瑞鶴の特別任務 ~怪獣撃滅プロジェクトG~ (雷電Ⅱ)
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第1 章 ゴジラvs艦娘
第1話 コンタクト(接触)


こんにちは、艦これ2期アニメの4話放送に待ちきれない雷電Ⅱです
2023年に公開されるゴジラの新作が発表されたことに期待しています(ただ、監督がね……映画「ドラクエ」……)
それはそうとして、本作品は初のクロスオーバー作品を投稿します
クロスオーバー、難しいですね。なので、物語構成に長い時間を要しました
忙しかったこともありますが、やはり生活環境が激変したことも大きいです。投稿が遅くなることもありますのでご了承ください


 ???世界

 

 ラゴス島

 

「恐竜がじっとしているのが幸いでした」

 

 ある男がモニターを弄りながら後ろにいる三人の人達に説明していた。彼らが乗っているのは最先端の乗り物に乗っていた

 

「動物は動くので難しいのですが、これは多分、完全なテレポーテーションが可能です」

 

 その男は投影されたホログラムに指をさしながら説明し、三人もこの後に起こる出来事に固唾を呑んでいた

 

 男はキーボードを叩き、機械を操作していく

 

「テレポーテーション、スタート」

 

 男はそう言いながら、スイッチを押した。それに連動して最先端の乗り物からサーチライトのような光が投影されたが、それはサーチライトではない。テレポーテーションするための光である。少なくとも、この世界のこの時代には存在していない技術であるはずである。だが、彼らは現に恐竜をテレポートさせることに成功した。その証拠にラゴス島に横たわっていた例の恐竜は、既にいなかった

 

Perfect(完璧)!」

 

 モニターでベーリング海へのテレポート成功した事に男は喜び、他の三人も喜んだ

 

 そう……彼らは負傷した恐竜をラゴス島から逃がすことに成功した。これは環境保護ではなく、ある事象の阻止のためである

 

 だから、危険を冒してまで彼らはラゴス島に訪れたのである。恐竜をテレポートさせた彼らは目的を達成させたことに満足し、ある乗り物を使ってラゴス島から飛び去ったのである。元居た時代に戻るためである

 

 だが、彼らは気づいていない。負傷した恐竜は既に異変が起こっていることに。それは恐竜自身も気が付いていないだろう

 

 もし、小型飛行艇型のタイムマシンであるKIDS(キッズ)のエネルギーを吸収してしまったら? 

 

 そのエネルギーが恐竜を変異させたとしたら? 

 

 何しろ、恐竜が怪獣王になったという全ての生物学の既存の範疇を超えているため、遥か未来から来た人間でも予想は出来なかった。いや、この島で数年後に起こる現象を利用してある三匹の可愛いペットを逃がした者がいたが、その恐竜はそれ以上の力を持っている事だろう

 

 正史では、沈没したソ連原子力潜水艦の核燃料の影響を受けて変異した事になっているらしいが……

 

 

 

 基本世界

 

「提督、深海棲艦の艦隊を撃破。負傷者の収容準備お願い」

 

『よくやった。大破が多いと聞いて肝を冷やしたぞ』

 

 艦隊を率いていた瑞鶴は無線連絡をした。港湾棲姫が率いる艦隊との戦闘が終わったところである

 

 港湾棲姫の艦隊は手強く夜まで戦闘が続いたため、全員クタクタである

 

「よく頑張りましたね。五航戦も腕を上げましたね」

 

「加賀さん、それは褒めているの?」

 

 中破した加賀が無表情で言っていたが、瑞鶴はにこりとかえした

 

 が、随伴艦である榛名と鳥海と摩耶と最上は溜め息をついた

 

((((いつもの事だ))))

 

 それもそのはず。瑞鶴の目が笑っていないからである

 

 余談であるが、加賀と鳥海が中破、榛名が大破である

 

 

 

「はぁ~。東京オリンピックというイベントが終わったと思ったら深海棲艦が攻めてくるなんて」

 

「停戦協定が切れたから仕方ないです」

 

「分かっているけど……ねぇ」

 

 瑞鶴は不平不満を言っていたが、加賀はさらりと答えた

 

 呉戦争が終わってから深海棲艦との停戦協定が結ばれ、一応は日本に平和が訪れた

 

 あの戦争で大きな爪痕を残したが、人々は復興に専念したお陰で立ち直りつつある

 

 東京オリンピックは無事に終わり、スポーツ観戦が終わったと同時に深海棲艦の侵攻が始まった

 

 と言っても、小さな島と海の縄張りを拡大し太平洋や大西洋の制海権を握る程度だ

 

 しかし、貿易で生計を立てていた日本にとっては大きな痛手である

 

 浦田重工業の遺産のお陰で農業や畜産業の技術は史実よりも大幅に上がっていたが、それでも自給率は低い

 

 輸送海上路に航行する貨物船も水産資源を求めて海に出た漁船も深海棲艦に怯えながら航行していた

 

 安全海域とはいえ、危険であることには変わり無かった

 

 艦娘でも独自の漁をしており、去年の秋には深海棲艦の縄張りに入り敵の襲撃に備えつつ秋刀魚漁や鰯漁をする事もあった

 

 これを聞いた漁師達は呆れてはいたものの、秋刀魚の大漁に喜んだことは確かだった

 

「そういえば、時雨はどうしているの?」

 

「今はカメラであちこち写真撮影しているよ」

 

 瑞鶴は最上に時雨の様子を聞いた。時雨は今や艦娘の間で英雄の存在だ

 

「新しい一眼カメラを田村1尉にプレゼントされてから夢中になってさ」

 

 最上は休日の日にはカメラを持って外出する時雨を見てクスリと笑った。ここでいうカメラはフィルムカメラである。デジタルカメラだとこの世界で現像は無理だからである

 

「私も撮って貰おうかしら。決戦仕様の姿で」

 

 瑞鶴は数年前に決戦仕様の武者姿を思い浮かべながら言った

 

 明石が作った武者姿は今でも持っている。呉戦争では使わなかった。というより、浦田結衣や浦田残党相手に着る余裕はなかったからだ

 

「五航戦、そこまでにしておきなさい」

 

「ちょっと何よ、写真撮影くらい別に──」

 

「違います。嵐が来ます」

 

 加賀は西の方角に指を指した。先程まで快晴だったのに、西の空に暗雲が立ち込めていた

 

「低気圧かしら? 早く帰投しないと全員びしょ濡れよ。最悪の場合、泳ぐ事になるわ」

 

 加賀の言っている事は正しい。嵐で全員がびしょ濡れになるのは間違いない

 

 しかし、瑞鶴は同時に嫌な予感がした

 

「ねぇ……なんか、あの雲おかしくない?」

 

「それは後。……提督、嵐が来ます。航行に支障はありませんが──」

 

 加賀は無線連絡していたが、瑞鶴は暗雲に目を凝らしていた

 

 その雲は黒く時々、雲の中から何かが光っていた。雲の中で稲光が光ったのだろう

 

 だが、その雲は意志があるかのように瑞鶴達に急速に近づいてくる

 

 そして、気づいた時には嵐の中にいた。雨と風が容赦なく瑞鶴達を襲ったのだ

 

「あー、もう最悪!」

 

「大破艦もいるというのによ!」

 

「編隊を乱さないで!」

 

 瑞鶴と摩耶は悪態をつき、榛名は離れないよう注意喚起をしていた

 

 不意に目映い光が目に入った。稲光が瑞鶴達の近くに落ちたのだ

 

「危なかった!」

 

 瑞鶴は叫んだ。雷に直撃しても大破はしないだろうが、艤装には燃料や弾薬がある

 

 引火でもしたら大惨事である。かといって、避難する場所がない

 

「もし、少しでもずれていたら……」

 

 瑞鶴はそう思った時、強力な波が瑞鶴を襲った。瑞鶴は波に飲み込まれてしまった

 

 波に襲われた瑞鶴は突然の出来事にパニックになったが、艤装は無事で海に浮くことに成功した

 

 ……というより、艤装が浮き輪代わりになったとでも言うべきか。本来なら溺死は確実である

 

「はぁ……はぁ……はっ! 皆、何処?」

 

 瑞鶴は荒い息をしたが、加賀さんを初め周りには誰もいない。仲間を見失ってしまった

 

「冗談じゃない! 一航戦、応答して!」

 

 瑞鶴は怒鳴ったが、無線がおかしいのか返事は雑音ばかりだ

 

「ザザ―……こちら……五……戦……ザザ―……現在地を……」

 

「無線がイカれた!」

 

 辺りを見渡しながら瑞鶴は叫んだが、ある方向に目を向けた途端、立ち止まった

 

 辺りが急に暗くなった

 

「や、山? ……いや、違う!」

 

 瑞鶴は呟いた。目の前に……正確には数十メートル先だが……山が突然現れた。瑞鶴は山の影にいたから暗くなったと分かったが、すぐに異常を察知した。島かと思ったが、様子が可笑しい

 

 まず山にしては形状が異質だった。ある草食恐竜の背鰭のようなギザギザの形をしたものや山の麓には尻尾らしい形状をしたものが生えていた

 

 しかも動いている。

 

 瑞鶴はすぐにあれは山ではなく、生き物であると見抜いた

 

 だが、余りにも馬鹿げている

 

 その生物の大きさに問題があった。しかも、海面から姿を出している事から、全体の大きさはわからない。しかし、上半身だけでも軽くみても高さは五十メートル近くある。その生き物が上陸したら一体、どれほどの大きさなのだろうか? 恐らく倍の慎重にはなるだろう

 

 恐ろしい。瑞鶴は脳裏にその言葉が浮かぶ。ただ大きいから恐ろしいのではない、ただ鋭い爪や牙を持っているから恐ろしいのではない、その生物を前にして本能が訴えるのである

 

『自分はこの生物には勝てない』と

 

 そして巨大な二つの目が瑞鶴の方へ向けられていた

 

「何……あれ?」

 

 それはこちらに向けて殺気を放っていた。それも尋常ではなく、深海棲艦とは異なる殺気である

 

 そして、目の下から青い光が漏れていた。口からだ。口を開き、背鰭と口内を青い光で光らせながらこちらに目を向けている

 

「え? ……え?」

 

 瑞鶴は恐怖した。映画のロケ? 明石達の悪戯? 深海棲艦の新たな姫級? 

 

 そして、次の瞬間……瑞鶴は強烈な青い光と同時に身体全体に強烈な衝撃を受けた

 

 余りにも強力であったため、瑞鶴は宙を舞った。まるで、巨人にでも投げ飛ばされたかのような感じだ

 

 意識が薄れていく直前、瑞鶴は確かに聞いた

 

 今まで聞いたことがないような音が耳に入った。地獄の底から響いて来るような、それでいて甲高い音

 

(まさか……そんな……)

 

 瑞鶴は海面に叩きつけられたと同時に意識を失った

 

 

 

 これが後にこの世界で長年の間語り継がれた神話の始まりでもあった

 

 




瑞鶴「雨が降ってきたわ。どうしよう」
時雨「止まない雨は……ある!」
瑞鶴「え?なんで?そこはないって言わないの?」
時雨「多分、止まない。だって、既に別次元からやってきたウェザー・リポート(
ジョジョ6部)とストーム(X-MEN)とアマツマガツチ(モンスターハンター)を連れてきたからこの嵐は止む事はない」
瑞鶴「なんで私たちの世界にスタンド使いとアメコミヒーローと古龍種がいるのよ!何処から来たの!?」
時雨「主人公の座を渡すくらいなら、大雨と雷雨を降らせて臨場感を出して盛り上げないと」
瑞鶴「まさかと思うけど、ゴジラを呼んだのは貴方じゃないよね?」

扶桑「これが時雨の本来の力」
山城「いや、違うでしょう。時雨を怒らせないようにしよう(ボソッ」


嵐で怪現象が起こるのはよくある事。但し、謎の嵐でやってきたのはイージス艦『みらい』ではなく平成ゴジラ


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第2話 生還

鳳翔が改二実装になりましたね
しかし、改二戦は予想外でした。二隻目も育成しようかな?


 ふと気がつくと瑞鶴は雲の上にいた

 

 にも拘らず、彼女は違和感なんて微塵も湧かなかった。艤装を纏っているから、という思考なのか? 

 

 だが、目の前にいる羽を付けた子供のような人物がこちらに手を招いている。それが天使ということもどういうわけか理解した

 

 知識としてではなく、直感的なものだ

 

 その天使は瑞鶴に門の前まで誘導させた

 

 そして、天使は口を開いた

 

 

 

※注意

 

 天使と瑞鶴とのやり取りのみ台本形式です

 

 ご了承下さい

 

 

 天使「貴方の生前の行いは良かったので天国行きが決まったよ。おめでとう」

 

 瑞鶴「えー! 待って。翔鶴姉は? 加賀さんは? 提督さんは? 他の艦娘は?」

 

 天使「ちゃんと生きているよ。だから安心して天国に入国してね」

 

 瑞鶴「(入国っておかしいけど)そうね……私は死んだのね……」

 

 天使「悲しんでいるところ申し訳ないけど、時間がもったいないから単刀直入に言うね。天国に入国する前に注意することがある。この天国では絶対的なルールがあるんだ。それは僕たち天使の命令は絶対に従うこと」

 

 瑞鶴「え? 絶対に従う?」

 

 天使「そう。理不尽な命令だろうが、従うこと。もし従わなかったら罰として指の骨を1本折るから。心配いらないって。医務室で半日には完治するから」

 

 瑞鶴「て、天国のルールが独裁過ぎる! 冗談じゃないわ! 提督ですらそんな意味不明なルールはしなかったわよ!」

 

 天使「そういうことを言う人が要るんだよね。生前の方がマシと言ってる人が。心配しなくても衣食住は無料だから」

 

 瑞鶴「全然嬉しくない! こうなったら貴方を爆撃して……あれ?」

 

 天使「あ、現世で使った武器は全て無効だよ。ここは現世ではないから艤装どころかナイフすら使えないよ。今はただの飾りかオモチャ。それにポイントが減点するけどいいの?」

 

 瑞鶴「げ、減点?」

 

 天使「減点方式で天国のルールを破ればポイントは減っていき、全て無くなったら地獄に行かされるよ?」

 

 瑞鶴「地獄に連れていかれるの!?」

 

 天使「うん。取りあえずお前……ため口と反抗的な態度を取ったから2ポイント減点な」

 

 瑞鶴「ここって天国じゃなくて地獄でしょ、絶対に!」

 

 天使「生活のスケジュールも既に決まっているよ。ホラ」

 

 

 

 天国住民のスケジュール

 

 0600 起床&人員点呼

 

 0615 居住地掃除

 

 0630 朝食

 

 0745 身体検査

 

 0800 業務

 

 1200 昼食

 

 1300 業務再開

 

 1700 業務終了

 

 1730 食事・入浴

 

 2200 消灯

 

 

 

 天使「0600に起床して朝食を取って身体検査した後に約8時間の労働だよ。因みに電卓と紙束とパソコンのお友達になるデスクワークと勝手に筋肉が付いてきて、手先も器用になる肉体労働があるから好きな方を選んでね」

 

 瑞鶴(何なの!? 某海軍と刑務所を足して2で割ったようなスケジュールは!)

 

 瑞鶴「お、おかしいでしょ! 生前は良いことをしたはずなのに! 本当にここは天国なの?」

 

 天使「おい、奥にいる露助とヤンキーとチャイニーズの元兵士のお前ら!」

 

 R国元兵士「はい!」

 

 A国元兵士「はい!」

 

 C国元兵士「はい!」

 

 瑞鶴(どこから出てきたの?)

 

 天使「ここは天国か?」

 

 RAC「「「はい、ここは天国です!」」」

 

 天使「現世よりも楽しいか?」

 

 RAC「「「はい! 楽しいです!」」」

 

 天使「過酷な軍隊生活や戦場よりもホワイトか!」

 

 RAC「「「はい、ここはとてもホワイトな職場です!」」」

 

 天使「おい」

 

 RAC「「「はい」」」

 

 天使「大きな声で! おい!」

 

 RAC「「「はい!」」」

 

 天使「もっと大きな声で! おいぃ!」

 

 RAC「はぃいー!」

 

 天使「おい」

 

 RAC「「「はぁい」」」

 

 瑞鶴(いや、何この洗脳は?)

 

 天使「な? ここは天国だろ?」

 

 瑞鶴「(不味い。こちらに話を振ってきた)は、はい。天国です」

 

 天使「幸せか?」

 

 瑞鶴「し、幸せです」

 

 天使「楽しいか?」

 

 瑞鶴「楽しいです!」

 

 天使「むかつくか?」

 

 瑞鶴「はい、むかつ……あ、いや、ちょっと今のは……」

 

 天使「はい、引っ掛かった。もう1ポイント減点な」

 

 瑞鶴(引っ掛けとか酷い!)

 

 天使「おい、名無し元兵士三人組。向こうの方で今から殴り合いをしてこいよ。最後まで立ってた奴に3ポイントやるよ」

 

 RAC「「「ありがとうございます!」」」

 

 瑞鶴(もう何処かに行っちゃった。本当に殴り合いしてるの? やることが世紀末過ぎる!)

 

 天使「質問があるなら聞きなよ」

 

 瑞鶴「(な、何か聞かないと!)えーっと。地獄はどんなところなんてすか?」

 

 天使「地獄の管理者は悪魔と鬼が共同運営しているよ。でも、それ以外はここのルールと全く同じだよ」

 

 瑞鶴(じゃあ、どっちでも同じ……)

 

 瑞鶴「さ、最悪。こんな事なら生前に嫌いだった腹一杯七面鳥を食べたかった……」

 

 天使「な~んてね。全部嘘だよ」

 

 瑞鶴「え?」

 

 RAC「「「ドッキリでしたー!」」」

 

 瑞鶴「え? さっきの三人組。ドッキリの看板まで掲げて。しかも殴り合いをしていたんじゃあ?」

 

 天使「冗談だよ。第一、天国にそんな怖いルールがあるわけ無いじゃん」

 

 瑞鶴「ほ、本当!」

 

 天使「当たり前じゃん。ここは天国。楽しい所だよ」

 

 瑞鶴「よ、よかった~」

 

 天使「な、皆。楽しいよな?」

 

 RAC「「「そうだ、そうだ!」」」

 

 瑞鶴(そうね。天国がそんな超がつくブラック職場なんてある訳ないよね。三人組も笑いながら迎えてきてる……ん?)

 

 RAC「「「カタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ」」」

 

 瑞鶴(ひ、表情が怯えている? というか、目が笑っていない? まさか……)

 

 天使「瑞鶴、天国へようこそ」

 

 ??? 「天国に新しい艦娘が着任しました。楽しい労働時間の始まりだよ」

 

 瑞鶴「い、嫌ああぁぁぁ!」

 

 

 

「い、嫌ああぁぁぁ! ……え?」

 

 瑞鶴は叫んだが、目の前が暗くなり気がつくと白い部屋にいた。辺りを見渡すと驚いた表情をしている艦娘達がいた。叫んだのだから無理もない

 

「あれ? ……こ、ここは?」

 

「瑞鶴、無事だったのね!」

 

 突然、誰かに抱き締められたが、銀髪が目についたのと聞き覚えがある声で姉である翔鶴が抱きついてきたのが分かった

 

「翔鶴姉。ここは何処?」

 

「ここは鎮守府の医務室よ。発見された時は意識不明だったから心配したのよ! でも、無事でよかった!」

 

 翔鶴姉の言葉によると、どうやら自分は医務室のベットにいるらしい。意識不明だったためずっと心配してくれたとの事だ

 

 翔鶴姉が離れた時、提督が医務室に入ってきた

 

「瑞鶴、無事か? 第六駆逐隊が遠征の帰りに瑞鶴を見つけてくれたんだ」

 

「あ、ありがとう」

 

 瑞鶴は暁達に礼を言った

 

「当然よ。真っ黒に焼かれた姿には驚いたんだから」

 

「え?」

 

 暁からとんでもないことを聞かされた時は耳を疑った。真っ黒に焼かれた? 慌てて自分自身の姿を見たが、寝間着を着ている自分の姿だった。肌も黒くなく綺麗である

 

 瑞鶴の反応に提督は代わりに答えた

 

「皮膚は明石と夕張が治療してくれた。特製の修復材を調合するのに苦労したと言っていたぞ。3日間不眠不休で製造したから今はあいつらが寝ているが」

 

「み、3日?」

 

 瑞鶴は驚いた。自分は3日間も寝ていた? 

 

「行方不明になった日も入れて4日よ。はぐれた場所から数キロ離れた場所で見つかったの」

 

 近くにいた加賀が坦々と答えた

 

「貴方、何があったの? 新たな深海棲艦が現れたとなると大問題よ」

 

 加賀の質問に瑞鶴は馬鹿馬鹿しい夢の前の記憶が蘇っていった

 

 しかし、自分の見た記憶が正しいのだろうか? 

 

「提督さん、攻撃してきたのを見たけど、言ったところで信じないと思う」

 

「構わない。因みに何の夢を見たんだ? 結構叫んでいたけど」

 

 提督は真剣に聞いた。尤も、提督も色んなことに関わったため、驚きはしないだろう

 

「えーっと。秘密」

 

「言えないほどの悪夢を見たのか? まあ、そこはいいとして、その前の事は覚えているか? 加賀達が変な嵐に巻き込まれから気を失うまでの事だ」

 

 提督の言葉に瑞鶴は、段々と思い出した。平穏な海に突然現れた嵐と暴風雨に現れた巨大な何か

 

 あれは生き物? 

 

「瑞鶴。何か覚えていない? 帰還する時に何があったの?」

 

「えーっと。実は──」

 

 瑞鶴は嵐での一件を出来るだけ詳しく皆に話した。

 

「急に小島ほどの大きい何かが出現して、しかもそれは島ではなくて生き物だと? それて、光のようなものを吐き出してそれを喰らったと?」

 

「そ、そうよ」

 

 瑞鶴は声が上擦りながら答えた。地獄の底から響いて来るような音を思い出したためだ。あれは生き物なのか? 

 

「済まないがどういうものか絵を描いてくれないか?」

 

「分かったわ」

 

 瑞鶴は秋雲から渡された紙と鉛筆を受け取ると書き始めた

 

 瑞鶴は画力はそこまで上手くはないが、報告出来るほどの絵はかける。……ただ、あまり褒められたものではないが

 

「これよ」

 

 瑞鶴は描き終えた絵を提督に見せた

 

 提督も唸っていたが、慎重に聞いた

 

「まるでティラノサウルスを大きくしてごつくしたようなものだな*1

 

「そう? ……でも、それを見たのよ」

 

 瑞鶴は必死になって訴えた。確かにこの目で見たのだ。巨大な生き物を見たのは確かだし、謎の攻撃を受けた

 

「信じます?」

 

「頭の片隅にでも置いておくよ。少なくとも、その海域を警戒させよう。深海棲艦の新種となれば対処しないと行けない」

 

 提督の言葉を聞いて提督は安堵した。通常の人としてなら精神科医に見て貰え、と言うに違いない。その証拠に誰も異論を唱えなかった

 

 しかし、提督は半信半疑ではあるが、信じて貰えた。……まあ、今まで理解を超える戦いがかったのだから感覚が麻痺しているかも知れないが

 

 そんな中、ベットの近くにいた時雨は瑞鶴に聞いてきた

 

「そういえば瑞鶴さん。物凄い勢いで起き上がったけど何か悪夢でも見たの?」

 

「えーっと……」

 

 瑞鶴はどう説明したらいいか悩んだ。あんなよく分からない夢を見舞に来ている数人の艦娘に言うのか? しかも加賀もいる

 

 どう言おうか悩んだが、時雨の心配そうな眼差しをして来たため白状した

 

「て、天国に行かされた夢を見た」

 

「それって吉夢だよね?」

 

「悪夢だったわよ」

 

 時雨が首をかしげたが、瑞鶴は力無く言った。天国で強制労働させられるなんてあってたまるか

 

 

*1
昔の恐竜のイメージはティラノサウルスの他に他の二足歩行の恐竜はカンガルーのように直立姿勢で二本足で歩き回り尻尾を地面につけて歩き回っていたと考えられていた。現在では直立姿勢ではなく、前倒姿勢が主流である。が、『ゴジラvsキングギドラ』に登場したゴジラザウルスが直立姿勢だった他に初代ゴジラも当時の恐竜イメージを影響を受けて参考に作られたため、ここでは涙を呑んでスルーする。もし、前傾姿勢が以前から唱えられていたら初代ゴジラは1998年に公開されたハリウッド版ゴジラ、通称エメゴジみたいな姿になっていたかも知れない




天国(ブラック労働)から何とか逃れた瑞鶴
軍事力ランキング上位のある国の元兵士でも恐れる労働だった模様

ゴジラが元々は恐竜かどうかは不明だが、ゴジラザウルスが小型銃程度の武器では傷一つ付かないという常識離れした生命力を持っていたから我々が知っている恐竜ではなさそう(戦艦の艦砲射撃でもミンチにならなかったし)
初代ゴジラに登場していた山根博士は「今からおよそ二百万年前 学問的に言うとジュラ紀と呼ばれる時代に生息していた、海生爬虫類から陸生獣類に進化する際の過渡期的生物」と解説していたが、実際はジュラ紀は約1億5000万年前である。次作以降では正しい年代になっているが……
まあ、ここら辺を触れるとややこしくなるため、そこまで考察しない方がいいかも知れない(シンゴジやドハゴジなどを見て)


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第3話 異常事態

あるニュースを見て驚きました
陸自がAH-64やAH-1Sの攻撃ヘリを廃止!?
サッカーワールドカップで日本代表が活躍し話題になった事よりも衝撃でした(私の中では)
……まあ、仕方ないかも知れませんね
無人攻撃機が発達している現状、攻撃ヘリは最早時代に合わないかもしれません
しかし、P-1哨戒機を減らすのはどうかと思う。MQ-4C トライトンのような海洋監視に特化した無人機でも開発するのかな?


 瑞鶴が不可解な現象を目撃してから数日後……

 

 瑞鶴の件で例の海域は監視が強化された。瑞鶴の件は半信半疑であったし、その後も哨戒機を飛ばしても見つからなかったのだからである。いたとしても深海棲艦の軽巡ホ級駆逐イ級辺りである。勿論、発見され次第、出撃して交戦したが

 

 しかし、当の本人も半信半疑であったため、そこまで気にはしなかった。新種の深海棲艦がいれば対処するだけだ

 

 浦田残党が復活して戦艦ル級改flagshipの魔改造である浦田結衣が現れたら別だ

 

 だが、そんな情報はないし、今は平穏である

 

 そんな調子で何事も無かったが、ある日。海運会社の社長と海保から一等海上保安監が鎮守府にやって来た。提督に会うや否や真っ先に今回来た理由について聞かされた。海運会社の所属の貨物船グローリー丸が行方不明になった件だ。彼は緊急通信した時に録音したテープを再生したが、再生したグローリー丸の船長はひどく取り乱していた。提督と近くにいた艦娘に聞いていたが。その船長は混乱……いや、錯乱していたように聞こえた

 

『海がおかしい』

 

『海が光っている』

 

『海が沸騰している!』

 

『地獄の釜が開いたみたいだ』

 

『何かがいる!』

 

『何かがこの下にいる!』

 

『海が爆発した!』

 

 無線の雑音から酷く怯えた声がテープから聞かされた

 

 そして、音信不通になる直前に不気味な甲高い音が響き渡った。余りの大きさに提督も大淀も驚き、スピーカーから流したとはいえ、提督室の窓ガラスもビリビリと震えた

 

「これは海底火山? それとも雷鳴?」

 

「……気象庁に問いただした所、こんな音をする海底火山や雷鳴は聞いたことがないと言っています」

 

 暫くして提督は疑問を口にしたが、海運会社の社長は静かに言った

 

「深海棲艦が保有する艤装の鳴き声でしょうか?」

 

 大淀は考えながら言った。姫級鬼級の深海棲艦には艦娘と同じく艤装はあるが、生き物を従える者もいる。例えば、戦艦水鬼改は巨大な艤装の姿をした怪物を従えている

 

「それにしては、こんな咆哮を聞いたことはないぞ」

 

 提督も半信半疑で答えたが、無理もない。深海棲艦の場合は、怨念に混じった咆哮をするからだ。それに、深海棲艦の特有の声すらもない。無線のマイクが拾わなかっただけならあり得るが

 

しかし、考えたところで答えが出るわけではない。提督は向き直って再度聞いた

 

「それで何故私達に?」

 

「グローリー丸が何故沈没したか、その真相が知りたいのです。グローリー丸の船長は、私の友人だからです。あんな酷い怯えた声は初めて聞きました。何かあったかも知れません。調査を依頼しましたが、どの機関も断られました」

 

 社長はハンカチで額の汗を拭った

 

「一昨日の2130に海保も奇妙な現象を目撃しました。安全海域に航行していた巡視船『はまなみ』から遠くの海域で青い光の柱を見たとの事です」

 

「つまり、新型の深海棲艦の姫級の可能性がある。軍に相談したら、こちらに行くよう言われたのですか?」

 

 提督も半ば呆れたように言った

 

 どうやら、海運会社も海上保安庁も未確認現象は深海棲艦のせいだと思っているらしい。民間企業はお手上げで……浦田重工業のように深海棲艦に対抗できる手段を持つ企業なんて存在しない……軍に相談しても対応する部署は限られてくる

 

「……情けないですが、深海棲艦であれば仇を取って欲しいです。勿論、報酬は弾みます」

 

「鎮守府は民間軍事会社ではないですから受け取れませんよ。……しかし、証拠がある以上、調べないと行けません。まして、深海棲艦がいない安全海域で不可解な現象があるのであれば調査する必要があります」

 

 提督の説明により海保の人と海運会社の社長は顔がほころんだ

 

 

 

「本当に調べるつもりです?」

 

「仕方ないだろう。安全海域に深海棲艦が現れたのならやるしかない」

 

 海運会社の社長と海保の一等海上保安監が502部隊の人達の案内で送り出されたのを窓から見ながら答えた

 

「青い光……か。また殺人光線を搭載した新型の深海棲艦とかやめて欲しいものだ」

 

「正確には違いますけどね」

 

 大淀は苦笑した。また、あの強敵が出たらと思うと頭がいたくなる

 

 

 

 作戦室で海上保安官から貰った例のテープを回したが、他の艦娘は首を捻った

 

 船長が錯乱しているのは分かる。しかし、原因がわからないのだ

 

 いや、1人は反応していた。瑞鶴である

 

 

 

 瑞鶴は何時もの通り館内放送の召集で作戦室に向かった。着いた頃には既に皆は集まっていた

 

 今回は安全海域で不可解な現象についてだった。だが、皆はあまり驚かなかった。以前、想像を遥かに超える戦いをしたのだ。なので、ある程度の無茶は承知している。……なんなので慣れている艦娘達も十分におかしいが

 

 しかし、テープの最後にデカく不気味な音に瑞鶴は驚愕した

 

 あの音だ! 

 

「提督、今の音は何ですか?」

 

「僕には生物の咆哮のようにきこえるけど。でも、聞いたことない」

 

「不気味な音だ。でも、この音は何処かで……」

 

「サラも聞いた事もあります」

 

 神通、時雨、長門、サラトガは口々に言ったが、他の艦娘も同じだ

 

 不気味な音を聞いて困惑していた。当然だ。不気味な音を発する何かによって貨物船は行方不明になったからだ

 

 海底火山にしては余りにおかしいものだ

 

 そのため、瑞鶴は咄嗟に手を挙げた

 

 皆が気付き提督もこちらを見た

 

「提督さん、この音です! この音を発する何かにやられた!」

 

「この音?」

 

 瑞鶴の一声で皆の視線が集まったが気にしなかった

 

「瑞鶴、本当?」

 

「本当よ! 間違いない!」

 

 瑞鶴はきっぱりした。地獄の底から響いてくる音は、数日経っても忘れられなかったからだ

 

「ウーン。しかし、こんな不気味な音が生き物の咆哮というのも。深海棲艦にしては、違うような気がするなぁ」

 

 提督は唸るように言った。海洋生物において、こんなけたたましい音を発する生物はいない

 

 尤も、深海の様子は未知数だ。海底には未知の巨大な海洋生物がいる、と主張する学者もいるくらいだ

 

 そんな中、恐る恐る手を挙げた艦娘がいた。酒匂だった

 

「あ、あの~……。酒匂、これに近い音を聞いたことがあります。自信ないけど」

 

 酒匂が言った瞬間、瑞鶴は酒匂の方へ駆け寄り、両手を酒匂の両肩に掴んで揺らしながら問いただした

 

「冗談じゃないわ! 何で早く言わないの! 何処……何処で聞いたの!」

 

「ぴゃぁぁぁぁぁ!」

 

 酒匂は瑞鶴に激しく揺らされたことによって目を回したため、能代と矢矧が無理やり瑞鶴を引き離した

 

 阿賀野と翔鶴は双方の妹をケアしていたが、酒匂の言葉にポカンとした

 

「えっと、映画館です。その先週の休日に行ったから」

 

「「「「映画館?」」」」

 

 阿賀野や翔鶴だけでなく、皆は酒匂からの予想外の返答に皆は唖然とした

 

「こ……これです」

 

 酒匂はポケットから折り畳まれた紙をかざした

 

 瑞鶴は紙を取ろうとしたが、それよりも先に提督が紙を取った

 

 提督は折り畳まれた紙を広げたが、そのまま固まった

 

 回りの艦娘も何なのか興味があり覗き見るようにみたが、反応は困惑していた

 

 瑞鶴は何の紙か知りたくて群がっている艦娘達を掻き分けて覗き見たが、皆が困惑するのも無理もないと思った

 

 それは映画館のパンフレットだ。分厚い紙でタイトルと絵がデカデカと描かれていた

 

 問題はタイトルと絵だ。絵とタイトルに困惑した

 

 そこには建物を壊す怪獣の姿である

 

 タイトルにはこう書いてあった

 

『ゴジラ』

 

 この世界は正史の世界とは違い、数年早く『ゴジラ』が上映された。違いはアメリカはビキニ環礁を水爆実験したのではなく核攻撃した事、画像はカラーである事である*1

 

 正史の世界が酒匂のパンフレットを見たらこう言うだろう

 

”初代ゴジラ”と

 

*1
『時雨の緊急任務』参照




提督と艦娘達、いち早くゴジラを認識(但し咆哮だけ)
余談ですが、クロスロード組はゴジラ映画を楽しんで見てそうな


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第4話 護送任務と未知の生物

今年もあと数日で終わりですね
年末年始はどうやって過ごそうかな


 翌日、提督は巨大不明生物の発見と追跡を命じた。瑞鶴の証言によると50メートル以上もあるデカイ生き物だ

 

 海中なら兎も角、海上に姿を現したら発見は容易だろう

 

 但し、駆除できるかどうかは知らないが

 

「陸奥、本当に映画に出てくるゴジラだったらどうする?」

 

「製作会社が泣いて喜ぶんじゃないかしら」

 

「それだけで済む話だといいが。しかし、巨大不明生物って。確か映画の設定では50メートルだったような」

 

 長門と陸奥は哨戒に当たっていた。尤も、艦隊編成は6隻で主力艦は長門陸奥だ。残りは駆逐艦と軽巡で編成されている。その駆逐艦はずっとソナーで海中を探っている。別の海域には空母を中核とした艦隊もいるため、深海棲艦の空襲を受けたら助けを呼ぶつもりである

 

 しかし、例の巨大不明生物は上半身だけでも、50メートルなのだ。全長はそれ以上になる可能性が高い。駆逐艦の主砲では無理だ

 

 ……戦艦の大砲に効果あるかは知らないが

 

 

 

 別の海域には翔鶴と瑞鶴がいた。残りは駆逐艦だ。彼女の任務は広範囲による捜索任務だ

 

「彩雲でも引っ掛からない。何処なの」

 

「瑞鶴、落ち着いて」

 

 帰還してくる彩雲を着艦させたが、妖精の報告は「異常無し。何も発見されず」だった

 

「提督も言っていたでしょ? 巨大生物でも時間がかかるかも知れないって」

 

「そうだけど」

 

 翔鶴の指摘に瑞鶴は口を尖らせた

 

 

 

『軍上層部もマスコミも新種の深海棲艦の親玉と思っているが、これは無視していい。巨大不明生物にしろ、映画に出てくる怪獣にしろ、貨物船やタンカーなどの航路に影響が出るのは必須だ。瑞鶴や海保の情報を基にして海域での調査部隊を編成する。未知の巨大生物が相手だから、交戦規定は深海棲艦と同じように発見したら攻撃しろ。問題は発見できるかどうかだ。今までこんな馬鹿げた生物の目撃情報は無かったのだから、海底深くにいる生物かもしれない。そうなると、発見は困難だ。最悪、数ヶ月かかっても発見出来ない可能性も覚悟することだ』

 

 提督からは説明されたが、皆は何処か楽観視していたこともあった。何しろ、相手は深海棲艦ではなく生物だ。発見は容易だろうと思っていたが、結局は発見できなかった。現れても深海棲艦の艦隊である

 

 唯一の例としてはアメリカの潜水艦娘であるスキャンプが海中で約10メートルぐらいのダイオウイカと遭遇したぐらいである

 

 ダイオウイカをバックに他の潜水艦娘と一緒に水中カメラで記念撮影したため、鎮守府ではちょっとした話題になったが

 

「はぁー、博士も教授も当てにならないし」

 

「でも、二人とも前向きだから大丈夫だよ」

 

 瑞鶴の愚痴に随伴している駆逐艦娘の時雨が慰めたが、2人の意見も微妙なものだった

 

 瑞鶴は一昨日に提督の父親である博士と岐阜で宇宙ロケットの開発に専念している柳田教授に問いただしたが、反応は今一つだった

 

「確かに深海に未発見の生物がいてもおかしくはないのー。じゃが、光のようなもので攻撃をしてきた、は信じられんのう。蛍のような生物発光と見間違えたんじゃないかの?」

 

 博士は首を捻りながら答えた。艦娘を生み出した博士でも未知の巨大生物は彼にとっては専門外だった

 

 次に別世界から来た天才科学者である柳田教授も深海に巨大生物がいる可能性はあると言いつつも瑞鶴などの目撃談については困惑していた

 

『確かに海底に巨大生物がいてもおかしくはないし、未発見の生物が発見されても不思議ではない。但し、地球最大の生物はシロナガスクジラで全長30メートルだ。絶滅したモササウルスやメガロドンでも17メートル。ダイオウイカは最大記録で18メートル。しかし、50メートル以上は規格外だ。残念だけど、サンプルや写真がないと断言出来ない。僕の友人だったら食いつくだろうが、確固たる証拠がない以上は推測でしかないな。何かあったら連絡してくれ*1

 

 電話越しにそう答えただけだったため、参考にはならなかった

 

 ただ、宇宙ロケット開発は中断して宗谷と共に鎮守府に来るとのことだ

 

 

 

 瑞鶴の頭は一昨日の出来事を思い出していた。2人の反応は困惑していたものの、海底に巨大生物がいてもおかしくはない、とは言っていた

 

「そんなことより、巨大不明生物の名前はどうするつもりなんだろう?」

 

「深海棲艦でも無いなら命名権は私達にあるわね」

 

 時雨の問いに満潮は何処か嬉しそうな表情をしていた

 

 潜水艦娘は10メートルのダイオウイカで注目されたのだ。50メートル以上もの巨大生物が現れたら発見した艦娘は人気になるに違いない

 

 目的とは違うものの、楽観している感があった

 

 深海棲艦と違って相手は生物だ。モンスターパニック映画のような事はならないだろう

 

 こちらには武器があるのだから

 

 しかし、捜索は一時中断された。急遽、ある任務が来たからである

 

 

 

 ある日の事、館内放送で集められた。突然の召集には特に驚かない。しかし、集められた広場には人が余裕に入れそうな大きな鉄の箱が2つ置いてあった。しかも頑丈に造られているらしく、人が余裕で入れそうなものだ。鍵も掛けられており、何かとんでもないものが入っていそうだ

 

「例の巨大不明生物の捜索は一時中止だ。これからは、コイツらを北海道まで護送していく」

 

 提督は巨大な鉄の箱に指を指した

 

「運ぶのは小型輸送艦に載せるから君達は、輸送艦の護衛だ。中身は……姫級の深海棲艦を捕獲したものだ」

 

 提督から衝撃の発言を聞いた艦娘達は驚愕した。深海棲艦と幾度も戦ったことはあるが、捕獲した情報はない。大抵は逃げるか、降伏もせずにそのまま撃沈するからだ

 

「捕獲に成功したのは海軍だ。といっても、深海棲艦の姫級が大破して気を失い漂流していたところを哨戒していた海軍の軍艦に発見されたのを誇張している。誰にやられたのかは分からないが。しかし、今は無機物になって石像になっているから厳重に管理している」

 

「「「「「え?」」」」」

 

 皆は驚いた。姫級鬼級が石像? 

 

「正確には無機物状態になった、といった方がいいかな? まあ、これは実物を見せた方が良いだろう」

 

 提督は合図をすると工作艦である明石が鍵を外し鉄の扉を開けた

 

 中の姿をみた艦娘達は息を飲んだ。確かに深海棲艦の姫級がいた

 

「ウソ……」

 

 瑞鶴は驚いた。見覚えがある。間違える訳がない。自分と似た姿の深海棲艦。深海鶴棲姫だ。だが、今では白い肌は、石像のように黒くなっており、銅像にも見える

 

 だが、まだ生きている。直感的に感じられた

 

 そして、もう一つは未確認の深海棲艦だ。人がタコのようなものに乗っているようなものだ。後で聞いた情報では戦艦未完棲姫と名付けられたらしい

 

 二つの深海棲艦は微動だにせず、動きもしない

 

「提督、このまま攻撃して粉微塵に──」

 

「そうしたい所だが、研究機関が調べたいと打診してきた。しかも、軍の上層部に掛け合ったらしくて破壊は却下された。……元帥も済まなそうに言ってたが。──失礼。深海棲艦の生態は不明だ。俺の父は無機物になることで自身を修復するだとか」

 

 長門は石像を壊そうと身構えたが、提督は手で制止しながら説明しだした。途中、小言で愚痴を言っていたが、いつもの事だ

 

「それは兎も角、こいつを北海道の研究施設に送る。だけど、陸ではテロを警戒してか海上で運ぶよう言われたんだ」

 

「海上輸送? 鉄道輸送や航空輸送ではダメなのか?」

 

「万が一、石像状態の深海棲艦が復活して襲われたら大変、だそうだ。まあ、これが本当の理由だろう」

 

 提督はため息をつきながら言っていた。世間では深海棲艦に対する認識はあまり宜しくない。が、深海棲艦は特殊な技術を施した兵器と艦娘以外は通用しない。それがイヤほど知っているため一般の人は関わろうとしなかった

 

 稀に興味本位で深海棲艦に接近する者がいた。そんな人を艦娘達は必死に阻止していたが、中には強引に海に出る猛者もいた

 

 何でも深海棲艦を保護しようとする団体がおり、実際にこちらの活動の妨害行為をすることも少なからずあった

 

 しかし、これらは深海棲艦と遭遇し攻撃を受け負傷し救助隊に助けられてから初めて後悔するのが定番であった。……中には自分の信念を曲げないものもいたが

 

「こいつの生態系を調べるために国の研究機関へ海上輸送する。こちらの輸送艦を出すから護衛も必要だ。戦艦水鬼改による襲撃も十分あり得るから戦艦も空母もつける」

 

 提督の説明に周りは騒めいた。研究機関への海上輸送は別にいい。しかし、仮死状態(?)になったとはいえ、深海棲艦を護衛するなんておかしいのではないか? 

 

「気持ちは分かるが、捕虜を護衛すると思えば……」

 

「納得いきません! 敵の護衛なんて! 第一、そいつ等を見つけたのは部隊がやるべき仕事でしょ!」

 

 山城は不満そうに言い、数人がうなずいた

 

 瑞鶴も同意見だった。面倒な仕事をこちらに押し付けられた感じだ

 

 だが、提督は予想通りと言わんばかりに口を開いた

 

「では、襲撃を予想して連合艦隊を組む。最低でも12名必要だが、志願する者は?」

 

 提督の答えに皆は頑として手を上げなかった。誰もが不満なのだ

 

「提督さん、当然よ。誰もこんな──」

 

 瑞鶴は抗議したが、言い終える前に提督は瑞鶴の講義を遮るかのように大声で言いながら、小さな黒板を掲げていた

 

「ちゃんと休暇と特別手当はつく。因みに日額はこの金額だ」

 

「「「「行きます!」」」」」

 

 黒板にはチョークで金額と日数を見て大半の艦娘達から手が上がった。結構いたらしく、この反応に瑞鶴は固まってしまった。瑞鶴は手を挙げていなかったが、姉である翔鶴はなんと挙手していた。山城もこの反応にはマネキン人形のように立ち尽くしてしまった

 

「まさか、みんなが金額と有休に釣られるなんて……不幸だわ」

 

「山城、仕方ないわ」

 

 扶桑は落ち込んでいる山城を優しく慰めていた。休暇も危険手当も提督は約束を守っているからこその反応だろう。だから、艦娘達はどんな任務でも不平不満は言いつつも引き受けてくれるのである

 

「そうか。なら、挙手してきた人から選抜する。……ああ、言い忘れていた。瑞鶴、護衛任務には強制参加だ。訳は後で話す。解散」

 

「えー!」

 

 まさかの提督の宣言に瑞鶴は解散前の敬礼もせずに叫んでしまった

 

 数時間後、捕虜である深海棲艦を輸送する艦隊が出撃した。普通の輸送艦と艦娘の支援艦である『おおすみ』に艦娘が囲うように護衛していた。呉鎮守府から出撃し目的地である北海道へ向かったのである

 

 

 

???海域

 陸地から遠く離れ海の底で悠々と泳いでいたソレが反応したのはある意味で必然であった

 

 しかし、ソレはこの世界から来る時から不機嫌さは増していた。ある世界のある島(ラゴス島)でソレはいつもの様に植物や昆虫を喰らい飢えを満たしたところ突如、前触れも無く変な道具を持った二足歩行の動物達(アメリカ軍)に襲われた

 

 最初は襲うつもりなどは毛頭無かった。ただ邪魔なものが近くを通り過ぎるぐらいの感覚であったが、あまりにも五月蠅かったために威嚇しようとしたが、あろうことかいきなり攻撃を浴びせられた。腹を立て暴れたが、追撃している最中に海に浮かんでいる見慣れない鉄の船(戦艦)にやられたのだ。負傷し横たわって意識が朦朧としている時に別の二足歩行の動物達(日本軍ラゴス島守備隊)変な旗(旭日旗)奇妙な鉄の棒(三八式歩兵銃)を携えてボスらしき存在(ラゴス島守備隊隊長)がこちらに向かって何か言っていたが、奇跡的に襲われなかった。感謝しているのだろう。変な二足歩行の動物にも微妙に違いがあるらしく、トドメを刺されなかった事に内心はホッとした。だが、別の二足歩行の動物達(日本軍ラゴス島守備隊)が去ったと思ったら、急に変な光を浴びせられ、今度は見たこともない場所に無理矢理連れて来られ、放り投げられた。そして、自分自身の身体も変化していった。傷はみるみるうちに癒え、パワーはみなぎったものの制御がきかなかった。これに怒らない訳が無い

 

 やっと自分自身の身体に慣れたが、視界に映ったのは見たこともない場所だ。変な二足歩行の動物(艦娘の瑞鶴)が近くにいたため、威嚇するため咆哮を上げたが、その時に口から光を吐き出したのを知った

 

 本来ならこの奇妙な出来事に戸惑うのだが、生憎ソレは人間ではなく恐竜……いや、恐竜だった生き物である。吹っ飛ばされた変な二足歩行の動物は吹っ飛ばされたが、ソレはどうでも良い事でさっさと海に潜っていった

 

 ソレは以前よりも大きくなっていき、体は強く逞しくなっていた

 

 本来ならばとっくに成長が止まってもおかしくはない年齢に達しても、その恐竜は大きく成り続けいった。例の怪光線で変化していったらしいが、その生き物にとってはどうでもいい事だ

 

 縄張りを勝手に作り、自分の近くを通るものは全て威嚇し、口から光線を吐いて追っ払った。付近を通った鉄の船(グローリー丸)を木端微塵にし、変な力を持つ二足歩行の動物(戦艦未完棲姫と深海鶴棲姫)に光線を浴びせ、やっとのんびりとしたところ、ある場所から強力な力の存在を感知した

 

 いや、異様な力を持つ気配は他にもあった。変な力を持つ二足歩行の動物であるボス(戦艦水鬼改)は、こちらを警戒して近づかないようにしている。航行能力も潜航能力も高いため、捕まえるのは容易ではない。こちらに攻撃はしなかったため、そんな生き物集団は放っておいた

 

 だが、その力を持つ気配は身に覚えがあった。島で平和に暮らしていた時に鉄の船から攻撃されたことを。以前はやられたが、今回は違う。攻撃を受けた怒りを抑えることが出来ず、生き物は向きを変えた

 

 距離はあるものの、どうやって最短で来れるか、既に自身の能力は把握していた。狙いは異様な力を持つ集団。能力を発動させそちらに向かった

*1
現実世界でも多くの生物学者は巨大生物の定義次第ではあるものの、深海においてはまだ未発見の生物は存在すると考えている




ごーや(伊58)「哨戒任務おわったでち!」
提督「そうか。では、報告してくれ」
ごーや「海を潜っていたら人魚と出会って挨拶して、海坊主に追いかけられ、竜宮城と遊んできたでち!帰路にアクアマンと名乗る人に送ってもらったでち!」
提督「……お前は何処へ行って来たんだ?」

海底は未知なものがいっぱい!

次回は1月になる予定です。よいお年を


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第5話 ゴジラ出現

皆さん、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします!
今年は卯年。兎といえば漣と巻雲が持っている謎の動物、ピンク色のウサギがいましたね
まあ、「だから何?」と言われたらそれまででしたが(苦笑)
今話はいよいよ怪獣王と艦娘のご対面です


 瀬戸内海・明石海峡付近

 

「全機爆装、準備出来次第発艦! 目標、艦娘支援艦『おおすみ』の艦長席にいる提督、やっちゃって!」

 

「瑞鶴、『おおすみ』を沈めたら私たちが困りますからね。それに偵察機だけ出したでしょ」

 

「言ってみただけよ!」

 

 弓矢を放ちながら瑞鶴は翔鶴に言われながらも偵察機である彩雲を飛ばしていた。本当に爆撃するつもりはないが、やはり不満である

 

「瑞鶴、これは完全に巨大不明生物を引き付ける作戦」

 

「だから言っただけだって!」

 

 瑞鶴はヤケクソ気味になって発艦させながらも出撃する前のブリーフィングを思い出していた

 

 

 

 数時間前

 

「なんで私が出撃? 別に参加しなくても──」

 

「瑞鶴、君は例の未確認生物らしきものに出くわしたな」

 

 瑞鶴は反抗的な態度で聞いたが、提督の思わぬ言葉に何も言わなかった

 

「深海棲艦の研究についてはどうでもいい。親父や博士以外の者は解析なんて録に出来ないからな。期待するだけ無駄だ。だが、誘き寄せる罠としては役に立つ」

 

「お、囮?」

 

 予想外の事に瑞鶴は面食らった。提督は何が言いたいんだ? 

