独立して山梨に引っ越した時は、黒札用独身アパートに住んでいた。高級式神と二人でいちゃいちゃしながら住むだけならその広さでも構わないが、紅葉が追加されて三人となると手狭に感じたのだ。
星霊神社近くの黒札用住居はいざというときのシェルターにもなるので、転居については事務のちひろさんに力を借りることになる。そしてお願いをスムーズに通したいのであれば、こうして心づけをするのが一番。もちろん賄賂とか大金が動くレベルじゃなくて、お中元お歳暮レベルの話だ。
有馬記念が終わってから年末年始の帰省は遅くないかって? 実家の大掃除を手伝わされないよう、ぎりぎりまで引っぱるんだよ。
*
実家に戻ったのは大晦日の午後という限界ぎりぎり。炬燵に潜って夕飯食べて、紅白歌合戦は詰まらないと格闘技の方にTVチャンネルを切り替え、だらだらしているうちに除夜の鐘が聞こえてきた。そろそろ頃合いだろう。
「二年参りに行ってくるよ、<ヒメ>もコートの準備して」
寒いのは嫌だとばかりに父母兄はいずれも外出を拒否し、俺と<ヒメ>の二人で年越しデートと洒落こむことに。
神社までのさして長くもない距離を、二人でのんびり坂を上る。除夜の鐘の高く澄んだ音*2をBGMに、鎮守の森の暗がりを進むのは、去年までと違って不思議な感じがする。【未覚醒】だった今までと違い【覚醒】できたことで心に余裕ができたからなのか、それとも単に<ヒメ>が隣にいるからなのか。
式神が人間に近いとは言っても、呼吸していないから吐く息が白くならないし、寒さで鼻の頭が赤くなったりもしないのだな、人前ではマスクさせる方が誤魔化せるか…… なんでロマンチックな方向に思考が行かないないのか。
そんな下らないことを考えているうちに、馬背神社の境内へ到着。馬背神社は屋台とか出ない寂れた神社なので、二年参りの人も少ない。境内の隅には焚火があり、そこに火の番の男が一人。
「宮下のおじさん、こんばんは」
「維茂君、こんばんは…… 旧年はお世話になりました、今年もよろしくお願いします」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
丁度午前零時の切り替わりだったようで、俺たちは三人で神社の本殿に二礼二拍手一礼し、そうそうに暖かい場所(火の近く)へ移動した。なお馬背神の啓示はこのタイミングではなかったので、帰宅して布団の中で夢として受け取るのだろう。
「そういえば、この神社の神主はどなたで?」
「専属の神主の家系は、戦後のメシア教による弾圧で滅びた。分家筋の当家が氏子総代として普段は纏めているが、どうしても神主が必要という場合は生島足島神社からレンタルしている。何か心配事でも?」
「いえ、馬を奉納せよと神意を示されたのですが、奉納後に神馬の世話をする人がいないと難しいですね」
「そうだな、犬猫を飼うなら餌と排泄物と運動の面倒を見るのも大したことではないが、馬となると大掛かりになる」
「馬背神からは、異界の中に放し飼いすれば良いと言付かりましたわ」
「いや、馬を連れてきたらそれだけで周囲の耳目を集めるだろ。異界に入れたら馬が行方不明になって騒動になってしまう」
「維茂君が個人的に馬を飼うのはどうかな? このご時世、年老いて後継者もいないから農地も家も手放したいという人の心当たりがいくつかあってね、維茂君は次男だから新しく家を買ってそっちに住んでも問題ないだろ?」
「ペットの犬猫ですら一日以上放置できないのに、馬なんて無理です。定住どころか短期出張すらできなくなります」
「そうか…… 短期出張すら無理では、他所からオカルト仕事の応援も受けられないから厳しいね」
「そういう訳で、馬背神様、馬は諦めてください」
あっ、<ヒメ>がめっちゃ(´・ω・`)ショボーンしている。
項垂れている<ヒメ>を放置するのは流石に可哀そうだ、フォローしてやらないと。
「先ほど定住と言いましたが、こっちに居を構えることも考えているんですけどね」
<ヒメ>を抱き寄せて頭を撫でてやりながら、俺は以前からぼんやりと抱えていたアイデアを口にする。
「俺が責任者になる形で、【ガイア連合】の出張所を上田市に造れると思うんです」
「それはビッグプロジェクトだねぇ」
曲がりなりにも地元霊能組織として活動していた宮下のおじさんは、ガイア連合を地方に呼び込むことが何を意味するか、ティンと来た*3ようだ。
「ガイア連合内で流通しているオカルトアイテムを多少ならガイア連合外にも流せますし、拠点があればガイア連合から助っ人を呼びやすい。でも、拠点の第一候補としては別所温泉なんですよね。観光地だから余所者が出入りしても怪しまれにくいし、温泉があるから消耗後の回復も有利ですし」
「ううむ…… やはり温泉か…… あのとき室賀*4でなく浦野を主張できていれば……」
おじさんが深く考えだしたので、俺たちはさっさを家に戻ることにした。
なお、帰宅後に布団に入ったが、初夢に馬背神が登場して馬が欲しいガイア連合の拠点が欲しいと喧しかった。神の視点では有用でも、人の都合では実現しにくいんだって。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv15
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv7
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv10
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第22話 一年の計は元旦にあり
元旦は実家でごろ寝、二日は市内にある母方の実家へ新年の挨拶、三日は山梨へ戻ることにして、俺の帰省は終わる。
いやぁ、俺も高校卒業して表向きは就職したので、親戚にお年玉を配る側になりました。なお父親の実家は県外なので当面顔を合わせる予定はなく、次に父方の親戚と顔を合わせる機会はおそらく俺の結婚式になるだろう。
母親からは<ヒメ>が家事できないことをチクリと言われたので、汎用スキルカード【家事】も探しておかないと。
そういや、宮下のおじさんは娘さんと俺の結婚をプッシュしてこないんだよな、向こうはこっちの事情を知っているし、俺は地縁で十分縛られてるから不要ってことなんだろうな。俺には<ヒメ>と紅葉がいるからその手のお誘いは困るだけだし。
山梨へ戻る直前、最後にもう一回馬背神社へお参りして、馬背神社異界の副管理者権限を俺と<ヒメ>に貰えないかお願いしたら、あっさり貰えた。俺が【トラポート】で直接異界の中へ乗り込むことができるならご所望の馬を運び込めますと主張したのが効いたっぽい。
【ガイア連合】に戻ったら、今後この異界は俺の管理下にあると登録しなくちゃな。登録名は悩むところだが、歴史的背景を考えると塩原牧*1…… いや、朝廷の直轄牧場の名を借りると所有権で揉める可能性があるな、『
*
一年の計は元旦にありと言うがそれよりはやや遅く、山梨・星霊神社に戻ってきてから、今年の活動方針を改めて検討することにした。
まずはちひろさんの紹介でガイア連合磐戸台支部武器密輸課*2に行き、トラポートを使う【黒札】俺たちの仕事ぶりを学ぶ。彼らがどれくらいの頻度でトラポートを使うのか、相場はどれくらいなのか、受けてはいけない依頼の見分け方、など知りたいことは沢山ある。
また武器密輸課はレベリングサポートも積極的にしてくれるというから、できるだけそちらもお願いしたいところだ。俺は他の黒札と共闘したことほとんどないんだよね。
その後は全国のガイア連合支部・派出所を廻ってトラポート先の霊地登録と、現地メンバーと臨時パーティ組んで地方の異界探索をしながら自身の戦闘スタイルを磨いていく。
現時点だと俺は状態異常回復以外は【ディア】と【ハマ】でHP回復量も与ダメージ量も大したことはない、<ヒメ>がタンク兼メイン物理アタッカーとしては文句なしだけど物理一辺倒、<アグネス>は偵察&アイテム係専門、紅葉が【マハラギ】で唯一の属性範囲攻撃を持つが1体への与ダメージ量を見れば高火力というほどでもない。
仲魔3人がいずれも物理耐性を持つのでこちらの瞬間火力が低くても戦えているが、このままでは通称『Lv20の壁』で頭打ちになるだろう。強化方針としては俺が【ディアラマ】【メディア】など回復中位またはカジャ系ンダ系のバフデバフ、紅葉が【アギラオ】【マハラギオン】など火炎中位、<ヒメ>は【貫通撃】【貫く闘気】など物理貫通を覚えるのがベストだが、理想通りに成長できるかどうかは未知数。最後に<アグネス>だが、妖魔アガシオンはLv12くらいで補助系スキルを覚えることが多いらしい*3のでそこまで待つつもりだが、レベルアップ時に変異することもあり*4正直読みづらい。
一年の計としてはこんなところか?
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv15
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv7
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv10
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第23話 狩人ニキと行くアメリカ西海岸ツアー(1)
磐戸台支部*1で【トラポート】について実地で学ぶ。オンラインでクエスト受注とか、山梨・星霊神社まで片道輸送+帰りも電話1本で受けるトラポート屋とか、自分の知らないノウハウを惜しげもなく公開してくれるイナバニキには本当に頭が上がらない。
イナバニキの指導のもと、俺のトラポート能力の詳しい見極めも行われた。まず俺が移動させられるのは自分自身+自身の持つ手荷物が基本で、リヤカーなどは手荷物の範囲を超えるので駄目、他人を移動させる場合は俺ががっちりホールドして手荷物扱いにする必要がある。例外は俺の愛馬こと式神の<ヒメ>で、彼女を荷役馬、俺を馬方と見立てることで彼女と一緒に移動できる。俺と彼女の二人で荷物を担ぐなら、背負子など補助具を使って最大荷重300kg程度といったところ。
移動距離については、行先が自分の行ったことのある霊地のみと限定されているためか、今のところ制限を感じたことはない。イナバニキのトラポート仕事に便乗させてもらい、行先登録した青森・恐山支部と四国・大赦支部の間を自力トラポートしたが距離不安はなかった。ただしイナバニキのように『月までひとっ飛び』は流石に無理。
武器密輸課はレベリングサポートも充実しているおり、他黒札とパーティを組んだことのない俺としてはこちらも新鮮な経験だった。カジャ盛り親父ニキのバフ盛り戦法、弓道ニキの遠距離攻撃主体戦法、不死鳥推しネキの属性魔法ゴリ押し戦法、多人数だからこその敵を釣って大火力で一掃する戦法、どれもこれもためになる。ただ遠距離攻撃と属性魔法を主体にする戦法は、パーティ全体での戦法とするなら別だが、俺個人の戦闘スタイルとしては合わない予感がする。
なお俺はペルソナを使えないのでハム子ネキに目を付けられることはなかった。
トラポートで全国の霊地を巡りつつ、地方異界攻略の臨時パーティに混じってレベリングに励む。いくつかレベルは上がったが【スキル】は増えていない。まぁ自分の戦闘スタイルを模索しつつマッカ&マグ稼ぎしていると思えば悪くない。マッカを稼げば黒札専用のイカレた装備品に手が届いて強くなれることは分かっているから、何をしても無駄じゃないかと不安に陥ることがないのは助かる。
大阪のアーッニキ*2とか強者の戦いも間近に見たが、やっぱ強者のメンタルって自分とは違うと感じる。このまま俺が一皮剥けない限り、通称Lv30の壁を乗り越えることは難しいだろう。いや、一皮剥けるというか一歩進むというか、それをしてしまうのが怖いというか。
*
全国行脚中に、トラポートで『浦野牧』へ直接乗り込んで馬を奉納する目途も立った。サラブレッドは体重450-500kgと俺のトラポート荷重を越えるので無理だが、木曽馬や道産子などの日本在来種なら体格的にポニーに属するので、俺と<ヒメ>の二人がかりなら可能になる。
日本在来種は農耕馬・輓馬としての用途であり、競馬専用に品種改良されたサラブレッドとは違うが、気性も大人しく粗食に耐えるのでサラブレッドより牧畜初心者向けだ。いや、『浦野牧』に放り込んだ後は馬背神分霊に管理をお任せして実質放し飼いにするつもりなんだけどね。馬は群れを作る生き物だが、馬の姿をした馬背神分霊は統率してくれるでしょう。
それにサラブレッドは専用の馬運車を使うので目立つけど、日本在来種は軽トラに乗せて移動できるから目立たない。牧場で馬を買いつけて軽トラで人目のない所まで移動できれば、その場でトラポートしてオカルトを人目に晒さずに済む。サラブレッドを買うならどうしても牧場なり乗馬クラブなりの協力者が必要になる。
話は変わるが、馬背神に馬だけでなく山羊や鶏なども持ち込むことが可能かお伺いを立てたところ、馬背神の側面である馬頭観音はすべての畜生類を救済するので、馬以外も了承が出た。ただし鶏なんかは放し飼いだと野犬・狐・猫などに襲われるので、人の手でしっかり管理する方が良いとのこと。
俺が副管理人として『浦野牧』に詰めっぱなしになるなら山羊・鶏・鴨といった軽家畜も一緒に飼いたいが、それは当面後になるだろう。
*
そんなこんなで三月半ば、俺が【覚醒】して一年経過した。いやぁ、一言では語れないくらい色々ありましたね。
ある日、掲示板で良さそうな依頼がないか探していたところ、旅費は向こう持ちで俺が今まで行ったことのない霊地にご招待、ついでに現地の異界で俺のレベリングも手伝ってくれるという好条件の案件を見つけた。向こうとしてはトラポート要員は何人いても良いというスタンスで、日本アメリカ間の物資輸送強化を重視しているんだとか。
アメリカのシアトルからポートランド、サンフランシスコ、ロサンゼルスと西海岸を南下し、そこからハワイを経由して日本に戻るルートで各地の霊地(基本はメシア教穏健派の根拠地、ハワイはカマプアア神の支配地)を回ると説明され、俺は依頼人に言われるままにパスポートを取得した(式神である<ヒメ>は偽造パスポートだ)。
ところで、この依頼人の狩人ニキってどんな人?
ショタオジとミナミィネキに聞いたんだけど、どちらも満面の笑みで「大丈夫だ頑張れ」としか言わないんだよね。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv18
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv9
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv12
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第24話 狩人ニキと行くアメリカ西海岸ツアー(2)
シアトル、アメリカの太平洋岸北西部最大の都市。日本から空路でこの地に降り立った俺と<ヒメ>は、同じ黒札仲間である狩人ニキから熱烈歓迎を受けた。
「いやー、よく来てくれたね! 海外で活動する【俺たち】は数が少なくてね、できるなら君にもこっちで活動して欲しいものさ、HAHAHA!」
「すいませんね、まだ活動拠点は日本から動かせなくて」
「なに謝ることはないさ。それで、【トラポート】で日米間を移動できそうかい?」
「いいえ、この距離は不可能ですね。ただしカムチャッカ半島・アラスカを経由するか、ハワイを中継するなら、移動できそうな感触があります」
「Oh! そいつは悪くない。帰路でハワイに寄る予定だから、それで日米を股にかける運び屋がまた一人誕生するってわけだな! そうなりゃいずれ来る【終末】の前に備えが1枚増えるってもんさ*1」
「そうなればこっちとしても嬉しいんですけどね」
狩人ニキの運転する自動車に乗って、シアトル郊外の【メシア教穏健派】が運営する教会に到着する。
教会の神父やシスターに挨拶し、荷物をゲストルームに運び込む。
「この教会は君がトラポート移動先に必要な【霊地】の条件を満たすかい?」
「はい、大丈夫です」
「それは良かった。時差ぼけ解消のため、まずはゲストルームで仮眠を取ってくれ。その後に起きたら、食事をしてからさっそく君のレベリングを行う」
「分かりました、ところでレベリングする
「行くのは【メシア教過激派】の秘密基地、出てくるのは
「えっ?!」
「なに、君は回復タイプだから、俺の後ろをついてくるだけで良い。物理耐性持っている仲魔がいるならタンクとして出してくれると助かる」
「ええっ?!」
「
*
あれよあれよという間にメシア教過激派の秘密基地を襲撃することになりました。狩人ニキはあらかじめ内偵して手筈を組んでおり、俺は実働要員として呼ばれたと今更ながらに理解する。ああ、随分と俺に都合が良い依頼だと思ったが、こんな裏があったとは。
普通のビルに偽装されているが地下にはヤバイいものがあるそうで、狩人ニキが前衛、俺が中衛、<ヒメ>が殿の隊列で、ビルに突入する。ビルのセキュリティ解除とかマップとかは狩人ニキに任せ、俺はただ後を付いていくだけ。敵として出てくるメシアン・ブッチャーは戦力的には大したことがなく、鎧袖一触という表現がぴったりで狩人ニキと<ヒメ>が薙ぎ払う。
俺はというと、実はブッチャー相手に戦っていない。正直言うと、人であるメシアンに手を上げるのを躊躇っているのだ。今まで人でない存在とはいくらでも戦ってきたが、心の奥底では人殺しを忌避している。
そんな俺の葛藤を表情から読み取ったのか、狩人ニキは短く「覚悟しておけ」と言ってから次のフロアに進んだ。
次のフロアは、端的に言えば『人体改造工場』だった。山梨の星霊神社でデビルシフターは何度も見たが、あれとは似ても似つかぬ、人間と天使の融合を目指した失敗作。人としての自我は欠片も感じられず、また天使としての存在感も感じられない、ただ周囲のマグを感知して触手を伸ばすだけの
「マジか…… やはりメシアンはクソ」
「ああ、メシアン死すべし慈悲はない」
「ここには失敗作しかないみたいだ、紅葉、【マハラギ】で全部焼き払ってくれ」
紅葉は破魔弱点なので今まで封魔管(脆)から出さずにいたが、火葬のために出てもらった。紅葉は封魔管(脆)の中にいても周囲の状況がある程度分かっていたようで、何も言わずにマハラギを周囲にばらまく。俺はスライムが燃やされマグに還元される様子を眺めながら、内心で彼らの冥福を祈った。
「一皮剝けた、戦士の顔になったな」
狩人ニキが揶揄う口調で俺の肩をポンと叩く。しかし彼の瞳の奥はまったく笑っていない。
「……アメリカじゃこんなのは珍しくないのかい?」
「有り触れてるさ」
「ご愁傷様って言えばいいのかな、それとも日本の環境がぬるま湯なのか」
狩人ニキは無言で肩をすくめるジェスチャーをするだけだった。安っぽい同情はいらないってことらしい。
「さ、次で最終階。そこにいるボスをボコったらここでの仕事はお終いさ」
俺は狩人ニキに頷くと、念のため紅葉を封魔管(脆)に戻した。
腹の中は怒りでぐつぐつ煮えたぎっているが、頭は冷静に。それが戦場で生き残るコツだ。
*
サイゲームスの二次創作ガイドラインに従い、暴力的シーンはカット。
<ヒメ>の活躍シーンは各自で脳内補完していただくようお願いします。
*
メシア教過激派の秘密基地の最奥でボスのテンプルナイトを狩人ニキと一緒にボコって、トラポートでメシア教穏健派の教会に戻る。以降の後始末は穏健派の人たちに任せるので、俺の出番はここで終わりだ。与えられたゲストルームで武装を解いてベッドへ横になった途端に、今までの高揚感が消え失せる。
「俺、人殺しデビューしたな」
「主様、お側におりますから、今宵は手を繋ぐなり抱き枕なりご自由に」
「ありがとう、<ヒメ>。おやすみ」
背筋から疲労がどっと押し寄せ、体が泥のように重くなる。俺は目を瞑ると呼吸を瞑想のように細く長くし、意識を沈めていく。大丈夫だ、<ヒメ>というアンカーがあるから悪夢に飲み込まれることはないはず……
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv18
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の小息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv9
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv12
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
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第25話 狩人ニキと行くアメリカ西海岸ツアー(3)
翌朝、夢を見ないほど深い眠りから醒めたら、<ヒメ>と紅葉の二人の抱き枕にされていました。寝ている最中も無意識のうちに気の循環をしていたおかげが、体の芯がじんわりと暖かい。
「おはよう、<ヒメ>、紅葉も。……ありがとう、助かったよ」
殺人童貞を失ってもっと悩んだり狼狽えたりすると思ったが、寝る前にあれほど重く感じていたプレッシャーが雲散霧消しているのは驚き。いやぁ人肌のぬくもりって凄いね。
……狩人ニキが「一皮剝けた」と俺を評してくれたが、本当に以前とメンタリティが変わったことが自覚できる。これが通称『Lv30の壁』、戦闘ガチ勢とそれ以外を分けるものなのかな。どこか漫画か何かで見た「『殺す』って選択肢が日常生活に入り込む」って表現、あながち間違ってないよね。
身支度をしてゲストルームを出ると、狩人ニキが朝の挨拶をしてきた。
「Good morning. 殺人童貞を卒業して深刻に落ち込んでるかと思ったが、そうでもないな」
「おはようございます、<ヒメ>に癒してもらいましたので」
「HAHAHA! 落ち込んでるじゃなくておチンコでるだったか」
おっと、狩人ニキから小粋なジョークが飛び出すとは予想外。
「今日はポートランドの【メシア教穏健派】教会に立ち寄った後、予定を変更してソルトレイクシティに向かう」
「何かありましたか?」
「
おそらく、俺が人の姿をした悪魔を殺すことに忌避感を抱えた場合のフォローとして、狩人ニキがこの仕事を受注したのだろう。ゾンビなら人型だが明確に悪魔だからリハビリとしてうってつけか。俺は狩人ニキの心遣いに内心感謝し、それを口にするなんて野暮なことはせずに依頼に前向きな姿勢を見せる。
「ゾンビですか…… 俺は【パララディ】は使えませんが、【麻痺】*2対策はアイテム主体で?」
「そうなる」
「分かりました、ゾンビの間引きなんてケチなこと言わず、異界ボス討伐を頑張りましょう」
「そうだな、さっさと終わらせて観光しようぜ!」
狩人ニキと互いにサムズアップして、いざゾンビ狩りへ出発!
*
ゾンビの湧く異界はソルトレイクシティから塩湖グレートソルトレイクへ向かう途中、アンテロープ・アイランド州立公園の中にあった。図らずしも異界突入前に観光できてしまった形だ。なお異界攻略は特筆することなく終わった。いわゆるナレ死という奴だ。
ゾンビたちはLv一桁で基本格下、火炎・破魔弱点なので群れで出てきても紅葉の【マハラギ】で薙ぎ払えるし、俺は【ポズムディ】と【チャクラウォーク(劣化)】があるので【毒】対策もあるし継戦能力が高い。最終的に異界ボスの【外道オールドワン】を狩人ニキと囲んでフルボッコにして撃破。なおオールドワンは結構な格上だが、こちらに有利な月齢を選んで*3戦ったので勝てた。
シアトルでの過激派の内偵といい、今回の異界ボスに有利な月齢といい、狩人ニキの調査能力は相当高い。
ボスを撃破して異界は消滅したが、地脈に染みついた狂気は【パトラ】や【ポズムディ】を流し込んでも祓えなかったのでいずれ異界は再生するだろう。まあ異界が生成された直後なら現地の低Lv霊能力者でも踏破できるはずだから、大丈夫大丈夫。
後、麻痺を使うボスとの戦いが終わってレベルアップしてから【パララディ】を覚えたのはちょっと笑う。覚えたこと自体は嬉しいけどタイミング遅いよ! 俺以外の仲間も順調にレベルアップし、<ヒメ>は【勝利の小息吹】が【勝利の息吹】に進化、紅葉は【アギラオ】を覚えた。
何というか俺のパーティは、格下の異界を潰すのに便利って感じだな。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv19
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディア、ポズムディ、チャームディ、パララディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv10
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv14
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第26話 狩人ニキと行くアメリカ西海岸ツアー(4)
「俺が素晴らしい作品を書いて人気爆発! 俺の作品が素晴らしすぎるせいで、他人が書いた設定ガバのクソ三次なんか誰も見向きしなくなるけど、仕方ないよね!」という気概のある人もっと増えてくれ。
ソルトレイクシティへの寄り道が終わり、当初の予定通りサンフランシスコとロサンゼルスへ。
ぶっちゃけ『メシア教過激派はクソ』という認識を強固にするだけだった。具体的にはサンフランシスコには『妊婦の体内の胎児に天使を憑依させる人造救世主計画』、ロサンゼルスには『霊能者をクローン作成して小さな生命維持装置に繋いでローコストで天使を維持するためのマグを稼ぐ研究』の秘密研究所が存在した。シアトルの焼き直しなので詳細は省くが、シアトルとの違いを挙げるなら、この二か所はメシアンだけでなく天使も敵として出てきたくらいかな。
天使の【ディアラマ】はこっちの【ディア】より回復量多いし、【タルカジャ】【ラクカジャ】でバフ盛るからまともに殴り合うとこっちが不利なんだけど、狩人ニキが【ムド】系使えるのでなんとかなった。
ちなみに俺と狩人ニキがこれだけメシア教の施設を攻撃できた理由だが、メシア教穏健派の支援を受けての行動だからだ。メシア教過激派が人倫にもとる研究をし、それを知った穏健派がメシア教という大きな枠の中でなんとか自浄しようとして、穏健派が狩人ニキに情報リークして研究所を潰させるという流れ。あくまで穏健派と過激派の派閥争いの中で俺達が穏健派に一時雇いされただけであり、ガイア連合がメシア教に組織立って喧嘩を売っているわけでないという理屈だ。
え、そんなガバガバな理屈で大丈夫か、シアトル・サンフランシスコ・ロサンゼルスと短期間で三か所も過激派の研究所襲撃って多すぎないかって? 米国では一般人のいる観光エリアなのに堂々と異能者狩りするくらい治安が悪いので、これくらいは平常運転だと思うよ。*1
*
ロサンゼルスでの仕事を終え、アメリカ西海岸ツアーも終了。狩人ニキとはいずれどこかでの再会を約束して別れ、俺と<ヒメ>は飛行機で日本へ帰る。今回のアメリカ旅行は得るものが多い有意義なものだった。
天使との戦いではバフとHP回復に裏打ちされた正面からの殴り合いに苦戦したが、この戦法は俺のパーティが目指すところとして良いだろう。実際、俺はレベルアップによりディアがディアラマに進化し、<アグネス>も成長により【スクカジャ】を覚えた*2。前回の【パララディ】といい、痛い目にあってから取得したのは釈然としない。いや取得できただけ有難いんだけど。
戦闘スタイルが定まってきたことで武者修行も一区切り、今年の誕生日を迎えれば俺は二十歳になって成人するので、かねてからのプランを実行に移す時が来た。その名も『浦野牧』開発計画。
今回のアメリカ旅行で【終末】の到来を強く確信した俺は、異界『浦野牧』をシェルターとして使う決心をした。モデルはサクナヒメの所持する異界で、あそこが【ヒノエ米】栽培という特色を持つのに対し、こちらは馬背神の恩恵を受けた牧畜という特色を打ち出すのだ。北海道十勝地方にも畜産用異界が開発中*3だが、あそこだけで牧畜の需要をすべて満たすことは不可能だろうから、共存可能と踏んでいる。
また異界開発については【ガイア連合】の【派出所】を設置することで黒札を含む霊能力者の誘致も考えている。
それを踏まえて俺がハワイに降り立った理由、一つは【トラポート】中継地点として【カマプアア】神の支配する霊地を使いたいこと、もう一つはカマプアア神の権能による養豚場の見学だ。
カマプアア神は多神連合に参加しており、【黒札】連中が現地氏子とガイア連合の緩衝役として現地で生活している*4。黒札仲間の顔を見に来るという名目でちょいと立ち寄るくらいならカマプアア神の面子を損なうこともないでしょ。【トラポート】中継地として頻繁に利用するなら手土産という名の通行料が必要かもしれないけど。
え、手土産ならSSR黒札の子種が欲しい、うちの氏子の娘に一夜のアバンチュールで種付してくれ、そっちに迷惑はかけないって? カマプアア神は契約ぎりぎりを突くのがお好きですねぇ。
「この異界に本来は発生しない悪魔が、カマプアア神の【養豚】の権能に便乗する形で出現して、隙あらば人間を襲おうとします*5が、半端に養豚状態で出現するので【覚醒者】ならLv1でも勝てます。それでも未覚醒者なら危ういんですが」
「この【フード・カタキラウワ】は一応悪魔なんだな。食べられるのかい?」
「覚醒者なら問題なく。未覚醒者に食べさせるなら、技術ある人がしっかり下ごしらえしないといけません*6。食べられなくても神への供物になるので無駄にはなりませんけど」
智ニキに案内されて養豚場を見て回る。なるほど神の権能に従って牧畜やるのにそんなリスクも発生するのか。勉強になる。
またカマプアア神の【農耕】の権能は本来だと芋栽培がメインだったが、【俺たち】がバナナやパイナップルを食べたいという理由で霊地整備されて南国フルーツ栽培が行われている。牧畜も可能なら牧草栽培を自前でやりたいから、そういうノウハウも吸収したいところだ。
*
一通りカマプアア神の支配地を見学した後、飛行機で日本に戻る。
この地からトラポートで直接日本に戻ることは可能だが、パスポートに出国記録残っているから、正規の手段で帰国するのが安全かなって。
帰国したら地元にガイア連合派出所設置の根回しとか、やること多いな。自身のレベルアップもLv30前後までは目指したいんだけど。
---
補足:カマプアア神の支配地について
「★海外オカルト雑談スレ その72+α」だと、『※時系列はダゴン密教団によるクトゥルー召喚少し前です』と注釈があり、カマプアア神が信徒救出にガイア連合の手を借りたこと、大人や戦士はメシアにより殺され女子供しか残っていないこと、信徒に番が欲しい、と書いてある。ただし霊地を奪われ日本の近くに移住したとは明示されていない。
「16話 小ネタ 前編」だと、『この島は【移民とガイア連合員】が多い島ではありその上、本物の【ハワイの神様】がいる』『ここの移民は【ハワイ】からの移民が多いおかげか【日本語】及び【英語】に堪能な島民がほとんど』と書かれており、オアフ島やハワイ島などのハワイの主要な島ではないことは読み取れる。
「16話 小ネタ 補足」だと、『俺達外様神は敵対馬主であるメシアに【牧場やかれて】【金も家も失った】ところに【仮の牧場】と【繁殖用の種馬(受賞確定)】まで販売もしくはレンタルしてくれる』と書かれており、本来の霊地を追われたらしいことは読み取れる。
「小ネタ ガイア連合外の結婚事情」では、内地の土地も買ってそれとなく【養豚の加護】を餌に【養豚業者】を誘致してる、ペレはボーナスで買った【隔離土地】に封印、やむ負えず近海領域を買ったが近くに【ペレの島】の島が出てきた、と書かれている。
以上のことから本作においては、カマプアア神はハワイ諸島のうちオアフ島などの主要な島を追われ、ハワイ諸島の小島に移動して智ニキを受け入れ、その後に日本近海の土地を買ったものとします。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv20
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディアラマ、ポズムディ、チャームディ、パララディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv12
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv15
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第27話 異界拡張と伝承再現
日本に戻ってきました。いつもお世話になっている【ガイア連合】の受付嬢ちひろさんにハワイ特産マカダミアナッツチョコを手土産にして、ガイア連合の【派出所】を俺の地元に設立するための相談を持ち掛ける。
俺が構想しているのは、四国・大赦や青森・恐山のように商業施設【ジュネス】を誘致する大規模なものでなく、【ガイア連合支部・地獄湯】*1のような小規模なもの。オカルト情報の共有場やオカルト仕事の依頼仲介、ガイア連合製のオカルトアイテム販売などを行うが、地獄湯のように娯楽色強めといった特長をつけるつもりはない。ガイア連合所属の俺がここを活動拠点にすると周囲に示すことができればそれで十分。
大規模なものではないから、ショタオジ、財界ニキ、政界ニキなど組織運営系幹部連中の手を煩わせることなく設立できる*2…… と思う。まずは根回しの最初の段階だから今から不安がっても仕方ない。
ただ小規模とはいえガイア連合の窓口となると、最低でも長野県上田市、最高で東信地方*3のオカルト関連を仕切ることになるから、俺のLv20では貫目が足りないと言われるかもしれない。Lv30前後までレベリングすることが急務になるかも。
次に、異界『浦野牧』を終末に対するシェルターとして機能させるための牧場化計画だ。モデルは瀬戸内の【サクナヒメ】異界で、あそこがサクナヒメの権能で米を生産する代わりに、馬背神の権能で馬を育てる。
終末後は石油を燃料にしたトラック・トラクターはまともに運用できないだろうから、家畜としての馬は需要が高いだろう。また馬だけでなく牛・山羊・鶏なども飼育して食肉・乳・卵の生産も目指したい。理想を言うなら江戸時代の農村をベースに自給自足だが、米はサクナヒメの所が強すぎるのであそこから輸入する方が手っ取り早いかも知れない。他所と繋がりを保って損はないし。
*
そんな訳で、<ヒメ>と二人で馬背神社まで【トラポート】で移動して異界に入る。以前に*4年二回ほど異界内の雑魚掃除をするよう指示があったので、【餓鬼】やLv1未満の【スライム】のなり損ないを間引きながら、この異界のボスである馬背神(分霊)を探す。この異界は半径600mほどの平地主体なので、馬背神を探すことはそれほど難しくない。
「あ、馬背神様、お久しぶりです。今日は雑魚間引きのついでにお伺いしたいことがありまして」
「ブルルッ」
「馬の奉納については目途が立ちました、今は道産子を選定しているところなのであと一か月もあれば」
馬の姿の馬背神だが、異界ボスの座を奪取したときに比べてだいぶレベルが上がっているようだ。これならこの異界に野良悪魔が湧いてもボスの座を再び奪われることは早々ないだろう。ただ人の姿をしていないから会話がやりにくいんだよね。
「して
あ、<ヒメ>に憑依された。これはこれで会話に不自由しないけど、【シキガミの義骸】*5を用意してそっちを使ってもらうほうが良いかも知れない。
「馬を連れてきた後ですが、単にここで放し飼いにするのではなく、私以外の氏子たちもこの地に入れるようにして、ここを牧場にしたいのです」
「来る【終末】に向けて我が庭にて氏子どもを守るか、それは構わぬ」
「ありがとうございます! それで相談なのですが、この地の今の広さでは少々狭いかなと思いまして。
北向観音も生島足島神も俺の夢に出てきて俺を勧誘した*6くらいだから、協力してくれると思うんだよね。それに馬背神も力を得てきたから異界拡張できると思うんだ。
異界拡張のイメージ図
「……吾の力だけではなく、祖父神、
「それはタケミナカタ様なら土地を広げる
諏訪大社の祭神でもあるタケミナカタは、古事記に置いて国譲りの神話でタケミカヅチに敗北した国津神である。諏訪湖畔に諏訪大社が建てられた*7ことから分かるようにタケミナカタは水神であり湖畔を渡る風神であり、また弥生時代から諏訪地方の守護をしているため狩猟や農耕の恵みを人に与える神であり、中世に諏訪の一族が武士化したため戦神の側面まで持つようになった、広い権能を持つ神である。
そのような神であれば、異界を拡張することもできると。タケミナカタは馬背神社にで馬背神と合祀されているし、生島足島神社には境内社として諏訪神も祀られている。馬背神の言う通り、力を借りて異界拡張できそうな気がする。
「んー、ダイダラボッチ伝説か? 北向観音の背後にある夫神岳と女神岳はでいだらぼっちが運んできたと言う民話があるけど」
ダイダラボッチは山や湖沼を作ったという伝承が日本各地に残る巨人であり、鬼や大男だけでなく国造りの神の概念が含まれるとされる。上田市にダイダラボッチ伝説が残る以上は、ダイダラボッチの力で地形を変える(土地を広くする)ことも不可能ではないだろう。とはいえ国津神タケミナカタとダイダラボッチの関係はあまり密接ではないので、この
小学生の時に地元上田市の民話を勉強して、記憶の片隅に引っかかっているものが……
「あっ、小泉小太郎伝説!」
大蛇が人の子を産んで、その子が小泉村で小太郎という名で育てられた民話がある。大蛇は竜とイコールであり、竜は水神とイコール、すなわち水神としてのタケミナカタ。長野県には松本市にも泉小太郎という類似した伝説があり、こちらだと小太郎の母はタケミナカタの化身である竜とそのものずばり。そして小泉小太郎/泉小太郎は、母竜とともに半過の崖/山清路を突き崩し、湖であった上田盆地/松本盆地を排水して人が住める里にしたという。
「なるほど、タケミナカタ神は上田で土地を広げたという前例があるのか」
「きちんと『認識』したようでなにより」
オカルトの世界では『概念』や『認識』が重要な意味を持つ。悪霊を認識できない未覚醒者と認識できる覚醒者の差を述べるまでもなく、神が力を振るうにせよ概念・認識の有無は大きく違う。
ところで、俺の背後にいきなり出現したプレッシャーはなんですかね。馬背神が憑依している<ヒメ>が妙に生暖かい目で俺を見ているのも、関係ありますか。俺は観念して後ろに振り返った。
「タケミナカタ神でいらっしゃいますか」
「いかにも」
どう見ても【龍王ミヅチ】です。話の流れからして、タケミナカタ神の分霊で間違いありません。
「小太郎は竜の背に乗って巨岩・岩山を突き破った。其方は小太郎と同じく乗りこなせるか?」
「乗りこなすって、えぇと……」
「近頃は暴れることもなく退屈でな。我に力を示して見せよ、さすれば力を貸してやろう」
ミヅチはやる気満々ですね、ゲーム的表現ならイベント戦闘ってやつですか? 避けられない戦いっぽいなぁ。
今日は異界の雑魚掃討しかしないつもりだったから、装備とかきっちり用意してないんだけど、準備の時間を貰えませんか?
あ、馬背神(馬の姿)が俺達から距離を取って観戦モードに入った。いつの間にか馬背神の隣に北向観音と生島神足島神も居て、みんな観戦モードっぽい。
……仕方ない、腹を括ろう。ミヅチだけで良い、ダイダラボッチまで出てこないだけマシと考えるんだ。
「<ヒメ>! 紅葉! <アグネス>! やるぞ!」
北向観音と生島神足島神からやる気のなさそうな形ばかりの声援を貰い、俺達はミヅチに戦いを挑んだ。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv20
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディアラマ、ポズムディ、チャームディ、パララディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*3、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*4、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv12
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*5
仲魔3:鬼女紅葉 Lv15
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、変化、酒の宴(劣化)*6
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第28話 牧場拡張
第3部完! なおレース編は次に持ち越しです。
前回のあらすじ:ミヅチに戦いを挑んだ!
サイゲームスの二次創作ガイドラインに従い、暴力的シーンはカット。
<ヒメ>の活躍シーンは各自で脳内補完していただくようお願いします。
*
タケミナカタ神の分霊である【龍王ミヅチ】に戦いを挑んだ結果、ぎりぎり辛勝しました。アメリカ武者修行で俺の【ディアラマ】と紅葉の【アギラオ】を取得してなかったら負けてたね。なおミヅチに勝ってもミヅチを仲魔にできるとか美味い話はなかった。
まぁ異界『浦野牧』を希望通りに拡張できるようになったので十分。今後はマグとマッカを奉納すればするだけ異界が拡張されます。奉納量が多ければ上田市全域にまで広げることも可能なそうですが、マグとマッカをどれだけ奉納するか見当もつきません。
当面はマグとマッカを稼ぐ生活が続きそう。
異界『浦野牧』を拡張する話で神との交渉が終わったら、次は人との交渉だ。とはいえ地元霊能組織『馬背神社連』は規模が小さいので大したことではない。宮下のおじさんと彼の娘さんである知佳さんの2人しかいないし、レベル的にも俺が一方的に通達するだけで済む力関係だ。もっとも小さいころから近所づきあいがある関係で、こちらが一方的に押し付けるつもりもない。
俺は、市内の別所温泉に【ガイア連合】の【派出所】を設立して俺がそこのトップになること、馬背神社の異界を今後整備していき【終末】後に一般人もそこに移住(保護)可能の二点を決定事項として伝え、派出所の設置場所として潰れたホテルなどを見繕って欲しいこと、2人には派出所に所属すること、つまりガイア連合の下部組織に名実ともに成り下がることを了承して欲しいとお願いした。
「このご時世、ガイア連合の支援を受けられるなら万々歳というのは、四国・大赦や青森・恐山を見れば明らか。私は反対する理由がない」
「私も構わないけど、私の【覚醒】を手伝ってくれるって条件つけても良い?」
「知佳さんが覚醒するのはこっちにもメリットしかないので歓迎です。派出所の窓口や事務を仕切ってもらうにしても覚醒者の方がなにかと便利ですし」
俺が見るに、知佳さんの才能限界はLv4くらいだと思う。
「宮下のおじさんにも、他所の地元霊能組織との渉外を任せたいです。二十歳そこそこの小僧には貫目も人脈も足りませんし」
「それは構わないが…… そこまで考えているなら、知佳との結婚も考えてくれないか?」
おじさんが意を決したのか切り込んできた。地元霊能組織が黒札と婚姻関係を望むのは珍しくなく、むしろおじさんの提案はタイミング的に遅かったように感じる。やはり初手で<ヒメ>という黒札用高級式神の存在を見せつけたからだろうか。
知佳さんの顔をちらりと見ると、彼女も本格的に嫌がっているようには見えない。彼女は俺の兄と小学生の同級生で、小さいころから近所づきあいして為人は分かっているので、妥協できる範囲ということなのだろう、多分。
俺としても今後この地で腰を据えてオカルト仕事をしていく中で、他所の地元霊能組織から女性をあれこれ紹介される面倒を思えば、彼女と結婚するのは悪くない。いや、幼馴染のお姉さんとチョメチョメできるのは、スケベ部的にかなりの高得点なシチュエーション、悪くないではなくて明確に良い。
「知佳さん、結婚しましょう。俺としては偽装結婚でも、三十路前に子を三人産んでくれる方でも、どっちでもオッケーです!」
「維茂君、女の子はいつだってロマンチックな言葉を期待しているものなの。やり直し!」
「御免なさい、調子に乗りました」
知佳さんが照れ隠しっぽくお姉さん風を吹かせてきたので、素直にその流れに乗って、小学生の頃のような振舞いをする。口にはしないが、結婚については当事者3人の間で合意成立という雰囲気だな、良かった良かった。
「具体的な式の日程などは別途詰めるとして…… ご両親に川上姫さんとの関係を納得させるのは、維茂君が頑張るんだよ」
あっ、ヤベぇ。<ヒメ>を結婚も視野に入れたお付き合いの相手と両親に紹介したんだっけ。正妻公認の妾とか、ちょっと世間体が許されないか。終末になって法が機能しなくなれば男の甲斐性で済むだろうけど、だと言って終末はよ来いは本末転倒か。さてどうしたものか……
*
人との交渉も無事に終わり、後は道産子・木曽馬を買い付けて異界『浦野牧』に【トラポート】を使って放り込むだけになった。これは以前から目星をつけていたので、雄雌の番いで5ペア10頭も購入すれば良い。
ガイア連合からの依頼を受けて、報酬は【ガイアポイント】やマッカではなく日本円で貰う方が単純なレートはお得なんだよね。オカルトに関係ないもの(馬や派出所用の土地)を買うなら円払い。
後は転生者用掲示板で馬育成異界についてちょこちょこ話題を振って、黒札が一時的な用心棒でも良いから来てくれないか期待しているんだけど、ほぼすべての黒札が二言目にはサラブレッドと言うので、顧客のニーズという観点でサラブレッドの購入も検討している。
サラブレッドは競馬に特化した品種改良であり、終末後の農耕・荷駄用には向かないので個人的には気乗りしないが、多様性は大事かもしれない。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv21
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディアラマ、ポズムディ、チャームディ、パララディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2、小泉小太郎*3
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*4、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*5、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv12
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*6
仲魔3:鬼女紅葉 Lv16
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
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最終話 馬背神杯ジャパンワールドカップ
ある日、アメリカのボストンでクトゥルーが召喚され、日本へ向けてICBMが発射された。その結果、日本では【半終末】という状態になり、最終的に【終末】を迎えることとなった。
俺は【終末】に備えあれこれ準備していたため、生き延びるという点はそこそこ恵まれた環境だ。四国・大赦の銀時ニキほど周囲に好影響を与えてはいないが、ドクオニキのAV撮影シェルターよりはずっとマシ。
*
「終末を迎え競馬という娯楽が消え去って幾年月。馬ニキの尽力により、ここ『浦野牧』で競馬が復活します! どうですか、解説のドクオニキ」
「競馬と呼べるほどに多数の馬を集めて曲がりなりにも走らせるなんて、世界広しといえどここだけじゃないですかね。実況のスタンクニキ」
「競馬場などという建物は存在せず、野原にロープを張っただけのフィールドで、芝1600mと強弁するのはどうなんでしょう?」
「オグリキャップの有馬記念とか、芝が枯れて土が剥き出しになってたけど芝表記でしたから、まぁぎりぎりセーフだと思います」
「各馬、続々とスタート地点に集まります。ゲートはありません、相馬野馬追の甲冑競馬スタイルです」
「興味を持ったらようつべに映像上がっているはずなので調べてください」
「では改めて、馬背神杯ジャパンワールドカップ第1回、芝1600mの出走馬を紹介します」
1番、ギンシャリボーイ。騎手は松岡正海。この『浦野牧』で生まれ育った、今では世界中でも希少な純サラブレッドです。
2番、ピンクフェロモン。騎手はミナミィネキ、処女じゃないのにユニコーンを従えています。
3番、チョクセンバンチョー。騎手は反町キメジ、こちらはバイコーンです。
4番、バンエイホース。騎手はムワイ・サンコン、スレイプニル。北海道のばんえい競馬で使われていたペルシュロン種に引けを取らない、1トンの巨躯が目立ちます。
5番、ピーピ-ドーナッツ。騎手は平田知佳、こちらも『浦野牧』で生まれ育った木曽馬、ポニーの体格なので4番と並ぶと親子ほども違います。
6番、ハリボテエレジー。騎手は鬼女紅葉、噂によると今朝仕上がったばかりの、段ボールとガムテープの手作りサラブレッド(?)。
「ところで、本レース開催に多大な尽力をした馬ニキと相棒式神の姿が先ほどから見えませんが……」
「中の人などいない!」
「おっと、失礼しました。では解説のドクオニキ、どの馬が勝つと思いますか?」
「普通なら悪魔であるユニコーンかバイコーンかスレイプニルなんでしょうけど、私は純サラブレッドであるギンシャリボーイを推します。あの馬、覚醒しているんじゃないかってくらいに賢いんですよ」
「へー、賢いってエピソードとかあります?」
「私のシェルターで獣姦AVを撮影するとき、牡馬の派遣を依頼したらギンシャリボーイが来ましてね」
「はい、この話はお終い! ファンファーレが鳴ります、まもなく出走です!」
各馬いっせいにスタート!
まず飛び出したのはギンシャリボーイ、続いてチョクセンバンチョー、つやつやのリーゼント風ツノ。さらにピンクフェロモン、ジョッキーいわく最強牝馬。牝馬? 中央いい位置、北欧からの刺客バンエイホース、3馬身離れてピーピ-ドーナッツ、大きく遅れて最後尾ハリボテエレジー、これは馬なのか。ハリボテエレジーから空き箱を叩くような音がしている。
さあ混戦模様のジャパンワールドカップ、各馬第3コーナーを周って、ああっと、転倒! ハリボテ壊れた! ガムテープの剝がれる音!
大ケヤキを抜けて最終コーナーへと突っ込んでいく、先頭は依然ギンシャリボーイ、内からピンクフェロモンがつけている。外からチョクセンバンチョー、バンエイホースも上がってきている。追いかけるピーピ-ドーナッツ、残り400m。
鞭が入る鞭が入る、喰らいつくピンクフェロモン、大きく散らかった展開。ああーっ、ミナミィネキ立ち上がった! フェロモン全開、女王様とお呼びーっ! しかしギンシャリボーイ逃げる、逃げる! まるでミナミィネキと過去何かあったかのような逃げっぷり、ギンシャリボーイ、今ゴールッ!
