舞台を解体したい指揮官、部隊が解体されると思い込むラピ (破損)
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舞台を解体したい指揮官、部隊が解体されると思い込むラピ
いつもの厳しい訓練が終わった後、私ラピは指揮官室に向かって歩を進めていた。
普段、私達の所属している指揮官直属の部隊「カウンターズ」は指揮官の見ている元で訓練を行っている。
しかし指揮官が別の仕事で忙しいときは今日の様に三人で自主訓練を行った後、指揮官にその訓練内容や改善点などを三人の中でローテーションして報告するようなルールになっている。
ローテーションになった理由は報告が終わった後、指揮官に余裕があるのであれば二人きりで話をすることが出来るという事をアニスとネオンが知ってから二人が私に文句を言ってきたからだが。
そんな事を思い返しながら歩くこと数分、ようやく指揮官室の前に辿り着く。
ノックをして入ろうとした時、中から指揮官の声が聞こえてきた。どうやら誰かと電話しているようだった。
流石に電話の最中に割り込むのは申し訳ない、そう思ってドアの前で待とうと思った時衝撃的な言葉が私の耳に入ってきた
「そろそろあの部隊を解体したいと思うんだが」
...は?
思わず声が漏れそうになってしまった。
部隊の解体。その言葉が指す部隊というのはほぼ間違いなく私達カウンターズの事だろう。指揮官が解散する権利を持っている部隊というのは私達以外に無い。
でも唐突に何故私達の部隊の解体の話が出てきたのか、その困惑に答えるかのように指揮官の声は続いた。
「ちょっと邪魔になってきてな、別の者を入れたくなったんだ。」
邪魔?別の者?私達の事が邪魔になった?
でもなんで、私達は今まで一緒に戦ってきたのに、戦友と言っていたのは噓だった?
いつもの様に冷静に思考を進めようとするが混乱のせいで全く考えが纏まらない。何かの間違いであって欲しい、そう願う私を嘲笑うかのように
「解体した後の奴は適当に持って行ってもらっても構わない。」
「まあ最悪どうしても使えない奴が出たらバラして捨ててもらっても構わないぞ」
そんな声が聞こえてきた。その言葉はまるで他の人間の様に私達ニケをただの消耗品として見ているかのような発言だった。
私達の指揮官だけは違う、私達の指揮官は私達ニケを人間と同じように見ている、そう今まで思っていたのに。
私達を想うあの言葉は全て偽りだった?
私の中の指揮官に対するイメージがどんどん崩れていく。
「解体は1週間以内でお願いしたいが大丈夫か?」
1週間。それが私たちに残された時間なのだろう。だけど私の大切な仲間であるアニス、そしてネオンを守る為にも何としても部隊の解体は防がなければならない。
「そうだな、トライアングル部隊かエクスターナー部隊を呼ぶか。多分呼べば来てくれるはずだ。」
その二つの部隊の名前は良く知っている。私達ニケ達の中でも特に優秀な部隊と言われている。私達よりも、はるかに優秀な。
その部隊を引き入れたいが為に私達の存在が消し去りたくなったのか、そんな事の為だけに私達は捨てられなければならないのか、そう思うと怒りが込み上げてきた。
居てもたっても居られず私は指揮官室のドアを勢いよく蹴り開けた。
多分、その時の私の表情は今までで一番酷いものだったのだろう。
「はあ、本当にどうしようか」
思わずそんな独り言が漏れてしまう。
私の悩みの種は他でもない、数カ月前に前哨基地に居るニケ達と交流を深めるイベントをしようと思い立ち、マイティツールズの面々にお願いをしてコマンドセンター付近の一等地に偶々あった空き地に急遽舞台の設営をしてもらった。
イベントは無事成功し前哨基地に居るニケ達やニケ同士の親睦も深められたのだが、その後で問題になったのが残された舞台をどうするか?という事だった。
そう、舞台の場所はコマンドセンター付近の一等地にある。そんな好立地にあのイベント以来殆ど使われていない舞台をそのまま放置しておくのはあまりにも勿体ない。出来れば空いた土地にリペアセンターを作りたい。だが折角作ってもらったのに解体を依頼するのは心苦しい、そう思いながらズルズル後回しにしてきた。
しかし、最近はラプチャーの侵攻も激しくなってきてニケ達の怪我も増えてきている。私が直接出向いてニケ達のメンタルケアをしに行くことも考えるとやはり舞台を解体してあの場所にリペアセンターを建てなければならない。
悩みに悩んだ末私はあの舞台を一度解体することに決めた。
だが舞台を解体するのであればリタ―に一度連絡を入れて解体を依頼しなければならない。
私はポケットの中に入れていた携帯を取り出しリタ―に電話を掛けた。
プルルルル...プルルルル...プルルルル...
