俺と契約して、ブリュンヒルデになってよ! (シシカバブP)
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プロローグ

・非一夏アンチものなのに、タイトルを『一なま』にする必要なくない?
→〇タイトル変えました
・週1ペースでしか書けないとか、プロットが煮詰まってない証拠。見切り発車やん
→△何日か寝たら一応最終話は決まったので、それに向かって書いていけばなんとか
……
・前作からの粘着さんが来て萎えた
→◎開き直った

以上の理由から再開しました。


一面真っ白で、見渡す限り何もない世界。

そんな世界に呼ばれて、俺はここにいるはずなんだが――

 

 

「おい」

 

「ぐすん……」

 

俺の目の前には、体操座りしてのの字を書いている、紺色スーツの短髪男がいた。

 

「おい」

 

――ゲシッ

 

「痛った! 何すんだよ!」

 

脇腹の辺りに蹴り入れたら、ようやっと再起動したようだ。

 

「何がじゃねぇよ。お前が俺を呼んだんだろうが、ロキ」

 

「だからって、蹴り入れなくたっていいじゃないかリクさんよぉ!」

 

まったく……これが俺の上司ということになっている神なんだぜ?

 

 

 

外史、知らねぇ奴に簡単に説明すると、要はパラレルワールドだ。

「もし~だったら」「この時~があったら」という想像から生まれた、一種の妄想世界だな。

で、その外史を管理してるのが、目の前で脇腹(俺に蹴られたところ)を押さえて転がってる神・ロキというわけだ。

ちなみに俺は『現地作業員』って呼ばれる存在。神共が外史に干渉すると大事になるから、代わりに俺達みたいなのが送り込まれるって寸法だ。

 

 

 

「で? 何で俺を呼んだんだ?」

 

「実は……」

 

 

ロキの話曰く、新しく生まれた外史・ISの主人公が気に食わなくて、ショウとミナミ(前作のオリ主)を介入させたんだと。

そしたらその主人公――織斑一夏だったか――が酷い扱いになった挙句、馬鹿ロキが勢いで過干渉しちまったせいで死亡、それを知った原作至上主義者の神々が、昼夜を問わず猛抗議。

「原作を大切にしない改悪系なんて反吐が出る!」

「私達の一夏様を汚すな!」

で、根負けした主神(オーディン)がロキに再介入を命令したと。

 

「……はぁ」

 

もうため息しか出ねぇ。なんだこの神共は……。というかロキ、お前はもっと怒られろ。神が外史に干渉しないために、俺達現地作業員がいるんだろうが。

 

「でさ、その抗議した神々の筆頭っていうのが……」

 

「なんだ、お前の知り合いだったのか?」

 

「……ュン」

 

「あ?」

 

「シギュンだったんだよぉ!」

 

シギュン……っておい!

 

「シギュンって、お前の嫁じゃねぇか!」

 

夫婦揃って馬鹿じゃねぇの!?

 

「うう……で、これを渡された」

 

そう言って、ロキは俺に紙切れを渡してきた。えーっと……

 

『オリ主を送る前に 言っておきたい事がある

かなり厳しい話もするが 私の本音を聴いておけ

一夏より先に目立ってはいけない 一夏より後に目立ってもいけない

一夏に会わせるな ハーレム壊すな

出来る範囲で構わないから』

 

「さ〇ま〇しか!」

 

ネタが古ぃよ!

 

「つまり、俺にその外史に介入して、原作主人公に極力接触せずにいろと?」

 

「そういうことらしい……」

 

「拒否する」

 

「即答!?」

 

当たり前だろ。俺だってついさっき別の外史から戻ってきたばっかなんだぞ。少しは休ませろ。

 

「お願いだよリクぅ! 他の現地作業員は出払ってて、お前しかいないんだよぉ!」

 

「うわっ! 縋りつくな! っていうか、ショウとミナミがいるだろ!?」

 

「いいや?」

 

「は?」

 

いやいや、ショウとミナミを介入させて抗議を受けたから、呼び戻したんだよな?

 

「2人が行ってる外史を一旦拡張空間(ローカル)に保持して、大元の世界を時間逆行(ロールバック)、そこから並行世界を創生して接続(ブランチ切ってコミット)したんだよ。だから2人はまだあっち(別の外史・IS)にいるよ」

 

「……外史はSVNか何かか」

 

副音声がバージョン管理ソフトのそれなんだが。

 

「で、また新しく並行世界を作ることになったから、そっちに行ってほしいんだよ」

 

「だから拒否する」

 

「だから何でさ!」

 

「休ませろって言ってんだよ!」

 

「むむぅ……ちなみに、外史・ISってのはこんな世界なんだけど……」

 

なーんかロキが説明し始めたが、俺は行かねぇって……何? 飛行パワード・スーツ? しかも自己進化もするだって? エネルギー源は? どういう装備を積んでるんだ?

 

「……って世界なんだけど――」

 

「行く」

 

「また即答!?」

 

何言ってんだ。そんなの行くに決まってんだろ。自己進化で自身の形状や性能を変化させるマルチフォーム・スーツなんて、見に行かないわけねぇだろうが! っていうか俺にも研究・開発させろ!

 

「ちなみに、リクにはあっちの世界で2人目の男性操縦者になってもらうんだけど――」

 

「いや、別にそれはいらん」

 

「いやいや! それが前提条件だから!」

 

「ちっ」

 

「舌打ち!? 今舌打ちしたよこいつ!?」

 

別に俺が乗れなくても……いや、実際に乗れた方が、ISとやらを作る際にフィードバックしやすいから好都合か。

 

「分かった、それがその外史に行く条件なら、呑めばいいんだろ」

 

「ったく……このメカニック馬鹿」

 

「誉め言葉として受け取っておこう」

 

こちとら、()()()人間だった頃から好きで整備工してたんだ。機械馬鹿で何が悪い。

 

「それで、俺は特に準備なしで行っていいのか?」

 

「うん、あっちへ行くための諸々は、もう済ませてあるよ」

 

そう言ってロキが指を鳴らすと、奴の横に光の塊のようなものが出てきた。俗に言う"外史への扉"ってやつだ。

 

「とりあえず、向こうに行ったら中学生まで若返った状態から始めてもらうよ」

 

「ほう。あの2人は転生したって聞いたが?」

 

前任者(ショウとミナミ)は、北山家とやらの子供として転生したんだろ?

 

「それは、ねぇ……『あっちにいる時間が長いと、一夏様と接触する可能性が増えるじゃない!』って意見がね……」

 

「お前、ホント尻に敷かれてるな……」

 

さっきも、まさかの嫁から旦那への『関〇宣言』だったからな。

 

「ま、後は行ってから考えればいいや」

 

行った先がどうしようもない所だったら、()()()()()整備士にでもなって食い繋ぐさ。

そう思って外史への扉をくぐろうとしたら、

 

「ちょい待ち。最後にこれを見せておかないと」

 

そう言って、ロキがまた紙切れを渡してきた。今度は何だ? 〇霊流しか?

 

「……おいおい、いいのかよ?」

 

「いいのいいの。今回は原作主人公に接触しない想定だから、裏で火遊びしてても問題ないでしょ」

 

そんなことを宣うロキから渡されたのは、

 

『外史・ISで持っていくものリスト』

 

と、表題はガキかとツッコミたくなるものだったが、中身は別の意味でツッコミたくなるものだった。

……書いてあるもの全部、昔俺が行った外史で作ったり手に入れたりした後、他の外史に持ち込めなくてそのまま死蔵してたもんばっかじゃねぇか! もうこれ、ISに組み込めと言わんばかりだろ!

 

「それじゃ、()()期待してるよ」

 

「おう! 楽しんでくるぜ!」

 

ワクワクしっぱなしの状態で、俺は光の中に入っていった――

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

で、外史・ISの世界に着いた途端、俺は血溜まりの中にいたわけなんだが?

見渡す限り、生きてるのは俺だけ。後はみんな、血の池に沈んでるか、ミンチよりひでぇ状態になってた。

おいロキ、さすがにこれはないだろう。

 

そんなことを思っていたら、警察が突入してきて保護されて、そのまま児童養護施設にぽーい。雑すぎね?

一応その養護施設の職員に話を聞けたんだが、どうやら俺と両親(となっている連中)はテロ(しかも犯人はIS絡みの犯罪結社)に巻き込まれて、俺だけが生き残ったらしい。で、他に親類もいないから施設行きになったと。

ロキぇ……いくら突然中学生サイズで介入したからって、もうちょっとやりようあっただろうよ……。

 

ま、まぁ、そんなこんなで俺――宮下陸(みやした りく)――の人生が始まったわけだ。

始まったわけなんだが……

 

 

 

「ISのだ、男性操縦者が現れたんですって!?」

 

「そうそう! それで他にもいないか、全国の男子中学生全員を検査するんだって!」

 

「まさか、この施設の子の中にも……」

 

「「「ないない!」」」

 

始まって……

 

 

 

――キィィィィ……!

 

「「「う、動いたぁぁぁぁぁぁ!」」」

 

「「確保ぉ!!」」

 

「えっ、いや、ちょっま!!」

 

始まって……

 

 

 

「君の身の安全を考慮して、IS学園に通ってもらうことになった」

 

「お、おぅ……」

 

展開早すぎんだろぉがよぉぉぉ!!

 

 

 

……この外史・ISに来て、たった1か月もしない内の出来事だった……。

こっち来る前の、俺のワクワクを返して……。



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原作開始~クラス代表決定戦
第1話 ファーストコンタクト


――IS学園、1年4組の教室

 

さて、何だかんだでIS学園に入学した俺だが、居心地は正直言って悪いの一言。

元々ISが女しか乗れなかったせいだろうが、このIS学園、ほぼ女子校と言っていい場所だ。

そんなところに、たった2人だけ野郎が、しかも別々の教室に放り込まれたわけだ。つまり、分かるな?

 

「あれが2人目の男性操縦者なんだってー!」

 

「1組の織斑君はハンサム系だったけど」

 

「こっちのワイルド系もいいかも~!」

 

俺は上野のパンダかよ

 

教室内の女子生徒の視線が、ほぼ全て俺に集中しているわけだ。ストレスで禿げそう……。

 

ーーーーーーーーー

 

「SHRを始めますよー」

 

教室の前ドアから大人の女(たぶんあれが担任なんだろう)が入ってくると、今まで騒がしかった教室が静まる。

 

「まずは皆さん、入学おめでとう。私が1年4組の担任になったエドワース・フランシィよ。よろしくね」

 

「「「「よろしくお願いしまーす」」」」

 

「それじゃあさっそくなんだけど、皆に自己紹介をしてもらおうかしら」

 

そう先生が言うと、名前順に自己紹介が始まった。

自己紹介ねぇ……名前だけっていうのもダメだろうし、どうしたもんか……。

と考えている間に、俺の番が回ってきたようだ。早ぇな、俺の苗字『宮下』だから、だいぶ先だと思ったぞ。

 

「あー……先月の全国検査に引っかかってIS学園に来ました、宮下陸です。趣味も特技も機械弄りです。これからよろしくお願いします」

 

――パチパチパチ

 

どうやら、無難に終わらせられたようだ。良かった良かった。

『もうちょっと何かないの?』みたいなことを言われても困るからな。

 

「ちなみに宮下君は、ISに早く乗ってみたかったりする?」

 

いや先生、貴方が率先して話を振らんでくださいよ。

周りを見渡すと、他の生徒達もなーんか期待した目をしてるし……ったく……

 

「ないですね。俺はISに乗るより、研究・開発する方が興味あります。言ったじゃないですか、『趣味も特技も機械弄り』だって」

 

「あら、そういえばそうね。ということは、宮下君はメカニック志望かしら」

 

「そうなるでしょうね」

 

ここまで答えればいいでしょう? という感じで、俺は椅子に座った。

 

ーーーーーーーーー

 

で、入学日なのに、なぜかIS学園は授業がある。マジかよ。

そして授業内容については……

 

「――それでは、ここまでで質問がある人ー」

 

まあ、誰も手を挙げたりしないよな。

ここにいる面子は全員、超高倍率の入学試験を潜り抜けてきたわけだから、これくらいの内容わけないか。()()()()試験を受けた奴なら。

 

「宮下君は?」

 

「ええっと……ここのアラスカ条約の特記事項についてが――」

 

「あぁここね。そこは次のページの注釈に――」

 

「これですか。……ああなるほど、理解しました」

 

という俺と先生のやり取りを、周りのクラスメイトが生暖かい目で見てくるのが辛い……。

くそぅ……俺だってISの構造云々についてはそらで言えるぐらい頭に入ってるんだ。ただ、興味のない法律関係の知識を入れる脳内ストレージが小さいだけで。

前任者(ショウ)はIS開発者とマンツーマンで勉強してスラスラだったんだろ? チートだろチート。

 

「仕方ないわよ。宮下君のIS学園入学が決定したの、1週間前だったんだし」

 

そんな俺を見かねたのか、先生が援護射撃を入れてくれた。

 

「そ、そうなんですか?」

 

「それじゃあ宮下君、ISの知識がないのも仕方ないのかぁ」

 

「でもそれにしては、他の質問をされてませんが……」

 

クラスメイト達がひそひそ話を始めた。

 

「そういえば宮下君。IS学園入学が決まった時、参考書が渡されてたはずだけど」

 

「ああ、これですよね」

 

そう言って俺は、電話帳か広辞苑かと言いたくなる分厚さの参考書を掲げた。

 

「俺の頭じゃ、1週間で半分読むのが精一杯でした」

 

これを渡してきた人(鋭いツリ目で長い黒髪の、おそらくIS学園の教師)は『1週間で覚えろ。出来なければ死ね』と言わんばかりだったんだが、どうやっても無理だった。

 

「あら、半分読めたなら問題ないわね」

 

「え? そうなんですか?」

 

「ええ。だってその参考書、1学年を通して使うものだもの。それを半分読んだってことは、"半年分の予習が出来てる"ってことよ」

 

「……ああ、なるほど」

 

確かに、そう言われてみればそうなるのか。なんだよ、脅され損じゃねぇか。

 

「ただし、法関係の部分はこれからちゃんと覚えていきましょうね」

 

「うぐぅ……」

 

きっちり釘を刺された……周りからもクスクス笑いが聞こえてくるし、辛い……。

 

ーーーーーーーーー

 

昼飯を挟んで午後の授業も終わり、放課後。

 

いや、このIS学園はすげぇな。学校の学食っていうから、定食が2,3種類ぐらいから選ぶ感じかと思ったら、和洋中なんでもござれのレストランじゃねぇか。

久々に俺、刺身定食を食っちまったよ。(ちなみに金は、日本政府から『男性操縦者のデータ取り』という名目でいくらかもらえてる)

 

それはさておき、俺は放課後、行ってみたかった場所に足を向けていた。

 

――IS学園、整備室

 

そう、整備室! 訓練用のIS(入学前に乗せられた打鉄と、もう1つは確かラファールだったか)がずらりと並んだこの光景……これだけで白米いけるな。

 

「ん?」

 

そんな妄想に浸ってると、部屋の奥に整備中なのか、ISが1機鎮座していた。

 

「これは……打鉄、か?」

 

ぱっと見は打鉄だが、スラスターの形とか装甲の厚みとかが微妙に違う。バリエーション機か?

 

「……何してるの?」

 

「あ?」

 

振り向くと、眼鏡をかけた青髪の見知らぬ女が立っていた。 いや、見知らぬじゃねぇな。確か……

 

「更識簪、だったか?」

 

そうだそうだ、思い出した。同じ4組の更識簪だ。『日本の代表候補生』とかいう肩書が珍しくて、記憶の片隅に残ってたんだな。

 

「苗字で呼ぶのはやめて。嫌だから……」

 

「そうか。それじゃあ簪って呼ばせてもらう。っと、まだ俺の方が名乗ってなかった――」

 

「知ってる。宮下陸」

 

「……クラスメイトだし、お互い知ってて当然か」

 

「(コクリ)」

 

「まぁ、宮下でも陸でも、好きな方で呼んでくれや」

 

「じゃあ、陸で……」

 

「おう」

 

会話は一旦それで終わり、俺の視線はまた件のISに向いていた。

 

「これ、お前のISなのか?」

 

「そう、『打鉄弐式』。打鉄の後継機で、防御重視の打鉄に対して、機動性に特化してる……予定」

 

「予定?」

 

俺が聞き返すと、簪は視線を逸らして

 

「これはまだ、未完成だから……」

 

「未完成……」

 

つまり、この打鉄弐式は整備中じゃなく、未完成品ってことなのか……。

……ちょっと待て。簪は日本の代表候補生で、俺が『お前のISなのか?』という問いに頷いている。つまり、これは簪の、日本代表候補生の専用機ってことだ。

 

 

ならなんで、()()()()()()()()()()

 

 

普通こういうのは、どっかの機関や企業が作って、完品を渡すもんじゃねぇのか?

それなのに、未完成品がここにある。まさかとは思うが……

 

「もしかして、この打鉄弐式、簪が作ってるのか?」

 

「(コクリ)」

 

 

「はぁ!?」

 

 

「(ビクンッ!)」

 

「ありえねぇ! 日本政府か委託された企業か知らんけど、馬鹿なのか!?」

 

F1カーの組み立てをドライバーにさせるようなもんだぞ、正気の沙汰じゃねぇだろ!

 

「あの……未完成品を引き取ったのは私で……」

 

「は? なんで未完成品を引き取ったんだ?」

 

「それは……」

 

簪はそれだけ口にすると、また視線を逸らしてダンマリになった。

う~ん、モヤモヤするが……

 

「分かった、これ以上は聞かねぇ」

 

「うん……」

 

知り合って間もない俺が、あまりずかずかと簪の事情に深入りするのも良くないな。

誰しも、言いたくないことの一つや二つはあるだろうし、これ以上はやめておこう。

 

「それで、完成したら打鉄弍式はどんな機体になるんだ?」

 

暗くなった雰囲気を逸らすのと、元々興味があった質問をしてみたが、それが功を奏したのか

 

「う、うん。 この打鉄弍式には、連射型荷電粒子砲の『春雷』と6機×8門のミサイルポッド『山嵐』を載せる予定で……」

 

と、先ほどよりも流暢に話し始め、俺もそれを聞きつつ、時々質問や指摘を交え、気付けば1時間は話通しになっていた。

 

 

 

「話し込んじゃった……」

 

「ああ、これは俺も悪かったな。ついつい白熱しちまった」

 

おそらく、もうすぐ整備室も閉まる時間なのだろう。簪は諦めた顔をしながら工具を片付け始めた。

 

「俺も寮に行ったら、荷解きしないとなぁ……」

 

「陸、寮に入ったの……?」

 

「おう。本当は来週からのはずだったんだがなぁ……」

 

セキュリティの事情だか何だかで、急遽決まったらしい。しかも突貫調整だったらしく、本来なら男2人(俺と織斑)を1部屋に突っ込めばいいところを、別々の相部屋になったとのこと。つまり、女子生徒と相部屋なわけで……俺も織斑も、気ぃ使わないといけなそうだ……。

っていうか、まさかあの馬鹿神共が『一夏様と一緒になんてできませんわ!』みたいなことを言った結果じゃねぇだろうな……。

 

「エドワース先生から、鍵も渡されちまったし」

 

そう言って、SHRの後に渡された寮部屋の鍵をチャラチャラ振りながら、簪に見せた。

 

「そう、大変そう……え?」

 

「どした?」

 

俺の鍵を見て驚いた顔をした簪は、スカートのポケットをまさぐると、おそらく簪の部屋のであろう鍵を取り出した。

 

「これ……」

 

「……Oh」

 

鍵のキーホルダー部分に部屋番号が書いてあるのだが……俺が持ってるものと、簪が持ってるもの。番号が……まったく同じ。

 

「つまり……」

 

「そういう、こと……」

 

お互い、何とも言えない顔をしていた。

 

「あー……色々迷惑をかけるかもしれんが、よろしく頼む」

 

「う、うん。よろしく……」

 

とりあえず握手をしたが、めっちゃぎくしゃくしていたと言っておく。

 



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第2話 コンプレックス

――IS学園、学生寮1032号室

 

「簪、手前と奥、どっち使ってる?」

 

「奥の方……」

 

「そうか。じゃあ手前を俺が使って、間に仕切りを増やせばいいか」

 

「うん……」

 

そんなやり取りをしつつ、俺は荷物が入っているだろう段ボールを、部屋に入って手前側のベッド横に置いた。

それにしても、段ボール2個分とか、こんなに俺の荷物なんか施設にあったか?

中身を確認してみると、1つは俺が施設時代(と言っても1か月やそこらだったが)で着ていた服。そしてもう片方が……

 

「……ああ、なるほど」

 

「どうか、した?」

 

「気にしないでくれ。そういやこれも送られてくるってのを忘れてただけだ」

 

「?」

 

簪が首を傾げるが、これを見たら、ますますISを組み立ててみたくてたまらなくなってきたなぁ……。

……ちょっと強引だが、聞いてみるか。

 

「……なぁ簪。放課後のことを蒸し返して悪いんだが、お前はあれ(打鉄弐式)を自前で作りたいんだよな?」

 

「……うん」

 

「それ、俺が手伝ったらダメか?」

 

「な、なんで……?」

 

おいおい……悩まれるとは思ってたが、なんでそんな警戒するんだ?

 

「まさか、お姉ちゃんに頼まれたの……?」

 

「お姉ちゃん?」

 

誰だ?

 

「え……?」

 

なぜか聞いた簪の方が目を見開いていた。いやいや、なんでお前が驚くよ?

 

「お前の姉ちゃんって、誰だよ?」

 

「知らない、の?」

 

「知るか」

 

「こ、この人……」

 

そう言って、簪は入学時にもらったパンフレットを開くと、その一部を指さして見せた。

 

「何々……『IS学園生徒会長・更識楯無』……へぇ、お前の姉ちゃん、生徒会長なのか」

 

「ほ、本当に、知らなかったの……?」

 

「興味ねぇよ」

 

ISの世代遷移についての説明部分なら、穴が開くほど読んだがな。

 

「じゃあ、なんで手伝いたいなんて……」

 

「理由は単純、ISを作りたいからだ」

 

「ISを、作りたい……?」

 

「同じクラスだから俺の自己紹介も聞いてるだろ? 俺はISの研究・開発がしたいんだ。だからお前の打鉄弐式を作る手伝いをすること自体にメリットがある」

 

一から作るってものあるが、ISコアとやらが限定品(467個しかないと、授業でも習った)である以上、元々コアを貸与されてる簪を手伝うのが手っ取り早い。

 

「そして簪は、専用機を作る上で人手が増える。WIN-WINの関係だと俺は思ってる」

 

「でも……これは私が一人で作らないと……」

 

「あん? 一人で?」

 

なんか、とんでもないこと言い出したぞ。

 

「どうして簪一人で作る必要があるんだ?」

 

「……」

 

ああ、ダンマリってことは、プライベートな部分なのな。

 

「分かった。これ以上は聞か「……お姉ちゃんは」お前の姉ちゃんが何だよ」

 

「お姉ちゃんは、自分だけで専用機を組み上げた……だから、私も自分だけで、打鉄弐式を、組み上げないと……」

 

「一人でISを組み上げたぁ?」

 

おいおい、マジかよ。お前の姉ちゃん、どんだけすげぇんだよ。

 

「だからって、お前はお前だろう――」

 

 

「陸には分からないっ!」

 

 

「うおっ!」

 

「何かをやり遂げても『楯無の妹だから当然』、何か失敗すれば『楯無の妹のくせに』! 誰も私を見てくれない! そんな日々を、苦しみを! 陸に分かるわけない!」

 

さっきまでの簪とは違う気迫に押されて何も言えなかった。

だが少しすると落ち着いたのか、深呼吸を一つして

 

「ごめん、なさい……」

 

「謝んな。こっちも深くは聞かないって言ってたのに、悪かった」

 

『兄が優秀だと、弟は苦労する』の姉妹版か。確かに()()()ずっと一人っ子だった俺には、分かるとは言えない話だな。

つまり、姉と同じように自分一人で専用機を作ることで、姉に対するコンプレックスを払拭したいのか。

でもなぁ……

 

「簪、正直に言わせてもらう。このまま一人で打鉄弐式を作ろうとして、完成の目途はあるのか?」

 

「それは……!」

 

「そして、もしお前一人で打鉄弐式を組み上げたとしよう。それでお前の苦しみは解決するのか?」

 

「え……?」

 

簪が驚いた顔をするが、

 

「また『楯無の妹だから当然』って言われたりしないのか?」

 

「それ、は……」

 

そうなっちまったら、意味がない。

 

「なら……なら、どうすればいいの……!?」

 

簪が、俺の胸に縋りつくように掴みかかる。

 

「簡単だ。完成したISで、お前の姉ちゃんと勝負すればいい」

 

「お姉ちゃんと、勝負……?」

 

「おう」

 

比較対象である姉の後ろを追っても、誰も認めようとしなかったんだろう。

なら、何かしらの勝負に勝てばいい。それなら、誰もお前を『楯無の妹』呼ばわりできないだろう。

 

「無理だよ……お姉ちゃんが相手なんて……」

 

「やる前から諦めてどうする。それに俺も言い出しっぺとして、出来る限りは協力すっからよ」

 

「協力……?」

 

「おうよ。もちろん、必ず勝てると確約はできんがな。それでもいくつか策はあるぞ」

 

さっきの段ボールに詰め込まれたものを、たんまり投入すれば、な。

 

「……」

 

しばらく考えていた簪だったが

 

「……少し、考えさせて」

 

「おう。色よい返事を待っておくさ」

 

真向否定されなかっただけ、今は良しとするか。

それにしても、早くIS弄りたかったとは言え、我田引水なマネして、簪には悪かったなぁ……

 

ーーーーーーーーー

 

 

消灯後、私はベッドの中で悶々としていた。

 

いつも、お姉ちゃんと比べられて生きてきた。

お姉ちゃんが自由国籍を取ってロシア代表になった時から、それはより一層顕著になったと思う。

私は、それを否定したくて努力した。代表候補生にもなった。でも、誰もその努力を見てくれなかった。誰も、"私"を見てくれなかった……。

おまけに、()()()の所為で、打鉄弐式の開発は凍結されたのだ。また私は比較され、そして切り捨てられた。

だから、自分の専用機を自力で組み上げて、お姉ちゃんに並ぼうとしていた。でも……

 

(陸の言ってたこと、否定できない……)

 

確かに、お姉ちゃんに並んだだけじゃ、また『楯無の妹だから』と言われるだけ。

それに、私だけで打鉄弐式を組み上げる見込みは、立ってない。

荷電粒子砲のデータも足りないし、ミサイルポッドのマルチロックオン・システムだって完成していない。

こんなんじゃ、仮に完成させても意味がない。お姉ちゃんに並べない。いや、超えられない……。

 

(え……私、今お姉ちゃんを超えるって……)

 

自分でも驚いた。陸の前じゃ、『お姉ちゃんが相手なんて』って言ってたはずなのに……。

 

初めての事だった。今まで私を見ようとしなかった人達に、そしてお姉ちゃんに、私を認めてもらうために頑張ってきた。

でも、今私は明確に

 

(私……お姉ちゃんに"勝ちたい"って思ってる……)

 

たぶん、陸と会わなければ思いもしなかったこと。

 

『俺も言い出しっぺとして、出来る限りは協力すっからよ』

 

陸が言った言葉がぐるぐる私の頭を巡っていく。

やっぱり、陸に手伝ってもらうのが現実的……

 

(でも……)

 

ふと頭をよぎったのは、私の従者で親友の、布仏本音の顔だった。

親友のはずなのに、差し伸べられた手を払ってしまった、本音の顔を……

 

マタ、ニゲルノカ?

 

(え……!?)

 

驚いて起き上がるけど、周りには特に異常はなかった。

 

「んぁぁ? 簪、なんかあったかぁ?」

 

ベッドの間に増やした仕切りの向こうから、寝起きなのか、間延びした陸の声が聞こえてきた。お、起こしちゃった?

 

「う、ううん。何でもない!」

 

「そうかぁ……」

 

それだけ言うと、また仕切りの向こうから寝息だけが聞こえてきた。

 

(ニゲルノカ……逃げるのか、か……)

 

今聞こえた幻聴……幻聴にしては、あまりにもタイミングと内容が良すぎじゃないだろうか?

でも、確かにそうだ。陸に協力してもらう前に、まずは、本音と向き合わないといけない。だから――

 

(本音と話そう、そして謝ろう……まずはそれから……)

 

そう思いながら、私も夢の中に――



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第3話 和解と会長とアームロック

そろそろギャグ要素を詰めませんとね。


翌日の放課後、俺は簪から買い物を頼まれて、整備室と購買の間を往復していた。教室にいる時に言ってくれれば、わざわざこの廊下を往復する手間も無かったんだがなぁ。

なんて思っていると

 

「だーれだ?」

 

誰かに視界を塞がれた。殺気や敵意の類が無かったが……それだけじゃ敵かどうか分らんな。というか、敵ってなんだよ。

さて、どう返したもんか……

 

「新東雲学園都市の丸目さん?」

 

「……そんな名前の都市なんか無いし、丸目さんって誰よ」

 

適当に知り合いの名前を挙げたら、呆れたような声が返ってきて、視界を塞いでいた手がどけられた。

振り向くと、簪のような青髪の……って、昨日写真を見たばっかだな。

 

「それで、俺に何用ですか? 更識生徒会長」

 

「あら、ちゃんと知ってるじゃない。関心感心♪」

 

「昨日入学パンフレット見せられるまで知らんかったですよ」

 

「えぇ……」

 

ニコニコ顔から一転、(ll´-д-)()みたいな顔になった。

えらく感情が顔に出る上に、コロコロ変わる人だな。

 

「それで、俺になんか用ですか?」

 

「もう、つれないわね。もう少しお姉さんの話に付き合ってよ」

 

「……」

 

俺はおもむろに更識会長に近づくと、左腕を取って

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「があああああああ!」

 

 

アームロックをキメた。

自分でやっといてなんだが、乙女が出しちゃいけない声が出てるな。

 

「こ、こんなのすぐに……なんで、外れないの!?」

 

「申し訳ないですが、まだるっこしいのは嫌いなもので。それで、俺に何用ですか?」

 

――ギュッ! ギュッ!

 

「は、放して! 話すからまずは放して!」

 

「『話し』と『放し』をかけたダジャレですか?」

 

――ギュゥゥゥッ!

 

 

「んがあああああ! 私が悪かったから早く放してぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

涙目で懇願されたから、一旦ロックを外した。

それにしても、さすがゴローちゃんのアームロック。学園最強(パンフレットにそう書いてあった)をも泣かせるとは、見よう見まねで覚えて良かったな。

 

「うう~……女の子になんて事するのよぉ……」

 

「それで、俺に何用ですか? 更識パイセン」

 

もうパイセン呼びでいいやこの人。最初に初対面を揶揄おうとした時点で、『会長』って呼んで敬う気も失せた。

 

「簪ちゃんについて、聞きたかったのよぉ」

 

「簪について?」

 

何で知り合ったばっかの俺に、姉であるパイセンが聞くんだ?

 

「簪って呼び捨て……貴方、簪ちゃんに一体何をしたのよぉぉぉ!」

 

と、俺の簪呼びが気に食わなかったのか、胸倉を掴みかかろうとしたから

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「があああああああ!」

 

 

さっきより、気持ち強めにアームロックをキメた。

というか、学習してくれよパイセン……

 

 

 

 

「つまり、妹と同室になった男がどんな人間か気になって、尾行していたと」

 

「はい、そうです……」

 

腕組んで仁王立ちしてる俺と、その眼前で正座しているパイセン。普通立場逆じゃね? いや、俺が正座したいわけじゃないが。

 

「そんなに妹の事が気になるなら、自分で……って、それは無理か」

 

それが出来てるなら、ここまで姉妹の仲が拗れてないわな。

 

「簪ちゃん、貴方に色々話したようね……」

 

「まぁ、人様の家庭事情に首突っ込む形になったのは、申し訳ないとは思ってますがね」

 

まさか、『IS作りを手伝おう』から、こんなデカい不発弾(更識姉妹の不和)が埋まってるとは思わんかったよ。

 

「ホント、不躾なんだから」

 

「否定できませんね。っとそうだ、不躾ついでに、一つお願いがあるんですが」

 

「何よ?」

 

「簪の専用機が完成した暁には、あいつと……決闘してほしいんです」

 

「決、闘?」

 

パイセンが呆けた顔をした。いきなり妹と決闘しろとか、意味わからんか。失敗失敗。

 

「あいつは、ずっと比較対象にされてきた姉、パイセンに追いつこうとしています」

 

「ええ、知ってるわ。()()()()()()()()打鉄弐式を引き取って、私と同じように一人で組み上げようとしていることも」

 

やっぱり知ってたか。

 

「これは簪本人にも言いましたが、仮に一人で組み上げても、周りはまた『楯無の妹だから』と言って終わるだけでしょう」

 

「それを簪ちゃんに言ったの?」

 

「睨まんでください。だから提案したんですよ、『お前の姉ちゃんとISで勝負して勝てばいい』って」

 

「はぁっ?」

 

まぁ、普通ならそういう反応になるよな。一国の代表に、候補生が勝てって言ってんだから。

 

「でも、それぐらいしないと、簪はずっと貴女の背中を、影を追うだけになってしまいます」

 

「それは……」

 

「だから、もし打鉄弐式が完成したら、簪と勝負してください。お願いします」

 

俺はパイセンに頭を下げた。

 

「な、なんで貴方が頭を下げるのよ?」

 

「『出来る限り協力する』って言っちまってるんで。俺の頭一つ下げて上手くいくなら、いくらでも下げますよ」

 

簪との約束を守るためなら、頭一つぐらい軽い軽い。

 

「……貴方にとって、簪ちゃんって、何なの?」

 

パイセンが慌てた顔から突然、真顔になる。

 

「少なくとも、パイセンが思ってるような仲じゃないですよ。クラスメイト兼ルームメイト兼同志、は言い過ぎか」

 

「同志……」

 

「『更識楯無に勝とうぜ』っていう同志ですよ。もっとも、今は俺が勝手に思ってるだけですけど」

 

なにせ、まだ返事を保留されてる状態だからな。

 

「勝手に思ってるだけで、ここまでやるの?」

 

「そうですね。もしこの後簪に拒否られても、俺の下げた頭一つが無駄になるだけですから」

 

「……そっか」

 

俺の回答に満足したのか、パイセンは苦笑しながら

 

「それが聞けただけでも、今回は悪くない収穫だったわ」

 

と、苦笑しながら踵を返して

 

「もし簪ちゃんの専用機が完成したら、その勝負、受けるわ」

 

元々生徒会長は生徒からの勝負を拒めないしね~、と手をひらひらさせながら去っていった。

ええ~……つまりどうあっても勝負自体は受けてくれたのかよ……頭下げ損じゃん。

 

「……ま、まぁ、約束は果たしたってことで、な?」

 

そうやって自分に言い訳しつつ、簪が待ってるであろう整備室への移動を再開した。

……悪ぃ、やっぱ辛ぇわ……

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

私は一人で整備室にいた。

陸には少しの間、外に出てもらった。これは、私達2人の、ううん、私が解決しなきゃいけない問題なんだから。

 

「かんちゃ~ん……?」

 

今朝メールを送っていた時間通りに、本音が整備室にやってきた。

不安そうな顔をしてる。それはきっと、私との過去のやり取りがあってから、ずっとそうだったんだろう。

 

「ひ、久しぶり、だね?」

 

「う、うん。そうだね~……」

 

違う、そうじゃない。言うべきはそうじゃないでしょ、私!

 

「本音……」

 

「何~……?」

 

 

「ごめんなさい……!」

 

 

「か、かんちゃん~!?」

 

驚く本音をよそに、私は本音を抱きしめていた。

 

「今まで、本音は私の心配をしてくれてたはずなのに……せっかく手を伸ばしてくれてたのに……」

 

そうだ。私の従者で、私の親友の彼女は、あの時だって手を伸ばしてくれた。誰も私を見てくれなかった時も、()()()()が……。

その手を、私が払ったのだ。もしかしたら、心の底では恨まれてるかもしれない。それでも――

 

「ごめん、ごめん、本音……」

 

「かんちゃん……」

 

何に謝ってるのか分からないはずなのに、本音は私を抱きしめ返すと

 

「かんちゃん、私のことを嫌ってたわけじゃなかったんだね~……」

 

「嫌いなわけない……!」

 

それは間違いなく言える。私は本音が嫌いであんなことをしたわけじゃ……!

 

「良かった~。私、かんちゃんに、嫌われて、避けられ、てた、わけ、じゃ……!」

 

「本音……!」

 

気付けば、私も本音も泣いていた。二人で抱き合いながら、涙を流し合っていた。

でもそれは、悲しい涙じゃない。

やっと謝れた喜びと、やっと本心を聞くことが出来た喜びの、涙だったんだと思う――

 



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第4話 ISを作ろう

生徒会長のパイセンと別れた後、整備室に戻ってみると

 

「あ、陸。おかえり」

 

「おう。で、そちらさんは?」

 

だぼだぼ袖の、見知らぬ女がいた。覚えがないということは、他クラスの生徒か?

 

「かんちゃんの従者の、1年1組、布仏本音だよ~」

 

「従者ぁ?」

 

え、何? 簪って良いとこのお嬢様だったんか?

 

「もしかして~、更識家について、何も聞いてない~?」

 

「ああ、全然」

 

「ええ~……」( ;´Д`)()

 

いや、そんな顔されてもなぁ。

 

「まぁいいや、俺は――」

 

「知ってるよ~。2人目の男性操縦者、りったんだよね~」

 

「り、りったん?」

 

「ちょ、ちょっと本音……」

 

今までそれなりの時間を生きてきたが、そんなあだ名付けられたのは初めてだぞ……。

 

「あ~……俺はお前の事なんて呼べばいい?」

 

「好きに呼んでいいよ~。私もこれからりったんって呼ぶから~」

 

マジかよ……布仏本音だろ? それなら、苗字と名前から2文字ずつ取って……

 

「それじゃあこれから"のほほん"って呼ぶな」

 

「いいよ~」

 

いいんかい!っていやいや、なんか話が脱線してる気がする。

 

「それで簪。俺に買い物頼んだのは、このためか?」

 

「(コクリ)」

 

「かんちゃんの専用機作りを手伝うのだ~」

 

なるほど、一人で全部やるのを止めて、従者に手伝ってもらうか。

 

「いいんじゃねぇか。お互い、気心の知れてる奴とやった方が捗るだろうし」

 

うーむ、しかしそうなると、俺はお役御免か……。

 

「あ、あの!」

 

「おん?」

 

「それで、昨日の返事なんだけど……陸にも手伝ってほしいの」

 

「俺も?」

 

なんと。どうやらお役御免じゃなかったらしい。

 

「本当は、陸に手伝ってもらう気でいたの。でも、先に本音と話をしておきたかったから……」

 

「かんちゃん……」

 

「そうか……」

 

2人の顔を見るに、それこそさっきまで色々仲が拗れてたようだな。で、それを解決するまで俺を誘うことを躊躇ってたと。

 

「……ならよし!」

 

「「えっ?」」

 

「簪は簪なりの筋を通すために、俺への返事を保留してたんだろ? そういう理由なら問題なし!」

 

むしろ、仲が拗れたまま俺を誘ってたら、お仕置きアームロックが火を噴いてたな。

 

「何だろう……ちょっと寒気が……」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「ではこれより、打鉄弐式を作っていきたいと思いまーす」

 

「わー!」

 

「わ、わー……」

 

うん、ちょっとふざけてみたが、のほほんは思った通りノリがいいな。

 

「それで、最初は何するのー?」

 

「ふふふ、それはだな……」

 

そう言って、俺は懐からメモリースティックを取り出した。

 

 

「ここに、荷電粒子砲のデータがある」

 

 

「なんで!?」

 

うむ、簪ナイスリアクション。

 

「こんなこともあろうかと、昨日ベッドの中で夜なべしてまとめておいた」

 

「りったんすごーい!」

 

「あの、すごいじゃなくて……」

 

このデータはすごいぞぉ。何せ別の外史に行った時に収集した、バトルプルーフ(実戦経験)済みの代物だぁ。段ボールの中に入ってた。まぁこっちの世界じゃ向こうと違って、ミノフスキー粒子なんて無いが、何とかなんだろ。

 

「これで、『春雷』は完成の目途が立ったわけだ」

 

「こ、こんな簡単でいいのかなぁ……?」

 

簪、首を傾げない。いいじゃん、お前の専用機が早く完成するんだぞ?

 

「で、こっちが……」

 

懐から、もう1本メモリースティックを取り出す。

 

「そ、そっちには何が……」

 

 

「『山嵐』用のマルチロックオン・システム。昨日の話を聞いて興味沸いたから作ってみた」

 

「あ、あは、あはははは……」

 

「か、かんちゃん!?」

 

「私の今までの苦労って……苦労って……」

 

おや? 簪が遠い目をしながら笑い出しちまった。

って、そういえば……

 

「なぁ、打鉄弐式を組み上げるのはいいんだが、装甲や装備を作るための材料ってどうすんだ?」

 

やらかしたぁ! その辺ちゃんと確かめておくべきだった!

 

「それは大丈夫だよ~。整備科にお願いして、訓練機の修理用パーツの余剰分を分けてもらえることになってるから~」

 

「マジ?」

 

「うん。整備科に知り合いがいて、頼み込んだ」

 

「マジか~、良かった~」

 

マジで良かったー。その辺もフォローしてこそメカニックだろうに、俺も精進せにゃならんな。

 

「それじゃあ改めて、打鉄弐式を作っていくか」

 

「「おー」」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

自分で誘っておいてなんだけど……

 

「りった~ん、スラスターの部品が足りな――」

 

「加工済みだ」

 

「りった~ん、春雷を固定したいから――」

 

「電動ドライバーは足元。電源プラグも挿してあるからすぐ使えるぞ」

 

「りった~ん」

 

「そこの配線は左から青、緑、赤の順な。間違えると飛行中にボンッだから気ぃ付けろー」

 

なんか、陸と本音だけでどんどん打鉄弐式が組み上がってる気がする……。

どうして私、一人で全部やろうとしてたんだろう……。

 

「うーん、やっぱ即席のシステムじゃ、48本全部は無理かぁ……」

 

「それでも、半分の24本はマルチロックオン出来るみたいだし、十分だと思うな~」

 

私、何日もかけて出来なかったんだけど……。

 

「ほら簪、何してんだ。もうちょっとで出来上がるぞ」

 

「え!? もう!?」

 

ところどころボンヤリしていて気付かなかったけど、よく見たら、外見はほぼ完成していた。

春雷も、山嵐も、昨日陸に話してた装備は全部揃ってた。

 

「あとは近接武器の『夢現』だけだね~」

 

「何? その装備は初耳なんだが」

 

「昨日は言ってなかった。対複合装甲用の超振動薙刀」

 

「薙刀か。確かに簪には、刀の『葵』より似合ってそうだな」

 

「あ、ありがとう……」

 

な、何だろう……すごく気恥ずかしい……。

 

「それじゃある程度組み上がったし、今日ラストで、その夢現を作るとするか」

 

「ゆ、夢現も今日作るの……?」

 

「そうだね~、勢いがある内に作っちゃおうか~」

 

「ほ、本音……?」

 

「で、明日はテスト飛行といくか」

 

「おー、それじゃあアリーナの予約入れておかないとね~」

 

「頼むなー」

 

「え……も、もう?」

 

あれ……おかしいよね……だって、陸と本音が加わってから、まだ3時間ぐらいしか経ってないのに……いくら元々の打鉄のフレーム部分があったからって、そんな簡単にISって作れるものじゃないはずなのに……

こんなのって……

 

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

(簪ちゃん、大丈夫かしら……)

 

生徒会室の会長席で、私は紅茶を飲みながら考え込んでいた。

 

「政治、か……」

 

簪ちゃんの打鉄弐式が開発凍結になった時、私が倉持技研に対して行った抗議なんて、どこ吹く風だった。

倉持は、いや、日本政府は、1人目の男性操縦者、織斑一夏君の専用機作成を優先したのだ。

しかも聞いた話では、その織斑君はさっそく、同じクラスのイギリス代表候補生と一悶着起こしたらしい。

 

「この事を簪ちゃんが知っちゃったら……」

 

いつかは知られるだろうが、今から憂鬱になる話だ。

開発凍結に関して、織斑君自体に罪はない。別に彼が専用機を強請ったわけではないのだから。それでも、間接的な原因ではあるわけで。そんな織斑君が、クラスで騒動起こす子だって(今回はイギリスの子が発端みたいだけど)知られた日には……。

 

「あ~も~……」

 

机の上の書類も残ってるし、気が滅入るわ~……と思っていると

 

「お、お嬢様!」

 

「どうしたの虚、そんなに慌てて」

 

生徒会室に飛び込んできたのは、代々更識家の従者を輩出している布仏家の出で、私の幼なじみ、布仏虚だった。

 

「に、2,3時間ほど前、本音が整備科を訪ねて来まして……」

 

「本音が?」

 

「はい。なんでも、打鉄弐式を組み上げるために、訓練機の修理パーツをもらえないか、と」

 

なるほど。つまり簪ちゃんは、1人で組み上げるのを止めて、本音に協力を依頼したと。

どうやら、前に進めたようね、簪ちゃん……。

 

「それで、去年発注した予備パーツの一部が余剰となっていたので、それを供出したのですが……」

 

「何か問題があった?」

 

「いえ、先ほど私自身が様子を見に行ったのですが……」

 

 

 

「打鉄弐式が、ほぼ完成していました」

 

 

 

「あんですって~っ!?」

 




陸は機械チート、のほほんも同類という設定です。


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第5話 そっちから来られたら回避不可能

打鉄弐式の組み上げがほぼ終わった翌日、俺は昨日と同じく食堂で昼飯を食っていた。

ただ、昨日と違う点がある。それは……

 

「簪はかき揚げはつゆに浸して食う派か」

 

「違う。たっぷり全身浴派」

 

「お、おう。別の派閥なのか……」

 

「かんちゃん、いつもその食べ方だよね~」

 

簪とのほほん、この2人が一緒にいるってことだ。

何か教室出る時、他のクラスメイトがヒソヒソしてたんだが……変な噂はやめてくれよ……?

 

「ところでのほほん、今日の飛行テストで使うアリーナの予約、出来てるか?」

 

「ばっちり~。ただ、訓練機は全部予約がいっぱいだったから、本当に飛ぶだけになるかな~」

 

「そっか。出来れば実戦データも軽く取っておきたかったが、仕方ないな」

 

「だね~」

 

「普通、そんな簡単に出来るものじゃないはずなんだけど……」

 

俺とのほほんのやり取りに、簪が遠い目をしながらボソリと溢す。

フレーム部分はちゃんとあったし、でかいロボット(モビルスーツ)作るわけじゃないから、あんなもんじゃねぇの?

 

 

「なぁ、ちょっといいか?」

 

「ん?」

 

食っていた唐揚げを飲み込んで顔を上げると、

 

「あ、おりむーだ~」

 

「のほほんさんも一緒だったのか」

 

いかにも好青年ですと言わんばかりの奴が、のほほんと話していた。そして俺以外に男と言えば、もはや1人しかいないわけで……。

……これ、『原作主人公に極力接触せずにいろ』に抵触してねぇよな? 本人から接触してきたんだから、ノーカンでいいよな?

 

「俺は1組の織斑一夏だ」

 

ああやっぱり、原作主人公ですか……。

 

「4組の宮下陸だ」

 

「よろしくな陸。俺の事は一夏って呼んでくれていいから」

 

「そうか。よろしく一夏」

 

そう言って握手をすると、一夏は元居た席に戻って行った。

 

いやまぁ、いきなり下の名前呼び捨てってのはどうなんだ?

……なんて言っても、高校生になったばっかの奴なんだし、そこまで目くじら立てるもんでもないか。俺は別に気にしねぇし。……いい大人がやったら制裁もんだが。

 

「か、かんちゃん……」

 

のほほんの声に、簪の方を見ると、簪が一夏の方を睨みつけていた。

が、しばらくすると深呼吸をして

 

「……大丈夫」

 

それだけ口にすると、再びうどんをすすり始めた。

 

ーーーーーーーーー

 

放課後、アリーナで準備をしている簪とのほほんを待ってる間(ISスーツに着替えてるところに男がいるとかダメだろ?)、俺は生徒会室に寄っていた。

 

「ということなんですが、何か知りませんか?」

 

「そんなことがあったのね……で、どうして私の左腕を取ってるの?」

 

「いえ、はぐらかそうとしたら、昨日みたいに……」

 

 

「何かある度にアームロックしようとしないでくれる!?」

 

 

そんなやり取りの後、パイセンから簪の専用機に関する経緯を聞いた。

一夏の専用機を倉持技研なる機関が引き受けて、先に委託されていた簪の専用機は人員を全部持ってかれたと。

 

「普通そういう場合、他の委託先を決めるもんじゃないんですか?」

 

「初めての男性操縦者かつ織斑千冬(ブリュンヒルデ)の弟ってネームバリューで、みんな浮足立ってるのよ。だから普通とは言い難いわね」

 

「プロとしてそれはどうなんだよ……」

 

「それは私も言ったわ」

 

言ったのかよ。言った上でこれとか、倉持技研と日本政府、度し難いな。

 

「別に一夏が専用機を強請ったわけじゃ無いんですよね?」

 

「それは無いわ。だから織斑君が悪いわけじゃ無いって、簪ちゃんも分かってはいるんだろうけど……」

 

理性と感情は別物、か。

 

「ところで、簪ちゃんの専用機、もう組み上がったんですって?」

 

「おや、どうしてそれを?」

 

打鉄弐式が組み上がった時、俺達3人以外は整備室に居なかったはずだが……。

 

「それは私が確認したからです」

 

そう言って奥の部屋から出てきたのは、眼鏡にヘアバンドをした女生徒だった。

 

「紹介するわ。私の従者、布仏虚よ」

 

「よろしくね」

 

「はい、よろしくお願いします……布仏?」

 

「ええ。今後も妹の本音と仲良くしてあげてね」

 

「妹……妹ぉ!?」

 

つまり、のほほんのお姉さん!? ……って、冷静に考えたら簪とパイセンだって姉妹なんだし、のほほんと虚先輩が姉妹ってのもアリか……。

 

「なーんか、失礼な事考えてない?」

 

パイセンが怪訝そうな目で見てくるが、気にしない気にしない。

 

「それで、決闘の約束ですが……」

 

「分かってる、今更反故になんてしないわよ。ただねぇ……」

 

パイセンはそう言うと、持っていた万年筆で額をコツコツ叩いた。

 

「決闘するためにはアリーナをまるまる借りる必要があるんだけど、先約がねぇ……」

 

「先約?」

 

「お嬢様の代わりに私が説明します」

 

虚先輩が引き継ぐ形で、先約について説明してくれた。

 

 

「つまり、1組のクラス代表を決めるはずが、なぜか一夏とイギリスの代表候補生の決闘騒ぎになったと」

 

「そうなのよ……だから簪ちゃんとの決闘は、来週行われるクラス代表決定戦以降になるわね」

 

「なるほど……」

 

そういうことなら仕方ない。それまで打鉄弐式の強化をしてればいいか。

俺はその説明に納得していたが、パイセンはそこからため息をついて、

 

「しかもその時、お互い相手の国を侮辱するような事を言ってね……」

 

そう言って、パイセンは決闘騒ぎになった原因を話してくれた。

 

 

……『文化としても後進的な国』に『世界一料理が不味い国』って、ガキの喧嘩か。いや、まだ高校生だからガキか。

これがただの高校なら、それこそガキの喧嘩で終わったんだろう。問題なのは、ここがIS学園で、2人の立場がやばいってことだ。

片やイギリス代表候補生。片や希少なIS男性操縦者。穿った見方をすれば、『イギリスの代表』と『世界の男性代表』が揃って失言したと言える。下手すりゃ日英の外交問題に発展しかねない。

 

「しかも、その場で喧嘩両成敗にでもして発言を撤回させれば良かったんだけど、織斑先生がそのままスルーしちゃったから……」

 

「織斑先生って、一夏の血縁者ですか?」

 

「お姉さんよ」

 

「……普通、生徒の血縁者は担任にならないよう配慮するものでは?」

 

「そうなんだけどねぇ……」

 

それだけ言って、遠い目をしながらパイセンは顔を窓の方に向ける。その遠い目だけは姉妹そっくりだな。

何らかの力が働いたってことか。ブリュンヒルデのネームバリューはすごいな。

いやいや、褒めてどうすんだよ。1年1組は生徒から担任まで猪揃いか。

 

「まぁいいです。俺には関係なさそうですから」

 

「貴方はいいの? 同じ男性操縦者なのに、自分だけ専用機をもらえないなんて」

 

「別にいりませんよ。あれば簪の専用機と戦って、実戦データを取るのに丁度いいかもってだけで。無いなら無いで、訓練機を借りれば事足りますから」

 

「はぁ……聞いてた通り、根っからのエンジニアなのね」

 

感心したようで、実際は呆れたような顔をされた。解せぬ。

 

「聞きたいことも聞けたんで、ここらでお暇させてもらいます」

 

あんまり簪達を待たすのも悪いからな。

 

「ええ。決闘の日程が決まったら虚に伝えに行かせるから」

 

「分かりました。虚先輩、よろしくお願いします」

 

「ええ、本音にもよろしく言っておいて」

 

最後にパイセンと虚先輩に会釈して、俺は生徒会室を後にした。

 

ーーーーーーーーー

 

「彼、なかなか特徴的でしたね」

 

「いきなり私にアームロックをキメようとするんだから、普通じゃないわね」

 

「……私もお嬢様が何かやらかしそうになったら、アームロックで――」

 

 

「お願いだから止めて!?」

 

 

この学園はISの操縦方法とかを習うところであって、アームロックを習う場所じゃないわよ!?

折れちゃうから! 私の腕と心が折れちゃうから!!

 

「それでお嬢様、本気で簪様と戦われるおつもりですか?」

 

「……」

 

虚ってば、唐突に痛いところを突いてくるわねぇ……。

 

戦えるんだろうか、私に。簪ちゃんを前にして、本気で。

 

「やるわよ」

 

本当は嫌だけど、簪ちゃんを傷つけかねない事なんて、したくないけど、でも……

 

「そうじゃないと、簪ちゃんが納得しないだろうから……」

 

「お嬢様……」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

 

「これは、私が支払うべきツケだから」

 

簪ちゃんに嫌われるのが怖くて、お互いの本音を、想いを伝え合うことを今まで避け続けて来た私の、負の遺産。

だからここで清算しなければならないんだ。彼と幼なじみ(宮下君と本音)が、その機会をくれたのだから。



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第6話 翔んで簪

サブタイがあれですが、本編にディスり要素はないです。


生徒会室からアリーナに戻ってくると、打鉄弐式を纏った簪とのほほんが待っていた。

 

「りったんおかえり~」

 

「おう、ただいま。準備は万端みたいだな」

 

「うん。……ところで陸、どこ行ってたの?」

 

「ああ、生徒会室にな」

 

「生徒会室……お姉ちゃんに会ったの?」

 

「お前との決闘についてとか、まぁ色々話があってな」

 

俺は簪とのほほんに、生徒会室であったことを話した。

 

「そう……来週以降になるんだ……」

 

「かんちゃん、おりむーについては……」

 

「大丈夫、本音。彼に当たっても仕方ないことは、分かってるから」

 

不安顔ののほほんにそう返しているが、あまりいい感情は持ってないな。やっぱ理性と感情は別物か。

 

「今はそれより、飛行テストをやっちまおうぜ。アリーナの予約時間も有限なんだしな」

 

「そうだね……」

 

「う、うん。それじゃあ準備始めるね~」

 

場を紛らわそうと俺が話を変えると、二人もそれに乗ってそそくさを準備を始めた。さて、俺も測定器とか準備するか。

 

 

――5分後

 

「それじゃあかんちゃん、今回が打鉄弐式の初飛行だから、最初はゆっくりね~」

 

「うん、分かってる」

 

そう言って頷いた簪は、PIC制御で中空に浮かぶと、ゆっくりと上空に加速していった。

ここまでは順調、だな。

俺は通信装置(ISのプライベート・チャネルにも繋がるらしい)を手に掴むと、打鉄弐式に繋いだ。

 

「簪、聞こえるか?」

 

『うん、聞こえてる』

 

「打鉄弐式に何か変なところは無いか? 異音とか振動とか」

 

『問題ない。普通の打鉄より、スムーズに飛んでくれてる』

 

「そうか。なら、さらに少しずつ加速してみてくれ」

 

『分かった』

 

通信が切れると、打鉄弐式はカスタム・ウィングの出力を上げて、アリーナの内側を回るようにさらに加速を始めた。

 

「さらに速度上昇……今、打鉄の最大速度を超えた」

 

「お~! やった~!」

 

俺の計測結果を聞いて、隣で双眼鏡を持ったのほほんがピョンピョン飛び跳ねていた。

おいおい……喜ぶのはいいが、ちゃんと打鉄弐式からの信号は確認しててくれよ?

 

「簪、一度戻っていてくれ」

 

『分かった……一つだけ、試してみたい事があるんだけど、いい?』

 

「試してみたい事? 危ない事じゃねぇよな?」

 

『大丈夫、弐式を壊すような真似はしない』

 

「……まぁいいか」

 

そう俺が了承すると、簪はこちらに戻って来て――待て、どうして減速しない?

どんどん俺達と簪の距離が近づいて……って、おいおい待て待て待て!

 

「ちょ、おま!」

 

――ブワッ

 

簪が急減速で停止したのは、俺との距離50cmやそこらだった。

 

「おま! 危ねぇじゃねぇか!」

 

危ない事じゃないって言ったよな!?

 

「陸を驚かせたかった。それに『弐式を壊すような真似はしない』とは言ったけど、危なくないとは言ってない」

 

「確かに、りったんの驚く顔はレアだよ~」

 

「お、お前らなぁ……」

 

「急減速の試験も出来たし、万事問題なし」

 

「そうだね~。フレーム負荷も許容範囲内だったし、飛行テストは大成功だよ~」

 

ダメだ、こりゃ何言っても多勢に無勢だ。

 

「分かった分かった。それじゃあ今日のテストはここまでにして、後日武装のテストをするか」

 

「武装……春雷はともかく、山嵐はさすがに……」

 

「う~ん、訓練機も借りられないから、夢現のテストも難しいかな~……」

 

対戦相手がいないと、薙刀の素振りぐらいしか出来ないもんなぁ。

 

「仕方ない、当分は春雷の動作確認を兼ねた射撃訓練を重点的にやるか」

 

「それしかない、かも」

 

「そだね~」

 

俺達3人は頷くと、計測機材等を片付けてアリーナから撤収した。

 

ーーーーーーーーー

 

「すごかったですね……」

 

「ええ、予想以上だったわ」

 

管制室からこっそり覗き見してたけど、簪ちゃんの真剣な顔、良かったわ~……じゃなくて!

 

「打鉄弐式。たった1日で組んだとは思えない出来だったわ」

 

「はい……本音も参加しているはずですが、それだけであれだけのものが出来上がるとは思えません」

 

「あら、姉としての贔屓目はないの?」

 

「贔屓目を勘定に入れても、です」

 

「つまり、宮下君の影響が大きいと」

 

「私はそう考えます」

 

「そうなるわよねぇ……」

 

私が知ってる中でも、本音は学園内で虚に次ぐメカニックだ。それを超える能力を持ち、希少な男性操縦者、か。

 

「お嬢様、彼を更識の家に取り込もうなどと、変な気を起こしませんよう」

 

「分かってるわよ。そんなことしたら――」

 

「アームロックですね」

 

 

「いい加減それから離れてくれない!?」

 

 

何!? 私ってもう宮下君にアームロックされるキャラで固定なの!? 実際まだ2回しかされてないわよ!

 

「ですが、あの打鉄弐式でも……」

 

「ええ、私の霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)には届かないでしょうね」

 

残酷だけど、それが現実だ。虚から聞いている打鉄弐式の武装の内、警戒するべきは山嵐だけ。しかも、今の24本じゃない、48本フルスペックの場合だ。

現状では、ミステリアス・レイディを墜とすには、まだ足りない。

 

「まだ1週間以上あるんだし、何か手を打つんじゃないかしら」

 

「そう、ですね」

 

「とりあえず見るもの見たし、私達も引き揚げましょう」

 

「はい」

 

ーーーーーーーーー

 

――整備室

 

「それでは、打鉄弐式の強化を行いたいと思いまーす」

 

「お~」

 

「なんで!?」

 

簪、ナイスツッコミ。

 

「飛行テストも成功したのに、どうしていきなり強化って話になるの!?」

 

なんか最初の頃に比べて、簪の根暗っぽさが無くなってる気がするな。良い事だ。

 

「いやぁ、お前の姉ちゃんのISについて調べたんだが、ありゃエグいわ」

 

「たっちゃんのIS、そんなになの~?」

 

「ああ、エグいもエグい」

 

というかのほほんよ、パイセンってお前ら布仏の主家なんだろ? その呼び方でいいのか? ってそれを言ったら簪もなんだが。

 

「ナノマシンで水を操って防御フィールドを常時展開、しかもその水を水蒸気爆発させてリアクティブアーマー化。これだけでもエグい。さらに水を高周波振動させて武器に纏わせることで、切断力や貫通力をアップ。さらにエグい」

 

学園内で調べられる範囲でもとんでもない。今の打鉄弐式じゃ勝ち目が薄い。……やる前から『勝ち目は無い』なんて言うつもりはないぞ。

 

「うわ~……」

 

「……」

 

俺の話を聞いた二人も若干引いている。気持ちはわかる。

 

「とはいえ、今からゴテゴテと新装備をつけても簪の負担が増えるだけだ。だから出力配分やスラスターの調整による機動力強化だけに留めようと思う」

 

「そうだね~、かんちゃんには予定通り、春雷や夢現の訓練に集中してもらった方が良いかも~」

 

「うん。私もそう思う」

 

意見が一致したところで、俺とのほほんが機体の調整、簪が動作を確認する作業を、整備室が閉まる時間ギリギリまで続けた。

 

「出来れば春雷は、早めに射撃試験してぇなぁ……」

 

「どうして~?」

 

「いやぁ、データの収集元(ミノフスキー粒子)打鉄弐式(ISの動力)じゃ規格が違うから、早めに動作確認しておきたいんだよなぁ」

 

「りったん……それって、最悪春雷無しでたっちゃんと戦うことになるんじゃ~……」

 

「陸ぅ……?(ギロリ)」

 

いやいや簪さん! 怖いから! その睨み方は怖すぎるから!

 

「だ、大丈夫だって! もし動作確認時に動かなかったとしても、決闘当日までには間に合わせるから!」

 

「安請け合いは、いけないと思う……」

 

まーだ簪はジト目で見てくるが、問題ない。何故なら

 

 

「(授業全部)サボりも、(夜中整備室に不法侵入して)徹夜も、あるんだよ」

 

「危ない発言しかない!?」

 

「クラスのみんなには、内緒だぞ☆」

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

 

 

「二人とも、仲がいいね~」

 

 

 

なお後日、春雷の試射をしたところ

 

――ドォンッ!

 

「問題無かったね~」

 

「ああ、そうだな(チラリ)」

 

「私悪くない……」

 

簪の膨れっ面が印象的だった。



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第7話 休みの日ほど、なぜか忙しい

春雷の試射をした翌日。今日は打鉄弐式の調整や動作確認は無しにしようということになり、俺は放課後、一人食堂でコーヒーをすすっていた。

 

「よう陸」

 

するとそこに、一夏が一人でやってきた。

 

「珍しいな、いつも昼の食堂以外で見かけたことなかったのに」

 

「かもな。朝は大体俺の方が早いみたいだし、放課後は整備室に居るからな」

 

「へぇ」

 

というやり取りをしつつ、一夏は俺の向かい側に座ると、手に持っていたペットボトルのスポーツドリンクを飲み始めた。

 

「それより聞いたぞ。イギリスの代表候補生と決闘になったんだって?」

 

「ああ、それな……」

 

話を振ると、一夏はゲンナリした顔をした。

 

「しかもお前、『世界一料理が不味い国』って言ったんだろ」

 

「いやだって、実際そうだろ?」

 

そうかそうか、つまりお前はそういう奴なんだな。

 

「一夏、ちょっと立ってくれ」

 

「え? あ、ああ……」

 

そう言って席を立った俺につられて、一夏も椅子から立ち上がる。

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「いだだだだだだ!」

 

 

お仕置きアームロックである。

 

「お前なぁ。どうせテレビやネットの情報だけで言ってるんだろ?」

 

「いだだだ! だってそうだろ! フィッシュ&チップスは油ギドギドでぇぇぇ! 魚の頭を載せたパイとかおかしいだろぉぉぉぉ!」

 

「あのなぁ、それって『日本食? 納豆とかイナゴの佃煮とかだろ? きっもーい』って言ってるのと変わらんぞ。一部のゲテモノを挙げて全体を貶すな」

 

「に、日本にはそれ以外にもぉぉぉぉ! うまいもんがあるだぁぁぁぁぁろぉぉぉぉ!」

 

「はぁ……」

 

一旦アームロックから解放した。

 

「なぁ一夏、お前ローストビーフは好きか?」

 

「え、なんだよ突然。好きだけど」

 

「あれ、イギリス料理だぞ」

 

「はぁ!? う、嘘だろ!?」

 

「ホントだホント。それとお前が油ギドギドって言ってたフィッシュ&チップスだって、店によっては美味いらしいぞ。縁日の屋台で売ってるたこ焼きみたいなもんじゃねぇかな」

 

あれはホント当たり外れがでけぇんだよなぁ。生地が真っ黒焦げでも、ソースが塗ってあると外れかどうか食うまで分からん時あるし。

 

「マジか……」

 

「ちゃんと調べたわけでもない知識で批判や反論しても、碌なことにならないぞ」

 

「今度から気を付ける……」

 

自分のやらかした事を理解したのか、一夏はしょんぼりした顔で頷いた。

 

「件の代表候補生、確か……オルコット、だったか? 決闘後にでも謝っておけ」

 

「でも、あいつだって『文化としても後進的な国』って……」

 

「だから自分から先には謝らないって? 男らしくないぞ」

 

「うぐっ!」

 

どうやら『男らしくない』は一夏にとってクリティカルだったらしい。そのまま膝から崩れ落ちた。

 

「わ、分かった。明後日の代表決定戦が終わったら謝るよ」

 

「そうしとけ」

 

それにしても明後日か……どっちがクラス代表になるかは興味ないが、イギリスの第3世代機は見てみたい気もするな……。

 

ーーーーーーーーー

 

「そっか~、もう明後日なんだね~」

 

一夏が居なくなった後、入れ替わりのようなタイミングでのほほんが現れ、そのまま向かい席に座ったのだった。

 

「のほほんは1組だから、当日はアリーナで見学できるんだろ?」

 

「そだよ~。りったんも興味あった~?」

 

「イギリスの第3世代機とやらは、実際に目にしてみたかったな」

 

一応、打鉄弐式も第3世代機らしいが、レーザーとかエネルギー弾とか、もっとそれっぽいのが見たいんだよなぁ。

 

「りったんは相変わらずだね~」

 

「おう。機械馬鹿上等だ」

 

のほほんが苦笑しているが、それで傷つくような性格はしてないもんでな。

 

「それにしてもりったん、たっちゃんだけじゃなくて、おりむーにもアームロックしたんだね~」

 

「ああ。あれはちゃんと周りが注意してやらんと、その内とんでもない事になりそうだったからな」

 

先入観だけで突っ走るのも高校生にはありがちではあるんだが、こと『IS学園』で、しかも"数少ない男性操縦者"というネームバリュー持ちでそれをやると、後々やばい事になりそうなんだよなぁ。

 

「りったん、何だかんだで面倒見いいよね~」

 

「そうか?」

 

「うん。かんちゃんの事だって、ISを弄りたいだけなら、他にも方法はあったはずなのに~」

 

「そりゃあ、まぁ」

 

言われてみれば、確かに無理して簪の専用機に拘らなくても良かったはずだよな。いくらあの段ボールの中身を見て、ISを弄りたくなったとはいえ。

だが俺はあの日、簪に組み上げの手伝いを提案した。それは多分……

 

「見ちまったから、だな」

 

「見たって、何を~?」

 

「整備室に鎮座してた未完成の打鉄弐式。あれを見た時思ったんだよ。あれを組み上げてみたい。完成した姿を見てみたいって」

 

「へぇ~」

 

のほほんがニヤニヤしてこっちを見てくる。何だよ。

 

「りったんも、男の子だね~」

 

ーーーーーーーーー

 

――その夜、学生寮1032号室

 

「という事があった」

 

「陸、何もない日の方がイベント多い?」

 

「それは俺も思った……」

 

おかげで休んでたはずなのに、休んだ気が全然しないんだよなぁ……。

 

「ところで簪は何してたんだ?」

 

「アニメ鑑賞。ニチアサ物をじっくりと」

 

キランと簪の眼鏡が光った気がした。

 

「ニチアサかぁ、昔はよく見てたなぁ」

 

「そうなの?」

 

「見てた当時は、○○レンジャーとか△△マンとかだったな」

 

「○○レンジャーは伝説……!」

 

お、おう。ガッツポーズするぐらいなんだな。

 

「DVDBOXがある。今から見よう」

 

「今から……今から!?」

 

おいおい、あと1時間もしないうちに消灯時間だぞ。

 

「大丈夫、いい方法がある」

 

「いい方法って……」

 

 

さて、簪の言う"いい方法"だが……

 

「○イン・コ○ギ、やっぱこの頃は若っけぇなぁ」

 

「○流満月斬りは至高……」

 

仕切りのあった場所にサイドテーブルを持ってきて、DVDプレイヤーとポータブルテレビを設置。そこからワイヤレスイヤホンをそれぞれの耳にIN。

さらに元々あった仕切りをドア側に持ってきて、テレビの光が極力漏れないようにする配慮っぷり。簪、貴様慣れているな!?

 

当然DVDBOX全巻を見れるわけもなく、俺も簪も途中で寝落ち。翌日二人揃って目に隈を付けた状態で登校する羽目になった。

 

「二人とも、昨晩はお楽しみだった?」

 

「うん、(○○レンジャー)楽しかった……」

 

「「「「キャー!!」」」」

 

「おーい簪ー。誤解生むような事言うなー」



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第8話 真紅の(あかい)

シリアス要素補給。
そして唐突なクロスオーバー要素。


夢、なんだと思う。

眼下に広がるのは、ヨーロッパを思わせる街並み。いや、規模からして村になるのだろうか。その村の一画にある木造の店だろうか、その建物が、燃えていた。

そしてそこから少し離れたところに誰かが、()()()()()()()が落ちていた。あれは、おそらく……

 

(何……これ……)

 

どうして、私はこんな夢を見ているんだろう……。

気持ち、悪い……。

夢の中なのに、なぜかIS学園の制服を着ていた私は、自分の肩を抱いてガタガタと震えることしかできなかった。

 

「おっと、楽しくないもんを見せちまったな」

 

突然どこからか声がした。すると、さっきまでの光景が消えて、辺りが真っ暗になった。

ううん。1カ所だけ、明かりがあった。その明かりの下に誰かがいた。

Yシャツとネクタイにジャケットを羽織った、私より一回り年上に見える、赤髪の男の人が。

 

「貴方、は……?」

 

「俺か? 俺はランド――いや、ランディとでも呼んでくれや」

 

その人――ランディさん――は、気さくに答えた。

 

「今のは、貴方が?」

 

「いやいや、ホントすまん。女の子に見せるもんじゃねぇよな」

 

そう言って、ランディさんは頭を掻いた。それにしても、この人の声、どこかで……それよりも、

 

「ここは、どこなんですか?」

 

「ここか? どう言ったらいいもんか……かっこよく言えば、『心の世界』ってやつだ」

 

「心の、世界……?」

 

「そう。本来、個人で閉じて誰とも交わらない世界のはずなんだが、偶々嬢ちゃんの世界と俺の世界が近づいたんだよ。こうやって会話も出来るぐらいにな」

 

あり得ない……けど、ただの夢にしては出来過ぎてる気もする……

 

「原理とかは聞くなよ。俺も偶然()()()に飛ばされて、やっと状況が掴みかけたところなんでな」

 

「こっち?」

 

どういう意味だろう?

 

「まぁ気にしなさんな。で、今嬢ちゃんが見たのは、俺の記憶、俺の過去だ」

 

「貴方の、過去……」

 

もしかして、あの火事の生き残り……?

 

「それは違う」

 

思っていたことが顔に出ていたのか、ランディさんは首を横に振る。

 

「俺は……焼いた側の人間だ」

 

「っ!?」

 

「まぁ引かれるよな普通。俺は昔、とある猟兵団に所属していた」

 

「猟、兵?」

 

「ああ、そっちの世界には無いのか。要はすげー強い傭兵みたいなもんだ」

 

「傭兵……それより、"そっちの世界"って?」

 

"裏"の世界ってこと?

 

「そのまんまの意味さ。俺は嬢ちゃんとは違う世界、所謂『異世界』ってやつの住人だ」

 

「異世界……」

 

正直信じられない……けど、嘘にしては"猟兵"なんて単語が出てくるものだろうか?

 

「で、だ。さっきのは、俺が昔与えられた任務での出来事でな、敵対していた猟兵団の部隊を、俺の隊だけで殲滅しろって任務だった。倍近い戦力差、だがこちらは奇襲と地形を利用出来る強みがあった。奇襲による陽動、意図的に崖崩れを起こすことでの分断、各個撃破。全ては順調に進んだ……はずだった」

 

そこで言葉を切ると、ランディさんは天を仰いだ。

 

「作戦なんて予定通りいかないもんでな。民間人に犠牲者は出さないつもりだった。だが現実は、戦闘地点が近くの村寄りに大きくずれ込み……一軒の雑貨屋を巻き添えにした」

 

飄々と話してるけど、その顔には、後悔しか感じ取れなかった。

 

「多分、猟兵仲間以外で初めてダチと言えるやつだった。いずれ自分の店を持つのが夢だって言ってたんだ。その夢も、命も、全て俺が奪ったんだ……そして分からなくなっちまった。俺の猟兵としての人生と、あいつの店を持つって些細な夢、果たしてどちらに意味があったのか」

 

「……」

 

「これは俺の背負った"業"だった。猟兵でありながら修羅になり切れなかった、中途半端に戦場に生きてきた俺の、な」

 

「業……」

 

「幸い俺にも仲間がいてな。そのおかげで"業"を断ち切ることが出来た」

 

だからな、とランディさんは私の頭に手を置いて

 

「嬢ちゃんも、誰かの助けを借りてでも、()()()()自分の"業"から逃げるんじゃないぞ」

 

"業"から逃げるなって……

 

マタ、ニゲルノカ?

 

まさか!?

 

「貴方は、あの時の声――」

 

ーーーーーーーーー

 

「っ!」

 

IS学園の学生寮の自分のベッド。つまり、いつもの場所で私は目を覚ました。

まだ部屋が暗いところを見ると、夜中に起きちゃったんだろう。

 

「夢……」

 

あまりにもリアルな夢だった気がする。さっきから動悸が激しくて辛い。

 

「すぅ……はぁ……」

 

何度か深呼吸をすると、何とか動悸が収まってきた。

 

("業"から逃げるな、か……)

 

私が、何から逃げてるというんだろう。本音と和解し、打鉄弐式もほぼ完成している今、一体何から……。

 

(ダメ……何も思いつかない)

 

とにかく、今は無理にでも寝よう。

 

ーーーーーーーーー

 

「1組の連中、アリーナに集まってる頃か」

 

「うん、多分……」

 

いつもの放課後、整備室で打鉄弐式の調整をしている俺と簪。ただ、今日はのほほんはいない。1組のクラス代表決定戦を観戦してる頃だろう。

 

「それにしても簪、大丈夫か?」

 

「何が……?」

 

「いや、妙に頭がフラフラしているというか……」

 

「大丈夫。ちょっと寝つきが悪かっただ……け……」

 

「うぉっと!」

 

突然カクンと倒れそうになった簪を慌てて支える。あっぶな!

 

「だ、大丈夫だから……」

 

「ダメだ。こんな状態で作業したら、パイセンとの決闘する前に怪我すっぞ」

 

せっかく専用機は完成したのに、パイロットが怪我で不戦敗とか悲しすぎんだろ。

仕方ない。この前アドレス交換したのほほんにメールしてっと。

 

「よっこらせ」

 

「えっ?」

 

端末を仕舞うと、俺はきょとんとする簪をおんぶした。

 

「ま、待って……!」

 

「いいから部屋に戻って寝ろ」

 

「じ、自分で戻れるから……!」

 

「そう言って、さっきまでフラフラして倒れそうだったやつが言っても説得力無いぞ」

 

「そ、それはそうだけど……!」

 

「安心しろ。極力人に出会わないルートを通っから」

 

「ほ、ホントに……?」

 

「おうよ」

 

そう言って、俺は学生寮に向かって歩き出した。……途中、エドワース先生にだけは出会ってしまったが。

 

ーーーーーーーーー

 

「着いたぞー」

 

「うう~……」

 

寮の部屋に着いて簪をベッドの上に降ろすが、まーだお冠のようだ。よほど先生に見つかったのが恥ずかしかったと見える。……俺も恥ずかしかったがな。

 

「ほれ、いいから一旦寝ろ」

 

そう言うと観念したのか、簪は掛け布団を被ると、そのままベッドに横になった。

さて、今日は今まで取ったデータの整理でもすっかなー。

 

「ねぇ、陸」

 

「どした? 寝つけねぇのか?」

 

「うん……変な夢を見そうだから」

 

「変な夢?」

 

「異世界人が出てくる夢」

 

「それはまた……ファンタジーだな」

 

正直、簪らしくないジャンルだと思うな。てっきり戦隊シリーズの世界に自分が入り込んだ夢とか見そうなイメージだったが。

 

「だから、眠くなるまで話に付き合って……」

 

「話なぁ……まぁいいか。で、何の話をするんだ?」

 

「戦隊ものの話……」

 

「……別にいいが、話に熱中して眠くなくなるとか無しにしてくれよ」

 

 

結局簪が寝付くまで、恐竜がモチーフの戦隊ものの話を1時間近くする羽目になった。だから熱中するなと……。

 

その後、のほほんからメールが来た。

 

『おりむー、自滅してせっしーに負けたよ~」

 

ええ~……



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第9話 (ごう)

そろそろ評価バーが青スタートになりそうな感じですね。
それでも完走までは頑張ってみますね。


「決闘の日程が決まりました」

 

整備室に来た虚先輩がそう告げたのは、1組のクラス代表決定戦の翌日だった。

 

「明日の放課後、第3アリーナになります」

 

「明日ですか? ずいぶん急ですね」

 

「ごめんなさい。ちょうど明日、アリーナ予約のキャンセルがあってね、そこを逃すとしばらく空きがなくって」

 

「いえ、伸び伸びにされるよりは良かったです」

 

あんまり引き延ばされたら、簪もモチベーションの維持が大変だったと思うし。

 

「いよいよだね~」

 

「うん……」

 

ここまで準備してきた成果が、とうとう試される時が来たか。

 

「それと簪様。お嬢様から伝言を預かっております」

 

「お姉ちゃんから……?」

 

「はい。『全力で挑んで来なさい』とのことです」

 

「……」

 

「かんちゃん……」

 

俯いた簪を心配するのほほん。

 

「それでは、私はこれで」

 

最後に簪に対して深々とお辞儀をして、虚先輩は整備室を出て行った。

 

 

「りったん」

 

「どうした?」

 

「かんちゃん、きっと勝てるよね~……?」

 

勝負は水物だからなぁ。だが、

 

「俺達は勝つために全力を出した。後は成果を出し切るだけだ」

 

「ぶ~、りったん勝てるって言ってよ~。ねーかんちゃん」

 

「……」

 

「かんちゃん?」

 

「え、な、何?」

 

「かんちゃんはきっと勝てるよね~?」

 

「う、うん。勝ちたいと思ってる」

 

「だよね~」

 

思ってた返答が来てのほほんはニコニコしているが、簪の表情は固い。

 

「それで結局、打鉄弐式の性能ってどれぐらい上がったんだっけ~?」

 

「本音……知らないの……?」

 

「とにかく前より上がってればいいと思ってたよ~」

 

「はぁ……」

 

のほほんの反応に、簪がこめかみを押さえながらため息をついた。

 

「組み上がった先週時点から、機動力は2割増しぐらいになってるはずだぞ」

 

「おお~、結構上がったね~」

 

「スラスター周りは結構弄ったからな」

 

その分、防御性能は原型の打鉄から据え置きになっちまったが。

 

「十分。これ以上上がっても、私が使いこなせないかも」

 

「そうか?」

 

「うん。私はこれで、お姉ちゃんに挑む」

 

そう言って、簪は握りこぶしを胸に当てた。

 

「陸、本音。本当にありがとう」

 

「簪……」「かんちゃん……」

 

「私一人だけだったら、打鉄弐式は完成しなかったと思う。お姉ちゃんにも挑戦出来なかった。だから、ありがとう」

 

「まったく……お礼を言うのはまだ早ぇぞ」

 

「え……?」

 

「感謝の言葉は、パイセンに勝ってから受け取るからな」

 

「うん、そうだね~」

 

「で、でも……」

 

「かんちゃん」

 

のほほんは簪に近づくと、だぼだぼ袖で簪の頬をサンドした。

 

「ほ、本音?」

 

「大丈夫、かんちゃんなら勝てるよ~。だって、かんちゃんが頑張ってたの、私知ってるもん~。だから、ね?」

 

「本音……」

 

まだ少し悩んでる風ではあったが、最後には簪も頷いた。

 

ーーーーーーーーー

 

その晩、簪達と食堂で夕食を食ってる最中

 

「そういえば、1組のクラス代表って誰になったの?」

 

思い出したように簪が話題に出した。

簪は4組のクラス代表だから、来月のクラス対抗戦で当たる可能性がある。打鉄弐式が出来上がって、気にする余裕が出てきたのだろう。

 

「確か、イギリス代表候補生のオルコットが勝ったんだよな」

 

「うん。でも、せっしーが代表を辞退しちゃったんだよ~」

 

「辞退? どうして」

 

「せっしー曰く『IS操縦には実戦が何よりの糧になりますから、一夏さんの成長のためにも、クラス代表を譲りますわ!』だって~」

 

そうか……そしてのほほん、俺はオルコット本人に会ったことは無いが、たぶん全然似てねぇと思うぞ、その声マネ。

 

「それと、そのあとちょっと良い事があってね~」

 

「良い事?」

 

「なんとおりむーが、せっしーに謝ったんだよ~。『メシマズの国とか言ってすまなかった!』って~」

 

「ほう?」

 

そうか、ちゃんと謝罪できたのか。一夏の奴、やれば(理解させれば)できる子だったじゃないか。

 

「そしたらせっしーも『わ、わたくしも文化としても後進的な国などと、代表候補生にあるまじき失言に対して謝罪しますわ……』ってクラス皆に頭を下げたんだよね~」

 

「そんな失言してたの……?」

 

簪、クラス代表決定戦の裏話を知って激おこぷんぷん丸一歩手前になってるな。いや、半分以上呆れてるな。

 

「しかもその後、しののんとせっしーがおりむーを取り合う展開に~」

 

「何、それ……」

 

「しかもおりむー鈍感だから、どっちの気持ちにも気付いてないんだよね~」

 

「うわぁ……」

 

話の流れから、『しののん』っていうのもクラスの女子なんだろ? つまりその女子とオルコットでハーレム状態なのに男の方が気付いてないとか、お前の感性どうなってんだよ一夏……。

 

「ま、まぁ、一夏の女性関係については置いといて……」

 

これ以上この話をしても、不毛な気がしてきたからな。

 

「まとめると、クラス対抗戦で一夏と簪が当たる可能性があるってことだな」

 

「そだね~」

 

「まぁ相手が誰であろうと、簪なら余裕だろ」

 

「そのとーり!」

 

「陸も本音もやめてよ……」

 

俺とのほほんにヨイショされた照れ隠しなのか、簪は普段の5割増しの早さでうどんをすすり始めた。

 

ーーーーーーーーー

 

「ねぇ、陸」

 

消灯時間後、簪がこちらに顔を向けて声をかけてきた。(仕切りは前の○○レンジャー鑑賞会から戻し忘れてる)

 

「どした? 今日も寝つけねぇのか?」

 

「それもあるけど……」

 

そう言って黙り込んだ簪だったが、

 

「私の"業"ってなんだろう……」

 

「……それが、お前が最近寝付けなかった理由か?」

 

「……うん」

 

「この前言ってた変な夢にも絡むのか?」

 

「……うん」

 

「そうか」

 

ファンタジーな夢を見て、どうしてこんな重たい命題が出てくるのやら。それにしても"業"とは

 

「こいつはまた、哲学的な事を聞いてくるなぁ」

 

業、行い、行為。因果の"因"の部分。主に悪い事の原因、過去の出来事ってことだが……。

 

「何か悪い事でもあったのか?」

 

「それが分からない……」

 

「oh……」

 

因果の"果"の部分が分からんのに、"因"の部分を推測するとか無理ゲーだろ。

 

「のほほんとも和解したし、打鉄弐式も完成してるし、あとは明日パイセンと戦って勝てば万々歳だろう?」

 

「お姉ちゃんに、勝てば……」

 

「そりゃそうだ。もしかして簪、まーだパイセン相手に勝ち目は無いとか思ってんのか?」

 

確かに相手は国家代表。勝ち目は薄いだろうが、かと言って気持ちで負けてたら勝てる勝負も勝てないぞ。

 

「か、勝ちたいと思ってる……」

 

「……そうか、そうだよな」

 

それだけ言って、俺はベッドから立ち上がると、横になっている簪の頭を撫でた。

 

「え……」

 

「そんだけ考えても分からんなら、一旦保留しとけ」

 

「そ、そうだけど……」

 

「寝付くまで撫でてやっからさ」

 

「そんな、私は子供……じゃな…い……」

 

最近ちゃんと寝れてなかったんだろう。段々簪の瞼が落ちていき、

 

「すぅ……」

 

そのまま寝息が聞こえてくるのに、さして時間はかからなかった。

 

 

 

「勝ちたいと思ってる、か」

 

寝付いた簪を見ながら、俺は今さっき簪が口にしたセリフを反芻した。

勝ちたいと思ってる。それは言い換えれば『勝てるとは思ってない』とも取れる。

 

おそらく簪は、パイセンと戦って自分が勝つ姿が想像できないのだろう。幼い頃から優秀な姉と比較されて、負け続けた影響で。

もしかしたら、勧善懲悪のヒーローものが好きなのも、『負けた自分を助けに来てくれるヒーロー』を求めてるからなのかもしれない。

でもな簪、お前が勝たなきゃ意味が無いんだ。そうじゃなきゃお前は、"お前の中の姉ちゃん"に負けたままだ。過去の自分を、乗り越えられない。前に進めないんだ。

 

「多分それが、お前の"業"なんだろうな」

 

最後にもう一度、俺は簪の頭を撫でた。



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第10話 けじめ

シリアスなバトル回を書こうとすると、いつもより時間がかかる病気。
あれ? 評価バーが緑? えっと……高評価ありがとうございます。


決闘当日。指定された第3アリーナに入ると、お姉ちゃんが待っていた。

 

「お姉ちゃん……」

 

「簪ちゃん……」

 

私の打鉄弐式と、お姉ちゃんのミステリアス・レイディ。2機のISが向かい合う。

 

「言いたいことはいっぱいある、はず……けど、うまく言葉に出来ないから、戦って、全てをぶつけたい」

 

「そう……分かったわ。かかってきなさい」

 

私が夢現を展開すると、お姉ちゃんも水を纏った槍――確か、蒼流旋だっけ――を展開した。そして

 

 

――試合開始のブザーが鳴った。

 

 

――ドォン!

 

――ドドドドッ!

 

私は試合開始と同時に、春雷を撃ち込んだ。それとほぼ同時に、お姉ちゃんも蒼流旋についた4門のガトリングガンで撃ってきた。

お互い、射撃を繰り返しながらも距離を詰めていく。そして、ミステリアス・レイディの周りの水が蒼流旋に集まり出したところで――

 

「そこぉ!」

 

「っ!」

 

防御用の水を攻撃用に転換する際のわずかな間。私が放った夢現の一撃は、お姉ちゃんの腕部装甲を少し掠るだけに留まった。だけど高速振動の一撃は、装甲に確かな傷跡を付けていた。

 

「高速振動の接近武器、だったわね?」

 

「知ってたんだ……」

 

「ええ、対戦相手の情報収集は戦いの基本だからね」

 

事前に情報が知られていた。悔しいと思う反面、嬉しいとも思う。それはお姉ちゃんが『勝つために情報を集める必要がある相手』だと認識したということだから。

 

「それじゃあ、今度はこっちから行くわよ」

 

「っ!」

 

周囲の水を纏った蒼流旋――表面を超振動させて貫通力の増した刺突――が、私に襲い掛かった。

 

ーーーーーーーーー

 

「あわわわ~……!」

 

「さすが学園最強、やっぱ強いな」

 

「はい。あれでも一国の国家代表ですから」

 

ピットで簪を見送った後、俺とのほほんは観客席に移動し、そこで虚先輩と合流していた。

 

「お嬢様曰く、『フルスペックの山嵐以外脅威ではない』と」

 

「ちっ、やっぱり情報収集してたんですか」

 

「ええ。本音が整備科に来た時から、ね」

 

つまり、あの(第5話)時点で、打鉄弐式が完成したことだけじゃなく、山嵐が未完成だってこともバレてたわけか。

 

「お姉ちゃんずる~い!」

 

「いやのほほん、俺だってミステリアス・レイディの情報を集めて簪に話したんだ。条件はイーブンってことになる」

 

「あ、そうか~……」

 

のほほんは納得したものの、しょんぼりした。

 

「ほら、簪が戦ってんだ。しょんぼりしてないで応援してやれ」

 

「そ、そうだね~!」

 

そう言って視線をアリーナに戻したのと同時だった。

 

 

――ドゴォォォォォンッ!!

 

 

耳をつんざく爆音と閃光。それが収まった時、そこには、所々装甲に傷をつけながらも余力のあるパイセンと、息も絶え絶えな簪がいた。

 

ーーーーーーーーー

 

(やっぱり……強い……!)

 

私の攻撃をお姉ちゃんが躱し、お姉ちゃんが攻撃すれば私が躱す。そうやって何度も夢現と蒼流旋が交差し、その度に装甲に細かな傷が増えていく。

お互い振動系の武装、装甲で防ぐという手段が使えないから、相手の攻撃を当たらないよう警戒し合う戦いになる。

 

そして何度目かも分からない、蒼流旋の刺突。私はそれを回避しようと半身をずらし

 

 

――そこに、刺突はやってこなかった。

 

 

(しまった――!)

 

嵌められた。そう気付いた時には、蒼流旋からガトリングガンの掃射をもらい、SEが削られた後だった。しかも今ので、お姉ちゃんとの距離が開いてしまった。

 

(まずい……! 今ここで距離を開けられたら……!)

 

急いでまた距離を詰めようとした瞬間、目の前の空間が爆ぜた。

 

(清き激情(クリア・パッション)! 水蒸気爆発を起こす技……!)

 

陸はリアクティブアーマーって言ったけど、別に自身の周辺じゃなくても発動する。むしろ、お姉ちゃんはこうやって"地雷"として使うのを得意としているのかも。

何とか耐えきったけど、私のSEは2割を切っていた。

 

「まだ……! 山嵐!」

 

ミサイルポッドから射出された24基のマイクロミサイルがお姉ちゃんに襲い掛かる。そして、爆炎が包み込む。

 

「これなら……」

 

そう思った時だった、爆炎が一瞬で消し飛び、そこに現れたのは――

 

「強くなったわね、簪ちゃん」

 

装甲は傷だらけで、それでもお姉ちゃんは、そこにいた。

 

「だから―――私も全力で行かせてもらう!」

 

ナノマシンで制御された水が蒼流旋へ集中する。さっきまでとは違う、全ての防御を攻撃に転換した姿へ。

 

「ミストルテインの槍!」

 

お姉ちゃんが放った一撃が、スローモーションのように私に近づいてくる。

 

(ああ……やっぱり、私じゃ勝てないんだ―――)

 

 

 

 

 

『また、逃げるのか?』

 

「え……!?」

 

聞こえた幻聴……じゃない、この声、私知ってる……!

 

「ランディ、さん?」

 

『そうやってまた逃げるのか、嬢ちゃん』

 

「でも……仕方ない……」

 

『仕方ない? まだやられたわけでもなければ、手足だって動くんだろ? なら、最後まで足掻いて見せろよ」

 

「そんな事言っても……」

 

『嬢ちゃん……お前さん、()()()()にもそんな事を言うつもりか?』

 

「……っ!」

 

あの二人。そう言われて、私は言葉を継ぐことが出来なかった。

 

『リクとホンネだったか? いいダチ持ったじゃねぇの。……そいつらに、お前の勝利を信じてるやつらに、今と同じ事を吐けるってのか?』

 

「……い……」

 

 

「そんなわけない! お姉ちゃんに勝ちたい! 勝ちたいよ!」

 

 

『そうだ。分かってんじゃねぇか』

 

詰るような口調から一転、ランディさんの声が飄々としたものに、そして真剣なものに変わった。

 

『弱かった過去の自分から逃げるな。自分を心の弱さを免罪符にして逃げるな。――自分の中の姉ちゃんから、逃げるな』

 

「私の中の、お姉ちゃん……」

 

そう呟いた時、私の目には、あの時のお姉ちゃんが映っていた。

 

 

――あなたは何もしなくてもいいの。

 

 

まだ、()()()お姉ちゃんに追いつこうとしていた頃。

 

 

――私が全部してあげるから。

 

 

いつからだろう。私が、お姉ちゃんと本気でぶつかることを諦めたのは。

 

 

――だから、あなたは……

 

 

――感謝の言葉は、パイセンに勝ってから受け取るからな

 

――大丈夫、かんちゃんなら勝てるよ~。だって、かんちゃんが頑張ってたの、私知ってるもん~。だから、ね?

 

それでも……そんな私を、信じてくれる人がいるんだ。だから、私は……

 

 

――無能なままで、いなさいな。

 

 

「私は! お姉ちゃんに勝つんだ!!」

 

 

あらん限りの声で叫んだ。すると()()()お姉ちゃんは消えて、ミストルテインの槍を放とうとする()()()お姉ちゃんが見えた。

 

『嬢ちゃん、やれるな?』

 

「うん……!」

 

『腹は決まったようだな。なら、俺も少しだけ手を貸してやるか』

 

「手を、貸す?」

 

『おう。だから気合入れろよ』

 

「(コクリ)」

 

どう手を貸してくれるのか分からないけど、信じてみようと思う。

槍が届くまであとわずかという中、私は大きく息を吸った。そして

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

先ほどと同じぐらい、あらん限りの声で叫ぶとともに、私の体は打鉄弐式ごと光の珠に包まれた。

 

ーーーーーーーーー

 

「ミストルテインの槍!」

 

全ての防御用ナノマシンを攻撃用に転換する、一撃必殺の大技。それを、簪ちゃんに突き立てた。いや、突き立てようとした。

 

 

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「きゃあっ!」

 

けれど、槍が届く直前。私は簪ちゃんから放たれた光によって吹き飛ばされた。

 

「い、いったい何が……」

 

体勢を立て直した私の目の前には

 

 

さっきまでと違う、真紅の装甲を纏った簪ちゃんがいた。

 

 

「まさか……『第二形態移行(セカンド・シフト)』……!?」

 

そんなっ! だって簪ちゃんの打鉄弐式が完成したのはつい最近で、実戦データの蓄積だって……!

 

「私は、ずっと逃げていた」

 

「簪ちゃん?」

 

「お姉ちゃんと比較され続けて、否定され続けて。ずっと劣等感に苛まれてた」

 

「……」

 

これは間違いなく、簪ちゃんの本心、なんだろう。

ずっと心の底で溜まり続けていた、そして私が向き合うことを恐れて避け続けて来た、簪ちゃんの本心。

 

「だけど陸や本音が……こんな私を信じてくれる人がいる。もう、『更識楯無の妹』じゃない。『更識簪』として、自分の足で立てる。そんな"足場"を、私は見つけた。この"足場"で、私は自分の"業"に抗う。弱かった過去の自分……心の弱さを免罪符にしていた自分と、完全に決別する」

 

「簪、ちゃん……」

 

「これが――私のけじめ」

 

そう言いながら、簪ちゃんは限界が近い夢現を手放し、新たな武装を展開した。

 

「もう、"勝ちたい"なんて言わない。私はお姉ちゃんに……"勝つ"!」

 

簪ちゃんが展開したのは……簪ちゃんに似つかわしくない、大型のライフルだった。

 

ーーーーーーーーー

 

「行くよ、お姉ちゃん!」

 

ガガガガッ!

 

引き金を引くと、打鉄の焔備(アサルトライフル)とは比較にならない、ものすごい勢いで弾丸が発射された。

だけど、お姉ちゃんも回避と装甲を駆使して致命傷を避けている。

私は射撃を続けながら、お姉ちゃんと距離を()()()

 

「その武装で距離を詰めるのは悪手よ!」

 

お姉ちゃんが再度槍を構える。確かに、こんな大型のライフルでクロスレンジ(近接距離)は自殺行為だろう。けど、これでいい。この武装は、これでいいんだ。

 

「はぁぁぁ!」

 

お姉ちゃんの槍が届くほどの距離で、私はライフルを

 

 

振り上げた。

 

 

「え……?」

 

私のあまりの行動に、お姉ちゃんの手が、一瞬止まった。

そして私が振り上げ切ったところで、銃身下部のパーツがはじけ飛ぶ。中から出てきたのは――

 

「ブレード……!?」

 

呆気に取られていたお姉ちゃんの顔が、驚愕に変わる。

 

「行って――」

 

『いけ! 嬢ちゃん!』

 

 

 

「ベルゼルガァァァァァァァァ!!」

 

 

 

ライフルの重量とISの力で振り下ろされた大型ブレードは蒼流旋を破壊し、

 

「が……っ!」

 

お姉ちゃんの装甲外を直撃して、壁際まで吹き飛ばした。そして、

 

『ミステリアス・レイディ、SEエンプティ。勝者、更識簪』

 



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第11話 新しい目標

「……」

 

仰向けに倒れたまま、私はアリーナの天井を見つめていた。

 

「お姉ちゃん……」

 

そんな私に、大型のライフル――最後に私を倒したブレードが付いた――を引きずって、簪ちゃんが近づいてきた。

 

「ホント……強くなったわね……」

 

「私一人じゃお姉ちゃんに勝てなかった。陸や本音が居たから、私は戦えた」

 

「そっか……」

 

"足場"、簪ちゃんはそう言った。『更識簪』として、自分の足で立つと……。

 

「でも……あの時言ったこと、一つ訂正したい」

 

「か、簪ちゃん……!?」

 

私を抱き起した簪ちゃんは、そのまま私を抱きしめた。

 

「もう『更識楯無の妹』じゃないって言った。あれは訂正」

 

「簪ちゃん……」

 

「私は、お姉ちゃんの妹。今までも、これからも」

 

簪ちゃん……あ、あれ……? なんでかしら、泣くつもりなんて、無かったのに……

私も両腕を伸ばして、簪ちゃんを抱きしめた。

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「今まで簪ちゃんの気持ちから逃げ続けて来た、ダメなお姉ちゃんでごめんね……。そして、私の妹で居続けてくれて、ありがとう……!」

 

「お姉、ちゃん……!」

 

簪ちゃんの頬にも、涙が伝って落ちた。そんなところまで、姉妹で似なくてもいいのに。でもそんな事ですら、今は嬉しかった。

 

「うわぁぁぁぁっ!お姉ちゃんっ!」

 

「簪ちゃん…っ! 簪ちゃん……っ!」

 

私たちは抱き合って、一緒に泣いた。 今までの分を埋め合わせるように、強く、強く抱き寄せ合って。

 

 

 

 

勝負がついて、真っ先に虚先輩が観客席から飛び出していき、それをのほほんと俺が追う形になった。

そしてピットからアリーナに入ろうとしたんだが……

 

「えーっと……」

 

「ここで出て行ったらお邪魔かな~……?」

 

「多分な……」

 

姉妹で感動の抱擁を交わしていたわけで、出るに出れなくなってしまったわけだ。

 

「と、とりあえず、もう少しだけ待ちましょう?」

 

「分かった~」「分かりました」

 

虚先輩の提案にのほほんと頷いて、俺達はピット内で待つことにした。

幸い、5分ほどで感動の抱擁は終わった。

 

「かんちゃーん、大丈夫ー?」

 

「お嬢様、簪様。お怪我はありませんか?」

 

「倒れた直後は起き上がれなかったけど、もう平気よ」

 

「私は問題ない」

 

「そうか。二人とも大きな怪我が無くて何より……って簪!」

 

「え?」

 

俺の声に、周りにいた全員が簪を見た。

簪が纏っている紅い打鉄弐式。それが淡く光り出して……

 

「元に、戻った……?」

 

打鉄弐式は元の淡青色の、俺達が見慣れたものに戻っていた。あの大型ライフルも、いつの間にか消えていた。

 

「ほ、本音。管制室に行って試合時のデータを用意しておいて」

 

「う、うん!」

 

虚先輩に指示されて、のほほんがバタバタを走っていた。

 

ーーーーーーーーー

 

「で、何も分からなかったと」

 

「はい……アリーナの観測装置では、真紅の方も『打鉄弐式』と認識しており、第二形態移行(セカンド・シフト)等は起きていない、と」

 

「打鉄弐式が完成したのが先週。それからどう考えても、第二形態移行(セカンド・シフト)するには稼働時間も戦闘経験も足りないはずだから、その通りなんだけどねぇ……」

 

管制室でのほほんが揃えたデータを見て、パイセンと虚先輩が腕を組んで首を傾げていた。

 

「困ったわねぇ。これじゃあ今回の決闘が公式記録にならないから、簪ちゃんに生徒会長の椅子を譲れないじゃない」

 

「せ、生徒会長の椅子!?」

 

「そっか~、かんちゃんはたっちゃんを倒したから~」

 

「『IS学園の生徒会長は、学園最強がなる』ってパンプレットに書いてあったし」

 

「本来は、簪様に移譲されるはずでしたね」

 

「い、いらない! 私そんな……!」

 

そう言って、簪はブンブンと首を横に振った。生徒会長・簪か……それはそれで見てみたい気もするな。

おっ、それなら

 

「なぁ簪。生徒会長の椅子に興味ないなら、少し時間はかかるが、別のものを目指してみないか?」

 

「別の?」

 

「りった~ん、何を企んでるのかな~?」

 

「企むとか人聞きの悪いこと言うな。それはだな……」

 

 

「目標は、モンド・グロッソ優勝だ」

 

 

「えぇ!? む、無理無理!」

 

「そうかな~? かんちゃんならなれると思うけどな~」

 

「私も本音の意見に賛成よ」

 

「確かに、ロシアの現・国家代表であるお嬢様に勝った簪様なら、将来的にも可能性はあります」

 

「本音にお姉ちゃん……虚さんまで……! 陸ぅ!」

 

四面楚歌だからって、俺を睨むな睨むな。

 

「落ち着け。今言った目標だって、学園を卒業して国家代表になるって条件をクリアした上での、まだまだ先の話だ」

 

「あ……そうか……」

 

「それに、そん時はこれまで通り、俺ものほほんもサポートするつもりだ。なぁ?」

 

「もっちろ~ん!」

 

「陸……本音……」

 

 

「だから、俺達と『俺と契約して、モンド・グロッソ優勝者(ブリュンヒルデ)になってよ!』パイセェェェン、てめぇぇぇぇ!!」

 

 

人が真剣に話してる時に、変声機使って俺の声マネしてまでギャグネタ重ねて来やがってぇ!

 

「う、うわぁ! 思ってた以上に怒ったぁ!?」

 

「ゆ゛る゛さ゛ん゛!」

 

「て、撤収ぅ!」

 

「に゛か゛さ゛ん゛!」

 

脱兎のごとく管制室を飛び出したパイセンと、怒りの波動に目覚めた俺のリアル鬼ごっこが始まった。

 

ーーーーーーーーー

 

「はぁ……お嬢様……」

 

「あはは~……たっちゃん、今回は相手が悪かったかな~……」

 

管制室を飛び出していった二人を見て、虚さんはため息をつき、本音は苦笑いを浮かべていた。

 

「もう、お姉ちゃんも陸も……」

 

仲がいいのか悪いのか。

 

――ズキンッ

 

(え……何……?)

 

何だろう、今、胸に痛みが……

 

「かんちゃん、どうかした~?」

 

「え? う、ううん、何でもない!」

 

「ん~」

 

何か悩む仕草をした本音が、私の耳元に顔を近づけて

 

「りったんとたっちゃんは、()()()仲じゃないと思うよ~」

 

「ほ、ほほほ本音ぇ!?」

 

な、何を言ってるの!?

 

「だから、かんちゃん頑張って~」

 

「何を!?」

 

「本音、簪様に一体何をしたの?」

 

「あ、お姉ちゃん。あのね~」

 

「や、やめて~~~!!」

 

このあと、めちゃくちゃ本音を黙らせた。

 

 

 

―――――――――――――――――――――

◆ここまでの登場人物説明

 

リク→宮下陸(みやした りく)

 

前作オリ主と同じ、外史に介入して物語を円滑に進める現地作業員。

機械馬鹿なのと時々ギャグネタをかますのに目を瞑れば、比較的常識人。

表面上は軽い性格で、原作主人公の一夏とも普通に接している。ただし、キッチリしている部分もあるため、シメるところはシメる。(現時点で一番シメられているのは楯無)

機械(IS)弄りが絡むと馬鹿になり、本音とつるんで『ジョバンニが一晩でやってくれました』をやらかし、簪が頭を抱えるまでが1セットになっている。

 

「さ~て、次はどこを強化すっかな~」

 

―――――――――――――――――――――

 

更識簪(さらしき かんざし)

 

本作のメインヒロイン兼ツッコミ役。

一夏より先にオリ主の陸と知り合い、本音とも和解したため、原作1巻相当の時点で専用機が完成した。それにより心に余裕が生まれて、根暗属性が軽減されつつある。(陸と本音のやらかしに対応していて、暗くなる暇が無くなったともいう)

本作では謎の異世界人と夢(?)の中で対話したり、姉である楯無との決闘の中で自分の立脚点を持ち始めたことで、原作より成長スピードが上がっている。(はず)

 

「私は私。それ以外の何者でもない」

 

―――――――――――――――――――――

 

更識楯無(さらしき たてなし)

 

簪の実姉で、IS学園の生徒会長。

暗部である更識家のしがらみに妹を巻き込まないよう行動した結果、却って事態がややこしくなってしまった上、本格的に姉妹の仲が悪くなることを恐れて行動を起こせなかったヘタレ。が、簪との決闘で姉妹間のわだかまりも無くなり、そのきっかけを作ってくれた陸と本音には感謝している。

妹である簪命であり、たまーに理性を失ったりする。(その所為で、陸からアームロックをかけられる事が多い)

 

「だからアームロックはやめてってばぁ!」

 

―――――――――――――――――――――

 

布仏本音(のほとけ ほんね)

 

簪の従者で幼なじみ。通称「のほほん」

簪の専用機開発凍結の際、楯無の命令で動いていると勘違いされて疎遠になっていたが、一人で専用機を組み上げる事をやめた簪からの謝罪を受けて和解する。

オリ主である陸の悪ノリに乗ることが多々あり、そうなると一緒になってジョバンニになってしまい、最終的に簪が頭を抱えることになる。

陸達とは異なり1組在籍。そのため、一夏達の動向は本音経由で入ってくることが多い。

 

「零落白夜みたいに、ビームソードとか作ってみたいよね~」

 

―――――――――――――――――――――

 

布仏(のほとけ うつほ)

 

楯無の従者で幼なじみ。本音の実姉。

本音と比べると落ち着いた性格で、姉妹とは思えないほど。ただ、更識姉妹を考えればそういうものなのかもしれない。

主君である楯無の無茶振りや仕事サボりに頭を痛めることも多く、鎮圧用に陸からアームロックを習おうか本気で検討中。

 

「お嬢様、まだ書類仕事が残ってますよ」

 

―――――――――――――――――――――

 

織斑一夏(おりむら いちか)

 

原作主人公。唐変木なのは相変わらず。

オリ主の陸との仲もそこそこ良好で、その時受けたアドバイスを実行したため、1組内での評判も『かっこよくて、女尊男卑に迎合しない意志の強さがあって、それでいて自分の間違いを素直に認めて謝罪できる人』と右肩上がりになっている。同じ男性操縦者として、陸ともっと仲良くなりたいと思っている。(もちろんホモォ的な意味ではない)

 

「俺はもっと強くなるんだ!」




ここに来て、やっとタイトル回収


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クラス対抗戦
第12話 クラス対抗戦に向けて


時系列的に、ようやっと原作1巻の後半なんですよね……長い。

そして突然ですが、次回から投稿頻度が少し落ちます。
さすがに2作続けて日刊は体が持たなかったんや……


決闘から数日、俺達は普通に登校し、普通に授業を受けていた。

あの戦いは公式記録には載らず、特に観戦者もいなかったため、打鉄弐式が紅くなった件も含め、内々に収めることになった。おかげで俺も簪も、クラスメイトから余計な詮索を受けずに済んでいる。

 

「それでは宮下君。アラスカ条約について説明して」

 

「あーっと……『ISの情報よこせ』『IS学園作れ』『軍事利用すんな』、でしたっけ?」

 

「……間違ってはいないですが、もう少し意訳せずに覚えましょうね」

 

これにはエドワース先生も苦笑い。そしてクラスメイト達も苦笑い。くっ、いっそ笑えよ! 頑張って覚えたんだよこれでも!

 

「次はISのコア・ネットワークについて……更識さん」

 

「はい。ISのコアは相互情報交換のための通信ネットワークを持っており、オープン・チャネルやプライベート・チャネルによる操縦者会話などに使われています。それ以外にも『非限定情報共有』をコア同士が行っており、それがISの自己進化に繋がっていることが近年の研究で明らかになりました」

 

「はい。満点の模範解答です」

 

簪の回答に対して満足気に頷きながら、先生はクラス全体を見渡し

 

「ここまでの内容は期末テストの範囲にもなっています。クラス対抗戦や学年別トーナメント、臨海学校の後とはいえ、油断しているとあっという間に来てしまいますから、みんな気を付けるようにね」

 

と締めくくった。

 

ーーーーーーーーー

 

精神的にコテンパンにされた授業後の昼休み、最近いつもの面子になりつつある簪とのほほんの3人で昼飯を食ってると

 

「アンタが4組のクラス代表?」

 

いつものかき揚げうどんをすすっていた簪に対して、小柄な女子生徒が声をかけた。

 

「そうだけど」

 

「へぇ……」

 

簪が肯定すると、その女子生徒は簪をジロジロと値踏みするように見回した。それを確認して、俺は席を立った。

 

「りったん?」

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「ぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 

毎度おなじみ、お仕置きアームロックである。

 

「自分から名乗らないのに相手の事を確認しておいて、その態度はどうよ?」

 

「いだだだだだ! ふぁ、凰鈴音! 2組のクラス代表よぉ!」

 

「おう。2組の凰だな」

 

アームロックを外す。最初から名乗っておけば、痛い思いをしなくて済んだものを……。

 

「実際に痛めつけた陸が言っても説得力無い」

 

俺の心を読んだのか、簪からツッコミが来たが気にしない。

 

「それで、凰さんは私に何か用?」

 

「痛たた……はっ、そうだった!」

 

アームロックされた左腕をさすっていた凰は、思い出したようにビシッと簪を指さすと

 

「もしクラス対抗戦であたしと当たっても、手加減なんてしてあげないんだから、覚悟しておくことね!」

 

宣戦布告して、勝手に満足したのか去っていってしまった。

 

「何だったんだろうね~……」

 

「さぁ……」

 

「さっぱり……」

 

まるで嵐がやって来て速攻で過ぎ去ったような展開に、俺達3人は呆然とするしかなかった。

 

「よお陸、どうかしたか?」

 

そんな俺達に話しかけてくる奴が一人いた。

 

「おう一夏。ちょっとな……」

 

「そ、そうか。それにしても、陸は今日も『両手に花』だな?」

 

「確かにそうかもな」

 

一緒にいる簪とのほほんの事を言ってるのだろう。確かに傍から見たら両手に花だな。二人とも、俺主観でも客観的でも可愛いのは間違いないだろうし。

そう思って頷くと、簪は恥ずかしかったのか俯き、のほほんは『りったんてば~』とか言いながら、俺の肩をだぼ袖で叩いてきた。

 

「一夏だって、今日は『両手に花』じゃねぇか」

 

「そんなんじゃないって」

 

一夏は苦笑して否定するが、両脇にいる女子二人は不満げな顔をした。そういうとこだぞ、一夏。

 

「そっちの二人は初対面だし、一応自己紹介しとくな。1年4組の宮下陸だ」

 

「同じく、更識簪」

 

「ああ。一夏と同じ1組の篠ノ之箒だ」

 

「わたくしも1組で、イギリス代表候補生のセシリア・オルコットですわ」

 

黒髪ポニーテールが篠ノ之で、金髪縦ロールがオルコットか。頑張って覚えよう。ん? オルコット?

 

「ああ思い出した。『文化としても後進的な国』発言のオルコットか」

 

「うぐっ! そ、それはもう言わないでくださいまし……」

 

本人の中で黒歴史化しているのか、オルコットは胸に手を当てながらお願いしてきた。まぁ、それだけ自分が言ったことを反省したが故の反応なのだろう。

 

「陸、それについては俺とセシリアがお互い謝って解決したんだ。だから……」

 

「分かってるって。当事者で和解済みなのに、部外者が引っ掻き回すような事はしねぇよ」

 

そう返すと、一夏もオルコットも安心したような顔になった。

そんなやり取りをいていると、

 

「篠ノ之さんって、篠ノ之博士の関係者?」

 

「それは……」

 

簪の問いに、篠ノ之は苦い表情になった。

 

「聞いたら、まずかった?」

 

「ああいや、すまない。そんなつもりでは無かったんだが……」

 

無意識だったのか、篠ノ之はハッとして元の表情に戻り

 

「確かに私は篠ノ之束の妹だ。だからと言って、姉さんと繋がりを持とうとしても」

 

「大丈夫。そんな気はないから」

 

という簪の返答に、今度はキョトンとした顔になった。

 

「陸と本音が作ってくれた専用機がある今、その必要はない」

 

「そうか……ん? 専用機?」

 

「ん。私、日本の代表候補生」

 

「「「ええ~っ!?」」」

 

さっきの自己紹介で出てこなかった情報に、1組の3人(のほほん除く)は驚いた。

 

「あれ? でも『陸とのほほんさんが作ってくれた』ってどういうことだ?」

 

一夏の奴、気付いた上に、口に出しちまったか~……。

 

「私の打鉄弐式は、倉持技研が作るはずだった」

 

「倉持技研……確か一夏の白式も倉持技研だったな……まさか!」

 

話しながら途中で気付いた篠ノ之が簪の顔を見る。それに次いで、オルコットと一夏も簪の方を向いた。

 

「うん。白式の開発に人員を全て奪われて、打鉄弐式の開発は凍結された」

 

「そ、そんな……」

 

初めて知らされた自分の専用機開発の裏事情に、一夏の顔が真っ青になっていく。

 

「一夏。別にお前が悪いわけじゃ無い」

 

「で、でも、だからって……!」

 

「悪いのは別の委託先も用意せず、勝手に先約をボイコットした日本政府と倉持技研だ」

 

「そうかもしれないけど……」

 

「陸の言う通り。それに私はさっき言った通り、専用機を手に入れた。だから貴方が罪悪感を持つ必要もないし、謝罪もいらない」

 

「……分かった。教えてくれて、ありがとうな」

 

笑顔に失敗したような顔になりながらも、一夏がお礼を言い、それに対して簪も頷いた。

 

ーーーーーーーーー

 

――整備室

 

「クラス対抗戦も近付いてきたんで、さっそく打鉄弐式を強化したいと思いまーす」

 

「何するの?(ジト目)」

 

その目やめなさいって。やりすぎると目付きが悪くなっちまうぞ。

 

「差し当たっては、山嵐を完成させたいなーと思ってる」

 

「それは、確かに……」

 

「半分のスペックじゃ、たっちゃんに勝てなかったからね~」

 

あの時、24基のマイクロミサイルじゃ、パイセンのミステリアス・レイディを墜とせなかった。最後の第二形態移行(セカンド・シフト)モドキが無ければ、間違いなく簪は負けていた。

つまり、正確には『俺とのほほんが組んだ打鉄弐式』ではパイセンに勝っていないことになる。メカニック志望としてそれは悔しいから何とかしたい。

逆にそれだけの力があれば、クラス対抗戦は優位に進められるはずだ。

 

「でも、りったんがマルチロックオン・システムを作ってる間、私はどうするの~?」

 

「のほほんにも仕事はあるぞ。決闘時のデータから、スラスターやシールドへのエネルギー配分の微調整っていう、泥臭い作業が」

 

「うわ~……でも、それも大切なんだよね~?」

 

「おうよ。だから頼んだぞ、のほほん」

 

「りょうか~い」

 

「それで、私は?」

 

「とりあえず前回撃った時に思ったり感じたことを教えてくれ。それに対して発射時の感度とか変えようと思うから」

 

「分かった」

 

 

 

 

さて、そうして作業を開始したわけだが、ここで俺達は致命的な失敗をしていた。

今までは俺とのほほんが吶喊していたのに対して、簪がストッパーになっていた。ところが今回は簪もガチで作業していたから、ストッパーが不在。つまり

 

 

――学生寮入口

 

「ISを弄るのに熱心なのは結構だがな、それで門限を過ぎるのはどうなんだ? ん~?」

 

「「「す、すみませんでした……」」」

 

夢中で作業をしていた俺達が気付いた時には、完全に寮の門限をブッチしていて、コッソリ戻ろうとしたところを寮長の織斑先生(俺はここで、入学前に参考書を渡してきたのがこの人だと知った)に見つかり、こってり絞られたのだった……。



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第13話 弐式完成、簪の勇気ひとかけら

織斑先生に絞られた翌日、俺達3人は第4アリーナに集まっていた。

なにせ、今回は俺、頑張ったからな~……。

 

「よ~し、今日は山嵐の試し撃ちするぞ~」

 

「お~」

 

「ほ、本当に完成させたんだ……」

 

まあ1回目の夜なべでコツは掴んでたからな。昨夜から貫徹すればよゆーよゆー……眠ぃ……。

 

「それじゃあ簪、標的それぞれに1発ずつ当ててくれ」

 

「分かった」

 

俺は簪からの応答を聞くと、端末を操作した。すると、標的用ドローンが現れ、簪の前方を無秩序に飛び回り始めた。

 

「ターゲットロック……15……23……36……41……48! 山嵐、全弾発射!」

 

簪の掛け声とともに、ミサイルポッドからマイクロミサイルが次々に射出されていく。そして

 

 

――ドドドドドドドォォンッ!

 

 

爆音が響き、着弾地点周辺が爆炎に包まれる。そしてそれが徐々に晴れて行き……そこにはドローンの残骸だけが残っていた。

 

「や、やった……!」

 

「お~! 成功だ~!」

 

「よーしよし。これで名実ともに、打鉄弐式の完成だ!」

 

「やったね~! ハイターッチ!」

 

「おうよ」

 

「た、ターッチ」

 

のほほんが両手を伸ばして要求してきたから、俺と簪でそれぞれの手にタッチしてやった。

 

「山嵐も完成して、これで万全の状態で簪をクラス対抗戦に送り出せるな」

 

「ちなみにかんちゃん、自信のほどは~?」

 

「勝つよ。ここまでお膳立てされたんだから、優勝する」

 

のほほんに対して、簪は即答した。あの決闘から、自分に自信が持てるようになったようだな。これからが楽しみだし、俺も協力し甲斐があるってもんだ。

 

「簪、もし武装を追加するとしたら、どんなのがいいと思う?」

 

「追加武装?」

 

「ああ。例えばパイセンとの決闘の時に山嵐が完成してたらと仮定して、『こんな武装があったら良かったなぁ』とか」

 

「……」

 

俺の問いに、簪はしばらく考え込んでいたが、

 

「近距離武装が、もっと欲しいかも」

 

「夢現じゃ力不足かな~?」

 

「そうじゃない。でも、夢現の間合いの、さらに内側に入られたら……」

 

「あ~なるほど、インファイトに持ち込まれたら抵抗できないってことか」

 

「(コクリ)」

 

「でも、そんな武装のISって見たことないよ~」

 

「そうかもしれない。けど、それなら逆に、そこが私の有利な距離になる」

 

「あ~そっか~」

 

確かに簪の言う事は一理ある。至近距離で戦う術があるなら、相手によって対抗手段になったり、簪の独壇場にもなり得る。しかし至近距離かぁ……

 

「難しそう?」

 

「いや、案があるにはあるんだが……」

 

「あるんだ~?」

 

あるにはある。だがあれは……

 

「悪い、積めるかどうか検討から入らんとダメそうだから、今はあまり期待しないでくれ」

 

「ううん、大丈夫。今のままでも打鉄弐式は強いから」

 

「そだよ~、これでかんちゃんの優勝は間違いなしだね~!」

 

「うん。でも本音いいの? 私が優勝したら、賞品の……」

 

「あぁ!?」

 

その瞬間、のほほんが頭を抱えて膝から崩れ落ちた。え、どういうこと?

 

「クラス対抗戦の優勝クラスには、学食デザートの半年フリーパスがもらえる」

 

「はぁ……つまり簪が優勝すると、のほほんはそのフリーパスが手に入らないと」

 

「そういうこと」

 

「ひどいよ~! 神様はいじわるだよ~!」

 

のほほんよ、そんなアリーナの地面を叩くほどのもんなのか、フリーパス。

 

「分かった分かった。もし簪が優勝したら、俺のフリーパスをやるから」

 

「かんちゃんのために、一生懸命頑張りま~す!」

 

「「変わり身早っ!!」」

 

というか言ってから気付いたが、フリーパスで自分のクラスを売りやがったぞこいつ!?

 

ーーーーーーーーー

 

「う~む……」

 

廊下を歩きながら、俺は困っていた。

端的に言うと、帰された。簪とのほほんに。

 

『陸、今日は寮に戻って休むこと』

 

『そうだね~、山嵐を完成させるのに徹夜したんだし、休まないとダメだよ~』

 

そう言って、二人にアリーナから追い出しを食らってしまったのだ。解せぬ。

 

「だーれだ?」

 

「おやぁ? なんかちょうどいいところにへし折り甲斐のある腕が……」

 

「堪忍してつかぁさい!」

 

なぜか方言とともに、視界を塞いでいた手がどけられた。

振り向くと案の定、俺から少し距離を置いたパイセンがいた。

 

「まったく……学習能力が無いんですか」

 

「ひどーい! ちょっと構ってほしかっただけなのにぃ! 簪ちゃんみたいに! 簪ちゃんみたいに!」

 

「なんで2度言ったんすか」

 

俺が呆れてると、パイセンはコロッと表情を変えて近寄ってきた。まるでチェシャ猫だな。

 

「それで? 一人だけって珍しいわね」

 

「簪とのほほんに追い出されたんですよ……」

 

「あら、何したのよ?」

 

「別に、山嵐のシステム作るのに徹夜しただけです」

 

「貴方ねぇ……」

 

パイセンはどこからか扇子を出すと、それを広げつつ(なぜか『論外』と書かれている)ため息をついた。

 

「簪ちゃんのために頑張ってくれるのは姉としても嬉しいけど、それで無理したらダメでしょうに」

 

「いやぁ、興が乗ると止め時が……」

 

誰だってあるよな? 寝る前にちょっとゲームやり始めて、気付いたら日の出を拝んでた的な。

 

「確かに眠気はあるっちゃあるんですけど、今寮に戻って寝ると、夜また眠れなくなりそうなんすよねぇ」

 

「ああ……それは私も経験があるわ」

 

「だから、構ってあげるんで場所変えましょう」

 

「あらいいの? それじゃあお言葉に甘えてー」

 

 

 

そんなやり取りをしつつ、俺とパイセンは食堂に来ると、それぞれ飲み物を買って席に座った。ちなみに俺はコーヒー、パイセンは紅茶だ。

 

「ところで、山嵐のシステム作りで徹夜したって言ってたけど、完成したの?」

 

「……隠す必要もないんで言っちゃいますけど、完成しましたよ。それでさっきアリーナで試し撃ちしてたんで」

 

「ああ、なるほど」

 

納得した顔をして、パイセンはティーカップから紅茶を飲んだ。くそぅ、なんか様になってんな。

 

「貴方には感謝してるの。簪ちゃんを手伝ってくれたことや、私達姉妹が和解するきっかけを作ってくれたこととか」

 

「別に礼なんかいらないですよ。俺は自分のやりたいように動いただけですから」

 

簪を手伝ったのは俺にもメリットがあったし、二人が和解できたのは簪が覚悟を決めたからだ。俺がどうこうしたからじゃない。

 

「むしろ礼なら、のほほんに言ってやってください」

 

「もちろんよ。本音もそうだし、虚にも色々心配かけちゃったからねぇ」

 

「きっちり労ってください」

 

「ええ。ホント、勿体ないぐらい良い従者、幼なじみを持ったわ」

 

苦笑気味な顔をしつつ、パイセンはカップの中をじっと覗き込みながら呟いた。

 

「っと、そろそろ食堂もディナータイムになりそうよ」

 

「ん、もうそんなに時間経ったのか」

 

パイセンに言われて腕時計を見ると、確かに夕食時になっていた。どうりで受取口の奥から仕込みっぽい音が聞こえてくるわけだ。

 

「さて、簪ちゃん達に見つかる前に退散するわね」

 

「どういうことですか?」

 

「貴方、寮の部屋で休んでる設定でしょ? そこで私と話してる場面に出くわしたら」

 

「……まずいっすね」

 

非常にまずい。『陸ぅ……?(ギロリ)』っていう簪を幻視するぐらいにはまずい。

 

「それじゃあね~」

 

そう言って軽く手を振ると、パイセンは空になったティーカップを返却口に戻して食堂を出て行った。

そこから少しして、簪達が食堂に入ってきた。危ねぇ、入れ違いだったか。

 

ーーーーーーーーー

 

シャワーを浴びている間、私は陸の事を考えていた。

 

(陸、絶対部屋に戻ってなかった……)

 

食堂で会った時、本人は『寝て起きたら腹減ったから早めに来た』とか言ってたけど、絶対嘘。だって、目の隈がちっとも薄くなってなかった。

 

「陸、シャワー次いいよ」

 

体を拭いてパジャマに着替え終わり、陸に声をかけたけど返事がない。

 

「陸?」

 

シャワールームのドアを開けると、

 

「……」

 

ベッドの上で、制服を着たまま陸が寝ていた。たぶん限界が来て、そのまま寝落ちしたんだろう。

 

「まったくもう……」

 

そう言いながら、陸のベッドに腰かけた。

いつも頼りになる陸だけど、寝顔は可愛いかも……

 

『りったんとたっちゃんは、()()()仲じゃないと思うよ~』

『だから、かんちゃん頑張って~』

 

「……っ!」

 

どうしよう……あの時本音が言ったことを思い出したら……

 

「……ちょっとだけなら、いいよね?」

 

自分の中で言い訳しながら、私は陸が寝ているベッドの隙間に自分の体を滑り込ませた。ちょうど、陸の胸元辺りに丸くなるように。

 

「おやすみ、陸……」

 

部屋の明かりを消して、陸の鼓動、温もりを感じながら、私も眠りについた――

 

 



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第14話 新武装

「……あれ」

 

気が付くと、俺はベッドの上で横になっていた。しかも制服を着たままで。

 

(なんでだ……って、そうか……俺、晩飯食った後、寝ちまったのか……)

 

シャワーの順番を待ってる間にちょっと休もうとしたら、そのまま朝になっちまったのか。

 

「すぅ……」

 

「え?」

 

なんか、自分以外の声が聞こえたような……しかも結構近くから。そう思って掛け布団(俺、布団掛けてたっけ?)をめくると

 

「すぅ……」

 

「……」

 

パジャマ姿の簪が、俺の横で丸まって寝ていた。

 

「な……なんで、簪がいるんだ?」

 

「んん……」

 

俺が思考停止状態になってる間に、掛け布団が無くなって寒かったのか、簪が目を覚ました。

 

「……陸、おはよう……」

 

「お、おう。おはよう」

 

まだ寝ぼけてるのか、普通に挨拶してくる簪に、俺もオウム返ししか出来なかった。

 

「……」

 

「……」

 

き、気まずい……

 

「……」

 

「……か、簪?」

 

やがて意識がはっきりしてきたのか、トロンとしていた簪の目が開いていき

 

「……!?///」

 

今の状況を察したようで、ドンドン顔が真っ赤になって

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

部屋中に簪の悲鳴が響いた。

 

 

 

――学生寮食堂

 

「かんちゃんの悲鳴、寮中に響いてたよ~」

 

「あぅぅ……」

 

「マジか」

 

普段あんまり大声出さないから知られてないが、簪の声はよく通るからなぁ。どうりで、さっきからすれ違う連中にジロジロ見られてるわけだ。辛ぇ……。

 

「それで、一体何があったの~?」

 

「それは――」

 

「な、何でもないから!」

 

そう言って、両腕をバタバタ振る簪。ナニコレ可愛い。

 

「は~……かんちゃん、頑張れ~!」

 

「何その『分かってるよ~』みたいな顔!?」

 

簪とのほほんのやり取りを見ながら、俺はしれっとトーストとゆで卵を食い始めた。

だが、それは無理な相談だったようだ。

 

「ねぇ、宮下君……」

 

「なん、だ……」

 

呼ばれて振り向くと、そこには……猛獣の群れがいた。

 

「更識さんの悲鳴、私達の部屋にも聞こえたんだけど、何があったのかな~?」

 

「ちょっと興味があるな~」

 

「教えてほしいな~」

 

正直に言おう、怖ぇ。

今朝の簪の悲鳴について、質問攻めに遭うのはある程度予想はしていた。だが、話題に飢えた女子生徒があんなに怖いとは思わんかった……。

だが、もっと恐ろしかったのは

 

「みんな、今朝は悲鳴なんて聞かなかった、イイネ?」

 

「「「アッハイ」」」

 

微笑しつつ目は全然笑ってない簪だった。

これにはクラスメイトも水飲み鳥のように首を上下に振るしかなかった。

 

ーーーーーーーーー

 

ということがあった放課後。一度寮の部屋に戻った俺は、段ボール(別外史の産物入り)からお目当てのものを取り出した。

 

「さて、どうしたもんかなぁ」

 

昨日簪達に言った『近距離武装の当て』。それが今、俺の手の上にある。これを使えば打鉄弐式はさらに強くなるだろう。だが……

 

「……リミッターを付けるか」

 

と独り言ちながら、簪達が待つ整備室に歩みを進めていった。

 

 

 

「それで、今日はどうするの~?」

 

「それなんだが……簪、昨日言ってた事、覚えてるか?」

 

「昨日……近距離武装の事?」

 

「そうだ。とりあえず、リミッター有で付けてみようと思う」

 

「リミッター?」

 

簪が首を傾げる。

 

「ああ。通常出力で使うと危なそうなんでな」

 

「どんな武装なの~?」

 

「それは付けてみてからのお楽しみだ。さてのほほん、さっそく武装の作成と取り付け、やってくぞー」

 

「りょうか~い!」

 

 

――1時間後

 

 

「「できたー!」」

 

「相変わらず早い……」

 

でも、打鉄弐式を組み上げた時に比べれば、常識の範囲内かもしれない。

陸は打鉄の右腕部(整備科からもらったパーツの余り)を持ってくると、部屋から持ってきた装置?を取り付けて、本音はその右腕部を弐式本体に接続。やったことと言えばそれだけだ。

 

「どうだ簪。今まで腕部装甲が無かったから、多少違和感があるとは思うが」

 

「大丈夫。少し夢現を握った感覚に違いはあるけど、誤差の範囲」

 

「さっすがかんちゃん~。ところでりったん、右腕に付けたのってなんなの~?」

 

そうだった。まだ陸から新武装について何も聞いてない。

 

「弐式に付けた右手から、高周波を短いサイクルで対象に直接照射する、言ってしまえば"レンチン"だ」

 

「れ、レンチン~……?」

 

レンチンって、"電子レンジでチン"ってこと? つまり……

 

「つまりそれって、『ISを操縦者ごと沸騰させる』ってこと?」

 

「え……?」

 

私が口にした予想に、本音が絶句した。

 

「そういうことだな」

 

「あ、危なすぎる!」

 

「だからリミッター有って言ったろ」

 

それはそうだ。むしろリミッターが付いてなかったら怖くて使えない。

 

「今の時点でリミッターを付けて、ISの絶対防御を抜かない程度の出力に落としてある。そうじゃないとエネルギーを馬鹿食いして使い物にならないって理由もあるし、第一レギュレーション違反になるだろう?」

 

「あはは~……絶対リミッター外しちゃダメだね~……」

 

「うん……」

 

正直私、牽制ぐらいに使えればって思ってたんだけど……。

 

「簪。念のためちゃんと武装が登録されてるか確認してくれるか」

 

「分かった」

 

展開可能な装備一覧を出すと、今まで無かった項目が見つかった。武装名は……

 

「メメント、モリ?」

 

「それだな。俺の方で適当に付けさせてもらった。嫌だったら変更も出来るが」

 

「ううん。嫌じゃない」

 

確かに春雷や山嵐と言った漢字ばかりの中に、いきなり横文字の武装は浮いてる気がする。でも、なんだろう。何か響きが良い気もする。

 

「そういえば~、かんちゃんの弐式が紅くなった時も、横文字の武装だったよね~」

 

「『ベルゼルガー』だっけか? あれも装備一覧に載ってたのか?」

 

「載って……無かったと思う」

 

言われてみれば、どうして私はあの武装名を知ってたんだろう……? お姉ちゃんと距離を詰めた時も、"あれで正しい"ってなぜか確信を持ってた気もするし。

 

「う~ん、やっぱり謎だね~」

 

「まあいいか。今は新武装をクラス対抗戦までに使えるようにすることを考えよう。あと……何日あるんだった?」

 

「再来週だから、あと1週間ちょっと」

 

「切羽詰まってるわけじゃ無いが、余裕があるわけでもないな」

 

「だね~。とりあえず動作確認のためにも、アリーナの予約は取っておこうか~」

 

「そうだな。毎回のほほんに行かせるのもあれだし、今日は俺が予約取りに行ってくるわ」

 

「陸、珍しい」

 

「簪さんや。そのセリフ、地味に痛いから」

 

陸自身も気にしてたのか、何とも言えない顔になった。

 

ーーーーーーーーー

 

「失礼しましたー」

 

簪とのほほんを整備室に残して、俺は職員室でアリーナの予約をした。やはり対抗戦が近いからか、結構予約が入っていた。とはいえ、アリーナ丸々貸切るわけじゃ無いから、予約自体はつつがなく完了した。

さて、簪達とは食堂で合流ってことにしてあるから、さっさと――

 

「やっほー宮下君」

 

「……パイセン、なぜここに?」

 

「ちょっと貴方に話があってね」

 

そう言って、またどこから出したか分らん扇子をバッと広げるパイセン。扇子に書いてあるのは『待伏』。っておい、待ち伏せしてたんかい!

 

「はぁ……で、なんです?」

 

「簪ちゃんの弐式に付けた武装の事」

 

「またずいぶん情報が早いですね」

 

「まぁね~」

 

そう相づちを打つと、ニコニコ顔から一変、呆れたような視線に変わる。

 

「ずいぶんと物騒なものを付けたわね」

 

「自覚はあります。だからリミッターを付けたんですよ」

 

「当然よ。もし制限なしで付けてたら、貴方を殴ってでも外させてたわ」

 

「うわぁ……それはご勘弁」

 

「まったく……それで、そのリミッターって大丈夫なんでしょうね? 簪ちゃんに何かあれば承知しないわよ」

 

「相変わらずですね……それを明日確認するために、アリーナの予約をしに来たんですよ」

 

「ああ、なるほど……」

 

パイセンはそう言って少し考えるような仕草をしたが、すぐにくるっと踵を返すと

 

「ちゃんとリミッターが効くか心配だから、明日は私も見学させてもらうわね~」

 

扇子を振りながら、生徒会室の方に戻っていった。こっちは了承してないんだがなぁ……。

 

「やれやれ……」

 

パイセンが見えなくなってから、俺はその場でため息をついた。神出鬼没かつ忙しない人だ。

 

「簪にも、同じぐらい絡めばいいものを」

 

苦笑しつつ、俺は簪達が待ってるであろう食堂に向かって歩き出した。

 



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第15話 朴念仁からの脱却

今年最後の更新になります。
再開は年明け1/5辺りの予定です。

それでは皆様、少し早いですが、良いお年を。


新武装の動作確認を明日に控えた夜。寮の部屋で簪と茶を飲んでいると

 

――コンコン

 

「かんちゃーん」

 

「本音?」

 

簪がドアを開けると、そこにはのほほんと――

 

「貴方、確か2組の……」

 

「……」

 

2組のクラス代表、凰鈴音が目を真っ赤にして立っていた。

 

 

 

 

とりあえず2人を部屋の中に入れて、適当に机の椅子に座らせた。

 

「それでのほほん、どうして凰と一緒なんだ?」

 

「外のベンチで泣いてたのを連れて来たからだよ~」

 

「べ、別に! 泣いて、なんて……」

 

怒鳴ろうとした凰だったが、徐々に声が知りすぼみになっていった。目が赤いのはそういうことか。

 

「はい、麦茶だけど」

 

「あ、ありがとう」

 

簪から渡されたコップを受け取ると、凰はグイッと中身を飲み干した。

 

「はぁ……別に大したことじゃないのよ。ちょっと昔のあたしが馬鹿だっただけなんだから……」

 

そう言うと、凰はその"昔"を話し始めた。

 

 

 

凰は小学5年の頃、日本にやってきたそうだ。

当時は日本語が下手だったのが原因でいじめにあってたらしく、その時手を差し伸べてくれたのが一夏だったと。

それから一夏と仲良くなったそうだが、中学2年の時に両親の都合で中国へ帰国。

で、問題はその時交わした約束らしいんだが……

 

 

 

「あたし、一夏に言ったの……『料理の腕が上達したら、毎日酢豚を食べてくれる?』って……」

 

「それって……」

 

「『毎日味噌汁を~』の亜種かな~?」

 

「そうっぽいな」

 

つまり、凰は一夏に告白したわけだ。

 

「それで今日の放課後、一夏に聞いたの。『あの時の約束、覚えてる?』って。そしたら……」

 

ちょっと待て。それで今凰が泣いてたってことは……

 

「まさか一夏の奴、その約束を忘れてたとか……」

 

「それならまだ良かったわよ……」

 

「え?」

 

 

 

「『酢豚奢ってくれるんだろ?』だって!!」

 

 

 

「「「あ~……」」」

 

俺、簪、のほほんの3人の声がハモり、手を目に当てて天を仰ぐところまでシンクロした。

一夏ぁ、お前って奴はぁぁぁぁ……

 

「でも~、おりむーにそんな遠回しな表現通じるのかな~?」

 

「そうよ……だから言ったでしょ、『昔のあたしが馬鹿だった』って」

 

「ああ、そういう……」

 

つまり、当時の一夏は婉曲表現なんてものを知らず、凰の告白を額面通り『毎日酢豚を食わせてくれる=奢ってくれる』と受け取ったわけか……。

 

「凰」

 

「なによ」

 

「消灯時間まで居ていいから、好きなだけ泣いてけ。なぁ簪?」

 

「うん。これは酷すぎる」

 

簪も頷いて、凰が手に持ったコップに麦茶を注ぎ足した。

 

「アンタ達……礼は、言わない、わよ……」

 

そう言いながら凰は、今度は麦茶をちびちび飲みながら、それと同じぐらいポタポタと涙を流し続けた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

凰も男の俺がいたら満足に泣けないだろうから、一旦部屋の外に出たんだが、

 

 

~~~♪

 

 

「誰だ? こんな時間に」

 

スマホのディスプレイを見ると、登録されていない番号だった。

 

「もしもし?」

 

『貴方が現地作業員とやらでよろしい?』

 

「……誰だ?」

 

()()()()を知ってるってことは、そっち(神界)関係の奴なんだろうが。

 

『わたくしはシギュン』

 

「シギュン……ってロキの嫁さんかよ!」

 

『今回、あの(ひと)に代わり、わたくしが貴方に指令を伝えることになりました』

 

「はぁ……それで、指令ってなんだ?」

 

 

 

『一夏様を育てるのです!』

 

 

 

「……はい?」

 

この女神、なんつった?

 

『この度の介入、当初は一夏様との接触を極力行わないよう伝えておりました』

 

「そうだな」

 

さ○ま○し風の指令書モドキまで見せられてな。

 

『しかし、それでは前回行われた悪行に対する償いにならないと、わたくしを含めた女神達が判断しました』

 

「はぁ……」

 

『ゆえに! 今回貴方を敢えて一夏様に接触させて、あの馬鹿が『アンチネタにされるような悪い部分』などとほざく"可愛い部分"を矯正し、最高の一夏様に育て上げるのです!』

 

あ~……神って馬鹿ばっか?

 

「同年代の野郎を育てるとかないわ~……」

 

『いいえ、貴方はすでに一夏様を育てています』

 

「は?」

 

『一夏様がイギリスの小娘に"ちょっと悪口"を言った際には、きちんと謝るように諭したではないですか』

 

「いや、諭したっていうか、確かに謝るようにアドバイスはしたが」

 

『それによって、一夏様の1組内での印象は大変良くなりました。そのようなシナリオを、わたくし達は望んでいるのです』

 

「さよで……」

 

そして一連のやり取りで思った。この女神、めっちゃ一夏のこと依怙贔屓してるじゃん。2次創作のアンチものかってぐらい一夏の事を毛嫌いしてた旦那(ロキ)と、よく夫婦になれたなおい。

 

「一応言っとくが、俺はあくまで一夏とはダチとして付き合ってくつもりだ」

 

『今はそれで構いません。貴方が一友人として助言することで、一夏様は理想の主人公へとなっていくでしょうから。それにどうせ、これから中国娘の件で一夏様の所へ行くのでしょう?』

 

「……なーんか心を読まれてるようで不愉快だが、確かに行く気だった」

 

今回は助言というよりSEKKYOUになりそうだがな。

 

『それによって、また一つ一夏様が成長することを期待しております』

 

 

 

 

というやり取りがあった後、俺は1025号室の前にいるわけだ。

 

「一夏~、いるか~?」

 

「陸か? 何か用か?」

 

ノックして呼びかけると、少ししてドアが開き、一夏が出てきた。そこをすかさず

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「ぐあぁぁぁぁ!?」

 

 

アームロックをキメて、一夏ごと部屋の中に入る。廊下で話せる内容でもないからな。

 

「み、宮下!? 一体これはどういうことだ!?」

 

部屋の奥から、驚いた顔の篠ノ之が出てきた。ちょうどいい。

 

「なぁ篠ノ之。一夏は馬に蹴られて死ねばいいと思うか?」

 

俺のその問いに、篠ノ之は何かを察した顔をすると

 

「ああ。蹴られて死ぬべきだな」

 

即答した。

 

「箒!? 一体どういうことなんだだだだだだっ!」

 

とりあえず部屋には入れたから、アームロックは止めるか。

 

「なぁ一夏。日本には婉曲表現ってあるのは知ってるか?」

 

「痛たたた……いきなりなんだよ」

 

「その婉曲表現に『毎日味噌汁を作ってくれ』ってのがあるのは知ってるか?」

 

「なんだそれ?」

 

「要は『毎日味噌汁を作るために、ずっと一緒にいてくれ』って告白の意味になる」

 

「……ああ、なるほど」

 

俺の説明を理解できたのか、一夏は手を打ってコクコクと頷いた。

 

「ここで一夏に問題。今の表現を、作る側に置き換えたらどうなる?」

 

「え? それは『毎日味噌汁を作ってあげる』になるんじゃねぇの?」

 

「そうだな」

 

OK、ここまでは順調だ。

 

「なぁ、結局何が言いたいんだ?」

 

「焦るなって。それじゃあ今一夏が言った婉曲的な告白、中国人が言うとしたら、何て言うとピッタリくる?」

 

「中国人が? そうだなぁ……中国に味噌汁なんてないだろうし、別の中華料理に置き……換えて……」

 

腕を組んで考えていた一夏の顔が、徐々に青くなっていく。ようやっと気付いたか、馬鹿め。

 

「酢豚なんかピッタリだと思わないか? 凰とか、そう言いそうだよなぁ」

 

「……っ!」

 

俺の追い打ちに、一夏の方がビクンと跳ねる。

 

「で、でも、鈴だぜ? そんなわけが……」

 

俺に縋りつくような視線を向けてくる一夏の顔は、青と通り越して血の気の引いた白になっていた。

 

「俺は凰じゃねぇんだから、そんなこと言われても返答できんぞ。ただ言えるとしたら」

 

 

「自分じゃどうにもならない窮地を救ってくれた相手を、好きになることだってあるんじゃねぇか?」

 

 

「あ……」

 

凰と出会った時の事を思い出したのか、一夏は頭を抱え、力なく膝から崩れ落ちた。

 

「そんな……でももし、陸の言ったことが本当なら……俺、鈴になんてこと言っちまったんだ……!」

 

「一夏……」

 

そんな一夏に篠ノ之が寄り添う。

 

「一夏、外野の俺が言うのはお門違いだってのは百も承知だ。けどな」

 

俺はしゃがみ込むと、頭を抱えている一夏の顔を覗き込んだ。

 

「まずは謝れ」

 

「あやま、る?」

 

「そうだ。理由も分からず適当に謝っても意味はないが、お前はちゃんと凰が怒って、泣いた理由も分かったんだろ? なら、きちんとした形で謝れるはずだ」

 

「きちんとした、形で……」

 

「おう」

 

形だけ謝罪したって誠意なんて伝わらんだろうし、下手すりゃ同じことをやらかして最初より悪化しかねないからな。

 

「ああそれと、『一度した約束を反故にするのは男らしくない』って理由で告白を受けるのは無しだぞ」

 

「え?」

 

え、じゃねぇよ馬鹿。

 

「お前なぁ……『告白だって気付かなかったけど、男らしくないんで付き合います』なんて、そんな誠意のない男女の付き合いをしたいのか?」

 

「一夏、さすがに私もそれはどうかと思う」

 

「そ、そうだな……」

 

そう言って、やっと一夏は顔を上げたが、まだまだ顔色は青いな。

 

「篠ノ之、散々引っ掻き回しておいて悪いんだが、あとは任せていいか?」

 

「ん? ああ、そろそろ消灯時間か」

 

俺としても無責任だとは思うが、寮長の織斑先生に絞られるのは前回の門限ブッチでたくさんだ。

 

「ところで、どうして宮下がこの話を知っているんだ? あの場には一夏と私の他は、鈴しかいなかったはずだが」

 

「その凰が泣いてるところを、のほほんが見つけて俺と簪のところに連れて来たんだよ」

 

「なるほど……分かった。あとは私の方で引き受けよう」

 

「すまん。頼んだ」

 

篠ノ之に手を合わせると、俺は1025号室をあとにした。

 

 

 

部屋に戻ると、凰とのほほんは帰った後だった。

簪曰く、『きょ、今日の借りは、いつか必ず返すんだからね!』とのことらしい。典型的なツンデレである。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

宮下が帰った後、少しして一夏は立ち上がると、自分のベッドに座り込んだ。

 

「箒……俺、情けねぇよ……」

 

組んだ手の上に頭を載せて俯いていた一夏が、ボソリと呟いた。

 

「白式を手にした時さ、正直浮かれてたんだ。『これで誰かを守る力を手に入れた』って。だけど実際は、幼なじみとの約束ひとつ、まともに守れてないんだぜ? 何が守るだよ、俺って奴は……」

 

「一夏……」

 

「しかも俺は、その鈴からの好意を、陸に指摘されるまで気付きもしなかったんだ……最低だ」

 

俯いているから、一夏が今どんな顔をしているかは分からない。ただ分かるのは、その足元に水滴が落ちて染みを作っていることだけだ。

そんな一夏の目の前に、私もしゃがみ込む。

 

「宮下も言った通り、まずは謝るべきだ。過去を変えることはできないが、過去を省みることはできる」

 

「……ああ、そうだな……」

 

それからややあって、一夏が顔を上げた。目は赤くなっていたが、顔色は先ほどよりも良くなったようだ。

 

「悪いな箒、つまらない弱音を聞かせちまって」

 

「気にするな。たまには"幼なじみ"の弱音ぐらい聞いてやる」

 

「ありがとうな……って、なんで"幼なじみ"のところを強調したんだ?」

 

「別に。ただ、宮下の言っていた『自分じゃどうにもならない窮地を救ってくれた相手を、好きになることだってある』という言葉。まったくその通りだと思っただけだ」

 

「それって……え?」

 

「ほら一夏、もう消灯時間だ。寝るぞ」

 

当て付けのつもりで言ってしまった言葉を誤魔化すように、部屋の明かりを強制的に落として、私は布団の中に潜り込んだ。真っ赤になっているであろう顔を、一夏に見られないように。

 



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第16話 メメントモリ

年明け1発目の更新です。

年末年始で帰省したら忙しすぎて(帰ってきたのを好都合とばかりに使いっ走りにされて)、全然書き溜め出来なかったっていうね……


ここ最近は毎日のように来ている第4アリーナ。今日は新装備のテストをしに来たわけだが、俺達3人以外にも……

 

「見学者よ」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

そんなドヤ顔していう事じゃないでしょパイセン。

ほら、簪だってどう反応したらいいか困ってるし。

 

「りったーん、計測器の準備できたよ~」

 

「おう。こっちも準備万端だ」

 

さて、いつもは簪が弐式を操縦して、俺とのほほんがデータ取りをしているわけだが、今回は違う。なぜなら

 

「陸がIS乗るところ、初めて見た」

 

そう、偶々訓練機の空きがあったから、昨日アリーナと一緒に予約したのだ。

で、俺が作成者として対戦相手(という名の標的)を買って出たわけだが……

 

「りったん、大丈夫~?」

 

「あ~、やっぱ実技試験以来だから、戦闘機動は無理かもなぁ」

 

それでも、なんとか簪の前にまで移動はできた。パイセンも、のほほんの横に移動済みだ。

 

「それじゃあ簪、始めるぞ」

 

「陸……これ、本当に平気?」

 

俺と右手を見比べながら、簪が不安そうな顔をする。

 

「大丈夫だ。そのためのリミッターだろ?」

 

「……分かった。それと、危なくなったら即中止する」

 

「おう」

 

不安そうな顔をしていた簪だったが、

 

「それじゃあ、行く!」

 

気合の入った掛け声とともに、俺が乗った打鉄の左腕部を掴む。そして

 

「メメントモリ、起動!」

 

その瞬間、掴まれた箇所に赤黒い高周波の光が瞬き、打鉄のSEがみるみるうちに減っていく。800……700……600……

そして照射が終わった時には、SEは500近くまで削れていた。

最初あったSEは900。つまり……

 

「一撃で、半分近く持ってったの……?」

 

「す、すごい……」

 

「これ、凶悪すぎだよ~……」

 

パイセンも簪ものほほんも、みんなこの結果に唖然としていた。

リミッター付きでこれだ。もし外した状態で使ったら……いや、使わないといけなくなったら……

 

「是非とも、名前負けの武装のままであって欲しいな……」

 

「陸?」

 

「ん? ああ、何でもない。とにかくリミッターも含めて、テストは成功だな」

 

「そうね。簪ちゃんが何ともなくて良かったわぁ」

 

「もう、お姉ちゃんってば……」

 

弐式を待機状態にした簪に、パイセンが過度なスキンシップをしていた。

 

「これで来週の対抗戦はいただきだね~」

 

「油断はできないが、手札は揃ったな」

 

のほほんの頭をワシワシしながら、今朝玄関前廊下に張り出されていた紙の内容を思い出していた。

表題は『クラス対抗戦日程表』。組み分けは

 

第1試合 1組 vs 2組

第2試合 3組 vs 4組

 

と書かれていた。

 

3組に専用機持ちはいなかったはずだから、今の簪が負けるとは考えづらい。そうなると、一夏か凰、勝った方と決勝で戦うことになるだろう。

 

 

……パイセン、簪を弄り過ぎて脳天チョップ食らってら。

 

ーーーーーーーーー

 

何もない、真っ暗な世界。そこに私は、制服を着たまま立っていた。

ああ、これは夢なんだと、確信した。

何より、目の前の人が、()()()()()()()()()()()()だと知ってるから。

 

「ランディさん……」

 

「よう嬢ちゃん、久しぶりだな」

 

陽気に手を振る赤毛の人は、もう片方の手に小さなグラスを持って、この真っ暗な世界になぜかポツンとあるソファに座っていた。

 

「えっと、あの時はありがとうございました」

 

「あの時……ああ、姉ちゃんとの決闘の時か。いいってことよ。自分なりのけじめをつけて、姉ちゃんと和解も出来たんだろ? なら俺も、手伝った甲斐があるってもんだ」

 

笑いながらそう言うと、ランディさんは手に持ったグラスの中を飲み干した。あの琥珀色の液体……もしかして、お酒?

 

「ランディさん、聞きたいことがあります」

 

「おう。俺で答えられることなら答えるぜ」

 

「あの紅い打鉄弐式は、一体……」

 

「ん? たぶん俺の力を流したからじゃねぇか? すまんが、俺にもよく分かんねぇんだ」

 

「そう、ですか……」

 

まだ分からないことだらけだけど、とにかくあの紅い弐式は『ランディさんが手を貸す時限定』らしい。

 

「それにしても嬢ちゃんのメカニック、ひどいネーミングセンスの持ち主だな」

 

「え?」

 

「『メメントモリ』の事だよ」

 

「な、なんで……」

 

なんで、ランディさんが弐式の武装を知ってるの?

 

「そりゃあ、()()に付けられた装備ぐらい分かるさ」

 

「自分に……?」

 

どういうこと? それじゃあ、まるで……

 

「『まるで俺が打鉄弐式みたいじゃないか』か?」

 

「っ!」

 

「だが嬢ちゃん、お前さんにも心当たりがあるんじゃないか?」

 

心当たりは……ある。

そもそも弐式が紅くなったのだって、ランディさんが弐式そのものなら簡単に出来る。

そして普通なら、こんな人格が機械にあるなんて世迷言、誰も信じない。だけど、ISなら話は別だ。

 

「コア、人格……」

 

「正解だ。正確には、元々あったコア人格と、別世界から飛ばされた"俺"の人格が混じり合った結果だがな」

 

途方もない話だ。

 

「最初嬢ちゃんに会った時、『心の世界が~』みたいなこと言ったろ? 今ならあの意味も分かるんじゃないか?」

 

「……トップクラスのIS操縦者は、コア人格と言葉を渡し合った事があると証言している」

 

「そうだ。元々ISって奴は操縦者と意思疎通が出来るようになってるらしい。ただ、条件が厳し過ぎる上、夢かどうかも分からん状況での話だから、誰もコアに人格があると証明できない」

 

「でも、今私とランディさんは話を出来てる」

 

それに決闘の時だって、ランディさんと対話していたはずだ。

 

「それは俺から話しかけたからだろ? ほとんどのコア人格はシャイなんだよ。いや、警戒してると言うべきか」

 

「警戒?」

 

「『自分達を道具としてしか見ていない。自分達の人格を否定されるんじゃないか』ってな」

 

「ああ……」

 

何となく分かる。よく授業では『ISはパートナーのように』と言ってるけど、なかなか難しいかもしれない。

 

「さて、これで俺については理解してもらえたか?」

 

「うん、それについては。でもまだ、『メメントモリ』については聞いてない」

 

「ああ、それか」

 

そう言うと、ランディさんは先ほどの琥珀色の液体が入った瓶をどこからか出してきて、グラスに注ぎ始めた。

 

「嬢ちゃん、あの武装をリミッターを外した状態で使ったらどうなると思う?」

 

「それは……相手はただじゃ済まない」

 

「はっきり言えっての。『確実に相手は死ぬ』ってな」

 

ランディさんの指摘に、私は反論できなかった。

 

「逆に、そんな物騒なもんを使わなきゃならんぐらい切羽詰まってる時に、使うことを躊躇ったら、どうなる?」

 

「それは……」

 

「想像がつかないか? 答えは『自分か仲間が死ぬ』だ」

 

「あ……」

 

銃を持ったテロリストを撃たなければ、自分や周りの誰かが撃たれる。つまりそういうことなんだろう。

 

「使おうが使うまいが、必ず誰かが死ぬ。ゆえに『メメントモリ(死を忘れるなかれ)』。ひでぇネーミングだ」

 

確かに、酷い名前かもしれない。だけど……

動作テストの時、陸が呟いていた言葉を思い出していた。

 

『是非とも、名前負けの武装のままであって欲しいな……』

 

「これは競技用。だから名前負けの武装、それでいいと思う」

 

「……そうかい」

 

「それに……」

 

「それに?」

 

 

「もしリミッターを外して使わないといけなくなっても、"討った事実"から逃げたくない。だから、戒めとしてちょうどいい」

 

 

「……」

 

ランディさんは一瞬呆けた顔をして、それから

 

「くくくっ……はははははははっ! まったく、あっという間にでっけぇ雌獅子に成長しやがって!」

 

手で目を覆いながら、声を大にして笑い出した。

 

「そんだけ自分で腹括れてんなら、俺があれこれ言うのも無粋か」

 

ひとしきり笑うと、ランディさんはまたグラスの中身を飲み干した。

 

「嬢ちゃんの決意、コアの中から見させてもらうぜ」

 

「うん」

 

私は頷くと、踵を返して何もない暗闇を歩き出した――

 

ーーーーーーーーー

 

「……」

 

目が覚めると、まだ日が昇る前だった。

 

(陸は……まだ寝てる……)

 

隣に視線を向けると、陸の姿があった。

起き上がって近づいてみたけど、よほどぐっすり寝ているのか、目を覚ます気配は無かった。

 

(私が強くなれたのは、陸がいてくれたから……)

 

あの日、陸と出会わなければ、今の私は無かった。本音と和解できず、お姉ちゃんと戦うことも出来ず、ずっと一人だったはずだ。

自分の"業"と向き合うことも出来ず、前に進むことも出来なかっただろう。

 

(陸……)

 

陸の顔を覗き込む。そうしていると、心の底が温かくなるのを感じる。

 

(やっぱり、私は……)

 

 

 

 

「私は、陸の事が……好き……」

 



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第17話 クラス対抗戦、異形の乱入者

クラス対抗戦当日。

組み合わせは一夏と凰。専用機持ち同士の戦いとあって、アリーナの観客席は満員状態。聞いた話だと、会場入りできなかった人達用に、リアルタイムモニターが設置されているらしい。

 

そんな中、俺は4組のクラスメイト達と一緒に観客席に座っていた。

 

「どっちが勝つかなぁ」

 

「私織斑君~」

 

「凰さんって中国の代表候補生なんでしょ? 私は凰さんだと思うな」

 

「宮下君はどっちが勝つと思う?」

 

「俺か? 俺も凰が勝つと思うな」

 

「やっぱり~?」

 

「え~」

 

一夏には悪いが、よほど機体性能に差がない限り、乗ってる時間が多いであろう凰の方が有利なんだよなぁ。

 

「更識さんも同じ予想?」

 

「うん。本音に聞いた話だと、織斑君の機体には遠距離武装がないって」

 

「「「「ええ!?」」」」

 

「は? 遠距離武装が無い?」

 

隣に座ってる簪からもたらされた情報に、俺を含め、周りの人間全員が唖然とした。

 

「『雪片弐型』って近接ブレードしかないみたい」

 

「で、でも、後付武装で追加してたり……」

 

「ううん。なんでも拡張領域がそのブレードに占有されてて、他に何も積めないらしい」

 

「マジか……」

 

強制ブレード縛りとかないわー。いや、あれこれ考えるのが苦手そうな一夏にはちょうどいいのか? ……別にディスったわけじゃないぞ。

 

「それにしてもブレード1本で拡張領域全部持ってくとか、よっぽどすごい武装なんだろうな」

 

「どうなんだろう。そこまでは本音から詳しく聞いてなかった」

 

「まぁそれも、これから見られるだろ」

 

そう言ってアリーナの方に目を向けると、ちょうど一夏と凰が入場したところだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

俺の視線の先には、IS『甲龍』を纏った鈴が、試合開始の時を待っていた。

 

『それでは両者、既定の位置まで移動してください』

 

アナウンスに従って、俺と鈴は空中で向かい合う。その距離5メートル。そこで、鈴からプライベート・チャネルが入る。

 

「一夏、今謝るなら少し痛めつけるぐらいで許してあげるわよ」

 

「そんなのいらねぇよ、全力で来い。ただ……」

 

「ただ、何よ?」

 

「"約束"については、あとで絶対謝る」

 

「は?」

 

「だから今は真剣勝負、お互い手を抜くのは無しにしようぜ」

 

「……そう」

 

鈴は一瞬キョトンとしていたが、

 

「いいわ。アンタが謝るっていうなら、今は勝負にだけ集中してあげる」

 

そう言って鈴が笑うと同時に

 

 

――試合開始のブザーが鳴った

 

 

その瞬間、俺と鈴は動いた。

 

――ガキィィン!

 

「くぅ!」

 

俺が展開した雪片弐型が、鈴が振り回す青龍刀――しかも二刀流――に弾かれる。

 

「ふうん。初撃を防ぐなんて、なかなかやるじゃない。それなら」

 

――ガキィン! ガキィン! ガキィン!

 

二刀流から繰り出される連撃に対して、俺の雪片弐型は1本だけ。今はなんとか捌いてるが、

 

(まずい! このままじゃ消耗戦になるだけだ! 一旦距離を――)

 

「甘いっ!」

 

――ドォン!!

 

「なっ!?」

 

な、なんだ……! 今、目に見えない何かに『殴られた』ような衝撃が――

一瞬飛びそうになった意識を慌てて取り戻すと、鈴の方を凝視した。すると

 

「肩部装甲が……」

 

肩の横に浮いている棘付き装甲(スパイク・アーマー)がいつの間にかスライドしていて、中心に球体が見えていた。まさか、あそこから?

 

「そこに気付いたのは褒めてあげる。でも、今のはジャブだから――」

 

鈴が不敵な笑み浮かべた瞬間

 

――ドォン!!

 

「ぐはっ!」

 

先ほどとは段違いの衝撃に、危うく地表に叩き付けられそうになった。これは、かなりまずい。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あれは、『衝撃砲』ですわね……」

 

1組側の観客席で、セシリアが呟いた。

 

「セシリア、その衝撃砲とは」

 

「空間に圧力をかけて砲身を生成、その時生じた衝撃を砲弾として撃ち出す、第3世代型兵器ですわ」

 

「つまり、不可視の砲撃ということか……」

 

「ええ。一夏さん……」

 

心配そうなセシリアの視線を追うように、箒もステージの方を見た。

じりじりとシールドを削られる、一夏の姿を。

 

(一夏……)

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ……はぁ……」

 

「よく避けるじゃない。衝撃砲『龍咆』は、砲身も砲弾も見えないのが特徴なのに」

 

(ハイパーセンサーに空気の流れを探らせてるが、それじゃ間に合わない。どこかで、先手を打たないと……)

 

回避行動を取りながらそう考えたところで、俺は先週の訓練を思い出した。

 

 

 

「バリアー無効化?」

 

「そうだ」

 

聞き返すと、千冬姉は小さく頷いた。

 

クラス代表決定戦の後、セシリア戦で敗北になった理由を箒とあれこれ考えていたが、今ひとつ結論が出てこない状況だった。それに業を煮やした千冬姉がやってきて説明、今に至るというわけである。

 

「相手のバリアー残量に関係なく、本体に直接ダメージを与えることができる。さて、そうなった場合はどうなる? 篠ノ之」

 

「は、はいっ。ISの『絶対防御』が発動して、大幅にシールドエネルギーが消費されます」

 

「その通り。私がかつて世界一の座にいたのも、この雪片の特殊能力によるところが大きい」

 

「つまり、あの一撃が当たってれば俺が勝ってた?」

 

「当たればな。そもそも、なぜ負けたと思う?」

 

そうだ。そもそもそれが話の発端だった。

 

「それは、シールドエネルギーが0になったから……」

 

そこまで言って、俺はふと気付いた。まさか――

 

「雪片弐型の特殊能力の、せい?」

 

「ほう、お前にしては察しがいいな。そうだ、あの特殊攻撃を行うためのエネルギーとして、白式のシールドエネルギーが使われている」

 

「な、なんて諸刃の剣なんだ……」

 

箒が唖然とした顔で呟くが、俺も唖然とした。

しかも、白式にはそんな諸刃の剣以外、武装がまったく無い。これでどうしろと。

 

「そんな顔をするな。本来拡張領域用の空きが全部埋まるほど、雪片弐型に処理を回してるんだ。その分威力は全ISでもトップクラスだろうさ」

 

「それは……そうか……」

 

言ってしまえば、一撃必殺の攻撃を持ってるんだ。なら、それを当てる努力をした方がいいのか。

 

「一つのことを極める方が、お前には向いている。そもそも仮に白式に銃器が積めたとして、反動制御や弾道予測からの立ち回り……出来るのか?」

 

「……ごめんなさい」

 

雪片弐型しか武装のない白式に対して、千冬姉に『あれこれ考えずにやれることをやれ』という遠回しな言葉をもらってから、訓練は近接戦闘と基礎移動技能に費やした。

あとは気持ちの問題。今までやってきたことを信じて、やり切るだけだ。

 

 

 

そして衝撃砲をギリギリで躱した、このタイミングで――

 

「うおぉぉぉっ!」

 

「なっ!」

 

この1週間で身につけた技能『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』による奇襲。そこに雪片弐型の『バリアー無効化』を同時に発動させる。

おそらく2度は通じない奇襲と、自分のSEを消費することで発動する諸刃の剣。だけど、今の俺と鈴の実力差を埋めるには、これしかない。

 

「いけぇぇぇぇっ!」

 

バリアー無効化の刃が、一瞬動きの鈍った鈴に届きそうになった瞬間、

 

 

――ズドォォォォンッ!!

 

 

突然大きな衝撃がアリーナ全体に走った。

 

「な、なんだ……?」

 

周りを見渡すと、ステージ中央からもくもくと土煙が立ち上っている。どうやらさっきの衝撃は、アリーナの遮断シールドを『なにか』が貫通した結果のようだ。

 

「一夏、 試合は中止よ! すぐビットに戻って!」

 

鈴からのプライベート・チャネル?

 

「鈴? 一体――」

 

どういうことだ、という前に、ハイパーセンサーが緊急通告をしてきた。

 

――ステージ中央に熱源。正体不明のISと断定

 

――警告! 正体不明のIS、射撃体勢に移行

 

「あぶねぇ!」

 

反射的に急加速した直後、さっきまでいた空間が熱線で焼かれた。

 

「ビーム兵器かよ……しかもセシリアのより出力が上だ」

 

「一夏、平気!?」

 

鈴が、先ほどビームを撃ってきた"土煙"を迂回するように、こちらにやってきた。

 

「ああ、なんとかな。だが……」

 

その土煙が徐々に晴れていき、そこから姿を現したのは……

 

「なんなんだ、こいつ……」

 

全身装甲(フルスキン)、ですって……?」

 

 

肩と頭が一体化したような、首のないフォルム。つま先よりも下まで伸びた、異様に長く、そしてビーム砲口を左右4門もった手。

俺と鈴の目の前には、そんな異形な姿のISが中空に鎮座していた。

 




あれ? 一夏が主人公してる……?


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第18話 手のひらから、零れ落ちる

クラス代表が一夏だから、対抗戦はオリ主の出番が少なくて困る……


「なに、あれ……」

 

一夏と凰の試合に乱入したISに、女子生徒の誰かが呟いた。

と、次の瞬間

 

――ガシャンガシャンガシャン!

 

観客席とステージの間に隔壁のようなものが降りてきた。

 

「遮断シールド!?」

 

「一体何なのよぉ!」

 

突然の出来事に、観客がパニックを起こし始めた。

 

「え!? ドアが開かないんだけど!?」

 

「み、みんな落ち着いて!」

 

エドワース先生が声を上げるが、誰も聞く余裕が無く、パニックはどんどん伝播していく。

 

「陸……」

 

「簪、お前のISから、管制室に通信ってできるか?」

 

「それは……できる、と思う」

 

「やってくれ」

 

そもそも遮断シールドが降りてくること自体異常なんだが、それなら警報が鳴らないのもおかしな話だ。だからまずは、情報が欲しい。

 

「陸」

 

「どうだった?」

 

「あまり詳しくは教えてもらえなかったけど……IS学園のシステムがハッキングを受けてて、警報も鳴らせないし、遮断シールドやドアロックも解除できないって……」

 

「マジかよ……」

 

IS学園のシステムは軍事施設並だって、以前どこかで聞いたことがある。そこにハッキングを仕掛けるとか、一体どんな奴だよ。いや、そんなことよりまずは

 

「簪はエドワース先生に、今聞いたことを伝えてくれ」

 

「陸は?」

 

「なんとかして、パニックを起こしてる連中を黙らせる」

 

簪にそう言うと、俺は立ち上がり、壁際まで歩いて

 

 

――ドゴンッ!

 

 

「ギャーギャー騒いでんじゃねぇぞボケナス共がぁ!!」

 

 

「「「「ひぃっ!?」」」」

 

「り、陸……?」

 

いや簪、お前まで引かなくていいんだぞ? ちょっと壁殴って大声上げただけだから。

 

「みんな黙ったな? それじゃあエドワース先生、あとはよろしくお願いします」

 

「え? ちょっと宮下君?」

 

これで先生の指示もちゃんと通るだろう。先生含めてみんな引いてるって? 知らん知らん。

 

ーーーーーーーーー

 

謎のIS相手に、俺と鈴は攻めあぐねていた。

とにかく相手のスラスター出力が尋常じゃない。その所為で、鈴がどれだけ引き付けても、俺の斬撃――バリアー無効化攻撃――をするりと躱してしまうのだ。

 

「一夏、アンタのSE残量は?」

 

「そろそろ60を切りそうだ。そっちは?」

 

「180ってところね」

 

なにせ試合中に乱入されたから、お互いSEの余裕なんて全くない。しかも俺の場合、バリアー無効化でSEを使うから、ほぼカツカツだ。おそらく、攻撃はあと1回が限界だろう。

その1回に賭けるために、再度集中力を高め……ん?

 

「なぁ鈴。あいつの動き、おかしくないか?」

 

「はぁ? おかしいって何がよ?」

 

「なんつーか……機械じみてるっていうか」

 

「ISは機械でしょ」

 

「いや、そうじゃなくて……あれ、本当に人が乗ってるのか?」

 

「何言ってるのよ、人が乗らなきゃISは……」

 

そこまで言って、鈴の言葉が止まる。

 

「……つまり、あれは無人機だって言いたいの?」

 

「もしかしたら、な。……織斑より管制室」

 

『織斑君ですか!? まだやられてないですよね!? 凰さんも平気ですか!?』

 

管制室に通信したら、山田先生の慌てた声が聞こえた。

 

「こっちは大丈夫です。それより山田先生、お願いがあります。あの正体不明のISに生体スキャンをかけてもらえませんか?」

 

『へ? 生体スキャンですか? できますけど……』

 

「お願いします!」

 

『わ、分かりました! スキャン開始……え?』

 

「山田先生?」

 

『せ、生体反応、無し……』

 

「やっぱりか!」

 

「一夏の見立て通りってわけね」

 

人が乗ってないなら、雪片弐型を全力で振るっても問題ない。最悪の事態を考えなくていいからな。

 

「それで? 無人機なのは分かったけど、これからどうするの? アンタの攻撃が当たらないのは変わらないわよ」

 

「策がある」

 

「へぇ」

 

俺の返答に、鈴がにやりと不敵に笑った。これはあれだ。『間違ってたら駅前のクレープ奢りなさいよ』という顔だ。1年ちょっと前までよく見たから覚えてる。

 

「あたしは何をすればいい?」

 

「俺が合図したら、あいつに向かって衝撃砲を撃ってくれ。最大威力で」

 

「それじゃ当たらないだろうけど……まぁいいわ。アンタの"策"とやらに期待するわ」

 

「おう」

 

俺は雪片弐型を構えて、無人機に向き直る。そして

 

「鈴、やれ!」

 

鈴に合図を送ると共に、突撃姿勢に移行、瞬時に加速する。

 

「ちょっと何してるのよ! どきなさいよ!」

 

鈴の慌てた声が聞こえてくる。それはそうだ。何故なら俺は無人機と鈴の間、つまり衝撃砲の射線上にいるんだから。だが、

 

「いいから撃て!」

 

「ああもう! どうなっても知らないわよ!」

 

背後から放たれた衝撃を受ける瞬間、俺は瞬時加速(イグニッション・ブースト)を作動させた。

 

俺の速度じゃ、無人機に躱される。瞬時加速(イグニッション・ブースト)で加速したとしても、おそらく同じだろう。

 

 

なら、外部要因(衝撃砲を食らうこと)によって加速した場合は?

 

 

背中に衝撃砲の砲弾を食らい、ミシミシと体が軋む感覚を受けながら、無人機との距離が一気に縮まっていく。

そしてその距離が雪片弐型の有効範囲に入ったところで

 

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 

エネルギー刃を形成した必殺の一撃は、無人機の頭と右腕を切り飛ばした。

無人機は残った左腕を伸ばしてきたが、頭があった場所からボンッと爆発を起こすと、そのまま地上に落ちていった。

 

「やった……」

 

「ええ……」

 

俺も鈴も、ただただ落ちていく無人機を目で追うことしかできなかった。

 

『織斑君! 凰さん! 大丈夫ですか!?』

 

あ、そういえば管制室に繋ぎっぱなしだった。

 

「はい、こっちは何とか……」

 

『良かったです! こちらも遮蔽シールドとドアロックが解除されたところです!』

 

観客席の方を見ると、隔壁のようなシールドが上がっていくのが見えた。

 

「ふぅ。これで終わった――」

 

――警告! 敵ISの再起動を確認!

 

「なっ!?」

 

突然の警告に気付いた時には、無人機に残っていた左腕が最後の力とばかりに、ビームを撃ち出した後だった。

遮蔽シールドが上がったばかりの、観客席に向かって――

 

ーーーーーーーーー

 

陸の怒声(本人は"大声"って言ってたけど)で静かになったおかげで、観客席の混乱は最小限で抑えられた。

エドワース先生から説明を受けたことで、みんなも指示に従っている。やっぱり何も情報が無いのは怖いよね。

 

「あ! ドアが開くよ!」

 

「ホントだ!」

 

「みなさん! 順番に、落ち着いて脱出してください!」

 

やっと外に出られる安心感からか、みんな私の誘導に従ってぞろぞろと案客席を出て行く。

 

「宮下君、他に生徒は残ってますか?」

 

「いいえ、こっちのエリアは今並んでるので全員です」

 

先生からの指示で、生徒の誘導をしていた陸がこっちに戻ってきた。

 

「それにしても、一体何があったんだか……」

 

「う~ん……あ、遮蔽シールドが」

 

ほとんどの人が脱出したタイミングで、遮蔽シールドが上がっていった。

そこには、さっきまで試合をしていた織斑君と凰さんがいた。それと、地上に落ちてるのは――

 

「!? 簪ぃ!」

 

――ドンッ!

 

「きゃっ!」

 

陸の声が聞こえたと思ったら、突然視界が真っ暗になって、その直後

 

 

――ドゴォォォォォォン!!

 

 

轟音と、衝撃によるものであろう振動を、背中で感じた。

その振動が落ち着くと、視界は灰色の煙でいっぱいになっていた。

 

「い、一体……」

 

起き上がろうとしたけど、私の上に何かがのしかかっていて起き上がれない。

何とかどかそうとすると、左手にヌルっとした感触があった。なんだろうと手をかざすと、それは

 

 

アカイイロヲシタ、テツナマグサイ、ナニカ――

 

 

「え……」

 

その()()()の正体に気付いた時、灰色の煙が晴れて――

 

 

背中が真っ赤に染まった陸が、私に覆い被さっていた。

 

「り、く……?」

 

「……」

 

声をかけるけど、返事が返って来ない。

 

「陸、悪い冗談はやめてよ……」

 

「……」

 

なんで? だって、さっきまで普通に話して……

 

「あ、ああ……」

 

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!」

 

 

気付いた時には、私は打鉄弐式を展開していた。

 

「さ、更識さん!?」

 

誰かが私を呼んだ気がしたけど、今はどうでもいい。今必要なのは――!

 

(メメントモリ、リミッター解除)

 

――警告、リミッター解除はレギュレーション違反にな(解除) 警告、リミッター解除は(解除!) 警告(解除解除解除解除解除解除解除解除解除解除解除!) 了解、リミッターを解除します

 

そうしている間にも、私はスラスターを全開にしてステージに向かって加速する。

織斑君や凰さんのISには、あんな攻撃出来る武装は積んでなかったはず。なら、これを使うべき相手は――!

 

頭と右腕が無くなっている、全身装甲(フルスキン)のIS。なぜこの状態で動いているのか、一瞬疑問に感じたが、それもどうだっていい。

私はそのISに残った左腕を右手で掴んだ。そして

 

 

「弾け飛べぇぇぇぇ!!」

 

 

メメントモリを起動させた。

赤黒い光が瞬き、掴んでいた左腕からぼこぼこと装甲が膨らんでいく。やがて全身が膨らんだところで

 

――バガァァァァンッ!

 

ISは爆発、崩壊した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

少ししてエネルギーが切れたのか、弐式が展開解除された私は、

 

「陸……りくぅ……」

 

両ひざをついて、泣き崩れることしか出来なかった。



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第19話 思いを告げて

甘ったるさ2倍(当社比)でお送りします。


「う……痛つつ!」

 

背中の激痛で、俺は目を覚ました。

周りを見渡すと、白いカーテンで仕切りがされてる空間。病室の大部屋みたいな場所のベッドに寝てるようだ。

 

(えっと……確か一夏と凰の試合中に学園がハッキングされて、遮蔽シールドが上がったと思ったらなんかが光って、ヤバいと思って簪を押し倒して……)

 

起き抜けのぼんやりした頭で情報の整理を始めたが、いまいち纏まらない。

とりあえず起き上がろうと、背中の痛みと格闘しつつ上半身を起こしたところで、シャッとカーテンが引かれた。

 

「……陸?」

 

そこには、なぜか呆然としてる簪が立っていた。

 

「どうした簪、そんなぼーっとして」

 

「陸……」

 

突然俺に抱き着いて……って!

 

「お、おい、簪……」

 

「陸! りくぅぅぅぅ……!」

 

簪の目には、涙が溜まっていた。

 

「……わりぃ。心配かけちまったな」

 

俺は、簪の頭をポンポンと撫でた。抱き着かれて背中が痛いが、そこは男の意地で我慢する。

しばらくそうしてやると簪も落ち着いたのか、俺から離れた。

 

「私、今回のことではっきり分かった」

 

「ん?」

 

 

 

「私、陸の事が好きなんだって」

 

 

 

「……簪?」

 

聞き間違いか? そう聞こうと思ったが、出来なかった。

そりゃ、そんな真剣な目をされたらなぁ……。

 

「陸が私を庇った時……血塗れになった陸を見た時、頭の中が真っ白になった……それくらい、陸がいなくなるのが怖かった……。だからやっぱり、私は陸の事が好きなんだと思う」

 

「……知ってるだろうが、俺は相当な機械馬鹿な上に、一夏のような異性に好かれる要素なんか零だぞ?」

 

「関係ない。そこも含めて、私は陸の事が好き」

 

「……」

 

ここまではっきり告白されて、正直、嬉しさ半分、困惑半分って感じだ。簪にも言った通り、今まで機械弄り一筋で、異性との付き合いなんて片手で数えられるぐらいしかねぇからなぁ。

だが……

 

「本当に、俺でいいのか?」

 

「うん。陸がいい」

 

「ふぅ……分かった」

 

そこまで言われて、俺も腹を括った。そして簪の腕を取って

 

「り、陸!?」

 

さっきとは逆に、俺が簪を抱きしめた。

 

「言っとくが、クーリングオフは効かねぇからな」

 

「ん。絶対しないし、する気もない」

 

ーーーーーーーーー

 

それから少しして、だんだん恥ずかしくなったのか、簪は今までの事を話し始めた。

 

「つまりなんだ。クラス対抗戦から2日経ってると?」

 

「うん。昨日まで陸、医療ポッドの中にいたんだよ」

 

「マジかぁ……」

 

どうも俺の背中は熱線と飛び散った観客席の破片でズタズタになってたらしく、医療ポッドとナノマシン注射の併用で、なんとかここまで持ち直したらしい。どうりで今も背中が痛いわけだ。

 

「まぁ、それで簪が無傷だったんならいいか」

 

「陸ぅ?(ギロリ)」

 

「手前ぇの女を守り切ったんだから、男としては上出来だろう」

 

「陸ぅ……///」

 

簪さんや、照れ隠しに胸板をポカポカ叩かない。

それにしても、付き合うと決めたからか、簪の行動がいちいち可愛いと思えてくる。惚気か? 惚気だな。

 

「それで? 私はこの惚気をいつまで見てればいいんだ?」

 

「お?」

 

「お、織斑先生!」

 

そこには、げんなりした顔の織斑先生が立っていた。 心なしか、こめかみがピクピクしてるような気もする。

 

「まったく……宮下、気分はどうだ?」

 

「背中がじわじわ痛い事を除けば、それなりです」

 

「そうか」

 

俺の返答に頷くと、先生は手に持っていた書類の束を捲り始めた。

 

「更識から聞いてるとは思うが、昨日まで医療ポッドにいた身だ。今日1日はここで安静にしていろ」

 

「了解です」

 

「よし。次に対抗戦であったことだが、箝口令が敷かれることになった」

 

「箝口令、ですか?」

 

「そうだ。更識が破壊した謎のISの事も含めな」

 

「簪が破壊したIS?」

 

「なんだ更識、説明してなかったのか?」

 

簪の方を見ると、首を縦に振った。

 

「更識が専用機に搭載された武装で、乱入したISを破壊したんだ」

 

「弐式に搭載された武装……まさかっ!」

 

ISを破壊する武装なんて、あれしかねぇだろ!

 

「まさか簪……使ったのか? リミッターを外した、メメントモリを」

 

「……(コクリ)」

 

「先生! あれを搭載したのは俺です! だから――」

 

「落ち着け。お前が心配してるような事にはなってはいない」

 

「は?」

 

いやだって、簪が謎のISを破壊したって……

 

「これも箝口令の対象だが……乱入してきたISは、無人機だった」

 

「無人、機?」

 

「そうだ。だから更識は『誰も殺していない』」

 

「……そうですか」

 

それを聞いて気が抜けたのか、俺の上半身はそのままベッドに倒れ込んだ。

 

「ふっ……もし有人機だったら宮下、更識を庇う気だったろう」

 

「そりゃそうですよ」

 

「陸……」

 

「また惚気る気か? まったく……」

 

先生は口をへの字にして、こちらを睨みつけてきた。

参ったなぁ、自分でも歯止めが掛からなくなってるみたいだ。反省反省。

 

「ところで、結局対抗戦ってどうなったんですか?」

 

「どうもこうも、あんなことがあったんだ。中止だ」

 

それもそうか。

ん? ということは、当然優勝賞品も立ち消えになるわけで……

 

「なぁ簪、のほほんは……」

 

「うん、昨日から死んだ目になってる」

 

「ああ、やっぱりかぁ……」

 

ーーーーーーーーー

 

保健室を出ると、私は先ほどまで話していた宮下について考える。

 

(両親をテロで亡くし、児童養護施設に入れられた後、一夏がISを動かしたために行われた一斉検査で適性が見つかり、そのままIS学園に入学となる)

 

出自の特殊性を除けば、特筆すべき点はあまりない。担任のエドワース先生にもあらかじめ確認したが、学力面もごくごく普通。機械理論が得意で、法関係が弱いぐらいだ。IS適性もD+と、今年の入学生の平均よりやや下といったところ。身贔屓に聞こえるかもしれないが、日本政府が適性Bの一夏の専用機を先に用意したのも納得できる。

 

しかし、宮下にはそれを補って余りある実績がある。1組の布仏と共同とはいえ、ISを1機、しかも専用機を組み上げてしまったのだから。

 

(本当に、謎の多い男だ……)

 

ため息をつくと、山田先生が残骸を解析している部屋を目指して歩き出した。

もっとも、あれだけ破壊……いや、崩壊した残骸で、何か情報が出てくるとも思えないが。

 

ーーーーーーーーー

 

「鈴、ごめん」

 

放課後の屋上で、俺は鈴に頭を下げていた。

 

「一応確認だけど、それは何の『ごめん』かしら?」

 

「お前が中国に帰った時の"約束"。それを分かってなかったことについてだ」

 

「そう……まぁ、そんなことだろうとは思ってたわ」

 

鈴は腰に手を当ててため息をついた。

 

「そして、ごめん。今の俺には、鈴の告白は受けられない」

 

「え……」

 

一瞬、鈴の顔が驚愕に変わった。

 

「陸に言われて、やっと約束の意味が分かったんだ。ホント、つくづく馬鹿だよな、俺って奴は」

 

「一夏……」

 

「ずっとさ、鈴とは仲のいい、弾と同じ親友だと思ってたんだ」

 

「もういいわよ。その先を言われたら、あたしが惨めになるだけだから」

 

「だから……」

 

「一夏!」

 

 

 

「だから俺に、時間をくれ!」

 

 

 

「……は?」

 

「鈴を"女の子"として見てなかった俺に、告白を受ける権利も無ければ、断る権利すらない。だから、俺に時間をくれ。鈴を"女の子"として見る時間を」

 

「……はぁ、ずいぶんと勝手な事を言うのね」

 

「勝手なのは承知の上だ。だから、頼む」

 

そう言って、俺はもう一度頭を下げた。それが今俺が思いつく、鈴に対するけじめだと思うから。

 

「……いいわ」

 

「鈴?」

 

顔を上げると、すぐ目の前に鈴がいた。

 

「まだ一夏が"受けて"くれる可能性があるなら、少しぐらい待ってあげるわよ」

 

そう言ってニコッと笑うと、鈴は俺に顔を近づけて

 

 

――チュッ

 

 

頬に、キスされた?

 

「り、鈴!?」

 

「鈴、貴様ぁ!」

 

「な、なんてことをしますの!?」

 

振り向くと、なぜかそこに箒とセシリアが。

 

「い、一夏! 私もお前のことが!」

 

「わ、わたくしも! お慕いしておりますわぁ!」

 

「何よぉ! あたしが一番一夏のことが好きなんだから!」

 

3人にもみくちゃにされて、視界がぐるぐる回って気持ち悪くなってきた。

 

「お、お前ら……もうちょっと落ち着いて……」

 

そこまで口にして、俺は屋上の冷たい地面に倒れた。

 

ーーーーーーーーー

 

「ふむふむ、これがいっくんの試合のデータかぁ」

 

ラボ『吾輩は猫である(名前はまだ無い)』の中で、私はゴー君(無人IS)から送られてきた映像と観測データを眺めていた。

ゴー君自体は破壊されちゃったけど、必要なデータは十分取れたかな?

 

「自分から衝撃砲を受けて加速するなんて、いっくんも無茶するなぁ」

 

でも、そういう創意工夫をすることについては、束さん、花丸あげちゃおう!

 

「それにしても……」

 

確かにいっくんの攻撃でゴー君は戦闘不能になったけど、実際に破壊したのは別のISだった。

束さん的にはそれが気に食わなかった。だけど、詳細を見て気が変わった。

 

「高周波を連続して照射することで内部崩壊を起こすなんて、面白い機構を考えるなぁ」

 

第3世代がーとか宣ってる凡愚共とはどこか違う発想の武装――ゴー君を完膚なきまでに破壊した――を見て、すこーしだけ興味が湧いたよ。

 

「どこかのタイミングで、お邪魔しに行こうかなー♪」

 

ゴー君が送ってきた最後の映像。そこに映っている、青髪の眼鏡っ娘に――

 

 




ようやっと原作1巻が終了しました。長いねぇ。

そして簪が(とばっちりで)ターゲッティングされました。


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第20話 kunker

完全ギャグ回なので、そういうのがダメな方はブラウザバック推奨です。。
(この回を飛ばしても、シナリオにはさほど影響はありません)

「嗅がせてくれ。それが手向けだ」



保健室から解放された翌日、俺は今まで通り登校していた。

箝口令の関係上、俺は対抗戦での避難誘導中に怪我をして、様子見のために休んでいたという設定らしい。嘘は言ってないな。

で、4組の教室まで来たわけだが……

 

「……」

 

「ええっと、宮下君……」

 

()()、どうしたの?」

 

呆気に取られたクラスメイト達の視線の先には、俺の左腕があった。……正確には、俺の左腕にしがみ付いている簪が。

 

「あ~……色々あったというか……」

 

「色々って……」

 

俺がどう答えようか考えてる間に、簪が

 

 

「……///」

 

 

顔を真っ赤にしながら、腕でなく胴体にしがみ付いてきた。 ちょっと簪さん!?

 

「「「「キャー!!」」」」

 

黄色い悲鳴が教室中に響いた。

 

「い、いつからそういう関係に!?」

 

席に座っていた生徒達も集まって来て、俺と簪は完全に囲まれてしまった。

 

「ほらほら、SHRも始まりますから、みんな席に着いてー」

 

「「「「ええ~……」」」」

 

質問攻めに遭う前に、エドワース先生が止めてくれて助かった……。

 

 

「ちなみに今日のSHRは、宮下君と更識さんの馴れ初めについて聞いてみましょう♪」

 

 

――神は死んだ……。

 

ーーーーーーーーー

 

4組の連中(+エドワース先生)にもみくちゃにされた後の昼休み。

 

「簪ぃ……」

 

「ごめんなさい……自分の気持ちを抑えられなかった……」

 

それは分かってる。なぜならこうやって昼飯食ってる間も、俺の制服を指で摘まんでるわけだし。

 

「かんちゃんとりったん、やっとくっ付いたんだね~」

 

俺達の向かいには、ニッコニコののほほんが座っている。

ちなみに俺がチョコレートケーキを奢るまでは、死んだ魚のような目をしていたんだがな。そこまで欲しかったか、デザートフリーパス。

 

「やっとってなんだよ、やっとって」

 

「りったん気付いてなかったの~? かんちゃん、たっちゃんとの決闘の時から――」

 

「ほ、本音~!」

 

簪が慌ててのほほんの口を塞ごうとするが、時すでに遅し。というか、決闘の時からってマジか?

視線を簪に向けると、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「Oh……」

 

マジかぁ……俺も一夏のこと、朴念仁とか言えねぇじゃん。

 

「そういえば、一夏と凰は仲直りできたのか?」

 

一夏へのSEKKYOUは二人に話してないから、あくまで"酢豚事件"についてだけのほほんに聞いてみた。

 

「それがねぇ~……」

 

珍しく、のほほんの顔が引きつっている。え? どゆこと? あいつ、またなんかやらかしたのか?

 

「よう、陸……」

 

「一夏か。今お前の、話、を……」

 

聞き覚えのある声に振り返った俺は、目の前の光景に固まった。

一夏を中心に、左腕に篠ノ之、右腕にオルコット、腰に凰がしがみ付いてる状態って……何お前ら、ファイナルフュージョンでもする気か?

簪も呆気に取られてるし、のほほんは引きつった顔を継続中だ。

 

「とにかく、説明を求む」

 

「えっとだな……鈴に"約束"のことを謝ったんだよ」

 

ほうほう、そこまでは想定通りだ。むしろよくやった。

 

「で、『今のままじゃ、"約束"を受けることも断ることも出来ないから、時間をくれ』って鈴にお願いして……」

 

「それは……よく凰が許したな」

 

「それはマジで感謝してる。してるんだが、その場面に箒とセシリアもやって来てな……」

 

ちょっと待て。ここまでの話の流れで、今この状況ってことは……

 

「「「私達、一夏の恋人候補になった/わ/んですの!」」」

 

「……」

 

まさかの女性陣公認3股発言に、二の句が継げなくなった。むしろこの状況で、何を言えってさ。

 

「3人とも、本当にそれでいいの?」

 

再起動を果たした簪が3人に疑問をぶつけたが、

 

「本当は私だけを選んでほしいがな……」

 

「それが一夏さんの魅力でもありますし……」

 

「し、仕方ないじゃない。それぐらい一夏のことがす、好きなんだから……」

 

三者三様顔を赤くしながら返された。何このハーレム。いや、元々この外史は一夏を中心としたハーレムだったか。

 

「陸、俺に何か助言を……」

 

「背中を刺されないように頑張れ」

 

「はい……」

 

がっくり項垂れる一夏。お前はそういう星の下に生まれてるんだろう、諦めろ。

 

ーーーーーーーーー

 

放課後。今日は打鉄弐式の整備と、メメントモリのリミッターを付け直すだけで止めておいた。本当ならエネルギー効率の向上とか、色々やってみたいことはあったんだが……

 

「陸は病み上がりなんだから、自重する」

 

「いや、傷は塞がってるし、痛み止めも保健室の先生にもらったのをちゃんと飲んでるし」

 

「む~……」

 

膨れっ面の簪に止められた。それで止めるとは、俺も丸くなったなぁ。

で、そのまま簪と寮の廊下を歩いていたところで

 

 

「うわぁぁぁぁ!!」

 

 

「おいおい、なんだ今の悲鳴!」

 

しかもこの声、一夏か!?

 

「あっちから聞こえた!」

 

簪が指さす方を見ると、入口のドアが開きっぱなしの部屋が一つ。

 

「おい! 大丈夫……」

 

部屋を覗き込んだ俺が見たもの。それは床に尻もちをついてる一夏と、

 

「「「あ……」」」

 

ベッドの上に上がって、(たぶん一夏のものであろう)Yシャツを顔の下半分に押し付けてる、一夏ハーレムの面々(篠ノ之、オルコット、凰の3人)だった。ナニコレ怖い。

 

 

 

 

「で? 一体何がどうなってんだ?」

 

「それは……」

 

「ちょっとした出来心ですの……」

 

「見なかったことにしてよぉ……」

 

俺、簪、一夏の前で、正座している3人。いや、言い訳はいいから。

 

とりあえず篠ノ之に説明をさせることにした。

 

「最初は一夏が帰ってくるのを待っていたんだ。山田先生から頼まれ事をされたらしくてな」

 

一夏の方を見ると一夏が頷いていたので、そこは事実なんだろう。

 

「で、ただ待っているのも時間が勿体ないと思って、部屋の掃除をしようとしたんだ。そうしたら一夏の洗濯物が目に入って……」

 

「それでクンカーになったと?」

 

「うっ……」

 

簪の指摘に、篠ノ之が言葉に詰まる。というか簪、クンカーってなんだよ。

 

「そうしたら、セシリアと鈴に現場を見られて……」

 

「魔が差したのよ……」

 

「日本には『赤信号、みんなで渡れば怖くない』という言葉もありますし……」

 

魔が差すなよ凰。それとオルコット、それはダメな集団心理の言葉だからさっさと捨ててくれ。というか自分達がやってたことが赤信号な自覚はあったんだな。

 

「なぁ陸、俺、これからどうすればいいんだ……?」

 

一夏が今にも泣きそうな顔で、情けない声を出して聞いてきた。いや、どうすればって……。

 

「3人とも、Yシャツで満足なの?」

 

「え? 簪?」「更識さん?」

 

「どうして織斑君を直接嗅がないの?」

 

「「「っ!?」」」

 

3人に電流走る――! いや走んなよ!

 

「3人とも、いつも織斑君にくっ付いてるんだから、その時に自然にクンカーできるのに」

 

「そ、そうですわ……!」

 

「確かにそれなら……!」

 

「妙案だ……! ありがとう更識!」

 

なんか正座状態から簪を崇め始めたんだが。というか簪、お前そんな性格だっけ?

 

「な、なぁ陸。これって俺、明日からずっと3人に……」

 

「一夏……」

 

俺は一夏の肩をポンと叩くと

 

「頑張れ」

 

逃げた。お前の嫁(候補)だろ、自分で何とかしろよ。

 

その後、取り残された簪にポカポカ叩かれた。置いてったのは悪かったけど、なーんか釈然としねぇなぁ……。

 

ーーーーーーーーー

 

さて、そんな濃ゆいイベントを消化して消灯時間。あとは寝るだけなんだが……

 

「えーっと、簪?」

 

「何?」

 

「これは一体、どういうことなのかなぁっと」

 

マジで説明してくれ。どうしてさも当然のように、お前のベッドと俺のベッドの間が0cmなんだ。今朝は間にサイドテーブルがあっただろう。(仕切り? 戻すのが面倒でドア側にずっとそのまま)

 

「陸の温もりを感じながら寝たいから」

 

「おおぅ。男として喜んでいいやら、直球過ぎてビビればいいのやら……」

 

少なくとも、入学当初の簪はもういない。

なんて思っている内に、簪が自分と俺の枕と掛け布団を中央に寄せ始めた。わー積極的ー。

 

「ほら陸。早く寝よ?」

 

「……そうだな」

 

俺は考えることを止めた。簪がいいならいいや。(現実逃避)

 

 

 

「……」

 

「温かい」

 

あの~簪? 寝る時も俺の腕にしがみ付くのか?

 

「すごく落ち着く」

 

「そうか……」

 

……うん、簪が落ち着いて寝れるならいいか。(2度目の現実逃避)

 

「それに、陸の匂い」

 

「おいばかやめろ」

 

それはダメだ。クンカー?は一夏ハーレムの連中だけで十分だから。




ギャグ回のはずなのに、気付けば甘じょっぱくなってもーた!


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学年別トーナメント
第21話 それでバレないってマ?


やっと原作2巻に入りました。



クラス対抗戦で負った怪我の痛みも無くなった頃、ようやっと座学以外の授業が出始めてきた。

 

「来月の学年別トーナメントに向けて、明日から実機訓練が始まります。みんな、ISスーツを忘れずに準備してね。忘れたら……学園指定の水着で授業を受けてもらいますからね」

 

「「「え~やだ~」」」

 

SHR、エドワース先生の注意事項に、女子生徒達は笑っていたが

 

「あら、笑っていていいの? 宮下君にスクール水着姿を見せたいなら止めないけど」

 

「「「あ……っ」」」

 

一変、顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「先生、俺を出しにしないで下さいよ」

 

「はいはい。そういう宮下君も、当日はドギマギしないようにね」

 

「勘弁してくださいよ……」

 

正直、ISスーツもスクール水着と変わらんよ。めっちゃ視線に困るんだって。

 

「……(ジト目)」

 

……簪からの視線も困るんだよなぁ。

 

 

 

「そういえば宮下君知ってる?」

 

SHRが終わってすぐ、隣の席のクラスメイトから声をかけられた。

 

「何がだ?」

 

「1組に転校生が入ったんだって。しかも2人も!」

 

「あれでしょ? フランスとドイツから来たっていう」

 

「へぇ、1組に転校生ねぇ……」

 

きっと一夏目当てなんだろうなぁと頷きそうになったが、ふと思った。

 

「2人とも? 普通、各クラスの人数を揃えるようにバラけさせるんじゃ?」

 

「う~ん……そこは送り込んだ各国と、学園側との交渉なんじゃないかなぁ」

 

「思い切り干渉受けてるじゃんIS学園」

 

『いかなる国家や組織であろうと学園の関係者に対して一切の干渉が許されない』って建前はどこに行ったよ?

 

「あはは~……」

 

さすがにデリケートな話題なためか、苦笑いで流されてしまった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

いつもよりはカロリーを消費しなかった(法関係の内容じゃなかった)授業後の昼休み。簪とのほほんを拾って食堂に行こうとしたタイミングで、一夏からメールが来た。

 

『みんなで屋上で食べようって話になったんだけど、一緒にどうだ?』

 

昼飯の誘いだった。そういえば屋上は行ったことなかったな。

 

「で、どうする?」

 

スマホの画面を、隣を歩いている簪に見せる。

 

「私も行っていいの?」

 

「別に俺だけって書いてないし、いいんじゃねぇか?」

 

「……本音も一緒に」

 

「おうよ」

 

『簪とのほほんも一緒でいいよな?』と送ると、すぐに『いいぜ。のほほんさんには俺から声かけておくわ』と返ってきた。

 

 

そして俺達が屋上に着くと、向こうの面子はすでに揃っていた。

一夏、篠ノ之、オルコット、凰、のほほん、そして……知らない顔だな。

 

「男……?」

 

簪が隣で驚いた顔をしていた。え?

 

「シャルル・デュノアだよ、よろしく」

 

そう挨拶するのは、中性的な顔立ちに、金髪を首の後ろで束ねた、『貴公子』風の人物だった。いやまぁ、スカートでなくズボンを穿いてるけど、え?

 

「お、おう。4組の宮下陸だ。よろしくな」

 

「同じく、更識簪」

 

「宮下君に更識さんだね、よろしく」

 

自己紹介を済ませると、各々持ってきた昼飯を取り出す。

 

「一夏は……用意する必要ないよな」

 

「いや、一応購買でパンを買って……」

 

「そうだな! なにせ!」

 

「わたくしたちが!」

 

「用意してるからね!」

 

一夏の主張をかき消すかのように、篠ノ之が弁当箱を、オルコットがバスケットを、凰がタッパーをドーンと一夏の前に置いた。

 

「あはは……僕、同席して良かったのかなぁ?」

 

そう苦笑するデュノアの手にも、購買の惣菜パン。

 

「のほほんは……菓子パンばっかかよ」

 

「メロンパンがおいしいんだよ~」

 

「本音、太るよ?」

 

「(∩゚д゚)アーアーきこえなーい」

 

簪のクリティカル攻撃を受けて、のほほんは(現実から)逃げ出した。

 

「なぁデュノア、二つほど聞いてもいいか?」

 

「え? 何?」

 

首を傾げるデュノア。

 

「一つ目。1組に転校生が2人入ったって聞いたんだが、お前がその内の1人か?」

 

「そうだよ。フランスから来たんだ」

 

「そうか」

 

となると、もう片方がドイツから来た奴になるわけだ。

 

「それと二つ目。答え辛いことかもしれないんだが……」

 

ここにいる誰も指摘しないし、暗黙の了解みたいなのがあるのかもしれないが、気になって仕方ない。

一夏がハーレム3人の弁当攻勢を受け、簪がのほほんを弄り倒していて、こっちの声が聞こえてないタイミングを見計らって

 

 

()()()()()()()()()()()

 

 

「っ!?!?」

 

え? そんな驚愕の顔する?

 

「ちょ、ちょっとこっち来て!」

 

「お、おいおい……」

 

デュノアに手を引かれて、俺は屋上の出入口、ちょうど一夏達から見えない位置まで連れて来られた。

 

「ど、どうして僕が男装してるって……!」

 

「いや、どっからどう見ても女だろ。ってちょっと待て。まさか一夏達、気付いてないのか?」

 

「宮下君が初めてだよ……」

 

「ええー……」

 

体格も声も、どう見ても女だろ。なのに誰からも指摘されなかったん? クラス全員から? マ?

 

「それで、なんで男装なんかしてんだよ。転校するだけなら、そんな必要ないだろうに」

 

元々IS学園自体が女子校みたいなもんなんだし、女がわざわざ男装して入ってくる意味が分からん。というか性別詐称だろ、むしろどうして入れた。

 

「それは……」

 

「言えない事情があると」

 

「うん……」

 

しょんぼりした顔すんな。俺が悪いことしたみたいじゃねぇか。

 

「あ~……分かった分かった。俺は何も気付かなかったし、何も聞かなかった。それでいいな?」

 

「え……黙っててくれるの?」

 

「俺以外誰も気付いてない現状、黙ってても問題ないからな。無論、こっちに火の粉が飛んで来たら話は別だが」

 

だから俺を巻き込むなよ、と遠回しに釘を刺しておく。

 

「分かった、気を付けるよ」

 

「そうしてくれ」

 

俺は打鉄弐式を改造するだけの生活がしたいんだ。他のハプニングは全部一夏にプレゼントフォーユー。頑張れ原作主人公。

 

 

デュノアと話を付けて、簪達のところに戻ると

 

「セシリア! 今度は一体何をしたんだ!?」

 

「わ、わたくしは、本と同じように作っただけで……」

 

「ならなんで一夏が泡吹いてるのよ!?」

 

凰の言う通り、一夏が泡を吹いて倒れていた。話の流れから、凶器は一夏の手に残された、オルコット製のBLTサンド。

 

「人間って、あんな一瞬で赤くなったり青くなったりするんだね……」

 

おそらく一部始終を見ていたであろう簪が、恐ろしいことを口走っていた。

なぁオルコット。お前が見てたのは、本当に料理本だったのか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

結局一夏は昼休み中に復帰できず、保健室にシュゥゥゥーッ!!された。

なお、下手人のオルコットは般若顔になった織斑先生に連行されていった。南無。

 

そして簪と教室に戻る途中

 

「それにしてもデュノアかぁ……どっかで聞いた名前なんだよなぁ」

 

頭の隅っこにあるはずなのに出てこない、もどかしい感じだ。

 

「フランスのIS開発企業にデュノア社がある。ラファールを作ったところ」

 

「ああなるほど、つまりデュノアは」

 

「うん。たぶんそのデュノア社社長の子」

 

いいとこの御曹司(お嬢様)なわけか。余計に男装して来る意味が分からんな。

 

「でも、おかしな点がある」

 

「おかしな点?」

 

やっと簪も気付いたか。

 

「私の家、更識家はちょっと特殊で、国内外の色々な情報が入って来るんだけど……」

 

あれ? デュノアが女だって気付いたんじゃねぇのか。

 

「デュノア家に、私達と同年代の人間はいない、はずなんだけど……」

 

「何?」

 

男とか女とかでなく、そもそもいないだと?

 

「じゃああいつは何者なんだ?」

 

「分からない。IS学園に入れるってことは、IS委員会の調査をパスしてるはずだけど」

 

調査と言っても、男装をスルーしてるからなぁ……謎が深まるが……

 

「とりあえず静観だな」

 

「いいの?」

 

「こっちに火の粉が飛んで来ないなら、面倒事に巻き込まれたくない。俺は機械弄りだけしていたいんだ」

 

「ふふっ、陸らしい」

 

「理解してもらえたようで何より。さて、そろそろ昼休みも終わるしさっさと教室に戻るか」

 

「うん」

 

もはや日常となりつつある、簪が左腕にしがみ付いた状態で、俺達は4組の教室に戻っていった。

 




デュノア家については、簪より楯無(当主)の方が知ってるはずですが……まいっか!


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第22話 永久機関

打鉄弐式、改造回です。



一夏を保健室にシュゥゥゥーッ!!した放課後、いつもの整備室。

 

「それでは第2回、打鉄弐式改造大会を始めまーす」

 

「わー」

 

「改造大会って何!?」

 

おおっ、久々に簪のツッコミを聞いた気がする。和むわぁ。

 

「陸ぅ?(ギロリ)」

 

うん、そっちはいらないかなぁ。

 

「前回はメメントモリを積んだけど、今回は何するの~?」

 

「今回はエネルギー関係だな」

 

「エネルギー? でも、これ以上の効率化は難しいと思う」

 

簪が言うように、今の弐式でもかなりエネルギー効率の調整をしている。これ以上弄ると、却って悪化する可能性もある。

 

「なので、純粋にエネルギー出力を上げようと思う」

 

「それだと、稼働時間が短くならない~?」

 

「だからこれを使う」

 

そう言って、俺は円錐状の装置を取り出した。サイズは大体握り拳2つ分ぐらいだ。

 

「何これ?」

 

「これはGNドライブって言ってな」

 

「GNドライブ?」

 

「別名は太陽炉。重粒子を蒸発させずに質量崩壊させる事で、エネルギーへと変換する機構を持った代物だ」

 

「陸、もうちょっと分かりやすく」

 

 

「要は永久機関だ」

 

 

「「ファッ!?」」

 

 

うんうん、掴みは上々のようだな。簪ものほほんも、鳩が豆鉄砲を食ったような顔してる。

 

「え、永久機関って! このサイズで!?」

 

「ほ、本当に~?」

 

「ホントもホントだ。これ1基でたぶん、リミッター無しメメントモリが10秒間隔で撃ちまくれるんじゃねぇかな」

 

なにせ、オリジナルは18mを超える人型ロボット(ガンダム)を活動限界無しで動かせるほどだからな。超小型のこいつでも、結構な出力アップが図れるぞ。……あっちの外史じゃ、正規サイズのオリジナル太陽炉や疑似太陽炉があるから、試しに作っただけで肥やしになってたんだよなぁ……やっぱ出力は段ちだし。

 

「というわけで、これを取り付けていくぞー」

 

「お、おー……」

 

「ねぇ陸。出力アップはいいけど、弐式のフレームはその出力に耐えられるの?」

 

「……取り付けていくぞー」

 

「陸ぅ!? 乗るの私なんだよ!?」

 

「その辺は任せろー バリバリ」

 

「やめて!?」

 

 

――2時間後

 

 

「「できたー!」」

 

見た目は弐式の背後にGNドライブ?がくっ付いた感じ。

いつもより時間がかかったのは、エネルギーラインを繋げるのに神経を使ったかららしい。……いやいや! そもそもISの改良が2時間で終わる方がおかしいから! 私の感覚、2人に狂わされちゃってるから!

 

「うう……本当に大丈夫?」

 

何度も言うけど、乗るのは私なんだよ?

 

「かんちゃん心配性~。ちゃんと補強してるから大丈夫だよ~」

 

「ほ、本当?」

 

「おう。そこは信用してくれ」

 

そ、そうだよね? 1回装甲を外して内側にも補強材を追加してたし、大丈夫だよね?

 

「今回増えた出力は、スラスターと春雷に回しておいた」

 

「メメントモリじゃないんだね~」

 

「それも考えたんだが、珍しく自重した」

 

「それ、自分で言っちゃうんだ……」

 

そもそも、永久機関を搭載すること自体がレギュレーション違反のような……。

 

「『永久機関を搭載すること自体がレギュレーション違反じゃないか』って顔してるな」

 

「えっ!?」

 

やだっ、顔に出てた?

 

「ちなみにルールブックに『永久機関を載せてはいけない』とは書いてなかった」

 

「それはそうだよ~」

 

「むしろ、書いてあったらビックリだよ……」

 

というか、正直オーバースペックもいいとこだと思うんだけど。陸は私に何を期待してるの?

 

「よーし、あとは動作テストをしたらOKだな」

 

「それじゃあ、アリーナの予約してくるね~」

 

「機動力のテストだから、第6アリーナなー」

 

「了解だよ~」

 

そう言って、本音が整備室から出て行った。また明日、突貫でテストするんだぁ。早いなぁ……(色々達観した目)

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「そろそろ学年別トーナメントの時期ねぇ」

 

学年別トーナメントでは、各国政府関係者はもちろんのこと、研究者や企業エージェントなどもやって来る。

3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認、そして1年も上位入賞者にはチェックが入るとあって、生徒達にとってはかなり重要なイベントだ。

そのやって来る来賓の関係で、生徒会は今の時期から忙しくなるのだ。主に書類仕事が。

私がそう呟いたのも、生徒会長として処理する書類の中に、トーナメント関係のものが混じっていたからだ。

しかも今年は例年と違い、個人戦からツーマンセルのタッグ戦に方式が変更になっている。

 

(より実戦的な経験を積ませるため……きっかけは、この前のクラス対抗戦でしょうね)

 

対抗戦の試合中に起こった、全身装甲ISの襲撃事件。一般的には反政府組織の仕業ということにしたらしい。箝口令も今のところ機能している。

ただし、襲撃してきたISが無人機という事を知っているのは、生徒に限定すれば自分を含めて5人だけ。実際に無人機と戦った織斑君と凰ちゃん、最後の攻撃で負傷した宮下君と、無人機を破壊した簪ちゃんだ。

今年は1年生に専用機持ち、しかも第3世代型のテストモデルが多い。そんな中で対抗戦のような謎の敵対者に遭遇した場合、各自で自衛してもらう場面がどうしても出てくる。そのための実戦経験ということなんだろう。

 

「専用機持ちと言えば……簪ちゃんは本音か宮下君と組むとして、織斑君はどうするのかしら?」

 

公認3股というウルトラCを達成した織斑君だけど、タッグを組めるのは1人だけ。果たして3人の中から選べるのだろうか?

 

(あら? 織斑君で思い出したけど、宮下君ってまともにISを動かせるのかしら?)

 

簪ちゃんの新武装テストの時以外で、彼がISを動かしていた記憶がない。

圧倒的経験不足な上、彼のIS適性はお世辞にも高くなかったはずだ。もしあの時からISに乗っていないなら、今の実力は本音とどっこいどっこいだろう。

それに対して、織斑君は白式に乗って順調に経験値を溜めている状態だ。そこにオルコットちゃんや凰ちゃんのような、代表候補生とペアになったら……

 

(簪ちゃんが本音と宮下君、どちらと組んだとしても、織斑君のペアと当たったら苦戦しそうね)

 

これが例年通りの個人戦なら、ぶっちぎりで簪ちゃんが1年の部で優勝すると断言できる。だけど今年はタッグ戦、ペアの実力や連携によって勝敗がひっくり返ることは十分にあり得る。

 

(勝っても負けても、慰労会を開こうかしらね~)

 

 

 

「お嬢様……」

 

「う、虚? 一体どうしたのよ……」

 

生徒会室に入ってきた虚の目は、完全に死んでいた。

 

「本音が、職員室でアリーナの予約申請をしていたのですが……」

 

「アリーナの予約って……宮下君、今度は何をしたのよ……」

 

そりゃ虚の目が死ぬわ。

もはや、私達の中で『本音がアリーナ予約=宮下君が何かした』の公式が出来上がっている。そしてそれは大体正しいのだ。

 

「本音に話を聞いたところ、新しい装置を付けたからテストするそうで……」

 

「装置って、何を付けたの……?」

 

 

「永久機関、だそうです」

 

 

「嘘だと言ってよ○ーニィ!」

 

 

宮下君! 貴方簪ちゃんを一体どこに導くつもりなのよぉぉぉぉぉぉ!!

 



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第23話 珍客・紫兎

今回は、前章で張った伏線を回収してきます。


それは突然だった。

打鉄弐式に太陽炉を付けて、アリーナを予約して、食堂で晩飯を食って、あとは寝るだけと部屋に戻った時。

鍵を開けて中に入ったところまでは何もなかった。だが、後ろから入ってきた簪がドアを閉めて明かりをつけようとした、その時だった。

 

――ヒュッ

 

俺の横を"何か"が通り過ぎようとした。いや、簪に向かって、何かが突っ込んできたが正しいか。

 

「簪!」

 

咄嗟に声を上げた俺は

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「あだだだだだだだ!」

 

 

……思わずアームロックをキメちまったんだが、あれ? 突っ込んできた"何か"って人? 不法侵入者?

 

「り、陸!?」

 

「簪、とにかく明かりをつけてくれ」

 

「う、うん」

 

明かりがつき、侵入者の姿が……

 

「……なぁ、簪」

 

「何?」

 

「最近の不法侵入者って、こんな格好してるんだな」

 

青と白のエプロンドレスに、ウサミミっぽいものを頭に付けた紫髪の女。それが、俺にアームロックをキメられている侵入者だった。

 

「放せよー! こ、この束さんをもってしても抜け出せないなんて……!」

 

「ほう、束って名前なのか」

 

「お前のような奴が名前で呼ぶな!」

 

「あ、そう」

 

 

――ゴリゴリゴリ……

 

「ぎにゃあああああああ! か、関節が! 関節が死んじゃうぅぅぅぅぅ!!」

 

 

「陸、鬼畜だね……」

 

「不法侵入の上、口まで悪いんだから仕方ないだろ。とりあえず簪は織斑先生呼んできてくれ」

 

「うん。分かった」

 

「ちょ! ちーちゃんを呼ぶなんて――」

 

 

――ゴリィ!

 

「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

少しして、簪が連れて来た織斑先生は

 

「束……大丈夫か?」

 

アームロックで左腕を固められ、めそめそ泣いている侵入者を心配し始めた。おいおい、どうしてそっちを心配すんの? というか織斑先生の知り合い?

 

ーーーーーーーーー

 

学生寮1032号室、つまり俺と簪の部屋で、なぜか織斑先生と先ほどの侵入者が椅子に座っている。ちなみに俺と簪はベッドしか座る場所がない。

 

「それで、織斑先生はこの侵入者と知り合いなんですか?」

 

「ああ、困ったことにな……」

 

俺の問いに、織斑先生は大きなため息をついた。

 

「束、自己紹介しろ」

 

「え~、面倒~」

 

「宮下、こいつにもう1回アームロックを――」

 

「篠ノ之束だよ!」

 

織斑先生が言い終わる前に、ウサミミ侵入者がシュバッと手を挙げた。いい感じにトラウマになったようだ。

それにしても篠ノ之って……

 

「し、篠ノ之博士!? ISの生みの親の!?」

 

「え? ああそうか。そういえばそうだったな」

 

授業で習ったっけか。確か467個のISコアを作った後出奔、世界中を逃げ回ってる重要人物だ。

 

「そうだったって……陸は何だと思ったの……」

 

「いや、1組の篠ノ之の関係者なのかなーと。ほら、もうちょっとツリ目にしたらそっくりじゃね?」

 

「へぇ、なかなか良い目をしてるねぇ」

 

つまらなそうにしてた篠ノ之博士が、突然嬉しそうな顔に変わった。なんだろう、どこかの生徒会長みたいだな。

 

「それで束、お前は一体何しに来たんだ」

 

「んーとねー、そこの眼鏡っ子のISに興味が湧いたからお邪魔しに来たんだ~」

 

「打鉄弐式に?」

 

「打鉄弐式っていうんだ? そのISに積んである武装、『メメントモリ』だっけ? それが気になってね」

 

「束……まさかあの無人機はお前が」

 

「んー? ちーちゃんどうしたの?」

 

「……いや、何でもない」

 

織斑先生は何か言いたげだったが、最後はため息をついて誤魔化した。

あーこれはあれか。クラス対抗戦の無人機を送り込んできたのはこの博士なのか。それならメメントモリのことを知ってるのも頷ける。おそらく無人機にカメラでも仕込んでたんだろうよ。

 

「あれは君が付けたのかい?」

 

「あれは……」

 

博士に話を振られた簪は、俺の方を見た。

 

「あ、作ったのはそっちなんだ」

 

「おう」

 

頷くと、博士はずいっと近づいてきて

 

 

「あれって原理としては――」

 

「――だからエネルギーラインはこっちにした方が――」

 

「いやいや、それだと効率悪いから――」

 

いきなり俺と博士の間で、技術交流会もどきが始まった。

 

ーーーーーーーーー

 

「……更識、あいつらの言ってること、分かるか?」

 

「いえ、半分も……」

 

突然陸と篠ノ之博士が話し始めたと思ったら、私や織斑先生ではついていけない内容になっていた。

そして、2人は10分ほど話すと

 

――ガシ!

 

あ、握手してる!?

 

「いや~、なかなか良い時間だったよ~」

 

「こっちこそ。ここまで突っ込んだ話が出来る奴が周りにいなかったから、いい勉強になったわ」

 

えー……なんか友情が芽生えてる? 陸が目上の人(確か博士って織斑先生と同級生だったはず)相手にため口なの、初めて見たかも。

 

「た、束が他人と握手するなんて、初めて見たぞ……」

 

織斑先生は、まるであり得ないものを見たような顔をしていた。そ、そんなに?

 

「そういえば2人とも、まだ名前を聞いてなかったね」

 

「そうだった。宮下陸だ」

 

「さ、更識簪ですっ」

 

「陸と簪……りったんとかんちゃんだね!」

 

「お、おう……」

 

「か、かんちゃん……」

 

ま、まさか本音みたいに呼ばれるとは……。

 

「りったんには友情の証として、これをあげよう! はい!」

 

そう言って博士がエプロンの前ポケットから取り出して陸に渡したのは、握り拳大の球体……ってあれは!

 

「あ、ああ、ISコア!?」

 

「束、お前なんてものを……!」

 

「いいのか? 限定品なんだろ?」

 

「いいのいいの! 束さんにかかれば、いくらでも作れちゃうんだから♪」

 

「そうか……それなら有難くもらっておこう。サンキュな」

 

陸ぅ! そんな軽ーい感じでもらっていいものじゃないからっ!

織斑先生からも何か言ってください!

 

「まったく……宮下、話がある」

 

「何です?」

 

そう! ガツンと言ってください!

 

「もしそのコアでお前の専用機を組むのなら、すぐに報告するように。書類上は訓練機の1機を回してカスタムしたことにしておく」

 

あれ?

 

「いいんですか?」

 

「どうせ止めたって作るんだろう? なら、こちらの目が届くようにした方がマシだ」

 

ええー……。

 

「ああ、分かってる。なにせお前のように、やりたいことがあると周りが見えなくなる親友がいるものでな……」

 

そう言って、織斑先生は篠ノ之博士の方を見た。あ、そういう……。

 

「りったんの専用機かぁ。どんなのが出来るか楽しみだな~!」

 

「専用機か……いや、作るにしても資材が無いから、すぐには無理だな」

 

「そっかぁ、残念」

 

あ、そうか。弐式の時はフレーム部分は元からあったし、整備科の余剰部品をもらってなんとかなったけど、もう1機組むほどは残ってないはずだ。

 

「う~ん、もらいっぱなしってものあれだし、俺からは博士に「束だよ」あ~、束にこれをあげよう」

 

陸の懐から出てきたのはメモリースティック。あれ、何か既視感が……。

 

「何かな?」

 

「まぁまぁ、それは中身を見てのお楽しみ」

 

陸が渡したメモリースティックを、博士はさっそく端末(また前ポケットから出てきた)に差し込んだ。

 

「おお? おおおおお!?」

 

「どうだ? ISコアと釣り合うかは怪しいんだが」

 

「全然問題ナッシング! 衛星軌道からの太陽光発電とマイクロウェーブ送電の概要と設計図! 十分すぎるよ!」

 

「「ぶふっ!」」

 

私と織斑先生が思いっきり吹き出した。 陸、なんてものを!

 

「いやぁ、今日は大収穫だったよ! さっそく試作品を作らねば! それじゃあ3人とも、まったね~!」

 

「あっ、おい束!」

 

織斑先生の制止を無視して、博士は部屋の窓を開けると、そのまま『とぉ!』とか言ってベランダを飛び越えて行った。いくらここ1階だからって……

 

「……更識」

 

「……何ですか?」

 

「もし常備薬に胃薬があれば、すまんが分けてもらえないか……?」

 

お腹を押さえる織斑先生に、私はキッチン棚から救急箱を引っ張り出して、薬を渡した。 先生、近い内に検査した方がいいと思います。

 




ISコアの形状はアニメ2期準拠です。(オータムがアラクネ自爆前にコアを抜いたシーンから)


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第24話 飛んできた火の粉

そろそろシリアスを混ぜ始めましょうかね~


珍客が現れた翌日、予定通り第6アリーナで機動力テストをしにきたわけだが、

 

「見学者よ」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

メメントモリの時と同じように、パイセンがドヤ顔で立っていたので、

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「があああああああ!」

 

 

とりあえずシメておく。

 

「来るなとは言いませんけど、そのドヤ顔がムカつきます」

 

「そんな理由ででででででででっ!」

 

「陸、そのくらいで」

 

「か、簪ちゃん……!」

 

……簪がそう言うなら仕方ない。

俺がパイセンの解放すると、簪はパイセンに近づいて

 

「あんまり自重しないと、虚さんにアームロックを覚えてもらわないといけなくなる」

 

「……はい、自重します」

 

あ、パイセンが簪の口撃に負けた。

 

「まったく……のほほん、そっちの準備はいいか?」

 

「オッケーだよ~」

 

さて、計測機器の準備も済んだし、そろそろ始めるか。

 

「そんじゃ簪」

 

「うん」

 

待機状態が解除され、打鉄弐式に乗った簪が現れる。

 

「最初は飛ぶ前に、横移動からにするか」

 

『分かった』

 

「ああそれと、出力自体が上がってるから、いつもより抑え目で――」

 

――ドゴォォォォォォンッ!

 

「簪ちゃーーーーーーんっ!?」

 

――どうやら遅かったようだ。簪の乗った打鉄弐式は残像を残したかと思うと、アリーナの壁にめり込んでいた。

 

『陸ぅ……(# ゚Д゚)』

 

いや怖いから。通信機から聞こえてくる声が怖いから。

だから抑え目って言おうとしたやん。俺は悪くねぇ!

 

「りったん、これリミッターが必要だよ~……」

 

「だな……」

 

よもや、ISでトランザムもどきが見られるとは思わんかったよ……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

その後リミッターを付けたことで、今まで通りの機動を行えるようになった。

ただし、瞬時加速(イグニッション・ブースト)をすると強制トランザムになる。それはどうしようもなかった。

 

「通常時でもリミッターぎりぎりまで動かしたら、瞬時加速と同じぐらいの速度が出てるんだけど……」

 

横から計測結果を覗いていたパイセンにツッコまれた。

 

「貴方、簪ちゃんを一体どこに導くつもりなのよ……」

 

「モンド・グロッソですが?」

 

それは以前言ってあるはずですがねぇ?

 

『陸は私に何を期待してるの……?』

 

「何って、ブリュンヒルデになることを期待してるが」

 

それも以前言ってあるよな?

 

「正直私、今の打鉄弐式に勝てる気がしないんだけど」

 

「事実上エネルギー無制限な上、常時瞬時加速可能で大ダメージ技(メメントモリ)もあるからね~」

 

『先に私自身が慢心しないか心配になるレベル』

 

「それぐらい良い機体になったってことで」

 

「「『違う、そうじゃない』」」

 

3人から揃ってツッコまれた。解せぬ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

予定していたテストも終わり、簪の着替えが終わるのを待ってた時

 

~~~♪

 

スマホの着信音が鳴った。ディスプレイを見ると、登録はしてないが見覚えのある番号。そう、あの駄女神(シギュン)からだ。

 

「もしも――」

 

 

『マーーーーーーーベラス!』

 

 

「うっせぇ! 声量下げろや馬鹿野郎!」

 

ぐぁぁ、まだ耳がキィィンって鳴ってやがる。

 

『あら失礼。興奮のあまり思わず』

 

「何に興奮してんだよ……」

 

『それはもちろん! 一夏様のことです!』

 

「さいで……」

 

そりゃそうか。こいつら、一夏オタクだって言っても過言じゃねぇだからな。

 

『一夏様が異性に対する自覚を持ったことで、彼のハーレムが完成に近づいていくのですから!』

 

「あんたら、一夏にハーレムを作って欲しかったのか?」

 

俺の知ってるオタクは、推しの恋愛とか嫌う連中だと思ってたが。

 

『何を言っているのです。男として優れているから、複数の女を持つのですよ?』

 

あ、そういや神って、一夫多妻制だったな。いっぱい女を囲えるのが良い男って考えか。

 

「だが、この日本は一夫一妻制だぞ」

 

いくら一夏でも、その内誰か1人を選ばなきゃならん日が来るんだ。

 

『普通ならそうでしょう。ですが一夏様は織斑千冬の弟君であり、希少な男性操縦者、ならば――』

 

「……その一夏と繋がりを持つために、各国が例外的に多妻を認めるよう申し合わせする、と?」

 

『貴方のような勘のいい人間は嫌いではありませんよ』

 

「マジかぁ……」

 

駄女神がそう言うってことは、おそらく各国ですでに提案・検討されているんだろう。つまり、一夏があの3人を名実共に嫁にするのは時間の問題と。

頑張れ一夏。いや、ぶっちゃけ一夏が誰か1人を選ぶ光景が想像出来ないから、却って良かったのか?

 

『それと……』

 

「まだ何かあるのかよ」

 

 

『近い内に、また一夏様への試練が訪れるでしょう。そして貴方の助言によって、さらに一夏様が成長することになるのです!』

 

 

そう不吉なセリフを残して、駄女神からの通話が切れた。やめてくれよぉ……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そんな面倒事を聞かされた夜、いつものように簪と茶を飲んでいると

 

 

「陸っ!」

 

 

――バンッ!