確定しました、1着ギンシャリボーイ、2着ピンクフェロモン。それでは皆さんさようなら、またどこかでお会いしましょう。
スレを眺めるうちに覚醒馬でレースというネタを思い付き、その一発ネタを書くためにどこまで舞台に説得力を持たせられるのか、というところから始めました。
前振りに28話も使うとは自身も思っていませんでした。
本作はこれにて完結、今までのご愛読ありがとうございます。
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第29話 英気の養い方
今回はR-18にならない程度でいちゃいちゃさせたかった。
異界『浦野牧』拡張の目途も立ち、【ガイア連合】派出所を設立する目途も立ち、馬を浦野牧へ運び込む目途も立った。
やることリストに小さいことはちょこちょこあるが中期目標がなくなって、こう燃え尽き症候群というのか、やる気が出てこないというか。前世のワーカホリックな部分が悪い方面に出てきちゃったというか。
「やる気が出ないなら出るまでごろごろしておればよかろう。今まで働き詰めだったのだから、誰も文句は言わぬだろうに」
紅葉がそう言うなら、そうしようか。
山梨・星霊神社を中心としたガイア連合山梨支部にファミリータイプのマンションを一室確保できた*1ので、<ヒメ>と紅葉の3人で飽きるまで爛れた性活もとい生活をするのも悪くない。
──ヤリまくりの生活は3日で飽きました。寝ても覚めてもただひたすらに腰を振るだけというエロ漫画内でしかお目にかかれないような状況に対して、最初はとても興奮したのだけど。別に<ヒメ>や紅葉に対する愛情が薄れた訳じゃなく、体力を消耗しつくして動けない訳でもなく、リビングのソファで致そうとしたところでこのシチュエーション前もやったな、と感じた瞬間にすっと冷めてしまった。
「……あー、ごめんな? なんか醒めちゃった」
おねだりポーズの<ヒメ>をハグしてソファの隣に座らせ、肌の触れあう部分から微弱な気を流してゆっくりした気の循環を行うに留める。【房中術】スキルって性の技巧が主題ではなく、気を養い己の中にある内的宇宙と己の外に広がる外的宇宙と合一を果たすのが目的で、本来の使い方はこうだよね。
「お前様は堪え性がないのぅ」
紅葉がソファの反対側から身を寄せてきたので両手に花とばかりに左右に二人を抱きかかえ、紅葉も含めた3人で気をゆっくり循環させる。日光浴しながら昼寝をするかのような柔らかい心地よさに包まれ、むしろこうやってダラダラする方が自分に合っているのかなとも思う。
「二人とも、ありがとな」
<ヒメ>と紅葉が自分の側にいてくれるからこそ、こうして生きていられるし、のんびりした悦楽に浸っていられる。二人への感謝の念が自然と沸き起こり、その心持ちが循環する気に自然と乗る。
「んっ……」
<ヒメ>が軽く体を震わせてより密着するように体勢を変える。
「
紅葉が耳元で囁くのがくすぐったい。二人が俺の感謝の気持ちを受け入れてくれたことがなおさら心を温かくしてくれる。
あ、かつてミナミィネキが『まぐわい不要で肌を触れ合うだけで肉欲を超越した法悦を得て、最終的には視線を交わし微笑みあうだけで至上の歓喜』*2と言ってたけど、これのことか。
と、房中術について学びを得たのは良いが、気の循環を乱してしまった。
「……お前様、もう終わりか? 早漏は嫌われるぞ」
「ごめんなさい」
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第30話 馬を買う、かねがね金がねぇ
手持無沙汰になるとどうにも気持ちが落ち着かないってのは、やっぱあれだよ、ニートを続けるにも才能ってのが必要なんだ。
やるべきタスクは終わらせてしまおう、そう決心して俺は【覚醒者掲示板】の地方情報スレを覗き込んだ。
「牧場で道産子・木曽馬など日本在来種の馬を買いつけて、軽トラで支所・派出所・異界前など霊地に運んで一時預かりしてくれる代理人を募集します。こちら【トラポート】持ちなので連絡いただければすぐに受け取りに出向けます、値段や頭数は要相談。と」
自分のハンドル名を『馬ニキ』と設定して、仕事の依頼を書き込む。オカルトが絡む命の危険がある仕事じゃないから、1日1回スレをチェックすれば良いだろう。
それより、本命は異界攻略の臨時メンバー募集といった地方のお仕事を探すことだ。俺のトラポートは運び屋向けではないが、Lv20黒札+仲魔3人という戦力を全国各地に派遣できると考えれば、稼げる能力である。
【ガイア連合】の派出所開設となればそこに置く販売用消費アイテムだけでも多額の費用がかかるし、拠点防衛用の【シキオウジ】は無理でも、貸出用の【退魔装備】【属性武器】【アガシオン】【イヌガミ】【シキガミ】*1を一通り揃えるとなると、それだけでゲロ吐きそうになるくらいの額になる。また派出所は土地建物の値段だけでなく、専用のネット接続機器を設置したり、遠見の術などを弾く密談スペースとか、物理的オカルト的の両方に対策した物品倉庫とか、オカルト的改装も必要となる。
とにかく、稼いで稼ぎまくらないといけない。副産物として自身のレベル上げがついてくるが、稼いだ分は装備更新や二体目の高級式神といった戦力増強に回せないのが厳しい。
*
現地霊能組織の【未覚醒者】であり俺の婚約者となった宮下知佳さんの覚醒&Lv上げも今のうちに行う。彼女は派出所で事務を仕切ってもらう予定であり、黒札の身内枠いわゆる金札となるので、山梨・星霊神社で【俺たち】に混じりながら覚醒修行を受けてもらうことにした。【ソニックナイフ】や【ハイレグアーマー】など俺達パーティのお古装備を渡し、【デモニカ】を彼女用に新規調達して【金札養殖用修行場】に一緒に潜れば、彼女の根性次第だが3か月くらいで【覚醒】すると思う。
彼女が覚醒した後はアガシオンを渡しておけば、異界『浦野牧』の雑魚掃討も任せられる。彼女の才能限界はLv4~5くらいのはずだが、あそこの雑魚はLv1【餓鬼】がせいぜいだし。
彼女以外にもう一人二人、派出所の勤務員枠として金札認定しても良いかな。ちひろさんが言うには、根性なしの黒札俺たちを事務員枠で雇うくらいなら地元霊能者で見込みのある者を引き上げる方が十倍マシなんだとか*2。
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第31話 伝承もとい神話再現
【ガイア連合】派出所の設置場所として、長野県上田市別所温泉の倒産したホテルを土地ごと買収した。購入資金は『馬背神社連』にだいぶ肩代わりして貰ったが、ガイア連合の配下になったなら資金供出は当然、むしろ出さなければ周囲の霊能組織から疑われると宮下のおじさんは笑っていた。先行投資した分は今後ガイア連合から有形無形の恩恵を受けるのでペイできるとのことだが、四国・大赦のように大規模商業施設ジュネスを誘致するわけでもないのでいつ頃ペイできるのかは不明だ。
覚醒者掲示板で依頼していた馬の代理購入案件が受注され、異界『浦野牧』に日本在来種の道産子・木曽馬・寒立馬が牡馬牝馬セットで10頭ほど奉納された。馬背神は馬が奉納されたことに大喜びで、マグをあまり納めていないのに異界拡張を行ってくださった。フル拡張ではないが、『浦野牧』への入り口が浦野地区・馬背神社と別所温泉地区・北向観音の2か所に増え、派出所からも『浦野牧』へアクセスしやすくなった。
それが切っ掛けとなって、俺にとって面倒事も寄ってきたのだが。
*
派出所予定地で倒産したホテルのリフォームを実地検分しているところ、アポなしで自動車が敷地内の駐車場に入ってきた。どこかのヤクザのカチコミかと一瞬思ったが、バンに描かれているロゴを見て違うと悟った。市内のメシア教会のロゴだよ、【メシアン】だ!
まぁ俺は話の通じる文明人なので、メシアンだからという理由で問答無用に攻撃したりしない。もしかしたら【穏健派】と会話するだけで終わるかもしれないからな。……狩人ニキとのアメリカ旅行後、このような思考に偏ってしまったのは良かったの悪かったのか。
自動車から下りてきたのは、Lv5くらいの初老の男と、Lv1~2くらいの成人男女が4人の合わせて5人。地元の零細霊能組織を威圧するならこれくらいでも十分か。*1
「なんだい、勝手に入ってきて。面会予約もないだろうに、何が御用ですか?」
「これは失礼いたしました、平田維茂さんですね? 宮下のお嬢様と婚約したと聞いて、お祝いを述べに参りました」
初手で高圧的に出てこなかったので様子見である程度会話を試みたが、こいつら穏健派メシアンだな。善人ではあるが、【メシア教】と【ガイア連合】は相思相愛だと勝手に解釈する頭お花畑な連中*2でもあるので、言質を取られないよう警戒はしないと。
「改めてお聞きしますが、本日はどのようなご用件で? 先ほど婚約の祝いと伺いましたが、アポイントも無しで押しかけるほど重要な要件でしょうか?」
「いえ、その…… 先日、小さな地震があったことはご存じですか?」
「知りませんでした。それが何か? 教会の建物が損壊したのでしょうか?」
「えぇと…… 建物ではないのですが、その。ガイア連合に依頼したいことがありまして」
どうにも向こうの歯切れが悪い。とはいえガイア連合に依頼ということはオカルト絡みの事件な訳で、これは真面目に取り合う必要があるか。
「
「……武高国神社の要石が、先日の地震で破損したのです。異界へと繋がる穴が生まれ、我々では一時しのぎの封印しかできませんでした」
「っと、それは大掛かりな話ですね。話の続きは現地で詳細な状況を確認してからで良いでしょうか?」
武高国神社は、北向観音と生島足島神社の間、両社を直線で結んだラインの真上にある。江戸時代終わりの1847年に発生した善光寺地震は余震が一か月以上も続きこの上田地方でも多大な被害が出たため、この地に鹿島神宮を勧請し要石を設置することで地震を抑えつけようとした経緯がある。
メシアンどもが乗ってきたバンに余裕があったので相乗りさせてもらい、武高国神社まで10分ほど。確かに要石が真っ二つに割れて、異界への穴ができている。先日の地震により破損したであろう古いメシア教由来の結界と、応急処置として張られたメシア教由来の簡易結界を見て、なんとなくの見当がついた。戦後にメシア教がこの地の神を封じ地元霊能者を根切りにしたが、メシア教による新たな霊的支配を敷くときに、比較的新しく設置されたこの要石を地元神封印のために転用したのだと推測する。
戦後から半世紀以上が経過して代替わりした現在、この地のメシア教エクソシストにはこの異界を封印するだけの腕がないのであろう。
「異界の中は確認しましたか?」
「入口すぐで鬼らしきものに襲われ、命からがら逃げ帰ったので詳しくは分かりませんが、平地が広がっていました」
この異界への穴、行先は『浦野牧』だ。馬を奉納したことで馬背神が異界を拡張してくれたが、地震と要石の破損はそれが理由だろう。
「新たな結界のおかげで今すぐ異界から化物が出てくるということは無いでしょう。いったん戻って装備を整えるだけの余裕はありそうですね」
「おお、我らが尻尾を巻いて逃げ戻るしかなかった地に果敢に挑むとは、なんという勇敢な!」
「で、戦後にこの地のオカルトを仕切ってきたメシア教の皆様は、ガイア連合に依頼を解決するということでよろしいですか? 対象が異界となれば報酬額もお高くなりますが?」
相場がどれくらいか分からないので、装備を取りに戻るときちひろさんに確認しておかないとな。なあなあで済ませると次も安値になってしまうので、きっちり取り立てないと。
*
装備を整えて異界に潜ると、諏訪神タケミナカタ(分霊)と鹿島神タケミカヅチ(分霊)が相撲を取っていた。古事記だと国譲りの神話で両神は力比べをしたので、神話の再現ということになる。
この異界はタケミナカタ神のホームグラウンドかつタケミナカタ神(分霊)の方がレベルが高いのに、両神ががっぷり組み合って互角である。神話補正マジ強い。このまま待っていても容易に勝負はつきそうにないので、お互いが拮抗しているうちに、行司として水入りを告げて勝負に割りこむことにした。
異界への穴が突発的に発生したのでそれを封じて欲しいとお願いしたところ、それ自体は快く受け入れてもらえた。
その代わり、水入り引き分けに持ち込まれたタケミカヅチ神から、相撲の稽古をつけてやると言われてしまった。これはカワイガリってやつですかねぇ。<ヒメ>も紅葉も女性体なので神事でもある相撲に参加できないとなれば、俺一人でやるしかない。え、日本書紀には雄略天皇が女相撲をやらせた記録があるから<ヒメ>もやるって? あ、紅葉は遠慮すると。
よし、ぶつかり稽古、頑張ります! 死ぬほど酷い目に合うと思うけど、稽古というなら死なないはず! <ヒメ>と二人で被害分散するから、多分。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv22
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディアラマ、ポズムディ、チャームディ、パララディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術
称号:馬背神の加護(弱)、スケベ部幹部*2、小泉小太郎*3
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*4、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理耐性、火炎耐性、氷結耐性、破魔耐性、呪殺無効、精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、一分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交
装備:巴の薙刀、勝負服*5、赤色のピアス
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv12
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*6
仲魔3:鬼女紅葉 Lv16
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、変化、酒の宴(劣化)*7
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第32話 マイ式神の強化
タケミカヅチ神から相撲の特訓を受けた。特訓内容はひたすらどつかれて、ディアラマでHP回復してはまた転がされての切り返し。HP回復するから特訓時間が余計に長くなることに訓練が終わってから気づくあたり、中はそこまで頭が回らなかった。
おかげで汎用スキル【相撲】を覚えた。これは女神転生RPGでプレイヤーが取得可能なスキルでもあり、俺はまた一歩強くなった……はずだ。いや、素手格闘するより武器を使う方が強いので、武器が使えないシチュエーションでなければ強くなったとは言えない。一応は受け身とか物理防御系の技もあるが、防御より攻撃、防御より回避、というセオリーは変わらない。ちょっとだけタフになった、という程度か。
ちなみに同じく稽古を受けた<ヒメ>も相撲スキルを覚えたが、彼女はついでに【防御形態】*1まで覚えた。タンク性能が上がりすぎじゃない? もう少しアタッカー寄りになっても良いのよ?
俺に稽古をつけて満足したのか、タケミカヅチ神は異界『浦野牧』から出て武高国神社へ戻っていった。その後に馬背神により異界の穴は塞がれ、正規の入口は馬背神社と別所温泉派出所の二か所のみとなった。これで現世に戻って異界の穴を塞いだと報告すれば依頼完了になる。
短期で解決できたし周囲に被害も出さなかったので、報酬にボーナスがつくはずだ。それにオカルト事件を鮮やかに解決したという実績を積めたので、今後を考えれば上出来な結果と言えるだろう。代償として心身ともに多大な疲労を負ったが、温泉に浸かって美味い物食って可愛い女の子といちゃこらすれば治る、はず。いや数日は何もしたくねぇ。
*
中期以降に製造された【高グレード・女型シキガミ】には【エロ魔力供給システム】を標準採用されている*2。黒札のマグが込められた【肉片】はオカルト素材として一級品だが、それを式神に定期的に摂取させることで強化につながる。【房中術】という疑似的な【儀式】で濃いマグを含められるようになれば更に効率アップ。
この強化術だが実は対象は式神に限らない。地元霊能組織に所属する才能限界が低い女性も、同様にして定期的に
そのような理由で、地元霊能組織に所属する
俺は今まで高級式神<ヒメ>と鬼女紅葉を主要な相手としていたが、高級式神は【肉の体】を持っており(注:タンパク質の肉ではなく、3次元物質って意味の、フォルマやマグネタイトを元にはしているが不定形マグネタイトではないという意味)*4、仲魔は最初期の紙製式神のように『肉体のメインは戦闘や行動時のみマグネタイトで作る』*5ため、人の持つ『生身の肉体』とは大きく異なる。
俺の対人経験はミナミィネキから個別指導*6してもらったときに少々あるだけなので、人・高級式神・仲魔の共通点・差異を比較するだけでも興味深い。あまりやりすぎると【セックス教団】教祖に祭り上げられるスタンクニキ*7のようになるので注意が必要だが。
*
<ヒメ>に追加する【スキルカード】をのんびり探していたが、このたび【破魔無効】*8を購入できたので、今までの【破魔耐性】からアップグレードを行った。
このとき、初期から<ヒメ>に装備させているアクセサリ【赤色のピアス】が気になったんだよね。装備者に【一分の活泉】スキルを付与するアイテムだが、これ一分の活泉スキルという概念を含有したスキルカードの一種と見立てることができるんじゃないかって。今までずっと<ヒメ>に付けてたからスキルが馴染んでいるし、元からタンク型の<ヒメ>と相性が良いスキルだから、装備品ではなく彼女に直接付与できる、そんな閃きがあった。
【パトラ】のスキルカードを初めて作成した*9ときと同じようにできる予感があったので、やってみた! その結果は成功し、<ヒメ>は一分の活泉を覚えた! 含有概念を失った赤色のピアスは壊れた!
なおアイテムをスキルカードと見立てて高級式神に付与する手法は、スキルと当人の相性とか制限が多いので、多用できない。ミナミィネキの弟子として、式神強化*10の手腕に一歩近づけたと思ったが、先は長そうだ。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・19歳 転生者 Lv22
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)、氷結弱点(装備)
スキル:パトラ、ディアラマ、ポズムディ、チャームディ、パララディ、トラポート、ハマ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4
装備:小烏丸レプリカ、ガイア連合製退魔銃(拳銃型)、ブラッドデューク一式*5、デモニカ、八尺瓊勾玉レプリカ*6
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(ひっかき互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*7、一分の活泉
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
装備:巴の薙刀、勝負服*8
仲魔2:妖魔アガシオン<アグネス> Lv12
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*9
仲魔3:鬼女紅葉 Lv16
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、変化、酒の宴(劣化)*10
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最終話(2回目) 開拓系配信者になろう
自身の成長兼マグ・マッカ稼ぎとして【覚醒者掲示板】の地方情報スレを頻繁にチェックし、稼げそうな案件があるならトラポートで移動して異界に突入。ガイア連合の【派出所】が形になったので、上田市を中心とした長野県東信地方一帯のオカルト事件の解決(これはゲートパワー上昇に対処しきれない地元霊能組織のケツもちが多かった)。
稼いだマグ・マッカは異界『浦野牧』のシェルター化として投資し、【終末】後に一般人も収容して牧畜ができるように長屋建築やマグバッテリー式電気製品の導入(最低限として異界からDDSネットに接続できるだけのインフラ整備)した。
それらの作業がないときは、山梨・星霊神社の【修行場・中層】に潜ったりもする。ミナミィネキの指導の下でそっち方面の自己研鑽も欠かせない。
そんなこんなでLv30までレベルアップしました。今までお世話になっていた【パトラ】が【ポズムディ】や【チャームディ】を吸収して真女神転生5仕様の万能状態異常解除に進化したり、<アグネス>がLv20で【妖魔アガシオン】から【妖鳥コカクチョウ】に変化したり、まあそれなりに強くなった。
とはいえ、異界をシェルターとして整備しつつガイア連合派出所の所長というスタイルを続ける限り、自分の成長はここら辺が限度かなと思う。
*
「皆さん、こんにちは。今日は『浦野牧』に出没する悪魔を退治します」
カメラを<アグネス>に持たせ、撮影しながら『浦野牧』を歩く。
「野良悪魔が異界に出現する際、その異界のルールに従うことで出現コストを安くできるんですね。カマプアア神の養豚場ですと【フード・カタキラウワ】として出現して豚肉にされるなんてのがよくある現象ですが、うちの異界でも馬牧場というルールに従って【ペガサス】【ユニコーン】などの馬型野良悪魔が結構出ます。まぁ【魔獣】【妖獣】じゃなくて【フード】として出現するので【覚醒】さえしていればLv1でも勝てます*1」
異界の開発は俺にとって、シム○ティとか巣作り○ラゴンみたいなシミュレーションゲーム系ではなく、スローライフ系田舎開拓ユー○ューバーに感じられた。
そのため、異界の知名度アップを兼ねてコンテンツ配信を行っている。用水路整備や馬房増築といったDIYや、乗馬してみたとか馬にブラッシングしてみたといった動物ネタ、家庭菜園や牧草栽培など農業要素、山野で山菜などを収穫してキャンプ飯、そして今回の悪魔討伐などを緩目に編集してDDSネットにアップロードするのだ。
「お、バイコーンが2体いますね。今夜は桜鍋かな。<アグネス>は上空から全体を見渡す位置取り、私と知佳ちゃんと紅葉が勢子で3方から追い立て、<ヒメ>が仕留める形で行くよ」
*
こんな感じで【終末】を迎えるまではスローライフ系配信者としてやっていくつもりである。
もちろん配信部分は上澄みだけで、映像に出せない苦労はたくさんある。それでも、仕事は概ね順調で、美人の嫁も複数いる。社畜でしかなかった前世と比べれば、命をチップの稼業といえど大成功と言っていいだろう。
できるなら【終末】を迎えずに今の緩い生活を続けたいところだけどね。
マイナー地方神と契約した男の話・完
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・20歳 転生者 Lv30
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*5、一分の活泉、二分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:妖鳥コカクチョウ<アグネス> Lv20
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、マカカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、警戒*6
仲魔3:鬼女紅葉 Lv26
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、ムド、変化、酒の宴(劣化)*7
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Ex1 伝承再現・牛に引かれて善光寺参り
アメリカにクトゥルーが出現し、日本の霊能力者たちも終末が間近に来ていると肌感覚で理解したころ。
新潟在住の田舎ニキが音頭を取って*1、新潟と山梨を繋げる【街道】計画が発足した。*2
なんだかんだ理屈をつけて富豪ニキ(ギルニキ)から予算を分捕ったというので、甲信越の【ガイア連合】は降って湧いたこの大型公共事業にてんやわんやすることになった。
小さいながらもガイア連合【派出所】である【浦野牧】は長野県上田市に存在するため、この新潟山梨街道計画の中継地点として指定され、同時に協力するよう依頼された。依頼と言っても既に予算がついているため実質命令なのだが、浦野牧の管理責任者である平田維茂(馬ニキ)は前世の社畜根性を発揮してこの依頼を受諾した。
「とはいえ、結界を張るのは苦手だから街道整備に協力と言ってもな……」
銀時ニキが大赦支部に積極投資して霊能結界や周辺市町村への連絡網を構築したり*3しているのに対し、浦野牧派出所は地域への投資をあまりしていない。支部と派出所で予算規模が違うというのもあるが、浦野牧という【異界】を超大型シェルターとして扱って、いざというときは一般人も異界シェルターに入れて農業させるという考えに基づいているからだ。
そのため投資となれば周辺の霊的安定より異界発展が優先されている、これはヒノエ米で日本の米の需要をすべて賄うと意気込んでいる【ヒノエ支部】と似たようなスタンスだ。
それでもこの街道計画に積極的なのは、終末後に自動車などが使えなくなり物流が乏しくなるのが見込まれており、浦野牧で生産する馬が物流に役立つからだ。
甲信越街道図
地図を見ると、直江津-長野-上田-小諸の国道18号は北国街道(善光寺街道)、小諸-韮崎の国道141号は佐久往還(佐久甲州街道)とどちらも中山道の脇街道ルートになっている。この古来から街道であるという概念を上手く使うことで、街道計画に寄与できそうだ。
計画書だと新潟-長野は国道117号も候補に上がっているが、このルートは新潟チーム主導でやってもらいたい。
「善光寺参りという概念が存在するのだから、霊能に優れた人が実際に歩くことで、その概念を霊的に補強する。最低限、上田-長野は俺が、できれば小諸までやってしまいたいな」
浦野牧の異界を維持する神仏の一角、北向観音は長野市の善光寺と参拝がセットになっており、両参りと言われている。江戸時代の善光寺地震のときに両参りした者は北向観音の加護で難を避けたと言われており、実際に北向観音にはその絵馬が奉納されている。
また小諸の布引観音は『牛に引かれて善光寺参り』の伝説がある地で、牛に化けた観音様が布を角に引っ掛けて不信心の老婆がそれを追いかけ、善光寺まで導かれた老婆は信仰に目覚めたという。
神仏の加護を得た街道という概念をまず植え付けて、その後にちまちまと結界で補強することになるのだろうか。そこら辺の具体的な手順は新潟チームなどと相談するのがよさそうだが。
「小諸-長野の50km*4マラソンか。自動車専用道でなく下道、国道18号は歩道があんまり整備されていないんだよな…… 人目は避けたいけど事故が怖いから、通勤ラッシュの終わる朝9時ころに布引観音に参拝して、覚醒者の身体能力なら4時間あれば走れるか?」
多分何とかなる。そう楽観視して、俺は北向観音へ参拝して明日のマラソンに備えた。
*
翌朝、小諸の布引観音に参拝したところ、伝承通りに観音様の化身である牛が現れた。北向観音が布引観音に話を通してくださったのだろう。しかし頭の角に布を引っかけているというより、白いニット帽を被っているかのように見える。
「あの布を取り返せば良いのですね! 頑張りますわ!」
「<ヒメ>、ステイ。伝承再現だから、善光寺までは追いつけないんだよ」
「馬の因子を身に宿すものとして、牛に負けていられませんわーっ!」
同伴者である<ヒメ>のテンションが高い。俺より前を走らないように指示したけど、守ってくれるかどうか怪しいな、こりゃ。
実際走り出してみると、マラソンランナーまたは駅伝ランナーを応援・見物するかのように、思ったよりたくさんの妖怪などの霊的存在が物珍しそうにこちらを眺めている。俺達を先導する牛を含め、常人には見えない存在だから世間一般を賑わせることはないだろうが、オカルト業界ではさぞかし話題になるんじゃないかな、このイベント。
*
先導していた牛の頭にあった帽子は、走っているうちに少しずつ解けて糸が地面に沁み込んで行き、街道の概念を強化していきながら少しずつ小さくなっていった。牛の帽子がなくなった地点が終点の長野市・善光寺で、俺はヘロヘロになりながらも何とか64km*5を走り切ってミッションクリア。
善光寺の参拝を終えて、しばらくは境内の日陰で寝転がって動けなかった。
「これで小諸-上田-長野の霊道化が見えてきたな。長野以北は新潟チームに任せて、小諸ー韮崎に専念したいところだけど」
「主様、直江津までは走らないのですか?」
<ヒメ>は元気だね、馬の因子を有するだけあって走るのが大好きだろうけど、流石に俺はもう無理。
「そうですか、いずれ定期的に走ると思えば、今日のところはこれで我慢します」
「ん? 定期的って?」
「霊道を開通させた後、維持・メンテナンスしなければ途切れてしまいますよね?」
……嫌だ、これ以上走りたくない。早急に何か別のやり方を考えないと。
うっかり新潟山梨間の200kmを維持なんて任されたら、死んじゃう。
修正履歴:街道図を修正(十日町と魚沼が誤っていた)。
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Ex2 伝承再現・塩焼王(1)
人間に限らず哺乳類全般は塩がないと生きていけない。それは異界【浦野牧】で飼育している馬も例外ではない。
厚生労働省の基準だと成人の塩分摂取量は1日当たり7g未満を推奨となっているが、成馬(サラブレッド)は体重500kgで1日当たり30-50g、夏場や激しい運動など大量に汗をかく場合は1日100gが目安とされており、人間以上に消費する。
しかし海のない長野県では塩を自前で生産することができず輸入に頼るしかない。終末を迎えると物流が乏しくなるので今のうちに買い溜めするしかないのだが、それにしても無限に保持できる訳ではないし、備蓄倉庫を用意する問題もある。
「どうすれば良いのでしょうか」
「塩ならこの地にあるぞ」
思い切って祭神である馬背神に相談したところ、実にあっさりした答えが返ってきた。
「上田市に塩田・塩尻といった『塩』のつく地名が複数ある理由、平安・鎌倉時代にこの地に『塩原牧』が置かれた理由。熱海温泉(静岡)や白浜温泉(和歌山)のような分かりやすい塩泉こそないが、地下深くに塩溜まりがあり土に含まれる塩分濃度が少し高いのだ。乾燥期に粘土質の赤土をよく観察すると塩垢が浮かぶぞ」
「知らなかった、そんなこと……」
「まあ含有率はほんの少しだけで、土を舐めて塩分を取るというのは非効率的なので廃れていった。今は育成している馬の数も少ないのでさしたる問題ではないが、いずれ数を増やすなら避けて通れぬ」
「ちょっと掘ったくらいでは塩溜まりに到達できないように思えますが、かつて塩原牧があったころ、どうやって多数の馬に塩を与えていたのでしょうか?」
「それはもう、通常ではない手段、つまりオカルト的手法だとも」
普段の<ヒメ>は口より先に手が出るような脳筋タイプだから、<ヒメ>に憑依した馬背神が知的な言動をすると、こう、ギャップ萌えというか。
馬背神がサービスで『眼鏡くいっ』ポーズしてくれるとなお良いのだが、と、話が逸れた。
「オカルト的手法となると、何らかの加護を得て地下深くまで掘りに行くのか、宮城県鹽竈神社のような塩の権能を持つ神の助けを借りて製塩するか……」
「一から十まで吾が教えてしまうのも面白くない、答えは王子塚古墳にある」
そう言い残すと馬背神は憑依を止めて去っていった。
「聞きましたわ、主様! 答えは王子塚古墳にある! 今すぐ行きますわよー」
「ステイステイ、何も準備せずに行っても痛い目に合うだけだからね」
あんな含みある言い方をされたら、警戒するって。
*
軽く調べただけだが、王子塚古墳はそのものずばりだった。
上田市の塩田新町にある王子塚古墳は氷上王子神社の境内に位置し、東信地方で唯一の『帆立貝式古墳』で、考古学的には5世紀中頃から6世紀前半にかけて築かれたと推定、しかし里伝では奈良時代の人物『塩焼王』が葬られたとされている。
塩焼王は天武天皇の孫で、天平宝字8(764)年の藤原仲麻呂の乱の際に謀反人として仲麻呂一党とともに討伐された。そんな人物がどのような経緯でこの地に葬られたのか定かでなく、歴史的にはあくまで伝説であり事実ではないのだろう。
しかしオカルト的には、そのような伝説が根付いている以上、この地に『塩焼王』が葬られているのは間違いない。しかも伝説だと、都で反乱を企て信濃の地に配流された塩焼王は、この地で再度の謀反を企て坂上田村麻呂に討たれたというのだから怨霊化している可能性も高い。
『塩焼』は海水を煮て塩を作る、つまり製塩そのものを差す言葉だ。『帆立貝式古墳』といい符丁は揃っている。
かつて別所温泉の将軍塚古墳をダンジョンアタックしたように、今回も王子塚古墳をダンジョンアタックすることを覚悟しておくべきだろう。
「これは助っ人を頼む案件かもな。死者の居る地下へ潜って無事に帰ってくる、という逸話持ちの…… 異界【黄泉比良坂】の管理人、田舎ニキ*1なんか適任だと思うんだが、どうだろう?」
「異界【黄泉比良坂】は初心者向けに開放されたと聞きます。先方の都合もありますし、こちらから赴いて『黄泉比良坂から無事に帰ってきた』実績を積む方が早くありませんか?」
「主様、氷上王子神社には祭神として塩焼王が合祀されています。塩焼王を単なる死者として扱うのは危険ですわ」
俺の出した助っ人招聘案は、知佳ちゃんと<ヒメ>に難色を示された。氷結呪文ブッパで名高い彼と一度組んでみたかったが、またの機会になりそうだ。でも異界【黄泉比良坂】に一度潜ってみるというのは悪くない提案だな。
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Ex2.1 伝承再現・塩焼王(2)
新潟の魚沼派出所*1に連絡を入れて、初心者用異界【黄泉比良坂】に一度潜ってみたいと連絡を入れたところ、さくっと予約が取れた。こういうときに黒札ってのは便利だね。
自身が異界【浦野牧】を管理しているからこそ分かるのだが、やっぱり地方の異界管理者にとって様子見でもいいから黒札が来てくれるというのは有り難いことだ。万が一にでもその異界を気に入って定着してくれれば最上で、そうでなくても地方遠征するような黒札は地方霊能組織の能力者と隔絶した実力を持っている(実力のない黒札は地方遠征しない)ので、コネを繋いでおいて損しない。
こっちが黒札ってことを最初から明かしたので、きっと最優先で処理してくれたに違いない。というか、派出所にそういうことが『分かっている』事務員がいるんだなと推測できるから、きちんと派出所を運営できているんだなと後輩*2の活躍ぶりを内心で褒める*3。
トラポートで魚沼派出所に飛んで、いきなり精神ダメージを受けた。トラポート移動先として魚沼派出所を登録したときには、公民館に小さく間借りしているだけで何もなかった*4が、今はまったくの別物だ。表向きこそ公民館のままだが、きっちり結界が張られ、防衛用のアガシオンも配備されており、地下には避難用のシェルターも用意されている*5。
「ま、負けた……」
うちの派出所は異界【浦野牧】への出入口という部分を重視しており、周囲の霊能情報交換の場とか【ガイア連合】メンバー限定の宿泊施設とか、そういうものは副次的という扱いだ。だから派出所というハコにあまり金を掛けていない。いや、うちの
「方向性の違いという奴ではないのか? しょげていないで、ほれ、行くぞ」
鬼女紅葉に発破をかけられて、魚沼派出所の中に入る。中を見回したが、地元霊能組織へのアイテム販売・レンタルという部分はうちも負けてないようで安心した…… いや、販売している属性弾(冷凍弾)の充実っぷりは完敗だわ。状態異常解除のアイテムはこっちが勝っているけど、攻撃は最大の防御という言葉があるように、状態異常解除アイテムは売れ筋じゃないからね…… くそぅ、負けっぱなしじゃ先輩のメンツが立たないじゃないか!
「すいません、ダンジョンアタックを予約している平田惟茂一行です!」
勝手に勝負を吹っかけて勝手に負けた気になっているうちに、<ヒメ>が受付嬢に声をかけていた。鬼女紅葉は俺の百面相を眺めてにやにやしていたが、ポンと俺の背中を軽く叩いて<ヒメ>の方へと向かっていく。そうだな、気持ちを切り替えないと。
*
俺達が異界【黄泉比良坂】に潜る目的だが、あの世との境界である大岩(千曳の岩)に触れて帰還することだ。『黄泉道からこの世に戻ってくる』という逸話を再現することで霊的経験を得られるし、オカルトなんてぶっちゃけ概念バトルなので、屁理屈でもいいから『死なずに生き返る』という経験をしたことが重要なのだ。
「そういう意味だと、長野市の善光寺にあるお戒壇巡りも同じような意味ですけどね。オカルトの霊的強度はこちらが段違いですけど」
「お戒壇巡りは確か、善光寺の地下に灯りのない回廊があり、その奥にあるご本尊と繋がった『極楽の錠前』に触れることでご利益があるという」
「そうです。真っ暗闇を進んであの世への一端に触れ、また現世へ帰ってくる
今回の異界探索には、九重静さんという女性が道案内として同行してくれることになった。
異界【黄泉比良坂】はショタオジとキクリヒメの二重結界により黄泉とはきっちり区切られており、低級の【餓鬼】が出てくるだけの初心者用異界となっている。俺は【ガイア連合】派出所の管理者として準幹部扱いされる程度にはレベルがあるのでこの異界を踏破するのに障害はない、彼女は道案内というよりは結界に悪戯しないよう見張るお目付け役なのだろう。
こちらとしては派出所運営について色々聞きたいのでとにかく話しかけたいのだが、ナンパと思われて不審がられたら逆効果だし、そもそも初心者用ではあっても異界内で気を抜いてお喋りなんてできないので、話しかけるタイミングが難しい。
そうこうしているうちに、千曳の岩に到着した。いやー、ショタオジとキクリヒメの二重結界は見事だね、これだけでも一見の価値あり。
「このままトンボ返りせずに、一休みしよう」
持ち込んだ荷物から封魔の鈴*6を取り出す。俺がLv30越えなので、一時的とはいえ初心者用異界なら完全に敵を出現させないようにできる。
ついでに荷物からレジャーシートを取り出して広げ、ちょっとピクニック気分。
「念のため持ち込んだけど使わなそうだし、持ち帰っても仕方ないからここで食べちゃおうか」
旬の時期から外れている*7ので高くついたが、桃の実を持ち込んでいたのだ。【黄泉比良坂】なら退魔アイテムとして通用するし、季節外れの果物が高くつくといっても退魔アイテムとして見るなら格安で入手できる。
「そう言えば、この異界には桃の木は植えないのですか? 黄泉比良坂の中で桃の実が生ることはイザナミ・イザナギ神話で語られており、ここの祭神キクリヒメは地母神の性質も持つ。桃栽培は勝算ありますよね?」
「……新潟では、異界内農業は米と酒を中心としており*8、果樹栽培は優先度が低いのですが、検討の余地はありますね」
「長野県は桃・葡萄・林檎などの栽培も盛んなので、異界内農業では負けたくないけど、神話補正には勝てないかなー」
九重さんの様子をうかがうが、こちらに悪感情は持っていないようだ。よし、楽しく話せたな!*9
今なら魚沼派出所のノウハウとか聞き出せるか?
*
異界【黄泉比良坂】から脱出するまでに九重さんとある程度の話はできたのだが、彼女が言うには『人員が少なすぎる』とのこと。
「平田様が味方につけた地元霊能組織が、宮下父娘の二名だけというのは少なすぎです。馬背神社にはタケミナタカ神が合祀されているのだから、タケミナタカ神を主神とする諏訪大社系の組織から積極的に登用しましょう」
「あいつらプライドだけ高くて役立たない上に、色仕掛けばかりするから扱いに困ってるんだ」
「それはこちらに従うことで利があることを明確に示すことでコントロールできます。九重家では、最近採掘できるようになった石油利権や、シェルター・結界・街道などの建設で魚沼周辺の都市計画にまで食い込み*10、表の世界でも発言権を増やしましたが……」
「うちは異界【浦野牧】の発展が主軸だからあまり地域に資本投下してないし、表の発言権は宮下のおじさんが市会議員やってるくらいか」
「碧神様はガイア連合の【掲示板】を使って積極的に他の【能力者】と交流し、人手を集めて新潟全域を飛び回っていますが……」
「うちは上田市の西側を中心にした地域密着型で細々やってるだけだな」
「それは人数が少なすぎて、細々やらざるを得ない状態になっているだけです。Lv30越えの【黒札】が上田市限定とか、勿体なさすぎです。牛刀を持って鶏を割くに等しい」
「いやまぁ、人には向き不向きがあるから。俺はそんな大規模組織の音頭なんか取れないよ」
「平田様は【浦野牧】を大規模シェルターとして、いざというときには一般人を引き込んで農業させると仰いましたが、何人くらいを想定されていますか?」
「一万人くらいは収容して食わせていける」
「その一万人、収容した後に統制取れますか? 平田様含めて3人しかいないんですよね?」
「……無理です」
「断言します、その一万人は内乱で相当数が死にます。平田様にとっても不本意な結果になるだけかと」
「アッハイ」
「宮下市会議員に交渉を任せるにせよ、とにかく人を増やすことは急務と考えます」
「ソウデスネ」
正論パンチが痛いよ! 泣きそう!*11
「くくっ、言われっぱなしではないか、大の
味方のはずの鬼女紅葉まで! 俺の味方は<ヒメ>だけなのか?!
「私は組織運営など難しいことは分かりませんから、主様の役には立てそうもありません」
<ヒメ>も駄目だ、四面楚歌とはこのことか。
「其方のカリスマでは十人余を率いるがせいぜいよ、だがその十人がそれぞれ子分を率いる形ならば、其方が百人万人も率いると同じになろう」
「そのような組織形態もありですね」
「それが手っ取り早いからと其方が毎回出しゃばるのではなく、大したことがない仕事は【ガイア連合】の品を融通する形で地元霊能組織に恩と利を与える方針に切り替えるべきじゃ」
紅葉さん、助け舟を出すにせよもっと優しくですね…… ああ元から鬼だったな。
*
異界【黄泉比良坂】の探索は、俺が心にダメージを負った以外は無事に終了した。
属性弾の補充もできたし、田舎ニキこと碧神凍矢君もトラポート移動できるのでダンジョンアタックの助っ人依頼はスケジュール都合という点ではハードルが低いことも分かった。
王子塚古墳のダンジョン攻略は、下調べとして自分たちだけで一回潜って、ボス戦になりそうだったら助っ人依頼すれば良い。
そう考えればまあ、今回は実りある探索だったと言って良いのかも。
「あー、この心の傷は重傷だなー、帰ったら<ヒメ>に癒してもらわないと(棒読み)」
「もう、主様のエッチ!」
そういえばエッチ繋がりで思い出したけど、ミナミィネキがスケベ部の新・名誉顧問だとブーストニキ*12のこと褒めてたんだよな。
俺もスキルカード作成の技術について興味あるし、そのうち接触して教えてもらいたいな。(※ 平田君はアイテム作成の才能がそれほど高くないのでスキルカード統合は覚えません)
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Ex2.2 伝承再現・塩焼王(3)
魚沼のダンジョンアタックから戻ってきて、とりあえず組織の増員については宮下のおじさんに丸投げした。
宮下のおじさんも俺が組織運営に無頓着だった部分を心配していたので、こういう方針で行きたいけどどうでしょうと伝えておけば、後は何とかなるでしょ、多分。
*
王子塚古墳へダンジョンアタックする前に、同敷地内にある氷上王子神社に参拝し、無事に生きて帰れることを祈願する。
「聞こえますか…… 平田惟茂君…… 今あなたの心に直接語り掛けています……」
「えーと、塩焼王でいらっしゃる?」
「そうです、塩焼王です。正確には明治になって本神社に合祀された、塩焼王の和魂です」
「あ、これはどうもご丁寧に」
「馬背神から話は聞いていますのでヒントを。この古墳には私の荒魂がいますがボコボコにして構いません。一度力を示せば塩採掘し放題です、逆に言えば私を倒さぬ限り塩は取れません」
「ボコボコにって……」
「私は不滅です、人ごときでは一時的に滅することしかできません。手加減不要です」
「ちなみに、逃げ帰ったとしても再挑戦可能ですか?」
「地下に封じられた私は長らく挑戦者が現れなかったことで暇を持て余しています。何度でも挑み、どうぞ私を楽しませてあげてください」
なんか態度が軽い託宣(心霊通信)を貰った。それはともかく、発言内容を吟味するとこのダンジョンは今までと違う意味で危険そうな気がする。
塩焼王(和魂)がダンジョンの入り口を開いてくれたのか、古墳の丘にはぽっかりと空いた地下への道が出現している。
「予想はしていたが坑道内は真っ暗だな。通路は幅も高さも狭いから一列で進まざるを得ない。先頭は<ヒメ>、二番目が俺でランタンを持つ、三番目が紅葉で、殿の<アグネス>もランタン持って光源2つ確保。それじゃ行きますか」
「主様、さっそく敵が出てきましたわ。地下に相応しくネズミとムカデの
「入って早々にお出迎えか、塩焼王(荒魂)はよほど暇を持て余していたのかな。ざっとアナライズしたが敵のレベルは高くない」
「それならっ、先手ひっしょ、おぉぉぉ~~」
敵に向かって突っ込もうとした<ヒメ>だが、足元不注意によりいきなり体勢を崩した。
「大丈夫か、<ヒメ>!」
「こっ、これくらいは平気のへっちゃら、あっ、痛っ、主様、こいつら毒持ちですわ~」
「初っ端から地形トラップ&毒かよ! 殺意が高い!」
「このっ、このっ、スモウ張り手! スモウチョップ! からのー、必殺!プリンセス☆パンチ!」
体勢を崩した挙句に狭い坑道内で武器を振り回すのは不利と悟った<ヒメ>は、【相撲】スキルの格闘技に活路を見出したようだ。その掛け声はちょっとどうかと思うが、Lv28の前衛が手足を振り回せばLv1桁前半の敵など、当たるを幸いなぎ倒すという表現がぴったりだ。
「ヴィクトリーッ!」
「はいはい、<ヒメ>もお疲れ様」
<ヒメ>はムカデとネズミに咬まれたところが赤く腫れている。毒消しの【パトラ】*1を掛けながら、最初の一戦で想定外にリソースを消費したことに危機感を覚えた。
「これは一筋縄ではいかない、体力(HP)より先に気力(MP)が尽きる。今日は様子見ということで、地下道に慣れることを目標にしよう。少なくともランタン2つじゃ光源が足りない」
そう言ってデモニカのマップ機能をオンにする。初回ではどこまでマップを埋められるのかな。
*
第一層は敵が弱いので、いつも以上に慎重に進むことで何とかできた。地下水でびしょぬれになったり、泥でぬかるんでいる通路に躊躇しているところでバックアタックを受けて泥に押し込まれて転んだり、散々な目にあいながらも地下二層への階段を発見。しかし階段を下りた直後、ダークゾーンが広がっていたので撤退することにした。
「初回で第二層に進むとは見込み有りますね、次も頑張りなさい」
精神的疲れによりぐったりしながらも地上へ帰還できた俺達に、塩焼王(和魂)が満足そうな託宣を投げてくる。俺達のどたばた劇に満足していただけたようだ。
「あー疲れた、風呂でさっぱりしたい、泥まみれの装備のメンテは考えたくもない……」
「神仏の見世物扱いは納得いかぬが、そも神仏とはかようであったか」
鬼女紅葉は塩焼王(和魂)の上から目線が気に入らないようだ。そうだよね、風雲た○し城を思わせるアトラクション満載のダンジョンを初見攻略なんて、塩焼王(和魂荒魂どちらも)にとって格好の娯楽だよね。俺としては、現時点では命のやり取りというリスクは低いので、このまま塩焼王の機嫌を取って塩採掘権が入手できるなら上出来だけど。
「初見の罠に引っかかるのは仕方がないが、次以降に同じ轍を踏む必要はない。【光玉】*2を大量に持ち込んで光源はそれ主体にしよう。【封魔の鈴】*3も面倒くさい地形だと思ったら迷わず使って、泥地など足元不安定なら【浮き足玉】*4も…… 塩の安定供給は公共事業だと思って赤字も容認するけど、ダンジョンアタックの回数次第では大幅赤字か」
「主様、出てきたモンスターの傾向は分析できました?」
「第一層で出てきたのは、ネズミ、モグラ、ムカデ、ヘビ、トカゲといった動物・昆虫系の妖怪、それから地霊コダマ。いずれもLvは1桁前半で強くはないが、毒などデバフが多い」
「其方が状態異常解除に特化していて助かったの。坑道内は塩の気配に満ちており、実体を持たぬ低級悪霊は存在し得ぬし、ゾンビなど死者もあそことは相性悪かろう」
「今後の第二層以降に出現すると思われるのは、妖虫・妖獣・妖樹あたりか? コダマがいたから地霊ツチグモは出そうだが」
*
DDSネットでアイテム注文のついでに、転生者掲示板で斥候系の助っ人を依頼してみたが、労多くして実り少ないダンジョンに挑んでくれるもの好きは居なかった。分かってたよ、畜生。
注文したアイテムが届き次第、王子塚古墳のダンジョン攻略を再開するとして、初見の罠は身体を張って強引に突破(通称:漢解除)する方が良いのかな。その方が塩焼王に受けて、結果としてこちらの身の安全に繋がるのかも。
*
そんなこんなで、王子塚古墳ダンジョンの第五層へ至る階段を発見しました。今までの塩焼王のアドバイスで第五層が最下層であるという情報を得ているので、これで80%クリアとなる。
いやぁ、一層クリア時に『風雲た○し城を思わせる』なんて感想を抱いたが、正直風雲た○し城より上だったわ。【覚醒者】の常人を越えた肉体スペックを基準にアトラクションが設計されてるからね。地下水の溜まった地下池の上を蔦のロープでターザンよろしく渡るときに蝙蝠に妨害されて、池に転落して池の主である霊亀に追い立てられて必死に泳ぎ、最終的にコカクチョウ<アグネス>に荷物扱いされて空輸されたときなんかは、塩焼王が腹を抱えて笑い転げている様子のイメージがわざわざ託宣として送信されたくらいだ。神霊を慰撫するってハードだよね。
出現するモンスターのLvが最大でも20程度だったから戦闘自体は苦労しなかったのが救い。でもLv1桁の在野の能力者ではクリアできないと思う。
「いつも通り、階段を下りて第五層の基本情報を得たらダンジョン撤退だ」
トラエストストーンがポーチに入っていることを確認し、ゆっくり深呼吸しながら階段を一歩ずつ下りる。
最下層の入り口であるそこは──
「久方ぶりの客である! よくぞ参った!」
「アイエェェェ! 入って即ボスとか聞いてないよ!」
「今まで階層を下りてすぐ脱出のパターンだったからな、意表を突かせてもらった。裏事情としては、六百年の長きに渡り塩を持ち出す人がおらなんでここ以外の部屋と通路は在庫で埋まっておる」
ハイテンションな塩焼王(荒魂)がいきなり登場してくれた。
ちなみに塩焼王の外見は百人一首の絵札に描かれている奈良時代の貴人そのままだ。
「六百年前って室町時代、この地の『塩原牧』が消滅した時期か? 塩を取れる人材の不在と牧の消滅、卵が先か鶏が先か……」
「ちなみに
「江戸時代中期から途絶えてたのか、それはまあ、無聊を慰められたなら身体を張った甲斐があります」
「殊勝なことよ、ならば最後の楽しみ、分かっておろうな?」
「あ、やっぱり戦いは避けられませんか」
「最初に上で私(和魂)が伝えたであろう? 私に勝てたらそなたが死ぬまで塩持ち出しは自由ぞ」
そう言ってニヤリと笑った塩焼王は、いつの間にか手のひらに握っていた塩を俺達に投げつけた。
「そうれ、まずは清めの塩!」
「マズい、破魔と目潰し(BIND)を併せ持つ! いったん下がる!」
鬼女紅葉は破魔弱点なので早々に戦線離脱して封魔管(脆)に戻る。
「<アグネス>はバフ、<ヒメ>は…… 突っ込め! アナライズしたが物理攻撃が普通に効く!」
「どすこいですわ~っ! 突っ張り、突っ張り! プッシュ! プッシュ!*5」
「やるな小娘、屁の突っ張りはいらんですよ!*6」
狭い坑道内で武器を振り回さずに格闘技能を磨いていた<ヒメ>は、せっかくの広いボス部屋だというのに素手(【相撲】スキル)で塩焼王に向かっていった。いや、武器を取り出す暇はなかったかも。
アナライズして塩焼王はLv20代半ばだったから、塩焼王vs俺<ヒメ><アグネス>の1vs3なら、素手でも勝てると思う。せっかくだから俺も合わせるか、エンターテイメントに徹するほうが塩焼王に取っても良かろう。
「鹿島神にかわいがりされたのは俺もだ! 必殺の、組みついて、【鯖折り】!*7」
「ぬぅっ、しかしこの程度では、私の背を折るには力不足! これが必殺技とは片腹痛い!」
「この【鯖折り】は相手の行動を封じるのが目的!*8 つまり、<ヒメ>がフリーになっている!」
「な、なんだとっ?! ま、まさか?!」
「今こそ! 主従の絆式ツープラトン! 超!プリンセスッ☆パーンチッ!!」
塩焼王の顎に<ヒメ>渾身のストレートが叩きこまれる。
バキッという肉と骨の潰れる音がしたはずだが、俺の耳にはこの一戦を観戦している塩焼王(和魂)が爆笑している声しか聞こえなかった。
*
「あー笑った笑った…… こほん、塩焼王(荒霊)の討伐おめでとう、君には本古墳から塩採取する権利をあげよう。あ、トラップのない裏口があるから今後はそこから出入りすると良い。ただし権利のない人が裏口を使うと呪われるから注意」
「ありがとうございます」
「それから第一層だけでいいから君の配下を定期的に挑ませて。じゃあね」
塩焼王(荒霊)の討伐に成功したら、塩焼王(和霊)からの託宣があった。満足そうな気配から、エンターテイメント路線で戦って正解だったのかも。
入口兼ボス部屋の向こうの壁に新しく扉が出現したので、それを開ける。その先にある通路には左右の壁にレンガのような石がずらりと積み上げられ、人がようやく一人通れる程度の隙間しかない。
「在庫で埋まっているって、こういうことか」
試しにレンガのような石に指をこすりつけてから指をしゃぶる。
「岩塩? 鉱塩? 固めてあるのは持ち運びやすくて助かる。ここを通って地上に戻ろう、地上近くまで鉱塩ブロックはあるはずだから、塩の回収はそこでやろう」
そこから細い道を延々と上がり、最後に持てるだけの鉱塩ブロックを抱えて地上に出る。
そこは氷川王子神社/王子塚古墳とは塩田平を挟んだ逆、塩吹池と呼ばれる場所のすぐ近くだった。塩吹池は江戸時代に溜池として改修される前は塩沼と呼ばれており、言われてみれば合点がいく。
何はともあれ、海のない長野県で終末後に塩の心配がないのは良いことだ、目出度し目出度し。そうしておこう。
なお後日、ある神霊専用掲示板に神と人の戦いを収めた動画がアップされたが、当人にはまったくあずかり知らぬことだとか。
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Ex3 ガイア連合掲示板・地方愚痴スレ partXX
82:名無しの転生者
誰か長野県北部でガイア連合の取りまとめしてくれ
83:名無しの転生者
>82
馬ニキに任せるんじゃ駄目?