しばらくコール音が鳴った後にようやく繋がった。
「もしもしリタ―、今手は空いているか?」
『おお、青二才か。今は大丈夫じゃ。何か用かの?』
「そろそろあの舞台を解体したいと思うんだが」
あの舞台をわざわざ作ってもらったのに本当に申し訳ない、そう思いながらもそのことをリタ―に告げる。
『舞台…というと前にイベントの為に作った奴じゃな?何故解体する必要が出来たんじゃ?』
「ちょっと邪魔になってきてな、別の物を入れたくなったんだ。」
『むう…せっかく作ったのに勿体ないの。じゃが事情があるのなら仕方ない、ところで解体後の資材はどうすればよいかの?』
「解体した後の奴は適当に持って行ってもらっても構わない。」
『おお、それはとても助かるの。最近は若干資源が不足しておってな、こういったちょっとした資材でも嬉しいのじゃ。」
「まあ最悪どうしても使えない奴が出たらバラして捨ててもらっても構わないぞ」
『分かったのじゃ。して、いつから解体を始めればよいかの?』
「解体は1週間以内でお願いしたいが大丈夫か?」
『1週間以内となると人手が少し足りぬの、誰か手伝ってくれる者らに心当たりはないかの?』
「そうだな、トライアングル部隊かエクスターナー部隊を呼ぶか。多分呼べば来てくれるはずだ。」
後で文句は言われるかもしれないがなんやかんや手伝ってくれるだろう、そう思ってその二つの部隊の名前を挙げた。
『おお、それは何とも心強いの。ともあれまた詳しいことが決まったらこちらから連絡するのじゃ。』
「ああ、お願いする。じゃあまた」
そう言って電話を切った。
ふう、なんとかここ最近の大きな悩みを一つ解決することが出来た。そう思うと大分気が楽になったように感じる。
一度大きく伸びをする。さあ、仕事を続けようか、あれでもそろそろラピが来る時間じゃないか?そう思いながらも机に向かおうとした時バン!と勢いよく指揮官室のドアが開いた。
ドアの前に立っていたのは怒りの表情を浮かべるラピだった。
「指揮官。どういう事ですか?」
そう言ってラピは私の事を睨みつける。いつも冷静沈着なラピがそんな表情をしているのは初めて見た。
「どういう事って?」
「とぼけないでください!!!指揮官だけは、指揮官だけは他の人間と違うと思っていたのに!」
そうラピは大声で怒鳴る。だがその怒りの原因が私には分からない。
「ちょっと落ち着け。本当に何のことだ?」
「部隊の解体の事です!」
「部隊の解体...?もしかしてさっきの電話を聞いてたのか?」
「ええ、最初から最後まで。指揮官が私達の部隊を解体することも、私達を別の場所に飛ばすことも、私達の代わりにトライアングル部隊かエクスターナー部隊を入れる話も全部。」
「ああ...だから勘違いしたんだな」
「.........はい?」
内容を全て把握した私は困惑するラピにさっきリタ―と話した内容を全て語った。それでも若干疑っているようだったのでリタ―にもう一度電話を掛けさっきの会話の内容が合っているか確認してもらった。
そこでようやく事態を把握できたのかラピは深々と頭を下げた。
「本当に、本当に申し訳ありませんでした。私の勘違いで指揮官に迷惑をかけた事、そしてあまつさえ指揮官に怒鳴ってしまったこと、本当に申し訳ございません。」
「いや、私もそんな勘違いのさせるような通話をしたのが悪かった。」
そう、故意ではないにしろラピを、部隊のメンバーを不安にさせたのは私の責任だ。
深々と下げた頭をようやく上げたラピは震える声でこう言った。
「許して欲しいとは言いません。ですが私は...怖かったんです。この部隊が消えてしまう事が、大切な仲間のアニスやネオンが消えてしまうことが、指揮官が他の人間の様に私達を消耗品の様に思っていることが」
「そんなことは思ってないさ。私にとってカウンターズ、そしてニケは大切な仲間であり友だから。絶対にこの部隊を解体しようだなんて思わないさ。だから安心してくれ。」
「...はい。指揮官。」
そう呟いたラピは更に言葉を続けた。
「指揮官、お願いがあります。もう少しだけこの部屋に居させてください。このまま下に降りるとアニスとネオンに散々からかわれますから。」
「ああ、落ち着くまでここに居ていいぞ。」
こうしてラピの部隊解体勘違い事件は無事解決した。
なおこの後アニスとネオンに何故かこの事がばれ、ラピは結局散々からかわれたようでしばらく落ち込んでいた。
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