鉄騎中隊の亡霊 (呼び水の主)
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君は生き延びることができるか?

 

 薄暗いコックピットの中で、計器類やモニターが淡い光を明滅させている。ヘルメットのバイザー越しにその光を感じながら、俺はゆっくりと深呼吸した。

 

 バルメラ・エレクリーガー少尉。25歳。元戦闘機パイロットで、22歳で士官学校を卒業してからは、特に実戦に遭遇することもなく軍人人生を歩んできた。そんなコネも実績もない俺がこの年齢で尉官を拝命できたのは、ひとえに連邦軍の新型兵器『モビルスーツ』のパイロットに抜擢されたからだ。

 

 モビルスーツ。一言で言えば機械の巨人だ。乗り込み型ロボットとでも言えばわかりやすいか。俺の乗る機体の名前はガンキャノンと呼ばれている。全高およそ18メートル。人のように手に武器を持ち、頭部にはバルカン砲、肩にはキャノン砲。

 

 俺はこいつがいたく気に入っていた。一目見た時から妙な高揚感を覚えていた。なんだか初めて見た気がしないというか、長年の相棒と何十年か越しに再会したかのような、そんな妙な感覚だった。

 

 そんなわけだから、俺はひたすらシミュレーターにこもってガンキャノンの習熟訓練に打ち込んだ。今じゃ手足のようにこいつを動かせる。もう一つの俺の身体だ。

 

『目標降下地点まで60秒!各機、機体の最終チェック願います!その間、本作戦の概要を再度説明します』

 

 女性オペレーターの声で、これまで何度も反復してきた動作を流れるように実施していく。

 

メインエンジン、グリーン

オートバランサー、グリーン

各部駆動系、グリーン

全兵装オンライン

システム・オールグリーン

 

『本作戦の目標は月面にて待機している要人保護となります。なお、本作戦には目標の奪還、ないし暗殺として不明勢力の参戦が予測されます。各員は目標収容まで本艦を護衛、不明勢力を撃滅してください。──降下地点に到着。みなさん、ご武運を!』

 

 特殊輸送艦ディーテウスの側面に5つずつ並ぶ計10のハッチが重低音を唸らせながら開いていく。ガンキャノンの背部アタッチメントがハンガーから切り離されて、機体が月面の微弱な重力に囚われて自由落下を始めた。灰色に塗装された10体の金属製の巨人が月に影を作った。

 

 メインモニターが現場の状況をスキャンする。目標と思われる要人の乗る月面カーが、500メートル先で擱座しているのが見えた。なんと宇宙戦闘機に狙われているようだ。機銃の放った弾丸が月面カーの周りを跳ねた。不明勢力、もう参戦してるじゃん!

 

『オイオイオイ!やばいんじゃねーのか!?』

 アイアン2が焦った声で怒鳴った。

 

 ズン!

 

 ガンキャノンの両脚が月面を踏み締めた瞬間、膝立ちさせて手に持ったライフルの照準を戦闘機に合わせる。

 

『クソ!目標が近すぎる!』

 

 無線から仲間たちの悪態が聞こえてくる中、俺は静かに照準を合わせたままだ。この距離じゃ保護対象まで巻き込んでしまうだろう。普通のやつならな。

 

『アイアン3。やってくれ!』

 

「こちらアイアン3。了解です、アイアン1(隊長)

 

 ドフ!

 

 ライフルが火を吹いた。単発モードで敵戦闘機を狙撃。ロングバレルを装着し弾道を安定させ、俺の習熟訓練1000時間を合わせれば造作もないことよ……。(マジキチスマイル)

 

『ピュウ!流石1000時間(ワンサウザンド)

『まさに桁違いの神技だな……』

『戦闘機を狙撃とかイッちまってるよ』

『頭おかしいんじゃないのか』

『こえーよ俺』

 

  ハハハ褒めるな褒めるな。モビルスーツのテストパイロットになってから半年。軍人としての仕事を除くプライベートを全てシミュレーターの中で過ごしていた(というか住んでいた)俺は、そのひたむきなストイックさを評価され仲間たちからは『バカ』『コワイ』と呼ばれ敬われていた。

 

 『新たな反応を感知!6時の方向!これは戦闘機じゃないぞ!』

 

 センサーが強化された隊長機がいち早く敵機を察知した。ちなみに輸送艦ディーテウスは月面に降下し要人を収容中だ。離陸し離脱するまであと3分はかかるだろう。

 

『先制する!アイアン3は狙撃。各機はキャノン砲で弾幕を張る。敵をディーテウスに近づけさせるな!』

 

『『『了解!』』』

 

 狙撃地点を探してガンキャノンを移動させる。傾斜のついた丘のようなポイントを確保。左手には守るべきディーテウスが、右手に敵機がくるような戦場を一望できる場所だ。

 

 ガンキャノンのセンサーがライフルのスコープと連動して望遠モードで敵を捉えた。

 

「無敵の鉄機中隊に喧嘩を売ってきたのはどこのマヌケだ、……ぁ?」

 

 スコープを覗いた先にいまのは、一つ目のモビルスーツ達だった。赤、青、黒の五機。敵にもモビルスーツ!それはいい。数は5だ。10機の俺たちに勝てるはずがない。数は力だ。

 

【戦いは数だよ兄貴!】

 

 無意識にトリガーを引いた。百発百中のはずの弾丸は、しかし赤い巨人にゆうゆうと回避された。ドッ!青と黒の4機がキャノン砲で飽和攻撃を仕掛けようとしていたガンキャノン達にマシンガンやバズーカを斉射しつつ突貫した。出鼻を挫かれたキャノン隊がすり潰されていく様を、しかし俺には目にする隙も、援護の余裕も存在しなかった。

 

 ドフ!ドフ!ドフ!

 

 いつもと同じ、訓練通りの正確な射撃だ。百発百中だぞ。お前はもう4回も死んでいるはすだ。

 

「ゎ、ぁ……なんで」

 

 だというのに、目の前の赤いヤツには擦りもしない。赤いのが手にしたマシンガンを連射した。ガンキャノンの分厚い正面装甲が何発かを受け止めるが、頭部カメラやライフルがグシャグシャにされて火を吹いた。コックピットが大きく揺れてモニターがひび割れ、計器がけたたましいアラートでがなりたてる。

 

【シャアだ。赤い彗星だ……!逃げろぉ!】

 

 辛うじて切り替わったサブモニターが写したのは、トマホークのような武器を振りかぶって跳躍してくる赤いやつの姿だった。

 

「ワァーーーー!!!」

 

その日、俺は思い出した

前世の記憶を……

機動戦士ガンダムの世界を……

 

 




エタらないように頑張るので感想をください(乞食スタイル)


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お前を殺す男の名だ

シャアの思想が原作乖離していきます。(戦闘民族化)
一応ご注意ください。


 シャア・アズナブル。後に赤い彗星と呼ばれるジオン公国のエースパイロットである。彼にも複雑な背景があるが、簡潔に言えばジオンで一番偉い人ジオン・ズム・ダイクンの遺児で長男で、父と母を虐め抜いた挙句実権を掠め取ったザビ家の事を恨みまくっている復讐の人で、要約するとマザコンである。(この説明で各方面大丈夫!?)

 

 モビルスーツパイロットとしてのセンスはガンダム世界でも主人公の次、いやララァの次かな……次作以降ならカミーユとかハマーン、シロッコの次……、いやでも話の展開の都合とかもあるしな……、ってなくらい上位に食い込むほどの主人公アムロの長年にして積年のライバルキャラである。つまり強い(Q.E.D.証明終了)

 

 そして今現在のシャアだが、彼はモビルスーツパイロットとしてはまだ数ヶ月。モビルスーツそのものも、アニメで搭乗していたザクⅡのその更に一世代前のザクⅠである。彼にとってもモビルスーツとは慣れ親しみのない新兵器なのだった。そんな彼でも、目の前で足掻く頭部を失った連邦軍のモビルスーツには驚きを隠せないでいた。

 

 鈍重な運動性、モビルスーツの原型としてほぼ完成されたザクⅠとは比べるまでもないモビルスーツの『できそこない』。優っているのは武装と装甲くらいのもので、敵にもならない相手。事実、シャアの攻撃を受けて呆気なく頭部と武装を失った手負の相手である。

 

 であるにも関わらず、仕留めきれずにいる。

 

「ほぅ……?」

 

 振り下ろしたヒートトマホークを掻い潜って、敵機が組みつこうと突撃してくる。装甲をアテにした馬鹿の一つ覚え、しかし有効な戦術だ。その鈍重なモビルスーツでは、格闘戦は不可能だろう。質量を活かした体当たりで、こちらの動きを封じる腹積りらしい。運動性を殺されれば、至近距離からのキャノン砲は脅威になる。

 

「連邦軍には惜しいパイロットだ!」

 

 シャアのザクⅠが敵機の肩を蹴り上げる。肩のキャノン砲が弾け飛んだ。たまらず後退するかと思えた敵機は、しかしひしゃげた肩を向けてショルダータックルを繰り出してくる。シャアの巧みな操作でタックルから逃れたザクⅠだったが、キャノン持ちのパイロットはシャアの予想を瞬間上回った。

 

 ドム!

 

「なんだと!?」

 

 ザクⅠとのすれ違いざま、ガンキャノンが残った左のキャノン砲を月面に発砲した。凄まじい衝撃がシャアを襲い、一瞬の隙が生まれた。もうもうと立ち込めるレゴリスを突き破り、左腕を大きく振りかぶった灰色の巨体が吶喊してくる。

 

『チェストォォォォォ!!!』

 

 まるで本物の人間のような動きで繰り出された拳と、咄嗟に打ち払うように繰り出されたザクⅠのヒートホークが交差した。ヒートホークがガンキャノンの肘上までめり込んで、しかし止まらずザクⅠの頭部を強打した。

 

「ぬぅ!?」

 

 体勢を立て直したザクⅠに、肘から抜き放ったヒートホークを我が物にしてデュラハン(首無しの機体)が襲いかかった。

 

「やるな、連邦のパイロット!!」

 

 シャアは知れず笑っていた。

 テアボロ・マスの庇護を離れ、身分を偽って軍に入ったのは、ザビ家に近づき己の復讐を果たす為。それ以外の目的など、考えられもしなかった。だがしかし、ここに来て自分を楽しませる人間がいる。あるいはモビルスーツのパイロットこそ、自分の天職だったのかも知れなかった。

 

 ザクⅠのマシンガンが火を吹いて、ヒートホークを空振ったガンキャノンの装甲を叩く。遂に耐えきれなくなったのだろう、全身から黒煙を吐き出しながら、それでも鉄の騎士は倒れなかった。モニターが完全に死んだのだろう。コックピットハッチが中から吹き飛んで、パイロットの姿があらわになる。

 

『貴官の名をきいておこう!』

 

『バルメア・エレクトリーガー。お前を殺す男の名だ』

 

 シャアは全身が震えた。自分は、浅ましくもこの男との戦いに悦びを感じている。闘いの熱に呑まれるとは、所詮己も人類の愚かしさから逃れられん只人だと言うことか。

 

 しかしそれがなんだと言うのか。父の語った人の革新、ニュータイプ。人類が宇宙に出て進化したとして、果たして闘争本能を捨てることができるだろうか。そんなものわかりはしない。ただ一つわかるのは、今の自分はそんなモノ(ニュータイプ)になど興味がなくなったと言うことだ。

 

「勝負だ、バルメア・エレクトリーガー!」

 

 この男との決闘こそが、今の己を支配する熱なのだ。




ワッ!ワッ!……お前を殺す男の名だ!(半泣きヤケクソ)
シャアさん、ジオンの呪縛から逃れる


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君は生き延びた

「おー、生きてる……?」

 

 目が覚めたら知らない天井でした。いやここ半年はずっとシミュレーターの天井眺めてたから、ほぼ知らない天井しかないんだが?

 

「目が覚めたかね。エレクトリーガー少尉」

 

「テム博士……?」

 

 病室の枕元に座っていたのは、テム・レイ博士だった。メガネをかけた如何にも技術屋ですといった風貌の男性だ。主役機ガンダムの開発者で、主人公アムロ・レイの父親でもある。

 

 こうしてつらつらと原作知識が出てくるあたり、やっぱり俺には前世の知識があるんだなぁ。あまり混乱も悲観もないのは、俺がバルメア・エレクトリーガーとして生きてきた25年間がしっかりと芯にある故だろう。大人になって、分別がつくようになってから、前世の記憶を思い出した恩恵だな。

 

「少尉、君に伝えなければならないことがある」

 

「あー、はい。なんでしょうか?」

 

 益体も無いことを考えていると、テム博士が重苦しい表情で切り出してきた。続きを促すも、彼の口は依然として重たい。

 

「その、目が覚めたばかりで伝えにくいことだが。君の部隊『鉄騎中隊』は、君一人を残して全滅した」

 

「……そう、ですか」

 

 原作、この場合はオリジンの方だな。ガンダムオリジンの漫画で登場した連邦軍初のモビルスーツ部隊『鉄騎中隊』は、ジオンのモビルスーツ開発の立役者にして、ミノフスキー粒子を発見したある意味ガンダムの戦争の引き金となったミノフスキー博士が連邦軍に亡命してきたのを保護する為に出撃し、人類史上初のモビルスーツ戦を演じ、そして全滅した。

 

 戦いは一方的だったと記憶している。なにせ、相手の5機のパイロット全員が後のジオンのエースパイロットである。機体性能すら負けている中で、数のアドバンテージなど役に立つはずもなく。その漫画の内容と、ほぼおんなじ結末になっちゃったわけか。生真面目なミフネ隊長、酒と女好きのラリー、ノッポのブルーノ、オペレーターのカレンちゃん。知ってる顔がいなくなるってのは、ツラいなぁ……。

 

「ッ、ハァ〜〜〜〜〜……」

 

「すまない、私もやる事があるので失礼する。その、なんだ……」

 

 テム博士が席を立ち、ドアに手をかけたところで振り返った。

 

「君達の残したデータで、ジオンのモビルスーツにも負けない機体を、必ず作ると約束する」

 

 失礼する。そう残してテム博士は病室を去った。不器用なあの人なりの励ましの言葉だったんだろうな。いやいくらなんでも不器用すぎる……。唯一の生き残りにかける言葉じゃねーよ博士。それがなんだかむず痒くって、おかしくって、俺は笑った。

 

「はは、ハハハ!ハハハハ……ッ」

 

 静かな病室に俺の声だけがこだまする。ひととおり笑って、俺は拳をベッドに思い切り叩きつけた。次は負けねーからな、チクショウ!

 

 

@デデデン!デデデデン!シャーゥ!@

 

 

 宇宙世紀0079。1月3日。俺はベッドの上で連邦とジオンの開戦を迎えた。

 

 続くブリティッシュ作戦で、ジオン公国はサイド1、2、4にある人類の宇宙の住処であるスペースコロニーに対し、核攻撃や毒ガス攻撃を実行。そしてそのコロニーを質量兵器として、地球連邦軍の本拠地であるジャブローに対し落下させるというコロニー落としを実行した。

 

 コロニーは連邦軍の必死の抵抗により軌道が逸れたが、地球のシドニーに落下。甚大な被害をもたらした。

 

 そして1月15日。後にルウム戦役と呼ばれる大決戦により、連邦軍は実に8割もの艦隊を喪失し大敗。国力が大きく劣るジオンの勝利には、モビルスーツと呼ばれる巨大人型兵器とそれを支えるエースパイロット達の活躍があった。たった一人で5隻の戦艦を沈めたパイロット。赤い彗星の名が連邦軍に知れ渡ることになったのも、この頃のことである。

 

 そして月日は流れ、9月。全治三ヶ月の怪我から復帰し退院した俺は、再びテム博士の元でモビルスーツのテストパイロットとして軍務に従事していた。

 

 時系列はうろ覚えだが、原作知識があった俺には色んな選択肢があった。中立を謳う安全なサイド6に逃げ込んでもいいし、成り上がりを目指して原作知識無双を将官相手に繰り広げるのもいいかもな。

 

 けど、今俺はこうしてサイド7にいる。後ろに鎮座するホワイトベースを振り返り、その格納庫に搬入されていく新しい俺の機体『ガンキャノン・デュラハン』を見上げた。

 

「来いよ、赤い彗星。リベンジマッチだ」

 

 俺の望みはたった一つ。無くした首(鉄騎中隊のみんな)の仇討ちだ。

 




エンブレムは首無し騎士(デュラハン)です。対戦よろしくお願いします。


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ガンダム強奪

 炎に包まれるサイド7の中を、ガンキャノン・デュラハンが駆ける。右肩にはスプレーミサイルポッド、左肩にはキャノン砲、腰にはかつて因縁の相手から奪ったヒートホークをマウントし、両手で狙撃用のロングバレルライフルを抱えながら走る巨人の灰色の装甲を、なめるような炎の光が真っ赤に彩っていた。

 

 V作戦。連邦軍の本格的なモビルスーツ開発が、テム・レイ博士主導の元ここサイド7で行われていた。開発された機体名はRX78ガンダム。1から3号機まで試作された内の一機、白い2号機が正規のパイロットを失ったまま無防備にコロニーの大地に横たわっていた。

 

 ──遡る事10分前、突如コロニーへの攻撃が始まった。ホワイトベースを地球の外縁からつけ回していたジオンの戦艦ムサイ級の攻撃であることは、警報を聞いた連邦軍人全員が理解していた。

 

 いつ仕掛けてくるのかわからない極度の緊張状態の中で、ホワイトベースの乗組員は常に第1種戦闘配置を維持したまま警戒を続けてきたのである。とはいえホワイトベースには戦闘機一機たりとて搭載機がなく、またどちらかといえばモビルスーツ輸送艦の色が強い本艦では、純粋な戦闘艦かつモビルスーツを搭載しているであろうムサイを正面から迎えうつ作戦は取れないでいた。

 

 敵を誘導してしまっていると知りつつもサイド7に逃げ込んだのは、ルナツーと連携して敵艦を迎撃する為だ。いま、このサイド7にはサラミス級が2隻停泊している。これに加えて開発したガンダム及び回収したガンキャノンを積み込めれば、仮にジオンの攻撃を受けたとしても勝てる。

 

 全ての発案はモビルスーツ開発の重要性を上層部に説き、サイド7の警備を厚くしたテム博士のものであった。その背景には、彼と志を同じくするテストパイロットの存在があった。

 

 こうして万全の態勢を整えて入港したホワイトベースだったが、敵はそれよりも一枚も二枚も上手だったのである……。いつの間にか宇宙港の中に仕掛けられていたらしい爆弾が起爆。サラミスは出撃する事もできず座礁。完全にホワイトベースの脱出口を塞いだ。

 

 それと同時にミノフスキー粒子に紛れ接近していたザク2機がコロニー内部へ侵入した。コロニー防衛隊のロケットランチャーや有線式誘導ミサイルでは縦横無尽に動き回るザクの動きを捉えられず、防衛隊は瞬く間に全滅。

 

 ホワイトベースに搬入された機体はガンキャノン3機のみ。しかも正規パイロット達はザクの攻撃に巻き込まれ生死不明で、ザク相手に戦える戦力は一機と一人しか残っていなかった。

