Ex.0 輪廻並行世界フロム〜爻わる律、血と魂の叫び〜 (全智一皆)
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プロローグ

灰の人、私は待ちます。
貴方が、また来てくれるのを。


■  ■

 人理保障機関カルデア、そのAチームの8人目のマスター候補者、「エクエス・アエテルタニス」は特質的かつ特殊的な人間であったと、誰もが語る。

 だが、まず彼を語る前に彼の家系であるアエテルタニスについて語るとしよう。

 アエテルタニス。それは魔術師の家系というよりは、遥か古の昔から続く『魔術騎士』の家系であった。

 元来、魔術師というのは魔術を隅から隅まで研究し、そして願望にして宿願である「根源」の到達を目的とする者達の事を指す。

 だが、アエテルタニスの家系は魔術師であると同時に騎士であり、魔術師である前に騎士の家系でもある。それ故に、彼らにとって魔術とはそのようなものではなかった。

 騎士とは王に尽くす者であり王を守る者。それでいて、民を護る為に戦いへと赴く者達である。

 アエテルタニスの家系は皆等しく、魔術を『根源に到達する為の研究材料』として扱うのではなく、『王と民を守る為の武器にして手段』として極め、扱ってきた。

 彼らにとって根源の到達の二の次であり、魔術とは根源の到達という目的よりも自らが仕える王と守るべき民の為の武器として極めるべきものであるという。

 アエテルタニスの最初の騎士にして太古の時代、神や竜を殺すなど特別珍しい訳でもなかった殺伐の時代「火の時代」を生きた騎士「レクス・アエテルタニス」はこう言葉を子孫達に残した。

『目的と手段は何者にも縛られません。故に我らは、ただ護る事を選ぶのです。』

 果たすべき目的と、果たすべき目的を達成させる為の手段。それらを知り、理解し、扱うのが人であるのは確かだが、されど二つは例え王であろうと縛る事は出来ない。

 目的も手段も、どうするかはその当人の自由。そして、それ故にアエテルタニスは守護を選んだ。

 その当時、根源という概念など無かった世界で、レクス・アエテルタニスは魔術が何かに行く為の手段であると推察し、しかし魔術とは人を守る為のただの技術であると選び、それを後世へと伝えた。