 

「深海棲艦の新たな姫級を鹵獲したんだ。敵の親玉……戦艦水鬼改は当然、奪還を企てるだろう。そのための迎撃だ。但し、これは任務範囲内だ。もう一つは──」

 

「私が目撃した巨大生物?」

 

 瑞鶴は数日前の出来事を思い出した。雷雨でハッキリとは見えなかったが、巨大な生物を見たのだ。しかも、攻撃を受けている

 

「他の艦娘達からの目撃情報はない。しかし、海保や貨物船からの不可解な目撃情報がある。深海棲艦かどうか、映画に出ていた怪獣かどうかは分からない。しかし、目撃したのは瑞鶴、君だけだ」

 

 提督は真っ直ぐ瑞鶴の方を見た

 

「先日、出会って攻撃を受けたんだ。だから、確認は出来るだろ?」

 

「そうだけど……」

 

 瑞鶴は混乱した。また、あの生物と出会うとなると気が進まない

 

 余談ではあるが、この世界の時代は1940年代。浦田重工業の暗躍があった事もあり、高度成長期時代に発展はしたが、まだスマホやインターネットなどはまだ出回っていない。リアルタイムの映像を保存しデータを送るなんて、この時代には存在しないからだ

 

「それにこれは俺の感だ。引き上げられた負傷した深海棲艦の姫級。恐らく、瑞鶴と同じように巨大不明生物と出会って黒焦げにされたと見ていい」

 

「え?」

 

 瑞鶴は耳を疑った。巨大不明生物にやられた? 

 

「対深海棲艦兵器を持っていない部隊が都合よく瀕死状態の敵を引き揚げられるか?」

 

「で、でも……」

 

 瑞鶴は口ごもったが、確かに筋は通っている。深海棲艦は特殊な技術を使った兵器や艦娘以外は倒せないのはハッキリしている

 

「田村1尉みたいな世界なら兎も角、ここでは無理だ。だから、囮を使う。『おおすみ』には俺も乗る。鎮守府は陸奥が代理して貰う」

 

「仕方ないわね」

 

 瑞鶴は不満そうに呟いた。つまり、今回の輸送作戦は敵を誘き寄せるための罠なのだ。しかも、無断でやるらしい

 

 但し、提督は何も上層部に全く報告していなくはなく、元帥には秘匿回線で連絡はしていたらしい

 

 元帥は渋々承諾はしたとの事だが、デスクワークの事は分からない

 

 今週は秘書艦隊担当ではないからだ。提督がめんどくさがり屋で他人に仕事を押し付けるような人だったら、機密情報の一つか二つを盗み見れるかも知れないが、生憎提督はそんな人ではなかった

 

 

 

 現在

 

「だからって海上輸送しなくてもいいじゃない」

 

 瑞鶴はブツブツと文句をいいながら彩雲を交互に飛ばしていた。海上輸送と聞こえはいいが、戦力が多い

 

 まず、例の二体の姫級は小型輸送艦に載せている。本来なら『おおすみ』を出す程でもない

 

 しかし、仮死状態とはいえ捕虜は新しい姫級だ。当然、深海棲艦は奪還してくる。それに加えて、巨大不明生物の話もある

 

 結果として艦娘支援艦である『おおすみ』も出撃し警戒と待機で入れ替わっていた

 

 戦艦娘も4人が控えており、『おおすみ』に載せている

 

 但し、大和を初め長門やアイオワやサウスダコタは未だに海面を走っていない。これは仕方のないことであり、戦艦娘は資源の消費が大きいからである。そのため、不満はあるものの敵を発見したら出撃していい、と提督が言ったため納得はした

 

現在は『おおすみ』の艦内に待機している

 

 他にも空母娘は瑞鶴翔鶴も入れて4人、重巡級4人、重巡級3人、軽巡と駆逐艦は15名、潜水艦4名となった

 

 なぜ、駆逐艦軽巡が多いというと、本来は海上輸送任務だからである

 

 戦闘するための航行ではない。少なくとも今では

 

 瑞鶴は配備された状況を思い出しながらも、やはり納得はしていなかった

 

 現在は瀬戸内海を航行していたが、もうすぐしたら明石海峡を通過する。淡路島も見えてきた

 

「空路で運んだ方が早いのに。深山改という四発輸送機が軍にあるのに何で使わないのよ」

 

 瑞鶴は独り言を言っていたが、突然無線から提督の声が聞こえてきた

 

『深山は空軍所属*1だ。深海棲艦の輸送にはキッパリと断られたから、どうしようもない』

 

「なんで分かるのよ。というか、仲良く出来ないのかしら」

 

『図星か。それは俺の仕事ではない 。しかし、不満そうだな。輸送対象が深海鶴棲姫だからか?』

 

「……」

 

 瑞鶴は答えなかった。いや、答えられなかった。仕事の内容は理解しているが、どうも深海鶴棲姫が他人とは思えなかったからだ

 

 自分と姿が似ている深海棲艦。何度か交戦はしたが、今回は仮死状態として発見されたのだ

 

 全く関心がない、となると嘘になってしまう

 

『もうすぐしたら明石海峡だ。大阪湾を通りすぎたら太平洋側に出る。敵が出やすい海域に出るのだから、気をしっかりしていけ』

 

「了解」

 

 瑞鶴は返信したが、今度はハッキリと言った

 

 確かに提督の言う通りだ。呉から今までは瀬戸内海を航行していたからだ

 

 明石海峡を抜け大阪湾から出れば太平洋で出られる。言い換えれば安全圏から出ることになる

 

「そうね。翔鶴姉、敵を見つけたらアウトレイジでやっつけてやりましょう」

 

「ハイハイ」

 

 翔鶴は瑞鶴のやる気にクスリと笑った。本来の瑞鶴の姿に安心したのだろう

 

「しかし、神戸と大阪を通過か。上陸して観光したいわ」

 

 瑞鶴も何気なく言った。神戸大阪は都会であり、発展してることもあって栄えている

 

 夜景も綺麗だ

 

 そんなことを言っていたが、ふと見ると満潮と朝雲と山雲が全力で必死に両手を振っていた

 

 しかも、こちらに向いて何か言いたそうでもあり、それどころか満潮は隊列を崩して全力でこちらに向かってきている

 

「どうしたのかしら?」

 

 翔鶴は首をかしげた

 

「隊列を乱すなんて……ちょっとあんた達何を──」

 

 瑞鶴は満潮に注意喚起した。退屈な輸送任務だろうが、任務は任務だ

 

 そのため瑞鶴は注意したが、最後まで言満潮は小声で、そしてハッキリと言った

 

「何じゃないわよ! 無線で無駄話しているのは結構だけど、時雨も参加しているのよ!」

 

「それとどう関係が?」

 

 瑞鶴は首をかしげたが、直ぐに思い出して口を塞いだ

 

「忘れていた。大阪って」

 

 瑞鶴は時雨が何を経験したのか書類上で見ただけだが、彼女にとって大阪は辛い経験の始まりだ。時間軸が違うとは言え時雨にとっては良い印象ではない

 

「時雨。大阪は無事だし、臨時基地は建設なんてされていないから安心して」

 

「逆効果だから止めなさいよね」

 

 瑞鶴は慌てて無線で言ったが、満潮に怒られた

 

 周りからは駆逐艦娘から怒られる光景は中々の見物らしく、視線ご集まり瑞鶴はあたふたしていたが、時雨は何も反応はしなかった。特に動揺している様子もなく、淡々と航行していた

 

 そして、空を見上ながら無線で答えていた

 

『瑞鶴さん、満潮。僕は大丈夫。もう気を遣わなくていいから』

 

「そう、良かった」

 

 瑞鶴は安堵した。扶桑山城の耳に入ったら演習でしつこく追い回されるだろう

 

『だけど、嵐が来そうだ。変な雲……』

 

 時雨は無線でそう言ったが、瑞鶴はハッとした。淡路島辺りに奇妙な雲がこちらに向かってきている

 

 奇妙というのは、その積乱雲は低く垂れこめた雲が竜巻を発生する時のように渦巻いているからだ。しかも、暗く内部から発光している。こちらに気づいた時には強い風が吹き荒れていた

 

 怒っていた満潮も宥めていた翔鶴も奇妙な積乱雲に見とれていた

 

「提督さん……私が言っていた例の積乱雲」

 

『見えている。しかし、あんなのは初めて見るな。深海棲艦のものでも無さそうだ』

 

 提督も困惑しながら連絡をして来た。他の艦娘も同様だ。誰しもが思っているのだろう

 

 こんな奇妙な積乱雲は見たことがない、と

 

 深海棲艦の仕業とも考えられていたが、こういう現象は必ず深海棲艦が近くにいる。だが、

 

 しかし、偵察機にも電探にも深海棲艦が発見された報告はない

 

「どうします?」

 

『警戒しつつ観察しておけ。それぐらいしか今は出来ない』

 

 翔鶴は指示を求めたが、提督からの返答はそれだけだ

 

 積乱雲相手に何も出来ないのだから仕方ないが

 

 皆は警戒をしていたが、突然吹き荒れていた強風が止んだ

 

 辺りは静かになり、太陽も奇妙な雲に隠れたため不気味な空模様になった。余りの奇妙な出来事に沿岸部には野次馬が集まっているのが確認出来る

 

 だが、一向に雨が降る気配がない

 

『雨は降るかな?』

 

 時雨が呟いたその時、稲光が淡路島の陸地に落ちた

 

 

 

「きゃ!」

 

 翔鶴が悲鳴を上げた。真っ黒い雲から何度も青白い稲光が降ってきたからだ。しかも、閃光は目を覆うほど眩しかった

 

「嫌な天気に合うなんて!」

 

 瑞鶴は腕で目を覆いながら嵐を睨んだ。周りの艦娘も動揺しており、暁は泣き出しそうにしていた。雷は苦手らしい

 

「なんて日! 雷がこんなに降ってくるなんて!」

 

 満潮は悪態をついた。簡単な輸送任務なのに、こんな天気になるなんて

 

 幸い、雷は全て淡路島の陸地に落ちているため、こちらには被害はない

 

 しかし、雷は連続して落ちているため近くに落ちてもおかしくはない

 

 そんな異様な天候に時雨は無線で提督と連絡していた。オープンチャンネルであるため、他の艦娘とのやり取りは聞いていたが、そのやり取りも驚くべきものだった

 

『提督、変な嵐だ。おかしい。雨が降る気配がない』

 

『それだけじゃない。あの雷。雷鳴はしないぞ。しかも、同じところばかり落ちている』

 

 時雨と提督の無線のやり取りに瑞鶴はハッとした。確かに雷鳴がない

 

 色んな海域に出撃したが、こんな嵐は聞いたことがない

 

 雨も降らず巨大な積乱雲から放たれる稲光。しかも、全て淡路島の陸地に落ちている

 

 何度も稲妻が淡路島の陸地に落ちたが、唐突に雷が止んだ

 

「何なの、あの稲妻?」

 

「26回も落ちたのに、雷鳴は聞こえなかった」

 

 瑞鶴も翔鶴も奇妙な積乱雲を見上げながらいった。あの奇妙な積乱雲は淡路島から動いていない

 

『各員、警戒しろ。幸い、積乱雲は淡路島上空だ。今のうちに明石海峡を通り抜け──』

 

 提督が無線で連絡していたその時だった。再び積乱雲から稲光が走った。だが、以前の稲光とは違い、巨大な雷鳴を轟かせていた

 

 まるで爆撃したかのように稲光が落ちたところか大爆発が起こり、土煙が舞った。だが、稲妻が落ちた付近……正確には淡路島方向は急速に暗くなった。低く垂れこめた雲が発達したかと思ったが、違う。この暗さは影だ

 

「なぁ……淡路島のあそこに尖った山なんてあった?」

 

「山? ……あれが山!?」

 

「山が動いている!」

 

 天龍と鳥海、そして摩耶が驚いた。淡路島の沿岸部に山が突然出来るわけがない。土埃でハッキリと分からないが、何か巨大なものがいる。しかも、動いている

 

 土埃や塵が納まり、視界が良好になった時、全員が驚愕した

 

「か、怪獣?」

 

「いや、怪獣というか……あれって」

 

 時雨と満潮は声を震わせながら淡路島の方へ見ていた。巨大な尻尾に背中にはギザギザの背鰭、そして二足歩行の巨大なモンスター(怪獣)

 

 全員が突然現れた巨大な巻雲に驚いた。公開されている映画に出てくる怪獣とは違い、生物感がある。何よりも殺気立った視線をこちらに向けている

 

 艦娘は武器を構えながら、警戒していた。どう動くか分からない。だが、何もしない訳にもいかない

 

 艦娘達が混乱している最中、怪獣は動き出した。口を大きく開いたと思った瞬間──

 

 ギャーンゴーン グワワァン! 

 

 並外れた咆哮が辺りを響き渡った。淡路島と艦娘達が航行している場所は離れているにも拘らず、その鳴き声で艦娘達は耳をふさぎこんだ

 

「ひぃ!」

 

 普段ではマイペースでのんびりとしている山雲でも耳から脳へ伝わった咆哮は、原初的な恐怖を無理矢理呼び起こし、半ば強制的な恐怖状態になってしまったのだ

 

 驚いているのは艦娘達だけではない。一緒に航行している輸送艦『おおすみ』に乗っている者も驚愕していた

 

『おおすみ』の艦橋から一連の出来事を見ていた者達は驚愕していた

 

「ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ、ゴ」

 

 明石は半ばパニック状態なのか、うまく言葉が出なかった

 

「ゴジラ!?」

 

 パニックになっている明石とは対照に大淀は冷静になっていたが、誰もが思っていたことを口にしていた

 

「ほ、本当にGodzilla!」

 

「え? あ、あれが?」

 

 アイオワも大和も驚愕していた。まさか怪獣映画に出ていた怪獣王が現れるとは思っていなかったのだろう。しかも、映画と比べて顔つきが険しい

 

「総員戦闘配置! 標的はゴジラ! こちらに向かってきたら迎撃しろ!」

 

 提督は即座に無線で伝達した。姿形からして、ゴジラと分かった今、『巨大不明生物』などと呼称する必要性がない

 

「おい、大和! 艤装を纏って出撃しろ!」

 

「え? あ、あれとやり合う気ですか?」

 

 予想外の命令に大和は驚愕した。深海棲艦や悪徳会社である浦田重工業の連中ならまだわかるが、まさか怪獣王と戦え、という命令を下すとは思わなかった

 

「ねぇ、映画に出ていたGodzillaの身長って幾ら?」

 

 大和とは違いアイオワはゴジラを双眼鏡で見ながらマジマジとみていた

 

「確か公開していた映画では50メートルだったが、それがどうした?」

 

 提督は軽く言ったが、アイオワは既に計測したのかハッキリといった

 

「倍の100メートルある」

 

「そうか……誰か巨大化出来る艦娘いるか?」

 

 提督は力なく言った。あんな巨大な怪獣が出るなんて想定していない

 

「流石にいませんよ。超進化する薬品も教授と博士がいないと無理ですし」

 

「理系二人の力なしで乗り切らないといけない訳か」

 

 提督はため息をついた。幾度も奇妙な出来事が起こっているのを目の当たりにしたため、ゴジラが出現しても感覚がマヒしているせいか驚かなくなっていた

 

 逆に記録用として撮影用のカメラは回すよう言っているが

 

 

*1
史実では旧日本軍には空軍は創設されていない。この世界では設立している設定である




大和「あれ?出現なのに全然嬉しくない?」


淡路島にゴジラ出現!
因みに「何で淡路島なんだ?」と言いますと淡路島にはゴジラミュージアムとアトラクションがあるんですよね
去年、旅行した時に立ち寄ってみてきました。結構楽しめましたし、その時は歴代のメカゴジラのフィギュアや写真が沢山ありましたね
え?メカゴジラ出るって?知らない()


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第6話 ゴジラ迎撃作戦

ゴジラVS艦娘
両者が実際に戦ったらどうなるのか、と聞かれると答えは一択


 海上では大混乱していた。まさか、淡路島にゴジラが登場するとは思わなかった。正確には映画に出ていた姿形や鳴き声は微妙に違うが、どう見てもゴジラだ

 

「ど、どうしよう」

 

 瑞鶴も混乱していたが、瞬時に立ち直り、この場をどう切り抜けるか頭を駆け巡っていた。ゴジラがこちらを見ている。本当に映画通りなら放射熱線を吐くはずだ

 

 アウトレイジで攻撃? 噴式攻撃? 艦攻艦爆による航空攻撃? 

 

 そう言えば、ゴジラは通常兵器には効果が無かったような。映画通りに効果なかったら、どうやって倒せるんだ? 確か、映画ではある科学者が超兵器を使って骨ごと消滅させたが。しかし、それは映画の話だ。目の前にいるゴジラは、通常兵器に効果あるかもしれない

 

 瑞鶴は矢を取り、弓を引こうとしたが、誰かが矢を持っている手を掴まれた

 

「待って!」

 

 見ると翔鶴が瑞鶴の艦載機の発艦を止めていた

 

「下手に刺激したら艦は全滅します!」

 

「本当に映画通りのゴジラな訳ないじゃない。ただ雷によって突然変異しただけの巨大なイグアナとか」

 

「瑞鶴、そんな訳ない……でしょ……?」

 

 ちょっとしたいざこざはあったが、翔鶴が言い終える前にゴジラが動き出した

 

 なんと海岸まで歩くと海に飛び込み、そのまま潜っていった

 

 遠くで巨大な水飛沫が上がったが、その直後海面にギザギザした形をした小さな山が現れた。それが、ゴジラの背鰭だと分かるのに時間は要しなかったが、問題が起こった

 

 背鰭が水飛沫を上げながらこちらに向かっている。まるで腹を空かせたサメが来るかのようにこちらに向かって猛スピードでこちらにやってきている

 

 ゴジラが泳いできている! 

 

「ああっ! ゴジラ、ゴジラ、ゴジラがやっている!!」

 

 白露が絶叫しパニックを起こしていた。時雨が宥めようとしたが、無理もない。身長100メートルものの怪獣がこちらに向かって泳いでいるのだ! これでパニックを起こすな、は無理がある

 

『攻撃開始! 兵器使用自由!』

 

 提督の命令により、艦娘の艤装に取り付けられているあらゆる砲が火を吹いた

 

 大和や長門タチノ戦艦も『おおすみ』の甲板から飛び降りると即座に火を吹いた。甲板から海面までそうとう高さにもかかるにもかかわらず、負傷もせずに見事に着水した身体能力には驚くのだから、皆は驚きの声も上がらない。怪獣が泳いでくるという前代未聞の出来事に比べたら大した事もないからである

 

 様々な砲弾や魚雷が背鰭と付近に着弾し、巨大な水柱が上がったが、背鰭の動きは全く止まらない

 

「攻撃機、全機発艦!」

 

 瑞鶴は全ての艦載機を上げた。噴式から艦攻艦爆全て。付近に戦闘機はいないため、優先的に攻撃機を上げた。翔鶴姉だけでなく、加賀もサラトガも艦載機を上げてきた

 

 彗星から投下する爆弾と天山や流星改から放たれる魚雷に対して怪獣は回避行動すらしない

 

 全弾命中! 命中した個所から爆発が起こった

 

 無数の爆撃で怪獣も怯むと思ったが……ゴジラはスピードを緩めず進路も変えない。しかも、爆弾や砲弾が命中した個所は何事も無かったかのように健全だ。傷一つ付かないなんてことがあるのか?

 

 それどころか怪獣は長い尻尾を振り回し上空を飛んでいる艦載機を叩き落とした。まるでハエ叩きで虫を殺すかのように艦載機はあっという間に海の藻屑と消えてしまった

 

 駆逐艦も軽巡も回り込み砲撃したが、尻尾攻撃には逃げるしかなかった。全員無事だが、尻尾が海面にたたきつけられた衝撃の波に数人の艦娘は飲み込まれてしまった

 

 

 

「ヒッ!」

 

 海の中を航行していたゴーヤである伊58は泳いでいる怪獣を見ていた

 

 大きい……これが第一印象だ

 

 深海棲艦の中で巨大な艤装を持っていた太平洋深海棲姫や南太平洋空母棲姫と比較にならない

 

 そもそも、二つの深海棲艦は生き物をベースにしているのだから巨大になるのは仕方ない

 

 だが、目の前の生物はなんだ? 巨大すぎる

 

 唯一の救いはこちらに興味を持たないのか、それともエサとして認識していないのか付近を通っただけでこちらに攻撃されていない

 

 だが、怪獣の狙いは明らかに輸送艦『おおすみ』と深海棲艦を輸送している輸送船だ。これでは提督も『おおすみ』に乗って待機している艦娘も他の人も犠牲になる

 

 いや、この怪獣が本土に上陸したら被害はさらに増える

 

 

 

 海面から背びれを出しながら泳いでいたゴジラが突然、消えた。いや、正確には背びれが海に沈んだのだ

 

「潜航した……」

 

「爆雷を投下しよう!」

 

 白露は顔を真っ青にしていたが、時雨は爆雷投下を提案した。その直後、沢山の発射音が辺りを鳴り響いた。ジャーヴィスと松がヘッジホッグを発射したのだ。恐怖にかられて即座に発射したのか、それとも無意識に発射したのか

 

 ただの潜水艦……深海棲艦の潜水ヲ級などなら大抵は仕留められるはずだ。深海棲艦なら……

 

 爆雷が着水して数秒後海面からあちこち爆発したが、何も起こらない

 

『各員、海面がクリアしたらソナーをフル稼働させろ! 奴が何処へ行ったかまだ──』

 

 提督から無線で命令していたが、突然大和たちがいる場所の近くに海面が盛り上がった。そして、みるみるうちに高さが上がり見上げる程の高さへとなっていく。それにつれて周辺の海水の動きが激しくなっていく。

 

 やがて海水は限界まで上り詰める。そのとき盛り上った海水を突き破りあるものが現れる。巨大な目と口、黒い皮膚を持った巨体、立派な背びれ……

 

 海面から上半身だけ姿を出した奴の姿が現れた

 

「た、立ち泳ぎしている?」

 

「そんなのどうでもいいって!」

 

 冷静になって分析している時雨と未だにパニックになっている白露が言っていたが、今はそれどころじゃない。艦娘を含めた艦隊のど真ん中に姿を現したのだ

 

 パニックになっても仕方ないかもしれない。だが、応戦するものもおり、ゴジラの頭部と首辺りに爆発音がした。

 

 ゴジラが浮上したことにより押し流された大和が、体制を立て直すと即座に砲撃をした。至近距離であるため、46cm主砲弾は全弾命中。しかし、表皮が爆発しただけでかすり傷すら負わせていない

 

 天龍が突進し剣を突き刺したが、刃は皮膚を通らず逆に刃が折れてしまった

 

「俺の剣が壊れた」

 

 天龍は青ざめた。剣の心配をしているわけではない。深海棲艦で使った武器が怪獣に効果がない事を意味する

 

 

 

「攻撃が全然効いていない!」

 

 瑞鶴は一連の流れを見ていた。自分たちが相手にしているものは本当に怪獣王のようだ。そっくりさんとかではなく、映画の設定をそのまま出したかのような存在だ

 

 となると、真っ先に脳裏に思い浮かべたのは最悪の状況である

 

(もしかして……放射火炎を吐くの?)

 

 瑞鶴は酒匂が先日、ゴジラの映画を話していたのを思い出していた。確か放射能を含んだ息を吐いて、あらゆるものを発火させたり、溶解させたりして東京を火の海にしたような物語だったような……

 

 もしかして、あの怪獣もやるの? 

 

 いや、アイツは生物だ。そっくりさんのはずだ! 

 

 瑞鶴はそう願ったが、残念ながら事態は瑞鶴が思っていた最悪の方向へ転んだ。

 

 背びれが青白く光ったと思うと怪獣は口を開き始めたのだ

 

「あ……あ……」

 

「長門さん、逃げて!」

 

 長門は腰を抜かしたらしく、海面に蹲っていた。何時もは武人のようにしっかりとしていた長門が怪獣の姿を見て怖気づいてしまったのだ。そんな長門を大和は庇うようにして立ちふさがり、アイオワは長門を引きずろうとしていたが、間に合わない。ゴジラは狙いを定めて攻撃しようとしている!

 

 瑞鶴は即座に動いた。手持ちの艦載機を上げる時間はない

 

「瑞鶴、ダメ!」

 

 翔鶴姉の悲痛な叫びが聞こえたが、今は立ち止まるわけにはいかない。本当に吐くのか? 

 

「大和さん、早く逃げて!」

 

「くっ!」

 

 瑞鶴が叫んだが、ゴジラの方が早かった。瑞鶴が覚えているのは眩い青い光が視界一杯に広がった事と身体が突進する車に激突したかのような衝撃を受けた

 

 瑞鶴は再び宙を舞った

 

 




提督「明石、オキシジェンデストロイヤーって作れる?」
明石「話が速攻で終わるから開発しません!」

余談ですが、全作品を通じて人類がゴジラを確実に殺したのは2回(ヤシオリ作戦によるシンゴジラ凍結など不透明は除く)。オキシジェンデストロイヤーによって骨ごと溶かされる(初代ゴジラ)のと電磁波を暴発させてゴジラフィリウスを爆死させる事に成功したハルオの作戦(アニメゴジラ)だったりする。まあ、1998年のエメゴジを含んだら三回ですが
ん?この作品ではどうなのか?
さあ?


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第7話 時空の裂け目

艦これアニメ2期で全8話は短すぎる



 ゴジラ出現から数時間後・明石港

 

「で、何が起こったんじゃ?」

 

「それは僕が聞きたい」

 

 提督の父親である博士は、元帥からの緊急連絡を受け、現場へ向かった。緊急連絡を受け現場に行かされたことは何度もある。だが、内容が突拍子も無かった

 

 内容も断片的なものだが、その中には「明石海峡から海坊主が現れ艦娘の艦隊を襲った」「嵐から黒い竜神が現れた」「深海棲艦が怪獣を従えてきた」「映画よりも逞しくなったゴジラが現れた」など耳を疑うものばかりだ

 

 こんな与太話を真に受けるよりも現場に行ってみれば何が起こるか分かるはずだ。博士も軍に所属はしているとはいえ、立派な科学者だ。なので、集団幻覚か新種の深海棲艦の姫級を見間違えたとかだろうと思っていた

 

 しかし、現場についた光景は目を疑うものばかりだ

 

 明石海峡と淡路島上空に不気味な雲が立ち込めていた。雲の内部に稲妻が発生しているのか、雲から光が漏れていた。そして、海上には奇妙な白い光が光っている。その光は発光体みたいで火の玉のように漂っている

 

 捕虜である新型の深海棲艦を乗せた輸送艦は煙をあげながら傾いていた。港にいるが、辛うじて浮いている状態だ。沖合いに艦娘の支援艦である『おおすみ』がいたが、みた限りは無傷だ。但し、損傷はしているらしく、明石と妖精たちが修復作業を行っていた

 

 付近の海岸には野次馬やマスコミなどが集まっており、警察が対応していた

 

 車を降りると柳田博士は既にいた。彼はたった今着いたようである。艦娘である宗谷もついている

 

 博士は柳田教授と一緒に港へ続く道へ行き、立ち入り禁止区域へ向かった。道路は遮断して軍と警察が警備していた

 

「現場へようこそ。調べて欲しいのが山ほどある」

 

 502部隊の曹長が迎えに来てくれた。502部隊は元々は特殊部隊だが、ある事件によって艦娘の鎮守府所属の憲兵隊になった。だが、彼らは不満はなく誰一人も離隊者はいなかった。曹長に案内されカッターに乗り込んだ

 

「どういう状況じゃ? 元帥から聞かされた話ではゴジラが現れたと」

 

「どうもそうみたいです。私は見ていませんが」

 

 曹長は博士の質問には応えた。博士の地位は中将なので敬語である

 

「すると何だ? 放射熱線でも吐いたのか?」

 

「みたいです」

 

 柳田博士も笑いながら聞いた。彼は艦娘の見間違いだろうと思っているらしい

 

 だが、それも嘲笑いから驚愕することになる

 

 

 

「ゴジラじゃな……」

 

 博士は『おおすみ』に乗り込み部屋に案内された

 

 さっそく記録用の映像を見せて貰ったが、映像を見て数分は呆然としていた。 それもそのはず。身長百メートルものゴジラが突然現れ、泳いで艦娘に向かう映像を見せられて冷静になれる訳がない

 

 ゴジラが海面から顔をだし放射熱線を吐いたところで映像は途切れた。画面はノイズが走っているだけだ

 

「続きは?」

 

「熱線は輸送艦の左舷に直撃。沈没は免れましたが、捕虜である深海棲艦が行方不明です。艦娘による牽引で明石港へ避難しました。艦娘も3人は諸に受けましたが、1人は行方不明で2人は重症です」

 

 柳田博士は訝しげに聞いたが、提督が答えた。カメラの方は熱線の影響なのか壊れたらしい

 

「ゴジラは?」

 

「熱線を吐き終えたら白い光に包まれて消えました。例の雲は全く動く気配も無いし、海域は奇妙な現象が起こっています」

 

 提督は3人についてくるように言った。部屋から出て廊下を歩き艦尾へ向かった。艦尾には広い区画があり、後部からデッキが開き艦娘を吐き出すシステムになっている。そこには艦娘達が沢山いた。野戦病院みたいになっており、手当てを受けている者もいる

 

 怪我をしなかった艦娘でも、怪獣と出会った事は初めてであるのか毛布を被り震えている者がいた

 

「親父と教授、不可解な現象が何故起こったのか解析してくれ、今すぐに」

 

 提督は今や命令形になっていた。階級立場よりもプライベートでのやり取りになっている

 

 

 

「私は見たんだ。海面から現れた怪獣の前に足がすくんだ」

 

「無理もない事じゃ。未知との遭遇だから仕方ない。じゃが、よく頑張った」

 

 長門は毛布を肩に被さったまま震えながら話していた。それだけショックを受けたのだろう。いや、長門だけではない。ゴジラと遭遇し交戦した艦娘も同類だった

 

 暁や朝雲は暖かいココアを受け取っても飲もうともしなかった。目が充血していたことから泣いていた事が明白だ

 

 時雨や満潮が付き添っているが大丈夫だろう

 

 ショックを受けている艦娘がいる一方、すぐに立ち直る者もいたが、それでも気が動揺しているのは明白だった

 

 しかし、翔鶴は違っていた。完全に塞ぎ込んでいた

 

「瑞鶴……」

 

「心配しないで下さい。ゴーヤ達が見つけてくれます」

 

 そう。瑞鶴が行方不明なのだ。ゴジラが青い光を発する直前、瑞鶴が翔鶴や大和さんを突き飛ばして間一髪直撃を免れた。しかし、瑞鶴が……

 

「私達が逃げていれば……」

 

「自分を責めないで下さい。まだ死亡と判断した訳ではないです」

 

 大和は格納庫の片隅に目をやった。そこには柳田教授とAIロボットであるターズが映像分析をしていた。時折、海上調査をしに宗谷が機器類を持って行ったり来たりしていた

 

 今回の出来事は深海棲艦でも浦田重工業の仕業でも無いだろう

 

 しかし、この世とは思えない存在に勝てるのだろうか? 

 

 

一時間後……

 

「では、僕が今回の事を説明する。時間が圧倒的に足りないのと未だに不明なところがあるけど、現在分かっている事だけなら聞いてくれ」

 

 格納庫に室内には大型スクリーンと、そして映写機が用意され、写真が写し出されていた。例の雲と雷から突然現れた怪獣も出ている

 

 柳田教授と博士が説明をし、周りには艦娘達と提督がいた。皆は真相を知りたがっているのは当然だろう。ターズもいたが、今回は機器類の操作をしている

 

 不思議とゴジラの写真を見ても誰も悲鳴を上げなかった。現実味が全く無かったのだろう

 

「正直にいって僕も戸惑っている。まさかゴジラが実在するとは」

 

「ちょっと待て。本当にゴジラなのか? というか、知ってるのか?」

 

 柳田教授はいきなり爆弾発言をしたため、皆はざわめき、提督も驚愕した

 

 彼は知っているか? 

 

「幼少期に見た事がある。作品名は忘れたけど、平成時代に上映されたものかな?」

 

「じゃあ、なんだ? 想像の産物ではなかったのか?」

 

「違う違う。そうじゃない」

 

 提督の質問に柳田教授は首を振った

 

「恐らく創作に似た世界線からの来訪だろ。マルチバース……並行世界からの訪問者だ。この世界に来て、こちらを襲った理由は分からない」

 

「へ、並行世界から?」

 

 矢矧は唖然とし、朝霜と涼月は目配せをした。彼女達はある事情から並行世界に行った事がある

 

「も、もしかして私達のせいで──」

 

「それは分からない。だが、呼び寄せているという線は限りなく低い。しかし、自然現象にしては不自然だ」

 

 大和は恐る恐る言ったが、柳田教授は否定した。大和は安堵したが、ここで問題が発生した

 

 自然現象ではない? 

 

「自然現象ではないなら、向こう側の……ゴジラが実在したら世界で発生した出来事なのですか?」

 

「不明じゃ。前例が無いから何とも言えんが……あの雲を形成する存在自体、あり得ない事じゃ。熱線を吐き終えた直後にゴジラが消えるなんて物理学に反しておる」

 

 鳥海は質問したが、博士は解説はしたものの、彼も困惑していた

 

「宗谷やターズき器材を積んで電磁系と光学系、例えば観測レーザーを使って調べたところ、レーザー光の屈折と消滅が観測された。重力異常も感知されたから時空の歪みが発生している可能性がある。だが、人為的だとしても明らかに暴走はしている」

 

「つまり、制御できていない?」

 

「そこは分からない。当事者に話が聞ければ分かるだろうが、相手はゴジラだからなぁ」

 

 柳田教授の説明に提督は肩を落とした。こちらから雲を制御するのはほぼ不可能に近い

 

「原因や原理が分からぬ現状では、雲から5メートル以内に近づけないようにするしかないようじゃ」

 

 博士は地図を映し出し、棒で雲の周りに円を描くように指した

 

「学術的な見解は置いといて、本題に入る。行方不明の艦娘、瑞鶴についてだ」

 

 柳田教授の言葉に皆は一斉に食いついた。艦娘や提督にとっては不可解な雲よりも瑞鶴の安否だ。放射熱線を浴びた後、消えたのだから

 

「瑞鶴さんは無事なの?」

 

「どこにいるの!?」

 

「ゴーヤは居なかったって言ってたぜ!」

 

「まさか生きているのか?」

 

 時雨や満潮や天龍や長門を初め次々と柳田教授と博士に質問責めをした。捜索しても見つからなかったのだ。彼らは見つけたのか? 瑞鶴を? 

 

 余りにも騒がしかったため、提督は落ち着くよう怒鳴った

 

「おい、静かにしろ! 気持ちは分かるが、落ち着け。で、何処にいる?」

 

 提督が一喝したために場は静まった。静まったのを見計らって質問したが、柳田教授の返事は意外なものだった

 

「憶測にはなるけど、それでいいか?」

 

「構わない」

 

「2つ考えられる。1つはゴジラの放射熱線によって瑞鶴の体は蒸発した」

 

 柳田教授の返答に皆はどういう意味か困惑したが、提督は違った

 

「蒸発って消滅?」

 

「そうだ。しかし、その理由はほとんど無いと考えられる」

 

「どういう事だ?」

 

 提督は訝しげに聞いたが、答えたのは提督の父親である博士だった

 

「宗谷が瑞鶴の艦載機の破片を見つけたのじゃ」

 

 博士は写真を見せたが、その写真には異様なものが映っていた

 

 写真に写っていたものは零式艦上戦闘機52型だ。垂直尾翼には機体番号があり、あの番号は瑞鶴の艦載機だ

 

 しかし、その零戦は異様だった。機体の半分……機首側であるエンジンが無くなっていた。代わりに黒い靄のようなもので覆われている

 

 まるで見えない怪物が食べたかのように……

 

「妖精さんは居なかったじゃが、こんな事象は初めているのぉ。しかも、手に触れる事さえ出来ないどころか、靄をはずすことが出来ぬ」

 

「というと?」

 

 提督は嫌な予感がした。いや、他の艦娘も気がつく者がいた

 

「瑞鶴は別次元に飛ばされた可能性がある」

 

「そんな!」

 

 大和は悲鳴を上げ、矢矧は両手で口を覆った

 

「何処へ行ったんですか?」

 

「不明だ」

 

「放射能を浴びたら、幾ら艦娘でもタダでは済まないはずよね?」

 

「核物理学の用語の間違いは見逃してやるけど*1、放射線量計測器で異常な数値は検知しなかった」

 

「ゴジラは僕と同じように時空を行き来出来たの?」

 

「多分な。違いは時空を越える力を認識しているかどうかだが」

 

 鳥海や酒匂や時雨など口々に質問したが、柳田教授がテキパキと答えた

 

 一部の答えは嫌味のようには聞こえたが

 

「別次元に飛ばされたのなら、連れて帰ってこられるんですよね?」

 

 翔鶴は周りよりも悲痛な声で質問をした。翔鶴の質問に周りは静まり返った。それもそうだ。妹の安否が第一だから

 

「……楽観的な見方をしても手がかりである雲が消滅したら連れて帰る事はほぼ不可能だ」

 

「そんな!」

 

 柳田教授はキッパリと言ったため、翔鶴は真っ青になった。死亡宣告に近い

 

「並行世界に行き来するだけでも異常事態なのに、連れて帰るとなると……パラレルワールドが幾つあるのかさえもわからない」

 

 柳田教授は残念そうに言った

 

「でも、大和達は帰ってこれたぜ」

 

「あれは別次元で漂流していた柳田教授と遭遇していたから帰ってこれただけじゃ。しかも、今回の場合は柳田教授や大和達よりも状況が悪いワイ」

 

 天龍は藁でも縋る思いで言ったが、博士は済まなさそうに言った

 

 どうやら、瑞鶴はとんでもない事象にあっているらしい

 

「待てよ。ゴジラが来たというなら、他の怪獣も来る可能性もあるのか?」

 

 提督は思い出したかのように聞いた

 

「……あり得るだろうな。さっきも言っていたがゴジラ作品は、見た事はある。映画通りならキングギドラやラドンやガイガンが現れる可能性があるな。そうなるとヤバイだろう。映画の話にしか存在しない怪獣なら、軍隊を集める必要が、本当に現れたとなると……」

 

「深海棲艦なら対処できるが、怪獣は想定していない。クソ!」

 

 提督は焦った。何を言っているのか分からないが、もし瑞鶴が戻って来ず、他の怪獣がこの世界にやって来たら政府や軍の上層部は雲を消滅させるよう命令するかもしれない。いや、独断で雲を消滅させようと強行手段を取るかもしれない。現に艦隊司令部の連絡によると、空軍が大型爆撃機に爆装準備をしていることだ。海軍と空軍の繋がりはあるものの、指揮命令系統は別だ。陸海軍も出動しており、例の雲の調査を行うらしい。そうなると、こちらは動きにくくなる。瑞鶴の生存確認が出来なくなり、最終的に「作戦行動中行方不明」扱いになるだろう

 

 提督は考えていたが、ある事を思い付いた。彼は早速教授に質問した

 

「今も穴は空いているんだな?」

 

「そうだ。不安定だが」

 

「消すことはできるか?」

 

「機材と材料と時間があらば」

 

「時間の猶予は?」

 

「順調にいけば10日だ。設計はともかく、機器の製造はターズが四六時中稼働すれば不可能ではない」

 

「5日でやってくれ。それで、電波を送信できるか?」

 

「善処するよ。送信自体は可能だけど、向こう側の世界にに届くかどうかは分からない」

 

「分かった。早速かかってくれ」

 

「請求は大本営でいいか?」

 

 柳田教授はやれやれといった感じだが、提督は何も答えなかった

 

 提督の反応に艦娘達は集まった。艦娘が質問するや否や提督は素早く命令した

 

「聞きたいことはあるかもしれないが、早速やってくれ。大淀、鎮守府に留守番している艦娘の中からなんにんか来るよう増援を送ってくれ」

 

「わ、分かりました」

 

 大淀は慌てて無線室へ向かった。呉鎮守府に連絡するためだ

 

「明石、親父と一緒に強力な無線機を作るんだ」

 

「い、いいんですか?」

 

 明石は素っ頓狂な声をあげた。今の無線機ではダメなのか? 仮に強力な無線機を作ったとしても電波法などに抵触しないか? 提督は明石の不安を見抜いたらしくテキパキと答えた

 

「手続きはこちらでやる。だから心配するな」

 

「どうする気ですか?」

 

 明石は不安そうになった。提督が考えていることは何となく分かったが、それでも不安だ

 

「瑞鶴と無線連絡を取る。向こうの世界に飛ばされたとしても時空の穴はある。艤装が無事なら、無線を飛ばして交信出来るかもしれない」

 

「でも、またゴジラかそれに近い怪獣が現れたら」

 

「警戒するしかないな。そうなると、軍上層部はここら辺を爆撃してくる。場所さえわかればいいのだが」

 

 明石の指摘に提督は肩を落とした

 

「並行世界で漂流か……しかし、なんでゴジラは消えたんだ?」

 

 提督はテレビをつけながら呟いた。テレビ放送の電波は届くので見ることは出来たが、どれも今回の事件で持ち上がりだ

 

『明石海峡でゴジラ出現!? 』

 

『○○株式会社の関係者も驚愕! 監督が現場急行!』

 

『総理大臣は軍に出動命令!』

 

『軍関係者も困惑! 元帥が緊急記者会見!』

 

 テレビ画面では元帥がしどろもどろになりながらも記者からの質問に答えていた。元帥もこの奇妙な出来事に正確な回答を持っていないのだから当然だろう

 

「瑞鶴……」

 

 翔鶴は項垂れた。世間にとっては妹の瑞鶴の安否よりもゴジラの存在に興味があるのだろう。上陸したら被害が出るのは分かりきっているのに

 

「今は希望をもって瑞鶴が無事に帰還することを願おう」

 

 提督は翔鶴に欠けた零式艦戦52 型を渡しながら言った。それは瑞鶴の艦載機だったものだ。妖精も乗っておらず、左主翼が欠けた零式艦戦52 型。瑞鶴が死んでいない事を祈るばかりだ

 

 

 

 提督や翔鶴を初めとする艦娘達が瑞鶴の無事を祈っている最中、瑞鶴は別次元にいた。いや、正確には吹っ飛ばされていた

 

「ああああぁぁぁぁ!」

 

 ゴジラの放射熱線の威力は強大だったらしく、まるで巨人が投げたボールのように瑞鶴は高速で飛ばされていた

 

 提督の父親や柳田博士の予想は当たっていた。瑞鶴は生存していた。但し、別次元から別次元へと飛ばされななら……

 

 

*1
放射能は「放射線を出す能力」なので、間違った使い方である。正しくは「放射性物質による汚染」「放射線にさらされる」である




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第8話 異世界

こんにちは。雷電Ⅱです
今回は会話形式が少しだけ入れています。ご了承ください


「何!? これは何!? 止まらない!」

 

 瑞鶴は悲鳴をあげていた。自分はまるでスーパーマンのように空を飛んでいる。いや、正確には吹っ飛ばされているのだ。翔鶴姉と大和さん達を庇うためにゴジラの前に躍り出た。死ぬのは覚悟していた。艦娘で戦う以上、戦死者が出てもおかしくない。浦田重工業や深海棲艦との戦いで、今まで艦娘達が負傷者だけで済んだこと自体が奇跡なのだ

 

 ……実際は違うらしいが

 

 しかし、今回は自分自身は奇妙な体験をしている。ゴジラの熱線をマトモに受けたと思ったら自分は空を飛んでいた

 

「誰か助けて!」

 

 瑞鶴は叫んだが、助ける者はいない。目に飛び込んでくるものは風景がガラリと変わる姿だ。瞬きする度に視界には違ったものが目に入る。街を飛んでいると思ったら、山や海を飛んだり、立派な超高層ビル群の間を飛行したり、正体不明の飛行物体と危うく衝突しそうにもなった。耳には高速で飛ばされているせいか風の音しか聞こえなかった。時折、ガラスが割れたような音が何回か聞こえて来たが、瑞鶴は何の音か分からない。その音は次元を突破した時の衝撃音だが、瑞鶴は知るよしもない。たまに何かにぶつかったりしていたが、痛む箇所を抑えたところでどうすることも出来ない

 

 尚、瑞鶴が飛翔する姿に別次元の住民達は目撃していた

 

 

 

 異世界の住民による目撃談

 

 A世界

 

 花垣武道「……壁の薄いボロアパートで6歳も下の店長にバカ扱い。彼女は人生一回きり。しかも中学生の頃。極めつけはドーテイ。何処で間違えたんだろう」

 

 花垣武道「ん? 何あれ? 弓道着を着た女が空を飛んでいる?」

 

 ドン! 

 

 花垣武道「え? 誰かに突き飛ばされた?」

 

 

 

 B世界

 

 山瀬 2尉「ん? 今の見たか?」

 

 谷口 2尉「どうしました?」

 

 山瀬 2尉「いや、なんでもない」

 

 山瀬 2尉(緊張し過ぎて幻覚を見てしまったか。OH-1に乗っている時に)

 

 森3佐『オメガ1、応答しろ』

 

 

 

 C世界

 

 ドラえもん「ウワァー! ……何なんだ、今の? 時空間に妙なものが横切ったけど」

 

 

 

 D世界

 

 エメット・ブラウン博士「おい! 今は運転飛行中だ! 飛び出すな、バカ野郎! ワシのデロリアンに傷でも付いたらどうしてくれる!」

 

 

 

 E世界

 

 トランクス「ん? タイムマシンに鳥か何かにぶつかった? しかし、故障していないからタイムスリップは大丈夫か」

 

 

 

 F世界

 

 パラドックス「私の名はパラドックス。私は時空を越え最善の歴史を探し求める者。歴史のあらゆるものを検証し、実行する。……どうした? 歴戦のデュエリスト達。衝撃を受けた表情をして。そんなに私の実験に感激をしているのか?」

 

 武藤遊戯(今、女の子のようなものが)

 

 遊城十代(パラドックスの後ろに)

 

 不動遊星(突然現れて消えた?)

 

 

 

 G世界

 

 DIO「我が運命に現れた天敵どもよ、さらば──な、何!? 時が止まっている世界で動いているものがいるだと! しかも突然現れたと思ったら消えた!? バカな! 犬のクソにもならない人間が動いているだと! 時が止まった世界で我がザ・ワールドと同じように動けるとは!」

 

 承太郎「……」

 

 

 

 H世界

 

 T800「未確認飛行物体検知……脅威なし……ロスト……引き続きT-1000よりも先にジョン・コナー発見を優先……」

 

 

 

 I世界

 

 アブソリュートタルタロス「我は究極生命体、アブソリューティアンの戦士。 アブソリュートタルタロス!」

 

 ウルトラマン達「!?」

 

 タルタロス「そうだ。私の存在に恐怖するのだ、ウルトラの諸君」

 

 ウルトラマンゼロ(さっき人間の女の子が素通りして消えたけどどうしよう……助けるべきか……)

 

 

 

 J世界

 

 坂田銀時「ここが5年後の世界。一体何が……ん? 目の前の空間にヒビが」

 

 その時、瑞鶴が飛び出し銀時と激突。銀時は衝撃で奇声をあげて地面に倒れたが、瑞鶴は止まらずそのまま別次元に飛ばされてしまった

 

 坂田銀時「ロザリー……グリュンネ!*1 ……いてぇー! おい、ぶつかっておいて謝りもせずに逃げるなんて卑怯だぞ! クロスオーバーと聞いたから出演してやったのに! 出演料だけでなくて、慰謝料を寄越せ!」

 

 タイム泥棒「銀時様、それは止めた方が宜しいかと」

 

 

 

 K世界

 

 山城「あれが第一遊撃部隊の主力部隊」

 

 最上「大きいね」

 

 時雨「うん……ん?」

 

 山城「どうしたの?」

 

 時雨「今、瑞鶴さんが猛スピードで空を飛んで行った」

 

 山城「時雨、昨日はちゃんと寝たの?」

 

 

 

 L世界

 

 トニー・スターク「フライデー、スーツのディスプレイに異常があるようだ。高速で飛ぶ変な格好をしたレディをキャッチした。しかも突然現れたと思ったら直ぐに消えたんだ」

 

 フライデーAI『診断結果。マーク85に異常は見られません』

 

 トニー「しっかりしてくれ。誤作動で時間泥棒作戦失敗とかキャップに怒られてしまうからな」

 

 

 

 このように異世界の地元住民が驚いているが、現れてから数秒で消えてしまうため、ほとんどの場合大事にはならなかった

 

 その間も瑞鶴は吹っ飛ばされていく。数々の別次元を超えていき、そして……

 

 

 

 ストライクウィッチーズの世界

 

 1939年、人類の前に突如として現れた謎の敵、人はそれを『ネウロイ』と呼んだ。ネウロイは瞬く間に欧州の大部分に侵攻し、国と家を奪っていった人類は徹底抗戦すべく対ネウロイ用新兵器を開発した。魔法力を備え持った少女、ウィッチのみが使用可能な飛行装置、ストライカーユニットである

 

 これを装着し、ネウロイと戦うために世界各国からウィッチが終結した。そして、結成された精鋭部隊……第501統合戦闘航空団

 

 人々は彼女たちを『ストライクウィッチーズ』と呼んだ

 

 激しい戦いが長きに続き1946年の春、カールスラント北部を侵攻していたネウロイの巣、モルハの消滅に成功。ベルリンは解放された

 

 しかし、ネウロイの巣はまだ点在している。501統合戦闘航空団は今も戦いを続けている

 

 そして、今ではネウロイの残党狩りを行っている。戦いはまだ終わっていない

 

 復興作業を行っているところ、奇妙な現象が起こった。カールスラントの沖合の海上に不可解な雲が出現した

 

 初めはネウロイの巣かと慌てたが、形状が全然違う。積乱雲のようにも見えるが、まったく動かない。その積乱雲は低く垂れこめた雲が竜巻を発生する時のように渦巻いている。稲光が走っているのか、暗く内部から発光している。しかも、不思議なことにネウロイを全く吐き出さない

 

 代わりに奇妙な音を聞いたという話もする。しかも、ネウロイの音にしては違うとの事だ。まるで地獄から響き渡るようなものだとか。この報告に軍の上層部は頭を捻った。こんな奇妙な事は今まであったのだろうか? 