 

「これだけの備えをしたのに、こうも翻弄されるのか!くそっ、シャアめ!」

 

 慌ただしく整備兵が動き回るホワイトベースの格納庫の中を俺は自分の愛機の元へ向けて走る。その横を並走するようにして、機付長のシモンズじいさんが駆け寄ってきた。

 

「バルメアよ!デュラハンは初期セットアップがまだ終わってねぇぞ!出撃は無理だ!」

 

「シモンズじいさん!そうは言ってられん状況でしょ!とりあえず動けばいいんだ!」

 

 コックピットハッチに手をかけて、横たわり駐機状態になっている愛機に乗り込む。機体のメインエンジンには火が入っていた。

 

「ヤバい状況なのはそりゃわかるがよ!ただでさえお前の機体は複雑なんだ!整備するこっちの身にもなれぃ!」

 

 じいさんの怒鳴り声を聞き流しつつ、身体は染み付いた動作を澱みなく実行する。

 

メインエンジン、グリーン

オートバランサー、グリーン

各部駆動系、一部グリーン

全兵装オンライン

システム・オールグリーン

 

『離れろ!デュラハンを立たせるぞ!』

 

 ビー!ビー!とデュラハンの爪先に備えられた警告灯がやかましく騒ぎ立て、周囲の整備兵たちに巨人が立ち上がることを知らせた。首無しの巨人が、格納庫で再誕の産声を上げた。身体に埋もれるようにして備え付けられた頭部メインカメラがヒュイン!という音を立てて明滅した。

 

『聞こえるか!デュラハンは緊急モードで再起動してある!サブ・アームは使えんからそのつもりでいけ!』

 

 シモンズじいさんの声にサムズアップで答えつつ、俺はデュラハンを戦闘が続くコロニー内部へと向けた。

 

『ガンキャノン・デュラハンはこれより迎撃戦に向かう!』

 

 灰色の巨人が人造の大地を駆ける。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

「あれか!」

 

 デュラハンのセンサーがコロニーで暴れ回るザク2機を捕捉した。2機の周りには無惨な光景が広がっていた。火に包まれ倒壊していく家屋、倒れた人の中には軍服でない姿も大勢あった。民間人をも巻き込んだ無差別攻撃。ブリティッシュ作戦でコロニーに核と毒を使ったジオンなら、これくらいは平気ですることか!そして、目的はガンダムだったのだろう。大地に静かに横たわる白い巨人へと歩を進めている。

 

「お前達だってスペースノイドだろうが!」

 

 怒りはあるが、引き金は冷静に。ザクがこちらを察知し振り返るがもう遅い。デュラハンがロングバレルライフルの引き金を引いた。ちょうど身体をこちらへ向けていた手前のザクのコックピットが弾ける。手足を投げ出して後ろへ吹き飛んだザクは動かなくなった。まずは一機。

 

 続けて引き金を引く。外れた。弾丸はザクの肩部スパイクを弾き飛ばすに留まる。掠めた故の怯えか?しばし硬直するザクに不信感を抱くが、やつの動きは鈍い、落とせる。だがスコープの照準がズレている。緊急モードで立ち上げたツケが来たらしい。照準を狂わせてこれ以上コロニーを傷つけるわけにはいかない。

 

「だったら!」

 

 俺はライフルをその場に投げ捨てて腰にマウントしていたヒートホークを抜き放った。一気に距離を詰めたデュラハンが、ザクに肉薄する。

 

「チェストォォォォォ!!!」

 

 渾身の振り下ろしを、しかしザクは肩のシールドを押し出したタックルで弾き返した。防がれた!しかし!押し返されたデュラハンをそのままスラスターで前のめりに身体を倒し、続け様に横からの切り返し。

 

 ガキィィィィン!

 

 凄まじい衝撃音。ザクの抜き放ったヒートホークとデュラハンのヒートホークが鍔競り合っていた。

 

「コイツ、最初の動きと違う!?」

 

『ほぅ……?』

 

 その声を聞いた瞬間、全身が総毛立った。脳裏に焼きついて離れないのは、俺の部隊を全滅させたパイロットの一人。忘れるわけがねぇ!

 

「赤い彗星ェ!!」

 

『やはり生きていたか!バルメア・エレクトリーガー!』

 

 鍔迫り合っていたヒートホークを瞬時に引いたザクが、勢い余って前のめりになったデュラハンへと強烈な蹴りを叩き込んだ。舞い散る火花が、ザクの緑の装甲を瞬間赤く染めた。その姿に、因縁のザクの姿を幻視した。俺は奥歯をギリリと噛み締めて、蹴りの衝撃を耐えながらデュラハンを後退させ距離を取る。かなりの隙を晒したはずだ。なぜ奴は追撃してこない?

 

 態勢を大きく崩しながらも距離をとり立ち上がったデュラハンを前に、ザクは微動だにしていなかった。しばし睨み合うデュラハンとザク。

 

「チェストォォォォォ!!!」

 

 デュラハンの再度の突撃。トマホークを大上段から振り下ろす、全霊の一撃だ。ザクもその一撃を防ごうとトマホークで迎撃するが、先程まで見せた神技のような技量は失われていた。

 

 トマホークがザクの頭部から入り、コックピットまで両断した。あまりにも呆気ない手応えに、俺は残心も忘れて立ち尽くした。あの一瞬聞こえ、感じたヤツの存在は幻だったのか?呆然とする俺は、モビルスーツの起動音でハッと我に返った。なんだ?

 

 グゥングゥングゥン……。

 

 白いモビルスーツが、ガンダムが大地に立つ。

 

 まさかアムロ・レイか?しかしなぜ。ザクは撃破した。もう彼がガンダムに乗る必要はないはずだ……。戸惑う俺の脳裏に、鋭い稲妻のようなモノが駆け巡った。咄嗟にデュラハンの身を引かせる。モニターを埋め尽くす蛍光色の光が、一閃。

 

 ビー!ビー!ビー!コックピット内を警告音が埋め尽くす。身に染み付いた訓練が、瞬時に破損箇所を確認させる。デュラハンの左碗が肘下から溶け崩れていた。なぜ、と問う暇もなく俺は目の前に立つ、ビームサーベルを構えたガンダムへと視線を釘付けにされていた。

 

『凄まじいな、連邦軍のモビルスーツの性能とやらは!』

 

 連邦軍の専用回線からあの男の声が聞こえた。なぜ貴様がソレに乗っている?答えは既に得ていた。ザクだ。先程のザクに奴は確かに乗っていたのだ。ガンダム強奪のためにザクに相乗りし、コロニーへ侵入したに違いなかった。デュラハンと切り結んだあの一瞬だけ、パイロットから操縦を奪ったのだ。そう理解した瞬間に、俺とデュラハンは切り刻まれていた。左肩から先、膝下から全部。ビームサーベルは易々とデュラハンの重装甲を突き破り、地に沈めた。

 

「こなくそーーーーッ!!!」

 

 ガァン!ガァン!ガァン!ガァン!俺は残されたキャノン砲をガンダムの足元へ連射した。ところ構わず……。凄まじい爆炎を嫌ってか、シャアの操るガンダムが飛び退ろうとするが、残された右腕でガンダムの足を掴む。幾度か目の砲撃によって遂にコロニーに穴が空き、デュラハンとガンダムを空気と共に宇宙へと放り出そうと大きな口を開けた。

 

『フフフ、実に往生際が悪い男だな君は』

 

 ガンダムを宇宙へと放り出し、なんとか右腕でコロニーの鉄骨を掴み踏みとどまる俺を、シャアが嗤う。

 

『今回の目的は君ではなくこの機体だ。さらばだ。また会おう月の亡霊(ゴースト)

 

 白い尾を引きながら、赤い彗星が宇宙へと消えていった。

 

「なん、なんだよ、アイツ……!!」

 

 バルメア・エレクトリーガーはまたしても赤い彗星に敗北した。原作の主役機という致命的なピースを奪われた上で。




2号機は奪われるモノ。
守るべきコロニーにも穴をあけ、ガンダムまで奪われる。
オリ主のメンタルはボドボドだぁ!
ここから原作ブレイクがドンドン進んでいくんじゃよ


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〜決戦前〜

「君があのガンキャノンのパイロットかね」

 

「ハッ、肯定であります。艦長殿」

 

 俺は今ホワイトベースの艦橋にいる。艦長のパオロ・カシアス中佐に呼び出されたのである。シャア相手に2度の敗北、おまけにガンダムを強奪され精神的に大分参っていた俺は、どんな叱責も受け入れるつもりでいた。パオロ艦長から見ても、相当ドヨーンとした顔をしているはずである。

 

「そうかしこまらなくていい。エレクトリーガー少尉、よく敵を撃退してくれたな。貴官の働き、誠に見事だった」

 

「ハッ!ありがとうございます艦長。しかし自分は……」

 

 まさかの褒められパターンである。俺コロニーに穴まで開けちゃってるんですけど?俺またなんかやっちゃいました?ではすまない失態だと思うんだが。

 

 思わず反論しそうになった俺を、艦長が手で制した。わかってるよ、みたいな悟り顔が俺のメンタルに効くゥ⤴︎。やめ、やめろォ!その出来の悪い教え子優しく身守る目は俺に効く。

 

「無論、ガンダムを奪われたのは残念だ。しかしそれを気に病んでいる暇は、今の我々にはない」

 

 ガンダムは未来における我ら連邦軍の要だ。ジオンの手に渡れば、せっかく追いつきかけたモビルスーツの性能差を更に開かれることになりかねん。そう続けたパオロ艦長は、重苦しい顔でこう続けた。

 

「ホワイトベースは本来の任務の通り、残されたガンダムのパーツとデータをジャブローへ送り届ける。敵にガンダムを奪われた以上、あまり時間をかけられん。しかし最大の懸念事項は……」

 

「赤い彗星からの追撃、ですね?」

 

 赤い彗星のシャア、アイツなら絶対追撃してくる。ガンダムを本国に送るとかはワンチャンあるかもしれないが、俺の勘だとそれもないかな。おそらくガンダムを使ってホワイトベースを沈めに来るだろう。俺にはわかる。そういうやつだよアイツは。(特に根拠のない逆恨み)

 

 今回のサイド7防衛戦には、前世の知識をフル動員してルナツーからなけなしの宇宙戦力であるサラミス級二隻を派遣してもらっていた。詳しい襲撃のタイミングこそ不明だったが、なんの防備もなかった原作と比べて、圧倒的なアドバンテージがあった。それにも関わらずヤツの前に俺たちは無力だった。強すぎる。原作では割とアムロに押されっぱなしでライバルの割に情けない印象のあったシャアだが、あれは正真正銘の化け物だ。おまけにガンダムまで戦力にされたら、もはや手のつけようがない。そんなヤツから、ホワイトベースが逃げ切れるのか?

 

「君の言う通り、相手はあの赤い彗星。しかし我々にはヤツに匹敵する味方がついている」

 

「え」

 

 今の連邦軍にシャアwithガンダムに勝てるエースパイロットがいるんですか!?アムロ、は違うな……。ガンダム取られたし……、なにより民間人だし。というかホワイトベース側にガンダムに太刀打ちできる機体が残ってないんだが?今の艦載機って回収できた分も含めてガンキャノンとかガンキャノンとかガンキャノンくらいしかなくない?詰んでない?

 

「君だよ、少尉。君が本艦防衛の要だ」

 

「ハイ?」

 

 思わず素っ頓狂な声が出てしまった。俺がシャアをぶっ倒せる連邦一のイケメンスーパーパイロット?(言ってない)。いや〜ナイナイ!だって2度も負けてるんですよ!機体の性能差で押し切られた感も無いってことはないけど、素の実力からして勝てる気がしねぇ。そりゃ、鉄騎中隊のみんなの仇討ちは心に誓ったことだ。その為にやってた訓練時間3000時間(退院してからまたシュミレーターに住んでた)で少し自信が付いてたところにあの有様よ。何を根拠にそうおっしゃるんですかねぇ。こんな内容のことをオブラートに包んでパオロ艦長に説明した。

 

「逆だ、少尉。君はあの赤い彗星相手に2度も生き残り生還した。君が異常なまでに訓練を欠かさない事も、レイ博士から伺っている。その君の生存能力に、私は賭けたい」

 

 よろしく頼む。そう頭を下げる艦長に俺は無言で敬礼を返すことしかできなかった。復讐ではなく、守るための戦いか……。これまで仲間も、ガンダムすらも守れなかった俺に、そんなことできるのかね。

 

 

 

 

 艦橋から退室した少尉を見送った後、パオロ・カシアスは先程の青年の顔を思い出していた。まだ若く青いが、纏う雰囲気は歴戦の兵士のそれだった。

 

「人類史上初のモビルスーツ戦経験者。そして最後の生き残り、か」

 

 受領したての改良型ガンキャノンで、ザク2機を撃破。ガンダムを強奪されはしたものの、あの赤い彗星を単騎で撃退。まさにエースの働きだ。口には出さなかったが、このサイド7に彼がいなければホワイトベース含め、我々は全滅していただろうことは想像に難くない。戦闘直後にも関わらず、気の引き締まった先程の表情といい、その姿はまるで歴戦の兵士のそれだ。あの若さで、どれほどの経験をしたのだろうか。連邦軍でも一部で噂になっている月面決戦が、彼に壮絶な覚悟を抱かせたのは間違いなさそうだった。

 

 パオロはため息をついた。これ以上あのような若者に無理は強いたくないが……。状況はそれを許してはくれなさそうだ。

 

「ブライトくん、サラミスの除去作業はあとどれくらいだ」

 

「ハッ、あと2時間で完了とのことです」

 

「よし、総員第1種戦闘配置につけ!12時間後に本艦はサイド7を離脱し、ルナツーへと進路をとる!」

 

 パオロの号令を副官のブライトが復唱した。まだ年若いその声に、また一つため息が出そうになるのを、パオロはグッとこらえた。ルウムでシャアに落とされた教え子たちの顔が脳裏をよぎった。これ以上若い彼らを犠牲にしないように、老骨に鞭打ってでもジャブローに辿りつかねばならないと、パオロは固く決意したのだった。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

『シャア!連邦の新型を奪取したそうだな!流石は俺の見込んだ男だ!早く戻ってこい、祝宴を準備してある。貴様の昇進祝いもしてやらんといけないからな!』

 

 ジオンの戦艦ムサイ級ファルメルの艦橋モニターに、如何にも武官といった強面の巨漢の姿が映し出されている。シャアはそのモニター上の男を見上げながら、先程の戦闘の報告を行なっていた。大まかな内容は既に副官であるドレン中尉が行なっていた為、伝える内容はもっぱらサイド7内の詳しい戦闘報告である。

 

「しかし申し訳ありませんドズル閣下。敵の新型モビルスーツ・ガンダムを奪取する際に、ザク2機を失いました」

 

『なに!?貴様ほどの男がか?あんな辺境にザクをヤれる戦力がいたとは思えんが……。敵の新型か?』

 

「いえ、例のヤツです閣下。月で取り逃したキャノン付きのパイロットがおりました」

 

『おぉ!いつぞやお前に傷をつけたモビルスーツもどきだな!あんな旧型で、よくやる!連邦軍にしては骨のあるヤツだな。よくよく貴様とは縁のあるやつだ』

 

 そう、あのゴーストとはよくよく縁があるらしい。シャアは再び巡り合った宿敵の登場に密かに口角を上げた。他の有象無象との闘いからは得られない、己の中に燻っていた闘争本能の高まりを感じる。

 

「つきましては閣下。例の木馬の追撃を許可願います。新型のデータは既に本国に送信済みです。あとは連中がジャブローに実機を持ち込むことを阻止すれば、連邦のモビルスーツ開発に大きな遅れをもたらす事ができるでしょう」

 

 シャアのもっともらしい意見を、しかしドズルは一笑に付した。

 

『取り繕うな、シャア!戦いたいんだろう?あの男と!新型のデータは確かに確認した!あとはお前の好きに使え!追撃となるとこちらからの増援は間に合わんだろうが、貴様ならやれるな?吉報を持って帰れよ!』

 

 詳しい話は祝宴でな。そう一方的に伝えたドズルは、最後にニヤリと笑ってモニターから消えた。

 

「いやぁ、相変わらずですな」

 

 横で何処となく呆れた様子のドレンがぼやいた。

 

「フッ、閣下は話が早くて助かる」

 

 好戦的な笑みを浮かべているシャアを横目で盗み見つつ、この人も相変わらずなんだよなぁ、とドレンは内心ため息をついた。噂のエリートパイロットも、すっかりドズル派閥の一員らしくなってしまっていた。それもこれも、連邦軍のモビルスーツもどきのパイロットが原因である。さっさと墜とされてくれれば、ドレンも仕事と心労が減って助かるのだが。

 

「では、追撃に移行しますか?」

 

「行こう」

 

 シャアが見据える先はサイド7。敵は未だ、あの中にいる。

 

「バルメア・エレクトリーガー。月の亡霊(ゴースト)よ。どうか私を楽しませてくれ」




すっかりドズル派閥に染まったシャア。
ドレンの胃痛が加速する!止まらない!(止まるんじゃねぇぞ……)
評価・感想お待ちしております!お待ちしております!

誤字報告ありがとうございます!


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メカニック少女アムロちゃん

 はーい皆さん、さっそくですがクイズです!艦橋を退出した俺が今何処で何をしているでしょうか?答えは格納庫で正座でーす☆足がいてぇヨォ!

 

「くぉらバルメアぁ!テメェきいてんのか!一回の出撃でデュラハンこんなにしちまいやがって!オメー誰がこれ修理するかわかっとんのかォォン!?」

 

 おぉ、またシモンズじいさんがブチ切れておられるぞ。彼は俺の愛機ガンキャノン・デュラハンの機付長である。実を言うと彼との付き合いは結構長い。それこそ鉄機中隊時代からの付き合いだ。だから割とフランクに接してくれるし、こちらの事情も色々と組んでくれる。まあ、怒るとすげぇ怖いんだが……。

 

 「ま、まぁまぁ。シモンズさん、幸い壊れたのは汎用部品ばかりですし、これならすぐにでも直してあげられますから……」

 

「嬢ちゃん……。そうはいうがよぉ」

 

「なあシモンズじいさんよ、その子誰よ?」

 

 つかさっきからシモンズじいさんの後ろで硬い笑顔でこっちを見守っているカワイイ女の子誰なの?こんな子ホワイトベースにいたっけ?PiPiPi...(分析完了)ヌッ!?しかもポヤポヤ系天パ女子!?その立派な胸部装甲で今夜は一晩を凌ぎたいでありまぁす!

 

「娘につく悪い虫修正父親パンチ!」

 

「ゴハァ!?」

 

 テム博士の蹴りが正座中の俺のケツをしばいた。いやキックじゃん!しかも割と容赦なくいったな!普通に痛いわ!……いや待ってくれテム博士。娘……?この子が……?本当に……?マジで?

 

「君、名前は……?」

 

「わ、私、アムロ・レイって言います。今日からホワイトベースの整備員としてお世話になります!よ、よよ、よろしくお願いします!」

 

 しゅ、主人公TSしとる〜〜!?!?

