ファイヤーに転生したけどこのカントー地方、色々おかしい!? (氷水メルク)
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幻想の終わり

 

 高レベルの準伝説を捕獲できればエンディングも同然。

 

 序盤から高レベルのスイクンを入手。

 特に技を変える必要はなく、意識してレベル上げをする必要もない。

 ただ準伝説のポケモンが持つ個体値と高レベルの力を振るうだけ。

 後はそのまま回復なり能力上昇の支援をするだけで、エンディングを迎えるのに5から7時間あれば到達できる。

 とある作品での常識だ。

 まぁ、序盤からレベル60もあるポケモンを出してくる奴がいたらそれこそクソゲーとしか言いようがないわけで。

 低レベルのポケモンを繰り出す奴しかいないから、レベルと種族値の差による暴力が成立するわけである。

 

 そこでだ。

 もし、もし、自分が準伝説のポケモンであるファイヤーに転生し、とある新人トレーナーに序盤から捕獲されたとしよう。

 異世界転生で、自分の使っていたファイヤーになっていて、それも努力値と性格ほぼほぼそのまま状態と来ている。

 俺を捕まえてくれたトレーナーもポケモンに優しい可愛い少女と来ている。

 いやぁ、人生楽勝ムード。

 真・唯一神とか呼称する奴はみな一睨みで散っていく。

 

 なんて、そんなはずはなかった。

 

「ゆけっ、レジロック!」

 

 タケシの号令を上げると、黄色と黒を基調としたハイパーボールを振りぬいた。

 天を駆けるボールは最高到達点へと至る前に、パカンと上下に開かれる。

 ボールの中から飛び出した青白い一筋の光束は楽しそうに地面へと流れ落ちる。

 青白い光はやがて胴体と頭部が粗く削れたゴーレムを形成した。

 赤褐色と茶色に彩られた岩の身体、頭部と思しき部位は点々でHと掘られている。

 見間違うはずもない。

 レジロック。タケシが三匹目に繰り出したのは準伝説のレジロック。

 とんでもない防御力を誇る岩石の巨人。

 レジロックは電力でも供給されたかのように頭部のHを光らせると、無機物な岩石の両腕を振り上げた。

 対してこちらは……

 

「誰がきてもわたし達なら勝てる! 続いていくよっ! ファイヤー!」

 

 ファイヤーへと転生した俺の主人、リーフは溌剌とした勢いで拳を突き出した。

 あの、タイプ相性ってご存じでしょうか? 

 炎飛行タイプの私めに岩タイプのレジロックはその、辛いにもほどがあるといいますか何と言いますか。

 いくら対戦用に鍛えられたポケモンでもこれはきついといいますか、なんというか。

 今すぐ後ろに残っているフシギダネに変えていただきたいのですが……。

 なんて思念を送ってみようにも俺の口から出てくるのは「ギャーオ!」という雄たけびのみ。

 これをご主人は「気合十分だね!」とまるで理解していない様子で両肘を曲げてポーズをとる。

 ……マジかよ。

 いやけど分かっている。フシギダネでレジロックを相手にするのは正直言って無理に等しい。

 しかもこんな最序盤で。

 だったらせめて準伝説らしく、後続に繋がる動きをしないと。

 

 ……誰だよ、序盤で準伝説のポケモンを捕まえることができたら余裕とかぶっこいてた奴。

 一発ぶん殴りたい。とどのつまり俺か。

 ディアルガの力で過去に戻れれば今すぐにぶん殴ってきている。

 ここで最初に立てた論の結を今言おう。

 そんな甘い幻想(はなし)は存在しなかった。

 

 思えばバトルタワーにいるトレーナーってなんであんなに準伝説のポケモンをポンポン繰り出してくるのだろう? 

 少し訂正しよう。なんで準伝説を容易く葬れるポケモンを繰り出してくるのだろう? 

 準伝説のポケモンなど意にも介さぬ万夫不当なトレーナーが世界各国から集っているから? 

 なるほど、非常に納得のゆく答えだ。

 では次にこう考えよう。

 

 そんなガチ勢(きょうしゃ)がいる世界で、新人トレーナーによる冒険は、ゲームのように何の困難にぶち当たることなく上手くいくと思うだろうか? 

 もっと言えば現実に生きていて、当たり前のようにバトルタワー上層の方で出てくるジムリーダーたちは、挑戦者の実力を測るという名目上でぬるい手加減をしてくれるだろうか? 

 もう一度言おう。数分前までマジの真・唯一神になっていた俺をぶん殴りたい。

 

「レジロック! 岩石封じ!」

「ファイヤー! 熱砂の大地!」

 

 タケシの指示を聞いたレジロックは両腕を振り上げる。

 すると、レジロックの周囲を青白く発光する岩が躍りまわる。

 振り下ろされた両腕。一撃でも受けたらただじゃすまない状況下。

 俺はこなくそーという思いを前面に吹き出し、翼をはためかせ岩の巨人へと突撃していった。

 



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現状確認

 

 前も見ずに小走りしていたそよ風が、深層意識の中に潜っていた俺の意識をゆっくりと呼び覚ます。

 小さく身体を身震いさせ、重い瞼を開いた俺の前に広がっていたのは黒く彩られた木々だった。

 空は真っ暗闇な天幕どこまでも敷かれていて、川のように規則性の欠片もない星々が煌々と己が存在を主張する。

 ほうっと息を吐いてみればどこか温かく。続いてざっと、土を踏む感触が足から脳へと伝ってゆく。

 バチバチと火花が弾ける音が鼓膜を叩く。

 見渡す必要もなく、俺を中心として焚き木を付けた時のような淡い光の影が広がっているに気づく。

 どういうことだと思考が混乱する前に自分の視界が高くなっているのに気づく。

 

 ……マジでどうなってんの?

 

 俺は確かに自分の部屋で、夏の布団の暑苦しさに耐えながら高個体値のヒバニー欲しさに孵化厳選をしていたはず。

 そこまでは覚えている。

 そのあとの記憶はいくら記憶の土を掘り返してみても見つかることは無く、恐らくあまりの出なさに寝落ちしてしまったのだろうと思考は行きついた。

 しかしだ。

 寝落ちしたとしてなぜ俺は今、見知らぬ森の中にひとりで放り投げられている。

 

「ギャーオ(訳が分からないよ)」

 

 ……うん?

 自分で思っていたのとまるで違う声が口から飛び出した。

 まるでいつも自分の手持ちの中にいて、なんだかんだ炎の身体によって孵化要員になっているファイヤーと同じ……。

 

「ギャーオ!? (いやこの翼ファイヤーじゃん!?)」

 

 俺は自分の手を目の前に持ってくると、つい声を大きく叫んでしまった。

 なんせ、考えていた五本の指が生えた薄橙色の皮膚を纏った人間の手はそこになかった。

 代わりにあったのはメラメラと燃え煌めく炎を吹き出した赤熱の翼。

 三本の爪? 指先の生えたこれまた朱色に染まったほっそりとした足。

 紛れもない。

 ガチパのポケモンでありながら、炎の身体が便利だったので、いつも孵化要員として手持ちに入っていた色違いのファイヤーの姿だった。

 

 ……待って、なんで俺色ファイヤーになってんの?

 なんで気づいたら見知らぬ場所にいるの?

 特性とか技構成とかそのままだったりするの?

 なんでザシアンじゃ……いやそうじゃなくて。

 

 色々思考がグルグルしだす。

 自らの炎を灯に木々の間から、なんだなんだとコラッタやポッポ、ニドランのオスメス達が顔を覗かせる。

 ああうん、どうやら俺はポケモンの世界に異世界転生してしまったらしい。

 それもにらみつけるさんだとか、真・唯一神とかあだ名をつけられているファイヤーに。

 面白そうとネットで情報を調べ、使ってみたら意外と強かったあのファイヤーに。

 

 とりあえず一度思考をリセットしようと目を瞑ろうとしても、周囲のポケモンたちから突き刺さる視線の嵐。

 どうにかして眠ろうとしても気が散って仕方がない。

 さて本格的にどう眠るかと考えていたら、コツンと俺の足が何かを蹴る。

 何だろうと首を下に動かした先に、青いワームホールをそのままボールにした物が転がっているのを目にする。

 

 ウルトラボール……。

 

 色違いのファイヤーを出した時に、特別なボールに入れたいという思いから捕獲に使ったボール。

 試しにこつんとボールのスイッチ部分をくちばしで突いてみると、赤いビームが一直線に俺の身体へと突き刺さる。

 何か強い力でボールの中へと引っ張られた俺が目にしたのは、何とも筆舌に尽くしがたい宇宙空間。

 惑星や恒星が広がっているのだけど、そこへ飛び立つことはできなかった。

 あくまで背景といったところだろうか。

 ただ広がっているのを目にすることができるだけであり、赤や青、黒に白、翡翠といった様々な星々が点々と存在している。

 上層は外の景色が見えるようで、夜空を一望できた。

 この空間は無重力なのか、翼や足を広げてみても何かがぶつかることは無かった。

 制御の利かない浮遊ってこういう感じなのだろうか?

 俺はその場で翼をたたみ、うつぶせになるようにして横になる。

 

 この空間内はどこまで広がっているのかとか疑問に思うが、厳選作業の疲れがぶり返してきて一先ずもう眠ってしまいたい。

 瞼を閉じればポケモンをやっていた時の思い出が蘇る。

 まさかトレーナーではなく、ポケモンになっているなんて。

 これが昔流行ったポケモンダンジョンですか。

 それからファイヤー、ウルトラビーストを捕まえる用のボールに入れてごめん。

 今度ルアーボールかダイブボールで捕獲しようかなぁ、とか考えてマジすいませんでした。



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技構成

 

 目を覚ますとそこは、見知らぬ宇宙空間だった。

 ここはどこだと頭を悩ますこと数分。頭上から差し込んでくる光と景色に気づき、朧気だった記憶が鮮明になってくる。

 

 そうだ、俺はファイヤーになってしまったんだった。

 

 翼を広げて大きく伸びをする。

 準とはいえ伝説のポケモンに似つかわしくない間抜けな欠伸をひとつ零す。

 外へ出ようと翼をはためかせて上昇すれば、俺の全身が青い光に包まれる。

 身体が分解され、再度構成されるかのような感覚。

 きらりんエフェクトと共に飛び出した俺の前に広がっていたのは、見覚えのある森の中であった。

 

「ギャーオ(さて、マジでどうするか)」

 

 改めて考えてみると俺はもう既に捕獲されている状態なんだよな。ボールに入っているわけだし。

 誰のファイヤーかなんて、考えるまでもないだろう。

 多分俺だ。

 記憶とか知識とか探ってみても、このファイヤーに関するものは一切ないわけで。

 つまるところ、孵化要員としてこうなる前の俺が使っていた色違いファイヤーという仮説の方がしっくりくる。

 そうなると自分の技構成がどうなっているのか少し気になる。

 

 まずは鬼火! 

 

 アニメで見たゲンガーのように手を合わせてみたり、木を狙いにして眼力を強くしたりしても何も起こらない。

 鬼火を使うと念じてみても何も起こらない。

 

 じゃあ次、暴風! 

 

 大きく翼をはためかせてもやっぱり何も起こらない。

 竜巻が発生するなんてことは起こらず、ただ空気を少し歪ませる程度の強烈な風が突進していき、乱暴に木の葉を弄ぶだけ。

 これじゃあせいぜい風起こしだ。

 

 次、燃え尽きる! 

 

 ……ダメか。

 全身の炎が燃え尽きて、炎タイプを失ってしまうほどの大火力。

 そんな感じの豪炎は一切出てこない。

 念じてみてもダメ。

 

 ……なるほど、どうやらこのファイヤーは経験値不足らしい。

 つまりはレベルが足りないと、そういうことなのだろう。

 だから暴風や燃え尽きると強力な威力を誇る技たちはまだまだ使えないと。

 ゲームでレベル100であっても、中身が何の対戦経験もない俺だとまた話は別ってことか。

 ……そうなると、逆に何の技なら使えるんだ? 

 まさか、睨みつけると火の粉、風起こしなんて言わないよな? 

 羽休めなら現在進行形で使っているような気はするが。

 とりあえず試してみるかと自分の身体に身を任せ、三十分くらい経つ頃には驚きの事実が分かった。

 

「ギャーオ(使える技にばらつきありすぎだろ)」

 

 まず技に関して、念じても使えないとは言ったけどあれは嘘だ。

 自分の身に意識を向けてみると分かるのだが、本能的に現在何の技を使えるのか分かった。

 多分、生まれたてのポケモンであっても火の粉とか水鉄砲だとか、遺伝技を使えるのと同じ原理なのだろう。

 てっきり図鑑で使える技を調べているのかと思ったんだけどな。

 そうだよな。図鑑で使える技が分かってもポケモン自身が使う方法を知らなければ使えないよな。

 さらに深く掘り下げれば、なぜ赤ん坊のころから人間の言葉を理解し、翼で打つとか火の粉がどういった技なのか理解して放てるのか? という話になるから止めておこう。

 

 そんなわけで一つ目、火炎放射。

 瞼を閉じて身体の奥深くにだけ集中してみると、燃え上がる熱い鼓動があった。

 身体の内側で形成される衝動に身を任せ、口から思いっきり息を吐きだすと勢いよく火炎が噴き出した。

 威力的には紛れもなく火炎放射だと思う。

 森で炎を吐くなとか怒られそうだが、森の中に10万ボルトやら雷を打てる電気ネズミがいるんだ。

 これくらい別にいいだろって思う。

 

 二つ目はエアスラッシュ。

 何か飛行技は無いのかなとか考えていたら、翼の内で空気が逆巻くように動くのを感じ、振るってみたら突型のエアスラッシュが飛び出した。

 今はこのエアスラッシュで刈り取ったリンゴと思しき果実をくちばしで突いているところだ。

 自然で取れたリンゴは梨のように瑞々しい。

 しっとりとした甘い果汁が口全体に広がっていくため、喉の渇きを潤し、腹を満たすことができた……と思う。

 炎タイプが水飲んでも大丈夫なのかどうかは置いといて。

 まぁ、水中に住んでいるくせに水タイプが弱点のマッギョとかいう奴がいるから深く考えるだけ無駄だろう。

 ペリッパーだって電撃波覚えるしね。今更今更。

 

 んで、三つめは地面タイプの熱砂の大地。

 自分でもよく分かっていないのだが、熱気が翼に広がっていくのを感じて力のままに振るってみたら出てきた。

 個人的に超意外である。

 火炎放射、エアスラッシュと来て教え技の熱砂の大地。

 強いには強いのだが、俺のファイヤーが使うとなると正直鬼火で十分という感想しか持てないのが何とも。

 それでもって、四つ目は睨みつけるだった。

 

 火炎放射! エアスラッシュ! 熱砂の大地と来て、最後に使える期待の大技! 

 

 その名も睨みつける! 

 

 うん、知ってた。

 だろうな、とは思ってた。

 

 俺を警戒して周りを囲んできたポケモンたちが一睨みで逃げ去っていくんだから。

 まったく、特殊技しか使えないのに睨みつけるとか覚えていたって意味ないだろうに。

 ソーラービームなんか使えねぇんだから。

 

 それから特性が炎の身体なのも分かった。

 リンゴをくちばしで突いていたら10個中3回くらい焼きリンゴと化したから。

 焼きリンゴって食べ物はあるけど、ただ炎で焼いただけだとあんまり美味しくない。

 食べないのは勿体ないので食べるには食べて、この先どうしようかと思考する。

 

 俺は色違いのファイヤーで、それも夢特性の炎の身体。

 珍しいなんてものじゃない。色違いの時点で多くのトレーナーがせわしなくボールを投げてくることだろう。

 そう考えると既に捕獲されているこの状況はどうなんだ? 

 持ち物として持っているウルトラボールに俺自身が登録されているから、誰かに捕獲されることは無い。

 かといってトレーナー無しでも自分でボールから出てきたり閉じこもったりできる。

 

 控えめに言ってどうなんだ? 

 ……まぁいいや、面倒くさいことは後回しで。

 一先ずこの先どうするかだけ決めてしまおう。

 

 なんてこの時、俺は空を飛ぶという行為を完全に舐めていたことに気づいた。

 

 どのくらいの速さで、回数で、強さで、角度で腕を動かせばいいのか分からない。

 そもそも俺は元々人間だ。鳥じゃない。鳥人間でもないただの人間だ。

 自分の両腕が両翼になっている時点で気づくべきだったのだ。

 簡単に空中を自在に飛び回れるはずがないと。

 ボールの中は無重力だったからついつい忘れてしまっていたのだ。

 

「ギャッ(あっ)」

 

 空中で体制を立て直すことができなかった俺は、地面目掛けて自由落下していく。

 固い土が緩やかにキャッチをしてくれるなんて甘い話はなく、ズシンと小さく地響きを伴い身体を立て打ち付けた。

 

 いってぇ……。

 

 準伝説のポケモンでも空から落ちると痛い。よく分かった。

 このファイヤーの型だとそんなに痛くはないはずなんだけどな。

 俺結構ポケモンのこと甘く見てたかも。

 翼で飛ぶのも技を放つのも苦労しているのな。簡単にできるものじゃないんだな。

 正直言って尊敬するわ。

 失敗だと首を持ち上げてみると、ふと茂みが左右に揺れ動いた。

 

 人間の手。

 草がかき分けられ、顔を出したのは女の子だった。

 長い髪の毛に水色のノースリーブの服に赤いミニスカート。

 そしてその顔立ちといえば、リビングレジェンドレッドを女体化させたようだった。

 

「ファイ……ヤー……」

 

 俺を目にした少女は長いまつ毛を細かに揺らし、目の前に映る存在を確かなものへと昇華させるかのように声を震わせた。

 この子、見覚えがある。

 もしかして、かつてあまりの存在感の無さやシリーズによって名前が変わることから不遇と呼ばれた女主人公、リーフなのでは? 

 



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やりたいこと

 

 段々と俺はリーフと思しき少女の目に星が浮かぶのを幻視する。

 間違いなく、目の前に準伝説であるファイヤーがいるからだろう。

 そして今何歳なのかは分からないが、リーフは原作にてまだ子ども。つまり次にとる行動は恐らく。

 少女は感情を抑えることなどできないといった様子で駆け出した。

 

「ファイヤーだぁ!」

「ギャァ!?」

 

 ちょっまて、落ち着け! 

 一般的なファイヤーの特性はプレッシャーだけど、俺のファイヤーは! 

 止まるように声を出しても、出会ったばかりのポケモンと人間じゃ意思疎通なんて図れるはずもなく。

 無邪気な笑みを浮かべた少女は俺の頭に手を伸ばし、

 

「あっつーい!」

 

 そのまま引火して燃え上がった手を押さえつけて飛び上がった。

 

 がむしゃらに手を振って火を消した少女は、まだ火傷が痛むのか手を抑える。

 いやごめんよ。特性に関してはどうすることもできないからさ。

 不本意とはいえ、少女のシミひとつない手を火傷させるのは心が痛む。

 

「ギャオ(大丈夫か?)」

「えっと、心配してくれているのかな? だいじょーぶ! これくらい慣れっ子だから」

 

 幼くてもスーパーマサラ人ってことか。

 いやピカチュウの10万ボルトを受けても平気な人が多い世界だから、これくらいは本当に何ともないのかもしれない。

 

「おぉ、すごーい! ほんとにファイヤーだぁ! 初めて見たぁ!」

 

 少女は周囲を跳ねまわるようにして俺の身体を観察する。

 顔を近づけても手は伸ばさない。文字通り記憶に焼き付けるかのように純粋な瞳を向けてくる。

 何だろう。これで飛べないのバレたら幻滅されそうだ。

 一通り見て満足したのだろう。少女は顎に手をやりながら小首を傾ける。

 

「そういえばなんでここにファイヤーが?」

「ギャー(それは俺が聞きたいわ)」

「トレーナーが近くにいるとか?」

 

 その疑問に俺は首を横に振る。

 捕獲はされている。

 けどトレーナーは自分自身だからいないも同然だし。

 

「違うと。うーん、何してたの?」

 

 空を羽ばたこうとして転びました。

 少なくとも準とはいえ伝説のポケモンが言うような答えじゃないよなぁ……。ダサすぎる。

 とりあえず俺は身体を起こし、二本足で立ち上がる。

 すると少女は目ざとく俺の腹部にある傷跡を見つけたようで、「ちょっと待ってて」と声を掛けると黄色いショルダーバッグからスプレーを取り出した。

 

「少し染みるよ」

 

 そう言うと少女は俺の傷口にスプレーを吹きかけた。

 そんなに無かった痛みの感触が完全に引いていく。傷跡もきれいさっぱり無くなっていき、元の綺麗な赤熱した身体に戻っていった。

 これって傷薬か? 

 1ダメージくらいしか受けてはいないけど使ってくれるなんて。

 ありがとうの意味を込めて鳴いてみれば、少女は「どういたしまして」と手を振った。

 

「ポケモンから攻撃を受けた感じの傷じゃなかったなぁ。もしかして空から落っこちたとか? それも飛べなかった」

「ギャッ!? (なぜ分かったし!?)」

「あはは! もしかして図星だった? 明らかに野性ポケモンにつけられた感じじゃなかったし。まぁこれくらい、トレーナーなら知っていて当然。それに野性のポケモンは遠巻きに見ているってのもある」

 

 少女は額に手を当てて、その場で一周しながら見渡す。

 確かに野性ポケモンは俺を怖がっているのか、木々の隙間からこっちを覗いてくるだけで何かをしてこようとする気配はない。

 あのポッポですら近づいてこないのだ。

 確かにこれで野性ポケモンから攻撃を受けたっていうのは厳しいか。

 

 少女は今にも楽しそうな口調で「随分と間抜けな準伝説級のポケモンもいたんだね!」笑い出す。

 

 ……うん? 準伝説級? 

 アニメとかゲームだとファイヤーは伝説のポケモンと言われていたはずだけど……。

 準伝説、禁止伝説で区分しているのは外の世界のポケモントレーナーだよな? 

 もしかしてこの少女、転生者か? 

 少女は俺の隣に座りこむと、両腕をぐっと伸ばし、俺の顔を見上げた。

 

「バトルフロンティアの試合はいつも盛り上がるの! 夕ご飯の時とか、レッド、テレビに貼りついちゃってさ。もう目をキラキラさせてるの」

 

 なるほど、どうもこの世界にはバトルフロンティアがあるようだ。

 だから準伝説級って言葉があるのだろう。うん、多少なりと納得した。

 そしてもう一つ分かった。

 この少女、リーフで確定だ。

 夕ご飯を一緒に食べているとか、話にレッドが出てくるとことか。

 楽しそうに語る少女だったが、途端に浮かない顔つきとなって肩を落とす。

 

「レッド、グリーン、私。半年後にはトレーナーになるの。二人はちゃんと、最強のトレーナーになるって目標を持っててね。なんだか幼馴染とレッドに置いていかれそうな感じがして、つい私も冒険する! って言っちゃったんだけど、自分でも何をしたいのかまだ分からなくてね」

「ギャーオ(別に普通のことじゃないか?)」

「聞いてくれてありがとう。ほんと私、何をしたいんだろうなー。将来、何になりたいのかなー。分かんないや」

 

 リーフは何でもないように言うと、仰向けになって寝転がる。

 どこか遠くを見ているのか、その目は空ではない何かを映しているかのように思えた。

 ゲーム本編では決して見せることのない、年相応の少女らしい憂愁を帯びた顔つきを見せた。

 

 なんでいきなり相談されたのだろうか。

 俺がポケモンだったからか、人間ではない誰かに聞いてほしかったのだろうか。

 それは分からないけど、リーフの語る言葉は今の俺にも刺さるものがあった。

 

 俺はこの先、何をしたいのだろうか。

 

 いきなりポケモンの世界に放り出され、ポケモン、ファイヤーとしての生を歩むことになって。

 何の目的も持っていない。

 もしもファイヤーに対して真・唯一神(笑)とかふざけたことを抜かす世界だったら存分に布教してやるところなのだが……。

 あいにくと外に出る理由がない。

 出たとしてもそれはトレーナーのファイヤーとしてではなく、野性のファイヤーとしてでしかなく。

 結局のところファイヤーの布教活動などできるはずもない。

 俺も少女に倣って空ではないどこか遠くを見つめていた。

 

「ギャーオ(俺も何をしたいんだろうな……)」

「よしっ、決めた。ファイヤー、特訓しよう!」

「ギャオ? (はい?)」

 

 いきなり上半身を上げたかと思いきや何を言い出すんだこの子は。

 少女は俺の身体をびしっと指さすと、煽るかのように宣言する。

 

「空を飛べて困ることは無い! 私、傷薬まだ持ってるから! それに、準伝説級のポケモンに飛び方を教えてあげたなんて、一生自慢できる!」

「ギャオ! (理由が割と自分本位!)」

 

 あと人……ポケモンを指さすな。

 いや割と指さしているトレーナー多かったわ! ジラーチとかよく進む道を指さしていたわ! 

 少女は天真爛漫な笑顔を浮かべ、「ほらやろうよ!」と手で促してくる。

 

 どのみちか。空を飛べるようになれば、俺も困ることは無い。

 そうして空を飛ぶ練習を始めてから数日経った。

 少女はあれから毎日俺の元へとやってきては、空を飛翔する特訓を手伝ってくれた。

 この頃くらいから、俺は翼をどの程度の強さと回数、速度で羽ばたかせればいいのか分かってきた。

 一か月経つ頃には、違和感なく自在に空を飛ぶことができていた。

 これもすべて、ひとえに何度空から落ちてもそのたびに傷薬やオレンの実、オボンの実を使ってくれた少女のおかげだ。

 たまに混乱木の実が混じっていて、頭の中がぐちゃぐちゃになるような感覚を覚えたのはご愛嬌だ。

 空を飛ぼうとするたびに少女が応援してくれたってのも、俺が頑張ろうと思えた要因のひとつかもしれない。



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締まらないゲット

 

 夕日が名残惜しそうに空をオレンジ色に染め上げる。

 どこか哀愁漂うオニスズメの鳴き声が響き渡り、少女が家へと帰る時間を告げてくる。

 空を飛べるようになった俺を見届けると、少女は何を思ったのか悲しそうな顔を晒す。

 

「これで、ファイヤーがここにいる理由も無くなるんだよね」

「ギャーオ(そういえばそうか)」

「ねぇファイヤー! その……よかったらなんだけど、私のポケモンにならない? 半年後、トレーナーになれたらまたここに来るから! その時に! ……なんて」

 

 少女は非常に言いづらそうな顔で指を弄ぶ。

 一か月も居た付き合いから、少女の瞳が何を映しているのか何となく分かる。

 きっと、迷惑だと感じているのだろう。

 自分の頼みが。

 自分の存在が。

 空を飛べるようになった以上、俺は今すぐにでもここを抜け出せる。

 縛り付けておく必要はない。

 そう考えているのだろう。

 少女は僅かに目線を俺から逸らす。

 地面に刺したつま先を躍らせて、少女は何も言わずに走り去ろうとして振り返る。

 

「リーフ! それが私の名前だから! おぼえててくれると……うれしいな!」

 

 少女、リーフは目尻を震わせた。涙をため込み、零れ落ちる寸前で振り返って走っていく。

 リーフの背中は茂みに入った後に見えなくなった。

 次の日からリーフがここに来ることは無かった。

 

 俺が出す答えなど、空を飛べるようになった時から決まっているというのに。

 

  *  *  *

 

 あれからまた、月日は流れていった。

 虫ポケモンが活発な夏の終わり。

 肌寒さを感じる涼しい秋も終わりを迎え、冬の寒気が到来する。

 冬眠ってわけではないけど、ボールの中は暑さも寒さも感じない。

 木の実を溜め込みボールの中で修行を兼ねながらゆったりと過ごす。

 木の実が足りなくなれば外に出る。

 そんな生活を繰り返しているうちに、ようやく冬も終わりを迎えた。

 

 葉や木に溜まった雪解け水が太陽の光を反射する。

 ぽたっ、ぽたっ、と一定の間をおいて葉にしがみ付いていた雫が零れ落ちる。

 それから数日経った頃、ふと茂みが左右に揺れ動いた。

 現れたのは人間の手。

 草がかき分けられ、顔を出したのは見覚えのある女の子。

 始めに見た時と変わらない長い髪の毛に水色のノースリーブの服に赤いミニスカート。

 レッドを女体化させた顔立ち。

 そして、

 

「ファイ……ヤー……」

 

 聞き覚えのある天真爛漫を形にしたかのような声。

 久しぶりに会ったリーフはほとんど変わっていない。

 しいて変わったことがあるとすれば、腰にひとつモンスターボールを付けていることだろうか。

 俺を目にしたリーフは長いまつ毛を細かに揺らしながら声を震わせた。

 そして初めて出会ったときと変わらず、リーフは感情を抑えることなどできないといった様子で駆け出した。

 

 おい、久しぶりに会ったから忘れたのか!?

 俺の特性は! 

 

「あっつーい!」

 

 炎の身体なんだよ。

 リーフはあの時と同じように、自身の手を炎上させて飛び上がる。

 がむしゃらに動かして炎を消したリーフは、火傷した手を押さえつける。

 しかしそんなことはお構いなしに、俺をじっと見つめていた。

 目元は既に潤んでいて、声も震えている。

 

「ここにいるってことはゲットしてもいいんだよね!」

 

 リーフの言葉に、俺はゆっくりと頷いた。

 ファイヤーの鋭い目を受けながらも、リーフは一歩も怖気づくことなくモンスターボールを構えた。

 

 あっ、待った。

 そのボールそのまんま投げても俺は。

 

 投げられたボールはこつんと俺の身体にぶつかり跳ね返る。

 上下に開けられたボールはすぐにでも俺をその中に捉えようと赤い光を飛ばし、バチンと弾いた。

 リーフの持つ図鑑からは無機質に「ひとのものをとったらどろぼう!」という音声が鳴り響く。

 

 完全にボールを投げた状態で固まったリーフ。

 

 そうだった。

 俺の方こそ既に捕獲ボールがあることを伝えるの忘れていた。

 っていうか、その言葉図鑑から鳴るんだ……。初めて知った。

 あと、誰が物やねん。

 こちとら生物だぞ。

 ……あぁ、生()か。

 

「ファイヤーは……すでに……ゲットされてる?」

「ギャーオ(いやほんと、申し訳ない)」

 

 俺はおずおずとした感じで手に持ったウルトラボールをリーフに差し出した。

 現実を受け止めきれないといった様子でリーフは瞬きしながら片言で言葉を呟く。

 

「トレーナーは……いなかったんじゃ……」

 

 その答えに俺は首をどう振ればいいのか分からないが縦に振っておく。

 

「今はいるの?」

 

 首を横に振る。

 

「いない?」

 

 首を縦に振る。

 

「この場にいないとかじゃ?」

 

 首を横に振る。

 

「じゃあこのボールは誰のモンスターボール?」

 

 翼で自分自身を指し示す俺。

 

「じゃあファイヤーはトレーナーがいないけど、既にゲットされている状態ってこと?」

 

 最後の言葉に俺は首を縦に振った。

 

「なにそれぇぇぇ!?」

 

 流石に俺が置かれている状況にはついていけなかったのだろう。

 瞼をきっと開いたリーフの叫びが森の中に木霊していった。



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グリーンVSレッド

 

 俺の置かれている意味の分からない現状にリーフはしゃがみこんで頭を抱えていた。

 

「どうしよう。これこのまま受け取ったら泥棒になる!」

「ギャーオ(いっそボール壊すか? それとも一旦逃がすとか)」

「けどこれ説明のつきようがないし……。うん、ファイヤーがトレーナーいないって言うならいないんでしょ。たまたま転がってたモンスターボールに入っちゃったってことだろうし」

 

 ひとり頷いて納得したリーフはウルトラボールを受け取った。

 初めて見るボールに戸惑った表情を見せながらも、仕組みはモンスターボールと同じと分かるや否や、赤いビームを放ち、俺を収納させた。

 

「くじかれたような気がするけど! ともかくファイヤーゲットよ!」

 

 俺を捕獲したリーフは一番道路を歩いていた。

 ボールの天幕から見える外の景色に、一番道路の看板が刺さっていたから間違いないと思う。

 どうやらリーフは本当にオーキド博士からポケモンを貰ったばかりの状態らしい。

 となればリーフが一番最初に貰ったポケモンはカントー御三家の誰かとなるわけだが、いったい誰だろうか。

 ヒトカゲだったらタイプ相性が被るから後々苦労しそうだなぁなんて考えつつも、レッドがいるならそれは無いだろうと考える。

 リーフといえば、ブルーという別の名前もあるけど、どのみちカメックスかフシギバナの二択になるだろう。

 レッドはリザードン。グリーンはカメックスのイメージが強いよなぁなんて考えているとトキワシティについたようだ。

 ポケモンセンターへ向かおうとしたリーフが、何かを発見したようで「あの後ろ姿は」と駆け出して行った。

 

 レッドとグリーンだ。

 二人してポケモンリーグへと続く22番道路に向かっている。

 恐らくは原作通りバトルするのだろう。

 

 駆け出したリーフがレッドとグリーンの元につく頃にはもう始まっていた。

 グリーンがきざったらしく指示を出しているのはポッポだ。

 対するレッドはピカチュウ。

 ピカチュウといえばトキワの森で捕まえられるポケモンなのだが……、レッドは一度捕まえてきてから戻ってきたのだろうか? 

 二人はリーフの姿に気づかないくらいバトルに集中していた。

 

「ポッポ! 体当たり!」

「……」

 

 タイプ相性的にはピカチュウの方が有利なのだが、意外とグリーンのポッポも負けていない。

 根気強く粘っているものの、やはりタイプ相性差は簡単に覆せないようで、電気ショックにて沈んでいった。

 というかレッド、無言でどうやって指示を出した。

 ポッポをボールに戻したグリーンは、ようやくリーフに気づいたようだ。

 額の前に指を持ってきて、「ボンジュール」と独特な挨拶を飛ばしていた。

 レッドも帽子の鍔を握り、リーフに視線を飛ばしていた。

 リーフはそんな二人に対して、多少呆れた態度で声を掛けた。

 

「またやってるの? 好きだね」

「……」

「レッドがどれくらい強くなったか試してやってるのさぁ!」

「その割には最初の一匹目を倒されたみたいだけど」

「なぁに、こっからだぜ! 行くぜ、ゼニガメ!」

 

 モンスターボールを振りかぶり、次にグリーンが繰り出したのはゼニガメ。

 水色の身体に茶色の甲羅を背負ったポケモン。

 ゼニガメは「ぜっにぃ! (やってやるぜぇ!)」と気合十分な様子で甲羅に閉じこもり回転して見せた。

 

 ポケモンになるとポケモンの言うことが分かるんだな。

 ポケモンはトレーナーに似るって聞いたことがあるけど、あのゼニガメもグリーンのような仕草でピカチュウと対峙する。

 

「……」

 

 レッドは頷いてピカチュウに何かの合図を送る。

 するとピカチュウはフィールドから離れ、レッドの隣へと戻っていった。

 交代か。

 レッドの持っているボールは二つ。

 ともなれば次にレッドが繰り出すのは御三家のうちの、フシギダネかヒトカゲだろう。

 なんて考えていたら、レッドはボールを振りかぶり疑問の答えを繰り出した。

 

「ヒトォ(頑張るぞぉ!)」

 

 やっぱりヒトカゲだったか。

 ヒトカゲもやる気十分といった感じにまだ小さな爪を合わせて見せた。

 さっきと反対で、今度はレッドの方が相性不利の状態だ。

 

「……」

「ゼニガメ! 水鉄砲!」

 

 ゼニガメは口を閉ざし、貯めた水鉄砲を放った。ヒトカゲはこれを、おぼつかない足取りでもろに受ける。

 効果は抜群! 

 水鉄砲の勢いで仰向けになるヒトカゲ。グリーンはこの隙を見逃さず、ゼニガメに追撃の指示を飛ばす。

 

「……」

 

 レッドの指示? どう考えても言葉を発していないのだが、ヒトカゲは立ち上がりと同時に飛んできた水鉄砲に火の粉を合わせた。

 水鉄砲って火の粉で相殺できるもんなんだろうか? 

 水鉄砲と火の粉の衝撃で衝撃が走り、空中に煙幕が巻き起こる。

 その煙幕に乗じてヒトカゲは突っ込んでいき、正面からゼニガメの身体を引っ掻いた。

 一撃、二撃、右と左から連続引っ掻き。ターン制なんてお構いなし。

 ゼニガメが苦し紛れの水鉄砲を飛ばすころにはもう遅かった。

 ゼニガメの頭を押さえつけ、ヒトカゲは飛び上がると至近距離から火の粉をぶつける。

 効果いまひとつの技であってもあれだけ引っ掻きまくられれば関係なかったようだ。火の粉を受けたゼニガメは目を回していた。

 

 すげぇ……なんというか、やっぱりゲームとは違うっていうのを見せつけられている気分だ。

 水鉄砲を火の粉で相殺しようなんてゲームやっているうちだと考えないからなぁ……。

 そうなるくらいなら交代でサイクルを回すだろうし。

 ゼニガメを戻したグリーンは、「いつの間にそんな腕を上げたんだ?」なんて感じにレッドの勝利を褒めていた。

 

 ……おいこのグリーン、原作と違って尊大な態度じゃねぇぞ。

 始めのグリーンといったら上から目線で何かと言ってくるのに、負けたら「何むきになってんだよ」とか妙に小馬鹿にしてくる奴だっただろ! 

 なのにこのグリーン、負けた理由をメモに取ってやがる。ちゃんと次からは勝気満々って感じだ。

 こんなのグリーンじゃねぇ! 

 

 グリーンはベルトにゼニガメのボールを戻すと、リーフに目を合わせた。

 

「どうだリーフも」



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レッツゴーピカチュウ

 

「別に私はいいかな」

「何だよ、釣れねぇな。ポケモン図鑑を完成させるってんなら、少しくらいバトルに強くなっても損は無いと思うぜ?」

「……」

 

 レッドが何を言っているのかは分からないけど、たぶんリーフを説得しているのだろうか。

 ポケモン図鑑の完成……。

 確かリーフは目的が無いって言っていたはずだが……。

 その場の雰囲気で言ってしまった感じだろうか。

 グリーンは俺のボールを目ざとく見つけたようで、「それウルトラボールじゃねぇか!」なんて口にしている。

 ……ウルトラボールを知っている? 

 ということはウルトラビーストが既に現れている世界ってことか? 

 

「……」

「トレーナーなら目と目があったらバトル。俺たちのバトルを見て、自分だけやらないってのは不公平だろ」

「……分かったわよ。けどやるからには吠え面かかせてやるから」

「言うじゃねぇか」

 

 グリーンとレッドの押しに負けたようで、リーフは俺のボールを手に取った。

 まずはグリーンから勝負を行うようだ。

 自分のポケモンを薬や木のみで回復させ、リーフの対面に来るよう位置した。

 

「そんじゃ、試してやるぜ! 行けっポッポ!」

「初のバトル! 出てきて、ファイヤー!」

 

 リーフの投げたボールに呼応して、俺は強制的に外へと弾きだされた。

 さっきまでグリーンやリーフたちが大きく見えたのに、今では逆に小さく見える。

 さっそくの初陣だ! ここで自信をつけるためにもバトルに勝つ! 

 きらりんと色違いのエフェクトを出し、俺は「ギャーオ! (絶対勝つ!)」と雄たけびを上げた。

 

「おいおい、なんの冗談だよ。どこで見つけた、どうやって捕獲した」

「ポッ(これ負けたわ)」

 

 明らかに震え声となって身を細めるグリーン。

 ポッポなんて諦め通り越して悟り開いた感じの表情になっているけどまぁ……、手加減するつもりはサラサラないよ? 

 リーフは俺に図鑑を当て、使える技を調べているようだ。

 ひとつ「なるほど」と口に出し、即刻指示を出した。

 

「エアスラッシュ!」

 

 先に言おう。瞬殺であった。

 俺の飛ばした風の斬撃は一瞬にしてポッポを戦闘不能に追い込んだ。

 続くゼニガメも相手にならず、やはりエアスラッシュ一撃で地に付した。

 もはやバトルなんていうのもおこがましい。一方的なものだった。

 うん、なんというかあれだ。

 捕まえたポケモンを別ロムに送ってレベリングして、元のソフトに戻して無双している気分だ。

 何もさせずに相手を倒す瞬間とか正しく近いかもしれない。

 悔しがるそぶりすら見せず、グリーンは自分の手持ちを回復させながら言う。

 

「むきになるにも限度があるだろ」

「……」

 

 レッドはグリーンのぼやきを何も聞かなかったことにしたようだ。

 実際むきになっている感じしているもんね。

 それで準伝説繰り出してくるとか笑い話にもならないけど。

 グリーンを負かしたリーフはレッドに目を向けた。

 

「レッドもやるよね? 不公平だもんね?」

「ギャーオ(リーフは不公平というより不平等だけどな)」

 

 主にポケモンが。

 リーフをバトルに誘った張本人のひとりであるためか、大人しく対面に来るレッド。

 グリーンとは違い、こちらはファイヤーと戦えるためか若干待望の念が見える気がする。

 額から汗を零れさせながら、レッドはピカチュウを繰り出した。

 

「ピカッ! (弱点つけるなら!)」

「ギャー! (やれるもんなら!)」

 

 とは吠えてみたけど……このピカチュウから迸る力。

 ……気のせいか強くないか? 

 油断はしない方が良いかもしれない。

 

 戦いの火蓋はピカチュウの電光石火によって切られた。

 風を纏い縦横無尽にフィールドを駆け巡り、俺の隙を狙うピカチュウ。

 ……気のせいじゃない。

 このピカチュウ、俺の目が追い付かないほど速い! 

 電光石火は確かに先制技だけど。

 にしたってこの速さは異常だ。

 走り回るピカチュウは段々電撃を纏い始めているのか、バチバチと静電気が鳴り始める。

 もう既に俺の瞳にピカチュウの姿が映ることは無かった。

 俺は耳を澄まし、ピカチュウが地面へと着地する音を頼る。

 しかし振り向く頃にはもういなくなっている。

 

「……」

 

 レッドが頷いた。

 直後だ。

 俺の背中から強烈な雷撃が走ったのは。

 コンセントに針金を突き刺したとしてもこれに匹敵する痺れは味わえないと思う。

 どこに当てようと身体の急所を強制的に突き刺す、ライチュウもびっくりな神速のエレキだった。

 まずい。

 この一撃を与えたピカチュウは既に同じ技の始動に入っている。

 ともなれば、

 

「ファイヤー! 自分を中心に熱砂の大地!」

 

 よし来た! 

 俺はリーフの指示通り、火炎で砂を熱すると自分を中心として広範囲に吹き飛ばす。

 この場のどこに居ようと、これならピカチュウの足は止まるはず。

 

「……」

 

 この攻撃に対しレッドはピカチュウに砂目掛けて電気ショックを放つよう指示したようだ。

 けど無駄。

 電気じゃ地面を相殺するのは不可能。

 熱した砂は電気を飲み込み、バチバチと未練がましく電流を残していった。

 これでピカチュウは終わり、と考えていた俺の頭上に影が映りこんだ。

 

 ピカチュウだ。

 

 おいおいおいおい止めてクレメンス! 

 もしかしてこいつ、電流を足場にジャンプしたのか!? 

 そしてさっき俺が受けたあの技を打つ体勢に入っている。

 そうはさせまいと俺が放った火炎放射は、空中で身動きを取れないピカチュウを飲み込んだ。

 

 グルグルと目を回すピカチュウを見て、俺はようやく安堵の息を漏らす。

 マジで速いうえに強かったんだけどこのピカチュウ。

 お互い低いレベルだからここまでしてやられたんだろうか。

 というかなんだよ、速いうえに必ず急所を突いてくる電気技って。チートかよ。

 レッドはピカチュウを抱えて元の位置に戻ると、次発としてヒトカゲを繰り出した。

 

 そしてヒトカゲは瞬殺された。ピカチュウの頑張りも虚しく。

 

 いやね、ピカチュウがあまりにも強かったから警戒心マックスで戦ったんだけど、予想外に弱かった。

 火の粉に合わせて火炎放射を撃ったら簡単に押し返せたうえに、そのままヒトカゲを飲み込んで倒しきっちゃった。

 耐えたら熱砂の大地で追撃を加えようと思ったんだけど……、ピカチュウが強すぎただけにちょっとこけおどし感が強かった。

 

 レッドはヒトカゲをモンスターボールに戻すと、帽子の鍔を握り目元を隠した。



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ポケモンセンター

 

「……」

「勝ったぁ! お疲れ、ファイヤー!」

 

 リーフから労いの言葉を受け取り、俺は大人しくボールに引っ込んだ。

 無重力空間に身を任せて休憩している最中、天蓋から聞こえる三人の話し声に耳を傾ける。

 三人とも一先ずポケモンを休ませるということでポケモンセンターへ戻ると決めていた。

 

「で、どこで捕まえたんだ。そのファイヤー」

「マサラタウン近くの森。ほらっ、よくポケモンキャンプとか行ったあそこ」

「あくまで隠すってわけか」

 

 リーフの話をグリーンはどうやら信じていないらしい。

 首を横に振ってすかして見せている。

 俺はあの場所がどういったとこなのか理解していない。

 なのでリーフが言うなら多分そこだったんだろう。

 ただグリーンの言い分も分かる。

 ポケモンキャンプに選ばれるほどの場所ならなぜ半年間もの間、俺はリーフ以外の人間に会わなかったのだろうと。

 いたずらっぽく笑うリーフは口元で指を立てた。

 

「私だけの秘密基地」

 

 この言葉にグリーンはこれ以上俺のことについて追及することは無かった。

 話題を転換させるかのように話は先ほどのバトルについて流れていく。

 レッドも何かを口にすることは無かったが、水晶のように純粋な瞳からして耳を傾けているようだった。

 

 ポケモンセンターに戻ると、俺はボールのままラッキーにタンカーで運ばれて手術台のような場所に連れていかれた。

 頭上ではジョーイさんがよく分からない機械が頭上を弄っており、しばらく経つと俺の身体に変化が訪れる。

 途端にポカポカとした、お風呂に入った時のような絶妙な気持ちよさが全身を包み込む。

 身を任せていると、ピカチュウから受けた傷がきれいさっぱりと癒えていく。

 そういえばモンスターボールの中ではポケモンはデータになっている。

 だからポケモンバトルの時に負った傷、データの綻びを修復することによって回復を果たすって説を聞いたことがあるような……。

 その割によくアニメだと手術台に乗せられているシーンを見るような……。

 ともあれ数秒と掛からず、俺は全回復を果たしていた。

 同時にポケモンを回復し終わった時に流れる、あの音が耳に入ってくる。

 

 というかデータ化しているのに意識はそのままって何気にホラーだよね。

 だって自分の身体が分解されているのに、脳はそのままで思考できるって考えたら怖くね? 

 思えばポケモン交換とか、ボックスに入れられているときもデータ化されてそこに保存されているんだっけか。

 野性で生きてきて、人にモンスターボールを投げられて捕獲されて、バトルに連れ出されて、挙句データとしてボックスに保存される。

 ……そらミュウツー、ゲノセクト、ポリゴンが生まれますわ。

 モンスターボールの技術力の高さに脱帽するなぁ。

 唯一の救いがあるとすれば、自分からモンスターボールの外に出れるって部分だろうか。

 一生閉じ込められる牢獄じゃない分だけましだ。

 

 これがアニメ基準ならのほほんと研究所の牧場で生活できるのに、なんて考えていた俺がこの世界はアニメ基準であると知ったのはつい三十分後のことである。

 

 そろそろ昼食の時間なようでリーフ、レッド、グリーンは食堂にやってきていた。

 三人は腰に付けたすべてのボールからポケモンを出す。

 リーフは外に出てきた俺たちの前にポケモンフーズを置くと、レッド、グリーンと合流して食事を始めたようだ。

 毎度思うことがあるのだが、ポケモン世界に登場する肉はいったいどこから出ているのだろうか。

 レッドが食べているステーキ、実は元々ミルタンクとかだったりするのだろうか。

 ポケモンやトレーナーをデータ化してワープゾーンを作るほど技術が発展している世界だから、分子を結合させて作っている説も無くは無いと思うが。

 実際、ヨワシとかカマスジョーとかバスラオとか、昔は食べられていたみたいな図鑑記述はあるけど、あくまで昔ってだけだし。

 俺はポケモン世界の謎だと勝手に考えている。

 それから、

 

「ダネッ(威圧感すごいね)」

 

 俺を見上げてくるフシギダネ。

 正真正銘、リーフが最初に貰った一番目のポケモンだ。

 性別は分からないが、声の感じからして非常に穏やかそうだ。

 フシギダネは特に気にすることなく俺の隣でポケモンフーズを口にしている。

 ピカチュウ以外のポケモンたちは、大体委縮して俺から離れた位置で食べているというのに。

 

 さて、ポケモンフーズなのだが、味はどういったものなのだろうと食べてみたら意外と美味しかった。

 一粒一粒に木の実の味が濃縮されているようで、オレンの実特有のハリのある爽やかさが口に広がっていくようだ。

 味は正しくミカンといった感じで風味を感じる。

 ファイヤーには歯といったものがないのだが、それでも食べられるように調整された絶妙な硬さ。

 食べ進めているうちに味は甘いモモンの実へと変わっていく。

 美味い美味いと食べていると、隣からものすごい物欲しそうな目でフシギダネが見てきていた。

 フシギダネの容器は空になっていた。

 もしかして足りないのだろうか? 

 

「ギャー? (食べるか?)」

「ダネェ! (いいの?)」

 

 身体大きいけどファイヤーは並サイズで十分だったりする。

 正直これ以上食べると後々動くときに支障が出てきそうだ。

 それは良くない。

 でぶったファイヤーは個人的に可愛いと思うけど、弱く見られるのはファイヤー好きとして避けたい所存だ。

 

 俺はキラキラした目を向けてくるフシギダネの前に容器をずらす。

 するとすごい勢いで容器いっぱいのポケモンフーズが無くなっていく。

 午後もバトルするかもしれないんだからそんなに食べたら後で腹痛くなるぞ、なんて考えながら俺もくちばしを動かす。

 

 意外にも美味しいポケモンフーズを堪能しているうちに、昼食の時間は過ぎていった。

 

 お互い最強のポケモントレーナーを目指すと気持ちを新たにするレッド、グリーン。

 二人と別れたリーフ。

 原作通りなら次に向かう場所といえばトキワの森なのだが……、リーフが向かった先はフレンドリーショップ。

 そういえばトキワの森って天然迷路になっていて、普通に迷子になる広さなんだっけか。

 ゲームだと一本道だったからすっかり忘れていたわ。

 そりゃ準備も必要になるよね、ってことでリーフはモンスターボールと日持ちする食材を持ってレジに並んでいた。

 

 ちなみにこの世界で金を稼ぐ方法のうちに、トレーナー同士でバトルをするっていうものがある。

 ゲームのようにバトルに敗北したら金を払うとか、そういうものじゃない。

 バトルに勝つとポケモンリーグからお金を支給される、といった制度が取られているらしい。

 ランクの高いトレーナーに勝つほど貰える金の量が多くなる。

 そしてトレーナーに付けられたランクを決定づけるものがご存じジムバッジというわけだ。

 要はジムバッジを多く持っている人や、ジムリーダーを倒すと多く賞金が貰えるよ、って話ですね。

 そんな説明をポケモンセンターで金を引き出しているリーフが受けていた。

 

 そんで、リーフは再び1番道路に戻ってきていた。

 どうやらこのあたりに生息するポケモンを捕獲、図鑑を埋めていきたいらしい。

 何をやりたいのか、何をしたいのかを探しているリーフはひとまず図鑑埋めを冒険のモチベーションにしているわけだし。

 綺麗に埋まったポケモン図鑑というのは、なんというか達成感を感じるものだから俺も付き合っている。

 それでポケモンといえばバトルして体力を減らし、モンスターボールを投げるというのが常套句なのだが……。



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魔改造トキワの森

 

「ギャーオ! (よしっこい!)」

 

 俺ことファイヤーが外に出てくると大体委縮してしまいバトルにならない。

 特性プレッシャーではないんだけどな。多分、準伝説ってだけで放たれる何かしらのオーラがあるんだろう。

 もしくは相手からしてみれば巨大に見えているからとか。

 今は強大なポケモンから逃げるっていう描写ないけど、昔は割とあったからなぁ……そういうの。

 それでリーフは相手ポケモンが固まっている隙にボールを投げて捕獲する。

 逃げる相手は指示なしで俺が動いて止める。

 この世界、瀕死状態にしたせいで捕まえられなくなるとかないんで。

 

  *  *  *

 

 ひとまず今行ける範囲に生息しているポケモンを全て捕まえ終えたリーフは、改めてトキワの森にやってきていた。

 鬱蒼とした暗がりの森を照らすように、落ち着きを感じさせる木漏れ日が差し込む。

 その光景はまさしく天から注がれる観音様の手といった感じだ。

 トキワの森は虫タイプのポケモンが多く存在している。

 虫取り少年からしてみれば穴場の場所だろう。

 

 虫タイプが嫌いなトレーナーというのは過去に登場したことがあるのだが、マサラタウンという田舎で育ったリーフは平気だ。

 むしろ新しいポケモンと目を輝かせている。

 次々と図鑑に載っていないポケモン、捕獲していないポケモンを見つけてはモンスターボールで捕獲していく。

 気分はそう、ポケモンGOだ。

 そうして奥へ奥へと進んでいき、正規の道から外れてしまうリーフ。

 新しいポケモンが出てくるのも相まってより迷いやすくなっているトキワの森だが、そうなってもいいようにリーフの手首には青い機械仕掛けのリストバンドが付けられている。

 もしも迷子になってしまった時、これで連絡をすれば救助班が助けに来てくれるんだとか。

 正直迷子になったら、俺の背に乗って飛べばいいと思うんだけど……。

 特性炎の身体だからね、しょうがないね。

 

 キャタピー、トランセル、ビードルにピカチュウ、はてはカイロス、ヘラクロス、ストライクにモンメンとカントー地方に出現しないポケモンも一緒に捕獲していく。

 ハネッコにコロボーシ、アゴジムシ、名前忘れたけどてんとう虫みたいなエスパータイプになるポケモンもいるやん! 

 なにこの魔改造トキワの森。

 虫タイプと草タイプなら何でも居そうなんだけど。

 フシギダネどころかフシギバナも居たし。

 そのためかリーフさん。

 

「モンスターボール無くなって来ちゃったなぁ」

 

 そう言って残り少ないモンスターボールをショルダーバッグの上から覗いている。

 

「お金稼がなくちゃ、どこかにトレーナーいないかなぁ……。レッドとグリーンには勝てたけど……」

 

 一度野性ポケモンの捕獲を止め、リーフはどこかにトレーナーがいないか探し始める。

 すると、同じくトキワの森にいる野性のポケモンを捕まえるために来ていたのだろう。

 何人かのトレーナーと遭遇した。

 あちらのトレーナーもリーフと同じようにボールが底をついてしまったのだろう。

 リーフから話しかけるまでもなくバトルが始まってしまうのだが……。

 

「ファイヤーとか反則だろ!?」

「これで10連勝目ね!」

 

 知ってた。

 トキワの森にいるためか、相手ポケモン妙に虫タイプと草タイプが多いんだよね。

 そいつらには例外なく火炎放射で焼き払う。

 たまに岩タイプとかも混じっていたけど俺、熱砂の大地を使えるから大して苦にならなかった。

 携帯用ボックスで手持ちポケモンを交換して挑んでくる相手もいたけど、返り討ちにしていく。

 大量の経験値が美味しいです。

 一番ビビったのは手持ちがエンペルト、ハガネール、アローラゴローニャだと思う。

 あれは完全にファイヤーだけをメタって来ていたね。どのみち全員弱点付けたので楽勝だったけど。

 攻撃躱せるし。

 いや嘘、エンペルトの耐久力とハガネールの頑丈がきつかったです。

 割と真面目に序盤で出てくる相手達じゃないでしょ君たち。

 それとなぜアローラのゴローニャを持ってきた。

 無駄に弱点増えるだけでしょうが。

 そして勝ちすぎてしまったためか、現在のリーフさん。

 

「ファイヤーさえいればバトルは楽勝ねっ!」

 

 と、最初の勝てるかどうかの不安感はどこへやら。

 完全に有頂天になってしまっているご様子。

 その考え危ないからね。

 ファイヤーさん、岩タイプの技四倍だからね。

 こう見えてストーンエッジとかぶつけられると一撃で沈むこともあるんだからね。

 とはいえ実際、リーフの快進撃を止めてくれるトレーナーがいないのも事実。

 しかも俺だけでストレート勝ちしているせいで戦意喪失してしまったのか、遂には誰一人として挑みに来なくなってしまった。

 そうなるまでにお金を十分稼げたので、リーフさんは非常にホクホクとした顔で野性ポケモンの捕獲に戻っていました。

 

 なんでだろう。

 今のリーフ、非常に危ない状態な気がする。

 最初こそリーフの力に成れることは俺の望みであった。

 けどこれは違う。

 リーフはこのバトルの最中、一度として俺以外のポケモンを繰り出していない。

 決してフシギダネを信用していないわけではないのだろう。

 あくまで現パーティーの中で俺が強すぎるから使っているだけなのだろう。

 今回はいなかったけど、戦う相手からしてみればたかがファイヤーって思う人だっている。

 グリーンのように人のバトルを見て研究し、ファイヤーを必ず倒せるパーティを組んでくるかもしれない。

 実際何度か危ない試合があった。

 そのたびに俺は、リーフの指示を聞かず独断で動いて打倒してきた。

 はっきり言って、トレーナーとして未熟どころか絆が繋がっていない状態といっても過言じゃない。

 それを今のリーフはまるで分かっていない。

 鼻歌交じりにスキップをするリーフ。

 もう既にその目は次のバトルにも勝てる気でいるんだろう。

 非常にまずいな。

 それでいて今の俺はリーフのポケモンだから、わざと負けるなんてことはできないし、そのつもりもない。

 注意しようにも口から出るのは雄たけびのみ。

 これでリーフに届くはずもない。

 

 冒険をするだけならそれだけでもいいじゃないかという思いと、それだけじゃ絶対にダメなんだという嫌な予感。

 どこまで行っても拭い取ることができないこの不安感を、俺はボールの中で気合の雄たけびを上げて塗りつぶす。

 負けて出鼻をくじかれるよりかは全然マシだ!