84:名無しの転生者
>83
馬ニキは長野県東部で手一杯
85:名無しの転生者
>82
長野県北部って何かあったっけ
86:名無しの転生者
>85
寺社仏閣でいうなら、善光寺と戸隠神社
87:名無しの転生者
善光寺って戦後のGHQメシアンの破壊に手心加えられたって聞いたけど本当?
88:名無しの転生者
>87
善光寺お上人は皇族の血を引く人が代々務める決まりだから例外的に殺されなかった*1
なお神輿の担ぎ手はきっちり根切りされたので神輿だけ残っても駄目だった模様
89:名無しの転生者
>88
子を産めないBBA*2だから洗脳だけで勘弁してやるって理由で生き残らされたんだぞ
90:名無しの転生者
伊勢神宮の斎宮も同じ理由で同じ境遇*3になったはず
メシアン許すまじ
123:名無しの転生者
話が脱線したけど、元の話題の長野県北部って何かあったん?
124:名無しの転生者
新潟で石油が出た*4のに影響受けて、長野県北部でも石油が出た
お前ら、今なら石油王になるチャンスだぞ
125:名無しの転生者
>124
ガタッ
石油王と聞いて飛んできました(AA略
126:名無しの転生者
石油王と聞いて(ry
130:名無しの転生者
場所は長野県長野市の浅川油田跡と、長野県飯山市富倉な
石油を押さえれば地方名家(笑)を黒札の霊能と金の両方から黙らせることができる
お前ら一攫千金のチャンスやぞ
131:名無しの転生者
>130
そういうお前が手を出さないってことは美味い話じゃないんだろ?
地方名家(笑)同士が石油利権を巡って暗闘していてぐっちゃぐちゃな状況とかだろw
132:名無しの転生者
馬ニキは傍観してんの? あの人は上田市で収まる器じゃない
石油利権を得て大きく飛躍するチャンスなのに
133:名無しの転生者
それ馬ニキに面倒事を押し付けようとしてるだけだろ
134:馬ニキ
俺は超零細霊能組織に地縁で縛られていて、派出所管理人になった今も支援組織が超零細のままだから
表世界で地方名家(笑)に対抗できるだけの体力がないの
俺が出張っても泥沼にしかならん
135:名無しの転生者
話題の張本人が出たぞ、囲め!
136:馬ニキ
小千谷から飯山市経由で長野市まで国道117号線を霊道化する計画*5を新潟の方で主導しているから、飯山市と長野市の石油利権も新潟に渡してしまうほうが楽かも
137:名無しの転生者
>136
なに諦めてんだよ、もっと熱くなれよ
新潟に売り渡すなんて言語道断
138:名無しの転生者
>137
長野市なんか新潟に売り渡しちまえ
そして松本市が県庁所在地に返り咲く*6
139:名無しの転生者
>138
ああん、喧嘩売ってんのかコラ
145:名無しの転生者
県庁所在地の話は脇に置いて、富豪ニキの介入で長野の油田はなんとかならんのか
146:名無しの転生者
>145
富豪ニキと政界ニキは介入済み
ガイア連合の息のかかった組織が手を上げればそこが油田利権を取れる
ただ地方名家(笑)を宥めるのが大変なだけで
147:名無しの転生者
>146
君、内情に詳しいね
人肌脱いで馬ニキに手助けしてやりなよ
148:146
いやじゃ、働きとうない
黒札用シキガミを入手したから、これから甘やかされて生きるだけの人生が待ってる
149:馬ニキ
お排泄物がよ……
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Ex4 伊邪奈美神の誘い
山家神社、信濃国
祭神は
ちなみに奈良時代に白山寺が創建されたときは白山権現=伊邪奈美だったが、戦国時代に寺が焼失・移転したときに菊理姫を祀る三ノ宮を上ノ宮と誤記したことから伊邪奈美と菊理姫の立場が入れ替わり、白山権現=菊理姫という異説が生まれた。そのため全国の白山神社は主神を菊理姫とするところも多い。
なんでそんなことを調べたのかというと、イザナミ神から霊界通信による呼び出しを受けたからだ。
優れた霊能力者に対し神霊側から接触することは珍しくない*2が、縁もゆかりもまったくないところからアプローチされることは基本的にない。これはつまり、先だって魚沼の異界【黄泉比良坂】*3を探索したことで、縁ができたということなのだろう。
いつも神社に参拝するときは清酒の瓶にMAGを注ぎ込んで特製お神酒を作成しているが、今回は気張って大吟醸の一升瓶を三つ作る。黄泉神でもあるイザナミの機嫌を損ねたら一発アウトだからね、仕方ないね。
そんな訳で、真田町の山家神社に参拝してお神酒を供えたところ、イザナミ神から神託通信が来た。
「千曳の岩まで来ておきながら、母に何の挨拶も無しとは、困った我が子だこと」
初っ端から嫌味をチクリと言われましたよ。そんな嫌みったらしい女だからイザナギに逃げられ…… ゲフンゲフン、何でもありません!
「まあ良い、此度そなたを呼びしは、我が助力してやろうと思うてな。……ふふ、心当たりがないと疑問に思っているが、すぐに分かる。後ろを振り返ってみよ、上田平が一望できよう」
「はあ」
気の抜けた生返事を返しながら、言われた通りに振り返って上田盆地を一望する。中心を流れるのは千曲川、新潟県に入ると信濃川と名前を変える、日本最長の河川。そして千曲川沿いを走る国道18号と、俺が苦労して【街道】化した霊的道路。
「ああ、丁度来た」
「へ?」
千曲川の下流側、西から何かが千曲川を逆流してくる。あれは何だ? 津波で河川が逆流する様子に似ているが、物理現象ではなく、霊的現象だ。
ドババババという振動が山地の山家神社まで伝わってきて、俺の身体がぶるぶる震える。何だ? 何が起きている?
「あっ?!」
霊的津波は周囲に破壊の力を振りまきながら逆流している。その奔流により破壊されるもの、それは俺が苦労して川沿いに敷設した霊的街道
そう認識した途端、全身に痛みが走る。霊的街道が暴力的に破壊されたことで、作成者の俺にも破壊のフィードバックが届いた。
「あ痛たたたたっ?!」
ダンプトラックに跳ね飛ばされて全身を強く打ったかのような、激しい痛みが全身を襲う。
まるでショタオジの覚醒修行ややハードコースを受講したような、というか受講経験がなければショック死していたかも知れない。
「うう、死ぬかと思った……」
「あら、思ったよりタフ」
全身の穴という穴から血汗涙涎鼻水その他をこぼしながら、地面に倒れ伏してしばらく痙攣する俺。それを見守るイザナミ神。
ところで俺、今のでショック死していたら冥府神であるイザナミ神に連れていかれるところだった?
「何だったんだ、今のは……」
とりあえず【ディア】が使える程度までは回復したので、よろよろと身を起こして座り込む。眼下の上田市一帯は、千曲川河川敷を中心に今の破壊流で酷いことになっている。物理的な影響は砂防ダムが吹き飛んだことぐらいだけど、霊的影響は…… ちょっと考えたくない。俺が苦労して敷いた霊的街道は跡形なく消滅している。
逆流はとうに俺たちの目の前を通り過ぎ、今頃は佐久地方の…… 千曲川の源流まで届いたかもな。
「新潟にアラハバキが出現して、信濃川に『自然に返れ』ビームを放った*4。それが上流にまで逆流して、この有様よ」
「?????」
イザナミ神の言ってることが理解できない。アラハバキ? 自然に返れビーム? 何それ?
「いきなりで事態を飲み込めぬか。矮小な人の身ならば仕方なし」
しばらく呆然としていたが、段々と実感が湧いてきた。千曲川流域は大型台風による水害を何度も受けている、そして天変地異と神の気まぐれは同じ。
つまり新潟でアラハバキ神が暴れてその余波を喰らったということなのだろう。それはそれで現象が発生した理由は腑に落ちたのだが、理不尽に自分が積み上げたものを奪われたことに対する怒りがこみ上げる。
「ああああああ、ああああああっーーー! 畜生、畜生!」
怒りや悔しさといった原始的感情に身を任せてのたうち回るが、そのうちそれも落ち着いて、強い疲労が前身にのしかかる。
「今しばらくMAGを放出しても良かったのに…… 頭が冷えたか、先にも言うたが我の助力を欲するか?」
「え?」
「そなたが敷いた街道は見るも無残、敷きなおすにも一苦労であろう。我には
あっ、国生みの創造神からのお誘いにしては俗ですね、5%とかいきなり数字出すとは思わないでしょ。
「我は分霊の中でも変わりものゆえにな。ところでどうする、今契約するならキャッシュバックもあるぞ」
「……持ち帰って検討させてください。3日以内に結果を回答いたします」
「ガードが堅いな、まあ良い、吉報を期待しておる」
*
ガイア連合掲示板・地方愚痴スレ partXX
884:名無しの転生者
アラハバキの自然に返れビームで長野県の北信・東信は大被害なんですけど?
885:名無しの転生者
信濃川の被害は大河津可動堰だけじゃなかったのか
886:名無しの転生者
河童やミヅチなどが千曲川沿いにいくつも発見報告上がってる
912:名無しの転生者
>884
ショタオジがしばきあげて契約で縛ったけど、現場の被害の補償が優先で長野県へは最悪保証なしかも
913:馬ニキ
>912
長野-小諸に敷設した街道も吹き飛んだのに、保証なし?! マジ?!
お排泄物がよ……
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Ex5 デモニカ販売
警視庁だか自衛隊だかが廉価版【デモニカスーツ】を大量発注して、【ガイア連合】が生産性・整備性を重視したデモニカ『G3マイルド』を開発製造している*1が、その陰でこっそり少数出回っているのが通称『G3R』シリーズである。
これはG3マイルド開発中に余った試作パーツや品質不足により検品で弾かれた規格外パーツなど、本来なら廃棄されるはずの物を掻き集めてでっち上げた物で、Rはリサイクルという意味だとか*2。性能は『G3マイルド』未満で整備性も劣悪、【黒札】には見向きもされない。しかしそんな物でも最低限デモニカと呼べるシロモノだから、在野の霊能者に取っては喉から手が出るほど欲しがられる。
なんでこんな話をするのかというと、俺がガイア連合製造班の技術者たちから『G3R』を提供して貰い、自分の派出所で売っているからだ。
ガイア連合製造班の技術者がブーストニキに貼り付けるトラポート持ちを探していた*3とき、俺がたまたまミナミィネキの伝手でブーストニキを紹介してもらい*4、アイテム作成の手ほどきをして貰うことになった。ブーストニキから教えて貰ったのは短期間のみだが、俺がトラポートを使えるので技術者たちに恩を売ってコネを作り、裏ルートからデモニカを仕入れることに成功したのだ。
『G3R』はそのような理由で製造されるので安定供給されないのだが、国家権力が堂々と大量注文してデモニカが品薄の現状では、黒札かつ派出所管理人といえども正規ルートでデモニカを入手するのは難しい。もしかしたら小遣い稼ぎで正常パーツをちょろまかして『G3R』を組み立ててくれるカオス寄りな技術者がいるかと少し期待したが、そんな後ろめたい行為をしなくても製造班の技術者は稼げる。「金よりもむしろ休みが欲しい」と言われるとこちらとしても打つ手がない。
一応、黒札用シキガミの性能アップとしてスキルカードを渡すことで『G3R』を臨時増産してくれる可能性はある。スケベ部に入って【性交】スキルカードを製造できるようになった*5ことがこんなことで役立つとはね。ただ需要供給バランスを考えるとスキルカード乱発は避けたいのが本音である。
地元霊能組織にガイア連合製の優秀なオカルトアイテムを与えることで自分たちの立場・発言力をアップさせる計画だが、やはり消費アイテムより使いべりしない武器防具の方が評価が高い。アガシオンや一反木綿型式神のレンタルも好評だが、デモニカは【非覚醒者】を【覚醒】させる効果も期待できることから一番人気だ。
そんなこんなで、簡易量産型デモニカを入手するだけで一苦労という現状を分かってもらいたかったのだが。
「新潟の魚沼派出所では簡易量産型ではない本物のデモニカを複数入手!*6 うぉぉん、施設の充実度でまた負けたぁ~~」
「主様、ライバル心を持つのが悪いとは言いませんが、勝手に勝負を吹っかけて勝手に負けた気になるのは悪い癖ですわ」
「<ヒメ>よ、あれはどうにもならぬ。小人閑居して不善をなす、何かやらせて気を逸らすが上策よ」
「そうですわね…… DDS-NETのトレード板で掘り出し物でも探してもらいましょうか?」
「それが良いな。ついぞ秘儀の一端に触れてきた*7というからには、アイテム作成を実践させるか」
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Ex6 COMPと仲間を入手してメガテンらしくなってきた
「慎重に検討しました結果、契約を締結する方向となりました。つきましては、詳細な条件を詰めたいと思います」
「神に条件を突きつけるとは不遜よの」
「そう言われましても、そもそも前回いきなり数字を出してきたのはそちらじゃないですか」
「ほほほ、小粋な冗談というやつよ」
山家神社のイザナミ神から契約を持ち掛けられ*1、そのときは保留とさせてもらったのだが、結局なんだかんだで契約することになった。やはり国生みの創造神は大和系神話において格が高い。俺が主祭神としている馬背神も、馬背神社に合祀されているタケミナタカ神も、イザナミ神の押しに負けたのかしぶしぶながらも了承した。
俺の目に触れないところで神霊同士が何やら交渉したようだが、いったいどのようなやり取りがなされたのか、知りたくもあり知りたくもなし。
現在俺が開発中の異界『浦野牧』の中にイザナミ神を祀る祠を用意することはすぐに同意が取れたが、問題はイザナミ神が劣化分霊を俺に付ける部分だ。
「祠に鎮座して日々の祈りから細々とMAGを回収するだけでは、そなたと契約する意味がない。そなたの悪魔討伐に同行して積極的にMAGを回収するからこその契約よ」
「俺のキャパシティ的に、イザナミ神を常時顕現させるのは難しいです」
「分かっておる、そなたの使い魔を扱う流儀に合わせよう」
「では、こちらのCOMPに入っていただくということで」
「それは某四文字の…… そなたが鬼女を使役するアレは無いのか?」
「封魔管(脆)はあいにく手持ちを切らしておりまして」
「ぐぬぬ…… 致し方なし、か。我は
「はい、今後ともよろしくお願いします」
ニャルの陰謀により米国でクトゥルーが召喚された少し後、【ガイア連合】は【悪魔召喚プログラム】内蔵機器、通称【COMP】を手に入れた*2。メシア教の狂信者が既に一般ネットでメシア教由来の悪魔召喚プログラムを配布しており*3、その危険物を駆逐するためにもガイア連合は独自で解析・変更した悪魔召喚プログラムを公開せざるを得なかった。
こうした経緯でも俺もCOMPを入手している。ガイア連合の派出所管理人として優先的に入手できたというか、COMPに入れる【ガイア連合改良系アプリ】の一つ、【ハンターランク】*4を管理する側の人間として早期に持たざるを得なかったというか。
COMPから悪魔情報を参照すると、以下が表示された。
女神・道敷大神 Lv10
耐性:氷結・破魔耐性、呪殺無効、火炎弱点*5
スキル:ジオ、リカーム、デカジャ*6
名前がイザナミでなく道敷大神となっているのは、黄泉神としての側面よりも道を領有する神としての側面が強く出ている存在だからなのだろう。山梨・新潟間の街道再建を手伝って貰うには心強い。女神がLv10というのは低く感じられるが、ガチャ産でLv10の女神ハトホルが出る*7らしいので女神の分霊として有り得ない話ではない。
むしろこのCOMPはLv10上限*8なので、これに合わせて分霊のLvを調節してもらったという方が正しいかもしれない。なおこのLv制限は契約時の悪魔のLv上限*9であり、契約後に悪魔がLvアップしてLv10を越えるのは問題ない、はず。念のため、Lv30越え黒札権限で早めにCOMPのLv上限緩和申請しておこう。
*
契約も無事に済み、いったん拠点に戻ってゆっくりすることにした。道敷大神が新たに仲魔に加わったことで戦闘スタイルも変化するが、今すぐ確かめる必要もあるまい。
部屋のソファに座って一息ついたところで、封魔管(脆)から紅葉と<アグネス>を呼び出す。紅葉をなるべく現界させるのは以前からの約束*10で、アガシオンからコカクチョウに変異*11した<アグネス>も仲間外れは良くないということでなるべく出すようにしている。
コカクチョウは少女の姿に変化できる*12ので、化け物の姿を目撃されるトラブルがないのはありがたい。ただし紅葉に続いて<アグネス>もとなると現界維持コストのマグが馬鹿にならず、これで道敷大神まで常に現界させるとなると維持コストを払いきれるのか不安だ。
「我を常に出しておく必要はないぞ。別の分霊がガソリンスタンド店員*13として現世を満喫したからな」
イザナミ神がガソリンスタンド店員?! 興味あるけど迂闊に聞いていい話なのかな……
*
おまけ
「ほう、そなたのマグをたっぷり含んだ体液で仲魔を強化と。<ヒメ>、紅葉、<アグネス>のいずれも閨で可愛がられているとなれば、我も悪魔討伐だけでなくそちらの強化方法も試してみるべきか」
「止めてください、知佳ちゃん含め4人も抱えているとこっちが限界なんです」
「良いではないか良いではないか。ほれ『スケベ部』の意地を見せてみよ」
「あーれー」
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・21歳 転生者 Lv32
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人
仲魔1:シキガミ<
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*5、一分の活泉、二分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:妖鳥コカクチョウ<アグネス>(アガシオンから変異) Lv21
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、マカカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、変化、警戒*6
仲魔3:鬼女紅葉 Lv28
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、ムド、変化、酒の宴(劣化)*7
仲魔4:女神
耐性:氷結・破魔耐性、呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオ、リカーム、デカジャ
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Ex7 DDS-NET浦野牧チャンネル
COMPを入手して一番変わったことと言えば、【異界】浦野牧における馬追が外貨獲得の手段になったことだろう。なおここで言う馬追とは野生の馬を追い込んで捕らえるという意味であり、福島県の相馬野馬追のようなレースイベントではない。
浦野牧は異界だから野良悪魔がたまに湧く。異界の主である馬背神は馬の守護神であり、この異界を馬の生産牧場と方向づけたので、出現する野良悪魔は基本的に【ペガサス】【ユニコーン】【バイコーン】【ケルピー】といった馬型の悪魔である。
なお馬背神は馬頭観音と本地垂迹の関係であり、馬頭観音は畜生界を済度するといわれ馬のみならず動物全般の守護神であるから、馬以外の動物型の悪魔である【イヌガミ】【ネコマタ】【センリ】【センコ】なども稀に湧く。更にこの浦野牧は地獄と繋がるルートがある*1ようで、餓鬼など地獄の住人が迷い出ることも極稀にある。
「ワンワン、翼ある馬が3体出現したワン。今回の敵はちょっと気合入ってるワン」
「ポチくん、ありがとう」
馬背神の配下である【イヌガミ】が俺に野良悪魔の出現を教えてくれる。
この異界に出現する野良悪魔は、Lv一桁前半の弱い存在なら馬背神の配下*2が勝手に始末するが、彼らの手に負えないと判断されたLv一桁後半以降のそこそこ強い存在*3だと俺達にお鉢が回ってくる。
俺がポチと呼んでいるこのイヌガミは、牧場犬兼番犬として浦野牧を走り回る働き者だ。
「ニャーン」
「ミケくんも手伝ってくれる? あ、おこぼれ狙いですか」
普段は穀物倉庫の鼠捕りを仕事にしている【ネコマタ】のミケも、暇を持て余していたのか興味を示してきた。ミケもポチと同じく馬背神の配下だ。俺の仲魔ではないが馬背神に仕える同僚として仲良くさせてもらっている。
いやぁ、モフモフって良いよね!
*
アナライズした結果、Lv10の【魔獣】ペガサス*4が3体いた。
「一体だけなら<アグネス>が空戦しても勝てるだろうけど、あいつらに空を飛ばれると普通の勢子では厳しいな」
「主様、今回の撮影係は誰にしますの?」
「我がやろう、デジカメの操作も分かるぞ、任せておけ」
DDS-NETのチャンネルに投稿するネタとして、今回の馬追の様子は動画に撮影している。普段は偵察役であり空から全体を俯瞰できる【コカクチョウ】の<アグネス>にカメラを任せるが、今回は<アグネス>が空戦の要ということで、道敷大神にその役が回る。単に道敷大神が勢子役を嫌がっただけの気もするが、仲魔のうちで一番Lv低いから妥当な選出だろう。
「俺、<ヒメ>、紅葉が高Lvの身体能力を生かしてダッシュで近づき、【ドルミナー】と【デビルスリープ】で足止め。空に逃れたのが1体までなら<アグネス>が追ってくれ、無理に仕留めずとも疲労させて地上に追い落とすだけでも十分」
「主様、有無を言わさず倒すのでなく、捕獲ですのね?」
「ああ、可能なら説得してCOMP契約したい。騎乗できれば*5行動の幅が広がるし、デビオクで売りに出しても良い」
「ニャーン」
「ミケくんも【マリンカリン】*6で捕獲を手助けしてくれ。仲魔にするのは2体までとして、3体目は倒してMAGと桜肉を美味しく頂くことにしよう」
「それなら【パニックボイス】*7で支援するワン」
「ポチくんもありがとう。……カメラOK? では、行くぞ!」
*
こんな感じで、スローライフやモフモフに興味ある【黒札】は一度見学に来てくださいね。
チャンネル登録やいいね、お願いします。それではまた、次の投稿で! さよならー!
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Ex8 対メシアンの一コマ
詳細は不明だが、女神転生がゲーム・創作物でしかなった前世では、長野県は天使の支配下に置かれて天使の都が作られるというネタがあった*1らしい。そのネタにはアラハバキやチェルノボーグについても触れられていたそうで、新潟・富山にそれらが出現した*2ことで、その預言(?)の信憑性が増したとかなんとか。
新潟の田舎ニキから心配されたのだが、こっちとしては寝耳に水の案件である。
そもそも長野県におけるメシア教の地盤は強くない。長野県は山ばかりの地形であり鉱山も目ぼしいものがない、産業・経済的には遅れている地域である。戦後あるいは鎖国政策を転換した明治維新後にメシアンが日本に乗り込んできたとして、長野県より優先する地などいくらでもある。
某邪神が介入してマサチューセッツにクトゥルーが降臨したように、天使の都が作られる可能性もないとは言えない。ただし長野県に作る必然性は薄い。天使の都ができても交通の便が悪い所では孤立するしかなく、それでは立ち枯れてしまうだけだ。
それにそれだけの大事件となればショタオジが出張る案件となり、Lv30程度の黒札が個人でどうこうできる範囲ではない。だから考えるだけ無駄なのであるが……
「とはいえ、何もしないという訳にもいかないか」
頭メシアンな奴らに理屈が通じるなら、ハワイで異能者狩り*3とかしないからな。
幸いなことに、スケベ部のミナミィネキの幅広い人脈からレイプマンニキ*4にコンタクトを取ることができた。メシアンスレイヤー系俺たちであるレイプマンニキは、糞メシアンどもが裏で行っている悪事をどのように嗅ぎつけるのかのノウハウを持っているだろうし、そういうのを教えてもらえるなら心強い。
私自身は穏健派メシアンまでは積極的に狩ろうとは思わないけど、メシアンがクソであることはアメリカ旅行中に嫌というほど骨身にしみている*5ので、レイプマンニキとは思想信条的に合わないということもないだろう。
長野県で教会が多いのは軽井沢、ついで人口の多い長野市周辺と松本市周辺。また新潟・長野・山梨の街道敷設時*6に感じたことだが、山梨県の清里は教会が多かったのでついでにそこも調査個所に含めてしまいたい。軽井沢と清里は観光地なので、こちらで調査費を出してレイプマンニキに観光気分でぶらぶらしてもらい、彼のアンテナに引っかかるものがあるかどうかだけ教えてもらうだけでも有り難い。
それでメシアンの悪事が見つかるならレイプマンニキに任せてしまえば良いし、見つからないならそれはそれで私の心の平穏に直結するからね。
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Ex9 劇場版『仮面ライダーレイプ』 ~長野県が静止する日~
○起
山梨県の星霊神社近くにある【ガイア連合】の拠点、第二支部のとある建物の一室。そこで男女2人がビジネスの打合せをしていた。
「打合せの時間となりましたが…… 彼が来ないということは、依頼内容が気にいらなかったということでしょうか」
がっかりした様子で書類を手持無沙汰に意味もなく捲るのは、二十歳過ぎの成年男性。年若いながらも【黒札】であり長野県上田市のガイア連合派出所長を務め、他黒札からはもっぱら馬ニキと呼ばれている。
それに対し、清楚な雰囲気を漂わせた年齢不詳の美人女性はふんわりした微笑みを絶やさずに反論した。
「そんなことありませんよ、彼はちゃんと時間通りに来ています。ほら、そこに」
「ふん、スケベ部の部長には敵わないな」
「えっ、いつの間に……」
ミナミィネキが指さした先、そこには壁に寄りかかり腕組みをした覆面男がいた。会議室の扉が開けられた様子はなく、覆面男はまるでニンジャであるかのように突如としてその場に出現したように見えた。
「…えぇと、レイプマンさん? 本日はお越しいただきありがとうございます」
「こちらから出した条件は聞いているな?」
「はい、私は貴方の正体を詮索しません。こちらの
気を取り直した馬ニキが書類を差し出し、レイプマンニキがそれを丁寧にあらためたのちに小さく頷いた。当事者である馬ニキとレイプマンニキ、そして仲介者兼見届人兼保証人であるミナミィネキの三者がいずれも証文に
「契約は成った。改めて、仕事の詳細を説明してもらおうか」
「まず、前世の預言とも言われる与太話の一部に『長野は天使の支配下におかれ、善光寺平に天使達による新しい都の建設』というフレーズがあり、真偽が定かでないそれを確かめるのが大目標になります。その手段として、長野県各地にある教会を調査し、メシアンどもが阿呆なことを企てているのであれば妨害・仕置きする。それがメシアンスレイヤーたる貴方への依頼です」
「ふぅむ、長野県全域の調査となるといささか広すぎではないか? 手掛かりはあるのか?」
「私は何も”起こり”を検知できていませんが…… 長野県で唯一のガイア連合支部・派出所を運営する立場として、人外ハンターの窓口をやってますからね。ガイアポイントカードを所持しているメシアン系霊能力者のリストアップと、彼らが派出所で請けたオカルト仕事の内容や報酬額など、人と物の流れに関係しそうな情報なら提供できます」
「それは頼もしい」
○承
「『善光寺お上人』という存在を知っているかい? どうやら、近いうちに代替わりという話が出て、何やら揉めているようだね」
馬ニキからの依頼を受けて数日。レイプマンの同志でありメシアンスレイヤーの情報収取担当であるスカリエッティが、さっそく事件の匂いを嗅ぎつけた。
「善光寺は天台宗『大勧進』と浄土宗『大本願』の共同管理だが、尼寺である大本願のトップは『お上人』とも呼ばれ、聖徳太子の時代から公家の血を引く女がその座についていた。124世に代替わりしてまだ数年*1、スキャンダルなり健康問題なりで代替わりが必要という話はまったくなかったのだがね。しかも新しいお上人候補は家柄を養子という形で誤魔化した、新参の若い女だそうで」
「ふぅん? いくら【終末】が近いとはいえ、伝統を破るとなれば反対意見も多かろう」
「そうだね、横紙破りと言っていい。で、その代替わりを強硬に主張する一派にメシアンの影がちらついているのさ」
スカリエッティの説明を聞いて、レイプマンはふっと鼻で笑った。
「洋の東西を問わず、女性の聖職者には純潔が重視される。レイプされたというスキャンダルがあればお上人の代替わりも阻止できよう。メシアンの野望を打ち砕くため、仮面ライダーレイプの出番という訳か」
○転
「お上人候補に『宣教の羽根』が使われているのは想定済みさ。残念だったな」
「ああーっ! いく、いくぅ、いっちゃう~~~(ハート) 許して、死んじゃう~~(ハート)」
18禁シーンはアビャゲイルさんの投下所でお楽しみください。※
「善光寺の本堂内でレイプとは…… ああ、なんということでしょう」
現お上人である尼公が、レイプマンによりどろどろに汚された女性に駆け寄る。
レイプマン(と彼の式神であるうてな)は股間の一物をぶらぶらさせたまま、ニヤリと笑った。
「お上人候補の純潔はいただいた。これにて代替わりの野望は潰えた」
「いいえ、これこそ真の計画通りというものです」
「何っ?!」
お上人の豹変にうてなが驚くが、レイプマンはまったく揺らがない。
「現お上人も『宣教の羽根』か。まったくメシアンは度しがたい」
○結
「戦後の『浄化作戦』により霊的才能限界の低い人をお上人に据えた、当時のメシアンはその戦略で良しとしたのだろう。だが戦後に時間と世代交代が進むにつれ、善光寺という霊地を天使の橋頭保に転換する計画が立案され、お上人の霊的才能の低さが問題視されるようになった」
全てが終わった後、スカリエッティが嬉々として種明かしを始める。
「霊的才能の高い人なんて今時、僕たち【黒札】か、黒札の子に限られる。在野の霊能名家が黒札の子種を欲しがるのは君も知る通り」
「……つまり、お上人候補という畑に、仮面ライダーレイプという黒札が種を蒔く。それがメシアンの真の狙いだったと?」
「Exactly!」
大袈裟な身振り手振りをするスカリエッティに対し、レイプマンは顔をしかめて見せた。
「あっはっは。終わりよければ全て良しというだろう? 我々はメシアンの仕掛けた罠を食い破り、戦後から半世紀以上に渡って進められた『天使の都』計画はご破算さ。キャッスル・オブ・KSJの本丸地下に送り込む素材もたっぷり入手できたし、万々歳という結末じゃないか」
「いや、事件の後始末をすることになる馬ニキの苦労を思うとな……」
レイプマンが視線を向けた先、そこには爆発炎上して焼野原となった善光寺の残骸があった。
「劇場版のオチとして爆発ネタは定番*2だよね! 君が気にすることじゃないさ!」
劇場版『仮面ライダーレイプ』 ~長野県が静止する日~ fin.
18禁シーンはアビャゲイルさんの投下所でお楽しみください。
http://yaruoshelter.com/test/read.cgi/yaruo001/1672621637/2466-2651
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Ex10 天使の都計画・後始末
メシアンスレイヤー系俺たちであるレイプマンニキに依頼をして十日余り、仮面ライダーレイプ*1の活躍により、メシアンが目論んでいた『天使の都』計画は打ち砕かれた。
戦後すぐにメシアンの手により日本の優秀な霊能力者が根切りされ、長野県長野市の善光寺という組織も主だった霊能力者を軒並み失った。例外なのは善光寺お上人で、GHQが天皇制を廃止しなかったことに関連して、皇族の血を引く彼女は生きることを許された。もっともメシアンにきっちり洗脳されたので生き残ることが良かったかと言われると微妙なところである。
メシアンは終戦当初は日本全国の霊能力者を管理することに手一杯だったことから、善光寺お上人を『宣教の羽根』で洗脳した後は善光寺という古刹が存在する日本有数の霊地の維持管理を、善光寺という地元組織に丸投げせざるを得なかった。しかし日本有数の霊地を地元組織に持たせたままにせずメシア教の聖地に作り変えようとメシアンが計画し始めたのは、終戦直後の仕置きから10年ほど経過して、コントロールするメシアン側・コントロールされる善光寺側ともに世代交代がそこそこ進んだ頃と推測される。
表向きの仏教組織として善光寺が安定していたことから、メシアンは急速な変革でなく、少しづつ地脈をメシア教色に染めていく方針を取った。とはいえ善光寺は西暦644年創建と歴史が古く、いかなメシアンと言えと目立たずにこっそり地脈汚染するには相応に時間がかかり、半世紀がかりでようやくという具合であったらしい。
それを、【黒札】である仮面ライダーレイプが善光寺に乗り込んで、メシアンに洗脳された善光寺お上人とドンパチ*2やりあった結果、ひずんだプレートが地震を起こしたかのように歪められた地脈が暴発して、善光寺の爆発炎上という現象が発生した。
いや、全体で見れば悪くはないのだ。善光寺平が天使の都と化すことはなく、アラハバキやチェルノボーグが出現したことに比べれば被害は微々たるもの。歪んだ地脈はエネルギー放出時に表層部が吹き飛んだためメシアンの汚染箇所は消失し、この計画に深くかかわっていたメシアンどもは爆発炎上に巻き込まれて行方不明。外から見ている分にはめでたしめでたしで終わるのだが。
「建物の再建は表組織に任せて良いとして、放置するとまたぞろメシアンが寄ってくるからなぁ…… 現地霊能組織の立て直し、地脈の管理は【ガイア連合】として口出し必須。そして長野県には俺以外に管理職やってくれる黒札がいない。これは過労死待ったなし」
レイプマンニキからの報告書を読み終えて、俺は頭を抱えるしかなかった。
ただでさえ長野県北部には石油産出という火種*3を抱えているのに、ここで俺が出張ったら更なる騒動待ったなし。
「煙ニキ*4のように派出所を設立せずに個人で活動すればよかったかな…… あるいは小うるさい地元組織を黙らせるのに足るだけの圧倒的実力があれば」
新潟の田舎ニキと繋がっている九重家は組織としてそれなりにやり手なのに対し、俺が繋がっている宮下家は零細組織で他地元霊能組織への押さえにならないのが厳しい。最近はアドバイスを受けて諏訪大社系の地元組織から少しずつ人を受け入れているが、まだまだガイア連合上田市派出所という組織は小さい。
長野県の既存霊能組織だと、全国に25000以上ある諏訪神社の総元締めであり信濃国一之宮の諏訪大社、修験道の霊地として比叡山・高野山と並ぶ戸隠山の戸隠神社、そして明治維新の廃仏毀釈政策に逆らって存続を果たした善光寺の三つが最大派閥となっている。もちろんそれぞれの派閥も一枚岩ということはなく、内部はぐだぐだである。
ガイア連合上田市派出所は諏訪大社系の一部と仲良くしているが、諏訪大社系全体で見るならそこまで仲が良いとは言えない。今回の事件により善光寺という組織が没落するが、パイを切り取ろうとする他勢力がどう暗躍するかまったく読めない。
「無いものねだりしてもしょうがない、善光寺に再びメシアンが入り込まないようレイプマンニキに監視を継続依頼して、後は野となれ山となれ」
半ば諦めの気持ちで、ソファに身を投げ出してぐったりする。
あー、前世の社畜根性が身に染みついてしまっているのが恨めしい。残業代がもったいないという理由で名ばかり管理職に昇進させられ、心身をすり減らしつづけた前世の経験から、これくらいなら何とかなりそうと判断出来てしまうのが自己嫌悪を誘う。
「あー、新潟の田舎ニキみたいに、一緒に長野県を盛り上げてくれる黒札はいないのか…… お? 黒札から今回の事件に関して面会のアポが来てる! おぉ、ついに応援が来るのか?! ちひろさんありがとう!」
*
後日、やって来た黒札は応援ではなかった。
「我々は『仮面ライダー』を自称する覆面レイパーに抗議する! あ奴の存在は18禁的な意味でニチアサに相応しくない!」
ただの特撮好き厄介オタクじゃねぇか!
私は特撮にそこまで思い入れがないので別に気にならなかったけど、気にする人もいるのだなぁ。というか、私でなく本人に直接文句言ってくれ。
「ラノベの定義と同様に、何を持って『仮面ライダー』とするかは個人によって幅があるのでは?」
「あれはダークヒーローですらない! 私の魂が叫ぶのだ、『仮面ライダー』というヒーローの看板に泥を塗っていると!」
うーん、この話が通じないバーサーカー感はレイプマンニキと通じるものがあるな。もしかして同族嫌悪か?
たぶん、こいつも特撮愛を拗らせて好き勝手やっているんだろうな、よし、ちょっと話の軸をずらしてみよう。
「まあ、そうですね。『仮面ライダー』と名乗るからには、東映なり石森プロなり公式から版権許諾を得るべきですかねぇ」
「……公式の許諾、うん、そうだね、ははは」
おい、いきなりトーンダウンかよ! オカルト世界に特許料とかそういうのは無い*5ってのが常識だけどさぁ!
とりあえず向こうさんの勢いが落ちたなら、大人しく引き下がってもらうよう誘導しようか。ライダー論争とかこんなアホくさいことに巻き込まれたくない。
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Ex11 馬ニキとアイテム製造
メシアンスレイヤーのカズフサニキから長野県に研究所の支社を置きたいという依頼*1があったり、霊山同盟支部から【デモニカ】G3マイルドの販売窓口を打診*2されたり、最近の浦野牧【派出所】は他【黒札】との繋がりが増えてきた*3。
そんななか、派出所代表の馬ニキこと平田維茂はというと…… 他所とあまり絡まずにいたのです!(長野県上田市で細々やっていくのが本作のコンセプトなので致し方なし)
サクナヒメの異界『ヒノエ島』で米を生産するのを見習って、馬背神の異界『浦野牧』で馬を飼い、終末後の労働力として育て上げるとともに競馬文化を絶やさないという密かな野望を持つ馬ニキ。しかし異界の規模はヒノエ島に劣るし、MAGバッテリーなど電気機器を終末後に動作させる技術もあるなど、彼のやっていることは【ガイア連合】全体から見ればさほど重要ではない。モブ系黒札が個人的趣味に走っているというのが正確な表現であり、他者からもそう見られている。
趣味に走っている黒札の中では、発明・生産系のヤバい奴*4やエロ系のヤバい奴*5などに比べればまともな部類と評されている(毒にも薬にもならない十把一絡げともいう)。
そんな彼だが、最近はDDS-netに開設したチャンネルに異界開拓スローライフ系動画を配信するのがお気に入りのようで、派出所長として表に出ることを最低限にし、自分の異界に籠ることが多くなった。
*
「はい、みなさんこんにちは。今日の生配信では、天使の羽を加工していきたいと思います。カズフサニキがKSJ研究所の支部を長野県に作ってから、天使系の【フォルマ】が入手しやすくなって本当に助かってます*6」
馬ニキは配信機材にちらりと視線を送り、配信の視聴者数を確認する。ぶっちゃけ視聴者数は低い、しかし馬ニキは承認欲求を別部分(シキガミとのイチャコラ)で満たしているので、人が少なくてもあまり気にしていない。
「新潟・魚沼支部から【マッスルドリンコ】の差し入れ*7をいただきました、ありがとうございます! でも個人的にマッスルドリンコはランダムでデバフかかるのが厳しいので、フォルマを使って改造し、毒抜きします」
『そんなことできるの?』という視聴者のコメントに、馬ニキは返答する。
「普通はできないんですけどね、ブーストニキ*8に指導してもらった*9のでできるようになりました。まあ実践して見せます」
片手にマッスルドリンコ、もう片手に天使のフォルマ。
「こう、【パトラ】の効果を手のひらに留め、マッスルドリンコの中のランダムデバフ要因である不純物を浄化するイメージ。ついでにもう片方の手のひらに【ディアラハン】を留めて、目減りした霊気の補填をします。フォルマはアイテムの霊気バランスが崩れたときに霧散しないよう重石として…… えい! はい、できました! ランダムデバフ成分が抜けて純粋な回復アイテム、これは【牛黄丹】と同等の効果ですね」
『あれだけ手間かけてマッスルドリンコから牛黄丹かよ、素直に売れば良いのに勿体ない*10』
「私がもっと習熟すれば、回復量がもう一段上の【アンブロシア】*11と同等までいけるはずなんですけどね、練習あるのみです」
『アンブロシア製造できるまでにマッスルドリンコいくつ溶かすのか』
「牛黄丹が安定するまでドリンコ100個ほど溶かしましたね、アンブロシアはまだコツ掴んだというにはほど遠いので…… 1000個で済んだら御の字」
『馬ニキ、アンブロシア製造はできる他人に任せた方が良い(真顔)』
「大丈夫ですよ、マッスルドリンコ購入はお小遣いの範囲でやり繰りしてるので。さて、差し入れのドリンコは変換し終わったので、次は【デモニカ】のパーツを弄ります」
馬ニキは手元にある回復薬を生放送の画面外に追いやり、今度はデモニカのパーツが入った段ボールを取り出した。
「最近、霊山同盟支部が製造に力を入れているデモニカ、G3マイルドの組立作業のバイトをガイア連合製造班から受けまして。G3シリーズのパーツは式神マザーマシンで製造される*12のでそこは私の手の及ばない部分ですが、パーツを組み立てるときに自作PC組み立てと同様にパーツ相性問題というものが発生することがあるんですね」
段ボールから取り出したデモニカのパーツ2種を取り出して近づけてみると、磁石の同極を近づけたかのような反発がわずかに感じられる。
「こっちの生命維持系のパーツは天使のフォルマを原料に、こっちの攻撃オプションのパーツは幽鬼か悪霊のを原料にしてますね。Light-LawとDark-Chaosで属性が合わないんだと思います。そこでNeutral-Neutralの妖精か魔獣のフォルマを中和剤として、こう手のひらにパワーを貯めて、パーツの霊気的に尖っている部分を撫でてやすり掛けっていうんですかねぇ、こう、丁寧に、女性の柔肌を愛撫するのに通じるってか、うーん、こんなものか」
『先ほどのマッスルドリンコのときも、こう、とか擬音が多いな』
「何分感覚的なもので、理詰めでの説明は難しいので勘弁してください。はい、先ほどは僅かに反発していたパーツが反発しなくなりましたね。これで謎のパーツ相性により返品されたものも再利用できるようになりました。デモニカは人気の品ですからこうやってリサイクルするのも重要です」
『もしかして、出元不明と言われるG3Rは……??』
「ん、ん!! それ以上いけない! えぇと、今日の生放送はこんなところで! またねー」
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Ex12 異界拡張(1)
長野県上田市にある『浦野牧』は同地にある
異界の広さは大規模であり、シェルターとしては1万人以上を収容可能。ただし畜産業・農業とも黒札のお遊び程度しか開発は進んでおらず、1万人を食わせ続けることが可能かというと現時点では疑問が残る。
また馬背神というマイナー神格がボスの割に異界規模が大きいのは、
異界規模に反比例してガイア連合派出所としての組織力は貧弱で、黒札は前述の平田維茂1人だけ、地元霊能組織も貧弱な『馬背神社連』を従えたのみ。
─────ガイア連合事務員・千川ちひろの異界雑感
*
今まで黒札として稼いできたマグを異界の主・馬背神に奉納し、異界『浦野牧』の拡張を願った結果、上田市の千曲川以西の全域を占めるほどに広がりました。小学校の学区でいうなら浦里・室賀・小泉・川辺・塩田西・中塩田・東塩田・南・城下の9つ。
これだけ広いと、当初の馬を飼うという目標に対して牧場だけでは土地余りになるので、農業も手を付けます。
当初の目論見だと、終末後の機械文明が崩壊した後も馬という家畜がいれば安心、という漠然とした思いだったわけですが。馬で荷運びや農耕をやらせるにしろ、馬にもそれら作業を教え込む必要があるわけで。馬の背に荷を括り付けたり、馬車を引かせたり、田んぼで犂を引かせたり、そういった訓練を馬に施すお仕事が増えるわけですよ。
ガイア連合支部長としての仕事がおざなりになる? ははは、聞こえないなぁ。
そんな訳で、唯一無二の相棒たるシキガミの『ヒメ』と一緒に拡張された異界の原野を開拓中。ヒメは馬背神の分霊であり馬との親和が高いので、彼女と一緒だと馬にいうことを聞かせやすい。田んぼつくりは日本有数の米どころ『ヒノエ島』異界に教えを乞うて、馬に馬鍬を引かせて荒起こしをしているが、人も馬も初めての手探り作業なので効率は悪い。
今シーズンの農業はリハーサルということで、真面目に取り組むのは来シーズンからになるだろう。来シーズンとか呑気な事を言って終末に間に合うのかって? そんなこと俺には分からない、ショタオジにでも聞いてくれ。
「ここらで休憩するか」
馬鍬を引かせている馬がへばってきたので、声をかけて馬を休ませることにする。霊能力者として覚醒した人間は常人(未覚醒者)の数倍の身体能力を得るが、Lv30超えとなると馬の体力をも上回るようだ。
馬の背から鞍を取り外して擦り傷などができていないかチェックし、馬に水を飲ませるためのバケツを持って水汲み場までひとっ走り。農業用水路の整備もしなければいけないが、高レベル能力者の身体能力でゴリ押しした方が早いかななんて思ってしまう。
「はい、ヒメもどうぞ」
「ありがとうございます、主様」
水汲み場で人間用に用意した水筒を渡し、畔とも呼べない田んぼ予定地の脇に二人で座り込む。馬は俺が持ってきたバケツで喉を潤した後、足元にある草をはみ始めた。俺はそれを見てなんとなく違和感を得た。
「あれ、ウマゴヤシはヨーロッパ原産の帰化植物*1だったよな? この原野に自然に生えてるけど」
「
「馬が酔う木と書いてあせびと読むんだったか。確か葉や花に毒があり、中毒症状が酔っているように見えることからそう名付けられた」
「ええ、奈良では野生のニホンジカも馬酔木を食べないそうです。うちの
「うーん、多く生えているなら間引いた方が良い?」
「馬酔木は葉を煎じたり水に浸けるだけでも除虫剤になるので、間引くのももったいないですわ」
脳筋タイプだと思っていたけどヒメは物知りだなぁ。
「
「ん? 身をもって?」
「はい、同じツツジでもレンゲツツジは毒があるので、花の蜜を吸うとお腹が痛くなります! レンゲツツジは毒があるからこそ虫が近づかず、観葉植物として重宝されるので、公園でツツジの花を見ても蜜を吸うのはお勧めしません!」
なるほど、ヒメが妙に賢いと思ったら、食欲に裏打ちされた知識だったのか。
「そっか、教えてくれてありがとう。 ……その、ツツジが咲いたら一緒に蜜を吸いに行こうか?」
「はいっ!」
本作は、サタンとかクズリュウとかビッグネームがラスボスとして登場することはないです。ローカルな話で終始します。
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Ex13 異界拡張(2)
正直な感想を言うと、馬を使役した農業は想像以上に面倒くさかった。耕運機(トラクター)、田植え機、収穫機(コンバイン)などの農業機械が発達した理由がよく分かる。
終末期に家畜を使った原始的農業に戻るのではなく、文明の利器を使い続けることはできないか。【ガイア連合】の技術班ならそういった方面で研究している人もいるだろうと探してみたら、オカルト多脚戦車*1の研究をしているチームに行き当たった。
彼らが何をやっているのかというと、悪魔カードと武器を合体させる原理で、乗り物(戦車)を悪魔化させたオカルト兵器の製造である。これの何が良いのかというと、マグネタイト・電気・ガソリン・サラダ油といったアバウトな燃料でもわりと動くこと。また自動車機械の整備・改造スキルと悪魔合体系スキルの双方を要求されるがオカルト的技術は割かしシンプルなので、【俺達】だけでも安定して生産できること。
デメリットとしては素材となる乗り物の調達コストが高いことだが、コンバインなど農業機械なら戦車に比べ安価で調達できる。
悪魔合体系スキルはスケベ部のミナミィネキが詳しい*2のでそちらから教えを乞うて、サクナヒメや稲荷伸など豊穣・農業系神格の分霊をデビオクで入手すれば良いのでは?