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

 アムロくん、いやアムロちゃんは15歳で、サイド7のハイスクール生だったそうだ。普段から父親の仕事に興味津々で、機械いじりが大好きだったらしい。市販のペットロボットのハロも独自に改造してすごい高性能化して、学校のなんかすごい賞も貰ったらしい。全部聞いてもないのにテム博士が嬉々として教えてくれた。博士娘好きすぎだろ……。

 

 本人は何処となくポヤッとした掴みどころのない性格で、だけど人付き合いが苦手って訳でもないちょっと(モビルスーツ整備ができる程度の)メカ好きの普通の女の子だ。サイド7が焼けてホワイトベースに避難してきたが、父親の仕事を手伝えないかと自分から志願したらしい。ええ娘や……。

 

「けど博士。流石に身内とはいえ、機密に触れさせるのはまずいんじゃないですか?」

 

「それはそうだがね」

 

 俺のもっともな疑問に博士は眼鏡をかけ直しつつ苦い声で答えた。

 

「なにせ整備員が足りないのだ。ガンダム搬入のためにサイド7に下ろした人員はみんな、戦死してしまったからな……」

 

 あぁ〜……。俺は両手で顔を覆った。守れなかった人が多すぎる。シャアが来るってのはわかってた筈なのに、なんでこうもうまくいかねぇのかなぁ。

 

「あ、あの……。バルメア、さん?」

 

「ん、なにかな……」

 

 絶賛傷心中の俺に、アムロちゃんがおずおずと声をかけてきた。どうしたんだいお嬢さん。俺は今あんまり余裕がなくてヒビ割れたガラスのハートを必死でガムテープで修繕中で忙しいんだ……。ガムテープってすげぇよな……。色んな用途に使えて。俺なんかよりよっぽど有能だよ……。ガムテープ以下なんだ俺なんて……。

 

「私、感謝してます!バルメアさんの戦ってるところ、見てました……。学校も家も燃えちゃって、どうしようって時に。バルメアさんが来てくれて。ジオンのモビルスーツ相手に、頑張ってるところ、かっこよかった、です。あなたが来てくれなかったら、友達も、私も死んじゃってたと思うから……。だから」

 

 だからそんな顔しないでください。そう言って弱弱しく微笑む彼女の顔を見て、俺は少しだけ、ほんの少しだけ、これまでの行いが救われた気がした。彼女の温かい本心からの心に触れて、俺は……。

 

「父親コークスクリュァ!」

 

「ヌォー!?」

 

 博士の捻りこむような鉄拳が俺の腹部を貫く。む、娘が絡むとこの人めんどくせぇー!!

 

 

 

 

「で、どうする。時間がねぇぞ」

 

 シモンズじいさんが時計を見て唸った。サイド7の宇宙港を塞いでいるサラミスの除去作業完了まであと90分。とてもじゃないが、デュラハンの修理は無理だ。

 

「となるとノーマルのキャノンで出るしかないか」

 

「無事なパイロットは予備も含めてお前さんと、あとはジョブジョンの坊主とリュウのヤツだな。……ったく、ケツの青い若造しか残ってねぇとはな」

 

「生き残ってくれただけでもありがたい話さ」

 

「オメーも含めて若造だって言ってんだよ」

 

 まあ確かに。パイロット組の中で25の俺が最年長ってのはかなりキツい状況だ。なんせリュウは18、ジョンは17だ。まだ学生やってももおかしくない年齢……。まあ二人とも正規軍人だからそこは一人前として扱うつもりで行こう。

 

「動かせるキャノンの数は?」

 

「4機だ」

 

「すごいな。そんなに残ってたのか?」

 

「おうよ、アイツらガンキャノンには目もくれなかったみたいだな」

 

 まあジオンからすればガンキャノンはザクⅠとほぼ同世代の旧世代機体。モビルスーツもどきなんて呼ばれてるくらいだからな……。実際テム博士も自身初のモビルスーツであるガンキャノンには色々と改善点が多いとも語っていた。

 

「よし。それならやりようはありそうだ」

 

「だな。アイツら新型はガンダムだけだと思ってやがる。改良型キャノンの力を思い知らせてやるぜぇ」

 

 グッフッフッフ……。悪い大人たちの悪い笑顔が格納庫で木霊した。

 

「あ、あの!改良ってなんですか?」

 

 アムロちゃんがそろりと手を挙げて質問してきた。小動物みたいでかわいいなこの娘。よし、お兄さんが手取り足取り教えてあげよう。

 

「よく聞いてくれたなアムロ。父さんが!再設計したガンキャノンはな、主に装甲と操縦性を強化してあるんだ」

 

 テム博士が俺を見る目が怖い!ひどい!やましい事なんてこれっぽっちも考えてないのに!

 

「ザクの主武装はマシンガンにバズーカ、あとは接近戦用のヒートホークだ。今後私たち連邦軍でもモビルスーツが普及すれば、当然ザクとの戦闘が主な用途になってくる。なのでそれらの武装に対して圧倒的な防御力を用意すればそれだけ優位に戦闘を進める事ができるわけだな」

 

 ようは後出しジャンケンだよ。テム博士の説明に、アムロは納得しかねるという表情で質問した。

 

「でもお父さん。ジオンがそれに効く新兵器をザクに装備させたら意味がないんじゃあ……」

 

「いい質問だ。アムロ」

 

 テム博士が眼鏡のブリッジを中指でクイと押し上げながらレンズをキラリと光らせた。あっ、それ眼鏡キャラがなんかすごい事解説する時にやるやつ!

 

「だが考えてみろ。ジオンは今や地球の大部分に戦線を広げている。資源は現地調達するとしても、それをすぐにモビルスーツなどの兵器に加工できるわけではない。つまるところ、補給線が伸びれば伸びるほど兵器の補給はままなら無くなる。装備の更新などもってのほかだ。局地的にはキャノンの装甲を抜く兵器が出てくるかもしれないが、今の主戦力であるザクに一方的に優位に立てるキャノンの量産こそが、連邦が勝利する近道なのだ!」

 

 ほーーん。色々考えてるんですねぇ。というか博士、それ聞いてるとガンダムの存在意義は?

 

「ガンダムは次のステージに立つ為のテストベッドだよ。先程キャノンを量産と言ったが、兵器は必ず対策される。その為には常に先に進む為の仕事をせねばな」

 

 いや、やっぱ技術屋さんってすげぇわ。難しいことたくさん考えてるんだなぁ。なんか補給線がどうのこうのはテム博士の考えらしくないが、この人も例の一戦で思うところがあったのかもな。というか俺が一番気になってるのはジムの存在が完全に消えてるところですかねぇ……。キャノン量産かぁ……。そっかぁ……。

 

「まあデュラハンを見て貰えばわかる通り、ガンダムのビームサーベルはキャノンの装甲では防げないからな!流石は私の最高傑作だ!死ぬなよ少尉!絶対にガンダムを取り返してもらわねばならんからな!」

 

 テム博士はそう言い残して、娘を連れて整備中のキャノンの元へ歩き去っていった。気軽に言ってくれちゃって、まぁ。

 

「ハァ〜〜、いっちょ頑張りますかぁ……!」

 

 もう迷いはなくなっていた。心はどことなく晴れやかだ。とりあえずは、生き残ってルナツーだ。絶対にお前の好きにはさせないからな、シャア。

 




TSタグ増やしときますね
作者の独自解釈が多数なのでこの世界はこうなんだと思ってください

なに?ビームサーベル量産して配ればよくない?
たぶんザクの出力じゃサーベル使えないんじゃないかな?
外部電源ってなると量産はさらに難しくなるし。
あとキャノンの『秘密』はもう一つあるッ!


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バルメアという男

Side:リュウ・ホセイ

 

 「では、作戦の説明は以上だ。リュウ、ジョン、やれるな?」

 

 エレクトリーガー少尉がジョンと俺を見回してブリーフィング内容の確認を終えた。これからあの赤い彗星相手に戦うんだっていうのに、軍の中ではかなり年齢の低い俺たちとそう歳の変わらないはずの彼の顔には、凪いだ海のようになんの気負いも見られなかった。俺はこの時、やはりこの人は只者じゃないんだと改めて思い知らされていた。

 

 バルメア・エレクトリーガー少尉。25歳。モビルスーツ開発当初からテストパイロットとして参加。あの赤い彗星相手に2回も生き残ってみせた凄腕の持ち主。噂によれば、軍務のない間は自室にも帰らずずっとモビルスーツシミュレーターの中で過ごしているらしい……。いや、らしいというかホワイトベースでの生活中に何度か彼と遭遇した事があったが(というか自主訓練でシミュレーション室に行くと必ずいる)、シミュレーターに住んでるって話は本当だった。正直怖かった。

 

 何度か対戦させてもらったが、あの人が乗ってるのホントに俺たちと同じガンキャノンなのか?ガンキャノンのスペックじゃザクには勝てないっていうのは、連邦軍内のモビルスーツ促進派閥で細々と少数生産されてきた実機が悲しくも証明してしまっている。だっていうのに、あの人は俺とジョンが乗った仮想ザクの弾幕を「ここ隙間あるな……」とか言って肉薄して近接戦をしかけてくるし、格闘戦は無駄に人間臭い動きで殴ったり蹴ったりしてくるし……。実は中身は新型のガンダムですって俺は言われても驚かないぞ。

 

 強さの秘訣を聞いてみれば、「負けなくなるまで練習しろ」って。そりゃ真理だが、流石にシミュレーターに住むのを他人に勧めるのはどうかと思う……。

 

 そんなすごい人(やべーヤツ)が俺たちの隊長なんだ。こりゃ、あの赤い彗星相手に生き残れるかもしれないな。

 

 

 

Side:ジョブ・ジョン

 

 なんか僕らが渡されたガンキャノン、ヤバい。これまで乗ってたのはなんだったんだ?本当に同じガンキャノンなのか?そう考えてしまったレベルで機体が別物なんだ。まず操作のし易さが桁違いだ。正直、これまでのガンキャノンの操作性は最悪だった。機体が重いから急な加減速をかけるだけで機体が振り回されて思い通りの位置に止まれないし、歩行も地面の凹凸をよく確認しないと転げてしまう。モビルスーツは人型だから、巨大かつ人体であることのデメリットはどうしても無視できないんだと僕は半ば諦めていた。

 

 けどサイド7で新造されたこのガンキャノンは違う。例えるなら、そう。コイツはまるでもう一つの僕の身体だ。僕の思ったところにピタッと止まれるし、地面の凹凸にもこちらの操作不要でしっかり接地してくれる。一つ一つの動作もとてもスムーズだ。たぶん、細かい操作を格段に進化させたOSで自動補助させているんだな。これはすごいぞ。パイロットの負担がグッと減るから、モビルスーツの操作に慣れてない人でもすぐに操縦できるようになる。モビルスーツ分野においてジオンに対して大きく遅れをとっている連邦軍にとって、大いに助けになるだろうな。

 

 流石はテム博士!と言いたいところだけど、実はテム博士曰く、「モビルスーツの操作OSの開発は私だが、完成させたのは私ではない」らしい。そうか、これだけの機体の動作補助性能、基となる膨大なデータがあるに違いない。しかし、巨大な機械の身体をまるで本当の人体のように操るモーションデータを、半年足らずでどうやって用意したのか。元々少ない実機のデータ(しかもどの機体もザクには惨敗している)を集めたとは思えない。

 

 ではどうやってテム博士は短期間でこれほどの動きをガンキャノンに与える事ができたのか。その答えを僕はホワイトベースのシミュレーション室で知ることになった。

 

 その男はシミュレーション室のヌシだった。なんなら住んでた。なんと非番の日はずっとシミュレーターを触り続けているらしい。なるほど勤勉な軍人なのだなと感心した。気になったのでシミュレーション内容を見せてもらったところ……

 

●ガンキャノンのマニピュレーターで針に糸を通す訓練:試行回数264,973回。

 

●ガンキャノンで行軍訓練1000キロ:試行回数897,643回

 

●ガンキャノン感謝の正拳突き訓練:試行回数10,000回。

 

●ラクロア流二刀流術:試行回数508,497回

 

●プリティス真拳:試行回数9,784,976回

 

●戦闘訓練:0(たぶん上限カンスト)

エトセトラエトセトラ…

 

 意味がわからない。なんだこの訓練は。まず半分くらい訓練のタイトルが理解できない。後頭部に視線を感じて、僕はおそるおそる振り返った。目が合った。合ってしまった。薄暗いシミュレーターの中から、爛々と光る一対の目が覗いている。

 

「ガンキャノンはいいぞ」

 

「え、コワ……」

 

 その後めちゃくちゃシミュレーターでボコられた。あの人はおかしい。僕はそう思った。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

 なんかリュウとジョンが俺を見る目ぇコワ!なんだコイツら?俺隊長ぞ?あんま舐めてっと後ろから誤射しちまうかもなァ!背中に目ぇつけぇよ……。

 

 まあいいや。二人ともモビルスーツでの実戦は初めてだってのにいい感じにリラックスできてるな。まあジョンについてはシミュレーターで何度か一緒に訓練したこともあるし、リュウは実戦経験は積んでるからな。これならなんとかなるかも……なるかなぁ。やっぱ無理かも。

 

 今回サイド7製「ガンキャノン正式配備型」も、フルで性能が発揮できる状態までシモンズじいさんたち整備の人らが頑張ってくれている。なので、緊急モードで立ち上げたデュラハンでは使えなかったいくつかの機能が解禁される。

 

 まずは操作OS。こいつは俺の努力(と趣味)の結晶・シミュレーション3000時間の膨大なデータをテム博士の学習型コンピュータに反映させたものだ。原作で言うとジムに反映させたアムロのガンダムの実戦データみたいなものね。あれのおかげでモビルスーツ素人ばかりのパイロットでもジオンのベテランと戦えたらしいから、恩恵はデカいと思う。俺も頑張って色んなデータぶち込んだから、リュウとジョンの操作負担もだいぶ減るだろう。テム博士はシステムが汚染される!とか言ってた。失礼な!貴重なデータやぞ!

 

 お次はサブアーム。武装とかシールドを装備可能。ガンダムサンダーボルトのやつを想像してもらえたらわかりやすいな。単純に手数と継戦能力がアップだ。シンプルに強い。ただマニュアルなのでその分操作が増えて複雑になっているのがデメリットといえばデメリットか。この辺は俺も初めて触るからまだデータは少ない。データ集めは継続するし、ここは今後改善されていくと思う。

 

 最後にシステム周りとは別で、従来のガンキャノンとは設計から違う点を説明しておこう。それは装甲だ。まあ前にもテム博士がちょろっと説明したけど、ザクの武装全般に関しては、当たりどころが悪くなければ一撃は必ず耐える。少量のルナチタニウムを芯材にして、その上からジムなんかに採用されたチタン合金で装甲を重ねてるわけね。イメージはEz-8だな。今後の量産も視野に入れるとルナチタニウムの乱用はできないからこのようになった。

 

 ジムではなくガンキャノンが量産されそうなこの世界では、モビルスーツの配備数自体は減りそうだ。その分質が向上してるから、パイロット含めて生還性は上がるだろうと思う。命大事に。

 

 さて、シン・ガンキャノンのスペックを思い出している間に出撃準備が整ったらしい。コックピット内のモニターの一角にパオロ艦長が表示される。

 

『これより本艦はサイド7を脱出し、連邦軍宇宙要塞ルナツーへと進路をとる。コロニーを出ればすぐに戦闘になるだろう。敵は恐ろしく強大だが、我々には連邦の誇るモビルスーツがついている!赤い彗星なにするものぞ!各員の奮戦を機体する!』

 

 連邦の誇る最大のモビルスーツは盗まれたけどな。まあそれを言うのは野暮だろう。それに、シャアのガンダムに勝てば最強の座はガンキャノン。なんだそれ最高だな!やってみる価値はありますぜ!

 

「ガンキャノン隊は先行してホワイトベースを守る盾になる!」

 

『『了解!』』

 

 二人の威勢のいい返事に背を押されつつ、機体の両足をカタパルトへ固定する。格納庫内では慌ただしく整備兵らが駆けずり回っていた。

 

『ぶぁっかやろう!固定確認したらサッサと離れろィ!ミンチになりてぇか!』

 

『ガンキャノン出ます!ガンキャノン発進!』

 

「ガンキャノン、バルメア・エレクトリーガー。出撃する!」




オリ主はここ隙間あるなとかどっかの天パみたいなことしていますが、ニュータイプではないです。ただただ訓練しすぎて視えるようになっちゃっただけです。リコリスリコイルの千束の能力を後天的に手に入れたイメージ。(なおそれでもシャアには勝てん模様)

お前もシュミレーターに住まないか?
リュウ「住まない」


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サイド7脱出

次話は12月13日の17時投稿です


 ホワイトベースから先行してサイド7の外へ飛び出した俺たちガンキャノン隊は真っ暗な宇宙へとスラスターの残光を引きながら突き進んでいた。

 

『こちらパオロだ。聞こえるかバルメア少尉』

 

「聞こえます艦長。敵の動きはどうなっていますか」

 

『ムサイがモビルスーツを出したようだ。数は4機。ガンダムを持ち帰る為に離脱してくれないかと思っていたが……。どうやら赤い彗星は我々を生かして帰すつもりはないようだな』

 

 ホワイトベースのレーダーによると、俺たちの進行方向に立ち塞がるようにして展開しているシャアのムサイ『ファルメル』からモビルスーツらしき反応が向かってきているらしい。

 数は4。ムサイのモビルスーツ搭載数は格納庫内に4、コムサイに2の6機だったかな。

 サイド7の中で2機撃破しているから、残りのザクは多くて4。奪われたガンダムを入れて5だ。

 野郎、ガンダムを含めた戦力をほぼ全て投入してきやがった。

 現状こちらの戦力はガンキャノン3機。しかも乗ってるのはひよっこパイロットだ。キツイぜ。

 

「やはりセイバーフィッシュの援護は受けられないのですか?」

 

『ああ、先の爆破工作でサラミスともどもやられたそうだ。すまんが、少尉たちだけが頼りだ』

 

「了解。作戦通りシャアとザクはガンキャノン隊が抑えます。その間にホワイトベースは離脱してください」

 

『了解した。これよりホワイトベースは30秒間だけ援護射撃を行う。各員の健闘を祈る」

 

 ホワイトベースがメガ粒子砲とミサイルの斉射を始めた。それにやや遅れて、ガンキャノンの望遠カメラがギリギリ敵モビルスーツの編隊を補足する。

 ガンダムを正面にして、扇状にザクが展開している。ホワイトベースの攻撃を受けて、4つの機影がパッと散開した。

 

「リュウ、ジョン!こちらも狙撃開始だ!少しでも敵の数を減らすぞ!」

 

『しかし少尉!この距離だと当たりませんよ!』

 

「威嚇でいい!やれ!」

 

 ジョンの悲鳴に被せるように操縦桿のトリガーを引いた。

 接敵までの僅かな間に敵のアウトレンジから狙撃して少しでも消耗させる。数と経験で劣る我々は機体の性能差を押し付けて勝ちを拾いに行くしかない。

 ザクの攻撃を無効化する装甲に、当たれば一撃で致命傷になる新武装。機体アドバンテージは大きくこちらにある。

 

「よし、敵の足並みが乱れた。各機、右端のザクを集中攻撃」

 

 ガンキャノンの両肩部のキャノン砲2門、ビームライフル一門。3機分の計9門から放たれた火線がこちらの弾幕を恐れふらついたザクに集中する。

 一方的に殴られる痛さと怖さを教えてやる!