 くよくよタイムに5分も掛けられるか! 

 ジムリーダーならその辺理解してくれるだろうし、最初のジムならきっとトレーナーに見合うポケモンを使ってくれることだろう! 

 

 なんて……この時考えていた俺はいったいどこまで馬鹿何だろうと思い知らされる。

 俺の知るトキワの森に生息しないポケモンが出てくる時点で、そう簡単にうまくいくはずなかったのだ。

 そして、盲目なまでに前だけ見ていた俺たちは一切気づくことは無かった。

 

 トキワの森から出る直前、リーフの背後を木陰から覗く全身黒一色の男が居たことを。





 一応ファイヤーは神通力を覚えることができるので話そうと思えば話せるのかもしれません。
 もっともこのファイヤーはUSUM産ですが。


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VS魔改造タケシ

 

 トキワの森を抜けたリーフはまず初めにポケモンセンターへと向かった。

 ポケモンの回復とお金の引き出し、それからご飯を食べるためだ。

 やはりというかなんというか、トキワの森で戦った面々の中に何人かバッジ所持者がいたのだろう。

 俺が回復を終えて帰ってくるころには、嬉しそうな表情を隠しきれていなかった。

 ニビシティで食べるポケモンフーズは妙に歯ごたえがあった。

 煎餅でも食べているかのような音が楽しく、くちばしで食むたびに口の中をクラボの実特有のピリッとした辛みが刺激する。

 あの木の実、サクランボっぽい見た目だけあって結構柔らかかった気がするんだけど……。

 唐辛子が練り込まれた感じでこれはこれで美味しい。

 フシギダネは嫌いな味だったせいか、口から火の粉を吹いていたけど。

 リーフはといえばシチューを食べているようだ。

 ニビシティの名物料理らしいのだが……あいにくと俺はポケモンなので食せませんでした。ちくせう。

 ちなみにトキワシティで学んだのか、俺のポケモンフーズは並盛になっていた。

 うん、こういうのでいいんだよ。こういうので。

 

 ポケモンセンターから出たリーフは、フレンドリーショップではなくニビジムに向かって行った。

 これには色々と訳があるのだが、今は置いておこう。

 とにかく次はジムなのだから気を引き締めないといけない。

 といってもタケシだし。

 最初のジムだし勝てるだろっていう思いが無いわけじゃない。

 だってエースが攻撃力ポッポだし。

 ヒトカゲならともかくフシギダネだからね。

 勝てるでしょ。

 なんて、そんな甘い考えが通るわけないことを俺は数分後に分からされた。

 

 ニビジムの内装は岩山をそのままくり抜いたかのようだった。

 リーフよりも背丈が高い岩石のフィールドが広がっていて、二階で試合を観戦できるようになっている。

 天井には我らがスプリンクラー先輩も備え付けられている。

 サイドンに似た石造の前に立っている眼鏡をかけた男性が、入ってきたリーフに声を掛ける。

 

「オッス、未来のチャンピオン! ここから先、岩タイプの弱点を突けるポケモンを三匹用意しないと入れないぞッ!」

「三匹ですね」

 

 リーフはポケモンボックスを開くと、手持ちにモンメン、マダツボミを追加する。

 それをしかと確認した眼鏡の男性は道を通してくれた。

 リーフはひとつお礼を言うと、すぐにボックスの中にモンメンとマダツボミを戻した。

 ……なんというか、誰もが一度はやるよな、それ。

 強制イベントで選ばされると置いていきたくなる心理に駆られるの、よく分かるわ。

 それからニビジムといえば、

 

「タケシさんに挑戦なんて1万光年速いんだよ!」

 

 ボールを突き出し宣言する短パン小僧。

 出た! 有名な1万光年少年! 

 一度生で聞いてみたかったんだよな、これ。

 なおリーフさん、無慈悲にも俺を使って即退場させていた。

 止めてあげて、距離だって訂正する前に唖然としちゃったから。

 そんな俺の思いを露知らず、リーフは段差を登る。

 リーフの姿に細目の男は顔を上げる。

 眉を顰めることもなく、男はリーフたち挑戦者を歓迎する。

 

「来たな。俺はニビポケモンジム。リーダーのタケシ!」

「私はマサラタウンのリーフ!」

「マサラタウンのトレーナー……これで三人目か」

 

 目を瞑っているのでどうか分からないが、我らのメインヒロインであるタケシは俺たちを睥睨する。

 

「俺はここへ来る挑戦者に必ずこの質問を投げかけることにしている。お前は何のためにジムへ挑戦する」

 

 リーフはタケシの質問に拳を固めた。

 ボールの天蓋からしか外の様子を覗くことはできないが、リーフは少し俯いている様子だった。

 

「まだ……分からない。これから見つける」

「それも答えの一つだ。では次、そのファイヤーと旅をしてからどれくらい経つ」

「三日よ!」

「三日か……。その様子だと、強さに盛り上がっているといったとこだろう」

 

 タケシってやっぱりジムリーダーではあるんだな。

 現状のリーフが持つ考えを見通した。

 というか三日でここまで来るのってよくよく考えたらすごくね? 

 アニメでは二週間掛かっていたのに。

 タケシは指をパチンと鳴らす。

 するとジムリーダー専用のバトルフィールドが、タケシとリーフを隔てるように浮き上がってくる。

 

「良いだろう。申し込まれたバトルを拒否する権限はジムリーダーにない。使用ポケモンは三体。交代は両方認められている。道具の使用も禁止だ」

「大丈夫、こっちにはファイヤーがいる!」

「ここは岩タイプのジムだ!」

 

 ほんとにね。

 バンギラスとか出てきたら普通に負けるぞ、俺。

 流石のタイプ相性無視、使用ポケモン二体という舐めプをされたタケシは苛立ちを隠せない様子で投球する。

 

「行けっ! イワーク!」

「行って! ファイヤー!」

 

 光を纏い現れ出たのは岩の身体を持つ蛇こと攻撃力ポッポさんだ。

 流石にジムリーダーが使うというだけあり、このポッポさん。ファイヤーである俺に恐れもしない。

 研ぎ澄まされた眼光を持って戦意マックスなのをぶつけてくる。

 当然、俺も負けるつもりはない。

 ましてや俺の身体は対戦で使っていたエース級のファイヤー。

 攻撃力ポッポに負けるなんて、あってはならないのだ。

 いつの間にか立っていた審判が両旗を上げる。

 

「イワーク! しめつける!」

「ファイヤー! 熱砂の大地!」

 

 でかい岩の身体を持ち上げ、尻尾で締め付けようとしてくるイワーク。

 だけど遅いんだよ。

 最近改めて思い知ったけど、この世界はゲームじゃない。

 つまりは速い方が有利だし、多少相性不利でも立ち回り次第で下剋上も狙えるんだ! 

 

 俺は熱々に熱した砂を正面からぶっ飛ばした。

 防御方面に強いイワークであっても、特防は非常にもろい。

 相撲に押し負け、のけぞったイワークに追撃のエアスラッシュを飛ばす。

 俺を締め上げるつもりでいたイワークの巨体がガギンと重厚な音を立てて倒れ伏した。

 

「イワーク!」

 

 タケシが呼びかけたイワークは、その目をグルグルと回していた。

 審判は旗を振り、戦闘不能と裁定を下す。

 やっぱりポッポさんはポッポさんだったようだ。

 いや強いんだけどね、ポッポさん。

 すべてはどう運用するかだから。

 攻撃力ポッポなら防御力ザマゼンタで殴ればいいわけだし。

 いや、いかなる攻撃をも弾き飛ばし格闘王の盾と恐れ崇められたザマゼンタより固いけどね、この石蛇! 

 

 タケシはイワークをボールへ戻すと、次なるポケモンを繰り出した。

 

「行けっ! ゴローニャ!」

 



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VS魔改造タケシ2

 出てきたのは岩団子の身体を持つポケモン、ゴローニャ。

 今度はカントー地方のゴローニャだ。

 

「岩石封じ!」

「躱して熱砂の大地!」

 

 アルマジロのように丸まり、その場で回転しながら岩石を飛ばすゴローニャ。

 翼をはためかせた俺は落ち着いて岩石封じの動きを観察する。

 封じという名前だけはある。

 岩石の弾幕に隙間は無い。

 避ければ避けるほど被弾の確率は上がる。

 ……だったら、

 

「ギャーオ! (あえて突っ込んでやる!)」

 

 当たると思った攻撃にはエアスラッシュをぶつけろ! 

 避けられそうなら身を畳んででも間を縫え! 

 一撃でも受けたらその時点で痛手は避けられない! 

 

「ゴローニャ! 後ろだ!」

 

 タケシの指示にゴローニャはわざわざ後ろへと向き直り岩石を飛ばす。

 左右に飛び回るたび、ゴローニャはタケシの指示を受けて軌道を調整する。

 なるほど、もしかして前が見えていないな。

 試しに動き回ってみればゴローニャは必ず、前回転して正面に攻撃を放つ。

 だったら後ろ、と見せかけて横に飛び出し熱砂の大地をぶつける。

 その一撃でゴローニャは回転を止めた。

 まだ戦闘不能にはなっていないようだが、追撃で熱した砂を飛ばす。

 

「跳べッ! ゴローニャ!」

 

 再びゴローニャは回転すると、そのままの勢いで空中に飛び上がる。

 

「そのまま押しつぶせ!」

 

 だから甘いっての! 

 頭上から降ってくる岩団子の横をすり抜ける。

 このまま墜落したゴローニャに熱砂の大地をぶつけて——、直後ゴローニャの目が俺に注がれた。

 

「雷パンチ!」

 

 ゴローニャの右手が電気に包まれる。

 まずいと咄嗟に火炎放射を放つも止められない。

 ゴローニャの雷パンチが腹を穿つ。

 爆発的な威力が瞬間的に叩き込まれた俺は、フィールド外の壁にめり込んだ。

 いてぇ……なんてものじゃない。

 タイプ不一致だってのに弱点なせいか一瞬意識がぶっ飛ぶかと思った。

 頭の奥がガンガン来る。

 身体全体が芯から痺れる感じがするわ。

 次いで訪れるは極寒。

 凍傷やけどみたいに身体が冷たくなっていく。

 麻痺でも引いたか? 

 それでも俺はまだ戦える。まだまだHPは残っている。

 再びゴローニャの前を飛び立つ。

 

「このファイヤーは良く鍛えられている。判断力に技、実行するだけの力と耐久力。だが、トレーナーがまるで追いつけていない」

 

 ここまでのバトルの間、リーフの様子はといえばタケシの言葉通りだった。

 俺とゴローニャのバトルに目が追い付いていない。

 正確には目まぐるしく変化するバトルの状況に、次に何の指示を下せばいいのか分からずあたふたしている。

 俺の目からはそんな風に見える。

 もしかしたら俺が勝手に動いているってのも原因の一つかもしれないが。

 指示を出されたらその通りに動く気ではある。

 けど出されるのを待っていたら攻撃を受けるんだよ。

 あれだな、もし俺にメガシンカがあったとしたら間違いなく暴走コースだわ。

 

「ゴローニャ! とどめの岩石封じ!」

 

 ゴローニャが回転を始めた。

 来るっ! 

 

「ファ、ファイヤー。えっと!」

 

 容赦のない岩封に固唾を飲みながらも、俺はエアスラで粉砕する。

 爆炎が一帯を支配する。

 一秒すら遅く感じる。

 俺は煙が晴れるのを待つことなく火炎放射をゴローニャに放つ。

 しかしそれは相手も同じ。

 

「そのまま雷パンチ!」

 

 右手に電気を纏ったゴローニャが煙幕の中を突っ切ってくる。

 だから俺は翼を折り畳み、顔を逸らしながら急降下する。

 頭上をゴローニャの雷パンチが通り過ぎる。

 下ががら空きだ! 

 俺はゴローニャの腹にエアスラを打ち込む。

 おまけに地面に降り立ったついでに熱砂の大地を飛ばす。

 ドガンとタケシの元にゴローニャは落ちていく。

 動かないゴローニャに審判は顔を近づけると、旗を振って戦闘不能と裁定を下す。

 

「なるほど、確かに羽ばたくのを止めれば、その場から動くことなく落ちることができる。考えたな」

「ギャーオ! (褒めていただいて嬉しいよ)」

「だがこれではチャレンジャーとバトルしているというより、ファイヤーとバトルをしているって感じだな」

 

 本当にね。俺もそう思うわ。

 決して信用していないわけじゃないのよ、これは本当に。

 今回の戦法もリーフと飛べるようになる練習をしていたから思いついただけだし。

 あれやってなかったら間違いなく今の一撃でやられていたと思う。

 んで、その肝心のリーフといえばやっぱり状況の変化についていけていないようだった。

 多分、俺が勝手に動いていて、気づいたらゴローニャを倒していたって考えていそう。

 

 タケシはゴローニャを戻すと、「よくやった」と労いの言葉をかけた。

 リーフはとりあえずといった様子で俺に声を掛けてくる。

 

「よく分かんないけど、このまま行けそう!」

「これは忠告として言っておく。お前はまだファイヤーを使うべきじゃない」

「なんで? 現に岩タイプにも勝って見せたじゃない!」

「ファイヤーの実力を自分の実力と勘違いするな。だが」

 

 タケシは黄色と黒を基調とした、ハイパーボールを握りこんだ。

 

「俺はタケシ。岩タイプのエキスパート。ファイヤーにストレート負けするとあれば、ジムリーダーとしてのプライドに傷がつく。全力で行くッ!」

 

 我らがメインヒロインさんは上半身服を脱ぎ捨て、強靭な肉体美を見せつけると、両腕を自分の前にクロスして見せた。

 

「この石、砕けるものなら砕いてみよっ! ゆけっ、レジロック!」

 

 タケシの号令を上げると、黄色と黒を基調としたハイパーボールを振りぬいた。

 天を駆けるボールは最高到達点へと至る前に、パカンと上下に開かれる。

 ボールの中から飛び出した青白い一筋の光束は楽しそうに地面へと流れ落ちる。

 青白い光はやがて胴体と頭部が粗く削れたゴーレムを形成した。

 赤褐色と茶色に彩られた岩の身体、頭部と思しき部位は点々でHと掘られている。

 見間違うはずもない。

 レジロック。

 タケシが三匹目に繰り出したのは準伝説のレジロック。

 とんでもない防御力を誇る岩石の巨人。

 

「レジジジジジ」

 

 レジロックは電力でも供給されたかのように頭部のHを光らせると、無機物な岩石の両腕を振り上げた。



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VS魔改造タケシ3

 

 ……はっ? 

 

 待って待って、聞いてない聞いてない。

 なんでレジロック出てくるの? 

 ゲームじゃ持ってなかったじゃん。

 ジンダイさんかよ。

 いや待って、これだけ言わせて。

 勝てるかぁ!! 

 

 最初のジムで出してくるポケモンじゃねぇだろどう考えても! 

 本来だったらファイヤーとかいないんだぞ!

 マダツボミとかフシギダネでこれを相手にしろって言うの? 

 無理ゲーだろどう考えても! 

 

「誰がきてもわたし達なら勝てる! 続いていくよっ! ファイヤー!」

 

 ファイヤーへと転生した俺の主人、リーフは溌剌とした勢いで拳を突き出した。

 流石に辛いって! 

 いや最初からきつかったけど! 

 いくら対戦用に鍛えられたポケモンでもきついもんはきついんだよ! 

 なんて思念を送ってみようにも俺の口から出てくるのは「ギャーオ!」という雄たけびのみ。

 これをご主人は「気合十分だね!」とまるで理解していない様子で両肘を曲げてポーズをとる。

 ……マジかよ。

 いや分かっているよ。

 フシギダネでレジロックを相手にするのは正直言って無理だって。

 けどさ、ファイヤーでレジロックを相手にするのはもっと無理だって思うのよ。

 

「レジロック、岩石封じ!」

「ファイヤー! 熱砂の大地!」

 

 岩石封じと熱砂の大地は互いの威力を相殺しあい弾け飛ぶ。

 爆風が俺たちを手厚く抱擁し、先の光景が見えなくなる。

 さっきと全く同じ流れだ。

 

「レレレジジ(損傷軽微)」

「レジロックの岩石封じも防ぐか。いいな。レジロック、鉄壁!」

 

 鉄壁? 

 何をするつもりだ? 

 防御力なんて上げても睨みつける以外影響は出ないぞ。

 

「ファイヤー、突っ込んで火炎放射!」

 

 この何か企んでいると思しき行動にあえて突っ込めと。

 よしっ、やってやる! 

 リーフ、トレーナーからしか見えない判断だってあるだろう! 

 俺は翼を折り畳み煙へと急降下、眼前にレジロックを補足する。

 あちらはまだ動いていない。

 火炎放射を放とうと口を開いたその直後だった。

 

「レジロック、押さえつけろ!」

「レジレレレ(目標を捉えます)」

 

 岩の腕がにゅるりと伸びてきて俺の首根っこをひっ捕らえたのは。

 抜けられない!

 鉄のように固くなった岩石の身体は、俺がいくら身体を動かそうともびくともしない。

 けどよ! ここから火炎放射は撃てる!

 効かないと思うけど怯んでくれたら儲けもんだ! 

 

「レジロック、ボディプレス!」

 

 レジロックの硬度は鋼に近かった。

 規則性なく光る点字は無機質が持つ不気味さを醸し出していた。

 剛力を秘めた岩の腕で器用に俺を押さえつけたままだ。

 タケシの指示を受けたレジロックは、そのままジャンプすると全防御力を持って圧し潰してきた。

 意識が再び途切れるかと思った。

 いや、意識があったとしてレジロックの手は俺を離れない。

 もうこのまま手放したいとすら思える衝撃が、ガツンとなんて生易しい勢いじゃなく俺をぶん殴った。

 背中が熱い。

 全身がひび割れるように痛い。

 けどなんでか分かってしまう。

 俺の体力はまだ、赤ゲージくらいなんだろうと。

 痣ができているんだろうなぁ、まるっきり見当違いなことを考えながら、俺は熱した砂を投げつけレジロックの拘束を引きはがす。

 

「ギャーオ」

 

 意味は無い。

 ただ吠えただけ。

 本当に吠えただけなのだ。

 羽休めが使えるなら今すぐにでも使いたいってさ。

 けどリーフは、俺の行いに対してそう思わなかったようだ。

 

「まだまだ行けそう? 持ちこたえてファイヤー!」

 

 ああっ、持ちこたえるしかないんだろ。

 分かっている。

 後ろフシギダネだしな。

 持ちこたえればいいじゃなく、俺が持ちこたえるしかないんだ。

 例え赤ゲージであってもな。

 ゲームだと残り体力1の状態でも問題なく動いてくれていたけど……、これはきついな。

 体力1じゃなくても、もう限界だと、もう休んでくれと雑念が脳に響いてきやがる。

 

「トレーナーはファイヤー頼み。はっきり言ってポケモンたちが可哀そうだ。自分のプライドか何かは知らないが、感情を優先して手持ちを二匹しか連れてこないのなんかは特に」

「ここに来るまでの間、ファイヤーはゴローニャと戦った。エンペルトとも戦った。それでも勝ってこれたのよ!」

「それはファイヤーのおかげだな。お前の強さじゃない。もう一匹のポケモンはどうしたんだ? そいつは戦えるポケモンじゃないと、信頼していないのか?」

「信頼しているに決まっているでしょ! 私とファイヤーのコンビなら誰にも負けないって話よ!」

「それを信頼していないというのだ。そして今のお前はファイヤーからも信頼されていない。懐かれているみたいだがな。ジム戦は子どものお遊戯会じゃないんだ」

「それは今から証明して見せるって言ってるのよ! それにそっちのレジロック、ちょっとやばいんじゃない?」

 

 リーフの指さしたレジロックには何か焦げた跡が残っていた。

 焦げた跡は未だ熱を持っているのだろう。

 小さな炎を弾けさせてレジロックの体力を奪った。

 火傷だ。

 ここに来てレジロックは炎の身体によって火傷したんだ! 

 だが、タケシはやれやれとでも言いたそうに首を振る。

 

「眠れ、レジロック」

 

 ……レジロックの点字が点々と光る。

 最後、眠りにつくかのようにすべてのHが明滅した後、レジロックの点字から光が無くなった。

 同時に俺からも希望が無くなった。

 

 岩石封じ、鉄壁、ボディプレス、眠る。

 これが冒険を始めたてのトレーナーに使うポケモンかよぉ。

 ポケモンリーグは新人トレーナーを育成するための組織じゃないのかよぉ。

 これじゃあ誰も勝てないだろ。

 

「レッド君とグリーン君だったかな。彼らは俺という壁を乗り越えたぞ」

「えっ……。準伝説級のポケモン無しで」

「さぁ、どうするチャレンジャー!」

 

 なるほどな、ジムリーダーはチャレンジャーの実力に見合ったポケモンを使う。

 俺はてっきりジムバッジの数で使うポケモンを変えているのかと思ったけど。

 別にそうじゃないんだな。

 自分の判断で変えていいんだな。

 俺というファイヤーがいるから、タケシはレジロックを繰り出してきた。

 俺がいるからこそ、タケシはさらにでかい壁を築き上げたんだ。

 これはきっと、俺の失態だな。

 俺がいるせいでエクストラモードになったんだ。

 後ろに繋ぐなんて甘い考えじゃダメだ。

 こいつは俺が倒さないと。

 

「ギャーオ! (やってやる!)」

「ほらっ、ファイヤーも気合十分! 眠るというなら、起きる前に倒しちゃえば良いのよ! ファイヤー、レジロックに熱砂の大地! とにかくぶつけてぶつけてぶつけまくって!」

 

 よっしゃやってやる。

 それとひとつ、ひっじょぉぉぉぉぉぉうに、うっすい勝ち筋が思い浮かんだ。

 いやほんと、やるならトゲキッスじゃないとできないことだけどな! 



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勝負の行方……

 レジロックが起き上がる前に俺は、熱砂の大地を2回ぶつける。

 眠気ざま岩石封じを撃ってくるレジロックに、俺はエアスラッシュをぶつけて怯ませてやる。

 微々たるダメージしかないだろうけど、怯んでくれる隙を狙って再び熱砂の大地! 

 ボッと、レジロックの身体に火が灯った。よしっ、火傷を引けた! 

 

「なんだ、あのファイヤーは何をしようとしている。……そうか! だがさせん! レジロック、眠——」

「ギャーオ! (やらせるか!)」

 

 レジロックが眠ろうとする直前、俺は熱した砂を風で巻き上げた。

 それを風の刃に乗せ、高熱カッターのようにして飛ばしてやる。

 ここまでやれば聡明なジムリーダーのタケシだったら分かるはずだ。

 俺がやろうとしていること。それつまり、

 怯み運ゲーだ! 

 そっちが眠るとかいうクソ技使ってくんならこれくらい許されるよなぁ! 

 エアスラッシュの方がよっぽどクソ?

 知ったことかそんなの! 

 特防100ある岩タイプに勝つんだったらこれくらいしなきゃもう無理なんだよ!

 勝ち筋0なんだよ! 

 だからやってやる! せいぜい怯み続けてくれよ! 

 もうこっから先は俺とお前の根気の勝負! 

 お前が怯まなかったら勝ち、そして俺の敗北だ! 

 非常に分かりやすいだろ。そして単純だろ。

 

「レジジジ(指示を中止します)」

 

 熱砂の大地を含んだエアスラッシュを受けた岩の巨人の脚が一歩後退する。

 Hの部分はまだまだ光り続けていて戦闘不能には程遠く見える。

 まだ耐えてくるか! 

 

「耐えろレジロック! 眠ることに集中するんだ!」

「ギャーオ! (それがジムリーダーのやることかぁ!)」

 

 エアスラッシュを打ち込む。

 打ち込んで打ち込んで打ち込みまくる。

 負けられない!

 負けてたまるか!

 ここまで来たのに負けるなんてもっぱらごめんだ! 

 後なんだ。

 何をすればいい。

 スプリンクラー先輩でも破壊すればいいか。

 火炎放射を使えばいいか。

 翼の感覚が無くなってきた。

 もう羽ばたいているのかすら分からない。

 俺は飛行を維持できずに地面に激突した。

 炎だって出し尽くした気もする。

 熱砂の大地はもう作れないかもしれない。

 息も粗い。

 ゲームだったらもう、悪あがきになってもいいくらいだ。

 それだと睨みつけるだけ残るか。

 やだなぁ、ここまで来てただのお笑いエンターテイメントになるのは! 

 

 レジロックのガタイがさらにぐらつく。

 あっちは熱砂の大地とエアスラッシュだけじゃなく、火傷のダメージも入っているんだ。

 もうそろそろ限界なのか、レジロックの点字が明滅しまくっている。

 上げていた腕もだらりと垂れ下がっている。

 耐久戦の末にやってくる希望の光。

 真っ白に輝き続ける道の先へ進み続ける俺に、タケシがにやりと笑った気がした。

 

「楽しいな! 眠るはもういいレジロック! この一撃! ボディプレスにすべてを込めろ!」

「レジジジ(命令を実行)」

 

 ぼうっとレジロックの火傷が大きくなる。

 同時にタケシの指示を聞いたレジロックの点字が全開に輝いた。

 ボディプレス。

 普段なら軽傷で済む一撃。

 だがレジロックは鉄壁をもう三回も積んでいる。

 防御だって200もある。

 おまけに俺の身体はもう言うことを聞いてくれない。

 文字通り千鳥足だ。

 ひとつ鈍い音が響いた。

 レジロックは両腕を地面に叩きつけ、その巨体を跳びあがらせたのだ。

 狙いはもちろん俺。

 レジロックの影が俺を覆い、必然とこれが最後の一撃になると確信する。

 

「ギャーオ! (最後の火炎放射! 受けろやレジロック!)」

 

 レジロックの身体が炎に包まれる。

 されど俺の炎じゃレジロックを押し返すなんて到底できるはずはなく。

 眼前に岩の身体が見えた瞬間、限界を超えていた俺は全身から力が抜けきったのがわかった。

 勝たなきゃいけないのに。

 俺が負けたらリーフは……。

 それでも審判の判定は無情にも俺に告げられた。

 

「ファイヤー、戦闘不能! レジロックの——」

 

 俺の意識はそこで途絶えた。



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ニビ博物館

 

 次に目を覚ましたそこはウルトラボールの中でした。

 身体はもうどこも痛くない。

 テン、テン、テテテン! っと聞きなれた音楽がボール中に響いた。

 確か俺はあの時……まさか! 

 いても経ってもいられずボールの外に出ようとして一度頭を冷静にする。

 ジョーイさんに運ばれている最中だ。

 勝負の結果が気になって一秒すら待ち遠しいと、俺は意味もなく翼をバサバサと動かしていた。

 やがて俺のボールがリーフの手に渡った。

 ポケモンセンターから外に出たリーフを見て、俺をウルトラボールから飛び出した。

 

「ギャーオ! (勝負はどうなった!)」

「どうしたの? ファイヤー」

 

 リーフは突然出てきた俺に対して首を傾けた。

 可愛いけどそれどころじゃない。

 勝負は! っと再び訴えようとしたら、突然リーフは俺の顔をそっと手で触れてきた。

 特性炎の身体だというのにも関わらず、そのまま腕を俺の首に絡ませて、自分の顔元まで引き寄せた。

 

「ファイヤー」

「ギャオ? (えっと?)」

「改めて、やったね!」

 

 えっと……それはいったいどういう意味で? 

 勝ったんですか? 

 ニビジムに勝ったんですか? 

 サァートシ君はジャケットの裏に付けていたりするんだけど……、リーフさんだと分からないんですけど。

 結局どういう意味なのかさっぱりだけど、勝ったということで良いんですね? 

 気絶してたからまるで分からないんですけど。

 フシギダネ君は何か知っているかなぁって思ったけど、リーフが出してくれないんじゃ話しできないし。

 大人しく俺はリーフの腰についたウルトラボールに翼を伸ばして収納される。

 

「ファイヤー……」

 

 何か寂しそうな口調でリーフはぼそりと呟くと、虚空に伸ばした腕を胸に抱きかかえた。

 

 *  *  *

 

 リーフは何かを言いたそうにしていたけど、数分後にはいつもの表情に戻っていた。

 やっぱりニビジムを攻略したってことで良いんだろう。

 それにしたってなぜ俺がボールに戻った時、悲しそうな表情をしていたのだろうか。

 もっと喜べばいいのに。その方が俺も喜べるんだけど。

 だってファイヤーがレジロックに勝つとかマジもんの前代未聞やで!

 多分アニメみたいなお情けバッジか、最後の最後で火傷で戦闘不能になったかの二択だろうけど。

 攻撃を躱せなきゃレジロックに勝てるはずがない。

 

「ファイヤーに負けたようなもの……か」

 

 ひとりごちたリーフが次に足を向けた先はニビ科学博物館だった。

 50円の見物料金を支払い、パンフレットを受け取ったリーフはポケモンの化石を見学していた。

 標本として置かれているのはカブトプスとプテラ、貝の化石。うん、ここまで普通のような気がする。

 いややっぱりというべきかさ、アノプス、タテトプス、アーケン、チゴラス、ガラル化石四種まであるじゃん。

 流石に遠い地方から取り寄せたんだよな? 

 もし買えるんだったら化石の竜と化石の魚が欲しい。

 

 リーフはポケモン図鑑を広げ、ポケモンの解説に耳を傾ける。

 進化の石やデスマスが持つマスク、デスカーンのレプリカにも目を通す。

 時には展示物の隣に張られた紙に目を向け、知識をゆっくりと咀嚼している。

 

 なんというかちゃんと博物館って感じがするわ。

 とりあえず適当に展示しとけばいいやっていう適当感の無い、化石や石、古代の歴史というテーマに沿って並べられた規則性のある感じ。

 

 カントー地方の博物館って寂しいからなぁ。

 化石を良く見せるためにも照明はほんのりと薄暗い。

 ガチゴラスの標本。顎に歯が一本一本並べられ、大口を開けている様には尋常ならざる迫力すら感じる。

 ボールの中だと、化石も巨大に見えるからなぁ。

 ゲームだと大して興味なかったけどこう見ると案外楽しいもんだな。

 おっ、あれ海底遺跡に沈んでいた古代文字じゃね? 読めないけど多分フラッシュと怪力を使うんやろなぁ。

 古代の化石ポケモンが生息していた時代かぁ……。

 

 まぁ冠雪原に行けば生きたまま会えるんですけどね! 

 

 まさか野性で化石ポケモンが出てくるとか夢にも思わなかったよ、俺は。

 けどあれ、おかしいところがあるんだよね。それは、

 

「ポケモンの化石にご興味が?」

 

 この博物館の職員と思しき白衣を羽織った女性が、じっくりと化石を観察していたリーフに話しかけた。

 

「図鑑完成のために!」

「博物館では静かにね」

 

 職員の女性は口元に人差し指を立てて「しぃぃ」と息を吐いた。ここが博物館であることを思い出したのか、リーフも同じように人差し指を立てて頷いた。



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化石ポケモン

 

「ここの化石達は何万年も前の世界を歩いていたとされています。今では化石を復元して元のポケモンがどういった姿をしているのか確認されていますね。しかし復元させる機会も完璧ではなく、現代に蘇った化石ポケモンたちも昔は違う姿をされていたと言われています」

 

 まぁ、明らかにウオチル、パッチラ共は違うけどね。かせキメラだからね、あいつら。

 けどそうなんだよ。化石から復元されたポケモンたちが、基本的に共通したタイプを持っている。

 岩タイプ。

 とある考察によれば化石の復元、つまり石の復元が不完全で残ってしまったことから岩タイプになってしまったという説がある。

 この説を助長しているひとつの要因として、ゲノセクトが挙げられる。

 あいつらは人間の手によって改造を施され、背中にキャノン砲を付けられ、鋼タイプが追加されたと言われている。

 ほかにも同じくキメラのシルヴァディ。こいつも人が作り上げたメモリによって自分のタイプを変化させることができる。

 人工的にそうであれと作られたポケモンだからそうと言われてしまえば首を縦に振らざる負えない。

 しかし人に手によって復元された化石ポケモンたちが、こうであれとタイプを曲げられた可能性がないわけではない。

 原型がどうとかそういった話を抜きにしても、人間の手によってポケモンにタイプが追加されたり、変化するのは実証されているのだ。

 

 それで冠にいる化石連中だが、まぁこいつらも復元された奴と同じく岩タイプを持っている。

 だから数万年の時を生き残っていた。というよりかは、冠雪原に化石ポケモンを逃がした奴がいるといった方がしっくりくる。

 そして俺たちは何百ものポケモンを一斉に逃がす存在を知っている。というよりか、心当たりがないなんて絶対に言わせないのだが。

 トレーナー(おれら)だ。

 俺らの手によって逃がされた化石ポケモンたちが、冠雪原で生態系を作り上げているといった方が分かりやすいわけである。

 

「とはいえ、決して岩タイプを持っていないという証明にもなっていません。同じロコンでも地方によってタイプが違いますから。たまたま岩タイプを持っている化石ポケモンだけが発掘された可能性もございます」

 

 そういったことをゲノセクト、シルヴァディの下りは無しで職員の女性はリーフに説明していた。

 こういうトレーナーのエゴを感じる話って、リーフの歳だとやっぱり怒りを覚えるんだろうな。拳を固く握りしめ、絞り出すように言葉を吐き出した。

 

「古代の時代から現代で蘇ったばかりのポケモンを逃がすなんて……。そんなのトレーナーのすることじゃない」

「あなたはきっとお優しいんでしょう。その清い心のまま自分のポケモンたちと接してあげてください」

 

 そうとう言葉を選んだな。

 ポケモン厳選。強い個体以外はボックス行き。そこからもう二度と日の目を浴びることなく放置されるのと、どっちがマシって言われたら答えようがない。

 職員の女性はリーフの肩に手をやると、白衣のポケットから小箱を取り出して見せた。

 

「話を聞いていただいてお礼にこれを。もしも現代に復元させたのなら、大切にしてあげてください」

 

 小箱の中に入っているのは……ここからだと見えないな。

 これ以上天幕に近付くと外に出ちまうし。

 リーフは職員の女性から手渡された小箱を受け取ると、その中身を手に取り掲げて見せた。

 

 リーフの手にあったのは丸い琥珀だった。

 天井に付けられた庫内灯を反射させる山吹色のそれには、何か生物の欠片のようなものが中心で眠っていた。

 もしかしなくてもこれって、職員の女性は今まさに俺の答えを口にする。

 

「秘密の琥珀」

「秘密の琥珀?」

「中にポケモンの遺伝子が入った琥珀です」

「ポケモンの……遺伝子が、この中に」

「いつかあなたが必要とするかもしれません。だから、大切にしてあげてください」

 

 リーフはひとつ「はい……」と頷き、琥珀を元に戻してショルダーバッグにしまい込む。職員の女性はリーフに「ありがとう」と言葉をかけると、ひとつ軽く手を叩いた。

 

「暗くしてごめんなさい。お詫びといっては何だけど、ニビからハナダに行く途中にあるお月見山ではね、満月の日にピッピのダンスが見られるの。三日後には満月になるから、行ってみたらどうでしょうか?」

「……はい、ありがとうございます」

 

 浮かない顔つきのままニビ科学博物館から出てきたリーフは、ポケモンセンターへと向かって行く。

 



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不穏なリーフ

 

 時刻はヒトナナマルマル。つまりは17時くらいだろう。

 空はもうすっかり茜色。

 つまりは踏みつけメロメロ転がる色。

 お月見山に入る手前にポケモンセンターがあったような気もするけど、確実性を取るならこっちの方が良いだろう。

 ポケモンセンターで夕食を取っている最中であっても、リーフの顔は変わらなかった。

 シチューを食べるスプーンの手は停止していて、その瞳はシチューではなくどこか違う場所を見つめているようにも見えた。

 ご飯を一緒に食べていたフシギダネがそんな主人の様子を心配してか、俺に話しかけてくる。

 

「ダネダネ? (リーフ、どうかしたの?)」

「ギャー。ギャーギャーオ? ギャ? ギャ? (こっちが聞きたい。それよかジム戦どうだった? 勝った? 負けた?)

「ダネフシャ。ダネダネ(勝ったよ。僕もバトルしたかったなぁ)

 

 勝ったのにフシギダネは出なかった? 

 ということは俺が戦闘不能になったのと同時にレジロックも戦闘不能になったパターンか。

 クッソー、もう少し意識を保てれば先に相手の戦闘不能が聞けたのに。惜しいことした。

 

「ギャオ。ギャーギャーギャオ? (マジか。じゃあどうしたんだ。タケシになんか言われたか?)

「ダネ! ダネダネ! ダネフシャ! (リーフに負けたというより、ファイヤーに負けたってさ!)

 

 そりゃ落ち込むわ。

 ジムリーダーは終始、リーフじゃなく俺と対戦している気分だったって言っているのと同じだから。

 これは俺も悪いな。ついバトルに熱中しすぎてて、リーフの指示を聞いてなかったから。

 というより出してたか? 割とタケシの声は聞こえていたけど。

 

「ギャーオ? (リーフは俺に指示出ししてたか?)」

「ダネ(してないよ)」

「ギャー、ギャオ? (俺が勝手に動いていた時の様子は?)」

「ダネダネ。ダネフシャ(なんかね、迷ってた。次どうしよーって感じに)」

 

 聞こえていなかったじゃなく、出していなかったのね。

 勝手に動きすぎてリーフを混乱させてしまったのかもしれないな。もう少しリーフの指示を待つよう自重するか。

 反省。

 とりあえずだ。今俺にできることは、

 

「ギャオ(見守るしかないな)」

「ダネ? ダネダァネ! (行かないの? 僕は行ってくる!) 

「ギャオ(頼んだわ)」

 

 慰める資格など無い。少なくとも俺には。

 だってそれは、今のままで良いって言っているようなものだから。

 タケシの言葉は気にするな。今まで通りリーフは後ろでただ待っているだけでいい。なんて、言えるはずがない。

 そんなのトレーナーとしてダメだし、何より俺自身がファイヤーオンリーで勝てるわけがないのを分かっている。

 少なくともジムリーダーが化け物ってことは分かったし。

 だから今の俺がやるのは次のカスミ戦に置いてどう立ち回るかだ。

 

 水タイプが相手。ならやっぱりあの技を使えるようにならないと。使えるか使えないかで相当状況は変わるからな。

 ボールの中で密かに練習しようと決意し、夕飯を食べようと伸ばしたくちばしは空を切る。

 おいフシギダネ。お前辛いの苦手とか言ったわりにちゃっかり俺の分まで勝手に食うんじゃねぇよ。

 迫力があるとか言っておきながら勝手に食うとかマジ良い度胸だわ。

 ふと顔を上げると、リーフと視線が交差する。

 何か悲しそうな表情をしていたから、俺は何もせずにボールの中へ戻る。

 なんとなく身振り手振りしたり、吠えたりしても逆効果な気がして。

 

 

 

 三番道路。

 お月見山を目指すための道中を歩いていたリーフは、ここでもポケモンの捕獲ラッシュをしていた。

 ……ダンバルいるじゃん! あれヨーギラスじゃね!? ドーミラー、ドータクン発見! 

 ヒトカゲ、クチート、イワンコ、マグマッグ、ノズパス、ダンゴロ、イシズマイにタンドン。その進化系まで。

 おいおい、カントー地方だけで全国図鑑完成するんじゃないのか? これ。

 ポケモンの生息には環境とかも必要になるはずなんだけどな……。少なくともマグマッグがいる場所にクチートとか居ていいのか? 

 ゲームと比べて細かな差異ってレベルじゃないな。

 

「また新しいポケモン! 行くよファイヤー!」

 

 リーフの様子はといえば、一日寝たことでか回復したようだ。

 いつもと変わらぬ声でボールから俺を投げると、野性ポケモンの捕獲に駆り出している。

 

「行けっファイヤー! そこだファイヤー!」

「ギャーオ(エアスラッシュっと)」

「次だよファイヤー! いつもの感じでやっちゃって!」

 

 任されたと俺は自分の判断で技を選ぶ。

 ……これってどうなんだ。まるっきりタケシ戦でのことが生かされていないような気がするんだけど。

 相変わらず使っているの俺だけだし。

 ちょっと俺はリーフに目を向ける。するとリーフは、雲とか風とか微塵も浮かぶことのない晴天みたいな顔つきで頷いた。

 

「決めたの! バトルはファイヤーに任せるって!」

「ギャーオ! (いやそれじゃダメだろ!)」

「うん、そうだよね。ファイヤーならそう言うと思ったよ。私に構わず思う存分やっちゃって!」

 

 リーフは俺の言葉をなんと受け取ったんだ!? 

 自分に都合の良さそうな解釈してんじゃねぇぞ!? 

 言葉が通じないってホント不便だな。しかもポケモンの世界って日本語でも英語でもない謎言語だから、土に書いて伝えることもできないし。

 俺は違う違うって首を横に振ってみる。

 

「どういうこと? ファイヤーの方がバトル得意でしょ?」

「ギャーオ(それだとトレーナーの意味がないじゃん)」

「そうよ。私が指示出すよりファイヤーの考えで動いた方が強いんだよ!」

 

 マジで言葉が通じねぇ!



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ファイヤーが言うことを聞かない。指示が足りないようだ。

 どう伝えようかと頭を捻らせていると、ボールの中にいるフシギダネが気のせいか外に出たそうにアピールしてる気がする。

 

「ダネ、ダネダネ! (ここはぼくに任せて!)」

 

 いや普通に言葉が聞こえて来たわ。

 ポケモン同士ならモンスターボールに入っていても会話できるんだな。

 ならここはフシギダネに任せた方が良いかもしれないな。

 色々ポケモンを捕獲しているリーフがなんだかんだ手持ちに残しているポケモンだしな。

 俺はフシギダネのボールにタッチする。

 青い光がリーフの足元に出てきたのと入れ違いになるように俺は自分のボールに戻った。

 

 リーフのことが心配だけど今の感じだとトレーナーとしてダメだ。

 色々気になることはあるけど、俺は新技の練習でもしているか。

 

「もうなんなのファイヤー!」

「ダネ(あれはしょうがないと思うよ)」

「行こっフシギダネ!」

 

 地団太を踏んだリーフは、フシギダネを胸に抱きかかえるとそのまま再出発し始めた。

 しかしなんていうかだな……。フシギダネだと野性戦もトレーナー戦も力不足という他無くて。

 俺はもっと早くフシギダネに戦いの経験をさせてあげるべきだったと後悔していた。

 

 簡単に言えば、見取り稽古するにしたって技を使うのに、身体を十分鍛えていなければ使えるはずがないってことだ。

 あれは同じ武術の稽古をしていく中で、自然と身体が鍛えられて初めて効果を成すものだと俺は勝手に思い込んでいる。

 それに同じ武術なら技に癖なんかも出てくるだろうし、それ良いなって感じたものを何度も練習していけば会得できると思う。

 だがな、フシギダネとファイヤーじゃそもそもタイプだけでなくグループからして違う。

 亀が鳥の動きを真似たって意味なんかないのだ。

 

 そう考えるとゲームのポケモンって見取り稽古だけでレベル100に到達しているわけだが。

 やばいなあいつら。みんな天賦の才能持ってるやん。

 

 つまりは何が言いたいかというとさ。

 

「お願い戦ってよファイヤー!」

 

 道中でのトレーナー戦。

 フシギダネが早々に戦闘不能になって再び俺がバトルに赴いていた。

 んで、さっきからリーフの指示を無視している。シカトぶっこいている。

 いや、躱せとか技名を指示されたら撃つつもりはあるよ。完全にトレーナーを舐めているわけじゃない。

 けどさっきからリーフってば、「戦って!」とか「ファイヤーなら行ける!」みたいなエールしか送ってこないわけで。

 

 ついには相手が特性炎の身体で火傷して勝手に自滅していった。可哀そうなヒマナッツ。

 リーフは俺の翼を掴み振ってくる。

 

「戦ってよファイヤー! 勝てるんだから!」

「ギャーオ(なら指示を出してくれ)」

「ギャーじゃ分からないよ! 今までは聞いてくれたのに……」

 

 なんかアイリスを思い出すなぁ。

 リーフは俺の翼を握りブンブンと振ってくる。それでも効果がないと知るや、見え透いて落ち込み俯いている。

 なんだか悪いことしている気分になってくる。

 それに齢10歳だからもう少し優しい感じで教えて上げられればいいんだけど、如何せん言葉が通じないからなぁ。

 どうしたものか。

 

 なんて悩んでいるときでも、ファイヤーの物珍しさにかトレーナーは集まってくる。

 

 そしてバトルにもつれこんだんだけど……まずいなぁ。こいつら普通に強い。

 パーティーはコータス、カイリキー、ブリガロン。ゲッコウガ、カメックス、オーダイル。

 果ては進化の輝石持ちサイドンだぜ? 

 指示を出してもらって初めて動こうとか余裕ぶっこいていたけど、攻撃を受ければそれはもう痛いし。マジで意識が飛ぶ。

 こちらとしてもそれは嫌だ。というか痛いのが好きな奴なんてまずいない。

 だからついリーフの指示を待たずして勝手に動いてしまう。

 そして俺はサイドンが目を回しているのを上空から眺めていた。

 

 あぁもう、ままならない! 

 

「やっぱりファイヤーは強い! さっきはちょっと身体が悪かっただけなんだよね! けど本当に悪かったら今度はちゃんと言うのよ」

 

 リーフは俺の正面に立つと前屈みになる。それから10代とは思えぬほど成長した物を強調しながら人差し指を立て、注意するように言ってくる。

 俺は目が向かないよう、きちんとリーフの目を見ながら呟く。

 

「ギャーオ(言っても通じねぇやん)」

「うん。ファイヤーも分かってくれたみたいだね。このままお月見山に向けてレッツゴー!」

 

 やっぱり通じてねぇよ。

 これもうメガシンカどころじゃなくZ技すら使えねぇんだろうなぁ。多分あの二人の間で繋がる光が弾かれるに違いない。

 トレーナーとしてポケモンに優しくしてくれる。

 そこに惹かれてリーフのポケモンになったけど、こちらの言い分を聞いてくれないってなると、なんだか少し嫌になるよな。

 俺は少しリーフに対しての好印象を下げながらも進み続け、日が暮れるころにはお月見山の麓に到着。

 ポケモンセンターにて休息を取るのであった。

 

 ちなみにここのポケモンフーズは苦みが強烈なうえに、ゼリーのように柔らかくてとでも食べられたものじゃなかった。



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コイキングおじさんの値段詐欺

 

「おっ、そこの嬢ちゃん。どうぞどうぞ寄ってらっしゃい見てらっしゃい。こちらにおわす秘密のポケモンコイキングがい・ま・な・らなんとたったの500円。今しか買えない超お手軽価格で安いよッ!」

 

 そういえばお月見山のポケモンセンターといえばコイキング売りのおじさんが居たよなぁ。

 頭にねじり鉢巻きを巻いた白ワイシャツに腹巻の、江戸っ子みたいな服装をしたおっさんがハリセンを叩いてリーフに叩き売ろうとしている。

 

「いらない」

 

 そんなおじさんの売り言葉をリーフは南極のように非常に寒々しい一言と眼光で突っぱねる。

 せやね。誰だってそういう反応するわ。

 コイキングとかカントー地方ならそこらへんで釣れるし。わざわざ買うメリットがない。

 

「それにそのコイキング跳ねるしか覚えてないじゃない」

 

 リーフがポケモン図鑑を広げて解説を聞く。

 世界一弱いとか情けないとか下水道でもどこでも生きていけるだとか、なぜ今も生き残っているのか分からないとか散々な図鑑説明を受けている。

 止めろよ! コイキングだってレッドさんに勝てるんだぞ! それに世界一弱いポケモンはヒマナッツだから。

 

「ダイビング、飛び跳ねる、体当たり、じたばたも使えないんじゃ」

「そんなこと言わずに頼むよ嬢ちゃん。売れないとせがれに美味しいもん買ってやれないんだ」

「真面目に働けばいいじゃない。そのコイキングを使ってバトルに勝つとか」

 

 身体を伏せ、目元を腕で覆い泣き真似をするおっさんに、それでも冷水の如き言葉をぶっかけるリーフ。

 ぐうの音も言えない正論ぶつけてやるのヤメナー。

 あとコイキングはドロポンもあるで。使い続けると意外と愛着湧くんよ。

 それでもおっさんは諦めない。

 

「職場探すのにもお金が掛かるのよ。ほらっ、この通り。どうか頼むよ!」

 

 おっさんは手を合わせてリーフに拝み倒す。

 もうここまで来たら素直にジュンサ―さん呼んだ方が良くね? 

 10代の女子に買ってくれととにかく頼み込んでくる中年のおっさん。……これは酷いな。

 このままだとリーフの腕にしがみ付くまであるんじゃないか? 流石に見ていられない。

 

「ギャーオ! (ここまで!)

 

 色違い特有の光演出をまき散らしながらボールから出てきた俺は、リーフを翼に隠し、おっさんから庇うように立った。

 

「なんでいこいつは!?」

「ファイヤー!」

 

 おっさんは準伝説の登場にか腰を抜かしていた。

 リーフは嬉しそうな声と表情で俺の翼に飛び込んでくる。

 ……特性炎の身体なのに良く平然と飛び込めるなぁ。

 

 まったくコイキングの押し売りには困ったものだ。

 なんておっさんとリーフを引きはなそうとして気づく。

 

 あの水槽にいるコイキング金色じゃね?

 

 いやいやまさかまさか、金箔を貼り付けただけだろ。

 そっとリーフの持つ図鑑に目を落とす。

 

 ……金色じゃねぇか。

 

「ギャーオ!? (色違い(きんいろ)じゃねぇか!?)」

「どうしたのファイヤー?」

 

 これ買った方が良いって! 500円で色違いは超お得だぞ! 

 えっ、マジでこれ色違いなの? 図鑑がミスっているとかそんなんじゃなくて? 

 えっでも、図鑑って変装とか見破れるよね?

 キルリアに化けたニャースの変装を見破ったよね!?

 じゃやっぱりこいつ色違いなんじゃ……。

 目の前に広がる黄金のコイキングに目を丸くする俺に、リーフは退却の光を放ってボールに収納させた。

 

「ポケモンの売買は法律で禁止されているの。そもそもポケモンを売ろうとするとか何考えてんの」

「ッちぇ、マサラタウン出身の赤い帽子を被った坊ちゃんは買ってったのに」

「レッドの奴。今度会ったら引っ叩いてやる」

 

 リアルファイトやんけ。

 おっさんはリーフの頑固として買わない意思と、俺を見たことによって挫けたのだろう。

 不貞腐れた様子で「冷やかしなら帰った帰った」と手を振っている。

 リーフも「べぇー」と舌を出すとポケモンセンターから出ていく。

 

「ありがとファイヤー。なんだかんだ優しいね」

 

 優しいソフトタッチで俺のボールを撫でてくれるリーフ。

 天幕の大部分が暗く染まるのを俺は猛省しながら見ていた。

 いやほんと、色違いという欲に目が眩んですいませんでした。

 ついあなた様のご家族であるレッド君と同じことをしようとしていました。

 如何せん色違いという釣り針はでかすぎる。釣られクマーだよ。

 それでも心のどこかでつい思う。

 やっぱり色違いを逃したのは惜しいよなぁ……と。

 

 

 

 いよいよお月見山へと突入してゆくリーフ。

 腰にはポケモンセンターのジョーイさんからは何かあったようにと手渡された穴抜けの紐を付け準備万端だ。

 中は……結構明るい。というのも野性のポケモンが明かりの代わりになってくれているからだ。

 三番道路とあんまり見栄えしないな。直近だからそんなにすぐ変わったらそれはそれでって感じだけど。

 しいて言うなら格闘タイプが多くなってきた。マクノシタとか、600族の恥とか言われている普通に有能なやつの一番進化前とか。

 

 お月見山事態も、急斜面になっているだとか崖ができているといった危険な場所はないので、登山初経験のリーフでも順調に進めているようだ。

 目と目があったらポケモンバトルをしているくらい。

 

「ファイヤー! 火炎放射!」

 

 バトルの中でリーフも成長しているのか、俺に対して技の指示を送るようになってきた。

 変わらず火炎放射を撃つ方向とかは指示されていないけど、その辺はこちらのフィーリングだ。トレーナーの仕事じゃない、と勝手に思っている。

 

 まだ威力が低い。もっともっと上げないと。上げて上げて上げないと! 

 このままじゃダメなんだ。火炎放射じゃダメなんだ! もっと! 

 熱くなれ! 燃やし尽くせ! 全身の炎を燃やしつくすほど! 

 

「ファイヤー! もう相手倒れてる! 火炎放射止めて!」

「ギャ(あっ)」

 

 新しい技の練習をしている途中で相手が先にダウンしてしまったようだ。

 これは申し訳ないことをした。

 火炎放射を止めた俺は、戦闘不能になったドータクンに頭を下げ、反省の意を示す。

 相手トレーナーとドータクンは謝罪を好意的に受け取ったようで、「大丈夫」と笑いながら第二戦目を開始した。



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VSロケット団下っ端1

「どうしたの?」

 

 戦闘が終わった後、俺はボールに戻されなかった。先にリーフからそう切り出され、その目は純粋に心配の感情を宿していた。

 いきなりドータクンに怨敵ばかりの火炎放射をぶつけたことに対して慮ってのことだろうな。

 一応ドータクンが耐熱の特性を持っていることも理由にはあるが、根幹はもっと違うところにある。

 関係も罪もない相手を修行の代わりにするのは失礼なのは分かっている。

 分かっているし、こう女の子に純粋な瞳を向けられると、俺としても男の意地など捨てて本当のことを言ってやりたいところなんだけど……。

 言っても通じねぇんだよなぁ……。

 図鑑とかに乗っていないか? そういうの。

 無理だよな。ポケモンの言っていることを自動翻訳してくれる機能とかあれば楽なんだけどな。

 ファイヤーって神通力くらいしかエスパータイプの技を覚えないし、テレパシーも使えないか。

 

「ギャオギャ? (フシギダネって人間の書く言葉分かる?)

「ダネ(分からないよ)」

「えっと……お腹すいたの?」

 

 ほらっ、通じない。

 止めてね、俺を勝手に空腹になるとついイライラしてしまうポケモンにしないで。

 今まで通り並で良いからね? 並々ならぬ量を盛るとか止めてね? 

 フシギダネがいてくれるので食べてくれそうな気もしなくはないが。

 

「じゃあ今日は腕を振るっちゃおうかな!」

「ギャオ(それはとても楽しみだけど、俺リーフのご飯食えないじゃん)」

 

 今まで通りポケモンフーズじゃん。

 それもコンビニ弁当の方がまだ高いよなぁって思うくらい安い奴。

 リーフのご飯、匂いは良さそうなんで気になるんだけどなぁ……なんて考えていると、フシギダネがツルの鞭で俺の後ろを指さした。

 俺とリーフの身体を何かの影が飲み込む。

 

「ダイオウドウ! ヘビーボンバー!」

 

 まったくの死角から飛んできたポケモンの攻撃を、リーフを庇いつつ躱せたのは奇跡に近かった。

 フシギダネの喚起。それとトレーナーであるリーフも対象だと脳が先に理解してくれたおかげだった。

 地面が喉を鳴らして唸る。天井にまで伝わっていた細かな振動により、パラパラと細かな瓦礫を落ちてくる。

 先ほどまで俺たちが居た場所に巨大な鋼鉄の身体を持った像が砂煙を纏いながら立っていた。

 

「待ってたぜ。お前がここに来るのを」

 

 俺とリーフを害する第三者の声。

 その声は俺とリーフから見て正面にいるダイオウドウの向こう側から放たれた。

 いきなり攻撃を、それもポケモンじゃなくトレーナーも纏めて攻撃をしてくるとか誰だ。

 なんて俺が声のする方へと威圧感たっぷりに睨みつける。

 次第に煙が晴れていく。スクリーンと化した煙からは、黒いシルエットの正体がはっきりと浮かびあがりその答えを映し出した。

 闇夜に紛れるのに最適な色をした、悪を示す漆黒のキャップ帽と制服。

 真っ黒いスーツの胸には見ればすぐ分かるほど、存在感たっぷりな赤いRという文字が刻まれていた。

 この姿、そしてトレーナーもろとも攻撃してくる所業。

 間違いないこいつは、

 

「俺はロケット団の……まぁいいか。そのファイヤーを手に入れたらもう用はないんだしな」

 

 ラブリーチャーミじゃ無い方の敵役! 

 相手の物言いにカチンと来たのか、リーフは腕を振りかざして言い返す。

 

「はぁ? この子は私のポケモンよ!」

「そうか。なら明日からはロケット団のポケモンだッ! ダイオウドウ! いわなだれ!」

 

 ロケット団の指示に、幽鬼の如き毒々しい紫のオーラを放ち、迸るほど赤く血走らせた目を持つダイオウドウが「パオー!」と前足を地面に突き刺した。

 鈍い音に呼応するかの如く、虚空から異次元への入り口のような穴が開く。かと思いきや、小さくない岩石の塊がにわか雨のように降ってきた。

 狙いは俺とリーフ、両方か! 