 だからこそ、アエテルタニスの殆どは人格者であり、魔術を人の為に扱う者達だ。

 だが、そんな彼らにも、人格者である彼らでも、除け者扱いする者が居た。

 それが、エクエス・アエテルタニスである。

 彼は、「火の無い灰」と呼ばれる、火継ぎの英雄、亡者の王によって火の時代が終わって間もない時代から生き続ける「火の無い灰の残り火」である。

 もう生まれる事は無いとされた灰の人。だが、エクエス・アエテルタニスは灰の人として生まれた。生まれてきてしまった。

 灰の残り火。もう僅かな、一息吹かずとも少しが経てば消え失せるであろう残り火。

 されど、火は絶えず残り続けた。永きに渡り、ただ僅かの火は燃え尽きることなく灰の中で燃え続けている。

 故に灰は死なぬ。どれだけ永い月日が経とうとも、灰は朽ち果てる事もなく、火が消えるその時まで死なぬのだ。

「エクエス、ちょっと、エクエス…!」

 薄い意識の中、女性の声が頭に響く。

 ゆさゆさと、体が揺さぶられる。少し優しく、しかしその中の半分には必死が籠められている。

 暖かい手の温もり。灰はうっすらと、降ろしていた瞼を上げた。

「起きなさい! 説明会の途中なのよ!?」

 小声で、隣に座る彼女が体を揺すりながら叱る。

 小声だが、しかし少し焦っている事が分かった。優しい気遣いを、灰は嬉しく思ったのかやんわりと笑みを溢した。

 だが、彼女はそれを寝惚けているが故のものであると勘違いしたのだろう。その笑みを見て、彼女は揺らすのを強くした。

「何を笑ってるの! 早く起きなさい!」

 体が、先程よりも激しく揺れる。下手すればそのまま椅子から落ちたかもしれないが、灰は落ちぬまま意識を覚醒させた。

 瞼を完全に上げ、持ち前の黒い瞳で舞台で説明を行う白髪の少女を映し、

「起きた、あぁ起きたとも、“オフェリア”。だからそう揺すらないでくれ。そう揺すられると倒れてしまう。」

 隣に座る彼女―――「オフェリア・ファムルソローネ」へと、起きたという言葉と共に、それ以上は揺すらないでくれとも懇願の言葉を喋った。

「貴方が起きないのが悪いんじゃない。夜更かしでもしたの? 貴方が居眠りするなんて、珍しいじゃない。」

「まぁ、そうだな。夜更かしはしたよ。また物語を読むのに耽ってしまってな…」

「…また? 勉強熱心なのは良い事だけれど、無理は良くないわよ?」

「忠告、痛み入るよ。しかし、あと少しで理解が出来そうなのでな。なに、無理はしない。短いが、睡眠は取れたからな。…まぁ、今は説明を…zzz」

 そこまで言って、灰は眠った。いくら灰と言えども、どうやら睡魔という概念には敵わなかったようだ。

「ちょ、エクエス? エクエス!?」

 オフェリアは焦る。突如として倒れるように眠ってしまったエクエスに。

「ハハハッ! おい、エクエスが寝ちまったぞ!」

 「ベリル・ガット」は笑う。説明会の途中であるにも関わらず、眠ってしまったエクエスを。

「アイツは何をしてるんだ…全く」

 「カドック・ゼムルプス」は呆れる。夜更かしに付き合い、しかし起きている自分とは違い眠ってしまったエクエスに。

「…莫迦か、彼奴は」

 「芥ヒナコ」は罵倒する。永い間、変わらぬ間抜けなエクエスを。

「あら、エクエス寝ちゃったの?」

 「スカンジナビア・ペペロンチーノ」は驚く。突如、眠ってしまったエクエスに。

「……」

 「デイビット・ゼム・ヴォイド」は何も思わない。突然眠ってしまったエクエスには。

「大丈夫なのか、エクエス?」

 「キリシュタリア・ヴォーダイム」は心配する。夜が明けるまで物語に耽、その所為で眠りに耐えられなかったエクエスを。

「貴方のような古参すら…! もう良いわ、貴方も出なさい!」

 「オルガマリー・アニムスフィア」は激怒する。数合わせのようなもので入る事となった新人のように居眠りしたエクエスに。

 

 こうして、エクエス・アエテルタニスは外へと出る破目になってしまったのだ。

 

       ❖

「あれ、貴方も怒られちゃったんですか?」

 外に出れば、一人の少女が灰に話し掛けてきた。

 肩まで伸びているオレンジ色の髪の左側をシュシュで結んだサイドテールの少女。

「あぁ。夜更かしをしてしまった所為で、居眠りしてしまってな…しかし、貴方も、という事は貴公も居眠りか?」

「あはは…えっと、はい。」

「そうか。だが、それも仕方のない事だ。人間、誰かが説明している時ほど、眠たくなるものだろう?」

「あー、確かに。校長先生の話しの時が一番眠たくなりますよねー」

「ふむ、やはりそういうものか。っと、自己紹介がまだだったな。私はエクエス。エクエス・アエテルタニス。カルデアのAチーム、その8人目だ。して、貴公は?」

「藤丸立香です。ドクター曰く、数合わせの一般人枠…らしいです。」

 苦笑いを浮かべながら、藤丸は頬を掻きながらそう言った。

「フジマルか。しかし、ふむ…数合わせの一般人枠か。それはまた、災難だな。このような場所、凡人が来るには掛け離れているというのに…」

「え、そんな危ない所なんです? 此処。」

「危険か安全かと問われれば危険と答えるが、非道の場では無いのは確かだ。なに、少しばかり頭が可笑しい連中が居るだけで、その他は一般的だ。貴公が深く気にする事も無かろうよ。貴公はただ、貴公らしく振る舞えば善い。」