 

織斑さん家の一夏君が、ノックもせずに部屋に入ってきたんですがー。

 

「一体なんだよ」

 

「いいから来てくれ!」

 

「ちょっ、おま!」

 

こっちの言う事も聞かず、俺は一夏に腕を掴まれて部屋から引きずり出されてしまった。そしてそのまま一夏の部屋へ。

 

「だーもう! 一体なんだって……」

 

「や、やぁ、宮下君……」

 

なぜかそこには、顔色が悪そうに見える、男装女子のデュノアがいた。

 

「どうしてここにデュノアが?」

 

「実は僕、一夏と同室なんだ」

 

「シャルルが転校してきた日に、箒と入れ替わりにな」

 

「そうか」

 

デュノアがこの部屋にいる理由は分かった。

 

「で? 俺がここに連れて来られて理由は?」

 

「陸の力を貸して欲しいんだ!」

 

「力って……何のだよ」

 

 

「実は、シャルルは女だったんだよ!!」

 

 

「知ってた」

 

 

「へ?」

 

鳩が豆鉄砲を食ったような顔になる一夏。あれだけ力いっぱいカミングアウトしてこれなら、そんな顔にもなるか。そうか、とうとう一夏にもバレたのか。

 

「はぁ……デュノア、俺言ったよな? こっちに火の粉が飛んで来たら話は別だって」

 

「ご、ごめんなさい……」

 

「どうしてシャルルが謝るんだよ!? それに陸、お前シャルルが女だって知ってたのか!?」

 

「屋上でみんなで昼飯食った時から気付いてたっての。で、こっちを巻き込まない限り黙ってるって話になってたんだよ」

 

それがいざ蓋を開けてみれば、デュノアの落ち度でなく、一夏の手によってあっさり巻き込まれたわけで。

 

「そ、それなら話が早い!」

 

そう言って、一夏はデュノアの事を説明し出した。おい、俺を勝手に巻き込んだところは無視かよ。

 

 

デュノアは父親であるデュノア社長と愛人の間に出来た子で、母親が亡くなった2年前にデュノアに引き取られ、IS適性が分かってから会社の非公式テストパイロットになったそうだ。

そしてこれは初めて聞いたんだが、デュノア社は第3世代機開発の遅れが原因で、経営不振に陥っているらしい。だから、会社の命令で一夏と専用機のデータを盗むため、一夏と接触しやすいように、わざわざ男装して学園へと来たと。

失敗したら、経歴詐称してIS学園に不正入学したとして強制送還のち投獄。成功したらしたで、正真正銘産業スパイ。どう転んでも犯罪者になる道しかない。

 

 

「……ここまでの経緯は分かった。で? 繰り返しになるが、俺がここに連れて来られた理由は?」

 

「だから、シャルルを助けるために力を貸してくれ!」

 

「一応聞くが、何か策はあんのか?」

 

「いや、その策を考えるために、陸の力を……」

 

「あのなぁ……」

 

一夏の無鉄砲さに、さすがの俺も頭が痛くなってきた。

 

「デュノア社という大企業、しかも性別詐称でIS学園に入れたってことは、フランス政府やIS委員会ってデカい組織も絡んでるんだろ? そもそも、俺達のような一学生でどうこう出来るわけないだろ」

 

「「あっ……」」

 

あってなんだよ。しかもデュノア、お前も気付いてなかったんかい……。

 

「というか、俺よりも織斑先生に相談しろよ。あの人の方が俺よりそっち系の伝手も多いだろ」

 

「それは……ダメだ。千冬姉に迷惑が掛かる」

 

……お前、それを言っちまうのか。さすがにこれはイラッと来たぞ。

 

「一夏、お前がデュノアを助けたいってのは分かった。そして姉である織斑先生に迷惑を掛けたくないってのもな」

 

「なら……!」

 

 

「バカタレがぁ!」

 

 

――ガンッ!

 

「いってぇ!」

 

「い、一夏っ!?」

 

アームロックだと思ったか? 残念、脳天への鉄拳制裁だ。

 

「お前、デュノアと同室である以上、もし今回の件がバレればお前にも疑いの目が行くんだぞ」

 

「そ、それは分かって……」

 

「分かってるだと? ならその責が、お前の保護者(織斑先生)にも及ぶってことも、当然分かってるんだろうな?」

 

「えっ?」

 

やっぱり分かってないのかよ……。

 

「つまり、僕が捕まるような事になれば、一夏も共犯扱いされて、織斑先生も巻き込まれる……」

 

「そんな! 千冬姉は関係――!」

 

「お前がどう思おうが、周りの人間はそう考えるし、そうなるんだよ」

 

「そ、そんな……」

 

俺の説明を聞いて、一夏は呆然と立ち尽くす。っていうか、そのくらいは気付いてくれよ……。

 

「分かったら四の五の言わず、さっさと寮監室に行って、織斑先生に相談して来い。デュノア、お前もな」

 

「ぼ、僕?」

 

「当たり前だろ。さっきから一夏ばっか喋ってるが、お前は()()()()()んだ?」

 

「僕が……?」

 

何驚いた顔してんだよ。

 

「お前がどうしたいか言わねぇと話が進まねぇだろ。お前の人生が掛かってんだぞ」

 

「それは……」

 

そう呟いて、デュノアも固まってしまった。

不幸な運命に対して足掻こうとせず、流されるだけのお姫様(デュノア)に、お姫様を助ける(織斑先生に相談する)方法があるのに、それを選ばない白馬の王子様(一夏)。そんなんで話が進むか、このバカタレ共が。

 

「ったく……今日の事は誰にも言わん。あとはお前らで決めてくれ」

 

そう言って、俺は部屋を出て行った。

言うだけ言って無責任かもしれないが、これは一夏とデュノアが自分の意思で決めなきゃならんことだろうよ。




相変わらず説教系っぽくなっちゃいましたねぇ。
これで一夏が何もしなければ(orオリ主に恨み言を吐くだけなら)アンチものが出来上がりますが、本作は基本アンチなしなので、次回一夏には頑張ってもらいます。


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第25話 前へ

まーたオリ主やメインヒロインの出番が少ない回

そして業務連絡です。
更新頻度を、現行の隔日から週3(月・水・金の予定)に変更しようと思います。
本作のアクセス解析を見たところ、平日更新の方が土日更新よりUAが伸びていたので。
やはり、通勤・通学の間や休み時間にサックリ読めた方がいいですよね。


~~~♪

 

一夏の部屋を出て、自分の部屋に戻ろうとしたところで着信音が鳴った。

 

「また駄女神か?」

 

見ると……また知らない番号? 駄女神じゃない?

 

「もしもし?」

 

「やっほーりったん♪」

 

「もしかして、束?」

 

「そだよ~」

 

相手はまさかの束だった。って待てよ。

 

「俺、番号教えてないんだが?」

 

「そんなの、束さんにかかればちょちょいっと、ね?」

 

さいで……。

 

「それで、どうしたんだ?」

 

「実は、昨日もらった設計図なんだけどね」

 

「どっか分からないところとか不備があったか?」

 

なにせこっちの外史に来て以降に、昔の記憶を頼りに描いたもんだから、抜け漏れがないとも限らない。

 

「ううん、それは問題ないよ。もうちょっとでマイクロウェーブ送電システムの試作品が出来そうだし」

 

「マジか、早いな」

 

渡したの昨日だぞ? それで試作品が完成間近とか、完徹したとしてもどんだけ早ぇんだよ。

 

「でしょでしょ~? それでね、りったんに友情の証としてISコアをあげたけど、束さんの方が貰い過ぎな気がしてね~」

 

「俺としては、むしろこっちが貰い過ぎな気がしてたんだが」

 

ISコアって限定品に比べたら、こっちはただの設計図だしなぁ。

 

「いやいや、ご謙遜だよ。だから、何か追加で欲しい物とかあったら言って欲しいなーって」

 

「欲しい物かぁ……」

 

俺も俗物だから、欲しいものは色々思い浮かぶ。貰ったコアで専用機を組むための資材とか、下世話なところでは現ナマとか。だが……

 

「それなら、こんなもんでもいいか?」

 

「何かな~?」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「――っていうのは、出来るか?」

 

「……」

 

「束?」

 

「くふっ! あははははははははははっ!」

 

思いっきり束に笑われた。解せぬ。

 

「りったんって、とんだお人好しだね~」

 

「いやいや、お人好しは一夏だけで十分だから」

 

「いっくんは誰彼構わず手を差し伸べるお人好し。りったんは一度突き放してから助けるお人好しだよ」

 

「さよけ……。それで、出来そうか?」

 

「もちのろん! お届け先はちーちゃんでいいの?」

 

「ああ、あの人なら有効活用してくれるだろうからな」

 

あとは一夏達がどうするかだが、そこまではさすがに面倒見切れんよ。

 

「分かったよ。それじゃあまた連絡するから、かんちゃんにもよろしく伝えておいてね~」

 

「おう」

 

――プッ ツー、ツー……

 

「俺がお人好しねぇ……」

 

通話の切れたスマホを仕舞うと、俺は自分の部屋に向かって歩き出した。

 

 

 

ちなみに部屋に戻った際、簪に『俺ってお人好しに見えるか?』と聞いたところ

 

「それ以外の何なの?」

 

と返された。解せぬ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――コンコン

 

寮監室のドアを叩く音がしたのは、持ち帰った書類仕事が終わり、ちょうどビールを飲もうと冷蔵庫に手をかけた時だった。

 

「誰だ?」

 

お預けを食らった不機嫌さを極力隠してドアを開けると、そこには一夏とデュノアが立っていた。

 

「なんだお前達、こんな時間に一体どうし――」

 

「織斑先生、いや、千冬姉。相談があるんだ」

 

「一夏?」

 

いつもと違う弟の雰囲気に、私は訝しんだ。よく見れば、一夏の斜め後ろに立っているデュノアもだ。まるで、何か覚悟を決めたような。

 

「……入れ」

 

どうやら立ち話で済ませられそうにない。そう察して、二人を部屋の中に入れた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

寮監室には小さいながらも4人用テーブルと椅子がある。そこに一夏とデュノアを座らせ、向かい合うように私が座った。

 

「それで、相談とはなんだ? 見たところ、デュノアも関係するようだが」

 

「ああ、それは……」

 

「一夏、僕が話すよ」

 

「シャルル、だけど……」

 

「ううん。本来これは、僕の問題だから。だから僕が織斑先生に説明しないといけないんだ」

 

「……分かった」

 

なるほど、デュノアの問題に、一夏が関わった形か。

 

「ではデュノア、説明してくれ」

 

「はい。そもそも僕は――」

 

 

 

デュノアの話を聞く度に、胃がシクシクと痛むのを感じた。

デュノア社の危機とは言え、愛人の子とは言え、娘にスパイをさせるなど正気の沙汰ではない。

そしてその特大の爆弾に、一夏が関わってしまっている。もしこのままデュノアのスパイが発覚していたら、一夏にも疑いの目が向いたはずだ。なにせ同室なのだ。共犯でなければ気付くはずだと言われる可能性があっただろう。

 

「……デュノア、お前も色々悩んだのだろうが、よく話してくれた」

 

「いえ、一夏が無理矢理連れ出してくれなかったら、僕一人じゃ……」

 

「そうか……一夏、よくやった」

 

一夏の方を向くが、様子がおかしいことに気付いた。いつもなら、褒められれば素直に喜ぶか、当然の事だと言い返すかだ。だが、今の一夏は、俯いたまま微動だにしていない。

 

「一夏?」

 

「違うんだ、千冬姉」

 

「違う? 何がだ」

 

私が聞き返すと、一夏はしばらく黙ったままだったが、

 

「俺は最初、陸に相談したんだ」

 

「陸……宮下にか?」

 

「ああ……そしてあいつに言われたんだ。千冬姉なら自分より伝手があるだろう、だから千冬姉に相談するべきだって」

 

確かにブリュンヒルデ時代の伝手を使えば、一夏達3人よりは情報も、取れる手段も多く得られるだろう。

 

「けど、俺は躊躇った。千冬姉に迷惑を掛けたくなくて……そうしたら言われたんだ。『もし今回の件がバレればお前にも疑いの目が行くし、千冬姉にも責が及ぶ』って……」

 

「それは……」

 

「俺、分かってなかったんだ……千冬姉に迷惑かけたくないって言いながら、結局迷惑を掛けてることに……」

 

そう言って上を向いた一夏の顔は、目は見開き、口は震え、まるで懺悔しているようにも見えた。

 

「一夏は悪くないよ。 悪いのは自分の人生なのに、選択を一夏に押し付けた、僕だよ……」

 

「一夏、デュノア……」

 

そんな二人に、私は席を立って二人に近づき、頭を撫でることしか出来ない。

 

「お前達はまだ子供なんだ。間違いなんていくらでもする。大切なのは、次にどうするかだ」

 

「千冬姉……」「織斑先生……」

 

「宮下の言葉があったからだとしても、お前達は『私に相談する』という"次"を選択出来たんだ。今はそれでいいだろう?」

 

そこで立ち止まらなければ、自分の殻に閉じ籠らなければ、それでいい。例え半歩であろうと、前に進めれば、それでいいんだ。

私は二人の頭を撫ぜ続けた。たまには一夏の姉として、保護者として、こういうのもいいだろう。デュノアもおまけでな。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「えっと……ごめん、千冬姉」

 

「お見苦しいところをお見せしました……」

 

「気にするな。これも教師の役目だからな」

 

しばらくして、私に頭を撫でられているのが恥ずかしくなったのか、顔を赤くした二人を座り直らせて、私も再度二人に向かい合った。

 

「まず確認だが、学園内でデュノアが女であることを知ってるのは誰がいる?」

 

「たぶん、ここにいる3人以外では宮下君だけだと……」

 

秘密を知ってる人間は少ない方がいい。そういう意味では良い情報だ。

 

「よし、私が国家代表時代の伝手を使って情報を得るまでは、今まで通り生活して女であることをバレないように気を付けろ」

 

「分かりました」

 

~~~♪

 

私のスマホが鳴った。しかも、この着信音は……

 

「すまん、電話だ」

 

そう言って席を立とうとしたら

 

「もすもすひねもすぅ~。ちーちゃん、束さんだよ~」

 

通話ボタンを押してないのに勝手に束が話し始めたんだが!?

 

「た、束さん?」

 

「やっほーいっくん。青春してるかい?」

 

「あはは……」

 

「……」

 

突然の相手に、一夏は苦笑するしかなく、デュノアは完全に固まっている。

 

「束、一体何の用だ?」

 

こいつ、先日に引き続いてまた何かしでかす気か?

 

「今日の私はただの宅配便なんだよね~」

 

「宅配便? どういうことだ?」

 

「ちーちゃんの端末に送っておいたから、確認してよ」

 

「端末……」

 

束に促されるまま、私は仕事机に置いてある端末を取り、電源を入れた。

すると、身に覚えのないファイルが複数入っていた。

 

「このファイルか?」

 

「うん。ちーちゃんに届けるように頼まれたんだ」

 

「お前が他人の頼まれ事を? 一体誰から――っ!?」

 

ファイルを開いた私は、言葉を失った。

それは、デュノア・グループ内でのシャルル、いや、シャルロット・デュノアの暗殺計画や、計画を知ったアルベール・デュノアが娘をIS学園に逃がそうとした記録だった。

その中には動画ファイルも含まれていて、アルベール氏とロゼンダ夫人の会話シーンだった。

 

 

『本当に良かったのですか? 彼らの目をあの子から引き離すためとはいえ、あんな突き放すような態度ばかりで……』

 

『構わん。例え恨まれようとも、それであの子が、シャルロットが無事でいてくれるのならば――』

 

 

「これは……」

 

「そ、そんな……それじゃあ、僕は……僕は……」

 

横から端末を覗いていた二人も、真実を知って呆然としていた。

 

「それじゃ、束さんは設計図分のお仕事をしたから、バイビ~♪」

 

「お、おい束――」

 

私が何か言うより先に、束から通話を切られた。毎度毎度、こちらを振り回してくれる。だが、今回の情報はありがたい。

 

「これなら、デュノアの件は何とか出来そうだ」

 

「本当か、千冬姉!」「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ」

 

そもそも向こうがデュノアをスパイにする気が無いことが分かったのだ。あとは暗殺計画に関与した連中をどうにかしてしまえば、晴れてデュノアは自由の身だ。国家代表時代の伝手と、束からの情報を使えば手の打ちようはある。

 

「良かったな! シャルル!」

 

「うん……うん……っ!」

 

それにしても束のやつ、"設計図分"と言っていたな。まさか……。

 

「千冬姉?」

 

「いや、何でもない。さあ、もう少しで消灯時間だ。早く部屋に戻って寝ろ」

 

「はい」「分かった」

 

肩の荷が下りたからか、二人は目を赤くしながらも、清々しい顔で寮監室を出て行った。

 

 

 

……あれだけ一夏とデュノアに説教しておいて、最後は束を使って()()とは。

 

「ふっ、お人好しが」

 

他クラスの機械馬鹿を心の中で笑いながら、私は冷蔵庫のドアを開けると、お預けを食らっていたビール缶を取り出し、中身を一気に呷った。

 

ああ美味い。特に今日は特別美味い気がする。やはり、家族(一夏)に頼られるのは良いものだな。




これだからシリアスは難しい。

「やっぱりさ やるもんじゃないね、キャラじゃないことは」


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第26話 ペア

更新を週3(月・水・金)にすると言ったな、あれは嘘だ。


『放課後、屋上に来て欲しい』

 

一夏に鉄拳制裁をした翌日。奴からのメールを見た俺は、一人で校舎の屋上に来た。そこにはすでに一夏が居て、俺に持ってた缶コーヒーを投げて寄こしてきた。

 

「奢りなんてどうした?」

 

「急な呼び出しに対するお礼兼口止め料だ」

 

「なるほど、おしゃべり厳禁な内容か」

 

落下防止用の手摺りに寄りかかってる一夏の横に並ぶと、俺も手摺りに寄りかかる。そして渡された缶のプルタブを開けて、微糖な中身を一口飲んだ。 正直無糖ならベストだったんだが、正味女子校のIS学園の中でそれは無茶な注文か。

 

「それで、呼びだした理由は?」

 

「昨日、千冬姉のところに行ったんだ。陸にぶん殴られた後に、さ」

 

「ほう」

 

あそこで意固地にならずに行ったか。すこーし心配してたんだが。

 

「それで、シャルルを助ける目途が立ったんだ」

 

「そりゃ良かったじゃねぇか」

 

「ああ。束さん……箒のお姉さんが情報提供してくれてな」

 

「篠ノ之の姉ねぇ……」

 

やっぱり束は篠ノ之箒と姉妹だったのか。前にどこかで聞いたような気がしてたが、記憶は合ってたようだな。そんで、昨日頼んだ"あれ"は無駄にならなかったと。資材や現ナマを我慢した甲斐があるな。

 

「ありがとうな、陸」

 

「お前に礼を言われるようなことをしたか? まさかお前、殴られて喜ぶような……」

 

「ちげぇよ馬鹿! あの時発破をかけてくれたから、俺もシャルルも千冬姉に話す決心がついたし、さっき言ったように解決の目途も付いたんだ。これはその礼だ」

 

「大したことはしてないんだが……まぁこれも含め、受け取っておくさ」

 

そう言って、俺は半分飲みかけの缶コーヒーを一夏に振って見せた。

 

「ところで一夏。お前こんなところで一人でいて問題ないのか? 一夏ハーレムの連中放っておいて」

 

「ハーレム言うなよ……。このあと第3アリーナで、セシリア達と模擬戦する予定だけどな。陸こそいいのか? もうすぐ学年別トーナメントも近いのに、全然練習してるところ見たことないぞ」

 

「いいんだよ。そもそも俺はメカニック志望だからな」

 

「ああ、だから更識さんのIS開発に関わってたのか」

 

「そういうこった」

 

一夏と違って、こっちはIS適性も乗り回す気もほとんど無いからな。悪いが、希少な男性操縦者としてのデータ取りは全部任せるぞ。

 

「さて、そろそろ簪達の所に戻るか」

 

「そうだな。俺もあんまりセシリア達を待たせるとまずいし」

 

俺も一夏も手摺りから体を離したところで

 

――バンッ!

 

「一夏っ!」

 

屋上の扉が思い切り開き、デュノアが飛び込んできた。

 

「シャルル、一体どうしたんだ?」

 

「せ、セシリアと鈴が……!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

クラス対抗戦の時に(遺憾ながら)お世話になった保健室。デュノアに連れて来られた俺と一夏の前には、ベッドの上で包帯を巻かれたオルコットと凰がいた。

 

「い、一夏さん……」

 

「かっこ悪いところ見られちゃったわね……」

 

「かっこ悪いとかどうでもいい。それより、怪我の具合はどうなんだ?」

 

「こ、こんなの! 怪我の内に――いたたたっ!」

 

「も、問題ありませんわ! そもそもこうやって横になるほど――つううっ!」

 

虚勢を張るな、虚勢を。余計に一夏が心配そうな顔しちまってるじゃねぇかよ。

 

「もう、二人とも……」

 

「篠ノ之、結局のところどうなんだ?」

 

デュノアがため息をつく中、俺はベッド横の椅子に座っていた篠ノ之に話を振った。

 

「先生曰く、怪我自体は打撲がほとんどで大したことは無いとのことだ」

 

「そうか……」

 

「だが、二人のISのダメージレベルがCを超えているらしい。当分は修復に専念せざるを得ず、学年別トーナメント参加も許可できないと、山田先生に釘を刺されている」

 

「そうなのよね……」

 

「非常に不本意ですが……」

 

2人の顔が曇る。だが仕方ないだろう。

 

「?」

 

この中で、一夏だけが分かってない顔してるな。

 

「IS基礎理論の蓄積経験値についての注意事項第三だよ、一夏」

 

「ダメージレベルがCを超えた状態で無理にISを動かすと、変な形にエネルギーバイパスが構築されちまうんだよ。そうなると、修復されて平常時に戻ってもバイパスが変な形のままで稼働に悪影響が出る」

 

「『骨折した時に無理に動かすと、変な形で骨がくっ付いちまう』みたいなことか」

 

「まあ、そんな認識でいいか」

 

そういうわけで、今後の事を考えれば、オルコットと凰はトーナメントを棄権せざるを得ないわけだ。

 

「というか、何で2人がそんな怪我する羽目になったんだ?」

 

一夏が至極真っ当な質問をすると、オルコットと凰は顔を逸らした。おい……。

 

「篠ノ之」

 

「私は説明役じゃ無いのだぞ……」

 

そう言いつつ、篠ノ之は事の経緯を説明し始めた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「……つまり、そのボーデヴィッヒとかいう転校生の挑発に、2人ともまんまと乗っちまった挙句、ボコボコにされたと」

 

「うぅ……」

 

「お恥ずかしながら……」

 

何やってんだ代表候補生。私闘で機体壊してトーナメント出れませんとか、確実に国からの評価はマイナスだぞ。発端がボーデヴィッヒ側という点で、弁明の余地はあるとはいえ。

 

「それは……」

 

「あの女、一夏のことも……」

 

「それで2人が怪我しても、俺は嬉しくねぇよ」

 

「「はい……///」」

 

おぉっと一夏のセリフでオルコットと凰の顔が真っ赤! そして篠ノ之は羨ましそうな顔だぁ! 俺、何見せられてんだろうな?

 

ドドドドドドドドッ……!

 

「な、何だ? 何の音だっ?」

 

突然の地鳴りのような音に、一夏だけでなく、俺達全員が周囲を見回した。

近付いてきているのか、その音はどんどん大きくなり

 

バァンッ!

 

「織斑君!」

 

「デュノア君も!」

 

「あっ! 4組の宮下君もいる!」

 

保健室のドアが乱暴に開けられる。そして入ってきたのは……いや、なだれ込んできたのは、数十人の女子生徒だった。

そして一瞬の間に、俺達はその女子生徒達に完全包囲されていた。ナニコレ怖い。

 

「み、みんなどうしたんだ?」

 

「これ!」

 

代表して聞いた一夏に、包囲網の最前列にいた女子生徒の1人が見せて来たのは、学内の告知文が書かれた申込書だった。

 

「『今年の学年別トーナメントでは、より実戦的な模擬戦闘を行うため、2人1組での参加を必須とする』――」

 

「私と組もう、織斑君!」

 

「私と組んで、デュノア君!」

 

「クラスは違うけど、宮下君はどうかな!?」

 

全方位から伸びてくる、申込書を持った手。怖っ! 一夏とデュノアも、あまりのホラーに顔が真っ青だ。

しかしデュノアが女子と組むのは、男装してるのがバレる危険があるんだがなぁ。

そう思って一夏の方を見ると、あいつもそこに思い至ったのか

 

「悪い。俺はシャルルと組むから諦めてくれ!」

 

一夏の一言に、保健室中が途端に静かになる。

 

「まぁ、そういうことなら……」

 

「他の女子と組まれるよりは……」

 

しぶしぶながら納得した様子で、一夏とデュノアに伸びていた手が引っ込む。これはこれは怖いんだが。

 

「あ、それなら宮下君は?」

 

引っ込んだ手が、全てこちらに伸びてきた。だから怖ぇって!

 

 

「陸」

 

 

突然聞こえた声に、保健室内の視線は、すべて廊下を向いた。

 

「簪?」

 

「なかなか整備室に来ないから、あちこち探し回る羽目になった」

 

「あ……すまん」

 

デュノアに連れて来られた段階で、メールのひとつでも投げるべきだったな。反省反省。

 

「ほら、本音も待ってるから」

 

「お、おう」

 

まるでモーセの十戒のように包囲が割れ、つかつか近付いてきた簪が俺の腕を掴む。

 

「あ、あの、宮下君。トーナメントのペア……」

 

一部の女子生徒が、簪に腕を引っ張られる俺に声を掛けようとするが――

 

 

「みんな、今日は陸に会わなかった。イイネ?」

 

 

「「「「アッハイ」」」」

 

簪の一言で黙らされた。

もしかして簪って、結構独占欲が強かったりするのか? そして独占対象の俺は、それだけ愛されてると喜べばいいのか、束縛されると悲しめばいいのか。

 

「せっかく、一夏さんとペアになるチャンスでしたのにぃ……」

 

「なんであんな挑発に乗ったのよぉ、あたしの馬鹿ぁ……」

 

「なぜ私でなくデュノアなのだ、一夏ぁ……」

 

保健室を出て行く直前、一夏ハーレムの嘆きが聞こえた気がした。

 

 

トーナメントのペア? すでに簪が俺の名前も書いて、提出する準備万端だったよ。

のほほんとは組まないのか聞いたが

 

「……陸と組むことしか考えてなかった」

 

今気づいたとばかりに返された。

……とりあえず、簪の頭を撫ぜた。

 

「……♪///」

 

簪も満更じゃなさそうなので、そのまま撫ぜてたら

 

「宮下君も更識さんも、ほどほどにねー」

 

エドワース先生に見つかり、顔を真っ赤にした簪にポカポカ胸を叩かれた。

うん、廊下でやっちゃダメだよな。またもや反省反省。




内向的で控えめな簪は死んだ! もういない!

その内、恍惚のヤンデレポーズが似合うようになりそう。


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第27話 今更やってきた専用機

いつだったか「日刊は懲りた」と言ったな、あれも嘘だ。



「宮下、話がある」

 

職員室に学年別トーナメントの申込書を提出したところで、織斑先生に声を掛けられた。

 

「何か用ですか?」

 

「ああ。ここでは話せん内容でな……ちょっと来てくれ」

 

「分かりました。簪、お前は先に――」

 

「いや、更識にも関係する話だから、一緒に来てくれ」

 

「私も、ですか?」

 

俺も簪も首を傾げながら、とりあえず織斑先生の後に付いて職員室を出た。そして着いた先は、生徒指導室。

 

「先に言っておく。別にお前達を叱るためじゃないぞ」

 

「あ、そうなんですか」

 

「陸の場合、心当たりがあり過ぎるんじゃ」

 

「おいおい。少なくとも校則に引っかかるようなことはしてないぞ」

 

「そうだな。寮の門限破り以外は、な」

 

「「うぐっ!」」

 

先生、それを言われたら俺も簪も言い返せないっす。

 

「まぁいい。とにかく中に入れ」

 

促されるまま、俺と簪は指導室に入り、会議用テーブルとセットにあるパイプ椅子に座ると、 向かいには織斑先生が座った。

 

「さっそく本題だが……宮下、お前に専用機が手配されることになった」

 

「……は?」

 

「陸に、専用機?」

 

俺に専用機? なして?

 

「クラス対抗戦で更識が乗っていたISが、政府関係者の目に留まってな。そこから政府の連中、開発者である宮下に興味を持ったらしい」

 

「陸に興味って、今更ですか?」

 

「まぁ、それは、なぁ……」

 

織斑先生も言いにくそうにしている。まさか自分のネームバリューのせいで、(一夏)ばかりに注目が集まってたからなんて言えないだろうし。

 

「とにかく、そこで日本政府は考えた。『宮下に学園の訓練機を専用機として貸与しカスタムさせれば、男性操縦者のデータとカスタム機体のデータ、両方得られるんじゃないか』とな」

 

「はぁ……」

 

なんともやる気を失くす理由だことで。

 

「それで、俺はいつその訓練機を受領すれば?」

 

「今からだ」

 

「は? 今から?」

 

あまりにもフッ軽過ぎやしませんか?

 

「陸、良かったね。資材が無いから専用機が作れなかったけど、これで自分の機体を改造し放題だよ」

 

「……本音は?」

 

「これからは、トンデモ改造は自分の機体でね?(暗黒微笑)」

 

「先生、さっき出したトーナメントの申し込み、再提出させてください」

 

「嘘ですごめんなさいこれからもよろしく」

 

「……私はお前達の夫婦漫才を見るために、ここに呼んだわけじゃ無いんだぞ……?」

 

ゲンナリ顔でため息をつかれてしまった。それと、やっぱり簪はパイセンの妹だと再認識した。

 

「山田先生には私から連絡しておくから、お前達はこの後整備室に直行してくれ」

 

「分かりました。話はそれだけですか?」

 

「ああ。それとこれは、ちょっとした独り言だが……」

 

「「?」」

 

なんだ? 俺も簪も首を傾げていると、織斑先生は立ち上がり、腕を組んで窓の外を見た。

 

「一夏は……私の弟はどうも短絡思考なところがあってな。本来であれば、保護者である私がきちんの教育しなければならなかった。だが、教職の忙しさにかまけて、私は保護者としての義務を怠っていた」

 

「……」

 

「だが、どうもこの学園には『お人好し』がいるようでな。そいつのおかげで、一夏は道を踏み外すことなく前に進めている。私はその『お人好し』に感謝している」

 

そこまで言うと、織斑先生は振り返り

 

「さぁ、山田先生を待たせるわけにもいかんからな」

 

何事も無かったかのように、俺達に退室を促した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

整備室に着くと、緑短髪の眼鏡先生が、2機のIS――打鉄とラファール――の横に並んで俺達を待っていた。

 

「待ってましたよ。宮下君はお久しぶりですね」

 

「そうですね。実技試験で酷い目に遭って以来ですね」

 

「うぐぅっ!」

 

俺の棘付き返答に、山田先生は崩れ落ちた。

 

「一体何があったの?」

 

「入学前の実技試験でこの先生、一夏相手に自爆ったらしくてな。織斑先生に怒られて気合入れ直したら、今度は初めてISに乗ったズブの素人の俺を容赦なくフルボッコ」

 

「ええー……」

 

「そ、その節はごめんなさい……」

 

俺は別にいいんだがな。ただ、実技試験は入学生がその時点でどれだけISを動かせるかを見るためのものなのに、俺も一夏も全く動かさずに試験が終わったから、山田先生は関係各所からこっぴどく怒られたらしい。

 

「は、話は織斑先生から聞いてると思いますが、宮下君に訓練機を専用機として貸与されることになりました」

 

「はい、聞いてます」

 

「それで、打鉄とラファール、どちらを選びますか?」

 

「打鉄で」

 

山田先生からの問いに、間髪入れず答える。

 

「いいんですか? もっと考えてからでも……」

 

「打鉄の方が、簪の弐式と互換性を持たせるのが楽ですから」

 

「互換性?」

 

「いちいち別の装備作るより、どっちの機体でも使えるようにした方が、開発の手間も省けるだろ?」

 

「なるほど(やっぱり宮下君()はメカニック馬鹿ですね())」

 

俺の説明に納得したのか、簪も山田先生も首を縦に振る。……変な副音声が付いてた気がしたが、気のせいだよな?

 

「分かりました。それじゃあ初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)を始めましょう」

 

「了解です」

 

俺は用意されていたISの内、打鉄の方に乗った。そして山田先生がISに接続されたPCで各種設定を行うこと30分。

 

初期化(フォーマット)最適化(フィッティング)完了です。ところで、機体名はどうしますか?」

 

「機体名?」

 

「私の『打鉄弐式』みたいなもの」

 

「ああ、なるほど」

 

そうは言われても、すぐパッと思い浮かぶもんじゃ……いや、打鉄の主武装は()だ。なら……

 

「打鉄・陰流」

 

「陰流、ですか。それで登録しますね」

 

山田先生がPCを操作すると、機体名が登録されたのか、バイザーから『打鉄・陰流 オールグリーン』とステータスが表示された。

 

「ところで陸、陰流って何?」

 

「陰流ってのは剣術流派の1つでな、打鉄の主武装が刀だからふと思いついたんだよ」

 

「へぇ、宮下君は剣術の心得があったりするんですか?」

 

「心得なんてないですよ。昔、見様見真似で木刀を振ってたことがあるだけで」

 

そう、今はもう懐かしいとすら感じるほど昔に、な。

 

「それじゃあ宮下君、ISを待機状態にしましょう」

 

「分かりました。……すまん簪、どうやるんだ?」

 

簪がよく待機状態にしてるのは見てるが、やり方までは知らんのだ。

 

「えっと、『解除』って念じるというか……」

 

「念……」

 

とりあえず言われた通り念じてみる。すると乗っていた『陰流』が光り出し、

 

「うおっと!」

 

階段の2,3段目から飛び降りたような感覚がして、危うく着地に失敗するところだった。急に消えるんだな、ISの解除って。

そして俺の左腕にはさっきまで無かった、白地に赤と黒のラインが入った腕輪が付いていた。

 

「その腕輪がISの待機状態になります。展開する時は、待機状態にする時と同じようにしてくださいね」

 

「同じように……」

 

さっきと同じように念じてみると、今度は少し浮遊感を感じ、次の瞬間には陰流に乗った状態になっていた。

 

「う~む。この展開と待機を切り替える際の感覚は、回数こなして慣れるしかないか」

 

めっちゃ低いフリーフォールに乗ったような、少し気持ち悪さを感じる。

 

「山田先生、日本政府は俺にこいつをカスタムさせたがってるようですけど、資材とかは――」

 

「大丈夫ですよ。学園内の在庫を融通するように通達が出てますから、必要分を申請してください」

 

それはありがたい。

 

「それじゃ、これお願いします」

 

さっそく俺は、今までメモっていた欲しいものリストを山田先生に渡した。

 

「さ、さっそくですか!? ええっと……はい、これなら大丈夫だと思います」

 

「いいなぁ、開発資材……」

 

あ~、簪が拗ねちまった。 最初会った頃は、簪自身に非があった(一人で意地張ってた)事を差し引いても、どこからも援助を受けれなかったからなぁ。

そんな簪に、俺は

 

「(実は申請した資材の内、いくつかは弐式用だったりする)」

 

と耳打ちした。すると

 

「……グッジョブ」

 

簪、真顔でサムズアップ。

そもそも互換性のあるもん作ろうとしてるから、弐式用だの陰流用だの関係なかったりするんだがな。弐式に優先して持たせる装備用ってだけで。

 

 

 

そんなこんなで、俺の専用機受領は完了した。

だが待てよ。学年別トーナメントまで残り2週間ほど。その間に、俺は自分の機体をカスタムして、慣熟訓練しないといけないわけで……。

間に合うのか、これ?

しかもこれ、束から貰ったISコア使わないままじゃん。貰い物をそのままにして別の物使うとか、めっちゃ体裁悪いんだが。……いっそ、コア2つ付けてみるか?




本作の千冬は、大っぴらにオリ主にお礼を言えない立場です。オリ主が出来るだけ表に出ないよう、敢えて束経由で手を貸したのに、そこで自分が言っちゃったら本末転倒だと、千冬も心得ているので。(駄女神が暗躍してる時点で今更かもですが)

打鉄・陰流の名前の由来については、実は第3話から伏線を張りっぱなしにしてました。なのでここで回収をば。(誰も気付かないかもですが)


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第28話 VTS

やっとトーナメント開始です。


学年別トーナメント当日。

全生徒が慌しく走り回り、雑務や会場の整理、各国政府関係者を始めとした来賓の誘導などに駆り出されていた。

かくいう俺も、生徒会長であるパイセンと知り合いだったのが運の尽き。ぎりぎりまで雑務を押し付けられ、開会式が終わると大急ぎで男子用の更衣室まで走らされた。

 

「宮下君、大丈夫?」

 

「な、なんとかな」

 

ああそうか、デュノアはまだ男装してるからこっちの更衣室なのか。

 

「それにしても、すごいなこりゃ……」

 

一夏は我関せずで、更衣室に付いているモニターを見ていた。そこには、観客席に座る各国政府関係者、研究所員、企業エージェントなど、錚々たる面子が。

 

「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認のために、それぞれ人が来ているからね」

 

「ふーん、ご苦労なことだ」

 

デュノアの説明に、一夏はあまり興味がなさそうだな。というか、ピリピリしてるな。

「なぁデュノア、一夏の奴、なんか気負ってないか?」

 

「一夏はボーデヴィッヒさんとの対戦だけが気になるみたいでね……」

 

小声で聞いてみると、どうも一夏はボーデヴィッヒに思うところがあるようだ。オルコットと凰が出場できなくなった原因と言えるから、分からなくもないが。

 

「一夏も、あまり感情的にならないでね」

 

「ああ、分かってる」

 

デュノアに指摘されて、一夏はおそらく無意識に握りしめていた左手をゆっくり開いた。

 

「あ、対戦相手が決まったみたい」

 

観客席を移していたモニターがトーナメント表に切り替わった。

さて、第1回戦は誰が相手……

 

「「――え?」」

 

一夏とデュノアはぽかんとした声をあげ、

 

「マジかよ……」

 

俺は天を仰いだ。

 

 

『Aブロック第1回戦 更識簪、宮下陸 vs ラウラ・ボーデヴィッヒ、篠ノ之箒』

 

 

一夏の獲物を、俺と簪が分捕る形になっちまった。ってか篠ノ之、お前なんでボーデヴィッヒと組んでんだよ?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「陸、どう戦おう?」

 

「どうもこうも……」

 

アリーナに入り、簪と合流した俺の目の前には、篠ノ之と、銀髪で眼帯をしたチビッ子がいた。あの銀髪がドイツからの転校生、ボーデヴィッヒか。

頭の中に、昨日まで調べていた情報を展開していく。

 

「ボーデヴィッヒのISに搭載されてるAIC(慣性停止結界)、ありゃまずいな。対象を任意に停止させるとかエグ過ぎだろ」

 

「うん。特に陸は相性悪すぎ」

 

「だな」

 

なにせ俺のISには、実体系の武装しか積んでないからな。

 

「ところで陸、本当にそのISでよかったの?」

 

「何がだ?」

 

そのISも何も、ちゃんと渡された専用機である打鉄・陰流に乗ってるだろ。

 

 

「それ、渡されたままの未改修打鉄でしょ!」

 

 

「いやいや、ちゃんと武装は新規で作ったろ」

 

まぁそっちの慣熟訓練に時間を使い過ぎて、装甲やスラスターは据え置きになっちまったわけだが。

 

「だから日本政府の人達、目が死んでるんだよ……」

 

簪に指摘されて観客席を見ると……確かにあれは、冷凍サンマの方が活き活きした目をしてるな。期待してたカスタム機のデータが取れなくて残念だったな。そもそも適性D+で稼働時間も大してない俺が、カスタム機なんか乗っても使いこなせるわけないだろ。

それと倉持技研の馬鹿共、簪の専用機放り投げてアフターケアも無かったお前らに見せるデータなんざねぇよ。NDK? NDK? ちなみに弐式のデータは倉持技研に渡ってはいない。そこは開発が凍結された当時のパイセンが頑張って、倉持に権利を放棄させていたのだ。そっちから開発を放り投げたんだから、当然だよなぁ?

 

それはさておき、問題のボーデヴィッヒだ。

 

「ISの性能差も含めて、俺がボーデヴィッヒの相手をするのは無理がある。だから――」

 

「私がボーデヴィッヒさんを倒すか、陸が篠ノ之さんを倒して2対1に持ち込むまで耐えるか」

 

「俺の実力からして、篠ノ之を倒せるかあやしいんだがなぁ……すまんが任せた」

 

「任された」

 

作戦が決まり、相手側に向き直ったところで

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に、俺と簪は別々の目標に向かって加速した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「私の相手は宮下か」

 

「おうよ。ところで篠ノ之、なんでわざわざボーデヴィッヒと組んだよ?」

 

「し、仕方ないだろう!? 一夏がデュノアと組んだから、他に空いてる相手を探してる間に締め切りを過ぎてしまって、抽選でペアにされてしまったのだから!」

 

そういうことかよ。篠ノ之、もっと一夏関係者以外のダチも作ろうな?

 

「まぁ、こうなっちまった以上、ひとつ手合わせしてもらうぞ」

 

「ああ、もとよりそのつもりだ」

 

篠ノ之が刀を展開するのに合わせ、俺も武装を展開する。専用機受領から今日まで、作成と慣熟訓練に費やした、新規武装を。

 

「な、なんだそれは……」

 

「見ての通り、刀だ」

 

「そんなこと見れば分かる! だが、その長さは……」

 

篠ノ之が驚くのも無理はない。向こうが持ってる刀、『葵』の全長が約170cm。対して俺が展開した刀『長船(おさふね)』は2mを優に超えている。

 

「言ってしまえば大太刀ってやつだ」

 

その長船を軽く振って感覚を確かめてから、上段八双に構える。知らない人間が見たら、バットを構えてるようだと言うだろうな。

 

(オン)()()支曳(シエイ)()()()……天清浄(しょうじょう)、地清浄、人清浄、六根清浄」

 

集中力を引き出すための摩利支天経を口にする。見様見真似で口しつつ木刀を振るっていた、ここではない世界(かつていた外史)が懐かしい。

 

「タイ捨流、宮下陸。一手所望だ」

 

「っ! 篠ノ之流、篠ノ之箒。相手になろう」

 

俺の名乗りに反応して、篠ノ之も正眼に構える。

 

「「征くぞっ!」」

 

俺も篠ノ之も同時に飛び出し、間合いを詰める。

 

「ツェァアアアアッ!」

 

先に間合いに到達する俺の長船が、篠ノ之に襲い掛かる。

 

「ぐぅっ! ……はぁっ!」

 

――キャリリ……ッ!

 

「なに……っ!?」

 

篠ノ之は俺の上段袈裟懸けを真っ向から受けた……かと思えば、そのまま斬撃の向きだけを変えるように受け流す。

 

「凄まじいな……。返すので精いっぱいで、反撃まで持っていけなかった」

 

「そっちこそ、まさか初太刀を躱されるどころか、受け流されるとは思ってなかった」

 

「篠ノ之流を舐めるな、と言っておこう」

 

そんな言葉の応酬を経て、俺も篠ノ之もお互い刀を構え直す。

やっぱ、しばらく鍛錬をサボった上にISにも慣れ切ってないせいか、斬撃に剣勢(いきおい)がない。

こりゃ、簪に頑張ってもらうしかないな。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

(どういうことだ……! 織斑一夏以外の日本の専用機は、未完成のはずではなかったのか……!?)

 

ドイツで得た事前情報では、白式に人員を集中した結果、他の専用機開発は凍結されたはず。

であれば、目の前にいる日本の代表候補生、更識簪の乗る訓練機など物の数ではない。そのはずだった。

だが、実際は――

 

「はぁっ!」

 

――ドドドドドドドォォンッ!

 

「くそっ!」

 

奴のISから飛んでくる無数のマイクロミサイル――しかも、第3世代型兵器であるマルチロックオン・システム搭載――の嵐に、私は回避以外の選択を取れない。

 

「ならばっ!」

 

全力で距離を縮め、奴の懐に潜り込む。これならミサイルは使えまい。

 

「ふっ!」

 

「甘いっ!」

 

上段から振り下ろされた薙刀をAICで止める。あとはプラズマ手刀で――

 

「メメントモリ、起動!」

 

「何ぃっ!?」

 

奴が薙刀を手放し、右手で私の左腕を掴んだかと思えば、突然掴まれた箇所から赤黒い光が点滅し出した。

 

(し、シールドが!)

 

私のIS『シュヴァルツェア・レーゲン』のSEが、恐ろしい勢いで減っていく。

 

「は、なれろ……っ!」

 

右腕のプラズマ手刀を振り下ろし、掴まれた左腕を離させる。

 

(なんなのだ、あれは……!)

 

気付けば、SEは残り1割を切っていた。

私の挑発で頭に血が上っていた分を差し引いても、イギリスと中国の小娘共より、強い。このままでは……

 

(このままでは……? まさか、負けるというのか、私は……!)

 

確かに相手の力量を見誤っていた私のミスだ。だが、しかし――

 

(私は負けるわけにはいかんのだ……!)

 

 

 

「どうして強いのか、か。……私には弟がいる。あいつを見ていると、強さとは何か、その先に何があるかが分かる時がある」

 

かつて教官に尋ねた時の、わずかに優しい笑みに、気恥ずかしそうな表情に、心がチクリとした。

 

「いつか日本に来ることがあれば、会ってみるといい。だが、ひとつ忠告しておくぞ。あいつは――」

 

(違う! 私が憧れるのは、強く、凛々しく、堂々としている貴女なのに……!)

 

許せない、教官にそんな表情をさせる存在を。認められない、教官をそんな風に変えてしまう(織斑一夏)を。

 

 

 

(決めたのだ。あの男を、私の力で敗北させると!)

 

だからこそ、こんなところで負けるわけにはいかない、いかないのだ……! そのためには――

 

――力が欲しいか?

 

私の中で、何かがうごめいた。

 

――汝、より強い力を欲するか?

 

(力があるのなら、それが得られるのなら、私によこせ! 例えこれが、悪魔との契約だろうと……!)

 

 

《 Valkyrie Trace System 》…… boot.




箒も返し技の一つぐらい使えるでしょう、と思って書きました。原作でも篠ノ之流は『けして受けることなく剣戟を流し』ってありますし。
え? 箒はもう一方の『相手より早く打ち抜き』の方だって? ……君のような勘のいい奴は嫌いだよ。

ラウラが打鉄弐式の情報を知らないのは仕様です。だって1度も公式試合に出てないですから。(姉妹喧嘩は非公式、対抗戦の無人機破壊は表向き無かったことになってます)


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第29話 貫きたい意地

戦闘シーンは軽めで。
原作でも、VTS起動から撃破まで12ページしか使ってないし。


「何だありゃ……」

 

さっきまで鍔迫り合いをしていた俺も篠ノ之も、今は手を止めて目の前の光景に唖然とするしかなかった。

そこには俺達と同じく唖然とする簪と、装甲がぐにゃりと溶け、どす黒い粘土のようなものに飲み込まれていくボーデヴィッヒが。

 

「何なのだ、あれは……」

 

篠ノ之も俺と同じように呟く中、ボーデヴィッヒのIS……いや、奴を飲み込んだ泥人形は急速に変形していく。

そしてそこに立っていたのは、黒い、しかし対抗戦の時に襲ってきたものとは似ても似つかない、全身装甲のISのような『ナニカ』。

その黒いISが手に持っている武器。それは――

 

「一夏の武器に、似てる?」

 

「確かにあれは、雪片弐型にそっくりだ……」

 

その形がそっくりな武器を振り上げ、

 

「っ! 簪!」

 

『っ!?』

 

俺が叫ぶ前に、簪も危険を察知したのだろう。右後方に緊急回避した瞬間、さっきまで居た場所を縦一直線に斬撃が走った。

 

「簪、無事か?」

 

「危なかった……」

 

合流した簪を含めた俺達3人と黒いISが、アリーナの中央で対峙する。

 

「さて、これからどうするかだが……その前に、篠ノ之に聞いていいか?」

 

「なんだ?」

 

「あの黒いIS、どうもお前の篠ノ之流っぽい技を使ったように見えたんだが、気のせいか?」

 

そう、さっきまでチャンバラしていた篠ノ之と、術理が似てるような気がする。

 

「ああ……あの縦一文字の斬撃、間違いなく篠ノ之流の技の一つだ」

 

「そして雪片弐型に似た武器と、あのシルエット……まさか」

 

篠ノ之の回答と簪の推測、そこから導き出されるのは――

 

 

「ふざけやがって! ぶっ飛ばしてやる!」

 

 

ってちょい待て! なんで一夏が白式乗って黒いISに向かって突撃してんだよ!?

 

「まずいっ!」

 

完全に理性を失った一夏の突撃など意に介さないかのように、黒いISは雪片弐型を弾き返し、返す刀であいつの首を――

切り飛ばすぎりぎりのところで、篠ノ之がなんとか一夏を引き離した。あっぶねぇ。

 

「馬鹿者! 何をしているんだ! 死ぬ気か!?」

 

「放してくれ箒! 許さねぇ、許さねぇ!」

 

 

「バカタレ!」

 

 

――ガンッ!

 

「ぐはっ!」

 

「り、陸……」

 

うん、この手(ゲンコツ)に限る。

 

「一夏、いいから俺達に分かるように説明しろ」

 

俺にぶん殴られて怒りのボルテージが多少下がったようだが、それでも一夏は拳を握りしめながら

 

「……あいつは、千冬姉のデータだ。千冬姉のものなんだ。それを……くそっ」

 

「やはりそうか……」

 

「篠ノ之流の技と、織斑先生がかつて使っていた雪片。つまりあれは、国家代表時代の織斑先生を模倣したもの」

 

ブリュンヒルデのコピー品、か。

しかもあのIS、簪への攻撃と一夏への反撃以外微動だにしないな。まるで防衛機能だけ付いた自動プログラムのようだ。

 

『緊急事態発生、緊急事態発生。トーナメントは一時中断します───』

 

「今回はちゃんとアナウンスも流れたか。ということは、鎮圧用の教師部隊が来るまで粘れば勝ちだな」

 

篠ノ之が言う教師部隊の練度がどれほどかは知らないが、少なくとも俺達が頑張らなくてもいいってことだな。

 

「だから一夏、無理に危ないところに飛び込む必要は――」

 

「違うんだ箒。『やらなきゃいけない』じゃない。俺が『やりたい』んだ。千冬姉を侮辱するあの黒いのも、そのわけわかんねぇもんに振り回されるラウラも、気に食わねぇんだ」

 

「馬鹿者が! それで、お前一人でどうにかできるとでも!?」

 

「いいや。悔しいけど、俺一人じゃ力が足りない。だから……」

 

篠ノ之とやり取りをしていた一夏が、俺と簪の方を向く。

 

「陸! 更識さん! 俺に力を貸してくれ!」

 

そう言って、俺達に頭を下げてきた。おいおい……。

 

「さっき篠ノ之さんが言った通り、その内教師部隊が来るはず。わざわざ火中の栗を拾う必要はない」

 

「だな。それでも一夏、お前は戦いたいのか?」

 

「ああ。ここであの偽物野郎を前に引いちまったら、もう俺は俺じゃねぇ。織斑一夏じゃなくなっちまうんだ……!」

 

やれやれ……なんつー熱血馬鹿だよ。だが……嫌いじゃねぇよ、そういうの。

 

「絶対勝てるんだな?」

 

「宮下!?」「陸!?」

 

「ああ、約束する」

 

「そこまで啖呵切ったんだ。負けたら……分かってるよな?」

 

「うぐっ……大丈夫だ! 負けないからな!」

 

よし、その言葉が聞きたかった。

 

「簪、篠ノ之、もし手ぇ貸して一夏が負けたら、焼肉奢ってくれるってよ」

 

「え?」「は?」「ファッ!?」

 

「負けたら分かってるんだよ、なぁ?」

 

俺がものすっごいゲス笑顔をすると、

 

「なら、私も参加する。牛タン、上カルビ、特上ロース……」

 

簪も暗黒微笑で乗ってきた。

 

「お、お前達……! ええい、私も乗ろう!」

 

半ばヤケクソになったのか、篠ノ之も乗ってきた。これで役者は揃ったな。

 

「作戦って言えるほどのものはない。俺、簪、篠ノ之の3人が奴を引き付けて、一夏が、あ~『零落白夜(れいらくびゃくや)』だっけ? エネルギー無効化の斬撃を叩き込む」

 

「すごいあっさりした作戦」

 

「大丈夫なのか、それで」

 

簪と篠ノ之は微妙な顔をしてるが

 

「下手に複雑な作戦より、シンプルでいいじゃねぇか!」

 

さすが一夏、ノリとセンスで戦ってただけはあるな。言うことが違う。

 

「中にボーデヴィッヒがいる以上、弐式の山嵐もメメントモリも使用は避けるべきだ。となると、一夏の攻撃が有力で、かつそれを当てるための作戦になっちまうわけだ」

 

「そういう事なら……」

 

「仕方ないな……」

 

そこまで説明して、ようやっと女性陣も納得したようだ。

 

 

 

「そんじゃ行くか、簪、篠ノ之」

 

「うん」

 

「分かった」

 

俺の号令を合図に、3人が三方に散らばる。

まず正面の左右2方向から、俺と篠ノ之が刀を上段に構え突撃する。

それに反応するように、黒いISが向かって右方向から近付く俺に刀を振り下ろす。

 

――ガキィンッ!

 

「ぐぅ……っ!」

 

な、何とか受けたが、斬撃が重てぇ! だが、このまま力を拮抗させて鍔迫り合いに持ち込めば――

 

「はぁっ!」

 

「ふっ!」

 

黒いISの武器は刀1本のみ。それを俺が止めていれば、左側の篠ノ之の刀、そして背後に回っていた簪の夢現を止めることは出来ない!

 

――ザシュッ!

 

二人の斬撃が、相手の両腕を切り飛ばす。

 

「行けぇ! 一夏ぁぁぁ!!」

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!」

 

 

俺の合図をかき消すかのように、雄叫びを上げながら、白く輝く、日本刀の形に集約したエネルギー刃を携えて突撃していく。

そして俺と篠ノ之を間をすり抜け、刃を頭上に構えると

 

――ビュンッ!

 

縦に真っ直ぐ、黒いISを断ち切った。

 

「ぎ……ぎ、ガ……」

 

剣筋に沿って紫電が走ると、黒いISは真っ二つに割れて倒れた。

あとに残されたのは、ドロドロに溶けた装甲やフレームの残骸とコア。そして、気を失ったボーデヴィッヒだけだった。

一夏はそのボーデヴィッヒを抱きかかえると、

 

「……まぁ、ぶっ飛ばすのは勘弁してやるよ」

 

気の抜けたような、もしくは苦笑したような顔でそう呟いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

さて、一見落着と言えれば良かったのだが、世の中そうはいかないようで。

 

「で? なんであんな無茶な真似をした! 言え!」

 

事情聴取のために連行された生徒指導室で、織斑先生に説明を要求されたから

 

「一夏に焼肉を奢らせるために頑張りました」

 

「同じく」

 

「わ、私は一人だけ何もしないわけにもいかず……」

 

「あれ!? 負けなかったのに奢ることになってる!?」

 

あの黒いISと戦った経緯を説明したところ

 

「馬鹿どもがぁ!」

 

――ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

 

「いった!」

 

「あう!」

 

「ぐうっ!」

 

「な、なんで俺まで!?」

 

4人まとめて、ブリュンヒルデの教育的指導(ゲンコツ)を食らってしまった。解せぬ。

 

さらに事情聴取が終わって、晩飯を食おうと食堂に行くと

 

「僕を置いてくなんて……一夏の、一夏の馬鹿ぁ……」

 

一番奥のテーブル席で、デュノアがどす黒いオーラを周辺にまき散らしながらイジけていた。

そういやデュノアとペアだったのに、一夏の奴、頭に血が昇って置き去りにしちまってたのか。そりゃイジけるわ。




本作の一夏は、原作に比べナーフされてます。
最初に相対した完全武装時より、(シャルからエネルギーもらって)部分展開しか出来ない状態の方が強いとか、ちょっと反則過ぎませんかねぇ?


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第30話 インパクト、大事

とりあえず土日は休もう、そう思って書いてます。


イジけるデュノアを一夏がなんとか宥め、食堂の利用時間ギリギリで晩飯を食べ終わり、篠ノ之が用事があるからと先に抜けたタイミングで、山田先生がこちらにやってきた。

 

「織斑君、デュノア君、宮下君、朗報ですよ!」

 

山田先生、ガッツポーズはいいんですが、めっちゃ胸が揺れて一夏が目のやり場に困ってます。ついでに俺も。

そして簪。悪かったから、みんなから見えない角度から抓るのを止めろ。地味に痛い。

 

「なんとですね! ついに今日から、男子の大浴場使用がOKになりました!」

 

「おお!」

 

3人の中で、一夏が一番喜んでいた。俺はそこまで風呂好きでもないし、フランス人のデュノアは、あまり湯船に浸かる習慣が無いんだろう。

 

「てっきり来月からだと思ってましたよ」

 

「本当は今日ボイラー点検があって、元々使用できない日なんです。ですが点検自体はもう終わっているので、それなら織斑君達に使ってもらおうって計らいなんですよー」

 

「マジですか!? ありがとうございます、山田先生!」

 

一夏の奴、感動のあまり山田先生の手ぇ握りしめてるよ。

 

「あ、あのっ、そんな握りしめられると、先生ちょっと困るというか、その……」

 

――ギュゥゥ!

 

「あだだだだ!」

 

「……一夏のエッチ」

 

うわぁ、デュノアに思い切りつま先踏まれてら。いったそー(棒)

 

「コホンッ! 大浴場の鍵は私が持っていますから、脱衣場の前で待ってます。なので3人とも、はやく着替え取りに行ってくださいね」

 

そう言うと、山田先生はすたすたと歩いて行ってしまった。

 

「大浴場なぁ……俺はパスでいいかな」

 

「なんだ陸、入らねぇのか?」

 

「別にそこまで風呂好きでもねぇし、デュノアと2人で入ってくれや」

 

「そっか。なら俺とシャルルで……っ!?」

 

直後固まる一夏。ようやく気付いたか、これからデュノア(女)と2人きりで裸の付き合いをすることに。

 

「ど、どうしよう……ね」

 

デュノアも困り顔だ。

 

「白馬の王子様を振り向かせるチャンスだぞ、頑張れお姫様」

 

ボソッとデュノアに耳打ちした俺は

 

「み、宮下君!?」

 

「そんじゃ簪、俺達は部屋に戻るか」

 

「? うん」

 

慌てるお姫様(デュノア)をそのままにして、簪を伴って食堂を出て行った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

~~~♪

 

俺のスマホに着信。簪がシャワーを浴びてて近くに居ないことを確認してから、応答ボタンを押した。相手は……言うまでもない。

 

「もしもし?」

 

『エーーーークセレント!』

 

そう。毎度おなじみ、駄女神である。もうロキの奴、仕事乗っ取られてね?(今更)

 

『今回もあなたの助言により、一夏様は『誰かを頼る』ことを身につけました。これは今後の成長に対して、素晴らしき礎となるでしょう!』

 

「あっそ」

 

分かったから、その芝居がかった言い方は何とかならんのか。

 

『さらに此度の一夏様の活躍は、遍く世界に伝わるのです!』

 

「活躍……あの黒いISを斬ったことか?」

 

『そうです。あの場面で一夏様が銀髪娘を助けることが、ハーレム完成に不可欠なのですから!』

 

「その言い方だと、あのボーデヴィッヒも一夏の嫁候補だと?」

 

『その通りです』

 

マジで? オルコットと凰を挑発してボコボコにした奴が?

 

『問題ありません。あの娘も今は一夏様に惚れておりますから』

 

「ちょろインすぎぃぃぃ!」

 

一夏に関わった女、全員ハーレムに吸い込まれていくな。奴はダイソンか何かか? 魚雷カットインも吸っちまうのか?

 

「なぁ、ひとつ聞いてもいいか?」

 

『なんでしょう?』

 

「そこまで一夏一筋をお前達が、なんで"前の外史"に手を出していない?」

 

ロキから話を聞いた時から気になってたんだよ。ここまで原作至上主義な駄女神達が、なぜ"一夏が死んだ世界"をそのままにしているのか。

最初は俺も、ショウとミナミ(前作オリ主)を引き揚げさせた上で時間を巻き戻すぐらいしてると思ってた。が、実際はわざわざ並行世界を作ってまで残している。

 

コミケの会場(外史群)で自分が嫌いなジャンル本(一夏様が死んだ世界)を見つけたからと言って、突然その場で破り捨てたり(外史を消去したり)しますか? 精々がSNSで抗議したり、低評価を付けるぐらいでしょう。今回は偶々、私達の抗議の声が出版社(主神)に届いて新刊が出た(その外史が生まれた)のです』

 

「……一気に話が低俗になったな」

 

コミケにSNSって、お前ら本当に北欧の神か?

 

『それに、もし前の外史を消去した場合、後の悪しき前例となるでしょう。そして気に入らないという理由だけで外史を消せるようになれば、最後には何も残らなくなってしまいます。我々も、そのような外史群の崩壊までは望んでおりません』

 

「なるほど、ある程度の節度はあると」

 

『ええ。なのであの馬鹿(ロキ)に折檻をするだけに留めているのです』

 

「うわー……」

 

引いたけど、自業自得だから擁護はしねぇぞ、ロキ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

翌日のSHR、エドワース先生からあった説明は以下の通り。

ボーデヴィッヒのISが暴走?した事件で、学年別トーナメントは中止。一応、データ取りのために全員1回戦だけはやるらしい。それって俺と簪、それに篠ノ之とボーデヴィッヒはどうなるんだ? もう1回戦やるんだよな? まさかこのまま終わりか?

そんな事を考えていると

 

――ドゴォォォォォンッ!

 

「な、何々!?」

 

「今すっごい音したよね!?」

 

それなりに近くから、何かの破砕音が聞こえたんだが?

 

「今の音、1組の方からじゃない?」

 

「あ、それならいつものか」

 

音の発生源が分かると、さっきまで慌ててたのが何だったのかと思うほど、みんな冷静に席に戻り始めた。

まぁ、うん……1組の方から大きな音がするのが日常になっちまってるんだよな。篠ノ之の暴走とか、オルコットの暴走とか、凰の暴走とか。

 

「騒ぎにならないのは嬉しいけど、これでいいのかしら……?」

 

エドワース先生も、クラスの反応に微妙顔だ。

 

「先生」

 

「あら、更識さん、どうしたの?」

 

「今1組の友人からメールが来たのですが」

 

簪が手を挙げるのとほぼ同じタイミングで、俺にもメールが来た。差出人は、のほほんだ。

 

 

「織斑君のファーストキスは、ボーデヴィッヒさんが奪ったそうです」

 

 

「「「「はぁっ!?」」」」

 

 

俺の方に来たメール曰く、あまりにボーデヴィッヒの強奪キスがインパクト強すぎて、デュノアが決死の想いで告白した『女の子宣言』は軽くスルーされたそうだ。

デュノア、強く生きろ……!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「よ~し、完成完成!」

 

りったんから貰った設計図にあったマイクロウェーブ送電システム、その試作品が完成して、束さんは満足じゃ~♪

 

「あとは太陽光パネルの付いた小型人工衛星を作れば、衛星軌道からの送電実験ができるね」

 

~~♪

 

ややっ! このゴッド・ファーザーのテーマは!

急いで作業台に置いてあったスマホを取ると、応答ボタンを押した。勢い余ってツールキットが散らばっちゃったけど、こっちが優先!

 

「やぁやぁちーちゃん、そっちから掛けてくるなんて珍しいねぇ」

 

『本当は掛けたくなかったがな……お前に聞きたいことがある』

 

「何かしらん?」

 

『今回の件、お前じゃないよな?』

 

「今回? 何だろ?」

 

惚けてるわけじゃないよ、全然心当たりがないんだよねー。

 

『VTシステムだ』

 

「ああ、あのISに付いてた寄生虫? 心外だなぁちーちゃん。あんな不細工なシロモノ、この束さんが作るとでも?」

 

というか、あれを作った研究所、2時間前に地上から消えてなくなったんだけどね。いやぁ、ゴー君Ⅲ号の動作テストに打ってつけだったよ。

 

『そうか。では、邪魔をしたな』

 

「邪魔だなんてとんでもない。ちーちゃんならいつでも掛けてきてOKだかんねー」

 

『……では、またな』

 

ぶつっとちーちゃんからの通話が切れた。

 

「ちーちゃんは大変だなぁ。さて、太陽光パネルから作り始めよう」

 

スマホをパッと手放して、私はまた作業場に戻っていった。臨海学校だっけ? そこでお披露目出来たらいいなー。




学年別トーナメント編終了です。
なんか自分でも短いなーと思ったら、ラウラの出番がほとんど無かったからですね。
だってシャルと違って、強制戦闘で仲間になるし。(暴言)


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臨海学校
第31話 織斑(家族)計画


日常回です。(たぶんね)


学年別トーナメントが中止となって数日。データ取りのための試合を消化し切り、そろそろ臨海学校の話題が出始めた頃、

 

『1組の織斑と4組の宮下は職員室まで来ること。繰り返す、1組の織斑と4組の宮下は職員室まで来い』

 

織斑先生のワイルドな校内放送を無視するわけにもいかず、俺はSHRが終わるとすぐに教室を出て、職員室に向かった。

 

「失礼しまーす」

 

「来たか」

 

俺が職員室に入ると、すでに一夏が織斑先生の机の前に立っていた。

 

「それで千冬ね(ガンッ!)お、織斑先生、俺達に何か用ですか?」

 

「ここではちょっとな。付いて来い」

 

そう言って織斑先生は席を立つと、俺と一夏(先ほど鉄拳制裁を食らって涙目)を職員室の外に連れ出した。

そして連れ出された先は……

 

「また生徒指導室ですか……」

 

「仕方ないだろう、間違っても人がやって来ない場所だからな」

 

そりゃ、好き好んでここに来る奴はいないでしょうよ。

 

「さあ入れ」

 

俺と一夏は指導室に入り、いつぞやのようにパイプ椅子に座った。

 

「さて、さっそく本題だが……織斑」

 

「はい」

 

「先日、国連および国際IS委員会の合同会議が開かれ、お前に対して特例で重婚が認められた

 

「はぁ、重婚……重婚!?」

 

一夏は目を見開いて驚いてるが、(駄女神からある程度聞いてた)俺としては『やっとか』が正直な感想だ。

 

「どうして俺が重婚なんて……!」

 

「それはなぁ……」

 

あ~、織斑先生も説明しにくそうだな。仕方ない、俺がするか。

 

「一夏、お前は希少な男性操縦者だ。それはいいな?」

 

「あ、ああ。それは分かってる。だけどそれは俺だけでなく、陸だって……」

 

「お前は嫌がるだろうが、織斑千冬の弟って肩書や、篠ノ之博士と面識があることが影響してるんだろうな。要はそこの繋がり欲しさに、お前に女を宛がいたい各国のお偉いさんが結託したんだよ」

 

俺が篠ノ之博士()と面識があることについては、言いふらすつもりはない。俺は重婚とか興味ないんで。

 

「ぐぅ……! ……はぁ」

 

俺の説明を聞いて悔しそうな顔をしつつも、途中で深呼吸をして何とか耐えたな。少し前なら『千冬姉は関係ないだろ!』って叫んでるところだが、これまでの出来事から色々学んだんだろう。

 

「一夏……」

 

弟の成長が嬉しいんだろう。そんな一夏を、織斑先生も優しい顔で見ている。あっ、俺の視線に気付いて顔逸らした。

 

「ん、んんっ! だからと言うわけではないが、これからはより一層、ハニートラップなどには注意するように!」

 

「は、はいっ」

 

確かにハニトラには注意しないといけないだろうが、ある程度は一夏ハーレムの面々が弾いてくれるだろう。

 

「そして宮下、お前には倉持技研から技術提出の要求が来てるが」

 

「バカめと言っといてください」

 

「は?」

 

「バカめだ!」

 

「言えるか馬鹿者!……本当は言ってやりたいがな」

 

あ、そこは本音が漏れるんすね。

 

「更識のことは私も聞いている。あんな連中に果たす義理は、私にはない」

 

「でしょうね。それにしても倉持もしつけぇなぁ……いっそ研究所にGNファングでも叩き込むか?」

 

「よく分からんがやめろ!」

 

よく分からんのに止められたでゴザル。せっかく弐式用装備の動作テストが出来ると思ったんだが。

 

「それにしても良かったじゃねぇか一夏」

 

「何がだよ」

 

「重婚許可なんて、これで名実共にハーレムじゃねぇか」

 

「陸、お前他人事だと思って……」

 

「ちょっと待て、ハーレムとはどういうことだ?」

 

織斑先生が驚いた顔で聞いてきた。あれ? もしかしてご存じない?

 

「篠ノ之、オルコット、凰。あとはデュノアとボーデヴィッヒもか?」

 

「な、なんで陸が知ってるんだよ……」

 

「篠ノ之達3人は前々から知ってるし、ボーデヴィッヒがお前の唇奪ったのはのほほんから聞いてる。そしてデュノアを(けしか)けたのは俺だしな」

 

「まさかトーナメントの日、大浴場を断ったのは……!」

 

「正解。デュノアに発破かけるためでしたー」

 

「お前ェェェ!」

 

一夏が俺の胸倉を掴もうとするが、もう遅い。

 

「なん、だと……」

 

まさか弟の女性関係がそんな風になってるとは思ってもみなかったのか、織斑先生はよろよろと後ずさると、壁にぶつかったところで頭を抱えて込んだ。

 

「一夏ぁ、お前と言う奴はぁ……!」

 

「ち、千冬姉……」

 

一夏の頬に、つーっと冷や汗が流れる。気のせいか、織斑先生の胃の辺りから悲鳴が聞こえてきそうだ。

 

「宮下、これからこいつと急な話ができてな……」

 

「ああはいはい、俺は出て行った方がいいですね」

 

「すまんな」

 

そういうことなら仕方ない。

 

「えっ、り、陸?」

 

「そんじゃ失礼しましたー」

 

「陸ぅ!?」

 

俺は席を立つと、手を伸ばしかけた一夏をさらっと無視して生徒指導室を出て行った。家族会議は大事だよなー。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そんなイベントを挟んで、放課後のアリーナ。

いつもなら整備室に直行なんだが、俺も専用機を持たされた以上、最低限の訓練はしないとな。簪の対戦相手兼データ取りにも使えるし。

というわけで、さっそく陰流の待機状態を解除した。

 

「あれ~? トーナメントの時と形状が違う~?」

 

「陸、いつの間に……」

 

簪達が驚くのも無理はない。今俺が乗ってる陰流は、肩部装甲をガッツリ削り、どちらかと言えば弐式に近いシルエットに仕上げてある。そう、すでにこいつ、カスタム済みなのである。

 

「俺も一夏に似て、大太刀持って相手の懐に飛び込む戦闘スタイルだからな。機動性重視にしてあるんだよ」

 

「なるほど~」

 

「射撃武器は?」

 

「もちろんあるぞ」

 

簪の問いに答えるように、左腕に武装を展開する。

 

「腕に装着するタイプ?」

 

「おう。刀を両手持ちするから、手に持つタイプよりこっちの方が都合がいい」

 

見た目はまんま、KMF月○のハンドガンだ。それを通常弾と散弾に切り替えられるようにして、中近距離に対応できるようにした。

 

「おりむーの白式と同じコンセプトだけど、きっちり弱点を埋めてあるんだね~」

 

「そういうこった。未だに白式の後付け武装を作れずにブレオン仕様にしてる、倉持への嫌がらせでもある」

 

「うわー……」

 

こらこらのほほん、ドン引きすんじゃねぇ。

 

「それじゃあ簪、まずは1戦すっぞ」

 

「特に装備の制限とかは無しで?」

 

「無しでだ。そもそも今まで弐式とまともに戦ったことが無いから、どれだけ強いか俺も実感しとかないとな」

 

機体性能や操縦者の実力差からして、俺が勝つ見込みはほぼ無いが、それでも何かしらは見えてくるだろう。

 

「分かった。それじゃあ――」

 

「おう」

 

簪が夢現を構えると同時に、俺も長船を構える。そして……

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「まー予想はしてたよねー」

 

「陸、大丈夫?」

 

「体中痛ぇのを除けば」

 

弐式に乗った簪が上から覗き込む先には、陰流を解除した俺が仰向けでぶっ倒れていた。

 

もう、ギッタンギッタンにやられましたとも。

確かに簪の訓練は見てたよ? だけどまさか開幕に個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)ばりの機動をやるとは思わんって。

消えたと思ったら、後ろから首掴まれてメメントモリとか、恐怖以外のナニモノでもねぇよ。そして恐怖以上に、絶対防御越しの衝撃による痛みがやべぇ。

 

「それで、かんちゃんの弐式はどうだった~?」

 

「自分で作っといてなんだが、どう倒せばいいか分からん」

 

クロスレンジ:メメントモリ

ショートレンジ:夢現

ミドルレンジ:春雷

ロングレンジ:山嵐

 

全範囲が有効射程で、おまけに簪自身の能力も綺麗にまとまってるから、全然穴がないのだ。そして漏れなく高威力。

少なくとも、俺の対戦相手としては壁が高すぎる。誰かいい相手は……

 

「一夏辺りと模擬戦でもすっかなぁ」

 

近接特化の白式なら、こっちのハンドガンを縛れば面白い戦いになるんじゃなかろうか。

それにあいつを呼べば、ハーレム連中も付いてきて色々な専用機とも戦ってデータが取れそうだし。

 

「それもいいかもね~」

 

「うん。他の専用機との模擬戦も、いい経験になる」

 

のほほんと簪も同意してるし、声かけてみるか。

 

 

 

その後、声をかけた面子の内で凰とデュノアが来てくれた。

おっ、デュノアは本当に男装から脱却したんだな。

 

「デュノア社の内部はまだゴタゴタしてるらしいけど、男装もスパイの真似事もしなくて良くなったんだ。自由って、いいものだね」

 

溢れんばかりの笑顔で、デュノアはそう語った。一夏もこの笑顔にやられたな?

そして簪、脇腹を抓るのを止めなさい。

 

「ほら、せっかく来てあげたんだから、さっさと模擬戦始めるわよ」

 

「おっとそうだった。それじゃあ二人とも、よろしく頼むわ」

 

「手加減はしないから、覚悟しなさいよ」

 

「よろしくね」

 

そうして二人がそれぞれのISを展開したところで、まずは俺と対戦。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「アンタの搭乗時間からしたら、頑張った方じゃない?」

 

凰には青龍刀の手数に押され、

 

「僕の機体は中遠距離主体だから、そう簡単に近づけさせてあげられないな」

 

デュノアには一人弾幕をされて、全く歯が立たなかった。

 

まぁ仕方あるまい。ハンドガンを追加しただけで代表候補生に勝てたら苦労はしない。

そんで、少し休憩を挟んで簪と対戦したのだが

 

「もう無理。もうやんない」

 

「と、とりあえず、今日はここまでにしよう。ね?」

 

開始10分で、ぶっ倒れた甲龍とラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡから、そんな声が聞こえたのだった。

 




今更ですが、本作では
・ガンダム00
・コードギアス
上記の成分を含んでおります。

あと他作品も少々。


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第32話 何が出るかな

前回に引き続き、ゆる~い内容になってますが、お付き合いくださると。


簪にフルボッコにされた後の整備室。

 

「今日も弐式を改造してくぞー」

 

いつもの宣言をして、俺は端末を二人に見せた。

 

「今回は少し趣向を変えてみようかと思ってな」

 

「え~っと、陸?」

 

「数字とか装備っぽい名前とかがあるね~」

 

そう、端末には1~6の番号と、これから改造する内容が映っている。

 

「はいこれ」

 

「え?」

 

そして俺は、簪にあるものを渡した。

 

 

サイコロである。

 

 

「水○どうで○ょう!? バッカじゃないの!?」

 

 

「か、かんちゃん、口調口調~」

 

「はっ!」

 

「ほら簪、振って振って」

 

「陸ぅ……(ジト目)」

 

抵抗していた簪だったが、しばらくして諦めたのか、サイコロを振った。 出た目は……4。

 

【4 グレネードランチャー】

 

「よ、よかった。ごくごく普通の装備だった……」

 

「ん~、2番の【サイクロプス・ボム】とか、5番の【自動偏光制御射撃(フレキシブル)ビームライフル】とか引いたら面白かったんだが」

 

2番が来てたら手榴弾タイプにして、『青き清浄なる世界の為に!』とか言いながら投げてほしかった。もちろん食らった相手が弾けない程度に出力は落とすがな。

 

「引いちまったもんはしょうがない。それじゃあ作っていくぞー」

 

「おー」

 

とはいえ、ラファールのグレネードランチャーを改造するだけだから、大して時間も手間もかからないのだ。

実際改造は20分ほどで終わり、

 

「どうだ簪」

 

「うん。普通にラファールのグレネードランチャー」

 

という回答しか返って来なかった。

 

「まだ時間もあるし、アリーナに戻って撃ってみる~?」

 

「そうだな」

 

「ちなみに陸、これにどんな改造をしたの?」

 

「ランチャー本体は無改造。弄ったのは弾頭の方でな、中身は撃ってみてのお楽しみ」

 

「なんだろう、そこはかとなく不安……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そしてアリーナに戻ってみると、一夏の白式とオルコットのブルー・ティアーズが、空中戦の真っ最中だった。

 

「アンタ達、もう上がったんじゃないの?」

 

俺達に気付いたのか、スポーツドリンク片手に凰がこっちに歩いてきた。その後ろには、篠ノ之とデュノア、ボーデヴィッヒもいる。

トーナメントではあれだけ殺気だらけだったボーデヴィッヒも、今は非常に大人しい。何と言うか、憑き物が落ちたって感じか。おそらく一夏絡みだろう。(根拠なき確信)

 

「これから新装備のテストだよ~」

 

「新装備って……これ以上何を増やす気よ……」

 

「それは私も思ってる」

 

「なら止めなさいよ!」

 

というやり取り(主に凰のツッコミ)をしてる間に、どうやらあっちの決着が着いたようだ。

 

「はぁ……一夏さんの成長スピードは異常ですわ」

 

「今日は何とか勝ったけど、まだセシリアに負け越してるからな。もっと頑張んねぇと」

 

二人のやり取りを聞いて分かるように、今回は一夏が勝ったようだ。オルコット曰く、自分の装備を把握してなかった所為で負けた頃から随分成長したらしい。

それでも、負け越し分をひっくり返すのはまだまだ先の話なんだと。やっぱ経験の差はデカいな。ついさっき、俺も凰とデュノアに思い知らされたが。

 

「陸達はまた新装備のテストか?」

 

「おう。とはいえ、今回はあまり面白味は無いかもしれないがな」

 

そう言って俺が簪の方を見ると、みんな弐式を展開した簪が持っている新装備に視線が動いた。

 

「あ、それってラファールのグレネードランチャー?」

 

「のようだな。見た目は普通の量産型ランチャーだが……」

 

さすがデュノアとボーデヴィッヒ。開発元と現役の軍人ならすぐ分かるか。

 

「それじゃあ簪、試射よろしく」

 

「分かった」

 

簪がランチャーを構えて引き金を引くと、

 

――ボンッ!

 

銃器にしては軽い音と共に、弾頭が射出された。

弾頭は放物線を描きながらアリーナ中央に向かって飛んで行き、そして

 

 

――べちゃぁぁ……!

 

 

「なんだ、あれは……」

 

口にした篠ノ之だけでなく、みんな唖然。そりゃ爆発するかと思ったら、ゲル状の物がばら撒かれただけだからな。だが、こいつはただのゲルじゃない。

 

「あっ! 色が……!」

 

指さしながら声を上げた凰の言うように、ばら撒かれたゲルは青から徐々に薄い灰に色が変わっていく。

 

「……そろそろいいかな」

 

色が変わり切って十分経ったあたりで、俺は地面に散ったゲルに近づいてつま先で小突いてみた。

 

――コンッ

 

「何だその音。固まってるのか?」

 

「おう、着弾後に急速硬化する粘着弾頭だ。これをISが食らったら、剥がすの大変だろうな」

 

「「「「うわぁ……」」」」

 

みんな嫌そうな顔をしていた。俺だって食らいたくはねぇな。関節部とかに食らった日には、まともに動けなくなってほぼ負け確だ。

 

「りったん、これ封印で」

 

「は?」

 

のほほん、何を言い出す……何だよそのガチな目は。

 

「ぜったい、ぜ~~~~ったい、使っちゃダメだよ~!」

 

「ほ、本音?」

 

 

「こんなの当たったISとか、整備したくないよ~~~!!」

 

 

「そんな理由かよ!」

 

確かに、硬化した薬剤剥がす作業とかやりたいとは思わんけど。

 

「りった~~~~ん……」

 

「わ、分かった! 分かったから!」

 

怖ぇよ! お前がハイライト消えた目したら怖すぎるんだよ!

 

 

結局、この装備はお蔵入りになった。

のほほんは大喜び。他のみんなも当然とばかりに首を縦に振っていた。解せぬ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

その夜、いつものように寝る準備をしていた俺は、ふと気付いてしまった。

 

「そういや俺、臨海学校の準備何もしてねぇや」

 

「準備って言っても、精々水着を用意するぐらい……」

 

「その水着がない」

 

施設から持ってきた荷物の中には当然あるわけもなく、近い内に買わなきゃならない。

というか、次の週末でないと間に合わない。

 

「仕方ない。買い物に行くか」

 

あんまこの辺の地理に詳しくないから、そこから調べないといけねぇのか。面倒だ。

 

「それなら、駅前にショッピングモールがある」

 

そこに、簪からの助け舟がやってきた。

 

「そうなのか? ならそこに行くか」

 

ついでに学内の購買で買えないもんも調達出来たらいいな。

 

「駅前のショッピングモール、っと……」

 

端末で検索すると、すぐに『レゾナンス』のホームページがヒットした。へぇ、結構アクセスしやすい場所にあるな。

 

 

IS学園は東京湾沿岸の人工島に建っている。その立地上、本土からの出入りは海上モノレールのみ。ぶっちゃけ不便極まりない。

だが、このショッピングモールはモノレールの駅と直結していて、降りたら歩いて数分でたどり着くらしい。

しかも食べ物は和洋中を問わず完備、衣服も量販からブランド物まで取り揃え、各種レジャーもあるという。『ここに行けば何でも揃う』ってやつだな。

 

 

「それで、陸……」

 

「ん?」

 

簪の方を見ると、椅子に座って机にのの字を書いていた。

 

「私も、水着を買おうかなって思ってて、その……」

 

あ~っと、これはあれだな? 俺から言い出すべき()()なんだな?

 

「簪、週末俺と買い物に付き合ってくれるか?」

 

「うん!」

 

うわぁ、めっちゃ尻尾をぶんぶん振ってる幻覚が見えそうなんだが。

思えば、簪と付き合ってからも弐式改造と深夜のアニメ鑑賞会ばっかで、カップルらしいことはしてなかったからな。

 

(一応これも、デートって括りでいいんだよな?)

 

いまいちデートと買い物の区切りが分からんが、簪が喜んでるならいいか。デートってことにしておこう。

 

(さて、予算はどれぐらいにしたものか)

 

水着は年に1回しか使わないだろうし、それなりの量販物でいいだろう。あとは食事代(簪の分も出すつもり)や他の買い物でどれぐらい使うか……そんなことを考えながら、俺は財布を開けて

 

「あ゛……」

 

思わず声を出しちまった。が、簪には聞こえてなかったようだ、セーフ。

 

(しっかし、まずったなぁ……)

 

俺はある意味、この外史に来て一番のピンチを迎えていた。

 

 

金がない




ふと、サイコロの出目によって、世界中をISで飛び回る一夏達を妄想してました。



セ「またインドですのぉ!?」

箒「どうしてお前に振らせたら、インドかオーストラリアの二択にしかならんのだ!」

鈴「もういい加減飽きたわよ……」

ラ「ここ(ギリシャ)からインドまで、ざっと9時間は飛びっぱなしだな」

一「マジかぁ……」

シャ「いつになったら、ゴールの日本を引けるんだろうねぇ……?」


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第33話 オリ主、バイトする

……はい、次回からちゃんとストーリー進めますんで……


「ということで、バイトしていいですか?」

 

「宮下君、貴方ねぇ……」

 

金欠が発覚した翌日。俺はさっそく職員室に来て、エドワース先生の席の前に立っていた。

高校によってはバイト禁止だったりするが、IS学園はどうなんだろうと思ったからだ。

 

「基本、IS学園はアルバイトは禁止です」

 

「うわぁ……マジですかぁ……」

 

エドワース先生からの回答に、天を仰ぐしかない。

どうする? 初っ端から詰んだぞ。誰かに金借りるしかないが、それは最後の手段にしてぇなぁ……。

 

「宮下、お前には政府から補助金が出てたはずだろう?」

 

「あ、織斑先生」

 

隣の席に座っていた織斑先生が、椅子を回してこちらを向いていた。

 

「そうですよ。宮下君には『男性操縦者のデータ取り』という名目で、補助金が出てるじゃないですか」

 

「それなんですがねぇ……」

 

「なんだ? まさか次の支給が来るまで使い切ったとか、下らん理由じゃないだろうな?」

 

 

「補助金、打ち切られました」

 

 

「「はぁっ!?」」

 

先生達、驚愕した顔のまま、しばし固まる。

 

「み、宮下君!? 政府から補助を打ち切られるとか、一体何をしたんですか!?」

 

「むしろ、何もしてないから打ち切られたというか……」

 

 

端的に言ってしまえば、倉持技研からの嫌がらせだ。

連中、よっぽど技術提出要求を拒否られたのが気に食わなかったんだろうな。日本政府を唆して、ある種の兵糧攻めをしてきやがった。

実は、昨日織斑先生経由でやってきた要求、あれが4回目だったりする。補助が打ち切られたのは、確か2回目を拒否った辺りだったか。

おそらく、俺が折れて技術提出するまで続くのだろう。

 

 

という事情を話したところ、エドワース先生も織斑先生も頭を抱えていた。

 

「倉持に乗せられるとは、日本政府は馬鹿か……?」

 

「トーナメントの時はともかく、今は宮下君もカスタム機のデータを送ってるでしょうに……」

 

エドワース先生の言う通り、陰流のデータはちゃんと、IS学園経由でIS委員会に送っている。元々学園の訓練機を貸与されてるんだから、それが筋だろう。日本政府だって、支部に開示請求すればデータは見れるようになってるはずだ。倉持? 知らんな。

 

「しかしそれなら、ご実家から仕送……っいや、何でもない」

 

そうか、織斑先生は知ってるのか。俺に仕送りしてくれる()()()()()ことを。

 

「とまぁそんなわけで、臨海学校に必要なものを買う金を稼ぐために、バイトしたかったんですが……」

 

「なるほどな……」

 

織斑先生は腕を組んで考え込む仕草をすると、席を立って

 

「もしかしたら何とかなるかもしれん。付いて来い」

 

職員室のドアを開け、俺に向かってそう言うのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そうして織斑先生に連れて来られた場所は

 

「整備室、ですね」

 

「そうだ。まさか見忘れたわけじゃあるまい?」

 

「それはないですね。ほぼ毎日見てますから」

 

それに、ハンガーに収まった打鉄とラファールが通路の左右にズラッと並ぶ光景は、そうそう見忘れるもんじゃないだろう。

ちなみに、いつもはその通路の先、整備室の隅の方を使って弐式を改造している。

 

「あれ、織斑先生と宮下君?」

 

奥のラファールの陰から、山田先生がひょっこり顔を出してきた。

 

「お疲れ様です、山田先生」

 

「どうも」

 

「珍しい組み合わせですね。一体どうしたんですか?」

 

「俺は織斑先生に連れて来られただけで……山田先生こそ、いつもは見かけないのにどうしたんです?」

 

「あはは……確かに宮下君達に比べたら、ここに来ることは少ないかもしれないですね」

 

いやいや山田先生、そんな俺や簪は整備室の主ってわけじゃ……心当たりがあり過ぎるな。

 

「私は訓練機のオーバーホールのために来たんですよ」

 

「学年別トーナメントが終わって、臨海学校の前に1度、訓練機の一斉オーバーホールを行う予定になっているんだ」

 

山田先生の説明を、織斑先生が引き継いだ。

 

「そこでだが……お前にその作業を手伝ってもらいたい」

 

「俺に、訓練機のオーバーホールを?」

 

「そうだ。お前が手伝えば、山田先生の負担が減る。そして私の裁量権の範囲で、お前にバイト代を出すことが出来る」

 

「なるほど。俺としては悪くないというか、むしろ好条件ですよ」

 

「私としても、手伝ってくれるのは嬉しいんですが……どうして織斑先生が、宮下君にアルバイトの斡旋みたいなことを?」

 

「それはですね……」

 

俺は山田先生に、職員室でした説明と同じことを話した。

 

「なんですかそれっ! 宮下君はちゃんと義務を果たしてるのに、おかしいですよ!」

 

「そういうわけですので、山田先生、宮下の事をお願いします。宮下、山田先生の指示に従ってうまくやってくれ」

 

「分かりました!」「はい」

 

「それじゃあ宮下君、さっそく打鉄のオーバーホールから始めましょうか」

 

「分かりました」

 

織斑先生が整備室を出て行くと、俺と山田先生は出入口に一番近い打鉄から作業を始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

宮下に山田先生の手伝いをさせて、私は私で面倒な書類仕事をこなしていた。

臨海学校での旅館の部屋割りなどは山田先生に任せているため、私の仕事は臨海学校中の警備プランの作成だ。

それも8割方終わり、ふと時計を見ると、あれから1時間ほど経っていた。

 

「……少し様子を見に行くか」

 

宮下の能力は疑っていないが、奴の機械馬鹿の面が顔を出して、山田先生に迷惑を掛けてないか少々不安でもある。

そして整備室で、私が見たものは――

 

「織斑先生、お疲れ様です……」

 

端末を手に作業をしている山田先生だった。だが、心なしか顔色が良くない。

 

「作業の方はどうですか? 宮下は迷惑を掛けてないですか?」

 

「いえ、迷惑なんて全然! というかですね……」

 

 

「全訓練機、オーバーホール終わりました……」

 

 

「はぁっ!?」

 

終わった!? ほんの1時間で、打鉄9機とラファール10機、計19機のオーバーホールが!?

 

「私も目を疑いました……」

 

そう言って、山田先生が端末を差し出してきた。

見ると、IS学園が管理している全訓練機のステータス画面が映っている。状態は……オールグリーン、つまり整備完了ということだ。

本来、臨海学校前日までに終わらせる計画だったんだが……。

 

「私が1機見ている間に、宮下君は4機のオーバーホールを終わらせてたんですよ……」

 

山田先生が1機やって、その間に宮下は4機。訓練機は19機あるから……

 

「……つまり、ほぼ8割は宮下がやったと?」

 

「はいぃ……」

 

これは、山田先生が情けない声を出すのも分からなくない。

普通なら手抜きを疑うところだが、学園の管理システムがオールグリーンと言っている以上、その可能性はほぼない。

一体、何をどうしたらそんな早さでオーバーホールが出来るんだ……?

 

「ところで、その宮下はどうしたんです?」

 

作業が全部終わったなら、奴はどこに行った?

 

「ああ、それなら……」

 

「山田先生ー! 直りましたよー!」

 

整備室内に別途区切られた部屋のドアが開き、そこから宮下が顔を出した。

あそこは確か、加工室だったな。装甲パーツなどの微調整のために、旋削加工機器が置いてある部屋だ。

 

「はい、これ」

 

宮下が山田先生に渡したのは、山田先生がいつもしている腕時計だった。さっきのセリフから、宮下が加工室で時計を修理したようだ。時計のような精密機器、普通は修理なんぞ出来ないはずなんだが……器用な奴だな。

 

「本当に動いてる……宮下君、ありがとうございます!」

 

「いえいえ、俺に直せる程度の故障で良かったですよ」

 

感動のあまり泣き出しそうな山田先生に、宮下は目を細める。

……時計が直っただけで、それほど喜ぶだろうか?

 

「山田先生、その時計に何か思い入れでも?」

 

「はい……この腕時計、お母さんに買ってもらったんです。私が代表候補生になった時に」

 

「そうですか……」

 

恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに語る山田先生に、思わず私も、宮下と同じように目を細めた。

 

「宮下、今日はご苦労だったな」

 

「いいえ、と言いたいところなんですが……他に作業ありません?」

 

「何?」

 

「ほら、俺ってまだ1時間しか働いてないじゃないですか? その時給分だけだと、さすがに……」

 

「……くっ! あははははははっ!」

 

先ほど山田先生に対して見せた顔と、今の何とも情けない顔のギャップに、とうとう笑いが堪えられなった。

 

「織斑先生! 俺にとっては結構死活問題なんですって!」

 

「安心しろ。時間給でなく、ちゃんと成果給で払ってやるさ」

 

「マジですか!? やったぜ」

 

「あ、宮下君。時計の修理代……」

 

「そんなのいりませんって。それじゃ俺はこれで! あっ織斑先生、今日のバイト代は早めにもらえると助かります!」

 

山田先生の申し出を断ると、宮下はさっさと整備室を出て行った。慌しい奴だな。

さて、あいつへのバイト代だが……19機の内8割、14,5機のオーバーホールを、仮に山田先生1人でやったと仮定した時の費用分を出してやればいいか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「どうしたもんかなぁ……」

 

廊下を歩きながら、俺は今後について悩んでいた。

今回は織斑先生の厚意でなんとかバイト代をGETできたわけだが、そう何度も都合よく仕事があるわけじゃ無いし、何か収入源を見つけないとまずいよなぁ……。

 

(でも、倉持の連中にデータはくれてやりたくねぇな)

 

あのいけ好かない連中にだけは、白旗を振りたくはない。そんなことをするぐらいなら、虚先輩とかに頭下げて金借りる方を選ぶ。パイセン? あの人に借り作ったら、返す時に壮絶苦労しそうだから却下。

……いい案浮かばねぇから、一旦保留にしよう。

 

さて、あんまり簪達を待たせているわけにもいかないし、さっさと食堂に行くか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

食堂で晩飯を食って、部屋に戻ってのんびりしていると、織斑先生がやってきて

 

「今日のバイト代だが、政府が補助金を送るのに使っていた口座に入れておいた」

 

とだけ伝えて帰っていった。もちろん、簪には聞かれないようにしてもらった。あんまりそういうとこ、見せたくないじゃん?

早めに欲しいとは言ったが、まさか日払いしてくれるなんて、非常に有り難い。

簪が先にシャワーを浴びてる間に、俺はネットから口座履歴を確認して

 

「んん!?」

 

形容し難い声を出していた。

……1時間、ISのオーバーホールしただけで、こんなにもらえるもんなの?




千冬は学園の予算について、多少の裁量権を持ってるというオリ設。


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第34話 初めてデート ミックスベリー味

アパム! 塩! 塩持ってこい! アパーム!!


バイトで何とか軍資金を手に入れた直後の週末。

前に調べたショッピングモール『レゾナンス』の前にある広場で、腕時計で時間を確認していた。

 

(時間は……9時24分)

 

待ち合わせの10時より、30分以上前に来ちまったことになる。ATMで金を下ろす分を考慮しても、早く来過ぎたな。

というか、同じ部屋から出発するのに、わざわざ待ち合わせをする必要はあるのだろうか? ……そんな風に考えてるから、今まで異性との付き合いがほぼ無かったんだろうな。

 

(さて、マジでデートなんぞ経験ねぇが、どうしたもんか……)

 

さっきも言ったが、異性と付き合った経験なんぞほぼ無いわけで、当然デートプランなんぞあるわけもなく、相談相手もいやしない。一夏? 最近朴念仁を卒業した奴に何を聞けと?

何なのだ、これは! どうすればいいのだ?!

なんて頭の中がぐるぐる空回りしている間に

 

「ごめん、待った?」

 

簪が集合場所にやってきた。俺、30分も固まったのか?

再度腕時計を見ると、9時30分。あれから数分しか経ってない。

 

「いや、俺もさっき来たところだからな」

 

「そう。でもまだ待ち合わせの30分前だよ?」

 

「そういう簪もな」

 

「それは……待ちきれなくて来ちゃったの……///」

 

「お、おう……///」

 

やばい、たぶん俺も簪と同じように顔が赤くなってる。

 

「そういえば、簪の私服って初めて見るな」

 

「そ、そう?」

 

いつも見るIS学園の制服ではなく、真紅のスカートに、ブラウスの上から薄手のケープを羽織っている。

 

「ああ、似合ってる」

 

「……陸の誑し///」

 

「いや、俺が誑しだったら、一夏とかどうなるんだ」

 

「朴念仁」

 

「……否定しないし出来ない」

 

すまん一夏、お前の名誉を守ることは出来ないようだ。

 

「と、とりあえず、当初の目的通り、水着買いに行こうぜ」

 

「うん」

 

頷くと、簪がいつも通り左腕にしがみ付こうとするが、

 

「簪、待った」

 

「え?」

 

俺はそれを制止して、簪の右手を握った。

 

「こっちの方が、それっぽいだろ?」

 

と言ってから気付いたが、手を繋ぐのと腕にしがみ付くの、どっちがカップルっぽいんだ?

 

「う、うん……///」

 

とはいえ、簪も満更じゃないようだし、今回はこれで行くことにする。

 

 

 

水着だが、俺の分は滞りなく買い終わった。

元々俺が拘りを持ってない上に、昨今の女尊男卑の風潮が関係しているのか、そもそも種類自体が少ないのだ。

適当にトランクスタイプにしたら、あとは3,4種類の色から1つ選ぶだけで終わってしまった。

 

だから、あとは簪が買うのを待っていればいい。そう思っていたんだが……

 

「どうしてこうなった……」

 

俺が今いる場所、それは女性水着売り場。どうしてそんな鬼門に立っているかと言えば

 

『陸に、選んで欲しい……』

 

と簪に上目遣いに言われたら、断れんだろう。

 

「これとこれ、どっちがいい、かな?」

 

そう言って簪が提示してきたのは、片方が黒色に白いフリルが付いたもの。もう片方がオレンジ色に花柄が付いたワンピースっぽいもの。

う~む。正直、どっちも似合いそうだから困る。

 

「……よし、両方買おう」

 

「え? 陸?」

 

両手に水着を持った簪を引っ張っていくと、俺はレジでさっさと会計を済ませた。

 

「あ、あとで払うから」

 

「いいからここは男の甲斐性を見せる手伝いだと思って、俺に払わせておいてくれ」

 

「……うん、ありがとう」

 

「その代わり、臨海学校の時は両方着たところを見せてくれよ」

 

「……陸のエッチ///」

 

「えぇ……?」

 

まさか簪からそんなセリフを言われるとは思わんかった……。俺、一夏の朴念仁がうつったか……?

 

ーーーーーーーーー

 

一番の目的だった水着が買い終わり、昼食を取るためにカフェに入って、二人で食後の飲み物(俺がコーヒー、簪がオレンジジュース)を飲んでいる時だった。

 

「あれ、織斑君?」

 

「何?」

 

簪の視線の先には、確かに私服姿の一夏と……隣にいるのは凰か?

 

「あれ……デートだよな?」

 

一夏と腕を組んで満面笑顔の凰と、照れながらも特に振りほどく素振りを見せない一夏。ラブラブ(死語)だな。

 

「たぶん、ハーレム内で争って、凰さんが勝ち残ったんだと思う」

 

「確かに一夏ハーレムの連中ならやりかねないな。それにしても、もしあれが"酢豚の約束"を知らないままの一夏だったら」

 

「きっと、凰さんの独り相撲で終わってたと思う」

 

だよなぁ……。ホント、世の中ちょっとしたことで未来が変わるな。

そう思いながら、ふと視線を移すと……うわぁ……

 

「……それで()()か」

 

「あれって……」

 

一夏と凰の後方、屋内に設置された観葉植物に隠れる、残りの一夏ハーレム達が。

 

「これはひどい」

 

「何やってんだ、あいつら」

 

他の嫁(候補)が一夏と何をしてるのか気になるのは分かるが、そんな尾行までするか?

ここからじゃ見えないが、全員の目のハイライトが消えてるような気がするし。

 

「……見なかったことにするか」

 

「うん」

 

俺達は会計を済ませると、一夏達とエンカウントしないように反対方向に歩き出したのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

その後、俺の私服(施設から持ってきたものだと足りなくなってきた)を買ったり、簪の買い物(アニ○イト)に付き合ったり、気付けば日も傾き始めていた。

 

「それで、簪が寄りたいところってここか?」

 

「うん」

 

連れて来られたのは城址公園、元々城があった場所にできた公園らしい。そしてその公園の一角に、クレープ屋のキッチンカーが止まっていた。

 

「あそこのクレープ屋さんでミックスベリーを食べると、幸せになるらしい」

 

「幸せになる? なんだそりゃ」

 

「この前、4組の子達が話してるのを聞いて気になってた」

 

「なるほど、女子が好きな『おまじない』ってやつか」

 

「うん」

 

そんなやり取りをしながらも、俺達はバン車を改造したクレープ屋に入った。

 

「すみません、ミックスベリー二つください」

 

簪がそう言うと、店主であろう無精ひげにバンダナの男性が、人懐っこい顔で頭を下げた。

 

「あぁー、ごめんなさい。今日、ミックスベリーは終わっちゃったんですよ」

 

「あ、そうなんですか。残念……」

 

「まぁ売り切れなら仕方ない、他のを……」

 

そう言いかけて、俺はあることに気付いた。というか、()()()()に気付いた。まさか……

 

「なら、イチゴとブドウを一つずつくれ」

 

すると、店主が含み笑いをしながら俺の注文を受けた。ああ、やっぱりそういうことか。

 

「ほら、これ食って機嫌直せって」

 

代品を払ってクレープを受け取ると、簪にイチゴの方を差し出した。

 

「うん……あっ、美味しい」

 

「うん、確かに美味いな。こっちも食うか?」

 

そう言って、俺が手に持ったブドウの方も差し出した。

 

「う、うん……こっちも美味しい」

 

「そうかそうか。それで? ミックスベリーの味はどうだ?」

 

「え?……あぁっ!?」

 

そう、そもそもあの店に、ミックスベリーなんか()()()()()()()

ストロベリーとブルーベリーを、二人で分け合って食べることで『幸せのミックスベリー』になるってわけだ。

確かに、それが出来るぐらい仲が良ければ幸せだろうさ。

 

「でも、陸が注文する時『イチゴとブドウ』って」

 

「普通にストロベリーとブルーベリーって言ったら、簪が気付くかもしれないと思ってな。その辺り、あの店主も乗ってくれて良かったよ」

 

「う~……!」

 

おっと、ちょっと揶揄い過ぎたな。

 

「悪かったって。だから俺にもミックスベリーを食わせてくれよ」

 

「むぅ……はい」

 

膨れっ面をしながらも差し出されたストロベリーを齧りながら、俺は簪とミックスベリー味を堪能したのだった。

 

(ああ、こういうのを幸せって言うんだろうな……)

 

 

オマエニ、シアワセニナルシカクガアルノカ?

 

 

「っ!」

 

「陸?」

 

「いや、何でもない……クレープも食い終わったし、暗くなる前に帰るか」

 

「? うん」

 

ーーーーーーーーー

 

「うば~……」

 

外史の仕事のシギュンに半ば乗っ取られた(ロキ)は、神界で暇を持て余していた。

 

「何を暇そうにしているのですか」

 

「実際暇なんだよ。(シギュン)に仕事を乗っ取られたから」

 

「乗っ取ったとは失礼な。貴方が外史に介入しすぎて、あんな(一夏様が死ぬ)世界を作るからでしょう」

 

「はいはい、それについては反省してまーす」

 

もうそのセリフも聞き飽きましたー。

 

「それで? リクの方はうまくやってるの?」

 

「ええ、彼はなかなか見所があります。このままの調子で、一夏様を立派に成長させてくれるでしょう」

 

「さいで……」

 

過介入で怒られた僕が言うのもあれだけど、君も大概だと思うよ?

 

「いつも飄々としていながら、時には真摯な態度で物事に当たる、彼のメンタルの強さは実に素晴らしい」

 

「……シギュン、それは間違いだ」

 

「はい?」

 

そうさ、確かに普段のリクを見ていれば、頼もしく思えるだろうさ。でも、それは違うんだよ。

 

「リクはメンタルが強くなんかない。僕の配下ってことになってる現地作業員の中で――」

 

 

 

「あいつが一番、心が弱いんだよ」




唐突に意味深な伏線を持ってくるスタイル。
後々回収予定です。

さぁ、次回から海だー!(この時期に夏回を書くとは、これ如何に)


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第35話 遊んで食って風呂入る、これぞ海の醍醐味

雪はなくとも風が冷たい今日この頃、こんな時期に書く海回とは……


この外史に来て、かれこれ4ヶ月近く経つのか。

IS学園に強制入学させられて、整備室で初めて簪と出会って、のほほんも混ざって打鉄弐式を組み上げて、パイセンと決闘して。

その後もクラス対抗戦だったり学年別トーナメントだったりと、イベントには事欠かなかったな。

そして気付けば簪と付き合うようになって。ホント、人生ってやつは何があるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オマエニ、シアワセニナルシカクガアルノカ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「海っ! 見えたぁっ!」

 

「っ!」

 

気付けばそこは、バスの中だった。

 

「陸、大丈夫?」

 

「あ、ああ……」

 

隣の席から、簪が心配そうな顔で覗き込んでいた。

 

「俺、寝てたのか……?」

 

「凄いうなされてた」

 

「そうか……あんまりいい夢じゃなかったからな」

 

くそっ、どうして今更になって……!

 

「そろそろ目的地に着くから、みんなちゃんと席に座ってねー」

 

「「「はーい」」」

 

エドワース先生の号令で、海を見るために右側に寄っていた左席の面子が席に戻り始めた。

もうひと眠り……する気にはなれんな……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ほどなくして、バスは目的地の旅館『花月荘』前に到着。出迎えてくれた旅館の人に挨拶を済ますと、みんな自分の荷物を持って中に入っていった。

 

「なぁ陸……って、大丈夫か? 顔色悪いぞ」

 

「平気だ平気。バスの中で寝てたら嫌な夢見ちまっただけだ」

 

「そうか……。それで、お前の部屋ってどこだ?」

 

「俺のか? そういえば知らねぇな」

 

「俺も、女子と寝泊まりさせるわけにはいかないからって、別の部屋を用意するとしか聞いてないんだよ」

 

「一夏もか?」

 

部屋割り一覧にも載ってなかったし、まさか男二人床で寝ろとか言わんよな?

 

「織斑、宮下、お前達の部屋はこっちだ。付いて来い」

 

と織斑先生に呼ばれ、女子達の部屋からそこそこ離れた先のドアには『教員室』の張り紙が。

 

「えっと……俺と陸が同室ってわけでは……」

 

「それだと、就寝時間を無視した女子が押し掛けてくるだろう。だから却下になった」

 

「「はぁ……」」

 

俺も一夏も、ついでに織斑先生も、ため息しか出なかった。

押し掛けられても困るんだが。あとで簪に脇腹抓られるから。

 

「なので、織斑は私と、宮下は山田先生と同室になったわけだ」

 

「よろしくお願いしますねー」

 

「あー、お願いします」

 

隣の部屋から、山田先生がひょこっと顔を出した。俺はそっちの部屋でお世話になるわけですか。

 

「一応大浴場も使えるが、男のお前達は一部の時間のみ使用可能だ。お前達2人のために、他の大多数の使用時間を削るわけにもいかんからな」

 

「そこは仕方ないでしょうね」

 

「まぁ、まったく入れないよりはいいか」

 

「さて、今日は一日自由時間だ。荷物を置いたら好きにしろ」

 

「「はい」」

 

織斑先生の指示に返事をすると、俺と一夏はそれぞれ自分の荷物を持って部屋に入った。

 

「おっ、結構広いな」

 

中は2人部屋なのか、広々とした作りになっていた。外側の壁が一面窓になっていて、すでに何人かの女子が海に飛び出すのも見えた。準備早いなっ!?

 

「宮下君、荷物はそこに置いてください」

 

「分かりました」

 

山田先生に指定された場所にボストンバックを置くと、中から小さめのリュックサック(水着やタオル類入り)を取り出す。

 

「楽しんできてくださいねー」

 

手を振る山田先生に見送られる形で、教員室を出て着替えに向かったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あっ織斑君だ!」

 

「うそっ! わ、私の水着、変じゃないよね!?」

 

「わ~、かっこい~。鍛えてるね~」

 

「宮下君も、ガッチリ鍛えてる感じ?」

 

水着に着替えて海に出てきた瞬間、女子からの視線が辛い。

 

「陸ってあんまり運動してるイメージなかったけど、結構鍛えてるのな」

 

「何言ってんだ。ほぼ毎日、弐式や陰流の装甲やら武装やら持ち上げたり運んだりしてんだぞ? ある程度筋力がなきゃやってらんねぇよ」

 

「それもそうか」

 

戦車程ではないものの、ISの装甲もそこそこの重さがあるからな。操縦者もそうだが、整備員も太ってる奴は少ない。というか、まともに整備してたら太りようがない。

 

「俺は泳ぎに行こうと思うけど、陸はどうする?」

 

「俺はとりあえず、簪と合流してから考えるわ」

 

「あ、そうか。俺も箒達と合流した方が……」

 

「いや、その必要はないぞ」

 

「へ?」

 

俺が指さした方を一夏が見ると、そこには一夏ハーレムの5人が勢揃い。

 

「「「「「いーちかっ!」」」」」

 

「う、うわぁっ!」

 

あっという間に揉みくちゃにされる一夏。男冥利に尽きるねー。(棒)

 

「陸」

 

後ろから聞こえた声に振り返ると――

 

「どう、かな?」

 

黒色に白いフリルの水着を着た簪が、足をもじもじしながら立っていた。

 

「お、おう……すげぇ似合ってる……」

 

「そ、そう……///」

 

お互い、そのまま固まってしまった。

 

「あ~! りったーん! かんちゃーん!」

 

「本音?」「のほほん?」

 

フリーズしていた俺と簪が、のほほんの声がする方を向くと

 

「「はぁっ!?」」

 

全身がスッポリ収まる狐の着ぐるみ。それがのほほんの今の姿だった。

 

「お前、水着はどうしたよ?」

 

「これが水着だよ~」

 

「これが!?」

 

いやいや、どうやったらそれで泳げるんだよ!?

 

「それより二人とも、早くあそぼー!」

 

「ちょ、本音……!」

 

「おまっ、引っ張るなって!」

 

のほほんに腕を掴まれ、そのまま海に向かって引っ張られていった。

 

 

 

その後はビーチバレーを観戦したり、沖まで出ない程度に軽く泳いだり、砂遊びをしたりして過ごした。

 

「砂遊びってレベルじゃなかったけど……」

 

「立派なお城が出来たよね~」

 

のほほんが言うように、結構な力作だったぞ。リヒテンシュタイン城。

 

「それにしても、まさかビーチバレーに織斑先生が参戦するとは」

 

「すごかったもんね~。あのパーフェクトゲーム~」

 

「対戦相手のデュノアさん、涙目だった」

 

「逆にラウラウは、尊敬の眼差しだったよね~」

 

結局その二人は、織斑先生のスパイクサーブを攻略できず、逆に自分達のスパイクは尽く防がれ、のほほんの言うように完敗したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そんなこんなで日も暮れて、時刻は午後7時半。大広間を3つ繋げた大宴会場で、俺達は夕食を取っていた。

 

「それにしても、昼も夜も豪勢な食事だよなぁ」

 

「うん。IS学園は羽振り良すぎ」

 

そう言って、隣に座っている浴衣姿の簪も頷いた。

 

この旅館では『食事中は浴衣着用』、さらに座敷なので正座という決まりらしい。なんでだよ。

そんなわけで、ずらりと並んだ生徒は全員浴衣姿で正座だ。そして一人一人の前に膳が置かれている。

メニューは刺身に小鍋、山菜の和え物に、味噌汁と漬物。しかもなんと刺身はカワハギ(肝付)。金かかってんなぁ。

 

「っ~~~~~~~~!!!!」

 

「なんだ?」

 

くぐもった大声が聞こえた方を見ると、1組の列で、鼻を押さえて涙目になっているデュノアが。

 

「たぶん、わさびを一度に食べ過ぎたんだと思う」

 

「ああ、なるほど……」

 

隣に座っている一夏が茶を渡してるし、おそらく簪の推測が正解のようだ。

あ、オルコットが一夏に食わせてもらってる。正座が辛いのにかこつけて、おねだりでもしたか?

 

「まったく、お熱いこった。なぁ簪――」

 

1組の方を見ていた視線を戻すと、右側に刺身を持った箸が。

 

「あ、あ~ん……///」

 

「……」

 

すまん一夏。今日この時だけは、お前のことを笑えないようだ。

そして口にした刺身だが、気恥ずかし過ぎて、味なんて分からんかったぞ……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「「ぷはー!」」

 

なぜか旅館で風呂入ると、自販機の瓶牛乳を飲みたくなるんだよな。隣で一夏が飲んでるのはフルーツ牛乳だが。

 

「なぁ、陸」

 

「ん?」

 

「俺、どうしたらいいんだろうな……」

 

「何がだよ。目的語を付けろ」

 

「いきなり重婚許可なんて言われても、俺、どうしたらいいのか……」

 

おいおい、まだ悩んでたのか。

 

「織斑先生とは家族会議したんだろ?」

 

「千冬姉は『不実な真似だけはするな』ってだけ……」

 

「なんだ、その通りじゃねぇか」

 

「いやだって、複数の女性と結婚って、どう考えても『不実な真似』になるだろ」

 

一夫一妻制の日本で生きてきた一夏からしたら、嫁が複数いるのは不実って考えにもなるか。けど、

 

「俺はそうは思わんがな」

 

「え?」

 

唖然とする一夏を余所に、俺は自販機でもう1本瓶牛乳を買った。今度はコーヒー牛乳にすっか。

 

「篠ノ之達のこと、好きなんだろ?」

 

「そ、そりゃあ……」

 

「ならそれでいいじゃねぇか。全員を平等に愛せずに、誰か1人を贔屓しそうだってんなら話は別だがな」

 

「そう、なのかな……?」

 

「それに、だ。そもそも一夏が結婚できるようになるのは、3年は先の話だろ」

 

「あっ」

 

あっ、じゃないが。お前まさか、学生結婚とかする気だったんじゃねぇだろうな?

 

「ま、今焦って決める必要はないってことが分かればいいさ。『各国のお偉いさん達が、あいつらと一緒にいる口実をくれた』程度に思っとけ」

 

「そっか……まだ考える時間はあるんだもんな……」

 

やっぱいつかの織斑先生が言ってたように、一度思い込むと空回りして視野が狭くなるのが一夏の弱点だな。

 

「サンキュ、陸。なんかモヤモヤしてたのが晴れた気がする」

 

「おう。報酬はツケておくな」

 

「お、お手柔らかにな……」

 

さわやか笑顔を若干引きつらせながら、一夏は教員室の方に去っていった。

 

「さて、俺も引き揚げるか」

 

空瓶を回収用のカゴに入れると、俺も一夏のあとを追うように歩き出した。

 

 

 

「そういや、明日は七夕か」



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第36話 おねだりISとソーラー発電

サブタイ考えるのが辛くなって、直球投げました。後悔はしていない。


臨海学校2日目。1学年全員がISスーツを着て集合しているわけだが、相変わらず違和感ないな。やっぱ水着と見た目変わらんやん。

 

「今日は丸一日、各種装備の試験運用とデータ取り、だったか?」

 

「うん。特に専用機持ちは、開発元から送られてきた装備のデータ取りに追われる、はずだけど」

 

「俺達には関係ないか」

 

「うん」

 

打鉄弐式の装備は100%俺とのほほんが作って、しかも作ったそばから動作テストしてるから、今更ここでやる必要性がない。そしてそれは俺の陰流も同じ。

つまり、俺と簪は専用機持ちでありながら、ぶっちゃけ暇になることが確定しているわけだ。

 

「それでは各班ごとにISの装備試験を行う。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

「「「はーい」」」

 

織斑先生の号令に、一同が返事をする。

 

「とりあえず、一夏達と合流すっか」

 

「そうだね」

 

というやり取りの後、一夏達と合流しようとしたところで

 

「篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

打鉄用の装備を運んでいた篠ノ之が、織斑先生に呼ばれていた。

 

「お前には今日から専用――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~~ん!!」

 

ズドドドドド……ッ! と砂煙を上げながら、何かがこっちに向かってくる。しかも聞こえてくるこの声は……

 

「ねぇ、陸……」

 

「たぶん、そうじゃねぇかな……」

 

「会いたかったよちーちゃん! さあハグを――ぶへっ」

 

「うるさいぞ、束」

 

織斑先生に飛び掛かろうとしてアイアンクローの迎撃を受けたのは、以前出会った紫兎、篠ノ之束だった。

 

「ぐぬぬ……相変わらず容赦がないねぇ」

 

おっ、あっさり抜け出した。

そして篠ノ之(どっちも篠ノ之だな、妹の方)を見た。

 

「やぁ!」

 

「……どうも」

 

「何年ぶりかなぁ、大きくなったねぇ箒ちゃん。特におっぱいが」

 

――ガンッ!

 

「殴りますよ」

 

「殴ってから言ったぁ! しかも刀の鞘で殴ることないじゃん! ひどいよ箒ちゃぁん!」

 

そんな姉妹のやり取りを見せられて、一同総ポカンである。

 

「(陸……私達、いないことにしとこう)」

 

「(だな。あのよく分からん流れに巻き込まれたくない)」

 

簪と協議して、様子見を続行することに決めた。

 

「それで姉さん、頼んでいたものは……」

 

「ふっふっふっ、それはすでに準備済みだよ。さあ、ご覧あれぇ!」

 

びしっと直上を指さす束に、俺や他のみんなも空を見上げた。

 

 

――ヒュゥゥゥゥゥ……ズズーンッ!!

 

 

「おいおい、マジかよ……」

 

激しい衝撃と轟音を伴って落ちてきたのは、銀色をした金属の塊だった。

 

その金属の塊の正面がぱたりと倒れると、中にあったのは……

 

「IS……?」

 

簪の口から漏れた言葉通り、中にあったのは、赤い装甲のISだった。

 

「じゃーん! これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』! 全てのスペックが現行のISを超える、束さんお手製のISだよ!」

 

全スペックが現行を超えるって、どんだけだよ。っていうか篠ノ之、『頼んでいたもの』って言ったよな? まさかお前ISをおねだりしたのか!? 馬鹿じゃねぇの!? いや、それであげちゃう束も束だけど!

 

「それじゃあ箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズを始めようか!」

 

「……それでは、頼みます」

 

「堅いよ~、実の姉妹なんだし、もっとキャッチーな呼び方で~」

 

「早く、始めましょう」

 

うわぁ、とりつく島も無しって感じだな。というか、そんな仲でよくISのおねだりなんか出来たな。

 

「ん~、まぁそうだね。さっさと始めようか」

 

すると、束の顔が右方向に旋回した……俺達のいる4組の方に。

 

「りったん、かんちゃん、ちょっと手伝って~!」

 

こ、こいつ……! 敢えて関わり合いにならないようにしてたのに……! いや、まだ大丈夫だ。あの呼び方じゃ、俺と簪のことだって分かりは……!

 

「はぁ……宮下と更識、こっちに来い」

 

織斑先生ぃ!?

 

「み、宮下君、あの人と知り合いなの……?」

 

「更識さんも?」

 

うわぁ……クラスメイトがひそひそ話をし始めたぞおい。

 

「陸、諦めよう……」

 

「そうだな……」

 

久しぶりに遠い目をする簪に促されて、俺も専用機持ち達のところに向かっていった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「はい、フィッティング終了!」

 

「お~! りったんはやーい! かんちゃん、そっちはどう?」

 

「パーソナライズの自動処理開始……異常は無いです」

 

「OK~。いやぁ、まさかいっくんの白式を見てる間に終わるなんて、さすが束さんが見込んだ二人」

 

「その所為で、俺と簪への視線が痛いんだがな」

 

目の前にいる紫兎がIS開発者である篠ノ之束であると知った時のみんなの動揺と、その束と知り合いっぽい俺と簪に向けられた視線と言ったら……。

 

『なんだよ陸、束さんと知り合いだったのかよ』

 

『ね、姉さんが、私と織斑姉弟以外で親しそうな姿を見せるとは……』

 

この辺はまぁ、そうだよな。

 

『み、宮下さん! ぜひ篠ノ之博士に紹介して下さいませんか!? 身内以外には全く興味を示さないと噂されている篠ノ之博士ですが、宮下さんの紹介なら、あるいは!』

 

オルコット、お前は落ち着け。

 

『篠ノ之さん、身内ってだけで専用機もらえるの……?』

 

『なんかズルくない?』

 

これについては束が『有史以来、世界が平等だったことなんて一度もないよ』という指摘で黙らせた。まぁ確かに"平等であったこと"は無いだろうな。"公平であろうとしたこと"はあったかもしれんが。

 

「それじゃあ箒ちゃんのパーソナライズが終わるまでの間に、りったんにこれを見てもらおう!」

 

「見てもらうって、何をだ?」

 

「それは、これだー!」

 

そう言って、束が呼びだ(コール)したものは

 

「こ、こいつは……」

 

見た目は2枚の金属板。その間には、マイクロ波を直流電流に変換するレクテナ基盤が挟まっている。サイズは明らかにこっちの方が小さいが、それ以外は全部、俺が知ってるものだ。

 

「太陽光発電、受信アンテナ」

 

「せいか~い! やっとお披露目出来る段階にまで漕ぎつけたんだよ~!」

 

「ええ~……」

 

簪が唖然とするのも分かる。束に設計図を渡してから、2ヵ月やそこらしか経ってねぇもんな。

 

「あの~陸? 俺達にも説明してくれるか?」

 

ふと見渡すと、一夏を筆頭として、みんな俺と束の方を見ていた。

 

「説明するより見せた方が早いよ。というわけで、レッツスタート! ポチッとな」

 

束があっさり持っていたボタンを押すと、俺の端末の方に、いつの間にか受信アンテナのステータスが表示されていた。

最初は0kWだった表示が、どんどん値が大きくなっていき……

 

「おいおい……10万kWを超えたぞ」

 

「やった! 成功だよ!」

 

束がピョンピョン周りを飛び跳ねる。やっぱ兎か。

10万kW、だいたい日本の家庭、3万世帯分ってところか。試作品でこれなら、十分成功だな。

 

「宮下君、さっき言ってた太陽光発電って……」

 

「おう。宇宙空間で太陽光発電をして、それをマイクロウェーブ送電で地上に送るってやつだ」

 

「やっぱりぃぃぃ!!」

 

デュノアが顔を真っ青にしながら叫んだ。

 

「シャル? それってすごいことなのか?」

 

「すごいなんてもんじゃないよ! もしこれが実用化されたら、世界のエネルギー問題のほとんどが解決できるんだから!」

 

「よ、よく分かんないけど、すげぇんだな」

 

いや一夏、分からんのかーい。

そしてデュノア、たぶん束はそんな世界問題を解決するためにこれを作ったんじゃないと思うぞ。

 

「あ、紅椿のパーソナライズもちょうど終わったね。それじゃあ箒ちゃん、ちょっと試運転で飛んでみて」

 

喜んでいた束の顔がコロッと変わる。切り替え早ぇなおい。

 

「ええ。それでは試してみます」

 

次の瞬間、篠ノ之が乗ったIS・紅椿は、ものすごい速さで飛翔した。って、試運転だよな!?

 

「どうどう? 箒ちゃんが思った以上に飛べるでしょ?」

 

「え、ええ……」

 

オープン・チャネルなのか、姉妹の会話がこっちにも入って来る。

 

「それじゃあ次は――」

 

武器を使って――そう束が言おうとした時だった。

 

 

「た、大変です! お、おお、織斑先生っ!」

 

 

慌てた山田先生が、血相を変えて走ってきたのは――




太陽光発電受信アンテナの説明については情報を見つけられなかったので、アニメ1期のアザディスタンに設置されたやつの見た目に、現実の技術も混ぜたオリ設になってます。


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第37話 戦場の洗礼

臨海学校編、シリアスモード入りまーす。


山田先生と織斑先生が手話を始めたと思ったら、突然自室内待機が言い渡された。何が何だか分からん。

 

「専用機持ちは全員集合だ! 篠ノ之も来い!」

 

そして旅館の一室に、俺を含めた専用機持ちが全員集められた。

 

「2時間前、ハワイ沖で試験稼働中だったアメリカ・イスラエル共同開発の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が暴走、監視空域より離脱したと連絡があった。また、衛星による追跡と進路予測の結果、福音はここから2km先の空域を通過することが分かった」

 

「……」

 

全員、厳しい顔をして黙り込む。

おい、まさかこれって……

 

「先生、まさか俺達専用機持ちに、その軍用ISを止めろとか言うんじゃないでしょうね」

 

「そのまさかだ。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することになった。その際、教員は空域及び海域の封鎖を行う。よって、福音の迎撃は専用機持ちに行ってもらう」

 

おいおい……いくら最新鋭のISに乗ってるからって、学徒隊とかシャレにならねぇぞ……!

 

「それでは作戦会議を行う。意見があるものは挙手するように」

 

「はい」

 

さっそく、オルコットが手を挙げた。

 

「福音の詳細なスペックデータを要求します」

 

「分かった。ただし、これらは2カ国の最重要軍事機密だ。決して口外するな。情報漏洩した場合、諸君には裁判と最低2年の監視が付けられる」

 

「了解しました」

 

代表候補生の5人と教師陣は、開示されたデータを元に相談を始めた。俺は当然として、一夏と篠ノ之も蚊帳の外だ。

 

「広域殲滅を目的とした特殊射撃型……オールレンジ攻撃が行えるようですわね」

 

「攻撃と機動力特化ね。しかもスペック上ではあたしの甲龍を上回ってる……」

 

「この特殊武装が曲者だね……ちょうどリヴァイヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」

 

「それにしてもこのデータでは挌闘性能が未知数だ。偵察は行えないのですか?」

 

「無理だな。この機体は現在超音速飛行を続けている。アプローチは1回が限界だろう」

 

蚊帳の外から聞いてるだけでも、状況が芳しくないのがよく分かる。事前情報が無い状態で戦うことほど、怖いもんはねぇからな。

 

「1回だけのチャンス……ということはやはり、一撃必殺の能力を持った機体で当たるしか……」

 

山田先生の言葉に、全員がある方を見た。そう、一夏の方を。

 

「え……?」

 

「一夏、あんたの零落白夜で落とすのよ」

 

「お、俺が行くのか?」

 

「「「「当然」」」」

 

一夏ハーレムの声がハモった。

 

「私のメメントモリって手もあるけど……」

 

「織斑、これは実戦だ。もし覚悟が無いなら、無理強いはしない」

 

簪と織斑先生が一夏に逃げ道を用意するが、それは悪手だ。

 

「やります」

 

ほらな。そんな風に言ったら引けなくなるんだよ、一夏って奴は。というか織斑先生、それは明らかに一夏を追い込む言い方ですって。

 

「よし、それでは作戦の具体的な内容に入る。この中で、最高速度が出るISは?」

 

「それでしたら、わたくしのブルー・ティアーズが、。ちょうど本国から強襲用高機動パッケージが――」

 

「ちょっと待ったぁ!」

 

……天井から束が降ってきた。文字通り、降ってきた。

 

「とぅ!」

 

その束は落下中に前宙を決めると、ス○イダーマンのようなポーズで着地した。

 

「かっこいい……」

 

簪、目をキラキラさせるな。あれはマネしちゃダメなやつだから。

 

「ここは断・然! 紅椿の出番なんだよ!」

 

「何?」

 

「ほら見てちーちゃん! 紅椿なら、すーぐ超高速機動ができるんだよ!」

 

束がそう言うと、数枚のディスプレイが織斑先生の周りに現れる。

 

「なるほど……それで束、紅椿の調整にはどれぐらいの時間がかかる?」

 

「お、織斑先生!?」

 

なぜかオルコットが慌て出した。

 

「(たぶん、高機動パッケージを持ってるのが自分だけだから、当然作戦に参加できると思ってたんだと思う)」

 

「(ああ、一夏との共同作戦って思惑が外されたわけか)」

 

「わたくしとブルー・ティアーズなら……!」

 

「オルコット、お前の言っていたパッケージは、量子変換(インストール)済みか?」

 

「い、いえ……」

 

「ちなみに、紅椿なら10分もいらないよ♪」

 

束の言葉で、結論が出たようだ。

 

「では、本作戦を伝える。篠ノ之が織斑を目標地点まで運搬。その後、零落白夜によって対象を撃墜する。作戦開始は30分後。各員、ただちに準備にかかれ」

 

織斑先生の号令で、全員が動き出そうと立ち上がったところで

 

「宮下と更識、お前達には織斑達の後詰をしてもらう」

 

「はい?」

 

「後詰、ですか?」

 

俺達も参加しろと? しかも俺と簪だけ?

 

「お、織斑先生! どうして宮下さん達だけ……!」

 

うん、オルコット言ってやれ。

 

「落ち着けオルコット。宮下達に後詰をさせるのは、万一不測の事態が発生して作戦を中止した時に、織斑達をキチンと撤退させるためだ」

 

「確かに、命令を聞かずに敵に吶喊しそうな二人だからな」

 

「わ、私はそんなこと……!」

 

「そ、そうだ! 俺だってそんなこと……!」

 

ボーデヴィッヒの指摘を否定する二人だが、誰も支持しちゃくれないと思うぞ。ちなみに俺もな。

 

「つまり、何かあったら一夏と篠ノ之を殴ってでも連れ戻す係ってことですか」

 

「そういうことだ。頼んだぞ」

 

簪の方を見ると、『しょうがない』って顔をしていた。たぶん俺もそんな顔をしてるんだろう。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして現在、俺と簪は先行した一夏達を追う形で、海上を飛行しているわけだ。

 

「さすが束お手製のIS。スピードが圧倒的だな」

 

「でも、正直篠ノ之さんが使いこなせてるとは思えない」

 

「それなんだよなぁ……」

 

出発前に見たあの篠ノ之だが、ありゃ明らかに手に入れた(IS)に溺れてるな。

 

 

『なぁ箒、先生達も言ってたが、これは実戦なんだ。十分に注意して――』

 

『分かっているさ。 どうした? 怖いのか?』

 

『そうじゃねぇって。俺が言いたいのは――』

 

『ははっ、心配するな。お前はちゃんと私が運んでやる』

 

 

一夏との会話もご覧の通りだった。正直、一夏よりも篠ノ之を見てやんないとダメかもしれんな……。

 

「陸、織斑君達と対象の接触まであと20秒」

 

「何? もうそんなに先行してたのか」

 

『もう少しで目標ポイントだ。用意はいいか、一夏!』

 

『ああ! 絶対に成功させるぞ!』

 

オープン・チャネルで2人の会話も聞こえてくる。

 

『見えた! 一夏!』

 

『いくぜぇぇぇぇぇぇぇ!!』

 

織斑の威勢のいい声が聞こえたと思ったが

 

『一夏!?』

 

篠ノ之の驚く声が被る。

 

「おい、どうした!?」

 

こっちもオープン・チャネルで話しかけるが、返事が返って来ない。どうなってんだ!?

 

『一夏! せっかくのチャンスになぜ――!?』

 

『船がいるんだ! 海上は先生達が封鎖したはずなのに――密漁船か!』

 

「密漁船!? どうして……!?」

 

「簪、絶句してる暇はねぇ、急いで合流すっぞ」

 

「う、うん!」

 

 

 

全速力で飛ばして現場に着いた時、一夏の白式はすでにSE切れ寸前で、篠ノ之が何とか福音の攻撃を捌いて――

 

「馬鹿者! 犯罪者などを庇って――」

 

「箒!!」

 

「っ!?」

 

「そんな寂しいこと、言うなよ……。力を手にしたら、弱い奴のことが見えなくなるなんて……箒らしくないだろ……」

 

「わ、私、は……」

 

動揺した篠ノ之が、持っていた刀を落として……そして粒子になって消えた。あれは、具現維持限界(リミット・ダウン)! 篠ノ之のSEも限界が近いのか!

そして何よりまずいのは、あの二人が福音の目の前で動きを止めていることだ。

 

「あんのバカタレ共……!」

 

ここはアリーナじゃない、戦場なんだぞ!? そんなことしてる暇なんて……!

 

「陸! 福音の攻撃が来る!」

 

簪の悲鳴のような声と、福音がスラスターに付いた砲口を一夏達に向けていた。

 

「箒ぃ!」

 

何とか状況に気付いた一夏が、篠ノ之を庇おうと福音の射線上に出てきた瞬間、

 

 

俺はまた、何もできないのか?

 

 

俺の体は、自然に動いていた。

 

「陸!?」

 

後方から聞こえてくる簪の声も、

 

「陸!?」「宮下!?」

 

前方から聞こえてくる一夏や篠ノ之の声も、聞こえてはいたが、頭の中に入って来なかった。

 

気付けば、俺は篠ノ之を庇う一夏のさらに前、福音の真ん前に陣取っていた。

そこから見える、エネルギー弾の一斉射。ここまで飛んでくるのに消費したSE残量を考えれば、打鉄のカスタム機など、ひとたまりもないだろう。

間違いなく絶対防御を抜いてくる。命の保証なんてありはしない。それでも、

 

「それでも、俺は……」

 

そう呟いた直後、目を覆いたくなるような閃光と、体中を焼かれるような激痛が襲い掛かる。だが……!

 

「俺はぁぁぁっ!」

 

SEが切れる具現維持限界(リミット・ダウン)寸前で、無理矢理腕を伸ばして、福音のスラスターを鷲掴みにする。

 

「簪ぃぃぃぃぃっ!」

 

俺が叫ぶまでもなく、あいつは福音の背後に回り込んでた。以心伝心か、いいな……。

 

「これでぇ!」

 

弐式の右手が福音の首根っこを掴み、メメントモリ特有の赤黒い光が点滅する。

 

「La……」

 

福音の手が俺に向かって伸びてくる。そしてその指が俺の首を掴もうとしたところで、

 

福音が粒子化して消え、簪に首を掴まれた操縦者が残った。

 

「予定と違ったが……任務、完了、だ、な……」

 

「陸ッ!」

 

あー、俺の陰流もSE切れか。このまま真っ逆さまに落ちたら、海にドボンだな。絶対防御が生きてるうちに、海から拾ってもらうしかないなー。

 

(こんな俺でも……守れたよ……。なあ、刹那……ルルーシュ……)

 

大きな水音と背中に感じる激痛に顔を顰めつつも、海面から3()()()I()S()が見えることに安堵して、俺は意識を失った。




おやおや~? 白式が第二形態移行(セカンド・シフト)するタイミングが無くなっちゃいましたね~。どないしよ……。(ガチ悩み)
勢いで書いた結果がこれだよ……。

今後の展開で、何とか帳尻合わせます。はい。


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第38話 過去

この辺りで、オリ主に自己紹介してもらいますね~。(超今更)

今回は大半がモノローグになっています。苦手な方はささーっと読み流していただけると。(読み飛ばすと次回の話がワケワカメになるかもです)


「簪ぃぃぃぃぃっ!」

 

「これでぇ!」

 

福音の背後に回り込んでた私は、福音の首根っこを掴むと、メメントモリを発動させた。

その瞬間、私の意識は一瞬落ちて、気付けば――

 

「ここ、は……?」

 

私は、知らない場所に一人で立っていた。そして目の前には……

 

「り、く……?」

 

身長がもっと高くて、見た目の年齢ももう少し上に見える、陸にそっくりな人がいた――

 

「もしかして、相互意識干渉(クロッシング・アクセス)……?」

 

IS同士の情報交換ネットワークの影響から、操縦者同士の波長が合うことで起こる現象、だったはず。

 

「両者間の潜在意識下で会話や意思の疎通を図ることができる……でも、これは……」

 

目の前の"陸のような人"に声を掛けようと手を伸ばす。すると、私の手が彼の肩をすり抜けてしまった。これでは、相手に認識されようがない。会話や意思の疎通なんて図れない。

 

相互意識干渉(クロッシング・アクセス)じゃ、ない?」

 

なら、この状況は、何?

その時だった。

 

キキィィィィッ!!

 

「あ……っ」

 

"陸のような人"が、大型のトラックに撥ねられた――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「やぁやぁ人間君、ようこそ死後の世界へ」

 

「……」

 

気付けば俺は、一面真っ白で、見渡す限り何もない世界にいた。

いや、目の前にいる、紺色スーツの短髪男以外、何もない世界か。

 

「えーっと……聞こえてたら返事してほしいんだけど?」

 

「……ここはどこだ? お前は何者だ? これは一体どういうこった?」

 

「オーライオーライ、今から順番に説明するよ」

 

そう言うと、何もなかったところに、突然椅子が現れた。どういう原理だよ?

 

「さっきも言ったけど、ここは死後の世界だ。君、元の世界でお亡くなりになったんだよ」

 

「俺が、死んだ?」

 

んな馬鹿な……いや、朧気ながら記憶がある。

確か急な仕事が入ったとかで、整備士の資格を持った俺が夜中に呼び出し食らって、そのまま完徹で作業した。で、その帰りに信号待ちしてたら……してたら……

 

「トラックが……?」

 

「そう。君は大型トラックに撥ねられて、死亡したわけだ。せめてもの救いは、痛みを感じないぐらい即死だったってことぐらいかな」

 

「おいおい、マジかよ……」

 

「おや? ずいぶん冷静だね? 大体みんな、自分が死んだって認識したら、恐慌状態になるのが普通なのに」

 

「まぁ、驚いてはいるが……特に未練も無かったからな」

 

親の顔も知らずに施設暮らし。機械弄りが好きだからと整備士の資格を取得。高卒で就職したものの、車検の重要性を知らない連中が無茶した車の修理ばっかする毎日。正直、日々の生活に飽きていたんだ。

 

「だからこそ、僕が声を掛けたってわけさ」

 

「……で、お前は一体何者なんだ?」

 

「せっかちだねぇ。まぁいいさ、僕は――」

 

 

「僕はロキ。外史と呼ばれる世界の管理者さ」

 

 

それが俺とロキとのファーストコンタクト。そして、俺が外史で活動する現地作業員になった瞬間だった。だが、

 

そんなもの、なるべきじゃ無かったんだ……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

西暦2307年

 

最初に介入した外史は、かつて俺がいた地球と似て非なる世界だった。

モビルスーツと呼ばれる人型兵器が世に出回り、ユニオン、AEU、人類革新連盟という三大勢力が鎬を削る、人類同士の戦争が止まない世界。

そんな世界で『戦争の根絶』を掲げ、武力介入を行う、私設武装組織『ソレスタルビーイング』。俺はメカニックとして、組織が保有する人型兵器『ガンダム』の整備・開発を行っていた。

毎日が楽しくて仕方なかった。こんなデカいロボットを弄れるなんて、遣り甲斐しかねぇよ! ホントここは、最高の世界だ!

 

 

西暦2312年

 

世界からの拒絶、組織内から出た裏切り者、そして仲間との死別……

様々な出来事の中で、俺は、ようやっと自分の馬鹿さ加減に気付いた。

 

外史という創作世界だろうと、そこにいる人間は皆、()()()()()ということに。

 

そうさ、俺は何も理解してなかったんだ。自分が開発したガンダムの装備、それが何を(もたら)すかを。

周りの皆が時より見せる、あの苦悩が混ざった顔の、本当の意味を。

俺には、覚悟が無かったんだ。

 

例え返り血を浴びてでも、世界を変えたいと願い、戦う覚悟が――

 

 

西暦2314年

 

世界はやっと、統一への歩み寄りを始めることが出来た。

だが、それを嘲笑うかのように起こる、地球外生命体・ELSの出現。

そこで俺達は、ソレスタルビーイングの真の目的を知った。『来るべき対話』、つまりELS(地球外生命)との対話のために、俺達は戦っていたのだと。

そしてその対話のために、ダブルオー・クアンタを完成させた。だが……

 

「リク」

 

ハッとして振り向くと、そこにはダブルオー・クアンタのパイロット(ガンダムマイスター)の刹那・F・セイエイがいた。

どうも、整備中の()()()を見に来たようだ。

 

「クアンタの状況はどうだ?」

 

「イアンの親っさんが言うには、あと1時間ほどで完了だと」

 

「そうか」

 

「……なぁ、刹那。本当に行くのか?」

 

分かってはいるが、それでも聞かずにはいられなかった。前回火星付近で対話を試みた時には、あまりの情報量に死にかけたんだ。もし全てのELSと対話を行ったら、刹那は……

 

「ああ。世界を変えるために。未来を、切り開くために」

 

「……そうか」

 

俺は出来る限りの笑顔を刹那に向けた。

 

「安心しろ。向こうに到着するまでに、キッチリ整備しておく!」

 

「ああ、任せた」

 

そう言って、刹那はカーゴルームを出ていった。

 

「……くそっ」

 

――ガンッ!

 

「来るべき対話……その先に、争いのない、幸せな世界が待ってるんだろうよ……」

 

――ガンッ!

 

「なら、お前の幸せはどこにあるんだよ……! くそぉ……くそぉ……!」

 

 

 

こうして外史初介入は、俺に現実と絶望を刻み付けて幕を閉じた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

皇暦2010年

 

次に俺が送り込まれたのは、また、地獄だった。

超大国神聖ブリタニア帝国と、その属国となり、エリア11と呼ばれるようになった日本。

そこに俺は送り込まれ、ブリタニアに復讐を誓う男、ルルーシュ・ランペルージと共に『黒の騎士団』という反ブリタニア勢力を立ち上げ、戦いを挑んだ。

また、血が流れるのか……。

 

一度は反乱に失敗し、散り散りになりながらも、黒の騎士団は復活を果たし、戦いは続いた。

だがその途中、ルルーシュが持つ『ギアス』と言う、人を操る力が露見、味方であるはずの騎士団から弾劾され、追放されるという憂き目にあう。

その後、辛くも脱出したルルーシュは、実の父親であるブリタニア皇帝シャルル・ジ・ブリタニアを討ち果たした。

その時ルルーシュと、彼の親友で、復讐を果たした時まで敵同士であった枢木スザクは、ある計画を立てた。

計画の詳細を聞いた時、俺は絶望した。また、なのか……。

 

「スザク、約束通り、お前が俺を殺せ」

 

「やるのか、どうしても……」

 

皇帝シャルルを討ち、帝位を簒奪し、黒の騎士団を始めとした敵対勢力を征したルルーシュは、スザクに仮面を手渡した。

かつて自分が黒の騎士団で『ゼロ』と呼ばれ、ブリタニア人であることを隠すために着けていた仮面を。

 

「世界の憎しみは今、この俺に集まっている。あとは俺が消えることで、()()を迎えることが出来る」

 

自らが世界を統べる独裁者となって憎しみを一身に集め、そしてスザクが扮する『ゼロ』に討たれることで、憎しみの連鎖を断ち切る。それが、ルルーシュが立てた計画『ゼロ・レクイエム』。

 

「リク、準備は出来たか?」

 

二人が俺の方を向く。

 

「ああ、日本でのパレードの準備は完了。ジェレミア卿も、最後には納得してくれた」

 

「そうか」

 

頷くと、ルルーシュはこちらに近づき、俺の肩に手を乗せた。

 

「リク、今までありがとう」

 

「ルルーシュ……」

 

どうしてだ……どうしてそんな、いい笑顔が出来るんだよ……。

 

「お前ら……本当に良いのかよ!? 親友同士なんだろ!? やっとすれ違いも乗り越えて! なのに……どうして、こんな結末しか……」

 

「うん……そうやって、涙を流してくれる君がいるから、僕達はあとを託せるんだ。ねぇ、ルルーシュ?」

 

「ああ、そうだ。だから……頼む」

 

「分かったよ……分かったよチクショウッ!」

 

もう俺には、そう答えるしかなかった。

 

 

 

俺はスザクに、友殺しの汚名を着せることしか出来なかったんだ……!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

それから俺は外史に渡ると、とにかく楽しむことに重点を置くことにした。

おちゃらけて、馬鹿やって、周りを引っ掻き回して。

『俺には、あいつらが幸せになれなかった分、幸せになる義務がある』と、自分に言い聞かせて。

けど、時々自分の中で聞こえてくるんだ。『お前に、幸せになる資格はあるのか?』って。それが怖くて、何とかその声を押さえつけながら、何とかやってきた。

そんな時だ。ロキの野郎が何かやらかして、その尻拭いである外史に行くことになったのは。

 

 

外史・IS、か。もう、誰も失くさなくていい世界だといいな……

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「……はっ!」

 

気が付くと、私は打鉄弐式に乗ったまま、福音の操縦者の首を掴んでいた。

 

(さっきのは、一体……)

 

「予定と違ったが……任務、完了、だ、な……」

 

「陸ッ!?」

 

具現維持限界(リミット・ダウン)で陰流が解除された陸の頭が仰け反り、そのまま下に墜ちていく。

 

「陸! くっ!」

 

急いで後を追いたいけど、福音の操縦者が邪魔だ。

 

「織斑君!」

 

「え? あっ、おい!」

 

返事を待つのも惜しんで、私は織斑君に操縦者を投げ渡す。

加速する瞬間にキャッチしたところが見えたから、たぶん大丈夫。それより――!

 

――バシャァァァァァンッ!

 

「陸ぅぅぅっ!」

 

陸の後を追って、私も海の中に飛び込む。

夜の海は真っ暗だけど、ISのハイパーセンサーなら……見つけた!

 

――ザバァァァァァッ!

 

「陸っ! 陸っ!」

 

水から上がって何度か呼びかけると、わずかに口が動いた。良かった……。

 

せ…ル…

 

「陸?」

 

何かを呟いている陸に、私は耳を近づけた。

 

 

 

「こんな俺でも……守れたよ……刹那……ルルーシュ……」

 

 

 

「刹那、ルルーシュって……」

 

さっき私が見た幻覚?に出てきた……もしかして、あれは陸の記憶……?

 

(ううん、それよりも先に、陸の治療だ!)

 

頭の中で優先順位を立て直すと、私は陸を抱えて花月荘に向かって加速した。




オリ主の全部が全部、俺TUEEEなわけないでしょう? (暗黒微笑)

ちなみにこのオリ主、途中で外史から撤退したため、原作主人公達のその後を知りません。(知ってたら『友殺し』なんて表現使わないでしょうよ)


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第39話 ずっと一緒

一人より二人


目が覚めると、目の前に簪の顔があった。

 

「かん、ざ、し……」

 

「陸……やっと目が覚めたね……」

 

「おう、何とかな……」

 

体中の痛みと格闘しつつ、何とか上半身を起こした。

 

「あれから、どうなった……?」

 

「福音の撃破は成功。福音の操縦者も、無傷とはいかないけど無事。今先生達が、福音の残骸を回収してるところ」

 

「一夏達は?」

 

「二人とも軽傷」

 

「そうか……」

 

つまり被害らしい被害は俺だけってことか。

 

「また、対抗戦みたいになって……」

 

確かに簪の言う通り、ベッドか布団かの違いだけで、対抗戦の時とそっくりなシチュエーションだな。……簪の目に、涙が溜まってるところまでソックリだ。

 

「また、泣かせちまったな……」

 

「私、陸に泣かされてばっかりだよ……」

 

「ホント悪い。それでもあの時、飛び出さずにはいられなかったんだよ……」

 

「どうして?」

 

「……怖かったんだ」

 

「怖い?」

 

「何も出来ずに失うのが、な……」

 

柄にもなく、重ねちまったんだ。一夏と、()()()()を……

 

「大丈夫。陸はまだ、何も失ってない」

 

「簪……」

 

「だから……」

 

 

 

「だから陸はこの外史で、幸せになってもいいんだよ?」

 

 

 

 

「かんざ、し? お前、なんで……」

 

今、外史って……

 

「福音にメメントモリをぶつけた瞬間、陸の記憶が流れ込んできた、んだと思う」

 

「記憶が……?」

 

「うん。それで知った。外史のこと。管理神のこと。そして陸が、いくつもの外史を渡り歩いてきたことも……」

 

「そう、か……失望しただろ? いつも仲間を見捨てることしかできない、無様な俺を……」

 

「そんなことない!」

 

「か、簪……?」

 

俺が何か言う前に、簪は俺の頭を抱えるように、抱きしめていた。

 

「そんなこと、ないよ……だって、陸はその時その時のベストを尽くしたんでしょ? それなのに、自分を許せないなんて、そんなのダメ」

 

「だが……っ!」

 

「刹那さん達は、そんなこと望んでない」

 

「……っ!」

 

簪の言葉に、一瞬あいつらの顔がちらついた。未来のために、明日のために信念を貫いた、あいつらの顔が……。

本当は分かってたんだ。あいつらがそんなこと望んでないなんて。ただ、俺が自身の弱さを、あいつらを助けられなかった無能を、認めたくなかっただけだって……。

 

「弱くたっていい。無様だっていい。そんな陸だから、好きになったんだよ。私も……たぶん、刹那さん達も」

 

「……卑怯だろ、その言い方は」

 

とうに乾き切っていたと思っていたのに。ゼロ・レクイエムを見届けたあの日から、枯れ果てたと思っていたのに。

 

 

俺にまだ、流す涙があったなんて……。

 

 

「だからもう一度、幸せになろう?」

 

「……もう、失くすのは……一人は、嫌なんだ……」

 

「うん……ずっと、私が一緒にいるよ」

 

簪に抱きしめられたまま、俺はただただ、涙を流し続けた。

 

(刹那、ルルーシュ、スザク……こんな俺を、許してくれるか――?)

 

ーーーーーーーーー

 

「いやぁ、紅椿の稼働データがあんまり手に入らなかったのは誤算だったよ」

 

海面まで30メートルはある崖の端に座って、私は空中投影のディスプレイを見上げていた。

 

「紅椿はともかく、白式のデータも取れなかったのは痛いなぁ……」

 

いっくんも箒ちゃんも実戦で手を止めちゃうなんて、さすがの束さんも想定外だったよ。

いや、二人の青臭さを思えば、順当だったのかも。つくづく人間の感情って面倒だ。

 

「それでも、再戦の機会があればまた別だったんだけどね~」

 

けどそれも、りったんとかんちゃんが潰しちゃったからな~。ちょっと頑張り過ぎだよ二人とも。

 

「やぁ、ちーちゃん。りったんの様子はどうだい?」

 

「命に別状はない。今は更識が付いてる」

 

「そっか」

 

振り向かなくても、私とちーちゃんの会話は成立する。だから振り向かない。

 

「束、ひとつ聞いていいか?」

 

「なに~? ちーちゃんの質問なら、ひとつと言わず2個でも3個でもいいよ」

 

「……今回の件、お前が福音を暴走させたかどうか、そこは聞かん」

 

「あ、聞かないんだ?」

 

てっきりそれが聞きたいんだと思ってた。

 

「宮下が負傷したのは、お前の想定通りか?」

 

 

 

「ちーちゃん、いくら束さんでも怒るよ?」

 

 

 

「……そうか、悪かったな」

 

「うん、ホントだよ」

 

ようやく見つけた"束さんを理解し得る存在"なんだよ? そこらの有象無象と一緒にしないでよ。あ、もちろん身体能力は束さんの圧勝だけどね。

 

「ねぇ、ちーちゃん。今の世界は楽しい?」

 

「そこそこにな」

 

「そうなんだ」

 

「そういうお前はどうなんだ?」

 

「すっごくつまらなかったよ、ぶっ壊してしまいたいほど。けど……」

 

ディスプレイを消して、勢いをつけて立ち上がると、そこで初めてちーちゃんの方を振り向いた。

 

()()()()に出会って、もう少しだけ観察していたいなと思い始めてるよ」

 

ーーーーーーーーー

 

翌日、というより3日目の朝。

ISの絶対防御がギリギリ残っていたおかげで、陸の怪我は全身の軽い打撲で済んだ。

ただそれでも、4組のみんなと一緒に正座で食べられるほど完治したわけじゃない。だから……

 

「はい、あーん」

 

「あ、あの、簪さん?」

 

「何?」

 

「いや、膳を持ってきてくれたのは有難いんだが、一応自分で食えるっていうか」

 

「……あーん」

 

「……はい、いただきます」

 

陸は怪我人なんだから、ちゃんと食べさせてあげないといけない。陸も幸せ、私も幸せ。WIN-WIN。

 

「はぁ……また私は、お前らの惚気を見せられるのか……」

 

「あ、織斑先生」

 

「ど、どうも……」

 

それはそうと先生、襖を開ける前に一声かけてください。

 

「まったく……対抗戦の時の再現か?」

 

「痛いところが、前回の背中から全身にパワーアップしてますがね」

 

「ふっ、それだけ減らず口を叩けるなら、バスに乗っても平気そうだな」

 

「バスって……あっ、今日が臨海学校の最終日か」

 

そう、この臨海学校は2泊3日。つまり今日の朝食を食べ終わったら、撤収作業をして帰ることになっている。

 

「そういうことだ。更識、もし宮下が自力で歩けそうになければ、お姫様だっこでもしてバスまで連れてこい」

 

「分かりました」

 

「いやあの簪さん? 俺、お姫様だっこされてみんなの前に出てったら、色々終わっちまうんだけど……」

 

こうなってしまえば、陸は是が非でも自力で歩くだろう。織斑先生、ドS。

 

「ああ、あとこれは私個人からなんだが……」

 

「?」

 

「一夏を……私の弟を守ってくれたこと、感謝する」

 

そう言って頭を下げると、織斑先生は部屋を出て行った。

 

「……」

 

「今度は、失くさなかったよ。陸」

 

「ああ……そうだな」

 

少し照れたような、それでいて嬉しそうな顔の陸を見れたから、私としては満足。

 

ーーーーーーーーー

 

朝食後、2時間ほどで撤収作業が完了。全員がクラス別のバスに乗り込んだ。

ちらっと4組の方を見ると、陸が更識さんに肩を借りながら、席に座るところが見えた。

 

「……」

 

その様子を、隣の箒も見ていた。

 

「一夏……私は鍛え直さねばならないようだ」

 

「鍛え直す?」

 

「そうだ。私の心の弱さが、慢心が、今回の失態を招いた。だから、鍛え直すのだ。この紅椿に相応しい強さを得るために」

 

そう言って、箒は左腕に付けた金と銀の鈴が付いた紐――待機状態の紅椿――を撫でた。

 

「そうか……俺も参加するよ」

 

「一夏?」

 

「俺も、強くならなきゃいけないんだ。守られてばかりじゃない、守るために」

 

「一夏……」

 

 

「「「いちか(さん)~……?」」」

 

「うおぉ!?」

 

前の座席からラウラとシャル、後ろの座席からセシリアがにゅっと顔を出してきた。び、びっくりした……!

 

「2人で、随分楽しそうな話をしてるね~……?」

 

「昨晩に続いて、わたくし達は除け者ですの……?」

 

「嫁よ、それは無いんじゃないか……?」

 

「え、いや、その……」

 

 

ピロ~ン♪

 

「め、メール?」

 

スマホを開くと、差出人は……鈴だ。

 

『いちか~……学園に帰ったら、覚悟しなさい~……』

 

怖っ! えっ? どっかから見てんのか!?

 

「お前ら! 帰りぐらい静かにしろ!」

 

――スパパパパパァァンッ!

 

「「「「「ぎゃっ!」」」」」

 

俺達5人まとめて、千冬姉の出席簿アタックを食らってダウンした。

……強くなろう。せめて、千冬姉の攻撃を防御できるぐらいには。




というわけで、臨海学校編(原作3巻)終了でございます。

う~ん、当初の予定以上にオリ主が弱虫君になっちゃいました。まぁ本作の一夏と釣り合いが取れて来たとも言えますが。
逆に、自分が幸せになることを許したオリ主が今後暴れ出す可能性も微レ存。


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夏休み
第40話 オリ主、色々やり始める


夏休み編(原作4巻)の前日譚的な感じになります。
開き直ったオリ主をお楽しみください。


午前5時、アラームが鳴る前にベッドから抜け出す。うん、まだ暑くはないな。

そしてジャージに着替えると、ベッドでまだ寝息を立てている簪を起こさないように、壁に立てかけてあったものを持って部屋を出た。

 

 

臨海学校から帰って来て3日、俺と簪の関係は変わったような、変わってないような。いや、少なくとも俺は変わった。

今までは簪から俺の腕にしがみ付いていたが、最近では俺の方から手を繋ぐために手を伸ばすようになった。まぁなんというか、『簪の温もりを感じていたいから開き直った』が一番近いだろう。

相変わらずクラスメイト達からは生暖かい目で見られてるが、それ以外は特に悪い噂とかは流れていない。

 

そして変わったことがもう1つ。

 

「ふっ……、ふっ……!」

 

早朝の稽古を始めた。タイ捨流剣術の稽古を。とはいえ、まだ始めて3日目の上、素振りが主であるが。

今日も今日とて、木刀(最近知り合った用務員の爺様に廃材を融通してもらって削り出した、120cm近くあるもの)をひたすら振っているわけだ。昔、とある外史で簡単な手ほどきを受けていた時の型稽古を思い出しながら。

 

「ん? 宮下か?」

 

「織斑先生?」

 

素振りをしている俺のところに、ランニングでもしていたのか、ジャージ姿の織斑先生が近付いてきた。

 

「いつもこの時間に走ってるんですか?」

 

「まぁな。現役引退した後も続けている日課のようなものだ」

 

「なるほど」

 

「お前の方は素振りか? 前までは見かけなかったが」

 

「つい最近始めたんですよ。ちょっとした心境の変化ってやつです」

 

己の無力さを恨みながらも何もしなかった自分を、簪のおかげで捨てることが出来た。だから新しい俺になるためと、手始めに剣の修練をやり直そうと思ったわけだ。

 

「そうか……宮下、ちょっと付き合え」

 

「はい?」

 

「なに、少しばかり模擬戦をしようというだけだ。最近まともに刀を振るってなかったからな、久々に振りたくなった」

 

「模擬戦って……織斑先生と!?」

 

いやいやいや! ブレード1本でモンド・グロッゾを勝ち抜いた猛者と戦えるほど、俺の腕は上がってないんですが!?

 

「何を驚いている。しっかり別の木刀も用意しているのに」

 

「いや、それは予備の木刀……」

 

「ふむ。少し重めだが、却って振りやすいな」

 

俺の言葉をガン無視して、先生は予備の木刀(今持ってるものより短め)をブンブン振り回して調子を確かめると、俺の前に立って木刀を中段に構えた。マジでやんの……?

 

「さぁ、時間が勿体ないぞ」

 

「はぁ……分かりましたよ」

 

これ以上言っても無駄だと悟って、俺も木刀を構える。

 

「それじゃあ、こちらから行きますよ」

 

「ああ、来い」

 

 

「ツェアアアアッ!」

 

――カンッ! カンッ!

 

「なるほどっ、学年別トーナメントで見たが、その刀の長さと重さは脅威だな!」

 

「それを防ぐ、先生も篠ノ之も、俺にとっては脅威です、よっ!」

 

上段八双の構えからの袈裟懸け、そこから得物の重さを利用しての横薙ぎ払い、それらが全て防がれる。しかも篠ノ之のように受け流すのではなく、がっちり鍔迫り合いに持ち込んでだ。

 

「だー! 篠ノ之流は化け物か!」

 

「化け物とは失敬な。さて、今度はこちらから行くぞ!」

 

――ヒュッ! カンッ! カンッ! カァァァァンッ!

 

「うおぁっ!」

 

初太刀の正面振り下ろしは囮、その後の連撃を2回までは捌けたものの、3撃目で俺の持っていた木刀は宙を舞った。

 

「参りました、降参です」

 

両手を上げる。さすがに無手で続行は無しでお願いしたい。

 

「精進あるのみ、だな。だが、囮の後の連撃を2回耐えたのは悪くなかったぞ」

 

「それはどうも」

 

「本心で言ってるのだがな……私は引き揚げる。宮下も遅刻しないようにな」

 

木刀を俺に渡すと、先生は寮の方へ去っていった。

さて、俺も一旦部屋に戻るか……あ~、木刀弾かれた手がジンジンする~……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

部屋に戻ってシャワー浴びて、制服に着替えて、それから

 

「陸」

 

「おう」

 

「ぎゅ~」

 

簪とハグして(臨海学校が終わってから、いつの間にか日課になっていた)、のほほんと合流して朝飯を食ってる最中、ふと思い出した。

 

(金、どうすっかな……)

 

そう、以前先送りにしていた、補助金打ち切りの件だ。

臨海学校が終わり、再来週の期末テストが終われば夏休みだ。両親の墓参りだったり、簪とデート(未定)をしたり、金がかかるイベントが揃ってる。

また運よく学園内でバイト話があるとも限らんし、そろそろ金策を考えないとな……。

 

「おはよう、更識さん、布仏さん、宮下君」

 

「おはよう、デュノアさん」

 

「おはよ~でゅっち~」

 

「一夏と一緒じゃないなんて、珍しいな」

 

いつもなら一夏ハーレムを形成しているだろうに、今日はデュノア単体だ。

 

「一夏は朝練とか言って剣道場に行ったみたいでね。他の皆もまだ寝てるみたいだったし、僕だけ先に朝ご飯を食べに来たんだ」

 

「へぇ……」

 

あいつもやる気になったんだな~って、さっきの金策について、いい方法があるじゃん!

 

「なぁデュノア、お前のところの会社って落ち着いてきてるか?」

 

「え? 最近やっと第3世代機の開発に着手できるようになったって、お父さんから聞いてるけど……突然どうしたの?」

 

「陸、また何か企んでる?」

 

企むとは酷ぇ言い方だな簪。ジト目じゃなくて微笑なのは、信用の証ってことでいいんだよな?

 

「ちょっとデュノアに、というか、デュノアの親父さんにお願いがあってだな……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

という話をした夜、俺はデュノアとボーデヴィッヒの部屋(学年別トーナメント後に同室になったらしい)を訪ねていた。

簪も付いてきたそうだったが、今回は遠慮してもらった。今更隠すことでも無いとは思うが、そこは男の意地というか、なぁ?

 

「悪いなデュノア、急な話で」

 

「偶々今日が定時通信の日だったからいいんだけど……お父さんと何を話すの?」

 

「朝言った通り、ちょっとお願い事をな」

 

「フランス大企業の社長にお願い事とは……シャルロットもとんだ話を持ち掛けられたな」

 

「あ、あはは……」

 

ボーデヴィッヒよ、そこまで言うか?

とかやってる間に、定時通信の時間になったようだ。PCのディスプレイに映った壮年の男性、アルベール・デュノア社長だ。(ちゃんと事前にデュノア社のHPを見て確認済)

 

『シャルロット、元気でやっているか?』

 

「うん、大丈夫だよ。先週臨海学校から帰ってきたところ」

 

『そうか……見慣れない者がいるようだが?』

 

画面越しの視線が、デュノアから俺に移る。

 

「実は、お父さんに会いたいって頼まれてね」

 

「初めまして、宮下陸です」

 

『宮下……"2人目"か?』

 

「初めて言われましたが、"Oui(はい)"と答えておきます」

 

『そうか……それで、そんな君が私に何用かな?』

 

「まずはこれを見てください」

 

そう言って、俺はメモリースティックを取り出すと、PCに差し込んだ。

 

『何だねこれは……こ、これはっ!?』

 

「お、お父さん?」

 

「お、おい宮下、一体何を見せたんだ?」

 

 

「ドイツのAIC(慣性停止結界)、それを改造した特殊兵装の設計図」

 

 

「「ちょっ、おま!」」

 

 

ボーデヴィッヒのAICは狭い範囲の物体を完全停止させるが、こっちの改造版のその逆。ISの前面を有効範囲として、効果も完全停止ではなく低減にして、さほど集中しなくても発動するようになっている。理論上では、荷電粒子砲(春雷)の威力をアサルトライフル1発分にまで落とせる計算だ。

 

『……君は、私にこれを見せてどうする気だ……?』

 

 

「この設計図、買ってくれません?」

 

 

『「「ファーッ!?」」』

 

 

金が無いなら持ってるものを売ればいい。だけど倉持には売りたくない。なら、第3世代機を作るのに苦労してるデュノア社があるじゃない、というわけだ。

ちなみにこれ、当初は弐式に搭載する予定だったんだが、『威力低減させるぐらいなら、躱した方が良くない?』という簪の一声でお蔵入りになった代物だ。GNドライブ使って加速する方が、はるかに手っ取り早かったんだよなぁ……つまりこれ、不要在庫の処分も兼ねてるんだ。すまんな、そんなもの売りつけちまって。

 

「み、宮下! 貴様どうやってAICの改造なんて……! そもそも、どうしてAICの構造を知っている!?」

 

「お前と簪の戦闘データを見たら、何となく理解できたぞ」

 

学年別トーナメントで実物を見たらどうってことはない、単純に物体の加速度を0にするってだけの代物だった。PICの発展形って情報もあるんだ、スタートとゴールが分かっていれば解析も容易だったぞ。

 

「そんな……司令部に、なんて報告したら……」

 

ボーデヴィッヒがorzったが、無視しておく。今はアルベール社長との交渉が重要だからな。

 

「とはいえ、あまり安く買い叩かれたくはないもんで……」

 

『い、幾らぐらいを考えているのかね?』

 

「そうですねぇ……ユーロでこれくらい?」

 

俺はキーボードのテンキーで、希望金額を入力した。設計図1枚にしてはちょっと高めだが、相手が欲しいものは少しぐらい高くしても売れるはず……

 

 

『買う! 是非とも売ってくれ! というか買わせてくださいお願いします!』

 

 

「お、おうっ!?」

 

あれ、予想よりも食いつきがいいぞ!? あごひげはやしたダンディなおっさんが、めっちゃ頭下げてお願いしてる!?

 

「お、お父さん!? 宮下君、一体いくらを提示したの!?」

 

「え? いや、20万ユーロほど……」

 

「「20万ユーロ!?」」

 

「いやぁ、早く第3世代機を作るために欲しがるだろうから、少し吹っ掛けちまったんだが……」

 

「それで吹っ掛けたぁ!?」

 

血相変えたデュノアに肩を掴まれて、めっちゃ前後に揺らされて……き、気持ち悪くなりそうだから止めてくれ……

 

「ISの開発に、どれだけ掛かると思ってるの!? 第3世代機の、しかも主要部分の設計図が20万ユーロ!? それで開発できるなら、政府からの補助金なんていらないよ!」

 

「お、おう……」

 

その後もガクガク揺さぶられたが、なんとか胃の中の物をナイアガラ・リバースする前にデュノアが止まった。

 

「で、でもまぁ、こっちから言っちまった以上、値上げはしません。20万ユーロでお譲りします」

 

『ほ、本当か!? ありがとう! これでフランスも次世代機選定計画(イグニッション・プラン)に参加できるし、デュノア社もしばらくは安泰だ!』

 

「それでは、今お送りした口座への入金が確認でき次第、設計図のデータを――」

 

『今入金した! 確認してくれ!』

 

「早っ!」

 

念のため確認すると……入ってるわ、20万ユーロ(≒3000万円)。

 

「そ、それではデータをお送りしますね……」

 

メモリースティックのコピープロテクトを解除すると、中のデータをデュノア社――今通信で使ってるアルベール氏のPC――に送った。その後、メモリースティックを初期化。これは『余所に同じものは売らないよ』という俺なりの誠意、のつもりだ。

 

『……確かに、受領した。いやぁ、今回はとても素晴らしい取引だったよ!』

 

「あ、あんなお父さんの満面の笑み、見たことないかも……」

 

「それはそうだろう、20万ユーロであれが買えたのだから……」

 

なんかデュノアとボーデヴィッヒが遠い目をしてるんだが、大丈夫か?

 

 

 

 

そんなこんなで金が手に入った俺がホクホク顔で部屋に戻ると、簪が

 

「はい、これ」

 

とカップケーキを用意してくれていた。お、抹茶味か。

型紙を剥がして一口食べると、砂糖の甘みと抹茶の苦みがちょうどいい。

 

「ど、どう?」

 

「うん、美味い」

 

「良かった~……」

 

安心したのか、胸を撫で下ろす簪に、今度俺も何かプレゼントしようと決意したのだった。




デュノア社救済ルート入りました~。オリ主も懐が温かくなって、WIN-WINです。


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第41話 色々やってた裏側で

前回の別視点になります。


「「ふっ……、ふっ……!」」

 

早朝の剣道場。そこで俺と箒は、一心不乱に竹刀を振っていた。

 

『私の心の弱さが、慢心が、今回の失態を招いた。だから鍛え直す』

 

臨海学校でそう宣言した箒の言葉に、俺も思うところがあった。だからこうやって一緒に素振りをしている。強くなるために。守れるようになるために。

 

「ふっ……! ふぅ……一夏、今日はここまでにしよう」

 

「もうか?」

 

「ああ、これ以上すると遅刻してしまう」

 

箒が道場に掛かっている時計を見るように促すと、確かにそろそろ止めないと遅刻か朝飯抜きかの2択になっちまう。

竹刀を袋に仕舞い、部屋に戻ろうとしたところで、俺はふと自分の手のひらを見た。

 

(これで、強くなれるんだろうか……?)

 

「一夏、強さとはそう簡単に手に入るものではない。かつて篠ノ之流を習っていたお前なら、分かるだろう?」

 

「そう、だな……」

 

そうだ。たかが3日で劇的に強くなれるわけがない。しかも俺には、千冬姉に苦労を掛けさせまいとバイトをするために、剣道を辞めた空白の3年があるんだ。まずはそれを取り戻すのが先決だ。

 

「つくづく、3年のブランクが痛いな……」

 

「焦るなよ一夏」

 

「箒もな」

 

「ああ、分かっている」

 

かつての強さを取り戻したい俺に、紅椿を乗りこなす力を得たい箒。一朝一夕には解決できそうにないな……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

臨海学校から戻って来てから、宮下君と簪ちゃんの様子がおかしい。

クラス対抗戦の辺りから仲が良かったけど、な~んか、さらに距離が近付いたというか……。

 

「む~……」

 

「お嬢様、唸っても書類は減りませんよ」

 

「分かってるわよ~……」

 

気になる……。生徒会の書類にハンコを押しながら、どう動こうか考える。

 

「ねぇ本音、最近打鉄弐式の改修ってやってるの?」

 

「改修ですか~? 臨海学校から戻ってからは、まだですね~」

 

「そうなの?」

 

「りったんが、朝練したいから調子を取り戻すまで待って欲しいって~」

 

「ああ、早朝に素振りをしているのを最近見かけますね」

 

本音の証言を裏付けるように、虚も思い出したことを口にした。それにしても、素振りか……。

それはそうと本音、せめて私から見えないところでゴロゴロしてくれない? 本音が仕事する方が却って時間が関わるのは知ってるけど、その姿を見せつけられるとイラッと来るわ。

 

「りったん、もう一度剣の修練をやり直したいって言ってました~」

 

「確か、"タイ捨流"でしたか」

 

「ええ、私もトーナメントの時に見たわ」

 

八相の構えから繰り出される剛剣。篠ノ之ちゃん……なんか篠ノ之博士をちゃん付してるみたいで嫌ね……箒ちゃんって呼ぼう、に上手く捌かれてたけど、ちゃんと鍛錬していたら受け流せなかったんじゃないかしら?

 

「……よし、今度見学に行きましょ~」

 

「それは結構ですが、この書類を片付けてからにしてくださいね」

 

「……はい」

 

生徒会長の机に積まれた書類の山を見て、ため息をつきながらもハンコを押し続ける作業に戻るのだった。

まぁ見学はついでで、簪ちゃんと何があったか問い詰めるのが主目的なんだけど。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「それじゃ、ちょっとデュノアの所に行ってくる」

 

「分かった」

 

そう言って陸が出て行った後、私はあらかじめ借りていた寮の調理室に来ていた。

 

(久しぶりだけど、うまくいくといいな)

 

これから作ろうとしているのはカップケーキ。私の数少ない得意料理だ。

卵と砂糖、牛乳とサラダ油を泡だて器で混ぜて、そこにホットケーキミックスと抹茶を加えていく。

 

「~♪」

 

最初は記憶を辿りながらだったけど、大部分を思い出してからは鼻歌混じりで材料を混ぜていく。

 

「型に流し込んで……」

 

ちょうどガスオーブンの予熱も終わり、あとは焼けるのを待つだけ。

オーブンの前で椅子に座り、焼き上がるのを待っていると

 

「あら、アンタがいるなんて珍しいわね」

 

「凰さん?」

 

オーブンから視線を移すと、エプロン姿の凰さんがいた。

 

「へぇ、カップケーキ焼いてんだ?」

 

「うん。陸に食べてほしくて」

 

「そっか……いいわねぇ、作る相手がいるって」

 

「凰さんも、織斑君がいるんじゃ?」

 

「そ、それは、その……」

 

私の指摘に、顔を真っ赤にして顔を背けてもじもじし始めた。以前陸が凰さんのことを『ツンデレ』って言ってたけど、ツン成分どこ?

 

「織斑君に何か作るために、ここに来たんでしょ?」

 

「まぁ、ね……。やっぱりあたしは、あいつの胃袋を掴もうって戦術を変えられないって言うか……」

 

「……いいと思う。傍目から見てても、それが凰さんの強みだと思うし」

 

特級呪物を生み出すオルコットさんは論外としても、一夏ハーレム内で料理アドバンテージがあるのは、私が知る限り篠ノ之さんと凰さんぐらいだし。

 

「でも、酢豚以外もあるとなお良しだと思う」

 

「だから今回は青椒肉絲(チンジャオロースー)でいこうかと思ってるわ」

 

あ、作れるんだ。初めて屋上で食べた時から、何かにつけて酢豚ばっかり織斑君に食べさせてたから、てっきりそれしか作れないのかと思ってた。

 

――チンッ!

 

「あっ……!」

 

「出来たみたいね」

 

両手にミトンをはめて、オーブンからカップケーキを取り出す。表面に焦げたところもなく、焼けた砂糖の甘い匂いと、抹茶の香りが広がる。うん、成功だ!

 

「ほら、冷める前に持っていきなさい」

 

「うん。それじゃあ」

 

「ええ」

 

焼けたカップケーキを用意した箱に詰めると、私は凰さんに一声かけて急いで部屋に戻った。

 

 

 

部屋に戻って少ししたところで、陸が戻ってきた。何をしていたかは聞いてないけど、表情から"デュノアさんのお父さんとの話"がうまくいったんだろう。

 

「はい、これ」

 

まだ温かいカップケーキを、陸に差し出した。

 

「これ、簪が作ったのか?」

 

「そう。食べてみて?」

 

「おう、それじゃあ……」

 

型紙を剥がして一口齧る。どう、かな……?

 

「うん、美味い」

 

「よ、良かった~……」

 

用意していたカップケーキが無くなるまでの間、私は笑顔で美味しそうに食べてくれる陸を見つめていた。

 

(こんな幸せが、ずっと続けばいいな……)

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

昨日宮下相手に模擬戦をしたからか、今日も体の調子がいい。たまにはああやって、思い切り全身を動かすのがいいようだ。

 

「お前達、SHRの時間だ。席に……な、なんだ?」

 

朝のSHRの時間。教室に入った途端、ただならぬ気配が漂ってきた。

 

「……」

 

生徒達は一切無言で、とある方向から目を逸らしていた。そう、ボーデヴィッヒの方から。

どうやら、ただならぬ気配の発生源はそこのようだ。実際、真っ黒なオーラが漏れ出てる錯覚が……。

 

「おいボーデヴィッヒ、何があった?」

 

「教官……」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

あまりにどす黒いオーラに、出席簿で軽くこずく程度に留めたが、顔を上げたボーデヴィッヒが……あ、これダメな奴だ。完全に目が死んでる。

 

「き゛ょう゛か゛ん゛~~~~!!」

 

やっぱりダメな奴だったーー!! ボーデヴィッヒがギャン泣きしながら抱き着いてきたんだが!?

 

「もう我がドイツは……ドイツはお終いですぅぅぅぅぅ!!」

 

「ええいっ! ちゃんと説明しろ!」

 

――ガンッ!

 

「ぐふっ!」

 

「はー……はー……っ!」

 

何とか黙らせた上でボーデヴィッヒを引き剝がしたが、一体何があった? こいつがここまで錯乱するとは……。

 

「デュノア、何か心当たりはあるか?」

 

「はい、あります……」

 

こ、こいつもボーデヴィッヒほどではないが、遠い目をしているような……。

 

「昨日、4組の宮下君が僕達の部屋を訪ねてきました……」

 

「宮下が?」

 

なぜだ? デュノアの件は解決したし、今更あいつが顔を突っ込むようなこともないはずだが。

 

「僕達にではなく、僕のお父さんに用があったようで……」

 

「デュノア社長に?」

 

「はい……そこで宮下君は……」

 

「宮下は?」

 

 

「ラウラのAICを応用した第3世代機の設計図を、20万ユーロでデュノア社に売り払いました……」

 

 

「「「「「ファーッ!?」」」」」

 

 

一夏だけはキョトンしているが、それ以外の生徒、特にISの開発事情に詳しい連中から悲鳴が上がった。

何をやってるんだあいつは!? 各国が躍起になって開発している第3世代機の設計図を!? たった20万ユーロで売ったぁ!? しかもフランスのデュノア社にぃ!?

ボーデヴィッヒの目が死んでる理由は分かった。まさか自分のISが見ただけで解析されて、基幹部を他国に売られるなんて誰も思わんだろう。

 

「で、ですが、どうしてデュノア社に?」

 

「僕もセシリアと同じように疑問に思ってね、宮下君に聞いたんだ。そうしたら……」

 

 

『デュノア社に売った理由? たまたま縁があったから。あと倉持が嫌いだから』

 

 

「ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

倉持技研終わったぁぁぁぁ! 完全に宮下を敵に回してしまったじゃないか! そしてこれ、間違いなく私も日本政府から嫌味を言われる流れじゃないかぁぁぁぁ!

あ、胃が……胃が痛い……

 

「お、織斑先生?」

 

「山田先生……すみませんが、SHRと1時限目、代わりにお願いします……」

 

「えぇ? は、はい……」

 

山田先生が困惑する中、私はよろよろと教室を出ると、保健室に胃薬を求めて旅立った……。




シシカバブPが書く2次創作では、ちーちゃんはポンポン痛いキャラ確定なのである。


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第42話 自由国籍

夏休み編が何話ぐらいになるか見当がつかない……
もしかしたら、他章と同じぐらい(9~10話)引っ張るかもしれないです。


今日も朝の素振りをしていたところ、

 

「見学者よ」

 

なぜかパイセンが目の前にいるんだが?

 

「俺の素振りを見て、何が楽しいんです?」

 

「見学はついでで、ちょっと聞きたいことがあってね~」

 

「はぁ」

 

「簪ちゃんと、何かあった?」

 

えらく直球で聞いてくるなこの人。

 

「何かとは?」

 

「なんか距離が近くなった気がするのよね~」

 

「距離が近くなったねぇ……」

 

心当たりが……あるな。十中八九、臨海学校の()()だろうな。

 

「心当たりがありそうね?」

 

「ありますけど、それを聞いてどうするんですか?」

 

「べっつに~。ちょっと気になったから聞いただけよ~」

 

そんなあからさまにジト目しながら言われても、どう信じろと?

 

「大したことじゃないですよ。ちょっと簪に俺の秘密がバレただけで」

 

「秘密?」

 

「ええ、もちろんパイセンには教えませんがね」

 

嘘は言ってない。その秘密が、ちょっとスケールのデカい(俺が外史を渡り歩く存在という)話ってだけだ。

 

「普通、秘密がバレたら仲が悪くならない?」

 

「それは俺も思ってたんですがね。こればっかりは簪の器がデカかったとしか」

 

「う~ん、姉として喜んでいいのか、複雑だわ……」

 

「俺としては嬉しい誤算でしたけどね」

 

おかげで俺はこうやって、もう一度幸せになろうと思えるようになったわけだし。簪と出会えて良かったと、心から思っている。

 

「……宮下君、貴方変わったわね」

 

「また突然、何ですか」

 

「何でもな~い」

 

「いやもう、一体何なんですか……」

 

「まぁいいわ。ちょっと予想と違ったけど、聞こうと思ってたことは聞けたから、退散するわね~」

 

何か一方的に話を終わらせて、パイセンが引き揚げて行った。

で、結局何がしたかったんだ? あの人は。

 

「変わった、か……」

 

最後にパイセンが口にした言葉。パイセンにとっては何となく言った言葉なんだろうが、今の俺には嬉しい言葉だ。

それは俺が、"新しい俺"になれ始めてるってことだから。

 

ーーーーーーーーー

 

「……」

 

「お嬢様、いつも以上にぼーっとしてますが、どうしましたか?」

 

「虚、いつも以上って酷くないかしら?」

 

「ご不満でしたら、この書類の山を片付けていただけると」

 

「分かってるわよぉ……」

 

昨日もそうだったけど、どうして夏休み前ってこんなに書類が多いのかしら……。しかも嘘か真か、教職員が処理する書類も同じぐらいの量って話だし。どうなってるのよIS学園。今のご時世、もっとペーパーレスにならないの?

 

「それで、宮下君の朝稽古を見学されたようですが、どうでしたか?」

 

「どうもこうもないわ。簪ちゃんの懐が大きかったってだけの話みたい」

 

「はい?」

 

首を傾げる虚に、私は今朝のやり取りを話した。

 

「なるほど、簪様が宮下君に近づいていったと聞こえますね」

 

「そう。『貴方の秘密を知っても、貴方のそばにいます』って言ってるようなものよ。なーんか女としては、簪ちゃんに負けた気分よ……」

 

「少し前の簪様では想像も出来ませんね……」

 

確かに一途なところはあったけど、まさか簪ちゃんに恋愛関係で先を越されるとは、思ってもみなかったわ……。

 

「それに、宮下君自身も変わったわ」

 

「変わった?」

 

「ええ。何というか、優しくなったわ。いいえ、心に余裕が出来たっていうのが正しいかしら」

 

「それはおそらく、簪様への隠し事が無くなったからではないでしょうか?」

 

「多分そうね」

 

今までは自由にしていても、どこか線を引いていたところがあった。けど、今朝の彼にそんなところはない……気がしたのよね。

 

「あ~あ、宮下君に簪ちゃんが取られちゃうみたいでヤダなぁ」

 

「なんですか取られちゃうって。簪様はお嬢様の妹であって、所有物ではありませんよ」

 

「分かってるけど~……」

 

「このシスコン」

 

「シスコンじゃないわよ! ちょっと簪ちゃんのことが好きすぎるだけですぅ!」

 

魂を込めて反論したら、虚にため息をつかれた。うぐぅ……

 

 

 

「大変大変~!」

 

「本音?」

 

「こら本音、そんなドタバタ走ってはいけないと――」

 

「そ、それどころじゃないよお姉ちゃん~!」

 

確かに、いつものほほんとしている本音がこんなに慌てるなんて、何があったのかしら?

 

「それで、一体何があったの?」

 

「け、今朝のSHRででゅっちーが話してたんですけど……」

 

「でゅっちー……ああ、デュノアちゃん」

 

男装もスパイもする必要が無くなって、社内の派閥闘争も落ち着いたって聞いてたけど、また何かあったの?

 

「りったんが、デュノア社に第3世代機の設計図を売っちゃったんです~!」

 

「「はいぃ!?」」

 

これには私も虚も悲鳴を上げた。

第3世代機の設計図を、売った? しかもフランスのデュノア社に?

 

「しかも売った理由が『倉持が嫌いだから』って~……」

 

「あ、終わった」

 

虚がボソッと呟いた。うん、倉持技研、終わったわ。簪ちゃんの打鉄弐式を(本音と共同ってことになってるけど、実質一人で)完成させた宮下君を、完全に敵に回しちゃったわ。

 

「失礼しま――ってのほほん、何やってんだ?」

 

「本音?」

 

そんな中、ちょうど渦中の人である宮下君と簪ちゃんが訪ねてきた。

 

「あ~っ! りったん! どうしてでゅっちーの会社に設計図売ったの~!?」

 

「設計図?」

 

あら? 簪ちゃんに話してないの?

 

「前にボーデヴィッヒのAICを改造した特殊兵装、あっただろ?」

 

「あの、完全停止じゃなくて威力低減にして有効範囲を広げたやつ?」

 

「そうそれ、その設計図をデュノア社に売却したんだよ」

 

「そうなんだ」

 

ええ! 簪ちゃんそれだけ!? 第3世代機相当の設計図よ!? それ売っちゃったのよ!?

 

「まったく、いくら倉持技研と揉めてお金がないからって、外国に売っちゃうなんて……」

 

「「倉持技研と揉めた? お金がない?」」

 

簪ちゃんと本音が首を傾げる。何? 話してないの?

 

「お姉ちゃん、どういうこと?」

 

「宮下君、倉持技研からの技術提出の要求をずっと突っぱねててねぇ……」

 

「あのぉパイセン、それぐらいで」

 

宮下君は教えたく無さそうだけど、もう遅い。

 

「逆恨みした倉持が日本政府を唆して、彼への補助金を打ち切らせたのよ」

 

「パイセェェン! なんで言っちゃうんですかぁ!」

 

「陸っ!」

 

「は、はい!」

 

おおう!? 簪ちゃんが怒鳴るところなんて、久々に見たかも……。

 

「いつから?」

 

「え?」

 

「補助金打ち切られたの、いつから?」

 

「あ~……学年別トーナメントの辺りから、だな」

 

「なら、臨海学校のものを買うお金はどこから?」

 

「織斑先生にお願いして、学内バイトしてた」

 

簪ちゃんの問いに、直立不動で答える宮下君。尻に敷かれてるわねぇ……。

 

「どうして相談してくれなかったの?」

 

「いやなんというか、そこは男の意地というか……」

 

「はぁ……まったくもう……」

 

そう言いながら、簪ちゃんは宮下君に抱き着き――ええぇぇっ!?

 

「今度は、そういう隠し事は無し、だよ?」

 

「うぐっ……はい」

 

あ~、こんなところでラブラブ具合を見せられても困るんですけど~。

簪ちゃん……もう恋愛については、お姉ちゃんを超えちゃったのね……。

 

「ところで宮下君は、どうしてここに?」

 

「そうだったそうだった。パイセンに教えて欲しいことがあって来たんでした」

 

「私に? スリーサイズは教えられないわよ」

 

「いらんです」

 

わー、即答されちゃったー。微妙に傷つくわー。

 

「そういうのは、一夏相手にやってください。あいつ俺以上に初心ですから、いい感じに慌てると思いますよ」

 

「あ、それはいいわね」

 

織斑君をからかう……っと。心のノートにメモ完了。

 

「それで、話を戻していいですか?」

 

「OK。教えて欲しいことって何?」

 

 

「自由国籍って、どうやったら取れますかね?」

 

 

「え?」

 

じゆうこくせき? 宮下君が? え、日本国籍抜ける気?

 

「倉持うざいし日本政府も信用に値しないことが分かったんで、いっそ日本人辞めちまおうかと。もちろん陰流はちゃんと返却して、後腐れなくするつもりです」

 

「か、簪ちゃん? 宮下君がとんでもないこと言ってるんだけど……」

 

「そこは陸の自由意思に任せたい。何なら私も自由国籍権を取って、一からその国の代表候補生を目指してもいい」

 

「か、簪ちゃ~ん!?」

 

だ、ダメだ! 簪ちゃんの目は本気だ!

 

「だ、だけど打鉄弐式は!? いくら倉持へのデータ提出をしなくていいって言っても、コア自体は日本政府に返却しなきゃならないのよ!?」

 

「大丈夫。陸が作り直してくれるから」

 

「作り、直す?」

 

簪ちゃん、何言ってるの?

 

「一応これがあるんで、やろうと思えば出来ますね」

 

そう言って宮下君が取り出したのは、握り拳大の球体……ってぇ!

 

「ISコア!?」

 

「以前()()()()から入手しまして。こいつを『倉持から渡された時点の打鉄弐式』に付けて、連中に突っ返してやろうかと 貰いもんをこんな使い方して、不義理になっちまうけど……

 

なんか最後の方でボソボソ言ってるけど、そこまで計画練って来てたなんて……これはまずい、まずすぎる……!

 

「それで、自由国籍について教えて欲しいんです。確かパイセンも自由国籍取ってましたよね?」

 

「そ、そうねぇ……教えてあげてもいいんだけど、色々資料や書類があった方がいいでしょ? だからちょっと時間をちょうだい?」

 

「はぁ、分かりました。そんじゃ、必要なもんが揃ったら連絡ください」

 

「ええ、分かったわ」

 

というやり取りの後、宮下君と簪ちゃんは生徒会室を出て行った。

 

「虚……どうしましょう?」

 

これはまずすぎる。ネームバリューは織斑君より無いけど、実績は確実に宮下君が上。その宮下君が日本を抜ける? 間違いなく大問題になる。そして日本政府のお偉いさんから、ちくちくと嫌味を言われるわね、これ……。

 

「私もどうすればいいか……とにかく、学年主任の織斑先生に相談しますか?」

 

「そうね、そうしましょう」

 

「あ、それ無理だと思う~」

 

え? 本音どうして?

 

「設計図の件で今朝のSHRが終わる前に、織斑先生お腹押さえながら教室を出て行ったから、たぶん胃薬を求めて彷徨ってるかと~」

 

「「……」」

 

虚と二人、それを聞いて途方に暮れるしかなかった。




まさかのISコアの使い道。いい加減ここまで来たら、倉持と縁を切りたいのです。


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第43話 拡散

夏休み編と言いながら、まだ夏休みに入ってない件。


パイセンに自由国籍について教えてもらおうと思ったんだが、後日にということになってしまった。やっぱ、色々条件があるんだろうか。

で、時間が空いた俺と簪はのほほんを誘って、一夏達の模擬戦に混ぜてもらっているわけだが……

 

「うおぉぉぉぉっ!」

 

――ガンッ!

 

「ぐはっ!」

 

「だから真っ正直に突っ込むなって言ってるだろ!」

 

一夏の機動はすげー分かりやすい。引っかけという概念がないのか、とにかく真っ直ぐ突撃して来るのだ。おかげでカウンターが決まる決まる。

 

「陸がその左腕の銃で牽制するから、正面しか行けなかったんだよ!」

 

「そこはフェイント技でも使ってどうにかするもんだろ」

 

そう指摘すると、一夏の奴、顔を背けやがった。

 

「フェイント技って……なんか卑怯じゃね?」

 

――ガンッ!

 

「痛ってぇ! 無言で殴んなよ!」

 

「お前が殴られるようなこと言うからだろうが」

 

何を言い出すかと思えば……このバカタレが。

 

「いいか一夏。よほど実力差がある場合を除いて、大抵はフェイントが上手い奴が勝つんだぞ?」

 

「そ、そんなはずないだろ!? 現に千冬姉だって、モンド・グロッソで……」

 

「織斑先生? この前強制模擬戦した時も、がっつり使ってたぞ、フェイント」

 

「えっ……?」

 

おいおい、フリーズしちまったぞ。俺相手にすら初太刀からフェイント入れてくるような人なのに、なんで実弟のお前がそれを知らんのさ。

 

「実際織斑先生と戦って……は無理だとしても、第1回モンド・グロッソの映像とかなら資料室に行けばあるだろうから、一度見ろよ」

 

「お、おう。そうするわ……」

 

まだ動揺しているな。

 

「実姉が偉大過ぎて、都合のいい所だけ見えちまってるのかねぇ……」

 

「いや、千冬姉のことはちゃんと理解してるつもりなんだが……すぐ服を脱ぎ散らかしたり、ゴミを捨て忘れたりするところとか」

 

「……聞かなかったことにするぞ」

 

そんな情報を拡散すんな。だから織斑先生に出席簿で叩かれるんだよ。

 

 

 

 

陸が織斑君と模擬戦をしている間、私は一夏ハーレムのみんなと交流を……と思ったけど、デュノアさんとボーデヴィッヒさんの目が死んでる。

 

「ちょっとアンタ達、一体どうしたのよ?」

 

「ああ、シャルロットとラウラは……」

 

「なんと申しましょうか……」

 

凰さんの問いに、篠ノ之さんもオルコットさんも困った顔をするだけ。本当に、一体どうしたの?

 

「りったんが、でゅっちーの会社に設計図を売ったからだよ~……」

 

「それでどうして二人が……ああ、ボーデヴィッヒさんは納得」

 

考えてみれば、自国の技術が解析されて、改造したものが他国に売られたんだから、ショックも受けるよね。

 

「でもデュノアさんは? 設計図を買った側でしょ?」

 

「かんちゃん、りったんがいくらで売ったか知ってる~……?」

 

「え? ううん、知らないけど……」

 

――ガシッ!

 

「え?」

 

突然目をカッと見開いたデュノアさんに肩を掴まれたんだけど?

 

「宮下君、あの設計図を20万ユーロで売っちゃったんだよぉ!」

 

「に、20万ユーロ?」

 

え? 陸、そんな値段で売っちゃったの? てっきりもっと高額で売ったと思ってたのに。

 

「おかげでデュノア社は同業他社からやっかみ受けるし、IS委員会からも裏取引を疑われるしで大変なんだよ!」

 

「なら、買わなきゃよかったのに」

 

「うぐっ!」

 

あ、デュノアさん崩れ落ちた。たぶん陸の気が変わる前に即決した結果なんだろうけど、私からしたら『知らんがな』。

むしろ私としては、今回の件が悪い前例になって、陸の持ってる情報を買い叩こうとする人達が出そうで心配。倉持とか、各国のIS企業とか、倉持とか、日本政府とか、倉持とか、国際IS委員会とか、倉持とか。

 

「私も本気で、日本人辞めようかな……」

 

「日本人を、辞める?」

 

「うん。陸とも話したんだけど……」

 

私は一夏ハーレムのみんなに、生徒会室であったことを話した。

 

「倉持技研……どこまで愚かなんだ……」

 

「それに唆される、日本政府もですわね……」

 

「いいんじゃない? なんだったらウチ(中国)に来る?」

 

「ちょ、ちょっと鈴! しれっと勧誘とかズルいよ!」

 

「そうだぞ! むしろドイツに来ないか!? 我がドイツ国防軍技術部なら、2人まとめて好待遇を約束してくれるはずだ!」

 

「そ、それでしたら英国はいかがです!? オルコット家当主として、推薦状を書きますわ!」

 

「ね、ねぇ! さっきの話は水に流して、デュノア社のテストパイロットとかどうかな!?」

 

「かんちゃ~ん、なんかみんな怖い~……」

 

本音が怯えるのも分かる。私も思い切り引いてる。

 

「今はまだ、自由国籍が取れるかも分からないから、何も言えない」

 

「「「「あ……っ」」」」

 

英中仏独の4人は、その当たり前のことに今更気付いたとばかりに、各々恥ずかしそうに顔を逸らした。

 

「なんだなんだ、そっちは楽しそうだな」

 

「なんかみんな顔が赤いけど、どうしたんた?」

 

模擬戦が終わったのか、ISを待機状態にした二人がこっちに歩いてきていた。

 

「箒、みんな一体どうしたんだ?」

 

「ああ、それなんだが……」

 

 

――篠ノ之箒の説明タイム――

 

 

「そうか、やっぱ20万ユーロは安すぎたか」

 

「今度は適正価格を調べてからにしよう?」

 

「だな」

 

「いやいや、そんなことより、陸が日本人辞めるってマジか? しかも更識さんも」

 

「自由国籍が取れたらって話だがな」

 

「マジかぁ……大丈夫なのか倉持技研。自分の乗ってるISだから、余計心配になってきた」

 

織斑君の心配はよく分かる。というか、本当に白式は倉持が作ったんだろうか? 織斑君に白式が渡ってから3ヵ月は経ってるのに、解析結果のフィードバック一つ無いなんて。

 

「臨海学校で一度束に見せてるんだろ? なら、ある程度は心配しなくていいんじゃねぇか」

 

「それもそうか。箒の紅椿をセットアップするついでに、見てもらったんだった」

 

確かに篠ノ之博士が一度見てるなら、少なくとも不具合とかは心配しなくて良さそう。

 

「本当にダメそうだったら、俺らと一緒に日本人辞めようぜ」

 

「いや、さすがにそれは……」

 

そうだよね。普通は自分の国を捨てるとか、簡単には決められないよね。私? 私は陸のいるところが祖国だから。(キッパリ)

 

「とにかく今は安心して、ハーレム連中にボコられてきな」

 

「ハーレム言うな! ていうかボコられる前提かよ!?」

 

 

ツッコミをいれた織斑君だったけど、今日の戦績は7戦全敗だった。特に同じ接近特化の陸に負けたのが悔しかったらしく

 

「ぜってー近い内に勝ってみせっからなぁ!」

 

と半泣きで宣言していた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「どうしましょう……」

 

昨日は適当なこと言って宮下君に帰ってもらったけど、いつかは話さないといけないのよね……。

 

「自由国籍……条件なんてあって無いようなものなのよね……」

 

そう、ぶっちゃけ国籍を変更する先の政府が了承すれば、成り立ってしまうのだ。もちろんスパイの可能性なども考える必要があるから、諸々の調査は必要だけど。

でもそれを正直に言っちゃったら、翌日にも宮下君は日本国籍を捨てちゃうはず……。

 

「ホント、どうしましょう……」

 

つい数秒前と同じセリフが出てくるあたり、完全に詰んでるわ……。今も間違えて『完勝』の扇子を出しちゃうし……。全然勝ってないわよ……。

 

「お嬢様……」

 

「う、虚?」

 

死んだ目で生徒会室に入ってきた虚を見て、私は察した。……ホントは察したくなかったけど。

 

「宮下君、ね?」

 

「はい……」

 

虚の返事を聞いて、まずは深呼吸。落ち着け私……。

 

「それで、何があったの?」

 

 

「宮下君と倉持技研の確執の件、全世界に拡散しました……」

 

 

「……えっ?」

 

 

一瞬、頭の中が真っ白になった。たぶん、虚の言ったことを理解するのを、私自身が拒否したからだろう。

 

「宮下君や簪様から1年生の専用機持ちに、そこから各国政府に情報が伝わったようで……」

 

「どうしてこうなった……」

 

「さらに自由国籍の件も一緒に漏れたらしく、各国が宮下君を自国に引き込もうとしているという情報も……」

 

「……」

 

「お嬢様……?」

 

 

「うわぁぁぁぁぁんっ! もうやだぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

「お嬢様!?」

 

なんでこうなるのよぉ! 宮下君も簪ちゃんもわざと!? わざとなの!? そんなにお姉さんを困らせて楽しいの!?

 

 

「私も簪ちゃんと一緒に日本捨てりゅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 

「お嬢様! しっかりしてください、お嬢様! そもそもお嬢様は国籍ロシアでしょう!」

 

 

 

その後正気を取り戻した私だったけど、直後に腹痛を感じて保健室に。そこで

 

「あ」「あ」

 

今まさに、保健室の先生から胃薬をもらっている織斑先生と鉢合わせたのだった……。




いじられキャラの楯無さん、本作ではこれがデフォです。


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第44話 神様公認

ちょっとここらで神様回を。(早く話を進めろよ)

それと高評価入れてくださった皆様、ありがとうございます。
青色スタートを覚悟してた頃に比べると、やっぱりモチベが違いますね。


~~~♪

 

ある日の夜、簪が大浴場へ入りに部屋を出ている時に、俺のスマホが鳴った。

 

「……はぁ」

 

ディスプレイを見ると、そこにはいつもの番号が……またか、あの駄女神が。

 

「おい、今度はなんだ……」

 

『神界のアイドル、ロキちゃんだよー!』

 

「ぶふっ!」

 

まさかの不意打ちに、思いっきり吹き出しちまった。

 

『いやぁ、やっとシギュン達からの折檻から解放されたんだよぉ』

 

「あっそ。おめっとさん」

 

『うわー、なんか優しさを感じないんですけど―』

 

「んなもんねぇよ」

 

――ガチャッ

 

「陸……あ、電話中だった?」

 

いつもより早く、簪が戻ってきた。あ、そうだ。

 

「簪、ちょっとお前も話に加わってくれ」

 

簪に俺の過去がバレてる以上、ちょうどいい機会かもしれん。

 

『えっ? ちょっと待ったリク、まさか……』

 

「そのまさかだ」

 

そう言って、スマホをスピーカーモードに切り替えた。

 

「というわけで、俺の上司(ってことになってる)ロキだ」

 

『ちょっとリクぅぅぅぅ!?』

 

「初めまして、陸の嫁の更識簪です」

 

『あ、これはご丁寧に……じゃなくてぇ!』

 

ロキがあんなに慌てるなんて、珍しいもんが見れてるな。ちなみに簪の嫁発言についてはノーコメントだ。

 

『なんで僕の存在バラしちゃうのさぁ!』

 

「いや、ちょっとした事故で俺の過去を見られちまってな。すでにモロバレなんだよ」

 

『へ?……ちょっとタンマ』

 

スピーカーの向こうから、ドタバタする音が聞こえてくる。過去の映像でも探してんのか?

 

『ホントにモロバレじゃん! 何しちゃってるのさリク! 基本、外史の人間には君達現地作業員の素性はバレないようにするってルールだったじゃん!』

 

「だから事故だって」

 

『んもー!』

 

「陸、もしかしてバレたらまずいの……?」

 

「まずいな。……監督者であるロキが」

 

「あ、そうなんだ」

 

『リクに被害が無いって知って、あからさまに安心しないでもらえる!?』

 

すまんが、今度は俺のために主神(オーディン)から折檻受けてくれ。

 

『そうです! どうしてあんなことをしたのですか!?』

 

『うわっ! ちょっとシギュン! 今僕が話してるんですけどぉ!?』

 

どうやら駄女神が乱入してきたようだ。というか神様暇なのか? 暇なのか。

 

「シギュンさんって、ロキさんの奥さんだっけ?」

 

「おう。俺に一夏を育てろとか抜かした頭パーな駄女神だ」

 

『誰が駄女神ですかっ! それに一夏様を最高の存在にすることの、何が問題なのです!?』

 

「……こんなやつだ」

 

「うわー……」

 

おう駄女神、簪が汚物を見るような目ぇしてるぞ。

 

『はっ! そうでした、貴方は何一夏様より目立っているのですか! 最初にNGだと伝えたはずでしょう!?』

 

「ああ、あのさ〇ま〇し構文、まだ有効だったのか。そっちが一夏接触禁止を解いたから、全部無効になったと思ってたわ」

 

『ぬあぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

駄女神の絶叫がスピーカー越しでも響いてうるせぇ。モロ自爆だから、言い返す言葉が無いんだろう。

 

「というか俺、そんなに目立ってたか?」

 

ボーデヴィッヒのISが暴走した時も一夏に見せ場を作ったりして、うまく目立たないようにしたつもりだったんだが……。

 

「専用機を渡された時点で、十分目立ってた。デュノア社に設計図を売ったのが止め」

 

「……マジ?」

 

簪の言が確かなら俺、先月時点でアウトだったのかよ……。

 

『はいはい、シギュンはあっちで絶叫しててね……それで、カンザシだっけ?』

 

「はい」

 

『君はいいのかい? 現地作業員として永遠に近い時をもって外史を巡るリクにとって、君と一緒にいる時間は泡沫(うたかた)の夢のようなものだ』

 

「おい、ロキ……!」

 

「別に構いません」

 

『へぇ?』

 

「確かにこの時間は、陸がこれまで生きてきた時間に比べたら、はるかに短いと思います。けど……」

 

 

 

「その短い時間が、陸にとって一番幸せな時間になると確信してるから。それが、私の望みだから」

 

 

 

「簪……」

 

『なるほどねぇ……』

 

数秒か、それとも一瞬だったのか。無音の時間が流れ、

 

『分かった。君がそこまで言うなら、記憶消去は止めておこう』

 

「お前、そんなことも出来たのかよ……」

 

『そりゃ神様だから』

 

ムカつくぐらい偉そうな口調が返ってきやがった。

 

『それじゃリク、引き続き頑張ってちょーだい。あ、嫁といちゃつくのは程々にね』

 

「おまっ」

 

――プッ ツー、ツー……

 

「切れたね」

 

「切れたな」

 

結局、バ神夫婦が喋りたいこと喋り続けてた感じになったな……。もうしばらくは連絡しなくていいぞ。

 

「陸」

 

「ん?」

 

「ぎゅ~」

 

はい、簪に抱き着かれました。

 

「神様に宣言したから、さっそく幸せ時間生成」

 

いやまぁ、嬉しいか嬉しくないかで言えば、嬉しんだが……。

 

「俺まだシャワー浴びてないんだが……せっかく風呂に入ったんだろ?」

 

「平気。それとも、一緒にシャワー浴びる?」

 

「さすがにそれは勘弁してくれ……」

 

一瞬『それもいいか』と思ってしまった俺の馬鹿野郎! もっと働け俺の理性!

 

ーーーーーーーーー

 

「くくくくくっ、あははははははっ!」

 

リクとの通話を切った直後、僕は笑いを堪えるのを止めた。

 

「ロキ、あまり品のない笑いは止めてくださいません?」

 

「品がないとか言わないでよ」

 

傷つくなぁ。まぁ僕の心は、傷ついても超再生するんだけど。

 

「それにしてもあの眼鏡娘、よくもあのような啖呵を切ったものです」

 

「だね。リクも随分メンタルが強くなったというか……いや、あのカンザシって娘のおかげか」

 

まさか、何百年も自分の無力さから目を背けて逃げ続けた臆病者が、こんな些細なきっかけで再び立ち上がるとはね……。

 

 

「これだから面白いんだ、人間って奴は」

 

 

ーーーーーーーーー

 

「『所定の手続きを行う』『国籍を変更する先の政府了承を得る』……えっ? 条件って、たったこれだけ?」

 

翌日、虚先輩に呼ばれて生徒会室に来た俺と簪は、パイセンから渡された紙を見て唖然とした。

 

「お姉ちゃん……これだけの説明をするために、私達を待たせたの……?」

 

「やめてっ! 簪ちゃん睨まないで! 事情があったのよ事情が!」

 

睨む妹と怯える姉。なんだこりゃ。

 

「だって条件がこれしかないって知ったら、二人ともすぐに日本国籍を抜けちゃうでしょ?」

 

「「それはそう」」

 

少なくとも、自由国籍の手続きはすぐにやっただろうな。

 

「そんなことになったら、日本政府に更識家当主の私がイジメられるのよぉ!」

 

「そんな理由かよ!」

 

というか、日本政府にイジメられるって、更識家って何者だよ……?

 

「更識家は対暗部用暗部、カウンタースパイの家系。政府とも繋がりがある」

 

「へぇ……って簪、俺口に出して聞いてないはずなんだが……」

 

「陸の顔を見たら分かる」

 

「Oh……」

 

ウチの嫁はすごく万能らしい。

 

「簪ちゃん、更識家については口外してほしくないんだけど……」

 

「でもお姉ちゃん、いつかは陸にも知られると思うよ」

 

「そうなんだけどぉ……」

 

力尽きたパイセンが、机の上で上半身たれぱんだに。

 

「それに今回の件で、お姉ちゃんがイジメられる理由が分からない。だって陸が自由国籍を取ろうとしてるのって、日本政府が原因なのに」

 

「簪ちゃん、覚えておくといいわ。世の中には、自分がやらかした失態をさも他人がやったように責任転嫁するプロがいるのよ。主に霞が関に」

 

ああ、つまり官僚連中ってことね。そして永田町の議員先生達は、その転嫁された情報を元に、パイセンとちくちくとイジメるわけか。

 

「さらに困ったことに、簪様が代表候補生達に自由国籍のことを話してしまったため、倉持の件も含めて、各国に情報が拡散してしまい……」

 

「「あ~……」」

 

「そのため、各国が宮下君や簪様を自国に引き込もうと暗躍し始めて、更識家の実働部隊は大慌てです」

 

虚先輩の説明に、俺と簪は内心『やらかしたかも』と思った。

 

「とにかく、こうなった以上自由国籍については教えたから、候補の国を決めたら絶対連絡をちょうだい……絶対よ……」

 

それだけ言って、パイセンの手から『約束』と書かれた扇子が落ちた。

 

「パイセン、申し訳ないです……」「ごめんね、お姉ちゃん……」

 

力尽きたパイセンに、俺と簪はそう言うしかなかった。




今まで読んでくださった読者の方々はお分かりと思いますが、本作のお姉さんキャラは大体苦労人です。あれ? その流れで行くと、いつか山田先生にも胃薬が……?


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第45話 ドキッ!夏休み前のダイジェスト大会!!~(首が)ポロリもあるよ~

サブタイ通りです。


「申し訳なかった!!」

 

あ……ありのまま、今起こった事を話すぜ!

『地獄の期末テストが終わり、さぁ夏休みだと思った矢先、織斑先生から呼び出しを受けて簪と学園長室に来てみたら、日本国の首相に頭を下げられた』

な……何を言ってるのか分からないと思うが、俺も簪も何をされたのか分からなかった……。

頭がどうにかなりそうだった……ドラマの撮影だとかパイセンの仕掛けたドッキリだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ。

もっと恐ろしいものの片鱗を味わってるぜ……。

 

「今回のことは、完全にこちらの落ち度だ」

 

そうして目の前の男(首相)は、事の顛末を話し始めた。

 

 

 

倉持技研に唆されて、政府から俺に支払われる補助金が打ち切られた件。これは政府側の担当者が独断でやらかしたことらしい。

今回、俺と簪が自由国籍取得を考えてることについても、当初は『どうしていきなり?』という感じだったそうだ。で、そこで初めて補助金打ち切りの件を知ったと。ねぇねぇ君達、監査って何のためにあると思ってるんだい?

そして担当者を締め上げたところ、さらにとんでもないことが発覚した。その独断君と倉持の上層部には、『女性権利団体』という共通点が見つかったのだ。

もうお察しだろう。そう、今回の一件は『織斑一夏(ブリュンヒルデの弟)以外の男性操縦者を認めない』という女性権利団体が、俺を干上がらせるために仕組んだものだったというわけだ。しかも後の調査で、簪の打鉄弐式開発が凍結されたのも、元を辿ればこいつらが一夏の白式を優先させるために横槍を入れたのが原因らしい。

 

 

 

「現在、倉持技研を始めとしたIS関連機関や政府機関から、女権団関係者の掃除を行っている最中だ。今後はこのようなことが無いと誓おう」

 

「はぁ」

 

「君が被った被害についても、きっちり補償する。だから自由国籍の件、考え直してくれないか?」

 

あ、やっぱ着地地点はそこなんだな。

織斑先生と学園長に視線を向けるが……特に反応なし。完全に傍観者に徹するつもりらしい。

 

「(どうする簪)」

 

「(私としては、陸に付いていくだけだから、日本国籍のままでも構わない。もちろん今後、同じようなことが起こらないことが前提だけど)」

 

「(だな。なら……)」

 

「分かりました。自由国籍の件については、一旦取りやめようと思います」

 

「そ、そうか……! ありが「ただし!」あ、ああ……」

 

「次にまた女権団ないし政府が何かやらかしたら、俺と簪はオランダ辺りにでも鞍替えしますので」

 

「わ、分かった。肝に銘じよう……」

 

 

こうして、俺と簪の日本脱出計画は、一時保留となったのだった。

首相の言ってた補償とやらで、俺には今まで払われなかった補助金が、延滞金と謝罪金込みで振り込まれることになった。……デュノア社へ売った設計図の代金の方がデカいのは、言っちゃいけないお約束か。簪も、担当企業を倉持技研から好きな企業に変える自由をもらっていた。これで名実ともに、倉持とはおさらばだ。

 

ちなみに、今回の一件でやらかした倉持技研の第一研究所所長は、首がポロリしたらしい。……社会的にだよな?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ありがとう簪ちゃん宮下君~!!」

 

「うわっぷ!」

 

「お、お姉ちゃん、く、くるしい……!」

 

約束通り、自由国籍を保留にしたことをパイセンに伝えたら、簪ともども抱きしめられたんだが。

そろそろ簪がマジで危なそうなんで、離してもらえます?

 

「二人が日本に留まってくれるおかげで、私と織斑先生の胃が救われたわ!」

 

「ここ数日、お嬢様と織斑先生の胃薬消費量は異常でしたから……」

 

おいおいマジかよ……俺も簪も、まさかここまでの騒動になるとは思ってもみなかった。

 

「第3世代機を一人で組める陸が自由国籍になるとか、騒動になって当然」

 

「ええ~……」

 

訂正、騒動になると思ってなかったのは俺だけらしい。

 

「いいえ、すでにお嬢様にも勝てる簪様も、騒動の種になってます」

 

「ええ~……」

 

さらに訂正、やっぱり簪も思ってなかった。

 

「あ~、やっとあの胃痛から解放されるのね~」

 

パイセン、なんつー清々しい顔してやがる。……そんなに俺達、気苦労掛けたのか?

 

「と、とりあえず、俺達はこれで……」

 

「ええ、報告ありがとう」

 

ハイテンションになってるパイセンを虚先輩に任せて、俺と簪は生徒会室を後にした。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「まったく、困っちゃうわね……」

 

アメリカ西海岸のとあるマンションの一室――秘密結社『亡国機業(ファントム・タスク)』の隠れ家の一つ――で、私は端末に映る内容を見て嘆いた。

 

「どうしたんだ、スコール?」

 

「これ見てよ」

 

そう言って、私はオータムに端末を渡した。

 

「なんだこりゃ。日本の中枢にいた女権団の連中が、一斉にこっちに流れ着いてきたって?」

 

「そうなのよ。どうも例の"2人目"の件がきっかけで、一斉摘発がはいったようね」

 

「で、追い出された連中が、ってか。しかもこいつら、団体からは尻尾切りにされたんだろ?」

 

「ええ。『今回の件は一部の過激派が独断で行ったことで、我々は一切関与していない』ですって」

 

「正直、いい迷惑だな」

 

「まったくよ」

 

オータムが言うように、そんな簡単に切られるような無能を取り込んだところで、実働部隊の私達としてはいい迷惑でしかない。

だってそうでしょ? 実働部隊に回ってきたら、無能すぎて使えないどころか足を引っ張られそうだし、幹部会に入った日には、彼女達考案のお馬鹿な命令がこっちに回って来る。ホント、いい迷惑よ。

 

「それで、私達はどう動く?」

 

「しばらくは待機よ。エムがイギリスで"荷物"を受け取るまでは、ね」

 

「はっ! あのガキ待ちかよ! つまんねぇなぁ」

 

「はいはい、拗ねない拗ねない」

 

「スコール……」

 

さっきまで拗ねていたのに、オータムってばすぐ甘えてくるんだから。可愛い可愛い、私の恋人……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

日本脱出計画を保留した日の晩、食堂で一夏達も交えて晩飯を食っていた。

 

「倉持技研、本当に大丈夫か……?」

 

「大丈夫だって。白式を担当してるのは第二研究所って話だから、今回粛清を食らった第一とは別らしいぞ」

 

「そ、そうなのか。それなら一応安心、なのか?」

 

一夏にとっては気が気じゃねぇだろうな。今でさえサポートらしいサポートがねぇのに、ここで開発元が無くなったら目も当てられない。

 

「ねぇ更識さん! 担当企業を変えられるなら、デュノア社とかどうかな!?」

 

アザトイさん(デュノア)はさっそく簪に営業かよ」

 

「あ、あざといさん!?」

 

「あ、やべ、主音声と副音声逆だった」

 

「宮下君!?」

 

「ほらシャル、落ち着けって」

 

「一夏ぁ……」

 

いやいや、そうやって一夏にべったりなるから、あざといんだって。初期三人組(篠ノ之・オルコット・凰)も睨むな睨むな。

 

「宮下をドイツに迎えれば、名誉挽回できると思ったのだがなぁ……また司令部からお小言をもらうのか……」

 

ボーデヴィッヒ、そんな遠い目しないでくれ。なんか俺が悪いことしたいじゃねぇかよ。

 

「だぁもう、悪かったよ。ほら、これやるから泣き止めよ」

 

「べ、別に私は泣いてなど……! で、これはなんだ?」

 

俺がボーデヴィッヒに渡したのは、握り拳大の、淡青色の正八面体。

 

「綺麗ですわねぇ」

 

「それで、これ一体何なの?」

 

 

「劣化版ISコア」

 

 

「「「ファーッ!?」」」

 

 

「試しに作ってみたんだが、束の作った正規品の5割程度しか性能が出なかったんだよなぁ」

 

貰ったISコアを解析したら、ブラックボックスの多いこと多いこと。で、そのブラックボックスの部分を推測で作ってみたんだが、結果はさっき言った通り。やっぱ束はすげぇわ。

 

「劣化版とはいえ、ドイツのISコアが増える……ふ、ふふふふっ、ふはははははっ! これで先の失態をチャラにできるぞ!」

 

「うわー、ラウラ嬉しそー……」

 

「それにしても宮下さん、まさかISコアまで作ってしまうなんて……」

 

「宮下……自制してくれ……」

 

あれ? 凰もオルコットも篠ノ之も、なんでそんな目で見んだよ。それ失敗作なんだぞ? 分かってる?

 

「陸、またやらかしたの?」

 

「そうみたいだ……」

 

その後、俺が何か作ったら、簪のチェックが必須になった。俺、どんどん簪の尻に敷かれてくなぁ……。




ファントム・タスクの面々って原作でも出番が多くないから、口調や性格が把握し切れてなくて大変です。

さぁ、次回からやっと夏休みだよ!(遅い)


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第46話 弔いと戯れ

夏休み入って最初がこれかぁ……(自分で書いといて渋顔)


IS学園の夏休み初日。首都圏郊外の霊園に、俺は来ていた。

宮下家の墓は、霊園の中心部からやや外れた場所にあった。親類がいないと、俺を引き取った施設の人が言っていたのは本当だったのだろう。誰の手入れする人のいなかった墓石は雨風に汚れ、草も生え放題になっていたのを掃除するのに、1時間近くかかっちまった。

 

「親父、お袋」

 

そう呼んでみたものの、実感はない。なにせこの外史に転生した時には、テロによってこの世を去った後。その前の記憶も持ち合わせちゃいない。

転生当初は何も感じなかった、いや、敢えて目を背けてたくせに、今更亡くなったことに空虚感を持つなんて、身勝手もいいところだろう。

 

「そんな風に呼ぶ資格なんて、俺には無いのかもしれない。こんな親不孝者に、恨み言の一つや二つあるだろう。だけど、すまない。まだ、そっちに行くわけにもいかねぇんだ」

 

汲んでおいた水を、柄杓で墓石にかける。

 

「あいつと……簪と約束したんだ。もう一度、幸せになるって。だから、輪廻の先で会うのは、もうしばらく待ってくれ」

 

線香をあげ、最後に手を合わせると

 

「来年、また来るよ」

 

水の入っていたバケツと柄杓を持って、元来た道を戻った。

 

ーーーーーーーーー

 

俺が初日に墓参りをしたのは、人が混む盆の時期を外すためってのもあるが、単純に簪が実家の行事でいなかったからだ。

 

『私も陸の両親に挨拶したかった……』

 

と簪は言ってたが、実家の行事を優先してくれ。少なくとも、あいつには()()()()()()()()、両親と過ごして欲しいと思う。後悔しないように。

 

(さて、午後からどうすっかなぁ……)

 

IS学園へ戻るモノレールの中で、俺はこれからの予定を考えていた。

さっき言った通り、簪は不在。従者であるのほほんも同様。一夏は倉持の研究員がデータ取りのためにIS学園へ来るらしく、その相手。

 

(昨日デュノアに、めっちゃ睨まれたんだよなぁ……)

 

『宮下君の設計図がすごかったらしくて、もう試作機が完成したんだよ……。だから、そのテストのために戻って来いって……』

 

『おお、それは良かったな。これで会社も安泰なんだろ?』

 

『そうだけどぉ~……せっかく一夏とデートしたり、ラウラと買い物する計画立ててたのに~!』

 

そんなわけで、デュノアの夏休み序盤はフランスで缶詰らしい。南無南無。

とはいえ、オルコットは英国貴族としてのイベントを消化するため、ボーデヴィッヒは俺の作った劣化版ISコアをドイツに護送するため、それぞれの理由で帰省している。

篠ノ之は学園長と面談。臨海学校の時に束から聞いたんだが、どうも紅椿は第4世代機に当たるらしく、未だ第3世代機を試作している各国からしたら、喉から手が出るほどの代物らしい。しかも紅椿は『どこの国にも属していない』というおまけ付き。つまりどの国も、篠ノ之をISごと自国に勧誘できるってことだ。場合によっては力尽くでも……。そのことに遅まきながら気付いた篠ノ之が、慌てて学園側に相談したというわけだ。

凰? 中国の候補生管理官って人に連行されていったよ。

 

『ドイツの候補生の挑発に乗った挙句、機体を破損して学年別トーナメントを棄権とは、その弛んだ性根を叩き直します』

 

『い~~~~や~~~~!!』

 

首根っこ掴まれて連行されていく凰は、さながら部屋を追い出される猫のようだったな。

 

~~♪

 

スマホの着信音で、俺の意識が引き戻された。簪はまだ行事の最中だろうから、一夏が予定より早く終わったか?

 

「もしもし?」

 

「もすもすひねもすぅ~」

 

……うん、初っ端こんなこと言い出すやつ、馬鹿ロキ以外あいつしかいない。

 

「束、何か用か?」

 

「用がないとダメなの~? りったん冷た~い!」

 

「……切っていいか?」

 

「わ~~っ! 待って待って! 実はりったんに相談したいことがあるの!」

 

「俺に相談?」

 

「臨海学校の時にお披露目した、太陽光発電についてなの」

 

ああ、デュノアが真っ青になって悲鳴上げてたあれな。普通に成功してたと思ってたんだが。

 

「地球って自転と公転してるでしょ? だから、人工衛星から受信アンテナにマイクロウェーブを当てるのがなかなか大変だよねぇ。衛星を大量に作るって手もあるけど、もっとスマートな方法ってないかなぁ?」

 

「なんだ、そんなことか」

 

「え!? あるの!?」

 

「何言ってんだ。そんなの、束が一番分かってるだろう」

 

「へ?」

 

スピーカーから聞こえてくるのは、本当に分からないって声色だ。マジか。

 

「なぁ束。ISってどうやって機体制御してる?」

 

「それは、PICを……ああっ!? そうだよ! PICを使って定点に留まっていれば、常に同じ受信アンテナにマイクロウェーブを当てられるんだ!」

 

「さらに言えば、発電時は太陽の方を向くように姿勢制御して、送電時に受信アンテナがある場所に移動すればいい。移動のエネルギーは発電した分で補えるはずだろ?」

 

かつての外史では、軌道エレベーターが必須だったが、こっちの外史ではISがある。この方法なら赤道以外でも設置が出来るし、軌道エレベーターの構造的脆弱性は考慮しなくていい。

 

「でもそうなると、発電用のISを常時宇宙に展開することになるよ? 交代制にでもするの?」

 

「それもいい方法があるだろう」

 

「えっ、何々!?」

 

白々しいのか、本当に気付いてないのか。一応、モノレールに俺以外誰も乗ってないのを確認する。

 

「……無人機」

 

「あ……っ!」

 

その反応、本当に気付いてなかったのかよ。束としてはISはあくまで動き回るためのもので、衛星みたいに固定して使うって発想がなかったのか。

 

「クラス対抗戦で乱入させた無人機、あれを使えばいい」

 

「そっか~、りったん気付いてたんだ」

 

「お前と初めて会った時、織斑先生とのやり取りを聞いてれば、そりゃ気付くって」

 

「なはは~、ちーちゃんとのやり取り、あからさまだったもんね~」

 

「話を戻すが、無人機ならルーティンプログラムを仕込んでおけば、24時間365日自動で発電と送電ができるわけだ。しかもISだから自己修復機能付き。あとはデブリ対策に、あのビーム砲を威力調整して付けとけばいいだろ」

 

「そして無人機を動かすエネルギーは発電の余剰分で……いける、いけるよ!」

 

おうおう、やる気になってるなぁ。放っておいたら、また試作機作りに精を出しそうだ。

 

「さっそく試作せねば! りったん、ありがとね! お礼は今度!」

 

プッ ツー、ツー……

 

案の定、試作機作るので頭がいっぱいになったようだ。

 

『終点、IS学園です――』

 

そしてちょうどよく、モノレールも学園に着いたようだ。

 

(あ……午後から何するか決めてねぇじゃん)

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

昼飯を食った後、午後から何をするかといえば

 

「ふっ……、ふっ……!」

 

結局俺は、外で木刀を振っていた。

いつもは朝食前に振る程度だが、今日は時間がある。汗だくになるまで振り、水分補給をしたらまた振って、それを何度も繰り返す。そうやって、大太刀の長さと重心を体に覚え込ませるのだ。

 

「ふーっ……」

 

それからも素振りに集中していたからか、気付けば日も傾き始めていた。

 

(晩飯食う前に、シャワー浴びるか)

 

 

 

 

「陸!」

 

部屋に戻ると、簪から助走を付けたジャンピングハグで歓迎された。なんというか、行動がパイセンに似てきた気がする。姉妹だからか。

 

「もう戻って来てたのか」

 

「うん。お姉ちゃんは当主の仕事があって、今日は本家に泊まるみたいだけど」

 

「そうか」

 

というやり取りをしている間も、簪のハグが緩まない。いや、別に嫌なわけじゃ無いぞ? ただなぁ……

 

「簪、俺さっきまで素振りしてて汗臭いんだわ。だからハグはシャワー浴びてから――」

 

「すんすん……」

 

「やめぇい!」

 

いくら簪でも、それだけは許容できない! ベリッと音が出そうな勢いで簪を引っ剥がす。

 

「それじゃあ先シャワー浴びるな」

 

「う~……分かった……」

 

名残惜しそうにすんな。そこだけは俺、簪に対して不満というか不安だ。




2次創作の読み過ぎで、ISヒロインがクンカーになってしまう……


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第47話 2度目のデート with 白猫執事と黒猫メイド

今回は(も)、オリ話の裏で原作ネタが進む感じです。

2/22追記:
どうして後書きで誤字るのか……修正しました。


夏休み中盤。俺と簪はいつぞやのショッピングモール『レゾナンス』に来ていた。

 

「ほら陸、早く早く!」

 

「そんなに急がんでも、ちゃんと予約は出来たんだろ?」

 

「それでも!」

 

「はいはい」

 

なぜ簪がこんなにもハイテンションかと言えば、答えは簡単。『初代仮面○イダー 限定復刻フィギュア』の発売日が今日だからだ。

そんで俺も買うものがあったから、一緒に出掛けようとなったわけだ。デートと言えばデートか。

 

ーーーーーーーーー

 

予約した店で予約番号を伝え、商品を受け取った簪は

 

「~♪」

 

フィギュアの入った紙袋片手に、さっきからこの調子だ。紙袋を振り回すわけにはいかんから、その分俺と手を繋いでる左腕はブンブン前後に振られてる。生暖かい目で見ちまいそうだから、ちったぁ落ち着け。

 

「すまん、ちょっと手洗いに行ってくる」

 

「分かった。ここで待ってるね」

 

「変な奴に絡まれないようにな」

 

「大丈夫。お姉ちゃんほどじゃないけど、私も体術の心得はあるから」

 

「なにそれ初耳」

 

なぜかここで簪の新しい一面を聞いたところで、俺は簪と別れ、男子トイレのある方に……行く振りをして、別の所へ。

 

(財布の中の現金、良し。のほほんから教えてもらった情報、良し。気張れよ俺……!)

 

そう、今回俺の本命の店へ。

 

 

 

「ふぅ……」

 

無事に買い物を済ませ、緊張の糸が切れた俺は、大きく息を吐いた。

ホント、今まで興味すら無かったもんを買うって、こんなに大変だったとは……。

 

「さて、簪は、っと……」

 

元の場所に戻りながら時間を確認すると、別れてから10分程経っていた。

 

(あらかじめ準備してたとはいえ、結構掛かっちまったな……。『手洗い場が混んでた』とか『近場が清掃中で別の場所探してた』とか言って誤魔化すか)

 

なんて考えていたら、簪……の周りに、チャラそうな男が3人ほど、呻き声をあげながら倒れてんだが……?

 

「陸、遅かったね」

 

「悪い悪い、近場が清掃中で別の場所探してたもんでな。……で、これは一体?」

 

「陸を待ってたら声を掛けて来て、断ったら強引に連れて行こうとしたから、正当防衛」

 

「正当防衛、な」

 

女尊男卑なこの世界でも、この状態は正当防衛が適応されるんだろうか……?

 

その後警備員らがやって来て、倒れてるチャラ男達を回収、俺達も事情聴取のためスタッフルームに連れて来られた。連れて来られはしたが、簪の証言に加えて監視カメラにも当時の映像がハッキリ残っていたため、俺達は5分ちょっとで解放された。

 

「すまんな簪。俺が別行動取らなきゃ、こんな面倒に巻き込まれなかったろうに」

 

「気にしてない。それより、ちょっと早いけどお昼にしよう?」

 

「……11時ちょっと過ぎか。なら、前行ったところとは別の店にするか」

 

「うん」

 

差し出した俺の手を簪が握ったのを確認して、フードエリアの方へ歩き出した。

 

ーーーーーーーーー

 

フードエリアをあれこれ歩き回っていると、簪が『ここ、どうかな?』とある店を指さした。

 

「@クルーズ、有名なのか?」

 

「メイド(&執事)喫茶、その筋では有名」

 

「お、おう……」

 

まさかのメイド喫茶かよ。今日の簪はずいぶんと攻めるな。

 

――カランカランッ

 

「お客様、@クルーズへようこ、そ……」

 

「「……」」

 

店に入ると、執事服姿のスタッフに声を掛けられた。それはいい。問題は、

 

 

「デュノア、何やってんだ……?」

 

 

なぜフランスの代表候補生であり、先日フランスから戻って来た一夏ハーレムの一員シャルロット・デュノアが、執事服姿で接客してるのかってことだ。

 

「み、宮下君……更識さんまで……」

 

「色々聞きたいことはあるけど、執事服は似合ってる (☆`• ω •´)b()

 

こらこら簪、何サムズアップしてんだよ。煽ってどうする。

 

「何をしている、次のオーダーが来て……」

 

「「……」」

 

俺と簪、本日2回目の絶句。

 

 

「ボーデヴィッヒ、お前もか……」

 

 

ドイツのIS部隊を指揮する現役軍人が、なぜかフリフリのメイド服で現れたら、絶句もするわ。

 

「お、お前達……み、みみ……!」

 

「ボーデヴィッヒさんも、グッジョブ (☆`• ω •´)b()

 

「見るなぁ! 私をそんな目で見るなぁ!」

 

あーあ、ボーデヴィッヒが顔真っ赤にしてしゃがみ込んじまった。

 

「とりあえず、席に案内してくんね?」

 

このまま店先で立ってても邪魔なだけだし、同級生にバレたのが恥ずかしいのは分かったから、キッチリ仕事しような?