 俺はリーフの着ている服の首回りをくちばしで咥えこむと、その場から急いで退避する。

 服が伸びるのは許してほしい。全部ロケット団のせいだから! 

 

「それっ! お前らも行けっ!」

 

 ロケット団員はポケモン勝負の掟をガン無視し、持っている12個のモンスターボールを放り投げた。

 中から飛び出たのはまぁ俺対策に集めたのか水タイプや岩タイプ、電気タイプの皆々様。レイドの3倍とは嬉しく思うね! 

 しかもご丁寧にみんな赤く目が迸っていて、紫のオーラが現出している。

 敵意とか戦意とか、そういうちゃちなものじゃ断じてない。

 殺意や憎悪にも近いドロッドロのスライムみたいな感情をそのまま目に宿してぶつけられている気分だ。

 俺から降ろされたリーフは腕を振り上げて抗議する。

 

「ちょっと! トレーナーが持てるのは一度に6匹まででしょ!」

「俺はトレーナーじゃなく夢を吐き捨てた大人ちゃんさ。そんな子どもが良い子ちゃんのように守るルゥールを守ると思ってのかヴァーカァガヨォ!」

「ポケモンバトルはポケモンリーグが決めた正式な試合よ! それにファイヤーを奪うって何よ! あんたにどんな権限があって!」

「強いポケモンのためなら無理な育成も繰り返すトレーナーから救うべく、慈善活動をしているのさぁ! こいつらもトレーナーになるかもしれない、しょんべんくせぇガキがペットにしてたから救ってきた可愛いパートナーさ! くぅー! 俺様ってば良い奴だよなぁ!」

 

 煽るなぁ……。あと無駄にセリフが長いわ。

 リーフはギリギリと拳を握りしめる。眉を中央に寄せ、ある限りの戦意を目に込めて使い走りに叩きつけている。

 それを使い走りは鼻で笑う。その目は13匹のポケモンでもなく、リーフでもなく、俺でもない。腕を広げて高笑いする様には、別の何かを見つめているように見えた。

 馬鹿じゃねぇの。ロケット団ってのはさ、世界征服のために強いポケモンが必要だから奪うんだよ。

 だから一番効率よく強いポケモンを入手するために、準伝説のポケモンに目を付けたり、トレーナーから奪うことを生業のひとつとしている。

 ただのポケモン、強くないポケモンなんて欲していない訳よ。

 

 それにさ、こいつ言ったな。子どもからペットのポケモンを取り上げるって。

 

「ギャーオ! (子どもからしか奪えねぇのかよ雑魚が!)」

「ファイヤー……。うん、そうだよ。こいつは絶対に許せない!」

 

 リーフは戦う覚悟を決めたようだ。キッとせせら笑う黒い雑魚を睨みつけた。

 

「速攻で終わらせるよファイヤー!」

「お前の色違いファイヤーを捕まえれば幹部昇進も夢じゃない!」

「ファイヤー! 熱砂の大地! 使い方は任せる!」

 

 使い方を任せたらダメだろと思ったけど極めて了解! 



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VSロケット団下っ端2

 指示通り俺は登場した12匹のポケモン全てに、満遍なく飲み込むように熱々に熱した砂の津波をぶつけてやる。

 これでやられてくれればよし。やられなかったら、

 

「何やってんだお前ら! さっさと一斉攻撃しろ!」

 

 黒い雑魚がいきり立つ。

 しかしポケモンたちは俺を完全に見失ったようで、攻撃があらぬ方向へと飛んで行く。

 当然だよな。俺が疑似的な砂起こしをやったんだから。

 この砂起こしは今も続けている。

 継続的なダメージが焦りを呼ぶ。黒い雑魚は明確な指示を与えてはくれない。

 どこへ打てばいいのか分からなくて当然だ。

 だって目が見えていないんだから。

 それでもダイオウドウ以外の12匹のポケモンのうち、6匹は目つぶしが効かなかったようだ。

 俺の影でも捉えることができたのか、ポケモンたちは俺に照準を定めると口やたてがみを大きく膨らませた。

 だから俺は、

 

「ギャ────ー!!」

 

 なるべく洞窟内に響くのを意識して劈く咆哮を打ち出した。

 リーフと黒い雑魚がすぐに鼓膜を守るようにして耳に手を当てた。

 まだまだ止まらない。ダイオウドウに指示を出さない限り、ずっと俺のターンだ! 

 俺はさらに宙を羽ばたき、砂の真上から火炎放射をばらまいてやる。

 洞窟内でも自在に飛びながらこの攻撃ができるのは、ひとえに天井が高いおかげだろう。

 それにこちらからも砂のせいで見えやしない。だが、的の数は多い。

 視覚は潰した、触覚も役に立たない、聴覚を頼ることもできない。

 おまけに13匹もポケモンが密集しているんだ。嗅覚だってほとんど役に立たないだろ! 

 

「なにしてる! 上だ! 上にいるだろうが! 誰がてめーら愚図をバトルに使ってやってると思ってるんだ!」

 

 まぁまぁ下品な言葉を御吐きになられますようで。

 ゲームならともかく、ポケモンバトルって子どもがやるものではない……って聞いたことがあるんだが? 

 そして馬鹿だろ。俺が何の策もなしに上空へと飛び立つと思うか? 

 

「天井が!」

 

 13匹のポケモンが一斉に放った特殊技はひとつに収束し、洞窟の天井を暴虐の限り穿つ。

 すると天井は音を立てて、岩石を吐き出した。

 こうなるだろうなってのは、最初のダイオウドウの一撃で予想済みだ! 

 ほいっ、おまけに地面に降り立ち熱砂の大地っと! 

 

「おい待て! ふざけんなよ焼き鳥がァァ!!」

 

 慌てふためく黒いフェローチェ以下の雑魚……だとあれか。ヒードラン以下の……でもなんかあれだな。雑魚でいいやもう。

 リーフはというと、「すごい……」と感嘆の息を漏らしていた。

 いや、あなた主人なのでこれくらいの作戦は立ててください。戦うの俺なんですから。

 

 最後に暴れすぎたな、雑魚。

 ここにだってトレーナーはいるんだぜ? 当然野性ポケモンもいる。

 天井を落石させるほど暴れたんだぜ? そんな騒ぎ起こしたら

 

「何だあいつ13匹でバトル挑んでるぞ!」

「あの子傷ついてないか? 助けようとしているんじゃ」

「違う! あのファイヤーはあの女の子のポケモンだ! 色違いだから間違いない! 守ろうとしているんだ! あの男から!」

 

 集まってくるに決まってるよなぁ! 

 そして13匹もポケモンを出して戦っているお前にヘイトが向くに決まっている。

 なんというか、俺から言えるのはただ一つだ。

 

「ギャーオ! (ポケモンバトルのルールは守れ!)」

 

 そもそも13匹に一斉に明確な指示を送れるわけないだろ! せめて3匹だ! 

 ポケモンの技も4つだから戦術性が生まれるし、色んな活用をしようと思うし、発想を生み出そうとできるんだ! 

 何でもかんでも使える数を増やせば強くね? なんて思うのはそれこそ子どもだぞ、間抜け! 

 

「この役立たず共が! もうお前らはいらねぇ!」

 

 ロケット団の男は不利と分かるや否や、自分の持っているすべてのモンスターボールをばらまき踏み壊した。

 こいつ、ダイオウドウのモンスターボールまで破壊したぞ。何考えているんだ!? 

 

「あれを根こそぎ手に入れちまえば——」

 

 俺とリーフ含め、周囲のトレーナーが唖然としている隙に逃げ出す雑魚。

 野性と化したポケモンたちが力の限り暴れ始めたので追おうにも追えない。

 

「ファイヤー! 戻ってきて!」

 

 結局奴の逃走を許しちまった。カイロス並みに逃げる奴だ。

 リーフの方で何かあったのかと、指示を聞いた俺はリーフの元へと降り立った。

 

「みんなを捕獲、保護するよ! 手伝って!」

 

 指示をくれって駄々こねている場合じゃないな。

 リーフはモンスターボールを大きくすると、あの下っ端が逃がしたポケモンたちに目を向ける。

 周囲のトレーナーたちも事態の深刻さを飲み込んだのだろう。それぞれ自分たちのポケモンを繰り出し、リーフに続いてモンスターボールの捕獲を手伝ってくれる。

 

「これで最後!」

 

 リーフの投げたモンスターボールがダイオウドウの胴体にコツンと当たる。

 慣性に従い一度跳ね返ったボールは赤い光を伴いダイオウドウの巨体を飲み込んだ。

 揺れる。揺れる。揺れる。リーフがお願いと手を結び、ボールの行く末を見守っていた。

 カーンとボールから三つの星が浮かび上がる。捕獲に成功したようだ。

 リーフはいつものようにモンスターボールを手に取った。

 その表情が映し出していたのは、いつもの弾ける笑顔ではなく、あの雑魚からポケモンを救い出せたことによる安堵であった。



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黒いオーラのポケモン

 

 すべてが終わった後、お月見山に集まっていたトレーナー一同、集まっていた。

 今は緊急事態なので、いつさっきのような雑魚に襲われないか心配なため、それぞれ相棒ポケモンを外に出したままだ。

 まず一番に遭遇したリーフからさっきの雑魚について一から全部話し始めた。

 そのうえで何か知っているものがいないかと聞いてみたものの、誰もかれも口を揃えて知らないとのこと。

 いやどう見てもロケット団以外の何者でもないような気がしなくもないのだが。

 他から見たら奇抜な格好をしている犯罪者にしか思えないのだろうか。

 思えばあいつ自分がロケット団であるとは言っていないかったもんな。

 せいぜい幹部昇格とか口走っていたことから、組織的な犯行であることを読み取れるだけで。

 一度ジュンサーさんを呼んで捕獲したポケモン諸々含めて話そうという流れになったが、気がかりなのは最後に口走った根こそぎ何かを手に入れるという発言。

 

 俺から見てまだまだ子どものリーフは気づかなかったが、トレーナーのひとりがこのことに気が付いたようだ。やるやん! 

 といっても、多分月の石やろなぁ。あんなんガラル行けばいくらでも掘れるがな。

 集めて何するんだって話だよ。

 

 ほかにも先ほど捕まえた紫のオーラを放つポケモンたち。

 彼ら彼女らが放つ技のひとつひとつがとんでもない威力を誇っていた。

 その上、どう考えても明らか普通じゃない方法、人為的に力を引き出しているよう見える。

 もしもダイオウドウの攻撃が当たっていたらと思うと、途端に鳥肌が立つ。俺もう鳥だけど。

 ジュンサーさんを呼んでいる間、改めて紫のオーラを放つポケモンを出してみようという話になった。

 危なくないかという意見もあったのだが、いざとなったらなぜか意味不明に俺が押さえつけるというという話になった。

 それであのポケモンを出してみたものの拍子抜けだった。

 

 紫のオーラを放つデルビルは暴れることなく、ボールから出したトレーナーをじっと見つめている。

 だけど俺はすぐに感じとる。多分、この場にいるリーフと未熟なトレーナー以外の全員が感じ取ったんじゃないだろうか。

 このポケモンは明らかに異質だった。

 

 真っ赤に濁った瞳。先ほどまでとは違い、暴れる様子こそなかったものの、何かの感情を映しているようには見えなかった。

 それは俺に対してもだ。

 ポケモンバトルをした後、多かれ少なかれ相手に対して何か感情を抱くのが普通だと思う。

 だけどこのデルビルときたら、指向性の無い憎悪や殺意といった感情だけが滲み出るだけ滲み出ていて何もしてこない。

 前の主人はもう見限った。今の主人はあなただからあなたの指示を聞きますと言わんばかりに。

 なんというか、生物兵器といった言葉が正しいか。

 

 ダークポケモン? 

 いや違う。ダークポケモンなら普通の人には分からないはずだし、特別なダーク技を使うはず。

 じゃあこのポケモンはいったいなんだ? 

 定まらぬ感情を剝き出しにしながらも、この場にいるどのポケモン、どのトレーナーにも向けることのないこのデルビルはいったい何なんだ? 

 

 バトルをしてみれば分かるか? と誰かが言った。

 けど、何も分かっていない状態でバトルを行うのは危険すぎた。

 もしまたトレーナーの意図しない力を引き出し、その結果お互いのポケモンに何かあったら。

 そんな話し合いの中、空気になっていたリーフが手を上げる。

 

「私のファイヤーなら余裕よ!」

 

 止めて! と思ったけど案外良いかもしれないな。

 俺が使っていたファイヤーならあるいは、このポケモンの攻撃をいくら受けたとしても倒れやしないと思う。

 間違いなく痛いけど。

 

「大丈夫? ごめんね、勝手に」

「ギャーオ! (頼んだよ! くらい言えっての)」

「うん、頼んだよ!」

 

 勝手に決定づけた手前か物凄い申し訳なさそうに俺の顔を伺ってくるリーフ。

 おいおい、俺はリーフのポケモンなんだぜ? トレーナーが決めたなら付き合うのがポケモンってものさ! 知らんけど。

 俺はそんなリーフに自身の良さをアピールするかのように翼を広げてやった。

 多分、初めて俺の意思がリーフに伝わったかもしれないな。

 

 というわけで一度、先ほど紫のオーラを放っていたポケモンであるラクライで試してみることに。

 一見、爽やかそうな雰囲気を持つ青年が言うには、デルビルだと申し訳ないが火力足りないかもしれないとのことだ。

 んで、軽く10回ほど10万ボルトを撃ってもらったわけだが、めちゃくそ痛い! 

 体内をガツンと響かせる凶悪無比な稲妻。翼を動かそうとすれば、痺れが伝わったせいか動かすのにも意識を向けなきゃいけなくなるほどだった。

 

 リーフに心配させたくないんで無理やりにでも飛んでやっているけどな! 

 なるほどこれがHP1で残ったり、状態異常が勝手に治る理由か。割と根性論だわ。

 

 これは明らかにラクライが出せる火力じゃない。そう、レッドが使っていたピカチュウと同じ火力だ。

 そして俺たちの総意を体現するかのように、一回10万ボルトを撃ったら何もしてこなくなるラクライ。

 不気味なほど動こうという意思を感じられないそれは、トレーナーにとって都合の良いように造られた存在のようだった。

 

 青年がボールを構える。

 トレーナーが違うというのに、最後まで抵抗することなくボールの光線を受け入れるラクライ。

 俺はリーフから応急手当を受け、体力を全快にしていた。

 ジュンサーさんを待っていると、先ほどのラクライを捕まえた青年がリーフに話しかけた。

 

「話は俺たちで付けておくから、そっちはあの男を追ってくれないか?」

 

 どうやらこの青年は、ファイヤーを持っているリーフならすぐに逃げた男の企みを食い止めることができるのではないかと判断したらしい。

 

「何かあってからじゃ遅いだろうが。ピッピが月の舞をするのは今日の夜なんだろ? ジュンサーさんに拘束されるのを含めると、時間が足りないかもしれないぞ」

 

 だから青年は他の人にも証人になってもらいたいと、ここに居残ってほしいと提案。

 紫のオーラを放つポケモンたちを捕まえたトレーナーは、みなポケモンのためならと快く引き受けていた。

 目に見えるだけでもリーフを除いて5人くらいトレーナーが集まっている。

 リーフは青年の目をじっと覗き込むと、ひとつ頷き自分の捕まえたポケモンのモンスターボールを差し出した。

 

「このポケモンたち、あいつは人から奪ったって。ジュンサーさんに頼んで元の人たちへ帰してあげられないかな?」

「分かったよ。それもジュンサーさんに伝えておくぜ」

「頼んだわよ! 行くよっファイヤー!」

 

 リーフは青年を信じると判断したようだ。

 青年は捕まえた紫のオーラを放つポケモンたちが入ったモンスターボールを丁重に受け取り、再度「こんな行い、許されることじゃねぇしよぉ!」と怒りを露わにして見せた。

 そんな青年の様子にリーフと俺は振り向くことなく、先ほどの雑魚を追いかけお月見山を進んでいった。



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野宿

 

 ファイヤーとリーフがいなくなった先ほどの広場では、まだトレーナーたちによって騒然の波が押し寄せていた。

 やはりポケモンを奪い、あまつさえ兵器化の処置を施すなんて考えられたものではなかったのだろう。

 さらにはシングルやダブル、トリプルといった明確に厳守されるべきポケモンバトルのルールを破り、トレーナーの方まで技の標的にする。

 それを組織だって行っている可能性があると来たものだ。

 

 自分たちはあのファイヤー使いの少女のように、凶悪な力を持ったポケモンたちを一同に相手することができるのだろうか? 

 もしも負けてしまったらどうなってしまうのか。

 自分と相棒ポケモンの仲は切り離され、最悪相棒ポケモンに忘れ去られてしまうのではないか。

 トレーナーたちは気が気ではなかった。

 

 そんな中、リーフからポケモンを受け取った青年はひとり呟く。

 

「ほんと、許されることじゃねぇだろうが。あのクソ団員は。サカキ様に頼んで別の部署にでも飛ばしてもらうかぁ」

 

 青年は腰に付けたボールを大上段に放り投げる。

 青い光を伴い、中から現れたのは常にガスを噴射させる紫色の風船みたいな形をしたポケモンだった。

 途端に鼻を摘む臭気が一面に広がっていく。

 

「ドガースよぉ、煙幕だぜぇ」

 

 命令されたドガースは口から有害な毒ガスを吐き出す。

 トレーナーたちの視界は遮られ、続いて動く黒い影の手によって次々と気絶させられていく。

 

「ふはは、口封じ完了」

 

 青年の顔がぐにゃりと動く。

 それはやっぱり駄作だと作者自身に断じられた粘土作品のように。

 青年の顔は徐々に不定形の青い身体を持つ一体のポケモンに変化していく。

 代わりに青年の顔は見る見るうちに紫髪の泣きぼくろが特徴的な男へと変貌してゆく。

 

「あのファイヤー、随分と有用性高いじゃねぇか。俺ならもっと使いこなせてやれるのによぉ!」

 

 だが今作戦にあのファイヤーは入っていない。

 惜しいところだが今回は泳がすことに決めたようだ。

 紫髪の親父はポケットに手を突っ込むと、欠伸交じりにお月見山の入り口目指して歩き出す。

 その傍らには捕まえられた紫のオーラを放つポケモンたちが入ったモンスターボールいっぱいを手に持った、ポケモンが沿うように立っていた。

 黒い二足歩行の身体、ポニーテールのような髪型をしており、シュシュが作られた先は真っ赤に彩られていた。目元や口元を化粧するかのように赤く濡らした狐のポケモンは、モンスターボールを手渡すとボールの中へと戻っていった。

 

「ロケット団に幸あれってな!」

 

 紫髪の親父は高らかに宣言すると、そのまま洞窟の闇へと溶け込み消えていくのだった。

 

 *  *  *

 

 どこにあの男がいるのか探すこと何分か。

 結局あの特徴的な服装をした雑魚が見つかることなく、俺とリーフは昼頃にお月見山の広場に到着していた。

 

 この世界すごいな。バトルを断れるんだから。

 リーフが「今急いでいるから後にして」って言ったら、相手の方も「しゃーないか」といった感じで引いていったぞ。

 やっぱり合意の下行われているんやなって。だというのにゲームときたら。

 

 話は戻って広場にいるトレーナーによると、この広場から行ける秘境でピッピが三日月ならぬ満月の舞をするのだとか。

 場所は毎回変わるようで、前発見されたときとは必ず違う場所で行われるらしい。

 だから見られるのは奇跡に近いのだという。

 分かることは決まって夜にピッピたちが集まること。

 その舞を見ることができれば、幸運の証としてピッピから月の石を貰えることもあると言っていた。

 

 ここに集まっているトレーナーはみんな、そのピッピの踊りを見るために集っているらしい。

 見れば商魂逞しくレジャーシートを引いて出店を開く者や、テントを張って野宿の準備をしている者もいた。

 当然というべきか、暇を潰すためにトレーナー同士集まって、自慢のポケモンで火花を散らしている人たちもいる。

 そしてその多くは俺の姿、色違いファイヤーを見るや否や、物珍しそうに近寄ってくる者や、トレーナーのリーフに許可を貰ってからフラッシュを炊く者もいた。

 

 ああ、これが色違いを粘るときの俺の姿か。なんて妙な既視感を覚えつつ、されるがままになる。

 一通り楽しんだトレーナーたちは、蜘蛛の子のように散っていく。

 

 初めてもみくちゃにされた俺はバトルの時と違う、妙な疲れを覚えていた。

 そんな俺に対して乾いた笑みを浮かべる美少女、リーフ。

 

「大人気だね、ファイヤー」

「ギャオ(疲れた)」

「……テント張ろっか」

 

 それは俺じゃなくフシギダネに言ってくれ。

 この翼じゃなんもできんわ。テントがモエルーワ! 

 

 ……そういえば初の野宿なのではないだろうか? 

 なんだかんだ言ってトキワの森も一日で抜けていたし、必ずといっていいほどポケセンで寝ていたもんな。

 テントはポケモン世界のバッグが基本四次元仕様だから入るとしても。

 

 ちゃんと張れるのか? 

 俺は張り方とか知らないぞ? と心配してみたものの、すぐにそんな必要なかったと思い知る。

 リーフは何かこう大きなビニールプールのような正方形のテントを取り出すと、無造作に地面へと放り投げる。

 瞬間、それは空気がパンパンに入り込んだかのように膨らんでいく。

 俺があっと驚いている隙に四方から杭が飛び出し、地面に食い込んでテントが完成した。

 

 ……ナニコレ? ポケモンの世界ってこんなものあるの? 

 しかも中は人だったら三人くらい余裕で入りそうな広さを誇っているし。

 やっぱりポケモン世界のバッグは四次元だ。どこにこんなのが入るんだか。

 

「さっ、ご飯にしよっ!」

 

 その言葉と共にボールからフシギダネを外に出した。

 リーフはフシギダネに手伝ってもらい木の枝を集めた。

 これまたどこから出てくるのか。物理現象を無視して出てきた食材群を切り終えると、シチューの素と一緒に鍋へぶち込む。

 最後、俺が薪に火をつけて焚火の完成である。

 

 どうでもいいけどさ、水もいったいいつの間に用意しているんだろうね? 

 そしてさ、軽く4リットルもある水を平気な顔して運んでくるリーフは何? スーパーマサラ人なの? 

 

 ちなみにできたシチューですが、フシギダネに頼んで口に運んでもらいました。

 皿じゃ食えんのよ。くちばしじゃ食えんのよ! 

 

「ギャオ(いや悪いな、ほんと)」

「ダネ(いいのいいの)」

「ギャーオ? (男に食べさせるのっていやじゃないか?)」

「ダネ? ダネフシャ! ダネ、ダネダネ! (男? 僕はメスだよ! あと、君もメスだよ!)」

 

 まさかのフシギダネ僕っ娘だった! 

 てかなに? 俺メスなの? 確かにファイヤーはメスとして描かれることが多いってよく聞くけど。

 じゃ何か? 俺も類にもれずメスなのか? 知らぬ間に性転換してた。いや騒ぐことなんだろうけど、人間じゃないって部分でそこはもうどうでもいいって感じだった。

 

「ダァネ! (それよりご飯美味しいね!)」

「ギャオ(それで良いならもう良いんだけどね)」

 

 何だろう。この子穏やかそうって言ったけど、やっぱり暢気な気がしてきた。

 あらあらウフフ、って感じじゃないもんな。あと普通に植物が肉食っている。

 

 色々と気になることはあるけど、リーフの作ったシチューは良くできていた。

 一口大に切り揃えられた野菜や肉たち。口に入れた瞬間、野菜はその身体を崩壊させていった。

 肉は鶏肉だろうか。なんのポケモンの肉なのかはもうこの際置いとくとして、非常に柔らかい。ファイヤーの力を持ってすれば簡単に噛む? ことができた。

 シチューの方はといえばこれといった特徴がない。食べればシチューだっていうのが分かる程度の存在だと思う。

 温度に関して、リーフがフーフー息を吹いてシチューを覚ましているのだから非常に熱いのだ分かる。

 けど不思議とまるで熱さは感じない。むしろぬるいくらいで炎ポケモンの体温について伺い知れるものを感じていた。

 ちなみにフシギダネちゃんも冷ましています。あの子草タイプだからね、大丈夫かね? 



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ピッピとピクシーの舞

 

 食べ終わった後、リーフはフシギダネと一緒に使った食器を片付け終える。

 本当便利だ、この世界。

 汚れを綺麗に洗い流す水を出す小型の機械が存在しているようで、それを使って清潔にしていた。

 んで、この水だがとあるタンクから転移してきているんだと思う。

 ゲームに会ったワープゾーンを人ではなく、水に対して使っているんだと思う。

 ご丁寧に下水道へと転移する排水溝まであるようだ。

 

 アニメだとどうやって綺麗にしていたのか描写が無かったし、ゲームだとそもそも片付ける描写が無いしね。

 川の畔で流すにしても自然を汚す元凶になりかねないし。出張スイクンとかやらないためにもこういう道具は必要になるんだろうね。

 あと、テントには簡易のトイレがついているようだ。この先はもう言わなくても分かるだろう。

 テレポーターって重宝するよなって話です。

 バッグについても、細かいことを気にしていても仕方ないだろう。

 ポケモン世界では常識に囚われてはいけない。

 

 ……そういやあの巫女はピカチュウを知っているんだっけか。

 

 まぁ、違う作品のことは置いといて。

 食事を終えたリーフは他ポケモンを捕まえることなく、ただ空を眺めていた。

 リーフの透き通る水晶の瞳に映った雲が流れてゆく。

 最近、リーフが虚空を眺めることが多い気がする。

 

「ねぇ、ファイヤー」

「ギャオ? (なんだ?)」

「私といない方がファイヤーのためになるんじゃないかな?」

「ギャーオ(それはどうして)」

「だってファイヤーは私より強いもん。一匹でトレーナーもいらないし。それに私じゃなくて、もっと強いトレーナーの下なら活躍させてあげることもできるし。タケシにも言われたし」

 

 そう言われてもなぁ。

 俺ぶっちゃけエンジョイ勢出しなぁ……。ガチで勝ちに行くスタイルじゃ無かったし。

 初めはみんなそんなもんだよ。俺なんてリーフの考えの領域になるまで16年くらい掛かったし。

 特に気にする必要はないよと、俺はリーフの帽子に翼を被せてやる。すると久しぶりにボッ! という何か点火する音が耳に届いた。

 

「熱ーい!」

「ギャオ(やっば)」

 

 慌ててパタパタと帽子の火を消すリーフ。

 申し訳ないやらなんやらでいっぱいになる俺が見たリーフは、どこか崩れるほど脆い笑みを浮かべていて。

 

「懐かしいね。この感じ」

「ギャオ(ほんとにな)」

「やっぱりファイヤーは——」

 

 と続きの言葉を紡ごうとしたリーフにフシギダネが突撃! 

 おもっきし腹部に直撃したフシギダネの突進は、リーフを仰け反らせ尻もちをつかせた。

 

「ダネ! (ダメ!)」

「フシギダネ? どうしたの?」

「ダネ! ダネダネ! (もっとファイヤーの言葉を聞いて!)」

「フシギダネ?」

 

 いや無理あると思うぞ。言葉伝わらないんじゃ。

 だから行動で示すしかない訳なんだけど……、どう伝えればいいのか分からんのよねぇ。

 そもそもの話さ。

 

「ギャーオ! ギャーギャー(リーフについていくと決めたのは俺だ! 俺を思ってのことだったら無駄だから止めろ)」

 

 嫌だったらとっくに逃げている。

 逃げないのは俺たち廃人と違って、リーフがポケモンを思いやる心を持っているからだ。

 ロケット団に対して本気で怒ることができるからだ。

 というかな、正直俺は廃人のようなポケモンの扱われ方をされたくない。

 あんなの地獄だろ! なんかよく分かんない栄養ドリンクを何20本も飲まされて羽を突き刺されて、なお使えないと判断されたら切り捨てられて。

 だったら美少女の下で活躍できる方が何倍も嬉しいわ! できるなら男の下で働きたくないわ! 

 

「ファイヤー?」

 

 じっと俺はリーフから目を放すことなく真正面から向き合ってやる。

 リーフはそっと俺のボールを手のひらに乗せて差し出してきた。まるで何かを待っているかのように。

 風がリーフの髪を攫い流れてゆく。重たい雰囲気が一帯を包み込む。

 心臓の音がうるさいほど耳に伝わってくる。

 それでも俺はもう一度、リーフの持つボールに翼を重ね合わせた。

 

 赤い光を照射したボールはそのまま俺を飲み込んだ。

 

「……ファイヤー。……そうよね、あぁぁぁぁ──ー! もう止め止め! らしくないったら! 出てきてファイヤー!」

 

 そう、らしくないぜ。最初のレッドとグリーンにも言ったように、相手を捻りつぶす気でいないと。

 あっ、握りつぶすじゃダメだぞ。それだとキッサキ神殿の粗大ゴミになっちまう。

 

 リーフも元に戻ったことだし、これから俺たちはロケット団をどう捕まえるのか話始めていた。

 

 *  *  *

 

「いた?」

 

 リーフの言葉に俺は静かに頷いた。

 夜の闇、煌々と視野が広がる程度には明るい炎の翼はピッピの捜索を容易にさせた。

 あちらからは間違いなく気づかれているだろう。普通に目が合ったけど、何も気にせず満月の舞を踊ろうとしていた。

 こういうことが良くあったんだろうなぁ。

 ほんと、ピッピは慣れた様子で俺を指さしながら「あっ、ファイヤーだ」だとか「トレーナーさんのかなぁ?」といった会話をしていた。

 こいつらも非常に暢気なようで。

 

 けどその様子はまだロケット団には見つかっていないという裏付けにもなった。

 ピッピの近くまでリーフを呼び出し終えた俺は、静かにボールの中で待機する。

 フシギダネは念のために外で待機だ。夜の山だからか寒そうに身体を震わせているけど、今はまだ我慢していて欲しい。

 そうこうしているうちにピッピたちが全員集合したようだ。中には進化系だからかピクシーなんかも混じっている。

 ピィはいないみたいだけど。

 

 祭壇のように積み重なった石壇にピクシーがやってくる。

 さぁダンスの始まりだと言わんばかりにピッピがピクシーを囲い込む。

 

「ピックシー」

 

 ピクシーが満月に向けて指を伸ばしたのを号令に、周りのピッピも指を上げた。

 

「「「「「「「「「「ピッ」」」」」」」」」」

 

 ピクシーがクルンとターンすると、ピッピたちもステップを踏む。

 クールで冷静沈着の美しい月から零れ落ちた光の涙が、目下の妖精たちを祝福するかの如く降り積もる。

 ピッピたちのダンスは決して激しいものじゃない。

 ブレイクダンスだとか、アイドルの踊るものとも違う、細かな所作を必要としない単純なものだ。

 指を振りながらピクシーの周りを踊るだけ。よく分からないけど身体の重心も、足の動きもブレブレだ。

 くるっと回り、小さな羽をパタパタとさせ、また飛び回る。

 本当にただそれだけで、他に目を引くものは無い。

 なのになんでだ。なんでこんなにも、

 

「綺麗」

 

 リーフは瞳を潤わせながら、心の中で思ったことがそのまま喉から零れたようだった。

 そう、幻想的だった。目の奥を通り、脳へと無理やり焼き付けられるかのような。

 

「ピックシー」

「「「「「「「「「「ピッ」」」」」」」」」」

 

 ピクシーの落ち着いた低音と、ピッピの子どもらしい元気な歌声がぶつかることなく調和し、ひとつの音色として共鳴する。

 俺、音楽はゲームしか嗜んだことないんでめっちゃ適当考えているけど。

 

 そして、なんでだろうかね。

 こういう良い気分に浸っている時にこそ、邪魔されると本当にイラッと来る。

 例えばそう、邪魔な雑魚がやってくるとか。

 

「マリルリ、アクアジェット! ブロスター、水の波動!」

 

 紫のオーラを放つ、ポンポコジェットウサギと片腕だけ肥大化したロブスターが、ピクシーたちの踊りに文字通り水を差す。

 リーフが俺のモンスターボールを投げるよりも先に飛び出し、二匹の攻撃から庇うように降り立った。

 

 直後、地獄が俺を塗りつぶした。



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水タイプのやべぇ兎

 やばい、やばい、やばい。

 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい。

 炎って水に消されるとき何を思うんだろうか。

 色んな物を飲み込み、燃やし尽くし、人に恐怖を植え付け、高圧的に己が力を振りまくだけの暴虐が、唯一人為的に発射される天敵を前に何を思うのか。

 

 多分、俺と同じだと思う。

 散々甚振り尽くした報いを受ける。

 

 濁流が俺の意識を搔っ攫う。

 圧倒的水の暴力が俺を沈み込ませ……なかった。

 落ちていく俺の背中が押し出されるかのように、意識が急上昇していく。

 

「ギャ!」

 

 はぁ……はぁ……。

 気づけば俺はマリルリとブロスターを前に目を覚ましていた。

 全身がびしょ濡れで、さっきの攻撃が嘘ではないと脳が理解する。

 

「おいおい、なんで耐えられんだよ。炎タイプに水タイプは弱点のはずだろぉ!」

 

 そうだ。

 俺は炎タイプ。相手は水タイプ。

 それもポンポコして力の限り先制技を連打するだけで勝てるやばい奴と、特に目立たないけど火力だけならやばい奴。

 二匹の攻撃を同時に受けたのに大丈夫って、どういうことだ。

 

「もしかしてピッピの指を振る?」

 

 なんだそれ。

 リーフの考察通りなら、たまたま運よく花粉団子、たまご産み、癒しの波動、癒しの願い、三日月の舞辺りが出たってことか? 

 何百種類もある技の中から。そりゃ、運が良いことで。

 けどおかげで動けるようになったわ。

 

 指を振り終わったピクシーとピッピは、途端に舞を止めて逃げ出し始める。

 その様子に雑魚は舌打ちする。

 

「またかよ。またてめーは! 俺の邪魔をする! うざってぇんだよ! ファイヤーだけ置いて帰れやクソ女がッ!」

 

 ははは、リーフに暴言吐くな。普通にキレるぞこの野郎。

 ファイヤーだってなぁ、ダイマックスで状況が合えばカプ・レヒレにだって勝てるんだぞこの野郎……。

 はぁ……流石に何回も幸運を引けるほど甘くない。

 俺にもう一回突っ込めるよ! といった雰囲気を出すマリルリと銃口を降ろし、真っ赤な目でただ俺を見下すブロスター。

 ほんと、主に命令されたことしか実行しないんだな、こいつらは。

 

「止めを刺してやれぇ! マリルリ、アクアテール! ブロスター、水の波動!」

 

 だからこそその隙を突ければ……いや無理か。

 どう足掻いても、現状の俺じゃこの絶望的な状況を打破できない。

 ならばやるしかない。あの技を。

 やらなきゃその時点でゲームオーバーだ! 

 

 俺は飛んできた二つの技を上空に飛び立つことで回避する。

 二匹の技は地面を抉る。だがそれでも威力を相殺しきれていなかったようで、小さな水飛沫が宙を舞う。

 こいつらも超強化されていんのか。ほんと厄介だな、紫のオーラ! 

 

「ギャオ! (リーフ!)」

「分かんないけど、ファイヤー! エアスラッシュ!」

「そんなゴミ技が効くものか! 受け止めてやれ!」

 

 ほんとに分かっていないけどトレーナーとしては正解だ。

 俺のエアスラッシュをマリルリとブロスターは受け止める。

 軽く仰け反っているぞこいつら。無表情なのが不気味だが。

 

「あの雑魚に思い知らせてやれ! マリルリ、アクアテール! ブロスター、龍の波動!」

「ギャオ(まずいな)」

 

 ブロスターはまだいい。

 だがマリルリはダメだ。マリルリの攻撃を受けたら一発ツモ。間違いなく今度こそ終わりだ。

 雑魚のくせに、ポケモンだけはいっちょ前かよ! 

 ほんとこういう時、空を飛べるっていうのは便利だ。ひっじょうに卑怯なのは分かっている。

 分かっているけど、高く飛べばマリルリの攻撃が届かない! こうなればブロスターの攻撃だけに注意すればいい。

 ただ問題なのはこのマリルリ。

 

「何やってる! そんくらい跳べよ馬鹿ウサギ! あほみたいに腹叩いてっから馬鹿になんだよ! お前を使ってたトレーナーもよぉ!」

 

 飛び跳ねるが使えるんだよな。

 というかこいつの技構成アクアジェット、アクアテール、飛び跳ねる、腹太鼓かよ。

 はっ、腹太鼓馬鹿にするとかこいつの方がよっぽど馬鹿だろ。

 空を飛んでいる間も、俺は何回も攻撃を加える。

 躱すという行為は指示されなくてもできるようだ。アクロバティックな動きでステップを踏んだり、飛び跳ねたりしてマリルリは攻撃を避ける。

 一方のブロスターは噴射孔を地面へ向け、器用にジェットがわりにしている。

 

 それでも攻撃は被弾している。

 マリルリとブロスターには間違いなくダメージが積み重なっているはず。

 はずなのに変わらず表情が崩れない。動きにも一切の衰えが見えない。

 攻撃、通じているのか? 

 こんなことしなくても、あの技を使えれば幾分か楽になるのに! 

 

「ファイヤー? 水タイプに火炎放射は」

「降りてこねぇくせに舐めプかよ……。ふざけやがって、ふざけやがってふざけやがってふざけやがって! 俺はエリートに成れる逸材だぞ! ポケモン如きが俺を見下してんじゃねぇぞぉぉ!」

 

 おぉお、分かりやすい小物だことで。

 そんで段々哀れに思えて来たわ。このマリルリとブロスター。

 せっかく強ポケ、強技をしているのに。思考を戦闘特化にされて。こんな雑魚の命令にも一切の抵抗なく従って。

 リーフも俺と同じように感じたんだろう。

 

「マリルリ! ブロスター! なんであんな奴の命令を聞くの! なんであんな、ポケモンを道具としか見てない奴に従っているの!」

「無駄だ! こいつらはシャドウ。ロケット団の科学力によって意思を奪った生物兵器だ! 生物としての感情を捨てた。俺たちが捨て去ってやった! 単なる道具なんだよ!」

「うっっさい! アンタラそれでも人間!?」

「そうだ、それが人間。大人のビジネスなんだよ。強いポケモンを創れればそれでいい。……そうだ、良いこと考えた。お前らの言う絆ってもの、利用してやんよ」

 

 雑魚は下水道のヘドロすべてを煮詰めたかのような、醜悪な顔を浮かべリーフを見やる。

 けらけらと綺麗ごとを嘲笑う悪魔のようなにやけ笑みと共に、リーフを指だし木霊させる。

 

「マリルリ、ブロスター! その女にアクアテール、水の波動!」



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燃え尽きる

 

「なっ!?」「ギャッ!?」

 

 マリルリの尻尾が淡く光った。ブロスターも噴射孔をこれ見よがしに構えて見せた。

 矛先はどちらもリーフ。

 

「そのモンスターボールを破壊すればファイヤーはロケット団の物だ! ついでに俺を化け物扱いしたその女にも痛い目を見せてやれるゥ! 一石二鳥だぁぁぁぁ! はっはっはっ!」

「あんたホントに!」

「さぁ庇ってみろよ焼き鳥! 最も庇ったらどうなるか知ったことじゃないがな! お前らのき・ず・な。見せてみろよ!」

 

 ブロスターの噴射孔がきらりと光る。水が発射されるのにそう時間は掛からないかもしれない。

 マリルリは右足で踏み込むと、一息で身体を捻り、遠心力を重ねて威力を上げる。

 エアスラッシュと熱砂の大地じゃ水の波動に対抗できない。

 けど、炎技でも水タイプと相打ちになることは分かっている! 

 

 俺は全力で羽ばたき風を切る。強く強く! 周りの音が消え去るほど! 

 逃れられないブロスターとマリルリからの魔の手から庇うように、リーフの間に割って入る。

 肺がいっぱいになるほど空気を吸い込み、俺の全身全霊、渾身の火炎放射を放つ! 

 足りない。

 この程度の威力じゃ! ぶつかり合いにすら持ち込めない! 

 ブロスターとマリルリは止まらない。一秒たりと。無表情で。

 

 二匹は俺の放つ火炎を意に返さない! 

 

「無駄だ! マリルリには普段から馬鹿力を使うよう命令している!」

「五つ目の、技?」

「そうだ! 俺はポケモンに5つ以上技を覚えさせてんだよ! 天才な俺ならこんくらいできんだよぉ! 無能共と違ってな!」

「……ファイヤー! 火炎放射! 頑張れぇぇぇぇぇ!!」

 

 ああ、そうだな。

 まだだ。まだ火力が足りない。

 ならもっとだ。もっと引き出せ。もっと燃やせ! もっと、もっと、もっと! 

 俺の、ファイヤーの中にある炎はこの程度じゃないはずだ! もっと引き出すんだ! 

 先ほど水技を食らったばかりだからか、身体の内側が悲鳴を上げる。

 空気を欲しているせいか、一度息継ぎしようっていう邪念が心の中に生まれる。

 それを俺は何とかして抑え込む。

 もう、俺の炎の音だけが耳の中で木霊する。それ以外は何も聞こえない。

 吹いて、吹いて、吹きまくって。それでもなお俺の炎は底の方で燃え滾る。

 口からじゃ足りない。翼と足、俺の全身に至るまで! もっと炎を噴射させてやる! 

 

「キャァァ──ーオォォ! (これが俺の全力だぁ!)」

「馬鹿めッ! そんなことしたらお前の炎は【燃え尽きる】! わざわざ自滅を選ぶなんて、お前は我がロケット団のアジトで再調教してやる!」

 

 高笑いを続ける雑魚。

 馬鹿なのはそっちだろ! 

 スカッと吹き出した炎が消えていく。徐々にほとぼりが冷めていく。

 俺の中の炎はもう、最低限翼と頭から吹き出す分しか残っていない。

 俺は完全に燃え尽きた。火炎放射はもう……使えない。

 

 だからこそ、俺は初めてこいつらに勝てる。

 初めて、こいつらの土俵に立つことができる! 

 

 俺の燃え尽きるはマリルリとブロスターを押し返すだけの威力は誇っていたようだ。

 飛びのいたマリルリ。その目はしっかりと俺を見据えていた。

 

「奴はもう飛ぶのもやっとのはずだ! マリルリ、ブロスター! 止めのじゃれつく! 竜の波動!」

 

 両手を振り回し、高速でボコボコと力任せにじゃれついてくるマリルリ。

 さらにマリルリもろとも、ブロスターから発射された竜のエネルギーは俺を飲み込んだ。

 

「ファイヤー!」

 

 大丈夫だ。

 まだ飛べる。まだ立てる! 

 俺はエネルギー波の中から彗星のような尾を引いて飛び上がる。

 

「しつこすぎんだろぉがよぉ! いい加減くたばれよ!」

 

 雑魚は「もういい!」と息を吐くと、モンスターボールを二つ踏みつぶした。

 こいつまた! 

 リーフは感情を露わにする。

 

「アンタほんとに!」

「うるせぇぇぇぇぇぇ! こうなったら月の石だけでも!」

 

 雑魚はピッピたちに首を向け、その方向から次縹(つぎはなだ)の光線が爆炎を連れ添いマリルリたちに直撃する。

 

「ピッピとピクシーが援護を」

 

 ピッピとピクシーが!? 

 ビームの直撃を受けたマリルリとブロスターは、数回バウンドした後、崩れ落ちる。

 顔色に変化はない。

 けどダメージを感じさせず、いくら攻撃を加えても起き上がる様にはもう、ゾンビとしか形容しようがない。

 こいつらは本当にポケモンなのか? 紫のオーラが人形のように動かしているだけなんじゃないのか? 

 なんて俺の不安は、二匹同時に倒れてようやく払拭された。

 それでも二匹はまだ身体を動かしている。

 ……もしかして、いやまさか、

 

 ——あの雑魚の命令で無理やり身体を動かされている? 

 

 そんなのまるでじゃない。

 完全な機械。

 

 シュルシュルと横回転しながら飛んできたモンスターボールが、マリルリとブロスターの胴に突き刺さる。

 地面に落ちたモンスターボールは、一度として揺れることなく3つ星を吐き出した。

 リーフはボールを拾いながら、雑魚に向かって口を開く。

 

「5つ以上技を覚えさせるとすべての技の威力が半減する。どころかポケモンに無理な負荷が掛かって身体を弱くしてしまう。誰も5つ以上技を覚えさせないのはそういう理由よ。これくらい、子どもでも知ってること」

「そんなのシャドウにはかんけぇねぇ! 技による負荷も技の威力も! シャドウなら無理やり引き出せる! シャドウこそが最強なんだよ!」

「違う! そんなの最強じゃない! アンタらロケット団は間違ってるッ! ファイヤー、あいつを!」

 

 俺もこいつは許せねぇ。

 リーフの指示もあって飛び立とうとするも、俺は自分に訪れた不調に気づく。

 ……飛べねぇ。

 こんな時に! 

 

 雑魚は「あばよっ!」と捨て台詞を吐くと、ファイアローを繰り出し、この場から離脱していく。

 速い。ファイアローの名の通り、疾風(はやて)の翼を持って瞬く間に俺たちの前から消えていった。

 

 怒りからか、それとも不甲斐なさからか、歯を強く噛んだリーフはぐっとマリルリのボールに目を落として握りこむ。

 溢れだした涙は頬にひとつの筋を描き、ボールの上へと零れ落ちていった。



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ピッピゲット

 

 まずいよな。ただの雑魚相手にこんな無様な姿晒すとか。

 どっちかというとポケモンだけが無駄に強かったわけだが。

 あれ流石に、組織本部から支給されたポケモンだよな。じゃなきゃ下っ端が持っている強さじゃねぇ。

 序盤からレベル60くらいの奴出されている気分だ。それも強化された。

 

 リーフはもう泣き止んでいる。ポケモンのために流した涙、見ていいのか分からなかったので目を背けておいた。

 もうちょっと鍛えないとなぁ……。といっても、努力値は無理だろうな。

 どうすっかなぁ。なんて考えているうちに、気が付けば俺の目の前にピッピがいた。

 

「ピッ、ピッピ(あの、その、助けてくれてありがとう……っピ)」

「ギャオ(まぁ、そんくらいは)」

「ピッ(……優しいんですね、ピッ)

「ギャオ。ギャーオ(リーフの指示だしな。俺も許せなかっただけだ)

「ピッピピッピピィ(良いトレーナーさんに……巡り合えたんですねっピ)」

 

 ほんとにな。兵器として利用されるとかまっぴらごめんだわ。

 人の考えていることとかまるで伝わらないし、勝手に曇ったりするけど、それもポケモンのことを第一に考える優しい心の持ち主だからと、リーフに目を向けてみる。

 あちらはどうやら、月の石を貰い受けているようだった。

 外に出てきたフシギダネも一緒に飛び跳ねて喜んでいるよ。

 

「ありがとう! ピッピ、ピクシー!」

「ピックシー(改めて、助けていただきありがとうございます)」

「「「「「「「「「ピッ!」」」」」」」」」

「ピックシー! (お礼を込めてピッピたち、舞を再開させましょう)」

 

 ピクシーは指を月に掲げて石段に上る。

 俺の近くにいるピッピも一緒になって跳んで移動し、ピクシーの下へと集った。

 再び始まるピクシーとピッピの舞。

 やっぱり動き自体は簡素だ。激しい動きを必要としていない。

 されど月の光を受けながら踊るピッピとピクシーは変わらず幻想的で。

 正しく妖精だった。

 

「ファイヤー……。私、やりたいこと決まった。あいつらを止める。マリルリやブロスターのように、良いように使われているポケモンたちを助けてあげたい。悲しい目に合わせたくない」

「ギャオ。ギャ(行き過ぎには注意な、それ。Nになるから)」

「だからそのためにも力を貸して。私は強くならないとだから」

「ギャーオ(もう既に力を貸しているよ)」

「ファイヤー、ありがとうね」

 

 舞の終わりにピクシーとピッピが跳ねた。

 

「ピックシー! (最高の宴を)」

「「「「「「「「「「ピッ」」」」」」」」」」

 

 満月に黒色の雲がかかる。

 幻想世界の帳は閉じ、舞台に静寂が訪れる。

 拍手を鳴らすリーフ。

 ピクシーとピッピたちは今一度リーフにお辞儀をすると、山の中へと帰っていく。

 最後に何かを話し合い、握手を交わしたのちに夜闇の中へと身を溶かす。

 一匹、また一匹と消えていき、そして誰も——

 

「ピッ!」

 

 いなくなってなかった。まだいた。

 ピッピはリーフの足を指で突き、何か物欲しそうな顔で見上げている。

 リーフはピッピと目線が合うようしゃがみこむ。

 

「どうしたの? 仲間が待ってるよ」

「ピッ! (その、リーフについていきたい!)」

「えっと?」

「ピッピピッピ! ピィ! (リーフについていく! 一緒に行きたい!)」

 

 ピッピはリーフの持つモンスターボールを指さすと、自分に当ててくれといったジェスチャーをする。

 鈍いリーフもこれには気づいたのだろう。モンスターボールを手に取ると、「これ?」と首を傾げて見せた。

 ピッピは頷くと、自発的にモンスターボールに手を触れる。

 

「えっ?」

 

 赤い光がピッピを包み込む。

 ピッピは抵抗することなくボールの中へと飲み込まれていき、遂には3つの星が現れた。

 

「ピッピ、ゲットしちゃった。こんな、ポケモンの方からゲットされに行くのもあるんだ」

 

 いやリーフさん。俺もだからね。俺も自分からゲットされに行ったからね? 

 目をぱちくりと動かし、困惑のままリーフはピッピの入ったボールに目を落とす。

 気のせいか俺には、ボールの中でピッピが喜んでいるように見えた。

 

 

 

 お月見山から出て4番道路にやってきたリーフ。その腰には三つ目のモンスターボールが付けられている。

 そういや理科系の男に出会わなかったな。レッドかグリーン辺りが戦ったんだろうか。

 あの人の言い分って個人的には何にも間違っていないと思うのは気のせいだろうか。

 

 そんで4番道路って特になんもない。ハナダの洞窟も上方面から向かうわけだし。

 トレーナーに出会うわけもなく、新しい野性ポケモンに会うわけもなく、メガトンパンチとキックを覚えるわけでもなく、距離も決して遠いわけでなく、

 

「さて、どこ行こっかな!」

 

 ハナダシティのポケモンセンターから出てきたリーフは両腕を上げて伸びをする。

 太陽はまだ真上に上り切っていない。昼食にするのはまだ早いだろう。

 ここにもジムがあるので少しくらいゆっくりしたいところだけど……。

 

「ボンジュール! よぉ、リーフじゃん!」

 

 だよなぁ、グリーン来るよなぁ。

 

「お前見たか? お月見山のピッピの踊りを」

「うん! 見た見た! グリーンは?」

「俺? それがよ、あの黒い奴。ロケット団だっけ? あいつらに邪魔されてよ」

「勝てたの!? すっご」

「まぁな! ほら俺、天才だし」

「なら私のファイヤーも天才だ!」

「なんだ、やっぱりお前も勝ってんじゃねぇかよぉ!」

 

 何度も思うがリーフとグリーンって仲良いよな。今も肩を組んで笑い合っている。

 ほんと、幼なじみって感じするわ。分かりやすく言うと、闇落ちしていない。

 グリーンの目。ラムネ瓶のように透き通っている。これから濁るんだろうか。

 少年時代のグリーンって最強を目標に、ポケモンに愛情を注ぐことなくただ強さだけを求め続けた。

 多分、何度戦っても勝つことができなかったレッドに対して劣等感を抱いてもいたんだと思う。

 ただただ純粋なまでに強さを求めた。

 互いの教育方針の違いで交換したって話を聞いたこともある。

 その時グリーンから帰ってきたレッドのポケモンたちが好戦的になっていたとか笑ったわ。

 まさかグリーンは好青年になって、レッドは強さを求めて白金山に引きこもる、逆になるなんてな。

 

 グリーンとリーフが話をしていると、赤い服に赤い帽子を被った少年、レッドの後ろ姿が。

 最初に話しかけたのはグリーンだ。

 

「よう! こんなとこうろちょろしてどうしたんだ!」

「……」

「俺か? 色々捕まえられて絶好調だぜ! レッドはどうだ? 俺に見せてみろよ!」

 

 グリーンは腰のボールを手に取り放り投げる。

 青い光を伴い中から現れたのは……ピジョンだった。

 えっ……。弱ない? 

 ポッポかピジョットなら分かるけど。

 

「……」

 

 レッドが繰り出したのはピカチュウ。

 そのあとは、

 ピジョンVSピカチュウ

 ケーシィVSフシギダネ

 コラッタVSヒトカゲ

 ゼニガメVSヒトカゲ。及びピカチュウ

 二人が繰り広げるバトルは決して観客が盛り上がるような、凄まじい技の応酬とかは無い。

 けれど白熱とした試合なのは間違いなく。グリーンとレッド、二人の顔には笑みが浮かんでいて楽しそうだった。



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戦闘狂ピカチュウ

 

「なんだよー、またか!」

「……」

 

 バトルの結果はレッドの勝利だった。

 あのピカチュウおかしいって。紫のオーラを放っていないのに、なんであんな強いんだよ。

 シャドウ化……ダークポケモン……でもないんだよなぁ。

 下手したらあいつだけでストレート勝ちできるぞ。

 グリーンはゼニガメをボールに戻すと、リーフへと目をやる。

 

「リーフもやろうぜ!」

「私今回パース! 昨日からもう疲れちゃって」

「ファイヤーとも戦いたかったんだが仕方ないか。だがそうなるとこの橋、ゴールデンボールブリッジには挑まないってことか?」

「ゴールデンボールブリッジってこの橋?」

「そうだ! トレーナーに五連勝すると景品をもらえるとのことだ。レッドもその腹なんだろ?」

「……」

 

 レッドらしいと笑うリーフ。

 なんでこの人たち何も喋らないレッドと意思疎通できるん? 前から思っていたけど。

 幼馴染の力ってスゲー。

 

「一番乗りは俺がいただくぜ! そんじゃーなーバイビー!」

 

 グリーンはレッドとリーフを置いて、さっさとゴールデンボールブリッジを渡っていく。

 この調子だとグリーンひとりで渡り切るだろうな。

 

「さっきも言ったけど昨日色々あって疲れてるんだよね。一緒に行っていい? お昼ご飯奢るから」

「……」

「やったー! じゃ、行こっ!」

 

 レッドの了承を得たリーフはゴールデンボールブリッジへと歩を進める。

 ひとり目突破、二人目突破とレッドは並みいるトレーナーを打倒していく。

 

「つえぇ……」

「また負けた」

「もっと鍛えないと」

 

 五連勝した後、ヒトカゲをボールに戻すレッド。何か不思議に思ったのか、リーフは横からひょっこりと顔を出す。

 

「レッドってさ。どうやってタケシに勝ったの?」

「……」

「フシギダネを使って? 勝てるものなの? へぇー、つるの鞭ってそんなに強いんだ!」

「……」

「ピカチュウって水技覚えられるんだ。タケシ戦のためにアイアンテールも覚えたって」

「……」

「ん? ファイヤーで勝ったよ。タケシは本当に強かった! もう負けるかもって」

「……」

「馬鹿言わなくてもいいじゃん! ファイヤー入れば勝てるんだから!」

「……」

「そうだね、だから私も勝ちを信じることにした。もう、負けるかもなんて思わないよ」

 

 双子ってテレパシー使えるのが普通なのか?

 片側から見ればリーフの独り言にしか聞こえんのだが。

あと会話しながらトレーナーを倒してあげるな。可哀そうだから。

文字通り相手にされていない状態だから。無言で目もくれず、双子とはいえ女子と目と目で繋がる会話をしている状態だから。

ほらっ、相手トレーナーめっちゃ悔しそうに表情歪めているし。

 

こんな調子でレッドとリーフは世間話に花を咲かせながら、最後のロケット団員まで打倒しやがった。

 シャドウ化したポケモンは既に保護済み。レッドのフシギダネによってロケット団を拘束して終了した。

 レッド強すぎない? 主人公だし強大な敵としても出てくるから特に気にしていなかったし、何なら使っていたポケモンもコラッタとかその辺だったからってのもあると思うけど。

 シャドウ化したポケモンをこうもあっさり……。

 

 リーフとレッドはジュンサーさんを呼び出し、ロケット団を突き出した。

 その時ジュンサーさんから、「二度もありがとうございます!」と敬礼されたけど、レッドさんや何をしたんですか?

 泥棒でも捕まえたんですか? あっ、やっぱりそのイベントはレッドさんがやったみたいですね。

 ジュンサーさんの口から泥棒逮捕の協力って出てきましたし。

 我らがリビングレジェンドさんはロケット団の使っていたシャドウポケモンを受け渡す。

リーフもお月見山で捕獲したマリルリとブロスターを受け渡していた。

 なお、マリルリとブロスターを見たジュンサーさんは、

 

「よく保護できましたね。これジムリーダークラスのポケモンたちですが大丈夫でしたか?」

 

 なんて謎の機械をモンスターボールにかざしながら驚いている。

 その後、「最もトレーナーはそうでもないみたいですが」と続けた。

 

「……」

「ジムリーダーが強くないってそれ本気で言ってる?」

 

 リーフさんリーフさん、多分それ我らがメインヒロイン、タケシの使用したポケモンがイシツブテとイワークだからじゃないでしょうか?

 最初っからレジロックを出すほど鬼畜じゃないと思いますよ?