「……ミナミィネキのところで修行するか」
「思いついたことを深く考えずに手を出すのは、黒札特有の悪い癖じゃの。どうせ機械の整備改造スキルを得られずにお蔵入りになるに決まっとる」
「それでも悪魔合体系のスキルは身に着けて損のないものですから、強固に反対して主様の機嫌を損ねるのではなくコントロールする方向でいきましょう」
「機械整備のスキルカードなど見つからないとは思うが、一応は探してみようか……」
*
社伝によると養老元年(717)に養蚕の守護を祈って
上田市には当時の経済を支える神社として、文政11年(1828)建立の
しかし昭和恐慌と化学繊維(ナイロン)の普及により養蚕業が衰退すると、三神社とも信仰は衰退した。
ただし保食神がオオゲツヒメ/ウカノミタマと異なるのは、死体から牛馬も生まれたのでら牛や馬の神とも扱われること。
なんでそんなことを調べたのかというと、保食神から霊界通信によるコンタクトを受けたからだ。
優れた霊能力者に対し神霊側から接触することは珍しくない*3が、縁もゆかりもまったくないところからアプローチされることは基本的にない。これはつまり、拡張された異界『浦野牧』の農業開墾を行ったことで、馬と食料生産の2つの権能に該当したということだろう。
というか、以前に山家神社のイザナミ神からコンタクトされた*4のと同じパターンだ、これ。
「同じ地域を縄張りとする日本神話の仲間同士、仲良くやれると思うのですよ」
「はぁ」
保食神は日本書紀に性別の記載はないが、オオゲツヒメと同一視されるだけあり女神の姿だった。
「馬・畜産については馬背神の顔を立てて、わたくしが口を出すことはありません。しかし農業と養蚕については、わたくしの加護は有用です」
イザナミ神のときよりは高圧的ではないが、セールストーク的な押しの強さはあまり変わらないな。
それより保食神の言い分を検討しよう。今の浦野牧に力を貸してくれる(異界の主である馬背神以外の)神格というと、馬背神社に合祀されているタケミタヅチ神、生島神と足島神、北向観音(千手観音菩薩)、道敷大神、塩焼王というところか。農耕神の側面を有する神もいるがそれに特化しているわけではないので、保食神の席は空いているのは確かだ。むしろこれ以上の神格を受け入れて異界が壊れてしまわないか、そっちの方が心配になる。
「今ですら多数神の寄り合い所帯、わたくしは荒事が苦手ですので、今更一柱が増えたとて問題はありますまい」
そうかな、そう言われるとそんな気もするが……
「道敷大神と同じく、まずは小さな祠で良いのです。荒野を開墾して田畑を作れば実りは保証しましょう。それに……」
ん? 保食神が俺のシキガミである《ヒメ》に意味ありげな視線を向けたぞ?
「蚕のために桑畑を作れば、甘い桑の実が食べ放題」
「主様っ! 是非、やりましょうっ!!」
やられた! 将を射んとする者はまず馬を射よと言うが、ヒメの食い意地張った部分をきっちり狙われた。
これはヒメからのおねだりにこちらが根負けする流れだ。保食神は思ったより策士かもしれない。
「いやぁ、うまいトコ突かれました。……保食神、今後ともよろしくお願いします」
「はい、コンゴトモヨロシク」
満面の笑顔を浮かべる保食神と握手して、契約成立を認める。
おかしいな、浦野牧に関係する神格の方が人間の霊能力者より多いんじゃないか? 確か、人材派遣のオファー出してるところ*5あったような。
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Ex14 異界拡張(3)
農業機械に関してだが、ロボ部が何とかしてくれました*1。
ただし、
そもそも、大規模に田畑を耕すならサクナヒメのいる瀬戸内支部にどうやっても太刀打ちできないし、魚沼*2や宮城*3でも本格的な米作りに乗り出している。従ってこの浦野牧は馬の飼育をメインとして、農業は自給自足の範囲で細々とやることになるのだが、小規模なら農業機械を使うまでもなく人力と農耕馬で足りるのだ。人も馬も異界内で長く暮らすと、明確に覚醒とは行かなくても多少霊格が上がり(いわゆるレベル0.1という状態)、賢さや肉体の頑強さが増すのがその理由。
従って
異界拡張により生じた荒地を、高レベル霊能力者の高肉体パワーで適当に開墾し、蚕の餌となる桑の木を挿し木で植える。2~3年もすれば立派な桑畑になるだろう、悪役令嬢カタリナネキ*4から豊穣の祝福を貰ったので運が良ければ来年から養蚕は開始できるかもしれない。
*
【ガイア連合】派出所を構える長野県上田市は、もともと養蚕の盛んな地だった。異界内で養蚕を行うために、表の世界で養蚕を学ぶことにしたのだが、若いのに農業に取り組む奇特な奴と思われて農業組合の爺婆に気に入られてしまった。
養蚕に限らず農業のノウハウを得られるので悪くはないのだが、【ガイア連合】派出所の運営と人外ハンター組合の受付窓口業務もおろそかにできない。必然的に、悪魔と戦ってレベルを上げるという部分の優先度を下げることになり、平田維茂のレベルは30ちょいで頭打ちとなった。
以前に、俺は
「なんというか、今のままで満足しちゃっているのかな」
黒札限定で視聴可能な『ガイアプロレスIN新潟』*5の田舎ニキVSショタギルスをゲラゲラ笑いながら見ていたのだが、ふと彼我の実力差に思いを巡らせたのだ。
田舎ニキこと碧神凍矢と、ショタギルスこと鷹村ハルカ。どちらもパッと見でLv60は越えているだろうし、2人は順当にLv70以上に上がっていくだろう。それに対して自分はLv30強で頭打ち、しかも(一方的に)ライバルとみなしていた田舎ニキと2倍ものレベル差をつけられたというのに悔しさがまるで浮かんでこない。
地獄湯支部の阿紫花ニキや千代ちゃんのところの煙ニキのように、【ガイア連合】という組織の裏方事務員として生きていくのも良いかな、と思う。
前世の社畜生活から見れば、今のスローライフ系生活も悪くない。
*
縁あって、ロリショタニキから人材派遣*6の紹介をしてもらえることになった。
ロリショタニキの人材派遣については以前から耳にしていたが、【ガイア連合】の本部(山梨支部という名前だが実質本部だよね)や支部の大きなところが優先され、うちのような零細派出所にはなかなか回って来なかったのだ。
で、面接をしてみたのだが。申し訳ないが不採用とさせてもらった。
「なんだよ、事務方なのにレベル20オーバーって、どう見ても組織乗っ取りじゃないですかーっ!」
初紹介だから失礼のないようにとロリショタニキが人材を厳選したのだが、それが裏目に出た。
そもそもLv5あれば武闘型現地霊能組織の若手ホープ*7でLv10あれば組織のトップ、地獄湯で罪を償っているダークサマナー・クレマンティーヌもLvは5程度である。Lv20もあるなら小さな派出所程度に収まる器ではない。
高Lv霊能者を小組織に押し込めてもトラブルになるだけ、そう判断してのお断りとなった。
「しかもヨーロッパの方の女神の加護が強いし。いや霊能者に神霊の加護があることは珍しくないけど、うちは日本神話の神の集まりだから西洋のとは食い合わせが悪いかも……」
ゆかりネキ*8など、【黒札】が過保護なのはロリショタニキに限ったことではない。しかしLv20以上まで育成するとは、いったいどれだけ過保護なのか、馬ニキにはまったく見当もつかなかった。(女神による産みなおしという強烈な神話体験クエストとか、想像もつかないよ!)
「せっかくの紹介をお断りすることになったけど、不採用の逆恨みとかあったら怖いな…… いやそんなこと無いと思うけど」
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Ex15 ロキ襲来
いつも通り、異界『浦野牧』の開拓に勤しんでいたところ、異界の主である馬背神から緊急通信が発せられた。
『メーデーメーデー、異界を乗っ取らんとする不埒な侵略者現る! 援軍求む!』
「ちっ、武器も防具もまともに用意してないが、どうする?」
「主様、いざとなればわたくしの拳で粉砕いたしますわ! 急ぎましょう!」
「分かった、<ヒメ>の判断を信じよう。行くぞ!」
俺専用の【黒札用高級式神】である<ヒメ>は、霊界通信をした結果この異界の主である馬背神と繋がり、今では馬背神の分霊でもある。
<ヒメ>なら俺より詳しい状況が分かるだろうから、装備の準備に時間をかけるより現場に急行すると判断したことに異存はない。
【ガイア連合】の黒札が管理する異界に攻撃を仕掛けるなど、ガイア連合そのものに喧嘩を売るに等しい。【多神連合】など情勢が理解できる悪魔ではなく、力はあるが知能の足りない悪魔が攻めてきたのだろう。
そう、このときの俺は楽観視していた。
*
「え?! ロキ?!」
敵対者は
「ロリショタニキのところで引き取るに当たり、ガチガチに契約で縛った*2と聞いたけど……」
「ふふ、あちらとは違う分霊なのでな、あちらの契約には縛られぬ」
挑発的な笑みを浮かべペロリと舌で唇を舐める。そのロキの仕草がやけに蠱惑的に感じられ、雰囲気に飲み込まれないよう必死で声を張り上げる。
「異界を奪わんとする侵入者には、負けないっ!」
「強がりが透けて見えるぞ、素直に撤退するなら見逃してやろう。この異界は馬産に適した地、私と相性が良い故に争って荒らしたくない」
「冗談じゃありませんわ、一度ならず二度までも異界の主の座を追われたとあっては、
<ヒメ>もいつになくヒートアップしている。今にもロキに殴りかかろうとしているのを俺が必死に押さえているが、正直いつ暴発するか分からない。
『不味いな…… パッと見でLv40前後の高位分霊*3、ろくな装備もなく勝てる相手じゃないぞ』
『不味いな…… こやつら弱すぎる』
実はこのとき、ロキも同じようなことを考えていた。
ロキとしても【黒札】が管理している異界を力づくで奪うのはガイア連合に喧嘩を売ることになるので、それはよろしくないと理解していた。ロキは黒札に喧嘩を売って暴れるも返り討ちにあう筋書きを準備しており、敗北後に降伏して配下になることでこの異界に定着する第一歩とするつもりだった。ロリショタニキのところと同様に、がちがちに契約で縛られてでもこの地に根付く自信があった。
しかし、ロキが見積もっていたよりも馬ニキは弱かった。鷹村はるかや田舎ニキの半分ほどしかレベルがなく、その上まともな装備なしで接敵するとは蛮勇を通り越して無謀である。更に、馬背神が一度異界のボスの座を追われたことがあり、面子として二度目の撤退が許されないのもロキにとって逆風である。
『黒札に勝つは悪手、しかし負けるにしてもあからさまな手抜きでは疑念を持たれる。口八丁手八丁でほどほどの落としどころを作れまいか?』
トリックスターとしての権能で何とか丸め込むことはできないか。内心の焦りを誤魔化すために作り笑いを浮かべるロキだが、笑顔がまるで牙を剝くかのようなプレッシャーとして襲い掛かる。その圧に負けたのか、<ヒメ>が暴発した。
「悪霊退散! ですわーーっ! 超!プリンセス☆パーンチ!」
『あ、終わった……』
『あ、終わった……』
まともに戦えばロキが勝つと共通認識していた馬ニキとロキの内心がシンクロしたことなど露知らず、<ヒメ>の渾身の拳がロキのボディに突き刺さる。
その結果は、ダメージを与える有効打ではあるが、大ダメージというほどではなかった。
「北欧神話の大物を悪霊呼ばわりした割には、さほどでもない。この身の程知らずめ!」
身動きせずにわざと一撃を喰らったのは、実力差を知らしめるため。ロキはそのように振舞い、<ヒメ>を無視して馬ニキをターゲットと定めた。
「サモナー狙いとは面倒くさいが、<ヒメ>の攻撃は通る! <アグネス>は【スクカジャ】を俺に、紅葉は壁になってくれ!」
ロキは<ヒメ>の攻撃を意に介さず、全体攻撃も使わずに*4執拗に馬ニキだけを狙う。馬ニキはロキの攻撃を喰らって大幅にHPを減らすが【ディアラハン】で耐え、ときに道敷大神の【リカーム】で瀕死状態から復活し、馬ニキが粘っているうちに<ヒメ>が少しずつロキを削っていくという泥沼の戦いを繰り広げる。
*
「これが最後の【リカーム】じゃ、大事に使え!」
MP切れになった道敷大神が俺を守るようにロキの攻撃を受け、行動不能となる。既に鬼女紅葉とコカクチョウ<アグネス>も俺の盾となって戦闘脱落しており、半死半生の俺と、威勢は良いが空元気なのがばればれの<ヒメ>の2人だけになる。
ロキも<ヒメ>の攻撃を喰らってそれなりに削れており、概算で残りHP30%というところだろう。とはいえその残り30%が果てしなく遠い。
「うぅ…… 立て続けの【リカーム】は気持ち悪い……」
これが一番効率良いと某黒札が推奨する方法だけあって、瀕死状態から復活するたびに死にたくないと悲鳴を上げる魂が周囲の【マグ】を無理やり吸収しようとしているのが自覚できる。とはいえ漫画のように戦闘中にパワーアップというということもないのだが。
しかも吸収した【マグ】にはロキ由来のものも含まれている。<ヒメ>の攻撃で削れたものが周辺の空気に溶けているのだろう。<ヒメ>や鬼女紅葉など使役している仲魔の【マグ】なら日ごろから慣れ親しんでいるので気にならないが、敵として戦っているロキの【マグ】はやけに鼻につく。
単に悪魔と戦闘して自身が成長(レベルアップ)するだけでは、こんなに濃密に悪魔の【マグ】が身に沁み込む感じはしない。やはり生と死の間を反復横跳びしている今の状態だと魂と肉体の結びつきが緩んでおり、魂が【マグ】の影響を受けやすいのだろう。
「あ、これ、臨死体験による【覚醒】と同じプロセスだ」
魂がロキ由来の【マグ】に汚染されることで幻覚が脳裏に浮かぶ。もしかして俺は、前世がロキだったのでは?
いや、そんなことはない。何かおかしい、なぜロキの【マグ】だけこんなに染み入るんだ。
「────ああ、そうか」
ロキと視線が合った。心身に沁み込んだロキの【マグ】が、彼女の意図を教えてくれる。
そうか、そうだったのか、ゲッター線とは…… おっと、違うものが混信したかな?
ともかく、ロキの書いた
そうだ、ロキがこの異界に攻め込んできたとき、スレイプニルを連れていたじゃないか。今までロキが優勢だったからわざと戦闘に加えずに控えさせていたけど、馬背神が同じ馬という縁でスレイプニルを説得・使役して土壇場でロキを裏切るという形なら何とかなるか?
『──というわけで、この案はどうでしょう?』
『ふむ、急ごしらえではあるが、これ以上の案はこちらも出せない。よかろう』
「<ヒメ>! 【食いしばり】で耐える前提の、一か八かで【チャージ】からのプリンセス☆パンチだ!」
スレイプニルが乱入して場を掻きまわしてくれるので、それに合わせてアリバイ工作の指示を出す。
『そうそう、あのスレイプニルはこの牧場で末永く可愛がっておくれ』
『もちろんです、強敵撃退の功労者を下に置くことはしません』
『ならばよし。……こうして私と思念通話ができるほどに私の【マグ】も馴染んだようだな、ではこの茶番も幕引きとしようか』
「そのような破れかぶれの大博打など、私が食い破るだけの価値もない。スレイプニル、踏みつぶせ。……スレイプニル? あーっ?!」
「今だ! <ヒメ>!」
「これが最後のぉーっ! 超! プリンセス☆パァーンチッ!!」
スレイプニルの意図せぬ動きで意識を逸らしたロキの無防備なボディに、<ヒメ>のとっておきの拳が突き刺さる。
これには堪らず、ロキも膝をついた。
「おのれ、最後の最後で身内に裏切られるとは…… いや、切り崩したそちらの手腕を褒めるべきか。此度はこちらの負けとしてやろう」
ロキは負けを認め、分霊という意志ある【マグ】の集合体から単なる【マグ】の塊に変じ、そのボディは空に溶けて消えていく。
「か、勝ちましたわーっ! 主様! やりました!」
「ああ、今までで一番の苦戦だったかもな……」
ロキだったものの【マグ】が形を失い、この異界の一部となる。その光景を俺はぼんやりと見ていた。
*
俺は夢の中でロキと再会していた。
「私の【マグ】を吸って魂が変質したから、そなたの前世は私が乗っ取ったと言っても過言ではない」
「あー、やはりそうですか」
「とはいえそなたの自我に強い影響を与えるほどではないのも事実。私は残滓でしかなく、このままではそなたの内で眠ったまま、いつしか溶けて同一化して消えていくだろう。そなたが積極的に私との縁を活用するなら話は別だが」
「すいません、大人しく眠っていてください。俺は馬背神の信徒という立場を崩すつもりはありません」
「つまらん男よのう、せっかくの黒札という立場、もっと勝手気ままに振舞っても良いのだぞ。田舎ニキとはライバルではなかったのか、このままでは差は埋まらないぞ」
「……もっと強くなりたいと、今回の件で痛感しましたよ。でも立場ってもんがあって戦闘一辺倒ともいきません」
「大いに悩むが好い、若人の特権ぞ。基本的には見守るだけだが、呼びかけるなら応じよう。では、
そういうとロキは俺の中に吸い込まれるように消えていった。
*
・・・魔界悪魔用掲示板・・・
423:名無しの神
それなりに高位の分霊を一つ使い潰したが、ガイア連合の黒札にがっつり食い込んでやったぜ。
424:名無しの神
>423
豚神が加護を渡して半殺しにあった事例があったな、どうやって掻い潜ったのか興味ある。
425:名無しの神
>423
マジで? やり方教えて
426:423
>425
頭が高い、平伏して教えを乞うべき
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Ex Final スローライフの終わり(最終話3回目)
ロキ騒動から数日後。
ロリショタニキが土下座せんばかりの勢いで飛び込んできて、あれよあれよという間にショタおじの診察と事件のヒアリングが行われて。
「結論から先に言うと、君の魂が吸収したロキの【マグ】は、君の人格が急変したり肉体にまで変質が及ぶとか、そこまで影響を与えるほどの量じゃない。だからまぁ、ただちには問題ない」
ショタおじの診察結果を聞いて、まずは一安心。
「一応聞いておきますが、、俺の魂からロキの【マグ】を取り出して影響を薄めるとかできます?」
「それはカフェオレからミルクとブラックコーヒーを分離できるか、と同じだね。まったくもって不可能とは言わないけど、君の魂は抽出の負担に耐えられずに壊れる」
「ですよねー」
「それよりは、変質した魂とどう付き合っていくか考えるべきさ。ベテランのプロスポーツ選手が自身の古傷とどのように付き合っていくのかと同じでね」
「古傷という表現は何か違う感じですね。バッドコンディションではないので」
「なら爆弾を抱えたと言い直そうか。君が窮地に追い込まれたとき、君の心の中からロキが『力が欲しいか?』と誘いをかけ、君がそれに同意したらどうなるかな?」
「……俺の中のロキとロキ本霊のパスが繋がって、そこから窮地を脱するだけの力が得られるでしょう。窮地を脱した後は…… 俺の人格は消失して、ロキの分霊が新たに生まれる」
「そうだね、その通り。事態を正しく把握しているようで何よりさ」
ごめん、全然安心じゃなかったわ。
「ロキは俺の中に消えるとき、『俺の中で眠ったまま、いつか溶けて同一化して消えていくだろう』と言ってましたが」
「
「お仰る通りです、ごもっとも」
ぐうの音も出ない正論だ! ショタおじの正論パンチが痛いぜ。
「ロキの【マグ】だけど、君の中で溶け切るには時間がかかる。それまでの間、ロキの記憶を夢の中で追体験することもあるだろう。いわゆる前世の夢というやつだ」
「ロキの言う『前世を乗っ取った』とはそういう意味ですか」
「そうだね。能力者の【覚醒】パターンとして【前世覚醒】というのがあるけど、君も同様にしてロキの力を引き出すことができるかもしれない。迂闊に使うと身を亡ぼすけど、恐れ遠ざけるだけなのも良くない。適度に使いこなすのがベスト」
「適度って曖昧ですね」
「星霊神社の黒札用ダンジョン上級コースに通うのがお勧め。レベルが上がれば魂の容量も増えてロキの【マグ】比率が下がり、そうなれば影響度も下がる」
「それ以外には何かありますか?」
「ロキの【マグ】を早く溶かしたいなら房中術で仲魔と【マグ】の交換を毎日するんだね。急な効果は見込めないが、塵も積もれば山となる」
「後は再発防止策とか」
「再発防止ねぇ。発生原因は、うぅーん、今回はレアケースだよね、普通は発生しない」
ショタおじは首をひねって、説明のための言葉を選んでいる。
「そもそも魂には肉体という鞘があるからね。例えばコボルドを倒しまくって【マグ】をいっぱい吸収しても、肉体というフィルターがあるので魂がコボルドに変質することはないんだよ。生と死の間では魂と肉体の結びつきが弱くなり、異界など【マグ】濃度が高い所では魂が【マグ】の影響を受けやすい。臨死体験による【覚醒】パターンの一つだね。君がロキの影響を受けたのはこれに当たるけど、君の魂が【マグ】を吸いやすくなるようロキが意図的に【マグ】操作している。君の魂が変質したのはある意味で仕組まれていたとも言える」
「仕組まれていた、ですか。悪魔側が【マグ】操作しなければ大丈夫だと?」
「あと、一回の戦闘でリカームを何度も使ったことも、【マグ】を多量に吸収する要因かな。普通は強敵相手に【リカーム】で耐久なんてやらない」
「すいません、多少打たれ強いくらいしか取り柄がなくて」
「できれば【トラフーリ】や【トラエスト】を使って強敵から逃げることも覚えた方が良いよ」
こうして俺とショタおじの面談は終わった。
*
ガイア連合の上田市派出所に戻り、これからは異界『浦野牧』の開拓だけに注力できない方針であることを仲魔に一通り説明した。
派出所で行っている人外ハンター協会の業務も、ロリショタニキが紹介してくれる事務員に丸投げしたいところである。
いや、一度お断りしておいてから『事情が変わったのでやっぱりお願いします』なんて通用しないと思うけど。今ならレベルも不問、加護している神格も洋の東西を問いません。組織乗っ取り? 丸投げする以上は乗っ取りも覚悟の上です。
「そう長い期間ではなかったけど、スローライフを夢見れただけ良かったのかもな……」
俺たちの戦いはこれからだ!
第3部スローライフ編、終了。
書きたいことはだいたい書いたので、本作はここで完結とします。
今までのご愛読ありがとうございました。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・22歳 転生者 Lv35
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ(new)
仲魔1:シキガミ<川上 姫> Lv33
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*5、一分の活泉、二分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:妖鳥コカクチョウ<アグネス>(アガシオンから変異) Lv24
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、マカカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、変化、警戒*6
仲魔3:鬼女紅葉 Lv31
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、ムド、ムドオン、変化、酒の宴(劣化)*7
仲魔4:女神道敷大神 Lv18
耐性:氷結・破魔耐性、呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオ、リカーム、デカジャ、マハジオ
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余話1 終末、来る
世界は【半終末】状態のまま奇妙な均衡状態にあり、いつか来ると言われながらもそれが具体的にいつ頃なのかは分からないまま時間が過ぎていった。
だがそれはいっときの猶予期間でしかなく、【終末】は容赦なく世界を襲ったのだ。
東京は陥落し、五島部隊はクーデターを起こし、ショタオジが【エンシェントデイ】を【ルシファー】の力でどうにかして、地球は【魔界】に落ちて奇跡的に軟着地し、とにかく世間の常識は一変してしまった*1。
長野県上田市の【ガイア連合】派出所である『浦野牧』は【シェルター】としての機能を一般に開放し、いわゆる【黒札】が経営するシェルターとして運営を開始した。
しかし当初の見込みとは異なり、現地神と黒札の相性が悪いわけでもないのに、シェルター運営は順調ではなかった。
これは『浦野牧』が【異界】を人が生活できるように拡張したからであり、もともと荒野が広がっていた異界を開墾して牧場・田畑・住居などを拵えたため、文明レベルが江戸時代ほどと他シェルターに比べ低いのだ。
これは新潟の田舎ニキが都市を結界で覆って現代のインフラを維持する方向だったのと大きく違い、『浦野牧』シェルターの住人のうち【未覚醒者】は江戸時代レベルまで生活水準を落として牧畜や農作業をやってねと言われているも同然である。
一応『浦野牧』でもDDS-NETに接続可能であり、小規模ではあるがターミナルが設置され、新潟*2や霊山同盟*3など他支部の下請け工場としてデモニカの一部パーツを製造できるだけの発電・金属加工機能を保有するなど、ほんの僅かながら現代文明を維持している。ただしシェルターの全体にその恩恵が行き渡らず、シェルターへの貢献度という意味で【異能者】が有利である。
これは『浦野牧』管理人の黒札である馬ニキからすると、終末後というこのご時世においてシェルターに保護されて当然という態度のお客様はいらない、人外ハンター事務所への新規登録者には手厚く支援するから【覚醒】を目指す態度を見せてくれ、という考えなのだが、彼の想像以上に
終末直後のまだ物資や気持ちに余裕があったころは、不満を漏らす
止めとなったのは、上田市『浦野牧』シェルターに流れ着いた難民の中に、KSJ研究所が運営する『月架手町シェルター』*4から追い出された
終末後の悪魔がはびこる地において、どうにか生き延びて『浦野牧』シェルターに到着できたことで、お客様根性を変に拗らせてしまった大馬鹿者。彼が自身の待遇改善を訴えると言って取った行動は、馬ニキなどシェルター運営側から見れば、テロ・クーデター・内紛の扇動と言うべきものであった。
まあ、そもそもその大馬鹿者が生きて『浦野牧』シェルターに到着できたのは、『浦野牧』異界を乗っ取らんと企む悪魔の仕業であったので、KSJ研究所が悪いということでもないのだが。
結果として、『浦野牧』シェルター収容人数は最大10000人のところ、現在は2000人ほどしか残っていない。終末前であればそこそこの過疎村といったところ。
派出所長でありシェルター運営のトップでもある黒札の馬ニキは異界のボスである祭神の馬背神と強い縁で結ばれているからこのシェルターを見捨てていないが、並の黒札であればとっくに見捨てて身軽になっているだろう。
そんな馬ニキは最近、ガイア連合【三重第二支部】*5の祭神である愛染明王ハナコと仲が良い。仲が良いというよりは、愛染明王がアドバイザーという名目で馬ニキの愚痴を聞き流すだけであるが。
三重第二支部は黒札直轄運営ではないが規模や運営の苦労が上田市『浦野牧』シェルターと釣り合っていたこと、上田市の北向観音に愛染桂という古木があり愛染明王と土地の相性が良かったこと、馬ニキがスケベ部所属でこれまた愛染明王と相性が良かったこと、馬背神は
三重第二支部長の栖夜は黒札のお手付きということもあり、馬ニキではなく彼の愛人金札(宮下知佳)が三重第二支部との窓口としてアイテム融通などを行っているが、ガイア連合の黒札情報が馬ニキ経由で愛染明王に伝わっているとかいないとか。
アヴァゲイルさんに触発されて戻ってきました。
だらだら気長にやります。
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余話2 難民の玉突き事故
終末後、長野県上田市の【ガイア連合派出所】である『浦野牧』は【シェルター】としても機能している。
シェルターを実質支配する【黒札】は通称『馬ニキ』、本名は平田維茂。このシェルターに定住する黒札は彼のみであり、シェルター運営において彼が頼りにするのは零細地元霊能組織『馬背神社連』の宮下
なお、かつてロリショタニキに人材派遣を再依頼した*1が、人の縁というのは難しいもので、今のところ派遣契約は成立していない。
ついでに言うと、金札のうち宮下(父)は才能上限がLv1、宮下(娘)は才能上限がLv4のところ房中術による肉体改造*2によりLv8まで引き上げて、これが現在シェルターに常駐する現地霊能者のトップ。マキマネキ*3のように現地霊能者を上手く戦力化できておらず、戦力としては馬ニキが一人だけ突出しているので、馬ニキの負担はかなりヤバい。
馬ニキが実働担当となっているが、実際の役割は【三重第二支部】*4と比較すると、自衛隊のグラハムと地元霊能代表の夏油を足して2で割らない。
強力な悪魔と真正面から戦い、シェルター外部の探索をこなし、異界・シェルターに加護を与える馬背神ほか神仏のご機嫌を取り、低Lvのデビルバスター育成を支援する。そこに黒札という立場からしかできないガイア連合や他黒札と折衝と、オカルトアイテムの作成が加わる。馬ニキはトラポートを使えるので頻繁に緊急呼び出しされるのもブラック労働の要因となる。
*
シェルター外に出て、低Lvデビルバスターの引率をしながら悪魔を間引きしつつマグ稼ぎ。
一仕事終えて戻ってきた馬ニキは、シェルター長を委任している宮下(父)に呼び止められた。
「あの、新潟・魚沼から難民漂着*5のクレームが届きました」
「え? 道案内も護衛もなしに生き延びたの? というかうちを出発してから到着までずいぶん時間がかかったね?」
「終末後の魔界は時間・空間が歪むこともありますから、そういうこともあるのでしょう。それよりどうします? クレームの名義は碧神凍矢ではなく九重静となっており、【黒札】案件ではないので無視することもできますが」
「うーん、田舎ニキとは仲良くしておきたい。こっちも
「厄介者を押し付けた迷惑料というには高価すぎません?」
「そう? 詫びの手土産として渡すならうちの特産品が手ごろかなって思ったけど」
【異界】としての『浦野牧』は馬牧場の側面が強いので、低Lvの馬型【悪魔】はそこそこの頻度で発生する。Lv30台に達した馬ニキならそれらを捕らえ従えることも難しいことではない。また馬ニキは過去にパトラのスキルカードを何度も生成しているので、どちらも多少の手間がかかるだけの生産可能な品という認識である。
とはいえそれは高Lv黒札の視点である。低Lvの現地霊能者からすれば上級の戦力増強手段であり、切り札として乱発すべきでない高級品に見える。
「魚沼支部とは今後も長い付き合いになります。どこもリソース確保には苦労しているのですから、今回の詫びの品を基準とされて今後何かとこのレベルの貢物を要求され続けることを懸念します」
「田舎ニキはそこまでケチな人じゃないよ」
「私が心配しているのはクレーム名義の九重さんです。黒札の威を借る形で、黒札に無断で、何度もタカるような卑しい性根かも知れません」
「【黒札】の名前を出して
馬ニキは、かつて魚沼支部の異界『黄泉比良坂』へ出向いたときに彼女が同行したことを思い出した。彼女の印象としてそんなケチ臭い人物ではなかったはずだが、それを口にして反論することは止めた。
代わりに大きくため息をついて、眉間に皺を寄せて言葉を絞り出す。
「シェルター運営に必要なことなんだろうけど、他人を疑って生きるのは面倒だな」
長らく政治家の端くれとして市議会議員を務めてきた宮下(父)は、それに対して何も言わない。
「……ああ、田舎ニキには俺からも話を振っておくよ。トップ同士で認識合わせておけば、不心得者の入り込む隙間もないでしょ」
シェルター運営を諦めて山梨・星霊神社に引っ込む黒札の気持ちがよく分かる。
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余話3 馬ニキのさらなる強化
田舎ニキが心労を美少女の膝枕で癒していた*1のと同様に、馬ニキも美女・美少女とベッドの中で戯れていた。
18禁となるため詳細描写はしないが、【黒札】専用美少女シキガミの<ヒメ>、鬼女紅葉を筆頭とした女性型の仲魔たち、現地霊能組織の金札にして幼馴染の宮下知佳とくんずほぐれつしながら陰陽和合する。全身汗まみれになりながら出すもの出して夢うつつの状態が、まるで涅槃にいるかのように心地良い。
「……ん、ここは?」
ふと気づくと、あれだけ愛しあっていた女性陣は周囲に誰もいない。
馬ニキはあたりを見回し、自身の眼前にあるぼんやりした霧の塊に意識を向けた。
「ロキ、明確な姿を取れていないようだけど?」
「残念だが、そなたの霊器を乗っ取る作戦は失敗のようだ。我はこのままそなたに吸収されて消失する。こうして夢の中で言葉を交わすのもこれが最後であろう」
ショタオジの診察とアドバイスを受けて、己の魂の中に巣食うロキの【マグ】を溶かすために毎日房中術を頑張った甲斐があった、と馬ニキは安堵した。
「だがそなた、
「ああ、ロキの力を引き出すってことですか。ブフ系*2が使えるようになったら便利と思ったのけど、どうにも手ごたえがなくて」
「そなたと我の相性で言うなら、一番は氷結属性ではないぞ。気づいておらぬようだが、このまま何も爪痕残せずに消えるのも癪だ、最後のサービスとしてこの夢の中で体験させてやろう」
ロキはそう言うと一瞬ピカッと光り、眩しさに目を瞑ってから恐る恐る眼を開けると、ロキの存在はどこにもなく、当たりは一面の荒野に変わっていた。
「あれっ? ロキさん? おーい」
ぐるりと見渡してみるが、どうにも可笑しい。視点が高いのか遠くが見通せるし、横や後ろにも視界が広い。
首を下げて視点を下し、自分の身体に異変が無いか確認しようとして、信じられないものを見て固まってしまう。
「お、俺、馬になってるーーっ?!」
*
しばらくパニックになっていた馬ニキだが、どうにか心が落ち着いてきた。
「ロキが馬に化けたという逸話から、馬の【悪魔】に変身するデビルシフター能力。俺とロキの最も相性が良いってこれか? まあ納得できないこともない」
心の平穏を取り戻したところで、じゃあ馬の姿で何ができるのか確かめてみることにした。
「四つ足で歩いたり走ったり、人の姿とはまったく構造が異なるのに、無意識レベルで身体を動かすことに違和感がない。とりあえず【体当たり】*3はできそう。前から使えてた【ディア】系と【ハマ】系、【パトラ】も問題ない*4、Lvが上がれば色々覚えそうな気もする*5」
とりあえず強くなれそう、と気を良くした馬ニキは、そのまま荒野を駆け出した。
「何も考えずに全力疾走するだけで、たーのしーっ!」
動物の本能に精神が引っぱられたのか、思うがままに走り回る。
「目前の障害を、踏み切って、ジャーンプ! 見事な飛越です」
「上がり3ハロンを31秒切り*6のレコードタイム! 大接戦ドゴーン!」
テンションが上がって意味不明な台詞を叫んだりしているが、それはご愛敬。
*
テンション高いままかなりの時間を走り回って、全身を心地良い疲労感が包み込み、そこでようやく馬ニキは周囲に気を配るだけの余裕を取り戻した。
「……ん? ああ、夢の世界から戻ってきたのか」
寝室で、ベッドの上に散らかる裸の女性たち。
馬ニキは今何時かなと呑気な考えで室内を見回し、改めて違和感を覚えた。
「あ、こっちでも馬の姿になってる?!」
どうやら、無事にロキの力の一部を引き出すことに成功したようだ。
「んー?? 主様?! 随分と可愛い姿になられて! 栃栗毛に近い明るい鹿毛、細面の顔に真っ直ぐな流星、ぱっちりした目! 美少女と持て囃されたタマミ*7のようですわ!」
シキガミの<ヒメ>が、変身した姿の馬ニキを見て大喜びで褒めちぎる。
馬ニキはそれを聞いて、嫌な予感を覚えながら自身の股間を覗き込んだ。
「ない、自慢のバズーカがない!」
「うぉぉぉ、主様がTSケモノっ娘! しかも美尻*8! 滾りますわーーっ!」
「そういえば、ロキが変身したのは
スケベ部のドクオニキ*9に一時的にTSしてもらったことあるし、馬の姿限定なら女体化も悪くないかな……
TSについてはあまり動じていない馬ニキであった。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・24歳 転生者 Lv40
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、チャクラウォーク(劣化)*1、デビルシフター(馬型悪魔)(new)
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ
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余話4 TS馬娘爆誕
以前にロキからマグ汚染を喰らったときにショタオジの診察を受けたが、今回もショタオジに診断してもらった。
馬ニキは【トラポート】持ちなので、終末後でもフットワークが軽いのは利点である。
「まずは、君の魂を汚染した【ロキ】の意志を持つ【マグ】は、完全に溶けて君と同化したようだね。おめでとう」
「ありがとうございます」
「意志のないただのマグになったとはいえ、ロキの風味は君から失われたわけじゃないから、『前世を乗っ取られた』状態のままであることに変わりはない。でもこれで君の内側からロキが誘惑してくることはないはずだ。……新しいロキの分霊が君に接触しない限り、安心していい」
「割と安心ならないんですが、それ」
「ロキ除けのお札とか、君自身がロキ要素をしっかり含むから効果ないんだよね。僕の方で多神連合に釘を刺しておくから、ロキも迂闊なことはことはしないと思うよ、多分、メイビー」
「そう言って不安を煽るのは止めてください」
「ははは、君のリアクションが楽しくてね。でも半分は老婆心からの忠告。泥棒が来ると分かっているなら予め備えておくのが当たり前、ロキとの強い縁を持つ君は最低限心構えだけでもしておかないとね」
そうしてショタオジは、にこりと笑って話題を切り替えた。
「ロキの力を引き出せるようにとは言ったけど、いやぁ、Lv30後半になってから
ショタオジは立派な装丁の分厚い書物を片手に、俺をまじまじと見つめた。彼が手にしている本はおそらく、ルシファーの知識の詰まった【悪魔全書】とも言うべきものなんだろう。
「君が
女神転生というゲームにおけるスレイプニルのグラフィックは、蜘蛛と同じく、明確に脚が八本あるスタイルで描かれている。
それに対して俺が変身した馬の姿は、輪郭でいえはサラブレッドによく似ている。ただし馬体の球節から蹄の部分*1がサラブレッドと比較して太くごつい。しかもその部分の色が外側と内側で異なるため、一本の脚に足先が二つあるようにも見える。人間で例えるなら腿や脛は一本だが足首から先が二つあり左右合計で足四本、というイメージだ。
「【マーメイド】に悪魔変身する黒札が、下半身が通常のマーメイドと違うと悩んでいた*2こともあるし、悪魔の外見は当人の意識に強く影響されることも多いから」
ショタオジは推定・悪魔全書に走り書きしたメモ用紙を栞のように挟みこみ、それを脇に置いてから話を続けた。
「後は美大生ネキと同じく【悪魔カード】*3を渡しておこう。君も修行すれば複数種類の悪魔に変身できるようになるよ。……君の相性からすると、該当する悪魔は【バイコーン】、【ユニコーン】、【ペガサス】、【スレイプニル】、【ケルピー】くらいかな。【ケンタウロス】みたいな半人半馬はもっとデビルシフト能力に習熟すれば可能性がある、【馬頭鬼】のような人型メインは頑張ってもぎりぎりワンチャン?」
「ペガサスの飛行能力やケルピーの水棲能力は気になりますが、霊格的にスレイプニルが一番強そうな気がします」
「そうだね、馬型悪魔しかバリエーションがないなら、複数に分散するのはあまりお勧めしない。美大生ネキは人の血肉を好む悪魔の影響を薄めるという意味が大きかったけど、君なら日常生活に悪影響が出ることもないだろう」
*
「悪魔変身【俺たち】のサークルがあるなら、挨拶しておきたいところだけど。そんなサークルあるかな?」
ショタオジとの面談を終えた馬ニキは、山梨第二支部をうろついていた。
そこへ彼に声をかける一人の女性。
「馬ニキさん、お久しぶりです」
「これはミナミィネキ、お久しぶりです」
「ふふふ…… 上田市のシェルター運営、お疲れ様です。私から見ても頑張っていると思いますよ」
「そう言っていただけると励みになります」
スケベ部部長にして馬ニキの房中術の師匠、ミナミィネキが笑顔で彼を褒める。
彼女は立ち話もあれだと彼をカフェに誘い、馬ニキもほいほいと彼女の後を付いていく。
「ところで、聞きましたよ。デビルシフターの能力に目覚めたんですって?」
「耳が早いですね。秘密にしていないとはいえ、積極的に広めてもいないはずですが」
「壁に耳あり障子に目あり、と申します」
ミナミィネキはすまし顔でさらりと躱し、馬ニキも無粋な突込みはしない。
「ところで、今回お誘いしたのは、スケベ部の仲間を助けて欲しくてですね。ドクオニキ*4がシェルター運営に苦労されているのはご存じ?」
「ええ、理由がないとシェルターに足を運ばないようになったとは噂で聞きました」
「それなら話は早いですね。彼のシェルターではニッチなAVを撮影して稼いでいるのですが、ここは一つ、AV撮影に協力していただきたくて」
「ドクオニキには以前に世話になりましたし、恩返しできるなら構いません」
どうせ撮影係とか女優スカウトとか、裏方周りを任されるだろうと勝手に思い込んだ馬ニキは、深く考えずに同意する。
「本当ですか? ありがとう! もう私の方で企画を練ってあるんですよ。これが企画書です」
そう言ってミナミィネキが薄っぺらい紙束を馬ニキに手渡す。
馬ニキは1枚目のタイトルを見て、全身を強張らせた。
「……『黒札がTSケモノ化! シキガミの馬耳ケモノっ娘と極太ディルドー純愛百合獣姦、攻め受け交代あり、女性型仲魔が乱入して百合乱交もあるよ』って、コレがタイトルですか?」
「はい、分かりやすいタイトルだと自画自賛しちゃいます!」
「ええ…… まさか、俺が女優側に回るなんて。あの、やっぱキャンセル……」
ミナミィネキは威嚇するようなにっこり笑いを浮かべ、馬ニキは首をすくめ言葉を引っ込めることしかできなかった。
「自衛隊ニキネキのポルノが公開された後、彼女にどれだけの貢物が届いた*5かご存じ? 貴方ご自身にとっても実入りのいい案件ですよ」
それを聞いて物欲と羞恥の間で悩む馬ニキと、ここで悩むならもう折れたも同然ですねと内心でほくそ笑むミナミィネキ。
二人の打合せはそれから30分ほど続いたが、ミナミィネキは最後まで柔らかい笑みを絶やさなかったとか。
※ 本作では18禁描写をしません。
※ なおファンアートはいつでも受け付けております。
「終末に向けての準備するとある転生者の話」の作者様は素材フリー宣言していませんので、無断使用です。
ご本人様からの抗議があったら該当部分を削除します。
ご本人様から許可を頂きました。感謝!
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余話5 雑魚と煽られる
せっかく山梨・星霊神社に来たのだから、ショタオジの診察だけで帰るのはもったいない。
ミナミィネキとビジネスの話を詰めた後、馬ニキは魔獣寮*1に向かい、獣型悪魔に変身した状態での戦闘訓練を受けた。
Lv30後半になってからデビルシフターの能力に目覚めた馬ニキは、それまで人型として武器防具で身を固めて戦うことに慣れていた。それが装備なしの四つ足で体当たり・蹴り・踏みつぶしが主軸の肉弾戦となると、人型と馬型では体のサイズが違うので戦闘中の間合い・位置取りも変わることも合わせ、まったく良いところなく戦闘訓練を終えた。
「でかい図体をまっるきり持て余していたにゃ。こんな雑魚【黒札】は久しぶりにゃ」
面白半分ストレス解消半分で戦闘訓練に付き合ってくれたミクにゃんが、馬ニキを煽る。
するとそこに、馬ニキを雑魚と煽る存在がやって来た。
「馬ニキ、ちいーっす。終末後にもなってまだシキオウジを倒せない黒札とか、ほーんと雑魚ですよね。派出所長なんだから早く成長してくださいよ」
「あ、アカネちゃん、ちぃーっす」
新条アカネ*2、終末後に急成長した黒札であり、彼女は馬ニキとスケベ部繋がりで面識がある。
馬ニキはアカネちゃんとそこまで親しいというほどではないが、彼女がコミュ障で一歩対応を間違えると面倒くさいことになると知っているので、彼女の上から目線(なおアカネちゃんは上から目線だと気づいていない)を苦笑いでスルーする。
「なになに? 雑魚黒札がこんなとこにいるって? ざぁこざぁこ♥」
「グリムちゃんも、こんにちは」
さらに連鎖して、メスガキことグリム・アロエ*3が現れた!
馬ニキはミク・アカネ・グリムと3連続で煽られたが、怒りをぐっと飲みこんだ!*4
「お兄さんが
「違うにゃ。デビルシフター能力で【スレイプニル】になったけど、今までの人型での戦闘経験が邪魔してまるっきり戦えていないにゃ」
「へぇ、Lv40近くになってからデビルシフター。興味あるわ」
新条アカネが野次馬根性丸出しで馬ニキに迫る。馬ニキはLvが倍近い存在であるアカネに抗うこともできず、大人しく白状することしかできなかった。
「ほーん、【ロキ】かぁ。北欧神話の繋がりで、私のスカディから強くなるアドバイスとか貰えるかも?」
アカネの仲魔である【女神スカディ】は、馬ニキをちらりと一瞥した後、小さく首を左右に振った。
「今世の魂である平田維茂が完全に主導権を握っており、デビルシフターという形でロキの力を引き出した以上、彼が他の形でロキの力を引き出すことはないだろう」
「スカディ、いつになく無愛想ね」
「スカディがロキを嫌っているのは神話にも語られているから仕方ない」
『古エッダ』の『ロキの口論』によると、ロキは北欧神話の神々を続けざまに罵倒したが、その罵倒された中にスカディが含まれる。そしてロキが縛り付けられたとき、ロキに蛇の毒が滴り落ちるようにしたのがスカディである。
「あれ? でも、ロキってスカディを笑わせた逸話があったんじゃ?」
「それはちょっと… 下ネタなので…」
『スノッリのエッダ』によると、スカディが意に沿わない結婚をさせられたとき、和解条件として「私を笑わせてみよ」と条件をつけた。そのときロキが自身の股間と山羊の髭を紐でつないで綱引きをするという余興でスカディの怒りを静めたという。
それを聞いたアカネは爆笑し、見たい見たいと馬ニキにナチュラルボーンセクハラをかます。彼女の尻馬に乗ってグリムとミクにゃんが囃したて、馬ニキは内心で泣きながら勘弁してくださいと平謝りするしかなかった。
*
「ああ、酷い目にあった」
アカネ・グリム・ミクにゃんの3人合唱による雑魚連呼をどうにか耐えた馬ニキだが、彼は忍耐の末に実利を勝ち取った。
よわよわ黒札に助力をお願いしますと頼み込み、『浦野牧』シェルター近くにあるミズチの巣を駆除する作戦にアカネとグリムのスポット参戦を約束できたのだ。
アカネは気まぐれなので当日に約束をすっぽかす可能性があるが、グリムは根が真面目なので確実に参加してくれるだろう。それにアカネからはミヅチを捕えたら悪魔合体してあげてもいいと(相変わらずの上から目線だが)言質を取れたので、ミヅチとの戦闘に出てこなくても十分助かる。
「後は、そうだ、現地霊能者の底上げ用に人造悪魔を買っておかないと」
【ガイア連合】が最近になって売り出し始めた【屍鬼オバタリアン】*5が、維持コストが安い割に打たれ強く、しかもサマナーを裏切らないと評判が良い。馬ニキはオバタリアンを何体か購入して【COMP】に入れ、シェルターに戻ったら現地霊能者に譲るつもりで、山梨支部の黒札用購買に顔を出した。
そして彼は、オバタリアンは購買ではなくスケベ部で取り扱っているのでそっちで買ってくれと言われ、嫌な予感を胸中に抱えながらスケベ部に出向いた。
「こんにちは、ミナミィネキ。先ほどぶり。購買で聞いたらオバタリアンはこっちで買えと言われたんですけど」
「はい、私とアカネちゃんの合作なのでこちらで扱っています。デビオクでも売っていますけど、こうして対面で売るなら実際に見てもらって分かりやすいですからね」
ミナミィネキは自身のCOMPを取り出して、オバタリアンを顕現させる。
COMPから出た何かが【マグ】を纏い、女性型悪魔として実体化する。それを見ていた馬ニキは、どこか既視感を覚えた。
あれ、さっき見たアカネちゃんの仲魔である女神スカディと、面影が似ている?