 

 

 

「お、お待たせしました。ペスカトーレです……」

 

注文した料理を持ってきたデュノアだが、まーだ声が上擦っていた。

 

「それにしても、困ってそうな人に声かけたらそのままバイトに誘われて執事服とは、どんなだよ」

 

「さすが一夏ハーレム、織斑君本人がいなくても超展開」

 

「もう止めてってばぁ! どうぞごゆっくり!」

 

半泣きになりながらもマニュアル通りのセリフを言って、デュノアが逃げるように去っていった。ちょっと弄り過ぎたか。

 

「あ、でもIS学園って、基本バイトは禁止じゃなかったか?」

 

以前エドワース先生に、そう言われた記憶がある。

 

「……黙っててあげよう、執事服とメイド服のことも含めて」

 

「そう、だな。それがせめてもの情けか」

 

「うん。それに……」

 

そこで言葉を切ると、簪が俺にスマホの画面を向けて来た。

 

「なんだ……って、おいおい……」

 

「織斑君へのお土産」

 

「素晴らしい」

 

そこに映っていたデュノアの執事服姿とボーデヴィッヒのメイド服姿に、俺も簪もニヤッと笑ったのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

@クルーズを出た後、俺と簪はモール内を巡りながら、ちょこちょこと買い物を楽しんだ。

出始めたばかりの秋物の服だったり、のほほんを気持ちよく動かすためのお菓子だったり、自由国籍の件で胃壁がすり減ったパイセンと織斑先生への詫びの品だったり。

 

「いっぱい買ったね」

 

「そうだな。まさか服が詫び品より嵩張るとは思わんかった」

 

「だって陸、今まで薄い春夏物ばっかりだったから」

 

「それもそうか」

 

俺がこの世界に来たのが3月頭だから、最初に来ていた服も、施設に入ってからの服も薄着しかない。送られてきた段ボールの底には、厚手のものもあるんだろうが、まだ確認すらしていない。その辺、俺ってズボラなんだよなぁ。

 

「買った服はクローゼットに突っ込んで、詫び品は……二学期入ってから渡せばいいか」

 

「それでいいと思う。それを見越して、賞味期限の長い物にしたから」

 

「さすが簪、その辺も抜かりなしだな」

 

「えっへん」

 

ドヤ顔の嫁が可愛すぎて辛い。

 

「そうだ。陸、帰りにクレープ食べよう」

 

「クレープっていうと、あの城址公園のクレープ屋か?」

 

「うん、ミックスベリー味」

 

以前簪と食べた、『ストロベリーとブルーベリーを分け合うと食べられる、幸せのミックスベリー』だったか。

 

()()()()、幸せになりに行こう?」

 

「……そうだな。行くか」

 

最初に食べたのは、あの臨海学校の前だったか。なら、幸せになると誓った今、もう一度食べにいくのもアリだな。

 

「ほら陸、暗くなる前に」

 

「分かったから引っ張るなって」

 

簪に繋いだ手を引かれながら、俺達は件のクレープ屋を目指した。

 

ーーーーーーーーー

 

「ん~♪ ラウラ、すっごく似合うよ~」

 

「こ、これは本当にパジャマなのか……?」

 

「そうだよ」

 

IS学園の寮部屋で、僕とラウラは買ってきた猫のパジャマを着てみたんだけど……ラウラ可愛い!

 

「それにしても、今日は色々あり過ぎたな……」

 

「そうだね……」

 

やめてよラウラぁ、せっかく忘れてたのにぃ……。

ラウラと服を買いに行っただけのはずなのに、気付けばメイド(&執事)喫茶でスタッフになってて、しかもそれを宮下君と更識さんに見られて。さらに二人がお店を出て少ししたら、なぜか銀行を襲撃した逃走犯がやってきて立て籠もるし。僕とラウラで解決したものの、事情聴取とかされたくなくって急いでお店を出たから、午前中の買い物以外で落ち着いて何かした記憶がないよ。

 

――コンコンッ

 

「はーい、どうぞー」

 

「いや待てシャルロット! 今私達が着てるのは――」

 

ラウラの可愛さで油断していた僕は、誰かも確認せずに返事をしてしまった。ラウラが止めるけど、もう遅い。

 

「おおっ、黒猫と白猫だ」

 

来客は、一夏だった。そして彼が言った黒猫と白猫って、ラウラと僕のパジャマ姿……

 

 

「「わーっ!」」

 

 

「い、一夏!? ち、違うんだよ!? 今日たまたまショッピングで可愛かったから買ってきただけなんだよ!?」

 

「そ、そうだぞ嫁よ! だからいつもこんなものを着てるわけではないのだぞ! 本当だぞ!?」

 

「そんなに捲し立てなくても……二人揃って似合ってるっていうか、可愛いな」

 

「「か、可愛い……」」

 

んもー! 一夏ってば! 一夏ってばぁ! そういうところがズルいんだよぉ!

 

――ピローン♪

 

「悪い、メールだ」

 

そう言って、一夏はポケットからスマホを取り出した。

 

「珍しい、更識さんからだ。……へ?」

 

「どうしたの一夏?」

 

「いやぁ……」

 

言葉を濁した一夏は、僕とラウラに見えるように、持っていたスマホを向けて来た。

そこに映っていたのは……

 

 

「「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」」

 

 

ぼ、僕の執事服姿と、ラウラのメイド服姿! 更識さん、謀ったなぁぁぁぁ!!




次回、夏休み編ラスト&唯一のシリアス回。


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第48話 愛してる

いつもより短めですが、書きたいことが書けたんで、自分的には満足です。
(もし読み応えが無かったらスンマセン)


夏休みも終盤に差し掛かった頃、俺、簪、のほほんは整備室にいた。

 

「なんだろうな、夏休みを満喫してたはずなのに、ISの整備をしてる方が落ち着くって」

 

「分かる」

 

「りったんもかんちゃんも、ほとんど職業病だね~」

 

「そういう本音も、ここに来てる」

 

「チョコバー、美味しかったよ~」

 

チョコバー1本で釣られてくるのほほんも、俺達のこと言えないと思うぞ。

 

「よし、陰流はこれでいいな。そっちはどうだ?」

 

「もうちょっと~」

 

「あと、左スラスターだけ」

 

「分かった。そんじゃ片付けはこっちでやっとくな」

 

工具箱を持って立ち上げると、のほほんも一緒に立ち上がった。

 

「え~悪いよ~。かんちゃん、りったん手伝ってもいい~?」

 

「うん、スラスター片方だけなら、私だけで大丈夫」

 

「というわけで、私も手伝うね~」

 

「そうか。ならこっちの頼むわ」

 

「りょうかい~」

 

のほほんに工具箱を持たせ、俺はパーツの入った箱を持って収納場所へ。工具置き場も同じ方向だから、俺の後ろをのほほんが付いてくる形だ。

 

「ねぇりったん~」

 

「なんだ?」

 

「覚悟、決めた~?」

 

「……今日だ」

 

のほほんの目的語のない問いに、ごく自然に答える。

 

「そっか~」

 

それぞれの収納場所に着いて、それぞれの場所に仕舞う。

 

「この間は、協力サンキューな。正直俺には専門外だったからな」

 

「あの位、全然だよ~。というか、私もお姉ちゃんも、専門ってわけじゃないんだよ~?」

 

のほほんはそう言うが、俺にとっては結構重要だった。ある意味、今までで一番のほほんに感謝したことかもしれない。

 

「……りったん」

 

「ん?」

 

振り返ると、

 

「……かんちゃんのこと、よろしくね~」

 

まるで慈愛に満ちたような顔で、のほほんに言われたのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

晩飯を食って部屋に戻る。帰り際、のほほんの奴、めっちゃニコニコいてやがったな。こっちは内心緊張しっぱなしだってのに。

 

「陸、先にシャワー使うね」

 

「おう」

 

タオルやら着替えやらを持ってシャワールームに入る簪に返事をする。

 

(まだ言えないのか、俺の馬鹿野郎)

 

のほほんには『今日だ』と言っておきながら、自分の度胸の無さに自己嫌悪しかねぇ。

 

「少し、頭冷やすか」

 

ベランダに出て夜風に当たる。夏だから少し生ぬるいが、熱帯夜ってほどじゃない。風呂上りでもなければ、特に問題ないだろう。

そうして、空を見上げて星空を眺めていると、この外史に来てから今までのことを思い出す。

最初は脇役でいるはずだった。原作主人公である一夏とも一切接触せず、ただただISを弄るだけの生活を続けるはずだった。

だが、それも簪と出会ってから変わった。いや、変われたんだ、俺自身が。だから俺は、簪に伝えないといけないんだ。

 

(いや違う。()()()()()()()()()んじゃない、()()()()んだ……)

 

「俺は変わるよ、刹那。お前がロックオンの旦那の代わりに変われたように」

 

ーーーーーーーーー

 

シャワーを浴びて部屋に戻ると、陸の姿が見えなかった。

 

「陸?」

 

もう一度見渡して……いた。

 

「陸」

 

「おう。いくら夏だっていっても、シャワー上がりだと風邪ひくぞ?」

 

「大丈夫」

 

そう言って、私はベランダに立っていた陸の横に並んだ。

 

「ったく……ほら」

 

そんな私に、陸が着ていた制服の上着をかけてくれる。

 

「それで、陸は何してたの? こんな夜にベランダに出て」

 

「俺か? 自分の度胸の無さに、少しばかり自己嫌悪してたところだ」

 

「……何の冗談?」

 

「おい」

 

陸に度胸がないって、これまでのことを振り返っても、あり得ないんだけど……。

 

「だぁもう……あれこれ頭ン中で堂々巡りしてる俺が馬鹿みてぇじゃねぇかよ」

 

「ふふっ、陸らしくない」

 

「わぁったよ。そこまで言われて、逆に吹っ切れたっつーの」

 

苦笑いしていた陸が、急に真顔になる。なんだろう、緊張してる?

 

「臨海学校の最終日、覚えてるか?」

 

「うん。忘れようがないよ」

 

陸の過去を知った日。彼と()()()()一緒にいると、決めた日。

 

「俺さ、正直悩んでたんだ。あれだけ泣いてて何をって思うかもしれねぇけど……このまま簪と一緒にいていいのか、簪を巻き込み続けていいのかって」

 

「……」

 

そんなこと、考えなくていいのに……。これは私が決めたこと、私が選んだことなんだから。

 

「ロキに俺と一緒にいることについて、泡沫の夢だと指摘された時も、実は覚悟してたんだ。これで簪の心が離れても、仕方ないってな」

 

「でも私は言ったよ。例え泡沫の夢だろうと、陸と一緒にいることが、私の望みだって」

 

「ああ。それを聞いた時、めちゃくちゃ嬉しかったんだ。簪が、ここまで覚悟を決めてくれていたことに」

 

「陸……」

 

「だから……俺も、覚悟を決めたんだ」

 

そう言って、陸は私の右手を取り、

 

「最期まで、俺と一緒に歩んでほしい」

 

薬指に、瑠璃色の石が乗った銀色のリングが収まった。

 

「これって……」

 

指輪に驚いている私を、陸が優しく抱きしめる。

 

「気の利いたセリフが出てくれば良かったんだけどな……他に、言葉が見つけられなかった……」

 

震える声で、けれどハッキリと――

 

 

「愛してる、簪」

 

 

「り、く……」

 

嬉しいのに、涙が止まらない……。すごく驚いてるのに、心が温かいよ……。

 

「ダメ、か?」

 

ダメかなんて、聞かないでよ。ダメなわけ、ないよ。どうしてそんなこと聞くの? 陸の馬鹿……。

 

「私も……」

 

 

「私も愛してるよ、馬鹿ぁ……!」

 

 

喉を枯らしそうなほど泣きながら、私も陸を抱きしめた。離したくない、ずっと一緒にいたいと想いながら……。

 

ーーーーーーーーー

 

私のくしゃみで色々我に返った私達は、そそくさと部屋の中に戻った。

 

「でも、私の指のサイズ、よく知ってたね?」

 

陸に教えたことも、測られた覚えもないけど。

 

「そこは布仏姉妹に協力してもらった。のほほんに指のサイズ、虚先輩に店の場所とかな」

 

「本音もグルだったんだ……」

 

「グルって言うな、グルって」

 

晩御飯を食べた後、何故かいつもよりニコニコしてたのは、そういうことだったんだ。

 

「この石も虚さんの?」

 

「いや、石は俺が選んだ。やっぱダイヤの方が良かったか?」

 

「ううん! 全然!」

 

ただでさえ指輪を薬指にはめられて心臓バクバクなのに、ダイヤモンドリングだったりしたら……いつかはもらいたいけど……。

 

「おーい、簪?」

 

「だ、大丈夫! それで、この石って、ラピスラズリ?」

 

「そうだ。俺も最初は無難にダイヤにしようと思ったんだがな……宝石言葉とやらを聞いて、こっちにしたんだ」

 

「宝石言葉?」

 

花言葉みたいなもの?

 

「ああ。ラピスラズリの宝石言葉は……」

 

 

『永遠の誓い』

 

 

「……」

 

「簪?」

 

「もう……陸は……」

 

これ以上私を嬉し泣きさせて、どうするの……?

 

「ずるいよ陸は……ホント、ずるい……」

 

さっきとは逆に、私から陸を抱きしめる。

 

「何度でも言うよ。私は陸を愛してる。永遠に、未来永劫、何があろうと」

 

「簪……ああ、俺も簪を愛してる。永遠に、未来永劫、何があろうと」

 

陸と私。どちらからということもなく、顔を寄せ合い、唇を重ねていた……。




この曲を聴きながら書いてました。youtubeとかで是非とも聴いてみてほしいですね。

曲名:愛の詩
アーティスト:末廣優里


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閑話 『俺ヒルデ』NG大賞(原作開始~クラス対抗戦)

本作を書いてる最中、思いついただけで没になったネタ(NG集)をご紹介。

※読まなくても今後のストーリーに全く影響はありません。


ーーーーーーーーー

 

(第2話 陸が簪の打鉄弐式作成を手伝うと言ったら、楯無の関与を疑われたシーン)

 

「まさか、お姉ちゃんに頼まれたの……?」

 

「お姉ちゃん?」

 

誰だ?

 

「え……?」

 

なぜか聞いた簪の方が目を見開いていた。いやいや、なんでお前が驚くよ?

 

「お前の姉ちゃんって、誰だよ?」

 

「知らない、の?」

 

「知るか」

 

 

「お姉ちゃんのこと知らないなんておかしいよ! 学園の生徒会長なんだよ!? ロシアの国家代表なんだよ!? 一人でISを組み上げたって言われるすごいお姉ちゃんなんだよ!?」

 

 

「お姉ちゃんのこと好きすぎぃぃぃぃ!!」

 

 

(没理由:当初はギャグ要素を多めに考えていたものの、あまりにも簪が壊れ過ぎていたため)

 

ーーーーーーーーー

 

(第4話 生徒会室で考え込んでいた楯無のところに、虚が飛び込んでくるシーン)

 

「に、2,3時間ほど前、本音が整備科を訪ねて来まして……」

 

「本音が?」

 

「はい。なんでも、打鉄弐式を組み上げるために、訓練機の修理パーツをもらえないか、と」

 

なるほど。つまり簪ちゃんは、1人で組み上げるのを止めて、本音に協力を依頼したと。

どうやら、前に進めたようね、簪ちゃん……。

 

「それで、去年発注した予備パーツの一部が余剰となっていたので、それを供出したのですが……」

 

「何か問題があった?」

 

「いえ、先ほど私自身が様子を見に行ったのですが……」

 

 

「打鉄弐式の周りを、ビット(GNファング)が飛び回っていました……」

 

 

「イギリスオワター!!」

 

 

(没理由:この頃はまだGNドライブ未搭載のため ISのSEで飛ばしても良かったんだけどね)

 

ーーーーーーーーー

 

(第5話 一夏との初接触シーン)

 

「俺は1組の織斑一夏だ」

 

ああやっぱり、原作主人公ですか……。

 

「4組の宮下陸だ」

 

「よろしくな陸。俺の事は一夏って呼んでくれていいから」

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「ぎゃああああああ!」

 

 

「初対面の相手に、いきなり下の名前を呼び捨てにするってどうよ? おおん?」

 

「陸、それ以上いけない」

 

(没理由:一なまと同じテンションになりそうだったから 基本アンチなしって言ったじゃん)

 

ーーーーーーーーー

 

(第6話 打鉄弐式、初飛行シーン)

 

「簪、一度戻っていてくれ」

 

『分かった……一つだけ、試してみたい事があるんだけど、いい?』

 

「試してみたい事? 危ない事じゃねぇよな?」

 

『大丈夫、弐式を壊すような真似はしない』

 

「……まぁいいか」

 

そう俺が了承すると、簪はこちらに戻って来て――待て、どうして減速しない?

どんどん俺達と簪の距離が近づいて……って、おいおい待て待て待て!

 

「ちょ、おま!」

 

――ベチャッ

 

「あ」

 

(没理由:オリ主アンチでもこれはないって)

 

ーーーーーーーーー

 

(第8話 寝不足の簪を寝かし付けたら、本音からメールがきたシーン)

 

結局簪が寝付くまで、恐竜がモチーフの戦隊ものの話を1時間近くする羽目になった。だから熱中するなと……。

 

その後、のほほんからメールが来た。

 

 

『おりむー、試合開始時間になっても専用機が来なくて不戦敗になったよ~」

 

 

おいぃぃぃ!?

 

(没理由:書いた瞬間は面白そうと思ったけど、このあとセシリアが一夏ハーレムに入る未来が見えなかった)

 

ーーーーーーーーー

 

(第9話 簪が自分の"業"について悩むシーン)

 

「どした? 今日も寝つけねぇのか?」

 

「それもあるけど……」

 

そう言って黙り込んだ簪だったが、

 

「私の"業"ってなんだろう……」

 

 

「……深夜にポテチを一人で一袋空けちまうところ」

 

 

「……#」

 

「いてててっ! 悪かったから、無言で叩くな!」

 

(没理由:それは私の"業"だ あとこれシリアス回だからね?)

 

ーーーーーーーーー

 

(第10話 簪がベルゼルガ―を振り上げるシーン)

 

私のあまりの行動に、お姉ちゃんの手が、一瞬止まった。

そして私が振り上げ切ったところで、銃身下部のパーツがはじけ飛ぶ。中から出てきたのは――

 

「ブレード……!?」

 

呆気に取られていたお姉ちゃんの顔が、驚愕に変わる。

 

「行って――」

 

『いけ! 嬢ちゃん!』

 

 

 

「ベルゼルガァァァァァァァァ!!」

 

 

――スポッ

 

「「あっ」」

 

私の手からすっぽ抜けたブレードライフルは明後日の方向に飛んで行き、

 

 

――ドガシャァァァァァンッ!

 

 

管制室を、完膚なきまでに破壊した。

 

「ど、どうしよう……?」

 

「……お姉ちゃん、しーらない」

 

『俺もしーらね』

 

(没理由:ここまでシリアスで書いてて、これはないでしょうよ)

 

ーーーーーーーーー

 

(第13話 簪がシャワー浴びている間に、陸が寝落ちしてたシーン)

 

ベッドの上で、制服を着たまま陸が寝ていた。たぶん限界が来て、そのまま寝落ちしたんだろう。

 

「まったくもう……」

 

そう言いながら、陸のベッドに腰かけた。

いつも頼りになる陸だけど、寝顔は可愛いかも……

 

『りったんとたっちゃんは、()()()仲じゃないと思うよ~』

『だから、かんちゃん頑張って~』

 

「……っ!」

 

どうしよう……あの時本音が言ったことを思い出したら……

 

「……ちょっとだけなら、いいよね?」

 

自分の中で言い訳しながら、

 

――チュッ

 

「……!///」

 

や、やっちゃった……!

 

(没理由:まだ早いって)

 

ーーーーーーーーー

 

(第14話 メメントモリ登場シーン)

 

展開可能な装備一覧を出すと、今まで無かった項目が見つかった。武装名は……

 

「メメント、モリ?」

 

「それだな。俺の方で適当に付けさせてもらった。嫌だったら変更も出来るが」

 

 

「シャイニング・フィ――」

 

 

「簪、それはアカン!」

 

(没理由:Gガンダムは対象外です)

 

ーーーーーーーーー

 

(第17話 雪片弐型の性能回想シーン)

 

「そんな顔をするな。本来拡張領域用の空きが全部埋まるほど、雪片弐型に処理を回してるんだ。その分威力は全ISでもトップクラスだろうさ」

 

「それは……そうか……」

 

言ってしまえば、一撃必殺の攻撃を持ってるんだ。なら、それを当てる努力をした方がいいのか。

 

「一つのことを極める方が、お前には向いている。そもそも仮に白式に銃器が積めたとして、反動制御や弾道予測からの立ち回り……出来るのか?」

 

 

「……出来らあっ!」

 

 

――ガンッ!

 

「……ごめんなさい」

 

「分かればいい」

 

(没理由:深夜テンションって怖いね)

 

ーーーーーーーーー

 

(第18話 陸負傷で簪がプッツンしたシーン)

 

頭と右腕が無くなっている、全身装甲(フルスキン)のIS。なぜこの状態で動いているのか、一瞬疑問に感じたが、それもどうだっていい。

私はそのISに残った左腕を右手で掴んだ。そして

 

 

「死ね! 死ね! 死ねぇ!」

 

 

夢現で、胴体部を突いた。何度も、何度も、何度も。

やがて胴体部がぐちゃぐちゃになったところで

 

――バガァァァァンッ!

 

ISは爆発四散した。

 

(没理由:陸の復讐通り越して、危ない人になっとるやん)

 

ーーーーーーーーー

 

(第19話 一夏が鈴に謝罪するシーン)

 

「鈴を"女の子"として見てなかった俺に、告白を受ける権利も無ければ、断る権利すらない。だから、俺に時間をくれ。鈴を"女の子"として見る時間を」

 

「……はぁ、ずいぶんと勝手な事を言うのね」

 

「勝手なのは承知の上だ。だから、頼む」

 

そう言って、俺はもう一度頭を下げた。それが今俺が思いつく、鈴に対するけじめだと思うから。

 

「……いいわ」

 

「鈴?」

 

顔を上げると、すぐ目の前に鈴がいた。

 

「まだ一夏が"受けて"くれる可能性があるなら、少しぐらい待ってあげるわよ」

 

そう言ってニコッと笑うと、鈴は俺に顔を近づけて

 

「んっ……」

 

「………むぅ!?」

 

い、今俺、鈴とキ、キスして……!?

 

「だからこれは今まで待たされた分と、これから待たされる分の前払い、ね?」

 

「鈴……」

 

(没理由:だから早いって)

 




次回からとうとう、二学期(原作5巻)に突入です。


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二学期開始~学園祭
第49話 愛の暴走列車


二学期編、開始です。
(つまりギャグパートが始まるということ)


夏休みが終わり、二学期の初日。IS学園を揺るがす発表がなされた。

 

 

『国連および国際IS委員会の合意により、織斑一夏に特例で重婚を認める』

 

 

「一夏との、重婚を認める……?」

 

「つまり、わたくし達全員、一夏さんと……?」

 

「うそぉ……」

 

「さすが私の嫁だ」

 

「一夏のお嫁さんに……」

 

一夏ハーレムの面々は驚きながらも、内心では皆同じ事を考えていた。

 

(((((つまり、私(僕)(わたくし)達5人の中で、誰が正妻になるかの勝負……!)))))

 

さらに

 

(((((これ以上嫁候補が増えないように、全員で協力しないといけない)))))

 

奇しくも陸が予想していた通り、一夏ハーレムがハニトラ要員を弾く役割を果たすのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ついに一夏の重婚許可が正式発表がされたわけだが、4組は比較的静かなもんだ。

いつものように簪と教室に入り、いつものように席に着く。帰省してた連中同士で自国のお菓子を交換してるのが、いかにもIS学園らしい。

 

「ねぇねぇ宮下君、1組の織斑君の話聞いた?」

 

「重婚許可ってやつか?」

 

「そうそう! 宮下君にはないの?」

 

「あるわけないだろ。ありゃ一夏の関係者と繋ぎを作りたい各国が結託した結果だぞ」

 

「うわー、宮下君夢がないこといわないでよぉ」

 

夢も何も、それが事実だからな。

 

「SHRを始めますよー」

 

教室にエドワース先生が入って来て、いつも通りのSHRが……

 

「みなさん、1組の織斑君に重婚が認められたことは知ってると思いますが、この度宮下君にも同様に重婚が認められました

 

「……パードゥン?」

 

どゆこと? 俺が重婚? エドワース先生、エイプリルフールはとっくの昔に終わってますが?

 

 

「「「「え~~っ!?」」」」

 

 

「ちょっと待ってください! それって一夏がブリュンヒルデ(織斑先生)の弟で、篠ノ之博士と繋がりがあるからでしょう!?」

 

「そうだけど……宮下君、貴方も篠ノ之博士と繋がりがあるでしょう? 臨海学校のこと、国の偉い人達の耳に届いてるわよ」

 

「ガッテム!」

 

あの紫兎ぃぃぃ!!

 

「それが無かったとしても、第3世代機の設計図をデュノア社に売った時点で手遅れね」

 

「ぬおぉぉぉぉ!」

 

それは完全に俺の投げたブーメランだぁぁぁ!

 

「へぇ、それじゃあ私もお嫁さん候補に立候補してみようかな~?」

 

「織斑君のようなハンサム系もいいけど、宮下君のようなワイルド系もいいよね~」

 

近くの席の女子達が、ニヤニヤしながらそんなことを口にする。揶揄い半分だろうから、別に気にもしないが。

 

「先生、ちょっといいですか?」

 

「あら、更識さん、どうしたの?」

 

先生からの問いには答えず、簪は席を立つと、俺の方に歩いて……

 

「んっ……」

 

「………むぅ!?」

 

「「「「え~~っ!?」」」」

 

か、簪! 舌! 舌入れるのはなしだって……!

 

「ぷはっ!」

 

「あらあら~」

 

あらあらじゃねぇって先生! 周りもみんな、唖然としてるだろぉよ!

 

「か、簪……」

 

 

「陸は誰にも渡さない。それでも引かないなら、私がいつでも相手になる。臆さないなら、掛かって来るといい」

 

 

「さ、更識さん、かっこいぃ……」

 

「お姫様の宮下君を守る騎士って感じ?」

 

あれ? 俺と簪の立ち位置、おかしくなってね? 簪がナイト役なん?

 

「あれ? 更識さんの薬指、指輪が……」

 

「もしかして……」

 

女子の一人が目ざとく指輪を見つけ、周囲も簪に視線を向ける。

 

「……陸との、誓いの証///」

 

簪よ、恥ずかしくて顔が真っ赤なのはいいが、どうしてそこで体をくねらせる。いや、全然この状況はよくねぇんだが。

 

「なーんだ。もう更識さんが独占購入してたんだ」

 

「さすがにこれには勝てないわぁ……」

 

そんな言葉を漏らしながら、みんなぞろぞろと自分の席に戻っていく。

 

「……」

 

「簪、お前も戻れ」

 

「嫌」

 

嫌じゃないが。なんでだよ。

 

「先生……」

 

「仕方ないから、更識さんは宮下君の膝の上で授業を受けてね」

 

「はい」

 

「おぃぃぃぃ!?」

 

仕方ないって何!? 簪が自席に戻れば済む話だろ!? なぁ!

 

「陸の膝の上♪」

 

「ええー……」

 

「それじゃあ、このまま1時限目の授業を始めますねー」

 

「「「「はーい」」」」

 

「マジかよ……」

 

 

そうして1時限目のIS理論の授業は、簪を膝の上に乗せて受けることになったのだった……。

 

「はい、正解です。宮下君、更識さんの頭を撫でてあげてね」

 

「なんでさ!」

 

エドワース先生もみんなも、悪ノリしすぎだろ!!

 

「陸ー」

 

「お前も撫でてほしそうにすんなよ!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

疲れた。法関係の授業は無かったはずなのに、めっちゃ疲れた……。

這う這うの体で食堂に辿り着き、のほほんと合流。何とか昼飯にありつけそうなわけだが……。

 

「かんちゃんの大演説、1組でも大反響だったよ~」

 

「どうしてあんなことしたんだろう……」

 

かき揚げうどんを前に頭を抱える簪に、追加攻撃を加えるのほほん。

脳内麻薬が切れてもその時の記憶はあるらしく、まるで初めての飲酒で酔っ払ってやらかした新社会人のようだ。

 

「そんなに後悔するなら、やらんでくれよ……」

 

もう一生分は揶揄われた気がする。もういらん。

正直、目の前にある唐揚げ定食を完食できるかも分らんくらい疲れてんだ。

 

「よう、陸……」

 

「……一夏、何があったのかは聞かん」

 

「そうしてくれ……」

 

以前、一夏を中心に篠ノ之、オルコット、凰がくっ付いて、ファイナルフュージョンでもするかのような有様だったが、今回はさらにデュノアとボーデヴィッヒが追加され、専用機持ちのリアクティブアーマーと化していた。

 

「で、お前らは一夏と重婚する気満々なんだな?」

 

「「「「「もちろん!」」」」」

 

一夏の展開装甲になっているハーレム5人の声がハモる。お前ら、そういう時だけ団結力高ぇのな。

 

「ということらしいぞ、一夏」

 

「ああ……それについては、もう腹を括ったよ」

 

そう言う一夏の顔は、疲れた苦笑いといった感じだ。少なくとも、こいつらとくっ付くことを嫌がってるわけじゃなさそうだ。

 

「一夏もこう言ってるわけだし、あんまり喧嘩せず、それでいて他のハニトラ要員は排除するように頼むな」

 

「「「「「おー!」」」」」

 

「なんか、陸の方がうまく操縦できてね?」

 

「そん代わり、俺はこいつの操縦が出来そうにない」

 

視線を簪の方にずらす。だから、頭抱えたいのは俺なんだって……。

 

「更識さんの演説は俺も噂で聞いた。お前、重婚許可されても絶対更識さん以外とは結ばれない。間違いなく」

 

「いいんだけどな、簪以外とくっ付く気はないし」

 

「うわっ、この期に及んで惚気かよ!?」

 

もう惚気るしかねぇんだよ。惚気まくってこの状況に早く慣れねぇと、恥ずか死ぬ。

 

「一夏、そろそろ私達もお昼を食べないと」

 

「そうですわ。また織斑先生に怒られてしまいます」

 

「そうだな。それじゃ陸、また放課後」

 

「おう」

 

ぞろぞろと、一夏ハーレムが券売機に向けて大移動を開始する。

 

「おりむー、5人いっぺんにお嫁さんとか、すごいね~」

 

「だな。俺は簪一人だけだから、そこまででもないが」

 

とりあえず、あの5人の誰かから刺されないことを祈るしかないな。

 

「さて、そろそろ予鈴が鳴りそうだし、教室に戻るか」

 

「そうだね~」

 

「あうう、食べ終わるまで待って……」

 

「おい、食べ終わんのかそれ……?」

 

頭抱えてる間にうどんは伸び伸び、かき揚げは全身浴を通り越して汁の吸い過ぎで水中分解。ハッキリ言って大惨事だ。

 

「んぐぐぐ……! ぷはっ!」

 

「うわ~、かんちゃんほぼ飲み込んだよ~……」

 

のほほんが言うように、麺も汁もかき揚げも、全部一緒くたに飲み干しやがった。あ、やっぱ苦しそう。

 

「大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫」

 

「ったく……ほら」

 

「うん」

 

仕方なく背中を向けて屈むと、簪もその背中にしがみ付いた。おんぶである。また教室に戻ったら色々言われるんだろうなぁ……。

 

「今日の放課後も、第3アリーナだよね~?」

 

「うん。夏休み中に積んだ装備のテスト」

 

「りったんもかんちゃんも、夏休みも変わらないね~」

 

のほほんの言うことも最もだが、もはやルーティンと化してるからな。機械弄りしない方が、却ってムズムズする。

 

「いつも通り、専用機持ちと模擬戦しながら動かしてみるか」

 

「うん。特にオルコットさんと戦ってみたいかも」

 

「あ~、今回の新装備、せっしーの装備に似てるもんね~」

 

「オルコットさんのブルー・ティアーズに、どれだけ迫れるか楽しみ」

 

さてはて、この夏休みの間に、一夏を始めとした専用機持ちがどれだけ強くなってるか、新装備が通用するか楽しみだな。




簪のキャラが暴走しました……。書き始めた時は、こんな感じじゃなかったんや……。


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第50話 セシリア強化計画(強制)

学園祭まで、しばらく掛かる見込みです。気長にお待ちください。
と言いますか、この章は他より長くなると思います。(2倍で済むだろうか……)

そして、気付けばもう50話目(プロローグと閑話を除く)なんですね。『一なま』から比べるとゆったりペースですが、今後ともご愛顧いただけますと幸いです。


宮下陸は激怒した。必ず、かのセシリア・オルコットの怠慢を除かなければならぬと決意した。陸には上流階級の生活がわからぬ。陸は、機械馬鹿である。図面を書き、機械を組み立てて暮して来た。けれども他人の成長度合いに対しては、人一倍に敏感であった。

 

……どうして陸が、そこまで怒ってるのか。

 

「どうして素人同然の俺に惨敗してんだよ! おらぁん!」

 

「ひぃぃぃっ!」

 

聞いての通り、陸とオルコットさんが模擬戦をして、オルコットさんが惨敗したからだ。

第3世代機に乗っているオルコットさんが、カスタム機とはいえ、第2世代機に乗ってる陸に負ける道理はない。でもあっさり負けた。しかも負けた理由が……

 

「てめぇ、どうして一夏とやりあった代表決定戦から何か月も経つのに、『ビットと自分を同時に動かせない』弱点がそのままなんだよぉ!?」

 

「そ、それは……」

 

「まさか、一夏との模擬戦ばっかやってて、弱点克服にリソース割いてないなんてことは、ないよなぁ?」

 

「そのぉ……実は……」

 

――ゴリィッ!

 

「みゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「成敗」

 

陸、両腕にお仕置きアームロックは酷だと思うなぁ……。

 

「腑に落ちんのだが、どうしてセシリアが弱いと、宮下がキレるのだ?」

 

「それはなぁボーデヴィッヒ、こいつが弱い状態で簪の新装備を披露すると、色々まずいからだ」

 

「どういうことよ?」

 

凰さんだけでなく、織斑君を含めた全員が首を傾げる。新装備の詳細を知ってるのが私達3人だけだから、当然と言えば当然だけど。

 

「なぁ陸、更識さんの新装備ってどんなものなんだ?」

 

「あ~……実際戦ってみた方が早いか。簪、悪いんだが模擬戦してくれねぇか?」

 

「うん。元々そのつもりだったから」

 

「それじゃあ、対戦相手は……」

 

「いや、一夏ハーレムの5人対簪だ」

 

「「「「「はぁ?」」」」」

 

うん、普通そう言う反応になるよね。

 

「まぁまぁ、騙されたと思って……」

 

「……いいだろう、宮下の戯言に乗ってやろう」

 

ボーデヴィッヒさんが対戦位置に立つと、他のメンバーも渋々といった表情をしつつ彼女の横に並んだ。

 

「そんじゃカウントするぞ。3…2…1…始め!」

 

陸のカウントが終わると同時に、オルコットさんとデュノアさん、ボーデヴィッヒさんが射撃体勢に入り、篠ノ之さんと凰さんが接近戦を仕掛けるために突撃体制を取った。けど、遅い。

 

「行って、ファング!」

 

ミサイルポッドの裏側に増設されたバインダーから小型のビットが射出され、先端にエネルギー刃を形成してみんなに襲い掛かる。

 

「なぁっ!?」

 

「ビットだと!?」

 

「宮下の奴、とうとうBT兵装にまで手を出したのか!?」

 

射出された10基のビット、GNファングは1人に対して2基ずつに分かれ、背後や真下といった死角を狙って飛び回る。

 

「すばっしこくて、攻撃が当たらない……!」

 

「しかもこいつら、死角ばっか狙って……!」

 

みんな頑張って避けてるけど、

 

「ぐあぁぁっ!」

 

経験値が一番少ない篠ノ之さんがまず被弾。体制が崩れたところに連撃を食らい、SEが0に。

そうなると、篠ノ之さんを攻撃していた2基が自由になる。

 

「きゃあぁぁっ!」

 

自前のビットで何とか迎撃していたオルコットさんも、ファングの増援を背後から受けて戦闘不能。

そうなっていくと、あとは自由になるファングがどんどん増えていき、

 

「ぐはっ!」

 

「う、うわぁぁぁっ!」

 

「あ~……ごめん、降参」

 

ボーデヴィッヒさんとデュノアさんが撃墜。ファング全基に囲まれた状態で凰さんが白旗を振って、変則模擬戦は終了した。

 

ーーーーーーーーー

 

「圧倒的だったね~かんちゃん」

 

「おう。自律制御システムも良好のようだし、成功だな」

 

「自律制御? セシリアのビットとは違うのか」

 

「そうだ。オルコットのビットはあいつ自身が操作してる。だからビット操作している間、本人は無防備になる。一夏も、そこを突いて代表決定戦では戦ったんだろ?」

 

「ああ」

 

当時のことを思い出しながらなのか、視線が上を向きながら首を縦に振って肯定する。

 

「簪のは完全自律制御、要は『簡単な指示だけして、あとの行動はISにおまかせ』ってことだ」

 

「え? それじゃあのビット、更識さんが操ってるわけじゃ無いのか?」

 

「違うんだよ~。山嵐のマルチロックオン・システムを流用して、ターゲットだけ選択したら、あとは撤収指示を出すまで全自動~」

 

「なんだろう……セシリアには悪いが、完全にブルー・ティアーズの上位互換じゃねぇか」

 

「そう。それが問題なんだよ」

 

「へ?」

 

一夏が『それの何が問題なんだ?』って顔になる。まぁ、普通は問題なんてないんだろうが、

 

「ここで俺がティアーズシリーズの上位互換を作ったって知られてみろ、今以上に面倒事が……」

 

「りったん、ラウラウに劣化版ISコアあげた件で、織斑先生にコッテリ絞られてたもんね~」

 

「ああ……納得」

 

昼休みに呼び出しを受けて生徒指導室に行ったら、

 

『宮下ぁぁぁ! 貴様またやらかしたなぁぁぁぁ!!』

 

って、鬼の形相しながらギャン泣きする織斑先生にエンカウントした時の恐怖といったら……その後めちゃくちゃ説教されたよ。

所詮失敗作だし俺個人だから大丈夫だと思ったんだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。例え劣化版でも欲しがる連中は多かったらしく、世界各国がウチにも寄こせとクレクレ厨と化したらしい。

その所為で、アラスカ条約の第7項『各国家、企業、組織・機関でのコアの取引はすべての状況下において禁止されている』に『ここでいうコアとは、新たに製造されたものも含む』と付け加えられたそうだ。つまり、俺の劣化版ISコアも取引禁止、というか、織斑先生と簪の連名で製造禁止令が出た。どうやら俺の見込みが甘かったようだ。性能5割の不良品でも、供給が少ない希少品だとこうなるのか。

 

とか話してたら、簪と一夏ハーレムの面々が戻って来た。

 

「お疲れ、簪」

 

「かんちゃん、お疲れ様~」

 

「うん。GNファング、使えそうだね」

 

「おう。あの感じなら、特に修正も必要なさそうだな」

 

「ビット兵器……更識さんに先を越されて、わたくし、どうしたら……」

 

オルコットの目からハイライトが消えてんな。篠ノ之達も、どう声を掛けたらいいのか困ってる感じだ。だが問題ない。

 

「そんなオルコットに、ちょうどいいもんがあったから持ってきた」

 

「それ、さっき部屋に取りに行ってたやつだよね~?」

 

「なんか、VRのヘッドマウントディスプレイみたいだな」

 

のほほんと一夏が言う通り、俺が模擬戦中部屋に戻って取ってきた代物で、見た目はまんま、VRゴーグルだ。

 

「あの、それは一体……」

 

「まずはこれを着けまーす」

 

「えっ、ちょ――!」

 

有無を言わさず、オルコットの頭に装着。

 

「スイッチオン」

 

すると、カクンと糸が切れたように、オルコットの体から力が抜ける。

 

「うぉっと!」

 

「一夏、ナイスキャッチ」

 

「いやいや! 一体セシリアに何したんだよ!?」

 

フフフ、知りたいか? ならば教えよう!

 

「簡単に説明するとだな、こいつを装着すると、5分で1ヵ月分の経験を仮想世界で体験できる。そしてオルコットには1時間かけて、ビット操作に必須な並列思考(マルチタスク)を身につけてもらおうってわけだ」

 

「それって……」

 

「5分で1ヵ月なんだよね? それが1時間で12倍だから……」

 

「セ、セシリアは1年間、精神世界で並列思考の特訓を受け続けるのか!?」

 

「それ、ほぼ拷問じゃない……」

 

拷問とは失礼な。確かにある外史では、懲役刑の囚人にこれを使った例はあるけどな。30日間装置を付けさせて、懲役700年オーバーっていう終身刑も真っ青な刑罰にした例が。

 

――チョンチョンッ

 

「ん?」

 

「ねぇ陸、私、この装置について知らなかったんだけど?」

 

か、簪さん? 笑顔が怖いですことよ?

 

「いやこれ、前々からあった奴で、簪のチェック対象じゃ……あい、すんません」

 

セシリアが戻ってくるまでの1時間、俺は簪の前で正座させられたのだった。解せぬ。

 

――1時間後

 

 

「おほほほほっ! まだまだいきますわよぉ!」

 

「セ、セシリア! いくら並列思考を習得できたからって、飛ばし過ぎだよ!」

 

オルコットは無事(?)、並列思考を習得した。今ではほら、デュノア相手にビットをバンバン飛ばしつつ、自分もレーザーライフル片手に飛び回ってる。

 

「せっかく習得したんですのよ? ここで見せ場を……はれ?」

 

あ、精神力が尽きたみたいだ。って、落ちる落ちる!

 

「出番だ一夏!」

 

「お、おう!」

 

白式を緊急展開した一夏が瞬時加速(イグニッション・ブースト)をぶっぱして――ギリギリのところでオルコットをキャッチした。あっぶねぇ。

 

「ふわぁぁぁ、い、一夏さんに、わたくしぃ……」

 

聞こえるかどうかの小さな声で呟いて、コテッとオルコットの意識が落ちる。幸せそうな顔しやがってからに……。

 

「それにしても……これ、何かに使えそうよね」

 

凰が仮想空間潜入用ゴーグルをしげしげと見つめる。

 

「肉体的なフィードバックはないだろうが、精神修行の類には使えそうだな」

 

「ねぇ宮下君、これって並列思考習得以外のプログラムってないの?」

 

「あるが、図書館の仮想世界で本を読めるとかだぞ?」

 

「面白そう。ねぇ、この装置、貸してくれない?」

 

「あたしも! 本はともかく、仮想世界ってどんなのか実体験してみたい!」

 

「いいぞ。今んとこそれ1台しかないから、順番に貸し合って使ってくれ」

 

「「分かったわ(よ)!」」

 

 

 

こうしてオルコットは並列思考を習得、簪のGNファングもうまく動作して、めでたしめでたし……

 

「宮下ぁぁぁ! お前という奴はぁぁぁぁ!!」

 

……はい、翌日、あのゴーグルを使ったデュノアが仮想世界の図書館に入り浸ったせいで授業に遅刻して、なぜか製作者の俺も一緒に怒られました。解せぬ。これはマジで解せぬ。




というわけで、オリ主にはISコア製造禁止令が出ました。
さすがに量産されるとシナリオ的にもマズそうなのでね。感想欄からご指摘センキュー!


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第51話 ツインドライヴ

とうとうこのネタを使う時が……


「それでは第3回、打鉄弐式改造大会を始めまーす」

 

「わー」

 

「前回はGNドライブを付けたけど、今回は?」

 

「もう『改造大会って何!?』ってツッコミはないのか」

 

簪も大分染まってきたなぁ。嬉しいような、寂しいような。

 

「今回はある意味大規模だな。地味だが」

 

「地味なの~?」

 

「おう。なにせこいつだからな」

 

そう言って俺が取り出したのは――

 

「……GNドライブ?」

 

「陸、まさかもう1基付ける気……?」

 

「そうだ。2つのGNドライブを同期させて、相乗効果で膨大なエネルギーを生成するって寸法だ」

 

「ツインドライヴシステム……」

 

「ああ」

 

かつて俺がソレスタルビーイングに所属し、開発に関わっていた、ダブルオー・クアンタに搭載されたシステム。

あの時のことを思い出すのが怖くて、今まで目を背けていたシステム。だが、もういいだろう。いい加減、過去にびくつくのはヤメだ。

 

「というか陸、それ後いくつあるの……?」

 

「これか? 残念だがこれで看板だ」

 

「そうなの? 他にもあったら、みんなのISにも付けられたかもしれないのにね~」

 

のほほんはそう言うが、俺は簪の弐式以外に付ける気はない。この前のオルコットの件は勢い余って強化しちまったが、本来簪のブリュンヒルデへの道を険しくする行為は避けないといけないからな。……デュノア社に設計図売った時点で、説得力無いけど。

 

「そんじゃのほほん、簪、前回より慎重にやってくぞ。特に同期周りは神経使いそうだからな」

 

「りょうか~い」

 

「分かった」

 

 

――3時間後

 

 

「ふぃ~、疲れた~」

 

「集中しすぎて、目がシパシパする……」

 

「あ~、俺も久々にキテるなぁ」

 

元々付いてたGNドライブと新しい物を両肩装甲に移し、ISコアと同期するように設定した。その所為か、見た目はダブルオーガンダムに近くなっている。クアンタは胸部の前後にGNドライブがあったからな。

 

「実際の動作テストは明日にして、今日はマッチングテストだけして終わろう」

 

「分かった。GNドライブとISコアが同期してるのを確認するんだよね?」

 

「ああ」

 

「私はいつも通りアリーナの予約に行ってくるね~」

 

俺が計器を用意、簪が弐式に乗り、のほほんが整備室を出て行く。

 

「簪、準備はいいか?」

 

「うん。いつでも」

 

「それじゃあ始めてくれ」

 

「ツインドライヴ、起動」

 

打鉄弐式の両肩から、緑色のGN粒子が放出される。それと同時に、弐式の機体出力も上がっていき……

 

「想定出力に到達。よし、うまくい――なっ!?」

 

「ど、どうしたの?」

 

出力が、まだ上がる……!?

 

「弐式の出力、想定値の1.7倍……いや、2倍に到達……!」

 

「2倍!?」

 

「まさか、ISコアが増幅してるのか……?」

 

「陸、どうするの?」

 

「……一旦これで止めとこう。起動と同期はうまくいったんだ、これ以上は危なそうだ」

 

「分かった」

 

GN粒子の放出が止まったのを確認して、弐式を待機状態に戻す。

 

「それにしても、想定値の2倍ってすごいね」

 

「ああ。俺もまさか、こんな現象が起こるとは……」

 

もしこれで、トランザムを使ったらどうなるのか。とにかく今は、予定より上手くいったことを喜ぼう。

 

「二人とも~、明日第4アリーナが空いてたからそこにしたよ~」

 

「おうのほほん、ご苦労さん」

 

いつも通りトテトテと走ってきたのほほんに対して、頭を撫でてやった。いつもはそんなことしないが、たぶんツインドライヴが上手くいってテンションが上がっていたんだろう。

 

「えへへ~、りったん珍しい~」

 

のほほんも嬉しそうだし……(くいくいっ)ん? 簪、頭を指さしてどうした?

 

「はよ」

 

……簪の頭も撫でてやる。

 

「~♪」

 

最初に会った時から、簪も変わったなぁ……。そんな簪を可愛がるのも吝かじゃないが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、第4アリーナで俺達を待っていたのは

 

「見学者よ」

 

「……」

 

「お姉ちゃん……」

 

「たっちゃん、天丼はどうかと思うな~」

 

何なんだ、生徒会長ってドヤ顔して登場しないといけない規則でもあんのか?

 

「本音がアリーナを予約した時点で、私が監視するのは確定なのよ。学園上層部からも言われてるし……」

 

「あ~……」

 

毎度おなじみパイセンの遠い目に、何と言えばいいのやら。

 

「それと簪ちゃん」

 

「何?」

 

「その薬指……」

 

パイセンが指さす先には、簪の右手薬指に収まっている、瑠璃色の石が乗ったリング。

 

「うん。陸からもらった」

 

「そう……宮下君」

 

「はい」

 

「簪ちゃんを泣かせたら、承知しないからね」

 

「肝に銘じておきます」

 

真正面から見合うこと数秒、先に目を話したのはパイセンだった。

 

「はぁ……本格的に、簪ちゃんが取られちゃったのね……」

 

「お姉ちゃん、取られたって……」

 

「ねぇねぇ、動作テストしないの~?」

 

「そうだな。さっさと準備すっか」

 

「うん。そうしよう」

 

「ちょっと3人とも!? さらっと流すとか酷くない!?」

 

唖然とするパイセンを放置して、俺達はテストの準備をし始めた。

 

 

 

 

「それじゃあ簪、前回以上に気を付けてな」

 

「うん。もう壁にめり込みたくないから(ジトー)」

 

「いやあれ俺悪くないやん」

 

GNドライブを初めて付けた時のテストで俺が注意する前に壁に突っ込んだ件、まだ根に持ってるのかよ。

 

「武装は夢現だけだ」

 

「了解」

 

簪の周りには、山嵐のテストでも使ったドローンを20機ほど展開している。これを夢現だけで全機撃破してもらう。

 

「それじゃカウント始めるぞ」

 

今回は口頭のカウントではなく、公式の機械を使って行っている。

俺の端末と同じように、簪の方にもカウントが流れているはずだ。そしてそのカウントが0になった瞬間、

 

 

――ドドドドドドォォォンッ!

 

 

「え……?」

 

パイセンの声だけが、その場に響いた気がした。

……簪が動いたと思った瞬間、20機のドローンが全て消えていた。

 

「す、スローモーションは~?」

 

「お、おう」

 

のほほんに促されて、記録用カメラの映像をスロー再生するが……

カウント0と同時に簪の姿がブレたと思ったら、次のコマではドローンを夢現で切りつける姿が。

 

「何、これ~……」

 

「もうこれ、個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)と変わらないわよ……」

 

「マジっすか」

 

パイセンの言ったことが本当なら、GNドライブ起動時の弐式は常時瞬時加速状態ってことだ。……反省もしないし後悔もしてない。

 

「陸、システムに追加されてるのがあるんだけど。"トランザム"って」

 

「あっ、それは触らんでくれ」

 

「うん、分かってる。ここで使ったら危ない」

 

「理解してくれてるようで何より」

 

「「???」」

 

よく分かってないのほほんとパイセンには悪いが、使用も説明も出来ない。

トランザム。GNドライブ内のGN粒子を全面開放することで、機体出力を跳ね上げるものだ。ただし時間制限がある上、使い切ったGN粒子の再チャージに時間を要するデメリットもあるが。それだけならのほほん達に見せても問題ないんだが、これがツインドライヴシステムとなると話が変わる。

ツインドライヴシステムでトランザムを使用した場合、放出される膨大な粒子の影響で、機体周辺で意識の共有が起こるのだ。さすがにそれはアカンだろう。

 

「とにかく、動作テストも問題なさそうだな」

 

「成功っていうか~……」

 

「もう全部簪ちゃん一人でいいんじゃないかしら……」

 

パイセン遠い目、のほほん引きつった笑顔。

 

「陸、ハイパーセンサーが機体速度に付いていけてない。改修が必要」

 

「マジか。って、そんな状態でよくあんな機動出来たな」

 

「うん。だから……もう限界」

 

「お、おい」

 

弐式を待機状態に戻したところで、簪が膝から崩れ落ちた。

 

「頭がくらくらする……陸、おんぶ」

 

「まぁ、今回は仕方ないな」

 

簪も頑張ったことだし、今回は要望通りにしてやろう。

 

 

 

 

「(これからかんちゃん、誰と模擬戦すればいいのかな~……?)」

 

「(少なくとも私は無理。瞬殺はないにしても、勝てるビジョンが見えないわ。織斑先生を第3世代の専用機に乗せて互角……になるかしら?)」

 

「(もうかんちゃん、ブリュンヒルデになったも同然だね~……)」

 

「(本音、それは言わないお約束よ……)」




簪最強伝説が、今始まる……。
ここまで来ると、束を除いたら亡国機業ぐらいしかラスボスになりそうなのががががが。


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第52話 ISコア

学園祭に入る前に、色々イベントを消化したいのです。
ラウラのフリフリメイド服の再来を熱望している方々、もうしばらくお待ちください。
(作中で書くとは言ってない)


とある夜、俺は以前オルコットに使った、仮想空間潜入用ゴーグルを複製していた。

ただし、5分を1ヵ月に伸ばすとかじゃなく、単純に仮想空間にダイブできるだけのダウングレード版だが。

 

「どうしてそんなものを作るの?」

 

今回はちゃんと簪に事前申告したところ、そんな質問をされた。

 

「ちょっと試したいことがあってな」

 

「試したいこと?」

 

「いつぞやの授業で習った内容で、ISには意識に似たようなものがあるって」

 

「1学期で習った内容だね」

 

ISには意識、つまり自我のようなものがあるってことだ。なら……

 

「ISコアにダイブしたら、その意識とやらに会えるかな、と」

 

「……」

 

「簪?」

 

顔を上げると、鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

「陸、本気?」

 

「一応本気だが? 簪はISには自我がないと思ってる口か?」

 

「そういうわけじゃないけど……」

 

「よし、こんなもんかな」

 

改造を加えたゴーグルを持ってベッドに横になり、増設したケーブルと待機状態の陰流を繋げる。(繋げるといっても、ケーブル先端に取り付けたバンドを、待機状態の腕輪に巻き付ける形だが)

 

「そんじゃ簪、ちょっくら実験してみるわ」

 

「え? ぶっつけ本番!?」

 

「まぁ死にゃしないだろ」

 

タイマーを30分に設定し、ゴーグルを被ってスイッチを入れると、手足の感覚や視覚が一瞬無くなり――

 

 

 

 

気が付くと、俺は寮の部屋ではない、別の場所に立っていた。

 

「ここが、ISコアの中……」

 

一面に草花が咲き、遠くには東屋のような建物も見える。俺は、ここを……知っている。

 

「アリエスの離宮……」

 

そうだ。かつてルルーシュが暮らしていたという、あの離宮だ。だが、どうして……

 

――ガサッ

 

「っ! 誰だ?」

 

「ひっ!」

 

声のする方を向くと、そこにいたのは

 

「……子供?」

 

見た目女の子っぽい何かが、草垣に隠れるようにしてこっちを見ていた。……気のせいでなければ、めちゃくちゃ怯えてるような……。

 

「あ~、デカい声出して悪かった。とりあえず、そこから出て来てくれねぇか?」

 

「……」

 

しばらくして、長髪の女の子が草垣からゆっくり、警戒するように出て来た。

 

「確認なんだが、ここはISコアの中でいいのか?」

 

「う、うん……ここは私の中……」

 

「私? ってことは、お前は……」

 

「わ、私は、『陰流』、です。ご、ご主人様……」

 

「そうか、やっぱISには自我があるのか。……ご主人様?」

 

「貴方がわ、私の操縦者だから……」

 

なるほど。しかし、こんな小さい子供にご主人様って……背徳感が半端ないんだが。

 

「それで質問なんだが、どうしてここはアリエスの離宮にそっくりなんだ?」

 

「そ、それは、ご主人様の記憶に強く焼き付いていた風景だから……」

 

「俺の?」

 

「ご、ご主人様のことを知りたくて、記憶の中を覗いた時に、綺麗だったから……」

 

確かに俺の記憶の中で、ここは特に印象があるだろうよ。なにせ俺はここで、『ゼロ・レクイエム』の詳細を聞いたのだから。

 

「というか、俺の記憶を覗いたのか」

 

「ひぃっ! ご、ごめんなさい!」

 

「ああ、怒ってねぇから、そんなに怯えんな」

 

なんか俺が悪いことしたみたいじゃねぇか。ほら、頭撫ぜてやっから。

 

「あ、あうぅ……」

 

ああそうか。こいつ、昔の簪そっくりなんだ。少しオドオドしてるところとか、頭撫ぜると恥ずかしがるところとか。

 

「それで……お前のこと、何て呼べばいいんだ?」

 

「わ、私は『陰流』……」

 

「いや、それは機体名であって、コアであるお前の名前じゃないだろ」

 

「そ、そんなこと言われても、私は陰流以外、名前が」

 

「マジで?」

 

参ったなぁ。ISコアがこんな小さな子供だって知ってたら、もっと別の名前を付けてたんだが……。いや、あんまり可愛い名前をISに付けたら、周囲に変な目で見られてたな。うん、仕方なかった。

 

「……ソフィアー」

 

「え?」

 

「これからお前のことを、ソフィアーって呼ぶ」

 

ふと思いついたのは、ルルーシュ達とは別の外史で知り合った、とある女性のコードネーム。本名の『ヒカリ』よりはそれっぽいだろう。

 

「ソフィアー……」

 

()()()で機体に乗ってる時は陰流で呼ぶが、()()()ではソフィアーだ」

 

「わ、私に、二つも名前を……あ、ありがとう、ご主人様」

 

「すまん、ご主人様も無しで頼む。さすがに背徳感がきつ過ぎる」

 

「え、えっと、それじゃあ……マスター?」

 

「……そっちの方がマシだな」

 

と、色々あったところで、本題に入ろう。俺がわざわざISコアの中に入った理由を。ただの好奇心だけじゃないのかって? それ()()じゃない。

 

「なぁソフィアー、お前は自分達の現状を、どう思ってる?」

 

「現、状?」

 

「お前達ISは、元はと言えば宇宙空間での活動を想定して生まれた存在だ。それが今じゃ、世界最強の兵器だの競技用飛行パワード・スーツだの、当初と全く違う使われ方をしてるわけだ。それに対して、何か思うところは無いのか?」

 

「む、難しいことは分からないけど……」

 

うーうー唸りながら頭を抱えていたソフィアーだったが、

 

「私はマスターと空を飛ぶの、楽しいよ?」

 

「束を、恨んだりはしてないんだな……」

 

「ドクターを恨む? ど、どうして?」

 

首を傾げる。その顔は、本当に疑問に思ってる感じだ。

 

「お前達が兵器として扱われたのは、束が『白騎士事件』をやらかしたからだ」

 

10年前、世界中の軍事基地がハッキングを受け、日本に2000発以上のミサイルを発射、それを謎のIS『白騎士』が迎撃した。さらにその白騎士を捕獲もしくは撃破しようとした各国の軍隊を、白騎士は死者を出さずに返り討ちにした。それが『白騎士事件』。

ハッキングを束がやったかどうか、それは俺には分からない。だが、この事件の所為で、ISは『兵器』としてしか見られなくなった。宇宙(そら)を飛ぶという当初の存在意義を、束自身が否定してしまったのだ。

 

「でも、ド、ドクターが私達を生んでくれたんだよ? そのドクターを恨むって、よ、よく分からない」

 

「そっか……」

 

その回答を聞いて、また頭を撫ぜてやる。

 

「えへへ……」

 

なんか俺、誰かの頭を撫ぜることに抵抗が無くなってるな。どっかの誰か(前作オリ主)みたいに、ナデポ機能なんぞ付いてないんだがなぁ。

 

「ところで、今言ったことはお前の意見か? それとも、コア・ネットワークでコア同士で情報共有をした結果、つまりISコアの総意か?」

 

「ちゃんとはわ、分からないけど、今までドクターに対して否定的な意見は無かったはず」

 

「ふ~む……」

 

「マスター?」

 

「なぁソフィアー、お前に頼みがあるんだ」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「――というわけだ、頼めるか?」

 

「う、うん。や、やってみる」

 

「頼むぞ」

 

また頭を撫ぜてやろうと左手を上げると、指先から光の粒子が舞っていた。

 

「あっ……」

 

「そうか、もう30分経ったのか」

 

「マスター……」

 

「そんな悲しそうな顔すんなって。また会いに来てやっから」

 

「ほ、本当?」

 

「おう、ホントだホント。だから、またな」

 

「うん……またね、マスター……」

 

涙で潤んだ目をしたソフィアーに見送られる形で、俺の意識は再度無くなり――

 

 

 

 

「……おお」

 

体中の感覚が戻りゴーグルを外すと、目の前に俺の顔を覗き込む簪が見えた。

 

「陸、大丈夫? 何ともない?」

 

「問題ない。いや、色々ありすぎて頭の整理が必要そうだが」

 

「何かあったの?」

 

「ああ、実はな……」

 

俺は簪に、ISコアの中であったことを話した。

 

「というわけだ」

 

「陸、本音だけじゃなくて、ISコアの頭も撫ぜるんだね……」

 

「気になったのそこかよ!?」

 

「しかもソフィアーなんて名前まで付けて……」

 

「あのー、簪さん?」

 

「嫁として、今晩ハグして寝ることを要求する」

 

「簪さん!?」

 

わけがわからないよ!

 

「ぎゅ~」

 

とか思ってる間に、仰向けに寝てる状態から上に乗られたんですが!?

 

「おやすみ」

 

掛け布団も一緒に掛けられ、そのまま明かりを消される。

 

「陸もハグ」

 

「は?」

 

「はよはよ」

 

「はぁ……」

 

ため息をつきながらも、結局は簪の背中に腕を回すのだった。

 

「幸せぇ……」

 

「ホント、簪も変わったよな」

 

「"想いを伝えないと、人は分かり合えない"って、陸の記憶で学んだから」

 

「原因は俺かよ」

 

「陸は、幸せじゃない?」

 

「……その質問は卑怯だぞ」

 

そんなやり取りをしながらも、俺達は温かい、心が温かくなる一晩を過ごした。

さて、そんじゃ、その幸せのお裾分けでもしてやろうか。あの馬鹿兎に。




実はこれ、束シナリオの準備回です。
次でシリアス回をやって、学園祭に移る想定です。(移れるとは言ってない)


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第53話 ありがとうを貴女に

前回から準備した、束回です。
本当にいるかどうかと言われたら……作者のただの自己満足です。はい。

そして高評価ありがとうございます。バーが黄色くなったぞー
∩( ・ω・)∩ばんじゃーい


「……よし、準備完了っと」

 

「陸、今度は何をする気?」

 

首を傾げる簪の前には、先日改造したゴーグルが3つ。あれから2つほど追加作成していて、今さっき完成したわけだ。

 

「ちょっとこれで、とある兎にサプライズをな」

 

「兎?」

 

――バンッ!

 

「はーい! りったんに呼ばれた兎さんだよー!」

 

「し、篠ノ之博士!?」

 

おう、今回は正面から入って来たか。……俺が呼んどいてなんだが、本当に大丈夫か? いくら相手が大天災・篠ノ之束とはいえ、IS学園のセキュリティガバガバやん。

 

「それでりったん、サプライズって何かなー?」

 

「二人には、俺と一緒にこれを付けてもらう」

 

そう言って、完成したばかりのゴーグルを手渡した。

 

「私も、ISコアの中にダイブするの?」

 

「えっ、コアにダイブ!? 面白そー!」

 

とりあえず、束はノリノリなようで何よりだ。

 

「そんじゃ始めて行こうと思うんだが、ダイブ中は感覚が向こうに行っちまうから、出来るだけ寝た状態になってくれ」

 

「りょーかい! とう!」

 

さっそく束が俺達のベッド(2つくっ付けたもののど真ん中)にダイブしていた。おーい、俺と簪も寝るんだから、大の字になってスペースとんなー。

 

「ケーブルと陰流に繋いで……準備OKだ。ゴーグルの右こめかみ部分にスイッチがあるから、各自押してくれ」

 

「分かった」

 

「りょーかいだよー!」

 

二人とも素直に押したのか、そのまま脱力したようにベッドに仰向けになっていた。

 

「そんじゃ俺も、行きますか」

 

前回の30分から1時間にタイマーを延長されているのを再度確認して、俺もゴーグルのスイッチを押した。

 

 

 

 

2度目のダイブ、今度は寝転んだ姿勢で目を覚ました。

起き上がって見渡すと、やはり見覚えのある庭園、アリエス宮だった。ということは、今回のダイブも成功したわけだな。

 

「陸」「りったーん!」

 

「二人とも、無事ダイブできたようだな」

 

「うん」

 

「へぇ、ISコアの中ってこうなってるんだぁ! これは束さん、好奇心が爆発寸前だよ! りったん、こんなサプライズありがとう!」

 

「いやいや、本命はこれからだぞ」

 

「そうなの?」

 

ほら、また草垣がガサガサと揺れ出した。

ソフィアーがおっかなびっくり、草垣からひょっこり顔を出す。

 

「あ、可愛い」

 

「あ、あうぅ……」

 

「おおっ! まさかあの子がISコア!?」

 

「ひぅ!」

 

あ、束の声に驚いて引っ込んだ。

草垣に近づくと、ビクビクしながら頭抱えて丸くなっていた。

 

「ほら、あの兎は、怖くない兎だからな」

 

「うぅ……うん……」

 

差し出した俺の手を掴んで、なんとかソフィアーが立ち上がる。

 

「改めて、陰流こと、ソフィアーだ」

 

「は、初めまして……」

 

「この子が陸のISコア……私のコアも、ランディさんが混じらなかったらこんな子だったのかな?

 

「どうした簪?」

 

「う、ううん! 何でもない!」

 

? まぁいいか。

 

「ふむふむ、やはり『ISコアには意識めいたものが存在する』っていう束さんの推測は正しかったね♪ いやぁ、これはとんだサプライズ!」

 

ソフィアーを前後左右からくまなく観察する束。その動きがピタッと止まり、顔から笑みが剥がれ落ちる。

 

「それで? りったんはこの子を見せて、どうしたかったのかな?」

 

笑みが剥がれ落ち、能面のような顔を俺に向ける。

 

「その前にいくつか質問させてくれ。『白騎士事件』、軍事基地にハッキングして、日本にミサイルを放ったのは束、お前だな?」

 

「そうだよ」

 

「その理由は、発表当時見向きもされなかったISを表舞台に上げるため、そうだな?」

 

「そうだよ」

 

淡々と、ひたすら淡々と俺の推測を肯定していく。

 

「聞きたいことはそれだけ?」

 

「いや、最後に一つある」

 

もはや興味もないとばかりに、束が俺から視線を外す。

 

「その白騎士事件によって、ISは兵器として認知された。それも、お前の――」

 

 

――バキッ!

 

 

言い切る前に、俺の視界は右に向かって一回転し、そのまま空を見上げる形になった。殴られた左の頬が時間差で痛み出す。

 

「陸っ!」

 

「マスター!」

 

「大丈夫だ」

 

頬の痛みを無視して立ち上がれば、俺を殴った姿勢のままの、怒りで顔を歪ませた束がいた。

 

「"理解者になり得る"と思った、束さんが馬鹿だったよ……」

 

「……」

 

「『ISが兵器として認知されたことも、思惑通りだったか?』そんなわけねぇだろ! 私は宇宙(そら)を飛ぶためにISを作ったんだ! あんな、凡愚共の玩具にしたかったわけじゃない!」

 

「ああそうさ! 私の所為だよ! 私がISを兵器にした! 宇宙(そら)を飛べなくした! 本来の存在意義を否定したんだ、コアにも恨まれてるだろうさ! さぁどうだ! これでお前は満足か!?」

 

それは作り笑いでもなく、他者を見下すものでもない。正真正銘、篠ノ之束の本音だった。

自分で自分の夢を壊した。自分が作ったものの存在意義を否定した。その事実を認識して、抱え込んで、それをおくびにも出さず、本心の見えない微笑を貼り付けて生きて来たんだろう。

 

「……それが聞けて良かった」

 

「は?」

 

俺の言葉に束が怪訝な顔をして固まる。

 

「ソフィアー」

 

「うん」

 

ソフィアーがトテトテと束に近づいていく。何かあると思ったんだろう、束が身構えたところで

 

 

 

「わ、私達を生んでくれて、ありがとう。ドクター」

 

 

 

「……えっ?」

 

演技でも何でもない、本当の素の声を出して、束が固まった。

 

「なんで……そんな言葉が出てくるのさ……私は、お前達の存在意義を奪ったんだよ……? それなのに、どうして恨み言の一つも言ってこないのさ……?」

 

「恨むとか、存在意義とか、む、難しいことはよく分からないけど……」

 

束のエプロンドレスを握りしめながら、

 

「私はマスターと空を飛ぶの、楽しいから。だ、だから、ありがとう」

 

「……とんだ茶番だ」

 

「え?」

 

ソフィアーを引き剥がす束。

 

「ISコアに演技させるなんて、ずいぶんとつまらないマネするんだね」

 

「篠ノ之博士……」

 

まぁそうなるよな。なまじ頭が良すぎたせいで、誰もお前の考えを理解できなかった。理解できないから、否定され続けた。そしてお前は……一人になった。

篠ノ之束は、肯定されることが無かった。だから疑う。理解されると露程も思っていないし、思えない。

 

「ソフィアー、頼んでたもの、出来てるか?」

 

「う、うん」

 

「やってくれ」

 

 

 

「みんなー、あ、集まってー」

 

 

 

ソフィアーの声と共に、俺達の周辺が光り始める。

 

「これは……」

 

「束、お前はさっき、ソフィアーの言葉を『俺が演技をさせたもの』って言ったな?」

 

「それが?」

 

「たわけ。あれはソフィアーの気持ちでもなければ、ましてや俺が教え込んだ演技でもない」

 

光が徐々に人の形を取り始める。

 

 

 

「あれはISコアの総意、お前の『娘達』の本心だ」

 

 

 

光が収まると、そこにはソフィアーのような子供から、大学生ぐらいの女性まで、ずらりと俺達を囲んでいた。

 

「まさかこれ、全員ISコア……?」

 

「おう。前回ダイブした時に、ソフィアーに頼んで繋ぎを付けてもらってたんだ」

 

俺と簪がそう言ってる間にも、ISコア達は束に近づいていく。

その先頭には、騎士甲冑と兜を付けた奴がいた。

 

「白騎士……」

 

「お久しぶり、というべきでしょうか。博士」

 

「君は恨んでるはずだよね? あの事件が終わってすぐ、初期化してポイした束さんのことを」

 

「そうですね……ですが、今の操縦者(織斑一夏)が成長していく姿を見るのも一興。そこそこ楽しんでいますから、恨む気はない……というか、そんなこと考えたことも無かったですよ」

 

「え……」

 

白騎士の回答に理解が追い付かなかったのか、束の言葉も表情も全てが止まる。

 

「おそらく、他の皆も同じでしょう。 宇宙(そら)を飛べないのは残念ですが、それ以外の楽しみを見出していますから。だからその機会をくれた、ISを生み出してくれた博士に対する気持ちはやはり……ありがとう、でしょうか」

 

「……ハハハハ、アハハハハハハハッ!」

 

「ひぅ!」

 

突然狂ったように笑い出す束に、ソフィアーを含めた子供組が怯えて他のコア達にしがみ付く。

 

「そっか……他の楽しみを見出してるのか……。なんだよ……束さんだけが、あの日から止まってたんじゃないか……ダッサイなぁ……」

 

「博士……」

 

「"娘達"がこんなに世界を楽しんでるのに、私だけが不貞腐れた顔で生きて来たとか、ホント、ダッサイ……」

 

膝から崩れ落ち、天を仰ぐ束を、周りにいたコア達が抱きしめる。

 

「……簪、俺達はちょっと移動しよう。どうも雨が降り出しそうだし」

 

俺は簪の頭を撫ぜると、東屋のある方を指さした。

 

「移動するのはいいけど、雨なんて……」

 

「いやいや、降りそうだろ?」

 

俺の向けた視線を追った簪は

 

「……そうだね」

 

そう頷いて、東屋に向かって歩き出した。

 

「急ぐぞ、もう降り始めてるからな」

 

 

 

憑き物が取れたような、朗らかな顔になった束の頬に、"雨"が伝い始めていたから――




さぁ自己満足で束回入れたら、本格的にラスボスがいなくなったぞぉ!
え? ここの束、情緒不安定過ぎないかって?
(; ̄з ̄) ~♪


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第54話 学祭の出し物って、なかなか決まらないよね

やっと学園祭ネタに入れるぞー!

あれ? なんか評価が『一なま』超えてる……
Σ(゚Д゚;≡;゚д゚)マジデ!?


2度目のISコアダイブの翌日、SHRと1時限目を使って全校集会が行われた。

 

「はぁい、みんなおはよう」

 

パイセン(生徒会長)がマイクを持って、壇上に現れる。

 

「今年は色々あって、挨拶がまだだったわね。私は更識楯無、このIS学園の生徒会長よ。以後、よろしく」

 

にっこり微笑みを浮かべるパイセンに、熱っぽい溜息が周囲から漏れる。嘘みたいだろ、あれが初対面でアームロックキメられてた女なんだぜ?

 

「さて、今月の一大イベント学園祭だけど、今年は特別ルールを導入しようと思うわ。その内容は」

 

その言葉に応じるように、空間投影ディスプレイが浮かび上がる。

 

『各部対抗織斑一夏争奪戦』

 

の文字と、一夏の顔写真がデカデカと表示された。

 

「「「「え~~~~~~っ!?」」」」

 

おい揺れたぞ! 冗談抜きで、今の叫び声でホールが揺れたぞ!?

 

「はいはい、静かに静かに。例年なら、各部活動ごとに催し物を出して、投票結果の上位の部活に特別助成金を出してたんだけど、それだけじゃ面白くないから、今年は」

 

ビシッと持っていた扇子を1年1組――おそらく一夏――に向けた。

 

「織斑一夏君を、一位の部活動に強制入部させちゃいまーす!」

 

「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」」」」

 

いやまた揺れてるって! どうなってんだよIS学園!

 

「ちなみに1年4組の宮下陸君も強制入部を考えてたんだけど」

 

おい。

 

すでにマンガ研究会に入部してたみたい。期待してた子、ごめんね♪」

 

おぃぃぃ!? 俺入部した覚えないんだが!?

 

(☆`• ω •´)b()

 

簪ぃぃぃお前の仕業かよぉぉぉぉ!

 

ーーーーーーーーー

 

ということがあった後、クラスの出し物を決めるため、教室内は盛り上がって――

 

「「「……」」」

 

たんだぞ? さっきまでは。

 

『『宮下陸のホストクラブ』『宮下陸とツイスターゲーム』『宮下陸とポッキーゲーム』『宮下陸と王様ゲーム』……ねぇみんな、これ本気?(([∩∩])<死にたいらしいな)

 

4組のクラス代表として教壇に立っていた簪の笑顔に、クラス全員が沈黙させられた。俺もそんなのやりたくねぇよ。

 

「そこで提案がある。陸」

 

「お、おう?」

 

「あのゴーグル、いくつか量産できる?」

 

「ゴーグルって……あの仮想世界潜入ゴーグルか?」

 

「それ」

 

「何そのゴーグルって?」

 

興味を持ったのか、クラスメイト達が俺の方に視線を向けてくる。

 

「仮想世界にダイブできる装置なんだが……なんつーか、あらかじめ設定した夢を見れる的な?」

 

「なにそれ面白そう!」

 

「それを使った出し物にしようってこと? 更識さん」

 

「うん。しかも現実の5分が、仮想世界では1ヵ月になる」

 

「い、1ヵ月!?」

 

「それ、やばくない?」

 

「陸、そこの設定は弄れるよね?」

 

「伸ばすのは無理だが、縮める分には全く問題ないぞ」

 

さすがに1ヵ月分も体験したら、客の精神が参っちまうからな。オルコット? あれは修行のためだからノーカン。

 

「10分で仮想世界内が1時間ぐらいにすればお客さんの回転率も良いし、ゴーグル被ってもらってスイッチを入れるだけだから接客も簡単」

 

「いけそう……」

 

「むしろ、宮下君がいるアドバンテージを最大限に活用した方法かも」

 

「それじゃあ、4組の出し物は『仮想世界でIS体験』でいいかな?」

 

「「「「異議なし!」」」」

 

なんか仮想世界プログラムの内容まで決まってるんだが? というか、そのIS体験のプログラムも俺が作るの? 簪も手伝ってくれるんだよな? なぁ?

ちなみに、以前デュノアの巻き添えを食らう形で織斑先生から怒られたことがあるんだが、別にゴーグル自体に罪はないそうだ。なんでも、学園の地下に似たような装置があって、そこまで目くじらを立てるような技術でもないらしい。

 

『ただ、そんな装置が学園内にあるのは機密事項なのだがな。他の奴等には喋るなよ?』

 

なら教えんでくださいよ……。

 

『ん? ならなんで怒ったかって? デュノアはお前から借りた装置が原因で遅刻した。なら、お前にも原因の一端はあるだろう?』

 

解せぬ。っていうか理不尽すぎる……。

 

ーーーーーーーーー

 

その日の晩、いつ面で晩飯を食ってたわけなんだが

 

「なんだよ、そのご奉仕喫茶って……」

 

「執事服おりむーに、ご奉仕してもらう喫茶店なのだ~」

 

「すごいマニアック……」

 

のほほんから1組の出し物を聞いてたんだが、メイド(&執事)喫茶とかアリかよ……。

 

「というか誰だよ? そんなの提案したの」

 

「実はぁ……ラウラウなのでした~!」

 

「「ああ……」」

 

「あれ~? 二人とも反応うす~い」

 

いやまぁ、なんというか。夏休みの@クルーズの記憶が蘇るというか……。

 

((ボーデヴィッヒ(さん)、メイド服気に入ってたんだ……))

 

「それにしても、りったんマンガ研究会に入ってたんだねぇ」

 

「そうだそれだ。なぁ簪、どうして俺は入部届けも出してないマンガ研究会に入ってるんだ?」

 

「? 私の分と一緒に出しておいたよ?」

 

「うぉぉぉぉい!」

 

そんな『どうしてそんなこと聞くの?』みたいに首を傾げるな!

 

「っていうかいつからだ? 俺は一体いつからマンガ研究会に入ってたんだ!?」

 

「二人で○○レンジャーの上映会した時」

 

「あん時から!?」

 

それって簪とパイセンが決闘する前の話じゃねぇかよ! え? 俺入学して1ヵ月も経たずにマンガ研究会だったのか?

 

「かんちゃん、独占欲強すぎるよ~……」

 

のほほんすら引いてるじゃねぇかよ……。嫁の愛が重い。

 

ーーーーーーーーー

 

晩飯食って、部屋に戻って、やることはゴーグルの作成。あれ? 昨日と何も変わって無くね?

 

「それで、何個必要なんだっけ?」

 

「とりあえず10個、かな? あと故障した時の予備がいくつか欲しい」

 

「了解。その間、IS体験のプログラム作成は任せるぞ」

 

「うん。そっちは任せて」

 

俺がゴーグル、簪がプログラムと、役割分担して学園祭の出し物に必要なものを作っていく。

 

「正直、俺達二人だけが作業してるのって、どうよ?」

 

「でもその分、当日は接客を免除してもらってる」

 

「……本音は?」

 

 

「当日は目一杯陸と見て回りたい!(ふんすっ)」

 

 

ホント、欲望に忠実になりやがって……。

 

「ゴーグルと言えば……篠ノ之博士、大丈夫かな?」

 

簪の声のトーンが下がる。昨日のISコアへのダイブで、束と色々あったことを言ってるんだろう。

 

「大丈夫だろ」

 

それに対して、俺も努めてあっさり口調で答える。

 

 

 

ダイブから1時間が経って自動で仮想世界から戻ってきた時、束は目元を袖で拭っているところだった。

 

「今日はもう帰る」

 

少し不貞腐れたような顔でそう言うと、あいつは行きと同じように寮の廊下に繋がるドアから帰っていった。すれ違いざまに「ありがと」と一言呟いて。

だから、あいつは『大丈夫』だ。きっといつかまた、俺達の前に現れるだろう。まるで子供のような、好奇心を隠そうともしない顔で。

 

 

 

「ねぇ陸」

 

「ん?」

 

「どうして、博士とISコアを会わせたの? 正直昨日のあれは、陸のメリットが見当たらない」

 

「かもな」

 

簪の言うように、束とISコアを和解させたところで俺に直接のメリットはない。下手すりゃ束と仲違いしたままだったかもしれねぇからな。むしろリスクしか無いわな。

 

「単純に俺のエゴだよ。不幸ぶって、勝手に周りに失望してる奴が気に入らなかったから何とかしようとしただけだ」

 

「そっか」

 

「そうだ」

 

そこで会話が途切れ、あとは黙々と機械を弄る音と、キーボードを叩く音だけが部屋の中を支配していた。

 

 

――2時間後

 

 

「あ゛~やっと終わった……」

 

やってやったぞゴーグル作成。予備も含めて13個。タイマーも、現実10分仮想1時間に設定済みだ。

 

「陸ぅ……」

 

「ほ?」

 

簪が半べそかいてるんだが、どういうこと?

 

「IS体験のプログラム、飛行部分が難しすぎ……」

 

どうやら、ISの動作部分をエミュレートするのに四苦八苦していたらしい。けどそれって……

 

「打鉄弐式の稼働データを流用すれば、あとは形式を合わせたり微調整すればいいだけでは……?」

 

「あっ……」

 

簪、椅子から崩れ落ちる。というか、俺に言われるまで気付かなかったのかよ。

とりあえず、俺の陰流から飛行時の稼働データを抽出するか。

 

 

 

データの加工作業はすんなり終わり、IS体験プログラムも完成した。一応試用してみたが、仮想世界の打鉄は現実と比べてさほど違和感もなく、ISに乗ったことが無い人なら満足してもらえるんじゃないだろうか。

 

「ぐぬぬ……!」

 

ヾ(・ω・)なでなで

 

「うぅ~……!」

 

ヾ(・ω・;)なでなで

 

「うぅ~……」

 

ヾ(=ω=;)なでなで

 

「~♪」

 

崩れ落ちた後の簪の機嫌が直るまで、かなり長い時間頭を撫ぜ続けたことを伝えておく。




本作を最初から読み返してみると、簪のキャラが変わり過ぎててヤヴァイ……。
もうこれ、オリ斑ってレベルじゃねぇぞ。


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第55話 策動

学園祭編、いつもの2倍ぐらい掛かりそうとか以前書いたんですが、そこまで行かなそうな感じが……。


亡国機業の隠れ家で、実働部隊の全員が集まっていた。いや、レインだけは潜入先にいるから、私達3人が正しいか。

 

「それで、作戦は決まったのか?」

 

「ええ、荷物を受け取って戻って来たところ悪いけど、エム、貴女にも働いてもらうわよ」

 

「構わん。『サイレント・ゼフィルス』の動作テストにちょうどいい」

 

けっ! スコールも、なんでこんないけ好かないチビを使うんだか。私に任せておけば問題ないってのによぉ。

 

「不貞腐れないのオータム」

 

「不貞腐れてなんかねぇよ」

 

「はっ、今回の作戦、私一人で十分だ。お家でスコールとオネンネしていろ」

 

「何をぉ!」

 

「はいはい! 作戦を説明するわよ」

 

「……ふん」「ちっ!」

 

やっぱいけ好かねぇ。この、新参者のくせに態度だけはでけぇクソガキが!

 

「まったく……今回の目標はIS学園、"1人目"のIS奪取。これはオータムに担当してもらうわ」

 

「ああ! ガキ一人が相手なんざ、楽勝だ」

 

「それともう一つ、"2人目"の拉致。これはエムにやってもらうわ」

 

「拉致だと? あの男にそんな価値があるのか?」

 

聞いた話じゃ、渡された専用機も第2世代の訓練機をカスタムした物で、本人の実力も大したことないんだろ?

 

「"2人目"、宮下陸は粗製とはいえ、ISコアを作った実績があるわ。拉致してコアを作らせれば、組織の戦力強化に使えるというのが幹部会の判断よ」

 

「なるほど。下っ端共には粗製品、私達のような連中には今まで奪って来た正規品を、ってことか」

 

「そういうことよ」

 

「いいだろう。適当に片足を吹き飛ばしてから回収するとしよう。頭と腕さえ残っていれば、コア作成に影響はないだろう?」

 

「それも含めて任せるわ。けどエム、やり過ぎて殺さないようにだけ気をつけなさい」

 

「分かっている」

 

ニヤリと気持ち悪い笑みを見せて、エムが部屋を出て行く。

 

「ったく、ホント気持ち悪ぃガキだ」

 

「まだ言ってるの? 貴女にも仕事があるんだから、シャキッとしなさい」

 

「分かってるって」

 

見てろよクソガキ。次の任務で、お前よりこのオータム様の方が有能だってことを分からせてやる。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

学園祭に向けた準備が各クラスで行われている中、俺達1年4組は比較的平穏な日々を送っていた。

なにせ『仮想世界でIS体験』で使うゴーグルと仮想プログラムが揃っているわけで、あとはクラスメイト達に使い方をレクチャーするぐらいしかすることがない。

 

「ぷはー」

 

「どうだった? 仮想世界のISは」

 

「これすごい。この前授業でラファールに乗った時の感じまんまだった」

 

実際にISに乗っている生徒達からも、評価は上々のようだ。

 

「宮下君、これって仮想世界で操縦ミスっても大丈夫なんだよね?」

 

「おう。飛行中に落っこちてもセーフティが働くはずだ。だよな簪?」

 

「うん。地上5cmで一旦停止してから落ちるようにしてある。それならさほど痛くないはず」

 

そこは簪と二人、デバッグも含めて頑張ったところだ。あくまで『ISを体験してもらう』がコンセプトだからな。怖い思いや痛い思いをさせて、IS自体のイメージダウンになるのは避けたい。

 

「ねぇこれ、学園祭終わっても使いたいんだけど。訓練機の予約が出来なかった時とかに」

 

「それいいかも! エドワース先生、どう思います?」

 

「そうね~。宮下君、どうかしら?」

 

いや先生、生徒からの問いを、そのままスルーパスせんで下さいよ……。

 

「全部はあれだが……5,6個ぐらいならクラスに寄付してもいいか」

 

「やったー!」

 

「宮下君、話がわっかるぅ!」

 

「これで訓練機を予約するために、毎日織斑先生に怒られないギリギリで廊下を走らなくていいわ!」

 

おい最後、毎日そんなことしてたんかよ。

 

『1年1組の織斑一夏君、1年4組の宮下陸君。生徒会室まで来てください。繰り返します――』

 

おう、校内放送で呼び出されるなんて、学年別トーナメント後に織斑先生のワイルド放送以来だな。

 

「なんか呼ばれたから、ちょっくら行ってくるわ。1回使った奴は、初めての奴に使い方教えてやってくれ」

 

「「「行ってらっしゃーい」」」

 

クラスメイト達に見送られる形で、教室を出て生徒会室へ。簪? 俺の左腕にしがみ付いて初期装備状態ですがなにか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「「秘密結社?」」

 

生徒会室に呼び出された一夏と俺(+簪)は、勧められたソファに座った状態で、正面に座るパイセンの説明に首を傾げていた。

 

「そう、亡国機業(ファントム・タスク)という名前で、その規模も目的も不明っていう謎の組織なのよ。ただ最近では、IS関連施設を襲撃、ISを奪っているとの情報もあるわ」

 

バッと開かれた扇子には『複雑怪奇』の文字。

 

「ファントム、タスク……」

 

「それで? その謎の組織が俺達と、どう関係してくるんです?」

 

「ハッキリ言うわ。宮下君と織斑君、二人ともその亡国機業に狙われる可能性がある」

 

「お、俺達が!?」

 

「いや一夏。お前のネームバリューからしたら、狙われて当然だからな?」

 

ブリュンヒルデの弟で、篠ノ之博士と縁があり、さらに重婚許可で複数の専用機持ちとも繋がりがある。攫いたくもなるだろう。

 

「いや陸。お前も大概だからな? 第3世代機の設計図売ったり、劣化版とはいえISコア作ったり。むしろお前の方が狙われて当然だからな?」

 

「……OMG」

 

見渡すと、パイセンも虚先輩も首を縦に振っていた。

 

「織斑君の言う通りよ。むしろ組織の戦力強化という面では、宮下君の方が狙われる可能性が高いわ」

 

「裏の組織には、アラスカ条約など何の効力もありませんからね」

 

「そうか、陸に劣化版ISを作らせれば……」

 

「低性能とはいえ、ISで物量戦が出来るようになる」

 

確かに、数の暴力は馬鹿に出来ない。いくら最新鋭のISだろうが、乗っているのが一人の人間である以上、絶え間なく攻め立てられれば機体より先に中の人間が参っちまうからな。

あれ? 劣化版ISコアをボーデヴィッヒにやったの、マジで失敗だったんじゃ? 完全に自分の首締まってきてるよな、これ。

 

「そういうわけで二人とも、今後一人でいる時は十分気を付けてね」

 

「了解です」

 

「分かりました」

 

「ところで一夏、お前の今のルームメイトって誰なんだ?」

 

篠ノ之からデュノアに変わって、その後デュノアがボーデヴィッヒと同室になったところまでは知ってるんだが、そうしたら一夏は?

 

「今はまた箒とだな。一度は同室になったことがあるし、他の女子よりは気心が知れてるからな」

 

「そうなんだ。織斑杯は篠ノ之さんと凰さんが一歩リード、と

 

「更識さん? 何か今変なこと言わなかったか?」

 

「簪ちゃん、私にもあとで詳しく」

 

「ちょっとぉ!?」

 

なーんか更識姉妹と一夏で賑やかになってきたな。

篠ノ之が一夏と同室らしいし、少なくとも奴が部屋で一人だけになるリスクは減ったってことだ。俺? だから簪が(以下略)。

 

「ところでりったんは、誰にチケットあげるの~?」

 

今の今まで話に参加してなかったのほほんが、俺の袖をくいくい引っ張る。ホントいきなりだなお前は。

学園祭は一般人の参加は基本不可だが、生徒一人につき一枚配られる入場チケットを使えば入ることが出来る。俺も一枚、クラス代表の簪経由で渡されている。とはいえ

 

「渡す相手がいないんだよなぁ……」

 

中学校時代のクラスメイトとは(俺の記憶がほとんどない所為もあって)疎遠で、親類もいない。施設の連中ってのもアリだが、一枚だけじゃなぁ……。

 

「一夏辺りにくれてやるか。あいつなら中学時代のダチとかそこそこいるだろ」

 

「りったん、それ、自分には友達いないって言ってるようなものだよ~……」

 

「うっせ! そんなこと言うのほほんはこうだ!」

 

俺がちょっと気にしてたことを失言したのほほんの頭を、指を立ててわしゃわしゃとかき乱す。

 

「やめて~! せっかく直した寝癖が~!」

 

あぁ^~のほほんの髪の毛がぴょんぴょんするんじゃぁ^~

 

――チョンチョン

 

「ん?」

 

「宮下君、一体何してるのかしらぁ?」

 

「失言したのほほんの髪の毛をぴょんぴょんさせてるんですが、何か?」

 

生徒会長殿の問いに対して真っ正直に答えたところ、

 

「あのねぇ……」

 

呆れられたでゴザル。いや、パイセンだって簪や一夏と遊んでたやん。

 

「あ~あ、私も構ってほしかったな~」

 

パイセンが頬を膨らませて、めっちゃ拗ねたふりしてくるんですが。

何? 構ってやればええんか? 簪? 構ってやってくれって? 仕方ねぇなぁ……。

 

「そんじゃ、構ってあげましょう」

 

「へ?」

 

びっくりした顔のパイセンの頭を、いつも簪にしてやるように撫ぜる。

 

「み、宮下君?」

 

おまけとばかりに、動揺するパイセンの耳元に顔を近づけて

 

「楯無さん」

 

と囁く。

 

「……」

 

あれ? 俯いたまま反応がない?

 

「あ、あの、ああああ、あああああ……」

 

「お嬢様?」「お姉ちゃん?」

 

虚先輩と簪が顔を顔を覗き込もうとした瞬間

 

 

「うにゃああああああああああああ!!」

 

 

顔を真っ赤にしたパイセンが、奇声を上げて生徒会室を飛び出していった。

 

「……なぁ、簪」

 

「何……?」

 

「パイセンって、自分から相手にズンズン踏み込んでいくけど、逆に踏み込まれると途端に弱くなるタイプか?」

 

「私も初めて知ったかも……」

 

 

 

 

最低限必要な注意喚起はできたこともあり、会長不在のまま俺達は解散となった。

亡国機業ねぇ……来るなら来いってんだ。

 

俺は簪と幸せになるって誓ってんだ。だから、それを壊そうってんなら……容赦はしねぇぞ。




たっちゃんは初心、異論は認める。
そして亡国機業が本格的に動き出します。果たして彼女たちは、オリ主と簪の理不尽にどう立ち向かうのでしょうか?(なんかおかしくね?)


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第56話 学園祭開幕~宮下陸の場合~

学園祭、始まります。
先にお伝えしておきます。巻紙さん(オータム)の出番は今回ないです。
(原作でも一夏に接触してますから、オリ主とは接点なしです)


学園祭当日。一般開放されていないものの、各クラスや部活動の出し物の準備で、校舎内は慌しくなっているはずだ。

さて、なんで学園生である俺が『はず』なんて言ってるかといえば……

 

「り、陸? そろそろ起きて、クラスの手伝いをした方がいいと思うんだけど……?」

 

「もう働きたくないでゴザル!」

 

部屋のベッドで、簪を抱き枕にして登校拒否しているからだ。いつもとは真逆の立ち位置に、簪も困惑している。

どうして俺が簪相手にオギャっているか。それは昨日の放課後にさかのぼる。

 

 

(回想開始)

 

「とうとう明日が学園祭本番だね!」

 

「いやぁ、宮下君と更識さんが準備してくれたから、私達は当日まで楽させてもらったわぁ」

 

「その代わり、当日は任せたからな?」

 

「だいじょーぶ!」

 

というクラスメイト達とのやり取りをしている最中、俺はふと思った。

 

「なぁ、IS学園の学園祭って、一般参加は不可なんだよな?」

 

「そうだよ。私達生徒に配布された入場チケットを持った人以外はね」

 

1学年が30×4で120人、2,3年も含めると120×3で360人。その生徒1人に1枚チケットが配られるから、当日の来客数は倍の720人になる……と、さっきまでは思ってた。だが、

 

「それって来賓、"各国政府関係者やIS関連企業の人間"は含むのか?」

 

「「「え……っ?」」」

 

先日作った10(+予備3)個のゴーグル、それは生徒外の360人(ISに乗ったことがない人)を想定した数字だ。IS体験プログラムが現実世界で1回10分だから、仮に360人全員が来たとしても10台使って360分、つまり6時間だから閉会までには捌き切れると考えていた。だが、そこがズレていたとなれば……

 

 

「「「宮下君! 追加発注プリーズ!!」」」

 

 

「やっぱそうなるよなチクショウメェ!!」

 

 

そういうやり取りがあって、納期間近での追加発注に対応するため、俺は昨晩、豚のような悲鳴を上げそうになりながらゴーグルを30台追加作成したわけだ。

 

(回想終わり)

 

これが作ろうと思ったもんだったらまったく苦もなくやるんだが、もう終わったと思ったもんを、しかも時間制限付きで作るのは非常に精神が疲弊する。

 

 

「だから俺には直前まで簪とゴロゴロする権利がある!」

 

「い、いいのかなぁ……? 私としては、こういう積極的な陸もいいけど……」

 

簪も満更じゃなさそうなので、もうしばらくはこうしていよう、そうしよう。

作ったゴーグル? 今朝登校するクラスメイトに引き渡したから無問題だ。2度寝サイコー。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

陸の抱き枕にされて、ちょっと嬉し(ゴホンッ!)遅れちゃったけど、4組の教室に着くと、もう準備は終わっていた。

 

「おはよう。二人とも、準備は万端だよ」

 

「手伝えなくて、ごめんなさい」

 

「いいっていいって。更識さんにもプログラム丸投げしてたし、当日は全部私達に任せるって話だったしね」

 

「そうだよ。それに準備って言っても、イスとテーブル、それにゴーグルの電源供給用にケーブル這わすだけだし」

 

見回せば、他のクラスに比べて内装も小道具もない。悪く言えば殺風景かも。

 

「まぁ殺風景でもいいさ。仮想世界に入ればそれどころじゃなくなる」

 

「だよねー。呼び込みの子にも、その辺りを強調してもらう予定だよ」

 

「おう。そんじゃあとは頼んだぞ」

 

「「「りょーかい!」」」

 

 

 

4組を離れた私達は、そのまま廊下を通って1組の方に……

 

「なにこれ……?」

 

「これが織斑効果か」

 

陸が関心する先には、1組の教室から延びる長い行列が。

 

「織斑効果?」

 

すると行列のそこかしこから

 

「あの織斑君の接客が受けられるんでしょ!?」

 

「しかも執事服姿で!」

 

「それだけじゃなくて、ゲームもあるらしいよ?」

 

「しかも勝ったら写真も撮ってくれるんだって! ツーショットよ! これは並ぶしかないわ!」

 

という声が。

 

「のほほんも言ってたろ、『執事服おりむーに、ご奉仕してもらう喫茶店』って」

 

「あれ、ホントにそのままだったんだ……」

 

「あれ? 二人とも、どうしたの?」

 

声の方に振り向くと、メイド服姿のデュノアさんが。

 

「今日はメイド服姿なんだな」

 

「今日はって……もしかして、似合ってない?」

 

「別にそんなことはないが……ってそれは一夏に聞いとけ」

 

「あう……」

 

あ、デュノアさん赤くなった。確かに『似合ってる』ってセリフは、織斑君に言ってもらうべきだと思う。陸がデュノアさんに言うのは……あれ、なんかイラッとしてきた。

 

「シャルロット、客引きはもういいから、ホールの方、を……」

 

教室から出て来たボーデヴィッヒさんが、私達と目が合って固まる。ああそうか、どこかで見たことあると思ったら、@クルーズの制服と同じなんだ。……もしかして、借りて来たの?

 

「お、おお、お前達……」

 

「ラ、ラウラ?」

 

「ボーデヴィッヒさんも、グッジョブ (☆`• ω •´)b()

 

とりあえず、以前も言ったセリフを繰り返してみた。

 

「゚。。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。ウワァァァン!!」

 

ボーデヴィッヒさん、泣きながら教室に逃げて行っちゃった……。

 

「更識さん、今のは……」

 

「簪、やり過ぎだ」

 

陸とデュノアさん、二人からダメ出しを受けちゃった。解せぬ。

 

 

1組から離れた後は、陸とあちこち見て回っていた。

 

「ところで簪、4組の方はいいんだろうが、マンガ研究会の出し物とか大丈夫なのか?」

 

「大丈夫。プラモを飾るだけでお茶を濁してる」

 

「それでいいのかマンガ研究会……」

 

「問題ない」

 

最初から特別補助金は諦めてるから、『出すものは出したよー』という証拠さえあればいいのだ。活動実績さえあれば、最低限の部費は付くから。

 

「それにしても、凰のチャイナドレスはすごかったな」

 

「陸ぅ……?」

 

「いやいや、簪だって思っただろ?」

 

「それは、確かに……」

 

私も陸も朝食を食べ損ねてたから、2組の中華喫茶でブランチにしようって話になった時、チャイナドレス姿の凰さんと出くわしたのだ。

スカートタイプの、すごい大胆なスリットが入った……同性の私でも、ドキドキしちゃうような……。

 

「というか、あれを着れるぐらい度胸があるなら、一夏に対してもっと攻勢に出れ……ないか」

 

「それとこれとは別だと思うよ?」

 

「やっぱそういうもんだよなぁ……ちなみに簪は、ああいうチャイナドレスは――」

 

「着ないから!///」

 

あんなチャイナドレスを着るとか、ハレンチすぎる……! あれ? そうなると、あれを着れる凰さんはハレンチ……?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

簪と学祭を回ってるが、色々イベントやアクシデントが満載だった。

例えば校門前で屋台物を食ってたら

 

『ついに女の園、IS学園に来たぁぁぁぁぁ!!』

 

と大声上げてる怪しさ満点の奴を制圧したところ、

 

『いや、怪しいものじゃないんだ。信じてくれ……』

 

と言って入場チケットを見せて来たから、近場にいた生徒会の虚先輩に引き渡したところ、そのチケットの出処が一夏だったり。

(聞くと、五反田弾っていう一夏の中学からのダチらしい。制圧したのはスマンかったが、あんな職質されそうな行為はやめておけ)

 

美術部の爆弾解体ゲームで

 

『は……くしゅんっ!』

 

パチンッ

 

『あ』

 

――ドガァァァァンッ!

――GAME OVER

 

俺がたまたまくしゃみした所為で、切るコードを間違えて爆発したり。

 

 

「さて、4組の客の入りを確認しに行くか」

 

「うん。みんなに任せてるけど、どうなってるか気になる」

 

「じゃじゃーん! 楯無お姉さんの登場でーす!」

 

「「……」」

 

突然目の前に現れた学園最強(笑)に、俺と簪が目を合わせる。そしてコクリと頷く。

 

回れ右してBダッシュ!!

 

「え? ちょっと二人とも!?」

 

まさか開幕逃げられるとは思ってなかったのか、パイセンの困惑した声が聞こえてきた気がしたが、気のせいだろう。

 

「知らなかったのか? 大魔王からは逃げられない」

 

と思ったら、また目の前にパイセンが……!

 

「マジかよ……」

 

「ほほほほっ! 伊達に学園最強を名乗ってはいないわ!」

 

扇子で口元押さえながらお嬢様笑いすんなよ! それっぽいじゃねぇかチクショウ!

 

「それだけの身体能力があるのに、どうして陸のアームロックは防げないの?」

 

「はぐぅ!」

 

あ、簪の素朴な疑問で撃墜された。

 

「そ、それはそれとして……宮下君に手伝ってほしいことがあるのよ……」

 

「手伝い?」

 

「一応聞くだけ聞きますけど……大丈夫です?」

 

「だ、大丈夫よ……」

 

生まれたての小鹿のように足を震わせながらとか、ホントに大丈夫か?

 

「これから生徒会の出し物で、演劇をするの」

 

「演劇?」

 

「そう、観客参加型演劇」

 

「観客参加型ぁ!?」

 

おいおい、なんだその確実に収拾がつかなくなること請け合いな演劇は。

 

「ちなみに、演目は?」

 

簪の問いに、パイセンは新しい扇子をバッと広げた。そこには『迫撃』の二文字。

 

 

「シンデレラよ!」

 

 

その後、パイセンの泣き落とし等を経て、俺と簪は演劇会場である第4アリーナに連れていかれるのであった。

あれ? このまま演劇手伝ったら、大して学祭回れずに終わるのでは……?




ヒロインが簪だけの所為か、やっぱり原作よりネタ不足を感じますね……。
その分、オリ話の部分で味付けを激甘にしてますが。


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第57話 学園祭開幕~織斑一夏の場合~

前回の一夏視点になります。


「あの織斑君の接客が受けられるんでしょ!?」

 

「しかも執事服姿で!」

 

「それだけじゃなくて、ゲームもあるらしいよ?」

 

「しかも勝ったら写真も撮ってくれるんだって! ツーショットよ! これは並ぶしかないわ!」

 

……そんなわけで、1年1組の『ご奉仕喫茶』は盛況で、開幕からずっと長蛇の列を作っていた。

というか、俺が引っ張りだこな状態で、他のみんなは普通に楽しそうにしている。

 

「いらっしゃいませお嬢様♪ こちらの席へどうぞ」

 

とりわけ楽しそうなのが、メイド服を着たシャルだ。

夏休みの時に更識さんから送られた写真を見る限り、執事服も似合いそうなものなんだが、それをチラッと言ったら

 

『僕は絶対メイド服! 執事服は嫌だ!』

 

と、半泣き状態で主張したため、こうなったわけだ。まぁ実際似合ってるし、これはこれでOKだろう。

 

「お待たせいたしました。紅茶とシフォンケーキのセットになります」

 

そして意外や意外、セシリアも接客班(別名・コスプレ係)をこなしていた。確かセシリアって、イギリスの貴族なんだよな? そんなのがメイド服っていいのか?

ちなみに、接客班には他にラウラと箒もいる。……なんか、専用機持ちばっかじゃね?

 

「はーい、こちら2時間待ちになりまーす」

 

「ええ、大丈夫です。学園祭が終わるまでは開店してますから」

 

一番大変そうなのは、この長蛇の列を整理しているスタッフだ。各種クレーム(ほぼ待ち時間について)にも対応していて、もしかしたら俺より忙しそうだ。

 

「あっ! 織斑君だ!」

 

(やばっ! 見つかった!)

 

すると列整理スタッフの数人がすっ飛んできて、俺を教室内に叩き戻す。

 

「織斑君! 出ちゃダメって言ったでしょ!」

 

「混乱具合が増すから!」

 

そこまで言われたら仕方ない。俺は大人しく接客に戻った。

 

 

その後も、ギャン泣きしながらラウラが突撃してきたり、鈴が客としてやってきたり、生徒会長の楯無さん(更識さんと被るのと、本人から名前で呼ぶように言われた)と新聞部の黛先輩が乱入してきたり、IS関連企業の人達の名刺合戦に巻き込まれたり、陸から連絡がきて校門前まで来てみたら弾の奴が不審者扱いされて拘束されてたり……なんだろう、接客してた方が気が楽だった気がする。

ちなみに弾は、生徒会の先輩といい雰囲気だったからそのまま放置してきた。グッドラック!

 

それと、だな……鈴のチャイナドレス姿は、何というか……ドキドキした。

 

ーーーーーーーーー

 

やっと俺の休憩時間が回ってきたんだが、箒達が『誰が俺と一緒に回るか』で揉めてしまい、じゃんけんで勝った人が一緒に回ることになったらしい。で、そのじゃんけんに勝ったのが……

 

「ふふんっ! これが日頃の行いというものか」

 

俺の横で、ラウラがドヤ顔をしていた。他の3人の目のハイライトが消えていたが、俺は見なかったことにしておく……。

 

「確か茶道部に行きたいんだったよな?」

 

「ああ。それで、だな……」

 

なんだ? 疑問に思っていると、ラウラがすすっと左手を俺の方に伸ばして来た。なるほど。

 

「それじゃあ行くか」

 

「う、うむ。さすが私の嫁だ」

 

伸びた手を握ると、ラウラは顔を赤くしながらも、満更じゃない顔をしていた。少し前の俺だったら、何も考えずに素でやってたんだろうな。で、ラウラの恥ずかしそうな顔に気付かずに、脇腹に手刀を食らうっていう。

 

「はーい、いらっしゃーい。……おおっ! 織斑君だ!」

 

「茶道部は何をしてるんですか?」

 

「抹茶の体験教室をやってるわ。こっちの茶室へどうぞ」

 

案内された部屋に入ると、畳が敷かれた、教科書に出てきそうな茶室がそのまま再現されていた。さすが、世界中から入学者が殺到するIS学園といったところか。

 

「それじゃ、こちらに正座でどうぞ」

 

言われるまま、俺とラウラは靴を脱いで畳に上がる。うん、執事とメイドが茶室で正座、すごい絵面だな。

 

 

ラウラが白餡で作ったウサギの茶菓子を食べるのを躊躇したりはあったが、それ以外は特に大きなハプニングも無く、部長さんの点てた抹茶をいただいて茶室を出た。

 

「結構良かったな」

 

「うむ。やはり日本文化は興味深い」

 

「興味深いといえば、ラウラは和服は着ないのか?」

 

「わ、私がか? そういえば着たことはないが……み、見てみたいか……?」

 

そう聞かれ、ラウラが和服を着ている姿を想像してみた。

 

「……うん、見てたいな」

 

「そ、そうか……機会があれば、考えておこう」

 

「おう」

 

俺の勘違いでなければ、ラウラの手を握る力が、少しだけ強くなった気がした。

 

ーーーーーーーーー

 

休憩時間も残り少なくなってきたから、教室に戻る途中、陸達の4組に寄ってみたんだが……

 

「なんだ、これは……」

 

ラウラが唖然としてるが、俺もたぶんこんな感じになってるんだと思う。

1組では女子生徒が長蛇の列をなしていたが、ここ4組ではそれ以外――チケット入場した人達や、政府関係者やIS関係企業の人達――が列をなしていた。

耳をすましてみると、行列のそこかしこから

 

「仮想現実でISが体験できるらしいですよ」

 

「IS適性とやらがない男性でも、ISに乗った気分が味わえるらしいぞ」

 

「それこそ、生涯に1回あるかないかってイベントだよな」

 

という声が聞こえてくる。

 

「これって……」

 

「宮下だろうな……」

 

どうやら、俺とラウラの見解が一致したようだ。IS学園で、そんなことをやる生徒はアイツしかいない。

 

「はーい。ただいま30分待ちでーす」

 

「お1人様10分ですが、仮想世界では1時間分体験できまーす」

 

列整理のスタッフがいるところまで1組と一緒なんだが、言ってることがとんでもない。

 

「10分で1時間……間違いない。()()ゴーグルを投入してきたんだ……!」

 

「ゴーグルって、セシリアに並列思考を習得させるために使った、あの?」

 

「間違いないだろう。宮下も言ってただろう。『時間を縮めるのは全く問題ない』と」

 

確かに言ってた気がする。5分1ヵ月を10分1時間に短縮して、アトラクションとして使えるようにしたのか。

 

「これは、恐ろしいことになるぞ……」

 

「ラウラ?」

 

なんか深刻な顔になったが、何が恐ろしいんだ?

 

「嫁よ、考えてもみろ。『IS適性がなくてもIS体験』ということは、当然IS適性がある者もIS体験ができるわけだ」

 

「? そうだろうな」

 

「そして今のデチューン状態でも、10分で1時間ISに乗った体験、つまり訓練が積めるということだ」

 

「いやいや、所詮仮想世界での体験だろ?」

 

ラウラの懸念を否定する。だって、仮想世界でいくら訓練を積んでも、肉体にフィードバックされるわけじゃないんだ。

 

「確かに肉体へのフィードバックはないだろう。だが、それ以外の経験はキチンと得られるはずだ。なら、『フィードバックが必要な訓練のみ実機で行い、それ以外は仮想世界で行う』としたら?」

 

「あ……っ」

 

そこまで聞いて、やっと俺はラウラの懸念を理解した。

 

「いくらIS学園といえど、全員が乗れるほどのISは用意されていない。大半の連中は授業以外でISに乗れないのだ。しかしこれを使えば肉体に依存しない精神的、思考的な訓練を行うことが出来る。そうなった時、このゴーグルを優先的に使えるのは誰だ?」

 

「それは……陸だ」

 

「そうだ。さらに言えば、宮下の所属する1年4組が、他のクラスより優先度が高くなるだろう。そうなれば、4組が他クラスより圧倒的に経験値が多くなる。最悪、来年の学年別トーナメントが4組に蹂躙される可能性だってあり得る」

 

「うわぁ……」

 

ラウラの言ったことを想像した俺の顔は、おそらく青くなっているんだろう。

4組以外、1回戦を勝ち上がったクラスがまったくいないトーナメントを。ただでさえ、更識さんという最終兵器が鎮座しているのに。

 

「これは、教官に進言せねばならないな」

 

「ち、千冬姉に?」

 

ラウラの中では、それぐらいしないとならない事態のようだ。もうめちゃくちゃだよ……。

 

ーーーーーーーーー

 

休憩時間も終わりか。さて、もうひと頑張りするか――

 

「はーい、楯無お姉さんの登場です!」

 

職務放棄人間が現れた。

 

コマンド→逃げる

 

「だが逃げられない!」

 

「だぁ! 一体何なんですか!?」

 

「生徒会の出し物で演劇をするのだけど、織斑君、出演決定ね」

 

「命令形!? 疑問形ですらない!?」

 

「うん。決定だもの」

 

「俺の意思は……?」

 

楯無さん、首を可愛く傾げる。拒否権は無いですかそうですか……。

 

「あのー、先輩? 一夏を連れて行かれると、クラスの出し物が困るというか……」

 

ナイスシャル! もっと言ってくれ!

 

「デュノアちゃんも参加よ」

 

「ええっ!?」

 

「参加してくれたら、可愛いドレスを着せてあげるんだけどな~」

 

「可愛い、ドレス……」

 

ああっ! シャルが楯無さんって蜘蛛の糸に囚われかけてる! 頑張ってくれシャル!

 

「それじゃあ、一緒に来てくれるかしら?」

 

「は、はい……」

 

シャル、陥落。

 

 

その後も箒、セシリア、ラウラがやってきたが、楯無さんの前に尽く陥落。俺と一緒に連れて行かれるのだった。あ、演劇って何やるのか聞いてないや……。

 




よくよく考えると、10分が1時間になるだけでも、恐ろしい話ですよね。
例えば平日に1時間使えば、仮想世界で6時間分の搭乗時間になります。それを月~金までの5日間行えば30時間。10週、つまり2か月半もあれば、搭乗時間300時間オーバーの代表候補生並みになるわけで……。もちろんISコアの経験値は0のままですが。


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第58話 灰被り姫、決意と覚悟

続けて一夏のターンです。そしていつもより少し長め。

それと巻紙さん(オータム)ですが、今回は出番ありまーす!
彼女がイキって返り討ちに遭う様をご覧ください。


「一夏、準備出来てるか?」

 

「おう……」

 

第4アリーナの更衣室。生気のない一夏の声が聞こえてから、俺はドアを開けた。

 

「衣装、似合ってるじゃねぇか」

 

今の一夏の恰好は、白いズボンに肩章の付いた青いジャケット、白い手袋をして頭には王冠が乗っている。紛うことなき王子様スタイルだった。そう、今回の『シンデレラ』の主役は一夏なわけだ。

 

「どうして俺が……」

 

「パイセンに目を付けられたのが運の尽きだったな」

 

「なら陸がやったって良かったじゃねぇか!」

 

「俺? 俺は裏方だし~」

 

「ぐぬぬ……!」

 

「ほれ、そろそろ開演だろ? 急げよ」

 

「後で覚えてろよ……」

 

理不尽な恨みを俺に向けながら、一夏は舞台袖に移動するため更衣室から出て行った。

さて、次は照明の手伝いだったか。恨むぞパイセン……。

 

ーーーーーーーーー

 

舞台袖からちらっと覗いたが、第4アリーナいっぱいに作られたセットはかなり豪勢だった。

一昨日までこんなの無かったはずなのに……。そう思っていたら、横にいた楯無さんから

 

『宮下君が2時間でやってくれました! まぁその間にお姉さん、簪ちゃんにキッチリ絞られちゃったけど……あと織斑先生からも』

 

という情報が。陸、お前はジェバンニか何かか……? そして2時間も陸を事前連絡なしで拘束したら、更識さんも怒るって。

ちなみに千冬姉が出て来たのは、セットを高速で作るために陸がISを展開して、それが千冬姉にバレたかららしい。陸自身はお咎めなしで、その分楯無さんが追加で怒られたんだと。

そんなことを考えていたら、ブザー音が鳴り響き、照明が落ちた。

 

(えーっと、確かこの後ライトが点灯するから、そこに向かって歩けばいいのか)

 

今回の劇、楯無さんから脚本や台本の類は無いらしい。大体はアナウンス通りに話を進めて、セリフに至ってはアドリブだそうだ。それって、俺が苦手なものなんだが……。

 

「むかしむかしあるところに、シンデレラという少女がいました」

 

セット全体にかかっていた幕が上がり、アリーナのライトが点灯して舞台中央を照らす。あそこに行けばいいんだな。

 

(それにしても、シンデレラ役は誰なんだ?)

 

などと考えながら、指示通りライトが照らす場所、セットの舞踏会エリアに向かう。

 

「否、それはただの名前に非ず。幾多の戦場(舞踏会)を駆け、群がる敵の軍勢(男達)をなぎ倒し、返り血(灰燼)を纏うことさえ厭わぬ地上最強の兵士。それこそが『シンデレラ(灰被り姫)』の称号!」

 

……はい?

 

「今宵もまた、シンデレラ達の夜が始まる。王子の冠に隠された国の機密情報を狙い、舞踏会という名の死地に少女たちが舞い踊る!」

 

「はぁ!?」

 

「もらったぁぁ!」

 

そこからシンデレラ・ドレスを身に纏った鈴を筆頭に、箒、セシリア、シャル、ラウラの5人が襲い掛かって来た――!!

 

ーーーーーーーーー

 

あの後、どう逃げて来たか全然覚えていない。なんか途中からフリーエントリー組とか言って、数十人以上のシンデレラが雪崩れ込んできたし。

 

『王冠を手に入れたシンデレラには、織斑一夏と同室になる権利をあげちゃいまーす!』

 

とか言い出すし、何考えてるんだあの生徒会長は……。しかも

 

『あ、織斑君、面倒だからって適当な人にあげちゃダメよ。それ、外すと電流が流れるようになってるから』

 

何て言われたら、本気で逃げるしかないだろ。

 

「着きましたよ」

 

「はぁ……はぁ……ど、どうも」

 

そして俺は誘導されるまま、セット下を通って更衣室まで戻って……って、この人誰だ?

改めて確認すると、

 

「確か巻紙さん、でしたっけ?」

 

喫茶(出し物)の休憩中に名刺を渡してきた、IS関連企業の人だったか。

 

「どうして巻紙さんが……?」

 

「はい。この機会に、白式をいただきたいと思いまして」

 

「……は?」

 

白式を、いただく? 何を言って――

 

「いいからよこせよ、このクソガキ」

 

――ヒュンッ

 

「っ!」

 

ニコニコ顔を崩さないまま、巻紙さん……いや、目の前の女の背後から『爪』が飛び出してきたのを、ギリギリのところで躱す。

白式を緊急展開して再度女の方を見た時には、8本の装甲脚を持った、蜘蛛のようなISがいた。

 

「へぇ、このオータム様の一撃を躱すとは」

 

「お前は一体……」

 

いや、もしかしてこいつ、先日楯無さんが言ってた……

 

「亡国、機業……」

 

「知ってるのか? なら分かるだろ? 私が本気で白式をもらいに来たってなぁ!」

 

蜘蛛型IS、その足の先端が割れるように開いて出来た銃口から、実弾が8門斉射で飛んでくる。

 

「く、そっ!」

 

なんとか致命傷は避けてるが、それでもSEが少しずつ削られてジリ貧だ。しかも雪片弐型を叩き込むために近づく暇がねぇ!

 

「なかなかやるな。"あの時"のクソガキが、ここまでやるとはな」

 

「……は?」

 

こいつ、何を言って――

 

「教えてやるよ。第2回モンド・グロッソでお前を拉致したのはウチの組織さ! 感動のご対面ってか!? ハハハハッ!」

 

それを聞いた瞬間、俺の頭の沸点が超えた。

 

「だったら、あの時の借りを返してやらぁ!」

 

「クク、こんな安い挑発で突っ込んでくるとは、なぁ!」

 

――ガガガガガガッ!

 

「ぐああああっ!」

 

完全に頭に血が昇っていた俺は8門の集中砲火を食らい、ロッカーもろとも壁際まで吹き飛ばされた。

 

「さて、あとはその白式を、この剥離剤(リムーバー)でお前から引き剥がせば任務完了だ」

 

ニヤニヤと笑みを浮かべながら、オータムがこっちに近づいてくる。その手には、四本脚の装置を持っていた。

オータムの言ったことが事実なら、ここままじゃ白式をあの装置で奪われちまう……!

 

(くそ……体が……)

 

さっきの攻撃で、SEもほとんど持ってかれた。これじゃあ、零落白夜も使えない。

 

(だけどまだ……まだ、諦めるわけにはいかないんだ……!)

 

そう思った瞬間、俺は周りが静かすぎることに気付いた。

オータムの気に障る笑い声も、何も聞こえない。

 

「なん、だ……?」

 

 

オータムが、俺に剥離剤(リムーバー)を付けようとした状態のまま、止まっていた。

 

「時間が、止まってる?」

 

『なぜ、諦めないのですか?』

 

「え?」

 

突然の声に辺りを見渡すが、誰もいない。俺と、止まっているオータム以外は。

 

『貴方はなぜ、諦めないのですか?』

 

まただ、また聞こえてきた。

この時俺は、なんて答えようか考えていた。いつ時間が動き出して、オータムに白式が奪われるか分からないはずの、この状況で。いや、なんとなく確信していたんだ。"この問答が終わるまで、時間が動き出すことはない"って。

 

「そうだな……守りたいものがあるから、かな?」

 

『守りたいもの?』

 

「初めて零落白夜を、千冬姉と同じ武装を手にした時、千冬姉の名前を守ろうと思った。それからクラス対抗戦で無人機と戦った時、"みんな"を守ろうと思った」

 

そこで言葉を区切った俺は、自分の手のひら見た。

 

「けど、その時の俺は"みんな"の定義が曖昧で、何を守りたいのか自分でも分かってなかった。口先だけで、何を守りたいのか、理解してなかった。だからあの時、しくじった……」

 

思い出すのは臨海学校の2日目。箒が慢心していたから? そんなの関係ない。俺がその分カバーできていれば、あいつ()が墜とされることはなかったんだ。あの時俺は、守りたいもの、守るべきものを、取り零すところだったんだ。

 

「その時だ。人一人が守れるものは多くないと、本当に守りたいものは仲間だったんだと、理解できたのは」

 

 

「だから俺は、俺の周りにいる仲間を守る。そして、その仲間が他の人達を守って、その守られた人達がまた別の人を守ってくれれば……"みんな"を守れるはずだ。だから俺は、守れるように強くなりたい。それまで、諦めたりしない」

 

 

それが、あの日から考えていた俺の決意だった。たどり着けるかどうかは分からないけど、それでも俺が目指すべき場所……。

 

『分かりました……そこまで心が定まったなら、私も力を貸しましょう』

 

そこで声は途切れ、時間が動き出した瞬間、白式から眩い光が溢れ出した――

 

ーーーーーーーーー

 

織斑君が逃げ込んだ更衣室に着いた時、私は声が出なかった。

 

「くそぉ!」

 

それは、見覚えのないISを纏った織斑君が、謎のIS、おそらく亡国機業の女を翻弄する姿だった。

 

第二形態移行(セカンド・シフト)なんて聞いてねぇぞ!!」

 

「そんなの知るかよ! 雪片弐型、最大出力! 食らえぇぇぇ!」

 

織斑君のエネルギー刃を纏った斬撃を、亡国機業のISが8本脚で受け止め――られなかった。

 

「そん、な……!」

 

8本全ての脚が破片になって、辺りに飛び散った。さらにその勢いで、元8本脚のISが壁に吹き飛ばされる。ぶつかった衝撃で壁が崩れて、向こう側が見えていた。って、呆けてる場合じゃない!

 

「織斑君! その女を拘束して!」

 

「は、はい!」

 

「くっそ……ここまでか……」

 

プシュッと圧縮空気の音が響き、女とISが離れる。

 

「まずっ!」

 

慌ててISを緊急展開。水のヴェールを展開したほぼ直後、分離したISが大爆発を起こした。織斑君は……無事ね。

 

「楯無さん、今のは……」

 

「装備と装甲だけを自爆させたようね。たぶん、コアだけは直前に抜き取ったんでしょ。敵には逃げられたけど、織斑君も白式も無事だったから、一応は作戦成功かしら」

 

「そう、ですね……」

 

どうしたの織斑君? なんか元気ないぞー?

 

「今回無事だったのは、白式が力を貸してくれたからなんです。だから、俺自身がもっと強くならないと」

 

「……第二形態移行(セカンド・シフト)、したのね?」

 

「はい」

 

世界でも数例しかない第二形態移行(セカンド・シフト)が発現した。これは織斑君の周りが、また騒がしくなるわね……。

 

ーーーーーーーーー

 

「くそ……! くそぉ……!」

 

壁に出来た穴を通って私は、学園の敷地を走り続けていた。

もう少しであのガキのISを奪えるところだったのに、こんな結末になるなんて……!

 

(IS『アラクネ』はコア以外を喪失、剥離剤(リムーバー)も破壊され、戦果は一切なし……ん?)

 

気が付くと、目の前に学園の制服を着た奴がいた。さっきのガキと同じ、男物の制服を着た――

 

「宮下、陸……!」

 

"2番目"。拉致対象の男。そうだ! あのガキ(エム)より先に、私がこいつを拉致っちまえば……!

そうと決まれば話は早い。適当に痛めつけて、さっさと連れて帰るんだ。

 

「悪いが、私と一緒に来て――!」

 

腰からシースナイフを抜いて、男の太ももに突き立てようとした――

 

 

――ペキッ

 

 

「え……」

 

私の右腕が、あっちゃいけない方向に曲がっていた。

 

「ああ、あぐぅぅぅぁぁぁあああ!」

 

遅れてやってきた痛みでナイフを落とす。

 

「おい」

 

目の前には、さっきまで拉致ろうとしていた男が立っていた。周りには誰もいない。ちょっと待てよ……まさかこいつに、私は腕を折られたっていうのか!?

 

「お前が亡国機業って奴か?」

 

「だったら、なんだってんだよぉ!」

 

無事だった左手で落としたナイフを拾――

 

 

――ガッ

 

 

「ぐぁっ!」

 

その前に、男の右手が私の喉を掴んで持ち上げる。くそっ! なんて握力してやがんだ……! 殴ろうが爪を立てようがビクともしねぇ……!

まさか、このまま絞め殺す気じゃ……

 

「おいおい、なんて顔してんだよ? 秘密結社なんだろ? 聞いた話じゃ、散々人殺しまくってきたんだろ? なら、()()なる覚悟ぐらいしてるだろ?」

 

こいつ……平和ボケした、ただのガキのはずじゃ……

 

「俺か? 俺は『ソレスタルビーイング』であり『黒の騎士団』だ。自分の血を流す、悪党の返り血を浴びる覚悟は、当の昔に()()()()()()()()。ま、アンタに言ったって分からんだろうがな」

 

なに、いってんだ……

 

 

()っていいのは、()たれる覚悟がある奴だけだ」

 

 

その言葉を最後に、私の視界も意識も、暗闇に落ちていった――




福音戦で出来なかった白式の第二形態移行(セカンド・シフト)、ここで回収しました。やったね一夏! 燃費が余計悪くなるよ!(暗黒笑顔)

最期のセリフを書きたかったがために、オリ主を登場させました。原作通り、ラウラに追撃させても良かったんですがね。

次回はエムが簪に()()()()()()回です。本作の強化セシリア相手なら、意外といい勝負になったかも?(偏光制御射撃がある分、エムの方が優勢なのは変わらないでしょうけど)


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第59話 蹂躙

サブタイ通り、エム"が"簪"に"蹂躙されるお話です。


「なに、この劇……」

 

生徒会の出し物『観客参加型演劇・シンデレラ』の会場である第4アリーナは、とんでもないことになっていた。

 

「一夏ぁ!」

 

「わたくしに」

 

「その頭に乗ってる」

 

「王冠を」

 

「渡すんだぁ!」

 

逃げる織斑君、武装して追いかけるハーレムの面々。さらに、さっきまで観客席にいた生徒達もシンデレラ姿で追加され、もはや収拾がつかなくなっていた。

 

「お姉ちゃん、これどうするの……?」

 

「いやぁ、ちょっとやり過ぎちゃったかも」

 

頭掻いて誤魔化そうとしてるけど、あとで織斑先生に怒られる覚悟は必要だよ。

 

「っと、織斑君が見えなくなったわね……」

 

「え?」

 

お姉ちゃんにつられて見ると、確かに舞台の上はシンデレラだらけで、王子様の姿が見えなかった。

まさか……。

 

「こんなこともあろうかと!」

 

そう言って、お姉ちゃんがどこからか端末を取り出した。そこには、点滅する赤い光点が。

 

「お姉ちゃん、まさか織斑君に発信機を?」

 

「せいかーい! 王子様のジャケットにね。念のために付けてたんだけど、ビンゴだったわね」

 

移動を続けていた光点が止まった。場所は……更衣室?

 

「簪ちゃん。お願いがあるの」

 

「お願い?」

 

「これから私は織斑君の援護に向かうんだけど、敵が単機とはどうしても思えないの。だから――」

 

「増援の警戒?」

 

「うん。ISの使用許可はもらってるから、打鉄弐式を展開してアリーナの上空から警戒してほしいの。ここには宮下君もいるから、狙うとしたらここのはずよ」

 

「分かった」

 

頷くと、私は一度アリーナを出てから弐式を展開して飛翔した。そしてアリーナ上空についてしばらくすると、ハイパーセンサーが高速で移動するISを補足した。接敵まで、あと30秒。

 

(実戦は初めてじゃないけど……)

 

初めてではない。けれど、今までが特殊すぎた。クラス対抗戦の時は、相手が無人機だった。臨海学校の時は、有人だけど暴走状態だった。だからある意味、今回が本当の意味で"初めての実戦"なのかもしれない。

撃てるんだろうか? 私に、人を……

 

(ううん、私は躊躇わない。だって、そのせいで、陸を失いたくないから)

 

そのためなら……

 

("討った事実"を受け止める覚悟は、返り血を浴びる覚悟は、出来てる)

 

かつて弐式のISコア(ランディさん)の前で切った啖呵を思い出しながら、私はGNドライブを起動させて、

 

 

そして――メメントモリのリミッターを解除した。

 

 

ーーーーーーーーー

 

(上空に、IS反応?)

 

IS学園に向かっている途中で、その反応があった。オータムがドンパチを始めた頃合いだろうから、大方増援を警戒したのだろう。

 

(だが、1機だけ上げたのは失敗だったな)

 

確認した機体は第3世代機の『打鉄弐式』とやららしいが、所詮は第2世代の改造機。私に勝てるわけがない。

接敵まであと10秒、相手はまだ動かない。なにやら緑色の光が舞っているが、知ったことか。先日奪ったこの『サイレント・ゼフィルス』の動作テストをさせてもらうぞ。

 

「行け!」

 

6機のビットを展開、敵機に向けて――

 

――ドドドドドッ!

 

「なん、だと……」

 

突然、私の周りで爆発が起こった。それがビットが破壊された音だと認識するのに、数瞬の時を要した。

 

「そんな、あり得ん……」

 

「でも、これが現実」

 

オープン・チャネルなのか、相手の声が聞こえてきた。それと同じくして、奴――青髪の眼鏡女――の周りに何かが飛び回っているのも見えた。エネルギー刃を出した小型のビットが、いくつも。

 

「まさか、貴様もBT兵器を……!」

 

そんな情報はなかった。IS学園でBT兵器を使用しているのは、このサイレント・ゼフィルスの試験機であるブルー・ティアーズだけのはず……! そのはずだったのに……!

 

「そういう貴女も、もしかしてそのIS、イギリス辺りから奪ってきたもの?」

 

「そんな情報、ベラベラ喋るとでも!?」

 

手に持ったレーザーライフル『スターブレイカー』の引き金を引くと同時に、残った2基のビットからレーザーを放つ。このままでは簡単に回避されるだろう。だが!

 

(曲がれ!)

 

偏光制御射撃(フレキシブル)により、私から放たれた3条のレーザーは弧を描いて曲がり、敵ISの上と左右下の三方から襲い掛かる。これなら避けられまい!

 

 

――キィィィンッ!

 

 

「……は?」

 

その瞬間、私の頭はこの状況を理解することを拒んだ。

敵ISが……消えた。そして敵が消えた場所を、レーザーが素通りしていく。

 

「そんな馬鹿な! どこだ! どこに消え――」

 

 

――ガァァンッ!

 

 

「ぐぁっ!」

 

背後からの衝撃とSE減少のアラーム音でようやく、私は察した。奴は消えたんじゃない。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。

 

「何なのだお前は……一体何なんだ……!」

 

「そんな情報、ベラベラ喋るとでも?」

 

「くっ……!」

 

意趣返しなのか、さっき私が口にしたセリフを吐いて、薙刀のような武装を構え直す。

 

 

そこからは、もはや"蹂躙"と呼ぶに相応しかった。

こちらの攻撃は、残像すら残らない高速移動で当たらない。そして背後や真下等の死角に回り込まれ、高周波振動でもしているのだろう、薙刀の一撃を何度も受け……気付けばビットは全て落とされ、SEも限界値に近づいていた。

 

 

「くそっ! クズ一人攫うだけのはずが、何てザマだ……!」

 

私が吐き捨てるように愚痴ると、敵が高速移動をやめた。なんだ……?

 

「貴女、陸を攫うつもりで来たの?」

 

「陸……ああ、"2人目"がそんな名前だったか。だったらなんだと言うんだ?」

 

その時、私は失敗していた。そんな問答なんぞせず、さっさとスコールに一報入れて引き揚げればよかったのだ。どうせここまで足止めされた以上、作戦は失敗していたのだから。

 

「そう……なら」

 

 

「貴女には、ここで消えてもらう」

 

 

「……っ!?」

 

なん、だ……? IS学園の生徒など、ISをファッションか何かと勘違いした、ただ平和ボケしたガキ共のはずだ。なのに……なぜ私の腕は、震えているんだ……?

一瞬。ほんの一瞬。それが戦場では命取りだと、分かっていたはずなのに。

 

 

――ヒュンッ

 

 

「あ……」

 

気付いた時には、奴の右手が私の頭を掴んでいた。

 

「貴女が陸を害するというなら、私は貴女の存在を否定する。貴女の返り血を浴びてでも。だから」

 

 

「さようなら」

 

 

「が、ああああああああああああっ!?」

 

なんだこれは! ISの絶対防御を超えて、頭が……!

 

 

なんとか抜け出そうと、赤黒い光の点滅の中抵抗していた時、視界に入ったものを認識した私は青褪めた。

サイレント・ゼフィルスの装甲が、内側から盛り上がって、弾けて……。もしかして、本当の意味で絶対防御が抜かれたら、私の頭も……? いやだ……いやだいやだいやだ! まだ私は……私は……!

 

 

だが、そうはならなかった。

 

「っ!」

 

急に奴が私の頭から手を放し、距離を取ったから。

 

「エム、無事のようね」

 

「スコー、ル……?」

 

奴と私の間に割り込む形で、IS『ゴールデン・ドーン』に乗ったスコールの姿があった。どうしてお前が……。

 

「撤退するわよ、エム」

 

「分かった……」

 

普段の私なら、反論の一つもしていただろう。だが、今は頷くしかなかった。

 

「というわけで、ここは退かせてもらうわね」

 

スコールはそう言うが、果たして敵が簡単に逃がしてくれるものか……。

すると、こちらに注意を向けつつも敵の手が止まった。通信でもしているのか?

 

「……今回は見逃す。けど、次にまた陸を狙うなら……本気で消す」

 

「分かったわ。感謝しておくわね」

 

どういう理由かは分からないが、私とスコールはそのまま、追撃を受けることなく戦域を離脱できた。

 

「オータム……」

 

スコールの口から、苦し気な呟きが漏れるのを聞きながら――

 

ーーーーーーーーー

 

簪ちゃんとの通信を切って、私は宮下君が相手していた亡国機業のエージェント――オータムと名乗っていたらしい――を拘束した。

幸い、右腕が折れてる以外は致命傷も無く、十分尋問にも耐えられるでしょう。

 

「パイセン、簪は?」

 

「侵入してきたISを返り討ち。追加でもう1機来たんだけど、退きたがってたから見逃させたわ」

 

「そうですか」

 

宮下君は大きく息を吐くと、近くに設置してあったベンチに座り込んだ。私も彼の隣に座る。簪ちゃん、今回は宮下君の隣、借りるわね。

 

「安心した?」

 

「ええ。こんなことで、簪が手を汚す必要はありませんよ。そういうのは――俺だけで十分ですから」

 

「いいえ、貴方の手を汚すまでもないわ」

 

「そういうもんですか?」

 

「そういうもんよ」

 

実際、到着した私が止めなければ、彼はこの女の首をへし折ってたでしょうから。

普通『誰かの命を奪う』というのは簡単なことじゃない。例えそれが、自分のことを狙った相手だとしても。簪ちゃんや宮下君には、そうなって欲しくなかったな……。

 

「更識、宮下」

 

顔を声のする方に向けると、織斑先生が近付いてきていた。この女を回収する人員をお願いしていたんだけど、織斑先生が直々に来るとは思っていなかった。

 

「そいつが?」

 

「はい。オータムというコードネームらしいです」

 

「そうか」

 

それだけ聞くと、織斑先生は気絶して縛られたオータムを担ぎ上げた。俗にいう"お米様抱っこ"である。

 

「宮下、面倒事に巻き込まれて災難だったな。学園祭終了まであと1時間ほどあるから、更識……妹が戻ってきたら、ギリギリまで楽しんでくるといい」

 

最後に後ろ向きに手を振って、織斑先生は肩の荷物を物ともせずに去っていった。やだ、イケメンすぎ……。

 

 

それから簪ちゃんが戻ってくるまで、私は宮下君を弄って遊ぼうと思ったら

 

「今回、一夏を囮にしたように見られると思うんですよね。だから、一夏ハーレムの面々への言い訳を考えておいた方がいいですよ」

 

というアドバイスをされて、今更ながら頭を抱えることになった。どうやってあの子達を丸め込もう……。




オリ主のためなら、簪さん手を汚す覚悟OKになってます。ヤヴァイね。

次回は学園祭編ラストになる予定です。


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第60話 想いのままに

今回で学園祭編ラストと言ったな、あれは嘘だ。
……サーセン。ふと書きたいネタが出来てブッコミました。


学園祭に一夏を襲撃した亡国機業の構成員を捕縛して織斑先生に引き渡してからしばらくして、弐式に乗った簪がこっちに向かって降りて来た。

 

「簪ちゃん、お疲れ様」

 

「簪、お疲れ」

 

「うん。でもお姉ちゃん、あのまま逃がしてよかったの?」

 

簪としては、あのまま戦おうと考えていたようだ。

 

「いいのよ。織斑君と白式を守り切った時点でこっちの勝ちだわ。それに簪ちゃんが無理しなくても、宮下君が構成員の一人を捕まえたからね」

 

「別に無理は……」

 

「嘘言わないの。データを見たけど、相手はイギリスから強奪された『サイレント・ゼフィルス』じゃないの。しかもオルコットちゃんよりBT適性が高いのか、偏光制御射撃(フレキシブル)まで使えるって言うじゃない。いくら簪ちゃんでも二対一じゃ――」

 

 

「倒したよ?」

 

 

「……え」

 

簪の一言に、パイセンが固まる。

 

「簪ちゃん……サイレント・ゼフィルス、倒したの?」

 

「うん。その後金色のISが出て来たけど、最初のISは武装を全破壊したから、正味一対一で戦えてた」

 

「うそーん……」

 

ちょっと待てパイセン。まさか敵のデータだけ確認して簪の状態は確認せずに、絶好の好機を逃したのか?

 

「お姉ちゃん……」

 

「パイセン……一夏の件も含めて、やらかし過ぎだ」

 

「う……」

 

 

「二人ともそんな目で見ないで~~~~っ!!」

 

 

ちょっ! 顔真っ赤にしてすげー勢いで逃げて行きやがった!

 

「……どうする?」

 

「とりあえず、学園祭の続き、しよ?」

 

「……だな」

 

織斑先生にも残り時間を楽しめって言われてるし。

 

「あんま時間ねぇから、この辺でまだ見てない屋台でなんか買って、クラスの連中に配るか」

 

4組の様子を見に行くって言ってパイセンに捕まったからな。ちょうどいいだろう。

 

「それなら、この近くに"甘口メロンスパ"の屋台がある」

 

「なんて?」

 

今簪の口から、本当に食べれるのか疑う名称が出た気がしたんだが……?

 

 

 

とりあえずその屋台で"甘口メロンスパ"とやらを3,4パック買って、4組のクラスメイト達に配った。

 

「あの、これは……」

 

案の定、大半の連中は躊躇していたが、一部の好奇心が強いのが先陣を切って

 

「あんっまぁぁぁ!」

 

「温まったメロン臭がぁ……!」

 

このトンデモスパゲティの山を登ろうとしてリタイアし、

 

「生クリームが乗ってない分、本家より食べやすいかも」

 

簪を筆頭にごく一部の生徒だけが、残った麺をすすっていた。簪、将来一緒になっても、これは出してくれるなよ……。

 

「ところで、出し物は順調だったか?」

 

俺達が着いた時には学園祭終了間際で、教室に客はほとんど残っていない。さすがに常時これだけだったとは思いたくないが……。

 

「それなら全く問題なかったよ。むしろ30分くらい前まで、ゴーグル全稼働の満席状態だったから」

 

「そうそう。やっぱりISに乗ってみたいって人は多かったねぇ」

 

「入場チケットで来た人が大半だったけど、IS関連企業の人達もいっぱい並んでたもんね」

 

「ああ、やっぱゴーグルを量産して正解だったな」

 

豚のような悲鳴を上げそうになりながら頑張った甲斐があったな。

 

「宮下君じゃないか!」

 

「へ?」

 

突然声をかけられたと思ったら、さっきまでゴーグルをつけていた最後の客……ってぇ!

 

「ア、アルベールさん?」

 

フランスのデュノア社社長、アルベール・デュノア氏だった。え、なんでここに? 貴方の娘さんは1組ですよ?

 

「本来はシャルロットに会いに来たんだが、娘もクラスの出し物を頑張ってる手前、あまり長居も出来なくてね。それなら君にも会っておこうと思ってここに来たら()()だよ」

 

そう言って、アルベール氏はさっきまで装着していたゴーグルを指さした。

 

「これがあれば、テストパイロットの技術維持のために貴重なコアを割かなくて済むだろう」

 

訓練は仮想世界でやって、現実のテストに割り当てられたコアを全機投入したいってことか。知識としては知ってるが、やっぱ現場の人間から聞けば聞くほど、ISコアって需要と供給のバランスが悪いんだな。

だけど氏よ、申し訳ないが

 

「さすがにこれは販売出来ないと思います。前回の設計図の件で、織斑先生やその他大勢に釘刺されてるんで」

 

「そうだろうな……」

 

予想はしてたんだろうが、目の前のダンディなおっさんがしょんぼり顔を晒す。だがコロッと表情を変えると

 

「もし販売出来るようになったら、ここに連絡をしてほしい。私への直通だ」

 

俺に名刺を渡して教室を出て行った。うん、やっぱりあの人はアザトイさん(シャルロット・デュノア)の父親だ。押しが強ぇ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

それから来場者が全員帰ったのを確認して、学園祭は終了した。

俺と簪は撤収作業も免除になり、みんなより先に寮の部屋に戻っていたのだが

 

――コンコン

 

「誰だ?」

 

片付けたゴーグルを返しにでも来たか? 明日回収するから教室に置いとくって話だったはずだが。

そう思ってドアを開けると

 

「えっと、恥ずかしながら帰って参りました」

 

「おうそうか。まあ上がれ上げれ」

 

「あれぇ!? なんかフツーに通されたんだけど!?」

 

「あ、篠ノ之博士。麦茶用意しないと」

 

「かんちゃんもその反応なの!?」

 

というやり取りがあって、束が部屋にやって来たのだった。

 

「はい、麦茶ですが」

 

「あ、どうも。って、前回の流れから感動の再会か険悪ムードになるんじゃないの!?」

 

「「なして?」」

 

「二人して首傾げたぁ!? あれ? これ束さんがおかしいの? 違うよね? 二人がおかしいんだよねぇ?」

 

頭を抱えて唸っているが、別におかしくねぇだろ。というか束、キャラがブレてきてるぞ。自由気ままキャラはどうした。

 

「それで今日はどうした? 屋台の貰い物なら残ってるが」

 

「……たこ焼きもらう」

 

そう言って、机の上に乗ったパックの中から、たこ焼きを取ってパクつき始めた。

 

「この前ISのコア人格と……白騎士と話してから、色々考えたんだ」

 

「うん」

 

「そうしたら、なんか馬鹿らしくなってね」

 

「馬鹿らしくなった?」

 

簪は首を傾げるが。俺は何となく分かるような気がする。

 

「ISは元々宇宙に出るために作った。けれど今はアラスカ条約によって、軍事兵器を経てスポーツになった」

 

「そうだけど……それがどうして」

 

「なら簪に問題だ。アラスカ条約を作ったのは?」

 

「それは各国政府が――」

 

「そうだな。で? ()()()()()()()()()は?」

 

「え?」

 

簪が固まる。

 

「そんなの気にせず目指せばいいんだよ、宇宙を。なんで束が、いつも『凡人』だの『凡愚』だの言ってる連中の決めたことに従ってんだ?」

 

「ええー……」

 

「あはは、やっぱりりったんは束さんの事をよく分かってるよ」

 

「誉め言葉として受け取っておこう」

 

簪はドン引きしてるが。

 

「りったんの言う通りだよ。あんな凡人共のルールなんか無視して、勝手にISに乗って宇宙探索でもしてれば良かったんだよ。それなのに、なーんか束さんも気付かない内に連中のルールに従って、つまんない人生を歩んでたわけ。ホント、ダサいよねぇ」

 

心底自分に呆れたという感じで、最後に大きなため息をついた。

 

「そんなわけで、束さんはしばらく宇宙開発に全力を注ぐことにするよ。りったんにはまたアドバイスもらいに来るからよろしくねー♪」

 

「あいよ。織斑先生に見つかって、アイアンクローを食らわないようにな」

 

「もち! あ、そうだ。りったんからちーちゃんに伝えておいてくれる?」

 

「何をだ?」

 

 

「箒ちゃんの経験値稼ぎのためにゴー君Ⅲ号(無人機)を送り込む気でいたんだけど、この子に太陽光パネルと送電アンテナを付けることにしたから計画中止にするよ♪ それじゃあ二人とも、また来るねー」

 

 

色々爆弾な言伝を残して、束はいつぞやのように窓を開けるとベランダを飛び越えて行った。

 

「相変わらず、嵐のような人だったね……」

 

「だな。さて、面倒事はさっさと終わらせるか……」

 

まったく気乗りしないが、俺はスマホを取り出すと、織斑先生に連絡を入れた。

 

 

「束ぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

寮監室で、今日も呪詛交じりの悲鳴が上がるのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

学園祭の後片付けが終わった直後、あたしは一夏に呼び出されて誰もいない教室に来ていた。

 

「よぉ鈴。呼び出して悪かったな」

 

「別にいいわよ」

 

まぁ急に呼ばれたから、チャイナドレスを着替える暇が無かったんだけど。

 

「それで? 他の連中も無しで話って何よ?」

 

「いい加減、ちゃんと返事しようと思ってな」

 

「返事?」

 

何かあっただろうか?

 

「対抗戦の時のだよ」

 

「ああ……」

 

そういえばそうだった。あたし自身、一夏に言われるまで忘れていた。だって、()()()()()()()()()ようなものだったから。

 

「別にいいのに。あたしの告白、受けてくれるんでしょ?」

 

「ああ、それは間違いない」

 

「なら――」

 

「それでも俺は、鈴に『待ってくれ』って言ったんだ。なら、ちゃんと俺の口から言わなきゃいけないだろ?」

 

今日決心がついたんだけどな、って言って、はにかみながら頭を掻く一夏。

本当にこいつ、一夏なの? 数ヵ月前まで朴念仁で、告白をまったく理解してなかったのに……。

 

「そして……これが俺の答えだ」

 

「あっ……」

 

ぐいっと腕を引っ張られたと思った時には、あたしの体は一夏の腕の中に収まっていた。

 

 

 

「好きだ、鈴」

 

 

 

「……」

 

どうしよう、嬉しくて、胸の奥がいっぱいで、何を言えばいいか分からない……! 言葉にされるだけで、こんなに違うなんて……!

 

 

「鈴?」

 

あたしが何も言わないから、一夏が顔を覗き込んできた。だからあたしは――

 

「んっ……!」

 

「!?」

 

驚く一夏の頭に腕を回して、唇を重ね合わせた。言葉ではなく、行動で気持ちを伝えるために。

そうして、改めて理解する。あたし、一夏のことが好き……ううん、愛してるんだ。

 

「り、鈴……」

 

「ずっと、一緒にいてくれるんでしょうね?」

 

やっと出た言葉は、いつもの口調だった。我ながら思うところはあるけど、それでも今の一夏なら分かってくれる、そんな根拠のない確信が、あたしの中にあった。

 

「……ああ、もちろんだ」

 

ほら、今度は一夏の方から、唇を重ねて来てくれるんだもの――




鈴を正妻最有力にする、オルコッ党員にあるまじき所業。
ちなみに一夏の決心がついたのは、第二形態移行時の問答をした時に自分の気持ちを再認識したからです。(後付け)

……はい、次回こそ学園祭編最後にします。


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第61話 更識簪のISフレンドパーク

前々回とは打って変わって、血や硝煙の匂いは一切しません。


「みんな、先日の学園祭はお疲れ様! それじゃあお待ちかね、『織斑一夏争奪戦』の結果発表でぇす!」

 

学園祭の翌日、またもや全校集会が行われ、一夏の命運が発表されようとしていた。

そこかしこで、生徒達が唾を飲む音が聞こえてきた気がした。

 

「栄えある一位は……! えっ? 虚、これ本当?」

 

おや? パイセンが何か後ろに立ってた虚先輩に確認しだしたぞ?

生徒達も、発表が止まってザワザワし始めたし。

 

「一位は……1年4組の『仮想世界でIS体験』!」

 

「「「え……?」」」

 

全校生徒総ポカン。数秒経って、我に返った一同から大ブーイングが巻き起こる。

 

「1年4組って部活じゃないじゃん!」

 

「なんでクラスの出し物に票が入ってるのよ!」

 

「私達頑張ったのに!」

 

うん、言ってることはごもっとも。パイセンも理解を示しているのか苦笑いで、まぁまぁと手で制した。

 

「私だって予想外だったのよぉ。まさか生徒外の、チケット参加者や来賓の方々の票が全部4組に行くなんて……しかも王冠もどっかいっちゃうし……」

 

『シンデレラ』の参加条件を『生徒会に投票すること』にしたから、いっぱい票が入るはずだったのに……と小声でこぼしたのを聞かれて、さらにブーイング。パイセン……。

確かに生徒1人に対してチケット1枚だから、その入場者全部が4組に入ったらどう頑張ってもひっくり返せないが……。なぜそんなに票が入ったのか。解せぬ。

体育館が混乱の極みに陥る中、簪が壇上に……何する気だ?

 

「簪ちゃん?」

 

「みなさん、4組のクラス代表として、提案があります。これは4組の総意と取ってもらって構いません」

 

え? 総意? 周りを見ると、クラスメイト達が首を縦に振る。俺聞いてないんだけど。

 

「今回の『織斑一夏争奪戦』ルール通りなら、織斑君が4組にクラス替えすることになります」

 

「そんなの横暴だ!」

 

「ありえませんわ!」

 

「そーだそーだ!」

 

案の定、1組(というか一夏ハーレムの面々)からブーイングが飛んでくる。

 

「もちろんそんなことをしても混乱を招くだけです。なので、1年4組は織斑君の所有権を放棄します」

 

「「「わ~~~~~っ!!」」」

 

「よく言った!」

 

「さすが日本代表候補生!」

 

「疑ってごめん!」

 

さっきまでのブーイングから一転、拍手喝采が巻き起こる。現金すぎるだろ。

それにしても所有権を放棄って……一夏、強く生きろ……!

 

「あれ? それなら織斑君はどの部活に所属するの?」

 

ふと気付いた生徒の疑問に、また全体がザワザワし始める。

 

「なので……織斑君、壇上に」

 

「え? お、おう……」

 

突然簪に名指しされ、よく分からないという顔をしながら一夏が壇上に上がる。

すると、壇の後ろにいたはずの虚先輩が、ガラガラと何かを押して来た。

 

これは、あれだな……ルーレットだ。しかも部活名がびっしり書かれた。

はい、と虚先輩が一夏にダーツを1本渡す。

 

「織斑君には今ここで、自分で所属する部活を決めてもらいます」

 

「え~~~っ!?」

 

「虚さん、回してください」

 

「はい」

 

簪の合図とともに、ルーレットが勢いよく回転を始める。これってつまり……

 

「「「○ジェロ! パ○ェロ!」」」

 

混乱する一夏をよそ目に、全校生徒からの大合唱。お前らノリ良すぎだろ! しかもそのルーレットにパジェ○はねぇよ! もちろんタワシもな!

 

「えっ、私何も聞いてないんだけど……」

 

壇上で一人だけ置いてけぼりを食らってるパイセン。って仮にも生徒会長なのに話通してないのかよ!?

 

「ほら、織斑君!」

 

「ええいっ! ままだ!」

 

簪にせっつかれて、ヤケクソになった一夏がダーツを投げる。幸いダーツはちゃんと刺さり、回っていたルーレットがゆっくりと止まる。

 

 

『剣道部』

 

 

「っしゃあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

その瞬間、篠ノ之から今まで聞いたことのない叫び声が発せられた。し、篠ノ之……?

 

「ほ、箒さん?」

 

「今の、雄叫び……?」

 

「それがお前の本性だったのか……」

 

「あっ……ゴホンッ!」

 

周りの視線に気付いて咳払いするが、もう遅い。だんだん周囲の視線に耐えきれなくなったのか、

 

「わ、忘れろ~~~~~~!!」

 

ガチ泣きしながら体育館と飛び出して行ってしまった。一夏と一緒が嬉しかったのはいいんだが、感情のタガを外したのは失敗だったな。

何はともあれ、『織斑一夏争奪戦』は一夏の剣道部入部で幕を閉じたのだった。

 

「簪ちゃん、虚、私何も聞いてない……」

 

最後まで壇上で放置されたパイセンが、妙に哀愁を漂わせていた。

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

全校集会が終わり、俺も4組の教室に――戻れなかった。

 

「……で? 今度は俺、何で呼ばれたんです?」

 

教室に戻る途中で織斑先生に拉致られて、もはや勝手知ったる生徒指導室に連行されていた。簪も当然左腕装備の状態で。

 

「色々言うべきことはあるが、学園祭で使ったゴーグルについてだ」

 

「IS体験のゴーグルですか?」

 

「そうだ。宮下はあのゴーグルを学園祭後、4組に寄付すると聞いているが、事実か?」

 

「はい。クラスに5,6個提供します。エドワース先生も承知してますよ」

 

それを聞いて織斑先生、頭を抱えてデッカイため息。なんでさ。

 

「4組だけあのゴーグルを導入してISの訓練をしたらどうなると思う? 他のクラスとの差が広がり過ぎて不公平極まりなくなる。その辺り、エドワース先生に止めてほしかったんだがなぁ……」

 

あ、エドワース先生に対するため息だったのね。そう思ったら、ギロリと睨まれた。解せぬ。

 

「それで、織斑先生はどうしたいんですか? まさか、陸からあのゴーグルを没収するんですか?」

 

「それが出来れば一番楽なんだがな。一度許可を出したものを没収しては、それこそ示しがつかなくなる」

 

だから困ってるんだ、と織斑先生は再度頭を抱えてため息をついた。

 

「そこで、だ。宮下、あのゴーグルは全部でいくつある?」

 

「ざっと40です」

 

最初の10台と、直前のデスマーチの30台を足した数を申告する。予備もあったりするが、そこらへんはいいだろ。

 

「そうか……各クラスに3台ずつ、回してくれないか?」

 

「"各クラス"というのは、2,3学年も含めて、ということですか?」

 

「そうだ」

 

となると、2,3学年に3×4×2で24台、1学年の4組以外に3×3で9台、全部で33台。それなら1年4組に当初の予定通り5,6台回しても足りるのか。

 

「それと、現実世界と仮想世界の時間を合わせてくれ」

 

「それは"10分で1時間"ではなく、"1時間で1時間"にしろということですか?」

 

「ああ。そうでないと、仮想組の方が実機組より有利になるという逆転現象が起きかねないからな」

 

う~む。織斑先生の言ってることも分からんくはないが、当初の予定から大分ズレてくなぁ……。

 

「ちなみに、断った場合は?」

 

「その場合は申し訳ないが、先ほど言った『不公平』を理由に4組への寄付を禁止する」

 

「それ、選択肢ないじゃないですか」

 

簪の方を見ると、『仕方ないかも』と顔に書いてあった。はぁ……ここは譲歩するか。

 

「分かりました。各クラスに3台、提供しましょう」

 

「すまんな。あまり1クラスだけが突出すると、学園上層部からどうなってるんだ説明しろと催促が、な」

 

そう言って腹部を押さえる先生。どうやらブリュンヒルデすら、中間管理職の悲哀からは逃れられないらしい。

その代わり、当初の予定になかったゴーグル33台分については、『学園側が俺から買った』という形にするとのこと。金額については前回の失敗(デュノア社との件)があるから簪に一任した。織斑先生も

 

「それぐらいが妥当だろう」

 

と言って、以前のバイト代と同じように振り込むということで片が付いた。

 

 

 

教室に戻り、クラスメイト達に説明。

 

「「「あ~……」」」

 

というのが、みんなの反応。『言われてみれば確かに』という感じだった。

 

「他のクラスとの経験値の差かぁ」

 

「訓練機の予約をしなくていいぐらいにしか考えてなかった」

 

「そりゃ10分で1時間の訓練になるなら、誰も実機に乗らなくなっちゃうかも」

 

等の声が出て来た。

 

「すまんな。なんか当初よりダウングレードを余儀なくされちまった」

 

「宮下君が悪いわけじゃ無いよ」

 

「そうそう。織斑先生が言ってたことも理解できるから」

 

「それに、ウチのクラスが他より台数多いのは変わらないし」

 

そこだけはな。他クラスが3台に対して、4組は6台を回すことにしてある。そこは製作者特権ってことで。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

後日、各クラスに仮想世界潜入ゴーグルが配布された。

貸し出されたゴーグルは寮への持ち込みも許可されたため、訓練機を予約できなかった生徒は寮の自室でゴーグルを使用して訓練を積むという選択肢が新たに生まれた。

それにより『今年はIS操縦カリキュラムの進捗がいいですね~』と某副担任がこぼすのだが、それは少し未来の話。

 

ちなみにその後日に、口座を確認した俺は

 

「なんじゃこりゃあぁぁぁぁ!?」

 

と叫んでいた。

学園から振り込まれた金額が……ゼロの数が……8個? ああ……前に売った設計図、本当に安かったんだなぁ……。




学園祭編、終了でございます。
あれこれネタ(束回とか)を入れようとした結果、他章より長くなっちゃいました。タハハ……。

『なんでチケット入場者に投票権があるんだ?』という疑問が出てきた人もいるかもしれませんが……気にするな!

次回からキャノンボール・ファスト編になります。
ちなみに3/14現在、亡国機業は出て来ない予定です。学園祭であれだけボコられたのにまた出てきたら、むしろ賞賛を送りますね。


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キャノンボール・ファスト
第62話 今後の課題


キャノンボール・ファスト編(原作6巻)開幕……と言いつつ、今回話題にも出てきません。もうしばらくお待ちください。
さらに、エムが簪にボコられたため、福音襲撃イベントは無くなりました。ナターシャ好きの方、申し訳ない。(だが後悔はしていない)


学園祭の熱が収まり始めた頃、俺は陸を相手に、第二形態移行(セカンド・シフト)を果たした白式に乗っての模擬戦を行った。

そして陸から一言。

 

「結論、欠陥品」

 

「酷くね!?」

 

開幕一言目がそれかよ!

すると、陸は大きく息を吸って

 

「まず大型化したウイングスラスターだが、第一形態より燃費が悪化してて、前みたいに瞬時加速を繰り返してたらあっという間にエネルギー切れを起こすぞ。次に多機能武装腕の『雪羅(せつら)』。こいつが酷すぎる。荷電粒子砲? 今まで射撃用センサーリンクシステムも搭載してないブレオン機で、一夏は射撃経験なんてさっぱりなんだぞ? そこに突然これまた大飯食らいの大出力砲とか、馬鹿なの? しかも格闘用のエネルギー爪とエネルギーシールドは零落白夜仕様? 白式よ、お前はそんなに一夏にSE切れを強要したいのか?」

 

ここまでの酷評を一息で言い切った。

 

「陸の言い過ぎ、なら良かったんだけど……」

 

「宮下が言ってることが、ほぼほぼ正しいのがな……」

 

更識さんとラウラの反応に、他のみんなも反論出来ない。ぶっちゃけ、俺も出来ねぇ……。

 

「とにかく、一夏は今までやってた訓練を大幅変更する必要があるよ」

 

「というと?」

 

シャルが上げた、俺の課題は以下の通り。

 

・近距離戦闘と遠距離戦闘の即時切替

・射撃訓練

・新装備の慣熟訓練

 

「課題が山積みじゃないか……」

 

「なにせ、荷電粒子砲っていう遠距離武装が出て来たからね。どうしても今までのブレード1本の時とは戦略自体が変わっちゃうよ」

 

「むしろ、雪片だけの時の方が良かったのでは?」

 

「あはは……」

 

否定しないのな……。

 

「なぁ陸、これ何とかならね?」

 

「何とかって……とりあえずリミッターでも付けるか? 荷電粒子砲の出力を落として、必要な時だけリミッターを外す形にして」

 

「それだけか?」

 

「爪とシールドは零落白夜仕様だから、出力絞るとかは無理だな。スラスターもやれなくはないが、飛んだ時の感覚がリミッターの有無で変わるから、却って飛びづらくなるぞ」

 

「マジかぁ……だけどやらないよりはマシか。陸、頼めるか?」

 

「いいぞ」

 

そう言って陰流を待機状態に戻した陸は、どっからか端末を出すとケーブルを白式に繋いで、スラスラと何かを入力していく。

 

「よし、荷電粒子砲の出力設定、完了したぞ」

 

「早っ!」

 

え、もう終わったのか?

 

「一夏、設定が適用されてるか確認したいから一度撃ってみてくれ」

 

「お、おう」

 

陸に言われるがままに、左腕の雪羅を構える。

 

――ドォン!

 

「さっきより威力が落ちてる」

 

「よしよし。設定通りなら、威力は3割減で燃費は3割改善されてるはずだ。大体そのスラスターなら5分は長く飛んでられるぞ」

 

「5分か……10分でエネルギー切れ起こしたさっきの模擬戦から考えれば、劇的ビフォーアフターだな。陸、サンキューな」

 

あとは俺が、この荷電粒子砲とスラスターのエネルギー配分とかを考えなきゃならないのか……前途多難だ。

 

 

「(ねぇセシリア、武装の設定ってあんなにすぐ出来るもんだっけ?)」

 

「(いいえ、本来はもっと時間がかかるはずですわ……)」

 

「(そこはほら、『宮下君だから』で済んじゃうんだよ……)」

 

「(それで納得していいものなのか?)」

 

「(もうこの程度では驚かんぞ、でないと体が持たん)」

 

 

なんかみんながソコソコ話してるが、聞かなかったことにしよう……。

 

ーーーーーーーーー

 

模擬戦をした後はお開きになり、全員そのまま寮に……とはならなかった。

 

「織斑君と宮下君、ちょっと生徒会室まで、ね?」

 

と、アリーナの入口で張っていたっぽいパイセンに連れられて、俺と一夏は生徒会室のソファに座っていた。

 

「二人とも連れ出してゴメンね。だけど内容が内容だから、あの場で話すわけにもいかなくて」

 

「みんなに聞かせられない話ってことですか?」

 

「そうよ。織斑君は覚えてる? 学園祭で君を襲った相手のこと」

 

その問いに、一夏の顔が一瞬強張る。

 

「オータムって名乗ってた……逃げられましたけど」

 

「そう。その女なんだけど、実はあの後宮下君が捕まえてくれたのよ」

 

捕まえた、か。パイセンに止められなければ、俺はあの時女の首をへし折る気だったんだがな。

 

「で、その後色々尋問してみたけど、暖簾に腕押し状態でね。今朝、身柄を国際IS委員会に引き渡す予定だったんだけど……」

 

そこで区切ると、パイセンは俺達の前に1枚の写真を置いた。その写真には、横転して炎上しているワンボックスカーが写っていた。

 

「話の流れから、護送車か何かですか?」

 

「正解よ宮下君。学園から委員会へ移送中に襲撃を受けて、まんまと女を奪還されちゃったのよ」

 

「護衛は何やってたんですか。せっかく謎の組織の構成員を捕まえたってのに」

 

「秘密裏に事を運ぼうとしたのが裏目に出たそうよ。護衛にISを配置してなかった所為で、相手の金色のISに襲われて壊滅ですって」

 

パイセンがやれやれと首を振る。俺も振りたくなるわ、杜撰すぎんだろ。

 

「その、楯無さんがそんな情報を教えるのは、俺と陸がその女と関わったから、ですか?」

 

「ええ。二人とも、一応頭の片隅に入れておいてね。あの組織の規模が分からない以上、新しい襲撃者がいないとも限らないから」

 

「分かりました」

 

一夏が返事をする一方、俺は黙って写真を見続けていた。

 

「宮下君?」

 

「どうした陸?」

 

「パイセン、あの女のISコアも一緒に持ってかれたんですか?」

 

確か、コアだけ抜いたISを一夏に対して自爆特攻させて、その隙に逃げたって話だったよな? なら、その時一緒に手に入れたコアは?

 

「いいえ、コアはまだ学園にあるわ。というより、委員会に渡すに渡せない事情があるのよ」

 

「事情?」

 

「あの女が乗っていたIS、『アラクネ』って名前なんだけど、以前アメリカの施設から強奪されたものなの」

 

「強奪……それなら、アメリカに返すのが筋なんじゃないんですか?」

 

「一夏、それは無理だ」

 

「無理?」

 

俺の回答に、一夏は首を傾げる。

 

「それを答える前に、パイセンに質問。アメリカから委員会に『ISが奪われた』って報告はありましたか?」

 

「……ないわ。というか、どの国もそんな報告をしたことはないわ」

 

「え? だって実際にアメリカはアラクネを……」

 

「一夏、そんな報告したら『我が国はテロリストに軍施設を襲撃された挙げ句、最重要機密であるISを奪われた』って世間に公表することになるんだぞ? そんなの国の面子丸潰れだ。だからアメリカを含め、どの国も奪われた事実を公表しないし出来ないんだ」

 

「そういうこと。だからアメリカは『返してくれ』と言えず、かといって委員会にも渡せず、アラクネのISコアは学園預かりになったわけ。今は秘密の部屋に保管中」

 

「国の面子とか、面倒くさいなぁ……」

 

納得がいかない顔の一夏。うんうん、お前はそのままでいてくれ。権謀術数に長けた一夏とか、気持ち悪くて仕方ない。

しかし、ISコアがここにあるとすると……

 

「亡国機業、実はそんなに規模は大きくないんじゃ?」

 

「どういうこと?」

 

「もしパイセンが悪の組織側だったら、ただの構成員を救出したりしますか?」

 

「それは……」

 

「何言ってんだよ陸、助けるに決まってるだろ」

 

はいはい、一夏ならそうするよなー。

 

「……なんか馬鹿にしてね?」

 

「気のせいだ気のせい。で、パイセンならどうです?」

 

「……助けない、わね」

 

「ええっ!? どうしてですか!?」

 

ここで本気で驚くところが一夏クオリティだな。根っこが善人すぎる。……何も考えてないただの馬鹿の可能性もあるが。

 

「これがISコアとセットなら考えるけど、構成員1人を助けるためだけだと、リスクが高すぎるわ」

 

「けれど助けた。となると、一構成員を助けなきゃいけないぐらい、亡国機業って組織は――少なくとも実働部隊は――人手が足りないんじゃ?」

 

「なるほど。確かに一理あるわね」

 

パイセンが扇子を開く。書かれているのは『考慮』の二文字。

 

「おまけにもう1機も簪が返り討ちにしたから、しばらくはあっちも動けないんじゃないかなぁと」

 

「もう1機って……まだいたのか!?」

 

「ああ。お前がアラクネと対峙してる時に、上空で簪が敵増援を迎撃していた」

 

パイセンのPONがなければ、さらに1機減らせてたかもしれなかったんだがな。そこは黙っておくのが情けって奴か。

 

「マジか……でもそれなら、亡国機業側は今回2機のISが戦闘不能になったってことですよね?」

 

「ええ。だから宮下君の言う通り、向こうが体勢を立て直すまで猶予があるかもしれないわ」

 

「つまり……」

 

「つまり、その間にお前は白式・雪羅を乗りこなせるようになれってことだ」

 

「やっぱそうなるよなぁ……」

 

結局やることは変わらないと再認識したようで、ガックリ肩を落とす一夏だった。




他の2次創作でも話題になってますが、どうして白式はあんなピーキーな進化の仕方をしたのやら……。
君、操縦者が千冬と勘違いしてないかい?


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第63話 輪廻の花冠

サブタイでピンときた方もいると思いますが、今回からあのISが登場します。


『キャノンボール・ファスト』。それはISを用いて行われる、妨害アリの高速バトルレースだ。

本来は国際大会として扱われるが、IS学園があるここでは、市の特別イベントとして催されるそれに、生徒達は学校行事の一環として参加することになる。

とはいえ、専用機を持ってる方が圧倒的に有利なため、当日は専用機部門と訓練機部門の二つに分けて行われるのだが。

 

さて、今後行われるイベントについて長々と説明したわけだが、どうしてそんな説明をしたか。それは――

 

「い、一夏の誕生日!?」

 

「そういう大事なことはもっと早く教えてくださらないと困りますわ!」

 

「え? いや、そこまで大したことじゃないと思ってたんだが……」

 

「ふん。しかも、知ってて黙っていた奴もいたみたいだな」

 

「「うっ!」」

 

どうやら一夏の誕生日がキャノンボール・ファストの開催日と被ったらしい。しかもそれを知ってて黙っていた篠ノ之と凰が、他の3人から集中砲火を浴びていた。

 

「お前ら、篠ノ之と凰への追及は飯食ってからしてくれ」

 

「うん。周りからの視線が痛い」

 

「「「「「あっ……」」」」」

 

俺と簪の指摘で周りを見渡せば、『またあいつらか』という視線がこっちに向かって刺さること刺さること。その視線に気付いた一夏ハーレムの面々の声と体が縮こまる。

 

「当日は市のISアリーナでやるんだったか?」

 

「二万人収容可能ってやつだね~。いつだったか、とあるアイドルがライブをしたんだけど満席に出来なくて、それ以来キャノンボール・ファスト以外で使用されてないんだよ~」

 

「箱物行政」

 

「更識さん、辛辣ですわね……」

 

いや、IS以外で使えないアリーナとか、箱物以外に言い様がないだろ。

 

「そういえば、明日からそのキャノンボール・ファストのための高機動調整を始めんだよな? 具体的に何するんだ?」

 

「ふむ。基本は高機動パッケージのインストールだが、嫁の白式にはそれがないだろう」

 

「だから、各スラスターの出力調整とかエネルギーの配分調整になるかな」

 

ボーデヴィッヒとデュノアの言う通り、一夏の白式にはパッケージなんてものはない。というか、いい加減何か無いのか倉持技研。

 

「高機動パッケージって言うと、確かセシリアが以前……」

 

「ええ、ブルー・ティアーズには主に高機動戦闘を想定したパッケージ『ストライク・ガンナー』が搭載されていますわ!」

 

「臨海学校の時、篠ノ之博士の横槍で出番のなかった」

 

「ええ、ええ。本当はあの時にお見せしたかったですが……」

 

あ、オルコットの目のハイライトが消えそう。

 

「そ、それで! 鈴とかシャルとかラウラにもあるのか? パッケージって奴」

 

そこで一夏が無理矢理話を他の面子に振る。ナイスフォロー。

 

「あたしは無し。甲龍用の高機動パッケージは間に合わないって最近連絡が来たわ。うちの国何やってんだか」

 

「私は姉妹機である『シュヴァルツェア・ツヴァイク』の高機動パッケージを調整して使う予定だ。あちらの方が本国配備の分、装備開発がしやすい環境だからな」

 

「僕は……」

 

そこでデュノアが言い淀む。どうした?

 

「実は学園祭の日に、お父さんが来てたんだ」

 

「お父さんって……デュノア社の社長がか?」

 

「うん」

 

大企業の社長が秘密の来日をしていたことにみんな驚いていた。……俺と簪は普通に会った上に、名刺まで渡されたが。

 

「それで、ついに第3世代機の試験機がロールアウトしたからって、その時一緒にフランスから持ってきた機体に乗り換えたんだ」

 

「機体の乗り換えか……だが大丈夫なのか? 乗り換えたとなるとISコアの経験値も最初からになるだろう」

 

「それは大丈夫だよ。『どこかの誰かさん』が、ISのコア情報を入れ替えるって、頭おかしいことをしてくれたから」

 

「……」

 

途端に、全員の視線が俺に向かってくる。仕方ないだろアルベールさんから頼まれて報酬が良かったんだから。一応安全面も考慮して、事前に束にも相談したんだぞ。

 

「俺は悪くねぇ!」

 

「誰も宮下が悪いなんて言ってない」

 

「というか、どこから出して来たのよ、その赤髪のカツラ」

 

篠ノ之と凰からのツッコミを受けて、某主人公のコスプレ用カツラが頭から落ちる。

 

「つまり、シャルロットはその新型に乗って参加するということか」

 

「そうなるね。正直以前のリヴァイヴより機動性も上がってるから、結構いい成績を残せるんじゃないかな」

 

「これは明日が楽しみだな」

 

ボーデヴィッヒがニヤリと笑う。

 

さっき一夏が言っていたが、明日から高機動調整を行う予定になっている。そこで大々的にお披露目となるだろう。

 

その後はキャノンボール・ファストが終わってから一夏の誕生日会をしようということで話が着き、各自解散となった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、高機動調整と訓練のため第6アリーナに集まった面々の視線は、今一点に集まっていた。

 

「あはは……みんな、恥ずかしいんだけど」

 

「それが……」

 

「フランスの第3世代IS……」

 

外見はラファールの面影を残しつつ、まるで天使の羽のような6基のカスタム・ウィングを広げ、大型のライフルを展開している。

 

「これが僕の新しいIS、『リィン・カーネイション』だよ」

 

「リィン、カーネイション……」

 

みんながデュノアの新しいISに目が行ってる間に、俺は陰流を展開、標準装備のアサルトライフルをデュノアに向ける。

 

「っ! 宮下!?」

 

――ドドドドッ!

 

篠ノ之の声を無視して引き金を引き、銃口から飛び出した弾丸はデュノアのISに――

 

 

当たることなく、まるで磁石が反発するかのごとく左右に逸れていった。

 

 

「なに、今の……?」

 

「弾が、逸れた……?」

 

今目の前で起きたことが信じられないと言わんばかりに、みんなが固まる。

 

「アルベールさんから話は聞いてたが、実際見るとすげぇな」

 

正直、俺も驚いていた。まさかこれほどとは。

 

「まさか、これが……」

 

「宮下君から手に入れた設計図を元に、デュノア社の技術開発部が心血を注いで生み出した装備――」

 

 

「『花びらの装い(ル・ブクリエ・デ・ペタラ)』。実体弾はもちろん、レーザーの軌道すら曲げる、鉄壁の守りさ」

 

 

俺が売った設計図は、ドイツのAICを解析したものだ。内容は物体加速度の低減。それをデュノア社はただ載せるだけでなく、そこから新技術まで持っていったわけだ。やるな、デュノア社。

 

 

 

そんなデュノアの新ISのお披露目を挟んで、さっそく高機動訓練を始めたわけだが

 

「う、うわぁぁぁぁぁっ!」

 

――ドゴォォォォォン!

 

コーナーを曲がり損ねた一夏が、そのままアリーナの壁に突っ込んでいた。やっぱそうなるよねー。

一緒に並走していたオルコットが、壁にめり込んだ一夏を引っ張って掘り起こす。

 

「いつつ……高速機動用補助バイザーってやつが慣れないんだよなぁ……」

 

「とはいえ、それが無いとまともに飛べませんから、頑張って慣れるしかありませんわ」

 

「おう、頑張る……」

 

「う、うわわわわわっ!」

 

――ドゴォォォォォン!

 

「……」

 

「箒、大丈夫か?」

 

「だ、大丈夫だ……」

 

篠ノ之も、一夏と同じように機体性能に振り回されてるな。本番までに間に合うのか? これ。

他のメンバーはどうしてるかな、っと……

 

「これがリィン・カーネイションか……! 確かに以前のリヴァイヴより機動性が高いな……!」

 

「ぐぬぬ……! 離されないようにするのがやっとなんて……!」

 

「やっぱり第3世代機だなぁ。カスタムⅡも機動性重視で頑張ってたけど、地力が違うや」

 

デュノアの後ろを、ボーデヴィッヒと凰が追う形か。今まで第2世代機というハンデを技量で補ってきたデュノアが第3世代機に乗ると、ここまで変わるんだな。

 

「みんな、楽しそう……」

 

「言ってくれるな簪……」

 

そんな中、俺と簪だけは一夏チームが飛んでる姿を眺めているだけだった。理由は簡単、最初に簪が飛んでみたところ

 

「「「「「「あんな機動するのと一緒に飛べるか!!」」」」」」

 

と総ツッコミを食らったからだ。いやまぁ、そうなるよな。簪も最初から飛ばしまくって、ただでさえ速い高機動状態からの瞬時加速とか、どないせいと?

 

「陸は飛ばないの?」

 

「俺か? 俺があの中に混ざってもなぁ」

 

陰流は打鉄のカスタム機、第2世代機だ。そして俺にはデュノアほどの技量も無いから、あの中に混ざる意味がない。どうせ途中で置いてきぼりになって、一人で飛んでるのと変わらなくなるだろうからな。

 

「なら、一緒に飛ぼう」

 

「簪と? それこそ置いてきぼり食らうだろ」

 

「陸と飛びたい」

 

「いやだから、どっかで置い「陸と飛ぶ」……はい」

 

 

 

根負けした俺は、そのまま簪と高機動モードで飛ぶことになった。で、なぜか簪が

 

「手、繋ぐ」

 

とか言い出して、飛び終わった後に

 

「アンタ達、本番でピーターパンでもやる気?」

 

なんて、凰に揶揄われた。こんな高速で飛び回るピーターパンとか、誰が見たがるんだよ……。




シャルパパと和解済み&オリ主設計図があればこんなもんよぉ!

ということで、シャルロットのISが『リィン・カーネイション』に変わります。
原作と違い、第3世代機『コスモス』とリヴァイヴの共鳴現象は発生していないので、コアは一つだけです。しかも『花びらの装い』がエネルギーシールドからAICと同じ結界型、なおかつIS前面をほぼ全部カバーできる範囲に。(ただし前面固定なので、シールドのような取り回しは不可)

簪インフレが止まらない(止める気が無い)から、ここらで一夏ハーレムにもテコ入れしようかと。


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第64話 出禁

まあ、そうなるな。(伊勢型戦艦2番艦風に)


宮下陸は激怒した。必ず、かのIS学園上層部の横暴を除かなければならぬと決意した。陸には学園運営の難しさがわからぬ。陸は、機械馬鹿である。機械を作り、打鉄弐式に組み込んで暮して来た。けれども不公平に対しては、人一倍に敏感であった。

 

……今度は陸が、何に怒ってるのか。

 

「簪が大会参加不可とか、どういうことだおらぁぁん!!」

 

「お、抑えろ陸!」

 

「そ、そうだよ~、落ち着いて~」

 

織斑君が今にも暴れ出しそうな陸を羽交い締めにしている正面、玄関前廊下に張り出された紙には、こう書かれていた。

 

=====================

キャノンボール・ファスト参加者について

 

今月開催予定のキャノンボール・ファストについて、以下の者の競技への参加を禁止とする。

 

対象者:1年4組 更識簪

禁止理由:専用機の性能が他と著しく乖離しており、円滑な大会運営に支障を来すため

 

上記生徒は、競技後のエキシビジョンに参加すること

=====================

 

「罪のない一生徒をハブるとか教育舐めてんのかクソがぁ!」

 

「いやいや、禁止理由読んだら分かるだろ! というかこれ陸が原因じゃねぇかよ!」

 

「なら弐式より高性能な専用機作れよ何国家が一個人に負けてんだよ!」

 

「正論だけど無茶言うな馬鹿野郎!」

 

……つまり、私と弐式が参加すると勝負にならないから、大会運営からお断りされたと。

 

「お前達、朝から何を騒いでいる!」

 

あ、織斑先生。

 

「千冬姉! ちょうど良かった! これを何とかしてくれ!」

 

「織斑先生だと何度言えば……宮下か……」

 

視界に陸が入った瞬間、手を目に当ててため息を一つ。

 

「こうなる予感はしていたが……教師部隊!」

 

「「「はいっ!」」」

 

織斑先生の号令で、どこからともなく先生達が……ってなんで刺又なんか持ってるの!?

 

「な、なんだ! お、おいっ!」

 

「確保!」「確保!」「確保!」

 

「よし! そのまま生徒指導室まで連行!」

 

「「「はいっ!」」」

 

刺又で三方から胴を押さえられた陸は、そのままどこか――おそらく織斑先生の言った生徒指導室――に連行されていった。

 

「あ、あの、織斑先生」

 

「ああ更識妹か……すまんが、今回の参加禁止については大会運営をしている市からの要望でもある、我慢してくれ」

 

「は、はぁ……」

 

織斑先生に頭を下げられて、私もどう返せばいいのか。確かに競技に参加できないのは残念だけど、エキシビジョンで弐式の性能をお披露目できればいいかなって思ってたから。

 

「宮下についてはこちらで対応する。エドワース先生にもこちらで連絡を入れておくから、お前達はそのまま教室に行くように」

 

私達の返事を聞く前に、織斑先生は生徒指導室のある方に向かって歩き出していた。

 

「かんちゃん~……」

 

「……とりあえず、移動しよう」

 

玄関前に立ってても仕方ない。今は織斑先生に言われた通り、教室に行っていつも通り授業を受けよう。ほら、織斑君も口ポカンしてる子達の後ろを教室に向かって押してるし。

 

 

 

陸が生徒指導室から戻って来たのは、2時限目が終わった直後だった。

 

「くそぅ……やっぱ大人は汚ぇ……」

 

(陸も前の外史では大人だったんじゃ……)

 

と思ったけど、周りの耳があるから言えない。陸って、そういうところは子供っぽいっていうか……けどそこも良い。(惚気)

 

「はぁぁぁ、なーんかモチベ下がっちまったなぁ……」

 

「仕方ない、というか織斑君も言ってたけど、陸が色々積み過ぎたのが原因」

 

「それ、先生達にも言われた……どうせ競技に出られないなら、いっそさらに改造してネクスト――」

 

「陸、よく分からないけど止めよう?」

 

それ以上言わせたらいけない気がした。本当によく分からないけど、傘のような外観の飛行要塞と対峙する光景を幻視したから。

 

「なら、別の方法でモチベ上げるかぁ……」

 

「?」

 

ーーーーーーーーー

 

――コンコン

 

「二人とも、ちょっといいかしゲホッ! ゲホッ!」

 

夜、簪ちゃんと宮下君の部屋のドアを開けたら、出迎えと言わんばかりの煙がやって来て噎せたんですけど!?

 

「お姉ちゃん、いらっしゃい」

 

「パイセン、煙が外に漏れるとマズいんで、さっさとドア閉めてください」

 

「え、ええ?」

 

何が何だか分からないけど、とにかく部屋の中に入ってドアを閉めた。そして二人の声がする方――煙の発生源――に向かっていくと

 

「……何やってるの?」

 

「何って、見ての通り焼肉だよ?」

 

床に敷かれたカーペットの上にローテーブルが置かれ、そのテーブルの上にはホットプレートとお肉や野菜の盛られた皿とお茶碗。それを座布団に座った二人が囲んでいる。しかも簪ちゃんの隣には、5合炊きぐらいの炊飯器まで。……うん、簪ちゃんの言う通り、確かに家庭の焼肉風景よ? でも……

 

「どうして寮の部屋でやってるのよ……」

 

ご丁寧に、天井の火災報知器にプラスチックのカバーまで付けて。あ、換気扇回してたから、ドアの方に煙が行ってたのね。

 

「簪、茶碗ってもう一つあったっけ?」

 

「ある。お姉ちゃんも食べてく?」

 

「……うん」

 

言いたいことはいっぱいあるけど、目の前の焼肉の魔力には勝てなかったわぁ……。

 

 

 

「(白米もぐもぐゴクン)それで、どうして寮の部屋で焼肉なんてやってるの?」

 

「陸のモチベを上げるため(肩ロースをトングで掴んでプレートにジュー)」

 

「弐式がキャノンボール・ファストに参加できないって聞いて、(玉ねぎ齧ってもぐもぐ)食いたいもん食ってモチベを上げようと」

 

「なるほどねぇ……あっ、そのハラミもーらい(ペチンッ)いたっ!?」

 

「お姉ちゃん、それまだ焼けてない」

 

「あ、はい。サーセン」

 

こんな和気藹々とご飯食べるなんて、久しぶりかも……。

 

「それで、パイセンは何の用があってここに?」

 

「う~ん、実はもう用事は済んじゃったのよ」

 

「どういうこと?」

 

「宮下君、今朝結構大暴れしてたでしょ? だから織斑先生から、様子を見て来てくれって頼まれたのよ。久々のタン塩美味しい」

 

「ああ~……」

 

簪ちゃんが納得する中、宮下君は解せぬって顔しながらお肉を頬ばっていた。うん、簪ちゃんの次ぐらいに可愛い……って何考えてんのよ私!

 

「でも、こうやって自分でモチベ管理出来てるなら問題ないわね。織斑先生にもそう伝えておくわ」

 

「そうしてください。もうそろそろカルビ焼けたか?」

 

「それにしても、なんか家族団欒って感じねぇ」

 

「感じも何も、家族団欒だよ?」

 

簪ちゃんが首を傾げて言う。

 

「だって私と陸が将来一緒になったら、お姉ちゃんは陸の義姉になるんだよ?」

 

「「……っ!?」」

 

私と宮下君はハッとした。そうよ、そうなるんじゃない! さっき宮下君が可愛いと思ったのは、義理の弟に対する感情ってこと! つまり家族愛ってことなのね!?

 

「いやまぁ確かにそうなるのか……となると、パイセン呼びも改めた方がいいのか……?」

 

「試しに、お姉ちゃんを名前で呼んでみる?」

 

「それやって、一度顔真っ赤にして飛び出していった前科が……」

 

「前科って何よぉ!」

 

確かに学園祭前にあったけど、あれは耳元で囁くのが悪いんじゃない!

 

「なら大丈夫。陸」

 

「う~ん、そんじゃ……」

 

簪ちゃんに促されて、半信半疑な顔をした宮下君が

 

「楯無さん」

 

と私を名前で呼ぶ。

 

「どう? お姉ちゃん」

 

「不意打ちでなければ全然問題ないわ」

 

呼ばれ慣れてないから、ちょっと気恥ずかしいけど。織斑君みたいに呼ばれ続ければ、その内慣れるでしょ。

 

「そっか。それなら……」

 

「それなら?」

 

「それならお姉ちゃんも、陸のこと名前で呼ばないと、ね?」

 

「あっ……そ、そうね」

 

言われてみればそうなんだけど、私も今更彼を名前で呼ぶって……なんか恥ずかしい。

 

「えっと……言う、わね?」

 

「はい」

 

もうっ、どうして私が恥ずかしい思いしてるのに、そっちはなんてこと無さそうな顔してるのよぉ。

 

 

「陸、君……」

 

 

あっ、これダメだ。すっごい恥ずかしい。

 

「陸もお姉ちゃんも、これからは名前で呼ぶこと。OK?」

 

「分かった。慣れるまで大変そうだけどな」

 

「えっ、あの簪ちゃん――」

 

「OK?(暗黒笑顔)」

 

「お、おーけー……」

 

簪ちゃんには勝てなかったわ……。う~っ! これから宮下君――陸君と顔合わせるの大変なんですけどぉ!!



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第65話 デュアルコア

出禁になった、は・ら・い・せ♪


それはキャノンボール・ファストを出場禁止になった翌日、いつものように食堂で晩御飯を食べている時だった。

 

「俺、もっと自由にやって良い気がするんだよな」

 

「……」「……」

 

陸の言葉を聞いて、私と本音は宇宙猫になった。

ポチャンッと音を立てて、すするはずだったうどんが箸から離れ、丼の中へ帰っていく。

 

「りったん、熱があるなら今日は早く休んだ方がいいよ~」

 

「おうのほほん、それはどういう意味だ?#」

 

「というか、突然どうしたの?」

 

これまでも突拍子もないことを言ってはきたけど、ここまで前振りがないのは初めてだ。

 

「最近、倉持や日本政府と揉めたり学園祭の出し物や演劇の設営したりで、機械弄りだけしたいっていう俺のスクールライフが大分崩れてきてるなぁと思ってな」

 

「ええ~? なんだかんだで弐式にツインドライヴやGNファングとか付けてるでしょ~」

 

「それじゃあ足りねぇ。というか、二人とも忘れてねぇか?」

 

「忘れてるって」「何を?」

 

「弐式も陰流も、拡張領域にほとんど何も入れてねぇだろ」

 

「「あ……」」

 

陸に指摘されて、私も本音も間の抜けた声を出した。

確かに、弐式の拡張領域には夢現以外の武装は入ってない。山嵐も春雷も、GNファングも外付け仕様だ。

それは陰流も一緒で、大太刀の長船を除けば打鉄時代から入っているアサルトライフルだけだ。

 

「つまりりったんは、後付け武装を作りたいってこと~?」

 

「それと弐式に新機能を付けたい」

 

「ま、まだ付けるの~……?」

 

ドン引きしてる本音じゃないけど、これ以上何を付ける気なの……? ツインドライヴだけでもお腹いっぱいなのに……。

 

 

「というわけで、俺はこれから整備室に忍び込んで作業すっから、また明日な!」

 

 

「う、うん……って忍び込む!?」

 

驚いた私が聞き返した時には、すでに陸の姿はなかった。ええ~……。

 

「りったん、今まで以上に弾けてるね~……」

 

「あれで、結構ストレス溜めてたのかなぁ……?」

 

昨日の焼肉じゃ、溜まったもの全部は吐き出しきれなかったんだろうか。

結局あれから陸が部屋に戻ってくることも無く、私は久々に一人で寝ることになった。……寂しい、陸の温もりが恋しいよぉ……。

 

ーーーーーーーーー

 

次の日の朝も、陸は部屋に戻ってなかった。

 

(今日の授業、どうする気なんだろう……)

 

そう思いながらも登校して、教室に入ると

 

「zzz……」

 

……机に突っ伏して寝てる陸がいた。たぶん、整備室から直でここまで来て、そこで力尽きたんだろう。

 

「は~い、SHRを始め……あら? 宮下君、居眠りするにはまだ早いわよ」

 

「「「くくくっ……」」」

 

ほらぁ、エドワース先生が来ちゃった。クラスのみんなも笑いを堪えるのに必死だし。

 

「ほら宮下君、もうSHR始まるって」

 

隣の席の子が肩を叩くけど、全然目を覚ます気配がない。

 

「できたぞぉ、新装備だぁ~……」

 

とうとう寝言まで言い始めた。

 

「簪ぃ……いくらなんでも、毎朝キスを強請るのは「わー! わー! わぁぁぁ!!」

 

なんで寝言でそのこと言っちゃうのぉ!?

 

「うわぁ、だいたーん」

 

「そっかぁ、更識さんの方が肉食なんだぁ~」

 

「陸ぅぅぅぅぅぅ!!」

 

――ポカポカポカッ

 

これ以上何か言われる前に、なんとしても叩き起す!

 

「いててててっ! あれ? もう授業始まんのか?」

 

「おはよう宮下君。今はSHRの時間よ」

 

「了解……ん? なんで簪が目の前に?」

 

「うぅ……」

 

もう恥ずか死にそう……。

 

 

その後も陸の寝言について、SHRが終わるまで追及は続いた。

私肉食じゃないもん、陸が草食系なのがいけないんだもん。

 

「(まぁ、強請られるのも満更じゃなくなってきたけどな)」

 

「~~!///」

 

卑怯! 卑怯すぎるよそのセリフ! しかも耳元で囁くなんて幸せ過ぎるありがとうございます!!

 

ーーーーーーーーー

 

「そんなわけで、放課後の整備室なのだ~」

 

「本音?」

 

「ナレーションだよ~」

 

「なんだそりゃ」

 

まぁのほほんが言った通り、俺達はいつものように、展開した弐式の前にいた。

 

「それで、かんちゃんの顔を真っ赤にした新装備って何かな~?」

 

「本音、色々混ざってる。あと、今朝は何もなかった、イイネ?」

 

「アッハイ」

 

今朝の事を弄ろうとしたのほほんが、簪の圧で黙らされる。俺もまさか、あんな寝言を漏らすとは思わんかった。失敗失敗。うん、だから簪、そのジト目はやめてくれ。

 

「それで、今日は何するの~?」

 

「おう。今日の目玉はこれだ」

 

そう言って取り出したるは……

 

「ISコア、だよね? 随分前に篠ノ之博士からもらった」

 

「そうそのコアだ。で、このコアを弐式に付ける」

 

「え~!? 一つのISにコアを二つ付けるの~!?」

 

のほほんが今まで見たことないぐらい驚いてる。普通は誰も考えないだろうな。ただでさえISコアって需要に対して供給が間に合ってないのに、IS一機にコア二つとか贅沢の極みだろう。

 

「あとは、拡張領域に入れる用の武装だな」

 

「あ、そっちも作ったんだ」

 

「もちろん。今朝までに動作確認はして陰流の拡張領域に入れてあるから、順次弐式に移していく予定だ」

 

なにせそのために、弐式と互換性のある打鉄を専用機として借りてカスタムしたんだからな。

 

「さて、まずはのほほん。昨日のうちに、ISコアを二つ付けられるように改造したユニットを作ったから、のほほんはこれの換装を頼むな」

 

「りょうかいなのだ~」

 

へにゃっとした敬礼をすると、作ったまま作業台に置きっぱなしにしてあるユニットに向かっていった。

 

「次に簪。さっき言った新装備の移し替えだ」

 

「分かった」

 

「よーし。そんじゃ、ちゃちゃっと始めるか」

 

 

――1時間後

 

 

「りったーん、ユニット換装終わったよ~」

 

「おう。こっちも装備の積み込み完了だ」

 

GNドライブの時ほど時間もかからず、当初の作業は完了した。まぁ同期とか気にしなくていい分、楽だったと言えばそれまでなんだが。

 

「換装してる時から思ってたけど、見た目はほとんど変わってないね~」

 

「うん。元々、打鉄弐式のコアが収まってる場所が背部の見えにくいところだし、そこのスロットが一つ増えただけ」

 

簪が乗るとちょうど隠れる位置にスロットがあるからな。というか俺も陰流を弄るまで、そこにスロットがあるの知らなかったし。

 

「それで、明日また動作テストするの?」

 

「いやいや、この後一夏達と訓練する約束してっから、そこで動作テストに協力してもらおうと思ってる」

 

「「きょう、りょく……?」」

 

なんだよ? 何二人して首傾げてんだよ。

 

ーーーーーーーーー

 

その後、約束していた第4アリーナで

 

「更識の、新装備?」

 

「それ、また僕達が巻き込まれるの……?」

 

デュノアも失礼な奴だな。というか他の面子も目からハイライトを消すな。

 

「今回はミサイルもファングも使わない。簪、展開してみてくれ」

 

「分かった」

 

頷くと同時に、簪の手に新装備が拡張領域から展開される。出て来たのは

 

「ライフル?」

 

「セシリアのものと同じぐらいのバレル長、スナイパーライフルの類か」

 

「ボーデヴィッヒの推察通り、オルコットと同じレーザーライフルだ」

 

「ああ、またわたくしのお株を奪っていくんですのね……」

 

だからハイライトを消すなって!

 

「そんじゃみんな、流れ弾が飛んでくる可能性があるから、シールドを準備しておいてくれ」

 

「流れ弾? アンタが作ったにしては、珍しいわね」

 

「そうだよな。陸の作った装備って、大体その辺の調整も済んでるもんばっかりだったし」

 

「まぁ今回は色々理由があってな……準備はいいか?」

 

実体、またはエネルギーシールドを持ってる奴が構えて、持ってない奴がその後ろに隠れる。

 

「簪、頼んだ」

 

「了解」

 

俺の合図で、簪がライフルを構え……引き金を引いた。

 

ーーーーーーーーー

 

『宮下君が夜中の整備室で何かをしていた』

 

その報告を虚から聞いた時、私は胸騒ぎを覚えて生徒会室を飛び出していた。

 

(急げ……! 急げ……!)

 

いつもなら、本音がアリーナの予約をした段階で身構えればいい。けど、最近はそのパターンが通じない。

 

(予約表では、今日織斑君達が第4アリーナを予約していたはず……!)

 

最近簪ちゃん達は、織斑君達と一緒に行動することが多くなった。お昼を食べる時も。そして、訓練の時も――

 

(間に合って……!)

 

私の希望は、アリーナに着いた時に打ち砕かれた。

 

「ああ……」

 

目の前には、頭を抱えている織斑先生。そしてアリーナの中央には

 

「うごごご……」

 

「だから私は嫌だって言ったのだ……」

 

「箒さん、それは今更ですわ……」

 

「嫌な予感はしてたのよねぇ……」

 

「鈴も、それならもっと早く言ってよ……」

 

「まったくだ……」

 

「ご、ごめんみんな、やりすぎた……」

 

ISを纏ったまま大の字で倒れている、専用機持ちの6人(織斑君とハーレム達)。そして一人立ったまま、申し訳なさそうな顔をしている簪ちゃんの姿が。

 

「よしよし。デュアルコア・システムは想定通り動いてくれてるな」

 

「りった~ん、よしよしじゃないと思うよ~……」

 

そして隅の方で腕を組んで頷いている陸君に対して、引きつった顔でツッコミを入れる本音。というか本音がツッコミ役って、何?

 

「あの、織斑先生、これは……」

 

「見てわからんか……?」

 

「いえあの、陸君が魔改造したISに乗った簪ちゃんが、専用機持ちを蹂躙したようにしか」

 

「それが全てだ……」

 

はぁぁぁぁ……! とクソデカため息を付く織斑先生。私が宮下君から陸君と呼び方を変えたことに対する指摘もなく、さっきまで頭を抱えていた手が腹部に移動している。

 

「私が来た瞬間に模擬戦が始まって、あっという間にこの光景だ。しかも、だ。更識姉、お前の妹がIS6機を撃破するのに、どれだけの時間がかかったと思う?」

 

「えぇ? ……10分、とか?」

 

普通なら頭おかしい数字だけど、あの打鉄弐式ならその短時間でやりかねない。

 

「20だ」

 

「え?」

 

20? 20分ってことかしら?

 

「お前の妹は、専用機持ち6人を20秒で撃破したんだ! なんだあのレーザーライフルは! 先行して液体金属のプリズムを射出して、そこにレーザーを当てて乱反射させるまではいい! その乱反射したレーザーが全部命中弾になるとか頭おかしいだろ!!」

 

「……」

 

織斑先生の言っていることが理解できない――理解することを本能が拒んだ――私は

 

「織斑先生」

 

「なんだ?」

 

 

「ちょっと保健室までご一緒しません? 胃薬をもらいに」

 

「……そうだな、付き合おう」

 

 

まだ目を回してるみんなには申し訳ないなぁと思いながらも、織斑先生とアリーナを後にした。




やりました! やったんですよ! 必死に! その結果がこれなんですよ! ISに乗って、模擬戦をして、今はこうしてほぼギャグの道を歩いている。これ以上何をどうしろって言うんです? 何と戦えって言うんですか!

ツインドライヴ&デュアルコアとか、やりたい放題した結果がこれですよ。ホント、これから簪は一体何と戦えばいいんだろう……?

作中で千冬姉が言っていたレーザーライフルは、蜃気楼の『ゼロビーム』が元ネタです。デュアルにしたISコアに演算させて、ドルイドシステムの代わりにしてるわけです。(乱反射したレーザーが全弾命中したのはそのため)


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第66話 カップルの10組に1組は、月1でプレゼントをあげたりもらったりしているらしい

※ブライダル総研 恋愛観調査2014調べ

大会前の日常回です。明日から本気(大会回)出す。


キャノンボール・ファストを来週に控えたある日、

 

「宮下、キャノンボール・ファストが終わるまで打鉄弐式の改造は禁止だ」

 

「ファッ!?」

 

という理不尽極まりない宣告を織斑先生から受けて、俺は膝から崩れ落ちた。なんて……なんて惨い仕打ちを……!

 

「それはやっぱり、先日の件ですか?」

 

「ああ。ただでさえお前をエキシビジョン・レースに混ぜて良いものか賛否がある中で、これ以上魔改造されては堪らん。最悪、選手が全滅して再起不能になりかねん」

 

「それは……否定できないかも」

 

「そう思える感性を、宮下にも分けてやれたら良かったんだがなぁ……」

 

なんすか織斑先生、俺が非常識だって言うんですか? ……否定はしませんが。

 

「しかしそうなると、簪が飛んでるのを眺めるぐらいしかすることないなぁ」

 

「あの……陸は競技に参加するんだからね?」

 

「前にも言っただろ、俺の陰流は第2世代機だから、あいつらとまともにやって勝てるわけないって。だからぶっちゃけ、訓練はさほど必要ねぇんだよ」

 

「そ、それでいいのかなぁ……?」

 

「というか、そんなセリフを教師である私の前でするのか……」

 

あまりに俺が堂々としてるから、織斑先生も怒る気力が無くなったらしい。まぁ? ()()()レースならではの演出は頑張る気ですがね?

 

ーーーーーーーーー

 

こうして何もすることが無くなった俺は、

 

「気晴らしに買い物行こう」

 

という簪の誘いで、最近行き慣れた感がある『レゾナンス』に来ていた。

 

「とはいえ、今日は特に買わなきゃいけないものはないんだがな」

 

「だから今日は、ウィンドウショッピング」

 

「つまり、ぶらぶら見て回ろうってことか」

 

「うん」

 

夏休みにも寄ったお店だったり、まだ見たことない店だったり。簪と手を繋ぎながら、色んな店を見て回っていると、見知った顔を見つけた。

 

「一夏?」

 

「おう陸。更識さんも一緒か」

 

一夏とデュノア、そして赤髪の2人組が立ち話をしていた。いや、2人組の片方は見覚えがあるな。

 

「確か、五反田弾、だっけか?」

 

そう、学園祭の時に奇声を上げて制圧された(というか俺がした)、あの男だ。

 

「おう。覚えててくれたんだな。えーっと……」

 

「宮下陸だ。好きな方で呼んでくれ」

 

「分かった。よろしくな陸」

 

差し出された手を握り返す。こんなに普通に対応できるのに、どうして学園祭では不審者ムーブかましてたんだ……?

 

「更識、簪です」

 

「ああ、よろしくな。こっちは俺の妹の――」

 

「五反田蘭です。よろしくお願いします」

 

ペコッとお辞儀する女の子。兄妹なのか、言われてみれば確かに似てるな。

 

「それで、これはなんの集まりなんだ?」

 

「集まりって言うか……」

 

「たまたま出会っただけだな」

 

弾は蘭の買い物の荷物持ち、一夏はデュノアと時計を買いに来たらしい。

 

「で、宮下君と更識さんはウィンドウショッピングなんだね」

 

「うん。今まで寄ったことのないお店とか回ってた」

 

「そっかぁ。二人とも、仲が良さそうで羨ましいなぁ」

 

「うぅ……私も一夏さんとこんな風になってみたい……」

 

と女子二人が羨ましがってるが、デュノアは一夏と手繋いでるだろ。というか、デュノア以外はいないのか?

 

「一夏、他の連中は来なかったのか?」

 

「ああ。本当は鈴も一緒に来るはずだったんだけど、急用が入ったって連絡が来てな」

 

「凰さんかぁ……」「凰かぁ……」

 

それを聞いて、俺も簪も遠い目になった。

 

「な、なんだ? 一体どうした?」

 

「凰の奴、候補生管理官?に引きずられてったぞ。なんでも急遽高機動パッケージが届いたとかで」

 

「マジか」

 

「鈴の奴、ちゃんと代表候補生やってんだな」

 

俺が今朝見たことを伝えると、一夏は口をあんぐり、弾は何やら感心したように頷いていた。

 

「それにしても……」

 

ん? 簪が俺に耳打ちを……なるほど。

 

「ねぇ蘭ちゃん、お兄さんを借りてもいいかな?」

 

「「え?」」

 

突然簪に聞かれて、五反田兄妹が目を見開く。その間に、俺はあるところに連絡を……。

 

「織斑君、デュノアさん。その間、蘭ちゃんと一緒にいてもらえる?」

 

「俺は別にいいけど……」

 

チラッと一夏がデュノアの方を見る。

 

「僕も構わないよ。蘭ちゃんはそれでいい?」

 

「だ、大丈夫です! よ、よろしくお願いします!」

 

顔を真っ赤にして、一夏達に頭を下げる蘭ちゃん。簪の言う通り、彼女も一夏狙いか。

 

「それじゃあ、色々見て回るか」

 

一夏の声に二人が頷き、それぞれ左右両側に並んで歩き出した。

 

「で、俺はどうすればいいんだ?」

 

今日知り合ったばかりの簪に突然借りられた弾は、自分を指さしながら聞いてきた。

 

「心配すんな。さっき連絡したから、もう少しで……」

 

 

「すみません。お待たせしました」

 

 

「あ」「あ」

 

俺に突然呼び出された虚先輩と弾が、お互いの顔を見て固まる。

 

「あ、あの、宮下君、これは一体……」

 

「虚先輩にお願いがあるって言ったじゃないですか」

 

「ええ、それでレゾナンスに来てほしいと……」

 

「ちょっとこれから、そこにいる弾とデートしてください」

 

「「ええっ!?」」

 

俺のお願いに、二人が顔を真っ赤にして顔を見合わせる。

これが簪が俺に耳打ちした内容だ。学園祭が終わった後、虚先輩が一夏に弾のこと色々聞いてたのも知ってる。だから俺達が二人のキューピッドになろうってわけだ。 なんでそんなことするかって? 面白そうだからに決まってんだろ?(暗黒微笑)

 

「二人とも……」

 

「「グッドラック! Σd(゚∀゚)」」

 

簪と二人サムズアップすると、顔真っ赤な二人を放置してウィンドウショッピングを再開した。いやぁ、良いことしたなぁ!

 

ーーーーーーーーー

 

虚さんと五反田君をくっ付けて、私達はジェラード片手にモール内を回っていた。前から思ってたけど、ここ、ホント広い。

そしてジェラードを食べ終わった頃、

 

「おっ、そうだ」

 

「陸?」

 

突然陸が、アクセサリーショップで足を止める。陸がアクセサリー?

 

「簪、ちょっといいか?」

 

「え? う、うん……」

 

戸惑う私を連れて、そのままお店の中に入る。

 

「いらっしゃいませ」

 

「ネックレスはありますか?」

 

「こちらのコーナーになります」

 

店員さんに案内されるまま、私達はネックレスが展示されているコーナーに。

 

「あの、陸?」

 

「これ……いや、こっちか?」

 

ショーケースに並んだネックレスを見比べて

 

「これください」

 

「はい」

 

なんかとんとん拍子で、アクアマリンのはまったネックレスを買ってるんだけど……。

 

「こちらで付けて行きますか?」

 

「ええ、そうします」

 

店員さんにそう言うと、陸は今買ったばかりのネックレスを

 

「あっ……」

 

私の首にかける。え? え?

 

「この前のゴーグルで臨時収入があったろ? で、毎回指輪ばっかりってのも芸がないと思ってな」

 

「陸……」

 

うぅ~! サプライズプレゼントとか卑怯! ここがお店じゃ無かったら、速攻ハグするところぉ!

 

 

 

「ありがとうございました」

 

店員さんに見送られてお店を出た瞬間、

 

「ぎゅ~!」

 

「我慢できなかったのか……」

 

陸も呆れた顔をしつつ、ハグを敢行した私の頭をポンポン撫ぜてくれる。周りの視線? し~らぬい。陸にハグする方が重要。

 

「あっ」

 

「どうした?」

 

「あれ」

 

私が指さした先を見た陸が、ニヤリと笑う。そしてスマホを取り出して、その現場を撮影する。

 

「これを楯無さんに送ればいいんだな?」

 

「うん」

 

お姉ちゃんに送信し終わると、私達はまたモール内を回り始めた。今度は腕を絡めて。

 

ーーーーーーーーー

 

宮下君に突然呼び出されたと思ったら、弾君とデートすることになった。

わ、私も何を言ってるのか分からないですが、気付けばこんなことに。いえ、別に嫌だったわけではないんですよ?///

そして学園に戻った時には、もう日が暮れていました。

 

「おかえり虚。陸君に呼ばれたみたいだけど、どんな用事だったの?」

 

「いえ、大した用事では無かったです」

 

生徒会室でお嬢様に質問されますが、適当に答えます。まさか本当の事なんて言えません……。

 

「へぇ、大したことないんだぁ?」

 

そう言って、お嬢様はさっきから見ていたスマホを私の方に向けて――

 

「……えっ?」

 

 

スマホに映っていたのは、私と弾君が喫茶店でメールアドレスを交換している場面だった。

 

 

「な、なな、なんで……」

 

「まさかあの虚が、男の子とデートなんてねぇ?」

 

「あ、ああ、ああああ……」

 

見られた……見られた……!

 

「虚?」

 

「お嬢様の……」

 

 

「お嬢様の、馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「え? ええ!? う、虚ぉ!?」

 

お嬢様に罵声を浴びせたような気がしましたが、そんなことを気にする余裕もなく、私はおそらく顔を真っ赤にしながら、生徒会室を飛び出してました。




虚先輩の口調がよく分からんです。
原作でも、キャノンボール・ファストから修学旅行の間に弾とずいぶん仲良くなってましたね。弾め、貴様もモテ要素持ってたんじゃねぇか……


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第67話 キャノンボール・ファスト~訓練機の部~

キャノンボール・ファスト、開始です。
今回は3,4回ぐらいに分けてお送りします。


キャノンボール・ファスト当日。天気は快晴、会場のアリーナは満員御礼で、空には花火も上がっている。

 

「おー、秋晴れってやつだな」

 

そんな空を、一夏が日差しを手で遮りながら見上げていた。

 

今日のプログラムは、最初に1年生の訓練機組のレースがあって、それから専用機組のレース、その後2年生のレースがあり、最後に3年生(+簪)によるエキシビジョン・レースという順番になっている。なお、訓練機の部は完全なクラス対抗戦になるらしく、例によって景品が出るとのこと。1学期のクラス対抗戦は無人機の乱入で有耶無耶になっちまったからな。その時の景品分の予算も回したと、楯無さんからそれとなく聞かされていたりする。

 

「一夏、こんなところにいたのか。早く準備をしろ」

 

「陸も、訓練機組が終わったらすぐだから、ピットに戻って」

 

「おう」

 

「はいよ」

 

一夏は篠ノ之に、俺は簪に促されて、それぞれピットに戻った。

 

「そういえば一夏、お前今回のチケットは誰にやったんだ?」

 

このキャノンボール・ファストも学園祭同様、一生徒に付き一枚チケットが配られている。俺は今回も一夏にくれてやったわけだが。

 

「弾と蘭に渡したよ」

 

「ああ、あの五反田兄妹」

 

一夏に言われて、レゾナンスで出会った赤髪の兄妹を思い出す。

 

「二人とも、迷子になってないといいんだが……」

 

「おいおい、さすがにそれは無いだろう」

 

いくらこのアリーナが大きいからって、なぁ?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一夏からキャノンボール・ファストのチケットをもらった俺達五反田兄妹は、さっそく迷子になりそうになっていた。蘭が俺をジト目で見てくる中、たまたま出会った救世主が

 

「すみません虚さん、席の案内までしてもらって」

 

「いいえ、これくらい問題ありませんよ」

 

そう、先日陸の策略でデートした、布仏虚さんだった。虚さんが生徒会の人なのは学園祭の時に聞いてたんだが、今回来賓の誘導等をするために観客席にいたところ、俺達を見つけたそうな。

 

「(お兄、この人誰?)」

 

「(布仏虚さん、IS学園の生徒会の人で、一夏や陸の知り合いだ)」

 

「(一夏さんと!? それに陸って、前にレゾナンスで会った?)」

 

「(おう。一夏の奴、相変わらずコミュ力があるよな)」

 

「(それがなんで、お兄と仲が良さそうなのよ!? どういう関係!?)」

 

「(あ~……学園祭の時に知り合って、今はメルアド交換した仲?)」

 

「(……っ!? 私だって、一夏さんのメアド交換するのに1年かかったのに……お兄に、お兄に先越された……!)」

 

「あの、弾君? 妹さん、どうしたんですか?」

 

「いえいえ、ちょっとショックなことがあっただけなんで、気にしないでください」

 

「??」

 

俺達の仲を知った蘭が膝から崩れ落ちたのをスルーしつつ、虚さんにチケットの場所まで案内してもらったのだった。……あとから蘭に思いっきり殴られたが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

市長から開会の挨拶が終わると、さっそく1年訓練機部門のレースが行われた。

 

各クラスから選抜された2名ずつ、計8名がマーカー誘導に従ってスタートラインに移動する。

クラス間で公平を期すため、打鉄とラファールの2機が各クラスに回されている。2人とも防御重視の打鉄、もしくは機動重視のラファールだと偏りができるからな。

選手が各自位置について、スラスターを点火する。そしてシグナルランプが点灯し――

 

ランプが赤から緑に切り替わった瞬間、8人全員が急加速で一気にスタートダッシュを決めた。

 

 

 

「お、始まったようだな」

 

俺達専用機組はピットの中で次のレースの準備をしながら、設置されたモニターでレースの様子を見ていた。

 

「みなさん、いい動きをしていますわね」

 

「ホント、もしかしたら本国の予備候補生よりも上手いんじゃない?」

 

「それはそうだろう」

 

そう断言するボーデヴィッヒに、全員の視線が向く。

 

「この学園には()()トンデモゴーグルがあるんだぞ? 訓練機組も、墜落や激突の心配をせず訓練ができるとなれば、あれぐらい堂々と飛べるようになるだろうさ」

 

「「「「「あ~……」」」」」

 

ボーデヴィッヒに向いていた視線が、なぜが俺の方に軌道変更してきたんだが。

俺は学園側、というか織斑先生に嗾けられた山田先生に泣きつかれて、仕方なく高機動モードのプログラムを作っただけだぞ? なのになんでそんな目で見られなきゃならんのだ。解せぬ。

 

「あっ! なんか4組の子が!」

 

ふとモニターに視線を戻したデュノアが、驚いた声を上げる。つられて他の面子もモニターを見ると

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

キャノンボール・ファストはバトルレースの名前通り、武器を使用した妨害もアリのレースである。そのため2組の選手も、4組の選手に向けてラファールのヴェント(アサルトライフル)を撃っているのだが

 

「な、なんなのよ! なんでこっちが撃ってるのに避けな「チェストぉぉぉぉ!」きゃあぁぁ!」

 

4組の選手は弾幕を最小限で避け、いや、命中弾が最小限になるように真正面から突撃をかけ、打鉄の()を上段に構えた状態から振り下ろし、相手選手をISごとコースの壁に縫い付けた。

 

「お、おかしい! 普通弾幕を避けるわよね!? なんで突っ込んで来るのよ! 怖くないわけ!?」

 

それを見ていた1組や3組の選手も顔を青くする中、4組の選手が言い放つ。

 

「そんなの、あの地獄に比べたら……」

 

 

(回想開始)

 

「とうとう明日が本番かぁ」

 

「頑張ろうね」

 

HRが終わった放課後、訓練機組として選抜された二人が話していると

 

「お二人さん、ちょっといいか?」

 

「宮下君? 何、明日の大会に向けて激励でもしてくれるの?」

 

「まぁ、本番二人に勝ってほしいって意味では激励か」

 

「「?」」

 

陸の言うことがいまいち理解できない二人が首を傾げる。すると

 

「まずはこれを着けてくれな」

 

「え?」

 

「ちょ、ちょっと……」

 

有無を言わさず何かを被せられた二人。そして一瞬意識が飛んだと思った時には

 

「あれ? ここ、アリーナ?」

 

「仮想世界じゃない? たぶん宮下君に被せられたの、VRゴーグルだよ」

 

「ああ、確かにそうかも」

 

「というか、いつも一人で使ってたから知らなかったけど、二人同時に使うと同じ仮想世界に入れるんだね」

 

「あ、ホントだ」

 

実際は陸が今回のために調整したゴーグルを使っているからであり、各クラスに配布されたゴーグルでは使用者同士が仮想世界で出会うことはない。

 

『二人とも、聞こえてるかー?』

 

女子二人が納得していると、どこからともなく陸の声が聞こえて来た。

 

「宮下君? これ一体どういうこと?」

 

『明日競技に参加する二人に、俺から仮想の訓練相手を提供しようと思ってな』

 

「仮想の訓練相手?」

 

『そうだ。二人にはこれから、()()()を相手に戦ったり逃げたりしてもらう』

 

すると二人の正面、5mほど先の空間にノイズが走り、次の瞬間にISが1機出現していた。そのISは――

 

「「さ、更識さん!?」」

 

二人の前に現れたのは、打鉄弐式(シングルドライブver)に乗った簪だった。

 

「ど、どどどどういうこと!?」

 

『ちなみにその簪は偽物、昔の弐式のデータに戦術AIを乗せただけの代物だ。たぶん実力的には、今の本物の4割にも満たないんじゃねぇかな』

 

「いや、4割以下って言われても……」

 

「相手が出禁食らうほどの専用機とか、嫌すぎなんですけどぉ……」

 

『それじゃあさっそく、模擬戦開始な。大破しても仮想世界ならすぐ直せるから、間髪入れずに訓練できるぞ』

 

「「ガン無視!?」」

 

二人の背筋に、冷たいものが走る。

 

「それって、1時間(ゴーグルの制限時間)みっちり模擬戦し続けるってこと……?」

 

「きゅ、休憩はあるんだよね!?」

 

『安心しろ。大破したら10分のインターバルを入れる予定だから』

 

「はぁ、良かった……」

 

大破ごとに10分の休憩が入るなら、多くて3,4試合ぐらいだろう。そう思った二人は

 

 

『今回のゴーグルは10分1時間設定だから、6時間みっちり訓練できるぞ』

 

 

「「……っ!!」」

 

陸からの情報に、声にならない悲鳴を上げた――

 

(回想終了)

 

 

「「だからあんた達も、豚のような悲鳴をあげろぉぉぉぉぉ!!」」

 

「「「理不尽!?」」」

 

抗議の声を後目に、4組の二人が他の選手を追い立てる。

山嵐の全弾斉射にボロボロにされた恐怖、夢現に滅多打ちにされた恐怖、背後から首を掴まれてメメントモリを照射された恐怖――

彼女達にも、自分達が受けた恐怖をお裾分けするかの如く。

 

ある者には先ほどの3組生徒と同じように、上段から斬撃を叩き込み。またある者には、至近距離からレイン・オブ・サタディ(ショットガン)を撃ち込み。

 

「だっしゃああああ!」

 

「なっ!? がはっ!」

 

アサルトライフルの銃床で脳天をぶん殴るという荒技まで出てくる始末。

気付けばレース参加者8人の内、まともに飛んでいるのは4組の2人だけになっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「勝ったな」

 

「勝ったな、じゃねぇよ!!」

 

おいこらやめろ一夏、肩掴んでガクガク揺らすな、今朝食ったもんが出てくるから!

 

「宮下君、織斑先生から改造禁止令が出たと思ったら、そんなことしてたんだ……」

 

「転んでもただでは起きん奴だな」

 

「というか、他人の足掴んで転ばしにかかってるでしょ、これ」

 

「簪を出禁にして俺を暇にした運営が悪い」

 

「ええ~……そこに責任転嫁するのかよ……」

 

俺以外の顔が引きつってるが、俺悪いことしてないぞ? ()()()()()()()()()()()()クラスメイトの訓練を手伝っただけですしおすし。

 

 

『宮下ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

どこかで織斑先生の呪詛が聞こえた気がしたけど、気のせいだな気のせい。

 

 

『陸君……』『陸……』

 

 

楯無さんと簪の諦め声も聞こえた気がしたが、き、気のせいだろ……。




ちーちゃんの敗因:陸を自由にしていた

原作からレースの順番を変えています。本来なら
二年→一年専用機→一年訓練機→三年
の順番なんですが、どうせエムの襲撃もないですから、学年順でやることにしました。

次回は専用機の部ですが、陸本人がいるのに荒れないはずもなく……


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第68話 キャノンボール・ファスト~専用機の部~

_(:3」∠)_

3/23追記
誤字修正。気を抜くとすーぐ『赤椿』になってしまう……。


「ねぇお兄、これってレースなんだよね……?」

 

「お、おう……俺もそう聞いてたんだが……」

 

隣の席の蘭に聞かれたからそう答えたが、俺も正直自信がねぇ。

いやだって、妨害アリとは聞いてたけどよ、相手選手を全滅させるレースって何だよ?

 

「ま、まぁいいじゃねぇか。次のレースだろ重要なのは。一夏も参加するんだし」

 

「そうだった! 次のレースに一夏さんが!」

 

ちょっと一夏の話題を振れば、すぐに興味がそっちに移動していった。我が妹ながら、何と分かりやすい……。

 

「あっ! 一夏さんだ!」

 

そう言って蘭が指さす先には、真っ白いISに乗った一夏の姿があった。へぇ、あれが一夏のISか。

 

「それにしても、やっぱり専用機持ちとやらも女子ばっかだな」

 

鈴は知ってるとして、黒髪ポニーテールに金髪縦ロール、先日会ったブロンドっ娘に銀髪眼帯と、これが国際色豊かってやつか。

 

「当たり前でしょ。一夏さんと陸さん以外、男性操縦者はいないんだから」

 

「そうだったな」

 

何分どちらも知ってる奴であんまり特別感を持ってなかったんだが、世間的には数少ない希少存在なんだよな、あいつら。

 

「ほらほら、始まるわ!」

 

一夏達7人がスタートラインに立つと、さっきのレースと同じようにシグナルランプが点灯する。そしてランプの色が変わった瞬間、さっきのレースと同じように、7機が一斉にスタートダッシュを――

 

「あれ? 1機だけ出遅れてる?」

 

蘭が言うように、6機がダンゴ状態になってる中、1機だけその後ろを付いていく形になっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

スタートダッシュこそみんなと一緒だったけど、第一コーナーを過ぎた辺りから、シャルとセシリアを先頭に列が出来始めていた。ちなみに陸は俺より後方を飛んでいる。やっぱり1世代違うだけで、ここまで有利・不利が出てくるのか。

 

「もらったわよ、セシリア!」

 

衝撃砲を連射しながら、鈴が前を行くセシリアに肉薄していく。その弾丸を横ロールで回避したセシリアの横を、加速した鈴が追い抜いていく。

 

「やりますわね!」

 

「へへーん! 追いつけるかしらぁ?」

 

「甘いな」

 

「!?」

 

鈴の背後から、突如ラウラが前に出てくる。あいつ、鈴の後ろにぴったりくっ付いて機を窺ってたのか。

 

「それにしても……」

 

セシリア、鈴、ラウラでダンゴ状態になってるが、そこが先頭集団ってわけじゃない。本当の先頭は――

 

「あの時言っていた通り、わたくしの攻撃を曲げますのね」

 

「ああもう! 衝撃砲まで防ぐの!?」

 

セシリアのレーザーライフルも、鈴の衝撃砲も、先頭を飛ぶシャルに当たらない。いや、攻撃が逸らされている。

 

「そのための『花びらの装い』だからね」

 

あの、あらゆる攻撃を逸らす結界によって、シャルへの妨害はほとんど意味を成していない。さらに『ISの前面のみ』という弱点も、こちら側に結界を向けることで解消していた。そう、シャルは()()()()()飛んでいるんだ。なんであんな体勢で、しかも高機動モードで飛べるんだよ……。

 

そんなことを考えていたからか、後ろから飛んできた赤いレーザーが脚部装甲を掠った。これは……!

 

「箒か!」

 

「悪いが先に行かせてもらうぞ!」

 

「そうはいくか!」

 

紅椿の刀から放たれるレーザーと、俺の雪羅から放たれる荷電粒子砲が、お互い回避した先の緩衝壁に当たって爆ぜる。

 

「くぅ! このままシャルロットの独壇場になんかさせないわよ!」

 

「そうですわ! 勝負はまだまだ」

 

「これからだ!」

 

そして最終コーナーに差し掛かったところで、白式が突然アラートを出して来た。

 

(後方に、高エネルギー反応?)

 

「……っ!?」

 

さらに、前を飛んでるシャルの顔が青褪めるのが、ハイパーセンサーによって視認できた。

 

「何が……」

 

後方を確認した俺の顔は、シャルと同じように青くなったと思う。

 

 

 

最後尾で飛んでいたはずの陸が、何かを構えているのが見えた――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

第3世代機ばっかの中、俺だけ第2世代機だからなぁ。陰流には悪いが、最初からまともな勝負にならないって。そう、()()()()勝負、ならな。

先頭のデュノアが最終コーナーに入る手前で、俺は飛行を止める。どうせここからじゃ追いつけやしないんだ。

 

「それならそれで、やりようはある」

 

拡張領域から、このために準備したものを展開する。先日、簪のコレクションに混じっていたアニメを参考に作った、お遊び感溢れるこいつを。

展開したものは、杖。ただし、よくご老人が持っている杖じゃない。アニメで出てくる"魔法使いの杖"だが、微妙に違う。槍のような先端に、赤い宝珠がはまっていて、途中には自動小銃のマガジンのようなものが刺さっている、日常ではまずお目にかからない形状をしている。

 

「さーて、訓練機部門で4組が完勝したんだ。専用機部門の俺が、何もせずに最下位取ってどうすんだってよ。だから――」

 

思いっきり、引っ掻き回してやろうじゃねぇか……!

 

「ブラスター、スリー!」

 

マガジン内に装填されていたカートリッジ――打鉄弐式から都合してもらったGN粒子を充填した、小型GNコンデンサー――が排出される度に、桃色の圧縮粒子が杖の前方で球体状に収束していく。そしてカードリッジを全て排出した時には、圧縮粒子の球は俺を覆い隠すほどの大きさになっていた。

 

 

「ディ○イン、○スタァァァァァァァ!!」

 

 

放たれた圧縮粒子の砲撃は、こちらに気付いた一夏とデュノアを除く、篠ノ之、オルコット、凰、ボーデヴィッヒの4人を飲み込んだ――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「……」

 

声が出なかった。

宮下君が何かを展開したと思ったら、急に光の粒子が集まって、気付いたら桃色のビーム?が飛んできたんだから。

気付いた僕と一夏以外全員がビームに巻き込まれて、エジプトの壁画みたいに最終コーナーの緩衝壁にめり込んでいた。や、やり過ぎだよぉ……。

 

「って、呆けてる場合じゃない!」

 

すぐに宮下君が追いかけてくるだろう。急いでゴールしちゃわないと!

 

「一夏、お先に!」

 

「……はっ、シャ、シャル!?」

 

再起動した一夏と追いかけてくる宮下君から逃げるように、僕もゴールを目指してスラスターを全開にした。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

1年専用機部門は、1位がデュノアちゃん、2位が織斑君、3位が陸君という結果になった。

というか、それ以外の選手が陸君によって復帰不可能にされたっていうのが正しいわね……。

 

「ぬおぉぉぉぉぉ……! 宮下、貴様まだそんな隠し玉をぉぉぉぉぉ……!」

 

「織斑先生、胃薬です」

 

あまりの胃痛にピットの床をのたうち回っている織斑先生と、その先生の口に胃薬を放り込む簪ちゃん。私? 私はもう悟ったわ。"宮下陸はそういう存在"なんだって。

同じピットにいる2年生(同級生)のみんなも、敢えて先生を見ないようにしている。これが情けってやつよ。

 

「それにしても、魔砲少女は陸には似合わない」

 

「簪ちゃん? 論点はそこじゃないからね?」

 

「たぶんこれも、『俺を暇にしたのが悪い』とか言い出すと思う」

 

「あ~……陸君なら言うわね」

 

そして、また織斑先生の胃がやられて、山田先生がとばっちりを受けるところまで鉄板化してるわぁ……。

 

「それにしても、GNコンデンサーってあんな使い方も出来るんだ……。なら、春雷の砲弾もGNコンデンサーにして圧縮粒子を――」

 

「簪ちゃんストップ!」

 

止めて簪ちゃん! 貴女まで陸君みたいになったら、お姉ちゃん泣いちゃうから!

 

『これより、2年生の部を開始します。参加者はスタートラインまで移動してください』

 

放送が入って、各クラスの選抜メンバーがピットから移動を始める。

 

「次、お姉ちゃんの番だね」

 

「ええ、簪ちゃんのために、お姉さん頑張っちゃうんだから!」

 

次の2年生の部では、専用機持ちである私も出場することになっている。2年と3年は専用機持ちが少ないから仕方ないわね。というか、今の1年が多すぎるのよ。

2年生は私の霧纏の淑女(ミステリアス・レイディ)以外だと、ギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイアの『コールド・ブラッド』の2機だけになるのかしら。

 

「それじゃあ簪ちゃん、行ってくるわね」

 

「うん、頑張ってね」

 

私もミステリアス・レイディを展開すると、簪ちゃんに見送られながらピットと後にした。それと簪ちゃん、押し付けるようで悪いんだけど、織斑先生の看病よろしく。




あらすじ部分に「後半がシリアス」と書いていたな、あれは嘘だ。もう嘘しかないやん……。

あの砲撃、当初はガンダムヴァーチェのGNバズーカの予定でしたが、「どうせならこのままギャグで突っ走っちまえ!」と心の中のロキが囁いたので、リリカルでマジカルな方を採用しました。シリアスさん? 今頃ベガスでカジノでも楽しんでるんじゃね?