 

「狙い撃つぜ」

 

 右端のザクに照準を合わせ、立て続けに3回トリガーを引いた。

 1発目がザクの頭部を射抜き、反動で仰け反ったガラ空きのボディに2発目、3発目が突き刺さりコックピットを破壊されたザクが爆散した。宇宙に鉄の華が咲く。

 これで数の上なら互角だな、シャア。

 しかし、やはりビームライフルは強力だ。射程も威力も実弾とは桁外れだ。こいつがシャアに奪われなくてよかった……。

 ザクの眩い爆発光をモニターが遮断するも、減衰しきれなかった閃光が一時的に視界を眩ませる。

 

「各機狙撃やめ!ザクの有効射程内だ。ブリーフィング通り2人はお互いをカバーしろ」

 

 既に彼我の距離はザクの有効射程圏内まで縮まっていた。

 これまで回避に徹していたザクからマシンガンの弾が雨の様に降り注ぐ。

 それらを小刻みに避けながら、俺は先陣を切って突撃してきたはずのシャアの姿を探した。

 

「ガンダムは、シャアがいない……!?」

 

 ザクの爆発とザクマシンガンに気を取られて見逃した!?どれだけ意識をお前に向けたと思ってるんだ……!?

P!P!P!P!

 

「接近警報!?後ろかっ!」

 

 振り返ってたら間に合わないと直感した俺は、背後に向かって機体を倒し体当たりをしかけた。

 ゴツン!という鈍い音が響き、コックピットが衝撃に揺れる。

 

「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 ガンキャノンの振り向きざまの裏拳を頭部を引くことで避けたガンダムが、ビームサーベルを内から外へ振り抜こうとする。

 

「まだまだぁ!」

 

 考えるより早く、反射でフットペダルをベタ踏みしていた。スラスターを噴射させてガンキャノンが振るわれる前のガンダムの腕を押さえ込み、全身で体当たりする。

 ガンキャノンとガンダムが吐息がかかりそうなほどの至近距離で睨み合う。

 

『会心の一撃だったのだがな!』

 

「シャア!」

 

『以前よりは楽しめそうだな、バルメア・エレクトリーガー!』

 

「その機体は連邦軍が開発したものなんだぞ!」

 

『ハハハハ!』

 

 ガンダムの頭部が火を吹いた。至近距離で連射されたバルカンを左腕の装甲で弾きながら距離を取りつつ、こちらもバルカンでガンダムの持つビームサーベルを狙う。

 こちらに取ってビームサーベルは脅威。破壊すれば幾分楽だが……。野郎、巧みに避けやがる!

 だがその機動は月でも一度見てるんだよ!

 かつて見たシャアの動きを、何度もシミュレーターで再現し攻略法を磨いてきた今の俺なら!

 

「いっちゃえよッ!」

 

 両肩のキャノン砲が爆炎を吹き、240mmの砲弾がガンダムが今まさに移動しようとした先へ叩き込まれた。

 偏差射撃。ザクマシンガンの倍の口径であるキャノン砲を受ければガンダムだってタダではすまない。

 だがしかし、ガンダムはスラスターだけでなく全身を仰け反らせるように振ることで機体の方向を無理やり変更、2発のキャノン砲の間を抜けてそれらを回避した。

 

「避けた!避けた!?」

 

『素晴らしいな!連邦軍の新しいモビルスーツの性能は!』

 

 回避機動の勢いを利用してガンダムが前へと飛び出す。

 

「早ッ、クゥ!?」

 

 完全に意表を突かれた俺はサブアームのシールドを全面に押し出した。

 ザンッ!シールドがサーベルを受け止めきれず溶断され、ガンダムの視界を瞬間塞いだ。しかし叩き斬ったシールドの先に、ガンキャノンの姿はなかった。

 

『なんとっ!?』

 

「この距離なら避けられまい!」

 

 俺は咄嗟の判断でシールドを囮に、ガンダムの真下へ潜り込んでいた。一年戦争時のモニターならこの角度は死角になる。

 立て続けに撃ちだされるキャノン砲とビームライフルとバルカン砲がガンダムを滅多撃ちにせんと宇宙空間を奔る。

 

『ぬぅぅぅ!やるな、バルメア!』

 

 しかしなんということか、ガンダムは手首を高速回転させビームサーベルを盾のようにして攻撃を防いでみせた。

 

「ビームサーベルを盾にして防ぐのか!?」

 

 天才的な機転で致命傷を免れたシャアだったが、流石のビームサーベルもビームライフルとキャノン砲の余波に耐えきれず火花を噴き上げた。

 

『えぇい!ここまでか!』

 

「チィ!?」

 

 火花をあげるビームサーベルがガンキャノンへと投擲され、ビームが左腕を貫通する。そのまま爆発したサーベルを目眩しにして、ガンダムは見事な反転で一気に戦線を離脱した。

 

「逃げた……?いや、こちらもギリギリだったか……」

 

 見れば、リュウとジョンのガンキャノンはどちらも傷だらけで、2人でカバーし合ってザクに接近戦をさせなかったから生き残ったと思える有様だった。

 トマホークでの近接攻撃を受け止めきれないほどに、どちらの装甲も疲弊していた。

 彼らを押していたであろうザクは、ガンダムと共に既に戦線を離脱していた。

 俺はコックピットシートにヘルメットを押し付けて目をギュッとつぶった。

 ようやく戻ってきた手指の感覚が、自分が生きていると実感させてくれた。

 

「ハァ……、ハァ……。今度は、全員生き残ってやったぞ、このヤロー!」

 

 宇宙世紀0079。人類が、増えすぎた人口を宇宙に移民させるようになって、すでに半世紀。

 地球から最も遠い宇宙都市サイド3は、ジオン公国を名乗り地球連邦政府に独立戦争を挑んできた。1ヶ月余りの戦いでジオン公国と連邦軍は、総人口の半分を死に至らしめ、連邦軍劣勢のまま戦争は膠着状態に陥る。

 連邦軍人バルメア・エレクトリーガーは、かつての同胞達の仇を討つ為、愛機ガンキャノンを駆使し戦いへと身を投じていく。

 そんな彼が連邦のエースパイロット“首なし”として名を馳せるのは、そう遠くない未来の話である。

 




かなりイイ勝負をしてビームサーベル一本消費させたオリ主。
ここにきて訓練時間3000時間が伊達じゃないことを示す。
なんか最後完結みたいな文になりましたが続きます。
次回はルナツー編。次回以降はテム博士のとんでもないカミングアウトとか、ホワイトベースへの強力な助っ人とか、サーベル失ったシャアへの強化とか予定しておりますのでお楽しみに。

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テム博士やらかす

「バルメアァァァァァァァ!!」

 

「げぇっ!?シモンズじいさん」

 

 ホワイトベースへ着艦後、ガンキャノンから這い出した俺たちを待ち受けていたのは、地獄だった──、というのは冗談として。

 ものすごい剣幕のシモンズじいさんに呼び止められて、俺は思わず竦み上がった。

 シャアのぶん投げてきたビームサーベルのせいで肘から下が無いガンキャノンの左腕をチラリと見上げる。やっぱこれかなぁ……。これしかないよなぁ……。

 

「あとリュウ!ジョン!テメェらも!」

 

「は、はい!」

 

「うひぃぃぃ……なんですかぁ」

 

 ついでに疲労困憊な様子でゾンビみたいにコックピットから這い出してきた2人の肩をガッチリと掴んで、じいさんは俺の前で立ち止まった。

 すわ3人揃ってお説教かと身構えた俺たちだったが……。

 

「おめぇら、よく戻った……」

 

 じいさんのその言葉に柄にもなくウルッときちまった。

 いやな、なんつーか……、な。

 かつて、1人生き残ってしばらく寝たきりの俺の枕元で、ずっと悔恨の言葉を呟いて意気消沈してたじいさんの姿を思い出す。

 あれからすっかり元気になったように見えたが、自分の整備して送り出した部隊が全滅するってのは、じいさんたち整備兵にとってはやはり相当堪えていたのだろう。

 それを今、思い知ったのだった。

 

「整備長!ガンキャノン隊、全員帰還しました!」

 

 俺はそう告げてピシリと敬礼した。

 慌ててリュウとジョンもその場で敬礼する。

 俺たち3人を見て、周りで様子を伺っていた整備士たちが歓声を上げた。

 

「いいぞー!ガンキャノン隊!」

「おかえりー!」

「あの赤い彗星を撃退だぜ!?」

「俺たち生きてんのはお前らのおかげだー!」

「ありがとー!」

 

「よくこいつらを連れ帰ったな、バルメア。あんがとよ」

 

 シモンズじいさんがリュウとジョンと、それからガンキャノンを見上げてニィと口角をあげた。

 なんだよ、そう真正面から言われちゃなんだか照れ臭いじゃん?

 まあ、俺もけっこー頑張ったからさ。悪い気はしないね、うん。こういうの、なんかイイな。へへっ。

 俺が鼻の下を擦っているとじいさんが笑顔のまま俺に尋ねてきた。

 

「それはそれとして左腕がないようだが……?」

 

「あんなの飾りです!偉い人にはそれがわからんのですよ」

 

 それを聞いてじいさんは仏の顔のまま青筋を立てるという器用な技を見せた。

 怒りが限界が超えて表情筋が固まってしまったのかな?

 ちなみに、じいさんの仏の顔と残弾数は1、あるいは0である。今?0だよ!

 

「歯ぁくいしばれ?」

 

「すいませんでしたハイ!」

 

 ちなみにこの後普通にぶん殴られた。せっかく無傷で生還したのにひどい!

 まあ普段より随分優しいどつきだったけどな。

 じいさんも素直じゃないよ、まったく。

 

 その後パオロ艦長へ戦闘報告する為にブリッジに上がった。艦長にはなんかもうすごい勢いで褒められた。

 君がいなければ我々はここで死んでいた。あの赤い彗星に狙われて生きているのは君たちガンキャノン隊のおかげだ、とめっちゃ感謝された。

 本当はリュウとジョンもこの場で褒めてもらえたら良かったんだが、アイツらモビルスーツ初戦闘ですっかりダウンしてたからな。今は仮眠室でぐっすりだろう。

 2人にも艦長のお言葉しっかり伝えます!と退室してから、俺はガンキャノンの修理具合を確認しに格納庫への通路を移動していた。

 

「おや、バルメア少尉。戻っていたのかね。それでガンダムは取り戻せたか?」

 

「テム博士。こんなところでなにしてるんです?あとアムロちゃんも」

 

 で、その道中でテム博士に声をかけられたんだが、第一声がこれだもんな。

 この博士、自分の興味の無いことにはすげぇ無頓着である。

 あのあの、俺たちの成否如何であなたの生命もピンチだったのですが?まず気にするとこそこぉ〜?

 

「ごめんなさいバルメアさん。お父さんったら目の前のことにすぐ夢中になっちゃうから……」

 

「あーうん。慣れてるから大丈夫大丈夫。で、博士が夢中になってるものって?」

 

 博士たちが出てきた通路はホワイトベース中央部の第三デッキである。アニメだとガンペリーとかが格納されてたあんまり出番のない格納庫だ。

 

「おおっ!そうだ!少尉も見ていきたまえ!実はサイド7で極秘で開発していたものだがね!何を隠そうコイツがガンダムに次ぐV作戦の要と言っても過言では無い最重要案件だったのだが、いやぁ〜ドサクサに紛れてキチンと回収できてなによりだ!ふむ?要領を得ないといった様子だな。まあ百聞は一件にしかず!こっちに来たまえ!さあさあ!」

 

 博士のテンションが過去一でやばい。

 この人がこういう三徹くらいかました時のハイテンションになってる時は大体変なモノを弄くり回していると相場が決まっている。

 今回は何をやらかしたのやら(やらかす前提)

 

「どうだ!見たまえ!これがホワイトベースをただの輸送戦艦から最強のモビルスーツ母艦にする為の装置だァァァァァァァ!!」

 

 バァァァァァァァンッ!と効果音でもつきそうな大仰な仕草で博士が指し示した先に鎮座していたのは、第三デッキのスペースをほぼ全て占拠する巨大な白い卵のような装置だった。

 ンンッ!?まてよ、なんか既視感が……。

 ってオイオイオイオイ!博士お前まじか!

 これAGEビルダーじゃねぇかァァァァァァァ!!!!

 

「360度どこから見てもAGEビルダーだよコレ!!」

 

「AGE?違うぞ少尉。これはGベース!私が一から設計した全く新しい創造のカタチ!これそのものが設計・開発・生産できる、まさに戦艦に携帯できる工場!まあ一言で言えば賢くてデカい3Dプリンターみたいなモノだと思ってくれたらいい!このGベースをホワイトベースに取り付けた暁には、様々な新兵器を前線にいながらにして即座に調達可能になる!戦争が変わるぞ!それもこれも少尉!アイデアをくれた君のおかげだ!もちろん作った私が一番すごいのだが!」

 

「Oh……」

 

 原因、俺かぁぁぁぁぁぁ……。

 いやね、前世の記憶を思い出してから色んなガンダム作品知識を思い出しながら、忘れないようにノートに走り書きしていった時期があったのよ。

 

 で、まあそのノートをうっかりテム博士が見ちゃったわけね。いや、不慮の事故だから!

 仲間の復讐の為に、連邦軍の強化をいわゆる知識チートってやつでしようとは思ってたよ。

 その為に役立ちそうな知識は思いつく限りぜーんぶ書いてたわけ。そのノートに。

 

 でさ、それ読んだ博士が目の色変えて詰め寄ってきたの。これを思い付いたのはキミか!?って。

 すごい剣幕でさ。俺も焦って、いやでもただの素人の妄想の産物ですよってノート奪い返そうとしたのね。

 けど離れないの、手が。博士がめっちゃノート握りしめててさ。手に青筋立ててんの。

 

 そんで博士の剣幕に飲まれちゃって、ノート博士にあげちゃった。もうね、一見冷静なんだけど、目がちょうだいちょうだいって言ってんの。恐怖のあまりちびりそうだった。無言で青筋立ってるイイ年したおっさんと正面からノート取り合いすんのこぇぇよ……。

 

 んで書いてた、書いてたわ〜……。

 ノートにAGEビルダー的なもんメモしてたわ〜……。

 性能的なもんはわからんけど、ノート渡してたった半年ちょいでこんなもん用意できんだろ普通……。フワッとしたイメージ渡してこんな短期間で作るとか博士人間やめてるわ。まあ短期間で新型ポンポン開発するジオンを見てると、案外この世界ではこれくらいは普通なのかもしれないが。

 

「ってか博士、コレ予算はどうしたんです?」

 

「む?無論V作戦の予算だが?」

 

「いやV作戦の予算降りたの俺のノート渡す前でしょ。申請は……?」

 

「あぁ、ジャブローからの要求はガンダム10機だったからな。なんとか7機分の予算で組み上げたよ。ガンダム7機分と同価値だから実質予算内だろう」

 

 あ、あかーーーーーーん!普通に予算不正利用しとるゥーーーーーーーー!!!!

 誇らしげに眼鏡をクイっとする博士。

 あんたバレたら銃殺だぞ!なにやってるだァ!

 

「ちなみにGベース栄誉ある1番目の完成品はこちらだ」

 

 マイペース過ぎる博士に胡乱な目で見つめながら、俺は博士が指し示した方を向いた。

 ゴゥンゴゥンとGベースの正面のハッチが開閉し、白煙が床を滑るように吐き出されていく。

 物々しい空気の中、卵から現れたのは俺の愛機、ガンキャノン・デュラハンだった。

 

「デュラハン?けど頭があるな」

 

 外見は確かに俺のデュラハンなんだが、改造して胴体にめり込んでいたはずの頭がボディの上に乗っかっている。

 一見灰色の普通のガンキャノンだった。

 

「間違いなくデュラハンだとも。この間の戦闘で色々と問題点も見えたからな。まずは私の手掛けた最初のモビルスーツを改良しようと思ったのさ」

 

「なるほど犯行動機はわかりましたが、犯行内容は?」

 

「君その言い方は普通に失礼だぞ?まあ言い!よくぞ聞いてくれた!刮目せよ!これが新生デュラハンの機能だ!!!」

 

 テム博士が手に持っていたタブレットを渡してきたのでザッと目を通す。

 パッと目に付いた項目は一見に普通に思えたが、いやよく読んだらなんかとんでもないことが書いてあるような……。

 

・サブアーム基部へのビームサーベル増設

・ハロによる操縦補助システムの搭載

・サブアームおよび頭部の遠隔操作の実装

・全身の相転移装甲化

・機体の分離合体機能の強化

・頭部脱出機能の搭載

 

( ᷇࿀ ᷆ )ナァニコレェ

 

 




戦争なんて真面目にやってられないのでテム博士にすべてを破壊してもらいます
今度こそ次回ルナツー到着
サクッといきます


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若ヤザン登場

あの一戦以来シャアからの追撃もなく、ホワイトベースは無事にルナツーへと入港した。

 

 ──宇宙要塞ルナツー。地球の周回軌道上にある小惑星を基地にした連邦宇宙軍の一大拠点である。

 分厚い岩盤の内側に数百数十の戦艦を収容するドッグがいくつも点在し、ミノフスキー粒子下で戦艦に対し圧倒的な優位性のあるザクを持つジオンすら未だ攻略に踏み切れないほどの堅牢性を誇る。

 

「お久しぶりです、パオロ教官」

「君にそう呼ばれるのは随分と久しぶりだな。すっかり立派になったな、ワッケイン少将」

「そう年数は経っておりません。部下も外しております、この部屋で少将はなしですよ教官」

 

 パオロとワッケインはかつて士官学校の教官と生徒の関係であった。人払いをした一室に、しばし2人の雑談と笑い声が響く。

 ひとしきり語り合った頃合いを見計らい、ワッケインが本題を切り出した。

 

「教官、こちらを」

「ジャブローからかね?」

「はい。ミノフスキー粒子が濃く、地球の自転周期に左右されるので短時間通信となりましたが」

 

 ワッケインは指令書をパオロに手渡した。

 連邦軍本部ジャブローから、宇宙要塞ルナツーに下った指令は以下である。

・ホワイトベースは引き続きガンキャノン及びGベースをジャブローまで輸送せよ

・ルナツーは可能な限りそれを援護せよ

 

「テム・レイ技術大尉の件についてはお咎めなしか」

「赤い彗星撃退という実績が評価されたようですな。ジャブローでは改良型ガンキャノンの量産が始まるようです」

「流れが変わりつつある、か」

 

 まだまだ大艦巨砲主義者が根強い連邦軍ではあるが、もはやモビルスーツなくして勝利なし、というのは宇宙で大敗を経験した連邦軍人たちにとっての共通認識となりつつあった。