 灰は言う。魔術師ばかりが居る此処であろうとも、しかし貴公は凡人。なれば、凡人として在れば良いと。

 灰は凡人を知らぬ。灰が生きた世界には、凡人という凡人は皆等しく、そして尽く亡びていったが故に。

 しかし、凡人という存在が如何なる存在であるかは知っているつもりである。

 灰は人に死んでほしくはないのだ。だから灰は、誰彼構わず助言を残すのだ。永き間、生き続けた経験さがあるから。

「要約するに、『例え周りが自分とは違う人種ばかりであろうと、自分自身を見失わずに、自分のままに在ればいい』という事だ。」

「…あ、もしかして助言してくれたんですか?」

「あぁ。魔術師だらけの場所だからな。一般人には地雷ばかりだろうしな。此処で永く務める先輩からの助言だ。貴公の生き方、その助けになれる事を祈っての言葉だ。」

「あ、ありがとうございます…?」

「何故、疑問形なのだ? もしや、余計だっただろうか?」

 灰は首を傾げた。

 助言を投げたというのに、何故か感謝の言葉が疑問形なのだ。灰には、それが不思議であった。

 故に灰は考えた。彼女にとって、自分の助言は余計な言葉だったのではないか? と。

「いや、そうじゃなくて! 寧ろ、ありがたいんですけど…その、初対面なのに凄く気遣ってくれるから、少し戸惑ってしまって…」

「そうか…余計な事で無いのなら、良かった。」

 彼女の言葉に、灰は安堵した。自分の助言が彼女にとってありがたい事であった事を。

 そして、灰は何故、自分が彼女に親切にするのかを説明しだす。

「私は、人が亡びる所を何度も見てきたんだ。自滅する者、殺される者、発狂する者、その他にも、様々な者が死んでいった。故に、助言をせずにはいられぬのだ。その者が、亡びないように。貴公にも、亡びてほしくないからな。」

 