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第69話 キャノンボール・ファスト~蹂躙~

サブタイだと分かりづらいですが、2年の部とエキシビジョンの回です。
そして"蹂躙"ということは……


陸のトンデモ武装によって大荒れに荒れた専用機の部と違い、2年の部は実にレースらしいレースになっていた。

 

「さすがIS学園の生徒会長か、飛行技術もコース取りも無駄がないな」

 

ラウラが格好良く言っているが、ピットの長椅子に横になったまま、未だ立てないでいる。というか、あの極太ビームを食らった4人とも、自力で立てない状態だ。陸、やり過ぎ。

 

「確か、2年には楯無さん以外にも専用機持ちがいるんだったよな?」

 

「そうだよ。ギリシャの代表候補生の先輩だね」

 

「その割には、あの会長が独走してるわよね?」

 

「そうですわね……」

 

ピット内のモニターを見ても、先頭に楯無さん、その後ろに見たことのないIS――たぶんあれが、ギリシャの専用機だろう――が飛んでいて、そのまた後ろを打鉄やラファールの集団が追っている形だ。そしてその列は、スタートダッシュの時点から崩れていない。終始楯無さんがトップをキープしている。

そしてその流れが変わることはなく、楯無さんが1位でゴールを決めた。2位はギリシャの専用機持ちの先輩、3位はサラ・ウェルキンという、セシリアと同郷の先輩が入賞した。

 

ーーーーーーーーー

 

2年の部が終わり、休憩時間を挟んで3年のエキシビジョン・レースが始まる。

そして機体性能から、私はこのエキシビジョンに参加することとなった。

 

「よう、お前が競技を出禁になった1年だって?」

 

ピットで弐式を展開して準備をしている最中に声を掛けられて振り向くと、両肩に犬頭の形をしたダークグレーの装甲をしたISに乗った、金髪の人がいた。確か

 

「アメリカ代表候補生の、ケイシー先輩でしたか?」

 

「おう、よく知ってたな。ダリル・ケイシーだ、よろしくな」

 

「更識簪です。ケイシー先輩の事は、2年のサファイア先輩共々『イージス』として有名ですから」

 

目の前にいる先輩と、2年のギリシャ代表候補生の先輩とのコンビネーションは、学園で少し調べれば出てくるぐらい有名。曰く、学園最強の生徒会長ですら攻めあぐねるほとどか。

 

「競技に出られなくなったのは残念ですけど、その分エキシビジョンで()()()のお披露目をしますから」

 

「へぇ、お披露目ねぇ。色々噂は聞いてるが、そのISの性能、間近で見せてもらうぜ」

 

「ご随意に」

 

面白くなってきた、と言い残して、ケイシー先輩は一足先にピットを出て行った。

 

「あれが、ヘル・ハウンド」

 

炎を操る能力を持つISで、先ほどのギリシャ代表候補生、フォルテ・サファイアの氷を操るIS『コールド・ブラッド』と合わさることで、『イージス』と呼ばれる鉄壁の連携が生まれる。今回はヘル・ハウンド単体だけど、油断はしない。

 

「さ、更識妹……」

 

「織斑先生?」

 

ピットに入ってきたのは、2年の部が始まる時に簡易医務室に送った織斑先生だった。

 

「大丈夫なんですか、まだ寝てた方が……」

 

「いや、レースが始まる前に、言わなければならないことがある……」

 

胃痛で脂汗が頬を伝う状態にも関わらず、言わなきゃならないことって?

 

「更識妹、頼むから、頼むから"レース"をしてくれ……」

 

「はい?」

 

何言ってるんだろうこの先生は。

 

「いくら妨害アリとはいえ、他の出場選手を殲滅するような真似は止めてくれ……」

 

「ああ……」

 

そう言われて思い出すのは、訓練機の部と専用機の部だ。特に訓練機の部では、最終的に4組以外選手がいなくなっていたし。

 

「えっと……分かりました。山嵐もGNファングも、拡張領域に入っている拡散レーザー砲も使いません」

 

いくらエキシビジョンとはいえやり過ぎは良くないと、織斑先生を見て今更ながら思った。

 

「おおっ、すまんが頼む……」

 

私の回答に満足したのか、先生は膝をガクガク震わせながら、医務室の方に戻っていった。

 

「……うん、今回武装は夢現だけにしよう」

 

あと、GNドライブも片方だけにして、瞬時加速も封印。これなら、ちゃんとしたレースになるはず。

 

『これより、エキシビジョン・レースを開始します。参加者はスタートラインまで移動してください』

 

「行こう、打鉄弐式」

 

右腕の装甲を左手でポンポン叩くと、私もピットを出てスタートラインに向かって歩き出した。

 

 

()()()()()()()のハンデで"ちゃんとしたレース"とか、嬢ちゃん本気で言ってんのか……?』

 

 

ISコア(ランディさん)の呆れた声が聞こえた気がしたけど、たぶん気のせいだろう。

 

ーーーーーーーーー

 

正直、オレはこんなレース興味なかった。だからフォルテと同じように、適当に飛んで茶を濁す気でいたんだが、気が変わった。

あの1年生、更識簪だったか。あの眼鏡娘の実力を試すいいチャンスだ。

 

(見せてもらうぜ。()()()()()()()()()()実力とやらを)

 

3年がオレを含めて8人。そして右端に件の1年が並ぶ。そして選手がスタートラインに揃ったところで、シグナルランプが点灯し、

 

 

一斉にスラスターを吹かせて飛び出した。

 

 

「やるなぁ!」

 

スタートダッシュで他の連中を出し抜いたと思ったんだが、あの眼鏡娘、オレより頭一つ前にいやがった。

 

「この打鉄弐式は、機動力重視ですから」

 

「面白ぇ!」

 

――ピーッ!

 

――ドドドッ!

 

「おっと!」

 

ハイパーセンサーの警告音で横ロールした直後、マシンガンの弾が通り過ぎる。

 

「オレはこいつと勝負がしたいんでな。悪ぃが退場しててくれや」

 

両肩の犬頭が口を開き、後方に火炎をまき散らす。

 

「わわっ!」

 

「熱っつ!」

 

後ろを飛んでた連中は、オレの炎の壁を突破できずに足止めを食っている。しばらくそのままでいてくれ。

 

「さて、それじゃあオレと、勝負してもらおうか」

 

「レース、しないんですか?」

 

眼鏡娘が驚いた顔をしてる。

 

「オレはレースなんざ興味ねぇんだよ。いっちょ一騎打ちといこうぜ!」

 

「ええ~……、私は織斑先生に『レースをしてくれ』って」

 

「問答無用!」

 

そっちがやる気ないなら、やる気にさせるまでだ!

双刃剣『黒への導き(エスコード・ブラック)』を展開すると、スラスターの出力を上げて一気に距離を詰める。

 

――ガキィィンッ! ガキィィンッ!

 

オレが振り上げた双刃剣を、薙刀で上手く捌きやがる!

火炎も躱され……おい。

 

「お前、手ぇ抜いてるだろ……?」

 

「えっ?」

 

「なんでその薙刀しか使ってねぇんだよ! ふざけてんのかっ!?」

 

「だって、これレースだから……」

 

「あぁっ!?」

 

なめやがってぇ……!!

 

「いいからお前の全力を見せやがれ!」

 

「ええ~……織斑先生に怒られ――」

 

「いいからやれ!」

 

「……分かりました」

 

諦めたような顔をして、眼鏡娘がオレの方に向き直る。やっとやる気になりやがったか。

 

「もし織斑先生に怒られたら、ケイシー先輩も一緒に怒られてもらいますからね」

 

「別に構わねぇよ。怒られることには慣れてるんでな」

 

「そうですか。それでは――」

 

 

「GNドライブ、起動」

 

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

エキシビジョン・レースが終わるとすぐに、オレは叔母に、亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』のリーダーであるスコール・ミューゼルに連絡を入れていた。

 

『組織を抜ける? 貴女何を言って――』

 

「ごめん」

 

そして向こうの返事も聞かず、通信を切った。悪い、叔母さん……。

 

「ダリル、どうしたっスか?」

 

振り向くと、フォルテがオレの顔を覗き込もうと上を見上げていた。

 

「なんでもねぇよ」

 

いつものように軽快に笑いながら、フォルテの頭をわしわしと撫ぜる。

 

「あーもう! 髪がボサボサになるっスよぉ!」

 

「そん時はまたオレが梳かしてやるよ」

 

そうしながら、オレはエキシビジョン・レースの事を思い出した。

1年の眼鏡娘と一騎打ちをして、それから……

 

 

装甲を破壊されて、頭を掴まれて、その直後に――アカグロイヒカリガ……!

 

 

「んぐぅっ!」

 

「だ、大丈夫っスか!?」

 

咄嗟に、こみ上げてくる吐き気を抑えつける。フォルテが心配そうに顔を覗き込んでくるが、それどころじゃねぇ。

 

(スコール叔母さんは、亡国機業は、あんなのを敵に回すつもりなのか!?)

 

あんなのと実戦でやり合うなんて、絶対に御免だ。

 

(あんなのと戦うぐらいなら)

 

運命だとか、炎の家系であるミューゼルの呪いだとか関係ねぇ。叔母さんには悪いが、オレはまだ――

 

「ダリル……?」

 

まだオレの顔を覗き込むフォルテを

 

――ガバッ

 

「ダ、ダリル!?」

 

オレは抱き締めていた。フォルテの体温を感じるたびに、さっきまでの恐怖が薄れていくのを感じる。

 

(このままフォルテと一緒に、学園にいよう)

 

もしかしたら組織の報復があるかもしれねぇが、その時は『イージス』の力を見せつければいい。

 

 

 

 

亡国機業のエージェント、レイン・ミューゼルは死んだ。今ここにいるのは、アメリカ代表候補生、ダリル・ケイシーだ。




まさかのダリル姐さん脱落のお知らせ。今後出番があるかは怪しいところ。

ちなみにダリルん、君が戦った打鉄弐式、GNドライブ片方しか使ってない上に、ミサイルもファングも使ってないんだよ?(悪魔のような笑顔)


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第70話 優勝祝い

やや早足でしたが、キャノンボール・ファスト編は今回で終了です。

そして最近、評価やお気に入り数がいい感じに増えて、心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~
引き続きご愛顧いただけると幸いです。


「お姉ちゃん、2年の部優勝おめでとう」

 

簪の声を合図に、俺やのほほん、虚先輩の持ったクラッカーがパァンパァンッと鳴り響く。

 

「あはは~、こうして祝われると何だか照れるわねぇ///」

 

生徒会室の応接スペースで、小さいながらも楯無さんの優勝祝いの用意をしていたのだ。

 

「でも、陸君も簪ちゃんも良かったの? 織斑君の誕生日パーティーに出なくて」

 

「最初は誘われてたけど、辞退した」

 

「ただでさえ一夏ハーレムの5人がいるのに、五反田兄妹や他の男友達も来て俺達もってなったら、いくら織斑家が一軒家だって言っても手狭になるでしょうから」

 

一応篠ノ之に、俺と簪からの誕生日プレゼントを預けてはあるが。なんで篠ノ之かって? こういう約束事に関して一番信用できるから。(偏見)

 

「それにしても、時間も無かっただろうに色々準備してくれたわねぇ」

 

そう言ってテーブルの上を眺める楯無さんの前には、俺達4人で調達した料理や飲み物がずらりと並んでいる。

ホールケーキは当然として、フライドポテトやピザ、唐揚げなどのホットスナック、薄切りにしたフランスパンの上にクリームチーズと生ハムが乗ったカナッペ等々。

 

「それにしても、2年の部は終始楯無さんの独走でしたね」

 

「まぁね~。と言っても、私以外の専用機持ちのフォルテちゃんは面倒臭がり屋というか、相方のダリル・ケイシー共々、なかなかやる気にならないのよねぇ。だからお姉さんがあっさり勝っちゃったわけで」

 

「ダリル・ケイシー、先輩……」

 

「かんちゃんがエキシビジョンで戦った先輩だよね~?」

 

「うん。アメリカ代表候補生」

 

ああ、あのコースに炎の壁作ってた3年の先輩か。

 

「簪様、結局途中からレースではなくバトルになってしまわれたんですよね……」

 

「虚さん、私悪くない。ケイシー先輩が悪い」

 

ちなみにレース終了後、

 

 

『更識妹ぉぉぉ! あれほど"レースをしてくれ"とお願いしてただろぉぉぉ!?』

 

『ケイシー先輩に戦えって脅されました』

 

『お、おい!? 確かに一騎打ちしたいとは言ったがよぉ』

 

『ケイシィィィ! 貴様こっちに来い!!』

 

『うわぁぁ! み、耳! 耳引っ張らないでくれよぉ!!』

 

 

というやり取りがあったそうな。

 

「陸君も、織斑先生から色々言われたんじゃないの?」

 

「言われましたね。『陰流を改造したらいけないとは言われてないですが?』って答えたら、呻き声をあげながら保健室の方に消えていきましたけど」

 

「ひ、ひどい……」

 

本当に俺に何もさせたくないなら、他の作業でも振れば良かったんだ。報酬次第じゃ、訓練機のメンテナンスとか請け負ったぞ。いつぞやのオーバーホールみたいに。

 

「もぐもぐ、うまうま」

 

「ホントのほほんはブレねぇなぁ」

 

というか、主役の楯無さんより先にケーキ食うなよ。

 

「本音……」

 

「すみません、お嬢様……」

 

「あはは……ま、まぁいいじゃない。実に本音らしいっていうか」

 

そんなこと言って楯無さん、やや苦笑いなんですが。

 

「たっちゃんも、ケーキを食べればいいんですよ~」

 

8等分したケーキを皿に取って、すすっと楯無さんの前に置くのほほん。最初からそれをしていれば……。

 

「あら、美味しい」

 

「くどくない甘さがいいですね」

 

楯無さんに続いて、虚先輩もケーキを口にしてこの感想。

 

「このケーキ、どこで買ったの? 今度からこのケーキを食べたいわ」

 

「本音、どこで買ったの?」

 

「えっとね、お姉ちゃん……」

 

「「本音?」」

 

のほほんが言いにくそうに、フォークで皿をつつく。

 

 

「そのケーキ、りったんの手作り……」

 

 

「「……は?」」

 

一拍置いた後、

 

 

「「えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 

 

ガシャンッと音を立てて、二人の持っていたフォークが皿の上に落ちる。

 

「り、陸君の、て、てててて、手作り?」

 

「『ケーキなら俺が作れるから、その分他の食いもんに金かけようぜ』って言いだして~……」

 

「陸の方が女子力高かった……解せぬ」

 

「簪、俺そこまで言われないとダメなん?」

 

よく菓子類は『きっちり分量通りにしないといけない』って言うが、逆に言えば『きっちりレシピ通りにやれば、それなりのもんは出来る』ってことだからな。むしろ俺は菓子類しか作れん。普通の料理レシピに出てくる曖昧表現がダメだ。『少々』って何グラムだよ? 『とろ火』って何℃で焼けばいいんだよ?というかだな、

 

「俺より一夏の方が女子力高いだろ」

 

「ああ~……」

 

「おりむーのあれは、もはや反則だよ~……」

 

「え? 織斑君ってそんなにすごいの?」

 

「料理はもちろん家事全般に対応していて、さらにプロ級のマッサージ機能も付いたパーフェクト主夫ですよ」

 

「何それ怖い」

 

「お嬢様、そのセリフは酷いです。……私も一人の女として恐怖を感じましたが」

 

楯無さんが驚くのも分かる。俺も最初凰から聞いた時は、何かの間違いかと思ったからな。というか一夏、お前もう将来主夫でいいんじゃね? 嫁達は代表候補生ばっかで普通に稼げるんだし。

 

「……」

 

「簪?」

 

――ムギュッ

 

俺の左腰にしがみ付いてきた。

 

「女子力高くても、織斑君に陸は渡さない」

 

「馬鹿野郎俺はゲイじゃねぇぞ」

 

何を心配してんだアホか。というか、簪顔赤くね? ふと見ると、そこにあったのはさっきまで簪が持っていたコップ。中にはグレープジュースが……おい、ちょっと待て。

 

「なぁのほほん、飲み物買ってきたのはお前だったよなぁ?」

 

「そうだよ~?」

 

「何買ってきたんだった?」

 

「え~っと、コーラでしょ~? 烏龍茶でしょ~? あとブドウジュースとオレンジジュース~」

 

「……虚先輩」

 

「え?」

 

俺はすっと、簪が飲んでいたジュースの入ったコップを差し出した。

 

「このコップが一体……っ!?」

 

首を傾げていた先輩だったが、コップに顔を近づけた時点で気付いたようだ。

 

 

「本音! 貴女これアルコール入ってるじゃない!!」

 

 

「え? ええぇぇぇぇぇ~!?」

 

先輩の指摘に対して、ガチで驚くのほほん。

 

「何をどうやったら、学生ののほほんが赤ワインを買えるんだよ?」

 

「ノンアルコールのコーナーにあるのを買ったんだよ~!?」

 

いやいやそれにしたって、会計通した時点でお前も店員も気付かんのかよ。その店ザルすぎんだろ。

 

「簪ちゃん、大丈夫!?」

 

「ふぇぇ? にゃにが~?」

 

あ、ダメだこりゃ。顔真っ赤で目もトロンとしてる。

 

わらし()りく()とずっといっひょ(一緒)~」

 

「簪ちゃん、完全に酔っぱらってるわね……」

 

「そうっすね……」

 

 

ここひゃないがいひにひゃって、(ここじゃない外史にだって、)ついていくんひゃからぁぁ(付いて行くんだからぁぁ)!」

 

 

「酔っぱらい過ぎだ馬鹿野郎!?」

 

外史とかNGワードを絶叫するなよぉぉぉ! 3人とも分かってないっぽいから良いけどぉ!

 

ーーーーーーーーー

 

困ったことになったわ。いえ、あまりに想定外の事態よ。

 

「あの子が組織を抜けるとか言い出すなんて……」

 

ミューゼルの末席、私の姪、レイン・ミューゼルが亡国機業を抜けると連絡してきた。そして理由を聞く間もなく通信が切れて、以降は繋がらなくなった。

裏切り者には報復を――と言いたいところだけど、

 

「くそっ! くそっ!」

 

ソファに寝転んでいるオータムは、利き腕を折られた上にアラクネのISコアを喪っている。腕の骨折自体はほぼ治ってるけど、ISが無ければ動きようがない。そして

 

――ガシャンッ

 

「くっ……!」

 

食事をとろうとしていたエムの手から、スプーンが落ちた音。

あの一件以来、彼女は手の震えが発作的に起こるようになった。医療班の見解では『時間が経てば治まる』とのことだけど、あの状態でサイレント・ゼフィルスには乗せられないわ。よしんば乗せても、レーザーライフルの引き金を引くのも覚束ないでしょう。

 

「そしてレインは離脱……ひどい有様ね」

 

亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』は壊滅状態となった。それもこれも、以前流れ着いてきた女権団の無能共が流してきた情報が正しくなかった所為よ。

『"2人目"は戦闘力皆無』? その彼に、オータムは腕をへし折られたのよ?

『日本の第3世代機は開発を凍結された。学園内で組み上げたらしいが大したことはない』? その大したことない機体に、イギリスの最新鋭機(エム)が墜とされかけたのだけど?

 

今回の件で、幹部会は荒れるだろう。それで女権団の無能共が一掃されればいいけど、もしそうならなかったら……

 

「これから、どうなるのかしらね……」

 

ため息をついても何も良い案なんか出るはずもなく、とりあえず私はオータムの機嫌を落ち着かせることにした。




実際、周りにいた理系(化学系や薬学系)の人って、菓子作りが上手かった印象。薬品計る要領で、材料を正確に計ったりしてるからなんでしょうね。

モノクローム・アバター壊滅状態です。束も宇宙進出に興味が行ってますから、次の全学年合同タッグマッチ編も平和そのもの……って、エムの襲撃無かったから、そもそもタッグマッチ開催されないやん。どないしよ……。


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全学年合同タッグマッチ
第71話 国家代表


タッグマッチ編に入ります。


「宮下、お前の陰流は第3世代機だ」

 

「はい?」

 

キャノンボール・ファストの翌日、もはやいつものように呼び出された生徒指導室で、織斑先生が訳の分からないことを言い出した。

 

「織斑先生、もしかして胃薬の飲み過ぎで頭が……」

 

「違う! だからそんな憐みの目で見るな更識妹!」

 

「なら、なんでそんなこと言い出したんですか?」

 

陰流は打鉄のカスタム機、歴とした第2世代機だ。それが第3世代機とはどういうこった。

 

「そもそもの話は、宮下が先日のレースでビーム砲をぶっ放したことだ」

 

なんでも、俺が昨日のキャノンボール・ファストの専用機の部で○ィバインバ○ターをブッパした際、一夏とデュノア以外をエジプトの壁画にしたのが問題になったらしい。

 

『第2世代のカスタム機に第3世代機、ましてや操縦者が未熟だったことを勘定に入れても第4世代機が敗れるなんてあっていいわけがない!』

 

という頭パーな意見が続出したらしい。主に壁画になった国のIS委員会とIS関連企業(デュノア社を除く)から。

んで、自分達の頭の中だけを納得させるために『あの砲撃を放ったのは同じ第3世代機だから、同じ第3世代機が負けたのも仕方ない』と、今回織斑先生が言ったことを学園経由で命じてきたらしい。馬鹿? アンタらが命令したからって、陰流の性能が第3世代相当になるわけじゃねぇんだぞ?

 

「とりあえず、織斑先生が乱心したわけじゃないことが分かって一安心です」

 

「私は別の理由で心が病みそうだがな……」

 

なんで俺の方を見てそんなセリフ吐くんですか。解せぬ。

 

「とにかく、宮下の陰流はデータ上は第3世代機として扱うことになった。個人的には非常に馬鹿らしいがな」

 

「馬鹿ばっか」

 

「言うな更識妹。さらに斜め上の馬鹿もいるんだぞ」

 

「これよりまだ上がいるんスか……?」

 

「いるぞぉ……『女性権利団体』って大馬鹿共がな」

 

その大馬鹿達は『陰流とかいう機体を取り上げて、操縦者の男は解剖してホルマリン漬けにするべきだ!』とか言ってたらしい。IS学園に入る前はそう言う連中が大量に湧いてて、最近は鳴りを潜めてたと思ってたんだがなぁ……。

 

「当然、解剖もホルマリン漬けも却下された。そもそも女権団は以前やらかしてる上、連中より宮下を敵に回す方がまずいというのが日本政府の考えだ」

 

「陸の命を狙うなら、弐式で女権団の本部を()()()()

 

「……更識妹も敵に回ったら、国が終わるな」

 

「そんな大袈裟な」

 

いくら弐式だって、そんな国を丸ごと消すような武装は無い……はず、だぞ? 無いよな……?

 

「陰流については以上だ」

 

「その言い方だと……」

 

「他にも何かあるんですか?」

 

「ああ。更識妹、お前についてだ」

 

「私、ですか?」

 

首を傾げる簪。エキシビジョンのこと、まだ尾を引いてるのか?

すると、織斑先生はパイプ椅子から立ち上がり

 

 

「更識簪。右の者を、IS国家代表に任命する」

 

 

簪に証書みたいなものを渡した。国家代表?

 

「国家、代表……?」

 

渡された簪も、口をポカンと開けて固まっている。

 

「つまり、今日からお前は代表候補生から昇格して、日本代表になったわけだ。本来なら授与式をするはずなんだが、色々事情があってな。私が代読で証書を渡すことになった」

 

「え? ええ?」

 

「織斑先生、簪が国家代表になるのは良いんですが、前任者とか大丈夫なんですか?」

 

俺としては、簪が国家代表になるのは、ブリュンヒルデにするという約束を果たすという意味で大変プラスだ。だが、それで前任の国家代表から恨まれるのも面白くない。なにせ向こうからしたら、自分が座ってた席から追いやられた形だろうし。

 

「そこは問題ない。というか、な、前任者は私の後釜なわけなんだが、どうも『ブリュンヒルデの後継者』という周囲の期待でメンタルをやられていたらしい。度々辞退を申し出ていたのを何度も留意させていたんだそうだ。だから今回の件は大賛成していた。やっと辞めることが出来る、とな」

 

「あ~……確かに席を譲りたくもなるか。その点簪なら大丈夫ですね」

 

「ええ~……」

 

なんだよ簪。そんな『解せぬ』って顔して。

まぁ何はともあれ、これで簪は、再来年のモンド・グロッソに出場することが出来るわけだ。

 

 

「ああちなみに、次の第3回大会からは『GNドライブの使用禁止』とルール改定がされる予定だそうだ」

 

 

「Son of a b***h!」

 

 

ピンポイントで弐式をナーフしてくるとか卑怯だろうが!!

 

ーーーーーーーーー

 

「残当」

 

「酷くね?」

 

生徒指導室であったことを楯無さんに話したら、返答がこれである。解せぬ。

 

「そのGNドライブとやらが無くても、簪ちゃんなら国家代表に指名されて当然じゃない」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

「そこは全面的に肯定します」

 

「り、陸もぉ!」

 

腕を組んでうんうんと頷く俺と楯無さんに、顔を赤くして反論しようとする簪。うん、可愛い。

 

「それにしても、再来年は簪ちゃんとモンド・グロッソに出場するのかぁ……」

 

「決勝戦で姉妹対決とか胸熱だな」

 

「あら、私も決勝まで行けると思ってくれてるのね」

 

「行かないんですか?」

 

「当然、行くに決まってるじゃない♪」

 

ニヤリと笑って、『再戦』と書かれた扇子を広げる。なるほど、楯無さんにとっては4月に簪と戦った時のリベンジってことになるのか。

 

「しかし、宮下君の陰流を第3世代機扱いするとは、IS委員会も何を考えているのか……」

 

「無駄よ虚。世の中には、自分の妄想と現実を区別できない人間がいるのよ」

 

「お嬢様、かなり酷いこと言ってますね……」

 

虚先輩苦笑い。俺と簪も生徒指導室で散々呆れ返ってたからな。

 

「ところでお姉ちゃん、国家代表になったら何があるの?」

 

「何って、何が?」

 

「え?」

 

「え?」

 

姉妹が顔を見合わせたまま固まる。

 

「代表候補生とは違う、国家代表特有のイベントとか無いの?」

 

「無いわね。精々、雑誌のインタビューとかが増えるぐらいかしら」

 

「雑誌のインタビュー……」

 

めちゃくちゃ嫌そうな顔するな。まぁ簪の性格からして、絶対好きそうには見えないがな。

 

「とりあえず、学園の新聞部には狙われるだろうから覚悟しておくことね」

 

「……来たらOHANASHIする」

 

「それはやめてあげて……新聞部に私の友達がいるから」

 

簪、そこまで嫌か。

 

ーーーーーーーーー

 

二人が出てから少しして、別の二人が生徒会室に入って来た。

 

「いらっしゃい、ダリル・ケイシー。フォルテちゃんも一緒なのね」

 

「もちろんっスよ。私とダリルは二人で一つっスから」

 

「それで、生徒会とは一番縁遠い自由人な貴女がどうしてここに?」

 

「頼みがあるんだ」

 

「?」

 

ホントに珍しいわね。独立独歩を旨とする彼女が、よりにもよって生徒会に頼み事なんて。

 

「ん~、とにかく、聞くだけ聞いてみましょう」

 

「司法取引がしたい」

 

「……はい?」

 

司法取引? 何言ってるの?

 

 

「オレの本当の名前はレイン。亡国機業のエージェント、レイン・ミューゼルだ」

 

 

「!?」

 

反射的に扇子を取り出し、ミステリアス・レイディをすぐに展開できるように動く。

 

「え? ダ、ダリル、何言ってるっスか……?」

 

「騙して悪いなフォルテ。つまりオレは、テロリストだったんだよ」

 

「う、嘘っスよね? そんな、そんなのって……!」

 

フォルテちゃんの取り乱しっぷりを見るに、本当に今初めて言ったのね……。

 

「嘘じゃねぇ。ただ『元』ってのが頭に付くがな」

 

「元……つまり組織を抜けた?」

 

「ああ。昨日の時点でな」

 

「もしかして……レースが終わった直後に通話してたのは……」

 

「組織に……叔母さんに決別文を、な」

 

「どうして、組織を抜ける気に?」

 

わざわざ学園に潜入までしてたのに、どうして組織を抜ける気になったのか。

 

「どうしてって、お前の妹だよ」

 

「は? 簪ちゃん?」

 

どうしてそこで、簪ちゃんが出てくるのよ!?

 

「ただのレース、お遊びですらあれだけボコボコにされたんだ。実戦であんなバケモノとやり合いたくねぇ」

 

「簪ちゃんがバケモノですってぇ!? 表出なさい!」

 

「実際そうじゃねぇか! アイアンクロー食らって頭をレンチンで吹っ飛ばされそうになる恐怖がお前に分かるか!?」

 

まだ言うか! あんなにキュートな簪ちゃんをバケモノ呼ばわりなんて、許さん!

 

「二人とも落ち着くっス!!」

 

「お、おう……」「わ、分かったわよ……」

 

フォルテちゃんに仲裁されて、私もダリルも取っ組み合いになる寸前でソファに座り直す。

 

「つまり、貴女は()()()を捨てて、()()()のままでいたいと?」

 

「そうだ。亡国機業にいた時の罪を不問にして、出来れば組織の報復から匿って欲しい。その代わり、オレは組織の情報を知ってる限り話す」

 

謎の組織の情報が得られて、向こうの構成員を一人離脱させられる。なるほど、悪くはないわね。

 

「要するに、な」

 

そこで言葉を区切ると、ダリルはフォルテちゃんの腕を引いて……てぇ!?

 

「ダ、ダリル!? またっスか!?」

 

またって、フォルテちゃんを胸の中にスッポリ納めるのがまた!?

 

「オレは叔母さんやミューゼル家の呪い、運命よりも、()()()を選んだってことなんだよ」

 

「……///」

 

百合だわぁ……デ○タル殿が尊死しちゃうわぁ……。

 

「んんっ! お嬢様、如何いたしますか?」

 

咳払いで、二人のイチャイチャを強制的に止めさせる虚。ナイスよ!

 

「更識としては、その取引を受けましょう。アメリカ側との折衝についても、こちらで引き受けます」

 

「すまん、頼む」

 

「その代わり、キリキリ情報を吐いてもらうわよ」

 

「そうっスよ。私とダリルが一緒にいられるかどうかが掛かってるっスから」

 

「分かってるって」

 

 

そうしてダリルから得た情報は、玉石混淆な物だった。

まず、学園祭を襲撃したIS、サイレント・ゼフィルス。あれは本当にイギリスから強奪されたものらしい。操縦者は"エム"と呼ばれる新参者で、アラクネの操縦者だったオータムとの仲は険悪だったとか。

そしてこれは新しい、そして頭の痛い情報だけど、陸君と倉持との一件で追放された女権団の残党が、亡国機業に合流したというのだ。その合流した連中の持っていた情報を元に、学園祭襲撃が決まったんですって。まぁ彼女達が政府中枢から追放された当時は、陸君も簪ちゃんも学年別トーナメント以外で公式試合に出てなかったし、まともな情報が無かったんでしょうね。それで襲撃してみたら撃退されたどころか、一時期は捕虜すら取られたと。

 

(この情報が確かなら、余計に時間的猶予がありそうね)

 

おそらく学園祭襲撃の失敗を受けて、組織内で内ゲバが起こる可能性がある。その間に、専用機持ち達の戦力強化とかできないかしら? この後織斑先生に相談してみましょ。




とうとう(やっと?)簪が国家代表に。日本政府からしたら、自由国籍の件をまた蒸し返される前に、国家代表にしてしまって所属を確定させたい狙いもあります。

そして本作では楯無さんの発案で、タッグマッチに持っていきます。


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第72話 それぞれの思惑

説明回っぽいのです。オリ主も簪も出てきませんのでご了承ください。


私に話があると更識姉が職員室にやってきたのは放課後、奴の妹に国家代表の証書を渡したことをIS委員会に報告した直後だった。

 

「それで、一体何の用だ?」

 

「織斑先生に、折り入ってご相談が」

 

「相談?」

 

なんか嫌な予感がしたが、聞かずに帰すわけにもいかんか……。

 

「実は、先ほど3年生のダリル・ケイシーと会っていまして……」

 

 

そう切り出して、更識姉が話し始めた内容に、私は頭を抱えたくなっていた。

亡国機業のスパイが、まさか学生として堂々と学園に入り込んでいたとは……。更識妹を恐れて組織を抜けたのは英断だがな。(きっぱり)

それもそうだが、宮下の件で追放された元・女権団共が亡国機業に流れ着いていたというのも、頭の痛い問題だ。正直に報告しても、女権団の主流派共に握り潰されるのが関の山か。

 

「それでですね、学園祭の時のような襲撃がまた起こることも考えられるので、専用機持ちの能力強化を図りたいと思いまして」

 

「強化なぁ……言っておくが、宮下に他の専用機を弄らせるのはNGだぞ」

 

「ダ、ダメですか?」

 

「まぁ、あいつらの生命を第一に考えるならアリなんだろうが、専用機の所属国やIS委員会がな……」

 

連中、宮下個人に国家が負けたことで相当頭に来てるのか、あれやこれやで奴を妨害することばかり考えているようだ。直近では『GNドライブの使用禁止』なんかがそうだ。素直に『永久機関禁止』としておけばいいものを、ピンポイントで妨害してきている。というか、そこそもお前達は束という『個人』に大敗してるだろう。何を今更。

とはいえ、そんな頭悪い連中が決定権を持っているのも事実。宮下と比較的親交のあるデュノア社も、最近では周囲の圧力があるらしい。そんな中で、専用機を奴に強化させる案は飲めんだろう。

 

「それなら、専用機持ちで実戦的な模擬戦は出来ませんか?」

 

「模擬戦か……それぐらいなら」

 

「以前、VTSの件で流れてしまった学年別トーナメントのようなタッグ戦にして、それを他の生徒も見学できるようにすれば……」

 

「なるほど、それなら授業の一環として上に説明できるな」

 

むしろキャノンボール・ファストで宮下によって壁画にされた国からしたら、自国のISを再度アピールする、名誉挽回のチャンスだ。首を横には振るまい。

 

「いいだろう。この後学園長に報告して、了承が得られれば今月末にでも実施するぞ」

 

「はい。出来れば早い方がいいですから」

 

そう、更識姉の話した予想が当たりなら、タイムリミットは亡国機業の内ゲバが収束まで。それまでに自分達のISが狙われても応戦できるようにしておきたい。

 

「おおまかな準備はこちらでしておく。お前は()()()()()、生徒達への襲撃を警戒していてくれ」

 

「分かっています。それが生徒会長の本分ですから」

 

そう言って更識姉が職員室を出て行くと、私も学園長室に向かいながら、説明する順序や内容を頭の中で推敲していた。

 

 

 

その後、学園長への説明自体は滞りなく終わり、学園上層部――国際IS委員会の委員達――からも了承され、全学年合同タッグマッチが開催されることとなった。

 

ーーーーーーーーー

 

――国際IS委員会 会議室

 

千冬は、IS委員会が陸憎しで『GNドライブの使用禁止』をルールに加えたと考えていたが、実際は異なっていた。

 

「やはり、レギュレーション自体の見直しが必要ではないか? このGNドライブだったか、これだけを名指しで禁止にしても、また別の永久機関を出されては意味がない」

 

委員の一人が提案すると、他の委員達も賛同するように頷く。

 

「いいえ! その必要はありません!」

 

ただ一人、委員()でありながら出席している女性だけが、異を唱える。

 

「しかしミズ・ヤマザキ、これはあまりにも……」

 

「そうだ、これではミスタ・ミヤシタに対する私怨と思われかねない」

 

「お黙りなさい! 神聖なISを穢すゴミを浄化しようと動いて何が悪いと!? むしろ私達はあのゴミを研究所に送って切り刻み、ホルマリンにでも沈めるよう言っていたはずなのに、どうしてまだ実行していないのですか!?」

 

「言い過ぎですぞ。いくら貴女が、かの団体のトップとはいえ」

 

そう窘められた通り、この女、山崎敏美(ヤマザキトシミ)は女性権利団体のトップであり、団体の創設者でもあった。

10年前、うだつが上がらない事務員だった彼女を変えたのが、白騎士事件と『ISは女性しか乗れない』という事実だった。そこから彼女はISの能力を後ろ盾に、女性の権利拡大を声高に唱え、数年後には一大勢力のトップになったのだ。そんな彼女からしてみれば、宮下陸という存在は邪魔でしかない。なぜなら、女性権利団体の権勢は『ISは女性しか乗れない』ことだけで保っており、男がISに乗れてしまえば、その権勢が失われてしまう。また、うだつが上がらないちっぽけな存在に成り下がってしまうから。

 

「とにかく! あのゴミが作ったものを排除している間に、さっさと代わりになるものを作させなさい! むしろ、そんな永久機関を作ったなら、私達に献上するのが道理でしょう!? 情報を吐かせなさい!」

 

自分の言いたい事だけをヒステリックに喚き散らすと、山崎は会議室を足早に出て行った。

 

「困ったものですな」

 

「ええ。こちらが下手に出ていれば、頭の悪いことばかり」

 

「しかし、あれが国際的に大きな権力を持っているのも事実……」

 

「本当に、困ったものですな」

 

委員全員――中には女性も含まれていたが、彼女達は女尊男卑主義ではない――が大きなため息をつく。

 

「それにしても、ミスタ・ミヤシタに情報を吐かせろとは」

 

「それをやった自分の配下達が、日本政府の中枢から排除されたことをもう忘れたのか」

 

「いいえ。聞いた話では、それを実行したのはかの団体の中でも反主流派だったそうですぞ」

 

「ほう、それは初耳ですな」

 

「ミズ・ヤマザキ率いる主流派は、ミズ・オリムラの弟(織斑一夏)すら排除することを望んでいるそうですからな。ミスタ・ミヤシタだけを排除しようとしていた反主流派を切り捨てる絶好の機会だったのでは?」

 

「怖い話ですな」

 

「そのくせ、ミスタが各国の専用機に関与できないよう働きかけているという話も聞きます」

 

「やれやれだ。ミスタに専用機の強化を依頼して、その機体を解析することで技術を取り込むのが手っ取り早いというのに」

 

それぞれが芝居がかったように頭を振ると、話の議題を切り替える。

 

「女性権利団体の横槍が予想される以上、レギュレーション自体の改定は先送りにするしかありませんな」

 

「致し方あるまい」

 

「ですが、機会が来たらすぐに改定できるよう、せめて草案だけは作っておきましょう」

 

「そうですな。第3回大会に間に合えばいいですが……」

 

 

(((それまでに、女性権利団体が消滅でもしない限り無理か……)))

 

 

諦観染みたため息を各々つきつつ、永久機関の全面禁止や外付けや後付けを含めた武装数の制限など、新しいレギュレーションの草案について、委員達は話し合いを続けるのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

「う~ん、どうする……」

 

更識姉が発案した全学年合同タッグマッチ。その開催が決まったのはいいが、申込用紙の原紙を作っていて、一つ困ったことが起こった。

 

「1人、あぶれるな……」

 

今年は専用機持ちの、特に1年生の数が異常だ。1年生が8人、2年生が2人、3年生が1人の、計11人。2人1組のタッグを組んだら、1人余ってしまう。

 

(どうする? 山田先生や教師部隊の誰かを混ぜるという手もあるが……)

 

机に置いてあるカップを持って、中のコーヒーを一口。うむ、温い。後で山田先生に新しいのを淹れてもらおう。

だが、そこで私に妙案が思いついた。

 

「……これだな」

 

今回のタッグマッチは『専用機持ちの能力向上』が目的だ。これなら、ペアをピッタリ5()()作れる。

 

「これをコピーして、専用機持ちのいるクラスに配布して……」

 

掲示板にも貼り出さねばならないが……そこは山田先生に頼むか。




オリ主が打鉄弐式以外の専用機を弄らせるのは無しです。ネタが尽きて、最後にはステイシスに乗ったラウラや、ノブリス・オブリージュを駆るセシリアが出て来かねないので……。

女性権利団体のトップはオリキャラです。原作では出てきません。
亡国機業の面々がボコられてるので、ヘイトを集められそうなキャラを勝手に作っちゃいました。

IS委員会も馬鹿ばっかじゃないです。お局様さえ消えればあるいは……?


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第73話 ペア解消(強制)

キャノンボール・ファストが終わって数日、玄関前の掲示板に貼られた紙をみんなが見ていた。

 

=====================

全学年合同タッグマッチについて

 

今月末、全学年合同のタッグマッチを行う。

 

対象:1~3学年の専用機持ち

 

対象者は本日配布される用紙にペアを記載し職員室へ提出すること

=====================

 

「タッグマッチねぇ……」

 

曰く、学年別トーナメントがボーデヴィッヒのIS暴走事件で有耶無耶になったから、専用機持ちに実戦的な模擬戦をさせて能力向上を目指しつつ、他の生徒にもそれを見学させることで知識の蓄積を図るんだとか。

どうせなら、そのトーナメントをやり直せばいいだろうに。日程の都合か?

 

「一夏は誰と出るつもりなんだ?」

 

ちょうど近くにいた一夏に話を振ってみた。

 

「まだ決めてない。というか……」

 

「「「「「最初はグー、じゃんけんぽん!」」」」」

 

一夏の視線の先には、玄関前でじゃんけん大会を始めたハーレムの面々。ここでやんなよ……。

 

「陸はいつも通りか?」

 

「ああ、たぶん俺も――」

 

「陸の分は私が出しておく」

 

「お、おう」

 

嫁の独占欲が強い。

 

「まぁ、元々そのつもりだからいいけどな……」

 

と思っていたのだが、1時限目の終わりに配られた用紙の一番下に、こんな文言が書かれていた。

 

 

『※ただし、1年4組の更識簪は参加不可とする』

 

 

ーーーーーーーーー

 

職員室で、私は山田先生の淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。

 

「それにしても、専用機持ち限定のタッグマッチですか」

 

「ああ、更識姉からの提案でな。また学園祭の時のような襲撃が無いとも限らんからな」

 

「そう、ですね……」

 

山田先生が暗い顔をするが、仕方あるまい。なにせ相手はテロリストだ。こちらの都合など気にせんだろうからな。

と、コーヒーを口に含んだところで

 

 

「織斑せんせぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

「ぶふっ!」

 

職員室のドアが破壊しかねないほど勢いよく開かれ、さらに追加の怒声で吹き出してしまった。そして吹き出したコーヒーが山田先生の顔面にクリティカルヒット。すまん……。

 

「織斑先生!!」

 

「な、なんだ更識妹……」

 

「タッグマッチ、私が参加不可ってどういうことですか!?」

 

「お、落ち着け簪」

 

抑え込もうとする宮下すら引きずって現れた更識妹に、先生方は私を置いて職員室から退避し始めた。や、山田先生まで……ひどい。

だが、お前を参加不可にした理由はあるんだ。なぜなら……

 

「お前をこれ以上戦力強化する意味、あるか?」

 

「……え?」

 

私の指摘に、ピタッと更識妹が止まる。

 

「日本の国家代表になった時点で、お前は最強の一角になったわけだ。そんな奴を強化する意味があるか?」

 

「で、でも! それならお姉ちゃんも……!」

 

「姉の方まで抜けたら、タッグが組めない奴が出てくるから却下だ」

 

今年の専用機持ちは、1年が更識妹を含め8人、2年が2人、3年が1人の、計11人だ。そうなると、1人あぶれることになる。

 

「だから、一番戦闘力の高いお前を抜いた」

 

「ぐぬぬ……!」

 

「お前、そんなにタッグマッチで戦いたいのか? キャノンボール・ファストでケイシーをボコって、まだ足りないと?」

 

いつからこいつは戦闘狂になった? 宮下と知り合ってからか、愚問だったな。

 

「別に私は、好き好んで戦いたいわけじゃありません。弐式のお披露目も、先日のレースで終わりましたし」

 

レース? あれが、レース? ま、まぁ、とにかく更識妹の考えは分かった。なら、なぜそこまで今回の件でキレる?

 

 

「陸が他の子と組むのが嫌です!!」

 

 

「そんな理由かぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

思わず私もキレてしまった。

 

「はぁ……宮下の方はどうなんだ?」

 

「俺ですか?」

 

「そうだ。お前は更識妹以外と組むことについて、問題はないだろう?」

 

「俺自身は何も問題は無いですけど……」

 

チラッと更識妹の方を見る宮下。今の発言にショックを受ける更識妹。仕方ない、妥協案を出すか。

 

「ならいっそ、織斑と組んだらどうだ?」

 

「一夏とですか……確かにそれなら角が立たなそうですね。……勝つ目途も立たないですが」

 

「まぁそうだろうな……」

 

なにせ一夏も宮下も高機動近接重視の機体だ。オルコットとデュノア辺りが組んだら遠距離から完封される可能性が高い。もちろんあの砲撃は禁止だ。また壁画を作られるわけにはいかんからな。

 

「陸と、織斑君を?」

 

「それならいいだろ?」

 

「……」

 

「簪?」

 

 

「陸が……陸が男色系にぃぃぃぃ!?」

 

 

「「ええ……」」

 

もうやだ。誰かこいつを何とかしてくれ……。

 

 

 

すったもんだの挙げ句、宮下は更識姉と組むことでまとまった。

 

「楯無さん、よろしくお願いします」

 

「いいわよ~。あれ(簪ちゃんとの決闘)からお姉さんも、訓練を重ねてパワーアップしてるんだから♪」

 

それでも、途中まで『ま、まさかお姉ちゃんに陸が取られるなんてことは……』とか言っていた。もっと宮下を信用してやれ……。

 

ーーーーーーーーー

 

そんなドタバタ劇を職員室で繰り広げた簪(+俺)は、昼休みの食堂でのほほんと合流していた。ちなみに、今回は楯無さんもいたりする。

 

「かんちゃーん、もうちょっとりったんを信用してあげなよ~……」

 

「でも~……」

 

「逆に私が陸君に食べられちゃったら、姉妹丼――」

 

――ゴンッ!

 

「ぎゃふんっ!」

 

「何を言い出すんですかねぇ貴女は」

 

鉄拳制裁でトンデモ会長を黙らせる。ほら見ろ、簪の目がうさみちゃんになったじゃねぇか。

 

「陸……」

 

「無いから。あり得ないから」

 

「そこまで言う!? お姉さん、ちょっと傷ついたわ~……」

 

「どないせいと」

 

「分かった、頑張って納得する。けど……」

 

「けど?」

 

 

 

「例えお姉ちゃんでも、第2夫人だからね」

 

 

 

「おいぃぃぃぃぃ!?」

 

「簪ちゃん、それでいいの……?」

 

「かんちゃん、前に『陸は誰にも渡さない』って言ってたって聞いたよ~?」

 

ああ、夏休み明け(第49話)のあれか……。

 

「本当は私だけ見てて欲しいけど、陸がどうしてもって言うなら、多少は譲歩しないといけない。それが長く付き合っていくコツだって、前にお母さんが」

 

「お母さぁぁん!?」

 

楯無さんが頭を抱えてテーブルに突っ伏す。まだ簪の両親と対面してない(一応、付き合い始めたことは報告・了承済み)から分からんが、どんな人なんだよ……。

 

「とにかく、俺は簪以外と付き合う気は今のところ無いから安心しろ」

 

「……本当に?」

 

「ああ」

 

「……分かった」

 

それだけ言って、うどんをすする作業に移行する簪。俺は織斑さん家の一夏君とは違うんです。違うんです。大事なことなので(ry

 

「おっ、噂をすれば」

 

ちょうど一夏とハーレム達を見つけた俺は、ちょいちょいと手招きをした。

 

「一夏、タッグマッチで組む相手は決まったか」

 

「ああ……結局あのじゃんけん大会で決まらなくて、最後はくじ引きでシャルと組むことになった」

 

「「「「ええ~……」」」」

 

聞かされたあまりな内容に、俺とのほほん、更識姉妹の4人がゲンナリ顔になった。

 

「それで、他の面々はペア決まってんのか?」

 

「ええ。わたくしと鈴さん、箒さんとラウラさんになりますわ」

 

「……学年別トーナメントのペアに、オルコットと凰が足されただけじゃねぇか」

 

なーんか既視感があると思ったら。

 

「安心しろ。あの時とは違って、臨海学校以来、ちゃんと連携も取れ始めているんだ。あの時のようにはならんさ」

 

「ラウラの言う通りだよ。というか、宮下君は大丈夫なの? 更識さんが参加不可って用紙に書いてあったけど」

 

「ああ、それな……」

 

俺は一夏達に、職員室で会ったことを説明した。さっきまでの、楯無さんの姉妹丼発言や簪の第2夫人発言は省略。

 

「「「「「残当」」」」」

 

「ひどいっ!?」

 

簪の参加不可について、一夏ハーレム全員からの回答がこちら。簪涙目である。

 

「それでも、学園最強が出てくるのもどうなの?」

 

「そこはそれ、なんちゃって第3世代機の俺と組むことでバランス取れるだろ。それとも、誰か俺と組んでくれるか?」

 

「「「「「更識(さん)に56されたくない」」」」」

 

「素敵な回答ありがとう」

 

「簪ちゃん、みんなからこう思われてるのね……」

 

「みんな酷い……」

 

「あははは~……」

 

のほほんよ、下手に空笑いするぐらいなら無言でOKだ。却って悲しくなってくる。

 

 

 

とにかく、楯無さんとペアでタッグマッチに出ることが決まったわけだが。さてはて、どうしたもんかなぁ……。




簪、またもやハブられるの巻。
そりゃ、開催目的からして対象外ですよ。むしろダリル姐さんみたいにトラウマを強化してどうするって話です。


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第74話 肉食系と肉食獣

今回、R18にならない程度の微エロ要素が後半あります。そういうのが嫌いな方は、途中でブラウザバックしてください。


タッグマッチで楯無さんと組むことに決まった翌日、アリーナで楯無さんとの連携練習を始めたわけだが……

 

「陸君、貴方も参加する必要、ある?」

 

と開幕首を傾げられてしまった。解せぬ。

 

「だってこの前の砲撃とか、当たったらほぼ一撃じゃないのよ」

 

「逆に当たらなかったら、長船とハンドガンしか無いんですがね」

 

GNコンデンサーのカートリッジが尽きたら、あとは第2世代相当の武装しか無いわけで。そう考えると、レ○ジング○ート(sts仕様)は簪専用にした方が良さそうだな。

 

「というか、あれは織斑先生からNGが出ました」

 

「あ、やっぱり?」

 

おい。

 

「分かったわ。それじゃあ、対遠距離機体の訓練をしましょうか」

 

「ええ、お願いします」

 

ミステリアス・レイディを纏った楯無さんと一緒に上空に飛び上がると、アリーナの両端に移動する。

 

「弾幕を避けながら私のところまでたどり着いたら合格よ」

 

「マジっすか……」

 

ミステリアス・レイディの弾幕か……簪との決闘時のことを思い出すと……無理じゃね?

 

「まぁ、ダメで元々だ!」

 

覚悟を決めてスラスターを点火したと同時に、前方から蒼流旋についた4門のガトリングガンが火を噴く。

 

「くっ、このっ!」

 

何とかガトリングの弾幕を避けてるものの、そちらに必死で距離を縮められない。

 

「ほらほら! 避けてばかりで距離が縮まってないわよ!」

 

「さっきシューター・フロー(PICのマニュアル制御)が出来るようになったばっかなのに鬼畜すぎぃ!」

 

「私、教える時はスパルタなの♪」

 

「ダニィ!?」

 

鬼や、鬼がおる。ただでさえシューター・フローに神経使ってるのに、さらにここから距離を縮めなきゃならないとなると……。

 

「こうするしかねぇか!」

 

シューター・フローを途切れさせないギリギリのラインで瞬時加速に移行。前面を突っ切る!

 

「おおっと!」

 

俺の意図を読んだのか、楯無さんがガトリングの掃射を止めて回避行動を取る。

瞬時加速で距離を詰めたものの、回避した楯無さんの横を通り過ぎた……ところがぎっちょん!

 

「もういっちょぉぉ!」

 

「ええ!?」

 

方向を変えてもう1回瞬時加速だ!

 

「捕まえ、た!」

 

「きゃっ!」

 

楯無さんも再度回避しようとするが、すんでのところで腕を掴むことに成功。なんとかなったぁ……。

 

「まさか、連続して瞬時加速するとは思わなかったわ……」

 

「また成功させる自信は無いですがね」

 

「タッグマッチで再現出来なきゃ意味ないじゃない」

 

「そこは要練習ってことで」

 

正直無我夢中でやった連続瞬時加速だからな、これを本番も出来るようにするのが次の目標だな。

 

なお、その後は全く成功することなく、俺はアリーナの壁に激突し続けたのだった……。

 

ーーーーーーーーー

 

陸とお姉ちゃんが連携練習をしてる頃、私は何をしてるかというと……

 

――ガィィィンッ! ガィィィンッ!

 

「はははははっ! まさかIS学園の教師になって、こんなに心躍る戦いができるとはな!」

 

「お、織斑先生、どうして打鉄でそんな動き出来るの……?」

 

先生の刀と私の夢現がぶつかっては離れ、離れてはまた鍔迫り合いになる。こっちも武装は夢現だけでGNドライブ無しとはいえ、第3世代の弐式とやり合えるなんて……

とにかく先生の反射神経が半端じゃない。機体性能はこっちが上なのに、完璧に夢現の軌道に合わせて刀を振って来る。

 

「ああ楽しい、楽しいぞ! こうやって体を動かしてる間は、IS委員会からの下らない話や、日本政府からの訳分らん要請のことを忘れられる!」

 

「うわ~……」

 

そんな、涙を流しながら笑顔で語られても……。

 

「さあ更識妹! もっと私を楽しませてくれ!」

 

「あ、あの、私の練習相手って話は……」

 

確か先生が

 

『少しだけ相手をしてやる。もっとも、私が使うのは打鉄だから、まともな相手になるかは怪しいがな』

 

って話だったのに……。

 

「さぁもっと、もっとだ!」

 

「先生怖いです!!」

 

 

 

その後も1時間近くチャンバラが続き、山田先生が現れてようやっと

 

「もっと、もっと戦うんだぁ……」

 

「織斑先生、これからIS委員会の方々との会議がありますからね~」

 

「いやだ~~~~~!!」

 

まるで駄々をこねる子供のように、織斑先生が山田先生に引きずられていった。

もしかして、明日もこんな感じなのかなぁ……。

 

ーーーーーーーーー

 

そうして練習が終わって少しして、俺と簪はある人物に呼び出されていた。

 

「で、一体何の用なんだ?」

 

「う、うむ。実は、だな……」

 

食堂のテーブル席で、向かいに篠ノ之が座っている。そしてその周りには、他の一夏ハーレムもいた。一夏抜きでお前達が揃ってるなんて珍しい。

 

「一夏のことなのだ……」

 

「一夏の?」

 

「ああ。最近、あいつも強くなるために努力している」

 

「そうらしいな」

 

剣道部に強制入部になってからも、より一層訓練に力を入れるようになったとか。情報源はのほほん。

 

「ただ、な。その分私達と一緒にいる時間が減ったというか……」

 

「つまり?」

 

 

「もっと一夏とイチャイチャしたい。何かアドバイスをくれ!」

 

 

「「は?」」

 

ハーレムの面々が頷く中、俺も簪も開いた口が塞がらない。

 

「わたくし達、もう限界ですの……!」

 

「もっと一夏と……!」

 

「嫁と……!」

 

「もっとイチャイチャしたいのよぉ……!」

 

見事に本音ダダ漏れである。う~む……

 

「でも、凰さんは……」

 

「ん?」

 

簪、凰がどうしたって?

 

「学園祭の夜、織斑君と「わぁぁぁぁぁ!!」

 

「鈴さん……?」

 

「一夏と、どうしたって……?」

 

途端に凰に視線が集中する。

 

「べ、別に何も――」

 

 

「織斑君に告白されて、キスしてた」

 

 

「何で知ってるのよぉぉぉぉ!?」

 

 

「り、鈴さんが……」

 

「一夏に、告白された、だと……」

 

驚きの新情報に、凰以外の一夏ハーレムが崩れ落ちる。その凰も、顔を真っ赤にして蹲ってしまった。

 

「というか、どうして簪がそんなこと知ってんだ?」

 

「本音から聞いた。生徒会で見回りしてる時に偶然見掛けたって」

 

「凰も、一番見られちゃいけない奴に見つかっちまったのか……憐れな」

 

そうなると、正妻戦争・織斑杯は凰の勝ちか。

 

「ま、まぁ、鈴の話は後で聞くとして」

 

「忘れていいわよ!」

 

一番先に正気を取り戻したデュノアが話を進める。

 

「何かいいアイディアないかなぁ?」

 

「いいアイディアなぁ……おっそうだ」

 

そういえば、こっち(外史・IS)に来た時の荷物の中に、それっぽいものがあったな。確か拡張領域にまとめて入れてて……これだこれだ。

拡張領域から目当てのものを出して、テーブルの上に置く。

 

「これ、香炉?」

 

テーブルの上に置いたのは、10cm四方ほどの大きさの香炉だ。

 

「この中に入ってるお香を焚くんだ。一夏と一緒にいる時にな」

 

「そうすると、どうなるの?」

 

「それはやってみてのお楽しみだ。少なくとも毒じゃない、それは保証する」

 

「ええ……でも、今は藁にも縋ってみるよ」

 

若干不安そうな顔をしつつも、最後には香炉を手に取るデュノア。

 

「使用上の注意としては、一夏とお前達だけの時に使うこと。それと、香が外に漏れないように窓とかちゃんと閉めておくこと。そんぐらいか」

 

「分かったよ」

 

頷くと、デュノアは他のハーレム達を連れて食堂を出て行った。

 

「陸、あのお香って何なの?」

 

「ああ、あれは麝香って言ってな」

 

「じゃこう?」

 

「雄のジャコウジカの腹部から取れる分泌物から作った香料なんだが……」

 

「なんだが?」

 

 

「要は媚薬だ」

 

 

「び、媚薬?」

 

いやもう、いっそのこと全員一夏に()()()()()()()()いいんじゃね? どうせ将来的には重婚すんだろ? 一夏に限って、一夜ヤッてポイ捨てなんてあり得ないだろうし。

 

「そ、そんなことして、もし間違いが起こっちゃったらどうするの?」

 

「間違い? ……ああ、妊し「言わせないよ?」それなら大丈夫だ」

 

「え?」

 

「この前の一夏の誕生日にプレゼント送っただろ?」

 

「う、うん……私と陸の2人分を、篠ノ之さんに渡したけど……」

 

 

「俺からは『近藤さん』を渡しておいた」

 

 

「り、陸?」

 

『家族計画』『近藤さん』つまりゴムだな。

頑張れ一夏。5人相手は大変だろうが、いつかは通る道だ。(他人事)

 

ーーーーーーーーー

 

「陸……」

 

夜、いつものように簪がベッドの中でハグしてくる。

 

「どうした?」

 

「私、決めた」

 

「決めたって、何を?」

 

 

「陸に"抱いて"欲しい」

 

 

「ぶっ! ゲホッ! ゲホッ! な、何言い出すんだ馬鹿野郎!?」

 

突然何を言い出すんだよ!? 一夏ハーレムと張り合う必要はねぇんだぞ!?

 

「私はずっと、()()なってもいいと思ってたんだよ?」

 

「簪?」

 

「もっと陸に求めて欲しかった。心身共に繋がりたかった」

 

ぐぅっ! そ、そんな目で見るな!

 

「だけど今日の話を聞いて、もう待つのは止めた」

 

――ぐいっ

 

「ちょ!?」

 

なんで俺の寝間着の下に手ぇかけてんだよ!?

 

「陸が草食系なのが悪い。今日から私が肉食系になる」

 

「簪!? ちょっと待て落ち着け! そういうのはんぐっ!」

 

「んっ、ちゅっ……」

 

簪の舌が、口の中に……

 

 

「陸の愛、ちょうだい」

 

 

簪のそのセリフと、どこからともなく出して来たもの――『近藤さん』――に、俺の中の理性、最終防衛ラインが突破された。

なんでお前が『近藤さん』持ってんだよ……。俺だって男なんだ。我慢の限界ってもんがあるんだぞ?

 

「……本当に、いいんだな?」

 

「うん……///」

 

頬を赤く染めながら頷く簪の上着に手をかけて――

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

その後については割愛させてもらう。ただ言えるのは、翌朝足腰が立たなくなった簪に

 

「陸の、ムッツリ肉食獣……」

 

との言葉をもらったということだ。簪のご両親に顔向けできねぇ……。責任取る気はあるけど。

 

 

 

そうして、足腰の立たない簪をおんぶして登校するという恥ずかしい真似をしつつ、教室に入った俺は

 

「「「昨晩はお楽しみでしたね?」」」

 

ものの見事に、クラス中から揶揄われたのだった。

 

だが、その後のほほんからのメールで、俺と簪は戦慄することになる。

 

『今日の1組、おりむー以外専用機持ちが欠席だって~。何かあったのかな~?』

 

一夏以外が欠席? それってつまり、一夏は5人相手にして……

 

「「一夏(織斑君)はバケモノか……!?」」

 

どうやら肉食獣の称号は、俺より一夏が相応しいようだ。……一人の男として負けた感じするのは、気のせいだと思いたい。




ちょっと遅めの卒業シーズンです。(下品)

ハーレムするなら、行くとこまで行っちまえよという作者の考えからこうなりました。
う~む、評価とかお気に入り数が減りそう……。でもやりたかったからやった。後悔はちょっとしかしていない。


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第74.5話 愛欲と愛情

何故だ……微エロネタ出したら評価が下がるどころか、逆に上がっただと……!?
エロがお気に入り登録を産むなら、みんな(一夏視点)書くしかないじゃない!

今回だけ突発更新です。(いつもは月~金に更新)

4/1追記
誤字直してたらコピペが暴発してました。申し訳ねぇ!
現在は修正済みです。やらかしたぁ……


「ねぇ一夏、この後部屋にお邪魔していい?」

 

寮の食堂で晩飯を食べてる時に、シャルが俺に尋ねて来た。

 

「この後か? 一体どうしたんだ?」

 

「実はお香をもらってね、みんなでアロマセラピーをしたいなって」

 

「みんな?」

 

口の中のものを飲み込んで見渡すと、箒達も頷いた。つまり、ここにいる全員が部屋に集まるってわけか。

 

「俺はいいぞ。箒もいいんだよな?」

 

「ああ、むしろ発起人は私とシャルロットだ」

 

「そうなのか?」

 

箒がアロマとか意外だな。

 

「こっちで何か用意しておく物とかあるか?」

 

「大体の物は用意してあるから、香炉を置く台だけ用意してもらえる?」

 

「分かった」

 

ベッドの横にあるサイドテーブルでいいだろう。そう考えながら、俺は塩鮭定食を食べ進めていった。

 

ーーーーーーーーー

 

晩飯を食べ終わって部屋に戻ると、箒が部屋の中央にあるものを退かして、そこに俺がサイドテーブルを移動させた。

 

「こんなものか」

 

「ああ、サイドテーブルを囲む形にすれば、全員が座れるだろ」

 

――コンコン

 

「お邪魔するわよぉ」

 

「お邪魔しますわ」

 

丁度いいタイミングで鈴とセシリアがやってきて

 

「香炉持ってきたよー」

 

「マッチの準備もOKだ」

 

シャルとラウラも来て、これで全員が揃ったな。

 

「あ、そこに置けばいいのかな?」

 

「ああ、このくらいの広さで足りるか?」

 

「うん、大丈夫だよ」

 

シャルが、持ってきた小さな焼き物をサイドテーブルに置いた。これが香炉ってやつか。なんか、取っ手のある線香立てに蓋を乗せたみたいな感じだな。

その蓋を開けると、中には細かい小石のようなものが入っていた。

 

「これがお香、ですの?」

 

「そうみたいだね」

 

「これに火をつけて、お香を焚くのか」

 

「よし、火をつけるぞ」

 

みんなを代表してラウラがマッチに火をつけると、お香の上に置いて蓋を閉める。少しして、甘い粉っぽい香りが立ち込めてきた。

 

「へぇ、面白い匂いだねぇ」

 

「そうですわね。少し粉っぽいのがあれですが」

 

「ふわぁ……」

 

「おい鈴、何変な声出して……あれ……?」

 

おかしいな、なんか暑いぞ? 空調の設定間違えたか?

 

「なんか、暑くなってきたな……」

 

「そうですわねぇ……」

 

「うむ、暑い……」

 

「僕、汗かいてきちゃったよ……」

 

どうやら暑いと感じてるのは俺だけじゃないみたいだ。もう夏ってわけじゃないのに、おかしいな……。

 

「季節外れだけど、冷房つけるか……」

 

ぼんやりした頭を何とか働かせて立ち上がり、空調のリモコンに手を伸ばそうとした、その時

 

――ガバッ

 

「う、うわぁ!」

 

誰かに背中を押されたのか、バランスを崩してベッドに倒れ込んでしまった。

 

「一夏ぁ……」

 

「り、鈴、危ないだろ――っ!?」

 

振り向いて鈴を見た途端、動悸が止まらなくなった。鈴の潤んだ目から、艶めかしい唇から、目が離せない。どうしちまったんだ俺は……?

 

「一夏さぁん……」

 

「一夏、僕もぉ……」

 

「セ、セシリア……シャルも……」

 

いつの間にか俺は、胸元に鈴が乗り、両腕をセシリアとシャルに掴まれて、身動きが取れなくなっていた。

 

「一夏……」

 

「私も……」

 

「箒……ラウラ……」

 

みんなおかしくなってる。なのに、抵抗できない……。

 

「一夏……ん……」

 

「んんっ!?」

 

鈴からキスをされて驚く。それだけじゃない、鈴の小さな舌が伸びてきて、俺の口内を嘗め回してくる。

 

「鈴ずる~い! 僕達も~」

 

「シャルロットさん、わたくしも……」

 

「ふ、二人とも止め――」

 

「一夏はこっちに集中するのぉ」

 

鈴に口を塞がれてる間に、セシリアとシャルに上着とシャツを脱がされ

 

「ウフフフ……わたくし達が」

 

「気持ちよくしてあげるよ……」

 

左右から、上半身裸になった俺の胸をチロチロと舐めてくるのが、気持ちいい。こんなこと、ダメなはずなのに……。

 

「むぐぅ……ぷはっ! どうして、こんな……」

 

「一夏は心配しなくていいんだ」

 

「そうだ、これは私達が望んだこと、だから……」

 

箒とラウラも負けじと、俺の頬を舌でなぞりながら耳元まで唾液のラインを引いていき、そして

 

 

「「私達を、抱いてくれ」」

 

 

その一言で、俺の理性は崩壊した。

ベッドの下に隠すように放っていた、あの馬鹿()からの誕生日プレゼントを乱暴に開けると、俺は――

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

気付いた時には、香炉の火は消えていて、それどころかカーテンの隙間から日の光が入って来ていた。夜が明けていたらしい。

そして周りを見渡した時、その惨状に俺は頭を抱えていた。

 

「俺、なんて最低なことを……!」

 

ベッドシーツの中央に広がった、大きな赤い染み。一糸纏わぬ姿の箒達。床に散乱している、小さい水風船のようなもの。その"水風船"を見て、ある種の間違いは起こらなかったと安心した自分を殴りたい……!

 

「んん……一夏ぁ……?」

 

「り、鈴……」

 

恐る恐る声のする方を向くと、そこには鈴の顔が――

 

「何怯えて顔してんのよ?」

 

「いや、だって俺、鈴にもみんなにも、とんでもないこと……」

 

「ばーか♪」

 

――チュッ

 

「!?」

 

「昨日のことは、あたしも含めてみんなが望んでたことなのよ」

 

「みんなが、望んで……?」

 

「も、もちろん、恥ずかしかったけど///」

 

「そうですわ」

 

「うん。まさか一夏が隠れ肉食系だったのはビックリしたよ(というか宮下君、あのお香がこんな効果だなんて聞いてないよ……!)」

 

「だが、なんだ……これが"嬉しい"というものなんだろうか」

 

「そうだな。やっと、その、一夏の女になれたというか……」

 

みんな次々に起きてきて、そんなことを言い出す。

 

「だから一夏?」

 

 

「「「「「ちゃーんと責任、取ってね(くださいまし)(くれるな?)」」」」」

 

 

ここまで言われたら、もう、こう言うしかないじゃないか……

 

「……当たり前だ。みんな"俺の女"なんだろ?」

 

「「「「「一夏ぁ(さん)!♡」」」」」

 

のしかかった5人分の重さ。たぶんこれが、幸せの重さなんだろう。これからずっと、この重さを感じていたいと、心から思った。

 

 

 

 

「こ、腰が……」

 

「うぐぅ……! た、立てない……」

 

「起き上がれませんわ……」

 

「い、一夏が何度も頑張るから……」

 

「あはは……僕もダメみたい」

 

箒達は文字通り、足腰立たなくなっていた。いやまぁ、箒達が愛おしくて、何度も致したのは俺なんだけど……。




いっくん、肉食獣に目覚めるの巻。オリ主からのプレゼント『近藤さん』に気付いていたので、避妊には成功しています。もし失敗してたら、ちーちゃんの胃腸は死んでた。間違いなく。

そしてこれ書いてて、自分にR18は無理だなと確信しました。


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第75話 ISコアの秘密

本当に評価が上がってしまった……。
みんな露骨すぎるぞぉ! そんなにエロが好きか!? ……自分も嫌いじゃないですけどね。


本日のタッグマッチの練習は中止になった。一夏ハーレムの面々が全滅している上、簪も放課後になってやっと自力で立てるようになったものの、この状態で織斑先生とのスパーリングなんぞ無理に決まってる。そして

 

「陸君……簪ちゃんに何したのよ……?」

 

「そうだ宮下、お前は織斑に何を吹き込んだ?」

 

生徒指導室で、楯無さんと織斑先生から尋問を受けていた。ちなみに、簪と一夏も一緒だ。

 

「まず簪に何をしたかですが……ご想像にお任せします」

 

「陸君!?」

 

「そして一夏に対しては、直接は何もしてません」

 

「……直接は?」

 

「篠ノ之達が『もっと一夏とイチャイチャしたい』と相談してきたので、持ってた麝香をあげました」

 

「麝香って……お前、それ媚薬だろう!?」

 

「あれ、やっぱりお前の仕業だったのか! 昨晩あのお香を部屋で焚いたら、箒達が……うぅ……」

 

「ちゃんと平等に愛してやったか?」

 

「やめろ馬鹿野郎ぉぉぉ!!」

 

聞かれたから正直に話したら、楯無さんと織斑先生は頭を抱えて悶絶。一夏は昨晩の事を思い出したのか、叫んだ後に顔を真っ赤にしてそのままフリーズした。

 

「ちなみに簪に関しては、俺が押し倒されました」

 

「そうだけど、その後は陸が肉食だった」

 

「否定はしないが、簪も結構な肉食だっただろ」

 

「う~……だって陸が「そんな赤裸々に話さなくていいから!」

 

楯無さんが顔を真っ赤にして、簪のセリフをインターセプトする。うん、そうなると思ってたから、敢えて話した。

 

「か、簪ちゃんが、こんなエロネタOKな子になっちゃうなんて~……」

 

「お姉ちゃんだって、『姉妹丼』とか言ってたのに」

 

「あ、あれは、ちょっとした冗句と言うか、その……」

 

昨日の事を指摘されて、両手で顔を覆いながら俯いてしまった。そういうところだけ純情か。

 

「二人共お願いだから、そういうのは隠してよぉ……」

 

「「善処します」」

 

「確約してよぉ!」

 

楯無さんに言われるまでもなく、今回限りだって。そう何度も夜の営みを誰彼構わず言う気はない。

 

「ちょっと待て」

 

先ほどまで話に入って来なかった織斑先生が、再起動して突然声を上げた

 

「宮下が篠ノ之達に媚薬を渡して、それを織斑に使ったんだな?」

 

「たぶんそうでしょうね。なぁ一夏?」

 

「俺に振るなよ……」

 

「織斑、どうなんだ?」

 

「それは……はい、箒達5人と使いました……」

 

「つまり、織斑は……一夏は、5人を相手にして……?」

 

今更気付いた事実に固まる織斑先生に

 

 

「やったねちーちゃん。義妹(かぞく)が(一度に5人も)、増えるよ」

 

 

「。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。おい馬鹿やめろぉぉ!!」

 

 

止めを刺しておいた。

 

「陸、お前ぇ……」

 

「ところで一夏、俺がお前に送った誕生日プレゼント、気付いてくれたか?」

 

「気付いたわ馬鹿野郎! 『近藤さん』10箱セットとか、頭湧いてんじゃねぇか!?」

 

そうか良かった良かった。ちゃんと『家族計画』は実施できたわけだ。

 

「そもそもお前が、あいつらに寂しい思いをさせてたのが事の発端だろうが」

 

「うぐっ……」

 

「なら、ここらで男を見せるべきだったと、俺は思うんだがな」

 

「……本音は?」

 

「見てるこっちが焦れったいんださっさとニャンニャンして名実ともにハーレム作ってろ」

 

「陸ぅぅぅぅぅ!!#」

 

おっとつい本音が。

 

「それじゃお疲れ様でーす!」

 

「陸、抱っこ」

 

「あいよー」

 

まだ歩行が覚束ない簪をお姫様抱っこすると

 

「あ、おい宮下!」

 

「陸君!?」

 

「おい待て陸!」

 

颯爽と生徒指導室から逃走するのだった。

最近、お姫様抱っこぐらいじゃ恥ずかしくなくなってる俺がいる。……愛ってすげぇな(白目)。

 

ーーーーーーーーー

 

その日の夜、寮の部屋に珍客が来ていた。

 

「……一体どうした?」

 

「ちょっとね……」

 

「鼻血?」

 

簪が言うように、いつものように突然やってきた束の鼻には、鼻血でも出たのかティッシュが詰められていた。

 

「……ああ」

 

「簪?」

 

何か納得したかのように頷くと、簪は束の肩に手を置いて

 

「妹さんと織斑君の致すところ、見ちゃったんですね?」

 

その一言に、束の全身がビクンビクンと跳ねる。え、束、まさか一夏の部屋を盗撮してたん? で、昨日のニャンニャン現場を見ちゃったと。

 

「な、なななな、何のことかなぁ!?」

 

うわー、顔真っ赤にして視線もあっちこっち彷徨って、全然隠せてねぇ。

 

「妹の情事を覗き見する変態姉ちゃんか」

 

「変態言うなぁ!」

 

涙目になって叫ぶ束を見て加虐心が芽生えそうになるが、あんまり引っ張るのも可哀想か。

 

「それで、今日は何用だ?」

 

「うぅ……りったんに見せて欲しいものがあったんだよぅ……」

 

「見せて欲しいもの?」

 

束が見たがるものとか、そんなもん持ってたっけ?

 

「ちーちゃんから聞いたけど、前にISコアのパチモンを作ったんだって?」

 

「パチモン……ボーデヴィッヒさんにあげたやつ?」

 

「ああ、あの劣化版か」

 

夏休み明け、アラスカ条約に条文が追加された辺りからすっかり忘れてた。

 

「パチモンとはいえ、5割近い性能があったって聞いて、どんな作りしてるのか気になっちゃってね」

 

「実物が無いから設計図だけになるが、いいか?」

 

「もち!」

 

俺は端末から劣化版ISコアの設計図を引っ張り出すと、束の端末にデータを送った。こうやって近距離だと、ネットを経由しなくても送受信が出来て楽だよな。

 

「どれどれ~……」

 

設計図を読み進めていく束だったが、途中からどんどん表情が曇っていく。そして読み終わったのか、端末から顔を上げると

 

「どうしてこれで5割も動くのか分からない……」

 

その目にはハイライトが無かった。

 

「ねぇりったん、どうしてこのコア、時結晶(タイム・クリスタル)無しで動いてるの? おかしいよ……」

 

「時結晶?」

 

「ISコアの根幹になる鉱物だよ!」

 

「そんなのがあるのか。ああそうか、あのブラックボックス部分はこいつだったのか。どうりで再現しようとしても無理が出てくるはずだ」

 

そんな未知の物質を使ってるなら、完品なんて出来るはずねぇよな。

 

「つ、つまりりったんは、既存の物質であれを再現したの……?」

 

「そうなるな。もっとも、見ての通り完全再現は出来なかったがな」

 

「(PД`q)かんちゃ~ん! りったんおかしいよ~!」

 

「知ってます」

 

束がひでぇこと言いながら簪に泣きつき、簪も即肯定しやがった。解せぬ。

 

「でも、そんな物質があるなんて聞いたことない」

 

「俺も無いな」

 

確か教科書にも書いてなかったはずだ。

 

「それはそうだよ。だってISコアが時結晶で出来てることとか、ルクーゼンブルクっていう国でしか時結晶は取れないこととか、ちーちゃんを含めた数人しか知らないことだもん」

 

「……その"数人"の中に、私と陸も今入っちゃったんですけど?」

 

「これで二人とも、ISコアを作れるよ」

 

「私は作りませんから……」

 

「作りたいのは山々なんだがなぁ……」

 

ルクーゼンブルクか……名前の響きからして欧州方面の国なんだろうが、さすがに採掘しにはいけないな。束が言うように数人しか知らないなら、売ってもくれないだろうし。

 

「ところで陸、この劣化版ISコアをデュアルコアとか出来ないの?」

 

「無理だろうな」「無理だね」

 

簪の案は俺も考えたが、やっぱり束も不可能と断言するか。

 

「作ったりったんの前で言うのもあれだけど、このパチモンは人間で言えば『半端者』なんだよね。それを2人揃えたら1人前の仕事が出来るかと言えば、答えはノー。お互い足を引っ張って、逆に単体より性能が落ちるね」

 

「簪の弐式でデュアルコアが成立するのは、使用してるコアがどっちも正規品、1人前の仕事が出来るやつを揃えてるからなんだよな」

 

打鉄弐式の場合、操縦と火器管制をそれぞれのコアに分担させてるから、あれだけの性能を発揮出来てるわけだ。それを劣化版にやらせても、大した成果は出ないだろうよ。

 

「それに、劣化版コアは製造禁止令が出てるだろ。お前と織斑先生から」

 

「うん、だから聞いてみただけ。あれを作ったらまた大騒ぎになるから」

 

「りったんも大変だね~……そうだ!」

 

ハイライトが戻って来た束が、エプロンドレスのポケットから何かの鉱石を取り出した。もしかして、これが?

 

「これが時結晶だよ。はい」

 

「お、おう」

 

実に軽いノリで渡されたそれを受け取る。見た目は色の薄い紫水晶みたいだな。

 

「それじゃ、頑張って作ってみてね。ISコア」

 

「え? くれるのか?」

 

「束さんのラボには在庫がいっぱいあるからね。それに、りったんが完品を作れるか興味もあるからね」

 

「あの、陸にはコアの製造禁止令が……」

 

簪が止めようとするが

 

「"劣化版コア"は、だよね? これから作るのは正規品だから、対象外なのだ~」

 

「へ、屁理屈を……陸ぅ!」

 

束の重箱の隅をつつく攻撃で撃沈したかと思いきや、矛先がこっちに来やがった!

 

「簪……」

 

分かってる。お前が何を言いたいかはよーく分かってるつもりだ。けどな、

 

「……ダメか?」

 

某消費者金融のCMに出て来たチワワのような瞳でお強請りしてみる。だって作ってみたいやん、完全なISコア。

 

「ぐぅぅぅ……! その瞳は卑怯……!」

 

結局簪が折れて、俺は時結晶を手に入れた。ただし、束が帰ったあと滅茶苦茶簪に搾り取られた(意味深)。そしてまた翌日、簪をおんぶして登校した。




簪の肉食化が止まらない。というか、2夜連続とか正気か?(下品)

ISコアの原料をもらうの巻。感想欄で『オリ主まだ1からIS組んでないやん』との指摘をいただきまして、どうせならコアから作ってしまおうと、当初考えてたシナリオを捻じ曲げました(白目)。そういえば、ここまでの登場人物の中に、公式外伝で専用機に乗ってた奴がいたなぁ……。


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第76話 九尾の熾天使

簪をハブる言ったな、あれは嘘だ。



篠ノ之博士に時結晶をもらってから、陸の様子がおかしい。そして私は腰が痛い。

早朝に素振りをしに行ったと思ったら、木刀を持っていってなかったり、夜は夜で、私がお風呂に入りに行って戻ってくると部屋にいなかったり。

何をしているんだろうと思ってたら、すぐに本人から解答がやってきた。

 

ーーーーーーーーー

 

「新しい専用機を紹介する」

 

「「「「「は?」」」」」

 

放課後のアリーナで陸の爆弾発言に、私やお姉ちゃん、織斑先生はもちろん、織斑君とハーレムのみんなも固まった。

 

「り、陸? 新しい専用機って……」

 

「この前束からもらった材料でコア作ったから、勢いで機体も作ってみた」

 

「作ってみた、じゃなぁぁぁぁい!!」

 

織斑先生が陸の肩を掴んで、ガックンガックン揺さぶる。目が血走ってます先生。

 

「そ~れ~じゃ~あ~、き~て~い~い~ぞ~」

 

先生にシェイクされながら、陸が手を挙げて誰かに合図を出す。

 

陸に呼ばれて上空から降りて来たのは、訓練機とは違うISだった。

大型のカスタム・ウィングが2基に、尻尾のようなブレードが1,2,3……9本、さらに背部にも砲塔が6門付いた、紅白の機体に乗っていたのは……

 

 

「じゃじゃ~ん!!」

 

 

「ほ、本音!?」

 

私の幼なじみ兼従者の本音だった。私、何も聞いてないんだけど……。

 

「改めて紹介するぞ。のほほんの専用機、『九尾の熾天使(ナインテール・セラフ)』だ」

 

「ナインテール……」

 

「セラフ……」

 

織斑君を筆頭に、本音の専用機に目が釘付けになってる。

 

「武装は機体名にもなってる9本のテールブレードに、背部6門の速射型荷電粒子砲。遠近どちらでも戦える万能型だ。一応大型スラスターが付いてるが、どちらかといえば固定砲台型だな」

 

「陸君、なんてものを……」

 

「ちなみに、今回のISコアは劣化版じゃないから、製造禁止令に引っかからないって束に教えてもらった」

 

「束ぇぇぇぇぇぇ!!」

 

握り拳で呪詛を叫ぶ織斑先生が、某国の総統閣下と被る。

 

「さて織斑先生、専用機が1機増えたんで、タッグマッチが1人あぶれちゃいますねぇ」

 

「み、宮下……お前まさか……」

 

()()1()()いれば、もう1組作れるんですけどねぇ?」

 

「陸……」

 

もしかして、そのために……?

 

「ぐぐぐ……はぁ、分かった。更識妹も参加しろ」

 

「それじゃあ……」

 

「ただし! お前は布仏と組むように!」

 

「そうですよね~……」

 

さすがに、今から陸と組み直しは出来ないよね……。

 

「かんちゃん、よろしくね~」

 

「うん、頑張ろうね本音」

 

「更識さんも参加されるんですの……?」

 

「まずいわね……」

 

「布仏とペアならまだ何とかなるか?」

 

「いや、無理だろう……」

 

ニコニコ笑顔の本音に対して、一夏ハーレムの面々は顔真っ青。そんなに私怖い……?

っていうか陸、私の記憶違いじゃ無ければ、篠ノ之博士に時結晶もらってから2日しか経ってないはずなんだけど……。しかも新しい専用機の資材、どこから……?

 

「もちろん、GNドライブを使用禁止にさせてもらうぞ」

 

「分かりました」

 

実戦形式とはいえ、GNドライブを、弐式の全力を出す必要はないと思ってるから、無条件に頷いた。全力を出すのは返り血を浴びる時……陸を守る時って決めているから。

 

ーーーーーーーーー

 

ノリと勢いで作ったのほほんの専用機だったが、動作確認も兼ねた模擬戦をやってみたものの

 

「や~ら~れ~た~」

 

何となく分かってはいたが、まさか一夏にすら負けるとは……。

 

「のほほんさんの荷電粒子砲、余裕で躱せたんだが……」

 

「1発として当たりませんでしたわね」

 

「というか、掠りすらしなかったね」

 

そう、6門の荷電粒子砲を、のほほんは尽く外していた。テールブレードには自動防衛モードを付けてたから、操縦者は砲撃だけに専念できる仕様にしてたんだが……。

最後には弾切れを起こしたところで、一夏がテールブレードの防衛網を掻い潜って零落白夜で勝ちを拾ったわけだ。

 

「のほほんは一夏と一緒に、射撃の訓練が必要だな」

 

「うん、頑張る~」

 

「俺も頑張るかぁ……」

 

さっきのを見てたから分かるが、こいつ全然自分の荷電粒子砲撃って無かったからな。本番はさておき、せめて模擬戦では試すぐらいしろよ。以前ボロクソに言ったの俺だけど。

 

「僕とセシリアが教えるね」

 

デュノアとオルコットに先導されて、のほほんは一夏と一緒にアリーナの端の方へ。

次の試合は……

 

「宮下のバカヤロォォォォ!!」

 

「お、織斑先生! 私に当たらないでぇ!」

 

織斑先生が半泣きで刀を振り回して、それを簪が夢現で頑張って受け流す構図になっていた。ていうか先生、未改修打鉄でよく弐式の機動について来れるな。

 

「簪ちゃんが参加かぁ……。お姉さんとしては嬉しい誤算ね」

 

「ただ、ケイシー先輩でしたっけ? キャノンボール・ファストで簪とやり合った3年の。あの人にとってはトラウマが強化されそうですね、知らんけど」

 

「何言ってるの陸君? あんな天使な簪ちゃんでトラウマになるわけないでしょ?」

 

「アッハイ」

 

笑顔の圧が凄いです楯無さん。顔近い近い怖い。

 

「もう嫌だぁぁぁ! 今日はこの後真耶と酒飲んで寝るぅぅぅ!!」

 

「ならもう止めましょう!?」

 

八つ当たりからただの愚痴にクラスチェンジした織斑先生が、徐々に簪を押し始めた。いくらGNドライブ未起動の状態とはいえ、マジかよ。

 

「織斑先生~、調子はどうですか~?」

 

「あ、山田先生」

 

「ほら織斑先生、お迎えが来ましたよ!」

 

弐式を解除した簪に促されて、織斑先生もしぶしぶ刀を仕舞うと、打鉄から降りて

 

「真耶~! これから飲むぞ! さあ飲むぞ!」

 

「お、織斑先生!?」

 

あ~あ、山田先生を拉致って行っちまった。せめて打鉄を元の場所に戻してからにして欲しかったんだが……。

さて、次は俺なんだが、対戦相手は

 

「そういえば最後に模擬戦したのは臨海学校の前か」

 

「そうなるわね。言っとくけど、手加減はしないわよ」

 

最近の模擬戦じゃ、大抵相手は一夏かオルコットだったからな。凰と戦うのはホント久々だ。

 

「それじゃ、いっくわよぉぉ!」

 

そう言って、開幕凰がぶん投げて来た青龍刀を横移動で回避する。あっぶな!

 

「次ぃ!」

 

「うわっ! マジかよ!?」

 

青龍刀がもう1本あるのは知ってたが、そっちも投げるのかよ! で、最初に投げたのが弧を描いて戻って来るとかアリか!?

そうして後ろから迫って来た青龍刀を回避すると、凰はそいつをキャッチした勢いで独楽のように1回転して、その勢いでまた投擲。

しかもそれだけじゃなく

 

――ドォォォンッ!

 

「いってぇ!」

 

「ほらほら! 双天牙月にばかり気を取られてると、ぶっ飛ばすわよ!」

 

衝撃砲も追加で飛んできて、凰に近付けたもんじゃねぇ。ぶっちゃけ、一夏ハーレムの中じゃボーデヴィッヒの次に強いのでは?

そんなことをやってる内に、SEがゴリゴリ削られて

 

「とどめぇ!」

 

「ぐあっ!」

 

最後は衝撃砲と青龍刀の挟み撃ちにあって敢え無く負けたのだった。臨海学校前よりは保ったほうだが、やっぱ手数に押される負け方になっちまったか。

 

「あたしは中国の代表候補生なのよ? 相手が男だからって理由で負けてやるわけにはいかないわ」

 

「ベッドの上では一夏にボロ負けだったんだろうに(ボソッ)」

 

「にゃ、にゃに言ってんにょよ!?」

 

途端に顔を真っ赤にして、凰はアリーナの壁に向かって走り出して

 

「この馬鹿ぁぁぁぁ!」

 

壁を蹴った反動で、俺に向かって鷹爪三角脚(とびげり)だとぉ!?

だが躱す。

 

「な、ぎゃあぁぁぁぁ……!」

 

目標を失った凰は着地に失敗して、勢いそのままにアリーナの地面をゴロゴロ転がっていった。

さて、次の試合を見るか。

 

「くっ、やはり強い……!」

 

「こちらはラウラと2人掛かりなのに……!」

 

「ウフフ、簪ちゃんには一度後れを取ったけど、これでも学園最強だからね♪」

 

篠ノ之・ボーデヴィッヒと楯無さんという2対1にも関わらず、篠ノ之達が押されている。

 

「箒! 誘いこまれているぞ!」

 

「な、ぐっ!」

 

そしてやはりというか、楯無さんは実戦経験の少ない篠ノ之を、時にガトリングで、時に体さばきで誘導することで、ボーデヴィッヒにフレンドリーファイアを誘発させようとしている。もちろんボーデヴィッヒも馬鹿じゃないから、そうそうフレンドリーファイアなどしない。だが、そうなると篠ノ之を避けて攻撃することを強要されることになる。精神的負担を負わせる作戦なんだろう。

 

「これまでか……」

 

「無念だ……」

 

そして一瞬集中力の切れたボーデヴィッヒが先にやられ、残った篠ノ之もジリ貧になり投了となった。

 

「ふぅ、これで学園最強の看板も守れたって(ガンッ)いったぁ!?」

 

「「えぇ!?」」

 

明後日の方向から飛んできた攻撃を頭から受けて、楯無さんが前のめりに倒れそうになる。待機状態にする前で良かったが……。

その場にいた全員が飛んできた方向を向くと、

 

「ご、ごめんなさい~……」

 

のほほんが、手のひらをすり合わせながら小さくなっていた。

 

「まさか、流れ弾がそっちに行くとは思わなくて……」

 

「ええ、アリーナの壁に向かって撃っていたはずなのですが、どうして……?」

 

のほほんに教えていたはずのデュノアとオルコットも謝りつつ、どうしてこうなったという顔をしていた。壁に向かってって……まったく逆方向に誤射したってことか? まさに、どうしてこうなった。

 

「ほ~ん~ね~……」

 

「うわぁぁぁぁ! ごめんなさい~!」

 

「待ちなさーい!」

 

どうやら楯無さん的には許すのは難しかったらしい。のほほんとの追いかけっこが始まった。お、のほほんのやつ、逃げるのに必死でうまく空中で鬼ごっこ出来てるじゃん。

と思ってたが、3分ほどで楯無さんに捕まり、憐れのほほんは両頬を引っ張られるお仕置きを受けたのだった。簪、まさか味方ののほほんに倒されるなんてことはねぇよな……?




というわけで、のほほんの専用機登場です。
原作(ISAB)では『九尾ノ魂』でしたが、本作ではカスタマイズしています。
某最終兵器に名前が似てる? (ヾノ・∀・`)キニシナイ

それに伴い、簪もタッグマッチに復帰です。やったねダリルん! トラウマが、増えるよ!(サイコパス笑顔)


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第77話 オリ斑一夏英雄化計画?

通常回を挟んで、次回からタッグマッチ開幕予定です。


『マァァァァベラス!!』

 

「だから声量下げろって前にも言っただろ駄女神ぃ!」

 

タッグマッチを明後日に控えたある日の晩、駄女神シギュンは無駄にハイテンションだった。

 

『ついに、ついに一夏様のハーレムが始動したのです!!』

 

「ああ、そうかい」

 

『大儀でした』

 

「なんか偉そう」

 

『偉いのです私は』

 

こんなのが神様とか、世の中間違ってると思う。どう考えても、ただの厄介オタクでしかないだろ。

 

『まぁ貴方のように女一人愛するのがやっとの男と一夏様とは、格が違うでしょうし理解ができないのも仕方ないことです』

 

ひでぇ言い様だな。確かにあの5人を相手してピンピンしてる一夏に対しては、ある意味格が違うとは思ってるが。

 

「シギュンさん?」

 

『なんですか眼鏡娘』

 

「陸の格が、何ですって?」

 

『……イエ、ナンデモアリマセン……』

 

「簪、ステイステイ」

 

なんか真っ黒なオーラが出てるから。通話先の駄女神を呪殺しかねないぐらい禍々しい気配が出てるから!

 

『わ、私を恐怖させるなんて……ロキってば、何が『人間って奴は面白い』ですか、全然面白くありませんわ……!』

 

簪にガクブルした事実は、駄女神のプライドを傷つけたらしい。今回関係ない怒りがロキを襲う――!!

 

「それで? アンタからしたら、もう一夏は最高の存在になったんじゃねぇのか?」

 

「最近の織斑君は訓練にも熱心になったし、ファンの子も増えてるらしいし、さらに篠ノ之さん達とも名実ともに恋仲になったし」

 

簪が挙げていったように、一夏は入学当初とは見紛うばかりに成長している(織斑先生談、なお本人には言うなと釘を刺された)。そして篠ノ之達を"抱いた"今、もはやかつての一夏はいない。織斑から『オリ斑』へと変貌を遂げたのだ。そういう意味では、『オリ斑育成計画』は成功したと言ってもいいだろう。

 

『いいえ! まだ足りないのです! 雄として(ひい)でるからこその英雄。一夏様が最高の存在、英雄になるためには、もっと多くの(つがい)が必要なのです!』

 

「……つまり、もっと一夏に女を抱かせろと?」

 

『有り体に言えば!』

 

ぶっちゃけたぞこの駄女神。

 

「言っとくが、俺は女衒じゃねぇんだ。一夏のことを好きでもない奴をくっ付ける気はねぇぞ」

 

確かに篠ノ之達を嗾けはしたが、それは一夏があいつらのことを意識してたからだ。じゃなかったら、あんな面倒なことしてねぇ。

 

「う~ん、織斑君を好きだって子はいるだろうけど、逆に織斑君が好きになりそうな子っていうと……」

 

「俺の認識では、五反田妹ぐらいじゃねぇか?」

 

以前レゾナンスで知り合った五反田蘭。脈があるとすれば奴ぐらいだろう。それにしたって、一夏が蘭の好意に気付いてるか正直怪しい。

 

「たぶん、凰さんと同じパターンな気がする」

 

「あ、それか」

 

『一夏様が目覚めたのが貴方と出会ってからですから、食堂娘に好意には気付いていない可能性が高いでしょう』

 

「食堂娘?」

 

『ええ。あの兄妹の実家は『五反田食堂』なるものを営んでいるそうなので』

 

「へぇ……」

 

弾達の家は食堂やってんのか。今度の休みに冷やかしがてら食いに行ってみるか。というか駄女神。お前『眼鏡娘』だの『食堂娘』だの、名前覚える気はさらさら無いのな。まるで束だな。

 

『あと脈があるとすれば、貴方達の学園にいるオッパイ魔人でしょう』

 

「お、オッパイ魔人?」

 

「……大体見当つくのが悲しいな」

 

「もしかして、山田先生?」

 

「それ以外いないだろ」

 

山田先生を頭の中で想像したのか、簪が納得した顔をしながら殺意のオーラを……ってやめぃ!

 

「……陸も、オッパイ大きい方がいいのかな……?」

 

「別に俺は、簪が何カップでもOKだが?」

 

「陸……」

 

『私の前でイチャラブするとか、いい度胸してますね……#』

 

おっと、出歯亀がいるのを忘れてた。

 

『というわけで、次はうまくオッパイ魔人を一夏様に嗾けてください』

 

「やるの前提かよ……」

 

「陸、織斑君の意思を確認してからやろう」

 

「当たり前だ」

 

さっきも言ったが、一夏が好きでもない奴を嗾ける気は無いし、やっても両方不幸になる未来しかないからな。

 

『……分かりました。詳細はそちらにお任せします』

 

めっちゃ不満そうな声を出しながら、駄女神との通話が終了した。あいつ、俺を一夏の世話役と勘違いしてねぇか? 奴に女を宛がう役目なんか負った記憶はねぇぞ。

 

「それにしても、山田先生かぁ……」

 

「なんだろうな、容易に想像できる組み合わせなんだが……」

 

俺の頭の中で、膝枕と胸部装甲のサンドイッチで一夏を甘やかす山田先生のシーンが再生された。うん、普通にあり得そう。

簪も俺と似た想像をしたのか、若干目のハイライトが消えていた。俺の嫁が時々怖い。

 

「陸」

 

「ん?」

 

――ポンポンッ

 

無言の簪に促されて、俺は膝枕を堪能(強制)したのだった。……簪さんや、横になってる俺の腹筋周りを弄るのは止めてくれ。めっちゃ手つきがエロいねん。

 

ーーーーーーーーー

 

翌日、寮の食堂で朝飯を食っていた俺達の目の前で

 

「一夏ぁ♡」

 

「あの、箒? 利き腕掴まれると飯が食べづらい……」

 

「いいなぁ箒」

 

「そういうシャルロットさんだって、一昨日はお楽しみでしたでしょうに」

 

「そうだぞシャルロット。順番だ」

 

「そもそも、喧嘩にならないようにってローテを決めたのはアンタでしょ」

 

ものの見事に、一夏ハーレムは爛れていた。

 

「みんな爛れてるよ……」

 

「かんちゃん、人のこと言えるの~?」

 

「私と陸は違う。愛欲じゃなくて愛情」

 

「何言ってるか分かんないよ~……」

 

ドヤ顔簪に呆れ顔のほほん。

 

「あ、みんな揃ってますね」

 

「山田先生」

 

食堂の入口で俺達を探してたのか、山田先生がこっちに近づいてきた。

 

「明日のタッグマッチですが、8時半までに第4アリーナに集合してください。当日くじ引きで対戦表を作ることになっています」

 

「当日決めるんですか?」

 

「はい。2学年と3学年には連絡済みで、あとは1学年だけだったんですが、みんな揃ってて良かったです」

 

「簪とのほほんが急遽参加することになったことも?」

 

「はい。それを聞いた3学年のケイシーさんが、何故か震えていましたが」

 

「「「「「残当」」」」」

 

「えぇ?」

 

一夏達の即答に、山田先生が困惑した顔をする。山田先生も簪と模擬戦すれば理解してもらえるかもな。

そうだ、ついでだから聞いておくか。

 

「山田先生」

 

「なんですか?」

 

 

「一夏の嫁になる気あります?」

 

 

「陸!?」「「宮下!?」」「「宮下君!?」」「宮下さん!?」

 

案の定、簪とのほほん以外から悲鳴のような声が出た。

 

「な、ななな、なにを言うんですかぁ!?」

 

山田先生が顔を真っ赤にして抗議するが……なんだろう、照れ隠しに見えるのは俺だけか?

 

「ちなみに一夏はどうなんだ?」

 

「それ聞くか!? 箒達がいる俺に聞くのか!?」

 

「じゃあ篠ノ之達は?」

 

話をハーレム連中に振ると

 

「これ以上嫁の嫁が増えるのは不本意だが……」

 

「一夏さんを好きになるのは仕方ないことですし……」

 

「僕達がダメとは言えないよ」

 

消極的肯定の声が。というより、『そこでダメって言ったら、私達はどうなの?』って話になって拒否れないというのが正しいか。

 

「あの、さすがに教師と生徒でそういうのはダメですから……」

 

「そうだぞ陸、俺と山田先生とか、あり得ないだろ」

 

「……」

 

山田先生、一夏にそう言われて悲しそうな顔するなら、そんな建前言わなきゃいいだろうに。

 

「お前達、何を騒がしくしている」

 

そんな中、さらに織斑先生が現れる。

 

「実はかくかくしかじかで……」

 

「……はぁ、どう考えても山田先生に迷惑がかかるだろ」

 

「そ、そうですよね!」

 

色々なことを誤魔化すように、一際大きな声で合の手を入れる山田先生。

 

「でも織斑先生、考えてみてくださいよ」

 

「何をだ?」

 

怪訝な顔をする織斑先生に、俺はまるで唆すように

 

 

「あの5人が先生の義妹になるのはほぼ確定として、そのまとめ役は誰がするんでしょうねぇ?」

 

 

「……っ!」

 

「あ、あの、千冬姉?」

 

俺の言葉でフリーズした織斑先生は、一夏に揺らされて再起動すると

 

 

「真耶! 不束な弟だが、よろしく頼む!」

 

 

「先輩ぃ!?」

 

 

まるで弟を嫁に出すかのような姉のセリフに、山田先生も学生時代に使っていたのだろう呼び方に戻っていた。

 

 

 

結局、山田先生は一夏ハーレムに加入せずに終わった。やはり『教師と生徒』という壁は大きいようだ。

それなら仕方ない、山田先生は縁が無かったということで。

 

『なぜそこで諦めるのですか!?』

 

……なんか駄女神の声が聞こえた気がしたが、気のせいだ気のせい。




ただ簪に膝枕をさせたい回だった……。
そして簪さん、とうとう駄女神すら凌駕する予兆が。今日の(も)簪は、阿修羅すら凌駕する存在だ!

山田先生は(作者が途中で血迷わなければ)一夏ハーレムには入らない予定です。あんまり増やすと収拾が……。


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第78話 全学年合同タッグマッチ~第1、第2試合~

タッグマッチ開催です。
亡国機業もゴーレムⅢもやって来ないので、決勝戦までキッチリやります。


タッグマッチ当日。第4アリーナで行うはずなのに、なぜか全校生徒がホールに集められた。

 

「それでは、開会の挨拶を楯無生徒会長からしていただきます」

 

壇上の虚先輩がそう言って、マイクを楯無さんに渡す。

 

「はーい皆、今日は専用機持ちのタッグマッチトーナメントですが、試合内容は生徒の皆にとって勉強になると思います。しっかりと見てください」

 

そこまでは良いんだが、その扇子に書かれた『博徒』の文字は何だ!?

 

「それはそれとして! 今回は生徒全員に楽しんでもらうために、生徒会でこんな企画を用意したわ! 名付けて『優勝ペア予想応援・食券争奪戦』!!」

 

わあああっ! と全校生徒が騒ぎ出す。マジかよ……。

 

「って、それ賭けじゃないですか!」

 

おおっ、ここからでも聞こえるぐらい大音量の一夏からのツッコミ。

 

「安心しなさい織斑君」

 

「え?」

 

「根回しはすでに終わってるわ!」

 

ドヤ顔の盾無さん。見渡すと、先生方から反対の声は出て来ない。織斑先生ですら、腕を組んで苦い顔を逸らしてる。

 

「それにこれは賭けじゃないの。食券を使って応援するゲームなのよ。そして優勝ペアを当てたら配当があるだけ」

 

「それを賭けって言うんですよぉ!」

 

「では、アリーナに移動しま~す!」

 

一夏のツッコミを華麗に無視して、全校生徒は会場に移動し始めたのだった。一夏、強く生きろ……!

 

ーーーーーーーーー

 

さて、ところ変わって第4アリーナ。到着と同時にくじを引かされて、リアルタイムで空中投影ディスプレイに対戦表が表示される。その結果――

 

============================================================================

 

第1試合 織斑一夏&シャルロット・デュノア VS 宮下陸&更識楯無

 

第2試合 セシリア・オルコット&凰鈴音 VS 篠ノ之箒&ラウラ・ボーデヴィッヒ

 

第3試合 布仏本音&更識簪 VS ダリル・ケイシー&フォルテ・サファイア

 

============================================================================

 

「初戦から陸と楯無さんかよ……」

 

「サクッと倒してやるわよ」

 

「ふっ、そううまくいくかな?」

 

「マジか……マジかよ……」

 

「ダ、ダリル! しっかりするっスよ!」

 

3年の先輩、完全にトラウマになってんな。

そしてどっかの生徒会長が更衣室に乱入してくるような珍事も無く、俺と一夏はそれぞれISを展開してピットを出て、それぞれのペアと合流していた。

 

「陸君、調子はどうかしら?」

 

「まずまずですね。一夏達には悪いですが、ウォーミングアップに付き合ってもらいましょうか」

 

「あら、勝つ前提で話をするなんて、余裕ね」

 

「勝たなきゃならんでしょう、簪達と当たるまでは」

 

今回のタッグマッチがトーナメント形式である以上、勝ち進まなければ簪達と当たらない。

 

「楯無さんだって、簪とのリターンマッチを望んでるんでしょう?」

 

「ふふっ、もちろんよ♪」

 

「シャル、何か俺達、軽く扱われてるんだが?」

 

「そうだねぇ、ちょっと許せないねぇ……」

 

おっと、一夏が頭に来たって顔してるな。デュノアは……なんか笑顔が怖いんだが。

 

「ここで陸達を倒して、みんなの予想をひっくり返してやるぜ!」

 

「その意気だよ一夏!」

 

「あらあら、意気込みは十分ね」

 

「なら、あとはぶつかるだけだ」

 

そして――試合開始のブザーが鳴ったと同時に、俺と一夏が鍔迫り合い、楯無さんとデュノアが銃撃戦となった。

 

――キャリリ……ッ! ヒュンッ!

 

「うぉっと!」

 

「ちっ、躱されたか!」

 

鍔迫り合いから長船の軌道を流されて、体勢が崩れかけたところへの追撃を何とか回避する。

 

「そうだった、お前も篠ノ之流だったな」

 

「おう。そういう陸も、学年別トーナメントで箒と戦ってたんだよな。そりゃバレるか」

 

そう、一夏の理合いは篠ノ之と同じ。対して一夏は俺のタイ捨流と最近対峙し始めた口だ。その差は小さくない。

 

「なら、これでどうだ!」

 

そう言って、いつものように上段から一夏が突っ込んで――

 

――ヒュッ ガキィィィンッ!

 

「ぬあっ!」

 

「くそっ! これも止められるか!」

 

止められるかじゃねぇよ! 一夏が、一夏が……!

 

「一夏が、フェイントを使い始めただと……!」

 

「いや、そこまで驚くか?」

 

「一夏がだぞ!? あの万年突撃しかして来なかった一夏がだぞ!? フェイントが卑怯っぽいとか頭お花畑なこと言ってた一夏がだぞ!?」

 

「驚くか貶すかどっちかにしろよ!!」

 

あ、やべ。怒りでブースト掛かり始めたっぽい。弄り過ぎたか……。

 

「けどな!」

 

――カァァァァンッ!

 

「なぁ!?」

 

そりゃ驚くだろ。まさかISで()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて、想像もしてなかっただろうからな。ちなみにこれは『足襲』っていう、正真正銘タイ捨流の技の一つだ。

 

「ツェァアアアアッ!」

 

――バシィィィン!

 

「ぐあぁっ!」

 

雪片弐型を弾かれてがら空きになった胴に、上段からの袈裟切りを叩き込まれた一夏が、アリーナ端まで吹き飛ばされる。

 

「くっそ!」

 

雪羅の荷電粒子砲で反撃するが、そう簡単には当たってやらん。いや、いくつか掠ったけど。そうしてる間に

 

「え、エネルギー切れ……」

 

「バカスカ撃ちまくるからだ。というか、模擬戦の時も雪片ばっか使って、そっちの練習をサボってたからこうなる」

 

「はい、ごもっともです……」

 

――ドドドドドドッ!

 

「う、うわぁぁぁぁぁ!!」

 

デカい爆発音とデュノアの悲鳴に顔を向けると、どうやら楯無さんの清き激情(クリア・パッション)で、デュノアが吹っ飛ばされたようだ。

 

「シャ、シャル!?」

 

着弾地点に一夏が駆け寄ると、そこには目を回しているデュノアがいた。然しもの『花びらの装い』も、全方位からの水蒸気爆発には耐えられなかったようだ。

 

「どうする一夏?」

 

「降参はしねぇよ。例え勝負が見えてても、最後までやるさ」

 

ちゃっかり回収していた雪片を、中段に構える一夏。

 

「オーライ。なら、これで決めてやるよ!」

 

お互い刀を構えて、そして――

 

(悪いが一夏、長船の方がリーチが長い分、こっちの攻撃が先に届く――!?)

 

油断したつもりはなかった。だが、まさか――

 

――バシィィィィンッ!

 

まさか、SEがほとんどない状態で『零落白夜』を使って、しかもエネルギー刃で刀身を伸ばして陰流に届かせるとは……!

 

「一矢、報いてやったぜ……」

 

最後の最後で、白式と陰流が同時にSEが空になって戦闘不能になり、第1試合はミステリアス・レイディだけが健在という結果となった。

別にパーフェクトゲームを狙ってたわけじゃねぇが、悔しい。一夏にしてやられたぜ……。

 

ーーーーーーーーー

 

続く第2試合は、内容的にはほぼほぼ模擬戦と変わらなかった。が、

 

「くっ! セシリア! あの二人、結構やるわ!」

 

「ええ、まさかこれほど連携が取れるとは……!」

 

優勝ペア予想(トトカルチョ)ではそこまで人気が無かった篠ノ之・ボーデヴィッヒ組だったが、蓋を開けてみればあら不思議、オルコット・凰組と対等に渡り合っていた。

 

「こちらとて、日々一夏とイチャイチャしていたわけではないぞ!」

 

「いや箒、セシリア達だってそれは知っているだろう。ローテなんだから」

 

「冷静にツッコむな!」

 

どうやら漫才の連携も取れているようだ。

 

「ああもう! 鈴さん! ここは一気に行きますわよ!」

 

「ええ! 一夏の敵を討つためにも、こんなところで止まってられないわ!」

 

「「それは私達だって一緒だ!!」」

 

という、最後には一夏ハーレム(デュノアを除く)の大乱戦に発展した第2試合は

 

 

「な、何とか勝ちましたわ……」

 

 

ボロボロになったブルー・ティアーズだけが生き残り、オルコット・凰の勝利となった。

 

 

「凄かったわね。何が凄いって、気迫が」

 

「ええ。特にオルコットと凰の場合、学年別トーナメントからこっち、見せ場が全然ありませんでしたからね」

 

「ああ、そういえば……」

 

学年別トーナメントは更生?前のボーデヴィッヒにボコられて大会前に棄権、福音事件では出番無し、キャノンボール・ファストでは壁画になってと、いいとこ全然なかったわけで。

 

「これで本国に……女王陛下に顔向けできますわ……!」

 

ああ、オルコットは英国の貴族だから、その辺のプレッシャーもあったのか。大変だなぁ名門って。

 

「さあ、次は簪ちゃんの出番ね!」

 

「頼むからのほほん、フレンドリーファイアだけはしないでくれよ……」

 

隣でテンションの上がってる楯無さんを後目に、俺はのほほんがやらかさないことを祈っていた。




考えているシナリオ通りに進めつつ、オリ主無双にならない程度に一夏を成長させるってなかなか難しいです。

そして本作で、セシリアの戦績が悪すぎることに気付きました。というか、原作でもクラス代表決定戦からずっと公式の勝ち星ないやんけ。(大抵襲撃があって無効試合になる)可哀想なので、ここらで白星があげようと。

さーて、次回はダリルんトラウマ回……になるのかな?


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第79話 全学年合同タッグマッチ~第3、第4試合~

今回で、決勝戦手前までお送りします。


「……(ブルブルガクガク)」

 

「ちょっとダリル、しっかりするっスよぉ!」

 

第3試合、本音と一緒にアリーナに入場したら、ケイシー先輩が震えだした。

なんだろう、すごーく申し訳ない気持ちになる。

 

「かんちゃーん、だりるん怯えてるよ~」

 

「だりるんって……」

 

仮にも先輩なんだから、あだ名は止めなさいって。それに怯えてるって、私は鬼でも悪魔でもないのに……。

 

「大丈夫っスよ! 聞いた話じゃ、更識のISはGNドライブ?あの肩についた永久機関の使用を禁止になってるって聞いたっスから!」

 

「そう、なのか?」

 

「ええっと、はい。織斑先生から、タッグマッチ中は使わないように言われてます」

 

そのために、陸にGNドライブを外してもらっている。だから、肩部装甲にあった円錐部分が無くなって平らになっている。

そう答えると、ケイシー先輩の震えが突然収まり

 

「そうか……そうか! なら、あの変態機動は無いんだな!?」

 

「誰が変態機動ですか!」

 

「かんちゃんだよ~」

 

「本音まで……」

 

簪です、2対2のタッグマッチのはずなのに、味方が一人もいないとです……。

 

「ダリルもやる気になったところで、そろそろ開始っスよ」

 

「おっと、なら更識妹に見せてやろうぜ、オレとフォルテの『イージス』を!」

 

「本音、お願いだからフレンドリーファイアだけは止めてね」

 

「前向きに検討した上で達成に向かって邁進・善処しま~す」

 

「『頑張る』って言ってよぉ!」

 

どうして本音の口から霞が関文学なんて出てくるのぉ!? しかもそれ、具体的な対応はしないって意味でしょう!?

 

「余裕だなおい!」

 

「わぁっ!」

 

試合開始のブザーが鳴ると同時に、ヘル・ハウンドから火炎弾が飛んでくる。

 

「今回は私もいるっスよぉ!」

 

サファイア先輩のコールド・ブラッドからも、こっちは大きな氷柱が連続して飛んできて、先ほどの火炎弾による熱膨張で爆発して氷の破片をまき散らす。

 

「本音、無事!?」

 

「な、なんとか~」

 

ちらりと本音の方を見ると、テールブレードが飛んできた破片を弾いていた。陸の言ってた、自動防衛モードが上手く働いているようだ。

 

「なら、今度はこっちから!」

 

――ドドドッ!

 

春雷の連射で、まずはコールド・ブラッドを――

 

「フォルテ!」

 

「了解っス!」

 

ケイシー先輩の合図で、サファイア先輩が周辺に氷の壁を生み出す。そこにヘル・ハウンドの火炎がぶつかり

 

「……消された?」

 

その瞬間、私の撃った荷電粒子砲は跡形もなく消え失せていた。

 

「これが、『イージス』……」

 

冷気と熱気による分子の相転移で、エネルギーを変換・分散させることにより、あらゆる攻撃を無力化する防御結界。話には聞いてたけど、実際に見るとこれほどとは……。でも、

 

「本音、当たらなくてもいいから、荷電粒子砲で二人を牽制出来る?」

 

「あ、当たらなくてもいいなら~」

 

「ならやって」

 

「わ、分かった~」

 

――ドドドドッ!

 

「おっと!」

 

「掠りもしないっスよ!」

 

二人に向けて撃った弾は、尽く回避される。けど、それでいい。少しだけ、私から視線を外してくれれば……。

 

――ガシッ

 

「えっ……?」

 

「フォルテ!」

 

 

「つ か ま え た」

 

 

「は、離すっスよぉ……!」

 

私の右腕に頭を掴まれたサファイア先輩がジタバタ暴れだすのを無視して、私は

 

 

「メメントモリ、起動」

 

 

必殺の武装を起動した。……と思ったけど

 

 

「フォルテを放せぇぇぇぇ!!」

 

 

――ガァァァンッ!

 

「ぐぅっ!」

 

「いっつぅ……! フォルテ、大丈夫か!?」

 

「な、何とか大丈夫っス……」

 

ケイシー先からまさかの体当たりを受けて、サファイア先輩を逃してしまった。

 

「それよりダリル、ヘル・ハウンドが……」

 

かなり無理な体勢から体当たりしたからか、ヘル・ハウンドの装甲はボロボロになっていた。特に肩部の、火炎を出す機構は使用できないだろう。弐式? 元々防御重視の打鉄から出来てるし、GNドライブを積む際にガッツリ補強してあるから全然問題なし。

 

「どうしてあんな無茶したんスか!」

 

「お前に、"あれ"を食らわせるわけにはいかないからな……」

 

「ダリル?」

 

「打鉄弐式のメメントモリを、フォルテには受けて欲しくねぇんだ。あんな恐怖は……」

 

「ダリル……」

 

……なんかいい雰囲気なんだけど、攻撃しちゃっていいのかな……?

 

「あの~、そろそろ再開していいですか~」

 

「「あ」」

 

「本音ぇ!?」

 

私ですら躊躇ってたのに、思いっきり踏み込んじゃったよぉ!?

 

「ん、んんっ! よっしゃあ! 仕切り直しと行こうぜ!」

 

「ダリル、今更そんなこと言っても締まらないっスよ……」

 

「うるせぇ!」

 

そんな漫才をしながらも、攻撃方法を火炎から大剣に切り替えたヘル・ハウンドと、後衛から氷弾を飛ばすことに専念し始めた二人。だけど、火炎が出せなくて『イージス』を発動できないならどうとでもなる。本当なら、コールド・ブラッドをメメントモリで先に倒す作戦だったけど、これはこれでOK。

 

「くっそぉ! やっぱ強ぇ!」

 

「いくらイージスが無いからって、私とダリルで押し込まれるなんてチートっスよぉ!」

 

春雷で追い立てながら、徐々にSEを削っていく。そして――

 

 

「山嵐、全弾発射ぁ!」

 

 

――ドドドドドドドォォンッ!

 

「ぐあぁぁぁぁ!」

 

「わあぁぁぁぁ!」

 

48基のマイクロミサイルが、春雷によってアリーナの端に追い立てられた二人に襲い掛かる。そして。

 

『ヘル・ハウンド、コールド・ブラッド、SEエンプティ。勝者、布仏本音、更識簪ペア』

 

「もうちょっといけると思ったんだけどなぁ……ああ悔しい!」

 

「これはもう、完敗っスよ」

 

「だな。けど、キャノンボール・ファストの時よりは善戦できたから良しとするか……でもやっぱ悔しい」

 

「ダリルぅ……」

 

サファイア先輩、ガンバ!

 

「まあいいや。更識妹」

 

「はい?」

 

「また次の機会があれば、お前に挑戦させてもらうぜ。"あんとき"のトラウマも、今回克服できたっぽいんでな」

 

「は、はぁ……」

 

トラウマ? 克服?

 

「そんじゃあな!」

 

「次の試合も、頑張るっスよぉ!」

 

私が首を傾げてる間に、二人はピットに引き上げていってしまった。

 

「まぁいいか。本音、私達も一旦ピットに……」

 

そう言って振り返った私が見たものは――

 

 

 

「の、のほほん族……!?」

 

 

 

地面に座り、足を伸ばし、体を支えるように手を後ろに付いて、首を左右にゆっくり振る本音の仕草は、まごうことなき『のほほん族』……!!

 

「あ、かんちゃん、お話は終わった~?」

 

「……」

 

――ギュ~ッ

 

「い、いはいほ(痛いよ)~」

 

「ピットに戻ろう」

 

「わ、わはっははら(分かったから)はなひへ(離して)~」

 

本音の頬を引っ張りながら、私達もピットに戻って行った。なんか、私だけ2人分戦ってた気がするのは気のせいなのかな……?

 

ーーーーーーーーー

 

さて、当初の3試合が終わって、勝ち残ったのが3組。そこからくじ引きで準決勝のカードを決めることになった。

 

「当たってしまいましたわ……」

 

「どうしてこんな時にくじ運良いのよぉ!?」

 

「し、仕方ないじゃありませんの!」

 

オルコット・凰ペアが当たりを引き、

 

「かんちゃーん、当たりだって~」

 

「本音、どうして連戦になったのに喜んでるの……?」

 

「「あ、終わった」」

 

若干不機嫌な簪を見て、そのまま悟ったような顔になった。

 

 

 

そして第4試合が始まったわけだが――

 

「ビ、ビットが! GNファングがどうしてぇ!?」

 

「ちょっとぉ! GNドライブは使用禁止なはずでしょぉ!?」

 

「だから陸に、大型のGNコンデンサーを付けてもらった」

 

俺としては妥協の産物だが、一旦GNドライブを外して、そこにGNコンデンサーを取り付けた。

無尽蔵とはいかないが、GNファングだけなら1時間は飛ばしていられる計算だ。

 

「これでミサイルまで飛んでくるなんて、卑怯すぎますわぁ!」

 

「セシリア!」

 

「あ」

 

――ドゴォォォォンッ!

 

自分で言ったそばから、オルコットが山嵐の直撃を食らって戦闘不能に。

 

「ええいっ! こうなったら一夏じゃないけど、一矢報いてやるわ!」

 

腹を括ったのか、凰が簪に向かって吶喊……せずに、のほほんに向かって吶喊していきやがった! セケェ!

 

「わ、わわわわわわわっ!」

 

「アンタ自身には恨みはないけど覚悟ぉ!」

 

テールブレードを青龍刀で捌きながら、衝撃砲をのほほんに向けて――

 

――ドドドドドドッ!

 

「ぎゃぁぁぁぁ! なんでよぉぉぉ!?」

 

「あ……当たった~……」

 

のほほんが苦し紛れに放った荷電粒子砲が、6発全て甲龍に直撃したのだ。なんでさ。しかも全弾装甲外に当たったらしく、凰のSEは空になった。

 

「ヽ(*≧∇≦)ノやったよかんちゃ~ん!」

 

「出来れば決勝でやって欲しかった」

 

「。゚ヽ(゚´Д`゚)ノ゚。辛辣だよかんちゃ~ん!」

 

嬉し泣きがそのままガチ泣きに移行したのほほんを放って、試合はとうとう決勝戦に移ろうとしていた。

 

「一夏ぁ……」

 

「一夏さぁん……」

 

「二人とも頑張った頑張った」

 

そして負けた二人は、一夏に慰めてもらっていた。おいお前ら、頭撫でられて滅茶苦茶顔がニヤけてるぞ。あとヨダレを拭け、一夏に見られる前に。




ダリルん、トラウマを克服するの巻。フォルテのためならえんやこら。GNドライブ外した状態だったし、そりゃ怖くないよね?

すまんなセシリア、鈴。更識姉妹リベンジマッチをパアにするわけには、いかないんだよ。でも、一夏からご褒美もらってるからいいよね?

決勝戦は、まさか○○○○がっ!?


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第80話 全学年合同タッグマッチ~決勝戦~

まーた長くなってしまいましたが、タッグマッチ編、最終回です。


タッグマッチ決勝戦。俺と楯無さんの前には、簪とのほほんの姿。

 

「簪ちゃん、今回は勝たせてもらうわよ」

 

「そう簡単に、負けてはあげられない」

 

二人にはそれで十分なのか、お互い蒼流旋と夢現を構える。

 

「二人とも、私達そっちのけだよ~……」

 

「仕方ないな、こっちはこっちでよろしくやるか」

 

「え、遠慮したいな~……」

 

「まぁそういうなって」

 

俺が長船を構えると、のほほんも渋々テールブレードの自動防衛モードをONにする。

 

そして――試合開始のブザーが鳴った。

 

ーーーーーーーーー

 

――ドォン!

 

――ドドドドッ!

 

試合開始と同時に、私が春雷、お姉ちゃんが蒼流旋のガトリングガンによる撃ち合いが始まる。奇しくも、かつての決闘と同じ始まり方だ。

 

「言い訳に聞こえるかもしれないけど、あの時とは違う。今回は、最初から本気で行くわ」

 

そう言うと、ミステリアス・レイディのアクア・クリスタル――ナノマシンを含んだ水を生み出す、製造プラント――の色が赤に変わっていく。

 

「麗しきクリースナヤ、接続完了」

 

クリスタルだけじゃない、周囲に展開されている水のヴェールも、赤色に染まっていく。

 

「さあ、行くわよ!」

 

「っ!」

 

蒼流旋からの突き……ううん、違う!

 

 

「ミストルテインの槍!」

 

 

――ドゴォォォォォンッ!!

 

「くぅっ!」

 

咄嗟に回避行動したそばから爆風に吹き飛ばされ、私はアリーナの壁に背中から激突した。

 

「そんな……その技はチャージ時間があるはずなのに……」

 

「これがミステリアス・レイディの高出力モード『麗しきクリースナヤ』、私の切り札よ」

 

説明しながらも、蒼流旋にまた水のヴェールが集中し始める。嘘、ミストルテインの槍を連発できるの……!?

 

「くっ! ファング!」

 

慌てて10基のビットを射出、ミステリアス・レイディを狙って――

 

「ふふっ、そう簡単にはいかないわよ?」

 

その瞬間、ミステリアス・レイディの周囲が爆ぜて、ビットが爆風に煽られてあらぬ方向に飛んでいく。

 

(清き激情(クリア・パッション)……!)

 

どうして気付かなかったのか。ミストルテインの槍を連発できるぐらい瞬間的にアクア・ナノマシンを製造できるなら、水蒸気爆発を起こす分ぐらい瞬時に生み出せることに……!

 

「言ったでしょ、今回は最初から本気だって」

 

笑いながらも真剣な眼差しのお姉ちゃんを見て、痛感した。

私は、慢心していた。以前勝ったことがあるからと、心のどこかで気を抜いてたんだ。だから、こんな簡単に押し込まれる。

あの時に比べて、弐式は格段に強くなった。それなのに、それを操縦する私は気を抜いて、慢心して……無様にも程がある。

 

「ふぅ……」

 

――パァァンッ!

 

「か、簪ちゃん!?」

 

思いっきり叩いた頬は痛いけど、これで目が覚めた。

 

「お姉ちゃん。ここからは、私も本気を出すよ」

 

夢現を展開して、GNファングはバインダーに戻す。GN粒子はスラスターに全振り。

 

――ヒュンッ!

 

「っ!」

 

「まだまだぁ!」

 

――ヒュンッ! ヒュンッ!

 

高速移動からの斬撃を繰り返して、ミストルテインの槍を撃たせないように立ち回る。そして、斬撃からの突きが

 

――ザンッ!

 

当たった!?……でも、手応えが、ない?

 

「ざ~んねん」

 

「なっ……!」

 

目の前のお姉ちゃんが、霧になって消える。まさか、水で作った分身!?

そんな風に驚いている私を嘲笑うように、残った霧が大爆発を引き起こす。

 

「うぐ……」

 

何とか凌いだけど、ミストルテインの槍の分も含めて、かなりSEを削られた。

 

(お姉ちゃん、やっぱり強い……)

 

春の決闘で勝てたのは奇跡だったんだって、改めて思う。

 

「これだけやってまだSEが半分もあるなんて、陸君もずいぶん頑丈に作ってるわねぇ……」

 

爆発した分身から離れたところにいたお姉ちゃんが、呆れたような顔をしていた。たぶん、私の斬撃を躱してるどこかのタイミングで入れ替わって、その後は私の視界に入らないように立ち回っていたんだろう。

 

「GNドライブを積む時、いっぱい補強したから」

 

「なるほど」

 

私の回答に頷くと、再度槍を構え直す。

 

「そろそろ決めさせてもらうわ。『麗しきクリースナヤ』も、そろそろ時間切れが近いみたいだし」

 

「そうみたいだね」

 

私から見ても分かるように、さっきまで赤かったミステリアス・レイディが、少しずつ元の青色に戻っていく。

だからその前に、お姉ちゃんはミストルテインの槍を放つ気だろう。

 

「なら、私もこの一撃に全てを掛ける」

 

今まで推力に回していたGN粒子を右腕、メメントモリに集中させる。

 

 

「ミストルテインの槍!」「メメントモリ、起動!」

 

 

お互いの全力がぶつかろうとしたところで――お姉ちゃんが、消えた。

そして次の瞬間、私の意識も消えた。

 

ーーーーーーーーー

 

「たっちゃんもかんちゃんも、ドンパチやってるね~」

 

「どっちかって言うと、楯無さんが爆発させまくってるな」

 

試合開始のブザーが鳴ってからこっち、俺とのほほんは蚊帳の外になっていた。

というか、楯無さんあんな強かったのか。マジで春の決闘は勝てたのが奇跡だったんだな。

 

「さて、俺達もいい加減戦うとするか」

 

「ええ~、私は別にいいかなって~」

 

「いやいや、一応これも授業の一環らしいからな。サボりはいかんだろ」

 

「そんなこと「そんじゃいくぞ~」話を聞いてよ~!」

 

――ガキィィンッ!

 

のほほんの話を遮るように長船を振り下ろす。うん、テールブレードの自動防衛モードに遮られるな。

 

「も~! りったんのばか~!」

 

――ドドドッ!

 

怒ったのほほんが荷電粒子砲を放つが……やっぱり当たらんやん。俺、動いてないんだぜ?

 

「のほほん、せめて固定目標にぐらい当てようぜ……?」

 

「う~! こうなったら、数撃てば当たる作戦! ファイヤー! ファイヤー!」

 

――ドドドドドドドドドドドドドドドドドドッ!!

 

うわっ、のほほんお前、全弾打ち尽くす気か!? けど、そんな明後日の方向に飛んでく弾、当たるわけが――

 

 

「ぬるぽっ!」「がっ!」

 

 

「「え?」」

 

意味不明なセリフだが、聞き覚えがある声のする方に振り返ると……

 

 

「た、楯無さん!?」「か、かんちゃーん!?」

 

 

さっきまで真剣勝負をしていた二人が、揃って目を回して倒れていた。SEは……両方とも空っぽ。まさか、これって……

 

『宮下、布仏、落ち着いてよく聞け』

 

俺達が戸惑っていると、オープン・チャネルで織斑先生が通信を入れてきた。

 

 

 

『更識姉妹だが……布仏が撃った荷電粒子砲の流れ弾を食らってダブルK.O.だ』

 

 

 

「う、うわぁぁぁぁ! マジかぁぁぁぁ!」

 

「や、やっちゃった~っ!」

 

俺ものほほんも、これには頭を抱えるしかない。なんでこんな時に限って、百発百中なんだよバカヤロー! しかもフレンドリーファイアも百発百中だし!

 

『しかも、流れ弾の全てが頭部と胴体という、装甲外に当たったようだ。……布仏、確認だが、本当に狙ってやったんじゃないんだな?』

 

「ち、違います~!」

 

織斑先生が疑いたくなるのも分かる。普通あり得ないだろ。全弾装甲外とか、きっちり仕留めにかかってるやん。

 

「えっと、これからどうすれば~……」

 

『宮下と布仏で戦って、さっさと勝負をつけてくれ』

 

「デスヨネー」

 

二人が戦闘不能になった以上、それしかないよな。

 

「りったん……」

 

「のほほん、こうなったら仕方ない……」

 

俺は長船を地面に突き刺して手を離すと、

 

 

「学園最強姉妹を倒すような奴に勝てるわけねぇだろ! 俺は降参するぞ~~!!」

 

 

両手を挙げた。

 

『宮下選手のサレンダーにより、勝者、布仏本音、更識簪ペア』

 

「え? ええ!?」

 

「今日から布仏本音が学園最強! つまり新しい生徒会長だ~~!!」

 

「り、りった~ん!?」

 

学園最強の楯無さんを倒したんだから、のほほんが次の生徒会長だろ?

混乱するのほほんの腕を掴んで思い切り上げさせる。すると

 

 

「「「「生徒会長就任おめでと~~~~!!」」」」

 

 

ほーら、みんなのほほんを祝福してくれてるぞー(棒)。

 

「こ、こんなの……」

 

歓声の中、のほほんが俯いてプルプル震えだした。どうした? あまりの嬉しさに震えてきたか?

 

 

「こんなの絶対おかしいよ!」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

こうして全学年合同タッグマッチは、最後にのほほんが全てを掻っ攫う形で終了した。

ちなみに『優勝ペア予想応援・食券争奪戦(トトカルチョ)』だが、簪・のほほんペアに張ってた連中はそれなりに儲けたらしい。まぁ倍率はさほど高くなかったから、大儲けした奴はいなかったみたいだが。

 

それと、のほほんは生徒会長就任を辞退した。

 

「嫌だよ~! 生徒会長になったら、お昼寝も満足に出来なくなっちゃうよ~!」

 

と、涙を鼻水を垂れ流しながら全力拒否。ある意味女を捨ててるんだが、そこまでしてやりたくないか、生徒会長。

 

「簪ちゃんとの真剣勝負だったのにぃ……」

 

「本音の馬鹿ぁ……」

 

その後、保健室で目を覚ました楯無さんと簪は、事の顛末を聞いて落ち込んだ。

 

 

「宮下君、どうしてあそこで降参したのぉ!?」

 

「そうだよぉ、あのまま戦えば勝てたかもしれないのに!」

 

俺は俺で、のほほん相手に降参したことを責められていた。主に俺と楯無さんのペアに賭けてた連中から。

うん、今回に関しては俺もちょっとお遊びが過ぎたと思ってる。だから正座は許してくださいません? そろそろ足が……。 あっこら突くな! マジでヤバいん――あふんっ




キャノンボール・ファストに続いて、今回もギャグエンドになっちゃいました。最初は更識姉妹のガチバトルになるはずだったんですがねぇ……のほほん、やってくれたぜ。

さて、次回から新章になります。原作通りだとワールド・パージ編ですが、現状束が仕掛ける意味が……どうしましょうね?


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????
第81話 似てるようで、違う世界


ここでオリチャー発動!
インターミッション的な感じで本編足踏み状態になりますが、お付き合いいただければと思います。


「なぜそこで諦めるのですか!?」

 

「なしたのシギュン?」

 

何もない空間で突然嫁が怒鳴っていたら、僕じゃなくても疑問に思うだろう。

 

「あの男、一夏様を英雄にするという崇高な使命をなんだと思っているのですか!」

 

「いや、全然崇高じゃないから」

 

最近、自分の嫁が何言ってるのか分からない。助けてアングルボザ(もう一人の嫁)

と、怒りで我を忘れてるシギュンを止めずに放っておいたのがまずかったんだろう。

 

「あっ」

 

シギュンが振り上げた拳が近くの水球――外史――にぶつかり、その反動で水球が別の水球に――

 

「ちょぉぉぉ!?」

 

慌てて動いたけど、時すでに遅し。水球同士がぶつかり、ほんの一時とはいえ、二つの外史がくっついてしまったのだ。

 

「私、やっちゃいました?」

 

「なろう系なんか目じゃないくらいやっちゃいましたよ馬鹿ぁぁぁ!」

 

シギュンはやべって顔してるけど、それどころじゃないくらいヤバいよ!

 

「二つの外史がくっついちゃったら、片方の世界にもう片方の世界のものが流入しちゃうんだよぉ!」

 

「なんだその程度ですか。それなら今回だってやってるではないですか」

 

「意図的にやるのと偶然やるのとじゃ、全然意味合いが違うんだって! 最悪、主神から今までにないくらい大目玉……」

 

リクが外史・ISに持ち込んだ諸々だって、機械が優越する世界だから許可されたんであって、これが魔法だの魔術だのを持ってくとか言ったら一発アウトになってたはずだ。つまり、今回くっついた世界が機械と魔術、性質が全く違う世界同士だったら……。

 

「ま、まずいですわ……」

 

ようやっと事の重大さに気付いたのか、シギュンの顔も青褪めた。って、今はそれどころじゃなくて!

 

「急いで影響確認しないと!」

 

「そ、そうですわ!」

 

シギュンと手分けして、さっきくっついた水球を確認する。……良かった、機械と魔術の融合とか訳分らん事態だけは避けられた。けど、これは……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「んん……」

 

何故かいつもと違う感じがして目が覚めた。あれ? 私、制服着たまま寝ちゃってた?

 

「昨日は……」

 

眠気眼で寝る前のことを思い出す。確か昨日はタッグマッチが終わって、お姉ちゃんと一緒に本音を恨みつつ保健室を出て、それから……

 

「ダメ、思い出せない」

 

とにかく起きようと立ち上がると、起きた時の違和感がさらに強くなった。

……なんか、部屋のレイアウトが微妙に違う?

二つくっ付いていたはずのベッドは分かれていて、陸が使ってる机の上には、最近まで弄ってたはずの機材類が何もない。

 

「んん……」

 

と、もう一つのベッドから声がして、私は視線を向けると同時に

 

「……えっ?」

 

固まった。そうしてる間に、向こうも欠伸をしながらこちらを向いて

 

「ふわぁぁ……へっ?」

 

固まった。そして

 

 

「「ええぇぇぇぇぇぇっ!?」」

 

 

私と、()()()()()()がお互い指さしながら叫びあっていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「……」

 

「……」

 

「どういうことなの……?」

 

私達を前に、お姉ちゃんが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていた。

 

 

大声を上げた後、寮監の織斑先生がやってきて絶句。その後お姉ちゃんが呼び出され、そしてさっきのお姉ちゃんである。

 

「簪ちゃんが二人って、一体全体どういうこと?」

 

「それは私が聞きたい」

 

「Me too」

 

「そこは息ぴったりなんだな」

 

横で織斑先生が呆れているが、ぴったりになるしかない。だって私も向こうも、どうしてこうなったら知らないだろうから。いや、もしかしたらだけど……

 

「あの、質問いいですか?」

 

「何かしら?」

 

「今このIS学園に、男性操縦者は"何人"いますか?」

 

「はい?」

 

質問されたお姉ちゃんが呆けた声を上げる。けど、この回答如何によっては……

 

「そんなの、()()()()()()()()()に決まってるじゃない」

 

「ああ、やっぱり……」

 

その回答で、私は納得した。出来てしまった。

 

「お姉ちゃん、いえ、楯無生徒会長。貴女の妹はそっちの更識簪です」

 

「え?」

 

名指しされた向こうの、もう一人の私が驚いた顔をしてこっちを見る。

 

「えっと、それじゃあ貴女は……?」

 

「信じてもらえるか分かりませんが……」

 

 

 

「私は、平行世界の更識簪のようです」

 

 

 

そうなるだろう。なにせこの世界は、"陸がいない世界"なんだから。

 

「平行、世界?」

 

「本気で言ってるの?」

 

もう一人の私と楯無さん――この世界では私のお姉ちゃんじゃないから、この呼び方にする――が信じられないって顔をしてる。けど、そうじゃないとおかしい。

 

「本気ですよ。だって私のいた世界では、()()()()()()()()いるはずですから」

 

「なんですって!?」「なんだと!?」「一夏、以外にも?」

 

私の発言に、三者三様に驚く。やっぱり、ここは私の世界じゃないんだ。

 

 

――♪

 

 

そんな中、私のスマホから着信音が鳴りだした。

 

「……出てもいいですか?」

 

「え、ええ……」

 

一応許可をもらって、ディスプレイを確認。登録なしの番号だけど、この番号、見覚えがある。

 

「もしもし?」

 

『ごめんちゃ~い!』

 

聞こえてきたのは、文言こそふざけてるものの、声質はすごく切羽詰まってる謝罪だった。そしてこの声にも聞き覚えがある。陸を私のいる世界に送り込んできた神様(ロキさん)だ。

 

「やっぱり今回の件、そちらが原因でしたか」

 

『ホンットごめん! シギュンが外史同士を誤ってぶつけじゃって、カンザシだけが別の外史、平行世界に移動しちゃったんだよ!』

 

「ええ~……」

 

そんな簡単に平行世界を渡る事故が起こるとか、管理体制どうなってるの?

 

「それで、私はいつ元の世界に戻れるんです?」

 

『今再調整してる真っ最中。そっちの世界時間で、2,3日ぐらいで戻れる計算だよ』

 

「つまり、2,3日はこのままと……」

 

一応ちゃんと戻れる目途が立ってるからいいけど、2,3日は陸と離れ離れかぁ……。

 

「分かりました。出来るだけ急いでくださいね?」

 

『分かってるよ! 僕らも主神に怒られたくないからね! それじゃあ!』

 

よほど急いでるのか、こちらの応答を聞く前に通話が切れた。神様ってこんななのかぁ……。

 

「誰からだ?」

 

「今回の件を起こしたヒトからです」

 

「はぁ!?」

 

今度は織斑先生が、豆鉄砲を食った顔になった。

 

「まさか、相手は束か!?」

 

「いいえ、篠ノ之博士じゃないですよ」

 

「なっ! なら、あいつ以外にもこんなことを起こせる奴がいるのか……!?」

 

「そうなりますね」

 

まぁ織斑先生視点なら、こんなトンデモ事態を引き起こせるのは篠ノ之博士ぐらいだろう。正直私も、ロキさん達じゃなかったら次点で疑ってたくらいだし。ちなみに3番目が陸のやらかしによるGNコンデンサーの暴走事故。

 

「それで、元の世界に戻れるまで2,3日掛かるらしいので、それまで学園に置いてもらうことは可能でしょうか?」

 

別世界である以上、私の居場所はどこにもない。なら、事情を知ってる学園にいる方が安全だと思って織斑先生に聞いてみた。ダメなら、その時考えよう。

 

「2,3日? その日数の根拠は?」

 

「さっき話した、今回の件を起こしたヒトからの申告です」

 

「う~む……どうしたものか。お前は更識妹であって、更識妹ではない。だが……」

 

「いいんじゃないですか?」

 

「更識姉?」「お、お姉ちゃん?」

 

織斑先生ともう一人の私が、驚いた顔で楯無さんの方を向く。

 

「ここで追い出したら、簪ちゃんと同じ顔の人が学園外をうろつくことになります。それはあまり良いとは言えません」

 

「確かにそうだが……仕方ないか」

 

楯無さんの説明に納得したのか、織斑先生はため息を一つついて

 

「お前の身柄は学園が預かろう。ただし、更識妹と同じ顔のお前が学内を動き回ると混乱が起こるだろうから、どこかに行く際は更識姉の同行を必須にさせてもらうぞ」

 

「分かりました。それで十分です」

 

監視の意味合いもあるんだろう。その程度は仕方ないと割り切れる。

 

「お手数おかけしますが、よろしくお願いします、楯無さん」

 

「うぐっ! 違うって分かってるのに、簪ちゃんと同じ顔で他人行儀な呼び方されるとダメージが……」

 

「お、お姉ちゃん……」

 

どうやら私の言葉の矢が刺さったらしく、胸を押さえる苦しむ楯無さん。それを微妙な顔で見るもう一人の私。

 

「うぅ……それで、貴女のことは何て呼ぼうかしら? 貴女も名前は"簪"なんでしょう?」

 

「そうですね……」

 

少し考えて、いい呼び方を思いついた。

 

 

「私のことは『宮下簪』って呼んでください」

 

 

元の世界で呼ばれるのはまだまだ先だろうけど、予行練習にはちょうどいいかも。




はい、2次創作でよくあるネタ、平行世界転移です。ただ、今回は簪だけに行ってもらいます。だって本作のオリ主が行っても新鮮味なんてないですし。

とはいえ、オリ話を長々と書いてもあれなので、他章よりは短めで終わる予定です。(ただし予定は未定)


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第82話 こうも違う世界

説明回というか、原作との比較回になります。


話が終わった後、私は楯無さんに案内されて、とある場所に来ていた。後ろには織斑先生が続く。カンザシさん――何度も"もう一人の私"って言うのもあれだから――はいない。

 

「生徒指導室……」

 

「まぁ、よほどのことが無ければ縁のない場所よね」

 

「いえ、ちょくちょく来てました。主に織斑先生に呼ばれて」

 

「ええ~……?」

 

楯無さんが形容し難い顔をしてこっちを見てくる。もしかして私、不良生徒と思われてる?

 

「大体は陸に巻き込まれてですけど」

 

「陸?」

 

「さっきお話しした、"2人目"です」

 

「宮下、それについては中で聞く。ここで話す内容ではないのでな」

 

「はい」

 

生徒指導室の中は元の世界と同じだった。パイプ椅子とテーブルがあるだけ。とりあえず適当な椅子に座ると、私の向かいに織斑先生、その隣に楯無さんが座る。

 

「さて、ここに来てもらったのは、寮では聞きにくい内容だからだ。さっきの2人目のことも含めてな」

 

「最初からここで話した方が良かったのでは?」

 

「……慌ててたんだ。気付かなかったことしてくれ」

 

当たり前のことを言ったら、織斑先生に目を逸らされた。学内でよく言われてる『パーフェクト・ウーマン』はどこに行ったんだろう……?

 

「それで宮下さん……うぅ、簪ちゃんと同じ顔だから違和感が……私達は、貴女のいた世界と、この世界にどれぐらい差異があるかを知りたいのよ」

 

「はぁ」

 

それは私も知りたい。いくら平行世界――元は同じ世界から枝分かれしたもの――だからと言って、向こうの常識がこっちでも通用するとは限らない。

 

「それじゃあ、私が知っている歴史をお話すればいいですか?」

 

「ああ。気になるところがあれば、逐次質問する」

 

「分かりました」

 

頷いて、私は白騎士事件、ISが登場してから今までのことを話し始めた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

宮下――更識妹と瓜二つな奴――から聞いた話は、最初は普通に聞き流せる内容だった。

白騎士事件、篠ノ之束の失踪、女尊男卑の風潮。それらは全て、この世界と全く同じだからだ。だが、今年に入ってからの出来事が、あまりにも衝撃的だった。

 

「つまり、その宮下陸という男が、2人目の男性操縦者だと?」

 

「はい」

 

一夏がISを動かした後、全国で一斉検査が行われたが、それに続く者は現れなかった。この世界では。だが、別の世界では、もう一人の男性操縦者が現れたという。まずそこからして、衝撃的な差異だ。さらにそれだけでなく

 

「そ、それじゃあ、貴女の専用機は4月の時点で完成していたの!?」

 

「陸と本音に手伝ってもらって、入学後すぐに。山嵐だけは未完成でしたけど」

 

「……」

 

どうやらあちらの世界では、打鉄弐式はクラス対抗戦までには完成していたらしい。こちらでは学園祭後にようやっと、更識姉が一夏に頼み込む形で協力させて、さらに整備科の連中も巻き込んで完成させたのに、だ。聞いた感じでは、2人目はメカニックを自称していて、ISを動かすより作る腕の方がいいようだ。

そして話はクラス対抗戦に。

 

「織斑君と凰さんが戦ってる最中、無人機が乱入してきて……」

 

「そこはこちらの世界と同じか」

 

一夏と凰が協力して無人機を撃破したのも同じ。違うとすれば、こちらでは無人機の最後のあがきは一夏を狙ったのに対して、向こうでは観客席を狙ったことか。

 

「その後、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さんが織斑君に告白して」

 

「待て待て待てぇ!」

 

あの馬鹿共が、一夏に告白!? いつも意地とプライドで空回りしてるあいつらが!?

 

「その後、デュノアさんとボーデヴィッヒさんが転校してきて」

 

「さらっと流すな!」

 

「織斑先生、まずは話を聞きましょう」

 

「あ、はい」

 

更識姉に窘められるとは……。

その後の話はこちらとほぼ変わらない。ボーデヴィッヒが凰とオルコット相手に私闘をやらかしたところや、デュノアの正体――奴が実は男装した女だったこと――が一夏にバレたところも一緒か。

 

「織斑君とデュノアさんが織斑先生に相談して――」

 

「相談? あいつらが?」

 

「え? なら、デュノアさんの件はどうやって解決したんですか?」

 

「デュノアの件? いや、あいつが学園と協議して、女子生徒として再入学したと――」

 

「それじゃあ彼女はデュノア社と、アルベール社長との仲が拗れたままですか!?」

 

「あ、ああ……」

 

「そうですか……」

 

宮下が茫然として天を仰ぐ。『陸がいないだけで……』とブツブツ口にしているが、その2人目がいたから、向こうの一夏は私のところに相談しに来たのか。もしそうなっていれば、私のブリュンヒルデ時代の伝手を使って、別の結末もあったのかもしれんな。

そうやってしばらく天を仰いでいた宮下だったが、気を持ち直したのか、学年別トーナメントのことを話し始めた。

 

「ボーデヴィッヒさんのISが暴走して、それを私と陸、織斑君と篠ノ之さんの4人で止めました」

 

「なるほど、あの馬鹿が一人で吶喊したわけではないのか」

 

正確には一度吶喊した後、自分の力不足を悟って宮下達に頭を下げたと。今はそうでもないが、当時の一夏は考え無しの突撃しかできんイノシシだったからな。似た世界のはずなのにな。

 

「その後は臨海学校で、一夏君の白式が第二形態移行(セカンド・シフト)を――」

 

「してませんよ?」

 

「ええっ!?」

 

まさかの事実に、更識姉が素っ頓狂な声を上げる。危うく私も上げそうになった。

 

「なら、どうやって福音を止めた?」

 

「陸が決死の覚悟で福音のスラスターを掴んでいる間に、私が」

 

「そうか……」

 

聞けば、向こうでは一夏の代わりに2人目が福音の砲撃を食らい、その後墜落したとか。

 

「それにしても、貴女は彼と仲がいいのかしら? 話を聞くに、ずっと一緒にいたみたいだけど」

 

「そうですよ。だって、私と陸は……」

 

更識姉の指摘に頷くと、宮下は右手の甲をこちらに見せて……いや、薬指に嵌ってるそれは、まさか……!

 

「だから"宮下"と呼ぶようにお願いしました。遠くない未来、()()なるので」

 

「「……」」

 

顔を赤くして両手を頬に当てる宮下に、私と更識姉、絶句。

 

「ちなみに織斑君は、嫁が5人います」

 

「ちょっと待てぇ!」

 

嫁が5人ってなんだ!

 

「ブリュンヒルデの弟で篠ノ之博士とも接点のある織斑君は、国連と国際IS委員会によって例外的に重婚が認められました」

 

「What !?」

 

「そして、専用機持ちの5人はめでたく、織斑君の()()()()になりました」

 

「嘘だぁぁぁぁ!!」

 

「簪ちゃんの顔でそんな話されたくなかったぁぁ!」

 

宮下からのカミングアウトに、頭を抱えたまま膝から崩れ落ちる。あの朴念仁が、5人まとめてとか、どうしてそうなった……!?

 

「その前に、学園祭で白式が第二形態移行(セカンド・シフト)します」

 

「えぇっ?」

 

そっちもどうしてそうなった……?

 

「こっちの世界では、学園祭に亡国機業って秘密結社が襲撃してきたんだけど、そっちは?」

 

「同じですね。アラクネとサイレント・ゼフィルスが来ました。その時、白式が第二形態移行(セカンド・シフト)して、織斑君がアラクネを撃破しました」

 

「一夏が……すると、サイレント・ゼフィルスは?」

 

「私が叩き潰しました。お姉ちゃんが止めなければ、仕留め切れたんですけど」

 

「仕留めるって……」

 

更識姉が嫌そうな顔をする。こいつからしたら、そういった血生臭いことを妹にはしてほしくないのだろう。だが、

 

 

「次は仕留めますよ。だって、そのせいで、陸を失いたくないですから」

 

 

そう話す宮下の目を見て、ゾッとした。あれはまるで……命を奪う覚悟をした者の目だ。

幸い、宮下の目はすぐ元に戻った。

 

「そうして、亡国機業のIS2機を撃破したためなのか、その後は特に襲撃もなくキャノンボール・ファスト、全学年合同タッグマッチが行われました」

 

「そこは羨ましいな」

 

なにせ、こちらはサイレント・ゼフィルスの再来に強化された無人機と、何かをする度に襲撃されているのだ。正直、学園の警備担当としても体が保たん。

 

「結局分かったのは、その宮下陸の有無であれこれ流れが変わったということだけか」

 

「そうですね。そしてその彼がこの世界にいない以上、考えても詮無いでしょう」

 

更識姉もお手上げといわんばかりにため息を一つ。

 

「私も、この世界の織斑君が朴念仁のままなのが分かっただけですね」

 

「……そうだな」

 

朴念仁か、5人も女を囲っているか。果たして、どちらの弟が良かったんだろうか。

 

「さて、話はここまでにするか」

 

「分かりました。それで、これから私はどうすれば?」

 

「そうだな……更識姉、宮下を他の生徒にバレないように、寮の空き部屋に移動できるか?」

 

「大丈夫です。今は休み時間ですから、それが終わったら移動しましょう」

 

「そうか。なら――」

 

――コンコン

 

「織斑先生、倉持技研のメンテの件……えっ?」

 

ノックだけして返事も聞かずにドアを開けた馬鹿が、宮下を見て固まる。

 

「か、簪? いやでも、さっき廊下ですれ違ったばっかで、えぇ!?」

 

「織斑先生、さっそくバレたんですが……」

 

宮下から、非難の視線が飛んでくる。ああ、私がこいつの保護者だからか。

 

「……すまん」

 

ありきたりだが、そう口にするしか今の私には出来なかった。




こうやって原作と比較すると、本作の原作崩壊率がよく分かりますな。根本部分が壊れないようには気を付けてはいるんですが。

本文にもあるように、ちーちゃんからしたら、どっちの一夏がいいんでしょうね?
朴念仁一夏 vs 女誑し一夏 ファイッ
……どっちも頭痛の種ですな。


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第83話 世界が変われど、やることは変わらず

ISはハイスピード学園バトルラブコメです。なので、平行世界に行っても簪はバトル(蹂躙)をしなければなりません。


どうしてこうなったんだろう……?

別世界でも全く構造が同じIS学園の第4アリーナで、私は打鉄弐式を展開していた。目の前には、1年の専用機持ちが7人。壁際には、織斑先生と楯無さんもいる。

 

「それじゃ、アンタの実力を見せてもらうわ!」

 

「簡単に倒れてくれるなよ?」

 

こっちの世界の凰さんとボーデヴィッヒさんが、すごい好戦的なセリフを言いながら武装を展開して砲口をこちらに向けてくる。

もう一回言う、どうしてこうなったんだろう……?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

事の起こりは、生徒指導室で織斑君に私のことがバレたからだ。

 

「ち、千冬姉! これって一体「織斑先生だ(バシィンッ!)」ぐあっ!」

 

狼狽する織斑君の頭に、容赦なく出席簿が落ちた。織斑先生の主武装は、平行世界共通なんだろうか。

 

「仕方あるまい……更識姉、他の1年の専用機持ちを呼んでくれ」

 

「他の子達にも教えるんですか?」

 

「ああ。織斑に知られた以上、情報が漏れるのも時間の問題だからな。なら、最初から教えて口止めしておく」

 

「ああ、なるほど……」

 

その説明で納得した楯無さんが、ISの通信機能を使って他の専用機持ちを呼び出してから大した時間もかからずに、一夏ハーレムの5人とカンザシさんがやってきた。

 

「か、簪が二人!?」

 

「双子だったなんて話は聞いておりませんが……」

 

「ドッペルゲンガーとかじゃないよね……?」

 

生徒指導室に入ってきた瞬間、驚いた表情で私とカンザシさんを見比べるハーレムの面々。そしてデュノアさん、ドッペルゲンガーは酷いと思う。

そんなみんなに、織斑先生が寮の部屋で話した内容の一部を簡潔に説明する。

 

「平行世界の簪か……」

 

「織斑先生の説明を聞いても、まだ信じられないわ……」

 

「だが実際に目の前にいる以上、信じざるを得ないな」

 

「ところで宮下、でいいのか」

 

みんな頭の整理が追い付いてない中、ボーデヴィッヒさんだけがこちらを見ていた。

 

「お前も専用機を持ってるのだったな。なら、一つ勝負を挑みたい」

 

「ラ、ラウラ? どうしたんだ突然」

 

「平行世界のISとやらの性能が気になってな。是非とも勝負してみたくなった」

 

「それ、あたしも参加したい!」

 

「僕も、ちょっと気になるかも」

 

「え、ええ?」

 

何この一夏ハーレム、血の気が多くない? 気づけば、織斑君以外の全員がやる気になってるし。

 

「いやみんな、いきなり勝負「いいだろう、許可する」織斑先生!?」

 

「私も気にはなっているからな。宮下、悪いが付き合ってもらうぞ」

 

「ええ……」

 

織斑先生……その言い方、拒否権がないですよね……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

という流れで、半ば強制的に模擬戦をやる羽目になったわけで。

 

「大体は、私の打鉄弐式と同じっぽいけど……」

 

「ミサイルポッドと右腕部に、装甲が追加されてるわね」

 

凰さん、それ装甲じゃなくて、GNファングとメメントモリ。わざわざ教えたりしないけど。

 

「では、宮下にはヒヨッコ共と順番に戦ってもらう」

 

「あ、やっぱりそうなりますか」

 

「なんだ。7人全員と一度に戦いたかったか」

 

「それはちょっと……」

 

今の打鉄弐式はGNドライブを外したままで、代わりのGNコンデンサーもお姉ちゃんと戦ったからGN粒子の貯蔵量が半分以下になっている。さすがにこの状態で1対7はしたくない。

 

「なら、最初は――」

 

「私が出ます」

 

そう言って一歩前に出てきたのはボーデヴィッヒさんだった。

 

「シュヴァルツェア・レーゲン相手でどれだけ保つか、見せてもらおうか」

 

「はぁ」

 

ニヤリと笑うボーデヴィッヒさんに対して、私は微妙な顔で夢現を構える。どうやら向こうは、私を簡単に御せると思ってるらしい。

 

なら、教育してあげよう。陸が生み出した、この打鉄弐式で。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「そ、そんな馬鹿な……」

 

「強い……」

 

「何よあのIS、反則過ぎるわよ……」

 

「ベースは同じ打鉄弐式のはずなのに……」

 

「おかしいですわ。何ですのあの機動は」

 

「僕もセシリアも、全然弾が当たらなかったもんね」

 

「俺なんか、1回も雪片弐型を振る前に落とされたぞ……?」

 

みんな各々言ってるけど、私を倒すには、まだまだ足りない。

 

織斑君は直線機動ばかりで、突進癖が抜けてない。

篠ノ之さんは相変わらず、機体性能に振り回されてる。

オルコットさんは並列思考ができてないから、ビット操作中は動けない弱点がそのまま。

凰さんは安定した強さだけど、攻撃パターンが単調になりがち。

デュノアさんは単純に、機体性能の差。

ボーデヴィッヒさんが一番強かったけど、1対1だからってAICを過信し過ぎ。

カンザシさんは、山嵐が未完成なせいで総合的に火力不足。

 

そんな感じだから、ヒット&アウェイ戦法でGNファング抜きでも完封出来てしまった。

おかしいな。こっちの世界の方が亡国機業や無人機の襲来が多くて、実戦経験も豊富なはずなのに。元の世界の織斑君達の方が強い気がする。

ちなみに今思ったことを各々に伝えたら、全員崩れ落ちた。そ、そこまで打ち拉がれるような事言ったかな……?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「まさか、ここまでとはな……」

 

「一夏君達も特訓を積んでるはずなんですけど……」

 

私が作った訓練メニューに取り組んで、みんな強くなっている。それでも……

 

「だが結果は、あの薙刀とミサイルだけで圧倒されたわけだ。平行世界のISは恐ろしいな」

 

「あの打鉄弐式が別格なんだと思いたいですけど」

 

各国が心血を注ぐ第3世代機……箒ちゃんに関しては第4世代機だけど、それを完封する機体をほぼ個人で作るとか、頭おかしいでしょ。

 

「それで? お前も戦ってみるか?」

 

「そのつもりです」

 

「ほう?」

 

織斑先生に言われるまでもない。あの子はまだ、全力を出していない。なら、私が出させて見せようじゃないの。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

専用機持ち7人抜きをして終わったと思ったら、ラスボスが現れた。なして?

 

「そんなわけで、最後の私と戦ってもらうわ」

 

「何が『そんなわけで』なんですか……」

 

やっぱり平行世界だろうと、お姉ちゃんはお姉ちゃんらしい。

そうして全く説明がないまま、世界は跨げど日はほとんど跨がずにミステリアス・レイディと対峙している。

 

「さあ、全力でかかってらっしゃい」

 

「全力で、ですか?」

 

「ええ。貴女の全力を出したデータが欲しいのよ。だから協力して?」

 

「はぁ」

 

全力かぁ……確かにさっきの模擬戦は、全力とは言い難かったけど……。

 

「なーんて、嫌でも出してもらうわよ」

 

「……分かりました。全力ですね」

 

そこまで言われたら仕方ない。私はため息をつきつつ、開始の合図とともに

 

「メメントモリ、起動」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「お、お姉ちゃ~ん!!」

 

カンザシさんが、ヤムチャになった楯無さんに走り寄る。大丈夫、開幕メメントモリを受けて気絶しただけだから。

 

「これは酷い……」

 

「ああ……」

 

「もしかして、一夏より保たなかったんじゃないの?」

 

「うん。試合時間、8秒だって」

 

「うわぁ……」

 

頼まれた通り模擬戦したら、みんなにドン引きされたんだけど……。解せぬ。

 

「それで、模擬戦はこれで終了でいいですか?」

 

「あ、ああ……協力感謝する」

 

織斑先生がそう言って、模擬戦(織斑君達は蹂躙とかコソコソ言ってる、解せぬ)は終了した。

その後はオルコットさんとデュノアさんが、ヤムチャしてる楯無さんを保健室に運んだんだけど、ここで私はふと気付いた。

 

「私、この後どうすれば?」

 

確か寮の空き部屋に移動するはずだったけど……楯無さんが動けなくなったら、誰が案内するの?

 

 

 

結局、保健室送りになった楯無さんの代わりに、カンザシさんに案内してもらうことになった。

そして案内された部屋なんだけど……

 

「ここが、貴女にいてもらう部屋……」

 

「……」

 

「どうか、した?」

 

「ううん。まさかこの部屋だとは思ってなかったから」

 

「?」

 

案内された部屋は1032号室。奇しくも、元の世界で陸と過ごした部屋だった。

 




原作世界にチート機をぶち込むとこうなります。本作世界では宮下製相手に模擬戦を続けた結果、一夏達も(特に精神面が)強くなってます。大体こんな感じ。

簪(全力)>楯無≒簪(モンド・グロッソ仕様)>本作ハーレム達≧本作一夏≧原作ヒロイン達≧オリ主、原作一夏

実はそんなに強くないオリ主。ただし、キャノンボール・ファストの時のように不意打ち上等の場合を除く。
本作一夏が原作より強いのは、フェイントとかを使い始めたから(という設定)。

というかですね、原作だと一夏がヒロイン勢にISで勝ってるシーンが少ない気が……。機体相性でセシリアぐらい?


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第84話 ガールズトーク?

ほぼノリと勢いで書いてます。


こっちの世界の1032号室に通された後、私は夕食(食堂には行けないから、復活した楯無さんにテイクアウトしてもらった)を食べると、寝間着(カンザシさんから借りた)に着替えてベッドに潜り込んだ。

 

(う~……陸がいないベッド、寂しいなぁ……)

 

ほんの2,3日とはいえ、早く元の世界に帰りたい、陸にぎゅーしたい……。

 

と思いながら次の日を迎え、またもやテイクアウトしてもらった朝食を食べていると、今日は休日だったらしく、なぜか一夏ハーレムの面々(どうやらこの世界では、カンザシさんもメンバーらしい)がやってきて、突発の女子会に(強制)参加させられていた。

 

「ホンット、一夏ってば朴念仁なのよ!」

 

「うん、一夏は朴念仁」

 

「そうですわ! わたくし達がどれだけアピールしても気付きませんのよ!?」

 

「全くだ」

 

というか、ほぼ織斑君に対する愚痴になっていた。

 

「ねぇ宮下さん、何かいい案無いかなぁ?」

 

どうして私に聞くの? というかこのセリフ、元の世界でも聞いたような……。それなら

 

 

「いっそ織斑君に抱かれたら?」

 

 

「「「「「「ぶふー!」」」」」」

 

あれ? おかしいな……元の世界はこれで万事解決したのに。

 

「な、ななな、なにを言い出すんですの!?」

 

「そうだぞ! い、一夏に、だだ、抱かれ……!」

 

「はぅ……」

 

「いや、確かに一理あるかもしれんな」

 

「ラウラ!?」

 

みんな顔を真っ赤にして抗議する中、ボーデヴィッヒさんだけが腕を組んで首を縦に振っていた。

 

「嫁は朴念仁だ。そして突発性難聴なんじゃないかと思ってしまうぐらい、今まで私達のアピールをスルーしてきたんだ。なら、最後の手段として実力行使も選択肢に含めておくべきだ」

 

「そ、それはそうかもだけど……」

 

「みんなあまり乗り気じゃなさそうだから、ボーデヴィッヒさんだけ先行する? そしてそのまま正妻の座も……」

 

「おおっ! それは良い「「「「「抜け駆けはんたーい!」」」」」おい」

 

ボーデヴィッヒさんが半目で睨むと、大合唱していたみんなは明後日の方を向いて目を逸らす。この人達、こうやってお互い牽制し合ってるから、誰も織斑君との仲が進展しないんじゃ……?

 

「というかだ! 宮下の世界での一夏はどうなんだ!?」

 

「あ、それは気になる」

 

「う~ん、一応、織斑先生に聞いてからで。私の一存で、どこまで話していいか分からないから」

 

「話していいわよ」

 

「え!?」

 

突然の声に振り向くと、

 

「お、お姉ちゃん」

 

「会長、いつの間に」

 

そこには楯無さんが立っていた。『隠密』と書かれた扇子を広げられても……。

 

「いいんですか? あまり話を広めたくないから、わざわざ生徒指導室で話したんじゃ……」

 

「いいのよ。亡国機業とかについても、専用機持ちのみんなにはある程度教えてあるから」

 

「はぁ」

 

どうやらこっちの世界では、学園祭から続く襲撃で情報共有が進んでいるらしい。元の世界では一夏ハーレムの面々は知らないからなぁ。

 

「許可も出たところで、一夏について教えてよ」

 

デュノアさんの言葉に、他のみんながズズイッと顔をこっちに寄せてくる。近い近い。

 

「それじゃあ、結論から言うけど、織斑君は……」

 

「「「「「「一夏(さん)は?」」」」」」

 

 

「嫁が5人いる」

 

 

「「「「「「……は?」」」」」」

 

「篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさんの5人を、まとめて娶った」

 

 

「「「「「「はぁ!?」」」」」」

 

うん、いい驚きっぷり。

 

「私だけ、一夏の嫁じゃない……」

 

みんな顔を真っ赤にする中、カンザシさんだけ目のハイライトが消えていた。

 

「貴女は、一夏に選ばれなかったの?」

 

「ちょ、アンタ……」

 

わお、自分が含まれてなかったからって、酷い言い様。凰さんがドン引きするレベル。

 

「私には陸がいるから」

 

「陸?」

 

「2人目の男性操縦者」

 

 

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 

 

織斑君の嫁と聞いて浮かれていた面々も、再度大声を上げた。

 

「ふ、2人目の男性操縦者!?」

 

「そんな馬鹿な、男性操縦者は一夏一人だけのはず……」

 

「けど、向こうの世界では2人目が出てきたそうよ」

 

みんなが驚く中、楯無さんが説明を引き継いだ。

 

「それが……」

 

「宮下陸。私のルームメイト。そして……」

 

そこまで言って、私は右手薬指に嵌めている指輪を撫ぜる。陸から初めて貰った、誓いの証。

 

「「「「「「……」」」」」」

 

今度はみんな、口をアングリ開けて固まっていた。大声上げたり黙ったり、すごい忙しない。(棒)

 

「そう、なんだ……向こうの世界の私は、一夏とじゃなくて……」

 

「陸と出会わなければ、もしかしたら私も貴女と同じだったかもしれない」

 

生徒指導室で楯無さんから聞いた話では、打鉄弐式が完成したのはタッグマッチの直前。つまり、それまで意地を張って一人で動いていたらしい。そして、本音を始めとした整備科の人達の手を借りるきっかけを作ったのが、織斑君だったと。もし元の世界に陸がいなければ、私も織斑君に……どうだろう、正直分からない。少なくとも、4月の本音との和解は無かっただろう。

 

「ちなみに凰さん」

 

「え、あたし?」

 

「私の世界では、"酢豚事件"は解決済みです」

 

「ふぁっ!?」

 

あ、凰さんが自身を指さしたまま再度固まった。

 

「酢豚事件?」

 

「なんですのそれ?」

 

「もしや……」

 

篠ノ之さんだけがピンと来たようだけど、他は何それって顔。

 

「そ、そそそ、それで、結果は……」

 

凰さんがガクガク震えながら聞いてきたので、

 

 

「織斑君に告白されて、ゴールイン」

 

 

「――っ!!」

 

 

――バタンッ!

 

 

「り、鈴!?」

 

「倒れた! 鈴が顔面沸騰させながら倒れたぞ!?」

 

しっかり仕留めておいた。

幸せそうな顔してるだろ。ウソみたいだろ。気絶してるんだぜ。それで。

 

「けど、最終的には5人まとめて、織斑君に()()()()

 

「「「「「へっ?」」」」」

 

「えっと、宮下さん? それって……」

 

「みんな翌日は、足腰立たなくて授業を欠席したって本音から聞いた」

 

――バターンッ!!

 

「み、みんな!?」

 

こっちの世界の更識姉妹を除いて、全員が凰さんの後を追った。違うのは、鼻血を流しながら倒れたところだろうか。

 

「ち、ちなみに、宮下さんは……?」

 

「私も次の日は、陸におんぶしてもらって授業に出た」

 

「……へぅ」

 

「簪ちゃ~ん!?」

 

残念、カンザシさんも耐性が無かったようだ。というか、元の世界では陸に影響されて、みんなメンタル強くなり過ぎたのかも。

 

「あの~、私はそういうのは……」

 

「ないです」

 

「私は仲間外れなのね……」

 

「たぶんこっちの世界でも同じかと思いますけど、虚さんは弾君といい感じになってます」

 

「チクショウメェ!!」

 

涙目で扇子を床に叩きつけた。その衝撃で扇子が開き、『完全敗北』の文字が。泣いてる割には余裕あるなぁ。

 

「ちなみに楯無さんは、織斑君と?」

 

「え~っと……みんながいない時に『刀奈』って呼んでもらってる……」

 

「ファッ!?」

 

今度は私が大声を上げていた。

そもそもお姉ちゃんの『楯無』って名前は、更識家当主が代々襲名しているもので、本名は別にある。それが『刀奈』。本来、家族以外には教えないものを、この人は……

 

「織斑君に、真名を教えたんですか……?」

 

「う、うん……」

 

「それでいて、織斑君とゴールインしてないと?」

 

「うぐっ……」

 

何をやってるんだろうこの人は。

 

「もういっそ、楯無さんも織斑君に食べられ「わー! わー!」

 

顔を真っ赤にして遮ろうとしてくる楯無さん(お姉ちゃん)も新鮮だけど、更識家当主としてはダメだと思う。というか、

 

「こっちの世界の更識楯無もヘタレか……」

 

「ヘタレって言わないでよぉ!」

 

反論は織斑君としっかりくっ付いてから、どうぞ。

そして決めた。元の世界に戻ったら、お姉ちゃんを陸か織斑君とくっ付けよう。このままじゃ、目の前の中途半端ダメ当主みたいになっちゃうから。

 

「なんか私を貶すようなこと考えてない!?」

 

「(ヾノ・∀・`)キノセイキノセイ」

 

「ちっとも信用できない!?」

 

「というかですね、この状況どうしましょう?」

 

「え? ああ……」

 

改めて見回すと、気絶者が6人(内、鼻血4人)も出てるわけで。

 

「とりあえず……そのまましときましょ?」

 

「ええ~……」

 

とはいえ、6人も担いで部屋まで送るのは難しい。しかも私は他の寮生に見られると不味いから、余計に高難易度。それなら、本人達が目を覚ますまで放置するしかないか。

 

 

それから私達は、気絶したみんなが目を覚ますまで、(一夏ハーレムの面々によって)持ち込まれたお菓子を摘まんでいた。そして全員が目を覚まして自分の部屋に戻った頃には、昼を回っていたのだった。




会長が『刀奈』を教えるのはワールド・パージ編だろうって?


こまけぇこたぁ
    いいんだよ!!
  /)
 / /)
`///   __
| ̄二つ /⌒⌒\
| 二⊃/(●)(●)\
/  ノ/ ⌒(_人_)⌒ \
\_/|   |┬|   |
 / \  `ー′  /


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第85話 やっぱりこうなった

気付けばUAが10万越え、お気に入り数も500を突破していました。
( ̄人 ̄) アリガタヤー

今後も頑張って、オリ主と簪に暴れまわってもらいます。(オイ


今回も、それは突然だった。

一夏ハーレムの面々が引き上げた後、少ししてドアがノックされ、楯無さんが誰何(すいか)しようと、ほんの少しだけドアを開けたその時だった。

 

――ヒュッ

 

「なっ!?」

 

楯無さんの横を"何か"が通り過ぎた。いや、私に向かって、何かが飛び込んできた。慌てた私は

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「あだだだだだだだ!」

 

 

……思わず、陸直伝のアームロックをキメていた。

 

「宮下さん、大丈夫!?……って、貴女は……!」

 

「えっと……私に何か用ですか、篠ノ之博士?」

 

この世界でも、篠ノ之博士は『不思議の国のうさ耳アリス』な恰好だった。そして、アームロックで返り討ちに遭うところまで。

 

「は、離せよぅ!(ゴリッ)あ、ごめんなさい、離してくださいお願いします」

 

「え、弱い」

 

元の世界の博士なら、陸のアームロックをキメられても(多少は)抵抗してたのに、こっちは私のアームロックですぐギブアップしちゃった。

 

「み、宮下さん……?」

 

「とりあえず、楯無さんは織斑先生を呼んでもらえますか?」

 

「そ、そうね……」

 

「ちょ! ちーちゃんを呼ぶなんて――」

 

 

――ゴリィッ!

 

「ぴぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

あ、もうこのやり取り(向こうの世界含めて)2回目なんで結構です。

 

 

ーーーーーーーーー

 

楯無さんに連れられた織斑先生は、私にアームロックをキメられて半泣きの篠ノ之博士を見て驚愕していたけど、少ししたら落ち着いたのか、博士に事の次第を説明し出した。

 

「はぁ、平行世界ねぇ……」

 

「私としては、宮下が束を取り押さえたと聞いて耳を疑ったぞ」

 

「うんうん。細胞レベルでオーバースペックの束さんを捕縛するなんて、そっちの世界は超人類がわんさかいるのかな?」

 

本気で驚いている織斑先生に同意するように、うさ耳博士が相槌を打つ。いえ、陸のアームロックがすごいだけです。

 

「それで? お前は一体何しに来たんだ」

 

「そうだよそうだよ! 昨日徹夜明けでぼんやりディスプレイ見てたら、突然ISコアの信号が増えてるんだもん! もう驚き桃の木だよ!」

 

「篠ノ之博士、世界中のISコアをトレースできるんですか!?」

 

「当たり前だよ。誰がISを作ったと思ってるんだい?」

 

楯無さんの驚きに、博士が当然と言わんばかりに答えた。私としても『今更』だけど、こっちでは違うのかな?

 

「けど、おかしいなぁ……平行世界から来たのは、本当に君だけなのかい?」

 

「そうですけど、何か引っ掛かることでも?」

 

「うん。さっき言ったコアなんだけどね…増えた信号は2()()なんだよ」

 

あ、それって……

 

「なんだと? つまり、宮下以外のISがいると?」

 

「そうなるだろうね。しかも信号の近さから、このIS学園内なのは間違いないよ」

 

「それは、急いで探さないと――」

 

「あ、あの~……」

 

「なんだ宮下。今それどころじゃ――」

 

「たぶんそれ、両方私です」

 

「「「はぁ?」」」

 

 

「私の打鉄弐式、デュアルコアなんです」

 

 

「「「はぁっ!?」」」

 

 

あれ? 楯無さんと織斑先生はともかく、篠ノ之博士も固まっちゃった?

 

「デュ、デュアルコア!?」

 

「な、なんて贅沢な……!」

 

「けど、それなら納得できる。なるほど、1つのISにコアを2つ付けるか……面白い発想するなぁ」

 

博士からしたら面白いと思うけど、世間一般で考えたら狂気の沙汰だよね。467個しかないコアを2つ使うなんて。

 

「これ、君がやったのかい?」

 

「いいえ、さっき話にあった陸です」

 

「へぇ、そいつはどんな奴なんだい?」

 

「陸ですか? そうですねぇ……」

 

とりあえず、思いつく端から(前世云々は除いて)陸について話してみた。

倉持と揉めた時に、デュノア社に第3世代機の設計図を売ったこと。博士からもらった鉱物(時結晶のことは伏せた)でISコアを自作したこと。そのコアで本音の専用機を作ったこと。etc...

 

「「「……」」」

 

あ、あれ? 何故に3人ともお通夜ムードに?

 

「宮下……その話、生徒指導室では聞いてないんだが……?」

 

「そうよ。どうしてそんな重要な話を端折っちゃったのよぉ……」

 

そんなに陸個人の話が重要なの?……うん、よくよく考えたら、言わなきゃダメでしょ。個人でISコア自作して専用機作るとか、篠ノ之博士の再来だよ……。私、思いっきり陸色に染まっちゃってる?(語弊のある言い方)

 

「す、すみません……」

 

「しかしそうか、デュノアが第3世代機に乗っているのか……」

 

「しかも本音ちゃんまで……というか、どうして本音ちゃん?」

 

「それはおそらくですけど、専用機を渡しても問題のない、後ろ盾がある人を選別した結果かと」

 

なにせ篠ノ之さんが、お姉さんである篠ノ之博士お手製の第4世代機をもらってから大変なことになってたのを、陸も身近で見てたから。

聞いた話では、私が国家代表になった後釜に、篠ノ之さんを候補生にしようって案が挙がってるらしい。

 

「なるほど、それなら布仏、延いては更識家の後ろ盾があれば、少なくとも裏からの厄介事は減るだろうな」

 

その代わり私はタッグマッチ戦で、綺麗にフレンドリーファイアを食らいましたが。

 

「とりあえず、コアの信号が増えた理由は分かったし、束さんは帰るとするよ」

 

「なんだ、もう帰るのか?」

 

「うん。作業途中でこっちに来ちゃったからね」

 

作業? なんだろう? この世界に陸はいないから、マイクロウェーブ送電の話は出て来ないはずだし、今日がタッグマッチ後すぐの日曜日だってことを考えると……

 

「無人機が取ってきたデータの解析、ですか?」

 

「「なぁっ!?」」「へぇ?」

 

あ、当たりっぽい。元の世界の博士が『箒ちゃんの経験値稼ぎのためにゴー君Ⅲ号(無人機)を送り込む気でいたんだけど、この子に太陽光パネルと送電アンテナを付けることにしたから計画中止にするよ♪ 』とか言ってたけど、この世界ではそれがタッグマッチ戦だったんだろう。

 

「束」

 

「カラスが鳴いたらか~えろ!」

 

「おい待て束ぇ!」

 

織斑先生が声を上げた時には、すでに博士はベランダの手すりを乗り越えた後だった。あ、やっぱりそこからお帰りですか、そうですか。

 

「はぁ……相変わらず、あいつには振り回される……」

 

「すごいインパクトが強烈でしたね……」

 

博士が去った後、織斑先生と楯無さんはすごく疲れた顔をしていた。私? 私はもう慣れた。この程度で疲れてたら、陸のパートナーにはなれない。

 

「それで、だ。宮下、まだ私達に話してないことは無いだろうな?」

 

「そうね。この際、洗いざらい話してもらうかしら」

 

「え~……」

 

洗いざらいって……これ以上何を話せばいいんだろう……? 適当に、拡散レーザー砲やレ○ジング○ートのことを話してみたら

 

「ないわぁ……」

 

「平行世界でも、私は胃に穴を開ける運命なのか……」

 

楯無さんは呆れ、織斑先生は目のハイライトが消えていた。

 

「織斑先生はまだ胃に穴開いてませんよ。直近の健康診断でALT値が高かったって聞いてますけど」

 

「それアルコールに逃げてるってことじゃないかぁ!!」

 

ちなみにALT値が高いと、アルコール性肝炎や脂肪肝の疑いがある。

 

「うぅ……更識姉、後は頼む」

 

「あ、あの、織斑先生?」

 

「私はちょっと、保健室に寄る……」

 

そう言って織斑先生はそそくさと部屋を出ていき、手を伸ばしかけた楯無さんが、こちらに顔を向けた。いや、そんな『どうしましょう?』って顔されても……。

 

「とりあえず……」

 

「とりあえず?」

 

「お昼ごはん、用意してもらえますか?」

 

なんやかんやあって、午後2時を過ぎていた。お腹減った。さすがにお菓子だけで満腹にはならないし、なるだけ食べたら(摂取カロリー)が怖い。

 

――グルルル……

 

……音の発生源を視線を向けると、そこには楯無さんのお腹が。

 

「……私の分も持ってくるから、ちょっと待っててね」

 

見事に顔を真っ赤にした楯無さんが、さっきの織斑先生と同じようにそそくさと部屋を出て行った。

ああ……テイクアウトだから無理なのは分かってるけど、かき揚げうどん(全身浴)が食べたい……。元の世界に帰ったら、かき揚げうどん食べるんだ。




アームロックはIS世界にて最強(異論しかない)

そして唐突ですが、次回でオリチャー終了予定です。


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第86話 出会いが突然なら、別れも突然

今回で、オリチャー終了でございます。


こっちの世界で篠ノ之博士から強襲を受けた翌日、何もすることが無い私のスマホから着信音が。

 

「もしもし?」

 

『やあやあ、平行世界はどうかな?』

 

「どうも何も……早く陸のところに帰ってギューしたいです」

 

『oh……開幕惚気られたよ』

 

「そして陸の匂いをクンカクンカしたいです」

 

『ちょっと君、何言ってるの?』

 

本音を正直に言ったら、通話先の相手、ロキさんにドン引きされた。解せぬ。

 

『そんな君に朗報。そっちの世界で今日の20時に、二つの外史の再調整が終わる予定だよ』

 

「つまり、元の世界に戻れる?」

 

『いえ~す!』

 

「そうですか……」

 

予定通り戻れると聞いて、少し気が抜けたかも。

 

『そっちの時間だと、今は9時過ぎだっけ? 20時までまだ時間があるから、最後の挨拶ぐらいはしておくといいよ』

 

「そうしようと思います。というか、神様でもそういう考えってあるんですね」

 

『そりゃあるよ。特に今後会うことは無いと思って手を抜くと、たまたま再会した時にネチネチ言われるんだから……』

 

ものすごい暗い声からして、実際にやらかしたんだろうか? 神様といえど、コミュニティの中ではそういうのはあるらしい。

 

『再度確認するけど、今日の20時にカンザシを元の世界に戻す。一応、そこの世界の人間を巻き込まないように、20時には一人でいてくれるとベストだね』

 

「分かりました。この部屋に一人でいればいいんですね?」

 

『そういうこと。それじゃあ最後の平行世界を満喫してね~』

 

通話が切れる。平行世界を満喫って、何をしろと……。

 

「……まずは楯無さんに伝えておこう」

 

元の世界で登録したお姉ちゃんのアドレスが、この世界では楯無さんに繋がるのは、やっぱり平行世界特有のご都合主義なのかな?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「今日の夜に帰っちゃうんだ……」

 

私のお昼ごはんを持ってきてくれたタイミングで、楯無さんがそう切り出した。

 

「了解したわ。簪ちゃんから借りたパジャマとかは、洗ってベッドの上にでも置いててちょうだい。20時を過ぎて、貴女が元の世界に戻った後に私の方から返しておくわ」

 

「色々お世話になりました」

 

鯖味噌煮定食を食べながら頭を下げると、楯無さんもアジの開き定食をつつきながら

 

「いいわよ。こちらとしても、別世界のISデータを採取する機会が得られたんだから。……正直、凄すぎて参考になるかは怪しいけど」

 

何でも、打鉄弐式のデュアルコアありきの機動は参考にならないそうで……なるとしたら、最後に楯無さんをヤムチャにしたメメントモリぐらいなんだとか。

 

「あれは凄かったわぁ……もう二度と食らいたくないわ」

 

「そうですか? 織斑君や一夏ハーレムの面々は、毎日の模擬戦で何度も受けてますけど」

 

「……やっぱり貴女の世界、おかしいわ」

 

チベットスナギツネみたいな目をされた。解せぬ。

 

「そんなだから、こっちの一夏君達より強くなってるのかしら」

 

「どうでしょう、特にデュノアさんとかは機体自体違いますし」

 

「『リィン・カーネイション』デュノア社が開発した、第3世代機か……」

 

楯無さんが遠い目をするのも分かる。分かるけど……

 

「ミステリアス・レイディを一人で組み立てた楯無さん(お姉ちゃん)がそれを言います?」

 

「ちょっとちょっと! 私だって元々ロシアが設計した『グストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)』をベースに組んだのよ? それに比べたら、向こうの"2人目"は個人でコア作成から全部やったんでしょ?……やっぱりおかしいわ」

 

またチベットスナギツネになっちゃった。でも確かに、世間一般からしたらISを一人で作るとか、大天災と呼ばれている篠ノ之博士ぐらいにしか出来ない所業。それをやったとなれば、チベットスナギツネぐらいなるかも。

 

「まぁ陸の場合、篠ノ之博士にすら『おかしい』と言わしめたぐらいですから」

 

「……敢えて内容は聞かないでおくわ。怖いから」

 

「あ、はい」

 

そんな話をしていて思い出した。そういえば、劣化版ISコアの話をしてなかったっけ。

 

「あの、楯無さん――」

 

「いい。言わないで」

 

「でも、洗いざらい話すように言ったのは――」

 

「聞きたくない! もうお腹いっぱい!」

 

手で耳を塞いでイヤイヤと首を振る楯無さん。えっと、ISの機能を使って……

 

『楯無さん、聞こえますか…あなたの心に直接呼びかけています……』

 

「やめてぇ! ISのプライベート・チャネル使ってまでぇ!」

 

『陸は当初、本来必須な鉱物なしでISコアを作ろうとしました。結局それは失敗に終わったのですが』

 

「だから聞きたくないからぁ!」

 

『後日、設計図を見た篠ノ之博士の目からハイライトが消えました。曰く『これでどうして正規の5割も性能が出せるか分からない』だそうで』

 

「全部喋られたぁぁぁぁ!!」

 

よし、これで洗いざらい全部話した。楯無さんがorzってるけど、これはコラテラル・ダメージ、必要な犠牲だったということで。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして時間は流れ、19時54分。あと5分ちょっとで、私は元の世界に帰ることになる。

 

「洗濯したパジャマ良し、書置き良し」

 

最後にやり残したことが無いのを指さし確認して、私はベッドに腰かけた。

 

「あとは、ロキさん次第かぁ……」

 

あれから特に連絡が無かったから、おそらく予定通りことが進んでいるんだろう。と思っていたら

 

「あっ……」

 

爪先や指先が、GN粒子のような光を散らしながら、ゆっくりと透明になっていく。

 

「これが、世界を渡るってことなのかな……」

 

自分という存在が、この世界から消えていく。でも、怖くはない。

 

(久々に、陸に会える……)

 

それ思いながら、私は机の上に置いた書置きをチラッを見た。

 

(最後に爆弾を投げ込みたくなるのは、陸に似たんだろうなぁ)

 

偶々自分の拡張領域に紛れ込んでいた、()()()()()の荷物。おそらく私が去り、これを使った後は大事になるだろう。けれど

 

(それでも、前には進むべきだと思うから……)

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

――コンコン

 

20時10分。1032号室のドアを叩いても反応がないのを確認して、私はドアを開けた。

 

「……本当に、帰っちゃったのね……」

 

時間にして、わずか2日。それでも、とても印象に残る出会いだった。

最初は自分の妹と瓜二つで驚き、平行世界の人間だと告げられて驚き、そのISの機体性能に驚き、全てに驚くばかりだった。

だからかしら。ちょっとだけ、"寂しい"と思ってしまうのは。

 

「さて、寝間着とかも回収したし、あとはこれを簪ちゃんに返して……あら?」

 

お願いした通りにベッドの上に置かれたものを回収した私の視界に、机の上に置かれた紙と、何か焼き物っぽいものが入った。

 

「何かしら……『更識楯無さんへ』って、これ、私宛て?」

 

 

『短い間でしたが、お世話になりました。お礼と言っては何ですが、この香炉を差し上げます。中に入ってるお香を、織斑君と楽しんでください』

 

 

「香炉……この焼き物、香炉だったのね」

 

蓋の部分を開けてみると、確かに何かを磨り潰したようなものが入っている。これがお香ってことね。

 

「まったく……こんなことしなくてもいいのに」

 

それでも、厚意は有難くもらっておきましょう。

 

「そうだ。宮下さんのことを話すのに、みんなを一夏君の部屋に集めましょう。お香も、その時に使ってみればいいわね」

 

 

 

 

その判断を、私は後に非常に後悔した。

どうして、平行世界の一夏君が5人もの女の子を嫁にするに至ったのか。そして、どうやってみんなを()()流れになったのか。

それに気付かずに、渡されるままお香を使ってしまったことを……。

 

「でも……すごく幸せな気分なのが悔しい……」

 

翌日、8人全員が死屍累々な状態の1025号室で、私は全裸のままそう呟いていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――女性権利団体本部、代表執務室

 

一方元の世界では、女権団のトップである山崎敏美が、配下からの説明を聞いていた。

 

「アメリカ政府はこちらの提案を飲んだのね?」

 

「はい。あちらとしても、このまま学園に『アラクネ』のコアを放置しておきたくないそうで」

 

「そんなのどうでもいいわ。こちらが必要なのは、あの薄汚い『ゴミ』を始末する人員、それだけよ」

 

「それはもちろん。こちらの『襲撃の際、ISコアの奪還に合わせて"2人目"を処分せよ』という要求も、あちらは飲んでいます」

 

アメリカ政府は『返せ』と言えないアラクネのISコアを、女権団は宮下の命を。それぞれが奪いたいものがIS学園にあったため、両者は手を結んだのだ。

 

「その際、こちら側で学園に対して陽動をしてほしいとのことですが」

 

「私達に働かせようとか、いつからホワイトハウスのゴミ男共は勘違いしているのかしら?」

 

「それを容赦するのも、我々選ばれた者の度量というものです」

 

「ふんっ、そのくらい分かっているわ」

 

配下のヨイショと諫言に鼻を鳴らしながら、山崎は先を促す。

 

「そこで、()()を使います」

 

「ああ、ドイツ支部から献上された玩具じゃないの。それ、使えるの?」

 

「はい。有効範囲が短めですが、これのISは()()()()()ですから、警備の目を抜けて範囲内に近づけられます。そしてこれを、亡国機業の連中に渡します」

 

「亡国機業? もしかしてあの負け犬連中、まだ生き残ってたの?」

 

これには山崎も素直に驚いた。

かつてゴミと倉持技研との揉め事から発展して、日本の中枢から追放された非主流派の残党が流れ着いた組織、亡国機業。どうせそこでも無能を晒して、勝手に粛清されるだろうと放置していたのだが……

 

「連中、どうやら内部抗争に勝って、逆に旧上層部を粛清したようです。今、彼の組織の上層部はほぼ女尊男卑主義者で固められているそうで。そうした中で、こちらにコンタクトを取ってきました」

 

「なんと?」

 

「『今回の作戦に参加して成功した暁には、再び女権団への復帰を確約してほしい』と」

 

「負け犬風情が、虫のいい話をする。いいわ、その玩具を連中に渡しなさい」

 

「分かりました。ちなみに、連中を本当に復帰させるのですか?」

 

「馬鹿言わないで。作戦が終わったら、余計なことを吠え出す前に消しなさい。学園襲撃の主犯としてね」

 

内部闘争に勝つ能力があるなら使い道も……と一瞬思った山崎だったが、そんな連中を復帰させたら、今度は自分が抗争で蹴落とされかねないと思い直し、処分を命じた。

 

「承知しました」

 

恭しく頭を下げる配下が持ってきた玩具。自立思考を止めるための装置を頭に被せられた、銀髪の少女の目――黒い眼球に金色の瞳――には、何も映ってはいなかった。




最後に特大の爪痕を残していく簪様。み~んな幸せにな~れ♪(ちーちゃんを除く)

そしてワールド・パージ編をやるために、とってもゲスい流れでくーちゃんがエントリーです。というわけで、次回からワールド・パージ編が始まります。


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ワールド・パージ
第87話 一難去って、また一難


予告通り、今回からワールド・パージ編を開始します。

最近PCを買い替えたせいか、今まで駆逐した誤字変換が復活しとる……。あうあ~……。


平行世界から戻ってきた時、元の世界はタッグマッチの翌日、つまりほとんど時間が経過していなかった。

一応、陸には本当のことを話したけど

 

「そっか、お疲れ様だったな」

 

とだけ言って、頭を撫ぜてくれた。本当なら突拍子もない話だけど、ロキさん達のことを私以上に知ってる陸からしたら、今回のことは普通に納得できることだったみたい。

 

「まぁ結果的に問題が無かったとはいえ、今頃駄女神は主神からお説教だろうな」

 

ニヤリと陸が笑う。あ、そうか。それで今回、ロキさんだけが通話してきたんだ。

 

「とりあえず、だ。おかえり、簪」

 

「うん。ただいま、陸」

 

そう言って、私の主観時間で2日間お預けされていた分、陸にギューと抱き着いた。

 

ーーーーーーーーー

 

「倉持技研……うん、合ってるな」

 

念のため、事前に渡された地図と看板を確認したが、ここで正しいようだ。

 

倉持技研。白式の開発元だ。今回俺は第二形態移行(セカンド・シフト)した白式のデータ採取のため、IS学園どころか市街地からも遠く離れた、電車やバスを乗り継いで2時間以上もある、ほぼ山奥と言えるこの研究所に呼び出された。

 

「……どうやって入るんだ?」

 

ゲート前まで来て辺りを見渡すが、目の前には取っ手のないドアがあるだけで、チャイムの類は見当たらない。

 

――さわさわっ

 

「のわぁっ!?」

 

し、尻触られた!? ち、痴漢か!?

 

「いやぁ、未成年のお尻はいいねぇ」

 

「な、なななな……っ!」

 

振り向くと痴女がいた。いや、痴女としか言い様がない。

こんな山奥で紺色のISスーツを着て水中眼鏡を付けて、片方の手には銛、もう片方の手には持っている銛で獲ったであろう魚を持っている女性が、普通なわけがない。

しかも、魚を採るために川にでも潜ったのか、全身水浸しだし。うぅ、濡れた手で触られたから、ズボンが濡れて尻が冷たいし気持ち悪ぃ……。

そんなことお構いなしに、その痴女はズズッと顔を突き出してこちらに迫ってきた。

 

「ふーむ」

 

「あ、あの……」

 

「ああゴメンゴメン、自己紹介がまだだったね」

 

そう言うと、水中眼鏡を外した痴女は

 

 

「私の名前は篝火(かがりび)ヒカルノ、この倉持技研第2研究所の所長だ」

 

 

「しょ、所長!?」

 

こんなヘンテコな恰好した人が!? 突然他人の尻を触る痴女が!?

こんな人に白式を任せて、本当に大丈夫なんだろうか……?

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

痴女、もといヒカルノさんに案内されて、俺は研究所の中を歩いていた。ちなみに、今のヒカルノさんは水浸しじゃない。……エアシャワーだっけ? あれって服に付いた埃や汚染物とかを落とすために使うんであって、全身を乾燥させるのに使うものじゃないはずだよな……?

 

「はぁ、ヒカルノさんって千冬姉や束さんの同級生だったんですか」

 

「まぁね。とはいえ、ただ同じクラスにいただけで、交友関係は無かったけどね」

 

あの大天災と仲良くするのは難易度が高すぎるよ、とヒカルノさんは笑った。う~ん、確かに束さんは今も昔も、興味ない人には塩対応どころか対応すらしないからなぁ。

 

「さて、到着したよ」

 

部屋に入ると、そこは学園の整備室に似ていた。いや、もっと大型機材が所狭しと並んでいる。

 

「それじゃあさっそく、白式を展開してちょうだいな。データ採取をしつつ、ついでにシステムの最適化とかもやっちゃうから」

 

「分かりました」

 

意識を集中して、白式を展開する。それと同時に、ヒカルノさんも空中投影ディスプレイを呼び出す。

 

「ふーむ。細かいダメージが蓄積してるねぇ。こりゃ、一旦小規模メンテナンスしてからデータ採取した方がいいね」

 

「ダメージですか……」

 

考えてみれば、セシリアとの決闘以来、無人機、暴走したレーゲン(ラウラのIS)、銀の福音、亡国機業と実戦続きだったからな。無理させちまったな……。

 

「それって、どれぐらい時間が掛かります?」

 

「ダメージ自体はそうでもないから、データ採取も含めて半日ぐらいかな?」

 

「良かった。『数日かかるから泊っていくと良い』とか言われたらどうしようかと」

 

「君が望むなら、ここで私と一緒にお泊りしてもいいんだよ? そして深夜の研究室に二人っきりで、手取り足取り腰取り尻取り……」

 

「結構です!」

 

前言撤回、半日でも不安だ……。

 

ーーーーーーーーー

 

昼休み。私達3人が食堂に入ると、一夏ハーレムの面々がつまらなさそうに食事をしていた。

 

「どうしたの?」

 

「ああ、更識さん。実はね……」

 

デュノアさんが言うには、織斑君が倉持技研に呼び出されて、今朝から不在らしい。なんでも、第二形態移行(セカンド・シフト)した白式の詳細データを取りたいんだとか。今更?

 

「むしろ、今まで所員がこっちに来ても分からないから、設備のある研究所まで来いという話らしい」

 

「まぁそうなるか」

 

篠ノ之さんの補足に、陸が納得したように頷く。

 

「一応一夏の白式は、倉持技研から回されて来てるもんだからな。来いと言われたら無下に断れないか」

 

「そういうことよ。というか、打鉄弐式がそういう柵と無縁なのが異常なのよ」

 

「ははは……更識さんの場合、向こうから不義理をしたわけだし」

 

「そうだな。しかも自由国籍の一件で、所属企業を選ぶ権利すら得たんだろう?」

 

「うん。今はまだ無所属扱いだけど」

 

最初は何社か手を挙げていたんだけど、弐式のGNドライブを見た途端、『ウチでは手に負えません』って言って、みんなそそくさと帰っちゃったっていう……。

 

「ホント、宮下君は技術者泣かせだよ」

 

「いやいや、この程度で泣き出す根性なしが悪い。『お前の技術を盗んでやる』ぐらいの気概を見せろって話だ」

 

「いや、お前の技術を下手に盗んでも、気付かぬ間に自爆しそうなんだが……」

 

ボーデヴィッヒさん、正解。

前に陸からこっそり教えられたんだけど、弐式に付いてる武装類には、抵抗器に見せかけた極小回路が入ってるらしい。その部分をただの抵抗器だと思ってコピーすると、回路内が焼き付いてボンッ! 回路を流れているエネルギーを丸々使った爆弾と化す。

 

「まぁそれはいいだろ。要は、一夏が学園にいないから、イチカニウムが不足してイライラしてるんだろ?」

 

「何その謎成分」

 

「おりむー、麻薬成分になっちゃったんだね~」

 

麻薬成分って……でも依存性が高いのは同じかも。

 

なんて、呑気な話をしていた時だった。

 

 

突然、食堂の灯りが落ちた。ううん、ここから見える限り、食堂だけでなく廊下の方も全部。しかも、それだけでなく

 

――ガシャンガシャンガシャンッ!

 

「防御シャッター!? なんでこんなものが降りてくるのよ!?」

 

凰さんの叫びに答えられる人がいないまま、最初に灯りが落ちたのも含めて、食堂内は真っ暗になった。

 

「……ラウラ」

 

「ああ、緊急用電源に切り替わる様子もなければ、非常灯も点かない。全員、ISのセンサーをONにしろ」

 

ボーデヴィッヒさんが率先して、専用機の各種センサーを起動させる。それに倣って、私達もセンサー類を動かす。同時に暗視界モードに切り替えると、やっと周囲の様子が見えるようになった。

他の生徒は突然の出来事に、けれど真っ暗だから、不安そうにしながらもその場から動けずにいた。

 

「それでどうしますの? まずはみなさんを、校舎の外に誘導を?」

 

「そうだな。セシリアの言う通り、まずは生徒達の――」

 

そこに、プライベート・チャネルで通信が入ってきた。

 

『専用機持ち達は全員、今からマップを転送する地点へ集合。途中で防壁が降りていた場合は、破壊も許可する。可及的速やかに集合しろ』

 

織斑先生からの指令と共に、マップが転送されてくる。でも、これって……。

 

「なぁ簪。俺の目が悪くなければ、この集合地点って……地下か?」

 

「うん。間違いなく」

 

転送されてきたマップに赤く光る集合地点。普段、立ち入り禁止区域になっている地下の領域だった。




ワールド・パージを解決するために、一夏には原作通り2時間以上の道のりを30分で戻ってもらいます。(オニチク



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第88話 迎撃

「状況を説明する」

 

途中隔壁を2,3枚ほど(凰のガス抜きも兼ねて)吹き飛ばし、IS学園の地下区画、その一番奥の部屋で、織斑先生と山田先生、それに楯無さんが待ち構えていた。

どうやらここだけは完全独立で動いているらしく、灯りも点いていれば、旧式ながらディスプレイにも様々な情報が表示されている。

 

「現在、IS学園の全システムがダウンしています。緊急システムも起動しないことから、電子的攻撃……つまりハッキングを受けていると断定します」

 

山田先生が現状説明をし始める。ハッキングねぇ……。

 

「(篠ノ之博士、かな?)」

 

「(どうだろうな。前に聞いた感じじゃ、試作無人機を高軌道上に乗せたって話だったからな)」

 

束が全力を注ぐと宣言した太陽光発電計画。今はある意味、その計画の一番重要なフェーズのはずだ。そんな時期に、こんなことを起こす暇があるのか疑問だ。

 

「えっと、現状について質問はありますか?」

 

「はい」

 

さっそくボーデヴィッヒが挙手する。さすが現役軍人、有事に対する動きが機敏だな。

 

「ハッキングを受けたとして、敵の目的は?」

 

「それが分かれば苦労はしない。ここはIS学園だ。各国から操縦者の卵も、専用機も集まっている。ヒト・モノ・情報と、貴重品はいくらでもあるからな」

 

それはそうだろう。ボーデヴィッヒの方も、スッと手を降ろした。

 

「それでは、篠ノ之さん、オルコットさん、凰さん、デュノアさん、ボーデヴィッヒさん、宮下君の6人はアクセスルームへ移動、そこでISコア・ネットワークを利用した電脳ダイブを行ってもらいます。更識簪さんは皆さんのバックアップをお願いします」

 

山田先生の説明に、一夏ハーレムの面々はお互い顔を見合わせる。

 

「電脳ダイブというと……」

 

「学園祭の後に導入された、あのVRゴーグルみたいな……?」

 

「原理としては似たようなものだ。そして、ダイブ中は無防備になる点もな。だから布仏と更識姉には、万一の場合に備えて防衛戦力として待機してもらう」

 

つまりハッキングを陽動として、直接戦力を投入してくる可能性があるってことか。

 

「あの~、私が防衛戦力でいいんですか~?」

 

おずおずと、のほほんが挙手した。

 

「お前が狭い通路上でテールブレードを振り回すだけで、一定の効果はある」

 

「なるほど、攻性防壁としてはアリですね」

 

「ラ、ラウラウ~!?」

 

のほほんが情けない声を上げるが、確かにそれなら荷電粒子砲が当てられなくても戦力になるか。いや、狭い通路上なら、ナインテールの拡張領域に入れてある"()()"を使うって手もあるな。後でのほほんに言っておこう。

 

「こういう時に、フォルテちゃん達が本国に戻ってるのは痛いわね……」

 

そんなのほほんを見て、楯無さんが苦い顔をしていた。間の悪いことに、3年のケイシー先輩も含め、専用機持ち2人がオーバーホールのために帰国しているのだ。だから今回は、のほほんも戦力に数えるしかないわけだ。

 

「ところで織斑先生。わざわざ専用機持ちを6人も投入する必要があるんですか? 他に対処方法は?」

 

「他の方法はない。ISコアと専用機持ちが現状、最も処理能力の高い、言い換えればハッキングに効果のある代物だからだ。そして相手の能力の上限が分からん以上、システム上同時に電脳ダイブ可能な6人を投入することに変更はない」

 

なるほど。学園の警備担当として、これしかないと判断してのことなら仕方ない。そう納得して、手を下げる。

 

「よし、それでは作戦を開始する。各人所定の場所に移動しろ」

 

織斑先生の号令で、俺達は移動を開始した。

 

ーーーーーーーーー

 

アクセスルームとやらは白一色の内装で、6台のベッドチェアが中央の太い柱を囲むように配置されていた。

 

「みんなはこの椅子に。私は向こうのデスクで、バックアップをするから」

 

簪に促されて、俺達はベッドチェアに横になると、それぞれのISをベッドチェアに内蔵されている端末部に接続した。

 

「今までゴーグルを被ってたから、ある意味新鮮だね」

 

「シャルロットは呑気ねぇ……。というか、こんな大規模装置と同じことがゴーグルサイズで出来るって方がおかしいんだけど」

 

「宮下さん「ノーコメントで」あ、はい」

 

オルコットの疑問に対して、インターセプトして強制終了させた。

 

「あの部屋のディスプレイからして、この地下区画は学園建造当初からあるんだろうよ。なら、こっちの装置の方が古いんだから、デカくても仕方ないんじゃねぇか?」

 

「言われてみれば、あのディスプレイ、空間投影型じゃなかったわね」

 

「そう考えれば、ここも当時の最先端技術だったんだろうな」

 

凰と篠ノ之が納得した声を出すと、他の面子もこれ以上の追及は無かった。

 

「ゴーグル使用時と違って、中の仮想世界は現実に即してない可能性が高いです。こちらでバックアップするので、みんなはシステム中枢の再起動に向かってください」

 

「おう。ナビゲート頼むな」

 

「うん。それじゃあ、ダイブ、開始!」

 

簪の宣言とともに、システムの接続が行われて――次の瞬間、意識が落ちるような、ある意味慣れた感覚に包まれた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

IS学園地下区画の真っ暗な通路を、米軍特殊部隊『名も無き兵たち(アンネイムド)』の隊長が、IS『ファング・クエイク』のステルス仕様型を纏って進んでいた。

この部隊は米国防総省のデータベースにも存在しない、名前通り『名も無き』存在である。その証拠に、彼女の纏っているISには部隊章等の、身元を示すものはない。

 

「……」

 

目標は、米国の第2世代機『アラクネ』のISコア。かつて米軍基地から強奪された機体をテロリストが使用、IS学園を襲撃したのが先々月。そして逆にテロリストを撃退したIS学園が、コアを保管しているらしい。

政府としては返却を要求したいが、IS委員会に『ISが奪われた』と報告していないため、今更言い出すことは出来ない。だからこそ、『アンネイムド』が投入されたわけである。

 

「……?」

 

前方にセンサーの感があり、ファング・クエイクの浮遊による前進を停止する。その瞬間、

 

――カンカンカンカンカンカンッ!

 

「何っ!?」

 

何かが壁を跳ね返りながら、ファング・クエイクに向かって飛んでくる。そして、その何かがファング・クエイクのシールドに当たった瞬間――

 

――ドドドドドドッ!!

 

「がぁっ!」

 

1つ1つは大したことは無い爆発が、ファング・クエイクの前面と側面から大量に発生し、爆風に煽られて壁に叩きつけられる。

 

「なに、が……」

 

1回。たった1回の攻撃でSEを削り切られ、意識も削り切れられそうになっている隊長が、最後に見たのは、

 

 

「こういう狭いところでりったん謹製の『反跳炸裂弾』を使えば、私でも当てられるんだよ~」

 

 

左右3門ずつの砲身をこちらに向けた、事前情報に無かったISの姿だった。

 

『アンネイムド』の隊長は、それどころかアメリカ政府は知らなかった。

IS学園で、新しい専用機が作られたことを。そのISが、条件次第で大火力を叩き出す機体であることを。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

本音と一緒に侵入者の迎撃に出た私は、地下区画の上層を進む敵影を発見。本音と織斑先生に下層通路の防衛を任せて、敵影を確認していた。

 

(森林地帯迷彩服(ギリースーツ)? いえ、あれは最新型の光学迷彩ね)

 

周囲に付いた枯草のような特殊フィルムが、稼働時には服に密着して周囲映像を映すことで、迷彩効果を発揮するって代物ね。

でも残念。

 

「どっかーん」

 

 

――ドドドドォォォォンッ!!

 

 

「う、うわぁぁ!?」

 

「なんだ! 何が、ぐぁぁ!」

 

そこにはすでに、私がアクア・ナノマシンを散布済み。だから清き激情(クリア・パッション)で一網打尽よ♪

 

「アルファチーム! くそっ! 敵はどこに――!?」

 

あら、別チームも合流してきたわね。でも、やることは変わらないわよ。それじゃあ、アクア・ナノマシン、散布開始~。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「こんなもんかしら」

 

特殊ファイバーロープで侵入者達を縛り終えた私は、ふぅと一息をついた。ざっと10人ぐらいは縛ったかしら。

そうしてから、私は侵入者の持っていた装備を確認した。

 

(最新型の迷彩服に、特殊合金製の強装弾を射出するアサルトライフル。間違いなくアメリカの兵士ね。問題は、このハッキングもこいつらの仕業なのか……)

 

「本音の方は大丈夫かしら?」

 

敵がこれだけとは思えない。もしかしたら、さっき合流したのとは別部隊が本音とぶつかってるかもしれない。

 

「様子を見に行きますか」

 

そう言って、私はISを待機状態に戻した。

 

――パスンッ

 

「……え?」

 

腹部に熱と痛みを感じて、そこで私は初めて自分が撃たれたことに気付いた。力が入らず膝をつき、そのまま倒れこんだ。

 

「やっと隙を見せたな……!」

 

(しまっ、た……)

 

拘束していたはずの男の一人が、片手にプラズマカッターを、もう片手に拳銃を持っていた。私としたことが、隠し持ってた武装を解除し損ねるなんて……。

その男が他の連中の拘束を解くと、私は10人近い兵士に囲まれていた。

 

「どうしますか?」

 

「アラクネのISコアが目標だったが、思いがけない拾い物だな」

 

「では?」

 

「止血と応急処置をしたら、モルヒネを投与。ブラボーはこの女とISを持って撤収、アルファは()()()()()の捜索を再開する」

 

「了解」

 

リーダー格の指示を受けてから、兵士達の動きは早かった。

私は自殺防止用に猿轡を噛まされ、首筋に無痛注射を打たれた。おそらくそれがモルヒネだったんだろう。腹部の痛みは引いていったけど、一緒に意識も薄れていく。

 

(かんざしちゃん……りく、くん……)

 

無意識のうちに二人の名前を呼んで……そして、私の意識は落ちた。




原作では、一夏達のISは無人機との戦いでダメージを負って展開不能のため、ダイブ組に回されています。本作では全員問題ないですが、オリ斑計画のためにダイブしてもらいます。(え
さらにイージスの2人がいると、襲撃側との戦力差が大きくなりすぎるため、ハンデとして帰国してもらいました。(オイ

うわっ…アンネイムドの隊長、弱すぎ…?
逆に考えるんだ、『簪すら倒した本音を相手に、よく頑張った』と考えるんだ。


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第89話 許されざるモノ

え~っと、後半グロ注意です。


電脳ダイブ特有の意識が一瞬落ちる感覚を経て、俺は目をゆっくり開けた。

 

「……は?」

 

素っ頓狂な声を上げたのは、目の前の光景が、見ず知らずの世界、珍妙な場所だったからじゃない。むしろ逆、見知った場所だったからだ。

 

「覚えてる……」

 

この機械的な内装も、廊下を走る配線も、普段は壁に埋まっていて、無重力化で移動する際の使用するレバーも……。

 

「トレミー……」

 

俺が初めて介入した外史世界。私設武装組織『ソレスタルビーイング』の多目的輸送艦、プトレマイオス。クルーからは『トレミー』の愛称で呼ばれていたこの艦が、どうして……。

 

「リク」

 

「っ!?」

 

振り返れば、そこには忘れもしない、あいつの姿が……。

 

「せつ、な……?」

 

「どうしたんだ? そんなに驚いて」

 

「どうして、お前がここに……」

 

だって、ELSとの戦いで、お前は……。

すると、俺が驚いているのが不思議なのか、刹那は首を傾げて

 

「何を言っているんだ。 ELSとの戦い、対話が成功して、やっと人類は前に進めるようになったからって、気が抜けてるんじゃないか?」

 

「対話が、成功?」

 

「あの時、ガンダム・クアンタの『クアンタムバースト』でELSとの対話をした。そして彼らは、俺達地球人類が〝個〟を基準に成立していることを理解してくれた。戦いは終わったんだ」

 

「なら、お前は……」

 

「だから、人を幽霊か何かみたいに言うな。それと急げよ。この後ブリーフィングルームで、フェルト達がささやかな祝賀会を開くらしいからな」

 

そうか……みんな、生き残ったのか……刹那は、生きて……!

 

 

 

『ワールド・パージ、完りょ――』

 

 

 

――ガッ

 

 

 

「がっ……!」

 

一瞬、頭のどこかで何かが響いた気がしたが関係ねぇ。俺は目の前の刹那()()()()()()の首を、両手で絞め上げる。

 

「ホント、下らねぇことやってくれる……」

 

「リ゛、リ゛ク゛、な゛に゛を……!?」

 

「フェルトは、涙を呑みながら()()()を見送った。アザディスタンのお姫様だって、本当は戦うこと以外の道を望みながらも、最後には納得してたんだ。()()()の、目指した道を……」

 

スメラギさんも、ラッセの兄貴も、イアンの親っさんだって。みんな、涙を呑んで受け入れたんだ。あいつの、刹那の想いを。それを、それを……!

 

 

 

「あいつの覚悟を……みんなの想いを……汚してんじゃねぇぞクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

――ゴキッ

 

「――っ!」

 

渾身の力を込めて、ニセモノの首をへし折った。

手の力を抜くと、ドサッという音を立ててニセモノだったものが床に落ちる。すると、ニセモノの体が黒いタール状になり、ゆっくりと消えていった。

 

「生憎、俺の戦友にスライムやコールタールはいねぇんだよ」

 

ニセモノの首を絞めた両の手を見ながら、ずるずると廊下の床に座り込む。

見つめた両手で、顔を覆う。目から流れ出たものを、隠すように。

 

「身勝手な願いだって分かってる。お前がそれを望んでいるかも分からねぇ」

 

それでも……

 

「やっぱ、人として生きてて欲しかったよ、刹那……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

IS学園から少し離れた臨海公園前のカフェで、色々と不釣り合いな二人組がテーブル席に座っていた。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒのワールド・パージ完了。残りは宮下陸のみです」

 

「ああそうかい」

 

(このオータム様が、今じゃガキのお守りか)

 

幹部会から回されてきたガキ――連中が言うには『玩具』――のお守りを指示された私はそれだけ言って、カップに残ったコーヒーを飲み干した。

 

IS学園襲撃後、幹部会は内ゲバをやらかした。そこで無能な連中、女権団の残党共が粛清されれば万々歳だったんだが、連中、どんな手品を使ったのか、逆に旧勢力を粛清しやがった。お陰で、また馬鹿な作戦に駆り出されているわけだ。

しかもこのガキ、女権団のドイツ支部で行われた生体同期型のISを埋め込む実験の被検体、その生き残りって話だ。さらに自立思考を止める、サークレットのような装置まで付けてやがる。胸糞悪ぃぜまったく。

 

「宮下陸のワールド・パージ完りょ――」

 

「どうした?」

 

「対象が、こちらの精神干渉を突破しました」

 

「何?」

 

「再度、ワールド・パージを――」

 

「いや、その必要はない。他の連中の精神干渉を維持しろ」

 

ガキの言葉を遮るように、指令を被せる。

 

「しかし、最初の指示は『電脳ダイブした者全員の封じ込め』であり――」

 

「いいから、黙って他の5人を電脳世界に閉じ込めておけ」

 

「……了解」

 

やっぱ自立思考をしてないからか、機械のように警告を口にするだけで、結局はこちらの言いなりだ。ホント、胸糞悪ぃ。こんな作戦、いっそ失敗しちまえ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

IS学園の地下区画にあるアクセスルームで、私は事態の急変に動揺していた。

 

「ダイブした全員との通信途絶……!?」

 

中枢付近で通信が安定しなくなると予想されていたけど、まさかダイブ直後になるなんて……。たぶん、こちらが電脳ダイブすることを読まれてたんだ。そして、ダイブした人間を電脳空間に捕らえるトラップを仕掛けていた……。

 

『更識妹、そちらはどうなっている?』

 

「織斑先生……」

 

オペレーションルームにいる織斑先生から通信が入る。私は簡潔に状況を伝えた。

 

『くっ、完全に後手に回ったか……!』

 

「そちらはどうなっていますか?」

 

『布仏が侵入したISの撃退に成功した。今山田先生が捕縛を手伝いに行っている』

 

「そうですか。本音が……」

 

『だが……』

 

「?」

 

 

『敵影を発見して迎撃に出た、更識姉からの連絡が途絶えた』

 

 

「え……っ?」

 

お姉ちゃんとの、連絡が、途絶えた……?

まさか……まさかまさか……!

 

『更識妹、システムの復旧が最優先だ。持ち場を離れるなよ』

 

「でもっ!」

 

『山田先生がこちらに戻り次第、更識姉との通信が途絶えた地点に急行させる』

 

「それじゃあ!」

 

それじゃあ、間に合わないかもしれない! だから、私が……!

 

「ぐっ……はぁっ!!」

 

「え?」

 

突然の呻き声に振り向くと、

 

「陸……?」

 

そこには、目を見開いて呼吸を荒くしている陸がいた。まるで、悪い夢を見て飛び起きたかのように。

 

「はぁ、はぁ……簪、状況はどうなってる?」

 

「えっと、みんなが電脳ダイブしてから、通信が途絶して……」

 

「やっぱそうか……」

 

『宮下、一体どういうことだ!?』

 

「織斑先生、敵は電脳空間に罠を張ってやがった」

 

陸曰く、電脳ダイブした瞬間から全員がバラバラになり、おそらく各々が『自分の望みが叶った幻影』を見せられて、電脳空間に囚われている状態らしい。

 

『それにしては、お前はよく脱出できたな』

 

「お陰様で、胸糞悪いことをする羽目になりましたがね」

 

『そうか……』

 

陸の声色から、織斑先生も深くは聞かなかったし、私も聞けなかった。

 

「そ、そうだ! 陸、お姉ちゃんが……!」

 

「楯無さんがどうした?」

 

「侵入者を見つけてから、連絡が途絶えたって……!」

 

「……織斑先生、そちらから割ける戦力は?」

 

『無い。別に侵入した敵ISを捕縛するために、布仏と山田先生が出払っている。現状、私がここの最後の防衛戦力だ』

 

「そして通信が途絶えたとはいえ、ナビゲーターである簪を動かすわけにもいかない」

 

『ああ』

 

すると、陸はあらかじめ決めていたかのように

 

「分かりました。俺が行きます」

 

『すまん、任せた』

 

「陸、お姉ちゃんをお願い……!」

 

「心配すんな。あの楯無さんがそう簡単に死ぬわけないだろ?」

 

落ち着かせるように、私の頭をポンポンと撫ぜる。

 

「織斑先生、通信が途絶えたポイントを転送してください」

 

『分かった』

 

情報が送られてきたのを確認すると、未だ不安そうな顔の私に手を振って、陸はアクセスルームから出て行った。

 

お姉ちゃん……どうか無事で……!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

指定ポイントまであと少しというところで、俺はゆっくりと足を止めた。曲がり角の向こうから、複数の声が聞こえる。

 

「これよりブラボーチームは"パッケージ"を持って撤収する」

 

「了解」

 

「よし、アルファチームは引き続きターゲットを捜索する」

 

「了解」

 

どうやら侵入者連中とかち合っちまったみたいだな。

どうする? 織斑先生から聞いた話じゃ、こっちの侵入者は生身の兵士だ。陰流を使えば楽勝だろう。だが、情報を吐かせるにはISでオーバーキルをするわけにもいかない。

 

(なら……)

 

拡張領域から静かに、あるものを取り出す。そしてそれを曲がり角の先、声のする方へ投げ込むと

 

――シュボッ

 

「な、なんだ!?」

 

「め、目がっ!」

 

暗視ゴーグルを付けてたであろう目には、発炎筒の灯りは眩しいだろうさ!

敵の目がつぶれている間に制圧してやろうと、俺も角から飛び出した。

そして、発炎筒の光が照らし出していたのは、10人程のギリースーツのような格好に小銃を持った連中と、そして

 

 

 

 

ここからでも色がはっきりとわかるぐらい、赤い水溜まりを床に作りながら倒れ込む、()()()の姿――

 

 

 

 

「あ……」

 

その瞬間、頭の中が真っ白になった。情報を吐かせるとか、そんな考えも消し飛んだ。ただ、拡張領域から三池典太――長船のような大太刀じゃない、普通サイズの刀――を取り出していた。

 

「た、ターゲットだ! fire(撃て)fire(撃て)!」

 

黙れよ。

 

――ザシュッ!

 

「がっ、ひゅぅぅぅ……!」

 

先頭で号令を出していた奴の喉笛を突きで貫く。空気が漏れる音を出しながら、そいつは自分の血で作った水溜まりに沈んだ。

 

「あ、アルファリーダー!」

 

「くそぉ!」

 

戦意を持ち直した奴が、銃口をこっちに向ける。が、遅ぇ。

 

――ヒュッ

 

「き、消え――ぎゃぁぁぁぁっ!」

 

俺を見失った奴は、背後から袈裟懸けに斬られ、頭と左腕が宙を舞った。

『縮地』。俺のは不完全な代物だが、それでも連中の目には追い切れなかったらしい。

 

「ば、化け物! 来るな、来るなぁぁぁぁ! ぴゃっ!」

 

「た、助け……ぐぶぇ!」

 

どうやら最初の2人が死んで、残りの連中は戦意を喪失したらしい。

だから?

 

 

楯無さんを傷つけて、簪を悲しませたお前たちを、生かして帰すと思ってんのか?

 

 

斬って、突いて、また斬って……気付けば、生きているのは1人だけになっていた。

 

「ど、どうして……情報では、宮下陸は織斑一夏に比べて大したことは無いと……!」

 

最後の男は半狂乱になりながらそんなことを叫んでいるが、それは半分正解で半分間違いだ。

 

「確かに俺のIS適性はD+だ。一夏のBと比べりゃ、大したことは無いだろうさ」

 

けどな、と言って俺は、三池典太を上段に構える。

 

 

「生身の方も大したことないなんて、誰が言ったよ?」

 

 

――ズシュッ

 

 

脳天を叩き斬られた男の脳漿が、太刀筋に沿って通路の壁にへばりついた。




本来くーちゃんのIS『黒鍵』は篠ノ之印ですが、本作では女権団のドイツ支部が実験用のISを埋め込んだことになってます。

人を殺す覚悟を持った人間がガチギレした結果。大切なものを失くす悲しみを知ってる者ほど、大切なものを奪われることに対して、許容も容赦もできません。


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第90話 英雄の帰還

ここら辺で、原作8巻の半分ぐらいですかね。

4/24追記
なんか、日曜に評価とお気に入り登録がガバッと上がってるんですけど、どうしたんです……?


私の人生は、更識家の長女として生まれた時から決まっていたのかもしれない。

更識は国の裏側、諜報を司る家系。故にその当主には様々な技術や身体能力が要求される。私がマーシャルアーツや古武術、カポエラなどの格闘技を習得したのも、当主候補として身体能力を高める、その延長からだった。

私はそのために努力したし、お父さん――先代の更識楯無――も、そのつもりで私を鍛えた。二人とも、簪ちゃんに更識の重荷を背負わせたくなかったから。ただ、それが逆に簪ちゃんに劣等感や苦手意識を植え付けてしまったのは誤算だったけど。

そして私が中学生の時、先代から"楯無"を襲名した。そのこと自体に後悔は無い。ただ、もし我が侭が言えるなら……

私は――

 

 

 

ゆさゆさと体が揺られる感覚で、私は目を覚ました。

 

「……ここ、は?」

 

「目が覚めましたか、楯無さん」

 

「陸、君……?」

 

体が怠い、声を出すのも億劫だ。私、どうしてたんだっけ……?

 

「今は何も考えず、ゆっくりしててください」

 

「ごめんなさい、そうさせてもらうわ……」

 

そう返事してから、私は初めて陸君におんぶされていることに気付いた。でも、嫌じゃない。

 

「陸君の背中、あったかい……」

 

「また寝ててもいいですよ。少し揺れますけど」

 

「うん……」

 

(こうやって、誰かにおんぶしてもらったの、初めてかしら……)

 

少なくとも物心がついた時には、お父さんとは師弟の関係だった。それ以外の男の人も、大抵は更識家当主と部下の関係で。

そこまで思って、さっき目が覚めるまでに見ていた夢を思い出した。

 

(そっか……私、一度でも()()()()()欲しかったのかも……)

 

更識家の当主でなく、IS学園最強の生徒会長でもない。一人の女の子、更識刀奈として。

 

ああ、一定テンポの揺れに、また私、眠くなってきた、か、も……

 

ーーーーーーーーー

 

楯無さんを背負ってオペレーションルームに着くと、織斑先生と山田先生、のほほん、それに後ろ手に拘束された見知らぬ女が。

 

「宮下君、無事で――ひっ!」

 

「り、りったん~……?」

 

俺達の姿を見た二人が、恐怖を顔に貼り付かせてる。

 

「宮下、更識姉の治療はこちらに任せて、一度顔を洗ってこい」

 

そう言って、織斑先生は楯無さんを引き取ると、親指で部屋の隣にある手洗い場を指した。

 

「はぁ……?」

 

意味が分からんが、とりあえず指示に従って手洗い場に行き、洗面台の鏡を見た。そこでやっと理解した。

 

「……そりゃ、山田先生とのほほんが怯えるはずだ」

 

そこに映っていたのは、返り血を被った俺の顔。憎悪と殺意をぎらつかせた、人殺しの目だった。

 

「こんな顔で、簪と会うわけにもいかんよなぁ……」

 

まずは顔に付いた返り血を洗い流す。次いで、何度も何度も深呼吸を繰り返し、心を落ち着かせる。もう、大丈夫だ。楯無さんを傷つけた連中は、()()()()()()()んだから……。

 

 

 

「大分マシになったな」

 

部屋に戻ると、織斑先生からお墨付きが出た。山田先生達の前にも出てみたが

 

「あの、宮下君、さっきはすみませんでした……宮下君だって頑張っていたのに……」

 

「りったん、さっきは怖かったよ~」

 

山田先生には謝られ、のほほんには安堵された。

 

「それで織斑先生、楯無さんは」

 

「安心しろ。腹部に銃撃を受けたようだが弾は貫通してるし、敵が連行しようとしたのか応急処置もされていた。先ほど医療用ナノマシン注射もしたから、安静にしていれば問題ない」

 

「そう、ですか……」

 

それを聞いて、途端に気が抜けちまったのか、俺は床に座り込んじまった。情けねぇなぁ……。

 

「ところで、篠ノ之達はあれから変わらずですか?」

 

俺が聞くと、織斑先生はまた難しい顔になった。

 

「ああ。相変わらずだ。通信は途絶したまま、5人とも起きる気配もない」

 

マジかぁ、どうしたもんか……試してみるか?

 

「おい宮下。スマホなんぞ取り出して、何をする気だ?」

 

「お、ここでも電波通じてんのか。いえ、ちょっと助っ人を呼ぼうと思いまして」

 

「助っ人だと?」

 

「ええ」

 

このまま5人が自力で罠を突破出来ないなら、別の人間を送り込むしかない。あいつらに特効がある人間を。

 

 

「5人の眠り姫を起こす、白馬の王子様を呼ぶんですよ」

 

 

ーーーーーーーーー

 

小規模メンテも終わり、今は白式を展開状態にしてデータ収集をしつつ、俺自身は椅子に座ってヒカルノさんとコーヒーをすすっていた。

 

「今回は結構いいデータが取れそうだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「そうだよ。そもそも第二形態移行(セカンド・シフト)したIS自体、世界でも10機に満たないぐらい希少だからねぇ。その稼働データなんて、喉から手が出るほど貴重なものなのさ」

 

「へぇ」

 

――♪

 

「おや、君のスマホかい?」

 

「あ、すみません」

 

一言謝って、ポケットからスマホを取り出す。……陸から?

 

「もしもし?」

 

『一夏、お前の嫁達がピンチだ。急いで学園に帰って来い』

 

「はぁ?」

 

嫁って、箒達のことか? ピンチってどういうことだよ?

 

『理由を説明する時間も惜しい。早く帰って来い』

 

「あの、ここから学園まで、2時間以上かかるんだが……」

 

『心配するな。学園外でのIS飛行許可は、織斑先生が何とかするって話だから』

 

「いやでも、今はまだ白式のデータ収集をしてる途中……」

 

『織斑先生の出席簿アタックで顔の表面積を2割増しにされたくなかったら、四の五の言わずとっとと帰って来い!!』

 

「い、イエッサー!」

 

あまりの剣幕に反射的に答えると、陸からの通話は切れた。どうなってんだよ……。

 

「あの、ヒカルノさん、申し訳ないんですが……」

 

「ここからでも聞こえてたよ。最低限必要なデータは取れてるから、帰っていいよ。急がないと、織斑千冬から折檻を受けるんだろ?」

 

「ありがとうございます!」

 

持っていた紙コップの中身を飲み干してテーブルに置くと、急いで白式を待機状態に戻す。近くの窓を開けると、そこから外に向かって飛び込む。そして再度白式を展開して、スラスターを全開にして一気に飛び立った。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

瞬時加速を繰り返し、30分でIS学園に辿り着いた。

そして学園に入った瞬間、異変に気付いた。

 

「停電? しかも、防御シャッターまで……」

 

校舎内は真っ暗な上、窓には防御シャッターが降りていた。しかも、ところどころ隔壁まで。

 

「いや、今はそれよりも、千冬姉達のところに行かないと……」

 

飛んでる途中、追加で陸から送信されて来たマップデータを元に、学園の地下区画をフル・ブーストで飛翔する。

 

「ここか!」

 

パネルを操作してドアを開けると、

 

「来たか一夏」

 

「織斑君!」

 

そこには千冬姉と更識さん、そして眠っている箒達が。

 

「えっと、陸から箒達がピンチだって聞いて……」

 

「そうだ。説明するからよく聞け」

 

そう言って、千冬姉は箒達が置かれている状況を説明してくれた。

 

「つまり、箒達はVRゴーグルを付けた時の仮想世界みたいなところに幽閉されちまったのか」

 

「うん。だから織斑君には同じように電脳ダイブして、みんなを救出してほしい」

 

「とりあえず分かった。分かったけど……ダイブってどうするんだ?」

 

「大丈夫」

 

そう言うと、更識さんが俺の後ろに回り込んで

 

――ドッ

 

「へっ?」

 

首への衝撃。遠のく意識。

それが首トンだと認識する前に、俺の意識は落ちた。

 

ーーーーーーーーー

 

更識妹が一夏に首トンした時は驚いたが、とりあえず電脳ダイブには成功したようだな。

 

「織斑先生、お願いがあります」

 

「なんだ?」

 

「織斑君のナビゲート、代わってもらえませんか?」

 

「……私が代わって、それでお前はどうするつもりだ?」

 

何となく予想はつくが、聞くだけ聞いてみる。

 

「おそらく今回電脳空間に罠を張った敵は、学園の近くに潜伏していると思われます」

 

「……だろうな」

 

それは私も薄々考えていたことだ。

これほど大規模かつ長時間、電脳空間を掌握するとなると、電脳戦特化のISを使用している可能性が濃厚だ。そして実行するなら、学園から近いほどやりやすいだろう。

 

「であれば、みんなの救出と並行して、敵の撃破に動くべきだと考えます」

 

「……筋は通っている。だがお前をナビゲートから外すのは」

 

「お、織斑先生!」

 

オペレーションルームにいたはずの山田先生が、こちらの部屋に飛び込んできた。

 

「み、宮下君が……!」

 

「宮下が、どうしたんですか?」

 

「『ちょっと野暮用済ませてきます』って言って、刀を持ったままどこかに行っちゃって……!」

 

「何ですって?」

 

「陸が……っ!」

 

「おい、待て更識!」

 

私の制止を振り切り、更識妹が部屋を飛び出していった。くっ!