 

 ともあれ、何もしない訳には行かない。501JFWと数機の戦闘機が出撃を行った。目的は奇妙な雲の調査である

 

『目標を捕捉。数日前に報告があった例の雲だ』

 

「了解。これより偵察を開始する。各員、展開」

 

 数機の戦闘機は無線交信すると散開し例の雲から距離を取ったが、501JFWはそのまま突っ込んでいった

 

「しかし……変な雲ね」

 

 指揮を執っていた第501統合戦闘航空団の隊長であるミーナ・ディートリンデ・ヴィルケは雲を睨んだ。彼女は501戦闘航空団を結成する前から参戦し200機以上もネウロイを撃墜したことがあるが、目の前の雲の不気味さには動揺を隠せずにいた

 

 ウィッチであり、ネウロイの巣は幾度も見たはずなのに……

 

 それに厄介なことが起こっている。ミーナ自身の固有魔法に何故か支障が出ている

 

 

 

「固有魔法が通じないんですか?」

 

 宮藤芳佳は唖然としていた。ミーナ中佐の固有魔法は三次元空間把握能力だ。これは感知系魔法の一種で一定範囲の敵味方の位置を三次元で把握できるものだ。いや、それだけではない。サーニャの感知系魔法である全方位広域探査も障害が起こっている

 

「まさか、これもネウロイの仕業? それにしてはおかしくないか?」

 

 バルクホルンも唸った。確かにおかしくはない。ネウロイの姿形も色んな種類はあるし、能力も様々だ。虫型や人型、そして都市型のネウロイもいたくらいだ。しかし、こんな妙な雲は聞いたことが無い

 

「でも、数々の妙な現象も結局はネウロイの仕業だったよ。水が苦手なはずなのに、なぜか氷山の塊で現れたこともあったからね」

 

「あの時は大変でした」

 

 シャーロットが陽気に話し、宮藤も苦笑いしながら以前に出くわしたネウロイを思い出した

 

 以前にベルギカのアントウェルペン沖に現れたネウロイと出くわしたことがあったからだ。そのネウロイは氷を身に纏いアントウェルペン湾を襲おうとした。ヴェネツィア海軍のリットリオ級戦艦のドージェも奮闘し被害を被ったのだ。たまたま、「ドージェ」の艦長がアルテア・グリマーニの父親で無線連絡している時に断片的ではあるものの状況が知れて宮藤が駆けつけたのだ。

 

 もし、タイミングがズレていたら戦艦『ドージェ』がどうなっていたか分からない。いくら対ネウロイ装甲を纏っているとはいえ、最悪の場合は艦長であるカルロ・グリマーニを始め乗組員全員が死亡していたかも知れない。いや、付近を通過した『ドージェ』は無線が使えなかったのだ。アントウェルペン湾の街も被害は甚大になっていたかも知れない

 

「キール湾で霧を発生させたネウロイがいたけど、それに近い感じだな」

 

 エイラは雲を観察していた。雲が厚いのか中の様子が分からない。あの時は未来予測とサーニャの感知系魔法である全方位広域探査で倒したが

 

「不気味だけどネウロイ出る気配が全然ないね」

 

 ハルトマンは四方八方を見渡した。他のものも捜索したが見つからない。ネウロイが発するビームですら出てこないのだ。何時もならウィッチを襲うべくビームを照射してくるが、今回はそれがない。ネウロイを倒せば、正体不明の雲も消滅するかも知れないという期待がない

 

 かと言って、不可解な出来事を解決する糸口が見つからない

 

「仕方ないわ。一旦、退却を」

 

 ミーナ中佐が撤退命令を出した。数十分も雲を観察してもネウロイが現れないのなら、ここにいても意味がない

 

 その時だ。宮藤は何か奇妙な音を聞いた

 

「あれ? 何か聞こえますよ?」

 

 宮藤は何かを聞き取った。声が聞こえるのだ

 

「まさか歌うネウロイ?」

 

「それにしては悲鳴のような……」

 

 サーニャは昔、夜間哨戒中に雲に隠れながら自分の歌を真似たネウロイと遭遇したのを思い出しながら言った。だが、エイラは首を傾げた。正確には女の悲鳴だ。まるでトンネルの中にいるかのように音が反響しているようだ

 

 しかも、悲鳴は大きくなり全員がはっきりと認識できる状態だ

 

「なんですの、この──」

 

 ペリーヌがいら立った時だ。雲から突然、何かが現れ猛スピードでこちらに飛行するものがいた

 

「え?」

 

 宮藤はシールドを貼る余裕はなかった。油断した訳ではないが、急に現れたため反応が遅れたのだ。そして、鈍い音がし、宮藤は激突した何かと共に海に落下した

 

「ぐはぁ!」

 

「芳佳ちゃん!」

 

 宮藤は何かがぶつかったと同時に意識を失ってしまった。近くを見たリネットは慌てて急降下し、対装甲ライフルを構えた。激突した何かを攻撃するためだ

 

 だが、スコープを覗いたリネットは驚愕した。人型ネウロイでもウィッチでもない。変な恰好をした女の子だ。しかも、ストライカーユニットを履いていない。つまり、この女の子は空を飛ぶどころか海に落下してしまう

 

 無線でありのままの情報を連絡したが、ミーナ中佐を始め全員戸惑っていた。だが、そんな事よりも宮藤と落下している正体不明の女の子の救助が先だ。高度は高くないため、海面に激突してしまう! 

 

 

 

 瑞鶴は意識を取り戻した。激突した衝撃に気を失っていた。どうやら、ゴジラが発した光線の能力から脱出できたらしい。だが、視界に入ったのは海が迫ってくる光景だ。しかも、自由落下している。身体が垂直に落下している事により空気抵抗が少ないため、双方とも十数秒後には海に激突するだろう

 

「え? な、何が起こっているの! 不味い! 起きて!」

 

 瑞鶴は足に変な機械をつけた女の子が自分自身同様に落ちているのを認識した。このままだと女の子は海面に激突してしまう。海面や湖に落下することはコンクリートに激突するのと同じだ

 

「こうなったら!」

 

 瑞鶴は小さな女の子の腕を掴むと伏せを伸ばし両手両足を広げた。この姿勢はベリーフライといい、空気抵抗を大きくして落下速度を軽減させるためだ。女の子は無事にこちらに取ったが、それでも落下している事には変わらず、数秒で海面に激突してしまう。瑞鶴は心を落ち着かせ、艤装を再チェックした

 

「艤装に問題ない。なら、着水可能!」

 

 瑞鶴は女の子をおんぶさせるようにすると、かかとを上空に向けて膝を抱えた。これで着水準備は出来た。そして、物凄く衝撃が襲い、水飛沫が舞った

 

「はぁ……はぁ……大丈夫? ケガはない?」

 

 瑞鶴は艤装が機能し海面に浮かんだことを確認したと同時におんぶしている女の子に質問した。女の子は目を回していたが、無事であることに胸をなでおろした

 

 だが、安心するのはまだ早かった

 

「え?」

 

 足に奇妙な機械をつけ頭に動物の耳のようなものを生やした謎の集団がホバリングをしながら瑞鶴を囲った。全員がこちらに銃を向けている。その中には対装甲ライフルとロケットランチャーを構えている者もいるが

 

「直ちに武装を解除し、投降しなさい。何者か知りませんが、貴方を拘束します」

 

「え?」

 

 瑞鶴は緑色であるコート式の軍服に間抜けな返事をした。銃を突き付けられたという状況よりも人間が空を飛んでいる事に呆気に取られていた

 

 そして……

 

「えー!」

 

 現在は地下牢に監禁されている。武器である艤装は取り上げられたのだ。数々の次元を突き破ったお陰で身体があちこち痛いのに加えて遭難している自分に戦う理由がないということで降伏したが、逆効果だった。仮に万全だとしても単体で複数勝てるとは思えない

 

「ちょっと! 私は不審者じゃないよ!」

 

 瑞鶴は鉄格子に手を掴みながら必死に無罪を訴えたが、外にいる二人の女の子は奇異な目で見ている

 

「バルクホルンさん。あれは本当にネウロイなんですか?」

 

「分からん。随分と精巧な姿をした人型ネウロイだ」

 

「でも、私を助けてくれました。ネウロイには見えませんけど」

 

「宮藤。あの雲から出現したんだ。ネウロイにしろ人間にしろ、調べる必要がある」

 

 厳格そうな女の子と小柄な女の子が遠くから見ていた。宮藤と呼ばれる人は兎も角、バルクホルンはこちらを警戒している

 

「だからネウロイって何ですか!」

 

 瑞鶴は叫んだが、解放されることはなかった

 

 

*1
ストライクウィッチーズの第506統合戦闘航空団「ノーブルウィッチーズ」の隊長。CVは瑞鶴と同じ




瑞鶴が素通りした世界

A世界 東京卍リベンジャーズ
B世界 戦国自衛隊1549
C世界 ドラえもん
D世界 バック・トゥ・ザ・フューチャー
E世界 ドラゴンボール
F世界 遊戯王(劇場版・時空を超えた絆)
G世界 ジョジョの奇妙な冒険 第三部
H世界 ターミネーター2
I世界 ウルトラギャラクシーファイト大いなる陰謀
J世界 銀魂 万事屋よ永遠なれ
K世界 アニメ2期 艦これ
L世界 アベンジャーズ エンドゲーム

後2,3は入れたかったですがここまで。アニメ2期の艦これが何気なく入っているけど、気にしない
そして、ストライクウィッチーズの世界の住民と遭遇
現在は捕虜扱いになっていますが……
次話から章が変わります


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第2章 ストライクウィッチーズ
第9話 対話


こんにちは、雷電Ⅱです
節分任務で豆を集めていますが、途中でバレンタイン任務もぶっこむのでは?と思ってしまう私です
節分任務、色々と衝撃でした。報酬よりもレンジャーの姿が!


「奇妙なネウロイを捕まえた?」

 

「はい。情報が錯綜していてはっきりと分かりませんが、雲から人型ネウロイが現れ宮藤少尉にぶつかって落とした、とか」

 

 ジープの後部座席に坂本美緒少佐は素っ頓狂な声を上げた。土方圭助一等兵曹から例の雲については報告を聞かされていた。ベルリンを開放してもネウロイはまだ健全であるため、まだ欧州に在籍していた。そんな中、カールスラント北部の海域に奇妙な雲が発生。しかも、ネウロイの巣とは違総司令部は頭を悩ませていた。そして、さらに奇妙な出来事が起こった。偵察に向かった501JFWの最中に突然、宮藤が何かから攻撃を受けたというのだ。しかも、人間そっくりの姿をしているという。何でも弓道着のような姿を身に着けているとか。運転しながら報告をする土方兵曹に首を傾げた

 

 ネウロイかも知れないが、どうも違うような気がする

 

「サーニャでも感知されないのなら、ネウロイではないはずだ」

 

「しかし、ネウロイではないにしても例の雲から現れたのですから解放出来ないとの事です」

 

 報告を聞いた坂本少佐は考え込んだ。サーニャの魔法ではネウロイの気配は一切感じなかったのだから間違いなく人だろう

 

 だが、身元不明というのが気になる。会えば分かるだろう

 

 

 

 一方、第501統合戦闘航空団のウィッチ達は悩んでいた。捕虜から装備品を取り上げたが、奇妙な武器ばかりで分からないのが多すぎた。ストライカーユニットとは全然違う仕様の武器。艦載機は扶桑仕様そのものでおもちゃのようだが、それにしては巧妙な造りだ。更には海上に立っていたという離れ業をしていたにも関わらず、魔法を一切感知しなかった

 

「もうこれってストライカーでも何でもないよね?」

 

「というより、ネウロイにしてはおかしいよ」

 

 ハルトマンもシャーロットも首を捻りながら言った。机には瑞鶴が保有していた艤装と弓矢と艦載機だが、二人は知る由もない。妖精は見えるには見えるが、魔法力すら発しないため、早々に隠れてしまい見失い始末だ

 

「じゃあ、なんで海の上をユニット無しで二足歩行出来たんだ?」

 

「扶桑では、海渡りしたウィッチもいましたが」

 

 バルクホルンは不機嫌そうに言ったが、服部は扶桑にあるウィッチが海渡りしているのを思い出しながら答えた。彼女が思い浮かべているのは、雁淵孝美の事である。

 

「しかし、それはシールドを貼って歩く手段だろ? アイツはそれすらしなかったぞ」

 

 バルクホルンは指摘したことで彼女は黙ってしまった。確かにシールドを貼らなかったのは彼女も見ていたからだ

 

「でも、あの人はネウロイではないと思います。抱えられた時は人の温もりも感じましたし」

 

「あり得ませんわ! ……と言いましても、前回のような人型ネウロイみたいにビームは出していませんし」

 

 ペリーヌも頭を悩ませていた。なぜ、彼女達は瑞鶴の対応に苦悩したのかというと、数年前の人型ネウロイの存在である

 

 その人型ネウロイはサーシャの歌を真似るどころかウィッチの姿をしていたのだ。宮藤芳佳はそのウィッチと遭遇。そのおかげである事件に巻き込まれることになったのだ。また、ネウロイも日々進化しているため、油断が出来ない状況だ

 

 そのため、全員は精巧な姿をしたネウロイと認識してしまったのだ。幸か不幸か、ネウロイのようにビームで応戦しなかったのとネウロイの気配が全くしなかったため捕虜としたのだ

 

「潜入タイプのネウロイですか」

 

 リネットは気弱そうに言った。あれがネウロイ? でも、あり得るのか? 

 

「だったら、身体検査をしたらどうですか?」

 

「それしかないんだな」

 

 しかし、リーネの案でそれが決まってしまった

 

 

 

「え? 身体検査?」

 

「そうだ。ネウロイか人間かどうかをはっきりさせるためだ」

 

 監禁されていた瑞鶴は迎えに来てくれた女の子達に無実を訴えようとしたが、今度は厳格そうな女の子から身体検査を強行する話を切り出したため瑞鶴は唖然としてしまった

 

「どういうやり方で?」

 

「簡単な話。服を脱がせて素っ裸にして調べるんだよ」

 

「いや、素っ裸って!」

 

 近くにいた小柄の金髪の女の子から衝撃的な話をしたため、思考が停止していしまった

 

「あの……取り敢えずネウロイかどうかの区別よね? ほかの方法を」

 

「恥ずかしがる必要ないじゃん。身体検査をするには半裸でやるのが普通でしょ」

 

「……え! 私がおかしいの!?」

 

 瑞鶴は頭を抱えてしまった。教授と大和たちから別次元の世界は聞いている。が、こんな非常識(?)な話は聞いたことが無い

 

「仕方ないだろ。坂本に魔法力があったら一瞬で判別できるが、今は魔法力を失ってな」

 

「魔法力?」

 

 瑞鶴が唖然とした隙に、誰かに羽交い締めをされた

 

 他の人も瑞鶴に集まった。抵抗しようとしたが、8人もいればどうしようもない

 

 艤装は取り上げられたため、身体能力は制限があるものの、それなりに体力があるが、どうも相手も体力がある人もいるようだ

 

「くすぐったいから止めて! あ! ちょっと待て! そこは触らないで……あああぁぁぁぁ!」

 

 

 

 1時間後

 

「その……申し訳ありません。あなたがネウロイかどうかわからなかったので」

 

「いえ……気にしないで下さい」

 

 司令部にミーナ中佐と名乗る人が謝罪をしたが、瑞鶴は半分涙目になりながら小声で言った

 

 結論から言うと、瑞鶴の中では最悪の事を受けた。但し、18禁に近い事をされたのである。女性同士とはいえ、瑞鶴にとっては悪夢(?)に等しかった。ようやく誤解は解け、解放されても未だに納得していなかった

 

「良かった。私よりツルペタがいるなんて」

 

「ねぇ、艤装を返して。あのチビを爆撃したいから」

 

「落ち着いて下さい。ルッキーニちゃんは悪くないです」

 

 部屋の端ではしゃいでいるルッキーニに対して瑞鶴は怒り、殴りにかかろうとしているところを宮藤芳佳に止められている状況である

 

「坂本少佐。何とか言ってください」

 

「え?」

 

 宮藤がミーナ中佐の隣にいる白い軍服を着ている人に助けを求めたが、瑞鶴はその名前を聞いて動きを止めた

 

「そうだな……それより」

 

「坂本少佐?」

 

 瑞鶴は女性の海軍軍人をジロジロと見た。後ろに眼鏡をかけた女性がこちらに向けて殺気を放っていたが、無視した

 

「どうした? 私の顔に何かついているのか?」

 

「……坂井三郎中尉ですか?」

 

「いや、私は坂本美緒少佐だ。しかし、違和感は全くしないな」

 

 瑞鶴は無意識に口走ったが、相手から否定されたため何も言わなかった。『艦だった頃の世界』では艦載機のパイロットではなかったはず

 

 搭乗員の妖精である岩本隊の隊長も艤装から隠れながらも坂本少佐を観察していた。どうも気になるらしい

 

「それで、貴方は何者なんですか?」

 

 ミーナ中佐はネウロイではないと分かったのか穏やかに聞いてきたが、僅かながらも警戒している。瑞鶴はどう答えたらいいか悩んだ。ここは異世界だ。艦娘なんて存在しない世界だろう。なので、相手から頭がおかしい変人と思われないように説明しないといけない。記録で見たことしかないが、時雨の時もこんな気持ちだったのだろう

 

 本当にここは異世界だと改めて実感した。既に田村1尉や浦田重工業の件もあるのだが、実体験をしたわけではない

 

 なので、話を丁寧に且つ簡潔に説明した。但し、今回は深海棲艦と艦娘。そして、こちらの世界に飛ばされたとされる原因であるゴジラの件だけを話した。浦田重工業の件は話さなかった。ややこしくなるからだ。と言っても、艦娘と深海棲艦の関係については、一般人向けの説明を簡略化したものだ。異世界については、博士と教授の説明を散々聞いていたから問題ない。理論は難しかったため、説明に苦労したが

 

 瑞鶴が話し終えた後もミーナ中佐も坂本少佐も他の人も難しい表情で聞いていた

 

「……つまり、この世界とは別の世界から来たと言うのか?」

 

「そうです。信じてくれませんか?」

 

「まあ、信じるしかないな。魔法力も無しに海面に立つことが出来る艤装とやらを見れば信じるしかないか」

 

 地下牢でバルクホルンと呼ばれた少女はため息をついていた

 

「あれ? 今の話を聞いて何にも疑問も持たないんですか?」

 

 瑞鶴は急に不安になった。異世界とはいえ、相手は人間である。場合によっては、精神異常者と思われてもおかしくはないのだ

 

「我々も奇妙な現象には慣れているからな。人型ネウロイ*1に地下の遺跡*2に豊穣土偶*3に……いや、何でもない」

 

 何故か宮藤に目をやった彼女は説明を止めた。何かあるらしいが、とにかく信じてもらえた事にはホッとした

 

「あの! まだあの雲は残っていますか?」

 

「貴方がこの世界にやってきたとされている雲ね。監視からはまだ残っているわ」

 

 ミーネ中佐は壁に貼っている地図に棒を指した。刺した場所は陸地から遠く離れた海だが、まだ残っているということは帰れることは可能だ

 

「え? もう帰っちゃうんですか?」

 

「ゆっくりしていけばいいのに」

 

「そうだよ。ストライカーユニットは航空用(飛行脚)陸戦用(歩行脚)しかないんだからさ」

 

 宮藤は寂しそうにしていたが、シャーロットとハルトマンは留まるよう進言していた。興味津々だったらしい

 

「え? 海上用は──」

 

「あのな──しかし、ゴジラとやらのせいで私たちの世界に飛ばされたのだろ? どんな奴だ?」

 

 瑞鶴が質問をしようとしたが、バルクホルンの質問によって遮られた。ゴジラが気になったらしい

 

「体長100メートルもの怪獣で強力な熱線を吐いた」

 

「ひゃ、百メートル」

 

 瑞鶴の説明でバルクホルンは言葉を失った。予想もしていなかったらしい

 

「問題を整理すると、瑞鶴が住む世界に更に別次元の異世界から怪獣が現れた。そのせいで私たちの世界に来たということか」

 

 坂本少佐は要点だけを言った。簡潔だが、分かりやすかった

 

「はい。ですから、何としてでも──」

 

「実はあの奇妙な雲が発生したのは約一週間前からだ。いや、もっと前に現れたかもしれない」

 

 坂本少佐の説明に瑞鶴は首を傾げた。一週間前に存在した? 

 

「当初は季節外れのハリケーンだと思っていたが、そうではないようだ。それに付近を通過した航空機や船舶から不気味な唸り声や獣のような咆哮を聞いたとあった。ウィッチでも確認しているから間違いないだろう」

 

「それってまさか!」

 

 瑞鶴は愕然とした。ゴジラがこの世界に来ている? まさか、私が引き連れた? 

 

「被害は?」

 

「ない。だが、現れる可能性がある。貴官の身柄はウィッチに預かるが、それでいいか?」

 

「分かりました」

 

 瑞鶴は躊躇せず返事した。ここで反発しても元の世界に帰れないだろう。ここは現地の人達と協力するのが大切だ

 

「ところで、ここはヨーロッパですか? ここに連れてくる途中、車の窓から街並みを見ましたけど、作りが洋風で」

 

「そうですよ。あら、異世界でもヨーロッパはあるんですね」

 

 ミーナ中佐は明るい表情になった。ヨーロッパが瑞鶴の世界にも存在していることに喜んでいるようだ。

 

「へぇ。別世界でも私たちの世界と変わらないんですか?」

 

「そこじゃないわよ! 欧州って欧州救援作戦以来よ。……それに国名がおかしくない? ブルタニアとかカールスラントなんて聞いたことが無いわよ」

 

「え? 別におかしくないですよ?」

 

 宮藤はキョトンとし、瑞鶴は目をぱちくりしていた。

 

「え? 宮藤と言ったっけ? あんたは何処の国の出身?」

 

「扶桑ですよ? ほら、ここです」

 

 宮藤が世界地図を取り出すとある島に真っ先に指を指した。瑞鶴は思考停止状態になった。何しろ、指を指している島は紛れもなく日本列島だ。どうやら、世界が違うと国名が違うらしい

 

「あら、国や地形はおなじだけど、国名が違うなんて」

 

「はっはっはっ! 流石は異世界人だな」

 

 ミーナ中佐は驚き、坂本少佐は豪快に笑ったが、瑞鶴は気にしなかった

 

「では、瑞鶴さん。貴方を奇妙な雲に案内していきます。そのため、準備をしていきますので暫く待ってもらえます」

 

「準備ですか……」

 

 瑞鶴は妙に落ち着いていた。奇妙な雲にまた突入したら元の世界に戻れるかもしれない

 

 現実味が湧いてきた

 

「ところで、準備というのは何をするんですか。私でも手伝えることはしますので」

 

「大丈夫よ。ネウロイ襲撃で弾薬をちょっと消耗していたのよ。補給が完了次第、出現可能だから」

 

 ミーナ中佐は説明を行った。先日には基地に接近するネウロイを撃破したのだ。だが、散発的とはいえ、何度も出現したら弾薬は消費してしまう

 

 現在は補給待ちだそうだ

 

 だが、瑞鶴はそれどころではなかった。ある疑問があった

 

「あの……中佐。質問していいですか」

 

「どうしました?」

 

「ウィッチって杖を使って魔術で撃破するのでは?」

 

 瑞鶴の疑問に部屋は水を打ったかのように静まった

 

「え? 魔術? 杖?」

 

「え? 違うんですか? 魔女って確か三角帽子を被って呪文を唱えて杖から魔法を発射したり魔法陣から召喚獣を出したりするんじゃ?」

 

 瑞鶴は魔女のイメージをそのまま伝えたが、周りの反応は啞然茫然としている

 

「私たちのウィッチの説明はしていないの?」

 

「していないんだな。ネウロイと警戒していたから」

 

 サーニャとエイラがひそひそ話をしていたが、残念ながら瑞鶴には聞こえていないようだ

 

「だって、私のケガだってあんたが手をかざしたら傷がみるみるうちに治ったし」

 

「「「「あー」」」」

 

 瑞鶴は必死に訴えたが、ウィッチ達はすぐに理解した。宮藤の治癒魔法を見て瑞鶴のあまたに思い浮かべている魔女のイメージを語っているのだろう

 

「瑞鶴さん。魔女のイメージってどんなイメージを持っていたんですか?」

 

 宮藤は興味本位で聞いた。異世界の住民は魔女のイメージに興味がわいたらしい。それはこの部屋にいる全員だが

 

「そりゃ、デカい釜で紫の液体をぐつぐつ煮てたりとか」

 

「それは違います! 瑞鶴さんの世界って魔女のイメージは最悪ですよ!」

 

 宮藤は大きな声を上げた

 

「ご、ごめんなさい。ハロウィンの時に海外の艦娘から魔女のことを聞かされたから」

 

「いつの時代の魔女なんですか! うちにはちゃんと圧力鍋もありますから!」

 

「宮藤! それ違うだろ! 確かに私が持ち込んで来たけど*4!」

 

 瑞鶴は謝罪したが、宮藤の反論にシャーリーは慌てて言った

 

「取り敢えず、この世界の常識と歴史を学ばせないとな」

 

「そうね」

 

 坂本少佐とミーナ中佐は瑞鶴とウィッチ達のやり取りにため息をついた

 

 

*1
アニメ1期に出現したネウロイ

*2
アニメ2期9話より

*3
アニメ3期の7話より

*4
圧力鍋の歴史は古く、1938年のアメリカでは販売され一般家庭でも既に普及していた。名前は「自動密封鍋」だが、今回は圧力鍋という事にした。本作ではシャーロットが基地に持ち込んだ設定である




バルクホルン「ところで、誰から魔女を習ったんだ?」
瑞鶴「アイオワさんから」

アイオワ「ハクションッ!」
提督「どうした?」
アイオワ「誰か噂をしている」

炊事家事洗濯をほぼ毎日している宮藤芳佳にとっては譲れない事(発進しますっ!より)
え?あれはギャグ漫画?細かいことは気にしない!


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第10話 価値観の違い

2月12日に7話が放送されるか
楽しみだ!


 人類は古代から異形との戦いを繰り広げてきた。それと対峙していたのが魔法力を持つウィッチ(魔女)と呼ばれる少女達である。

 

 そして1939年、何の前触れもなく我々人類の前に現れた。我々は異形をネウロイと名付けた。

 

 ネウロイは瞬く間に欧州のほとんどを支配した。目的は不明。残された人類はその版図を取り返すべく日々ネウロイと戦っている

 

 

 

「これが、この世界の敵ですか」

 

 瑞鶴は投影機から映し出された写真を凝視していた。この世界の説明を受け、敵であるネウロイの写真を見ていた。航空機のような姿をしているのもあれば、気球みたいな姿をしているのもいると思えば、ロケットのような姿をしているものまである。箱型で分裂し増殖するのもあれば、雲を貫いてそびえ立つ塔の存在もある。驚くべきものは人型のようなものまであり、宮藤が接触している写真まであった

 

 坂本とミーナがこの世界の現状を分かりやすく説明していたため、事態を把握していた。まだ、この世界へ来た事へのショックはあるものの、彼女達のお陰で何とか落ちつつあった

 

「ネウロイは我々の想像しない姿をするからな」

 

「……だから私を素っ裸で身体検査をしたんですね」

 

「あー、スマン。それは……ウィッチの頃の私なら魔眼で一発で見破れたんだが」

 

 瑞鶴は不貞腐れている最中、周りは申し訳なさそうにし、坂本少佐は謝罪していた

 

 しかし、この人達は謎の身体検査は兎も角、悪い人達ではないのは分かる

 

 高圧的な士官でも無いし、周りもそこまで悪い人達はいない。

 

 この世界での説明の前に一人一人自己紹介をしてくれた。日本……いや、扶桑皇国からの出身で宮藤芳佳と服部静夏。帝政カールスラント出身である、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケとゲルトルート・バルクホルン、そしてエーリカ・ハルトマン。ブルタニア連邦出身のリネット・ビショップ。ガリア共和国のペリーヌ・クロステルマン。リベリオン合衆国出身のシャーロット・E・イェーガー。ロマーニャ公国出身のフランチェスカ・ルッキーニ。そして、スオムス共和国エイラ・イルマタル・ユーティライネンとオラーシャ帝国出身のサーニャ・V・リトヴャクだ

 

 国名と世界地図の場所で教えてくれたが、国名と内政が違うだけで、何処の国かは大まかに把握した

 

 瑞鶴は教えてもらった事を思い浮かべていたが、瑞鶴はあることに気づいた

 

「ウィッチの頃って坂本少佐はウィッチだったんですか?」

 

「そうだ。魔法力は失ったが、軍に残ってウィッチをサポートしているぞ」

 

 坂本少佐の説明に瑞鶴はポカンとしていた。魔法力を失う? 

 

「ウィッチは20歳を過ぎると魔法は減衰し行使出来なくなります。だから必然的にウィッチは10代で編成されているの」

 

「だから若くても階級が上なんだ」

 

 瑞鶴は納得していた。確かにパイロットの階級は士官からである

 

(まあ、『艦だった頃の世界』で搭乗員の階級はやっぱり特殊過ぎね)

 

 瑞鶴は心の中でそう呟いていた。旧日本軍では下士官から操縦出来る*1

 

 田村1尉の世界での自衛隊は、パイロットは幹部しかなれないのを考えると旧日本軍は特殊過ぎているのを改めて実感した*2

 

「そう言えば、ウィッチの説明で陸上用と航空用は分かりましたが、海上用と潜水用はないですね」

 

「ネウロイは水に弱い性質を持っているから船のように水上に浮いたり、水に潜ったりはしません。例外もありますが、極一部に留まっています」

 

 ミーナ中佐の説明に瑞鶴は納得した。確かに水上戦や水中戦を仕掛けない敵に対しては不要なようだ。そのせいで発達しなかったかも知れない

 

「人類共通の敵か。私の世界の敵と同じね」

 

「深海棲艦、という敵ですか。海を支配して空路や海路を妨害してダメージを与えて、通常兵器では撃破が出来ない水中生命体でしたね」

 

 瑞鶴は以前に深海棲艦について簡単ではあるものの説明はしていた。と言っても、こちらは写真なんて持っていない。なので、宮藤がピンと来ないのは無理もなかった。写真など持っていないため、口頭で説明するしかない

 

「しかし、よくそんな恰好で海にいられるな。防水仕様なのか?」

 

「はい、海の上を走って艦載機を飛ばしています」

 

 瑞鶴は零戦53型を見せた。搭乗員妖精である岩本隊が敬礼したが、みんなは唖然としていたシャーリーもポカンとしている

 

「本当に空母だね。というか、よく長時間海の上を歩けるね。でも、低体温症と脱水症状になりそうだけど、そこは平気なの*3?」

 

「そう? そんな事は気にしたことないけど。でも、私からしたら酸素マスクも防寒着もなしによく空高く飛べると感心するわ*4

 

「あ、そこは突っ込むのね」

 

 ハルトマンは力なく言った。こちらでは常識と思えているものが、他の人からだとその常識が通用しないのが分かる瞬間だった

 

「では、泳ぎは得意なんですか?」

 

「まあ、海上戦と対空戦と対潜戦が主だから艤装が破壊し機能しなくなった時に泳ぐからね」

 

 瑞鶴は答えにリーネは感心していた。実はウィッチが海上に落ちた時のための訓練として溺れないためのリーネと宮藤は水泳をしていることを瑞鶴は知らない

 

「そうか、海との戦いだから泳ぎは得意なわけか。どれくらい泳げるんだ?」

 

「そうね。戦闘で大破して撤退した時に途中で艤装が使い物にならなかった事があったけど、その時は鎮守府まで泳いで帰ったわ。提督に怒られたけど」

 

「そちらの提督は厳しいな。艤装を大切にしなかったから怒られたのか?」

 

「いや、無線使えるんなら31Km泳ぐ必要ないだろ、と言われて。あの時は無線が通じなかったんですね。帰ってからは何故か直っていて。それに近くの岸に上がってよその家に電話を借りるのも失礼かと思って自力で泳いだの」

 

 坂本少佐は感心していたが、途中の瑞鶴の予想外の事に固まった

 

「え?」

 

「え?」

 

((((化け物か?))))

 

 坂本少佐のドン引きに瑞鶴は頭を傾げたが、他のウィッチは唖然としていた。実はこの芸当が出来るのは瑞鶴ぐらいである。瑞鶴の艤装の中では彩雲の搭乗員妖精がドヤ顔でしているのを知らない。瑞鶴の水泳が異常に高いのは彩雲の搭乗員の影響かも知れない*5

 

「でも、ネウロイが使用している兵器ってビームなんですよね? しかも、何発も撃っていますし、皆さんよく立ち向かえますね」

 

 瑞鶴は感心していた。映像だが、ネウロイが使用している武器はビームを主に使っている

 

「ああ。それは……そうだな。実際に見てもらった方がいいだろ。宮藤、来てくれるか?」

 

「はい」

 

 坂本少佐は宮藤を呼び、宮藤は前に出たが、坂本少佐は何と拳銃を取り出したのだ

 

「宮藤、シールドを」

 

「え? な、何を?」

 

 瑞鶴は慌てた。あの拳銃は本物だ。恐らく実弾が入っているだろう。宮藤という少女も艤装のような防弾性がある物を持っていない

 

 だが、瑞鶴は目を疑った。宮藤は両手を前に出すと宮藤の頭から動物の耳が。お尻あたりから動物の尻尾のようなものが突然現れ、彼女の前に青い盾のようなものを出現させた。その盾は丸く、しかも奇妙な文字のようなものが浮かび上がっている

 

「な、何あれ?」

 

 瑞鶴が呆気に取られている時に発砲音がしたため瑞鶴は我に返った。宮藤は無事だ。だが、シールドに先ほど発砲されたであろう銃弾がシールドで止まっている

 

「これが、ウィッチの強みだ。シールドを展開してネウロイの攻撃力を防ぐとともに、身体的能力も向上する」

 

 坂本少佐は説明したが、瑞鶴は半ば聞いている状態だ。シールドで止まり床に落ちた銃弾を拾い上げた。弾が熱く硝煙の臭いもすることから演技でも何でもない証拠だ

 

「す、凄いですね……」

 

「深海棲艦ではビームは出さないんですか?」

 

 瑞鶴は弾を見ていると、宮藤からは質問があった。

 

「いいえ。出さないわ。……いえ、1体だけビームを発射する固体があったわ。異質な力を持った敵が」

 

「え? いたんですか?」

 

「ええ。強力なレーザー砲のお陰で艦載機は全て叩き落されるわ、生物兵器や化学兵器を使われて鎮守府が壊滅寸前になるわ、数人の仲間が捕まって拷問されるわ、で酷い目にあったことか、で嫌な戦いだった。しかも、一度は倒したのに生き返ってくるし。何とか勝てたけど*6

 

 瑞鶴は暗い表情で語った。自分もあの時は酷い目にあったのだ。エボラ出血熱にかかって姉である翔鶴と一緒に生死を彷徨った事がある。レーザー砲も強力で艦載機は全て叩き落され、空母組のほとんどは何も出来なかった

 

「どんな敵なんですか?」

 

「生物兵器? 化学兵器? 拷問? 何それ?」

 

「そんな敵とよく勝てたね」

 

 宮藤は驚き、聞いていたシャーロットもハルトマンも引き気味だった。流石にネウロイでも生物兵器や化学兵器は使っていない……はずだ

 

「どんな敵なのか詳しく」

 

「知らない方がいいです」

 

 バルクホルンは身を乗り出したが、瑞鶴は首を振った。あれは知らない方がいい

 

「そう言えば、名前は『瑞鶴』? 本名ではないのですか?」

 

「私の名前よ。艦娘ですから」

 

「苗字名前がないのに疑問もないのですか?」

 

「え?」

 

「え?」

 

 宮藤は質問したが、瑞鶴にとってはこれが当たり前だ。なので、苗字名前が無い事には不満はなく、宮藤の疑問に瑞鶴は分からなかった

 

「それで何時から出撃するんですか?」

 

 瑞鶴は話題を切り替えた。このままでは埒が明かないからだ。価値観や常識が違い過ぎることもあるが、どうもこの世界はこちらの自然法則とは違う

 

 田村1尉の世界とはただでさえ認識が違うのに、それとは違う世界だとこちらの常識が全く通用しない

 

「そうね、今は連合艦隊が例の雲の調査に向かっていると連絡が入ってきたから、それに参加する形で貴方を同行出来るわ」

 

 ミーナ中佐が話題を切り替えた事にホッとしたのか、テキパキと説明してくれいた

 

「あ、ありがとうございます」

 

「どちらにしても、例の雲を野放しには出来ませんから。軍の上層部にはこちらでやっておきますから、貴方は心配しなくていいわ」

 

 瑞鶴は目を輝かせた。これで帰れる! 

 

 

 

「艤装をつけると身体能力を向上出来る訳か」

 

 ミーナ中佐と坂本少佐が上層部と連絡をするため、他の者は待機していた。ウィッチのシャーロットは納得していた

 

「怪我はしないとはいえ、銃弾をそのまま受け止めたら痛くありませんの?」

 

「服が破れるくらいだから」

 

「服?」

 

 ペリーヌは困惑した。服が破れる? はしたない姿を外で晒す? 

 

「おかしいですわ、そのシステム!」

 

「まあ、ね……」

 

 瑞鶴はそれには同意だった。確かに服が破れるのは恥ずかしい気はする。但し、砲弾銃弾を食らっても服が破れる程度ならある意味凄いかも知れない

 

「夜間哨戒みたいな艦娘もいるんですか?」

 

「いるよ。忍者みたいな人が」

 

「へぇー」

 

 サーニャは目を輝かせていたが、横でエイラが酷くにらんでいた事には気にしなかった

 

(姉妹……ではないよね?)

 

 苗字も違う事から姉妹ではなさそうだ

 

 

 

 元の世界

 

「日に日に空が酷くなっていないか?」

 

「やっぱり提督もそう思います」

 

 提督と大淀は『おおすみ』の艦橋から空を眺めていた。天気が崩れているのを心配しているからではない。怪しげな雲から活発に稲光が発している。その雲は風にも流されず、また全く衰えることなく淡路島付近に居座っている。通常の雲なら有り得ない事だ。現在は警戒任務と博士と教授の援助でこの怪現象を治める方法を模索しているが、どうなるか分からないのが本当だ。それに、数時間前に不思議な報告が来た。五十鈴とそれを率いる海防艦から海底から奇妙な音を聞いたと

 

「不思議な音?」

 

「ええ。現場海域から数キロ先のところで変な音を聞いたの。生物を発生させるような音だった。深海棲艦のものじゃない」

 

「対潜警戒はしておけ。もし、ゴジラが現れたら偵察に徹しろ」

 

 提督はそう指示した。本来ならこんな馬鹿げた命令はしない。敵なら先制攻撃すべきである。だが、相手はこちらの攻撃は全く通用しないのだ。いたずらに戦力を無駄にするわけにはいかない

 

 そんな時、呉からこちらに向かっている増援部隊からおかしな知らせを受けた。旗艦は扶桑だが、彼女は困惑しているようだ

 

『提督、瀬戸内海沖で深海棲艦とは違う、おかしな生き物を拾ったのですが』

 

「拾った?」

 

 無線から扶桑が困り果てた声で話している

 

「海洋生物なら逃がしてやれ」

 

『それが、この生き物……喋っているんです。緑色のもこもこしたもので、ここは何処なのか? とかしきりに聞いてきて。しかも火を吐いて』

 

「え?」

 

 提督は思考停止になった。火を吐く? 

 

『ええ。その火を受けて山城は真っ黒にこげになってしまって。生き物は平謝りしていますけど』

 

「取り敢えず、こちらで保護しよう」

 

 支離滅裂な報告に提督は困惑した。奇妙な生き物? なんだ? 

 

 提督は無線を切ったが、その直前に微かに聞こえた

 

 山城と……例の生き物だろうか? 

 

『こんなに黒焦げになって不幸だわ。あんた何者なの?』

 

『僕はチビゴジラ。よろしく、怖そうなお姉さん!』

 

 妙な声を拾ったが、そんな事を気にする暇はなかった。明石から強力な無線機が作れたとの連絡が入ったからだ

 

「これで瑞鶴と連絡が取れます」

 

「だといいんだが」

 

 近くにいた翔鶴は喜んだが、提督は不安だった。無線はフルに稼働しているが、雲からの電波は全く拾えていない。瑞鶴の無線に故障があったのだろうか? 

 

「夕張、教授に別世界に電波を送受信出来る穴でも作れるかを聞いてくれ」

 

「難しいですよ。博士も教授も──」

 

「無理は承知だ。軍が雲に対して空爆を実施する決定をしたそうだ。地上部隊もこちらに向かっている。爆弾で例の雲が消えるかどうか分からないが、急いでやらないと瑞鶴は帰って来れなくなる」

 

 提督は深刻そうに話したため、夕張は顔を引きつった。このままだと、瑞鶴は異世界で一生迷子になるかも知れない

 

 

*1
陸軍の場合は兵長。海軍の場合は一等飛行兵。なお、海軍は1941年6月1日の階級制度改正までは一等航空兵と呼ばれていた。1942年11月1日からは飛行兵長と改称されている

*2
自衛隊でもパイロットは幹部しかなれない。但し、陸上自衛隊の場合は陸曹に昇任して1年以上が経過した陸上自衛官ならヘリパイロットの道が開ける

*3
水温が低いと人の体温が奪われ低体温症になり命を落としてしまい、さらに海水は人の血液は塩分濃度が高いため飲料水としては不適であり脱水症状に陥る危険性がある。遭難した場合はこれらに気を付けなければならない

*4
人間の高度順応は7000mくらいが限界とされている。高度が上がるにつれ、気圧や気温が低下し、人の呼吸に必要な酸素を含む空気が希薄になるためである。旅客機が飛行している高度1万メートルで酸素マスク無しで人が放り出されると低酸素症に陥り意識を失う

*5
元ネタは広瀬正吾(ひろせ しょうご)飛曹長。彼は撃墜された折りに空母『瑞鶴』へ約31km泳いで帰還した。他にも隊伍の合わない零式艦戦21型の失速ギリギリの飛行速度で誘導したり、碇泊発艦(碇を下して泊まった艦からの発進。通常、艦載機は海上を走る艦のもたらす向かい風を利用して飛び立つため、止まったままだと離陸距離の短縮が難しい)をこなしていた

*6
「時雨の特殊任務」「時雨の緊急任務」の現れたオリ敵




宮藤「そう言えば、建造という方法で艦娘は出るんですよね?瑞鶴さんは人間ではないのですか?」
瑞鶴「ええっと……」
瑞鶴(どう答えよう?人間ではないと答えると、またネウロイなのかと疑われるし、というか、食べ物がないと餓死するし、筋肉痛や肩こりを起こすし、汗をかいたり、酒を飲むと酔っぱらうし……う~ん)
瑞鶴「……私は人間です」
宮藤「悩むところなんですか、それ?」


これがジェネレーションギャップ(意味が違う)!
艦これの世界にて新たなゴジラ(?)が出現?


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第11話 ゴジラとGODZILLA

時雨が改三実装するとは思わなかった
アニメだけど、ゲームでも反映するのだろうか

提督「改三おめでとう」
時雨「ありがとう。でも、不安なんだ」
提督「どうしてだ?最終話だからか?予告で爆撃するシーンがあったからか?」
時雨「そうじゃないんだ……日に日に誰かから嫉妬の視線がとても凄くなってきて(チラッ」
吹雪(ゴゴゴゴゴゴゴ)
提督「……そうか。2期主人公も大変だな」

時雨改三は本作品でも出そうかな


 結局、出撃自体は翌日となった。瑞鶴は雲が消滅して帰れなくなったことに危惧していたが、幸いなことに監視班からは雲は消えていない。また微かではあるだが、雲から未知の電波も感知したとの事だ。人の声がしたという事で、恐らく提督が無線を送っているのだろう

 

「無理ですか」

 

「ごめんなさい。本当なら今すぐ行くつもりでしたが」

 

 ミーナ中佐はすまなそうに言った。しかし、これは仕方ない。艤装は自分で見た限りは問題ないものの、やはり次元との衝突であちこち傷が出来ている。航行には仕方ないが、ネウロイという敵がいる状況で自殺行為である

 

「明石さんのバックアップがあれば戦えるのに」

 

 瑞鶴は拗ねたが、残念ながら資源の補給と入渠がない。燃料は何とかなるが、弾薬と艦載機の補充が不可能だ。まだ艦載機は健全だが、映像で見たネウロイのビームの弾幕には腰が引けた。あんなものに撃たれたら、たちまち大破して海の藻屑となってしまう

 

 しかもメンテナンスすらも出来ないのだから温存する形となった

 

「私、穀潰しかな?」

 

「そ、そんな事はありませんよ。しっかりしてください!」

 

 服部は慰めたが、瑞鶴は気が沈んだ。少なくともウィッチ達の反応は良好だが、武器はあるのに戦えないとなると何だが気が引けるからだ。宮藤からは扶桑料理を振舞ってくれたが……

 

(ここはヨーロッパ、だよね?)

 

 瑞鶴は半ば戸惑ってはいた。ヨーロッパにいるのに、扶桑……日本料理を食べているのは妙な気がした。味はおいしく、礼は言った。そして別の問題があった

 

「空母って速さはどれくらい動かせるんですか?」

 

「やっぱり、30ノットも出すの?」

 

「艦載機は弓矢で飛ばせるのに、夜も飛ばせるような気がするけど」

 

「他にどんな子がいるんですか」

 

 宮藤を始め他のウィッチから質問責めに合った。初めは迷惑していたが、答えられる内容であったため、回答はした。実演として艦載機を飛ばした。周りは歓声を上げていたが、その時に宮藤から空母の名前を聞いて驚いた

 

「あ、天城がいるの!」

 

「え? 知っているんですか?」

 

 瑞鶴は驚愕した。天城ってまさか……

 

「それ、雲龍型ではないよね!」

 

「あ、赤城型……空母です。お、落ち着いて……」

 

「静香ちゃん、しっかり!」

 

 瑞鶴は服部の肩を掴み激しく揺さぶったため、彼女は目を回していた。まさか、ここで驚かれるとは思っていないのだろう。宮藤は空母の事を詳しく知らなかったため助かったのだが、代わりに服部が質問攻めにあったしまった

 

「落ち着いていられないわよ! だって、天城って関東大震災で──」

 

「関東大震災? なんです、それ?」

 

 宮藤は怪訝そうに聞かれた。まさかと思い、宮藤に聞いたが本人はそんな地震は無かったと言っていた

 

「そう……」

 

 瑞鶴は暗い表情になった。実は空母天城については知っている。関東大震災で廃艦になった空母だ。史実と違うのだが、まさかここまで歴史が違うなんて*1

 

「そういえば、瑞鶴」

 

 バルクホルンは近づき質問した

 

「グラーフ・ツェッペリンはいるのか?」

 

「いるわ。真面目でクールな子よ。鉄の女と言っていいかな」

 

「そうか……いいじゃないか。こっちでは大変だったから」

 

 バルクホルンがげんなりしたため戸惑ったが、ハルトマンがそっと近寄り耳打ちした

 

「こっちではネウロイ化して大変だったんだよ。赤城型三番艦だったから」

 

「えぇ~」

 

 瑞鶴は驚きと言うより、『艦だった頃の記憶』と大いに異なっている事に衝撃を受けた。グラーフ・ツェッペリンは赤城型空母の三番艦だったらしい*2

 

(え? ここで建造したら赤城さんに妹が出来る?)

 

 瑞鶴はそんな事を思い描いていた

 

「可能だったら会わせてあげるよ。私の世界のグラーフは姉妹はいないから気が合うんじゃないかな」

 

「本当か!」

 

 バルクホルンは何故か目を輝かせていたが、取り敢えず喜んでくれたようで良かった

 

 風呂も寝る場所も提供してくれたので、彼女は甘えることにした。但し、大浴場は一人だった。彼女たちはまだ仕事をしているので仕方ない事だろう

 

「あちらの世界ではどうなっているのかな……」

 

 瑞鶴はこの世界で満喫はしたものの、やはり心配していた。もし、帰れなかったらどうするのか? それが一番の不安だった

 

 

 

「~♪」

 

 瑞鶴が就寝準備をしている最中、サーニャは夜間哨戒を行っていた。彼女はナイトウィッチだ。魔導針という魔力を頭に発現させ、地平線までの飛行物体の捜査が可能である。また、夜は静まるため遠くの山や地平線からの電波も届くためラジオも聞こえる

 

(瑞鶴さんの世界……行ってみたい)

 

 歌いながらも彼女は密かに思っていた。両親を探すことも大事ではあるが、彼女自身も瑞鶴の世界に興味があるのも事実である。夜間哨戒ルートは例の雲付近になっていた。そのため、彼女が飛行しているのは洋上である。但し、雲の上を飛行している。そんな事を思いながら飛行していたが、突然無線から雑音が聞こえた。ただ雑音が酷くて音が聞き取れない

 

「あちらから聞こえる。でも、あちらは」

 

 サーニャは目をやったが、その方角は例の雲だ。あちらから何かが聞こえる。連絡をして哨戒ルートから外れ偵察を行った。仮にネウロイと遭遇してもフリーガーハマーで反撃出来る

 

 だが、彼女は見たものは驚くものだった。雲を突き破って視界に入ってきたのは炎上している船だった。それも一隻二隻ではない

 

 巨大な船の上に巨大な砲塔があるため、戦艦である事から艦隊だろう。だが、その戦艦も無残な姿に破壊されている

 

「ミーナ中佐、大変です! 艦隊が壊滅しています! 至急応援を!」

 

 サーニャは無線連絡したが、彼女は何かを探知した。地平線の向こうまで見えるはずなのに、探知した者は突然近くに現れたかのような感覚だった。しかも、大きい

 

『サーニャさん、落ち着いて。向こうで何があったの!』

 

「艦隊が──」

 

 サーニャはもう一度、報告をしようとしたが、表情が固まった。艦隊が炎上しているため、その付近は明るいが、その光に何かが映り出した。ネウロイにしては違う。明らかに違うものだ。フリーガーハマーがカチカチと音がした。作動不良ではなく、手が震えていたため音がしたのだ。どんなネウロイでも勇敢に戦った事があるサーニャでも未知の存在に恐怖を覚えたのだ

 

 しかも──それは巨大な咆哮を上げるネウロイなんて聞いたことが無い

 

 

 

「サーニャさん、落ち着いて。向こうで何があったの!」

 

 ミーナ中佐は無線でサーニャを呼び掛けていた。例の雲の事もあって、夜間哨戒ルートを例の雲の付近に飛行することにした。例の雲はネウロイの巣ではない事から警戒レベルはグッと下がった。これは無理もなかった。奇妙な生物音がしたという報告はあったものの、姿形は一向に見たものはいなかったからだ。電波障害はあるものの、接近さえしなければ無線は繋がるし、しかも輸送船などの海上ルート付近であるため、警戒レベルは徐々に下がっていったのだ

 

 瑞鶴の話であるゴジラは501JFWの中の話で留まっていた。ただでさえ異世界からやってきたであろう艦娘である瑞鶴が来た事で上層部は困惑しているというのに、ゴジラの話になるとややこしくなるからである。しかも、目撃情報は一切無いため信じさせることが難しい

 

 いや、現時点をもって最初の目撃者はサーニャになる

 

『艦隊が──』

 

 サーニャの声がしたと同時に無線からとんでもない音が聞こえてきた。それも普通の音ではない。サーニャの声を遮った不気味な甲高い音は、部屋中に響き渡った。あまりの巨大な音にミーナ中佐も坂本少佐も驚きを隠せなかった

 

「何、今の?」

 

「警報を鳴らせ!」

 

 ミーナ中佐は困惑したものの坂本少佐はとっさに叫んだ。ネウロイにしては可笑し過ぎる。ネウロイでないなら、もしかして……

 

 

 

 緊急出撃したウィッチ達はすぐに現場に向かった。目的はサーニャの保護と敵の撃破だ。現場に向かったが、向かう途中で異様な光景を見た。海の向こう側から巨大な青い光の柱が夜の空を突き破っている。しかも2,3発放っている

 

「何だ……あれ?」

 

「ネウロイ?」

 

 バルクホルンもハルトマンも困惑していた。遠くで奇妙な光が光っている。あんなものは見た事が無い

 

 ネウロイという可能性もあるが、幾らネウロイでもあんな出力を出すビームなんて聞いたことが無い。しかも、ネウロイのビームの色は赤色だ

 

「サーニャ!」

 

 エイラは速度を上げた。サーニャの姿を確認したから駆けつけたのだろう。事実、こちらに向かってくるウィッチがいた

 

「ちょっとエイラさん!」

 

 ペリーヌは抗議したが、本気で止めなかった。サーニャはあの巨大なビームから生還したことになる

 

「あの光は一体?」

 

 宮藤は困惑したが、その質問には誰も答えなかった。いや、分かっていた。分かっていたが、誰も口にしなかった

 

「サーニャちゃん、大丈夫?」

 

 宮藤を始め、他のウィッチも質問攻めになった。無事だった事よりも状況が知りたかった。エイラは息を荒げ震えており、質問には答えられない状態だ。エイラサーニャを庇うそんな最中、ルッキーニはある事に気づいた

 

「あれ? 全部撃ち尽くしたの?」

 

「ホントだ。ロケット弾、全て撃ったのか?」

 

 シャーロットも気づいた。サーニャが持つ武器のフリーガーハマーにはロケット弾9発は装填されているが、今はそのロケット弾はない

 

 その時だった。エイラは他のウィッチに突進した。両手を広げた状態で突進したため、サーニャだけでなく玉突き事故のように衝突した

 

「エイラ、何を!」

 

 バルクホルンが叱咤した時、彼女の視界は眩い光が目に入った。一瞬だが、エイラの表情を見たが、彼女の表情は見たことないほどの形相だった

 

「回避だ、回避しろ!」

 

 青い光の柱がこちらに向かっている。正体不明の敵が、こちらを攻撃している。しかも、位置を把握しているらしい。あの熱量をシールドで防げるとはとても思えなかった

 

 なので、回避命令をした

 

 幸い青い光の柱は消えたが、それでも照射時間は数秒だ

 

「今のは何です?」

 

 体制を立て直したリーネは表情を真っ青にしたが、はっきりと聞こえた。低音と高音が奇妙にまじりあった、恐ろしい獣の叫びが。遠方に何かがいたのは確かだが、言い換えればあの距離から狙ったのだ。サーニャが報告した燃え盛る艦隊が見えていたが、まだまだ先だ

 

「最速で突進する!」

 

「待ってください。敵が消えました」

 

 シャーロットは加速しようとした。あの熱線をスピード最速で突進したら狙いにくいだろうと思ったのだろう。しかし、サーニャは敵が消えたのを伝えたため、シャーロットは止めた

 

 

 

「まさか、瑞鶴が言っていたゴジラ」

 

「ああ。エイラが未来予測していなければ今頃……」

 

 無線から一部始終、状況を掌握していたが、内容が信じられなかった。艦隊が何処の国の所属かを判明するのは時間がかかるだろうが、ミーナ中佐も坂本少佐も気にしているのはそこではなかった

 

 大抵の戦艦には対ネウロイ装甲を搭載しているはずだ。ゴジラはそれを難なく破壊したことになる。エイラがサーニャを含め全員を体当たりさせてまで熱線から逃がしたという事は、エイラは未来予測で視えたのだろう

 

 全員が一瞬で壊滅する姿を

 

「しかし、なぜこの世界に」

 

 作戦を練り直す必要がある。瑞鶴を元の世界に帰すよりも状況は一気に悪化していった。折角、ベルリンを解放したというのに……

 

 

 

 元の世界

 

「今日は商売上がったりだな」

 

 明石浦漁港のある漁師はため息をついていた。艦娘のお陰で安全に漁が出来るようになり、商売も順調に軌道に乗ったという時に例の事件が起きた

 

 映画で大ヒットしたゴジラが現実に現れただのニュースはただのネタではないかと思ったが、生憎そうではなかった。軍の車両や警察も集まったおかげで市場が開けず、奇妙な雲と艦娘の哨戒で漁船も出せない

 

 抗議しても状況は改善される見込みもないので、桟橋で釣りでもすることにした

 

 同業者から「沖に出ないと意味はない」と言われたが、こちらは生活が懸かっているため無視した

 

「こういう日でも大物が釣れたら自慢してやる」

 

 そう言い聞かせながら肩に担いていた釣り竿を手に取ると釣り糸を垂らした。床に腰を掛けようとしたとき、釣り竿が反応した。もう魚が釣り針に付けたエサに食いついたのか? 