 ジムリーダーに位置できるって本来相当な実力者だから。

 

 ジュンサーさんはハナダシティで二度もロケット団が動いていたのを重く見たのか、厳戒態勢を敷くようだ。

 ゴールデンボールブリッジに警備を置き、通る人ひとりひとりをチェックし始めた。

 

 これじゃあマサキイベントをこなせない。

 先に渡ったグリーン辺りが取ってきてくれればいいんだけど……。

 第一ピッピと合体しているかどうか分からないし。

 

 リーフは約束通りレッドに昼食を奢っている。

 お互いの全ポケモンも一緒に外へ出ている。

 

「ピカッ! (バトルしないか!)」

「ギャッ。ギャーオ(嫌だわ。お前強いし)」

「ピカピッカ! (えぇー、バトルしよ!)」

「ギャーオ(揺すられてもやだ)」

 

 ピカチュウは俺がいくら言っても引いてくれない。こいつ意地っ張りだな?

 これでも体力自体は回復している。単に疲労を回復できていないだけで。

 マリルリ、ブロスターと戦って、次のジムは水タイプ。荷が重い。

 フシギダネが戦えたら楽できるのに。というか準伝説を使われなければ……なんて、タケシの前例があったのにそんな馬鹿なことあるわけないよな。

 

 心が重いせいかポケモンフーズの味が分からない。いつの間にか無くなっているし。

 ……フシギダネか。俺の近くで膨らませた腹を叩いている。器用だなお前。

 そんなフシギダネをヒトカゲの後ろからチラチラ見ているレッドのフシギダネ。

 わっかりやす。後ピッピさん、ひとりで食べていないでこの戦闘狂から助けてほしい。

 このピッピ、俺の隣で食べてはいるけど一言も言葉を発さないほど控えめなんだよな。

 

「ピッカチュウ! (じゃあそっちの主人について教えて!)」

 



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買い物よりバトル

 

 レッドって普段から無口なんだな。ここに来るまでずっと言葉を発さなかったとか。

 バトルの時どうすんだよって思ったけど、なんとなく言いたいことが分かるらしい。

 何それみんなエスパータイプ持っていんの? そもそもレッドがエスパータイプなの? スーパーマサラ人超えてゴッドまで行くの?

 それでよくタケシを攻略できたな。てかなんも言われなかったの?

 いや、言いそうにないな。あの人、トレーナーの行動や口じゃなく、その奥に秘める意思とか志を視ようとしている感じあるし。

 

 なお、レッドと生活を共にしてきて一番辛かったのは食事らしい。

 毎食レーションかカロリーメイトかポケモンフーズって。

そりゃキツイわ。おかげでポケモンセンターは天国のようだって。

今日ほどリーフに土下座してお礼を言いたくなったのは初めてかもしれない。

 

 今日は本当にバトルをする気がないらしい。

 ポケモンセンターから出たリーフはレッドの手を取り、そのままブティックに駆け込んでいった。

 ここブティック屋なんてあったっけ? とか考えていたらチャリを100万掛けて売ってくる、ぼったくり自転車屋がそれだった。

 潰れるよな。ただでさえポケモンに乗って移動した方が速いうえにたけぇし。

 支店の方が安いし。おまけにどっちもチケットで交換できるし。

 三年後辺りで客足全部持っていかれていたよなぁ、なんてイベントを思い出しながらリーフのショッピングを覗く俺。

 表情でわかる。レッドさん、ものっそい嫌な表情しているよ。

 ファッションとか完全に興味ないタイプの人間だもんね。分かるよ、うん。

 ダウンジャケット、帽子を実際に試着して見せ、レッドに似合うかどうか訊ねている。

 双子だからいたたまれないだろうな、これ。

 なお、フシギダネとピッピも外に出て一緒にリーフとファッションを楽しんでいる。

 あの子たち、メスだもんね。おしゃれとか興味あるよね。

迷彩カラーの帽子やジェントルマンが持つような杖を握ったりして、楽しんでいるよ。

なお、ハナダシティというだけあり服は、ビキニから一般水泳用の水着といったり、青色を基調とした涼し気なものが多い。

最新のトレードを抑えたものとか、中にはあるんだろうね。知らんけど。

 俺もあんまり服は2着あれば十分派の人間だからなぁ……。

 女子の買い物に付き合わされる10代男子の気持ちを考えろ。

答えは間違いなく興味ない、だろうな。そして無駄に疲弊する。

 俺としてもリーフの水着とかはしゃいでいる姿を見るのは至福のひと時といっても良いんだけど、……どうにもレッドに共感してしまうのが。

 

 仕方ない。

 俺はボールから勝手に外へ出る。

 

「なに? ファイヤーも被ってみたい?」

 

 リーフはものすごい現代アイドルもかくやというべき楽しそうな笑みを浮かべ、帽子を持ってじりじりと歩み寄る。

 ……あっ無理。可愛い。リーフさんマジ可愛い。

 ウキウキしているリーフさん、超可! 天真爛漫を地で行く女子やわ。

 こんな子と買い物できるチャンスを、俺はわざわざ不意にするのか! 

 そんなこと、そんなこと!

 俺はそっとレッドに首を向け、窓の外を翼で指した。

 

「身体を動かしたいの? しょうがないか。レッド、ファイヤーがバトルしたいみたいだから頼んでいい?」

 

 うん、考えてみたらここで逃げなきゃ人形にされるのは俺の方だわ。

 何なら戻ったらそれはそれでなんで出てきたの? って感じなる。

 だったらもうバトルしかないわ。選択肢ひとつしかないわ。

 リーフの頼みを聞いたレッドは、それはもう瞳を輝かせながら何度も頷き、ブティックから飛び出した。

 お前、そんなに苦痛だったのか。

 双子ならさもありなん。

俺は翼をはためかせ、ピカチュウを出して準備満タン、苦しみから解放された分楽しむぞ! といった感じの表情を隠しきれていないレッドの後を追った。

 

 

 

 バトルしなければ良かったと思う気持ち半分、リーフの買い物マジで長すぎてレッドの気持ちもよく分かったという気持ち半分。

 まさか服屋から出るころには3時過ぎてて、次の店舗へ。

 終わる頃にはもう夕方過ぎているっていうね。全部同じ服屋だろうに。

 その間ほとんど休みなくレッドの手持ちポケモンとほぼほぼ回復なしで戦わされた。

こいつらの容赦ない部分。正しく双子だわ。

 

 バトルの最中、レッドのポケモンのヒトカゲとフシギダネが共に進化しちゃったし。

 終いにはリザード、フシギソウ、ピカチュウ対俺の3体1で戦わされた。……勝ったけど。

 戦っているうちに周りのトレーナーもなんだなんだとバトル挑んでくるし。当たり前のようにガブリアス出してくるの止めてくれません?

 

  *  *  *

 

 そんなこんな久しぶりの休日? を満喫した俺たちは夕食を食べ終えた。

俺たちはボールに戻し、リーフから感謝の言葉を貰う。

 レッドとリーフはポケモンセンターで部屋をひとつ借りる。

最初こそ男女で1部屋なのはと渋るジョーイさんだったけど、双子だと伝えると納得して通された。

通された部屋で一晩過ごした俺たちは気持ち体力全快になっていた。

朝食を取った後、ポケモンセンターから出てきたレッドとリーフ。

 

「おーい、レッド君、リーフちゃん!」

 

二人を呼び止める声が聞こえた。

青を基調とした警察服に身を包み、青緑の髪を後ろでひとつに纏め、赤い口紅をつけた大人の女性。

ジュンサーさんは手を振りながら、レッドとリーフへと走り寄る。

レッドは帽子の唾を握り、リーフは「こんにちは」とお辞儀をしてジュンサーさんを迎えた。

 

「はい、こんにちは。実は二人に頼まれてほしいことがあって」

「ジュンサーさんが私たちにですか?」

「ゴールデンボールブリッジの先に、ポケモンボックスの開発者のマサキさんが住んでいるの。先日保護してくれたこの子たち、シャドウ化してしまったポケモンたちを元のポケモンに戻してあげられないか訪ねてきてほしいんだ」

 

 ジュンサーさんはそう言うと、カプセルに入ったモンスターボールを差し出してきた。

 恐らくシャドウ化しているポケモンだと見分けがつくようにしているのだろう。シールが貼られている。

 シャドウ化を治す方法ね。

 マサキよりもオーキド博士辺りを頼った方が良いと思うんだけど……。あれなのか、分野が違いか。

 

 レッドとリーフは返答の代わりに、ジュンサーさんから差し出されたボールを手に取った。

 

「マサキさんに聞いてくればいいんですね」

「そう、噂によればかなり変人らしいから気を付けて。本当なら私の仕事だけど、今はロケット団騒ぎに追われているせいで手が離せないの。頼んだわ!」

 

 早々に言葉を紡ぎ終えると、同じ警察関係者であろう人の下に行って報告をしている。

 それも終わると、矢継ぎ早に次の仕事場まで駆けていく姿を晒していた。どうやら本当に忙しいらしい。

 

「……」

「そうねっ、行こっ!」

 

 レッドとリーフは互いに頷きあうと、マサキの家を目指して走り出した。



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マサキの家

 

 シャドウ化とはポケモンの心を閉ざすものである。

 シャドウ化とはポケモンの持つ潜在能力を無理やり引き出すものである。

 シャドウ化とはポケモンの身体に負荷をかけ、普段の何十倍もの威力を誇る技を放つことが可能である。

 シャドウ化とはポケモンの意思や身体の状態を無視して、無理やり動かさせる技術である。

 シャドウ化とはボールから出したトレーナーの指示を無条件で聞く非常に都合の良い存在である。

 シャドウ化ポケモンは、その日の気分や体調といった物に作用にされない完璧なポケモンである。

 シャドウ化ポケモンは手順さえ踏まえれば、どのようなポケモンであろうとシャドウ化できる。

 そしてシャドウ化ポケモンはその性質上、普通のポケモンに比べて寿命を迎えるのが速い。

 

 なんて身体の節々から怒りが込みあがる話だろうか。感情を持たないなんて、なんて悲しいポケモンたちだろうか。本当になんて、

 

 なんて人ごとじゃない、笑えない話だろうか。

 

 トレーナーのために創られた、物言わぬポケモン。

トレーナーにとって都合の良い、強くて育て甲斐のある、いくらでも替えが利くポケモン。

 決して逆らったりしない。使うだけで自分もエリートトレーナーの仲間入りを果たせる夢のポケモン。

 強くなければ次の同一ポケモン。才能がなければ見向きもされない。勝てなかったら、その時点で捨てられる。本当に、

 

 俺たちが普段やっている孵化厳選とどっちがマシなのだろうか?

 

 違うのはポケモンの尊厳を奪うことだけ。いやそれすらも、厳選をするプレイヤーは奪っているのかもしれない。

 栄養ドリンクの買い占め。遺伝技の強要、色違い厳選に秘密の特訓、挙句ミントを嗅がせて性格の強制だ。

 生まれた時点でLV1のポケモンを逃がす、のも追加しておくとしよう。

 

 もし、もしもだ。

 もしシャドウ化はトレーナーに見向きもされないポケモンたちが持つ、唯一の救済措置だったら。

 これでまたトレーナーに振り向いてもらえる、とか考えてシャドウ化を受け入れるポケモンがいるとしたら。

 考えすぎた、……居るわけないよな。そんなの。

 

 ともかくシャドウ化の齎すメリットとデメリットは今この場で説明なされた。

 ポケモンボックスを開発した天才、マサキによって。

 

「いやまてぇーい! ちょいと自分ら重過ぎるんちゃうん?」

「許せない。弱った心に刷り込みシャドウを植え付けるなんて!」

「それとみぃーよ! あのな? さっきから自分たちピッピと話してるんやで? ちぃーとくらい、驚いてくれたってもええんやで? てか、後生だからワイの頼みもきぃてくれや!」

 

 ポケモンが話すのは普通だと思う。ギエピーとかギエピーとかギエピーとか特に。

 

 

 

 リーフとレッドはマサキの家に駆けこんだ。

 最初こそ「助けてくれやぁ!」と人間の言葉を喋りながらこっちに来るピッピに困惑。

 自己紹介で「ワイピッピ! ちゃう、マサキや!」と鉄板ネタを披露。

 ジュンサーさんから事前に変な人だと聞いていたリーフとレッドは、一瞬硬直してしまうもすぐに再起動。

 シャドウ化ポケモンについての説明と怪しげな男の話をした後に、意見を聞きたいと迫っていた。

 

「あのな? 自分らがポケモンのこと大事にしてるんはよく分かった。けどな? ちぃーと、突っ込むべきとこがあるんやないか?」

「あー……、ポケモンが喋ってる!?」

「そう、ワイはピッピ! 趣味はミイラダイエットって誰がポケモンや! ほんまいきなり来て話すなんて常識のなっとらん子やなぁ」

 

 ミイラダイエットってネタ古ッ。

 しかもそれギエピーやってなかった? やっぱりギエピーなんじゃないの? 

 あれ? 包帯ダイエットだっけ?

 

「一生のお願いや! ワイは人間に戻りたいんや! あの分離器に入った後、自分はそこのパソコンのエンターキー押すだけでええから!」

「……分かりました」

「ほんまおおきに!」



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マサキの家2

 

 分離器は二つあって、それぞれ二本のチューブで繋がれている。

 分離器に入ったマサキを確認したリーフは、パソコンのエンターキーを押すと、分離器の内部がちかちかと発光を繰り返す。

 丸い光がチューブを通り、もう片側に位置する分離器へと進んでいく。

 プシューと煙を吐き出しながら、光の入った分離器の扉が開く。

 現れたのは茶髪にパーマが掛かった若々しい青年、マサキ正しくその人だった。

 

「いやー、実験に失敗してほれこの通り、ポケモンとくっついてもうてな? 戻ろうにもキーを押せなくて困ってたんや」

 

 なんて実験の失敗を少しも苦に感じていない様子で、笑いながら椅子に座り、「で、自分らが持ってきた話なんやけど」と言葉を繋ぐ。

 

「知らんわ。シャドウポケモンなんてついさっき聞いたばかりやしな。心を閉ざした? なら、心を開いてやればええんやない?」

「心を……開く」

「トレーナーならいつもやっとることやろ? まっ、ポケモンと過ごさせたり、構ってやれば時期に心開くんやないか? 知らんけど」

 

 あぁ、つまりシャドウポケモンはダークポケモンと同じようにトレーナーと一緒に居てあげることが大事と。

 リライブ? 

 ダークポケモンとシャドウポケモンって何が違うん? ダーク技とダークタイプくらいやない? 

 マサキは腰を持ち上げると、パソコンに向かい合う。

 

「ちゅーことはあれや。心を開いたポケモンからシャドウを抜くプログラムが必要になるっちゅーことやな。任せとき! いっちょ作ったるわ!」

「そんなことできるの?」

「自分、反応うっすいなぁ。まっええわ。全ポケモンたちのためや。ワイの名に掛けて、作れへんとは絶対言わん」

「マサキって本当にすごい人なんだ」

「見直してもええが惚れちゃダメやで」

「それは無い」

 

 振られたのにもかかわらず楽しそうなマサキは、途端に真面目な顔つきになると、パソコンに向き直り、難しそうなプログラムコードを打ち始める。

 シャドウについてもっと詳しいデータが欲しいとのことで、リーフとレッドはマサキにシャドウポケモンを受け渡す。

 もうここでの用は終わり。

 できたらまずジュンサーさんに連絡を入れるよう頼み込み、家から出る直前でマサキは何か思い出したように手を叩いてリーフたちを引き留めた。

 机の引き出しを開け、チケットを二枚リーフとレッドに差し出した。

 

「そやこれ、サント・アンヌ号のチケットや。ワイは行く時間無いし、そろそろ期限切れそうやさかい。二人で行って来たらどうや?」

「えっ、けど。流石にまた貰うのは」

「ええ、ええ。豪華客船サント・アンヌ号はな。貨物船の面も持ち合わせておるんや。でっかい船体でな、世界中を渡る。必然、世界中のトレーナーが集まる場でもあるんや」

「……!」

 

 おっと世界中のトレーナーが集まるという言葉を聞いて、今まで無反応だった最強で最高な頂点さんが初めて関心を示したぞ! 

 リーフに向ける煌めく瞳が、それはもう行きたいという意思を秘めている。

 レッドの変わりようにマサキは楽しそうに笑うと、サント・アンヌ号のチケットをリーフとレッドの手に握らせた。

 

「恋人……って腹、顔じゃないわな。兄妹水入らず、楽しんできたらええ。どや? 貧乏性のワテを助けるとおもて。なっ?」

 

 あっ良い人だ。変人だけど良い人だ。

 人助けという名目になると、流石のリーフも断れないようで「ありがとう!」と良い笑顔でチケットを財布のポケットにしまい込む。

 そんで我らが白金山の所見殺し先輩は雑に上着の胸ポケットへ放り込んでいた。

 

 マサキの家から出てきたリーフたちは、ハナダの岬へと向かって行く。

 男女ともに人気なデートスポットと呼ばれるだけはある。入ってすぐ右手方面に見える水面は何も言わずに揺らめいていた。

 天に昇った闇を払う白き太陽を映すサプライズを満遍なく送り、恋人たちを歓迎していた。

 良い雰囲気になり夢を語らう恋人、将来を約束しあう恋人、中には男が先か、女が先か、告白前なのだろうドギマギしている恋人もいた。

 カスミは……居ないな。3年後には主人公がデートを邪魔しているのだが……。

 あそこまでゲームとアニメでキャラが違うと感じるのって、カントー地方では珍しい方だと思うのは俺だけだろうか。

 あくまでデートスポットだからか、バトルをする場違いな人は誰ひとりとしておらず。

 早々に脇をすり抜け、双子は居心地悪そうに橋を下りていった。

 

 花より団子だし、どちらかがラブなタイプでもないもんね。

 俺もあの場所に居たら間違いなくキレているわ。

 



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VSカスミ

 

 ハナダシティに戻ってきたリーフとレッド。

 レッドは既にカスミに勝利しているようで、ジャケットの裏に付けたブルーバッジをリーフに見せた。

 そうなるとレッドはもうここにいる意味は無いのか。

 レッドは帽子の鍔を握り頷くと、クチバシティへの道のりを歩み始めた。

 リーフは手を振ってレッドの後ろ姿を見送ると、顔を引き締めてハナダジムへと赴く。

 ロケット団を壊滅させるためには力が必要だからな。手っ取り早く身に着けるには今まで通り、ジムに挑んだ方が良い。

 けれどリーフから感じるあの不安感は未だぬぐえない。

 

 早く、ファイヤーだけじゃ絶対に勝てないことを分かってくれればいいのだけど。

 

 ハナダジムの自動ドアをくぐり、中に入ったリーフ。

 一番最初に聞こえてきたのは、水を掻きわける音だ。

 広がっていたのは市民プールのような内装をしたハナダジム。

 プールにはレーンが敷かれており、そこでビキニを着た女性や短パンを履いた男性が泳ぎの勝負をしている。

 天井はガラス製になっており、天から降り注ぐ陽光がジムの中を照らしている。

 近くにはタケシのジムにもあった、サイドンのような像。二階も同じ作りとなっている。

 傍に立っていたあの男性がリーフに「オッス未来のチャンピオン!」と声を掛けて美味しい水を配っていた。

 

 ついに来たか。二つ目の関門。

 気合を入れていかないと間違いなく負ける。

 対策として燃え尽きるを覚えてきているから、タケシ戦のようにはいかないと思うけど。それでもエアスラッシュじゃ火力不足だろうな。

 

「待ってた! あなたがタケシに勝ったファイヤー使い?」

 

 弾ける炭酸のようにパチパチと高くやんちゃな声。

 散々アニメで見たへそを外に出したコーデに、水色の紐でサイドテールに結ばれたオレンジ色の髪。

 

「バッジひとつだっけ。じゃ、メガシンカは無しで」

 

 カスミが腰に手を当て、挨拶がわりにリーフへウインクを送っていた。

 

  *  *  *

 

 岩肌に囲まれた水のフィールド。

 リーフの向かい側にはカスミが立っている。

 今回ジムトレーナーとは戦っていない。

 なぜならカスミの方から、準伝説を持っているなら戦っても無駄に体力を減らすだけだと言ってきたからだ。

 あちらは俺自身を相当高く買っているらしい。

 そもそもジムトレーナーの役割、自分にすら勝てなければジムリーダーに挑戦する資格という物だ。

 この考えに当てはめると、リーフはジムトレーナーと戦うまでもなく戦う資格ありと判断されたことになる。

 タケシのようにジムトレーナーを回避できるならしても良い。

 ジムはバトルだけじゃなく、トレーナー自身の知恵や発想力も試しているのだから。

 

 そんで、リーフは早々にバトルフィールドの方へと案内されていたのだ。

 あそこ本当に市民用に開放されているプールらしい。どおりでトレーナーらしくない、子ども連れの親子とか居たわけだ。

 

「使用ポケモンは三体! 道具の使用は禁止! 交代はお互いに禁止されていない!」

「分かりました!」

「私のポリシーはみずポケモンで攻めて攻めて……攻めまくることよ! 行けっ! マイステディ!」

 

 カスミが放り投げたボールから登場したのは、中央の宝石が光り輝く二つのヒトデが重なったようなポケモン。

 

「スタッ! (了解!)」

 

 ゲームならエースとして出してくる、スターミーだった。

 リーフはいつも通り、俺のボールを手に取り外へ飛び出させた。

 

「ギャオー! (相性不利ももう慣れたな!)」

「いきなりファイヤー?! しかも色が違う!」

「ファイヤー! 燃え尽きる!」

 

 おっし! 序盤からだな。

 翼や頭から出血大サービスの如く炎が噴き出す。俺は体内で煮えたぎる熱を全て、全身から火炎という形で溢れさせた。

 マグマの温度を優に超える、鉄を簡単に溶解させる圧倒的熱量が渦を巻く。

 炎は不死鳥の形を勝手に形成し、スターミーへと羽ばたいた。

 

「水中へ!」

 

 スターミーは水中へと潜り込む。

 遅れて不死鳥はスターミーを追いかけ、水面へと突っ込んでいく。

 スターミーならまず間違いなく無事だ。意外と特防高いからな、あいつ。

 どこから飛び出すか目を凝らす。するとリーフさんからとんでも指示が。

 

「ファイヤーも水の中へ!」

 

 マジで言っている? 

 炎タイプ失ったからそれでも良いと思うけど、流石に格好の的だと思うぞ。

 リーフに何か指示があると考えた俺は水の中へと飛び込む。

 ざぶーんと水飛沫が宙を登る。水が耳に入り、聴覚が聞き取り辛くなる。

 視覚もほとんどぼやけていて見えにくい。けど微かにスターミーの居場所を特定できた。

 

 来るっ! スターミーがその身を横回転させ、まるでカッターのように飛んでくる。

 水中のせいで身動きが取りづらい! 成すすべなくスターミーの連撃を受ける。

 やったなと反撃にエアスラッシュを食らわせようとして、風の刃が出てこないのに気づく。

 翼をはためかせても何も出てこない。最後にスターミーの攻撃を腹に受け、水の中から追い出された。

 

「ファイヤー!」

「そりゃそうなるわよ。燃え尽きるで炎タイプを消したのは良いけど、そのあとを考えてなかったようね。スターミー! 止めのハイドロポンプ!」

 

 スターミーの宝石部から高出力、高圧力な水のブレスが迫りくる。

 

 ナイス判断だリーフ! 

 

 俺はわざわざ地上に出てきてくれたスターミーを迎えるように、空中を自在に飛んでドロポンを避ける。

 落ちていくスターミーの真下までくると、そのままエアスラッシュでスターミーを打ち上げた! 

 

「スターミー! 態勢を立て直して!」

 

 カスミの指示にスターミーは岩肌へと飛び移る。

 

「スタッ! (まだいけるッ!)」

 

 自信満々に手? のようなものを動かさせ、ボッ! とその身から火傷痕を現させた。

 燃え尽きるで炎を失っても、炎の身体の効果は発動する。なんか矛盾しているような気もするけど、発動するのだから問題ない! 

 

「ファイヤー! エアスラッシュ!」

「スターミー! 十万ボルト!」

 

 この十万ボルトは甘んじて受ける! これを耐えた後、俺のエアスラッシュで反撃だ! 

 

「スタァ……(ここまでか……)」

 

 エアスラッシュによって吹き飛んだスターミーは、水面に浮かびながら宝石を明滅させる。

 即座に審判は、スターミーへ戦闘不能の判定を下した。



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願い事があったら積んでた

 

 これで一体目か……。特防にはあんまり振ってないけど、岩技を受けるよりかはマシか。

 というか同じ電気でもピカチュウの方が遥かに痛ぇよ。やっぱあいつの電力おかしいって。

 カスミはスターミーをボールに戻し、「よくやったわ」と感謝の言葉を投げる。

 

「あなたのファイヤーすごいわね! スターミーの十万ボルトを耐えるなんて」

「私のファイヤーなら余裕余裕!」

「けど、この子はどうかしら! 行くわよッ! マイステディ!」

 

 続く二匹目はシャワーズ。

 まぁた面倒くさいの来たよ。

 カスミってシャワーズ持っている描写あったっけ? もう今更か。

 願い事を持っていないのを祈るしかないか! 

 

「シャワーズ! 熱湯!」

 

 意外とシャワーズって特功高いからな。当たるわけにはいかない! 

 俺は頭上を飛んでシャワーズの放つ熱湯を避ける。

 やっぱり空はアドバンテージ、なんて考えていたからだろう。

 

「シャワーズ! 水中へ!」

 

 シャワーズは水中へ潜り込むと、そのまま水と自分の身体を同化させ、カクレオンのように自分を隠してしまった。

 

「ファイヤーだけで勝てるほどバトルは甘くないわよ! シャワーズ! どくどく!」

 

 害悪型じゃねぇか! 

 頭上から降ってくる明らかに食らってはいけない毒の塊を避ける。

 

「シャワーズ! 凍える風!」

 

 最初に出せよこのシャワーズ! 起点づくりやん! 

 

「ほらほらっ! このままだと何もできないわよ!」

「ファイヤー! どうしよう!」

「それを考えるのがトレーナーでしょ!」

 

 まったくだよ! 

 俺は熱湯、凍える風を受けるの覚悟で水の中へと飛び込んだ! 

 俺ならできるはずだ。水中だと余計にシャワーズの姿は見えない。

 見えないなら無理やり引きずり出してやんよ! 

 俺は水中で翼をとにかく動かしてやる! 無茶苦茶に! 指向性を込めて動かしてやる! 

 

「シャワ! シャー! (馬鹿めッ! 所詮は鳥頭よッ!)」

 

 なんか妙にムカつくなこいつ。誰が鳥頭だ、誰が! 

 畜生やってやる! ファイヤーが水中だとなんもできないとでも思っていんのか! 俺は思うけど! 

 サトシだったら絶対やる! あの少年だったらこの無茶苦茶をぶっつけ本番で間違いなくやって見せる! 

 ここで俺が負けたら裏はフシギダネとピッピだけ。勝てるような気がしなくもないけど、裏が分からない以上俺が勝つしかない! 

 だったら上からシャワーズを捉えられない以上やるしかない! 

 

「シャワ! (これで終わり!)」

 

 見えないけど目の前で熱湯が放出した。

 しかし熱湯は俺が翼を振った勢いで生まれた水流によって霧散していく。

 

「シャワ!? (まさか!?)」

 

 エアスラッシュほどの火力は無い。当たるとも言わない。

 けど攻撃する直前なら必ず止まるし、何よりこれほどの水流であればお前を自ら押し出すことだってできる! 

 シャワーズを宙へ押し出し、再びエアスラッシュを叩きこもうと両翼を振りかざし、

 

「シャワーズ! 凍える風!」

 

 空中で体勢を立て直したシャワーズの凍える風を俺はまともに受けてしまう。

 寒っ! まるで夏場のプールサイドで熱された身体に冷たい水を浴びせられた気分だ! 

 炎タイプを失った俺には効果抜群。痛いは痛いが、ゴローニャの雷パンチほどじゃない。やっぱりこいつは、

 

「いっけぇ! ファイヤー!」

 

 エアスラッシュをかき消すように撃てば、こちらに軍配が上がる。風なら飛行タイプの専売特許だからな。

 リーフの言葉通り、寒々しい身体に鞭を打ち、エアスラッシュをシャワーズに打ち込む。

 一撃じゃ足りない。

 さらに空中へと押し出したシャワーズに連続でエアスラッシュを撃ち続ける! 

 まだだ。まだまだ終わらない。

 シャワーズは天に向かって叫ぶ。

 願い事かと勘ぐった俺だったが、頭上に広がったのは黒い積乱雲。落ちてきたのは一滴の雫。

 雨乞いか? 

 ならこのまま押し切れる! 再びシャワーズにエアスラッシュを打ち込もうとして、赤い光がシャワーズに投射される。

 

「審判! シャワーズは戦闘不能判定にしておいて!」

 

 カスミの言葉に審判は頷いて返し、リーフへ赤旗を上げた。

 唐突な勝利判定にリーフは小首を傾げる。

 

「なんで?」

「あのねぇ? あのままじゃ一方的にやられていたでしょ。引き際を見極めるのも大事なの。それにさっきからあなた、指示もほとんどしないであたふたしっぱなし。ほんとにファイヤーと戦っている気分だわ」

 

 情けないと首を振ったカスミは最後のボールを手に取る。

 最後の最後で黄色のボール。もう嫌な予感しかしないんですけど。絶対出るよね。こんなの出るに決まっているよね!? 

 雨に濡れたカスミは黄色いボールにひとつ口づけをし、俺を見定めるように目で突き刺す。

 

「それもここで終わり! 世界の美少女おてんば人魚! いっけ! マイステディ!」

 

 青い光を突き破り、登場したのはムール貝に近い形の殻を閉じたポケモンだった。

 おいおいおい、ここでこいつかよ。見覚えしかないぞ! おい! 

 あの青いからに描かれた遺跡に描かれる絵のような黒い線。中から腕を広げて現れる、薄青色の長い髪を持つ黒い別嬪。

 姿を現すと同時に、フィールドは色の煙で覆われる。

 

 アローラでも行ったときに捕まえて来たんか? もう震えが止まらないんだけど……。いや震えしかないんやけど……。

 唯一と言っていいほど違う部分があれば、眼鏡。赤いレンズにギザギザのついた黄色いフレーム。

 

「さぁ、上げていくわよ! カプ・レヒレ!」

「レヒィ! (ヤケモーニングですなWWW)

 

 こいつヤケモンじゃねぇか! 



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ヤケモーニングWWW

 ヤケモン。

 それは火力にのみ全プッパし、圧倒的高威力技のみを使用し、相手のサイクル戦を崩壊させる戦いを得意とするポケモン、もといヤケモン。

 その実、交代戦で運が絡んだり、ダイマックスにはあんまり効果が無かったり、一度でも負けると破門というルールから、着々と門下生を減らしていった論理。

 けど単純な考え方というのは案外応用が利く。

 初手ランドロスにメガリザードンYでブラストバーンを打ち込むとか。

 予想していないポケモンに全抜きされるなんてよくある話だし、とにかく相手を倒すことに特化しているポケモンはそれだけで脅威だ。

 ここからが本当の闘いというわけか……。

 いや馬鹿だろ、ここからが本当の闘いって。

 

 残り1体で最後がヤケモンなのはあれなんだけど。後ろが後ろってのもあるし、PPという概念が無いせいで悪あがきも狙えない。

 ようするに、

 

「カプ・レヒレ! ハイドロポンプ!」

「レヒィ! (了解ですなWWW!)」

 

 カプ・レヒレから発射されたハイドロポンプが岩肌に直撃。そのまま粉になるまで暴力の限りを尽くし、なおも威力は衰えることを知らず俺へ迫る。

 雨にメガネかけてタイプ一致。その威力驚異の248。

 こんなん食らったら死ぬわ! 

 けど威力だけならマリルリの方が上っていうね! あいつ先制技で威力480だから。

 

 あれ? 耐えられる気がしてきた。

 目の前に迫る青い砲撃を見て、いや無理無理と思い直して回避行動に移る! 

 

 なんかずっと回避しかしていねぇよなここ最近! 

 やっぱ躱せは無限の勝ち筋。

 

 ならばと攻撃速度が遅いのを狙いに俺は近くの岩場に向かい、熱砂の大地をカプ・レヒレへ飛ばす。

 だが赤く赤熱した砂はカプ・レヒレのドロポンによって薙ぎ払われる。

 ……勝てるかこんなん! 

 せめて雨が降ってなければ! もしかしたら耐えられるかもしれない! 

 雨さえ降っていなければ……、こちらが不利なのは変わらない! 

 どうする! どうする! 

 

「レヒィ(すごいトレーナーですなWWW)」

「ギャーオ(良くなった方だぞ)」

「レヒィ。レヒレヒ(これでですかなWWW。まぁ、自分のペースで歩むのが一番ですぞWWW)」

 

 その通りなんだけどもう少し走ってほしい気持ちしかない。

 俺はリーフへそっと視線を送る。俺の行動にリーフは「火炎放射、いやエアスラッシュ、けどけど」とあたふたしている。

 可愛いなクソやってやる! やってやんよぉ! 

 

 雨! 雨! なんかないか! 

 この危機的状況を打開するためには! 

 俺のファイヤーはレヒレを倒せる。あの時の記憶は今も衝撃的で覚えている。

 ならあの時、俺はどうやってレヒレを倒していた。毎回どうやってレヒレを! 

 あの時の技構成は? あの時のフィールド状態は? あの時どうやってレヒレを打倒した! 

 何年も前の記憶を引っ張り出し、俺はドロポンを避けながら記憶を探る旅に出る。

 

「レヒィ! (諦めるんですなWWW!)」

「ギャーオ! (そうしたいけど嫌だね!)」

「レヒィ? レヒレヒ。レヒィ(ではどうして戦うんですかなWWW? はっきり言ってあのトレーナーは3流も良いところですぞWWW)」

「ギャーオ! (そんな褒めんな)」

 

 俺との会話で、レヒレさん笑顔を絶やさない。

 いやだって、三流トレーナーでも指示は出すからいい方だろ。

 俺が諦めたらもう後は無い。

 それにリーフは、トレーナーとして3流であってもポケモンに対する気づかいは1流だ! 

 俺はこの少女のためならどこまでも頑張ってやる! 

 

「カプ・レヒレ! ハイドロポンプを止めて、ファイヤーに突撃して!」

 

 ドロポンのみ注意していた俺は、レヒレの突撃をもろに受ける。

 体勢が崩れる。目の前でレヒレの殻が開く。レヒレが手を突き出す。手の内でドロポンが形成されていき、

 ……完全に思い出した。もしかしてこの状況、俺にとって最良の状態じゃないか? 

 燃え尽きるで炎タイプを失い、フィールドは雨状態。

 なんで忘れていたんだろう。雨はファイヤーが最も得意とする天候じゃないか! 

 

「レヒィ! (無駄ですぞWWW!)」

 

 今まさにドロポンは発射される。もう発射される。だから俺はすぐ近くまで接近してくれたレヒレにエアスラッシュをお見舞いしてやる! 

 レヒレの顔が退いた。けどドロポンは止まらない。

 狙いの定まっていないドロポンから俺は身をよじり急旋回する。

 自分の腹すれすれにドロポンが通っていくのが分かる。ジッ! と冷たい感触が腹の神経を伝い、脳に危険信号を送り続ける。

 掠っているだけなのに、全身をハンマーで叩きつけられているかの如き衝撃が襲う。

 翼をはためこうものなら、ドロポンに当たるかもしれない。

 もしレヒレがすぐ横にドロポンを向ければ、俺はなすすべなく一撃で葬られるかもしれない。

 だから俺は一度羽ばたくのを止め、ある程度落ちたところで急上昇。雨乞いで作られた積乱雲の中へと飛び込んだ! 

 

「「うそぉ……」」

 

 カスミとリーフの声が重なった。

 カスミは良いけどリーフさんや、あなたのポケモンですよ。

 積乱雲の中は冷たい突風が舞っていた。この中にサンダーいるとかマジ? 身体が持っていかれそうだ! 

 だからなんだ。お前らは俺が使う。俺がお前らの主人になってやる! その力、存分に奮ってやるッ! 

 そして流石はジムリーダーのポケモン。分からないながらもドロポンはきっちりと撃ってくる。

 撃たれるたびに冷や冷やする。見えないのはお互い様だからな。

 俺は翼を羽ばたかせ、羽ばたかせ、羽ばたかせ続ける。

 積乱雲の強風。それは圧倒的風力。徹底的に電気に撃たれようが、水で斬ろうが、なお中にいるポケモンを痛め続ける暴君。

 だからこそ良い。

 この暴君に身を任せ、この力を無理やり身に沁みさせ、そして覚える! 

 

 エアスラッシュの使い方を更新する。もう俺は、エアスラッシュの使い方を思い出せない。どうやって使ったのか完全に忘れた。

 代わりに新たに覚えたこの技を、俺は雲の高みからレヒレへぶつけてやる! 

 

「レヒィ! (ゴミ技を捨てましたなWWW!)」

「ギャーオ! (こちとらヤケモンとは真逆のポケモンじゃい!)」

「レヒィ! (異教徒は導く以外ありえないWWW!)」

 

 ヤケモンは使いようだろうが! 

 俺は翼を今まで以上に動かしまくり、レヒレに暴風を放つ。

 雨は俺の暴風を援護する。フィールド全領域に暴風が吹きすさぶ。水面が荒れ狂う。岩肌が吹き飛ぶ。

 レヒレがとぐろを巻いた風の龍に飲み込まれる。

 だがこれではまだ倒せない。それは分かっている! 

 

「カプ・レヒレ! ハイドロポンプ!」

「ファイヤー! えっと、今さっき使った技!」

 

 リーフさんリーフさん、もう少し勉強してくださいな。

 俺とカプ・レヒレの技がぶつかり合う。

 分かっている。この押し合いは俺の負けだ。

 ヤケモンに勝てるわけがないだろ、俺の型で。

 だからせめて、

 

「レヒィ! (勝負から逃げましたなWWW!)」

「ギャーオ! (もとより勝負する気はねぇ!)」

 

 俺が狙ったのはこの後! 

 ハイドロポンプを撃っているお前の背後だ! 

 振り向くカプ・レヒレに俺は暴風を叩き込む! 

 真っ逆さまにカプ・レヒレは落ちていき、そのまま水面へと叩きつけられる。

 ズドーン!! っと、派手な水飛沫が空を飛んでいる俺にも届く。

 飛沫が止んで現れるのは目を回したレヒレの姿。

 リーフとカスミの間に言葉は無く、沈黙を破るように審判が旗を振り上げる。

 

「カプ・レヒレ! 戦闘不能! よって勝者! チャレンジャーリーフ!」




本当ならダイジェット、雨、暴風あってようやくなんですけどね。
ちな嫁ポケはテッカニン


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バンギムドー

 カスミとリーフはお互い、ポケモンにボールをかざす。

 赤い光に包まれた俺が見たカスミは、なんというか納得のいかない顔つきをしていた。

 気持ちは非常に分かる。俺だってファイヤー1匹に水タイプが全滅とか、それなんてクソゲーって思うし。

 躱せってやっぱクソですわ。

 カスミはフィールドを一周し、リーフの近くまで歩いてくる。

 両手にあるのは黒い豪華な箱。ここからでも、赤いクッションに座らされた雫を模ったブルーバッジが見えた。

 

「はいブルーバッジ! 負けは負け。素直に認めるわ」

「ありがとう! ブルーバッジゲットよッ!」

 

 あぁ、確かになんかこれは違うわ。

 必死に頑張って喜ばしいの反面、リーフが受け取るものであるかどうかと問われたら首を捻る。

 初めの方こそ指示は出していたけど。後半俺の自由意思で動いていたわけだし。

 俺が悪いんかなぁ……。

 勝手に動くせいでリーフを混乱させているのかもしれない。

 

「これ忠告。あなたそのままだと、次のマチスには絶対に勝てないわよ」

「大丈夫! それでも今まで何とか——」

「断言してあげる。絶対に無理よ。あなたからはプロやポケモンを育てるのに必要なポリシーを感じられない。ファイヤーだけいれば勝てる。なんて思ってない?」

「勝てるよ! この子なら。だからあなたにもタケシにも勝てた!」

「そっ、ポケモンの力を自分の力と勘違いしない方が身のためよ。あなたはまだ、トレーナーに成れていない」

 

 マチス……。

 ああもう考えないようにしていたのに! 

 電気タイプの準伝説って軒並みファイヤーより速い奴しかいないんだぞ! 自慢の躱すという戦術は取れない可能性の方が遥かに高い。

 ここがもう、着地点かもな。

 少し機嫌を悪くしたリーフはカスミに礼を告げ、ハナダジムから飛び出した。

 

「ファイヤーなら勝てるよ。三回も不利なタイプに勝って見せたんだから」

「へぇ~、よく分かっているじゃん。さっきの試合、カスミに勝ったのはファイヤーだ」

 

 凛とした鈴の音に幼さが交じり合ったような、頭の奥に響くよく眠れそうな声。

 急所を突かれたかの如く目を丸くしたリーフは、声の主に顔を向ける。

 

「君はボクと同じタイプだ。トレーナーが指示を間違っても、ポケモンは優秀だから何とかしてくれる」

「いきなり何? 自己紹介もなしに」

「ああ、ごめんごめん。ボクはメルク。ポケモンがいなければ何もできないトレーナーさ」

 

 腰まで届く仄かに煌めいて見せる銀色の髪。

 祈祷師や巫女とは一線を画す、アニメキャラクターのコスプレのような黒い巫女服は、スカート部分がひざ丈より少し上くらいだ。

 脇が開いたこの巫女服を、小学生と間違う体形のこの子が着ていると、何とも危ない絶妙な際どさを醸していた。

 メルクは両頬に指を置き、にこっとリーフにあざとい笑顔を浮かべた。

 

 ……何この性癖バーゲンセール娘。

 簡単に言えばXYの黒振袖みたいな服着ている幼女って……。やばない? 

 メルクはリーフの腕を取ると、有無を言わさずポケモンセンターへと向かおうとする。

 

「何々? 一体何なのあなた」

「見ていたよ、カスミとの試合。すっごい」

 

 ——酷い試合だった。

 メルクははっきりとそう言って見せる。

 

「なんですって?」

「カスミはすっごくやりすぎだけど、それにしたって交代しようって考えることもできた。なのにしなかった。なんで?」

「なんでってそりゃ——」

「ファイヤー以外を信用していない。ファイヤーさえいれば勝てる。ファイヤーのレベルを上げればいい。なんて考えているんじゃない?」

 

 リーフの瞳孔が開いた。メルクはクスクスと口元に手を当てて笑うと、怪しく口をにぃと開く。

 

「その考え、ここで折ってあげる。ファイヤーが可哀そうだもん。他のポケモンも可哀そうだもん」

「ふん、良いわよ! やってやろうじゃない! バトルするんでしょ!」

「話が早くて助かるよ、お姉ちゃん!」

 

 そうして始まったバトルは、もう既に夕方過ぎであった。

 雲が差し掛かる。綺麗な夕暮れの空は、一瞬のうちに暗雲が立ち込めた。

 それはまるでリーフと俺にこれから訪れる不幸を告げるかのようで。

 俺はこの日初めて、圧倒的なまでの敗北を味わうことになる。

 

  *  *  *

 

「使用ポケモンは3体でいいね?」

「良いわよ、それで」

 

 バトルはこうして始まった。

 不詳な笑みを浮かべるメルクは断層になった海をプリントした、ダイブボールを手に取った。

 下から上へ投げるフォームで繰り出されたのは、1枚の鋼色と三枚の赤が連なる少々特殊な形状をした翼を持つ鎧鳥。

 舞うようにエアームドが現れると、メルクとリーフを旋回するように飛翔した後、ゆっくりとメルクの下へと降りてくる。

 対してリーフが繰り出すは俺だ。いつも通り色違い特有の光る演出を引き連れて登場する。

 

「エアームド……。鋼タイプって馬鹿にしてるの?」

「それは水タイプに炎タイプを出すのと同じ。エアームドだって岩石封じを覚えるよ。ふざけているわけじゃないさ。エアームド、ステルスロック」

 

 オワタ!

 エアームドの翼から放たれた小さな岩石は、宙を浮遊し溶け込むように透明化する。

 こう見えないんじゃ恐怖でしかない。それでも戦うしかないのは分かっている。

 俺は身に潜む恐怖を打ち消すように咆哮する。

 

「ファイヤー! 燃え尽きる!」

「エアームド! 吹き飛ばし!」

 

 オワタ2!

 もうエアームドの仕事は終わってしまった。完遂させてしまった。

 この勝負、リーフの、いや俺の負けだ。

 俺の全身から放たれた夜の闇をも飲み込む巨大な炎は、一瞬にしてエアームドを飲み込んだ。

 それでもエアームドははっきりと、俺に照準を定めた。

 頑丈だ。

 次の瞬間、俺はエアームドの放つ強風によってボールへと戻された。

 代わりに現れたフシギダネ。

 対戦の経験があるのかどうか定かではないが、いきなり戦場に引きずり出されたフシギダネは何が起こったのか分からないといった様子で左右に顔を向ける。

 それはバトルだと致命傷に他ならない。

 

「戻ってエアームド。いってらっしゃい、バンギラス」

 

 バンギムドーやんけ。何年前の構築だよ。

 フィールドが砂嵐に吹き荒れる。

 もうここからは言わずとも分かるだろう。

 6回も龍の舞をしたバンギラスは、一瞬にしてフシギダネを倒し、ステルスロックで弱った俺の意識を刈り取り、続くピッピも指を振ることすらさせず地に伏せさせた。

 

 本当は、本当はジムリーダーも手加減していたのではないだろうか? 

 本当はいくつも思いついていたのではないだろうか? 空中にいる俺を撃墜させる方法を。

 メルクが使ったポケモンは二匹だ。その二匹に俺たちは全滅した。

 ほとんど最小の手で全滅した。

 リーフは目を丸くする。へなへなと力なくその場にへたり込み、何も言わず地面に顔を落とした。

 勝ったメルクもほとんど同じ表情をしていた。

 小首を横に倒し、予定が狂ったとでも言わんばかりの顔つきで「あれっ? 勝っちゃった」と呟いた。

 メルクは小さく唸る。目を閉じて、何かを逡巡した様子でリーフの肩をポンと叩いた。

 

「あまり痛くないね。ファイヤーの攻撃」

 

 リアル追撃をかまされたリーフはメルクの手をパチンと叩くと、すぐにポケモンセンターへと駆け込んだ。

 ボールの天幕から見えたメルクの顔は、そんなに怒っていなかった。

 むしろ叩かれた手をボーっと見つめた後、リーフの後ろ姿に手を振っていた。



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二度目の敗北

 遅れた理由?
 他の小説を書いていました。いやー、うどんとカレーで真面目に戦争するのはきついっす。ということで、久しぶりの投稿です。


 あのメルクって女の子。

 本来の原作には登場しないどころか影も形も……。

いやそこはもういい。そこは野性のポケモンの時点で手遅れだ。

 第一リーフとレッドが双子という強大な差異があるんだ。そこは本当にもういい。

一番の問題は……リーフが塞ぎこんでしまったことだ。

 

 今までファイヤー一辺倒、ファイヤーさえいれば勝てると思い込んでいたところに、何もさせてもらえず敗北。

その上、ファイヤーの攻撃は痛くないとの発言。

 リーフからすれば屈辱に他ならない。いやむしろ、自分がここまで歩んできたもの、ポリシーを全否定するものだったに違いない。

 そもそもあの子の言葉通りだ。

 

 だってファイヤーは特功に努力値を4しか振っていない。

 それでも勝てていたのは元々ファイヤーの特功が高いからに他ならない。

 耐久型のファイヤーで攻撃一辺倒。

 俺からすればそれこそ舐め切っているわけだが、年相応の少女であるリーフには通じない。

 

「偶々よね! うん、きっとそう。バトル直後だったもの!」

 

 多少表情に影がありながらもリーフは5番道路を元気に進んでいく。

 元気に見えるだけで道行く新しい野性のポケモンに目を向けていない。

 今までが今までだけあって相当重症かもしれないな。

 

「私のファイヤーは強いもん」

 

 信頼してくれるのは嬉しいけど流石にバンギラスは無理。

 なんて考えているうちに、リーフはヤマブキシティに続くゲートへと入っていく。

 先へ進もうとして警備員にリーフは呼び止められた。

 

「待った、そこの嬢ちゃん。ここから先は通行止めだよ」

 

「何かやっているの?」

 

「さてね、工事でもしているんじゃないか? とにかく、ここを通りたいなら地下通路へ行ってくれ」

 

 リーフは訝し気な表情ながらも「分かりました」と頷いてゲートを出る。

 地下通路へと降りていく。

 そこにあった通路は一本道ながらもケンタロスが十匹並んで通れそうなほど広大であった。

 

「なんだか気分悪いわ」

 

 リーフの歩く速度が自然と速くなる。

 分かる。

 落とし物とかあるんだろうけど……今と違って光っているわけじゃない。

 ロケット団が占拠しているという噂とか、マサラタウンの曲が流れている理由とか深く考察されていたよなぁ。

 俺も地下通路何もなさ過ぎて飽きたからなぁ……。

 ……あれ? ロトムいるじゃん。

 ロトムだけじゃない。ビリリダマ、コイル、エレキッド、デンジムシ、ギアルもいる。

 落ち込んでいたリーフも新しいポケモンを見つけたとなれば、瞳を輝かしてボールを構えていった。

 

 こんなところにも野性ポケモンが登場するようになって……。

 ロトムとかウォッシュにすれば俺より使いどころ多いよね。

 最も、リーフは自分のお気に入りで進めたいタイプなのでロトムを捕まえるだけ捕まえて即ボックスにしていたようだけど。

 

 地下通路から出てきたリーフは6番道路へ出てきた。

 野生のポケモンはプリン、ブルー、ガーディ、ヒメグマ、ゴマゾウ、エネコ、プラマイ、フォッコ、シュシュプ、マーイーカ、ペロッパフもいる。

 ……もう驚かないね。

 地下通路含めて6番道路で出会ったトレーナーとの戦いは全戦全勝。

 ボスゴドラから始まり、ギルガルドとかカジリガメとかね。

 それと妙に固い奴もいたなぁ……。

 なんか岩の形をしていて飛び散った破片が妙にしょっぱい奴。

 あの破片すぐに硬化してくるからすんごい苦戦した。

 おまけに火傷状態にならないわ、自己再生するわ、破片で固めようとしてくるわ。

何だったんだ、あれ。

 図鑑ではキョジオーンって紹介されていたっけ。

 今度戦う時があったら注意しよっ。

 

 なお、立て続けに勝ったためかリーフさんの機嫌は全回復。

 あの時は調子悪かっただけだとステップでもしそうな表情である。

 リーフの力になれるのは良いんだけど……、このままだと俺、過労死するかもしれない。

 

 そうしてやって来ましたクチバシティ。

 通常のストーリー通りならサント・アンヌ号に行くのだけどリーフ曰はく、

 

「ジムに勝ってから乗りたい!」

 

 とのこと。

 クチバシティといえば他にもカモネギを交換してくれる人とかポケモンだいすきクラブとかいるんだけどね……。

 いやカモネギに関してはさっきガラルの奴見たんだけどさ。

 何ならネギガナイト使ってこられたし。

 

「余裕よね。うん、今まで通りに行けば絶対に勝てる」

 

 ポケモンだいすきクラブに関しても、わざわざ手に入れなくてもいい自転車を手に入れる必要性があるのかどうかって感じだし。

 

 そんなこんなでリーフはポケモンセンターに向かい、意気揚々とジムへ出陣。

 クチバジムといえばゴミ箱が広がっているイメージだけど。

 意外にも入ってすぐの場所にバトルフィールドが広がっていた。

 

「すいませーん! 誰かいますか!」

 

 声を張り上げたリーフへ呼応するかのように、バトルフィールドにぱっと照明が当てられる。

 

「ウエルカムトウークチバジム! ユーがチャレンジャー?」

 

 照明に照らされたのは迷彩服を着たアメリカ人。

 サングラスと逆立つように生えた黄色い短髪頭が特徴的な男。

 大柄で軽く二メートルはありそうである。

 隣には女性、それと雷を意識したバンダナとコンセントの形をした髪型が特徴的な男性。

 リーフは俺のボールを構えて見せる。

 

「はい、勝ちに来ました!」

 

「オー! やるきまんまんネ! けど、ミーはマチス。つよいよ! ハンパなパワーならユーのポケモンみんなビリビリネ!」

 

 リーフとマチス、互いに火花を散らす。

 両者共にバトルフィールドの端に立ち、審判のいつもの口上が述べられる。

 

「行けっファイヤー!」

 

「ゴー! レアコイル!」

 

 この日、リーフの考えが甘いのだと思い知らされる。

 

  *  *  *

 

 俺の意識が遠のいていく。

 最後の力を振り絞り相手を睨みつける。

 けれど相手は俺の眼光など意にも返さない。

 持ち上げた頭すら鉛のように重たくて。

 

「ファイヤー! 戦闘不能!」

 

 審判の無慈悲な判定のみが下されるのだった。

 

 聞き覚えのあるポケモンセンターの回復音。

 急に夢から覚めた時のように、俺はハッと起き上がって辺りを見渡す。

 広大な宇宙。

 

「……ファイヤー、……フシギダネ、……ピッピ」

 

 それと天蓋から見えるリーフの重く苦しげな表情。

 それだけで俺は何があったのかすぐに察した。

 

「ギャーオ(負けたのか)」

 

 それもそうかと俺は一匹ため息をつく。

 マチスの最後の一体、俺よりも速い準伝説だったからな。

 ステルスロックみたいな絡めてとかじゃなく、純粋なパワー勝負で押し切られた。

 レアコイルも強かった。

 スカーフ巻いていたし。多分あれ最速だと思う。

 上からかみなり打たれて消耗したのもひとつの要因。

 リーフはポケモンセンターの近くにあるベンチに腰を掛けながら、俺のボールをいじくる。

 

「私のファイヤーがアタッカーに向いていない。私のファイヤーに見合った戦い方」

 

 俺はこの時、喉に異物が詰まったかのような感触を得ていた。

 これは多分、遂にばれてしまったかといった感情ではない。

 遂にリーフが理解したのかという感情だ。

 俺の元々の技構成は鬼火、羽休め、燃え尽きる、暴風。

 これでアタッカーをやれって言う方がきついのである。

 ブオーと重く高い汽笛が鳴る。

 リーフはハッと顔を持ち上げて、港に止まっていた船を見る。

 

「サント・アンヌ号」

 

 リーフはショルダーバッグの中からサント・アンヌ号のチケットを取り出した。

 

「世界中のトレーナーが集まる場所」

 

 リーフはチケットをしばらくの間見つめた後、何かを決意したかのように走り出した。

 

「くよくよしている暇なんてないよね!」

 

 目指すは世界中のトレーナーが集まるサント・アンヌ号だ。

 





 どうせ二回戦うので……。


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サント・アンヌ号

 

「君、ちょっと弱すぎない?」

 

「マホ(マジシャ打っているだけで終わった)」

 

 サント・アンヌ号に乗り込んでから一回目のバトル。

 リーフは綺麗に惨敗を記していた。

 良いところのお嬢様風の見た目をした女の子はマホイップをボールに戻した。

 リーフは俺を出そうとボールに手を掛け、ゆっくりと放していった。

 女の子はリーフを置いてどこかへ行ってしまう。

 リーフは自分の客間に戻り、少し休憩をした後にもう一度バトルに赴く。

 そして、

 

「よっしゃ! 強いぞ俺のケンホロウ!」

 

 またも惨敗を記していた。

 リーフはまたも俺を出そうと手を掛け、ゆっくりと放す。

 その様子を見た身なりの良い少年が煽る。

 

「はっ! 何回やっても俺が勝つに決まってるもんね! 付き合っても良いぜ! どうせ結果は変わらないだろうがな! ハッハハ!」

 

「行って! ファイヤー!」

 

 リーフさん、もう少し煽り耐性を身に付けましょうよ。

 このバトル、どっちが勝ったかなんて言うまでもない。

 リーフは地団太を踏むかのような力強い足取りで自分の部屋へと歩いていく。

 

「まったく、私だってファイヤーがいればこんなもんよ」

 

 リーフさんリーフさん、それ勝ったって言えるんでしょうかね?

 少なくともフシギダネとピッピがケンホロウ一匹にやられたのは事実ですよ?