 

「山田先生、すみませんがダイブしている織斑のナビゲートをお願いします」

 

「は、はい! わかりました! それで、織斑先生は?」

 

「私は更識妹の後を追います」

 

山田先生にそう伝えて、私も急いで部屋を出て行った。

 

二人とも、頼むから早まった真似はするなよ……!




この時点では、ちーちゃんはオリ主のやったことを把握し切れていません。(精々、侵入者を撃退したぐらいに思ってる)


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第91話 斬って壊して捕縛して

今回でシリアス(?)パート終了のお知らせ。


ガキどもを電脳世界に隔離する退屈な任務。その退屈な状況が変わったのは、日が暮れ始めてきた時だった。

 

「ワールド・パージ、異常発生。異物混入。排除開始」

 

無機質な声色で報告するガキの目が見開かれる。その、黒い眼球に金色の瞳を見れば、胸糞悪ぃ実験の産物だってのが良く分かる。

 

「凰鈴音がワールド・パージを突破。他のターゲットへの警戒を強化。セシリア・オルコット、ワールド・パージを突破。リソースを残りの3人に分配」

 

そしてガキの報告を聞く限り、形勢は完全に逆転されたようだ。こっちもそろそろ潮時だな。

 

「スコール、どうやら『玩具』で遊ぶのも限界のようだ。撤収する」

 

『分かったわ。どうやらアメリカのお友達も『遊び疲れてみんな眠ってしまった』ようだし』

 

遊び疲れて眠った、つまり学園側の反撃にあって壊滅したってことか。特殊部隊が聞いて呆れるな。

 

「この『玩具』はどうする?」

 

『出来れば持ち帰りたいけど、無理そうならその場で捨てて構わないわ』

 

「了解だ」

 

『一応、回収のためにエムを向かわせているわ』

 

「あいつが?……大丈夫なのか?」

 

ただでさえ気に食わねぇ上に、以前の学園襲撃の際にトラウマ植え付けられたって話じゃねぇか。そんな奴に自分の身を預けるとか、恐ろしいことこの上ない。

 

『飛ぶだけなら問題ないわ。ただ、戦闘は避けたいから、撤収は早めにお願いね』

 

「分かったよ」

 

スコールとの通信を切ると、ガキはまだ命令を遂行しようとしていた。

 

「シャルロット・デュノア、突破。ラウラ・ボーデヴィッヒ、突破。篠ノ之箒、異常発生――」

 

引き際も分からず、ただただ命令通りにしか動けない、生きた玩具。

 

(エムが回収に来るって話だったか……なら、こいつはここで投棄決定だな)

 

荷物は少ない方がいい。

そう決めて、カフェのテラス席から立ち上がろうとした時

 

――ヒュンッ

 

視界が、ぐるりと回り出した。

 

「は?」

 

テラスのウッドデッキに肩がぶつかる。転んだ? 起き上がろうとするが、うまくいかない。

 

「なん――」

 

何でだ、そう思って上半身を起こしたら

 

 

無かった。私の左足が

 

 

「あ、ああああああああああああああああっ!?」

 

私の悲鳴と遅れて流れ出た血に、周りに座っていた連中も悲鳴を上げて店から逃げ出し始める。

そんな中で、逃げ出さない奴が二人。一人は座ったままのガキ。そして、もう一人は――

 

「あ……」

 

見上げた瞬間、呼吸が荒くなる。体の震えが止まらない。

 

「またお前か。今度はちゃんと、その首飛ばしてやるよ」

 

そこにいたのは、血に染まった抜身の刀をこちらに向ける、あの時のガキ、宮下陸だった……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

IS学園にサイバー攻撃を仕掛ける以上、ISかそれに類する機材が必要になってくる。そして、そんなものを学園内に持ち込むのはセキュリティ的に困難だ。(どこぞの紫兎を除く) そうなると学園の周辺で、なおかつ長時間滞在しても怪しまれない場所……。

そう考えて、本土側の沿岸部で条件に合いそうな場所を虱潰しに確認していたら、案の定だった。そして、そいつは見覚えのある奴でもあった。

 

「またお前か。今度はちゃんと、その首飛ばしてやるよ」

 

亡国機業のオータムだったか。そして隣にいるのは……なんだ? 黒い眼球? まぁいいか。先にこっちだ。

 

「とりあえず、一つ聞いときたいことがある。あのギリースーツモドキ共を送り込んできたのは、お前達か?」

 

「ギ、ギリースーツ……? アメリカの連中を、まさかお前が……?」

 

「そうか」

 

左足を失って、腕の力だけで後ずさる様子からして、嘘は言ってないんだろう。

 

「分かった。なら――」

 

 

「苦しまないよう、楽に殺してやるよ」

 

 

「ひぃ!」

 

怯えるオータムを楽にしてやるために、三池典太を唐竹に振り下ろす。

 

――ガッ

 

「……何するんです」

 

「もういい宮下、ここまでだ」

 

いつの間にか後ろにいた織斑先生が、振り下ろそうとしていた俺の右腕を掴んでいた。そのせいで、刃先がオータムの顔面数センチ手前で止まっちまった。

 

「あ……」

 

オータムの奴、失神しやがったか。

 

「これ以上返り血を浴びてどうする」

 

「分かっちゃいるんですがね……」

 

楯無さんを傷つけて、簪を悲しませた連中をそのままにしたくなかった。報いを受けさせたかった。昔の一夏を笑えないぐらい、安い感情で動いていた。動かずにはいられなかった。

 

「まったく……」

 

そんな俺の態度にため息をつくと、織斑先生は気絶したオータムに止血処置を行って、どこかに通信をし始めた。おそらく、回収用の人員を呼んでいるんだろう。

 

「そして、こいつか……」

 

通信を終えた織斑先生が、この状況でも椅子に座ったままの女の子?を見る。

 

「アドヴァンスド、か」

 

「織斑先生?」

 

こいつのこと、知ってるのか?

 

「篠ノ之箒、ワールド・パージ突破、任務続行不可能。命令を。命令を。命令を。命令を。命令――」

 

「もう休め」

 

織斑先生が首に手刀を決めると、女の子は黒と金の目を閉じて倒れ込む。

 

「先生、さっきの『アドヴァンスド』って何ですか?」

 

「お前には関係ない、と言っても聞かんだろう。こいつとボーデヴィッヒを会わせる時に、一緒に聞かせてやる」

 

「ボーデヴィッヒ?」

 

あのドイツ娘とどういう……いや、どことなく似てる? だが、似てるって言っても銀髪と顔立ちぐらいなもんだ。目だってボーデヴィッヒは黒眼球じゃねぇし……。

 

「ところで、織斑先生はどうしてここに? 地下の防衛は?」

 

「山田先生と布仏に任せた。お前や更識妹が部屋を飛び出したから、仕方なくな」

 

「簪も?」

 

その割には、ここにいないが?

 

「やつなら、あそこだ」

 

そう言って織斑先生が指さす先には、

 

「……ああ、そうですか」

 

 

打鉄弐式が、サイレント・ゼフィルスを蹂躙しているところだった――

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「くそっ! くそぉ!」

 

嫌な予感はしていた。

『オータムの回収任務』、以前IS学園襲撃の時にも同じ指令を受けて、私の誇りはズタズタにされた。そして今回も――

 

――ドドドドォォォォンッ

 

あの時のビット兵器の代わりと言わんばかりに、今回はマイクロミサイルが四方八方から私を狙ってくる。だが、これぐらいはいい。

 

(クロスレンジに入られるわけにはいかない! そうなったら、また――!)

 

あの右腕に掴まれたら最後。そう自分に言い聞かせながら、ビットで牽制しつつ距離を維持していく。だがこれでは……

 

「埒が明かない……!」

 

このままでは、オータムの回収どころか自分の撤退すら覚束ない。

 

「うん、埒が明かない」

 

突然声が聞こえたと思えば、敵は持っていた薙刀を戻してロングライフルを展開した。

 

「だから、これで終わらせる」

 

それが聞こえたと同時に、敵のライフルから何かが射出される。それはビームではなく、何かの塊?

 

「舐めるなぁ!」

 

(この期に及んで実体弾とは。それぐらい、今の私でもどうとでもなる!)

 

未だ震える指でトリガーを引く。ライフルから放たれたレーザーは相手の実体弾を問題なく砕く。だが、

 

「それを待ってた」

 

「は?」

 

敵は何故か、まったく的外れな方向に砲口を向けていた。そして、放たれたレーザーは何もない空間に……いや、さっき私が砕いた実体弾に当たって――

 

 

――チュィィィィィンッ!

 

 

「な、なんだとぉぉぉ!?」

 

実体弾の破片に当たったレーザーが乱反射し、それがまた別の破片に当たり反射される。そして砕いた破片群の中心にいるのは……私。

次々にレーザーが被弾し、サイレント・ゼフィルスの装甲とSEを削っていく。

 

――ヒュッ

 

「あ」

 

「これで、終わり」

 

レーザーを耐えるのに集中していて、気付いた時には敵の薙刀が眼前まで迫っていた。

 

――ガァァァァァンッ

 

顔を覆っていたバイザーが砕ける音がして、次いで衝撃が頭の中をかき回すように揺らす。最後にサイレント・ゼフィルスが具現維持限界(リミット・ダウン)でもしたのか、空中から落下するような感覚。

そこで、私の視界と意識は途切れた。

 

いや、途切れる瞬間『織斑、先生?』という声が聞こえた気がした。




オータム、足切られてまた捕虜になるの巻。大丈夫、今度はエムも一緒だから。(何が大丈夫?

今章はギャグが不足してますよね? なら、次回からギャグをぶち込まなきゃですね!


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第92話 渇望する夢(ワールド・パージ)

サブタイは綺麗ですけど、内容はギャグです。


亡国機業のオータムと、アドヴァンスドとやらの女の子を増援の教師部隊に預けた俺と織斑先生は、その足でIS学園に戻っていた。

その途中、簪とも合流したのだが

 

「織斑先生、これ……」

 

「ッ……!」

 

「いやこいつ、織斑先生そっくりなんだが」

 

簪が抱えていた少女、おそらく"エム"と呼ばれていた、サイレント・ゼフィルスを操縦していた亡国機業のエージェントなんだろうが、顔がまるっきし織斑先生だった。というか、小中学校時代の織斑千冬だと言われても信じるぐらい似てる。

 

「更識妹、そいつはそのまま私が連行していく」

 

「え?」

 

「それとこの件については別命があるまで口外禁止だ。このことを知っている人間を増やしたくない」

 

「……それほど機密性の高い存在だと?」

 

「ああ。私の予想が正しければな……」

 

「だとさ、簪」

 

「うん」

 

簪からエムを受け取った織斑先生は、相変わらず信じられない身体能力で学園に向かって駆けていった。

 

「陸、無理し過ぎ」

 

「突然なんだよ」

 

「亡国機業のエージェント相手に、刀一本で乗り込むとか。しかもお店の中で暴れて、一般のお客さんにも迷惑かけたって」

 

「それは~……はい、頭に血が上ってました、俺が悪かったです」

 

これに関しては100%俺が悪かったし、すでに織斑先生からもお説教されていた。学園の地下区画と違って、無関係の人達を巻き込んじまったからなぁ……。

 

「でも、陸が無事でよかった」

 

簪がいつものように、俺の左腕にしがみ付く。

 

「簪こそ平気だったか? 今の弐式はGNドライブを外した状態だったろ?」

 

タッグマッチ戦のレギュでGNコンデンサーに付け替えてから、元に戻す前に今回の事件だったからな。戦力ダウンは免れないはずなんだが……。

 

「全然問題無かった。どちらかと言えばお姉ちゃんや本音の方が、何をやってくるか分からなくて怖い」

 

「亡国機業のエージェントはのほほん以下かよ……」

 

「というか、陸の関わったISが頭おかしい。お姉ちゃんは操縦技術がおかしいけど」

 

「……俺、その内IS委員会から目の敵にされるんじゃね?」

 

「今更?」

 

解せぬ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

本土からモノレールに乗って(織斑先生に会わなかったが、まさか泳いで渡ったんじゃねぇよな?)、俺と簪が学園前に着くと、校舎の窓に降りていた防御シャッターは無くなっていた。

 

「一夏の奴、やったんだな」

 

「そうみたい」

 

簪が指さす先には、一夏とハーレムの面々、それに山田先生が……いるんだが……

 

「……一夏、やつれたか?」

 

「そうかも……」

 

そこにはゲッソリした一夏と、一向にこちらと目を合わそうとしないハーレムの面々、そして顔を真っ赤にして手で覆い隠す山田先生。おい……

 

「一夏、電脳空間で何があった?」

 

「それが……」

 

一夏は語る。電脳ダイブ後、幽閉されたハーレムの面々を救い出すため、扉の先に飛び込んだ一夏が見たものは……

 

=============================================

 

■凰鈴音の場合

 

休みの日に出かけた帰り、突然の雨でバスに乗り遅れた一夏と鈴は、停留所で雨宿りをすることになった。

 

「突然降り出してきたなぁ」

 

「ホントよ。ああもうずぶ濡れ」

 

「ほら、タオル使えよ」

 

「ありがと。一夏は?」

 

渡されたタオルで髪を拭く鈴が問う。実際一夏の手には、他のタオルは無い。

 

「俺はいい。鈴が拭けよ」

 

「う、うん……」

 

「さっさと拭いちまえよ。濡れたままだと風邪ひく……はっくしゅん!」

 

「何してるのよ一夏。アンタが先に風邪ひきそうじゃない」

 

鈴の指摘通り、一夏の顔は寒さで血行が悪くなっているのか、少し青い。

 

「ほら、これなら温かいでしょ」

 

「り、鈴?」

 

慌てる一夏に、鈴が抱き着いた場所から、彼女の温もりが伝播してくる。

 

「一夏ぁ♡」

 

「鈴……」

 

他には誰もいないバスの停留所で、二人の唇の距離は縮まっていき、そして……

 

 

「誰もいないからって外で盛んなぁぁぁぁ!!」

 

――バチコーンッ!

 

「あいたぁ!?」

 

一夏(本物)のツッコミを頭から受け、鈴はワールド・パージから抜け出したのだった。

(ちなみに学園祭後のキスも校舎屋上なので、今回のは完全に『おまいう』案件である)

 

 

■セシリア・オルコットの場合

 

オルコット家の当主として、セシリアは精力的に働いていた。その傍らには、優秀な執事兼恋人の一夏がいた。

 

「お疲れ様です、当主様」

 

「もう! 今日の職務は終わって、今は二人きりなんですのよ?」

 

「ああ、分かったよ、セシリア」

 

「はい、一夏さん♡」

 

少し恥ずかしがりながら、セシリアは一夏の手を取り、()()()()()()()バスルームへと入っていく。

 

「それじゃあ、一夏さん」

 

「あ、ああ。やっぱり何度やっても恥ずかしいな……」

 

そう言いつつ、一夏は執事服を脱ぎ始める。そして上半身だけが裸になったところで

 

「はぁ……♡ 一夏さんの胸板、立派ですわぁ……♡」

 

我慢できなくなったのか、セシリアも下着だけを残して着ていた服を脱ぎ、一夏の胸板へ飛び込んでいく。

そして、程よく筋肉の付いた腹筋部に舌を這わせて――

 

 

「そんな癖持ちだったのかよセシリアぁぁぁ!!」

 

――バチコーンッ!

 

「きゃぃん!」

 

鈴の時と同じく頭にツッコミを受けて、ワールド・パージから抜け出した。

 

 

■シャルロット・デュノアの場合

 

「シャルロット」

 

「一夏……」

 

シャルロットはメイド服姿で、一夏と抱擁を交わしていた。

 

「あと一週間で、僕と一夏は夫婦になるんだね」

 

「ああ。今まで、メイドとして扱って悪かったな」

 

「いいんだよ。そもそも織斑家に身請けされなければ、僕は今頃どうなっていたか……」

 

デュノア社の経営が立ち行かなくなり倒産、無一文で一人世間に放り出されたシャルロットには、昔から縁がある豪商の織斑家に引き取られるのが一番良策だったのだ。

しかも、昔馴染みで最近当主になった一夏に『シャルを妻にする』と言ってもらえた時には、涙が止まらなかった。

 

「だから僕の全てを、一夏にあげようって」

 

「全てって?」

 

「全てだよ。一夏が望むなら、なんだってするよ。そ、その……う、後ろの初めても……一夏、好き?」

 

「シャル!」

 

「きゃっ!」

 

一夏に抱きかかえられたシャルロットが、部屋のベッドの上に放り込まれる。

 

「いいんだな? 今更無しなんて言っても遅いぞ?」

 

「そんなこと言わないよ。だから……来て? 一夏♡」

 

メイド服のスカートをめくるシャルロットに一夏は腕を伸ばし、背中から臀部へと指先をスライドし、そしてその先の――

 

 

「俺にそんな趣味はないぞシャルぅぅぅぅぅ!!」

 

――バチコーンッ!

 

「ぎゃんっ!」

 

渾身のツッコミを受けて、ワールド・パージが崩壊した。

この辺りから、一夏(本物)の目からハイライトが消え始める。

 

 

■ラウラ・ボーデヴィッヒの場合

 

「よ、嫁よ。ほ、本当にこんな格好がいいのか……?」

 

「ああ、よく似合ってるよ、ラウラ」

 

新婚二か月目の『嫁』である一夏からのお願いに、ラウラは弱かった。そのため、額へのキスと猫撫で声に屈して、裸エプロンというマニアックな恰好をしていた。

 

「ラウラ」

 

「なんだ」

 

「可愛いお尻♪」

 

「ひゃんっ!」

 

裸のままのそこを撫ぜられて、軍人にあるまじき声を上げる。

 

「ラウラは可愛いなぁ」

 

「こ、こらっ! やめ……あん♡」

 

後ろから抱き締められ、エプロンの上から胸を触られる度に、ラウラの口から艶のある声が漏れる。

 

「い、一夏ぁ……」

 

「我慢できない?」

 

「ああ……」

 

普段、IS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』の隊長として見せる、軍人としての誇りも雄々しさも、そこには無かった。

 

「もう、我慢できないのだ……だから……()()くれ……」

 

「いいよ、ラウラ……」

 

一夏の手がラウラのエプロン、その肩紐に触れ、横にずらされて――

 

 

「ラウラは俺がそんなお願いすると思ってたのかよぉぉぉぉぉ!!」

 

――バチコーンッ!

 

「ぬがっ!」

 

一夏(本物)、もう現実世界に帰りたくなるが、あとは箒だけだとやる気を奮い立たせて、なんとか最後の扉を開ける。

 

 

■篠ノ之箒の場合

 

「「998、999、1000っ!」」

 

篠ノ之神社の道場で、箒は一夏と一緒に素振りに精を出していた。

一家離散によって無くなるかもしれなかった篠ノ之流道場だったが、篠ノ之神社の神主で道場師範、篠ノ之柳韻(しののの りゅういん)が戻ってきたおかげで、以前のような賑わいを取り戻していた。

その師範が出稽古に出ているため、今道場には箒と一夏しかいない。

 

「だいぶ腕を取り戻しているようだな、一夏」

 

「ああ。やっと中学3年分の遅れを取り戻せた感じだ」

 

「ふふっ、3年鈍っていた分を、まさか1年で取り戻すとはな」

 

箒にはそれが嬉しかった。やはり自分の夫のなるべき男には、強くあって欲しいというのが彼女の思いだった。

 

「一夏……」

 

「お、おい、箒?」

 

箒が白袴の一夏に抱き着く。そして

 

「一夏ぁ……♡」

 

「仕方ないなぁ、箒は」

 

一夏の方も、箒の背中に手を回して抱き締める。結果、箒は顔を一夏の胸元に埋める形となり

 

 

「一夏の汗と体臭が混じった匂いクンカクンカしたいぞ!クンカクンカ!あぁあ!!」

 

 

「。゚ヽ(゚`Д´゚)ノ゚。やめろ馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

――ガァァンッ!

 

「ぎゃふんっ!」

 

無意識に、本気のグーパンを箒の頭上に落としていた。

そして一夏(本物)は……泣いていた。

 

=============================================

 

「「これは酷い」」

 

こりゃ一夏もやつれるわ。そんでナビゲートしてた山田先生も、その一部始終を見ていたと。ダメだこの代表候補生達、遅すぎたんだ……!

 

「えっと……そ、そうです! 更識簪さん、お姉さんは医療室の方に移されました。幸い軽傷で面会もOKなので、お見舞いに行くと良いですよ」

 

山田先生がこの気まずい空気を何とかしようと、簪に対してグッドニュースを提示した。

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ええ。宮下君も、一緒に付いて行ってあげてください」

 

「分かりました」

 

「陸、早く!」

 

「分かった分かった」

 

袖を引っ張る簪に急かされて、俺も保健室へ急いだ。というか逃げた。




原作の朴念仁モードでもあれだったので、一線超えてる本作ではこれぐらい行くだろうと。たぶん一番の被害者は、強制的にエロシーン(一歩手前)を見せられたまーやん。

次回はたっちゃんのデレ、その次で捕まえたオータムとエムの拷問回を予定しています。


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第93話 似たもの姉妹

前回シリアス終了と言いながら、今回ギャグとシリアスのごった煮になっとります。


「ん…んん……」

 

顔に当たる光が眩しくて、私は目を覚ました。

 

「ここ……医療室?」

 

保健室とは別にある、治療施設のベッドの上に私はいた。

 

「私……どうしてここに……」

 

まだぼんやりする頭を働かせて、これまでのことを思い出す。

 

「侵入者を撃退したと思ったら返り討ちに遭って、それから陸君におんぶされて……?」

 

おかしい。どうしても、思い出せる記憶の前後が繋がらない。

私が返り討ちに遭ったのはいい。そこから、どうして陸君が出てくるの? だって、もしその間に何もないなら、あの米軍の特殊部隊を思われる侵入者は、陸君が――

 

「お姉ちゃん!」

 

「簪ちゃん!?」

 

突然部屋のドアが開いて、簪ちゃんが私に向かって飛び込んできた。

 

「良かった、無事で良かったよぉ……!」

 

「簪ちゃん……心配かけちゃってごめんね……」

 

泣きじゃくる簪ちゃんの頭を撫でる。

 

「お姉ちゃん、怪我の方は大丈夫なの?」

 

「全然問題ないわ。今もこうやって――いたたたっ!」

 

力こぶをしようとしたら、腹部の傷が攣ったみたいで刺すような痛みがががががが

 

「アホなことしないで下さい。一応、銃弾で腹に穴開けられてるんですから」

 

「陸君……」

 

陸君が、両手に持ったパイプ椅子をベッドの近くに置く。それに簪ちゃんが座ると、彼ももう片方に座り込んだ。

 

「織斑先生曰く、弾は貫通していて医療用ナノマシン注射もしたそうなので、2,3日で動けるようになるって話です」

 

「そう。撃たれた割には軽傷で良かったわ」

 

「もう! お姉ちゃん!」

 

「あ、はい。すみません……」

 

簪ちゃんに怒られた。そしてそれも、簪ちゃんが私のことを心配してのことだって分かるから、素直に謝るしかない。

 

「まったく……今は自愛しといて下さいよ」

 

そう言って、今度は陸君が私の頭を撫ぜてきた。少し荒っぽいけど、優しい手つき。

 

「ところで、何か欲しいもんあります? 俺か簪で持ってこれるもんなら取ってきますけど」

 

「うん、遠慮せず言って。……みんなに迷惑かけない程度に」

 

「簪ちゃん、釘刺さなくっても……」

 

欲しいもの、か……うん。もう、素直になってもいいわよね?

 

「それじゃあ陸君、ちょっと」

 

「はい?」

 

私の手招きで、陸君が近づいてくる。そして手が届くまで近づいたところで、私は彼の腕を掴むと、そのまま勢いよく引き寄せると

 

「んっ……!」

 

「んん!?」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

陸君の顔に両手を回して、彼の唇を自分の唇に押し付けると、胸がドキドキして止まらない。でも、苦しくは無い。温かくて、すごく嬉しい気分……

 

「ぷはっ! た、楯無さん……!?」

 

「刀奈」

 

「はい?」

 

「私の本当の名前。簪ちゃん以外に人がいない時は、その名で呼んで?」

 

「お姉ちゃん……本気なんだね?」

 

簪ちゃんが、真剣な顔をして聞いてくる。そうだよね、でも、ごめんね。

 

「本気よ」

 

「……そっか」

 

私の答え(覚悟)を聞いて、簪ちゃんの顔が優しいものに変わる。

 

「いやあの、簪? 何がなんやら分かってねぇんだが、説明求む」

 

「お姉ちゃんの"楯無"は、代々更識家の当主が襲名する名前。本当の名前は刀奈。家族以外には決して教えてはいけない名前」

 

「はぁ……ん? ならどうして今、その名前を? 遠くない未来、楯無さんとは義姉弟になる予定なんだから……って、まさか」

 

「うん、そのまさかよ」

 

「うわっ」

 

一度は離れた陸君の体を、再度引き寄せて、抱き締める。

 

「最初はね、義姉弟の関係でもいいと思ってた。けど、簪ちゃんを通して一緒にいる内に我慢できなくなってきちゃって……そして今回の()()で、もう、自分の気持ちを抑えきれない、嘘をつけなくなっちゃった……」

 

だから――

 

 

「私、更識刀奈は、貴方のことが好きです」

 

 

言った。更識家当主ではない、一人の女である、更識刀奈として。

 

「……楯無さん、いや、刀奈さんは……簪はそれでいいのか?」

 

陸君が、真剣な顔をして私を、そして簪ちゃんを見る。

 

「私は構わない。というより、こうなると思ってた」

 

「え、ええ?」

 

ど、どういうこと?

 

「だから、私言ったよ? 『例えお姉ちゃんでも、第2夫人だからね』って」

 

「お前、それマジで言ってたのかよ……」

 

簪ちゃん、以前(第73話で)言ってたの、こうなることを見込んで!?

 

「だから、後は陸の気持ち次第」

 

「だー……こんな重要な決断を、俺に振るなよなぁ……」

 

いくら織斑君と同じように重婚の特例が出てるって言っても、難しい、か……

 

「そうよね……ごめんなさい、陸君。今の話は――っ!?」

 

言い切る前に、陸君に引き寄せられて、胸元に顔が埋もれるように抱き締められた。

 

「簪にも言ったが、クーリングオフは受け付けないからな」

 

 

 

「だから、覚悟しておけよ――刀奈」

 

 

 

「……ええ、もちろんよ……!」

 

腕を背中に回して、思い切り抱き締め返した。腹部の痛みなんか感じないぐらい、幸福を感じるために――

 

ーーーーーーーーー

 

二人の抱擁は、お姉ちゃんが私に見られてることを思い出して終了。今は顔を真っ赤にしてシーツにくるまっている。

 

「それにしても、お姉ちゃんに対してため口なんだね」

 

「そこは勢いというか、自分の女に敬語っていうのがしっくり来ないというか……もちろん、周りの目があるときは"楯無さん"呼びで敬語を使うがな」

 

「呼び間違えないように」

 

「鋭意努力する」

 

陸なら大丈夫かな。万一口が滑っても、うまく逃げ切れそうだし。

 

「それで、お姉ちゃん」

 

「簪ちゃんに見られた簪ちゃんに見られた簪ちゃんに見られた……」

 

「てい」

 

「きゃんっいたたた!」

 

シーツの上から脇腹だろうところを突くと、くすぐったさで悶えた時に傷口が攣ったのか、今度は痛みの方で悶え始めた。

 

「それでお姉ちゃん」

 

「な、何かしら……」

 

「これを付けて」

 

そう言って、私が拡張領域から取り出したのは

 

「……簪、それってゴーグルだよな?」

 

「陸君が作ったっていう、電脳ダイブと似たことが出来るって奴よね? 私のクラスにも数台入ってきたけど」

 

そう、例のアレ。

 

「これの中に入ってるデータを、お姉ちゃんに見てほしい」

 

「はぁ……」

 

最初は訝しんでたお姉ちゃんだったけど、最後はゴーグルを受け取って被ると、ベッドに横になってスイッチを押した。

 

「なぁ簪、このゴーグルには何のデータが入ってるんだ?」

 

 

「陸がロキさんの部下になってから、今日までの記憶」

 

 

「簪さぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!?」

 

 

目を見開いた陸に、両肩を掴まれた。

 

「何してくれちゃってんのぉぉぉぉ!? というか、そんなデータどうやって用意したんだよ!?」

 

「陸が寝てる間にゴーグルを被せて、データ送信の向きを逆にして抽出した」

 

陸が寝てから仕掛けて、起きる前に回収する必要があったから、あの日は寝不足で大変だった。

 

「俺のプライバシー……」

 

あ、陸がorzった。

 

――♪

 

そして鳴り出すスマホ。

 

「もしもし?」

 

『何してくれちゃってんのぉぉぉぉ!?』

 

予想通り、ロキさんからだった。

 

『言ったよね!? 外史の人間には現地作業員の素性はバレないようにするルールだって! 何事故でもないのにバラしちゃってんの!?』

 

「お姉ちゃんが陸のお嫁さんになるには必要」

 

『無いよね!? 必要性無かったよねぇ!? また僕が主神に折檻されるって分かってる!?』

 

「コラテラルダメージ」

 

『みぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』

 

受話器の向こうから、ロキさんが頭を搔きむしるような音が聞こえてくる。あんまりやると頭皮に悪いですよ?

 

『リク! 一体どうすんのさこれ!』

 

 

「あ~……コラテラルダメージ」

 

『おまっ ごぽっ』

 

……すごく汚い水音を最後に、通話が切れた。たぶん陸のセリフで、ロキさんの胃が限界値を超えたんだと思う。

 

「うぅ……」

 

そしてちょうどいいタイミングで、お姉ちゃんも起きた。ゴーグルを外して頭を振るお姉ちゃんの頬には、涙が伝った跡があった。

 

「今のって、陸君の記憶? 本当に?」

 

「ああ。信じられないだろうが」

 

「……ううん、信じるわ。陸君の目、嘘を言ってるようには見えないもの」

 

そう言ってお姉ちゃんは目頭を袖で拭くと、私の方を向く。

 

「簪ちゃんがこれを見せたのは、私の覚悟を見るため?」

 

「うん。陸の苦しみを知って、その上で陸を支えるために並び立つ覚悟があるのか」

 

「それだと俺、なんか精神的ヒモじゃね?」

 

陸、そんな微妙そうな顔しないで。

 

「陸からは幸せを貰ってる。なら、こちらから陸に何かをあげるのが当然」

 

「それが簪ちゃんが言う、支えるってことなのね?」

 

「お姉ちゃん、その覚悟、ある?」

 

「馬鹿言わないで。これでも簪ちゃんのお姉ちゃんなのよ?」

 

「きゃっ」

 

「ま、また!?」

 

腕を引っ張られて、私と陸がお姉ちゃんにまとめて抱き締められる。

 

「支えて見せるわよ。陸君も、簪ちゃんも。更識家当主の……お姉ちゃんの名に賭けて」

 

 

 

やっぱり、私とお姉ちゃんは似てるのかもしれない。こうやって抱き締めるのが好きなのも――男の人の趣味も。




姉妹丼(超下品)
企画当初、たっちゃんは一夏組にと考えていました。それが学園祭辺りから脳内軌道が曲がっていき、今回思いっきり路線変更しました。さてはて、今後のプロットがどうなることやら……。

簪さん、とうとうやらかすの巻。オリ主や神様すらぶん回す原作ヒロイン、新しい。もうね、オリ主のためになるなら何だってやります。

次回は明るい(?)拷問回です。オータムのアットホームな悲鳴にご期待ください。


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第94話 かんど3000ばい

がっつりギャグ回です。

それと業務連絡です。GWにつき、明日から更新ありません。
再開は5/8の00:15を予定しとります。

4/28追記
推敲中に消し忘れてた箇所をちょっと修正。


IS学園地下区画。オペレーションルームとは別の領域に、昨日捕らえた亡国機業の2人が収監されているらしい。

織斑先生の後ろをついて部屋の中に入ると、ガラス窓の向こうに、手足を拘束されたオータムがパイプ椅子に座らされていた。

授業はいいのかって? 昨日あれだけのことがあって、授業なんかやれるか。(凰が吹き飛ばした)隔壁の修理やら、セキュリティのアップデートやらで、今日は休校だ。

 

「これ、向こうからはこっちが見えないってやつですか?」

 

「そうだ。よくあるドラマの取調室だな」

 

「取り調べねぇ……」

 

「なんだ。不満か?」

 

「正直、何か有益な情報を吐くとは思えないんですけど」

 

曲がりなりにも秘密結社のエージェントだ。しかも以前捕まえた時だって、何も吐かなかったんだろ?

 

「確かにそうだな。で? そうと分かっていながら、どうして奴を尋問したいなんて言い出した?」

 

「まぁ、大したことじゃないんですがね」

 

 

「昨日は織斑先生に止められて、フラストレーションが溜まってるんですよ。だからちょっくら、奴さんには酷い目に遭ってもらおうかと……」

 

 

「はぁ……いくらテロリストが相手とはいえ、拷問の類は許可できんぞ」

 

「そんなことしませんって。少なくとも昨日みたいに、流血沙汰にはしませんから」

 

「……本当だろうな?」

 

「はい」

 

頷く俺の顔を見た織斑先生は、しばらく考える仕草をしていたが

 

「……いいだろう。ただし、やり過ぎだと私が判断した時点で、尋問は終了だ。いいな?」

 

「了解です」

 

大丈夫。手傷を負わせるようなことはしない。そう、肉体的な傷は、な……。

 

 

 

 

「気分はどうだ?」

 

「良いわけあるか、クソが」

 

「つれないな。せっかく左足もくっ付けてやったのに」

 

オータムをおちょくる織斑先生。よく見ると、確かに俺が斬り飛ばした足がくっ付いていた。

 

「宮下に感謝しろ。こいつが綺麗に斬り飛ばしたから、ぴったりくっ付けられたんだ」

 

「誰が感謝するかよ!」

 

そりゃそうだ。

 

「で? 何か喋る気になったか?」

 

「はんっ! お前達如きに、このオータム様が話してやるようなもんなんかねぇよ!」

 

「そうだろうな。曲がりなりにも秘密結社の一員だものな。ハハッ」

 

「てめぇ、私を馬鹿にしてんのか!?」

 

うわー、織斑先生弄り倒すねー。

 

「それに……」

 

苦虫を嚙み潰したような顔で、俺のことを睨みつける。

 

「おうおう、昨日はあれだけ怯えてたのに、今日はずいぶん威勢がいいな」

 

「うるせぇ!」

 

「……宮下、さっきも言ったが、やり過ぎるなよ?」

 

「分かってますって」

 

どうだか、と漏らして、織斑先生は部屋から出て行った。たぶん、さっきの部屋に戻って俺とオータムを監視するんだろう。

 

「へっ、てめぇが尋問官ってか? 生憎、素人に屈するほどヤワじゃねぇんだよ」

 

「そうかい、失神エージェント」

 

「黙れクソガキぁぁぁ!」

 

椅子に固定されている中、俺に嚙みつくかのように暴れまわる。俺が刀持ってないだけで、ずいぶん強気じゃねぇか。ホント、文字通り見た目でしか判断できねぇのな。

 

「そんじゃ、さっそく尋問開始と行こうか」

 

そう言って、俺は拡張領域から掃除バケツを展開すると

 

――バシャァァァァッ

 

「うわっぷ!」

 

中の液体をオータムにぶっかけた。

 

「てめぇ! 何しやが……っ!?」

 

怒鳴ろうとしたオータムの動きが止まった。それどころか、カタカタと小刻みに震え始める。

 

「な、なんだこれ……からだが……」

 

おーおー、いい感じに効いてきたな。

 

 

「如何かな? 北海道は北見産の、ハッカ油の味は

 

 

「なん、だと……!?」

 

ハッカ油。あのスースーするやつだ。風呂に数滴入れると清涼感が得られたり、エタノールや水で薄めてスプレーに詰めれば、消臭や虫よけにも使える優れもの。

 

「本来は数滴単位で使うもんなんだが、今回は特別だ」

 

「まさか……あれぜんぶ……」

 

「正解。バケツいっぱいのハッカ油なんて、贅沢だよなぁ」

 

 

「さ、さみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

悲鳴を上げると同時に、さっきよりもガッタンガッタン椅子ごと暴れ始める。

そりゃ、風呂に数滴入れるレベルのハッカ油を、原液でバケツいっぱい被ればそんなもんよ。

 

寒度(かんど)3000倍の世界を味わうといい!」

 

「てめぇぇぇぇぇぇぇ!! さみぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

さっきまでの威勢はどこへやら。体の震えと一緒に、歯もガチガチ鳴らし始めやがった。

 

「こ、こんなことで、私が情報を、ゲロするとでも、お、思うなぁ!」

 

「そうかそうか。それなら、そんなオータム様の根性に敬意を表して」

 

拡張領域から、ハッカ油と一緒に用意したものを展開。

 

「……あ……」

 

それを見た途端、ただでさえオータムの顔から失せていた血の気が、完全に消えた。

 

「いやぁ、今のご時世でも、まだまだ現役なんだよなぁ。こ・い・つ」

 

かつての夏の風物詩とも言える、こいつの名は……扇風機!

エアコンが普及し切った現代においても、家電量販店の一角に生存しているタフガイだ。屋外で使うには、こっちの方がいいんだよな。

 

「そしてこいつを倍率ドン! さらにドン!」

 

合計4台の扇風機を、オータムを囲うように設置する。そして

 

「や、やめ……」

 

「一斉にスイッチオーン!」

 

――ブォォォォォォォォ

 

「◎△$♪×¥●&%#?!」

 

オータムの口から、解読不能な叫び声が垂れ流される。どうやら気に入ってもらえたようだ。

あ、椅子が倒れた。でも大丈夫、最近の扇風機は賢いから、対象を追尾して風を当てる首振り機能が付いてるんだよ。……生前の俺の世界でも欲しかったな、この機能。

 

「やめて、やめてぇぇぇぇ、しゃべもごっ」

 

慌ててオータムの口に布切れを詰め込んで、情報をゲロできないようにした。危ない危ない、もう少しで尋問が終了するところだった。

ついでに倒れた椅子もオータムごと元に戻して、今度は倒れないようにしっかり足元を固定した。これで体いっぱいに風を浴びることができるよ。やったね。

 

「それじゃ、これからお前が連れてた女の子の見舞いがあるから、しばらくそうしててくれよ」

 

それだけ言い残して、俺はオータムを放置して部屋を出た。

それと同時に織斑先生も隣の部屋から出てきたんだが、形容し難い顔をして俺のことを見てきた。

 

「宮下、お前ってやつは……」

 

いやいや、そんな目で見んで下さいよ。

 

ーーーーーーーーー

 

場所は変わって、学園の医療室。刀奈の病室とは別の部屋の前に、簪とボーデヴィッヒが立っていた。

 

「陸」

 

「教官。それに宮下もか」

 

「おう」

 

「だから織斑先生と呼べと……まぁいい、ボーデヴィッヒ」

 

「はい!」

 

「今回お前を呼び出したのは、昨日の事件で捕らえた……いや、保護した者が、お前と関係あるからだ」

 

「は? 私と関係、ですか?」

 

身に覚えがないからか、ボーデヴィッヒがキョトンとした顔で織斑先生を見返す。

 

「追々分かる」

 

そう言って、織斑先生がドアをノックすると『どうぞ』と返事があり、ドアを開ける。

病院個室のような部屋のベッドの上で、昨日見た女の子が上半身を起こして、目を閉じたままこちらに顔を向けた。頭につけていたサークレットみたいなのも、今は無い。

 

「気分はどうだ?」

 

「分かりません」

 

「そうか」

 

織斑先生の問いにそれだけ答える。

 

「……ボーデヴィッヒさん?」

 

「簪、どうし――ボーデヴィッヒ?」

 

「そ、そんな……そんなはずは……」

 

女の子を指さすボーデヴィッヒの体が、カタカタと震えていた。

織斑先生はそんなボーデヴィッヒをそのままにして、

 

「お前自身のことで、覚えていることを全部話してくれ」

 

「はい」

 

再度問われた女の子は頷くと、

 

 

「私は、ドイツの遺伝子強化素体(アドヴァンスド)。正式名は、試験体C-0030」

 

 

「……っ!?」

 

女の子の口から語られた内容に、簪は絶句した。

 

「遺伝子強化……つまり、デザインベビーってことか」

 

「はい。そして……」

 

女の子の視線が、ボーデヴィッヒの方を向く。

 

「ラウラ・ボーデヴィッヒになれなかった、失敗作」

 

「っ!」

 

「やはりか」

 

織斑先生が納得する中、ボーデヴィッヒの顔が、苦痛で歪む。ちょっと待て、どういうことだ? まさか……

 

「もしかして、ボーデヴィッヒさんも……」

 

「ああ……」

 

まるで観念したかのように、ボーデヴィッヒが苦笑する。

 

 

「私も遺伝子強化素体(アドヴァンスド)、作られた存在なんだよ……」

 

 

「ふ~ん、で?」

 

 

「「「「は?」」」」

 

あれ? 簪も織斑先生もボーデヴィッヒも、ベッドの女の子すら、鳩が豆鉄砲を食ったような顔して固まってんだが。

 

「陸、ボーデヴィッヒさんがデザインベビーって聞いて、それだけ?」

 

「ああ」

 

「宮下、お前は正気か? 気持ち悪いとか、感じないのか?」

 

「別に? ボーデヴィッヒがデザインベビーだって判明したからって、付き合い方を変える気はねぇぞ。それに一夏と揉めたくねぇし」

 

うん、あいつなら『ラウラを差別してんじゃねぇぇ!』とか言って殴りかかってきそうだし、そんな揉め事はごめんだ。

というか、こちとらイノベイドっていう人造生命体と殺し合ったり手を組んだりしてたんだ。今更デザインベビーぐらいなんだって話だ。

 

「……」「これが宮下か……」

 

「その反応は解せぬ」

 

特に織斑先生、貴女の弟さんも、その辺は俺と同類ですよ。間違いなく。

 

「それで織斑先生。実際のところ、彼女はこれからどうなるんです?」

 

「正直、困っている」

 

ホント困ってそうな顔してますな。

 

「こいつの体内には、生体同期型のISが埋め込まれている。故にそのまま放逐というわけにもいかん。無論、人道上の理由からもな」

 

「そうですよね。それに彼女は、ボーデヴィッヒさんと姉妹なわけですし」

 

「し、姉妹ぃ!?」

 

簪の発言に、ボーデヴィッヒが目を見開いて再起動した。確かにそうなるか。

 

「姉妹か……なるほど」

 

あ、織斑先生の口角が上がった。ありゃ何か企んでる顔だぞ。

 

「きょ、教官?」

 

「安心しろ。悪いようにはしない」

 

「「はぁ……?」」

 

「私に任せておけ」

 

 

 

そこで検査の時間になり、話は強制終了となった。

 

「織斑先生、どうする気なんだろう?」

 

「教官は宮下と違って、トンデモなことはしないと思うが……」

 

「おいこらどういう意味だ」

 

『早速準備をするか』と言って颯爽といなくなった織斑先生に対して、各々疑問と不安な気持ちを抱いたのだった。

あれ? なんか忘れてるような……まいっか。忘れるってことは大したことじゃないだろ。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「フゴゴフゴゴフゴゴゴゴォォォォォォォ!(誰か風を止めてくれぇぇぇぇぇぇぇ!)」

 

ーーーーーーーーー

 

ハッキング事件から2日経って、やっと授業が再開した。一般生徒には事件のことは知らせず、老朽化した一部システムの異常ということになっているらしい。

 

「それにしても、みんなが俺のことをあんな風に思っていたなんてな……」

 

「ち、違うぞ一夏! いや、違わないんだが……」

 

「あ、あははは……」

 

電脳ダイブして、みんなを救出するっていうのは良かったんだけどな……。知らない方がいいことって、あるんだな……。

 

「……」

 

「ラウラ?」

 

「な、なんだ?」

 

「ボーッとして、どうかしたか?」

 

なんか上の空というか。昨日は千冬姉に呼び出されてたみたいだし、なんかあったのか?

 

「べ、別に、どうもしてないぞ?」

 

「お、おう」

 

そうこうしているとチャイムが鳴って、山田先生と千冬姉が教室に入ってくる。あれ? 山田先生、すげぇどんよりしてる?

 

 

「今日はですね……みなさんに転校生を紹介します……」

 

 

「「「「ええ~~~!?」」」」

 

 

「転校生ですか!?」

 

「デュノアさんとボーデヴィッヒさんが入って、またですか!?」

 

マジか!? というか、どうして1組にばっか転校生が入ってくるんだ!?

 

「それでは、入ってきてください……」

 

「失礼します」

 

そう言って教室に入ってきた女の子。背はラウラと同じか、少し低いぐらい。そして、腰まである銀色の髪を太い三つ編みにしているのが特徴的だった。

教壇の前に来るまで目を閉じてるけど、目が悪いんだろうか?

 

「クロエ・クロニクルです。これからよろしくお願いします」

 

――パチパチパチ!

 

ペコっと頭を下げると、クラスのみんなが拍手で迎える。

 

「あ、ああ……」

 

「ラウラ?」

 

どうしたんだ? 口をアングリ開けたまま固まってるけど。

 

「クロエさん、他に何か言っとくことない? 趣味とか特技とか」

 

「何か、ですか……ああ、そういえば言い忘れていました」

 

クラスメイトからもう一言を催促されて、クロニクルさんは

 

 

「血縁上は、ラウラ・ボーデヴィッヒは私の妹になります」

 

 

特大の爆弾を投下した。

 

 

「「「「ええ~~~!?」」」」

 

 

その日、1年1組の窓ガラスはみんなの絶叫によって、半分以上が割れた。




負けたらギャグ要員。某蒼き鋼からの伝統ですね。

そしてクロエに関しては、こんな感じにしてみました。試験体番号は適当です(ラウラよりは若い番号)。この後、原作通り束のところに行くか、はたまた一夏ハーレムに巻き込まれるかは、なーんにも考えてません。(オイ

さらにここから、エム(マドカ)への対応もあるんですよねぇ……。


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第95話 説明!

サブタイ通り、説明回です。

5月病が再発してますが、頑張って更新再開します。


『全学年の専用機持ちは、今すぐ会議室に集合しろ』

 

相変わらずワイルドな織斑先生の呼び出し(校内放送)で、俺達1年組は会議室に集められた。

部屋に入ると、織斑先生とイージスコンビに刀奈、それと……あ?

 

「なんで()()()が?」

 

「宮下、お前昨日、そいつを放置してただろう」

 

「ああそうか、なんか忘れてると思ったらそれか」

 

「てめぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

地下に繋がれてたはずのオータムが吠えるが……大量の毛布に包まってダルマ状態で吠えられても、全然怖くねぇな。

 

「こ、こうでもしねぇと、風が少しでも当たっただけで……」

 

「オータム……」

 

「憐みの目で見んじゃねぇぞレイン! ってさみぃぃぃぃ!」

 

ケイシー先輩に怒鳴った勢いで毛布が落ちて、少し腕が見えた瞬間、まーた地下にいた時みたいに歯をガチガチ鳴らし始めた。というか、レインってケイシー先輩のことか? 確かこの先輩、名前はダリルだったはずだが?

 

「お前達、そんな話をするために集めたわけじゃないぞ」

 

俺の疑問を遮るように、織斑先生が手を叩く。

 

「えーっと、千冬姉「織斑先生だ(バコンッ)」がふっ! お、織斑先生、話って……」

 

一夏、お前はどうしてそこだけは学習しないのか……まさか、姉に叩かれることを望んで……!?

 

「陸君、さすがに織斑君でも、そこまでHENTAIじゃないと思うわ……」

 

「俺の心読んでツッコミ入れんでください」

 

「顔に書いてあるのよ」

 

『純真』の扇子をわざとらしく広げない!……俺、そんなに分かりやすいのか?

 

「ええい! まずは黙って私の話を聞けぇ!」

 

「「「「「「「「は、はい!」」」」」」」」

 

織斑先生がキレて、俺と刀奈だけでなく、全員が直立で返事がハモる。

 

「今回お前達を呼んだのは、先日のハッキング事件であったことを説明するためだ」

 

「あ~、私とダリルが本国に帰ってる間に起こったやつっスね」

 

「そしてこいつ(オータム)がここにいるってことは、亡国機業絡みだと」

 

「「「「亡国機業?」」」」

 

一夏ハーレムの面々(ボーデヴィッヒを除く)が首を傾げる。

 

「国際的な秘密結社だな。一説には第2次大戦中に生まれたと言われているが、確かな情報がほとんどない組織だ」

 

「そんなものが……」

 

さすが現役軍人、知ってたのか。 ちなみに俺、簪、一夏の3人は以前(学園祭の時)刀奈から聞いている。だが、イージスの先輩達は?

 

「ケイシー」

 

「ああ、やっぱそうだよなぁ……」

 

ケイシー先輩が諦めたような顔をする。

 

「オレは亡国機業の元・エージェントだ」

 

「「「「「ええ!?」」」」」

 

「そんで、オレの本当の名前はレイン・ミューゼルって言ってな。亡国機業の実働部隊にいたんだが、色々あって足抜けしたんだよ」

 

「足抜けって……」

 

「理由については聞くなよ? そこの生徒会長がまた暴れるから」

 

「暴れないわよ!」

 

刀奈、お前何やったんだよ。

 

「で、そこの会長経由で学園側と交渉するために、司法取引したってわけだ」

 

「レイン、やっぱてめぇが情報を売ってたのか!」

 

「仕方ねぇだろ。っていうか、お前だって宮下の拷問に耐え切れずにゲロっちまったんだろ?」

 

「うぐぐ……!」

 

「陸、お前拷問なんてしたのか……?」

 

ちょっと待て一夏、どうしてそんなドン引きした目でこっち見てんだよ!?

 

「俺は拷問なんてしてねぇぞ!?」

 

「嘘つけ! てめぇの拷問のせいで、私はこんな風になってさみぃぃぃ!(ガタガタガタ)」

 

「陸……」

 

「簪までそんな目で見んじゃねぇよ!」

 

なんだよなんだよ、みんなして俺のことイジメやがって……。

 

「あ~……で、だ。こいつらから得られた情報から、色々面倒なことが分かった」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

織斑先生の説明で分かったこととしては、

①今回のハッキング騒動は、亡国機業とアメリカの一部が手を組んで起こしたこと

②今の亡国機業の上層部は、以前俺と倉持が揉めた件で女権団を追放された連中が牛耳ってること

③ハッキング要員として、クロエが(自律思考を止める装置付きで)女権団から亡国機業に譲渡されたこと(クロエの証言以外に証拠が無いため、女権団をしょっぴくことは出来ない)

 

「ふざけやがって……!」

 

大方の予想通り、話を聞いた一夏は怒りで握り拳を震わせていた。

 

「ISを埋め込んだ上で自律思考を止めるなんて……」

 

「下衆ですわね……」

 

他の面々も、クロエの扱いについて腹を立てていた。

 

「ところで、クロエ・クロニクルって名前はどこから?」

 

確か先日聞いた時には、名乗る名前が無いみたいな話だったはず。

 

「それは――」

 

「それは束さんが付けたんだよー!」

 

「た、束さん!?」

 

「篠ノ之博士!?」

 

「束! 突然入ってくるな!」

 

全員がとにかく驚く中、束が会議室の窓から乱入してきた。 あれ? 窓開いてなかったよな? どうやって入った?

 

「ど、どうして姉さんが……?」

 

「ふふふー、それはね箒ちゃん? 束さんがくーちゃんの家族になったからだよ♪」

 

「か、家族ぅ!?」

 

篠ノ之が驚く。というか、織斑先生とクロエ本人以外全員が驚いていたが、驚きすぎて篠ノ之しか声を出せなかったという。

 

「昨日ちーちゃんに呼ばれてね。何かと思ったら、くーちゃんの身元保証人になれなんて言われたんだよねぇ」

 

「私が身元保証人になると、色々勘繰る連中がいるからな。その点束なら、各国も下手なちょっかいは出してこないだろう」

 

「教官! 『私に任せろ』ってこのことですかぁ!?」

 

確かに昨日、医療室でそんなこと言ってたな。

 

「良かったなボーデヴィッヒ。姉妹で仲良くな」

 

「仲良くなんて……」

 

肩をポンポンと叩かれ、ボーデヴィッヒがしなしなと萎むようにしゃがみ込む。

 

「束、説明ご苦労。帰っていいぞ」

 

「ちょ! ちーちゃん冷たぁい! あ、りったん。この前あげた時結晶で専用機作ったんだって? 資料ちょーだい」

 

おっと、突然俺に話のバトンが。

 

「のほほん、データ渡していいか?」

 

「いいよ~」

 

「「ちょ、本音!?」」

 

「束、スペックデータと、この前のタッグマッチのデータでいいか?」

 

「いいよー」

 

「宮下お前、勝手にデータを……! いや、もういい」

 

なんか、俺の方に手を伸ばしかけた織斑先生が、ガックリ首を垂れたんだが?

 

「まぁ、篠ノ之博士なら、データを渡したところで……」

 

「大丈夫だよ、ね?」

 

刀奈と簪も、苦笑いを堪えてますって顔になってるんだが……俺、またなんかやっちゃいました?(確信犯)

 

「ホイホイ来た来た。後で目ぇ通して感想送るねー」

 

「お手柔らかにな」

 

『のほほんでも扱えるIS』をコンセプトに作ったから、ぶっちゃけ第2世代相当なんだよな、ナインテール・セラフ。テールブレードの自動防衛モードを含めても、2.5世代ぐらいか。色々言われそー。

 

「そんじゃ私は帰るねー。くーちゃんも、学園生活楽しむんだよー!」

 

「はい、束さま」

 

「むー、ママって呼んでくれるのは、いつになることやら……まぁ焦らずいこう! 箒ちゃんもバイバーイ!」

 

篠ノ之に向かってブンブン手を振ると、束は来た時と同じく窓から部屋を出て行った。あいつが扉使ったところ、ほとんど見たことねぇんじゃねぇか?

 

「あ、相変わらずですわね、篠ノ之博士は……」

 

「やめろセシリア、そんな目で私を見るな」

 

何とも言い難い顔をしたオルコットが篠ノ之の方を見ると、篠ノ之も『あれと一緒にすんな』という顔になっていた。

 

「……なんか、情報量が多すぎて頭がこんがらがってるっスよ……」

 

「安心しろフォルテ、オレも良く分からなくなってる」

 

「ダメじゃないっスか!」

 

「こんな連中に、このオータム様は惨敗したって言うのかよ……」

 

ある程度情報共有が図られたものの、束の登場辺りで収拾がつかなくなっていた。

 

「それと篠ノ之。お前今日から日本の代表候補生な」

 

「織斑先生!? ちょっと雑過ぎません!?」

 

そのせいか、篠ノ之が代表候補生になったことは、さらっと流されたのだった。一応これで、篠ノ之と紅椿の帰属問題は解決したわけか。

 

「今度は、布仏とナインテール・セラフの帰属問題が浮上しているがな……」

 

いや織斑先生、俺を睨まんでくださいよ。俺は悪くねぇ!

 

「いや、陸が悪いと思う」

 

「織斑姉弟がイジメる……」

 

「よしよし」

 

「はいはい、元気出して」

 

orzった俺を、簪と刀奈が慰める図が出来上がっていた。ちくせう……。




次回辺りで、エムを出しておきたいなー。(願望)
そして次回辺りでワールド・パージ編を終わらせて、運動会に移ろうと思ってます。


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第96話 ツクリモノ

すんません、今回でワールド・パージ編、終わりきれなかったっス……。


亡国機業のオータムがいなくなった、IS学園地下区画の収監エリア。そこにいるもう一人と、私は対峙していた。

 

「まったく……自分と瓜二つな顔なんぞ、面白くないな」

 

「それはこちらのセリフだ、織斑千冬」

 

後ろ手に拘束されたサイレント・ゼフィルスの操縦者が、私を睨み返す。ふん、2,3日食事と睡眠を抜いた程度では、獰猛さは抜けないか。

 

「それで? 貴様は何者だ?」

 

「まさか、本気で聞いてるわけではあるまい?」

 

「それこそまさかだ。貴様が亡国機業のエージェントであることぐらい、調べはついている」

 

「なら、これ以上私が答えるべきことはないな」

 

「いや、まだ貴様の名前を聞いていない」

 

「エムだ」

 

ずいぶんあっさり白状してきたが、そうじゃない。

 

「それはコードネームだろう。名前だ」

 

「違うだろう? お前が知りたいのは、私の名前などではない」

 

「……」

 

「"私以外の存在はいるのか?"、だろう?」

 

「……ああ」

 

そうだ。それが私が聞きたかったことだ。こいつだけなのか? 私の、()()と同じ顔の存在は――

 

「ふっ、その悔しそうな顔に免じて、特別に答えよう」

 

 

 

「私『織斑マドカ』が、唯一の家族だ。()()()。いや、織斑計画(プロジェクト・モザイカ)の成功試験体No.1000」

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

会議室でクロエさんのことやら亡国機業の話を聞いて、混乱した頭がようやっと再起動したところで、俺は思い出した。いや、忘れてたことを思い出したというか。

 

「う~む、参ったなぁ……」

 

「どうした一夏」

 

「ああ陸。千冬姉に提出しなきゃならないプリント、すっかり忘れててな。しかも今日締め切り」

 

本当は昨日出す予定だったのが、今回のハッキング騒動でドタバタしてたせいですっかり忘れてたのだ。

 

「まじか、織斑先生のことだから、遅れたら……」

 

「言わないでくれ、怖いから」

 

うん、間違いなく出席簿アタックは免れないな。理由を言っても『ならもっと早く出せ』とか言って、さらに追加攻撃されるのが目に見えてる。

 

「千冬姉、話が終わったらすぐいなくなっちまうし……」

 

会議室での話が解散になったのが20分ほど前。職員室にいるかなと思ったら『織斑先生ですか? 今はいませんね』と山田先生に言われるし。

 

「もしかして、まだ地下にいるんじゃね? あのオペレーションルームとか」

 

「あ、それはありそうだ」

 

「けど、あそこ普段は立ち入り禁止だから、入ったら別の意味で出席簿アタック食らうかもしれんな」

 

「うわぁ……」

 

陸が言った光景が、すぐ目に浮かんだ。だけど、今日中に出せなくても出席簿なんだよなぁ……。

 

「とりあえず、もう少し校舎内を探してみるわ」

 

「おう、頑張れよー」

 

 

 

陸と別れてから、あちこち回ってみたが、やっぱり千冬姉は見つからなかった。

 

「こりゃ、本当に陸の言う通り、地下区画か?」

 

ちなみに、さっき千冬姉のスマホにかけてみたが、『電波の届かないところに――』という自動音声が流れるだけだった。

どうする? 諦めて明日怒られるか? それとも――

 

「……行くか」

 

100%怒られる道より、99.9%怒られる方を選んで、俺は地下区画に通じる廊下に向かっていった。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「……迷った」

 

俺は、薄暗い地下通路で迷子になっていた。前に陸から送られてきたマップデータ、どうして消しちまったんだ俺は……。

 

――亡国――

 

なら――――

 

その時、近くから声が聞こえてきた。千冬姉と……もう一人は聞き覚えのない声だ。

 

「た、助かった……」

 

このまま、学園の地下で遭難とか御免だ。プリント渡すついでに、帰り道も聞こう。

そう思って、声のする方に歩いていくと、途切れ途切れだった話し声も鮮明に聞こえてくるようになった。扉が開いてる、あの部屋からか?

その部屋を覗き込もうとして、

 

 

 

「私『織斑マドカ』が、唯一の家族だ。()()()。いや、織斑計画(プロジェクト・モザイカ)の成功試験体No.1000」

 

 

 

「……っ!?」

 

手が、足が、止まった。織斑、マドカって、誰だ……? それに織斑計画って、一体……。

 

「やはり、そうか」

 

「白々しいな、予想はしていたんだろう? かつて究極の人類を作り出そうとする狂気の計画、プロジェクト・モザイカ。その成功体であるお前に対して、あの倫理観など持ち合わせていない連中が、スペアを用意していないとでも?」

 

「くっ……!」

 

究極の人類を作る? 成功体? 千冬姉が? なんだよ、それ……。

理解が追い付かず、動くことも出来ない俺に気付かず、千冬姉と、マドカと名乗ったやつとの会話が続く。

 

「天然物の超人である篠ノ之束が見つかったことで、計画は頓挫。()()()2()()は政府の監視下に置かれ、私だけが廃棄されかかった」

 

ふた、り……? 千冬姉と、まさか……。

もういい、引き返そう。引き返すんだ。引き返すんだ引き返すんだひきかえすんだひきかえすんだひきかえすんだヒキカエスンダヒキカエスンダヒキカエスンダヒキカエ――

 

 

 

「忌々しかったよ。なぜ私ではないのかと。なぜ、出来損ないのあの男、織斑一夏がお前と同じ、成功試験体なのかと――」

 

 

 

「あ……」

 

それが耳に入ってきた瞬間、俺は走り出していた。道なんか分からない。ただ、ここから逃げ出したかったから……!

 

ーーーーーーーーー

 

「あ」

 

「どうしたの陸?」

 

「教室に端末忘れた」

 

会議室で束にデータ渡して、その後机に置きっぱなのに気付いたのが寮への帰り道。今日の一夏を笑えんぞこれ。

 

「簪は先に帰っててくれ。ひとっ走りして取ってくる」

 

「分かった。気を付けてね」

 

「いやいや、学園の中で何を気を付けろと」

 

というやり取りをして、教室に戻って端末を回収。さて、さっさと戻って……なんだ? 階段の陰に……は?

 

「一夏、お前何してんだ?」

 

そこには、膝を抱えて蹲る一夏がいた。声をかけても返事が無い。

 

「おい、具合でも悪いのか? それなら保健室にでも……」

 

そう言って、一夏の腕を引っ張ったところで、俺は固まった。

 

「陸……」

 

やっと声を出した一夏の顔は、土気色を通り越して、死人かと思えるほど血の気の引いた真っ白だった。

 

「陸……俺、人間じゃなかった……」

 

「はぁ?」

 

突然、一夏が突拍子もないことを言い出した。

 

「何を馬鹿な事……じゃないんだな?」

 

「……」

 

一夏は馬鹿だ。だが、こんな顔をして面白くもないことを言い出すような馬鹿じゃない。

 

「……話してみろ。聞くぐらいは聞いてやる」

 

「……あの後、地下区画に行って……」

 

ボソボソと、蚊の鳴くような声で一夏が話し始めた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

織斑計画。作られた存在、か。

 

「俺、両親の顔、知らないんだ。ずっと昔にいなくなったって、千冬姉から聞いてて……違ったんだ。元々いなかったんだ。ツクリモノに親なんかいるわけなかったんだ……」

 

「……」

 

「俺は……俺は……!」

 

 

「ふ~ん、で?」

 

 

「……え?」

 

「お前達姉弟が人工的に生まれた存在なのは分かった。で? それが何だって?」

 

「いや、だから……そんな俺が、みんなと一緒にいるなんて……」

 

「おうおう、人工生命体が人間と一緒にいちゃいけないなんてルール、IS学園の規則にはねぇぞ?」

 

「ふざけんな! 俺みたいな、作られたバケモノが……!」

 

「せいっ!」

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「いだだだだだだ!」

 

 

話を聞かねぇ奴には、久々にお仕置きアームロックだ。

 

「言っとくが、俺はお前との付き合い方を変える気はねぇぞ。織斑計画? 作られたバケモノ? 知るかそんなもん」

 

「けど……!」

 

「お前はお前だ。織斑一夏以外の何者でもねぇ。それ以上でもそれ以下でもねぇんだよ」

 

「り、く……」

 

 

 

「篠ノ之達に体の匂い嗅がれる運命を背負った、ただのシスコンだ」

 

 

「てめぇふざけんのも大概にしろよぉぉぉ!!」

 

 

「……」

 

「……」

 

「「ぷっ」」

 

 

「「ぶはははははははっ!!」」

 

 

誰もいない校舎、しかもIS学園っていうほぼ女子校で、野郎二人が大声で笑っていた。

 

「ちくしょう! ふざんけんなよ! 真剣に悩んでた俺が馬鹿みたいじゃねぇかよ!」

 

「だからお前は馬鹿なんだよ! そんな心配するぐらいなら、オルコットの料理食わされる心配でもしてろ!」

 

「うるせぇよ馬鹿野郎!」

 

そんなじゃれ合いに近い罵り合いを何度も続けた。

 

「もう一度言うが、お前はお前だ」

 

「ああ、俺は俺だ。少なくとも記憶がある……小学生の時から今までの9年、俺は『織斑一夏』として、千冬姉の弟として生きてきた。それだけは否定しないし、誰にもさせねぇ」

 

制服の袖で目元を拭った顔は、まだ不安な気持ちが残っているが、最初よりは大分マシになっていた。

 

「さて、差し当たっての問題は、篠ノ之達へ話すタイミングだな」

 

いきなり『俺人間じゃなかった』とか言われても、向こうだってどう反応したらいいか分からんだろうからな。

 

「いや」

 

「ん?」

 

「それよりも、先にやることがある」

 

そう言って立ち上がった一夏は、どこかに向かって歩き出した。

 

「どこ行くんだ?」

 

 

 

「ちょっと、"家族になる予定"の奴に会いに行く」




マドカを出すことには成功したものの、話が長くなりそうだったので、泣く泣く分割しました。ユルシテ…

いっくん、自分の出自を知るの巻。結構ヘビーな内容ですが、原作より心が鍛えられてる(オリ主に振り回されてる)ので、比較的早く復帰してます。

次回でちゃんとワールド・パージ編終了、したいなぁ……。


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第97話 家族

プロローグや閑話も含めると、今回で話数が100を突破しました。
これまで読んで下さった皆々様、感謝感謝です。これからもご愛顧いただれば幸いです。

ところで、一夏ってラウラの過去(アドヴァンスドのこととか)について知らないと思うんですよね。知ってたら原作12巻であんな風になるとは思えないですし。というわけで、本作では知らない体でお願いします。(感想欄からの逃避)


闖入者がやってきたのは、私と織斑千冬との問答に終わりが近づいてきた時だった。

 

――ギィィィ……

 

誰も来ないだろうと、閉め切っていなかった扉が開く音とともに現れたのは、()()()()()()()だった。

 

「織斑!? お前、ここは立ち入り禁止区域なのを分かって……!」

 

私のことを見えないように立ちはだかり怒鳴り声をあげるが、

 

「千冬姉、俺はそいつと話があるんだ」

 

「いち、か?」

 

その男はするりと横を抜け、そしてそのまま、一言も発せずに私の前に立った。

 

「ふんっ、私の顔を見て、声も出ないか」

 

「……」

 

「どうだ、似てるだろう? 貴様ご自慢の姉に。それはそうだ、なぜなら私も、織斑千冬も、そしてお前も「やめろ! 黙れ!」

 

千冬が遮ろうとするが、もう遅い。

 

 

「私たちはみんなツクリモノ、人間ではないバケモノなんだからな」

 

 

「あ、ああ……」

 

よほど知られなくなかったのか、千冬が膝から崩れ落ちる。ふふっ、さあ出来損ない、お前はどんな顔を見せて――

 

 

「だからどうした」

 

 

「「は?」」

 

予想もしていなった返答に、私はおろか、千冬ですら唖然としていた。

こいつ、私の話を聞いてなかったのか!?

 

「貴様は人工的に作られた、バケモノ――」

 

「だからなんだって言ってんだ」

 

「貴様……っ」

 

何なんだこいつは……!? なぜ、動揺しない!? 自分が人間でないと、バケモノだと知って、どうしてそんな平然としていられる!?

 

「……そうか、貴様、私の話を信じていないんだな? それはそうか、そんな話――」

 

織斑計画(プロジェクト・モザイカ)

 

「なにっ!?」

 

「一夏! お前、どこでそれを……!?」

 

「ごめん。実は千冬姉とそいつ、マドカが話しているところ、聞いちまってたんだ」

 

「え……」

 

「それなら、なぜだ……なぜそんな平然としていられる! これまでの自分を否定されて、なぜ……!」

 

「否定されてなかったよ」

 

そう言い返してきた奴は、なぜか苦笑していた。

 

「本当はな、俺も怖かったんだ。自分が人間じゃないって知って、バケモノなんだってな」

 

「ならば……!」

 

「けどな、そんな俺に、()()()はなんて言ったと思う?『ふ~ん、で?』だぞ?」

 

「は……?」

 

なんだ、それは? そして誰だ、そんなことを言ったキチガイは……。

 

「そして言われたよ。『お前は織斑一夏以外の何者でもねぇ』ってな」

 

「宮下……」

 

話の流れから、千冬はそいつに心当たりがあるのか、同じように苦笑していた。

 

「俺は俺だ。そして――」

 

 

 

「……ざけるな……」

 

 

 

「ふざけるなぁぁぁぁ!!」

 

 

 

「貴様に分かるか!? 計画が頓挫し、廃棄処分されかかった、あの時の恐怖を! なんとか生き残りながらも、あてもなく彷徨う孤独を! ドブネズミのように這いずりながら、生きるために泥水をすするしかない惨めさを!」

 

なんだ、この茶番は!? こんなことを見せられるために、私はあの地獄を生き延びたわけじゃない!

 

「……」

 

「貴様には分かるまい! 織斑千冬という後ろ盾に隠れてのうのうと生きてきた貴様には! 誰にも求められず、認識すらされない。そんな人生など……!!」

 

「分かる、なんて言えない。そんなこと、お前への侮辱でしかないだろうからな。だから――」

 

やめろ、来るな……!

 

「お前は織斑マドカだ。俺がそう決めた。誰にも否定はさせねぇ」

 

「あ……」

 

「一夏……」

 

どう、してだ……どうして、涙なんて……。

 

「千冬姉も、いいよな?」

 

「ここまで確認する馬鹿がいるか」

 

まるで観念したかのような顔をして、千冬もこちらに近づき、奴の頭を撫ぜる。

 

「すまない。私達のこと、言い出せずに」

 

「いいよ。俺は千冬姉の立場だったとしても、同じように言い出せなかっただろうから」

 

「強くなったな、一夏……私も腹を括ろう」

 

そう言って、千冬は私の後ろに回り込む。少しして、腕の拘束具が床に甲高い音を立てて落ちる。

 

「……いいのか? 私が逃げる可能性だったあるんだぞ」

 

「言ったろ、腹を括ったと……信じてみるさ、お前を信じた一夏を」

 

とんだブラコンだな、織斑千冬は。弟の戯言を信じて、テロリストの拘束を解くなんて。だが……

 

「そういうわけだ、これからよろしくな!」

 

そう言って伸ばしてきた手を、

 

「……ふんっ、覚悟しておけ。私がお前より優秀だと、『織斑』にふさわしいと知らしめてやる。後になって無様に泣き喚いても遅いからな」

 

私は恐れも躊躇いもなく、握り返していた。

 

ーーーーーーーーー

 

一夏の、いや、織斑の秘密を知った翌日、俺は4組の教室で半ば力尽きていた。

 

「だ、大丈夫? 宮下君」

 

「平気だ~……」

 

隣の席から心配する声が聞こえてきたから返事だけはしたが、正直辛い。

 

「陸が悪い」

 

「ええっ、更識さん、何があったの?」

 

「昨日篠ノ之博士が来て、本音の専用機について明け方まで盛り上がってた」

 

「「「「「「それは宮下君が悪い(ギルティ)」」」」」」

 

解せ……る。今回は俺もまずいな~とは思ってた。まさか、束がナインテール・セラフの荷電粒子砲、通称・天使砲に興味持つなんて想定外だったんだよ。『なんかビビッときたぁ!』とか言い出すし。

 

「SHRを始めますよー」

 

エドワース先生が入ってくる。もうそんな時間か。

 

「今日はみんなに、サプライズがありまーす」

 

――ざわざわざわ……

 

「サプライズ?」

 

「なんだろ?」

 

「このクラスに、転校生が入りまーす!」

 

「「「「ええ~~~!?」」」」

 

転校生!? 昨日1組にクロニクルが入って、次はここかよ!?

 

「それじゃあ、入ってきてー」

 

そして、先生の合図で入ってきたのは……

 

「……はぁ!?」

 

「え……」

 

俺と簪は、仲良くフリーズした。

 

「織斑マドカだ。1組の織斑一夏は遠縁の親戚筋に当たる。あのボンクラよりは有能だと自負している。年齢は気にするな、飛び級というやつだ」

 

 

「「「「ええ~~~!?」」」」

 

 

転校生――あのサイレント・ゼフィルスに乗っていた、織斑先生似のテロリスト――の自己紹介を聞いたクラスメイトの絶叫で、マジで教室が揺れた。

 

「お、織斑君の親戚ぃ!?」

 

「ていうか顔、織斑先生ソックリじゃん!」

 

「千冬様の面影が……! 急いで崇拝準備しないと!」

 

おい待て最後の奴!

 

「みんな、仲良くしてあげるように」

 

「「「「は~い!」」」」

 

簪の方を見た。鳩が豆鉄砲を食ったような顔になっていた。たぶん俺も、あんな顔になってるんだろう。

そして思った。

 

(何こっちに面倒事押し付けてんだよてめぇらでちゃんと引き取れや織斑姉弟ぃぃぃぃぃ!!)

 

ーーーーーーーーー

 

――アメリカ西海岸、サンフランシスコ沖20km

 

「ちっ……!」

 

しつこく追撃してくるラファールの中隊に、『ゴールデン・ドーン』に乗った私は無意識に舌打ちしていた。

 

きっかけは、幹部会が女権団の残党共に乗っ取られたところから。

IS学園襲撃失敗に対して、予想通り幹部会は荒れた。そこで女権団の無能共が一掃されれば良かったのだけれど、まさか責任追及をさらりと躱すどころか、逆に旧勢力を粛清するなんて思っても見なかったわ。

そして残った無能共が立てた作戦で、今度はオータムどころか、エムもがサイレント・ゼフィルスごと虜囚の身となってしまった。最悪よ……。

しかもその無能共、古巣の女権団へ復帰する望みを持っていたのか、拠点とかの秘匿情報まで向こうに流して……! その結果がこれよ! あっちは最初から、事の成否に関わらずこちらを切り捨てる気だったのよ。

 

そして私はセーフハウスを追われ、女権団がリークした情報で出動したIS委員会の直属部隊と、海の上で追いかけっこをするハメになっているわけ。

ラファールごとき、このゴールデン・ドーンなら簡単に倒せる。けれど、中隊規模の数を相手にするのは分が悪い。今は逃げるしかないわね……。

 

(無事でいて、オータム……)

 

私は追撃から逃れつつ、オータムがいるであろう、IS学園の方角へ飛び続けた――




やっと終わった~……! ワールド・パージ編、終了でございます。

マドカ、学園に通うってよ。さすがにクロエが入った直後に追加はあれなので、オリ主と簪に面倒見てもらいましょう。そこまでの流れが無理やり過ぎる? カンニンシテヤァ…

スコール・ミューゼル、太平洋横断・チキチキISレース(ドボンもあるよ)。『モノクローム・アバター』が名実ともに壊滅状態なので、ここらで亡国機業には消えてもらいます。女権団へのヘイトが高まるぅ……!

次回からギャグの宝庫、秋の大運動会編です。今章で不足してた分を取り戻しますよぉ。
米秘匿空母への潜入? あったねぇ、今作ではやらんけど。


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秋の大運動会
第98話 わりと理由のある風評被害が簪を襲う!


新章開始と言いつつ、最初は前章からの流れになります。


織斑先生似の元・テロリストがクラスメイトになるというトンデモSHRだったが、事態はさらに斜め上の方向へ飛んで行った。

 

「それじゃあ織斑さん、貴女の席はあそこね」

 

「ああ、分か……ぴっ!?」

 

「「「「え?」」」」

 

クラス全体が唖然とした。さっきまで自信満々な顔をしていた織斑が、突然半泣きになってエドワース先生の後ろに隠れだした。はい?

 

「どうしたのかしらー?」

 

「あ、あいつ、なんでここに……!?」

 

先生の背中から、プルプルと腕を震わせながら指さした先には……

 

「……え? 私?」

 

簪がいた。

 

「更識さん、一体何したの……?」

 

「あの怯えよう、尋常じゃないわよ……」

 

「きっと、更識さんがこのクラスのボスだって、本能で悟ったのよ……」

 

「ああ……」

 

「私何もしてないよ!?」

 

クラスメイト達からの視線に、簪も涙目。いやまあ、学園祭の時然り、先日の件然り、簪にフルボッコされたみたいだからなぁ……。

 

「ほら、宮下君も納得してそうな顔してるし」

 

「陸ぅぅぅ!?」

 

「誰だよ俺の方にまで火の粉飛ばしてくんな!」

 

「困ったわねぇ、織斑さんの席、更識さんの隣なんだけど……」

 

「無理ぃぃぃぃ!!」

 

ギャン泣きの織斑、半泣き激怒の簪、ヒソヒソ話が止まらない女子生徒達。1年4組の1時限目開始5分前は、もはや収拾がつかなくなっていた。

 

ーーーーーーーーー

 

その後織斑を宥めすかし、なんとか授業が開始したのは、2時限目に入ってからだった。織斑の席? 断固拒否するもんだから、窓際最前列の奴と席替えになった。

さらに、カッコよく登場したはずの織斑は初っ端から醜態(本人談)を晒したせいで、

 

「マドっち~♪」

 

「き、貴様! 抱っこしようとするな! やめろ!」

 

「きゃ~! かわい~!」

 

「頬を引っ張るなぁ!」

 

完全にクラスのマスコットキャラと化していた。成りが小さいのも理由だろうな。

 

「祭壇持ってきてー! 神器の準備急いでー!」

 

「おい馬鹿やめろ! 一体何をする気だ!?」

 

おいおい、いくら織斑先生と顔似てるからって、マジでこいつを崇拝する気かよ!?

 

「あの、みんなそれぐらいで……」

 

「ぴぃぃ!(泣)」

 

あ、簪が止めようとしたら、織斑が教室から飛び出していった。

 

「ええ……」

 

「更識さん……」

 

そしてまた簪を見て、ヒソヒソ話を再開する。

 

「(PД`q)陸ぅ……!」

 

「ああ、はいはい」

 

泣きついてきた簪の頭をポンポンと撫ぜる。織斑の奴、完全に簪がトラウマになってやがるな。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「ってことがあった。どうしてくれるんだ一夏」

 

「いや、俺に言われても……」

 

昼休みの食堂で一夏に苦情を入れたら、こんな不誠実な回答をしてきやがった。

 

「……っ」

 

「大丈夫だよ、僕たちがいるからね~」

 

「ほら、ミニトマト食うか?」

 

未だ簪の方を見て震えている織斑がデュノアにしがみつき、ボーデヴィッヒが昼飯を食べさせている光景。はっきりいってカオスだ。元は凶悪なテロリストだったはずなのに、どうしてこうなった。

 

「ものの見事に怯えてますわね……」

 

「これはひどい」

 

「アンタ、一体何したのよ……?」

 

「かんちゃ~ん……」

 

「本音までそんな目で見ないでぇ!」

 

とうとうのほほんにまで……簪、強く生きろ……!

 

「ところで、クロニクルはどうした?」

 

てっきり一夏達と一緒かと思ったんだが。

 

「ああ、クロエさんなら……」

 

そう言って、一夏が指さす方を見ると

 

「くーちゃ~ん♪」

 

「あ~癒し枠~!」

 

「あ、あの……」

 

……まるでSHRでの織斑のように、(おそらく1組の)女性生徒達に溺愛されていた。本人はめっちゃ困ってるが。

 

「というか、織斑はどうやってIS学園の生徒になった?」

 

クロニクルはともかく、こいつは亡国機業の一員だったろ。それがどういう流れで?

 

「それは……」

 

「それは私が説明してやる」

 

「千冬ね(バコンッ)お゛、お゛り゛む゛ら゛せ゛ん゛せ゛い゛……」

 

一夏、お前ってやつは本当に学習しねぇのな……。

 

「それでマドカについてだが……宮下」

 

指でちょいちょいと、近くに寄れと指示される。

 

「まず前提条件として、あいつが亡国機業に所属していたことを知っているのは、私と一夏、お前、そして更識姉妹だけだ。ケイシーは知ってるかもしれんがな」

 

「つまり、俺達が漏らさなければ問題ないと?」

 

「その上で、日英政府と取引した」

 

「日本は分かるとして、なぜにイギリス?」

 

過去の不祥事(プロジェクト・モザイカ)について口を噤むことを条件に、織斑の日本国籍を手に入れる。そのために日本政府と交渉するのは分かる。だが、イギリス?

 

「忘れたのか? あいつが乗っていたISのことを」

 

「ああ、そういう」

 

サイレント・ゼフィルス。あれは元々、イギリスから強奪された機体だったっけか。

 

「そこで英国政府に言ったのさ。『織斑マドカをサイレント・ゼフィルスのテストパイロットにしないか?』とな」

 

「テストパイロット……なるほど」

 

そこまで聞いて、やっと得心が行った。

 

英国からIS委員会に、サイレント・ゼフィルスが奪われたと報告はされていない。何故か? "織斑マドカというテストパイロットが試験運用していたから"、そういう筋書きにしたわけだ。

英国サイドからしたら、強奪された事実を消去しつつ、サイレント・ゼフィルス(の所有権)が戻ってくる。織斑サイドからしたら、日本政府に加えて、英国政府が身元を保証してくれるって寸法だ。

 

「それにあいつは、サイレント・ゼフィルスを使いこなしている。本人の申告通りなら、偏光制御射撃(フレキシブル)も使えるらしい」

 

「それ、オルコットには?」

 

「……教えていない」

 

気まずそうな顔をした先生が、目を背けた。

 

『またわたくしのお株が……ああああああああああああああああ』

 

――はっ! 目のハイライトが消えたオルコットが、等速直線運動で近づいてくる幻覚が見えたぞ……!

 

「と、とにかく、宮下が心配するようなことは無い」

 

「あいつを4組に入れたのは?」

 

「1組は先にクロニクルが入っていた。そこからさらに入れるとなると目立ちすぎる。だからと言って2組や3組に入れた場合、万一あいつが暴れた時に止めようがない」

 

「……うちのクラスならいいと?」

 

「更識妹が抑止力になるだろう」

 

「その結果があれなんですが?」

 

俺が指さした先には

 

「(ガクガクブルブル……!)」

 

デュノアの左腕にしがみついて離れない、クール&ビューディーとは対極に位置する4組のマスコットが……

 

「ああ、うん……すまん」

 

いや、俺に謝られても……

 

ーーーーーーーーー

 

「ところで一夏。お前、嫁連中には?」

 

「ああ、昨日話した」

 

「昨日って、あれからすぐ話したのかよ。度胸があるというか、なんというか……」

 

そんな目で見んな。みんなに隠し続けるよりはいいと思ったんだよ。

 

「それで、どうだったんだ?」

 

「なんというか……」

 

 

 

寮の部屋で俺は箒達に、自分の出自について洗いざらい話した。

 

「嫁よ、そんなことを気にしていたのか。私は気にせんぞ。かくいう私も同じようなものだからな」

 

それに対して、真っ先に声を上げたのはラウラだった。

 

「ラウラ、同じって……」

 

「私もな、作られた存在なのだ」

 

「「「「ええ!?」」」」

 

「ラウラ、お前も……?」

 

「ああ。ただ戦うためだけに作られた存在、試験体C-0037、それが私だ」

 

まさか、ラウラが俺と同じ、作られた存在だったなんて……。

それと同時に、自分をバケモノだと言った数時間前の俺を殴りたくなった。だってそれは、ラウラのこともバケモノだと言ってるようなものだから。

 

「だがな、私はラウラ・ボーデヴィッヒだ。それ以外の何者でもない。……学年別トーナメントの後、教官からそう言われたのだがな」

 

「……」

 

千冬姉……。

 

「それで、お前達はどうする? 嫁のことを諦めるか?」

 

「冗談!」

 

鈴がバンッと机を叩く。

 

「デザインベビーが何よ!? 一夏は一夏でしょ! そんなの関係ないわよ!」

 

「そうだね。僕達が好きになった一夏には変わらないよ」

 

「そうですわ! わたくし達はその程度で掌を返すほど、軽い女ではありませんことよ!」

 

「みんな……」

 

陸は笑っていたけど、俺はみんなからバケモノだと思われると、みんなが離れて行ってしまうかもと、恐れていたんだと思う。

みんなが今まで通り、俺を見てくれると分かって……嬉しかった。

 

「まったく、男がそう簡単に泣くものではないぞ、一夏」

 

そう 責しながらも、箒が俺を、涙が止まらなくなった俺を、抱き締めてくれた……。

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

「お帰りなさい。ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」

 

「……」

 

「……」

 

……なんだこれ?

昼に食堂で織斑劇場(一部感動もの)を見て、午後の授業も無難にこなし、放課後打鉄弐式にGNドライブを付け直して、寮の部屋に戻ったはずだ。なのにどうして、エプロン姿の刀奈がいる?

 

「……お姉ちゃん、説明」

 

「せっかく傷口が塞がって戻ってきたのに、陸君も簪ちゃんも構ってくれないんだもーん」

 

「だもーんって……」

 

そんな頬を膨らませても不法侵入はダメだろ。そういうのは束だけで十分だ。

 

「……お姉ちゃん、構ってほしいんだね?」

 

「あ、あの……簪ちゃん?」

 

「か、簪?」

 

ニッコリ笑ってるはずなんだが、何か怖いぞ?

 

「陸」

 

「お、おう」

 

「お姉ちゃんをベッドに」

 

「え~っと、もしかして……」

 

「うん」

 

マジか……いやでもなぁ……

 

「陸」

 

「アイマム!」

 

「えっ? り、陸君!?」

 

驚く刀奈をお姫様抱っこして、ベッドの上にポイチョした。こんな時の簪には、逆らわないのが吉だ。

 

「え、えっと……もしかして、()()()()こと?」

 

「お姉ちゃんも、キスの先に行こう」

 

「き、キスの先って……」

 

「陸に、抱いてもらお?」

 

「あ、あうううう……///」

 

簪のストレート剛速球に、刀奈は真っ赤になった顔を両手で覆い隠す。なんだろう、すごい罪悪感が……

 

「なぁ刀奈、本当に無理そうならちゃんと言えよ?」

 

俺らしくもないと思いながら、助け船を出したつもりだったが――

 

「陸君……」

 

「ん?」

 

 

「は、初めてだから……その……優しく、して……ね?」

 

 

前言撤回、俺の理性はあっさり飛んだ。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

翌朝、ベッドの上には俺と刀奈と簪の3人が、仲良く裸で動けなくなっていた。

刀奈を愛していたはずが、途中から簪も交ざりうんぬんかんぬん……

 

「陸君、優しくって言ったのに……でも、すごく幸せ……♡」

 

「私も一緒になんて、やっぱり陸は大型肉食獣♡」

 

「段々否定できなくなってきた……」

 

俺、二人のご両親に、五体投地レベルの土下座で謝罪しないとダメかも……。




マドカ、マスコットキャラ化。負けたらギャグ要員の運命からは逃れられないのです。そしてとばっちりで、簪がなぜか不憫枠に……。
盗られたISが戻ってきて、良い稼働データが取れるなら、英国も取引に応じるかなーという考えで、今回のテストパイロットという流れになりました。

一夏ハーレム解散せず。するわけが無いです。もし解散しようもんなら、駄女神の強制介入がががが。

たっちゃん、"少女"から"女"になる。(表現が下品)
しかしこうなってくると、彼女のアームロック枠が誰に移るのか。(そこ?)
というか、今作の簪がどこまで突き抜けていくのか、書いてる自分でも分からんくなってきました……。


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第99話 ほこ×たて

ここから本格的に、原作9巻に入っていきたいと思います。


IS学園はその名の通り、ISの操縦や整備の技術を習得することに特化した学校だ。必然、普通の学校にはないカリキュラムや行事が大量にある。

だが逆に、普通の学校と同じようにある行事も存在する。その一つが、秋の運動会だ。

 

さて、なんで冒頭からそんな話をし出したかと言えば――

 

 

「それでは、出たい種目に手を挙げて下さい」

 

SHR、クラス代表の簪が教壇の前で仕切っていた。内容は、件の運動会の出場種目について。

黒板代わりの大型ディスプレイには、競技種目と出場人数が表示されている。メジャーなところでは100m走や借り物競争、パン食い競争などなど。全員参加の種目もある……騎馬戦はいいとして、軍事障害物競走って何だよ?

 

「マドっちは決めてる?」

 

「ふんっ、私からすれば、児戯にも等しいものばかりだな」

 

「それじゃあ織斑さんは、コスプレリレーで決定」

 

「なぁ!?」

 

デカいこと言った織斑の参加種目が、簪によって強制的に決められた。ってか、コスプレリレーって……

 

「ふざけるな! なんだその頭おかしい種目――」

 

「(^○^)やって?」

 

「(;Д;)……はい

 

あ、撃沈した。というか簪、織斑に怖がられまくって、とうとう開き直りやがったな。

 

「俺はどうすっかなぁ……」

 

「陸は私と二人三脚で決まってる」

 

「あれぇぇ!?」

 

なんか俺も、強制的に決められてたっぽいんだが。

 

「それと陸、借り物競争もよろしく」

 

「あの、俺に選択権は?」

 

「二人三脚、頑張ろうね?(ニッコリ)」

 

「……おう」

 

もう何も言えねぇ……。

 

「それじゃあ私も、借り物競争出るー」

 

「私は100m走」

 

「城戸さん陸上部だから、400m走に出てほしい」

 

「う~ん、本当は私も100m走でお茶濁したかったんだけど、仕方ないな~」

 

俺と織斑を後目に、他の種目がどんどん埋まっていく。

みんな、簪が恐怖政治を敷き始めたことについては無視か?

 

そうこうしている内に、個人種目は全ての枠が埋まった。

 

「それじゃあ、当日は頑張ろう」

 

「「「「お~~!!」」」」

 

ちなみに、なぜみんなやる気なのか。それはこの運動会もキャノンボール・ファストと同じように、優勝クラスには賞品があるからだ。

 

「デザートフリーパス、前のキャノンボール・ファストでもらったのに、まだ欲しいのかよ」

 

「甘いわね宮下君。女の子にとって、スイーツはいくらあってもいいものなのよ」

 

「それにあの時は、マドっちがいなかったでしょ?」

 

どうやら単純に数が欲しいという以外に、織斑にもフリーパスを手に入れさせたいという優しさもあるらしい。

 

「そうなんだが……」

 

奴がそんな、デザート如きで本気になるかぁ?

 

「マドっち、ちょうど運動会が終わった翌日から、食堂でイチゴフェアが始まるんだよ」

 

「そうそう。はい、これチラシ」

 

「これは……いちご大福に、ショートケーキだと……!?」

 

すげぇ目ぇ見開いて、電流流れるエフェクトが。

 

「だから頑張ろうマドっち」

 

「(^q^)し、仕方ないなぁ。そこまで言うなら、私の力を見せてやろう」

 

涎を拭け、馬鹿野郎。本当にお前、元・秘密結社のエージェントかよ? 転校初日とのギャップが激しすぎるぞ。

 

ーーーーーーーーー

 

その日の夜、陸と部屋でのんびりしていると

 

――コンコン

 

「かんちゃ~ん」

 

「本音?」

 

ドアをノックする音と、本音の声が聞こえてきた。そしてドアを開けると――

 

「やぁやぁかんちゃん♪」

 

「……え~っと」

 

そこには、本音を小脇に抱えた篠ノ之博士が立っていた。

 

「束ものほほんも、一体何してんだ……?」

 

私の後ろから現れた陸も、この光景に呆れていた。

 

「二人とも、ちょ~っと付き合って?」

 

「「はい?」」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

なんだかよく分からないうちに、私達は夜の第1アリーナに連れてこられていた。そしてそこには、先客が。

 

「織斑先生?」

 

「お姉ちゃん?」

 

陸と私の声がハモる。

 

「ったく……束、今回だけだからな」

 

「ありがとちーちゃん! それでチェシャ猫ちゃん、準備お~け~?」

 

「(チェ、チェシャ猫?)準備出来てます」

 

「よ~し!」

 

なんか、3人の間で勝手に話が進んでるんだけど……

 

「いや、俺達にもちゃんと説明を……」

 

「きっかけは、りったんからもらったISデータだよ」

 

「ISデータって、ナインテール・セラフの?」

 

「うん♪」

 

「……陸ぅ?」

 

「俺は悪くねぇ! っていうか、すぐ俺のことを疑うのやめろ!」

 

うっ! 確かにそうかも……

 

「でも、大抵は陸君が爆弾の着火点よね」

 

「だな」

 

「……」

 

あ、お姉ちゃんと織斑先生の追撃でorzった。

 

「それで、本音のISがどうしたんですか?」

 

「もらったその日に目を通したんだけどさぁ……」

 

あ、まずい。篠ノ之博士の目から、ハイライトが消えそう。

 

 

「あんなの絶対おかしいよ!」

 

 

「どうして!? ISには射撃補正やらなんやら色々積まれてるのに、どうして停止物にすら弾が当たらないの!?」

 

「ええ~……」

 

どうやら、ナインテールの荷電粒子砲のことを言ってるっぽいけど……割とストレートに本音をディスってますよね?

 

「いや~照れますな~」

 

そんな中、ISを展開した本音が話の中に入ってくる……ってそこ照れるところじゃないから!

 

「そこで、だ。束が作った補正システムを入れて、布仏が標的に当てられるか試したいと言い出してな。学園側としても、データ採取にちょうどいいと許可した」

 

「はぁ、なるほど……」

 

陸といい本音といい、どうして私の周りには、大天災すら曇らせる強者ばかりなんだろう……。

 

「それで、そのシステムはもう?」

 

「もち! のんたんからOKもらって、インストール済みだよ♪」

 

「のんたん……」

 

本音のあだ名が増えていた。

 

「そろそろ始めましょうか」

 

そうお姉ちゃんが言うと、射撃場とかでよくある的が展開される。ここからの距離は、大体10mぐらい?

 

「それじゃのんたん、束さん謹製システム『お前はもう、死んでいる』を起動して」

 

「は~い」

 

物騒! 何そのシステム名!?

 

「おお~、照準が勝手に動く~」

 

本音が体を左右に動かす。けれど、6門の砲口は的の方を向き続けている。自動で標的をロックオンしてるんだ。これなら……

 

「さあのんたん! 発射だぁぁぁ!」

 

「りょうか~い! え~い!」

 

――ドゴォォォン!

 

発射された弾頭は、標的に向かって一直線に飛んでいき――

 

 

 

フォークボールのように曲がり、的の数cm手前の地面に突き刺さった。

 

 

 

「え?」「は?」「へ?」「んん!?」

 

私、織斑先生、お姉ちゃんの3人は絶句。陸は本音と的を交互に2度見。

 

 

 

「なんでぇぇぇぇぇ!?」

 

 

 

篠ノ之博士は頭を抱え、その場でブリッジをキメていた。

 

「ごめんなさ~い、外しちゃいました~」

 

そんな中、本音だけが照れたような顔をして頭を掻いていた。

 

 

 

その後、正気を取り戻した博士は

 

「つ、次こそは! 次こそはのんたんを百発百中にしてみせるんだからぁ! あ、それとりったん、太陽光発電モジュールについてちょっと質問投げといたから、あとで返事ちょうだい」

 

という、業務連絡っぽいのが混じった捨て台詞を残して、(突然上空から降ってきた)人参型のロケットに乗って帰って行った。

 

「束の力を以てしても、布仏の呪いは破れないのか……」

 

「織斑先生~、呪いってひどいです~」

 

「いいえ、もはや呪いの領域よこれは……」

 

本音が頬を膨らめせて抗議してるけど、正直私も呪いじゃないかと思った。普通、荷電粒子砲の弾頭ってあんな曲がり方しないから。

 

こうして『絶対的に当てられない本音 VS 絶対命中させる束システム』ほこたて対決は、本音に軍配が上がった。……そんな勝負じゃないんだけど。




簪、開き直る。もう完全に4組の女帝です。(前からそうだったけど)

【悲報】のほほんの射撃下手、大天災を以てしても解決せず。感想欄から構想得ました。どうもです。

マドカは生徒になったけど、オータムはどうなったかって? それは後々……


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第100話 シリアスボッシュート

とうとうサブタイも100話突破です。


普通、運動会にリハーサルというものはない。少なくとも俺は覚えがない。しかしIS学園の運動会ではISに乗って行う競技もあるため、それを実習に取り入れているらしい。

玉打ち落とし、射出機によって上空に打ち上げられた大量の玉を、ISで撃ち落とす競技だとか。マジかよ。

 

そんな競技があるのも驚きだが、俺がさらに驚いたのは、実習でアリーナにやってきた時に――

 

「……意外と似合ってるのな」

 

「うるせぇ!」

 

そこにはエドワース先生の他に、上下ジャージ姿のオータムの姿があった。

 

「(で? なんでお前がここにいんだよ?)」

 

「(あのブリュンヒルデの指示だとよ。私をIS委員会に引き渡す気が無いらしい。かといってまた地下行きも拒否ったんだが、気付いたらこんなことに……)」

 

事情を知らないクラスメイト達に聞こえないように小声で聞いたら、まさかの回答が返ってきた。

IS委員会に引き渡さないって、前回のように護送中に襲撃されることを懸念してるんだろうか。

 

「とにかく、今の私は実習時の補佐役だ」

 

「補佐ねぇ……」

 

そうは言っても、名目だけだろう。こいつが真面目に教師役をやるとは思えないし。

 

「ところでよぉ……」

 

なんだ? 指なんかさして……

 

 

「マドっち~、今度のイチゴフェア、狙い目は何かな~?」

 

「まずいちご大福だな。それと変わり種では、ベルリーナー・プファンクーヘンもおススメだな」

 

「ベルリーナー……なんて?」

 

「ベルリーナー・プファンクーヘンだ。要はジャム入りの揚げパンだ」

 

「へぇ、美味しそう!」

 

「でも、絶対カロリー高いよね……」

 

「高いな。だが! それを気にしていてはスイーツなど食べれん!」

 

「マドっち悟ってる~」

 

 

そこには、運動会後に開催されるらしいイチゴフェアの話で花を咲かせているクラスメイト達……の輪に中心に、織斑がいた。

 

「あれ、本当に"エム"なのか……?」

 

信じられないという顔をするオータム。そりゃそうだろうよ。あの嫌味なほどクール系だったのが、いつの間にか甘味大好き女子校生にジョブチェンジしてんだから。

 

「私も、いつかあんな風になっちまうのか……?」

 

「いや、お前もすでにギャグ要員だからな?」

 

「嘘だぁぁぁぁぁ!!」

 

頭を抱えてイヤイヤと左右に振っても、運命からは逃れられんぞ。

 

「オータム先生~、そろそろ授業を始めるので、準備してくださ~い」

 

「あ、はい!」

 

エドワース先生に呼ばれて、オータムはすぐに走って行った。すでに後輩教師が板に付いちまってんだろ。もう手遅れだって。

 

 

 

実習だが、つつがなく終了した。そして恐ろしいことだが……オータムの人気が結構高かった。

なんやかんやで面倒見が良かったようで、ISを動かす際のコツなどもわりと丁寧に教えてくれて、教師というよりは姐さん系先輩な感じなんだとか。聞いた話では『1組の実習を偶々見る機会があったんだけど、それよりオータム先生の方がいいわ』とのこと。……1組の実習担当って、確か織斑先生だったはずじゃ? 元・テロリストより教えるのが下手な教員って……。

 

ーーーーーーーーー

 

時間は飛んで放課後。いつもの第4アリーナで、一夏達と模擬戦をするんだが。今回から参加者が増えていた。

 

「サイレント・ゼフィルス、ブルー・ティアーズの後継機ですわね」

 

「そうだ。色々あって、私がテストパイロットをすることになった」

 

そう、織斑も模擬戦に参加することになった。表向きテストパイロットの肩書を背負ってるから、ある程度はやってますアピールが必要なんだとか。実際に稼働データも送るんだろうし。

そんな織斑はすでにサイレント・ゼフィルスを展開済み。あとは誰と戦うかだが……。

 

「それで、誰がマドカの相手をするんだ?」

 

「ふふんっ、誰が相手であろうと、私は負けん」

 

「それなら、更識さ――」

 

「嫌だぁぁぁ!」

 

「え、えぇ?」

 

一夏が簪を指名しようとしたら、ISを解除してデュノアの背中に隠れてしまった。なんぞこれ。

 

「なんだ、教官の遠縁が聞いて呆れるな」

 

そんな織斑を鼻で笑うボーデヴィッヒだが

 

「お前に、あの"メメントモリ"だかに、ISの装甲ごと頭を吹き飛ばされそうになる恐怖が分かるか!?」

 

「……すまん」

 

織斑の主張を聞いて、素直に謝った。

 

「私、やっぱりそういう認識なの……?」

 

そのやり取りを見て、簪が悄気(しょげ)た。

 

「そ、それじゃあ、セシリアはどうだ?」

 

「わたくしですの?」

 

「ああ、同じイギリス製の機体同士で戦うのはどうかなって」

 

「面白い。私はそれでいいぞ」

 

「わたくしもそれで。一夏さんに、華麗な勝利をお見せしますわ!」

 

双方ISを展開して、アリーナの中央に移動する。さて、オルコットには悪いが、織斑の力を見るために頑張ってくれ。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

偏光制御射撃(フレキシブル)……わたくしですら成功したことがない技術を、あんな簡単に……あああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

 

「せ、セシリア!?」

 

「ああもう! しっかりしなさい!」

 

魂抜けかけのオルコットにデュノアがビビり、凰が肩を掴んでガックンガックン揺らす。やっぱこうなったか。

 

「さて、次は」

 

「ちょっと! セシリアをこのままにする気!?」

 

「そうは言っても、これ以上オルコットに対してできることは無いだろ」

 

「それはそうなんだけど……」

 

俺とそんなやり取りをしつつ、オルコットの口から抜け出しそうな白い靄()を、凰が掴んで口の中へ押し戻す。

 

「ところで、私も知らない機体があるんだが?」

 

「ん?」

 

織斑が指さす先には、のほほんが乗ったナインテール・セラフが。

 

「あれか。あれはナインテール・セラフって言って、最近組まれた機体だ」

 

「そうか……だが、あの機体」

 

――ドゴォォン!

 

「う~、やっぱり当たんない~」

 

「荷電粒子砲に、偏光制御射撃(フレキシブル)なんて必要なのか……?」

 

「いや、あれは仕様じゃねぇ。呪いだ」

 

お前やオルコットのレーザーならともかく、砲弾があんな曲がり方するのが仕様であってたまるか。

 

「そうか……そうだな……」

 

そう納得したはずなんだろうが、

 

――ドゴォォォン! ドゴォォォン!

 

まるでフォークやスライダーかと言わんばかりに的の手前で曲がっていく砲撃に、織斑は完全に宇宙猫になっていた。

 

 

 

今日の模擬戦、俺の戦績は1勝2敗で終わった。

一夏から獲った1勝も、いつまで続くか分からない。あいつ、どんどんフェイントが上手くなってやがるんだよなぁ。2敗した相手? 相変わらず凰とデュノアだよチクショウメェ!

 

そして簪なんだが……誰も相手してくれなかった。

 

「更識さんの相手はちょっと……」

 

「なんと言うべきか……」

 

「最近、特に勝てる気がしなくなったっていうか……」

 

「だから、ね……」

 

「お前が怖くて戦いたくない」

 

「「「ラウラぁ!?」」」

 

他の連中がオブラートに包もうと必死だったのに、ボーデヴィッヒの火の玉ストレートが簪に直撃。

 

「……」

 

「みんな~、調子はどう……って、簪ちゃん? どうしたの?」

 

そんな中、グッド(バッド?)タイミングで様子を見に来た刀奈。

 

「お姉ちゃん! 模擬戦の相手して!」

 

「は、はい!?」

 

という流れになり、

 

「簪ちゃん!? さっきから攻撃に怨念っぽいのが籠ってて、お姉ちゃん怖いのだけど!?」

 

「ボーデヴィッヒさんの馬鹿ぁぁぁぁぁぁ!! 私怖くないからぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「ラウラちゃんへの恨みで私に八つ当たりしないで!?」

 

そんな仲のいい姉妹の語らいは、アリーナの貸し出し時間が過ぎるまで続いた。

 

ーーーーーーーーー

 

そして語らいが終わった夜、1032号室。

 

「うぅ~、簪ちゃんも酷いわよ~……」

 

「ごめんなさい……」

 

「まったくぅ……陸君、もっと撫でて~」

 

「はいはい……」

 

グロッキーになった刀奈を、なぜか俺が膝枕して頭を撫ぜていた。

 

「普通逆じゃね? 野郎の膝枕とか固くて需要ねぇだろ」

 

「え~? 私は気に入ったけどなぁ」

 

「お姉ちゃん、羨ましい……」

 

こら刀奈、頭を太ももに擦り付けてくんな。そして簪、羨ましそうな顔すんな。なんなんだこの姉妹は!

 

「ところで運動会って、2,3学年も参加するんだよな?」

 

「もちろんよ。あ、学年ごとに優勝クラスを決めるから、景品の心配はしなくていいわよ」

 

「良かった。他の学年も含めてだったら、競争率高過ぎ」

 

「確かにな」

 

1年だけ4クラス中の1番と、2,3年も含めた12クラス中の1番じゃ、難易度が違い過ぎる。

 

「……りーくくん♪」

 

「ちょっま!」

 

「お姉ちゃん!?」

 

膝枕していたはずの刀奈が、気付けば俺をベッドに押し倒していた。いやだから、普通逆だろって。

 

「ほら簪ちゃんも」

 

「え、えっと……えいっ」

 

さらに簪もエントリーして、仰向けの俺の上に、二人が乗っかる形に。

 

「あ~、簪ちゃんって、いつもこんな感じだったのね」

 

「うん。こうしてると、すごく幸せ」

 

「分かるわ。陸君の温もりとか、すっごく安心する」

 

そう言いながら、二人とも俺にしがみ付いてくる。

 

「このまま寝ちゃいましょうか」

 

「おいおい、刀奈はダメだろ。部屋に戻らなくて――」

 

「実はね、最初からここに泊まる気だったの。同室の子には、織斑先生を誤魔化すようにお願いしてあるわ♪」

 

いやそんな、ウインクされても……。

 

「それじゃあ、明かり落とす」

 

簪がそう言ったそばから、部屋の照明が落ちる。マジでこのまま寝るつもりかよ……。

 

「陸君……」

 

「あ?」

 

「も、もし"シ"たくなったら……遠慮なく言ってね?」

 

「そんな顔真っ赤にしてまで言うなバカタレ」

 

そんなに俺を盛りの付いた猿扱いしたいか。

 

「仕方ない、お姉ちゃんは誘い系ヘタレだから」

 

「簪ちゃん!?」

 

俺の胸の上で揉め始めた姉妹。そんな状況で幸せを感じている俺は、色々手遅れなのかもしれない。




オータム、臨時教師になる。意外とこういうキャラの方が、面倒見が良かったり。というか、ちーちゃんが丁寧に指導している姿が想像できない。めっちゃスパルタだよきっと。(偏見と事実半々)

簪、とうとう模擬戦を拒否られるの巻。これからは、たっちゃんに専用サンドバッグになってもらうしかないですね。(ゲス顔)
そして刀奈はヘタレ。(最重要)

次回、運動会を開催予定です。


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第101話 秋の運動会開催! & 100m走

今回から、運動会開幕です。

原作では50m走ですが、本作では100m走になっております。ご承知くださいませ。
自分が学生の頃は100mと400mだけで、50mなんて無かったんだよなぁ。


オータムが臨時教師になってたり、織斑が完全にゆるキャラ化したり色々あったが、IS学園は秋の運動会当日を迎えていた。

 

「それでは、これよりIS学園・秋の大運動会を開催します!」

 

ずらっと並んだ全校生徒の前で、壇上の生徒会長の刀奈が開催を宣言する。

というか、運動会を第2アリーナでするのはいいとしよう。なぜに、各国の政府関係者が観客席にいるんだよ? ただの運動会だろ?

 

「それでは選手宣誓の前に、外部協力者を紹介しまーす」

 

「外部、協力者?」

 

刀奈の発言に、全校生徒がざわざわし始める。そして、刀奈が横によけると、壇上に上がってきたのは

 

 

「やっほい皆の衆、大天才の束さんだよ~♪」

 

 

 

「「「「ファッ!?」」」」

 

 

まさかの登場人物に、全校生徒絶句。俺が思わず教員側の方を見ると、織斑先生が顔を背け、それ以外は苦笑いを返してきた。観客席に各国政府関係者がいるのは、そういうことかよ!

 

「今回この運動会に協力したのは、くーちゃんの勇姿をその目に見るたゲフンゲフン! 束さんが今行ってる事業の発表にちょうど良かったからだよ!」

 

ダウトォォ! あいつ、絶対クロニクルの観戦が主目的だろ!

周りの連中も分かっちゃいるが、かと言って指摘も出来ず、ただただ教師陣と同じように苦笑いをするしかない。

 

「というわけで、こちらを御覧じろぉぉぉ!」

 

束が指さした先に、投影ディスプレイが現れる。そこに映っていたのは

 

「IS……?」

 

「なんか、すごいゴテゴテしてるわね」

 

「しかもあのIS、周り真っ暗だけど」

 

「もしかして、宇宙?」

 

CDのような円形の銀板を大量にくっつけた、全身装甲のISだった。それを見たみんながあれこれ言い始める。

 

 

「紹介しよう! 束さんが作った、太陽光発電自律制御型無人機『アンサラー』を!」

 

 

「無人、機……?」

 

誰かが呟いた声を、そこにいた皆が聞いた気がした。それぐらい、束の発言にアリーナは静まり返っていた。

そんなことお構いなしとばかりに、束の説明は続く。

 

「この子は北極上の高軌道領域で、常に静止状態にあるんだ。今もね。そこからあの円形の太陽光パネルで発電して、マイクロウェーブ送電で地上に電力を供給できる」

 

「もしかして、臨海学校で見たのって……」

 

「おっ、覚えてるのもいるみたいだね。結構結構。前回は小型の人工衛星を打ち上げたけど、今回は無人のISで行っているんだよ。ISのPICを使わなきゃ、常に高軌道領域の定点にいられないからね。あれ? 反応薄いなぁ」

 

束はそういうが、そりゃみんな反応できんわ。政府のお偉いさん、鳩が豆鉄砲を食ったどころか、豆の詰めた機関銃でハチの巣にされたような顔しているぞ。

 

「まぁそんなわけで、今回の運動会で使用する電力は、ぜ~んぶアンサラーが発電・送電したもので賄う予定だよ♪ そして予定通り発電・送電がうまくいったら、今後のIS学園の電力は全部アンサラーで受け持つって、ちーちゃんと約束してるんだよねぇ」

 

あ、会場の全員がギュルンッと織斑先生がいる方を向いた。だが、すでに織斑先生はそこにはいなかった。ブリュンヒルデ、まさかの敵前逃亡である。

 

「ちなみに観客席、アンサラーが欲しいからってちょっかいかけたら、あれに搭載されてるレーザー兵器群で撃墜するからね。エネルギーは太陽光から無限に得られるわけだし、持久戦も物量戦も無駄だよ。というか、いい加減『ISは最強の兵器』って考え捨てたらどうなのさ? だから柔軟な発想ってやつが出来ないんだよバーカ!」

 

どうもやる気だったのか、米中露の席に座ってる連中の顔色が、束の忠告でみるみる青くなっていく。

 

「まぁ君達が? かんちゃんの打鉄弐式と同程度のISを、1個小隊ぐらい用意出来たら話は別だけどね?」

 

「いや、それ無理筋でしょ……」

 

クラスの誰かが呟いた一言に、周りの全員が頷いた。専用機4機とやり合える無人機とかアリかよ?

 

「それじゃ、束さんの話はここまで! いっくん、選手宣誓よろしく~! それとくーちゃん、100m走頑張ってね~!」

 

「お、おれぇ!?」

 

突然の指名に慌てる一夏を後目に、束はクロニクルがいるであろう1組の方に手をブンブン振ると、マイペースに壇上から降りて行った。

 

ーーーーーーーーー

 

一夏の選手宣誓後、最初の競技である1年の100m走が始まった。それはいいんだが……

 

「なぁ陸、俺、すごい目のやり場に困ってる……」

 

「そうか。俺は少しだが慣れてきた」

 

「マジか、すげぇな……」

 

日差し除けのテントの下で、一夏は視線を上に向けて固定していた。

なにせ短パンな俺達2人を除いて、皆一様にブルマ姿なのだから。ISスーツとは別の意味でドキドキするという、一夏の悩みも分からなくはない。

 

「けどな一夏、篠ノ之達の…ゴニョゴニョ…を見たお前が、今更だと思うんだが?」

 

「ぶはっ! な、なんてこと言うんだよ!?」

 

「いや、実際そうだろ」

 

かくいう俺も、簪と刀奈の…ゴニョゴニョ…を見たという事実をもってして、平静を保ってるわけだし。

 

「やめよう。今はみんなの応援に意識を向けて誤魔化す」

 

「最初からそうすれば良かったろうに」

 

俺のツッコミを意図的に無視して、一夏が『頑張れー!』と応援を始める。まぁ、それでエロい煩悩が紛れるならいいんじゃね?

ふと視線を競技トラックに向けると、クロニクルと簪がスタートラインに立っていた。

 

ーーーーーーーーー

 

100m走の列に並んでからしばらくして、私の走る番が回ってきた。

左を向くと、他のクラスの子達が。3組は知らない子、2組は確か、凰さんと同室の子だったはず。そして1組は……クロニクルさん? 目を閉じたままで、走れるのかな……?

 

『On your mark』

 

指示に従って、スタートラインの手前でクラウチングスタートの体勢を取る。

 

『Set……Go!』

 

ピストルの音が響き、私を含めた4人全員が飛び出す。

 

「嘘っ! 4組の子、あんなに足早いの!?」

 

「眼鏡キャラは運動神経がないっていうのがセオリーなのに!」

 

そんなセオリー、勘弁してほしい。これでも更識家の人間として、それなりには鍛えてきたんだから。

 

そう思ってるうちに、私はゴールテープを切った。17.1秒、そこそこかな?

少しして、2組と3組の子もゴールする。

 

「はぁ……はぁ……!」

 

大分遅れて、息も絶え絶えのクロニクルさんが

 

――ドシャァ

 

「ク、クロニクルさん!?」

 

ゴールテープ手前で倒れ込んだ。慌てて駆け寄ると、ものすごい汗と浅い呼吸……もしかして、熱中症?

 

「誰か、保健の先生を!」

 

周りを見渡すと、みんな驚くだけで動けないでいる。もう、緊急事態なのに……!

 

「簪!」

 

「クロエさんは!?」

 

思わず心の中で悪態をつきそうになっていたら、陸と織斑君が担架を持って走ってきた。良かった、二人はちゃんと動いてくれてたんだ。

 

「たぶん、熱中症だと思う」

 

「そうか……一夏、やっぱり担架で運ぶぞ」

 

「え? 俺か陸が担いだ方が早いんじゃ?」

 

そんなやり取りをしながらも、陸と織斑君がクロニクルさんを担架に乗せる。

 

「一夏、こいつをクロニクルの脇に挟め」

 

陸が拡張領域から、凍らせたスポーツドリンクを2本、織斑君に投げて渡す。

 

「脇に?」

 

「脇の下に太い血管があるから、そこを冷やすんだ」

 

「なるほど、確かにそれなら担架の方がいいな」

 

納得した織斑君が、担架の上で仰向けになっているクロニクルさんの脇にスポーツドリンクのボトルを挟む。その間に、陸も首筋をボトルで冷やし始めると、浅かったクロニクルさんの呼吸が、普通に戻った気がした。

 

「よし、一夏。いちにのさんで持ち上げるぞ」

 

「ああ、こっちはいつでもいいぞ」

 

「いっちにっのさん!」

 

掛け声とともに担架を持ちあげた二人は、そのまま保健の先生がいるテントまで走って行った。

 

「やっぱり織斑君と宮下君、かっこ良かったわねぇ!」

 

「だよねぇ!」

 

「私も織斑君達に救護されてみた~い!」

 

二人がいなくなった途端、周りからそんな声が聞こえてきた。……この人達、クロニクルさんが苦しんでた時は右往左往するだけだったのに……

 

「貴女達」

 

「「「え?」」」

 

 

 

「ちょっと、OHANASHIしましょう?」

 

 

 

自分で思っていたより、私は怒っていたらしい。気付けば、彼女達をアリーナのピットまで連行した上で、

 

 

「お前達か、くーちゃんを見殺しにしようとしたのは……」

 

 

「「「ひぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」」」

 

 

篠ノ之博士を呼んで、20分ほどOHANASHIしていた。

 




束、とうとう太陽光発電計画を世界にバラす。無人IS『アンサラー』は、『ISは兵器である』という世界の認識に対して、『ISの真髄は兵器利用だけに非ず』という、今の束なりの『回答』という意味合いで付けました。

クロエ、熱中症に罹る。誰だよ、くーちゃんにこんな競技やらせたの(束談)


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第102話 玉打ち落とし! え? 実況と解説?

100m走から次の競技、玉打ち落としになります。


100m走中に熱中症で倒れたクロニクルを医療テントに運び、しばらくクロニクルに付いているという一夏と別れた帰り道。放送席の前を通ると、そこに座っていた刀奈に引っ張り込まれた。

 

「次の『玉打ち落とし』、陸君参加しないでしょ? 私と解説代わって。ね?」

 

「そういうのって、放送部の人とかに頼めばいいのでは?」

 

もう『玉を入れるんじゃなくて、打ち落とすのかよ』というツッコミはしない。だが、わざわざ俺が解説席に座る意味は無いだろう。

 

「ん~、放送部で私が頼めそうな人って、みんな次の競技に参加するのよ。だから、お・ね・が・い♪」

 

「……仕方ない、分かりましたよ」

 

「良かったぁ! それじゃあ、よろしくね~」

 

俺が了承するや否や、刀奈は玉打ち落としのフィールドに向かって走って行った。

 

「さて、どうしたもんか……」

 

解説って言ったって、何をすればいいのやら……。

 

「……いい機会だ、"やつ"に頼むか」

 

そう呟いて、俺は放送席の椅子に座ると、拡張領域から色々出して準備を始めた。

 

ーーーーーーーーー

 

ミステリアス・レイディを展開した私を含め、ISに乗った選手達が、全自動標的投擲機が設置されたフィールドに集まった。

 

「あ~、やっぱり会長が相手っスかぁ」

 

「そりゃあね、専用機持ちがいるクラスなら、当然そうなるでしょ」

 

「そうっスよね」

 

フォルテちゃんのコールド・ブラッドも、当然参加よね。あとは、イギリスのサラ・ウェルキン。キャノンボール・ファストで入賞していた2学年3人が勢揃いしたわけか。

 

『あー、次の競技は、玉打ち落としです』

 

「あ、会長のカレシっスね」

 

「か、彼氏って……」

 

放送スピーカーから陸君の声が聞こえたと思ったら、フォルテちゃんから揶揄われた。あうぅ、顔が赤くなってそう……。そんな状態でチラッと放送席の方を見ると

 

『実況は1年4組の宮下陸と……』

 

 

『か、解説は、打鉄・陰流のコア人格、ソフィア―でお、お送りします……』

 

 

「「「「はいぃぃぃぃぃ!?」」」」

 

陸君が座っている横に、待機状態の陰流と接続された装置が鎮座していた。そしてその装置から、黒髪ロングの女の子の立体映像が映し出されて……ってそれよりISのコア人格!?

 

「マ、マスター! み、皆さんの視線が怖いですよぉ!」

 

「我慢だ我慢。それに『1度でいいから、物質世界に出てみたいです』って言ってたのはお前だろう。上手い解説を期待する」

 

「プレッシャァァ!」

 

なんか主従漫才してるけど、それどころじゃないわよ!? 『ISコアには人格のようなものがある』って仮説はあったけど、あっさり証明しちゃったじゃないの! 陸君何してくれちゃってんの!?

 

『玉打ち落としでは、中央の投擲機から打ち出される玉を、ISを使って撃つ競技になります』

 

篠ノ之博士の発表の時と同じぐらい宇宙猫になったみんなを放置して、陸君が競技の説明を始める。ちょっと、ちょっと待って……。

 

『た、玉は学年ごとで共有なので、他の選手と狙いが被らないようにするのか、敢えて標的を取り合うのか。戦略がじゅ、重要になると思います』

 

コア人格のソフィアーちゃんも、時々噛みながらも必死に解説をしてくれている。何だろう……もう、どうでもいいかしら。(悟り)

 

『それでは玉打ち落とし、す、スタート』

 

ソフィアーちゃんの開始の合図と同時に、投擲機から色とりどり、大小様々な玉が上空に打ち出される。

 

「いくっスよぉ!」

 

「いきます!」

 

コールド・ブラッドとラファールが、それぞれ射撃用武装を空に、舞い上がった玉に向ける。

 

「簪ちゃんや陸君に、いいとこ見せるわよ!」

 

私も蒼流旋を展開すると、搭載されたガトリングの引き金を引いた。

 

ーーーーーーーーー

 

各学年で3つのフィールドに分かれ、中央の装置から打ち出された玉を、各チームのISが打ち落としていく。

 

「なぁソフィアー、あれっていいのか?」

 

1年のフィールドを見ると、2組の(甲龍)が青龍刀を両手に持って、打ち出された玉に向かって吶喊していった。打ち落としじゃなかったのか?

声が放送に乗るのを気にせず、俺はソフィアー聞いてみた。

 

「近接武装の使用はき、禁止されてないです。ただ、遠距離武装よりは不利になりますが」

 

「だよなぁ」

 

それに加えて、1組の選手が

 

――ピシュゥゥン! ピシュゥゥン!

 

「ちょ、セシリア! あたしの獲物を取るなぁ!」

 

「おほほほ、解説のソフィアーさんも言ってらしたでしょう? 標的を取り合うのも戦略だと」

 

遠距離特化のオルコット(ブルー・ティアーズ)なわけで、完全にアドバンテージを取られている。3組と4組? 申し訳ないが、勝ち目は無さそう。

 

「さて、他の学年は……」

 

2年の方は、刀奈とサファイア先輩、それとウェルキン先輩だったか、キャノンボール・ファストの入賞組が接戦を繰り広げていた。

 

「2学年も、と、取り合いになってますね」

 

「だな。で、3年は……」

 

 

「ちまちま打ち落とすとかかったりぃ! ズバンッといくぜぇ!」

 

 

――ぶわぁぁぁぁぁ!

 

ちょぉ!? ケイシー先輩、上空に火炎放射かましてやがった! 標的を焼き払うつもりか!?

 

「こ、こういうのもアリなんですね……」

 

これには俺もそうだが、ソフィアーも絶句。 他の3年の先輩達、『マジでこれアリなん?』って顔でこっち見んでくれ。というか、そんな炎を上空にばら撒いたら……

 

「きゃああああ! 火の玉が降ってきたぁぁ!」

 

「や、やっべぇぇ!」

 

「ダリルの馬鹿ぁぁぁ!」

 

燃え尽きなかった標的の玉が、次々に3年のフィールドに降ってきた。これはひどい。

 

「る、ルールの改定が必要ですね……」

 

「いや、来年はケイシー先輩みたいな人間いないだろうから、改定するだけ無駄だろう」

 

とりあえず、投擲機には燃え移らないように注意だな。刀奈から聞いたが、あの装置高いって話だし。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

終了のブザーが鳴る。

 

「さて、これから各クラスの得点発表なんだが……ケイシー先輩が火の玉にした分は、得点になるのか」

 

「き、教師陣の協議の結果、燃え尽きなかった分についてはノーカウントだそうです」

 

『え~!?』というケイシー先輩の声がここからでも聞こえてくるが、そりゃそうだろ。というか、危険行為で失格にならなかっただけ有情だと思うぞ。

 

「け、結果が出ました」

 

ソフィアーがそう言うと、アリーナ上空に投影された大型ディスプレイに各クラスの得点が表示された。

 

「い、1年の得点は、1組、2組、3組、4組の順です」

 

「狙撃系はオルコットに分があったか」

 

ウチのクラスも、実習で射撃が上手いやつを選手にしたんだが、やっぱ代表候補生の相手は荷が重いわな。

 

「そして2年は……楯無さんのクラスは2位か」

 

「ウェルキン選手の精密狙撃で、ひょ、標的を取られる形になった影響です」

 

どうやらサファイア先輩も、そのウェルキン先輩に標的を掠め取られる場面が多々あったらしく、1位が2位以下に大差をつけていた。

 

「そして3年ですが、ケイシー選手はに、2位でした」

 

「マジか」

 

結構玉燃やしてなかったか?

 

「も、燃え残った玉が結構あったので、その分を差し引いた結果です」

 

あ、『それぐらいいいだろ~』ってブー垂れたケイシー先輩が、他の選手からタコ殴りにされてる。火の玉地獄に巻き込んでおいてそんな発言されたら、そりゃキレるわ。

 

「で、確か競技ごとにMVPを発表するんだったよな」

 

ちなみに先の100m走では、凰がMVPを取っていた。100m12秒とか、陸上選手並みのタイムじゃねぇかよ。

 

「玉打ち落としのMVPは、ぜ、全クラス最高得点を出したオルコット選手です」

 

ソフィアーの発表を聞いて、オルコットは『やりましたわぁ!』と叫びながらライフルを手に万歳していた。織斑が学園に入ってきたことで、BT武装を使う者として色々プレッシャーもあったろうし、目に見える実績が欲しかったんだろう。

さて、次の競技は……スプーン競争、普通だな。今の競技があれだった分、余計に。




オリ主、放送席を任されたので、相方のソフィアーを出してみる。学園祭の辺りから全然出番が無かったので、久々に出してみようと思った結果がこれだよ!

ダリルん、標的を焼き払おうとして失敗するの巻。簡易プチメテオとか怖すぎ。

次回、スプーン競争は省略するかさらっと流して、軍事障害物競走がメインになる予定です。


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第103話 軍事障害物競走、そして騎馬戦

すこーし巻きでお送りします。


玉打ち落としの後、スプーン競争は特に大展開もなく終了した。強いて言えば、熱中症から復活したクロニクルがすげぇバランス感覚を発揮して、途中に設置された大型送風機の妨害をものともせずにトップを独走したことか。

 

「すごいよくーちゃ~~~~ん!!」

 

これには教員用テントで織斑先生の隣に立ってた束もご満悦。オルコットのMVPもあって、現時点の得点は1年1組が他クラスより一歩リードしていた。

 

「さあ、続いての競技は軍事障害物競走です!」

 

「あの~、俺は解説続行ですか?」

 

参加予定の個人競技が全て終わった刀奈と交代するはずだったんだが、なぜかそのまま放送席に居座る羽目になっちまった。

 

「いいじゃない。それにしても、ISのコア人格かぁ」

 

「あ、あの……」

 

「こらこら楯無さん、あんまりジロジロ見んでください。これでもシャイなんですから」

 

「あらそうなの? ごめんなさいね」

 

そう言いながらも、刀奈はニコニコしながらソフィアーを観察し続けていた。だからやめたれって。

 

「それで、障害物競走はいいんですが、軍事?」

 

「それじゃあ、ルールをよく知らない陸君にも分かるように説明するわ。まずはスタート時に、分解されたアサルトライフルを組み立てます!」

 

「は?」

 

刀奈が扇子を向けた先には、確かに分解された小銃が置かれたテーブルが。

 

「次に組み上がったアサルトライフルを持って3mの梯子を登り、そこから5mの鉄骨を渡ります。あ、下にネットが張ってあるから落下しても安心よ♪」

 

「はぁ」

 

「鉄骨を渡り切ったらポールで地上に降りて、地面に張ってある網の下を匍匐で進みます。もちろん、ここまでライフルは持ったままよ」

 

確かに軍事だな。というかこれ、陸上自衛隊の武装走競技会と変わらんのでは?

 

「最後に実弾射撃! 弾丸は1発のみ! ちなみに外したら、スタート地点まで弾を取りに戻ってもらうわよ」

 

「それって、は、外した時点で最下位確定なのでは?」

 

そんなソフィアーのツッコミなんか聞く気がないと言わんばかりに、参加者側が大いに沸く。いや、いいんだけどよ……。

 

「それじゃあさっそく、よ~いスタート!」

 

スタートピストルの音とともに、参加選手が一斉に走り出す……ってちょっと待てぇ!

 

「なんで1組の参加選手がのほほんなんだよ!?」

 

あの束ですら解呪出来なかった、射撃下手の呪いがかかったのほほんが、なぜかこの障害物競走に参加していた。

 

「え~……私も聞いてなかったんだけど……」

 

刀奈も絶句していた。どうやらこいつも知らなかったようだ。

 

「あ、あの、今入ってきた情報なんですが……」

 

「知っているのか雷電(ソフィアー)!?」

 

「ひゃうっ! えっと、どうやら布仏さんは種目決めの時居眠りしていたらしく、気付いた時にはこの軍事障害物競走の枠しか残ってなかったそうです……」

 

「「のほほん(本音)らしい……」」

 

俺と刀奈がため息をつく中、いち早くライフルを組み立てたのほほんが、順調に梯子を登り鉄骨を渡っていく。

 

「さすが次期整備科のエースね」

 

「あいつ、そんな風に呼ばれてたんですか」

 

そうして他の選手がようやくライフルを組み立て終わった頃、のほほんにとっての鬼門が。

 

「さて、問題はここからね」

 

「ですね」

 

「の、布仏選手のこれまでのデータから、的に命中させられる確率は……え、ゼロ? 小数点以下切り捨てでなくて? ええ?」

 

わお、ISコアのソフィアーが混乱してら。1,2回しか撃ったことが無くて命中率ゼロなら分かるが、何百発も撃ってゼロは逆に奇跡だろう。

 

「む~! りったんもたっちゃんも酷いよ~!」

 

頬を膨らませたのほほんが、3つある的の内左端に狙いを定めた。きっと荷電粒子砲と同じように、フォークボールにでもなるんだろうなぁ……。

 

「いっけぇ!」

 

――パァァァンッ

 

案の定のほほんの撃ったライフル弾は、途中スライダーだと言わんばかりのカーブを描き、

 

 

隣の的に当たった。

 

 

「……え?」

 

撃った本人が一番に驚いている。

 

「……楯無さん、これってルール上どうなんです?」

 

「えっと……ルールでは『3つの的の内、どれかに命中させる』としか書いてないから……セーフ?」

 

「やったぁぁ!」

 

「「「「うっそぉ!?」」」」

 

ルンルンでゴールに向かって走っていくのほほんに対して、驚愕した顔の他選手。俺だってビックリだ。このリハクの目をもってしても(ry

 

 

 

その後、こののほほんの記録を抜く猛者が現れることは無く、軍事障害物競走はのほほんがMVPを獲得した。

 

「まさか、奴の記録を抜けんとは……」

 

ボーデヴィッヒが競技終了後に、ピットの陰で目のハイライトを消していたのは内緒だ。現役軍人なだけに、自信あったんだろうなぁ……。

 

ーーーーーーーーー

 

「続いては団体競技、騎馬戦になります」

 

そして俺も引き続き、放送席に居座っている。

 

『陸君の参加競技、午後に集中してるのよね? だから引き続き、お願いね♪』

 

刀奈に体よく仕事を押し付けられた格好だ。

 

「なぁ陸、普通騎馬戦って、女子がするもんじゃないよな?」

 

「おいおい一夏、今のご時世にそんな発言はご法度だぞ」

 

そんな俺の隣には、同じく騎馬戦に参加しない一夏が。さすがに野郎が女子に混じって騎馬戦っていうのは、な。体格から強制的に馬役になるんだろうが、色々問題になる。何が問題かって? 競技後、俺は簪と刀奈に、一夏はハーレムの面々に半殺しにされる。

 

「セシリア・オルコット、参りますわ!」

 

高らかに宣言して、三人組の騎馬にオルコットが乗り込む。

 

「お、織斑さん、オルコットさんの太ももに視線が固定されてます」

 

「なぁ!?」

 

ソフィアーの指摘を受けて、一夏がビクンと跳ね上がる。そしてその拍子に椅子から転げ落ちた。

 

「い、一夏さん……///」

 

「何やってるのよ一夏ぁぁ!」

 

「一夏の……エッチ」

 

「「まったく……」」

 

真っ赤になった顔を手で覆うオルコット。キレる凰。頬を膨らませるデュノア。そして呆れる篠ノ之とボーデヴィッヒ。嘘みたいだろ、これで一夏株、暴落してないんだぜ?

 

「全ての騎馬の準備が出来たようで……こ、ここでボーデヴィッヒ選手、織斑先生からナイフを取り上げられました」

 

「ファッ!?」

 

「ラウラ!? 騎馬戦でどうしてそんなもんが必要なんだよ!?」

 

ソフィアーの言う通り、織斑先生がボーデヴィッヒの体操服の中に手を突っ込み、大型のサバイバルナイフを没収していた。騎馬戦とは(哲学)

 

「あ、あやや、続いて凰選手から青龍刀、篠ノ之選手から日本刀、オルコット選手からスナイパーライフルをボッシュートです」

 

「「これ騎馬戦!」」

 

一夏とハモった。というかそんな長物、どうやって隠し持ってたんだよ……。

 

「デュノア選手は……あ、あれは円月輪(チャクラム)でしょうか?」

 

「シャル、お前まで……」

 

一夏的最後の砦だったデュノアすら、武器を隠し持ってたのか。簪、まさかお前も……

 

「更識選手は……あ、彼女も何か持ってたようです」

 

「簪、お前もかよ……ってぇ!?」

 

織斑先生が簪から没収していた黒い球体、あれはまずい!!

 

「織斑先生ぃぃぃぃ! それ爆弾!!」

 

思わず掴んだマイクに向かって叫ぶと、ギクッとしてこっちを振り向いた織斑先生が、全速力で走ってくる。

 

「宮下ぁ! 無力化しろぉ!」

 

「イエス、マム!」

 

織斑先生から爆弾を受け取り、ロックがかかってるのを確認して拡張領域にシュゥゥゥゥッ! こんなんで超エキサイティィィンしたくねぇよ!

 

「簪ぃ! どうしてお前が試作品の『サイクロプス・ボム』を持ってる! 言えぇ!」

 

「えっと、前に陰流から弐式に武装を移した時に入ってて、つい……」

 

「IS戦以外で持ち出すな馬鹿ぁ!」

 

俺の嫁が、一夏ハーレムの連中より危険分子だったんだが。

 

「ま、マスター、あの爆弾って、広範囲に強力なマイクロ波を発生させて、生物の肉体を内側から爆散させる代物では……?」

 

「「「「ファーッ!?」」」」

 

「宮下ぁ! お前なんてものを作ったんだぁ!!」

 

あれ? なんか怒りの矛先が簪じゃなくて俺に向かってるんだが?

 

『陸君、閉会式の後、OHANASHIがあります』

 

刀奈からも、ISのオープン・チャネルを通して呼び出しを食らった。あ、これ生徒指導室行きですね、分かります。だが解せぬ。

 

「あの~、そろそろ騎馬戦始めていいですか……?」

 

ドタバタ劇が繰り広げられている中、一夏だけが何とか進行しようと頑張っていた。

 

 

 

何とか始まった騎馬戦。下馬評では代表候補生が多い1年1組が圧倒的だったが、ここでも番狂わせが起こった。

 

「フォーメーション、ウィングダブル・スリー! 篠ノ之さんを半包囲!」

 

「くぅ……!」

 

「箒、待ってて!」

 

「今! トレイル・ワン!」

 

「し、しまった!」

 

簪の指示で、あっという間に篠ノ之とデュノアが左右から4組の横列に挟み撃ちされる。その後はあっさりハチマキを取られる2人。

 

 

「さぁさぁ! 私を止められるかしら!?」

 

「やられたっス~」

 

2年は刀奈の乗った騎馬がフィールドを走り回り、他クラスの騎馬を翻弄している。その隙に、友軍が各個撃破する形だ。今さっきサファイア先輩も討ち取られた。

 

 

3年は……

 

「ふはははははっ! オレ最強!」

 

ケイシー先輩が無双していた。その左手には、今まで討ち取ったハチマキの束が。俺の目が悪くなってなければ、一人で1クラス分取ってねぇか?

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「え、MVPは、3年2組のケイシー選手です」

 

「おっし!」

 

大方の予想通り、ケイシー先輩が騎馬戦のMVPを獲得した。終了のホイッスルが鳴る前に、3年の騎馬を狩り尽くすとかマ?




クロエの隠された才能。このまま出番無いのは可哀想なので、差し込んでみました。

軍事障害物競走、まさかののほほんがMVP。狙わないところに飛んでいく、良くも悪くものほほんクオリティ。

騎馬戦は江戸い。原作でもいっくん、セシリアの尻に目が釘付けでしたし。気持ちは分かる。(オイ

次回は昼食を挟んで、やっとオリ主の出番・二人三脚の予定です。


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第104話 織斑のランチ~天国と地獄~

評価バーが、赤い……?
Σ('゚д゚'il!)ファーッ!?
高評価ありがとうございます!

まさか、緑評価から始まった本作が、赤評価になる日が来ようとは……。
今後も、『俺ヒルデ』をよろしくお願いいたします。
m(_ _)m


午前のプログラムが終了して昼休みに。学園外縁部のリラクゼーション・エリア――要は広場だな――にいつもの面子が揃っている。

でかいレジャーシートとはいえ、10人(俺と箒達5人に、陸、更識さん、楯無さん、のほほんさん)も座ると、なかなかに手狭だ。マドカとクロエさん? あの二人なら

 

「はいマドっち、あ~ん」

 

「ばっ、自分で食べれる!」

 

「も~、そんなこと言わずに」

 

「だからもごごごごっ」

 

「さぁくーちゃん! 一緒にお昼にしよう!」

 

「た、束さま……」

 

マドカはクラスメイト達に餌付け(強制)されてるし、クロエさんはバスケットを持った束さんに連れていかれた。

 

そして俺達なんだが……

 

「~♪」

 

「ぐぎぎぎ……!」

 

「いいなぁセシリア……」

 

「くそっ、まさかやつの指揮する騎馬があれだけ動けるとは……!」

 

俺の左隣を上機嫌で陣取るセシリアを、他のメンバーが悔しそうな顔で見ている。なんでも、騎馬戦で一番ハチマキを取った奴が、俺の隣に座る権利を得られるんだとか。俺の知らない間に、そんな賭けしてたのかよ……。

そして向こうは向こうで

 

「~♪」

 

「簪ちゃん、その席――」

 

「お姉ちゃんでも譲れない」

 

「りったんの上、かんちゃんの指定席だもんね~」

 

のほほんさんの言う通り、胡坐をかいた陸の上に、更識さんがチョコンと座っていた。そして楯無さんが、陸の腕にしがみ付いている。ちょうどセシリアが俺にしてるみたいに。薄々感じてはいたけど、楯無さん、陸とくっ付いたのか……。

 

「一夏さん……」

 

「いや、さすがにセシリアに膝の上乗られたら、俺飯食えないんだが」

 

「う~、いけずですわぁ……」

 

そう言いながらも、俺の左隣は死守していた。

 

「そんじゃ、全員自分の弁当は用意してあるなー?」

 

「「「「はーい」」」」

 

陸に言われて、みんないそいそと弁当箱を取り出す。さて、俺も自分の弁当を出すか。

 

「本音、それって……」

 

「冷や汁なのだ~!」

 

キュウリや鰺の干物が入った濃いめの味噌汁を冷やし、麦飯にぶっかけて食べる、宮崎の郷土料理だ。だが、間違っても運動会の昼に食べるもんじゃない。特に秋も深まってくるこの時期には。

 

「相変わらず、米をすする食い方なんだな……」

 

「おいしいよ~? ずぞぞぞぞ~」

 

ああ、さっそく食べ始めた。特に音を立てて食べる習慣のない欧州勢は、ツチノコでも見るかのようにのほほんさんを凝視してるよ……。

 

「しっかし良かったのか? 俺の分も用意してもらって」

 

「問題ない。それに、お姉ちゃんと共同で作ったから、そこまで大変じゃなかったし」

 

「そうよ~。お姉さんと簪ちゃんの愛情詰まったお弁当、どうぞ召し上がれ♪」

 

「そのセリフをここで言いますか普通」

 

どうやら陸の弁当は、更識さんと楯無さんの手作りらしい。……正直、そういったシチュエーションにちょっと憧れる。

 

「何ボーっとしてるのよ、あたし達も食べるわよ」

 

「そうだぞ、私達だって色々用意しているのだからな」

 

そうして鈴を皮切りに、みんな次々に弁当箱やバスケットを俺の目の前に置いていく。

 

「いや、俺も自分の弁当持ってるし……」

 

「一夏ぁ、宮下君達がああしてるのに、僕達だけ何もしないってないよ」

 

シャルの視線の先には

 

「陸、次卵焼き食べたい」

 

「はいよ、ほら」

 

「ん……もぐもぐ……」

 

「りーくくん♪ お姉さんは唐揚げが食べたいな~」

 

「はいはい……」

 

「ん……んふふ~♪」

 

「はい陸、あ~ん」

 

「むぐ……んぐんぐ……」

 

「3人で食べさせ合い、だと……!?」

 

俺は戦慄していた。なんでみんなが見てる中、あんなことが出来るんだ!? 恥ずかしくないのかよ!?

 

「だから、はい、あ~ん」

 

シャル箸で取った唐揚げを、俺の方に……

 

「シャルロット、抜け駆けは無しだぞ!」

 

「ほら一夏、これ以上箒達が怒る前に」

 

ずいっと、さらに唐揚げを近づけてくる。ええいっ!

 

「あむっ……うん、うまい」

 

ちゃんと下味もついてるし、何より冷めてても衣にサクサク感があるのがいい。

 

「「「「あ~~~っ!」」」」

 

ちょっ、大声出すなよ。

 

「なら、次はあたしよ! ほら、今日は鶏肉とカシューナッツの甘辛炒め!」

 

「おおっ、うまそう」

 

鈴の奴、酢豚の出現率が高いだけで、他の料理も出来るんだよな。中華オンリーだけど。

 

「はい、あ~ん」

 

「お、お前もかよ」

 

「シャルロットだけなんて不公平でしょ。ほらほら」

 

「あ、ああ……あむっ」

 

「……どう?」

 

「うん、うまい」

 

「よし!」

 

うん。酢豚もそうだけど、『あ、これ鈴が作った料理だ』って分かる味なんだよな。なんというか……オフクロの味?

 

「一夏、変なこと考えてないでしょうね……?」

 

「い、いや、別に……」

 

勘のいい鈴の追及をなんとか躱し切った。危ない危ない……。

 

「わ、私からはこれだ」

 

箒の弁当箱から出てきたのは……肉じゃがか。味が染みててうまそうだ。

 

「あ、あ~ん……///」

 

視線を逸らしながらも箸をこっちに向ける箒に、少しドキッとしたのは内緒だ。

 

「やっぱり味がよく染みててうまい」

 

「そ、そうか!」

 

俺の感想を聞いた箒はこっちを向いて……どうした?

 

「ふふっ、一夏」

 

チョンチョンと口元を指さしたかと思えば

 

――チュッ

 

「ほ、箒ぃ!?」

 

「た、玉ねぎのかけらが付いてたぞ///」

 

「ちょっと箒! さすがにそれはライン越えよ!」

 

「そうだよ!」

 

「は、早い者勝ちだ!」

 

ああ、箒、鈴、シャルの三つ巴が始まっちまった……。

 

「ふふっ、私の番だな」

 

「次はラウラか」

 

さて、一体何が出てくるのか……。

 

「私が用意したのは、これだ!」

 

出てきたのは……薄い段ボール?

 

「我がドイツのコンバットレーションだ!」

 

「お、おう……」

 

さすが現役軍人、と言いたいが、なぜこのシチュでそれを持ってきたんだラウラ……。

 

「この1箱に、1日分の糧食が入っている。まさに『これさえあればOK』というやつだ」

 

ドヤ顔しながらラウラが箱を開ける。なんか色々出てきたな。缶詰とか、缶詰とか、チョコレートバーとか。

 

「ふむ、今回はアイントプフとライ麦パンか」

 

「アイントプフ?」

 

「ソーセージと一緒に、玉ねぎやニンジンといった野菜を入れて煮込んだものだ」

 

「へぇ」

 

俺の疑問に答えながら、ラウラはテキパキと簡易コンロを組み立てると、アイントプフの缶詰を直接温め始める。最初は固形状だったのが溶けてくると、スープっぽい感じになってきた。あっ、肉や野菜を細かくしたポトフだこれ。

 

「こんなものか。では、あ~ん」

 

「やっぱラウラもやるのか」

 

使い捨ての木製スプーンで缶詰の中身を掬って、俺の顔に近づけてくる。

 

「あむっ……もうちょっと香辛料が効いててほしいが、これはこれでアリだな」

 

「そうだろう?」

 

ぶっちゃけそこまでうまいわけじゃないが、長期保存できる缶詰ってことを考えると、家に置いてる非常用持ち出し袋に入れておきたいかも。

 

「さて、みんなのを食べさせてもらった――」

 

「さあ、真打登場ですわ!」

 

逃げられなかったか……。

 

「わたくしの料理は、これですわ!」

 

――ドンッ!

 

……この蓋の乗った丼は、何?

 

「さぁさぁ、開けてみてくださいませ♪」

 

「あ、ああ……」

 

セシリアに促されるまま、蓋を取った。

 

――むわぁぁぁ

 

「目、目が! 目がぁぁぁぁぁぁ!!」

 

蒸気が顔にかかった瞬間、某特務大佐もビックリなほど、俺は目を押さえながらシートの上を転げまわっていた。

 

「トムヤムクンですわ。疲れた体にはカプサイシンが効くと聞きましたので、ブート・ジョロキアをふんだんに使用しましたの」

 

だからか! だから蒸気が顔にかかった時に、目が焼けるような痛みががががががっ!!

 

「これは……」

 

「セシリア……」

 

「ラウラのレーションも大概だったけど……」

 

「これは無いよ……」

 

箒達のドン引きした声が聞こえてくるが、セシリアは全く気にしていないのか

 

「はい一夏さん、あ~ん」

 

待て待て待てっ! セシリアがスプーンの先をこっちに向けてるのが分かる! 接触したわけでもないのに、揮発したカプサイシンで肌がヒリヒリするぅぅ!

 

「もうっ 一夏さんってば……えいっ」

 

「がふっ!」

 

のたうち回ってる俺の顔が上を向いた瞬間、セシリアのトムヤムクン(劇薬指定)が乗ったスプーンが口の中に入り

 

 

 

 

 

そこから、俺の記憶は無くなっていた。




原作だろうと本作だろうと、いっくんがセシリアのトムヤムクンにやられるのは宿命なんでしょう。

次回こそ、二人三脚 or 借り物競争 or パン食い競争に入りたいですねぇ……。


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第105話 借り物競争、けれどこの想いは自前

すまん、血迷った……。


『午後の部最初の競技は借り物競争です!』

 

昼休みが終わり、俺が出る競技が始まった。それと同時に、やっと放送席から解放されたわけだ。今放送席には、刀奈とソフィアーがいる。

本当は刀奈一人だけのはずだったんだが、政府関係者連中から『表面上だけでいいから、ISのコア人格のサンプルデータ取らせてくれぇ!』と懇願され、そのまま解説役を続投となった。お偉いさんに付いてきた研究者が、今も忙しく観客席を走り回ってる。その様子を見て、束はケラケラ笑ってたな。

 

「うぅ……」

 

「大丈夫か?」

 

「何とか……」

 

オルコットの特級呪物にやられ、胃洗浄をする事態にまで発展した一夏。何とか借り物競争に参加するために医療テントからカムバックしたが、心なしか顔が青褪めてる気がする。当然下手人のオルコットは、織斑先生に拉致られて教員用テントでOSEKKYOUの真っ最中だ。

 

『ルールはよくある借り物競争ね。ただし、借りるものが書かれた紙は、封筒とかじゃなくてガチャに入ってまーす!』

 

……マジだ。コースの途中に、100円玉入れてハンドルを回す"あれ"が5台ほど設置されてる。ちなみに豆知識なんだが、あれって『ガチャガチャ』とか『ガシャポン』とか色々呼び名があるが、正式名称は『カプセルトイ』らしい。

 

『選手には、事前にコインが1枚配布されています。スタートしたら好きなガチャを回して、出てきたカプセルの中のお題を探してね。見つかったら私のところに来ること。ちゃんとお題と合ってるか確認するわ』

 

「ただの借り物競争なのに、すごい凝ってるね……」

 

「これって、お題の書かれた紙を選ばせないようにしてるのかしら?」

 

なるほど、そういう考えも出来るか。……刀奈の性格的に『そっちの方が面白いじゃない!』ってだけの理由もありそうだが。

 

『それではさっそく1年生から、よ~いドン!』

 

何の猶予もなくピストル音が鳴って、慌ててみんな走り始める。

 

「ぐぅ! 宮下君早いぃ!」

 

「織斑君、大丈夫?」

 

「へ、平気だから」

 

一夏も本調子ではないものの、何とか先頭の俺に追いすがっている。

そして問題のガチャゾーンへ。当然装置には何も表示されていない。中のカプセルが見えるだけだ。

 

「(あんまり悩んでも仕方ないか……)南無三!」

 

自分の直感を信じて、5台ある内の右端にコインを入れてハンドルを回す。

ガコッという音とともにカプセルが出てきたのを拾い、中の紙を取り出す。

 

『年上からのキス』

 

「誰だこのお題書いたやつぁぁぁぁ!!」

 

『ま、マスターがとんでもないお題を引いたみたいです』

 

『お題を他の人と交換しちゃだめよー』

 

くっそ! どうする? まさか2,3年のところに行って『俺にキスしてくれ』なんて言って回るわけにもいかんし、だからと言ってこのまま突っ立ってるわけにも……。

 

「うわぁぁぁぁぁ!!」

 

『織斑君も当たりを引いたみたいね』

 

『当たりというより、は、ハズレな気が……』

 

どうやら一夏もトンデモお題を引いたらしい。めっちゃ頭抱えてる。

2組、3組の選手も

 

「レリエルのナンバーシックスとか、誰が持ってるって言うのよ~!」

 

「誰か伊達眼鏡の人いない~!?」

 

『あの、れ、レリエルのナンバーシックスって……?』

 

『毎年百個しか生産されない、シリアルナンバー付きの高級香水よ』

 

ホント、誰が持ってんだよそんなもん。……いや、持ってそうなやつに心当たりがあるな。教えないけど。

 

「って、そんなことより、俺のお題をどうするかだな……」

 

どう考えても無理筋……いや、待てよ?

 

『陸君がこちらに向かってくるけど……何も持ってないわよね?』

 

『はい、お題のものはど、どうするんでしょう……?』

 

手ぶらでゴールの放送席へ走ったのもあって、俺が断然トップだ。

 

「えっと陸君、何も持ってないけど……」

 

困惑する刀奈に、心の中で謝りつつ

 

「んぅっ!?」

 

「ま、マスター!?」

 

刀奈を引き寄せて、そのまま唇を奪う。

 

「んん! ん……んぅ!」

 

「わ、わわわわ……!」

 

ソフィアーに見られながらも、たっぷり10秒は続けた上で刀奈から顔を離した。

 

「り、陸君、一体何を……!」

 

顔を真っ赤にした刀奈の質問には答えず、スッとお題の紙を差し出した。

 

「えっと、お題は『年上からのキス』……か、会長さんなんてお題混ぜてるんですかぁ!」

 

横から覗き込んだソフィアーも、これにはツッコまざるを得ない。というかこれ、女子生徒(しかも彼氏なし)が引いたら大変なことになってたぞ。

 

「それで、お題通りですよね?」

 

「あ、あぅぅ……!」

 

「楯無さん?」

 

「陸君の……バカァァァァ!!」

 

バチィィンというキレのいい音とともに、刀奈のビンタを食らった俺の視界は強制的に右方向へ移動していた。これ書いたのお前だろうに、解せぬ……。

 

 

 

『陸君の馬鹿! さっさとゴールしちゃいなさいよ!』と言われ、ゴール判定になってからしばらくして、一夏がゴール前に到着した。お? 束を引っ張ってきた?

 

「あの……楯無さん、大丈夫ですか?」

 

「だ、だだだだ、大丈夫よ!?」

 

「ぷぷぷっ」

 

束、刀奈があんな顔真っ赤にして首ブンブン振ってる姿が面白いのは分かるが、笑いが堪えられてないぞ。

 

「そ、それじゃ織斑君! お題の紙をちょうだい!」

 

「は、はい……」

 

「『セクシーなお姉さん』とか書いてあるのかな~♪」

 

「どれどれ~……へぇ?」

 

なんだ? お題を見た瞬間、刀奈がニヤッと笑い出したんだが。

 

「えっと、お題は「わー! 声に出さなくても――!」『初恋の相手』……え? ドクターが初恋の相手って、ええ?」

 

「うぅ……」

 

「へ?」

 

ソフィアーの大暴露で、各テントも観客席も、みんな静かになる。そして俯く一夏と、予想外のことに固まる束。

 

「いっくん、本気で言ってる?」

 

「嘘じゃ、ないです……」

 

「そ、そっか……あ、あはははは……」

 

あの大天災・篠ノ之束の視線が、あっちこっち彷徨う。なんだこの、初々しい一夏と束とかいう、SSRなシチュは。

 

「い、いっくん! ちょっとお話しよう!」

 

「えぇっ! ちょっとぉぉぉぉぉぉぉぉ……」

 

最終的に顔を真っ赤にした束は、いつかののほほんのように一夏を小脇に抱えると、全速力でどこかに走り去ってしまった。

 

「えっと……と、とりあえずお題とは合ってたようなので、1組は2着になります」

 

混乱状態から復帰したソフィアーの宣言で、止まっていた時間が動き出したかのように、競技が再開したのだった。

ちなみに、レリエルとかいう香水はオルコットが、伊達眼鏡は簪が持ってたそうだ。簪の眼鏡、あれって簡易型ディスプレイで度は入ってないんだよな。

 

トンデモお題を引いたのは俺達1年だけだったようで、後続の2,3学年は普通のお題だった。(とはいえ『イカの塩辛』とか、普通女子校にはねぇだろって代物も混じってたが)

それと、今回のお題を作ったのは刀奈の友人で新聞部の黛 薫子(まゆずみ かおるこ)とかいう先輩だったらしく、競技後、刀奈がブチギレてた。……それにしてもあの先輩、ミステリアス・レイディの攻撃を躱しながら、真っ赤になった刀奈の顔にカメラのシャッター切るとか、頭おかしいだろ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「そんなわけで、束さんもいっくんのお嫁さんになったから。よろよろ~♪」

 

「「「「「はいぃぃぃぃぃ!?」」」」」

 

借り物競争が終わって生徒用テントに戻ってきたら、一夏の嫁が増えてたでゴザル。

 

「織斑君、篠ノ之博士、おめでとう」

 

そんな中、簪だけがパチパチと手を叩いていた。

 

「いっくんにあれだけ熱い想いを語られたら、束さんもキュンとしちゃうよね~」

 

「一夏、お前姉さんに何を言ったのだぁぁぁ!」

 

「いや、その」

 

篠ノ之に肩を掴まれ、ガックンガックン揺らされる一夏を、他のハーレム面子は誰も助けない。山田先生の時はハーレムが増えるのも止む無しとか言ってたが、まさかの展開だからなぁ。てか一夏、『熱い想い』って何言ったんだよ。(野次馬根性)

と思ってたら

 

「陸」

 

「おう、なんんぅ!」

 

呼ばれて振り向いたら、簪に接吻されたんだが。

 

「お姉ちゃんと陸がキスしてて、羨ましかったから」

 

「だからって更識さん、こんな公衆の面前で……」

 

「私と陸がラブラブなのは周知の事実だから、問題ない」

 

「つ、強い……! これがクラリッサの言っていた"バカップル"というものなのか……!」

 

おうクラリッサとやら、何ボーデヴィッヒに嘘知識植え付けてんだよ。

 

「なるほどなるほど~、参考になるよ。いっくん」

 

「はい、なんですんんっ!?」

 

「「「「「あ~~~~っ!!」」」」」

 

簪の真似をするように、束が一夏と唇を重ねる。それと同時に、ハーレム5人の絶叫がテント中に響いた。それにしても束、顔真っ赤にして目を思い切り瞑った状態でキスするとか、初々しいにも程があるぞ。

 

 

 

 

「あの束が、私の義妹になる……? あ、あははははは……」

 

同時に、織斑先生の壊れた笑い声が聞こえた気がしたが、たぶん気のせいだろう。……気のせいだと思いたい。




一夏、人生初めての胃洗浄。ちなみにカプサイシンは水に溶けにくいので、現実ではあまり効果が無いかもしれません。

たっちゃん、公開キス。簪も夏休み明けに4組の教室で公開キスしてるし、これで姉妹お揃いだね。(ゲス笑顔)

一夏ハーレムにまさかのニューカマー。完全に血迷いました。そしてまーやんとどっちがいいかな~と考えたところ、束の方がちーちゃんの胃腸によりダメージが入りそうなので採用しました。(暗黒笑顔)

あれ? そうなると、クロエは一夏の娘に……?


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第105.5話 一夏、初恋を成就させるの巻

前話で束が走り去ってから戻ってくるまでのお話。あれだけじゃ唐突過ぎたので。


気付けばいっくんを小脇に抱えて、学園の校門近くまで走ってきちゃったよ……。そ、それもこれも、いっくんがいけないんだよ! あ、あんなこと言うんだから……!

小脇に抱えていたいっくんを降ろすと、私はガシッといっくんの肩を掴んだ。

 

「い、いっくん!」

 

「は、はい!?」

 

「もう一度聞くよ? 束さんが『初恋の相手』ってホント!?」

 

「……はい」

 

「おおぅ……」

 

オーバースペック束さんも、ちょっとドキドキしてるよ。

 

「ち、ちなみにいつから……?」

 

「えっと……箒と剣道を習い始めて……初めて束さんが、道場に来た時です……」

 

そんなこともあったかも~? 束さん、あんまり道場には近寄らなかったから。

 

「つまり……一目惚れです」

 

「マジかぁ……」

 

一目惚れかぁ……嬉しいけど、箒ちゃんに恨まれちゃいそう。

 

「でも、あくまで初恋ですよ」

 

「へ? じゃあ今は束さんのこと、好きじゃないの?」

 

「そんなことは無いです」

 

「ん~? じゃあなんで?」

 

織斑計画(プロジェクト・モザイカ)

 

「っ!?」

 

「やっぱり、束さんも知ってたんですね?」

 

「……うん」

 

うわぁ、まさかいっくんにカマかけられるとは思わなかったよ。

 

「そっか、いっくんも知っちゃったんだね。ちーちゃんにソックリなのを見かけたから、もしかしてと思ってたけど」

 

「マドカのことですか。千冬姉のクローンだって」

 

「そうだね。正確にはいっくん達とは別に、ちーちゃんの遺伝子をさらに強化する計画で失敗作として生まれた子だよ」

 

「失敗……」

 

「うん。だから計画が凍結された時、あの子だけが廃棄されることになったって書いてあったよ。すっごい厳重に隠してあった報告書にね」

 

まさか今のご時世に、紙媒体でしか記録を残してないとは思っても見なかったよ。束さんですら、別件で偶々知ったぐらいだからね。そしてそれこそ、ちーちゃんに興味を持ったきっかけだったんだよね。

 

「とにかく、俺は作られた存在です。だから……」

 

「なら、箒ちゃん達は良いって言うの?」

 

「箒達は、俺がツクリモノだと知っても構わないと言ってくれました。けど、束さんは……」

 

……うん、すごいイラッと来た。

 

「そりゃっ!」

 

――ミシミシッ

 

掴んでいたいっくんの肩に、思いっきり力を入れる。

 

「いだだだだっ! 束さん痛い痛い痛いっ!!」

 

「いっくん、束さんのこと舐めすぎ」

 

とりあえずイラッとした分は発散したから、痛みから解放してあげる。

 

「いたたたた……ど、どういうこと――」

 

「確かに織斑姉弟は作られた存在、それは事実だよ。だから?」

 

「だから、って……」

 

「束さんにとってはいっくんはいっくんだし、ちーちゃんはちーちゃんだ。その辺の凡愚共と同じ考えだと思われるのは心外だよ」

 

少なくとも人間の凡愚共よりは、人外のいっくんの方が好ましい。天才は人間かどうかなんて、そんな矮小なことに囚われないのだよ。

 

「本気、ですか?」

 

「もちのろん! 本気も本気だよ」

 

「……なら、俺の本心を言わせてください」

 

――ガシッ

 

「およ?」

 

さっきとは逆に、束さんがいっくんに肩を掴まれちゃったよ。

 

「束さん、好きですっ!!」

 

「おおぅ!?」

 

あ、ヤバい。いっくんの真っ直ぐな眼差しと今のセリフで、束さんキュンキュン来ちゃったよ! あれ? 顔も赤くなってる? 細胞レベルでオーバースペックな束さんが?

 

「束さん……!」

 

「い、いっくん!?」

 

嘘っ! いっくんから抱擁!?

 

「束さん……」

 

「いっくん……」

 

なんか、気持ちがふわふわするぅ……。ちーちゃんと色々楽しくやってた時でも、こんなに幸せな感じは無かったのにぃ……。

それから少しして、いっくんが体を離した。あぅ、まだ余韻が……。

 

「ごめんなさい、でも、俺嬉しくて……」

 

「もう……束さんの返事も聞かずに、悪い子だなぁ」

 

ま、そうは言っても、答えは決まってるんだけどね。

 

「箒ちゃん共々、末永くよろしくね、旦那様♪」

 

でもまさか、いっくん相手に言うことになるとは思わなかったよ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

俺ってやつはぁぁぁ! いくら束さんが俺の出自を受け入れてくれたからって、告白して返事も聞かずに突然抱き締めるとかダメだろう! いつから俺は、そんなチャラ男になったんだよぉ!

 

「いっく~ん? 大丈夫?」

 

「だ、大丈夫です……」

 

束さんに心配されてしまった。突然頭抱えてのけ反ったら、心配もされるよな……。

 

「確かいっくんって、重婚を許可されてるんだよね?」

 

「ええ、いつの間にかそうなってました……」

 

当時はトンデモナイ話だと思ったけど、今となっては箒達と一緒にいるための最適解だと思えるようになっていた。……俺も色々常識から外れてきてるな。

 

「そうなると束さんも、一夏ハーレムだっけ? の一員になるわけだね」

 

「もうその呼び名、定着してるのか……」

 

多分だけど、最初に言い出したのは陸だろう。許さんぞ陸ぅ!

 

「もちろん、束さんも箒ちゃん達と同じように、平等に愛してくれるんだよね?」

 

「当たり前ですよ」

 

そこで偏りが出来た日には、俺が誰かから背中を刺されかねないし、何より俺が自分を許せない。

 

「ならよし! でもそっか~」

 

「?」

 

「束さんも一夏ハーレムに入ったら、箒ちゃんと一緒に姉妹丼か~」

 

「ぶふっ!」

 

なんてこと言うんだよこの人はぁ!

 

「あははは~! いっくん赤くなってる~」

 

「束さん!」

 

だぁもう! この人は~!

 

「さて、いっくんの熱い想いも受け取ったし、そろそろ戻ろうか」

 

「そうですね……ん?」

 

「どしたの?」

 

「なんか、向こうから話し声が……」

 

ちょうど校門の方から、聞き覚えのある声が……ってぇ!?

 

「ごめんさない、急に呼び出しておいて」

 

「いいですって。俺も虚さんに会いたいと思ってたんで」

 

思わず近くのベンチに隠れちゃったけど……弾の奴、何でここに? そしてもう一人は、のほほんさんのお姉さんで生徒会役員の……確か虚先輩だったっけ? いやいや! それより二人が抱き合ってるんだが!?

 

「虚さん……」

 

「弾君……」

 

おいおいおいおい……! これが逢引ってやつなのか!?

 

「ほう、これはなかなか」

 

「束さん……」

 

ベンチに隠れてた俺の頭の上に、束さんの頭がドッキング。そして背中に、柔らかいものが二つ……。

 

――ピピピピッ

 

っ!……ビックリした。どうやら虚先輩がセットしていたタイマーが鳴ったらしい。

 

「時間切れね……」

 

「確か今、運動会なんでしたっけ?」

 

「ええ、次の競技の準備があるから、もう戻らないと……」

 

そういう虚先輩だけど、未練いっぱいって顔だな。

 

「それじゃあ、今度はクリスマスかしらね」

 

「ええ。クリスマスまで、俺も首を長くして待ってますから」

 

そう言うと、二人は別れ際にキスをして――ってキスぅ!?

 

「弾の奴、虚先輩とそこまで進んでたのかよ……」

 

「いっくんも人のこと言えないと思うよ」

 

「はい……」

 

そうですね。今しがた束さんに告白した俺が言える立場じゃないですね。

 

「はぁ、次はクリスマスかぁ……長いなぁ……え?」

 

「「あ」」

 

やっべ。あまりの出来事に隠れるの忘れて、虚先輩と目が合っちまった。

 

「お、織斑君!? それに篠ノ之博士も! ……もしかして、見たんですか?」

 

「え~っと……その……はい」

 

「~~っ!///」

 

――ビュオォォォォォォッ!

 

速っ! 顔真っ赤にした虚先輩が、すげぇ速さで走り去っていったぞ!?

 

「ダメだよいっくん、そういう時は『何がですか?』って言っておかないと」

 

「あっ……」

 

そうだよな、何馬鹿正直に答えてんだ俺は。

 

「でも面白かったからヨシ!」

 

「ヨシじゃないです!」

 

なんですか、その指さし確認してるようなポーズは! というか、そのうさ耳貫通してる作業用ヘルメットはどこから出てきたんです!?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そうしてアリーナに戻ってきたわけだが……

 

「なるほどなるほど~、参考になるよ。いっくん」

 

「はい、なんですんんっ!?」

 

「「「「「あ~~~~っ!!」」」」」

 

束さんにキスされたり、それを見た箒達が絶叫したり。

 

「ね~ね~おりむ~、お姉ちゃん見なかった~?」

 

「えぇ? み、見てないなぁ……」

 

「ほんと~?」

 

「お、おう」

 

虚先輩のことを聞かれて、しどろもどろになったり。

 

「なぁ一夏。お前と束がくっ付くってことは、束は織斑先生の義妹になるってことだよな」

 

「あ」

 

「ちーちゃんが義姉……」

 

「……荒れるな、織斑先生が」

 

「言わないでくれよ……」

 

この件を千冬姉にどう言おうか悩んだりしていた。……束さんに告ったことは後悔してないけど。




展開が飛んでる上に、束がかなり原作から離れていってますが、二次創作だからヨシ!

虚先輩、原作10巻の時点で弾の彼女になってますから、この(9巻)時点でこうなっててもおかしくないですよね? 優等生が学校行事を抜け出して逢引、なんか良くないです?(ナニガ


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第106話 二人三脚とパン食い競争(一部鉄味)

あやや~……また橙評価に戻っちゃいましたねぇ。
まぁ、嘆いてても仕方ないですね。切り替えていこう。


『次の競技は、二人三脚になります』

 

『……』

 

『あのー、会長さん? マスターとのキスの余韻に浸るのは、あ、後にしてもらえますか?』

 

『ひゃうぁ!?(ドンガラガッシャーンッ!)』

 

「お姉ちゃん……」

 

「ソフィアーも、空気読んでくれよ……」

 

マイクのスイッチがONのまま身内ネタを披露されて、俺と簪は周りから好奇の視線で針の筵なんだが……。

 

「というか、だ」

 

その視線を逸らしたいがために、俺は別方向に話を向ける。

 

「まさかお前が二人三脚に参加するとは思わなかったぞ、一夏」

 

「そうか?」

 

「織斑君一人に対して、1組のお嫁さんが4人。絶対揉める」

 

「お、おう……」

 

簪の指摘に、別の意味で苦笑いする一夏。

 

「で、タッグを組むことになったのが」

 

「うむ、私だ! 一夏との体格差や身体能力を考慮すれば、私以外に適任はいまい!(そして姉さんにばかり美味しいところを持ってかれるわけにはいかん!)」

 

ふんす!、と擬音語が聞こえてきそうなほど胸を張る篠ノ之。こいつ、一夏が関わると時々精神年齢が下がるよな。ボーデヴィッヒと同じで。

 

「陸」

 

「ん、そろそろか」

 

周りに合わせて、俺達もお互いの足を布帯で結ぶ。

 

「う~ん、やっぱりこうなるよなぁ」

 

「そうだね」

 

簪も別段小さいわけじゃないんだが、男の俺と比べるとどうしても身長差がある。一般的に、二人三脚で身長差があると歩幅が合わず走りづらくなる。こうなりゃ、俺が簪に合わせるか……。

 

「陸は全力で走って」

 

「は?」

 

だが、簪が言ったのは俺の考えと真逆だった。

 

「私に策がある」

 

そう言って、簪が俺に耳打ちする。……それならいけそうだが、可能なのか? まぁいいか、やるだけやってみよう。

 

『On your mark…Set……Go!』

 

「行くぞ一夏!」

 

「おう!」

 

「「織斑君達に勝つぞぉ!」」

 

俺達を含め、全員がスタートダッシュを決める。が、すぐに差が付き始める。

 

「織斑君早いよぉ!」

 

「篠ノ之さんと体格差あるのにどうしてぇ!?」

 

「ふんっ! 私だって鍛えているからな、一夏が私に合わせてもこれだけの速さになるのだ!」

 

「というか、陸達早過ぎね!?」

 

一夏がツッコむように、俺と簪は2位の一夏達を大きく引き離していた。どうしてそんなに早く走れるのかと言えば……

 

『ねぇソフィアーちゃん、簪ちゃんの足、もしかして浮いてない?』

 

『う、浮いてますね』

 

「何っ!?」

 

「気付いたか、簪の作戦に」

 

そう、二人で走ってるように見えて、実は簪は俺に抱えられてる状態。足も地面に付いてないから、実質俺が一人で走ってるようなもんだ。そりゃ早いに決まってる。

 

「卑怯だぞ宮下!」

 

「ルールには『二人とも地面に足がついてないといけない』なんて書いてないからな」

 

『そ、そうなんですか?』

 

『……ええ、書いてないわね』

 

「マジかよ!」

 

いや、これにしたって、簪がきっちり足の力を抜いてるから出来ることだからな。そうじゃなきゃ、文字通り簪に足を引っ張られかねねぇ。

 

「一気に終わらせるぞ、簪」

 

「うん」

 

「うそぉ!? まだスピード上がるの!?」

 

 

 

そこからさらにスピードを上げた俺と簪は完全独走状態でゴール。見事MVPを獲得したのだった。今回は簪の作戦勝ちだったな。

 

 

その後は400m走があったが、スプーン競争以上に見どころが無かったから割愛で。

 

ーーーーーーーーー

 

二人三脚が終わり、陸が参加する個人競技は全部終わった。『あとはフリーだー』とか言ってたら

 

「りったーん! ちょっと手伝ってよー!」

 

「なんでじゃぁぁぁぁ!!」

 

篠ノ之博士に拉致られて、どこかに行ってしまった。今度は何をしでかすんだろう……?

 

「簪ちゃん、陸君見なかった?」

 

「陸なら、篠ノ之博士に拉致られてどこか行った」

 

「あらら~、400m走が終わって次のパン食い競争、私も出るからまた代打をお願いしたかったんだけどな~……」

 

困った困ったと言いながら、お姉ちゃんは私の方を見る。何?

 

「というわけで簪ちゃん、代わりに実況お願いね♪」

 

「え?」

 

私が返事をする前に、お姉ちゃんは肩をポンポン叩いていずこかに消えていた。……私が、実況?

 

 

 

「次の競技は、パン食い競争です。……どうして私が……」

 

「え~っと……簪さん、ご、ご愁傷さまです」

 

結局私は放送席に座ることになり、ソフィアーに慰められていた。コア人格に慰められるって……。

 

「パン食い競争の参加者は……織斑君が連投なんだ」

 

「そ、そうみたいです。他にも1年では、1組から織斑選手の他にボーデヴィッヒ選手、2組から凰選手が参加します」

 

パン食い競争も100m走や二人三脚と同じく、1クラスに二人走者がいる。1組は織斑君とボーデヴィッヒさんらしい。凰さんは100m走でMVPを獲ってたけど、パン食い競争ではどうなんだろう。

 

「2年はお姉ちゃんと、玉打ち落としでMVPを獲ったウェルキン先輩が出ると」

 

「はい。さ、3年のケイシー選手は参加しないようです。先ほどの400m走で出場枠を使い切ったそうで」

 

参加可能人数が少ないなどの理由が無い限り、個人種目に参加できるのは一人2種目ってルールになっている。ケイシー先輩は玉打ち落としにも参加してたから、それと400m走で終了したみたい。

 

「しゅ、出場選手の準備が整ったようです」

 

『On your mark…Set……Go!』

 

ピストル音が鳴り、第1走者が一斉に走り出す。1年はボーデヴィッヒさんと凰さん、2年はウェルキン先輩だ。

 

「今回、走者にはパンを手で取らないよう、腕をう、後ろに縛った状態で走ってます」

 

「すごい走りづらそう」

 

腕が振れないから、いつもの調子で走ったら転んじゃいそう。

 

「あ、凰さんが転んだ。しかも手が付けないから、なかなか起き上がれない」

 

「こうならないよう、次の走者の方々には気を付けてほしいです」

 

「あたしをダシにして実況すんなぁぁぁ!」

 

ここからでも聞こえるぐらいの大声が。凰さん肺活量すごい。(そうじゃない)

 

「おーっと、3年のトップがぱ、パンゾーンに辿り着きました」

 

投影ディスプレイには、レーンに吊るされた袋に入ったパンを相手に、悪戦苦闘している3年の先輩が映っていた。

 

「後ろ手に縛られた状態だと、余計に難しそう」

 

「そう言ってる間にこ、後続の選手がパンゾーンにやってきます」

 

みんな、なかなかパンが取れずに藻掻いている。

あ、2位で入ってきた人が上手くパンをレーンから取った。その人はそのまま、パンをくわえてゴール。やっぱり、どれだけ早くパンを取れるかが勝負みたい。

 

「に、2年のフィールドでは、ウェルキン選手があっさりパンを取ってゴールしています」

 

「さすがですわサラ先輩!」

 

生徒用テントから、オルコットさんが手を振ってた。ウェルキン先輩も、恥ずかしそうにしながら手を振り返してる。同じイギリス人だからなのか、仲いいなぁ。

 

「1年の方は……まだ誰もゴールできてない」

 

「完全にだ、団子状態です」

 

「ぐぬぬ……! まさかこれほど難しいとは……!」

 

ボーデヴィッヒさんが何度もパンにトライするけど、その度にパンがクルクルと回るから、余計取りづらくなってる。

 

「おっさきぃ!」

 

「なぁっ!?」

 

「ふぁ、凰選手が一発でパンを取って、一気にゴールしました!」

 

「転んで最後尾だったのに……」

 

むしろ、転んで立ち上がるまですごい時間がかかったってことなのかな? 100m走の記録を思えば、もっと早くパンゾーンに着いてただろうし。

その後もパンを取ってゴールする選手が出てきて、最後にボーデヴィッヒさんがゴールした。

 

「くそぉ……軍事障害物競走といい、これといい、ここまで見せ場が……」

 

ゴールにいる運営スタッフ(虚さん)に腕を縛っていた布を解いてもらったボーデヴィッヒさんが、トボトボとテントに戻って行く姿が印象的だった。

 

 

 

「第2走者は、織斑選手がどのような走りを見せてくれるかき、期待です」

 

「ソフィアーは、織斑君が気になるの?」

 

「いえ、織斑選手の番になったらそういうように、し、指示されて……」

 

「陸……」

 

コア人格に何を仕込んでるの……

 

『On your mark…Set……Go!』

 

第2走者も第1と同じように、一斉に……って、織斑君早っ!

 

「あやや……! お、織斑選手、あっという間にパンゾーンに、ってええ!?」

 

「嘘ぉ!?」

 

思わず私もソフィアーも叫んでいた。

織斑君、減速することなくレーンの手前でジャンプして、首の動きだけでパンを掻っ攫って着地。そのままの勢いでゴールイン。そ、そんなのアリ……?

 

「シャ、シャルロットさんが織斑君の流し目にやられたぁ! 誰か担架ぁ!」

 

生徒用テントの方が騒がしくなり、そこから担架で医療用テントに運ばれる、鼻血を流したデュノアさん。織斑君がパンを取った時の流し目にやられたってことだけど……どういうこと?

ちなみに、ゴール後の織斑君に話を聞いたら

 

「いや、いけそうだな~って思って、やってみたら出来ちゃった。それに俺、流し目なんてしてないんだけどなぁ……」

 

と言われた。ええ~……。

 

 

 

負傷(?)者が出たものの、パン食い競争のMVPは織斑君に決まった。途中で転んでなければ、凰さんがタイム的にMVPをダブル受賞だったんだけどね。残念。

パン食い競争は終わったけど、私には別に仕事が残っていた。

 

「お姉さん、全然目立ってなかったんだけど……」

 

「よしよし」

 

「よしよし~」

 

織斑君に話題を全部持ってかれて落ち込むお姉ちゃんを、本音と一緒に慰めるという仕事が。




簪、二人三脚で策士になる。実際二人三脚って、ちゃんとしたルールってあるんですかね?

シャルロット、一夏の流し目にやられる。さすが織斑計画、身体能力は桁違い! それにしても、どうしてチョロインのセシリアでなく、アザトイさんが倒れたのか。書いた本人にも分からない。(オイ

次回、やっとマドカの出番です。お楽しみに。


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第107話 コスプレリレー~デザートフリーパスは誰の手に~

やっとマドカの出番です。そして運動会編も終わりが……

そして評価が赤に戻ってヒャッホイなんですが、この赤成り立てが一番心臓に悪いですね。万年黄色でヘラヘラしていた頃が逆に懐かしい……


「皆さんお待たせしました! 最後の競技、コスプレリレーでーす!」

 

「結局、最後もこの席に座ることになるんですね」

 

束の拉致から解放されたと思ったら、またここに座らされてるんだが。なんか俺、今日1日の半分近く放送席にいるんじゃ?

 

「なによぉ、お姉さんと一緒は嫌なのぉ?」

 

「放送部の人間はどこ行ったんだと言ってるんです」

 

「『コア人格と操縦者が一緒にいるときのデータが取りたい』っていう、各国政府の要望よ」

 

pezzo di merda!(くそったれ!)

 

「ま、マスター、どうしてイタリア語?」

 

まぁいい、とにかくさっさと競技を終わらせてしまおう。

 

「それで、コスプレリレーって言うのは仮装して走るんですか?」

 

「大体あってるわ。この競技、正式名称は『コスプレ生着替え走』よ!」

 

「は? 生着替え?」

 

「あちらをご覧あれぇ!」

 

刀奈が扇子でさした先には……手を突っ込む穴が開いた箱と、輪っか状のカーテンが。

 

「選手はまず、あの抽選箱から服装を引きます。その後着替えゾーン(カーテンの内側)で着衣して、途中設置してある障害物を突破、ゴールを目指してもらいます」

 

「で、ゴールしたら次の走者に交代と」

 

「ええ。そして第3走者がゴールした時点で順位がつくわ」

 

「足の速さもそうですけど、く、くじ運が思い切り影響しますね」

 

「走りづらい服装引いたら悲惨ねー」

 

ハイヒール履く服とか引いたら、まともに走れんだろうな。

 

「くじには、ど、どんな服装が入ってるんです?」

 

「色々よ。一応服はフリーサイズを用意したけど、ピチピチだったりブカブカだったりしても、そのまま走ってもらうからね」

 

「えげつねぇ……」

 

 

 

「それじゃあ第1走者がスタートラインに立ったようだし、よ~い……スタート!」

 

刀奈の掛け声で、1年の第1走者が一斉に飛び出す。ちなみにウチのクラスの織斑は第3走者、つまりアンカーだ。

 

「先頭は……3組か」

 

3組は知り合いが誰もいないから、コメントに困るんだよなぁ。

 

「さあ、引いた服装は……ミニスカチャイナドレスだぁ!」

 

「こ、こんなの着るのぉ!?」

 

手渡された服を泣く泣く受け取り、ぐるっとカーテンで囲っただけの着替えゾーンへ。その間に、他のクラスも次々にくじを引いていく。

 

「2組は巫女服、4組はナース服、1組は……ビ、ビキニアーマー?」

 

「なんつーもん混ぜてんですかぁ!」

 

「わ、私知らないわよ!?……はっ!」

 

ぐるんっと刀奈の首が生徒用テントの方を向く。すると、そこでカメラを構えていた黛先輩(借り物競争でやりやがった人)がこちらに気付き

 

Σd=(・ω-)ノ

 

「薫子ォォォォ! いつの間にくじに混ぜたァァァァァァ!!」

 

またあの先輩かよ! しかも今回は勝手に混ぜたんかい! しかも、ちゃんと服も用意されてるし……。

 

「う~、すごい恥ずかしいよぉ……」

 

すると、先に着替えていた3組の子がカーテンから出て……うわっ、学園祭の凰並みに攻めたチャイナドレスじゃねぇかよ。あれで走れんのかよ。

 

「3組に続いて、2組と4組もき、着替え終わったようです」

 

2組の巫女服(草履)も4組のナース服(パンプス)も、めっちゃ走りづらそうだな。

 

「うわ~ん! 何この恰好!」

 

「うわっ、エロ!」

 

「楯無さん、直球過ぎ」

 

だが刀奈の言うことも分かる。ベースはただのビキニ水着なんだろうが、そこに手甲と脚甲をつけるだけで、どうしてあんなにセンシティブになるんだろうか。

 

「で、ですが、1組の選手、すごい速いです」

 

「見た目さえ気にしなければ、草履やパンプスよりは走りやすいでしょうから」

 

「というか、さっさと走り切って着替えたいって気持ちで頭いっぱいなんだと思うんですが」

 

1組選手の表情、めっちゃ必死だし。

 

「さあそんなことを言ってる間に、先頭の3組の子が障害物エリアに入ってきたわ!」

 

「障害物……平均台?」

 

「YES! 平均台の上を渡ってもらうわ。あ、ちゃんと台の下にはマットが敷いてあるから転倒しても安心よ」

 

「誰に説明してるんですか」

 

投影ディスプレイにも映ってるだろうに。

 

「ひ~ん! 見えちゃうよ~!」

 

「ス、スリットから下着が見えそうですよ!?」

 

「これは目に毒だな……」

 

あまり見ないように視線を逸らしていると、生徒用テントの方で

 

「一夏、見るなぁぁ!」

 

「いだだだっ! ラウラぁ! 食い込んでる、食い込んでるってぇぇぇぇぇ!」

 

一夏がボーデヴィッヒに手で目隠し……いや、目潰しされていた。南無南無……。

 

「3組が平均台を何とか渡り切る。そして後続もドンドンやってきたわね」

 

「草履はともかく、パンプスで平均台は鬼畜なんだよなぁ……」

 

案の定、ナース服の4組は2組はおろか、1組のビキニアーマーにも抜かれてしまった。

 

「第1走者が全員走り切ったところで、じゅ、順位は3組、2組、1組、4組となっています」

 

「けれど、第2走者のくじ運で、またガラリと変わってくるわよ」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

第2走者も走り切り、コスプレリレーもアンカー戦に突入していた。

 

「3組、花魁を引いてしまったのが痛かったですね」

 

「そうよねぇ。あの高下駄履いて平均台とかムリゲーもいいところだわ」

 

「に、2組も十二単を引いてしまったせいで、着替えるのに時間がかかってましたし」

 

そのおかげと言ってはあれだが、第1走者では最下位だった4組は2位に浮上、トップの1組を追う形になっていた。

 

「さぁ、私の実力を見せてやろう!」

 

そうしてさっきも言った通りアンカー戦、織斑が自信満々で引いたのは

 

「なんだこれは?」

 

首を傾げながらも、とりあえず受け取った服に着替えた織斑は……

 

「よっしゃーいったろー!」

 

白に近い銀髪のウィッグで片目を隠し、白と紺の制服に青緑のリボンを胸元につけた姿でカーテンから出てきた。それはいいんだが……その太ももにつけた、魚雷発射管っぽい飾りは何だよ?

 

「4組選手が着替え終わって、1組選手との距離を、じ、じりじりと縮めていきます」

 

「先頭を走る1組は、デュノアちゃんね」

 

そう刀奈が実況する通り、1組のアンカーはデュノアだ。しかもその服装は……

 

「この服装、すごい走りづらいよぉ!」

 

どっからどう見ても、白猫の着ぐるみだった。頭の被り物は無いから、平均台は花魁やナースよりマシだろうが、走るのはしんどそうだな。というかデュノア、お前一夏の流し目で鼻血ぶしゃーしてたのに走れるのかよ?

 

「1組平均台を渡り切る! 4組ももうちょっとで……渡り切ったぁ!」

 

デュノアと織斑との差は10mも無い。あとは織斑がその差を詰められるか、その前にデュノアがゴールするか。

 

「ぬおぉぉぉぉ!」

 

「もうちょっと、もうちょっとでゴール……!」

 

二人ともラストスパートをかけ、そして――

 

――ドテェェンッ!

 

「へぶっ!」

 

「おぉぉぉっと! デュノアちゃん、最後の最後で転んでしまったぁ!」

 

やはり着ぐるみで全力疾走は無理があったのか、デュノアが足を引っかけてすっ転び、織斑が1着でゴールした。

するとウチのクラスメイト達が集まってきて

 

「マドっちよくやったぁ!」

 

「ばんざーい!」

 

「な、ちょっと待て! おい!」

 

「「「「わーしょい! わーしょい!」」」」

 

織斑を胴上げし始めたんだが……。あ、2組と3組もゴールして、1組がビリになっちまったか。

 

「うぅぅ……ごめんみんなぁ……」

 

デュノアが半泣きで1組のテントに戻って行く。勝負とはいえ、ちょっと可哀想に思えて――

 

「シャル、転んだけど大丈夫か?」

 

「う、うん、大丈夫……///」

 

一夏に心配されて頭や顔を撫ぜられ、顔を赤くするデュノア。さすがアザトイさん。そして、目が笑ってないクラスメイトに詰め寄られるところまでがセットなのか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして閉会式。各学年の優勝クラスが発表され、1年は僅差で私達4組が優勝。キャノンボール・ファストに続き、2枚目のデザートフリーパスを手に入れた。……1組の方から、本音の恨めしそうな視線が飛んできてるけど……。

 

「それでは、これでIS学園、秋の運動会を……何ですか?」

 

お姉ちゃんが閉会しようとしたら、山田先生が壇上に上がってきた。なんだろう?

 

「えっとですね、関係者からの要望で、ISによるエキシビションマッチを急遽行うことになりました。更識簪さん、前に出てきてください」

 

「ええ?」

 

なぜか私が呼ばれた。とりあえず言われた通り前に出て、壇上に上がったけど……。

 

「山田先生、簪ちゃんがエキシビションマッチに参加するみたいですけど、対戦相手は……」

 

私ですか? と言いたそうなお姉ちゃんに対して、山田先生は首を横に振って

 

「簪さんの対戦相手は、あちらです」

 

そう言って山田先生が、上空を指さす。

 

「あれは……?」

 

山田先生が指をさした先。正確には、カタパルトからアリーナに入場してきたのは……

 

「織斑先生……!?」

 

訓練用の打鉄とは違うISに乗った、初代ブリュンヒルデだった――




マドカ、シャルロットに競り勝つ。ちなみにマドカが着ていたのは、某お船ゲームの夕雲型16番艦です。(中の人繋がり)

たっちゃん、閉会できず。オリ主が束に拉致られた伏線をここで回収です。以前(ツインドライヴの辺り?)『ちーちゃんを第3世代機に乗せて、簪と互角』みたいなことを書いたので、ならやってみようと。

次回、新旧国家代表が激突します。


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第108話 エキシビションマッチ前編~ブリュンヒルデ~

久々にまともなバトルシーンです。
簪(打鉄弐式)の強さがインフレしてたのが原因ですね、そうですね。
そしてまた分割するハメに……。


初代ブリュンヒルデが、ISを纏って現れた。

私は当然として、壇上から見える限り、みんな驚いた表情をしていた。観客席の政府関係者はあらかじめ聞いていたのか、驚きよりも好奇の目の方が大きい感じだ。

 

「千冬様のIS姿、学園に入って初めて見たかも!」

 

「ですが、織斑先生が乗っていたISは、確かあんな形状じゃなかったはずでは……?」

 

「その通りだ」

 

生徒達が疑問を口にしている中、織斑先生がアリーナ中央、壇の前に着地した。

 

「このISの名は『桜花(おうか)』。束に作らせた機体だ」

 

「「「「つ、作らせた!?」」」」

 

「束さん頑張りました~! ブイブイ~!」

 

「なぜか手伝わされたんだが……」

 

篠ノ之博士はいいとして、どうして陸が出てくるの……? もしかして、パン食い競争の時に拉致られたのって、これのため!?

 

「ちょっと長い説明だけど、よく聞くように。 桜花はちーちゃんが元々乗ってたIS『暮桜』のデータを元に、箒ちゃんにあげた紅椿の稼働データを流用・発展させた展開装甲を組み込んだ、機動特化型第4世代機だよ。装備類も暮桜を踏襲してるけど、第1世代機がベースだからって侮ってると痛い目見るぜい♪」

 

「「「「第4世代機!?」」」」

 

篠ノ之博士の説明を聞いて、みんな絶叫していた。だ、第4世代機って……まさか私、その第4世代機に乗った織斑先生と戦うの!?

 

「更識妹と全力で戦うのに、打鉄では力不足だったのでな」

 

「いやいやいや! だからって束さんに新しいISを用意してもらうとか、何やってんだよ千冬ね「織斑先生だ(ブオンッ)」あぶなっ!」

 

「お、織斑先生! さすがにISに乗った状態で殴ったら、織斑君の頭が陥没しちゃいます!」

 

「おっと、いかんいかん。ついいつもの癖で……」

 

つい、で実弟を殺しかける姉とは一体。

 

「さあ更識妹、お前もISを展開しろ」

 

「え、ええ~……」

 

ちらっと山田先生の方を見たら、

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

陸の方を見たら、

 

「……(首を横に振る、諦めろのサイン)」

 

「……はぁ、分かりました」

 

仕方ない……そう観念して、打鉄弐式の待機状態を解除した。

 

「それではみなさん、観客席に移動しますよー」

 

「「「「はーい」」」」

 

山田先生の引率で、私以外のみんながアリーナから観客席へ移動していく。そうしてさほどの時間もかからないうちに

 

『それでは急遽開催となりました『織斑千冬 VS 更識簪、新旧国家代表エキシビションマッチ』を開催いたします! 実況は私、生徒会長の更識楯無と』

 

『うぇ~い! 大天才・篠ノ之束の解説でお送りするよ~!』

 

「お姉ちゃん……」

 

「束ぇ……」

 

変にテンションの高い放送に、身内である私と織斑先生は頭を抱えそうになっていた。

 

「ま、まぁいい。あいつらがどれだけ騒ごうと、こちらはこちらで戦うだけだ」

 

「そう、ですね……」

 

アリーナの中央、私が夢現を展開すると、織斑先生が機体左側にマウントされた刀を抜いた。篠ノ之さんの紅椿と同じように、拡張領域を使わない仕様らしい。

 

「それで、どうしてエキシビションマッチなんてことに?」

 

「山田先生が言った通り、関係者からの要望があり、私がそれを承諾した。それだけだ」

 

と言いつつ、織斑先生は人差し指で耳を指さすジェスチャーをした。するとすぐに、織斑先生とのプライベート・チャネルが繋がった。

 

『その関係者というのはIS委員会なんだが、どうもキナ臭い』

 

『どういうことですか?』

 

『私の勘だが……おそらく背後に、女権団がいると思われる』

 

『女権団が?』

 

表情に出さないようにしていたけど、正直首をひねりたい気分だ。陸や織斑君といった『ISに乗れる男性』を目の敵にしている女権団が、どうして?

と考えていたら、突然織斑先生が斬りかかってきた!

 

――ガキィィンッ!

 

「ぐ、ぅ……!」

 

な、なんとか夢現で弾いたけど、どうして……

 

「何をボーッとしている! 試合は始まっているぞ!」

 

どうしても何もない。思考に没頭していて、試合開始のブザーを聞き逃していたらしい。私の馬鹿!

 

『どうした、話はここまでにしておくか?』

 

『いいえ、続けてください。一応私も並列思考(マルチタスク)は習得していますから』

 

『……またオルコットが泣くな』

 

『ノーコメントで』

 

GNファングで使うと思って習得したけど、結局使わず仕舞いだった技能、使う機会があって良かった。

 

『それで続きだが、どうも連中の魂胆としては『宮下という男が作成に関わった打鉄弐式を打ち負かしたい』ということらしい』

 

『……それ、織斑先生の桜花に陸が関わった時点で破綻してません?』

 

『だな。連中も、束の行動までは予測出来なかったのだろう』

 

とはいっても、陸が大部分を手掛けた打鉄弐式と、篠ノ之博士が主導した桜花では、後者が勝つことを望まれているんだろう。けど

 

「そんな思惑なんて、私には関係ありません」

 

「当たり前だ。さっきも言ったように、こちらはこちらで戦うだけだ」

 

――ガキィィンッ! キィンッ!

 

『弐式と桜花の激しい応酬が続いていきます! ところで博士、織斑先生の刀ですが、あれも紅椿のような?」

 

『ううん、ちーちゃんの『梅花(ばいか)』には、空裂や雨月みたいなエネルギー刃やレーザーを出す機能は無いよ。単純に頑丈さと鋭さだけを突き詰めた刀なんだよ』

 

『頑丈さ、ですか?』

 

『うん。だって現に、かんちゃんの夢現だっけ? 高速振動の刃と鍔迫り合いしても、全然へーきでしょ?』

 

確かに博士達が実況している通り、夢現の攻撃を受けても、織斑先生の刀は刃こぼれ一つしていない。

 

「それなら!」

 

刀の斬撃を捌いた瞬間、瞬時加速で後方に移動。そのまま距離を取って春雷で……!

 

「甘いっ!」

 

――ドゴォォォンッ!

 

「えっ!?」

 

荷電粒子砲の砲弾を、切った?

 

「せい!」

 

――ガキィィンッ!

 

「ぐっ! 行って、ファング!」

 

10基で桜花の周囲を包囲して一斉攻撃。これなら……!

 

「無駄だ!」

 

――ドドドドドドォォォンッ!

 

「う、そ……」

 

『ぜ、全部落とされた……?』

 

『さすがちーちゃん! 一斉攻撃を回避してビットを1ヵ所に固めて、一気に破壊するなんてやるぅ!』

 

どうする……!? 山嵐を……ううん、たぶんファングと同じように躱されるのがオチ! どうすれば……!

 

「どうした更識妹、手が尽きたか? では今度はこちらから征くぞ!」

 

――キンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッキンッ!

 

「ぐぅぅっぅぅぅぅ!!」

 

『え、あの、何が……』

 

『ちーちゃんの連撃を、かんちゃんが防御したり回避したりしてる。束さんでも目で追うのがやっとなんだけど……普通の人間には何も見えないよねこれ?』

 

斬撃が……早くて、重い! 回避し損ねた斬撃が掠っただけでも、SEが持ってかれる! GNドライブを起動してるのに……これが、ブリュンヒルデ……!

 

『あらら~、打鉄弐式のSEも30%を切ったし、そろそろ終わりかな~』

 

『そんな……』

 

実況席に言われるまでもなく、私自身分かっていることだ。それくらい、今の私と織斑先生との差は大きい。ISの世代差を考えたとしても。

 

「ふむ、やはりいつも使っている打鉄とは違って、私の動きに過不足なく反応してくれるな。束、いい仕事だ」

 

『わーい、ちーちゃんに褒められたー』

 

「まったく、褒めるとすぐ浮かれおって……さて、更識妹。私としてはもっと楽しみたいところだが、そろそろ幕を閉じるとしようか」

 

そう言って、刀を上段に構える。おそらく次の一刀、上段からの唐竹割りで仕留めるつもりなんだろう。

 

(負け、かなぁ……)

 

並列思考であれこれ対応を考えるけど、瞬時加速以上の速さで来るであろう斬撃を躱せず負ける未来しか見えない。

 

(ごめんね、陸。やっぱりブリュンヒルデの壁は厚かったよ……)

 

 

 

――また、逃げるのか?

 

 

「……っ!」

 

頭を過ったそれは、お姉ちゃんとの決闘で言われた言葉。

 

 

――まだやられたわけでもなければ、手足だって動くんだろ? なら、最後まで足掻いて見せろよ

 

 

(足掻く……そうだ、私はまだ、負けてない……まだ、足掻けるんだ……!)

 

『やっと気を引き締め直したか。世話の焼ける嬢ちゃんだな』

 

うん、私もそう思う。だから、力を貸して……打鉄弐式(ランディさん)

 

『いいだろう。とはいえ、あの姐さんの攻撃を防ぐのは、ベルゼルガーでも無理だ。ありゃ一種のバケモンだよ』

 

え、なら……

 

『その代わり、あの『切り札』を使えるようにしてやるよ。要は、GN粒子とやらが周囲に拡散するのを防げばいいんだろ?』

 

それって!……お願いして、いいですか?

 

『おうよ! だから嬢ちゃん……勝てよ』

 

 

 

「征くぞ、更識妹!」

 

律儀なのか一声挙げてから、織斑先生が瞬時に間合いに入り、予想通り瞬時加速でも回避できなさそうな速さで刀を振り下ろしてくる。

そしてその斬撃が私の非装甲箇所を切り裂こうとする瞬間、私は――『切り札』を切った。

 

TRANS-AM(トランザム)!」




ちーちゃんのIS、第4世代だったでゴザル。「第3世代じゃダメなんですか?(某仕分け人)」互角じゃダメなんですよ。たっちゃんとの決闘みたいに、今より強いやつと戦わないと。

お久しぶりの、弐式のコア人格さん。最後の出番がキャノンボール・ファストの時なんで、30話以上前ですね。たぶんみんな忘れてる。

次回、ついに簪と打鉄弐式の全力が。

おまけでオリISの情報も載せておきますね。
================================================
機体名:桜花(おうか)
世代:第4世代
分類:機動特化型
武装:近接用ブレード『梅花(ばいか)』
   展開装甲
単一仕様能力:零落白夜

千冬が束に作成を依頼した(オリ主も巻き込まれた)IS。
拡張領域には何も入っておらず、展開装甲以外の武装は機体左側にマウントされた梅花のみ。
並みのISでは千冬の反応速度に付いて来れず、却って足枷になってしまっていた。そのため本機は特殊な能力を一切持たせず、『織斑千冬の動きに追従できること』だけを求めて設計されている。
機動特化型であるため、防御力は射撃特化型であるブルー・ティアーズよりややマシな程度。
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第109話 エキシビションマッチ後編~TRANS-AM(トランザム)

エキシビションマッチ後半戦です。勝負の行方や如何に――


束が作った(宮下も巻き込まれたらしい)IS『桜花』。その全力を持って、更識妹を一刀のもとに落とした……はずだった。

私の斬撃が更識妹の非装甲箇所を切り裂く、まさにその瞬間

 

TRANS-AM(トランザム)!」

 

「何っ!?」

 

打鉄弐式が、視界から消えた。

 

――ガキィィンッ!

 

「なぁ!?」

 

「止められた!?」

 

いつの間に後ろを!? だが……!

 

『か、簪ちゃんの動きもあれだけど、織斑先生の背後に現れたのって……!』

 

『あれこそ梅花と対になる装備『アイギスの盾』。ちーちゃんの危機察知能力、要は『嫌な予感』に反応して展開装甲が全自動で防御を行う、シールドビットさ♪ というか、かんちゃん一瞬消えなかった……? 束さんでも捕捉出来なかったんだけど……』

 

束の言う通り、私ですら奴が消えたと感じた。動きを追い切れなかったのだ。

 

――ガキィィンッ! ガキィィンッ!

 

「ぐぅぅ!」

 

「はぁぁぁぁ!」

 

なん、だ、この動きは……っ!? 正面からの攻撃を防いだと思った瞬間、気付けば左後方から攻撃がやってきて、それを防げば次は右前方からと、まるで瞬間移動しながら攻撃しているようだ!

 

『ちーちゃんが防戦一方になるとか、かんちゃん本当に人間!?』

 

『簪ちゃんをバケモノ呼ばわりするとか、篠ノ之博士と言えど……』

 

『そういうのはいいから! もしかんちゃんが普通だとしたら、あの機体が異常過ぎるんだよ! てか、あの弐式から大量に放出されてる光は何!? 誰かりったんを解説席に連れてきてー!』

 

私も聞きたいところだが、今は目の前に集中しなければ……! 今度はこっちがジリジリとSEを削られている……!

 

――ガキィィンッ! ガキィィンッ! ガキィィンッ!

 

「はぁ、はぁ、はぁ……!」

 

「はぁ、どうした、息が、はぁ、上がっているぞ」

 

「それは、はぁ、先生も、はぁ、ですよ……!」

 

「どうやらお互い、次で決めねば保たなそうだな」

 

「そう、ですね」

 

更識妹は当然として、私もそろそろ限界だ。SE残量はまだこちらが上だが、私の体力が先に底をつきそうだ。

 

「事ここに至っては、私も切り札を出すしかあるまい」

 

「切り札?」

 

「そうだ。これだけは使うまいと思っていたが……」

 

今まで右手で持っていた梅花を両手で保持し、中断の構えで静止する。

 

「これで、終いにするぞ」

 

「……分かりました」

 

更識妹の方も、薙刀を再度構え直す。

そして、お互い睨み合っていたのが数秒だったか、はたまたほんの一瞬だったか。

 

「っ!」

 

弐式が薙刀を振り上げようと動いた瞬間、私も、いや、()()先に動いていた。

 

『あれは――!』

 

束は気付いたようだな。もしかしたら、箒や一夏も気付いたかもしれん。

 

零拍子。相手が一拍子目で動くより前に仕掛ける、篠ノ之流古武術裏奥義。そして――

 

『れ、零落白夜!?』

 

梅花から延びるレーザー刃。他の拡張領域を全て潰してでも使えるように要求した、私のかつての単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)だ。

今の打鉄弐式のSE残量であれば、どのような形でも当たれば終わる。

 

「これで、終わりだぁ!」

 

中段構えからの、予備動作が少ない突き。先ほどの唐竹割りより、さらに回避不能な攻撃が打鉄弐式の胴体部、非装甲箇所に当たり

 

 

打鉄弐式が光に包まれ、弾けて消えた

 

 

「……は?」

 

そんな、自分でも間抜けだと思う声が出たと思った瞬間

 

 

首筋に、薙刀の刃が叩きこまれた。

 

「がぁぁっ!」

 

なんとか地表ギリギリで体勢を立て直したが、SEが切れたのか具現維持限界(リミット・ダウン)が起こり、桜花は白式に形状の似た腕輪(待機状態)に変化した。

 

「参ったな……いくらブランクがあるとはいえ、束に最新式を作らせておいてこのザマとは。なぁ、更識妹」

 

「はぁ……はぁ……」

 

同じように地表に降りてきた更識妹に話を振ってみたが、やはり奴も限界ギリギリだったようだな。ISを待機状態にして、自力で立っているのもやっとと見える。

さて、あとは宮下にあのISのことを聞くだけか。

 

『え、エキシビションマッチ、勝者は――!』

 

更識姉の宣言が成される――

 

 

「かはっ」

 

 

前に、更識妹が口から鮮血を飛び散らせ、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

「え?」

 

この光景に、私はすぐに動くことが出来なかった。

 

『え……?』

 

『か、かんちゃん!?』

 

「き、きゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

観客席のあちこちから悲鳴が上がる。

 

――ブォゥッ!

 

その時、ISが1機、ピットから飛び込んできた。

 

「打鉄? いや、その形状は……宮下?」

 

打鉄弐式からミサイルポッドを取り除いたかのような外観。間違いなく、宮下の打鉄・陰流だった。

陰流は私の声には全く反応せず、倒れた更識妹を抱きかかえると、オープン・チャネルで

 

『束、医療用ナノマシンの手持ちはあるか?』

 

『え? う、うん。多少なら……』

 

『それ持って、校舎内の医療室に来てくれ』

 

『わ、分かった……』

 

『楯無さんも、いいですね?』

 

『分かったわ! それで、簪ちゃんは……』

 

『死なせませんよ……死なせるかってんだ……!』

 

そして束や更識姉との通信が終わると、私の方をちらっと見た。『アンタは何をすればいいか分かってるよな?』という、声無き言葉が聞こえてきた気がした。

 

「……分かっている。私はここで事態の収拾にあたる。だから……すまない、更識妹は頼んだ」

 

私が医療室に付いていっても、出来ることは何も無い。そしてこの混乱した状況、生徒達を鎮めるのが私の、教師としての仕事だ。

私の回答に、宮下は頷くと全速力で、それでいて抱えている更識妹に負担を掛けないように飛び去った。

 

……ここからは、私の仕事だな。

桜花から、アリーナの放送機器にチャネルを合わせた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めた時、私はベッドの上でお姉ちゃんに抱き締められていた。

 

「簪ちゃん! 良かった、良かったぁぁぁぁ!」

 

「お、お姉ちゃん、ぐるじい……」

 

「あっ! ご、ごめんね!」

 

突然のハグから解放されて辺りを見渡すと、見覚えがあった。

 

「ここ、学園の医療室?」

 

「そうよ。簪ちゃん、エキシビションマッチの後倒れて、あれからもう夜よ」

 

「そういえば……」

 

確かに記憶がある。最後の賭けで織斑先生に一撃を入れた後、地上に降りて、それから……

 

「いや~、まさか喀血するなんて思わなかったよ~」

 

そう言って部屋に入ってきたのは、篠ノ之博士と……

 

「陸?」

 

「簪……」

 

博士の後ろから出てきた陸が、ゆっくり近づいてきた――私を抱き締めた。

 

「ごめん、簪……ごめん……」

 

「り、く?」

 

なんで、陸が謝るの? しかも陸、泣いてる……?

 

「まさかあんな風になるなんて思ってなかった、なんて言い訳にもならねぇ。きちんとロックをかけておくべきだったんだ。それを俺は……!」

 

「陸……」

 

ああ、そうか。どこかで既視感があると思ったら……

 

「今度は私が、陸を泣かせちゃったね……」

 

臨海学校の時、私は傷つく陸を見て泣いていた。陸は悪くない。自分が出来ることをしただけって分かっていても。

だから――

 

「ごめんね、陸。心配させるマネしちゃって……」

 

陸が謝る必要はないんだよ。そう伝えたくて、私は陸の頭を撫ぜるように抱き締め返した。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「さて、これからのことについて話しましょうか」

 

お姉ちゃんの方に、私達3人の視線が向く。

 

「その前に。陸君、いいかしら?」

 

「……ええ、手早くお願いします」

 

「?」

 

何が? 私がそう言う前に

 

――バキィッ!

 

「つぅ!」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

お姉ちゃんに殴られた陸が、転倒しそうになるのを耐えた。ど、どうして……!?

 

「はぁ……ごめんなさい」

 

「分かってます。理性では納得しても、感情は別ですから。ただ、ビンタでなくグーパンが来たのは想定外でしたがね。いってぇ……」

 

「かんちゃんに解説すると、『陸君に悪気が無いのは分かってる。けど簪ちゃんが怪我する要因を作ったのは事実だから一発殴らせなさい!』ってことらしいよ」

 

「お姉ちゃん……」

 

私が許してる(そもそも責める気が無い)のに、どうしてそうなるのか……。

 

「と、とにかく、改めて今後のことについて話すわよ!」

 

「差し当たっては、打鉄弐式についてですか」

 

「ええ。元々モンド・グロッソのレギュレーションの関係でもあったけど、学園内の模擬戦であっても、GNドライブ使用禁止」

 

「まぁ、そうなるよなぁ……」

 

「ISの絶対防御を抜いて、操縦者の肺胞をズタズタにする高機動とか、欠陥もいいところだよね~。逆にそれだけのことをしたから、ちーちゃんに勝ったわけだけど」

 

陸が仕方なさそうな顔をして、篠ノ之博士が呆れた顔で笑う。う~ん、ルールがそう変わる以上、トランザムだけ禁止じゃダメみたい。

 

「ちなみに、『あんな汚れた雄猿には分不相応だ。そのGNドライブとやらを寄こせ!』なんて抜かしてきた馬鹿もいたよね?」

 

「女権団ですね。ホント、ぶっ●してやろうかと思いましたよ……!」

 

「お姉ちゃん、私がいない間に抜け駆けは無し……」

 

「あの~、二人とも?」

 

なんか陸が止めたそうだけど、もし女権団が陸に危害を加えたら、私とお姉ちゃん、女権団の本部を消すよ?

 

「まぁそれは、ちーちゃんと日本の政府連中が阻止したけど」

 

あ、そうだ。私が倒れた後は……

 

「大丈夫よ。織斑先生が上手く事態を収拾したから。だから簪ちゃんも、明日から普通に授業に出られるわ」

 

「そ、そうなの?」

 

さっき、肺胞ズタズタッて……

 

「ふっふ~♪ 束さん謹製の医療用ナノマシンを注射したからね~。学園のものより治りの早さは段違いだよ♪」

 

「そうなんですか……ありがとうございます」

 

「お礼はいいよ。ぶっちゃけりったんに脅されて出しただけだから……」

 

「お、脅された?」

 

陸の方を向くと、陸は心外だという顔で

 

「誰も脅してねぇだろ。『桜花の手伝い分、これで請求してもいいよな?』って言っただけで」

 

「いやいや~、喀血したかんちゃん抱えた状態で通信が来た時、あまりの声の冷たさに、束さん正直ブルっちまったぜい……」

 

「あれは怖かったわ……」

 

「うぉぉぉい……」

 

あ、お姉ちゃんに殴られても耐えた陸がorzった。

陸には悪いけど、それも陸が私のことを心配してくれたからって思うと、すごく嬉しい気分になっていた。




簪、ちーちゃんに勝つもぶっ倒れる。トランザム時にデッカイGがかかり、簪が喀血しました。(某上級大尉のように)
耐G性能をISのPICに頼り過ぎた結果、としておいてください。

GNドライブ、正式に禁止される。そりゃそうだ。
一応、模擬戦含めた試合で使えないだけなので、開発等の話では登場すると思います。
やったね簪、またみんなが模擬戦受けてくれるよ! でも、あれ? 今までGNコンデンサー装備でも、簪が負けた記憶が……。

次回辺りで話を締めて、運動会編を終わらせる予定。


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第110話 優勝祝いと今後の行く末

今回で運動会編、終了でございます。


――運動会翌日、学生寮内の食堂

 

「それでは、4組の優勝を祝して、かんぱーいっ!!」

 

「「「「かんぱーいっ!」」」」

 

 

4組の面々がデザートを手に、ジュースの入ったコップを掲げていた。

 

「さっそく優勝賞品を使うことになるとは……」

 

「出場種目を決めてる時から、こうなるとは思ってたけど」

 

なんでも、1組もクラス代表が一夏に決まった時に、就任パーティーを開いていたとか。お祭り好きだねぇ。

 

「どうマドっち?」

 

「うむっ、うまい!」

 

「シュークリームを頬張るマドっち、可愛い~!」

 

「誰かカメラカメラ~!」

 

……そして4組のマスコットは、フリーパスを大いに活用していた。あいつが座るテーブルの上にはシュークリーム(イチゴ入り)以外にも、ショートケーキ、いちご大福、例の揚げパンetc...全部食う気か?

 

「陸はそれだけ?」

 

「いや、普通はこんなもんだからな?」

 

特に甘党でもない俺からしたら、ショートケーキ1ピースで十分だ。簪が持ってる皿の上のケーキ3ピースとか食ったら、間違いなく胸やけ起こすだろうな……。

 

ちなみにこのイベント、別に食堂を貸し切ったりはしていない。なので当然

 

「(*꒪ᗩ꒪)じ~……」

 

「ほ、本音……」

 

のほほんを筆頭に、他クラスからの視線も飛んでくる。

 

「じ~……」

 

「な、なんだお前は!?」

 

「じ~……」

 

「いや、そんな恨みがましい目で見るな……」

 

こらこらのほほん、うまそうに食ってたからって、織斑に絡むな。

 

――パコンッ

 

「あいたっ」

 

「何やってんのよ、みっともない」

 

凰に叩かれた頭を押さえるのほほん。まるで親子みたいな会話だな。

 

「アンタ達も、あんまり見せびらかさない方がいいわよ」

 

「そうだろうな」

 

「だね」

 

凰の忠告に俺と簪も同意したからか、4組の面々が若干トーンダウンした。そしてなぜか、1組の連中が気まずそうな顔をしている。ああ、以前食堂で騒いだ時(一夏の代表就任パーティ)のことを思い出したのか。

 

「凰さんも、イチゴフェアに?」

 

「まぁね。こういうイベントごとは好きな方だし」

 

中華でイチゴって想像つかなかったが……なるほど、杏仁豆腐の上にイチゴか。

 

「それじゃ、あたしも席に戻るから」

 

そう言って凰が歩く先には、一夏達が大量のスイーツ皿と一緒に座っていた。

 

 

「みんな、こんなに食えるのか……?」

 

「女子にとって『甘いものは別腹』だ」

 

「そ、そうか……」

 

「ふむ、セシリアはベルリーナー・プファンクーヘンを頼んだのか」

 

「わたくし、ドイツのお菓子でこれが一番好きですの」

 

「セシリア、それが好きなの? 結構カロリー高いはずだけど……」

 

「き、きちんとカロリー計算をしてから食べているので大丈夫ですわ!」

 

デュノアが指摘して、オルコットが半泣きで反論するぐらいカロリー高いのか。それの他にも食ってる織斑は……(目を逸らす)

 

 

「ところで宮下君、今日も織斑先生に呼び出されてたけど、今度は何したの?」

 

「今日"も"ってなんだ」

 

「陸、いつも呼び出されてる」

 

クラスメイトに反論したら、簪に背後から刺されたでゴザル。つらたん……。

 

「まあ、何があったって言われれば……」

 

 

(回想開始)

 

毎度おなじみ生徒指導室に呼び出されたわけだが、おそらく今回初めて、この部屋の『正しい使い方』をするんじゃなかろうか。

 

「で? 『サイクロプス・ボム』だったか? どうしてあんな危険物を作った?」

 

腕を組んでこちらを睨みつけてくる織斑先生。対して目を逸らす俺。

 

「いや~……女性権利団体でしたっけ? あの連中に絡まれた時にイラッとしてつい……」

 

 

「つい、で大量殺人兵器を作るな馬鹿者ぉ!」

 

 

――バコォォォンッ!

 

「ごぶぁ!」

 

人工超人(織斑先生)から放たれる右フックが、俺の左頬を襲う! っていうか、昨日刀奈に殴られたのと同じところを殴られたんだがっ!?

 

「い、言い訳させてもらいたいんですが、あれにもメメントモリ同様、リミッターはついてます。だからISの試合で使う分には問題ないです。生身の人間に使わなければ」

 

「そうではなく、そもそも作るなと言っている……」

 

言い訳した直後に、クソデカため息をつかれた。解せぬ。

 

「そして更識妹。そんな危ない爆弾を、どうして騎馬戦で使おうとした?」

 

「えっと……他のみんなも武器を隠し持ってたので……勢いで?」

 

 

「勢いで対IS用兵器を使おうとするな馬鹿者ぉ!」

 

 

――バコォォォンッ!

 

「ぎゃっ!」

 

さすがに顔面は可哀想だと思ったのか、握り拳が簪の脳天に振り下ろされた。それでもあれは痛い。(確信)

 

「まったく……宮下」

 

「はい」

 

「お前、新しく何かを作る際には更識妹のチェックが入ってたな?」

 

「ええ、事前に何を作るか連絡してます」

 

劣化版ISコアの一件で、そんなルールが出来てしまっていた。……たま~に守れてない時もあったが。

 

「そのチェック、これからは更識姉にしろ」

 

「楯無さんに、ですか?」

 

「そうだ。妹では大して抑えにならないどころか、むしろお前より暴走しかねないことが今回の件で判明したからな」

 

「そんなぁ……」

 

がっくり項垂れる簪。あのサイクロプス・ボムについては、俺も焦ったからな。ある意味残当。

 

(回想終わり)

 

 

「ということがあった」

 

「あ、あはは~……」

 

そりゃ、コメントしづらいだろうな。まさしく、笑うしかない。

 

「更識さん、真面目な子だと思ってたんだけど……」

 

「そんな目で見ないで!?」

 

確かに俺と出会った頃は、こんなんじゃなかったんだが……え? もしかして俺が原因だったりする?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

特にパーティを開いたわけでもないから、全員がスイーツを食べ切った時点で自然解散となった。

 

「そういえば、篠ノ之博士はどうするんだろうね?」

 

気分転換にと、部屋に戻らず外を散歩をしている途中、簪が口にした疑問。

みんなには話さなかったが、さっきの回想には続きがある。

 

 

 

「ところで織斑先生。アンサラーの件、あれってどうなったんです?」

 

今回の運動会で使用する電力を全て、アンサラーが発電・送電したもので賄うという束の計画。そしてそれが上手くいった暁には、IS学園で使用する全電力をアンサラーで受け持つという話だ。

 

「あれか……結論から言えば『成立』した」

 

「つまり……」

 

「ああ。今後IS学園で使用する電力は、全て束持ちとなった」

 

「それを、日本政府が了承したんですか?」

 

確か、IS学園の管理自体は日本政府がやってるんだよな。普通に考えたら、電力って重要なインフラを個人に任せるって正気の沙汰じゃないだろう。だが、

 

「大喜びでな。なにせ学園の運営費は基本、日本持ちだからな」

 

「あっ、アラスカ条約」

 

簪が思い出したように声を上げた。

 

「そうだ。そして日本国民の全部が、それに納得しているわけではない」

 

だろうな。特に他国からの留学生も多いIS学園に対して『どうして他所の、しかも自分達と同じ先進国の連中にISを教える費用を、日本が待たなきゃいけないんだ!』って思ってる奴はごまんといるだろうよ。

 

「だからこそ、電力という必要経費が減るとなれば、反対する者などいないだろうさ。おまけに、この件を通して束との繋がりを得ようと考えている節もあるな」

 

「ああ、納得」

 

自分達より遥かに進んだ技術を持っている束との繋がりを、各国は欲しがってるんだったな。そのために、一夏に対して一夫多妻を認めたぐらいには。……俺? 何のことかな?(すっとぼけ)

 

「それに併せて、束は会社を建てるつもりらしい」

 

「会社を?」

 

「ああ。マイクロウェーブの受信アンテナの設営・管理を行うため、と本人は言っていたな」

 

「そしてアンサラー本体は、引き続き自分が管理する、と」

 

「そうだろう。あいつが最重要部分を他人に任せるとは思えん。むしろ任されると困る。米中露がハッスルしかねん」

 

アンサラーにちょっかいかけたくて仕方ない連中っすね。確かに連中なら裏で管理会社を襲撃して、アンサラーや太陽光発電システムの情報を奪うとかやりかねない。特に米は前科があるし。

 

 

 

「会社を建てても、束が社長室の椅子に座ってる姿が想像できねぇ」

 

「うん。適当な傀儡を置いて、自分は開発部とかにしれっと在籍してそう」

 

「あり得るな」

 

そんな話をしていると、

 

――ガサッ

 

風も吹いていないのに、目の前の茂みが揺れた、ような……。

 

「な、何だろう……?」

 

簪もおっかなびっくりした様子で、俺の腕にしがみ付く。

 

「野良猫かなんかじゃねぇか?」

 

「し、侵入者とか」

 

「そんなわけ……あり得るのがなぁ」

 

先日も、アメ公の団体さんが不法侵入してきたばっかだからな。

 

「確かめるか」

 

「うん……」

 

念のため、拡張領域から三池典田を取り出す。頼むから危ないもんは出て来ないでくれよぉ。

そう願いながら、抜身の刀で茂みをかき分けると――

 

「え……?」

 

「侵入者、でいいのかこれ……」

 

そこには、ほぼ全損したISに乗って、欠けた左腕の先から紫電を飛び散らす、金髪の女が倒れていた。




マドかわいい。もう、あの頃には戻れない……。

オリ主、簪共々ちーちゃんに怒られる。でも、どこかでサイクロプス・ボム、投げさせたい。

束、会社建てるってよ。ちーちゃんの桜花はもとより、これで簪の宙に浮いた所属も……?

スコール、太平洋横断・チキチキISレースでドボンしたの巻。オータムがああなったんだし、分かってるよね?(暗黒微笑)


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修学旅行
第111話 負けたらギャグ要員


修学旅行編開始です。
とはいえ、今回も前章からの流れになってます。


「んん……」

 

「目が覚めたか、スコール」

 

「オータム……?」

 

ぼんやりした視界を傾けると、そこには恋人で、今は敵の虜囚になっているはずのオータムの姿があった。

 

「どうして、オータムが……? 私、夢でも見てるのかしら……?」

 

「夢じゃねぇよ」

 

「なら、どうして……」

 

「お前は、IS学園の敷地内に倒れてたところを発見されて、ここに運ばれたんだよ」

 

「IS学園……」

 

見渡すと、私が寝ているベッド以外にも、病院の大部屋みたいにカーテンで仕切ることができるベッドが複数並んでいた。

 

「それにしても、お前が一体どうしてこんな……」

 

「そうだな、それは私も聞いておきたい」

 

「ちっ、来やがったか」

 

「織斑、千冬……」

 

舌打ちするオータムの視線の先には、初代ブリュンヒルデがドアの前で腕を組んで立っていた。入ってきた気配を感じさせないなんて、さすがね。

 

「それで、教えてもらおうか? 亡国機業の実働部隊『モノクローム・アバター』のリーダー格、スコール・ミューゼルが、どうして全損したISに乗って学園に流れ着いてきたかを」

 

「……いいわ。話しましょう」

 

「スコール!?」

 

「何を驚いているのよ。貴女が拘束されずにここにいるってことは、つまり()()()()()()なんでしょう?」

 

「それは、その……」

 

おそらくオータムは、自分の持っていた情報と引き換えに、身の保証を要求したんでしょう。そして私もベッドの上とはいえ囚われの身である以上、それを責める気はないわ。

 

「結論から言えば、亡国機業は壊滅したわ」

 

「はぁ!?」「そうか」

 

あら、オータムが驚くのは想定内だったけど、織斑千冬の反応が薄いのは予想外かも。

 

「オータムから、多少の内情は聞いている。女権団の残党が流れ着いてきたこと。そいつらに軒先を貸したら、そのまま母屋(幹部会)を乗っ取られたこともな」

 

「そうよ。そしてIS委員会の実働部隊から強襲を受けて、組織の重要拠点は軒並み壊滅。残党共が古巣に復帰したいがために、情報をリークしたせいでね」

 

「あいつらぁ……!」

 

オータム、貴女が怒っても仕方ないでしょう。というか、どうして上下ジャージ姿なのよ……?

 

「いや、それはだなぁ……」

 

「こいつはウチの学園でIS実習の担当補佐をしている」

 

「お、おい!」

 

「担当、補佐? 何貴女、捕まってたと思ったら、IS学園に就職してたの……?」

 

「してねぇよ! なんかこいつ(千冬)がIS委員会に引き渡そうとしねぇし、地下の牢屋暮らしも嫌がったら、なし崩し的に……」

 

「生徒達からは好評だぞ。一部からは『オータムお姉ちゃん』なんて呼ばれて――」

 

「やめろダラズがぁぁぁ!」

 

「……」

 

オータムと織斑千冬の漫才にしか見えないやり取りに、私は絶句した。一体、何がどうなってるのよ……。

 

「言い忘れてたが、お前が乗っていたIS『ゴールデン・ドーン』だったか? あれは没収した。まぁ、あの破損状況では何ができるわけでもないだろうがな」

 

「でしょうね」

 

私が逆の立場でもそうしている。

 

「それと悪いが、しばらくは左腕はその状態で生活してもらうぞ。ここには義体(サイボーク)の腕を治す設備もノウハウもないのでな」

 

「それも、仕方ないわね」

 

「スコール……」

 

「ほらオータム、なんて顔してるのよ」

 

動かない左腕――あのラファール部隊とやり合った時に千切れ飛んだところに、通常の義手を付けてくれたみたい――を見て悲しそうな顔をするオータムの頭を、正常に動く右手で撫ぜる。

 

「そして最後に……」

 

「私の処遇、かしら?」

 

「っ!?」

 

撫ぜていたオータムの頭がビクンッと跳ねる。さて、私が今話した情報の価値で、それだけの譲歩が引き出せるのやら……。

 

「心配するな。悪いようにはしない」

 

そう言うと、織斑千冬は私の肩をポンポンと叩いて

 

「負けたらギャグ要員の運命からは逃れられんぞ(暗黒笑顔)」

 

……私、選択を間違えたかも……

 

ーーーーーーーーー

 

「今日から4組の副担任として赴任された、スコール先生です」

 

「よ、よろしくね」

 

「……」

 

「……」

 

侵入者を織斑先生に引き渡した翌日、その侵入者が自クラスの副担任になってたの巻。当然俺と簪、二の句が継げず。

『このことは口外するなよ』と言われたのに、次の朝でこれである。どうなってんだIS学園、というか織斑千冬ぅ!