「ああ、旦那様! 哀れな端女に、どうか、どうか子種を恵んでくだされ!」
「えっ、何ですかこの痴女は?!」
オバタリアンは実体化した直後こそぼんやりした感じだったが、馬ニキを認識した途端、彼に縋りついて懇願し始め、さらには彼の股間を弄りはじめた。
「はい、COMPに戻って」
ミナミィネキがCOMPを操作すると、オバタリアンは強制的にリターンして消え去った。
「えぇと、私としてもオバタリアンがあそこまでアグレッシブに求めるとは予想外だったのですが」
ミナミィネキは小首をかしげながら、自身の推論を口にした。
「多分、馬ニキの霊気のロキ成分に反応したんだと思います。あのオバタリアン、実は北欧神話の女神スカディが零落した姿なんですよ」
「女神が零落したって……」
「ガイア連合を舐めくさった女神スカディを、アカネちゃんと私で徹底的に尊厳破壊して、ああなったんです。それで、力ある霊能力者からマグを吸収すれば、多少は力を取り戻せますからね。ロキ由来のマグとなれば、失った神格を多少取り戻せる可能性すらあります」
マグを吸収してレベルアップすれば力を取り戻せるという理屈は分かるが、ロキ由来とは?
そう疑問に思ったところで、先ほどアカネ・グリムとじゃれあっていたときに、彼女たちには伝えなかった『古エッダ』の内容を思い出した。
「そうか、『ロキの口論』でロキがスカディを侮辱した内容は、ロキとスカディが関係を持っていたという事実の暴露だったな」
「そうです、ロキとスカディはセックスしたという神話的事実があるのです。ならば、ロキのマグを色濃く纏う貴方をロキと見立て、ロキとセックスしたなら逆説的に彼女はスカディとなり、それは失った神格を取り戻す第一歩になるでしょう」
これは、買えないな。
現地霊能者に譲るつもりだったが、俺が仮初でも主となったなら、あのオバタリアンは俺から離れようとしないだろう。
馬ニキは現地霊能者の戦力アップ案が駄目になったことで、がっくり肩を落とした。
逆にミナミィネキは何か閃いたようだ!
「そうだ! 馬ニキさん、あのオバタリアンは無料で譲りますから、彼女とセックスするAVを撮りましょう! ふふふ、単なる色情狂に零落した女神が、無様エッチの結果として中途半端に神格を取り戻し、色欲とプライドの狭間で揺れるんです! これは受けますよ、ニッチすぎるTS牝馬獣姦よりずっと! あ、TS牝馬獣姦との二本撮りの方が良いですか?!」
ミナミィネキはブレないね。
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余話6 Animal Video
ミナミィネキからのオーダーであるAVについて、馬ニキと仲魔たちの打合せ。
まずは『黒札がTSケモノ化! シキガミの馬耳ケモノっ娘と極太ディルドー純愛百合獣姦、攻め受け交代あり、女性型仲魔が乱入して百合乱交もあるよ』という企画物について。
「私は人型獣型、雌雄の区別なく主様を愛せますわ! でも馬の姿だと体格差があるので、踏み台か何かがないと合体できませんね」
シキガミである<ヒメ>は
「他人同士であれば気にせぬが、妾は
鬼女紅葉は同性愛を嫌い、敷道大神は見世物扱いされたくないと拒否。
「2対2で賛否同数か…… まぁ<ヒメ>と<アグネス>だけの出演でも問題ないか」
馬ニキは渡された企画書をもう一度読み返し、仲魔全員が出演する必要はないことを確認した。
「あれ、でもタイトルの『シキガミの馬耳ケモノっ娘』ってなんだ? <ヒメ>は完全人型でデザインした*1はずだがタイトル詐欺か?」
ふと疑問に思って<ヒメ>の頭を見ると、いつの間にかウマ耳が生えていた。ついでにウマ尻尾も生えていたおり、今の彼女の外見はウ○娘のカ○カミプ○ンセスにそっくりだ!
「はぁ?! いつの間に生えたの?!」
「終末後すぐに、人に擬態する必要がなくなってからですわ。峰津院様が終末後はシキガミでも子が成せると仰られた通り、主様が無意識下で望む姿に変異しました」
「いやまぁ、外見のモデルは確かにそうだけど、版権対策というか……」
「終末後に版権を気にする人などおりませんわ」
「あ、メタ的な意味なので」
サ○ゲームズに配慮して、このネタはここで打ち切り。AV撮影についても濡れ場シーンは描写しません。
「それはそれとして、ミナミィネキから打診されたもう一つの案件、【屍鬼オバタリアン】について」
馬ニキが簡単に事情を話すと、仲魔も皆、一様に渋い顔をする。
「高位分霊をも零落させ尊厳汚辱する。【ガイア連合】、改めて恐ろしい組織よの」
「ガイア連合の一員として、見せしめのための制裁は構わぬ。しかし其方の仲魔として、我らの同輩扱いは
敷道大神と鬼女紅葉が否定的な発言をする。
「その、主様は『可哀想なのは抜けない』ことはありますの?」
「いや全然。舐めた相手を『わからせる』鬼畜プレイも余裕」
馬ニキは【覚醒】してすぐにミナミィネキから手ほどきを受けたため、性癖の幅が広い。菊門を掘られることも、一時的にTSして*2女性の快楽を味わうことも経験済みで、だからこそ獣姦AVの方も行為そのものには拒否感がない。
「屈辱を与えるにしろ、スケベ部長の所持品のままにはできまいか? どうしても其方の手駒にせざるを得ないとしても、同じ【COMP】に入れて欲しくない」
「俺もCOMPの枠をアレに使うのは嫌だ。最低でも封魔管(脆)を用立ててもらうか」
「意図してレベルアップが遅くなるよう霊器を弄られているのだろう? 肉盾か男探知がせいぜい、むしろ【未覚醒者】か低Lv【覚醒者】の性欲発散用に飼うのが正しい運用?」
「未覚醒者に【サバト】を味わわせて【覚醒】を狙う手段になるかもしれません」
「無料で貰えるのなら、最低限の義理として数度ねぶった後、後腐れなく【悪魔合体】の素材に使うほうがマシかと」
やいのやいのと皆で意見を出し合ううちに、女神スカディだった存在に無様を味わわせる方向で話が進んでいく。
「男探知する【悪魔】は『カルロ』と呼ばれる*3のが通例でしたか? カルロの女性名は『カルラ』でしたか、元の名で呼ばずそちらの名で呼ぶことは恥辱になりましょう」
「それは神性とプライドをある程度取り戻した後でないと逆効果、最底辺の状態で新たな名づけをすると別存在にになってしまい、女神を辱めるという目的から外れる可能性がある」
最終的に馬ニキはAVを二本撮るのだが、本作はR15区分のため、ここでは割愛。
なお、AV冒頭のお約束である女優インタビューの部分を、馬ニキが変身した馬による乗馬シーンにしたのだが、騎乗した鬼女紅葉がエロシーンに出てこないのは詐欺だというクレームがあったらしい。
*
新潟県佐渡島支部のパピヨンニキ*4から【デモノイド】*5の売り込みがあった。
デモノイドは悪魔を素体に生み出した人造生物で、『浦野牧』に売り込みがあったのは食肉用家畜である【デミフリルニル】*6、【デミナンディ】*7、【デミタング】*8の3種。そのうちパピヨンニキのお勧めはデミフリルニルだったが、いったん持ち帰って検討した結果、3種とも少数を育てることにした。
これは放牧地の広さに余裕があったこと、『浦野牧』は馬牧場がメインであるが山羊や鶏なども少数ながら飼育していることの二点が理由である。基本的にあまり手を掛けず放し飼いが主であり、牧羊犬代わりの【イヌガミ】は異界の主である馬背神の配下*9が務めていたりする。
その代わり食肉・鶏卵・山羊乳などの生産物は自家消費で終わるだけの量しか取れないが、メインは馬牧場であり畜肉はサブと割り切っているので問題ない。
「そもそも養豚ならカマプアア神の養豚場*10があるし、北海道十勝支部も畜産やってる*11し、規模的にうちが畜肉大手になることがまず無理だし」
それでも新たに着手する養豚はかなり期待している。セーフリムニルの神話補正で採れる肉の量が多いだけでなく、そもそも豚は畜肉効率が良いのだ。
終末前の数字だと、豚は年に2回の分娩をし、一度に10~12頭が生まれ、生後6か月で屠殺する。これが牛だと分娩が年1回、一度に1頭が生まれ、屠殺まで30か月かかる。
「あ、そうだ、今のうちに精肉設備も整えておかないとな。……【メシアンブッチャー】*12を素材にした屠殺人デモノイドとか、パピヨンニキに注文できるかな?」
今は贅沢品扱いの食肉がもっと安価になることを夢見て、捕らぬ狸の皮算用をする馬ニキであった。
デモノイドの話を振っていただき、ありがとうございます。
「ファッション無惨様のごちゃサマライフ」側の設定変更によりデミナンディの注釈を変更(2023/9/17)
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余話7 新たな侵略者、新たな因果
牧場に【デミフリルニル】、【デミナンディ】、【デミタング】の3種を試験導入して少し。DDS-netのチャンネルで『新たな家畜を導入しました!』と報告したところ、視聴者から「デミナンディを食うのはヤバい、ヒンズー教徒が牛肉を食わない理由を考えろ」というコメントが来た。しかも複数から。
パピヨンニキが【デモノイド】家畜化した時点で、【シヴァ】神*1の了承があると思っていたが、当てが外れた。リスク管理の面から、当面は畜肉にするのを止めておくことにする。
※ なお、パピヨンニキ謹製のデミナンディは名前だけ借りているだけの、ベース悪魔はナンディとは別物なのだが、馬ニキも視聴者も名前だけで早合点してナンディがベースだと勘違いしている。
肉にするのはともかく、荷車を引くなど労働力として扱うことは許されるのだろうか?
うちではタダ飯喰らいを飼う余裕がないので、それすらも駄目だというなら、シヴァ神に奉納という形で引き取ってもらうしかない。
シヴァと直接の縁はないが、シヴァは仏教では大自在天または大黒天となり、日本では大黒天と大国主が習合されて七福神の大黒様として親しまれている。
「今度ミヅチ討伐で千曲川の向こう*2まで遠征するから、そのとき信濃国分寺*3に寄って摂社の甲子大黒天堂でご本人に確認すればいいか」
馬ニキは割と呑気にそう考えており、『浦野牧』が馬牧場から牛・豚・山羊など畜肉動物を手広く扱う牧場に変化した意味を甘く見積もっていた。
*
【ガイア連合】の長野県上田市派出所『浦野牧』は、馬背神を
馬背神の権能から、『浦野牧』は馬牧場としての色合いが強い。そして異界であるがゆえに、『浦野牧』には時折【悪魔】が発生・出現する。
現れる悪魔は大別すると二種類あり、一つは異界を乗っ取らんとする強大な存在。これは三重第二支部を襲った【龍王ノズチ】 *4が例として分かりやすいだろう。
次に、隙あらば人を喰らおうとする悪魔が、異界のルールに則ることで出現コストを低く抑えようとする、一つ目よりは矮小な存在。これは【カマプアア】神の支配する異界で養豚状態の【フード:カタキラウワ】*5が出現する例が、『浦野牧』とよく似ている。
『浦野牧』に出現する野良悪魔は、馬牧場というルールに従って、ユニコーン・バイコーン・ペガサスなどの馬型悪魔がほどんどだ。【種族・フード】として弱体化して出現することが多く、低Lv【覚醒者】にあっさり討ち取られる存在ではあるが、【未覚醒者】相手には脅威である。異界を【シェルター】として一般人にも開放した後は、牧場内の小まめな
「ワンワン、新な侵入者だワン!」
馬背神の配下であり牧羊犬代わりとして牧場の治安維持を手伝ってくれる【イヌガミ】のポチくんが通報するときは、悪魔が【種族・フード】として弱体化しているのではなく、【種族・魔獣】としてそれなりの強さで顕現していることがほとんどだ。
もちろん異界ボスである馬背神の意向に逆らって存在するためそれなりに力を削がれており、Lv20を越えることは基本的にない。それでも【現地霊能者】たちではまともな戦いにもならず蹴散らされるのがオチであり、この派出所兼異界兼シェルターの最大戦力である【黒札】の出番となる。
馬ニキはLv40に到達した戦闘者であるので、通報を受けて【トラポート】でひとっ飛びしてさくっと終わらせるのが常であるが、今回はいつもと違っていた。
「【妖魔ケンタウロス】*6、異界に湧く悪魔としては新種だな」
「馬に縁ある悪魔ではあるが、今まで出現しなかったのだから、何か切っ掛けがあったはず……」
馬ニキが仲魔たちと首をひねっているところ、シキガミの<ヒメ>が心当たりを口にする。
「もしかして、主様が
「うーん、その可能性はあるな」
「それから、新種と言えば金色の毛をした羊が種族・フードとして出現したとポチさんから聞きました。牛や豚など畜肉動物を手広く扱い始めた影響と思われます」
「えっ、なにそれ初耳なんだけど」
「フードなので私たちの手を煩わすことなく、ポチさんが処理した、と」
馬ニキはそれを聞いて顔をしかめた。
「ケンタウロスと金毛羊、どちらもギリシャ神話由来。日本の神の庭であるこの異界に、ギリシャの神格がちょっかい掛けてきたってことか?」
「北欧神話のロキが手出ししたという悪しき前例がありますので、否定できませんね」
女神転生の世界で、畜肉の飼育なんて
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余話8 ネペレー(1)
我らが異界『浦野牧』にちょっかいを出しているギリシャの神格は何ぞや。
占術の得意な黒札に依頼をする前にちょっとギリシャ神話を調べたところ、さほど苦労することなく一つの名前が出てきた。
ネペレー。ギリシャ神話に登場する雲のニュンフ(ニンフ)、または下級女神。
イクシオンが女神ヘラに横恋慕したとき、ゼウスが雲からネペレーを作り出し、ヘラの代わりに彼女を宛がったという。この交わりによりネペレーが産んだのがケンタウロス族の祖とされている。またネペレーはアタマースとの間に息子プリクソスと娘ヘレーを生み、アタマースの後妻イーノーの陰謀からプリクソスとヘレーを助けるために翼のある金色の羊を遣わした*1。その金羊毛はコルキスの宝とされ、イアソンとアルゴナウタイの冒険につながっている。
「金毛羊と【ケンタウロス】、どちらも縁深い存在だからネペレーで確定だと思うんだ。【ニンフ】なら【妖精】【精霊】の類だからそんなに強大な存在じゃないし、焦らなくても良いかなって」
「……ネペレーは合っていると思うが、与しやすしと侮るとあっさり死ぬよ?」
念のためにと占術の得意なくそみそニキ*2に相談したところ、考えが甘いと一蹴された。
「ニンフの一種である【妖精ナパイア】*3や【妖精ドリアード】*4などをイメージしていると思うんだけど、ニンフは女神転生外伝ラストバイブルではLv39と結構強い。それにゼウスがヘラを模して作ったこと、アタマースとイーノーの騒動でヘラはネペレー側についたことを考慮すると、ネペレーはヘラの分け身と認識すべきだ」
「マジっすか! ギリシャ神話主神の正妃の分身とか、めっちゃ大物じゃん!」
「ギリシャ神話の破天荒な男神に比べればまだ大人しいけど、ネペレーの背後にいるヘラは嫉妬深いことでも有名。扱いを間違えないようにね」
くそみそニキの口ぶりからするに、粗雑な扱いをしてヘラを怒らせる未来を垣間見たのでは?
そう察して背筋を震わせる馬ニキであった。
*
DDS-netで自衛隊ニキネキのライブバトル*5が配信された。
これは東京・上野の自衛隊ニキネキと【女神イズン】の【黄金の林檎】を賭けた戦いが東京内の別シェルターにライブ配信され、その配信映像をアーカイブ化して東京の外に向けて通信したものである。同時に上野シェルターの欲しいものリスト*6も公開されており、視聴料代わりに欲しいものリストにあるものをお布施として送ってくれというものだ。
「美の女神による権能のぶつかり合い、マジ凄い」
中東の【女神イシュタル】(推定)の加護を受けた自衛隊ニキネキ's(オリジナルと催眠女人格の二体分裂)vs北欧の女神イズンによる美貌と歌とダンスの圧倒的パフォーマンス。
良いもの見せてもらいました、都内自販機への支援物資送付プロジェクトに投げ銭します。
「金が取れる映像とは、まさしくこれを指すのだな。我らが撮影したAVなど足元にも及ばぬ」
仲魔と一緒に鑑賞したが、鬼女紅葉がぼつりと漏らし、一同それに同意する。
ドクオニキのところで撮影したAVは、ミナミィネキの儲かるという口車に乗ったが、実際にはまったく稼げていない。販売本数も少ないし、投げ銭・お布施どころか一言感想すらろくに届かない。数少ない感想を掻き集めたところ、雌馬獣姦モノはニッチすぎる、屍鬼オバタリアン無様エッチモノは悪趣味きりたんネキ*7の作成するAVの方が尊厳凌辱の出来が良い、ということだった。
「そうだな、ドクオニキへの支援という義理は果たしたし、AV撮影はもう辞めるか…… いや元スカディへの尊厳破壊は続けよう。
馬ニキの見せしめ制裁へのやる気 【1D100:79】*8
ドクオニキのように義務感で復讐やって心を病むのとは違い、好んでやっていますね。
「まぁそれはそれとして、支援する物資はなに贈ろう」
欲しいものリストを見ると、食料・武器弾薬・日用品などシェルター維持に必要な汎用物資はガイア連合の事務局で纏めて取り扱うので【マグ】か【マッカ】を、美の女神を飾るに相応しい宝石など一品物はそれとは別にウェルカムとなっている。
「うちの異界で養蚕をやってるから、絹なら贈れるかな」
「上野シェルターに服を仕立て上げるだけの余力があるとは思えぬ、生糸や布を贈っても喜ばれるとは限らぬ」
「む、それはそうか」
「主様、自前の産物に拘るならウグイスの糞がよろしいのでは?」
ウグイスの糞は絹織物の染み抜きや染料落としとして使われるほか、美肌洗顔料としても古来から有名だった。またウグイスは鶏と違い大量飼育が難しく、数羽をケージ飼育する程度では糞を少量しか得られないため、美容品かつ貴重品という意味で美の女神への贈り物には相応しい。
ただし実情を知らないものが糞のイメージから不快感を持つこともあり、品名としてはウグイス粉などと言い換えられることもあった。
「オオゲツヒメのように糞を価値あるものとして渡してトラブルになる例もあるし、事前に問い合わせして確認取るのも面倒だから、マッカで済ませるのが手早いかな」
DDS-netの都内自販機支援物資送付プロジェクト紹介ページに移動すると、マッカ払いでも単発だけでなく定期支援年間コースがあり、一定額以上支援すると自衛隊ニキネキから返礼ビデオメールがあるなど、クラウドファンディングを意識した構成になっている。
「とりあえず単発でマッカ投銭&感想を送れば…… えっ、さっきのライブ映像をリピート再生するには一定の支援額が必要? これ絶対ちひろさんのアイデアでしょ」
それでもシェルター内の娯楽に転用できるから損しないでしょ、と気軽にポチった馬ニキであった。
*
「【デミナンディ】はいったん廃棄処分だな。無理言って初期ロット譲ってもらったのにこちらの都合でストップとか、佐渡支部に顔向けできねぇー」
デミナンディは【シヴァ】神の乗騎である【神獣ナンディ】をベースにしておらず、実は台湾の【魔獣テーグー】という牛型悪魔をベース*9にしていると勘違いに気づいたのがつい最近。そう誤解していた一因が、サンプルとした受領したデミナンディが白かったからだ。
ナンディは乳白色の牛なので、名前だけ使用しているデミナンディに何らかの影響があったと思われるのだが、その白いというのがギリシャの神格にちょっかいを掛けられている現状では不安要素になる。
なにせギリシャ神話で白い牡牛といえば、ゼウスが白い牡牛に姿を変えてエウロペに近づくという有名な話が残っている。
「早々に屠殺して肉はBBQにして、助っ人のグリムアロエちゃんとアカネちゃんをもてなすとか?」
【トラポート】で山梨第二支部へ行き、黒札料理人のジャンニキ*10を連れてきて牛を捌いてもらい、ついでにBBQソースや焼きそばなんかも彼の伝手で入手できないだろうか、と取らぬ狸の皮算用を始める馬ニキであった。
ネペレーについてはR-18区分の別話で。
追記:時系列の整理
本作では、佐渡でナンディをベースにしたデミナンディ開発(アルカトラズ・レポート 前編)→それをサンプルとして浦野牧が受領(本作余話7)→佐渡がテーグーをベースに新デミナンディを開発中→新デミナンディがロールアウト(アルカトラズ・レポート 中編)、としています。
「ファッション無惨様のごちゃサマライフ」作者の頓西南北様より、デミナンディについてご指摘をいただきました。デミナンディの素材に聖獣ナンディは使用しておらず、あくまで名前のみとのこと。
これを受けて本作内でのデミナンディの扱いを変更しました。(2023/9/17)
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余話10 ネペレー(3)
なんだかんだあって、仲魔の【屍鬼ボディコニアン】が【女神ネペレー】に進化しました。ほんと、どうしてこうなった。
それはともかく、シェルター近辺に発生した【異界】を攻略して異界ボスの【龍王ミズチ】も降伏させ、いったん【悪魔合体】による仲魔の強化を検討することに。ミナミィネキが悪魔合体できる*1ので、彼女にも相談しつつパーティの強化方針を検討することになった。
「例のオバタリアンが、レベルアップ進化に際し【女神ネペレー】に存在を乗っ取られた?!」
ネペレーの入手について経緯を説明すると、流石のミナミィネキにもそれは予想外だったようで、ぽかーんと大きく見開いた眼の焦点が空をさ迷った。
「あはは、【女神スカディ】の神格を取り戻そうとして、他の神格に存在を乗っ取られるなど、この上ない辱めですね。グッジョブですよグッジョブ!」
ミナミィネキは笑いをこらえながら、感心したように褒めてくれた。
「で、その屈辱の瞬間は当然、AV撮影してあるんですよね?」
「すいません、してないです」
「えっ? 本当に?」
それを聞いたミナミィネキの視線が馬ニキに突き刺さる。『こいつ何やってんの? 使えないわー』という心の声が聞こえて(幻聴です)馬ニキは腰が引け始める。
「すいません、俺の
「んー、仕方ありませんねぇ。……過去視でどうにか映像記録に残せないかしら、それとももう一度再現する方が簡単?」
そこまで拘る必要ある? と疑問に思った馬ニキだが、ミナミィネキには逆らえないので何も言わない。
「そうだ、女神ネペレーを見せてもらえます? まだ悪魔全書*2には未登録のはずですよね?」
「あ、はい。出ろ、ネペレー」
同じCOMPに入れたくないという理由で【屍鬼オバタリアン】を封魔管(脆)*3ごと譲ってもらったため、オバタリアン→ボディコニアン→ネペレーと進化しても封魔管(脆)に隔離したままであった。そのためネペレーはCOMP未登録であり、悪魔全書も未登録であった(少なくとも馬ニキはそう認識している)。
呼び出されたネペレーは実体化してすぐに挨拶をかわそうとして、自分をじっと見つめるミナミィネキの視線に気づき、まるで蛇ににらまれた蛙かのように固まった。
「あらあら、別に取って喰うわけじゃないのに」
「俺には性的な意味で食う気満々に見えますけど」
「あら、そう見えます? まぁそのつもりなんですけど♡」
かつてダークサマナー・クレマンティーヌとその仲魔・モリサマー*4を獲物と定めたように、ミナミィネキはにっこり笑った。ネペレーは必死になって馬ニキの背に隠れようとするが、もちろんその程度で逃げられはしない。
「あら? もしかしてボディコニアン時代の記憶が残っているのかしら? 興味深いわ」
ネペレーは最後の砦とばかりに馬ニキの背中に縋りつくが、残念ながら馬ニキはミナミィネキから性の手ほどきを受けてその方面の弟子ともいえる立場であり、この場ではネペレーではなくミナミィネキの味方だ。
裏切られたとショックを受けて項垂れるネペレーを、ミナミィネキと馬ニキが左右から挟んで連行する。
「大丈夫、安心して。あなたはもうスカディではないから、零落させ辱める必要はないの」
「……本当?」
「ええ、あなたはただ気持ち良くなるだけ。その間に霊気調整は終わるから」
「やっぱり改造されるんだーっ!」
*
ミナミィネキの経営する悪魔娼館の一室で、ねっとり絡み合う三人の男女。
全身を汁まみれにして失神しているネペレーの背中を、ミナミィネキの指がゆっくりなぞっていく。
「調整はこれでいったん終わりです。スカディを縛る枷は取り払ったので、不自然にレベルアップが遅いことも、肉欲を貪ることしか考えられずにサマナーの指示を無視することも、もうありません。Lv10の下級女神として妥当な性能になったと思います」
ミナミィネキの特殊能力ともいえる霊気改変を間近で見せてもらったが、馬ニキにはその手の才能がないので「はー凄いです」としか感想が出てこなかった。
「ついでと言ってはなんですが、戦力強化のための悪魔合体の相談に乗ってもらえませんか? 【シキオウジ】に勝つのが中期目標です」
「【終末】後だと、戦闘職【黒札】は
ショタオジが拠点防衛用に作成した【妖鬼シキオウジ】は雑魚戦に強い*6というのが定評となっている。
【ハイブースター】と【ダイン】系を組み合わせて一発でぶち抜けるから簡単よね? とかハムネキはさらっと言うが、終末前から修羅勢だった人の言う"簡単"を文字通りに捕らえてはいけない。
ミナミィネキは馬ニキに軽く視線を走らせ、少し考え込むような姿勢を見せた。
「そうね……
アタッカーさえ用意できれば、アタッカーを守り切ってシキオウジに勝つプランが現実的かしら。相棒たる黒札専用【シキガミ】はタンク兼物理アタッカーのビルドでしたっけ? それなら二体目のシキガミを購入するか、悪魔合体で属性魔法アタッカーを見繕うか」
「案外、最初のシキガミに【物理貫通】と【ブレイブザッパー】を両方スキルカードで持たせるのが一番手っ取り早いかもしれませんね」
馬ニキはそんな簡単に有用なスキルカードが入手できるわけないと冗談のつもりだったが、ミナミィネキは真剣だ。
「欲しいものを周囲に公表しておくことは大事です。終末前のとあるTCG界隈でしたが、珍品でも欲しいと言った物は大抵コレクター仲間の横のつながりでオークション情報とか出てきました*7。それを入手できるかどうかは貯金と運次第でしたけど」
「そうなんですか。じゃあ後で欲しいものリスト作成してDDS-netにアップしておきます」
「単に欲しいと言うだけでは駄目ですよ、情報を渡しても良いと相手に思われることが重要です。例えば、こちらから有用なスキルカードを出せると界隈に示すとか。そういえば
「いやぁ、スキルカード作成は負担が大きいので…… あはは…… 頑張ります」
ミナミィネキの無言の圧に、馬ニキはあっさり負けた。
「それはともかくとして、今すぐ悪魔合体となると…… 先ほどのネペレーはLv10なのでLv30くらいまで成長させないと合体素材としては弱いですね。他に仲魔で悪魔合体できそうなのは?」
「【妖鳥コカクチョウ】と【龍王ミズチ】がどちらもLv30くらいです。他は合体させずに成長させたようかと考えてます」
ミナミィネキは少し考えこんだ後、お勧めと思われるパターンを口にする。
「龍王と妖鳥の合体は魔獣になることが多く*8、あまり面白くないですね。
「夜魔は悪魔娼館に多数いるから
「そうです。ただし
COMPと封魔管(脆)で仲魔数上限は足りているはずだけど、でも甘味や酒を生み出すアガシオン*14も欲しいしなぁ、と皮算用を始めた馬ニキと、彼を見てにやにやするミナミィネキ。
「自ら沼に突き落とした同志があくせくしている姿って、ご飯三杯とは言いませんが見ていて飽きませんね」
「ん? 何か言いました?」
「いいえ、なにも」
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・22歳 転生者 Lv41
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、テトラジャ、チャクラウォーク(劣化)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ
仲魔1:シキガミ<川上 姫> Lv38
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*5、一分の活泉、二分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:妖鳥 コカクチョウ<アグネス>(アガシオンから変異) Lv30
耐性:物理耐性
スキル:ジオ、スクカジャ、マカカジャ、エネミーソナー、テレパシー、念動、変化、警戒*6
仲魔3:鬼女 紅葉 Lv36
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、ムド、ムドオン、変化、酒の宴*7、火炎ブースター
仲魔4:女神 道敷大神 Lv24
耐性:破魔耐性、氷結・呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオ、リカーム、デカジャ、マハジオ、ムド
仲魔5:屍鬼 〈肉便器な〉ボディコニアン Lv8
耐性:毒無効、破魔弱点
汎用スキル:性交
仲魔5:女神 〈淫乱な〉ネペレー Lv10
耐性:氷結・衝撃耐性
スキル:マリンカリン、霞駆け*8、淀んだ空気*9
汎用スキル:性交、牧畜
仲魔6:龍王 ミズチ Lv31
耐性:電撃吸収、氷結・呪殺無効、火炎弱点
スキル:ブフーラ、マハブフーラ、マカカジャ
備考:悪魔合体希望
仲魔7:夜魔リリム Lv8*10
耐性:氷結弱点、電撃無効
スキル:セクシーアイ、ラクンダ
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余話11 悪魔合体とパーティ編成
ミナミィネキの悪魔娼館から【夜魔リリム】を身請けして促成栽培のレベリングに連れ回し、そこそこのレベルになったところで【妖鳥コカクチョウ】<アグネス>と悪魔合体したところ、【堕天使エリゴール】*1になった。エリゴールも悪くはないが、元々のプランでは【妖魔ヴァルキリー】*2を仲魔にするはずだったので、そのエリゴールをそのまま【龍王ミズチ】と合体。晴れてヴァルキリーが誕生し、当初の見込み通りのパーティ編成となったわけだが。
改めて戦力を見直すと、【シキガミ】の<ヒメ>がタンク、ヴァルキリーの<アグネス>が物理アタッカーで、これが前衛2枚。【鬼女紅葉】と【女神道敷大神】がそれぞれ火炎と雷撃の術アタッカー、【女神ネペレー】がデバッファーで後衛3枚(ただし物理耐性を持つ鬼女紅葉は相手次第で前衛に出ることもある)。これに【黒札】サマナーである
不安点としては、<アグネス>がコカクチョウのときに使っていた【スクカジャ】と【マカカジャ】を悪魔合体で継承しなかったこと。道敷大神という電撃アタッカーがいるのになんで【ジオ】を継承しちゃうかな。
それとは別に、
それにデビルシフター能力で【聖獣スレイプニル】に変身しても、サマナー時に使えていたスキルの一部が変身中に使えるようになっただけ。正直言えば変身せずに黒札専用トンデモ装備で身を固めた方が強い。
ショタオジに相談したところ「LV70くらいまで上がればダブルクラスの恩恵が分かるよ、それまで辛抱して」と返された。そこまでレベルアップできるのは修羅勢に限られるうえに、成長率デバフがあるって、どう考えても無理ですよねぇ! 少なくともシェルター運営を金札なり他黒札なりの誰かに譲渡して身軽にならないと経験値稼ぎは難しい。
普通の【黒札】なら才能上限がないので意識することはない*3が、成長率デバフがある現状だと、サマナーのレベルが仲魔のレベル上限に影響*4することは明確な足枷になる。
*
「成長率ダウンの原因だけど、ダブルクラスのシステム構築と運用メンテナンスの代金として幾分か頂いているからさ」
「ロキぃ?! 消えたんじゃないかったのか、われぇ?!」
「表に出られなくなっただけで、こうして夢を通じて啓示を与えるくらいならまだ可能さ」
馬ニキの魂に溶け切って消失したはずの【ロキ】が夢語りしてきた。
「それより君の成長率ダウンを緩和する方法がある。君がデビルシフターとして【魔王ロキ】に変身できるようになれば、こちらもこそこそ中間マージンをピンハネする必要がなくなるんだけど、どう?」
「どう? じゃねぇわ、
「嫌だなぁ、そんなに警戒しなくても。おっと、今まで貯めたヘソクリではここらが限度か、また会おうね」
「二度と出てくんなっ!」
*
ちょっとした仮眠のはずだっが、あまりの夢見の悪さに飛び起きてしまう馬ニキであった。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・23歳 転生者 Lv41
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、テトラジャ、チャクラウォーク(劣)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ
後天的デビルシフター:聖獣スレイプニル Lv10 パトラ、ハマ、ディアラハン、破魔無効、火炎弱点*5
仲魔1:シキガミ<川上 姫> Lv40
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*6、一分の活泉、二分の活泉、三分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:鬼女 紅葉 Lv38
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:ドルミナー、ディア、マハラギ、アギラオ、ムド、ムドオン、変化、酒の宴(劣)*7、火炎ブースター
仲魔3:女神 道敷大神 Lv27
耐性:破魔耐性、氷結・呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオ→ジオンガ、リカーム、デカジャ、マハジオ、ムド
仲魔4:女神 〈淫乱な〉ネペレー Lv20
耐性:氷結・衝撃耐性
スキル:霞駆け*8、淀んだ空気*9、マリンカリン→誘惑の霧(劣化)*10
汎用スキル:性交、牧畜
仲魔5:妖魔 ヴァルキリー<アグネス> Lv30*11
耐性:火炎吸収、電撃・破魔無効、呪殺耐性、毒・精神弱点
スキル:ジオ、突撃*12、馬は蹄の音を立て*13、英雄狩り*14
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余話12 シェルター戦力拡充案
上田市【派出所】こと『浦野牧』シェルターは、規模としては小規模になる。馬牧場を主産業としているため敷地面積はそれなりに広いが、現在の人口は2000人。1つの県を管理するレベルの超大規模である霊山同盟支部*1や、結構大きめの地方都市サイズであるマキマネキの出張所*2とは比べるべくもなく、ドクオニキのいじめっ子隔離シェルター*3などと同規模である。
このシェルターにLv40の【黒札】がいるのだから、規模に対して戦力過剰とも言える。しかし
『浦野牧』シェルター周辺に出没する野良悪魔は高くてもLv20代、平均でいえばLv10代後半である。これは『浦野牧』が【異界】をベースにしたシェルターであり、シェルターの主祭神であり異界のボスでもある馬背神が地域一帯の地脈をコントロールしてLvの高い野良悪魔が出没しないようマグ濃度を調節しているからだ。とはいえ現地霊能力者勢だけでは、シェルターの外に出ることもままならず、馬ニキの引率が必須となる。
Lv40に到達した馬ニキにとって敵の適正レベルは40代前半であり、シェルター近辺の野良悪魔を積極的に狩っても経験値的には美味しくない。彼にとってレベルアップが遅い理由はダブルクラスによる成長率ダウンだけではない。
「可能なら適正Lvの狩場に長期遠征して、経験値だけでなく【マッカ】も稼ぎたい。マッカを稼げば現地霊能者用【デモニカ】・【COMP】や【シキガミ】パーツ移植などへ投資できるようになり、現地霊能者が育てば俺の手が空いてもっと稼げる。正のスパイラルになる」
「其方個人に強く依存している現状は問題よの。その考えに異存はないが、まずは其方の代わりとなるシェルター防衛戦力を用意せねばならぬ。やはり傭兵か?」
「あっ、依存と異存を掛けましたのね! 用意と傭兵も韻を踏んでますの? 流石は紅葉さん、知識ありますわー!」「ええい、話の腰を折るでない」
「黒札仲間に傭兵を頼むと高くつくのと長期契約を望めないのが欠点かな。逆に外様神の信徒や【メシアン】なんかは安いし定住も可能だけど、祭壇作るのが条件だったり、シェルター乗っ取りを警戒しなきゃならない*4」
「霊山同盟支部のように高頻度で悪魔が襲撃してくる*5ことはないので、防衛戦力として黒札である必要はないが、【ガイア連合】製品の豊富なバックアップ込みでもLv20は欲しい。【終末後】のこのご時世に、そうそう都合良い人物が余っているのか疑問ですね」
シェルター運営について仲魔+金札の宮下親子も含めて打合せしていると、そのような話題になった。
「傭兵に頼らず戦力を自前で育てる手段はありませんか? 例えば、うちの知佳を孕ませるとか」
「将来的にそうしたいところですが、知佳ちゃんは俺に次ぐ戦力二番手なので、妊娠出産で離脱されると戦力ダウンが洒落にならないんです。それに今から仕込んでも戦力化まで15年ほどかかるじゃないですか」
「15年などさほど長くもない」「神霊特有の時間感覚で言われても困ります」「知佳が駄目なら他所から女を攫って来ればよい」「ローマ建国神話のロムルスじゃあるまいし、ここは南欧と違います」「主様っ! シキガミの私が孕みますわ!」「ヒメが抜けたら知佳ちゃん以上の戦力ダウンだから駄目」
「のび太ニキ*6あたりに話をつけて、一か月ほどの短期傭兵契約を結ぼう。それが出来たら山梨・星霊神社のショタオジ謹製ダンジョン上級でマッカ稼ぎに精を出す。この方針で行こう」
「
やいのやいのと話し合っているうちに、とある神霊が神託を告げてきた。
『聞こえますか── 平田維茂くん、聞こえますか── 今、あなたに霊界通信で話しかけています』
「えっと、
シェルターの祭神であり馬ニキが信奉している馬背神は【国津神タケミナカタ】の孫とされており、馬背神社に合祀されている。そのため馬ニキはタケミナカタを仲魔でなく祭神として扱っている。
『諏訪大社を、
「諏訪大社と馬背神社は関係が”近い”から、即座に乗っ取りを警戒しなくて良いのは好条件に見えますね」
『そうでしょう、そうでしょう。それからついでに、軽井沢の諏訪神社に行ってください── もう神社としては機能していない跡地ですが、野良悪魔出現個所として近隣のメシアンのシェルターから迷惑がられています── 我が名代としてトラブル解決に赴いてください──』
さらっと言ってるけど、これは大事になりそうなネタではないかと気になる馬ニキであった。
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余話13 第二回ガイアプロレスin新潟
「かつて霊山同盟支部と魚沼支部がトラブルになった際、両者の代表がプロレスで決着をつけるという
「解説のくそみそニキこと阿部です」
「さて、あっくん。今回は魚沼支部の田舎ニキと上田市派出所の馬ニキの一騎打ちということですが、いざこざの原因は?」
「新潟県を支配下に置く魚沼支部と、長野県東部を支配下に置く上田市派出所の間、長野県北部の管理権でモメているようですね」
「それは…… いわゆる領地争いですか?」
「逆です。シェルター防衛の観点から野良悪魔が湧く原因となっている手つかずの霊地を制御する必要があるが、互いに余力がないからと押し付けあってます」
「あっ(察し)」
ウサミミネキが一瞬言葉に詰まり、生配信している中継枠のコメント欄がお悔み系のコメントで埋まる。
「気を取り直して、青コーナー*2、馬ニキの入場です!」
「入場テーマ曲は府中のG1ファンファーレか。懐かしいな」
「おおっと、馬です! 馬が出てきました! デカぁい! ばんえい競馬なみの大型種が通路を歩いています」
「体高(首の付け根から地面まで)180cm、体重1トンはありますね。馬ニキは後天的にデビルシフター能力を得たので、今日はこっちの姿で戦うようです」
「セコンドとして【シキガミ】の<川上姫>がジョッキーとして背に、同じくセコンドの金札・宮下知佳が厩務員として轡を取っています」
「終末前の競馬を思い出させますね、尻からトモ(後ろ脚の付け根部分)にかけての筋肉が惚れ惚れするような仕上がりで、これがレースなら単勝1.1倍のド本命ですよ」
「中継のコメント欄も盛り上がってます」
「続いて赤コーナー*3、田舎ニキの入場です。こちらもセコンドとして【シキガミ】の<破裂の人形>と金札・九重静が付き従っています」
「入場が地味ですね、チャンピオン側*4なのに興行を盛り上げようという気概がないのは駄目です」
「あっくんは辛口評価ね。試合展開はどう見る?」
「馬ニキがLv40に対して田舎ニキは倍以上、でも田舎ニキは魔特化なので力・体力ステータス自体は両者にそこまで大きな差はありません。馬型悪魔の姿で大きな体格という奇策に出た馬ニキを、ひょろっとした体*5の田舎ニキがどうさばくか。良いレスラーは箒相手にもプロレスできるという格言がありますが、いかに名勝負を演じてくれるか田舎ニキの立ち回りに期待ですね」
「レフェリーのカズフサニキが両者のボディーチェックをして、凶器を隠し持っていないことを確認しています。……カズフサニキの月架手町シェルターも長野県のどこかにあるんだっけ?」
「長野県に関する黒札の『プロレス』ですからね、彼も関係して当然です」
双方のボディーチェックが終わり、今、試合開始のゴングが鳴る!