 こうなってしまった原因の片棒を担いでいるので強く言えない。

 通じもしないし。

 

「申し訳ございません。客室はいっぱいでして。船員の部屋であればご用意できます」

 

 何かトラブルでも起きたのだろう。

 船員の困った声が聞こえてくる。

 普通に無視しても良いものだろうけど、人の良いリーフは声のする方へと走っていく。

 

「……」

 

 立っていたのは無表情のレッドと船員だった。

 状況から察するに、チケットを持っているので追い返すわけにはいかず。

 かといって現在泊まれる部屋は無い、そういうことなのだろう。

 思えば原作だと主人公ひとり分だけだったからなぁ。

 どこに部屋に行っても基本客室は埋まっていたっけ。

 レッドさんは基本的に無口なので、困った様子の船員。

 

「レッド! 来たんだ」

 

 そこへリーフが手を振って絡みに行く。

 双子愛が良くて良いことである。

 レッドが何かを訴えるかのようにリーフを見る。

 

「客室もう無いの!?」

 

「……」

 

「うん、そっか。じゃあ私の部屋で一緒に泊まる?」

 

「……!」

 

「そっか、じゃあそうしよっか!」

 

 相変わらずのエスパーぶりである。

 リーフの言葉である程度状況を掴めたのだろう。

最初こそ男女で泊まるのはと引き留めようとする船員だった。

けれど、リーフから双子発言を聞かされたことで一辺、すぐに首を縦に振るのだった。

 フシギダネとピッピを回復させるために、一度部屋へと戻ろうとした途中で出会った。

 なので船員の代わりにリーフは部屋へとレッドを案内していた。

 

「そう負けちゃってね。今一度鍛え直すために。そっちは?」

 

「……」

 

「えぇー! すっごい! マチスに勝ったの!?」

 

「……」

 

「最後の一体がね。強すぎちゃって」

 

 あのジム、本来は居合切りがないと入れないんだけどね。

 今更感あるけど。

 そんな風にレッドとリーフが会話をしている時である。

 前からさらに見知った顔の少年が歩いてきたのは。

 

「ボンジュール、リーフとレッド。おやおや! こんなところで会うとは……!」

 

「グリーン!」

「……」

 

 サント・アンヌ号といえばグリーンが図鑑数を聞いてくるところで有名な場所だからね。

 やっぱり原作とは違い、嫌味を到底感じさせない表情である。

 リーフがそうだとばかりに口を開く。

 

「グリーンは勝った? マチスのジム」

 

「あぁ、勝ったぜ。リーフもだろ?」

 

「いやね、私は負けちゃった」

 

 あははと弱々しい顔でリーフは笑う。

 しかし、これに一番驚いたのはレッドとグリーンであった。

 

「負けた? おいおい、ファイヤーがいるのにそんな冗談無いだろ。ライチュウだろ、相手」

 

「ライチュウ? それは二番目に出てきたけど」

 

「じゃあ三番目の相手は誰だ?」

 

 そう、二番目のポケモンはライチュウ。

 原作でのエースポケモンであり、アニメに至ってはピカチュウの成長に貢献したあのライチュウ。

 だけど、この世界でマチスが繰り出してきた三番目のポケモンは違う。

 あのポケモンは俺よりも圧倒的に素早く、それでいて火力も群を抜いていた。

 そのポケモンの名を、今まさにリーフは口にする。

 

「準、伝説級のポケモン。ライコウが相手だったよ」

 

 レッドとグリーンが絶句する。

 リーフが「ほらこれ」と図鑑でライコウを記録していたのを見せたことで、言葉の信憑性を裏付ける。

 完全にレッドとグリーンは掛ける言葉を見失っていた。

 同時に俺も完全に理解した。

 そりゃ、最初からレジロックやらカプ・レヒレやら繰り出してくる方が異常だったんだなって。

 そんな二人の表情など露知らず、リーフは弱々しい笑顔を浮かべて二人を祝福する。

 

「二人は勝てたんだね。おめでとう」

 

「いやいやいやいや! ただの嫌味にしかなってねーから。俺はライコウなんて出されてないぜ。なぁレッド」

 

 同調を促されたレッドは首を縦に振る。

 これにはあれぇ? といった様子のリーフ。

 これが正しい反応なのは間違いない。

 原作時点でライコウなんか繰り出されてたまるか。

 リーフは図鑑をしまい「とにかく」と話題を変える。

 

「負けちゃったから、ファイヤー以外も鍛えようって。そのためにここに来たの」

 

「お前、ファイヤーとフシギダネ以外に何か捕まえているのか?」

 

「捕まえてるよ! もう百種類以上記録したんだから!」

 

「俺の二倍以上……」

 

 がーんとショックを受けた様子のグリーン。

 原作時点で考えるとグリーンもかなりすごいことしているよ。

 とある人の検証によると、実際この時点で四十種類のポケモンを記録することは可能らしいからね。

 というかやっぱりグリーン目線、俺と最初に貰ったフシギダネ以外誰もいないと思っていたのね。

 ハナダシティの時点でピッピも居たと思うけど。

 リーフは「そうだ!」と手を叩く。

 

「グリーン、レッド。この後暇なら私のポケモン鍛えるの手伝って!」

 

「そりゃ別にいいが。レッドは」

 

「……」

 

 こくんこくんと頷くレッド。

 というかグリーン、君本当にどうしちゃったの!?

 原作でここまで丸くなるのはチャンピオンで負けた時からだよね!?

 俺の知っているグリーンだったらここ絶対断っているのに。

 最強を目指して自分のポケモンを思いやっていないとか言われていたからね、オーキド博士に。

 ともあれ、二人の了承を得られたリーフは「ありがとう!」と笑いかけていた。

 



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指示を出すこと

 

 少し休憩をした後、試しにとリーフは俺を外した状態でグリーンとバトルする。

 

 ピジョンVSピッピ

 ピジョンVSフシギダネ

 

 勝者はピジョンだった。

 うちのピッピ、メテオビームとか覚えているのに。

 かぜおこしと電光石火でピッピの発射位置を逸らし、大振りで放たれた隙をついて体当たりで決めていた。

 フシギダネに関しては言うに及ばず。

 

「ピジョ(これ、勝ちでいいんだよね)」

 

 なんかあまりにあっさりしすぎていてピジョンさん困惑しているよ。

 ごめん、本当に。

 ここまでリーフ、俺一匹で進んできたから他のポケモン出会ったころと変わらないのよ、強さが。

 小難しい表情で、かつ何か決意した顔でグリーンはびしっと言い放つ。

 

「弱い! これポケモンというよりトレーナーに問題がある」

 

「私に?」

 

 リーフは自分の顔を指さす。

 レッドも少し息を吐いてグリーンの意見に賛同していた。

 グリーンは最もかつ、一番の原因であるリーフの弱点を指摘する。

 

「トレーナーなんだからポケモンに指示出してやれよ。お願い、頑張って、だけだとポケモンだってなにすりゃいいのか分からないぜ」

 

「けどファイヤーは——」

 

「準、伝説級のポケモンとフシギダネ、ピッピを一緒にするな。俺もあいつは異常だと思う。だがな、あいつが異常なだけだ」

 

 やばいグリーン君、俺が思ったこと全部言ってくれてる。

 なんだろう、ありがとう本当に。

 というかあれか、もしかして。

 グリーンから見て、リーフってライバルだと思われていない的な?

 だから普通にアドバイスもするとか?

 グリーンは頭をガシガシと掻きながら、最上級の槍をリーフに突き刺す。

 

「良くそれでタケシとカスミとのバトルに勝てたな」

 

「ぐはっ! た、確かにレジロックとカプ・レヒレは強敵だったけどファイヤーが頑張ってくれたから」

 

「おい待て今なんて言った」

 

 グリーンとレッドの顔つきが変わった。

 リーフはしょんぼりとした顔でもう一度言う。

 

「ファイヤーが頑張ってくれた?」

 

「違う、その前だ」

 

「レジロックとカプ・レヒレは強敵だった?」

 

「タケシとカスミは本当にレジロックやカプ・レヒレを出してきたのか?」

 

「うん」

 

 さっきまでおちゃらけていたグリーンの表情に陰りが出る。

 それは果たしてグリーンの目指していたところが所以か。

 リーフは伺うかのように声を掛ける。

 

「どうしたの?」

 

「その実力でレジロックとカプ・レヒレに勝ったのか。そうかそうか」

 

 急変を見せるグリーンに困惑した顔を見せるリーフ。

 なおも構わずグリーンはリーフに背を向けた。

 

「悪いが俺も暇じゃないんだ。修行なら他を当たってくれ。バイビー」

 

「ちょっと、待ってよグリーン」

 

 ジムリーダーはトレーナーの実力にあったポケモンを使用する。

 こればかりは俺から見てもね。

 ゼニガメでレジロックに勝つことはできるだろうけど、純粋にレベルがね。

 これ以上引き留めるのは無理と悟ったのか、リーフは助けを求めるかのようにレッドを見る。

 レッドは帽子で顔を半分覆い、リーフの修行に応じてくれた。

 

  *  *  *

 

 結論、俺を使わないリーフは現時点で最弱だった。

 圧倒的にトレーナーもポケモンも経験不足である。

 リーフは悔しさからか、たたらを踏んだ。

 

「……」

 

「ファイヤーとも戦いたいって?」

 

 レッドは物凄い首を縦に振る。

 リーフは俺のボールを手に取って挑戦に応じるようだ。

 天井高く放られたボールから青い光を伴い、俺登場。

 乗客たちは一斉に色めき立ち、中にはカメラを向けてくる者までいた。

 

「……」

 

「ファイヤーの動きを良く見ること? 動きならいつも」

 

「……」

 

 リーフは心底不思議そうな顔でレッドの無言に頷いた。

 レッドが繰り出した一匹目はやはりピカチュウ。

 ピカチュウは自分の頬を叩き「ピッカ!(バトルだ!)」とめっちゃはしゃいでいた。

 二体のポケモンが対面する。もうバトルのゴングが鳴った証である。

 

「……」

 

 ピカチュウの身体がバチバチと音を立てる。

 稲妻が身体を脈動し、正面から堂々と飛んでくる。

 ので、俺は回避と同時に暴風を放つ。

 

「……」

 

 ピカチュウは暴風を十万ボルトで相殺。

 効果抜群とはいえファイヤーの暴風を十万ボルトで防ぐか普通……。

 俺は咄嗟の判断で熱砂の大地を飛ばし、空中にいるピカチュウを追い詰める。

 

「……」

 

 その時、俺はピカチュウから水の波を幻視する。

 いや、幻視ではない。本当に水の波が出ている!

 波乗りかと思ったけどそうじゃない。

 あの電気が流れる波は波乗りよりも遥かに脅威だ。

 

「……」

 

 俺は自分に暴風を放つ。

自分事グルグルと周ることでドリルのような渦を生み出す。

 電気の水波を荒れ狂う暴風で受け、ピカチュウを弾き飛ばす。

 俺は炎を全身から放出する。

 

「ピカッ(まだまだ)」

 

 ピカチュウは即座に十万ボルトを放ち、空中に足場を展開する。

 

「ギャーオ!(それは前見た!)」

 

 俺の炎はピカチュウの足場すら飲み込む。

 これで足場は使えない。

 追い詰められるだけのピカチュウは、なおも不敵な笑みを浮かべていた。

 

「……」

 

 バチバチと音が鳴る。

 電気の水波も一緒に現れる。

 ピカチュウはバチバチと電気を纏ったまま、水波へ飛び込んだ!

 それって俺がさっきやった!

 波を電気で補強しながら俺の燃え尽きるを受けきるつもりか!

 炎と電気の水波が衝突する。

 やはり相殺。

 だけどピカチュウは少なくないダメージを受けたようで少しよろめいていた。

 

「ピカッ! (良いね、楽しい!)」

 

「ギャオ(なんだこいつ)」

 

「ピカピッカ! (こんな楽しいバトルを朝昼晩、最低四回も出来るなんてそっちのポケモンは幸せだね!)」

 

 レッドさんのピカチュウが戦闘狂過ぎる件について。

 ピカチュウの十万ボルトが天井へとぶち当たる。

 そうして再び駆け出そうとしたところに赤い光が直撃。

 レッドのモンスターボールに吸い込まれていった。

 交換? と思ったけどどうやら違うようだ。

 

「……」

 

「どうだったって言われても……。ファイヤーがすごい?」

 

 レッドは首を縦に振る。

 うーん、レッドが言いたいことは分かる。

 けどねレッド。それもう一度、リーフが通った道なんだ。

 俺の動きがすごいことを分かって、自分には難しいと諦めた末がこれなのである。

 俺はリーフのボールにタッチして中へ戻っていく。

 そろそろ周りの目がきつかったので。

 

「ファイヤーがすごいのは分かってるよ。私が指示しない方が強いし」

 

「……」

 

「動きを見て参考になったとか? ……うーん、咄嗟の判断って難しいから」

 

 レッドがジトッとした目でリーフを見ている。

 実際、瞬間瞬間で判断して決めるって相当難しいからね。

 

「……」

 

「指示を出し続けることが大事?」

 

 レッドがこくこくと頷く。

 そういえば確かに。

 リーフが根本的に諦めていたのは指示を出すことだった。

 最も、間接的に諦めさせたのは俺だけど。

 俺が最初から変なことをしなければ今頃ちゃんと指示を出せていただろうに。

 

「分かった。やってみる」

 

 こうしてレッドさん指導の下、リーフはバトルで指示を使い始める。

 最初こそバトルに負け続けていたリーフだけど、段々とコツを掴んできたようだ。

 

「ダネダネ(何となく分かってきたね)」

 

「ピッピ(これで……リーフさんともっと)」

 

 フシギダネとピッピもバトルに適応し続けてきているようだ。

 惜しいと思えるような場面もちらほら見えてきた。

 バトルをしている時のリーフの顔。

 とても楽しそうだ。

 元々、リーフがバトルをするときはこんな顔をしていたのかもしれない。

 ……罪悪感が。

 最初から俺を捕まえることなければ、今もレッドとグリーン。

 二人と肩を並べて立っていたのかもしれない。

 だって最初に選んでいるのフシギダネだし。

 

 そのフシギダネが今まさにコラッタを打破する。

 所詮コラッタ。されど勝利に違いない。

 フシギダネは飛び上がって全身で喜びを表した。

 

「ダネ! ダネダネ! (勝った! 勝ったよ!)」

 

「ピッピ(……負けてられない)」

 

 近くでピッピが両指を握る。

 リーフは俺のボールを手に取り、レッドに渡す。

 

「……」

 

「多分、ファイヤーもバトルしたがっていると思う。けど私じゃまだまだ力不足だし、つい頼っちゃうかもしれないから」

 

 最初こそ不思議そうな顔なレッドだったけど、リーフの説得に俺のボールを握りこむ。

 別にバトルとかしたがっていないよ?

 ほんとだよ?

 しかし思い出すハナダシティでの服屋の一件。

 もしかして俺、バトル好きなポケモンだと思われている!?

 天蓋から見えるリーフの顔。

 

「お互い頑張ろう!」

 

 それは俺に激励を送るかのような表情だった。

 その時点で俺は諦めた。

 諦めた方が幸せになれる気がしたから。

 もう戦闘狂ピカチュウの顔が見えるようだよ。

 そうしてレッドのポケモンたちと滅茶苦茶戦わされた。

 途中、レイドバトルと勘違いした連中まで集まってきて一対五とかいうとんでもないことになった。

 アニメのサンダーとフリーザー、良くこれを切り抜けられたなと諦める。

 まぁ俺も勝ったけど。

 



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三鳥の伝説

 

 いつまでも船が出発しないことを疑問に思ったリーフとレッドが船長室へ赴くと見知った顔がそこにいた。

 ギザギザ頭の自身家な男子はリーフとレッドの姿を目に入れるや否やそっぽを向く。

 リーフは特にこれといって気にもせず、親しき仲に礼儀の無い男子に手を振った。

 

「グリーン、そっちも気になったの?」

 

 リーフの言葉にグリーンは一瞬悔しそうな顔へと変わる。

 しかしすぐに自身の髪をかき上げて見せた。

 

「どうやらレッドとリーフもらしいな」

 

 レッドは無表情のまま頷いた。

 この最強にして原点さんの表情が変わるところ未だに見たことがない。

 ゲームでも雪山の中ほぼほぼ軽装だったのに無表情だったし。

 多分、顔に出にくい性格なのだろう。うん、きっとそうだ。

 そしてレッドさんはさっさと予定を済ませようとばかりに船長室の扉を開けた。

 ノックぐらいしろよ……。

 果たして扉を開けた先にはゴミ箱に顔を向けて虹を作り出している船長の姿があった。

 ……ゲームをやっていた頃から思っていたんだけど、どうしてこの人この職業に就けたのだろう。

 

「大丈夫ですか!」

 

 リーフはすぐに駆け寄り船長の背中を擦っていた。

 何回か擦ってやると、ゾンビのように青白かった船長の顔に血色が戻っていく。

 さらに三、四回擦る頃にはもうすっかり治ったらしい。

 

「ありがとう。助かったよ」

 

「いえいえ」

 

 リーフが安堵と疑問、二つの感情が混ざったかのような表情になる。

 

「おいおい、船長なんだろ。情けないな」

 

 心底呆れた顔でグリーンが声を掛ける。

 船長も申し開きが無いのか苦笑いを浮かべる。

 リーフは「ちょっとグリーン」とグリーンの脇腹を肘で小突いていた。

 

「助けてもらったのにお礼をできないのは申し訳ない。何分職業柄でね。カントー地方の準、伝説ポケモン。ファイヤー、サンダー、フリーザーの話をよく耳にするのだがいかがかな?」

 

 そんなことは良いから居合切りを寄越せと二重の意味で言葉を出せない俺がいた。

 だってリーフ、もう既にファイヤー持っているし。

 サンダーとか手にされたら色んな意味で困るし。

 勝てるかあれに。

 

 リーフとグリーン、レッドは顔を合わせる。

 リーフはともかくグリーンとレッドはとても聞きたそうに目を輝かせている。

 無表情なのにレッドの目が輝いて見えるのほんと不思議。

 グリーンが先陣を切る。

 

「せっかくだし聞いてやるよ」

 

「ちょっと、頼み方」

 

「若くて結構。では旅の者に伝わる三匹の鳥の話をしよう」

 

 そう言って船長は話し始める。

 語り口はファイヤー、サンダー、フリーザーはカントー、シンオウ、カロス地方に現れやすいという話からだった。

 

「恐らく三鳥にとって過ごしやすい環境がこの地方にあるのだろう。ファイヤーはマグマのある活火山。サンダーは電気のある一目のつかない場所、フリーザーは凍える場所で姿を隠すとされている」

 

 元ネタ的に言えば送り火山、チャンピオンロード、白銀山、双子山と無人発電所だな。

 シンオウとカロスは飛び回っているからよく分からない。

 メタ視点で考えれば主人公が必ずゲットできる位置に居るわけだけど……、まぁ現実となった今、いる可能性は低いと。

 グリーンが質問する。

 

「つまり何が言いたいんだ」

 

「ここ最近三鳥の目撃例が多くてかれこれ十件以上確認されている。そして準、伝説級のポケモンは類稀なる実力を伴ったトレーナーか、夢を追い続ける者の前にしか姿を現さないとされている。旅をしていれば、ゲットできるかもしれないぞ」

 

「類稀なる実力ねぇ?」

 

 グリーンは含み笑いをリーフに向ける。

 リーフはむくっと頬を膨らませてそっぽを向いた。

 

 目撃情報が多いということは、やはりこの世界準伝説は一匹しかいないわけではないってことか。

 ラティオスとラティアスとか図鑑で既に群れで行動するとか書いてあるもんな。

 実力に関してはノーコメント。

 あれほんと奇跡の出会いだったから。

 鳴き声がして走ってきてみたら怪我したファイヤーがいて、しかも色違いだった。

 どんな確率だろうね、それ。

 

「ジムリーダーたちは良く各地方に出張する。ちゃんとした実力も伴っているから、カントーの三鳥のような準、伝説級のポケモンを持っているという噂だよ。どうかな、少しは益に立ったかな?」

 

 そう言って船長は話を終わらせた。

 噂じゃなくてそれ本当の話や。

 現に二回下してきたわ。三回目にやられたわ。

 バンギラスと戦った時のことを考えると、絶対二回とも手加減されていたような気がするけど。

 レッドはともかくとして、グリーンの表情が分かりやすく陰っていく。

 それはプライドを傷つけられたからか、それとも果たして。

 俺としても準伝説程度で四天王にもチャンピオンにも勝てないことが再認識できた。

 というよりかは理解できた。

 なんでアニメでは伝説のポケモンにも勝てない奴が、ゲームでは準伝説蔓延るタワーで生き残れているのかとかね。

 あれは違う。

 勝てるんだ。本当は。

 そして自分たちでもゲットしたうえであのパーティを使っているんだ。

 ……そりゃ、バンギムドーとか使ってくるトレーナーが普通に居るわけだ。

 

 リーフは船長にお礼を言い、船長室から出てきた。

 レッドと共に客室に帰ってしばらく、船の汽笛が鳴る。

 それは船が動き出す合図だった。

 少し休んでからリーフはフシギダネとピッピのボールを手に取り、バトルに赴く。

 俺はというと、再びレッドの修行に付き合うこととなった。

 

 レッドさんのピカチュウさん本当に強いから苦手なんだけど。

 ピカチュウピカチュウ言っているのはピカチュウしか脅威に感じていないからなんだけどさ。

 だとしてもあのピカチュウ、ほんと奇想天外なことして俺を追い詰めてくるから苦手だ。

 しかもファイヤーって、類稀なる実力を持った者の前にしか姿を現さないって言っていたじゃん。

 そんなファイヤーになったのだから、リーフに恥を搔かせたくない。

 だから俺はレッドのピカチュウに一度だって負けてやる気はないのである。




 要約:三鳥、めっちゃ珍しくて強いってだけでこの世界にはたくさんいます。
 同様にライコウ、エンテイ、スイクンも複数個体が確認されています。
 その大半が通常特性ですが、1000匹に一匹くらいの割合で夢特性が混じっています。
 その分捕獲するのも一苦労、最低でもジムリーダークラスは無いと難しい。
 目撃例も多いとされる数で10件ほど。
 さらに4096匹に一匹しか色違いはいないと考えると……まぁ、リーフさんとんでもない確率を引き当てているわけです。
 


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深夜での会話とディグダの穴

 

「ダネ~(ちょっと疲れたな~)」

「ピッ(……バトル……疲れたね)」

「ギャーオ(気づけばレイド戦になっている不思議)」

 

 リーフとレッドが寝ている深夜、俺とフシギダネとピッピは外に出て久しぶりの会話をしていた。

 

「ダネ~(ハードだったよ~)」

「ピッピ(……遅れを取り戻すかのよう)」

「ギャーオ(お互い大変だよな)」

 

 なんというか、血は争えないよねっていう印象。

 一度でも勝つと止まらなくなるのか、リーフってば勝ったら次へ、勝ったら次へとどんどんバトルをしていたらしい。

 そして気づけば第一進化系までのポケモンなら何とかギリ勝てるくらいにはなっていたらしい。

 ここに来るまでフシギダネのレベルが5くらいだったと考えると、相当ハードな特訓に違いない。

 ゲームのようにフシギダネを出してすぐに俺へ交代、みたいな稼ぎが出来ればこんなに苦労はしなかったんだろうけどね。

 

「ダネ、ダネダネ(これでもトキワの森にいるトレーナーには勝てないかも~)」

「ギャー(いやあれは偶々トキワの森に来ていたエリートだから)」

 

 エリートじゃ無ければ最初っからアローラゴローニャとか出してこないから。

 そしてあれを倒せるほどの実力を今のフシギダネとピッピに求められていないから。

 普通は七つ目のバッジ辺りから求められる実力だから。

 

「ピッ(……次のマチス戦、勝てるかな)」

「ダネダネ! (勝てるよ絶対!)」

「ギャーオ(多分まだ無理だぞ)」

「ダネダネ! (やる気を削ぐようなこと言わないの!)」

「ピッピ(……でも勝てそうにないのも事実だし)」

 

 残りあと二日。

 この二日以内にどれだけ鍛えられるかが肝となる。

 何よりリーフはもうほとんどのトレーナーとバトルし終えているだろう。

 再戦はしてくれるだろうけど……、圧倒的な勝利を飾ってもこの世界だと強くなれないしなぁ。

 どうしたものかなんて考えながら迎える最後の日。

 リーフに何かを訴えるかのようなレッド。

 

「……」

 

「うん、確かに良いかもしれない」

 

 何をレッドは言ったのだろうか。

 それより今日は俺をレッドに預けないのだろうか?

 リーフは俺を連れたままバトルフィールドにやってくる。

 一週間近く飛び回っていたからもう見慣れてしまった。

 リーフは俺をボールから飛び立たせる。

 

「ギャーオ! (久しぶりにリーフと一緒!)」

 

 今までずっとレッドと戦わされてきたからな。

 本当に久しぶりすぎた。

 ようやくって考えるといつもよりも気合が入ってくる。

 普段レイドバトルをしていたせいか見物人も集まってくる。

 中にはいつものようにポケモンを出そうとして、レッドに止められていた。

 今回は俺と同じくらい強い相手ってことか?

 俺はもう一度雄たけびを上げる。

 さて、今回戦う相手は誰なのだろう。

 いよいよ相手が前へ出てくる。

 白い帽子、水色のノースリーブに黄色いショルダーバッグ。

 ……あれ? 

 俺の場所にリーフがいない!?

 

「ファイヤー行くよッ! バトル!」

 

 俺の目の前でリーフがモンスターボールを向けてくる。

 

「ダネッ(手加減してね)」

 

 フシギダネが意気揚々と俺の対戦相手のフィールドに出てくる。

 もしかして俺と戦う相手って……。

 リーフ!?

 

  *  *  *

 

 キャモメが鳴きながら大空を羽ばたく。

 強い日差しを手で仰ぎながら、リーフたちは久しぶりにクチバシティの地に足を付けていた。

 腕をグンと天高く伸ばすと合図するかのように船の汽笛が鳴る。

 ほかの乗客たちを横目で見ながら、リーフはレッドとグリーンに声を掛けていた。

 

「私はこれからジムに行くけど、二人はどうするの?」

 

「……」

 

「レッドはタマムシね。グリーンは?」

 

 リーフの質問にグリーンは何も答えない。

 ポケットに手を突っ込んだまま、どこかへ消えていった。

 ここ最近のグリーン、ゲーム版みたいになってきたな。

 なんというか、強さにストイックになっている感じがする。

 レイドバトルという形で何回か戦ったけど、その時も割とポケモンに無茶な要求をさせていた感じがあったし。

 幼馴染の様子をリーフは気にも留めていない様子だった。

 

「……」

 

「ディグダの穴? うん、行く予定だけど」

 

「……」

 

「ゲットはするけど使わないかな。私、この三匹で勝ちたいから」

 

 明らかに地面タイプは連れていった方が良いのは分かる。

けど、小手先だけじゃあれには勝てない。

 リーフとレッドはその後、たわいもない会話を交えた後にポケモンセンターで別れる。

 最後の仕上げとばかりにリーフは俺たちを回復させると、ディグダの穴へと出発した。

 

 ディグダ、ダグトリオ、サイドン、ピカチュウ、モグリュー、イワーク、ドンメル、ナックラー。

 ……サイドンはまだ分かるけど、なんでピカチュウが生息してるねん。

 目新しいポケモンはこれといって生息していないけど、それでもリーフは次々とまだ捕まえていないポケモンをゲットしていた。

 流石にアローラディグダはいないか。

 

 リーフは捕獲するとき、いつも俺を繰り出していた。

 けれど今回のディグダの穴ではフシギダネやピッピを交互に繰り出して戦わせていた。

 指示を出して戦わせるリーフの姿は様になっていた。

 これならトレーナーを名乗っても良いのではないだろうか?

 リーフはしばらくしてディグダの穴から出てきた。

 ポケモンセンターを挟んで11番道路へ。

 挑んでくるトレーナーたちを次々と打破していた。

 流石にエアームドとかアーマーガアとかの鋼タイプやら、フシギダネとピッピじゃ勝てない相手には俺を出していたけど。

 そこはまぁね。

 

「もうこのくらいで良いかな」

 

 そう言葉を紡いだリーフは、サント・アンヌ号に乗り込む前と違った自身に満ち溢れた顔つきとなっていた。

 ポケモンセンターを挟んでクチバシティへと向かっていった。




 リーフとのバトルはカット。
 ディグダの穴にピカチュウが生息しているの、なんでやろな。


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VSマチス

 

 クチバジムの門を潜る。

 暗がりのバトルフィールド。

 電灯が灯ると、最初に見た時と同じく両脇に男性と女性を侍らせたマチスがフィールドの中央に立っていた。

 

「ヘイ、ガール! 随分とナイスなフェイスになったネ!」

 

「今度は勝つ」

 

「オー! ユーの闘志バリバリと伝わってくるヨ! けどそうイージーに負けてあげられないネ! ジャッジ!」

 

 マチスは審判を呼ぶ。

 バトルフィールドの片側に立ち、挑戦者を待ち受けてくる。

 両脇の人たちは離れて観客席の方へと移動していた。

 リーフもマチスに倣ってフィールドの片側へとやってくる。

 バトル前の独特な緊張感。

 普通なトレーナー相手ではまず味わうことのない空気。

 そしてランクマッチをしているときのような、若干の息苦しさ。

 リーフの手が震えている。

 無理もない。

 今初めて、リーフはひとりのトレーナーとしてジムリーダーと戦うのだ。

 緊張するなと言う方が酷だろう。

 言えるような口じゃないけど。

 マチスがモンスターボールを突き出す。

 

「使用ポケモンは互いに三体ヨ。交代は両者オーケー。それじゃあ行くネ!」

 

 マチスは大きくボールを振りかぶる。

 

「ゴー! レアコイル!」

 

 綺麗な回転を描いてボールから現れたのは、水色と白を基調としたスカーフを巻いたレアコイル。

 先発はあの時と同じ。

 リーフが一番最初に手を取るのは……えっマジで?

 ワームホールを模ったかのようなボールを、リーフは今まさに投げる。

 

「行って! ファイヤー!」

 

  *  *  *

 

 思った以上に出てくるの早かった。

 選ばれたからには、雄たけびを上げて登場する。

 

「またファーストからファイヤー?」

 

「レアコイルにはこの子でしか勝てないから!」

 

 まぁ、そうなるよね。

 フシギダネとピッピでレアコイルを倒そうとする奴はまずいない。

 悪タイプとゴーストタイプが鋼タイプに半減されていた時代、何を思ったのかロゼリアとグラエナとオオスバメで突破しようとした馬鹿がここにいるけど。

 ちなみにディグダの穴で捕まえたモグリューだけど、特性型破りだった。

 

「ファイヤー、私はまだあなたに指示を出せるほどトレーナーとして成長していない。だから、思う存分やって!」

 

「ギャーオ(つまりはいつも通りね)」

 

 審判が手に持った旗を同時に降ろす。

 それはバトル火ぶたが切って落とされた合図だった。

 

「レアコイル、十万ボルトネ!」

 

 三つの赤と青の磁石にバチバチと電流が走る。

 電流はやがてレアコイル全体を包み込み、ひとつの電気として飛んでくる。

 俺はいつものように熱砂の大地を浮かび上がらせて相殺する。

 

「もっともっと十万ボルトヨ!」

 

 厄介だな。

 ここからどうやって切り崩そうか考えているに違いない。

 熱砂の大地で相殺するたびに砂煙が舞う。

 幸いにもレアコイルは十万ボルトしか打てない。

 スカーフだし。

 そもそもレアコイルがわざわざスカーフを撒くメリットって薄いし。

 雷の石で進化できるんだからジバコイルになればいいのに。

 

「砂煙に紛れて十万ボルト!」

 

 来た。

 レアコイルが砂煙に紛れるその一瞬。

 俺は暴風ですべてを吹き飛ばす。

 砂煙が晴れる。

 しかしてその先にレアコイルはいない。

 どこにいるかなんて考えるな。

 その迷いが隙を生む。

 

「ファイヤー! 下!」

 

「今だ十万ボルト!」

 

 マチスの指示が飛ぶ。

 待ってましたとばかりに俺は燃え尽きる。

 全身から炎を吹き出して上下関係なくすべてを燃やし尽くす。

 燃え尽きると十万ボルトの威力なら圧倒的にこちらの方が上。

 素早さとかもこれなら関係ないし。

 十万ボルトを押しのけ、レアコイルに直撃する。

 

「ノー! レアコイル!」

 

 ……軽いな。

 けど弱点なんだから頑丈発動まで削れてくれたら良い。

 俺は一切の油断なく暴風で止めに走る。

 

「ターンしながら十万ボルト!」

 

 レアコイルはその場でジャイロボールのように回転しながら十万ボルト。

 俺の暴風を電気で押し返している。

 それってカウンターシールドでは?

 迫る十万ボルト。

 熱砂の大地、暴風を続けて飛ばすもほとんど効果がない。

 ならばと俺も暴風でカウンターシールドを再現。

 コマのように回転しながらレアコイルへと突撃する。

 

「ノット! レアコイル、気合入れろヨ!」

 

 回転の向き的にレアコイルの十万ボルトが俺の風の中にも入ってくる。

 電流がグルグルと回転を描く。

 やがて目と鼻の先までやってきて直撃する。

 

「ギャ(ピカチュウの電撃に比べれば)」

 

「ファイヤー!」

 

 身体が電気に包まれる。

 腹痛を何倍にも上げたかのような芯を貫くこの痛み。

 効果は抜群。今だになれない。

 レアコイルが不敵な笑みを浮かべている。

 ……けど、勝利宣言にはまだ早い。

 

「アンビリバボー!? そんなのアリ!」

 

 俺は十万ボルトを受けたままさらに直進。

 暴風を纏った自分の身体ごとレアコイルへタックルして吹っ飛ばした。

 レアコイルはゆらゆらと空を浮遊する。

 やがて地面へと落ちて目を渦のように回していた。

 頑丈まで押し込んでなかったら危なかった。

 審判が旗を揚げる。

 

「レアコイル、戦闘不能!」

 

 まずは一勝。

 マチスはレアコイルのボールと二体目のボールを手に取った。

 その目はまだ余裕そうな感情を秘め。

 

「バック、レアコイル。ゴー、ライチュウ!」

 

 雷のような尻尾、電気を思わす耳、そしてどっしりとした真っ黄色な体型。

 ライチュウ。

 アローラとかではピカチュウの方が人気な為進化させる人はほとんどいないとされているポケモン。

 電気玉とかの恩恵も受けられないけど、偶に思わぬ活躍を見せてくれるから俺も良くパーティに入れていた。

 マチスは腰に両手を当てて挑戦的な笑みを浮かべる。

 

「レアコイルのエレキでファイヤーは既にビリビリ。どうする、チャレンジャー」

 

「戻って、ファイヤー! 行って、フシギダネ!」

 

 赤い光に包まれた俺。

 代わりに飛び出したのはフシギダネ。

 最終日に戦った時は大体一、二撃で終わってしまったのでお手並み拝見である。

 その時、ジムの扉が開いた。

 リーフはバトルに集中していて気づいていない。

 入ってきたのは……グリーン?

 リーフに声を掛けることなく観客席の方へと歩いていった。

 何しに来たんだろ。

 っと、バトルに集中しないと。

 フシギダネとライチュウのバトルが始まる。




 レアコイルにグラエナとロゼリアとオオスバメで挑んだのは実話です。
 なんで勝てないんやろなと園児の時はずっと思っていました。
 当たり前ですね。
 その後、オオスバメ100レべでも勝てなくてダイゴのボスゴドラがトラウマになる……。


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VSマチス2

 

 ボールからでも伝わる奇妙な緊張感。

 なんでこう胸がざわつくのだろう。

 フシギダネ、大丈夫だろうか。

 先手を取るのはリーフだ。

 

「フシギダネ、眠り粉!」

 

 フシギダネのつぼみから緑葉色の粉が飛翔する。

 確実にフシギダネの眠り粉はライチュウに襲い掛かり、

 

「エレキフィールド!」

 

 足元が電気に包まれる。

 眠り粉はライチュウに命中する直前で、バチンと弾かれ霧散していった。

 エレキフィールド、技枠として入れておくのは勿体ないと思うのは俺だからか。

 

「ライチュウ、ボルテッカー!」

 

「ツルの鞭で躱して!」

 

 電気を纏ったライチュウの捨て身の突進。

 ピカチュウ系統とドーブルくらいしか覚えられない電気技。

 その威力はワイルドボルトよりも上。

 

「ダネッ! (怖いね!)」

 

 フシギダネはツルの鞭で地面を叩いて上空へと飛び上がった。

 しかしライチュウはボルテッカーの勢いをその場で殺していた。

 

「メガトンパンチ!」

 

 ライチュウは飛び上がったフシギダネにメガトンパンチを打ち込む。

 衝撃をもろに受けたフシギダネは容易く吹き飛ばされ、フィールドへと叩きつけられた。

 マチスはさらに指示を飛ばす。

 

「アイアンテール!」

 

「種爆弾!」

 

 フシギダネの種爆弾は、しかしライチュウのアイアンテールによっていともたやすく弾かれる。

 爆発音が無意味に鳴り響く。

 さらにライチュウは威力を空中で一回転。

 

「ライッ! (軽い!)」

 

 直撃する。しなやかな鋼の尻尾が。フシギダネの頭へ。

 その威力たるやフシギダネを通してフィールドを砕いた。

 フシギダネが無事なのか俺は固唾を飲んで見守ることしかできない。

 

「ダネフシャ(まだまだ)」

 

 フシギダネは足元をよろけさせながらも立ち上がる。

 見るからに戦闘不能一歩手前だ。

 けれどその目に諦めは無い。

 フシギダネはどっしりと四本足でライチュウを見据えた。

 

「オー! ナイスガッツネ! けどそれもここまでヨ。ライチュウ! ボルテッカー!」

 

 ライチュウが距離を取る。

 電気を纏いフシギダネへ猪突猛進に走る。

 

「フシギダネ、宿木の種!」

 

 眠り粉、宿木の種、ツルの鞭と種爆弾。

 全部草技だけど、この場においてはむしろそれが良い。

 フシギダネのつぼみから小さな種が舞い上がる。

 

「ライチュウ、アイアンテール!」

 

 ライチュウはまたもボルテッカーを止め、アイアンテールで宿木の種を切り裂いた。

 宿木の種が消えた先。

 フシギダネは無防備。

 ライチュウはフシギダネに急接近して。

 そして、

 

「止めのメガトンパンチ!」

 

 ライチュウの爆発的な拳がフシギダネを抉りこまれた。

 

「ギャーオ! (フシギダネ!)」

 

 俺はボールの中からフシギダネの名を呼んでいた。

 流石にあれは耐えられない。

 粉砕音が鳴り響く。

 バトルフィールドの壁に叩きつけられたフシギダネは目を回していた。

 

「フシギダネ! 戦闘不能!」

 

 リーフが拳を握る。

 そう、これがジムリーダー。

 トレーナーの前に立ち塞がる圧倒的な壁。

 ライチュウはダメージらしいダメージを受けないまま拳を払う。

 威圧的な態度のままリーフへ眼光を送った。

 まさにそのタイミング。

 ライチュウの尻尾の先から茨が伸び、蝕むように全身へ広がっていった。

 あれは正しく、

 

「ヤドリギの置き土産。グレート!」

 

 マチスが手を叩いて称賛する。

 宿木の種、切り払われたわけじゃなかった。

 命中してフシギダネは後続にバトンを繋いでくれたのだ。

 俺は思わずホット息を漏らしていた。

 なんだか自分事のように思えて仕方ない。

 赤い光がフシギダネに飛ぶ。

 リーフは「ありがとう」と労いの言葉を投げかけ、次のボールへ手を掛けた。

 

「行って! ピッピ!」

 

 次に登場するはピッピ。

 指を振りながらの登場だ。

 ピッピといえば……昔は妙に強かったような気がする。

 なんだろう、ダブルバトルとかやったことないから分からない。

 今度はこっちの番だとばかりにマチスが先手で指示を飛ばす。

 

「ライチュウ、アイアンテール!」

 

 速攻で決めに来た。

 ライチュウが駆ける。しなる尻尾を鋼色に染めて。頭上高く飛び上がった。

 

「マジカルシャイン!」

 

 ピッピを中心として強烈な光がドーム状に広がる。

 ライチュウは怯むことなくアイアンテールを光に叩きつけた。

 ……押されている。

 ライチュウに。

 

「ピッピ、避けてッ!」

 

 マジカルシャインが解けるとほぼ同時、ライチュウの尻尾がフィールドに突き刺さった。

 地面を砕く音が響く。

 ピッピにアイアンテールは効果抜群。

 進化の輝石を持っていれば耐えられるかもしれないけど……。

 あれを受けたら一撃アウトだ。

 ライチュウを蝕む茨が赤く光る。

 宿木が吸い取った養分はピッピへと流れていく。

 

「メテオビーム!」

「ボルテッカー!」

 

 ピッピの手先に宇宙のエネルギーが収束していく。

 まずは特功上昇。

 けどそれよりも早く動いたのはライチュウだ。

 ライチュウのボルテッカーがピッピへクリーンヒット。

 ロクな防御姿勢を取れずもろに受けてしまった。

 メテオビームだったエネルギーが霧散していく。

 同時にエレキフィールドが切れる。

 

「アイアンテール!」

「メテオビームで受け流して!」

 

 またメテオビーム? 

 溜め技じゃすぐに発射できないのに。

 ライチュウのアイアンテールに合わせて、ピッピは収束したエネルギーを盾にする。

 

「ライッ! (軽いっての!)」

 

「ピッ! (……なんで!)」

 

 ライチュウの尻尾はガラスでも割るかのような気軽さで、ピッピのメテオビームを打ち砕く。

 受け流すどころか盾にすらなっていない。

 

「リピートしても無駄ネ!」

 

 その場でもうひと捻り加えるライチュウ。

 天蓋がいきなり黒く覆われる。

 僅かに見える外。

 移動していないことから、恐らくリーフが俺のボールを握っているのだろう。

 

 出すなら早く! 

 俺ならアイアンテールを受けきれる。

 ボルテッカーも多分躱せられる! 

 サント・アンヌ号でのバトルなんて、ほとんどずっとレイドバトル状態だったんだから。

 しかしリーフは俺のボールから手を放し、不敵に笑って見せた。

 

「ピッピ! マジカルシャイン!」

 

「ピッ! (たあ!)」

 

 苦し紛れに放たれる強烈な光。

 だが間に合わない。

 さっきと一緒。

 吸い込まれるかのようにピッピへアイアンテールが伸びていく。

 数秒が数分に思えるほど時間の中、俺は目撃する。

 マジカルシャインがギリギリ間に合ったのを。

 けれど力任せにアイアンテールが押し込まれていき、

 

「ライッ? (あれ?)」

 

 弾かれたのはライチュウだった。

 ドシン! と強い衝撃音と共に背中からフィールドへ叩きつけられていた。

 何が起きたのか分からない。

 ライチュウはそんな表情をしている。

 すかさずリーフは次の指示を下す。

 

「月の光!」

 

 ピッピの頭上に現れた月から光が零れ落ちる。

 光は傷をどんどん癒していく。

 まだまだ完璧とはいかないけどほとんど回復し終える。

 

 そこでようやく俺はリーフの狙いに気が付いた。

 メテオビームだ。

 あれは溜めたタイミングで特攻が上がる。

 分かっていたんだ最初から。不発に終わることが。

 マチスも俺と同じ考えに至ったようで、初めて余裕の表情を崩した。

 ヤドリギが着々とライチュウの身体を蝕んでいく。

 立ち上がるのも苦しそうなのに、それでも立ち上がってくる。

 

「ピッピ、火炎放射!」

 

「ダッシュしながら、エレキフィールド!」

 

 ピッピの指先から放たれた火炎放射からライチュウは逃げ回る。

 そのついでに足元に電気が駆け巡っていく。

 体力的にも後一撃。

 マチスの表情、ここで決めてくる気だろう。

 

「ライチュウ、ボルテッカー!」

 

「ピッピ、マジカルシャイン!」

 

 エレキフィールドの恩恵を得て、今まで以上の電気を纏ったライチュウの一撃。

 その一撃は今までの比にならない。

 ライチュウの目が霞んでいた。

 重たそうに瞼を開け、それでも駆け抜ける。

 例え足の動きが不自然でも、それはまさに雷渦巻く捨て身の一撃。

 迎え撃つはマジカルシャイン。

 特功を二段階上げ、フシギダネの宿木の種の補助まで受けたピッピの光。

 

 始まりは無音だった。

 まるで嵐の起こる前兆のように。

 遅れて衝撃波が吹きすさぶ。

 炸裂音と表現するのには生ぬるい、雷と光の乱舞を引き連れて。

 ライチュウとピッピを中心として力の乱流がリーフとマチスへと逆巻いた。

 ああ、リーフとマチス、二人とも楽しそうだ。

 本気で心の底からバトルをしている。

 俺がバトルを代行していた頃と全然違う。

 リーフの帽子が空中を舞っていた。

 

「ライ……ライ……ライライライライライライライ! (負けるか……負けるか……負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか負けるか!)」

「ピッ……ピッピ! ピッピ! ピッピッ! (押される……。けど負けない! 負けたくない! 負けられないッ!)」

 

 ライチュウは止まらない。

 ピッピの勢いも止まらない。

 互いの意地が拮抗していた状況に終止符が訪れる。

 

「ライライライライ! (負けるか負けるか負けるか負けるもんか!)」

 

「ピッ! (噓!)」

 

 なんとライチュウの足がマジカルシャインを押し始める。

 やがてピッピ目掛けて飛び出てきた。

 おいおいおい、ラスターパージとボルテッカーがぶつかり合った回みたいになってるじゃん!? 

 

「ライチュウ! ゴ────ー!!」

 

「ライッ! (おりゃあ!)」

 

 一際強力な爆発がドーム状に広がった。

 衝撃波により発生した煙はフィールドから逃げ出していく。

 煙のいなくなったバトルフィールド。

 立っていたのはライチュウだった。

 リーフが震える手で口を押える。

 

「……ピッピ」

 

 ピッピは目を回していた。

 勝ち誇ったような表情で振り向くライチュウ。

 審判が判定を下そうとした時、ライチュウは小刻みに震えて背中から地面へとダイブした。

 

「ピッピ、ライチュウ、共に戦闘不能!」

 

 引き分けだった。

 フシギダネとピッピ、二人掛かりの接戦。

 見事という他無かった。

 

「ハハハ! 実にエキセントリックネ! ライチュウを倒すナーンテ!」

 

「まだまだ、フシギダネとピッピの頑張り、無駄にはしない」

 

 驚かされたのはこっちだよ。

 そのライチュウ、そこまで強いとは思わなかった。

 いや、俺が戦った時でもボルテッカーを四発ほど当ててきそうになっていたし、強ポケなのは違いないんだけどね。

 

「その良きデースネ! しかしミーのラストポケモン、イージーに勝たせる気はありまセーン!」

 

 マチスが最後のボールを手に取った。

 ハイパーボール。

 来る。最後の一匹が。

 来る。今までの回避戦法の通じない相手が。

 俺もリーフと一緒、フシギダネとピッピの頑張りを無駄にする気はない。

 だから、リーフは俺のボールを手に取る。

 

「泣いても笑っても最後の一匹。行くよッ、ファイヤー!」

 

 クルクルと高く舞い上がるボール。

 天高く飛翔した俺は裂ぱくの気合をあげた。

 

「ともに気合十分ネ! ミーのポケモンナンバーワン! ラストスタート! ゴー、ライコウ!」

 

 マチスから繰り出されたのは黄色の虎。

 背中からは先端が渦のようになっている紫色の雨雲が伸びていた。

 身体中に電気のような黒い模様。逆立った毛や電気の尻尾と全体的に雷神を虎に落とし込んだかのような見た目。

 ライコウが吠えると呼応するかのように雷が落ちた。





 参考までに
 フシギダネLV14
 ピッピLV13
 ライチュウLV28
 
 フシギダネが種爆弾を覚えるのに必要なレベルは18
 ピッピが月の光を覚えるのに必要なレベルは24
 


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VSマチス 決着

なんの因果か、また書きたいと思ったので投稿。
まさかポケマスがリーフにファイヤーを採用するとは……。
まさかリコロイ編でガラルファイヤーが出るとは……。
これはもう書くしかないでしょ!


 ……あぁ、ほんと。

 普通に考えて絶望感しかない対面だ。

 ファイヤーでライコウに勝てるはずがない。

 ライコウからただならぬ威圧感がひしひしと肌を伝う。

 相手が電気タイプだからか全身の羽が逆立つような気分だ。

 

「ライコウ! 光の壁!」

 

 ライコウの眼前に薄桃色の透明な壁が展開された。

 重い。

 フシギダネとピッピがライチュウを倒し繋いでくれたバトンが。

 重い。

 エースとして今この場で羽ばたいているのが。

 今まではずっと一匹だった。

 一匹だったのがむしろ、俺の心を軽くしてくれた。

 だって、俺が倒れればそこでおしまいなんだから。

 吐き気がして、この場から逃げ出したくなるような緊張感。

 でも今は、そんなの考えられないくらいの責任がある。

 重くて、重くて、それでも負けられない。

 託してくれた仲間のために負けられない! 

 

「波動弾!」

 

 ライコウの口に波動の塊が集中していく。

 青と黒のエネルギー玉。

 ひとつの惑星のように輪っかを付けたそれは、必要に俺を追い回す。

 波動弾は必中。

 飛び回るのは時間の無駄だと、俺は暴風で弾き飛ばす。

 マチスとライコウの目が同時に光る。

 

「逃げても無駄ヨ! 熱湯!」

 

 ライコウの熱闘は俺が弾き飛ばした波動弾を押し込んでくる。

 俺の暴風の壁を正面から突き進み、目の前へと躍り出る。

 熱湯を受けなくて良かったのか。

 はたまた波動弾を受けた程度で良かったのか。

 俺は心の中で舌打ちをひとつする。

 前も同じだった。

 技を組み合せて戦ってもライコウはそれ以上の威力でごり押してくる。

 

「そこ、十万ボルト!」

 

 今までの準伝説ポケモンと比べてライコウには圧倒的に優っているものがある。

 それは素早さ。

 俺が回避するよりも早く。いや、回避しようとした時点で先読みしてくる。

 

 十万ボルトの一撃が俺の身体を容赦なく焼き焦がす。

 痛いなんてものじゃない。

 激痛だ。

 汗とかだらだら出てくるし、身体中のあちこちが炎タイプなのに熱くて仕方ない。

 ここまで来ると電気を受けたって気分じゃない。

 もしも溶岩に手を突っ込めばこれほどの痛みを再現できるだろうか。

 身体中から神経、感覚が消えていく。

 それでも俺は負けられない。

 例え相性が不利すぎるとしても。

 ここでやられたらリーフは終わりなんだ。

 

「ファイヤー! 燃え尽きる!」

 

 ライコウからの攻撃に防戦一方。

 思考がぐちゃぐちゃな状態で飛び回る俺に、冷や水の如き声が届いた。

 リーフ。

 リーフは自身たっぷりの表情で俺に一声かけてくる。

 

「信じて!」

 

 信じて……ね。

 一度や二度あるかもしれないけど、俺はリーフの言葉を疑わない! 

 

「ギャーオ! (やってやる!)」

 

 俺は全身を焦がすほどの炎を大放出する。

 今このタイミングで俺の炎タイプは消失する。

 燃え尽きるの炎は火の鳥のようにライコウへ襲い掛かる。

 

「その技を待ってたネ! ライコウ! 熱湯!」

 

 炎を消すならその方が効率的だろうな。

 けど俺の燃え尽きるは熱湯程度じゃ……って嘘だろ? 

 ライコウの熱湯は俺の燃え尽きるに容赦なく穴を穿つ。

 

「ファイヤー! 突っ込んで! カプ・レヒレの時みたいに!」

 

 あの時のように? 

 やるしかないと俺は身体を折り畳んで熱湯へ身を投げる。

 

「ライコウ! 別方向から十万ボルト!」

 

 放水を止めてライコウが俺の隣へ飛び出してくる。

 身体中に電気が迸っている。

 バチバチと怖気が走る。

 すべてがスローに見えてくるほど集中力が高まった状態で……。

 

「ファイヤー! 熱砂の大地!」

 

 ライコウが十万ボルトを放つのと、俺が熱した砂を飛ばしたのはほぼほぼ同時だった。

 相打ち。

 十万ボルト、二回目。

 再び襲ってくる身体を焼き焦がすかのような鋭い激痛。

 全身を一千度の針でただ突かれ、肌が逆立つかのような感覚。

 もうほとんど意識がない。

 ライコウはたった一撃、タイプ不一致抜群の攻撃を受けて倒れてくれるほど柔じゃない。

 ライコウの眼前に光の壁が展開……されなかった。

 切れるほどの時間は既に経っていたのか。

 

「ファイヤー、休んで!」

 

 ……休む? 

 休むって何? 

 もう良いよってこと? 

 また負けるってこと? 

 それだけは嫌だ。

 絶対に嫌だ! 

 けど、俺の思いに反して羽は全く動かない。

 フィールドに叩きつけられる。

 飛べる翼を捥がれた俺は冷たい地面の感触を味わうのみ。

 

「ファイヤー! そのまま動かないで! 今は飛ばないで!」

 

 リーフは俺にそう指示を飛ばしながらもモンスターボールを使わない。

 ……せめて最後の足搔きとばかりにライコウを睨みつけてやろう。

 首だけ動かしてライコウを睨みつける。

 睨みつけるさんの睨みつけるだぞ。

 防御力を下げられただろうか? 意味無いけど。

 ライコウは俺の睨みつけるを鼻で笑う。

 ……まだ諦めたく……ないのに。

 

「ファイヤー、戦闘——」

 

「ストップ!」

 

 審判の判定が止められた? 

 しかもあの声はリーフじゃない。

 今度こそリーフの声が聞こえてくる。

 

「立ってファイヤー! あなたはまた、空を飛べるはず!」

 

 空を飛べる? 

 そんなわけ……あれ、身体が軽い。軽いぞ! 

 十万ボルトを受けた後なのに、妙に身体が軽いぞ! 

 

「やってくれたネ、ガール。羽休め」

 

「こうでもしないと勝てそうにないから」

 

 羽休めか。

 このタイミングで覚えるんだ。

 そもそも羽休めって羽を休めればいいのだから覚える技かどうかといっても怪しいんだけど。

 けどこれでまだ戦える。

 

「本当はねファイヤーに申し訳なく思っているの」

 

 攻撃が休まる。

 マチスとライコウが共にリーフの言葉に耳を傾け始めた。

 

「アタッカーでもないのにエースをやらせていること。それに気づかなかったのと、今までファイヤーに無茶を強いていたこと」

 

「ギャーオ(初めに岩、次に水、今は電気だからね)」

 

「サント・アンヌ号で、指示を出すようになってから分かったの。ファイヤーがどれだけすごいことをしていたのかって。トレーナー並みに戦況をその場で把握してバトルしていたんだって」

 

 俺の場合、廃人知識とアニメたっぷりでのバトルだけどね。

 奇想天外なバトルをしてきたわけじゃない。

 アニメでサトシ君がやっていた戦法をそのまま真似ているだけ。

 

「本当にずっとずっと甘えてた。ファイヤーなら勝てるって。どんな相手が来ようとも必ず勝てるって。けど、そうじゃない。ファイヤーも同じポケモンだったの」

 

 バンギに負けるわヌオーにも勝てないわ。

 トドンはギリ行けるけど、それでも先手でドリュウズとかに岩雪崩を打たれたら無理だし。

 アニメみたいに無双できるポケモンじゃないんだよね、準伝説って。

 

「だから私は、今日ここで改めて始める! ポケモントレーナーを!」

 

 リーフの宣言をマチスが楽しそうに柏手を鳴らす。

 

「ウェルカムトゥ! 歓迎ヨ、トレーナーワールドに!」

 

「はい! だからここで、絶対に勝ってバッジを貰うよ! ファイヤー! 熱砂の大地!」

 

 風が舞い、鳴き声轟くあのバトル。

 十分回復も果たした。

 俺は羽ばたいてライコウへ熱々に熱した砂を飛ばす。

 

「光の壁!」

 

 しかしまた、ライコウの眼前に薄透明の壁が展開される。

 熱砂の大地は壁によって威力が半減されてからライコウへと突き刺さる。

 やはり効いていない。

 風船じゃないだけマシか。

 ライコウは相変わらず余裕そうな顔で俺を見下し、ボッ! っと身体から火が巻き起こった。

 

「ギャオ(火傷した)」

「火傷した」

 

「ライコウ!?」

 

 ライコウの火傷。

 まだまだライコウの目から見て余裕そうだ。

 だけどたかが火傷、されど火傷だ。

 俺はすっと笑みを溢した。

 ……本当に諦めないと希望が訪れるものだ。

 俺のファイヤーは耐久型。

 どれだけ泥臭くても、どれだけ害悪だろうと、勝てば官軍だ! 

 マチスは笑みを深くする。

 

「面白いネ! このまま羽休めをされ続けたら負ける……。その前に決着をつけるヨ! ライコウ! 十万ボルト!」

 

「ファイヤー! 暴風!」

 

 風に煽られた電撃は高く舞い上がり、天井を突き破りなお進み続ける。

 

「ファイヤー! 羽休め!」

 

「させないヨ! 波動弾!」

 

 羽を休めようにもライコウの波動弾が阻止してくる。

 休めようにも休む隙が無い! 

 

「まだまだこれからヨ! 熱湯!」

 

「熱砂の大地!」

 

 もうここからは互いに意地のぶつかり合いだ。

 今度は熱湯と砂の球体の衝突。

 熱湯は熱砂の大地によって蒸発し、白い蒸気が宙を漂う。

 ほの熱い風が翼を伝う。

 だがこんな蒸気、空を飛ぶ俺には関係ない。

 

「ファイヤー! 暴風!」

 

「光の壁!」

 

 蒸気を払い、俺の暴風がライコウへと突き刺さる。

 だが既にライコウは光の壁を貼った後だ。

 余裕綽々の顔で未だ健在。

 やっぱり……ファイヤーでライコウを相手にするもんじゃねぇーな! 

 

「これで決めるヨ! 十万ボルト!」

 

 ゴガァァァァ──ーンンっと、どえらい雷轟を響かせてライコウの全身から電気のエネルギーが迸る。

 その余波だけでもジムの電気機器すべてに影響を与え、そしてライコウを中心として黄金色に輝いている。

 おいおいおいおい、これをどうにかしろって? 

 ただでさえ身体中が危険信号を発信しまくってて、鳥肌が立ちまくっているってのに? 

 無理だ。これは躱せない。

 熱砂の大地を使おうが、暴風だろうが、このエネルギーを正面から何とかする力を持っていない! 