 

「今日はついている」

 

 漁師は喜んだが、次の瞬間、その喜びは戸惑いに変わった。今まで経験したことが無い力が釣り竿を引っ張り始めたのだ。しっかり持たないと持っていかれてしまう。凄い勢いで釣り糸が吐き出されていることから何かが釣れたのだろう

 

 サメか? シャチか? ダイオウイカか? それとも鯨か? 

 

 まさか潜水艦娘じゃないだろうな? ……本当に艦娘ならとんでもなくバカ力になるが

 

 猟師は踏ん張ったが、最終的には釣り竿は持っていかれてしまった。あまりに強い引きだったため大物を釣るよりも身の危険を感じて手放したからだ

 

 ……後で女房に怒られるのは確実だが、そんな思いも今では吹き飛んでしまった。沖合の海が盛り上がったと思うとその波は近づいてきている。波も大きくなっている

 

「うああぁぁぁ!」

 

 猟師は必死になって逃げた。何かとんでもないものが近づいている。必死に走っていたが、後ろから近づいてくる何かは桟橋を壊しながら迫っている

 

 

 

 漁港では漁師たちが漁に備えて仕事をしていた。ゴジラが出現したニュースは興味すらなく、寧ろ今回の事件は大迷惑だった。ゴジラがこちらに来ない限りは大丈夫と思っていたが、凄い地響きと共に巨大な足が出現したことで漁師たちは悲鳴を上げながら逃げ迷った

 

 増援で駆けつけ現場へ向かっていた陸上部隊も大混乱に陥った。小さな地震が起こったため何事かと思って進軍を止めたが、漁師たちが全速力でこちらに向かってきた

 

 必死の形相で訴えたが、皆が同時に言って来たため状況が分からない

 

 だが、巨大な鈎爪をもった二本足がこちらに近づいてくるの見た指揮官や兵士たちは状況が分かったと同時に逃げ迷った。戦うよりも上から落ちてくる漁船やがれき類から逃げるのが先だったからだ。しかも、歩く速度が速すぎるため、瞬時に対応できなかった

 

 

 

 特殊部隊である502部隊は奇妙な報告を受けた。明石浦漁港に怪獣が現れ増援部隊が大混乱に陥っているらしい。そのため、急遽現場に向かったが、出迎えたのは逃げ回る人々と巨大な鈎爪を持った巨大な二本足だ。上を見上げるとデカいイグアナのような生き物が咆哮を上げている

 

「な、何なのでありますか!?」

 

 あきつ丸は愕然としたが、怪獣はお構いなく歩行している

 

「あきつ丸、危ない!」

 

 神州丸は叫んだ事により我に返ったが、巨大な足が迫っていた。踏みつぶされるかと思ったが、丁度鈎爪と鈎爪の間だったため踏みつぶされるのは免れた

 

「デカい武器が必要だ……」

 

 曹長は離れていく怪獣に目をやりながら力なく言った。拳銃や小銃は持っていたが、とてもあの怪獣が死ぬとは思えなかった

 

「神州丸、あきつ丸が正気に戻ったら提督に連絡しろ。変なゴジラが現れたとな」

 

 曹長はショックで棒立ちしているあきつ丸を見ながら命じた。変なゴジラが現れたというのは数十時間前に現れたゴジラと姿形が違っていたからである

 

 もし、ある世界の住民が、その怪獣を見たら色んな意見を言うだろう

 

 

 

 あれはゴジラではない、とかエメゴジとか、ジラだ、とか……

 

 

*1
元は天城型巡洋戦艦。しかしワシントン海軍軍縮条約により巡洋戦艦としての建造は中止し空母へ換装されたが、関東大震災での損傷により廃艦された。ストライクウィッチーズの世界では赤城の2番艦となっており、劇中でも登場している

*2
空母「グラーフ・ツェッペリン」はストライクウィッチーズの世界では赤城型空母の三番艦である。シューティングゲームではネウロイとして登場する




ストパン世界
平成ゴジラ「未来予測ズルい!」
元の世界
???「ジラじゃねーよ!エメゴジと呼べ!」

それぞれの世界にゴジラが出現。エイラがいなければ物語終了でしたね。危なかった。BADENDはエイラが未来予測でみたものですから皆さんの想像に任せます

そして元の世界では別のゴジラが出現
え?エメゴジはゴジラじゃない?
細かい事は気にしない()!


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第12話 501発進

ストライクウィッチーズ、アニメ四期でないかな……
それはそうと、早春イベントあるみたいですね
また、資源を貯めないと


「それでは、昨夜に起こった不可解な出来事を説明します」

 

 501JFWの基地にある講堂に皆は集められた。スクリーンの前にミーナ中佐が前に立ち昨日の事について説明を始めた。ウィッチの中に瑞鶴が紛れている事から宮藤達からしたら少しだけ異様だろう

 

「昨日、例の雲を調査していた戦艦ウエストバージニアを中核とした戦艦艦隊が壊滅しました。乗組員の死傷者は多数。特に重巡インディアナポリスは謎の攻撃により消滅したとされています」

 

「消滅って」

 

 ミーナ中佐の説明にシャーロットは絶句した。消滅と聞いてもピンと来なかったからだ

 

「生存者の話によると重巡インディアナポリスは一撃の青い光で爆沈したそうよ」

 

「対ネウロイ装甲を易々と破ったのか?」

 

 バルクホルンも言葉を失った。対ネウロイ装甲はネウロイのビームをある程度防いでくれる。勿論、万全とはいかないが少なくとも一撃で倒されることはない

 

 だが、例の青い光はたった一撃で破壊したことになる

 

「そして、監視班による超望遠鏡カメラで撮った写真です」

 

 投影機からカチャリと音がしてスクリーンに写真が投影された。その写真を見て瑞鶴は愕然とした

 

「え? あれはゴジラ!?」

 

 瑞鶴は叫んだのも無理は無かった。夜中に撮影されているため、写真は暗い。しかし、炎上して沈みそうになっている艦の近くに奴がいた。炎の明かりで照らされた巨大な怪獣が映し出されていた

 

「あ、あいつが?」

 

「あんな奴がうちの艦隊を壊滅させたのかよ」

 

 エイラとシャーロットは唖然とした。話は聞いていたが、どうやら彼女たちが思っていたイメージとかけ離れていたらしい。後で聞くと、ネウロイみたいに黒と赤が混じったような感じだと

 

「熱線の威力や距離も不明。しかも、奇襲攻撃をしかけた後は消息を絶っています」

 

「海に逃げたのかよ」

 

「違います。光のようなものに包まれて消えた、と」

 

 意外な回答にシャーロットは開いた口がふさがらなかった

 

「それと関連があるかどうか不明ですが、例の雲は移動を開始。約5ノットでキーウへ向かっています。稲光も活発になってきており、軍も警戒を強めています」

 

「な! このままだと数時間でカールスラントに上陸されてしまう!」

 

 バルクホルンが大声で挙げた。折角、ベルリンをネウロイから解放させたのだ。ネウロイとの戦いの爪痕もあって防衛が間に合わない

 

「でも、相手は私たちが相手してきたネウロイではなくて、異世界から来た怪獣。どう立ち向かうつもりですか?」

 

 ペリーヌの問いに誰も答えられなかった。いや、答えなんていない

 

「私が未来予知していなければ、していなければ……サーニャだけでなく皆死んでいた」

 

「そんな悪い未来なの?」

 

「全員がシールドを張っても防げたかどうか」

 

 エイラの衝撃な告白にサーシャは真っ青になった。この中のウィッチで強力なシールドが貼れるのは宮藤である。それすら貫通するとなると回避しか出来ない

 

「それでこの怪獣と例の雲をどうするかだが」

 

「──やりますよ」

 

 坂本少佐が説明する前に瑞鶴は遮った

 

 

 

 瑞鶴は説明を半分聞いた状態だった。淡路島で出会ったゴジラだ。仲間の心配はしなくていい。向こう側にはゴジラと艦娘が戦って艦娘が全滅するといった最悪の状況にならなかったようだ

 

 ……別のゴジラが上陸している事を瑞鶴は知らない

 

 しかし、ゴジラがこの世界に現れたのだ。どういう原理なのか分からない。瑞鶴は提督の父親のような科学者ですらない。だが、ある推測を立てた

 

「──やりますよ。私が例の雲に行きます」

 

 瑞鶴ははっきりと言った。時間に余裕があれば、この世界の観光を楽しみたかったが、そういう訳にはいかなくなった

 

「どうして? 瑞鶴さんは」

 

「宮藤さん。心配しなくていいわ。少佐、中佐。私がこの世界に来た事でゴジラがこの世界にやって来た、と思っているんでしょう?」

 

「「「「え!?」」」」

 

 ウィッチ達は驚きの声を上げた。瑞鶴がそんな事を言うとは思わなかったようだ。いや、ミーネ中佐も坂本少佐も無表情だったことから予想していたのだろう

 

「そんな事は無いです! 瑞鶴さんのせいでは──」

 

「分かっている。短かったけど、あなた達がいい人で良かった。私は空母の艦娘だけど、もしウィッチなら空を飛びたかった」

 

 宮藤は必死になって訴えたが、瑞鶴はいなした

 

「だけど、お偉いさん達が違うんでしょ?」

 

「……そうね。例の雲が異世界へ繋がるチャンネルが事実となると、今度はその空間に対して破壊するのを模索しています。既に総司令部は貴方の立ち去りを要求しています。司令部はゴジラという怪獣を呼び寄せた、と」

 

「そんな! いくら何でも酷いです! 瑞鶴さんは悪くないです!」

 

 宮藤は悲痛な叫びをあげていたが、瑞鶴は分かっていた。無関係ではないからだ

 

「瑞鶴さん! 危険です! やめてください!」

 

「ありがとう」

 

 瑞鶴は笑顔で答えた。必死に止めようとした宮藤は予想外の反応で戸惑った。いや、周りも同じだ。てっきり拒否されるかと思ったらしい

 

「宮藤さんは優しいね。嫌いじゃないわ。だけど、ここにはいられない。私の世界では、待ってくれている仲間がいます。翔鶴姉が悲しんでいる」

 

「待て、姉がいたのか?」

 

 バルクホルンは少し驚いたような顔をした。予想外だったらしい

 

「そうです。翔鶴姉……いえ、翔鶴は引っ込みがちな性格なんです。私がみてやらないと。赤城さんも加賀さんも提督も待っている」

 

「そうか。君はしっかり者なんだな」

 

「トゥルーデとは真逆だね」

 

 ハルトマンとバルクホルンが言い争いをしているのを瑞鶴は眺めていた。時間に余裕があれば仲良く出来る出来たかもしれない

 

「それでお願いがあるのですが、例の雲の海域まで送ってくれませんか? 近くまで降ろしてくれたら自力で航行しますので」

 

「分かった。しかし、海上で降ろすことになると水上機になるな」

 

 瑞鶴の頼みに坂本少佐は考え込みながら答えた。どうやら空挺部隊のように落下傘による降下は避けられたらしい

 

「瑞鶴さん。こんな形でお別れするなんて」

 

「いいのよ。初対面の時は酷い目にあったけど」

 

 瑞鶴はボソッと言った。不本意とはいえ、あの事は忘れられなかったらしい

 

「まあ、瑞鶴の事はよく分かったからいいけどね。芳佳よりも小さかったから」

 

「え? 小さい?」

 

 ルッキーニが笑いながら言っていたため、瑞鶴は首を傾げた

 

「ん? 胸の大きさ。芳佳の方がまだあったし」

 

 この言葉がきっかけで瑞鶴は顔を真っ赤にしながら弓に手をかけた

 

 

 

「ヒィー! 怖いー!」

 

「小さな飛行機でも威力は十分あったぞ」

 

「人に向けていいものではないよね? しまって、その戦闘機!」

 

 ルッキーニが涙目になりながら、シャーロットとハルトマンの陰に隠れていたが、二人もドン引きしていた

 

「別にいいよね~? ビームを防げるシールド貼れるんだから銃撃しても問題ないよね~?」

 

「目がマジになってるよ!」

 

 瑞鶴はニコニコしていたが、目は完全に笑っていなかった。ルッキーニに対して艦載機を発艦させたのだ。シールドを展開したところを銃撃したため手加減しているのは分かるが、艦載機を巧みに使って三人を壁まで追い詰めたのだ。逃げ道が無いため、三人は縮こまっている

 

「気にしていたんだ。やっぱり気にしていたんだ」

 

「け、喧嘩は良くないです」

 

 宮藤とリネットはオロオロしていたが、どう対処すればいいか分からない。しかし、宮藤は何かを思いついたのか、提案をしてきた

 

「こ、ここには胸を大きくできる土偶があります! それを使ったら瑞鶴さんも」

 

「え? 本当?」

 

 瑞鶴は目を輝かせていた。話に食いついたのか艦載機を瞬時にしまうと宮藤に近寄った

 

「どうするの?」

 

「ええっと。リーネちゃんが壊しちゃったけど、治せば何とか」

 

 宮藤は豊穣土偶について話し始めた。半ば創作で、はあるが。土偶に操られた話はせず、勝手に胸部が大きくなった話を何故か熱心に話した

 

 その間にシャーロットとハルトマンとルッキーニは急いでミーナ中佐に逃げた

 

「ビェー! 怖かったー!」

 

「お前たち……しかし、艦娘も侮れないな」

 

 シャーロットに抱き着きながらルッキーニは泣いていたが、バルクホルンはため息をつきながらも瑞鶴を目にやった

 

「矢が戦闘機に変形しましたわ。それにあの戦闘機は──」

 

「扶桑の零式艦上戦闘機だ。似ているが違う。恐らく派生したものだろう。性能が向上している*1

 

 ペリーヌと坂本は冷静だった。喧嘩を止めなかったのはルッキーニの自業自得ではあるが、彼女の実力も見たかった事もあった

 

「ネウロイ相手に戦えるかどうかは置いといて、実力はあるようだな」

 

「トゥルーデ、瑞鶴の味方をしたよね?」

 

 バルクホルンも真剣になっていたが、ハルトマンの指摘には無視していた。瑞鶴に対して口頭注意はされるだろう。それと同時に相手側の実力を分析された事に瑞鶴は気づいていない

 

 

 

 坂本少佐の案内で基地の外に案内された。他の者は出撃するための準備のため別れることになった。この基地は第501統合戦闘航空団の拠点らしい。島のようで、その証拠に周りは海だ。場所はネーデルランドのデン・ヘルダーらしい。残念ながら、瑞鶴にとってはあまりピンと来ないらしい。外に出て観光しなかった事もある。呉鎮守府と違った基地で瑞鶴は彩雲を飛ばしていた。上空から見た基地がどんなものか見たかったからだ。彩雲には搭乗員妖精が撮影用カメラを持っている

 

「広いわね。……あれは滑走路? なんで陸地に収まるように作らなかったの?」

 

 瑞鶴は大海原へ伸びている滑走路に目をやった。格納庫らしきところから滑走路が一本長く伸びている。飛行場と違ってエプロンや誘導路が無いように見える

 

「この世界の人たちからしたら艦娘は異質だし、運用方法が違うのかな? 弓矢から艦載機に変形した時は驚いたし」

 

「そうか? 私は刀を使ってネウロイ相手に戦ったぞ」

 

「か、刀で?」

 

 瑞鶴は独り言を言っていたが、坂本少佐の衝撃な言葉で瑞鶴は驚いた。わざわざ接近戦でネウロイである敵と戦ったのか? 

 

「烈風丸と言ってな。扶桑刀を使っていた時期があった」

 

「扶桑刀……日本刀のようなものか」

 

 瑞鶴は考えこんだ。実際は魔力を吸い尽くすための妖刀であるが、あえて言わなかった

 

「さあ、着いたぞ。空母瑞鶴を例の雲へ送り届ける飛行機が」

 

 岸辺に着いた案内坂本少佐はある機体を紹介していた。それは──

 

「こ、これは零式観測機!?」

 

「ほぉ。向こうの世界でもあるんだな」

 

「の、乗ったのは初めてです!」

 

 瑞鶴は驚きの声を上げた。零式観測機自体は瑞鶴の世界でもあるため珍しくない。しかし、艦娘では重巡軽巡戦艦の偵察や着弾観測をしてくれる偵察機だ。サイズも瑞鶴が保有している艦載機と同じく小さい。また、艦娘であっても軍艦乗りでもないため乗る機会はない

 

 しかし……まさかこんな形で載せてもらえるとは

 

「コイツは戦艦大和から借りたんだ。以前、お世話になったことがあってな。連絡したら機体をよこしてくれた」

 

「や、大和がいるんですか!?」

 

「はっはっはっ! そういえば、艦娘に大和がいたんだったな!」

 

 坂本少佐は大きく笑った。聞いたところによると例の雲の調査のために戦艦大和も作戦に加わっているとの事だ

 

 

 

「ヒェッ! あっという間に!」

 

「空母は空を飛んだことが無いのか?」

 

「いや、そういう問題じゃあありませんから」

 

 零式観測機は二人乗りだ。操縦したことが無い瑞鶴は必然的に後部座席へ乗ることになった。離陸した零式観測機は高度を上げ基地上空へ旋回している

 

「どうして基地上空を?」

 

「そろそろだ。異世界から来訪してきた軍人に501を見せたくてな」

 

 瑞鶴は聞き返そうとしたが、なぜ基地上空を旋回しているのか分かった。格納庫から次々と何かを吐き出してきた。よく見ると宮藤達が例の機械を足につけながら猛スピードで飛行している。あっという間に高度を上げると零式観測機の上で綺麗な陣形で飛行していた。飛行機雲も発生しているため、瑞鶴だけでなく妖精も目を輝かせていた

 

「これが……第501統合戦闘航空団」

 

 一同が零式観測機付近に飛行した事によりウィッチ達を観察した。当初、出会ったときは短い期間だったため何なのか分からなかったが、彼女の足に着けているのは航空機を模している

 

「彼女たちが足に着けているのがストライカーユニットだ。魔導エンジンで飛行している。最初あった時は箒で飛ばないのか、と聞かれた時があったな。ストライカーユニットはその箒を進化させた機械だ」

 

「す、凄い」

 

 坂本少佐の説明で瑞鶴は感心していた。こちらの常識とは全く異なる現象に目を奪われるのも無理はない

 

「坂本さん、瑞鶴さ~ん!」

 

 宮藤が近づき坂本少佐と瑞鶴に手を振った。手を振りながら瑞鶴は前から気になっていたことを坂本少佐に質問した

 

「そういえば、なんで下着なんです? ズボンは履かないんですか?」

 

「何を言っている? ズボンなら履いているぞ?」

 

「え?」

 

 瑞鶴は目をぱちくりさせた。下着だと思っていたものは実はズボン? ズボンなのか、あれは?

 

「今回の任務は異世界から来た瑞鶴さんを例の雲の近くまで送り届ける事です。501、発進!」

 

 瑞鶴の困惑をよそにミーナ中佐が無線で任務を伝えた。伝えている最中、ルッキーニは瑞鶴にこっそりと袋を見せた。瑞鶴には分からないが、袋の中には破壊された豊穣土偶が入っていた。ルッキーニが勝手に持ち出したことに気づく者は残念ながら現時点では居なかった

 

 

 

 元の世界

 

「怪獣が現れたと聞いてみれば、今度はイグアナのようなものか」

 

 提督は頭を悩ませていた。艦娘支援艦『おおすみ』の艦橋から双眼鏡を覗いていた。そこには漁港にくつろいでいる異質なゴジラがいた

 

 そして、悩みの種は明石浦漁港だけではなかった

 

「で、山城を真っ黒にした、そちらの奇妙な喋る動物は何だ?」

 

「いや、私を見ても何も思わないんですか?」

 

 山城は文字通り真っ黒だった。来ている服も肌もまるで墨汁を身体に浴びたかのように真っ黒になっている。増援部隊が到着したのだが、艦娘で唯一被弾したのが山城だけだが、被弾というより真っ黒にされたというのが正しい。その隣には緑色をした奇妙な生き物が陽気になって話している

 

「僕はチビゴジラ。おじさん、ここは何処?」

 

「まだ二十代前半なのにおじさんって……まあ、いい」

 

 近くにいた大淀が吹き出しそうにしていたが、提督は心に何かが刺さったかのような感覚に陥った

 

「ここは何処って、君は何処にいたんだ?」

 

「サトミに内緒で水の中で戦う練習していたら、気が付いたら海にいたんだ」

 

 チビゴジラは何故か陽気に話している。取り敢えず害は無さそうだ

 

「あの、瑞鶴を見ていませんか?」

 

「瑞鶴? 誰?」

 

 翔鶴はすがる思いでチビゴジラに聞いたが、チビゴジラは知らないようだ。サトミも人名ではあるらしいが……

 

「どうなっているの? いつの間にこの世界は深海棲艦だけではなく、怪獣だらけに」

 

「分からない。瑞鶴が無事に帰ってくる心配よりも怪獣との戦闘を気にしないといけない」

 

 時雨は困惑したが、提督はそれどころではなかった。このままだとあのイグアナと戦う事になる。あのイグアナは魚食らしく、現在は保管倉庫を壊して貯蔵している魚をむしゃむしゃと食べていた。漁師たちが見たら卒倒しそうな現象だ

 

「分かった。それで今回の現象を説明できるものはいるか?」

 

「一応出来るぞ」

 

 提督は艦娘達に質問したが、後ろから声をあげる者がいた。柳田教授だ

 

「では、説明してくれ。あのイグアナとこの奇妙な生き物は何だ?」

 

「僕はチビゴジラだよ」

 

 チビゴジラは不満そうにしていたが、時雨が貴方を撫でたため気にしていない模様だ

 

「分かった。最初に現れたゴジラが熱線を吐いた事で時空の壁を破壊したんだ。何故、こんな現象が起こったかは分からない。はっきりと分かっているのは瑞鶴が別次元の世界へ飛ばされたと同時に数体を呼び寄せたらしい」

 

「よ、呼び寄せた?」

 

 大淀は素っ頓狂な声を上げた。呼び寄せたって何をだ? 

 

「最初に遭遇したゴジラが意図的にやった事ではないだろうが、奴は次元を行き来できる超生物だ。なぜ、こんな能力を身に着けたかは分からない。早急にゴジラの次元を行き来する能力を消し飛ばさなければ」

 

「放射熱線を吐く怪獣に立ち向かうなんて自殺行為だ」

 

 柳田教授の説明を聞いた長門は否定した。流石に無理だ

 

「安心していい。特殊な機器類で観測したところ今は四次元の世界をうろついているため今は手出しは出来ない。1回別次元に顔を出しているらしいが、一定場所に留まれないのか次元と次元の狭間にいる。この事態を収めるためには、ゴジラを三次元の世界へ引きずりだす必要性があるが」

 

「それで。あのイグアナは何だ? ゴジラなのか?」

 

 提督は写真に映し出されたイグアナのようなゴジラに指を指した

 

「チビゴジラ、あの怪獣を知っている?」

 

「知らない。でも、怪獣王ではないのは確か」

 

 時雨はチビゴジラに優しく聞いたが、チビゴジラは首を傾げていた

 

「じゃあ、何だ? 瑞鶴の無事を祈ると同時にあのイグアナのようなゴジラを殺す必要があると?」

 

「別に放射熱線を吐かないから楽勝で倒せるだろ?」

 

 提督は頭を抱えていたが、柳田教授は怪訝そうに言った。柳田教授は軍人ではないので、責めるものではない。しかし……あんな馬鹿でかい怪獣をどう倒していいのか分からない

 

 取り敢えず、陸空軍から応援要請が出ているので数人は出撃せざるを得ない

 

 しかし、艦娘も提督も気づかなかった。ジラの耐久力はゴジラと比べてはるかに低いが、その代わりに厄介な能力がある事を

 

 

*1
ここであげた艦載機は零式艦戦53型(岩本隊)。史実の零式艦上戦闘機五三型は零戦五二丙型の栄二一型エンジンを水メタノール噴射装置付きの栄三一型に換装し、燃料タンクを自動防漏式防弾燃料タンクを装備した改良型であったが、完成されずそのまま敗戦を迎えた




???「我々ニ豊穣ノ実リヲ与エヨ……(・∀・)」

瑞鶴の胸部装甲……作品によっては大きさが変わったりと
特にアーケードでは原作よりも大きk(ここから先は爆撃され文字が読めなくなりました。ご了承ください)

一方、元の世界ではチビゴジラ保護とエメゴジ討伐を決行するのだが、次回は……


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第13話 ネウロイ襲来

イベント始まりましたね
新しい艦娘と新しい装備を迎え入れるために攻略しなければ!
……ウィッチ達が妖精さんサイズになったら楽に攻略出来るかも()


「敵影は見当たりません。このまま行けば、数十分で例の雲に到着します」

 

「よし、これなら帰れるわね!」

 

 ミーナ中佐の無線連絡に瑞鶴は目を輝かせていた。仲間のところに帰れるのだから喜びを隠せなかった。ただ、心残りがあるとするなら、この世界を観光したかった事だ。そんな願いはもう叶えられないだろう

 

「そういえば、ベルリン解放を解放したばかり、と言っていたけど、ネウロイに占拠されていたんですか?」

 

「そうだ。カールスラントは最近までネウロイに占拠されていた。ベルリン解放に向けて大規模な反攻作戦『オペレーション・サウスウィンド』に我々501統合戦闘航空団は参戦した。来る時期が早かったら、もしかすると瑞鶴も参戦していたかもな」

 

「……一人だけでは心細いかな?」

 

 坂本少佐は目を輝かせていた。どうやら、こちらの人類共通の敵であるネウロイと戦わせたかったらしい。瑞鶴も興味本位ではあるが、どんな敵か気になっていた。しかし、一人だけでは心細い。せめて護衛する艦隊がいれば何とかなりそうだ

 

「そうか。異世界の軍団と軍事同盟に共闘か。悪くないな」

 

 坂本少佐はそう言ったが、瑞鶴は苦笑いしただけで返事はしなかった。既に田村1尉との世界の自衛隊とは極秘裏に軍事同盟は結んでいる。しかし、ここでそれを言っても話がややこしくなるだけだ

 

「安全な航路だけど、気を付けて。まだ残党がいる可能性もあります」

 

「超大型母艦型みたいなネウロイが現れる可能性もあるってことだね」

 

「でも、あの時は芳佳ちゃんの魔法力が回復したし」

 

「あの時は大変でしたよ」

 

 ミーナ中佐の無線連絡でハルトマン、リネット、芳佳は思い出話を言っていたが、どうやら残党でも強力なものがいるらしい

 

「見えました。例の雲です!」

 

 服部が報告してきた。積乱雲のような奇妙な雲が渦巻いている。雲の内部では稲光が発生しているのか、所々光っている

 

「こんな変な雲から出てきたの?」

 

「ええ、そう……よ……」

 

 ルッキーニが無邪気に聞いていたが、瑞鶴はある方向に目を向けた時、釘付けになった。遠くに軍艦があった。遠いためよく分からないが、姿形で戦艦や空母がいることからミーナ中佐が言っていた例の雲の調査団だろう。しかし、瑞鶴はそんな事よりもある艦に目をやった

 

「あれは……戦艦大和!」

 

「ん? 本当だ。よくわかったな。しかし、出撃しているなんて聞いていないが」

 

「艦隊がゴジラに沈められた事で無理やり引っ張り出したのね」

 

 坂本少佐は困惑し、ミーナ中佐がため息をついていたが、瑞鶴はそんな状況よりも大和に目を輝かせていた

 

 ウィッチの話だと多国籍艦隊だが、瑞鶴にとっては奇妙な感覚だった。『艦だった頃の記憶』とは言え、やはり軍艦の姿は胸が躍るのだろうか? 

 

 その時だ。零式観測機が突然、ぐらついた。突風が吹いた訳でもないのに、失速したのだ

 

「何だ? エンジンがやられた」

 

「え? いったい何が?」

 

 瑞鶴は驚いた。エンジンから煙は出ておらず、油圧計も異常はない。被弾したわけでもないのに、エンジン不調をきたし失速している

 

「坂本さん!」

 

「少佐!」

 

 宮藤もペリーヌも慌てて追った。しかし、二人が追いついた時には零式観測機のエンジンは直り坂本少佐の腕もあって持ち直した

 

「危なかった。しかし、何だ?」

 

「……原因は分からないけど、例の雲に近づいた船舶や航空機は一時的に電気系統に異常をきたしたという報告はあったけど」

 

 ミーナ中佐は例の雲を見ながら答えたが、彼女も困惑した。通常兵器で一時期に電気系統に異常をきたしたら作戦に支障をきたしてしまう

 

 また、ストライカーユニットは現在のところは一時期に異常をきたしたものは皆無だが、今後起こるという保証はない

 

「……中佐、少佐。ここからは私一人で行きます」

 

「お、おい。まだ距離が」

 

「いいんです。向こう側の世界に帰れたら、この雲を消滅する手段を見つけます」

 

 瑞鶴は博士と教授の事を思い出しながら言った。少なくとも二人は対策しているかも知れない

 

「しかしだな」

 

「ミーナ中佐、坂本少佐。微弱ですが、電波をキャッチ。何か聞こえます」

 

 坂本少佐は渋っていたが、サーシャから報告が入って来た

 

「え? 何も聞こえないけど」

 

「いや、雑音に交じって何か聞こえる」

 

 宮藤は分からなかったが、バルクホルンは気づいたようだ

 

「……ズイカクニツグ。コチラオオスミ。オウトウセヨ」

 

「おおすみ! まだあの雲は私の世界に繋がっている!」

 

 サーシャが無線を聞き取りながら復唱をしていたが、瑞鶴はその無線の内容が何なのか瞬時に分かった

 

 艦娘支援艦である『おおすみ』が無事なら仲間も提督も無事だ! 翔鶴姉は待っているに違いない

 

「お願いします! 降ろしてください!」

 

「そうだな。貴官は仲間のもとに帰らないとな」

 

 坂本少佐はうなずいた。彼女も悟ったのだろう。瑞鶴の意志は強いと。宮藤芳佳を勧誘する時とは状況が違うからだ。501JFW全員、誰一人反対しなかった。反対する必要などなかった

 

 

 

「皆さん、短い間でしたけど有り難うございました」

 

「ええ。また何処かで会ったらパーティを開きましょう」

 

 無事に着水した零式観測機から海面に降りた瑞鶴は頭を下げてお礼を言いミーナ中佐は笑顔で返事をしたが、他の皆の表情はこわばっていた。しかし、瑞鶴はそんな事には気づかず例の雲を目指して航行していった

 

 

 

「しかし、凄いな。魔法力無しで水面をアイススケートのように走っている」

 

 シャーロットは瑞鶴が海面を航行している姿に驚きを隠していなかった。魔法無しで人間が海面に立つことが出来るのか分からなかった

 

「ウルスラが調べたら分かるんじゃないか?」

 

「えー。わざわざ呼ぶの?」

 

 バルクホルンの指摘にハルトマンは嫌そうな顔をした。新型ストライカーユニットでちょっとしたハプニングがあったが

 

「でも、瑞鶴さんの世界へ行ってみたい気がしますね」

 

「止めた方がいい。今度は宮藤が──」

 

 宮藤は瑞鶴の世界に興味津々だった。瑞鶴が空母なら戦艦や駆逐艦などの艦娘はどういった姿形をしているのか気になっていた。瑞鶴から話は聞いていたが、言葉だけなので中々ピンと来なかった

 

 ……決して下心ではない! 断じてない! 

 

 バルクホルンは半ば呆れて止めるよう言ったが、言い終えるや否や甲高い音が鳴り響いた。何時も聞きなれている音。例の雲の反対側から赤色の色をまとった飛行物体が現れた

 

「敵だ! ハンブルクとベルリンの頃にいた奴と同じ強い奴!」

 

 ハルトマンはネウロイの姿形を見て叫んだ。人類が生み出した航空機のように翼がある。だが、その翼は前進翼だ。甲高い音がしたと思うと501JFWの所へ突進していった

 

「不味いです! 瑞鶴さんがやられます!」

 

「守り抜くぞ!」

 

 全員は一斉に攻撃を開始した。瑞鶴はネウロイ相手に戦える能力はない。下手したら例の雲にたどり着く前に攻撃を受けて撃沈してしまう。ウィッチ達は手に持っている銃を撃ちまくったが、ネウロイは航空力学では有り得ない挙動をしながら銃弾とロケット弾を回避。隙を見てウィッチ達へ赤色ビームを叩きつけた

 

 宮藤達はシールドを貼って防御していたが、ネウロイはビームを複数発射していく

 

「前のヤツとは強い!」

 

「速すぎる!」

 

 ネウロイはトリッキーな動きをしながら高速飛行していく。まるでこちらをからかっているかのような飛行だ

 

 後ろを取ったと思ったら急旋回して後ろを取りビームを叩きつけてくる始末だ

 

「クソ!」

 

 ネウロイからの攻撃を受けてしまい、服部が悪態をつきながら海面に落下していった。彼女は無事だが、ユニットに被弾したため飛行が出来なくなったのだ。すぐにシャーロットは追撃をしたが、あまりの高機動と高速にスピード狂のシャーロットでさえも大苦戦した

 

「しまった!」

 

 後ろから回り込まれたネウロイにシャーロットは青ざめた。既にネウロイは攻撃体制に入っていてシールドを展開するにしては間に合わない

 

 覚悟した時、別の方向からネウロイへ向けて銃撃してきた。銃撃を受けたネウロイは損傷していないため白い粉のようなものを吐き散らしながらも、即座にその場から離れた

 

 味方の銃撃かと思い目をやったが、攻撃してきた相手に驚いた。高速で飛行している奇妙な航空機だ。シャーロットは知らないが、その奇妙な航空機こそ瑞鶴が発艦させた噴式戦闘爆撃機『橘花改』である

 

「あ、あいつ……へぇ……面白いものを持っているじゃん」

 

 シャーロットは感心した。別世界の住民とはいえ、命を懸けて戦う意志はあるようだ

 

 

 

「速い……というか、飛行が滅茶苦茶。どういう原理で飛行しているの?」

 

 瑞鶴は見慣れない敵と宮藤達が戦っている姿を見て混乱した。ストライカーユニットもだが、ネウロイも瑞鶴が知る航空機の飛行ではない。シールドでビームを防いでいることから、防御面は完璧だろう。だが、ネウロイも目を見張るものだった。ビームの威力は不明だが、着弾した場所から高い水柱が上がったことから重巡級の砲弾くらいの威力だろう

 

 一機なのに、複数のウィッチ達相手に戦っている。そんな状況を見て瑞鶴は何もしない訳にはいかない。虎の子である橘花改を発艦させて航空支援をした。コアを破壊する手段も探す手段もないが、敵の注意を逸らす事は可能だ

 

 一人のウィッチは助けたが、今度はこっちに向かって凄いスピードで突進してきた。気づいた時には目の前におり、両翼の端から赤色の光を発光させていた。それが、ビームを発射する前の動作だとわかっていたが、こちらはどうすることもできない

 

 覚悟を決めた時、瑞鶴とネウロイの間に誰かが割り込んで来た。宮藤が急降下して瑞鶴の前に立ちふさがるとシールドを展開。ネウロイのビームを防いだ

 

「大丈夫ですか!?」

 

「え。ええ……」

 

 宮藤がMP40をフルオートで撃ちながらネウロイを追い出したため瑞鶴はホッとした。例のネウロイはこちらにビームを多数撃ち込んでいるが、宮藤のシールドで全てふさがれた

 

「もう一機、来るわ! 例の雲の中!」

 

「え? 雲の中でも場所が分かるの?」

 

 ミーナ中佐の無線警告に瑞鶴は驚いた

 

「ミーナ中佐の固有魔法、空間把握ってやつ」

 

 ハルトマンは雲の中から出現した二機目のネウロイに立ち向かいながら言った。形姿は同じだ。二つのネウロイは連携を取りながらウィッチ達に挑んでいる

 

「手強い相手が二つも現れるなんて」

 

「例の雲はネウロイの巣じゃなかったのかよ!」

 

 ペリーヌもシャーロットも愚痴を言っていたが、坂本少佐は違っていた

 

(ネウロイの巣にしてはおかしい。たまたま付近を通りかかった残党か?)

 

 坂本少佐は空戦空域から距離を置きながら零式水上観測機から観測をしていた。例の雲からネウロイが現れた情報は一切ない。ネウロイは予想よりも斜め上に進化するのは知っているが、今回は違うような気がした

 

 だが、そんな心配を他所に一つ目のネウロイは片付けることに成功した

 

「これでどうだ!」

 

 ハルトマンはネウロイの前に躍り出ると短機関銃をありったけぶっ放した。コアの場所は分かっていたため、集中的に銃弾を叩きつけたのだ。強くなったとはいえ、コアの場所は変わっていなかったらしい。コアが破壊された事によりネウロイは白い金属片のようなものをまき散らしながら消滅した

 

「やった!」

 

「あと一つ残っている。私が──」

 

 バルクホルンが増槽を捨てて突進しようとした時、眩い光がバルクホルンの目に刺さった。あまりの眩しさにバルクホルンは目を覆った。いや、他の人も同じだ

 

 まるで世界を二つに引き裂くような光。目の前でカメラのフラッシュを焚かれたみたいな

 

 巨大な青い光がネウロイを襲ったのだ。光が消えた時にはネウロイが消えていた。放射熱線がネウロイのコアごと破壊した。いや、破壊ではない。消滅といった方が正しいか

 

「まさか……」

 

 瑞鶴は青い光が発したのを目で追った。誰がネウロイを攻撃したのかは明白だ。あの時の咆哮が耳に入って来た。間違いない。アイツだ

 

「嘘……」

 

 瑞鶴は呻いた。あの怪獣の咆哮だ。どんな動物とも違う。一度聴いたら二度と耳から離れない咆哮だ

 

 ゴジラが例の雲から突然出現し、ネウロイを放射熱線で破壊したのだ

 

「不味い!」

 

 ゴジラの背鰭が光りだした。再び別次元に吹き飛ばされるか、それとも……

 

 どちらにしてもあの熱線を受けてはいけない! 

 

 

 

 元の世界

 

「無線に反応があった」

 

 艦娘支援艦の整備室で明石は機器類を弄りながらも微かに喜んだ。『おおすみ』に瑞鶴と交信するため強力な無線設備を設置したことにより、早速作業にかかった。例の雲が軍によって破壊される前に瑞鶴を連れ戻さないといけない、幸い軍が例の雲を消滅させる作戦は延期となった。何でも新たに現れた怪獣を対処するのが最優先になったからだ。しかし、その怪獣は足が速かった。しかも、知性があるのか砲弾やロケット弾などは全てかわされ、無傷のまま海へ逃げたのだ

 

 空爆や戦車隊で倒せると陸空軍大将は言っていたが、爆撃機のクルー達や戦車隊にとっては全く楽な仕事ではなかった。巨大な生き物とはいえ、時速400㎞で走る相手にピンポイントで攻撃する手段なんて持っていなかったからだ。よって陸攻の空爆も戦車隊も怪獣に傷一つ負えなかったどころか悪戯に街を破壊しただけだ

 

 海に逃げたことから艦娘はありったけの爆雷を投下したが、伊47からの報告では物凄くスピードで海中へ逃げたと報告があったため、まだ生きているのは確かだ

 

 提督と艦娘が例の怪獣を追っている最中、明石は無線で例の雲に無線で呼びかけをしていたが、電波を微かに拾えた

 

 瑞鶴の声を拾えたのだ。他の女性の声も拾えたが、断片的だったため話の内容は分からない。ネウロイという単語が辛うじて聞き取れたくらいだ

 

「これで相手側と交信が出来ればいいんだけど……」

 

 明石は拾った電波の周波数を紙に書きながら呟いた。兎に角、瑞鶴は生きている。落ち込んでいる翔鶴に知らせないといけない

 

「ねえ、これでサトミと電話出来る?」

 

「電話、出来るの?」

 

 近くにいたチビゴジラが機械に興味津々で明石に聞いてきたが、明石もこの問いには驚いた

 

 電話出来る? 

 

「取り敢えず、サトミという人と暮らしているんだね?」

 

 明石は頭痛がした。取り敢えず、目の前にいるチビゴジラは無害だ。ただ、保護の観点と瑞鶴の捜索という事もあってチビゴジラは明石たちに面倒を見てもらう事になった。ただ、面倒を見てもらうと聞こえはいいが、実際はただ押し付けられただけだ

 

「チビゴジラ、風呂を沸かしてくれない? 設備が壊れているからお願い」

 

「任せて」

 

 チビゴジラは鼻歌を歌いながら風呂場へ行った。『おおすみ』には浴場はあったが、ゴジラの熱線の影響で給湯器がいかれたのだ。修理するためには部品が圧倒的に足りないため、お湯を沸かす作業はチビゴジラに任せたのだ

 

 ……作業と言ってもチビゴジラが炎を吐くだけである。冷たい水が瞬く間に40℃に沸く光景に目を見張ったが

 

「チビゴジラ……飼おうかな。経費削減のために」

 

 明石はボソッと言ったが、提督は反対するだろう。瑞鶴を連れて帰ると同時に怪獣たちを元の世界に返さないといけないのだから

 

 




ハルトマン「トゥルーデ、またアイツだ!」
バルクホルン「二度と同じ手に引っかかるか!」
ネウロイ2『もう殺っていい!?待ちきれないよ!』
ネウロイ1『混乱に乗じて背後から撃て』
ネウロイ2『あくどいね。好きだよそういうの!』

ネウロイ1『バカ!ウィッチを相手にするな!』
ネウロイ2『馬鹿っていうな!仲間でなきゃ殺してる!』

宮藤「ネウロイが喋っています!これは!?」
瑞鶴「……別世界の兄妹の魂がネウロイに乗り移ったんじゃない?」
坂本「片方を撃ち落したら激昂するか泣き叫びそうだな」

え?元ネタ?エースコンバット7に登場したスクリーム隊ですよ()


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第14話 交戦と遭遇

皆さん、こんにちは
雷電Ⅱです。今週は忙しかったこともあり、遅れて投稿します
原因はイベント攻略と私情ですね
イベント攻略……難しいです……


 坂本少佐が水上観測機を墜落し漂流している服部の近くに着水させ救助している最中、現場海域では最悪な状況が起こっていた

 

 不気味な積乱雲の下に奴が現れた。海面から上半身だけ姿を出したゴジラの姿だ。地上に出ていればあまりの巨体に圧倒されていたかも知れないが、下半身は海面下である。しかし、それでも高さは戦艦の艦橋の高さを超えている

 

「で、出た!」

 

「ど、どうします!?」

 

 ハルトマンと宮藤は困惑したが、瑞鶴は咄嗟に反応した

 

「攻撃しても怒るだけです! 私の世界でも交戦しましたが、アイツは戦艦の主砲弾に耐えたんですよ!」

 

「戦艦って艦娘の方か? 艦娘の誰の艦砲射撃に耐えたんだ?」

 

「大和さんと長門さんです」

 

「なっ? 46cm主砲弾を耐えたのか!?」

 

 坂本少佐は絶句したが、瑞鶴は首を振った

 

「大和さんは改装して強くなったんです。51cm3連装砲を積んでいます。直撃しても傷一つつきませんでした」

 

「51cm主砲弾をアイツは耐えたのか!」

 

 バルクホルンは絶叫した。バルクホルンにとってはこの世界の戦艦大和を思い浮かべていた。鹵獲したネウロイのコアを10分間のみ暴走無しに制御できる「魔導ダイナモ」を搭載したのを除けば決戦兵器である。ネウロイ相手でも十分戦えるのだが、ゴジラ相手では効果は無いだろう

 

 51cm主砲を搭載したことには驚いている*1が、それすら耐えたゴジラ相手になるとどう反応したら分からないのが本当だ。ネウロイはコアさえ破壊できれば何とかなるが、ゴジラにはそんなものはない

 

「各員……攻撃開始」

 

「待て、ミーナ!」

 

「ゴジラをカールスラントに上陸させるとネウロイ以上の被害が出るのよ! ネウロイを呆気なく倒したことには驚いているけど、ゴジラが都合よく人に被害を与えずにネウロイだけを倒してくれると思う? ヨーロッパは更地にされてしまうわ!」

 

 ミーナ中佐の攻撃命令にバルクホルンは耳を疑った。正気の沙汰ではないが、ミーナの指摘に皆はハッとした。折角、ネウロイから解放したというのに、今度はゴジラによって踏み潰されてしまう

 

「でも、どうやって……」

 

 リーネはか細く言ったが、その後の言葉が見つからなかった。どうやってあの怪獣をヨーロッパから遠ざけるのか? 

 

 あるとすれば、そう……誘導である。ゴジラの気をそらす必要がある。現にゆっくりではあるが、キーウを目指している

 

「ヨーロッパには何人もの大勢の人が住んでおりますのに」

 

 ペリーヌも青ざめていた。ヨーロッパにゴジラが上陸したら終わりだ。女子供老人関係なくゴジラは放射熱線で一掃するだろう。ゴジラの進路を変えるためには501JFW全員が囮にならないといけない。しかも、ゴジラに関してはこちらを無視している。 脅威なしと判断しているのだろう。ゴジラからしたら、うるさいコバエかアメンボが近くにいるようなものだろう

 

「コイツ、何か意志があるのか?」

 

 バルクホルンは呟いた。ゴジラが何を考えているかはわからない。しかし、あの怪獣は何かを考えている。ゴジラは獣ではなく、知性はあるに違いない

 

「まさか、ネウロイの存在を察知しているんじゃ?」

 

「そんなことある訳ないんだな!」

 

「でも、一理あるかも。ネウロイを攻撃したのは私達を助けるためではなくて、脅威と感じた」

 

 服部は思い付いたかのように言ったが、あまりにも根拠がない主張にエイラは叱った。サーニャは反論はしていたが、今回ばかりはサーニャの反論は耳には入らなかった

 

 そんなことはあってはいけないんだ! 絶対に! まだネウロイを地球上から完全に駆逐すらしたことがないと言うのに! 

 

 もしゴジラがヨーロッパの上陸を許したら、後世にはこう伝えられるだろう

 

 異世界から来た怪獣ゴジラが地球上に蔓延るネウロイを一掃しました。しかし、人々は住む家も土地も失ってしまいました。連合軍もウィッチも異世界の軍隊である艦娘も役に立ちませんでした。それはアメンボ(艦娘)コバエ(ウィッチ)が神様に戦いを挑むようなものでした

 

 エイラは脳裏に最悪な事を思い浮かべていたが、その事は口に出さなかった

 

「シャーリー、どうしよう。アルプス山脈を越えたらロマーニャがやられてしまう」

 

「フェルナンディアさん達が危ない!」

 

 ルッキーニは悲しげに言ったため、宮藤はハッとした。あそこには赤ズボン隊がいる! 

 

「……全員、攻撃開始。ネウロイのように熱線は連続で出せない。今なら攻撃出来る」

 

 ミーナ中佐は決断したかのように無線で伝えた

 

 だが、それは希望的な観測だ。ゴジラの生態系なんてミーナ中佐は知らない。単にエネルギーを温存しているのか? それとも、こちらの奇妙な飛行物体なんて興味が無いだけなのか? 

 

 怪獣の思考なんて分かるわけがない

 

 だが、黙って欧州を上陸させることだけは防がないといけない。それはウィッチ達にもわかっていた。宮藤は不安があるものの、流石にこの状況では口が出せなかった

 

「攻撃目標は頭部。上昇して射撃を実施」

 

「り、了解だ」

 

 バルクホルンは応答したが、それは歯切れが悪いものだった。例の怪獣の弱点が頭部かどうかも怪しい。胸部を狙うのが効率的かも知れない

 

 ウィッチ達と瑞鶴の艦載機は急上昇してゴジラの上空へ躍り出た

 

「撃て!」

 

 ミーナ中佐の合図で一斉に攻撃した。皆は一斉に引き金を引いた。弾丸とロケット弾が猛烈な勢いでゴジラの頭部へ向けて射出された。真っ直ぐ標的に向けて飛来していった弾丸は、ゴジラの頭部へ激突し、表皮に弾かれ虚しく海面に落ちていった

 

 サーニャのロケット弾も瑞鶴の艦載機である艦爆から投下した爆弾も表皮で爆発しただけで傷一つつけられなかった

 

「ぜ、全然効いていません!」

 

 リネットはスコープを覗きながら叫んだ。彼女が持っているのはボーイズMk.1対装甲ライフルだ。その弾丸ですら弾かれている。スコープの先には。未だ余裕綽々と言わんばかりに海上を立ち泳ぎで移動するゴジラの姿だ。標的はあまりにも大きいためスコープを覗かなくても当たるだろうが、何よりも問題なのは全然効果が無いという事だ。ネウロイは再生能力があるため非常に厄介だが、それでも効果はある。しかし、ゴジラの場合は全くそれに当てはまらない

 

「止まってー!」

 

 宮藤は叫びながら撃ちまくった。その願いが通じたのか……単にハエがうるさかっただけだろうが……ゴジラは停止しウィッチ達を睨んでいた。唸りながら口を開き始めている

 

「不味い。全員、散開して退避──」

 

 ミーナ中佐はゴジラが例の熱線を吐く兆候であると感じたのか、散開するよう命令したが、言い終える前にゴジラの背鰭が突然爆発した

 

「連合艦隊が援護射撃をしてくれた! これで進路を変えられるぞ!」

 

 坂本少佐は喜んだ。効果はあるかどうかは知らないが、戦艦や巡洋艦の砲撃なら無視なんてしないだろう。艦隊が一斉に砲撃し、砲弾はゴジラに直撃するか付近の海面に落ちて大きな水柱を立てたりしていた

 

 ゴジラも小さな咆哮を上げながら向きを変えた。そして、艦隊に目を向けると、ある艦だけを睨みだした

 

「アイツ、扶桑の決戦兵器を睨んでいないか?」

 

「まさか、そんな事は」

 

 シャーロットとバルクホルンはそんな話をしたが、二人とも嫌な予感がした。そういえば、この世界に着いた時、1個艦隊を全滅させたよな……

 

 二人の嫌な予感は的中し、ゴジラは進路を大幅に変更して真っ直ぐ艦隊へ向かっている

 

「戦艦大和に向かっている! 艦隊を全滅させる気よ!」

 

「な、なんで!?」

 

 瑞鶴は叫び、ハルトマンは愕然とした。欧州上陸という最悪な状況は防いだが、別の問題が発生した

 

「全機、攻撃を再開! 流れ弾には気を付けて!」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

 ミーナ中佐の掛け声と共に急降下による攻撃を開始した。通常攻撃だけでなく魔法攻撃……ペリーヌの雷撃(トネール)とハルトマンの暴風(シュトゥルム)による攻撃を……を行った。瑞鶴は艦載機の発着艦をしている最中、魔法攻撃を見て驚いたが、今はそれどころではなかった

 

 確かに魔法攻撃は目を見張るものだった。相手が倒れてくれたら……

 

 ゴジラはそんな魔法攻撃を無視して連合艦隊へ真っ直ぐ向かっている

 

 

 

 戦艦大和・艦橋

 

「撃て! 何としてでもアイツを倒せ!」

 

 杉田艦長は必死に叫んだ。謎の雲の出現と異世界から来た住民の報告は来ていた。あまりの荒唐無稽の報告で初めは信じなかったものの、リベリオンの戦艦艦隊が呆気なく全滅した報告を受けて信じざるを得なくなった。調査として戦艦大和を出現させたが、本当に会うとは思いもしなかった

 

 ウィッチを助けるために砲撃をしたと思ったら、ゴジラである怪獣が大和を睨んだままこちらに向かっている! ゴジラへ砲撃しているが、奴は血を噴き出して死なないどころか、傷一つつけられない! 欧州の危機よりもこちらの危機が最優先だ! 