「まずは両者がリング中央でにらみ合い。というか、田舎ニキはやり辛そうです」
「人相手の練習しかしてこなかったのでしょう*6」
「人同士ならまずは首相撲から始まるところですが、あっ、田舎ニキがエルボー! 馬の首に肘を叩きつけます! 半歩下がった馬ニキがお返しのタックル! 田舎ニキは体格差で大きく吹き飛びました」
「受け身をしっかりとってます。挨拶代わりのムーブとしてはまずまずですか。しか馬ニキの巨体だと、リング横断を三歩くらいでしょうか? 体当たりにあまり勢いを乗せられないのは欠点ですね」
田舎ニキはゆっくり上体を起こすが立ち上がらず、尻もちをついたままの姿勢でかかってこいと挑発する。
「これは! モハメド・アリに対するアントニオ猪木の作戦ですね」
「ほー、田舎ニキはそうくるのか」
馬ニキは後ろ脚で大きく立ち上がって、前脚でのストンピングを狙う。しかし田舎ニキは滑るようにするりと躱し、寝そべった体勢からお返しのスライディングローキックを叩き込む。
「アリキック! 馬ニキは露骨に嫌がってますね」
「馬にとって脚は命だから、そりゃそうでしょ」
「このまま両者にらみ合いか? プロレス的には塩試合になってしまうのか?! おっと、馬ニキが舌をペロペロする変顔で挑発! まるでゴールドシップです!」
「田舎ニキは挑発に乗りませんね」
らちが明かないと見た馬ニキは後ろ脚で立ち上がって後ろに下がり、ロープに尻と背を預けて反動で勢いをつけてダッシュ。三歩でリングを横断してまた立ち上がって反転、またロープに体を預けるというロープワークを行う。
「これは勢いのまま踏んで駆け抜けることでローキックを喰らわないというアピールですね」
「馬ニキがダッシュで踏みつぶし! 田舎ニキはなんとか躱すが、ロープワークから往復の、二発目! これも躱す! もう一回! 三発目も躱す、いや田舎ニキもんどりうった!」
「すれ違いざまの尻尾パンチが決まった」
仰向けに倒れた田舎ニキを馬の巨体が跨いで、そのまま両脚を折りたたみ座る体勢で腹から押し潰す。
「ボディプレス! 1トンの体重で抑え込みにかかります。レフェリーのフォールカウント始まった、1,2,田舎ニキ、跳ね返す!」
「高レベルの能力者は見た目と違って膂力ありますね」
「ここで畳みかけるか、馬ニキが尻もちついた田舎ニキの後ろに回って、前脚を振った! 田舎ニキの背中にバシーンと快音! サッカーボールキック!」
田舎ニキはごろごろ転がってリング下に降り、一息ついて仕切り直しを試みる。
「リングアウトのカウント20までじっくり時間を使う作戦ですか。セコンドの九重静がタオル片手に駆け寄ります、汗を拭く田舎ニキ、まだ余裕が見て取れます。それをリング上から見下ろす馬ニキ」
田舎ニキがタオルを九重静に返してリングに戻ろうか、というタイミングで、馬ニキのセコンドである<川上姫>がそこに突っ込んできた。
「試合中のセコンド介入はズルですわーっ!」
乗馬鞭をぶんぶん振り回す<川上姫>、九重静を守ろうとする田舎ニキとそこに割り込む<破裂の人形>。黒札1人とシキガミ2人が団子になって押し合いへし合いとなり、九重静は団子から押し出される。
それを好機と見た馬ニキが、リング上で助走をつける。
「まさか、飛ぶのか?! ロープワークで反動をつけ、今、踏み切ってジャンプ! 跳んだーーっ!」
高く放物線を描いた1トンの巨体が、くるりと体を丸めて背中から降ってくる。隕石となったそれは田舎ニキとシキガミ2人をまとめて押しつぶした。
「トペ・コンヒーロ炸裂! 3人そろってペシャンコ! ビックバン・ベイダー以上の体重とレイ・ミスレリイオJr.以上の高さが合わさった、馬ニキの必殺技が決まったーっ!」
「高所から飛び降りて全身を強く打ち付けるんだから当然ですが、攻撃を仕掛けた馬ニキもダメージを負ってます」
リング外で痛みにのたうち回る黒札2人、それに対してピクリとも動かないシキガミ2人。
馬ニキが場外に出たことで改めてリングアウトの20カウントが開始され、巻き込まれなかったセコンド金札2人がそれぞれの主人を介助してどうにかリング内に押し戻す。
「二人ともリングに戻りましたが、どちらも大きく消耗しています。それでも先に動いたのは馬ニキ、先ほどのように伸し掛かってさらなるスタミナ消耗を強いる作戦でしょうか?」
「いや、彼はアリキックのときに塩試合を嫌ったから同じことはしないと思う」
四つん這いになって何とか立ち上がろうとする田舎ニキの頭部に、するりと馬の尻尾がまとわりつく。
「ああっと、首絞め! 尻尾を使った首絞めだ! 田舎ニキは尻尾と首の間に指を入れて、なんとか窒息は免れています。さぁ、絞殺刑を田舎ニキはどうしのぐ? ロープに逃れようとするが、ぐいっと引き戻される! 馬力では勝てないのか? このままリング中引き回しの刑になってしまうのか? 空いた片手で馬の尻を叩いて悪あがきする田舎ニキ、ああっと、馬ニキが何かに驚いたのか拘束を解いた」
「田舎ニキ、ブフの力を手に込めましたね。異能を使うのはルール違反です*7」
「馬ニキのセコンドがエプロンに立って、レフェリーにクレームつけています」
「5秒以内の反則は反則じゃないのでセーフ」
「馬のプリ尻にくっきりモミジ型の霜焼けが浮かび上がっています、馬ニキにとってこれは屈辱」
レフェリーから田舎ニキに口頭注意が入りって両者仕切り直し。
「馬ニキ、ドゥラメンテのように前脚を高く上げるステップを踏んでます」
「今の反則技でかなり苛立ってる」
「馬ニキ、ゆっくり近づいてからのノーモーション体当たり! 田舎ニキ、吹っ飛ばされた! さあ馬ニキが背後に回っての、これはサッカーボールキックではない、後ろ脚キック狙いか」
「冷静を欠いたのか攻撃の組み立てが雑。さっきの吹っ飛び方といい、これは罠」
「後ろ脚を大きく振りかぶって…… 田舎ニキ、ひらりと交わした! そのまま後ろ脚に組み付いて、全身をかけて捻った! ドラゴンスクリュー! 体重1トンの巨体が崩れ落ちる! リングが衝撃で波うってます」
これがチャンスとばかりに、田舎ニキの逆襲が始まる。
「ダメージを与えた脚に追撃! 馬相手だと膝十字だかアキレス腱固めだかよくわかりませんが、田舎ニキが関節技で馬の脚を絞っています! 馬ニキの悲鳴? いななきが会場内に響き渡るが、まだ粘ります。馬力を生かして馬ニキがロープまでにじり寄りました。ロープブレイクです。おっと田舎ニキ、ロープブレイクの指示に従わない! レフェリーが反則カウントを、1,2,3,4! ぎりぎりで技を解きます。ロープブレイクとなりましたが、馬ニキは立ち上がるのに手間取ってますね、ビッコ引いてます」
最後の力を振り絞った馬ニキが体当たりを試みるが、それは田舎ニキに読まれていた。
「ジャンプ一閃、馬の首に両腕でしがみ付いた田舎ニキがぐるりと体を一回転してのスリングブレイド! 馬の巨体が再び崩れ落ちる!」
「これは決まったかな」
「首を跨ぐようにして背後を取った田舎ニキ、馬ニキのあご下に手を掛けて、仰け反ります。チンロックとキャメルクラッチの複合技でしょうか? 馬の首をねじ切らんとぐいぐい締める!」
「田舎ニキ、地味に片手で馬ニキの鼻を押さえてるね。馬は体の構造として口呼吸ができないからキっつい」
「あっ、馬の尻尾が力なくマットを叩く! ギブアップ、ギブアップしました! 決着、けっちゃーく!!」
「いやぁ、人と馬で試合が成り立つか危惧してたけど、二人とも思ったより真面目に『プロレス』してた」
「試合結果はレベルの高い田舎ニキが順当勝ちでしたね。それじゃ、第二回ガイアプロレスin新潟の中継はここまで。さよならー」
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余話14 長野県の悪魔分布と霊能者分布
【国津神タケミナカタ】から神託?を受けて、軽井沢の諏訪神社に関するトラブルに対処することになった*1。
とはいえ何も準備せずに向かうわけではない。まずは『浦野牧』派出所にあるデビルバスター協会窓口でデータを集める。【ガイア連合】が運営しているデビルバスター協会は各地域に出没する悪魔や異界の情報を収集する依頼を定期的に出しているので、出現する悪魔の種族・レベル帯・所持特技などの傾向が掴める。
更にデビルバスター協会の窓口を運営している【黒札】という立場から、普通では分からない情報も入手できる。それはクエスト受注やクエスト結果結果などを【COMP】や【デモニカ】などを使ってDDS-net経由で行う場合、そのCOMPやデモニカの使用者情報がある程度取得できるのだ。本人のレベルとインストール済みの【アプリ】、COMPであれば仲魔の種族とレベル。レベルは概算値しか分からないが、能力者の活動範囲分布を把握する助けになる。
「軽井沢の出没悪魔情報は…… ちょっと古いな。出没悪魔の情報収集依頼を、報酬に少し色を付けて新しく出すか。軽井沢だけピンポイントで出すと怪しまれるから、長野・松本・佐久など
その間、日帰りで探索できそうな上田市の隣接地(東御市・坂城町・長和町・立科町・青木村)でも回って悪魔の出没情報を最新に更新しようかな、そうかぼんやり考えていたときにミナミィネキから連絡が入った。
「もしもし? あ、ミナミィネキ、いつもお世話になっております。はい、え、【黒札】が集まっての親睦会?」
ミナミィネキによると、北欧神話の悪魔を仲魔にしている人を中心に声をかけているとのこと。
馬ニキは【妖魔ヴァルキリー】を仲魔しているから誘われたのだろう。
「もちろん参加します。え、紹介したい人がいる?」
軽く話を聞くと、黒札サマナーの山下さんと【女神シギュン】のコンビを紹介してくれるという。
シギュンは【魔王ロキ】の妻であり、馬ニキは【魔王ロキ】に自身の魂が汚染されて前世を乗っ取られた状態になっているので、多少の縁があるということになる。もっとも馬ニキの中のロキは前面に出てこれないくらいに弱体化しており、全体でみるとロキ成分はそんなに濃くない。トリックスターであるロキが他北欧神話の神格から嫌われているとしても、大きなトラブルになることはないだろう。
「その
「いきなりすぎません?」
「だって、私が声かけて回るくらいですよ? 親睦会が黒札と女性型悪魔の乱交パーティになるのは必然ですから、トラブルにならないように釘刺しておくのは当然です」
「はぁ、そういう趣向ですか」
「本当は、紹介したい人は
「調整って、スケジュールについてですよね?」
「その件については、
「お礼に心当たりがない!」
「それは後日のお楽しみということで♡」
*
そんなこんなで数日が経過し、依頼を出した軽井沢周辺の悪魔情報がそれなりに集まってきた。
出現する悪魔はスダマやコダマといった自然霊と、ネコマタやオンモラキなど鳥獣タイプが主体で平均レベルは10前後。稀にLv15以上の悪魔も見かけるそうだが、報告者たちはそれらとは交戦を避けているようだ。報告者のCOMP情報を見るに、Lv一桁後半の【メシアン】が3人ほど。避暑地としての軽井沢は明治時代に外国人宣教師が別荘を建てたのが始まりとされ、この地にはメシア教会も多い。おそらくメシア教徒がシェルターを作っているのだろう。
もっともアンチ・メシアンの急先鋒であるKSJ研究所*3が手出ししていないので、手を出すまでもないと判定された小規模シェルターと推測される。
それに対して、長野市周辺の悪魔情報として興味深いものが上がってきた。Lv一桁のホーリーゴーストやエンジェルが観測されたのだ。
かつて善光寺ではメシア教の陰謀が進行していたがレイプマンニキ(改名前)の活躍により建物も地脈も陰謀もまとめて爆発して打ち砕かれるという事件があった*4。その後の善光寺は霊能組織としての体制を立て直せずに【終末】を迎え、あの地域一帯は野良悪魔に蹂躙されて無人の地という状態に陥っていた。
メシア教が善光寺の霊脈に半世紀近くも干渉していたので、何らかの原因があって低級天使が湧くようになったと思われる。それはそれで問題だが、むしろ報告者の情報に気になる点がある。
「報告者が着用しているデモニカ、これ自衛隊に納入されたG3シリーズ*5の識別番号だよな。この報告者の仕事ぶりを追うと、松本や安曇野あたりを中心としてチームを組んでいるっぽい。自衛隊松本駐屯地の生き残り?」
三重第二支部に自衛隊の能力者が身を寄せている実例もある*6ので、五島部隊の生き残り*7がいても不思議ではない。
「他の黒札の紐付きでないなら補給に難儀しているだろうし、うちに引っ張ってこれるなら戦力増強になる。これはスカウトしてみようか」
捕らぬ狸の皮算用ではあるが、つい笑いがこみあげてくる馬ニキであった。
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余話15 シェルター戦力増強
自衛隊松本駐屯地を根城にしていた野良の(元)自衛隊霊能力者をスカウトできました。
本筋じゃないので彼らの描写はさくっと済ませるけど、自衛隊員が約10名でそのうちリーダー1名がLv3で4人がLv1~2、残り半数がサポーターという名の未覚醒者。それから彼らが保護していた一般人が30名ほど。リーダーたち覚醒者はデモニカ着用すればLv10~15程度、未覚醒者もデモニカ着用しての戦闘経験がそこそこあるので、装備さえ揃えれば彼らは貴重な戦力になる。
なお彼らは補給の当てに乏しかったため、多脚戦車1台は故障して使い物にならず、デモニカも共食い整備したため稼働中のものはたった1個しかなかったという困窮っぷり。彼らは独立を貫くのかどこかのシェルターに身を寄せるかの決断を迷っているうちに、野良悪魔により大きな被害を被り、保護している一般人を切り捨てて自分たちだけで近場(諏訪市)の多神連合(諏訪大社)シェルターに逃げ込むかどうかを真剣に検討していたようだ(上田市の『浦野牧』シェルターは、松本市から青木峠または三才山峠を抜けるのが困難という理由で除外されていた)。
「新たにシェルターの住人が増えたことを祝って、乾杯!」
「うぉぉ、上手い飯! 酒! 甘味!」
自衛隊員とその被保護者たちをまとめて『浦野牧』シェルターに受け入れ、とりあえず歓迎会として酒食を振舞う。米は瀬戸内ヒノエ島支部から仕入れたヒノエ米、肉はシェルター内で牧畜している山羊肉(デミタング)と猪肉(デミフリルニル)*1、お酒と甘味はそれぞれ創造スキル持ちの【アガシオン】をガイア連合から購入した。
酒製造スキル持ちのアガシオン*2はUC、甘味(水飴)製造スキル持ちのアガシオン*3はRとどちらもガチャの景品だが、レアリティがそこまで高くない(SR未満)ので組織運営している【黒札】へのご褒美としてガチャ確定指名チケットという形で用意してもらった。なお指名チケットは無料ではなく、ガチャの天井とも言うべき額の支払いがあったことを特記しておく。
「酒と甘味については、マグの消費だけで物が出せる。これに関してはシェルター住人全員に開放するから、各自でマグ稼いで楽しんでも構わないぞ」
「いやっほぉぉ! 一生ついて行きます!」
早くもほろ酔いで調子いいことを叫ぶ住人たちを見ながら、これで皆のストレス軽減になるなら安いものだと馬ニキは自身を慰める。
2体の特殊スキル持ちアガシオンは天井価格*4なので懐が寂しくなったところに、自衛隊員たちの多脚戦車・デモニカの修理代が伸し掛かる。
デモニカは霊山同盟支部からG3販売窓口を請け負っている*5のでそこから調達できる。彼らが使っていたデモニカのうち壊れていないコアはG3MILDからG3へのアップグレード*6で多少安くなるかもしれないが、概算でG3デモニカ10体分の調達となると、それだけで目の玉が飛び出るほどの予算となる。もちろん10体一括で納品されるほど在庫が潤沢とも思えないから、分割納品&分割支払という形にして一括払いは回避したいのが正直な気持ちである。
多脚戦車は新潟のロボ部に修理依頼することになるが、デモニカ調達を優先して多脚戦車は後回しにするつもりだ。『浦野牧』シェルターの発電施設・機械修理施設は貧弱なので、自前での戦車修理に不安があるという情けない理由だが。
「単なる銃弾はガイア連合通販に注文すればターミナル経由で受け取れるし、氷結属性弾は魚沼支部が在庫を切らさない*7から、最初は1体残ったデモニカを盾にして銃で狩る形でここら辺の悪魔に慣れてもらって。デモニカを3体くらい調達出来たら彼らにシェルター防衛を任せて、俺はどっかの狩場に遠征して1か月くらいマッカ稼ぎに専念して、それでどれだけ稼げるんかな。デモニカの分割調達が済んだら、多脚戦車の修理より修理施設の拡張が先か? ターミナルも大型に置き換えたいんだけどなぁ…… 働けどなお我が暮らし楽にならざりってね」
他人の目に触れないようにこっそりため息をついたところで、馬ニキは宴席からそっと距離を置いた。自分がこっそり抜けたところで、酔っ払いたちは気づきもしないだろう。祝いの場で辛気臭い顔を見せるものではない。
「『飲む』を含めた食は満たされるだろうから、次に彼らが不足するのは『買う』か? ミナミィネキのところから【屍鬼〈肉便器な〉オバタリアン】*8をもう一度購入して、シェルター共用の娼婦にするのが安上りかなぁ。悪魔とのサバトは覚醒のきっかけにもなるから、むしろ男連中には推奨?」
穴兄弟という言葉が脳裏をよぎったが、人類みな兄弟というキャッチフレーズを思い出して、馬ニキはそこで思考を打ち切った。
*
【国津神タケミナカタ】の神託?*9 に従って軽井沢まで遠征に来た馬ニキ。
途中までは新潟・山梨間霊道計画によって国道18号・141号をベースに整備されたルートが終末後も維持されているので、スレイプニルにデビルシフトできる今の馬ニキであれば上田・軽井沢の直線距離およそ40kmは日帰り感覚でしかない。今の軽井沢は悪魔の跋扈する無人の地となっているが、唯一の例外が旧軽井沢銀座通り(観光地としての軽井沢のメインストリート)を中心とした場所にあるメシア教のシェルターで、軽井沢教会・軽井沢聖パウロカトリック教会・軽井沢ショー記念礼拝堂の3つを結界の起点としている。
特にアポイントなど取っていない馬ニキは周囲の様子を軽く確認しただけで訪問したりせず、軽井沢町の十四地区に祀られている各氏神の神社を一通り回って現状確認を行った。どの神社も氏子なき現状では霊格を保てないのか、祭神は不在だった。この地に見切りをつけて去ったのか、神霊から妖怪に零落してでもこの場に残っているのかまでは分からないが。
「メシアンのシェルターは規模も小さいし、霊能者がシェルター外に出て周辺の悪魔を狩ってマグ稼いで、それを元手に聖水などアイテム作ってDDS-netで売るという自転車操業から抜け出せてないようだな。他のメシアンシェルターとの連携も小まめには取れてないだろうから、霊能者が一人大怪我しただけであっという間に立ち枯れる。KSJ研究所が危険視していない理由も分かる」
長野県と群馬県の県境にある熊野神社から軽井沢全域を見下ろしながら、馬ニキは分かっていることを口にして思考を整理する。
碓氷峠の守りである熊野神社は軽井沢総鎮守でもあり、祭神はイザナミと日本武尊。彼の仲魔である道敷大神 はイザナミの別側面なので、彼女がいっとき空席となっているここの祭神の座について、地脈にアクセスすることでそちら側からの情報収集を行ってもらっている。
「この地を早期再建するにはリソースが足りぬな。一人で良いから専任の黒札を引っ張ってこれるならともかく」
道敷大神の出した結論はしごく真っ当なもので、馬ニキとしてもお手上げである。
「臨時とはいえ我は軽井沢総鎮守、この地の地脈を閉じることはできようぞ。それが良い結果を招くとは限らぬが」
道敷大神が言うには、今まで回ってきた軽井沢の各神社は祭神が不在とはいえ、小規模だが霊脈としては残っている。それらを閉じることでこの地のゲートパワーを下げ、この地に蔓延る野良妖怪の平均Lvを下げることが見込める。ただし下がったゲートパワーによりマグ不足に陥った野良悪魔が、大人しくこの地から去るのではなく、シェルターを襲うことでマグ不足解消を狙うことは十分にありうる。
また地脈を閉じるといっても、あくまで露天井戸に蓋する程度。それなりに力ある悪魔なら蓋を開けて井戸を占有することも可能だ。そしてそれは異界のボスとしてこの地に君臨することと同義である。
「あそこのメシアンたちも、守護天使が有能ならこの機にシェルター拡張できるってことね」
「そこまで目端が利くかどうかは分からぬが、可能性はある。あそこを防波堤として残すのであれば事前に助言・警告の一つでもくれてやれば良かろう」
馬ニキは軽く悩むそぶりを見せたが、すぐに割り切った。
「直接の伝言は不要、DDS-netにちょこっと書き込みすれば十分かな。目端が利くなら余計なお節介でしかないし、あいつらが早晩滅ぶような盆暗だったらべたべた纏わりつかれると邪魔だ」
馬ニキもメシアンに対し親切な態度ではないが、アンチメシアンに傾倒しているKSJ研究所に比べればマシであり、彼を咎める仲魔もいなかった。
*
各地区の神社をもう一度回り、地脈を閉じると同時に社の魂抜きも行う。軽井沢を東から順に巡り最後となった追分地区の諏訪神社で、一連の儀式を終えた馬ニキが一息ついたところタケミナカタの分霊が彼の前に現れた。
「ご苦労さん、これでこの地のゲートパワーも下がり僅かなりとも平穏に寄与するってな。氏神の意地として零落してでも最後までここにしがみ付くつもりだったが、もう大丈夫だろう」
タケミナカタは道敷大神に頭を下げ、道敷大神も目礼を返す。
軽井沢の十四地区のうち諏訪神社は五社と数多いため、タケミナカタが主体となって終末後のこの地をなんとか治めようとしたのだろう。諏訪大社に坐する本霊に近い分霊ではなく、小さい分霊ではそれも叶わなかったのだが。
「じゃ、コンゴトモヨロシクな!」
「え? この地の使命を果たしたので霊界に戻る流れでは?」
「
「それは…… そうかも? いや、馬背神を親に例えるなら
馬背神の信徒を自認している馬ニキとしてはしっくりこないようだが、
「がははっ、親戚のおじさんってか! それでいい、俺に信仰を向けるより仲魔として扱き使ってくれて構わん! 零落して消えるはずだった余生?を面白おかしく過ごせるボーナスタイムってことよ」
国津神タケミナカタが仲魔になった!
酒創造スキル持ちアガシオン
味 【1D100:76】+20 (ガイア連合員製造・補正)
量 【2D45:57(19+38)】+10 (ガイア連合員製造・補正)
安全性 【2D65:83(35+48)】-【1D40:39】 (マイナスで、マッスルドリンコ 1で安全 50以上で薬効あり)
甘味(水飴)創造スキル持ちのアガシオン
味 【1D100:84】+20 (ガイア連合員製造・補正)
量 【2D45:17(12+5】+10 (ガイア連合員製造・補正)
安全性 【2D65:99(36+63)】-【1D40:27】 (マイナスでデメリットあり 1で安全 50以上で薬効あり) チャクラドロップの下位互換(使用者のMP微小回復)
仲魔6:国津神 タケミナカタ Lv7
体制:火炎弱点、雷撃耐性
スキル:ジオンガ、反撃
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余話16 長野県北部の現状
軽井沢については一区切りついた。もしあそこのメシア教シェルターがこっちにヘルプを頼むなら、スケベ部繋がりの【黒札】佐久間すみれネキ*1を紹介するのも良いだろう。そんでもって、次は長野県北部の、ぶっちゃけ長野市にある善光寺跡地だ。
あそこは戦後からメシアンが善光寺を隠れ蓑に陰謀を巡らせていたが、レイプマンニキ(改名前)がその陰謀を丸ごと打ち砕いた*2結果、霊能組織として立て直せぬまま【終末】を迎えることになり、野良悪魔に蹂躙されて人の住まない土地になった。その後に【デビルバスター協会】の依頼を通じで出没悪魔情報を更新したところ、ホーリーゴーストやエンジェルが野良悪魔として長野市に出現していることが判明。メシアンどもは善光寺の霊脈に半世紀近くかけて何か仕込んでいたようで、レイプマンニキの仕業により地脈エネルギーを暴発させて仕込みを強制リセットさせたが、まだ残滓が残っていたようだ。
管理人不在となった地脈を放置するとどんな野良悪魔が湧くか予想できないので、シェルター防衛の観点から【ガイア連合】の黒札が何かしらコントロール下に置く必要があるが、今までの『浦野牧』派出所は上田市全域をコントロールするだけで手一杯であり、余裕のありそうな新潟・魚沼支部に面倒をみて貰いたかったというのが本音。しかし魚沼支部の田舎ニキも新潟県の範囲が限界で長野県北部にまで手を伸ばす余裕がないと主張し*3、DDS-netの掲示板でお互いに押し付けあうレスバトルが発生したりもした。
そんな扱いの善光寺跡地だが、馬ニキが後天的にデビルシフター能力を得て
馬ニキと仲魔御一行が善光寺跡地に到着したところで、彼が見たのは新しく生まれた『異界』であった。
*
「で、おはなし*4してくれる?」
異界の最浅部に出没する悪魔はLv5前後の【ホーリーゴースト】とLv10前後の【エンジェル】たちで、Lv40に到達した【黒札】の馬ニキにとっては障害足りえない。
恐喝じみた会話の結果、ここの異界は『隠れキリシタンの聖堂・善光寺』という名称で、異界ボスは【ブラックマリア】と判明した。
「ブラックマリアはメシア教が異国の地に布教するときに現地宗教の地母神と融合した存在だよな? 戦後からずっとメシアンが善光寺の背後に潜伏していたけど、隠れキリシタンとはちょっと違うんじゃ?」
むしろ、メシアン弾圧を強めたKSJ研究所から身を隠すために、日本仏教と融合したんじゃないかと疑うほどである。
「この異界は稼ぎ場として良さそうだな。天使種族が出てくるなら、KSJ研究所から蟲毒皿を仕入れれば低レベル霊能者の育成に使えるかもしれない」
異界の浅い所を見回った後、馬ニキは中層部・深部へとダンジョンアタックを試みる。
その結果、この異界『隠れキリシタンの聖堂・善光寺』はなかなか面白い特長を持っているということが判明した。
まず、出現する悪魔の種類は天使のみ、最浅部はホーリーゴーストとエンジェルだが、奥に進むにつれてサン・ジワン(アークエンジェル)、納戸神(プリンシパリティ)、ハンタマルヤ(パワー)、マリア地蔵(ヴァーチャー)、マリア観音(ドミニオン)と隠れキリシタン独自の信仰対象が出てくるようになる。なお、デビルアナライズすると悪魔全書的には名前が違うだけの天使の互換として表示される。
「新しい女性型悪魔はミナミィネキが喜びそうだし、俺にとっても当面の狩場になりそうだな」
馬ニキはLv40に到達後、後天的デビルシフター能力を得たためにレベルアップ速度が遅くなるというハンデを抱えることになった。そのためレベルアップ効率のために適正レベルの敵を探していたのだが、この異界は深部になるとマリア地蔵(ヴァーチャー)やマリア観音(ドミニオン)が出現するので都合が良い。
更にこの異界は天使種族しか出現しないので、用意すべき装備やアイテムも傾向がはっきりしている。
「
狩場として使いにくいようであればKSJ研究所に丸投げしちゃえといい加減な打算含みで、馬ニキはニヤリとほくそ笑んだ。
*
善光寺跡地の異界を中心とした長野県北部の管理を上田市【派出所】が行うということで、管理権を互いに押し付けあっていた新潟・魚沼支部の田舎ニキと、同じ長野県にシェルターを持つカズフサニキには了解を取り付ける必要がある。ブラウニキ*5は長野県の地元霊能組織に種を蒔いているようだがその組織の運営やバックアップには積極的に係っていないので事後報告でも構わないだろう。
田舎ニキとは以前も難民の扱いで会話した*6仲だが、大事なことなので直接会って話をする方が良かろうということで、新潟に出向くことにした。
会見のアポもサクっと取れたし、話し合いもスムーズに終わったのだが、問題が一つ。善光寺異界を黒札の管理下に置いて定期的に悪魔狩りを行うことをどうやって周知するかという段りになって。
「ガイアプロレスをやらないか? 前回も試合を放映した*7のだから、黒札同士の取り決めを周知しつつお捻りも得られる一石二鳥だ」
俺の仲間になった【国津神タケミナカタ】がCOMPから勝手に出てきて、俺と田舎ニキにそう提案してきたのだ。
「レベル差が倍以上あるので*8まともな勝負にならないでしょ」
「俺、デバフ解除とHP回復しかできないんで、スキルを派手に使いまくった人外同士の能力バトルは無理です」
「碧神殿は【魔】特化タイプだから異能を封じた純粋な肉体・技勝負なら
プロレスと急に言い出したのはタケミナカタの武神としての側面からだろう。
諏訪大社の祭神であるタケミナカタは、元々は諏訪湖を司る水神であり諏訪湖の湖面を渡る風神であったが、やがて信者に恵みをもたらす農耕神・狩猟神としての性質を持つようになり、諏訪大社の神官一族が平安時代末期から急速に武士化したため武神としても崇められるようになった。
「【終末後】だからこそかつてのエンターテイメント、純粋なプロレスも喜ばれるはずだ! それにプロレスは筋書き有りのショーだから、碧神殿の勝つシナリオで良いとも」
タケミナカタは馬ニキの耳元にそっとささやく。
「自分より高レベルの相手と戦う。負けても命の心配がないどころか、経験値がたっぷり得られる。最近レベルアップの伸び悩みを気にしているのだろう?」
「やりましょう!」
「う、うーん…… まぁ、
即決する馬ニキと、その勢いに流され優柔不断な返事を返す田舎ニキ。
こうして第二回ガイアプロレスが開催されることが決まったのであった。
*
第一回ガイアプロレスは新潟で開催されたので、会場はそのままそこを使用することになり、馬ニキと田舎ニキはまずは合同練習となったのだが。
「やはり
「異能なしというルールだったのでは? うわ、競馬で見たサラブレッドよりデカい」
「変身能力以外は使わないからセーフ。これがホントの異種格闘技戦ってな!」
武神でもあるタケミナカタに
「挑戦者の一番の見せ場は、花道をロングダッシュしてのぶちかましが定番だろう」
「すいません、会場は中継メインで観客をあまり入れる予定がないんです。長い花道は作れません」
「そうなると、コーナーポストで跳ね馬ポーズの見得を切ってからヒロ斉藤ばりのダイビングセントーンか」
「えぇ?!
「注文の多いチャンピオンだな…… 場外への自殺ダイブなら、物理耐性持ってる
そんなこんなで試合の流れが決まっていったり。
「王者は脚関節技を持たねばならぬ。ファンクスのスピニング・トゥホールドや、リック・フレアーの足四の字固めなど、NWAからの伝統なのだ」
「脚関節って、馬の巨体を寝かせる前段階が必要だよね? どうやって?」
「まぁまぁ、田舎ニキ、二人で考えましょう。そうですね、私の突進をカウンターのダイヤモンド・カッターで切り捨てるとかどうです」
「そちらの突進に併せるとリング狭くない? うん、試しにやってみようか」
試行錯誤があったりなかったり。
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余話17 地道な成長
第二回ガイアプロレスを終えて、馬ニキは無事レベルアップを果たした。Lvが倍以上ある相手に全力で挑んだ甲斐があったというものである。
なおデビルシフトした
それ以外にも、新潟の田舎ニキからは多脚戦車の割安販売と【終末】対応版の火炎瓶・ハンドグレネードなどの弾薬*3を無償提供*4が受けられ、KSJ研究所のカズフサニキからは戦闘用【シキガミ】数体を四割引きで提供*5と、物資支援という点でも効果が高かった。
なおカズフサニキから提供を受けたシキガミ『
*
Lv41でレベルを足踏みしている馬ニキにとって、仲魔のLvアップ上限という新たな問題点が発生した。前世に存在した女神転生というゲームではサマナーのLvを超える悪魔は使役できないというゲームシステムがあったが、それに類似した現象である。
また仲魔の鬼女紅葉もLv40を迎えたところで、【鬼女紅葉】というローカル伝承悪魔のLv上限に達したと当人から申告を受けた。本来であれば【悪魔合体】することで【鬼女カーリー】など格の高い悪魔に変化することでLv上限はクリアできるのだが、サマナーのLv上限に引っかかりそうなところが気がかりだ。
なお他の仲魔はLvアップ速度が遅いのでまだ余裕はある。
ちなみに、黒札にしろ悪魔にしろ、レベル上限やステータス上限がかなりアバウト*6なこの世界。彼の仲魔である鬼女紅葉がたまたまそうであると言うだけで、他の黒札が異なる鬼女紅葉の分霊を使役するとレベル上限が異なる可能性は十分に有りうる。
これをミナミィネキに相談したところ、悪魔合体のバリエーションで【
悪魔転生するには、転生させたい悪魔の他に合体素材として霊格が同程度の悪魔2体を必要とし、その素材悪魔は転生させる悪魔と同レベルまで育っていることが条件となる。単なる悪魔合体と比べて厳しめの条件だ。悪魔転生するとLv1に戻るが、霊格が上がりレベル上限が緩和されるので転生前に比べ(同レベルなら)強くなる。
「というわけで、紅葉の合体素材として見繕った【聖獣シーサー】と【屍鬼ボディコニアン】を促成栽培します」
ミナミィネキのスケベ部から仕入れたボディコニアンだが、ステータスは低いものの【女神スカディ】の零落した姿であるため霊格そのものは悪くない。またマッカ獲得アップスキル*8と破魔耐性*9持っているので、善光寺跡の異界で天使と連戦するのに都合が良い。
シーサーは入手しやすさ(妖魔アガシオンと夜魔モコイの悪魔合体*10)と破魔耐性*11で選んだ。正直、ボディコニアンもシーサーも鬼女紅葉のための合体素材であり一時的なパーティメンバーと割り切っている。
レベル上限に引っかかったシキガミ<ヒメ>と紅葉は控えに回し、前衛は馬ニキ(スレイプニルの姿)、ヴァルキリー、シーサーの3体、後衛は道敷大神、ネペレー、ボディコニアン。タケミナカタもレベル上げしたいところだが、まずは紅葉の悪魔転生を優先してこれも控え。
異界『隠れキリシタンの聖堂・善光寺』でLv20代のアークエンジェル・プリンシパリティをメインに狩りを行い、ボディコニアンとシーサーがLv30になったら鬼女紅葉を悪魔転生させる。
どうやら馬ニキは、目先のレベルアップ目標がはっきりしているとモチベーションが維持できるタイプのようである。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・23歳 転生者 Lv41/??
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、テトラジャ、チャクラウォーク(劣)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ
後天的デビルシフター:聖獣スレイプニル Lv24/?? パトラ、ハマ、ディアラハン、体当たり、ヒールドロップ、破魔無効、火炎弱点*5
仲魔1:シキガミ<川上 姫> Lv41/??
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*6、一分の活泉、二分の活泉、三分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:鬼女 〈好色な〉紅葉 Lv1/50
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:アギ
汎用スキル:性交、詩歌、音楽
仲魔3:女神 道敷大神 Lv36
耐性:破魔耐性、氷結・呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオンガ、マハジオ、リカーム、デカジャ、ムド、電撃ブースタ
仲魔4:女神 〈淫乱な〉ネペレー Lv31/??
耐性:氷結・衝撃耐性
スキル:霞駆け*7、淀んだ空気*8、誘惑の霧(劣化)*9
汎用スキル:性交、牧畜
仲魔5:妖魔 ヴァルキリー<アグネス> Lv34/??*10
耐性:火炎吸収、電撃・破魔無効、呪殺耐性、毒・精神弱点
スキル:ジオ、突撃*11、馬は蹄の音を立て*12、英雄狩り*13、物理ブースタ
仲魔6:国津神 タケミナカタ Lv19/??
耐性:火炎弱点、雷撃耐性
スキル:ジオンガ、反撃、静天の会心*14
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余話18 野沢菜漬とか信州味噌とか
長野県北部の善光寺跡異界に関して一区切りつき、たまには骨休めとして何もしないことを選んだ馬ニキ。上田市派出所シェルター『浦野牧』の牧場の木陰でごろりと横になり、ぼんやり空に流れる雲を眺めながら、とりとめもないことを考える。
「……思えば遠くへ来たもんだ」
【終末】後は電気やガソリンエンジンなどが使えなくなって江戸時代レベルまで文明が退化すると予測して。それの備えとして、祭神が馬背神と馬に縁深い存在だから労働家畜として馬を使役・育成することで生き延びる手段とすると決めて。山梨・星霊神社でショタおじの庇護の下のうのうと過ごすことを選ばず、【ガイア連合】の派出所を立ち上げて一国一城の主を気取って。
ショタおじが頑張った結果、【終末】は地球が魔界に軟着陸したような形になり、当初想像していたよりも文明崩壊しなかったのは誤算だった。
新潟や宮城などではロボをがんがん開発しているし、『終末後もファミチキ食べたい』という【黒札】の欲望がそこそこ実現している程度にはインフラが残っている。文明の恩恵を受けている側としては嬉しい誤算というやつではあるのだが、何かすっきりしない。
ガイア連合で開発した多脚戦車*1や改造オボログルマ*2など終末に対応した乗り物がそれなりに普及して、おかげで労働力としての馬はあまり人気がない。ガイア連合とのコネが薄い多神連合系シェルターではそこそこの需要があるが、それも高級品(オボログルマなどの乗用車)は背伸びしても届かないから身の丈に合った安物(馬)を買うという雰囲気が拭えない。
「いや、もっと文明崩壊して馬が大人気だったら、それはそれで大忙しだろうから、今ぐらいの緩さで丁度良いか」
木の根を枕にするのは頭の座りが悪かったのか、寝返りをうって腕枕をする馬ニキ。そのまま昼寝とばかりにうつらうつらし始めたところで、彼に声を掛ける者あり。
「牧場主殿? 気楽な一人寝も良いが、わらわの膝枕も良いぞ」
「ああ、ネペレーか」
彼の仲魔である【女神ネペレー】は、元が家畜の守護神*3であるため、『浦野牧』牧場における主戦力となっている。
今もデニム地のオーバーオールに麦わら帽子という農作業ルックで、金毛羊だけでなく神話体系が異なるはずの
「膝枕かぁ、お言葉に甘えようかな」
「はい、どうぞ」
「どっこいしょ。うん、空が半分しか見えない…… うーん、漫画ネタ*4は通じないか」
頭を支えるネペレーの太ももの柔らかさを堪能しつつ、下から見上げるネペレーの巨乳に目が釘付けとなる馬ニキ。
ネペレーも助平な視線には慣れたもので、彼の振ったサブカルチャーネタも纏めて微笑んだだけでスルーしてくれたので、馬ニキはその気遣いに甘えることにした。
「今日は骨休めとのことでしたが」
「日が高いうちは日向ぼっこで、日が沈んで肌寒く感じてから温泉にしようかな、と」
「それにしては何かお悩みのようでしたが」
「北信*5が安定したとみるや、黒札仲間からの催促が増えてね。やれ信州蕎麦だの野沢菜漬けだのと、煩いんだ」
終末になってもファミチキを欲しがるような【俺たち】だけあって、B級グルメ的な食にこだわる黒札も多い。
『浦野牧』では家庭菜園に毛が生えたレベルの畑作で蕎麦や野沢菜を栽培しているが、自給自足あるいは地産地消という言葉が似あう程度であり、特産品として他所に出荷するほどではない。
「輸出できるほどの量は作ってないけど、【俺たち】のリクエストには応えてあげたいんだよなー」
「向こうから来てもらえば良いのでは? 人数限定で温泉と組み合わせた信州特産品グルメツアーと銘打っておけば良かろう」
「それは良さげだなぁ」
上田市では林檎、桃、葡萄などの果樹園や栗、胡桃のナッツ類も栽培していたので、終末によりガタガタになった農地をテコ入れする一案になるだろう。
主食の米は瀬戸内ヒノエ支部で大量生産しているからから輸入すればええねん(暴論)。
「あーっ、でも客を呼び込むなら料理人がいないと駄目か」
すぐに欠点に思い当たり、がっかりする馬ニキ。
彼の脳内ではキノコや鯉など特産品をリストアップして食い気に傾いていただけに、失望感が大きい。
*
しばらくして、DDS-netの片隅に信州の特産品を扱うアンテナショップが開設された。
品揃えはあまり良くないが、終末後のご時世に置いて貴重な存在であると、一部の黒札からは注目されているらしい。
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余話19 ガイア七味唐辛子
牧場としての『浦野牧』に、久々に家畜販売の注文があった。発注元は長野県の北部にある戸隠神社で、輸送・農耕の労働力として牡馬・牝馬を各1頭ずつ。DDS-netを経由しての依頼となる。
「こう言うとアレだが、まさか売れるとはなぁ……」
牧場で飼育している馬を見繕いながら、馬ニキが独り言ちる。
そもそも『浦野牧』は【終末】後に文明レベルが大きく下がることを予想してその備えとして立ち上げだ牧場である。しかしショタオジの頑張りにより終末後も(少なくとも【黒札】が運営するシェルターは)日本の文明レベルはそれなりに維持されている。
自動車については多脚戦車の技術をベースとした車両と【オボログルマ】をベースにした終末対応改造車*1の2種類の技術ツリーが存在し、自動車を失った人々が馬という家畜労働力に戻るという想定は覆された。
現在、馬を欲しがるというのは、単なる趣味か、【ガイア連合】が開発するオカルト技術ベースの車両を購入・維持できない弱小シェルターのどちらかでしかない。
今のところ『浦野牧』では【覚醒馬】*2は産まれておらず、また【鶏加護プログラム】*3も亜種である【馬加護プログラム(試作品)】も消費マグの割に
売り渡す2頭を選び出していったん厩舎に入れ、さて納品の日付や段取りをどうしようかと馬ニキが事務所に戻ったところで、『浦野牧』シェルターの【金札】
「戸隠神社について簡単な調査が終わりましたのでご報告を」
「俺は、特に黒札とは紐づいていない【多神連合】系の組織としか知らないけど、何かあった?」
「このご時世、黒札と繋がりを持とうとするのは当然ですが。"ブラウニキ"さん*4が出された据え膳を美味しく頂いたものの、
「馬を買うのは
「
宮下周は露悪的に顔をしかめてみせ、性根が甘ちゃんの黒札に警告する。
「取引の初回からガイア連合にぶら下がって甘い汁を吸いたいなどと言い出すことはないでしょうが、馬の蹄鉄メンテナンスだなんだと、定期的に呼び出すつもりでしょう」
「お隣さんと定期的に顔を合わせるのは別に悪いことじゃないと思うけど」
「基本的に、呼びつける方が格上で、出向く方が格下ということをお忘れなく。【トラポート】が使えるとはいえほいほい出向くようでは軽んじられます。舐められたら負けですぞ」
宮下周にギロリと睨まれて首をすくめる馬ニキ。
舐められたら負けってまるで鎌倉武士的な思考だが、いやまぁ終末後だしね。仲良し小好しではやっていけいないと言われたら、その通り。
「
かつて新潟・魚沼支部の田舎ニキ発案で新潟から山梨までの街道計画*6が立ち上がったとき、長野県のルートを仕切った*7のはガイア連合上田市派出所長としての馬ニキだった。
「十日町市は田舎ニキのお膝元・魚沼の隣だし、そこしかルートはあり得ないでしょ」
「ガイア連合内の視点ではそうなりますな。あちらとしては自分たちが無視されたと思っているでしょう。あちらもガイア連合に堂々と敵意を示すとは思えませんが、要らぬ言質を取られたりしませんように」
*
戸隠神社の位置する戸隠地方は、彼が仲魔にしている鬼女紅葉と縁深い土地である。鬼無里村、鬼女紅葉伝説における彼女の終焉の地。そこに赴くことで彼女のパワーアップに繋がるイベントが発生するとか、捕らぬ狸の皮算用をして浮ついていたのだから、身内の金札からしっかり釘を刺されてしまった馬ニキも自業自得であろう。
善光寺跡地まではトラポートで瞬間移動し、そこから戸隠神社までおそよ20km。覚醒者と悪魔(黒札専用シキガミ)と馬のグループであれば、一番足が遅いのは単なる動物である馬になる。それでも坂道山道を時速5kmほどで移動し、お昼ちょい前には戸隠神社へ到着できる。
事前の取り決め通りに荷役馬を引き渡し、厩舎の人間に簡単な世話のレクチャーをしたところで、戸隠神社の人からお昼ご飯に誘われる。
「いよいよ腹芸の時間か……」
周りに聞かれないように声に出さず呟き、内心で覚悟を決めて馬ニキはお座敷へと案内される。色仕掛けを警戒して、相棒たる黒札専用シキガミの<ヒメ>も同席させるが、馬ニキの緊張を解すかのようにまずは食事を、と勧められる。
「戸隠といえば蕎麦でしょう」
そう言われて出されたのは、温かい汁の香りがふわりと漂う、何の変哲もない鴨南蛮蕎麦。
「……いただきます」
まずは丼を持ち上げて汁を一啜り。醤油と味醂と、ダシはキノコと川魚の焼き干し。焼き色のついたネギに比べ、肉は家禽でなく野鳥を狩ったのだろうか、脂という点ではやや物足りない。醤油と味醂は醸造蔵を自前で持っているのか、他所からの輸入品か……
箸で麺を少量摘まんで一口、これは二八、いや一九か? 小麦の割合が少ないのは
ああ、『何の変哲もない』は終末前の基準で、これは終末後においては贅沢な逸品だ。ガイア連合所属ではない
「美味しいですね。……だからこそ、惜しい」
馬ニキは懐から片手に隠れる程度の缶を取り出した。
「それは、八幡屋磯五郎?!」
「入れ物だけで、中身はオリジナルブレンドですけどね。マイ七味を、こう、ぱらっと」
八幡屋磯五郎は日本三大七味唐辛子と謳われた、善光寺門前の銘品である。終末後の長野市・善光寺は滅んで無人の地となり、八幡屋磯五郎も絶えてしまったのだが、原料は分かっているのでガイア連合の料理人ジャンニキに依頼して調合してもらったのだ。
しかも素材がスパイス・生薬なので、ガイアカレーと同じく医療としても役に立つ。ただしガイアカレーと同等の薬効を引き出すためには七味唐辛子を山ほど使わなければならないので、辛党以外にはお勧めできない。
ガイア七味を一振りすると、丼が一瞬光ったかのような錯覚を覚える。改めて汁の匂いをかぐと、香ばしさが段違いだ。
ガイア七味を隣の<ヒメ>に渡すと彼女も一振りし、接待役の人にも無言で渡す。接待役も釣られて一振り。そして。
「「「んまーい!」」」
それ以上の言葉はいらない。美味いものを食うと、食うのが忙しくて喋る暇がない。
食べ終わった後も余韻にひたり、そのまま満足して軽い世間話に終始する。
……腹芸? なんかあったっけ?