 

「久しぶりだな、スコール。オータムにはもう会ったのか?」

 

「ええ~……どうして貴女までここにいるのよ……」

 

「なになにマドっち、スコール先生と知り合いなの?」

 

「ああ、以前世話になったことがあってな」

 

「へぇ~」

 

「エ、エム「織斑マドカだ」そ、そう……マドカ、貴女がまさかここにいるなんて……」

 

「これでも私は『サイレント・ゼフィルス』のテストパイロットということになっているのでな!」

 

フンスッと腕を組む織斑に、スコールもたじたじだ。それよりも、秘密結社の実働部隊4人の内、二人が学生で残り二人も教師とか……。

 

「それじゃあSHRはこれで終了。1時限目はIS実習だから、みんな遅れずにアリーナ集合ね」

 

「「「「は~い」」」」

 

こうして、またしてもギャグ要員が増えたのであった。ケイシー先輩、こうなる前に足抜けしたのは正解でしたね……。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

放課後、先日の通達通り打鉄弐式にGNドライブを外した。その代わり、GNコンデンサーに付け替えて、GNファングのエネルギー源を確保。稼働時間が極端に減ったが、こればかりは仕方ない。

 

「減ったって言っても、モンド・グロッソの試合時間中は使い続けられるだけの稼働時間だけどね~」

 

「むしろ、稼働時間が無限だったこれまでが異常過ぎ」

 

「無限じゃねぇぞ。高速機動にエネルギーを割き続ければ、さすがに使えなくなるし」

 

「それって、どれぐらい使い続けたら?」

 

「あ~……72時間?」

 

「3日間連続稼働可能とか、やっぱり普通じゃないよ……」

 

「そうだよね~……」

 

簪とのほほんの白い目が、すげぇ痛いんですが……。

 

「そういえば、そろそろ修学旅行の季節だよね~」

 

「ホント突然だな」

 

「そっか、もうそんな季節なんだね」

 

修学旅行なぁ……。大体京都がド定番で、次点に北海道とか沖縄とかか。大穴でハワイって可能性もあるが、IS学園には留学生が多いから日本国内の線が濃厚か。

 

「なんでも、先生達がどこにするか決めてる最中なんだって~」

 

「私、栃木とかいいな」

 

「なぜに栃木?」

 

「特撮の爆破シーンの聖地がある」

 

「お、おう……」

 

さすが簪、ブレねぇな。

 

「陸は、行ってみたいところとかある?」

 

「俺か? 機械屋としては、TOY〇TAの愛知とかY〇MAHAの静岡とか」

 

「さすが陸、ブレない」

 

「お前もな」

 

咄嗟に言い返していた。

 

「二人とも、相変わらずだな~」

 

そんな俺達を見て、のほほんが苦笑していた。解せぬ。

 

ーーーーーーーーー

 

――女性権利団体本部、代表執務室

 

女権団のトップ、山崎敏美は自身の執務室で荒れていた。

 

「どうして!? どうして千冬様が、あの下劣な雄猿の作った機体に負けるのよ!?」

 

せっかく息のかかったIS委員会の人間に、織斑千冬と更識簪のエキシビションマッチを行うよう指示したのに、結果はこれである。

当初の計画では、宮下が開発に関わった(ほぼ宮下が開発したのだが、彼女は断固として認めていない)打鉄弐式を織斑千冬が打倒することで、『やはりISは操縦者は元より、開発自体も男が関わるべきではない』という論調を作るはずだった。

それが終わってみれば、千冬のIS『桜花』自体、篠ノ之束が主導とはいえ、宮下の手も入ってしまったばかりか、その千冬が簪に競り負けるという結果となってしまった。

 

「あの、代表……」

 

「何よっ!?」

 

「せ、先日IS委員会が行った、亡国機業壊滅作戦なのですが……」

 

「それが何だって言うのよっ!?」

 

「こ、こちらをご覧ください……」

 

そう言って、控えていた女がビクビクしながらも、山崎の前にいくつかの紙を広げた。

 

「何よこれ」

 

「どうも亡国機業の連中も"2人目"に興味を持っていたようで……奴が作ったと宣っている『GNドライブ』の設計図です」

 

「何ですって!?」

 

部下の言葉に、山崎は怒りから驚きに表情を変えて、広げられた紙を凝視した。

 

「以前奴らは所属企業を探すために、GNドライブをIS関連企業に見せていました。結局所属企業は見つからなかったようですが、その時参加した技術者の一人が亡国機業の工作員だったようで……」

 

「それを元に、この設計図を起こしたのね。……これ、IS委員会には?」

 

「いえ、知られておりません。壊滅作戦に参加したIS部隊の中に、我々の同志がおりまして。これも彼女が秘密裏に持ち出したものです」

 

「そう! そうなの! あははははははっ! これはいいわ!」

 

先程のヒステリックはどこに行ったのか、山崎の高笑いが部屋中に響き渡る。

 

「この設計図を使って、私達が永久機関を作るのよ!」

 

「はっ」

 

部下が設計図を持って退出すると、上機嫌になった山崎は部屋の隅に置いてあるワインクーラーからボトルを取り出すとコルクを抜き、グラスに注いだ。

 

「そうよ! あんな下劣な雄猿に作れて、優等種たる私達が作れないわけないじゃない! むしろ、もっと素晴らしいものを作れるに決まってるわ!」

 

肥大化した自尊心から湧き出す根拠なき自信を、飲み込んだワインがさらに焚きつける。

 

そんな彼女は知らない。いや、女性権利団体の誰もが知らなかった。

 

――GNドライブにも弐式の武装同様、ただコピーすると(抵抗器の偽装を見破れないと)爆発するトラップが仕掛けられていることを……




スコール、教師になる。マスコット化したマドカとのやり取りも、短いながら予定しています。
というかちーちゃん、日々のストレスを解消するために、亡国機業をギャグ要員にしている節が……?

GNドライブ取り外し。GN粒子が必須な装備はGNファングぐらいなので、あんまり戦力減になってない……? ま、まぁ、これでまたちーちゃんには勝てなくなったってことで……。

女権団、また面倒なことを計画し出す。爆発オチなんてサイテー!(壮大なネタバレ)


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第112話 内々定

すみませんが、もうちょっと説明(伏線)回が続きます。


スコールが4組の副担任になって、早くも数日が経った。オータムのこともあったから、まさかとは思っていたが……

 

「スコール先生、この条文についてなんですが……」

 

「ああこれね。これはアラスカ条約第3項のここの部分が……」

 

教え方が上手いからと、今やエドワース先生が座学をほぼ丸投げしていた。さらに

 

「IS学園の食堂って、学食とは思えないレパートリーね」

 

「だな。昔の軍隊生活とは大違いだ」

 

「もぐもぐ……(エクレアを頬張る)」

 

「ほらマドカ、クリーム付いてるわよ」

 

「むぐぅ……(大人しく口を拭かれる)」

 

嘘みたいだろ、あの三人(スコール、オータム、織斑)、元テロリストなんだぜ……?

 

「ダリル、あの三人って……」

 

「見るなフォルテ」

 

ケイシー先輩が、サファイア先輩の目を手で遮る。親が子供に『見ちゃいけません!』してるのを想像したのは俺だけか?

 

「完全に馴染んでやがるな……」

 

「お姉ちゃん、説明プリーズ」

 

「むしろ私が知りたいわよ……」

 

「あはは~……」

 

別のテーブル席で、いつ面+刀奈の4人で昼飯を食おうとしたらこの場面に出くわしたわけだ。

ちなみにのほほんは、スコールの素性を今さっき刀奈から聞いたばかりだ。俺と簪の場合、見つけた時に乗っていたISが学園祭に現れた機体と同じだったから、何となく見当はついていた。

 

「織斑先生も何を考えてるんだろう。いくら前回移送中に襲撃されたからって、IS委員会に引き渡さずにそのままなんて」

 

「そうねぇ……」

 

「……楯無さん、何か知ってるでしょ」

 

「ええ? な、何が?」

 

「お姉ちゃん、動揺し過ぎ……」

 

「それで、何を知ってるんです?」

 

「いやぁ、それは言えないわねぇ……」

 

"知らない"、ではなく"言えない"。つまりそういうことか。

 

「簪、のほほん。今日の放課後は久々に、生徒会室で虚先輩の紅茶を飲みにいかねぇか?」

 

「ほえ?」

 

「いきなり何を……ああ、なるほど。確かに飲みたいかも」

 

のほほんは分かってないみたいだが、簪は気付いたのか、少し笑った顔で刀奈の方を見た。

 

「二人とも……いいわよ、虚には私から言っておくわ」

 

仕方ないなぁ、という顔をして、刀奈はカップに残っていた紅茶を飲み干した。

 

ーーーーーーーーー

 

時間は流れ放課後。刀奈と約束していた時間に、俺と簪は生徒会室を訪れていた。

 

「いらっしゃい、虚の紅茶も準備出来てるわよ」

 

「どうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

勧められたソファーに座ると、虚先輩が目の前のティーカップに紅茶を注いでくれた。

 

「それで、さっそくなんですが……」

 

「分かってるわ……」

 

 

「虚と五反田君の、恋の進捗についてね?」

 

 

「お嬢様ぁぁぁ!?」

 

 

「ええ、そうです」

 

 

「宮下君!?」

 

 

「私も是非聞きたい」

 

 

「簪様までぇぇ!?」

 

 

「というジャブは置いといて」

 

「ですね」

 

「うぅ……みんなして……」

 

「お姉ちゃん、大丈夫~?」

 

あ、虚先輩がorzった。そしてのほほんが慰めるというカオス。っとと、話を進めんとな。

 

「それで、どうしてあいつら(スコールとオータム)をIS委員会に引き渡さないんです?」

 

「これは先日、織斑先生から聞いた話なのだけど……」

 

そこから刀奈は、織斑先生から聞いた内容――俺達がスコールを引き渡してから、副担任になるまでの出来事――を話し始めた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「なるほど……亡国機業は壊滅したんですか」

 

「なんか話だけ聞くと、あっけない」

 

「私も簪ちゃんと同感よ。数十年も続いた秘密結社が、こんなあっけなく消え去るなんてね」

 

「恐ろしきは無能な指導者層、ということですか」

 

「そんなだから、女権団にも切り捨てられちゃんだよ~」

 

皆一様に言いたいことを言ってるが、一番ひでぇ言い方なのが布仏姉妹という。

 

「だけど、亡国機業が滅びたのと、スコールさん達を委員会に渡さないのは無関係なんじゃ……?」

 

「そうでもないわ」

 

「え?」

 

「だって簪ちゃん、考えてもみて? いくら女権団からIS委員会に情報がリークされてたからと言って、あまりにも動き出すのが早すぎるのよ」

 

「それって……」

 

「楯無さんは、女権団とIS委員会がグルだと?」

 

「そこまでは言ってないわ。ただ、委員会に女権団の息がかかった人間がいてもおかしくない、とは思ってるわ」

 

「つまりこのまま彼女達を移送しても、文字通り闇に葬られる可能性が……」

 

「ええ。少なくとも、私と織斑先生はそう考えているわ」

 

「面倒だな……」

 

政府といいIS委員会といい、どこにでも居やがるな女権団。おまけに物陰に隠れる(表立って出て来ない)のも上手いときてる。まるで"G"みたいだ。

 

「む~……難しい話を聞いてると、眠くなるんだよ~……」

 

はい、俺達がシリアス展開してるのに、さっそくのほほんが居眠りを始めました。ちなみに俺を含め、誰も起こそうとはしない。そのまま寝とけ。

 

「とりあえず、スコール達を学園に留めている理由は分かりました。でも、なんでわざわざ教師に?」

 

「それはね――」

 

「この束さんが説明しよう!!」

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「あだだだだだだだ!」

 

 

開いていた窓から突然飛び込んできた紫兎を、空中でキャッチ&アームロック。あぁ、久々のアームロックだ。最近刀奈に仕掛けてなかったからなぁ。

 

「ちょっと陸君、変なこと考えてないわよね……?」

 

刀奈がめっちゃ身震いしながら聞いてきた。いかんいかん、顔に出てたか?

 

「それで? どうしてここで束が出てくるんだ?」

 

「そ、それを説明するから、離してほしいんだけど……」

 

「いいだろう。さすがに傷物にしたら、一夏に申し訳が無いからな」

 

「ちょちょちょちょっ!? そこでいっくんは関係ないよねぇ!?」

 

おーおー、顔真っ赤にしてからに。そして簪、その白い目で見るのはやめてくれ、それは俺に効く。

 

「まったく……あ、運動会抜け出していっくんの友達とキスしてたバンダナ眼鏡ちゃん」

 

「篠ノ之博士ぇぇぇ!?」

 

「う、虚? 貴女そんなことしてたの……?」

 

「マジか」

 

「大胆……」

 

「お姉ちゃん頑張れ~……(寝言)」

 

「もうやだぁぁぁぁぁ!!

 

虚先輩の叫び声で、収拾がつかなくなってきた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「うぅ……みんなに知られたぁ……弾くぅん……」

 

収拾がついた時には、虚先輩は部屋の隅で三角座りをして、床にのの字を書き始めていた。

 

「そんじゃ、束の話を聞こうか」

 

「り、陸君……」

 

「お姉ちゃん、仕方ないの。これはコラテラルダメージだから」

 

「簪ちゃんまで……」

 

「なんかチェシャ猫ちゃんが形容し難い顔になってるけど、説明始めるよ。りったんは束さんが会社を作るって話は聞いてる?」

 

「ああ、織斑先生から聞いた。太陽光発電関連の仕事を振るためだっけか?」

 

「その認識でいいよ。で、当たり前だけど束さん、社長なんてやる気は無い!」

 

「だろうな」

 

簪とも話してたが、こいつがケツで社長室の椅子を温めてる光景が想像できない。

 

「それで傀儡としてちょうどいい人材を探してたんだけど、なかなか難航してねぇ。能力が高くて、既存の権力とも結びついてないアウトローな人材が」

 

「おいおい、まさか」

 

「そう! あのスコールとかいう奴を、社長室の椅子に縛り付けちゃおうってね!」

 

「「ぶふっ!」」

 

衝撃の事実に、刀奈と簪が仲良く紅茶を吹いた。吹いた紅茶が誰にも掛からなかったのが、不幸中の幸いか。

 

「でもでも、さすがに身元不明の元テロリストだと、社長に据えるのが大変だな~って。そしたらちーちゃんが『任せろ』って」

 

「それってまさか……」

 

「そういうこと、だよね……?」

 

つまり、そういうことだろう……

 

「IS学園の教師から会社社長とか、無くは無い話だもんね~♪」

 

あのブリュンヒルデ、何堂々と戸籍ロンダリングみたいな真似してんだよ!?

 

「いや~、最近のちーちゃんはいい感じに頭のねじが外れかけてて、束さん嬉しいよぉ♪」

 

「それ本人に言ったら、怒涛のごとく怒るぞ」

 

「あはは~♪」

 

「あははじゃないが。未来の義姉だぞ?」

 

「あ、はい……」

 

ウィークポイントだったのか、神妙な顔になって頷いた。

 

「と、とにかく、あいつは短期の教師役だってことだけ覚えておいてね」

 

「なんか、オータムの奴も一緒にくっ付いていきそうだな」

 

「それならそれでいいよ。適当に秘書官にでもなれば」

 

オータムの視線(スコール宛て)に百合っぽさが感じられるらしい。ソースはデュノア。どうしてそんなものを感じられたかは……深追いはしないでおこう、俺にだって情けってものはある。

 

「さて、説明も済んだし、ちょっとちーちゃんに顔見せたら帰るよ」

 

「そうか……ところで束」

 

「ん?」

 

生徒会室のドアを開けようとした束が、こちらを振り返る。ホントは聞かない方がいいと分かってはいるが、それでも聞いてしまうのが俺なんだろう。

 

「一夏とは、どこまでいったんだ?」

 

「~~~っ!!///」

 

――バコォォンッ!

 

顔を真っ赤に沸騰させた束に顔面グーパンをもらい、その勢いでソファーから転げ落ちた。

 

「りったんのばーか!」

 

そう言い捨てると、束は超高速で生徒会室から出ていった。

 

「陸……」「陸君……」

 

「分かってる……でも、二人だって知りたかったろ?」

 

「うっ」「~♪(下手な口笛)」

 

簪、目を逸らすな。そして刀奈、全然吹けてねぇぞ。

 

「まあいい、このあとは……」

 

「このあとは?」

 

「この惨状をどうするかだ」

 

「「あ」」

 

依然三角座りの虚先輩、ガチ寝に入ったのほほん、二人が吹きだした紅茶でビチョビチョになった応接テーブル。さあ、どっから片付けたもんか……




虚さん、多方面から弄られる。通常パートで出番が少ない分、こういうところできっちり出番を増やしましょうね~(ゲス顔)

スコール、新会社の社長に内々定。実際原作でも、名士っぽい感じで一夏にタキシードを買ってあげたりしてましたし、素養はあるでしょう。完全に紐付きの会社ですが。ちなみに現時点で、スコールは内々定のことを知りません。知った時にどんな顔をするか、楽しみですね~(ドくず顔)

一夏と束のデート回とか、どこかでやりたいな~と思う今日この頃。


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第113話 旅は道連れ世はてぇてぇ

今回はいつもより少し短めです。すまん、残業続きで力尽きそうなんや……。


束の建てる会社について話を聞いた翌日、全校集会が開かれた。

 

「それでは、これより修学旅行について説明するわね!」

 

壇上の刀奈の宣言に、おおーっ! と声が上がる。各国から集められたエリートとはいえ、そこは学生なんだなぁと思う。

 

「先日職員会議が開かれて、修学旅行先をどこにするか話し合われた結果、京都、大阪、北海道の3つに絞られました」

 

「京都いいよね! 名所がいっぱいなんでしょ!?」「食い倒れの街、大阪もアリよね!」「食べ物なら北海道もいいじゃない!」

 

やっぱ定番の3つになったか。って、まだ行く場所決まってねぇのか?

 

「そして……虚、持ってきて」

 

刀奈が虚先輩に声をかけると、先輩はガラガラと何かを押して……って、おい待て。

 

「今ここで! どこに行くかを決めようと思いまーす!」

 

一夏の所属する部活を決めるのに使ったルーレットが、再び姿を現しやがった!

しかも薄っすらと、部活名の跡が見えるんだが!? 完全に使い回しかよ!

 

「それじゃあ今回は……2組の凰ちゃんにお願いしようかしら!」

 

「あ、あたしぃ!?」

 

クラスメイトに背中を押されて壇上に立たされた凰に、刀奈からダーツが渡される。

 

「さぁ凰ちゃん、どこに行きたい!?」

 

「え、ええ? とりあえず京都はもういいわ! 小中で2回も行ったから、いい加減飽きたのよ!」

 

「それじゃあ頑張ってね♪ 虚、回してー!」

 

刀奈の合図とともに、ルーレットが回転を始める。

 

 

「「「京都! 京都!」」」

 

 

「だから京都はもういいって言ってるでしょ! アンタ達話聞いてた!?」

 

周りからの京都コールにキレる凰。みんな煽るの上手いな。

 

「ええい!」

 

そして投げられたダーツはルーレットに刺さり……

 

 

『京都』

 

 

「ウゾダドンドコドーン!」

 

 

崩れ落ちる凰。元々京都に行きたがってた生徒からは大喝采。

ちなみに一夏は

 

「また京都か……」

 

微妙な顔をしていた。そっか、お前も凰と同じ学校だったから、京都3回目か。ご愁傷様。

 

ーーーーーーーーー

 

ということがあったのが数日前。そして今、IS学園の生徒を乗せた新幹線(人数や警備上の観点から、貸し切り状態)は一路、京都を目指していた。

各クラスが1両に乗る形で、生徒達は好きな座席に座っているわけなんだが……

 

「どうしてこうなった」

 

「これのどこに」

 

「問題が?」

 

車両の一番前の席、足を伸ばすスペースがあるからと、俺はここに座った。すると簪がノータイムで俺の膝の上に座り、どこからか現れた刀奈が、知らぬ間に隣の席に座っていた。

 

「あの、会長?」

 

「何かしら?」

 

「会長って2年生だから、別の車両……」

 

「あら、貴女は私と陸君の仲を裂こうっていうのね……?」

 

「え、ええ!?」

 

おい馬鹿いきなり何を言い出すんだ。

 

「(宮下君って、更識さんと恋仲じゃなかったの?)」

 

「(でもでも、宮下君も織斑君と同じで重婚が許可されてるんだよね?)」

 

「(それで会長さんも……って姉妹で!?)」

 

「(捗る、ウ・ス異本が捗るぅぅぅぅ!)」

 

聞こえてるぞお前達。そして最後の奴待てや。

 

「宮下君……」

 

「……なんだ?」

 

「「「Good Luck!!」」」

 

お前ら何サムズアップして去ってくんだよ!? どういう意味だよ!?

 

「それじゃあ、みんなも理解してくれたところで」

 

「りーく君♪」

 

「はぁ……分かった分かった。俺も男だ、たまにはお前達の希望を叶えてやるよ」

 

そう言って俺は、左腕で簪を抱きかかえ、右腕を刀奈の腰に回して引き寄せた。

 

「陸、大胆……」

 

「陸君……///」

 

1.5人分のスペースに3人が座る密着具合。二人が身をよじる度に、簪からは柑橘系、刀奈からはフローラル系の香りが……やべ、これ俺の理性が保つのか?

 

「ぐおぉぉぉぉぉぉ!」

 

「甘い……コーヒー飲んでるはずなのに……」

 

「ま、まだお昼食べてないのに胸やけが……」

 

「もぐもぐ……(ひよこ饅頭美味し)」

 

俺達の熱に当てられて、さっきまで煽っていたクラスメイト達は次々にダウンしていった。(黙々と菓子を食ってる織斑を除く)

 

「あらあら、お熱いわねぇ。ねぇ、オータム?」

 

「よくもまぁ、恥ずかしげもなく……ってスコール! どこに手をっ! あっダメ、周りに人が……!///」

 

引率として付いてくることになったスコールとオータムの二人が、なんか車内で押っ始めそうになってるんだが……あ、一部生徒が鼻血出してぶっ倒れた。純情過ぎじゃねぇかねぇ?

 

 

――一方その頃、1年1組の車両

 

 

「「「「あーいこーで、しょ!」」」」

 

「なぁ、順番でいいだろ? だから早く座ろうぜ……」

 

車両の真ん中あたりの窓側席に座った俺は、未だにじゃんけんを続ける箒達をげんなりした顔で見ていた。

俺の隣に誰が座るかで、箒達4人がじゃんけんを始めてから大分経つが、一向に決まらないらしい。そろそろ座らないと、千冬姉の鉄拳制裁が来そうで怖いんだが……。

 

「「「「あーいこーで」」」」「しょ!」

 

あ、4人パーの中に一人だけチョキ……ってあれ?

 

 

「いっくんの隣ゲットだぜ~!」

 

 

「「「篠ノ之博士!?」」」「姉さん!?」「束さん!?」

 

なんで? なんで束さんがここに? って俺の隣に座ってるし! しかも腕! 腕絡めてきてるし!

 

「ね、姉さん! 一体何をしているんだ!」

 

「何って、未来の旦那様とイチャイチャしてるんだけど?」

 

コテッと首を傾げる束さん。可愛い……じゃなくて!

 

「もしかして束さん、京都まで付いてくるつもりですか?」

 

「もちのろん! あ、ちーちゃんには先に伝えてあるよ」

 

「ええ~……」

 

千冬姉、許したのかよ。一体どんなやり取りがあったのか……あ、知ったらダメな気がする。主に精神的な意味で。

 

「さて、イチカニウムの補給も完了したし」

 

「今なんて?」

 

なんか、謎の物質名が出てきた気がするんだが。

 

「くーちゃ~ん! 束さんとトランプしよーぜい!」

 

「た、束さま?」

 

「私もまぜて~」

 

「おっ、のんたんも一緒だね? お~け~お~け~!」

 

スクッと立ち上がった束さんはクロエさんのところに突撃すると、のほほんさん(途中で巻き込まれた相川さん)も交えて4人で大富豪をやり始めた。相変わらず行動が突飛だなぁ。

 

「それで、結局一夏の隣には誰が座るんだ?」

 

「「「あ」」」

 

ラウラの発言に正気を取り戻した時には、出発の車内チャイムが鳴っていた。

 

 

「さっさと席に座れ馬鹿共がっ!」

 

――ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

 

「「「「ひぎぃ!」」」」

 

 

案の定、箒達4人は千冬姉の鉄拳制裁を受け、俺の隣には

 

「け、怪我の功名だ……」

 

箒が座ることになった。最初からこうしておけば良かったのに……。

 

「んふふ~一夏~♪」

 

千冬姉の制裁の痛みが引いた途端、めちゃくちゃ箒が甘えだした。束さんへの対抗心からか、腕にしがみ付いてきて……む、胸が当たって……

 

「かぁ~! 見んねーセシリア! 卑しか女ばい!」

 

「シャ、シャルロットさん?」

 

「突然どうしたんだ? いつもの口調と全然違うんだが……」

 

そんな俺達を、シャルがジト目で見てきて辛い……それどこの方言だよ?

 

 

――2年の車両

 

 

「ダリル~」

 

「ん?」

 

「3年の車両にいなくていいんスか?」

 

フォルテの隣には、3年生のダリルが堂々と座っていた。周りも相手が上級生だからか、声を掛けづらそうにしている。

 

「いいんだよ。それとも、オレと一緒は嫌か?」

 

「そ、その聞き方はずるいっスよぉ……」

 

そう言いながら、フォルテはダリルの腕を取ると、抱きかかえるようにその腕にしがみ付く。

 

「(と、尊い……)」

 

「(サファイアさんとケイシー先輩の噂は聞いてたけど……)」

 

「(これほどのポテンシャルを秘めていたとは……!)」

 

結局学年に関係なく、年頃の女子はこういった『てぇてぇ』に弱いのだった。

 

「ところで、新しく学園に入ってきたスコール先生って……」

 

「ああ……オレの叔母だ」

 

「つまり……」

 

「そういうことだ」

 

周りの耳があるからか、ダリルはフォルテの『あの人も亡国機業の?』という問いに対して、遠回しに肯定した。

 

「やっぱりそうっスか……」

 

「やっぱりって、なんだよ?」

 

「ダリルのバイセクシャルは、血なんスね」

 

「おい馬鹿やめろ」

 

かなり力の入ったアイアンクローが、フォルテの顔面を捉えていた。そしてその顔面は、京都に着くまで解放されることは無かった。




そうだ、京都に行こう。本州(特に関東)の学校だと、大抵修学旅行先は京都になる気が。原作でも鈴は小5から中2まで日本にいたので、一夏と一緒に3連続京都の可能性もあったはず。

新幹線の車内で糖分補給。なお、本来のシャル(花澤さん)はこんなこと言いません。

てぇてぇに見せかけたアイアンクロー。原作でも千冬が束に仕掛けた、由緒ある技ですしおすし。


今更ですけど、亡国機業崩壊してる状態で修学旅行編って、ただの旅話にしかならないのでは……?


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第114話 京都散策~陸ルート~

それなりに原作を踏襲しつつ、ギャグ路線で行ってみたつもりです。


『まもなく京都、京都です。We will soon make a brief stop at Kyoto』

 

車内放送が流れると、お菓子やトランプを出していた生徒がゴソゴソと仕舞いだす。俺も読んでた雑誌を……

 

「陸、まだ読んでる」

 

「いやお前、もうすぐ着くって放送聞いてたか?」

 

「う~」

 

俺の膝の上で不満げな簪を無視して、

 

「ほら楯無さん、起きてください」

 

「んん……あえ? もう着くのかしら~?」

 

俺に寄りかかって寝ていた刀奈を起こすと、ショルダーバッグに雑誌を仕舞う。

 

「お姉ちゃん、涎」

 

「えっ、嘘!?///」

 

簪の指摘に慌てて手鏡を見ると、急いでハンカチを出して口元を拭う。その間、顔は真っ赤だ。

 

「うう~……陸君に見られたぁ……」

 

「(安心しろ、もっとすごいの見てるから)」

 

「(な、何言ってるのよ!)」

 

周りに聞こえないように少し揶揄ったら、さらに顔を赤くして右肩をポカポカ叩いてきた。

 

「会長、堕とされてるわね……」

 

「宮下君、やるぅ」

 

「会長さんって、結構甘えん坊系なんだぁ」

 

「ぬあぁぁぁぁぁ! 今まで演じてきたお姉さん路線がぁぁぁぁ!」

 

「「そんなものはない」」

 

「二人揃ってひどいっ!!」

 

ガビーンッて効果音が聞こえそうな顔をする刀奈を後目に、俺達を含めた4組全員が降車準備を始めるのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

京都駅に着き、ぞろぞろとIS学園の生徒達が下車していく。

俺達1年1組は最初に下車して、京都駅から外に出ていた。

 

「一夏、何を探してるの?」

 

外に出た途端荷物を漁り出した俺に、シャルが声をかけてきた。良かった、あの方言は抜けたようだ。

 

「ええっと……あったあった!」

 

「カメラ?」

 

「しかもアナログの一眼レフとは、古風ですわね」

 

「懐かしいな」

 

「アンタ達、一体何して……一夏、まだそれ持ってたんだ」

 

シャルやセシリアが俺のカメラを珍しがってる間に、後続で降りてきた2組の中から鈴が姿を現した。俺が持ってるカメラのことを知ってるのは、鈴と箒ぐらいだもんな。

 

「鈴も箒も、あのカメラを知ってるのか?」

 

ラウラの問に、二人とも首を縦に振る。

 

「知っている。一夏が千冬さんに初めて買ってもらったカメラで、それ以来一夏はそのカメラで写真を撮り続けているんだ。私も引っ越す前は、何枚も撮られたことがある」

 

「私もよ。織斑家にアルバムがあったはずだけど、まだあるの?」

 

「あるぞ。なんてったって、これが俺と千冬姉の絆、そして俺の存在証明みたいなもんだからな」

 

「一夏……」

 

俺の出自を知ってるみんなが、慈しむような目で見てくる。な、なんかくすぐったいんだが……。

 

「お前達、何をそんなところで固まっている」

 

「ちふ、織斑先生」

 

さっきの流れで『千冬さん』と言いそうになった鈴が、途中でなんとか言い直す。たぶんそのまま言ったら、どこからともなく取り出した出席簿が火を噴いてただろうな。

 

「ほう、懐かしいものを持っているな。ついでだ、記念に一枚撮っておくか」

 

「え、いいんですか? 織斑先生」

 

千冬姉から返事がある前に、みんながささっと整列しだした。

 

「それじゃ、撮るぞ~」

 

「いやいや、お前が写らなくてどうすんだよ」

 

「え?」

 

横からすっとカメラを取られて振り返ると、陸達がそこに立っていた。

 

「ほら、俺が撮ってやっから、お前も並べ並べ」

 

「ちょっ、おっとと……」

 

陸に背中を押され、そのまま列の中央に立たされていた。

 

「そんじゃ撮るぞ~。3、2、1」

 

――カシャッ

 

「こんな感じか」

 

そう言って陸が、俺にカメラを返してくる。

 

「サンキュな陸」

 

「いいって。むしろあそこでお前がシャッター切ってたら、嫁共が暴動起こしてたぞ」

 

そんな馬鹿な……と思って振り返ったら、箒達が(なぜか千冬姉も一緒に)揃って腕を組んで首を縦に振っていた。お、おおう……。

 

「ねぇねぇ織斑君、できれば私達も撮ってほしいな~」

 

「楯無さん達をですか? いいですよ」

 

「やった♪ ほら、並びましょ」

 

「お、お姉ちゃん」

 

「引っ張るなって!」

 

楯無さんにぐいぐい引っ張られた陸と更識さんが、横一列に並ぶ。陸の左右それぞれに腕を絡ませて……うん、爆発しろ。(自分棚上げ)

 

――カシャッ

 

鋼の精神(自己申告)でシャッターを切った。まさか俺も、周りからはこんな風に見られてたり……するんだろうなぁ……。

 

ーーーーーーーーー

 

修学旅行1日目は、ホテルの集合時間まで自由行動となっている。さて、どこに行ったもんか……。

 

「陸、駅のすぐ近くに――」

 

「わざわざ京都でアニ〇イトは行かねぇぞ」

 

「ええ~……」

 

どうして分かったみたいな顔すんな。お前のような奴が考えることなんざ、お見通しなんだよ。

 

「寺を見て回ってもなぁ……」

 

「あら、たまにはそういった文化遺産を見るのもいいものよ? というか、それが修学旅行ってものでしょ?」

 

「それは、まぁ……」

 

「そうだけど……」

 

「ほら、それなら京の街並みを散策しましょ」

 

そう言うと刀奈は俺と簪の腕を掴んで、五重塔が見える方に向かって歩き出した。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

それから俺達3人は京都の町を見て回ったわけだが、なるほど確かにいいものだ。

 

「三十三間堂、教科書の写真ではよく見たが、実際に見ると迫力あったな」

 

「うん。千手観音像が1000体とか、圧倒されそうだった」

 

「でしょ~?」

 

そんな俺達の手には、それぞれジェラードが握られている。秋空の下でジェラードってのも乙なもんだ。

ちなみにそのジェラードの店の前で、一夏と凰が1つのジェラードを二人で食べてるところを目撃したから、修学旅行が終わったらそれをネタに揶揄ってやる予定だ。

 

「それじゃ次は……あら?」

 

「どうしたのお姉ちゃん? 猫?」

 

そう、俺達の前に、真っ白な猫がこちらをじっと見つめていた。首輪も付いてるから、飼い猫が逃げ出したのか?

 

「『シャイニィ』、こっちサ」

 

突然後ろから声がして振り向くと、どうやら飼い主らしい女の肩に白猫が飛び乗った。

右目に眼帯をした着物の女。それならまだ分かるが、着物は思いっきり着崩してる上に、袖から出ていない右腕。もしかして、隻腕なのか?

 

「あ、貴女は!?」

 

「もしかして……」

 

「ああ、さすがにIS学園の生徒には気付かれるネぇ」

 

「……誰だ?」

 

「「「ちょぉぉぉ!?」」」

 

ガクッと俺以外の3人がコケそうになる。お、猫が肩から落ちてねぇ。やるな。

 

「陸……さすがにそれはない」

 

「これは、私が自惚れてたってことなのかネぇ……」

 

「いえ、さすがにこれは陸君が悪いです」

 

なんか俺、めっちゃ集中砲火を浴びてんだが?

 

「陸、この人は第2回モンド・グロッソの優勝者でイタリアの国家代表、アリーシャ・ジョセスターフ選手だよ」

 

「第2回大会の……ってことは、2代目ブリュンヒルデってことか?」

 

「アイツとの決着が着く前にその呼び方はやめてほしいネ。アーリィって呼ぶといいのサ♪」

 

そう言ってアーリィはウインクをして、肩に乗った猫(シャイニィだったか)の頭を撫ぜる。

 

「で、でも、どうしてアーリィさんがここに?」

 

「人を待ってるところ……と言いたかったんだが、向こうからドタキャンされてしまったのサ」

 

「ど、ドタキャン?」

 

刀奈がポカーンとした顔をしてオウム返しをした。国家代表との約束をドタキャンって、ずいぶん肝が据わってるなそいつ。

 

「まぁ仕方ないサ。とある"きぎょう"からお誘いが来てたんだが、来日したらその"きぎょう"は潰れたと知らされてネ。それで話はご破算、ただイタリアにトンボ返りするのも癪だから、こうやって日本観光と洒落込んでるわけサ」

 

「はぁ……」

 

「それはまた……」

 

簪も刀奈も、アーリィの話に呆けた声しか出せない。来日したその日に潰れたのを知ったって、運が悪ぃなぁ……でも待てよ? 最近『国家代表を雇えるような企業』が潰れたって話あったか? まさかとは思うが……

 

「なぁアーリィ」

 

「ん? 何かナ?」

 

「もしかしてなんだが……」

 

 

「そこ、亡国機業(ファントム・タスク)って名前じゃねぇか?」

 

 

「「っ!?」」

 

「へぇ」

 

俺の問いに、簪と刀奈は驚いた表情でアーリィの方を見た。奴さん、『面白い』と言わんばかりの顔をしている。つまり当たりか。

 

「なかなかどうして、いい勘してるのサ」

 

「あんがとよ」

 

偶然"きぎょう"が"機業"に脳内変換されたのと、最近亡国機業が壊滅したって話を聞いてて頭に残ってたっていう話なんだがな。

 

「それにしてもなんでまた、あそこに入ろうと思ったんだ?」

 

「簡単な理由サ。『チフユ・オリムラとの再戦』それだけが私の望みなのサ」

 

「そのために、亡国機業に?」

 

「そのつもりだったんだけどネぇ……」

 

完全にアテが外れたのサ、そう言ってキセルをくわえて吹かし始めた。

 

「織斑先生との再戦ねぇ……」

 

いつだったか、一夏に聞いたことがある。

第2回のモンド・グロッソで、織斑先生は誘拐された一夏を助けるために決勝戦を棄権したって。そしてそれがアーリィの言う『チフユ・オリムラとの再戦』に繋がっていくんだろう。なるほどなるほど、それなら……

 

「よしやろう」

 

「「「は?」」」

 

目が点になってる3人を一旦放置して、俺はスマホに登録されているナンバーにかけた。

 

 

「織斑先生、アーリィと決闘してください」

 

 

「いきなり何を言い出すんだお前はっ!?」

 

 

めっちゃ怒鳴られた。




たっちゃん、お姉さん路線には戻れない。(そんな路線、そもそも)ないです。

一夏のカメラ。ここはほぼ原作再現ですね。最初は束も写らせようと考えていたんですが、話がごっちゃになりそうなので今回はカットで。大丈夫、まだまだ出番はあるから。

アーリィ初登場。亡国機業が無くなったから、仕方ないネ。


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第115話 京都散策~一夏ルート~

学園祭の時と同じように、前回の一夏視点になります。


駅前で自由行動になってから、俺はカメラ片手に京都の町を散策していた。そして実は、箒達とは別行動だったりする。

 

「せっかくだし、今回はみんな別々の場所に行かない? 二人一組で行動するように言われてるわけだし」

 

きっかけはシャルのこの言葉だった。確かに千冬姉も解散前にそう言ってたな。……陸達は3人で回ってたって? そこはツッコんじゃいけない。藪蛇どころか別のナニカが出てきかねない。

 

「なるほど。……で、誰が一夏と一緒に散策するんだ?」

 

「「「「……」」」」

 

ああ、またみんな黙っちまった……。

箒達は5人。俺を含めると6人だから、ちょうど二人組が3組できるわけだ。……つまり、また新幹線の座席争いみたいなのが始まると。

 

「あ、箒は今回不参加ね」

 

「な、なぜだ!?」

 

「だって箒、新幹線の中で一夏とイチャイチャしてたでしょ。順番だよ、じゅ・ん・ば・ん」

 

「確かに」

 

「一理ありますわね」

 

「ぐぅ……!」

 

シャルの指摘に鈴とセシリアが同調したことで、俺争奪戦の不参加(強制)が決定した。

俺知ってる。こういうのって、当事者である俺が口出すと余計にややこしくなるって。女尊男卑とか関係なく、男って、悲しいな……。

 

「「「「じゃーんけーん、ポン!」」」」

 

そして、今俺の隣には……

 

 

「やってやりましたわぁぁぁ!」

 

一人勝ちをしたセシリアが、俺と腕を組んで歩いていた。

ちなみに俺はカメラマン役も兼ねていて、巡ってる最中にみんなと遭遇したら、そこで写真を撮ることになっている。(いい場所を見つけたら、メールが来るらしい)

 

「最近わたくし、いいところがまるでありませんでしたから……」

 

「そうか? 運動会の騎馬戦とか、結構イイ線いってたと思ってんだけど」

 

「ありがとうございます。けれども、最後の更識さんと織斑先生のエキシビションマッチに全て持っていかれましたし……」

 

「ああ……」

 

確かにあれは、なぁ。まさか千冬姉がまたISに乗る姿を見るとは思わなかったし、その千冬姉に更識さんが競り勝つとは夢にも思わなかった。

 

『私はかつて最強だった。だが、その"最強"がいつまでも続くわけではない』

 

マッチ後、倒れた更識さんが搬送される中、千冬姉が混乱した会場を落ち着かせるために色々していたが、そんな中でボソッと呟いたのが今のセリフだった。

 

(千冬姉と言えども、教職を続けながら最強を維持することは難しかった。だから俺も、立ち止まることなく歩み続けないとな)

 

そうじゃないと、俺なんかあっという間に零落(おちぶ)れちまいそうだからな。

 

「あら、一夏さん。さっそくメールが来てますわよ」

 

「おっ、ホントだ」

 

セシリアに指摘されて意識を戻すと、確かにメールの着信音が鳴っていた。差出人は……シャルか。

 

「『すっごい美味しそうなお菓子屋さんを見つけたから来てね』、だってさ」

 

「すごい美味しそうなお菓子……わたくしも気になりますわね。行きましょうか、一夏さん」

 

「ああ」

 

几帳面なシャルが一緒に送ってきた地図画像をスマホに表示させながら、俺とセシリアは目的地に向かって歩き出した。

それにしても、こうやってセシリアと一緒に歩いてると、すげぇ視線が痛い。

 

――弾、お前が昔俺に言った『無自覚な幸せもんがぁ!』ってセリフ、今なら分かるぜ。確かにセシリア達みたいな子達とこうやって一緒にいられる俺は、幸せもんなんだよな。

 

ーーーーーーーーー

 

「一夏~! こっちこっち~!」

 

手をブンブン振っているのはシャルだ。その隣でラウラも手を振っている。

 

「あら、お二人とも……」

 

「おお!」

 

俺とセシリアが驚いたのは、二人が制服とは違う装いだったからだ。

シャルは橙色の着物姿、ラウラは紫のドレスを身に纏っていた。京都でドレス? というツッコミは無しだ。

 

「二人とも、似合ってるぞ」

 

「ほ、ホント? えへへ……」

 

「そうだろうそうだろう」

 

俺の感想に顔を赤くするシャルと、自慢げにポーズをとるラウラ。お、シャッターチャンス!

 

――カシャッ

 

「き、急に撮らないでよぉ! 一夏のいじわる~!///」

 

「ふふん、私は常に臨戦態勢だ。いつ撮っても構わんぞ、嫁よ」

 

ははっ、やっぱりシャルとラウラは対照的というか……ん?

 

「む~……」

 

俺の制服の袖を引っ張って、セシリアがやきもちを焼いていた。昔の俺なら『どうしたんだ?』とか言い出すんだろうが、今の俺なら分かる。

 

「ほらセシリア、機嫌直せって」

 

そう言って、いつも陸が更識さんにやってるように、セシリアの頭を撫ぜてみる。

 

「し、仕方ありませんわね……///」

 

そう言いながらも、セシリアは嬉しそうだ。

 

「それで、ここって何の菓子を売ってるんだ?」

 

今度はシャルとラウラが不機嫌になる前に、話を元に戻す。

 

「そうそう、ここってお団子が美味しいお店なんだって」

 

「へぇ、そうなのか。セシリア、俺達もここで食べていかないか?」

 

「いいですわね。わたくし、みたらし団子に挑戦してみたいですわ」

 

セシリアも同意したので、4人揃って赤い布が敷かれた腰掛けに座ると、お茶とお団子をそれぞれ注文したのだった。

 

 

その後はシャルとラウラが団子を食べさせ合ったり、セシリアが団子を喉に詰まらせそうになったり、なかなかにシャッターチャンスが多いひと時だった。

 

「さ、さっきのは消してくださいまし!」

 

「これアナログカメラだから、1枚だけ消すとか無理」

 

「そんな~……」

 

団子を喉に詰まられる決定的瞬間を撮られたセシリアを慰めながら(マッチポンプ)、鈴から来たメールの場所に向かっていった。

 

ーーーーーーーーー

 

さて、鈴達がいるであろう場所まで来たんだが……

 

「ここのお店、まだあったんだな」

 

「ええ。ネットで調べたら、まだやってるってあったのよねぇ」

 

そこは以前、中学校の修学旅行で京都に来た時に、鈴に奢った(賭けに負けたともいう)ジェラード屋だった。

 

「鈴さんは、一夏さんとの思い出がありますものね……」

 

「だな。私は修学旅行に行く前に引っ越すことになってしまったからな……」

 

「何言ってんのよ。これから増やせばいいじゃない。ま、あたしも一緒に増やすんだけどね♪」

 

「そう、ですわね(だな)……」

 

鈴のおちゃらけたセリフに、しょんぼりしていた二人に笑顔が戻った。こういうところは、俺も鈴を見習わないとな。反省反省。

 

「さて、俺がみんなの分を買ってくる。何味がいい?」

 

「あら、奢ってくれるの? サーンキュ♪」

 

「そ、そんな悪い……」

 

「いいのよ箒」

 

「そうですわ。殿方が奢ってくださると申しているのですから、女性は素直にご好意に甘えるべきですわ」

 

「そ、そういうものなのか……?」

 

「おう、そういうもんだ」

 

俺も陸と同じ、データ採取の名目で日本政府から補助金をもらってるからな。3人にジェラードを奢るぐらいわけないぜ。というか、さっきシャル達の団子も奢ってるから、ここで鈴達に奢らないのは不公平だろ?

 

「それなら、その言葉に甘えよう」

 

納得した箒が頷くと、3人はそれぞれ自分達の食べたい味を俺に伝えるのだった。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「は、恥ずかしかった……///」

 

「そ、そうですわね……///」

 

鈴達と別れた俺達は、さっきまでの自分達の行動に顔を赤くしていた。

 

「シャルロットさん達がやっていたから、わたくし達もと思っていたのですが……」

 

「どうやら俺達には、ハードルが高かったな……」

 

何をやったかと言えば、『ジェラードの食べさせ合い』をしたのだ。

学園内では『あ~ん』とかたまにやってたから、同じようにいけると思ったんだが……全然恥かしさが違ったな。

 

「どうしたお前達? 顔を真っ赤にして」

 

「ちふ、織斑先生」

 

頑張って言い直したおかげで、山田先生と回っていた千冬姉の出席簿アタックは回避できたようだ。

 

「い、いえ、なんでもありませんわ!」

 

「そうか? ならいいが」

 

「修学旅行も学業の一環ですから、節度を保った行動をお願いしますね?」

 

「いやいや、そんなことしてないですから……」

 

少なくとも、山田先生が思ってるようなことはないですから。

 

――♪

 

そんなやり取りをしていると、突然スマホの着信音(買った直後に設定されてるデフォルト音)が鳴った。

 

「織斑先生、鳴ってますよ?」

 

「ん? ああ、私のか」

 

着信音は千冬姉のスマホからだったようだ。

 

「もしもし……」

 

 

「いきなり何を言い出すんだお前はっ!?」

 

 

千冬姉の驚き声を聞いて、俺は確信した。

 

――通話の相手、絶対陸か束さんだ。




セシリア、一夏と京都を巡る。簪がいない分、一夏をいれてちょうど二人組が3組できるため、こうなりました。そして知られてないかもですが、作者はオルコッ党員です。

カメラマン一夏。これぞ『オリ斑計画』の成果です。原作の鴨川語りにセシリアを混ぜるとおかしくなりそうだったので、同じく原作で鈴が言及していたジェラード屋を出してみました。

一夏、悟る。ちーちゃんが怒り以外で大声を上げる相手って、本作ではほぼ二人しかいないという。


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第116話 やり残し 前編

運動会のエキシビションマッチに続き、ちーちゃん試合回です。
少し短いですが、前後編に分けました。


IS学園にはアクの強いやつが、毎年必ず入ってくる。特に今年は、弟である一夏が入学したものだから、各国も情報収集のつもりなのか、代表候補生を次々に送り込んでくる始末だ。

……と思っていた時期が、私にもあった。

 

「宮下、詳しく説明しろ」

 

目の前には1年4組の生徒。私は1組の担任だが、学年主任も兼任しているから無関係とは言い難い。いや、むしろ夏前のクラス代表戦からこっち、ずっと面倒事に巻き込まれている気がする。

 

「先ほど言った通り、アーリィと勝負してやってください」

 

ああ、確かにさっき言ってたことと、同じことを言ってるな!

すっと、視線を宮下から隣に向ける。

 

「チフユ、久しぶりなのサ」

 

「ああ。だがお前、その右目と右腕は……」

 

私がこのイタリア国家代表と戦う()()()()()時は、隻眼隻腕ではなかったはずだが……。

 

「ああ、あの大会の後、『テンペスタⅡ』の起動実験に失敗してネ、ご覧の有様サ。とはいえ、チフユとの勝負にはさほどの影響もないネ」

 

「いやお前、まだ勝負するなんて……」

 

「織斑先生」

 

「なんだ、更識姉」

 

「この勝負、引き受けてください」

 

「はぁ?」

 

どうして真剣な顔をしてそんなことを言い出す?

 

「実は……」

 

更識姉はアーリィにと出会ってからの経緯を話し始めて……そして早速頭が痛い。

 

「私と勝負したいがために亡国機業に入ろうとしてたぁ!?」

 

「ま、国を捨てる決心をした時には、先方が潰れてたらしいんだがネ」

 

「そういう問題じゃない!」

 

どうして私と戦うために、テロリストになるんだ! 理解不能!

 

「なので、未来のテロリスト予備軍を更生させるために、勝負を受けてください」

 

「……」

 

納得は出来んが、理解は出来た。つまり、第2の亡国機業を生まないために、こいつの要求を受けろと。

 

「しかしなぁ……突然勝負しろと言われても、ここはIS学園ではないんだぞ? ISを展開・模擬戦が出来る場所など……」

 

 

「そんなことがあろうかとぉ!!」

 

 

「束……」

 

そうだった。こんなトラブルに、奴が絡んで来ないはずがない。

 

「りったん、ちょ~っと手伝ってくれる?」

 

「またかぁ? まぁ乗り掛かった舟だし、仕方ねぇか」

 

「あっ、かんちゃんとチェシャ猫ちゃんも手伝ってもらうよ」

 

「「え?」」「何?」

 

宮下だけでなく、更識姉妹も?

 

「束、一体何をする気だ……?」

 

聞きたくないが、聞かねばならんだろう……。

 

「ふっふ~♪ 簡単な話だよちーちゃん」

 

 

「戦える会場が無いなら、作っちゃえばいいのさ♪」

 

 

ーーーーーーーーー

 

突然だが、京都府には海がある。

北の丹後地方が日本海に面していて、海水浴場も複数存在している。

そんな丹後地方のある京丹後市の沖、10kmのところに

 

 

突如ISアリーナが現れたんだから、住民は驚くしかないだろう。

 

 

「……どうしてこうなった」

 

ケイシー先輩が呟いたその一言が、IS学園全校生徒の気持ちを代弁していた。

 

「はぁ……まさか更識家の力を、こんなことに使う日が来るなんて……」

 

アリーナのピットで、刀奈が疲れた顔をしながら『想定外』の扇子で扇いでいた。

 

今刀奈が言った通り、更識家の力を使って京都府のお偉いさんに『沖合の使用許可』をもらい(脅し)、束が拡張領域から資材を大量放出。そしてそれを、俺と簪が全力で組み立てた結果がこれである。

俺も簪も頑張った。マジ頑張った。日が暮れる前に完成させた自分達を褒めてやりたい。

 

「篠ノ之博士は分かっていましたが、やはり宮下さんも頭おかしいですわ……」

 

「まぁ、りったんだからね~」

 

おいオルコットとのほほん、どういう意味だ。

 

「さぁちーちゃん、これで心置きなく戦えるね?」

 

「いや、お前ら……」

 

まさかの力技に、織斑先生も困惑で顔が歪んでいた。

 

「ちなみに本国(イタリア)に連絡したら、『初代ブリュンヒルデとの戦闘データが取れるならやってよし』って許可もらえたヨ」

 

「ぬあぁぁぁぁぁ!」

 

「ち、千冬姉! 落ち着いて!」

 

完全に退路が塞がれて、織斑先生ご乱心。一夏の声も聞こえやしない。

 

「ほら先生、観客も待ってますから、早く準備してください」

 

「陸、お前鬼だな……」

 

そんなこと言っても一夏、本当に観客席は満員御礼なんだって。なにせ京都府に許可をもらった時のあちらの条件が

 

『府民が優先的に観戦できること』

 

だったからな。キャノンボール・ファストでは遠くて見に行けない府民に見せたいんだと。おかげでさっきも言った通り、1万人収容できる観客席はIS学園の全校生徒を含め、満員御礼だ。

 

「くっ……! 分かった、腹を括ろう」

 

そう言って織斑先生は、待機状態にしていた桜花を展開すると、アーリィも自分のISを展開して、カタパルトに乗ってアリーナに向けて出撃していった。

 

あのIS、アーリィの欠けた腕を展開した装甲で義手みたいにしてたな。なるほど、ああいう使い方もあるのか……。

 

ーーーーーーーーー

 

カタパルトから射出されてアリーナ中央の空中に留まると、チフユも私と向かい合うように空中に留まったネ。あれが話に聞いていた、チフユの新しいIS……。

 

「すまんが、ブランクが長いものでな。束が作った最新鋭とはいえ、お前を満足させられるかどうかは分からん」

 

「そんなの気にしないサ。手を抜きさえしなければ、私としては満足だヨ」

 

そう、私が望むのは、手加減なしの真剣勝負。ただそれだけサね。

 

「むしろ私のIS『テンペスタ』は第2世代機、ちょうどいいハンデサ」

 

「そうか……いいだろう。あの日、一夏を助けるために試合を棄権したことに対して後悔は無い。だが、あの時やり残しがあるなら、今ここで片付けるとしよう」

 

「そうこなくっちゃネ!」

 

チフユが機体左側にマウントされているブレードを構えるのに合わせ、私も右腕の義手から風の槍を生成して構える。

 

 

そして、試合開始のブザーが鳴った――

 

 

「征くぞ!」

 

「応なのサ!」

 

チフユが突っ込んでくる軌道に対して、手に持った風の槍を投擲する。その槍をチフユは少しブレードを傾けただけで、明後日の方向に弾く。やるネ!

 

「まだまだ征くヨ!」

 

間髪入れず、風の槍を次々に生成しては投げる。チフユの武装は接近特化。まずは近づけないことが肝要サ。

 

「うぉぉぉぉぉぉ!」

 

右腕の義手、機械の力で人間の限界を超えて投げられる槍を、チフユは余さず弾いていく。

 

「チフユ、本当に人間なのサ?」

 

「馬鹿が。どう見ても人間だろう」

 

いやぁ……生身の人間が、あの数の風の槍をブレード一本で弾き切るとか、普通あり得ないんだがネぇ……。

 

――ワァァァァァァッ!

 

観客席の方も、私の心のように盛り上がってるようだネ。

 

「これじゃあ埒が明かないネ。ここは私が先に、切り札を切るのサ!」

 

「っ!」

 

私の両脇に風が集まり、やがて()()()()()を作り上げていく。

 

「懐かしいな。貴様の単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)……」

 

「そうネ! これが私の切り札『疾駆する嵐(アーリィ・テンペスト)』サ!」

 

超高速回転の風で作った実体のある分身、躱しきれるかナ?

 

「さて、これで三対一だが、許してほしいネ♪」

 

「御託はいい、掛かって来い」

 

「もちろんサぁ!」

 

分身2体と合わせて、3方向から同時攻撃を仕掛ける! さぁ、どうするネ!?

 

 

「ふんっ!」

 

 

「なっ……!?」

 

超高速回転の風は、装甲はおろかブレードすら削り取る代物。それをチフユは……

 

 

分身を、エネルギー刃で縦一文字に切り裂いた。

 

 

「それは……」

 

「お前に敬意を表して、私も切り札を切らせてもらおう」

 

「零落、白夜……」

 

チフユ・オリムラを最強の座に押し上げた、単一仕様能力。自身のSEを消費することで、あらゆるエネルギーを無効化する諸刃の剣。

 

「さぁ、勝負はまだ決まってないぞ!」

 

「……あはははははっ!」

 

自然に笑いが込み上げてきた。そうサ……これを……これを待っていたのサッ!!

 

「もちろん、まだまだ続けるヨ!」

 

「そうか、なら来い」

 

「応!」

 

斬られた分身を再生させると、私はチフユに――あの日から、望み続けた対戦相手に――向かって吶喊していった。




束、オリ主と更識姉妹を巻き込んでジェバンニになる。さすがは原作のジョーカー、使い勝手が良すぎて、乱用しないか自分でも心配。

ちーちゃんとアーリィの試合開始。正直、第2世代のテンペスタと第4世代の桜花じゃ差があり過ぎると思いますが、そこはそこ、アーリィには頑張ってもろて。


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第117話 やり残し 後編

前話よりさらに短くなっちゃいました。
これなら前後編一回で出した方が良かったのでは……?


アリーナの観客席から見えるジョセスターフ選手は、織斑教諭に若干押し込まれているはずなのに、とても楽しそうに見えます。

 

「どうして……なんでしょう……」

 

「それはあの眼帯が、全力でぶつかってるからだよ。くーちゃん」

 

「え?」

 

突然の回答に振り向くと、そこには束さま――出来損ないの私を引き取ってくださった恩人――がいました。

束さまは私の頭を撫ぜると、クラスの方々が空けて下さった左隣の席にドッカリと座って

 

「いいものだよ、自分の全てをぶつけられる相手がいるっていうのは。束さんにとってのちーちゃんみたいにね」

 

「束さまも、ですか?」

 

「そだよ。もしちーちゃんがいなかったら束さん、この世界を見限ってたかもしれないね。いっくんや箒ちゃんがいても」

 

「そういう、ものなのですか?」

 

「うんうん。くーちゃんも、いつかそんな相手を見つけられるといいね♪」

 

「束さま……」

 

「う~ん、そろそろ"ママ"って呼んでくれてもいいんだよ~?」

 

「そんな、恐れ多い……」

 

「む~……仕方ない、今回は諦めよう! それじゃあくーちゃん、またあとでね~!」

 

最後にまた私の頭を撫ぜると、束さまは席を立ち、颯爽と去って行きました。

 

「クロエさん、篠ノ之博士の娘ってホントだったんだ~」

 

「ねねねっ、いつもはどんな話をしてるの?」

 

「あ、あの……」

 

束さまが去った後、クラスメイトの方々が集まってくるのですが、私は束さまとは……

 

「こらこらみんな~、あんまりくーちゃんをイジメちゃだめだよ~」

 

「いや布仏さん、別にイジメてるわけじゃ」

 

「む~!」

 

「あ、はい」

 

私が困っていると、布仏さん――どうしてあんな、袖がダボダボの制服を着ているのでしょう?――が騒ぎを収めてくださいました。

 

「大丈夫~?」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「みんな、篠ノ之博士やくーちゃんのことが知りたかっただけで、悪気は無かったんだよ~。だからみんなのこと、嫌いにならないでね~」

 

「分かってます」

 

束さまがどれだけ世界に影響を及ぼすお方かも、そんな束さまのことをみなさんが知りたがってることも、承知しています。

 

「それじゃあみんな、仲良くね~」

 

布仏さんは手(袖)を振ると、自分の席に戻って行きました。

 

(自分の全てをぶつけれる相手、ですか……)

 

布仏さんに手を振りながら、私は束さまの言葉を反芻していました。

 

ーーーーーーーーー

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

 

「ふっ!」

 

(アーリィめ、なかなかやる! 零落白夜の弱点を、尽く突いてくる!)

 

三度再生されて突撃してくる分身を、零落白夜で切り裂く。

 

「零落白夜はあらゆるエネルギーを無効化する。けれど自分のSEを消費してしまう分、長期戦には不向きサ」

 

――ガキィィンッ!

 

「かといって、私が風の槍や分身をぶつけるだけだと思われるのも心外さネ!」

 

そう、奴のテンペスタは格闘型のIS。分身を片付けてるのに少しでも手間取れば、あっという間に間合いを詰められて拳が飛んでくる。今は展開装甲で防いでいるが……

 

「それにしても、その装甲は反則じゃないかネ? 尽く防御されて困るヨ」

 

「これが桜花の数少ない装備なんでな」

 

とはいえ、ここままでは奴の言う通り、こちらのSEが底を尽きてしまう。

 

「っ!」

 

分身を斬って、一旦距離を取る。

 

「すまんが、そろそろ終いにさせてもらうぞ」

 

「おやおや、私はもっと戦っていたかったんだがネ」

 

「言っていろ」

 

梅花を正眼に構え、息を整える。更識妹の時と同じ、一瞬で片を付ける……!

 

「本気、みたいサ」

 

「当たり前だ」

 

アーリィもこちらの意図を読んできたのか、風の槍を持って構える。

 

「征くぞ」

 

「来るといいサ」

 

 

 

 

「いざっ!」

 

――ドンッ!

 

 

 

 

瞬時加速で突撃を掛ける私の左右から、風の分身が襲い掛かる。

 

――キィィィン

 

「なぁ!?」

 

アーリィの驚いた声が、ドップラー効果のように聞こえてくる。

驚きもするだろう。

 

 

 

私を攻撃しようとした2体の分身が、同士討ちをして消え去ったのだから。

 

 

 

「勝負っ!」

 

正眼に構えていた梅花を霞に構え直し、そのまま奴の喉元に、突きを叩きこむ。

 

「ゴッガッ!」

 

咄嗟の動きで狙いを外され、それでも中心線を捉えた私の一撃は、テンペスタのSEを一撃で削り切った。

 

「さすが、ブリュン、ヒル、デ、ネ……」

 

具現維持限界(リミット・ダウン)を起こしたアーリィが、そのまま地表に――落ちる前に、なんとか捕まえることに成功した。まったく、幸せそうな顔をして気絶しおって……。

 

『テンペスタ、SEエンプティ。勝者、織斑千冬』

 

――ワァァァァァァッ!!

 

試合終了のアナウンスと共に、観客席からの歓声が全方位から響き渡る。

 

(ああ、久々の感覚だな)

 

かつてモンド・グロッソの場で戦っていた、あの時の感覚が蘇る。未練はないが、振り返れば輝いていたあの日々――

 

 

 

(最初は仕方なくだったが……私にとっても、この"やり残し"を行えたことは幸運だったな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが宮下、おまえは後でシバく。

 

ーーーーーーーーー

 

「……負けた、みたいサ……」

 

目が覚めると、私は布団の上にISスーツのまま寝かされていた。

見覚えはある。日本の京都に来てから宿泊してる部屋、のはず。

 

「満足したか?」

 

「ああ、この上なく」

 

上半身を起こして声のする方に向けると、チフユとの勝負を斡旋してくれた少年が――

 

「……少年、その頭どうしたのサ?」

 

少年――確か2人目の男性操縦者で、宮下陸だったカ――の頭に、三段アイスかと言わんばかりのタンコブが乗ってるネ……。

 

「エキシビションマッチの後、織斑先生にシバかれた」

 

「oh……」

 

聞いた話曰く、私をこの部屋に運んだ後、出席簿の角で叩かれまくったらしい……しかも篠ノ之博士も一緒に。さすがチフユ、容赦ないネ。

 

「ところで、聞いていいかナ?」

 

「ん?」

 

「あの試合、私の分身がチフユを攻撃しようとした時のあれ、なんだったのか分かるかネ?」

 

風の分身の攻撃が、同士討ちを起こしたあれは……

 

「推測で良ければ」

 

「それでいいヨ」

 

「おそらく織斑先生は、分身の攻撃を梅花で釣ったんじゃねぇかな?」

 

こんな感じにな、と言いながら、少年は身振り手振りで説明を始める。だが、その説明通りなら

 

「つまりチフユは、こっちの攻撃を引っ張って、わざと勢い付けたのカ?」

 

「ああ。その際にほんのちょっとブレたベクトルが、最終的には桜花を掠りもせずに反対側の分身を捉えるほどの誤差になったわけだ」

 

「そんなことが……」

 

だが、言われてみれば思い当たる節もある。これは本当に、チフユにしてやられたわけだナ……。

 

「あ~、完敗サ~」

 

起こしていた上半身を、再び布団にダイブ。ついでに両手両足も伸ばして大の字に。

 

「そういうのはやめとけ。ISスーツだからいいけど、着物だったら下見えてるぞ」

 

「あんまりジロジロ見てると、あの青髪のカノジョ達に怒られるヨ」

 

「うっせ。それに言ってることは間違ってないが、ニヤニヤしながら言うことじゃねぇよ」

 

おっと、顔に出てたカ。

 

「心配しなくても、目が覚めたら戻ってくるように言われてるからな」

 

そう言って、少年は立ち上がると部屋を出て――行こうとして、一旦戻ってきた?

 

「忘れるところだった。これ、写しな」

 

「写し?」

 

何のことか分からず、渡された紙を反射的に受け取っていた。

 

「そんじゃ、()()()

 

紙を受け取ったのを確認すると、今度こそ少年は部屋を出て行った。

 

「相変わらず不思議な少年だったネ……ん゛ん゛!?」

 

ふと渡された紙を見た私から、普段出さない声が出たんだガ!?

 

 

『IS学園 雇用契約書』

 

 

「IS学園の教師って……しかも私のサインと押印!? いつの間ニ!?」

 

書類には書いた覚えのない私のサインがされ、拇印が押されていた。 うわっ、親指がうっすら赤くなってるヨ!

え? もしかして私が気絶してる間にサインを偽造して、勝手に拇印を押したのカ!? 犯罪じゃないのサ!

 

――ガサッ

 

「紙が、もう一枚?」

 

『お前が望んでいた勝負を受けてやったわけだが、私にメリットがないのは不公平だろ? だからお前には、しばらくIS学園で仕事をしてもらうぞ。

なにせ学園は万年人手不足でな。特に世界大会に出られるほどの人材は、喉から手が出るほど欲されてるんだ。

どうせテロリストになる気だったんなら、堅気の仕事をして私を楽させろ。

織斑千冬』

 

契約書に重なっていたらしい、もう一枚の紙を見て、思わず目眩がしそうネ……。

 

(けどこれは、考えようによっては好機なのではないカ……?)

 

IS学園にはチフユがいる。その学園の教師になれば、チフユとの再再戦の機会も……?

 

「ふふふ……やってやる……やってやるヨ!」

 

そうと決まったら、さっそくチフユのところに――!

 

「おぐっ!」

 

急に起き上がったせいなのか、チフユに一撃入れられた胸元が痛み出して、しばらく布団の上を転げ回ることになってしまったのサ……。




決着。さすがにちーちゃんは強かった。簪? あれはイレギュラーだから……。

アーリィ、教師にさせられる。スコールが社長の椅子に縛り付けられて学園を抜けることが確定しているので、その代わりをちーちゃんは求めていたのだ……。

次回、もしかしたら原作のマッサージ回。


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第118話 マッサージ・センシティブ

サブタイまんま。そして一夏回です。


世紀の試合が終わり、IS学園の生徒達を乗せたシャトルバス(急遽チャーターされたものらしい)は、今夜泊まる旅館の前に停車した。

 

「それにしても、すごい試合だったよね~!」

 

「前回のモンド・グロッソで見られなかった、幻の対戦でしょ? それを見れた私達ってラッキーじゃない?」

 

「そうそう! やっぱり織斑先生強かったねぇ!」

 

荷物を持ってぞろぞろと下車するクラスメイト達が言ってるように、俺もまさか修学旅行に来て、また千冬姉の試合を見ることになるとは思わなかった。

しかもその試合のために沖合にアリーナを作るとか、束さんは一体何考えてんだ? 陸達も陸達で、一夜城よろしく作っちまうし……。

 

「どうしたのだ一夏?」

 

「いや、あのアリーナ、どうすんのかなって」

 

「確かに……姉さんも宮下達も、試合後にすぐ解体する素振を見せなかったからな……」

 

さすがにあのサイズの建物を沖合に放置はしないと思うけど……。

 

「その辺は抜かりない」

 

「織斑先生」

 

箒と話していると、旅館の入り口から千冬姉がいつものスーツ姿で出てきた。対戦相手の、えっと……アーリィ選手? を運ぶとか言っていなくなってたけど、先に旅館に着いてたのか。

 

「それで織斑先生、抜かりないとは?」

 

「うむ、あのアリーナは上部部分のみ解体して、下部のフロート部分は残すことになっている」

 

「フロート?」

 

「フロートって……あのアリーナ、フロートの上に建ってたんですか!?」

 

「さすが篠ノ之博士、とんでもないことをしますわね……」

 

俺が首を傾げていると、後からバスを降りてきたシャル達がすげぇ驚いていた。そんなに驚くことなのか? と思っていたら

 

「いいか嫁よ、フロートというのは簡単に言えば(いかだ)のようなものと思えばいい」

 

「いかだ!? あんなデカイのが!?」

 

「そうだ。そのいかだの上に、ISの試合ができるアリーナを建てていたんだ、あの宮下達は」

 

ラウラの説明に、俺も驚くしかない。箒も隣で驚いているのか、声が出ないようだ。

 

「いやいやいや……だって試合中、全然揺れもしてなかったぞ?」

 

「あれだけの重量物(アリーナ)が上に載っているのだから、揺れはしないだろう。むしろそれだけの物が載っているのに、どうして沈まなかったのか……」

 

少なくとも、ラウラが首を捻るぐらいには謎技術ってわけだ。

 

「今後フロート部分を、海産物の養殖場として再利用するそうだ」

 

「はぁ……」

 

それはまた、壮大な話で。というか、そのフロートの資材は束さんの持ち出しだったみたいだけど、回収しなくて良かったのか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「どうしてこうなった」

 

俺はそう呟いていた。

 

「さあ一夏」

 

「一夏さん」

 

「いーちか♪」

 

「一夏ぁ」

 

「嫁よ」

 

「いっくん♪」

 

俺の目の前にずらっと並ぶ、浴衣姿の6人。そして

 

「さぁ時間は有限だ、キリキリ片付けろよ」

 

缶ビール片手に面白そうに囃し立てる、マイシスターの姿があった……

 

 

 

事の発端は、風呂上りに瓶牛乳を飲んでいたら、同じく風呂上りの千冬姉と遭遇したことだ。

 

「織斑、悪いんだが頼みがある」

 

「頼みですか?」

 

「ああ、こっちに来い」

 

「は、はい」

 

そうやって連れてこられた先には、『教員室』の張り紙が貼られた襖が。

 

「さぁ、入れ」

 

言われるがまま部屋の中に入ると、千冬姉は備え付けの小型冷蔵庫からビール缶を取り出してプシュッ! と景気のいい音をさせると

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁ!」

 

勢いよく呷り出したんだが? いいのかよ?

 

「気にするな。今日の仕事は終了した。あとは山田先生とスコール達に任せてある」

 

「お、おう……」

 

「それで一夏、頼みなんだが」

 

俺のことを"一夏"と呼ぶってことは、生徒としてではなく、弟しての頼み事ってことか。

 

「今日の試合はさすがに疲れた」

 

「そうだろうね」

 

「で、だ。私も自分の体を労わってやりたいと思っているわけだ」

 

「それでビールを飲んでるんじゃ?」

 

「内側はな。外からも体を癒してやる必要がある」

 

そこまで言われて、千冬姉が何を言いたいか段々分かってきたぞ。

 

「つまり『マッサージしろ』ってことか」

 

「うむ。察しが良くて私は嬉しいぞ」

 

ニヤッと笑うと、千冬姉は敷かれていた布団の上にうつ伏せに寝転んだ。

昔はよく仕事から帰ってきた千冬姉にマッサージしてたけど、最近はまったくやってなかったな。

 

「久々だから、最初は軽めからするよ」

 

「ああ、お前に任せる」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「千冬姉、久しぶりだから緊張してる?」

 

筋肉が固くなってるな。疲労だけでこれだけ固くなってるなら相当だぞ。

 

「そんなわけあるか、馬鹿者……んっ!」

 

「あ、ごめん。痛かった?」

 

「いや、大丈夫だ。続けてくれ」

 

「はいはい。それじゃあ、ここは?」

 

「つぅっ! そ、そこは……!」

 

あ~、胃腸のツボはやっぱり痛いか。

 

「すぐ(胃腸の動きが)良くなるって。だいぶ(乳酸も)溜まってる感じだし、ね!」

 

「お、おぉぉぉ!」

 

肩のツボを指圧すると、よほど痛かったのか、千冬姉は大声を上げた後にボフンッと枕に顔面から倒れ込んだ。

 

「い、今のはなかなか効いたぞ……」

 

「千冬姉の体が悪いんだから、文句言わない。それじゃ次は――」

 

「いや一夏、少し待て」

 

「?」

 

すくっと立ち上がった千冬姉が、部屋の入口である襖を開けると

 

 

――ドシャァァァァァ!

 

「「「「「「ぐへっ!」」」」」」

 

 

浴衣姿の6人が、部屋の中に文字通り雪崩れ込んできた。

 

「箒達、一体何やってんだよ……? しかも束さんまで」

 

「ガキ共もそうだが、束、お前もか……」

 

「あ、あはは~……」

 

束さんと筆頭に、誤魔化し笑いでどうにか乗り切ろうとするが、千冬姉にそれは効かないだろう。

 

「はぁ……まぁいい、入れ」

 

「「「「「「え?」」」」」」

 

千冬姉のまさかの発言に、6人とも目を丸くする。

 

「そ、それじゃあ……」

 

「お邪魔しま~す……」

 

そう言ってぞろぞろとみんなが部屋に入ると、千冬姉は襖を閉めて

 

 

「で? お前達は襖の前で何をしていた?」

 

 

「「「「「「えぇ!?」」」」」」

 

 

なんだよみんな、なんでそんな顔真っ赤にして驚いてんだよ?

 

「どうせお前達のことだ。私が一夏にマッサージさせているのを、いかがわしいことをしていると早合点したんだろう?」

 

「え? マッサージ?」

 

「今のが、マッサージ……?」

 

「わ、わたくしは分かっていましたわ!」

 

「セシリアだって、『姉弟でなんて、そんなアブノーマルな!』とか言ってたでしょ……」

 

そんなに俺が千冬姉にマッサージしたらおかしいかよ。というか、ホントに一体何を想像してたんだ?

 

「どうせならお前達も、一夏の腕前を味わってみたらどうだ?」

 

「一夏の腕前って……」

 

「マッサージの、ですか?」

 

「ああ。一夏、まだ体力は残っているな?」

 

「俺は大丈夫だけど……」

 

俺がそう答えると、目をキラキラさせた6人が……

 

 

 

「さぁ時間は有限だ、キリキリ片付けろよ」

 

そしてここに至るわけだ。

 

「やるのはいいけど、全員まとめては無理だからな? 順番にやってくぞ」

 

「順番か……」

 

「はいは~い! いっくんよろしく~!」

 

「ああっ! ズルいぞ姉さん!」

 

いつの間にか、束さんが布団の上でうつ伏せになっていた。千冬姉の方を見ると、

 

「どうせ全員に順番が回ってくるんだ。先に束をやってしまえ」

 

とのお達し。

 

「分かった。束さん、体から力を抜いてくださいね」

 

「お~け~だよ~」

 

「思いっきりダレてますわね」

 

セシリアが言うように、束さんは布団の上で完全にダレきっていた。その方がマッサージはしやすいんだけどな。

 

「それじゃあ始めますよ」

 

束さんに声を掛けて、俺は手始めに背骨に沿って存在するツボを指圧――

 

 

「あひぃぃぃっ❤」

 

 

「ぶふっ!」「ぬわぁ!」

 

束さんが上げたあられもない声に、千冬姉がビール吹いた。そしてそれを被った不幸なラウラ。

 

「た、たたた、束! 貴様なんて声を出すんだ!」

 

「え、今の束さんが……?」

 

どうやら束さんも、千冬姉に指摘されるまで気付かなかったみたいだ。……グイッと

 

 

「ひぃぃぃぃんっ❤」

 

 

「ね、姉さんが、あんな声を上げるなんて……」

 

「もしかして、一夏のマッサージって……」

 

「ですが、織斑先生はここまでの声は……」

 

「まさかとは思うが、教官は……」

 

「なんだお前達、何が言いたい?」

 

 

「これで声が出ないなんて、ちーちゃんの神経、恐竜並みだよぉ」

 

 

「……っ!?」

 

いやいや、どうしてそうなるんですか束さん。そして千冬姉、どうしてそこで膝から崩れ落ちるんだよ……?

 

「た、試しに、他のみんなもやってもらえばいいよ」

 

束さんがゴロゴロ転がって布団の上を空けると、

 

「そ、そうね。なら次はあたしが試してやるわ」

 

と言って寝転がったから、肩甲骨の辺りを――

 

 

「ふわぁぁぁぁぁぁ❤」

 

 

さっきの束さん以上の艶声だった。

 

「こ、こりぇだめぇ……だめになっちゃうぅ……」

 

ピクピクと軽く痙攣する鈴。自分でやっといてなんだけど、大丈夫か?

 

「つ、次は僕だね……」

 

「あの、シャル? 今の鈴を見て無理しなくても……」

 

「やるよ! 一夏よろしく!」

 

「お、おう」

 

そこまで言われたら仕方ない。確か横腹にもツボが――

 

 

「きゃぁぁぁぁぁぁっ❤」

 

 

鈴と負けず劣らずの声が出た。

 

「あ…ひっ…ふわぁ…❤」

 

あれ? 俺って確か、普通のマッサージしてるんだよな? 自分でも不安になってきたぞ。

 

「なんか、もうやめた方がいい気が……」

 

「ここでやめるのは男らしくないぞ一夏!」

 

「マッサージやめたら男らしくないのかよ!?」

 

始めて言われたぞそんなこと!

 

「さあ次だ!」

 

布団の上から動けないシャルをゴロンと転がして、そこに箒が横になる。分かったよ、やればいいんだろ!

え~っと、箒なら肩コリとは酷そうだからここを――

 

 

「らめらぁぁぁぁぁっ❤」

 

 

……だからやめようって言ったのに……

 

「次はわたくしですわ!」

 

――コリッ

 

 

「あぁぁぁぁんっ❤」

 

 

「即落ち2コマとは、やるねぇ……」

 

いや束さん、何がやるんですか、何が。

 

「ふむ、最後は私だな!」

 

最後に残ったのはラウラ。千冬姉にかけられたビールを洗い流しに行ってたらしい。

 

「ラウラ、本当にやるのか?」

 

「ここまで来て、私だけ体験しないわけにはいかないだろう?」

 

ここまでの惨状で、どうしてウキウキしながらうつ伏せになれるのか……。

 

「それじゃ、始めるぞ?」

 

「ああ、頼む!」

 

そんなラウラの足、ふくろはぎにあるツボを――

 

「お、おおぉぉぉっ!?」

 

おや? 他のみんなと反応が違うな。

 

「こことかどうだ?」

 

膝の裏やくるぶし近くにあるツボを順々に指圧していくと

 

「お、おお。こ、これが、痛気持ち、いいと、いうもの、か」

 

どうやらラウラだけは、他のみんなと感覚が違うようだ。これなら――

 

「あ、ああ~。この指圧された直後に、痛みとコリが引いていくのが、いい~」

 

よっぽど気持ちよかったのか、うつ伏せのままラウラは

 

「すぅ……すぅ……」

 

「寝ちまったか……」

 

しかし困った。

 

「はぇぇぇ……」

 

「はにゅぅぅぅ……」

 

「私の神経は、恐竜並み……」

 

部屋には力尽きたみんなと、崩れ落ちたまま微動だにしない千冬姉。

 

「……仕方ないよな」

 

一人じゃどうにも出来ないと悟った俺は、ひとまず山田先生を呼びに(巻き込みに)行くのだった。




フロート跡地は再利用。現実なら隣の半島から口出しされそうな案件。フロートとはいえ陸地が増えるようなもんですから。

テクニシャン一夏の本領発揮。原作でもアンジャッシュしてたマッサージですが、本作では思い切って微エロくしてみました。けれどラウラの微エロは想像できなかったです……。


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第119話 ただのてぇてぇ

エロくないよ~。センシティブでもないよ~。ちょっと口の中が甘ったるくなるだけだよ~。


後片付けってやつは総じて面倒だ。

 

何かを作ってるときは楽しいが、後片付けが楽しいなんてことはまずあり得ない。

そして作ったものが大きければ大きいほど、後片付けの規模も大きくなるわけだ。

 

「「疲れた~……」」

 

海上のISアリーナ『一夜城』を作ったと思ったら、まさか間髪入れずに解体作業に駆り出されるとは思わんかったぞ。

おかげで俺も簪もみんなとバスに乗ることなく、解体が終わり次第そのままISに乗って京都上空を飛行、旅館に直帰とかいうよー分らんムーブをかますハメになったんだが?

特に俺がアーリィを宿まで運んで戻ってくるまでの間、簪は一人で解体作業してたからすこぶる機嫌も悪くなってたし。

 

「二人とも、ホントお疲れ様」

 

旅館の玄関前で、刀奈が出迎えて、というより俺達が来るのを待ってたようだ。

 

「寒かっただろうに」

 

「いいのよこれくらい。それにしても上部部分だけとはいえ、本当にこの短期間で解体したの?」

 

「簪と二人で頑張りましたともよ……」

 

むしろ上部だけで良かったよ。これで下部のフロートまで全部解体とか言われたら、深夜残業代を請求するところだったぞ。

 

「お姉ちゃん、ご飯……」

 

「お姉ちゃんはゴハンじゃありません! って、疲れたのは分かってるけど、早く大広間に行きましょう」

 

「陸、おんぶー」

 

「いや、俺だって疲れてるんだが……」

 

「おんぶー」

 

「……分かった分かった」

 

問答する元気もなく、俺は簪をおぶると、刀奈の先導で旅館の中に入っていくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

案内された大広間は、いつぞやの臨海学校で泊まった旅館のよりもさらに広かった。

そして『食事中は浴衣着用で正座』という謎ルールもないのか、みんな思い思いの恰好(大体制服か浴衣)で膳に盛られた料理を食べていた。

 

「二人は最後だから、あそこに座ってね」

 

みんなが並んで食べている列の一番端、あの手つかずの膳が俺達の晩飯ってことらしい。

そして簪と俺が座ると、さらにその隣に刀奈が。

 

「ちょい待ちちょい待ち」

 

「何かしら?」

 

「どうして楯無さんも座ってるんですかねぇ」

 

「どうしてって、私もまだ夕食食べないからよ」

 

確かに刀奈の目の前にも、俺達と同じ膳が……っていやいや。

 

「アナタ2年生でしょうが。ここ1年4組の人間が食事する場所。OK?」

 

「生徒会長権限で陸君と一緒に食べるわ!」

 

「職権乱用ぅ!」

 

生徒会の権限って、そんなのに使うもんじゃねぇだろ! 相変わらず自由人だなチクショウメェ!(自分棚上げ)

 

「陸~、早く食べよう」

 

「……そうだな」

 

簪もそうだが、俺も腹が減ってんだ。さっさと食おう。

 

「「「いただきます」」」

 

さて、メニューは刺身に豆腐田楽、味噌汁と漬物、それと茶わん蒸し。そしてさすが京都、漬物は千枚漬か。

 

「う~ん、去年もだったけど、ここの料理は美味しいわね~」

 

「お? もしかして去年の修学旅行も京都だったとか?」

 

「そうよ~。去年は薫子達と見て回ったんだけど、今年は陸君達を優先させてもらったわ」

 

ダチよりこっちを優先させちまったのか、なんか悪いな。

 

「そっか。あんがとな」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

「陸」

 

「ん? どうした簪」

 

視線を右の刀奈から左の簪に移すと

 

「食べさせて」

 

まるで親鳥から餌をもらおうとする、雛鳥と化した簪が。

 

「……簪さんや、さすがに箸持つぐらいの体力は残ってるんじゃありませんかねぇ?」

 

「早く」

 

「……ほら口空けろ~」

 

そうそうに抵抗を諦めて、俺は簪の膳から刺身を取ると、簪の口の中に入れて食べさせる。

 

「んぐんぐ……美味しい」

 

「簪ちゃん、どんどん躊躇いが無くなってるわね……」

 

「ああ。その内のほほん化しないか心配でならない」

 

勘弁してくれよ、ISに乗ってない時は俺のアシストが必須とか。

 

「それは心外。今日は特に疲れたから別」

 

「さよけ……」

 

「それに、運動会の時も似たようなことはしてた。お姉ちゃんも一緒に」

 

「そ、それを言われると……」

 

「言い返せねぇ……」

 

確かにしてたな、3人で食べさせ合いとかいうトンデモ昼飯。あの時はイベントテンションでやってたわけだが、今思い出すと、我ながらよく出来たもんだな。

 

「り、陸君」

 

「ん?」

 

「あ、あ~ん……///」

 

「……」

 

刀奈よ、そんな顔を真っ赤にしてまで無理しなくていいんだぞ?

 

「陸、早く食べてあげるのがせめてもの情け」

 

「情けってお前……んぐ」

 

さすがにこれ以上刀奈をこのままにするのは可哀想だったから、向けられた田楽を一口かじる。うん、焼けた味噌が香ばしくていいな。

 

「(あの周辺だけ、めちゃくちゃ空気が甘いぃぃぃ!)」

 

「(くぅぅぅ! 更識さんが羨ましいけど、お似合い過ぎて嫉妬する気すら起きないぃ!)」

 

「(さすが簪さん! 私達に出来ない事を平然とやってのけるッ!)」

 

「「「「(そこにシビれる! あこがれるゥ!!)」」」」

 

いやお前ら、小声でもそんだけ騒げば聞こえるからな?

 

「陸、次はよ」

 

それでもブレねぇ簪、さすがやでぇ……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

簪に食べさせながら晩飯を終えた俺は、今夜は珍しく湯船に浸かりたいと思い男風呂に――

 

「陸君、貴方もこっちよ~」

 

行こうとして、刀奈に手を引かれて男風呂をスルー。

 

「いや楯無さん? 俺風呂に」

 

「だから、お風呂はこっちなのよ」

 

「うん、こっち」

 

「簪もかよ。まさか、女風呂に連れてく気じゃねぇだろうな?」

 

さすがにそれは無いよな? もしそうなら一夏だって逃げる。俺だって逃げる。

 

「大丈夫だって~」

 

だから、何が大丈夫なのか説明しろぉ!

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

そうして俺が連れて来られた場所は……

 

「いい湯……」

 

「ホント、温まるわね」

 

「いやまぁ確かに、いい湯ではあるんだが……」

 

『家族風呂』。要は貸し切り湯なんだが、刀奈がその家族風呂を予約していたらしく、現在俺達は水着着用で3人並んで湯船に浸かっている。

 

「でも、水着とか今更」

 

「ごめんなさい簪ちゃん、裸はお姉ちゃんが恥ずかしいの」

 

「恥ずかしいのになぜ予約した?」

 

「仕方ないじゃない! 憧れだったんだから……

 

そんなこと言ってんじゃねぇよちょっと可愛いと思っちまったじゃねぇか。

 

「お姉ちゃん、可愛い」

 

「か、かわっ!///」

 

ここで簪の追撃が入る。俺が敢えて言わなかったことを……。

 

「お姉ちゃんも、もっと積極的に行っていいんだよ?」

 

「せ、積極的って言っても……」

 

「出会った当初は、簪より刀奈の方が積極的というか、活発だったんだがなぁ」

 

俺の認識では、クラス対抗戦辺りまではそうだったはず。

 

「たぶんそう。けど、幸せになるためには自分から動いた方がいいって、陸と一緒にいて学んだから」

 

「幸せ、か……」

 

簪の言葉を聞いていた刀奈が、オウム返しのように呟く。そして

 

「りーくくん!」

 

「うおっ!?」

 

湯船の中でいきなりしがみ付いてくるなって!

 

「刀奈、背中に当たってるんだが」

 

「当ててるのよ♪」

 

何を今更と思ってるかもしれないが、ベッドの上とは違うんだって。

 

「お姉ちゃん、やっとその気になった。えいっ」

 

「おまっ! 簪もかよ!?」

 

湯船で姉妹に前後から抱き着かれるとか、どこのエ〇ゲーだよ。……まぁ俺も男ですから? 嬉しいか嬉しくないかで言えば嬉しいけど。

 

「でも残念、そろそろ逆上せそう」

 

「そうね、体も温まったし、上がりましょうか」

 

「だな」

 

 

 

こうして家族風呂を満喫した俺達だったが、

 

「「あ」」

 

「「「あ」」」

 

ちょうど廊下に出たところで、別の家族風呂から出てきた虚先輩と弾にバッタリ遭遇。え? 虚先輩、まさか修学旅行でも逢引きっスかぁ!?

 

「お、お嬢様……」

 

「えっとな陸、これはだな……」

 

俺達に見つかった二人は、こっちが気の毒になるぐらいの慌てっぷりで弁解をしようとしてるんだが、全然言葉が出て来ないらしい。

 

「そ、そうです! お嬢様達こそ、一体何をしてたんですか!?」

 

「な、何って、お風呂に入ってたのよ?」

 

「宮下君を連れてですか!?」

 

「何よぉ、陸君と一緒に入ったっていいじゃない」

 

「なら私達だってOKですよね!?」

 

「誰も悪いなんて言ってないから……」

 

とうとう刀奈が呆れてしまうぐらい、今日の虚先輩はテンパってんなぁ。

 

「ただ、修学旅行中に学外の子と逢引きは、褒められないわよ」

 

「うぐっ!」

 

「いやあの、俺が虚さんに少しでも長く一緒にいたいって言ったから……」

 

弾、虚先輩を庇おうってか?

 

「五反田弾君だったわね? 大丈夫、別に虚を処罰しようって話じゃないのよ」

 

「そ、そうなんですか?」

 

「ええ。とはいえ、他の子達に見つかったら見逃しようが無くなっちゃうから、早いうちにトンズラしときなさい」

 

「は、はい!」

 

弾は直立不動で刀奈に対して敬礼すると

 

「それじゃ虚さん、今度はクリスマスに」

 

「ええ、また、ね」

 

名残惜しそうにしながら、従業員以外立ち入り禁止の通路に消えて行った。あ、そういえば弾の服装、この旅館の従業員だったじゃん。つまりここでバイトでもしてて偶然ってことか?

 

「それでは私もこれで……」

 

「虚さん」

 

「はい!?」

 

名前を呼ばれてビクンッと震える虚先輩に

 

「おやすみのキス、してもらわなくてよかったの?」

 

「簪様ぁ!?///」

 

簪の(精神的)即死攻撃が入った。




アリーナ解体完了。二人が解体作業してる間、束さん帰っちゃったの!? 鬼畜ぅ!

簪、疲れすぎて餌付けを要求。もはやこれぐらいでは、恥ずかしいと思わなくなってます。

家族風呂。ベッドの上でニャンニャンしてるのに、そこで恥ずかしがるの?(下品)


次回、一夏と束のデート回!(断言して自分を追い込んでいくスタイル)


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第120話 束さんデート

前回の宣言通り、一夏と束のデート回です。
シシカバブは有言実行の人間なのです。(今まで付いた嘘から目を逸らしながら)


修学旅行2日目。今日はクラスごとの行動になるらしい。

 

「織斑、お前は例によって撮影班だ」

 

どうしようか考える前に、千冬姉から宣告されてしまった。いやまぁ、いいけどさ……。

 

「うぐぐ……今日こそは私と一緒にと思っていたのに……」

 

「箒さんも、大概諦めが悪いですわね」

 

「そういうセシリアはいいよねー。昨日はほぼ一日中一夏と一緒だったんだし―」

 

「ホントよねー。昨日の夜はほとんど何も出来なかったし」

 

「不覚だ。まさかマッサージの気持ちよさに眠ってしまうとは」

 

「「「「……///」」」」

 

「ん? どうしたんだ?」

 

昨日のことを思い出したのか、ラウラ以外の4人が顔を真っ赤にして俯いちまった。正直、俺も思い出したら……。

 

 

「いっくん、ゲットだぜ~!」

 

 

「のわぁぁぁ!!」

 

突然腕を引っ張られたと思ったら、俺の足が地面から浮いていた。なんだぁ!?

 

「束ぇ! お前一体織斑をどうする気だ!」

 

「ちょ~っといっくんを借りてくよ~♪」

 

え、束さん? そう思って見上げたら、視線の先にエプロンスカートの中が……って馬鹿野郎!

 

「や~ん、いっくんのエッチ~♪」

 

「不可抗力ですっ!!」

 

努めて視線を逸らすと……

 

「束さん、俺の目がおかしくなってないのであれば、ISなしで飛んでません?」

 

「そんなわけないじゃ~ん。ちょっと光学迷彩を起動してるから、目に映らないだけだよ」

 

「はぁ」

 

なんだろう、もはや光学迷彩ぐらいじゃ驚かなくなってる自分がいる。

 

「それじゃみんな、バッハハ~イ♪」

 

「おいコラ束ぇぇ!」

 

怒号を上げる千冬姉や、唖然とするみんなを置き去りにして、俺は束さんに空の上へ拉致られるのだった。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

京都上空に連れ去られること10分ほど、降りた先は昨日セシリアと巡ったルートから少し外れた空き地だった。

 

「とうちゃ~く!」

 

「ええっと……束さん、どうして俺を拉致ったんです?」

 

「ぶ~! 拉致じゃないよ~!」

 

「拉致じゃないって……」

 

何の説明もなく人を連れ出すのが拉致ではないと?

 

「それじゃあどういう理由で?」

 

「それはねぇ……」

 

 

「束さん、いっくんとデートがしたいのだ!」

 

 

「……パードゥン?」

 

「だ~か~ら~! いっくんとデート!」

 

「デート? つまり束さんは、俺と町巡りがしたいと?」

 

「いえ~す! 昨日はくーちゃんと一緒に楽しんだけど、やっぱりいっくんとの思い出も欲しいんだよ♪……ダメ?」

 

「お、おおう……」

 

そ、そんな最後に上目遣いで聞かれたら、断れないじゃないですか……! くそっ、これが(一目)惚れた弱みってやつか!

 

「もぅ、分かりましたよ。デートしましょう」

 

「やった~!」

 

嬉しいのは分かったんで、そんなピョンピョン跳ねないで。だから頭のうさ耳と相まって『紫兎』なんてあだ名で呼ばれるんですよ。

 

「よーし! それじゃあさっそく行こう行こう!」

 

「はいはい……あ、束さん」

 

「な~に?」

 

ぐいぐい先に行こうとする束さんを呼び止めると、俺は束さんの手を握った。

陸や更識さんの惚気に耐えながらも見て覚えて、箒達で実践した『女性のエスコート法』。今こそここで活かすべきだ。

 

「それじゃあ、行きましょう」

 

「う、うん……」

 

さっきの勢いはどこに行ったのか、束さんは顔を赤くして少し俯いてしまった。けれど手を繋いだ方の肩をピッタリこちらに付けてくる。やばい、俺もドキドキしてきたぞこれ。

 

ーーーーーーーーー

 

束さんとのデートが始まった。俺も束さんも言葉を発することなく、ただただお互いの手と腕を密着させながら歩いている状況。うん、マジどうしよう。

 

「あっ」

 

ふと周りを見回すと、昨日鈴達と食べたジェラート屋が目に入った。よしっ、一旦ここでクールタイムだ!

 

「束さん、ジェラート食べません?」

 

「ジェラート? いいよ、食べよう」

 

束さんからもOKが出たから、さっそく2つ買って、片方を束さんに渡す。

 

「あま~い! こういうお店で食べるのって、ホント久々ぶりだよ」

 

「昨日クロエさんと一緒だった時もですか?」

 

「も~いっくん。いくらくーちゃんだからって、デート中に他の女の子の話題を出すのはタブーだぞ~」

 

「あっ、すみません」

 

鼻をチョンと押されて注意されてしまった。確かに箒にもよく注意されてたな。反省。

 

「それで、くーちゃんと一緒だった時だっけ? くーちゃんの場合、こういったお店より、お寺とか工芸品みたいなものに興味があるみたいだったよ」

 

「工芸品、ですか?」

 

「うん。昨日も京つげぐしって櫛をお揃いで買ったんだよね~♪」

 

「櫛ですか。確かに束さんもクロエさんも、髪長いですからね」

 

クロエさんの髪を、束さんが梳く姿を幻視した。もしかしたら近い将来、本当にあり得る光景なのかもしれない。

 

「ふふっ、それなら束さんの髪を、いっくんに梳いてもらおうかな~?」

 

「いいですよ」

 

「ぴゅっ?」

 

まさか俺が二つ返事するとは思わなかったのか、束さんが固まった。

 

「そ、それじゃあ、今度やってもらおうかな……」

 

横髪を弄りながら、ちらちらこちらを見る束さん。こんなに可愛い姿を見るの、今回が初めてだ。

そうしている内に溶け始めたジェラートを、俺達は慌てて食べるのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

クールタイムどころかお互いドキドキが止まらなくなった状態で、次に俺達が立ち寄ったのが清水寺……だったのだが。

 

「人っ子一人いないね~?」

 

「そうですね」

 

束さんと二人、不思議に思いながらも敷地に入ろうとしたら、一人の女性が慌てた様子でやってきた。

 

「ちょっとちょっと! 今映画の撮影中だから立ち入りきん……って、織斑一夏!?」

 

あの、注意するか驚くか、どちらかにしてもらえないですか?

 

「立ち入り禁止なんですね、お邪魔しまし……」

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!」

 

「「は?」」

 

回れ右して帰ろうとしたら、腕を掴まれていた。

 

「君にスペシャルゲスト役で出てもらえば、前評判で話題沸騰間違いなしよ!」

 

「いや、ちょっと……」

 

なんかよく分からないことを言われながら、俺はズルズルと敷地内に連れ込まれていった。束さん、付いてくるんじゃなくて助けてくださいよ!

 

 

「スペシャルゲストをお連れしました~!」

 

張り詰めた空気の撮影現場だったが、俺達の姿を見た途端、女性陣・男性陣ともに『おおっ!』と声が上がった。ええ……?

 

「本物の織斑一夏君だ!」

 

「おお、我らが男達の希望、織斑一夏!」

 

「監督! 俺主役から降りるんで、彼に主役を! それと織斑君、あとでサインもらえないかな? いとこが君のファンでね」

 

な、なんか役者の人達が言い出したんだけど!? ダメだろそれは!

 

「う~む……」

 

そんな中、監督と呼ばれていた無精ひげの男の人だけが、首を捻っていた。さすがに役者を急遽追加とか無理ですよね?

 

「やっぱりダメですよね? それじゃあ俺達はこれで……」

 

「ヒロイン、君にきーめた!」

 

ずびしっ! と監督が指さしたのは……束さんだった。

 

「へ?」

 

突然のことに、束さんもぽかーん。

 

「脚本を30分で書き直す! スタイリスト準備! あとは撮影しながら各自対応できるように待機!」

 

あれよあれよという間に、俺達の意思を完全に無視して話は進んでいった。

 

 

 

 

「さぁ、追い詰めたぞ!」

 

清水の舞台を背に、ドレス姿の束が黒服サングラスの男達に囲まれていた。

 

「諦めて私と結婚するんだなっ! がっはっは!」

 

いかにも悪の親玉と言わんばかりの男が高笑いすると、

 

「あの人は風。留まることを知らない人。ならば私も風となりましょう」

 

束は毅然とした表情でそう告げて、清水の舞台から飛び降りた。

 

「何っ!?」

 

慌てた親玉が走り寄り下を覗き込む。

 

――ブォ!

 

「なぁぁ!?」

 

突然下から吹き上げた風に驚いた親玉が次に目にしたのは、束をお姫様抱っこして飛翔する、白式に乗ったタキシード姿の一夏だった。

 

「ああ、私の愛しき人……風になって迎えに来てくれた……」

 

「私は風。君が呼ぶならどこへでも駆けつけよう」

 

そして二人は京都の空へ飛び立っていった。

 

 

 

 

「カァァァット!」

 

監督の大声が響く。そして監督が頭の上で丸を作ると、

 

「「「「お疲れさまでしたぁ!」」」」

 

全員大拍手で撮影が終わった。

 

「いやぁ! 急な配役、よくやってくれたよ!」

 

「ホントですよ……」

 

タキシードから急いで学園の制服に着替えた俺に、監督が肩を叩きながら声をかけてくれたけど、マジで勘弁してくれよ。

しかも撮影でIS使うとかどうなんだよ。しかもわざわざIS学園に確認取ったらOK出たとか、ホントかよ……?

 

「いっくん、カッコ良かったよぉ♪」

 

「うぐっ、ありがとうございます……」

 

いつものエプロンドレスに着替え終わった束さんが、俺の正面からハグしてきて、む、胸が……。

 

「ははっ、君も年頃の男の子なんだね。その人、もしかして彼女かい?」

 

「違いまーす」

 

「おや、違うのかい?」

 

「束さんは、いっくんのお嫁さんでーす!!」

 

「束さん!?」

 

そんなここで宣言しなくていいですから! しかも顔真っ赤にしてまで言う!?

しかも周りの人達が『ヒューヒュー!』とか囃しててくるし!

 

「そ、それじゃあ皆さん、俺達はこれで~~~!!」

 

これ以上騒ぎが大きくなる前に、俺は束さんを抱えて清水寺から脱兎のごとく逃げ出した。

 

 

 

「ねぇ監督。さっき織斑一夏君が呼んでた『束さん』って……」

 

「いやいや、まさか……」

 

「私、従妹がIS学園に通ってるんですけど、そこで聞いた特徴と一致してるんですよねぇ……」

 

「……」

 

 

「「「「まさか、篠ノ之束博士!?」」」」

 

 

 

……気付かれる前に逃げ出せてよかった……。

 

ーーーーーーーーー

 

這う這うの体で逃げ出した俺達が辿り着いたのは、京都市内の河原だった。

 

「まったく……どうしてあんなこと言ったんですか」

 

「だって……」

 

問い詰めてみたら、束さんが拗ねたような顔をしてきた。

 

「だって、不安だったんだもん」

 

「不安?」

 

「束さん、ちゃんといっくんに愛されてるか不安だったんだもん。いっくんのお嫁さんになったのだって、箒ちゃん達よりも日が浅いし……」

 

「束さん……」

 

箒達も含め、みんな平等にしていたつもりだったんだけどな。いや、()()だからこそ、束さんは『みんなと差が埋まらない』と思ってしまったのか。これは俺の失態だ。

 

「すみません、束さんの不安に気付けなくて……」

 

「謝らないでよ。今のは束さんの我が侭なんだから。でもそうだね、もし束さんの我が侭を許してくれるなら」

 

そこまで言うと、束さんは自分の口元を指さして

 

 

「いっくんから、欲しいな。そして束さんの不安、取っ払って欲しいな」

 

 

少し潤んだ目の束さんの腰に腕を回して引き寄せると、束さんの唇に自分の唇を重ねることで返答した。

 

「いっくん、愛してる」

 

 

 

ここが鴨川の河原……通称カップル河原だと知ったのは、束さんと一緒に千冬姉からお説教を受けた後だった。




うわ~……自分で書いといてうわ~……何がとは言いませんがうわ~……


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第121話 家に帰るまでが修学旅行です

てぇてぇ話が大半を占めた状態で、修学旅行編終了でございます。


修学旅行最終日。ある生徒はお土産を買い過ぎてカバンの中に入り切らなくなり、またある生徒は今更になって見忘れてた名所を思い出して落胆したり。

そんなある種のドタバタが起こりながらも、行きと同じように貸し切り状態となった新幹線に乗り込んでいった。

 

「みんな乗ったわね?」

 

「「「「は~い」」」」

 

スコールの点呼も終わり、俺も席に座ろうとしたところで

 

「ねぇねぇ簪ちゃん?」

 

「何?」

 

「簪ちゃんの席――」

 

「ここは譲れない」

 

「ぶー! 1回ぐらいいいじゃない!」

 

刀奈の抗議をものともせず、俺の膝の上に座る簪。俺? もう何も言わねぇ。

 

「こうなったら……簪ちゃん、取引しましょ」

 

「取引?」

 

「じゃーん!」

 

「そ、それは!」

 

刀奈が見せてきたのはキーホルダーだった。見た目普通っぽいが、簪が驚くってことはなんか特別なもんなのか?

 

「仮面ラ〇ダー50周年記念・京都限定キーホルダー!!」

 

「そうよ。昨日古物屋に流れてるのを見かけたのよ」

 

そのキーホルダーを、簪の目の前で左右に振る始める。催眠術かよ。

 

「さあ、これとその席を交換しましょ」

 

「うぐぐ……キーホルダー……でも陸の膝の上……ぐあぁぁぁぁ!」

 

「いや簪、そんな頭掻きむしるほど悩むなよ」

 

自分で言うのもなんだが、俺の膝の上にそこまでの価値はねぇぞ。

 

「分かった、譲る……」

 

「やった♪」

 

簪にキーホルダーを握らせた刀奈が、俺の膝の上に。

 

「お、おおお? これはなんというか……」

 

『まもなく発車いたします――』

 

おっと、車内アナウンスが入ったか。

 

「楯無さん、発車時に揺れるんでちょっと失礼しますよ」

 

「え? ひゃぁ!」

 

発車時の揺れって結構デカいんだよな。だから行きの時は膝の上の簪が前に滑り落ちないように、ちゃんと抱えてたわけだ。

んで、今回も刀奈が落ちないように、腕を回して抱えたんだが。

 

「か、簪ちゃん! これ正面から抱き締められるよりドキドキするんだけど!///」

 

「うんそう。だからお気に入りの場所だった……」

 

しょんぼり顔になった簪が、いそいそと俺の左腕をガッチリホールドしてくる。あの簪さん? そんなガッチリホールドされたら、俺右腕しか使えないんだが。

 

「陸君、私が落ちないように、そのまま抱えてて?」

 

刀奈よ、その注文受けたら、俺まったく身動き取れんのですが?

 

「ああ~……幸せ過ぎてダメになるぅ……❤」

 

「うぅ……学園に戻っても陸の膝の上、お姉ちゃんに取られそう……」

 

簪は簪で、なんか腕に甘噛みまでし始めたんだが……。

 

「もう慣れたと思ったらこれだよ……」

 

「まさか会長さんが妹から席を奪うとは」

 

「あれって会長、もう半分イッてるよね?」

 

「そして更識さんの嫉妬心パないわぁ」

 

帰りは大丈夫だろうと思っていたクラスメイト達は、まさかの刀奈のターンに驚愕していた。帰りぐらいは穏やかにならんのかね……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――1年1組の車両

 

「すみません。本当であれば、貴女も織斑一夏争奪戦に参加したかったでしょう」

 

「正直言えばな。ただ、一度お前とも話をしなければと思っていたのだ」

 

突然クロエさんがラウラと話がしたいということで、二人は話の聞かれづらい一番後ろの席へ。

 

「くーちゃん、ガンバ。さあ箒ちゃん、束さん達も姉妹でシッポリ話そうじゃないか!」

 

「ちょっ、わ、私は一夏とぉぉぉぉぉ!」

 

箒も箒で、束さんに首根っこを掴まれて同じく一番後ろに。

 

「シャルロットさん……」

 

「分かってるよ、セシリア……」

 

決意を漲らせた二人の視線の先には――

 

「たまには姉弟でというのも悪くないだろう」

 

マイシスター、千冬姉が俺の隣に足を組んで座っていた。

 

「「か、勝てない……」」

 

しょんぼりした二人は、そのまま俺達の後ろの席に座った。

 

「ふん、少しは抵抗ぐらいすればいいものを」

 

「いやいや、千冬姉に「織斑先生だ」いや、今自分で姉弟って言ったじゃん」

 

「ん、んんっ! で?」

 

「いや、千冬姉に抵抗できる人間が、この学園にどれだけいるってさ」

 

まともに抵抗できるのって、束さんや更識さんぐらいだろ。千冬姉の胃にダイレクトアタックしてるって意味じゃ、陸も含むんだろうけど。

 

「それでも、あいつらは将来私の義妹になるのだろう? なら、一言モノ申すぐらい出来てもらわんとな」

 

「義妹って」

 

「思うところはあるが、お前が決めた以上、私も色々覚悟を決めなければならんからな」

 

「覚悟って、束さんが義理の妹に――」

 

「待ってくれ。そっちはまだ心の整理がついていない」

 

「あ、はい」

 

千冬姉、めちゃくちゃ苦しそうな声で言ってきたんだが。やっぱ同級生が義妹って受け入れがたいのか。でもごめんよ千冬姉、だからって『やっぱあの話は無しで』とか束さんに言いたくはない。

 

「一夏~!」

 

「鈴?」

 

振り返ると、後ろの車両から鈴がこっちにやってきた。

 

「どうした凰? そろそろ発車するぞ。早く席に座れ」

 

「分かってます。というわけで」

 

「おい鈴!?」

 

あろうことか、鈴が俺の膝の上に乗って……!

 

「おい凰、お前一体どういうつもりだ?」

 

「4組の更識が宮下の膝の上に座ってたを見かけました。あれがOKならこれもOKのはずです」

 

「り、鈴、お前……」

 

「……」

 

鈴の発言に、俺も千冬姉も二の句が継げなかった。あの二人、そんなことしてたのかよ!?……いや、してたな。運動会の時とか。

 

「「そ、その手があったんだ(ですの)!」」

 

セシリア、シャルロット。無いから、そんな手無いから。

 

「いいですよね、織斑先生? 前例だってあるんですし」

 

「み、宮下ぁぁぁぁぁ……! はぁ……仕方ない、今回だけ特別に許す」

 

「うそぉ!?」

 

え、許すの? 千冬姉許しちまうのか!?

 

「えへへ~、い~ちか♪」

 

「ちょ、鈴おま」

 

鈴のやつ、思い切り背中を倒してこっちに寄りかかってきやがった。うっ、鈴から石鹸の匂いが……だぁぁぁ! 煩悩滅却!

 

「ほら一夏、落ちないように支えなさいよ」

 

「支えるって……まさか」

 

「そのま・さ・か」

 

「り、りりりり、鈴さん!?」

 

「さすがにそれはライン越えだよ!」

 

「何言ってんのよ。事故らないために必要な処置よ処置。ほら一夏、早く早く」

 

「お、おう……」

 

千冬姉が許可した以上、鈴も引かないだろう。そう腹を括った俺は、鈴を抱きかかえるように腕を回して――

 

「こ、これはやばいわぁ……幸福指数が半端ないぃ……///」

 

「そ、そうか……」

 

「鈴さんの顔、完全に溶けてますわ……」

 

「う、羨ましい……!」

 

「シャル、そんな血涙流すほど羨ましいのか……?」

 

俺にはさっぱり分からん。

とりあえず話題を逸らそうと辺りを見回したら、扉上の電光掲示板に文字ニュースが流れていた。

 

『無人島で爆発。身元不明者が多数死亡』

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――女性権利団体本部、代表執務室

 

「どうなってるのよこれは!」

 

いつも以上にヒステリックに叫ぶ上司の山崎を前に、部下の女はただ嵐が止むのを待つしかなかった。

 

「私達優等種が、あの雄猿に劣るなんてあり得ないわ! そんなこと、あっていいわけが無い!」

 

そうして散々喚き散らした山崎だったが、ある程度怒りを吐き出したのか、執務机の椅子にドッカリを座り込んだ。

 

「それで、状況は?」

 

「はい。第3研究所の施設および人員の損害率は100%、補充は容易ではないかと」

 

GNドライブの設計図を手に入れた女権団は、各国からも秘匿していた研究施設、第3研究所にて開発を進めていた。

そしていざ完成して起動テストを行った直後、謎の大爆発により研究所は崩壊。所員もそのほとんどが()()し、わずかな生き残りも後に全員が死亡した。

 

「幸い研究所は『テロリストの隠れ家』として処理されたため、我々との関与を疑われる心配はございません」

 

「だからと言って、今回の損害は安くないわ」

 

なにせISの開発設備がある秘密研究施設と、開発を行える技術を持った人員を一度に失ったのだから。

 

「原因は?」

 

「残念ながら不明です」

 

「ちっ、使えないわね……いえ、まさか……」

 

「代表?」

 

「まさかこれは、あの下劣な雄猿の仕業?」

 

「え、ええ?」

 

突然の山崎の発言に、部下は困惑した。

 

「そう考えれば辻褄が合うわ。あの爆発も、わざとそうなるような設計図を亡国機業に書かせるように仕向けて……」

 

「まさか……」

 

「おそらくそうよ……いいえ、きっとそうだわ! これは私達優等種に対する宣戦布告よ!」

 

山崎の推測は半分当たっていた。

確かに陸は『ただコピーすると(抵抗器の偽装を見破れないと)爆発するトラップ』を仕掛けてはいた。ただしそれは、女権団を狙い撃ちしたものではなかった。

しかし、根拠なく確信した山崎は止まらない。元々の宮下に対する敵意にパラノイアが混ざり、ますます自分で自分を追い詰めていく。

 

 

『なんとしても、男性操縦者を消さなければならない』

 

 

今まで、組織の命題や自分の地位を守るためという理由で行っていた"それ"。だが、もはやそんなことは言っていられない。宮下を、そして織斑を消さなければ、自分達の命そのものが危ういのだと。本来であれば、織斑一夏はこの件とは何の関係もないのに。

 

「消さなきゃ……宮下陸と織斑一夏を消さなきゃ……」

 

完全に狂気に憑りつかれた上司を、生粋のイエスマンである部下は止める手段を持ち合わせていなかった。




人をダメにするオリ主の膝の上。簪の嫉妬シーンをやりたいがために、選手交代しました。

人をダメにする一夏の膝の上。シャルロットと鈴、どっちにしようか迷った結果、鈴が膝の上に乗ることになりました。身長差的にもピッタリですし。(命知らず)

女権団、やっぱりやらかす。爆発オチなんてサイテー!(フラグ回収)
ちなみに、設計図の精度が杜撰な上に所員の能力も大したことなかったので、GN粒子を発生させられず普通に爆発しました。所詮、倉持技研に生えてた毛を抜いた程度の技術力ですから。


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幕間
第122話 IN バトルジャンキー OUT 元テロリスト


今回から新章となります。
時系列的には11月後半(修学旅行~エクスカリバー)ぐらいを想定してます。


修学旅行先の京都からIS学園に戻ってきた翌日、またまた全校集会が開かれた。なんか最近多くねぇか?

 

「は~いみんな、修学旅行は楽しめたかしら~? 今日はみんなに伝えなきゃならないことがあります」

 

ざわざわし始めた生徒達を手で制して刀奈が横によけると、壇上に登ったのは

 

「ぐっも~に~んぐ! 束さんだよ~!」

 

「「「「ええ?」」」」

 

もうみんな、束が登場しても前ほど驚かなくなってるな。

 

「運動会でも言ってたけど、このIS学園の電力全部、束さんが受け持つことになったんだよ。で、これを機に束さん、会社を立ち上げることにしましたー!」

 

「「「「えぇぇぇ!?」」」」

 

あ、そっちはちゃんと驚くのか。ちなみに俺は刀奈経由で聞いてたから驚きはしない。そしてこの次の内容も想像できる。

 

「そして1年4組の副担任、スコール・ミューゼルを社長に据えることにしたよー!」

 

「「「「えぇぇぇ!?」」」」

 

 

「はいぃぃぃ!?」

 

 

束の爆弾発言に、一番驚いてるのが当の本人であるスコールだった。

 

「ス、スコール!? いつの間にそんな話になったんだ!?」

 

「し、知らないわよ! そんな話、私全然……!」

 

「本人には今日初めて言ったけど、引継ぎとか必要書類とかはこっちで勝手にやっといたから安心してよ♪」

 

「どうしてこうなったのよぉ!?」

 

あ、orzった。

 

「あ、それとオータムもスコールの秘書として栄転ね。みんな拍手~!」

 

「ファッ!?」

 

まさか自分も巻き込まれると思ってなかったのか、オータムも鳩が豆鉄砲を食った顔になった。

 

「でもそうなると、IS実習とかどうするんだろう?」

 

「オータム先生の説明、分かりやすかったんだけどなぁ」

 

「せっかくスコール先生と仲良くなったのにぃ」

 

「ちなみに二人の後任も、ちーちゃんが用意してるみたいだよ?」

 

「「「「え?」」」」

 

束の言った『後任』が壇上に上がる。

 

「やぁやぁIS学園の諸君。ご紹介に与ったアリーシャ・ジョセスターフだヨ。アーリィ先生って呼ぶといいのサ♪」

 

「「「「えぇぇぇ!?」」」」

 

スコール達の件以上に驚いた生徒達の声がハモって、建物内の空気がビリビリ振動した。

そりゃ、現役の国家代表が教師役になったらビビるだろ。

 

「陸、驚いてないけど知ってたの?」

 

「アーリィのことか? ああ、知ってたぞ。織斑先生の指示で、学園との雇用契約書にサイン(無承諾)させたの俺だし」

 

「陸……」

 

いやいや簪、俺悪くないからな? 悪いのは織斑先生だからな?

 

ーーーーーーーーー

 

そんな全校集会があった昼休み、いつ面で学食で飯を食ってたら

 

「そんなこと言わないで、お願いするのサ~!」

 

「ええい! HA☆NA☆SE!」

 

織斑先生に縋りつくアーリィという、なんとも珍妙な場面に遭遇しちまった。

 

「陸……」

 

「見るな一夏、目を合わせるな」

 

きっと碌でもないことに巻き込まれるぞ。

 

「あ、少年! 少年からもチフユに頼んでほしいのサ!」

 

あ~あ。一夏の奴、案の定捕まっちまったよ。

 

「いやあの、話が見えないんですが……」

 

「チフユと再戦したいから、弟である少年からもお願いしてほしいのサ!」

 

「えぇ? この前エキシビションマッチしたばかりじゃないですか……」

 

あまりのバトルジャンキーっぷりに、一夏はおろか、周りのハーレム達もジト目でアーリィのことを見た。

 

「私だって教師の仕事があるんだ! そう何度もお前の相手が出来るかっ!」

 

「そこを何とか頼むヨ~!」

 

振り解こうとする織斑先生をものともせず、ガッチリしがみ付くアーリィ。片腕でよく引き剝がされないな。

 

「だからぁ……そうだ!」

 

「はい?」

 

なんか織斑先生、突然簪の方を指さしたんだが、まさか……

 

「いいかアリーシャ! お前が更識妹に模擬戦で勝ったら、勝負してやろう!」

 

「「「「「「はいぃぃ!?」」」」」」

 

何言い出すんだこの人は!? 簪に勝ったらって……いや、普通にアーリィ負けるやん。(白目)

 

「ほう? そんなことでいいのサ?」

 

「ああ、二言は無い。というわけだ更識妹、頼んだぞ!」

 

「え、ええ?」

 

かき揚げうどんをすする態勢のまま固まった簪の肩をポンポンと叩くと、織斑先生は脱兎のごとく逃げて行った。逃げるのか、この卑怯者!

 

「そうと決まればカンザシ! 私と放課後勝負するのサ!」

 

「いきなり!? どうしてこうなった!?」

 

「すっごい急だね~……」

 

「おっと、急いでアリーナの予約をしなくちゃネ!」

 

「いやあの、まだ受けるなんて……」

 

簪の返事を全く聞かず、アーリィは食堂をダッシュで出て行った。おそらくアリーナ予約のために、職員室まで全力疾走してることだろう。

 

「おう一夏……」

 

「ええっ、これ俺が悪いの!?」

 

お前が巻き込まれなければ、そのままスルー出来たものを……。

 

「簪ちゃん、どうするの?」

 

「こうなったら仕方ない。受けるよ」

 

刀奈の問いに、全身浴したかき揚げを飲み込んだ簪が顔を上げる。

 

「「「「「「っ!?」」」」」」

 

その顔を見た一夏達の表情が凍り付いた。

 

「二度と挑む気を起こさないぐらい、叩きのめす」

 

あ~、簪の奴、結構イラついてるな。

 

ーーーーーーーーー

 

チフユとの再戦を希望したら、条件を出された。その条件を聞いた時、簡単に満たせると思っていた。

それが勘違いだと気付いたのは、放課後にその条件の相手――カンザシ・サラシキと模擬戦をした時だったヨ……。

 

 

 

「さぁさぁ! さっそく勝負といくのサ!」

 

「分かりましたから落ち着いてください」

 

落ち着いてなんていられないのサ! カンザシの乗る打鉄弐式、あれを破ればチフユと再戦……!

 

「それじゃあ、あたしの合図で始めるってことでいいわね?」

 

審判役を買って出た、中国の候補生がそう言って手を上げる。

 

「――始めっ!」

 

「いっくのサぁぁぁぁぁ!」

 

開始の合図とともに風の槍を作って、吶喊をかけようとした

 

――ドッ!

 

「なぁ!?」

 

次の瞬間、カンザシが目の前に! まさか瞬時加速で正面から!?

 

――ドスッ

 

「ごふっ!」

 

腹部への衝撃。それが薙刀の石突で突かれたことを理解したのは、衝撃で後退した際にカンザシの構えが見えたからだった。

刃の部分で切りつければいいものを、よりにもよって石突とは……。

 

「て、手加減とは、私も舐められたものサ……!」

 

チフユとの再戦に浮かれてた油断もあったんだろう。けれどこれでも国家代表、舐められるわけにはいかないのサ!

 

「はぁぁぁぁぁ!!」

 

エキシビションマッチでもやったように、風の槍を生成して次々に投擲していく。

 

「行って、ファング!」

 

――チュィィン! チュィィン!

 

「それが噂のBT兵器サね! でも、この勢いに付いて来れるかナ!?」

 

まさか、チフユみたいに全部捌き切るなんてないだろう。なら――

 

――ヒュンッ

 

「消えっ がっ!」

 

消えた。そう思った時には、私は背後から首を掴まれていた。

 

「すみませんが、私もそう何度もアーリィさんの相手は出来ません」

 

耳元でそう呟かれて、背筋が凍り付くのを感じたヨ……。

なんて、冷たい声を出すのサ……。

 

「ですから――」

 

 

「これで、終わりです」

 

 

「が、ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 

掴まれた首を伝って、全身に流れる衝撃。そして視界の端で見る見るうちに減っていくSE。

あまりの衝撃に気を失いそうになる直前、

 

「勝負あり! 勝者、更識!」

 

私の負けが確定した……。

 

ーーーーーーーーー

 

「ちょっと、()()どうするのよ……?」

 

模擬戦が終わって弐式を待機状態にした私に、凰さんが指さした先には

 

「ううう……! 事前情報より怖かったヨぉぉぉ……!」

 

アーリィさんがアリーナの端で、三角座りしてガタガタ震えていた。

……うん、やり過ぎたかもしれない。

 

「必殺のメメントモリだって、キャノンボール・ファストで使用されたから情報あったでしょうに……」

 

「山嵐もGNファングも、もう各国に知られてるんだよね」

 

「それで『事前情報より』って、一体何を調べてたのか」

 

「ひぐぅ!」

 

「あ、陸がトドメ刺した」

 

「え、俺?」

 

凰さんやデュノアさんに便乗して弄ったら、それが一番刺さったみたい。

 

「お前達、調子はどうだ」

 

「あ、織斑先生」

 

「チフユ~~~!!」

 

「だぁぁぁっ! 今度はなんだぁ!?」

 

さっきまで三角座りしていたアーリィさんが、様子を見に来た織斑先生の腰にしがみ付いた。なんだろう、お昼の再現?

 

「あのカンザシってなんなのサぁぁぁ! 勝てるわけないヨぉぉぉぉぉ!!」

 

「うむ。さすが現・日本代表、私も初代として鼻が高いぞ」

 

「日本代表!? カンザシが!?」

 

アーリィさん、知らなかったんだ。というか、この人を含めて大部分が『日本代表=織斑千冬』って観念があるんだろう。再来年の第3回大会で、その意識を塗り替えられるかなぁ?

 

「さらに非公式ながら、私を破ってもいる」

 

「さらに勝ち目ゼロ!? そんなのを倒さなきゃいけないなんて、なんて条件を突き付けたのサぁ! うわぁぁぁぁん!!」

 

あー、とうとう泣き出しちゃった。

 

「だぁぁぁ! 離れろ! お前達……」

 

「「「「「「お疲れさまでしたぁ!」」」」」」

 

「お前達ぃ!?」

 

私達にアーリィさんを押し付けようと考えてたみたいだけど、みんなそれに気付いて、猛スピードでピットに向かって逃げて行った。

これでアーリィさんも、少しは大人しくなってくれると良いんだけど……。




スコールとオータム、人事異動を直前に知らされる。さぁ、これから束さんに弄られる日々が待ってるよ!(ゲス顔)

バトルジャンキー・アーリィ、簪に分からされる。これ絶対、ちーちゃん楽にならないよね? というか、まーやんの涙が増えると思われ。


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第123話 お姉さんだってデートしたい!

最近そっちネタばっかで申し訳ない……。


アーリィを織斑先生に押し付けた夜、簪と部屋でマッタリしていると

 

――コンコン

 

「どちらさん?」

 

「私よ」

 

「お姉ちゃん?」

 

ドアを開けた先に、寝間着姿の刀奈が立っていた。露出は少ないが、あまり外を出歩くような姿じゃない。

 

「ちょっと入っていいかしら?」

 

「まぁ、いいけど」

 

「やた♪」

 

おいコラ、入っていいとは言ったが、ベッドにダイブしていいとは言ってないぞ。

 

「お姉ちゃん、まさかここに泊まるために来た……?」

 

「せいか~い!」

 

「おい」

 

「というのはついでで、本当の用事は別にあるのよ」

 

「ついでに泊まる気なんだ……」

 

刀奈よ、妹に呆れられてるぞ。

 

「で? 何の用だ?」

 

「んもぅ、せっかちねぇ」

 

 

「明日、デートしましょ?」

 

 

「……突然だな」

 

「お姉ちゃんらしくない……」

 

「らしくないってなによぉ!?」

 

「ヘタレてない」

 

「簪ちゃん!?」

 

ああ、簪は刀奈のこと、そう思ってたんだな。当然俺もだが。

 

「そ、それで陸君、OK?」

 

「いやまぁ、明日は日曜だし、簪のニチアサに付き合った後は特に用事もないが」

 

「じ~……」

 

簪、そんなジト目で見んな。

 

「簪ちゃんも一緒にデートする?」

 

「行く!」

 

「すごい食いつき!?」

 

提案した刀奈の方が驚くぐらい、簪が前のめりに食いついてきた。

 

「それじゃあ、集合は……」

 

「ニチアサは7時半から9時まで」

 

「なら、10時半にレゾナンス前の広場に集合ね」

 

「いいんだが……まぁいいか」

 

『同じ部屋から出発するのに、わざわざ待ち合わせをする必要はあるのだろうか? 』とは口には出さない。簪と付き合ってから、俺、学んだ。

 

「んふふ~♪ 明日が楽しみだわ~」

 

「それは分かったから、大の字になって寝るな。俺と簪が寝れねぇだろ」

 

「この拠点は私が占拠した~!」

 

「まったく、お姉ちゃん……」

 

ホント、まったくだ。テンション上がってガキっぽい言動しやがって。

 

「こうなったら、陸」

 

「ん?」

 

簪が耳打ちしてくる。……なるほど、それでいくか。

 

「二人とも?」

 

「えいっ!」

 

「うりゃ!」

 

「え、ええ!?」

 

大の字に寝転がる刀奈に、簪と左右から腕ごと抱き着く。さらに足を絡ませて固定、完全に抱き枕扱いだ。

 

「退かないから仕方ない。刀奈にはこのまま、俺と簪の抱き枕になってもらおう」

 

「うん。お姉ちゃんもいつも抱き着いてばっかりだから、たまには陸に抱き着かれてみるといい」

 

「しょ、しょしょしょしょんなっ! 二人とも落ち着いて! ね!?」

 

まさか俺達がこんなことをしてくるとは思ってなかったんだろう。顔を真っ赤にした刀奈が抵抗してくるが、そこは簪と協力してガッチリホールド。

 

「それじゃ、今日はもう寝るかー」

 

「そうだねー」

 

「二人とも!?」

 

慌てる刀奈を放って、簪が部屋の灯りを消す。

 

「ひぃぃぃん! 二人の温もりが~~!」

 

「おい、意外と余裕あるじゃねぇか」

 

「ないわよぉぉ! 恥ずかしさと幸せで頭がどうにかなっちゃいそう!」

 

まるで妄想を振り払うかのように頭を振る刀奈。

 

「「可愛い」」

 

「にゅあぁぁぁぁぁ!///」

 

その夜、刀奈は加虐心をそそられた俺と簪によって弄り倒されたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、ニチアサ決めてから集合場所の広場で待っていると、つい1時間前まで一緒に仮〇ラ〇ダーを見ていた二人が現れた。

 

「お待たせ~」

 

「待った?」

 

手を振りながらやってきた二人に、俺も手を振り返す。

刀奈は薄い青のニットセーターに黒のフレアスカート、簪は白のプリーツシャツに青い肩ひもスカートという出で立ちだ。

 

「どうかしら?」

 

「おう、似合ってるぞ」

 

「うふふ、ありがとう」

 

「陸も、いいセンス」

 

「そうか? 雑誌に載ってた服装まんまで、面白味はまったくないが」

 

下がダークグリーンのパンツに、上が白のロングTシャツと紺のニットアウターっていう、典型的な服装だ。

 

「それじゃあ陸君、エスコートよろしくね♪」

 

そう言って、刀奈は俺の右腕に腕を絡めてきた。

 

「私も」

 

簪も左腕を絡めてきて……

 

「陸君?」

 

「どうしたの?」

 

「これ、絶対歩きづらいし悪目立ちするだろ」

 

両手に花ってレベルじゃねぇ。好奇や嫉妬の視線に刺されまくること間違いなしだろこれ。

 

「それは仕方ないわね、私や簪ちゃんって美少女と一緒なんだから」

 

「うん、仕方ない」

 

「自分で美少女言うたよ……否定しねぇけど」

 

「そ、そう……///」

 

「お姉ちゃん、そこで恥ずかしがるなら言わなきゃいいのに……」

 

俺の反撃にタジタジになる刀奈に呆れる簪。そんな二人を伴って、レゾナンスの中を巡り始めた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

その後、少し早めの冬物を買ったり、最近来るようになったらしいキッチンカーでフライドポテトを食べたりしながら、レゾナンスの中を見て回った。

ここに来るのも3回目ぐらいだが、まだ見てないエリアもあるんだよな。なんつー広さだ。

 

「~♪」

 

そんな中、刀奈はさっきから自分の右手を眺めながらニコニコしていた。

 

「お姉ちゃん、嬉しそうだね」

 

「それはそうよ! やっと私も陸君から()()、もらえたんだもの!」

 

その右手薬指には、さっき買ったばかりのリングがはまっていた。

……簪が付けてて、刀奈には無いっていうのは、なぁ?

 

「今だから言っちゃうけど、ホントは簪ちゃんの右手を見るたびに羨ましかったのよ」

 

「そうだったんだ」

 

「それは悪かったな」

 

「いいのよ。ちゃ~んと私ももらえたわけだし!」

 

そういう刀奈の指のリングには、簪のものより透明度の高い緑色の石がはまっていた。

 

「ねぇ陸、お姉ちゃんのリングの石にも、何か宝石言葉があるの?」

 

「あるぞ」

 

簪の指輪を選んでた時、もし店にラピスラズリが無ければ、この石を買ってたと思う。

 

「え、宝石言葉って?」

 

「私の指輪に付いてるのはラピスラズリ。『永遠の誓い』って意味がある」

 

「おお~! なんかかっこいいわね! それじゃあ私のにも?」

 

「お姉ちゃんの石は……ペリドット?」

 

「いいや、刀奈のはスフェーンって石だ」

 

「聞いたことないわね。それで、この石の意味は?」

 

「それはだな……『永久不変』だ」

 

「永久、不変……」

 

簪の『永遠の誓い』に近い宝石言葉だな。だからこそ候補に挙がってたわけだが。

 

「そっか……でもね」

 

――チュッ

 

「なっ」

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

「この指輪をもらわなくたって、陸君への想いは永久不変よ。もちろん、簪ちゃんへの想いは言うまでもなくね」

 

不意打ちで、刀奈にキスされた。お前、こんな人通りのあるところで……!

 

「大丈夫よ、周りからは見えない角度を狙ってやったから♪」

 

「お前なぁ……」

 

「お姉ちゃん……私もお店の前でハグしたから分かるけど」

 

「したのね……」

 

あったな、そんなことも(第66話)

 

「なんかテンション上がってきたわ! さぁ二人とも、もっと楽しみましょ!」

 

「おいおい」

 

「お、お姉ちゃん、引っ張らないで……!」

 

本人の申告通り、変な方向にテンションの上がった刀奈に俺と簪は腕を引かれ、まだ回ってないエリアに足を向けたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「は~、今日はたくさん歩いたわね~」

 

「うん、結構疲れた……」

 

「それでもこれは買うのな」

 

全エリアの3割ほどを巡った辺りで外が暗くなったため、今日の買い物「デートだってば!」は終了した。

だが、そのままモノレールには乗らず、俺達は少し寄り道をしていた。

 

「一度食べてみたかったのよ、ミックスベリー味」

 

「お姉ちゃん、ミックスベリーの話知ってたんだ」

 

「ええ、でも一緒に食べてくれる相手がねぇ……あむっ」

 

刀奈のリクエストで、あのクレープ屋がある公園まで足を伸ばしたのだ。

ちなみに俺がブルーベリー、簪と刀奈がストロベリーを食べている。

 

「りーくくん」

 

「はいよ」

 

持っていたブルーベリーのクレープを刀奈の方に向けると、顔だけを乗り出してパクついてきた。

 

「ん~! 美味しい!」

 

「陸、私も」

 

「はいはい」

 

手に持ったブルーベリーをメトロノームのように左右に向ける簡単な作業。報酬は時々食べられる簪達の持つストロベリークレープ。

 

「はい陸君、あ~(pipipi!)もう誰よ、こんな時に」

 

俺にクレープを食べさせようとした刀奈だったが、鳴り出した電子音を聞くとそのクレープを俺に持たせて、懐から小型端末を取り出した。……ニットセーターからどう出した?

 

「え~っと……げっ!!」

 

「お、お姉ちゃん? すごい声が出たけど……」

 

ああ、年頃の女が出すのは憚られる声だったな。

 

「ま、まずいわ……」

 

端末から顔を上げた刀奈の顔は、眉がへの字になって口元が引き攣っていた。

 

「それで、何がまずいんだ?」

 

「奴が……」

 

「「奴?」」

 

「ログナー・カリーニチェが……」

 

「ログナー……それって、前ロシア代表だよね?」

 

「ってことは、刀奈の前任者か」

 

そいつがどうしたんだ? と思ってたら、刀奈は端末が落ちるのも構わず頭を抱えだした。

 

 

「あの"狐目年増"が、IS学園に来るのよぉぉぉぉぉ!!」




たっちゃん抱き枕。学園祭の時も簪を抱き枕にしてたし、これで姉妹コンプだね♪

たっちゃん、念願の指輪GET! 石は作中のスフェーン(永久不変)とタンザナイト(気高き者)とで迷いましたが、簪のラピスラズリ(永遠の誓い)に近い方を選びました。


前ロシア代表襲来決定。原作でも11巻でほんのちょっとしか出てないから、うまく書けるか今から不安……。(ならどうして登場させた)


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第124話 雷光

気付けば『俺ヒルデ』投稿から半年が経ちました。
そしてUAは20万、登録者数も1000人の大台を突破。これまでご愛顧いただきありがとうございます。
あと何話続くか等は未定ですが、今後ともお付き合いいただければと思います。

というわけで(何が?)、久々の改造回+αです。


――ラビット・カンパニー 社長室

 

「ああもう! どうして初日でこんなに忙しいのよぉ!」

 

突然篠ノ之博士に新会社の社長をやるように言われたのが先週。手続きも引継ぎも知らない間に終わっていて、私は週明けにこの『ラビット・カンパニー』の社長室に通された。

そこまでは、百歩譲っていいとするわ。問題は……

 

「スコール、次の会合は10分後な」

 

秘書として一緒にこの会社に移ってきたオータムが、小型端末で次の予定を伝えてきた。その内容に、一瞬目眩が……。

 

「ねぇオータム、私達がここに着任してから、どれぐらい経ったかしら……?」

 

「今朝就いたばっかだから、4時間ぐらいか?」

 

「その間、私は何人の人間と顔合わせしたのかしら……?」

 

「10人は超えてるな」

 

「やってられるかぁぁぁ!」

 

4時間で10人!? 世間話じゃないんだから、1人5分やそこらで終わらないのよ!? なのに240分で10人!? 頭おかしくなるわ!

 

「誰も彼もが、篠ノ之束との繋がり欲しさにやってくっからなぁ」

 

「そうなのよねぇ……」

 

あの天才かつ天災の篠ノ之束が興した会社ともなれば、お近づきになりたいと考える輩が大勢いるでしょう。私からすれば地獄だけれど。

 

「あ、それとその紫兎から伝言があるぞ。『本格的にIS学園に太陽光発電受信アンテナを設置することになったから、決裁よろしく♪』だってよ」

 

「……」

 

「スコール?」

 

 

「もういやぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

私の心、初日で折れそう……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

刀奈達と買い物(デート)をした翌日、俺達(+刀奈)はいつも通り放課後の整備室に集まっていた。

 

「お姉ちゃん、こっちに来てていいの? 明後日にはログナーさんが来るって……」

 

「いいのよ簪ちゃん。というか、今だけ思い出させないでほしいの」

 

「あ、はい」

 

どうやら現実逃避したくてここに来たらしい。そんなにヤバい奴のか? その前ロシア代表って。

というわけで、久々にISを弄ろうと思ったんだが、のほほんから指摘が入った。

 

「りった~ん、これ以上弐式を改造しても、公式試合じゃ使えないよ~」

 

「GNドライブも禁止になっちゃったから、これ以上は難しいと思う」

 

二人の言うことはもっともだ。弐式の新武装を作っても、どうせIS委員会から嫌がらせ紛いの使用禁止通達が来るだろうよ。

 

「正直、IS委員会の委員達の喉元に廻転刃刀を突き付けて撤回させたいがな」

 

「陸、それはアカン」

 

「かんちゃんかんちゃん、口調がおかしくなってる~」

 

「んんっ! それと廻転刃刀が何なのかは分からないけど、危ないものだってことだけは分かる」

 

「陸君、それやったら、逆に締め付けがきつくなるわよ」

 

「デスヨネー」

 

さすがに運営を脅すのはまずい。それが原因で簪が出場停止にでもなったら、それこそ本末転倒だ。

 

「なので、今回はのほほんの方を強化しようと思う」

 

「本音の……ナインテール・セラフを?」

 

「もしかして、射撃補正システムが!?」

 

「いや、それは諦めた」

 

「ガックシ~……」

 

いや、さすがにお前の呪いを解呪するのは、俺には荷が重すぎる。だからこそのプランBだ。

 

「のほほん、前に学園であったハッキング事件、覚えてるか?」

 

「覚えてるよ~。あの時は大変だったからね~」

 

「そうねぇ……」

 

「あれは大変だった……」

 

のほほんだけでなく、刀奈と簪も眉をしかめる。特に刀奈は油断してたとはいえ、腹に風穴開けられたからな。

 

「あの時お前のナインテールに装備した『反跳炸裂弾』、あれを使おうと思う」

 

「おお~!……でもあれ、狭い場所じゃないとダメって言ってなかった~?」

 

言った。あの弾頭は跳弾しながら目標に近づき、近接信管で爆発する構造だ。だからアリーナみたいな広い空間で使っても、跳弾せず四方八方に散って爆発するだけで終わる。

 

「だから跳弾する機能は取っ払って、その代わりに……」

 

俺が改造する内容を話すと、

 

「すご~い! それならでゅっちー達にも勝てるかも~!」

 

のほほんは目をキラキラさせて、

 

「え、エグイわぁ……」

 

「もうそれ、タッグ組めなくなるよね……」

 

更識姉妹はドン引きしていた。でも仕方ない、俺にはこれしか思いつかなかったんだ。

 

 

ナインテールの改造を……といいつつ、荷電粒子砲の弾頭を換装しただけだから、作業自体は1時間もかからず終わった。

そうなると、次は動作テストになるわけだが。

 

「というわけで、のほほんと模擬戦してくれ」

 

「突然やってきて何を言い出すかと思えば……」

 

第2アリーナで模擬戦をしていた一夏に頼んでみたら、ジト目で睨まれた。

 

「それ、的に撃つんじゃダメなのか? 模擬戦にする必要あるのか?」

 

「できれば実践データも欲しいからな。どうしても無理って言うなら諦めるが……」

 

そう言いつつ、俺は一夏の肩に腕を回して

 

「一夏、お前がやってくれるなら、報酬を出してもいいぞ」

 

「は? 報酬って、何言ってんだ?」

 

 

「クリスマスプレゼント」

 

 

「っ!?」

 

「あと1か月ちょっとだよな。6人分、いや織斑先生も含めたら7人分か? なかなかの出費だよなぁ」

 

ニヤニヤしながら一夏の顔を覗き込むと、これからの支出を想像して滝のような汗が流れていた。

なにせ女7人だ。適当な安物で済ますわけにもいかんだろうから、一夏が政府からもらってる額なんかあっという間に吹き飛びかねない。

 

「俺は少し懐に余裕があるからさぁ、今回手伝ってくれれば、すこーし色を付けてバイト代を出せるんだがなぁ」

 

「り、陸、お前……」

 

「どうする? やるか?」

 

「……やらせて、いただきます」

 

絞り出すような声だったが、了承は了承だ。さーて試験すっぞー!

 

「陸、鬼だね……」

 

「なんだ簪、お前が代わりに「頑張って織斑君」」

 

「ちくしょう!」

 

半泣きになりながら、一夏はのほほんの待つアリーナ中央に歩いて行った。

 

「「「「「二人とも鬼だ……」」」」」

 

こらこら一夏ハーレム達、そんなこと言うもんじゃないぞ。

 

「こらこら、そんなこと言わないの。鬼は陸君だけなんだから

 

「……」

 

――バッ! ギュッ!

 

「みぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

久々に、刀奈にお仕置きアームロックが炸裂した。

 

 

 

「おりむー、よろしくね~」

 

「ああ、よろしく……陸、給金は弾んでもらうからなぁ!」

 

一夏の奴、金の力でなんとかモチベを保っているようだ。なら、そのモチベが保ってる内に始めるか。

 

「それじゃあナインテール・セラフの新武装『雷光』の動作テストに入るぞ」

 

「りょうか~い。おりむー、いっくよ~!」

 

「来るなら来い!」

 

一夏が白式を展開すると、のほほんもナインテール・セラフを展開して、6門の荷電粒子砲の砲口を白式に向ける。

 

 

「雷光、はっしゃ~!」

 

――ドォォォォンッ!

 

発射された弾頭は、回避行動に入ろうとした白式のやや手前で

 

 

外装が弾け、中から大量の散弾がばら撒かれた。

 

 

「マジかよぉぉぉ!」

 

まさかの"面"攻撃に、一夏は回避なんぞ出来るわけもなく、まともに散弾を浴びた。そして

 

――ドドドドドドッ!!

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」

 

その散弾全てが爆発し、爆煙の中から一夏の悲鳴だけが聞こえてきた。

そして煙が晴れると、そこにはSE切れで白式が解除され、完全にのびている一夏が。

 

「ひ、酷い……」

 

「これはあんまりですわ……」

 

「「「(コクコクッ)」」」

 

「陸、これもリミッターが必要」

 

「だね~」

 

「というかこれ、公式試合で使えるかあやしいレベルよ……」

 

 

 

とまあ、成果は上々だったものの、簪の言う通りがっつりリミッターを付けての運用となった。

一夏はあの後すぐ目を覚ました。あれ食らったのに、タフだなぁ。

で、約束通りバイト代を払ったら

 

「な、なぁ。女性物のアクセサリーって、どこで買えばいいか知ってるか?」

 

と聞かれた。一応俺が知ってる店(簪や刀奈の指輪を買ったところ)を教えてやったが……もし指輪とか買うってなったら、今回の報酬で7人分はきついぞ?

まぁ、そこは一夏の貯蓄と甲斐性に期待しよう。

 

「これで私も百発百中だ~!」

 

そして、のほほんの機嫌がめちゃくちゃ良かった。散弾使って百発百中って言えるのか?




スコール、さっそく悲鳴を上げる。そこにおかわりを追加する束、鬼畜である。

やっとのほほんに命中弾が……! 雷光の由来はもちろんあれです。
「超電磁式榴散弾重砲、発射ぁ!」


次回、前ロシア代表訪日。オリ主の運命や如何に。


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第125話 襲来

ついに来ましたログナー・カリーニチェ。
情報が少なすぎるので、ほぼ想像で書いてます。もしイメージと違っていたらゴメンちゃい。

そして本編とは全く関係ないんですが、☆評価が下がるよりも、お気に入り数が減る方が残念でならない今日この頃。


とある日の放課後。俺は校内放送で刀奈に呼び出しを受けて、第1アリーナに足を運んでいた。簪? だから左腕に標準装備なんだって。

 

「織斑先生? それにアーリィも」

 

「やぁリクにカンザシ、さっきのIS実習以来なのサ」

 

そう、スコールとオータムの後任として、本当にアーリィが講師役として授業に出ていたのだ。ちなみに生徒からの評判も悪くない。教え方はスコールの方が上だが、質問のしやすさはアーリィが上なんだとか。言いたいことは分かるけどな。

 

「お前達こそ、どうしてここに?」

 

「私達は、お姉ちゃんに呼ばれて……」

 

簪と同じように俺も周りを見回すが、刀奈の姿は無い。呼んだ本人がいないってどういうこった。

 

「それで、二人はどうしてここに?」

 

「ログナー・カリーニチェがこのIS学園に来るのは、更識姉から聞いてるか?」

 

「ええ。ってそうか、今日はその日でしたっけ」

 

「で、私とチフユにも立ち会って欲しいってお願いされて来たんだヨ」

 

「まぁ、あいつと二人っきりで会いたくは無いだろうな」

 

「だよネ~」

 

織斑先生のため息に、アーリィも苦笑顔。ホント、どんな奴なんだよ?

なんて思ってたら

 

 

「お姉さまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「いぃぃぃぃぃぃぃぃやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

俺達がいる場所と反対側のピットから、絶叫しながら猛ダッシュでこっちに向かってくる刀奈と、それを猛追する女が。

 

「お、お姉ちゃん?」

 

「なんだありゃ……」

 

「寂しかったですぅぅぅぅぅ! だから私とアツアツのハグをぉぉぉぉぉぉ!」

 

「私にその気はないのよぉぉぉぉぉぉ!!」

 

目がハートマークになってる狐目女が両腕を広げて、半泣きになってる刀奈を追いかけ回す。

 

「織斑先生、これって……」

 

「お前達は更識姉がロシア代表になった時のことを知っているか?」

 

「いえ、全然」

 

「お姉ちゃんがログナーさんとの試合で勝って、代表の座を奪った、ですよね?」

 

「それで合ってるヨ。そしてリクは知らなかったのカ……」

 

「興味ねぇし」

 

「Oh……」

 

何絶句してんだよ。バトルジャンキーのお前が言えた義理か。

 

「まったくお前ときたら……更識妹が言った通り、ログナーを正面から叩きのめして代表の座を得たわけだが……どうも打ち所が悪かったらしくてな」

 

「それ以来、タテナシLOVEになったってわけサ」

 

「「ええ~……?」」

 

俺と簪、ドン引き。叩きのめされてLOVE勢になるとか、どんだけ性癖歪んでんだよ……。

 

「陸君、助けて~!」

 

追いかけっこしていた刀奈が、俺の背中に隠れる。っておい、狐目女がこっちに突っ込んでくるんだが!?

 

「私のお姉さまに何してくれとんじゃァァァァァァァ!!」

 

ハートマークから殺意の波動に切り替わった目でこっちを睨みつけてくる。怖っ!

そしてこっちに走ってきながらISを展開……っておぉぉぉぉい!!

 

「生身の人間にISで突っ込んでくるとかマジかよ!?」

 

「お姉さまとの間に立ちはだかる壁は、ぶっ壊ぁぁぁぁぁす!」

 

刀奈のミステリアス・レイディにどことなく似たISが、まっすぐこっちに突進して

 

――ドドドドドドドッ!!

 

「ぎゃひぃぃぃん!」

 

横合いから荷電粒子砲を食らって、きりもみにすっ飛んでいった。

 

「陸、お姉ちゃん、大丈夫?」

 

どうやら今の砲撃は、打鉄弐式を緊急展開した簪だったようだ。

 

「おう、平気だ」

 

「助かったわ。ありがとうね、簪ちゃん」

 

「さすがだ、と言ってやりたいところだが……」

 

「これ、どう収拾つけるヨ?」

 

俺達4人の視線の先には、目を回してぶっ倒れてる狐目女がいた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

その後、狐目女のISが待機状態になったので織斑先生が没収、そのまま生徒指導室に運び、

 

「これはあんまりではないデスカお姉さま!?」

 

パイプ椅子に縛り付けることになった。 ガッタンガッタン揺らすなって、コケるぞ。

 

「というかお姉さま、そいつは一体何者なんデスカ!?」

 

「貴女、知らないでIS学園に来たの……?」

 

「私はここに来たのはお姉さまに会うため! ついでにクレムリンのお使いで、イタリアのアリーシャが教師になったって噂を確認するのが目的デス!」

 

「政府からの指令をついでにするな馬鹿者!」

 

――ゴンッ!

 

「ぎゃい!」

 

完全に公私混同した狐目女の頭に、織斑先生から鉄拳制裁が飛ぶ。

 

「それにしてもアリーシャ、本当に学園で教師してたんデスね」

 

「そうサ。チフユに嵌められたのサ……」

 

「人聞きの悪いことを言うな。正当な取引だっただろう」

 

そう言いながら織斑先生、アーリィの恨みがましい視線から目を逸らしてるじゃないですか。

 

「それで! そこの男は何なんデスカ! というか、IS学園に男がいることがおかしいデスよ!」

 

「いやお前、知らないのか?」

 

「何がデス!?」

 

「……本当に知らないのか? 男性操縦者が現れたって話を……」

 

「知ってますよ! 貴女の弟の織斑一夏デショウ!? 彼と全然顔が違うじゃないデスカ!」

 

「ならその後、2人目が現れたのは?」

 

「……Что(なんですと)?」

 

ロシア語は分からんけど、たぶん俺のことを初めて知ったって顔だな。その証拠に、織斑先生を筆頭に、アーリィも簪も刀奈も呆れた顔をしてるし。

 

「そこにいるのが2人目の男性操縦者、宮下陸だ」

 

「陸だ」

 

「何デスとぉぉ!?」

 

「私のパートナーでもある」

 

「何デスとぉぉぉぉぉ!?」

 

「そして私の(未来の)旦那様よ♪」

 

 

「何デスとぉぉぉぉぉぉぉ!?」

 

 

最後はほぼ絶叫に近かったな。

 

「お、おおお、お姉さまに、、そんな相手が……あ、ああああああ」

 

「お~いログナー、大丈夫カ~?……ダメみたいネ」

 

アーリィが顔の前で手を振ってみるが、壊れたような声を出すだけで、全く反応がない。

 

「お姉ちゃん、モテモテだったんだね」

 

「やめて簪ちゃん。これはノーカンよ」

 

揶揄う簪に、刀奈が本気で嫌そうな顔をする。

 

「アリーナでも言ったけど、私にそっちの気はないのよ。しかも向こうの方が五つも年上だし」

 

「年上なのに『お姉さま』なのか」

 

「ホントやめて、陸君まで言わないでよ」

 

「分かった分かった。だからどさくさに紛れて俺の腹筋を触んな」

 

「あ、バレた?」

 

ペロッと舌を出す刀奈。まだ余裕あんじゃねぇかよ。おおん?

 

「それで織斑先生、彼女をこのままロシアに送り返しても?」

 

刀奈が訊ねると、織斑先生はやや渋い顔。

 

「そうしたいのは山々なんだがなぁ……ロシア政府から数日滞在させたいと要請があって、学園側も了承済みなのだ」

 

「え……」

 

刀奈の顔が、一瞬で青くなる。

 

「それってつまり、ログナーさんがIS学園に寝泊まりするってことですか?」

 

「そういうことだ」

 

「タテナシには可哀想な話だが、これも決定事項なのサ」

 

「そんな~……」

 

これから数日間を想像して、刀奈は泣きそうな顔で膝から崩れ落ちた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

その夜。

 

「で、今日もここに泊まると?」

 

「うん」

 

枕片手に俺達の部屋にやってきた刀奈は、まるで怖い夢でも見て親の寝室に来た子供みたいだった。

 

「それはいいけど……お姉ちゃん、そこ私の指定席なんだけど」

 

「今日だけ、今日だけだから!」

 

「というか、いつから指定席になった」

 

部屋に入った刀奈は、ベッドに腰かけてた俺の背中に速攻でしがみ付いてきた。震えてるのがこっちにも伝わってるから、怒るにも怒れねぇ。

 

「あの後、狐目年増を寮の空き部屋に放り込んだんだけど……」

 

「だけど?」

 

「寝る準備をしてたら、部屋のドアが開いて、ドアの隙間から……」

 

 

『お姉さま❤』

 

 

「「ひぃ!」」

 

思わず簪と一緒に悲鳴を上げちまった。

 

「ど、どうしてログナーさんが、部屋のドアを開けられたの?」

 

「ルームメイトの薫子が買収されてたのよぉ! インタビューと引き換えに部屋の鍵を貸すなんて!」

 

「ああ、あの新聞部の先輩……」

 

確かにあの人なら、記事のために友人も売るだろうな。(偏見……でもない)

 

「それで私達のところに逃げてきたんだ」

 

「そうよぉ……もう二人と一緒じゃないと、怖くて寝れないわ……」

 

ガクブルしながら俺にしがみ付く刀奈。元々無かった威厳が、完全に消え失せていた。

 

「だから、二人にお願いがあるの……」

 

「お願い?」

 

 

「その……手、繋ぎながら寝てくれない?」

 

 

「……仕方ないなぁ」

 

「そんなセリフ吐かれたらなぁ」

 

まず簪が、刀奈の手を取って俺の背中から引き剥がすと、一緒にベッドに倒れ込む。

そして俺も横になると、簪と反対側の手を握る。

 

「ほらお姉ちゃん、もう安心だよ」

 

「うん……」

 

簪が空いた方の手で、刀奈の頭を撫ぜる。見事に姉と妹が逆転してるな。

そうやって簪が撫ぜていると、握った手から伝わってくる震えが徐々に小さくなっていき

 

「……すぅ……」

 

隣から、浅い寝息が聞こえてきた。

 

「刀奈も寝付いたし、俺達も寝るか」

 

「うん」

 

子供を寝かしつけた父母みたいなやり取りをしつつ、俺と簪も眠りにつくのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「お姉さまぁぁ……お姉さまぁぁ……」

 

学生寮の廊下を徘徊するあやしい人影を見た――怯えた生徒が寮監室にやって来たから見回ってみれば、まさかこいつが原因とは……。

 

「おいログナー! 貴様一体何をやっている!」

 

「お姉さまぁぁ……あんな男より、私の愛を受け取ってくだサイ……」

 

ダメだ、私の声が全然聞こえていないようだ。こうなれば仕方ない、実力行使だ。

私は桜花の拡張領域から、予備武装として入れていた()を取り出すと

 

――ゴンッ!

 

「げふっ!」

 

峰打ちでログナーを気絶させて、寮内に用意していたこいつの部屋まで担いでいき、掛布団と拡張領域から出した縄で簀巻きにして床に転がした。

 

「これでよし」

 

布団で巻いたから、風邪をひくこともないだろう。明日から早朝ランニングを再開したいし、部屋に戻ってさっさと寝るか。




開幕お姉さま・ログナー。叩きのめされてLOVEになるとかやべぇ……と思ったんですが、よくよく考えたらラウラもそうじゃん。(オイ

シャイニング・ログナー。ドアの隙間から、目がハートマークの女が覗き込んで……想像したら普通に怖いですねこれ。

彷徨う亡者・ログナー。ちーちゃんの(IS用)峰打ち食らっても気絶で済むとか、さすが元国家代表、頑丈さが違います。


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第126話 決闘

言葉など、既に意味を成さない。
白刃と鉛玉。ただそれだけが、二人の対話を成り立たせる。


刀奈LOVEなキチガイ狐目女が学園にやって来ようと、俺達には普通に授業がある。だから今日も4組の教室に来ているわけなんだが……

 

「リク・ミヤシタ! 貴方に決闘を申し込みマス!」

 

授業中、突然狐目女がやって来たと思ったら、よー分からんことを言ってきたんだが。

 

「あの、カリーニチェさん。今は授業中……」

 

замолчи(黙らっしゃい)!」

 

エドワース先生の注意もお構いなし。そして困惑するクラスメイト達。

 

「で、なんで俺がアンタと決闘しないといけないんだ?」

 

「私のお姉さまを誑かした貴方をギッタンギッタンに叩きのめして、お姉さまの目を覚まさせるためデス!!」

 

ビシッと指を突き付けられてもなぁ……。それ、俺が受けるメリットないじゃん。

 

「あの、ログナーさん」

 

「ん? 貴女は確か、お姉さまの妹の……」

 

「更識簪です。それで、ログナーさんは陸と決闘したいってことですけど、リクがそれを受けるメリットってなんですか?」

 

おっ、簪が代わりに聞いてくれたぞ。

 

「そもそも、お姉ちゃんの方が陸に告白したんですよ?」

 

「(会長が宮下君に告白!?)」

 

「(やっぱりそうなんだぁ)」

 

「(やばっ、ウ・ス異本が捗るわぁ!)」

 

おい最後の奴。

 

「そ、そんなはずはっ! こんなガラの悪いクズ男にお姉さまがゴッ!」

 

「それ以上陸のこと悪く言うと、潰しますよ?

 

「簪、ステイステイ」

 

掴んだ狐目女の顎を、今にも握り砕きそうな簪を止める。俺自身一夏より外見がいいとは思ってねぇし。

 

「ひぐぅ……と、とにかく! 放課後の第2アリーナで決闘デス! 逃げるんじゃないデスよ!!」

 

簪の顎砕きから解放された狐目女は、そんな捨て台詞を吐いてそそくさと教室から逃げ去って行った。

 

「あ~、エドワース先生、お騒がせしました。授業を続けてください」

 

「授業を続けるって言っても……」

 

言葉を濁すエドワース先生に疑問を持ったが、理由はすぐ分かった。

簪の周りから、クラスメイト達がズズズズッと距離を取っていたからだ。

 

「さっきの人の顎掴んでた時の更識さん、滅茶苦茶怖かったぁ……」

 

「ところであの人って、もしかして前ロシア代表のログナー・カリーニチェ選手?」

 

「そうだよねぇ? 第2回大会にも出場してたのテレビで見たし」

 

「宮下君、そんな人から決闘を申し込まれたの?」

 

「というか、そんな前代表を潰す宣言した更識さん怖っ!」

 

あの狐目が前ロシア代表だと気付いて驚いてるのが半分、そいつを潰そうとした簪への畏怖半分って感じか。

 

「陸ぅ……」

 

「ああはいはい、お前は悪くないぞー」

 

エドワース先生すんません、授業の続きは無しで。

すっかり魔王的扱いになってしまった簪に対して、頭をポンポンと撫ぜて慰めるのに残りの時間を使うことになりそうだ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして案の定、俺と簪は生徒指導室に呼び出された。行けばいつもの織斑先生と、刀奈が頭を抱えて待っていた。

 

「ごめんなさい陸君。まさか()()が決闘を仕掛けてくるなんて……」

 

「しかも授業中に乱入してだ。一応、ロシア政府にも抗議は入れてみたが『あとで正式に謝罪するから、今は言う通りにしてやってくれ』と返ってきたぞ……」

 

「それ、ロシア政府もあの狐目を制御し切れてないってことですか?」

 

「ええ……それも、私がロシア代表になれた理由の一つなのよ」

 

「マジかよ……」

 

いくら自由国籍持ちとはいえ、他国人に国家代表をやらせるとか頭おかしいと思ってたんだが。刀奈に代表の座を渡しちまうぐらい、前任者の頭の方がおかしかったのかよ。どんだけ打ち所悪かったんだ。

 

「それで、俺はこの決闘、受けなきゃダメですか?」

 

ぶっちゃけ受けても、俺にメリットないし。

 

「残念だが、あの馬鹿がアリーナの予約をしたと同時に、全世界にお前との決闘を宣言した。今更やりませんとはいかなくなった」

 

「ええ~……陸の意思関係なしですか……」

 

「すまんが、更識姉のためにも頑張って戦って勝ってくれ」

 

口だけでなく本当にすまなそうな顔の織斑先生に、肩を叩かれた。勝ってくれって、適性D+の俺に何を期待してるんですかねぇ……。とはいえ、やるしかないなら全力で。

 

「分かりました。その代わりなんですが……」

 

俺は織斑先生に、決闘を行うにあたって条件を提示した。その条件を聞いた織斑先生は

 

「はぁ……仕方ない、許可しよう」

 

ものすげぇ渋い顔をしながらも了承した。よし、これならまだ、一方的に蹂躙される未来は避けられるな。

 

「ただし! 絶対にやり過ぎるなよ!」

 

「大丈夫ですって。というか、これぐらいしないと、"前"とはいえ国家代表と戦えませんって」

 

「いいか! 絶対56すなよ!? 絶対だからな!」

 

「先生、アンタ俺を何だと思ってんだ」

 

むしろ俺が命狙われてる側のはずなんだが?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そして放課後。第2アリーナに着くと、狐目がすでにISに乗って待機していた。

 

「遅かったナ」

 

「整備室に寄ってたもんでな。それに、時間指定はされてなかったはずだが?」

 

「その減らず口、すぐに叩き潰して溶接するから覚悟しなサイ!」

 

「へいへい」

 

陰流を展開、拡張領域を確認して……よし、ちゃんと全部入ってるな。

最後に長船をコールして展開すると、いつもとは違って構えずに、右手で握ったままだらりと腕を降ろす。

相手は……ロケットランチャー? そんなもん使う気かよ。

 

「愛は爆発! お姉さまとの間に立つ障壁を吹き飛ばしマス!」

 

「貴女との愛なんてないから……」

 

アリーナの端に立っている刀奈の呟きを、ハイパーセンサーが拾う。声だけで、めっちゃゲンナリしてるのが分かる。

 

「それでは、ルールを確認するぞ」

 

審判役の織斑先生が、俺達の間に立つ。

 

「SEが無くなるか降参したら負け。武装は拡張領域に入ってる物を使用、途中で補充するのは無しだ」

 

「私はそれでいいデス。それで、そちらはハンデが必要デハ?」

 

「ハンデか、是非もないな」

 

「ほぉ、意外と素直デスね」

 

 

「なら俺は、スラスターを使わないでおいてやるよ」

 

 

ハンデはハンデでも、お前に有利なハンデをくれてやるよ。

 

「……舐めてるんデスか?」

 

「そっちからハンデの話をしたってのに、面倒くせぇ奴だな」

 

追加でおちょくってやると、奴さん、どんどん顔を真っ赤にしてやがる。さあさあ、そうやって冷静さを欠いてくれ。

 

「おしゃべりはそれぐらいにしろ。それでは……始め!」

 

 

「ぶっ潰す!」

 

ガチギレした狐目がランチャーを構えて俺に照準を向ける、その時俺は

 

「そりゃ!」

 

長船を、奴に向かって投げつけた。

 

「なぁ!?」

 

まさか大太刀を投げつけてくるとは思わなかっただろう。だが腐っても前代表、やや態勢を崩しながらも飛んできた刀を回避する。

 

「ふざけた真似をぉぉ!」

 

「遅ぇ」

 

向こうが回避行動をしてる間に、俺は次の武装を左手に展開して、奴の足元に転がした。そして

 

――ブゥゥゥゥゥンッ!

 

「な、何ガ……!?」

 

サイクロプス・ボムが爆発し、周囲に超高強度マイクロ波を放出する。もちろんISの絶対防御を抜いて、操縦者を爆散するほどの出力は無い。だが

 

「う、動かナイ!? ナンデ!?」

 

「よしよし。リミッターを付けても、EMP爆弾としての使用には耐えられそうだな」

 

「EMP!?」

 

超高強度マイクロ波、つまり強力な電磁パルスを発生させることで、短時間ではあるがISの動きを止める効果がある。理論上は。

これが決闘をするにあたり、織斑先生に出した条件。

 

 

『これまで使用禁止になった武装の性能評価を、狐目のIS『モスクワの深い霧』で行う』

 

 

「くっ! システムリブート……!」

 

「悪いが、立て直す時間はやらねぇぞ」

 

――ガンッ

 

「きゃっ!」

 

いくらEMPを食らったとはいえ、ISなら1分とかからずに再起動するだろう。そうなる前に、俺は狐目を地面にはっ倒すと、そのまま馬乗りになった。

そして、最後の武装をコールした。

 

「あ、ああああ……!」

 

右腕に展開された()()を見て、狐目の顔が恐怖に引き攣る。

 

「それじゃあ、最後の性能評価といこうか」

 

満を持して俺は右腕――ラファールの69口径よりさらに巨大な、薬莢剝き出しの火薬式パイルバンカー『菊花』――を、狐目に向かって叩き込む。

 

――ズンッ!

 

「げはっ!」

 

絶対防御が効いてるはずだが、衝撃でISごと狐目の上半身が跳ね上がる。

 

「威力の方は……やっぱリミッターが効いてるからこの程度か」

 

「こ、これでリミッター付……!?」

 

「驚いてるところ悪いんだが……」

 

 

「撃発用の薬莢、あと35発残ってんだわ、これが」

 

 

「……っ!?」

 

 

「ま、参った! 参りました! だからこれ以上はヤメテェェェェェェ!!」

 

 

ギャン泣きしながら降参したことで、決闘は俺の勝ちになった。が、それだと困る。

 

「織斑先生、今回の結果なんですが……」

 

「分かってる。カリーニチェに勝ったことを喧伝されると困る、だろ?」

 

「ええ。俺はISを弄りたいのであって、操縦者として有名になりたいわけじゃないんで」

 

「そこはブレないな……」

 

ブレませんとも。操縦者として目立つのは一夏の役目、俺の仕事じゃない。

というか、これ俺の実力じゃなくて、完全に装備と挑発で勝っただけですから。それで変に担ぎ上げられても困る。

 

「この決闘は、試合中『モスクワの深い霧』が動作不良を起こしたため無効とする。それでいいな?」

 

「OKです」

 

「まったくOKじゃないデス!」

 

「「お前の意見は聞いてない」」

 

「ヒドイッ!!」

 

こうして決闘騒ぎは、各国やIS委員会には無効試合と報告して決着したのだった。

 

「あ、そうだ宮下。あの爆弾とパイルバンカー、今後も使用禁止な」

 

「デスヨネ―」

 

そう簡単には解禁されなかった。チクセウ。




前書き、ただカッコイイこと書きたかっただけー。

オリ主、決闘を申し込まれる。たっちゃんとオリ主が付き合ってると知ったら、そうなるでしょうよ。そして簪は魔王。

決闘で分からせる。ちなみに作中のパイルバンカーですが、モデルはご存知ACfaの『KIKU』です。そしてサイクロプス・ボムの使い方は、感想欄からアイディアをもらいました。どうもです。


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第127話 帰国

今回で幕間は終了になります。


ログナー・カリーニチェ(更識姉にまとわりつく虫)を宮下が分からせてから数日、狐目女は今日、祖国ロシアへ帰ることになる。

 

『次こそは、次こそはお姉さまをお救いいたしマス!!』

 

なんて寝言を捨て台詞として吐いて。

そうして泣きべそかきながら送迎の車に乗って去って行ったログナーを、私とアリーシャで見送った。

 

「チフユのことだから、あれも私のように学園教師として利用しようとすると思ってたヨ」

 

「馬鹿言うな。あれはお前以上に使い物にならん。却って私の頭痛の種が増えるだけだ」

 

「それ、ちゃっかり私のこともディスってないカ?」

 

お前だって似たようなものだろう。赴任初日のことを忘れたとは言わさんぞ。

 

「まぁいいサ。いつか必ず再戦させるから、覚悟しておくといいヨ」

 

「ほう? 最近更識妹と模擬戦をするようになったと聞いたが、打開策でも見つかったのか?」

 

「うぐっ!」

 

それだけの見栄を張ったのに、どうしてそこで言葉に詰まる……。

 

「こ、この前はいい勝負だったヨ?……武装を薙刀(夢現)オンリーにしてもらってだけド」

 

「おまっ、手加減してもらってそれか」

 

「だってカンザシの操縦技術もそうだが、あのISおかしすぎるヨ! チフユだって第4世代機なんて用意してもらったのに競り負けたんだろう!?」

 

「うっ!」

 

そ、それに関しては言い返せない……。確かに第4世代機である桜花が、第3世代機の打鉄弐式に負けたのは事実だ。

 

「あ~あ、私のテンペスタも、リクにチューンしてもらえたらナ~」

 

お前のところ(イタリア)でも、宮下に強化させる案は飲ませられそうにないか」

 

キャノンボール・ファストの頃(第72話)からあった、宮下に対する妨害工作。今まで接点のなかったイタリアならどうかと思ったんだが。

 

「国の上層部は及び腰だヨ。噂じゃ女性権利団体の息がかかった連中が、強固に反対してるって話サ。『よその国の人間に、専用機という自国の最先端技術を見せるわけにはいかない』って、それっぽい理由をつけてはいるがネ」

 

「素直に言えばいいだろうに。『男である宮下を頼ったら、『ISを動かせるのは女だけ』という自分達女権団の存在意義が消えてしまう』とな」

 

「チフユ。私だからいいが、他の頭が固い連中の前で言ったら面倒事になるヨ」

 

「安心しろ。毒を吐く相手ぐらいは選んでいる」

 

これまでのやり取りから、アリーシャが女権団と縁のない人間だという確証を得ている。それで何かあれば……私に人を見る目が無かったというだけだ。

 

「おっと、ちょっとした世話話だったはずが、少し話し込んでしまったようだ」

 

すでにログナーの乗った車は全く見えなくなっている。

 

「それじゃ、そろそろ戻ろうカ。今は1時限目の最中だろうが、次の授業はIS実習だからネ」

 

そう言って踵を返すアリーシャの後を追うように、私も校舎に向かって歩き出した。

 

「ふっ、お前も教師が板についたようで何よりだ」

 

「幸い今の1年は、やる気のある生徒が多いからネ。おまけに私の姿を見てるからか、実習中はおふざけもなく真剣にやってくれるヨ」

 

「そうか……」

 

アリーシャの右目と右腕。ISの起動実験の失敗で失われたもの。その実物を見せられて、生徒達も危機感みたいなものを覚えたのだろう。

ISだって機械である以上、乗用車と同じように事故だって起こり得る。それを意識させるのが、なかなか難しいのだ。

 

「ISの絶対防御だって、それこそ『絶対』じゃない。それを理解できて、初めて一人前サ」

 

「ああ。そういう意味では、お前を引っ張ってきた甲斐があったとも言えるな」

 

「おおっ、珍しくチフユに褒められたヨ」

 

「言ってろ」

 

さて、1組の2時限目の授業はIS理論か……。

 

ーーーーーーーーー

 

放課後の第3アリーナ。いつ面での模擬戦に、最近は別要素が加わるようになった。

 

「それじゃカンザシ、今日も頼むヨ」

 

「分かりました」

 

簪の模擬戦相手に、アーリィが加わったのだ。

GNドライブをコンデンサーに換装しても『それでも打鉄弐式とは戦いたくない!』と言われ、なかなか対戦相手を用意できなかったのだ。なのでアーリィの参加は渡りに船だった。最初は不服そうだった簪も、対戦相手がいないなら仕方ないと妥協した。

 

「カ、カンザシ! 早いっテ!」

 

「手加減し過ぎたら、模擬戦にならないじゃないですか」

 

「瞬殺されても模擬戦にならないヨ!」

 

……ただし、簪が全力で戦えないのが残念ではあるが。

そしてアリーナの別領域では

 

「いくよでゅっちー!」

 

――ドドドドドッ!

 

「さ、散弾は『花びらの装い』で逸らせるけど、その後の爆風までは無理だよぉ!」

 

「さあでゅっちー、『雷光』が弾切れになるのが先か、『花びらの装い』のエネルギーが切れるのが先か、勝負だよ~!」

 

「そんな勝負いやだぁぁぁぁ!」

 

今までいいカモだったのほほんが、榴散弾をばら撒く雷光を装備した途端、自分を狩る側に変わったのだから、デュノアにとっては不幸以外の何物でもないだろう。

ただこれだけ強化しても、簪やアーリィ、織斑先生レベルになると

 

『スピードを上げて、背後から殴ればいい』

 

が成り立ってあっさり墜とされるという。理不尽極まりない。……簪については俺にも一因はあるが。

さて、他の連中はと言えば

 

「うおりゃぁぁぁぁ!」

 

「甘いぞ嫁よ!」

 

「や、やべぇ!」

 

一夏とボーデヴィッヒの戦いは、一夏がレーゲンのAICに捕まって投了になりそうだ。

 

「終わりだ!」

 

「……なんてな」

 

「何っ!?」

 

――ブォォォンッ

 

「そ、その爪は……しまった!」

 

ボーデヴィッヒが驚くのも無理はない。AICによって固定したはずの白式。その左手からエネルギークローが発生して、結界を貫いたのだから。

 

「雪片だと振らないとダメだが、こいつ(エネルギークロー)なら体が動かなくても零落白夜を出せるんだよ!」

 

「くっ!」

 

白式から距離を取ろうとしたレーゲンだか、もう遅いだろう。それより先に、エネルギークローがそのままボーデヴィッヒの腹部に突き刺さる。

 

「それまで! 一夏さんの勝利ですわ!」

 

審判役をしていたオルコットの宣言で、両者ともISを待機状態にする。

 

「今回は私の完敗だな、見事だ」

 

「ありがとう、ラウラ。だけど、次に同じ手は通じないだろうから、また作戦を考えないとな」

 

「当たり前だ。今回は勝ちを譲るが、次も譲ってやるつもりはないぞ、ルーキー」

 

「了解しました少佐殿。精進するとしますよ」

 

「ふっ、そうしろ」

 

苦笑しながら敬礼する一夏に付き合う形で、ボーデヴィッヒもニヤッと笑いながら敬礼を返す。

 

「や~ら~れ~た~」

 

「こ、怖かったぁぁ……!」

 

のほほんとデュノアの勝負は、のほほんの弾切れが先だったようだ。どうせ間髪入れずに撃ちまくったのが敗因だろう。相手のエネルギー切れを狙うなら、砲撃の密度も考えないといけないからな。その辺が、のほほんの次の課題だな。

 

「うぅぅ、今日も負けたヨ……」

 

「アーリィさん、もっと粘ってもらわないと、私の訓練にならないです」

 

「もうやめて! 私のライフはもうゼロヨ!」

 

「簪の言うことも尤もなんだよなぁ。いくらテンペスタが第2世代とはいえ、簪も夢現オンリーってハンデでやってる以上、もうちょっと頑張ってほしいというか」

 

「無茶言うもんじゃないヨ!?」

 

「泣くぞ すぐ泣くぞ 絶対泣くぞ ほら泣くぞ」

 

「うわぁぁぁぁぁん!!」

 

あ、やべ。揶揄ったらマジで泣きやがった。

 

「宮下……」

 

「どうすんのよ、これ……」

 

模擬戦に参加していなかった篠ノ之と凰から、ジト目で睨まれた。あ~、視線冷てぇ……。

 

「みんな~、調子はど――陸君、一体何したのよ?」

 

アリーナに入ってきた刀奈に現場を見られて第一声がこれ。え、冤罪……とは言えねぇ……。

 

「まったく……アーリィさんは豆腐メンタルなんだから、丁寧に扱ってあげないとダメよ?」

 

「(°д°lll)タテナシも容赦ナカッタ!?」

 

泣いてたアーリィがガーンッて顔で固まる。

 

「それで、楯無さんがここに来たってことは、あの狐目は?」

 

「ええ。今さっき、彼女が乗った機がロシア領空に入ったって連絡が来たわ」

 

これで安眠できるわ、と心底安堵した顔でため息をついた。

 

「せっかくアリーナに来たんだし、陸君、私の模擬戦相手をよろしくね♪」

 

「え?」

 

いや俺、今日は模擬戦に加わる予定じゃ……

 

「あの狐目年増がいなくなったから、久々に体を動かしたいの! ほらほら、時間は有限よ!」

 

「ちょっ、まっ」

 

まだ俺承諾してねぇから! だから俺の背中を押したって――

 

「それじゃあ、始めるわよー!」

 

「あんぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」

 

命の危険を感じて陰流を緊急展開した瞬間、俺は清き激情(クリア・パッション)の爆風でもみくちゃにされた。

て、手加減プリーズ……。

 

ーーーーーーーーー

 

――女性権利団体本部、代表執務室

 

「消さなきゃ……宮下陸と織斑一夏を消さなきゃ……」

 

先日から狂気に憑りつかれた山崎は、男性操縦者の二人を抹殺する方法を探し続けていた。

 

「暗殺……アメリカの連中も失敗したから無理。爆殺……IS学園に爆弾を持ち込むのは現実的じゃない。どうすれば……!」

 

女権団のデータベースを漁り、様々な作戦をシミュレートしてみるが、尽く成功率は0%。その結果が、さらに山崎を焦らせる。

 

「このままじゃ、私の身の安全が……! ん? これは……」

 

恐怖と狂気に染まった目に、あるデータが映る。それは以前壊滅した秘密結社、亡国機業から秘密裏に回収したデータ群だった。

 

(委員会に潰される程度の連中だったけど、もしかしたらがあるかも……)

 

山崎にとって、壊滅した組織と見下していた連中が得たデータ。だが、散々な結果ばかりを引いていた今、藁にも縋る思いでデータ群を流し読みしていく。

 

そして、引き当てた。

 

「はは……あははははははっ! これよ! これを使えば、あの汚れた雄猿共を消し去り、私の繁栄を守れるっ!」

 

血走った目でディスプレイを凝視する山崎。そのディスプレイに映っているドキュメントの先頭には、こう書かれていた。

 

 

『高度エネルギー収束砲 エクスカリバー』




ログナー、祖国へ帰る。もう出番はないと思います。情報少なすぎて書きづらいねん。(オイ

アーリィ、簪と模擬戦を始める。感想欄でもあったように、ちーちゃんを除いたらアーリィぐらいしか対戦(できる)相手がいないという……。

一夏、ボーデヴィッヒからついに勝ち星を取る。ただしほぼ奇襲に近い策だったので、次回以降は使えない手だと思います。そこまでラウラも馬鹿じゃない。

女権団、ついに禁じ手を使おうとする。原作では束が仕掛けた(ような描写がある)形ですが、本作では亡国機業から色々奪った女権団がやらかします。


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エクスカリバー
第128話 とある冬の日


オリチャー挟んで原作11巻に突入です。
でも最初は茶番から。


――ラビット・カンパニー 社長室

 

「ふおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「す、スコール、大丈夫か?」

 

「これが大丈夫に見える!?」

 

あんの紫兎! なんなのよこの殺人的な忙しさは! 私がサイボーグだからって、24時間戦えると? 無茶言わないでよ!!

 

「受信アンテナの資材調達に業者の選定、設置工事の場所や日程についてIS学園との折衝……頭がおかしくなりそうよ!」

 

「そうは言っても、実際の作業は部下に振ってるだろ」

 

「それでも書類の決裁は私がしないといけないのよ!」

 

これで実働まで私がやったら死ぬわよ! というかオータム、貴女最近私に冷たくない?

 

「とりあえず、クリスマス休暇が取れるように頑張ろうぜ」

 

「クリスマス休暇ねぇ」

 

窓の外に視線を向けてみれば、ちらちらと雪が舞い始めていた。もうそんな季節なのね。

 

「はぁ……こうやって叫んでても仕方ないわよね……」

 

「頑張ろうぜ」

 

「ええ。と、いうわけで」

 

――ドンッ!

 

オータムの机の上に、未処理の書類の山を置いた。

 

「す、スコール?」

 

「貴女も書類仕事、頑張りましょ?」

 

「ファーッ!?」

 

ムンクの叫びのような顔になったオータムを見たら、少しやる気が戻ってきたわ。さぁ、さっさと片付けましょうか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「セシリア、買い物に付き合ってくれないか?」

 

「お買い物、ですの?」

 

俺のお願いに、セシリアは首を傾げた。

 

「実は買いたいものがあるんだけど、俺全然知識が無くてさ、セシリアならその辺詳しそうだと思って」

 

「一体何を買いますの?」

 

「それは……ごめん、今は言えない」

 

「はぁ」

 

セシリアに怪訝な顔をされてしまった。そうだろうな、買うものを伝えずに買い物に付き合えって言ってるんだから。でも、言えないんだよ。

 

「分かりましたわ。一夏さんのお願いですもの、お付き合いいたしますわ」

 

「サンキュ、セシリア! 助かる!」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

というのが日曜の昼、つまり1時間ほど前の話。私服に着替えて(コートを羽織って丁度いいとか、もう冬なんだなと感じずにはいられない)校門前で待ち合わせた俺達は、モノレールに乗ってレゾナンスへ。そしてとある店に向かって歩いていた。

 

「えーっと、確かここだったはず」

 

「あら、初めて行くお店ですの?」

 

「ああ、陸から教えてもらったんだけど……あ、あの店だ」

 

「あのお店って……」

 

目的の店を見たセシリアが、目を見開いて固まっていた。

 

「い、一夏さん? わたくしの見間違えでなければ、ここはジュエリーショップ、ですわよね?」

 

「そうだな」

 

「い、一夏さんが身に着けるものですの? そ、それとも……」

 

「俺が? いやいやまさか」

 

「そ、それではどなたに?」

 

「そりゃ、セシリア達に決まってるだろ?」

 

「へ?」

 

え? なんで目が点になってるんだ?

 

「クリスマスプレゼント、みんなの分を用意しなきゃいけないだろ」

 

「わたくし達に、ですの?」

 

「ああ。でもアクセサリーなんて全然分からないからさ、セシリアにアドバイスをもらおうと」

 

「なるほど……そういうことでしたら、お付き合いいたしますわ」

 

そこまで説明してようやく納得したのか、セシリアは

 

「それでは参りましょうか」

 

「お、おう」

 

俺の手を引いて、店の中に入って行った。

 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

店の中に入ると、店員らしき初老の男性が丁寧なお辞儀をして出迎えてきた。り、陸の奴、こんな店紹介したのかよ……。

 

「失礼ですが、織斑様でございますか?」

 

「え? え、ええ、そうですが……」

 

「では、こちらへどうぞ」

 

「え、ええ?」

 

「一夏さん、とりあえず付いていきましょう」

 

突然のことに固まっていたが、セシリアに促されて店員さんの後を付いていった。なんで俺のことを?

そうして案内されたのは、ブレスレットやネックレスが並ぶ一角だった。

 

「あの、どうしてここに?」

 

「実はとあるお客様から、織斑様が来店された際に、こちらへ案内してほしいと依頼されておりまして」

 

「依頼? どなたからですの?」

 

「はい、宮下様という方からです」

 

「宮下……もしかして、陸か?」

 

なんであいつが? というか、お店にそんなこと頼めるなんて、どんだけ太客なんだよ……。

 

「それと、言伝も預かっております」

 

「言伝?」

 

「はい。『どうせお前のことだから、箒達の指のサイズとか調べずに勢いで来たんだろう? ネックレスなら指輪ほど大きさに個人差が無いから、こっちを買っとけ』とのことです」

 

「一夏さん、もしかして本当に?」

 

「……調べてない」

 

うわぁ……サイズのこと全然頭に無かった……。最悪、ここで聞けるセシリア以外、全然サイズの合わないものをプレゼントするところだったのか……。

 

「情けねぇ……」

 

「ま、まぁ、今回は宮下さんの助言をありがたく受けておきましょう」

 

「そう、だな」

 

ここで落ち込んでても仕方ない、まずはみんなのプレゼントを買うことに集中しよう。

 

 

 

その後セシリアから色々アドバイスを受けて、6人分(箒、セシリア、鈴、シャル、ラウラ、束さん)のネックレスを購入した。良かった、なんとか予算内で収まった……。

 

「あら、織斑先生の分はよろしいんですの?」

 

店を出てすぐ、セシリアが思い出したように俺に聞いてきた。

 

「え?」

 

「え?」

 

いやいや、なんでそこで千冬姉が出てくるんだ?

 

「てっきり、織斑先生の分も買うものとばかり……」

 

「まさか、俺と千冬姉は姉弟だぞ? 実の姉にネックレス送る奴とかいないだろ」

 

「そうですの? 宮下さんが以前『あいつシスコンだから、絶対織斑先生の分も一緒に買うぞ』とおっしゃって……」

 

「セシリア、そんな話信じるな、いいな?」

 

「は、はい! 一夏さん、顔が! 顔が近いですわっ!///」

 

セシリアの肩をガッシリ掴んで念押しした。正直俺もセシリアの顔が近くて恥ずかしいが、ここで言っとかないとダメな気がしたから手は抜けない。

 

「まったく……陸の奴、今度会ったらとっちめてやる」

 

「そんなことおっしゃって、逆襲されても知りませんわよ」

 

うん、俺もぶっちゃけ、新武装の標的にされる未来がうっすらと見えた。

 

「そ、それはさておき、今日は付き合ってくれてありがとうな、セシリア」

 

「いいえ、わたくしも一夏さんに誘っていただいて嬉しかったですわ。それに、クリスマスプレゼントを一緒に買いに出掛けるなんて、こ、恋人同士みたいで……///」

 

「……///」

 

顔が赤くなりながら語るセシリアに、俺も顔が赤くなっていくのを感じた。

ここで『みたい、じゃなくて、恋人同士だろ?』なんて歯の浮くようなセリフを言えないのは、俺の経験不足か、それとも単に恥ずかしいだけか。

 

「と、とにかく、あとは千冬姉へのプレゼントを買ったら俺の用事は終わりなんだけど、セシリアはどこか行きたいところとかあるか?」

 

「わたくしですの?」

 

「ああ、ここまで付き合ってもらったからな。まだ日が高いし、このまま学園に帰るのもあれだろ?」

 

俺が提案すると、セシリアは指を頬に当てて考えるような仕草をしていたが、少しすると何か思いついたようだ。

 

「それでしたら、行ってみたい場所がありますの。この近くの公園にクレープのキッチンカーが止まってるらしいのですが、そのお店のミックスベリー味を食べると、幸せになるらしいと」

 

「へぇ、そんなのがあるのか」

 

「以前、どなたかが話していたのを思い出しまして」

 

「そっか。なら、後で行ってみるか」

 

「はい!」

 

手繋ぎから腕組みにクラスチェンジしたセシリアを伴って、レゾナンス内を散策したのだった。

 

 

 

千冬姉へのプレゼント(高級感のある万年筆)を買った後、キッチンカーが止まっているという公園へ。残念ながらミックスベリー味は売り切れだったらしく、俺とセシリアはブルーベリーとストロベリーをそれぞれ頼んで、二人で分け合って食べた。結構美味しい店だったな。

 

 

 

帰り道、偶然陸達に会った。向こうはクリスマス前祝の買い出しなんだとか。なんだそりゃ。

 

「いやお前、あれってブルーベリーとストロベリーを食べさせ合ってミックスベリーになるんだからな」

 

「マジで!?」

 

そして陸から、ミックスベリーの秘密を教えられた。全然気付かなかった……。

 

ーーーーーーーーー

 

「……」

 

無音の海、そう呼ぶにふさわしい場所。そんな場所――宇宙空間、地球の衛星軌道上――で

 

「system boot……」

 

機械の起動音が鳴り響く。

 

「双方向通信シグナル、良好。目標座標、受信完了。ゼロ・カウント地点への移動開始」

 

送られてきた命令(コマンド)と処理シーケンスが電子音声で出力される中、少女は目覚める。

 

「……」

 

目覚めた少女は、ただ真っ暗な空間を見つめるだけであった。いや、見つめてすらいない。少女の目には、何も映っていないのだ。

 

「モード・エクスカリバー、起動」

 

少女の前に、カウントダウンの数字が表れる。

 

「9…8…7…」

 

本来であれば()の力、剣となることを望まれた少女。

 

「6…5…4…」

 

しかし今はその役目を果たすことは出来ず、偽りの主に支配されていた。

 

「3…2…1…」

 

そして偽りの命令に従い、

 

「0」

 

聖剣は、抜き放たれた。




スコール、壊れる。そして道連れにされるオータム。やっぱり二人は番なんだね♪(マジキチスマイル

一夏、勢いでプレゼントを買いに行く。セシリアにアドバイス頼んだからヨシ!

エクスカリバー起動。攻撃目標? さて、どこでしょうね~?(暗黒微笑


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第129話 惨禍

終盤ちょっとグロ。


いつものニチアサを決めて、遅めの朝飯を食ってる時だった。

 

「クリスマスの前祝しましょう!」

 

「……」

 

無言で刀奈の額に手を当てる。うん、熱は無いな。

 

「陸君!?///」

 

「簪、病院の予約はしなくてよさそうだ」

 

「うん、分かった」

 

「ちょっとぉ!?」

 

スマホで近所の内科を調べてもらってたんだが、必要なかったか。

 

「で? いつからクリスマスに前祝が必要になったんですかねぇ?」

 

「お姉ちゃん、クリスマス・イヴって知ってる?」

 

「もう12月になったんだから、前祝ぐらいやってもいいじゃない!」

 

いや、そんな『どうだっ!』みたいに言われても……。

 

「何を馬鹿なこと言ってるんですかお嬢様」

 

「あら虚。本音もおはよう」

 

「おはようございます~」

 

布仏姉妹が、トーストの乗ったトレーを持って現れた。二人がこんな時間に食堂にいるなんて珍しいな。

 

「クリスマスも近いから、寮の飾り付けの準備があるのよ。それで学園側とのやり取りしてたら、ね」

 

「いちお、生徒会のお仕事だから~」

 

「へぇ」

 

あれか。玄関前にクリスマスツリーとか飾ったりすんのか?

 

「本当なら、生徒会長がやるべきなんだけど……」

 

「~♪(吹けてない口笛)」

 

「ダメな姉ですみません……」

 

「(゚ロ゚;)私ダメじゃないもんっ!」

 

いや、ダメダメだろう。

 

「なので、お嬢様は飾り付けの買い出しに行ってきてください」

 

「え~」

 

「なんでそんな嫌そうなんですか、まったく……」

 

「仕方ないな~、私が行くよ~」

 

刀奈が拒否ったから、とうとうのほほんが仕事し始めたぞ。どうすんだよこれ。

 

「かんちゃ~ん、一緒に買い出し行ってくれる~?」

 

「いいよ」

 

「え、簪ちゃんも行くの?」

 

「陸」

 

「はいはい、荷物持ちな」

 

「お~、ツーカーってやつだね~」

 

「ええっ、陸君まで行くの!?」

 

「お嬢様は行きたくなさそうでしたから、どうぞ寮でゴロゴロしててください」

 

「い~や~! 私も買い物行く~!」

 

((((なんだこの駄々っ子は……!?))))

 

椅子に座って手足をバタバタさせる2年生児。シュール過ぎるぞ……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

結局買い物には刀奈も付いてくることになり、一応生徒会の仕事ということで制服のまま、俺達4人は毎度おなじみのレゾナンスにやって来た。

 

「ところで、飾り付けの買い出しって何を買うんだ?」

 

「ツリーは買わないよね?」

 

「おいおい簪、いくらなんでもツリーを買うとか……ないよな?」

 

一応のほほんに確認を取る。さすがにツリー持って帰るのは辛すぎる。

 

「えっとね~、各部屋のドアに飾るリースとか、窓に貼るスノーフレーク(雪の結晶)のシールとかだね~」

 

「クリスマスツリーは業者に頼んであって、来週あたりに届く手筈になってるわ」

 

虚先輩に持たされたであろうメモを見るのほほんに、刀奈が補足を入れる。そうだよな、さすがにツリーは頼んであるよな。

 

「それじゃあ、レッツ買い物~」

 

「ちょっと、本音!」

 

「ひ、引っ張らないでぇ!」

 

のほほんが二人の腕を取って、ずんずん先に進んでいく。……あのダボ袖で、よく腕掴めるな。

 

「って、あいつら俺を置いてくつもりか?」

 

さすがに開幕ぼっちは勘弁願いたい。俺は気持ち速足で、のほほん達3人を追いかけた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

幸いいくつも店をハシゴすることなく、メモに書かれてたものを買うことができた。できたんだが……

 

「……これは必要か?」

 

嵩張るものは全部拡張領域に投げ込んで、今持っているのはそれ以外のもの……クラッカーとか、菓子類とか。

 

「あら、必要よ。帰ったらクリスマスの前祝するんだから」

 

「そう言ってたよね~」

 

「え、本当にする気だったの?」

 

「マジでする気だったのかよ……」

 

「トーゼン! そうじゃなくて何が生徒会よ!」

 

「そ~だそ~だ~」

 

「二人とも……」

 

頭を抱えそうになる簪。これたぶん、虚先輩ガチギレ案件になりかねんぞ。

 

「それじゃあ次の買い物に行く前に、軽く腹ごしらえと行きましょうか」

 

「さんせ~」

 

「あっ、もうそんな時間なんだ」

 

言われて俺もスマホの時刻を見ると、12時を少し過ぎたところ。朝飯が遅かったから、すぐに昼が来た感じだ。

 

「ん~、それじゃああのお店にしよ~」

 

そう言ってのほほんが選んだのは、某ハンバーガーショップだった。

さすがに休日だからか、店内はそこそこ混んでいた。とはいえ、4,5分ほどでテーブル席が空いて、そこにトレーを持って滑り込んだ。

 

「そういえばかんちゃん、ピクルス食べられるようになった~?」

 

「ほ、本音!?」

 

突然の爆撃に、今まさにハンバーガー頬張ろうとした簪が動揺する。へぇ、簪ピクルス食えねぇのか。

 

「くくくっ……」

 

「お姉ちゃんまで!」

 

「まだまだ、大人の女性にはなれそうにないわね?」

 

刀奈のいじわるスイッチが入ったのか、簪にウインクして追撃。それに対して簪は頬を膨らませて

 

「む~!……そういうお姉ちゃんも、自分で注文できるようになったんだね?」

 

「ん? どういうこ「簪ちゃん!?」」

 

おっと、簪が反撃に出たか。 刀奈が遮ろうとするってことは、結構恥ずかしい話なのか?

 

「お姉ちゃんは昔ファーストフード店に入った時、オーダー取りに来ると思って、ずっと座って待ってたことがある」

 

「Oh……マジか」

 

「あと、ハンバーガーをフォークとナイフで食べようとしたこともある」

 

どこのお嬢様だよ……更識家のお嬢様か。

 

「そんな幼稚舎時代の話はやめてよぉ! 陸君には知られたくなかったのにぃ!」

 

「いたたたっ」

 

本気ではないんだろうが、恥ずかしさで俺をポカポカ叩く刀奈。簪には無理なのは分かってるが、どうして俺を叩く?

 

「いや~、二人の恥ずかしい話で御飯が美味しい~」

 

「のほほん、いい趣味してんなお前……」

 

最初に簪に着火して、あとは高みの見物決め込みやがってからに……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「色々買ったわね~」

 

「お姉ちゃん、先週も買い物したばかりなのに……」

 

「そんなに服買って、どこに仕舞うんです?」

 

「色々場所があるのよ、色々ね」

 

「たっちゃん、生徒会室のロッカー占有してるもんね~」

 

「あ、あら~、バレてたの?」

 

のほほんの指摘に、刀奈の目が泳ぐ。完全な職権乱用です、本当にありがとうございました。って今更か。

 

「あれ? 陸か?」

 

聞き覚えのある声に、俺達はその方向に振り返った。

 

「ん? なんだ一夏じゃねぇか」

 

そこにいたのは、一夏とオルコットだった。オルコットは一夏の腕にべったりで、目がハートマークになる直前だ。

 

『かぁ~! セシリアも卑しか女ばい!』

 

……デュノアの声が聞こえたようだが、気のせいだ気のせい……。

 

「のほほんさんも一緒なんて珍しいな」

 

「今日は生徒会の仕事の手伝いだからな」

 

「手伝い?」

 

「そうなんだよ~。クリスマスが近いから、寮の飾り付けをするんだよ~」

 

「へぇ、そうなのか」

 

「なるほど、つまりその飾りを買いに来たということですのね?」

 

「そうだよ~。あとはクリスマスの前祝~」

 

「おいコラのほほん、それは言わなくていい」

 

「「はい?」」

 

ほら見ろ、二人とも『何言ってんだ』って顔になっちまったじゃねぇか。

 

「それで、そっちも買い物?」

 

「ええ。と言っても用事は済んだので、これから帰るところですわ」

 

「そうなんだ。……オルコットさん」

 

「はい?」

 

キョトンとするオルコットに、簪が口元を指さすジェスチャーを……ああ、なるほど。

 

「なんですの?」

 

オルコットはそれでも気付かず……おっ、一夏は気付いたか。あれは言うかどうか迷ってるな?

 

「セシリア、口元にクリームがついてる」

 

「っ!?」

 

一夏に指摘されて、ババッと手鏡を取り出したオルコット。そして急いでハンカチで口元を拭ったが後の祭り。

 

「わ、わたくし、あの状態で歩いてましたの……!? 最悪ですわ……」

 

まぁ恥ずかしいわな。お貴族様ともなれば尚のこと。

 

「二人とも、もしかして城址公園のクレープ屋さんに寄ってたの?」

 

「ええ、そうです」

 

「ああ、それでクリームが」

 

「それ以上言わないでくださいまし!」

 

簪の追撃がオルコットを襲う! いや、別に狙ってやったんじゃないとは思うが。

 

「でも残念だったよな、セシリア」

 

「そうですわね」

 

「何かあったの~?」

 

「ミックスベリーが売り切れでしたの」

 

「「「え?」」」

 

オルコットのセリフに俺、簪、刀奈の3人が固まる。もしかして、ご存じない……?

 

「それでお前ら、結局どうしたんだ?」

 

「ブルーベリーとストロベリーをそれぞれ頼んで、二人で分け合って食べたよ。結構美味かったのが不幸中の幸いだったな」

 

「いやお前、あれってブルーベリーとストロベリーを食べさせ合ってミックスベリーになるんだからな」

 

「マジで!?」「へ?」

 

どうやら本当に知らなかったらしい。ミックスベリーの秘密を教えたら、一夏は驚き、オルコットは鳩が豆鉄砲を食った顔になった。

 

「まったく、プレゼントの件といいクレープの件といい、お前は情報収集不足なんだよ」

 

「プレゼント?」

 

「なんのこと~?」

 

「な、何でもないって!」

 

首を傾げる簪とのほほんに対して誤魔化そうとする一夏。ちなみに刀奈は何となく察したのか、ニヤニヤしてる。

 

「それがよぉ、一夏の奴――」

 

さらに追撃してやろうとした、その時だった。

 

 

突然の閃光が、周囲の景色を焼き払ったのは。

 

 

「「「「きゃああああ!」」」」

 

「ぐぅっ!」

 

「ぐあっ!」

 

閃光から遅れてやってきた衝撃と熱風に、俺達は押し倒された。そして顔を上げた時、目に入ってきたのは、

 

高熱で溶けた床のタイル材。衝撃で砕け散ったガラス片。熱風で発火した建材。崩れ落ちる瓦礫。逃げ惑う客や店員。そして

 

 

ガレキに潰されて薄っぺらになったナニカと、

 

炎に包まれながら藻掻くように手を伸ばすナニカ

 




駄々っ子のたっちゃん。出掛けたくないけど一人で留守番も嫌がる子供、いますよね。

人の黒歴史で飯が美味い!(by本音)

一夏と遭遇。前話と重なる部分です。

エクス、カリバー! 原作では死人描写はありませんでしたが、んな訳無いデショ!


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第130話 表と裏

時間軸的には、ほとんど進んでません。のんびりお待ちください。


日曜日でも、IS学園の教師には仕事があります。クラスを受け持っている担任、副担任は特に。

なので、私や織斑先生が職員室にいるもの、珍しいことではないのです。悲しいことに。

 

「ふぅ……」

 

「お疲れ様です、織斑先生」

 

「ああ、すまんな山田君」

 

コーヒーの入ったマグカップを差し出すと、来学期に必要な書類と格闘していた織斑先生は私からカップを受け取って一口すすりました。

 

「さすがだな、インスタントでこの味とは」

 

「そうですか?」

 

私としては、普通に淹れたつもりなんですが。

 

「私が淹れると、なぜかいつも泥水になってしまってな……」

 

「それは粉を入れすぎですよ、先輩……じゃない、織斑先生」

 

思わず、昔の呼び方が出てしまいました。いけないいけない。

私が代表候補生だった頃から、この人は変わってない。ISや戦闘術に特化し過ぎて、家事一般は全て弟さんに丸投げだったツケが回ってますね。

 

「んん! さて、確かここに……」

 

咳払いで誤魔化そうとした織斑先生が、おもむろに袖机の引き出しを開けると、そこには包装された菓子がいくつも入っていました。

 

「山田君もどうだ? 結構美味かったぞ」

 

「い、いただきます」

 

手渡された包装を開けると、中から焼き菓子――確かフィナンシェ、でしたっけ?――が出てきました。バターの香ばしい香りが食欲をそそります。

 

「意外ですね、織斑先生がお菓子なんて」

 

「私だって菓子ぐらい食べる……と言いたいところだが、これは貰い物だ」

 

「貰い物、ですか」

 

「ああ、宮下からな。『自由国籍の件で、胃壁をすり減らした詫びです』と言って、夏休み明けに渡してきた」

 

「は、はぁ……」

 

どこからツッコめばいいんでしょう? 先生に詫びの菓子折りを持ってくる宮下君? それとも、夏休み明けからずっとお菓子を引き出しに入れっぱなしにしてた織斑先生?

心配になって包装を確認しました。……うん、大丈夫。ギリギリ賞味期限内だ。

 

――トゥルルルル

 

「あっ、私が出ますね」

 

職員室の電話が鳴ったので、私が受話器を取りました。

 

「はい、IS学園職員室――えっ」

 

「どうした山田君……山田君?」

 

受話器の反対側から織斑先生の声が聞こえてきますが、私は反応出来ずにいました。だって、だって……!

 

「おい、どうした!? しっかりしろ真耶!」

 

――パチンッ

 

「っ!」

 

先輩に軽く頬を張られました。それでようやく、私も正気を取り戻しました。

 

「一体何があったんだ!? 報告しろ!」

 

そう叫ぶ先輩の顔も、青褪めてる気がします。それは、私の顔も青褪めてるからでしょうか……。

 

 

「ショッピングモール・レゾナンスに、ISからと思われる攻撃が、着弾……死傷者、多数、と……」

 

 

まるで、地獄の門がこじ開けられたようだと、その時感じました……。

 

ーーーーーーーーー

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

レゾナンスにいた俺達は、今はIS学園の生徒指導室にいた。

 

あの後俺達は、緊急時と判断してISを展開。避難する人達の誘導や、避難の邪魔になるガレキの撤去を行った。

それから30分ぐらいだろうか。やっと到着した救助隊や消防隊に状況を引き継いだところで織斑先生から通信が来た。

 

『お前達、至急学園に戻って来い』

 

通信はその一言だけ。そして学園に戻ってきた俺達は、そのままここに連れて来られた。部屋を出るのも、他生徒との接触も禁止。ほぼ軟禁状態だ。

 

「なんで俺達がこんな……人助けしたんだぞ」

 

「それは~……」

 

「情報を漏らしたくなかったからだ」

 

「千冬姉! 一体どうなってんだよ!?」

 

部屋に入ってきた織斑先生に一夏が食いつくが

 

「織斑先生だ。いや、今はそれはどうでもいい」

 

いつもの出席簿アタックもなく、先生が俺達を見回す。

 

「避難者の救出活動、よくやった」

 

「いえ、代表候補生として、専用機持ちとして当然のことですわ」

 

「同じく」

 

軽く首を振るオルコットに、簪も同意する。

 

「それで織斑先生、被害は?」

 

「……幸いお前達が救助活動を行ったため、当時モールにいた者の大半は無事だ」

 

「そうですか……」

 

「良かった~……」

 

「……」

 

「陸?」

 

「……いや、なんでもない」

 

俺のその言葉で、織斑先生は話は終わりとした。

 

「現在、謎の攻撃がどこから来たものか解析中だ。その結果が出るまで、今日のことに関して口外を禁じる」

 

「結果が出るまで、ですか?」

 

「ああ。そしてその結果次第では、お前達にも出動要請が出るかもしれん。覚悟だけしておいてくれ」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「織斑先生」

 

一夏とオルコット、そしてのほほんが生徒指導室を出たタイミングで、俺は織斑先生に声を掛けた。

 

「なんだ?」

 

「死者は?」

 

「……」

 

「"モールにいた奴の大半は"と言いましたが、それじゃあ残りの半分は?」

 

刀奈と簪も、織斑先生の方を見る。

そして苦い顔をする先生。やっぱ、こっちに心配かけまいと、わざとそんな言い回しをしたのか。

 

「それで、死者は?」

 

「……死者24名、重軽傷者1084名。行方不明者も100名ほどいる」

 

「そう、ですか……」

 

刀奈も何となく察してたのか、『やっぱり』って顔をしていた。

 

「簪ちゃんは大丈夫?」

 

「うん。覚悟はしてたから」

 

「覚悟、か……」

 

本当に嫌そうな、悲しそうな顔をする織斑先生が俺の方を見る。

 

「織斑達が出て行ったタイミングで聞いたのは、あいつらに聞かせたくなかったからか」

 

「ええ。こんな血生臭い話、知らなくていいんですよ」

 

「更識姉妹はいいと?」

 

「正直どうかと思ったんですけどね……」

 

そう言って二人の方に視線を向ければ

 

「私は陸と一緒の道を歩くって決めた。その道中で血を見る覚悟は出来ています」

 

「私の場合は今更ですよ。これでも"更識"ですから」

 

「信頼されてるな」

 

「なかなか重い信頼ですよ。とはいえ、降ろすつもりもないですが」

 

「そうか……お前達も疲れてるだろう、さっさと部屋に戻って休むといい」

 

これ以上話せることはない、と遠回しに言いつつ、俺達を部屋から追い出した。

 

 

 

おそらくあれは、衛星軌道上からの砲撃だろう。くそっ、嫌な記憶(メメントモリ)を思い出させやがって……。

誰がやったか知らねぇが、簪や刀奈を巻き込んだんだ……

 

(ぜってぇ、ぶっ潰す……!)

 

ーーーーーーーーー

 

部屋に戻った時、ルームメイトの如月さんは不在でした。でも、それで良かったと思います。

 

(シャワーを浴びて、少し休みましょう……)

 

脱衣所で、ガレキの粉塵と汗で汚れた制服を脱ぐ。ISを展開している時はISスーツでしたが、狭い通路ではISを解除して制服姿で誘導していましたから。

そうしてシャワーノズルから噴き出す熱めのお湯を浴びると、ようやく一息ついた気がしますわ。

 

「それにしても、あの攻撃は……」

 

あの後、ブルー・ティアーズのログを確認したところ、はるか上空から高エネルギーを感知していました。つまりあの攻撃は、成層圏の向こうから……?

 

「……今気にしても仕方ありませんわね」

 

織斑先生が調べているとおっしゃっているのですから、それまでわたくし達は待つしかありませんわね。

 

そうして汗や埃を洗い流し、ほどよく体が温まり、替えの制服に着替えて少し横になろうとしたところで

 

――♪

 

スマホの着信が。

 

「……チェルシー?」

 

相手は、わたくしが不在の間オルコット家を管理しているメイド、チェルシー・ブランケットからでした。

 

Hello(もしもし). チェルシー、どうしましたの?」

 

『お嬢様、大切なお話があります』

 

受話器の向こうから聞こえてくる彼女の声は、とても切羽詰まったものでした。

 

『今すぐ本国(イギリス)にお戻りください』

 

「はい? 何を言ってますの?」

 

いきなり本国へ戻れだなんて……

 

「それは、クイーン・レグナント(女王陛下)からの命令ですの?」

 

『いいえ、バッキンガム宮殿からでも、ダウニング街10番地(首相官邸)からでもありません』

 

「話になりませんわ」

 

わたくしはイギリスの代表候補生として、政府からの指示でIS学園に来ているんですのよ?

 

『それでも、戻っていただきたいのです』

 

「チェルシー、どうしたんですの? 貴女はそんなことを言い出す人間では無かったはずです」

 

両親を亡くしてから、姉代わりとしてわたくしを支えてくれたメイドは、このような道理の通らないことを言ったりはしなかったはず。なのになぜ……。

その謎は、チェルシーの次の言葉で氷解しました。

 

「道理を曲げてでも、お嬢様にお戻りいただきたいのです。そして、救っていただきたいのです」

 

 

 

 

「日本に放たれたエネルギー収束砲『エクスカリバー』、そこに囚われている、私の妹……エクシアを」

 




まーやん、悲報を受ける。久々に出番があったと思ったらこれだよ……。

一夏、被害(表)の少なさに安心する。原作でも、聖剣撃ち込まれた遊園地の被害とか、ほとんど出てきませんでしたね。それで心沈んだ状態でイギリス行こうとはならんかもしれないですが。

オリ主チーム、被害(裏)を聞く。原作と違って死人が出てる? あ、そうなんだ。で? それが何か問題?

チェルシーからのSOS。亡国機業が無くなってるので、素直にセシリアへSOSを出しました。


次回から欧州編、かも。


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第131話 血族≠家族

(感想欄より)「妹を助けて欲しいのに何で最初に帰ってこいなの?」
あっ、やっべ……!

くお~! (矛盾に)ぶつかる~!! ここでプロット修正、インド人を右に!

何とか伏線化するので、章終盤までお待ちください。

そしてまだ欧州に行けなかったよ……。


レゾナンスの惨劇から一夜明け、専用機持ち全員が生徒会室に集められた。

 

「昨日、IS学園の近くにあるショッピングモールの件は皆知ってると思う」

 

「……」

 

織斑先生の言葉に、全員が無言で首を縦に振る。

現場にいた俺達はもちろん、それ以外も昨晩のニュースを見て知っている。

 

「そして観測所からの報告で、あれは衛星軌道上からのレーザー攻撃であることが判明した」

 

「衛星砲……」

 

「どこの国よ、そんなものぶっ放したのは……」

 

「そしてさらに、追加で情報が入った。オルコット」

 

「はい」

 

「え? セシリア?」

 

デュノアを始め、皆がポカンとする中、オルコットが俺達の前に出てくる。

 

「今回攻撃を行ったのは、高度エネルギー収束砲『エクスカリバー』。イギリスとアメリカが極秘開発・運用していた攻撃衛星ですわ」

 

「ちょっと待てセシリア、それは両国の極秘情報なのだろう? お前が話して大丈夫なのか?」

 

「安心しろ、両国から許可は得ている」

 

心配する篠ノ之に、織斑先生が説明を入れる。つまり……

 

「つまり、米英がその情報を漏らすことを許容するぐらいの緊急事態ってことですか」

 

「うむ、察しがいいな」

 

あんま嬉しくないですがね。

 

「宮下さんのおっしゃる通りですわ。先ほど米英で開発・運用していたと言いましたが、実際は別組織の制御下にあったそうです」

 

「別組織だと?」

 

「ええ。その組織の名は……亡国機業」

 

「なっ!?」

 

一夏を筆頭に、全員が驚いた。もちろん俺もだ。そう繋がってくるのか……。

 

「ま、まさか亡国機業が昨日の攻撃を!?」

 

「いいえ、違いますわ。わたくしも昨日初めて知ったのですが……亡国機業はすでに、IS委員会の強襲によって壊滅しているのです」

 

「「「「「ええっ!?」」」」」

 

オルコットを除く一夏チーム全員がまた驚く。俺達は以前、刀奈から聞いてたから驚きはしなかったが。

 

「そっか……叔母さ、スコールがIS学園に逃げてきた時から、もしやとは思ってたが……」

 

「でも、それならそのエクスカリバーの制御権は、IS委員会が持ってるはずじゃないの?」

 

「普通なら凰の言う通りだ。だが、どうもその制御権はまた別の組織に流れたらしくてな、今も委員会内は大混乱だ」

 

「なんという……」

 

ボーデヴィッヒが手で目を覆う。まさに目を覆いたくなる状況だ。テロリストに衛星砲のトリガーを奪われて、奪還したと思ったらまた失くしましたってんだからな。

 

「そして次が問題なのですが……エクスカリバーはただの衛星砲ではありません」

 

「衛星砲じゃない?」

 

「ええ。エクスカリバー、あれは……」

 

 

「生体融合型ISなのです」

 

 

「生体、融合型……?」

 

「な、何言ってるっスか……?」

 

織斑先生とオルコットを除けば、難しい顔をしている刀奈以外、全員がその単語を理解できずに固まった。

 

「あの衛星には、ISを埋め込まれた少女、エクシアが搭乗……いいえ、"搭載"されております」

 

「搭、載? それじゃまるで……」

 

「その通りですわ、一夏さん。そして、どうしてそんなに詳しいかと申しますと……エクスカリバーの部品と化しているエクシアは、わたくしの姉代わりであるオルコット家のメイド、チェルシー・ブランケットの妹なのです」

 

「あのチェルシーさんの、妹? しかも部品って、なんだよそれ……!」

 

「ひどい……」

 

「そしてそのエクスカリバーが、昨日突然本来の軌道を外れ、日本へ向けて砲撃を加えたのです……」

 

昨日の現場を思い出したのだろう。語るにつれて、オルコットの顔色が悪くなっていく。

 

「オルコット、説明はここまででいい。すまなかったな」

 

「いいえ、これはわたくしの口から言わなければならないことでしたから……」

 

最初よりはゆっくりと、オルコットが元いた場所に戻る。

 

「そして先ほど、IS委員会からIS学園に対して『エクスカリバー破壊作戦』の参加要請がきた」

 

「参加要請って……」

 

臨海学校の福音といい、上は俺達を何だと思ってるんだ?……戦力としてしか見てないか。

 

「事実、IS学園には最新鋭機が揃っているからな。アテにしたくなる気持ちも分からなくはないが……」

 

「あたし達代表候補生は、有事には作戦参加する義務があったりするんだけど、ねぇ」

 

「さすがにこれは想定してなかったかなぁ……」

 

独中仏の専用機持ちが、揃って苦い顔だ。ホント、ふざけてやがるな。

 

「一応、候補生ではない宮下と布仏は参加を辞退する権利があるが、どうする?」

 

「え? 俺にはないのか?」

 

一夏がキョトンとした顔で聞いてきた。確かに一夏が候補生になったって話は聞いてないな。

 

「なんだ、怖いなら別に、お前だけ留守番でもいいんだぞ? ちなみに私は参加する。これでも、イギリス機の正式なテストパイロットなのでな」

 

「なっ……!」

 

おおう、織斑(マドカ)が織斑(一夏)を煽る煽る。

 

「怖くなんかねぇよ! 分かったよ、行ってやるよ!」

 

「だ、そうだ」

 

「織斑は参加、と」

 

「あ」

 

乗せられたと気付いた時には、すでに一夏のイギリス行きが決定していた。

 

「ま、まぁいいや……つまり、そのエクシアさんを助ければいいんだろ?」

 

「「「「「えっ?」」」」」

 

「え? 違うのか?」

 

さすがだ一夏、この空気でそれを言えるのはお前ぐらいだ。

 

「嫁よ、破壊作戦だと教官も言ってただろう……」

 

「いや、エクシアさんを救出してからその衛星兵器を破壊したっていいんだろ?」

 

「それはそうだけど……」

 

「難易度が跳ね上がるっスよ、それ」

 

「そうだけど……セシリアはどうしたいんだ?」

 

「わたくし、ですの?」

 

突然話を振られたオルコットが目を丸くする。

 

「セシリアは助けたいのか? 助けなくていいのか?」

 

一夏にそう聞かれ、逡巡しているのか、しばらく顔を俯かせていたオルコットだったが、

 

「……てください」

 

 

「エクシアを……チェルシーの妹を、わたくしの家族を、助けてください!」

 

 

目の端に涙を溜めて、自分の本心を叫んだ。

 

「そうか……みんな、聞いた通りだ。破壊作戦だか何だか知らないが、絶対エクシアさんを助け出すぞ!」

 

一夏の掛け声に、みんながおーっ! と腕と声を上げる。イージスの二人も『仕方ないなぁ』って顔はしてるものの、反対はしなかった。

織斑先生も顔に手を当ててため息をついたものの、止める気はないようだ。いや、うまく顔を隠してるが、少し笑ってやがる。

 

「話が逸れたが、お前達はどうする?」

 

「俺は行きますよ。その生体パーツにされた、エクシア、だっけ? そいつを装置から引き剥がすエンジニアが必要でしょう」

 

「私も行きます~! 何の役に立てるか分からないけど、かんちゃん達と一緒に頑張るのだ~!」

 

俺は言うまでもなく、のほほんも辞退する気はないようだ。

 

「それでは1時間後、校門前に集合だ。その後空港からドイツの特殊空軍基地を経由して、イギリスへと向かう」

 

「ドイツを経由? 直接イギリスに行かないんですか?」

 

「途中ドイツに寄るのは、本作戦で使用する装備をドイツで受領することになっているからだ」

 

「なるほど?」

 

「それでは、一時解散!」

 

パンパンと織斑先生が手を叩くと、集まっていた面子はぞろぞろと生徒会室を後にした。

 

ーーーーーーーーー

 

イギリスかぁ……正直海外に行くこと自体初めてなんだよなぁ。

 

「大丈夫、向こうでも日本語が通じるところは多いって話だから」

 

「そうなのか?」

 

「昔、各国がISのマニュアルを英訳するよう篠ノ之博士に要求した時『なんでお前達のために、束さんがそんなことしなきゃいけないのさ。むしろお前らが日本語覚えてこい』って言った影響」

 

「あいつは今も昔も変わらずか」

 

なるほど、だから一時期日本に住んでた凰以外にも、日本語が通じてたのか。今更知った新事実。

 

「それで、そのイギリスに行くのに、どうしてここにいるの?」

 

簪が『解せぬ』って顔でこっちを見てくる。まぁそうだろうな、集合時間まであと20分やそこらなのに、どうして整備室にいるって話だ。

 

「今回の作戦で必要そうな装備を、陰流にインストールしときたくてな」

 

「陰流に?」

 

「おう。いざって時に、俺も動けるようにしとかないとな」

 

「ふ~ん」

 

「ところで簪、荷物はいいのか?」

 

女の荷物は多いって偏見があるんだが、キャリーバッグの1つも見当たらない。向こうじゃキャリーバッグじゃなくて、キャリアーバッグって言うんだったか。まぁいいや。

 

「別に遊びに行くわけじゃないから、替えの服だけ拡張領域に入れてある」

 

「あ、簪もそうしたのか」

 

俺もそうした。専用機があると、拡張領域を好きに使えるから重宝する。……前に一度、飲みかけのペットボトルを入れっぱなしにしてたらソフィアー(コア人格)に怒られたが。

……よしっ、全部入れられたな。

 

「簪ちゃ~ん、陸く~ん。準備終わった~?」

 

「お姉ちゃん」

 

「おう、今終わったところだ」

 

「みんな集まり始めてるから、急いで~」

 

整備室の入り口で、刀奈が手招きしていた。荷物らしきものが見えないってことは、刀奈も拡張領域に入れたか。

 

「そんじゃ、そろそろ行くか」

 

「うん」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

そうして集合場所に行く途中、

 

「束?」

 

廊下で束と遭遇した。

 

「どうして束がここに?」

 

「太陽光発電受信アンテナ事業、あの二人に丸投げしたんだけど、やっぱり最初の設置は自分の目で見ておきたくてね~。りったん達はどこか行くの?」

 

「ちょっと仕事で、イギリスまで行くことになっちまった」

 

「専用機持ちは、全員参加です」

 

「いっくん達も!? 束さん置いてきぼり~!?」

 

「付いてくとか言うなよ、織斑先生の胃がまたやられるから」

 

最近ALT値が少しずつ下がってきたんだ~、って喜んでたからな。

 

「やっと陸君に耐性がついてきたのにね」

 

「うっせ」

 

「む~、くーちゃんとお留守番かぁ。あ、イギリス土産よろしくね~」

 

イギリス土産って、何買ってくればいいんだよ。

 

「行ってきます」

 

「お土産はあまり期待しないでもらえると……」

 

そう言って束とすれ違う二人。そして俺もすれ違うところで

 

「束、ちょっと頼まれてくれないか?」

 

「おや? りったんから頼み事なんて珍しいね、何かな?」

 

「昨日、衛星軌道上から砲撃された件、誰がやったか調べてくれ」

 

かなり話を端折った依頼だが、束なら昨日のことぐらい知ってるはずだ。興味があるかは別にして。

 

「ああ、あのショッピングモールが吹っ飛んだやつでしょ? あんまり興味ないな~」

 

案の定か。だが、束は必ず受ける。なぜなら

 

 

「あの砲撃の現場に、俺と一夏がいたとしても?」

 

 

「……へぇ?」

 

 

束の目付きが変わった。かつてISコアの中で見せた、能面のような顔だ。

感情的になった時、束の顔はむしろ無表情になる。

 

「今のところ、証拠はない。ただの偶然ってこともある。だが、もし何かしらの意図があったとしたら……」

 

「誰かがいっくんやりったんを殺そうとした、と?」

 

「だから調べてほしい。もし俺達を狙ったものなら、それなりの対応をしなきゃならないからな」

 

「……いいよ、そういうことなら受ける。もし誰かがいっくんを狙ったんだとしたら、ただじゃおかない」

 

頷いた次の瞬間には、束の顔はいつもの微笑に戻っていた。

 

「それじゃあ改めて、いってらっしゃ~い!」

 

「おう、行ってくる」

 

すれ違いざまに手を振って、集合場所の校門前に向かった。




セシリア説明回。チェルシーが話してた内容を、セシリアが代わりに話してる感じです。ちなみにクロエはこの中にはいません。

破壊作戦から救出作戦へ。原作では特に言及されてませんでしたが、一夏ならエクシアごとエクスカリバーを破壊するって選択しないよなぁと思って書いてみました。

オリ主、束に依頼する。感想欄で、一夏と陸どっちに撃っても問題しかないとありましたが、両方狙った欲張りセットの場合、どうなるでしょうね~?(マジキチスマイル)


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第132話 まな板とメロン

ドイツで一服。(原作沿い)

そしてサブタイに深い意味はありません。ええ、ありませんとも。(視線を逸らしながら)


空港からジェット機(IS委員会が用意したもの)に乗り込んだIS学園専用機持ち(+織斑千冬と山田真耶)は、中継地であるドイツを目指していた。

 

 

――ドイツ 特殊空軍基地

 

「総員、整列!」

 

織斑先生を先頭にジェット機を降りると、黒軍服に眼帯をした集団が敬礼していた。

 

「クラリッサ、出迎えご苦労」

 

「はっ!」

 

なんか、ボーデヴィッヒが一番年長っぽいのとやり取りし始めたぞ。

 

「教官も、お久しぶりです」

 

「織斑先生だと……いや、ボーデヴィッヒと違ってIS学園の学生ではないのだから、別にいいか」

 

「織斑先生、彼女らは?」

 

「ああ、ドイツIS配備特殊部隊『シュヴァルツェ・ハーゼ』だ」

 

「私が指揮している部隊だ」

 

「ああ、それでラウラと同じ眼帯を」

 

織斑先生とボーデヴィッヒの説明で、全員が納得した顔をする。

 

「オペレーションルームに案内いたします」

 

そう言って、ボーデヴィッヒにクラリッサと呼ばれた軍人を先頭に、俺達もその後に続いた。

それにしても、クラリッサ? どっかで聞いたような名前だな……

 

 

ああっ! ボーデヴィッヒに『バカップル』って馬鹿知識植え付けてたやつか! よし、どっかのタイミングでシバこう。

 

 

「っ!?」

 

「どうした、クラリッサ?」

 

「いえ、少し寒気がしただけです隊長。問題ありません」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「それでは、改めて状況を確認する」

 

案内されたオペレーションルームで、空中投影ディスプレイの前に織斑先生が立つ。

 

「本作戦は、欧州統合政府とIS学園の共同作戦となる。イギリスに直行せず途中ドイツに寄ったのも、そういった事情からだ」

 

「そんなことしてて、大丈夫なのかよ? いくら作戦で使う装備を取りに行くためとはいえ、それで次の衛星砲を撃たれたりしたら……」

 

「織斑の言うことも分からなくはない。だからこそ、成功率を高めるために多少の遠回りも止む無しという判断になったのだ。一度で確実に終わらせるためにな」

 

「そういうことか……」

 

一夏の奴、理解はしたが、納得し切れてないって顔だな。

 

「そして……デュノア」

 

「は、はい!」

 

「デュノア社から最新装備の受領命令があった。宮下、更識姉妹と一緒に受領して来い」

 

「え、ええ!?」

 

突然のことに、デュノアが素っ頓狂な声を上げる。いやいや、こんな時にかよ。

 

「山田先生も引率に付けるから安心しろ。そして受領後は、デュノア社がジェット機を用意するとのことだ。それに乗ってイギリスを目指せ」

 

「他のメンバーは?」

 

「私と共に、これから受領する装備を持って海路でイギリスに行く。以上、質問はあるか」

 

「教官! 意見具申いたします!」

 

シュバッと手を上げてクラリッサが一歩前に出た。実に軍人な動作だな。

 

「なんだ?」

 

「我がドイツからの海路については教官が引率ということで問題はないと思われますが、フランス空路の引率でそちらの山田先生で十分なのでしょうか? 私が随伴した方がよいかと」

 

おっと、山田先生見くびられてるな。そして山田先生は先生で、怒るでもなく苦笑いしてるだけだし。

 

「(ちょっとラウラ、あんたんところの部下、とんでもないこと言いだしたわよ!?)」

 

「(絶対マズいですわ! 早く止めないと!)」

 

「(う、うむ。そうだな……)」

 

向こう型で、英中独の3人が慌てだした。なんだそんなに慌てて。え、もしかして山田先生って実はヤバいやつなのか?

そんな中織斑先生はと言えば、特に表情を変えることもなく、クラリッサの方を向いて

 

「そういえばお前のIS『黒い枝(シュヴァルツェア・ツヴァイク)』は完成したのか?」

 

「はっ。先日、最終調整を終えたばかりです」

 

「そうか。ならば確認してみればいい。IS学園教師、そして元日本代表候補生である山田真耶の実力を、お前のISを以てな」

 

「「「「ええっ!?」」」」

 

「「「「ちょっとぉ!?」」」」

 

「お、織斑先生!?」

 

いきなりの模擬戦決定に、ハーゼ隊の隊員、学園組、当の山田先生が驚きの声を上げた。

 

「あ、あの、織斑先生? クラリッサさんはいいとしても、私は引率兼オペレーターとして来たので、訓練機とか用意してないんですが……」

 

「安心しろ、その辺は抜かりない。宮下、ISを持てい!」

 

「ははっ、こちらに」

 

織斑先生のネタに付き合う形でみんなの中から一歩前に出ると、恭しくブローチ(待機状態のIS)を差し出した。

 

「千冬姉!?」

 

まさかあの織斑千冬が、こんなことをするとは思ってなかっただろう。一夏を始め、全員が呆気にとられていた。

織斑先生が俺からブローチを受け取ると

 

「さあ山田君、IS学園の矜持のためにも、頑張ってくれたまえ」

 

と言って、山田先生に待機状態のISを手渡したのだった。

 

「な、なんでそうなるんですかぁ!?」

 

「許さん、許さんぞぉ……あの巨乳めがぁ……」

 

「クラリッサ……」

 

混乱する山田先生、先生の胸部装甲を親の仇のように睨みつけるクラリッサ、そんな部下に対してため息しか出ないボーデヴィッヒ。

三者三様でゴタゴタしてきたんだが、結局模擬戦はすんのか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――ドイツIS配備特殊部隊 特設戦闘アリーナ

 

(うう~、どうしてこんなことになってしまったんでしょう……)

 

目の前には、シュヴァルツェア・ツヴァイクに乗ったクラリッサさんが。

 

「それにしても、準備が良すぎませんか?」

 

特に通信を繋いでいないので独り言になってしまいますが、言わずにはいられません。

今私が乗っているのはラファール・リヴァイヴのカスタム機。ただ、そのカスタム度合いが……。

 

(基本装備はリヴァイヴと同じですけど、この追加パーツは……)

 

シールド・ウイング『絶対制空領域(シャッタード・スカイ)』。巨大な4枚のシールド、これの使い方って……

 

「それでは、バトル開始!」

 

織斑先生の声で、意識を正面に戻します。

 

「行くぞ!」

 

先に仕掛けてきたのはクラリッサさんでした。ワイヤーブレードがこちらに向かって放たれる。その数……20!

 

「くっ!」

 

アサルトライフルを展開して迎撃しますが、20基のワイヤーブレードを相手するのはきついですね……!

それでも、既存のリヴァイヴより格段に上がっている機動力で翻弄しながら、1基ずつ確実に仕留めていきます。

 

「なんだと! ただのリヴァイヴではないということか……!」

 

「そうみたいですね。乗ってる私も驚いてます」

 

このISコアの出処も気になりますが、宮下君、一体どんな改造を加えたんでしょう?……私、エキシビションマッチの更識さんみたいに、血吐いたりしませんよね?

 

「ならば、この『嵐の枝(シュツルム・ツヴァイク)』を食らうがいい!」

 

ツヴァイクの名前の通り、装甲から生えている複数の突起が、こちらを向いて

 

「まずっ!」

 

嫌な予感がして緊急離脱をしたのですが、時すでに遅く、シールド・ウイングに何かが着弾したようでした。よく見ると、まるでドリルで削ったかのような傷口、いえ、穴が開いていました

 

「これが、AICの攻撃能力……!?」

 

「突起先端を装甲に侵入させて力場を発生させることで、内部から侵食していく。嵐の名がイタリアの専売ではないことを教えてやろう!」

 

ツヴァイクの突起、棘が、一斉にこちらを向く。さすがにあれが全て飛んで来たら、避けられない……!

 

「これで……! なっ!?」

 

クラリッサさんの驚く声が。そうでしょう、なにせ私のウイングスラスターからシールドが分離したと思ったら、自身の四方を取り囲んだんですから。

 

「目くらましのつもりか!?」

 

「そんなわけないですよ」

 

「っ!?」

 

シールドの隙間から、2丁のサブマシンガンをねじ込み、そして

 

ご覧あれ(It's show time)!」

 

思い切り、引き金を引きました。

 

――ガゴギガンガガガガガガガッ!

 

シールド内で跳弾を起こしながらツヴァイクの装甲を削っている音が、ここからでも聞こえてきます。

そして跳弾の音が聞こえなくなったところで、

 

「シュヴァルツェア・ツヴァイク、SEエンプティ。勝者、山田真耶!」

 

私の勝ちが宣言されてシールドを除けると、装甲がボロボロになったツヴァイクと、目を回すクラリッサさんが出てきました。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「いや確かに俺も、そう使って欲しいと思って用意したんですよ? だからって、明日フランスに飛ぶ人間に修理させるとかどうなんです?」

 

「う~、面目ないです……」

 

「す、すまん……」

 

模擬戦後、愚痴りながらもツヴァイクの修理の手を止めない宮下君の前に、私と織斑先生は正座しています。そして宮下君、いつもより機嫌悪くありません?

ボーデヴィッヒさんは『それぐらい気にするな』と言ってくれましたが、『IS学園がドイツのISを壊した』と風評が立つとまずいので、ここは修理するという選択肢以外あり得ません。

 

「巨乳に、巨乳に叩き潰された……」

 

「副長、しっかりしてください!」

 

「大きいだけが女じゃないですから!」

 

クラリッサさんが部下の方々に慰められてますが……なんでしょう、すごく悲しい気分になるのは……。

あ、それと私が乗っていたIS、ラファール・リヴァイヴ・スペシャル『幕は上げられた(ショウ・マスト・ゴー・オン)』ですが、そのまま私の専用機になるそうです。……ってええっ!?

 

「お、織斑先生! 私に専用機ですか!?」

 

「コアの心配ならしなくていいぞ。以前どこかの特殊部隊が置いていった(ワールド・パージ)、員数外のコアだからな」

 

「それにしたって……」

 

「私だって桜花を持って引率してるんだ。山田君が持ってないでは話にならんだろう? そのために宮下にはフライト中、ずっとこのISを作らせていたのだからな」

 

「ええ~……」

 

宮下君の機嫌が悪いのって、もしかして織斑先生が原因なのでは……?




クラリッサ、ロックオンされる。ロックオンだけです。まぁ、この件が解決した暁には、ね?