 

 回避は間に合わない! 

 

 下手したらリベリオンの戦艦艦隊の二の舞になってしまう! 

 

 

 

 ゴジラはある戦艦を睨みながら近づいて行った。こちらに飛んでくる豆粒は痛くも痒くもない。時折、大粒の豆が飛んできたが、ケガすらしていないのだから無視した

 

 だが、怪獣王は喜んではいない。やっと変な空間から抜け出したと思ったら、知らない世界へ放り出されていたのだ。自分自身の能力を完全に把握していない。熱線を吐けるのだが、吐く度に強制的に何もない空間に戻されてしまう

 

 しかし、怪獣王は諦めない。自分自身の能力を我が物として脱出するのが先決だ。半ば強引に脱出したのはいいものの、見知らぬ土地に放り出されて戸惑っている始末だ。しかし、それと同時に不可解な力を感じた。五月蠅く(ネウロイ)熱線で撃墜はしたが、その不可解な力を持った者の気配は感じ取った。とても遠いらしいが、そこは全く気にしなかった。それが何なのか興味があり向かおうとしたが、アメンボ(艦娘)コバエ(ウィッチ)が予想以上に五月蠅かったため立ち止まった

 

 熱線を吐いて一掃しようとしたが、見覚えのある攻撃を受けた。怪獣王は覚えていた。あの攻撃を! 島でのんびりと過ごしていたのに、突然攻撃してきた鉄の船(戦艦)を! 

 

 ……アイツだ! あの鉄の船(戦艦)だ! 姿形は違っているが、怪獣王にとってはどうでもいい事だ

 

 こちらを攻撃した不届き者には熱線でお見舞いしてやる! 

 

 怪獣王は背鰭を光らせながらゆっくりと口を開いた

 

 

 

 その場にいた人達は目を覆った。ゴジラの口から眩い光の柱を噴き出したのだ。光は艦隊を包み込んだ。それぞれの軍艦には対ネウロイ装甲が施されていたが、放射熱線を防ぐというのを想定していない。メカゴジラやモゲラに装備されていた人工ダイヤモンドコーティングでもない限りは無理だろう

 

 ゴジラは艦隊全てを沈めようとしていたのか、放射熱線を吐き散らしていた。重巡軽巡は一溜りも無かった。呆気なく爆沈してしまったのだ。戦艦大和は放射熱線の照射が短かったのか、対ネウロイ装甲の効果があったのか耐え抜いた。しかし、第三砲塔は吹っ飛ばし、黒い煙を上げている

 

「アイツ、やりやがった!」

 

「クソ、私たちの世界から出ていけ!」

 

 バルクホルンは急降下して接近すると、弾切れとなったMG42機関銃を逆さに持ち替えて銃床でゴジラをぶん殴った。ネウロイ相手では効果はあったが、ゴジラ相手には効かなかった

 

 ゴジラは向きを変えると口を開いた

 

「バルクホルンさん、逃げてください!」

 

「いや、トゥルーデ!」

 

「ゴジラの死角へ逃げて!」

 

 宮藤やハルトマン、そして瑞鶴から悲痛な叫びが無線から聞こえてきたが、バルクホルンは立ち尽くしていた。シールドを展開したが、恐らく簡単に貫通するだろう

 

 バルクホルンは覚悟を決めて目を閉じた

 

 やられる! 

 

 だが、聞こえてきたのは鈍い音と鼻を覆うほどの悪臭だった

 

 目を開けるとバルクホルンは目を疑った

 

 ゴジラが悶えている? 

 

「な、何が?」

 

「バルクホルンさん、今のうちに早く!」

 

「トゥルーデ、急いで逃げるよ!」

 

 宮藤とハルトマンが駆けつけ引きずられるようにゴジラから離されてもされるがままだった

 

「何をやっているの! あんな無茶をして!」

 

「……すまない。何があったんだ?」

 

 ミーナ中佐から叱られたが、バルクホルンは謝罪すると状況を聞いた

 

「分からないです。口から小さな煙を出したかと思うと悶えだして」

 

 宮藤は説明したが、宮藤自身も分からないようだ。いや、誰も分からないだろう

 

「瑞鶴さん、分かります?」

 

「分からないです。でも、気になったことがあります」

 

 ミーナ中佐の質問に瑞鶴は今まで気になっていたことがあった

 

「あの怪獣、熱線を1、2回吐いたら姿を消していません?」

 

「え?」

 

 瑞鶴の疑問に皆は顔を見合わせた。熱線を吐いたら消える? 

 

 完全に推測だろう。科学的根拠も全くない推測。だが、その推測は正しいことが分かる

 

 ゴジラは咆哮を上げながら光の粒に包まれながら消えていった。幽霊のように消えたのだ。残っているのは壊滅寸前の連合艦隊だけだ

 

「消えた? 何が?」

 

「兎に角、瑞鶴さん。直ぐに例の雲に突入を──」

 

 ミーナ中佐は無線で連絡したが、ミーナ中佐は固まった。例の雲を凝視していた。いや、宮藤もリネットもバルクホルンもペリーヌもシャーロットもエイラもサーニャも例の雲を凝視していた。海上にいる瑞鶴も着水し零式観測機に乗っていた坂本も服部も同じだ。生き残った軍艦が海に放り出された生存者を救出していた者や海の上でもがく生存者も我を忘れて例の雲を凝視していた

 

 雲から何かが出てきた

 

 まるで鍋のようなキノコのような強大な飛行物体が雲から出現したのだ。銀色で眩い光を発光しながらゆっくりと降りていっている

 

「ね、ネウロイですか?」

 

「ネウロイってあんなのだったっけ?」

 

 宮藤やシャーロットが困惑するのも無理は無かった。ネウロイの姿形は様々だが、基本的には赤と黒の色をしている。だが、今降りてきているのは銀色だ。しかも、今まで聞いたこともない駆動音が辺り一帯を轟かせていた

 

 ビームを吐かないのを見ると、ネウロイではなさそうだ

 

 

 

 瑞鶴は啞然として空を見上げていた。奇妙な出来事にはとっくに慣れているはずだ。だが、雲から奇妙な未確認飛行物体を目の当たりにして驚くな、と言う方が無理である

 

「この世界の航空機ではないですよね?」

 

「いや、見た事が無い」

 

 瑞鶴は坂本少佐に質問したが、坂本少佐は否定した。坂本美緒は扶桑海事変の頃から前線にいるベテランではあるが、こんな奇妙な飛行物体が実用化した国は聞いたことが無い

 

「まさかウォーロックのような兵器か?」

 

 坂本少佐は一瞬、以前ブルタニアで対ネウロイ兵器であるウォーロックを思い出した。が、坂本少佐はすぐに否定した。ウォーロックの類にしてはおかしい

 

「こ、こっちに来ていません?」

 

 服部の指摘に皆ははっとした。奇妙な大型円盤は瑞鶴と零式観測機に接近している。攻撃もせず、無線との連絡もせず、奇妙な駆動音を立てながら接近する未確認飛行物体(UFO)……。宮藤達も瑞鶴や坂本少佐と服部が乗る零式観測機を護るため銃を構えながら警戒している

 

「ミーナ中佐……」

 

「攻撃して来るまで、攻撃は厳禁です」

 

 瑞鶴は弓を引きながら警戒をした。厳密には瑞鶴の上司はミーナ中佐ではない。しかし、提督と同じく士官であるのは確かだ

 

 未確認飛行物体(UFO)は目の前で止まった

 

 皆が警戒する中、飛行物体の中央部辺りからドアが開いたのである

 

 

*1
史実のドイツはH級戦艦を計画しており、実際にH44では50.8cm砲を搭載する計画があった。但し、史実でもあくまで計画段階であるためカールスラント出身でバルクホルン達は知らないだろう(ただ、超重戦車ラーテなどの兵器もあることからもしかすると実用化しているかも知れない……)




バルクホルン「クソ、あのUFOが誰が乗っているんだ?X星人か?ブラックホール第3惑星人か?エクシフか?ビルサルドか?兎に角,
宇宙人であることには間違いない!」
瑞鶴「く、詳しくないですか?まだ、宇宙人と決まった事は」
バルクホルン「そうか。なら、ミレニアン(ゴジラ2000ミレニアム)で」
瑞鶴「作品違いますよね!?」

次回は宇宙人……ではなくて、○○人が登場します


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第15話 拉致

こんにちは、雷電Ⅱです
今日は土日なのでゆっくりとしています
まあ、ゆっくりとしているとは言い難いですが
しかし……なんで祝日は火曜日になるんだ?


「誰か出てくる!」

 

 謎の巨大円盤の飛行物体から扉らしきものが開くのを見てシャーロットは叫んだ。全員は目の前の謎の飛行物体を警戒していた

 

 現れたのは……人型? 

 

 いや、歩く姿や形は人間だ。しかも、ビジネス用スーツを着こなしている。顔や姿からして男性だろう

 

 何故、その人が宙に浮いているのが謎だが

 

「人間……ですよね?」

 

「でも、誰?」

 

 皆は困惑していた。一人の人間が宙に浮きながら歩いている? いや、空中に光の床のようなものが伸びているが、関係あるのだろうか? 

 

 しかし、皆は一人の人間の後ろのものに警戒した。機械のような人型が現れた。機械のようなものといったのは、瑞鶴も宮藤達も分からなかったからだ

 

 全体は黒光りしており、ごつく、歩く度に駆動音もしている

 

「ウォーロック?」

 

「それにしては形姿が全然違いますよ」

 

 シャーロットは咄嗟に口に出したが、宮藤は否定した。少なくとも、あんな形姿はしてない

 

(ロボット?)

 

 瑞鶴は困惑しながら心の中で呟いた。柳田教授がガラクタで作ったターズを思い出したからだ。しかし、目の前にいる機械のような人型は明らかにターズよりも大きく洗礼された格好だ

 

 謎の人間と機械のような人型は瑞鶴達に立ち止まると笑みを浮かべながら言った

 

Salve(こんにちは). Ne wary(警戒しないで下さい).Non sum hostis(私は敵ではありません)

 

 男は丁寧にあいさつしたが、何を言っているのか誰も分からなかった

 

「え? 何を言っているんだ?」

 

 エイラはポカンとしていた。目の前の奇妙な現象よりも男が発した言葉に戸惑ったからだ

 

「何語? 宇宙人?」

 

「恐らくですが、今の言葉はラテン語かと」

 

 瑞鶴も戸惑っていたが、ペリーヌは男が話している言語を見破った

 

「ラ、ラテン語? アイツが言っている事は分かるのか?」

 

「さ、流石にかじった程度ですので何を言っているのか、までは……」

 

 バルクホルンは驚いたが、ペリーヌ本人も分からないようだ

 

 男は言葉が通じないのに顔をしかめながら、左手につけている腕時計をみていた。しかし、腕時計にしては右手で何かを操作していたが

 

 男は如何にも分かった、という表情をして左腕を下ろすと、また話しかけてきた

 

「ああ。これは失礼。すまない。少し年代を間違えてしまった。そんなに警戒しないでくれ。その物騒な武器を下ろせ。友好的な話し合いをしに来たんだ」

 

「あんたは誰だ?」

 

 男は一方的に話し始めたが、坂本少佐は一蹴した。怪しげな事をしている人が友好的な話と言っても信用できないのは当たり前だ

 

「地球均等環境会議の者です」

 

「知らないな」

 

「ええ。この世界には無いのは当然です」

 

 男は服から奇妙なバッチと派手な身分証のようなものを出したが、坂本少佐はますます警戒をするだけだ

 

「随分と酷いやられ方ですな。ゴジラにやられて大変だったでしょ。少しばかり海兵二、三人と沈んだ軍艦をサンプルとして回収分析してもらっていいですかな?」

 

「何を言っている? 貴様はゴジラの事を知っているのか?」

 

 男は穏やかに頼んでいるらしいが、内容が尋常ではない。しかも、例えがあまりにも酷い

 

「坂本さん、あれ!」

 

 宮藤は空を指さした。円盤から小型の虫のようなものが複数飛び交っている。光を当てゴジラによって艦隊を破壊した現場を徘徊していた。勿論、海兵たちは黙っている訳にもいかず、武器をとって攻撃をしていた。大破した大和からは対空砲を盛んに撃ちあげている

 

「おい、あれをやめさせてくれないか。偵察ドローンによるスキャンが出来ないのではないか。タダではないんだぞ」

 

「その前にあれを止めさせて下さい」

 

 ミーナ中佐は穏やかに頼んではいるものの、本人は怒りを抑えているのだろう。偵察ドローンとやらの飛行物体は海兵や軍艦に対して攻撃はしていないため安心はしたものの、見知らぬ人の言い分を大人しく聞くほど優しくはない

 

「貴方のやっている事はスパイ行為、もしくは不当な諜報活動に当たります」

 

「マダム。風邪の症状はありません? 発熱や身体のだるさとか?」

 

「ありません!」

 

 ミーナ中佐は顔を真っ赤にしながら怒鳴ったが、恐らくこれに反応した言葉はマダムと呼ばれた事だろう

 

「ミーナ、落ち着け……何が目的だ?」

 

「単刀直入に聞こう。こいつらを見たかね?」

 

 坂本少佐は聞いたが、相手から質問されたのだ。近くにいる機械は手から映像を投影された。しかも、立体的だ。通常なら驚異的な科学技術を見て驚くだろうが、今はそんな雰囲気ではない

 

 しかも、映し出されたのは見たこともない人だ。紫色のスーツを着た中年の白人男性と緑色の服を着たブロンド髪の白人男性だ

 

「知らないね」

 

 ハルトマンは素っ気なく言ったが、男性はお構いなしに聞いてくる

 

「では、この人は?」

 

 次に映し出されたのは女性だ。何故か立体映像の下には『エミー・カノー』と表記されているが

 

「誰よ、エミー・カノーって!」

 

「やれやれ、手掛かりなしか。全く、アイツらはなぜ連絡を寄こさない」

 

 瑞鶴は答えたが、男は瑞鶴の反応すら無視し、それどころか小声で、しかもわざと皆に聞こえるかのように独り言を言っている

 

「誰かは知りませんが、あなた方を連行します。ネウロイではないのは分かりますが、軍法会議に──」

 

 ミーナ中佐は事務的に言った。ここで話し合っても時間の無駄だし、連れてくることにしたのだ。しかし、ミーネ中佐が言い終える前に小さな偵察ドローンが奇妙な機械音を立てながら男の前に来た。男はドローンを弄ったが、手を止めて驚いた表情をした

 

 そして、なぜか瑞鶴の方へ向いた

 

「君、ちょっと来てくれないか?」

 

 男は来るよう仕草をしたが、宮藤達は瑞鶴の前へ躍り出た

 

「誰だか知りませんが、瑞鶴さんの手出しはさせません!」

 

 宮藤は怒鳴った。ウィッチ達も同じだ。どんな理由かは知らないが、見知らぬ人に打ち解け合った艦娘を渡すわけにはいかない

 

 会って数十時間しか経っていないのに、ここまで身体を張って瑞鶴を守ろうとしている姿に瑞鶴は驚きはしたものの心の中では感謝した

 

(みんな……)

 

 瑞鶴はウィッチ達を見渡した。坂本少佐は瑞鶴を見て無言で頷いている

 

「丁重にお願いしているつもりですが……そこをどいて」

 

「では、さっさとお帰り下さい」

 

 男は静かに言ったが、シャーロットは帰るようシッシっと追い払うような仕草をしている

 

「いいですか。これは我々の問題なのです。観光のためにパラレルワールドを移動しにきたのではないのです」

 

「……パラレルワールド。もしかして別世界の住民?」

 

 瑞鶴は男の言葉を聞いて呟いた

 

 パラレルワールド……博士や教授などこちらでは幾度と耳にしてきた言葉だ。何でも別世界が存在する。夢物語でも何でもなく現実に存在している

 

 瑞鶴は小声で呟いたその時、今までマネキンのように微動だにしなかった機械のような人型は初めて動き出した

 

 その人型機械がこちらを見ている

 

 ……まさかさっきの呟き声を拾った? 距離はあるのに? 

 

『あの小娘。パラレルワールドの言葉に反応しました』

 

「本当か? オウム返しに返事している可能性は?」

 

『呼吸、血圧脈拍、発汗からして間違いありません』

 

「……ビンゴだ! 拘束しろ!」

 

 機械のような人型は素早かった。ワイヤーのようなものを射出すると瑞鶴が来ている弓道着の胸当てに命中。それ自体は痛くも痒くもなかったが、代わりに物凄く力で引っ張られていった。どういう原理なのかは不明だが、まるで強力な磁石に引っ張られるかのように瑞鶴は機械のような人型に拘束された

 

「え? あー!」

 

 瑞鶴も宮藤達も反応できなかった。予想外の出来事もあって、反応できなかったのだ

 

「おっりゃー!」

 

 バルクホルンは突進し機械のような人型に殴りかかった。何なのかは不明だが、瑞鶴がさらわれたのは事実だ

 

 拘束された事もあって下手に撃てない。ならば、殴り倒せばいいだけだ

 

 人型機械は反応しこぶしを握りバルクホルンに向けて殴り始めた

 

 機械の拳とバルクホルンの拳が激突し、辺りに鈍い音が響き渡った

 

 力は互角だったらしく双方ともよろけ磁石が反発するかのように離れてしまった。バトルスーツは数歩よろけ、バルクホルンは衝撃で後退したが、空中で何とか体勢を立て直した

 

「ほぉ、バトルスーツと互角に殴り合ったか。大丈夫か?」

 

『大丈夫なものか! 右腕が折れたかと思ったぞ!』

 

「右腕が折れたのではなくて右腕の部品が壊れただろ。なら、私をマザーⅡまで護衛しろ。行くぞ」

 

 男は用が無いとみるや否や帰るよう促した。実は例の人型機械はバトルスーツ……戦闘用パワードスーツである

 

 バトルスーツはバルクホルンを殴り飛ばしたかった。生身の人間なら無事では済まない。ミンチにするつもりだったが、あろうことか互角と渡り合えるとは思わなかったのだ

 

 いや、正確にはバトルスーツに搭載されているコンピュータは警告を出していたが、搭乗者は無視していたらしい。その代償として右腕のアームから火花が出ていた

 

「離して!」

 

『黙ってついて来い!』

 

 瑞鶴は抵抗したが、その直後に瑞鶴は痺れるような痛さに襲われた

 

「アガガガ」

 

 瑞鶴は何が起こったのかわからなかったが、バトルスーツと男の会話を辛うじて聞き取れていた

 

「電気ショックを与えて感電させるのはいいが、殺すんじゃないぞ。我々の計画がパーになる」

 

『そうですか』

 

 瑞鶴は感電させられマヒされたらしい。低出力なのか、それとも艤装のお陰なのか無事だ。身体はマヒしたが

 

 だが、そんな行為を黙っているほどウィッチ達は大人しく見ていない

 

「各員、射撃開始。目標、正体不明の人型機械。瑞鶴さんに当てないように!」

 

「「「「了解!」」」」

 

 ミーネ中佐の合図で一斉に射撃が開始された。流石にサーニャはロケット弾を撃たなかったが、他のウィッチは撃ち始めた

 

 高速で発射された沢山の弾丸は全てバトルスーツへ向かった。ぐったりして拘束された瑞鶴に当たらないのをみるとウィッチ達の射撃能力は相当高い

 

 ネウロイのコアを破壊するためだから当然である

 

 しかし、バトルスーツは発砲する前に行動を起こしていた。左腕を掲げながら後退している。しかも……

 

「おい、あの機械……私たちの銃弾を受け止めていない?」

 

「ウソォ!」

 

 エイラは驚きルッキーニも愕然とした。例のバトルスーツは高速で飛翔する弾丸全てを宙で受け止めているのだ。弾丸が吸い寄せられている? バトルスーツの左手にはウィッチ達が放った弾丸が団子のように集まって宙に浮いている。しかも、どんどんと大きくなっている! 

 

「そんな! これではダメージを与えられない!」

 

 宮藤は叫んだ。このままでは瑞鶴が謎の人物に連れ去られてしまう! そんな焦りで撃ちまくっていたが、バトルスーツを倒せるどころかウィッチ達が持っていた銃は全員弾切れを起こしてしまった

 

 バトルスーツはサッカーボールほどの大きさに集まった大量の弾丸をウィッチ達に向けて弾き飛ばしたのだ。高速で飛翔する弾丸に対してシールドを張って何とか防いだが、男とバトルスーツは既に円盤の前まで移動していた

 

「サーニャ、あの飛行円盤を破壊しろ!」

 

「了解」

 

 坂本少佐の命令でサーニャはロケット弾を1発発射した。何者かは知らないが、瑞鶴の拉致を阻止するのが最優先だ

 

 バトルスーツもサーニャの意思を察知したのかロケット弾を光線で撃墜した

 

「ビームだと? しかも、緑色」

 

「関係ありませんわ! あの円盤は戦闘用ではないようですわね!」

 

 ペリーヌを始めウィッチ達は円盤が戦闘用兵器でないと見抜いた。全員、武器をリロードさせると攻撃始めた

 

 四方八方に銃弾を叩きつけた事で男も慌て始めた

 

「何とかしろ! 予算の関係でバリアは銃弾までしか防げないんだ」

 

『こんなことになるんだったらケチるな。さっさと円盤を起動させろ。ずらかるぞ』

 

 バトルスーツはマヒしている瑞鶴を円盤の中に投げ捨てると飛び交っているウィッチ達に反撃を開始した

 

 緑色のレーザー砲で反撃しているが、レーザーは全てシールドで塞がれてしまった

 

 しかし、ウィッチ達が放った銃弾はバトルスーツの装甲で虚しく弾かれるだけだ

 

「あのスゴ技は一方からしか対応出来ていない。背後なら問題ない」

 

 シャーロットは例の銃弾を防ぐ弱点を見破り四方八方へ飛んで背後へ回って銃撃をしていた

 

『こんな妙な技を使うなんて聞いていないぞ。議長め、後で文句を言ってやる!』

 

 バトルスーツは文句を言いながら応戦していたが、着水している零式観測機に目をやると別の武器を起動させて照準を合わせた

 

「坂本さん!」

 

 バトルスーツが坂本少佐を狙っている事に感づいた宮藤は、零式観測機の前に立ちふさがるとシールドを展開。その直後、眩い光が覆った

 

 稲妻のような青い光がジグザグに襲ってきたのだ。威力が凄まじく規格外のシールドを持つ宮藤でも後退したほどだ

 

 しかも、妙な光線は照準が狂ったのか明後日の方角へ飛んで行ったが、偶然にも洋上で泳いでいるイルカの群れに命中

 

 数匹のイルカは風船がはじいたかのような音を立てて破裂したのだ

 

「イルカが爆発四散した……」

 

「アイツ、ネウロイ以上の厄介な兵器だぞ」

 

 服部はイルカの残骸に呆然とし坂本少佐も絶句した。あれは人の手で作られたものなのか? 

 

 宮藤に対して強力なアークガンを数発連発しているバトルスーツだが、後方から物凄く衝撃を受けっ盛大に転んでしまった

 

「よし、当たった!」

 

 リーネは後方から対装甲ライフルでバトルスーツを狙っていたのである。装甲が薄いであろう個所に叩き込んだら、相手は転んだのだ。効果は不明だが、火花と穴が開いていることからダメージを与えたのは確実だ。しかし、バトルスーツを機能停止するほどではなく、バトルスーツからの攻撃から防ぐためシールドを展開しなければならなかった

 

 バトルスーツも応戦していたが、流石に1体ではウィッチ達相手にするのは骨が折れるらしく、標準も滅茶苦茶に撃っている。バトルスーツ自体に飛行能力がいないのか、それとも数が多くて対応が出来ないのか、ウィッチ達を追い払う程度しか攻撃してこない。また装甲も重装甲ではないらしく、リーネちゃんが持つ対装甲ライフルやサーニャが持つロケット弾には効果があるらしい。実際にロケット弾の直撃を受けたバトルスーツは海に落ちはしなかったものの、数メートル吹っ飛ばされたのだ

 

 しかし、時間稼ぎとしては役に立ったらしく無線で応答があった

 

『飛行準備は終わったぞ。さあ、中に入れ』

 

『やっとか。おっと!』

 

 バトルスーツはサーニャが放ったロケット弾を空中で掴んで握り潰しながら円盤へ向かった

 

 だが、あと一歩というところで男から無茶な命令を受けた

 

『あー、うるさく飛び回っているのもひっとらえてくれ。手掛かりがあるかもしれない』

 

『冗談を言うな! エネルギーの残量も少ないというのに! ん?』

 

 バトルスーツは無茶な要求に非難したが、後方から誰かが突進してくる

 

「瑞鶴さんを助けます!」

 

「宮藤、よせ!」

 

 宮藤は円盤が動きだしたのを見て咄嗟に動き出したのだ。このままでは瑞鶴が連れ去られてしまう。周りが止めようとしたが、既に遅かった

 

「はあぁぁ!」

 

『ふん!』

 

 宮藤は突進したが、バトルスーツの方が素早かった。突進してくる宮藤をジャンプしてかわすと後ろから押さえつけたのだ

 

『これでいいか?』

 

『上等。では、帰るぞ』

 

 バトルスーツは宮藤が持っていた短機関銃MP40を簡単に潰すとそのまま船へ入ってしまった

 

 

 

「芳佳ちゃん!」

 

「宮藤!」

 

 リーネとバルクホルンが叫び、周りも慌てて瑞鶴と宮藤の救助に向かったが、巨大な円盤は奇妙な音を立てると目にも止まらない速さで例の雲へ向かいそのまま消えてしまった

 

「なんてことだ……宮藤が……」

 

「助けに行くぞ!」

 

「落ち着いて。今は」

 

 シャーロットとバルクホルン、そしてミーナ中佐は助けに行くか行かないかでひと悶着していたが、ルッキーニとハルトマンは例の雲に異変を感じたのか割り込んだ

 

「中佐! 大変だよ!」

 

「雲が、大きくなっている!」

 

 二人の報告に三人は争いをやめ例の雲を凝視した。例の雲が活発化している? しかも凄い風だ。いや、雲に吸い寄せられると言った方が正しいか

 

「こっちに来るぞ。退却しろ!」

 

 バルクホルンは叫んで撤退したが、雲の方が早かった。目に見えない力がウィッチ達を吸い上げるかのようだ。ミーナ中佐達は逃げたが、雲に吸い寄せられそのまま消えてしまった。離陸し零式観測機に乗っていた坂本少佐と服部も風に抗えずそのまま雲に吸い寄せられてしまった

 

 雲はウィッチ達を吸収した後、雲は動きを止めた。一連の流れを近くで見ていた戦艦大和の高杉艦長は報告した

 

『501戦闘航空団がネウロイと異なる謎の勢力と交戦。全員が行方不明』

 

 




501統合戦闘航空団、戦闘中行方不明(MIA)
本当はもう少し書きたかったですが(主に戦闘描写を)、文字数がえげつない事になっている事に気づいて数ヶ所はカットしました

登場したのは地球均等環境会議の人
ウィルソンやエミーを知っているらしいが……
因みに登場したパワードスーツ(バトルスーツ)はオリジナルなのでご了承を(アンドロイドが出ているのだからパワードスーツだってあるに決まっている……多分)


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第3章 23世紀の世界
第16話 23世紀


みなさん、こんにちは
予定よりも遅れて申し訳ありません
艦これアニメⅡ終わりましたね。全8話は視ました
最後はよく分からなかったところはあるけど、海外艦が出てきたし、現代で艦娘達が生き生きしていたから良しです

ただ、強いているなら改三になったのならもう少し無双して欲しかったでしたね
現代エンドになったは多分、初期のコミカライズ作品の「いつか静かな海で」のコンセプト流用でしょうね


 瑞鶴は知らない場所にいた。よく分からない場所に。いや、本当によく分からない場所だ。何しろ、立派な都市が雷のような光線で破壊されている場所にいたのだから

 

 雨どころか積乱雲がないのに大量の雷が降り注ぎ、建物を破壊している。爆発音や閃光で人々は悲鳴を上げながら逃げている

 

「何これ?」

 

 瑞鶴は混乱し逃げている人に対して聞こうとしたが、雲をつかむかのように透けている。それどころか大量の人々がこちらに押し寄せてきているのに、ぶつからないどころかすり抜けている

 

(時雨が言っていた四次元空間)

 

 瑞鶴は混乱しながら、以前から聞いていた時雨の体験談を思い出した。過去の映像を見せてくれる空間。音や光景は本当にその場にいるかのような感覚だと。残念ながら、これを経験したのは時雨だけなので、瑞鶴自身も半信半疑だった

 

 だが、そんな半信半疑も空を見上げた瑞鶴は驚愕した

 

 巨大な鳥が空を飛んでいる!? 

 

 いや、鳥ではない! 鳥にしては大きすぎる! 

 

 翼竜にしては可笑し過ぎる! 

 

「ド、ドラゴン!?」

 

 瑞鶴は目を見張った。空を飛んでいたのは金色に輝かせながら飛び回っているドラゴンだ! しかも、そのドラゴンも古代の人々が想像していた姿とは少し異なっていた

 

 何と首が三つもある! 

 

 三つの首のドラゴンが都市の上空を飛翔し電撃を放って町を破壊している? 

 

『……現在福岡市はキングギドラの攻撃を受けています。福岡市及び周辺地域に避難命令が出されています。市民のみなさんは速やかに非難してください』

 

 ニュースらしきものが流れたので、瑞鶴は慌てて辺りを見渡した。音の発信源は電気量販店に展示されていたテレビだった。テレビにはアナウンサーが必死になって報じていた

 

『現在、福岡市はキングギドラの攻撃を受けています。これより──』

 

 その時だった。近くで巨大な破壊音が響き渡った。映像とはいえ、もし本当にその場にいたら爆風で吹っ飛んでいただろう

 

「ひっ!」

 

 瑞鶴が視界に入ったのは巨大な金色の二本足だった。瑞鶴は恐る恐る上を見上げた。後方に二本の尻尾、巨大な両翼、そして三つの首のドラゴン。ドラゴンは雷撃をこちらに向けて放った

 

 

 

「うわあぁぁぁ!」

 

「だ、大丈夫ですか、瑞鶴さん!」

 

 瑞鶴は叫んだと思ったら上半身を起こしていた。知らない床から起き上がっていた。宮藤の近くに洗面器のような器に冷たい水が入っており、瑞鶴の膝の上に湿ったタオルがあったことから彼女が必死になって瑞鶴を看病していた

 

「あれ? 私は──」

 

「私たち、捕まったんです。今はガラス牢屋の中に」

 

「ガラス牢屋?」

 

 宮藤が予想外の返答をした事で瑞鶴は辺りを見渡した。確かに自分達は天井床を覗けば四方はガラスだ。巨大な部屋にいるようだが、ここは何の部屋か分からない。周りには白衣を着た男女が奇妙な機械類を弄っている。働いている人は様々だ

 

 白人、黒人、アジア人、アラブ人、……

 

 そんな人々はこちらに目をくれずに作業をしている。ロボットのようなものが見慣れない銃を持って警備しているのを除いて

 

「私、確か変な機械につかまって感電したんだっけ」

 

「はい。瑞鶴さんを救助しようとしたら私も捕まってしまって。ストライカーユニットは没収されて変な機械をつけられたお陰で魔法が使えないです」

 

 宮藤は両腕を瑞鶴に見せた。宮藤の両腕には奇妙な機械が取り付けられている。そのせいで魔法陣が出ないのだろう

 

「私の艤装も取られたのね? 私はどれくらい気を失っていたの?」

 

「時間は分かりませんが、2時間くらいです。変な場所に連れてこられて、こちらから声をかけても無視して……あ、でもタオルと水は寄こしてくれました」

 

 宮藤は答えたが、状況は最悪だ。恐らく、捕虜扱いだろう

 

 瑞鶴は立ち上がるとガラスの方へ向かった。まだ本調子ではなく、足がふらついていた

 

「瑞鶴さん、まだ寝ていては──」

 

「大丈夫よ。──ねぇ、聞いている? ここは何処なの!?」

 

 瑞鶴はガラスを叩きながら白衣を着ている研究員に怒鳴った。防音ではないらしく、数人は作業を中断させて顔を見上げたが、興味ないのかすぐに作業を再開させた

 

「ちょっと! 少しは話を聞いて──」

 

「聞いているよ。そんなにガンガン叩いても割れないぞ」

 

 瑞鶴は烈しくガラスを叩いたが、嫌な男の声が聞こえてきた。瑞鶴は声がする方へ体を向けると、そこには先ほど出会った男がいた

 

「あんた、ここから私たちを出して!」

 

「人にものを頼むときは丁寧に、と習わなかったかね。それに私の名前はシモンズだ」

 

 男……シモンズはため息をつきながら言った

 

「質問に答えると、ここは厳重警備の研究施設。君たち2人はここで監視され検査される」

 

「検査?」

 

「君たちはそれぞれ別の異世界の住民だ。放射線を浴びているかも知れないし、我々の世界では治療できない病原体を運んでいるかも知れない」

 

 男……シモンズは丁寧に説明をしていた

 

「でも、私たちの世界へ来たときは平気だったんですよ」

 

「それはたまたまだ。それか、検疫技術が未熟かそういう概念がないのか──」

 

「待って。我々の世界ってここは何処?」

 

 宮藤は必死になって訴えていたが、シモンズはいなした。本当にこれが必要なのか不明だが、彼の話で瑞鶴は気になったことがあった。

 

 さっき我々の世界って言っていなかった? 

 

「そうだな。分かりやすく言えば『ゴジラが誕生した世界線』とでも言っておこう。西暦は2204年だ」

 

 シモンズの説明で瑞鶴と宮藤は顔を見合わせた。ゴジラが誕生した世界? それに西暦2204年……23世紀? 平行世界で田村1尉がいた世界よりも遥かに未来の世界? 

 

「貴方たちがゴジラを送った?」

 

「違う違う。だが、この件は極秘だ。君たちがどうなるかは上の判断だし、今は時空連続体の損傷を修復させるが最優先課題だ」

 

 聞きなれない単語が出てきたため、瑞鶴も宮藤も理解は出来なかった

 

「いいかね? そこで大人しくしていてくれ。多元宇宙論を証明するために議論しているのではないのだよ。君たちが科学者や平行世界に詳しくない者ならお口をチャック」

 

 シモンズは静かにするよう頼んだ

 

「そんな事は出来ません! ミーナ中佐や坂本さんはどうなったんですか?」

 

 宮藤は抗議した。仲間がいない事で宮藤は不安になっていた。自分と同じく捕まっているのではないかと思ったのだ

 

「何が目的なの? その地球……環境整備会議の」

 

「地球均等環境会議だ」

 

「どっちでもいいわよ。そんな人たちが私たちを拉致するなんておかしいわ」

 

 瑞鶴は苛立った。こんな事をしてまで拘束するのはどうかと思う。しかも何の説明もなく、拉致同然のことをされて納得する訳がない

 

「単刀直入で言うと、君たちは危険だ。特にツインテールのお嬢さんは。ゴジラの放射熱線を浴びているにも関わらず、平然と生きているどころか別の世界へ吹っ飛ばされたことに」

 

 シモンズの指摘に瑞鶴はハッとした。今までゴジラが熱線を吐いていたが、どれも破壊している。少なくとも瑞鶴みたいな事例は起こっていない

 

 だが、そんな事はどうでも良かった。この人たちは詳しく教えてくれないが、今回の件で何か知っている! 

 

「済まないが、これ以上の会話は無意味だ。処遇は決まり次第、ペットと遊んでおいてくれ。おい、ドラット三匹を連れてガラス牢屋に放り込むんだ」

 

 シモンズは部下に命じたが、周りにいた人が驚いた。まるで正気か? と驚いている学者もいる。部下らしきものが抗議してきた

 

「シモンズさん。あの二人とドラットの接触は危険です。何が起こるか分からない」

 

「例の放射線が検知されているから、接触したと同時に融合してキングギドラになるって言いたいのか? 構わない。アイツらは我々の世界にはない技術がある。この世界を侵略する計画もあるかもしれない」

 

 話の内容が尋常ではなかったが、瑞鶴はある事に気づいた

 

 キングギドラ? 

 

「キングギドラって三つ首のドラゴンの事? 金色の鱗をして雷を口から吐く怪獣?」

 

 瑞鶴が会話に無理やり入ったが、瑞鶴の言葉に周りで作業をしていた人たちは一斉に作業を止めこちらを見ていた。多数の視線が集まったため、瑞鶴は戸惑った

 

「知っているんですか?」

 

「ごめん。夢で見た事を口に出しただけだから」

 

 宮藤が質問してきたため、瑞鶴は慌てて言った。ただの夢であると笑い胡麻化そうとしたが、残念ながら23世紀の人たちは通用しなかった

 

「シモンズさん。彼女は嘘を言っていません。噓発見器に反応していません」

 

「どうだっていい。別におかしくはない。既に我々の常識を超えた現象は起こっているのだから。作業は中止だ! この2人を審議にかける!」

 

 シモンズが命じてから周りが慌ただしくなった。そして、部屋の隅で身動きすらしなかった4体のロボットが動き出し、こちらにやって来た

 

 ロボットがガラス牢屋に近づくや否やガラス扉が開いた

 

「M10を破壊しないでくれ。全く最新のバトルスーツをスクラップにするなんて」

 

「エム10?」

 

「このアンドロイドだよ。本来なら人間と変わらない姿をしているが、予算の都合上、人工皮膚を提供してくれなくてね。お陰で旧式の量産モデルを支給する始末だ。まあ、そんなことはいい。さっさと来るんだ」

 

 無機質で歩くアンドロイドに瑞鶴と宮藤は困惑した。しかし、従うしかないだろう

 

 どう見ても素手で勝てる相手ではないさそうだ

 

「どうします?」

 

「脱出して見せる」

 

 

 

 元の世界

 

「提督、『おおすみ』の修理が終わりました」

 

「そうか。なら、良かった」

 

 大淀の報告を聞いた提督はうなずいた。今は突然現れた怪獣をどうするか悩んでいるところだ。見たこともない怪獣は近海にいるらしいが、どこにいるかは不明だ

 

 恐らく海の底にはいるらしいが

 

 だが、伊47達でも発見されないのを考えると速度は相当なものだろう。提督は艦橋で仕事をしていた。また現れた時に対処するためだ。行方不明になった瑞鶴を探す手掛かりがない

 

「はぁ。これだけの現象をどう片付けるか見当もつかないな」

 

 提督はため息をついた時だ。無線から報告は入って来た。摩耶だ

 

『提督、雲に奇妙な事が起こった』

 

「艦橋から見ている。怪獣が現れたら退避しろ」

 

『違うんだ。対空電探に感度あるんだ。数は12。こちらに向かっている』

 

 摩耶の報告に提督は椅子から立ち上がって双眼鏡から覗き込んだ。摩耶の言った通り、雲から奇妙なものが飛行している

 

『どうします、提督?』

 

「対空戦闘の準備しておけ」

 

 敵かどうかは分からないが、例の雲から出てきたという事は良からぬことだろう

 

 付近を航行していた空母組から盛んに艦載機を吐き出しているのが見える。

 

 提督は艦橋から接近してくる飛行物体を双眼鏡で観察していた。人が空を飛んでいる? しかも銃器を手にして? 

 

「なんだ、あれ?」

 

「さあ?」

 

 大淀も首を傾げた。答えなんてあるわけがない。だが、提督は接近する複数の飛行物体の内、一つだけは見覚えがあった。いや、正確にはさんざん見たものだ。

 

「あれは零式観測機? 艦娘が持っているものじゃない。しかも煙を吐き出しているぞ?」

 

「海軍の偵察機? しかし、海軍からはそんな偵察行為は──」

 

「事情は後からだ。高度が下がっている。救助するぞ」

 

 提督は甲板に向かった。何処の所属か分かるはずだ

 

 一方、『おおすみ』の甲板や付近を航行していた艦娘達は大混乱した。例の雲から奇妙な飛行物体がきたため、対空戦闘の準備を行った。だが、零式観測機が付近に飛行していたため味方かどうか分からない。ただ、主翼と胴体に日の丸に似たようなものが描かれているため味方かどうか怪しいが

 

 零式観測機や未確認飛行物体が初出現した時の高度は500メートルほどだったが、今は更に高度落としている

 

「あの零式観測機、こちらに向かってきていません?」

 

「それどころか、空飛ぶ人が零式観測機を支えているように見えるんですけど?」

 

「どっちでもいいが、まさか、『おおすみ』の甲板に不時着するんじゃないだろうな」

 

 翔鶴と加賀は訝しげに空を見上げていたが、提督は零式観測機の進路が気になった。着水しようとしている感じではない。操縦が効かないのか? だが、接近してくる零式観測機を見た鳥海はある事に気づいた

 

「あの零式観測機、フロートが無い?」

 

 鳥海の言う通り、接近する零式観測機の胴体下には巨大なフロートがあるはずだが、それがない。両翼の下にも小さなフロートがあるのだが、左翼しかついていない

 

 煙も出ているため、被弾したのか、事故が起こったのかわからないが、その衝撃で採れたのだろう

 

「着水する能力は無いという事か。全く修理したばかりだというのに。長門、あの零式観測機を受け止めろ」

 

「ああ、分かった」

 

「「いや、分かったって……」」

 

 長門と提督のやり取りを聞いていた那智と足柄は言った。だが、誰も冗談だと受け止めていない。零式観測機に乗っている人が仕切りに叫んでいるようだが、今は気にしている場合ではない

 

 長門は甲板の中央に立つと、不時着しようとする零式観測機を両手で真正面から受け止めていたのだ。長門はエンジンの所を受け止めたため、プロペラに諸に当たったが、プロペラは長門に傷を付けられなかったどころかプロペラ自身が破損する始末だ

 

 長門は数メートルも押されたが、不気味な音を立てて甲板を擦っていた零式観測機は止まった。零式観測機には2人乗っていたらしいが、二人とも予想外だったのかコクピット内で呆然としていた

 

 艦娘達は零式観測機の周りに集まり艤装を構えていたが、零式観測機の周りにいた飛行物体(?)は零式観測機を護るようにしてこちらに武器を構えている

 

「少佐、変な集団に囲まれてしまいました」

 

「どうする? トゥルーデ?」

 

「私に聞くな。それよりも、ここは何処なんだ?」

 

 相手側の内容は支離滅裂だが、話の内容からして海軍が寄こしたものではないらしい

 

 一方、艦娘達も困惑した

 

「人が空を飛んでいる? どうなっているんだ?」

 

「頭から動物の耳が生えている?」

 

「あれは……パワードスーツかしら? Hey,ユー達はスーパーヒーロー?」

 

 約一名(アイオワ)を除いて人が空を飛んでいる事に驚いているようだ。提督も駆け寄り、ホバリングしている人と零式観測機にいる搭乗員に向かって叫んだ

 

「待て待て待て、攻撃するな! なぜ、この艦に不時着した!? 空母でもないのに、無茶をしやがって」

 

「失礼した。雲に巻き込まれてしまって操縦不能に陥ったのだ」

 

 零式観測機に乗っていたパイロットが立ち上がり、深々と頭を下げた。何故か飛行服を着ていなかったが。それに女性? 

 

「何処の部隊の所属だ!? いや、何処から来た!?」

 

「それは……話せば長くなりますが」

 

 深い緑色のコート式の軍服を着た赤毛の女性は困惑しながら言ったが、対装甲ライフルを持った少女は素っ頓狂な声を上げた

 

「あ、あの人。瑞鶴さんと同じ格好をしている」

 

「っ!? 瑞鶴を知っているのか?」

 

「瑞鶴は何処にいるんですか!?」

 

 提督だけでなく翔鶴も驚いた。周りも驚き、騒めき始めた。正体不明の集団が瑞鶴を知っているとなると

 

「詳しく教えてくれないか。名前は──」

 

「ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐です。第501統合戦闘航空団の隊長をしています」

 

双方は互いに敬礼をしていた。聞きたいことは山ほどあるが、今は彼女から事情を聴くのが先決だ




ハルトマン(まさか艦娘にもトゥルーデのような脳筋がいたなんて)
バルクホルン「何か言ったか、ハルトマン」
ハルトマン「サラッと心を読まないで!」

501JFW、艦これ世界入り


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第17話 同盟と出廷

こんにちは、雷電Ⅱです
新年度ということもあって、遅れてすみません。
四月は思い通りになりにくいですね
そのためイベント攻略は甲で挑まない事に……


「情報を整理しよう」

 

『おおすみ』の艦長室には数人の人が集まっていた。机を挟んで両軍のトップが座っている。提督と大淀と時雨が座り、反対側に坂本美緒、ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ中佐、ゲルトルート・バルクホルン少佐が座っている

 

 机の上にお茶が出ていたが、誰も飲んでいない

 

「第501統合戦闘航空団の諸君。ようこそ、と言いたいところだが、今は状況が状況なだけあって歓迎会や親睦会をする余裕はない」

 

 提督は机の上に散りばめられていたメモ用紙を何度も見ながら言った。瑞鶴と遭遇してから、これまでの経緯を三人から聞いたからだ

 

「まずは瑞鶴を保護してくれてありがとうございます」

 

「はい。ですが……」

 

「瑞鶴を元の世界に戻そうと例の雲に送り届けようもしたところ、厄介な事に第三者の存在が瑞鶴とそちらの仲間の一人、宮藤芳佳曹長を誘拐したと」

 

「はい、そうです」

 

 ミーナ中佐はテキパキと答えた。先ほどまで双方からの情報共有をし終えたのだ

 

 因みに他の人達は別室で待機していた。というより、それしかなかった。軍に報告するにしても、向こうはそれどころではない

 

「そちらの兵器……ではないんですよね」

 

「少なくとも、その……バトルスーツとやらは私達にはないです」

 

 バルクホルンは念を押すように聞いたが、大淀は否定した。いや、類似の兵器である超兵器はアメリカにはあったが、数ヶ月前のニューヨーク決戦で破壊されてしまった

 

「博士なら分かるかな? その……並行世界について」

 

「まあ、関わったことがあるからな。ただ、前回みたいに解決できるかどうか」

 

「こんな現象を関わったことがあるのか?」

 

 時雨と提督が話しているのを聞いた坂本少佐は少し驚きながら質問した

 

「ああ、過去に2回あった。……悪いが親父を呼んでくれないか? 教授は後でいい」

 

「分かった」

 

 時雨は部屋から出てきて数分後に博士を連れてきた

 

「──状況は分かった。例の雲は今は安定しておるから突入すれば帰れるかも知れぬ」

 

「本当ですか!」

 

 ミーナ中佐は安堵した。これで帰れる! 

 

「しかし、今入られると危険かも知れぬ」

 

「何故だ? 瑞鶴も501も無事通過しただろ?」

 

 博士の忠告に提督は訝しげに聞いた

 

「例の雲なんじゃが……自然現象ではない。恐らく、人為的なものじゃ。その根拠は教授が未知の電波を2つ拾った。一つは解析出来なかったが、何かしらの信号だと言っておった。恐らく、遠隔操作の無線だと」

 

 博士の説明に部屋の中は静まり返った

 

 遠隔操作による信号??? 