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余話20 伝承再現・鬼女紅葉(再演)1
鴨南蛮蕎麦に満足してそのまま戸隠神社を辞するような雰囲気になってしまったが、こちらにも戸隠神社に用事がある。案内人さんにそれを伝えたところ、不思議な顔をされてしまった。
「足神さんですか?」
「鬼女紅葉伝説で確かめたいことがありまして」
戸隠神社の『戸隠』は
【終末】後の戸隠神社は、天手力雄命、岩戸隠れの際に知恵を出した
戸隠神社中社から200mほど離れたところに、足神社あるいは足神さんと呼ばれる小さな
今は主なき祠だが、伝説によると鬼女紅葉の配下であったお万が平維茂の鬼討伐の際に逃げ出すもここで力尽き、戸隠の僧*2に弔われたとされ、それが足神社の由来となっている。
馬ニキは足神社に参拝するとき、仲魔である鬼女紅葉をこっそり呼び出して周囲を伺わせてみたが、彼女は黙って首を横に振るだけであった。何も得るものがないと分かればもう用はないとばかりに、馬ニキは祠に軽く手を合わせるだけに留め、そそくさと戸隠神社を後にするのであった。
*
鬼無里村。伝説で語られる鬼女紅葉の最後の地。
戸隠神社から自動車で30分かかるが、
よく見かける悪魔は動物型妖怪と天狗である。天狗については、戸隠神社が中世から修験道の霊地とされてきたためだろう。もしかすると新潟・佐渡島の天狗塚*3と関係があるのかもしれない。こちらから仕掛けることはしないが、向こうから仕掛けてくるなら容赦はしない。特に【魔獣イヌガミ】【妖魔コッパテング】【幻魔クラマテング】の3種は【秘神カンバリ】*4の悪魔合体素材として人気が高い。
終末後には無人の地となった鬼無里村を、かつて軽井沢で行った*5のと同様に地脈を閉じて回り、周辺のゲートパワーを下げる。鬼無里村の産土神社である鬼無里神社は祭神が諏訪神なので、仲魔の【国津神タケミナカタ】にとっても懸念の解消となる。
また鬼女紅葉伝説の当地として、荒倉山の『鬼の岩屋』・紅葉の墓がある松巖寺・紅葉の住居があった『内裏屋敷跡』・紅葉の腰元だった夜夜の墓『月夜の陵』などを回り、最後に鬼無里の湯・奥裾花温泉で一休み。ここも無人で荒れ果てているが、休憩できそうな建物を不法占拠しても誰にも文句を言われない。
「それにしても、どこのシェルターも自給自足は変わらないな……」
雑談レベルで戸隠神社の案内人と話をしただけだが、蕪村が俳句を詠んだように戸隠の名産は蕎麦である。というか、現時点では戸隠神社が輸出できる唯一の品目である。しかし輸出と言っても、終末後の悪魔がはびこる世界では、隣村(隣シェルター)に移動するにも一苦労する。
そこで街道整備して新潟から塩を輸入したいというのが戸隠神社側の本音であろうが、初対面の相手に街道整備の援助を要求しないだけの良識があちらにもあったようだ。代わりに要求されたのは、『浦野牧』がDDS-netにオープンした信州アンテナショップに戸隠のそば粉を置かせてくれという打診だった。
戸隠神社主導で通販を手がけるとなると、DDS-net通信料も馬鹿にならないし、輸送費もターミナルを使えばその使用料で儲けが吹っ飛ぶ。【ガイア連合】派出所としてDDS-netやターミナルの使用にアドバンテージのある『浦野牧』ならそこら辺の問題はクリアできるし、アンテナショップとして品揃えが増えるのは利点だと言い含められたが、言質を取られないようにと釘を刺されたので持ち帰って検討しますとだけ回答してある。
この時点で馬ニキの脳内では、封鎖された東京で【魔人ゴトウ】が弱小シェルターを巡回支援している*6ようなものだとイメージしているのだが、『浦野牧』で岩塩が産出して輸出可能*7と知られればどうなることやら。
本作を投稿し始めて丸一年を経過。
だらだら続けていられるのは読者の皆様のおかげです。来年もよろしくお願いします。
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余話21 伝承再現・鬼女紅葉(再演)2
【終末】後は無人となった鬼無里の湯・奥裾花温泉の建物を無断占拠して、手入れされていない温泉に強引に漬かって一休み。
かつては温泉宿の大広間であった畳敷きでゴロンと横になって、馬ニキは今日のことを振り返っていた。
多神連合の戸隠神社シェルターに行き、その足で鬼無里村跡地を巡った。仲魔である鬼女紅葉の伝説では、鬼無里村は彼女の終焉の地である。彼女に縁深い地を巡訪することで彼女のパワーアップイベントが発生するかと期待していたのだが、彼女は過去を懐かしむ素振りこそ見せたものの、特に何もなかった。
紅葉のパワーアップイベントを諦めて、信州アンテナショップに戸隠の蕎麦粉をラインナップ追加することに意識を向けていたところ、湯上りの鬼女紅葉が浴衣姿で広間に入ってきた。
「妾の存命中には無かった湯*1だが、なかなかに楽しめたぞ」
「それは良かった。君に縁深い所ではあるが、あまり気が晴れなかったようだったしね」
「妾の落命の地ぞ、気分良くとはならぬ」
紅葉は馬ニキの隣に腰を下ろし、彼にしな垂れかかった。
「都から配流され、貴人として民と心穏やか過ごすも今は昔。過去の悪気が今再び呼び起されそうで……」
「む、それは不味いな。反乱となれば鬼女紅葉を退治せねばならん」
紅葉は身体を擦りつけながら悪戯っぽくささやく。彼女の瞳の奥に情欲の炎が見て取れた。
「馬背神社と将軍塚では二度に渡り不覚を取った*2。三度は武力でなくこちらで挑もうぞ」
「悪気*3というより気を悪くする*4方か。よし、俺の股間の佩刀で貫いてやる」
「ふ、この
互いに抱き合い愛を語らう二人は、いつの間にか鬼女紅葉の鬼退治伝説をモチーフにした男女のセックスバトルに突入していた。
*
「鬼女紅葉、討ち取ったり」
全身を汗と汁まみれにし、大きくのけ反って全身を細かく震わせながら失神する鬼女紅葉。彼女を組み敷いてその首に手を伸ばし、優しく撫でることで首級を上げたと宣言する馬ニキ。
【ガイア連合】の【スケベ部】所属としてミナミィネキに鍛えられた彼の手練手管の前には、悪魔といえど鬼女紅葉は勝てなかった。勝利宣言に対する反論がないことで勝利を認識した馬ニキが体を起こしたところで、彼に神霊の啓示があった。
「いょぅ
「その
「鬼女紅葉討伐、伝説の再演ご苦労さん。そんな兄弟には
「えっ、唐突ですね」
「平維茂は神仏の加護を得て鬼退治に成功した、ならば鬼退治に成功した兄弟には因果逆転して神仏の加護が与えられる。そしてセックスバトルで勝ったのだから、加護もセックスバトルに相応しいものとなる。俺は諏訪神の子、馬背神は諏訪神の孫、同じ諏訪神のファミリーとして俺が適任という理屈さ」
「あー…… うん、そうかも?」
なんとなく屁理屈な気もしたが馬ニキは丸め込まれて、ミシャグジさまはニシシと笑った。
「まぁ、俺様の加護と言えど最初は【マジカルチンポ(微)】からスタートさ、頑張ってスキルを磨くんだな」
「ちなみに、どんな効能でしょう?」
「(微)が付いている現在だと、最低レベルのサキュバス/インキュバスと同程度だな。【未覚醒】者が相手なら快楽で縛って洗脳まがいのことも可能だが、【覚醒者】や悪魔が相手なら単に身体の相性が良くなる程度か。あっ、兄弟は馬の因子が強いから、射精量が馬並になるぞ。汁男優としてやっていけるな」
ちなみに、人間の一回の射精量が3ミリリットル、馬が30~100ミリリットルと言われている。
「それと、北欧神話のエッセンスが少し薄まった分、レベルの上がりにくさが少しだけ緩和されるぞ。じゃあな兄弟、精進しろよ!」
「……唐突に来て唐突に去っていったな、ミシャグジさま。あーでも、最後のは有り難い」
霊界通信による啓示が終わり、改めて周囲を見渡す馬ニキ。失神した鬼女紅葉がぴくりとも動かないことに気づいて肝を冷やしたところで、彼の仲魔である道敷大神が紅葉の頬を軽く叩いた。
「ほれ、目を覚ませ」
「……ん、んん……」
黄泉神イザナミの別側面である道敷大神により再誕を促され、紅葉が息を吹き返す。
馬ニキが安堵のため息をついたところで、手桶にお湯と手ぬぐいを持った見慣れぬ悪魔が2体、紅葉に近づいて身体を清めようとする。
「ん? 君たちは?」
ぱっと見ると【鬼女ヨモツシコメ】、どちらもLvは5程度と大したことはない。ヨモツシコメなら道敷大神の配下だろうが、なんとなく違和感がある。
「わたくしは月夜、紅葉様の侍女にございます」
「同じく紅葉様の配下、お万!」
「ああ、伝説の再演ということで、紅葉の味方として顕現したのか」
確認するように紅葉の方を見ると、彼女は一つ頷いた。
「配下ともどもの黄泉返り、道敷大神にはただならぬ助力を賜った」
「よいよい、同じ仲魔であろ」
道敷大神は何でもないと軽く手を振り、鬼女紅葉はその意を受けて大袈裟にせず目礼のみとした。
「月夜とお万も込みで、今後ともヨロシク。まぁ、主従ともども枕を並べて討ち死にした仲ゆえに……」
紅葉はふと思いついたように、言葉を切った。そしていかにも人を食ったような(比喩)表情を作る。
「
「え? もしかしてセックスバトル継続?」
「はいはい、わたくしも主様の鬼討伐に助太刀しますわ~っ!」
シキガミの<ヒメ>が勢い良く手を上げる。ネペレーが馬ニキの肩をポンと叩いた。
「これは仲魔の総出で乱交パーティーの流れだね! マジチンの加護が早速役立つよ!」
「ええー、もうちょっと情緒というものを大事にしないとー」
馬ニキの反論はネペレーのキスで物理的に封じられ、彼は否応なしに過酷なバトルへと突き落とされたのであった。
合掌。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・23歳 転生者 Lv41/??(SSR)
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効、火炎耐性(装備)、呪殺耐性(装備)
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、ディアラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、テトラジャ、チャクラウォーク(劣)*1
汎用スキル:房中術、相撲*2
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*3、小泉小太郎*4、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ、マジカルチンポ(微)*5
後天的デビルシフター:聖獣スレイプニル Lv24/?? パトラ、ハマ、ディアラハン、体当たり、ヒールドロップ、破魔無効、火炎弱点*6
仲魔1:シキガミ<川上 姫> Lv41/??(SSR)
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*7、一分の活泉、二分の活泉、三分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:鬼女 〈好色な〉紅葉 Lv5/50(R)
耐性:物理耐性、破魔弱点、呪殺無効
スキル:アギ、ディア
汎用スキル:性交、詩歌、音楽
仲魔3:女神 道敷大神 Lv36/??(SSR)
耐性:破魔耐性、氷結・呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオンガ、マハジオ、リカーム、デカジャ、ムド、電撃ブースタ
仲魔4:女神 〈淫乱な〉ネペレー Lv31/??(SR)
耐性:氷結・衝撃耐性
スキル:霞駆け*8、淀んだ空気*9、誘惑の霧(劣化)*10
汎用スキル:性交、牧畜
仲魔5:妖魔 ヴァルキリー<アグネス> Lv34/??*11(SR)
耐性:火炎吸収、電撃・破魔無効、呪殺耐性、毒・精神弱点
スキル:ジオ、突撃*12、馬は蹄の音を立て*13、英雄狩り*14、物理ブースタ
仲魔6:国津神 タケミナカタ Lv19/??(SR)
耐性:火炎弱点、雷撃耐性
スキル:ジオンガ、反撃、静天の会心*15
仲魔7:鬼女ヨモツシコメ<お万> Lv5(UC)
耐性:火炎弱点、精神無効
スキル:ペトラアイ
仲魔8:鬼女ヨモツシコメ<月夜> Lv5(UC)
耐性:火炎弱点、精神無効
スキル:借金*16
仲魔9:屍鬼 〈淫乱な〉ボディコニアン Lv5(C)
耐性:火炎弱点、破魔・呪殺耐性
スキル:ナイトフィーバー*17
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余話22 石長比売/磐長姫命
新たに仲魔となった【鬼女ヨモツシコメ】の<月夜>だが、鬼女紅葉が都から戸隠の地へ配流されたときに付き従った官女*1だけあって、単に身の回りの世話をする腰元*2ではなく使用人全般を統率する立場であった。
単に読み書き計算ができるというだけでなく、職能として部下の仕事量把握やスケジュールの調節、あるいは給金の管理といった『事務作業』『管理職』の概念を含む。それが何を意味するのかというと。
「<月夜>さんを【ガイア連合】『浦野牧』派出所の【デビルハンター】事務所の運営メンバーに任命します」
人手不足の『浦野牧』派出所においてこき使われるのであった。
「事務仕事ができて、他所の紐付きでなくて、
「仕事を覚えたら私の代わりにトップに立ってもらうから、よろしくね!」
自画自賛する馬ニキと、これまた嬉しそうな【金札】の宮下知佳。
「
事務仕事を式神にやらせる*5ところも珍しくないが、【シルキー】や【座敷童】など戦闘に不向きな悪魔でなく【鬼女ヨモツシコメ】というのはあまり見ない。
指名された<月夜>は鬼女紅葉の顔色を窺った後、気乗りしない様子で抗弁するが、馬ニキは全く気にするそぶりがない。
「大丈夫大丈夫、<月夜>さんがちょっとレベリングすれば、
「ははっ、官女であった<月夜>はともかく、野盗団でも戦力の中核であった<お万>に天女は似合わぬ」
「<お万>さんは足神様として祀られていたから、【鬼子母神】など神性を持つ方向に進化すると思う」
<月夜>の心配とは見当違いの返答をする馬ニキと、混ぜっ返す鬼女紅葉。紅葉が事務員就任を止めないことから抗っても無駄と察した<月夜>は、僅かな可能性に賭けて話を続けようとした。
「今ハンター事務所を仕切っているのは宮下さんですよね? 別部署に移動されるのですか?」
「え? 私は、シェルター運営の表舞台からは引退かな。維茂君の子を産むことに専念するの」
馬ニキこと平田維茂のワンマン運営となっている『浦野牧』派出所/シェルターの後継者問題として、シェルターの祭神である馬背神を奉じる地元霊能組織が嫁を出すのがもっとも波風の立たないやり方であり、その地元例異能組織が零細で金札・宮下知佳しか適任がいないとなれば、<月夜>も表立って反対できない。
「このご時世だと五人くらい欲しいよね、十年がかりかな?」
「若返りの水*7を使えば与謝野晶子を越える*8こともできよう?」
引き続き混ぜっ返す紅葉を見て、同じ女性として子を産むことの複雑な気持ちを抱えながらも、<月夜>は言葉を飲み込んでため息を吐くに留めおいた。
*
金札・宮下知佳の妊娠もまだ判明していないが、何かと気の急いた馬ニキはじっとしていられなくなり、いきあたりばったりの迷走を始めた。
「出産・子授けにご利益があるのは木花咲耶姫、 木花咲耶姫といえば浅間神社。でも
ちなみに上田市には浅間社が存在し、長野県神社庁にも登録されている。ただしgoogle検索しても写真が1枚も出てこないくらいにマイナーな存在であり、所在地(上田市下之郷)で生まれ育っていない馬ニキが覚えていないのも仕方がない。なお上田市には富士嶽神社という木花咲耶姫を祀る神社も存在するが、浅間という名前に釣られてそちらに思考が回らなかったのは馬ニキの不手際である。
「よし、軽井沢への途中に浅間神社がある*9から、街道*10のメンテついでに参拝しよう」
思い立ったが吉日とばかりに、馬ニキはデビルシフター能力で【スレイプニル】に変身すると一目散に駆け出した。
で。
「えーっ、
「お目当てが
平安時代の女性装束である十二単を身に纏った浅間神社の祭神、
なお磐長姫命のここの分霊は、鼻筋が低く頬骨が張ったいわゆる『おたふく』顔である。某一族が頑張った結果*12明確なブスと言うより愛嬌ある顔という表現が似合っているが、美女と名高い木花咲耶姫と比べるのはさすがに酷である。
「普通は、浅間神社と言えば木花咲耶姫を祭るはずですが……」
「
「なるほど」
納得した馬ニキであるが、この神社の役目に理解が及び、背筋が震えて飛びあがった。
【終末】後に無人の地となった軽井沢地方、当然この浅間神社も参拝する人が途絶え祭神も力を失う一方である。そしてこの神社から力が失われたとなれば、浅間山は噴火する。江戸時代の天明大噴火の再来となれば被害は全国規模*13になるだろう。
「定期的に、その、毎月参拝しますから! 何卒! なにとぞーっ! ご堪忍をっ!」
「……目先の利益に飛びつく阿呆かと思うたが、長期的な視点も持ち合わせているようだな」
馬ニキは木花咲耶姫への供物として用意したお神酒を差し出してスライディング土下座を敢行する。
磐長姫命は最初は不服そうであったが、黒札がマグを込めた特製お神酒であることに気づくと、態度を軟化させる。
「毎月と言うたな? 違うでないぞ」
「その件ですが、霊道の結界とこの神社を繋げてもよろしいでしょうか…… 街道の守護というお役目が追加されることは、その、供物を増やしますので……」
磐長姫命の分霊が特製お神酒(正確にはそれに含まれるマグ)に執心しているのを見て取り、恐る恐る申し出る馬ニキ。敷設した霊道は使わなければ道という概念が薄れてしまうので、定期的に往来して結界の綻びがあれば修復するメンテ作業が必須となる。定期作業に組み込むのであれば浅間神社への参拝も何とかなるという算段だ。
「私がこの程度で買収できる安い女と思うなよ」
「いえ、決してそんなわけでは!」
必死になって額を地面に擦りつける馬ニキに溜飲を下げたのか、磐長姫命がふっと雰囲気を和らげる。
「少し脅しすぎたか。供物の量を増やせなどとケチなことは言わぬ。お前の本貫地である上田市には富士嶽神社があり
交渉がどうにか纏まりそうだと安心した馬ニキは、確か磐長姫命の祭祀に詳しい黒札仲間がいたような? とぼんやり思い出して、コンタクトを取ろうと決意するのであった。
Lilyalaさんのイワナガヒメのネタにボンコッツさんが乗ったので、尻馬に乗りました。
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余話23 馬と織物
「近頃、デビルシフトで
「馬は年二回、夏毛と冬毛が生え変わるからでは? 主様、今日は徹底的にブラッシングしましょう」
そういうことになった。
*
「あぁ、さっぱりした。しかし悪魔なのに換毛するんだ…… やっぱ認識・思い込みが強く作用するのかな」
辺りに散らばった抜け毛を箒で集める<ヒメ>を見ながら、馬ニキはぼんやり考える。
「思ったより毛が取れたな…… 45リットルサイズのゴミ袋に満杯かぁ。半年に一回、黒札の肉体素材がタダで手に入るなら、良い小遣い稼ぎになるかな?」
確か、同じ黒札の竜胆ネキがデビルシフター能力で竜になって鱗素材を売ってた*1な。
あの人、俺と同じく異能者として後から第二能力【デビルシフター】に目覚めたので、なんとなくシンパシーを感じるっていうか。
「主様、夏毛冬毛が完全に生え変わったわけではありませんので明日もブラッシング継続ですわ! 最終的には5~7袋くらい取れる見込みです」
「そ ん な に」
「【ガイア連合】の開発班に中間素材として引き取られる分には、おやつ代がせいぜいと聞きますけどね」
おそらくシキガミ同士のネットワークで情報を仕入れたのだろう。ああ、おやつと言えば仲魔うちでは【トリサブレー】*2が人気だが、DDS-net掲示板の一部で評判の占いウロコ煎餅*3を買うのも面白そうだ。
「手間を掛ければ高値になります。アンゴラヤギ・カシミヤヤギなどと同様に紡いで毛糸にすればミサンガなどの呪物素材として使えますし、紡ぐのでなく圧縮加工してフェルト布にしても使い道は多々あります」
「毛織物あるいは毛氈か。今うちでやり始めた養蚕・絹織物とは似て異なる技術ツリーだから、あんまり一度に手を広げすぎるのもどうだろう」
「ならば牧場主殿、妾に任せてもらえるか?」
ちょっと及び腰な馬ニキに声をかける女神ネペレー。
「妾は家畜の守護神にして金羊毛のエピソードを持つもの。古代ギリシャではウール素材が広く使われたゆえに、毛の加工についても権能の延長上よ。単に牧場主殿の仲魔としてマグ稼ぎに同伴するに留まらぬ、安定した牧場の副収入として貢献できるが如何?」
「それは魅力的な提案なんだけどさ、ネペレーには俺の仲魔という立ち位置のままで居て欲しいの。はっきり言うと、ネペレーの権能がシェルター運営に寄与していると皆が認識して、それがシェルター民の信仰に繋がることを警戒している」
この『浦野牧』シェルター、主祭神は馬背神というマイナーどころであり、結界の維持には北向観音や生島足島神*4といった地元・上田市の複数の神格に協力してもらっている。シェルター内では日本神話と仏教が混在したいわゆる『伝統的な日本の宗教観』となっており、黒札運営シェルターではよく見られることだが、メシア教は内心の信仰こそ許すものの布教・宗教活動を禁止している。これに付随する形で海外宗教は一律禁止としている。
なお、エジプト神話のフェニックスが朱雀・鳳凰あるいは火の鳥として日本で信仰を集める*5のはセーフというガバガバな判定である。
「そんな…… 妾は常日頃から家畜の守護神としてこの牧場に貢献しているのに…… ょょょ」
「そりゃ
「ぅぅ…… 妾はただ、アイオリス人*6に信仰されていたあの頃を取り戻したいだけなのに…… 月架手町シェルターのヘカテー*7や佐渡のダイアナ*8のようにしっかりした地盤を築きたいだけなのに……」
馬ニキと<ヒメ>から冷たい視線を向けられ、嘘泣きを止めてあからさまに芝居じみた嘆きを演じるネペレー。仲魔と言えども油断も隙もあったもんじゃない、と大袈裟にため息を吐いた馬ニキ。互いに茶番を演じたという暗黙の了解でもってネペレーの野心はいったん保留となった。
「主様、平安時代には越後の国から兎褐と呼ばれるウサギの毛織物が朝廷に献上されたそうですわ*9」
「ほう、越後か。そういえば新潟の十日町市には機神社があり、地元の織物組合業者から篤く信仰されているそうだ。うちで奨励している養蚕は
<ヒメ>と同じく仲魔である道敷大神が入れ知恵を馬ニキに吹き込む。
日本神話の神なら、とその気になる馬ニキと、せっかくのシノギを横取りされそうになり顔面蒼白になるネペレー。ネペレーと道敷大神の視線が一瞬交錯したのは女同士の戦いかそれとも違うのか。
*
「馬の生え変わりに影響されたのかな、人の姿で風呂に入って肌を擦ったら、めっちゃ垢が取れた」
「垢太郎の民話があるように霊的素材になるとはいえ、垢はちょっと売り物にしづらいですね……」
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余話24 新潟行きリヤカーの旅(1)
長野県上田市に位置する『浦野牧』は牧畜を主産業とする小さいシェルターである。生産する家畜は馬が主流であるが、山羊・羊・畜肉用デモノイドなども少数ながら飼育している。
そして上田市には信州ハムという食肉加工会社の工場が存在する。【終末】前に比べて規模を縮小しており基本は自シェルター内の需要を賄う程度だが、DDS-netの信州美味いものアンテナショップに馬肉ジャーキーを出品するなど、シェルター内では将来の有望株と見做されている。
ある日、武田観柳と名乗る【黒札】*1から、馬ニキに連絡が入った。
「えっ、信州ハムの工場にガイアミートの視察? 新潟・魚沼の旧日本ハム工場と業務提携も有りうる?」
武田観柳は最初に目先の餌を吊り下げ、馬ニキの興味を引き出してから雑談を装ってあれこれ聞き込む。
「
武田観柳はうまいこと協力の言質を引き出せたことで、内心で高笑いをした。ラフム相手に使える手札は多いほど良い。
ガイア連合【派出所】長という立場のメンツを損なわない範囲で、【トラポート】持ちでそれなりに戦える黒札をどうこき使ってやるか、武田観柳は脳内であれこれ巡らせるのであった。
*
リヤカー、金属製フレームと空気入りタイヤで構成された二輪の荷車。伝統的な大八車が科学的進化を遂げた存在。
江戸時代の大八車は2~3人で動かして積載量30貫(約112kg)と言われるが、【ガイア連合】技術班の手による特製リヤカーは大型のもので最大積載量1トン(平坦な舗装道路でない場合その半分が目安、最大8人引き)、1~2人で運搬する小型で最大300kg、自転車または小型バイクで牽引する速度重視タイプで最大150kg程度ある。ちなみに軽トラは法定最大積載量350kg、フレームのしなりとかに目を瞑って事故ぎりぎりの限界運用で1トンと言われる。
【終末】で文明崩壊した後の荷役はこれが主役、と馬ニキが予想して用意していたリヤカーだが、残念ながらそうはならなかった。ガイア連合が終末対策を頑張った結果、【ロボ部】が好き勝手に開発できる程度には文明・技術が維持されたためだ。
新潟で石油が産出*2したり、自動車タイプの改造オボログルマ*3が開発されたり、【ターミナル】で物質転送*4できたりと、リヤカーが主流になれない理由はいくつもある。もっとも小回りの効くリヤカーが滅ぶこともなく、あくまで使い分けということだが。
だが、そんな風潮に反旗を翻す阿呆が一人。
「いや、せっかく前から準備してたんだし、使わないのも勿体ないと思って」
新潟・山梨間の整備された霊道であれば、馬ニキが
「まあ一応は理由付けされているので、気分転換も兼ねてということで認めますけど。ほんと『黒札の無駄遣い』ですよ、これ」
金札の宮下周が渋々といった態で苦言を呈すが、馬ニキは馬耳東風とばかりに聞き流す。
発端は、多神連合の戸隠神社がガイア連合産の高性能浄水器*5を購入すると決めたことだ。戸隠神社は購入費を少しでも抑えようとし、馬ニキを仲介に立てることで黒札割引を狙ったり、小型ターミナルでは大型物資を転送できないと言い訳してターミナル使用料をケチったり、涙ぐましい努力をした。
その結果、馬ニキが『浦野牧』から戸隠神社へ浄水器を輸送し、戸隠神社で蕎麦粉を積んで新潟・十日町シェルターに向かい、十日町シェルターで機神社に参拝した後に蕎麦粉をキクリ米に交換して『浦野牧』に戻るという三角貿易が実現することになった。
「いいですか、輸送費はキチンと取る! 戸隠神社に甘い顔ばかりしていたら向こうはつけあがりますよ!」
「分かった、分かっているとも」
くどいほどに念押しする宮下周に根負けした馬ニキは、気を取り直してリヤカーにはためく旗指物へと視線を向けた。
紺地に白抜きで馬背神社の神紋である梶紋*6をあしらったそれは、『浦野牧』シェルターを示すシンボル。シェルター間取引にリヤカーを使用するのは今回限りの可能性もあるが、わざわざ誂えた新品である。
「主様、舐められたら終わりという理屈は理解できます。ですから、提案があります!」
デビルシフトした馬ニキが馬車を引くので本来は御者不要であるが、他所から見られたときに不自然ということで御者役兼荷物番になった<ヒメ>が手を上げる。
「リヤカーをもっとデコりましょう! デコトラならぬデコリヤです! そうすれば戸隠神社の連中もビビりますわ!」
「それはちょっと、ピントがずれてるかな……」
気せずして緩くなった雰囲気の中、リヤカー商隊は『浦野牧』を出発した。
この先、十日町シェルターで一神教過激派テロがあった*7ことなど露知らず。
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余話25 新潟行きリヤカーの旅(2)
リヤカー2台を連結して馬一頭御者一人の、商隊としては最低限の構成。それが時速60kmで移動するとなれば、さぞかし周囲からの注目を集めると思いきや、馬ニキ一行は上田市の『浦野牧』を出てから長野市まで誰ともすれ違わなかった。それも当然で、【終末】後における新潟・山梨間の霊道は利用頻度がそれほど高くない。整備された霊道といえども道中で野良悪魔に襲われる可能性があり、【未覚醒】者は備えなしに通ることなどありえない。
覚醒者でも護衛をしっかり用意して大規模な輸送部隊を編成するのがほとんどであり、新潟ではマザーバンガードによる空路輸送も頻繁に行われる*1し、長野県の月架手シェルターは地中を移動可能な揚陸艦・土隠れあきつ丸號を保持する*2など、陸路以外の選択肢もある。
馬ニキは
すると千曲川の水面が揺れて、河童がひょいっと顔を出した。
「馬の旦那、ご苦労様です。ここらに異変はありませんぜ」
「ご苦労さん、いつもありがとう」
この河童はかつて馬の姿の馬ニキを川に引きずり込もうと悪戯して逆襲され、以降は馬ニキの子分となっている。もっとも主従関係を明確に結んだわけではなく、現地協力者というポジションだが。
「そういや旦那、千曲川を遡上する鮭が年々増えているみたいでね」
「わかっているとも。夏の終わりにキュウリを植えても秋の収穫に間に合う*3から、鮭とキュウリの交換で良いか?」
「へへっ、旦那は話の分かるお方だ」
長野県では千曲川、新潟県になって信濃川と名前を変える一級河川。平安時代から全国屈指の鮭の産地であり、かつては上田・松本・上高地まで遡上した記録が残っているが、1940年以降はダムや水力発電の影響で鮭の遡上は消えた。それがアラハバキの『自然に帰れ』ビーム*4により状況は一変したのだ。
馬ニキは『自然に帰れ』ビームにより相当な被害を被ったが、こうして海の幸が山奥でも楽しめるというなら、あの時の苦労も報われたのだと嬉しくなった。
*
川中島で一息ついた後は、『隠れキリシタンの聖堂・善光寺』異界周囲に配置した式神・
かつて荷役馬の納品に一度出向いたことがあるので、戸隠神社への道のりに不安はない。それどころか、戸隠神社が新潟・上越までの霊道敷設計画に着手したのか、長野市内から戸隠神社までの道中に修繕箇所がところどころ見受けられる。戸隠神社が【ガイア連合】の支援を受けるにしろ最低限の実績は作っておきたいという意図なのだろうか。
戸隠神社に到着し、ガイア連合製浄水器を荷下ろしして納品書にサインを貰い、戸隠産のそば粉をリヤカーに積む段取りになったところで、誰しもが振り向くような美女が自称・交渉担当者として現れた。
『あの方は』
『戸隠神社の祭神の一柱、アメノウズメだな。自衛隊ニキネキのショーでバックダンサー*6をやっていた顔に見覚えがある』
『主様が若い男だからって、女を交渉相手にするのは安直ですわ!』
式神の<ヒメ>と視線で会話しながら、変に色仕掛けで無理難題をふっかけられないよう内心で対策を練る。
まずは挨拶しようか、大事なことだ。
「ドーモ、アメノウズメ=サン。平田維茂です」
「……丁寧な挨拶、痛み入ります。火之御子社を預かるアメノウズメでございます」
おかしいな、古事記にも記されている奥ゆかしいお辞儀の作法のはずだが、彼女のひきつった笑顔を見ると通用していない?
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余話26 新潟行きリヤカーの旅(3)
前回の荷役馬納品の際には祭神の出迎えはなかったのに、今回はアメノウズメが出迎えたその意図とは。古式ゆかしいはずの挨拶をしたに関わらずアメノウズメがひきつった笑顔をして取り繕えなかった理由は。
そこら辺が気になったので、こちらに敵意がないことを示しながら何か思い違いをしているのでないかとやんわり問いただしたところ、アメノウズメは黒札相手に下手な隠し事は逆効果だと事情を話してくれた。
なんでも、神がわざわざ出張る必要はないと今回の取引も戸隠神社の担当者に任せるつもりだったが、その担当者が『浦野牧』の人間を荷運び人夫・肉体労働者と見下して賄賂を要求する心づもりであり、それを察知して慌ててアメノウズメが飛び出してきたのだとか。
「このご時世、護衛もつけずに
「まぁ、人材不足は
もしかしたらアメノウズメは丸っきり嘘を言っており賄賂を要求しようとした愚か者は存在しないのかもな、とふと思った。金札の宮下周が口を酸っぱくして疑えと言い続けた成果が出たのかもしれない。でもそこを追及しても戸隠神社と『浦野牧』の双方が幸せになれないと直感したので、そこで思考を打ち切って素直に騙されることにした。
「じゃあ、神様に実務を仕切らせるのもあれですが、そば粉の荷積みをですね」
「うむ、倉庫に案内しよう」
互いに話題を切り上げたい思惑が一致して、馬ニキは倉庫に案内された。
蕎麦は米と比べて土地面積あたりの収穫量が二割ほどと少ないため、アメノウズメが見守るなか馬ニキと式神<ヒメ>の二人がかりであれば積み込み作業はすぐに終わる。
「本来であれば茶菓子なりで持て成すところだが、機を逸したな」
「それは次の楽しみに取っておきましょう、また来ますよ。オタッシャデー、サヨナラ!」
リヤカーを牽引するため
*
戸隠神社から旧・長野市内に戻り、その足で新潟の玄関口となった十日町市シェルターへと向かう。【スレイプニル】の健脚であれば戸隠神社への寄り道込みでもお昼過ぎに十日町シェルターへ到着できる。
馬ニキは月に二回のペースで十日町を訪れるので、シェルターへの出入りも顔パスである。これは人が往来するという概念で新潟・山梨間の霊道を維持するための儀式であり、道中に湧いた野良悪魔の駆除、結界の綻びや土砂崩れなど霊的・物理的な欠損を早期発見する作業でもある。デビルシフト能力を得て、新潟・山梨の往復を一日でこなすことが可能になった馬ニキならではの仕事であり、道の補修に必要な人員・資材は十日町市シェルターに発注されることも多い。
「そんな訳で、俳人蕪村も一句詠んだ戸隠産の蕎麦粉を仕入れてきたんですよ」
「ええ、魚沼・小千谷・十日市はへぎ蕎麦が有名ですけど、うちは霊衣とキクリ米をメイン*1でやってますから、助かります」
何がそんな訳だ、と内心で突っ込みつつも、ここ十日町シェルターの運営側である金札である重下某*2はにこやかに応対する。
通常であれば霊道の補修が必要かどうか報告を受けるだけで済むのだが、今日の馬ニキは牽引してきた特注のリヤカーを自慢したくて堪らないようだ。黒札の機嫌を損ねないよう、しかし露骨なおべっかになってもいけないと、彼は内心で気を引き締めた。
「正直、【終末】後もここまで文明が維持できるとは思わなくて。ずっと前から労働力としての馬に賭けてたから、今更路線変更もできなくって……」
黒札なんだからターミナルの物質転送料をけちけちする必要ないだろ、今までの投資が無駄になるからって損きりできないからお前のシェルターは繫栄してないんだ、と口に出かかった正論をぎりぎりで飲み込み、彼は相槌を打ちながらこの雑談が早く終わらないかと祈った。
その祈りが通じたのかは不明だが、突然町内の電波塔から一神教の讃美歌が流れだし、未覚醒者たちが急に棒立ちになって意志薄弱な様子を見せ始める。
「なんだこれは?! テロか?!」*3
覚醒者ではあるが実戦経験が薄い重下*4が、不安な顔で周囲を見回す。テンパった様子の彼に馬ニキがそっと助け船のアイデアを出す。
「このシェルターは防衛用にシキオウジロボが配備されていますか?」
「そうです! あります!」
「じゃあ急ぎましょう。何処にあります?」
「十日町総鎮守・諏訪神社です!」
シキオウジロボは動力として地脈に接続されていることがあり、十日町シェルターではそこにあるようだ。
馬ニキはロボへの興味が勝ったのか、町内のいたるところで発生している散発的な騒動よりも彼についていく方を選んだ。
*
十日町市を見渡せる高台の上に諏訪神社は鎮座している。息せき切って到着した二人だが、パッと見てシキオウジロボは見当たらない。
金札・重下が腕時計を操作すると、時計の蓋がカパッと開いて何かのギミックが剥き出しになる。
「おっ、ジャイアントロボっぽいコンソール!」
「シキオウジ、起動せよ」
重下が命令を口にすると、神社の境内にある池が突然二つに割れて、池の底からシキオウジロボがせり出してくる。
「登場シーンはマジンガーZ! うーん、新潟のロボチームは分かってるねぇ」
うんうんと頷く馬ニキと、緊張でだらだらと汗を流している重下。
「どうした、シキオウジ! 動け! 動かないのか!」
「待機もーどカラ起動もーどヘノ切リ替ワリマデアト15分……」
「あ、シキオウジって起動まで時間かかる*5んだっけ」
頼みの綱のシキオウジがすぐには動かないと分かり、緊張の糸が切れたのか重下はがっくりと膝をついた。それに対し、楽観を崩さない馬ニキはシキオウジに興味津々。
「胸の放熱板といい、どう見てもマジンガーだよなぁ。ブレストファイヤーとか打てるの?」
「ハイ、【アギ】系ヲ胸カラ放射可能デス」
「パイロットはパイルダーオンして乗り込むの?」
「ノー、ソノ機能ハおみっとサレテイマス。音声指示ヲ受ケテ自律稼働シマス」
「──なに悠長な会話しているんです! こうしているうちにも、シェルター内の被害は広がっているんですよ!」
高台から市内を一望できるだけあって、巨大な天使【フラロウス・ハレル】と【ヴァーチャー】が大暴れしている様子もよく分かる。
「ゴ安心ヲ。私ガ起動用えねるぎーヲ地脈カラ吸イ上ゲルコトデ、アレラ狼藉モノヘノえねるぎー供給ヲ間接的ニ妨害シテイマス」
「それに援軍も来たようです」
空の彼方から轟音とともに来る物あり。鳥か飛行機かスーパーマンか、それは平べったい戦闘機のような、スペースシャトルの翼だけを独立させたような形状の『フライングアーマー』であった。
「善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし! 害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし!
歌住桜子の活躍により、十日町シェルターの平和は守られた。
「シキオウジロボの出番はありませんでしたね……」
「切り札を温存できたとポジティブに考えましょう」
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余話27 新潟行きリヤカーの旅(4)
活躍するまでもなかったシキオウジロボが池の下にある格納庫に戻った後、十日町シェルターの金札・重下は事後処理のため市街へと戻り、諏訪神社には馬ニキが残った。かねてからの懸案であった織物の職能神を勧請する*1ためである。
ここ諏訪神社の境内には
この黒姫様は黒姫山の主であり、その正体は
黒姫様こと奴奈川姫命を選定したのは、古来から越後の国で織物の守護神をしている*3ので麻や絹のみならず動物の毛織物もできること、また『浦野牧』に縁深い建御名方神のファミリーであることの二つが理由である。こじつけ・三段論法っぽい感じもするのだが、とにかく縁深いと言い張ることが重要だ。
「えー、黒姫様、奴奈川姫命様、織物の神として是非とも我が『浦野牧』に来ていただきたく、伏してお願い申し上げます」
自シェルターで養蚕を奨励していること、牧場を営んでおり羊など毛織物も手を付けたいこと、また奴奈川姫命は諏訪大社では子宝・安産の神として祀られているが『浦野牧』ではそのポジションも空いていることをアピールし、マッカやお神酒などを奉納する。
すると馬ニキの熱意に応えたのか、やや年増…… もとい、小娘というには貫禄のある、子育てと機織りに一家言ありそうな女性の分霊が顕現する。
「我が子の信者から熱心に勧誘されたなら仕方ありませんね。よろしい、ヌナカワヒメ、其方の求めに応じ新たな分霊を遣わしましょう。コンゴトモヨロシク」
「ありがとうございます! ありがとうございます!」
米つきバッタのようにペコペコ頭を下げる馬ニキと、三方に乗せられたお供え物にご満悦の奴奈川姫命。これで話が終わるなら良かったのだが、そうは問屋が卸さない。
「うぅー、なぁにが『仕方ない』ですか。今をときめく【ガイア連合】に求められたからって、浮かれすぎ」
柱の陰から恨めしそうに見やる女性の神霊が、ハンカチの隅を噛み締めて悔しさを盛大にアピールしている。
「あ、あのぅ、麻績屋媛命でいらっしゃいます?」
「そうです、其方のお眼鏡に叶わなかった、オウミヤヒメですぅ。わたくしの何がいけなかったのです?」
鬼女もかくやとばかりの恨みの圧力を受けて、たじたじになる馬ニキ。ちらりと視線で奴奈川姫命に助けを求めるが、奴奈川姫命はこの程度自力でなんとかしなさいとばかりに目を逸らす。
「ええ、と、その。麻績屋媛命様は伊勢・松坂の機殿神社からこの地に勧請され、機殿神社は伊勢神宮の管理下にある。つまり、アマテラスの下で機織りする存在と私は認識しているわけですが」
しどろもどろになりながら麻績屋媛命の顔色を窺うと、彼女は馬ニキの言い分を否定せずに無言で続きを促した。
「その、私は霊的に『馬』の要素が色濃くてですね、はい。アマテラスが天の岩戸に隠れるきっかけとなった事件、スサノオが逆剥ぎにした
それを聞いた麻績屋媛命は、柳眉を逆立てるとハンカチを引きちぎらんばかりの勢いで力を籠めて握りしめ、憎々しげに呪詛を吐いた。
「ぁんの、粗野な暴れん坊がっ!」
思わず首をすくめた馬ニキだが、呪詛の対象が自身でなくスサノオだったと気づいて小さく安堵のため息を吐いた。
「そもそも小千谷・十日町の織物守護なら、わざわざ『建葉槌命』など招かずとも*6、元からこの地に在った我らで良いではないか。上司にこき使われるだけで信仰も大して稼げず、それなのに同僚はブラック環境から一抜け、おのれ碧神凍矢許すまじ、おのれ平田維茂許すまじ……」
さめざめと悔し涙を流しながら崩れ落ちる麻績屋媛命。本気で黒札二人を呪っているのでなくあくまで愚痴の範疇のようだが、奴奈川姫命が慌てて手のひらで空気を散らすジェスチャーをして呪いを散らそうとしているあたり、馬ニキも引っ込んだはずの冷や汗が盛大に流れ出る。
【終末】後のこのご時世、零細神霊も苦労が多いのだな、と危うく呪われる寸前だった馬ニキも思わず同情してしまうのであった。
*
後日、新潟技術開発班から機神社への寄進の話が出るも、勘違いだということでその話は流れてしまい*7、麻績屋媛命がダークサイドに落ちかけて懸命に奴奈川姫命が宥めたとか。
そんな話を勧請した奴奈川姫命の分霊から聞かされる馬ニキも、お手上げである。
田舎ニキはLv90以上あるので、零細神霊の麻績屋媛命が本気で呪っても効かないし、麻績屋媛命もそれは分かっているので本気で呪うことはない。
なおLv40しかない馬ニキには…… 麻績屋媛命から見て二人ワンセットで扱われて良かったね!
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余話28 新潟行きリヤカーの旅(5)
新潟某所。ここは新潟の重工業を一手に引き受ける技術部のうち、銃器に関する研究・開発ラボが置かれている。
このラボでは、黒札・武田観柳から依頼されて
「ガトリング砲の次はアームストロング砲、作りてぇな……」
アームストロング砲は幕末~明治初期を描いた某漫画においても、志々○真実一派の鋼鉄艦「煉獄」に搭載されていたり、鯨○兵庫が右腕に装着して使用していた。
ガトリング砲を製造したことで、彼ら技術者たちは浪漫を拗らせていた。
「でもよぅ、腕に装着するなら宇宙海賊コ○ラのサイコガンの方が取り回し良いし……」
「新潟・佐渡を往復するフェリー艦*2に乗せるにも、19世紀の兵器じゃ時代遅れも甚だしい」
流石に需要のないものを製造するほど良心を失っていないようで、彼らは失意の底に沈んでいるようだ。
「救いは…… アームストロング砲に救いはねぇのか!? オレらこのまま
「
突然現れて管を巻く技術者連中を一喝する男、それはたまたま新潟に立ち寄った宮城支部所属の技術者、鬼鮫ニキ*3である。
「アームストロング砲に需要がないなら、作る! 馬でリヤカーを牽く黒札がいるんだろう?! そいつに試作品供与と称して渡すんだ!」
すると今まで力なくへたり込んでいた
「戊辰戦争・上野寛永寺の戦いで使われたような、車輪で移動させるタイプ……!」
「9ポンド騎兵砲……! いや、
鬼鮫ニキの言葉に蒙を啓かれたとばかりに、彼らはおいおい泣きながら希望を語り始める。
「合金樹*4素材をまた…
「
「特殊なギミック──
「
「いろんな属性弾、
「
自信満々に返答する鬼鮫ニキを救いの神とばかりに崇め始めるモブ技術者たち。
こうして彼らの新しい挑戦が始まったのだ。
*
「──で、
「ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか。完成度高けーなオイ」
【ガイア連合】特製リヤカーに追加オプションがあると聞いて出向いた馬ニキが見せられた物は、砲身全長180cmほどの卑猥な造形だった。
「こうしてリヤカーに固定して、後装式だから砲弾はこう込める。きっちり栓をしないと暴発するから注意」
「なんで菊門を模した装填口と、イチジクの実を模した弾丸なんですか?」
「発射!」
馬ニキの疑問には答えず、アームストロング砲の使い方を実演して見せる鬼鮫ニキ。
「思ったより音がしないだろ? 見た目は睾丸っぽいけど
「その代わり、砲口からこぼれる白煙が、想像してたより粘度高いですね。どう見ても精子です、本当にありがとうございました」
ちなみにこのアームストロング砲、ミシャグジさまが気に入って、馬ニキに夢で啓示が与えられたようである。
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余話29 ネオアームストロング(略)砲
【ガイア連合】技術部の持てる最新技術を惜しみなく注ぎ込んだという触れ込みのネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を受領し、馬ニキは満足して自シェルター『浦野牧』へと戻った。
そこで元自衛隊員の多脚戦車乗りたちにネオ(略)砲を自慢したのだが、逆に彼らから憐みの視線を投げかけられることになった。
「1800年代中期のアームストロング砲を現在の技術でリファインしたことは、ある意味で尊敬できますが。そもそもアームストロング砲が時代遅れの武装ですから」
「えっ? そうなの? 弾丸は現在の自衛隊装備を流用できるって説明受けたけど」
「どれどれ、じっくり検分させてください」
元自衛隊員たちはあーだこーだ言いながらネオアームストロング(略)砲をあれこれ触っていたが、やがて彼らの中で結論が出たようだ。
「確かに、この砲は35mm機関砲の弾薬が使えますし、それに伴い弾薬の着火機構が実包を使う現代式に変更されています。しかしアームストロング砲のキモとも呼べる後装式の仕組みは変化ありません。この砲は具体的にどれくらいの速度で連射できますか?」
「うーん、頑張れば1分に1発いけるかな?」
このアームストロング砲は一発装填して発射してまた一発装填してという、単発式である。
レバーをぐるぐる回してスクリュー機構により装填口を開き、砲弾をセットしたらまたレバーをぐるぐる回して装填口を閉じる。イメージとしてはペットボトルや瓶の蓋を捻って開けて弾薬をセットしまた蓋を閉める感じである。アームストロング砲は単発式であり、一発撃つたびにレバーをぐるぐる回して装填口を開閉する必要がある。しかも砲弾は1個1.5kgほどと結構な重量・サイズがあり、レバーをちょい回しすれば装填できるというものではない。
これでも前装式である過去の砲に比べ連射速度は大幅に向上しているし、【覚醒者】として肉体能力が大幅に向上していることも踏まえての数字である。
「このアームストロング砲はリヤカー据え付け可能という取り回しの良さを重視して、大日本帝国軍の九四式三十七ミリ対戦車砲を真似た大きさですかね。九四式は砲身重量が75kg、放列砲車重量は330kgほどで、馬1頭または人3名で牽引できる軽量型ですが」
ちなみに大日本帝国軍で使われた牽引砲のうち九〇式野砲は放列砲車重量1400kg、牽引に軍馬6頭が必要である。
このネオアームストロング(略)砲はガイア連合の謎技術が遺憾なく発揮されており、砲身重量は60kgほどと軽量化されている。肉体能力に優れた高レベル覚醒者なら個人携帯ロケットランチャーのように持ち運ぶことすらできる。
なお卑猥なシルエットであることから人が担いで持ち運ぶことは推奨されていない。
「弾薬共用の35mm機関砲なら毎分500発、武装トラックに積載すれば九四式の出番はありません。単発の携帯式対戦車砲ならRPG-7もありますし」
「……つまり、このネオアームストロング(略)砲は軍事の観点ではおもちゃでしかない、と」
「さすがに自動給弾システムがないのは旧式すぎますな」
ガイア連合の作成するトンデモ武器は当たり外れが大きいと分かっていたが、ハズレを掴まされたと実感し、ため息を吐いてがっくりと肩を落とす馬ニキ。
「でも『アームストロング砲』という概念を霊装として形にしたのは評価できます。並の多脚戦車の主砲より霊格高いので、ここぞというときに属性弾をぶっぱなすなら有りだと思いますよ。射程も8kmくらいありますし、物理攻撃がメインの覚醒者なら開幕ブッパでワンチャンあるかも?」
「うーむ、やはり概念、概念バトルの領域かぁ」
男性器を模した卑猥な形状のネオアーム(略)砲を眺めながら、これに相応しい概念は無いかと頭を巡らせる。
このシルエットから連想できるものというと……
「『一発必中』とか? 逆に『いくら種をばらまいても当たらない』可能性もあるが」
「旧約から『産めよ増えよ地に満ちよ』はどうでしょう。続くフレーズからして『地の獣、空の鳥、地を這うもの、海の魚』特攻も期待できます」
「メシア教はノーサンキュー」
秒でメシア教を否定する馬ニキ。しかし彼の脳裏には、レイプマンことカズフサニキ、あるいはクソメシアンの女を抱いて調伏する命樹ニキ*1ならこのネオ(略)砲を使いこなせるのでは? という疑問が浮かんでしまうのであった。
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余話30 黒姫伝説(1)
ある日、COMPの通話機能に見知らぬ相手からの通信が届いた。
滅多に鳴らない電話の呼び出し音に驚いた馬ニキは、通話開始前にCOMPに表示される相手情報を見て、軽く毒づいた。
「ちっ、非通知かよ。悪戯電話か?」
ジリジリと鳴り続ける呼び出し音のボリュームをとりあえず下げて、この電話を無視するかどうか考える。
オカルト全盛のこの時代、うかつに電話に出ることで呪われる可能性も十分にある。【黒札】というだけでいつの間にか他所からの恨みを買っていることは珍しくなく、それなりの自衛というものが求められるのだ。
『ただいま電話に出ることができません。伝言メッセージをお預かり致しますので……』
逡巡しているうちに留守電モードに切り替わる。このまま相手が無言で切るのか、それとも何者かがメッセージを残すのか。
馬ニキは興味を覚え、そのままCOMPを見つめる。
『うわあぁぁん! 最後の砦も駄目えぇぇ! どうして出てくれないんですかああぁぁっ! 平田さんの阿呆馬鹿間抜けぇぇっ!』
切羽詰まった女性の半泣き声が聞こえたと思ったら、いきなり罵倒された。
その声に聞き覚えのあった馬ニキは、COMPを操作して通話モードにすると言い返す。
「あぁん? 誰が阿呆馬鹿間抜けだって?」
「びやぁぁ! 居るなら応じてくださいよぉ」
「だって非通知だったし……」
少し間が空いた後、通話相手である戸隠神社のアメノウズメは何もなかったような澄まし声で取り繕った。
「その、戸隠神社は今、何者かの攻撃を受けていて、援軍をお願いしたいのです」
「罵倒しておいて援軍とか、ちょっと何言ってるのか分かりませんねぇ」
「わァ…… ぁ……」
メンタルブレイクしたちいかわのように泣くアメノウズメ、さすがに可哀そうになった馬ニキは不機嫌な声のトーンを納めて聞き返す。
「で、攻撃されているって、何に?」
「
「……はぁ?」
「本当です! うちのオモイカネが言うには、黒姫山の麓、大沼池の主である龍が何かしらの理由でパワーアップしたって! 今は籠城してますがジリ貧なんです! お願いします、助けてください! なんでも…… は、しませんけど」
何でもしますと言わないあたり、実は余裕があるんじゃないかと疑った馬ニキだが、彼の肩をちょんと突く存在が現れたのでそちらに意識を向ける。
するとそこには、新潟から勧請したばかりの奴奈川姫命がいた。
「この話、受けるべきです。大沼池の主を退治して黒姫山を取り戻しましょう!」
「なんでそんなに好戦的なんですかねぇ」
「わらわはヌナガワヒメであると同時に黒姫山の主『黒姫』である。わらわの織物の権能は黒姫が由来ゆえに、黒姫山を押さえることに意味はある」
ちなみに黒姫山は新潟県糸魚川市、新潟県柏崎市、長野県信濃町の3つに同名の山があり、奴奈川姫命は元は糸魚川市の黒姫山を居としていたとされる。
「いよっ、流石は黒姫、分かっておる!」
「アメノウズメさぁ…… お調子者みたいに囃し立てるんじゃなく、キングギドラの情報を寄越しなさいよ」
「あっ、はい。簡易アナライズしたところ、レベルは50後半、黒姫伝説の通り攻撃手段は水で火属性が弱点です」
黒姫伝説は長野県北部に伝わる民話で、岩倉池または大沼池に住む竜蛇が地元領主・高梨家の姫である黒姫に懸想する内容である。
黒姫との仲を認められなかった竜は怒り洪水を起こす。そこからは民話にバリエーションがあり、黒姫はヒョウタンを持って竜に嫁いだとするもの、神から剣を授かって池の主を退治したもの、地獄谷の山神が恩顧ある高梨氏一族を守るべく燃えたぎらせた地獄の火で竜を懲らしめたとする3種がある。
「Lv50後半なら総力戦でぎりぎり行けるか? 敵は1体だけ? 眷属とかいる?」
「いいえ、単体だけで眷属はいません。……あの、援軍を要請する側が言う台詞じゃないけど、御大将自ら出陣は博打過ぎるのでは? 報酬も満足に出せませんし」
「細かいことはいいんだよ、そっちは一時間耐えろ!」
COMP通信を打ち切って、馬ニキは仲魔全員に緊急招集をかけることにした。
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余話31 黒姫伝説(2)
フル装備を整えた馬ニキ一行は、リヤカーにネオアームストロング(略)砲を搭載し、トラポートで戸隠神社の近くに飛んだ。戸隠神社に直接乗り込まなかったのは鉄火場にいきなり踏み入って味方を混乱させたくなかったからだ。
「おぅ…… 本当にキングギドラじゃねーか」
戸隠神社に繋がる峠道を越えたところで視界に入ったのは、結界を壊そうと大暴れしている三つ首の大怪獣。
「色がくすんだ金色なのは、黒姫伝説で黒龍とされたからかな…… よし、アナライズ結果は事前情報と同じく火炎弱点、氷結・衝撃無効はあるが物理は普通。【邪竜キングー】から電撃を水に変えた*1ような能力だな」
もしかしてキングギドラのキング成分ってそこから? じゃあ多頭の要素は【邪竜ヒュドラ】か何か?
そう考えた馬ニキだが、シキガミの<ヒメ>に促されて思考を戦闘に切り替えた。
「主様、先制攻撃やっちゃいますか!」
「おうともよ、事前に装填しておいた火炎属性弾が(比喩でなく)火を噴くぜ!」
ネオアームストロング(略)砲がぶっぴがんとSFチックな発射音を立て、馬ニキはそれが命中するか確認する前に次弾装填を急ぐ。
ちゅどーんとこれまた某ガンダムで聞いたような爆発音が響き、不意を打たれたキングギドラは体勢を崩してずさーっと倒れ込む。
「命中! でも【アギ】一発程度しか効いてませんわ!」
「取り回し重視の小型砲だし、そもそも【フレイミーズ弾】*2だからな! 向こうがこっちに気づくまでにもう一発間に合うか?!」
「キングギドラ、こちらに気づきました!」
「ちっ、二射目、いくぞ!」
背中の翼を羽ばたかせてこちらに急接近する邪龍にもう一度ネオアーム(略)砲が火を噴くが、これは急旋回したキングギドラに避けられてしまう。低威力といえども弱点攻撃をそう簡単に喰らってくれる簡単な相手ではない。
「命中率に難あり、まあ一発当たっただけで儲けものか」
「ぃょっしゃー、格上ボスに挑むのは久しぶりですわーっ!」
タンク役のシキガミ<ヒメ>が嬉しそうに前に出て、物理アタッカーの【ヴァルキリー】<アグネス>と国津神タケミナカタがそれに続く。火炎アタッカーの鬼女紅葉とリカーム役の女神・道敷大神が、HP回復の馬ニキと一緒に後衛、女神ネペレーと屍鬼ボディコニアンはCOMP/封魔管の中で控え。
キングギドラがお返しとばかりに【アイスブレス】を空から放射して、戦いの幕が上がる。
*
サイゲームスの二次創作ガイドラインに従い、暴力的シーンはカット。
<ヒメ>の活躍シーンは各自で脳内補完していただくようお願いします。
*
事前情報通りに弱点・耐性を上手く突けたものの、やはりレベル差が10以上あるとボス討伐はそう簡単にいかない。
前衛の<アグネス>とタケミナカタ、それに火力担当の鬼女紅葉は既にダウンし、MPの尽きた道敷大神とCOMPから出てきた控えのネペレーが氷結耐性・無効を活かした肉盾となり、タンク役の<ヒメ>が物理メインアタッカーを兼任する泥仕合。
「そろそろ切り札の使い時か?」
ちなみに切り札というのは新潟・田舎ニキにヘルプを頼むという意味である。
彼はLv90オーバーで【トラポート】持ち、氷結無効を持つキングギドラであっても耐性貫通余裕。なんだかんだで新潟の縁を深めている馬ニキの要請であれば、多分応えてくれるであろう。
とは言っても他所の黒札に借りを作りたくない気持ちがある。それに助けを借りなくてもぎりぎり勝てそうな気もする。まぁこういうときに即決できないあたり、馬ニキが戦闘修羅勢と比べてメンタルが弱い部分である。
「いいえ、まだ私たちに手札があります、出撃許可を!」
レベルが低く攻撃・防御手段に見込みがないので封魔管から出す予定のなかった【ボディコニアン】がそう言ってきたので、僅かな望みを賭けてそれを許す。するとボディコニアンはキングギドラとは逆方向の、ネオアーム(略)砲を据え付けたリヤカーの方に駆け出していく。
「おい、今から弾丸装填しても間に合わないぞ!」
「違います! 専門外の質問にも動じないシンプソン博士は言いました!」
シンプソン博士とは? 意味不明の言動に内心苛立った馬ニキだが、仲魔のネペレーは何か気づいたようなので、彼女の行動を制限しなかった。キングギドラを相手にそこまで気を散らす余裕がなかったとも言う。
「えぃっ!」
ボディコニアンはリヤカーに飛び乗りネオアーム(略)砲の上に跨った。その姿は川崎・金山神社のかなまら祭で男根神輿に乗る女性を想起させる。
「ドラゴンカーセックスは一般性癖!!」
そう大声で宣言しながらセクシーポーズを取るボディコニアン。なぜかボディコニアンに同調してネペレーもセクシーポーズを取り始めた。
えっ、もしかして【セクシーダンス】でキングギドラを魅了しようとしてる?