 ……だからかな? 

 

「羽休め!」

 

 電撃が俺の目と鼻の先まで到達する。

 これを受けろと? 

 上等、やってやんよ! 

 耐久型ファイヤーの底力、見とけや! 

 ドゴォォォ──ンっと、俺の全身を電気エネルギーが包み込む。

 土煙は舞い上がり、天高く雷の柱が空へとそびえ立った。

 衝撃はいつまでも俺から離れない。

 針で下からも上からもめった刺しにされている気分だ。

 それでもこれを耐え抜けば勝ちなんだ! 

 

「頑張って!! ファイヤー!!」

 

 リーフの思いに応えるためにも、ここで負けるわけにはいかないんだ! 

 

「ギャァァァァオオオ!!!」

 

 俺は電撃を振り払い、飛翔する。

 全身に痺れが残ってる。

 だがそれがなんだ! 

 そんなのが俺の、俺たちの動きを阻害出来ると思うな! 

 

「面白いネ! ユーたち、ほんと最高ネ! 十万ボルト!」

 

「ラライー(しまっ)」

 

 だが、二射目が飛んでくることは無い。

 ライコウの身体から炎が噴き出し、膝をついた。

 ここに来て火傷が生きた! 

 この隙を見逃すはずがない! 

 

「ファイヤー! 急降下して熱砂の大地!」

 

「ギャーオ! (これが俺の持てる全てだ!)」

 

 俺は空中から翼を折り畳んで急降下。

 風を突っ切り、狙うはライコウの顔面! 

 

「光のか──」

 

「ギャーオ! (貼らせるか!)」

 

 それよりも早く、俺は熱砂の大地を蹴り飛ばす。

 熱砂の大地は一気に加速し、光の壁を貼る直前のライコウの顔面を貫いた。

 二度、三度、地面をバウンドしてライコウは地面に横たわる。

 同時に俺も地面に崩れ落ちる。

 それでも目だけはライコウを見据えて。

 

「ライコウ!」

 

「ファイヤー!」

 

 ぴくりと、ライコウの足が動いた。

 ゆっくりとだがその足は確かに地面を付く。

 

「ラライ────ー!!!」

 

 四つ足を地面につけたライコウは、太陽に向かって大きく吠えた。

 初めて対峙した時と全く変わらない声量。

 そしてライコウは身体中から炎を吹き出し、

 

「ラライー(見事)」

 

 再び地面に崩れ落ちた。

 翼を動かせないながらも、二本の足で俺は立ち上がった。

 静寂の空気が流れる。

 しかしそれも、一本の針が突き刺されたことで破裂する。

 

「ライコウ、戦闘不能! ファイヤーの勝ち! よって勝者! リーフ選手!」

 




今頃リーフとファイヤーをネタにした作品がいっぱいなんだろうなぁ!
本来読宣なので大好きなファイヤーが流行るのは超嬉しい!


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誰もが一度は考えたやつ

「ギャーオ(勝ったー)」

 

 足先から一気に力が無くなっていく。

 もうほとんど立つ気力さえ残っていない。

 マジか、ライコウに勝てた。

 はぁ……マジか!? 

 ライコウに勝った!! 

 

「やったー! ありがとうファイヤー!」

 

 嬉しさ交じりかリーフが飛びついてくる。

 炎の身体なのにいつも通りって感じである。

 

「ナイスファイトだったネ!」

 

 手を慣らしながらマチスがリーフの、俺たちの健闘を湛えてくれる。

 リーフは最高の笑顔で「ありがとうございます!」と返事をしている。

 こっちはもう疲れたよ。

 

「ラライー(飛行タイプに負けたのは久方ぶりだ)

 

 ライコウももう既に起き上がっていた。

 戦闘不能って言われてすぐだと言うのにタフである。

 

「ギャーオ(正直、もう相性不利とは戦いたくないね)」

 

「ラライー(それは同感だ)」

 

 いやあんた弱点ひとつしかないじゃん。

 熱湯も覚えるからライコウってのは本当に厄介極まりない。

 この性能で壁貼ってくるとかほんと厄介だわ。

 ゲームでいったら即交代安定の対面だわ。

 後ろでドアの開く音が聞こえる。

 

「グリーンもありがとねー!」

 

 一言も声を掛けず去ろうとするグリーンにリーフは手を振る。

 グリーンはそれにひとつ指のジェスチャーで答えると、そのまま去っていった。

 そういえば結局何しに来ていたんだろ。

 バトルを見に来ていたとか? 

 

 マチスは懐から箱を取り出し、その中身をリーフに差し出した。

 

「これがオレンジバッジヨ! ユーとのバトル、とってもビリビリ来たネ!」

 

 パチンとウインクをするマチスに、リーフは礼を言ってオレンジバッヂを手に取った。

 

「オレンジバッジ、ゲットよ!」

 

「ギャーオ!」

 

 聞こえる。

 フシギダネ、ピッピからも喜びの声が。

 あぁ、これこそ正真正銘! 

 俺たちで掴み取った、初めてのバッジだ! 

 リーフはバッジをケースに仕舞いこみ、楽しそうに眺めている。

 ウキウキして落ち着かない様子のリーフにマチスは声を掛ける。

 

「次はどこへ挑戦するネ?」

 

「ヤマブキシティが工事中だからタマムシシティかセキチクシティかな」

 

 タウンマップを広げて見せるリーフに、マチスは自分の顎を撫でて見せる。

 

「それならタマムシシティが良いヨ! セキチクシティのキョウにはまだまだ早いネ!」

 

「タマムシシティ……。何タイプのジムだろう」

 

「行ってみてからのお楽しみネ! ファイヤーが入れば楽勝かもヨ?」

 

 そら、タマムシシティって草タイプのジムだもんね! 

 草タイプの準伝説って誰がいたか……。

 ……あぁ、楽勝だわ。

 待って、草タイプの準伝説でしょ? 

 うん、楽勝だわ! 

 草で岩技使える奴はいるけど、水とか岩とか複合で持っている奴いないもんな。

 どっちも割と使用率低い方だし。

 いたとしても火力もそんなに無いと思う。

 次のジムは気楽で良いね。

 

 リーフはマチスにお礼を伝えてからジムを出る。

 ポケモンになっても不思議なもので、あれだけの激戦を終えた後なのに、時間が過ぎればもう過去のように思えてくる。

 空はまだまだ明るいのに、既にお休みモードである。

 ポケモンセンターによって回復してもらった後、リーフはカバンを下げて次の目的地であるタマムシシティへと向かう。

 そのために11番道路へと向かっていく。

 ここら辺はネズミっぽいのが多いな。

 というかミネズミ、デデンネいるやん。

 外来生物紛れ込んでいるけど大丈夫なのかな。

 モルペコとかポチエナとか、違う地方のポケモンまでしれっと紛れ込んでいる。

 なんか笑えないわ。

 

「行くよッ! フシギダネ! ピッピ!」

 

 それからリーフは野性とのバトルにも積極的に二体を使うようになっている。

 捕獲もできるし、経験値も稼げるので一石二鳥だ。

 そして俺はというと……。

 高そうなスーツに身を包んだ青年が、耳に付けたピアスを撫でる。

 ピアスに施されているのは、遺伝子模様が浮かび上がった小さな石。

 光り輝くいくつもの稲光がポケモンへと伸びていく。

 

「行くぞっ! ジュペッタ! メガシンカ!!」

 

 それが今まさにジュペッタが首から下げている石の稲光と紡ぎ合う。

 ジュペッタがトレーナーとの絆と結びつき、更なる進化を解放する。

 肥大化した呪いのエネルギーは、ジュペッタの手足を突き破り赤き爪となって突き出した。

 あの……遂にメガシンカまで使い始めたんだけど……。

 ジムリーダーでもないトレーナーが。

 これ初心者トレーナーに勝たせる気ないよね? 

 確かにコルニがメガシンカ使えるようにしてくれるの、今ぐらいのタイミングだけどさ。

 それで……俺はというと、

 

「行ってきてファイヤー! 適当に戦ってきて!」

 

「ギャーオ! (いや、待てや!)」

 

「頼んだよ! 信頼しているからね!」

 

 当たり前のようにメガシンカを駆使するトレーナーに、自動で戦われていた。

 流石に失礼だろ!? 

 相手せっかく絆の力で戦おうとしてくれているのに、こっち信頼の力で戦わされそうなんだけど!? 

 分かるよ? 

 フシギダネとピッピのために鍛えて、自分もトレーナーとしての腕を磨く。

 その間ファイヤーはやること無いし、適当に他のトレーナーに求められるがままに戦わしてあげることが効率的なのはさ。

 それでもメガシンカまでしてくれた相手にこれはさ……。

 せめて向きなおってあげようよ。

 相手の青年も怒りで……。

 青年はリーフとフシギダネのコンビを見て笑みを作る。

 

「あのトレーナー……。なるほど、面白い」

 

「ギャーオ!? (なにが面白いんですかねぇ!?)」

 

「どうであれ、こちらの目的はファイヤーだ! トレーナーの代わりに付き合ってもらうぞ!」

 

 そんな感じでこの青年と戦った後、三回連続で別トレーナーのメガシンカポケモンと戦わされた。

 そのうち三回当たり前のように負けた。

 やっぱり絆の力って強いんだなって。

 いやー、メガデンリュウとメガガルはきついっす。

 メガデンリュウは下手に耐久が高いせいで熱砂の大地そんなに効かないし。

 メガガルは……うん。

 もう二度とあいつらの捨て身タックルは受けたくない。

 固い。速い。痛いの三連星である。

 三戦目はメガヘルガー倒せて良いところまで行ったんだけど。

 その後出てきたアバゴーラに岩Z打ち込まれて敗北した。

 Z技とメガシンカ両方使うとか主人公かよ。

 準伝説も形無しである。

 

 これは俺もウカウカしていられない。

 もっと強くならないと。

 エリカのタイプが草だからって余裕をかましている場合ではない。

 タイプ統一している人の方が、相手にするポケモンのことを良く考えているのだから。

 リーフは敗北の報告をしに来た俺に、「ごめん」と一言謝罪をしてボールに戻した。

 ……まぁ良いわ。

 実際に暇しちゃうのは事実だし。

 メガシンカの洗礼を味わえたってことでここはひとつね。

 それでひとつ思ったんだけど。

 俺はボールの中から話しかける。

 

「ギャー? (フシギダネ、進化してない?)」

 

「フシー? フッシャー(分かる? そうなんだよねー)」

 

 モンスターボール越しで映るフシギダネは、なんかフシギソウに進化していた。

 多分、俺がメガシンカ軍団とバトルしている時に進化していたのだろう。

 見る余裕がまるで無かったから気づけなかった。

 メガデンリュウと戦っている時に余所見なんかできるわけがない。

 

「ギャーオ。ギャーオ。ギャーギャー(良かったじゃないか。でも報告くらいしてくれよ。こっちは進化できないんだから)」

 

「フッシャー。フシフシフッシャー、フシフッシャー(ごめんねー。なんか激戦繰り広げていたから、リーフと一緒に見ていたんだー)

 

「ギャーオ(なんかかっこ悪いところ見せたな)」

 

「フシー? フシフシ。フッシャー(そう? かっこよかったよー。僕もああなりたいなー)」

 

「ギャーオ(そうか?)」

 

「フシ! フッシャー! (うん! 僕もあんな風に進化して準伝説倒したいー!)」

 

 そっちかよ。

 まぁ、うん。

 お前はメガシンカできるよ。

 フシギバナになって、あとキーストーンとメガストーンさえあれば。

 だからさピッピ、そんなに興奮した顔ではしゃいでもお前はメガシンカできないから諦めろ。

 

「……ピッ(……酷い)」

 

「ギャーオギャーギャー(お前はメガシンカ無くても強くなるから安心しろ)」

 

 メガシンカ没収されてもある程度戦える方が厄介だからな。

 対策していなかった俺が悪いとはいえ、延々回避と瞑想積んでくるの止めてほしい。

 これはどこぞのホイップにも言えることだけど、固くなって火力高めて攻撃しながら回復はマジで害悪なんよ。

 なんてやり取りをリーフに内緒でボール内にて交わし合う。

 すると突然、歩いていたリーフの足が立ち止まった。

 

「なにこれ?」

 

 リーフの目の前には上下する巨大な青い壁があった。

 その壁に触れたリーフは小さく「柔らかい。毛?」と呟いた。

 俺はそうなるよなと少しにやけていた。

 すかさずリーフは図鑑を開いて確認する。

 

「カビゴン? これポケモンなの!? へぇー、道を塞いでしまうこともある」

 

 図鑑から流れる音声を耳にしながら、リーフは圧倒された様子でカビゴンを見上げる。

 そう、こいつのせいでわざわざハナダシティに戻って、イワヤマトンネルを通過する必要があるんですよね。

 ポケモンの笛持っていないと起こせないし、こいつの他にもう一匹出現するところがある。

 RTAとか見たことあるけど11番道路ってまず通らないよな。

 なんて昔、俺が遊んでいた時と同じような状態に陥っているリーフを見て干渉に耽っているときそれは起こった。

 

「行って! モンスターボール!」

 

 リーフの投げたモンスターボールがカビゴンに当たる。

 数回揺れた後、ポンっと星のエフェクトを出してカビゴンはモンスターボールに収まった。

 ……収まってしまった。

 

「カビゴンゲットよ!」

 

 リーフはカビゴンの入ったモンスターボールを高く掲げる。

 フシギソウとピッピが楽しそうに跳ね回る中、俺は一匹絶句する。

 

 ……あのさぁ。

 それ誰もが子ども心に考えた奴!




この主人公が転移してきた時期は剣盾ですからねぇ……。
小説自体は最新作で更新させていただきますとも!


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ポケモンタワー

 

 102番道路を通過していくリーフたち一行。

 いつも通りの歩きである。

 今更ながら思ったんだけど、クチバシティで引換券をもらわなかったのと、ハナダシティに行っていないから自転車とか持ってないんだよなぁ。

 ほんと今更ながら、ゲームと比較してしまうのがあれである。

 そんで捕まったカビゴンは未だ起きない。

 ボール越しに見てみると、恐らく捕獲されたことにすら気づいていないようである。

 暢気なものだ。

 剣盾ではのっそのっそと当たり前のように動いていたのにな。

 フジ老人に会うまではカビゴンを使用することはできないな。

 一先ずリーフはシオンタウンのポケモンセンターへと足を運んで回復をしてもらう。

 宿の予約を取り終えて、リーフはシオンタウン名物のポケモンタワー近くまで行くと、見覚えのある少年が色白の女の子に話しかけられていた。

 

「ねぇあなた……幽霊っていると思う?」

 

「……」

 

 無言で首を傾げたレッドは少女に言われるがまま後ろを振り返る。

 しかしその場にはもう既に何もいない。

 

「……!」

 

「あはは、ごめんね、見間違いかも。あなたの肩に白い手が置かれているなんて。……ほんと、ごめんね」

 

 背筋を仰け反らせたレッドに、色白の女の子は両手を合わせて謝ってからその場を去る。

 いや、それ気のせいじゃないぞ。

 俺にもはっきりと見えたから。

 あいつ氷タイプだから寒くなるのは当たり前でしょうよ。

 

「レッドー!」

 

 不自然に首を左右に振るレッドに、リーフは大きく腕を振る。

 レッドはリーフの姿を見かけるや否や、やはり無言ですぐに駆け寄っていった。

 そんなレッドを、リーフは手で顔を隠しながらおかしそうに笑う。

 

「……!」

 

「ほらこれ」

 

 リーフはレッドに図鑑を見せる。

 するとすぐに音声でユキメノコが紹介されているのが聞こえてくる。

 種が分かればもう怖くないのだろう。

 レッドは少し眉を顰め、無言でクスクスと笑うリーフに抗議する。

 

「レッドは相変わらず、怖いのが苦手だね」

 

「……」

 

「私はファイヤーがいるから、夜も明るいよ」

 

「……」

 

「レッドのヒトカゲ、もうリザードンになったの!?」

 

 ちょい待てや! 

 速すぎない? 

 おれ、赤緑はニドキング周回しかやらないからあれだけどさ。

 この時点だとまだ御三家は最終進化には至らなくない? 

 変わり種としてトキワの森でリザードンにする人はいるけどさ。

 でも本当だ。

 レッドのリザード、リザードンに進化している。

 漲る闘志をその目に、おれを見てさらに高ぶらせている。

 フシギソウはまだフシギソウのまま。

 それが少しだけ安心感を与えさせてくれる。

 あと、レッドのピカチュウがこちらに熱烈な視線を向けてきているけど、気づかない振りをしておこう。

 やだよ、あいつわけ分かんないくらい強いから。

 

「……」

 

「うん、今日はもうこれから休むとこ。話ならポケセンでしよ」

 

 そう言って一先ず話を切り、リーフとレッドはポケモンセンターの宿で一夜を過ごす。

 そこで起きた、夜ごはんの時だけ目を覚ますカビゴンとの戦争はまた別の話。

 しいて言うなら食べ物の恨みは恐ろしい。

 なんでピカチュウからライコウ以上のプレッシャーを感じるのか。

 あなた特性プレッシャーじゃないですよね? 

 そうして迎えた次の朝、今度は食事の時だけカビゴンをボールから出さないという手を講じたリーフ。

 しかし悲しいかな。

 ボール越しでも周りは見えるのである。

 これまた朝ごはんの時に目を覚まし、勝手にボールから出てきたカビゴンと激闘を繰り広げるという、朝を迎えた俺たち。

 朝からもう既に妙に疲れた……。

 ポケセンから出た後、レッドはポケモンタワーを指さした。

 

「……」

 

「ポケモンタワーに行くの? なら私も」

 

 リーフの言葉にレッドは帽子を深く被って頷いた。

 こうしてリーフたち一行はゴーストタイプのポケモンを入手しに、ポケモンタワーへと入っていった。

 

 中は案外電気設備が整っているようで結構明るい。

 緑のタイルが敷き詰められたタワー内部の至るところに、石作で出来たポケモンの墓が並んでいる。

 そして早速、墓の後ろから現れたミミカスが上部を動かして挨拶をしてくれる。

 

「何この子、可愛い!」

 

 そう言ってリーフは俺以外のボールを構え、毎度の如く捕獲している。

 ミミカス……。

 良い覚えが何ひとつない。

 何かしら役割遂行するわ、いるだけで一ターン消費するわ。

 ほんと、ミミカスだわ。

 スカーフ付けてないと上から鬼火撃たれるわ、呪いしてくるわ、トリルしてくるわ、トリックしてくるわ。

 ゴーストダイブ、剣の舞、痛み分け、ドレパン、ウドハン、影打ち覚えるわ。

 甘えるまで打てて、身代わり貼って、挙句道連れだもんな。

 こいつほど最後に出てきたときの絶望感ったら、マジでないと思う。

 型多すぎんだよ、ミミカスが! 

 

 そしてもう一匹現れたミミカスを、今度はレッドがゲットしていた。

 アニメの方でピカチュウにめっちゃ恨み持っていたけど、ここのピカチュウなら大丈夫だろうな。

 何ならボールに入ったミミカスが、ピカチュウの浮かべる好戦的な笑みに早速ビビり散らかしている。

 リーフはあのピカチュウの顔を可愛いというけど、こちらからすれば恐怖以外の何物でもないからね、あれ。

 バイバイバタフリーの時にロケット団が言った、「可愛い顔して!」って言いたくなる気持ちがよく分かるわ。

 一階の時点でかなりゴーストタイプのポケモンがいるが、受付のお姉さん曰はく、階を上がるごとに珍しいポケモンが多くなっていくらしい。

 

「レッドは次のジムどうするの?」

 

「……」

 

「準伝説のポケモンと戦いたいって……」

 

「……」

 

「そりゃ、強いほど燃えるというのは分かるけど」

 

 レッドは昨日の夜、リーフから夜通しライコウの話を聞いていたみたいだからな。

 みたいというのは、リーフがライコウと俺の話をずっとしていたからそう思っている。

 ミニリュウが好きな餌に食いつくかの如く、すごい前のめりになって聞いていたもんね。

 

「まってぇ!」

 

 その時である。

 レッドとリーフの足元を小さな影が駆けていった。

 突然の出来事でリーフは足を取られて体制を崩す。

 レッドは驚異的な反射神経で、さも当たり前のように回避していた。

 小さな影を追いかけるようにして、アップヘアーの髪型をした茶髪の女の子が、レッドとリーフの前で立ち止まった。

 

「ごめんなさい! 急いでて!」

 

 ひとつ頭を下げた女の子はまた小さな影を追っていく。

 

「なんだったんだろう。……あっ、ありがとうレッド」

 

 尻もちをついたリーフは、レッドから手を借りて立ち上がる。

 スカートに付いた砂埃をパタパタと叩いて、女の子が向かっていった方向を見つめている。

 

「……」

 

「うん、まぁそうだよね。私たちは三階に行こうか」

 

 特に先ほどの事故について気にした様子もなく、リーフたち一行は三階を再び目的にポケモンを図鑑に記録していく。

 そうして三階の階段が見えてきたときである。

 先ほどの女の子が階段近くで蹲っていたのは。

 

「ダメだよ。カラカラ」

 

 何か泣きながら手に持った骨や足を振り回し、駄々っ子するカラカラ。

 それを女の子は何やら必死に押さえつけている。

 

「カラカラぁ! (フジが危ないよぉ!)」

 

 フジが危ない? 

 ということは原作通りに上にロケット団が向かったのかな?

 どうもガラガラのことで泣いているわけではないようだ。

 

 でも正直大丈夫だと思うよ。

 フジ老人ロケット団が来ていたことにすら気づいていないと思うから。

 それよりこの先どうしようか。

 シルクスコープが無いと先に進めないんだよなぁ。

 

「ちょっとちょっと! 何してるの?」

 

 切羽詰まった雰囲気を醸す女の子の肩をリーフは優しく叩く。

 女の子はリーフに顔だけ向けて乾いた笑顔を浮かべた。

 カラカラを抱いたまま立ち上がり、リーフとレッドにもう一度頭を下げた。

 

「さっきはごめんなさい」

 

「いや、良いの良いの。それでそっちのカラカラはどうしたの?」

 

 リーフの質問に、女の子はカラカラの頭をなだめるように撫でる。

 

「大したことではないの。今朝、フジさんがお墓詣りに行っちゃって。それでカラカラが泣いて、家を飛び出しちゃったの。フジさん、親を亡くしたカラカラにいつも優しくしてくれていたから」

 

 ねっ? と優しい声音で女の子はカラカラに小首を傾ける。

 小さく上下に揺らされて、それでもカラカラは暴れることを止めない。

 ロケット団がいるもんな、そりゃ心配になるわけだ。

 

「カラぁ! カラぁ! カラカラぁ! (違う! 違うの! フジが危ないの!)」

 

「大丈夫、フジさんはそのうち帰ってくるよ。だから家でご飯でも食べよ?」

 

 訴えるようにカラカラは泣く。

 それでも女の子には通じない。

 なんだろう。

 このポケモンの訴えが人間に通じない感じ。

 物凄い既視感を感じる。

 分かる、分かるわぁ。

 カラカラが可哀そうに思えてきたので、おれは自分でボールから外に飛び出した。

 急に外へ飛び出てきたおれに首を傾げるリーフを一旦スルーして、カラカラに話しかける。

 

「ギャーオ(落ち着けって)」

 

「カラぁ! (怖いよぉ!)」

 

 俺の姿を見たカラカラは余計に号泣をし始める。

 どうしよう、思ったより子どもなのかもしれない。

 怖がらせたと思われたのか、リーフに「こらっ、ファイヤー!」と怒られる始末である。

 思わずボールに戻されそうになったけど、レッドが腕を伸ばして止めてくれた。

 俺は心の中でレッドにお礼を言いつつ、懸命にカラカラから話を聞きだそうと努力してみたところ、次第に落ち着いてきたようだ。

 

「カラぁ(フジが危ないの)」

 

「ギャーオ? (どう危ないんだ?)」

 

「カラぁ! カラぁ! カラカラぁ! カラぁ! カラカラ! カラカラ! カラぁ! (実はね! 今日の朝ね! この塔の空にね! 穴が空いていたの! なんかね! それでね! タワーのポケモンがね! 大きくなってね!)」

 

「……ギャーオ? (……それどんな見た目してた?)」

 

「カラぁ! カラカラぁ! (分かんない! 分かんないけどフジが危ないよ!)」

 

 ……どうしよう。

 ……ロケット団より数段やばい。

 




原作だとカントー地方は結構離れているそうですけどね。

ぶっちゃけひとつの型が馬鹿強い奴より、型が多すぎて何してくるか分からない奴が一番の脅威っていうね。
化けの皮で攻撃防げるくせに身代わり貼れるとかダイマキラーにも程があるだろ……。

ところで現在ポケGOでは10月限定で色違いのシャドウファイヤーが出るそうですね。
私は過去にポケGOで色ファイヤーを2体捕まえて、両方とも剣盾に送って夢特性にして友人に布教したことがあります。
その後友人と何度かポケモンをやりました。
片方は孵化要因に。もう片方はシャドウも形もありません。
……真・唯一神様の布教に失敗しました。


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ぬしポケモン

 

 ウルトラホール。

 カラカラの言っている空の穴って間違いなくそれだ。

 確かヌシポケモンの身体がでかく、戦闘初めに能力上昇する原因にもなっているんだったか。

 そしてウルトラホールの影響を受けた生物は、ウルトラビーストに狙われやすくなるリスクを負う。

 でもあれはアローラ地方、ダイマックスアドベンチャーで起こる現象だろ? 

 なんでカントー地方で起こるんだ。

 サンムーンではカントー地方との繋がりは深く描写されているものの、実際にはかなり離れているとかなんとか。

 いや、考えている場合ではない。

 俺は翼を動かしてカラカラと一緒に、リーフたちに訴えかける。

 

「ファイヤーも。急にどうしたの?」

 

「……」

 

「うん、ファイヤーがこんなに慌てるってことは相当だよ」

 

 事態の深刻さが伝わったのか、リーフは俺をボールに戻す。

 女の子はというと、俺の尋常ならざる様子で察してくれたのだろう。

 カラカラをぎゅっと抱きしめる。

 

「色が違うけど、やっぱりファイヤーだよね……。こんなところで見れるなんて」

 

「フジって人は私たちの方で探すから。待ってて」

 

「……はい! お願いします!」

 

 女の子はリーフに武運の言葉を投げかけると、足早に下り階段の方角へと走っていく。

 その途中、カラカラからは力無さげに骨を振られた。

 真剣な眼差しのリーフとレッドは互いに頷きあうと、すぐにでも階段を駆け上がっていく。

 道中いた墓を頭に付けた犬のポケモンとかランプラーとかを無視して、リーフたちは階段を登っていく。

 三階、四階、そして一気に五階まで走る。

 道中ポケモンバトルを申し込んでくる祈祷師が何人もいたが、事情を説明すると快く道を譲ってくれた。

 ゲームでもこんくらい素直にバトル回避できればいいのにと思う今日この頃。

 

「ここにもいない。あと探していないのは!」

 

 少し息を切らしながら、リーフは最上階を見上げた。

 原作通りであれば確かに最上階に居る。

 でも本当に原作通りなら……。

 リーフとレッドは共に階段へと一歩踏み出す。

 ……しかし、何も起こらない。

 ガラガラの幽霊が来ない? 

 ウルトラホールといい、やっぱり原作とは掛け離れているってわけね。

 最上階に辿り着くリーフたち一行。

 

 果たしてフジ老人はそこにいた。

 真正面に鎮座するでかい墓の前で、静かに両手を合わせている。

 少し表情を崩したリーフとは正反対に、レッドはより表情を険しく……しているかは分からないけど、明らかに自身のボールに手を伸ばしたのが分かった。

 感じる。

 身体のあちこちが警報を鳴らす異様な空気。

 これは間違いなく何かがいる。

 無防備にリーフが飛び出そうとするのを、俺はボールから飛び出て翼で諫める。

 

「ファイヤー?」

 

「……」

 

「何も感じない……!」

 

 墓と墓の間から飛び出した黒い影に、俺は翼をはためかせて暴風を放つ。

 黒い影はいとも簡単に吹き飛ばされ、二度三度タイルの上を跳ねて転がった。

 紫色の身体に三日月のように引き延ばされた口。

 何よりその身体は通常の個体とは比べ物にならないほど成長していた。

 

「これ、ゲンガーなの!?」

 

「……」

 

 リーフとレッドはボールを構えた。

 立ち上がったゲンガーは挑発するかのように、長い舌を伸ばして不気味な笑う。

 目に映るほど強大なオーラをゲンガーは纏った。

 バトル場は一気に緊迫とした空気で包まれる。

 

「とりあえず、戻ってファイヤー!」

 

「ギャオ!? (なんで!?)」

 

 収納光線が放たれて俺はボールの中に強制的に戻された。

 これからだって時に、なんでボールに戻されたんだ!? 

 大体、リーフの今もっているポケモンはカビゴン以外ゲンガーと相性が悪い。

 フシギダネとピッピ、あとはさっき仲間になったミミカスがまだボックスに戻されていない状態だ。

 レッドのピカチュウとリザードンがいるとはいえ、これでゲンガーに勝つっていうのか!? 

 

「……」

 

「ううん、しばらくファイヤーに頼らない! 私は私自身の力で切り開きたい! それに、ここでまた頼ったら私だけ……私たちだけ置いて行かれる!」

 

 リーフ……。

 ぶっちゃけた話をすると、ゲンガーはかなり楽勝の相手だ。

 なんせライコウやらガルっとモンスターやら、素早さの高い奴からの攻撃は軒並み慣れている。

 本来の対戦であれば、二回シャドボを撃たれるだけで負けるファイヤーだけど、躱せるのであればこっちのものである。

 それこそ当たったとしても一撃で意識を持っていかれるとかじゃない限り大丈夫だ。

 もしくは二回行動してきて、攻撃が高くて、防御が高くて、おまけに素早さも高くて、弱点はひとつだけで、運ゲーも仕掛けられるみたいな奴とか。

 

 でも、リーフは俺に頼らないでバトルをすると答えた。

 ならその意思を汲んでやるのが、俺の役目だ。

 俺としても、このままリーフがファイヤー一辺倒に戻るのを避けたいところだからな。

 とはいえ、真に危ないと判断したら飛び出そう。

 信じろと言わんばかりにボール越しに頷くフシギソウに、俺も同じように頷きを持って返す。

 リーフはフシギソウのボールをがっしりと掴み取った。

 

「だから、ここは行くよ! フシギソウ!」

 

 スピンを加えられたボールから、フシギソウは勢いよく飛び出した。

 しっかりと四つの足で相手を見据え、「フシフシッ! (ファイヤーだけじゃないよッ)」とやる気に満ちた声を張り上げた。

 レッドは帽子の鍔を強く握り、ボールを振りかぶった。

 

「ゴォー! (行くぜッ!)」

 

 青い流星を引き連れて、飛び出したのはリザードンだった。

 天井に大きく炎を噴き上げて、ドンっと自身の両手を強く鳴らした。

 

「ゲンガー! (来い我が仲間たち!)」

 

 反対にゲンガーは両手を振りかざして声を張り上げた。

 アローラじゃないから助けなんて来ない、そんな常識はこのカントー地方では通じない。

 そいつらは天から、はたまた影から秒で来る。

 シャンデリアに似た姿をしたポケモンのシャンデラ、それと人をあの世に連れて行くと図鑑で有名なヨノワール。

 

「シャン!」

 

「ヨノ!」

 

 二匹ともゲンガーのように身体が大きくて、そして特殊なオーラを身に纏った。

 ……おいおい。

 仲間呼びはまだ分かる。

 だがよっ、呼び出されたポケモンが二匹ともヌシポケモンとか! 

 リーフとレッドが対峙するは三匹のヌシポケモン。

 

「行くよッ、フシギソウ! 宿木の種!」

 

「ゲンガー! (効くかッ!)」

 

 フシギソウの背中から種が放出される。

 ゲンガーはその種をいともたやすく回避して、お返しと言わんばかりにその瞳を輝かせた。

 フシギソウの身体がぶれる。

 

「……!」

 

 リザードンは四つ足が転びそうになるフシギソウを叩いて目覚めさせた。

 催眠術ゲンガー……良い思い出が無いんだが。

 しかしナイスファインプレイだ。

 ゲンガーの放った催眠術は、リザードンの手によって空振りに終わる。

 そう、空振りで終わったのだ。

 ゲンガーの身体から、何かの紙が弾き飛ばされた。

 

「……なにあの紙」

 

「……」

 

「……なにその空振り保険って」

 

 おい、対人戦じゃねぇんだぞ。

 誰だよ、ポケモンタワーに空振り保険を捨てた奴! 

 というか、ポケモンが木の実以外の道具をさも当たり前のように使うなよ! 

 空振りに終わった催眠術のおかげで、保険はゲンガーに更なる力を与える。

 

「ゲンガー! (この道具最高だぜ!)」

 

 ゲンガーの動きがさらに加速する。

 俺の目でも追いつくのがやっとのほどだ。

 

「眠り粉を周囲にばらまいて!」

 

 リーフの指示に従い、背中の砲を向けるフシギソウに忍び寄る怪しい影。

 その名はシャンデラ。

 シャンデラはフシギソウの身体に触れると、何かするでもなくその場を離れた。

 その奇妙な行動にリーフは怪訝な顔を浮かべながらも、気にせずにフシギソウに指示を繰り出した。

 

「フシ! (行くよッ!)」

 

 おかしい。

 あの一瞬であそこまで近づいたくせに、フシギソウに何もしなかった? 

 シャンデラだぞ? 

 オーラを纏っているのだから火炎放射とか使えば一撃で持っていけるはずなのに。

 なのにフシギソウに触れただけで終わった? 

 何かこう、直感めいた嫌な感触が俺を襲う。

 ゲンガーの空振り保険。

 ……いや、まさかな。

 

 流石のぬしと化したシャンデラでも、自分から近づいたせいだろう。

 フシギソウの眠り粉を吸い込み、ふら付いていたところを同じくヨノワールから張り手を受けてシャキッとする。

 四つ足で地面に降り立ったフシギソウの首元には、水色のスカーフが巻かれていた。

 

「フシギソウ! 種爆弾!」

 

「フシッ! ……フシ? (うん! ……あれ?)」

 

 フシギソウがいくら自身の主砲を向けようと、種爆弾は発射されない。

 その光景にぬしポケモンはゲラゲラと不気味に笑っていた。

 

「……」

 

「拘りスカーフ……って何それ! 素早さが上がるだけでひとつの技しか使えなくなるとか誰が使うのそんなゴミ!」

 

 リーフが感情を剥き出しにして叫ぶ。

 子どものころは確かにゴミだと思ったけどな。

 今は無いといけない身体になってしまっているのが何とも。

 一周回ってありえなくなる。

 というかそうじゃなくて、拘りトリックとか。

 三体二でやって良い戦術じゃないだろ、それ。

 そしてヨノワールが手を広げると、リザードンは空に居られなくなり打ち落とされる。

 重力が強くなった影響だろう。

 こいつら……。

 もし三対一でこの戦法やられたら間違いなくキレてる。

 

「……」

 

「そうだよね。戻れ、フシギソウ!」

 

 リーフからのボール放たれた収納光線はフシギソウに命中する。

 交代をすれば拘りは一旦解除される。

 俺が知る限りフシギソウはこいつらに有効打とか持っていないけど。

 でもピッピはメテオビームを使えるから、それで戦えるはずだ。

 何ならカビゴンを出してもいいかもしれない。

 そおうして収納光線はフシギソウを包み込み、バチンッ! と綺麗に弾かれた。

 ……はっ? 

 

「嘘でしょ。戻って! 戻ってよフシギソウ!」

 

 いくらやってもフシギソウはボールに戻れない。

 何度やっても弾かれ続ける。

 

「フシ! フシフシッ! (戻れない! どうして戻れないの!)」

 

 黒い眼差しを使われた? 

 いや、そんなはずはない。

 黒い眼差しっぽい攻撃を受けていれば俺が気づける。

 じゃあなんでフシギソウは交代ができない! 

 もしかして影踏みか? 

 なら、どこかにソーナンスかゴチルゼルがいるはず。

 だってゲンガーは当然だけどメガシンカしていないし。

 というか瞑想しているし。

 いや、そんなことはどうでも……良くないけど。

 かなりまずい状況なのはそうだけど、それよりもあっちがかなりまずい。

 

「シャン!」

 

 あのシャンデラ、なんか小さくなっているんだが? 

 





初手ゲンガーから空振り保険催眠術。
シャンデラからは拘りトリック+小さくなる。
ヨノワールは重力を使うことでゲンガーの催眠術の命中を上げる。

おまけに拘り解除のために交代しようとしてもできない状態。
そこを迷っているうちにシャンデラは小さくなるを使い、ゲンガーは瞑想を使ってくる。
さらにぬしポケなので、全員どこかしら能力が二段階上昇しています。
交代できない理由については、シャンデラ、第五世代、夢特性と検索すれば判明します。

ちなみにどこぞのガルっとモンスターはトリックが効きません。
重力なんて使われようものなら、命中100%の怯み率51%の全体岩技が飛んできます。
多分、一番解禁しちゃいけないのはこいつだと思う。


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ウルトラホール

 

 どうする。

 流石にこれをずっと待っていたら終わるぞ。

 というか、頼むからゴーストタイプが小さくなるを覚えないで欲しい! 

 

 ヨノワールはレッドのリザードンが何とかしている。

 あっちは大丈夫だろう。

 ピカチュウいるし。

 問題のゲンガーは瞑想を終わらせたのだろうか。

 またも余裕な笑みを浮かべ、唐突にリーフに背を向けた。

 

「ゲンガー! (楽しいな!)」

 

 ゲンガーの視線の先に居るのはフジ老人だった。

 

「行かせない! どいて!」

 

 リーフはフシギソウを向かわせようとするが、シャンデラが立ち塞がった。

 こいつも嘲笑うようにシャドーボールを撃ってくる。

 フジ老人はいつの間にか祈るのを止めていた。

 いつこのバトルに気づいたのかは分からない。

 分かるのは目を吊り上げたゲンガーを前にして、足を震わせていることだ。

 

「ゲンゲロ! (食らえッ!)」

 

「止めてー!」

 

 ゲンガーのヘドロ爆弾。

 ここで今出られるのは俺だけだ! 

 ボールから出ようとする俺の視線を前に、黄色い稲妻が走った。

 

「……」

 

「ピッカー! (こっちだ!)」

 

 ピカチュウだ。

 ピカチュウは自身の尻尾を鋼色に染め上げ、ゲンガーの腹部を強打する。

 ヘドロ爆弾発動直前の攻撃だ。

 ゲンガーの攻撃は発動できず、数メートル吹っ飛んだ。

 ゲンガーは腹部を払い、好敵手を見定めている。

 

「ゲン! (お前楽しいな……)」

 

「ピッカチュウ! (バトルするなら俺とヤろうぜ!)」

 

 間に合ったのか? 

 でも、あっちにはヨノワールが……っていない? 

 いつの間にか転がっていたモンスターボールからヨノワールが飛び出してきた。

 

「ヨノ……」

 

 レッドが手にしているのはモンスターボールだ。

 それも何も入っていない、空のモンスターボールだ。

 ……あっ、そうか! 

 こいつら野性のポケモンじゃん! 

 空のモンスターボールに入るじゃん! 

 目的が捕獲でない以上、モンスターボールを永久的に投げれば捕まるか倒せるかするじゃん! 

 レッドさん、マジで発想力えぐいなー……。

 

「ピッカー! ピッカッチュー! (こっちには投げるなよ? 美味しいバトルがまずくなる!)」

 

「……」

 

 ヒソカ味を感じるんだけど、あのピカチュウ。

 いつか個体値の高い弱いポケモンに対してどんどん実ってく♠ とか言わないよね? 

 流し目でポケモンに対して点数とか付けないよね? 

 そういうの廃人だけで間に合っているから嫌だよ? 

 

「……」

 

 助けに行こうとするヨノワールに、またまたレッドはモンスターボールを投げる。

 払いのけようとすればリザードンが。

 リザードンを倒そうとすればモンスターボールが。

 なんだろ、ミュウツーボールってこう考えると本当に厄介なんだなって。

 

「……」

 

「その手、私も使う!」

 

 フシギソウを繰り出すレッドと同じく、リーフもピッピとミミカスを繰り出した。

 流石にモンスターボールは投げない。

 

「フシギソウは後ろに隠れていて! それからやっぱり出てきてファイヤー!」

 

 リーフの投げたボールから続いて俺も登場。

 重力に押しつぶされて、そのまま俺は地に付した。

 全員で戦うとかアニメだと良くやるよな! 

 俺はピッピとミミカスの間に割って入り、シャンデラのシャドーボールを暴風で弾き飛ばす。

 

「ファイヤーはフジさんを守ってあげて! 絶対、手を出さないで!」

 

 あっはい。

 俺はゆらり浮遊するシャンデラを横切り、フジ老人の下へと低空飛行で到着する。

 

「これは……、準伝説ポケモン、ファイヤー……。それも色違いが、こんな近くに」

 

 感嘆な声を漏らすフジ老人に翼を伸ばし、バトルの余波を防いでやる。

 バトルの方だが一番先に決着が付きそうなのはゲンガーとピカチュウだ。

 ピカチュウはバチバチとアクセルを吹かし、最速でゲンガーに攻撃を当てる。

 その一撃は正しく神にも届かんとする速さ。

 纏うオーラはゲンガーを守るようにして吹き上がる。

 防御に回しているのだろうが、それでも崩される。

 

「ゲンー! ゲンガー!? (速いし重い! なんなんだこのピカチュウ!?)」

 

「ピカピカ! ピッカチュピカピカァ!! (どうしたどうした! もっとその力を引き出してみろよ!!)」

 

 オーラを纏い、空振り保険を切ったゲンガーが、それでもなお追いつけないとか、このピカチュウマジでピカチュウじゃない。

 やっぱりあれとは戦いたくない。

 

「ゲン、ガー! (調子に、乗るなー!)」

 

 ゲンガーを中点としてドーム状の虹光が広がっていく。

 あれはマジカルシャインだろう。

 バチバチしたアクセルを踏み続けるピカチュウにもあれなら当たる。

 フジ老人に影響が出ないように俺は翼で守る。

 幸い、ゲンガーの攻撃はどれも俺には効果今一つのようだし。

 

「ピッカ! ピカ! ピカピカピカピカピカ!! (良いね良いね! 最っ高じゃん! もっともっとお互いヒートアップしていくぜ!!)」

 

 ピカチュウの足が超高速に動く。

 すると何もないところから、海の如く水が波のように押し寄せる。

 ピカチュウは電気で作ったサーフボードでその上に飛び乗った。

 波乗りか? 

 違うな。

 俺の知っている波乗りは、波にまで電流が伝っていない。

 ざぶざぶと水音を奏でたその一撃は、やはりピカチュウが放っているとは思えないほど圧倒的で。

 俺にはあのピカチュウが準伝説のポケモンに見えた。

 

「何この音……って、なにあの波!?」

 

「……」

 

「あれピカチュウが引き起こしているの!? こっちにまで来る!」

 

 ピカチュウの一撃はゲンガーだけじゃなく、ヨノワールとシャンデラをも押し流す。

 そして当然リーフとレッド、俺含めたそのポケモンたちにも牙を剥いて……。

 ピカチュウの出した波は、綺麗に味方だけを避けて通り過ぎて行った。

 ……うそん。

 波乗りは自分以外に効果のある技じゃ……。

 

 押し流されたシャンデラはまだ倒れていない。

 ゆらりと何とか浮遊して起き上がってくる。

 ただ唯一、ゲンガーとヨノワールは目を回していた。

 戦闘不能だ。

 

 それに気づいたシャンデラは目の色を変える。

 正しく俺たちを嘲笑うような笑みが消えていた。

 代わりに浮かんだのは怯えとも取れる狼狽した表情だ。

 こいつらが怯えるって、何が起きているんだ? 

 どうやら本気で戦う気のようだ。

 

「ピッカッチュー! (もっと強くなってからまた戦おうぜ!)」

 

 ピカチュウはゲンガーの身体をポフポフと叩く。

 シャンデラにも、本能を剥き出しするかの如く戦闘態勢へと移り、

 

「ピカ! (止めた!)」

 

 唐突に止めて俺の方を向いた。

 さっきのあれを見せられたばかりだから、全身の鳥肌が逆立つ勢いなんだけど。

 こっち見るの、止めてくれないかな? 

 

「ピカ。ピッカ? (早く離れろよ。そこは危ないぜ?)」

 

「ギャーオ? (危ないって?)」

 

「ピッカチュ? ピーカピカ(気づかないのか? 後ろにもう一体いんだよ)」

 

 おいおい、ピカ様。

 冗談はやめてくれよ。

 これでさらに後ろにもう一体って、何がいるんだよ。

 ピカチュウの助言に俺はゆっくりと後ろを振り向いた。

 果たしてそこにはピカチュウの言う通り、空に浮かぶポケモンがいた。

 

 ……えっ、ムウマ? 

 あの特徴的な髪に赤いネックレス。

 間違いなくムウマだ。

 ムウマージじゃなくて、ムウマに怯えていたのか? 

 ゲンガーとシャンデラ、それにヨノワールが? 

 ムウマージでも勝てると思うけどなー、ぬし化していたなら。

 

 ムウマは倒れたヨノワールとゲンガー、それからまだリーフと戦っているシャンデラを睥睨する。

 小さく瞼を落として頷くと、タワーの壁を透過して飛び去って行った。

 

 ……何だったんだろうか。

 普通のムウマにしては妙に大きかったし、なんかジト目をしていたけど。

 いや、それよりもまだ問題は……。

 

「シャン~!」

 

 俺はシャンデラへと目を向けた。

 そこではもう、勝負がついていたようだ。

 電気が全身に回っているからか、動きの悪いシャンデラ。

 最初こそ遊びを捨てた様子だったのに。

 ムウマが身体をすり抜けたのを見るや否や、こちらは一目散にゲンガーとヨノワールを引き連れて逃げて行った。

 そんなに怖いのかよ、ムウマが。

 ウルトラホールだからてっきりウルトラビーストが出ているのかと思ったけど……。

 そうじゃないみたいだな。

 リーフはピッピとミミッキュ、フシギソウに労いの言葉を掛けてボールに戻す。

 

「ファイヤーも、ありがとね!」

 

 それから俺もボールの中に戻していった。

 バトルの余韻も少ししないうちに、リーフはがっくりと肩を落とす。

 

「はぁー、結局一匹も倒せなかった」

 

「……」

 

「分かってるよ」

 

 いじけたようにレッドの言葉に応えるリーフ。

 何が分かっているのか、俺にはさっぱり分からないんだけど。

 そんな二人にフジ老人が声を掛ける。

 

「助けてくださってありがとう。お二方もお墓参りですか?」

 

 フジ老人の言葉にリーフは「実は……」と話しを始める。

 カラカラのこと、女の子のこと、それから俺が慌てだして何かあると考えたこと。

 フジ老人は話を聞いているうちに「フム」と頷いた。

 

「なるほど、それはご迷惑をおかけしました。どうやらうちへ戻った方が良さそうです。こちらからも話したいことがあります」

 

「話したいこと?」

 

「はい。先ほどのポケモンがオーラを纏う現象、私には心当たりがあります」

 

  *  *  *

 

 すっかり捕獲の気分じゃなくなったリーフはフジ老人を連れて、ポケモンタワーを降りていく。

 レッドさんは相変わらずポケモンたちを捕まえていたけど。

 タワーを出た後、リーフ一行はフジ老人の案内の下ポケモンハウスへと向かって行く。

 フジ老人が「ただいま」と扉に手を掛けると、中からカラカラが飛び出してフジ老人へと飛びついた。

 遅れてニドランオスやメス、ポッポにマダツボミといった小さなポケモンたちが出迎えた。

 フジ老人はポケモンたちの頭を優しく撫でると、奥にいる女の子に「心配を掛けた」と言葉を送っていた。

 

「ささっ、どうぞ」

 

 フジ老人に通されて、リーフとレッドはテーブルに付いた。

 お茶を三人分入れてくれた女の子にお礼を言い、フジ老人は話し始める。

 

「あれはぬしポケモンと呼ばれる、主にアローラ地方で起こる現象です。曰はく、空に穴が開く現象、ウルトラホール。これが起きた時に流れるエネルギーが、ポケモンに影響を与えるのだとか」

 

「その影響を受けたポケモンがぬしポケモン?」

 

 フジ老人は首肯する。

 そうしてフジ老人はウルトラホールに付いて説明し始めた。

 

 正確にはネクロズマの失った光エネルギーだったか。

 ウルトラネクロズマと戦ったことあるから言えるけど、あれはマジで鬼畜だった。

 ウルトラホールにねぇ。

 今じゃ各地方の伝説、準伝説ポケモンに出会えるって要素の方が強いんだけどさ。

 あと色違いのポケモンにめっちゃ出会いやすいって奴ね。

 サンムーンのころは別世界に行ける程度しか用途なかったんだよね。

 改めてコスモッグを入手しようと久しぶりに開いたら、手持ちにソルガレオ共が居なくていけなかったっていうね。

 っと、フジ老人の話を聞いていたらつい懐かしい気持ちが溢れてくる。

 今はフジ老人の話に集中しないと。

 リーフは質問する。

 

「それがなんで、このカントー地方で起こったの?」

 

 そう、一番の疑問点はそのウルトラホールがなぜカントー地方で起こったのかってことだ。

 はっきり言ってまるで関係が無い。

 いくらカントー地方が魔改造されまくっているからって、流石にウルトラホールまで起こるのはおかしいと思う。

 

 フジ老人は瞬きをする。

 お茶を啜り、ふぅと息を吐いた。

 

「ウルトラホールは別の世界へと繋がっている。ここではない別の世界。例えば、その先にはもうひとつのカントー地方も存在している」

 

「もうひとつのカントー地方……」

 

「もしかすればそこには、別のリーフちゃんがいて、別のレッド君がいることだってある。当然、ファイヤーやそのほかの準伝説ポケモンもいるだろう」

 

「別の世界、同じで別の地方……。そこには別世界の私がいるかもしれない」

 

 反芻するかのようにリーフは呟く。

 ウルトラホールの別の世界。

 公式でメガシンカのある世界と、メガシンカの無い世界は別の世界線だとされている。

 どこかで聞いた話だが、メガシンカの無い世界線はフェアリータイプが存在していないらしい。

 だからフェアリータイプを持っていないアローラの守り神が存在していて。

 その世界ではウルトラビーストに勝つことができず、敗北したとかなんとか。

 それがアクジキングのいる場所とかなんとか。

 

 当然、FRLGでリーフが主人公になる世界線もあるだろう。

 漫画版でレッドとリーフ、二人が存在している世界線もあるだろう。

 もしかすればリーフが、もっと強かな強さを見せる世界線もあるだろう。

 なんならそもそもリーフが生まれてこない世界線もあるだろう。

 ウルトラホールは、そんな無数に枝分かれしている世界線に繋がっている。

 フジ老人はゆっくりと言葉を紡ぐ。

 

「そしてそのウルトラホールに目を付けたのが彼ら、ロケット団だ」

 





実のところ、元々道連れをピカチュウに使おうとしていました。
ピカチュウのピカピカサンダーをシャンデラが庇い、道連れで相打ちにするというルートが。
ただ書いているうちにそれが出来る立ち位置で無くなってしまいました。
すごい未練です。
せっかく回避率を上げたのに。

主人公は剣盾までプレイしていますが、案外知らないことも多いです。
第五世代のシャンデラの夢特性が影踏みとか、相棒ピカチュウとか。

相棒ピカチュウ:
種族値:HP 45 A 80 B 50 C 75 D 60 S 120

バチバチアクセル:威力50、優先度2、必ず急所に当たる。
ざぶざぶサーフ:威力90、相手全体が対象のだくりゅう仕様、30%で麻痺。
ピカピカサンダー:懐き度に応じて威力が変わる。最大148の必中技。

さらにこのピカチュウ、電気玉を持っています。

この状態のバチバチアクセルは、普通に火力指数3万を超えるそうです。
ファイヤーがどんだけ怯えていたのかよく分かるかと思います。



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ファイヤーがいないと……

 

 ロケット団がウルトラホールに目を付けた? 

 待った待った! 

 

「それってどういう……?」

 

 俺の言いたい言葉をリーフが代弁してくれた。

 

「ロケット団は別世界の伝説ポケモンに目を付けた。世界を渡ればその数だけ伝説のポケモンがいる」

 

 ……俺は軽くショックを受けていた。

 その光景、ポケモンホームで見たことがある。

 ボックスいっぱいに敷き詰められたホウオウの光景を。

 ロケット団はそれをしようとしているってことか。

 リーフは声に怒気を乗せる。

 

「そんなの……」

 

「あぁ、容認できることではない。ひとつの組織が強大な力を得ると世界の均衡が崩れる」

 

 グラードン一匹に対してカイオーガ三匹、みたいなことになるわけだ。

 どうしようもない感情が全身に流れる。

 だって同じことを俺もやっていたから。

 ガラル地方でカイオーガ六匹のキャンプとか。

 ゲームでは何気なくやっていたけど、考えてみたらあれ結構やばいことをしているよな。

 ……でも、ポケモンGOの世界では割と似たような光景を見るような。

 リーフはスカートのすそを強く握りしめる。

 

「元々この世界にも伝説とされるポケモンは多い。海や虹の神、大地や海を作った者とその均衡を宇宙から見守るもの、時間や空間、別世界のシンオウ様。理想と真実、そしてその穴を埋めるものに、生命、破壊、そして秩序を定める者。そんな伝説のポケモン相手では、最強のポケモンをコンセプトに生み出したあ奴ですら力不足だった」

 

 申し訳ないが、ミュウツーは伝説のポケモンの中だと弱い部類だと思う。

 ホウオウ、ルギア、カイオーガやディアルガにイベルタルを見ていると。

 あれらと比べると、最強をコンセプトに生み出されたにしてはどうも見劣りする。

 何なら十字の爪を食い込ませ、火山を這いずっていたあいつよりも弱い。

 エスパータイプが強いのは初代くらいなものである。

 リーフは小さく呟く。

 

「ウルトラホール……」

 

「私は今のロケット団がどの程度の規模になっているか想像つきません。もしかしたらまだ、伝説のポケモンを捕まえられていない可能性だってあるでしょう。ですがもし、この先ロケット団に会うことがあれば気を付けなさい」

 

 フジ老人は優しく諭すように忠告をしてくれる。

 もしかしたらロケット団員たちが当たり前のように、伝説のポケモンを使ってくるかもしれないと。

 ファイヤーじゃ誰にも勝てないんだけど。

 せめて準伝説なら勝てるんだけど……。

 勝てるとしてもザシアン、ザマゼンタくらいなものだ。

 フジ老人は「あともう少し待ってくだされ」とリーフたちに言って、机に手を付いて立ち上がる。

 しばらくして小さな木箱を持って戻ってくる。

 

「これを持っておくと良いでしょう。ポケモンを大切に出来るあなたたちなら」

 

 フジ老人から渡された木箱をリーフとレッドは開けた。

 中身をリーフが手に取っている。

 握られているのは……キーストーンだ。

 リーフがメガシンカを使えるようになったってことか!? 

 レッドが貰ったのも同じ物のようで、リーフと似た仕草で握っている。

 リーフはキーストーンをまじまじと見る。

 

「これって確か、ファイヤーと戦ったトレーナーが持っていた石」

 

「キーストーンとメガストーン。ポケモンとトレーナーの持つ二つの石が共鳴し合うことで、ポケモンは更なるシンカを遂げる。カロス地方の伝承、メガシンカ」

 

「メガシンカって確か……」

 

 その伝承、さっき普通にトレーナーたちが使ってきましたけどね。

 バーゲンセール並みの叩き売りされているメガシンカえぇ……。

 その後、リーフとレッドはフジ老人から説明を受ける。

 最初にメガシンカ現象が起こったのはカロス地方らしいんだけど、ダイマックスと違ってキーストーンとメガストーン、あと絆さえあればどこでもメガシンカできるからね。

 というか、カロス地方で発見されたわりに一番最初にメガシンカしたのはレックウザらしいんだよね。

 わざわざカロスに行ってメガシンカしたのだろうか……。

 あと絆が必要とか言われている割に、ゲーム的にはそんなもの無くてもメガシンカできるが答えである。

 一通り説明を受けたリーフとレッドは、フジ老人にお礼を言って外へ出る。

 フジ老人も二人の旅に祝福を祈ってくれたのだった。

 

「……」

 

「今日はタマムシシティまで行くの? じゃあ私も」

 

「……」

 

「それね、今考えているんだ」

 

 リーフとレッドは、タマムシシティへの道のり、8番道路を進んでいく。

 キーストーンを太陽に掲げ、リーフは意気消沈した声で話す。

 

「レッドはさ、ヨノワールとゲンガーに勝ったじゃん。なのに私はシャンデラ一匹、倒せなかった」

 

「……」

 

「ポケモンのおかげって、前にもそれ別の奴から聞いたわ」

 

 メルクだったか。

 自分がすごいのではなく、ポケモンがすごいとか言ってきた幼女。

 バンギムドーとかめったメタにメタってきておいて、どの口が案件だよなあれ。

 あいつそのうちトノグドラとか使ってくると思うぞ、多分。

 リーフはキーストーンを握り締め、木箱の中に戻した。

 

「ファイヤーだけじゃ勝てない。だから私は強くなりたい。でもファイヤーを使わないと勝てない」

 

「……」

 

「そう、ジレンマ。あのバトルから、私はなんの経験を得られたのかなって」

 

 リーフの言葉をレッドは何も言わずに受け取る。

 俺は少なくとも経験を得られたけどな。

 ピカチュウとは戦うなっていう経験が。

 リーフの言葉に首を傾げていたレッドは、突如として立ち止まる。

 どうしたのと言葉を掛けるリーフに、レッドはベルトに付けたボールを突き出した。

 

「……」

 

「バトル? 私とレッドが?」

 

「……」

 

「無理無理、勝てないよ。やる前から分かり切っている」

 

「……」

 

「そこまで言うなら……」

 

 何も言ってないと思うけど。

 リーフとレッドは少し離れてお互いにボールを構える。

 そうして始まったバトルはやはりというかなんというか、レッドの一方的な試合展開だった。

 リザードンがフシギソウとピッピを押しのけて、カビゴンは起きる間もなく戦闘不能になって。

 レッドのピカチュウやフシギソウが出る場面は何一つない。

 リーフは俺のボールをぎゅっと握る。

 歯を噛み締めてこらえる姿は痛々しくて見ていられない。

 目元を震わせて、今にも泣きそうで。

 リーフは俺のボールを投げることなく戻した。

 レッドはリザードンの頭を撫でてからボールに戻す。

 

「……」

 

「何が言いたいの?」

 

「……」

 

「バトルでそれが言いたかったってわけ?」

 

 リーフはひとつ大きく息を吸い込んだ。

 はぁーと息を吐いて、瞼をぐっと強く閉じた。

 

「はいはい、どうせ私と私のポケモンたちは弱いよ! 私の切り札はファイヤーだけだよ!」

 

 そう叫んでリーフはレッドを置いて走り出す。

 わき目も振り返らずにタマムシシティへと繋がる地下通路を目指して。

 

 走る。走る。走る。

 どうしようもない気持ちを振り払うかのように。

 地下通路ではリーフの足音が無機質な壁に当たって反響していた。

 

 さっきの発言から考えるのに、レッドはリーフとそのポケモンたちを侮辱したってことか? 