 

「もう一つは?」

 

「無線通信だ。高度に暗号化されていて通信内容は分からなかったが、ターズのお陰で一文だけ解読できたと言っておる。『ウィルソン、エミー、応答しろ』と」

 

 博士の説明でバルクホルンがハッとした

 

「あの男が一方的に聞いてきた名前だ」

 

 バルクホルンが円盤型の飛行物体から現れた男が、この人を見かけなかったかを尋ねてきたことを思い出した

 

「 では、ミーナ中佐達が出会った人が今回の騒動を引き起こしたの?」

 

 時雨は瑞鶴と宮藤を誘拐した男性と機械のようなものにさらわれた話を思い出しながら言った。尤も、時雨を始め他の艦娘や提督はそいつらに出会っていない

 

「ゴジラは奴らの手先として世界を攻撃しているとか?」

 

「それにしてはおかしくありません? 私たちの世界を侵略しているなら、なぜわざわざ回りくどい事をしないといけないのか?」

 

 時雨は最悪な事を思い浮かべていたが、大淀の指摘には何も言えなかった。本当に例の男がゴジラという怪獣兵器を生み出して世界を侵略すると思っていたが、大淀の疑問には答えられそうになかった

 

「分からない事を考えても時間の無駄だ。話は変わるが、そちらに力を貸してくれないか? 実は奇妙な怪獣がうろついている。そいつを倒したら宮藤曹長の捜索も手伝う」

 

「しかし……」

 

「安心してください。こちらには天才科学者2人いますから。1人は私の父親で、もう1人はイカれた教授だ。だが、腕については私が保証する」

 

 ミーナ中佐は悩んだ。そもそも、提督は501JFWの指揮官ではない。そんな人から頼まれても困るのが本音だ。しかし、宮藤を助けるためにはそれなりの情報と力は必要だ。501JFWは異形で不思議な力を持つネウロイと戦った事はあるが、奇妙な事象については専門外だ

 

「分かりました。本来なら総司令部とのコンタクトが必要ですが、今は非常事態なので構いません」

 

「感謝します」

 

 提督と坂本少佐は握手した。異世界の軍人とはいえ、交渉は成功した

 

 

 

 一同は食堂に向かった。そこに他の艦娘とシャーロット達がいるからである。会談している時に待機させるために使ったのである。衝突がなく仲良くして欲しいと願うばかりである。

 

「それで、どんな奴だ?」

 

「イグアナのようなデカイ生き物。光線は吐かないけど、時速400キロは走れるからなかなか当たらない」

 

「時速約400キロ?」

 

 バルクホルンは一緒に退治して欲しい怪獣がどんなものか気になって聞いてきたが、巨大な怪獣が時速400キロも走るのを聞いて驚いた

 

「しかも知能があるのか勘が鋭いのか知らないが、砲弾やロケット弾をかわしながら逃げている。機関銃は効果なし」

 

「そうか……しかし、ここにはストライカーユニットを整備出来るとは思えな……い」

 

 一同は食堂についたが、皆が目に入ったのは賑やかに騒いでいる艦娘とウィッチであった

 

 まず、明石は故障していた服部のストライカーユニット『紫電二一型』を難なく治したようだ。服部は感謝や嬉しさで何度も頭を下げる姿に明石は苦笑いしていた

 

 次に、アイオワとシャーロットが楽しく話しており、何故かアイオワはオレンジ色をした模型飛行機を持って話していた。その模型飛行機にプロペラはなく、台座には『ベルX-1*1』と明記していた

 

 ペリーヌはコマンダン・テストと一緒に金剛とウォースパイトが入れた紅茶と一緒に飲んでいてお茶会が開かれていた

 

 リネットは対装甲ライフルを暁などの駆逐艦娘達に見せて触らせたりしていた。エイラは扶桑山城相手に何故か占いをしており、結果を見せられた山城は暗い表情になっていた。嫌な結末を教えられたのだろう。サーニャと扶桑は落ち込む山城を宥めていた

 

「仲良くしてくれて良かった」

 

「ああ。ハルトマンとルッキーニは何処へ行った?」

 

 バルクホルンは予想外の事に驚いたのだろう。しかし、いないウィッチがいたため確認をしたが、一人だけは居場所は分かった

 

「アンテナにウィッチがぶら下がっていて困るんですが」

 

「あー、ルッキーニはそこにいたか」

 

「高出力の電波が出せないです。瑞鶴や宮藤曹長を探せませんし、また強力な電磁波は身体に悪影響が」

 

「全く。──それでハルトマンは?」

 

 宗谷からの連絡でバルクホルンは頭を悩ませていたが、ハルトマンが見当たらなかったため、辺りを見渡した

 

 その中に真っ黒に焦げた人が淡い金髪で純白の軍服を着た艦娘を従えて近寄っていた。因みに真っ黒になった人物がハルトマンである

 

「ハルトマン? 何があった!?」

 

「あの奇妙な緑色の動物が火を吐いて酷い目にあったんだ!」

 

 ハルトマンは何故か真っ黒になっていた。緑色の動物が何なのかはウィッチ達にも分からなったが、提督と時雨は分かっていた。チビゴジラだ

 

 聞くところによるとチビゴジラが火を吹いてパンを焼いていたのをハルトマンは興味を持ったらしい。チビゴジラは艦娘に意外と人気だったため興味を引いたのだろう

 

 火を吹くのを見たいと頼んだら、チビゴジラは火を吹いたがやり過ぎてしまいパンだけでなくハルトマン諸共、火を浴びてしまったらしい

 

 普通なら火傷を負っているはずなのに、何故かへっちゃらなのかは分からないが……

 

「パンと認識されたんじゃないか?」

 

「酷いよ! あ、そうそう。トゥルーデと中佐に会わせたい艦娘がいるんだ。グラーフ・ツェッペリン」

 

「私が航空母艦、グラーフ・ツェッペリンだ。よろしく」

 

 からかわれたことにハルトマンはムッとしたが、機嫌を取り直して隣にいた艦娘を紹介した。グラーフも少しため息をしていたが、簡単な自己紹介をしていた。社交辞令でのあいさつだったが、坂本少佐達の反応は予想外のものだった。バルクホルンと坂本少佐も目を見開きながら固まったのだ。だが、予想外の反応をしたのはミーナ中佐だった。両手で口を覆い座り込んだのだ

 

「どうした? 私の顔に何か?」

 

「そう……無事に建造されて活躍していたのね」

 

「提督、一体これは?」

 

 グラーフ・ツェッペリンは困惑していたが、彼女は知る由もないだろう。ミーナ中佐たちがいた世界では、空母グラーフ・ツェッペリンは完成直前で避難民を輸送するために任務に就いたこと。しかし、その際にネウロイの攻撃を受けて撃沈され、それどころかネウロイになったこと。ミーナ中佐が空母を守れなかった事に悔いている事も*2

 

「まさか、赤城もいるのか?」

 

「ああ、いるぞ? あそこに」

 

 坂本少佐の突発的な質問に提督は、食堂で食事をしている赤城に指を指した。赤城は加賀と一緒にまだ昼食を食べていたが、坂本少佐にとっては関係ないだろう。赤城の方へ小走りした

 

 

 

 A.D.2044

 

 艦娘とウィッチが交流をしている時、別世界でも変化はあった。瑞鶴の言葉に地球均等環境会議の評議会へ半強制的に出席することになった。評議会と聞こえはいいが、実際はただの聞き取り調査である

 

 手錠を嵌められた瑞鶴と宮藤はM10のロボットたちに歩かされていた。何故かシモンズも一緒に歩いているが

 

 建物内での移動のため外の様子は分からない。だが、廊下を歩いている時に色んな展示物や写真が目に入った

 

「これは愚かな時代の……失礼、20世紀の人たちが生み出した兵器だ。名前は何と言ったかな? そうそう。スーパーXだ。もう一つはスーパーX2だ。緑色をしたものだ」

 

「まるで、炊飯器みたい」

 

 瑞鶴は銀色に輝く丸みを帯びた物体を見て呟いた

 

「これって動くんですか?」

 

「ん? ああ、勿論。非常事態だから博物館にあったものを組み立てている最中だ。空は飛べるが、ゴジラ相手につうようするかどうか」

 

「え? あれって空を飛べるんですか?」

 

 宮藤は恐る恐る質問したが、空を飛ぶというのを聞いて驚いた。あんなものが空を飛べる? 

 

(あんな炊飯器のようなものが空を飛ぶなんて信じられない)

 

 瑞鶴も心の中で呆れていた。そんなことがあるのか? 

 

「着いたぞ。入れ」

 

 一同は巨大な扉にたどり着き、扉が開くな否や強引に中に入らされた。視界に入ったのは、裁判所みたいなもので、裁判官や検察官弁護士が座るであろう場所にはかなりの人が座り込んでいた

 

「瑞鶴、そして宮藤曹長。地球均等環境会議の神聖なる場所と心得よ。今回は議長だけでなく、他方の国の人までいる」

 

 シモンズは議長を始め役員たちを一人ずつ紹介していった。宮藤はおどおどとしてたが、瑞鶴は苛立っていた

 

 名前なんてどうでもいい。さっさと元の世界へ帰らせてほしい! 

 

「──以上だ。今回の件は我々の予想外の出来事と今後の対策として瑞鶴と名乗る物から有益な情報を得る事」

 

「そんなものはないわよ! 長すぎる! さっさと私と宮藤を元の世界へ帰して! 勿論、艤装とストライカーユニットを返して!」

 

 我慢の限界だったらしく瑞鶴は叫んだ。この世界が自分達の世界ではないのなら、この世界の住民は別世界へ行ける手段……乗り物があるはずだ

 

 ここへ強引に連れてきて監禁とか何様なんだ!? 

 

「残念ながら元の世界へ連れて帰ることはできない。今は我々に危機が迫っているからな」

 

「どうして!?」

 

 学者らしき人が答えたが、瑞鶴は納得がいかなかった

 

「理由はゴジラだ。あのゴジラは予想外の力を身に着けたらしく、その力を使ってこの時代に来ようとしている。我々の危機だけでなく、君たちの世界の危機かも知れない。下手をすると地球が消滅される可能性もある」

 

「冗談にしてはつまらないわね」

 

「冗談ではない。君はゴジラの熱線を浴びても死ななかっただろ? 知りたくはないのか? 君、いや君たちは選ばれたのだよ、あの怪獣王に」

 

 学者の告発に瑞鶴は宮藤と顔を見合わせた

 

 瑞鶴と宮藤(私たち)ゴジラ(怪獣王)に選ばれた? 

 

 

*1
シャーロット・E・イェーガーのモデルの人が実際に乗った航空機。因みにベル X-1はアメリカの有人実験機で、世界で初めて水平飛行で音速を突破したロケット機である

*2
『ストライクウィッチーズ 白銀の翼』より。




バルクホルン「空母娘に発着艦してみたいものだ」
明石「では、スモールライトを使いますね。これでウィッチ達も搭乗員へ」
バルクホルン「待て待て待て!色々と不味いだろ。何処で手に入れた?」
明石「ドラえもんから(ニッコリ)」
バルクホルン「そうか(どうやって入手したんだ?)」


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第18話 クローンのギドラと機械のギドラ

皆さん、お久しぶりです
忙しかった身ですが、やっと落ち着いたので安心(?)して執筆出来ました
その間も色々とありましたね
陸自のヘリ墜落にスーダンでの戦闘に邦人救出のための自衛隊機(輸送機)の派遣
後は艦これイベント攻略と10周年記念をお祝いした事とウマ娘の育成に、それから『ゴジラ×コング』の映像公開に……
あ、決してスワンプに陥ったわけではないです
ともあれ、今月の四月は大変でした


 元の世界

 

「巨大なイグアナを追い出すのは手を貸すとして、どうやってこの事態を収めるんだ?」

 

 基の世界では怪獣を倒す手段を何とか立案していた。急な共同作戦であるため、不備は起こるかも知れないが、何しろ時間がない

 

 例の雲をどうにかして拉致された瑞鶴と宮藤を救出すると共にミーナ中佐達を元居た世界に戻すのが先決だ

 

「あの例の雲の出現の原因は、恐らくゴジラからじゃろう。何処の世界のものかは知らぬが、何らかの形で力を手に入れてしまったのじゃろう。しかし、元々は素粒子物理学などで作られた産物じゃ。自身は能力を把握できず、無意識に別世界に通路を作ったどころか、次元と次元の狭間にいる存在になっておる」

 

「つまり、もしあの雲を通過するとなれば……」

 

「通過した物体はゴジラを攻撃するじゃろう」

 

 ミーナ中佐は恐る恐る言ったが、博士はきっぱりと言った

 

「迂闊に帰れない訳か」

 

 坂本少佐は悩んでしまった。帰る手段はあるはずなのに、帰れない事態が起こっている

 

「僕があの雲に突入して行って無事に着けば」

 

「時雨、止めておけ」

 

 時雨はある提案をしたが、提督は却下した。大淀も明石も慌てたが、提督がいち早く止めるよう言ったのかホッとしている

 

「これまでもうまくやっていけた。だから──」

 

「そうじゃないんだ、時雨」

 

 時雨は反論しようとしたが、提督は首を振った

 

「先ほど教授の話を聞いて来たんだ。恐らくだが、我々とそちらの方々は巻き込まれただけだ。多分、瑞鶴と宮藤曹長を誘拐した人たちは恐らく今回の騒動の原因」

 

 教授とは柳田教授の事である。気難しい性格の持ち主だが、腕は確かである

 

「もしかすると、ミーナ中佐の前に現れた地球均等環境会議とやらは、騒動のケツ拭き要員だろう。どういった組織かは知らないが、禄でもない組織のはずだ」

 

「浦田重工業みたいな?」

 

「止めてくれ。こちらの身が持たないわ」

 

 天龍が皮肉に言ったため、提督は頭を抱えていた

 

「ん? この世界の敵は深海棲艦なのだろ?」

 

 バルクホルンは首を傾げた。彼女は瑞鶴から色々とこの世界について聞いていたに違いない

 

「そうなのだが、人類も一枚岩ではないのだ。特に敵の能力を悪用して世界を自分たちの手で作り変えるような輩は」

 

 提督は小さくため息をついた。瑞鶴はこの世界の事を説明するのに、浦田重工業の件は語らなかったのだろう。混乱するのと瑞鶴自身もあまりいい思い出がなかったからだろう

 

「いいだろう。ちょっとこの世界の闇を教えてやる。丁度、本人もいるからな」

 

 提督は時雨に目をやりながら答えた

 

 

 

 23世紀の世界

 

「ゴジラに選ばれたってあの怪獣は、知性があるわけないんでしょ? あるなら、言語を話して助けを呼べるはずだし」

 

「ねぇ? これは何かの冗談だと思っているの?」

 

 瑞鶴はわざととぼけた。地球均等環境会議の人たちが行っている裁判ごっこに付き合う義理はない。何が言いたいのか分からないし、無理やり連れてこられて素直に答えるわけにもいかない

 

「瑞鶴さん。皆さんを怒らせないで下さい」

 

 宮藤はあたふたしていたが、瑞鶴は構わなかった

 

「てっきり拷問されるのかと思って冷や冷やしたけど、23世紀の人たちって大したことないわね」

 

「そこは安心して欲しい。救いようのない原始人の真似事を我々がするとでも思ったのか?」

 

 別の男性がピシャリと言った。もうたくさんだと言わんばかりの仕草をしている

 

「私たちを元の世界へ帰してください。もし、ゴジラが私たちの世界を破壊したら──」

 

「それはない。ゴジラは四次元空間にとどまっている。必死に四次元空間から逃げようとあれこれあばれている」

 

 宮藤は必死になって訴えたが、科学者らしき人は素っ気なく言った

 

「どうしてそんな事が言えるの? あなた達は私と宮藤曹長の世界が気に食わないからゴジラを差し向けたの?」

 

「以前はそんな考えは無かったが、状況が変わった」

 

 瑞鶴は挑発をしたが、まさかの議長の発言に目を丸くした

 

「君は挑発すれば我々が激昂して真実を話す算段だっただろうが、真実なんて幾らでも話す。……ああ、シモンズ君。不満そうな表情をするのは止めたまえ。状況が変わったのだ。失礼、我々は我々の世界を修正するために行動している。過去を変えるために」

 

 瑞鶴と宮藤曹長は困惑した。過去を変えるため? 

 

 議長は手を挙げた。それは合図だったらしく何もない空間から巨大なスクリーンが映し出されていた。古い映像らしく、年号は1954年と書いてある。白黒ではあるが、燃え盛る街に不気味な怪獣が暴れまくっている

 

「これは1954年の東京に襲ったゴジラの映像」

 

 画面が切り替わり、次に映し出されているのはカラー映像だ。しかし、それも町は破壊される映像だ。唯一違うのは、ゴジラ相手に空飛ぶ炊飯器らしきものが光線やミサイルを吐き出して戦っている映像だ。別の画面には、緑色をした植物のような怪獣がゴジラ相手に戦っている

 

「これは1984年に別のゴジラが現れた映像。ビオランテという植物怪獣。これらの映像は我々の世界の歴史だ。我々には過去に怪獣が存在していた」

 

「怪獣が昔いたなんて」

 

 宮藤は息をのんだ。怪獣がいる住民たちの心境はどんなものだったのだろう

 

「日本に怪獣が現れているにも拘わらず、日本は世界一の経済大国となり、世界各国の土地を金で買収して領土を拡張した。暴走を止めるために私は地球均等環境会議という組織を立ち上げたのだ」

 

 議長は淡々と話していたが、それを聞いた瑞鶴は嫌な予感がした

 

 ……まさか、この人たち

 

「我々は考えた。怪獣を我が物にすればどんな国だろうが、壊滅させることに。数年前に宇宙探査において、金星で未知の生命体の死骸を発見した。腐敗はしていなかったが、我々は好機として死骸を活用した。ビキニ環礁の核実験によりゴジラが誕生したという歴史を改変しに我々の怪獣キングギドラを差し向けた」

 

 映像では倒れている恐竜に奇妙な光線を当てて消し去り、核爆発により三匹のかわいい動物がみるみるうちに三つ首のドラゴンに変わっていくものだった

 

 あまりの衝撃的な映像に瑞鶴も宮藤も固まってみていた

 

「我々は日本を壊滅させた。怪獣を使って。当初はゴジラを操ろうとした。だが、その案は却下された。日本が経済大国になったのはゴジラがいたからだと。ゴジラが現れる度に日本が保有する超兵器は進歩し、復興スピードも早くなっている。強敵がいるから日本は世界を支配できたのだと。だから、別の星にいた怪獣を使った。ゴジラは所詮、地球から誕生した怪獣だ。自然の一部ですらない生命体相手に敵う訳がない」

 

 映像が切り替わったが、今度は兵器の紹介動画であった。メーサー戦車やスーパーXが映し出されていた

 

「……だからって、だからって無差別攻撃していい理由にはならない!」

 

 瑞鶴は怒った。もし、あの夢が本当ならキングギドラは日本の街を無差別攻撃していたことになる。無差別攻撃は人類同士の戦争でさえジュネーブ条約違反だ。尤も、守られたことは疑問ではあるが

 

「これが我々の戦争だ」

 

「そんなのおかしいです!」

 

 宮藤も叫んだ。彼女も地球均等環境会議の思考は可笑しいのだと気づいたのだ

 

 しかし、当然のことながら議長は無視した

 

「目的は達成したはずだ。歴史改変が起こり日本は最貧国になったが、それと同時に奇妙な出来事が起こった。ウィルソンとの連絡が突然、音信不通になった」

 

 議長は暗い表情で言ったが、瑞鶴も宮藤も同情は一切なかった

 

「初めは通信不良かと思った。しかし、人々……いや、ゴジラ誕生を阻止したのに、人々の記憶からゴジラが消えない。歴史書でさえゴジラという文字は何故か残っている」

 

 議長の言葉に宮藤は訳が分からなかったが、瑞鶴は議長の言葉に違和感を覚えた

 

(矛盾している?)

 

 博士からの例え話で生まれる前の親を殺したら自分は存在が消える。タイムパラドックスが起こるのである。現に自分達の世界はそれが起こった

 

 この世界ではそれが起こっていない? 

 

「更に世界各地で無数の黒い穴が出現した」

 

 映像が切り替わった。その映像には見たこともないビル群が立ち並び道路には見慣れない車が往来していた。しかし、発展した都市の……ビル一つが崩れている。いや、崩れているのではない。地面に丸い黒いものが現れビルを取り込んでいる

 

 他の映像も同じだ。山、島、都市……虫食いの穴が出現したのである。ある映像では兵士らしき人が穴に向けて光線銃を乱射していたが、穴はびくともしない

 

「何、あれ?」

 

「学者の間は虚数空間と呼んでいる。地球連邦機関では『ホール』と呼んでいるが」

 

 瑞鶴は戸惑いながらも質問したが、科学者はきっぱりと言った

 

「ホール?」

 

「歴史改変をすれば代償は高くつく。それは我々も承知だ。しかし、実際は違った。過去で自分の親を殺せば存在しなくなる。その理屈になるはずだった」

 

 科学者は説明していたが、瑞鶴は頭に入ってこなかった。というより、ある出来事を思い浮かべていた

 

「じゃあ、日本が最貧国になったから歴史があなた達を許せなくなったというの?」

 

「違う。映像で死にかけの恐竜を転送していたのを覚えているか? あの転送の光には特殊な技術が使われている。微量だが放射線も使用している」

 

 科学者は前に流した映像を流していた。ぐったりしているゴジラザウルスを転送しているシーンだ

 

「あの恐竜……我々はゴジラザウルスと呼んでいるが……ゴジラザウルスはテレポーテーションの光線を浴びたせいでゴジラになったと考えている。それどころかおまけ付きで時空や次元を行き来できる能力を手に入れたのだ。我々はゴジラから間接的に攻撃を受けている。歴史やゴジラがこの世界を滅ぼそうとしている。ホールもブラックホールの擬似的存在として出現させたのだろう」

 

「なっ?」

 

 瑞鶴は戸惑った。ゴジラが時空や次元を行き来できる能力を手に入れた? 

 

「まあ、ゴジラは我々の技術を完全に理解していないのが幸いだ。勘で能力を使っているだけだろう。しかし、ゴジラには知性があると過去の論文で出されている。能力を完璧に我が物にしていたら、我々は滅ぼされるだろう」

 

 科学者は必死になって訴えたが、瑞鶴も宮藤もピンと来なかったため上の空で聞いていた。ただ、彼女たちは仕方ない。だが、博士や教授たちが聞いたら青ざめていただろう

 

 何故なら、過去を改変する能力を手に入れたのならゴジラは人類抹殺のために働くはずである

 

 約30万年前のアフリカにタイムスリップして片っ端からホモサピエンスを放射熱線で殲滅したら人類滅亡することもあり得るからだ

 

「我々の世界の居場所と特定したらここを襲うだろう。時空を超えてこの場所を襲われたら一巻の終わりだ」

 

「知らないわよ! そうなったのも自業自得よ!」

 

 瑞鶴は叫んだ。シモンズを始め地球均等環境会議は被害者と言わんばかりに言いたいらしい。しかし、第三者の視線から見るとやっている事はあまり褒められるものではない

 

「そうです! あなた達がまいた種です!」

 

 宮藤も同意見であった。こんな酷い話は聞いたことが無い

 

「だからだ。ネルソンは過去で有頂天になっているらしいが、我々の危機には気づかない。単なる通信障害として片付けるだろう。しかし、四次元空間を調べた結果、奇妙な現象を発見した。不安定なワームホールだ。君たちの世界に出現したものだ」

 

 科学者の言葉に瑞鶴は淡路島に現れた巨大な奇妙な雲を思い浮かべていた

 

 まさか、あれがワームホール? 

 

「それが何? ゴジラが意識せずに生み出した産物でしょ?」

 

「そうではない。ゴジラが君たちの世界に用があって開いたと確信している」

 

 瑞鶴は首を傾げた。用があって開いた? 

 

「何のこと? 私たちはゴジラなんて──」

 

「お前の世界、歴史改変に成功したらしいな。平行世界と交流したこともあるらしい。現に君から歴史改変した根拠となる放射線が微量ながら検出された。我々とは構造が違うが、ワームホールの発する微量な放射線をシモンズ君が探知した。人体には影響はないが、証拠として十分だ。ゴジラはそれを感じたからお前の世界にやって来たんじゃないか?」

 

 議長の冷たい声に瑞鶴は固まった。まさか、こんな方法で探知されるなんて

 

「そ、それは──」

 

「ここまで議長は説明してやったわ。貴方も冗談抜きで貴方の世界で何があったのかを言いなさい」

 

 評議会の一人の女性が瑞鶴に言った。全員の視線が瑞鶴に集まった

 

「瑞鶴さん?」

 

(不味い……世界崩壊を止めるために時雨がタイムスリップしたのを知られると)

 

 瑞鶴は何とかして話題をそらす方法を模索していた。このまま押し問答しても、うっかりと話してしまう。時雨の件を伝えると地球均等環境会議がどう行動するのか見当もつかないな。少なくとも良い行動をするとは思えない。最悪、侵略されるかも知れない。相手は23世紀。過去に半世紀以上前の兵器を携えた相手に大苦戦したのだから、単純に考えれば勝てる見込みなんてない

 

「……言いたいことはあるわ。ゴジラが襲ってくるかもしれない状況なのに、私たちを監禁なんておかしいわ」

 

「人類の英知を結集させた技術を碌に扱えない巨大生物ごときは我々で対処できる。四次元空間から引きずり出したら我々の兵器で一泡吹かせてやる。その際、ゴジラに付着していた我々の科学技術を抜き取ればいいだけ」

 

「無理よ。私たちやウィッチもゴジラ相手には歯が立たない」

 

「そりゃそうよね。何しろ四次元空間を移動している奇妙な物体にゴジラが興味を持ったせいでやって来ただけでパニックを起こすんだから。貴方たちはそれをネウロイと呼んでいるらしいけど」

 

 女性は宮藤を横目で見ながら瑞鶴を論破していった。宮藤も自分たちの世界になぜ奇妙な雲が出現したのか理解した

 

 ネウロイがゴジラを呼びよせたのだ。しかし、その原因を作ったのは地球均等環境会議だ

 

「勝てる訳ないでしょ。倒せるならとっくに倒せている」

 

「それは過去の話。我々にはプランBを用意している」

 

 女性は口角を釣り上げた

 

「我々には切り札が3つある。1体はまだ未完成だが、それらを使えば事態を納めることは可能だ」

 

「でも、勝てる自信はないわよね?」

 

「そうか。なら、見せてやる」

 

 議長は指を鳴らした。別の映像が流れたが、今回は格納庫の内部らしい。しかし、格納庫はバカでかい

 

 不意に床が開き始めた。開いた床は底が深いのか光が届かず真っ暗だ

 

 だが、何かが上がってくる。二体の巨大な生物が

 

 一つの怪獣に関しては瑞鶴は知っていた。三つ首で金色に輝くドラゴン。宮藤は小さな悲鳴を上げたのも無理もない

 

「ピロロロロロ」

 

 電子的な鳴き声を上げながら翼を広げていた

 

 だが、問題なのはもう一体の方だ。三つ首で尻尾が二股のドラゴンなのは確かだ。違うのは色が銀色なのだ

 

「な、何あれ?」

 

 瑞鶴は唖然とした。そのドラゴンは生き物ではなかった。銀色のキングギドラは色違いの怪獣ではない。機械で出来ている? 

 

「我々の英知を結集させ生み出した機械のギドラ。メカキングギドラだ」

 

 議長の言葉に瑞鶴は驚愕した。間違いない。あれは怪獣ではない。キングギドラを模して作ったロボットだ。柳田教授が人間を模して生み出した二足歩行ロボットであるターズを生み出したように、この世界では怪獣を模したロボットを生み出した? 

 

「ゴジラは能力を暴走させて間接的に我々を攻撃をしてくる。ならば、こちらも戦力を揃えるまで。この怪獣は金星で発見したキングギドラの死骸からDNAを採取しゲノム編集した怪獣。もう一つはキングギドラを模した機械のギドラ。ゴジラを倒し、歴史を修復させ、理想の世界を築く。それが我々の力だ。必要なのは情報と危険分子の排除だ」

 

 メカキングギドラの三つの機械の首が吠えたが、どれも怪獣の音に機械音が混じったかのような咆哮だ

 

「ドラッドを使った偽装作戦なんてもう止めだ。もう超大国である日本は存在しない。君たちの世界は原始的だ。どっちが勝てるか分かるはずだ」

 

 議長は目を輝かせながら自慢していた

 

(止めないと……どうするば)

 

 瑞鶴は内心焦り始めた。地球均等環境会議がどんな組織かは知らない。だが、今となってはっきりと分かる

 

 地球均等環境会議は暴走している

 

 暴走をした日本を滅ぼしたが、皮肉にもその組織は超大国日本以上の暴走を働いているのだ

 

 




ネタ
20世紀・日本
ウィルソン「そう言えば歴史改変していたはずなのに、なんで皆はゴジラの存在を知っているんだろう?……どうでもいいか!」
M102「あの人間に脳みそがあるかどうか健康診断しないと」
ウィルソン「聞こえているぞ!」

ネタ2
議長「これがキングギドラでもう1体がメカキングギドラだ!」
瑞鶴「これが……色違いの青眼の究極竜(ブルーアイズアルテメットドラゴン)にサイバーエンドドラゴン」
議長「違うわ!似てないだろ!三つ首以外、姿形が違うだろ!」
宮藤「ドラッド3体がキングギドラになったのは核爆発ではなくてマジックカード『融合』が発動したから」
議長「だから違うって!魔法カードって何!?」
瑞鶴「技名は『アルテメットバースト』と『エターナル・エヴォリューション・バ――」
議長「お前ら、遊戯王から一旦離れろ!」
パラドックス「究極のドラゴン族融合モンスターと機械族融合モンスターがあると聞いて!」
議長「ややこしくなるから時空を突破してこの世界に来ないでくれ!」

キングギドラが出現。ゲノム編集してクローンとしてよみがえったキングギドラと全身機械のメカキングギドラ。映画に出ていたメカキングギドラではなく、全身機械のメカキングギドラ。設定等は次話以降




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第19話 攻撃と陰謀 

皆さん、こんにちは
GW、楽しく過ごしました。榛名が改二乙/丙が実装されただけでなく、深雪改二も実装したことには驚きましたね
因みにアプリゲーム『ワールドウィッチーズ』をダウンロードしてやり始めましたが、まあこんなものかな?


「キングギドラ。三つ首のドラゴン」

 

 瑞鶴はモニターに映る映像を凝視していた。大きさは分からないが、体長は百メートル 以上はあるだろう

 

 あんなもので私たちの世界を侵略する? 

 

「私のキングギドラ。過去に我々よりも高度な文明を持つ金星をたった三日で滅ぼし死の惑星へ追いやった。その力をコントロールすれば、核兵器なぞなくても力を手にすることが出来る。どんな兵器でも私の怪獣を倒すことは出来ない。そして、バックアッププランとして、キングギドラを模して作り上げた機械のギドラだ。二体いれば、勝てる」

 

 議長は映像に映る2体のキドラを眺めていた。まるで、玩具を見て喜ぶ子供のように笑っていた

 

 一方、瑞鶴も宮藤もそれどころではなかった。あんなものが自分達の世界にやってきたらそれこそ終わりだ。ただでさえゴジラで酷い目にあったのだ。それに近い……いや、組織の欲望のために操られた怪獣が来るのだ。どんなに頑張っても勝てないだろう

 

 瑞鶴は宮藤の方を見たが、宮藤も真っ青になっていた。難しい話ばかりでついて来れなかった彼女でもギドラの姿を見せられると流石に地球均等環境会議がやろうとしている事に気づいた

 

 何とか話題を逸らそうと瑞鶴は頭をフル回転したが、やっと思いつき質問をした

 

「ねぇ、聞いていい? どうやって巨大な生き物を犬のように飼いならしているの!?」

 

 その瞬間、周りの目線を感じたが、嫌な目線だ

 

「そうか。君たちにとっては分からないだろう。確かに猛獣を飼うのは危険だ。動物は人間と違って本能に忠実だ。それを防ぐべく我々は特殊音波で支配下に置くことが出来る。睡眠、食事、戦闘など全て管理している。ロボットの方は違うぞ」

 

「私たちの世界に攻めてどうするつもりですか?」

 

 宮藤は正気に戻ったのか咄嗟に叫んだ。質問の仕方が間違っているかも知れないが、宮藤は正常な判断が出来なかったのだ

 

「よくぞ聞いてくれました、と言って計画を易々と教えると思ったか?」

 

 議長が机に拳を叩きつけた。流石にそこは教えてくれなかったらしい。瑞鶴は舌打ちをした。この世界には平行世界に行ける乗り物がある。何とか脱出し警告をしないと

 

 

 

 元の世界

 

「……過去に人類の敵の力を悪用した組織が現れた?」

 

「そんな所だ。尤も詳細な事を知っているのは極僅かだ。タイムスリップや平行世界は機密でもあるが、誰も想像もつかない事象だから、ほとんどの人は誰も信じない。まあ、オカルト類ではちょっとした人気になっているけどな」

 

 提督は皮肉っぽく言ったが、ミーナ中佐を始め坂本少佐もバルクホルンも笑わず最後まで真剣になって聞いた

 

「やけに真剣だな。向こうの世界でも奇妙な事件は日常茶飯事なのか?」

 

 摩耶は目を吊り上げていた。ウィッチ側の反応が困惑ではなく、それどころか妙に納得している

 

「いや、流石にタイムスリップとかそういうのは起こっていない」

 

 バルクホルンは首を振った

 

「ただ、私たちの場合は違う形で現れたわね」

 

「違う形?」

 

 ミーナ中佐は言うか言わないか迷っていたが、決心をし話し始めた

 

「私たちの世界ではウィッチの活躍を快く思わない人も存在します。過去にブルタニア空軍大将*1がネウロイのコアを利用した兵器、ウォーロックを作り上げました」

 

 ミーナ中佐は過去に起こった事を始めた。一連の事を聞いた提督達は内心は驚きつつも妙に納得はしていた

 

「ウィッチに頼らない兵器を開発していたって事か?」

 

 長門は顔をしかめた

 

「ああ。そんな感じだ。ウォーロックは暴走し関係者は左遷した。だが、技術そのものは失われてなく、それどころか決戦兵器に組み込まれる始末だ」

 

 坂本少佐は嫌悪感を露わにした。結果的に勝利はしたものの、過程としてはあまりよくないものだ

 

「なるほど、どんなところでも問題は付き物か」

 

 提督は小さなため息をついた。味方が足を引っ張るような事は避けなければならないが、権力争いや予算の確保などによっていがみ合いはどうしても起こる

 

「嫌な奴だったよな。宮藤が軍人としてあり得ない行動をしただけで銃を向けてきたんだし」

 

 シャーロットは不満そうに言った。ウォーロックについては余りいい思い出はない

 

「501に例の雲の調査にウィッチが出動要請出たのも、実はマロニー大将が隠した予備機をどこかの部隊が持ち出し飛行テストの際に行方不明になったため、慌てて空域を捜索するよう命令が下ったと言われています。しかし……そうね。海の藻屑となったか、単なる噂なのか分からないわ」

 

「ミーナ、本当なのか!?」

 

「事実確認は取れていない現状では何とも言えません。しかし、鹵獲したネウロイのコアを使った技術を使って戦艦大和に組み込んだのを考えれば、予備機があってもおかしくないわ」

 

 バルクホルンは驚愕した。まだ、あんな計画があったなんて

 

「でも、計画は凍結されたんだよね?」

 

「そうとも言い切れないぞ」

 

 エイラは期待を込めていったが、提督は会話に割り込んで来た

 

「そいつは辺境の閑職に追いやられたのだろ? 再び返り咲きたいと考えているのであればこっそりと何かしらの行動をとっていてもおかしくないだろう」

 

「そうね。今思えば瑞鶴を躍起になって追い出したり、例の雲の周辺に軍艦を多数配備したりとピリピリしていたわね。自分達の不祥事を隠すためなら納得しますけど、ウォーロックを見ていないとなると──」

 

「もしかしてウォーロックという兵器が雲の中に? しかし、そんな飛行物体はありませんでした」

 

 ミーナ中佐の話に今度は加賀が話に割って入った。全ての空域を見たわけではないが、奇妙な航空機がいたら連絡してくるはずである。『艦だった頃の世界』とは違い航空無線は積んであるからだ

 

「分かっています。この世界に来たのであればすぐ分かりますから。考えたくないですが……何か嫌な予感がします」

 

 ミーナ中佐は頭の中で不安がよぎった。上層部はウォーロックが力尽きて海へ落下し海底に落ちたと判断したのだろう。都合がいい解釈だが、実際に誰もウォーロックは見ていない

 

 だが、地球均等環境会議と名乗る者が現れたのを考えて彼女は推測した

 

 ウォーロックの残骸が彼らの世界へ流れていき、彼らは何処から来たのか追跡して来たのでは? シモンズと名乗る者が来たのは瑞鶴を捕まえたと同時に私たちの世界を偵察しに来たのでは? 

 

「考えても仕方ない」

 

 提督は話を切り出した

 

「ウォーロックについては頭の片隅に置いておく。こちらも捕虜の深海棲艦が行方不明だ。輸送船の中にいたのだが、熱線でやられたんだ。熱線で蒸発したのならいいんだが」

 

「それってもしかして……」

 

 提督の言葉に時雨は真っ青になった。捕虜の深海棲艦は硬化して無機物になり銅像みたいになっている。通常兵器で倒せないのだが、異世界から来たゴジラの熱線で蒸発したとみている

 

 時雨を始め、皆は思った

 

 まさか瑞鶴と同じように別世界へ飛ばされたのではないだろうな? 

 

「今は後回しだ。問題は一つずつ片付けよう。まずはあのイグアナを例の雲に追い出す。イグアナを殺してもいいかも知れないが、あの化け物の死体処理が大変だ。まずはあのイグアナを海へ誘導し例の雲へ放り込む」

 

 提督は例のイグアナを追い出す事へした。殺してもいいが、あの怪獣は考えられないくらい速いため、殺害は論外となった

 

「博士と教授の話では、恐らく例の雲は俺たちの世界やウィッチの世界だけでなく、他の世界も繋がっているとの事だ。柳田教授は雲の周りに機器類を設置したからある程度はコントロールが出来た。例の雲は海まで達しているよ」

 

 提督は艦橋の窓に指を指して言った。例の雲は竜巻のようになって海にまで達していた。しかし、竜巻とは違って回転速度は非常に遅く、暴風雨も起こっていない

 

「例の怪獣が何処から来た世界かある程度は特定したらしい。そこへ送り込む。陸から追い出し雲へ誘導する。以上だ。何か質問は?」

 

 詳細な作戦は壁に描かれているため、全員作戦の内容は把握している

 

 提督は見渡したが、二三人手を挙げた

 

「ウィッチ達と共同作戦は分かるけど、軍と連携してやらない訳?」

 

「あー、軍には悪いが、こちらは別行動だ。元帥だけは知らせた。軍は躍起になってあのイグアナを殺そうとしている。罠を仕掛けて一斉攻撃するらしいが、上手くいかないだろう」

 

 満潮は質問したが、提督からの返答に驚いたが、それ以上は追及しなかった

 

「あのー、ちょっといいですか?」

 

 リネットは恐る恐る手を挙げた。あまりにも小さい声だったため、提督は誰からなのか一瞬分からなかった

 

「もし、上手くいかなかったらどうします? その怪獣の誘導できなかった、とか」

 

「その時は力ずくで誘導しろ。殴るなりしてな」

 

「ええー」

 

 リネットは真っ青になった。力ずくでやる? 

 

「力ずくでってどういう──」

 

「ん? お前たちの中にいないのか? 車とか重い鉄筋を余裕で持てるウィッチは?」

 

 提督が何を言おうとしているのかリネットだけでなく、他のウィッチも分かったらしい。ウィッチ全員がバルクホルンに向けられた

 

「え? いや、まさか馬鹿力で殴ってでも海に落としたりとか例の雲に殴り落としたりとか考えているのか?」

 

 バルクホルンは開いた口が塞がらなかった。あれ相手に肉弾戦しろというのか? 

 

「心配するな。ちゃんと助っ人はいるから」

 

 提督は艦橋の端でストレッチしている武蔵と長門がいるのを見て何も言えなくなった

 

「そう言えば武蔵は墜落して来る零式水上観測機を受け止めたね」

 

「まさか、この世界でバルクホルン以上の脳筋がいるなんて思いもしなかったよ」

 

 ハルトマンとシャーロットは何気なく言ったが、とてもわざとらしい言い方だった。後に二人は鉄拳制裁を食らった

 

 

 

 501JFWと艦娘達が『おおすみ』から出撃している中、明石市では軍が動いていた。軍は避難民たちからゴジラに似た別の怪獣……今ではジラと名付けられた……は、熱線を吐かない事。そして魚を食べている事を考えた軍の指揮官は、漁業組合の力を借りて、公園の広場に魚を集めた。市場で売るはずだった魚を怪獣の餌として引き付ける事に漁師たちは始めは戸惑ったが、明石漁港は破壊されたこともあって売れない魚……形が崩れたりして売り物にならない魚が大半だった……をかき集めて置いた

 

 周りには戦車や野砲に機関銃……ありとあらゆる武器を設置した。深海棲艦用の兵器は持ってこなかった。深海棲艦ではない事ははっきりと分かっている

 

 罠を仕掛け地上部隊は待ったが、ついに変化が現れた。何処からか現れたか不明だが、のっそのっそとジラが現れた

 

「戦闘配備につけ! 奴が現れたぞ!」

 

 部隊長が 咤し、兵士たちはあらゆる武器をジラに向けた。その地上部隊には502部隊も参加していた。勿論、あきつ丸も神州丸もいた

 

「いいか、奴が魚を食らいつくまで撃つな」

 

「「はい」」

 

 曹長の命令に二人は返事した。502部隊もあきつ丸達も提督からの作戦は聞いていたが、揚陸艦は火力不足ということもあって地上勤務である

 

 しかし、まさか重たいブローニングM2重機関銃を手に持ってジラを攻撃するなんて思いもしなかった。艦娘だからこそ出来るのだが

 

 ジラは魚の臭いに寄せられてきたが、何故か数十メートルの手前で止まった

 

「止まったのであります」

 

「どうして止まるの?」

 

 あきつ丸も神州丸も小声で文句を言った。なぜ、ジラは止まったのだ? 

 

 

 

 ジラと名付けられたイグアナは、魚の臭いに寄せられて来た。だが、不自然なほど魚の山が置かれたのを見て辺りを見渡した

 

 この罠は知っている

 

 ジラは思い出した。変な小さな生き物が罠を仕掛けてきたのはこれで3回目(・・・)だ。1回目は何とか逃れたが、2回目は海中で爆発に巻き込まれた時*2、奇妙な現象に巻き込まれた。妙な光が視界に入ったと思ったら、今度は高く硬い岩がほとんどない場所に現れた。卵を産んだ場所が何処か分からずあちこち歩いたが、ここでも奇妙な生き物が、こちらを攻撃してきた。しかし、以前と違って痛くも痒くもない

 

 海で追ってくる者も簡単に振りほどくほどだ

 

(三度目も同じ手に引っかかるか!)

 

 怪獣は咆哮を上げ、魚を食べようとせず、そのまま走り去ろうとした

 

 

 

「クソ、逃げるぞ! 何をしている、早く撃て!」

 

 部隊長は慌てて無線で射撃命令を出した。部隊長が命じるよりも早く戦車や野砲は一斉に火を吹いた。しかし、ジラは2足歩行で俊敏な怪獣だ。雨のように降ってくる砲弾を難なくかわすと海へ向けて走り始めた

 

 

 

『提督殿、アイツは逃げた。海の方へ逃げている』

 

『だとしたら好機だ。あいつを海岸まで追い出せ』

 

 提督は無線で命じたが、海岸まで誘導すると言った手間暇は省けて安心したらしい。勿論、ジラがとても厄介なのは嫌ほど分かる。ジラの逃走に海空軍の戦闘機攻撃機が一斉に追跡し襲い掛かった。烈風や震電や流星改、更にはつい先ほど開発配備されたであろう艦上攻撃機『惑星』*3までも飛んできた

 

 これらの航空機には爆弾なんて搭載していなかった。急降下爆撃してもかわされるどころかジャンプして食われてしまうからだ。なので、専ら機関砲による攻撃を行った

 

 勿論、艦娘の艦載機も多数追跡しウィッチ全員も追跡した。弾薬は銃弾の互換性があったため補給はできたものの、ストライカーユニットはそうはいかない。整備はある程度はできるものの、大破した場合だと修理は無理だ。勿論、シールドを展開すればいいのだが、不測事態はつきものだ。なので、距離を取って攻撃した。だが、問題なのは例の怪獣だ。巨体とは思えないほどの速さだ。しかも、攻撃が効いているかどうかも怪しく、サーニャが放つロケット弾もかわされる始末だ

 

「アイツ速くない?」

 

「何を食ったらあんな巨体になるんだ?」

 

 ネウロイとは違う速さにウィッチ全員は困惑したが、それでもやるしかない

 

『誘導ミサイルとかあればいいけど』

 

『そんな便利なものはないだろ。さっさと砲撃しろ!』

 

 アイオワと提督の無線のやり取りを拾えたが、誘導ミサイルが何なのかは彼女達には分からなかった。新兵器か何かの類だろうと思ったのだ

 

 尤もジラに対して誘導ミサイルは無効なのだが……

 

 しかし、ジラもやられっぱなしではない。急に立ち止まると咆哮を上げた。だが、この咆哮は先ほどまでとは違い、かなりの風圧だ。追跡していた戦闘機攻撃機は一斉に急上昇して逃げたが、それでも数機が巻き沿いを食らい爆発した

 

「げ! あんなのアリかよ!」

 

 エイラは愚痴をこぼしたが、こちらに向かって燃え盛る戦闘機を回避した。だが、ジラはウィッチに向けて突進してきたため、こちらも急上昇する羽目となった

 

「どうする? あんなの、倒せそうもないよ」

 

 ハルトマンは珍しく弱音を吐いたが、それも無理はない。今までネウロイ相手と戦ったためあんな巨大生物相手に戦った事はない。ネウロイと違って光線は吐かないが、コアがないため決定的なダメージを与えられない

 

 そんな中、提督から無線が入って来た

 

『ミーナ中佐、誰でもいいから囮になって誘導してくれ』

 

「え?」

 

『あんた達は航空機と違ってホバリングが出来るし、後ろから攻撃が出来る。何とか海まで誘導してほしい』

 

 ウィッチは他の航空機と違った飛行が可能である。提督はそれを利用したのだ。何しろ空母ではない『おおすみ』から短距離で離陸した事には提督だけでなく艦娘も驚いたのだから

 

「分かりました。リーネさん、背後に回って遠距離攻撃して」

 

 リネットはすぐに実行した。走るのを止めゆっくりと歩いているジラの後ろに着くと頭に照準を合わせると引き金を引いた。対装甲ライフルの弾丸はジラの頭に命中したが、ジラは動きを止め、ゆっくりとこちらに向けた

 

「あ……ご、ごめんなさい」

 

 リネットは謝ったが、勿論ジラに通用しない。大きく吠えるとこちらに向かって大ジャンプをしてきた

 

 23世紀の世界

 

「ふむ、中々やるではないか。あの怪獣は何なのか分からないが、面白いな」

 

 スクリーンに映し出されているのはリーネが必死になってジラから逃げているシーンだ。どうやら、例の雲を通して瑞鶴の世界を偵察しているようだ

 

「リーネちゃん、みんな」

 

「翔鶴姉、みんなも無事でよかった」

 

 宮藤も瑞鶴も心の中でホッとした。ゴジラでやられたと思ったからだ。しかし、それでも安心できない。今ではイグアナのような怪獣と対峙している

 

「さて、教えてくれ。タイムスリップした張本人は誰だ?」

 

「し、知らない!」

 

 瑞鶴は慌てて否定した。明石海峡にいる艦娘達を映し出されたため、瑞鶴はどう反応していいか分からなかった。どういうやり方か知らないが、相手は噓を見破る手段を知っている。時雨が映し出されても嘘を見破れないのだろうか? 

 

 

 

 瑞鶴と宮藤が取り調べをしている最中、別の研究室では歴史改変による後始末に追われていた。ゴジラがこのまま四次元で暴れるとなると時空連続体……この世界を破壊するかもしれないのである。ウィルソン達と連絡が取れない事に加えてホールが増殖している。世間では奇妙な現象について憶測が飛び交っているが、は気づいたらしく査察の勧告を出している

 

 そんな中、ワームホールから奇妙な物体が漂流して来た

 

 一つは頑丈な鋼鉄製の箱が二つ。もう一つは奇妙な人型機械だ

 

 科学者は別世界から流れたものと言ったが、上司はそんな話は全く聞いていなかった

 

「軍票が破れて読めないが、内容からしてこの箱は軍の機密文章が入っているのか? それに、この奇妙な機械はバトルスーツとは違うな」

 

「おい、スキャンは終わったか? 爆発物か放射性物質か生物化学兵器か何か危ないものが入っているか?」

 

 部下が箱を調べていたが、上司は今や聞いていなかった。目の前は宝物で金になると考えていた

 

(金目が入っていなかったとしても、利用価値はある。意味不明な書類はごめんだ。まあ、博物館か歴史学者に売れば金になるか)

 

 地球均等環境会議は巨大な組織だが、全てが上手くいっている訳でない。地球均等環境会議は穏健派から過激派まで様々な派閥は要るものの、過激なことをし過ぎたせいで財政が今や赤字。日本は最貧国になったのはいいものの、世界はこちらに目を付けられたのだ。なので、一発逆転として未完成の兵器を完成させるのと同時に何かしらの画期的な発明を世の中に出す必要がある。艦娘とウィッチといった未知の技術が明らかとなった今、この手を使わない訳にはいかない

 

「スキャンの結果はクリアです。しかし待ってください。この箱、ダイヤル式で鍵もあります」

 

「知るか、そんな事! ぶっ壊せ!」

 

「待ってください!」

 

 部下は表紙を見て気づいた。こちらも破れているが、ある単語が書いてあった。日本語であることに気づいた部下は早速、自動翻訳機で翻訳したが、聞きなれない単語だった

 

「極……秘、深海鶴棲姫。名前かな?」

 

「お前、そんな事はどうでもいいんだよ! さっさとバーナーを持ってこい。それとその奇妙なロボットは起動できそうか?」

 

 上司は科学者に怒鳴った。異世界から漂流して来た奇妙なロボットを再起動するよう命じられていたのだが、科学者は困惑な表情をして答えた

 

「その、動力源が分からないのです。未知の物質で動いていたらしいのですが、未知の物質のさっぱり。宝石のようなものが動力源らしいのですが」

 

「それで? その宝石にエネルギーを与えられそうか?」

 

「……多分。やってみないと分かりませんが」

 

「なら、やりたまえ」

 

 上司はピシャリと言った。未知のエネルギーで動いているのなら画期的なエネルギーとしてこの世界に供給できる! もしかすると核融合炉が過去の遺物となるほどの夢のエネルギーかも知れない

 

 しかし、上司は知らない。異世界から漂流して来たのは天からの恵みでも何でもなかった

 

 ゴジラが熱線で時空転移したのは瑞鶴ではないという事を

 

 提督と艦娘達が捕虜の護衛として輸送していた深海棲艦の姫級であった。それぞれの箱には深海鶴棲姫と戦艦未完棲姫。そして、奇妙なロボットというのは、ミーナ中佐がうわさで聞いたウォーロックである。マロニー大将が返り咲きたいがために予備機を稼働させ飛行しそのまま例の雲へ突っ込ませてしまったものである

 

 当然、ウィッチの世界では後で大問題となったが、残骸が発見されていないため噂に留まってしまったのだ

 

 そんな事を知らない上司は箱の開封及びウォーロックを起動させようとしている……

 

 

*1
トレヴァー・マロニー。ストライクウィッチーズのキャラ

*2
1998年『GODZILLA』より

*3
大日本帝国海軍が構想した艦上爆撃機。速度性能と軽快性で艦上攻撃機「流星」を上回るように設計されていたが、実機は製作されていない




宮藤「あれが瑞鶴の姉、翔鶴さん」
瑞鶴「そうよ。翔鶴姉、無事でよかった」
宮藤「益々行きたくなりました!皆さん、戦闘で大変そうなので、着いたら触診していきますね(両手を閉じたり開いたりしながら)!」
瑞鶴(何だろう。爆撃したくなったんだけど)

取り調べされている最中、別室の研究室ではパンドラの箱を開こうとしている事は内緒


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第20話 ジラ追放作戦

皆さん、こんにちは
先日G7で警戒している海保の無人機シーガーディアン(MQ-9リーパーを民間向けの非武装偵察機)を撮影していたら、警察官に職務質問されたことがある私です
まあ、事の顛末を説明しますとTwitterで広島港上空でシーガーディアンが飛行しているということで撮影しましたが、飛行機追跡アプリではそれらしきものが飛行しているのに結構な高度で飛んでいる事には驚きました
まあ、そんな様子を見た警察官は私に職務質問されたんですが、どうも似たような人がいたらしくて「貴方も海保の無人機を追っていたんですか?」と何故かテンション上がっていましたね
まあ、このサイトでは撮った写真を上げるのは無理ですが……
ん?G7について?
政治的コメントになるからノーコメントですね


「ふ、振り切れない!」

 

 リネットはパニック状態になりながら、ジラに追われていた。ジラはリネットをそのまま丸吞みするかのように何度も大口を開けながら追いつこうとする。口が閉じる度にリネットは生きた心地がしなかった。しかも、物凄く速い。油断したら追いかけられそうだ

 

 他のウィッチも上空から援護したが、やはり銃撃ではトドメを刺せない

 

 そんな中、ジラは思い切った事をした。リネットに追いつけないと見るな否や、大ジャンプしてリネットを追い越し着地したと同時にリネットに向けて大きな口を開けた

 

「しまった!」

 

 リネットは慌てて急上昇しようとしたが、間に合わない

 

 リネットが目を閉じ身構えようとした時、爆発音と怪獣のうめき声が聞こえた。目を開けると傷を負ったジラがよろけていた

 

「リーネ、大丈夫?」

 

「一体何が?」

 

 リネットが困惑していたが、エイラが指を指した。遠くの海上には長門がいた。あの場所から発射したのか? しかも、距離は結構あるはず

 

 しかし、気を取られている間にジラは海岸へ向かった。艦娘へ攻撃するためか? 