 私は、お節介なのでな。

 灰は笑った。それは、心の底から出た本音の言葉であり、されど灰の魂は欺瞞に満ち溢れていた。




あぁ、君。また戻り給えよ。


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目覚め/戦乙との記録

       ❖

 灰は、燃え盛る炎の中に斃れていた。

 体は炎に焚かれ、ただ熱のみが灰の意識を蝕んでいた。

 だが、灰は苦しんでなどいなかった。されど安らかにしている、という訳でもない。

 ただただ、無。感情など何一つ抱かず、表情には喜怒哀楽も愉快苦痛も無く。

 灰は慣れていたのだ。我が身が炎で燃やされる事など。否、そもそも、我が身が朽ち果てる事と我が身が死ぬ事に、だ。

 むくり、と。灰は体を起こし、周囲を見渡した。

 周りは炎。斃れるのは仲間達。

 時計塔からの学友、オフェリア・ファムルソローネ。

 努力する仲間、カドック・ゼムルプス。

 古からの腐れ縁、芥ヒナコ。

 対極にして友人、ベリル・ガット。

 知識を教え合う仲、キリシュタリア・ヴォーダイム。

 同類でありながら無関係、デイビット・ゼム・ヴォイド。

 皆等しく、誰一人欠ける事なく、例外無く、死んでしまっている。

 しかし、灰は何も思わない。悲しみも、痛みも、苦しみも、何も感じない。

「…」

 灰は『インベントリ』から一本の杖を取り出し、それを柱にして完全に立ち上がる。

 『宮廷魔法師の杖』。

 罪の都の宮廷魔術師たちの杖

理力優れた者が使えば、高い威力を引き出せる。

 宮廷魔術師たちは、かの「ビッグハット」ローガンの継承を主張し、その杖もローガンのものに似せたという。

「やはりこうなったか…まぁ、予想通りの結果だが。して、“俺”が生きているのも予想通りか、フラウロス?」

 後ろを向かず、灰は杖を持ったまま問い掛ける。

「私の名を呼ぶな、死にたがりの狂人が。」

 現れたるは、緑色のスーツに緑色のハット帽子を被った男。

 このカルデアに所属していた者の一人、レフ・ライノール・フラウロス。その正体を、魔神柱が一柱「フラウロス」。

 レフは酷く顔を顰めながら、灰に向けて暴言を吐き捨てた。

「酷い言い様だ。まぁ、狂人である事を否定はせんがな。だが、それは貴公の王にも言える事だ。」

「抜かせ。貴様と我らの王では、その正気に天と地ほどの差があるわ。」

「それこそ笑い話というものだ、貴公。薪を焚べ世界を保つ者と、理を燃やし世界を改める者。そこには差など存在せん。ただ、等しく愚者であるというだけだ。」

 灰は嘲笑う。

 滅びに向かう世界を停滞させる為に王を薪とし、焚き火に焚べた灰の人。

 人類を憐れみ、それ故に人類への悪となり、人類の理を壊し世界の改革を行う魔術王。

 そこには、その二者には一切の差など存在せず、二人等しくただの愚者でしかないのだ、と。

 灰は永く生き続けた。それ故に、数多の愚者をその目に映してきた。

 火の時代が終わってすぐの頃、未だ火が完全に消えていなかった時代を生きた者。それが灰だ。

 だからこそ、彼の言葉は全てが鉛のように重たいものであった。

「黙れっ、黙れ黙れッ! 朽ち果てぬ真性の怪物風情が、我が王を侮辱するな!」

 そして、皮肉にもそれを理解しいるが故に、フラウロスは激怒した。

 数多の醜き王を見た男。醜悪の世界を耐え抜いた正真正銘の化け物―――エクエス・アエテルタニス。

 フラウロスは激昂し、罵倒を吐き捨てる。だが、灰はそれすらも嘲笑った。

「人に価値など無い。何時の世も、人は誰一人として、一切の例外も無く醜い獣だ。どれだけ理を歪めようが、それは変わらぬのだ。分かるか? 貴公らがやろうとしている事は全て無駄なのだ。」

「きっ、貴様ぁぁぁぁぁ!!!!!!」

 顔を怒りで真っ赤に染め上げ、フラウロスは灰へと飛び掛った。灰に、襲い掛かってしまった。

 

「闇は人に宿り、人は闇をソウルに宿す。深淵の王(マヌス)闇黒の主(カアス)よ、人の闇、人間性とやらを御覧あれ―――『深みの結晶槍(アビス・ロンギヌス)』」

 一本の澱んだ黒い結晶の槍が、フラウロスの体を穿いた。

 

 『深みの結晶槍』。

 ソウルの結晶槍にロンドールの黒魔術を付与したソウルの結晶槍。闇属性の鋭利な黒耀石の槍を放つ。

 

それまでロンドールの魔術と元来の魔術を組み合わせた者は居らず、だが当時の者達が知れば罵倒を浴びせられるだろう。

「古き善きものを穢すとは何事か」と。

 

            ❖

 オフェリア・ファムルソローネとエクエス・アエテルタニスの出会いは時計塔にて始まった。

 アエテルタニスの例外、今や唯一人の『火の無い灰』が時計塔の門を叩いたのだ。魔術協会、不死や死徒を専門とする代行者の組織である埋葬機関も大きく驚いた出来事だった。

 彼は考古学科に所属し、其処で彼は考古学科に大いなる貢献をした。

 今や古び、もはや消されたも同然の忌み嫌われし醜悪無情の考古学者達の学び舎「ビルゲンワース」の話し、その一部を提出したのだ。

 ビルゲンワース―――それは、魔術師や代行者にとっても禁忌、近寄る事すらも悍ましく、恐ろしい場所とされる唯一無二の危険地帯「古都ヤーナム」の奥にある廃村、その更に奥の森林を抜けた先と悪夢の中にのみ在る学び舎。