 このような流れを作り出すきっかけを作ったのは、ルウム戦役でモビルスーツに敗北し一時捕虜の身となったレビル将軍その人である。

 モビルスーツの兵器としての有用性をその身で体感したレビルはV作戦を始動。サイド7でのモビルスーツ開発が始まった。

 

 そして完成したモビルスーツ回収の任務を受けたホワイトベースを護衛するべく、レビル直々の要請を受けたルナツーはサラミス2隻をサイド7に派遣した。

 ルナツーにも少数ながらガンキャノン(初期型)が配備されているし、フィードバックなり新型の生産ラインなりは、たとえデータだけであっても喉から手が出るほど欲しい。

 宇宙で何の対策もなくこれ以上孤立し続けるのは、ルナツーの軍人たちにとっても耐え難い状況であった。

 

 このような意図があって、おこぼれを狙ってルナツーはなけなしの戦力をホワイトベースの護衛に回したともいえるし、それを見越してルナツーへ護衛の要請をしたレビル将軍もなかなかの策士である。

 

 現在、ホワイトベースが回収したデータを使ってルナツー配備のモビルスーツアップデートが急ピッチで進められていた。

 

「ルナツーからはマゼラン1隻サラミス3隻からなる艦隊を衛星軌道上まで派遣し、ホワイトベースの地球降下を援護させる予定です」

「ありがたい。出発は明朝か。シャアの動きも気になる。あまりルナツーに長居するのも得策ではなかろうな」

「赤い彗星ですか。流石にムサイ単艦でこのルナツーに仕掛けてくるということは……」

「いや」

 

 パオロの予感めいたその言葉に、ワッケインは言いかけた言葉を引っ込めた。パオロはモニターに映る宇宙空間を見据えながら、確信にも似た直感を感じていた。

 

「シャアは来る」

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

「ルナツー所属のガンキャノンですが、OSのアップデートは進捗7割ほどでしょうか。反応速度と追従性は従来より40%向上する試算です。二機編成ならザクだって落とせるようになりますよ」

 

「了解した。そちらは引き続き任せる。本日中に作業を完了させてくれ」

 

 ホワイトベースの整備士にそう声をかけてから、ルナツー内にあるモビルスーツ格納庫にズラリと並ぶ10機の『初期型ガンキャノン』を見回す。

 

「……3本指なんだもんな」

「初期型だったら僕ら、この前の戦闘で死んでますね」

 

 俺の漏らした呟きにジョンが相槌を打つ。

 俺たちパイロット組はルナツーからの要請で初期型のアップデート内容や性能解説やらを現地のパイロットにレクチャーする為、ルナツーのモビルスーツ格納庫へ訪れていた。

 

「総合的な性能はザクに及ぶべくもないからな。隊列組んでキャノンぶっ放すなら自走タレット作った方がマシまであるし、初期型の評価が低いのもさもありなんって感じだ」

 

 愛着のある機体ではあるが、初期タイプのガンキャノンはほんとに連邦製モビルスーツって点しか褒めるとこないからなぁ。

 そもそもの仮想敵がモビルスーツとして完成されたザクⅡな時点で無理があるというものだ。

 なんたってコイツらはザクⅠとかブグとか今は現役を退いた旧世代機と同年代なのだから。

 

「それは随分な言い草でありますなァ、少尉殿」

「おっと、これは失礼。君は?」

 

 俺の背後から声をかけてきたのは、どことなく野獣めいた雰囲気を纏う金髪の男だった。

 目つきは鋭く、身のこなしは軽い。鍛え抜かれた筋肉は全身の動きを邪魔しないスマートさも兼ね備えているように見えた。

(パイロットの体をしている……。それに、どこか見覚えがあるような?)

 

「ヤザン・ゲーブル曹長であります!ルナツーMS防衛部隊所属!」

「ヤザン!?」

「……?」

 

 思わぬところで思わぬ名前を聞き、つい大声が出てしまった。ヤザンは一年戦争にも従軍していたはずだから連邦にいるのはおかしくないが、まさかルナツー、それもモビルスーツ部隊にいるとは……。

 

「すまない、バルメア・エレクトリーガー少尉だ。ホワイトベース隊所属で、君たちのガンキャノンについてレクチャーにきた。よろしく頼む」

「やっぱりアンタがバルメアか。ルナツーじゃアンタの噂で持ちきりだぜ。あの赤い彗星相手に3度も生き残ったエースだってな」

 

 ヤザンがグイと顔を寄せて覗き込んでくる。い、威圧感つぇぇぇ。未来のグリプス戦役で27歳の筈だから、今は20歳くらいか。年齢だけなら随分若いな。しかし、この時点でこの貫禄、見た目だけなら俺の知るヤザンそっくりだ。

 

「ちょっと!バルメアさんは少尉さんなんだから曹長は敬語でしょ!」

「なんだと?」

 

 ジョンの真っ当な意見に、ヤザンが獰猛な笑みを浮かべながら食い下がる。

 年上かつ階級が上のヤザン相手に意見できるジョンは度胸がある。実戦を経験して一皮剥けたかな。部下の成長を喜びつつ、じゃれているヤザンに水を向けた。

 

「ところでヤザン曹長。時間までまだ余裕がある。何か用があったのでは?」

 

 俺の問いを受けて、ヤザンが嬉々として振り返る。

 

「くくっ、少尉殿は話が早くて助かるな。このヤザン・ゲーブル、アンタに模擬戦を挑ませてもらいたい」

 

 ……マジかよ。

 

 というわけでルナツー上で演習である。

 俺はガンキャノン・デュラハン。ヤザンはアップデートほやほやのルナツーの初期型ガンキャノンだ。

 デュラハンの試運転もしないといけなかったし、模擬戦はありがたい申し出だったな。

 

『胸を借りるつもりで本気で活かせてもらう』

「お手柔らかに頼むよ」

『ハッ!ご冗談を』

 

 ヤザンの放ったキャノン砲が足元に着弾し、宇宙空間を土煙が舞う。こちらの視界を奪って初動を見せない腹つもりか。

 コックピットに接近警報。こちらは手堅く守りを固めてヤザンの接近に備える。

 

 ヤザンがマシンガンを連射し肉薄してくる。

 サブアームのシールドを掲げてマシンガンを弾く。ちなみに実弾ではなく当たり判定だけを飛ばしている。

 マシンガンは牽制だろ?ガンキャノンの装甲を抜くにはそう、キャノン砲を使ってくる。

 

(なおデュラハンはPS装甲なので正面からのキャノン砲程度なら耐える。反則ゥ!)

 

『もらったァ!』

「見えてるよ」

 

 スラスターを点火させその場で左足を軸にしてターンする。最小の動きでキャノン砲の射線上から逃れた俺は、背後に駆け抜けていくヤザンを追うように飛び出した。

 

『そうこなくてはなぁ!』

 

 戦闘大好きマンの嬉しそうな声が聞こえる。

 先程のヤザンの取った戦法は、マシンガンで敵を拘束しつつ機体を加速させ、すれ違いざまに本命のキャノン砲を叩き込むというモビルスーツが機動兵器である利点を最大限に活かした鮮やかなものだった。

 高い戦闘センスに、熟練した操縦センス。やはりヤザンは伊達じゃない。

 

「今度はこちらから仕掛けさせてもらう」

 

 新武装、試してみるか。

 背部の拡張バックパックから伸びるサブアームが起動する。

 これはシールドを保持しているサブアームとは別の、新たな一対の隠し腕である。

 普段はビームサーベルをマウントしており、ガンダムMk-IIのサーベルラックに見た目は酷似している。

 

「行け、インコム!」

 

 俺は掛け声と共に有線式攻撃端末『インコム』を射出した。

 ミノフスキー粒子によって長距離の無線制御が封じられた戦場において、有線での通信によりオールレンジ攻撃を可能にした技術がこのインコムである。

 開発されたのは今から7〜8年後のはずの兵器だが、俺のノートとテム博士の暴走によりこの時代に爆誕してしまった未来の超兵器である。

 

 インコムが小刻みに軌道を変えながらヤザンのガンキャノンを追い立てる。

 

『なんだコイツらは!?』

 

 未知の兵器に囲まれつつあることに焦ったヤザンが、マシンガンをばら撒きつつジグザグに回避軌道を取る。

 先端に装備された小型のビームガンが十字砲火を開始した。

 

『うおっ!?』

 

 四方八方から飛ぶ火線を、ヤザンは抜群の操縦センスで捌いていく。

 しかしそれも長くは続か……、いや全然当たらねーんだが?

 

『そこかぁ!』

 

 ヤザンの裂帛の気合いと共に、インコムが二機とも撃破判定をくらった。

 

「いや避け切るんかい!」

 

 この最強オールドタイプがよぉ〜!!

 




ルナツーで模擬戦で(訓練時間)3000時間なんだよぉ!


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ルナツー強襲

 ルナツー近傍では、この戦争が始まってからデブリが増え続けていた。

 小規模な戦闘からなる破壊された戦艦や戦闘機の破片であったり、ルウムの海戦で発生した残骸の数々が遠くルナツーの存在するラグランジュポイントまで流れて来ていたりと様々だ。

 だから半ば日常となったその光景に、ルナツーの監視員が特段違和感を覚えなかったことを誰が責められるだろう。

 

「方位a-06より接近する物体あり。数3。望遠カメラが捉えました。デブリと思われます」

 

「衝突した場合のルナツーへの被害は?」

 

「進路上に建造物なし。問題なし」

 

「なら放っておけ。引き続き警戒を厳とせよ」

 

 ルナツーの警戒網を抜け、デブリが3つ通り抜けていく。

 ルナツーへ接触する直前に、デブリの影からモビルスーツが3機飛び出した。

 音もなく地表へと降り立ち、互いの腕を接触させた。接触回線。別名お肌のふれあい通信である。

 

『木馬ともども、予定通り仕掛けるぞ』

『了解。亡霊はどうしますか』

『発見次第破壊しろ。もっとも──』

 

 ──そう簡単には行かないだろうがな。

 あの男がそう簡単に封じられるはずがない。

 心底楽しそうに赤い彗星は嗤った。

 血の湧き立つ闘争を求めて、赤い彗星はルナツーへと牙を剥いた。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

 腹の底を叩くような轟音と衝撃が足元を突き抜けた。

 

「なんだ!?爆発!?」

『本部より各員へ通達!ポイントαよりモビルスーツ侵入!繰り返す!ポイントαよりモビルスーツ侵入!動けるものは直ちに迎撃せよ』

 

 原作じゃレーダーに引っかからない生身での侵入だったってのに、モビルスーツだと?

 ルナツーの監視員の目は節穴かよ!

 

「聞こえたなヤザン曹長。演習は中止だ。セーフティ解除。敵モビルスーツを迎撃する」

『了解した。赤い彗星、噂以上に愉快な男らしいな!』

 

 土煙の尾を引きながらデュラハンとガンキャノンが加速する。

 目指すのはホワイトベースが格納されている宇宙港である。 今まさにシャアの襲撃を受けている場所だ。

 目を凝らせば港の出入り口付近で小規模な爆発光が瞬いているのが見える。

 ルナツー所属の初期型ガンキャノン3機がザク2機と交戦している。アップデート済みの機体でおっとり刀で飛び出したらしい。お世辞にも連携が取れているとは言い難いが、数の有利を推して上手く防衛しているようだ。

 

『敵の圧力が弱い。時間稼ぎか?』

 

 ヤザンの鋭い洞察力に、俺の脳裏に走る感覚があった。

 

「ガンダムがいない。ルナツーの中、ホワイトベースか!」

 

 よくよく観察すれば、ガンキャノンはしきりに背後を気にしている。彼らは防衛しているのではなく、この場に張り付けられているのだ。

 本命は既に侵入済みか。

 

「間に合ってくれよ……!」

 

 ザクを無視して俺とヤザンは宇宙港へと突っ込んだ。

 すぐに見えてくるホワイトベースの白い船体。近づくにつれ状況が見えてきた。

 

 そこにはビームライフルとシールドを背中に背負い、改良型ガンキャノンの頭部を鷲掴みにしたガンダムが仁王立ちで待ち受けていた。

 応戦したのであろうリュウとジョンのガンキャノンが四肢を投げ出しガンダムの足元に倒れ伏している。さながらその姿は白い悪魔。

 

「インコムッ!」

 

 射線上にホワイトベースがあり迂闊に発砲できないと判断し、即座にインコムを射出。

 ビームガンの銃口からサーベルを発振させる。このインコムはビームサーベルにもなる。

 

「援護しろヤザン!」

『おうとも!』

 

 赤い彗星だって初めて見る兵器には対応が遅れるよなッ!?

 背部からサーベルを引き抜き、4刀になったサーベルでガンダムへ急接近を仕掛ける。

 ガンダムがバックパックからビームサーベルを抜き放った。デュラハンの振るった二刀とガンダムの二刀がぶつかり合い、周囲に飛び散る粒子の輝きが激しく互いの装甲を叩く。

 こいつ、こないだ破壊したビームサーベルも回収しやがったな!?

 

「貴様は俺の部下になにをしてくれている!」

『いい機体だな亡霊(ゴースト)!面白い装備だ!それもいただこうか!』

 

 足止めを狙った鍔迫り合いを、ガンダムは巧みなステップでするりと抜け出した。インコムが空を切り、有線ケーブルがガンダムの腕の一振りで切断される。

 

『隙だらけだぞ赤い彗星!』

 

 ガンダムに回収されかけたインコム目掛けてヤザンのマシンガンが叩き込まれた。インコムが無惨に爆発する。

 テム博士の絶叫が聞こえてくる気がするが、運用実績の少ない新型兵器ではこの戦闘に耐えるのは無理だ。改良の余地あり。

 

「引き剥がした!追い立てるぞ!」

 

 ガンダムをホワイトベースから引き剥がすことに成功。とはいえ友軍の宇宙基地の中、ビームライフルを撃つわけにもいかない。

 このまま宇宙港の外へ押し出してやる。

 

『ビームライフルとやら。試させてもらおう』

「しまっ、俺の背後に回れヤザン!」

 

 そんな俺の思惑に乗ってくれるはずもなく。

 ガンダムがビームライフルを正眼に構えた。

 銃口がピカッと光る瞬間、サブアームのシールドを重ね合わせて防御姿勢を取る。

 凄まじい衝撃と閃光。

 モニターが一時的にホワイトアウト。

 損傷を知らせる警告音がコックピット内で反響する。

 

「くそ……!」

 

 視界が戻るが、そこには遠くスラスターを瞬かせるガンダムの姿が。

 そちらでは初期型3機がまだ戦っている。

 ガンダムが再びビームライフルを放った。

 ズム!という凄まじい爆音を最後に、港内部は静かになった。

 

『完敗、というやつだな』

 

 ヤザンの呟きが俺に現実を突きつける。

 俺の機体はサブアームが2本とも根本から脱落しかけ、保持していたシールドは真っ黒にひしゃげて原型を留めていなかった。

 ヤザンのガンキャノンは頭部のバイザーにヒビが入っている程度で、損傷は軽微。

 しかしこの身で味わってしまった。敵に使われるビームライフルという武装の恐ろしさを。

 

「面倒なことになったな……」

 

 宇宙港入り口から漂ってきている初期型ガンキャノンの残骸を見て、俺は更にため息をついた。

 本当に面倒なことになった。




鬼に金棒
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母性って素晴らしい

 ホワイトベースの格納庫内部は、控えめに言って地獄の有様だった。

 シャアのガンダムによる強襲。ビームライフルやシールド、ビームサーベルなどのガンダムの武装を強奪され、迎撃に出たリュウとジョンのガンキャノンは大破。

 

 ビームサーベルの一刀の元に切り伏せられた両名の機体は、かろうじてコックピットへの直撃を免れていたものの、パイロットであるリュウは頭部への軽い裂傷、ジョンは意識不明の重体と大きな損害を受けた。

 

 人的損害はパイロットだけではなかった。当時ルナツーの格納庫へ出向していた人員を除いて、全員がホワイトベースの格納庫で作業を行っており、ガンダム襲撃により元々少なかった人員から多くの死傷者を出し、完全に機能不全へと陥っていた。

 

 生き残った整備兵の数、僅か13名。

 モビルスーツ複数機の整備などとても務まるはずもなく、一機の面倒を見るだけで徹夜も覚悟の上、というデスマーチ上等の惨状が広がっていた。

 

 また艦長であるパオロをはじめ、多くのブリッジ要員も負傷。こちらはルナツー内部に滞在していたところを戦闘の余波に巻き込まれる形で大小怪我を負ってしまったらしい。

 

 これによりパオロは艦長職を続行できなくなり、代理として艦長補佐を勤めていたブライト中尉が艦長代理に抜擢された。なんと彼、弱冠20歳の新米士官である。異例の人事に驚く者が多かったが、パオロの鶴の一声がそれを収めた。

 

 今回の赤い彗星によるルナツー襲撃は大きな爪痕を残した。赤い彗星は逃亡時に撹乱としてビームライフルによる攻撃をルナツー外壁に向けて敢行。

 的確な射撃が各部の宇宙港出入り口を射抜き、多くの将兵が被害を受けた。

 よってホワイトベースに回す余裕も人員も無い、というのがルナツー側の出した結論であり、当初の予定のまま明朝の出港へ向けて急ピッチで修理と補給を受けているのが、現在のホワイトベースの状況であった。

 

 出港まであと3時間。ルナツーで執り行われた宇宙葬でシモンズじいさんや顔見知りの整備兵を見送った俺は、人の減った格納庫へと戻ってきていた。

 

「あっ、バルメアさん。おかえりなさい」

「アムロちゃんか。その、怪我はなかったかい?」

 

 目の前のアムロ少女も、凄惨な現場にいた1人だ。おそらくショッキングな光景を目の当たりにしてしまっているだろう彼女にかけるセリフは、彼女の身を案じる無難なものに落ち着いた。

 

「ありがとうございます。私は大丈夫です。シモンズさんたちみんなが守ってくれましたから」

 

 落ち込むでも悲しむでもない、気丈な瞳が俺を射抜く。いや悲しんではいるのだろう。ただそれを理由に塞ぎ込んではいられない、そんな前向きな心がなんとなく伝わってくる。

 

「バルメアさん。モビルスーツの整備は心配しないでください。シモンズさんたち居なくなって大変ですけど、私もできる範囲でできるだけのことをします。だから困ったら私たちを頼ること、忘れないでくださいね?」

「強いな、君は」

 

 なんでそんなに強く在れる?

 俺はそう在れない。後悔ばかりだ。

 俺がもし、演習に行かずにホワイトベースに残っていたら。

 俺がもし、もっと早く現場に駆けつけていたら。

 自分の行動のifばかり考えてしまう。

 部下は怪我をした。昔馴染みの仲間はこの世を去った。あんまりにもアッサリだった。死の間際に立ち会うことは愚か、死に顔を拝めないくらいぐちゃぐちゃになってしまったヤツもいた。

 

 なのに。こんなにも俺は哀しいのに。

 涙が出てこない。

 涙は弱さだから?違う。

 俺は泣きたいんだ。仲間の死を悲しんで泣きたいのに、俺の心は冷えて固まってしまったまま。

 

「俺は、弱い……っ!」

 

 シャアに勝てない。

 何度も何度も戦って戦って、ジワリジワリと大切なものを失っていく。

 あの男が憎い。倒したい。

 ヤツを殺すまでは、俺は……!