 まさか、あのレッドが? 

 ゲーム、アニメ、各種メディア媒体を見るにレッドはそういうことを言いそうにない。

 この世界のレッドは違うってことか? 

 あのピカチュウを見ているとそんな感じしないけどな。

 レッドはピカチュウの言葉通りゲンガーに空のボールを投げなかった。

 ポケモンの言葉が通じていないはずにも関わらずだ。

 それほどポケモンと通じ合うことの出来ているレッドが、リーフのポケモンを侮辱するだろうか? 

 分からない。

 分からないけど、俺に出来ることは多分何もない。

 リーフを信じることだけしよう。

 

 地下通路を抜けた先では、黒く染まった曇り空が広がっていた。

 ポツポツ、と雨のしずくが落ちてくる。

 雨音は次第にポタポタと変わっていき、終いにはザァーザァー振りへとなっていく。

 その雨の中をリーフは傘も差さずに走る。

 このままでは風邪をひくかもしれないと判断した俺は、ボールから飛び出てリーフの頭上を飛ぶ。

 リーフは一度、俺を見たっきり何も言わずに走り続けた。

 

 リーフはタマムシシティのポケモンセンターに付いた。

 雨は止みそうにない。

 リーフは俺たちを回復してもらうと、昼食を取る。

 食事中、リーフとフシギソウたちは一言も喋ることがなかった。

 

 *  *  *

 

 時計を見て15時くらいであろうか。

 土砂降りだった雨は少しづつ落ち着いてきたのを確認したリーフは、何も言わずに立ち上がり外へ出た。

 ゲームセンターにデパート、食堂やらを無視して。

 傘を差して向かう先は、どうやらタマムシジムのようだ。

 フシギソウのボールを握り締め、なんかジムを覗いているおっさんを無視してジムの扉を潜った。

 

 世界が変わる。

 タマムシジムの内装は、一言でいえば小さなポケモンたちが住まう明るく和やかな森だ。

 植物で作られた緑のアーチ、ジムの中なのに天へと伸びる木々。

 ガーデニングとか詳しくないから分からないんだけど、見ていて正直あんまり面白くない場所だ。

 ポケモン廃人、RTAとかしているとゆっくり楽しむことが難しくなるからね。

 こういう感想になるのは仕方ない。

 普段のリーフなら目を奪われそうな光景なのだが、今のリーフにはそんな余裕がないようだ。

 

「ジムに挑みに来たよ! 誰かいないの!」

 

 返事はなかった。

 帰ってくるのは温かな風くらいなものである。

 

「誰かいないの!」

 

 やはり返事はない。

 リーフは少し足音を強めにジムを歩き回っていると、すぅすぅという寝息が聞こえてくる。

 音のある方向に歩いてみれば、大きな木に着物の女性が寄り掛かるように寝ていた。

 濡れ羽色のショートヘア―に紅のカチューシャ。

 それとこのマイペースな感じ、間違いなくジムリーダーのエリカだ。

 

「あの」

 

 リーフはエリカの前でしゃがみこみ、その肩を優しく揺する。

 二回、三回揺すったところでエリカは眠り眼を擦りながら、瞼を開いた。

 

「あらあら、誰でしょう?」

 

「リーフ、ジムに挑戦するために来た」

 

「まぁまぁ、試合の申し込みですの?」

 

 聞いているだけでも調子が崩されそうな、モモンの実のよりも甘い猫撫で声。

 エリカはひとつ大きな欠伸をして、着物に付いた土を払うことなく立ち上がる。

 ジム前なのにこうもマイペースをされると、こっちまで思わず欠伸が出そうになりそうだ。

 いや、寝ないけどな? 

 

「リーフ……、あらあらそうあなたが。ファイヤー使いのリーフですのね」

 

「……ファイヤーは使わない。ファイヤーが居なくても、私は勝てるんだから!」

 

「何か訳ありですのね? でもわたくし、バトルで手は抜きませんわ」

 

 エリカは着物の裾からモンスターボールを取り出した。

 そのまま投げようとするエリカに、リーフは「ちょっと待って!」と声を張り上げた。

 

「あらあらなんですの? ……まぁまぁ、ここはバトルフィールドではありませんでしたわ」

 

 ポヤポヤと今にも寝てしまいそうなエリカに、リーフは「調子が崩れる」とため息をつく。

 今度こそエリカとリーフはバトルフィールドに赴く。

 芝生に囲まれた土のフィールド。

 

「もう一度仰いますが、わたくしバトルでは手を抜けませんの」

 

「分かってる!」

 

 リーフの言葉を皮切りにエリカから放たれる雰囲気が変化する。

 さっきまでのお日様ポカポカって感じの空気から、一気に緊張感の流れる冷たい空気に。

 リーフもそれを感じ取っているのか、フシギソウを握るボールに力が入っていた。

 

「行きますわよ、リーフィア!」

 

「行って! フシギソウ!」

 

 お互いのボールが弾け、リーフィアとフシギソウが一斉にフィールドに登場する。

 リーフィア? 

 意外……ではないんだけど、今までのジムリーダーって先発は赤緑で出す奴が出てきていたから少し驚いた。

 っと、バトルが始まる。

 俺が知っている限り、フシギソウの技は確か宿木の種、ツルの鞭、種爆弾、眠り粉なわけだけど……。

 あれ、有効打何ひとつなくね? 

 

「リーフィア、リーフブレード!」

 

「フシギソウ、ツルの鞭!」

 

 指示を受けていち早く駆けだしたのはリーフィアだ。

 

「フシッ! (当たれッ!)」

 

「リーファ! (遅い!)」

 

 フシギソウは当てずっぽうにツルの鞭を振り回している。

 しかしそんな物が当然、ジムリーダーのポケモンに当たるはずない。

 リーフィアのリーフブレードは、フシギソウのツルの鞭すら斬り伏せて叩き込まれる。

 救いなのはリーフィアの攻撃は草、毒タイプのフシギソウにはあまり通らないってところか。

 

「リーフィア、瞑想ですわ!」

 

「今がチャンス! フシギソウ、宿木の種!」

 

 リーフィアが瞑想? 

 っておい、草タイプに宿木の種は! 

 フシギソウは自身の蕾を向け、リーフィアに宿木の種を放つ。

 しかし植え付けられた宿木は、芽生えることなく弾かれた。

 ポケモンへの指示を止めたリーフに、エリカが解説をする。

 

「あらあら、草タイプに宿木の種は効きませんわ」

 

「じゃ、じゃあ眠り粉!」

 

「あなた、本当にここまでバッジを集めてきた方かしら? 草タイプには毒の粉や眠り粉、キノコの胞子といった粉の技も無効化致しますの」

 

 一瞬、毒の粉なら何とかなりそうとか考えた俺も馬鹿だったわ。

 そう、早く交換しないと手遅れになる。

 でもリーフは交換をしない。

 

「種爆弾!」

 

「リーフィア、躱しながら瞑想ですわ」

 

 フシギソウは何度も何度も種爆弾を放つが、リーフィアの軽やかな身のこなしの前では無力だった。

 リーフィアは冷静に心を鎮め続けている。

 交換! 

 交換しないとあれではフシギソウが可哀そうなんだけど! 

 突如としてエリカは両手を上に広げる。

 

「リーフィア、日本晴れでございますわ!」

 

 リーフィアが天に向かって「リーフェ! (天よ晴れろ!)」と吠えれば、フィールドは途端に強い日差しに包まれた。

 

「そしてバトンタッチ」

 

 リーフィアは流れるようにバトンを投げ、自動でモンスターボールへと戻っていく。

 クルクルと自由落下するバトンを、受け取るのはエリカの二匹目のポケモン。

 

「行きますわよ、フシギバナ!」

 

 ボールが弾けて現れたのはフシギソウの進化系フシギバナ……。

 フシギバナ!? 

 そういえば確かにポケモンワールドトーナメント、通称PWTで持ってたわ……。

 いや、そうじゃない。

 瞑想を積んだリーフィアのバトンタッチで現れたってことは。

 天井に放り投げられたバトンを、フシギバナはキャッチする。

 その瞬間、フシギバナからオーラが吹き荒れる。

 リーフィアの能力変化を受け継いだのだ。

 

「行きますわよ、ヘドロ爆弾!」

 

「種爆弾!」

 

 力の差とはこういうことを指すのだろう。

 

「フシッ……(あっ……)」

 

「バァナ!! (進化して出直してこい!!)」

 

 フシギソウの種爆弾はいとも簡単に、フシギバナのヘドロ爆弾に飲み込まれた。

 そして無防備なフシギソウへと突き刺さった。

 立ち煙が晴れた先、フシギソウは自身の腹を地面に付いて目を回していた。

 

「フシギソウ!」

 

 リーフの悲痛な言葉が木霊して、悔しそうにフシギソウをボールに戻した。

 ……これは単なる知識不足だ。

 分かっていればこんな光景、広がっていない。

 

「クッ、行ってピッピ! マジカルシャイン!」

 

「フシギバナ、ヘドロ爆弾ですわ」

 

 ピッピの放つマジカルシャインは、しかしフシギバナのヘドロ爆弾によってガラスのように砕け散る。

 フシギバナのヘドロ爆弾は勢いを止めることなく突き進み、結果広がったのはフシギソウの二の舞だった。

 リーフはピッピを戻す。

 悔しさを隠しきれない様子で歯を噛み締める。

 俺の入ったボールに手を伸ばし、遂には投げようとしたのでその前に俺は飛び出した。

 無論、バトルに参加しないためである。

 

「ファイヤー! 行って!」

 

 叫ぶようなリーフの言葉に俺は首を振る。

 ここはもう不戦勝になってもしょうがない気持ちでいっぱいで。

 それでもリーフのために。

 

「行ってよファイヤー!」

 

「ギャーオ(リーフのためにならない)」

 

「行ってってば!!」

 

 その目に涙を浮かべてリーフは絶叫する。

 ……それでも、俺は出ない! 

 アイリスのドリュウズ、俺は今心底お前を尊敬する! 

 こんな状態でも、俺の心はすんごい揺れまくっている。

 女の子を泣かせるとかこのままもう出て行って戦った方が良いんじゃないかな? って思う程度には揺れまくっているから。

 

「あらあら、試合は一時中断にしましょう」

 

「……もう良いよッ! 弱虫ファイヤー! 行ってミミッキュ」

 

 リーフは俺をボールに戻すと、続く三匹目であるミミカスを投げる。

 まぁ、その結末はあっけないものなのだが。

 一ターン動けると言っても所詮は一ターン。

 今のミミッキュにフシギバナをどうにかする手段なんて無いのである。

 ミミッキュは簡単に目を回し、リーフの負けがエリカから申告される。

 

 こうしてリーフはまたも、ジムリーダーに惨敗を記した。

 





リーフのフシギダネは最近、フシギソウになったばかりです。
つまりレベルが最低でも16しかないわけです。
ピッピはそれよりも低い。
ミミカスはそれより少し強い程度です。
カビゴンはポケモンの笛が無いので寝ています。

これで四番目のジムリーダーに勝てるとでも?


一度これ感想にも書いたことがありますが、私はポケモンのGTSで仮想通貨なるものがあると聞いてやってみました。
ともっこを犠牲に、トリミアンキングダムカットやクイーンカットをゲット。
目先の色違い原種ファイヤーに釣られて、トリミアンやオーガポンと交換しました。
まぁ、それで手に入った色違いファイヤーは改造で。
これを流すわけにもいかず逃がし、結果的に言えばオーガポンをこちらが損する形となりました。

おのれリアルロケット団業者め!!


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強いファイヤーなんて今はいらない!

 

 終わってみればやはり一方的だった。

 膝をつくリーフを前に、エリカはフシギバナをボールに戻し、裾の中へ戻した。

 

「ファイヤー以外はみんな力不足ですのね」

 

 膝をついたリーフの身体がぴくりと動く。

 その一言は今のリーフにはナイフよりも鋭い刃だろうに。

 エリカはなんてことも無くぴしゃりと言い切って見せた。

 

「いきなりファイヤーに頼らない戦い方をしても簡単に強くなれるものではありませんわ」

 

「分かってる……」

 

「いいえ、分かっておりませんわ。分かっていないから、あなたにはファイヤーの言葉が届いておりませんし、心の奥底でまだ頼ろうとしている」

 

 エリカはなおも鋭く言い放つ。

 リーフはもう、完全に打ちのめされて何も言えないでいた。

 リーフだけじゃない。

 ボールに居るフシギソウ、ピッピ、ミミカ……もといミミッキュも何も言わずに悔しそうな顔をして見せた。

 

「……」

 

「わたくしはいつでも挑戦に応じますわ。もし強くなりたいのなら……、ファイヤーを手放しなさい」

 

 エリカの言葉にリーフが条件反射で顔を上げる。

 それよりも多分、一番驚いたのは俺かもしれない。

 俺がリーフの手持ちから外れたら……。

 外れたら……。

 リーフの手持ちから強い奴が居なくなる。

 そこまで考えた時、エリカの言葉に頷きかけた俺がいるのに気づいた。

 

「ファイヤーを手放すって!」

 

「無論、絆を引き裂こうというわけではございませんの。あなたも、そしてファイヤーも。メガシンカできそうなくらい、お互いを想いあっているのは十分伝わりましたわ」

 

「じゃあ!」

 

「だからこそ、ファイヤーはあなたの想いに応えようとしておりますの。自分が負けることはあなたの敗北を意味していると」

 

「……」

 

「岩タイプ、水タイプ、電気タイプのジム。普通のトレーナーでしたら、炎飛行のファイヤーほぼ一匹で乗り込もうとしませんわ」

 

「でも……ファイヤーは」

 

「いつまでファイヤーに甘えておりますの」

 

 エリカの怒涛の説教にリーフは圧倒されていた。

 ……そうか。

 そうだったのか。

 うすうす分かっていた。

 俺の存在がリーフには足枷になっていたのだと。

 強くなれる機会をことごとく奪っていたのだと。

 そりゃそうだ。

 最初から子どもがファイヤーなんか持てばどうなるかくらい、俺だって多少なりと分かっていた。

 でも、俺には責任があるから言い出せない。

 リーフをこうしたのは俺だから、途中で抜け出すなんてかわいそうなことできない。

 そう思って、ずっとなぁなぁにしていたところはあったのだ。

 無論、俺としては抜けようとなんて気は一切ないのだが。

 それでもリーフが強さを目的とするならば、抜けるという手段もありなのではないかと思ってくる。

 エリカはリーフの下まで歩いていき、その肩に手を置いた。

 

「もし、本当にファイヤーが居なくても強くなりたいなら、わたくしのジムを訪ねてくださいの。もちろん、ファイヤーを置いて」

 

「……なんで、私にそこまでしてくれるの」

 

「見ての通り、わたくしは草タイプのジムリーダーですもの。フシギソウを連れたトレーナーを邪険に扱うことはできませんわ。それに、何か理由があるのでしょう?」

 

 袖で口元を隠してクスクスと笑うエリカ。

 なんかそれは違うような気もする。

 フシギソウ以外にも連れているからね、リーフは。

 

 その時である。

 後ろの自動ドアがスライドして、中に新しい挑戦者がやってきたのは。

 入ってきたのはレッドだ。

 レッドはリーフの姿を見ると、気まずそうに帽子の鍔を握って顔をそむけた。

 

「……何?」

 

「……」

 

「そう、負けた。ファイヤーを使わなかったから」

 

「……!」

 

「だってレッドたちは! ……良い。エリカ……さん。一晩、考えさせてください」

 

 いつもならスカートの土を払うリーフが、払うことなくすぐにジムを出ていった。

 

「ええ、お待ちしておりますわ」

 

 エリカはその後ろ姿に手を振ってくれるのだった。

 

 *  *  *

 

 ポケモンセンターに戻ったリーフは、フシギソウ、ピッピ、ミミッキュをボールから出す。

 俺とカビゴンはボールの中だ。

 

「フシッ! (僕はやるよ!)」

 

 フシギソウはツルを伸ばしてアピールする。

 

「……ピッ(……私は)」

 

 ピッピは小さく指を合わせながらもじもじする。

 

「ミミッキュ(まぁリーフの好きなように任せるよ)」

 

 ミミカスは上半身の皮を大きく揺らす。

 思えばミミカスの言葉を聞いたのはこれが初めてかもしれない。

 なんか陽気っぽいから、ストリンダーでいうハイな感じか。

 フシギソウは若干穏やかっぽいし、ピッピは控えめ。

 ミミカスは陽。

 性格は良いの引いているよな。

 リーフは最後に俺のボールを放り投げる。

 青色の光を伴い、光のエフェクトを撒き散らして俺は登場する。

 

「……ファイヤーは?」

 

「ギャーギャー。ギャーオ、ギャー(リーフの選択に任せる。俺としてはエリカの言葉に乗った方が良いと思うけどな)」

 

 俺はエリカのジムがある方を翼で示しながら、精一杯リーフに伝わるようにジェスチャーする。

 伝わるかどうかは分からないけどと、俺は少しだけ目を細める。

 するとリーフは俺の首に腕を回してきた。

 

「ごめんね、弱虫なんて言って……。変わるなんて言ったのに、やっぱり全部任せきりにしちゃって……」

 

「ギャーオ(リーフ)」

 

「ファイヤー! あなたに相応しいトレーナーに進化してくる! だからまた少し、待っててくれる?」

 

 リーフがそう決めたんだったら、俺は何か言うつもりもない。

 精一杯声と翼を広げて、リーフの選択を肯定する。

 リーフは「うん」と嬉しそうに頷いて、俺をボールに戻……さずにポケモンセンターの外を指さした。

 あの? 

 何で俺、【弱いファイヤーなんていらない】をされているんですか? 

 

「ボールに居たら頼っちゃいそうだし、博士に預けたらそれはそれで頼っちゃいそうだから。だからしばらく時間……大体三か月くらい経ったらタマムシシティに帰ってきて!」

 

 あのー? 

 いやね、言い分は正しいと思う。

 正しいと思うんだけどさ、流石にこの身ひとつで外に出ろっていうのはさ? 

 こうさ? 

 ボールに戻ることもできないっていうのは、なんかこう思うことがあるんですよ。

 というか、ポケモン世界の三か月なんて分かるか! 

 マジで三か月ってどれくらいよ。

 カレンダーとか時計とか持たされていないのに分かるわけないじゃん! 

 ちらっと俺はフシギソウとピッピ、ミミカスを見てみる。

 

「フシッ! (強くなってくる!)」

 

「ピッピ(元気でね)」

 

「ミミッキュ! (強くなったら戦ってよ!)」

 

 一匹! 

 一匹ピカチュウの影響受けたピカチュウ擬きいる! 

 ……あぁもう分かった。

 こうなったらヤケだ。

 出て行ってやるよ、この身ひとつで。

 その代わり。

 

「ギャーオ! ギャーギャーオ! (強くなって来いよ! 俺はいつでもリーフの仲間だからな!)」

 

「うん!」

 

 リーフの笑顔を受けて、俺はポケモンセンターから外に飛び立つ。

 タマムシジムでリーフが強くなって帰ってくるのを願って。

 いや、帰るのは俺なんだけどね? 

 強くなったであろうタイミングを見計らって帰ってくるんだけどね? 

 どこかに知っている人が入ればいいなぁ……。




タマムシジムで有名な話といえば、男子禁制ですよね。
リーグから派遣された男性職員すら食堂に追い出されているとの話です。

ジムに行かねばバッジは手に入らない。
でも、女性じゃ無ければジムに入れず門前払い。
リーグの職員すら追い出されている。

これで良く問題になりませんよねぇ……。


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ロケット団対策本部

 

 ギャーオ。

 どうも、俺です。

 ファイヤーです。

 今、カントー地方のどこかしらの上空を飛んでいます。

 どこかは分かりません。

 ゲーム世界と似通った部分こそあれど、完全に一致というわけではない。

 なのでニビシティかなと思って飛んでみれば、まったく別の町だったりするわけです。

 

 お前強すぎて頼っちゃうからとリーフに追い出されて三日経過しました。

 いつも頼りに頼ってきたリーフが立派に目標を見つけちゃって、っとどこ目線なのか分からない程度に感動したり。

 でも、相変わらずポケモンに三か月後に帰ってきてと言ってくる辺り、やっぱりリーフだよなぁとも思うわけです。

 

 マジで今何月だろう。

 俺ってば炎タイプだから年中あったかいんですよね。

 冬とか秋とかであれば涼しさとか感じられるんだけど、流石に春夏と来ると無理。

 暑さの違いとかそんなに感じ取れない。

 リーフとの旅でここまで来るのにそんなに時間が経ったようにも思えない。

 カレンダー見ようにもファイヤーが町に降り立ったら問題だろう。

 こちとら色違いな上に夢特性の準伝説だし。

 町や橋の上に現れるユクシーとクレセリアが異常なのである。

 そういやサンダーは追い出されていたっけか。

 昔、ファイヤーとサンダーを一緒のパーティに入れたら、麻痺と火傷で大喧嘩したものである。

 

 で、一番の問題を上げるとしよう。

 マジでこの後どうしよう。

 

 一番良いのは知っている人間が近くに居れば良いことなんだろうけどさ。

 そんなに都合の良いことなんて起こるわけなく……、

 

「カメックス! ハイドロポンプ!」

 

 あった。

 聞き覚えのある声に首を傾けてみれば、グリーンが見覚えのあるムウマと戦っていた。

 ポケモンタワーに居た、あの一回り身体の大きなムウマ。

 対するはグリーンのカメックス。

 空中へと飛んだカメックスはグリーンの指示を受けて、砲塔の照準をムウマに合わせた。

 ムウマ相手にやり過ぎのような気もするけど、邪魔しないで見ていよ……。

 

「ムウ(遅いわ)」

 

 ……あのムウマ、なんか異常に速くない? 

 マチスのライコウ、いやレッドのピカチュウ以上の速さだ。

 改めてこの世界どうなっているの? 

 ムウマとかピカチュウって一般ポケモンだよね? 

 準伝説の目を持ってしても追いつけないなんてことあるの? 

 ファイヤーって素早さ種族値90しかないけどさ。

 普通のピカチュウ、カイオーガと同じくらいだけどさ。

 にしても速い。

 ゴーストタイプの型に嵌らないトリッキーな動き、そしてグリーンのカメックスを完全に手玉に取るかのようなあの態度。

 たまにカメックスの攻撃が入っているのに、意にも介していない姿には怖気すら覚える。

 進化の輝石ムウマってあんなに固かったっけ? 

 俺には進化の輝石を持っているようには見えないけど。

 

「行けっ! ウィンディ! サイドン!」

 

 グリーンはさらにウィンディとサイドンをボールから飛び出させる。

 一対三!? 

 流石にそれは卑怯なような……なんて、俺は少し顔を引きつらせる。

 

「ウィンディはニトロチャージ! サイドンは十万馬力!」

 

 詰め込んだニトロを爆発させ、ウィンディは烈火を纏う。

 推進力を得たウィンディはグングンと加速して、怒涛の勢いで突き進む。

 サイドンはしこを踏んで、徐々に力を蓄えていく。

 大地を踏み砕かん勢いで飛び出して、ウィンディの勢いに合わせて突撃する。

 

「ムウマ。ムッ(痛いのは嫌だから止めてちょうだいな。ねっ、お願い?)」

 

 ムウマは囁くような言葉でウィンディとサイドンに媚びる。

 戦いの最中に相手が見せた甘えに、ウィンディとサイドンは動揺する。

 見るからに攻撃力は落ちて、初動よりも動きが悪くなる。

 その一瞬の隙をムウマは目を光らせる。

 ムウマは自分自身の影に潜り込み、ウィンディとサイドンの背後へ回り込むように再び姿を現した。

 

「今だ! カメックス、ハイドロポンプ!」

 

 グリーンの指示を受けたカメックスよりも、ムウマの方が早い。

 月のエネルギーがムウマに満ちる。

 濃縮、圧縮された月の一撃は、星屑の海を駆け分け疾駆する。

 放たれたカメックスのハイドロポンプなぞいともたやすく押し返す。

 瞬間、今までに無いほどの怖気が身を伝った。

 

 進化の輝石を持っていないムウマとは思えない耐久力。

 ライコウを上回る素早さ。

 それでいてあのピカチュウに匹敵するこの攻撃力。

 

 ──こいつ本当にムウマか? 

 

 今まで傍観を決め込んでいた俺ですら、翼を畳んでムーンフォースの元まで急降下する。

 なんせ迫力が準伝説のそれだ。

 いや、もしかしたらそれを優に超えている。

 こんなのを受けたら、半減でもない限り一溜りも無いだろう。

 

「カメックス! 甲羅に──なんだッ!?」

 

 月の絶撃が爆ぜる直前、俺はカメックスを庇うように割り込んだ。

 身体のあらゆる節々が悲鳴を上げた。

 カメックスに身体を受け止めてもらうも、まだ威力を抑えきれない。

 そのまま二転、三転してようやく勢いが止まり切った。

 

 効果今一つなのにも関わらず、なんて威力だ。

 マチスのライコウの十万ボルトを軽く上回っているんじゃなかろうか。

 こんなのがいるとか、そりゃゲンガー、ヨノワール、シャンデラが怯えるわけだ。

 

「ファイヤー!? しかもこいつは」

 

 カメックスを庇うようにして割り込んだものの、かっこ悪いことに俺はそのカメックスの手を借りて立ち上がった。

 

「カーメッ。カメック(助かった。ってお前、確かあのトレーナーの)」

 

「リーフがどこかにいるのか? いや、それはいい。行けるかファイヤー?」

 

 当然! 

 ムウマにめっちゃ似ている奴にやられたとなれば、準伝説の恥だ。

 ただでさえあのフリーザーよりも弱いっていうのにな! 

 俺はグリーンの言葉に応えるように声高に猛り、翼を広げて炎を噴く。

 

「なら行くぞっ!」

 

「ムッ(流石に分が悪いわね)」

 

 ムウマは呆れたように首を横に振ると、そのまま自身の影に潜り込んでいった。

 しばらく警戒してみるが、出てくる様子はない。

 どうやら逃げたようだ。

 グリーンはひとつ「ふぅ」と一息を付くと、カメックスたちをボールに戻した。

 それから改めて俺に向き直る。

 

「お前、リーフのファイヤーだろ?」

 

 俺は首を縦に振って肯定する。

 

「あいつ近くにいるのか?」

 

 その答えには首を横に振る。

 グリーンは少し怪訝な顔を見せる。

 

「いないのか?」

 

 その答えには首を縦に振る。

 グリーンは顎に指を当てて何やら考え込む。

 そりゃ、ファイヤーだけこんなところにいるとかおかしいよな。

 グリーンはスマホロトムを取り出すと、何やら電話を掛け始めた。

 スマホロトム……いたの? 

 リーフのところにいたころ、スマホロトムとか見ていないんだけど。

 

「リーフか? お前んとこのファイヤーがここにいんだが?」

 

 グリーンはそうして会話を切り出した。

 最初こそ怪訝な顔から、徐々に納得した風な顔となっていき、最後には険しい顔つきとなっていた。

 

「お前、三か月後って。ファイヤーは人間じゃねーんだから」

 

『けど近くに居たらどうしても頼っちゃいそうで』

 

「あぁ、分あーった分あーった。じゃ、こっちでこいつ預かっておくわ」

 

『うん、頼んだ!』

 

 グリーンが通話を止める。

 後ろ頭を掻きながら「ったく、あいつは」と呆れたように呟いている。

 いや、ほんとうちのトレーナーが申し訳ない。

 できる限り邪魔にはならないようにするんで。

 続いてグリーンはまたどこかに電話を掛けだした。

 

「あぁ、こちらグリーン。マルバ博士、例の古代パラドックスポケモンを逃がしました」

 

 古代……パラドックスポケモン? 

 パラドックスって言うと、確か理論上あってはいるけどあっていないみたいな、なんか逆説がどうのって話だよな? 

 古代パラドックスポケモン? 

 この世界ってそんな変なのまでいるの? 

 剣盾とかやっていたけど聞いたことないんだが。

 となるとレジェンドアルセウス関連? 

 あれにあんなよく分からないムウマが登場したってことか? 

 不気味すぎるわ。

 

「ハバタクカミ。……はい、想像を絶する力を持ったポケモンでした」

 

 なにその、ハバタクカミ? 

 それ本当にポケモンの名前なの? 

 なんか、全然ポケモンらしくないというか……見た目まんまじゃない? 

 動詞だし。

 ウルトラビーストにも、ズガドーン(バースト)とかデンジュモク(ライトニング)とかウツロイド(パラサイト)とかいたけどさ。

 グリーンがちらと俺を見て、スマホロトムを向けてくる。

 画面に映っているのは博士っぽい恰好をした男性。

 髪は白色に染まり切っておらず、堀の感じからしてみても初老に入りかけって感じである。

 

「ファイヤーが仲間になりました。俺のポケモンじゃないですが」

 

 今更ながらこの世界のグリーン、こんなにまだ若いのに敬語を使えている。

 なんか驚きかもしれない。

 ファイアレッドやったことあるけど、敬語使いそうにないもんな。

 アニメとか特に使いそうにない。

 

「はい、分かりました。そっちに向かいます」

 

 その言葉を最後にグリーンはスマホロトムを切った。

 

「つーわけで、三か月暇なんだろ? 力貸してくれよ」

 

 どういうわけなのか分からないんだけど? 

 あと、そういうの事前に言ってから決めさせてくれない? 

 俺は首を縦に振ってからもう一度考える。

 グリーンはいったい、何をしているんだと。

 

「よーし、んじゃ決まりな? 付いてこい」

 

 グリーンはピジョットを繰り出し、乗り込んだ。

 とりあえずグリーンに付いていけばいいんだな? 

 説明とかされていない……まぁ、ポケモンなのでされるわけが無いのだけど。

 それでもどこか一抹の不安を感じずにはいられない。

 

 そうしてグリーンに付いていくことしばらく、俺は暗がりな人気の無い森の入り口に降り立った。

 トキワの森……じゃないよな? ここ。

 七島……にしてはカントー地方を出たわけでもない。

 恐らく、ゲームでいう木々に囲まれたどこか何だと思う。

 グリーンはピジョットを戻し、森を進んでいくので俺も追いかける。

 それからまた少し進んだところに、何やら飛空艇らしき乗り物があった。

 森の闇に溶け込んだ黒色の迷彩。

 グリーンが入り口まで進んでいけば、隣のパネルから無機質な声が聞こえてくる。

 

『いないと困る』

 

「ブースター」

 

『地震で倒れる』

 

「エンテイ」

 

『ファイヤーが』

 

「にらめつける」

 

『よしっ、入れ』

 

 合言葉と思しき言葉で飛空艇の玄関の扉がスライドした。

 ふっざけんな! なんだその合言葉! 

 唯一王と唯一神と真・唯一神じゃねぇか! 

 あとさらっとブースター以外ただの罵倒じゃねぇか! 

 フリーザーの吹雪、サンダーの雷、ファイヤーのにらめつけるじゃねぇんだぞ! 

 エンテイは……知らないけど。

 

 もっとファイヤーの強い部分あっただろ! 

 耐久に振ればウーラオスの水流連打を二発までなら耐えるとかさ! 

 炎の身体さえ発動できれば続く三連撃目を耐えられるから、羽休めで勝てるんやぞ!

 燃え尽きるとか使う必要ねぇんだぞ! 

 それと、後ろにファイヤーがいんだからそんなの合言葉にすんなや! 

 

 グリーンの後ろを追いかけていくと、やがて複数の液晶パネルが設置された広い部屋へと出る。

 その真正面に立つのは先ほどスマホロトムの画面に映っていた男性、マルバ博士。

 他にも何人かトレーナーがいるようだ。

 中にはカスミやタケシといった、見知ったジムリーダーの顔もちらほら。

 ……気のせいか四天王すらいない? 

 招集された人たちって、もしかしてかなり手練れのトレーナーだったりするのだろうか。

 その中でも見覚えのないトレーナーたちはグリーン、それから俺を見ると物珍しさからかスマホロトムを向けだした。

 

「なんだあのファイヤー、個体としては最高じゃないか。しかもよく鍛え上げられている」

 

「色違い……、それも炎の身体ですって!? 特性パッチが使われるなんて、相当なファイヤー好きがいたものね」

 

「特性パッチって相場確か300万は行くよな。準伝説用となればさらに値が張る。良いよなぁ、オレ準伝説まだ一匹も持ってねぇんだよな」

 

 なんだそのポケモン対戦勢の基礎情報。

 この世界でもそれを聞けるとは思わなかった。

 もしかして厳選とかしていらっしゃる? 

 卵を持って砂浜ダッシュする王子様とかいたりする? 

 

 まず人のポケモンの個体値を調べられるのか。

 ランクマッチであくまで実数値を見ることができる程度なのに。

 でも、俺のファイヤーはただの鍛えた個体なんだよね。

 先天的なものではなく、あくまで後天的な物だ。

 全個体値鍛えたならそんなに珍しくないと思う。

 

 それと特性パッチあったのか。

 なら別に色違い夢特性持っていても変じゃないと思うけどなぁ。

 相当なファイヤー好きってところが妙に気になるけど。

 鼻に付くとかじゃなくて、純粋に準伝説級でもファイヤーに使うなんてありえないみたいなニュアンスに聞こえたのよね。

 あの合言葉といい、もしかしてこの世界でもファイヤーって弱い部類だったりします?

 そんなガチ勢たちの会話は置いといて、マルバ博士が手を叩いて迎え入れてくれた。

 

「ようこそグリーン君、歓迎するよ」

 

「任務失敗したがな」

 

「ハバタクカミは最上位凶悪ポケモンの一匹だ。むしろ、任せてしまってすまなかったね」

 

 マルバ博士の当然とも言うべき物言いに、グリーンは多少イラついた様子でそっぽを向いた。

 やっぱあのムウマ……じゃなくて、ハバタクカミだったか。

 あれ最上位凶悪なんだ。

 見た目ムウマのくせに道理でクソ強いわけである。

 

「そしてそちらのファイヤーが」

 

「あぁ、だちのファイヤーだ」

 

「……もしや、メルク君の言っていた女の子かな? 色違いのファイヤーを使っていた……、名前は確かリーフ君だったか」

 

「なんだよ、知ってんのか」

 

「彼女にも声を掛けたんだが、エリカ君から力不足だと断られてしまってね」

 

 さらっとメルクの名前を口にするマルバ博士。

 あの幼女と繋がりがあったのか。

 グリーンに与えられた任務とか考えるに、ある程度実力が保証されていれば呼び出されているってことか。

 なら確かに、今のリーフじゃ力不足だ。

 エリカもこれに呼び出されているのだろうか。

 

「……」

 

「おぉ、レッド君」

 

「やっぱお前も来たか、レッド!」

 

 マルバ博士の言葉に振り向いてみれば、確かにレッドが立っていた。

 足音が鳴っていたけど大して気にならなかった。

 まぁ、グリーンがいるならレッドも来るよね……じゃなくて!

 

 どうやってこの人、合言葉を突破したの!?

 

 あの合言葉の人も表情から言葉を読み解く能力持ちだったのだろうか? 

 まさか、レッドが喋ったとか……ないよね? 

 どこかのゲームで言葉は不要! とか言うくらいだし。

 ……まさかね? 

 レッドは俺の姿を見るや首を傾げ、手のひらで軽く撫でてくる。

 何やら驚きの表情を浮かべ、グリーンを見て頷いていた。

 

「始まるみたいだぜ!」

 

 グリーンの言葉通り、マルバ博士は白衣のポケットからリモコンを取り出し操作する。

 複数のモニターが起動するが、ポケモン世界の言語なのでなんて書いてあるかは分からない。

 だけど画面に映っているライコウやトルネロスたち準伝説、ウルトラビーストにハバタクカミや何やらメカっぽい不気味なポケモンの写真群。

 招集されたジムリーダーや四天王たち。

 マルバ博士はリモコンで画面を指しながら宣告する。

 

「では始めようか。ウルトラホールを開き、過去未来並行、あらゆる世界からこの世界に強力なポケモンを呼び込む元凶、レインボーロケット団。その撃破及び、呼び出された強力なポケモンたちの対策会議を」




『いないと困る』

「ブースター」

 炎タイプなのでブイズを作る際、いないと案外困る。

『地震で倒れる』

「エンテイ」

 本当はフレドラ関連にしようと考えたが、剣盾で貰えている上に聖なる炎を覚えるため、中々ネタにしにくい。
 炎の牙しかないのも過去の話。
 そういうことで調べてみたら何やら面白そうな話が。 

『ファイヤーが』

「にらめつける」

 言わずと知れたファイヤー様が真・唯一神様であらせられる由縁でございます。



 この世界でのファイヤーの強さは言わずが花でしょう。
 まぁ、想像の通りでございます。

 ちなみに耐久振りのファイヤーであれば、ムーンフォースは意外と耐えられます。
 そりゃ半減ですからね。
 シャドボも普通に耐えられます。
 ファイヤーの名誉のために書いておきます。
 まぁ特防は85とネッコアラ、ドーミラー、スリープより低いんですけどねw


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チーム結成

 

 レインボーロケット団。

 確か全世代に登場する野望を叶えた世界線のボスたちを集結し、そのトップとしてサカキが君臨した組織。

 アローラ地方で登場して、ルザミーネの城を占拠していたんだったか。

 グラエナとかクロバットとか、あらゆるポケモンがマスターボールに入っているの、当時は勿体なとか思った。

 こうしてファイヤーとして転生した今だと、ポケモンの意思をガン無視して強制的に捕まえてくるの、流石の悪の組織だわって感じだけど。

 

「レインボーロケット団の所在地は未だ掴めていない。謎が多いままだ。なので君たちには、ロケット団が人為的に開くウルトラホールを閉じてもらいたい」

 

 モニターにウルトラホールがでかでかと表示される。

 続いて表示されたのは、そのウルトラホールから強力なポケモンたちが出てくる動画だ。

 そこにはアローラロコンやヒトモシといった、カントー地方には本来生息していないポケモンたちも含まれている。

 

「御覧の通りだ。もう既にカントー地方の生態系は崩れかかっている。ウルトラホールが放置されれば、本来生息するポケモンたちの数がさらに減少すると現在予想されている」

 

 特定外来生物問題! 

 そういやゲームでも持ち込まれたことで繁殖したとか、そんなポケモンがいたような。

 道理でカントー地方では見ないはずのポケモンたちをその辺で見るはずだ。

 全てウルトラホールが原因かよ。

 

「奴らの目的はそこから登場する強力なポケモンの捕獲にある。ウルトラホールを閉じて行けば、おのずとロケット団の足取りを掴めるだろう」

 

 しかしとマルバ博士は次なる動画を開いた。

 それはウルトラホールから出てきたポケモンたちが、特殊なオーラを纏う場面を映した動画だった。

 オーラを纏ったポケモンたちは見るからに通常の個体より大きく、力強くそして素早かった。

 あっという間に現地のポケモンたちを蹂躙し、中にはファイヤー、フリーザーまでもが一瞬でやられる動画まで見せられる。

 

 こう、自分と同じ種族が簡単にやられるところを見ると思うところがあるよな。

 あと、なんでサンダーはある程度戦えているの? 

 最終的にやられていたけど。

 

 一番おかしいのはあのハバタクカミだ。

 なんでこいつ、メガマンダの攻撃を意に返さず、メガマンダよりも速い動きでメガマンダを一撃で屠っているわけ? 

 流石にメガシンカ軍団が相手だと勝てないみたいだけど、こいつ一匹で五匹中三匹もやられているんだけど。

 

 次に出てきた光景に、この場にいる俺というファイヤーを含んで、トレーナーの大多数が息を飲んだ。

 動画内の調査隊なんて思わず顔をしかめているほどだ。

 

 なんか、ハバタクカミが15匹以上いるんですけど……。

 たった一匹で準伝説やメガシンカを蹂躙していた奴が、異常な数いるんですけど。

 これ一体一体が、あの頭おかしい実力をしているわけ? 

 当たり前のように700族を屠れるわけ? 

 

 メタルクウラなの? 

 世界の終わりなの? 

 どこの地方だよ、絶対に行きたくない。

 こんなのが生息できている地方とか戦闘種族以外の何物でもないだろ。

 メガルカリオとメガバシャーモとメガハッサムが対処に当たる場面で動画が切れた。

 

 ……こんなのがゲームに居たらそれこそ環境で輝きまくってんだろうな。

 良かった、こんなのがゲームに居なくて。

 

「一番の問題はその強力なポケモンの対処だ。このポケモンたちはウルトラホールから発せられるエネルギーを浴びた影響か、通常よりも遥かに強力な個体となることが確認されている」

 

 俺はこの場にいるトレーナーたちに更なる緊張感が走ったのに気づいた。

 

 ……こ れ よ り さ ら に つ よ く な る の ? 

 

 素の実力で他どころか多を圧倒できるポケモンが? 

 さらに能力上昇するの? 

 いや待って帰りたい! 

 準伝説なら勝てるとかイキってたあの頃に戻りたい! 

 帰して! 

 リーフの下に帰して! 

 

「今見てもらったのは最上位凶悪ポケモン、ハバタクカミだ。流石にこれレベルは早々いない。ジムリーダー、四天王以外のトレーナーたちには最高でも上位レベルの対処に当たってほしい」

 

 ……ジムリーダー、四天王、レッドとグリーン以外のどのトレーナーも安堵の息を漏らす。

 無論俺も。

 そりゃそうだわ。

 これレベルを当たれとか誰もが逃げだすだろ。

 

「出来ることなら捕獲して元の世界に返すのが一番だ。無論、ポケモンの意思が第一優先。そのトレーナーと一緒に居たいとポケモン自身が言うのであれば、その意思を尊重してやりたい」

 

 何やら「えっ?」とか「マジで?」といった声がところどころ上がってくる。

 俺も一瞬マジで? とか思ってしまった。

 この任務、裏を返せば大量に準伝説のポケモンを捕獲できるチャンスだ。

 ハバタクカミももし捕まえることが出来て、トレーナーに懐いてくれたら、あれをそのまま使えるってことだろ? 

 現在ファイヤーなのにトレーナーの癖が抜けきっていないせいか、すごい魅力的な作戦に思えてくる。

 あっでも、流石に無いか。

 最上位凶悪ポケモンだもんな。

 こう考えるとUSUMの主人公って自分から他の世界に出向いて、無理やり自分の世界に連れてくるわけだから始末に負えないような……。

 マルバ博士はひとつコホンと咳き込んで静粛にする。

 

「流石に伝説のポケモンは禁止だ。世界の秩序が崩れる。許されるのは準伝説、幻、ウルトラビースト、パラドックスまでだ」

 

 ……待って? 

 ウルトラビースト許されるの? 

 ウルトラビースト許されるのは流石にまずくない? 

 あっでもあいつらって、いきなり別世界に連れて来られた警戒からあの凶暴性なんだっけ? 

 じゃあ……問題ないのかなぁ? 

 でもアクジキング辺りは大問題だと思うけどなぁ、大して強くないけど。

 

 パラドックスも……。

 ハバタクカミってやばい数いたけど、もしかしてこいつ伝説のポケモンじゃない? 

 ……いや、深く考えないようにしよう。

 なんか怖いし。

 

「話を戻してウルトラホールにはひとチーム、できれば四人で対処に当たってもらいたい。準伝説等の強力なポケモンを持っているトレーナーはひとり減らした三人で。申し訳ないが、最低でもバッジを三つ以上所持するトレーナーはそういない」

 

 そういや、剣盾で炎タイプのジムリーダーであるカブに勝てる人は早々いないとか聞いたことがあるな。

 アニメでもマチス相手に多くのトレーナーが負けていたっけか。

 ゲームをやっていると感覚がおかしくなるけど、本来あっちの方が普通なんだよな。

 トレーナーを始めて少しの時間でチャンピオンになる主人公とか、マジで頭おかしい。

 多くのチャンピオンがそこに至るまで年単位の研鑽を積んできたはずなのにな。

 アイリス然り、ポケモン然り、やっぱ才能って大事なんだなって。

 

 んで、準伝説を持ったトレーナーが三人でひとチームなのは分かった。

 じゃあさ、準伝説ポケモンのファイヤー張本人である俺はどうすれば良いわけ? 

 今この説明ってあくまでトレーナーに対する物だよね、当たり前だけど。

 ポケモンはどうすれば良いの? 

 まさかトレーナーが力不足で準伝説ポケモン一匹だけが来るとか予想できるわけないのは分かるけどさ。

 

「チームに付いてこちらから指示することは無い。ウルトラホールや強力なポケモンの情報についてはこちらから指示を送る。もしチームを作れないトレーナーがいれば、気兼ねなく端末で伝えてほしい。くれぐれもひとりで挑むような真似だけはしないでくれ。他に何か質問があるものは聞いてほしい」

 

 マルバ博士が話を締めくくると、モニターは眠るように消えていった。

 早速とばかりにトレーナーたちがガヤガヤと集まり、チームについての相談を始めていく。

 熱心なトレーナーは積極的に手を伸ばし、マルバ博士に質問をしている。

 で、俺は誰のポケモンになるわけ?

 俺のトレーナーはリーフしか認めていないから、誰のポケモンにもなりたくないけど。

 リーフの代わりとしてここにいればいいの? 

 流石に一匹で六匹分の活躍をするのは無理に等しいよ? 

 

「……」

 

「今は俺のポケモンだ! リーフに預かれって頼まれたからな」

 

「……」

 

 レッドが俺をちらりと見る。

 俺はレッドのポケモンじゃないから、言葉をちゃんとしてくれないと理解できないんだけど……。

 多分、グリーンを現在のトレーナーとして認めるかどうかってことだろうか? 

 話の流れ的に。

 うーん、申し訳ないんだけどグリーンをトレーナーとして見るのは無理かな。

 知らない仲ではないんだけどさ。

 俺からグリーンに向けている信頼感の多くは、どちらかといえばゲームによるものが大きいからさ。

 言ってしまえばグリーンに対しての信頼感と、レッドに対する信頼感ってほぼほぼ同列なのよね。

 むしろレッドの方が少し上と言っていいかもしれない。

 

 ただ、レッドと共に行動するかと問われるとそれも難しい。

 なんというかピカチュウが怖い、以上。

 ボール越しにピカチュウの姿を見れば、物凄い嬉々とした顔で電気を漲らせているからさ。

 絶対休憩の合間合間とかにバトルを強請られるじゃん。

 休憩にならない奴じゃん。

 

 その辺りを総合すると、リーフから直接頼まれたグリーンと共に行動するってのが一番かな。

 別に嫌いってわけでもないし。

 グリーンの「ギャー!(よろしくな!)」という言葉に返答しようとした時である。

 

「じゃあそのファイヤー、ボクが借りてもいいかな?」

 

 久しぶりに聞き覚えのある鈴のようによく通る声。

 前と変わらない黒巫女服のメルクが、俺の所持論争に割って入ってきた。

 グリーンが訝し気な眼差しをメルクに向ける。

 

「誰だよ」

 

「ボクはメルク、優秀なポケモンたちに囲まれた無能なトレーナーだよ」

 

「へぇ~、その無能なトレーナーさんがこのファイヤーに何の用だよ」

 

 無能なトレーナーに食いついて、途端に勝気な顔へと変化するグリーン。

 メルクは口橋に指を当て、これまた妙な色気を感じる怪しげな笑みを作り上げる。

 

「前に戦ったことがあるんだよ。ファイヤーの使い手、リーフとね」

 

「へぇ~、負けたから分析したいってか?」

 

「分析というのは間違ってないね」

 

 分析も何も手も足も出さずに倒してくれたのはどこのどいつだよって話だけどな。

 というか、お前はこの二人と比べてもっと無いんだが? 

 リーフに敗北を教えてくれたのは感謝するけどさ。

 それでも俺はお前のことを知らないし、どちらかといえば胡散臭いとすら思っている。

 バトルを見ただけで俺がアタッカー気質じゃ無いとか言ってくるし。

 自分は弱いとか言っておきながらメッタメタに対策してくるし。

 レッドとグリーンにあった、ゲーム分での信用もない。

 何よりお前の近く妙な寒気がすんだよな。

 

「じゃあこうしよう。ボクと君たちでチームを組まないかい?」

 

「チームだぁ?」

 

 グリーンの視線にレッドは頷いた。

 メルクはさらに続ける。

 

「こうすれば平等でしょ? もしお兄ちゃんたちがボクを弱いと判断したなら、その時点で切ってくれて構わない。どうかな?」

 

「いいぜ! レッドも良いだろ?」

 

 俺としては一緒にいるのすらごめん被りたいところなんだけど。

 まぁ、誰かの手持ちって扱いではなくチームの一員として扱われるなら文句はないかも。

 どうせ今からチームを組むとなると、グリーンは大丈夫かもだけどレッドがね。

 それに、メルクがこうも俺にちょっかい掛けてくるのも気になるし。

 

「……」

 

「ギャーオ(分かった)」

 

「んじゃ、決まりってことで! 改めて俺はグリーン、こっちがレッドだ」

 

 メルクはグリーンと握手をすると、続いてレッドとも握手を求めていた。

 最後に俺の翼に触れると改めて、怪しげな笑みを浮かべながら頭を下げた。




誤字脱字報告、本当にいつも助かります。
ありがとうございました!

裏話、本当はメルクはレッドとグリーンと戦ってから仲間になる予定だった。
のだが、蓋を開けてみればグリーンがかませ、レッドさん超接待という宗教になったので捨てました。
この名前でグリーンに勝った余裕余裕とかやるの、普通に気持ち悪いしね。

内容
ハバタクカミVSウインディ
パワージェム
ハバタクカミVSサイドン
ムーンフォース。サイドンの特防は45。
ハバタクカミVSカメックス
十万ボルト

ストレート負け。

ハバタクカミVSピカチュウ
ランドロスVSピカチュウ
ここでメルク降参

調べてみたところCS特化ハバタクカミは、A252振り優先度+2のバチバチアクセルでワンパンらしいっすね。
ほんと、先制技の火力じゃない。

また特功に振ったピカチュウが、H252振りのランドロスに波乗りを撃った場合、確定二発だそうです。
しかし素早さ種族値の差で、ランドロスの攻撃をピカチュウは優に避けることができてしまうんです。
構図としてはサブサブサーフをぶつけ、返しの岩石封じをバチバチアクセルでアニメのように返し、続く二撃目のサブサブサーフを叩き込む。
これだけで勝てます。
おまけに相棒ピカチュウは通常個体よりも特攻種族値が高いので。
あくまで相性が悪かったの一言なのですが、怪しげなオーラを出しといて蓋を開けてみれば手も足も出ずに敗北とか……。
最後の一匹は想像にお任せします。

そんな内容ですが、ボツになったためメルクの手持ち含めて消えました。


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それぞれの一日


違う小説を書いている時に行き詰ったので、気分転換に投稿!
まさか色違いアルセウスをゲットできる日が来るとは……。




 

 レッドとグリーンにメルクが加わったチームが完成してから、四日ほど経っただろうか。

 ロケット団の動きを今か今かと待つために、俺は基本飛空艇内部で待機していた。

 この飛空艇、バトルフィールドにワープゾーンと、設備が充実している。

 特にワープゾーンの先は、今作戦に参加しているトレーナー用の寮に繋がっている。

 レッドたちは普段そのワープゾーンを通った先にある寮で生活をしていた。

 ポケモンのおれは飛空艇に待機だ。

 最近、飛空艇の横にいるマスコットになりつつあった。

 まるで元無人発電所の隣りにいるサンダーみたく。

 

 それからレッドとグリーンの二人はジム戦に出かける素振りがない。

 というのも、今のロケット団対策及び強力なポケモンの対策作戦が発令中、常にどこかに出払っているらしいのだ。

 トレーナー強化のためにか、ちょくちょくこの飛空艇に足を運ぶジムリーダーも見る。

 町に出てジムリーダーと戦えない以上、冒険に出ても仕方ないのかもしれない。

 一応、ジムリーダーのいない間は一番強いジムトレーナーが代わりを務めているらしいけど……。

 レッドとグリーンはそれでも、ここで待機を選んでいる。

 ジムリーダーに勝たないと意味が無いと考える辺り、どこまでもバトルにストイックな二人だ。

 

 リーフも、今頃タマムシジムで修行をしているのだろうか。

 手持ちポケモンフシギソウしか草タイプいないけど大丈夫だろうか? 

 俺が居なくて大丈夫だろうか。

 居ても経っても居られない気持ちになるけど、ここで会いに行ったらそれこそ強くなりたいというリーフの想いを踏みにじるもの。

 俺だけは決して、リーフの選択を否定してはならないのである。

 

 でももしかすれば、案外うまくやれているのかもしれない。

 男子禁制だし、どこぞの毒ジムなんて、毒ガスを使えるから毒タイプ理論でトレーナーの手持ち大半がスリープ、スリーパーみたいなとこあるし。

 どこぞの四天王もミミロップ、ハガネール、フワライドとか、電気タイプのジムなのにオクタンとか。

 アニメではニビジムが一時期水タイプもやろうとか言いだしていたっけ。

 ニビとハナダ、続けて水タイプを受けさせられる挑戦者の気持ちよ。

 少なくとも最初にフシギダネを選んだリーフは大勝利だろうな。

 そうそう、ニビジムと言えば。

 

「サイドン、十万馬力」

 

「レジロック、受けとめろ!」

 

 サイドンの力に任せた蹴りを、レジロックは余裕の表情で受け止めた。

 続く二撃目、三撃目を悠々と受け止めて続くボディプレスで押しつぶしていた。

 

 現在、飛空艇のバトルフィールドで、グリーンとタケシが再戦をしているところである。

 俺はそれを観客席? 観ポケ席? に居座って眺めている。

 ピカチュウとかポッチャマが観客席にいるのは分かるけど、ファイヤーが観客席に居座るのはどうなんだろうか。

 やっぱりリーフ、ボールごと預けた方が良かったんじゃないだろうか? 

 ファイヤーって二メートルあるぜ? 

 

「ギャラドス、たきのぼり!」

 

「レジロック、ボディプレスで迎え撃て!」

 

 なぜ俺がグリーンの試合を観戦しているのかといえば、ちゃんと理由がある。

 現在俺は、グリーン、レッド、メルクの順番で面倒を見てもらっているのだ。

 俺はポケモンだから。

 一匹じゃポケモンフーズとか買えないし、せっかく住む場所あるのに野宿とか嫌すぎる。

 やっぱりトレーナーがいないと。

 

 それで今日はグリーンの日。

 グリーンとバトルをすることもあるけど、もうほとんどお互い手の内を明かしてしまって勝負にならない。

 サイドン、ギャラドス、カメックスなんて、パーティとしては傾いているけど、ファイヤーを倒すなら十分すぎる。

 普通に考えればサイドン一匹いる時点で詰んでいるけど、それでも準伝説の意地にかけて何とか全部倒しきる。

 熱砂の大地様様である。

 俺のファイヤー耐久型だから、真っ先に忘れたい技だったりするんだけどね。

 

 こちらとしてもグリーンがどんなパーティで来るのか、大方想像ついている。

 サンダースであれ、ナッシーであれ、まず初手燃え尽きるで炎タイプを消すし。

 やることが固定化され過ぎていて、それなりに良い勝負を繰り広げられるんだけど、それ以上の進展が何ひとつない。

 だからかグリーンは、今この場所にジムリーダーや四天王が集まっているのを良いことに、再戦を挑んでいるわけだ。

 

 タケシが立ったまま動かないレジロックをボールに戻す。

 よくギャラドスでレジロックを押し返したものである。

 勝負の行方としては以前、タケシが有利だけど。

 

「次はこいつだ! ゴローニャ!」

 

 タケシが二番手に繰り出したのは、アローラゴローニャ。

 俺と戦った時はカントーのゴローニャだったけど、やっぱりそっちも持っているか。

 続く二番手に、グリーンは「行くぞギャラドス!」っと、獲物を刈り取るかの如き獰猛な笑みを浮かべて見せた。

 ゴローニャの耐久を舐めて掛かると痛い目を見るよな。

 

「このままノンストップで行くぜ! ギャラドス、滝登り!」

 

「ゴローニャ、捨て身タックル!」

 

 ギャラドスの滝登りとゴローニャの捨て身タックルが激突する。

 滝を掻きわけて放たれた渾身の一撃は、しかしピカチュウのボルテッカーを彷彿とさせた稲光を纏うゴローニャに敵わない。

 両者ともにすれ違い、ギャラドスだけが目を回した。

 対して相手のゴローニャは片膝を付くことさえなかった。

 

 物理方面クッソ固いもんね、ゴローニャって。

 電気地面だから多分、俺が戦ったら勝てると思うけど……。

 ノーマル技で稲光を纏う部分を見るに、あのゴローニャ、特性エレキスキンか。

 流石はジムリーダー、とんでもないゴローニャをお持ちのようで。

 グリーンはギャラドスをボールに戻すと、最後の切り札カメックスをくりだした。

 

「カメックス、ハイドロポンプ!」

 

「ゴローニャ、こらえる!」

 

 とことんグリーンはバトルにすべてを捧げているよな。

 これでタケシと何戦くらいしたんだろう。

 俺が知る限り十戦目くらいか? 