 

「まずい!」

 

 慌てて追ったが、相手はネウロイではなくて巨大な生き物。背後から一斉掃射をくらわしたが、ジラはまるでシャワーを浴びるかのごとく走っていた。いや、サーニャが放つロケット弾はかわしている。ロケット弾自体が無誘導であるのとジラが本能でかわしているためだ。海上では艦娘が迫りくるジラに対して攻撃していた。ただ、彼女たちも物凄い早く走る動物に対して攻撃はしたことがない。いたずらに地面をえぐるだけだ

 

 

 

「撃て! 撃ちまくれ!」

 

 長門は叫んだ。長門はリネットを追いかけていたジラが一瞬で止まっていたのを見逃さなかった。とっさに副砲をぶちかましたのだ。あのジラと言う怪獣はどういう訳か本能で自分が致命的な攻撃をかわす力があるらしい。といっても機銃ではダメだ。その中間点である……言い方には語弊はあるが……副砲15.5cm三連装副砲改を一斉射撃した。一発は命中した事により、周りから歓声が上がったが、今度はこちらに向かって突進してきた

 

 長門の号令により周りの艦娘は一斉に射撃を開始した。海岸付近にいた嵐、萩風、舞風、野分は後退しながら12.7cm連装砲を発射している。鳥海も摩耶も同じだ。20.3cm(3号)を断続的に轟かしている。初めゴジラが現れた時は全員混乱したが、今では誰も逃げずに戦っている。度重なる異常事態に慣れたという事もあるが、なによりも別世界から来たウィッチ相手に情けない姿は見せないということもあるのだろう。少なくとも艦娘もプライドはある

 

『ジラがこちらに向かっています。下げてください。このままではこちらの攻撃が当たってしまいます』

 

「流れ弾には気にするな! こちらで避ける!」

 

『りょ、了解』

 

 無線からミーナ中佐が入っていたが、長門は何の連絡なのか分かっていたため、即答した。誤射……いや、フレンドリーファイアを気にしているのだろう。確かにフレンドリーファイアは重大過失だ。だが、今はそんな事を言っている場合ではない

 

 そうしている間もジラは物凄い速さで接近してくる。ウィッチだけでなく、空母組から放った艦載機である烈風改、震電改、F6Fが前後左右から突進し機銃弾を浴びせる。付近にいた陸軍の部隊も必死になってライフルや重機関銃を携えて攻撃している。戦車や重砲は全部罠の付近に置いていたため今は手元にない

 

 そんなジラは強引に海岸へ着くとジャンプした。呆気に取られている艦娘達を飛び越えてそのまま海にダイブした。残ったのは着水した衝撃で波が発生してバランスを崩し転げている暁と響だった。ジラは再び海の中へ逃げたのだ

 

『クソ、逃がした!』

 

 バルクホルンは悪態をついたが、間髪入れずに提督から無線が入って来た

 

『何をしている! さっさと爆雷投下しろ! ゴーヤ、早く海底に設置した機雷全部爆破しろ!』

 

 提督の怒鳴り声よりも早くフレッチャーとジョンソンからヘッジホッグが発射された。時雨や夕立からも爆雷が投下されジラが大量にばら撒かれた

 

 それだけでなく提督も秘密裏に行動をしていた。海底に逃げることも考慮して海底に機雷を仕掛けていたのだ。機雷は既存のものではなく自前であり遠隔操作で起爆する。潜水艦娘とチビゴジラがびっしりと海岸付近に仕掛けていた。勿論、明石海峡一帯を仕掛けることは不可能であるため、敷設地帯を誘導する必要があった。アクシデントがあったものの、ジラが無事に敷設地帯へダイブしてくれた

 

 爆雷機雷が一斉に爆破したお陰で巨大な水柱が立ち上がった。その巨大な水柱からジラの上半身が露わになった。爆雷機雷による水圧に耐え切れなかったようだ

 

「よし、アイツを雲まで追い立てろ!」

 

 艦娘達は一斉にかかった。目的は殺害ではなく、追放だ

 

 これには理由があった。怪獣の死体処理が大変だからである

 

「どんな生き物であれ生命活動が止まったら腐敗する。そんな手間暇がかかるなら元の世界へ帰すしかない。例の雲もある程度は仕組みが分かったから、捜査して竜巻状態にして海面につかせる。──質問は後だ。今はジラの追放が先だろ? 合図したら怪獣を蹴飛ばしてでも放り込め」

 

 作戦のブリーフィングに柳田教授の一方的な説明には疑問だらけだが、彼はああいう性格の割には実績があるため誰も咎めなかった

 

 ウィッチも同意し何とかジラを竜巻状の雲へ放り込む必要がある。そのやり方は簡単。ヒツジや牛を追い立てるのと同じやり方だ。威嚇射撃や機銃への射撃で雲へ追いやった。ジラは海面を泳ぎながら逃げる。時折、進路から外れたり、口から風圧攻撃を仕掛けたりしてきた

 

 勿論、想定済みで長門による体当たりとリネットの対装甲ライフルで全て強制的に雲へ向けられた。それでも被害はあり、風圧攻撃によって満潮や荒潮は吹き飛ばされ、ペリーヌもシールドで防いだものの尻尾に叩きつけられ海に墜落してしまった

 

「これ以上は無理だ!」

 

 武蔵はジラの頭部を殴りながらいった。鯨やサメとは違う凶暴な生き物には流石に対処しきれない

 

『分かっている! あと少しだ! 教授、さっさと起動させろ!』

 

『やっている。ちょっと待て……出来たぞ』

 

 無線の連絡が来たと同時に例の雲が白く輝きだした。恐らくそれが合図だろう

 

 だが、あと一息というところでジラは止まった。本能で雲はヤバいものだと理解したのだろう

 

『ジラが雲の中に入らないと転送できません!』

 

 宗谷の悲鳴に皆は絶望した。これで逃げられたらもう後はない。殺さずに追いやることは不可能なのか? 

 

 だが、そんな状況を打開する者がいた。武蔵と長門がジラに向けて突進し海面から出ている胴体へ向けて蹴り始めたのだ。そこにバルクホルンも急降下し頭部に殴ったのだ

 

「「「うおおぉぉぉ!」」」

 

 物凄い衝撃と音が響き渡り、周りにいた艦娘とウィッチは慌てて非難した。彼女たちがどうくらい力があるかは不明だ。実際にフルで計測した事が無い。それにあくまで艤装の力を借りた力だ。軍が計測する体力測定とは訳が違う

 

 だが、三人のバカ力は本物だろう。何とジラはわずかであるが宙を浮いたのだ。ジラ悲鳴を上げながら雲の中へ消えていった

 

「やったぞ! 怪獣を追い出したぞ!」

 

「作戦は成功だよね?」

 

『ああ。よくやった。教授と博士に確認したが、成功だ。初めての共同作戦にしては上出来』

 

 提督からの無線の知らせで艦娘達だけでなくウィッチも喜びの感情を爆発させた。まだまだ問題はあるものの、事態を一つ終わらせたことへの感情を誰も抑えることはできなかった。共同作戦で成功したことは嬉しい

 

 海に落ちコマンダンテストに救助されたペリーヌはそのまま金剛に抱き着いているくらいだ

 

「いいパンチだったな」

 

「そちらもな」

 

 武蔵とバルクホルンは言った

 

 

 

「まさか本当に殴り飛ばして雲に突っ込ませるとはな」

 

 提督は一部始終、『おおすみ』の艦橋から見ていた。ジラが別世界へ転送した事は間違いなさそうだ

 

「ところで、あの怪獣は本当に元の場所に戻ったのか?」

 

「ああ、そうだ。例の雲を解析したところ、奴が別世界からここへ来た経由が分かった。後は瑞鶴とウィッチを元に戻せるかだ」

 

 柳田教授は説明した。瑞鶴とウィッチが謎の集団へ連れて行かされた場所は正確ではないが、大まかには特定できたという

 

「ところで……ジラが元の世界へ戻ったらその世界は絶望するんじゃないか? 倒せたと思ったら再び現れたわけだし」

 

「それは知らないよ。どうせ、熱線なんて吐かないのだから、向こうの世界でも簡単に倒せるだろうよ」

 

 教授の呑気な推測に提督は何も言わなかった。教授の言う通り、ジラがいた向こうの世界がどうなるか分からないし、どうしようもなかった

 

 

 

 ジラがいた元の世界*1

 

 タトプロス博士を始めジャーナリストであるティモンズとカメラマンパロッティ、そして自称保険会社ローシェ*2は逃げていた。マディソン・スクエア・ガーデンにいたジラの子供ごと吹っ飛ばすことに成功したと思ったら、親であるジラが地下から現れたのだ! 

 

 まさかのジラの生存に米軍は慌てたが、ジラからすればとても迷惑な現象に巻き込まれたのである。米原潜から魚雷攻撃の衝撃で別世界へ送られたと思ったら、海の上に立つことが出来る変な生き物(艦娘)空飛ぶ変な生き物(ウィッチ)から攻撃を受けたため反撃しようとしたら逆に殴り飛ばされ、よく分からない光に覆われたと思ったら今度は見慣れた地下鉄にいた。巣に戻ったら、なぜか壊され子供たちは全員死亡。子供たちの死骸を見たジラは怒りを爆発させた。必死に追おうとしたが、先ほどの別世界で殴られた痛みで中々タクシーに中々追いつけない

 

 ジラがブルックリン橋のケーブルに引っかかりハープーンミサイルによって絶命したのはまた別の話*3

 

 

 

「それで、瑞鶴と宮藤曹長はどの世界にいる?」

 

「今から説明する。例の雲も仕組みは分かったからな。分からなかったら例の怪獣を追い出せたりしないよ」

 

 教授はそういうと説明する準備をした。艦娘達とウィッチが『おおすみ』に帰投する。休息と補給はあるだろうが、彼なりのやり方だろう

 

「僕も帰るの?」

 

「ごめんなさいね。もう少し待って」

 

 チビゴジラは聞いたが、近くにいた大淀は宥めるように言った。取り敢えずチビゴジラは人とのコミュニケーションは出来る。なら、ゴジラが現れたならコミュニケーションは出来るのではないだろうか、と? 

 

 勿論、根拠はないが……

 

 

*1
1998年の『GODZILLA』

*2
正体はフランス対外治安総局の諜報員

*3
但し1つだけ破壊を免れた卵がある。この卵から生まれた個体が後にアニメ『ゴジラ・ザ・シリーズ』へと続く




余談
実は当初はジラ(エメゴジ)ではなくエビラを出す予定でいた。ファイナルウォーズみたいにミュータント部隊(超人部隊)の手であっさりと倒される寸前まで追いやられましたとか。ただ、インパクトがないためエメゴジを登場させました
そして、最大の懸念はエビラを倒したら赤城さんがフライにして食べそうだから止めました(腹を壊しそう?そこは知らない)

次回は瑞鶴と宮藤曹長の救助?になるかな


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第21話 会議と監視

6月になりましたね
時間が経つのが早いです。その間にもいろんなことがありましたね



「博士と教授によると例の雲だが、何とか把握は出来た」

 

 ジラをこの世界から追放し帰還し休息をした後、艦娘とウィッチ達を『おおすみ』の広場へ集められた。ウィッチは兎も角、艦娘は全員入りきれないため、ランダムに選んで入れている。他の人は別室で待機だ。ターズが映像を投影して雲を映し出していた。ウィッチ達はターズの姿に興味津々だ

 

「あれ、暴走しないのか? ネウロイ化とか?」

 

「ウーン、大丈夫じゃない?」

 

 シャーロットは小声でアイオワに訴えたが、アイオワはなぜ恐れているのか分からなかった

 

「ミーナ中佐? どうしたんだ?」

 

「え? ごめんなさい。この世界に来てからかしら。ちょっと落ち着かなくて」

 

「ならいいけど」

 

 エイラはミーナ中佐が会議室に来る時まで何か落ち着かない様子だったため心配していた。慣れていないのだろうか? 

 

「静かに! それでは、説明を」

 

 提督は注意した後、柳田教授に説明を求めた。皆が知りたがっている事だろう

 

「あまり専門用語は使わず、分かりやすく説明する。あの超常現象を引き起こす雲の原理は不明だ。しかし、使い方を一部把握した。あの雲、別の世界へ行けるゲートで明らかに人の手で作られている」

 

「それって過去に博士と教授が作ったものと同じ?」

 

「正確には違う。そうだな。車でもトラックとバスは運用目的が全然違うだろ。それと同じ感じだ」

 

 時雨の質問に柳田教授は説明捕捉した

 

「誰が作ったかは知らないが、事故か何らかの拍子でゴジラに新たな能力を与えられたらしい。当然、人間の技術だから把握できず暴走してしまっている。だが、ゴジラには知能はあるはずだ。原理は分からずとも使い方は分かるはずだ」

 

「では、なんで私の世界に雲が出現したんだ?」

 

「それは分からない。だが、気まぐれか何かでゴジラが君たちの世界へ行ったのではないか? まあ、話を聞く限りゴジラは長時間、別世界に留まれないため消えたのだろう」

 

 坂本少佐は口を挟んで質問したが、教授は素っ気なく言った

 

「ゴジラ……いや、超空ゴジラとでも言おうか。アイツは別次元へ行く能力を身に着け、別世界へ表して暴れる可能性すらある。しかも、その世界の過去や未来まで行けるかも知れない」

 

「え? え? ちょっと待って!」

 

 予想外の説明に武蔵も愕然とした。周りも騒然としており、顔を青ざめている者までいる

 

「時空や別次元を自由に行き来するのか!?」

 

「可能性としてはあり得るな。映画……そうだな。映画通りならゴジラは核エネルギーがエネルギー源だ。本来なら大電力が必要なエネルギーも自ら賄えるからな。しかも半永久的に」

 

 全員は身震いをした。あのゴジラが現れたら終わりじゃないか? 

 

「なあ、もしゴジラが映画通りならアメリカに上陸するか核実験する前に出現して終結した軍を破壊とかするのでは?」

 

 長門が恐る恐る言ったが、教授は首を振った

 

「さあ? 僕が言ったのはあくまで映画の話だ。ゴジラがいた世界では映画のストーリーは違っているだろう。でなければ、変な能力を身に着けてこの世界にやってくるわけがない。そんなストーリーなんて映画には描写されていなかったからな」

 

「話は分かりました。それでは、どうやってこの事態を終わらせるつもりですか?」

 

 ミーナ中佐がテキパキと質問した。士官であるため、会議には慣れている

 

「ゴジラは能力を完全に掌握出来ず次元と次元の狭間である四次元空間にいる。ゴジラの時空転移能力を奪う。提督の親父はその分野に関わっていたから、消失することは出来る」

 

「出来るのか?」

 

 提督は驚いた。まさか可能だとは思わなかった

 

「タイムスリップも別世界へいく方法もワームホールは必要だ。仕組みは違うが、原理は同じだ。勿論、シャットダウンする方法も。機器類もちょっと大型になるが問題はない。しかし、大問題は……」

 

 教授はそこまで言うと短くため息をいった。まるで言うのをためらっているようだ

 

「何?」

 

「つまりじゃ……ゴジラを我々が認知する三次元世界へ招待し、ゴジラの体に時空転移能力を奪う機械を装着させる必要がある」

 

 提督の父親である博士が補足説明した事により、会議室の室温が一気に下がった

 

 放射熱線を吐くゴジラ相手にどうやって? 

 

「いや、無理だろ! 私の世界でも軍艦を多数沈めたんだぞ!」

 

 バルクホルンは叫んだ。いくら何でも無理がある。野生の動物ですら手懐けるのも一苦労だ。大怪獣であるゴジラがこちらの要望に応えてくれるのか? 

 

「しかし……やらないといけないんですよね?」

 

 加賀は冷静に聞いた。だが、内心では動揺しているだろう。彼女の手が震えている

 

「ああ。残念ながらそうじゃ。じゃが、そう簡単に落ち込む必要はないと思う。もしかするとコミュニケーションは出来るかも知れん」

 

「どうやって? って……まさかチビゴジラ?」

 

 夕張は質問をしたが、近くでお菓子を食べているチビゴジラを見てハッとした

 

「どういう事ですの?」

 

「簡単なことじゃ。あの超空ゴジラ……恐らく別のまた別のゴジラが近縁種を連れてきた可能性が高い」

 

 ペリーヌの疑問に博士は短絡的に説明した

 

「あのイグアナもゴジラなのか?」

 

「さあな。ワシも分からん。じゃが、今はそんな事を気にしている場合ではなかろう。それにわしらには通じなくてもあんたなら出来ると思っておる」

 

 博士はチビゴジラに頭を撫でており、チビゴジラは少し照れていた

 

「そういや、そのチビゴジラ……本当に無害なのか? 急に暴れるとかしないよな? 山城とハルトマン中尉に火炎放射を浴びせたが。というか、何で二人とも生きているのか分からないんだが」

 

 提督は父親に質問したが、後半はもはや疑問でしかなかった。チビゴジラの行動はまるでギャグマンガみたいな事が起こっているからだ。チビゴジラは火炎放射の言葉を嫌っているのか少し怒っていた

 

「違うよ。放射熱線だよ」

 

「……その放射熱線の温度は幾らだ?」

 

「10万度か50万度かな? それか16万度くらい? 変な研究者が必死こいて計算していたらしいから分からない*1?」

 

「「そんな物騒なものを浴びせないで!」」

 

 山城とハルトマンはチビゴジラの言葉に即座に反応した。明らかに鉄が余裕で溶ける温度だ

 

「でも、さとみからは180度くらいと言われたよ?」

 

「天ぷら揚げるくらいの温度だな。普段からそれは何に使っているんだ?」

 

「えーっと。パンやお餅を焼いたり、ケーキのロウソクに火を付けたり、水に溜まったお風呂を沸かせたり」

 

「絶対に180度じゃないだろ。よく火事にならなかったな……」

 

 提督は半ば呆れていた

 

「恐らくだけど、別世界だと我々の知らない自然の法則が働いているのではないか? 仮説と言うかもう実証しているが」

 

「そうか……細かいところは考えるのをやめておこう」

 

 柳田教授は補足説明したため、提督はそれ以上言わなかった。既に別世界から魔法力で飛行するウィッチがいるため考えるだけ無駄だ

 

「それはいいとして、このチビゴジラがゴジラと話せるのか?」

 

「やってみるしかなかろう」

 

 提督は博士に言われたため少し聞いた

 

「それで、どうやってゴジラをこの世界に引きずり出して機械に装着させる? 落とし穴でも掘って身動きさせたところに注射でもするのか?」

 

 武蔵は半ばぶっ飛んだ作戦を簡易的に思いついたが、提督は首を振った

 

「その事だが、それ以上の懸念事項がある。瑞鶴と宮藤曹長を誘拐した謎の集団だが、恐らく今回事件を引き起こした張本人だろう。いや、組織といった方がいいか」

 

「どういう意味です? なぜ組織だと?」

 

 坂本少佐は質問した。会ってもいない集団を組織と考えているのか? 

 

「俺は見ていないが、その円盤飛行物体が突然現れて機械みたいなものが現れたのだろ? 何者であれ、航空機は少数で運用するものではない。メンテナンスが絶対的に必要になるからな。当然、人の手は必要になる」

 

 坂本少佐は黙ったままだ。確かに一理あるだろう

 

「それに何かを探していた。下手をしたらこちらの世界に来ると思う」

 

「この世界にもあれが来るんですか? 何のために?」

 

 普段から大人しいサーニャはたまらず声を上げた。あんな連中がこの世界にやってくるのか? 

 

「それは分からない。何を探しているのかも。だが、目的はあるはずだ。多分……やらかした後始末だろう?」

 

「やらかし?」

 

「例えば、ゴジラがいた世界で過去を改変した結果、良からぬ結果が起こってしまった、とか」

 

 提督の発言に周りは騒めいた。過去改変で失敗した? 

 

「その……時雨と同じような事をして失敗したっぽい?」

 

 難しい会議でもタイムスリップがらみを聞いた夕立でも直ぐに理解して質問した。身近な艦娘がやってのけたのだ。提督は黙っていたが、代わりに教授が答えた

 

「実はジラを追放した作戦。雲をスキャンしていた機器類は確かに元の世界へ戻ったのを確認できたが、それと同時に奇妙なエネルギー反応があった。ただこれはダークマター*2の一種だから観測できるのも難しい」

 

「要するに?」

 

「僕たちには見えもしない未知のエネルギーだ。これは電磁波で見ることはできない。だから重力観測によって間接的に捉えている。あんたたちが現れてからずっと反応している。理由は知らないが」

 

「何を言っているんだ? どうせ機械の故障だろ?」

 

 武蔵は鼻で笑った。ダークマターがどういうものか理解できないが、そんなものが観測されたからといって何か害があるわけでもない

 

 しかし、ミーナ中佐は突然立ち上がった。しかも、耳と尻尾を生やして

 

「ミーナ? どうした?」

 

「教授の言っていることは正しいわ」

 

 バルクホルンはミーナ中佐がここまで怒っているのか理解できなかった。教授は何か彼女に気に障る発言はしていないはず

 

「さっきから違和感があったのよ。この世界に来てから。サーニャさんは感じなかったから、私の気のせいだって。別世界だから固有魔法に調子が狂ったとか思っていたけど、そうじゃなかった!」

 

 ミーナ中佐は段々と怒りに達していた

 

「誰かがこちらを一方的に覗いている! 違和感は視線だった! 誰、あなた達は!」

 

 

 

「ちっ! ダークマターを使った観測手段を感じたのか、あの女。いや、他にも奇妙な奴もいたな。勘のいい軍の司令官も科学者も兵士も。愚かな時代である20世紀でも頭が回るじゃないか」

 

 議長は舌打ちをした。実は瑞鶴と宮藤曹長を誘拐してからミーナ中佐をずっと監視していたのだ。別次元へ飛ばされた事もあって重要視はしなかったが、ジラを追い出した事、そして骨董品の軍艦内部で無駄な会議ではないものだったと。残念ながら、一人がこちらの観測方法を見破ったと同時に観測できなくなった。妨害されたのだろう

 

「さて、タイムスリップによる過去改変を実行したのはこの娘だな?」

 

 議長は顔面蒼白になっている瑞鶴に映像を突き付けた。そこに映っているのは三つ編みをし髪飾りをつけた少女、時雨だった

 

「なるほど、やはり君たちはタイムスリップに成功したということか。こっちは目的を達したものの事態は悪化しているというのに」

 

 議長は歯ぎしりをした。日本はゴジラによって滅ぼされ最貧国になったが、同時に大問題が起こった。ゴジラの時空転移能力のせいで過去との矛盾が生じ、時空連続体に傷がついてしまった。こちらの科学者では最悪、地球どころか宇宙が消滅するのではないか? と言われる始末だ

 

「ゴジラが四次元空間に留まっている間に奴らの世界に部隊と新たなキングギドラを送り込む。メカキングギドラもテスト運用する」

 

「しかし、ギドラは兎も角、メカキングギドラはまだ調整できていません。あれは我々の世界の過去へ送る対怪獣兵器です」

 

 副議長は反論した。メカキングギドラとキングギドラをなぜ軍事利用したのか? それはゴジラの世界では怪獣が蔓延っていたからである。如何に兵器が進歩してもミサイルでビクともしない巨大生物を退治するのは困難である

 

「関係ない。それに我々には知らない技術もある。あくまで一人の少女と関係者の誘拐だ。超空ゴジラを元のゴジラにすることも出来そうだからな」

 

「しかし、時空転移能力を吸い上げるにはゴジラを大人しくさせるしか方法が──」

 

「メカキングギドラの武装に捕獲装置と高圧電流の武調整を追加しろ。捕獲し電気ショックでマヒしたところで吸い上げればよかろう」

 

「ですが──」

 

「24時間以内でやれ。地球連邦機関の査察が来たらどうする? 今は黙認しているが、この事態を知ったらタダでは済まない」

 

 事務手続き的な指示に副議長は黙ってしまった。武装を装備するのは簡単だ。だが、それで解決できることなのか? 

 

 

 

「瑞鶴さん、希望を捨てないで下さい」

 

「……無理よ。だってあんな三つ首の怪獣なんて倒すことは無理じゃない」

 

 時雨の存在がバレた事で暗い表情で落ち込んでいる瑞鶴に宮藤は励ました。だが、そんな励ましで何とかなるのだろうか? 

 

 何か奇跡みたいなことが起こってほしい! 

 

 そう瑞鶴は念じた

 

 ……そして、奇跡は起きた。会場全体に警報音がけたたましく鳴ったのだ

 

 

*1
ゴジラネタ。放射熱線の温度は昭和ゴジラの設定では10万度、平成vsシリーズでは50万度。シンゴジラは公式設定にはないが、空〇科学〇本を書いた人によると16万度である

*2
暗黒物質。宇宙を構成する成分のうち、観測可能な物質の5~6倍を示す「正体不明の物質」のこと




提督「未来人がこちらを攻撃して来るかも知れニア。なので、平和的な存在として出迎え油断したすきに暗殺しよう」
坂本「暗殺って上手くいくのか?危険を察知すれば終わりだぞ」
提督「簡単な話だ。ミーナ中佐と比叡が料理を振舞えばいいだけだ。脳筋である武蔵でさえ比叡が作ったカレーを食べたら一ヶ月は寝込んだからな」
坂本「いや、それは毒物ではなくてメシマズでは……」
ハルトマン「まだマシだよ。希塩酸やらアンモニアやらの食事を出されたおかげで血を吐いて倒れた事はあるし」
ミーナ「大袈裟ね。好きで料理を振る舞っているだけなんですから」
提督(激マズの比叡カレーを美味しそうに食べた人が何を言っているんだ?)
提督「しかし、寝込むだけか。確実に暗殺させるには毒が足りないな」
坂本「これ以上の劇物を食事に混ぜるのは無理だって」
時雨「提督、出来たよ。浜風と磯風で考案したおにぎりだよ。勿論、毒が入っているから食べちゃダメだよ」
提督「どんなものを入れたんだ?」
時雨「水銀と青酸カリで炊いたおにぎり」
提督「コナンの黒い奴がよく使う犯行みたいだな。毒殺が雑過ぎないか」
時雨「後はおにぎりの中にパープルヘイズの拳に付いていた丸いやつが入っているよ」
提督「想像以上に猛毒過ぎるだろ。何処から手に入れた?」
時雨「後は隠し味にクロロのナイフで微塵切りしたアミウダケも入れたよ」
提督「猛毒を通り越しているレベルだよ!食いしん坊のイビルジョーでも全力で逃げだすレベルじゃあないか!」
ポーラ「では、このワインなんかはどうですかぁ?マーレ産ワインとか」
提督「暗殺ではなくて、無意味に巨人化させているよね?」
チビゴジラ「僕も作ったよ。パンの中に結城スペシャルと抗核バクテリアを入れて置いたよ」
提督「それ、人に効果あるのか?というか、食べ物で遊ぶな、お前ら」

暗殺計画中止!


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第22話 脱走と本来の敵

こんにちは雷電Ⅱです
遅くなり申し訳ございません。先月に続き更新速度が遅くなっています。8月辺りから早まるかもしれませんが
時雨改三が実装されましたね。アニメでもう少し活躍して欲しかった
そう言えば、ウクライナ情勢で劇的な変化がありましたね
予想外なことばかり起こっているな
……と思ったら、もう終結していた


「もう盗聴されていないか?」

 

「ええ……気配が消えました」

 

 提督の問いにミーナ中佐が辺りを見渡しながら言った。ミーナ中佐の怒りが消えたことで周りはホッとした。どうやら、何者かがこちらの知らない手段でこちらを一方的に覗いていたようだ。艦娘では探知できなかったため、ウィッチであるミーナ中佐がいなければ最悪の事態が起こっていただろう

 

「こちらの存在を知られたぞ。どうやって瑞鶴と宮藤曹長を助ける?」

 

「ワームホールに地球均等環境会議がいる世界へ戦力を送り込んだところで勝てるかどうか……」

 

 長門は提督に問い詰めたが、提督は冷静だった。無暗に部隊を送っても本当にその世界にたどり着く保証はないし、仮にたどり着いたとしても相手の戦力は不透明だ。バトルスーツや光線銃というものも存在しているため、勝ち目は非常に薄い

 

「相手がどんな存在なのか分からなければ倒せません」

 

「いや、倒せるかもしれない」

 

 加賀の指摘に対して柳田教授はきっぱり言った。倒せるというワードで艦娘とウィッチは一斉に教授の方へ向けた

 

「あの重力観測とジラのワームホールに突き落とした事で的確に移動する方法や世界の座標がある程度分かった。その世界もある程度は観測できたが、崩壊しかかっている」

 

「崩壊? 崩壊って?」

 

 エイラが質問に今度は博士が答えた

 

「時空連続体に傷がついておる。原因は不明じゃが、あの世界は消滅する」

 

「消滅って」

 

「その世界そのものが消えるという事じゃ」

 

 博士の説明にみんなは唖然とした。消滅? 

 

「なんで消滅なんかするの?」

 

「それは分からんわい。ただ、状況からして良からぬ事でもしたのじゃろう」

 

 今度は時雨が聞いたが、博士もかぶりを振った。時雨は教授の方へ眼を向けたが、教授も同じ反応だ。博士も教授も分からないだろう

 

 まさか、その世界では過去改変するためにタイムスリップした事でゴジラに強力な能力が付加され、その能力でタイムパラドックスが起きた事により宇宙が消滅する危機に瀕している事。超空ゴジラによって他の世界へ繋げてしまった事も気が付かないだろう

 

「なら、隙を見て二人を救助するだけでいい。勝手に自滅してくれるなら損害は抑えられる」

 

「いや、それだけでは解決出来ぬ。ゴジラが居た世界が消滅すると別の世界に飛ばされる可能性もある。超空能力を付与されたのじゃから、ゴジラは消滅しない可能性が高い。この世界に来たら対処できないわい」

 

「やれやれ。混乱している隙に二人を救助しゴジラから超空能力を奪いゴジラとウィッチ達を元の世界へ帰す、か。面倒な仕事だ」

 

 博士の忠告に提督は頭を悩ませた。こんな困難をどうやって乗り越えるんだ? 

 

「あ、あの……ワームホールを作るっていうのはどうでしょう?」

 

 サーニャが恐る恐る手を挙げた。サーニャが言うには、この世界ではワームホールを作れる技術はあると聞いたのだ。なら別の穴を使って捕まっている瑞鶴と宮藤曹長をこっそりと救助すればいいというものだ

 

「どうでしょうか」

 

「いや、それは、その……私も数時間前に教授に個人的に質問したんだけど」

 

 サーニャは自分の考えを述べたが、翔鶴は言うか言わないで独り言のように言っていた

 

「またその話か……数人がこちらに同じ質問してきたから、もうこの場で説明してやる」

 

 教授は面倒くさそうに言った。どうやら、同じ質問をされてきたようだ

 

「この世界のワームホールの話だが、地球均等環境会議とは違って一から生み出したものじゃない。隕石や彗星の衝突で生み出した超常現象を維持しているようなものだ。例えるなら石油は便利な燃料だが、一から作れないのと同じ。工場とかで石油は精製出来ない。地面を掘って採掘している。だが、地球均等環境会議と称した奴らは一から生み出したものだ。全然違う」

 

 教授は呆れながら説明した。この世界でワームホールやタイムマシンを産んだのは、一からではなく宇宙から飛翔した星である。深海棲艦が出現したきっかけも彗星の衝突で発生したワームホールからだ

 

「宇宙から隕石や彗星が降ってきたら発生する可能性はあると思う。しかし、それはどれくらいの大きさと成分で、どのくらいの落下速度で、どのくらいの進入角度で、どのタイミングで爆発させれば、ワームホールは出現するなんて皆目見当もつかない」

 

「つまり、都合よく作り出せないという事か」

 

 シャーロットは吞気に言っていたが、坂本少佐はある事に気が付き慌てた

 

「まさか、あの雲が消えたら私たちは帰れなくなるのか?」

 

「正直言って雲以外で帰るとなると厳しい。別世界へ行けるホールはあるが、繋がりが固定してしまっている。出来ない事はないが、一年以上時間がかかれば出来る。それまで待てるか?」

 

「無理だ」

 

 教授の説明に坂本少佐は首を振った。これでは時間がかかりすぎる

 

「なあ、相手の世界がどこにあるかはわかるんだろ? それだったら電探か無線で連絡したり出来ないか?」

 

「それは──」

 

「いや、それしかない。この世界の事がバレているんだ。だったら、隠れることも暗号文で流す必要もない。あらゆるチャンネルで呼びかけるんだ。敵が来て攻撃してきたら撃ち返せ」

 

 教授が返答するよりも早く、提督は指示した。ここは学術の論点ではない

 

「異世界から無線連絡なんて突拍子もないのに無茶な注文するなよ……ターズ、やるぞ」

 

『はい』

 

 教授はわざと聞こえるように独り言を言うと退出した。柳田教授が出て行ったあと、その場にいた者たちは未だにいた。敵の居場所は知っても行く手段がない

 

「あのー、私の艦載機で様子を見るというのは? 勿論、搭乗員妖精も覚悟の上で行くとの事です」

 

 翔鶴は彩雲を手に取りながら言った。彩雲のコクピットには搭乗員妖精が座っておりこちらに敬礼をしていた

 

「そうだな……多少の危険は冒さないとな」

 

 提督はうなずきながら言った

 

 

 

 23世紀の世界

 

「え? 何?」

 

 瑞鶴は突然鳴り響いた警報に驚いた。宮藤曹長の方へ向けると彼女自身も戸惑っていた

 

「何事だ!」

 

「研究室内からです。分かりませんが、何者かが暴れています!」

 

 議長が怒鳴った事で側近たちは慌てふためきながら状況を説明している。恐らく不測事態が起こったのだろう

 

「もしかしてバルクホルンさんが助けに来てくれた?」

 

(本当かしら?)

 

 宮藤曹長は喜んでいたが、瑞鶴は違った。高度に発達をした未来世界相手にどうやって侵入したんだ? 

 

「監視カメラからの映像が来ました」

 

 側近から報告で空中に多数の映像が映し出されたが、どれも炎と破壊された瓦礫と逃げ惑う人ばかり。いや、一つの映像だけは違った

 

 

 

 M10のアンドロイドが光線銃を連射しながらある方向へ撃ち続けている

 

『止まれ! 直ちに投降せよ!』

 

 アンドロイドは銃を撃ちながら投降を呼びかけている。その割には身柄拘束する姿勢ではない。だが、なぜロボットが光線銃を撃ち続けているのか分かった

 

 暴れている相手が人ではなかったのだ

 

 暴れている相手を見た瑞鶴は驚愕した

 

「退ケー!」

 

「ええっ! 何でいるの!?」

 

 暴れているのは人ではなく何と深海鶴棲姫だった。光線兵器を撃ち続けているのに何ともないどころか、撃ち返す始末だ。深海鶴棲姫自身も戦艦の主砲は持っている。発砲した瞬間に4体のアンドロイドが木端微塵となった

 

「瑞鶴さんの知り合い?」

 

「いや、知り合いというか敵なんだけど」

 

「は? え?」

 

 宮藤曹長は期待を込めて聞いて来たが、瑞鶴の返答が予想外だったのだろう。間抜けな声を出している

 

 そのやり取りを聞いたのか、議長は立ち上がった。とても怒っており顔は真っ赤だ

 

「貴様、まさか敵と組んでこの世界に攻めてきたのか! 姑息な手を使いよって!」

 

「いや。違う! やっていない! 無実よ!」

 

 瑞鶴は必死になって叫んだが、議長は耳を貸さなかった。彼の中では、裏をかかれたのだと思っていたのだ

 

 実際は捕虜として連れて来られた深海棲艦がゴジラの熱線によって次元を超え流れ着いた先がたまたま23世紀の世界である。それを一部の研究員が解放した結果、このような事態が起こったのだ。その一部の研究員は深海棲艦によって殺されたため、真実を知る者はいないだろう

 

 深海棲艦は通常兵器には効かない事は知らないだろう

 

「アイツらを連行しろ。予定を繰り上げてキングギドラを解き放て。お宝を手に入れる」

 

 瑞鶴と宮藤曹長が兵士によって連れ去れる中、議長の手には映像で映し出された時雨と海軍士官を見ていた。二人を手に入れたらこの世界で役に立つよう働いてもらう

 

 

 

 2人が兵士に連行されている間、複数の武装アンドロイドとすれ違った

 

『館内に侵入者。衛兵は応戦せよ』 『侵入者が接近』

 

 ターズとは違い、なめらかで人間みたいに走るアンドロイドに瑞鶴は驚いた。世界が違うとはいえ、こんなロボットが開発されるのか? 

 

 大人しく連行された瑞鶴と宮藤曹長だが、兵士達の動きが止まった。

 

「何が──」

 

「敵がいる。誰か応援を!」

 

 瑞鶴は抗議しようとしたが、兵士は無視して無線連絡する始末だ。瑞鶴は兵士の後ろから前を覗いた。その先は広場のようだが、奥の方は炎と煙で先が見えない

 

 だが、光線銃の駆動音がするため、どういう状況か嫌ほどわかる

 

 その光線銃の駆動音も止み、煙の中からM10の頭部が飛んできて床に落下した。頭部だけのロボットなのに、まだ稼働していた

 

『M10の命令により投降せよ。M10の命令により──』

 

 M10の言葉はそこで止まった。煙から現れた深海鶴棲姫によって踏みつぶされたからだ

 

「解放して艤装を渡して! 通常兵器はアイツらに効かないから!」

 

「は、はぁ? そんな訳あるか。我々は地球均等環境会議だ。軍事力も科学力も──」

 

 兵士は瑞鶴の忠告を無視するどころか瑞鶴に 咤する始末だ。ここで押し問答する暇もないことくらい分かるはずなのに、現状が分からないのか? 

 

 だが、兵士の言葉もあるところで止まった。いや、言葉が続かないからだ。上から一筋の赤い光が兵士の体を貫通したからだ。兵士は糸が切れた操り人形のようにバタリと倒れた

 

「上だ! 撃て!」

 

 別の兵士が何かに気づき上へ向け光線銃を乱射した。上を見ると見た事もない飛行物体が宙に浮かび甲高い音を上げている

 

「ウォーロック? 何で?」

 

「今はいいから!」

 

 宮藤は呆気に取られている中、瑞鶴は死んだ兵士から鍵を奪うと反対方向へ逃げだした。逃亡した二人を追う兵士はいなかった。敵が現れたため構っていられないのだろう

 

 2人は必死になって走りある物置小屋に入ると手錠を外しにかかった。その間にも遠くから断続的に光線銃の駆動音が聞こえたが、それも散発的になり全く聞こえなくなった

 

 代わりに全身の毛が逆らうほどの不気味で甲高い声が施設内に響き渡った

 

「瑞鶴―! オ前ダケハ、コノ手デ沈メテヤル!」

 

「あ、あれが深海棲艦? 何か怨みでも買ったんですか?」

 

「まあ、ちょっとね……」

 

 宮藤はドン引きしていたが、瑞鶴はバツが悪そうに答えた。実は瑞鶴はあの深海鶴棲姫を知っていた。今も深海棲艦と艦娘が戦っているが、深海鶴棲姫と会うのは数回しかない。だが、姫級であるためとても強く、深海鶴棲姫が現れた時には瑞鶴が出撃して戦っていたのである

 

 お陰で随分と恨まれたようだ。しかも、23世紀の世界である光線銃も効かない事から話し合いは無理だろう

 

「そんな事よりウォーロックって何?」

 

「……人工ネウロイです。ウィッチを嫌う者が作り上げましたが、私たちが倒しました。しかし、なぜここに」

 

 宮藤曹長は簡単に答えた。説明する時間が圧倒的に足りないため、簡潔に言ったのだ

 

「そんな事より艤装とストライカーユニットを取り返さないと。何処にあるか分かる?」

 

「知らないですよ」

 

 宮藤曹長は弱弱しく言った。それもそのはずで、知るわけがない

 

「じゃあ、誰かに聞かないと」

 

 

 

「こ、この部屋です」

 

「ありがとう」

 

 瑞鶴は負傷して自力で退却する一人の兵士を捕まえ無理やり聞き出し殴って気絶させた。扉も兵士が持っていた光線銃で破壊した。取っ手を破壊するつもりだが、光線銃の威力自体が高く文字通り扉ごと破壊した

 

「何とか艤装は取り戻せた。後は……って何をしているの?」

 

「治癒魔法です」

 

 宮藤曹長はまだストライカーユニットを履いていなかった。それどころか瑞鶴が気絶させた兵士を治癒魔法で癒していたのだ

 

「今は放って置きなさいよ」

 

「嫌です。怪我人を見捨てるわけにはいきません」

 

 宮藤曹長は瑞鶴の非難を無視して両手を掲げて治療をしていた。戦闘で負傷したであろうケガもみるみるうちに治っていく。坂本少佐から聞いてはいたが、実際に目をするのは初めてだ。教授や軍医がこの光景を見たら驚くだろう

 

(確かに敵味方関係なく負傷した兵士を助けるのは間違っていない*1けど……ん?)

 

瑞鶴は固まった。視線と殺気を感じたのだ。それも……それも深海棲艦特有のものだ。その感は当たっていた。何時からいたのだろうか?部屋の隅に深海棲艦が幽霊のように現れたのだ

 

「宮藤! いいから治癒は止めて!」

 

「嫌です! さっきも言った通り──」

 

「違う! 深海棲艦が来た!」

 

 瑞鶴の命令口調も今は絶叫に変わっていた。宮藤もハッとして瑞鶴を見た。弓矢を構えながらゆっくりと下がっている。瑞鶴の数メートル先に大タコがいた

 

「青い……タコ?」

 

 宮藤曹長が困惑するのも無理はなかった。ネウロイとは違い、生き物のような人類の敵と会うのは初めてだからだ。透き通るほどの青いタコに女性のような姿をした姫級がいてもピンと来ないだろう。一方、瑞鶴はその深海棲艦が誰なのか見破った

 

「貴方は……捕虜で捕まえた深海棲艦! 何者?」

 

「アラ? 初対面デソレハ無イジャナイ。私ハ戦艦未完棲姫。Connaissance(お見知りおき)

 

 新種の姫級の深海棲艦……戦艦未完棲姫は無表情で答えた。こちらを遊んでいるのか、からかっているのか分からない

 

 宮藤は慌てて銃を構えたが、戦艦未完棲姫は鼻で笑った

 

「フザケテイルノ? 撃チタケレバ撃ッテミタラ?」

 

 戦艦未完棲姫の殺気に宮藤は小さな悲鳴を上げたが、彼女が引き金に指をかける直前に瑞鶴は叫んだ

 

「撃っても無駄よ。聞いて、争うつもりはないの! ここは別世界よ!」

 

「別世界?」

 

(やった。これで話し合える!)

 

 瑞鶴は心の中でガッツポーズをした。瑞鶴は考えたのだ。ここは別世界。共闘までとはいかないが、無意味な戦いをせずに未来人の軍隊は深海棲艦とウォーロックに任せればいいのではないか? と思ったのだ

 

 所詮、深海棲艦は通常兵器には効果が無いのだ。例え力尽きようが、その頃には瑞鶴も宮藤は混乱に乗じて逃げられるはず。まだ逃亡する手段はないが

 

 瑞鶴は今まで起こった出来事を完結丁寧に話した。宮藤も所々補足説明したが

 

「──元ノ世界ニ帰リタイ、ネ」

 

「そうよ。だから無駄な戦いをしている暇はないの!」

 

 瑞鶴は必死になって訴えた。遠くから複数の足音が聞こえる。この世界の住民は愚かなことをしているがバカではない。こちらの脱走に気づいたのだ

 

「良イワヨ。少シダケ協力シテアゲル。ワームホール発生装置カラオカシナ電波ガ聞コエタノ。『瑞鶴、応答せよ』ッテ」

 

 瑞鶴は目を丸くした。話が本当なら提督たちはこちらに連絡を取ろうとしている! 

 

「コノ世界ノ住民モ気ヅイテ軍勢ヲ集メテイタワ。私ト深海鶴棲姫ト『ウォーロック』ガ囮ニナルカラサッサト行キナサイ」

 

「ヤケに丁寧に教えてくれるじゃない」

 

 瑞鶴は不審がっていた。人類を拒み艦娘相手に戦う深海棲艦が艦娘のために戦うのか? 確かに通常兵器が効かない深海棲艦やウォーロックなら戦えそうだが……

 

「私モ帰リタイカラネ」

 

「……分かった。信じるわ」

 

 瑞鶴は即決した。このまま押し問答しても意味はないし、時間もない

 

「宮藤、行こう」

 

「は、はい! あ、あの、負傷者を殺さないで下さい」

 

「良イワヨ。サッサト行ケ」

 

 戦艦未完棲姫は鬱陶しそうに言うとタコの触手で追い出すような仕草をした

 

「ねえ、あの人を信じていいのですか?」

 

「半分は信じている」

 

「ですよね」

 

 宮藤はストライカーユニットを履いて飛んでいたが、瑞鶴の走りに合わせて飛行している。海上ではないため、瑞鶴は人が走る速度しか走れない

 

(なんで戦艦未完棲姫はワームホール発生装置の場所を知っているの? いや、あのウォーロックと手を組んでいるような発言だった)

 

(あの戦艦未完棲姫、何か企んでいる)

 

 瑞鶴は嫌な予感がした。人工ネウロイとはいえ、深海棲艦がネウロイと手を組むのだろうか? 

 

 

 

 瑞鶴と宮藤の予想通り戦艦未完棲姫は初めから企みがあった。というより、平気で裏切っていた。ワームホール発生装置の場所を教えたのは艦娘とウィッチを遠ざけるためである

 

 なぜ、ウィッチのことを知っているのかと言うと、ウォーロックと接触したからである。研究員が目覚めさせたお陰で深海鶴棲姫とウォーロックは暴れ互いに争ったが、最終的に意気投合したのである。ウォーロックが持つ能力と敵であるウィッチの存在を理解した戦艦未完棲姫は、この場所が何処なのかを突き止めるためにあらゆる場所を探した

 

 タコは体の色を変え周囲の物体や他の物へ擬態する能力があるように戦艦未完棲姫も身に着けていた。深海鶴棲姫とウォーロックが暴れている中、戦艦未完棲姫は情報収集していたのだ

 

 そしてお宝も発見した

 

(キングギドラ……ネェ)

 

 戦艦未完棲姫は宮藤が治療をした気絶している兵士を見向きもせずに周囲に溶け込んだ。怪獣を利用すれば艦娘との戦争は終わるだろう。当然、勝つのは我々だ

 

 

*1
ジュネーヴ諸条約より。勿論、病院などの医療機関への攻撃も許されない




教授「(ゴジラが居た)その世界は消滅するだろうが、ゴジラは消滅しないどころか別世界にながれついて生きるだろう」
バルクホルン「その別世界はゴジラよりも強い存在が居ればいいんじゃないのか?」
武蔵「そうだな。幾らゴジラでも無敵ではないはずだ。例えばエヴァの世界へ送ればいいんじゃない?力の使徒であるゼルエルなら幾らゴジラでも勝てないだろ」
エイラ「止めといたほうがいいんだな」
武蔵・バルクホルン「「何故だ?」」
エイラ「未来予測したけど、倒したゼルエルの頭を掴んで勝ち誇る姿が見える」
武蔵・バルクホルン((えー……))
提督「公式設定だから仕方ないな」※本当
時雨「公式設定なの!?」

ホビージャパンのゴジラ特集で本当にゴジラがぜルエルの頭を持っている。力の使徒ではゴジラには勝てなかった……


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第23話 自由を得た人類の敵

皆さん、こんにちは
雷電Ⅱです
艦これにおいて、てるてる坊主集めは大変でした。これで何がもらえるんでしょうか?
今日のメンテ終了後に分かるらしいが……


 23世紀の世界

 

 アラームが鳴り響き警備兵がいない廊下に二人は走っていた。瑞鶴は走り宮藤は飛行していた研究職員や技術者など武装していない人は物を持ちながら逃げていたが、すれ違っても見向きもされなかった。彼らはそんな暇はなかったのだ。仮に逃亡に気づいたとしても運動もしていない彼らに出来ることはない

 

「ワームホール発生装置という場所に行けば良いんですよね」

 

「そうよ。多分、こっちに行けばいいはず」

 

 瑞鶴は案内看板を見ながら言った

 

 案内看板は英語で書かれているため、何が書いてあるかわからない

 

 しかし、館内案内板に「wormhole(ワームホール)」という単語はあったため、そちらに向かうことにした

 

 警備兵が待ち構えているかも知れないが、仕方ない

 

「ねぇ、瑞鶴さんって疲れませんか? 休まなくて大丈夫ですか?」

 

「艤装あるから体力はあるわ」

 

 宮藤は心配していたが、瑞鶴は遠慮した。今のところは問題ないし、何かあった時のために艦載機を発艦するため 矢を放たなければならない

 

 二人は走りに走ったが一向に外に出る気配がない。とにかく、この施設は広い。それどころかある扉を抜けると妙な広場にたどり着いた

 

「ここは何? 何か格納庫みたい」

 

 宮藤は呟いた。それもそのはず。広場にはバトルスーツやら銃やら見慣れない戦車やらがある。動けずロボットみたいなものがある。看板には『M11』『repair』と書いてある

 

 そして、整備員らしき人や兵士が沢山いた。幸いというべきか忙しいからなのか皆は作業に没頭していてこちらに気づいていない

 

「あー、ここって兵器庫じゃない? 出撃するため用の」

 

「え? 道を間違えた?」

 

 瑞鶴と宮藤は小声で言った。どうやら間違って兵器保管庫に足を運んだらしい

 

 逃げよう、と二人は思った時、整備員の1人が気付き声をかけられた

 

「おい、君たちは?」

 

「ああ、ごめんなさい。間違えて入ったみたい」

 

「そうです。私たちは怪しい者じゃありません」

 

 瑞鶴と宮藤は無理やり笑顔を作りながら手を振った

 

 勿論、そんな誤魔化に通用するはずもなく──

 

「侵入者だ!」

 

「侵入者?」

 

「逃がすな!」

 

 誰かが警報を鳴らし、兵士だけでなく整備員までも銃を手に取り出した

 

「げ! 宮藤、早く撃って!」

 

「えぇ! で、でも! 私、人に銃を向けるなんて出来ません!」

 

 宮藤からまさかの返答したことに瑞鶴は驚いた。どう言うこと? 