 

「バルメアさん。大丈夫ですよ。大丈夫」

 

 気付けば俺はアムロちゃんにそっと抱きしめられていた。

 パイロットスーツ越しに彼女の柔らかな体の感触が伝わってくる。

 機械油と女の子特有の甘い匂いが鼻をくすぐった。

 

「バルメアさんは弱くなんてないです。何度も助けてもらった私が保証します。それでも不安なら、私がもっともっとあなたを強くしますから。だからそんな顔、しないでください。ね?」

 

 私、メカニックですから。

 まだ見習いですけどね、そう微笑む彼女に吸い込まれるように目が釘付けになって、それから。

 それから先は、覚えてねぇ……。

 イマドキの15歳って熟れた身体してんな、とか女の子って体温高いんだな〜とかそんな考えは断じてしていない。

 10歳も年下の女の子に母親を感じるとかそんなことは全然ないから、そこんとこ勘違いしないように。

 特にテム博士には内緒だからな。バレたら死ぬ。あの人娘のこととなると怖いんだから……。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

 格納庫の中で、新たに配属された新兵達の自己紹介が行なわれていた。

 

「俺はカイ・シデン。整備くらいなら手伝えると思うぜ」

「セイラ・マスです。機械の整備より人間の方が得意分野ですけれど、できるだけお手伝いします」

 

 その他フラウ・ボゥやハヤト・コバヤシなど、原作の主要キャラクター達が続々と志願兵として名乗り出てきた。

 どうも生き残るためには自分達も民間人として守られるだけではダメだと奮起したらしい。背景には、既に民間人から整備兵に志願したアムロちゃんの存在もあったようだ。

 

 有難いと同時に、軍人としては情けない話だ。

 連邦軍の拠点にいながら人手不足として民間人を軍務に関わらせる。

 ワッケイン司令の言葉を借りれば、寒い時代ってヤツだ。

 

 重要な任務を受けているホワイトベースに回す人員がないとは、一体どういう了見だとブライト中尉がワッケイン司令に直談判しに行ったわけだが、結果は芳しくなかったらしい。

 

 確かに、ホワイトベースのジャブロー到達は連邦軍に理するだろうが、戦況を大きく左右する程でもない。それを支援する為に連邦軍唯一の宇宙要塞ルナツーを存続の危険に晒すわけにはいかないのだろう。

 特にシャアの襲撃を受けた後で、人員装備共に大きく被害を受けた彼らにとっては。

 

 そんなこんなで、ホワイトベースクルーは原作と同じメンバーになりつつあった。

 ここにはいないが、操舵手も原作通りミライさんである。

 全員が整備兵になるわけじゃないから、セイラさん辺りは通信士になる気もするな。

 美人の彼女に送り出されるなら、パイロット冥利に尽きるってものだ。

 

 改めてセイラさんを遠目から眺めてみる。

 綺麗な金髪に品のある顔立ち。切れ長の眼がキツい印象を与えるけど、それも含めてとんでもなく美形だ。

 彼女には裏の顔がある。なんとジオン・ズム・ダイクンの遺児。赤い彗星(キャスバル)の妹で、原作では何度か兄と戦場で邂逅している。

 

 このルナツーでもシャアと顔を合わせるはずだったけど、おそらくそんな機会はなかっただろう。そもそもその時は民間人でシャアの迎撃に出てないし。

 この世界の君のお兄様、めちゃくちゃウザいからなんとかしてくれない?

 説得コマンドとかあったら是非試してほしいんだけどなぁ。

 まあその隙をついて後ろから撃つくらいには、俺はヤツを憎んでるけどね。

 俺がいつかシャアを倒したら、彼女にとって俺は兄の仇になるのかな。

 憎しみの連鎖が俺と彼女を縛るなら、俺はその時どうするのだろう。

 

 そんな事を考えながらセイラさんを見つめてたら、スススッと近づいてきたアムロちゃんに脇腹をつねられた。

 

「え、なに?痛い痛い」

「お父さんにさっきのことバラしますよ」

「え"!?」

 

 なんで急に機嫌悪くなってるのぉ?女の子、全然わからん……。

 

 そんなこんなで出港である。

 地球降下まではマゼラン1隻とサラミス2隻が護衛してくれるらしい。

 なんとも豪勢な護衛だ。モビルスーツさえ出なければ非常に頼もしいことこの上ない。モビルスーツさえ出なければね。

 

 ちなみにヤザンのルナツーMS防衛部隊も護衛に同行してくれている。というか。

 

 「ヤザン・ゲーブル曹長!着任の挨拶に参りました!よろしくお願いします!」

 

「よろしく頼む、ヤザン曹長。君がいてくれるのは頼もしいな。しかし良かったのか?君自ら志願したというが」

 

 ホワイトベースの地球降下の成否次第だが、割とこの先は地獄だぞ?

 

「アンタは強敵を惹きつける。この艦に乗っていればまた赤い彗星と戦えるだろうと思ってな。まあ、精々楽しませてもらうさ」

 

 俺の問いに獰猛な笑みを浮かべてヤザンが笑う。ニコシッ!

 わぁ、戦闘狂だな〜。

 ジョンが一時離脱してるホワイトベースMS隊にははちゃめちゃにありがたい人員だ。マジでヤザン強いからな。インコム初見で捌くし……。

 よくルナツーが手放すのを許可したもんだ。素直にそう伝えたら、隊では煙たがられていたとの事。あの弱腰ルナツー(めちゃくちゃ悪口)の中でそれだけ闘争本能つよつよだと然もありなんって感じだね……。

 

 あっ、インコムで思い出したけどテム博士に呼び出されてるんだった。先の戦闘の反省会がどうとか息巻いていた気がする。

 新装備がろくに活躍しなくて大分興奮気味だったからな。今回は長くなりそうだ。

 

「さっそく任務だぞ、ヤザン曹長」

 

 楽しい楽しい装備検討会だ。




アムロ、ヒロイン参戦
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盾パリィならビームもはねかえせる

そう。このナベのフタさえあれば、ね


 場所はホワイトベースのブリーフィングルーム。

 ルナツーを出港してからおよそ3時間あまりの間、この部屋では激論が繰り広げられていた。

 先のルナツーでの防衛戦の反省会である。

 議題は主にモビルスーツの新装備運用検討や今後の整備状況についてである。

 まず前提として、ルナツー防衛戦でのホワイトベースが受けた人的物的損害は非常に大きなものであったことを知らねばならない。

 我々が受けた大まかな被害及び解決すべき課題は以下のとおりである。

 

①改良型ガンキャノン2機が大破。戦力の大幅低下

②整備兵22名殉職。これによる人員不足と整備速度の悪化

③ビームライフルをはじめとしたガンダムの装備強奪。対抗策の考案

④デュラハンの新装備インコムの改良。実用に足るAIの実装

 

 大きく4つの議題について、メカニックからはテム博士とアムロ少女、パイロットからは俺ことバルメアとヤザン曹長とリュウが出席していた。

 

 まず目下早急に解決すべき課題であるメカニック不足については、アムロ少女からの提案により解決策が見出された。

 

「さっきの説明の通りになりますが、ルナツーから譲り受けた資源をGベースで加工。整備用ロボットを生産します。コアユニットはこのハロを参考にして、拡張型の整備ユニットに合体させる事でメカニック一人分の働きができるようになる見通しです」

 

 アムロ少女の澱みない説明に、パイロットである俺たちはただ驚くばかりである。え、そんなことできるの?

 俺の知識の中でガンダムOOのハロの姿が思い起こされた。実現が成れば人手不足という問題は一気に解決するだろう。

 

「幸いガンキャノンの学習型コンピュータがシモンズさんたちの整備方法を記憶していましたから、それをハロたちにインストールして、私のハロが記録した実際の整備作業の映像と照合させれば可能です」

 

 新しい作業についてはハロを同伴させたメカニックが実演することで学習させつつ、各個体の同期を行えばそれで済むらしい。なにそれタチコマかなにかかな?

 そんな複雑な作業ができるならモビルスーツパイロットだって務まるんじゃないの?

 

「無論、学習すればいずれは可能となる。バルメアノートにあったモビルドールシステムについても、実用化の目処が立っている。肝心の機体が足りないがね。目下のところ、これを流用してインコムの操作役をハロに任せる案を考えている。いずれは機体の操作もある程度代行できるようになるだろう」

 

 テム博士の説明を聞いて、ヤザンが眉を顰めた。

 

「人間が不要になる戦場が来るってことか?」

 

「私は自身の技術に自信を持っているが、それはないだろうと思う」

 

「それは人が機械より優れているという意味か?」

 

 ヤザンの疑問にテム博士は首を振って否定した。そうではないと。

 技術を誰よりも愛し信頼する博士の考えは興味深い。ブリーフィングルームの耳目が自然博士に集まる。

 

「機械は融通が利かないからだよ。そして悩まない。その点で人間に勝ることはない」

 

「……意外に現実的な答えだな。学習とやらを重ねれば融通や悩みも学べるのではないのか?」

 

 これまた意外にも理知的な意見を出したヤザン(彼は戦闘狂ではあるが馬鹿ではない)に対し、テム博士は眼鏡をキラリと光らせて答えた。

 

「そうまで進化した機械とは、最早人間と呼んで差し支えないのではないかな?」

 

 ねぇこれ、一年戦争時点でしていい会話のレベルじゃないよォ……。

 バルメアノート、燃やした方がいいかもしれん……。

 歴史の破壊が止まらない!加速する!

 テム博士が生きている事でガンダムの歴史こわれちゃーう!

 後半脂汗が止まらない会議となってしまった。

 俺は悪くないよ。今を全力で生きている。ただそれだけ(現実逃避)

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

「で?結局使える機体はアンタのデュラハンと俺の初期型、予備機の改良型の3機だろう?」

 

「稼働機以外の予備機がなくなるのはちと不安が大きいな」

 

「破損すりゃあパーツが足りんからな。ルナツーからガンキャノンの予備パーツは?」

 

「無理。あちらさんも3機失って余裕ないってさ」

 

 万年籠っている臆病者どもめ。ヤザンが悪態をつく。自分の古巣にえらい辛辣だね、君。

 まあモビルスーツ10機もあって、ジオンの地球降下作戦の妨害に1機も出撃させてないのはどうかと思うけどねほんと。

 開戦直後の大敗がよほど宇宙軍を臆病にさせていると見える。モビルスーツは持ってて嬉しいコレクションじゃないんだよなぁ。

 

「俺の初期型はとりあえず機動力さえ上げてくれればいい。ビームライフルとやら、直撃すれば改良型の装甲だって保たんだろう。動き回るしか対策はあるまいよ」

 

 ヤザンの発言には一理ある。現状モビルスーツの携行兵器としてビームライフルは最強だ。最強故にモビルスーツの装甲で受けるのはほぼ不可能に近い。

 これは時代が降っても同じことだ。撃たれてもそもそも当たらないように高機動になるか、アイフィールドやビームシールドを搭載する事でモビルスーツはビームライフルという火力に対抗してきたのだ。

 

 小回りのきくモビルスーツに戦艦の主砲並みの火力を持たせるとどうなるか。

 原作のガンダムが多大な戦果を挙げている事を考えれば、結果は一目瞭然だろう。効果的すぎるのだ。ザクに対する完全なカウンターメジャー、いや圧倒する存在としてテム博士が開発しただけはある。

 

 んで、それが今はジオン側にあるわけ。

 絶望感っべーわ……。

 このクソ泥棒野郎がよ〜!

 地球降下の身動きできない状況でホワイトベース狙撃されたらそれでおしまいなんだよなぁ。

 かといってビームライフル防げる手段なんてないしな〜。困ったなぁ。

 

「ここにいたかバルメア少尉。……何を唸ってるんだ君は」

 

「どうもテム博士。いや〜対ビームライフルを考えてたんですが、どうにもいい案が浮かばなくって」

 

「ふむ。君のノートにある技術を再現するにも時間も資源も足りないからな。というわけで、目下予想される地球降下時の襲撃に対する装備案を考えてきた。これを見てくれたまえ」

 

 博士が見せてくれたタブレットには、2枚ずつ重ねたシールドを両手とサブアームに計8枚装備したデュラハンの姿が映っていた。

 

「……重量過多では?」

 

「使い捨てのアポジモーター増設ユニットを両脚部と両肩に装備する。機動性は1割減程度だよ。それにハロのサポートもある。インコムにはシールドになってもらえばいいのだ」

 

「つまり物理的に盾になれということですか!?ビームライフルの射線を読んで!?」

 

「なに、君ならできるだろう?できなければ我々は死ぬだけだ。ははは!」

 

 高らかに笑う博士にドン引きである。ある意味覚悟決まりすぎだろ……。

 苦笑いをしているヤザンの姿が印象的だった。

 

 地球降下ポイントまであと2時間。

 シャアの襲撃を艦内の誰もが確信する中、緊張が極限まで高まりつつあった。

 俺たちは無事に地球に降りられるのだろうか……。




ガン盾戦法はどこまで通用するのか。ガード強度とカット率あげなきゃ……。

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ガンキャノンを放って突撃、これだ

 ファルメル艦橋。中央モニターいっぱいにドズル中将が映し出されている。

 木馬を追跡しつつ地球に近づきつつあるファルメルの現在地は、サイド7のあるラグランジュ3よりもソロモンに近い。よってその強面はより一層鮮明であった。

 それを見上げるシャアと、後ろに控えるドレンはルナツー強襲で手に入れた戦利品の報告を行っていた。

 

『ううむ。これがビームライフルというものか。敵のキャノンが使っている戦闘データも見せてもらったが……。我が軍がガンダムを奪取できたのは誠に僥倖だったと言わざるを得んな』

 

「データのみならず実物を得られたのは幸いでありました」

 

 シャアの相槌にドズルが大きく破顔した。

 笑顔というより獰猛な野獣の威嚇と言った方が正しそうな迫力満点のその顔にドレンがやや怯む。

 彼はドズルを苦手にしているわけではないが、かといって見ていて嬉しい顔でもないのは確かだった。

 どうせなら美人の顔を拝みたい。戦場ではしばらくご無沙汰であるから、どこかに寄港した際に思いっきり羽目を外そうと考えているドレンである。

 

『まったくだ!貴様がもたらしたデータはジオンの技術を半年は進めたぞ!ギレン兄もキシリアも大層評価していた!上司の俺も誇らしく思う!よくやった!』

 

「光栄であります閣下。しかし木馬が健在であることは私にとって大きな懸念であります。木馬は常に新兵器を投入してくるのです。よもや艦内に工場があるのではないかと勘繰るほどに」

 

 実際、先のルナツー強襲においても敵のキャノンは妙なドローン攻撃を行ってきた。

 連邦軍のモビルスーツ開発の速度には目を見張るものがある。シャアがV作戦を察知し運良くガンダムを強奪していなければ、ジオンが一方的に叩かれていた可能性は極めて高い。

 新兵器の開発速度はもちろんだが、戦闘のたび新兵器を投入してくるのは妙な動きだった。

 

 ルナツー強襲はそれを探る目的もあったのだが、あの男の戻ってくる方が早かった。

 あわよくば駐機状態の機体を破壊すればよい。しかしそれでは味気ないとも考えていた矢先、格納庫を見ればまさかの不在である。

 いよいよもって運の良い男だ。あるいは視えているのか。

 知れず口角が上がっているのを自覚しないまま、思わず思索に没頭しつつあるシャアをドズルの声が引き戻した。

 

『また例の亡霊とやらのことを考えていただろう。思えばモビルスーツ黎明期から、貴様が何度もしくじるやつだ。俺としてもそろそろ本腰を入れて叩き潰しておきたいと思っている』

 

 ドズルはシャアの襲撃を幾度も退けている例のパイロットが、連邦のエースとして取り沙汰されるのも時間の問題だと考えていた。

 それだけ赤い彗星の看板はジオンにとって大きなものであったし、これ以上シャア1人の才覚に甘えているのも悪いと思っている。

 サイド7からの連戦。モビルスーツたった3機での宇宙要塞ルナツーへの強襲。いくらエースといえども1人の男に負わせていい負担を超えている。

 ドズルとしてはなんとしてもシャアの働きに報いてやりたい。あとさっさと一連の戦果を祝い労ってやりたいのである。なんだかんだ士官学校から面倒を見ている教え子の1人であるからして。

 

 それに、これ以上連邦にわざわざプロパガンダのネタをくれてやる義理は全くないのだから、ソロモンの戦力を動かしてでも木馬を確実に沈める為に動くべき頃合いだと考えていた。

 だからドズルの口から出た言葉は、もしホワイトベース隊が聞けば死刑宣告にも似た無慈悲なものだった。

 

『コンスコンの艦隊をソロモンから派遣した。木馬を衛星軌道上で迎撃させるから、貴様はそれらと連携してヤツらを沈めろ。万に一つも地球には逃すな。宇宙(そら)にいるうちに叩き潰してやれ』

 

「ハッ!了解いたしました!」

 

 シャアの敬礼に返礼したドズルが画面から消えたのを見届けて、ドレンはずっと閉じていた口を開いた。

 

「本気のようですな」

 

「私とて常に本気だぞ、ドレン」

 

「存じていますよ」

 

 シャアの言葉にギクリとしつつ横顔を伺うも、怒っているわけではないようだと判断したドレンは見えないように顔を逸らしつつ、口をしょぼしょぼと窄めた。

 沈黙は金なのだ。ドレンの発言にシャアが機嫌を損ねることはそうないが、それは彼が常に言葉に気を遣っているからである。

 

 思わず出た軽口に、シャアに対する気安さを出してしまったことを反省した。最初は得体の知れない男(なにせ謎のマスクをつけている)と警戒していたドレンであったが、知らず絆されていたようだ。

 上司であり今や歴戦のエースである彼は非常に他人を使うのが上手いのだ。

 

「あてにしているぞ、ドレン()()

 

 だからシャアの軽口にちょっと嬉しくなってしまうのも仕方のないことだった。

 

「ハッ!粉骨砕身頑張らせていただきます!」

 

 ファルメルのレーダーが、木馬が地球に近づきつつあることを示した。

 

「総員ッ!第一種戦闘配置ィ!」

 

 ドレンの気合いの入った号令が艦橋にこだました。

 戦端は開かれつつあった。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

「嘘だと言ってよバーニィ」

 

「誰だバーニィとは」

 

 思わず出たセリフに突っ込むヤザンへ構う余裕は今の俺にはなかった。

 ホワイトベースより優れたレーダーを積むマゼランが敵艦隊の動きを察知したのが半時間前の事である。

 チベ級1ムサイ級2からなる艦隊が前方から接近しつつあるという。背後からはシャアのファルメルが追ってきている。挟み撃ちの形になるな……。

 

「フハハ、やはりアンタは戦いを引っ張ってくる」

 

「どういう意味だ」

 

「この規模の艦隊戦は久々だという事だ!」

 

 ヤザンが右の拳を左手にパンと叩きつけ意気込んだ。その中国武術の包拳礼の激しいバージョンみたいなやつ、ガンダムキャラよくやるよね。

 しかし、嬉しそうだねぇ〜……。

 わかってる?チベ級のモビルスーツ搭載数は最大8機、ムサイ2隻分の8〜12機合わせたら20機くらいのザクが出てくるかもしれないのよ?