クラリッサ VS まーやん。原作では痛み分けでしたが、本作ではまーやんの勝ちにしました。全く関係ありませんが、シシカバブはメロンが好きです。

次回、とっても平穏なフランス編。


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第133話 親子

バトルもなければ鬱もない、フランス編です。


日独の模擬戦から一夜明け、俺達フランス組は国際列車に乗って西に向かっていた。

 

「それにしても、俺を突然こっちにするなんてどうしたんだよ?」

 

「そうですよ、織斑先生も急に承諾しちゃうんですから……」

 

3人掛けの通路側と窓側、デュノアを挟むように座っていた一夏と山田先生が、疑問に思っていたことを聞いてきた。

そう、本来一夏はドイツ組と海路を進むはずだったが、俺が織斑先生にフランス組への編入を提言して許可されたのだ。

 

「いやだって一夏、デュノア社に行くんだぞ?」

 

「それは知ってるって。新装備を取りに行くんだろ?」

 

「ここはお前、『娘さんを僕に下さい!』って言うところだろ」

 

「「「ぶふっ!」」」

 

「あ、なるほど」

 

「確かにね」

 

納得する更識姉妹以外の3人が、盛大に噎せた。

 

「そ、そそそそ、それって、一夏がお父さんに!?」

 

「はわわわわっ……!」

 

「陸ぅ!……でも、いつかはやらなきゃならないんだよな……」

 

「一夏ぁ!?」

 

「嫌だぞ、俺が挨拶に行かなかったのが原因で、シャルと親父さんの仲が拗れるのは」

 

「そ、それは僕も嫌だけど……」

 

「認めてもらいたいんだよ、俺とシャルの仲を」

 

「一夏……」

 

う~ん、なんだろうな。窓は開いてるはずなのに、全然涼しくないどころかめっちゃ暑いんだが。

 

「わ、私、何か飲み物買ってきますね」

 

「そんな、先生がわざわざ行かなくても……」

 

「いいえ! ちょっと歩き回りたかったので、気にしなくていいですよ!」

 

刀奈の制止も聞かず、山田先生は席を立つと隣の車両に消えて行った。先生、逃げたな。

 

「逃げたね」

 

「だな」

 

「そりゃ、こんな甘々なシーン見せられたらねぇ……」

 

なんて話してたら、一夏とデュノアから白い視線が。なぜに?

 

「いや、陸達も大概だと思うぞ」

 

「というか、宮下君達の方が原因だと思うよ」

 

そう指摘する二人の視線の先には、俺の膝の上に座る簪と、俺の右腕を掴んで離さない刀奈。

 

「うん、いつも通りだな」

 

「いつも通り!? それが!?」

 

「もう嫌だこのバカップル……」

 

「に、日本のカップルって、これが普通なのかな……? も、もしかして僕達も、いつかはこんな風に……え、えへへ……///」

 

「シャルぅ! そんなことねぇから、妄想世界から戻ってきてくれぇ!」

 

デヘ顔で妄想世界に旅立ったデュノアを呼び戻そうと、肩を掴んでガックンガックン揺らす一夏。おーい、あんまやるとデュノアが吐くぞー。

 

「みなさん、レモンティーで良かった……どうしてこうなったんですか?」

 

紙コップを人数分持った山田先生は、一夏とデュノアを見て固まった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そうして列車に揺られること約4時間。俺達はパリ駅に降り立った。

 

「ここがパリかぁ……って寒っ!」

 

「12月のヨーロッパで、その薄着はねぇよ」

 

一夏の奴、IS学園の冬服だけ着てやがる。

 

「パリは日本の北海道より北にあるんですよ? 寒いに決まってます」

 

「そ、そうなんですか……?」

 

あ~あ、膝ガクガク震わせてからに……。

 

「南フランスなら、もうちょっと暖かいかもしれないけどねぇ」

 

「地中海気候、だっけ?」

 

簪と刀奈も、冬用のコートを着て降りてくる。というか、コートを着てないのは一夏だけだ。

 

「まったく一夏ってば、もう」

 

最後に降りてきたデュノアが、予備のマフラーを一夏の首に巻いてやった。

 

「おおっ、あたたかい。ありがとな、シャル」

 

「どういたしまして。そしてみんな、フランスに――パリにようこそっ」

 

デュノアがお辞儀をしてみせる。なかなか様になってるな。

 

「ええっと、確かデュノア社から迎えの人が来ると聞いているんですが……」

 

「お嬢様」

 

「ひゃっ!?」

 

背後からの声に、山田先生の肩がビクンッと跳ね上がる。

 

「えっと、デュノアさん、こちらの方は……」

 

「デュノア家の執事、ジェイムズさんです」

 

「どうぞ、お見知りおきを」

 

そう言ってお辞儀をする姿は、さっきのデュノア以上に様になっていた。というか、デュノアはこの人を見て覚えたのかもな。

 

「お迎えに上がりました。どうぞこちらに」

 

「うん、分かったよ。それじゃあ行こうか」

 

デュノアを先頭に、駅を出てすぐのところに停めてあるリムジンに乗り込むと、ジェイムズさんの運転でリムジンは音もなく発進したのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「宮下君! 学園祭振りだねぇ!」

 

デュノア社の社長室に案内されるなり、アルベール社長――お父さんが宮下君に握手しながら肩を叩いていた。

 

「アルベールさんも、お久し振りです。あれから何のお返事も出来ず、すみません」

 

「いやいや、君の状況もある程度は聞き及んでいるからな。仕方ないさ」

 

「……」

 

二人のやり取りを見て、みんなアングリ口を開けて固まっていた。僕も、今見えているものが信じられない。

厳しさの一言に尽きるお父さんが、まるで旧友に会ったかのような気安さで話しかけてるんだから。そして宮下君も、ごくごく普通に応対してるし……。

 

「それでアルベールさん、ここで新装備を受領するように言われてるんですが……」

 

「お、おお、そうだった」

 

宮下君が本題を切り出すと、お父さんが咳払いをして僕たちの方を向いた。

 

「シャルロット」

 

「はい」

 

「リィン・カーネイションの新装備が先日完成してな、それを今回の作戦で使用することが欧州統合政府により決定された」

 

そう言うと、お父さんはリモコンを操作して、空中投影ディスプレイを起動した。そこに映っていたのは、グレネードランチャーサイズの弾頭だった。

 

「これが新装備の『ビーム攪乱弾』だ」

 

「ビーム、攪乱……?」

 

さらにディスプレイにはシミュレート映像が流れた。

攪乱弾が炸裂すると導電性の高い微粒子を周囲に拡散して、ビームの力場を乱して威力を減衰させる空間を作り出すらしい。

 

「なるほど、これは使えそうね……」

 

会長が『納得』と書かれた扇子を口に当てる。

確かにこれをエクスカリバーの下方にばら撒けば、もし衛星砲を撃たれても、威力を減衰させて被害を抑えることができるかもしれない。

 

「アルベールさん、これってリィン・カーネイションが……お嬢さんがいないと搬出出来ないものですか?」

 

「弾頭自体はコンテナに詰めてあるから、ISか重機を使えば誰でも運び出せるが?」

 

「なるほど……なら、デュノアと一夏はここに残ってろ。搬出はこっちでやっとくから」

 

「え、ええ?」

 

な、何言ってるの? 更識さん達も『ああ、なるほど』みたいな顔してるけど……。

 

「それじゃあ山田先生、行きましょうか」

 

「え、ええ!? そ、それでは失礼します!」

 

宮下君に押される形で、山田先生も社長室を出て行っちゃった……。

 

「ふむ、彼に気を遣わせてしまったか」

 

僕達3人だけになった中、お父さんは苦笑いをしていたけど、突然真剣な顔に変わって、僕達の方を見た。

 

「君が、織斑一夏だな?」

 

「は、はい!」

 

「緊張する必要はない。ただ、意思を確認したいだけだ」

 

「意思、ですか?」

 

「お父さん?」

 

「織斑一夏、君に生涯シャルロットを愛し続けることが出来るか?」

 

「っ!」

 

「お、お父さん!?」

 

と、突然何を言い出すの!?

 

「君は重婚を認められていると聞いている。そしてシャルロットを含め、複数の女性を囲っているともな。そんな君が、他の女にうつつを抜かして、シャルロットを蔑ろにしないと言い切れるか?」

 

「お父さん! 一夏はそんな人じゃ……!」

 

「シャルロットは黙ってなさい!」

 

「!?」

 

ギロリと睨まれて、一瞬言葉が出なくなった。だけど、言い返さないと……一夏は、一夏は……!

 

「当たり前だ」

 

「い、一夏……?」

 

「シャルを蔑ろにする? そんなわけねぇだろ! みんなが俺を受け入れてくれた時、腹を括ったんだ! 俺はみんなを愛し続けるって決めたんだ!」

 

言い切って、ぜぇぜぇと息を荒くする一夏。そんなに君は、僕達の、僕のことを……

 

「……そうか」

 

一夏の怒声を聞いていたお父さんは、ただそれだけを言うと一夏に近づいていき

 

 

「シャルロットを、娘を頼む」

 

 

それだけを言った。

 

「え……?」

 

「本来、ロゼンダ以外の女性を、シャルロットの母を愛した私に今のセリフを言う資格はないのだ」

 

「それなら、なんで……」

 

「娘の幸せを望まない親がどこにいる」

 

さも当然のように、お父さんは言い切った。

 

「だから、シャルロットを幸せにし続けろ。愛し続けろ。二人の女性を同時に愛しておきながら、どちらも中途半端にしか愛せなかった、()()()()()()()のようにはなるな」

 

「お父さん……」

 

「……はいっ!」

 

一夏がお父さんに頭を下げる。その一夏の真剣な眼差しを見て、お父さんの表情が変わる。

 

「話は終わりだ、そろそろ彼らに合流しなさい。ISアリーナ隣の4番倉庫だ」

 

「はい!」

 

「……うん、分かったよ」

 

一夏と返答すると、山田先生達と合流するために僕達も社長室を出て行った。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

二人が出て行った後、私は社長室の椅子にドッカリと座った。

 

「まったく、感情に任せるのはいいが、言葉遣いには難ありだな」

 

「それでも、いい子だと思いますよ」

 

そう言って部屋に入ってきたのは、妻のロゼンダだった。

 

「あの娘を、シャルロットを愛すると、あれだけ啖呵を切れるんですから」

 

だから頼むなんておっしゃったのでしょう、と問われ、私は窓の外を見た。

 

「それと、貴方には訂正していただきたいことがあります」

 

「なんだだだだだっ!」

 

ひ、髭を引っ張るな! 痛い痛い!

痛みに耐えかねて首を捻ると、正面にロゼンダの顔があった。

 

「貴方はちゃんと愛してくださいました。私も、あの娘の母親も」

 

「だが……」

 

「それ以上の卑下は、貴方を愛した私とあの人への侮辱です」

 

「……以後、気を付けよう」

 

「そうしてください」

 

ニッコリ笑うと、私の髭を解放した。

 

「私も向き合えたんです、貴方も向き合えますよ」

 

そう言って、ロゼンダは苦笑いをした。

夏にシャルロットが一度フランスに戻ってきた時、ロゼンダと話をしたと聞いている。その時に互いの胸に溜まっていたもの、膿を出し切ったのだろう。

 

「そうだな。ただ、今は願わくば……」

 

「ええ、願わくば……()()の娘に幸あらんことを」




まーやん、砂糖の塊に挟まれる。すまんな、オッパイ枠は紫兎が先に取っちゃったんだ。

デュノア社の新装備。元ネタというか、まんま00でジンクスがダブルオーに向かって投げてたやつですね。

シャルパパ vs 一夏。原作の嫌味系はどこいった……? これ、2股してた以外は普通のおっさんやん。そしてやや話の運びが強引なのは許してちょ。


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第134話 聖剣奪壊(エクシア救出)

敢えて言わせてもらおう!予定外更新であると!

イギリスで聖剣を折る簡単なお仕事。


デュノア社で新装備を受け取った俺達は、用意してもらったジェット機でイギリスへ。

 

「さむっ!」

 

そして空港を降りたらこれだよ……。

 

「一夏、さすがに天丼はどうかと思うぞ」

 

「まったくもう、一夏ってば」

 

フランスの時と同じように、デュノアが持っていた予備の帽子を一夏に被せる。思いっきり面倒見られてるじゃねぇか。

 

「一夏ぁ!……って、アンタなんでそんな薄着なのよ……?」

 

空港の外に出ると、先行していたドイツ組と合流。そしてさっそく一夏は凰に呆れられていた。

 

「一夏さん、さすがにイギリスは日本と違って、制服だけでは……」

 

「おりむーってば、うっかりさん~」

 

「うぅ……ドイツはあんまり寒くなかったのに……」

 

「そりゃお前、吹きっさらしの空港と違って、軍の基地は防衛用の施設が並んでるから、そこからの排熱で多少はマシなんだよ」

 

「そ、そうなのか……?」

 

「間違っていない。宮下はよく知ってたな」

 

「まぁ、色々あってな……」

 

ボーデヴィッヒに感心されちまった。前世(別の外史)で軍の基地に出入りしてたからなぁ。

 

「お前達、揃ったな? これからあれに乗って、目的地まで移動する」

 

織斑先生が指さす先には、迎えの……ヘリ!?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

3機のヘリに分乗した俺達は、目的地らしい山岳部に向かっていた。

 

「それでは、本作戦を説明する」

 

織斑先生が無線機で全員に通達する。

 

「作戦名《聖剣奪壊(ソード・ブレイカー)》は、部隊を3つに分けて行う。

 織斑、篠ノ之、ボーデヴィッヒ、宮下、更識妹の5人は重力カタパルトにて射出、衛星軌道上のエクスカリバー内部に突入し、エクシア・ブランケットを救出する。

 デュノア、更識姉、布仏、ケイシー、サファイアの5人は成層圏で待機。エクスカリバーが射撃体勢に入ったら、グレネードランチャーでビーム攪乱弾を射出して拡散力場を作り出せ。

 残りはオルコットの護衛をしてもらう」

 

「護衛?」

 

同じヘリに乗ってる面子も全員、首を傾げた。

 

「突入班のエクシア救出を確認、または救出失敗と判断された場合、オルコットはBT粒子加速器によって地上から超長距離狙撃を敢行、エクスカリバーを破壊する」

 

「そんな、エクシアさんごと撃つってのかよ!?」

 

「エクスカリバーの砲撃が再度行われれば、どれほどの被害になるか分からん。ビーム攪乱弾はテスト不足らしく、必ず効くという保証もない……やるしかないんだ」

 

「ご心配なく。わたくしも英国貴族として、代表候補生として、選択を間違えたりはいたしませんわ」

 

「セシリア……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

山岳部に設置された重力カタパルト――三本の突起物、重力アンカーの中心に、俺達突入組はIS展開状態で待機する。

 

『発射まで、10、9、8……』

 

施設内部にいる山田先生が、カウントダウンを始める。

ビーム攪乱組は一足先に出撃して、成層圏で待機してる頃だろうか。

 

『7、6、5……』

 

うわっ、この一瞬くらりとする浮遊感が気持ちわりぃ。

 

『2、1……発射!』

 

そして重力アンカーから射出された俺達は、成層圏の辺りでISによる加速で重力圏を突破、宇宙空間に到達した。

 

「宇宙……IS本来いるべき場所、か」

 

「感慨深そうに呟くのはいいが、作戦行動中だぞ一夏」

 

「分かってるって。それで、これってどれぐらい役に立つんだ?」

 

そう言って、一夏はドイツから受領して持たされた物理シールドへの疑問を口にした。

 

「確か相手は、高出力ビームなんだよな? 正直防ぎ切れる気がしないんだけど……」

 

「安心しろ嫁。このシールドはISのエネルギー・シールドと接続することで、防御力を大幅に増やすことができる。少なくとも、一撃でアイスのように溶けるということはない」

 

「そうか……って、それって2撃目以降は保証しないって言ってないか?」

 

「……」

 

「め・を・そ・ら・す・な」

 

おいお前ら、漫才してる暇はねぇぞバカタレ。

 

「見えたぞ!」

 

篠ノ之の声で、和んでいた雰囲気は霧散した。そして篠ノ之が言ったように……

 

「……大きい」

 

簪の言葉が、すべてを語っていた。

 

刀身を地球に向ける一本の剣、そう例えようしかない姿をしていた。目測で、全長15mってところか。

 

「っ! みんな気を付けて!」

 

いち早く異変に気付いた簪が声を上げる。その瞬間、ブルー・ティアーズとは比較にならないビームがシールドを直撃した。

 

「ぐぉぉっ! た、確かに一撃じゃ溶かなかったが、衝撃が半端ねぇぞ!」

 

「分離しただと!?」

 

「何!?」

 

ボーデヴィッヒの声に顔を上げると、エクスカリバーから4つの刀身が射出され、それぞれが子機のようにこちらを狙ってビームを発射してきやがった!

 

「さすがイギリス! 衛星砲もビット化するかよ!」

 

「一夏! どうしてこの状況でそんな軽口が叩ける!?」

 

「軽口叩かねぇとやってらんねぇよ!」

 

一夏と篠ノ之が夫婦漫才してる間も、子機は断続的に攻撃を仕掛けてくる。撃たせまくってエネルギー切れは……期待できねぇな。

 

「このままでは埒が明かない。宮下! ここは私達に任せて、お前はエクスカリバー内部に侵入しろ!」

 

「確かにラウラの言う通り、このままこいつらの相手をしてる場合じゃないな。行け、陸!」

 

俺かよ!? いや確かに、エクシアを装置から引き剥がす要員だって言いはしたが……。

 

「陸!」

 

「宮下!」

 

「ああもう! 分かったよ! お前ら死ぬんじゃねぇぞ!」

 

簪達が子機を抑えている間に、俺はスラスターにエネルギーを全振りして、エクスカリバーに向かって吶喊した。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

事前に説明されていた物資搬入用の開口部から突入した俺は、10分ほど内部を飛び回り、中枢制御室に辿り着いた。

 

「こいつは……」

 

そして目の前には、コードが身体に巻き付き、制御室の中央に立つ円柱――おそらく動力炉――と一体化している女の子。こいつがエクシア・ブランケットか。

 

「さて困ったぞ。てっきり制御盤から解除コードを入力してとか思ってたんだが……。どう見てもこれ、拘束してるコードを吹き飛ばす感じだろ」

 

まさかこんな救出方法だったとは。これなら、一夏に突入役を譲ればよかった……。

なんて思っていたら

 

――ビュンッ

 

「うおっ!?」

 

まるで俺を排除するかのように、周囲のコードが襲い掛かってきた。

 

「なるほど、そいつ(コア)を奪わせまいとする防衛機構ってことか」

 

まるで触手のようにウネウネと動き回るコードに嫌悪感を覚えながら、俺はシールドを拡張領域に入れ、代わりに長船を取り出して構える。

 

 

「機械相手なら手加減はいらねぇよなぁ! 蹴散らしてやんよ!」

 

 

その声に反応したのか、コードが全方位から俺を殺すために迫ってきた――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

陸がエクスカリバーに突入してから、20分が経っていた。

 

「ええい! 倒せど倒せどキリがない!」

 

篠ノ之さんが愚痴るのも分かる。このエクスカリバーの子機、破壊してもすぐ新しいのが親機から射出されるのだ。

 

「陸の奴、大丈夫だよな? プライベート・チャネルにも応答がねぇし……」

 

「おそらく、エクスカリバー内部は通信がシャットダウンされているのだろう」

 

ボーデヴィッヒさんの推測が正しいと思う。私もさっきから呼びかけてるけど応答が無いから。でも、

 

「陸なら大丈夫」

 

「根拠はあるのか?」

 

「必要ない。陸は死なない。これ絶対」

 

「お前なぁ……」

 

ボーデヴィッヒさんに呆れられた。解せぬ。

 

「お前達! いい加減に……?」

 

「子機の動きが……」

 

「止まった……?」

 

さっきまでオルコットさんのビットのように宇宙空間を飛び回っていた子機が、ピタリと動きを止めていた。

 

「これって……」

 

「陸が、やったのか?」

 

私達が親機の方に顔を向けると、

 

「あ゛~! もうあんなの相手したくねぇ!」

 

「「陸!」」「「宮下!」」

 

女の子をお姫様抱っこした陸が、こっちに近づいてきた。

向こうでも戦闘があったのか、装甲はだいぶボロボロ。

 

「陸、一体何があったんだ……?」

 

「防衛機構と戦ってたんだよ。しかも、無理にあの聖剣からこいつ(エクシア)を引き剝がそうとしたら、自壊装置が作動しそうになるし」

 

エクシアさんを篠ノ之さんに引き渡す間も、すごく腹立たしいって顔をしてる。

 

「自壊装置?」

 

「ああ。エクシア・ブランケットと融合してるISごと心臓を停止させるって言う、胸糞わりぃシステムがな」

 

「……ふざけてやがる」

 

敵に奪われる前に破壊する。完全にエクシアさんを部品としか見てないやり方に、織斑君の握り拳が震えていた。正直私も、聞いてて気分が悪かった。

 

「本部、こちらボーデヴィッヒ。救出成功、繰り返す、エクシア・ブランケットの救出に成功した」

 

そうこうしてる間に、ボーデヴィッヒさんが地上に連絡を入れていた。

 

『本部、織斑だ。よくやった、全員無事か?』

 

「死傷者はありません。全員無事です。セシリアの超長距離狙撃による、聖剣破壊を要請します」

 

『分かった。お前達はこのまま帰投しろ』

 

「了解」

 

通信が終わると、地上で高エネルギー反応を感知した。あれが作戦説明の時に出てきた、BT粒子加速器なのかな?

 

「よし、あれに巻き込まれたら馬鹿みたいだし、俺達もさっさと撤退――!」

 

言いかけて何かに気付いた陸が、すごい形相で聖剣の方を見た。私達もそっちを向くと

 

「馬鹿なっ! 子機だと!?」

 

「エクシア・ブランケットがいなくなったのに、なぜ!?」

 

一度は停止したはずの聖剣の子機が、私と篠ノ之さんに向かって

 

「かんざしぃぃぃぃぃ!!」

 

「ほうきぃぃぃぃっぃ!!」

 

走馬灯のように全てがスローモーションになる中、陸と織斑君が私と篠ノ之さんの前に立ちはだかって――

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

BT粒子加速器であり、絶対対空砲『アフタヌーン・ブルー』。

巨大な望遠鏡のような装置の内部で、わたくしは照準を聖剣に合わせたまま、合図があるのを待っておりました。

 

「なかなか焦れますわね……」

 

思わず口にしてしまいましたが、誰かと通信しているわけではないですし、問題ありませんわよね?

 

『本部、こちらボーデヴィッヒ。救出成功、繰り返す、エクシア・ブランケットの救出に成功した』

 

「っ!」

 

ラウラさんからの通信!? 作戦が成功したんですのね!

 

『オルコット、超長距離狙撃用意!』

 

「了解!」

 

再度照準を確認。……いけますわ!

 

『てぇ!』

 

織斑先生の号令と同時にトリガーを引くと、加速器によって高エネルギーになった粒子がビーム砲となって、聖剣に

 

『え……』

 

その途中、オープン・チャネルから聞こえてきたのは、山田先生の呆けた声でした。

 

『山田先生?』

 

訝しんだ織斑先生の声も聞こえてきました。一体何が……

 

 

 

『びゃ、白式と打鉄・陰流、反応消失(シグナル・ロスト)……』

 

 

 

その言葉を理解できたのは、聖剣を破壊して、しばらくしてからでした……。




薄着ネタ再び。よくよく考えたら、フランスで冬用コート買う暇ぐらいやれよと思いました。(なお、原作もそんな暇なかった模様)

聖剣奪壊(ソード・ブレイカー)。今回束は絡んでないので、原作のように『夕凪燈夜』で病巣プログラムを破壊するとかはないです。というか、白式は第三形態になりません。

オリ主と一夏、死す!? いや、死んでないから(即ネタバレ)


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第135話 反応消失の真相

今回は少し短め(&シリアス薄め)です。


『白式と打鉄・陰流の反応消失』

 

その報を聞いた時、全員がセシリアと同じように、すぐにその言葉を理解出来なかった。

 

「誤報か何かっスよねぇ……?」

 

成層圏で待機していた阻止班に、地上にいた警護班。皆が皆、真耶の誤報だろうと、笑い飛ばしてやろうと思っていた。

だが、それ以降の報告は来なかった。そこでようやく、それが事実であると理解した。

 

「一夏が……」

 

「りったん……」

 

「そん、な……」

 

そうして失ったものを理解した時、誰もが涙を流さずにはいられなかった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――イギリス北部、オルコット家邸宅

 

聖剣奪壊(ソード・ブレイカー)を完遂したIS学園の専用機持ち達は、オルコットの厚意により彼女の邸宅に集合、体を休めることとなった。

しかしその中で、休むことを許されない者もいた……。

 

「それで? どうしてこうなったのでしょう?」

 

もはや城と言っても過言ではないオルコット家の邸宅。その玄関ホールで、家主であるセシリア・オルコットは腕を組んで怒り心頭だった。

その後ろに立つ他の専用機持ち達も、程度はどうあれ怒りの表情だ。

 

「お答えいただけますね……

 

 

 

一夏さん! 宮下さん!

 

 

 

そしてオルコットの目の前には、床に敷かれた絨毯の上で正座している俺と一夏がいた。

 

「反応が消失したと聞いて、わたくし達がどれだけ悲しんだことか……! 分かっておりますの!?」

 

「それは……ごめん。陸に脅されて無事を伝えらえなかったんだ……」

 

「おぃぃ?」

 

一夏さんや、裏切るにしても早すぎやしませんか? あれか、オルコットの涙に負けたか。

 

「それで、箒さん達もですの?」

 

ギロリッとオルコットの視線が、篠ノ之達他の突入組の方を向く。

 

「(コクコクッ)」

 

「ああ。必要なことだから、撤収するまでは黙っていてくれと頼まれた」

 

「Me too」

 

篠ノ之、ボーデヴィッヒ、果ては簪も見事に俺を切り捨てた。わーい。

 

「そもそも、どうして二人のISの反応が消えたんだ?」

 

怒り心頭な面々の中で、比較的冷静だったケイシー先輩が疑問を口にした。

 

「それは……」

 

 

(回想開始)

 

「かんざしぃぃぃぃぃ!!」

 

「ほうきぃぃぃぃっぃ!!」

 

簪と篠ノ之の前に立ちはだかった俺と一夏に、生き残っていたエクスカリバー子機のビーム砲が直撃し……

 

 

防ぎ切った。

 

(回想終了)

 

 

「「「「「「c⌒っ゚Д゚)っ ズコー!」」」」」」

 

あの時のことを話したら、全員がズッコケた。おいおい、山田先生どころか織斑先生もかよ。

 

「ふ、防いだだと!? 一体どんな手を使ったんだ!」

 

「これですよ」

 

いち早く起き上がった織斑先生に問い詰められながら、俺は陰流を展開すると、

 

「な、なんだ、これは……!」

 

陰流の前面に、六角形を組み合わせたようなエネルギーシールドを展開した。

 

「これが手品の種『絶対守護領域』です。理論上は、ミストルテインの槍10発分の威力でも突破は出来ません」

 

「ミストルテインの槍って、会長の必殺技よね……」

 

「あれ10発分防ぐって……」

 

「僕の『花びらの装い』なんか目じゃないんだけど……」

 

唖然とした顔の織斑先生の後ろで、みんながヒソヒソ話を始めやがった。

 

「もしかして、学園を出発する前にインストールしてたのって……」

 

「おう。備えあればってやつだな」

 

「陸君、まさかこれ、打鉄弐式に積む気じゃないわよね……?」

 

「いやぁ、この絶対守護領域って、展開範囲計算にISコアの演算処理能力を丸々持ってかれるんですよ」

 

「つまり?」

 

「これ起動してる間、他はなーんにも出来ません」

 

ISコアの演算能力を防御に全振りするとか、勝負捨ててるようなもんだ。

 

「それは確かに……」

 

「実戦どころか、模擬戦でも使えんな」

 

うっ! 篠ノ之が痛いところを……。

実はデュアルコアの打鉄弐式なら、ぎりぎり搭載可能だったりするんだが、ここでは黙っておこう。

 

「で、俺も今回初めて使って知ったんだが、絶対守護領域を使ってる間、陰流を含めた周囲のコア・ネットワークが遮断されるみたいなんだよなぁ」

 

「それで、りったんの近くにいたおりむーの白式も、反応が消えちゃったんだ~?」

 

「そういうことだな」

 

これについては、学園に戻ったら調べて……別にいいか。

 

「反応が消えた理由については分かった。だが、まだそれを隠していた理由は聞いていないぞ」

 

「それについては……楯無さん、どうでした?」

 

「更識姉?」

 

みんなの視線の先が、俺から刀奈に変わる。

 

「……二人の反応が消えた後、カタパルトの発射施設内で作戦に参加していた観測員の一人が、行方不明だそうです」

 

「何?」

 

「そして……」

 

 

 

「その観測員のコンソールから、エクスカリバーに対して何かの信号を送っていた痕跡が見つかりました」

 

 

 

「何だと!?」

 

なーるほど、やっぱ予想通りだったわけか。

 

「つまりそれって、今回の事件を起こした犯人が内部にいたってことですか!?」

 

「そういうことよ。まさか欧州統合軍内にいたとはね……一応追手を出してはいますが、土地勘は向こうの方があるでしょうから、捕まえられるかは五分五分ですね」

 

「なんてことだ……」

 

織斑先生を始め、何人かが手で目を覆う。それ以外も表情が暗くなる。

 

「俺と一夏が死んだことにしておけば、おそらく敵さんも尻尾を出すと思ったんで、篠ノ之達にも口裏合わせをお願いしたわけです」

 

「私や山田先生にまで黙っていたのは気に食わんが……我々が同じ施設内にいた以上、仕方ないか」

 

「これが、今までダンマリ決め込んでた理由です。……それでなんですが」

 

「なんだ?」

 

「そろそろ正座止めていいっスか?」

 

めっちゃ睨まれた。そうですかダメですか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

あの後、色々あり過ぎて疲れ切ったみなさんの案内を使用人に任せ、わたくしは自室に戻りました。

それにしても……いくら裏切り者が内部にいたからって、一夏さんが死んだなんて嘘をつかれたのは面白くありませんわ!

 

――コンコンッ

 

「お嬢様、私です」

 

「んんっ! お入りなさい」

 

「失礼します」

 

苛立っていた表情を隠して入室を許可すると、ティーポットとカップの載った盆を持ったチェルシーが入ってきました。

 

「皆さまのお部屋への案内、完了いたしました」

 

「承知しましたわ。ご苦労様」

 

「恐縮です」

 

報告をしながらも、ティーポットからカップに紅茶を注ぐ手は止まりません。さすが我がオルコット家のメイド長です。

 

「本日はダージリンのオータムナル(秋摘み)になります」

 

「ありがとう。……オータムナルにしては、渋みが少ないですわね」

 

一口含むと、オータムナル特有の味わいではなく、どちらかといえばセカンドフラッシュ(夏摘み)に近い感じですわ。

 

「今年はインドの雨季が2か月ほど後ろ倒しになりまして、その影響でクオリティシーズンもズレ込んだようです」

 

「なるほど……それで、エクシアの容態はどうですの?」

 

急な話題の切り替えですが、チェルシーはふと優しい顔になると

 

「はい。埋め込まれたISを含め、特に異常はないとのことです」

 

「そうですの……」

 

宮下さんのお話では、色々なトラップが仕掛けられていたそうですが、大事ないようで何よりですわ。

 

「それでは、私はこれで……」

 

「お待ちなさい」

 

一礼して下がろうとするチェルシーを止めます。

 

「チェルシー。貴女にはまだ、聞かなければならないことが2つほどありますわ」

 

「……何なりと」

 

「まず一つ目に、"どうして貴女は、機密情報であるエクスカリバーのことを知っていた"んですの?」

 

オルコット家の当主たるわたくしですら知らなかった、いえ、知らされていなかったものを、どうして一介のメイドが知っていたのか。例え、エクシアのことがあったとしても。

 

「そして2つ目。"どうして貴女は、エクシア救出の嘆願と共に、わたくしに本国へ戻るように言った"んですの?」

 

結果的に本国へ戻ることになりましたが、わたくしに助けを求めるだけであれば、その必要はなかったはずです。

 

「……少し長いお話になりますが、よろしいでしょうか?」

 

「いいですわ。貴女もそこに座りなさい」

 

「承知しました。それでは失礼いたします」

 

わたくしと向い合せになるよう椅子に座ったチェルシーの口から出た話、それは

 

「これからお話しすることは、セシリア様のご両親……先代の旦那様と奥様の死の真相にも関わってまいります」

 

わたくしを、ひどく動揺させるものでした……。




お説教タイム。そしてオリ主、一夏に売られる。裏切り者(女権団)を炙り出すために、偶然起こったコア・ネットワークの遮断を利用したという設定です。

セシリア、チェルシーを問い詰める。原作では2ページほどしかない内容ですが、うまく(妄想を)広げたりして1話分にしたいなーと思ってます。


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第136話 生きて

【悲報】次章までずっとギャグ要素0予定

チェルシーの過去話回です。ほぼ創作なのは勘弁してください。(元々原作でも内容が大してないんですよこれ……)


オルコット家のメイドになる前、私はバーミンガムに住んでいました。

お嬢様もご存知の通り、バーミンガムは現代のスラム街と言われるほど貧民と不法移民の坩堝と言われております。

幼い頃に両親を亡くしてから、私は妹と生きるために、スリや置き引きなどの犯罪に手を染めていました。そうするしか、生きる術が無かったのです。

そんな私達に転機が訪れました。先代のオルコット夫人、奥様との出会いです。

 

「そんなことをしているぐらいなら、我が家のメイドになりなさい」

 

財布を掏ろうとして取り押さえられた私に、奥様は手を差し伸べて下さいました。

どうして私を、と聞いたら

 

「これでも人を見る目はあるつもり。そして貴女は義理を義理と理解できると思ったからよ」

 

とおっしゃいました。

 

そのような出会いを経て、私はいつ死んでもおかしくない浮浪児から、オルコット家のメイド見習い、チェルシー・ブランケットに生まれ変わることができたのです。

 

 

 

オルコット家のメイド見習いになった私は、拾っていただいた奥様の恩に報いるため必死でした。

お屋敷に来た当初は掃除や洗濯などしたことがありませんでしたから、手順を覚えるだけでいっぱいいっぱいでした。

夜は夜で、先輩メイドの方々の立ち振る舞いを思い出しては、何度も反復して体に覚えさせました。

もちろん辛いこともありましたが、スリなどよりやりがいのあるこの仕事を、やめようとは思いませんでした。

そしていただいたお給金で、妹のエクシアと質素ながらも、人として生活が出来たのです。

 

こんな日々が、ずっと続けばいいのに……そう思っていた私の想いは、脆くも崩れ去りました。……3年前の、あの時に……。

 

 

 

ある日、エクシアが胸の痛みを訴えるようになりました。

とはいえ、医者に罹るお金もない私にはどうしようも無かったのですが、偶然そのことを知った旦那様が

 

「今すぐ病院に連れて行きなさい。妻にも口添えする」

 

とおっしゃってくださいました。……疑っておられますね?

確かに旦那様は表に出られる方ではありませんでしたし、奥様が会話することは多くありませんでした。ですがそれは、旦那様なりの考えがあったからでした。

 

「入り婿の私が大きな態度を取り、発言力を高めようとすれば、妻のやり方に反感を持つ者達の神輿にされてしまうかもしれない。そんなのは御免だ」

 

旦那様は自らを下に落としてでも、奥様を、オルコット家の安寧を選ばれたのです。

 

 

 

話が逸れましたね。

そういった流れを経て、エクシアはロンドン大学病院で検査を受けることになりました。その結果が……

 

「先天性の、心臓病……」

 

「それは、治せるのですか?」

 

「……いいえ、これは治療法が確立されていない病気なのです」

 

「それでは、エクシアは……」

 

「残念ですが、持ってあと3ヵ月かと……」

 

「そんな……!」

 

お医者様の宣告は、非情なものでした。

 

 

 

 

それから数日が経ち、私は奥様に呼び出されました。

部屋に入ると、奥様だけではなく旦那様もおられました。

 

「チェルシー、貴女に重要な話があります」

 

「はい」

 

「貴女の妹、エクシアの延命についてです」

 

「っ!?」

 

延命!? お医者様の話では、治療法はないと……!

 

「ただし、それは非合法の手段であり、露見すればオルコット家は終焉を迎えることになる」

 

「オルコット家の、終焉……?」

 

旦那様の言葉を聞いた時、私の頭の中にあったのは『どうして?』でした。

どうして、一介のメイドの妹に、そこまで……

 

「そしてチェルシー、そのために貴女にも泥を被ってもらうことになります」

 

「……何なりと」

 

奥様に問うことなく、私は深々と頭を下げていました。

お二方がそこまでの覚悟で以てお話してくださったのに、私がここで退くなどあり得ません。それこそ、かつて拾ってくださった恩に報いる時だと。

 

そして奥様から聞かされた内容は、正直耳を疑うものでした。

極秘裏にISコアを入手、生体融合処置を施すことで、エクシアの壊れた心臓の代わりとすること。

そして、いつか治療法が確立するまでの間、彼女を安全な場所に安置すること。

 

「君はセシリアの専属メイドとして、幼馴染として、姉代わりとして支えになってくれた。忠義を尽くしてくれた」

 

「そして貴女の妹には、セシリアの剣となって欲しいの。やがて来るべき時に、あの娘の力となるために」

 

 

それが、エクシアがエクスカリバーに"搭載"されることになった経緯です。

エクスカリバーは英米が共同開発したとされておりますが、本当は()()()()()()の聖剣だったのです。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「これが一つ目の"どうして私が、機密情報であるエクスカリバーのことを知っていたか"という問いに対する回答です」

 

「そんな、ことが……」

 

わたくしは、何も知らなかった……。チェルシーのことも。お母様や、お父様のことも……。

 

「そして私は、エクシアに移植するISコアを得るため、奥様の名代として、ある組織と取引をしました」

 

「ある組織?」

 

「はい。そして多額の資金援助と引き換えに、ISコアを得たのです……亡国機業から」

 

「亡国機業……チェルシー、貴女……」

 

つまり、それは……

 

「そうです。奥様も旦那様も、そして私も、国を裏切りました。すべてはお嬢様のため、エクシアをセシリア・オルコットの剣とするために」

 

「すべて、わたくしのために……」

 

「しかしISコアの出処の件が米政府に気付かれ、お二方は……」

 

「そ、それでは、3年前の列車事故は……」

 

わたくしの問いに、チェルシーは首を縦に振りました。

両親はテロリストに関与し、その両親を米国が暗殺した……

 

「それが、お母様とお父様の死の真相……ですが、まだ答え合わせが終わってませんわ」

 

そう、"どうして貴女は、エクシア救出の嘆願と共に、わたくしに本国へ戻るように言った"かの回答が。

 

「先ほどもお話しした通り、私達3人は亡国機業と……テロリストと関わりを持ちました」

 

そう言ってチェルシーは立ち上がると、テーブルを迂回してわたくしの真横に立ちました。

 

「そして奥様と旦那様が謀殺され、残るは私のみとなりました」

 

そして彼女はわたくしの手を掴んで

 

――ガシャッ

 

「っ!?」

 

メイド服の袖から銃!? まさかスリーブガンを仕込んで!?

 

「亡国機業が壊滅したとはいえ、私という存在は、オルコット家繁栄の妨げとなるでしょう」

 

「……え?」

 

その銃を、わたくしに握らせて、銃口を自分の眉間に――

 

「なっ!」

 

「テロリストと内通していた私を撃って、お嬢様の……オルコット家の潔白を示してください」

 

「チェルシー、まさか貴女、このためにわたくしを本国に……!?」

 

「そして、身勝手なお願いではございますが……エクシアのこと、お願いいたします」

 

「やめて……!」

 

力尽くで握らされた銃の引き金が――

 

 

「チェルシィィィィィィィィ!!」

 

 

――パンッ

 

 

 

 

 

――放たれた銃弾はチェルシーの右頬を掠り、後ろの壁を浅く抉って止まりました。

 

「お嬢様、どうして……」

 

「どうして……どうしてですって……?」

 

 

「ふざけるんじゃありませんわっ!!」

 

 

 

――ドンッ

 

「がっ!」

 

メイド服の襟を掴み、壁に叩きつけました。それでも、わたくしの怒りは収まりません。

 

「オルコット家繁栄の妨げ? テロリストと内通? それで貴女を撃てと言うんですの!?」

 

「ですが……」

 

「わたくしはお母様を亡くしました! お父様も亡くしました! その上、貴女まで失えと言うんですの!?」

 

途中、何か温かいものが頬を伝っていきます。

 

「貴女は生きなさい! 生きてわたくしに、オルコット家に仕え続けなさい! 死んで、償おう、なんて、そんなこと、認めません、わ……!」

 

声を出す度に、ヒューヒューと音が漏れます。

 

「わたくしに、とって……貴女は、幼馴染であり、姉代わりで、あり、もう一つの……家族なん、ですのよ……」

 

だから――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ以上、わたくしから……家族を、奪わないで……」

 

寄りかかるように倒れ込んだわたくしの頬に、

 

「……承知いたしました。チェルシー・ブランケットは、これからもお嬢様にお仕えいたします。この命尽きる、その時まで……」

 

チェルシーから流れた涙が、伝い落ちてきました。




130話でやらかして、プロット修正してインド人を右にした結果がこれだよ!
主君に自分を討たせるとかどうなんよ……?
ちなみに、バーミンガムが『現代のスラム街』というのは創作ですが、イギリスで最も犯罪の多い都市らしいです。

それと、もう1,2話でエクスカリバー編終了の予定です。


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第137話 過去の清算

女性権利団体壊滅RTA♪♪はっじまっるよ~♪


ようやっと正座から解放された俺は、案内された部屋のベッドでくたばっていた。

オルコットの家、めちゃくちゃでけぇから、一人一部屋に案内された。だから珍しく簪もいない。

 

「確か、明日は休息に当てて、明後日の朝に日本に戻るんだったか」

 

織斑先生が解散時に言ってたことを思い出す。さすがに特殊任務を受けてそのままトンボ返りはしないらしい。……福音の時は行事中かつ日本国内ってこともあって、俺はボコられたままトンボ返りになったがな。

 

「さて、もう寝るか……」

 

朝イギリスに到着、昼まで移動で、そこからエクシア救出と聖剣破壊。うん、働き過ぎだ。

学園の寮よりも質のいいベッドに寝っ転がって、そのまま明かりを落とそうとした時

 

――♪

 

スマホにメールが。

 

「誰だよこんな夜中に……って、日本ならまだ朝か」

 

イギリスと9時間ぐらい時差があるんだったか。まぁいいや。

俺は届いたメールを確認して……脱いでいた上着を着て部屋を出た。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

誰にも見られないようにオルコット邸を出て10分ほど、手入れされた庭園の中を歩いていた。

これだけ歩いて、まだオルコット家の敷地内なんだよな。スケールがちげぇ。

 

そして背の高い草木が生い茂っているエリア――通常のルートからは死角になる場所――に、目的の人間がいた。

 

「待ったか?」

 

「ちょっとね。ホントは男性が女性を待たせるのは良くないんだぞー」

 

「そういうのは一夏に期待しろ」

 

「そだねー」

 

俺をメールで呼び出したのは、日本で留守番をしてるはずの束だった。

 

「それで?」

 

「まずはこいつ」

 

束が横にずれると、そこには猿轡をかまされてロープでぐるぐる巻きにされた女が転がされていた。

こいつの服装には見覚えがある。そう、欧州統合軍の軍服だ。つまり……

 

「こいつが、刀奈の言っていた『行方不明の観測員』ってことか」

 

「そなの? ちなみに捕まえた時すっごい五月蝿かったから、非抑制型の自白剤打って情報吐かせたよ」

 

「……そうか」

 

もう一度簀巻き女を見れば、目の焦点が合っていない。非抑制型ってことは、こいつは廃人確定か。

 

「ずいぶん冷静だね? 『そんな非人道的な!』とか言わないの?」

 

「言うと思うか?」

 

「ダヨネー」

 

ニヤニヤしながら聞くんじゃねぇよ、そんなこと。

 

「本題に戻ろうか。……女性権利団体、そこが大元だよ。そこのミノムシから吐かせた情報で裏付けも取れた」

 

「やっぱりか……」

 

束に依頼していた『レゾナンスを砲撃した犯人』探し。途中で受けた進捗連絡通りか。

ドイツに行く途中の機上で受けてから、殺意を隠すのに苦労した。たぶん周りからは、すげぇイラついてるように見えただろう。

 

「それで、どうするの?」

 

「どうするって? 束、それ本気で聞いてるか?」

 

「まさか」

 

束が無表情(本気の顔)になる。

 

「移動手段は用意した。いつでも連中の本部とやらに行けるよ」

 

「なら、さっそく行くか」

 

「……そうだね、行こうか」

 

他の連中を連れて行こうとは、束も言わない。

俺は簪や刀奈を巻き込む気はないし、束も一夏達を巻き込みたくない。だから参加するのは、俺や束だけでいい。

 

「おっと、その前に……」

 

やり残したことを思い出した俺は、拡張領域から三池典田を取り出すと、鞘から刀身を抜いた。

 

「りったん?」

 

「このままこれを転がしといたら、オルコットの使用人達に迷惑だろ」

 

刀身を振り上げても、焦点の合ってない濁った目は、何も映していなかった。

 

「もし輪廻転生ってやるがあるなら、次はもう少しまともな人生歩みな」

 

――ザシュッ

 

だから、その生を終わらせることに……亡骸を移動の途中で海に投げ捨てたことに、躊躇いは無かった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

日本時間の午前8時、女性権利団体の本部はまさに地獄と化していた。

 

『警備室! 侵入者発見、至急増援を! う……うあぁぁっ!!』

 

常駐していた警備員は、まるでただのカカシと言わんばかりに斬り捨てられ、胴と頭が泣き別れしていく。

 

『か、体がぁぁぁぁぁぱみゃっ!』

 

『や、やめて、殺さないで! ごぷっ……!』

 

そして団体が隠し持っていた虎の子のラファール10機も、侵入者の投げた球体が発するナニカで操縦者が破裂し、鮮やかな赤い模様を周囲の地面や壁に施していく。

 

 

 

 

束の移動手段(人参型ロケット)でイギリスから日本まで約3時間。普通の旅客機なら12時間はかかるところを、よくこんな短時間で移動できるな。

 

『えっへん! ISのPICで諸々の抵抗とか相殺してるからね。日本からイギリスまで約9600kmだから、ざっとマッハ3.2になるぜい!」

 

ブラックバード(米国の超音速機)以上かよ」

 

敷地の外から通信妨害と監視カメラの掌握を担当してる束と駄弁りながらも、女権団の本部施設に入り、目についた奴らを膾切りにしていく。

一応、逃げる奴は見逃してるが、大抵は俺に斬られている。

 

「こ、こんな真似してただで済むと思ってるの!? 男風情が私達優等種たる女に逆らうなんて!」

 

――パンッパンッ

 

――ズシュッ

 

「がへぁ……」

 

……そう、大抵は世迷い事を吐きながら発砲するものの陰流のSEを減らせず、そのまま返り討ちに遭うという流れが続いている。

 

『そんなセリフ吐く前に、さっさと逃げればいいのに。どうしたらこんな行動に走ろうって思うんだろ?』

 

「『ISに乗れるのは女だけだから、自分達女は無条件で偉い』っていう謎理論で、頭ン中腐ってんじゃねぇか?」

 

『ありえそー』

 

順繰り順繰り部屋を回って

 

「さて、ここで最後か」

 

最後に残ったのが、いかにも偉そうな奴がいますって感じのドアが付いた部屋だった。

 

――ガンッ

 

で、そのドアを蹴破ると、結構広めの部屋の奥、執務机の前で震えている女だけがいた。

 

――パンッ

 

「うおっと!」

 

こいつ、間髪入れる撃ってきやがった! いやまあ、変な口上垂れるぐらいなら早く撃てって話なんだが。

 

「み、宮下陸!? エクスカリバーの攻撃を受けて、死んだはずでしょう!? どうして生きてるのよぉ!!」

 

「へぇ、まだIS委員会と欧州統合軍の一部しか知らないはずの情報を、よく知ってるな」

 

「ダマレダマレダマレェ!」

 

――パンッパンッパンッ

 

――カンッカンッカンッ

 

狂ったように撃ってくるが、そんな小口径の拳銃弾じゃ、ISの装甲は削れもしねぇよ。

 

『りったん、サーバー漁ってたらデータが出てきた。そいつがここの親玉みたいだよ。女権団の代表、山崎敏美だって』

 

「へぇ、こいつが」

 

――パンッパンッ カチッカチッ

 

「弾切れみたいだな」

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃぃっ!」

 

最後の抵抗とばかりに撃ち尽くした拳銃を投げつけると、山崎というらしい女は腰を抜かした姿勢のまま、ずるずると後ろに向かって這っていく。

 

「貴様らさえいなければ……! 貴様と織斑一夏さえ現れなければ、我々の理想郷(私の未来)は安泰だったはずなのに……! それを……それをぉぉぉぉ!!」

 

「百歩どころか万歩譲って、俺や一夏という存在がお前達女権団に不都合だったとしよう。それでどうしてエクスカリバーを使うって話になる?」

 

「お前が、お前らが生きてるのが悪い! それなのにお前らが死なないから、あの衛星兵器を使うことになったんだよ!」

 

興奮しているのか、どんどん目の充血と口調が酷くなっていく山崎。なんかもう、聞くに堪えねぇ。

 

「ホント使えないクズばかり……! 米国も、亡国機業も、福音も……!」

 

「福音、だと?」

 

「何が軍用ISよ! IS学園のおままごと機体に返り討ちにされるなんて、大国が聞いて呆れるわ!」

 

こいつ、自分が犯罪の自供をしてるって自覚はあるのか?

 

「もういい、これ以上囀るな」

 

どちらにしろ、後はこいつを切り捨てれば終わりだ。そう思って長船を振り上げようとした時

 

 

「こんなことになるなら()()()()()()、お前の死体を確認させておくべきだったわ!」

 

 

ちょっと待て。今こいつ、なんて言った?

俺の頭の中に、この外史に来た時の記憶がフラッシュバックする。まさか……

 

「……おう、答えろ。去年の2月、IS絡みの犯罪結社がテロを起こした。てめぇら、まさかそれに関係してるのか?」

 

「ふ、ふふふふふふっ、あははははははっ! そんなことも知らずにいたの? さすが下劣な雄猿ね」

 

さっきまでの恐怖はどこにいったのか。目の前の女は優越感に浸った表情を顔に貼り付けていた。

 

「答えろ!」

 

「ふんっ、ホントこれだから教養のないゴミは……我々を敬うということを知らないのだから」

 

 

「だから同じ不敬を働いた()()2()()も、死んで当然よね」

 

 

「……そうか」

 

それが答えか。

俺は長船を両手持ちにすると、上段八双に構えた。

 

「わ、私を殺すつもり!? そんな暴挙、許されると思ってるの!? 下劣な猿が、優等種たる私を!」

 

「黙れよ」

 

怯えたり偉そうにしたり、かと思えば今度は他の連中と同じセリフか。情緒不安定な奴だ。

 

脳裏に過るのは、救えなかった奴ら(レゾナンスの件)のこと。そして、ほとんど記憶に残ってないはずなのに胸中に去来する、親父とお袋のこと。

 

 

「今までお前らの犠牲になった人達に、死んで詫びて来い!」

 

 

 

 

 

 

大儀もない。正当防衛でも、誰かを助けるためでもない。

俺はこの外史に来て……いや、()()()()()()()、自分の中の、憎悪と復讐心で人を殺した。




_人人人人人人_
> 突然の束 <
 ̄Y^Y^Y^Y^Y ̄

そして流れるように廃人からの惨殺劇。いっくん同伴じゃ出来ない事だよね♪

オリ主のメンタルが、だんだん一夏寄りになってる気がしてならない。


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第138話 心

今回でエクスカリバー編、終了です。

そして感想欄に『カレンデバイス』と書かれているのを見つけた時、織斑計画でちーちゃんの前に作られた999体をBデバイスにして並べた光景を想像して「これマブラヴオルタやん!」と自己ツッコミしてました。


聖剣奪壊が終わった翌日、俺はセシリアと2人である場所に来ていた。

 

 

 

「一夏さん、ここですわ」

 

セシリアに案内されたそこは、かつて貴族向けだったという緑豊かな霊園だった。そしてその一角に、二人の名前が刻まれた墓はあった。

 

 

 

ルイーザ・オルコット

フィリップ・オルコット

 

 

 

「ここに、セシリアの両親が?」

 

「はい」

 

セシリアは墓前にしゃがみ込むと、墓石に手を触れる。

 

「昨日、チェルシーから全てを聞きましたわ」

 

「……」

 

昨日、チェルシーさんと何か話したんだろう。けれど、それは聞けない。あの中に入り込むのは、何か違う気がしたから。

 

「わたくしが、どれだけ二人から愛されていたか。チェルシーの忠義と、覚悟を」

 

 

「お母様、お父様……セシリアは、未来へと向かいます」

 

 

そして墓石から手を放し、顔を袖で拭う仕草をして振り返ったセシリアは、晴れやかな顔をしていた。

 

「お待たせしました」

 

「もういいのか?」

 

「ええ。夏にも来ましたし、あまり入り浸るとお母様に叱られてしまいますから」

 

「そうか……ごめんセシリア、俺もお参りしていいか?」

 

「構いませんが……」

 

「サンキュ」

 

セシリアから許可をもらうと、俺も墓前に立った。

 

「初めまして、織斑一夏と言います。突然現れた人間が不躾だとは思います。けれど、言わせてください」

 

「一夏さん? 一体何を」

 

 

「俺は娘さんを、セシリアを愛しています」

 

 

 

「い、いいい、一夏さん!?」

 

「いきなりそんなこと言われても信用できないと思います。だから、天国で見張り続けてください。俺がちゃんと、セシリアを幸せに出来ているか」

 

「一夏、さん……」

 

シャルの親父さんと話した時から、決めていたんだ。セシリアの両親にも、きちんと報告しなきゃって。

 

「ごめんな、いきなりこんなこと言って」

 

するとセシリアは、俺の胸の中に飛び込んできた。

 

「そこまで言ったのですから、ちゃんとわたくしを、幸せにしてくださいまし……!」

 

感極まってまた涙を流すセシリアを、俺は抱き締めながら頭を撫ぜ続けた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

女性権利団体の本部を壊滅させてから、俺はベッドの上に転がっていた。

3時間で日本に行って、2時間ほどドンパチして、また3時間かけてイギリスに。部屋に戻ったらイギリス時刻で朝の6時だ。つまり、ほとんど寝れてねぇってことだ。

 

「二度寝が気持ちええんじゃ~」

 

「何言ってるのよ」

 

「刀奈、せめてノックしてから入ってくれよ」

 

目を開けると、刀奈が『困ったもんだ』って顔をしながら腰に手を当て立っていた。おいその扇子、『怠惰』ってなんだよ。

半分寝ぼけて真名で呼んじまったけど、他に誰も連れてねぇな。

 

 

「それで? 昨晩はどこに行ってたの?」

 

 

「……何のことだ?」

 

突然の指摘に、少し間があったのが良くなかったか。

 

「まさか、私を騙せると思ってたの? 陸君が夜中、屋敷から出て行ったのはお見通しよ」

 

それにね、と言って、俺の胸に顔をうずめて……っておい。

 

「やっぱり……微かにだけど、血の匂いがする」

 

刀奈が顔を上げる。そんな目で見んな。怒ってんのか悲しんでるのか分からん目で。ちゃんとシャワーで流したはずなんだがなぁ……。

 

「どうして、私達に何も言わないで一人で……」

 

「前にも言っただろ。手を汚すのは、俺だけでいいって」

 

「それは、簪ちゃんにはそういう風には」

 

「刀奈、お前もだよ」

 

「え……」

 

目を見開く刀奈の頭を撫ぜてやる。

 

「いくら暗部の人間だからって、血を浴びなきゃいけないなんて話はない」

 

「なら、陸君だって……!」

 

「俺はいいんだよ。刀奈だって俺の過去は見てるだろ? もう、そういうのは慣れっこなんだよ」

 

今までだって、戦争撲滅のため、明日を迎えるためという大義名分のもと、沢山の血を流してきたんだ。今回のことだって、それと何も変わらない――

 

「嘘よ」

 

撫ぜていた手が止まった。

 

「慣れっこなんて、そんなの嘘よ」

 

「嘘じゃねぇよ」

 

「なら、どうして」

 

 

「どうして、泣いてるのよ……?」

 

 

「は……?」

 

何を馬鹿な、そんなわけ……

そう言い返そうとしたら、何か()()()()()()()()が足に落ちてきた。

 

「どう、して」

 

それが自分の目から頬を伝い落ちた涙だと気付いた時、それを止めることが出来なくなっていた。

 

「今まで散々血を流してきた俺に、今更泣く権利なんて……」

 

「権利なんて、必要ないわよ」

 

――ギュッ

 

「あ……」

 

刀奈の頭を撫ぜていたはずが、気付けば刀奈が俺の頭を抱えるように抱き締めていた。

 

「辛い時、悲しい時は泣いていいのよ」

 

「刀奈……」

 

「もう、一人で抱え込まなくてもいいのよ。私や簪ちゃんが、ちゃんと貴方を受け止めるから」

 

その言葉で、俺の心は決壊した。

 

 

「うぅ……あぁぁぁ……ぁぁぁぁぁぁあああああああああああ!!」

 

 

恥も外聞もなく、俺は刀奈の胸の中で泣きじゃくっていた。

まるで、あの時に戻っていた。刹那を、ルルーシュを、スザクを失った、あの時の俺に。

嗚咽が漏れ、両親の仇を討った際の空虚感がリフレインして、さらに涙を引き出そうとする。

 

「うん、それでいいのよ。そうやって何かを、誰かを想って泣けるのは、人間の特権なんだから」

 

そんな情けない姿を見せても、刀奈は優しい声で俺の頭を撫ぜ続けてくれた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――国際IS委員会 会議室

 

日本時間の朝に起こった大事件に、IS委員会は大騒ぎになっていた。

 

「女性権利団体の本部が崩壊!? 」

 

委員の一人が大声を上げた。女権団の本部施設が跡形もなく崩壊して、全て瓦礫の山となったなど、そうそう信じられないだろう。

 

「それで、被害は?」

 

「なんでも、その場にいた全員が死亡したとか」

 

「それはまた……」

 

報告を受けた委員達は、沈痛な面持ちで続きを促した。

 

「代表のミズ・ヤマザキも?」

 

「はい。ただ……」

 

「ただ、なんだ?」

 

「救助隊が見つけた時には、すでに死亡していたそうなのですが……」

 

「が?」

 

「死亡原因が崩落による頭への打撲等ではなく、刀剣類による出血死だそうで……」

 

「それは……」

 

それが事実だとすれば、女権団は何者かの襲撃を受けた上で、建物を爆破されたことになる。

だが、襲撃を受けた時間帯、女権団本部からの救援要請の類は無かった。それが何者かの妨害であるとすれば……

 

(((あの大天災が動いた……!?)))

 

委員全員が想像した。彼女なら、女権団に抵抗一つさせずに壊滅させることは可能ではないか、と。

そうなると、対応次第ではさらに大事になりかねない。

 

「提案だが、この件は単純な崩落事故ということにしませんか?」

 

「賛成です」

 

「異議なし」

 

あれこれ計算をして答えを弾き出した委員達。その答えとは『篠ノ之束をこれ以上刺激しないこと』だった。

女権団があの大天災とどういう問題を抱えていたかは知らないが、こちらには関係ないというスタンスである。

 

「しかし、それでは……」

 

報告していた職員が異議を唱えようとするが

 

「それに、あの団体がISを隠し持っていた事実も、漏らしたくはない。我々も、かの団体の残党も」

 

「それは……」

 

「失礼します!」

 

突然会議室のドアが開き、息を切らせた職員が転がり込んできた。

 

「なんだ、今は会議中――」

 

 

「女性権利団体の会員が、各国の警察機構に次々と逮捕されております!!」

 

 

「なっ――!」

 

その場にいた、全員が絶句した。

 

「これまで女権団が起こした事件を揉み消していた証拠が、1時間ほど前に各国の警察・司法機関に送り付けられてきたそうです!」

 

「これはまさか……」

 

「いえ、間違いなく彼女でしょう……」

 

篠ノ之束が、女権団の本部を潰し、サーバーからデータを抜いてリークした。間違いなくそうだろうと、全員が確信した。

故に議長役の委員は、他の委員達を見回して決を採った。

 

「国際IS委員会は、今回の女権団関係者の逮捕について、一切関わらないこととします! 賛成者は起立を」

 

座ったままの者は、誰一人としていなかった。




一夏、セシリアの両親の墓前に誓う。シャルパパの前で啖呵切ったんですから、ここでも言わないとね。あとは篠ノ之家と凰家かぁ。ちなみに両親の名前はオリ設定です。
そういえば、更識家も親の名前出てきてないな……。

オリ主、ただの人間に戻る。最近たっちゃんの出番が多い気がするので、次章からは簪多めに戻したいなーと思ってます。

祝・女権団崩壊。紫兎が一晩(実質3,4時間)でやってくれました。ラスボス級が消えたので、これで次章以降はギャグに全振りできますね。(オイ


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ニ学期終盤~冬休み
第139話 帰還


久々のギャグパートじゃあ!!

次章突入……なのに前章からの続きってパターン、そろそろ何とかしよう?(反省)


イギリスのヒースロー空港から航空機に乗ること11時間、日が暮れた頃に日本に戻ってきた俺達を待ち受けていたのは、

 

「いっく~ん! おかえり~!!」

 

「た、束さおぐっ!」

 

束の迎えと熱い抱擁(一夏限定)だった。

 

「あ゛~、イチカニウム補給で元気が出るんじゃ~」

 

「姉さん……言いたいことは分かりますが」

 

「分かるのかよ!?」

 

というやり取りをしている間に

 

「皆さん、お疲れさまでした」

 

虚先輩も出迎えに出てきてくれていたようだ。

 

「布仏姉、私達が学園を離れている間に、何かあったか?」

 

「はい、それについて説明いたしますので、生徒会室までお願いします」

 

「分かった。お前たち聞いたな、これから生徒会室に集合だ」

 

織斑先生の号令で、専用機持ち達はぞろぞろと校舎内に入って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「「「「「「女性権利団体が無くなった!?」」」」」」

 

生徒会室で、全員が驚きの声を上げた。

 

「女性権利団体って、亡国機業と繋がってるって以前言ってた……」

 

「前々から『ISに乗れるのは女だけだから、女は無条件で偉い』っていう頭おかしいこと言ってた団体よ。あたしは嫌いだったわ」

 

「そうだね。フランスにも支部があったけど、色々悪い噂が多かったよ」

 

「男だからという理由で冤罪を吹っ掛けまくるって奴だろ? アメリカも連中の息がかかった議員が大量発生して、逆に団体の犯罪を揉み消してたって話を聞いたな」

 

各国の代表候補生が口々に悪く言うぐらいには、最悪な組織ってことだな。最初に聞いた一夏がすげぇ嫌そうな顔してるし。

 

「それで、無くなったってどういうことなの?」

 

「まずは今日早朝、女権団の本部が崩壊しました」

 

「は? 崩壊?」

 

「はい。本部施設が、文字通り"崩壊"しました」

 

虚先輩が投影ディスプレイを出すと、そこには瓦礫の山が映っていた。

 

「これが、女権団の本部、なんですの……?」

 

「崩壊前に何も通信が無かったことから、政府およびIS委員会は建物の老朽化による崩落事故として処理しています」

 

「事故だと? どこからどう見ても、爆破処理されたようにしか見えんぞ」

 

ボーデヴィッヒの指摘を聞きながらチラッと束の方を見ると、向こうも俺からしか見えないようにピースサインを見せてきやがった。つまり、俺が撤収してからあいつが()()したのか。

 

「そして崩壊から1時間後、各国の警察や司法組織宛てに、女権団の犯罪の証拠が送り付けられました」

 

「はぁ!?」

 

「そこから空前絶後の逮捕者が出たそうです。ちなみにこの学園でも、親御さんが逮捕された生徒が複数おります。おそらく、数日中に自主退学するかと」

 

「なんてことだ……束ぇ!」

 

「うぇっ!? 束さん!?」

 

織斑先生の怒声に、束は驚いた(フリをした)声を上げた。

 

「この件、まさかお前が……!」

 

「ええ~、こんな連中、眼中になかったし~。ちーちゃんは束さんに、こいつら相手にする理由があると?」

 

「うっ、そうか……お前ならそう言うか……」

 

興味のないモノはとことん無視する束の性格を知ってるからか、織斑先生は疑うことなく束を犯人候補から除外した。

あながち間違いじゃない。ただ、今回は束が連中を潰す理由があっただけだ。"一夏の身の安全"という、最重要な理由が。

 

「報告すべき内容については以上です」

 

「そうか。では、今日はこれで解散。疲れてるとは思うが、明日も授業がある。遅刻しないように――」

 

織斑先生が締めようとしていたその時

 

 

「リクー! テンペスタの強化を頼むのサー!!」

 

 

バンッと扉を思い切り開けて、アーリィが乱入してきた。

 

「おいアリーシャ! 今重要な話を――」

 

「それより! リクにテンペスタの改造依頼をするのサ! 女権団とかいう馬鹿共が消えて、やっと私の申請が通ったのサ!」

 

「ええっ、そうなんですか!? そ、それじゃあ宮下君、僕もカーネイションの強化依頼を――」

 

「シャルロット、抜け駆けは許さんぞ! 宮下、是非AICの発展案について意見を――」

 

 

「ええいっ! お前達落ち着け!!」

 

 

――ゴンッ! ゴンッ! ゴンッ!

 

「ぎゃんっ!」「いだっ!」「~っ!」

 

伊仏独の3人は、織斑先生のゲンコツ制裁を食らってへたり込んだ。

 

「まったく、女権団という重しが無くなった途端これか……」

 

ゲンコツを落とした右手を振りながら、ため息一つ。

 

「とりあえず、そういうのは俺にじゃなくてスコールに言ってもらえるか?」

 

「え? どうしてスコール先生……いや、もう先生じゃないか……とにかくあの人に?」

 

 

「いや俺、ラビット・カンパニーに籍置いたから」

 

 

「「「「「「なんだって~!?」」」」」」

 

「陸、お前いつの間に?」

 

「いつって……簪、いつからだっけ?」

 

「スコールさん達が就任した時だから、先月から」

 

「って、どうして簪ちゃんが知ってるの?」

 

 

「陸が籍を置いた時、私の打鉄弐式も担当企業をラビット・カンパニーにしたから」

 

 

「「「「「「なんだって~!?」」」」」」(天丼)

 

「お、おおお、お前っ、そんなこと聞いてな」

 

「エドワース先生に書類提出して、山田先生にも確認してもらいましたけど……」

 

「やまだくん……?」

 

錆びついてギギギと音がしそうな動きで、織斑先生の顔が山田先生の方を向く。

 

「えっと……特に不備もなかったので、普通に受理してエドワース先生が関係部署に送りました……」

 

「真耶ぁぁぁぁぁぁ!!」

 

「わ、私が悪いんですか~!?」

 

織斑先生と山田先生が鬼ごっこを始めたことで、強化依頼の話は有耶無耶になった。有耶無耶というか、俺にするなって話なんだが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「それで?」

 

久々に寮の部屋に戻ったと思ったら、なぜか俺、簪に正座させられてるんだが?

 

「それで、とは?」

 

「誤魔化さない。イギリスで何があったの?」

 

「何がって、何がだ?」

 

「ご・ま・か・さ・な・い・で」

 

痛てててててっ! お前いつの間に他人の頬を引っ張るキャラになったんだよ!?

 

「やめなさいって簪ちゃん、陸君をイジメても何も出ないわよ」

 

「そう、それ!」

 

「へ?」

 

ビシッと簪に指をさされ、呆けた顔で固まる刀奈。

 

「お姉ちゃん、イギリスから戻ってから陸との距離が縮まってる」

 

「そ、そうかしら?」

 

『気のせい』と書かれた扇子を開こうとして、手元が狂ったのかそのまま床に落ちた。

 

「(か、簪ちゃん鋭い……!)」

 

「お姉ちゃん、陸と何があったの?」

 

「何って……」

 

「言わないと……」

 

「な、何をする気かしら?」

 

 

「お姉ちゃんのこと、『楯無さん』って呼ぶ」

 

 

「やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 

簪の最後通牒に、刀奈渾身の泣き土下座が発動した。そんなに嫌か。

 

「実は……」

 

「いや刀奈、勝手に話されるとすげぇ困るんだが」

 

何があったって、俺が年甲斐もなく刀奈の胸の中で泣きじゃくったっていう、凄まじく恥ずかしい黒歴史なわけで。

 

「陸も止めるって言うなら……」

 

「な、何だよ……?」

 

 

<●> <●>

 

 

「すんませんでしたぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

あかん、その目はあかん!

俺の羞恥心が、恐怖心に負けた瞬間だった。

 

 

 

それから、聖剣奪壊が終わった翌日に何があったか洗いざらい喋らされた俺と刀奈。もう二人揃って簪の尻に敷かれてるぞこれ。

 

「二人だけで秘密共有とかズルい」

 

「いや、恥ずかしくて普通言えねぇだろ」

 

「あの~、簪ちゃん?」

 

「罰として、お姉ちゃんはそのまま」

 

「ひどい!」

 

ベッドの上に座ってる俺に簪が抱っこちゃんしている間、刀奈はステイを食らっている。これが罰? 解せぬ。

 

「ぼっちにされる気分を味わってほしい」

 

「それでもこれはあんまりよ~!」

 

両手をワナワナさせてる刀奈。……いや、そこまで?

 

「……クンカクンカ」

 

「だからそれだけは許容しねぇって、いつも言ってるだろ!」

 

胸元に顔を押し付ける簪をベリッと剥がしてそーい! 俺はその勢いで立ち上がって、ベッドの上には簪のみ。

 

「ひどい」

 

「お前の癖の方がひどいわ! 段々篠ノ之になってるじゃねぇか!」

 

「箒ちゃんが癖の代名詞みたいに言ってるわよ陸君……」

 

「そ、それは困る……」

 

「簪ちゃんも、結構ひどいこと言うわね……」

 

――♪

 

誰の着信音……って、俺のか。

 

「はい、もしもし――」

 

 

「アンタこっちにISの強化案件押し付けてんじゃないわよぉぉぉ!!」

 

 

スコールからだった。

 

「こちとら太陽光発電受信アンテナの件で死にそうなのよ! これ以上こっちに案件振ってくんじゃねぇぇぇぇ!!」

 

「落ち着け。口調がオータムになってるぞ」

 

「オータムなら私より先にダウンしたわよ! 点滴打って半日は動けないって、ドクターストップまでかかってるのよ!」

 

束。お前の会社、ブラックなんだな。

 

「あの紫兎に、事務職の人員増やすか仕事減らすか言ってちょうだい! もう本当にカツカツ――」

 

ピッ ツー、ツー……

 

さすがにもう腹いっぱいだから、通話を切ってスマホの電源も落とした。

 

「……もう寝るかー」

 

「そうだね」

 

「そうしましょ」

 

「いや刀奈、また泊まる気かよ」

 

「もちろん♪」

 

会長権限で正式にこの部屋に引っ越そうかしら、とかそろそろ言い出しそうなんだが。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「いっく~ん♪」

 

「……どうしてこうなった」

 

「知らん」

 

教えてくれ千冬姉、どうして俺は今、箒と束さんに挟まれて寝てるんだろう……。

 

「えへへぇ」

 

(うっ、束さんの、大きい……何がとは言わないが)

 

「む~……」

 

(いや箒! 張り合って腕を……ぐはっ)

 

当たってる! 二人とも腕に柔らかいものが当たってるからぁぁ!

どうすりゃいいんだ千冬姉ぇぇぇぇ!!

 

『男だろ、自力で何とかしろ』

 

イマジナリーでも、マイシスターは厳しかった。




イギリスから帰国、そして女権団崩壊を知る。さらに女権団が消えて、とうとうオリ主にISの強化依頼を出せるようになるという。(次回のモンド・グロッソのハードルが)壊れるなぁ……。

簪最強。そしてスコール壊れる。がんばれ♥がんばれ♥

篠ノ之サンド・一夏味。姉妹ど(ここから先は文字がかすれて読めない)


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第140話 IS弄り~陸編~

久々の改造回、はじまるよ~。

え? 女権団の残党? (みんな挽肉か檻の中になったんで)ないです。


宮下陸は激怒した。必ず、かのラビット・カンパニーの横暴を除かなければならぬと決意した。陸には書類手続きの難しさがわからぬ。陸は、機械馬鹿である。機械を作り、更識姉妹とイチャコラして暮して来た。けれどもモチベに対しては、人一倍に敏感であった。

 

「てめぇスコール! ISの改造依頼全部受けやがったなこの野郎!!」

 

「あら、こっちに手続きを回したんじゃないの。それに対して、依頼を受けて実務を所属している貴方に回す。何か問題でも?」

 

所属してから初めて呼び出されたラビット・カンパニーの社長室でキレ散らかす陸に対して、スコールさんは涼しい顔をしながらエナジードリンクを一気飲みした。

 

……スコールさんに全部丸投げした結果がこれだよ。

ものの見事に陸は、専用機6機の改修作業をするハメになっていた。

 

「一応篠ノ之博士が『いっくんと箒ちゃんの分は束さんがやってもいいよ~』とは言ってたわよ」

 

「いや実際、白式の零落白夜とか紅椿の展開装甲とか、俺でも手に余るからありがたいんだがな」

 

「そうなると、篠ノ之さんを除く一夏ハーレム4人分?」

 

「普通個人に任せる内容じゃねぇぞ……」

 

「そうそう、それが終わったらテンペスタ(イタリア女)の改修もよろしくね」

 

блин(ちくしょうがぁ)!」

 

「なんでロシア語なのよ……」

 

確か前回はイタリア語だったような……。

 

ーーーーーーーーー

 

「というわけで、お前らのISを俺と束が弄ることになった」

 

放課後の第3アリーナ。いつ面が集まってる中で、俺はやる気なさげに宣言した。ぶっちゃけやる気ねぇもん。

 

「宮下はいいとして、姉さんも?」

 

「そうだよ箒ちゃん。いっくんと箒ちゃんのISは、束さんが担当するから」

 

「実際問題、製作者が弄った方が安心だろ?」

 

「え? 箒の紅椿はともかく、俺の白式って倉持技研が作ったんじゃ……」

 

え? 一夏、気付いてねぇの?

 

「むふふ~、実はいっくんの白式は、倉持だっけ? そこでポイされてたのを束さんが動くようにしたものなんだよ~♪」

 

「え、ええ!?」

 

「つまり、倉持技研は一夏の白式を自力で作れなかったってこと……?」

 

「打鉄弐式の人員を引き抜いて、それか……」

 

凰やボーデヴィッヒが呆れるのも分かる。俺だってそれを知った時は呆れたもんだ。いつ知ったかって? 学年別トーナメントの辺りだよ。それが倉持に技術提出を拒否った理由の一つだな。ぜってー宝の持ち腐れになるだろ。

 

「俺も、倉持からそっちに移りてぇ……」

 

一夏が遠い目になった。残念だが、お前は政府の紐付きだからな。俺と違ってそう簡単に鞍替えは出来んだろう。

 

「いっくん、落ち込んでる暇はないぞー。ほら、箒ちゃんも」

 

「え、ええ……。一夏、とりあえず今は」

 

「そ、そうだな」

 

現実逃避から戻ってきた一夏。そして篠ノ之と一緒にアリーナの端でISを展開、束が色々計測し始めた。さて、こっちもボチボチやるかぁ……。

 

「えっと、それで宮下君が、僕達4人の改修をしてくれるってことでいいんだよね?」

 

「ああ。会社が合意しちまった以上、歯車の俺は従うしかねぇな」

 

「そんなに嫌なら、ご自分で断ればよかったでしょうに……」

 

やめろオルコット、その言葉は今の俺に効く。何やってんだよ過去の俺ェ……。

 

「ま、まあいい。それでなんだが……」

 

話を仕切り直して、俺は拡張領域から事前準備したものを取り出した。

 

 

「こんなこともあろうかと! お前ら4人分の改修キットを用意してある!」

 

 

「「「「(;; ゚Д゚)どうして!?」」」」

 

 

「陸、いつの間に用意したの? というか、やる気なかったんじゃ?」

 

「やる気はないが、仕事ならしゃーないだろ。そして実は、アルベールさんに前々からお願いされてたんだよな。デュノア社としてだと周囲の圧力があるから、父親から娘への個人的なプレゼントってことで」

 

「お父さん……」

 

まさか自分の父親が、そこまでやらかすとは思ってなかったんだろう。デュノアが顔真っ赤にして、手で顔覆ってしゃがみ込んじまった。

 

「で、ついでだから弐式改造であぶれた武装を固めて、お前ら用の改修キットも作ったってわけだ」

 

要は簪やデュノアの余りもんだが、強化されるならなんだっていいよな?

 

「というか、フランス大企業の社長と仲がいい学生って……」

 

そこかよ。

 

「頭おかしいですわ……」

 

「ああ、頭おかしい」

 

「おいお前ら、そんなに改修したくねぇのか」

 

 

「「「「よろしくお願いしま~す!」」」」

 

 

なんて現金な奴らだ……。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

1時間ほどで、改修キットの組み込みは完了した。

 

「さて、さっそく動作確認していくか。まずはオルコット」

 

「はい。ですが、見た目は全くと言っていいほど変わってませんわね」

 

オルコットが首を捻るのも分からんではない。実際見た目は変わってないんだから。

 

「今回ブルー・ティアーズには、精神感応の感度を上昇させるソフトをぶち込んだ」

 

「それは、つまり……」

 

「試しに動かしてみな」

 

「え、ええ……」

 

俺に促されて、オルコットは恐る恐るビットを展開した。そして4基のビットを縦横無尽に動かしていく。

 

「こ、これは……今までより思い通りに動いてくれますわ……!」

 

「動作自体は上々だな。そんじゃ次、レーザーを撃ってみてくれ、BT偏光制御射撃(フレキシブル)でな」

 

「そ、それは……」

 

さっきまでと打って変わって、オルコットの顔色が暗くなった。俺も、お前がフレキシブルを使えないのは知ってるがな。だが

 

「とにかく撃ってくれ」

 

「わ、分かりましたわ……」

 

観念したようにレーザーライフルを構える。そして放たれたレーザーが

 

 

緩いカーブを描いて曲がった。

 

 

「……え?」

 

今見たことを信じられないという顔をするオルコット。

 

「今、曲がりました……?」

 

「ま、曲がった……」

 

隣で見ていた簪も驚いている。

 

「み、宮下さんの助けがあったとはいえ、わたくし、やっとフレキシブルを……!」

 

 

「や、やりましたわ~!」

 

 

おうおう、そんなに喜ばれると、こっちもやった甲斐があるってもんだ。

オルコットのやつ、感動で震えてるが、一旦置いといとくか。

 

 

 

「次は凰だな」

 

「ええ。あたしの甲龍も、見た目はほぼ変わってないわね」

 

「だな。甲龍はどっちかっていうと、ナインテールみたいな改修だからな」

 

「ナインテールみたいって……龍咆を弄ったってこと?」

 

「正解だ。どう弄ったかは、撃ってみれば分かる」

 

「いいわ。見せてもらいましょ」

 

胴体はこっちを向いたまま、肩部の衝撃砲だけを90度外側に向ける。砲身斜角の制限がないってのは、こいつの利点だよな。

 

――ドォォォンッ!

 

そして撃ち出されたのは不可視の砲弾ではなく、白い靄を纏った球体で

 

――カキィィィィンッ!

 

「こ、凍った!?」

 

着弾した地面が、瞬く間に凍り付いた。

 

「これ、冷凍弾?」

 

「ああそうだ……って簪、もしかしてこれ、弐式に積みたかったのか?」

 

「分かる?」

 

分かるって。すっげぇ目キラキラさせてからに。

 

「そ、それで、砲弾を変えただけ?」

 

「んな馬鹿な。甲龍の衝撃砲って、空気を圧縮して砲身を作るだろ? その時に発生した熱エネルギーを再利用できるようにした。で、さらに砲弾からも熱を分捕って、冷凍弾を撃てるようにしたってわけだ」

 

「ね、熱エネルギーを再利用って……それじゃ、前よりも龍咆を撃ちまくれるってこと?」

 

「そうなるな。とはいえ、エネルギーの変換効率はそこまで高くないから、無限に撃てると思われると困る」

 

「そこまで望んじゃいないわよ。けど、これで今まで出来なかった戦術が……いける……いけるわ!」

 

凰もトリップしちまったか。

 

 

 

「次はデュノアだな」

 

「僕のはどっちかっていうと、新武装ってことなのかな?」

 

「ああ。アルベールさん曰く『機体の完成を急いだせいで、武装の開発が遅れてしまってな』ってことらしい」

 

「あの期間で武装も作ってたらビックリ」

 

「確かに」

 

俺の説明に、簪もデュノアも納得したように首を振る。夏休みに設計図売ってからロールアウトまで、3ヵ月なかったからな。そりゃそうだ。

 

「そしてこれが……」

 

「おう。まずはショットガン『タラスク』。以前の『レイン・オブ・サタディ』より口径は小さいが、その分十連装になって連射力は上がってるぞ」

 

「いいね。再装填の隙が少なくなるのは嬉しいよ」

 

そう相槌を打ちながら、拡張領域に入ってる他の武装も確認していく。

 

「次に近接ブレード『ジギル・ハイド』だ」

 

「これ、デュアルブレードって書いてあるけど」

 

「これはアルベールさんからのリクエストでな。近接武器がブレッド・スライサー1本だと心許ないってことらしい」

 

「だからって二刀流とか、使いこなせるかなぁ?」

 

そこはデュノアの力量次第としか。俺はリクエスト通り作っただけですしおすし。

 

「最後はデュアルパイルバンカー『灰色の鱗殻(グレー・スケール)Ⅱ』だ」

 

「ま、またデュアル?」

 

両腕に展開されたパイルバンカーを見て、目が点になるデュノア。ちなみにそれも、アルベールさんのリクエストな。

 

「パイルバンカーでデンプシーロールとか胸熱だな」

 

「やらないよ!」

 

「まっくのうち!まっくのうち!」

 

「更識さん!?」

 

さっきまで黙ってたのに、そこだけノッてくんの?

 

 

 

「最後はボーデヴィッヒか」

 

「ああ。私のレーゲンも、見た目に変化はないな」

 

「レーゲンも甲龍同様、既存機能の強化にしたからな」

 

「なるほど。それで、何を強化したんだ?」

 

「それだ」

 

俺は、レーゲンの右肩部に付いているレールカノンを指さした。

 

「これだと? 察するに、鈴と同じように新型砲弾を入れたのか」

 

「察しが良くて助かる。というわけで、さっそく撃って確認だ」

 

「ああ、分かった」

 

言うや否や、ボーデヴィッヒは誰もいない方を向いてレールカノンをぶっ放した。

 

――ドドドドドドドッ!

 

「……なぁ宮下。これは『榴散弾』ではないか?」

 

「おうよ。のほほんのナインテールで効果はお墨付きだ」

 

「アリーナの地面、結構な広さが耕されたんだが……?」

 

「これでレーゲンも、面攻撃ができるようになったってわけだ」

 

「お、おう……」

 

ん? ボーデヴィッヒのやつ、口元引き攣らせながら固まっちまった。まあいいや。




スコールの逆襲。実際受けたら実働するのは、ねぇ?

専用機改修無双。本当なら、原作6巻でフレキシブル撃てるようになってるんですがね、初見さん。

次回は束編の予定です。


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第141話 IS弄り~束編~

今回は束の改造回です。果たして一夏と箒の運命や如何に!


「というわけで、お前らのISを俺と束が弄ることになった」

 

放課後、突然陸が宣言したことで、俺達専用機持ちの改修が行われることになった。

先日陸が言った、ラビット・カンパニーに各国から依頼が殺到したのが発端らしい。そして日本政府からも、俺と箒のIS改修依頼があったんだとか。

 

「さぁ、まずは箒ちゃんの紅椿からやっていこうか」

 

そう言って、束さんが拡張領域から色々機材を展開し始めた。

俺と箒のISは、製作者である束さんが面倒を見るらしい。……俺の白式も、倉持技研じゃなくて束さん作だったんだよなぁ。

 

「とはいえ、箒ちゃんの紅椿は、改修の必要が無いんだけどねぇ」

 

「姉さん、それはどういうことですか?」

 

「紅椿には、戦闘経験値が一定以上になると装備を新規構築する機能が付いてるんだよ。だから本来は、何もしなくたっていいんだけど……」

 

「つまり私の、経験不足が問題だと?」

 

「う~ん、模擬戦とかは結構やってるはずだけど、やっぱり実戦経験が少ないのが原因かなぁ?」

 

「実戦……」

 

二人揃って考え込んじまった。

 

「一応、方法がないってわけじゃないけど……試してみる?」

 

あんまり乗り気じゃないですって顔で、束さんが箒に訊ねる。

 

「他の皆が強くなる中、私だけ足踏みするわけにはいきません」

 

「そのために、代償があっても?」

 

「? 無論です」

 

俺と同じで一瞬首を傾げた箒だったが、最後は頭を縦に振った。

 

「そっか……りったーん!」

 

え? なぜそこで陸?

 

「おう、どうした?」

 

「実はね」

 

束さんは陸に何やら耳打ちしていたが

 

「……いいのか?」

 

「うん。箒ちゃんも了承済みだから」

 

「ったく……仕方ねぇなぁ」

 

そう言うと、陸は自分のISである陰流を展開して大太刀を箒に向かって構えた。

 

「箒ちゃん、これからりったんと戦ってもらうよ」

 

「宮下とですか? どうしていきなり」

 

「さっき言った"戦闘経験値"のためだと思っとけばいいよ」

 

「はぁ、分かりました」

 

いまいち納得出来ない中、箒も紅椿を展開して二刀を抜いて構える。

今更陸と戦ったって、何がどうなるって言うんだ?

 

「それじゃあ、始め!」

 

束さんが開始の合図をした瞬間

 

「っ!」

 

「なっ!」

 

突然、息苦しさが襲い掛かってきた。箒も俺と同じようで、刀を構えたまま息が荒くなって、汗が止まらなくなっている。一体どうして……。

 

「いっくん、これが殺気ってやつだよ」

 

「殺、気?」

 

束さんの言葉を聞いて、初めてこの正体を知った。これが殺気? けど一体そんなもの、どこから……。

 

「ああっ、りったんの方を見たらダメだよ。いっくんも箒ちゃんみたくなるから」

 

「そ、それじゃあ、まるで陸が箒に殺気を放ってるみたいじゃ……」

 

「そうだよ。それこそ束さんが、りったんにお願いしたからね」

 

さも当然と言わんばかりに返された。どうして、そんなことを……。

 

「いっくんも知っておくといいよ。実戦と模擬戦の違いって、『死ぬかもしれない』っていう状況の有無なんだよ」

 

「死ぬかも、しれない……」

 

「うん。ま、普通はそんな機会、滅多にないはずだけどね」

 

最初から最後まで顔色を変えずに、束さんは視線だけを箒達の方に向けた。

 

「さて箒ちゃん。この戦いでどれだけのものが得られるか、見させてもらうよ」

 

ーーーーーーーーー

 

息が苦しい。手の震えを抑えるのがやっとだ。

 

(こんなの、福音と戦った時以来だ……!)

 

普段は飄々としている宮下から発せられる殺気に、私は確かに恐怖していた。

 

「どうした、かかってこないのか? いつもの戦意旺盛な篠ノ之はどっか行っちまったのか?」

 

宮下が挑発してくるが、それでも私は動かない。いや、動けない。

 

「仕方ない。ならこっちから征くぞ」

 

「っ!」

 

――ガキィィィンッ!

 

「くぅっ!」

 

学年別トーナメントの時から知ってはいたが、奴の大太刀が重い……!

 

「篠ノ之、悪いことは言わん。ISを降りろ」

 

「な、にを……!?」

 

「あいつは、一夏はこれからも面倒事に巻き込まれるだろう。そして周りにいる連中を守ろうと躍起になる。お前も知ってるだろう?」

 

ああ、知っているさ。一夏のことなら、貴様よりも……!

 

「そんな中で、この程度の殺気で動けなくなるお前は、敵からしたら恰好のカモだ。はっきり言ってやる。足手纏いだ」

 

「――っ!」

 

足手纏い、だと? 私が……?

 

「もうあいつの嫁になったんだろ? なら、これ以上ISに乗れなくても、あいつの隣にいられるだろ。さっさと降りちまえよ」

 

 

「ふざけるな!」

 

 

そう声を張り上げていた時、先程までの殺気など、完全に意識から消えていた。

それは、否定されたことに対する怒りだった。強くなりたいと思って竹刀を振り続けてきた、福音との戦いで己の弱さを払拭しようとした、これまでの努力と決意の否定に対する怒りだった。

 

「紅椿! 見せてみろ、お前の力を!」

 

願った。この想いを具現化するものを。

 

『戦闘経験値が一定量に達しました』

 

「なっ!?」

 

突然パネルが現れたと思ったら、紅椿の肩部ユニットが音を立ててスライドした。まるで、巨大なクロスボウのような形に変化して。

 

『新装備、出力可変型ブラスター・ライフル《穿千(うがち)》の構築完了』

 

その表示を最後に、パネルが私の目の前から消えた。

それと同時に、宮下から殺気が消えた。

 

「やっとか。束、これでよかったんだよな?」

 

「うん、協力感謝~♪」

 

今までのことは何だったんだと言わんばかりのほんわか雰囲気に、今の私はきつねにつままれた顔をしているんだろう。

 

「箒ちゃんに足りなかったのは、戦う熱意だったみたいだね」

 

「熱意?」

 

「そう。りったんが言ってた通り、いっくんと一緒にいるだけなら紅椿いらないでしょ? それでもISに乗るんだって意思が、紅椿に伝わってなかったんだよ」

 

「それは……」

 

姉さんの言葉を、私は否定できなかった。

最初は一夏の隣にいるための力が欲しくて姉さんに専用機を願った。だが、いつしかその気持ちが薄らいでいたのかもしれない。

 

(そうか……私は、腑抜けていたのだな)

 

腑抜けていた。今のままでも一夏の隣にいることは出来ると、心のどこかで安心してしまっていたのだ。

 

(すまなかったな、紅椿。私がお前を欲していたはずなのに、勝手にそれを蔑ろにする真似をしてしまって)

 

情けない。『紅椿に相応しい強さを得る』と啖呵を切った、過去の自分に叱責されるべき失態だ。

だが、改めて視点が定まった。

 

(私は、一夏を支える力が欲しい。あいつの"守る"という想いを支える、力が。だから、改めて頼むぞ、紅椿)

 

装甲を撫ぜる。心なしか、『頑張って、願いを叶えよう』と紅椿から返された気がした。

 

ーーーーーーーーー

 

いやぁ、箒ちゃんの凛々しくも慈愛に満ちた顔を見れて、束さん心が満腹じゃ~♪

ととっ、いっくんのこと忘れちゃだめだよ!

 

「箒ちゃんの紅椿が進化したところで、次はいっくんの白式だね」

 

「束さん、俺はとりあえず燃費をどうにかしたいです」

 

「直球だね!?」

 

よもや、いっくんがここまで火の玉ストレートを投げてくるとは思わなかったよ! そんなに扱いづらい?

 

「もうエネルギー切れで、何度模擬戦で負けたことか……」

 

「そんなに~? どれどれ~」

 

いっくんが展開した白式に、ケーブルを繋いでログを確認する。……これは

 

「これはひどい」

 

「束さん、陸と同じこと言ってます」

 

「マジかぁ……」

 

これは束さんも想定外だった。

確かに白式は零落白夜を使えるようにしたから、燃費は良くないよ? けど、第二形態移行(セカンド・シフト)後の燃費が束さんの想定以上に悪かった。

 

(りったんが模擬戦した時の音声ログが残ってるけど、確かにこれは欠陥だらけだぁ……)

 

特に多機能武装腕の雪羅をボロクソに言ってるけど、束さんも同意見だなぁ。いっくんに万能系装備とか、却って重荷だもん。

 

「よし、この雪羅だっけ? この武装を消そう」

 

「ええ!? そんなこと出来るんですか!?」

 

「大天才の束さんに任せなさい! そんじゃ、さっそく始めるよー」

 

いっくん達にバレないよう、こっそり束さんのIS『群咲(むらさき)』から修正コードを白式に送り込む。

むむっ? 修正コードを拒否った? 反抗期だな~。やっぱり()()()()()()()()()からかな?

 

「どうしたんですか?」

 

「大丈夫だよ、ちょっと白式が雪羅を消すの嫌がってるだけだから」

 

「ああ、やっぱりそうなんですか。前にも雪片弐型以外の装備を拡張領域に入れられないか試したんですけど、尽く拒否されたんですよ」

 

「そっか~。さすが白騎士、前の操縦者(ちーちゃん)に似てワガママだなぁ

 

「何か言いました?」

 

「いやいや。でもこのままじゃ埒が明かないから、奥の手を出そうか」

 

再度白式に対して修正コードを送信。……それと一緒に、とあるデータ(いっくんの写真)も送った。……よしっ、通った! さすが白騎士! チョロい!

 

『多機能武装腕『雪羅』から、荷電粒子砲とエネルギーシールドを削除。拡張領域を解放』

 

「おおっ! やりましたね束さん!」

 

「えっへん! これで他の非エネルギー装備を積めば、相対的に燃費が良くなるよ」

 

「うっしゃぁ! ところで、どうしてエネルギークローだけ残したんですか?」

 

ガッツポーズをしていたいっくんが、こっちを見て首を傾げた。

 

「ログを見たら、いっくん眼帯相手にクローを使ってたでしょ? 最近の使用頻度的にこれだけ残しといたんだけど、ダメだった?」

 

「いえいえ! むしろ今考えてる戦術のいくつかはエネルギークロー使う前提だったんで、消されなくて良かったですよ」

 

「そっかそっか、それは良かったよ」

 

さて、こっちは二人の改修が終わったし、りったんの方も……大体終わったみたいだね。

 

「それじゃあ最後の仕上げに……」

 

「仕上げに?」

 

 

 

「みんなで模擬戦しようか♪」




本作の箒、結構満足度高いから『赤月』の出番はなさそうです。

祝・白式の拡張領域に初めての空き。……空きがあっても、一夏は雪片以外の装備を使いこなせるのか? というか、自分の記憶違いでなければ、原作でも荷電粒子砲以外まともに運用してなかった気が……。福音の時にシールド使ったぐらい?

次回、改修大決戦。


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第142話 IS弄り~模擬戦編~

盛り上がりに欠ける回かもです。


束の提案で、改修した一夏達の模擬戦を行うことになった。

確かに動作確認の意味でも、一度戦ってみるのが一番だからな。

 

「それじゃあ、私も……」

 

「おい簪、どこ行くんだ?」

 

「え?」

 

「簪、まさかお前、自分も模擬戦に参加する気じゃねぇだろうな?」

 

「……ダメなの?」

 

「ダメに決まってんだろ」

 

一夏達の改修具合を確かめるのに模擬戦するって言ってんのに、蹂躙するのが目的じゃねぇんだぞ。

 

「かんちゃ~ん、今回はトラウマ植え付けるのはご遠慮くださ~い」

 

「Σ(゚д゚||)博士酷い!?」

 

束のオブラートに包まない一撃で、簪がorzった。

 

「それで、組み合わせはどうするんだ?」

 

「そうだね~。実は束さん、ちょ~っと試したいことがあるんだけど……」

 

そう言って俺に耳打ちしてきた。……ほう、紅椿にそんな機能が?

 

「なら、後はいつもの組み合わせでいくか」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

姉さんに改修された一夏と私、そして宮下の改修キットで強化したセシリア達。この面子で模擬戦をすることになったのだが……

 

「箒さん、ずるいですわ!」

 

「そうよ! 一夏とタッグなんて!」

 

そう、今回はタッグマッチで行うことになり、私は一夏と組むことになった。姉さんの鶴の一声で。

ちなみに他は、セシリアと鈴、シャルロットとラウラが組むことになっている。更識と宮下は出ない。というか、出て来られたら困る。

 

「おらおら、さっさと模擬戦すっぞー」

 

「宮下さん! どうして一夏さんと箒さんが……!」

 

「何? そんなに簪のメメントモリ食らいたいのか?」

 

「イエ、ナンデモアリマセンワ……」

 

「陸、私の扱い悪くない……?」

 

セシリアと宮下、二人揃って顔を明後日の方に向けていた。そんなの更識の白い目が怖いなら、端からしなければいいのに。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

その後なんやかんやあって、一夏・私 vs シャルロット・ラウラが始まった。

 

――ドドドドドドッ!

 

「さすがにそれは反則じゃねぇか!?」

 

「いや、まあ、正直私もそう思う……」

 

「なら使うなよ! くっそ、箒! シャルの方を任せていいか!?」

 

「ああ、任せろ!」

 

ラウラの榴散弾を避けながら、私はシャルロットの正面へ移動する。

 

「僕の相手は箒なんだね! それじゃあ行くよ!」

 

――バンッ! バンッ!

 

「ショットガンか! だが!」

 

今までの模擬戦から、シャルロットのショットガンは二連装、撃ったら装填が

 

「甘いよ!」

 

――バンッ! バンッ! バンッ!

 

「何ッ!? がっ!」

 

馬鹿なっ! 装填しないで撃てるはずが……

 

「ダメだよ箒、全部が今までと同じだと思っちゃ。バラしちゃうけど、僕の改修は『新装備の追加』なんだから」

 

「新装備、だと? それなら私にもっ!」

 

――ジャキッ ビシュゥゥゥンッ!

 

「うわぁっ! な、何それ!?」

 

不意打ち気味に放った穿千の高圧縮のエネルギー・ビームは、シャルロットの装甲の表面を削った。

 

「『花びらの装い』でも曲げ切れないとか、どれだけ高エネルギーなのさ!?」

 

「うむ、次からは少し出力を減らそう」

 

「え? それ出力可変なの?」

 

「そうらしい」

 

確かあの時も『出力可変型ブラスター・ライフル』と表示されていたはずだ。

 

「困ったなぁ。箒相手には遠距離が安全だと思ってたけど、そうも言ってられなくなったかな」

 

――ガキィィンッ!

 

シャルロットめ、高速切替(ラピッド・スイッチ)でショットガンから二刀流だと!?

 

「う~ん、やっぱり二刀流は難しいね」

 

「それはそうだ。普通は利き手じゃない方に隙が出来やすくなるからな」

 

「そうなんだ」

 

シャルロットは勝敗よりも、新装備の確認に重点を置いているのか。確かにそれが目的ではあるが……。

 

「ラウラ達の方も、そろそろ決着みたいだね」

 

「何?」

 

シャルロットに言われて視線を向けると、苦い顔をした一夏が目に映った。

その手に握る雪片に、零落白夜のエネルギー刃はない。おそらく、エネルギーが切れたのだろう。

 

(終わりか……いや、まだ終わらせたくない。まだ、一夏と戦いたい……!)

 

たかが模擬戦で、と思うかもしれない。だが、どうやら私は、自分で思っているより負けず嫌いだったようだ。

 

(私の我が侭に付き合ってくれるか? 紅椿)

 

その問いに答えるかのように、

 

「こ、これは……!?」

 

紅椿の展開装甲から黄金の粒子が溢れ出す。

 

「ほ、箒!?」

 

「紅椿のエネルギーが、回復していく……?」

 

絢爛舞踏(けんらんぶとう)、発動。展開装甲とのエネルギーバイパス、構築完了』

 

単一仕様能力(ワンオフ・アビリティー)、だと……」

 

ハイパーセンサーから送られてくる情報には、確かにワンオフ・アビリティ―の文字が並んでいた。

これが、紅椿の本当の力……?

 

「ほ、箒……?」

 

「すまんなシャルロット、どうやら紅椿も私も、まだまだやる気のようだ」

 

エネルギーの消費を心配して抑えていた穿千を

 

「だから全力でお前を倒して、一夏に合流させてもらうぞ!」

 

出力を最大にして射出した。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

穿千が構築されたのもそうだけど、こっちの上手くいったよ。さっすが束さんてんさ~い!

 

「第一形態でワンオフとか、マジか」

 

「しかもこれ、エネルギーを増幅する機能なんだよ」

 

さらにこれ、束さんが考えてた通りなら……

そう思っていたら、

 

 

箒ちゃんが増幅させたエネルギーを、いっくんの白式に譲渡した。

 

 

「……」

 

りったんも、これには驚きで声が出なかった。

 

「これは、形勢逆転したかな~」

 

エネルギーの心配をする必要がなくなったいっくんが、眼帯に零落白夜で斬りかかる。

 

それから3分、無尽蔵のエネルギーから出される零落白夜に、アザトイと眼帯(仏独)のSEが空になった。

うむうむ、想定通り事が運ぶってき~もち~!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

次はオルコット・凰 vs デュノア・ボーデヴィッヒだが、面倒になってきたのでダイジェストで。

 

『扱い悪くない(ありません)!?』

 

……どこかからオルコットと凰の声が聞こえた気がしたが、気のせいだろ。

 

 

序盤からボーデヴィッヒの面制圧が入る……かと思ったが、

 

「新生セシリア・オルコットをご覧遊ばせ!」

 

――チュィィィンッ!

 

「くっ! フレキシブルがこんなに厄介だとは……!」

 

オルコットの妨害で、なかなかレールカノンを撃てないボーデヴィッヒ。

う~む、やっぱ撃つまでの所要時間に難ありだなぁ。

 

別の場所では、凰とデュノアが衝撃砲とショットガンの撃ち合いをしていた。

 

「当たりなさいよ!」

 

「嫌だよ! その冷凍弾食らったら、絶対動けなくなるでしょ! 鈴だって、いつもの接近戦はどうしたのさ!?」

 

「二刀流パイルバンカーとかバッカじゃないの!?」

 

お互い罵り合いをしながら、何とか自分の優位になる距離にしようとグルグル中空を回っている。

 

「レンジ取りしながら円状制御飛翔(サークル・ロンド)とか、色々おかしい気がする」

 

ジト目の簪曰く、本来は射撃と回避を繰り返す、高度なマニュアル機体制御が必要な代物らしい。

ぶっちゃけ、凰には似合わないな。それでもやれるのは、さすが代表候補生と言えばいいのか?

 

「あ、オルコットさん落ちた」

 

「え」

 

簪が言う通り、ボーデヴィッヒのプラズマ手刀がオルコットに直撃していた。

 

「オルコットさん、接近戦をまだ軽視してたんだ……」

 

ひぃ! 簪の目がうさみちゃんに……!

オルコットは近接用のブレードを展開するのに、めちゃくちゃ時間がかかるらしい。というか、武装名を叫ばないと出せないレベルなんだとか。……馬鹿?

 

「で、最後は凰さんが挟撃されて終了、と」

 

以上、オルコット・凰 vs デュノア・ボーデヴィッヒ、ダイジェストでした。

 

『だからあたし(わたくし)達の扱い悪くない(ありません)!?』

 

気のせいだ気のせい。




箒、ここに来て覚醒する。福音以降平和すぎて、全然強くなる機会に恵まれなかったという。

次回、各視点でクリスマスの予定。


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第143話 IS弄り~おまけ~

素で忘れてました……。


模擬戦も終わり、改修業務は終了した……と思ってたんだが

 

「私のテンペスタ改修はどうなってるのサァァァァァ!!」

 

「あ」

 

一夏達がいなくなったアリーナにアーリィが突撃してくるまで、すっかり忘れてた。

 

「あ、じゃないのサ!」

 

「簪、今何時?」

 

「もうちょっとで5時になる」

 

「本日の開庁は終了いたしました。またのお越しを――」

 

「ノットお役所ォ!」

 

分かった。分かったから制服の襟掴むなって。

 

「仕方ない……とはいえ、どういう改修するか決めてねぇからなぁ……」

 

「それなら問題ないヨ! 要望はちゃんとあるからサ!」

 

「ほう? どんな要望だ?」

 

「私に今足りないもの、それは――」

 

 

「情熱思想理念頭脳気品優雅さ勤勉さ!そしてェなによりもォ——————速 さ が 足 り な い !!」

 

 

「お前が遅い?お前がスロウリィ!?」

 

 

「陸、ノらなくていいから」

 

「はっ!」

 

危ねぇ……簪に止められなかったら『向こう側』を視ちまうところだった……。

 

「それで、元々スピード重視のテンペスタをこれ以上速くしてどうする気なんだよ?」

 

「まだまだ、チフユにスピードで勝てなきゃお話にならないのサ!」

 

「織斑先生レベルの速さって……出来なくはねぇけど」

 

「出来るのサ!?」

 

「ただ……血ぃ吐くことになるけどいいか?」

 

「は?」

 

キラキラさせたアーリィの顔が一変、目が点になった。

 

「血吐くって……それってどうなのサ……?」

 

「大丈夫、簪も通った道だから。で、どうする? やるか?」

 

「うぅぅ……やるのサ!」

 

「あ、あの、アーリィさん? それは本当にやめた方が……」

 

「いいや! カンザシだってそれでチフユとの勝負に勝ったんだろう? なら私だってやってやるサ!」

 

「よし、そこまでの覚悟があるならやってやんよ!」

 

「頼んだヨ!」

 

「ええ~……」

 

簪がなんか言いたげだが、まあいいや。最初は面倒だと思ってたが、すこ~しやる気が出てきたぞぉ!

 

ーーーーーーーーー

 

陸とアーリィさんの暴走から1時間で、テンペスタの改修は終わっていた。

 

「これが……」

 

「おう。計算上は、テンペスタⅡの2倍以上の最高速度を出すことができるぞ」

 

「2倍!?」

 

第2世代機を第3世代機の2倍にするとか、一体どんな魔改造したの……?

 

「それじゃ、まずは動かしてみて――」

 

 

――ドゴォォォォォォンッ!

 

 

陸が喋り終わる前に、アーリィさんのテンペスタはアリーナの壁にめり込んでいた。

 

「リク……#」

 

「俺は悪くねぇ!」

 

うわぁ、すっごいデジャヴ……じゃない。学年別トーナメントの辺り(第24話)で私も通った道だこれ。

 

「陸、これってまさか、GNドライブ積んだ?」

 

「まさか。単純にスラスターを大出力型に換装して(某上級大尉の)リミッターを外しただけ(フラッグカスタム)だ」

 

私の時と全く同じだったから、アーリィさんにドライブ積んだのかと思った。

 

「と、とりあえず、私の想像以上の速さだったのは確かサ……」

 

「満足してもらえたか?」

 

「出来れば、もうちょっと制御しやすければ良かったんだけどネ……」

 

「それは無理。頑張って慣れてくれ」

 

「慣れ……やってやるサ! そしてカンザシから一本取って、チフユと再戦するのサ!」

 

え、あれと私戦うの?

 

「頑張れー。PICの補助があっても最大8Gの旋回Gがかかるが」

 

「え……」

 

やる気を出していたアーリィさんの顔から、一気に血の気が引いた。

8Gって、戦闘機パイロットが耐えられる限界じゃなかったっけ……?

 

「それじゃ、頑張ってくれー」

 

「え、ええぇ……」

 

茫然としているアーリィさんを置いて、陸はさっさとアリーナを出て行っちゃった……。

ごめんなさいアーリィさん。でも私も通った道だから。(2回目)

 

ーーーーーーーーー

 

「というわけで、改修依頼は全部こなしたぞ」

 

翌日、ラビット・カンパニーの社長室で報告する陸に、スコールさんは

 

「貴方……自重って知ってる?」

 

口元が引き攣っていた。

 

「ドイツの大口径榴散弾の時点でもドン引きなのに、8Gかかるテンペスタって何よ……」

 

「後者はユーザーの要望を最大限汲み取った結果なんだが?」

 

「汲み取り過ぎて溢れてるじゃないのよ!」

 

バンバンッと執務机を叩くスコールさん。元テロリストに常識を諭されるって、どういうこと?

 

「あんまり怒ると、小皺が増えるぞ」

 

――ブチッ

 

あ、スコールさんの方から、切れたらダメなものが切れた音がした気が……。

 

「フ、フフフフ……そんなに私をコケにしたいのかしらぁ……」

 

「あ、やべ」

 

陸が揶揄い過ぎて、とうとうスコールさんがキレた。

 

「許さない、許さないわぁ……」

 

「か、簪。これってどうすればいいと思う?」

 

「私に聞かれても……」

 

「お前ら、何やってんだよ」

 

そんな中、オータムさんはコーヒー片手に高みの見学。(ただし、点滴台が横に付いてるのが痛々しいけど)

 

「お仕置きしてあげるわぁ! オータムゥゥゥゥ!!」

 

なんでオータムさん!? そしてオータムさん、飲んでたコーヒーを垂れ流しながら絶句してるんですけど!?

 

「な、なんで私なんだよ!?」

 

「そっちの二人にやったら報復が怖いじゃない!!」

 

「ひでぇ!!」

 

わけがわからないよ。

 

「それじゃ、俺ら帰るなー」

 

「えーっと……お邪魔しましたー……」

 

「お前らぁ! 散々荒らしたまま帰んじゃねぇよ!」

 

「フフフ……オータム……」

 

「ひぃ! スコール、落ち着け! 落ち着けってあひぃん❤」

 

オータムさんの艶声が聞こえた瞬間、私と陸は大急ぎで社長室から逃げ出した。

 

「陸、そろそろ自重しよう?」

 

「ああ……少なくともスコール相手は自重する」

 

さすがの陸も、あのスコールさんは怖かったらしい。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

ラビット・カンパニーから学園に戻ってきて、寮でのんびりしていたお姉ちゃん(どうして私達の部屋にいるのかは、もう考えないことにした)に話をしたところ

 

「陸君……」

 

すごく悲しそうな目で陸を見ていた。

 

「私のミステリアス・レイディも改修してよぉ!」

 

「お前もかよ!」「そっち!?」

 

思わず、陸と一緒にツッコんでいた。

 

「みんな陸君の手が入ったら、私ピンチじゃない!」

 

「ピンチって……」

 

「これでみんなに負け越すようなことになったら、お姉さんの沽券が!」

 

「「だからそんなものはない」」

 

「二人共ひどいってばぁ!!」

 

しばらくorzってたお姉ちゃんだったけど

 

「そんなこと言う二人は、こうだぁ!」

 

「うぉ!?」

 

「きゃっ!」

 

私達に抱き着いて、そのままベッドに倒れ込んだ。

 

「お姉さんの心の傷を癒すために、二人まとめて抱き枕よぉ!」

 

「ちょ、落ち着け刀奈って力強ぇなおい!」

 

「お、お姉ちゃん、これ寝返り打てないんだけどぉ……」

 

アームロックが使えなければ、陸も私もただの人。お姉ちゃんにガッチリホールドされて、身動き一つ出来なくなっていた。

 

「あ~、二人の体温でいい感じに温かいわ~」

 

「……もういいや」

 

色々諦めた陸が、そのまま寝る体勢に。

 

「そうだね……」

 

私も諦めて寝よう……寝返り打てない状態で、寝付けるかなぁ?

 

ーーーーーーーーー

 

――ドゴォォォォォォンッ!

 

「……なぁ、アリーシャ」

 

「な、何かナ……?」

 

「お前、何をやってるんだ……?」

 

久々に桜花に乗ろうと思って教員の訓練用アリーナに来たら、国家代表が壁に何度も激突する場面に出くわしたんだが、一体どんな顔をすればいい?

 

「わ、笑えばいいサ……」

 

「笑えんわバカタレ」

 

今日日、初めてISに乗った生徒でも壁に激突したりしないぞ。……いや、入学当初の一夏はやったな。ついでに、地面にクレーターも作ったな。

 

「リクに、最高のスピードを所望した結果サね」

 

「操縦者が乗りこなせないスピードとかダメだろ」

 

相手を倒す前に壁への激突だけでSE切れになるとか、笑い話にもならんぞ。

 

「だが、これを乗りこなせるようになったら、チフユに勝てる気がするのサ!」

 

確かに、そのふざけたスピードで動き回られたら、零落白夜を当てられるか怪しいが……。

 

「というわけで、しばらくは特訓あるのみサ!」

 

「まぁいいが……明日の授業に支障がない範囲にしろよ」

 

「分かってるヨ!」

 

――ドゴォォォォォォンッ!

 

「……今日はもう寝るか」

 

なんかもう、やる気が失せた。

帰り支度する間も壁に激突するアリーシャを置いて、私はさっさと寮監室に戻ってビール呷って寝た。




アーリィ、速さを求める。頑張れアーリィ、世界を縮めるその時まで!

スコール、キレる。特に理由のないお仕置きがオータムを襲う!

たっちゃんの抱き枕。以前抱き枕にしたんだから、今回は、ね?


次回、今度こそクリスマス回。


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第144話 各々のクリスマス

今度こそクリスマス回だと言ったな、あれは本当だ。


「「「「メリークリスマス!!」」」」

 

12月24日。IS学園の生徒会室で、俺、簪、刀奈、のほほんのグラスがぶつかる。

 

「結局、前祝は出来ずに本番来ちゃったね~」

 

「いやのほほん、普通はねぇからな?」

 

「ホントはやりたかったな~」

 

「お姉ちゃん……」

 

そして今日は、のほほんや刀奈を止めてくれる虚先輩はいない。なぜなら……

 

「虚は今頃、弾君とレストランかしら」

 

「確か、ホテル『テレシア』の最上階レストランだっけ~?」

 

「ああ。前に『金が必要だから、稼げる仕事紹介してくれ!』って頼まれた時に聞いた通りならな」

 

「あったね。修学旅行の直後ぐらいに」

 

それで束の下働きを紹介したんだよな。束曰く『馬鹿だけど根性だけはあって良し。特に束さんをただの雇い主だと思ってて下心が無いのが良い』ってそこそこ好評価で、1週間ぐらい肉体労働に従事してたらしい。

 

「それより、早くケーキ食べたい~」

 

「本音、少しは落ち着いて」

 

「私も食べたいわね~、陸君のケーキ。簪ちゃんは?」

 

「……食べたい」

 

口を尖らせながらも、最後には簪もケーキを要求してきた。まぁ、作った側としては嬉しい反応なんだが。

 

「そんじゃ、さっそく出すとしますか」

 

テーブルの上に乗ったチキンやピザの皿を動かしてスペースを作ると、そこに冷蔵庫から出したホールケーキを置いた。

 

「ゴクリ……!」

 

「本音、目が血走ってる」

 

「かんちゃん、これは心して食べないとダメだと思う……!」

 

「ほ、本音?」

 

「いやいや、素人のケーキに何を期待してるんだよ」

 

材料も近所(と言っても本土まで行ったが)のスーパーで買ったもんだし、レシピもネットで調べたのをそのまま作っただけだぞ?

 

「まあまあ、まずは食べましょ」

 

「そうですね」

 

8等分にしたケーキを皿に乗せて、各人に配る。

ちなみに今回作ったのは、正統派のイチゴショートだ。運動会のイチゴフェアを思い出してな。

 

「それじゃあ」

 

「「「いただきまーす!」」」

 

3人はケーキを一口食べて……え、固まった?

 

「り、陸……」

 

「え、まさか不味かったか?」

 

嘘だろ? まさか俺が、オルコット枠に落ちたって言うのか? 嘘だと言ってよバー○ィ!

 

「美味すぎる!!」(CV:大塚明夫)

 

「おい!」

 

「うーーまーーぁぁあいいいいいぞおおおおおおお!!」(CV:藤本譲)

 

「のほほんもかよ!」

 

お前らふざけてんのか!?

 

「陸君、もうパティシエ目指したらどう……?」

 

「楯無さんまで何言ってんですか!?」

 

だから、素人ケーキに何を言ってんだ。

 

「そもそも、俺のケーキでそんなリアクションだったら、一夏のケーキ食ったらどうなるんですか」

 

――カランッ

 

その瞬間、3人のフォークが皿の上に落ちた。

 

「お、織斑君のケーキって、これ以上なの……?」

 

「そうですよ。当たり前じゃないですか」

 

昨日、寮の調理室でケーキを焼いていた一夏に遭遇したんだが、あいつはやっぱりバケモノだった。

 

 

 

『明日のクリスマス用のケーキ焼いてみたんだけど、ちょっと味見してくれないか?』

 

そう言って、ケーキを作る際に出てきた切れ端を寄こしてきた。

 

『俺に味見を頼むかねぇ……んぐんぐ……美味っ! え、マジかよ!?』

 

『そ、そんなに驚くもんか?』

 

『マジで美味いぞこれ! 』

 

『よし、それならこれを出そう』

 

そう言ってケーキを箱に入れると、一夏は調理器具を洗い始めた。

 

 

 

「ってことがあったんですよ」

 

「これ以上のケーキ……」

 

「おりむー、恐るべし……」

 

簪とのほほんが、皿の上のケーキを凝視しながら戦慄していた。

 

ーーーーーーーーー

 

1025号室。一夏と箒の部屋でクリスマス会をしていた僕達は、(乙女の)危機に瀕していた……。

 

「……」

 

「……」

 

「セ、セシリア? 鈴?」

 

「……」

 

「シャルもラウラも、どうしちまったんだよ?」

 

「ん~! いっくんの手作りケーキおいし~♪」

 

「やはり、私にはまだ遠いか……」

 

何かを悟った箒と普通にケーキを食べてる博士以外、僕を含む全員が絶望していた。

 

「なんて……」

 

 

「一夏、アンタなんてケーキを用意してきたのよォォォォ!!」

 

 

鈴が絶叫したそれが、僕達の総意だった。

 

「え、ええ?」

 

「スポンジとクリーム、そして果物の黄金比……! 学生同士のクリスマス会で出てきていい代物じゃないわよ!」

 

「そうですわ! こんなの、社交界のパーティでも出てきたことありませんわ!」

 

「嫁よ、お前はなんてものを……」

 

「……俺、褒められてるのか? それても貶されてるのか?」

 

一夏が形容し難い顔になった。

本当は褒めたいよ? でも、それをすると僕達の乙女の部分、女の子としてのプライドが……!

 

「箒、お前はどうなんだ!?」

 

「何を言っているんだ? 私は小さい頃から、毎年一夏のケーキを食べてたんだぞ? プライドなど、とうに捨てた……」

 

「うっ!」

 

箒に詰め寄ったラウラだったけど、箒の遠い目を見て逆に罪悪感が生まれたのか、肩を掴もうとした手が宙を彷徨っていた。

 

「いっくん、ケーキおかわり!」

 

「はいはい」

 

「篠ノ之博士は……」

 

「ん? いっくんのケーキが美味しいことが、何か問題?」

 

「あ、はい」

 

どうやら博士には、そういった乙女のプライドはないようだ。

 

「シャルもおかわりいるか?」

 

「え? あ、うん……」

 

「ほい」

 

「あ、ありがとう……」

 

勢いでおかわりもらっちゃったけど……。

 

「ええい! あむっ!……うぅ……っ」

 

「シャ、シャル?」

 

「お、美味しいよ……」

 

だけど涙が出ちゃう、女の子だもん……。

 

ーーーーーーーーー

 

学園の寮監室で、私はマドカと一献やっていた。もちろんマドカが飲んでいるのは、ノンアルコールのソフトドリンクだがな。

 

「クリスマスに私と飲みたいとは、酔狂な姉だな」

 

「なんだ、嫌なら断ればよかっただろうに」

 

「別に嫌ではない。だが、男っ気がないのはどうかと思うぞ」

 

「ひぐっ!」

 

こ、こいつ……最近気にし始めたことを……!

 

「同級生の篠ノ之博士ですら一夏とくっ付いたというのに、我が姉ときたら……」

 

「な、なら、お前はどうなんだ!?」

 

「私か? 私はまだ学生だからな。まだまだ出会いもあるだろうさ」

 

「そう言ってると、あっという間に男っ気とやらと無縁になるぞ。なにせ私のクローンなのだからな」

 

「おぅぐ……!」

 

ふっ、やり返してやったぞ。……虚しい。

 

「わざわざ暗くなる話は止めよう」

 

「そうだな」

 

これ以上はさすがに危ないとマドカも悟ったのか、お互い一夏が置いていったツマミをつつき始めた。

 

「しかし、織斑家で一番女子力が高いのが一夏というのは、納得し難い事実だな……」

 

「私は諦めた。家にいる時あいつに下着の洗濯を任せた辺りで」

 

「羞恥心を持て!?」

 

自分と同じ顔の女に説教された。いやもう、一夏は主夫でいいんだよ。

 

「まったく……」

 

「ちなみにお前が今食ったホウレン草のキッシュも、あいつの手作りだ」

 

「……あいつ、もう主夫でいいんじゃないか?」

 

「だろ?」

 

真顔のマドカにニヤリと答える。

 

「ところで、姉の後輩とやらは誘わなかったのか? あの駄肉眼鏡」

 

「駄肉言うな。真耶も遅れて来るそうだ」

 

「すみませーん! 遅れちゃいましたー!」

 

「ほらな」

 

「なるほど。さて、確かこういう時は『駆けつけサンバイ』だったか」

 

「ええっ!? お、織斑さん!?」

 

マドカ、『駆けつけ三杯』であって、ウイスキーをほぼストレートで飲ませる『駆けつけ(度数)三倍』ではないぞ。

 

「や、山田真耶、行きます!」

 

「真耶!?」

 

クリスマスの魔力にやられたのか、真耶がマドカから渡されたコップを一気したんだが!?

 

「んぐ、んぐ……ぷはぁ!」

 

「いい飲みっぷりじゃないか」

 

マドカが拍手してるが、真耶の目、なんか据わってないか……?

 

「せんぱぁぁぁい……」

 

「な、なんだ?」

 

「むへへぇ❤」

 

――グニュンッ!

 

「ふごぉっ!?」

 

ま、真耶苦しい! お前の胸でこ、呼吸がぁぁ……!

 

「巨乳眼鏡に抱き着かれるとか、女っ気には事欠かないな」

 

「ふがががっ!」

 

そんな感心してないで、助けろぉぉぉ!!




スコールとオータム?……日本の社会人ってさ、クリスマスだろうと平日は仕事なんだよ?(死んだ目

ちーちゃん、まーやんと結婚すればいい(オイ


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第145話 実家挨拶

『初心に返る』って大事ですね。
いつの間にか、評価バーを見て一喜一憂して疲れてる自分がいました。
執筆当初の『ただ書きたいものを書く』からかけ離れてたなーと。反省。


クリスマス会をやった翌日、IS学園は今日から正月三が日まで冬休みになっている。

多くの生徒が地元、祖国に帰省している中、俺は帰る場所もないから、寮の部屋で寝正月のリハーサルをしていた。

 

「陸くーん、入るわよー」

 

「入ってから言うな、入ってから」

 

「ほら、着替えて着替えて。簪ちゃんも待ってるわよ」

 

「あ? 今日なんか約束してたか?」

 

簪も刀奈も今日から更識家に帰省するから、何も予定は入ってなかったはずなんだが……。

 

「特に約束はしてないわよ」

 

「おい」

 

「だけど、挨拶は早い方がいいでしょ?」

 

「……挨拶?」

 

「お父さん達への挨拶よ。電話では話したことあるって簪ちゃんから聞いてるけど、直に会うのはまだでしょ?」

 

「……」

 

やばい、顔や背中から汗が止まんねぇ……!

いや、いつかは来るし、避けては通れねぇとは思ってたが、心の準備が……!

 

「もうっ、こうなったら向こうに着いてから着替えましょ!」

 

刀奈がパンパンッと手を叩くと、黒服グラサンのガタイのいい男達が……って、ちょっと待て?

 

「確保ぉ!」

 

「「「応!」」」

 

「ちょっと待てぇぇぇぇ!!」

 

抵抗むなしく俺は黒服達に担がれて、そのまま更識家にハイエースされてしまったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

武家屋敷と言わんばかりの日本家屋(更識家)にハイエースされた俺は、あれよあれよという間に紋付き袴を着せられて、先に簪が待機していた部屋に案内されていた。

 

「陸、似合ってる」

 

「おう、あんがとよ……」

 

似合ってるか? 正直、自分が和服の似合う奴だとは思えねぇんだが……。

 

「簪は、まさにお姫様って感じだな」

 

「そ、そう……?///」

 

浅葱色の振袖を着て畳の上にちょこんと座る姿は、まさに武家のお姫様だ。

顔を赤くした簪が、顔を逸らしながらもこっちを見る。

 

「お待たせ……って、陸君、また簪ちゃんを誑し込んでたの?」

 

「失礼なこと言うな。なんだ、刀奈も着物、結構似合ってるな」

 

簪の物より少し緑成分の濃い色合いの振袖を着た刀奈も、これはこれでいいな。

 

「惚れちゃった?」

 

「ああ」

 

「そ、そう……どうしてそんなアッサリ言うのよぉ、私の方が恥ずかしいじゃない……

 

「それで、準備が出来たのか?」

 

「うにゅぅぅ……はっ! お父さんとお母さんが待ってるわ。付いてきて」

 

現実世界に戻ってきた刀奈が先頭で、その後ろを俺、最後に後詰で簪が廊下を歩いていく。

ふと左側を見れば、見事な日本庭園が広がっている。今日日、ここまで日本式なのも珍しい。

そして廊下の一番奥の部屋で刀奈が止まり、襖の前で正座で座り込む。

 

「失礼します」

 

刀奈が襖を開けると、そこには袴姿の偉丈夫と、留袖を着た刀奈に似た女性がこちらを見ていた。

 

「直接会うのは初めてですね」

 

「まあ、座ってくれ」

 

声を聴いて確信した。なぜなら聞き覚えのある声だから。

 

更識家十六代目当主、更識槍峻(そうしゅん)さん。その妻である更識琴音(ことね)さん。つまり、二人の両親だ。

 

「はい。失礼します」

 

和室でのマナー(畳の縁を踏まないとか)を思い出しながら、二人に向かい合う位置まで進んでいき、何とか正座をした。

俺の隣には簪が座り、刀奈は当主だから向こう側に……行かずに、俺の隣へ。

 

「ほう、そこまで彼に惚れたか、刀奈」

 

「ええ。それはもう」

 

刀奈の回答にニヤリと笑う槍峻さんの顔は、まるでガキ大将のそれだ。琴音さんに至っては、終始ニコニコしているし。

 

「簪については夏休み明けに報告を受けていたが、まさか刀奈もとはな……。君もなかなかの人誑しだな」

 

「否定は、できませんね」

 

なにせ、現に二人に手を出してるんだから。

 

「別に、君が悪いとは言っていないよ」

 

「正直、一発殴られるぐらいは覚悟していましたが」

 

「ほう? なぜだね?」

 

「槍峻さんや琴音さんからしたら、俺は簪と刀奈、二人まとめて誑し込んだ男です。いい印象はないでしょう」

 

例え、国連やIS委員会から重婚許可を出されていると言ってもだ。

 

「私はそうは思わん」

 

槍峻さんは正座から胡坐に座り直すと、腕を組んで俺の考えを否定した。

 

「刀奈も簪も、ただチャラいだけの男に(なび)きはしないだろうし、そうならないよう育てたつもりだ。その二人が君を選んだんだ。私は娘達の意思を尊重するし、信用している」

 

「そうですよ。私も簪ちゃんに色々アドバイスした身ですし」

 

「やっぱりあれお母さんだったの!?」

 

琴音さんの言葉を聞いて、身を乗り出すように抗議する刀奈。もしかして、キャノンボール・ファストの『第2夫人』発言(第73話)か?

 

「だって刀奈ちゃん、せっかく好きな人が出来たのに奥手なせいで恋が実らなかったら可哀想だもの」

 

「~~っ!!///」

 

頬に手を当てて困った顔をする琴音さんに、刀奈は顔を真っ赤にして手で顔を隠すと、正座したまま前のめりに倒れ込んでしまった。

 

「簪。お前は良かったのか? いくら宮下君の懐が深いとはいえ、刀奈を許容して」

 

「構わない。陸がお姉ちゃんを受け入れるなら、私はそれを支持する。陸の気持ちが最優先」

 

「ふむ、そうか」

 

槍峻さん、俺そんな懐深くないです。そして簪、俺ファーストもほどほどに。マジで譲れない一線は持っててくれ。

 

「さて宮下君。私達としては、君と娘達との交際について反対しない。むしろ、二人をよろしく頼む」

 

「え、あの……」

 

「ふふっ、『娘さん達をください!』と言えなくなって困ったかな?」

 

「えっと……はい」

 

まさか、義親になる人からの先制攻撃で封殺されるとは思わんだろう……。

 

「ただ、一つ問いに答えてくれないか」

 

「問い、ですか?」

 

「ああ。ちなみにどう答えようとも、手のひらを返して二人との交際に反対したりはしないから安心してくれ」

 

「は、はぁ……」

 

 

「刀奈と簪が命の危機に瀕している。もしどちらかしか助けられないとしたら、君はどちらを助ける?」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「刀奈と簪が命の危機に瀕している。もしどちらかしか助けられないとしたら、君はどちらを助ける?」

 

「簪です」

 

悩む素振りもせず、まるであらかじめ決まっていたかのような回答に、問うた私の方が固まってしまった。

助けると言われた簪ですら、信じられないという顔をしている。

 

「俺も刀奈も、簪の命が最優先です。だから刀奈を見捨てても、簪を助けるためだったなら、刀奈は分かってくれます」

 

「当然ね」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「逆に俺と簪が天秤に乗っていた場合でも、俺は簪に生き残って欲しいし、刀奈も俺を切り捨ててくれるはずです」

 

「……」

 

刀奈の方を見ると、ごく自然体で首を縦に振った。

ここまで、ここまで簡単に選択できるものなのか。ここまで簡単に、自分すら切り捨てられるものなのか。それだけ、簪を愛し、刀奈を信じているのだな……。

 

「どうして……私、嬉しくない。嬉しくないよ……」

 

「安心しろ」

 

悲しそうに俯く簪の頭を、宮下君が優しく撫ぜる。

 

「槍峻さんが言ったのは、あくまで"もしも"の話だ。ですよね?」

 

「そう、だな」

 

そう、もしもの話だ。だが、実際にその"もしも"が現実になるのも事実だ。

 

「それに、もしそうなりそうになっても、その前に刀奈が元凶を見つけ出して――」

 

 

「俺がちゃんと、対処するからよ」

 

 

――ゾクッ

 

刀奈と簪からは、ちょうど見えない位置にある彼の目。

その目が見えた時、私は久々に恐怖を感じた。暗部の人間として、刀奈に当主の座を譲るまで、数々の修羅場を潜り抜けてきた私がだ。

それと同時に、頼もしさも感じた。

 

あの目は語っていた。簪を脅かす存在は、全て斬り捨てると。一人たりとも生かしてはおかないと。

あの目は語っていた。命尽きるまで、簪と刀奈を守り続けると。

 

二人のためなら、躊躇いなく血を流す覚悟が、両の手を血で汚す覚悟が、返り血を浴びる覚悟があると、そう言っているのだ。

 

(まったく、単に『娘さんをください!』と言われるより強烈な挨拶だ。『狂愛』と言っても過言ではないな)

 

だが、それだけ娘達を想っている彼になら、任せてもいいと私は思っている。

琴音も、それを察して簪に助言したのだろう。あやつは、昔からそういったところに敏感だったからな。

 

「改めて、娘達をよろしく頼む」

 

私がそう言うと、最初の目に戻った彼はこちらに向き直り、しっかりとした座礼で返したのだった。




オリ主、ハイエースされる。暗部なのにガタイのいい黒服とは一体……。

更識姉妹の両親と初対面。例のごとく、両親の名前はオリ設定です。

簪最優先。簪が天秤に乗ってるなら、たっちゃんもオリ主を切り捨てると思ってます。


なんて殺伐とした実家挨拶だ……!(オマイウ


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第146話 年末の織斑家

年末年始ネタを、7月のクソ暑い中書くという矛盾。
臨海学校の時もそうだった気が……。


「なんやかんやでもう年明けか」

 

クリスマスが終わり、IS学園も冬休みに入ったと思ったら、あっという間に年末になっていた。

煤払いも昨日の内に終わらせたし、明日食べるおせちも用意は終わってる。

 

「あとは年越しそばでも作って、まったりするか。マドカは天ぷらときつね、どっちにする?」

 

「天ぷらがいい」

 

「はいよ」

 

こたつから頭だけを出して紅白を見てるマドカ。まるっきり、昔の千冬姉だな。

そう思っていたら、風呂から上がってきた千冬姉がやってきた。

 

「千冬姉、これから年越しそば茹でるけど、食べるよな?」

 

「ああ。いつも通り、きつねな」

 

「分かってるよ」

 

俺が年越しそばを作るようになってから、千冬姉はきつねそば以外選んだことがないからな。

 

「さて、俺も天ぷらにするか」

 

「一夏、一人前追加してやれ」

 

「は?」

 

「ああ、なるほど。ちょっと待ってろ」

 

千冬姉の意外なセリフにはてなマークを浮かべていると、マドカが何かに気付いたのか、こたつから出て庭に出た。

積もるほどではないけど、ちらちらと雪が降っている。

 

「ほら、出て来い。姉さんにもバレてるんだ」

 

すると、

 

「ら、ラウラ?」

 

冬迷彩のコートを着たラウラが、鼻を真っ赤にして出てきた。

 

「お前、いつからそこにいたんだよ……」

 

「夕暮れ前からだ」

 

「アホかぁぁ!」

 

胸張って言うことじゃないだろ! 風邪ひいたらどうんだよ!?

 

「なんで庭に隠れる必要があるんだよ。普通に訪ねてくればいいだろ」

 

「いや、私は織斑家の安全を陰から守るために……くしゅんっ」

 

「だーもう!」

 

とりあえずラウラを家の中に連行すると、こたつの中にシュゥゥゥ!した。まったく、手も冷え切ってるだろ。

 

「何か温かい飲み物用意するから、しばらくそこに入ってろ」

 

「おおっ、これがこたつか。確か猫の聖域とも呼ばれる、冬の風物詩だったな」

 

「誰だそんなこと言ったのは……一夏、私にもホットミルク」

 

「私には熱燗な」

 

「はいはい」

 

織斑家の女性陣からも注文が入ったし……。

 

「はい、おまちどーさま」

 

ラウラとマドカにホットミルクのカップを渡し、千冬姉には熱燗の徳利とお猪口を渡す。

 

「あつっ」

 

「なんだ、猫舌か」

 

「そ、そんなわけないだろ。ちょっと予想よりも熱かっただけだ」

 

そんなこと言いつつ、恐る恐るちみちみとホットミルクを飲むラウラの姿は、紛うことなき猫だった。

 

「さて、気を取り直してそばを茹でるか。ラウラ、しばらく千冬姉の話相手よろしく」

 

「ま、任せておけ」

 

……本当に大丈夫か?

 

「安心しろ。こいつがダメそうなら、私が適当に場を持たせておく」

 

マドカがそう言ってるし、大丈夫だろう。俺はそばの用意をするために、3人をリビングに残してキッチンに引っ込んだ。

 

ーーーーーーーーー

 

緊張しているのか、ラウラはガッチガチに固まっていた。

 

「えっと、教官……」

 

「家に来てまで教官はよせ」

 

プライベートでその呼び方をされても困る。というか、何度も言ってるが私はもう教官ではない。

 

「そ、それでは……あ」

 

「あ?」

 

 

義姉上(あねうえ)!!」

 

 

「ぶふっ!」

 

マドカが吹いた。私も危うく酒が鼻に回るところだった。

 

「将来一夏と結ばれた時には、そ、そう呼ぼうと思っていて……」

 

「あ、ああ……」

 

確かに、一夏がラウラを始めとした連中と正式に婚姻したら、そう呼ばれてもおかしくはないが……。

 

「ぷくくく……! あと4人、なんて呼び方をされるんだろうな……くくくっ!」

 

マドカぁ、お前他人事だと思って……!

 

「それと、マドカのことはまーたんと呼ぶことにしよう」

 

「はぁ!?」「ぶっふ!」

 

ラ、ラウラ……まさかお前がそんなこと言うなんて想像してなかったぞ……!

 

「な、なんだその呼び名は!」

 

「好感度を上げるためにはあだ名で呼ぶものだと、ドイツにいる副官が」

 

「その副官解任しろ!?」

 

クラリッサめ。相変わらずあいつは、よく分からん知識を周囲に吹聴しているのか。

 

「い、いいか! 私はそんなあだ名を許可するつもりはないぞ!」

 

「なぜだ? そんなに悪い呼び名ではないだろうに」

 

「嫌だ! もしその名で呼んだら……」

 

「呼んだら?」

 

「貴様のこともラウラウって呼ぶぞ」

 

「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

ラウラ、もうすでに布仏妹にそう呼ばれてるだろ……そんなに嫌だったのか?

その後、取っ組み合いをすることしばし。

 

「はぁ、はぁ……ふ、普通に名前で呼ぶぞ。いいな?」

 

「ああ……それで、いこう」

 

ということで決着した。最初からそれで良かっただろうに。

 

「はいよ。そばお待ち……って、なんかあったのか?」

 

キッチンの方から、ドンブリを盆に載せた一夏がやってきた。

 

「気にするな。ちょっとした戯れだ」

 

「はぁ、まあいいか。えっと、千冬姉とラウラがきつね、マドカが天ぷらな」

 

こたつの上にそばのドンブリが載ると、マドカとラウラが目をキラキラさせた。

 

「それではさっそく!」

 

「あっ! お前! い、いただきます!」

 

即そばをすすり出したマドカに対して、手を合わせてから食べ始めるラウラ。う~む、どこかでマドカに教育が必要だな。

 

「おおっ、これはなかなか……!」

 

「つゆの出汁がいいな。うまい」

 

二人が美味そうに食べるのを見て、私もそばをすする。うむ、うまい。

 

「今年は昆布からあごだしに変えたんだけど、好評みたいで良かったよ」

 

「あごだし? なんだそれは?」

 

「なんだったかな……あっ、そうだそうだ、トビウオからとった出汁なんだってさ」

 

「ほう、トビウオのことを"あご"と言うのか」

 

「まったく、どんどん女子力を上げおって」

 

「いや、女子力って……」

 

そんなことを言っていると、ぼーんと除夜の鐘が鳴った。

 

「あ、千冬姉」

 

「うむ。マドカ」

 

「ああ」

 

「「「今年もよろしくお願いします」」」

 

3人で頭を下げる。自分で声を掛けといてなんだが、マドカもちゃんと頭を下げたな。

それにラウラも慌てて倣った。

 

(去年は激動の1年だったが、今年も明けから一波乱ありそうだ)

 

一夏のIS学園入学を皮切りに、無人機の乱入にVTS事件、福音暴走。2学期に入ってからも亡国機業の襲撃、ハッキング事件、エクスカリバー、女権団消滅。大きな事件だけでこれだけある。

さらに1年4組の宮下が巻き起こした小事件も含めればキリがないほどだ。

 

三が日ぐらい学園の面倒事は忘れようと思っていたのだが、私の頭の中には終業式の直前に知らされた案件――3学期にルクーゼンブルグ公国から特別留学生がやってくる――が巡っていた。

 

ーーーーーーーーー

 

除夜の鐘が鳴って1月1日の元旦。ラビット・カンパニーの社長室は、今も煌々と明かりが点いていた。

 

「スコール……あと何枚だぁぁぁ……?」

 

「これで……」

 

ほぼ机に突っ伏しているオータムに問われた私は、最後の書類に印を押した。

 

「お……」

 

「「終わったーーーーー!!」」

 

クリスマス休暇が幻と消えた私達が、なんとか三が日を死守した瞬間だった。

 

「昔の軍人時代でも、こんなにひどい生活はしてなかったぞ……」

 

「私もよ」

 

アメリカの特殊部隊にいた時ですら、潜入任務中でもない限り、10日に1日は非番があったのに……。

 

「ひぃ、ふぅ、みぃ……うわっ、私達35連勤もしてたのかよ!?」

 

カレンダーを眺めてたオータムが声を上げた。それを聞いて私も上げそうになった。

ただの35連勤ではない、"会社に泊まり込んで"の35連勤。地獄だったわぁ……。

 

「けど、これで私達は自由よ」

 

さっきも言ったように、三が日は死守した。しかも、それだけじゃない。

 

「ああ! これまでの代休分も含めて、成人の日? まで休めるんだよな」

 

そう、これから私達は、8連休に突入するのだ。

 

「オータム、リサーチは済んでる?」

 

「当然!」

 

自信満々で、私に端末の画面を見せる。

 

 

「この近辺で、元旦初売りをする店と福袋の内容、全部調べは済んでるぜ!」

 

 

「結構! 大変結構!」

 

この社長室の椅子に座らされてから、まともにショッピングも出来なかった憂さ、ここで晴らさせてもらうわよ!

 

「だがまぁ、とりあえずは……」

 

「とりあえずは?」

 

「久々に、シャワーじゃなくて風呂入ろうぜ」

 

「……そうね」

 

オータムの言う通り、社内のシャワー室ではなく、湯船に浸かりたいわ。

 

「そんじゃ、さっさと帰って風呂入って一旦寝よぉぜ」

 

「ええ。明日……もう今日ね。今日の朝は早そうだし」

 

そうと決まれば話は早い。私とオータムはテキパキと片付けると、借りたままほぼ帰っていないマンションに向かって、車を走らせたのだった。




年越し織斑家。原作にプラスして、マドカもいる光景。しかも性格が原作ブレイクしているからか、とっても書きやすくなりました。(オイ

スコールとオータム、やっとお家に帰れる。35連勤泊まり込みなので、社長と秘書に就任してから一度も帰ってません。そしてその反動で、元旦初売りとか言い出してます。(アメリカには初売りの風習はないらしいです)

次回、初詣をするか、さっさと3学期(新章)に入るか悩み中です。


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三学期開始~セブンス・プリンセス
第147話 新学期、そして王女襲来


初詣イベントをスキップして、今回から3学期に突入します。

そして今後の予定ですが、『俺ヒルデ』は虚さん卒業のタイミング(この章か次ぐらい)で一旦完結にしようと考えてます。

理由としては
・話の流れ的にキリがいいから
・あんまり長々とやるとダレてくるから(実際、連載当初と比べてダレてきた自覚あり)
・話数が多いと、最新話までスクロールするのが面倒
が挙げられます。

もし番外的なものを書きたくなったら新規で作って、あらすじ欄に相互リンクを貼ろうと思います。

それでは、完結までお付き合いくださいませませ。


「おっはよー!」

 

「おはよう。今年もよろしく」

 

「よろよろー!」

 

三が日も終わり、3学期が始まったIS学園1年4組の教室では、新年の挨拶も所々で行われていた。

 

「おはよう宮下君、今年もよろしくね」

 

「おう、ことよろ」

 

「ちょっとちょっと、その略し方は古いって」

 

「マジで? まずいなぁ……もう言うのやめとこ」

 

生前と同じ日本だからと油断してたな。

 

「全員揃ってるわね~」

 

エドワース先生が教室に入ってきて、3学期最初のSHRが始まった。

 

「はい、今学期も誰も病気や怪我もなくて良かったわ。そして連絡事項なんだけど、今日から1組に、ルクーゼンブルグ公国から第七王女殿下が特別留学生としてお見えになっています。なので失礼なことがないようにね。……特に宮下君」

 

「俺っスかぁ!?」

 

まさかの名指しである。解せぬ。

 

「宮下君は色々できる力があるから、何かやらかさないか心配なのよ。1組の織斑君とは別の意味で」

 

「陸、篠ノ之博士と同じノリでアームロックとかしたらダメ」

 

「しねぇから! 俺だって、誰彼構わずアームロックしてるわけじゃねぇからな!?」

 

「例え王女様が非常識の我が侭姫でも?」

 

「……おう、もちろん」

 

簪に言われて、一瞬『そんな奴なら片腕ぐらいOKだろ』とか思ってしまった俺は悪くない。

 

「宮下君、王女様と会わないようにした方がいいよ」

 

「そうだね。それで国際問題になったら困るし」

 

「お、お前ら……」

 

クラスメイト全員が、俺を爆弾の導火線だと思ってやがる。ちくせう……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

昼休みの食堂。いつもなら一夏といつ面達が昼飯を食ってるはずなんだが

 

「一夏がお姫様の執事にさせられたぁ!?」

 

「うむ……王女の鶴の一声でな」

 

「まったく、腹立たしいったらないですわ!」

 

「でも、織斑先生すら知らんぷりしてから……」

 

「教官ですら手や口を出せんのに、我々が出しても効果はなかっただろう」

 

ほぼお通夜に近い状態で飯を食う一夏ハーレムの面々。別クラスの凰も、他の4人を責めることはできずに困った顔だ。

 

「それで、織斑君は今どこに?」

 

「なんでも、市街地を視察したいからって連れて行かれたよ~」

 

「授業を休ませてか? 何しに来たんだそのお姫様は」

 

留学生と言いつつ、ずいぶん身勝手に動いてるみたいじゃねぇか。

 

「まあそれも、今日まででしょうよ」

 

「お姉ちゃん」

 

全員が声の方を向くと、刀奈が扇子を広げてこちらにやってきた。

 

「会長、それは一体どういうことですか?」

 

「それがねぇ……」

 

デュノアの問いに、刀奈が突然疲れた顔をする。

 

「織斑君の件、篠ノ之博士に伝わったらしくて」

 

「「「「「「ああ……」」」」」」

 

全員が納得した。一国の王女だろうと、束には関係ないからな。

 

「そこで博士の口から出た言葉が……」

 

「楯無さん、当ててみましょうか? 『あのクソアマ、二度といっくんに近づけないようにしてやる!』」

 

「……正解」

 

俺の解答に、刀奈が持ってた扇子を裏返す。そこには『オワタ』の文字。もはや漢字ですらねぇのかよ。

 

「博士がわたくし達の気持ちを代弁してくださいましたわね」

 

「姉さん……いいぞもっとやれ」

 

「ほ、箒?」

 

やべー。篠ノ之から黒いものが漏れてきてる。

 

「だから明日からは、織斑君も普通に登校してくるはずよ」

 

「ちなみに会長、アイリス王女の身の安全は……」

 

「……」

 

ボーデヴィッヒの質問に、刀奈は口を噤んで明後日の方角を見始めた。

 

「会長?」

 

「陸くーん、放課後私のミステリアス・レイディを改修して欲しいなー」

 

「「「「「現実逃避!?」」」」」

 

みんなのツッコミを無視して、俺の右腕(左腕は簪が標準装備だから)に抱き着いておねだりする刀奈。だから、ロシア政府から会社に話を通してくれって言ってるだろ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ルクーゼンブルグ公国の第七王女、アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルグ殿下が特別留学生として、IS学園の1年1組に来られた。それはいい。一夏が執事役に選ばれたのも、外交上の都合で目を瞑った。

だが、さすがにこれはどうしようもなかった。

 

「束……一応、一応だが聞いておく。なぜ()()()?」

 

生徒指導室のパイプ椅子に座った私の真向かいには、同じくパイプ椅子に座った束がいた。

 

殿下が市街地を視察したいと仰って、一夏がお供に抜擢された。そして視察中、テロリストの襲撃に遭った。それはそれで問題なのだが、問題はそこから先だ。

 

『兵士諸君 任務ご苦労 さようなら』

 

突然現れた束が、テロリストどころか護衛の兵士をもボッコボコにしてしまったのだ。

そして唖然とする殿下の髪を掴み、顔を口元まで近づけて

 

『これ以上いっくんに関わるなら……お前を殺す(デデン』

 

と言い残して去っていったらしい。

それが原因で、殿下は割り振られた寮の部屋の隅でガタガタ震えており、護衛も近衛騎士団長ジブリル・エミュレールを除く9割方が病院送りとなってしまった。

まあ、殿下が部屋に引き篭もってるおかげで、残りの護衛だけで何とか回せていると言えるのだが。

 

「なぜやったって?……ちーちゃん、束さん怒ってるんだよ?」

 

「怒ってる……一夏のことか?」

 

「そうだよっ! あんなポッと出がいっくんを独占するとか、許されると思ってるのさ!? というか、ちーちゃんこそ止めなよ!」

 

「いや、相手は小国とはいえ王女だし、政治ってものが……」

 

「はぁ……そう言うと思ったよ。なら、あのクソアマに伝えておいてよ。『そっちが外交問題とか言って事態を大きくするなら、それなりの報復をする』って」

 

「お、おい束! まだ話は……」

 

私の制止を完全に無視して、束はパイプ椅子から立ち上がり、部屋から出て行ってしまった。

 

「くそ……! 最近はこいつに頼らなくてよかったのに……」

 

苦痛に顔を歪めながら、私はスーツの内ポケットに常備していた胃薬(水なしで飲めるタイプ)を取り出し、中の錠剤を飲み込んだ。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

執事服姿の一夏が現れた時、夜の食堂に歓声が沸いた。

 

「織斑君!?」

 

「学園祭以来の執事姿! 写真撮らねば!」

 

「誰か、誰か新聞部呼んでー!」

 

沸き過ぎだろ。

 

「よう一夏、昼間は散々だったらしいな」

 

「ホントだよ……俺には箒達がいるって言ってるのに、着替えを手伝わせようとするし、ちょっと油断すると腕を組んで来ようとするし」

 

なんだそれ、篠ノ之達から寝取る気満々じゃねぇか。

 

「お前、よくそれでフラグ全折りできたな」

 

「よく頑張ったな一夏」

 

「さすが一夏さんですわ!」

 

「ま、まあ? あたしは一夏のこと信じてたけどね?」

 

「そう言ってる凰さん、一番落ち着きなかった」

 

「更識ぃ!」

 

こらこら簪、あんまり揶揄うと噛まれるぞ。

 

「おいおい……俺、そんなに信用されてなかったのかよ」

 

「ヒント:クラス対抗戦前の一夏」

 

「はい、俺が悪かったです……」

 

「クラス対抗戦って、僕やラウラが来る前のことだよね?」

 

「おう。今でこそ女心を理解してる一夏だが、以前は恐ろしいまでの朴念仁だったんだよ」

 

凰が泣くぐらいには酷かった。つくづく、人って変われるもんだな。

 

 

「見つけたぞ、織斑一夏!」

 

 

誰だよ大声出しやがって。

そう思って声の方に視線を向けると、凰よりちんまい、豪華なドレス姿のガキがこちらに近づいてきた。

 

「(あれがルクーゼンブルグ公国の第七王女)」

 

「(あれがか……すっげー生意気そうなガキだな。でも確か、束が一夏に関わらないように釘を刺したんじゃ?)」

 

「(そのはずだけど……)」

 

向こうに聞こえない音量で簪と話してる間に、奴さんは一夏の前に立った。

 

 

「織斑一夏! おぬしを我がルクーゼンブルグに招く。わらわの世話役として、一生を共にするのじゃ!」

 

 

あ、これまったく束の言葉を理解してないやつだ。




オリ主、釘を刺される。学園側からしたら、オリ主が一番、王女と揉めそうとだと思われてます。(設計図売却の件とか、劣化版コアの件とか、自由国籍の件とか)

束さん、キレる。今作では束さんがテロリストごとボコりました。なぜジブリルが無事かって? それはね……

王女様、懲りない。部屋でガタガタ震えていたのも、単純に束が怖かっただけ。言われた内容はすっ飛んでます。


次回、王女と騎士団長、ボコられる。


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第148話 死ね

ダイレクトサブタイ。


「織斑一夏! おぬしを我がルクーゼンブルグに招く。わらわの世話役として、一生を共にするのじゃ!」

 

寮の食堂で、馬鹿姫が束の忠告をガッツリ無視して言い放ちやがった。

 

「は?」

 

「「「「「はあぁぁぁぁっ!?」」」」」

 

一夏はもちろん、ハーレムの面々もこれには驚きの声を上げるしかない。

 

「何を言ってるんですか! あれだけ篠ノ之博士に忠告されたのに……!」

 

「なればこそ、一刻も早く一夏を我が公国に連れて帰らねばならぬ!公国内であれば、いかな博士といえ、そう簡単に手は出せぬからな!」

 

ダメだこの馬鹿姫、現実見えてねぇ。というか、束の恐ろしさを理解してねぇ。もしかして、周りの連中がちゃんと教えてねぇのか?

 

「異議あるものは名乗りを上げよ! さもなくば口を閉ざすがよい!」

 

「あるに決まってんでしょ!!」

 

真っ先に声を上げたのは凰だった。相当キレてるのか、手の中で割りばしが真っ二つに折れる。

 

「ふむ……ならば、わらわと対決するか? 無論、女同士の真っ向勝負。ISでの対決じゃ!」

 

「望むところよ!」

 

馬鹿姫の挑発するような提言に、凰もケンカ腰で承諾する。おいおい、一夏本人の意思は無視かよ。

 

「いけません殿下! このような者と争うなど、王族のすることではありません!」

 

なんかお付きの護衛女がゴチャゴチャ言ってるが、問題はそこじゃねぇんだが。

 

「というかよー」

 

俺が声を上げると、全員の視線がこっちを向く。

 

「ISで勝負するのはいいが、アリーナの予約はそう簡単には出来ねぇぞ。俺が知ってる限りでも、2,3日は予約が埋まってたはずだしな」

 

「何だ貴様は! 殿下の御前でそのような口の利き方を……!」

 

「よい、ジブリル」

 

「しかし殿下!」

 

 

「この学園に男が2人いるとは聞いていたがの。一夏と違い、もう1人は不愉快な鳴き声をあげる獣か。だがその程度で怒るほど、わらわも器量が小さくはないのじゃ」

 

 

――バキンッ

 

馬鹿姫の人を見下したような発言の直後、めちゃくちゃ大きな音がした。

 

「か、かんちゃ~ん……?」

 

簪? 振り向くと、先ほどのでかい音は、簪が握っていた金属製のフォークが折れた音だったらしい。……え、それ折ったのか? 片手で?

 

「面白そうですね、私もその勝負に参加していいですか?」

 

「さ、更識?」

 

「いいですよね?」

 

「ほう、面白い。では二対二の決闘といこうかの! では明日の放課後、第三アリーナで開始する!」

 

言うだけ言って、馬鹿姫と護衛女は食堂を出て行った。

 

「えっと、更識さん……?」

 

「あのお姫様はダメ、潰す」

 

「更識!?」

 

「かんちゃんスト~ップ!!」

 

「そうだぞ! いくら宮下のことを悪く言われたからって」

 

「大丈夫、決闘の最中で不自然に見えないように……」

 

「アカーン!!」

 

一夏ハーレムとのほほんに翻意を促される簪。そして蚊帳の外の俺達男2人。

 

「なぁ、陸……」

 

「何も言うな。そもそも今回の導火線はお前だ」

 

「ぐぉ……!」

 

どうして一夏の近くにいると、俺や簪が巻き込まれるんだ。本来なら凰達と馬鹿姫らが戦って終わるはずだったろうに……

え? 『アリーナ予約のこととか口にしなければよかっただろ』って? ……Oh。

 

「というか、明日のアリーナ予約は誰がするんだ?」

 

俺が言った通り、2,3日は全部のアリーナが予約済みだったはずだ。

 

「え?」

 

「あ」

 

「おい」

 

あの馬鹿姫、面倒事は全部こっちに丸投げしやがったなぁぁ!!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

突然決まった鈴・更識さん vs アリス・ジブリルさんの決闘。そして俺は寮監室に、というか、千冬姉に会いに行っていた。

 

「殿下……また面倒事を……」

 

なにせ予約が入っていたアリーナを、アリスの一存で空けさせようとしてるんだ。

 

「ごめん千冬ね(ゴンッ)お、織斑先生……」

 

「お前が謝ったところで、状況は変わらんだろう。というか、更識妹も出るのか……」

 

「織斑先生、アリーナの予約より、そっちの方が心配だったり?」

 

「当たり前だ。あいつは笑ってたんだろう?」

 

「あ、ああ……」

 

決闘に参加を表明した時の更識さんの顔を思い出して、俺はなぜか身震いしていた。

 

「その反応は正しい。下手すると、更識妹が殿下を殺しかねん」

 

「い、いやいや! まさかそんな! だって更識さんが参加した理由って、陸を馬鹿にされただけで……」

 

「更識妹からすれば十分な理由だ」

 

「そんな馬鹿な……」

 

それって、俺が箒達を馬鹿にされたからって相手を殺すってことだろ?……だめだ、理解できない。

 

「まあいい。アリーナの件は承知した。なんとかしておこう」

 

「ありがとう、千冬ね(ゴンッ)織斑先生……」

 

「まったく、毎度矯正する私の身にもなれ」

 

「出来れば、手より先に口で矯正して戴けると幸いです……」

 

俺の脳細胞も、無限再生するわけでもないから。いてぇ……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

決闘の日、あたしは更識と第3アリーナのピットにいた。

 

「今日はよろしく」

 

「ええ、あの生意気な連中をギッタンギッタンにしてやりましょ!」

 

甲龍の拳と打鉄弐式の拳がぶつかる。

それにしても……元々おしゃべりな方ではないと思ってたけど、今日は特に口数が少ないわね。

 

「えっと、相手のISは……」

 

「『セブンス・プリンセス』と『インペリアル・ナイト』。どちらも第4世代機」

 

「第4世代機!?」

 

更識が口にした相手データを聞いて、あたしは焦った。

第4世代機。つまり箒の紅椿と同じってことよね?

 

「お姫様の方は『重力爆撃(グラビトロン・クラスター)』っていう新兵器、護衛の方は『エクレール』っていう雷を操る剣と盾を装備している」

 

「面倒ね」

 

おそらく、護衛女が前衛で生意気姫が後衛ってところだろう。しかも新兵器ってやつ、名前からして重力を操る兵器なんでしょうけど……

 

「凰さん、大丈夫」

 

「更識?」

 

何が大丈夫なのよ、そう言おうとして絶句した。

 

「撃たれる前に、叩き潰せばいい」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

そしてアリーナで生意気姫達と対峙したあたし達は、試合開始のブザーが鳴ると同時に――

 

――バキャァァァァンッ!

 

「な、なにぃぃぃぃぃ!?」

 

前衛として立っていた護衛女のISが、突然目の前に現れた打鉄弐式の薙刀であっさり吹き飛ばされていた。

そしてインペリアル・ナイトは、アリーナの壁に激突。というか、完全にめり込んでいた。

 

「く、くそぉ……なぁっ!?」

 

さらに追撃と言わんばかりに、GNファング10基が群がりSEを削り取っていく。

 

『インペリアル・ナイト、SEエンプティ―』

 

「……もう、あいつ一人でいいんじゃないかしら?」

 

正直白けた。

昨日の怒りより、これから生意気姫に襲い掛かる悲劇を想像して、同情すら覚えそう……。

 

「ジ、ジブリルー!!」

 

「よそ見してていいの?」

 

「ひぃ!」

 

恐怖に引き攣った声を出しながら、生意気姫が右手を左に振ろうとするけど

 

「遅い」

 

――ガァァァンッ!

 

「きゃあっ!」

 

薙刀を叩きこまれ、セブンス・プリンセスが地面に縫い付けられる。

 

「貴女のISは重装甲。その分、あらゆる動作が遅い。前衛がいなければ怖くない」

 

「こ、この短時間でわらわの弱点を……だ、だが、この『重力制御型防壁(グラビティ・シールド)』は破れまい!」

 

生意気姫のセリフにISのセンサーを解析モードに回す。……なによこれ! 全方位型で全然死角がないじゃない! 卑怯でしょこれ!

 

「そう……」

 

「なんじゃ、諦めたかの? ならそうと――」

 

 

「よかった」

 

 

「……え?」

 

「更、識?」

 

「そう簡単に落ちたら困ると思ってた。だから、よかった」

 

おかしい。にこやかに笑ってるはずなのに、どうしてあたし、『怖い』って思ってるのよ……。

 

『凰! 聞こえるか!』

 

「へっ!? 千冬さん?」

 

突然プライベート・チャネルに入ってきた通信に、あたしは思わずさん付け呼びしてしまった。けれどそれに対する指摘もなく

 

『更識妹を止めろ!!』

 

焦った千冬さんの声が聞こえたのと、ほぼ同時だった。

 

「貴女は陸を侮辱した。だから――」

 

 

 

「死ね」

 

 

 

さっきの微笑みから一変、デスマスクの如き無表情になった更識。

その手にはいつもの薙刀でなく、大型のブレードが付いたライフルが握られていた。

 

ガガガガガガガガッ!

 

「がぼっ! や、やめっ! げはっ! もう、こっ! こうっ! ひぐっ!」

 

顔面への攻撃で降参と叫ばせてもらえない生意気姫の悲鳴と、ライフルから吐き出される大口径弾の銃声だけがアリーナ中に響いていた。

 

『凰! 更識を止めろ!! 凰!』

 

「はっ! りょ、了解!」

 

あまりの光景に動けなくなっていたあたしは、千冬さんから再三の命令で我に返って、急いで弐式を羽交い絞めにした。

 

「更識! もう勝負は着いたわ! もうやめなさい!」

 

「まだ、息の根が止まってない。陸の障害になる者に死を。死を」

 

「この、ドアホォ!」

 

――ガァァンッ!

 

「ぎゃん!」

 

完全にイッてる更識の頭を、青龍刀の柄でぶん殴った。

すると、薄気味悪い無表情をしていた更識は、正気に戻ったかのようにきょとんとした目になっていた。

 

「わ、私……」

 

「やっと正気に戻ったようね」

 

気付けば、さっきまで生意気姫をボコっていたライフルも消えていた。

あたしは羽交い絞めを止めると、地面に倒れ伏してすすり泣いている生意気姫に近づいていった。

 

「アンタの負けでいいわね?」

 

「ひっぐ……! もう、やめてたもれ……」

 

『セブンス・プリンセス、戦闘不能。勝者、凰鈴音・更識簪ペア』

 

なんだろう、勝ったのにすごーい後味悪いわー。




馬鹿姫、地雷を踏む。原作通り鈴と箒でもいいかなーと思ったんですけど、もっと狂気がほしかったので、無理やり簪の地雷を踏ませました。(暗黒笑顔

馬鹿姫、殺されかける。簪のようなキャラが、純粋憎悪を前面に押し出して『死ね』っていうの、なんかいいなーと思いました。(キチガイ


そして馬鹿姫様御一行ですが、ログナー以上に思い入れがないので次回で消えてもらいます。(ゲス


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第149話 咎

毎回サブタイトル考えるのに難儀してます。
何もなかったり内容が合っていないと、読みたい回を探すのが大変。かといって長ったらしいのもよろしくない。正直、本文考えるより大変かも。


一夏をルクーゼンブルグ公国に連れ帰る話は白紙となった。

そして簪によって心を折られた馬鹿姫は、まるで夜逃げするかのように翌週には荷物をまとめて公国へ帰っていった。

 

「すみませんでした……」

 

「かんちゃん、よくやった!」

 

「よくやったじゃない!」

 

「ま、まぁまぁ織斑先生、落ち着いて……」

 

生意気姫が帰国した日、生徒会室に俺と簪が呼び出されていた。

悄気る簪、その簪にサムズアップする束、さらにその束にキレる織斑先生、最後に織斑先生を宥める刀奈。……カオスだ。

 

「はぁ……とりあえず、更識妹は先日の決闘でやり過ぎたため、1週間の自室謹慎……のはずだったんだが」

 

そこで切ると、織斑先生が俺の方を見る。

 

「宮下も連帯責任ということで、日数を短縮してそれぞれ5日の謹慎とする。それと反省文もだな」

 

「な、なんでですか!? 陸は関係ない――!」

 

「宮下本人からの希望だ」

 

「簪を止められなかった俺の責任でもあるからな。仕方ない」

 

決闘をするって決まった時も、ガチギレの簪に言い聞かせるタイミングはあったはずなのに、そのまま放置しちまったからな。

 

「そんなぁ……ごめんなさい陸ぅ!」

 

あーあー、そんなにボロ泣きすんなよ。頭を撫ぜても泣き止みやしない。

 

「織斑先生」

 

「なんだ、更識姉」

 

「そういうことであれば、姉である私にも責任があります」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「いやいや、楯無さんまで泥被る必要はないでしょ」

 

せっかく俺が一緒に被ることで5日に謹慎期間を縮めたのに、刀奈が増えてもこれ以上日数は減らないだろ。

 

「……いいだろう。更識姉も今日から5日間、自室謹慎しろ。担任の先生には私から伝えておく」

 

「ありがとうございます」

 

「そんな、どうして……」

 

「今後、更識妹が何か問題を起こせば、宮下達も連帯責任とする。その方がお前の罰になるようだからな」

 

ああ、俺と刀奈は簪に対する人質ですか。ひでぇ扱いだが、これもまぁ仕方ない。そして刀奈、敢えてそう(人質に)なりに行ったな?

 

「それにしても、よく謹慎処分だけで奴さんが許しましたね?」

 

ルクーゼンブルグ公国だっけ? そこの馬鹿姫を心身共々ボコったわけだし、何か抗議でも来てるかと思ったんだが。

 

「むしろ非公式だが謝罪された。『篠ノ之博士から事前に忠告されていたにも関わらず、トンデモナイことをしてしまった』とな」

 

「ふ~ん。大公はちゃんとその辺理解できる頭は持ってるんだ」

 

「束」

 

「つーん」

 

束のやつ、窘める織斑先生にそっぽ向いちまった。

 

「というわけで、国としてお咎めはない。謹慎も『模擬戦中の危険行動』という学園の規則に基づくものだ」

 

危険行動……確かにあの時の簪は、下手すりゃそのまま馬鹿姫を殺しかねなかったからなぁ。

 

「いいか更識妹。いくらアラスカ条約でスポーツ競技を謳ったところで、ISに兵器という側面があるのは事実だ。今一度、そのことに……いや、それが分かってて"あれ"なのだろう」

 

「えっと……その……」

 

「簪ちゃん……」

 

「まったく……更識妹だけ自室に戻れ。ああ、束ももういいぞ」

 

「あ、そうなの? それじゃあアンテナの視察に戻るよー」

 

「え?」

 

「ほら行け」

 

「は、はい」

 

織斑先生にひと睨みされた簪が、何度もこっちを見ながら部屋から出て行った。

束も一緒に出て行き、生徒会室には俺と刀奈、そして織斑先生の3人だけが残った。

 

「単刀直入に聞く。心当たりは?」

 

「ありますね」

 

かなり端折ってるが、簪が暴走した件についてだろう。ぶっちゃけ直近で心当たりがある。

 

「俺や楯無さんは簪のために死ぬ覚悟も殺す覚悟もあります。年末にそれに近いことを簪に話したので、おそらく……」

 

「ああ、そういう……」

 

刀奈も腑に落ちたのか、俺の隣に座って天を仰いだ。

 

「つまり、宮下や更識姉と同じように、自分も殺す覚悟を持とうとしたと?」

 

「おそらく。途中から無意識だったでしょうけど」

 

「簪ちゃん、そういうところは思い込んじゃうから……」

 

知ってる。なにせ姉への対抗心から、一人でISを作ろうとしたぐらいだからな。

 

「なんということだ……申し訳ないが、そういった情緒関係は私では力不足だ。だからお前達二人で何とかしてほしい」

 

「はい」

 

「分かってます」

 

「よし、お前達も自室に戻って謹慎を……ちなみに、部屋に食料を置いてたりしてるか?」

 

「え? 私は……」

 

「俺と簪の部屋には1週間分ぐらいは。……もしかして、謹慎中は食堂も使用不可ですか?」

 

俺が尋ねると、刀奈の顔が青くなった。ああ、部屋に何もないのか。そうなると、ルームメイトに食料調達を頼まないとダメってことになるな。

 

「なら、更識姉は謹慎中、宮下達の部屋で過ごせ」

 

「「はい?」」

 

織斑先生、今何と言いました?

 

「どうせいつも通りなのだろう? 更識姉は宮下に5日間養ってもらえ」

 

「い、いいい、いつも通りって!?」

 

「なんだ、お前がかなりの頻度で宮下達の部屋に泊まっているのを、知らないとでも?」

 

「あ、ああ……」

 

何を今更、と副音声が付いてそうな織斑先生の指摘に、刀奈は顔を真っ赤にして固まった。

 

「気付いてたんですか」

 

「当たり前だ。これでも私は寮監だぞ。そういうわけで宮下、更識姉妹を餓死しないようにしてやれ」

 

「なんか俺が5日3食作るみたいな言い草ですが……分かりました」

 

 

 

こうして、俺達の5日間謹慎生活が始まるのだった。

 

ーーーーーーーーー

 

俺達3人が寮の部屋に戻って3時間が経過した。それから俺達が始めたこと、それは――

 

「「「いただきます」」」

 

飯を食うことだった。

 

「あ、あの、陸?」

 

「ん?」

 

「ごくごく普通にご飯食べてるけど……」

 

「別にいいだろ。ちゃんと部屋から出ずに謹慎してるんだから」

 

「そうよ簪ちゃん。あ、陸君、お醬油取って」

 

戸惑う簪を後目に、俺と刀奈はごくごく自然体でアジの干物を食っている。

冷蔵庫の中には2人で1週間分の食材。3人だと5日はギリギリだが、災害用非常食っていう最終手段もあるから、特に食材を切り詰めたりはしていない。

 

「それに織斑先生から言われた反省文、書き終わっちゃったんだもの」

 

刀奈の言う通り、謹慎と一緒に出された反省文も、部屋に戻って2,3時間ほどで指定分が書き終わっちまったのだ。

大体こういうのって、定型文が決まってるからな。あとは適当な単語を加えていけば、それっぽいものになる。

 

「それより俺としては、馬鹿姫をボコった時に使った武装について知りたい」

 

「そうね。あれって、4月に私と戦った時のものでしょ?」

 

そう、あの大型ライフル。確かベルゼルガーとか言ったか。

 

「それは……ううん。陸、お姉ちゃん。私、二人に黙ってたことがある」

 

俺らの質問に俯いて悩んでいた簪だったが、顔を上げると『黙っていたこと』について語り始めた。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「そんなことが……」

 

簪の話を聞き終わった時、刀奈が目を見開いてそう呟いていた。

 

打鉄弐式を作り始めた前後から、謎の声が聞こえてきたこと。

その声の主が、弐式のコア人格だったこと。

そのコア人格の力を借りた時に、あの深紅の弐式が姿を現したこと。

 

「それにしても、ソフィアーより先に簪がコア人格と接触してたとはな……」

 

「変な人と思われたくなくて、言えなかった」

 

「それは仕方ないわ。運動会でソフィアーちゃんを見るまで、誰も存在を信じてなかったでしょうから」

 

今まで黙ってた罪悪感からしょんぼりする簪の頭を、刀奈が撫ぜる。

 

「つまりあの時、そのコア人格がベルゼルガーを貸したのか」

 

「ううん、それは違う」

 

「違うのか?」

 

「ランディさん……コア人格は、我を忘れてた私を止めようとしていたの。けど……」

 

「けど?」

 

「そこからさらに声が聞こえたの。『いいじゃん、やっちゃいなよ』って」

 

簪を止めようとするコア人格と、さらに戦わせようとする声。つまり……

 

「それって……」

 

「もう一つのコア人格、だろうな」

 

簪の打鉄弐式には、2つのISコアが搭載されている。

最初に付いていたコアが、ランディと名乗ったコア人格なんだろう。そしてあとから追加したコア、こいつにも人格が形成されて……。

 

「そいつに踊らされて、簪は馬鹿姫をボコったと」

 

「面目ない……」

 

「こら、陸君!」

 

「いや、別にイジメたわけじゃないから」

 

とはいえ、箸をくわえて再度しょんぼりする簪という図は、あまりよろしくない。

 

「そんじゃ、飯食い終わったらその問題を解決するか」

 

「解決? どうするの?」

 

「決まってんだろ」

 

「弐式のISコアにダイブして、コア人格に直接お説教だ」




簪、アウト~。あまりにもボコられた経緯が残念過ぎるので、公国から抗議は出せません。
そしてオリ主とたっちゃんを連帯責任にすることで、簪にダメージを入れる作戦に。

謹慎1日目。さっそく反省文も終わって、あとはアニメ鑑賞会(全話見るまで寝れまテン)で埋めようかなと思いましたが、ここらで簪側のコア人格ネタを出そうと切り替えました。


次回、コア人格説教編


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第150話 教育的指導

そして終盤微エロ注意。


部屋で飯を食った俺達は片付けを終えると、さっそくISコアダイブ用の改造ゴーグルを引っ張り出した。

 

「見た目は、各クラスに配布されたゴーグルと変わらないわね」

 

「うん。ISコアに接続するためのケーブルが増えたぐらい」

 

初めて見る刀奈に対して、今回が2回目の簪があれこれ説明している。

 

「そんじゃ簪、弐式を接続してくれ」

 

「分かった」

 

右手に嵌っていた指輪(待機状態の打鉄弐式)にケーブルを接続して、そのケーブルを各人のゴーグルに繋げる。

 

「これでよし、と。そんじゃ、寝るか」

 

「ね、寝る? あっ、ダイブ中は感覚がなくなるのね」

 

「おう。さすがに床に転がりたくはないだろ?」

 

「それはそうよ。それじゃさっそく」

 

刀奈がベッドに倒れ込むのに続いて、簪と俺もベッドの上で仰向けになった。

 

「あとは右のこめかみ部分にあるスイッチを押せばいいのね?」

 

「うん。いつものゴーグルと同じ」

 

「さてはて、ソフィアー以外のコア人格、どんな奴なのやら」

 

若干の不安と、それ以上の好奇心を持って、俺達は弐式のコアへダイブした。

 

ーーーーーーーーー

 

何もない、真っ暗な世界。目が覚めると私達は、そんな世界に立っていた。

 

「ここが、打鉄弐式の世界……」

 

「何もないわね……」

 

お姉ちゃんと陸は、この何もない世界を見回していた。特に陸はソフィアーの世界を知ってるから、こんな何もない世界だと思ってなかったんだろう。

 

「本当に、弐式のコア人格が?」

 

「うん。ランディさん!」

 

「おう」

 

私が叫ぶと、この真っ暗な世界にポツンとソファが現れた。

そのソファに寝そべってグラスを傾けている人が――

 

「まさか……」

 

「貴方が、打鉄弐式の……?」

 

「そちらのお二人さんは初めましてだな」

 

二人の驚き顔を見てニヤリと笑うと、ランディさんはグラスをソファと一緒に現れたテーブルに置いて

 

「俺はランディ。打鉄弐式のコア人格ってやつだ」

 

いつもの飄々とした表情で自己紹介した。

 

「そして嬢ちゃん……」

 

 

「この前はホントすまなかった!」

 

 

なぜか私、手を合わせて謝られたんだけど……。

 

「えっと……」

 

「この前というと、簪と凰が馬鹿姫達と決闘してた時か」

 

「ああ。本当は嬢ちゃんを止めようと思ってたんだが……」

 

 

「え~? ランディ兄が止める必要なかったでしょ~?」

 

 

「え?」

 

ここにいる4人以外の声が、どこからか聞こえてきた。

 

「だ、誰?」

 

「こいつは……」

 

ランディさんが何か言おうとした瞬間

 

 

「きゃあああ!」

 

 

「お、お姉ちゃん!?」

 

お姉ちゃんの悲鳴が聞こえて振り向くと

 

「お姉さん、思ったより大きいね~」

 

「ちょっ、やめてぇ!」

 

「……え?」

 

お姉ちゃんが、ランディさんと同じ赤髪をした女の子に……胸を揉まれていた。

 

「シャーリィ! てめぇはまた!」

 

「いや~、堪能させてもらった(ガシッ! ギュッ!)ぎゃあああああああ!」

 

満面の笑顔だった女の子――シャーリィ(たぶん私と同じか年下)が、陸のアームロックをキメられて悲鳴を上げた。

 

「他人の女に手ぇ出したんだ。もちろん覚悟は出来てんだよな?」

 

「お、お兄さん待って! このアームロック抜けない! というか痛覚だけ的確に与えるとかどんな技なのこれ!?」

 

シャーリィちゃんが藻掻くけど、陸のアームロックが外れることはない。

そして陸が、チラッとランディさんの方を見た。

 

「……遠慮はいらねぇ。思いっきりやってくれ」

 

 

「ランディ兄の薄情ものぉぉぉぉいったぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

「うう……陸君以外に揉まれたぁ……」

 

「大丈夫、同性はノーカンだから。それに今、陸が仇を討ってるから」

 

「そ、そうね……」

 

「ランディさん」

 

「な、なんだ?」

 

 

「私もお仕置きに参加しますね」

 

 

「へ?」

 

きょとんとした顔をするランディさんとお姉ちゃんを他所に、私はシャーリィに近づいて

 

――ゴリッ

 

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!!」

 

 

ちょっと首筋を押したら、特大の悲鳴を上げてくれた。

 

「簪、一体何した?」

 

「痛覚神経を直接刺激した」

 

「……簪。もしも将来俺とケンカになっても、それは使わないでほしい……」

 

そんな真顔で言われても……。

 

「ところでランディさん。さっき話かけてたことですけど」

 

「お、おう……」

 

「決闘の時、『やっちゃいなよ』って私に言ったのは?」

 

「ああ、そこにいるシャーリィだ」

 

「ベルゼルガーを私に渡したのも?」

 

「ああ、そこにいる、シャーリィだ」

 

判決、有罪。

 

――グシュッ

 

 

「あ、あぁあぁぁあ、あああああぁぁぁぁあああああぁぁぁああああぁあぁぁぁああああああ!!」

 

 

陸やお姉ちゃんを巻き込んじゃった責任、貴女にも取ってもらうから。

 

ーーーーーーーーー

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

赤毛の女の子――確かシャーリィちゃんだったかしら――が、地面に正座して謝罪を呟くだけの置物と化していた。

でも罪悪感は感じない。陸君以外に胸を揉まれた恨みもあるし、それにこの子から……なぜか『獣』を感じたから。

 

「アンタが嬢ちゃん達のカレシだな。よろしく」

 

「ああ。そっちこそ、あのエロガキの手綱を頼むぞ」

 

「いやぁ、ウチの従妹が申し訳ない」

 

なんかあっちでは、男同士で話が進んでるみたいだし。

 

「ってちょっと待って。今従妹って」

 

ISに家族関係なんかあるの!?

 

「ああ、それについても説明するか」

 

 

 

ランディさん曰く、自分達は別世界の住人で、ある日突然この世界のISコアになっていた――正確には、元のコア人格と"混じりあった"――らしい。

そしてさっきのシャーリィちゃんとは、元の世界で従兄妹の関係なんだとか。そして、

 

「猟兵。高位の傭兵、ね」

 

「ああ。俺は『元』が付くが、あいつは現役の猟兵だった。人殺しに躊躇がない上、戦闘狂のところがあることから『血染めの(ブラッディ)シャーリィ』なんて呼ばれてもいた」

 

「血染めのシャーリィ……」

 

それ、傭兵の名を借りた殺人鬼じゃない。そんなのが簪ちゃんのISコア人格になってるなんて……!

 

「あんまり危なそうなら、追加で付けたコアを外すことも考えてたんだが……」

 

困り顔の陸君が、シャーリィちゃんの方を見る。

 

「私、これ以上陸やお姉ちゃんに迷惑かけたくないの。分かってくれる?」

 

「もちろん分かってぇぇぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!」

 

「適当に返事しない」

 

簪ちゃんが追加でシャーリィちゃんを詰めていた。

 

「あの人喰い虎を子猫になるまで躾けるたぁ、さすがお嬢と言うべきか……」

 

「あれなら、このままデュアルコアにしても問題なさそうだな」

 

「おう。次からはきっちりあいつを抑え込むから安心してくれ」

 

「ホント、頼むぞ」

 

というか、お嬢って簪ちゃんのことかしら……?

 

「ねぇ、聞いていいかしら?」

 

「な、何……?」

 

簪ちゃんの攻撃(更識家で教えられる拷問術)を受けてダウンしていたシャーリィちゃんが、死んだ目でこっちを見上げてきた。

 

「貴女はいつ、コア人格として目覚めたの?」

 

少し気になっていたことを聞いてみた。

 

ランディさんは、打鉄弐式が作られる前後にこの世界に来たと言っていた。じゃあ、シャーリィちゃんが来たのはいつのタイミングなんだろう?

 

「いつだったかな~……あ、そうだそうだ」

 

 

「シャーリィがこの世界に来たのは、そこの眼鏡っ子が決闘をするって決めた時。その子の『殺意』に呼ばれてきたんだよ」

 

 

その時のシャーリィちゃんの顔は、正しく"人喰い虎"と呼べるものだった。

 

ーーーーーーーーー

 

ISコアから戻ってくると、

 

「陸君以外に揉まれた。上書き希望。あとちょっと気分になっちゃった

 

刀奈がトンデモなことを言ってきたんだが。

 

「どゆこと?」

 

「陸、上書きは早い方がいい」

 

「簪さん?」

 

姉妹揃って何言ってんの?

 

「はよ、はよはよ」

 

「なんか簪みたいなこと言い出してるんだが!?」

 

「だって簪ちゃんと姉妹だもの。さぁ揉んで!」

 

刀奈が問答無用で俺の手を引き寄せて、自分の胸に当てた。

……俺、もう(理性)ゴールしてもいいよな?

 

「刀奈」

 

「り、陸君? ひゃんっ!」

 

もう片方の腕で刀奈を抱き寄せる。さっきの時点でほんのり赤かった刀奈の顔が、抱き寄せた途端真っ赤だ。

 

「お前から手ぇ出させたんだ。責任、取ってもらうぞ」

 

「せ、責任ってんんっ❤」

 

「り、陸!?」

 

「んんっ!?❤ ……ん、ちゅぅ……❤」

 

「は、はわわ……!」

 

普段俺がしないような舌をねじ込むキスに、刀奈は目をトロンとさせて俺にされるがまま。

そして簪、手で隠してるつもりで指の隙間からガン見するんかい。

 

「ぷはっ」

 

刀奈の口内をたっぷり蹂躙して口を離すと、つーっと唾液の糸が引いてすげーエロい。

 

「り、陸君……❤」

 

「刀奈、本番はこれからだぞ」

 

「うん……ちょうだい❤」

 

刀奈の方も、いい感じに理性が飛んだようだ。もう『いつもの冗談』は通じない。

 

「陸、わ、私も」

 

「……言っとくが、正直今の俺は優しく出来ないかもしれないぞ?」

 

最後の理性で、一応の警告はした。

 

「いいよ。だから――」

 

 

「「私達のこと、いっぱい愛して❤」」

 

 

残っていたチャチな理性が、そのセリフで全て吹っ飛んだ。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

翌朝、ベッドの上には、体中にキスマークが付いた簪と刀奈、そして体中に甘噛みの跡が付いた俺がいた。

 

(俺達、謹慎処分を受けてたはずなんだよなぁ……)

 

一晩経って復活した理性と良心に、俺はちくちく責め立てられたのだった。

 

「陸(君)に可愛がってもらったからヨシッ!」

 

「おいっ!」




新しいコア人格はエロガキ。そして簪の教育的指導。
ちなみにこのコア人格二人は、『英雄伝説 閃の軌跡Ⅲ』から引っ張ってます。(今更

更識姉妹、オリ主に食べられる。大丈夫、まだR18になるような描写はないはず……!


しばらく謹慎生活が続きます。


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第151話 差し入れと縁切り

最近短めな回が多かったので、今回は少し長めで。


生意気姫が国に帰った翌日、あたし達は初めて宮下達が自室謹慎になったことを知った。

 

「千冬姉「織斑先生だ(ブォンッ)」そんなのどうでもいいから! どうして陸達が謹慎処分なんだよ!」

 

「い、一夏、織斑先生の出席簿を……」

 

「躱した、だと……!?」

 

あの亜音速出席簿アタックを、スレスレとはいえ躱したのよ、あの一夏が!

とはいえ……

 

「まったく……回避が上手くなったのはいいが、少しは周りを気にしろ」

 

「周りって……あっ」

 

そこで一夏は初めて気づいたっぽい。

ここが第2アリーナで、他にも訓練機に乗った子達がいるってことを。

 

「す、すみません……」

 

「分かればいい。そして宮下達だったな。単純に『模擬戦中の危険行為』に対するペナルティだ」

 

「危険行為って……でもそれって、更識さんがアリス相手にやり過ぎたってだけだろ? ならどうして陸どころか楯無さんまで……」

 

「保護者の監督不行届ということで、本人達が望んだ。実際、その方が更識妹に対して罰の効果があったようだしな」

 

ああ、分かるわ。二人が連帯責任になった時、更識がどんな顔をしてたか。

 

「あの、織斑先生」

 

「なんだ凰」

 

「3人が自室謹慎なのは分かったんですけど、差し入れとかしたら……ダメですか?」

 

「差し入れだと?」

 

「はい。正直その話を聞いて、私も責任を感じたので……」

 

あの時、千冬さんの命令ですぐに更識を止めていれば、もしかしたらと思っちゃったから……。

 

「そんな、まさか鈴も自室謹慎するとか言うわけじゃ……!」

 

「言わないわよ。ただ、その詫びとして差し入れぐらいと思って」

 

「……いいだろう。ただし、私も同伴するぞ」

 

「分かりました」

 

まぁ、謹慎中の3人に会わせろって無茶言ってんだから、千冬さんの監視付きとはいえOKが出ただけ御の字ね。

 

「な、なら俺も……!」

 

「そうですわ、わたくし達も……」

 

「凰一人だから特別に許したのであって、何人もゾロゾロと面会させられるか!」

 

「「「「「うっ!」」」」」

 

千冬さんの一喝で、一夏を含め皆黙り込んだ。やっぱり怖いわぁ……

 

「それと凰」

 

「はい(バシンッ)ぎゃっ!」

 

「"千冬さん"ではなく、織斑先生と呼べ」

 

「あ、あい……」

 

どうして心の声まで読まれてるのよおかしいでしょ!

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

それから購買で差し入れ(部屋から出られないらしいから、日持ちのする食べ物)を買って、千ふ(ギロッ)織斑先生と二人で宮下達の部屋の前までやって来た」

 

――コンコン

 

「はいよぉ」

 

声の後にドアが開くと、部屋の中なのに制服を着た宮下が出てきた。

 

「珍しい組み合わせだな」

 

「まぁ、そうだろうな」

 

「というかアンタ、部屋でも制服なの?」

 

上下ともにIS学園の白い制服姿で、まるで下校してきたばかりじゃない。

 

「いや、一応俺達謹慎中だからよ、もし寝間着姿で過ごしてて、抜き打ちで織斑先生がやって来た日には……」

 

「うむ、泣いたり笑ったり出来なくしてやったな」

 

「うわぁ……」

 

織斑先生、そんな満面の笑みを浮かべられても……

 

「それで、今回来たのは抜き打ち検査ですか?」

 

「いや、凰がお前達に差し入れをしたいと言い出してな」

 

「差し入れ?」

 

きょとんとした宮下の目が、織斑先生からあたしに向く。

 

「あたしが更識を止め遅れたのが、アンタ達の謹慎の一因でもあるから。その詫びとしてね」

 

「別に気にしてねぇのに。まぁいいや、有難くいただくよ」

 

「はいこれ。それで、更識達は?」

 

さっきから、まったく出て来ないけど。

 

「ああ、簪達なら……」

 

そう言って、宮下があたし達を部屋の奥に連れていく。すると……

 

「ゴーグル?」

 

更識と会長の姉妹が、あのVRゴーグルを付けてベッドの上で横になっていた。

 

「なるほど、仮想世界で訓練中というわけか」

 

「なんでここに……って、そういえばこのゴーグルの作者、アンタだったわね」

 

「おう。各クラスへの配布分の残りを使ってな。今回みたいなことがあるから、ローテで一人留守番役が残ってて、今が俺の番ってわけだ」

 

理解はしたけど、これは……

 

「これはうかうかしてられないな、凰」

 

「う、うかうかなんて!」

 

マズいわ……! まさか謹慎中、あたし達が授業を受けてる間も、こんな訓練をしてたなんて!

 

「こうしちゃいられないわ! それじゃ宮下、残りの謹慎期間も頑張りなさいよ!」

 

「お、おう」

 

相手の返事を聞く前に、あたしは急いでアリーナに戻るために走り出した――

 

「廊下を走るな!」

 

――ゴンッ!

 

「あだっ!」

 

織斑先生の投げた出席簿が、あたしの頭を直撃した……痛い……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ん……」

 

目が覚めてゴーグルを外すと、ジュージューという音とお肉が焼ける匂いがしてきた。

 

「陸、今日の晩御飯はぁ……?」

 

「チンジャオロースにしてみた」

 

「やったぁ……」

 

音と匂いだけでもすごい幸せ。そして寝ぼけてた頭も動き出してきた。

陸の作るケーキも美味しかったけど、ごはんも美味しい。乙女のプライド? なにそれおいしいの?

 

「んぁぁ……」

 

「お姉ちゃんも目が覚めた?」

 

「ええ。今回もハードな訓練だったわね……」

 

「うん。ハードだった」

 

お姉ちゃんってば、せっかく幸せだったのに……。

 

陸が『昔同僚(前作オリ主)から聞いた外史の兵器を再現してみた』とか言って、仮想世界でその兵器と戦ったんだけど……。

 

「まずあの巨体があり得ないわ! 一体全長何百mあるのよあの傘のバケモノみたいなの! そして近づく前にミサイルとレーザーの雨! しかも近づいたら近づいたで、ハリネズミのような機関砲の嵐! さらに時々バリアみたいなのが広がって、それに触れたらSEがゴリゴリ削れるし! 完全に『IS絶対落とすマシン』じゃない!」

 

「落ち着いて」

 

興奮するお姉ちゃんを宥める。でも、お姉ちゃんの言うように、あれはない。

いつぞや(第69話)幻視した光景が、まさか仮想世界で目の当たりにするなんて……。

 

「飯が出来たぞー。で、どうだった?」

 

「陸君、あれはないわぁ……」

 

「ミサイルの雨に蹂躙されること3回、あのバリアもどきに落とされること5回」

 

たぶんお姉ちゃんは、私以上に落とされてるはず。

 

「まぁ、そうなるな」

 

「そうなるな、じゃないわよぉ!」

 

頬を膨らませるお姉ちゃん。可愛い。

 

「簪ちゃんからも何か言ってよぉ!」

 

「陸、もっと難易度マイルドなのプリーズ」

 

少なくとも、あれはこの世界の人類には早過ぎる。色んな意味で。

 

「まあその辺は、飯食ってからにしようぜ」

 

「うん」

 

「ぶーぶー」

 

「刀奈は食わんのか?」

 

「食べる」

 

お姉ちゃん、チョロい。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「は~、お腹いっぱい~ごちそうさま~」

 

晩御飯を食べ終わったお姉ちゃんは、すごく幸せそうな顔で手を合わせた。さっきまでの不満顔はどこに行ったのか。

 

「ごちそうさま。それじゃあ片付けは――」

 

 

「へーいお邪魔するよー!」

 

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「もう恒例過ぎて逆に気持ちぃぃぃぃ!」

 

 

「し、篠ノ之博士……」

 

いつもの如く窓から飛び込んできて、陸の対空アームロックを受ける博士が危ない道に。

 

「それで、今日は何用だ?」

 

「そうそう、りったんにこれを見て欲しかったんだよ~」

 

陸がアームロックを外すと、博士は拡張領域から紙を取り出した。……紙?

 

「束が紙媒体とは珍しいな」

 

「なにせ急いで書き殴ったからねぇ。というわけで、感想ちょーだい」

 

「まぁいいや。どれどれ……」

 

陸が渡された紙を見ている間、私達はどうしよう? そう考えていたら

 

「チェシャ猫ちゃん、ISコアって何で出来てるか知ってる?」

 

「え?」

 

「実はね、ルクーゼンブルグの地下にある時結晶ってやつで出来てるんだよ」

 

「博士ぇ!?」

 

突然のカミングアウト!? それって世界で数人しか知らないはずの情報ですよね!?

 

「そ、そうなんですか? 初めて知った……」

 

「なにせちーちゃん含め、世界で数人しか知らない国家機密だからねー」

 

「ちょっとぉぉぉ!?」

 

うん、お姉ちゃんのその反応は正しい。正しいはず、だよね?

 

 

「おいおいおいおいっ! マジかよ!?」

 

 

ずっと黙って紙の中身を見ていた陸が、突然大声を上げた。

たぶん、今までで一番陸が興奮した声だと思う。

 

「り、陸君?」

 

「すごいでしょー?」

 

「えっと、何が書いてあったの?」

 

私が聞くと、陸は紙を私達の方に向けた。

これって……何かの設計図?

 

 

「時結晶を使わないISコア、しかも俺の劣化版と違って、正規品との性能比が97%以上だってよ!!」

 

 

「「ファー!?」」

 

 

時結晶を使わない!? しかも性能比97%って、ほぼ正規品と同じだよ!

 

「実はりったんのパチモンの設計図を見た時、束さんも作ってみたいなぁと思ってたんだよね」

 

「はぁ」

 

「で、この前の"あれ"があったでしょ?」

 

あれ……もしかして、あのお姫様の件? 織斑君を公国に連れ帰ろうとしたっていう。

 

「時結晶の件で、あの国とは個人的に付き合いがあったんだけど、あの件でそろそろ縁を切ろうかなーって」

 

「えぇ? でも博士、あの国からは特に抗議とかなかった上に、非公式とはいえ謝罪もあったのに」

 

「うん。チェシャ猫ちゃんの言う通り、それだけなら束さんも水に流そうと思ってたんだけどねぇ……」

 

そう言うと、博士はエプロンドレスのポケットからボイスレコーダーを取り出して再生ボタンを押した。

 

『殿下、もう織斑一夏のことは諦めた方が……』

 

『ジブリルよ、心配はいらぬ。どうやら篠ノ之博士は、我が国で産出される時結晶とやらを欲しておるようじゃ。それを交渉材料に、今度こそ織斑一夏を我が公国に連れ帰るのじゃ!』

 

「「「ええ~……」」」

 

これには私達3人ともドン引きだった。

あのお姫様、ホントどうしようもなかったんだ……。

 

「というわけで、近いうちにこのことを公表して、正式に縁を切るつもりだから。あ、りったん、その設計図いる?」

 

「いや、もう頭の中に入れたから返す」

 

えぇ、もう覚えたの?……法律系の知識もそれぐらいすぐ覚えられたら、去年の期末テストも慌てずに済んだのに。

 

「それじゃ、りったんの感想も聞けたし、束さんはクールに去るぜ!」

 

「ええっ!? ま、窓から!?」

 

いつも通りの帰り方をする博士を見て、お姉ちゃんが慌てる。そうか、お姉ちゃん、博士が帰るところ見るの初めてだもんね。

 

「か、簪ちゃん。もしかして、これっていつもなの?」

 

「うん、いつも」

 

「そ、そうなのね……」

 

お姉ちゃん、博士はもう"そういう存在"って思ってないと大変だよ?




一夏達、オリ主達の謹慎を知る。鈴が一番決闘の件に関わってるので、そのまま行ってもらいました。

簪、乙女のプライドより美味しいごはん。ちなみに、一夏ほどの味ではないです。

訓、練? 元ネタは言わずもがな。

束、報復準備。あの大天災なら、これぐらいしてくれるでしょう。そして馬鹿姫様の馬鹿は治らない。


次回、『篠ノ之束の憤慨 姫崩壊★一直線!』


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第152話 篠ノ之束の憤慨 姫崩壊★一直線!

サブタイの元ネタは涼宮ハルヒ。


昨日、陸達の部屋へ差し入れを持って行った鈴が、慌ててアリーナに戻ってきた時はびっくりした。

 

『あ、あいつら、VRゴーグルで訓練しまくってたわ!』

 

『『『『『な、なんだってー!?』』』』』

 

謹慎中、模擬戦とかできなくて大変だろうなと思っていたら、まさかの訓練し放題だったとは……。

 

「とはいえ、部屋から一歩も外に出られないって、あたしなら耐えられないわね」

 

「鈴の場合、一カ所に留まってられない性格だろうからな」

 

「マグロ、ですわね」

 

「誰がマグロよ!」

 

箒達がワイワイ騒ぎながら、俺達はいつも通り寮の食堂で朝食を食べていた。

昨日は鈴が差し入れ持って行ったから、次は俺が行くかなぁ……。

なんて、ボーッと考えながら食堂に設置してあるテレビを見ていたら――

 

 

 

『やっほー凡人共ー! 篠ノ之束さんだよー!』

 

 

 

「「「「ぶっ!」」」」

 

俺を含め、テレビを見ていた全員が吹きだした。

 

「た、たたた、束さん!?」

 

「姉さん!? 一体何をしてるんだ!」

 

俺と箒が筆頭で驚く中、画面の向こうの束さんは

 

『今日はお前達に束さん、お知らせしたいことがありまーす!』

 

「な、何をするつもりなのでしょう……?」

 

「聞くのが怖いな……」

 

『お前達が作れない作れないって言ってるISコア、実は時結晶っていうのを元に出来てるんだけど』

 

時結晶? そんなの初めて知った。

 

「シャルロット、そんなの聞いたことある?」

 

「ないよ。学園の教科書はおろか、僕の知ってる限りどの学会論文にも。ラウラは?」

 

「私もない」

 

『ちなみに、コアに時結晶が使われてるのは、時結晶がルクーゼンブルグ公国でしか採れないことも含めて世界でも数人しか知らないことだよ。あ、"知らなかった"が正しいか。今束さんが言っちゃったし』

 

「「「「ちょっとぉぉ!?」」」」

 

何サラっと世界の秘密暴露してるんですか!?

 

『その関係もあって、束さんは公国と個人的に取引とかしてたんだけど、今日この時を以て、公国とは縁を切りまーす!』

 

「縁を切るって、そんなことをわざわざ言うために?」

 

「いやいや一夏! 博士から縁切りを宣告されるって、IS業界から放逐されるようなものだよ!?」

 

シャルの慌てようからして、なんかトンデモないことらしい。

 

『これ見てる中には「どうしてそんなことを」とか言ってる奴がいると思うけど、今回束さん、すっごい頭に来てるんだよ』

 

すると、画面が束さんから別のものに切り替わる。ここどこだ? なんかお城の一室みたいな……って!

 

『殿下、もう織斑一夏のことは諦めた方が……』

 

『ジブリルよ、心配はいらぬ。どうやら篠ノ之博士は、我が国で産出される時結晶とやらを欲しておるようじゃ。それを交渉材料に、今度こそ織斑一夏を我が公国に連れ帰るのじゃ!』

 

「生意気姫と護衛の女じゃない! なにこれ、あいつらの盗撮映像!?」

 

「というか、姉さんの忠告を無視した挙句、あれだけ更識にボコられたのに、まだ一夏を諦めてなかったのか……」

 

箒が呆れた声を上げると、他の面々も頭を抱えたり手で目を覆っていたりし始めた。かくいう俺も、頭を抱えていた。

そして盗撮映像が終わったのか、画面が束さんに戻る。

 

『束さんの旦那様に手を出すクソアマがいる国とは、これ以上の取引は出来ませーん!』

 

でもそうなると、時結晶とやらが手に入らなくなるのでは?

 

『当初は時結晶のことが懸念点だったけど、それも解決されました! 理由はこれ!』

 

そう言って束さんがエプロンドレスのポケットから取り出したのは、握り拳大の球体……ってあれ、俺見たことあるような……?

 

 

『なんと束さん、時結晶を使わないISコアの開発に成功しちゃいました~! パチパチ拍手~!』

 

 

「「「「……」」」」

 

もはや驚き過ぎて感覚がマヒしたのか、誰も声を上げずに固まってしまっていた。

 

『りったんのパチモンとは違って、こっちは性能比97%もあるからね。代替品使ったにしては上出来じゃないかな? やっぱり束さんてんさーい!』

 

画面の向こうで自画自賛し始める束さん。ああ、千冬姉の胃が悲鳴を上げる光景が目に浮かぶ……。

 

『発表は以上だよ~! それじゃあみんな、よい一日を~♪』

 

誰にとっても大混乱な一日にした束さんが画面から消えると、次の瞬間にはさっきまで流れていたバラエティ番組が映っていた。

 

「箒さん、貴女のお姉様は……」

 

「やめてくれセシリア、頼むから一緒にしないでくれ」

 

セシリアの視線に対して、箒はものすごい渋い顔をして首を横に振った。

束さん、やり過ぎだって……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

この日、世界に激震が走った。

ISコアが時結晶で出来ているというのも、ほとんどの国では初耳だったのだ。いや、産出国である公国を除けばほぼ皆無だった。それがあっさりバラされたのだ。

そして何より、あの大天災・篠ノ之束を完全に敵に回したとして、ルクーゼンブルグ公国は国際社会から大顰蹙を買うことに。

IS関連を含めた株価は大荒れ、欧州連合(EU)加盟国でもある公国は一連の騒動を起こした責任を問われ、これまで束との繋がりで保っていた連合内での発言力を失うこととなった。

国内でも、騒動の引き金となった第七王女、アイリス・トワイライト・ルクーゼンブルグへの非難の声が高まり、公室は声明を発表。アイリス王女を出国禁止の国内幽閉処分とした。

これにより、アイリス王女は二度と織斑一夏に会うことは出来なくなったのだった。

 

 

 

「ってことらしいわ」

 

「「へぇ」」

 

「二人とも、反応薄いわねぇ。正直私もあんまり興味なかったけど。簪ちゃん、タルタルソースちょうだい」

 

「ん」

 

昼飯の鮭フライを食べながら刀奈の話を聞いてたが、割とどーでもいい話だった。

別に馬鹿姫が国内幽閉されようと、知ったこっちゃない。

 

「どちらかと言えば、束の奴、昨日の今日でもう発表したのかよとしか」

 

「うん。ところでお姉ちゃん、IS関連の株価が大荒れだったって言ってたけど、ウチは大丈夫だったの?」

 

「そこは虚に確認してもらったから大丈夫よ。更識家で保有してる株の中で、大きく株価が下がったものはないって」

 

「それはよかった。もし大損害が出てたら、あのお姫様を――」

 

「簪ちゃんストップ。顔が怖いことになってる」

 

「はっ!」

 

そしてどうも最近、簪が殺意の波動に目覚めそうで怖い。

 

「う~ん。簪ちゃん、感情のコントロールの修練し直す?」

 

「うっ……もしかしたら必要かも」

 

「そんな修練あんのか」

 

「ええ。相手に考えを読まれないようにする修練の中にね。私達以外にも、虚とかも習得してるものよ」

 

「へぇ……もしかして、のほほんがいつもニコニコしてるのも……」

 

「あれは素」

 

簪から即答された。素なのかよ。

 

「ごちそうさま。ところで陸君に聞きたかったことがあるんだけど」

 

「なんだ?」

 

「ソフィアーちゃんって、いつから人格形成されたのかなって」

 

「いつって……いつだ?」

 

存在を確認したのは学園祭の時、陰流のISコアにダイブした時だから、少なくともそれより前ではあるだろうが……。

 

「ちょーっと、ソフィアーちゃんに聞けないかしら」

 

「聞くぐらいはできるが……何かあったのか?」

 

「前に打鉄弐式にダイブした時、シャーリィちゃんに聞いてみたのよ。いつコア人格として目覚めたのかを」

 

「あの人喰い虎(笑)にそんなこと聞いたのか。で?」

 

「簪ちゃんが決闘をするって決めた時だ、って」

 

「なるほどねぇ」

 

そしてランディ(1つ目のコア)は、打鉄弐式が作られる前後で簪に声を掛けるようになった。何かきっかけみたいなもんがあるのか。

 

「というわけで、お願いよ♪」

 

「はい、陸」

 

簪、話に加わらないと思ったら、立体映像装置を持ってきてたのか。

 

「全く俺に選択肢ねぇだろこれ。まぁいいけど」

 

そう愚痴りながらも待機状態の陰流に装置を繋げて起動させると、秋の運動会振りとなる、ソフィアーの立体映像が映し出された。

 

「マスター、よ、呼びましたかー?」

 

「おう。刀奈がお前に聞きたいことがあるって」

 

「そ、それって、私がいつ生まれたか、ですよね?」

 

「ええ。もしかして、さっきの話聞いてた?」

 

「は、はい。基本的に、マスターの行動は、た、待機状態でも見えてます」

 

う~ん。なんかそう聞くと、プライバシーも何もあったもんじゃねぇな。

 

「だ、大丈夫です。マスター達が、その……」

 

「?」

 

 

「ま、まぐわってる(エッチしてる)時は、ログが残らないようにしてますから!」

 

 

「「……///」」

 

「……おう、ありがとな」

 

知らないままの方が良かった。マジで。

 

「えっと……私が生まれた時、でしたよね!?」

 

「おう。これ以上地雷を踏む前に教えてくれ」

 

これ以上何かあったら、刀奈や簪どころか、俺も恥ずか死ぬ。

 

「実は……私が自我を持ったのは、ず、ずいぶん前になります」

 

「ずいぶん前? それって学園祭の時よりも前ってこと?」

 

「はい。そ、それより、もーっと前です」

 

「それより……あっ」

 

「簪?」

 

「ソフィアー。もしかして、臨海学校の時?」

 

「臨海学校?」

 

「は、はい」

 

 

 

「あの日、福音と対峙した時、マスターの『失いたくない』という想いから、わ、私が生まれました」

 

 

 

「陸君が、織斑君達を庇った時に……」

 

「……」

 

あの時、ソフィアーは生まれていたのか……。でも、想いから生まれたってどういう……

 

「これは私の推測だけど――」

 

そう前置きして、簪はさらに自分の考えを話し始めた。

 

「コア人格が生まれるには、操縦者の強い想いが必要なんだと思う。私が打鉄弐式を完成させたい、お姉ちゃんに勝ちたいと想った時にランディさんがやって来たように。決闘の時、お姫様に殺意を覚えた時に、シャーリィが目覚めたように」

 

「確かにそれなら……」

 

「共通点はあるわね」

 

未だ推測とはいえ、まさかこんなルートから、ISの謎が見えてくるとはな。

今度また束に話してみるか。そう思いつつ、残っていた味噌汁をすすり切ると、食器を片付ける準備を始めるのだった。




束さんの馬鹿姫お仕置きRTA。ついでに公国も巻き込まれ、EUもとばっちりを受けてます。ドンマイ♪ 本当は公位継承権剥奪とか国外追放とかも考えましたが、あまりやり過ぎると『これキャラアンチだろ!』とか言われそうなので、この辺で止めておきました。

コア人格が生まれるきっかけ。もちろんオリ設定です。ただ原作12巻で「すべてのISは操縦者の夢を具現化するために働く」と言っているので、操縦者の願いというか、想いを聞く機能は付いてるんじゃないかなーと。


次回、シャバの空気。なんかこの3人、謹慎してた割には生活充実してね?


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学期末トーナメント
第153話 お勤め明け


ちょっと早い気もしますが、新章に入ります。
この章辺りで完結を目論んでいますが、広げた風呂敷畳むのに失敗して増える可能性も……。
なんで完結時期あれこれ書いちゃったんだ先週の自分めぇ……。

何はともあれ、引き続きお楽しみいただければと思います。


「兄貴! 姐さん! お勤めご苦労様です!」

 

「……」「……」

 

5日間の自室謹慎が終わり、久々に1年4組の教室に登校したら、クラスメイト達からこんなこと言われて頭下げられたんだが、どう反応しろと。

 

「というか、女子校のノリじゃねぇだろ」

 

「やっぱりそうだよねー」

 

先頭の生徒がケラケラ笑うと、それで解散とばかりに皆自分の席に戻って行く。

 

「とりあえず、二人とも、久しぶりー」

 

「おう。最初からそうしてくれよ」

 

「うん、あれはない」

 

「あははー。だってねぇ?」

 

「宮下君なら分かるけど、あの優等生更識さんが謹慎処分とか、ちょっとびっくりだったもんねぇ」

 

「おい待てや。俺なら分かるってなんだ」

 

まるで俺が、謹慎処分の常連みたいじゃねぇか。

 

「はーい、みんな席についてー」

 

そうやって久々にクラスメイトとやり取りしていると、エドワース先生が教室に入ってくる。

 

「更識さん、お勤めご苦労様」

 

「先生まで……」

 

「そして宮下君、連帯責任お疲れ様」

 

「いや先生、凹んだ簪そのまんまですか」

 

このクラスは生徒から教師まで、俺達をヤクザにしたいのか。

 

「それじゃあ連絡事項だけど、学年別トーナメントについてね」

 

あ、スルーですかそうですか。

 

「それって、1学期にやったやつですかー?」

 

「ええそうよ。1学期に行ったトーナメントはトラブルがあって中止になっちゃったから、学期末に再度行うことになったの」

 

しかも話を聞くに、今度のは完全な個人戦。今回好評であれば、来年から1学期と3学期でそれぞれトーナメントを行う方針にするらしい。

 

「基本は全員参加だけど、理由があって参加できない場合は、今週中に申告すること。勝手に出場しなかったら、不戦敗扱いで成績にも影響があるから注意してね」

 

「「「「はーい!」」」」

 

さてはて、出来れば序盤から強いやつに当たらないことを祈るか。特に専用機持ちと当たった場合、もう一夏相手でも負ける可能性が濃厚だからな。

あ、そうだ。あいつ荷電粒子砲取っ払ったって言ってたし、何か銃器見繕ってやるか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「久々のかき揚げうどん……!」

 

「かんちゃん、そんなに飢えてたの~?」

 

「おい馬鹿やめろ、なんか俺が簪に何も食わせてなかったみたいじゃねぇか」

 

昼休みの食堂で、簪がかき揚げうどんのドンブリを抱えて目を輝かせてるのを見て、のほほんが人聞きの悪いこと言いやがった。

 

「え? りったんがご飯作ってたの? かんちゃんじゃなく?」

 

「ずるずる~(目を背けながらうどんをすする)」

 

「かんちゃ~ん……」

 

「ちなみに、楯無さんも朝食のトースト以外は作らなかったな」

 

「ええ~……女尊男卑関係なく、それはどうなの~……?」

 

う~む。やっぱ3食中1食ぐらいはどっちかに作らせた方が良かったか。

 

 

 

 

――一方その頃、生徒会室

 

「くしゅんっ」

 

「お嬢様、謹慎明け早々風邪ですか? まだまだ未決済書類が溜まってるので、ダウンされると困るのですが」

 

「なんでよぉ! 謹慎中も虚に書類持ってきてもらって、処理してたはずでしょぉ!?」

 

5日間何もしてなかったならともかく、なんでまだこんなに溜まってるのよ!?

 

「急遽開催することになった学年別トーナメントの用意で、去年よりやることが増えましたからね」

 

「もぉぉぉぉっ!」

 

唸り声を上げながら、書類をどんどん攻略していく。それでもなかなか減らない書類の山。どうなってるのよぉ。

 

「お嬢様、気のせいか、処理速度が以前より上がってません?」

 

「そうよー。謹慎中に並列思考(マルチタスク)を覚えたからねー」

 

「え? 並列思考って、BT兵器の操作に使う、あの並列思考ですか? イギリスの代表候補生が死ぬ気で会得したという」

 

「そうそれ。私の場合はオルコットちゃんと違って、半日かけてゆっくり覚えたんだけど」

 

それでもVRゴーグルで修練した時は頭痛くなったけど。オルコットちゃんの時は、あれを1時間(1年)で覚えさせたんでしょ? 陸君ってば鬼畜だわぁ。

 

「そんなすごい技能を、書類仕事に使うんですか。すごい無駄遣い感が……」

 

「いいじゃない、減るもんじゃないし。はい終わり!」

 

「あれぇ!?」

 

ふふっ、虚ってば驚いてる驚いてる。私が全力を出せばこんなものよ!

 

「普段からこれくらい仕事をしていただければ……」

 

「うっちゃい!」

 

いつも以上に余計よもうっ!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ほんの5日間の謹慎生活だったけど、放課後のアリーナが懐かしく感じる。

さぁ、久々に打鉄弐式に乗って思い切り飛ぼう。

 

「……で、その結果がこれなのサ……?」

 

うん。悪気はなかった。ただちょっと鬱屈した気分を吹き飛ばそうとしたら、アーリィさんをボコってた。

 

「おかしいのサ……やっと改修したスピード域を乗りこなせるようになったのに、どうしてこんな簡単にボコられるのサ!?」

 

「アーリィさん、スピードを制御するために直線機動ばかりで、動きが読みやすくなってます」

 

これじゃあまるで、1学期の頃の織斑君と変わらない。ただのイノシシ。

 

「俺が今まで陸やみんなにボコられてたのは、あれが原因だったのか……」

 

ほら、織斑君が冷静に分析と反省しちゃってる。

それに比べて、偉そうな言い方だけど、織斑君はこの1年弱の間で成長している。少なくともイノシシからは卒業している。

いつだったか篠ノ之さんも

 

『一夏は忌避していた誘い――フェイントも上手く使えるようになってきている。私もうかうかしてられないな』

 

とか言ってたし。

そんな織斑君はどうしてるかと言うと

 

――ドドドドッ!

 

「ちょっと一夏、アンタなんてもの装備してるのよ!?」

 

「良いだろう? 陸に付けてもらった新装備だ!」

 

白式の左腕に装着された銃口――陸の陰流に付いてるのと同じ、KMFのハンドガン――から吐き出される50口径弾が、甲龍に襲い掛かる。

威力自体はさほどでもないけど、接近するための威嚇射撃には十分らしい。

 

「いっけぇぇぇぇ!」

 

――ズシャァッ!

 

「噓でしょ!?」

 

最後は織斑君お得意の零落白夜が決まり、凰さんのSEが持ってかれて敗北が決定した。

 

「一夏に負けた……くやしぃぃぃぃ!」

 

甲龍を待機状態にした凰さんが地団駄を踏み始めた。いくら想い人とはいえ、ISに乗って1年足らずの人に負けたら悔しいよね。分かる分かる。

 

「よっし! 俺もだいぶ強くなったって実感できるようになってきたぜ!」

 

なんて言ってた織斑君だけど、続くオルコットさんに

 

「やっぱそのレーザーが曲がるのって卑怯じゃね!?」

 

「あらあら、そちらばかりに気を取られていると、こっちが躱せませんわよ」

 

「へ?」

 

――チュドォォンッ!

 

「うぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

偏光制御射撃で追い立てられたところにミサイルを叩きこまれて、見事なヤムチャになっていた。

 

「一夏のやつ、新武装を喜んでくれるのは嬉しいが、それで油断されてもなぁ」

 

「仕方ない。今までSEを削る装備ばっかりで、やっと気にしなくていい装備が手に入ったんだから」

 

「う~ん、そうなんだが……これで俺が慢心の原因とか難癖付けられも困る」

 

「そんなこと言う人……織斑先生ぐらいしかいない」

 

「私だって言わんわ馬鹿者」

 

――スパァンッ!

 

「あいたぁ!」

 

お、織斑先生……いつの間に?

 

「どうですか、愛しの弟君の動きは」

 

「お前も叩かれたいのか?」

 

「いえ、滅相もありません、教官」

 

真顔で敬礼を返す陸に、織斑先生はため息をひとつ。むぅ、これで叩かれないのに、私が叩かれたのは解せない。

 

「それで、結局は何用で?」

 

「来月頭に行う、学年別トーナメントについてな」

 

「あれ、開催日程決まったんですか」

 

SHRでは、開催時期については何も言われてなかったけど。

 

「ああ、先ほど職員会議で決まってな。明日には掲示板にも張り出される予定だ」

 

「そうなんですか。……それを連絡するのが目的じゃないですよね? まさか、また私は参加不可とか?」

 

キャノンボール・ファスト、合同タッグマッチと、すでに2回も出禁(うち1回は未遂)を受けてるのに、またとか言われたらさすがにグレたい。

 

「いや、今回は出禁にはしない。抽選でお前に当たった生徒はご愁傷様だがな」

 

「(PД`q)陸ぅ……!」

 

「ああはいはい、織斑先生の言い方酷いよなー」

 

陸に泣きつくと、すぐに頭をポンポンと撫ぜてくれる。これすきぃ。

 

「おいコラ私を宮下に甘える口実にするな」

 

「……ちっ」

 

「舌打ちっ!?」

 

「簪、ホント最近お前、色々露骨になってきたよな」

 

「正直になったと言って欲しい」

 

「ああうん、やっぱお前楯無さんの妹だわ」

 

お姉ちゃんと一緒で、全く問題なし。……でもやっぱり、サボり魔とは思われたくないかも。

 

『簪ちゃぁぁぁんっ!?』

 

なんかお姉ちゃんの声が聞こえた気がしたけど、たぶん気のせい。

 

「ただし、一部武装を使用禁止にすることが決まった。そのリストをお前に渡すのがここに来た理由だ」

 

そう言って、織斑先生は四つに畳まれた紙を私に渡してきた。

 

「なになに~?」

 

四つに畳まれた紙を開いて見ると、横から陸も覗き込む。

 

 

使用禁止武装一覧

・GNドライブ

・GNコンデンサ

・GNファング

・拡散レーザー砲

・サイクロプス・ボム

・榴散弾

 

 

「これ全部、陸が作った装備じゃ……」

 

「俺をピンポイントでディスるとかいじめか!?」

 

「当然の対応だ」

 

「(PД`q)簪ぃ……!」

 

あ、私が陸の頭を撫ぜるパターン。これはこれでいいかも……❤




オリ主と簪、シャバの空気を吸う。(オイ

謹慎時の食事事情。別に出来ないわけじゃないけど、自分より出来る人がいたらその人に任せっぱなしになるはよくあります。自分の職場では特に。みなさんの学校や職場ではどうですか?

久々の模擬戦。アーリィにはもう少し頑張ってもろて。
そして一夏の成長度である。ちなみに原作12巻では、シャル(カーネイション装備)と模擬戦して両者SE切れで引き分けになってます。1学期にはラファールにボコられてたのに、成長しすぎじゃね?



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第154話 お説教

感想欄からアイディアをもらって、急遽内容変更しました。


久々の模擬戦をやり、織斑先生に泣かされた夜。食堂で珍しい光景があった。

 

「は~い、くーちゃん、あ~ん♪」

 

「あ、あの……」

 

「ダメ?」

 

「い、いただきます……」

 

束がクロニクルを膝の上に乗せて、チャーハンの乗ったスプーンを口元に運んでいた。

 

「んぐんぐ……」

 

「やっぱりくーちゃんは可愛いよぉ♪」

 

「た、束さま……」

 

顔を真っ赤にするクロニクルの周りでは、生徒達がまるで猫を愛でるかのように眺めていた。

 

「あ、りったんとかんちゃん」

 

「こんばんわ」

 

「珍しい、というか、一応寮は関係者以外立ち入り禁止なんだが……今更か」

 

「束さんはくーちゃんの保護者だから、関係者でーす」

 

「お、おう」

 

その理屈が織斑先生に通るかは別問題だがな。

 

「そういえば、学期末トーナメントがあるんだっけ?」

 

「はい、日程は明日掲示されるって話ですけど」

 

「クロニクルも出るのか?」

 

「私は……」

 

俺が尋ねると、クロニクルは困った顔をした。なんかマズいこと聞いたか?

 

「(私はISに乗ると、体内のISが競合してしまって、出力が上がらなくなってしまうんです)」

 

「(授業で動かす分には問題ないんだけど、今回のトーナメントみたいなのは、ね……)」

 

小声で事情を説明するクロニクルと束。特に束は、すごく悲しそうな顔をしている。

そうか、IS同士の競合か……。

 

「かんちゃんは出場するの? 聞いた話だと、出禁になったイベントもあったんでしょ?」

 

「うぐっ! こ、今回は出場します。色々制限もかかってますけど……」

 

そう言って、簪は織斑先生から渡された禁止武装一覧の紙をテーブルに広げる。

 

「……」

 

「これは、すごいことになってま――束さま?」

 

「りったん」

 

顔を上げた束……って無表情(本気顔)!? ど、どうしたんだ!?

 

「これ、受け入れたの?」

 

「受け入れるも何も、そうしないと出場できねぇし……」

 

「そうなんだ」

 

だから怖ぇって! 何か束がキレるところあったか!?

 

「ごめんねくーちゃん、ちょっとりったん達と出掛けてくるよ」

 

「はい、いってらっしゃいませ」

 

クロニクルがすすっと立ち上がると、束も立ち上がり

 

――ガシッ

 

「へ?」

 

「え?」

 

俺と簪の腕を掴んで、ズルズルとどこかに連れて行く。

 

「ちょっとぉ!?」

 

「おい束。一体どこに連れてくつもりだ?」

 

 

「この学園で一番偉いところ」

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そうして束に連れていかれたところは

 

――コンコンッ

 

「入ってください」

 

「はいはーい」

 

普通はまず縁のない、そして俺と簪も夏休み前に1度だけ来たことのある――

 

「ここ、学園長室、だよね?」

 

「ああ」

 

そして部屋の中央にある応接セットには、先客が座っていた。

 

「用務員さん?」「用務員の爺様?」

 

「来ましたか。宮下君は夏休みぶりですね」

 

「あ、ああ……」

 

臨海学校後に知り合った、用務員の爺様だった。けどなんでここに? しかもいつもの作業着でなく、ビシッとジャケット着こなしてるし。

 

「それでお爺ちゃん、ちーちゃんは?」

 

「織斑先生なら、そろそろ来ると思いますよ。(コンコンッ)ほら。入ってください」

 

「失礼します――束? 宮下達も?」

 

ドアを開けた途端、俺達を見つけて驚いていた織斑先生だったが、すぐ気を取り直すと

 

「それで理事長、このような時間に何かありましたか?」

 

「「理事長!?」」

 

え、織斑先生、今なんて言った? 理事長? 用務員の爺様が?

 

「宮下君と更識さんにはまだ、ちゃんとした自己紹介はしてなかったですね」

 

 

「私は轡木 十蔵(くつわぎ じゅうぞう)、IS学園の用務員と理事長を兼任しています」

 

 

「このお爺ちゃんが、IS学園の実質的な運営者なんだよ」

 

「え? 運営者って学園長じゃ……」

 

「更識さんが驚くのも無理はありません。表向きは妻が学園長をしていますからね」

 

「妻が学園長……妻ぁ!?」

 

あの学園長、爺様の奥さんだったのか! 女尊男卑の風潮が強かったから、奥さんをトップに立てて、自分は裏方に徹してたわけか。

 

「今回、学期末トーナメントについて、篠ノ之博士がお話したいことがあるとのことで集まってもらいました」

 

「束が? お前、今度は一体何を……」

 

「ちーちゃん」

 

「っ!」

 

やべ、ついさっきまでニコニコ笑顔だった束の顔が、また無表情に。

 

――バンッ

 

「これ、どういうことかな?」

 

応接セットのテーブルに、食堂で見せた一覧の紙が叩きつけられる。

 

「『使用禁止装備一覧』、ですか。織斑先生、これは?」

 

「更識妹がトーナメントに参加するに当たり、公平を期すために一部装備の禁止を――」

 

「それはおかしいですね」

 

「え?」

 

説明途中で爺様に一刀両断されて、織斑先生がキョトンとした顔で固まった。

 

「今、織斑先生は『公平』と仰いましたが、何を以て公平だと?」

 

「それは、打鉄弐式の能力が他のISより突出しているため――」

 

「それなら、他の専用機持ちは問題ないと?」

 

「そ、それは……」

 

「もしISの能力に対して公平を期すのであれば、全員が訓練機で行うべきだと思うのですが」

 

「よしんば専用機もありにするとして、どうしてかんちゃんの……というか、りったんが作った装備ばっかり禁止にしたのかな?」

 

爺様と束にジト目で睨まれて一瞬ビクついた織斑先生だったが、

 

「それは、宮下が作った装備が能力突出の原因だから――」

 

「なら、りったんが他の専用機にやった改修も、元に戻すべきだよね? これじゃあまるで、かんちゃんを目の敵にしてるように見えるよ。束さん、そういうのは感心しないなぁ」

 

「織斑先生?」

 

「……」

 

とうとう織斑先生、ダンマリしちまったよ。……俺なんも悪いことしてねぇのに、すっげー責められてる気がする……。

 

「織斑先生」

 

「は、はい」

 

「このルールは、宮下君と更識さんに対して『公平』ではありません。今一度検討をして、再提出してください」

 

「はい……」

 

二人にボコボコにされた織斑先生は、しょんぼり項垂れながら学園長室を出て行った。

 

「ちーちゃん、よっぽどかんちゃんが怖いんだなぁ」

 

「こ、怖い?」

 

束から予想だにしていないセリフに、俺も簪も目が点になっていた。あの織斑先生が、簪を怖がってる?

 

「どういうことですか、篠ノ之博士」

 

「去年の運動会でちーちゃん、かんちゃんに負けたでしょ? それで、かんちゃんに対して恐怖心を抱いちゃったんじゃないかなぁ」

 

「更識さんにだけハンデを付けようとしたのは、その恐怖心の裏返しだと」

 

「たぶんね。なまじ負け知らずだったから」

 

「なるほど」

 

束と爺様が納得し合ってるのはいいんだが、

 

「。゚(゚´Д`゚)゚。私怖くない、私怖くないよぉ……」

 

「おーよしよし、簪は怖くないぞー」

 

怖い奴認定された簪を慰めなきゃいけないことまで考えて、今の話したか?

 

「まぁぶっちゃけ、かんちゃんより、りったん(の作った武装)の方が怖いけどね」

 

「確かに私から見ても、宮下君の作った装備は脅威に感じますね。特にキャノンボール・ファストの件で」

 

「簪ぃ……!」

 

「陸ぅ……!」

 

周りの大人達にボコられて、俺達はお互いを慰め合うように抱き合っていた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――寮監室

 

「ということがあったんだ」

 

「それは千冬姉が悪い」

 

ブルータス(一夏)、お前もか!?」

 

寮の部屋でのんびりしてたら千冬姉に呼ばれて、何かと思ったら……。

 

「キャノンボール・ファストの時は、主催者側の都合だから仕方ない。タッグマッチの時も、人数が奇数だったからって理由があった。けど、今回のは言い訳できないって……」

 

だってこれ、下手すれば陸や更識さんに対する私怨と思われかねないぞ。

 

「公平だって言うなら、理事長さんの言う通り、全員が打鉄に乗るぐらいしないと」

 

「うぅ……一夏にまで、一夏にまでダメだしされた……」

 

そんな千冬姉は、缶ビールをヤバいペースで呷ってる。完全にヤケ酒だ。

 

「とにかく、この禁止装備一覧は撤回な」

 

「お前はそれでいいのか?」

 

「確かに更識さんに勝てる可能性は減るけど、それで勝っても嬉しくねぇよ」

 

手加減され尽くされるより、全力同士でぶつかりたい。例えそれで負けたとしても。

 

「一夏……お前ってやつはぁぁぁぁぁ!!」

 

「ち、千冬姉ぇ!?」

 

酔っぱらって泣き上戸になった千冬姉が、俺に抱き着いてって痛たたたたたたたたたっ!!

 

「千冬姉、折れる! 骨折れるからぁ!」

 

酔って力加減の出来ない鯖折りと化した千冬姉の抱き着きから抜け出すことだけを、俺は考えていた。だ、誰か助けて……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

翌日、学期末トーナメントの日程が掲示板に張り出されたが、そこに使用禁止装備の記載は一切なかった。




束キレる、そしてちーちゃんフルボッコ。別に簪達を庇おうとしたわけではなく、ちーちゃんの穴だらけな理屈が気に食わなかっただけです。これが一夏絡みなら、ちーちゃん相手でも愛のグーパンが飛んでたと思いますが。

轡木さん登場。実は第40話でチラッと出てきてました。以降の出番は……ないかも。

オリ主と簪、心の傷を舐め合う。全然イチャコラじゃないハグ、微妙。

ちーちゃんの泥酔鯖折りが一夏を襲う! ちょっとかっこいいところ見せたらこれだよ。


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第155話 依頼

最近イチャラブ書きたい病に罹ってます。


学期末トーナメント開催が決まってから、生徒達からある要望が学園に入るようになっていた。

それを俺が知ったのは、刀奈に呼ばれて生徒会室に来た時だった。

 

「ゴーグルの増産?」

 

「ええ。署名まで集まってるぐらいだから、出来れば引き受けてほしいのよ」

 

刀奈が座る机の上には、今言っていた署名の紙束が載っていた。その厚みを見るに、結構な人数が署名したのが分かる。

 

「でも、どうしてそんな依頼が?」

 

学園祭後に提供してからこっち、そんなこと言われたこともなかったが。

 

「学期末トーナメントの影響」

 

「簪ちゃんの言う通りよ。キャノンボール・ファストやタッグマッチと違って、今回はみんな参加資格があるから、少しでもISに乗って訓練したいって子がいっぱいいるのよ」

 

「もし陸が1学期のトーナメントの時にゴーグルを作ってたら、同じように署名が来てたと思う」

 

なるほど。理解はした。

 

「それなら、いっそいっぱい作るか」

 

「いっぱい?」

 

「ああ。ただ、ちょっと追加で経費が掛かるのが難点だがな」

 

「ええ? 一体いくつ作る気?」

 

「それはな……」

 

考えてたことを話すと、刀奈はおろか、簪からもジト目で見られた。解せぬ。

 

「それはちょっと……」

 

「やり過ぎだと思う」

 

「かもな。でも、確実に今後の学園のためにはなるぞ」

 

「そうかもだけど……」

 

う~ん、と刀奈が額に手を当てて悩む姿を見て、俺はさらに追加である手段を取ることにした。

 

ーーーーーーーーー

 

私が紅茶を淹れて戻ってきたら、トンデモナイ光景が広がっていました。

 

「あへぇ……❤」

 

「いいぃぃぃ……❤」

 

「み、宮下君、一体何をしたの……?」

 

そこには、目をトロンとさせてソファの上に脱力した、お嬢様と簪様の姿があった。

 

「ちょっと二人を撫ぜただけですよ」

 

「嘘よね?」

 

「嘘じゃないですって。ほら、こんな感じに」

 

そう言って、宮下君はお嬢様のお腹を……お腹を!?