「んん? 本当に魅了成功してる~っ?!」
あんな雑な魅了が格上に通用するはずないと疑問に思いつつ、【改造オボログルマ】の魅了が野良ドラゴン悪魔に効く*3ことを思い出し、馬ニキは現実を受け入れる。
明らかにキングギドラの戦意が違う欲に摺り替わり、キングギドラは雄たけびを上げると下腹部で押し潰すかのようにリヤカーへと飛び掛かった。
「ぎゃース!」
キングギドラにリヤカーごとペシャンコにされて断末魔の悲鳴を上げるボディコニアン。
身を挺して隙を作ってくれた彼女に内心で感謝しながら総攻撃を指示しようとした馬ニキだったが、それより早く、キングギドラの全身を丸ごと燃やすように爆発が起こった。
「何だ?! 何が起きた?!」
想定外の出来事に狼狽える馬ニキと、なぜか満足したような雰囲気を漂わせて消滅していくキングギドラ。
いつの間にか、戦闘中にダウンしていたタケミナカタたちが復帰して、馬ニキの横に並ぶ。
「……多分、リヤカーに積んであったアームストロング砲の予備弾薬が誘爆したのかと」
「主様、魅了状態は攻撃をしないだけでなく、HP回復やバフをランダムに使うことがあります。キングーは【リカームドラ】を使える*4はずなので、もしかすると」
馬ニキは仲魔の推理を聞いてしばし考えこんだが、スクラップとなったリヤカーとネオ(略)砲の下から這いずり出てきたボディコニアンを見て、決断を下す。
「武士の情けってことで、弾薬の誘爆ということにしておこう。決まり手がドラゴンカーセックスはさすがに、
「えっ、私、憐れまれてる? キングギドラ討伐の立役者なのに?! 酷いです!」
一同のしんみりした雰囲気を勘違いしたボディコニアンが抗議の声を上げ、締まらない空気感の中で戦闘は終わった。
ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を犠牲にしてのボス戦勝利。
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余話32 黒姫伝説(3)
キングギドラを苦難の末に撃破した馬ニキ一行。
(推定)リカームドラにより肉体的疲労はないのだが精神的疲労が積み重なっており、後始末は戸隠神社に任せてこのまま家に帰って寝てしまおうかとぼんやり考えていたところ、喜色満面の
「さすが平田殿! 邪龍を退治した今が黒姫山を押さえる好機です! 何者かに先を越されるぬよう、今から押さえに行きましょう! さあ、さあ!」
「えー…… 今から登山かよ」
戸隠神社から黒姫山山頂まで直線距離で8~10kmほど、ロープウェイ*1などショートカットできる要素もない。
「大沼池の主である龍を討った今なら道中の障害も大したことがありません、身体能力に優れる【覚醒者】であればピクニック気分で登頂できます! それに、こうしてのんびりいるうちに、戸隠神社が空き巣する可能性が高いのですよ!」
「はぁ~~? 言いがかりは止めてください!」
戸隠神社の祭神の一柱、アメノウズメが現れてヌナガワヒメに食ってかかる。
「お? 根も葉もない言いがかりだと? それは
「それとこれとは話が別です! 黒姫山は戸隠・妙高・飯縄・斑尾と北信五岳を構成する要地、なんでぽっと出の貴女に譲るとお思いで?!」
「ぽっと出じゃないです、元から黒姫山の主です!」
「それは新潟県糸魚川市の黒姫山でしょ!」
「黒姫三山*2という概念もあるし、そもそも同名なら縁があるのは呪術の基本です! それに援軍要請の電話でこちらが黒姫山を押さえることを歓迎していたではないか!」
「歓迎したのは援軍であって、黒姫山を押さえることは違います! そもそも、援軍の見返りに何でもするとは言ってませーん!」
「そっちが前から黒姫山を押さえていたなら大沼池の主が暴れることもなかったでしょうに、未支配地を漁夫の利で掠め取ろうだなんて盗人猛々しい!」
アメノウズメとヌナガワヒメは互いに掴みかかってキャットファイトせんばかりの血相で言い争っていたが、くるりと馬ニキへと振り向いた。
「こんなBBAの言い分より、ピッチピチのわたくしを選んでくださいますよね?!」
「は~ぁ?! 彼の周りは美人で溢れているので、おかんポジションを敢えて取っているだけなんですけどー?! こう見えても脱げば凄いんですけどー?!」
低俗な口喧嘩に馬ニキは頭を抱え、ついでにヌナガワヒメの子であるタケミナカタも母親の醜態に顔をしかめている。
「ああ、もう!
面倒になった馬ニキは半ば自棄になってそう宣言し、ガッツポーズを取るヌナガワヒメと、力なくうつむくアメノウズメ。
「よょょ…… 妙高戸隠連山国立公園の一角が越後からの侵略者に奪われるなど……」
「いや、ヌナガワヒメは諏訪にも祀られているから、侵略者ではないのでは?」
「機織りの守り神『黒姫』はどう考えても越後の概念です……」
「ふふふ、そもそも糸魚川も柏崎も戸隠と距離は近く、昔から人の往来は盛んでした。ですから概念が交わるのも当然で、侵略というほど苛烈な塗り替えではありません。わらわが黒姫山の主と化したら伝説にある高梨氏の黒姫とも合一しますので、土着の信仰のままですよ」
勝ち誇ったヌナガワヒメと、がっくり肩を落とすアメノウズメ。
「アメノウズメの敗因は、先に色仕掛けで話を逸らそうとしたことかな」
「ぅぐぅ……」
ぐうの音も出ないと思いきや、最後にぐうの音を絞り出すアメノウズメ。
おもしれー女。馬ニキはそう感じた。
「
ヌナガワヒメの指摘に今度こそぐうの音も出せなくなったアメノウズメは押し黙った。
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余話33 黒姫伝説(4)
黒姫山の登山ルートは、黒姫山の東にある黒姫里宮からの表参道ルートと、黒姫山の南西にある戸隠からの大橋林道ルートの2つがある。
そのうち大橋林道ルートは登山好きのハイカーであれば往復7~8時間とされており、【終末後】は人が住まぬ地となり登山道整備も望めないが、高Lv覚醒者の身体能力ゴリ押しで藪を突っ切って2時間かけずに馬ニキは山頂へと登坂した。
黒姫山の山頂には小さな石祠があり、そこには『大毘沙門天、黒姫弁財天、七ツ池龍王』と刻まれた石板が江戸時代に設置されている。七ツ池龍王は黒姫伝説の黒龍を、毘沙門天は越後の上杉謙信をそれぞれ連想させる。
「黒姫、いまここに」
ヌナガワヒメが感極まった様子で石祠を抱きしめると、周囲のマグがヌナガワヒメに集まっていく。
「これが黒姫山の主になるってことか」
見届けると言い張ってここまで付いてきたアメノウズメが、羨望と嫉妬が入り混じった表情でヌナガワヒメを見つめている。
うーん、つい最近、十日町の機神社で
「助力していただいた平田殿には深い感謝を。代わりに其方が北信濃を支配する一助になりましょう」
霊脈との一体化が終わったヌナガワヒメがこちらに振り返って深々と礼をする。
あれ、ヌナガワヒメ、若返ってない?
「ほほほ、『黒姫』としての側面を強めればこの通り、美姫としてそこな天女*1にも引けを取らぬであろう?」
うわ、口喧嘩でBBAと呼ばれた意趣返しかよ。はいはい、そこのアメノウズメさんも喧嘩を買おうとしない。
「ついでと言ってはアレだがな、長野市街から国道18号線を北上して上越市までの街道整備をお願いしたい。鉄道でいう黒姫駅のあたりに黒姫弁財天を祭る里宮の別当・雲龍寺を復興してシェルターとすれば、街道宿場町として役に立とう」
「ちょ、ちょーっと待ったーっ! いくら平田さんがお人よしでも、それは要求しすぎでしょ! 何それ、零細神霊が【ガイア連合】支援のもとシェルターの主祭神として成りあがるって、
アメノウズメが食ってかかるが、ヌナガワヒメ/黒姫は鷹揚に構えて相手にしない。
「今すぐとは言いませぬ、其方が東信濃の支配を固めて余力ができてからで構わぬとも。それに新潟までの新街道は
ぐぬぬ… と唸るアメノウズメの百面相を見ながら、馬ニキは考えを巡らせる。
田舎ニキとのプロレスに負けて*2長野県北部の管理を主導することに決まったので、ヌナガワヒメの言い分はある意味で渡りに船ではあるが。
「そうだな、今すぐにという余裕はない。単なる流れで黒姫山を押さえたが
ヌナガワヒメ/黒姫は満面の笑みで彼の返答に同意する。
「前向きな回答をここで得られただけで充分です。五年でも十年でも、何なら子の代・孫の代になるまで待ちますとも」
「子の代ねぇ。あまり先の未来は保証できない」
「あらあら、わらわは諏訪で子宝安産の神として祀られているのですよ? 何なら大きめのガイア連合支部のスラムで燻っている女に『俺の子を3人産んだら黒札シェルターの戸籍を与える』とでも声を掛ければ入れ食いでしょうに*3」
「なんとまあ、自作自演だこと」
ヌナガワヒメ/黒姫の発言に何かしら噛みつくアメノウズメだが、ガイア連合に【種乞い依頼】*4して複数女性を孕ませているので、他人をとやかく批判できる立場じゃないと思う。
「それは今すぐ決めることじゃないから、今日は解散しよっか。あ、リヤカーの残骸は回収しないとな」
「あそこまで破損すると、修理より新品買い直しのほうが早いと思いますが」
「キングギドラ討伐に役立ったしさ、スクラップをリサイクルしたらドラゴンスレイヤーの概念がワンチャン付与されるかも?」
後日、修繕されたリヤカーに『ドラゴンスレイヤー』でなく『ドラゴンカーセックス』の概念が付与されたことで、馬ニキは自身の浅慮を後悔することになる。どっとはらい。
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余話34 黒姫伝説(5)
突発的に発生したイベント・キングギドラ討伐を終えて『浦野牧』シェルターに戻ってきた馬ニキたち。
鉄は熱いうちに打てとばかりに事後ミーティングで戦闘の拙かった点などを話し合う…… ということはせず、無事に生き延びたことを祝う打ち上げをささやかながら行った。
「で、今回の根本的な原因は何? 第二第三のキングギドラ発生は有り得るの?」
「当面はあり得ないでしょう」
馬ニキの疑問に即答したのはヌナガワヒメ。ちなみに黒姫山頂で見せた美姫モードは引っ込めて、年増のおばはんスタイルに戻っている。
「黒姫弁財天として黒姫山の地脈に接続することで、彼の地に起きたこともある程度読み取れました。事の起こりは神霊クズリュウが新潟の地で暴れた*1ことです」
そういえば田舎ニキが最終決戦とか言って異界でドンパチやってたな。地球が魔界に落ちた際の大混乱で手助けできなかったし、詳しい情報も回ってこなかったけど。
「クズリュウの力は大半が異界内に封印されたが一部が現世に放出され、それらのおおよそは大気に散った。だが僅かな破片は纏まったまま漂い、クズリュウに縁ある地脈に吸収される、はずだった」
「ああ、戸隠神社は地主神として九頭龍も祀っていたな。今は天手力雄命、天八意思兼命、天鈿女命の天津神三柱によりシェルター運営されているけど…… もしかして天津神の張った結界にクズリュウの力が弾かれた?」
「おそらくは。行き場を無くしたクズリュウの残滓が戸隠近辺に滞留し、それに触れた大沼池の黒龍が戸隠神社に戻るという残留思念に飲み込まれたのかと」
「
クズリュウ戦は【終末】直後なので時間差があるような気がするが、神霊は時間に縛られない存在だからそういうこともあるだろう。
割とガバガバな推測だが、馬ニキは勝手にそう納得した。
「
もう一波乱あると含みを持ったヌナカワヒメの予言に、どうにも嫌な予感が働く。
「竜って基本的に水を司るものだから、クズリュウの残滓が千曲川沿いに伝染したり、する?」
「するでしょうね。近辺に心当たりがあるなら重点的に哨戒するがよろしいかと」
かつてアラハバキが信濃川に『自然に帰れビーム』を打った*2後に、信濃川・千曲川*3流域でミヅチや河童が活性化*4して新潟では黒札総動員がかけられたという。
おそらく信濃川が市内を横断する十日町市シェルターでミヅチの被害が増えるのは確定として、千曲川が上田市を横断する『浦野牧』も他人事ではない。
それだけではなく、『浦野牧』の根拠地・長野県上田市には竜蛇の民話に事欠かない。
例えば塩田地区の鞍が淵。小泉小太郎伝説の小太郎はこの鞍が淵で大蛇の母から生まれたといい、蛇の女怪となれば【邪龍ハクジョウジ】が連想される。
また上田市には太郎山中腹に白蛇神社があり、上田城のお堀に住んでいた白蛇を祀ったという縁起がある。この白蛇神社では九頭竜大権現を併祀しているのでクズリュウとの相性もばっちりだ。
「やることが…… やることが多い!」
某少年の事件簿で犯人が苦悩したように、頭を抱える馬ニキ。
「確か、白蛇神社には弁天堂も併祀されているはず。ヌナガワヒメ、黒姫弁財天として白蛇神社を一時でも押さえることはできる?」
「神社を任せてもらえる気持ちはありがたいが、わらわは
ヌナガワヒメは首を左右に振って否定の意を示すが、馬ニキは僅かな望みを持って食い下がる。
「じゃあ、黒姫山に座する黒姫弁財天なら?」
「あちらも今は忙しいの。キングギドラを撃破して飛び散ったクズリュウの残滓を現地で制御するのに手いっぱいで、こちらまで手は伸ばせぬ」
それじゃ仕方がないと諦めた馬ニキに、ヌナガワヒメは暗い笑いを浮かべた。
「のう、知っておるか? 戸隠神社は地主神として九頭龍を祀っており、『九頭龍弁財天』像があることを」
「九頭龍弁財天ですか、初めて聞きました。ふむ、戸隠・黒姫と弁財天が共通してますね」
「弁財天が共通しているのは霊山から流れる水の象徴ゆえ。クズリュウの力が戸隠の地脈に流れ込むこの機に、こっそり干渉してバックドアを仕込んでやろうか。くくく、あの小娘、BBAなどと愚弄したことを後悔させてやる」
天津神と国津神の意地の張り合いを垣間見てちびりそうになる馬ニキであった。
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余話35 新・仲魔編成
「ねぇー私もキングギドラ討伐に一役買ったんだから、ご褒美くださいよぉー」
媚びた声音でおねだりしてくる仲魔の屍鬼【ボディコニアン】。
当人が主張するMVPは大げさだが、キングギドラ戦で活躍したのは間違いない。信賞必罰は武門の拠って立つところ、松下幸之助も集団規律に重要と言っていたし、ご褒美を上げることそのものは吝かではないのだが。
「愛のあるらぶらぶエッチしましょう!」
このボディコニアンは、【ガイア連合】のスケベ部から仕入れた屍鬼【オバタリアン】がレベルアップにより進化した存在で、元々は零落した【女神】スカディ*1の分霊である。
アカネちゃんとミナミィネキによりチンポに媚びるくらいしか能がないように改造されただけあってエロいことに定評があるが、馬ニキは黒札限定式神の<ヒメ>を筆頭に仲魔の女性型悪魔と仲良し(意味深)なので、このボディコニアンとニャンニャンする機会はあまりない。
「はぁー? ガイア連合に不義理して見せしめに尊厳凌辱されてる駄女神の残り滓に、らぶらぶエッチなんて勿体ない! 功と賞が釣り合ってませーん!」
そう噛みついてきたのは女神ネペレー。ちなみに馬ニキの仲魔としては初代・【屍鬼〈肉便器な〉オバタリアン】がネペレーに進化して今のボディコニアンは二代目である。同族嫌悪というやつであろうか、彼女は普段からボディコニアンに当たりが厳しい。
「ミシャグジさまの加護を得たご主人様にガチハメ潰されたいです~♡」
ネペレーの罵倒も何のそのと受け流し、Dark悪魔特有の話が通じるような通じないような態度でアピールするボディコニアン。
「とにかく……
「なにが黒札ブランドですかぁああ! こんな小規模シェルターに権威なんてありませぇええん!
「なんだとぉ……」
正論にキレ芸で返すボディコニアンと、Dark悪魔の戯言だと聞き流すべきところをつい反応してしまう馬ニキ。
それ以上の暴言は不味いとネペレーが咄嗟に両者に割って入り、馬ニキは一息入れることができたので冷静になった。
「むーっ! これはアレですよ、キングギドラ戦でレベルアップして種族進化の条件を満たしたんですね。牧場主様から【ロキ】のマグを取り込んで【女神】スカディに復帰するつもりです!」
「……えへっ☆」
ネペレーの指摘にすっと目を細めるボディコニアン。能天気な態度の裏にあるものが一瞬さらけ出されたあと、笑ってごまかそうとするボディコニアンと、鬼の首を取ったように喚きたてるネペレー。
女同士の醜い言い争いをスルーして、馬ニキはボディコニアンが進化することのメリットデメリットを検討し始めた。
女神転生4では屍鬼が【邪神】と悪魔合体することで種族・女神に変じるシステムだった。
仮にそうなったとして、どうなるだろうか。
利点としては、高レベル黒札の実力に見合わない
欠点としては、召喚・維持コストと蘇生費用が安く肉盾として使いつぶす運用ができなくなること、スキル【ナイトフィーバー】*3のマッカ増収5%は地味に嬉しいがそれが消える可能性があること。
「うーん、進化させてもいいかな」
女神スカディを尊厳破壊するためにガイア連合が製造したオバタリアンはガイア連合外のデビルバスターたちにも好評なので、馬ニキとしても手持ちに抱え続ける必要はないだろう。
この際適当な中位悪魔に変化させて、鬼女紅葉の
久しぶりにエロ話を書こうと思ったが難産かつ前フリだけで終わってしまった。
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キャラクター紹介
本作のキャラ・設定は他のカオ転三次にご自由にお使いください。
男・20代前半。終末直後でLv30台半ばと、シキガミ任せの引き籠り【黒札】ほど弱くはないが、【シキオウジ】ロボを倒せる修羅勢というほど強くもない。本家で描写されたドクオニキ*1に似た立ち位置。【スケベ部】の一員でもある。
【終末】後に文明崩壊して生活レベルが江戸時代まで退化することを予想して、家畜労働力(馬)を供給するため牧場経営に着手していた。なお終末後も【改造オボログルマ】*2が開発されるなど文明はそれなりに維持されており、彼の目論見は外れた。
それでも意地で馬産を諦めず、馬牧場を小規模【シェルター】として細々と運営している。
長野県上田市に牧場兼小規模シェルター兼【ガイア連合派出所】兼【デビルハンター】協会窓口の『
主な活動地域は長野県東部・北部。修羅勢ではないのでガイア連合に強く影響を与えるような活動はせず、ローカルな活動に留まる。
基礎霊能:【パトラ】*3と【ディア】系が主軸、【ガイア連合】製の武器防具を装備して肉弾戦も可能な、クラシックRPGでいうクレリックスタイル。終末後に【ロキ】のMAGを大量に取り込んで霊器汚染が発生した結果、【スレイプニル】にデビルシフトできる第二霊能を発現する。
黒札用シキガミ:名前は<ヒメ>、外見はウマ娘のカワカミプリンセス。役割は物理アタッカー&タンクで、主従で幾度も死線をくぐった仲。
それ以外の仲魔:長野県ローカル伝承である『鬼女紅葉』、ガイア連合製【アガシオン】が進化した【ヴァルキリー】の<アグネス>など。
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ここから先、本文に1000文字以上ないと投稿できない仕様のための穴埋めデータシート。
読む必要はありません。
平田維茂(ひらた・これしげ) 男・24歳 転生者 Lv45/??
ステータスタイプ:【体】寄りのバランス型
耐性:破魔無効
スキル:パトラ(真5仕様)、デクンダ、メディラマ、ディアラハン、ハマ、トラポート、テトラジャ、チャクラウォーク(劣)*4
汎用スキル:房中術、相撲*5
称号:馬背神の加護(中)、スケベ部幹部*6、小泉小太郎*7、ガイア連合派出所管理人、前世はロキ、マジカルチンポ(微)*8
後天的デビルシフター:聖獣スレイプニル Lv34/?? パトラ、ハマ、ディアラハン、ラクカジャ、体当たり、ヒールドロップ、破魔無効、火炎弱点
仲魔1:シキガミ<川上 姫> Lv45/??(SSR)
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:物理・火炎・氷結・衝撃・電撃耐性、呪殺・破魔・精神状態異常無効
スキル:かばう、プリンセス☆パンチ(貫通撃互換)、挑発、チャージ、食いしばり、勝利の息吹、防御形態*9、一分の活泉、二分の活泉、三分の活泉(装備)
汎用スキル:会話、食事、性交、相撲
仲魔2:鬼女 〈好色な〉紅葉 Lv43/50(R)
耐性:物理耐性、呪殺無効、破魔弱点
スキル:マハラギ、アギラオ、ディア、ドルミナー、火炎ブースタ
汎用スキル:性交、詩歌、音楽
仲魔3:女神 道敷大神 Lv42/??(SSR)
耐性:破魔耐性、氷結・呪殺無効、火炎弱点
スキル:ジオンガ、マハジオ、リカーム、デカジャ、ムド、電撃ブースタ
仲魔4:女神 〈淫乱な〉ネペレー Lv39/50(R)
耐性:氷結・衝撃耐性
スキル:霞駆け*10、淀んだ空気*11、誘惑の霧(劣化)*12
汎用スキル:性交、牧畜
仲魔5:妖魔 ヴァルキリー<アグネス> Lv40/50*13(R)
耐性:呪殺耐性、電撃・破魔無効、火炎吸収、毒・精神弱点
スキル:ジオ、タルカジャ、突撃*14、馬は蹄の音を立て*15、英雄狩り*16、物理ブースタ
仲魔6:国津神 タケミナカタ Lv38/??(SR)
耐性:雷撃耐性、火炎弱点
スキル:ジオンガ、反撃、静天の会心*17、ショックバウンド
仲魔7:屍鬼 〈淫乱な〉〈零落したスカディ〉ボディコニアン Lv20(C)
耐性:破魔・呪殺耐性、火炎弱点
スキル:ナイトフィーバー*18、セクシーダンス、麻痺ひっかき、二段の強運
↓
仲魔7:天女 〈淫乱な〉サラスヴァティ/弁財天 Lv20/50(R)
耐性:火炎・呪殺弱点、氷結耐性
スキル:ナイトフィーバー*19、ブフダイン、ラクンダ
以下、シェルター運営メンバー(愉快な仲魔たち)だが戦力として扱わない悪魔
仲魔:天津神ウケモチノカミ
仲魔:鬼女ヨモツシコメ<お万>
仲魔:鬼女ヨモツシコメ<月夜>
仲魔:国津神ヌナガワヒメ
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余話37 トイレの神様
投稿間隔があいたのは年度末のせいです。
牧場は独特の臭いがする。その中でもダントツなのが家畜の排泄物の臭いである。
1頭1日当たり乳牛であれば45kgの糞と15Lの尿、馬(サラブレッド)なら20kgの糞を出すといわれ、それに含まれるアンモニアと硫化水素が悪臭の主原因。
『浦野牧』は黒札の趣味で運営されており利益は二の次であるため、臭い対策もしっかりしている。
狭い厩舎に詰め込んで家畜の体が糞尿が汚れるということもなく、放牧地内にある小川を洗い場として定期的に家畜を洗うほか、厩舎の掃除は毎日一回、放牧地に転がる糞も毎日パトロールして見つけ次第回収している。──式神が。
【ガイア連合】事務員のちひろネキが式神を事務員として雇うと提案していた*1ように、単純作業員として式神を使うアイデアは珍しくない。例えば源氏ニキも【カエレルダイコン】や【ミガワリナス】などの畑作を式神にやらせている*2。
厩舎から集められた糞尿交じりの敷料(おがくずやもみ殻など)は固液分離機にかけて液体は浄化槽からの公共下水道へ、固体は堆肥にするがこれも定期的に攪拌して好気性発酵を促進する。
いやはや、臭気に文句を言わず単純作業を黙々とこなす式神は便利だね! というか、いないと牧場が成り立たないレベルで依存してます。
それ以外にもオゾンやクエン酸など酸性消臭剤(アンモニアはアルカリなので)を使ったり、換気に気を付けたり、生垣に金木犀を植えて季節によるが臭いを芳香で誤魔化したりもするが、それは些末事。
と、ここまで排泄物の処理についてつらつらと書いてきたのだが。もちろん女神転生の世界だけあって、トイレの神様も存在している。
メガテンでは【秘神カンバリ】がお馴染みだが、元がカンバリ入道という厠の妖怪であり、し尿処理にはあまり役立たない。仏教では烈火をもって不浄を浄化する
消去法になってしまったが、日本神話で厠の神とされる
記紀によるとイザナミがカグツチを産んだ際に火傷で苦しみ死に至るが、その死の間際の苦しみで脱糞・失禁し、大便から土の神である埴山姫神が、小便から水の神である水罔女神が生まれる。埴山姫神は粘土・土器の神格化とされているがその生まれから農耕・肥料とも関係あるとされ、そこから転じて厠神ともなる。水罔女神は水神であるが一緒に生まれた埴山姫神と共に農耕を司るとされ、セットで厠神ともなる。
ただ、『浦野牧』に勧請するには縁を結ぶ必要があるが、そこをどうするかなんだよなぁ。
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余話38 とある朝食
「崩壊した世界でもファミチキ食べたい」
【ガイア連合】の【黒札】のスローガンだというジョークだが、半分は当たっている。
黒札が豊かな食生活を送りたいなら、山梨・星霊神社のお膝元である山梨支部に詰めるのが良いだろう。ショタオジ謹製の
【終末】後の世の中では、終末前と同じ食生活を維持するには膨大なマッカが必要にあるが、修羅勢の中にはこの『食』を楽しみとしている人も少なからずいるのだとか。
そのような世情で、山梨支部ではなく全国各地の支部・派出所に居を構えている黒札はどうかというと、某漫画食材の再現に勤しむ探求ネキ*2を筆頭にグルメに目がない連中が多い。
かくいう馬ニキこと平田維茂も、食い倒れというほどではないが粗食と美食なら断然美食派である。小なりといえどガイア連合【派出所】のトップであり、Lvも40を超えて【シキオウジ】を倒せないもののそれなりに実力がある。彼は稼いだマグを基本的に派出所に投資しているが、その中に『長野県産の食材復興』が含まれるのはご愛敬。
*
「いただきます」
一日の活力は朝食から。馬ニキは手を合わせて軽く目をつぶり、日々の恵みに感謝してから箸を手にする。
彼と一緒に食卓を囲むのは汎用スキル・食事を持つシキガミの<ヒメ>と地元霊能組織の霊能者であり彼の妻である宮下千佳(終末後は日本国の戸籍システムが滅茶苦茶なので内縁の妻という形で姓変更していない)の3人で、飲食不要である彼の仲魔たちは一家団欒に顔を出さないことが多い。
まずは味噌汁の椀に手を伸ばし、箸先を軽く湿らせてから信州味噌の香りを感じながら椀に口をつける。
切干大根と
続いてはメインディッシュであるハムエッグ。胡椒やウスターソースなどの調味料はかかっておらず、付け合わせの千切りキャベツにもドレッシングのない素ハムエッグだが、オレンジがかった半熟の黄身と白磁のような白身の対比が目に鮮やか。
目玉焼きの白身が千切れないよう慎重に摘まんで丼茶碗の白米の上に乗せる。半熟の黄身を箸でつついてトロリと流れ出たところに醤油*4を一滴。黄金色に塗れた銀シャリと白身の切れ端をまとめて頬張り、黄身の濃厚な味と醤油のアクセントをじっくりと咀嚼しながら味わう。
お次はハム*5、厚切りのそれを端っこから齧り、付け合わせの千切りキャベツもちょいと取って、豚肉+キャベツ+ご飯のコンビを完成させる。
梅干しと味噌汁で口内を適宜リセットしながらハムエッグを片付け、白米のお代わりを盛り付けたら今度は納豆に芥子と醤油を入れてかき混ぜ、納豆ご飯にする。薬味の刻みネギは少しだけ取り分けて味噌汁にトッピングするのも乙なもの。
終末前であればありきたりの朝食、しかし終末後では限りなく豪華な食事。
佐渡島支部のパピヨンニキも支部長という絶対的権力に付随する余禄*6と認識しているほどの贅沢。
「ごちそうさまでした」
食後のお茶を片手に食休み。空になった食器をぼんやりと見つめていると、<ヒメ>が不安そうな表情で聞いてきた。
「あの、主様? メニューに何か不満でも?」
「いや、不満というほどではないんだけど…… 味噌汁の出汁が、ね」
贅沢なのは分かっているんだが、と前置きしてから馬ニキは心のもやもやを吐き出す。
「出汁が魚樫*7なのが」
「便利ですし、美味しいですよね!」
探求ネキが開発した改変植物のうち、幹枝を削れば鰹節になり肉厚の葉は刺身になるという、鰹と樫のハイブリッドである魚樫。海のない長野県では海産物を味わえる貴重な存在であり、馬ニキは探求ネキに頭を下げて譲ってもらい育成していた。
「いやー、終末前には存在しなかった謎食材を使うと、地産地消100%とは言えないというか、こう、何か負けた気になるんだよな」
「今更そんなことを気にするんです? この前も笹茶をメンマ竹*8製にして効能アップと喜んでいたじゃないですか」
馬ニキはかつて田舎ニキへ勝手な対抗心を燃やした挙句勝手に負けた気になったこともあり、またか、と呆れながら<ヒメ>は彼のよく分からない拘りをばっさり切り捨てた。
「そもそも主食のヒノエ米を瀬戸内から輸入している時点でねぇ? 七味唐辛子の陳皮(温州蜜柑の皮)も
「まぁ食料自給率は大事だから……」
「自給率アップとかいって、【女神ハトホル】にマグを捧げて得たパンと水だけで生き延びる*9ようになるのはちょっと嫌かな」
なんとなくの反抗心を素直に捨てられない馬ニキに、<ヒメ>だけでなく千佳も参戦して二人がかりで説得しようとする。
「自給率なんてほどほどでいいから、海なし県でももっと海産物が食べられるように交易すべきです」
「板海苔でしょ、昆布の佃煮でしょ、アジの開きでしょ。煮干し出汁のワカメの味噌汁、タラコ、しらす干し…… 食べたいなー♡」
指折り数えあげられるおかずの名を聞くと、飯テロを浴びせられているような気になる。朝食を済ませたばかりでなければ屈していただろう。
「……合言葉はファミチキ食いたい、か」
黒札【俺たち】の行動理念に深く共感した馬ニキは、愛妻のおねだりにお手上げのポーズで応じるのであった。
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余話39 好きな惣菜発表アガシオン
ある日、山梨・星霊神社に所要があり立ち寄ったところ、技術部のエドニキから相談を受けた。
「【アガシオン】の不良在庫をどうにかして売りさばきたい?
「いや、あれとは危なさのベクトルが違うっていうか…… まぁ実物見てもらうのが分かりやすいか」
エドニキはそう言うと、手のひらサイズの陶器の一合炊き釜を取り出した。
「それは…… 駅弁『峠の釜めし』の容器?」
「ああ、そうだ。製作者がグルメにこだわって、これにアガシオンを入れたんだ」
エドニキが釜の蓋をひょいと取り外すと、背に羽の生えたデフォルメ体型のワニらしきものが中から出てきた。
「なかなかユーモラスで愛嬌のある外見をしてますね。ぱっと見では問題なさそうですけど」
「まぁ問題はここからだな。少し待てば分かる」
ふよふよとエドニキの周囲を漂っていたアガシオンだが、観察しているうちに突然歌うように喋りだした。
『好きな惣菜を発表します。唐揚げ。なめろう。豚肉と厚揚げの中華風旨煮』
「あの、これって……」
「うん、
「無許可でパクったから売るのが
「いや、
アガシオンは惣菜名を三つ連続で喋った後、押し黙った。それだけかと思ったら、少し間をおいて再び喋りだす。
『牛すね肉とパプリカをトマトで煮込んだやつ』
「発表する品名、数とインターバルはランダムだ。不意の飯テロで集中力が削がれる上に、【終末】前の豊かな頃のメニューを伝えるからタチが悪い」
「終末後の物資不足のご時世でそれは厳しいですねぇ。あー、日本語の分からない外国人に売るなら飯テロにならないかも?」
「ダメだ、こいつはその料理を知らない人にはテレパシー能力で伝えるから、日本語が通じないやつとか、終末後に生まれた終末前を知らない世代とかにも飯テロる」
困ったねぇと肩をすくめるエドニキ。
『おきゅうと』
──おきゅうとは、福岡の郷土食でありコンニャクやトコロテンに似た海藻加工食品。からし酢味噌で食べるのが一般的だが胡麻油ネギの中華風、青じそドレッシングやポン酢などもあう──
突如脳内に流れ込む、食べたことのない料理の情報。外見イメージだけでなくうっすらとではあるが味覚や口触り感まで伝わってきたあたり、ガイア連合の黒札が趣味全開で作成したことがよくわかる。
『根深汁。昭和の文豪、池波正太郎は鶏皮を少し入れた葱の味噌汁で酒も飯もすませてしまうほど好物だとエッセイに書いている』
「お、惣菜名だけでなく解説がつくようになりましたね」
「知名度が低い料理を説明したり雑学知識を披露する、一言コメント追加モードに入ったか」
エドニキが言うには、アガシオンを戦闘に使うだけでなく日常から触れ合って欲しいという製作者の願いから搭載された機能だそうだ。
『モツ焼き、特にハツ。テスカポリトカいわく生贄に捧げられた勇者の心臓が一番美味い』
「ん? ちょっと、AI学習データに変なの混じってますよ」
「学習データの一部をピンポイントで削除できないんだ。やるなら完全リセット・データ全削除だけど、料理データベースとして価値があるからそれはしない方が良いとジャンニキには言われた」
先程のおきゅうとの感触を体感しているので、ジャンニキが勿体ないと言ったのも理解できる。
『鮎のテンプラ。これに比べると山岡はんの鮎はカスや。山形・庄内の芋煮。仙台の芋煮はエセ芋煮』
「ヘ、ヘイトスピーチ…… 一言コメントが完全に悪い方向へ向いてしまってますね」
『お好み焼き。広島焼はお好み焼きとちゃうで。御座候。これは今川焼でも大判焼きでもベイクトモチョチョでもないが、府中競馬場で売られるときのみGⅠ焼きという例外を許す*2』
「これはAI学習時に悪意ある奴のオモチャにされたかな」
エドニキは頭痛を堪えるように額に手を置き、アガシオンを容器の中に戻した。
「アガシオンがレベルアップして【カンバリ】に変化した*3前例があるように、【ハトホル】などの食物を生み出す存在になってくれることを期待して作られたんだけど」
「【オオゲツヒメ】など食物神になる可能性はありますが、確実に変化するとは限らないうえに、変化するまでが苦行ですね。この学習データのままでは売れないと思いますよ」
やっぱそうだよね、とエドニキはがっくり肩を落とした。
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余話40 デュエルしようぜ
【ガイア連合】には遊戯王をモチーフにしたカードゲームやビーダマン・ベイブレード系のテックギミック玩具を取り扱っている【ホビー部】*1が存在する。
それに対し、馬ニキは一歩離れたところから静観していた。なぜなら、彼は前世でTCG(トレーディングカードゲーム)の原点にして頂点*2、Magic: the Gatheringにドはまりしており、遊戯王は彼にとって数ある後追いの一つにすぎなかったからだ。
そんな馬ニキであるが、ホビー部主催のカードゲーム大会に参加することになった。
ホビー部では常に初心者を呼び込んでゲームを衰退させないことに気を配っていて、新規集客につながる他IPとのコラボも積極的だ。このたびギャザのカードをコラボで取り込むことになり*3、それに釣られたというわけだ。
大会の会場でお上りさんよろしくキョロキョロと落ち着きのないムーブをしていると、アメリカ国旗柄のバンダナとサングラスをしたキースという男に声をかけられた。
「ヘイ、何か探し物でも?」
「あー、いや、こういう大会は初参加なんでな。全てが物珍しいっていうか」
「初参加! 素晴らしい! 分からないことがあるなら何でも聞いてください」
キースは大げさなジェスチャーで馬ニキを褒める。もちろんこれは初心者を優しく沼に引きずり込む策略であり、雑談で彼の緊張をほぐしにかかる。
「どうです、大会の開始までまだ時間はあります。フリープレイで対人戦の感触を確かめてみませんか」
「そいつは有難いけど、俺は弱いぞ。あんたのような強者には歯が立たないだろう」
「心配ご無用!」
キースは着ているベストの前をガバっと広げて、デッキをいくつも持ち歩いていることをアピールする。
「そっちに合わせます。ガチでもファンでも大丈夫です!」
「じゃあ、お言葉に甘えて…… ギャザコラボデッキの試し切りにお付き合いをお願いします」
キースはこの界隈で有名人らしく、幾人もの
大会初心者の馬ニキは目の前のキースに手いっぱいでそれに気づいていないが、キースは目ざとく周囲を見回し、見知った顔にアイコンタクトを飛ばす。
『初心者に気持ちよく遊んでもらうために、悪質なギャラリーは排除してくれよ?』
『もちろん! 盛り上げ役だって任せてちょうだい!』
そんなやり取りがされているとはいざ知らず、馬ニキは丁寧に自分のデッキをシャッフルし、キースのデッキをカットする。
「じゃあ、まずはアンティ*4を公開します」
馬ニキはデッキの一番上をぺらりとめくり、そして露骨に顔をしかめた。
「<
仕込みのギャラリーであるショタコンお姉さん(サイカネキ)が解説すると、他のギャラリーもざわざわとどよめく。
そして対戦相手のキースもかなり動揺していた。それはキースがデュエリストの直感でデッキ内のキーカードに目星をつけ、そのカードが初手に来るようなデッキカットをするという、初心者接待のための半イカサマ行為をしたからである。
初手にあるはずのキーカードがいきなりゲームから除外されるのは、キースとしても想定外であった。
『なにぃ~、アンティだと! そんな古いルールを持ち出すなんて予想外だぜ! しかもお高い! くそっ、どうすんだ!』
馬ニキがマグをつぎ込んでチューンしただけあって、そのカードには【エンジェル】Lv20が封じられている。それを転売するだけでキースにとって数か月の生活費に相当するだろう。
「そちらがカードを公開してから言うのもアレですが、フェイク・アンティ*5ですよね?」
「私はどちらでも構わないので、そっちが決めてください。大会前にパーツを失っても予備がありますので、私は大丈夫です」
それを聞いて、キースは闇デュエリストとしての血が騒ぎだすのを感じ、ぶるっと身震いした。
「無知なガキから
キースはにやっと笑い返してから、自分のデッキトップをめくりアンティ札を示す。
「こちらは<
馬ニキとキースは互いに初手をめくり、マリガン*6がないことを確認してゲームスタート。
「平地セット、
「ほぅ、ビートダウン*7ですか。白単色なのか多色なのか。ウィニー*8なのか、ミッドレンジ*9なのか。それではこちら後手、ワンドロー! 沼セット、
『おおっと、キース、0マナカードを絡めて手札を1枚多く消費して、いきなり2/3飛行! ツンドラ狼の1/1先制攻撃では突破できない大きな壁! 挑戦者、どうする?!』
馬ニキは額に皺を寄せながらドロー、引いたカードを手札に入れた後一度手札を軽くシャッフルし、引いたカードが手札のどの位置にあるのかを分からなくする。それを見たキースは、馬ニキが初心者ではなくカードゲーム引退復帰勢だと見抜き、余計な手加減は不要と判断する。
「平地セット、
『プロテクション黒! 小粒ながらマナを注げばパンプアップする、黒いデッキ相手の2T目にはうってつけのクリーチャー! さあキースはこれにどう回答するのか?』
「ドロー、沼セット、飛行機械で攻撃して2ダメージ。その後、
『キースの回答は殴り合い! クリーチャーでの殴り合いです!』
「ドロー、平地セット、<
『挑戦者、全体強化エンチャントを引いて圧を掛ける! 盗賊団は攻撃して狼と投槍兵ダブルブロックで1:1交換するか、攻撃せずブロックに回る代わりに2ダメージ貰うか悩ましい選択です』
キースはドロー後、どや顔をしている馬ニキに申し訳なさそうな顔をしてみせた。
「フルタップしての横展開が仇ですね。山セットからの<
『おおっと、キースのビッグプレイ! 黒単色と思わせて黒赤2色、カード1枚で狼・騎士団・投槍兵の3枚を除去する1:3交換は挑戦者に手痛いアド損*11!』
わずか一手で自身の盤面を一掃され、ぐにゃぁという擬音が聞こえるほどに劣勢に追い込まれる馬ニキ。
その後は<
『再度の圧を掛ける白騎士と、ヒッピー*12を除去する
『そうですね、キースはこれからも1:1交換を続けていけるなら盤面有利のままですから』
いつのまにか、サイカネキだけでなくホビー部に投資しているゆかりさんまでやってきて、解説役が2人に増えて賑やかになっている。
ゲームに集中してよそ見する余裕のない馬ニキに対し、キースは見知った観客に挨拶として軽く手を振るだけの余裕がある。
「ドロー!! <
『挑戦者、
『対するキースも、想定より1T早い天使に思わずしかめっ面! 5枚目の土地を伸ばしてターンエンド、盗賊団が攻撃せずに2ダメージ』
『挑戦者はアップキープに櫃の1ダメージ、そしてドローは2枚目の十字軍! 2ターン連続の良ツモ、6/6天使のえぐい攻撃をキースはボディで受けます。飛行機械を温存したことは天使への回答策があるのでしょうか』
『キースのターン、ドロー! 土地セットから
『挑戦者は櫃でライフ6にしてドロー。お見合いしても仕方がないとばかりに天使で攻撃! キースはドラゴンと飛行機械のダブルブロックを…… いや、キースはブロックせずにボディで受けます! 残りライフ1! これはいったい?!』
『返しのターン、キースはドラゴン・飛行機械・盗賊団でフルアタック。ドラゴンが赤マナ投入でパンプアップできるから、天使とドラゴンが相打ちせざるを得ません! おっとここで挑戦者が<
『なるほど、キースは解呪を読んでいたのですね。あのターンはドラゴン召喚にマナを使い切っているから、天使の攻撃をダブルブロックすると、解呪で飛行機械を割って天使が一方殺を取れる。挑戦者の仕掛けた罠をキースが搔い潜りました』
『おぉっと、キースが戦闘後第2メインで<
『馬ニキは櫃でライフ3に削れます! 黒騎士と盗賊団の2体を同時に対処しないと片方の2ダメージに櫃で終わってしまいます! 白単に対するプロテクション白は圧が強すぎる!』
馬ニキは祈るようにデッキトップからドローすると、深呼吸して意図的に低い声を出した。
「──<
『ここで白の最強リセット呪文が飛び出す! 対象を取らないのでプロテクション白もお構いなし! 挑戦者の
キースの土地3枚とクリーチャー2枚が吹き飛び、お互いに出札はゼロ。それでも馬ニキは盤面リセットしただけでターンを終了するので、手番が回ってきて先にアクションを取れるキースが断然有利。
「ふっ、普段は頼りにならない奴でも、こんな状態じゃ心強い──
苦境を脱したはずなのに、直前のターンとまるで同じシチュエーション。馬ニキはドローカードをちらりと見た後、負けを認めて場に展開されている自分のカードを搔き集めた。
「
「そちらの引きもかなりのものでしたね、地震もドラゴンもあと1ターン遅かったらどうなっていたことやら」
簡単な感想戦を交わし、馬ニキとキースはがっちり別れの握手をした。
「その
「ごっつあんです」
「ふふふ、メーカー・ユーザーどちらも手探りだったあの頃のカオスな雰囲気を思い出せて、楽しかったぜ」
「そろそろ大会受付の締め切り時間です、受付を済ませていないなら余韻に浸るのもほどほどに」
キースのアドバイスを受けて席を立った馬ニキに、それまで観戦していた中学生くらいの女の子が近寄って声をかける。
「あのっ、さっきのデュエル、惜しかったですね」
「ああ、ありがとう」
カードゲームをやれば女の子にモテモテなんて、ホビーアニメの中だけの出来事だと思ってたけど、現実でもあるんだな。
馬ニキは非現実的な出来事を前にして、ぼんやりと変なことを考えた。
「あのぅ、デッキに、天使とか、白騎士とか、十字軍とか、使ってましたよね?」
「そうだけど」
「良かったー、メシア教のお仲間が増えて、私、安心しました! よろしければ今日はずっと、ご一緒しませんか?」
キラッキラな雰囲気をまとって話しかけてくる美少女、しかしその実態は訳アリの厄ネタであった。
「いや、俺はメシア教徒じゃないけど」
「またまたー、カードを深く信頼しているからこそカードも引きに応えてくれるんですよ、常識です! あれだけ天使や十字軍を引き込めるんですから、さぞかし名のあるお方とお見受けしました。どこの教会に所属してらっしゃいます? 連絡先を交換してもいいですか?」
「はいそこっ、大会中の宗教勧誘は禁止です!」
サイカネキが大急ぎで割り込み、馬ニキはメシア教徒に粘着されるという非常事態から逃れることができた。
しかし大会開始前にテンションがだだ下がりした馬ニキは、『デッキが応えてくれない』状態となって本戦を散々に負けるのであった。
馬ニキが4ED+FEMの白単、キースが4EDのみの赤黒。
天秤と露天鉱床は1枚制限です。
初手
馬ニキ:平地、平地、平地、狼、投槍、ライトバー、十字軍
キース:沼、沼、沼、山、飛行機械、邪悪な力、盗賊団
馬1Tドローなし
場:平地、狼
手札:平地、平地、槍男、ライトバー、十字軍
キ2Tドロー地震
場:沼、飛行機械&邪悪な力
手札:沼、沼、山、盗賊団、地震
馬3Tドロー天使
場:平地、平地、狼、ライトバー
手札:平地、槍男、十字軍、天使
キ4Tドロー稲妻
場:沼、沼、飛行機械&邪悪な力(ATK)、盗賊団
手札:沼、山、地震、稲妻
馬Life20->18
馬5Tドロー白騎士
場:平地、平地、平地、狼、ライトバー(ATK)、十字軍、投槍
手札:天使、白騎士
キLife20->17
キ6Tドロー山
場:沼、沼、山、飛行機械&邪悪な力(ATK)、盗賊団(ATK)
手札:沼、山、稲妻
地震X=2で馬のクリーチャーが全滅、その後に攻撃
馬Life18->16->12
キLife17->15
馬7Tドロー剣鍬
場:平地、平地、平地、十字軍、白騎士
手札:天使、剣鍬
キ8Tドローヒッピー
場:沼、沼、沼、山、飛行機械&邪悪な力(ATK)、盗賊団(ATK)、ヒッピー
手札:山
稲妻で白騎士、ヒッピーは剣鍬される
馬Life12->8
キLife15->17
馬9Tドロー櫃
場:平地、平地、平地、十字軍、天使、櫃(T)
手札:なし
キ10Tドロー沼
場:沼、沼、沼、沼、山、飛行機械&邪悪な力、盗賊団
手札:山
キLife17->15(盗賊団攻撃せず)
馬11Tドロー十字軍
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、天使、櫃(T)
手札:なし
天使の攻撃はブロックなし
馬Life:8->7(櫃でダメージ)
キLife:15->9
キ12Tドロードラゴン
場:沼、沼、沼、沼、山、山、飛行機械&邪悪な力、盗賊団、ドラゴン
手札:なし
キLife9->7(盗賊団攻撃せず)
馬13Tドロー解呪
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、天使、櫃(T)
手札:解呪
天使の攻撃はブロックなし
馬Life:7->6(櫃でダメージ)
キLife:7->1
キ14Tドロー黒騎士
場:沼、沼、沼、沼、山、山、ドラゴン(ATK)、盗賊団(ATK)、黒騎士
手札:なし
ドラゴンと天使が相打ち、飛行機械&邪悪な力は解呪される
馬Life:6->4
馬15Tドロー天秤
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、櫃(T)、
手札:なし
馬Life:4->3(櫃でダメージ)
天秤でキースの土地3枚とクリーチャー2体が吹き飛ぶ
キ16Tドロー沼インプ
場:沼、沼、山、沼インプ
手札:なし
馬17Tドロー天使
場:平地、平地、平地、十字軍、十字軍、櫃(T)
手札:天使
馬Life:3->2(櫃でダメージ)
キ18Tドロー沼
場:沼、沼、山、沼インプ(ATK)
手札:沼
馬Life:2->1
馬19Tドロー前に櫃死
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