 背後からはシャアのガンダムとザク2機も来るのよ?死ぬわ。死ぬわよ。間違いなく全滅するわよ。勝てるビジョンが全く見えないわよ。

 

「死ぬわよ〜!みんな死ぬ!」

 

「うおっ、どうしたんですバルメア少尉」

 

「リュウか。隊長殿は武者震いをしておられるのだ。戦場が待ち遠しくて堪らんらしい」

 

 ヤザンの適当な答えにリュウは苦笑いをこぼした。あれだけ取り乱すバルメアを見るのは初めての事だった。それだけヤバイ状況なのだろうと改めて認識する。

 

「そういう貴様はどうなのだ。死にかけたんだろう?」

 

 怖くないのか、言外にそう問うヤザンにリュウはまっすぐな瞳で答えた。

 

「死ぬほど怖いですよ。けどウチには不死身の隊長がいますからね。着いていけば自分は死なんと信じています」

 

「不死身、不死身ね。ククク、あれだけしぶとければ違いあるまい。あるいは既に死んでいるからこれ以上死なんだけかもしれないが」

 

 ヤザンはパイロット待機室のベンチでウンウン唸るバルメアを見て笑った。

 最初に会った時より良くも悪くも砕けてきている男の姿に、何かやらかしてくれるだろうという根拠のない確信が芽生えていた。

 

 

 なにやら2人に好き放題言われている俺だったが今はそれどころじゃない。

 なんとかこの状況を打開する策を考えないとマジで死ぬ。降下中の無防備なホワイトベースを守りながらザク20機とガンダムの相手は不可能だ。

 

「母艦さえ沈めればモビルスーツは無力化できるか……?」

 

 そうすれば帰る場所を失ったザクはファルメルに殺到するしかない。

 出撃してくるザクの大群を突っ切り、敵母艦をビームライフルで撃沈する。フェイズシフト装甲を持つデュラハンならあるいは可能かもしれないが……。

 いやだめだ。こちらが母艦にたどり着く前にザクやガンダムがホワイトベースに取りついてしまう。なんにせよホワイトベース防衛がネックになる。

 よもやデュラハンの突撃にホワイトベースを同行させることもできない。これができれば何もかも上手くいきそうなものだが。

 

 いっそ最速で地球へ降下してしまうか?いやダメだな。それだと突入角を確保できず地球の大気に弾かれる……ん?

 

「そうだ弾かれればいいんだよ!」

 

 地球の大気の層に弾かれる事で、降りると見せかけてザクの手の届かない大気圏ギリギリを航行して敵艦隊の背後を取る。水面に投げた石が水に弾かれて遠くへ飛んでいくように、ホワイトベースを弾けばいいんだ。

 そして敵母艦を叩いたデュラハンを回収。

 大気圏間近を全速で駆けて自分たちの足元をくぐり抜けていくホワイトベースと、正面から母艦を攻めてくる攻撃の効かない「あたおか」モビルスーツを同時に相手にすれば敵の混乱は必須。

 

 シャアのガンダムから距離をとりつつ敵艦隊を撃破するにはこの手しかない。

 死中に活を求めるのだ。

 瑞雲を放って突撃、これだ……。

 そうと決まればさっそくブライト艦長に相談である。俺は意気揚々と艦橋へと走った。

 

 

 

「行ったな」

 

「行っちゃいましたね。俺たちはどうします?」

 

「待機命令だが、人手が足らん。メカニック殿の手伝いくらいはしてみせるのがパイロットってもんだろう?」

 

 格納庫を飛び出していくバルメアを見送りながら、2人は自分の愛機の元へ向かった。

 今自分たちにできる事をしようという心の表れだった。

 

 その数分後、ブライトから作戦変更の旨が各員に通達された。その声には大分疲労が滲んでいたようだが……。

 




割と敵の戦力が洒落になりませんがこちらのガンキャノンだって洒落じゃないんだよ!(あたおかスマイル)
艦載機を放って更に戦艦も突撃すれば攻撃力は2倍にも3倍にもなります。日向師匠もお喜びです。

ルナツー艦隊「なんて?」

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連邦の紅い亡霊

『ハッチ解放!バルメア機はカタパルトデッキへ!』

 

 Bi!Bi!Bi!

 宇宙服を着ていない者たちが慌ててエアロックへと殺到する。

 慌てふためく人間たちを意に介さず、空気の必要ない鉄とテクノロジーの塊である整備用ハロ十数機が丸々としたボディをパワーローダーにスッポリと収めたまま、邪魔にならないように巨人の通り道から遠ざかっていく。

 

 宇宙と艦内を隔てていたハッチが全開になり、格納庫内で延々と止むことがないように思われた喧騒が空気と共に宇宙に吸い出されていった。

 ハッチの隙間から青々と広がる地球が顔を出し、バルメアの眼前にその壮大な身を横たえていた。

 

『カタパルト推力正常。進路クリア。──バルメア少尉、発進準備よろしくて?』

 

「こちらバルメア。機体のシステムオールグリーン。パイロットは気合十分。あとは美人の気の利いた言葉があればいつでも行けるぜ」

 

 サブモニターに通信士を務めるセイラ・マスの美しい顔が現れた。

 バルメアは原作でも有名なセイラの台詞「あなたならできるわ」を生で聞きたいという欲望がムクムクと湧き上がってくるのを自覚して、思わず口に出してしまった自分の軽口に驚きつつも笑ってしまった。

 どうやら転生前、あるいは思い出した記憶の元の持ち主であった自分はセイラ・マスの熱心なファンであったようだ。

 

『──噂より軽薄な人なのね』

 

 露骨に侮蔑を含んだ切れ長の瞳にバルメアは慌てて弁解した。

 潔癖というか、物怖じしないというか、時に生真面目すぎるきらいのある彼女の鋭い視線は主にカイ・シデン攻撃用だと思っていた。

 まさか自分に向けられるとは思わずバルメアは内心泣きかけた。でも刺さる視線が刺激的でそれはそれで好みかもしれないと思ったのは内緒である。

 

「緊張しているのさ。高度を気にしながらザクの大部隊を相手にするのは、人生初の経験なんだ」

 

 苦し紛れに咄嗟に口をついて出た言い訳は、しかしバルメアの内心を的確に表していた。

 戦闘前の高揚が過ぎ去れば、残ったのはモビルスーツを含む大艦隊との決戦という絶望的な状況に対する焦燥と不安だけだ。

 自分が生きて帰れる保証はどこにもなく、また帰る家であるホワイトベースも突入角を誤って燃え尽きないという確証などはどこにもない。

 そんな気持ちを推しはかれる聡い人だから、セイラ・マスはやはりいいオペレーターでいい女だった。

 

『そう、そうよね。死地に飛び込むようなものなのよね……。──バルメア少尉、それでもきっと、あなたならできるわ』

 

「──ありがとう!バルメア・エレクトリーガー!デュラハン出撃する!」

 

 セイラの笑顔に背中を押されるようにして、灰色の装甲を持つガンキャノンがホワイトベースから宇宙へと飛び出した。

 蒼い宇宙に、一筋の尾を引いて騎士が征く。

 

「テッキセッキン!テッキセッキン!」

 

 デュラハンのコックピットに敵接近を知らせる電子音声が響き渡る。

 バルメアの座るコックピットの右手側操縦桿付近に設けられた専用の収納スペースに、アムロから託された緑色のハロがその球体を押し込めていた。

 彼あるいは彼女はインコムの遠隔操作を筆頭に、周囲の状況把握や機体のダメージコントロールなどパイロットであるバルメアの戦闘全般を補佐する万能サポートユニットである。

 

 元々ルナツー入港前の時点でハロのサポートを得られるように調整が進められていたデュラハンであったが、肝心の搭載ハロが存在しなかった。

 しかし此度の一大事を前にして、発案者であるアムロ・レイが執念めいた仕事ぶりで自らのハロをフィッティングしバルメアに託した。

 

 元は市販の愛玩ロボットであったハロも、父の仕事の影響を受けた機械オタクの少女と数年時を過ごせば中身に原型など残ってはいなかった。

 すなわち高性能、あるいは魔改造品である。

 でなければ軍用品であるモビルスーツのサポートなどできようはずもなく。

 父がモビルスーツ開発者であったことを差し引いても、アムロ・レイは稀代の天才である。ジーニアス!

 ハロがインコムをランダムパターンで機動させヤザンに一撃お見舞いした辺りで、バルメアは全面的にハロを信頼することにした。

 

 もはやAIの反乱が怖い。バルメアの素直な感想である。ハロへの態度は対等かつ慎重を意識せねばなるまい。呼び名はハロさんを検討している。あるいは様つけも辞さない覚悟であった。

 

「バルメア、シンパクスウアガッテル。ダイジョウブカ」

 

 パイロットへの気遣いさえ見せるこの丸い相棒は、孤独な戦いを強いられるパイロットにとって今後手放せなくなりそうだった。好きになりそう。帰ったらシミュレーターにも収納スペースを取り付けようそうしよう。

 

「ありがとうハロ。状況を教えてくれ」

 

「ザク18キカクニン!ショウメントッパデ、テキカンタイマデ120ビョウ!」

 

 後方からルナツー艦隊が艦砲とミサイル斉射を開始した。

 彼らは敵の注意を引きつつザクの射程外である距離を保って、全速で敵艦隊の左側面を素通りするように直進する手筈となっていた。

 敵から見れば、大艦隊に驚いて早々にホワイトベースを艦隊から切り離し離脱する動きに見えるだろう。

 一瞬でも陽動となれば幸いである。

 実際モタつけば背後のシャアに沈められるのだから、ルナツー艦隊に直進以外の選択肢はないので、真に迫った陽動となることだろう。

 

 作戦が上手くいった場合、バルメアに帰る場所を破壊されたザクはシャアのファルメルへと帰投する他にない。

 その隙を好機としてルナツー艦隊は反転。

シャアのファルメルを叩きつつルナツー帰投への進路を取る。

 これを機にシャアを落とせれば万々歳である。ザクがうじゃうじゃ残っていれば藪蛇なので、状況次第ではあるのだが……。取らぬ狸の皮算用とも言う。

 

「フェイズシフトキドウ!フェイズシフトキドウ!レベル3!」

 

 いよいよ目前に迫ったザクを前に、ハロがデュラハンの相転移(フェイズシフト)装甲を活性化させた。

 灰色から白へ。白から赤へと段階を経て機体が色付いていく。

 デュラハンが、目の醒めるような赤色へとその身を転じさせた。

 ホワイトベース隊所属機体番号110を表すエンブレムが赤い装甲の上でキラリと光った。

 

 フェイズシフトレベル3。

 ありったけの電力を流し込み最も防御力を高めた形態である。

 耐熱性も大きく上昇し、実弾はおろかビームライフルにすら一撃は耐えるほどの防御力を発揮する。

 

「18機のザクで、このデュラハンが止められるか!?」

 

 機体の色が変わるという摩訶不思議な現象に怯んだ正面のザクに照準を合わせて引き金を引いた。

 高度ゆえにまだ弱いが確かに存在する地球の重力を計算に入れて、ハロが細かく照準を微調整した。

 

「まずはひとつ!」

 

 デュラハンの肩から伸びる240mmキャノンが火を吹き、コックピットに吸い込まれるようにして叩き込まれた砲弾がザクを木っ端微塵に吹き飛ばした。

 無惨に散らばった四肢が地球にゆっくりと引かれて落ちていく。やがて赤く燃え尽きて流星になることだろう。

 

「ふたぁつ!」

 

 バルメアの決死の突撃が始まった。

 

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 

「敵艦隊が木馬を残して離脱していきます。木馬は降下準備に入る模様!」

 

「ルナツーの弱腰どもなど無視しろ!木馬へモビルスーツ隊を急行させろ。ヤツと連邦のモビルスーツは確実に撃破しろとの厳命だ。抜かるなよ!」

 

 コンスコン機動艦隊の司令であるコンスコン少将はドズル派閥でも武闘派として知られる男である。

 堅実に戦果を挙げる男としてドズルからの信頼も厚い。

 今回の任務も確実性を求めたドズルきっての指名であることから、コンスコンへの評価が目に見えるというものだ。

 

 それ以外に特筆すべきこととして、彼は意外なことに孤児院に多額の出資をしている所謂「足長おじさん」でもあった。

 彼にそうさせた動機は不明だが、見た目にそぐわない人情を併せ持つ男なのである。

 そういう背景もあったからだろうか。彼の軍人としての目標は出世でも名誉でもなく、子供たちが平穏に過ごす為に少しでも早期にこの戦争を終結させることであった。

 無論人並みに出世も名誉も興味はあるし、軍人としてのプライドもあるのだが、それより大切なものを男は知っていたのだ。

 つまるところ、諸々省いて大雑把に言ってしまえば、その見た目に反してコンスコンは人に慕われる素養を持った人物なのだった。

 

 部下からの信頼厚く指示も的確な司令の下で、確実に戦果を上げていくコンスコン機動艦隊。

 しかし、順風満帆に見えたその航路上に全てを狂わせる存在が躍り出てきたのは不幸なことであった。

 

「し、司令!敵モビルスーツの侵攻、止められません!」

 

「なに?モビルスーツ隊は何をしている!」

 

「それが敵モビルスーツに次々と撃墜されています!あぁ、また!」

 

 チベ級の艦橋にいるコンスコンの肉眼からでも、その爆発は確認できた。

 記憶が正しければあの位置は木馬攻撃部隊ではなく、艦隊警護を務める5機のザクの内1機だった。

 つまり艦隊の懐に敵の侵入を許したということである。

 

「何機の敵がいるんだ!?」

 

「敵は一機!一機です!」

 

 悲鳴のような部下の声に苛立つコンスコンだったが、持ち前の冷静さで的確に立て直しの指示を下した。

 

「攻撃部隊を艦隊防備に戻せ!敵は一機だ!直掩は連携して敵を囲いこめ!各銃座、帰りの弾丸はいらん!敵を近づけるな!」

 

 コンスコンの指示に浮き足だっていた艦橋が落ち着きを取り戻す。

 人は目の前にやる事ができるとある程度冷静になるらしいというのは、司令務めが長いコンスコンの経験からの見立てであった。

 ひとまず敵モビルスーツはザク4機に阻まれて大人しくなったらしかった。

 攻撃部隊が戻ればそう待たずに敵は排除できるだろう。

 

 それにしても、シャアの見ている前で艦隊を危機に晒したのは面白くない。

 おまけに木馬撃破の報を聞かぬうちに攻撃部隊を戻したのだから、手柄はシャアが掻っ攫っていくのは目に見えていた。

 

 緊急対応で一時戦況を把握しそこねたと判断したコンスコンは、どうせシャアに手柄を取られると考えつつも木馬の現状を確認する為、ミノフスキー粒子でほとんど役に立たないレーダーと目視で戦況を確認していた通信長へ声をかけようとした。

 通信長が再び悲鳴を上げたのはその矢先だった。

 

「司令!木馬が!木馬が艦隊の真下に出現!」

 

「な、にィ!?」

 

 木馬がワープでもしたというのか!報告は正確にしろ!

 しかしその言葉は、一条の光の粒子に貫かれて爆散する僚艦の姿を目の当たりにした事で唾とともに飲み込まれた。

 艦隊真下に突如出現した木馬がメガ粒子砲を船底に叩き込み、2隻目のムサイが耐えきれずエンジンから火を吹きながらその全身を誘爆させた。

 敵モビルスーツに気を取られた僅か数十秒の間に、歴戦のコンスコン艦隊はたった一隻の敵戦艦にいいように蹂躙されていた。

 

 ハッとした時には何もかもが手遅れだった。

 敵モビルスーツに張り付いていたザクが、ムサイ轟沈の混乱をついて3機が瞬く間に撃墜された。

 そして残る1機がたった今、目の前で真紅のモビルスーツにビームの剣で溶断されていく様をコンスコンは見てしまった。

 

「馬鹿な……、たった1機のモビルスーツと戦艦相手に、我が艦隊が全滅だと……?バ、バケモノか……!?」

 

 返り血に染まったかのように全身を紅く染め上げた機体が銃口を向けたのを最後に、コンスコンの意識は宇宙に溶けて消えた。




ここにきてホワイトベース隊大戦果。
もちろんザク18機全てをバルメアが倒しているわけではありません。
裏ではホワイトベース直掩のヤザンとリュウが奮闘しています。
そしてミライさんの胃は死にました。南無……。
1番の功労者はミライさんですね。

連邦から見たデュラハン→赤
ジオンから見たデュラハン→紅
恐怖が色を深く見せていると考えてもらえたら。

年明け前にもう1話更新したい。

評価感想よろしくお願いします!


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ハイパー(ウミヘビ)ハンマー

 ホワイトベースの白亜の船体が地球の重力の影響を受け、ゆっくりと下降を始める。

 

 そのホワイトベースのブリッジにて、民間の小型シャトルの操縦経験があるというだけで、この人手不足の中戦時徴用され操舵手に抜擢されてしまったわずか18歳の若き少女ミライ・ヤシマは、次第に重くなっていく操舵輪を強張った表情で握りしめていた。

 

 大気圏に捕まるかそうでないかというギリギリの高度を維持しながら巨大な艦船を操るという、これまでの人生最大のプレッシャーにミライは押し潰されそうだった。

 

「ミライ、基本は機械がサポートしてくれる。気負うなよ」

 

「了解!」

 

 ブライトの気遣いを聞き、意識して肩の力を抜く。

 

 突入角度は南米にある連邦軍総司令部ジャブロー基地を指し示している。そのまま突入してしまいたい衝動をグッと堪え、ミライはブライトからの合図を辛抱強く待った。

 

 Pi!Pi! Pi!