 

 だが、宮藤芳佳からしたら人に向けて銃を撃ったことがない

 

 というのも宮藤芳佳は元々は職業軍人ではない。元々は軍に関わりの無い普通の女学生である。だが、ウィッチとしての潜在能力の高さを坂本少佐に見出されスカウトされたに過ぎない

 

 そのため、ネウロイはともかく、人を撃つ事への抵抗感があるのも否めなかった

 

 しかし、ここで押し問答する訳にもいかない

 

「じゃあ、銃を貸して!」

 

 MP40を引ったくるとさっさと引き金を引いた。照準を合わせなくても敵は沢山いるためよっぽどでない限りは当たるはずだ。仮に外れたとしても牽制にはない

 

 そのはずなのだが……

 

 M10のロボットが立ち塞がると銃弾を受け止めたのだ。それどころか銃弾が頭に命中しても何ともなく口をモゴモゴさせた後に何かを吐き出した

 

 MP40から発射されたえであろう潰れた弾丸が床の上に転がっていた

 

 M10は無言で右手を上げると人差し指を上げながら左右に振った。しかも「チッチッチッ」と舌打ちまでもしている。ロボットの癖にこんなジェスチャーして来るのも驚きだが

 

「瑞鶴さん……銃でも効かない敵が現れた時はどうするんですか?」

 

 流石の宮藤も今置かれている状況を理解した。そういえば、ここは別世界で23世紀だったっけ? 光線銃という凄い武器があるなら、それを防御する手段もあるのだと

 

「逃げるに決まっているでしょ!」

 

 瑞鶴はMP40を宮藤に投げると全速力で逃げた。宮藤は慌てて銃をキャッチすると瑞鶴の後に続いた。既に兵士や整備員達から光線が雨のように降り注いできたのだ

 

 宮藤は後退しながらシールドを張り防いでいた

 

「どうします? 応戦します?」

 

「銃弾が効かない相手に撃っても仕方ないでしょ! というより、あなたのシールドは大丈夫?」

 

「ネウロイのビームよりかは威力が低いかな?」

 

 宮藤はシールドを張りながら答えた。23世紀の兵器は既存の兵器よりも優れているとはいえ、ネウロイのビームよりかは劣っていた。そして、魔法というオカルト染みたものには理解できなかのか、それともそれ以上の事が出来ないのか益々光線銃を撃ってくる。前方からロボットであるM10とジェットパックを背負った兵士がいたが、それは瑞鶴の艦載機である零戦53型と艦爆62型、そして宮藤のMP40で撃破したり叩き落としたりした。宮藤もジェットパックやロボットを破壊するだけなら銃を放っていた

 

「もう、しつこい!」

 

 二人は必死になって逃げたが、実は追ってる方も必死になって攻撃していた

 

 女子中学生みたいにチビが足に変なユニットを着けているにも関わらずバックパック型飛行ユニットであるBABYよりも機動性がいい。しかも弓道着を着たツインテールの女の子は弓矢を放つと小さな飛行機に変形しこちらを攻撃してくる。しかも、走る速度もどう考えてもオリンピックの短距離走で金メダルを取れてもおかしくない速さだ。たちまち双方の距離は放され追ってる側の兵士や整備員のほとんどは息切れをして立ち止まった。素早く走れるM10も損傷はないものの、関節などの弱点を攻撃され身動き出来ずに転がっていた

 

「原始人って……あんなに……早く走れたのか?」

 

 ゼェゼェ言いながら兵士は叫んだが、その声が二人に聞こえる事はなかった

 

 

 

 二人が逃走している間、ある管制室では激戦が繰り広げられていた。いや、どちらかというと一方的だ

 

「管制室に敵が侵入! こちらの武器が効かない!」

 

 部隊長が無線で報告した後に絶命した。無線機には応答するよう繰り返して呼び掛けていたが、そんな無線機を破壊する者がいた

 

「ウルサイ」

 

 管制室から堂々と入った深海鶴棲姫は吐き捨てた。目覚めた深海鶴棲姫は宿敵である瑞鶴を追うと同時に良く分からない施設から脱出するのが先である

 

 しかし、デカイ怪獣に襲われ身動きが取れなくなったところを捕虜とされた怒りは収まらない。何処の世界か知らないが、こんな場所にはいたくない

 

 しかし、こんな施設でも得体の知れない未知の力を感じた。その力を元にたどり着いた先がここである。その管制室の窓から見えるのは大人しくしているキングギドラだった

 

 そう……深海鶴棲姫が襲った管制室はキングギドラを操る場所である。過去の日本にキングギドラを操れた仕組みと同じように特殊音波によって制御され、中枢コンピューターから操られている

 

 数世代先のコンピュータを操る事は深海鶴棲姫は無理だが、可能な者はいた

 

 ウォーロックである

 

 甲高い音を上げながらコンピュータに接触するとたちまちシステムを乗っ取った。高度なセキュリティシステムもファイアウォールも難なく突破した。映像には『警告! キングギドラ制御不可能!』という文字が浮かび上がるが、二人とも無視した

 

「オ前モ囚ワレテイタノダナ。解放シテアゲル」

 

 管制室の窓を突き破り格納庫に入ると、深海鶴棲姫は叫んだ。その叫びはホラー映画に出てくる怨霊染みた叫びで聞いていた人がいたら怯むだろう。その未知の叫びにキングギドラも怖じけずいたが、キングギドラも叫び返し、3つ首の龍は深海鶴棲姫をにらみ返した。実はこのキングギドラは過去に送ったキングギドラとは違い能力が加わっていた

 

 それはマインドコントロール能力である。視界に入った相手を瞬時に調べて操ってしまうものだ。本来なら他の怪獣を操るための能力であり、地球均等環境会議の目論みはこの能力を使って怪獣を操ろうと考えていた

 

 だが、この能力のお陰でキングギドラは深海鶴棲姫の深海棲艦と人工ネウロイであるウォーロックの事を調べ上げたのだ

 

(何者かは知らないが、この未知の生命体は我を解放し自由にさせてくれるに違いない)

 

 人ではない未知の能力に引かれたキングギドラは自身の身体に拘束された拘束具が勝手に解除されたのと目障りな音波が聞こえなくなった事に喜んだ。背中に深海鶴棲姫とウォーロックが乗っても不愉快そうにせず、それどころか深海棲艦の命令に従う形になった

 

 3体の目的は「人の手から脱出し自由を得るため」である

 

 その目的のためなら命を奪い施設を破壊する手段も辞さなかった。引力光線に加えて砲撃と爆撃、そしてビームにより、閉じ込められた檻は完全に破壊された

 

 

 

「何の音?」

 

「爆発事故? 実験失敗とか?」

 

 追跡部隊から何とか巻き物陰に隠れて一息していた時に巨大な爆発音が断続的に聞こえた。そして、あれほど五月蠅かった警報音が消えた。いや、証明が消え非常灯が点灯したため、動力が故障したのだろう

 

「誰もいない。今なら行ける」

 

 瑞鶴が偵察機である彩雲を発艦したが、廊下には誰もいない。案内板を頼りに行こうとしたが、それよりも早く曲がり角で何かが近づく二つの影があった

 

「敵が生身の人間であっても撃てる覚悟はある?」

 

「……やってみます」

 

 宮藤は返事をしたが、手が震えている。敵兵なら初めて人に向かって銃を撃つだろう。それが本当に人間の兵士だったら……

 

 現れたのは深海鶴棲姫とウォーロックだった

 

「ヤア、マタ会エタネ」

 

「深海鶴棲姫……」

 

 瑞鶴は弓を構えたまま呻いた。この会敵は予想外だった

 

「深海鶴棲姫さん、離れてください。そのウォーロックは──」

 

「知ッテイル。ソイツト触レ合ッテ、『ネウロイ』ト呼バレル怪異ノ事ヲ。オ前ノ世界ノ敵カ?」

 

 宮藤は警告をしたが、深海鶴棲姫からまさかの返答により固まった

 

「コアヲ破壊シナケレバ倒セナイラシイナ。私ハ破壊スル気ハナイ」

 

 深海鶴棲姫がウォーロックを撫でる姿に瑞鶴は唖然としたが、宮藤にとっては驚愕した。人工ネウロイとはいえ、こんなことはあり得るのだろうか? 

 

「ネウロイとコンタクト出来たのは、あの時以来だったのに」

 

 宮藤は過去に人型ネウロイと接触した事がある。姿形はウィッチと真似していた。だが、ここまであっさりと手を結ぶことはあるのだろうか? 

 

「爆撃されたい? 何を企んでいるか知らないけど、この世界から脱出するの。だから、邪魔しないで。後はあんた達の好きにしたらいい」

 

 瑞鶴は咄嗟に言った。ここで押し問答する気もない。この世界は瑞鶴や宮藤にとっては無縁だ。運悪く怪奇現象に巻き込まれただけだ

 

 だが、深海鶴棲姫は口角を釣り上げた。笑っている? 

 

「我々、深海棲艦ノ目的ハ第二ノ故郷ヲ作ル事。コノ世界ハ、我々ヲ倒ス武器ハ無イ。ソレニ、新シイ友達ガ二人モイルノダカイル」

 

「2人?」

 

 瑞鶴は眉を吊り上げた。2人? さっきの部屋で戦艦未完棲姫と会ったが、あれは仲間だ。新しい友達ではない。1人はウォーロックであるのは分かる。紹介したのだから。だが、もう一人は? 

 

「イヤ、三ツノ首ヲ持ツ怪獣ト言ウベキカ」

 

 深海鶴棲姫は言った瞬間、天井が轟音を立てた。目の前で瓦礫が落ちてきたため、瑞鶴は慌てて身をかがめたが、巨大な瓦礫が瑞鶴を襲った。宮藤が瑞鶴の頭上に飛行すると間一髪にシールドを展開したため下敷きにならずに済んだ

 

「宮藤、ありが……と……ぅ」

 

 瑞鶴は宮藤に礼を言うために上を向いたが、固まった。天井はなく、見えるのは青い空と黄金の竜の頭だ。しかも三つ。六つの目がこちらを睨んでいる

 

 巨大な三つ竜の頭、黄金に輝く翼、二股の尻尾。しかも、軽く唸っている

 

「「ぎゃああああぁぁぁぁ!」」

 

 三つの首が咆哮を上げたと同時に瑞鶴と宮藤は悲鳴を上げ一目散に逃げた。どう考えても勝てる訳が無い

 

「あれ、議長が言っていたキングギドラ!」

 

「ウォーロックだけでなく、あんな怪獣を深海鶴棲姫は手懐けたの!?」

 

 宮藤も瑞鶴も混乱しながらも逃げたが、意外と冷静になって議論していた。元々、二人は色んな修羅場をくぐり抜けたため、パニック状態から直ぐに立ち直った

 

 だが、立ち直ったところで勝てる相手ではない。それどころか、雷のような光線が後方から降り注いでいる

 

 雷相手に銃や戦闘機に戦えるわけがない

 

 がむしゃらに逃げているうちに、追跡部隊と鉢合わせてしまった

 

「止まれ! 命令に従わない場合は攻撃す……る……」

 

 追跡部隊の隊長が警告したが、瑞鶴と宮藤を追って来るキングギドラを見て真っ青になった。追跡部隊は脱走した二人組を捕まえるよりもキングギドラ相手に応戦しなければならならなかった。だが、戦いはあっという間に決着がついた。通常兵器にキングギドラが効くわけもなく、逆に三つ首から放たれる引力光線で追跡部隊は壊滅。物陰に隠れ抵抗する者は深海鶴棲姫とウォーロックの餌食になった

 

 その隙に二人は逃げた。追跡部隊を助けるどころじゃなかった

 

「瑞鶴さん、あの三つ首の龍はどうします?」

 

「どうするって……ちょっと待って!」

 

 瑞鶴は立ち止まった。艤装を通じて無線から何かが聞こえたのだ

 

『ザザー……瑞……瑞鶴! 聞こ……える……か?』

 

「この声、提督!」

 

 瑞鶴は喜んだ。無線がつながったという事は、自分たちがいた世界を繋ぐ穴が存在するということだ。宮藤の方も無線が聞こえたらしい

 

「ミーナ中佐とバルクホルンさんの声が聞こえました」

 

 宮藤も喜んでいた。恐らく、ワームホールに近づいているのだろう

 

 瑞鶴と宮藤は先へ進んだ。今なら帰れる! そして、提督や坂本少佐などに警告しないと! 

 

 そのため、深海鶴棲姫と戦艦未完棲姫がキングギドラやウォーロックを引き連れてワームホールを潜り抜ける、という最悪の事態を想定が出来なかった。脱出するのに精一杯であったため、周りの事が見えていなかったのである

 

 




ロラ(平成モスラ)「私、キングギドラ(グランドギドラ)に洗脳されちゃったんだけど」
深海鶴棲姫「腹ヲ割ッテ話シ合エバイイダケヨ」
モル(平成モスラ)「未来人もX星人もよくあんな怪獣(キングギドラ)を手懐けるよね……」
メトフィエス(アニゴジ)「そんな事ないです。自己犠牲の献身による魂の救済があれば神(ギドラ)は応えてくれます」
宮藤「霊感商法で怪獣を操るなんて凄いお方なんですね」
メトフィエス「いや、意味が全然違うから!」


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第24話 ギドラの追撃

皆さん、こんにちは。雷電Ⅱです
新作のゴジラが発表されて楽しみが増えました
八月上旬に艦これの新イベントもありますね
そういえばストライクウィッチーズの4期って出るのかな?情報は全くないけど、出てほしい……


「瑞鶴さんの声が聞こえた?」

 

「間違いない。呼びかけに応じたんだ」

 

『おおすみ』の無線室では定期的に無線を飛ばしていた。今まで応答が無かったが、数十時間ぶりに瑞鶴との連絡が取れたのだ。

 

 断片的な声しか拾えていないが、間違いない。宮藤曹長の声も坂本少佐が確認した

 

「宮藤は無事だ」

 

「でも、何かに追われているよ。ギドラという軍隊に」

 

 坂本少佐は安どしたが、ハルトマンは最後に聞こえた言葉に疑問を持った

 

 ギドラに追われている? 

 

「ところでギドラって何?」

 

 天龍は困惑しながら言った。聞いたことが無い

 

「ヒュドラ?」

 

「ギリアに聞こえたけど」

 

 加賀も翔鶴も困惑し何なのか分からない。しかし、その単語を聞いて驚いた者が居た

 

「チビギドラかな?」

 

「知っているの?」

 

「うん。僕の友達。三つの首があるんだ」

 

 チビゴジラは説明していたが、その場にいた人はピンと来ない

 

「えっと……妖怪ではありませんよね?」

 

「違うよ」

 

 ペリーヌは震えながら聞いたが、チビゴジラは否定した。体を張って説明はしていたが、艦娘もウィッチ達もどんなものかピンと来ない

 

「まあ、いい。連絡が取れたんだ。仲間を救出しようじゃないか!」

 

 提督の掛け声と共に皆は我先に外へ出た。どうやって捕らわれた二人が脱出して逃げたしているのかは分からない。しかし、これは絶好のチャンスだ。経緯なんて後から幾らでも聞けばいい

 

 だが、この状況において一人だけ素直に喜んでいない人がいた

 

 それは……

 

「どうしたんじゃ? 我々も脱出するための手助けをせねば?」

 

「あ、ああ……」

 

 博士に促されて我に返った教授は曖昧な返事をしていた

 

(ギドラって、あのキングギドラ? え? いるの? どのキングギドラだ? 惑星を食べるヤツだったら、僕は何もできないぞ!)

 

 柳田教授は困惑したが、何も言えなかった。話しても理解できない以前に、どういう経緯でキングギドラが出現して瑞鶴達を追いかけているのか見当もつかなかった

 

 

 

 23世紀の世界

 

「何です、あれ? ギドラとかいう龍って人を食べるんですか?」

 

「知らないわよ!」

 

 宮藤曹長と瑞鶴は口論をしながら逃げていた。遠くでまだ射撃音がある事から、ギドラは追跡部隊を足止めしているのだろう。皮肉にも自分たちを捕まえようとしている部隊がこんなところで役に立つとは思わなかった

 

 長い廊下を走ると急に日の光が目に入ったため立ち止まった。2人は外に出たのだ。地球均等環境会議は巨大な施設を保有しているらしく、辺りは建物や工場らしき建造物まである。巨大な都市みたいなところだ。ここの場所が何処かは不明。極東どころか中国大陸なのか欧州なのか北米大陸なのか全く分からない。人を必要としないのか、それとも出払っているのか人影は居ない。ただ、遠くで警報音と破壊音が聞こえているため、

 

「と、とりあえず皆からの電波信号はあっちの建物から発している」

 

「分かるんですか?」

 

「逆探機能を搭載しているわ。尤も、何処から電波が来ているか分かる程度だけど」

 

「便利そうですね。サーニャちゃんみたいな能力あるんですか?」

 

「さあ、魔法は専門外だから」

 

 瑞鶴は力なく言った。恐らく、サーニャなら可能だろう

 

「早くいきましょう」

 

 瑞鶴がそう言ったとき、急に辺りが薄暗くなった。何があったのか訝しげに空を見上げた瞬間、瑞鶴は凍り付いた

 

 薄暗くなったのは巨大な影にいたせいだ。巨大な影を生み出したのはある巨大生物が空を飛行していたからだ。三つ首のドラゴンが電子音のような鳴き声を発しながら近づいてくる

 

 先ほどまで追跡部隊を呆気なく全滅させたギドラは、再び宮藤曹長と瑞鶴を追っていたのだ! 

 

「ええ! もう追ってきた!」

 

「一直線に向かうわよ!」

 

 瑞鶴と宮藤は直ちに例の建物へ向かった。だが、キングギドラからしたら、人間よりも足の早い少女の速さなんて関係ない。後方に着陸すると首を蛇のように動かしこちらに向かって口を開けてきた

 

「ギドラって人を食うんですか?」

 

「知らないわよ!」

 

 2人は間一髪でかわしたが、ギドラは周りの建物を破壊しながら執拗に追いかけて来る

 

「あと少し……?」

 

 宮藤はそう言ったその時、例の建物の前に巨大なドラゴンの姿をした怪獣が地響きを立てながら着地した。キングギドラが空を飛んで瑞鶴と宮藤を追い越して待ち伏せしたのだ

 

「あと一歩なのに!」

 

「瑞鶴さん、捕まって!」

 

「え? ええ??」

 

 瑞鶴は悪態をついて止まろうとした時、宮藤は彼女の手を取ると強引に引っ張り出した。宮藤は瑞鶴を宙に浮かせたのである。流石に従来通りに空を飛ぶのは難しいが、ギドラを飛び越えることはできるはず……

 

 とっさの判断で宮藤は行動をとったが、ギドラは見逃すほど愚かではなかった

 

 それぞれの三つの首が瑞鶴と宮藤を食べようと口を開いて迫ってきている

 

「わ、わ、わ」

 

 宮藤は迫りくる蛇のような竜の頭からギリギリで回避した。だが、目的地まであと少しと言うところでもう一つ首が迫ってきている

 

「もうかわせないです」

 

 宮藤も限界だろう。瑞鶴が焦り周りを見たが、ある事に気づいて宮藤に指示した

 

「宮藤! このまま静止して」

 

「え? 何で?」

 

「合図したら私を話して貴方は急上昇して!」

 

 瑞鶴の必死の叫びに宮藤は返事をしなかった。というのも、ギドラの頭が迫ってきているからだ

 

「今よ!」

 

 瑞鶴の合図とともに瑞鶴は落下した。幸い、高度はそこまで高くなかったため無事に着地は出来た。……普通の人間なら足を骨折しているが

 

 宮藤も急上昇して逃れたが、宮藤が瑞鶴の思惑に初めて分かった。2人を食べようとしていたギドラの頭は、突然二人が消えたことによって捕らえられなかったどころか別の首にぶつかったのである

 

 怒った別の首はぶつけられた首に吠えて噛もうとしている。

 

「三つの首がケンカしている?」

 

 宮藤はポカンとしていたが、今がチャンスだ。瑞鶴と共に例の建物の中に入った

 

 

 

「あった。ここだ!」

 

 瑞鶴と宮藤はガラス越しではあるものの、巨大な部屋に入った。恐らくあれがワームホール発生装置だろう。巨大な空間に見た事もない機械があるのだから

 

 稼働しているのか、それとも元々なのか分からないが、無線がはっきりと聞こえてきている

 

『瑞鶴、聞こえる?』

 

「聞こえるよ、翔鶴姉!」

 

『良かった』

 

 久しぶりに翔鶴姉の声が聞こえて瑞鶴はうれしかった。宮藤も同じく仲間と連絡が取れていた

 

『宮藤! 大丈夫か?』

 

『芳佳ちゃん。聞こえる?』

 

「聞こえるよ。そっちに行くよ。でも、これはどうやって起動させるんですか?」

 

 宮藤は喜んだが、問題が発生した。ここからどうやって元の世界へ戻れるのか分からなかった。来たら何とかなるという楽観的な思考は早くも吹き飛んでしまった

 

「ねぇ、どうやって動かすの?」

 

 瑞鶴は見た事もないコントロール類を見ながら呟いた。どう操作すればいいのか分からないのだ。マニュアルらしきものはあったが、六法全書並みの分厚さだ

 

『ちょっと待ってろ。今変わる』

 

 提督がそう連絡した後、別の人から連絡が来たが、その相手に瑞鶴は驚いた

 

『やあ、瑞鶴。12時間35分ぶりですね』

 

「随分と正確ね」

 

 瑞鶴はドン引きはしたが、あの教授が作ったAIロボットであるターズが出るとは思わなかった

 

『それでは右上のボタンを押してください。タッチスクリーンが立ち上がると思いますので』

 

「見えるの?」

 

『はい、その部屋にある監視カメラから見ています。ネットワークカメラですし、暗号も初期設定なのか、セキュリティがずさんです』

 

「は、はぁ……」

 

 何を言っているのか分からなかったが、瑞鶴はターズが何かをしてこちらを見ているのだけは分かった

 

 なので、余計なことは考えずにターズの指示通りにやった

 

 よく分からない画面と注意喚起の文字が出たが、瑞鶴はただただいう事を聞いて操作していた

 

 そして、よく分からない英語が書いてある文字の下にYESが書いてある

 

『ここを押せばワームホールは開きます』

 

「よし、これでこの世界とはおさらばよ」

 

 瑞鶴は喜んだ、その時だ。複数の足音がしたと思うと多数の兵士が現れ銃を構えている

 

「武器を捨て両手を挙げろ。お前たちは包囲……バカ野郎。ワームホールを起動させるな!」

 

 先頭にはシモンズという人が投降するよう呼びかけたが、瑞鶴が何をしているのかを理解したらしく、強い口調に変わった

 

「え?」

 

 瑞鶴は突然の出来事に驚いたが、手は止めなかった。そのままYESのボタンを押したのだ。押した直後、施設内にて警告音が鳴り響いた。しかも、警告音と共に赤色灯が点滅している事から、更に不味い事が起こったのは確実だ

 

「な、何が起こっているの?」

 

 瑞鶴は困惑したが、巨大な機械類から巨大な咆哮が響き渡った。その咆哮はキングギドラではなく、瑞鶴を宮藤曹長がいる世界へ飛ばした張本人だ

 

「バカ野郎! そのワームホールは封鎖しているんだ! ゴジラがこの世界へ入らないようにしていたのに!」

 

「え?」

 

「奴は四次元空間にいると言っただろ! この世界への侵入も試みているというのを考えていなかったのか、あばずれ!」

 

 シモンズの絶叫な叫びに瑞鶴は唖然としたが無理もなかった。超空能力を持ったゴジラが四次元空間から23世紀の世界へ侵入されるかも知れないと思った彼らは宇宙探査に使用するワームホールを封鎖したのである。実際に侵入されそうになったケースはあったが、諦めたのか、それとも23世紀の技術の前に侵入する力が無かったのか、これ以上は侵入しなかった。その代わりに別世界の扉を無理やり開けてしまい被害を出してしまったが。マザーⅡが別次元から瑞鶴と宮藤を連れ去ったのも実は命がけだったのである。何しろ次元の狭間にはゴジラが居るからである。迂回して被害は合わないようにしていた

 

 それをたった一人の艦娘がこじ開けたのだ。実際は違うのだが

 

 兵士達は動揺を隠せず、数人は逃げる始末。ガラス越しの巨大な機器から巨大な白い球体が現れたが、そこから青白い光線が建物の壁難なく破壊したのだ

 

「あー、ごめん」

 

 瑞鶴が済まなさそうな表情をわざとしたことでシモンズは怒り狂った。そんなやり取りをしている間に白い球体からゴジラの頭と腕が出現したのである

 

 怒り狂った咆哮を上げながらワームホールから出ようともがこうとしていた

 

 




ゴジラ「前の時系列では、超音波発生装置に操られて活火山の火口に落とされ長く閉じ込められたけど(84ゴジラ)、どういう訳か人の手で火山から出てこれた(VSビオランテ)。こんな屈辱をまた受けるとは」
瑞鶴「あー、それは良かったですね(棒読み)」
宮藤「ですね、人間って愚かですね(棒読み)」
シモンズ「お前ら、ゴジラに同情してどうする!?」

ゴジラ、出現!


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第25話 ゴジラvsキングギドラ

皆さん、こんにちは
8月になりましたね。暑いです
それはそうと忙しさからやっと解放されたため急ピッチで執筆している雷電です
……こちらが考えたものをそのまま生成できるAIはないかな?


「私たちの空母と違いますが、長さ共に問題なし! 501、発艦!」

 

 ミーナ中佐の合図とともにウィッチーズ全員が『おおすみ』から飛び立った。勿論、一斉に飛ばずに空母から発艦する艦載機のように次々と空へ飛んで行った

 

 艦娘は艦尾のハッチから出撃したが、ウィッチーズの発艦の姿には心が躍った。巨大な魔法陣が浮かび上がり甲板を滑走して空を飛ぶ姿は、『艦だった頃の世界』での空母から艦載機が発艦する光景だ。特に空母組からは歓声が上がった

 

「凄いわ」

 

 海上に走っている加賀は発艦するウィッチーズの姿に興味を持っていた。空を自由に飛ぶ姿に憧れを感じていた

 

「魔法力を使って飛ぶんですよね?」

 

 赤城も不思議そうに眺めていた。ストライカーユニットは第二次世界大戦で活躍した機体の名前だ。だが、姿形が全く違うため同じように見えない

 

「でも、パンツ丸見えでしょ。恥ずかしくないの?」

 

「人の事言える?」

 

 飛龍は心配そうに言ったが、蒼龍は顔を赤くして指摘した。海面下からは丸見えだ。海に潜ってまで覗き見する人は今のところ居ないが、一部の潜水艦娘が興味本位で覗くため警戒する羽目となった

 

 因みに大抵の犯人はゴーヤである

 

 

 

『おおすみ』の甲板には提督と翔鶴がいた。翔鶴は『おおすみ』の無線室で坂本少佐と一緒に瑞鶴と宮藤との連絡をするためだ

 

「無線が途切れたが、大丈夫かな?」

 

 数十時間ぶりの瑞鶴と連絡している途中で巨大な咆哮と共に途切れたのだ

 

「さっきの咆哮、明らかにゴジラだ」

 

「ああ、否定はしない。だが、追われていると言っていた。事情は分からないが、どさくさに紛れて逃げ出してほしい」

 

 坂本少佐は複雑な表情をしていた。あのゴジラの熱線を防ぐ手段はない。ウィッチのシールドを易々と破るだろう

 

 そんな中、甲板にて一人……いや、一匹が興奮していた

 

「あのお姉さんたち、空を飛べていいなぁ」

 

 チビゴジラはミーナ中佐達が飛んでいる姿を見て目をキラキラさせていた

 

「楽しそうね」

 

 翔鶴ははしゃぐチビゴジラにクスッと笑った。チビゴジラは別次元のゴジラを呼びだしたと博士や教授は言っていたが、見た目が可愛らしいため同族とは思えなかったからだ。火を吐くのは別だが

 

「だって、チビラドンもチビギドラも飛んでいるから。そうだ、僕も飛んでみよう!」

 

 チビゴジラは甲板の端に走るとそのまま飛び降りたのだ

 

「お、おい!」

 

「甲板から海面まで距離はあるぞ!」

 

 提督も坂本少佐も慌てて駆け出したが、チビゴジラの姿は何処にもなかった

 

「どこに?」

 

「提督、あれ!」

 

 翔鶴が空に指を指しながら驚きの声を挙げていた。提督も坂本少佐も翔鶴が指を指したほうに向けたが、そこにはチビゴジラがいた

 

 チビゴジラが火を吐きながら空を飛んでいるのだ。しかも、速度はゆっくりと移動している

 

「ほ、放射熱線の反動で飛んでいる?」

 

「アイツ、飛べたのか」

 

「チビゴジラが飛べるのならゴジラも空を飛ぶ可能性も?」

 

 坂本少佐も提督も翔鶴も驚き口々に言ったが、長く放射熱線を吐けないのか、威力不足なのか放射熱線が弱まると同時に落下しそのまま海に落ちてしまった

 

「落ちたぞ」

 

「翔鶴、チビゴジラを回収してくるよう大淀に連絡してくれ」

 

「はい」

 

 三人は何とも言えない表情になった。余談だが、チビゴジラは自力で『おおすみ』に帰って来た

 

 

 

 23世紀の世界

 

「早くワームホールを閉じろ!」

 

「無理です! ゴジラが無理やり開こうとしています!」

 

 棒立ちになっている瑞鶴と宮藤を追い出した後、シモンズが兵士達に叱咤したが、コントロールパネルを必死に操作していた兵士からの応答に頭が真っ白になった

 

 あのアバズレのせいでワームホールが開いてしまった。どうやって開けたは知らないが、そもそもアイツらはこの世界がどうなろうが知った事ではないのか? 

 

「おい、お前たち……って何処へ行った!」

 

 シモンズが振り返って聞こうとしたが、いない。緊急事態だったため、誰一人拘束する暇なんて無かったのだから仕方ないが、アイツら逃げ足だけは早い! 

 

 何とかワームホールを閉じようとマニュアルを引っ張り出して操作しようとしたが、もたもたしている内に上半身まで出てきたゴジラがこちらを向いた

 

 ゆっくりと口を開き背びれが光っている

 

「時間切れだ! 逃げろ!」

 

 シモンズは叫びながら言った。シモンズと兵士達が部屋から出た瞬間に青い光が管制室を覆った。間一髪だ

 

 

 

 地球均等環境会議のある建物から青い光が出現した。その光は減衰せずまっすぐ伸び、周囲の建物をまるでナイフでバターを切るように薙ぎ払った

 

 首同士で喧嘩していたギドラも呆れていた深海鶴棲姫も青い光線を見た。まるで世界を二つに切り裂くような光線。それが収まるとある建物から巨大な生き物が現れた。二足歩行で尖った背びれや長い尻尾を持った怪獣

 

「アノ野郎……」

 

 深海鶴棲姫は睨んだ。あいつのせいでこちらは酷い目にあわされた。何とかしようとキングギドラに目をやったが、どうやらその心配はいらなさそうだ

 

 キングギドラの三つの首全てゴジラを睨んでいる。いや、殺気を放ち、唸り声をあげている。ゴジラも同じだ。ワームホールから無理やり出て周囲を見渡し、キングギドラと目が合うとゴジラの動きが止まった

 

 双方が睨み合い、そして二つの咆哮が辺りを響き渡った

 

 ゴジラから青い光が、ギドラから黄色い光線が放たれた

 

 放射熱線と引力光線が激突した。激突したところからは丸い光のようなものが形成されたが、その光の玉から巨大な爆発が起こった。物凄く爆風が襲い、深海鶴棲姫は顔を手で覆った。ガラスの破片やコンクリートのブロックが飛んできたが、深海棲艦にとっては痛くも痒くもない

 

 だが、この威力は初めて味わった。まるで核爆弾が炸裂したかのような……

 

 実際に爆発したところから数キロの範囲の建物は吹き飛ばされ瓦礫となった

 

 しかし、煙と爆炎が収まると深海鶴棲姫の視界に入ったのは、ゴジラとキングギドラが取っ組み合いをしている姿だった。キングギドラの首それぞれがゴジラにかみつき、ゴジラもうめき声をあげながら首を噛んだ。噛まれたキングギドラの首がうめき声をあげたためゴジラが有利だと思われたが、キングギドラは無理やりゴジラを押し倒した。ゴジラが倒れた隙にキングギドラは飛び上がりゴジラから離れた

 

 キングギドラが着地したと同時に体勢を立て直したゴジラは、放射熱線を照射。強力な放射熱線でキングギドラが絶命すると思いきや、キングギドラは翼を閉じた。身体を覆うようにして

 

 深海鶴棲姫は首を傾げたが、その直後に起こった出来事に舌を巻いた。翼が放射熱線をはじいたのだ。受け流がされた放射熱線は周囲に着弾し、付近の建物は木端微塵となった

 

「ヘェー、ヤルジャナイ。アノ金色ノ怪獣ハ。……ン?」

 

 深海鶴棲姫はニヤリとしたところ、二つの怪獣の間に小さな人影があった。人間かと思ったが、見覚えのあるものだ

 

 瑞鶴だ! もう一人は知らないがどうでもいい! 邪魔するなら排除するまで! 

 

「瑞鶴……」

 

 深海鶴棲姫は即座に動き出した。ゴジラはキングギドラに任せた方がよさそうだ

 

 あの怪獣、何か因縁でもあるのだろうか? 

 

 

 

「ヤバい! こちらに来る!」

 

 シモンズが慌てている隙にワームホール発生装置から命からがら逃げた瑞鶴と宮藤。これからどうするかと考える暇はなさそうだ。何しろ、ゴジラとキングギドラが地球均等環境会議の基地で盛大なバトルを繰り広げられるからだ。双方が争うなら好きにしていいが、あの怪獣は普通の生物みたいな縄張り争いのような生易しいものではなかった

 

 放射熱線と引力光線が飛び交い、巨体が取っ組み合いをしている。暴れる度に建物が崩壊する始末だ

 

 瓦礫や爆風は宮藤のシールドで防いだが、引力光線はダメだ。威力が桁違いすぎる

 

「どうします!?」

 

「落ち着いて!」

 

「いや、瑞鶴さんも落ち着いて下さい!」

 

 双方とも興奮状態で二人ともパニック状態だ。怪獣が暴れている状態で冷静に保つこと自体が難しい

 

「と、兎に角、もう一度ワームホールに」

 

「破壊されたかも知れないんですよ! それにあんなのが暴れている状態では行くのは無理ですって!」

 

 瑞鶴は何とか案を出そうとしたが、宮藤は即座に否定した。これでは自殺行為だ

 

 不意にゴジラの悲鳴が聞こえた。2人が言い争いを止めて首を向けるとゴジラの両腕にギドラの二つの首が噛みついている。真ん中の首は勝ち誇ったような鳴き声を上げると至近距離から引力光線を放っていた

 

「……あれ、どうしましょう?」

 

「どうすることも出来ないけど、ゴジラを応援するしかないわ」

 

「え? 何で?」

 

 瑞鶴のまさかの返答に宮藤は驚愕した。正気か? 

 

「考えても見て。キングギドラを生み出したのは地球均等環境会議でしょ? その地球均等環境会議は過去の世界だけでなく、私たちの世界を侵略しないという保障は何処にある?」

 

「それは……」

 

「しかも、あれは二匹目でしょ? ロボットまで作って。本当に世界のためならあんな怪獣を生み出さないわよ」

 

 瑞鶴は冷静になって考えていた。あの議長は自慢話のように語った。誇張もあるかも知れ煮が、彼の眼からは本気であるように感じ取った

 

「でも、瑞鶴さん……私、あんなのと戦ったことないです」

 

「私も同じよ」

 

 宮藤の指摘に瑞鶴は肩を落とした。自分達が保有している武器は、第二次世界大戦時の航空機と銃だけ。シールドという魔法があるが、あまり役に立たない

 

「まさか議長を暗殺するとか考えて──」

 

 宮藤がそこまで言おうとした時、遠くから何かがやってくるのが見えたため中断した。一体だ。敵か? 確かに敵だ。その敵は

 

「瑞鶴、オ前ト決着ヲツケテヤル!」

 

「もうしつこいわよ! こんな状況で深海棲艦と戦わないといけないの?」

 

 深海鶴棲姫が猛スピードでやって来た

 

「捕まってください!」

 

「え? えー!」

 

 宮藤が瑞鶴の手を掴むとそのまま飛び出した。本来ならウィッチが2人いないと飛べるかどうか怪しいのだが、宮藤は強引に瑞鶴の手を引っ張って飛んだのだ

 

 実際に空を飛び、下から深海鶴棲姫からの暴言が聞こえた

 

「私を引っ張って飛べるなら早く言ってよ!」

 

「だって重いんですから無理かどうか分からないじゃないですか!」

 

「失礼すぎるんだけど!」

 

 双方で揉めていたが、彼女たちにそんな暇はなかった。気が付いたらゴジラとキングギドラの怪獣バトルの真っ只中にいた。いや、ゴジラとキングギドラの争いが宮藤の進路上にいたというだけか

 

 ゴジラの巨大な目が宮藤と瑞鶴を追うように見つめられ、キングギドラの首の一つが噛みつこうとしていた。だが、宮藤が何とかして回避したが、双方とも執拗に追う事はしなかった。数秒だけ中断していた怪獣バトルがまた再開されたのだから

 

 ゴジラの放射熱線とキングギドラの引力光線が至近距離を掠めていたため、2人は悲鳴を上げた

 

「高度上げて! いや、速度を上げて!」

 

「無理です!」

 

 2人は騒いでいたが、双方とも無線はオープンしていた。そのため、無線のやり取りはしっかりと元の世界まで届いている事を瑞鶴も宮藤も知らなかった

 

 




ゴジラ「そういや、俺は熱線を吐いて空を飛べるんだったわ」
瑞鶴「いや、あんたは昭和ゴジラじゃないでしょ!」
宮藤「あんなのが空を飛ばれたらますます勝てない……」
※実際に空を飛んだのは『ゴジラ対ヘドラ』だけ。後はアメコミぐらい


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第26話 瑞鶴宮藤救助作戦

皆さん、こんにちは。雷電Ⅱです
台風7号、凄かったですね
新幹線が動かず、どうしようかと途方に暮れた事があります
仕方ないので別の交通手段で移動することにしました
イベントも順調。鮭……失礼、サーモンを吊り上げて喜んでいます
サーモン「だから、私はfish()じゃないって!submarine(潜水艦)よ!」


 ???の世界

 

「コンピュータの計算通りだ。君が連れて行ったドラッド3匹は核爆発によりゴジラ以上の怪獣になった」

 

「キングギドラを我々が操作するなんて聞いていなかったわ」

 

 円盤型飛行物体マザーの中でウィルソンの何気ない反応にエミーは苛立ちを隠せなかった

 

 聞いていた話と違っていたからだ。本来は20世紀の日本に警告するためのものだった。未来の日本では経済大国になり、米露中以上の地球一の国家になった。特に帝洋グループの存在だ。帝洋グループは23世紀の未来では巨大な力を世界に振りかざしている。世界では右に出るほどが無いものだ。日本の暴走を止めるべく協力はしたが……まさか地球均等環境会議は日本を破壊し新たな日本国家を築くとは思っていなかったからだ。しかし、キングギドラを操って日本の町を破壊しながら北上しているのは紛れもなく事実だ

 

「日本全土を破壊する気?」

 

「東京は残す。我々の日ノ本に新しい日本を作らすのだ」

 

「そんな」

 

 ウィルソンの計画を聞いたエミーは愕然とした。こんな馬鹿げた話は聞いたことが無い

 

「同志、自分の祖国が木端微塵になるのを見た途端、我々の目的を見失ったわけでないだろうな」

 

 グレンチコのくぎを刺すような言葉に一瞬動揺した。確かに計画に加担したのは自分自身の意志だ。例え騙されたとしても、責任が無い訳ではない

 

「私たちの役目は警告よ。これでは脅迫じゃないの。やり過ぎだわ。議長と話をさせて」

 

 エミーは嘲笑うグレンチコを睨みながらも地球均等環境会議のトップである議長と直談判することにした。ウィルソン達が暴走している事実を伝えなくてはならない。このマザーには未来世界へ連絡する時空無線があるはずだ

 

 だが、ウィルソンからの返答は予想外だった

 

「構わない。議長と話すのを許可しよう。但し、連絡はつかないがね」

 

 ウィルソンが言い終わらないうちにエミーはアンドロイドM102の近くにあった無線機に駆け寄り操作したが、ディスプレイには『ERROR(エラー).Anomaly in the spacetime communication domain(時空通信領域異常)』と出て来るだけ。スピーカーから流れてくるのは雑音だけだ

 

 システムチェックをしたが、機器に異常はない。いや、機器に異常があればSistem error(システムエラー)と表記されるはず

 

「エミー、ゴジラが消えキングギドラが現れ都市を破壊している時点で歴史は変わる。私は科学者ではないため詳しい事は分からないが、タイムパラドックスが起きた影響だろう。その影響で四次元空間は不安定になる。通信障害が出る可能性があると科学チームから警告を聞いた」

 

「歴史が変わった?」

 

 エミーは狼狽した。これでは地球均等環境会議の基地と連絡が取れない

 

「マザーはしばらくの間はタイムスリップが出来ない。歴史を盛大に変えてしまったため時空連続体が不安定になったのだ。元の世界と一時的に切り離されてしまったのは残念だが、言い換えれば君が裏切っても何もできないという事だ。だから、君を監禁はしない」

 

 エミーは歯を食いしばった。このままだと祖国が破壊されてしまう。今現在、暴走しているのは地球均等環境会議だ

 

(寺沢に会わないと)

 

 エミーは心の中でどうすべきかを考えていた

 

 実はウィルソンの考えは間違っていた。テレポーテーションがゴジラに力を与えてしまい時空を歪ませていることに。その影響によりマザーは一時的に未来世界へ戻れない事に

 

 

 

 元の世界

 

「瑞鶴、答えて瑞鶴!」

 

『おおすみ』の無線室で翔鶴は必死に呼びかけたが、応答はない。こちらから無線は聞こえる。瑞鶴は宮藤の声は聞こえるが、言い争いのような通信だ

 

「向こうは受信できていない……何かに追われている?」

 

 断片的なやりとりではあるが、坂本少佐は宮藤と瑞鶴二人は何かに追われていると判断した。何しろ通信内容が支離滅裂だ

 

 しかも、宮藤は瑞鶴を抱えて飛行? 宮藤の魔法力は強力なのに、それを上回る破壊力を持つ者と直面しているのか? 

 

 しかし、考えても意味が無い

 

「やむを得ない。艦娘とウィッチ数名を雲に生かせるか」

 

「それは!?」

 

 提督の意外な決断に大淀は驚いた

 

「しかし、それでは帰って来れない可能性も……」

 

 大淀は指摘したが、だからと言って他の案が思いつかない。提督は大淀が迷っている事に察したのか、直ぐに言った

 

「承知の上だし、そんな暇はない。教授、向こうの世界へ行って救助して帰ってくることは制御できるんだな?」

 

「機器類も設置したし理論的には可能だ。実際に出来るかどうかは分からない。命令通りに設置は出来たが、後は神頼みだ」

 

「そうか、なら用意しろ」

 

 柳田教授は困惑したように言ったが、提督は可能だけの言葉を聞くや否や即座に無線を入れた

 

「提督だ。今から緊急の任務を追加する。別次元救助作戦を開始する。数名が雲の中に入り向こう側の世界へ行き、瑞鶴と宮藤を連れて帰れ。それが最優先事項だ。強要はしないが、作戦に参加したくない艦娘がいたら、『おおすみ』に帰還しろ。仕事の邪魔だ。ウィッチは管轄外だが、ミーナ中佐が決めてくれ」

 

 無線から一方的な命令だが、誰一人応答はなかった。窓から覗いても艦娘とウィッチは雲の近くの海域に待機しているが、誰一人帰還しようとしない

 

 こちらに向かってくる艦娘もウィッチもいない

 

「よし、仲間を取り戻すぞ。旗艦大和、隊を分割して待機組と救助組と分けろ。気が変わらないうちにさっさとやるぞ」

 

『分かりました』

 

 無線から大和は意を決した返事をした。大和を始め数名の艦娘は短時間とはいえ別次元へ行ったことがある経験者だ。今回はハードだが、上手く乗り越えられるだろう

 

 

 

 艦隊は即座に分けられた。戦力の偏りはダメだが、なるべく頑丈で火力がある艦娘がいい。戦艦3(大和、武蔵、アイオワ)と空母2(赤城加賀)、重巡2(鳥海、青葉)軽巡2(能代、矢矧)駆逐艦3(夕立、時雨、フレッチャー)となった。臨時の連合艦隊編成だが、時間が無い

 

 そんな中、ミーナ中佐は大和に近寄った。

 

「こちらは意見が一致しました。全員行きます」

 

「そうですか。皆さん、宮藤さんを大切にしているんですね」

 

 大和はウィッチ達を見渡した。個性が強い者ばかりだが、全員宮藤さんを心配していたからだ。しかも、全員救助に行くとの事だ。宮藤さんは信頼されているのだろう

 

「またあの怪獣が現れたらどうするの?」

 

「心配ないって。猛スピードで拉致して引き返せばいい」

 

 ルッキーニは不安そうだが、シャーロットは朗らかに言った。自慢のスピードなら怪獣もついてこられないと思っているのだろう

 

「おい、真面目にやれ! 仲間の救助作戦だぞ! 規律を護れ!」

 

「工作艦に無理に頼んでパンツァーファウストと弾帯を借りた人が何を……」

 

「何か言ったか?」

 

「何も」

 

 バルクホルンはハルトマンの独り言に反応した。尤もハルトマンの言う通り武器弾薬は工作艦明石から借りることが出来た。幸い、502部隊という特殊部隊が使う武器庫があり、銃火器はあったため借りる事は出来た。ただ、勿論気安く借りる事は出来ないため、明らかに一個人が持つ弾薬の要求に明石は頭を悩ませたのは言うまでもない

 

(借りた銃器、壊したらレンチで殴られそう)

 

 明石は笑顔で銃火器を借してくれたが、バルクホルンの銃を渡すのだけは目が笑っていなかった。無茶な戦いにならない事を祈るばかりだ

 

 そんな様子を見ていた艦娘達は感心した。違う姿でも団結して戦っているのだ

 

 そんな時、博士から連絡があった

 

「柳田教授とターズで雲の制御は出来た。瑞鶴と宮藤が連れ去られた世界に行けるじゃろう。じゃが、向こうの世界はどうなっているかは観測できぬため不明じゃ」

 

「それはこちらの仕事です。博士、ありがとうございます。大和以下連合艦隊、雲に出撃します!」

 

 大和の号令と共に12人は一斉に雲に突撃した。後を追うようにウィッチ達も雲に突撃した時だ。近くに艦娘の艦載機が横切った

 

 Fw190T改だ。搭乗員の妖精が指を下に指していた

 

 ミーナ中佐が指した方角を見るとグラーフ・ツェッペリンが手を振っていた

 

「グラーフ・ツェッペリンも出撃していたんだ」

 

 ハルトマンは何気なく言ったが、ウィッチ達の無線機から声が聞こえた

 

 それは提督でも坂本少佐でもなかった。グラーフ・ツェッペリンだ

 

『中佐、そしてウィッチ達……全員生きて帰ってくれ』

 

「グラーフさん……分かりました」

 

 グラーフは待機組だ。501JFWは兎も角、艦娘全員行くわけにはいかない。海域警戒もある

 

 ウィッチ達は手を振っている艦娘達に敬礼をした後に雲に突進した

 

 任務は救助作戦! 

 

 

 

 23世紀の世界

 

「いてて……」

 

「瑞鶴さん、やっぱり重いです」

 

 瑞鶴は尻を抑えながら痛そうに言った。宮藤は何か失礼な事を言っていたが、今はどうでもいい

 

「建物に入って怪獣の喧嘩が収まるまで待ちます?」

 

 宮藤はゴジラとキングギドラが戦っているのを見ながら言った。いや、戦いというのは生温い言い方かもしれない。ガチの殺し合いだ。双方の殺気も凄まじく、背筋が凍るほどだ

 

「……ワームホール発生装置まで行ける? 遠く離れちゃったけど、壊れていなければ帰れるかも」

 

「壊れていたらどうします?」

 

 宮藤は指摘したが、瑞鶴は意を決していた

 

「議長の所へ行って元の世界へ行く方法を聞き出す」

 

 瑞鶴は脅迫をしてでも聞き出そうとするだろう。宮藤は無理そうだが、仕方ない

 

「銃を無くしてしまいまして……」

 

「仕方ないわ。気にしていたらきりがない。行くわよ」

 

「は、はい!」

 

 

 

 一方、地球均等環境会議の司令塔では大混乱していた。ゴジラがワームホールの通路を無理やり開けこの世界に入って来た。暴走しているキングギドラと戦っているが、誰も喜んでなんかいない

 

 全員、表情は強張り汗まみれの者もいる

 

「基地の損傷40%に達しました。このままだとこの基地はゴジラとキングギドラに破壊されます!」

 

 部下の悲痛な叫びに議長はモニターに映るゴジラとキングギドラを睨んだ

 

 二体目のキングギドラは予備作戦だ。ウィルソン達が失敗した時のバックアッププランだ。しかし、その予備作戦は異世界の住民のせいで地球均等環境会議の存在が危ぶまれている状態だ。現に基地にあった建物や道路などは瓦礫と炎へと変わりつつある。死傷者の集計も出来ない状況だ。予備作戦も基地が破壊されたら意味が無い

 

 部下の報告で日本は最貧困国家に変化したのは確認できたが、今度はこちらがゴジラに滅ぼされてしまう! 23世紀までゴジラが出現しなかったはずなのに、時空や別次元の世界を弄ったせいでパワーアップしたゴジラが出現しこちらを破壊している!

 

「航空部隊は? ゴジラの超空能力を吸い上げる装置を持っているだろ!」

 

「直ぐに準備をさせていますが、到着するまで1時間はかかるかと。……こ、この世界にゴジラが出現するなどと想定していなかったので」

 

 部下は言い訳を述べたが、それもそのはず。未来世界では怪獣なんて出現していない。核兵器は21世紀末に地球上から全て破棄することができたのだ。核爆発によってパワーアップした怪獣が現れるという恐怖から解放はされ、核戦争のリスクは完全にゼロになった。日本の暴走は抑えられなかったが

 

「言い訳はいい! メカキングギドラは!?」

 

「まだ捕獲装置の調整が……」

 

「直ぐに出撃させろ! 早く起動させろ!」

 

 議長の命令により部下は慌ててメカキングギドラの方へ向かった

 

 メカキングギドラ……それはキングギドラを模したロボットだ。本来なら三つ首の機械怪獣は操ったキングギドラと共同作戦をするための存在だ

 

 いくらキングギドラと言えど多数の怪獣が一斉に襲われたら敵わないだろう。戦いは数だ。流石に3体目のキングギドラなんて作れないので、ロボット怪獣開発に力を注いだのである

 

「それと逃げた小娘を捕まえろ! 今すぐ!」

 

 銃を持った二人の警備員は互いに目を合わせた。この状況で、まだ艦娘とウィッチを捕まえようとするのか? 

 

 だが、命令は命令だ

 

 警備員は二人を捕まえようと行動したが、その後の事は覚えていなかった。何しろ、爆発に巻き込まれしまい即死したのだから

 

 戦艦未完棲姫が放った砲弾がさく裂した事により、司令塔は大混乱した

 

「敵襲だ!」

 

 護衛兵とアンドロイド兵が即座に攻撃したが、戦艦未完棲姫には効果が無い。銃撃戦が勃発してしまった

 

 

 

 ゴジラとキングギドラが戦っている場所より近い場所には光の玉があった。大きさもトラック並みの大きさだ。その光こそ、ワームホールだった

 

 ゴジラを吐き出した後、縮小した状態で白く輝いていた。その白い光の玉から突如、大勢の軍勢を吐き出した

 

「海が無い?」

 

「想定内だろ、大和」

 

 艦娘達はいきなり陸地になった事に戸惑ったが、そんなものは些細なことだった

 

 ワームホールの移動は、あまり良いものではない。言葉では言い表せないが、強力な台風の中を進んでいるようなものだ

 

 やっと出られたと思った矢先に青い閃光と爆発音が起こり、がれきは雨のように降って来たのだから

 

 普通の人なら即座に逃げるものだが、艦娘は艤装、ウィッチはシールドで防いだ

 

 しかし、それよりも衝撃を受けたのは二体の巨大な生物の戦いだった

 

「な、何なんだ、あれ?」

 

「ド、ドラゴンですの? しかし、頭が三つ首……というか、火じゃなくて雷撃!?」

 

 エイラとペリーヌはキングギドラの姿に驚愕した。三つ首の金色のドラゴンがゴジラ相手に殺し合っている? 

 

 巨体が巨体だけに、破壊力が凄まじく辺り一面はがれきの山だ。全員がゴジラと三つ首のドラゴン(キングギドラ)の戦いに衝撃を受けた

 

 幸いというべきか、こちらの存在に気づいていない

 

 ……こちらが小さすぎて気づいていないだけかもしれないが

 

「どうするの?」

 

「やる事は変わりません。瑞鶴さんと宮藤さんを探すまでです」

 

 ルッキーニは震えていたが、ミーナ中佐は指示を出した。ここにとどまっては、ゴジラか三つ首のドラゴンの下敷きになるか、放射熱線もしくは引力光線で木端微塵になるかのどちらかだ

 

 何処かへ移動しようと模索していたところ、加賀が地面に何かを見つけて拾い、ウィッチ達の方へ駆けつけた

 

「これ、貴方たちの世界の武器では?」

 

「宮藤の銃!」

 

 バルクホルンは叫んだ。間違いない。宮藤と瑞鶴はここにいる! 

 

「探すわよ!」

 

「「「「「「了解」」」」」」

 

 ミーナ中佐の掛け声で全員移動を開始した。今は怪獣の争うの邪魔はせず、二人の捜索が最優先だ

 




いくらキングギドラと言えど多数の怪獣が一斉に襲われたら敵わないだろう

キングギドラ「マジでそれな(怪獣総進撃の昭和ギドラの末路を見ながら)」

数の暴力では勝てないのは仕方ない(白目)
因みに私は読んではいませんが、小説版では金星で未来人が宇宙怪獣であるキングギドラの死骸を調査する描写があるみたいです。VSシリーズでもキングギドラは高度な文明が存在していた金星を滅ぼしたのだろうか?


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