 結果は全戦全敗。

 相性的には有利なのに、そのすべてがことごとく潰されている。

 ジムリーダーとしてではなく、タケシはひとりのポケモントレーナーとしてグリーンの前に立ちはだかっているからだろう。

 

「ゴローニャ! 大爆発!」

 

 ゴローニャは懐から木の実を取り出して勝負の最中に食べだした。

 直後だ。ゴローニャの動きがピカチュウ並に速くなる。

 恐らく、イバンの実だろう。

 この世界も、やっぱり道具って使用可能だったんだな。

 ゴローニャは一瞬の内にカメックスの懐に潜り込む。

 

「カメックス! 甲羅に潜——」

 

「もう遅い」

 

 ズガドォォォォン!! っとビックリヘッドさながら、全身を震わす良い爆裂音が鳴り響く。

 電気タイプとかした大爆発の余波が観客席にもビリビリ響く。

 あまりの衝撃波に観客席にいたトレーナーの何人かが吹き飛ばされているほどである。

 

 エレキスキンに大爆発、それをあんな至近距離で受けるなんて、そんなの誰がどう考えても。

 爆風と黒煙が晴れていき、バトルフィールドに転がっていたのは二体の目を回したポケモン。

 カメックス、ゴローニャ、共に戦闘不能である。

 

「カメックス!」

 

「最後の一匹はまだお預けのようだな」

 

 タケシはゴローニャをボールに戻し、労いの言葉を掛ける。

 グリーンはカメックスの前で膝を付き、十秒も経たないうちに立ち上がっては、バトルフィールドから離れていった。

 

「必ず追いつく」

 

 何度敗北してもなお消えぬ灯をその目に携えて。

 そんなとにかくストイックなグリーンを見ていると、性格が違ってもグリーンはグリーンなんだなって実感する。

 

 *  *  *

 

 また次の日、俺はレッドのところに居た。

 レッドは寮近くの森でポケモンと触れ合いながら、昼食の準備をしている。

 

 ゲームでならともかく、俺はあんまりレッドに対して好印象を持っていないんだよね。

 好感度で言えば、むしろリーフの次にグリーンの方が高かったりする。

 ゲームでいう二年後みたいに面倒見が良いし。

 バトル一辺倒かと思えば、グリーンはグリーンなりに、ちゃんと愛情表現をしているんだよね。

 バトルが固定化された今でも、見ているだけじゃつまらないだろうと、対戦に参加させてくれることもあるし。

 ギャラドスといい、サイドンといい、カメックスといい、グリーンに良く懐いているのが良い証拠だと思う。

 

 対してレッドはと言えば終始無言。

 リーフとグリーンはどうやって感じ取っているのか分からないけど、多少口角が上がるくらいしか表情も変化しない。

 その状態で俺の頭を撫でてくるのである。

 時折炎の身体が発動して、手に火傷を負っても無言なのはマジで人間なのかとすら思ったね。

 あながちスーパーマサラ人という言葉は的を射ているのかもしれない。

 

 それが終わればいつの間に捕まえたのやら、カビゴンの世話。

 タマムシシティ隣にもいたから、その個体を捕まえたのだろうか。

 着々とHGSSの手持ちになってきている。

 

 それともうひとつ、レッドの嫌なところではないんだけど、ここに居たくない理由が。

 

「ピカ! ピッカー! (さぁ! バトルしよ!)」

 

「ギャーオ? (自分に有利で楽しいか?)」

 

「ピッカー! (バトルしよ!)」

 

 このピカチュウがいることである。

 前に他トレーナーが使っているピカチュウを見たことある。

 けど、こいつほど速くも一撃が重い感じでも無かった。

 そのトレーナー、ここに集まっているトレーナーのひとりなんだけど。

 レッドのピカチュウを見てあんぐりと口を開けていたのが記憶に新しい。

 こいつはどうやら、氷柱落としやコメットパンチを使えるピカチュウ持ちから見ても異常らしい。

 分かり切っていたことなのだが。

 

 流石に、使ってくるのが電気、鋼、水だと判明しているので、貯水持ちのヌオーとか持ってくるトレーナーも多かったんだけどね。

 トリトドンとか、タスキ持たせてカウンター及びがむしゃらとか。

 後、流石に一部メガシンカとか、弱点をつけない準伝説には勝てなかったりする。

 それゆえにちゃんと対策可能だと分かった今、レッドに挑んでくるトレーナーも多くなっていった。

 勝っても負けてもお祭り騒ぎなピカチュウが退屈しないようで何よりである。

 

 それからレッドと言えばなのだが、一緒に過ごしてきて分かったことがある。

 グリーンとは別方向でポケモンたちに枷を与えるのだ。

 というよりか、流石はリーフと血が繋がっているというかなんというか。

 

 レッドと俺たちポケモンズは昼食を取り終えると、イワヤマトンネルへと向かって行く。

 今日はここで特訓を行うようだ。

 入って早々、レッドはポケモンたちを全匹外に飛び出させた。

 目の前さえ分からない暗闇に閉ざされた岩肌の洞窟。

 天井はかなり高いけれど、鳥ポケモンからしてみればそれでも動き回るのは厳しいだろう。

 この場所でレッドは無言で何も言わずに野性ポケモンたちを指さした。

 すると我先にとピカチュウが飛び出した。

 負けてなるものかとフシギソウ、リザードン、カビゴンも追随する。

 これ、何をやっているのかといえば、ポケモンたちが独自の判断で野性ポケモンやトレーナーと戦う特訓である。

 

 この世界、今でこそウルトラホールの影響と分かったのだけど、出てくる野性ポケモンのレパートリーが多いこと多いこと。

 もうカントー地方だけで図鑑の五百、六百は埋まりそうなくらい多い。

 そんな種類多めな野性ポケモン同士がひとつの土地に一堂に会しているわけで。

 天敵やら縄張り争いやら天候変動やらで、野性のポケモンなのに妙に強力すぎる個体が多いのだ。

 

「ギャーオ(ほら来た)」

 

 俺の目の前に飛び出したるは、原種キュウコンとアローラキュウコン、それからギガイアスにバイバニラ、あとコータス。

 天候が吹雪いて晴れてまた吹雪いて砂嵐になって晴れになる。

 洞窟内にいるのにこのシッチャカメッチャカな天候変動。

 まだ、雨が降らないだけマシなんだと思う。

 それでも頑張ってこんな環境の中ポケモンたちは生き抜こうとしているのである。

 そりゃわけ分かんないくらい強くなるよね、って話。

 

 コータスがソーラービームと思しき光を溜めだした直後、さらに奥からバンギラスが現れ天候は砂嵐に。

 流れに乗るかのようにバンギラスの隣から、二本のカマを持った黒い影が飛び出した。

 そいつはバンギラスの吹かした砂に隠れ、一匹づつギガイアスとコータスを狩っていく。

 アローラキュウコンが天に吠えれば、砂嵐は雪へと上書きされる。

 丸裸にされた老骨の主人公、ガブリアスにバイバニラが吹雪を当ててほとんど瀕死にまで追い込む。

 そこからバイバニラは原種キュウコンの大文字を受けてノックアウト。

 続くバンギラスのロックブラストで原種キュウコンが倒れ、流れるようにアローラキュウコンに狙いを定めるも絶対零度で返り討ち。

 ……ゲームのシロガネ山より修羅の洞窟だろ、これもう。

 むしろイワヤマトンネルでこれなら、この世界のシロガネ山はどれほど恐ろしいことだろうか。

 600族、準伝説、果ては固い固い奴らまでもが一堂に群雄割拠してそう。

 

 これをレッドのポケモンたちは、夜まで独自の判断で戦い抜かなければならないのである。

 そう、夜までである。

 フラッシュが無いとすぐ近くすら見えないこの場所で。

 太陽が見えないこの場所で。

 夜までである。

 

 何度も言うが、俺はゲームでならレッドに好印象を持っている。

 しかし、この世界のレッドに対してはグリーンよりも好印象を持っていない。

 こんな修行をしていたら、そりゃ最大レベル53のシロガネ山でレベル88とかいうピカチュウを繰り出してくるわけである。

 それも、ピカチュウたちの強くなりたいという気持ちに応えての物だから、強く反発できないんだが。

 休憩時間や朝夜での行動、ポケモンと過ごしている時に見せる穏やかな雰囲気から、やっぱりレッドもポケモン好きなんだなと伝わってくるのである。

 

 *  *  *

 

 明くる日、俺は一番の問題であるメルクのところにいた。

 こいつは正直、レッド、グリーンと比べて好きになれない。

 つか、嫌い。

 

 アニメのシンジの特訓なんてまだ可愛い方だ。

 こいつはそもそもバトルを行わない。

 とにかくじぃーっと、飛空艇で他トレーナーのバトルを見ている。

 目の前でニョロボンとリザードンが戦っているのに、口ではキラフロルがどうとか言っている。

 ただひたすらにブツブツと。

 あれがこうで抜けるだとか、ここまで鍛えれば抜けるだとか、こういうギミックや繋がりは面白そう、ここでこの技を使えば意表を突けるかもとか、カイリューはクソとか。

 さしずめ何か好きなことをやっている時だけ、考え事をしやすくなるのだろう。

 ポケモンをやっている時の俺と同じだ。

 何か思いつけばメモを取る。

 そうして何かの機械をポチポチ弄っては「ダメか」と呟くのである。

 

 メルクの育成方針はとにかく放任主義。

 というか全くと言っていいほど育成をしない。

 外に出て戦っているポケモンたちもいる。

 戦わないでただ一日暢気に過ごすポケモンもいれば、モンスターボールに入ったきり出てこないポケモンもいる。

 ポケモンたちに見向きはするのだけど、指示出ししない。

 時折思いついたようにポケモンに木の実を食べさせては、栄養ドリンクや羽をその口にぶち込むのである。

 必要があればさらにミントを嗅がせて。その光景を見ていると、どうも胸が痛くなるのは似たことをやっていたからだろうか。

 

 そんなメルクが唯一ポケモンたちに言い聞かせていることがある。

 それは、

 

「新しい技は覚えないでね」

 

 ってことである。

 ……この不必要に干渉せず、新しい技を勝手に覚えないよう育成する。

 強くなりすぎることを良しとせず、必要最低限育てればさっさと次のポケモンに目を向ける。

 俺からすればよくある光景のひとつだが、周囲から見ても不気味に映るようで、他トレーナーからも結構嫌厭されている。

 これにバトルを挑むのはレッドや物好きなトレーナーくらいなもので。

 それでバトルをしたとしても、メルクは本気で勝ちに行こうとしていないのかわざと負ける。

 余裕たっぷりな表情で。バトルが終われば握手することなく、次のバトルへ。

 

 何度も言うが、正直マジでこいつ嫌いってなる。

 でも唯一共感できるところもあった。

 それは、カイリューがクソであるという事実だ。

 あいつ固いんだよなぁ、ほんと。

 まだ氷四倍だから許されている節あるけど、あれが単タイプとかなったらそれこそ手に負えない。

 メルクのことを嫌いは嫌いだけど、一部共感できるところがあって、もしも話せるのであればひとつ話してみたいと思う程度には嫌いだ。

 

 そうして今日、このメルクの隣でポケモンバトルを見ていた時である。

 突如としてけたたましい警報音。

 飛空艇内部ではマイナーポケモンのシングルレート使用率のように、何度も何度も赤光が付いては消えてを繰り返す。

 

「緊急招集、ウルトラホールが開かれた。すぐにチームで各地に赴くように。みたいだよ、ファイヤー?」

 

 チームメイトである俺にも分かりやすく、メルクは端末に掛かれた命令を読み上げてくれる。

 どうも、端末を持っていない俺のためにありがとうよ、なんて言葉をポケモンが喋れるわけ無いので、代わりに猛々しく吠えて見せる。

 さぁ、ようやく出陣だ。

 





色違いアルセウスをゲットして、使ってみようと特殊型で育成していざカジュアル。
使い方が酷いのか何度も負ける羽目になる。
ついにはアローラキュウコンをパーティに入れて、それっぽくしてまたバトル。
原種ファイヤー、原種フリーザー、アローラキュウコン、セグレイブに氷テラスドダイトス。
何戦かして気づいた。

アルセウスが一番パーティからいらなくね?

あと、ステロがクソ痛ぇ。誰も靴履いてねぇ。マリルリ重すぎ。なんか当たり前のようにカイリュー出過ぎ。
そんな単純なことにも気づかない、バトル弱者です。
あと、カイリューはそろそろ自重して?
でもカイリューの攻撃するときの、翼や体を広げるあのモーションはマジで好き。


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突入前


 なんとかDLC前に投稿できた。


 

 飛空艇から出て数分後、最後にレッドが遅れてやってくる。

 それぞれピジョットやリザードン、アーマーガアを繰り出して、目的地の場所であるナナシマまで飛んでいく。

 グリーンの端末を覗いてみるに、ナナシマの4の島のようだ。

 

 ファイアレッド、リーフグリーンのみに登場する島。

 後に登場する作品や、リメイク元となった赤緑には登場しない。

 個人的にはHGSSとかでも出てほしかった島なのだが、そこは作られた経緯が経緯なのでしょうがないと言うしかない。

 ホウオウ、ルギアの演出。三鳥やミュウツーを捕獲できるだけありがたいと考えるべきだろう。

 ナナシマの由来は、七つの島があるからナナシマ。

 最後のひとつはまた別の理由だったはずだけど……、あいにくと忘れてしまった。

 

 さて、話を戻してナナシマの4の島と言えば……、これまた覚えていない。

 目的地まで飛んでいくにつれ、徐々に肌寒くなってくる気がするので、恐らくは四天王カンナの故郷の島だろう。

 カンナの故郷と言えばあの氷タイプが多く登場する洞窟のある場所。

 今回おれらが向かうのはそこになるだろう。

 

「準伝説級のポケモンだったら俺が一番乗りな!」

 

 真っ先にそう切り出したのはグリーンだった。

 相変わらず自信に満ちた態度である。

 その奥に秘めた感情がどんなものなのかは置いといて。

 

「本来の任務はロケット団だからね、それを忘れないでよ」

 

「……」

 

「わーってるって!」

 

 メルクの発言に少し浮かれていたおれも気持ちを切り替える。

 このカントー地方では、ただの下っ端が力持ちマリルリを繰り出してくる。

 あの時勝てたのは本当に偶然だ。

 実際の対戦、マリルリの前にファイヤーを出そうものならアクアテールか、もしくは腹叩いてアクジェで終わる。

 またもし、力持ちマリルリじゃなかったとしよう。

 それでもアニメでドサイドンを繰り出してくるロケット団がいた。

 あの時は目を疑ったものだ。

 普通のロケット団員下っ端がドサイドンを繰り出してくるとか、タケシの弟じゃないんだぞってさ。

 だからもう、この際ガブリアスを繰り出してきても驚きはしない。

 俺に今できるのは準備だけだ。

 ネット対戦、想像できないマイナーポケモンを使ってくるトレーナーと対峙した時と同じように。

 トレーナーではなくファイヤーという、一ポケモンでしかない俺に出来るのは準備だけなのである。

 

「それに準伝説だけじゃなくて、パラドックスやウルトラビースト、もしかしたら伝説のポケモンが現れるかもしれないからさ」

 

 メルクの注意喚起にグリーンは表情からおふざけを抜いて頷いた。

 タケシのレジロック、パラドックスのハバタクカミと戦っていたのでその危険性は十二分に把握しているためだろう。

 今でこそサイドンとギャラドスでレジロックを持っていけているけど、最初の何戦かはその登竜門すら超えられなかったもんな。

 タケシのレジロックは何戦もして、対策を組んでようやく切り抜けることができた準伝説級のポケモンだ。

 その準伝説級のポケモンを、初見で何とかしないといけない。

 流石にハバタクカミクラスがそうそう出てくるようなことは無いと思いたいが……。

 どこぞの場所でハバタクカミ大量発生とかあったもんなぁ。

 あれと繋がっていないことだけを節に祈るばかり。

 レッドも帽子の鍔を握り頷いていた。

 

 そんな会話をしていると、上空から4の島の全容が見えてきた。

 4の島はナナシマの中でも小さい部類に入る。

 それでも徐々に肌寒くなっているのだろうか。

 島に降り立った後、すぐにメルクが俺の近くに寄ってくる。

 腕を手で擦りながら「寒寒」言って。

 十中八九、肌色成分強めな黒巫女服の格好をしているからだと思う。

 グリーンも俺の近くでバッグから防寒着を取り出すと、すぐに上から羽織っていた。

 そしてレッドはというと、半袖なのにけろっとした顔で俺たちの方を見てきた。

 流石、急な天候の変化が連続して発生するイワヤマトンネルを修行場にする人である。

 常識が通用しない。

 

「んじゃ、ちょっくら話聞いてくるわ」

 

「ぼくも行くよ」

 

 民家の方に駆け出すグリーンの後ろ姿を、メルクは腕を振って追う。

 寒い癖に上に何も羽織らないメルクは馬鹿なのだろうか。

 グリーンに追いついたメルクは懐からダイブボールを取り出し上空に放る。

 青い光を伴い現れるはファイアロー。

 俺が言うのもなんだけど、ダイブボールに入れられるファイアローの気持ちを考えたことがあるのだろうか。

 本当、ウルトラボールに捕獲されている俺が言うのもなんだけど。

 それにしたってファイヤー使いのリーフに、ファイアローを持ったメルクに、リザードン使いのレッド。

 なんだ、この炎飛行同窓会は。

 ステロがクッソ痛そうだ。

 

「……」

 

 レッドは帽子の鍔を掴んで頷き、指さしたフレンドリーショップへと向かって行く。

 背負われた黄色いバッグが遠ざかっていくのを眺めながら、俺はふと思う。

 ……で、いったいどこに居たら良いのだろう。

 まぁ色違いのファイヤーがいれば目立つだろう。ポケモンセンターにでも居ればいいか。

 三人と一匹で降り立っているのだから、まさか野性のポケモンだとは思われないだろう。

 俺はそこで今回のウルトラホールから出てきたポケモンの対策を思考し始める。

 

 まず初めに考えるのは俺の現技構成だ。

 熱砂の大地、暴風、燃え尽きる、羽休め。特性は炎の身体。努力値配分はアローラで使われていた育成論をそのまま用いている。

 対して剣盾の頃に使用していたファイヤーの技構成は、鬼火、暴風、燃え尽きる、羽休め。

 そろそろ熱砂の大地を鬼火にしたい。

 この世界で技を覚える方法で今のところ判明しているのは、技の使い方のコツを覚えることだ。

 暴風はカスミの時の、確か雨乞いの黒雲に突っ込んでいったときに覚えたものだ。

 燃え尽きるは全身の炎を捻りだすようにして覚えた。

 羽休めはリーフに飛ぶなと指示されて覚えることができた。

 

 それでここから鬼火の使用方法を考えるわけだけど……、どうすれば良いんだろう。

 アニポケではゲンガーが炎タイプのポケモンから鬼火を覚えさせてもらう話が合ったけど。

 どこかに鬼火の使い方を教えてくれるポケモンでもいないだろうか。もしくは技マシンとか。

 なんて、都合よく行かないのだから考えるわけである。

 

 燃え尽きるとは違う要領、例えば炎を少しだけ飛ばすとかだろうか? 

 それだと火の粉になりそうなんだよな。

 ならば自分の燃えている翼から少し炎を取り出して、相手に放つような感じだろうか。

 そもそも演出はゴーストタイプの使う技みたいなのに、どうして炎タイプが簡単に覚えられるのだろうか。

 火傷させるほどの火を相手にぶつけて火傷状態にするとか、それ大文字とか火炎放射とか、それこそ燃え尽きるよりも高い火力の炎なんじゃないだろうか? 

 燃え尽きるに至っては相手を火傷状態にさせる効果無いしな。

 

 こう、自分の高熱の炎を小さな球に圧縮して相手にぶつけるイメージ。

 もしくはトレーナーがモンスターボールをぶつけるようなイメージだろうか。

 ……燃え尽きると違って全部の炎を吐き出すわけじゃないから、その辺り工夫がいるな。

 

 *  *  *

 

 ポケモンセンターのマスコットになりながらも、鬼火の練習をすること大体三十分ほど。

 色違いファイヤーの物珍しさに、トレーナーたちからパシャパシャと許可なくカメラで取られていると、情報収集を終えたであろうグリーンたちが呆れ顔で帰ってきた。

 俺に「目印になって助かるぜ」なんて言葉まで送ってきて。

 目印になるよう立っていたからな。

 そもそもどこを合流地点にするか決めていないトレーナーサイドに問題があると思う。

 俺は喋ることもスマホロトムで通話をすることもできないというのに。

 いっそ、ニャースみたいにあいうえおから練習するべきだろうか。

 

 グリーンとメルクは俺の近くに集まったトレーナーたちを散らす。

 反発してくるトレーナーも中には居たけど、俺がグリーンと協力することで既に野性ポケモンではないと見せつけたおかげで、断念して引っ込んでいった。

 そうして最後にフレンドリーショップに行ったレッドが帰ってきた。

 

「やっぱりここ最近、ロケット団らしき人影を見たってよ」

 

 グリーンはスマホロトムを操作しながらそう切り出した。

 恐らく狙いはこいつだろうなんて、レッドと俺に見えるように画面を見せてくれる。

 映し出されたのは水色の優雅な尾を持つ鳥。

 不遇不遇言われ続けてきたファイヤーよりもさらに不遇な三鳥の一匹。

 カントー地方、準伝説級ポケモンフリーザー。

 

「目撃証言によると、フリーザーは何か月か前に、この場所に飛んできたみたいだよ。ここの島民の何人かが目撃しているって」

 

 メルクはグリーンの言葉を補足してくれる。

 

「……」

 

「ごめんね、ボクはお兄ちゃんお姉ちゃんみたいに君の語りを理解できないんだ」

 

 メルクの言葉を真正面に受けてなお眉ひとつ動かさないレジェンド。

 威風堂々としたその立ち姿には、既に貫禄があるようにすら思える。

 でも、ここでその貫禄は無意味だ。

 俺にも理解できていないので、通訳であるグリーンさん頼みます。

 

「あーつまりだ。こいつは一刻も早く行こうって言ってる」

 

 真剣な表情をしたグリーンはため息交じりに通訳する。

 普通に言って。

 分かるよ? 言葉話した時点でレッドさんはレッドさんから少し遠くなるみたいなとこあるからね。

 でもまだチャンピオンとかじゃないんだからさ。背中で語ろうとするのはちょっと自重してほしい。

 

 それでフリーザーのところに行くって話だけど俺は賛成だ。

 しかし妙な胸騒ぎもする。

 ロケット団をそう安く見ても良いのだろうかって。ウルトラホールを自在に開けるのにさ。

 シャドウポケモンといい、もう少し警戒をしておいた方が良いんじゃないかって。

 今まで割となぁなぁで済ませて来れた部分はあるけど、俺の知識の大半がゲームによるものだ。

 ゲームでのロケット団ってぶっちゃけて言うと、そんなに脅威ではない。

 切り札がミュウツーだし、どこぞの地方の悪の組織みたくがっつりストーリーに絡んでくるわけでもない。

 レインボーロケット団とか、ストーリーというかは追加シナリオみたいな面があるしね。

 

 対してアニメのロケット団はというと、今でこそあんまりだけど昔はかなりの強敵だったんだよね。

 下っ端にサイドンとリザードンを平然と送れる程度にはさ。

 どうしてだろう。今まではこんなに考えることは無かったのに。

 恐らくはロケット団という存在そのものが未知だからだろう。

 ゲームとは明らかに違うから。

 

「ファイヤーは賛成みたいだね。ボクも当然賛成だよ。でもその前にね、ひとつ注意しておきたいことがあるんだ」

 

 注意したいこと? 

 メルクは手を叩いて俺たちの注意を集める。

 

「シャドウ化にはまだ先がある。もし戦うことがあったら極力技を避けて。人の悪意、闇に染まったポケモンの技は、並のポケモンには耐えられない」

 

 メルクの言葉はどうしてか実感が籠っているような気がする。

 少し考える素振りをするように顎に手を当てて、意を決した様子で口を開いた。

 この先俺たちは、メルクの言葉を否応なく思い知るような気がする。

 

「オーレ地方って知ってるかな? ロケット団のシャドウポケモンは、そこからも技術を得ているんだ」

 

 オーレ地方……オーレ地方って!

 俺はプレイしたことが無いけど聞いたことがある。

 あそこの技術も用いているということは……。

 

「聞いたことがある。確かポケモンの心を閉ざし、戦闘兵器にする技術を生み出した地方だったか。カントー地方から遠く離れた地方にあるっていう。そこでは確か、ダブルバトルの方が主流なんだよな」

 

「流石グリーンお兄ちゃんは博識だね」

 

 答えを出したグリーンに、メルクは怪しく笑いかける。

 そしてそのダークポケモンをスナッチして心の解放、リライブを行うことが大まかなあらすじだ。

 ……どうしてだろうか、胸騒ぎがさらに加速した気がした。

 確か俺の記憶通りだとスナッチマシンって悪の組織が開発した機械だよな?

 コロシアムでは主人公が悪の組織を裏切り、スナッチマシンを強奪。そこから物語が展開される。

 ロケット団はそんなオーレ地方の技術をも持っているってことは……。

 

「気を付けてね。ロケット団がスナッチマシン、ポケモンを奪う技術を持っているかもしれない」

 





公式の供給源がやばい。

ナナシマについて調べてみたところ、ポケスペでレッドがフリーザー、グリーンがサンダー、ブルーがファイヤーに乗ってナナシマに向かったという情報がありました。

あのチャンピオンズってポケスペからの輸入なんだと初めて知った瞬間でした。
ポケスペは未習なんだよなぁ、読んでおかないとまずいかな。

さてさてオーレ地方、懐かしく感じる読者はいるだろうか。
スナッチマシン、主人公が元悪の組織側、トレーナーからポケモンを奪うという、従来の作品からかけ離れた異色の作品。
毎度思うんだけど、あれ明らかにルンパッパの方が強いよね?
今ならペリッパーとか入れて構築組めそう。

ちなみにファイヤーの鬼火は元々XD001のファイヤーをリライブした時に覚えている技だそうです。
今でも使われるのかな、サンダーの金属音。


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一方その頃リーフは

 

 ファイヤーたちがいてだきの洞窟でロケット団との交戦を控えた一方その頃、時は少し遡る。

 ファイヤーと別れたリーフはしばし放心状態に陥っていた。

 タマムシジムに来る前まで依存していたファイヤーはもういない。

 三ヶ月経てば帰ってくるのは分かるのだが、その時になってまったく成長していない姿を見せるのはファイヤーに失礼だろう。

 何よりもう、ファイヤーに依存するトレーナーなんて恥ずかしい姿を見せたくはなかった。

 

「もう、後戻りはできない」

 

 リーフは自らの意思で足を動かし、タマムシジムへと向かって行く。

 一歩、また一歩歩くたびに決意が揺らぎそうになる。

 もう諦めよう、そんな声が既に頭の中から響き続ける。

 それはここまでずっと、ファイヤーに頼り続けてきた弱い自分の言葉だった。

 弱い意志が集合体となって、一種の思念波として自分に魅惑の言葉を囁くのだ。

 

「それでも決めたの。ファイヤーは最強じゃないから。ファイヤーを支えられる私になりたいって」

 

 ファイヤーは最強じゃなかった。

 戦えば相性不利の準伝説級には勝てるのかもしれないが、それでも大抵の場合は負ける。

 というか普通は負ける。

 それでもそんな絶対負ける状況を、ファイヤーは負けられないからと立ち上がってきた。

 リーフに勝利をもたらすために、レジロック、カプ・レヒレにライコウと何度も何度も勝ち続けてきた。

 そんなファイヤーにリーフは何かしてやれただろうか。

 応援以外にも、トレーナーらしいことをしてあげられただろうか。

 相性が不利だと分かっているのに、それでもファイヤーに頼り続けないといけないのか。

 それほど自分は弱いままで良いのか。

 

「嫌だ」

 

 絶対に嫌だ。

 ファイヤーのためもあるが、それ以上に嫌だ。

 そんな自分を認めたくない。

 頑張る相手に応援だけして安全圏から見守るだけの自分なんか大嫌いだ。

 そんな腑抜けは、ベルトのボールを今すぐにファイヤーに返した方が良い。

 でも、それが嫌だから。

 

 リーフの追憶にあるのはあの時の、ロケット団に兵器として使われていたシャドウポケモンの姿。

 どれだけ傷つけられると、どれほど戦うことのできる状態じゃなかろうと、それでも立ち上がって襲い掛かるあの痛ましい姿。

 あれを見るまで、リーフは何のためにトレーナーを目指しているのか分からなかった。

 大した強さや信念もないまま、準伝説級であるファイヤーを連れて。その強さに自惚れていた。

 でももう違う。それではダメなのだ。

 あの時のシャドウポケモンを解放してあげるためにも、ファイヤーだけでなく自分も強くならなくちゃいけないのだ。

 もう二度と、戦闘兵器として使われるポケモンを出してはならないためにも。

 守りを捨てて殻を破るときが来たのだ。

 

 気づけばリーフは、タマムシジムの前に立っていた。

 扉を潜ればもうとんぼ返りはできない。

 ここを潜り抜ければもう、リーフは前の自分に戻ることを許されない。

 重くのしかかる頭に迷いはなかった。凍えるほどの風が足を襲うような気もしたが、それでも飛び跳ねるように動かせた。

 さぁ、新たな扉が開かれる。

 

「リーフ、来ました!」

 

 リーフは確かに、自分の意思ではっきりと、タマムシジムの扉を開いたのだった。

 

  *  *  *

 

「……お疲れ、ウツボット。奥でジムリーダー、エリカが待っているよ」

 

 リーフは自分を打破した挑戦者に道を譲る。

 あれからタマムシジムのトレーナーになったリーフは、毎日誰かしら訪れる挑戦者たちと戦う日々を送っていた。

 使用していたウツボットはタマムシジムから借りていたポケモンだ。

 草タイプのポケモンジムなのに、別のタイプを使うわけにはいかないとエリカから言われている。

 負けた後は負けたで終わらせるのではなく、どうして負けたのかを考えるようになった。

 そしてジムリーダーと挑戦者が戦う時は、いつも観客席からそのバトルぶりを観察するようになった。

 

 ここに来てからというもの、ジムリーダーに勝てるトレーナーはほんの一握りであることを知った。

 挑戦者の九割以上のトレーナーが、エリカのビリジオンに敗北して帰っていく。

 リーフの知る限り、これを突破できたのはレッドのみ。

 グリーンは未だに挑戦しに来ていないため、もし戦ったとしたら勝つか負けるかは分からない。

 リーフが思うに、恐らくグリーンならエリカを打倒できるだろう。

 なんとなくだけど、そう感じていた。

 

 挑戦者が肩を落としてタマムシジムから遠ざかっていくのを見送ったリーフは、エリカのバトルを見て感じたことや思ったことを、ひとつひとつメモしていく。

 こういった積み重ねがポケモントレーナーとして大事なのだと、エリカは語っていた。

 

「お疲れ様です、リーフ。勉強熱心なのは良いことですけども、根を詰めすぎるのはよくありませんよ」

 

「まだ、まだです。ファイヤーに追いつくためには」

 

「焦るのはよくありませんわ。ゆっくりでも良いのです。ゆっくりと、自分のペースで」

 

 エリカはタマムシジムで穏やかに揺れる花を指先で優しく触れていた。

 エリカの言葉通り、リーフは焦っていた。

 そんなのは自分自身でも理解しているが、それでもリーフに植え付けられた悩みの種は一向に晴れないままだ。

 今のリーフにあるのは漠然とした、ファイヤーに追いつきたい、ファイヤーに相応しいポケモントレーナーになることだ。

 まずそれが出来なければ、シャドウポケモンを生み出すロケット団と戦う等、夢のまた夢だ。

 そしてそう自己暗示をしてしまっているからこそ、リーフは一種の強迫観念に駆られていた。

 

 打ち落とされたリーフの顔を、エリカはじっと望み込んではクスクスと笑う。

 

「それではひとつ、課題をお渡しいたしますわ。ファイヤーのいない期間中に、リーフのポケモンたちで、わたくしに勝ってくださいませ」

 

「私のポケモンたちで」

 

「もし勝てればバッジと、さらにご褒美を差し上げましょう」

 

 リーフのポケモンたちでエリカに打ち勝つ。それもファイヤーの力を借りることなく。

 いつも当たり前にいて、当たり前のように勝ってくれた存在抜きで。

 そんなエリカの言葉で、新たにリーフの中に芽生えたのは勝てるだろうかという不安の感情であった。

 初めてジムリーダーと戦った時と同じ感情。

 今の自分がエリカに勝とうとするなんて、それこそ夢のまた夢だ。

 より一層頑張らないと、という感情がリーフの中で吹雪く。

 

「それとわたくし、しばらく急用でこのジムには戻れませんの。戻ってきたとき、どれほどリーフが強くなれたのか確かめさせてもらいますわ」

 

 ではご機嫌ようと言い残し、エリカはジムの奥へと消えていく。

 それから一日後にグリーンからファイヤーを預かったという旨の報告をされるのだった。

 

  *  *  *

 

「エルフーン、追い風からの置き土産!」

 

「ちっ、ガオガエン捨て台詞!」

 

 今日も今日とて、リーフは挑戦者とバトルを繰り広げていた。

 事前に草タイプのポケモンを使ってくると分かっているからこそ、挑戦者は飛行タイプや炎タイプ、虫や毒といったポケモンで対策をしてくる。

 そんな挑戦者に対して、ジムトレーナーはあえて不利なポケモンを使う。

 例え飛行タイプで自身のポケモンが敗北しようと、例え手も足も出すことができず敗北しても。

 それでもジムトレーナーは挑戦者に対して不利なポケモンを使うのである。

 

「行って、ダーテング! 日本晴れ!」

 

「行けっ、ジャラランガ! ソウルビート!」

 

 そしてこれは、そういうジムの方針だから以外にもちゃんとした理由があった。

 

「ジャラランガ! スケイルノイ――」

 

「ダーテング! 大爆発!」

 

 ダーテングの爆発に巻き込まれたジャラランガは、防御が一段階上昇した状態でも耐えられなかった。

 目を回すジャラランガを戻した挑戦者は、悔しそうに歯噛みすると最後のボールを握り締める。

 目を瞑る。それは経った数秒のことだとしても、挑戦者からしてみれば数時間にも等しかった。

 今まで培ってきたすべてをここでぶつける。そして必ず勝ってバッジを手に入れる。

そんな並々ならぬ思いを、リーフは濁流の如くぶつけられる。

 一秒、二秒、三秒、小刻みに流れる時間が妙に長い。

 挑戦者が再び瞼を開ければ、そこには覚悟の色を宿っていた。

 必ず勝つという絶対の意思が。

 それを目の当たりにしたリーフも、負けてられないと同じように最後の一匹を手に取る。

 ひとつ息を吐いて深呼吸。頭の中に冷静さを捻じ込んで。

 挑戦者をまっすぐと見つめる。滴る汗に構うことなく。

 

「お前が頼りだ、行けガオガエン!」

 

「最後はもちろん、フシギバナ!」

 

 お互い、最後の一匹を繰り出した。

 

  *  *  *

 

「なんで勝てないのかな」

 

 勝負の終わり、リーフは雪崩れるように芝生の上に寝転がった。

 全身の体重、疲れを預けるようにして。眉毛を通って目に侵入を掛けてくる汗を腕で拭う。

 アドレナリンが抜けてきた脳は、バトルに意識を割いていた五感を急激に知覚していく。

 汗を吸い取った腕を降ろしてみれば、脳を直接つんざくような刺激臭が鼻を襲う。

 自分の身体から出てきた臭いとは到底思えない物に、リーフは顔をしかめながら上半身だけでも持ち上げた。

 

「お疲れさん」

 

 ねぎらいの言葉が投げかけられると共に、リーフにふんわりとした触感が覆いかぶさる。

 リーフの後ろ、同じくタマムシジムでジムトレーナーをしている女子仲間のチオから、タオルを投下されたのだ。

 オレンの実を使った清涼感香るタオル。

 それは汗まみれの刺激臭地獄から一転、天国から差し伸べられた手のようであった。

臭いから逃れるように顔を埋めたリーフを、タオルはチルタリス羽毛のようなふんわり触感で出迎えてくれる。

 穏やかな日差しを浴びて育ったタオルは、触れているだけでも堕落していきそうな心地よさであった。

 そんなタオルの質感を存分に顔で味わうリーフの傍に、チオは咎めることなく座り込む。

 

「さっきのバトル、良い線まで行ってたね」

 

 バトルの結果は挑戦者の勝利で幕を閉じた。

 ガオガエンのフレアドライブが、フシギバナをぶっ飛ばして試合終了。

 日本晴れのおぜん立てをした。追い風でのサポートもあった。

 それでもタイプ相性の差というのは簡単に覆らない。

 

 リーフと挑戦者の勝ちたい思いはどちらも負けてなどいなかったが、それで勝てるほど勝負は甘くない。

 相手は終始草タイプに有利なポケモンを持って戦いに挑んできていた。

 それを踏まえたうえで、どうすればバトルに勝利することができるのか。

 どのポケモンを使っていれば、どの技構成をしていれば、どのような試合運びをしていれば。

 ひとつひとつの要因を堅実に重ね続けて、どうすればバトル経験を埋めることができるのかを考える。

 そこまでしないと今のリーフに勝ち目はない。

 

「今回の負けた要因は安易に日本晴れを使ったこと。そのせいでガオガエンの炎タイプの技を上げてしまった。そんなミス、ファイヤーならやらない」

 

「そうかな? フシギバナの特性、葉緑素なんでしょ? 日本晴れという選択は間違っていないと思うよ。ただ、ガオガエンの特性が威嚇だったってだけで」

 

「威嚇で攻撃力が下がるのなら、特殊攻撃で戦えばいい。フシギバナは大地の力を覚えれるのに。私はまだまだ弱いなぁ」

 

 リーフは今までの戦績を思い出す。

 幾度となく挑戦者と戦い、そのたびに敗北して、そのたびに考えて次のポケモンを練ってきた。

 それでもリーフの勝率は一割行くかいかないか。

 何度バトルしても、惜しいところまでは行けるのにあとちょっとを踏み込めない。

 そんなリーフをチヨはいつものことだと片付ける。

 

「あんまり焦らない方が良いよ。今のリーフは――」

 

「焦るよ」

 

 励まそうとするチヨの言葉をリーフは遮る。

 

「レッドはエリカさんに勝った。グリーンは一からタケシさんに挑み、自分を鍛え直している。数歩遅れた私は誰よりも努力しないと」

 

 リーフはぐっと拳を握り締める。

 二人がジム戦に挑んでひとつひとつ強くなっている間、自分がやってきたことと言えばファイヤーに無理を掛け続けたことだけ。

 ファイヤーの強さを自分の強さと勘違いした。

 今だからこそ理解できる。タケシの言った、ファイヤーと勝負をしている気分になるという言葉。

 マチスでようやくトレーナーとして一歩を進み始めた。

それは多くのトレーナーがタケシに挑む前にしている決意であって、三つ目のジムでようやくその認識になるのはあまりにも遅すぎる。

リーフはここまでやってきているトレーナーの中で、誰よりも弱く経験値も努力値も獲得できていない。

 だから少しでも追いつくために頑張る。

 今はまだその後ろ姿が遠くても、勝ちたい思いを背負わせるのではなく、一緒に掴み取るために。

 そしてロケット団という見果てぬ強大な敵を倒すために。

 リーフは頑張り続ける。

 

「でもさ、それ疲れない?」

 

 一辺倒に前だけを走り続けようとするリーフの腕を、チヨは横から引っ張った。

 

「疲れる? ううん、疲れないよ。私はまだまだ余裕余裕!」

 

「そうじゃなくてね。傍から見てると分かるんだけどさ、リーフのバトルっていつも余裕が無いんだよね。これだ! って決めると、妥協とか休むこととか知らずに、無我夢中で走り続けないと気が済まないって感じの」

 

「エリカさんにも言われたよ。でも妥協とか休んでいる暇は無い――」

 

「その焦る気持ちは、間違いなくフィールドで戦っているポケモンにも伝わっているよ。トレーナーが焦っているから、ポケモンもその気持ちに応えようとする。そして空回りをして連敗して、また焦って空回り」

 

 ピョンピョンと跳ねて近くにやってきたナゾノクサ。

その頭を撫でながら紡がれるチヨの言葉は、軽い調子なのにリーフの心を見透かす力を秘めていた。

 ナゾノクサが嬉しそうに、表情を綻ばせて飛び上がる。

 

「リーフのファイヤーがどれほどトレーナーとしての力を秘めていたのか分からないけどさ。時には空を見上げて、時には花を愛でて。そんな風に回り道しながら、ポケモンに向き合うのもあたしはありだと思うよ」

 

 一個人の感想だけどねー、と楽しそうに笑うチヨに、釣られて集まる草タイプのポケモンたち。

 リーフの頭に広がる白い霧は未だ曇ったままである。

 それで何とかなるのなら、エリカに同じような言葉を投げられた時点でとっくにやっている。

 それを同じ、ジムリーダーではないジムトレーナーのチヨに言われたからなんだという話だ。

 はいそうですかと納得できるほど、リーフの悩みの種は根深かった。

 それでもリーフの焦りにひとつ、僅かにだが切り込みを入れる言葉でもあった。

 

「ありがとう。でもやっぱり、私はまだまだ立ち止まれない」

 

「そっか、頑張れリーフ。それでさ、今度の休み、一緒にデパートに行かない? なんか期間限定の和菓子が出てるみたいで気になってんだよねー!」

 

「いいかな。私はポケモンたちと強くならないとだから」

 

「そっかそっか。それじゃあまた今度、遊びに行こ」

 

 そうしてチヨは重い腰を上げ、空を見上げて挑戦者とのバトルに備えようと行動する。

 リーフは芝生の広がる地面に顔を向け、強く握りしめた自分の拳を見つめていた。

 今はただの石ころにしか過ぎないが、それでもいずれくるエリカとのバトルのために。

 リーフも前を見据えるのだった。





 リーフ成分が足りない……ということで投稿です。

 拝啓
 みなさんはDLC楽しんでおりますか?
 私は色違いファイヤーを入手できないと知って、アローラに帰省しています。
 二匹目の色違いファイヤーをゲットしたので、あと四匹は欲しいところです。
 光るお守り入手や色違いファイヤーを出すより、一々挟まれるイベントに四苦八苦する毎日です。
 ひとつの町で二つ以上のイベント、道路でもイベントが起きるのは時間を奪われます。
 それでも色違いファイヤーが欲しいので、今日もまたストーリーを進めるのです。

 話は変わりますが、DLCが解禁されたおかげで、色違いレッドパーティも組みやすくなりました。
 いざ作って対戦に出たところ、水ラオスが辛いです。サフゴが辛いです。カイリュー辛いです。ハバカミは出てこないです。
 ピカチュウ(耐久低い)、リザードン(水流連打)、フシギバナ(アイススピアー)、カメックス(インファ)、ラプラス(インファ)、カビゴン(インファ)。

 これ大半が水ラオスだけで吹っ飛ぶっていう真実です。
 カイリューは何なんでしょうね。氷統一にも夏場の蚊の如く出てくるので、もう何なんだろうあいつっていう印象です。
 つまるところ手に負えません。
 貯水ゴーストテラスラプラスで何とか抑えておりますが、耐久特化なので何とか出来る火力がありません。
 水ラオス、カイリューよりも天敵です。

 そんなレッドパーティで潜っているうちに気が付きました。
 フシギバナ S80
 ガオガエン S60

 フシギバナの方が速かったんかい!?

 リザードン S100
 ウーラオス S97

 リザの方が速いのに毎度最速抜かれているのはなぜ!?

 こんなポケモン色違い厳選勢が書く小説ですが、来年もお付き合いいただけると幸いです。
 では良いお年を。

 PS.前にも書いた気がしますが、私の一番好きなタイプは虫だったりします。
  嫁ポケモンはテッカニン。他にもペンドラーとかデンチュラとかアブリボンとかモスノウとかが好きです。
  なのに集めているのは色違いファイヤー。……妙だな?


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ダークシャドウポケモン

 

 初めてゲームでいてだきの洞窟を見た時、俺の心に合ったのはここには何があるのだろうという冒険心に満ち溢れていた。

 ニューラの生息地及び、近くの村での孵化作業。

 攻略本を読んだ時、ここにラプラスが生息しているのかと胸が躍ったものである。

 踊っただけで手持ちにはヤマブキシティで貰ったラプラスが既にいたわけだけど。

 

 ナナシマは良くも俺に影響を与えてくれた場所だ。

 色褪せた思い出しかもう持っていないけれど、それでも声を大にして言える。

 もう一度、ナナシマで冒険をしてみたいって。

 もう一度、あの懐かしいBGMを聞いていたいと。

 俺をひと時だけでも子どもの頃を思い起こさせてくれるナナシマが今、現実としてここにある。

 しかして多少の感傷に耽っていた俺を迎えたのは、まるでこの世の悪意を濃縮して、圧縮して、それをさらにドロドロに煮込んだかのような、重たい空気だった。

 内部はもっと嫌なオーラが充満している。

 ここが寒い場所であったことをすっかり頭の中からぶっ飛んでしまうほどに。

 

「おいおい、ここにフリーザーいんのか? 野性ポケモンすらいねーじゃねぇか」

 

 袖で顔を覆ったグリーンは、顔を歪ませて眼前に広がるいてだきの洞窟を進む。

 

「ロケット団のせいだろうね。あまりこの空気にポケモンを触れさせない方が良いよ。普通のポケモンには毒だから」

 

 毒ぅ? 

 毒って感じはしない……っとと。

 身体の内側から何かが根を張るように侵食してきて俺は千鳥足を踏む。

 毒や猛毒とは違って直接身体を害そうって感じの物じゃないけど、反応は鈍るし、夏場の湿気のように鬱陶しいのにどうしようもならない。

 この環境、普通のポケモンであれば気が散って仕方ないと思う。具体的には回避率が下がる思いだ。

 

「面白れぇじゃん! 全部この俺様が倒してやるよ!」

 

「もう一度言うけど気を付けてね。特にロケット団のポケモンの技には」

 

「わーってるよ! 攻撃を受けなきゃいいんだろ!」

 

 あしらうようにメルクの言葉に手を振るグリーン。

 その様子にレッドは何か物を言いたげに視線をぶつけている。

 

 原作ならまだしもここのグリーンなら本当に分かっていると思うよ? 

 少なくともカントーとジョウトのチャンピオンになった程度で、世界で一番強いトレーナーなんてほざく、あの思い上がった傲慢さを感じないからさ。

 俺的には不安を隠すための自己暗示のようなものだと考えている。

 それはレッドも理解したのだろうか。グリーンの目を覗き込み、しばらくして微笑を浮かべていた。

 

 洞窟の内を進行していると、不意にレッドが手を横に広げて立ち止まる。

 氷で覆わされた壁のある一点を見つめたまま、顔に警戒心を露わにしている。

 自然な流れでベルトのモンスターボールに手を当てる。

 グリーンとメルクもレッドの行動に引っ張られる形でボールに手をやった。

 

「バレちゃしょうがないか。この洞窟はロケット団が占拠した! すべてのポケモンを置いて逃げ出すんなら何もしないでやるよ!」

 

 レッドの警戒していた壁から現れたのは、黒い帽子にでかでかとレインボーにRと描かれた黒シャツ。

 見るからに下っ端ですよと言わんばかりの男性だ。

 

「逃げ出す? 下っ端なのに随分と大言壮語を吐くんだね」

 

「警告はしたからな! 行けっカビゴン! 奴らを叩き潰せ!」

 

 安い挑発に速攻で乗ってきた下っ端は、Rの赤文字が入った黒いボールを投げた。

 現れたのは赤い目をしたカビゴン。俺でも分かる程度に紫混じった黒色の靄に包まれたそいつは、何の感情もない顔で降り立った。

 膝を曲げて着地するという、生物として当たり前のことすら行わずに。

 瞼こそ開いていないが、カビゴンの瞳に睨まれた俺を襲ってきたのは、強烈な不安感と逃亡を訴えてくる本能だった。

 前のマリルリとブロスターと戦った時と同じ、こいつは冗談抜きでやばいと訴えてくるあの本能。

 

 ファイヤーで特防の数値が高いカビゴンを相手するのは厳しいな。

 特功の数値だけで言えばカビゴンよりも上だけど、あいにくと耐久振りなわけだし。

 燃え尽きるを撃ってしまえば、残る打点はもう暴風だけだ。

 カビゴンにはリサイクル型とか眠寝言型とかいる。

 火傷に頼った戦いをしたところで、すぐに体力を削られて、それこそ空元気なんか搭載されていたら終わりだろう。

 キョダイサイセイカビゴンは強かった。

 免疫よりも食いしん坊の方が多いだろうけど、それでも毒状態にするのも憚られる。

 あくまでこの場に、俺しかいなかったらの話だが。

 

「カビゴンならあいにく対策済みだぜ! カイリキー! グロウパンチ!」

 

「リキー! (ウオオオオ──!)」

 

 こういう時、やっぱりグリーンは頼りになる。

 何度も戦った仲だから、この中で一番俺についての造詣が深い。

 認めたくは無いけど、二番目はメルクだろう。育成方針があれなうえに、俺のステータスを見て「今の環境じゃ使いにくいかなぁ」とかほざいてきたし。

 今の環境ってどこの地方のどの環境だよ、ってめっちゃツッコミを入れたいところだけど。

 レッドはこの中で一番強いかもしれないけど論外。レベルでごり押しするタイプだから。

 

 ボールから登場すると共に飛び出したカイリキーは、四つの拳に鉄をも粉砕するほど固くした。

 地面を踏み砕かん勢いで足に力を籠め、格闘タイプらしく正々堂々真正面からカビゴンに立ち向かう。

 

「まずは一匹!」

 

 種族値だけ見ればカイリキーは鈍足の部類に入るが、カビゴンはそれよりもさらに遅い。

 アニメのバトル形式であるこの世界だが、ポケモン一匹一匹の性能はゲームを基準としている。

 鋼鉄の筋肉全てを乗せていざ放たれようとしていたカイリキーの拳に、ロケット団の下っ端は不敵な笑みを浮かべた。

 自身の弱点ともいえる格闘技を前にして、カビゴンは恐怖することも勇気を振り絞ることもなく立っていた。

 何かがおかしい。俺が懸念を感じたころにはもう遅かった。

 

「カイリキー!」

 

 突如として洞窟の奥から飛んできた黒いオーラによって、カイリキーの身体ごと弾き飛ばされたからだ。

 ゴーン! っと、壁を砕く勢いで叩きつけられたカイリキーは目を回して崩れ落ちる。

 洞窟の奥の闇から現れたキュウコンは、カビゴンと同じようにその目を赤く染めていた。

 

「増援かな」

 

 メルクの言葉通り、奥からさらにわらわらとロケット団が現れる。

 数にして十人以上。数えたところでさらに奥から湧いてくるのでキリがない。

 その増援たちがさらに一匹づつポケモンを繰り出してくる。

 もれなくその全匹がシャドウポケモンであり、ダークポケモンだ。

 

 しかも現れたロケット団は全員もれなく下っ端なのに、メタグロスやカイリュー、ガブリアスといった六百族の面々が連なっているのはいかがなものか。

 ドサイドンとか倒しきれる気がしない。

 準伝説級以上は一匹としていないものの、準伝説級以上に厄介な奴ら勢ぞろいだ。

 

「クソッ、ウインディ!」

 

「……」

 

「ピッカー(やな感じー)」

 

「じゃあぼくはこの子で!」

 

 グリーンはウインディ、レッドはピカチュウ、メルクはギャラドス。

 そこに俺こと原種ファイヤーが加わるわけだから、何とも懐かしさ全開なカントーチームである。

 あとピカチュウ、その言葉をお前が使うのか。ロケット団と対峙している時に。

 

「ファイヤーはあっちのカビゴンを何とかして」

 

「ギャーオ(よりにもよってカビゴンかよ)」

 

「ヒメリの実はいっぱいあるから、好きに戦ってきて!」

 

 メルクに言われずとも好きに戦うから良いけどさ。

 ここでジムバッジが足りないようだをして、単身でダークポケモンの群れに向かうほど馬鹿じゃない。

 ほんっとうに不本意だけどメルクの指示通りに動いた方が良さそうだ。

 戦況が超不利からある程度不利に変わるだけだし。

 

「カビゴン、ダークラッシュ!」

 

 心を閉ざして兵器と変えられてしまったカビゴンが、黒いオーラを纏って限界を優に超えた力で飛び出した。

 初めからダーク技が来ると分かっていた俺は、暴風を自身の足元にぶつけて急上昇して躱した。

 こっちも待ってくれないみたいだしさ。

 

「早くしろ! ダークブレイクだ!」

 

 血が尋常じゃない速度で巡っているのか、普通ではありえないほどにカビゴンの腕が肥大化する。

 光など届かない奈落、そこに潜む得体のしれない化け物を引っ張ってきたかのような果てしない絶望色を秘めた拳が振るわれた。

 目をそむけたくなる惨たらしい姿は、赤いギャラドスの都市伝説を思い起こすかのように痛ましい。

 攻撃の余波で僅かに散る黒いオーラだけでも、俺の肌は尋常じゃないほどにピリついて来る。

 

 心で理解できる。これはどうしようもない。

 ここがゲーム世界だったら今頃確定一発取られてやられていた。

 

「何してんだ! 相手はたかだかファイヤー如きだぞ! さっさと仕留めろ! でなきゃ処分すんぞ!」

 

 あの下っ端にダイレクトアタックしちゃダメかな? 

 たかだかファイヤー如きといった罪と、処分というポケモンを物としか扱っていない罪で。

 試しに狙いを定めようと下っ端に眼光を叩きつけて見るも、すぐに振り下ろされるカビゴンの腕に意識を持っていかれる。

 ダメではなく今は無理だな。

 こいつを何とかしないと。




ちょっとした解説:ダーク技はXDで登場した技です。

ダーク技はダークポケモン以外に当てた場合、全18種タイプに対して効果抜群判定になります。
あてさえすれば相手がノーマルだろうが、電気だろうが、ドラゴンだろうがフェアリーだろうが効果抜群になります。

特徴が似たものとして、ステラタイプが挙げられます。
こちらもテラスタルしたポケモンに対してテラバースト、テラクラスターを撃った場合、相手が何タイプテラスであろうと効果抜群になります。

ステラタイプにテラスタルした場合、元のタイプが変化しない特徴も同じです。
ダークギャラドスであれば水飛行、ダークマリルリであれば水妖精、ダークラフレシアであれば草毒タイプとなります。
普通のポケモン同様、弱点を突く攻撃を撃てば効果抜群になります。

またダーク技は使い続けるとリバース状態、ハイパー状態という、混乱に近い状態になります。
しかし敵が使用している場合において、この状態になることは無いので、覚えておかなくて大丈夫です。

ここからがこの作品独自の一部仕様となっております。
こちらは作品の都合上、解説できないため書いておきます。

ダークシャドウポケモンとは、ポケモンコロシアム及びXDで登場したダークポケモンと、ポケモンGOで登場したシャドウポケモン、二つの性質を併せ持ったハイブリッドポケモンです。

本来ダーク技は相手のポケモンを捕獲する際の嫌がらせとして使用されますが、この作品においては対戦で実用的な物として使用しております。
具体的にはタイプ一致補正が追加されています。

今回のA特化カビゴンでいうと、
162(実数値)×75(ダークブレイク)×2(効果抜群)×1.5(タイプ一致)となります。
火力指数36450
ここからさらにシャドウポケモンの性質、攻撃特功に1.2倍補正が追加されます。
なので総火力指数43740となります。

これがレベル50、性格、特性、持ち物、ランク、天候、補正無しで放たれます。

もし性格補正をプラスすると、火力指数48060となり、
うちのファイヤーが食らうともれなく410ダメージなので、三匹くらい吹っ飛びます。
輝石持ちHB特化ポリ2が確定一発で吹っ飛びます。
特殊物理反転した輝石持ちHBラッキーに305ダメージ叩き込まれます。
乱数とかは含まれていない初心者が適当に算出した数字なので、あくまで参考程度に。

……原作でタイプ一致が無かった理由が良く分かりますね。
他にもダークウェザーとかいう、ダーク技をさらに1.5倍にする天候があったり。

ここまでやっておいてなんですが、
腹太鼓A特化力持ちマリルリのアクアテール、火力指数120960。
うん。

あと、シャドウポケモンの特徴はこれだけじゃなかったり。


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