 

 そんなミライを試すかのように、不安を煽る不吉な警報が鳴り響く。

 ミノフスキー粒子下でもある程度動作する極めて狭い範囲を索敵可能な近距離レーダーが敵影を捉えた。

 

「ザク10機!本艦の有効射程に入りました!」

 

「聞いたな!対空砲火、撃ち方始め!敵を寄せ付けるな!」

 

 モビルスーツ運用を意識した、輸送艦的な面を持つホワイトベースは分類こそ強襲揚陸艦とやっているが、装備された火器は純粋な戦闘艦であるマゼラン級などと比較するとかなり貧弱である。

 

 敵艦隊から押し寄せてきたザク10機の編隊がお粗末な対空砲火を掻い潜りホワイトベースに殺到し、ザクマシンガンとザクバズーカによる攻撃を開始した。

 

 ヤザンとリュウのガンキャノンがホワイトベース甲板上で応戦するが、数の差から圧倒的にこちらが不利だ。まだ致命的な損傷を受けていないのは奇跡に近い。

 

 ホワイトベースの対空砲火を掻い潜ったバズーカが船体に着弾し、艦を大きく揺らした。

 

 遂に目前に迫る死の恐怖にミライはいよいよ堪らず根を上げた。

 

「ブライト!このままでは撃沈されてしまうわ!」

 

 ミライの言葉にブライトは緊張で乾ききった唇を舐めて、オペレーターのオスカーとマーカーへ状況を確認した。

 

「オスカー!マーカー!バルメア少尉の動きは!」

 

 眼鏡をかけた方のオスカーとかけてない方のマーカーの2人が、ミノフスキー粒子でほとんど使い物にならないレーダーと観測班の報告から情報を整理する。

 

「観測班より!バルメア機、艦隊に取り付きつつあるようです!」

 

「後方よりガンダム接近!あと30秒でビームライフルの有効射程圏内です!」

 

「よし!ミライ、ホワイトベース機関最大!大気アシスト航法だ!突入角の再調整を忘れるな!モビルスーツ隊はホワイトベースから振り落とされるなよ!」

 

「了解!ホワイトベース機関最大!突入角度調整──きゃあ!?」

 

 ブリッジの真横スレスレをビームが掠め衝撃がブライト達を襲った。

 

「ッ!状況報告!」

 

 ブライトの怒声にオスカーが慌てて答える。

 

「ガ、ガンダムです!スペック計算の予想速度より速い!?デ、データの3倍の速度で接近中!」

 

「3倍だと!?性能ではなく、技量で!?」

 

 頼もしい味方になるはずだったガンダムの存在に、今や恐怖を感じていることにブライトは怒りとも悔しさとも判然としない気持ちで唇を噛んだ。

 

「離脱急げ!」

 

「加速します!衝撃に備えて!」

 

 ミライの合図と共にホワイトベースのエンジンが唸りを上げて加速を開始する中、マーカーが悲鳴じみた声を上げた。

 

「ヤザン機、ホワイトベースから離脱!?」

 

『ホワイトベースは離脱しろ!シャアの相手はこのヤザン・ゲーブルだ!』

 

「ヤザン曹長!?無茶だ!ザクも来ているんだぞ──」

 

 彼我の相対距離でみるみる離れていくガンキャノンの背中をモニターの中に捉えながら、ブライトはルナツーから乗り込んできたまだ顔しか知らないヤザンに思わず悪態をついた。

 

「パイロットというのは、どうしてこう無茶ばかりするんだ!」

 

△▼△▼

 

 大気に弾かれるようにして急加速したホワイトベースがみるみる離れていき、たちまちミノフスキー粒子によって通信が遮断される。

 

 死地へと自ら残ったヤザンは人知れず笑みを浮かべた。この男、味方を守るため自身が犠牲になったつもりは微塵もなかった。

 

「腕試しと行こうじゃないか」

 

 視界の端で燐光が瞬くのをヤザンの眼は見逃さなかった。操縦桿をめいっぱい倒しフットペダルを蹴り付ける。

 

 ヤザンのガンキャノンが弾かれたように正面へ飛び出した。

 

 空間を滑るようにしてシャアが2発、3発と放ったビームを掻い潜る。

 

 ビームライフル。当たれば一撃でやられるだろう兵器は、しかし当たりさえしなければどうと言うことはない。

 

「モビルスーツは機動兵器なのだからな!」

 

 ガンキャノンのセンサーがガンダムをロックオンするかしないかの瞬間に、ヤザンは操縦桿のトリガーを引いた。

 

 右肩に装備された肩部ガトリング砲と、キャノン砲から換装した左肩のミサイルランチャーから吐き出された実弾がシャワーの様にガンダムへ降り注いだ。

 

 悠然とミサイルを回避したガンダムだが、すれ違いざまにミサイルが次々と起爆する。──近接信管だ。最低限の回避をやってのけるエース相手によく刺さる、バルメアの言は実証された。

 

「しかし致命傷にならんのでは……!」

 

 単機で弾幕を張るヤザンに対しメインカメラを守るようにガンダムがシールドを掲げた。その僅かな隙を見逃さず、ヤザンはガンダムへと肉薄し腰にマウントしていた近接兵装を振りかぶった。

 

「喰らえよぉ!」

 

 ヤザンの気合いと共にガンキャノンの手元から原始的な暴力がガンダムめがけてカッ飛んでいく。

 

 棘鉄球。あるいは中世の武器であるモーニングスターにも似た、鎖で柄と接続されたスパイク付きの質量の暴力がシャアを襲った。

 

 ハイパーハンマーと命名されたモビルスーツ用質量兵器である。

 

 一見中世染みた古臭い見た目をしているが、宇宙空間において質量による打撃は効率的かつ有効な攻撃手段である。その威力はザクを一撃で粉砕する凶悪さを発揮する。

 

 いかなガンダリウム合金製の装甲とはいえ、外側から質量にまかせた衝撃を与えれば内部機器やパイロットまで守りきれるものではない。

 

『またも新兵器か!』

 

 ドォ!

 直線的な軌道で向かってくるソレに対し余裕を持った回避運動で対応してみせたシャアであったが、しかし棘鉄球は突如後部に備えた噴射口から火を吹いて、シャアの予想を上回る加速性を発揮した。

 

『チィ!?』

 

 シャアは驚異的な反応速度で回避したが、コンスコン艦隊の攻撃部隊であるザクの一機が運悪く棘鉄球の射線に入り込む。

 

 ザクのパイロットも歴戦艦隊の精鋭。肩のシールドで受け止め致命傷を避けた。

 

「受けたなぁ!このウミヘビを!」

 

 しかし安心したのも束の間、それがシールドにめり込んだ瞬間、鉄球から迸る電撃がザクを襲った。

 

『し、システムが死んで!?うわァァァァァァァ!?』

 

 ハンマーの接触回線を通じてパイロットの断末魔が響き渡るが、それもすぐに聞こえなくなった。ザクのモノアイから光が消え失せ、力を失った巨人は宇宙を漂うデブリとなれ果てた。

 

「ハハハハハッ!こいつは使えるぞテム・レイ!」

 

 ハイパーハンマーを引き戻したヤザンが高揚した叫び声をあげた。

 装甲は鉄球で粉砕し、中のパイロットは蒸し焼きにする超凶悪な兵器誕生の瞬間である。

 

「赤い彗星が白いモビルスーツでは格好がつかんだろう!なぁ!?」

 

 破壊されたザクの陰から飛び出してきたガンダムがビームライフルを構え引き金を引いた。

 

 ヤザンのガンキャノンは初期型で、装甲も機動性も改修型に大きく劣る。

 

 それを補う為にデュラハンから譲り受けた追加装備の外付けアポジモーターを肩部と脚部に取り付けたヤザン機が、初期型の動きとは違う滑らかな回避機動でマシンガンの雨を潜り抜け再びハンマーを振りかぶる。

 

「だからこの俺が赤く染めてやろうってんだよ!」

 

 シャアを相手にハンマーで奮戦するヤザンだったが、残る9機のザクが攻撃目標であるホワイトベースを見失い、振りかぶった拳の行き先を1人残ったヤザンへと向けた。

 

「ウミヘビはぁ!」

 

 ガンキャノンがウミヘビハンマーを高速で回転させ盾のように眼前に突き出した。そこへザクの猛攻が突き刺さる。

 

「盾にもなる!」

 

ザクマシンガン、ザクバズーカを数発受け止めて、ついにハンマーのチェーンが耐えきれず弾け飛んだ。

 

「囲いが弱いんだよぉ!」

 

 焦れて不用意に接近してきたザクに逆に急接近するガンキャノン。予想外の動きに怯むザクに組み付き、腰にマウントしたヒートホークを奪い取る。

 

「使える!」

 

 学習型コンピュータがセーフティを瞬く間に解除し、赤熱化させたヒートホークが頭部を切り飛ばした。破損部分へ至近距離から肩部ガトリングを連射されたザクが爆散する。

 

「消えな!」

 

 ザクの放つ光を背に、周囲を見渡したヤザンは戦場からガンダムが消えていることに気付いた。

 

「フン、俺じゃあ物足りないってか?赤い彗星め」

 

 そう呟く間も操縦桿を手早く動かして残る8機のザクの放火を掻い潜る。ザクもヤザンを警戒し不用意には近づいてこず、集中砲火を徹底しつつある。

 

 増設されたアポジモーターの燃料残量がついにレッドゾーンに入った。

 

「頃合いだな」

 

 距離を取り逃げるそぶりを見せたガンキャノンをザクが追いかける。ヤザンが単騎であるが故に迂闊な動きである。

 

 ヤザンはガンキャノンの体勢を回転させ左肩のミサイルランチャーを全弾発射した。

 

 最後の4発は閃光弾だ。近接信管を警戒し余裕を持って回避しようとしたザクの視界は瞬く間に白で埋め尽くされた。

 

『も、モニターが!?』

 

「チッ、ここから届くか?ホワイトベース、拾ってくれよ?」

 

 ──ヤザンのガンキャノンが加速する。

 




テム博士「ハイパーハンマーだと言ってるのに頑なにウミヘビと呼ぶのはなんなのだね!?」


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キング・オブ・キャノン

『か、艦隊が……!?』

『そんな、コンスコン艦長!』

『狼狽えるな!シャア少佐のファルメルに拾って貰えばよい!少将の死を無駄にするな!』

 

 ──コンスコン艦隊、旗艦を含め撃沈。帰る母艦を失ったザク達は冷静さを失いつつあった。

 

 死と隣り合わせの大気圏間近での戦闘、母隊の喪失による指揮系統の乱れ、やたら強い敵モビルスーツ、謎の電気鉄球……。並のパイロットが一度に受け入れられる許容量を遥かに超えている。

 

 故に判断が遅れた。ホワイトベースを追撃するか、ファルメルの下へ集合するか。ファルメルの下へすぐに集合していれば、あるいは彼らも生き残れたかもしれない。しかし戦場は常に血を求める。

 

『軍曹!れ、連邦艦隊が!』

 

『馬鹿な……!?反転、してきただとっ!?』

 

 ホワイトベースを見捨てるようにして離脱したはずのサラミス級3隻からなるルナツー艦隊が、敵艦隊撃破の光を確認し作戦通りファルメルめがけて反転突撃を開始した。

 

 ホワイトベースが地球降下に見せかけて地球の大気を利用して加速。敵艦隊を直接叩き、分断されたファルメルをルナツー艦隊が叩く。

 

 ザクの真横、射程の届かないいやらしい距離を最高巡航速度で3隻のサラミス級が駆け抜けていく。

 

「ド、ドレン少尉!敵艦隊が!」

 

「対空砲火ァ!ザクを呼び戻せ!艦の傾斜角を敵艦に合わせろ!」

 

 油断はしてないつもりだった。しかし狩る側だと思っていた自分たちが、まんまと敵の作戦に嵌められ、いつの間にか狩られる側になっている。このファルメルはムサイ級の中でも速度に優れた新造艦だが……。

 

「間に合わんか……」

 

 サラミスの砲塔からハリネズミのように放たれた粒子ビームがファルメルに突き刺さり、緑色の船体が弾けて宇宙に綺麗な華を咲かせた。

 

@デデデン デデデデン シャーゥ!@

 

 敵艦隊は全滅、ホワイトベースも無事、ルナツー艦隊は……確認できんが、こっちが敵を引きつけたんだしまあ大丈夫だろ。

 

 ガンキャノン・デュラハンの眼下、青い星・地球をバックにホワイトベースの白亜の船体が近づいてくる。そろそろ限界高度だ。デュラハンが両脚を踏ん張りホワイトベースの甲板上に着艦した。接触回線でブライト艦長の声が聞こえる。

 

『バルメア少尉!ヤザン軍曹がガンダムとザクの足止めに1人で突撃した!』

「エー!?あのバカ、なにやってんだ!?」

 

 ひと段落したと思ったらこれだよ!シャアのガンダムとザクの部隊に単騎がけとか。まさか、逃げきれないと感じて囮に?ヤザンのヤロー、カッコいいことしやがって……!って言ってる場合じゃねー!はやく助けにいかんとアイツ死ぬぞ!

 

「救援に向かいます!方角は!?」

『無茶を言うな少尉!ザク10機にシャアなんだぞ!それに限界高度だ!これ以上は……』

「しかし……!」

『少尉!私はこの艦の艦長だ!ホワイトベースを無事、ジャブローまで送り届ける責務がある!軍曹1人の為に、艦を危険に晒すことはできない』

「つまり軍曹は見殺しですか!?あの腕前だ、まだ生きてるに決まってる!今からでも救援に行けば助けられるかもしれないのに!」

『くどいぞ少尉!これは命令だ!それ以上の私語は慎め!従えないなら機体から降りてもらう!リュウ!彼の機体を拘束しろ』

 

 リュウのガンキャノンが戸惑うようにこちらを伺う。くそ!俺だってわかってるんだよ。ブライト艦長の言ってることが正しいってことは。けど理屈じゃねーんだわ。俺は俺の仲間がこれ以上死ぬのは嫌だ。まだ助かる可能性が1ミリでもあるなら、俺はその可能性を否定したくねぇ。

 

 けど、ここでヤザンを助けに行った隙にホワイトベースが撃沈されたら?1人の命と大勢の命。どっち守るのが軍人として正しいのかなんて、わかりきってるだろうが……!あークソ、やっぱ戦争ってやつはサイテーだぜ。

 

 デュラハンがバーニアを噴射してホワイトベースから離脱した。

 

『少尉!』

 

 ブライト艦長の怒声を無視して、デュラハンのシールドを展開させる。安心してくれブライトさん。命令は守る。ヤザンがその身を捨ててまで守ってくれたホワイトベースをやらせはしない!

 

「インコムシールドで!」

 

 2枚重なったシールドをインコムで操作し、ホワイトベースへ直撃コースのビームを防ぐ。たった1発で1枚目のシールドがおじゃんになった。ビームライフル!こいつがここに居るってことは、ヤザンは……。

 

 モニター正面に煌めくバーニアの噴射光。白い機体。ガンダムがビームライフルを連射する。

 

「ハロ!」

『シールドテンカイ!』

 

 俺も負けじとインコムシールドを展開するが、ライフルの直撃を受けるたび一枚、また一枚と剥がされていく。ジリ貧だな。俺はスラスターを全開にして腰のラックからビームサーベルを抜き放ちガンダムへと肉薄する。ヤツも呼応するかのようにサーベルを抜き放つ。粒子と粒子が激突し、バチバチと火花をあげる。

 

『ようやく会えたな月の亡霊(ゴースト)!』

「俺は会いたくねぇんだよこのピンク野郎!」

 

 今は白だけど!お前ちゃんとガンダムもピンクに塗れや!いややっぱ塗らせねーわだってここで俺が倒すもん。二つ名が赤い彗星なのにピンクなのって、製作当時東映にピンクの塗料が余ってたからって説、あれどこまで本当なんだろうな?

 

「いい加減しつこいんだよアンタは!いつまで付き纏ってくる気だよ!」

『無論!君に勝つまでだ!』

「いつもいつも!俺から仲間を奪いやがって!」

『ならば私を倒して仇討ちをしてみせろ!!』

 

 鍔迫り合いから一転、デュラハンのシールドを蹴り付けてガンダムが距離を取る。ビームライフルの銃口が向けられる。残りのシールドは2枚。受けた角度が悪かったのか、ライフルの直撃を受けたシールドは2枚とも貫通され藻屑と消えた。

 

 この時点でデュラハンの装備は両肩のキャノン砲とビームサーベル2本、左手に持った実弾ライフルに予備のマガジンひとつ、頭部のバルカン砲……。ガンダムの装甲を抜ける装備がサーベルしかないの、よくよく考えたら詰んでるな?ってことで博士が用意してくれた『とっておき』が、デュラハンには仕込んである訳だが。

 

 シャアのやつ、全然隙がない。やっぱ強い。しかもガンダム乗ってるし。鬼に金棒ってやつだな。それと今気付いたんだけど、俺シャアと戦ってるとトラウマが刺激されてるっぽい。過呼吸と手の震えが止まりません……。コレ、ヤザン死んだことで悪化して自覚症状出始めてるな?そんな事を考えてたらコックピットに強い衝撃を受けた。被弾を知らせる警告音がうるさいくらいにがなりたてる。

 

「マジでか!?』

『動きが固いな!口惜しいが、これで!』

 

 高速起動で切り結んでいた刹那、すれ違いざまにデュラハンのサーベルを握る右手を二の腕から切り落としたガンダムが、サーベルを突き刺すように腰ダメに構えて突進してくる。その様子がスローモーションで再生される。瞬間俺の脳内に溢れ出した仲間たちとの記憶。鉄騎中隊のみんな……。

 

『バルメアがシュミレーターから出てこない?気にするなここに住んでる』

『お前のガンキャノンだけぬるぬる動くの何?モーションデータ1000時間分?アッハイ』

『戦闘機を狙撃とかイッちまってるよ』

『頭おかしいんじゃないのか』

『こえーよ俺』

 

 いやほとんど罵倒じゃねーか!?もっとマシな記憶あったろ俺!?走馬灯でコレはねーだろ!これじゃ死んでも死にきれねーよ!はいタンマ!もっといい記憶選ぶから今のなしね!なし!

 

 つーわけだからよぉ……。

 

「ここで死ぬわけにはいかねーんだよぉぉ!!」

『よく言ったバルメアぁぁぁ!!』

「エー!?ヤザン!?」

『えぇい!なんだ!?』

 

 生きとったんかワレェ!突撃してくるガンダムの横っ腹にタックルするヤザンのガンキャノン。二機はもつれ合って身動きが取れないでいる。ヤザンが作ってくれた絶好の機会!よぉぉぉぉし、今なら!精神コマンド、気合!集中!熱血!

 

「ハロ!奥の手だぁぁ!!」

『俺の拳が光って唸る!お前を倒せと輝き叫ぶ!!』

 

 デュラハンの頭部バイザーが光り輝き、左手のひらに隠された銃口から粒子が迸る。

 

『ええい!離せ!』

 

 武装も使い切り既に推進剤も切れていたヤザンのガンキャノンを蹴り飛ばしたガンダムが、ふたたびこちらへビームサーベルを振りかぶるがもう遅い。ここは俺の距離だ!

 

「『必殺!シャァァァァイニングッ!フィンガァァァァァァァ!!!』」

 

 ガンダムの懐へ飛び込み頭部を鷲掴みにする。それと同時に放たれるパルマフィオキーナ掌部ビーム砲(シャイニングフィンガー)。泥臭い格闘戦を得意とするガンキャノンに、ゼロ距離ブッパできるビーム砲を内蔵して弱いと思ってる奴いる?いねえよなぁ!!?

 

 同時に爆発するガンダムとデュラハン。ジュネレーター直結のビーム兵器なんだが、出力加減が難しい上にゼロ距離射撃だから対象は目の前で爆発するしでやっぱ欠陥兵器だわパルマフィオキーナ掌部ビーム砲。でもシャイニングフィンガーみたいでカッコいいからちゅき……。などとくだらない事を考えながら、俺の意識は闇へ吸い込まれていった。

 

 

 

 

 みんな、仇は討ったよ。

 

 




終わりにするか、続けるか
ひとまず完結。


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