 考古学の学び舎にして異端の探求者達。地下の遺跡に潜り聖遺物を持ち出し、『獣の病』と呼ばれる災厄をヤーナムに蔓延らせた禁忌の犯罪者達。

 されど彼らの思想、記録は魔術師達にとっては神秘であり、喉から手が出る程に素晴らしき財宝と同等であった。

 ましてや、考古学科。同じ科目の者として、同じ神秘を求める者として、彼らとしてもビルゲンワースの資料は欲しくて堪らないものだった。

 それから、オフェリアは純粋な好奇心で、エクエスへと接触したのだ。

「貴方がエクエス・アエテルタニスかしら?」

「ん? あぁ、如何にも。私がエクエス・アエテルタニスだが。」

 肩まで伸びた黒い髪、ほんのりとした灯火しか無い、深淵を思わせる漆黒の眼。その外見は、思いのほか整っていた。

 フードの付いた、外は黒、内側は赤で裾と襟の所には銀のアクセントが入ったコートのような制服。それはビルゲンワースの制服をイメージしたものだろう。

「して、貴公は…オフェリア・ファムルソローネだったか?」

「えぇ、私はオフェリアだけれど…何故、私の名前を?」

 オフェリアは疑問を抱いた。初対面であり、それでいて特別有名という訳でもない筈の自分の名を、何故彼は知っているのだ? と。

 エクエスは、

「現代の戦乙女として有名だからだが?」と、簡潔に答えた。

 現代の戦乙女…あぁ、そういえばそんな通称が有ったな、とオフェリアは思い出す。別に気にするような事でも無かったからか、そんな通称は忘れていた。

 エクエスとオフェリア、この二人の関係は此処から始まったのだ。こんな質素な会話から、始まったのだ。

 

 まず、オフェリアはエクエスに一切の魔術回路が無い事に驚いた。

「ま、魔術回路が無い!?」

「そう驚くな、オフェリア。特別珍しい事でも「珍しいにも程があるでしょう!?」お、おう…そうか。」

 現代を生きる魔術師であるにも関わらず、魔術回路が無いとはどういう事か。

 魔術回路が無い。それはつまり、現代魔術から古代の魔術まで、全ての魔術が使えないという事に他ならない。

 そんな身で、どうやって時計塔へ入ったというのか。そんな疑問が過ぎったが、しかしオフェリアの疑問はすぐに消え去った。

「…そうね。貴方には、『火の時代』の魔術…ソウルの魔術があるものね。」

「うむ。魔術回路とやらが無い所為もあって、現代の魔術とやらは使えないが、私はソウル魔術が扱えるからな。」

 『ソウルの魔術』。

 それは、神代よりも昔の時代、神も竜も死ぬのも殺されるのも然程珍しくもなかったという殺伐の時代にして、神代と現代の基盤となった太古の時代である『火の時代』に存在していた魔術。

 火の時代を生きる者達、その魔術を使う者達は皆等しく扱う魔術が『ソウルの魔術』であり、その時代にはそれ以外の魔術など存在しなかった。

 ソウルとは全ての源であり、全ての力。即ち生命の源にして力の象徴である。

 ソウルの魔術とは、ソウルを杖などを媒介として物質化させて放つ魔術である。

 例えば、『ソウルの矢』といつ魔術を使えばソウルは水色の塊となって物質化し、敵の方へと飛んでいく。

 この世界で言う所の第三魔法、『魂の物質化』が当たり前であった頃の魔術であるそれは、現代にとっては極めて強力な魔術であった。

「まぁ、竜の学院であるヴィンハイムの者達の魔術に比べれば、私の魔術など弱いものだろうがね。」

 竜の学院―――ヴィンハイム。

 それは火の時代における魔術学院の最高峰であり、魔術の基礎を創り出したも同然とされている神秘の塊である。

 アエテルタニスが扱う魔術はソウルの魔術であるが、されどその完成度はヴィンハイムのそれには遠く及ばぬのだ。

 特に、異端として忌み嫌われるエクエスは碌に魔術など教わられなかったのだから、完成度は更に低い。

 だが、それでも現代の魔術師達にとっては脅威的な魔術である。

「だが、だからこそ―――苦痛を味わえる。」



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