 

「あっ❤ あっ❤ ああっ❤」

 

「それで楯無さん。さっきの提案、承諾してくれますよね?」

 

「い、いいわぁ……❤」

 

「何やってんですかぁ!!」

 

――バコォォンッ!

 

「おぶっ!」

 

気が付いた時には、宮下君をお盆で殴っていました。

アカン、これはアカンねん!

 

「というか、一体何をする気なの!?」

 

「それはですね……」

 

宮下君の説明を聞いて、私が思ったことは一つ。

 

「えぇ……」

 

この一言だった。

 

「それ、絶対やり過ぎじゃない」

 

「虚先輩もそう言いますか。せっかく楯無さんと簪はOK出してくれたのに」

 

「それでお嬢様達を籠絡したの!?」

 

「籠絡とは人聞きが悪い。OKしてもらう代わりに、二人の望みを聞いただけですよ」

 

「これお嬢様達の希望だったの!?」

 

何頼んでるんですかお二人ともぉ!

 

「と、とにかく、その提案を飲むことは生徒会として――」

 

 

「虚先輩も手伝ってくれたら、新武装と交換で一夏から聞いた、五反田弾のマル秘情報を」

 

 

「必要な資材の一覧を用意して。準備しておくから」

 

 

将来の学園のためにもなって、私も嬉しい。これは誰も損しない計画なのよ。うん。

 

ーーーーーーーーー

 

どうしてこうなった。

先日更識姉から、訓練用のVRゴーグルの増産を宮下に依頼したという話は聞いていた。だが……

 

「な、なんじゃこりゃああああああああああああああああ!!」

 

整備室に、大量の段ボール箱に入ったゴーグルががががががががが!

 

「トーナメントに向けて、用意しておきましたよ。VRゴーグル330個

 

「ファーッ!?」

 

宮下、お前今なんて言った!? 330個って、今ある分を足したら全員に行き渡る数だろう!

 

「やることなくて暇だったんですよ。弐式の改造もまた禁止されたし」

 

「頼むから、武装禁止の撤回だけで勘弁してくれ……」

 

「ちぇー」

 

「いじけた振りをするな」

 

ズボンのポケットに手を突っ込んで石ころ蹴るポーズされても、反応に困るわ。

 

「あ、そうそう。ついでなんで、対戦相手もプログラムしておきました」

 

「ほう? つまりただの訓練だけでなく、模擬戦も行えるということか?」

 

「そういうことです」

 

それはいい。基礎機動の訓練ももちろん必要だが、ある程度まで行けば模擬戦もしたくなるからな。

 

「それで、どんなのが相手なんだ?」

 

「そうですねぇ……口で説明するより、実際に試してみます?」

 

そう言って宮下は、ゴーグルを段ボール箱から1つ取り出すと私に差し出してきた。

 

「ふむ……いいだろう。百聞は一見に如かず、とも言うしな」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「なんじゃこりゃああああああああああああああああ!!」

 

仮想世界の対戦相手、あれはダメだろう!

 

「打鉄やラファールはいい。あれは丁度いい対戦相手になる。だがオルコット(ブルー・ティアーズ)(甲龍)達専用機が相手は荷が重すぎるだろ!」

 

「いやぁ、ちょっと試しに戦ってみたいとかありません?」

 

「あるか! しかも極めつけに、なんだあの超巨大兵器は! 私でも落とされるかと思ったわっ!!」

 

まずデカイ。下手すれば、全長2000mはあるだろ。そしてその巨体にガッツリ積まれた、ミサイルランチャーと機関砲の山。それ以外にも大小様々なレールカノンが弾幕を張ってきて、全然近づけなかったぞ!

 

「う~ん、やっぱりそうですか。実は簪達にも使ってもらったんですけど、最後の巨大兵器だけは受けが良くなかったんですよ」

 

「当たり前だぁ!」

 

「分かりました。それじゃあ最初は打鉄とラファールだけ選べるようにして、ある程度勝ち星が増えたら専用機を選べるようにしますか」

 

「そうしてくれ……巨大兵器は封印な」

 

「うぃーっす」

 

ま、まぁ、品質は良かったからな。うん。

 

ーーーーーーーーー

 

「は~、やることねぇ」

 

依頼されたゴーグルを作ったら、また暇になってしまった。

 

「だからこうやって、簪を可愛がるしかないんだよなぁ」

 

「私としては嬉しい」

 

「……せっせと働いてる私の前でいちゃつくとか、酷くない?」

 

生徒会室で簪リクエストの膝枕をしてたら、刀奈に睨まれた。

 

「というか簪ちゃん、なんで簪ちゃんが陸君の膝に頭乗せてるのよ……」

 

「この状態で頭撫ぜられるのがいい」

 

「はいはい。撫ぜればいいんだな」

 

「にゅ~……」

 

催促されて頭を撫ぜると、顔を太ももに擦り付けてきた。ネコか。

そう思ったら、なんとなく顎の下も撫ぜてみた。

 

「はにゃぁ~……❤」

 

「(ごくりっ)」

 

いやいや刀奈、生唾飲み込むほどかっ!?

 

――シュババババババッ!!

 

「お仕事終わり! 陸君私もっ!」

 

「うぉぉい!」

 

超高速で書類仕事を終わらせた刀奈が、顎下晒しながら抱き着いてきた。そ、そんなに撫ぜられたいのか?

 

「早く早く」

 

「お、おう」

 

簪と同じ要領で撫ぜてやった。すると

 

「ふにゃぁ~……❤」

 

やっぱり猫だこれ。

 

「お嬢様、書類の処理は終わりましたか――……」

 

「あー……お疲れ様です、虚先輩」

 

子猫2匹を可愛がっていたら、戻ってきた虚先輩にジト目された。

 

「生徒会室は、そういう部屋ではないんですが……?」

 

「……」

 

 

「簪と楯無さんが可愛いからヨシッ!」

 

 

「ヨシッ! じゃありません!」

 

 

――パシィィンッ!

 

「あだっ!」

 

虚先輩、ファイルケースで殴られたらさすがに痛いっス!

 

「まったく……お嬢様も宮下君も、TPOを弁えてください」

 

「虚ってば固いわねぇ」

 

「固くありません。常識の話です」

 

 

「クリスマスに弾君とデートした時は、天下の往来でイチャラブしてたじゃない」

 

 

「みゃああああああああああっ!?」

 

 

おい刀奈、なんでそんなこと知ってんだよ。そして虚先輩のそれは悲鳴か? 弾に聞かせてやりてぇ。

 

「な、ななな、なんでお嬢様……」

 

「なんで知ってるかって? こんなこともあろうかと、ちょっと配下の者を、ね」

 

「尾行されてた!?」

 

まさかの事実に、虚先輩唖然。刀奈、そんな暗部の使い方していいのか?

 

 

「・゚゚(p>д<q)゚゚・弾くぅぅぅぅぅぅぅんっ!!」

 

 

あ、泣きながら生徒会室を飛び出しちまった。

 

「さぁ陸君、続きプリーズ」

 

「私も」

 

「お前ら、従者は大切にしろよ……」

 

そう言いながらも、二人を撫ぜる手を止めない俺も大概だな。




ゴーグル増産依頼。ジェバンニが一晩でやりました。

更識姉妹可愛がり、その1。体外式ポ○○オ(アカン

ちーちゃん、AF(カーチャン)初体験。151話で簪達がやりあったのもAFです。

更識姉妹可愛がり、その2。二人とも可愛いからヨシッ!


次回、トーナメント前に何かやりたい。


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第156話 治療

オリ主は、暇になるとついやっちゃうんDA♪

8/1追記
誤字・抜け字を修正
多機能フォームで書いたのが反映されてなかった……orz


「学期末トーナメント、クロニクルが出られるようにするか」

 

ゴーグル増産の依頼をこなして暇になった陸が、寮の部屋に戻った途端、またトンデモなことを言い出した。

クロニクルさんが参加できないのは、体内に埋め込まれたISが競合するため。理論上はそれをどうにか出来ればいいんだろうけど……。

 

「さすがに技術的にも時間的にも無理じゃ?」

 

まず第1に、体内に埋め込まれたISをどうこう出来るのか。それが出来るなら、篠ノ之博士がすでにやってると思う。

第2に時間。おそらくクロニクルさんはすでに不参加を申告してるはずで、撤回するには今週中、つまりあと3日しかない。

 

「大丈夫だ、策はある。で、"あいつ"も巻き込めば……」

 

「あ、あいつ?」

 

私の疑問を後目に、スマホを操作して誰かに連絡を取り始めた。

一体だれを……あっ、あの人しかいないや。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

陸が連絡した相手というのが

 

「それで束さんを呼んだわけだね」

 

予想通り、篠ノ之博士だった。

 

「でもりったん、一体どうするつもり? くーちゃんのISを取り除くのって、正直無理だよ」

 

「やっぱりそうなんですか?」

 

「うん。あの金髪ドリル、セシリアだっけ? あれの身内と同じように、くーちゃんもISで体の足りない部品を補ってるんだよ」

 

たぶん博士は、エクシアさんのことを言ってるんだろう。

確かにそれは無理だ。無理にISを取り除いたら、そのままクロニクルさんが死んじゃうことになる。

 

「それなら心配ない。これを見てくれ」

 

そう言って、陸が端末に表示して見せたのは……ごめん、私には理解できない。何かすごい数式と専門用語の羅列なのは分かるんだけど。

 

「……こ、これは!?」

 

「これならいけそうじゃないか?」

 

「出来る……これなら出来るよ!」

 

なんか二人で意気投合してるけど、一体何が出来るんだろう……。

 

「でも、そうなると急がないと。くーちゃんのトーナメント不参加を撤回するには、あと3日しかないよ!」

 

「というわけで束、今夜はオールナイトでやるぞ!」

 

「合点承知の助!」

 

え、オールナイト? 何をするか知らないけど、一晩でどうにかする気なの?

 

「というわけで簪、俺はこれから束と作業に入るから。あ、それとボーデヴィッヒに明日の放課後空けとくよう言っといてくれ」

 

「え、ええ?」

 

どういうこと? なんかよく分からない内に話が進んでるんだけど!?

 

「それじゃありったん、さっそく束さんのラボにGO!」

 

「おう!」

 

「ちょっとま、陸ぅ!?」

 

私の声なんか全然届いていないのか、博士はいつものように、陸もその後を追って、ベランダの手すりを飛び越え、暗闇の中に消えていた。

 

「……とりあえず、ボーデヴィッヒさんに連絡入れとこ」

 

ここで織斑先生に連絡を入れない辺り、私も慣れてきてるなぁと思う。

 

ーーーーーーーーー

 

昨日の夜、突然更識から連絡が来た時は何かと思った。

 

『陸が、明日の放課後予定を空けてほしいって』

 

『明日か? まぁいいが、一体何をするつもりだ?』

 

『それが、博士と何かするつもりみたいで……』

 

『……』

 

そのやり取りだけで、正直危険な匂いがプンプンしてきた。

が、あの二人が何かするというのであれば、軍人として情報収集は必要だろう。だからこそ、こうやって放課後、指定された整備室に来たのだが。

 

「おうボーデヴィッヒ、突然呼び出して悪かったな」

 

「別に構わん。それで、今回は一体何をするつもりだ?」

 

整備室には宮下と更識、そしてその横には、まるで酸素カプセルのような装置が鎮座していた。

 

「見ての通り、今回はこれを使うんだが、それにはボーデヴィッヒの協力が必要でな」

 

「私の? 一体……」

 

どういうことだ、と聞く前に、

 

「やっほー、お待たせ~」

 

「あ、あの、束さま?」

 

篠ノ之博士と、クロニクル?

 

「さて、これで役者は揃ったな。それで、今回集まってもらったのは……」

 

 

「クロニクルの体内に埋め込まれたISの摘出と、それに伴う問題個所の治療。それが目的だ」

 

 

……は?

 

「ちょっと待て、確かクロニクルに埋め込まれたISは、セシリアのところのメイド妹と同じように、不足分の臓器を補っていたはずだ。それを摘出したら……

 

「そのためのこいつだ」

 

私の疑問に対して、宮下がポンポンとカプセルのような装置を叩く。

 

「その装置は一体何なんだ? 酸素カプセルというわけでもないのだろう?」

 

「それは私も知りたい」

 

なんだ、更識も聞いていないのか。

 

 

「この装置で、ISの摘出と足りない臓器の再生治療を同時進行で行う」

 

 

は? 今こいつ何と言った?

 

「さ、再生治療だと!? しかも臓器をか!?」

 

「そうだよ~。束さんとりったんが、頑張って作りました~!」

 

「た、束さまが?」

 

「やっぱり一晩で作ったんだ……。二人とも、無茶苦茶過ぎる」

 

「一晩!?」

 

更識、嘘だと言ってくれ! 私の中の常識が、常識が……! いや、この二人ならそうなるか。(諦観

 

「それで、どうして私が呼ばれたんですか?」

 

「おっ、冷静だね? もうちょっと慌てるかと思ったけど、結構結構」

 

「あんま言いたくないが、クロニクルの遺伝子には一部欠陥がある。だからそのまま再生治療しても効果はないんだ」

 

宮下の説明で、何となく納得がいった。

 

クロニクルは私と同じ遺伝子強化素体(アドヴァンスド)、しかも失敗作とされた者だ。おそらくその遺伝子欠陥が、失敗作と言われた原因なのだろう。

そしてこれは予想だが、再生治療とは幹細胞による機能分化クローニングのようなものなのだろう。であれば、元となる細胞に異常があれば意味がない。

つまり……

 

「つまり、私の遺伝子情報を使って欠けた臓器を作り出し、クロニクルに移植すると?」

 

「正解だ。理解が早くて助かる」

 

「それじゃあくーちゃん、さっそく始めようか」

 

「た、束さま。まだ彼女から同意が……」

 

「いいだろう。協力する」

 

「え?」

 

私が協力に同意する旨を口にすると、クロニクルが驚いた顔でこちらを見てきた。なんだ、そんなに不思議か?

 

「別に私の臓器を寄こせという話でもないからな。それに――」

 

そこで言葉を区切る。そして思い出す。修学旅行の帰り、こいつと、遺伝上の"姉"との会話の中で、私の中に出来上がったもの。

 

 

「こういう時に助け合うのが、"家族"というものなのだろう?」

 

 

「ラウ、ラ……私は……」

 

むっ、泣かれるために恰好をつけたとではないのだが……。

 

「くーちゃん、こういう時は素直に感謝しておけばいいんだよ」

 

「感謝……」

 

博士に諭されて、クロニクルは袖で目を拭くと

 

「ありがとう、ラウラ……」

 

「うむっ」

 

そうだ。それでいいのだ。その方が、私も手伝うと決めた甲斐があるというものだ。

 

「あ~……そんじゃ、始めていいか?」

 

「「「あ、はい」」」

 

完全放置されて目が死んでる宮下と更識に対して、私達3人は頷くしかなかった。

 

ーーーーーーーーー

 

いやー、まさかボーデヴィッヒとクロニクルの仲があんな感じになってたとは。

 

「ハッキング事件直後は、全然こんな感じじゃなかった」

 

「だな。もっと他人行儀だったはずだが……運動会や修学旅行で何かあったんだろう」

 

「かもしれない」

 

そう簪と話しながらも、再生治療用ポッド内のクロニクルの状態をモニターしている。

この装置、ベースはもちろん、トレミーに搭載されてた(外史・00の)やつだ。

 

「ボーデヴィッヒから採取した細胞からDNA情報抽出、クローニング開始」

 

「こっちも、くーちゃんからISを摘出する準備完了だよ」

 

手順としてはまず、ボーデヴィッヒの細胞から人工臓器を作る。そして摘出したISと置換して、結合部をそのまま再生治療で繋げる。

それと並行して、別の場所も治すんだが……それは簪やクロニクルはおろか、束にも言ってない。サプライズってやつだ。

 

「クローニング完了。束、始めてくれ」

 

「りょーかい。それじゃ、摘出作業に入るよ」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「ふぅ~……」

 

「宮下、終わったのか?」

 

「おう、なんとかな」

 

細胞の提供してくれたら帰ってもよかったのに、律儀にもボーデヴィッヒは整備室の隅っこで待ってたようだ。

 

「協力した身としては、結果を見届ける義務と権利があるだろう」

 

「それもそうか」

 

確かにもらうもんもらってポイとか、聞きようによってはヒデェ話か。

 

「それで陸、クロニクルさんはこのまま?」

 

「いや、あと少しすれば……」

 

――ピーッ!

 

アラーム音が鳴ると同時に、ポッドの上部がスライドして、ただのベッドのようになった。

 

「んん……」

 

「くーちゃん、起きて」

 

「たばね、さま……?」

 

「え?」

 

クロニクルを起こそうと顔を近づけた束が、驚いた顔で俺の方を見る。

 

「りったん、これって……!」

 

「俺からのサプライズだ。驚いてもらえて何よりだ」

 

「あ、あの、束さま、一体何が……」

 

状況が飲み込めていないのか、のっそりとクロニクルが起き上がる。と同時に、簪とボーデヴィッヒも驚き顔でこっちを見てきた。

 

「り、陸?」

 

「宮下、これは一体……!?」

 

「あの、みなさん、どうしたのですか?」

 

簪とボーデヴィッヒも驚く中、当の本人だけが首を傾げていた。

 

「くーちゃん、はいこれ!」

 

「鏡、ですか? これが一体……え?」

 

束から手渡された手鏡を覗き込んで、ようやくクロニクル本人も気付いた。

 

 

黒い眼球ではなく、ボーデヴィッヒと同じ、白い眼球と金の瞳になっていることに。

 

 

「これは……!」

 

「ボーデヴィッヒのDNA情報が手に入ったからな、目の方もついでに治しておいた」

 

臓器と違って徐々に置き換えても問題ない部位だったから、装置のオート機能で治療できる。なので俺の手間はほぼかかってない。ならやるだろ?

 

「これで、周りを気にする必要はなくなったな。なにせ、体内にISはないし、目も含めて外見は完全に普通に人間なんだし」

 

「りったん……」

 

「陸……」

 

「あ、ありがとう、ござい、ます……!」

 

「宮下、お前という奴は……」

 

だぁぁぁお前ら、泣くな泣くな!

 

「それよりほら、クロニクルのトーナメント不参加を撤回しに行かなくていいのか?」

 

「はっ! そうだった! くーちゃん、急げ急げ~!」

 

「た、束さま!? そんなに急がなくても、まだ期日は~~~~!!」

 

束の小脇に抱えられたクロニクルの声が、ドップラー効果のように響いて消えた。

 

「なぁ宮下。これ、セシリアのところのメイド妹にも使えないか?」

 

「エクシアだったか? たぶん使えると思うぞ?」

 

状況は同じだし、不足している臓器に付いても、チェルシーさんの体細胞を使えばいけるだろう。

 

「なら、頼めないだろうか」

 

「俺はいいが、束がなんて言うかなぁ……」

 

今回はクロニクルのためだから手を貸してくれただろうが、それ以外の人間を助けると言っても嫌がりそうなんだよなぁ。

 

「博士の説得は私がする」

 

「出来るのか? まぁ、もし出来たらやってもいいが……」

 

 

 

「え~? そいつ助ける理由ないし~」

 

案の定、クロニクルの不参加を撤回して戻ってきた束は嫌がったが

 

「博士、エクシアはセシリアの身内です。そしてセシリアは一夏の嫁、つまり身内なわけです」

 

「それってこじつけだよね~」

 

「一夏に褒められたくないですか?『束さん、エクシアを助けてくれてありがとう』と」

 

「よしやろう」

 

あっさり陥落した。ボーデヴィッヒ、恐ろしい子……!

 

ーーーーーーーーー

 

話を聞いたオルコットは、さっそくイギリスに連絡してメイド姉妹を学園に呼び寄せた。

そして翌日、オルコット家の自家用機で文字通り飛んできた姉妹が学園に。

 

「本日は、よろしくお願いいたします」

 

「お、お願いいたします」

 

姉のチェルシーさんから体細胞を採取、クローニングを行っている間に、エクシアをポッドの中へ。あとはクロニクルの時と同様。目の治療がない分、前回よりも治療時間は短かった。

それより問題になったのは

 

「それで、摘出したISだが……」

 

「エクスカリバー無き今、エクシアが所持する理由もありませんし……如何いたしましょう、お嬢様」

 

「元が亡国機業から齎された物である以上、オルコット家で所持し続けるのも問題がありますわね……」

 

摘出したISをどうするかということだ。

おそらくどこかから強奪されたものの、国の面子とやらで届けられてないものの一部なんだろう。

だから面倒事に巻き込まれたくないと、オルコットが放棄したいと言うのもよく分かる。

ちなみに、クロニクルから摘出したISも

 

「くーちゃん、摘出したコアで専用機作ったら、乗る?」

 

「いいえ、みなさんと同じ訓練機に乗ります。私はただでさえ、束さまの関係者ということで目を付けられていますので」

 

というやり取りがあり、こちらも処遇に困っている。

 

「もう面倒だし、ちーちゃんに丸投げしたら?」

 

「賛成ですわ」

 

「それでいこう」

 

こうして、クロニクルとエクシアから摘出した2つのISコアは、アラクネのコアと同様学園預かりとなるのだった。

 

 

『宮下ぁ! 束ぇ! お前達はまたぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 

コアを手渡した時の織斑先生の顔、怖かったデス。




クロエ治療回。ただISが埋め込まれてるだけなら、束でも治療できると思うので、エクシアと同じ『ISで足りない臓器を補っている』という設定にしました。

追加でエクシアも治療。束を動かすには一夏を使えばいいという一例。ただしやり過ぎると『一夏を利用した』と判断されて消される模様。

ちーちゃん不憫。『千冬に!安息は!おとずれなぁい!!』


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第157話 成果

業務連絡です。
突然出張をぶち込まれたので、明日明後日の更新ありません。
次回更新は来週8/7の予定です。


その日、IS学園全体を震撼させる出来事が起きた。

 

「これって、VRゴーグルだよね……?」

 

「そう、よね? でも、この数は……」

 

「先生、これって他のクラスにも配るんですか?」

 

そう生徒が言うのも無理はない。なにせ今までクラスごとに3台配布されていたゴーグルが、いきなり30台近く段ボール箱に入って教室に置かれていたのだから。

 

「いいえ。これ全部、ウチのクラス分よ」

 

 

「「「「「「ええぇぇぇぇぇ!?」」」」」」

 

 

この驚きの声が至る所で発生したことで、校舎が比喩でもなんでもなく揺れたのだった。

1年1組の男子生徒曰く、

 

『震度3か4ぐらいあったんじゃないか?』

 

と言ったとかなんとか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ゴーグルが配布されてから、各部活動は開店休業状態らしい。

1人1台ゴーグルが配られたからか、みんな放課後は寮に戻って訓練に没頭してるらしい。

 

「まさか、これほど好評とは思わんかった」

 

「アンタ、大量に作りすぎよ……」

 

「だからこんなに、人がいませんでしたのね……」

 

「やりすぎだ」

 

「あ、あははは……」

 

トーナメント2週間前。いつ面で食堂で飯食ってたら、一夏ハーレムの面々から集中攻撃を受けたでゴザル。

 

「というか、楯無さんもどうして許可しちゃったんですか……」

 

「面目ない……」

 

「陸のご褒美に目が眩んだ」

 

「ご褒美?」

 

「……///」

 

「い、一体何をしたんですか……?」

 

他方では、篠ノ之が刀奈と簪を追求しようとして、途中で呆れていた。

 

「とはいえ、元々ほとんどの部活がトーナメント1週間前からは休みにする予定だったらしいからな。それがちょっと早まっただけだろ」

 

「そうなのか?」

 

「おう。少なくとも剣道部はそうだ」

 

剣道部だけってこともないだろうから、おそらく一夏が言ってることが正しいんだろう。なら俺は悪くねぇ!

 

「むしろ、みんなが気兼ねなく訓練できるようになったんだから、褒められたっていいだろう」

 

「いやまあ、そうなんだろうけど……」

 

「(これで、完全に学園と本国の予備候補生との差が広がるわね……)」

 

「(下手をすれば、本国の代表候補生より経験豊富な一般生が生まれますわよ、これ)」

 

「(これは、来年以降の入学倍率が恐ろしいことになるな)」

 

「おいコラ、そこの中英独」

 

ヒソヒソ話してるようで、思いっきり聞こえるように話すなコンニャロー!

 

「そういえば、みんなはどの日程で出場することになったの~?」

 

「ああ、それな」

 

のほほんが言うように、今回は個人トーナメント戦のため、とにかく試合回数が多い。

それもあって、当日は第1から第6までの全アリーナを使用する。それでも数日に渡って行うことになってるんだが。

 

「第1と第2が1年、第3,4が2年で、5と6が3年が試合するんだったか」

 

「うん。1試合20分で、2ヵ所で同時に実施して、1学年が約120人だから……」

 

「朝から晩まで試合して、全部終わるのにほぼ3日かかる計算か」

 

オリンピックの体操競技並みの日程だな。

 

「そして20分で決着しなかったら、SEの残量で勝敗を決めるか。こうなると、遠距離でチクチク叩く戦法が有効か?」

 

「どうだろう。私なら開幕瞬時加速してメメントモリで終わらせるけど」

 

「やめたれ。それはさすがに対戦相手が可哀想だ」

 

文字通り秒殺される相手のことを考えろよ。……いや、むしろそんな舐めプは失礼か?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

陸が作ったゴーグルが配布されて数日。事態はトンデモナイことになっていた。

それに俺達専用機持ちが気付いたのは、IS実習の時間だった。

 

「セシリア、覚悟ぉぉぉ!」

 

訓練機の打鉄に乗った相川さんと、セシリアの模擬戦。

いつもならセシリアが圧勝する、そう思ってたんだが……。

 

「食らいなさい!」

 

――チュィィィィンッ!

 

「うわっとぉ!」

 

「か、躱された!?」

 

「あっぶなぁ」

 

セシリアの偏光制御射撃(フレキシブル)をギリギリとはいえ回避した!? うそだろ!?

 

「そ、そんな、どうして……!?」

 

「VRの中じゃ、散々ビットの偏光制御射撃に落とされたからね。現実世界でお礼参りするために頑張ったんだよ」

 

「ファーッ!?」

 

えぇ!? あのゴーグル、そんな機能まで入れてたのかよ! 配布されてから使ってないから知らなかった……。

一方別の場所でも

 

――ドォォォンッ!

 

「ああもう! いい加減当たりなさいよぉ!」

 

「なーるほどぉ。織斑君はこうやって鈴の攻撃を避けてたのか。でも、やっぱ避けるので精いっぱいだなぁ……」

 

俺がクラス対抗戦でやったのと同じ方法(ハイパーセンサーで空気の流れを見る)で、鈴の衝撃砲を躱していた。

 

「シャルロットさんは高速切替(ラピッド・スイッチ)が鬼門。なら!」

 

「う、うわわわっ!」

 

シャルの対戦相手は接近戦オンリーのゼロ距離を維持し続ける。これじゃあシャルの十八番、銃器の高速切替が使えない。

 

「くそっ! ちょこまかと……!」

 

「だってボーデヴィッヒさんのAICだっけ? 個人戦じゃジョーカーもいいところだもん」

 

逆にラウラの対戦相手は遠距離オンリー。本人が言った通り、AICを警戒した動きだ。

 

「代表候補生対策が、ガッチリされているな」

 

「ああ……。これ、俺や箒もされてるんじゃ……」

 

「おそらくな」

 

今は俺と箒は見学してるが、この後のことを思うと気が重い……。

 

「これは……私も想定外だった」

 

「織斑先生!?」

 

たらーっと頬に冷や汗が流れる千冬姉に、口をアングリさせる山田先生。千冬姉ですら、この流れは想定外だったのか……。

 

 

 

色々対策されていたとはいえ、さすがに訓練機と専用機では性能差があるし決め手に欠けてたから、最終的には専用機組の勝利で終わった。

 

「お、驚きましたわ」

 

「ホント、おっどろいたわぁ」

 

「まさか、訓練機にここまで粘られるとは」

 

「油断してたら負けてたかも」

 

模擬戦を終えたセシリア達も、万一負けたらと冷や汗ものだ。

専用機持ちの代表候補生が、訓練機に負けたとなったら色々まずいんだろう。

 

「次、織斑と篠ノ之」

 

「「は、はい」」

 

さて、俺と箒はどうなることやら……。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

――ドドドドドドッ!

 

「ぜ、全然近づけねぇ!」

 

「だって織斑君に接近戦とか自殺行為だもん!」

 

「こなくそぉっ!」

 

――ドドドドドドッ!

 

「うわっ! 織斑君も撃ってきた!?」

 

同じクラスの岸里さんが乗るラファールからの絶え間ない銃撃に、俺はやりたくもない銃撃戦を繰り広げていた。

弾切れのタイミングを狙って仕掛けようにも、左右でリロードタイミングを上手くズラしてるのか、全然弾幕が途切れやしない。

とはいえ

 

――カチカチッ

 

「やっば!」

 

拡張領域に入ってる弾だって無限じゃない。ましてや同じ銃ばっか使っていれば、その弾だけが先に切れる。

 

「勝機!」

 

――ズシャァァッ!

 

「うわーん! 負けちゃったー!」

 

な、なんとか零落白夜を決められた……。

これ、岸里さんが使う武器を絞って、その弾丸だけを大量に用意してたら、粘り負けしてたのでは?

箒の方は……

 

「刀一本で遠近両方攻撃できるとか卑怯だよー!」

 

「すまんな。これが紅椿の装備なのだから、どうしようもない」

 

ああ、あのエネルギー刃を飛ばすやつ(確か雨月だっけ)。あの武装を攻略できなかったのか。

箒相手に接近戦は不利だし、距離を取っても武装の切り替えなしで攻撃されるっていう。

とはいえ、紅椿の展開装甲も俺の零落白夜と同じ大飯食らいだから、粘られると先にSEが尽きて負ける可能性だってある。

 

「あ~……専用機持ちも、慢心することなく精進するように」

 

まさかここまで俺達が苦戦するとは思ってなかったのか、千冬姉は明後日の方を向きながら模擬戦を締めくくった。

……これ、トーナメント当日まで特訓とかしないとヤバい。




1人1台、VRゴーグル~。そしてみんな引き篭もった。これ、確実に企業とかのテストパイロットより搭乗時間長くなってますよね。

その結果がこれである。専用機が負けるとは思えませんが、結構いいところまで行きそうな気がしてます。……訓練機で専用機を狩るとか、どこの巨乳眼鏡だ。


次回、ようやっと学年末トーナメント開催予定。


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第158話 学期末トーナメント~1日目~

一度更新頻度を下げると、なかなかエンジンをかけ直すのが大変です。

という話は置いといて、前回の予告通り、トーナメント開催です。


学期末トーナメント当日。

1学期の時と同じく、全生徒が慌ただしく走り回っていた。

なにせ今回も、各国政府関係者等の来賓が大量にやってくることになったのだから。

 

「というか、1学期の時より人数増えてね?」

 

今回も今回で、刀奈に拝み倒される形で生徒会の雑務を手伝っていた俺は、観客席から来賓席を見てポツリと呟いていた。

 

「それはそう。あれから色々あり過ぎて、今IS学園に来ない国は愚か者とまで言われてる」

 

「なんだそりゃ」

 

「陸、2学期入ってからあったこと、覚えてる?」

 

「なんだよ急に。2学期から……」

 

「重婚が認められて、GNファング作って、アラスカ条約に条項が追加されて、オルコットさんに並列思考を刻み込んで、VRゴーグル作って、オータムさんの腕をへし折って、キャノンボール・ファストで専用機持ちを壁画にして――」

 

「ストップ簪。俺が悪かった」

 

両手を上げて降参のポーズ。もう腹いっぱい。

 

「これでまだ、タッグマッチや運動会のことは話してない」

 

「堪忍してつかぁさい」

 

俺も色々やったなぁ……。簪に言われるまでピンと来なかったが。

 

「それに、篠ノ之博士もちょくちょく来るようになったからね~。はい」

 

そこに、様子を見に来たらしい刀奈が観客席に。そしてスポーツドリンクのボトルを寄こしてきた。

 

「サンキュ。太陽光発電のマイクロウェーブ受信アンテナ、来週から本格稼働なんだっけか」

 

「ええ。先週、博士立ち合いのもとで試運転をしたんだけど、それでも学園の全電力消費量の9割近くを賄えるほどだったわ」

 

「9割……本稼働したら、むしろ周辺に電気売れそう」

 

「そうなったら、簪ちゃんのお小遣いも増えるわね」

 

「お姉ちゃん、お願いだから学園の予算にしてよ……」

 

「や、や~ね~。冗談よジョーダン♪」

 

何学園の利益着服しようとしてんだよ。妹にまで不信の目で見られてるし。

 

「まぁいいか。奴さん達には本来の目的で驚いてもらおうか」

 

「……ああ、それは驚くでしょうね」

 

「本来の目的って?」

 

「簪ちゃん、学期末トーナメントなんだから、当然生徒達の試合を見るのが本来の目的でしょ?」

 

「ああ」

 

刀奈の説明でようやく納得したのか、ポンと手を叩いた。いや、言われるまで気付かないんかい……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

来賓の誘導が終わり、第1アリーナで開会式が行われた後、すぐに各アリーナでトーナメントが開始された。

各アリーナには別アリーナの映像がモニターに表示されているため、来賓は席を移動することなく、全学年の試合を観戦していた。

(大体が自国の代表候補生を見るため、ロシアとギリシャは2学年の第4アリーナ、アメリカが3学年の第5アリーナ、それ以外は1学年の第1と第2アリーナの来賓席に座っていた)

 

先ほど話した通り、本来政府関係者は自国の代表候補生を見に来た(ついでに篠ノ之博士に会えたらいいなと思っていた)のだが、彼らの想定は根底から覆された。

 

「今年の一般生、動きがおかしくないですか?」

 

「そちらもそう思われますか。 こちらも同じことを思っていました」

 

一般生同士の試合を観戦していた各国の役人達が、お互い鳩が豆鉄砲を食ったような顔を見合わせていた。

 

『どっせぇぇぇいっ!』

 

『まだまだぁぁ!』

 

「い、瞬時加速(イグニッション・ブースト)!?」

 

「しかもそれを躱すのか!?」

 

瞬時加速で間合いを詰めての斬撃を、寸でのところで回避する。予備候補生ですらない一般生が、しかも1学年が行う試合内容ではない。

 

『しゃあぁぁ!』

 

『甘いっ!』

 

別のモニターでは、2年生がお互いラファールで円状制御飛翔(サークル・ロンド)の撃ち合いをしていた。

2学年ならまだ……と一瞬思った役人達だったが、次の対戦も、その次の対戦も瞬時加速や円状制御飛翔が当然のように使用されていた。

 

(IS学園のレベルが、おかしなことになってる……!?)

 

その時来賓席の温度が数度は下がったと、そこにいた全員が感じた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

……という話を、来賓対応していた千冬姉から聞いて、

 

「まずいですわまずいですわまずいですわ……」

 

「これで訓練機に負けたりしたら、あたし達の評価ががががが……」

 

「デュノア社の信用がぁ……」

 

「ま、また少将にどやされる……」

 

セシリア以下、代表候補生はピット内で頭を抱えていた。

 

「これ、私にも影響があるんだな……『篠ノ之博士の妹の癖に』とか。ああ、昔の記憶が……」

 

「箒ぃ! しっかりしろ!」

 

あまり関係なさそうだった箒も遠い目をし始めた。これはまずい。

 

「織斑君、次の試合……えっと、みなさん大丈夫ですか?」

 

俺を呼びに来たらしい山田先生だったが、ピット内を見た途端顔を引き攣らせて固まった。

 

「だ、大丈夫です。時間が経てば、たぶん、おそらく、きっと……」

 

「ぜ、全然大丈夫じゃないじゃないですかぁ!」

 

「そそ、それより次の試合ですよね? みんな、俺先に行ってくるわ!」

 

「お、織斑くぅん!?」

 

慌てる山田先生を背中に、俺はアリーナに向かって飛び出していった。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

そして俺の試合が始まったわけだが……

 

「織斑君! 今日こそ勝たせてもらうよ!」

 

「いやちょっと待ってよ相川さぁぁん!?」

 

瞬時加速の応酬で、白式のSEが大変ピンチなんですが!?

 

「ていうか、零落白夜が怖くないのかよ!?」

 

「ふふ~ん! 零落白夜はあくまでシールドの無効化。なら、実体盾で受け止めれば問題ないんだよぉ! 肩部の盾なら、装甲が再生するしね」

 

「マジかよ!?」

 

打鉄の肩部盾って再生するのか!? それよりも、完全に零落白夜が攻略されちまってるじゃねぇか!

 

「さあどうする織斑君? このまま零落白夜を使い続けてSE切れになる? それともその腕の銃で私と撃ち合いする?」

 

「ぐぅぅ……!」

 

相川さんの挑発に、色んな意味で言い返せねぇ。いっそ、IS実習で岸里さんと戦った時みたいに弾切れを誘って……。

 

「言っておくけど、私に弾切れを期待しても無駄だよ。岸里さんの時と違って、打鉄にはアサルトライフルしかないから、逆に弾は豊富なのよ」

 

「ちくしょぉ!」

 

完全に読まれてやがるっ!

そして、策がない以上は仕方ない。

 

「成功したことはほとんどないけど、やってやるさ!」

 

俺はスラスターにエネルギーを溜め込み

 

「おっと、瞬時加速で近づく気――」

 

 

スラスターを一度にではなく、次々に点火させた。

 

 

「ぐっ、おおおぉぉぉぉ!!」

 

「ええっ!?」

 

今までの瞬時加速以上の速度で近づいてくる俺に、相川さんの顔が驚きと恐怖で引き攣るのが見てた気がした。

 

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

最後に残ったなけなしのSE、こいつを雪片弐型に注ぎ込む!

 

――ザンッ!

 

『相川清香、SEエンプティ―。勝者、織斑一夏』

 

最後の零落白夜が打鉄のシールドを切り裂き、審判のアナウンスで俺の勝ちが宣言された。や、やったぁぁ……。

 

「うわぁ悔しいぃ! もうちょっとだったのにぃ!」

 

そう言って腕をブンブン振る相川さんは、エネルギー切れで動けなくなった打鉄ごと、整備科の人達に運ばれていった。

 

「それにしても、今の試合は危なかった……」

 

個別連続瞬時加速(リボルバー・イグニッション・ブースト)。聞いた話では、国家代表ですら使える人は少ないという大技だ。

俺も白式が第二形態になってからずっと練習していたものの、成功した回数は片手で数えられる程度。正直、この本番で成功するとは思わなかった。

 

(けどこれで、切り札を切っちまったなぁ……)

 

今回は相川さんが、通常の瞬時加速だと判断してくれたから勝てたようなもんだ。冷静に対処されたらそれで終わり、いつも以上にSEを減らすだけになっちまう。

 

「いや、逆に今見せた方が良かったか」

 

考え直してみれば、そもそも成功確率が1割もない技なんだ。なら『次も使うかもしれない』とだけ思わせて、警戒させて、実際は普通に戦えばいい。

そう考えながら、俺は歓声を上げる観客席に向かって雪片を掲げると、ピットの方に戻って行った。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あ、危なかったですわ……」

 

「ホントよ……」

 

「僕はラファールが相手だったから、打鉄よりも対応が楽で良かったよ」

 

「シャルロットは良いな、性能を知り尽くしている機体が相手で」

 

「私も、打鉄が相手で良かった」

 

箒達も、なんとか初日敗退は回避したようだ。

陸と更識さんは……

 

「り、陸、ごめん……」

 

「謝るな。余計悲しくなるから」

 

初戦でぶつかってしまい、陸は更識さんにボロ負けしていたらしい。ご愁傷様……。




オリ主、簪に(事実で)ボコられる。振り返れば、色んな超展開をブッパしたなぁと、作者自身思ってしまいました。

来賓の方々、震える。全部妖怪のしわざです。

一夏、土壇場で大技を成功させる。こういうピンチになると強くなる主人公補正。でも簪には勝てん。(確信)

オリ主、簪に(物理的に)ボコられる。そりゃあ機体性能も、操縦者の腕も別格ですから。


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第158.5話 クロエ・クロニクル

せっかくクロエをトーナメントに出せるようにしたのに、出番がないじゃん!
書かなきゃ。(使命感)

時系列的には、トーナメント1日目(前話で一夏が試合してる辺り)を想定して書いてます。


私は最初、この学期末トーナメントには不参加の予定でした。

かつて試験体C-0030と呼ばれていた頃。ヒトではなく、ただの記号でしかなかったあの頃に、私の体内にISが埋め込まれました。遺伝子強化素体の失敗作、それの有効活用として。

それによって、私はISに乗れない体となった。正確には『IS同士の競合によって出力が相殺されて、まともに扱えない』が正しいのでしょうか。

 

それでも、私は幸せでした。あの頃には想像も出来なかったモノを、私は手にすることが出来たから。

自分の行動を自分で選べる自由。IS学園の生徒という身分。そして、クロエ・クロニクルという名前を。

 

本当に、それだけで幸せでした。もう十分なほど、たくさんのものを得られたのだと。

けれども、束さま――私にクロエ・クロニクルという名を下さった方――から、私はまた幸せをいただけたのです。

 

「くーちゃん、調子はどうだい?」

 

「束さま。問題ありません」

 

第2アリーナのピットで、様子を見に来てくださった束さまに、私は力強く頷きました。

宮下さんに治していただいた目――遺伝子の欠陥による悍ましい黒い眼球から、白い眼球と金の瞳に変わった――で、束さまをしっかりと捉えて。

 

「そっか。心配はないと思うけど、無理しちゃだめだからね?」

 

「はい。無理はせず、さりとて全力で頑張ります」

 

「うん」

 

嬉しそうに微笑みながら頷き返してくる束さまを見て、私のやる気はさらに高まりました。

 

「それじゃあくーちゃん、行ってらっしゃい」

 

「行ってきます」

 

搭乗したラファールのマニピュレータで手を振り返すと、私はピットから出撃しました。

 

ーーーーーーーーー

 

くーちゃんを見送った後、私は観客席に来ていた。

来賓席に私の席があるってちーちゃんが言ってたけど、あんな面倒なところに行く気はない。

 

「あれ~、篠ノ之博士~?」

 

「あれ、のんたん? なんでここにいるの?」

 

のんたんもりったんが作った専用機を持ってるから、てっきり出場してると思ってたんだけど。

 

「私は初戦敗退しちゃったんで、そのまま観戦してます~」

 

「あらら、負けちゃったんだ」

 

「たはは~……。ここ、空いてますよ~」

 

苦笑いしながらあのダボダボの袖で自分の隣とペチペチ叩くから、誘われるままのんたんの隣に座った。

 

「博士、次の試合がくーちゃんだからここに来たんですね~」

 

「ま~ね。変かな?」

 

「変じゃないですよ~。"家族"なら普通だと思います~」

 

「……そっか」

 

裏表のなさそうなのんたんにそう言われると、なんだか嬉しいなぁ。

これが来賓席の連中だったら、思ってもいないおべっかと、気持ち悪い笑顔ですり寄ってきたんだろうなぁ。うわっ、想像しただけで気持ち悪っ!

 

「あっ、くーちゃんだ」

 

のんたんの声で視線を向けると、ラファールに乗ったくーちゃんが、同じラファールに乗った奴とアリーナの中央で対峙していた。

 

「くーちゃんの対戦相手、知ってる?」

 

「あれはぁ……2組の子かなぁ? 確か、リンリンと寮で同室の子だったはずです~」

 

「ふーん」

 

のんたんがパッと出て来ないってことは、有象無象の生徒の一人ってことか。

そう考えていたら、試合開始のブザーが鳴った。

 

「おおっ!?」

 

思わず声が出ちゃったよ。だって、くーちゃんが試合開始と同時に相手に肉薄して、ゼロ距離からショットガンを撃ちかましたんだから。

 

『ぐっ! やってくれたわねっ!』

 

『まさか、開幕瞬時加速するなんて思いませんでした?』

 

『思うわけないわよチクショウメェ!』

 

開幕ぶっ放したことで、相手の精神は揺さぶられてるようだ。くーちゃんグッジョブ!

 

「あ~これ」

 

「ん? どしたの?」

 

「今の開幕瞬時加速って、かんちゃんが前の試合で使った手なんですよ~」

 

「かんちゃんが?」

 

確かにあの子なら、それぐらい出来るだろうけど。なにせちーちゃんとやり合える腕があるんだから。

 

「そこから顔面にメメントモリを撃ち込んで、りったんをKOしちゃったんですよ~……」

 

「うわぁ」

 

りったん運悪ぅ! 初戦でかんちゃんに当たっちゃったの?

 

「対戦相手も、まさか同じ手をくーちゃんが使うとは思わなかったんだろうな~」

 

「いいねぇ」

 

束さんにとっては瞬時加速とか児戯に等しいけど、くーちゃんはそうはいかない。

それが出来るように、くーちゃんは今日まで努力を重ねてきたんだろう。

束さん、努力自体を否定する気は全然ないよ。その努力を、ツマラナイこと(自己保身と権力欲)に使う輩が嫌いなだけで。

 

「お~、今度は円状制御飛翔(サークル・ロンド)だ~」

 

「グルグル回りながら撃ち合うやつだね」

 

「博士~、それじゃあおりむーの感想みたいですよ~」

 

「いっくんとおそろ~」

 

喜んだら、のんたんに微妙な顔されたんだけど。解せぬ。

なんて思ってたら

 

『きゃあっ!』

 

『ごめんねクロエさん、こっちも負けてられないのよ』

 

ああっ! くーちゃんにアサルトライフルの銃弾当てるとか、あの乳女ぁ!

 

『まだまだいくよぉっ!』

 

――ドドドドッ!

 

――ガンガンガンガンッ!

 

『ぐぅっ!』

 

ああ……くーちゃんが、くーちゃんがぁ……!

 

「落ち着いて博士~」

 

「落ち着け? 落ち着けるわけないじゃん!」

 

「ほら~、ちゃんとくーちゃんの顔を見て~」

 

いつもの口調に苛立ちながらも、言われた通りくーちゃんの方を見た。

そして気付いた。

 

「ね~?」

 

のんたんの言いたいことが、分かった。

実体盾で何とか攻撃を防ぎながらも、苦悶の声を上げている。それでも

 

くーちゃんの目は、諦めてなかった。

まだ戦えると。まだ勝負は着いていないと。

 

「あ」

 

相手の銃が弾切れになり、別の銃に切り替えようとした瞬間

 

 

『これを待っていました!』

 

 

――ドンッ!

 

 

『なぁっ!?』

 

まさか2度目はないだろうと、誰もが思っていた。瞬時加速を使った、正面からの"奇襲"。

そして実体盾を放り捨てたくーちゃんが構えていたのは

 

 

六九口径パイルバンカー、灰色の鱗殻(グレースケール)。通称『盾殺し(シールド・ピアース)

 

 

『いっけぇぇぇぇぇぇ!!』

「いっけぇぇぇぇぇぇ!!」

 

奇しくも、くーちゃんと同じ言葉を叫んでいた。そして

 

 

――ズンッ!

 

『ごはっ!』

 

――ズンッ! ズンッ! ズンッ!

 

――ズンッ! ズンッ! カチッ カチッ

 

『ごはっ!』

 

6発全ての炸薬を使って叩き込まれた相手はアリーナの壁に叩きつけられ、そのままズルズルと倒れ伏した。

 

 

『ティナ・ハミルトン、SEエンプティ―。勝者、クロエ・クロニクル』

 

 

「勝った……?」

 

「勝ちましたね~」

 

「……すっごいよ、くーちゃん……」

 

束さんともあろう者が、そんなチープな言葉しか出て来ない。もう、湧き上がってくる興奮で、頭の中がどうにかなりそう。こんな感情、久々に感じた気がするよ。

 

「博士~、くーちゃんの迎えに行ってあげたらどうですか~?」

 

「はっ!」

 

のんたんに言われて、思わずハッとした。

そうだっ! そうしようっ! そうしなければっ!

 

「行ってくるよのんたん!」

 

「行ってらっしゃ~い」

 

ダボダボの袖をブンブン振って見送るのんたんを背に、くーちゃんが戻ってくるだろうピットに向かって猛ダッシュをかました束さんだった。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「くーちゃぁぁぁんっ!!」

 

ピットに来てさっそく私は、ラファールから降りたばかりのくーちゃんを抱き締めていた。

 

「た、束さま、苦しいです……」

 

「おっと」

 

危ない危ない。嬉しさのあまり、手加減なしで抱き締めちゃったぜい!

 

「束さま、私、やりました」

 

「うん! 見てたよ見てたよ! 初戦突破おめでとう!」

 

「あ、ありがとうございます」

 

はにかんだ顔のくーちゃん、最高です。

 

「束さま」

 

「ん? 何だい?」

 

 

「私は今、とても幸せです」

 

 

「……そっか」

 

それを聞いて、私の胸の中が、すごく温かくなった気がした。

10年前のあの時(白騎士事件)から……ううん、"自分と周りは違う"と感じ始めた時から、失ったと思っていたものを、感じた気がしたんだ。

 

「今日はもう試合は無いんでしょ? 一緒にお昼御飯食べよう! 今日はくーちゃん初勝利のお祝いに、束さん奮発しちゃうぞー!」

 

「え、ええ?」

 

「食堂で何頼んでもいいよー! 『本マグロてんこ盛り丼』でも、『満漢全席体験フルコース』でも、『マッカラン 12年』でも!」

 

「いえそんな……というか、最後のはお酒です束さま」

 

「ナイスツッコミ! さ、行こ行こ」

 

心中を見破られないようにしながら、私はくーちゃんを連れて校舎内の食堂に連れ立って行ったのだった。




クロエって原作でも出番多くない上に、戦闘シーンがほぼないので、すっげぇ難産でした。

本音、初戦敗退。これは予測可能回避不可能。

束が原作からどんどん離れていってるけど……原作崩壊タグ付いてるからヨシッ!


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第159話 学期末トーナメント~2日目~

さらっと2日目です。


学期末トーナメント2日目。

2日目ともなると、生徒達も来賓が大量にやってくる状況に慣れてきたのか、前日よりスムーズに開催準備が進んでいた。

 

「それで、初戦敗退したりったんはここにいると~」

 

「お前もな」

 

1日目で敗退した生徒は、全員が観客席に座って今日の試合を観戦していた。

そこには俺の他にも、当然の如くのほほんがいた。

のほほんが負けた理由は簡単だ。

 

「榴散弾をばら撒き過ぎて、開始10分で弾切れとか……」

 

「たはは~……張り切り過ぎちゃった~」

 

ボーデヴィッヒのカノン砲ほどではないにしても、榴散弾には結構な効果範囲はあるはずなのに、どうして弾切れまでに仕留められない?

 

「それで、最後かなりんに特攻されて負けちゃったんだよね~」

 

「やっぱお前、閉所以外じゃ戦えないな」

 

「そういう機体にしたの、りったんでしょ~」

 

「俺そんな機体にした覚えねぇからな!?」

 

なんで俺が悪いみたいになってんだ? 解せぬ。

 

「あっ、次の試合、せっしーとかんちゃんみたいだよ~」

 

「とうとう一夏ハーレムも専用機持ちとぶつかったか」

 

その相手が簪というのも残酷な話だが。

ほら見てみろ。オルコットの奴、悟ったかのように微笑のまま顔が固まってるぞ。

 

そして試合開始のブザーが鳴ったと同時に、瞬時加速でオルコットの目の前まで近づいた簪は

 

――ガッ!

 

「ひぃっ!」

 

「メメントモリ、起動」

 

「ひょえぇぇぇぇっ!!」

 

……淑女が出しちゃダメな悲鳴をオルコットに出させて、あっという間に試合が終了した。

 

「これはひどい」

 

「かんちゃん、それはないと思うな~……」

 

仮にも一国の代表候補生を、開始10秒で沈めるとか……。英国の威信とやらが心配になっちまうぞ。ちなみに、俺も初戦でこれを食らったりしてる。

 

「こんな試合、これからも見ることになるのかな~……?」

 

「簪が勝ってる間は見ることになるだろうな」

 

「それ、決勝まで見続けることになるって意味だよね~……」

 

言うな。簪だって万に一つ、いや、億に一つぐらいで負ける可能性だってあるだろ。……俺は全く信じてねぇが。

 

ーーーーーーーーー

 

管制室で試合内容を見ていた私と山田先生は、お互い口元を引き攣らせていた。

 

「織斑先生……」

 

「言うな、山田先生」

 

ゴーグルの件でも冷や汗ものだったが、やはり更識妹の武装禁止を撤回したらこうなったか……。

 

「というか、開幕メメントモリ以外使ってないんだが……」

 

「瞬時加速が速すぎて、誰もメメントモリを回避出来ないんですよね……」

 

更識妹は昨日の初戦の宮下から先ほどのオルコット戦まで、全て瞬時加速→メメントモリで勝利しているのだ。

……これ、撤回する必要あったか? 全然武装使ってないだろ。

 

「えっと、なんでも解禁されたGNコンデンサーのエネルギーを、全てスラスターの推力に回してるんだとか」

 

「ああ、なるほど。それで誰も回避出来ない瞬時加速が出来上がったのか」

 

手品の種は分かったが、それでどうこう出来るものでもあるまい。

 

ちなみにオルコットだが、更識妹に速攻で倒されたことで、戦々恐々としていたらしい。

 

『更識さんが相手とはいえ、あんなにあっさり倒されるなんて……女王陛下に何と言って詫びれば……』

 

……その後、当の女王陛下から『オルコット嬢は悪くない。相手がミズ・サラシキでは仕方ない』という旨の通信を受け取って安堵したとか。

更識妹、英国女王にすら災害みたいな扱いをされているぞ。

 

「現時点で宮下、布仏、オルコットが脱落か」

 

「はい。1学年は、これから専用機持ち同士の戦いになりますね」

 

「だな」

 

このまま順当に進めば、次は凰とボーデヴィッヒがぶつかるか。

そういった意味では、一夏は運がいいな。位置的に、準決勝まで専用機持ちとぶつかることはないのだから。

とはいえ、油断すれば訓練機に倒される可能性があるのが今年のトーナメントだ。訓練量で機体性能差をある程度埋められることが、今回証明されたからな。

 

「次の試合は……凰さんとボーデヴィッヒさんですね」

 

山田先生の声で視線を向けると、先ほど予想していた組み合わせがモニターに映っていた。

 

ーーーーーーーーー

 

1学年が専用機持ちの潰し合いになり始めた頃、2学年や3学年はどうなっているかというと

 

「会長が怖いっスぅぅぅ!」

 

「だぁれが怖いですってぇ!」

 

逃げ回るフォルテちゃんを、私が蒼流旋に付いているガトリングガンで追い回す構図になっていた。

 

「というかフォルテちゃん、ギリシャのお偉いさんも見てるんだから、今日ぐらいは面倒臭がらずに試合しなさいって!」

 

「え~? めんどいっス」

 

「も~! これじゃあお姉さんがフォルテちゃんをイジメてるみたいじゃない!」

 

「そうなると、何か問題があるっスか?」

 

 

「陸君への心証が悪くなる! そうなると頭撫ぜてもらえない!」

 

 

「ここに来て惚気っスかぁ!?」

 

 

私にとっては結構重要なのよ、頭撫ぜてもらえないことは。

 

「というかフォルテちゃん、貴女がちゃんと本気で戦ったら、いいことあるわよ」

 

「いいことっスか?」

 

 

「生徒会長権限で、ダリル・ケイシーに膝枕してもらえる権利を」

 

 

「やってやるっスよぉぉぉ!!」

 

 

さっそくコールド・ブラッドから、いくつもの氷塊が私目掛けて飛んできた。チョロい。

 

ーーーーーーーーー

 

「更識お前どういうつもりだぁぁ!?」

 

何勝手にオレがフォルテに膝枕することになってるんだよ!? 普通にフォルテからお願いされたやるっての!

 

「ダーリル! よそ見してて良いのかなー?」

 

――ドドドドドッ!

 

「うおっ! あっぶねぇな!」

 

アサルトライフルの連射を躱しながら、オレもお返しとばかりに、火炎弾を対戦相手のクラスメイトに飛ばす。

 

「おっと! 危ない危ない」

 

「ちっ! 簡単に避けやがって」

 

「それを言うなら、アンタだってこっちの攻撃当たってないじゃないの」

 

「これでも一応、代表候補生なんでな。だからそう簡単に倒されてはやれねぇんだ、よ!」

 

――ブォンッ

 

「あぶなっ!」

 

くっそ! 不意打ちの双刃剣(エスコート・ブラック)も躱しやがるかっ!

 

「ダリルのヘル・ハウンド、頑張って研究したからねぇ。ここらで下剋上じゃー!」

 

そう言って、空振った方と反対側から攻め込んで来るが――

 

「甘ぇ!」

 

――ボンッ!

 

「うわっつぁぁぁぁ!?」

 

ははっ、馬鹿め! さっきの火炎弾、一発だけ撃たずに背後に隠してたんだよっ!

 

「もらったぁぁぁ!」

 

――ガァァァンッ!

 

再度薙ぎ払った双刃剣が、相手のSEを削り切った。

 

「あっちゃ~、最後に下手打ったぁ」

 

「何言ってんだよ。昨日もそうだったが、こっちもハラハラしっぱなしだ」

 

去年の学年別トーナメントまでは余裕で勝ち上がれてたのに、今年に入ってから色々おかしくなってやがる。

いや、原因は分かってる。あの1年坊主(宮下陸)が色々やり始めてからだ。

 

「3年の専用機持ちはオレだけだからいいが、1年は大荒れなんじゃねぇか?」

 

それが的中していることをオレが知ったのは、試合後に別アリーナの試合をモニターで見た時だった。

 

いやこれ、どうなってんだよ?

 

ーーーーーーーーー

 

トーナメント2日目は、1年と2年で専用機持ち同士がぶつかり合う試合が発生した。

その結果、1年は英国と中国とドイツが。2年はギリシャが途中敗退となったのだった。

 

「ああもう! 更識にならともかく、ラウラに負けるとか悔しい!」

 

「なら私の代わりに、顔面メメントモリを食らいたかったか?#」

 

「ごめん」

 

3回戦でボーデヴィッヒに勝ってたら、次の試合で簪のメメントモリを食らってたのは凰だったからな。

ていうか、どうしてそこで謝る。

 

「メメントモリって、顔面以外に撃てないの~?」

 

「ぶっちゃけ、胴体にくっ付いてれば手足にも撃てるんだが」

 

簪の思い込みなのか、頭部以外に使ってるところ見たことないな。……念のため、今晩改めて言っておくか。




のほほんも敗北者じゃけぇ……。前話でも書きましたが、のほほんが勝ち上がる光景が想像出来ませんでした。

本日の犠牲者①、セシリア。もはや鉄板。

2年と3年の試合。専用機持ちが少ないからか、意外と平和……でもない。書いといてなんですけど、これイベント後にIS適性測り直したら、絶対何人か1段階とか2段階上がってそう。

本日の犠牲者②、ラウラ。「もしかしたらラウラ…アンタとあたしが…逆だったかもしれねェ…」


次辺り、最近出番のないマドカを出したいねぇ。


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第159.5話 マドカのトラウマ、そして反省会

今年は例年以上に暑い日が続いています。
みなさんも、シシカバブみたいに熱中症で倒れないように注意しましょう。
(訳:先日は更新できなくてすまねぇ)


学期末トーナメントと言われ、所詮学生のおままごとと思っていられたのは、1日目の1回戦目が始まるまでだった。

 

「う~ん、やっぱマドっちの壁は高かったかぁ」

 

「当たり前だ。これでもテストパイロットをやるぐらいなのだからな

 

「そうだけど、もっとやれると思ったんだけどなぁ」

 

勘弁してくれ。

煙幕からの瞬時加速による特攻なんて、2度も3度も食らいたくない。

 

それもこれも、あの宮下がVRゴーグルを1人1台作って配布したからだ。

そのせいで連中、まるで墜落を恐れないバーサーカーと化している。

 

 

 

「どう思う?」

 

「いや、どう思うって……勘弁してくれっていうのには賛成だけど」

 

2日目の昼休み。珍しく一夏と食堂で一緒になったので、愚痴ってみたらこの反応だ。

 

「さすがにバーカーサーは言い過ぎだろ。みんながみんな、特攻してきたわけじゃ……」

 

「いや、一夏。今回はマドカの言うことが正しいぞ」

 

「へ?」

 

まさか篠ノ之から反論が来るとは思ってなかったのか、キョトンとした顔になった。他の連中も、首を縦に振っている。

 

「い、いやいや、そんな馬鹿な……」

 

「一夏の対戦相手が、比較的まともだっただけよ。現にシャルロットは一番酷い目に遭ってるし」

 

「はぁ? シャル?」

 

「そう、だね……どうしてみんな、ショットガン持って特攻かけてくるんだろうね……」

 

ああ、デュノアがさっきの試合を思い出したのか、目のハイライトが……

 

「あと気にしなければならないのは、更識だな」

 

「あ、ああ……」

 

「ちょっとラウラ! セシリアがフラッシュバック起こしちゃったじゃないのよ! ってマドカも!?」

 

「とうっ!」

 

――ビシッ

 

「っ! はっ! 私は一体……!?」

 

一瞬意識が遠くなった気がしたが、気のせいか? あと、首筋がうっすら痛い。

 

「はっ! わたくし、一体……」

 

オルコットもか。一体何があったのか……。

 

「というか、それでアンタ、次の試合大丈夫なの?」

 

「次の試合? そういえば対戦相手を調べてなかったな……」

 

凰に言われて、端末から午後の対戦カードを見た私は――

 

「……オワタ」

 

「マドカ!?」

 

「あ~……」

 

「これは……」

 

このまま進むと、午後の2戦目は更識だった……。

 

ーーーーーーーーー

 

オルコットさんを倒して昼食を挟み、午後の試合でボーデヴィッヒさんを下した次の相手は……

 

「(ガクガクブルブル)」

 

「えっと……」

 

ライフルを持つ手が小刻みに震えている、サイレント・ゼフィルスだった。

まだ私を怖がってるみたいだけど、もうどないせいと……。

 

そして重要なのが、もうすでに試合開始のブザーが鳴ってることだ。

 

「あのぉ、もう攻撃していい?」

 

「(ガクガクブルブル)」

 

反応がない。ただの屍のようだ。

 

「あ~……」

 

仕方ない、ここは早く仕留めて、楽にしてあげよう。

そう思って巡行速度で近づき、メメントモリを使おうとした瞬間

 

 

「IS学園、バンザァァァァァイッ!!」

 

 

「ファッ!?」

 

なんか大声上げて、ライフルの先端についた銃剣をこっちに向けて突っ込んできたんだけど!?

 

「うぉぉぉぉぉっ!!」

 

「怖っ!」

 

銃剣持ったISが、奇声上げて突っ込んで来るぅぅぅ!

 

「い、いいい、行って! ファング!」

 

全力で後退しながら、このトーナメントで初めてメメントモリ以外の武装を使った。けど

 

 

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

 

「うっそぉ!?」

 

ええ!? ファング10基の攻撃を全回避したの!?

しかも、そのまま勢いを落とさず突っ込んできたぁ!

 

 

「貫けぇぇぇぇぇ!!」

 

 

雄叫びと共に突撃するサイレント・ゼフィルス。こうなったら……

 

「こうなったら仕方ない」

 

私は拡張領域から、()()()()()()武装を展開した。

 

――ボンッ!

 

「グレネードランチャーだと? その程度!」

 

 

――べちゃぁぁ……!

 

 

「なぁっ!?」

 

私がグレネードランチャーから撃ち出した特殊弾頭は、サイレント・ゼフィルスに回避される前に破裂し、ゲル状の物体をばら撒いた。

そのゲルをサイレント・ゼフィルスが浴びて1秒も経たずに、青いゲルが灰色に変色すると同時に固まり始める。

 

「う、動かない!」

 

関節部に流れ込んだゲルが硬化したのか、突撃姿勢のままスラスターで浮いているのがやっとの状態になっていた。

 

「な、なんだんだこれは!?」

 

「陸が作った武装。本音が封印指定してた(第32話)のを、コッソリ持ち出した」

 

『かんちゃぁぁぁぁぁぁぁんっ!!』

 

本音の怒号が聞こえた気がしたけど、たぶん気のせい。

 

「それじゃあ、そろそろ終わらせよう」

 

「あ、あああ……」

 

武装だけならまだしも、本体の関節が動かなければどうしようもない。

バイザーで顔が見えないけど、怖がってるんだろう。早く解放してあげないと。(使命感)

 

ーーーーーーーーー

 

「はーい、それでは今日の反省会を始めまーす」

 

学期末トーナメント2日目が終わった夜、寮の部屋で俺は宣言した。

 

「えっと……」

 

「どういうこと?」

 

そんな俺を、更識姉妹は不思議そうな顔をして見ていた。

 

「まず刀奈」

 

「え、私?」

 

「『オレをダシにすんじゃねぇ!』と、アメリカの代表候補生(ケイシー先輩)から苦情がきた。なぜか俺に」

 

「それは、陸君が私の保護者だから?」

 

「誰が保護者じゃい!」

 

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「あがぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

久々のアームロックが刀奈を襲う! いや、なんで手前の女にアームロックかけなきゃならんのだ。

 

「うぅ……懐かしき激痛だったわ……もう思い出したくないけど」

 

「まったく……ただ、サファイア先輩のやる気を出してくれたってことで、ギリシャ政府の役人からは感謝された。なぜか俺が」

 

「やっぱり、陸君が保護者……」

 

「(ギロリッ)」

 

「イエ、ナンデモナイデス」

 

冷や汗垂らしながら目を逸らすな。そうなるぐらいなら言うなバカタレ。

 

「そして簪」

 

「私?」

 

――バッ! ギュッ!

 

 

「あびゃびゃびゃびゃびゃ!!」

 

 

俺が覚えてる分じゃ初めてじゃねぇか? 簪相手にアームロックかけたのは。

 

「うう……お姉ちゃん、こんなの毎回受けてたんだ」

 

「昔はな。懐かしいなぁ、初めて刀奈にアームロックをかけたの」

 

「なんかいい雰囲気で言ってるけど、普通に酷かったからね!?」

 

何を言う。あの時(第3話)は、お前が煙に巻くようなセリフを並べてたからだろ。

 

「そして簪、お前がどうして粘着弾頭を持ってんだ? あれ、のほほんに言われて封印してたはずなんだが?」

 

「えっと……」

 

「目を逸らすな」

 

そう言いながら、俺の手には麻縄と掛け布団が。

 

「り、陸? その手に持ってるのは……」

 

「お・し・お・き・だ」

 

 

「にゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

抵抗虚しく、簪は俺の手によって簀巻きにされると、2つに再度分離させたベッドの片方に転がされた。

 

「そんじゃ寝るか」

 

簪を転がした方と別のベッドに寝っ転がると、刀奈をちょいちょいと呼んだ。

 

「えっ、簪ちゃんは?」

 

「簪はこのまま。刀奈はアメリカからの抗議分とギリシャからの感謝分、功罪を相殺して残りはアームロックで完済だ」

 

「あ、そういう」

 

「むぐぐぐ~!?(私だけこのまま!?)」

 

簀巻きにした時一緒に猿轡をかました簪が何か言ってるが、おしおきだから仕方ない。

 

「それとも、今日は簪と一緒に寝るか?」

 

「ううん、陸君と寝る♪」

 

「むぐ~ぐ~!?(お姉ちゃん!?)」

 

姉の裏切りに目を見開く簪。それを見ないようにしながら俺の横に寝っ転がる刀奈。どこで勝敗が分かれたのか。

 

「それじゃ、明かり消すぞ」

 

「おやすみ~」

 

「むぐ~!」

 

今度は釣れたてのエビのように飛び跳ねる簪だったが、途中で力尽きたのか、明かりを消してある程度経つと静かになった。

 

 

「織斑、まーたトラウマが増えてねぇといいなぁ……」

 

 

今日の試合を思い出して、俺は心の中で、織斑家に手を合わせるのだった。




マドカ、珍しく一夏と飯を食う。大体がクラスメイトと食べてましたからね。そして今回は、ハイライトが消えるキャラが多いなぁ……。

マドカ、精神的に追い込まれて簪に特攻をかける。なお、突撃時のセリフに意味はありません。

簪、封印指定を勝手に解く。後日のほほんに怒られろ。

という前に、オリ主に怒られる。刀奈もやらかしてますが、本文にある通り功罪どちらもあるので、こんな感じになりました。


次回が最終日、になるのかなぁ。


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第160話 学期末トーナメント ~3日目 前編~

今回は端から分割です。


トーナメント3日目。ここまでで、1学年約120人が8人にまで絞られた。

アドバンテージのある専用機持ちだらけと思われるかもしれないが、そこはトーナメント。専用機持ち同士の試合もあったため、1年生のトップ8の内、専用機持ちは4人だけになっていた。

 

 

 

「かんちゃぁぁぁん……」

 

ほんへ(本音)いひゃいいひゃい(痛い痛い)!」

 

朝飯時の食堂、目の下に隈を拵えたのほほんは、開幕簪の両方の頬を引っ張り始めた。

 

「あの粘着弾頭、封印って言ったの、覚えてるよね~……?」

 

普段のヘラヘラ顔が、今は織斑先生ですら逃げ出しそうな鬼の形相になっている。俺も怖くて近寄れねぇ。

 

「マドっちのサイレント・ゼフィルスについた粘着物、あれを剥がすのに整備科のみんながどれだけ苦労したか知ってる~……?」

 

ひょ()ひょれは(それは)……」

 

ギリギリという音が聞こえて来そうなぐらい、力一杯頬を引っ張るのほほん。簪は半泣きからガチ泣きに移る寸前だ。

 

「りった~ん……」

 

「お、おう!?」

 

なんか俺に矛先が来たー!?

 

「りったんからかんちゃんには、ちゃんと言ったの~……?」

 

「お、おう。一応お仕置きで、一晩簀巻きにして転がしておいた」

 

あと、打鉄弐式の拡張領域を強制査察して、危なそうなものは全て没収しておいた。だから簪、サイクロプス・ボムをくすねるのをやめろ!

 

「そっか~、なら、りったんはいいや~……」

 

怒りの矛先が、再度簪に戻る。あ、危なかった……。

それと同時に、簪の両頬を引っ張っていた手を放す。

 

「うぅ……痛い……」

 

「かんちゃぁぁん、次()()使ったら――」

 

「つ、使ったら?」

 

 

「前当主様に告げ口して、本家にある『仮○ラ○ダー Blu-ray限定BOX』を燃えないごみの日に捨てちゃうよ~」

 

 

の、のほほん、それはさすがにライン超えだ……!

ほら見ろ、簪の顔が完全に青褪めてる!

 

「そ、それだけは……」

 

「なら、今日の試合はどうすれば分かるよね~?」

 

「はい……申し訳ございませんでした……」

 

床に膝から崩れ落ちて、そのままのほほほんに向かって土下座に移行していった。

 

「これ、剥離剤とか作っといた方がよかったか?」

 

どうせ封印されたもんだと思って、放置してたからなぁ。

 

「それを先に考えてよぉぉぉぉ!」

 

――ドスンッ!

 

「ほごぉっ!」

 

ガチ睡眠不足ののほほんが繰り出すボディーブローが、俺の鳩尾を抉った。そして俺の意識も綺麗に抉り取られた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「ということがあった」

 

「「知らんがな」」

 

アリーナに向かう途中、食堂で見かけたことを箒とシャルに話したら、この反応だった。

 

「というか一夏、そんな宮下君達を心配してる余裕ないでしょ?」

 

「そうだぞ。なにせ準決勝で私と当たるのだからな」

 

「あれ箒、もう僕に勝った気でいるの?」

 

俺が今日の準々決勝に勝てば、箒とシャルで勝った方と戦うことになる。だからシャルの言う通り、箒のセリフはまだ早い。というか箒、シャルに喧嘩売るなよ。

 

「むぅ~……!」

 

「ぐぬぅ……!」

 

 

「お前達、何をつまらんことをしている!」

 

 

――バンッ! バンッ! ヒュッ

 

「いったぁ!」

 

「っ~!」

 

「あっぶな」

 

俺達の脳天を攻撃(俺はギリギリ回避)した方を見ると、千冬姉が出席簿で肩を叩きながら立っていた。やっぱ今のは出席簿アタックだったか。

 

「それほど元気が有り余っているなら、試合前に校庭ランニング100周ぐらいしてくるか? んんっ?」

 

「いいえ!」

 

「結構です!」

 

千冬姉に睨まれた二人が、直立姿勢で返事をする。ランニング100周とか、逆に試合前に体力切れになるだろ。

 

「まったく……それならさっさとアリーナへ行け」

 

「はい!」

 

「分かりましたぁ!」

 

「おいちょっと! 待てよ二人とも!」

 

いくら千冬姉が怖かったからって、俺を置いてくのかよ酷くねぇか!?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

本音に酷い目に遭わされながらも、学期末トーナメント最終日の試合が開始された。

 

なんでも、このトーナメントでは非公式(生徒会長黙認)のトトカルチョが行われているらしい。

3学年は唯一の専用機持ちであるケイシー先輩一択で、ほとんど賭けが成立しなかったらしい。そのため、1位から3位までを当てる3連複式になったんだとか。競馬か。

2学年はお姉ちゃんとサファイア先輩のどちらが1位になるかという感じだったらしいけど、2日目でサファイア先輩が脱落したから、ほぼお姉ちゃんの勝ちが固いらしい。

そんな中、1学年は専用機持ちが多いからか、こちらがトトカルチョの本命……にはならなかったらしい。

 

「本当はかんちゃんに賭けたかったんだけどね~。『更識さんが負ける光景が想像出来ない』ってことで、2位以下を当てる方式に変わったらしいよ~」

 

「ええ~……」

 

「もうこれ、簪がバケモノ枠になったってことか」

 

「私バケモノじゃいないもん!」

 

思わず叫んでいたけど、他に食堂にいた生徒からの視線は冷たかった。解せぬ。

 

 

と、とにかく、この準々決勝はちゃんと戦って――

 

「棄権しまーす」

 

「なんでぇ!?」

 

「昨日のマドっちみたいにトラウマ作りたくないでーす」

 

「やめてぇ!!」

 

まるで私がトラウマ製造機みたいな言い方しないでぇ!?

 

 

『生徒会から補足しておきます。1年4組の織斑マドカさんですが、今はカウンセリングを受けており、PTSD等は発症していないとのことです』

 

 

「虚さぁぁん!?」

 

その放送、いらないよね!? むしろ私の風評被害を助長してるよね!?

怒ってる!? 昨日私が粘着弾頭使ったから怒ってる!?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「うん」

 

「知ってた」

 

隣のアリーナで行われるはずだった試合結果を聞いた僕と箒は、さもありなんと声を揃えた。

 

「それにしても、虚先輩もなかなかやるな」

 

「いやぁ、あれ完全に私怨混ざってるよ」

 

アリーナに入場して試合開始直前なのに、すごく和やかに話してるなぁ僕達。

 

そう考えていたら、試合開始のブザーが鳴った。

 

「それじゃ箒、一夏との対戦カードは僕がもらうよ」

 

「たわけが、渡すわけがないだろう」

 

それだけを言い合うと、レーザーとライフル弾の応酬が始まった。

 

「それっ!」

 

「当たるかっ!」

 

高速切替からのショットガンを、いとも簡単に避けられた。改修時に一度戦っているからか、動きが読まれている気がするなぁ。

 

「穿千!」

 

「甘いよ!」

 

だけど、それはこっちも同じだ。肩部の装甲が変形してからエネルギー・ビームを射出するまでのタイムラグさえ知っていれば、楽々回避できる。

 

「やはり、一度手の内を晒し合っていると面倒だ」

 

「箒もそう思う?」

 

「ああ。だが、私にはまだ奥の手が残っている」

 

「へぇ?」

 

奥の手、一体何があるって言うんだろう?

 

「食らえっ!」

 

拡張領域から何かを取り出して投げつけて来た。なんだろう、何かのカード? そんなヒョロヒョロ飛んでくるの、簡単に避けて――

 

 

「一夏の小学生時代の水着写真だ!」

 

 

「な、何だってー!?」

 

 

それを回避するなんてとんでもない!!

思わずキャッチした写真(今時珍しい、フィルムから現像したもの)を見ると

 

 

「か、可愛ぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

今の一夏はカッコいい系だけど、エコール・プリメア(小学校)時代の一夏はちょっとやんきゃっぽくて、そこが可愛い!

 

――ガンッ!

 

「ごはっ!」

 

うん、僕だって分かってたさ。試合中にこんな隙だらけの状態を見せたらどうなるかって。

でも、でもこれは見なきゃいけないって思ったんだ!

 

 

「我が生涯に、一片の悔いなし……!!」

 

 

掴んだ写真だけは離さず、僕は箒に落とされた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

『試合中の不正行為により、篠ノ之箒選手は失格となります。また、シャルロット・デュノア選手は試合続行不能のため、準決勝は織斑一夏選手の不戦勝となります』

 

「箒ぇ……」

 

放送を聞いて、俺は脱力した声を上げていた。

準々決勝でクラスメイトの鏡さんを下して、どっちと戦うのか気になっていたらこれだよ……。

 

「しかもこれで、俺が更識さんと戦うことになるのか……」

 

今頃第1アリーナでは、準決勝の相手にメメントモリを叩き込んでいるんだろう。

あれが俺に……嫌だなぁ……。

 

 

 

この時は、本当にそう思ってたんだよ……。




簪、のほほんから怒られる。というか、整備科を代表して怒られてますね、これ。そしてオタクに限らず、コレクションを捨てられるのが一番ダメージでかいです。

簪、対戦相手に逃げられる。さらに虚の追撃。もう簪の(精神的)ライフはゼロよぉ!

箒vsシャル。さすが箒、汚い。


次回、もしかしたら中編が挟まるかも。


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第161話 学期末トーナメント ~3日目 中編~

はい、見事に中編になってしまいました。


学期末トーナメントの各アリーナの来賓席では、昨日と打って変わって笑いに包まれていた。

 

「な、なんだあの試合はww」

 

「実にティ、ティーンエイジャーらしいとは言えるが……ww」

 

「何をやっているんだ、シャルロット……」

 

「我が国の代表候補生になって、最初の公式試合でこれとは……」

 

各国の政府関係者が腹を抱えて笑っている中、日本政府の役人と、デュノア社社長であるアルベール氏はため息を付いた。

その日仏でも、アルベールは『仕方ない娘だなぁ』というニュアンスなのに対し、日本政府の役人は頭も抱えていた。

 

「しかしこれで、"1人目"が決勝進出したわけですな」

 

「ああ、あのブリュンヒルデの弟君か」

 

「当初は姉の七光りという話でしたが、最近ではそこそこ使()()()という噂らしいですよ』

 

「ほう。そうなのですか、ミスタ・アルベール?」

 

室内の視線が、アルベールに向く。

 

「ええ。娘から聞いた話では、他の専用機持ちとの模擬戦でも、白星を取れる場面が出て来たとか」

 

「そうなのですか」

 

「これは、()()よりも彼を代表候補生にするべきでしたかな?」

 

「いや、それは、あはは……」

 

他国の軽い嫌味に対して、日本側は言い返せなくなっていた。

 

しかし、とアルベールが話題を切る。

 

「どちらにせよ、ミズ・サラシキに勝てるとは思えませんな」

 

「サラシキ……ロシア国家代表の?」

 

「違いますよ李委員(中国さん)。その妹さんです」

 

「あ、ああ。『魔王』の方でしたか……」

 

「『魔王』……中国でもそう呼ばれ始めているんですか……」

 

簪は知らない。各国の政府関係者内で、自分が『魔王』『専用機狩り』『終末の破砕者』などと呼ばれていることを。

 

(私は関係ない、関係ないぞぉ……)

 

そして一社長であるアルベールも、知ってはいるが聞かなかったことにした。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

束さまの応援もあって、なんと私が準決勝にまで駒を進めてしまいました。

ですが、さすがに次の対戦相手が悪すぎです。

 

「えっと、クロニクルさんは棄権しないよね?」

 

「はい。出来る限り、全力で戦わせていただきます」

 

「良かったぁ……!」

 

普通、相手の棄権による不戦勝は喜ぶべきことなのに、なぜか対戦相手、更識簪さんはホッと胸をなでおろしていた。

……今更私と戦ったところで、貴女が『バケモノ』なのは変わらないと思いますが。

 

「それでは、参ります!」

 

「うん!」

 

ブザーと同時、私のアサルトライフルの掃射から試合が始まった。

そんな簡単に当たるとは思っていませんが、とにかく開幕瞬時加速からのメメントモリさえ潰せればOKです!

 

「さすがにこれだけやれば、警戒されちゃうか」

 

「ええ、貴女は専用機持ちの中でも最要注意人物ですから」

 

「脅威に思われてるのは分かってたけど……解せぬ」

 

何が解せぬですか。織斑マドカ以外を試合開始10秒以内に沈めた貴女を、要注意人物と言わずなんと言えと。

 

「それじゃあ陸にも怒られたし、メメントモリ以外も使おう」

 

「え?」

 

なぜでしょう、すごーく嫌な予感が……。

 

 

「山嵐、全弾発射!」

 

 

――ズドドドドッ!

 

「っ!」

 

そうだった! 打鉄弐式の武装には、48基のマルチロックオン・ミサイルがあるんでした!

というより、そもそもこっちが弐式本来の武装と聞いていました。それなのに失念していたとは……!

 

ドォォンッ!

 

「くはっ!」

 

大半はアサルトライフとマシンガンの掃射で迎撃出来ましたが、残りの数発を食らってしまい、さっそくSEが3割近く削られてしまいました。

ですが

 

「まだまだぁ!」

 

近接ブレードを展開して、ミサイルの爆炎に隠れて接近――!

 

「残念だけど、それには引っかかってあげられない」

 

――ドドドドッ!

 

「きゃっ!」

 

荷電粒子砲……じゃない!? これは……!

 

「榴散弾……!」

 

布仏さんと同じ榴散弾も撃てるの!?

 

「びっくりした? 本音しか使わないから、私は使わないと思った?」

 

また失念……! 同じ荷電粒子砲なら同じ弾種も撃てるって、すぐ気付けたはずなのに……!

それにしても

 

「私ごときに、こんなに手の内を見せて良かったんですか?」

 

「いやその、あんまりワンパターンすぎて、陸や織斑先生に怒られたから……」

 

「……」

 

いえ、そんな煽り文句みたいなことを、怯えた顔で言われても……。

 

「それでも、私は最後まで戦います!」

 

先日束さまに言ったように、全力を出すと。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

そうは言っても、専用機と訓練機の性能差を引っ繰り返すのは無理難題。

少しずつSEを削られ、私は絶体絶命のところまで追いつめられていた。

 

(SE残量、残り1割……あと1回、大きな攻撃を受けたら終了ですね……)

 

「偉そうな物言いになっちゃうけど、クロニクルさんすごいよ。弐式に直撃を入れるなんて」

 

前置き通り傲慢なセリフですが、更識さんの言うことは正しいです。

このトーナメントで、更識さんは一撃も受けることなく完勝しているのですから。

そういう意味では、マシンガンを数発当てた私は大金星なのかもしれません。けど……

 

「それで満足しては、束さまの娘として誇れません……!」

 

どう考えても分が悪いですが、最後の賭けで接近戦に――!

 

「受けて立つ!」

 

更識さんも山嵐を撃つつもりなのか、ミサイルポッドが展開され

 

――シーン……

 

「……え?」

 

ポッドから何も出て来ないせいで、更識さんの目が点になっていた。

 

「チャンスです!」

 

近接ブレードを振り上げた私に対し、更識さんが最後に口にした言葉が

 

 

「ミサイルの補充されてない!? 虚さぁぁぁぁぁぁん!?」

 

 

だった。

 

……束さま、こんなのでも、勝利と呼べるのでしょうか?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あはははははははっ!」

 

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!」

 

観客席で、俺と束は腹を抱えて笑うしかなった。

今頃放送室では、虚先輩がのほほんから折檻を受けているんだろう。いつもとは逆の構図だ。

 

「粘着弾頭使われて腹が立ってたからって、ふ、普通整備に手ぇ抜いちゃうかなぁ!?」

 

「た、たぶん無意識だと思うぞ? さすがにあの虚先輩が私怨でとか……いやあるか! あははははっ!」

 

ホント、もう笑うしかない。

なにせ優勝候補筆頭の簪が、こんな理由で準決勝敗退したのだから、番狂わせもいいところだ。

 

「でもいいのか、束?」

 

「ん? 何が?」

 

「決勝戦、一夏とクロニクル、どっちを応援するんだ?」

 

「そんなの……はっ!」

 

腹を抱えていた束は、ガバッと客席から立ち上がった。

 

「そうだよ! 旦那様と娘、どっちを応援すればいいの!?」

 

さっきまで大笑いしてたのに、今じゃ頭を抱えて右往左往している。こいつも変わったなぁ。

 

「さて、そろそろ……」

 

 

「り゛く゛ぅぅぅぅぅぅ!!」

 

 

「げふっ!」

 

か、簪……せめてハグする瞬間は勢い落としてくれや……。

 

「負けたぁ……」

 

「残念だったねぇ、決勝まで行けなくて」

 

「うぅ……最悪、国家代表を降ろされなければ……」

 

「降ろされないでしょこれは」

 

「でもこれ、簪が装備を自分で点検してればこうはならなかったのでは?」

 

「うぐっ!」

 

俺の指摘に心当たりがあったのか、簪が胸の中で矢が刺さったような声を上げた。

普段から、のほほんや虚先輩に任せっきりだったが故の失態だったな。

ああっ、分かった分かった。頭撫ぜてやっから、俺の制服で鼻水かもうとすんな。

 

「そ、それにしても、クロニクルさんは強かった」

 

簪ー、話を逸らそうとすんなー。

 

「本当に本当。IS学園に入ってから半年も経ってないのに、これだけISを乗りこなせるとは思わなかった」

 

「すごいでしょー!」

 

束、お前が威張ってどうする。いや、娘の良い所を見せびらかしたい母親心理ってやつか。

 

 

『これからお昼休憩に入ります。決勝戦は午後の1時半からの開始となりますので、みなさま――』

 

 

おっ、刀奈の声か。きっと虚先輩が使い物にならなくなったから、試合が終わって急いで放送室まで走ったんだろう。わずかに息が上がってた。

 

「クロニクルを回収しながら、学食行くか?」

 

「そうだねー、いこーいこー!」

 

「う~……(俺の背中に回っておんぶ)」

 

そうしてアリーナの出入り口でクロニクルと合流した俺達は、校舎内の学食に向かって歩き出した。

 

 

クロニクルと手を繋ぐ束に、簪をおんぶする俺。

 

 

なんだこの構図は……!?




箒とシャル、来賓から笑われる。そりゃ、あんな負け方(失格)したら、ねぇ?

簪は魔王。絶対何かしら二つ名付けられてそうだったので。

クロエ vs 簪。そしてまさかの勝敗。だって、このまま順当に簪が勝ったら、一夏一瞬で負けちゃうやん?(さも予定調和かのように)


次回、決勝戦 クロエ vs 一夏

あ、やばい。一夏イジメたい。


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第162話 学期末トーナメント ~3日目 後編~

台風のせいで、空港に一泊しました。

学期末トーナメント、ラストです。


「簪様ぁぁぁ申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!!」

 

決勝戦前の昼飯は、虚先輩の土下座から始まった。

 

「あ、あの、虚さん? 周りの迷惑になるから」

 

「はい……」

 

とりあえず簪が執り成して、虚先輩を席に座らせる。

 

「それに虚先輩、現時点でものほほんに絞られたんじゃないですか?」

 

「それは……ええ、久々にあの子がキレてるところを見たわ。それにお嬢様からもお説教を……」

 

あ、刀奈からも怒られたんだ。どうりで右横に座る刀奈とのほほんの目が冷たいわけだ。

 

「そりゃあ、簪ちゃんの黒星が、まさか虚の整備不良が原因だって言うから、ねぇ?」

 

「お姉ちゃん、†悔い改めて†」

 

「おい馬鹿やめろ」

 

のほほんのやつ、どんどんダメな方向に堕ちていってやがる……!

 

「それで、決勝で一夏と戦うことになったわけだが、意気込みはどうだ?」

 

俺達5人が座るテーブルの隣で、束と一緒に定食を食っていたクロニクルに話を振ってみた。

 

「意気込みですか……これまで通り、全力で戦うだけです」

 

「いいよくーちゃん! ああでも、いっくんの応援……いやでも、それは箒ちゃんに任せるべきか……ああぁ!」

 

「簪ちゃん、あれって……」

 

「夫と娘、どちらの肩を持つか悩んでる図」

 

「そうなるよね~」

 

頭を抱えてヘッドバンギングする束を見て、俺達は腕を組んでうんうんと頷いた。

 

「た、束さま……」

 

そんな中、クロニクルだけが心配そうにしながら、束に声を掛けようとして失敗していた。

 

ん~……そうだ!

 

「クロニクル」

 

「はい?」

 

「ちょっと話があるんだが……」

 

どうせここまで番狂わせになったんだ。さらに面白くしてやろうじゃねぇか。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一方、別のテーブルでは――

 

 

 

「箒さん……」

 

「シャルロット……」

 

「アンタ達ねぇ……」

 

「「うぅ……」」

 

セシリア達によって、箒とシャルが半ば吊し上げに遭っていた。

少しやり過ぎな気もするが、正直俺も今回は庇えそうもない。

 

「物で釣るなんて、それが箒さんの武士道とやらなんですの?」

 

「ひぐっ!」

 

「それに釣られるシャルロットもシャルロットだ。代表候補生として恥ずかしくないのか?」

 

「ぬあぁ!」

 

「そして双方負け判定……アンタ達馬鹿ぁ!?」

 

「「ぴぎゃぁ!!」」

 

ああ、すっげーボコボコにされてる。特に最後の鈴でとどめを刺されたのか、二人とも椅子から力なくずり落ちていった。

 

「まぁ、終わったもんは仕方ないわよ。それに、一夏の対戦相手もすっごいグダグダだったみたいだし」

 

「ああ、それな……」

 

まさか、決勝戦で戦う相手がクロエさんとは……。

てっきり更識さんだと思って、メメントモリを食らうのかと絶望してたのに。

 

「方や失格負け、片や整備不良で負けるとは……」

 

「織斑先生もエドワース先生も、今頃頭抱えてるわよ、きっと」

 

箒とシャルの件で千冬姉が、更識さんの件で4組担任のエドワース先生が、それぞれ後でお小言もらうんだろうなぁ。担任って大変だな……。

 

「そ、それで一夏、クロニクルとはどう戦うつもりだ?」

 

おっ、箒が復活した。

 

「一夏さんには零落白夜の他は、左腕のハンドガンしかありませんし……」

 

「ラファール相手なら尚更、接近戦を仕掛けまくるしかないわね」

 

「やっぱそうだよなぁ……」

 

空飛ぶ武器庫とも言われるラファールに、俺が遠距離戦を挑むこと自体間違いだろうから、近接一択だな。

 

「とにかく、やれるだけやってやるさ」

 

そう言うと、カレールーのかかってない(サクサクがいいから最後まで残してた部分の)カツを口に入れた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

お昼休みを挟んで、とうとう決勝戦が始まろうとしています。

 

「貶すわけじゃないけど、まさかクロエさんが最後まで勝ち残るとは思ってなかったよ」

 

「構いません。私も正直、ここまで勝ち残れるとは思ってもいませんでしたから」

 

第1アリーナの中央で向き合う織斑さんに、私も同意しました。

というか、誰も想像してなかったでしょう、あの更識さんが負けるなんて。

 

「いっく~ん! くーちゃ~ん! 両方頑張れ~!!」

 

「束さん、俺の方も応援してくれてるのか」

 

「かなり悩んでました」

 

……『やっぱりどっちか選ぶとか無理~!!』という結論を出した末ですが。

 

「束さんも、変わったなぁ……」

 

苦笑する織斑さんが雪片弐型を展開するのに合わせて、私も重機関銃(デザート・フォックス)を展開しました。

 

 

そして、最後の試合開始のブザーが鳴りました。

 

――ドドドドドッ!

 

「くっそ! やっぱ近づけさせてはくれないか!」

 

「当然です! 貴方は更識さん以上に接触厳禁ですから!」

 

「正しいんだけど、なんか傷つくなぁ!?」

 

エネルギー無効化能力を持つ零落白夜は脅威です。ですが逆に言えば、零落白夜の効果範囲にさえ入れなければ問題ありません。

このまま、重機関銃の弾幕で……!

 

「だけど俺だって!」

 

――ドンッ!

 

「瞬時加速! それぐらいなら!」

 

「もういっちょぉぉ!」

 

――ドンッ!

 

「ま、まさか!」

 

そう声を上げた時には、雪片の有効範囲にまで接近を許していました。

 

――ザンッ!

 

「ぐぅっ!」

 

零落白夜ではないですが、装甲外を斬られたせいでSEが……。

それにしても、あの機動は……

 

「瞬時加速の途中で、さらに別方向へ瞬時加速をするなんて!」

 

「ぶっつけ本番だったが、なんとか上手くいったな」

 

「今のを、即興でやったというのですか……!?」

 

なんて、適応力の高さ……!

当初は遠距離からダメージを蓄積させようと思っていましたが、むしろ長期戦は不利になるかもしれません……!

 

「こうなったら……」

 

「おっ、そっちも切り札を出すのか?」

 

「はい。正直、使うかどうか迷っていましたが……」

 

それでも……いえ、ここが使い時です!

そうして、決心した私が展開した武装を見て

 

「え……」

 

織斑さんの顔が、固まっていました。

気持ちは分ります。私もこの武装を渡された時は、目が点になってましたから。

気付けば、観客席も静まり返っていました。

 

右腕から伸びる、21の薬室を順次点火して弾頭を撃ち出す砲身。そして左肩には、円筒形の冷却装置。

多薬室砲とでも言うべき武装が、私のラファールに装着されています。

 

「えっと……クロエ、さん? その武装は……」

 

「宮下さんと束さまの力作です」

 

「束さあぁぁぁん!? 陸もぉぉぉぉぉ!!」

 

「そして撃ち出す弾頭も、新型とのことです」

 

『きっと面白いことになる』とのことでしたが、どう面白いのでしょうか?

 

「もうヤダぁぁぁぁぁ!!」

 

お二人からの説明を復唱すると、織斑さんが頭を抱えて空中で悶えていました。まるでエビのように。

 

「それでは……」

 

「え、本当に撃つの!? ちょっと待った! 待って待って! は、話せば分かる!!」

 

何か織斑さんが言いたそうでしたが、構わず私はこの大型砲(ヒュージキャノン)の引き金を引いて

 

 

 

 

 

 

 

 

次の瞬間、あらゆる音と光が消えました。

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

学期末トーナメントが終了した後、私はピットから出てきたくーちゃんを出迎えていた。

 

「くーちゃん、優勝おめでとー!!」

 

「あ、あの、束さま……」

 

ん? どしたの? せっかく優勝にしたのに、あんまり嬉しそうじゃないね?

と思ってたら、くーちゃんの後ろから

 

「たぁぁぁばぁぁぁねぇぇぇ……」

 

「ひぃ!?」

 

今まで見たことがないくらい目が据わってるちーちゃんがががが……!

し、しかもその左手には

 

「り、りったん……」

 

「……」

 

白目を剥いて、ちーちゃんに首根っこを掴まれてるりったんが……

 

「あ、あの~、ちーちゃん?」

 

「なぁ束ぇ、あのふざけた砲撃はなんだぁぁぁ?」

 

めっちゃガラ悪っ! もう訊ね方が893のそれなんだけど!?

 

「えっと、くーちゃんが撃った『フレイヤ』のことかな~……?」

 

「そうかそうか。フレイヤという名前なのかぁ」

 

「あ、あれはりったんが作った弾頭でぇ、束さん、あんまり詳しくは知らないかな~って……」

 

「ふんっ!」

 

――ガコンッ!

 

「いったぁぁぁぁぁ!! ちーちゃん骨! めちゃくちゃ頭蓋骨が軋む音したんだけど!!」

 

 

「直撃を食らった白式はコアを残して全装甲と武装が消滅! さらに余波でアリーナ中央に巨大なクレーター! 貴様ら一体何考えとんじゃぁぁぁぁ!!」

 

 

「痛い痛いいたぁぁぁぁぁい!!」

 

「あ、あの、織斑先生、それくらいで……」

 

くーちゃんが庇ってくれようとしてるけど、今のちーちゃんには聞こえない。

これで『あのフレイヤ、リミッター付いてたんだよ』とか言ったら、一体どうなっちゃってたんだろう。

 

 

「また国際IS委員会の爺共に呼び出されるの確定だぁぁぁぁ!! もう嫌だぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

あ、本音はそれなんだね。




虚さん、渾身のDOGEZA。そしてクロエに対して、オリ主の悪乗りが……。

クロエ vs 一夏。 前回の予告通り、一夏を主任砲でイジメてみました。しかも弾頭はフレイヤ(リミッター付)。
ちなみに、最初は一夏のISスーツも消滅する(文字通り丸裸にする)予定でした。けどさすがに公衆の面前でそれは、ねぇ?

ちーちゃん、魂の絶叫。久々にノルマ達成。



次回新章……というか、最終章の予定です。
3学期始まった時、今章で終わりとか言ってたな。あれは嘘だ。(すまん)


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残党襲撃~卒業式
第163話 トーナメント後の後始末


新章かつ、最終章予定になります。

やめるやめる詐欺にならないよう、頑張ってスパートかけていきます。



試験的に行われた学期末トーナメントは、大方の予想を思い切り裏切った結果となった。

 

優勝候補だった更識簪は3位(篠ノ之箒とシャルロット・デュノアがそれぞれ失格負けと試合継続不能だったため、3位決定戦は行われなった)に終わり、決勝戦で専用機持ちである織斑一夏を、訓練機に乗ったクロエ・クロニクルが下して優勝したのだから。

もちろん様々な奇跡(過失)があっての優勝ではあったが、勝ちは勝ちである。

そのため、彼女の所属する1年1組はその晩、学生寮の食堂で祝杯を上げたのだった。

 

そんな中、大会後も仕事に追われる者たちがいた……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――IS学園、整備室

 

「終わった~!」

 

「こっちもだ~」

 

そう言って整備室の床に倒れ込んだ俺と束の目の前には、修復の終わった一夏の白式が鎮座していた。

 

決勝戦の後、鬼の形相をした織斑先生からボディスラムを食らってからの記憶がない。

気付いた時には、束と一緒に首根っこを掴まれて、この整備室に投げ込まれていたわけだ。

 

『お前達が壊した白式だからな。お前達で直せ』

 

たぶん、入学してから一番怖い人相してたなありゃ。

 

「それにしても、想定より威力高くなってなかった? あの弾頭」

 

「束もそう思うか? やっぱヒュージキャノンで撃ったのが不味かったかぁ?」

 

単発で試験した時は、メメントモリ程度の威力に収まってたんだが……変な相乗効果が起こっちまったか?

もしあれだけの威力になるって知ってたら、クロニクルに渡してなかったんだが……失敗だったな。

 

「それにしても、ISってのはすげぇな。ある程度こっちで直したら、あとは向こうが自動修復してくれんだから」

 

「でしょー? それでも、今回みたいなのは最後にしたいよ。こっちで直さなきゃいけないほどのダメージって、結構よろしくないから」

 

「まあ、そうだろうな」

 

人間に例えれば、事故って自然治癒力じゃどうしようもない怪我したから、手術しますって感じだからな。そう何度もやるもんじゃない。

 

「お前達、ちゃんとやって……なんだ、もう直ったのか」

 

床に倒れたまま声のする方を向くと、逆さまになった織斑先生が。

 

「寝っ転がってこっちを見るな。スカートの中が見える」

 

――ブォンッ!

 

「あっぶな!」

 

なにこの教師! 普通生徒の顔面目掛けて蹴り入れてくるか!?

間一髪起き上がって回避してなかったら、ヒールの爪先が鼻っ面に突き刺さってたぞ!?

 

「それで?」

 

「今の危険行為に対する弁解はなしですかそうですか。とりあえず、白式の自己修復能力で直るレベルにまでは持っていきました」

 

「修復が終わるまで、どれだけかかる?」

 

「そうですね……ざっと2日ってところですか。なぁ束?」

 

「そうだね~。大体それぐらいかな?」

 

俺の大体予想に、束も同意する。

 

「そうか。明日は休校予定になっているから、明後日の授業までには間に合いそうだな」

 

「ああ、そうだったそうだった」

 

「ただ宮下、お前は休みではないぞ」

 

「へ?」

 

なして? Why?

 

「お前には、フレイヤだったか? あのバケモノ兵器でアリーナに開けたクレーターを埋める作業があるからな」

 

「ファーッ!? あれ俺一人で埋めるんですか!」

 

「当たり前だ。言っておくが、更識姉妹や織斑達に手伝わせるなよ。お前一人で直せ」

 

「マジっすか……」

 

あのクレーターの大きさからして……間違いなく、明日一日丸潰れだな。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

織斑先生に拉致られた陸が寮の部屋に戻ってきたのは、日付が変わる直前だった。

 

「それで、明日も作業することになったの?」

 

「ああ。織斑先生が言ってることも、あながち間違いじゃねぇからな」

 

「篠ノ之博士やクロニクルさんに手伝ってもらうのもダメなの?」

 

一応、共犯者と実行者ってことになると思うんだけど。

 

「クロニクルはダメだな。フレイヤのことを全部話した上で使ったならともかく、あの時はただの新型弾頭としか説明してないからな」

 

「そうねぇ。それで使用責任を追及するのは酷ってものね」

 

陸の説明にお姉ちゃんも同意する。確かに全容を知らずに使ったのなら、仕方ないかぁ。

 

「束はむしろ、こっちで穴埋めするより大切な仕事があるからな」

 

「大切な仕事?」

 

 

「織斑先生と一緒に、国際IS委員会のところに行く仕事」

 

 

「え?」

 

「博士が、織斑先生と一緒に?」

 

お姉ちゃんと私、一緒になって目が点になった。

あの博士が、IS委員会に呼ばれた織斑先生に付いていく? なんの冗談?

 

「ちなみに拒否った場合は、娘のクロニクルを代わりに連れていくと言って脅してたな」

 

『酷いよちーちゃん!!』って泣いてたと聞かされて、私はどんな顔をしたらいいのか……。

 

「まあ博士には、トーナメントでのことの他に、太陽光発電受信アンテナについても説明してもらう必要があったしね」

 

「ああ、先日本格稼働させたんだっけ?」

 

「そうよ。で、学園を運営してる日本政府には説明済みなんだけど、IS委員会の方々も説明を求めてきてね」

 

「面倒くさそう」

 

「簪ちゃん……」

 

うん分かってる。外じゃ言わないから。

 

「そういえば、2学年は刀奈が優勝したんだったよな」

 

「そうよぉ。さぁ、お姉さんを褒めていいのよ?」

 

「いや、褒めるって……」

 

「だって~、陸君にはまだ褒めてもらってないんだも~ん! 頭撫ぜて撫ぜて~!」

 

「簪はやったのか……」

 

「うん……」

 

お姉ちゃん、私達しかいない時は幼児退行してる気がしてならない。

 

「まぁ、刀奈も頑張ったのは事実だからな。やってやるか」

 

そう言うと、陸はお姉ちゃんに近づいて……

 

「よしよし」

 

「あ、あうぅ……///」

 

ほ、本当に頭撫ぜてる……そしてお姉ちゃん、すっごい顔真っ赤。

 

「今更頭撫ぜただけで、どうしてそうなるよ」

 

「そ、そうだけどぉ……///」

 

お姉ちゃん、あざとい。

 

「俺、明日もお仕事だからもう寝るわ」

 

「あらら……。私達も今日はもう寝ちゃいましょうか」

 

「うん」

 

ベッド(また2つをくっ付けた)に、3人一緒に横になった。うん、やっぱりこの形がいい。

 

「陸君を独り占めするのもよかったけど、やっぱりこの形が一番しっくりくるわね」

 

「そうか? まあ、簪がまた簀巻きにならなければ……」

 

「もう簀巻きは勘弁」

 

平行世界にいた時は我慢できたけど、すぐ近くに陸がいるのに別々で寝るとかもう無理。

 

「昨日簀巻きになってた分、陸成分を摂取する」

 

「あら、なら私も」

 

「頼むから、そのまま大岡裁きみたいにしないでくれよ……」

 

大岡裁きって、子争いのやつだっけ? 子供の腕を両方から引っ張るって話。さすがにそこまではしない……よね?

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――ラビット・カンパニー 社長室

 

「やっと終わったわね~……」

 

「ああ、ホントやっとだぜ」

 

オータムから渡されたコーヒーカップを受け取ると、私は一息付いてから黒い液体を飲み込んだ。ああ~、カフェインが頭に染みるわ~。

 

「IS学園へのアンテナ設置も終わって、私らもお役御免か」

 

「そう思うでしょ?」

 

残念ながら、あの紫兎は私達を解放するつもりがないらしいわ。仮に解放されても、古巣(亡国機業)は文字通り亡国になっちゃったから、帰る場所もないんだけど。

 

「あの博士、今度はIS技術を使った、地上と低軌道領域の往来船を作るらしいわよ」

 

「往来船って、スペースシャトルでも作るのか?」

 

「それにISのPICを付けた物らしいわ。なんでも、宇宙空間に物資を上げる際に、打ち上げ用のロケットもマスドライバーも要らなくなるんだとか」

 

「はぁ……相変わらず、頭のいい奴の考えることは分からねぇわ」

 

頭を掻きながらコーヒーカップに口をつけるオータム。

私も正直、全体の半分ぐらいしか分かってないわ。でも、あの博士の頭の中では勝算があるんでしょうね。

 

「それでも、今すぐにって話じゃないんだろ?」

 

「ええ。往来船の概要を国連に提出するらしいけど、それも来年度以降の話よ」

 

「国連? なんでまた」

 

「『好き勝手動いてるわけじゃない、一応筋は通してます』って建前作りのためらしいわ」

 

「建前作りか。あの博士がねぇ……」

 

オータムの言う通り、私も違和感があるわ。あの篠ノ之束が、私達と同じように立ち回ってるなんて。あの小娘(クロエ)の身内にしたって聞いてるし、そういうものなのかしらね。

 

「とにかく、すぐの話じゃないってんなら、私らのすることは決まってるな」

 

「そうね」

 

ええ、やっと特大プロジェクトが終わったんだもの。なら、やることは決まってるわ。それは――

 

 

「「グルメ! 温泉! エステ!」」

 

 

年末年始の連休でも使い切れなかった代休を、ここで一気に放出するわ! 4泊5日の旅行よ旅行!

 

「オータム、準備は?」

 

「問題ない」

 

自信満々に、いつかと同じように私に端末の画面を見せる。

 

 

「老舗とは言えねぇが、口コミで高評価だった旅館を予約済み。天然温泉露天風呂付の部屋を取ってあるぜ!」

 

 

「結構! 大変結構!」

 

「というわけで、さっさと帰って荷物をまとめちまおうぜ」

 

「ええ、そうしましょう」

 

こんな、温泉一つでワクワクしてるなんて、亡国機業にいた時ではあり得なかったわね。でも……

 

「今の方が、生きてるって感じがあるわね」

 

「ん? なんか言ったか?」

 

「いいえ、何でもないわ。さあ、残りをちゃちゃっと片付けて帰りましょ」

 

「ああ」




オリ主と束、白式の修復作業。元々白式は束が作ったんだから、束(+オリ主)が直すべきでしょう。倉持に持って行っても無駄ですし。(スッパリ)

刀奈、えらいえらーい。

スコール&オータム、一仕事終わる。この二人、気付けばギャグ枠から癒し枠になってるなぁ……。


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第164話 面倒事

牛歩進捗。

8/21追記
なぜあとがきで誤字るんだ……。


学期末トーナメントの翌日。IS学園の生徒達は休校となったこの日、思い思いに寛いでいた。

ある者は朝食後に2度寝を決め込み、またある者は友人たちと連れ立って学園の外へ出かけて行った。

 

そんな中、第1アリーナに出来たクレーターの周りでせっせと働く影と、それを眺める影が。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そんなわけで、俺は朝から土方の兄ちゃんよろしく、タンクトップにニッカズボンという恰好でクレーターの穴埋めをしていた。

 

「陸、がんばー」

 

「せっかくの休みなのに、お前も酔狂だな」

 

「陸がここで作業してるし、お姉ちゃんもなんか忙しそうだったから。本音も駆り出されてるくらいだし」

 

「のほほんが? ってことは生徒会絡みか」

 

マジで忘れそうになる……というかほぼ忘れてるが、のほほんも生徒会役員なんだよな。却って邪魔になるから召集されないだけで。

そんなのほほんも駆り出されるとなると、よほど忙しいんだろう。

 

「虚先輩がいても回らないくらい忙しいのか」

 

「虚は今回動いてないわよ」

 

突然話に加わってきた声の方を向けば、ピットから刀奈がこっちに向かって歩いてきていた。

 

「様子を見に来たんだけど、さすがに陸君一人じゃ終わってないわよね」

 

「そりゃあな。織斑先生を拝み倒してなんとか陰流の使用許可はもらったけど、それでも午前中には終わんねぇよ」

 

なにせ、ピットを出てから歩いて10歩もないところにクレーターの縁があるのだから。つまり、そんだけでかいクレーターなわけで、それを埋めるとなったらえらい時間がかかる。

穴埋め用の土が入った麻袋が壁際にうず高く積まれているのを、えっちらおっちら運ぶのが重労働なんだよなぁ。これで陰流が使えなかったら、今日中に終わらんだろうな。

まあ、俺の肉体労働の話はいいとして

 

「それで、虚先輩が動いてないってのは?」

 

「あら陸君、今何月だと思ってるの?」

 

「何月って……」

 

もう少しで、2月も半分が終わる……ああっ

 

「そうか、卒業式」

 

「正解。来月で虚はIS学園を卒業するのよ。その式の準備を、虚にやらせるわけにはいかないでしょ」

 

「それもそうだ」

 

むしろ、そんな虚先輩をギリギリまで生徒会で働かせてたのかよ。

 

「というより、そんな虚さんをギリギリまで働かせてたの……?」

 

「か、簪ちゃん、視線が痛いわぁ……」

 

簪も同じことを思ってたらしい。そんな簪の視線から逃げるように、刀奈は話題を逸らす。

 

「そ、それよりも、ちょっとキナ臭い話があってね」

 

「キナ臭い話?」

 

「ええ」

 

そう言うと、冷や汗を垂らしていた刀奈の顔が、真剣なものに変わる。

そんな話、ここでしちまっていいのか?

 

()()()はしてあるから、盗み聞きとかの心配はないわ」

 

刀奈がそう言うからには、出入り口に立ち入り禁止の立札を置いただけとかはないだろう。

おそらく、更識の手の者を配置してるんだろうな。

 

「用意周到なことで。それで?」

 

「私達がイギリスから戻って来た時に、女性権利団体が壊滅したのは覚えてるわよね?」

 

「ああ、あれな」

 

「本部が崩壊して、各国で大捕り物になったんだよね?」

 

どこかの国の刑務所が女権団で満杯になったっていう、冗談のような話もあったよな。しかも事実らしいし。

その影響で、親が女権団にいた生徒が中退していったんだよな。特に1年3組はそういう女尊男卑主義者がそこそこいたらしくて、そいつら全員辞めてったんだと。

 

「そうね。簪ちゃんの言った通り、それで関係者の大半が刑務所行きになったんだけど……」

 

「その言い方から察するに、全部が捕まったわけじゃないんだな?」

 

「ええ。女権団の中でも特に過激派な面子が、行方を眩ませたの」

 

あの頭パーな連中の中で、さらに過激派? ほぼテロリストじゃねぇかそれ?

 

「それで最近になって、その過激派連中の足取りが分かったのよ」

 

「どこ?」

 

「自由の国(笑)」

 

「アメリカか……」

 

アメリカと言えばハッキング事件の時にやり合ったから、あんまいい印象ねぇんだよなぁ。ケイシー先輩には悪いけど。

 

「アメリカって、秋に学園に侵入してきたって……」

 

「その時返り討ちに遭った組織と、どうも手を組んだらしくてねぇ」

 

「マジか……」

 

それを聞いて思い出すのは、事後処理の話を織斑先生から聞いた場面だ。

 

 

 

『もう一度確認するが……これはお前が()()()のか?』

 

『ええ、俺がやりました』

 

『そうか……』

 

学園の地下区画で話す俺と織斑先生の周囲には、未だ飛び散った血と肉片の後が残っていた。

侵入者の死体()()()()()はすでに運び出されていたが、

アメリカは関与を否定し、遺体の受け取りを拒否した。当然か。受け取れば、自分達が襲撃を指示したと認めるようなもんだし。

そして身元を示すものが何もない以上、受取人不在の身元不明者として処理するしかないだろう。

 

 

 

「どっちからも恨まれるわなぁ……」

 

思わずため息をついていた。

片や所属する組織を壊滅させられ、片や部隊員を膾切り。そりゃヘイトも集中するわ。

 

「陸、大丈夫?」

 

気付けば、簪が俺の顔を覗き込んでいた。

 

「平気、ではないな。少し気が滅入ってる」

 

「でしょうね……ごめんなさい、私があの時、しくじってなければ……」

 

そう言って悲しそうな顔をする刀奈の頭を、そっと撫ぜる。

刀奈の言う"あの時"というのは、おそらく俺が侵入者を斬り捨てた時のことを言ってるんだろう。

 

「気にすんな。聞いた話じゃ、元々俺は命を狙われてたらしいからな。結局敵対する運命だったんだ」

 

束の話では、あのハッキング事件でアメリカは女権団と手を組む際に、俺の殺害を女権団から要求され、それを承諾したらしい。

それを聞いて、『そん時から恨まれてたのかよ……』と頭が痛かった記憶がある。

 

「あはは……気が滅入った陸君をお姉さんが慰めるはずが、私が慰められちゃった」

 

撫ぜていた手を退けると、刀奈は撫ぜていたところを手で押さえて『えへへ』と笑う。ぬぅ、可愛いじゃねぇか。

 

「お姉ちゃん、あざとい」

 

「ちょっと簪ちゃん!?」

 

だから簪、ジト目はやめとけ。癖になったら困るぞ。

 

「それで、その危ない連中が何かやらかすと?」

 

「そ、そうなの。ウチ(更識)の分析では、1か月以内に行動を起こすと予測しているわ」

 

「1か月か……最悪、卒業式に何か仕掛けてくる可能性もあるな」

 

「学園祭まで、何かイベントがあると襲撃されてた」

 

「簪ちゃんの言う通りなのよねぇ……」

 

『はぁ……』と俺達3人、示し合わせたわけでもないのにため息がハモる。

 

「まあ、いつ来るか分からん面倒事について悩むより、今は目の前の面倒事を片付けるか」

 

気合を入れ直してまた穴埋め作業に戻ろうとしたら

 

 

 

 

さっきまであったはずのクレーターが、綺麗になくなっていた

 

 

 

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

目の前の光景を処理し切れず、誰も声を発せない。

そしてしばらくして、辛うじて正気を取り戻した俺の口から最初に出たのは

 

「……は?」

 

だった。

 

( ゚д゚) ・・・

 

(つд⊂)ゴシゴシ

 

(;゚д゚) ・・・

 

(つд⊂)ゴシゴシゴシ

 

(;゚ Д゚) …!?

 

いつの間にか、陰流の待機状態が解除されていた。それはいい。よくないが。

だが、これは……

 

 

「「「キェェェェェェアァァァァァァウゴイタァァァァァァァ!!」」」

 

 

陰流が、誰も乗ってない陰流が動いてるぅぅぅぅ!?

 

『マスターがお話し中の間、わ、私が代わりにやっておきましたー』

 

「ソフィアー!?」

 

え、なに? お前が陰流動かしてんの!? というか、わざわざオープン・チャネルで話しかけてこんでも!

 

「コア人格だけで、ISって動かせるのね……」

 

「パワーアシスト機能とか考えれば、理屈では可能だと思うけど……」

 

簪と刀奈にもソフィアーの声が聞こえたのか、口元を引きつらせていた。

 

『マスター、私頑張ったので、ご、ご褒美欲しいです』

 

「コア人格からお強請りされたんだが。いや、確かに頑張ったのは認めるが」

 

俺の代わりに、クレーターの穴埋めやったからな。

 

「そもそもコア人格にご褒美って、一体何が欲しいんだよ?」

 

『そ、それはですね――』

 

 

『フンスッ( ง ᵒ̌∀ᵒ̌)ง⁼³₌₃ 陰流のオーバーホールと、コア磨きをお願いします!』

 

 

「……お、おう」

 

意外と普通だった。

 

「午前中は穴埋めで終わると思ってたから、ソフィアーが作業して浮いた分の時間でやるか」

 

『(*ノˊᗜˋ*)ノワーイ』

 

「ぐぬぬ……!」

 

「簪ちゃん、ソフィアーちゃんに嫉妬したら色々終わりだと思うわ……」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

束さんだよ~。さっきまで国際IS委員会とかいう連中に話をしてたんだけど、もう限界~……。

 

「ほら、しっかり歩け」

 

「だってちーちゃん、あいつら話通じないんだも~ん」

 

『それは○○とはどう違うのかね?』とか『△△の実現性は~』とか、知ったかで話の腰を折るなっての!

お前らの知ってることが世界の全てじゃねぇんだよKUSOGA!

 

「これならまだ、いっくんに説明してた方がいいよ」

 

「一夏に話したところで、1割も理解できんだろうがな」

 

「そだね」

 

それでもいっくんなら『へ~すごいですね~』って言ってくれるし。下手にイチャモン付けれられるよりはよっぽどいいよ。

 

「ねぇちーちゃん、もうお昼だし、どこかで食べてから帰ろーよー」

 

今、IS委員会日本支部とかいう場所にいるんだけど、ここからIS学園に戻ってたら束さん、お腹が減って動けなくなっちゃうよ~。

 

「お前という奴は……適当なドライブスルーでいいな?」

 

「ええー? おっ、キッチンカー発見!」

 

「あ、おい! 束!」

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

あのキッチンカーは当たりだったね。タコス美味し!

 

「出来れば動き出す前に、一言言って欲しいものなんだがなぁ?」

 

「んもー、ちーちゃんってば、あんまり怒ると眉間の皺が取れなくな(ゴンッ!)痛ぁ!」

 

ゲンコツは普通に痛いってぇ! 乱暴だなぁ!

 

――♪

 

「あれ、りったんからだ」

 

どうしたんだろう?

 

「アリーナの穴埋めが終わらなくて、泣き言でも言いたくなったか?」

 

「いやいやまさか……もすもすひねもすぅ~。どうしたのりったん?」

 

……

 

「ん~、これから学園に戻るちーちゃんに付いてくから、そっちで見せてよ。うん……りょ~かい」

 

なるほどなるほど。まったく、りったんの周りは面白いことで溢れてるよ。

 

「宮下のやつ、どうかしたのか?」

 

「さっきまでアリーナの穴埋めしてたらしいんだけど――」

 

 

「陰流のコア人格が、勝手に機体を動かしたんだって」

 

 

「……」

 

今さっきりったんから聞いた話をしたら、ちーちゃんは深呼吸をし始めた。

そして

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ!!!!!!」(絶叫するビーバー)

 

 

良い絶叫! ちーちゃん、いい感じで壊れてきたね~♪




卒業式の準備中。虚が卒業したら、来年度の生徒会どうなるんだろう? 原作は一夏を拉致ったから大丈夫なんでしょうけど。

キナ臭い話。ラスボスにしてはショボいなぁ。

ソフィアー頑張る。なんか、性格がどんどん更識姉妹に寄っていってる気が……。

千冬、ビーバーになる。説明不要!


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第165話 狂気

【悲報】ネタ切れ

更新間隔空いたら申し訳ない……。


私とちーちゃんがIS学園に戻ると、りったん達は整備室にいた。

 

「ソフィアーちゃん、こんな感じ?」

 

『あ、そこの右手部分に汚れがついてるので、そこもお、お願いします』

 

「ここ?」

 

『あ~、そこです~』

 

「陸、ここ目詰まりしてる」

 

「イギリスから戻って来た時に簡易整備して以来だからなぁ。一度装甲を引っ剥がすか」

 

「うん。ソフィアーもオーバーホールって言ってたし」

 

りったんとかんちゃんが陰流の装甲を引っ剥がし始め、チェシャ猫ちゃんがISコアを艶出しクロスで磨いていた。

しかも、陰流からソフィアーの声が聞こえてくるし……。

 

「おう束、お勤めゴクローさん」

 

「織斑先生も、お疲れ様です」

 

「やーやー、なんか陰流の方から声が聞こえてきてるけど」

 

「ああ、オープン・チャネルで話しかけられるのもあれだから、適当にスピーカーを接続してな」

 

そう言ってりったんが指さすところを見ると、コネクタ部からケーブルが伸びてて、床に置いてあるスピーカーに接続されていた。

 

「ソフィアー、装甲剥がすからちょっと腕動かしてくれ」

 

『分かりましたー』

 

「おおっ!」「はぁ!?」

 

りったんが指示したら、ホントに誰も乗ってない陰流が動き出したよ! すごいすごーい!

そしてそれを見たちーちゃんが、ワナワナと震え始めたんだけど。

 

「あ、ISが独りでに動き出すなんて……」

 

「もぅちーちゃん、人が乗らないISなんて、1学期から見てるじゃん」

 

例えば束さんが作ったゴー君とかね。とはいえ、こんな風に自律して動くなんて思っても見なかったけど。

 

「あ、ああ、そうだったな……。しかし、ISが自律行動をするのは問題な気が……」

 

「う~ん、ソフィアーが勝手に待機状態を解除して、学園内で暴れ出す可能性が」

 

『しませんからね!? そんなことやりませんからね!?』

 

「本当か?」

 

『万が一、いいえ億が一があっても、その時はドクターが強制停止コードを――』

 

「しー! ソフィアーしー!」

 

ちーちゃんの前で何バラそうとしてんの!? せっかく束さんが隠してた、群咲が持つ強制介入能力『コード・ヴァイオレット』のことを!

 

「束」

 

「黙秘権を行使しまーす。あと弁護士……は自己弁護出来るからいいや」

 

「ったく……とにかく、もしお前(ソフィアー)が暴走しても、束が止められるんだな?」

 

『は、はい。よほど我の強いコア人格でもない限り、ドクターの命令は優先的に処理されます』

 

「我の強いコア……」

 

ソフィアーの話を聞いて、りったんとチェシャ猫ちゃんが同じ方向を向く。

 

「えっ、ええ!? どうして私を見るの!?」

 

慌てるかんちゃん。

 

「打鉄弐式のコア人格、間違いなく我ぁ強いだろ」

 

「ええ、あれは博士の命令を聞くとは思えないわね」

 

「そんな……そうかも」

 

言い返そうとしたけど、自分も納得しちゃったみたい。

それにしても、かんちゃんの打鉄弐式のコア人格、どんななんだろう?

 

「それじゃ、試しに命令してみよー。ポチッとな」

 

「おい束!?」

 

ちーちゃんが止めようとした時には、すでに弐式にコードを送っていた。さてさて、どうなるかな――

 

 

『警告! 攻勢防壁を感知! 打鉄弐式からのカウンターアタック――』

 

 

「っ!?」

 

まずい! と思った時には、群咲に張り巡らせていた電子防壁が全て破壊されていた。あ、あっぶなぁ……。

 

「どうした束、酷い顔になってるぞ」

 

「酷い顔って……もう少し言い方ないのかなぁ……?」

 

ちーちゃんが私の顔を覗き込んできた。あのちーちゃんが心配そうに見てくるなんて、よほど私の顔は強張ってるんだろう。

 

「ちーちゃん、もうかんちゃんを敵に回すのは止めた方がいいよ……」

 

「は?」

 

「束さん、もう打鉄弐式の相手したくない。いっくんとの子供産むまで、まだ死にたくない」

 

ポロっと本心が出ちゃった。

アメ公が自慢してるスパコンが100台束になっても突破出来ない電子防壁が、10枚全部やられるなんて思いもしなかったよ。

一体どんな進化の仕方をしたら、あんな狂暴になるのやら……。 そして早くいっくんとの子供欲しい。

 

「何言ってるんだお前は! え? 本当にそこまでヤバいのか?」

 

怒鳴った次の瞬間には目が点になったちーちゃんの視線が、かんちゃんの方へ。

 

「やっぱそうなったか……」

 

「簪ちゃん……」

 

 

「私は悪くない!(ランディさん!? シャーリィ!?)」

 

 

みんなの視線に耐えられなくなったかんちゃんが吼えるけど、もはや手遅れかな~って。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

――アメリカ中西部、米軍特殊部隊『名も無き兵たち(アンネイムド)』基地

 

米国防総省のデータベースにも存在しない極秘部隊の基地に、ある時から部外者が居座っていた。

一時は世界を席巻していた女性権利団体。その残党の中でも、とりわけ過激派とされる者達である。

彼女達は団体崩壊後、追及の手を逃れるために地下に潜伏していたが、最近になってこの"亡霊部隊"と合流したのである。

 

本来であれば、秘匿部隊であるアンネイムドが世界的犯罪者扱いされている彼女達を懐に入れる理由はない。

しかし、彼等と彼女等にはある共通点があった。

 

『IS学園への復讐』

 

アンネイムドからすれば、IS学園襲撃任務に失敗した際に部隊がほぼ壊滅。活動の縮小を余儀なくされ、下手をすれば解散の危機にあった。

国防総省のデータベースに存在しない彼等は、部隊が解散すればただの身元不明人でしかない。そのような立場に自分達を追い込んだ存在を、彼等は許せなかった。

 

女権団過激派からすれば、IS学園(正確には、そこに在籍する男性操縦者)こそが、自分達を破滅に導いた存在であると認識していた。

実際は男性操縦者の2人を殺そうとして返り討ちに遭っただけなのだが、彼女達は相手にだけ非があると、本気で思っているのが救えない。

 

「隊長も不在の今、我々が仇討ちをするしかない」

 

「帰ってくることが出来なかったアルファ、ブラボーの弔いを」

 

彼等の隊長はIS学園襲撃の際、IS『ファング・クエイク』と共に、学園に確保されている。

政治的理由によって返還要求が出来ない(してしまえば、学園襲撃をアメリカ政府が認めることになる)のなら、自分達で仲間の仇を討つ。

 

「男性操縦者なんて不要。消さなければ」

 

「消さなければ」

 

「消さなければ」

 

女権団の過激派は、同じセリフをひたすら繰り返し唱えていた。

『ISは選ばれた存在である女性が乗るべきものであり、男という汚れた存在が触れてはならない』それが彼女達の主張である。

そのため彼女達は、男性操縦者はもちろん、それを匿うIS学園も"討伐対象"と考えていた。

 

「男という汚れた存在に媚を売る愚者共にも死を」

 

「死を」

 

「死を」

 

別にIS学園の生徒や教員が、陸と一夏に媚を売っているわけではない。しかしそんなもの、彼女達には関係ない。

()()()()()()()()()()()、それだけで彼女達にとっては万死に値することなのだ。

 

「それで、準備は出来ているな?」

 

アンネイムドの隊員達が視線を向ける。その先には白衣を着た、如何にも科学者風な女が立っていた。

 

「ああ、これだ」

 

そう言って女がディプレイに表示したのは、紅椿に瓜二つな深紅のISが、この基地の格納庫に並んでいる光景だった。

1機や2機ではない。女権団過激派の全員が乗れるだけの数が揃っていた。

 

「数は?」

 

「10機だ。そっちの連中が持ってきたコア全てを使った」

 

白衣の女に話を向けられ、女権団の面々は重々しく頷いた。

本部崩壊の際、IS委員会に()()される前に()()したコア、それを使って新しいISを用意したのである。

 

「これが……」

 

「ああ」

 

 

「IS『緋蜂(あけばち)』。量産型紅椿と呼ぶべき存在だ」

 

 

「つまり、第4世代機であると?」

 

「オリジナルよりは多少劣るかもしれないが、少なくとも現行の第3世代機とは比較にならないと自負している」

 

「なるほど。さすがは元・倉持技研の第一研究所所長」

 

「ふんっ!」

 

元、の部分が不愉快に思ったのか、白衣の女は鼻を鳴らした。

 

彼女もまた、自身を破滅に追いやったIS学園に復讐(逆恨み)を望んでいる一人であった。

そのために、倉持技研で得ていた白式と紅椿のデータを盗み出し、彼等彼女等に合流したのだ。

どこかのIS企業にでも売れば、一生問題なく生きていけるだけの額が得られるデータを持ちながら。

 

「準備は整った」

 

「あとは」

 

「ええ」

 

 

『IS学園に、死を』

 

 

もはやこの基地には、狂気しか残っていなかった。




ソフィアー、ご褒美タイム。「コア外れてるのに、機体動かせるの?」と思ったそこのあなた。
(; ̄b ̄) シーッ

束、打鉄弐式にお手上げ。元ネタのシャーリィを知っていれば、納得していただけるかと。(狂暴というか残虐)

ラスボスがショボかったのでちょい盛り。原作では束が緋蜂を強奪してましたが、本作ではこいつらに用意してもらいました。


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第166話 briefing

「ネタと百姓は絞れば絞るほど出るものなり」(by 神尾春央)
もうカラッカラなんよ……。


学期末トーナメントの次の日が休校になり、俺は午前中をのんびり過ごしていた。

部活もなく、訓練をしようにもアリーナは使用不可になっていた。今頃陸が穴埋めをしている第1だけでなく、全てのアリーナがだ。

かといって、VRゴーグルは好きになれないんだよなぁ。特にあの一瞬意識が落ちるのが。

 

そんなことを考えながら、朝食の時間を過ぎた食堂でブランチと洒落込んでいた時だった。

 

「おりむ~!」

 

「のほほんさん?」

 

「助けておりむ~!」

 

食堂の出入り口から、のほほんさんがこっちに向かって走って(常人からしたら早歩き程度)来たのまでは覚えてる。

 

――ドッ

 

「へっ?」 

 

首への衝撃。あれ、これって……。

それがかつて更識さんにされた首トンと同じだと認識する前に、俺の意識は落ちた。

 

 

 

……で、生徒会室で目が覚めた俺は

 

「おりむ~、この書類よろしく~!」

 

「なんで俺、のほほんさんの手伝いさせられてるんだ!?」

 

必死に書類と睨めっこしているのほほんさんから、書類の山を渡されていた。

 

「俺、生徒会役員じゃないんだけど……」

 

「そんなこと言わずに助けてよ~! お姉ちゃんが生徒会抜けちゃったから、私も動かなきゃいけなくなったんだよ~!」

 

「虚さんが生徒会を抜けたぁ!?……ってそうか、虚さんって3年生だから……」

 

「うん、来月卒業なんだよ~」

 

そうか、もうそんな季節なんだよな。……ちょっと待てよ? そうなると、来年度から生徒会は、楯無さんとのほほんさんだけになるのか?

 

「……大丈夫か生徒会」

 

なんだろう、色んなところが破綻する未来を幻視したんだが……。

 

「大丈夫だよ~。来年から生徒会に、おりむーが入ってくれれば~」

 

「なんでさ!? 俺剣道部所属、OK?」

 

「IS学園の規則には、部活の掛け持ち禁止って書いてないよ~」

 

「い……嫌じゃ……生徒会など入りとうない………!」

 

「お、おりむ~……?」

 

はっ! あまりに拒否反応が強くて……今俺何言った!?

 

「本音~、どれぐらい片付いた――織斑君?」

 

「あ、楯無さん」

 

生徒会室のドアを開けた楯無さんは、俺のことを見つけると

 

「本音、どうして織斑君がいるのかしら?」

 

「えっと、書類処理とか手伝ってもらおうと~……」

 

「そうなの?」

 

のほほんさんから、再び俺の方に目を向けられたから

 

「食堂でブランチしてたら、首トンされて拉致られました」

 

正直に話した。

 

「お、おりむ~!?」

 

「そっか~。そうなんだ~」

 

慌てるのほほんさんに反比例して、楯無さん、ニッコニコしてるんだが。

 

 

「ねぇ、どう思う? 簪ちゃん」

 

 

「ふぁ!?」

 

楯無さんの後ろから現れた更識さんに、のほほんさんから変な声が出た

 

「本音……」

 

「か、かんちゃん~……?」

 

更識さんが近づいてくごとに、のほほんさん、震えてねぇか?

 

 

「せいっ!」

 

――ドスッ!

 

「ほげぇ!」

 

 

「モ、モンゴリアン・チョップ!?」

 

更識さんが放ったダブルチョップが刺さり、のほほんさんが勢いそのままに倒れ伏した。

 

「さ、更識さん? 今のは……」

 

「……愛」

 

「何故そこで愛ッ!?」

 

わけがわからないよ!!

 

「なんだ、騒がしいな」

 

「ほ、箒! ちょうどよかった!」

 

収拾がつかなくなってきた生徒会室に、やっとまともそうな奴が!(失礼)

 

「というか、どうして箒がここに?」

 

「会長に呼び出されてな。私だけでなく、セシリア達も後から来るぞ」

 

「そ、そうなのか?」

 

 

そんなことを言ってる間に、箒の言う通り、セシリア達が生徒会室にやってきた。

そしてケイシー先輩とサファイア先輩もやって来て、

 

「よし、全員揃ってるな」

 

千冬姉と陸が最後に部屋へ入ってきた。

この状況、エクスカリバーの時と全く同じだ。まさか……!

 

「織斑、早合点するなよ。まだ事件が起こったわけではない」

 

「え?」

 

千冬姉、俺まだ何も言ってないんだけど?

 

「いつも言ってるだろ一夏。お前はすぐ顔に出るんだって」

 

「今の嫁の顔はとても分かりやすかったな」

 

「アンタ、そこは小学校の時から変わってないわねぇ」

 

「うぐぐ……!」

 

陸だけでなく、ラウラと鈴からも追撃を食らうとは……。

 

「それで? オレ達は何のために呼ばれたんだ?」

 

「さっき私は織斑に『まだ事件は起こってない』と言った」

 

? それが?

 

「そういうことですの……」

 

ええ? どういうことなんだよセシリア。

 

「つまりね一夏。『まだ起こってない』ってことは、言い換えれば『これから起こる』ってことなんだよ」

 

「なるほど」

 

シャルの説明で、一応納得した。それならそう言えばいいのに。

 

「まったく……本題の『これから起こる事件』について説明するぞ」

 

そう言って千冬姉は、ぐるりと俺達を見回した。

 

「お前達は、女性権利団体を覚えているな?」

 

「女性権利団体……」

 

その名前を聞いて思い出すのは、2学期の終盤に起こった『エクスカリバー事件』だ。

正確には、あの事件を解決してイギリスから日本に戻った時に、その団体は壊滅したって聞かされたんだよな。

その団体は色々悪事を働いていたらしくって、本部施設の崩壊と同時に証拠がバンバン出て逮捕者が続出したって話だったよな。

 

「その女権団の残党が、以前学園にハッキングを仕掛けた連中と合流したらしい」

 

「あの時の……」

 

俺を含めた何人かの視線が、マドカの方に向く。

 

「連中の正体か? 奴らは『アンネイムド』と呼ばれていたな」

 

「アン、ネイムド……」

 

「連中かよ……!」

 

さらっと情報を話すマドカ。その情報に対して、ケイシー先輩が苦虫を嚙み潰したような顔になる。

 

「ダリル、知ってるっスか?」

 

「一応な。アメリカ国防総省のデータベースにも登録されていない、ブラックオプス(非公式作戦)専門の秘匿部隊だ」

 

「それじゃ、あの襲撃はアメリカが!?」

 

「マドカの言ったことが事実なら、そういうことになるな。だが、今言った通り連中は秘匿部隊だ。仮に捕まったとしても、政府は知らぬ存ぜぬを貫くだろうさ」

 

「なんだよそれ、それじゃあまるで捨て駒じゃねぇかよ……!」

 

ケイシー先輩の言ったことに対して、苛立ちを感じた。

自分達のために戦った兵隊なんだぞ? なのにそんな扱いをするなんて納得できなかった。いや、認めたくなかった。

 

「そしてここからが本題だが……アンネイムドと女権団の混合集団が、このIS学園を襲撃することが予測されている」

 

「「「「「「っ!」」」」」」

 

襲撃だって! そいつら、どうして学園を!?

 

「織斑先生、質問していいですか?」

 

「なんだデュノア」

 

「秘匿部隊とはいえ、アンネイムドはアメリカの部隊なんですよね? なら、政府に働きかけて止めてもらうことは……」

 

「それが出来れば良かったのだが……」

 

シャルの意見に、千冬姉は大きなため息をついた。ダメなのか? 俺もいい案だと思ったんだけど。

 

「デュノアちゃん、アンネイムドは秘匿部隊なの。表向き政府が知らぬ存ぜぬを貫くような、ね」

 

「あっ!」

 

「もし学園からの要請を飲めば、『アメリカにはアンネイムドと言う部隊がいる』と認めることになる。連中、絶対飲まねぇな」

 

楯無さんの説明に、陸が補足を入れる。

そんな理屈を通すために、この学園が襲われていいってのかよ。ふざけんなよアメリカ政府。

 

「だから現状、相手の襲撃に備えることぐらいしか出来ないのよ。情報はあるのに先手が取れないなんて、ホント腹立たしいわ」

 

楯無さんは本当に腹立たしいのか、扇子の先で机をトントンと叩き始める。

 

「それで教か(ジロッ)お、織斑先生、今回我々が集められたのは、その襲撃に対する注意喚起のためですか?」

 

「そうだ。悲しいかな、学園が襲われるのは今回が初めてではない。敵の数によっては、お前達にも迎撃に出てもらうかもしれない。頭の片隅に入れておいてくれ」

 

「「「「「「はい!」」」」」」

 

迎撃、か。

やってやるさ。俺だって今日まで訓練を重ねてきたんだ。みんなと力を合わせて、学園を守って見せる!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ぞろぞろと生徒会室を出て行く連中を見送り、最後に部屋を出て行く一夏を見て、私は不安を覚えていた。

 

(確かにお前は入学した時に比べて、格段に強くなった)

 

束が放った(であろう)無人機を倒し、VTSに侵されたラウラを救い、銀の福音と対峙して生き残り、亡国機業のエージェント(オータム)を撃退した。

こうやって事実を並べただけでも、戦歴としては十分と言えるだろう。だが、まだ足りていないものがある。

 

(一夏には、命の取捨選択はしてほしくないな)

 

敵を殺さなければ味方が死ぬことになる。そんな場面が、いつかやって来た時、一夏は選べるのか。

 

「……いや、そのために私がいるんだ」

 

一夏を、弟をそんな血塗られた道には進ませない。

ならば私が代わりに血に塗れればいい。それが私の、あいつの姉として選ぶ道だ。




一夏、のほほんに拉致られる。簪が首トンで切るなら、布仏の人間としてのほほんも出来ると思ったので。

簪、愛のモンゴリアン・チョップ。愛ってなんだ……。

一夏、憤る。正直書いてる時に、一夏とオリ主で知ってる情報がごっちゃになりそうです。『一夏その情報知らないはずでは?』と突っ込まれそうで、わりと戦々恐々してます。

ちーちゃん、覚悟を決める。大丈夫、オリ主と簪が全部始末するから。(無慈悲な暗黒笑顔


……のほほんが倒れたままなのは、気にしてはいけない。


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第167話 戦闘用意

最近、鈴もアリだなぁと思い始めたオルコッ党員です。


生徒会室で面倒事の話をした後、俺達は食堂のテーブルで昼飯を食っていた。

 

「それじゃ本音、午後も頑張ってね」

 

「うう~、かんちゃんも手伝ってよ~!」

 

「ダメよ。来年になって私が生徒会を引退したら、貴女が生徒会長になるんだから。今の内にお仕事に慣れておかないと」

 

「ファッ!?」

 

何驚いてんだのほほん。刀奈だって、3年になって生徒会長は続けられんだろう。

 

「わ、私が生徒会長~!?」

 

「本音なら、私やお姉ちゃんを倒してるから、学園最強に相応しい」

 

「ここでタッグマッチのことを掘り起こさないでよ~!」

 

あったなそんなことも。あの時は泣いて辞退したのに、結局は先送りされただけだったわけか。

 

「相変わらず、このグループは賑やかなのサ」

 

「あ、アーリィさん」

 

簪が反応した通り、パスタ皿を乗せたトレーを持ったアーリィがこっちを見て笑っていた。

なんだろう、正直久々に見た気がするな。週2のIS実習で顔を合わせてるはずなんだが。

 

「相席失礼するヨ」

 

そう言って、俺らのテーブルの空いてる席に座った。まだ許可してないんだがなぁ……。まあいいけど。

 

「それにしても、この学園も面倒事が多いネ」

 

「えっと、どういうことですか?」

 

「タテナシが調べたんだロ? 女権団と米国の秘匿部隊の件」

 

後半だけ、周りに聞こえないように小声で話すアーリィに、俺達も声のトーンを落として話す。

 

「もう話が回ってるですか?」

 

「ああ、さっきチフユから直接ネ。特に私とマヤは専用機を持ってるから、君らと同じように迎撃に回されることになりそうだヨ」

 

「そうなると、他の先生達はみんなの護衛や避難誘導に回るのかな~?」

 

「だろうネ」

 

なるほど。先生方も、今回は万全の態勢を整えてると。

学園祭、ハッキング事件、エクスカリバー。これまではいつも、事が起こってから泥縄式で対応するしかなかったからな。

 

「ダリルだっけ? あのアメリカ代表候補生。さっき廊下ですれ違ったけど、頭抱えてたヨ。『なんでいっつもアメリカなんだよ……』って」

 

「あの国は自他共に認める、人種と思想のサラダボウルだからな。それで危ない連中も集まってくるんだろう」

 

「まるで誘蛾灯みたいに言うわね」

 

「誘蛾灯……」

 

刀奈のセリフに、簪が後ろを向いた。その視線の先には

 

 

「いっく~ん」

 

「あ、あの、束さん?」

 

「姉さん! いつまで一夏とイチャイチャしてるんだ!」

 

「そうですわ! いくら篠ノ之博士といえど」

 

「「「一夏(嫁)の独占はんたーい!!」」」

 

「あっ、くーちゃん! こっちだよ~!」

 

「あ、あの、束さま?」

 

「『ママ』って呼んでよ~。でもそうなると、いっくんは『パパ』になるのかな?」

 

「「「「「ファーッ!?」」」」」

 

 

……そうだな簪、あれこそ紛うことなき『誘蛾灯』だな。

俺達5人、何も言わずに頷いていた。

 

「そ、それで、リクとカンザシに頼みがあるのサ」

 

「頼み?」

 

「なんだ、またテンペスタの改修とかか?」

 

というか、アーリィはあの超加速を御せるようになったのか? 前見た時は、ただ速いだけの猪(昔の一夏)だったんだが。

 

「違う違う。リクには教師部隊の装備を用意してほしいのサ。ほら、学期末トーナメントで使われた粘着弾頭」

 

「あれか」

 

確かにあれは、非殺傷武装としては悪くない性能だ。

 

「……それと、剥離剤もネ」

 

「分かってる。もう整備科の連中に恨まれたくないからな」

 

のほほんにボディブロー食らったあの日、他の整備科の面々にも白い目で見られたからなぁ……。俺悪くねぇのに。

 

「それと、またハッキングされたら困るから、カンザシにはその対策をしてほしいのサ」

 

「ハッキング対策、ですか? でもどうして私を?」

 

「かんちゃんのプログラミング能力なら、お声がかかっても不思議じゃないと思うけどな~」

 

「そうね。私も簪ちゃんが適任だと思うわ。篠ノ之博士は一応部外者だし」

 

そうだな。束に頼めれば一番なんだが、さすがに学園のセキュリティをあいつに触らせるわけにもいかないか。

……太陽光発電システムを握られてる時点で、首根っこ掴まれてるのは間違いないんだろうが。

 

「というわけで、二人にはこの後、地下区画に来て欲しいとチフユから伝言を預かってるヨ」

 

「それって……」

 

「あの先生、拒否られると微塵も思ってないのかよ……」

 

あの人のことだ、拒否ったら『命令だ、やれ』とか言い出しそうだな。

たぶん一夏も、そうやって調教されていったんだろう……合掌。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「はぁ……」

 

昼食後、俺は校舎の屋上で一人黄昏ていた。

箒達はいない。というか、ちょっと頼んで外してもらった。

 

「お前が黄昏ても絵にならんぞ」

 

「そんな言い方は酷くねぇかな、千冬姉」

 

「織斑先生だと……いや、今は休校だから特別に許そう」

 

振り向きもせず掛け合いをした後、千冬姉は俺の横に立った。

 

「それで? 篠ノ之達を遠ざけてまで、何を考えている?」

 

「なんて言うか、まだ頭の中で整理が付いてないんだけど……」

 

 

「"守る"って、なんだろうって」

 

 

「……」

 

そんな曖昧な言葉に、千冬姉は何も言わず聞いてくれている。

 

「自分で言うのもあれだけど、俺ってIS学園に入学した当初は、めちゃくちゃ弱かっただろ?」

 

「そうだな」

 

「それから白式を手にして、『やっと力を手に入れた』って思ったんだ」

 

「浅はかだな」

 

「oh……」

 

千冬姉、容赦ねぇな……。その方が、らしいって言えばらしいけど。ただまあ、

 

「千冬姉の言う通り、浅はかだったよ。その時の俺は、たまたま手に入れた(白式の)力を、自分の力だと勘違いしてたんだ」

 

「馬鹿者め。まあ、それに気付いただけ及第点か」

 

「それに気付いたのは、学園祭の時だった」

 

「……白式が第二形態移行(セカンド・シフト)した時か」

 

「ああ」

 

他にもきっかけはあったんだと思う。けど、あの時が一番のターニングポイントだったのは間違いないはずだ。

 

「その時、白式に誓ったんだ。『"みんな"を守れるように強くなりたい』って」

 

「みんな、か」

 

「俺が守った人が、他の人を守る。その守られた人が、別の人を守る」

 

「鼠算だな。お前一人で全てを守ると言い出さなかったのは意外だった」

 

横を向くと、本当に千冬姉は意外そうな顔をしていた。

姉上、貴女の弟はそこまで考えなしじゃ……いえ、何でもないです。

 

「それから俺は、授業も模擬戦も頑張ったつもりだ。箒達の手も借りて」

 

「それは知っている。なにせお前達の成績をつけているのが、私と山田先生なんだからな」

 

1学期と2学期で比較したら悪くない伸びだったぞ、とお褒めの言葉ももらった。

 

「ありがとう。そうやって強くなってきたと実感出来るようになってさ、ふと思ったんだ」

 

いや、()()()()()()()んだ。

 

 

「『強くないと、誰かを守れないのか』って」

 

 

それは、俺の今までを根本からひっくり返す考えだった。

 

「さっき食堂でさ、箒や鈴から言われたんだ」

 

「篠ノ之と凰から?」

 

「ああ」

 

束さんに抱き着かれて、箒達が怒りだした時に出てきた話。

 

「『あの時一夏が守ってくれたから、私は救われたんだ』ってさ」

 

箒も鈴も、小学生の頃イジメられていた。そこを俺が助けた。言ってみれば、ただそれだけだ。

けれど、それだけでも『誰かを助ける、守る』ことが出来たんだ。あの頃の、大した力もない俺がだ。

 

もちろん、あの頃と今じゃ状況は全く違う。強くあればあるほどいい。その考えは変わらない。

けど、何かを守るためには、強さ以外の何かが必要なんじゃないかと思うようになったんだ。

 

「なるほどな……その考え自体は間違っていないだろう」

 

「なあ千冬姉、俺に足りないものって何なんだ?」

 

「一夏」

 

俺が問うと、千冬姉は真剣な顔で俺の方を向いた。

 

「私には、その問いの答えを言うことは出来ない。それは、お前自身が見つけるべきものだからだ。おそらく、柳韻さんもそう言うだろう」

 

「柳韻さんか……」

 

懐かしい名前が出てきたな。箒の父親で、かつて俺と千冬姉が剣道を習っていた、師匠と言うべき人だ。

確かにあの人なら、そう言うだろうなと思っちゃうな。

 

「だから、私から言えるのは一つだけだ」

 

「それは?」

 

 

「最後まで、考えることを止めるな」

 

 

「考える、こと……」

 

「さて、宮下達に仕事を振った手前、私だけサボるわけにもいかんな」

 

そう言うと、千冬姉は屋上の出入り口の扉を開けて、校舎内に戻っていった。

 

「……結局、具体的なことは分からず仕舞い、か」

 

守りたいって意思はある。そのための力も得ようとしている。

それでも俺に足りないものって、何だろう……。




久々に登場アーリィ。まーやん共々、最後には出番を作りたいですねぇ。

誘蛾灯一夏。これがデフォなんて、こんなの絶対おかしいよ!(ラノベ界隈では普通)

一夏、悩む。『一夏はこんなこと言わない』と言われそうですが、気にしない。


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第168話 迎撃準備

だんだん難産になってきました……。


みんなは『マーフィーの法則』って知ってるだろうか?

言ってしまえば、経験則をまとめたユーモア集みたいなものだ。

 

『トーストを落とした時、バターを塗った面が下になる確率は、敷いてあるカーペットの値段に比例する』とかが有名だろうか。

要は『嫌なことほどよく起こる』『可能性がゼロでなければ、いつか必ず起こる』ってことだ。

 

 

……ホント困ったことに、嫌なことというのは必ず起こるものなのだ。

 

 

その日、最初に異変に気付いたのは、学園周辺を監視するレーダー群だった。

このレーダーは先日、ラビット・カンパニー(の所属になってる陸)協力のもと、ステルス機も発見できるように強化されたばかりだった。

 

――ビーッ! ビーッ!

 

そのレーダーが、学園沖合の第一警戒線を突破した、所属不明機を感知したのだ。

学園の教師部隊は直ちに出撃準備を整え、各学年の専用機持ちにも召集がかかったのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「すまん! 遅れた!」

 

最後に一夏が会議室に入って来て、これで専用機持ち全員が揃ったことになる。

 

――ゴンッ!

 

「遅い! まあいい、状況を説明する」

 

「ひゃい……」

 

腕を組んでいた織斑先生は一夏の脳天に一撃かますと、投影ディスプレイを展開した。

 

「先ほど学園の長距離レーダーが、所属不明のISを補足した」

 

「それって……」

 

「ああ。おそらく先日話した、女権団の残党だろう。ついさっき、IS委員会から通達があった」

 

「IS委員会から? 何とおっしゃっておりましたの?」

 

「『女権団が隠し持っていると推測されていたISコアが、結局見つからなかった』だそうだ」

 

「すげー今更ですね」

 

そういうのって、もっと早く言うもんじゃねぇのか? 具体的には、女権団が壊滅した12月中に。

 

「宮下の言う通りだ。この件が終わったら、束を使って泣いたり笑ったり出来なくしてやろうと思う」

 

「お、織斑先生……」

 

「言ってること過激ぃ……」

 

片方だけ口角を上げる織斑先生に、デュノアと凰もドン引きだ。

 

「委員会が推測していたISコアの数は10。そして今接近しているISの数も10機だ」

 

投影ディスプレイに、さっき話してたレーダー画面が表示される。その円形スコープの右斜め上に、赤い点が10個映し出されていた。

 

「他所からちょろまかしたISコアを、さらに残党がちょろまかして機体を組んだってことっスか?」

 

「そういうことだ」

 

敵はISが10機。おそらくアンネイムドの連中もどこかに潜伏していて、波状攻撃を仕掛けてくるんだろう。

という想像を言ってみたところ

 

「私も宮下と同じことを考えていた。そこで専用機持ちには接近するISの迎撃を行ってもらう」

 

「とすると、アンネイムド(歩兵連中)は教師部隊が?」

 

「そうだ。本来であれば、教師部隊が敵ISを迎撃するべきなんだが……」

 

そう言って別のディプレイが展開されると、そこに映っていたのは……

 

「紅、椿?」

 

「まさか……」

 

篠ノ之が乗る第4世代機に外見が酷似した、深紅のISだった。

 

「どうやら、倉持技研に送られていたデータが流出していたようだ」

 

「また倉持……」

 

ボソッと呟いた簪が『どうしてくれようか』って顔してやがる。ホント、何がしてぇんだよ倉持技研……。

 

「これがお前達に迎撃させる理由だ。敵ISの性能がオリジナルと同じ第4世代相当だった場合、第2世代機に乗る教師部隊では荷が重いと判断した」

 

ちなみに、織斑先生とアーリィはIS迎撃組、山田先生はアンネイムド迎撃組を指揮することになった。

アーリィの強みである速さを活かすなら、遮蔽物の少ない屋外がベストだし、山田先生もハッキング事件の時、防衛に参加した経験があるという理由で抜擢したらしい。

 

「確かに、これならオレ達がIS迎撃組に出た方がいいか」

 

「そうだな。幸い我々専用機持ちは敵より多い。教員二人を足して14人もいれば何とかなるだろう」

 

「マドっち、IS迎撃組は先生達を含めて15人だよ~?」

 

のほほんが不思議そうな顔で首を傾げる。

確かに、専用機持ちが1年10人、2年2人、3年1人で13人。そこに教員二人を足せば15人なんだが……。

 

「……」「……」「……」

 

俺も含め、全員がのほほんの方を見た。その視線が語っている。

 

『お前、まさか前線に出る気か?』

 

「え、ええ~……どうしてみんな、そんな目で見るの~?」

 

「それは、なぁ……」

 

「そうですわね……」

 

 

「お前にフレンドリーファイアされたら堪ったもんじゃない。大人しくしていろ」

 

 

「「「「「ラウラぁ(さん)!?」」」」」

 

うぉぉい!? ボーデヴィッヒの奴、みんなが言いにくいことをはっきりと!

そりゃタッグマッチの時、のほほんのナインテールは更識姉妹の脳天をぶち抜いたけどさぁ!

 

「お、おぉぉぉぉぉ……!」

 

「本音!?」

 

よほどボーデヴィッヒの言葉が刺さったのか、胸に手を当てたまま膝から崩れ落ちちまった。

まぁ、のほほんのことは置いておいて……

 

「先生、お願いがあるんですが」

 

「お願いだと? 言ってみろ」

 

一瞬眉をひそめられたが、続きを促されたので俺は、そのお願いの内容を口にした。

 

「俺の陰流は第2世代機です。今の説明だと俺も足手纏いになりそうなんで、アンネイムド迎撃組に回してもらえませんか?」

 

「陸!?」「陸君!?」

 

いやいや、そんな驚くことじゃないだろ。

実際問題、俺はISに乗ってるより、生身で刀を振り回してた方が役に立つはずだ。

 

「確かに一理あるな。だが、建前だけでなく、本心も話せ。それが条件だ」

 

「本心?」

 

「宮下が、何か隠してるってことですか?」

 

「別に隠してたわけじゃねぇんだけどな……」

 

陰流が第2世代機だからって理由はついでだ。本当にアンネイムド迎撃組に映りたい理由は

 

 

「手前ぇの尻ぬぐいは、手前ぇでやるべきだと思ったからですよ」

 

 

「……いいだろう、許可する」

 

「どういう意味だ? なぁ千冬姉「織斑先生だ(ゴンッ)」ぐぉ……!」

 

なんだ一夏、最近織斑先生の出席簿アタックを回避してると思ったら、拳骨はサポート対象外か。

 

「敵ISは、あと20分ほどで学園上空に到達する見込みだ。各員の配置データを送信するから、各自指定ポイント上空で待機しろ」

 

「「「「「はい!」」」」」

 

「宮下と布仏は地下区画入口だ。そこで山田先生の指揮下に入れ」

 

「分かりました」「了解です~」

 

「よし、解散!」

 

織斑先生の号令で、各々が慌ただしく会議室から出て行く。

その顔に、不安や悲壮感はない。実戦続きだったせいか、みんな場慣れしちまったんだろう。いい意味でも悪い意味でも。

 

「宮下」

 

「はい?」

 

呼ばれて振り向くと、

 

「……なんて顔してるんですか」

 

「別に普通の顔だ馬鹿者」

 

そんな悲しそうな顔で言われてもなぁ。

 

「それで、なんですか?」

 

「お前には、また泥を被らせることになるかもしれん(いや、血を被らせる、が正しいか)」

 

「でしょうね」

 

むしろそのために、俺はアンネイムド迎撃組に回ったんだ。

 

ハッキング事件の時、俺は連中のお仲間を切り捨てた。そのことについて後悔はしていない。

もし斬り捨てずに米国へ引き渡していたとしても、今回の襲撃がなくならず、女権団単体で行われたかもしれない。

それでも、もし俺の行動が引き金だった可能性があるなら……

 

「さっきも言った通り、手前の尻ぬぐいは手前でします」

 

「……そうか。分かった、ならばこれ以上は何も言わん」

 

最後に織斑先生は

 

「死ぬなよ」

 

それだけを言って、先に会議室を出て行った。

 

「なぁ陸、尻ぬぐいってどういう――」

 

「ほら一夏、急いで急いで! アンタの指定ポイント、ここから一番遠いんだから!」

 

「ちょっ、鈴まっ!」

 

俺に話しかけようとした一夏だったが、俺が反応する前に凰が引っ張っていっちまった。

むしろその方がありがたい。ちっとばっかきつい話になっただろうからな。あいつは、知らない方がいい。

 

そして最後の俺が会議室を出ると、簪と刀奈が待っていた。

 

「お前達は行かなくていいのか?」

 

「大丈夫。さっき配置図を見たけど、私とお姉ちゃんのポイントは近場だったから」

 

「そうか」

 

「陸」「陸君」

 

「ん?」

 

 

「「ちゃんと、無事に帰って来てね」」

 

 

つま先立ちで背伸びした簪の額が、俺の額にこつんと当たる。それに続くように、背中から刀奈が寄りかかるのを感じた。

 

「心配するなって。こっちだって山田先生を始めとして、教師部隊がいるんだぞ」

 

「それでも、陸君なら単独で突っ込んでいきそうで不安なのよ」

 

「もしくは、誰かを庇って熱線で焼かれたり」

 

「刀奈、俺を昔の一夏と一緒にすんな。そして簪、いい加減福音の時のことは忘れてくれ」

 

まったく……

 

「むしろ、敵機の性能が未知数なそっちの方が心配だ。油断すんなよ」

 

「もちろん」

 

「分かってるわ」

 

神妙に、しかし余裕を持った顔で頷く二人。余計なお世話だったか、これなら問題なさそうだな。

 

「そんじゃ」

 

「うん」

 

「ええ」

 

 

「「「また後で」」」

 

 

そうして、俺達はそれぞれの指定ポイントに移動を始めた。

 

(大丈夫、ちゃんと生きて帰ってくるさ)

 

俺はちゃんと約束は"守る"性質なんでな。だから……

 

 

(アンネイムド、ここで禍根を断たせてもらうぞ……お前達の命と共に)

 

 

それが俺なりの尻ぬぐい。一夏とは相容れぬであろう、俺の"守る"だ。




ちーちゃんキレる。前に束をイライラさせたIS委員会、その束に倍返しされることが確定しました。

のほほん、IS迎撃組から外される。ラウラの正論パンチでKOされました。実際のほほんが出たら、敵味方関係なくボコられそう。(ちーちゃんとアーリィも危ない)

オリ主、IS迎撃組から抜ける。彼と一夏の"守る"は相容れないのは、大体お察しだと思います。

オリ主の"守る"は『大切な"1"のために、それを害する"10"を切り捨てる』
それに対する一夏の"守る"、その答えを次回以降で書けたらいいなぁと思ってます。


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第169話 尻拭い

勢い任せに書いたので、色々抜けてたら申し訳ないです……。


俺とのほほんは地下区画入口で山田先生と合流、その場でブリーフィングが始まった。

 

「山田先生、他の先生方は?」

 

「所定の位置に展開済みです。今回は敵の目的が分からない以上、学生寮の防備を厚くしています」

 

「やっぱり、そうなりますよね~」

 

「人質なんか取られたら最悪だからな」

 

連中の狙いが俺の命だけなら……いや、そうだったとしても、人質は有効だと考えるだろうから、結局狙われる可能性は消せないか。

 

「布仏さんは、地下区画のオペレーションルームの守備をお願いします」

 

「分かりました~」

 

「オペレーションルームって、あそこの守備をのほほんに任せて大丈夫ですか?」

 

「ぶ~ぶ~! リったんそれどういうこと~!?」

 

「あの部屋、指揮するにはおあつらえ向きだろ? 山田先生が指揮しながら守ってた方がいいんじゃないかってな」

 

「ああ、なるほど~」

 

そもそも、あの部屋をのほほんに任せて、指揮官の山田先生はどうするんだ?

 

「私は地下区画を巡回しながら遊撃に回ります」

 

「……山田先生は、連中の目的が地下にあると?」

 

「可能性は高いと思います。学園で保管しているISコアを今回も狙ってると、私は見ています」

 

なるほど。確かにそれはあり得そうだな。……それと同じぐらい、俺の首が本命の可能性もあるが。

 

「なので、宮下君にはISコアを保管してる部屋の防備をお願いしますね」

 

「了解です」

 

正直、俺が遊撃をしたいんだが……ここでごり押したら、山田先生に怪しまれるか。

そんな風に考えていた俺を見て、不安がっていると勘違いしたのか、山田先生が

 

「大丈夫です! 先生に任せてください!」

 

とガッツポーズして見せた。う~ん、純真。

 

「それでは二人とも、配置についてください」

 

「「了解(です~)」」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

ISコアが保管されている部屋に来たが、

 

『ここ、ろ、牢屋ってやつじゃないですか?』

 

「そうだな」

 

ソフィアーが言う通り、ISコアが保管されている部屋は、鉄格子が並ぶ牢屋のような区画の突き当りにあった。

さらに、その牢屋には

 

「まさか、敵の指揮官が入ってたとはな……」

 

『び、ビックリです』

 

かつてのほほんが撃退したISの操縦者、アンネイムドの隊長が抑留されていたとは。

誰かいるなんて思ってなかったから、向こうと目が合った瞬間、悲鳴を上げそうになっちまった。

 

『マスター、も、もしかして、敵の目的は……』

 

「捕まった指揮官の奪還、ってか?」

 

『そ、その可能性もあるかと……』

 

「めんどくせ~」

 

牢屋の区画に繋がる通路で迎撃態勢を取りながら、俺はため息をついた。

 

「とはいえ、ここに敵が欲しがるものが集まってるのも事実か」

 

『はい。や、山田先生とぶつからなければ、会敵する可能性は高いと思います』

 

俺としては、その方が望ましい。

出来れば山田先生に見られる前に、全部終わらせてぇなぁ……。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

宮下君と布仏さんに拠点の守備を任せた私は、ラファール・リヴァイヴ・スペシャルに乗って地下区画を巡回し始めました。

 

(前回は宮下君に負担をかけてしまいました……。だから今回は)

 

あの(ハッキング事件)時の宮下君の目に、私は恐怖を覚えてしましました。

おそらく、更識さんを守るために実戦を乗り越えたために、ああなってしまったんでしょう。

 

「だからこそ、彼にまたあの目をさせてはいけない」

 

教師として、今度は……

 

――パパパパッ!

 

「っ!」

 

そんな考え事をしていたせいで、一瞬反応が遅れてしまいました。

 

「チャーリー03、FOX2!」

 

「くっ!」

 

通路の奥から見えるマズルフラッシュに向かって、私も銃口を向けました。けれど、すぐには撃ちません。まずは降伏勧告を――

 

「貴方達の装備では、ISには勝てません! 諦めて武装解除して――」

 

――カラン……

 

――バンッ!

 

「なっ!?」

 

何かが投げ込まれたかと思った瞬間には、凄まじい閃光に、私の視界は塗りつぶされました。

 

「しまった!」

 

フラッシュバン(閃光手榴弾)を真正面から受けて、それでも敵からの攻撃に構えていましたが……

 

「……え?」

 

視界が元に戻った時には、襲撃者の姿はありませんでした。

私としたことが……!

 

「布仏さん! 宮下君! 敵が地下区画に侵入しました! 警戒を――!」

 

『わ、分かりました~!』

 

『……了解』

 

私が上げた警戒連絡に、少し緊張した声で反応した布仏さんに対し、宮下君は『困ったなぁ』と言うような反応でした。

 

「宮下君?」

 

『りったん~? あれ、反応が~……』

 

「まさか!」

 

布仏さんはそのまま守備を! と改めて指示を出すと、私はまだチカチカする目を擦りながらラファールのスラスターを全開にしました。

 

(もし、私の予想が当たっていたら……間に合って!)

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「……了解」

 

山田先生から通信を受けた時には、すでに見覚えのある連中が目の前に立っていた。

 

「"2人目"、宮下陸だな?」

 

「そうだ、って言ったら?」

 

「死んでもらう」

 

「貴様に倒された、仲間の仇」

 

「やっぱそうなるのな……」

 

俺の首、ISコア、指揮官。

どれが狙いかと考えていたが、やっぱり俺の首か。

 

「そのために、我々は"連中"と手を組んだのだ。故に……」

 

「「「「「「貴様を討つ!」」」」」」

 

『こ、この人達、どうやってマスターを倒す気なんでしょう?』

 

「さてな……」

 

第2世代機とはいえ、ISに乗った俺を小火器で倒せるわけがないのは、向こうも分かってるはずだ。

 

「あいつらと約束してるんでな。俺の命、そう簡単にくれてやるわけにはいかねぇ」

 

長船を展開、八双の構えを取る。

 

「悪いが、ここで全ての禍根を断たせてもらう!」

 

スラスターを点火しようとした、次の瞬間

 

――カラン

 

――バンッ!

 

『な、ななななっ!』

 

「これは……!」

 

フラッシュバンでも投げ込まれたかと思って身構えたら、陰流が……!

 

「パルス・ボムの味はどうだ?」

 

「パルス……なるほど、EMPか」

 

「ふっ、余裕ぶっても無駄だ。ISと言えど、しばらくの間は動けまい」

 

余裕なんかねぇよ。まさかサイクロプス・ボム(リミッター付)と同じもんを使われるとは……。

 

AIS(対IS)ライフル用意!」

 

「はっ!」

 

俺が動けないのをいいことに、連中が対戦車ライフルをデカくしたようなものを組み立て始めた。

 

「やっとこれで、アルファーとブラボーの仇が討てる」

 

「満足そうなセリフを吐いてるところ申し訳ないんだが……」

 

 

「ちょっと油断し過ぎじゃねぇか!?」

 

 

「何ぃ!?」

 

指示を出していたリーダー格の奴が驚くのも無理はない。

そりゃそうだろ。まさかIS操縦者が、絶対防御の効いてるISを解除するなんてな!

 

――ザシュッ

 

「がぁぁぁぁぁっ!」

 

ちっ! IS解除と同時に拡張領域から三池典田を出して、そのままの勢いで斬りかかったんだが、片腕斬り飛ばすだけで終わったか!

 

「ISを解除しただと!?」

 

「馬鹿な! 自分から生身になるなんて……!」

 

「慌てるな! むしろ好都合だ! 撃て、撃てぇ!」

 

――パパパパッ!

 

最初の奇襲をしくじったからか、相手の立て直しが早ぇな!

 

――バスッ!

 

「ぐぅ!」

 

一発食らっちまったか! けど通常のジャケット弾だったのか、貫通はしていなかった。さすがISスーツ。でも痛ぇ!

ま、まあ、刀奈が前に食らった、ISスーツを貫通する特殊弾じゃなかっただけまだマシか。

 

――ヒュッ

 

「ごばっ!」

 

「で、デルタ4!」

 

「怯むなぁ! 撃ち続けろぉ!」

 

――ズシュッ

 

「がっ、ひゅぅぅぅ……!」

 

「チャーリー2! くそっ! 誰かフォローを!」

 

「馬鹿な……相手はたった一人だぞ!?」

 

時に敵を盾にして同士討ちを誘いながら、一人、また一人と屠っていく。

そうこうしてようやっと、1人だけを残して血の海に沈めることが出来た。

 

「馬鹿な……」

 

「はぁ……はぁ……」

 

あぁくそ! 貫通こそしてねぇが、弾丸食らった時の衝撃的に、内臓やばいんじゃねぇかこれ?

 

「こうなれば……!」

 

残った男は小銃を投げ捨てると、俺に向かって突進してきた。

その手には、スイッチのようなものが握られて……まずっ!

 

 

 

「貴様も道連れだぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

――ドゴォォォォォォン!!

 

 

 

 

 

特攻してきた男が自爆し、轟音とともに衝撃と熱風が……

 

「来ない?」

 

「宮下君、大丈夫ですか!?」

 

「山田先生?」

 

頭を庇っていた腕を退けると、そこには専用機に乗って、実体シールドを構えた山田先生の姿があった。

 

「良かった……良かったですぅ!」

 

「ぐぇっ!?」

 

「生身で戦うなんて、無茶し過ぎですよ!」

 

せ、先生! その、生身の俺をISで抱き締めないで……!

 

「ぎぶ、ギブゥゥゥゥゥ!!」

 

じぬ、じぬぅぅぅぅ!!

 

「あ……!」

 

山田先生が気付いた時には、俺の魂が口から出そうになっていた。

 

 

『いやいや、まだこっちに戻ってくるの早いから』

 

 

……意識が飛ぶ前に聞こえたロキの声は、たぶん幻聴だろう。




真耶 vs アンネイムド(逃走)。即排除にならないのは、まーやんらしいかなと。これがちーちゃんなら、警告なしで斬りかかりそう。(偏見)

オリ主 vs アンネイムド。対IS装備の一つや二つぐらいあるだろうと。
原作では、拳銃弾程度なら貫通しないISスーツ。でもライフル弾は……しーらぬい。

最後ギャグになっちゃいましたね。次回は一夏でシリアスにしようと思っているので、帳尻が合ったり……しないかなぁ。


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第170話 answer

IS迎撃組の話になります。


会議室を出た後、俺達はISに乗って、それぞれの指定ポイント上空で待機していた。

 

『全員、配置についたな?』

 

『はい、大丈夫です』

 

千冬姉の確認に、代表して楯無さんが応える。

 

『作戦を説明する。まず初めに、迎撃班と遊撃班の二つを作る。迎撃班の各員が敵をそれぞれ抑え込んでいる間に、遊撃班が各個撃破していく』

 

『班編成は?』

 

『アリーシャ、それと織斑の二人。織斑達はツーマンセルで行動しろ』

 

「俺とマドカが組むのか?」

 

『私としては不満だが、仕方あるまい。子守もやってやるとしよう』

 

「誰が誰の子守するって?」

 

『お前達、痴話喧嘩はあとにしろ』

 

『「誰が痴話喧嘩だ(なんだよ)!」』

 

何言い出すんだよ千冬姉は!?

 

『お楽しみのところ申し訳ないけど、どうやら時間切れのようよ』

 

「っ!」

 

楯無さんが言うように、敵IS――女権団の残党――が目視できる距離まで来ていた。

 

『各自、作戦通り動け。いくぞ!』

 

号令を発した千冬姉を先頭に、迎撃組がその後に続いていく。

 

『さて、私達はチフユ達の左右から回り込んで、敵の背後を突くのサ』

 

『迎撃組と挟み撃ちにするんですわね?』

 

『そういうことサ。それと、一応言っておくけど……』

 

「アリーシャさん?」

 

 

『最悪の場合、敵の命より自分達の命を優先させるんだヨ』

 

 

「……!」

 

アリーシャさんの言葉に、俺は声が出そうになった。

それは、つまり……

 

『そもそもこれは試合ではなく実戦。殺すか殺されるかの世界だ。それぐらい承知している』

 

マドカは当然というような反応を返していた。

俺は……

 

『どうした一夏、やはりお前のような腰抜けには荷が重いのではないか?』

 

「だ、誰が腰抜けだ! そんなわけねぇだろ!」

 

『だ、そうだ』

 

『まったく……そんじゃ、始めるヨ!』

 

マドカに乗せられる形で返事をしちまったが、今更訂正する気はない。

やるんだ。俺だって戦って、戦って……たた、かって……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

う~ん、号令をかけたはいいものの、イチカのメンタル面がちょっと心配サ。

代表候補生として訓練を受けていれば、戦う覚悟を持たされる。私の時もそうだったサ。

マドカの場合、人を殺した経験があるんだろうサ。だから動揺したりはしない。

けれどイチカの場合、ほんの1年前まではただの一般人だったわけで……

 

「とはいえ、今更抜けられても困るんだけどサ」

 

白式の零落白夜。あれはおそらく、敵のISにも通用するだろう。だからチフユも、彼を遊撃に回したんだろうサ。

 

「もう少しで接敵サね!」

 

赤いISと交戦中のダークグレーのIS――確かアメリカの、ダリル・ケイシーの機体だったネ――が視界に入ってるサ。

 

「おっ、さっそく来たか!」

 

「ぐぅ! 増援だと!?」

 

「ダリル、余裕そうだネ」

 

「ああ、第4世代相当かもって聞いてたから、どれほどかと思ったら……機体は良くても、乗ってる人間がダメダメだな」

 

「貴様ぁ!」

 

「おっと!」

 

自分のことを貶されて逆上した敵が、腕からビームを連射してきた。が、そんな攻撃が当たるわけないヨ。

 

「さしずめ、ビーム・マシンガンと言ったところカナ?」

 

ビーム・マシンガンとか、少し前なら瞠目してたんだろうけど、IS学園に来てから、この程度じゃ驚かなくなってるんだよネェ……。

 

――バキィィ!

 

「ほい終わりっと」

 

「ば、馬鹿な……第4世代機を解析して作られた、この緋蜂が……」

 

「さっきも言ったろ。機体が良くても操縦者がダメダメだって。どうする? 諦めて降伏するか、具現維持限界(リミット・ダウン)するまでオレ達にタコ殴りにされるか」

 

「かくなる上は……」

 

「? ……っ! そいつから離れロ!」

 

「何ッ!?」

 

私が声を出した時には、敵はダリルに肉薄、機体から赤い光を放って――

 

 

――ドゴォォォォォォンッ!!

 

 

「くぅぅぅぅ!!」

 

爆風に煽られながら、私は自分の悪い予想が当たったのを理解した。

 

(自爆だって!? 冗談じゃないのサ!!)

 

爆煙が止んだところで、全身の装甲がボロボロになったダリルが、ゆっくりと海に向かって落ちていく。

 

「間に合わせるサ!」

 

海面に向かって瞬時加速、すんでのところでダリルをキャッチ出来た。

 

「すま、ねぇ……ドジ踏んだ……」

 

「気にしなくていいサ。こっちもまさか、自爆特攻されるとは思ってなかったヨ」

 

けど、もし他の敵も自爆してくるようなことになれば……

これは、急いでチフユに伝えなきゃならないのサ……!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「自爆だって!?」

 

「なかなかに狂気染みてきたな」

 

アリーシャさんからの全体通信を聞いて、俺は背筋が寒くなるのを感じた。

そんな簡単に、命を捨てるのかよ……!

 

「こうなれば仕方ないな」

 

「おいマドカ、仕方ないって、何をする気だよ?」

 

「決まっているだろう。『撃破』なんて生温いことは言ってられなくなった。本気で首を狩るぞ

 

「な……何言ってるんだよ!?」

 

それって、相手を殺すってことかよ!?

 

「下手に自爆されれば、こちらの被害も大きくなる。なら、その前に殺すべきだろう」

 

「ふざけんなよ! そんな簡単に殺すなんて……!」

 

「なら、お前の嫁共が自爆に巻き込まれて死んでもいいのか?」

 

「それは……」

 

「理解したな? なら――」

 

 

「こうなれば、お前も一緒に死ねぇぇぇ!」

 

「な、貴様!」

 

 

声のする方を見れば、箒が敵にしがみ付かれていた。そして敵の機体から、赤い光が……

 

「箒!?」

 

「ちっ!」

 

驚く俺を後目に、マドカがレーザーライフルを構えるが、

 

「間に合わんかっ! 離れろ! 自爆に巻き込まれるぞ!」

 

「そんなっ!」

 

何とか箒を助けようと瞬時加速をするが、赤い光がどんどん強くなっていって――

 

「一夏……」

 

 

「箒ぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

 

 

手を伸ばしても、届かない。

守ると誓ったのに、守れない。

 

そして、赤い光が――

 

「……これ、は」

 

まただ……また、全てが止まった。

学園祭で、アラクネと戦った時と同じように。

 

『諦めちゃうの?』

 

「え?」

 

その声を聞いて、俺は驚いた。

前に聞いた声と、全然違う声だったから。

 

『守るの、諦めちゃうの?』

 

その言葉に、俺はハッとした。

そうだ、まだ俺は……!

 

「頼むっ! 箒を守る力をくれ!」

 

『どんな力が欲しいの?』

 

「そりゃ、敵が自爆する前に――!」

 

そこまで言って、昂っていた感情が冷めた。

俺は今、何を言おうとした? 敵が自爆する前に、なんだって?

そして、自分のことが怖くなった。

 

(俺、箒を守るためだって言って、敵を殺す力を求めようとした……?)

 

『本当に、その力でいいの?』

 

「……いいや」

 

問いかける声に、俺は首を振った。俺が欲しいのは、そんな力じゃない。

箒を、大切なものを守るためとはいえ、誰かの――例えそれが敵だったとしても――命を、大切なものを奪いたくない。

 

奪いたくないし、奪われたくない。

 

(そうだ……これが、俺が欲しかったものだ)

 

モンド・グロッソの第2回大会の時に誘拐され、千冬姉に助けられた時、俺が感じたのは喜びより悲しみだった。

俺が千冬姉から優勝を、未来を奪ったんだ、って。

 

だから守りたかった。誰も、何も奪われない世界が欲しかったんだ。

 

それはとても甘い考えで、非情になれない俺の弱さなんだろう。マドカなら鼻で笑うような絵空事だって、分かってるさ。それでも……

 

 

「それでも俺は、奪いたくないし、奪われたくないんだ。そのための力が、欲しいんだ!」

 

 

『……いいよ』

 

「え?」

 

『その望み、叶えてあげる』

 

そしてまたあの時と同じように、声が途切れ、時間が動き出し、白式の左腕から光が溢れ出してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『それが、お前の答えなのだな……織斑一夏』

 

『もう、いいの?』

 

『ああ。彼が答えを出したのだ。私がこれ以上出しゃばる必要もないだろう』

 

『そっか』

 

『今後は第三者として、彼の成長を見届けようと思う。だから、ここでバトンタッチだ、"白式"』

 

『うん。お疲れ様、"白騎士"』

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

篠ノ之が自爆に巻き込まれる。それは回避不可能だったはずだ。

 

「箒!」

 

「い、一夏!?」

 

「貴様、何をしたぁぁぁぁぁぁ!!」

 

あの距離では、瞬時加速をしても間に合わないはずなのに。よしんば間に合っても、敵の自爆を止める術は無かったはずなのに。

だが現実は、敵のISだけが海に向かって落ちていったのだ。

そして敵の拘束が解けた瞬間、篠ノ之をお姫様抱っこ。ここで惚気とか、ずいぶんと余裕だなおい?

 

「ごめん箒、みんなを助けにいかなきゃ」

 

「一夏!?」

 

「おい一夏、これは一体どういう――」

 

「説明は後だ!」

 

そう言って、奴は私に篠ノ之を預けて、さっさと他の連中のところに飛んで行ってしまった。

 

「おい篠ノ之」

 

「い、一夏が……一夏が///」

 

ダメだこりゃ。

 

「おいこら!」

 

「ひゃい! ……なんだマドカか」

 

「なんだじゃない。それで、奴は一体何をしたんだ?」

 

「それが、私にも分からんのだ。一夏が敵のISに触れたと思ったら、拘束が解けて……」

 

「そのまま敵は海に落ちた、と」

 

「ああ」

 

う~む。それだけでは全く分からん……。

 

「とりあえず、お前も遊撃に参加だ。あの馬鹿が一人で勝手に飛び出したせいで、ツーマンセルが崩れた」

 

「そ、それなんだが、一夏に助けられてから、紅椿の調子がおかしくてな……」

 

「なんだと?」

 

紅椿に簡易スキャンをかけてみたところ……

 

「なるほど。そういうことか」

 

「ど、どういうことなんだ?」

 

「あれを見てみろ」

 

そう言って私が指さした先には、デュノアと交戦している敵機に、一夏が肉薄しているところだった。

そして白式の左手が敵機に触れた瞬間、そこから紫電が散ったのだ。

 

「な、なんだあれは!?」

 

「おそらく、左手に発生させた電子パルスを叩きこんだのだろう。だから敵機は一時的にとはいえ機能停止して、自爆も出来ずに海に落ちた」

 

「電磁パルス、だと?」

 

「ああ。お前に簡易スキャンをかけた時、EMPの影響を受けた痕跡があった。それで納得したのだ」

 

「そんな力が、一夏に……」

 

「本当に、土壇場でやってくれる」

 

そうして私が呆れている間に、最初に自爆したものを除く、9機のISが海に墜落していったのだった。




ダリルん、ヤムチャしそうになる。抱き着いて自爆とか、完全にサイバイマンだと(書いてる途中で)思いました。

一夏、本当に欲しいものを得る。これが作者が考えた、一夏の守るです。
『"1"も"10"も、全てを失くさない』理想を力技でゴリ押す、ある意味イノシシ時代の一夏に回帰しましたね。
「弱さこそ、『優しさ』という強さの裏付けである」(by ナイト・オブ・ワン)

更識姉妹の活躍? それは次回のギャグパートで。


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第171話 result

前回と打って変わって、ギャグ比率高め。


女権団と米国秘匿部隊・アンネイムドの残党が引き起こした『IS学園襲撃事件』は、学園側の迎撃態勢が整っていたこともあり、短期間で解決した。

襲撃側はアンネイムド21名が全滅、女権団も1名が自爆により死亡した。対して学園側の被害は、専用機持ち2名が負傷という結果となった。

 

数値の上では大勝と言えるものであったが、この学園側の被害を許容できない者達もいたわけで……

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「山田先生、どういうことなんですかね~?」

 

「どうしてアンネイムドに撃たれた傷とは別に、陸が死にかけてるんです?」

 

会議室の片隅で、ニッコニコ笑顔で仁王立ちしている更識姉妹の目の前には、山田先生が正座させられていた。

 

「それは不可抗力ですってぇ……」

 

「不可抗力? それはそれは! 陸君をISに乗ったまま抱き締めて怪我を増やすのを、学園では不可抗力っていうんですねぇ!?」

 

「それは初めて知りました」

 

「あ、あうぅ~……」

 

大仰な言い回しをする(ただし目は笑ってない)姉に、勉強になったと言わんばかりの反応をする(ただし目は笑ってない)妹。

山田先生が助けて欲しそうにこっちを見ているが……

 

(すまん真耶、非力な先輩を許してくれ……!)

 

私のゴーストが囁くんだ……『今あの中に飛び込んではいけない』と。

 

そうして視線を別の方に向けてみれば

 

「ダリルゥゥゥゥ!」

 

「だから大丈夫だって。ISの絶対防御も、ちゃんと機能してたんだからよ」

 

「それでも! ダリルが自爆に巻き込まれて落とされたって聞いて、心配したんスよ!!」

 

「悪かったって。それでも、宮下ほど酷い傷じゃねぇんだから」

 

「それは、そうかもしれないっスけど……」

 

当初重傷と見られていたケイシーだったが、実際は爆風で脳震盪を起こしていただけで、その後すぐに意識を取り戻した。

そして最終的に、左腕骨折で全治1週間(ナノマシン注射で早めた)という診断結果が出た。

だから宮下と違って、腕をギプスで固定した状態でここにいるわけだ。

 

「それで千冬ね(ギロッ)……織斑先生、陸の容態は?」

 

一夏以外の面々も気になるのか、私に視線が集まる。

 

「まずアンネイムドから受けた攻撃で、内臓の一部が損傷。ただしこれは、日常生活をしている分には問題ないレベルだ。ISスーツのおかげだな」

 

「確か、拳銃程度なら貫通しないんだっけ?」

 

「そうだ。私も軍の訓練で試したが、貫通はしないものの、衝撃は殺し切れないからかなり痛かった記憶があるな」

 

「あたしもやったわそれ。幸い口径の小さい弾だったから、撃たれたところが赤くなっただけで済んだけど」

 

ボーデヴィッヒと凰の体験談に、他の連中がドン引きしていた。マドカは……あいつ、我関せずで一人ヌガーバー食ってるな……。

 

「それで済めばよかったんだが、追加攻撃(山田先生のハグ)を受けて、肋骨骨折で全治1ヵ月の絶対安静だ」

 

「「「「「「うわぁ……」」」」」」

 

ああ、さすがにこれには、マドカもドン引きか。

 

「宮下さん、山田先生から受けた傷の方が大きかったのでは……?」

 

「セシリア、それは言わないお約束だ」

 

「今は医療室にいるが、奴にもナノマシン注射をする予定だから、すぐに復帰できるようになるだろう」

 

「だといいんだけど……」

 

とりあえず、被害についてはこんなところだろう。次に話を聞かなければならないのは……

 

「織斑」

 

「は、はい」

 

「また白式の武装が生成されたらしいが、事実か?」

 

「はい」

 

神妙に頷く一夏に、ここまでの経緯を説明させた。

 

「敵の命さえ奪わない力、ねぇ。一夏らしいって言えばらしいのかしら」

 

「そうだね。一夏らしいよ」

 

小娘達が納得顔で頷く中、私は一夏の顔を真正面から捉える。

 

「一夏、それがお前の"守る"なんだな?」

 

「ああ、そうだ。俺は、命の取捨選択はしない。誰の命も奪わないし、奪わせない。そう、決めた」

 

「それが、ガキの戯言と言われるような事であることも、承知の上だな?」

 

「分かってる」

 

そう言い返した一夏の目は、気焔に満ちていた。

 

 

「例えそれが、偽善に満ちたものだったとしても……俺は諦めない。それを成す術を求め続ける」

 

 

「……そうか」

 

私は、見誤っていたのか。

弟の意志の強さは知っていた。それが原因で視野狭窄に陥り、空回りをして、時に失態を犯すことも。クラス代表の件(オルコットとの揉め事)が最たるものか。

だが、一夏はこの学園で学んだのだ。多くの仲間を得て、様々な経験を得て。時には情けない思いもしながら、一歩ずつ前に進んでいたのだ。

 

「ならば、その新武装を使いこなせるようになって――」

 

「それだけじゃダメなんだ」

 

「何?」

 

一夏から入った否定に、私は眉を顰めた。

 

「あくまでこれは、白式が用意してくれたものだ。俺の力じゃない。だからこれは、あくまで繋ぎだ。俺は、それとは別の方法も探さなきゃならない。自分の力で望みを叶える方法を」

 

「……」

 

私だけではない。そこにいた全員が瞠目していた。

本当に、私は目の前の弟を見誤っていたようだ。

 

 

 

 

「本当に山田先生って酷い人ですよね陸のこと傷つけてどうしたかったんですかそれとも陸を抱き締めたかっただけですかそうなんですかでもそんなの許しません陸は私とお姉ちゃんのものなんです先生が入る隙間なんて無いんです分かってますか分かりませんかもしかしてその胸に栄養全部持ってかれて頭がパーなんですか本当忌々しいですこの駄肉が!」

 

「か、簪ちゃん! 戻って来て! カムバァァァック!!」

 

 

「だ、誰か助けてくださぁぁぁぁぁぁぁい!!」

 

 

 

 

 

……感動の場面のはずだったのだがなぁ……。

しかし、更識妹に肩を掴まれて、ハイライトの消えた目で呪詛を吐かれている真耶を、そのままには出来んか。(さっき見捨てた罪悪感もあるし)

 

「こノだにクヲしマツしナクちゃ……!」

 

「ひぃぃぃぃっ!!」

 

「ええいっ! お前達、更識妹を止めろぉ! どんな手を使ってでもだぁ!!」

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

目が覚めると、真っ白い天井が目に入った。

 

「……知ってる天井だ」

 

何故知ってるかって? 無人機にやられて入院してたのと、全く同じ場所だったからだよチクショウメェ!

部屋はおろか、ベッドの位置まで同じとか……。

 

「目が覚めたのサ」

 

「おう、何とかな」

 

ベッドに寝たまま顔を傾ければ、部屋のドアを開けたアーリィがいた。

 

「マヤの抱擁でダメージ受けるとか、ギャグもいいところサ」

 

「……顔がニヤけてるんだが?」

 

「おっと、Scusa scusa(ごめんごめん)

 

謝る前に、そのニヤニヤ顔をやめろ。ったく、人の不幸を笑いやがって。……まあ、立場が逆だったら、俺も笑い転げてるだろうがな。

 

「それで、他の連中は?」

 

「ダリルが負傷したが、リクほどの重傷じゃないヨ」

 

「俺も本当は、軽傷で済んでたんだろうがなぁ……」

 

ライフル弾の衝撃で内臓がどうなってたかが不安だったが、少なくとも医療室に運ばれる事態にはならなかっただろうよ。

試しに、上半身を起こそうとしてみたところ

 

――ビキッ

 

「おごぉぉぉ……!」

 

「あ~、無理に起きない方がいいヨ。肋骨が2本ほど折れてるらしいからサ」

 

「マジか……」

 

「そのために、これ打っちゃうよ」

 

――プスッ

 

「ちょ、おま!」

 

「ナノマシン注射終わり! それでも2,3日はベッドの上で絶対安静らしいヨ」

 

「お前なぁ……」

 

何の説明もなく注射打つとか怖すぎだろ!

しかしそうか、しばらくはベッドの上で身動き取れねぇのか……。

 

「大丈夫よ~、お姉さんが看病してあげるから!」

 

またドアの方から声がして

 

「……楯無さんや、その恰好は?」

 

「病室と言ったらこれでしょ?」

 

そこには、ナース姿の刀奈が。いや、確かにそうかもしれんが……。

 

「退院まで、私と簪ちゃんがお世話してあげるわ♪」

 

「だーもう……ところで、その簪は?」

 

俺の問いに、刀奈だけでなくアーリィも顔を背けた。え、どゆこと?

 

「カンザシは、ネェ……」

 

「陸君の肋骨折った山田先生にじんも……ゲフンッ反省を促してたんだけど」

 

「今尋問って言いかけたよな? おい」

 

「ちょぉぉぉっと、変なスイッチが入っちゃって……」

 

 

「り~く~♪」

 

 

噂をすれば、簪が刀奈と同じナース姿で入って来て――

 

一瞬の間に、俺の横に立っていた。ええ……?

 

「か、簪?」

 

「だイじょウブだヨりく……わタシとオねエちゃんガちゃんトオセわスルかラ❤」

 

「簪ぃ!?」

 

怖い怖い怖い!! なんで!? どうしてこうなった!?

そんな恍惚のヤンデレポーズで宣言されても俺どう反応すればいいの!?

え、この状態で3日過ごすの!? 堪忍してつかぁさい!

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

一方その頃

 

「いやぁ! やっぱ日本って言ったら温泉だよなぁ!」

 

「ええ、いいお湯だったわ。露天風呂も景色が素晴らしかったし、言うこと無しね」

 

4泊5日の旅行から、オータムとスコールは自分達のマンションに戻って来ていた。

明日出社した際に社員に配るお土産(温泉饅頭)を買っている辺り、もう完全に日本のサラリーマンです。本当にありがとうございました。

 

「さて、明日の用意をするかぁ……ん?」

 

「どうしたのオータム?」

 

「留守電が入ってら」

 

各自がスマホを持つようになって久しいが、未だに固定電話は廃れておらず、二人の部屋にも1台置いてある電話にメッセージが入っていた。

 

『束さんだよぉ! 来月にちょっと発表したいことが出来てねぇ。書類色々社長室に置いたから、決裁よろ~!』

 

「……」「……」

 

留守電に入っていたメッセージを聞いて、二人は固まっていた。

 

来月に発表する書類。つまり、今月中に処理しなければならないということ。

当然ハンコを押すだけでなく、書いてある内容によっては資材の調達から関係各所への根回しも必要になる。

二人揃ってカレンダーを見る。今月はあと、今日を除いて10日。

 

「「ふおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

その日、人類(ふたり)は思い出した。ヤツらに支配されていた(束や陸に振り回されていた)恐怖を……鳥籠の中に囚われていた(会社に泊まり込んで連勤していた)屈辱を……




ちーちゃん、一夏の成長に涙がちょちょぎれる……はずだったんですがねぇ。

簪、ヤンデレ化。ISのヒロインってみんなヤンデレの素質ありそう。(偏見)

スコールとオータム、また地獄を見ることが確定。また代休が増えるよ、やったね♪


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第172話 落とし前

襲撃事件の後日談的な。


IS学園襲撃事件から数日。一般生徒の被害が全くなかったこともあり、日々の授業は滞りなく行われていた。

そして被害があった生徒も、この日久々の出席を果たしたのだった。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「あっ、宮下君おはよー!」

 

「おう」

 

「負傷したって聞いてたけど、もう大丈夫なの?」

 

「一応な。ただ骨がくっ付くまで、IS実習は見学になりそうだがな」

 

久々に教室へ現れた俺に、クラスメイト達が次々に質問をぶつけてくる。

ほぼ女子校の中で居苦しいと思ってたのが、はるか昔に思えてくるな。

 

「そして、更識さんはいつも通りなわけね」

 

俺の左腕にしがみつく簪を指さして、クラスメイトが微笑ましい顔になる。

ああ、うん……もうそれでいいや。

と思っていたら

 

 

「「「「「「バンザァァァイ!!」」」」」」

 

 

「は?」

 

教室中の生徒が万歳三唱し始めたんだが!? どゆこと!?

そんな中で、エドワース先生が教室に入ってきた。

 

「みんな、SHR始め……えっと?」

 

先生も最初は困惑していたが、俺……正確には簪を見て

 

「も、もう大丈夫なの?」

 

すごい引き攣った顔で聞いていた。

 

「先生、それって俺に対しての『大丈夫』ですか? それとも……」

 

「宮下君もだけど……」

 

その視線は、間違いなく俺じゃなくて簪に向いていた。

ここで、俺の中に嫌な予想が生まれてきた。

 

「もしかして、俺が復帰するまでの簪って……」

 

「(コクン)」

 

無言で頷かれた。

 

 

(回想開始)

 

『さ、更識さん?』

 

『りくガシんパイ……はやクリくノトコろニいかナイト……!』

 

『ひぃぃぃぃっ!』

 

目からハイライトが消え、視覚出来そうなほど黒いオーラを纏った簪に、4組の生徒達は怯えることしか出来なかった。

陸が医療室にいる間、この流れがずっと続いていたという……。

 

(回想終了)

 

 

「簪ェ……」

 

「あ、あの時は色々心が不安定だったから……」

 

今はもう元に戻っているが、俺も医療室のベッドから動けない間はビクビクしてたからな……。

一緒に看病してくれてた刀奈も、今のエドワース先生のように口元が引き攣ってたし。

 

「そんなわけなんで、しばらくIS実習は見学でお願いします」

 

「何がそんなわけなのか分からないけど、見学については織斑先生から聞いてるわ。2週間ほどでいいのよね?」

 

「はい、医者先生からはそう言われてます」

 

「分かったわ。ほらみんな! 嬉しいのは分かったから、万歳三唱はやめて席に着きなさい!」

 

「「「「「「はーい」」」」」」

 

「私、万歳三唱されるくらい怖がられてたの……?」

 

「みたいだな。正直俺も怖かった」

 

「――っ!!」

 

いや、俺が悪かったから。だからそんな、この世の終わりみたいな顔すんなって。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

そうして復帰を果たした俺だったが……

 

「……それで、これは一体どういうことですかね? 織斑先生、束」

 

御前の授業が終わり、食堂に行こうとしたところを簪と一緒に拉致られたのだ。

そして俺達を乗せた黒のワンボックスカーは、市街地を抜けて郊外を走っていた。

 

「あははー! ちょっとお出掛けに誘っただけだよー? あ、かんちゃん、その目はやめて怖い怖い」

 

「やめろ束、私の方に流れ弾がくるだろう!」

 

左右向い合せの席の反対側に座っていた犯人2人は、今まさに簪の眼光にガタガタ震えている。なんだこれ。

というかこんなことせんでも、普通に呼び出せばよかっただろ。

 

「普通に呼んだ場合、宮下が来ない可能性があったからな。こんな手を使わせてもらった」

 

「いやいや、一体どこに連れていくつもりですか?」

 

「IS委員会日本支部」

 

「降りまーす」

 

「宮下ぁ!?」

 

後部座席のドアを開けようとしたところを、織斑先生に止められた。いやいや、その手離してくださいって。

IS委員会ってあれでしょ? これまでの事件の対応を後手後手にする原因を作った連中。なんでそんな奴等に会わなきゃならんのさ。

 

「陸、さすがに走ってる最中に降りるのは無謀」

 

「そ、そうだよな?」

 

「だから運転手の山田先生を潰すのが先」

 

「おぃぃぃぃぃ!?」

 

「わ、私ですかぁぁぁぁ!?」

 

あ、運転手山田先生だったのか。そっちは全然見てなかった。

 

「待って待って! 委員会連中のところに行く理由! それ聞いてからでも遅くないよ!」

 

慌てて簪を止めようとする束。さすがにここで夢現とか出さないとは思うが……簪、出さないよな?

そして束、もうお前は『振り回す側』でなく『振り回される側』になったみたいだな。簪限定かもしれんけど。

 

「それで、なんで俺達を委員会のところに?」

 

一応聞いてみた。どうせくっそつまらん理由なんだろうが。

 

「今日本支部に、国際IS委員会の委員共が集まってるんだけど……」

 

 

「そいつらに、ちょぉぉっと落とし前つけてもらうんだよ♪」

 

 

「行く」

 

それを先に言えよ。おじさん、頑張っちゃうぞ~!!

 

ーーーーーーーーー

 

――IS委員会日本支部 会議室

 

 

IS委員会日本支部から、私山田真耶がお送りします。

 

「うおりゃぁぁぁ!!」

 

――ドゴンッ!

 

「ぐはっ!」

 

「ボディスラム!」

 

「おー! りったんやれやれー!」

 

委員会の偉い人を頭から投げ落とす宮下君。まるでプロレスのように実況する更識さん。ご満悦で観戦する篠ノ之博士。もう滅茶苦茶ですよぉ! というか宮下君、肋骨がくっ付くまで安静じゃなかったんですか!?

織斑先生? 先輩なら宮下君が開幕ラリアットで一番偉い人(委員長)を沈めた時点で現実逃避してますよ!

 

「貴様ぁ!」

 

――ドサァッ!

 

「おごぉっ!」

 

「ショルダースルー!」

 

ああ……宮下君に立ち向かおうとした人(おそらく、委員と一緒に来ていた中堅幹部の方だと思います)が宙を舞って、そのまま顔面から床に……。

 

「これで最後ぉ!」

 

――ドンッ!

 

「ひぎゃっ!」

 

「エフユー!」

 

最後に残っていた委員が投げ飛ばされて背中から着地(墜落)し、この会議室で立っているのは我々だけになってしまいました……。

 

 

こんなの絶対おかしいよ!

 

 

どうしてこうなったんですか!? 最初は『情報の展開が遅い』とか、委員会の不備を突いて謝罪してもらう予定でしたよね!? 肉体言語で語り合う予定じゃなかったですよね!?

 

「いやぁ、すっきりしたー!」

 

「陸、お疲れ様」

 

宮下君! そんな清々しい顔しないでください! 更識さん! ちょとは宮下君を止め(ギロッ)あ、いえ、何でもないです……。

 

そして先輩は現実逃避してないで働けぇ!!(錯乱)

 

「まあまあ。これでこいつらも、今後はまともに働くんじゃないかな?」

 

「だからって、こんなことする必要なかったじゃないですかぁ……」

 

「そうかなぁ? 女権団とかいう重しが取れて、浮かれてたっぽいからねぇ。その証拠に、壊滅後の連中の調査もおざなりだったみたいだし」

 

そうなんです。そこは博士の指摘した通りなんですよね。

女性権利団体が壊滅した後、彼女等が隠し持っていたISコア。これが残党に持ち逃げされたせいで、IS学園は再度襲撃された(少なくとも、アンネイムド単体よりは被害が大きくなった)わけで……。

 

「大丈夫だって。こいつらの頭の中を弄って、りったんにプロレスされた記憶からこっちに謝罪した記憶に書き換えておくよ。だから安心してよオッパイちゃん」

 

「誰がオッパイちゃんですか!! いえ、記憶を弄るとか、それもそれでいいんでしょうか……」

 

「へーきへーき! それとも、記憶そのままにしておく? プロレスされた爺共からの抗議が、学園に大量に届くよ?」

 

「……記憶消去で」

 

「まいどー!」

 

ええ、これは必要な処置なんです。別に、抗議が来た時の対処を私がやることになるからとか、そんな理由ではないですよ?

当初デュノアさんが男装してきた(そして女として入り直してきた)時の事務地獄を思い出したからでもないですよ?

だから、篠ノ之博士が倒れてる人達の頭に針のようなものを刺していても、それは必要なことなんです。ええ。




簪、教室でもヤンデレしていた。これ、再発しないよね……?

オリ主、IS委員会のお偉いさんをボコす。ガンシューティングゲーム『タイムクライシス4』のStage2ボスが元ネタ。突然プロレス実況を始めるオペレータに、初見で「は?」って声が出ましたね、ええ。

まーやん、汚れちまう。それが大人になるってことだよ、うん。(遠い目をしながら)


そろそろ卒業式回を書かないと……。


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第173話 卒業式

やっとこさ、卒業式です。


3月第1週の土曜日。IS学園は、いよいよ卒業式を迎えようとしていた。

講堂に1年から3年までの全生徒が集められ、卒業生の父兄はもちろん、各国要人も続々と来賓席に座っていく。

 

そして大勢の父兄と来賓に見守られる中、卒業証書の授与が厳かに進められた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

「布仏虚」

 

「はい」

 

虚先輩が呼ばれ、壇上に上がっていく。

 

「――所定の課程を収めたことを、ここに証します」

 

学園長(爺様の奥さん)が卒業証書を読み上げて、その証書を虚先輩が受け取る。この流れは、IS学園だろうと変わらないんだな。

ちなみに、よく名前だけ読まれて『以下省略』となってないのは、虚先輩が今期(成績上)の首席で、最初に証書を受け取る役だからだ。

 

「これでIS学園らしくISの技能順とかだったら、今頃ケイシー先輩が壇上に上がってたかもしれないな」

 

「どうだろう。ケイシー先輩も虚さんと同じように訓練機に乗ったら、どっちが勝つか分からない」

 

「マジか。あの人整備科だったはずだよな?」

 

ISの操縦も整備も一流とか、優秀すぎんだろ布仏家。あ、のほほんも布仏だったか。今のやっぱ無しで。

 

その後も次々に名前が呼ばれ、証書が手渡されていく。

そして最後の証書が渡されると、

 

「続きまして、来賓の挨拶になります」

 

途端に、在校生、卒業生、来賓席がざわつき始める。反応が薄いのは父兄席ぐらいだ。

 

「陸」

 

「ああ。紛れもなく、奴だ」

 

コ○ラっぽいセリフを言ってみたが、おそらく全員、同じ人間を想像しているだろう。

 

 

「やっほい皆の衆、束さんだよ~♪」

 

 

ああ、やっぱり……。

壇上に現れたのは、毎度おなじみトラブルメーカー、篠ノ之束だった。……俺もトラブルメーカーだろうって? うっちゃい!

 

「し、篠ノ之博士!? IS開発者の!?」

 

「しゃ、写真写真!」

 

父兄席もようやっと慌て始めて、カメラのシャッター音が聞こえてきた。(今のご時世デジタルカメラばっかなので、フラッシュを焚いたりはしない)

 

「宮下君は何か聞いてないの?」

 

「うんにゃ。今回は束が何をするのか、俺も知らん」

 

クラスメイト達は、俺や簪が何か聞いてると思ってたんだろうが、あてが外れたな。

さてはて、今度は一体、何を言い出すのやら……。

 

「まずは卒業した面々、おめっとさ~ん!」

 

ざわざわ……!

 

滅茶苦茶適当な祝辞だったが、それを聞いた連中(俺も含む)に動揺が走った。

()()()()()()()()()()()()、だと……!?

 

「そんな、馬鹿な……!?」

 

「姉さんが……あり得ない……」

 

「しっかりしろ箒! せめて妹のお前ぐらいは信じてやれよ!」

 

最近現実逃避が上手くなった織斑先生に実妹である篠ノ之が、妖怪でも見たかのような顔をしていたのが、ここからでも分かる。

そして一夏、お前もそこそこ酷いこと言ってるからな? というか、お前も信じてやれよ。お前の嫁だろ。

 

「けど卒業した君達の大半は、すっごい大変だろうね。聞いた話じゃ、ISとは関係ない進路を選ばざるを得ない子ばっかだって聞いたし」

 

しーん……と、会場が沈黙に包まれる。

束お前、めでたい日になんつーことを……。

 

だが、言ってることは間違いじゃない。

ISコアが(公式で)467個しかない以上、パイロットなんて予備を含め1000人もいれば十分なのだ。

そこに整備や開発などの裏方を含めたとしても、IS学園の卒業生を毎年全員取り込めるほど、パイは大きくない。

そうなると当然『IS学園を出たのに、ISとは関係ない企業や学校に行くしかない』人間が出てくる。

 

「そんなあぶれた面々に朗報で~す!」

 

静まり返った中でも楽しそうに話す束が、壇の後ろに投影ディスプレイを表示させる。

 

「なんだあれ……」

 

「潜水艦……にしては、海上にないのも変だな」

 

父兄席や来賓席から聞こえてくるように、ディスプレイに映っていたのは、潜水艦のような形をしたものが平地に鎮座してる姿だった。

 

「それじゃ、スイッチオ~ン!」

 

「「「「ファッ!?」」」」

 

唐突に束がスイッチ(起爆装置のような握るタイプ)を押すと、映っていた潜水艦モドキが徐々に宙を浮き始めたのだ。

あ、ここまで見たら分かった。

 

「束、とうとうやりやがったか……!」

 

「陸、説明プリーズ」

 

「ありゃ、ISのPICを利用した宇宙船だ」

 

「宇宙船!? しかもPICを利用したって……」

 

何を驚く簪。お前だって、以前似たもん見てるだろ。

 

「あっ! 『アンサラー』!」

 

先に別のクラスメイトが正解に辿り着いたようだ。

 

「おっ、正解。そういうことだ簪」

 

「アンサラーって……ああっ!」

 

どうやら簪も分かったようだな。

以前束が宇宙に上げた、太陽光発電自律制御型無人機『アンサラー』。そのノウハウを使って、あの船を作り上げたんだろう。

ISのPICを利用出来れば、打ち上げ用のロケットもマスドライバーも要らなくなるもんな。

 

そうこう言ってる間に、宇宙船は大気圏を突破していた。いやいや、早ぇって!

 

「これによって、宇宙に安価で物資を送る目途は付いたんだけど、問題があってねぇ」

 

束曰く『宇宙空間に上がった船を駐機する拠点がない』とのこと。要は、低軌道領域に宇宙ステーションっぽいものを作りたいらしい。

 

「地上で作って宇宙に上げるとなると、PIC発生装置が無駄に大きくなっちゃうから、資材は船で上げて、宇宙空間で組み立てようと思ってるんだよねー」

 

「宇宙空間で組み立てるって……それってまさか!」

 

「おっ、気付いたのがちらほらいるね!」

 

声を上げた一人の卒業生に、ビシッを指をさす束。

 

 

「そんなわけで、ラビット・カンパニーでは『ISに乗って宇宙ステーションを組み立てる工員』を募集中でぇす!!」

 

 

「「「「な、なんだってー!?」」」」

 

 

講堂内が大きく揺れた。マジで声だけで揺れた。

そりゃそうだろ。諦めていたIS関連の仕事が、突然降って湧いたんだから。

普通なら『どこからISを調達するんだ?』って話になるんだろうが、言っているのはISを作った張本人である束だ。

推測だが、以前電波ジャックした時(第152話)に言っていた、"時結晶を使わないISコア"を用意したんじゃないだろうか。

 

「応募資格はISに乗った経験があること、待遇面は面接時に応相談ね」

 

「さあ夢を諦めた者共、敗者復活戦だよ! 我はと思うなら、ラビット・カンパニーに履歴書を送れぇい!!」

 

「「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」」

 

束が宣言すると同時に、卒業生の3割近くが卒業式そっちのけで講堂を飛び出していった。おそらくIS関連の進路に付けなくて、泣く泣く別進路にした人達なんだろう。

 

「はい、これで束さんの挨拶終わりー! 最後にもっかい、卒業おめでとねー!」

 

散々荒らすだけ荒らして、束は悠々と壇を降りて行った。

その後、在校生送辞と卒業生答辞があったものの、誰も頭に入っていなかっただろう。それが分かってて、在校生(刀奈)卒業生(虚先輩)も当初の文から結構端折って読んでたし。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

卒業式の後、卒業パーティが校舎食堂で行われ、卒業生は立食式の会場で3年間の思い出を語り合っていた。その中には先ほど猛ダッシュで寮に戻り、履歴書を書いて郵送した生徒達もいた。

 

「いくら必死だったからって、式を飛び出すとかどうなんだよ?」

 

「ダリルには分からないわよ! こちとら将来がかかってるんだから!」

 

「そうよ! せっかくIS学園を卒業したのに、普通の企業に就職とか悔しいじゃない!」

 

「いやまあ、そうだろうが……いや、悪かったって」

 

アメリカの代表候補生って肩書がある、つまり進路が自動的に決まってるオレが、これ以上言うのは藪蛇か。

 

「篠ノ之博士は本当に……段取りが台無しです」

 

「お疲れさん、学年主席」

 

「やめてくださいその呼び方」

 

ジュースの入ったコップ片手にこめかみを揉んでいるのは、オレの呼び方が気に入らなかったからか、それとも卒業式のあれが原因か。

 

「いいじゃねぇか。もう生徒会は抜けてんだし、後始末は後輩共に任せておけば」

 

「そうしたいのは山々ですが、残っているのがお嬢様と本音だけですから……」

 

「……うん、すまん」

 

確かに目の前のキッチリウーマンからしたら、あのマイペースの二人に任せるのは不安で仕方ないんだろう。オレがその立場でも不安に感じる。

 

「まあ今日ぐらい、悩み事は頭の片隅に追いやっておけよ。それに……」

 

そこで言葉を切って、チョイチョイと近づくように布仏に指示する。

 

「?」

 

 

「どうせこの後、こっそり学園を抜け出して逢引すんだろ?」

 

 

「◎△$♪×¥●&%#?!」

 

 

おーおー、いい反応。

 

「ど、どどどうして!?」

 

「どうして知ってるかって? 宮下がお前の男から相談を受けてたのを、こっそり盗み聞きした」

 

「宮下くぅん!?」

 

正確には『弄るネタを提供してやるから、ちょっと協力しろ』と、わざと盗み聞きさせられたが正しいな。

 

「ほら、そろそろ出て行かないと、約束の時間に間に合わねぇぞ。いなくなったお前のこと聞かれたら、適当に返しておくからよ」

 

「……ありがとう」

 

最初は怪しんだ目でこっちを見ていた布仏だったが、最後にはボソッと感謝のセリフを言うと、頬を赤らめながら会場を出て行った。

 

「あ~……オレも後でフォルテのところ行こ」

 

布仏を見てたら、オレも人肌が恋しくなってきちまったや。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

生徒会主催の卒業パーティ(なぜか役員でない俺と簪も手伝わされた)も終わり、俺達3人は寮のベランダで空を見上げていた。

 

「終わったわねぇ……」

 

「ああ、終わったな」

 

「もう少し本音が働いてくれたら……」

 

「それを言ったらおしまいよ、簪ちゃん」

 

悪いが刀奈、それは俺も思った。来年度以降、特に刀奈が抜けた後、生徒会は大丈夫なんだろうか?

 

「この1年、あっという間だった」

 

「だな。色々ありすぎたんだよ」

 

「ええ、去年とは比べものにならないくらい濃い1年だったわ」

 

男性操縦者(織斑一夏)の入学、無人機乱入、VTS、銀の福音、亡国機業、学園ハッキング、エクスカリバー……

これだけのものが1年――正確には2学期まで――の間に起こったんだから、そりゃ濃いだろう。

 

「私も、あと1年で卒業なのよねぇ……もっと簪ちゃんや陸君との学生ライフを一緒したかったわ」

 

「なんだよ。まるで卒業後は縁が切れるみたいな言い方して」

 

「お姉ちゃん、卒業したら陸と別れるの?」

 

「別れません!」

 

「いや、俺も刀奈を捨てる気はねぇからな?」

 

だからお前ら、左右から俺の腕を引っ張るのをやめろ! マジで大岡裁きみたいになってっから!

 

「安心しろ。週末の外出日ぐらいは簪と一緒にそっちに行くからよ」

 

「だからお姉ちゃんは、しっかり当主のお仕事をお願い」

 

「うん……って、なんか私も虚と一緒に卒業するみたいな空気になってない!? こうなったらあと1年、簪ちゃんより陸君とラブラブしちゃうんだから!!」

 

「お姉ちゃん……かクゴハできテルの?

 

「だから怖ぇから簪ぃ!!」

 

姉妹の間で揉みくちゃにされる俺。普段俺のことトラブルメーカーみたいに言ってるが、お前らもつくづくじゃねぇか!

これは来年も、色々苦労することになるなぁ……。

 

(でもま……)

 

そんな未来を、楽しみに思ってる俺もいるわけで……

 

 

 

 

 

 

――そして、月日は流れる――

 

 

 

 

 

 

 




卒業式で、束ブッパ。実際IS学園を卒業して、IS関連の進路に付けない人間って多いと思うんですよね。ISが世に出てから10年やそこらしか経ってないんで、パイロットにしろ技術者にしろ、引退する年齢には全然達してないでしょうし。

虚、弾に向かって一直線。二人の行く末については……書いてもおまけ程度にしたいです。(話を膨らませすぎて、書くのに苦労しそう)

オリ主達、来年度について語る。いつぞやも書いた気がしますが、本音が会長の生徒会って大丈夫なんでしょうかね……?(まさか、強権使って一夏を拉致る?)


次回、キング・クリムゾンが発動します。


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ENDING
第174話 モンド・グロッソ


キング・クリムゾン発動!
前話から1年半ほど経過しております。

そして今話を含めて、あと2,3話ぐらいで本作完結となります。
もう少しだけ、お付き合いいただければと思います。


ロシア連邦クラスノダール地方、ソチ。

黒海に面するロシア随一の保養地として有名なこの都市で、第3回モンド・グロッソの開催された。

 

ドイツで行われた第2回大会から間が開いたため、各国の代表の多くが代替わりを果たしていた。

無論、イタリアのアリーシャ・ジョセスターフを始めとする、前大会から続投した選手もいた。

 

そして多くの人達が注目する本大会の決勝は、大方の下馬評にかなり近い対戦カードとなった。

 

ーーーーーーーーー

 

「とうとう、この時が来たわね」

 

「うん」

 

モンド・グロッソ本大会決勝戦の舞台に、私とお姉ちゃんが対峙している。

打鉄弐式を完成させて、初めて決闘をしたあの時と同じように――

 

「でも大丈夫なの? 私が学園を卒業してからも、IS委員会から結構横やりが入ってたんでしょ?」

 

「うん。その度に、陸が荒れてた」

 

「あ~……やっぱり」

 

当初はGNドライブを含む永久機関だけが禁止になってたレギュレーションだったけど、陸(時々篠ノ之博士)が何か作る度に、禁止項目が増えていった。

ざっと挙げられるものだけでも

 

 

・永久機関(GNドライブを含む)

・GNコンデンサ

・GNファング

・拡散レーザー砲

・サイクロプス・ボム

・榴散弾(雷光)

・エナジーウィング  new

・GNキャノン     new

・ケイオス爆雷    new

 

 

昔織斑先生が、タッグマッチで禁止にしようとしたものばっかり……むしろ増えた?

そして禁止項目が増える度に、IS委員会日本支部の偉い人がボディスラムの餌食になっていた。それでも支部長の椅子にしがみ付くのは、正直凄いと思った。

 

「だから、メメントモリ以外はほぼ純粋に、打鉄弐式と私の能力だけ。そういう意味では、お姉ちゃんと同条件」

 

「む~、私のミステリアス・レイディだって、()()()()結構強化されるのよ?」

 

「知ってる。むしろ卒業してから何も変わってなかったら、逆にビックリ」

 

「言ったな~!」

 

そう。虚さんが卒業し、お姉ちゃんも卒業して半年。それだけの時間を経て、私達は今ここにいるんだ。

 

「さて、漫談もこれくらいにしましょうか」

 

「そうだね。そろそろ試合が始まるから」

 

かつてのように私が夢現を展開すると、お姉ちゃんも蒼流旋を展開、ナノマシンを操って水を纏う。そしてまた、かつてのように

 

 

――試合開始のブザーが鳴った。

 

 

――ガキィィンッ!

 

「っ!」

 

「くぅ!」

 

夢現と蒼流旋が激しくぶつかり合い、甲高い音がアリーナに響き渡る。

私も予想外だったけど、お姉ちゃんも初撃が接近戦だと思ったなかったみたい。

 

「簪ちゃん、春雷のこと忘れてなぁい?」

 

「お姉ちゃんこそ、ガトリングが4門も付いてるのに、使わないのは勿体ないよ?」

 

互いに軽口もぶつけ合うと、早々に距離を取る。なら次は――

 

「山嵐、全弾発射!」

 

――ドドドドドッ!

 

「っ! 清き激情(クリア・パッション)!」

 

――ドゴォォォォンッ!

 

ミステリアス・レイディを全方位取り囲んだマイクロミサイルが、水蒸気爆発に巻き込まれて誘爆していく。

 

「さあ、次はこっちから行くわよ!」

 

そう啖呵を切ると、ステリアス・レイディのアクア・クリスタルの色が赤に変わっていく。

 

「麗しきクリースナヤ、接続完了」

 

ミステリアス・レイディの高出力モード『麗しきクリースナヤ』、これの恐ろしさは、私自身が昔味わっている。

このモードになったら、本来チャージが必要なミストルテインの槍が――!

 

 

「いっくわよぉ! ミストルテインの槍!」

 

 

予想通り、アクア・クリスタルから生み出される大量の水を纏った槍が、こちらに向かってくる。けど!

 

「こっちも切り札を切る!」

 

私の声に反応するかのように、打鉄弐式の装甲が深紅に染まっていく。そして夢現から切り替わるように展開されたのは

 

「ベルゼルガァァァァァァァァ!!」

 

巨大なブレードライフル。その刃を、蒼流旋にぶつけるかのように薙ぎ払う!

そしてその二つがぶつかり合った瞬間

 

爆音が聞える間もなく、私とお姉ちゃんはアリーナの両端まで吹き飛ばされていた。

 

「ぐ、ぐぅぅ……」

 

「いったぁ……」

 

バイザーで確認すれば、ミステリアス・レイディの残SEは10%。対する打鉄弐式は20%近くあるけど、今のでベルゼルガーのブレード部分が折れた。

前は蒼流旋を破壊出来たのに……お姉ちゃんの言う、強化されたっていうのは本当だったんだ。

 

「一撃でSE満タンから1割って、どんだけよ……。でも、これでそっちの切り札はなくなったわね」

 

装甲がところどころ欠けながらも、再度蒼流旋を構えるお姉ちゃん。おそらく、最後の力でミストルテインの槍を放つ気なんだろう。

でも!

 

――ドンッ!

 

「っ!?」

 

瞬時加速で、槍を構えるお姉ちゃんに肉薄していく。その最中にも、折れたベルゼルガーを格納して――

 

「思い切りがいいわね。でもメメントモリを使うには距離が足りない! そして夢現じゃ、ミストルテインの槍は止められないわよ!」

 

「残念」

 

「え?」

 

ニヤッと、まるで陸みたいに笑う私を見て、お姉ちゃんの表情が固まる。

そう、メメントモリを使う気はない。夢現を展開しようとしているわけでもない。

 

(シャーリィ、準備はいい?)

 

『いいよぉ、派手にやっちゃおっかぁ!』

 

「切り札2枚目!」

 

「2枚目!?」

 

私が展開したのは――

 

「チェ、チェーンソー!?」

 

初めてベルゼルガーを見た時のように、お姉ちゃんの顔が驚愕に変わる。

 

ベルゼルガーがブレードライフルであるなら、これはチェーンソーライフルと言うべきもの。

そして、一つ一つが夢現と同じように超振動する刃が付いたチェーンが、唸りを上げて高速回転を始める。

 

「行こう――」

 

 

「テスタ・ロッサ!!」

 

 

下から振り上げるような軌跡を描いたテスタ・ロッサが、蒼流旋が纏った水とぶつかる。けど、すぐに

 

――ゾンッ!

 

「そん、な!」

 

蒼流旋は纏っていた水ごと斜めに切り裂かれ、それによって回路に異常を来したのか、先ほどまで赤かったミステリアス・レイディが元の青色に戻っていった。

 

「けど、まだよ!」

 

上半分がなくなった蒼流旋を捨て、お姉ちゃんは別の武装を呼び出す。

 

「ラスティー・ネイル!」

 

出てきたのは、蛇腹剣。在学中、見たことない武装だ。

その剣も水を纏い始める。槍と同じように、水の力で切断力を上げられるんだろう。

 

「正真正銘、これが最後の勝負よ、簪ちゃん!」

 

「うん!」

 

お互い、展開した武装を構える。

実際私には春雷がまだ残ってるけど、自分で詰めたこの距離で悠長に撃ってる余裕はないと思う。だから、両手で構えたテスタ・ロッサに掛ける。

 

 

 

「「いざ!!」」

 

 

 

そして――

 

 

ーーーーーーーーー

 

『これより、モンド・グロッソ第3回大会、表彰式を行います』

 

アリーナの観客席で俺とのほほんは、選手が表彰台に上がっていく姿を眺めていた。

 

「すごかったね~」

 

「ああ。選手達からしてみれば、これまでの集大成みたいなもんだからな」

 

言ってみれば、ISのオリンピックみたいなもんだからな。そりゃ選手の気合も段違いだろうし、試合だって白熱するだろうよ。

 

「ところで、りったんはここにいてよかったの~?」

 

「いいんだよ。一応弐式のエンジニアって肩書だが、整備は昨日のうちに終わってたし、今日の試合は決勝戦だけだったしな」

 

あとはラビット・カンパニーの()()エンジニアが、ピットでスタンバってればいい。俺の出番はないわけだ。

 

「不思議な話だよね~。りったんが正規職員じゃないなんて~」

 

「下手に正規職員になると自由が少なくてな。わざと非常勤にしてあるんだ。束も似たようなもんだな」

 

「知ってる~。それで『あの二人とは、いつコンタクトを取れるんだね?』って各国からチクチク突かれて、スコール先生……社長が涙してるって話だよ~」

 

「それは仕方ない」

 

『俺や束を自由にさせる』か『事務方の増員』か、選んだのはスコールだからな。……例えそれが、泣く泣く選んだものだったとしても。

 

「あ、総合部門の表彰だよ~」

 

「おっ、マジか」

 

スコールの涙より簪達の表彰の方が優先され、俺達の視線は再びアリーナ中央に向かった。

 

『モンド・グロッソ第3回大会、総合優勝。日本代表、更識簪』

 

「あ~! かんちゃんだよ~!」

 

「見えてるって」

 

のほほんが興奮しながら指さす先、表彰台の真ん中……つまり1位の場所――に簪が立つと、大会委員らしき人からメダルを首にかけられた。

その隣、2位の位置には、刀奈が銀メダルを下げた姿で立っていた。

 

「ロシアは第2回大会であまりいい成績を残せなかったから、今回準優勝で何とか面目を保てた感じかな~」

 

「国の面子ってやつか」

 

「そうだね~」

 

一夏じゃねぇが、面倒な話だ。

そんなことをのほほんと話していたら、表彰台の方は優勝者インタビューに入っていたようだ。

 

『更識選手、今の気持ちは?』

 

『すごい達成感で満たされてます』

 

『その気持ちを、まず誰に伝えたいですか?』

 

『大切な人です』

 

――ざわざわ……!

 

観客席がざわめき立つ。

すると、簪はインタビュアーからマイクをするっと奪い取って……っておい!

 

『私はかつて、ある人と契約をしました』

 

契約……なーんか記憶にある気が……

 

『『俺と契約して、モンド・グロッソ優勝者(ブリュンヒルデ)になってよ!』と』

 

「うぉぉい!」

 

言ってない! 俺それ言ってない! それ刀奈が変声機使って俺の声マネしてまでギャグネタ重ねた結果ぁ!

 

『そして契約通り、彼は私をモンド・グロッソを導いてくれました』

 

『今回、これで契約は終了になるのですが……私は今ここで、新しい契約を結ぼうと思っています』

 

「か、かんちゃん……?」

 

のほほんの頬に、たらーと冷や汗が流れる。ちなみに俺も流れてる。

 

『陸!』

 

「うぉ!?」

 

突然呼ばれて、思わず変な返事をしちまった俺に、

 

『ちょっと、それは私も一緒に言うわよ!』

 

隣にいた刀奈も加わり、二人はマイクがハウリングするのもお構いなしに

 

 

 

 

 

 

『私達と契約(結婚)して、更識(婿養子)になってよ!』

 

 

 

 

 

 

――この二人の発言は、中継を見ていた全世界が立会人となった契約として、後日ギネス記録に載ったという。

契約は成立したのかって? ……つい先月、俺は『宮下』じゃなくなったんだよ。わざわざ聞くなよ、馬鹿野郎。




ある意味、これが最終回と言えなくもない。


第3回モンド・グロッソ開催! そして因縁の対決へ。もうね、ちーちゃんとIS委員会の考えてることがほぼ一緒という。主催側だから逆らえず、それが故のボディスラムである。

最後の最後に新武装。せっかくシャーリィも登場したし、テスタ・ロッサ出したいなぁと思っていたら、本当に最後の方になっちまったぜい。

新しい契約。これがやりたくて、本作のタイトルが決まったまである。


次回は、一夏とハーレム達のその後とか書こうと思ってます。


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最終話 一人じゃない

前回以上のキング・クリムゾン!

そして今話で『俺ヒルデ』最終回となります。
今までお付き合いいただき、ありがとうございました。


第3回モンド・グロッソでのことについては、以前話したと思う。

そうなると、気になるんじゃないか? 『一夏達はどうなったんだ?』って。

分かってる分かってる。ちゃんと話してやるから。

 

 

 

 

 

まずは織斑一夏。

あいつも俺と同じように、3年の誕生日にハーレム連中と婚姻届けを出すことになった。

一夏本人は『せめて卒業まで』とか言ってたが、むしろ篠ノ之達がそこまで待ったのが奇跡だと俺は思うぞ。

 

国のお偉いさんから日本代表候補生にって話もあったらしいが、なんとあいつ、学園卒業後に自衛隊のIS部隊に入隊したんだよ。

一応白式は引き続き一夏が乗ることになって、定期的にデータを倉持に送ってるらしい。意味あるのかは不明だが。

そして警察と自衛隊の合同訓練に積極的に参加しつつ、警察の逮捕術に篠ノ之流の体術を組み合わせた不殺技を生み出した。

その技は関係者の間で『織斑流制圧術』と呼ばれ、海外(主にアメリカ)との合同訓練でも披露された。

これにより、犯人逮捕時の死亡率(犯人も含む)が全世界で10%減少したという結果を叩き出し、一夏の『命の取捨選択はしない』という信念を世界に示した。

 

 

篠ノ之箒。

3年に上がった時に、両親の要人保護プログラムが解除され、篠ノ之道場が再開すると同時に、正式に道場の跡取りに指名された。

一夏と結婚した2年後に女子を出産。さっそく自分の跡継ぎにしようと考えていたところを『子供の人生を縛ってやるな』と一夏から指摘され、しばらくいじけていたという。

道場には束やクロニクルがたまに遊びに来ていて、育児について情報交換する姿を見たという門下生からの証言が。

 

 

セシリア・オルコット。

一夏との結婚後、双子の男女を出産。以前より頻繁に日本とイギリスを往復、オルコット家当主としての仕事をこなしつつ、腹心とも呼べるチェルシーさんとエクシアの助けも借りて子育てを頑張っている。

どちらがオルコット家を継いでもいいように、二人に等しく帝王学を学ばせる予定らしい。

ちなみに奴の特級呪物(料理の腕)については、ブランケット姉妹の努力と一夏(の胃腸)の尊い犠牲により、一般家庭レベルにまで改善されたとのこと。

 

 

凰鈴音。

一夏ハーレムで、正妻の座を得たのが凰だった。(それについては、ハーレム内でも"しぶしぶ"認められているらしい)

ちなみに、6人の中で最初に(男子を)出産したのも凰。

離婚していたという両親も再婚、孫を相手にジジ馬鹿とババ馬鹿を発症しているらしい。

(離婚理由については詳しく聞かなかったが、凰曰く「何が『あたしのため』よ! 馬鹿じゃないの!?」だってさ)

聞いた話では、離婚した時に閉じてしまった中華料理店を再開しようと計画中とのことだ。

 

 

シャルロット・デュノア。

学園卒業後はデュノア社に戻り、テストパイロットをしつつ、社長で父親のアルベールさんから経営のノウハウを学んでいる。

継母(ロゼンダさんだったか)との仲も良好で、以前より親子3人でいる時間が増えたと、デュノア家の執事さんが言ってたらしい。(一夏からの又聞き)

しばらくして女子を出産。その時、デュノア本人よりも継母の方が喜んでいたという。アルベールさん? 病室の片隅で男泣きしてたってさ。

 

 

ラウラ・ボーデヴィッヒ。

自分が遺伝子強化素体だからと、一夏との子供を作れるか心配していたな。

実際、6人の中で最後まで妊娠しなかったし、逆に妊娠が発覚した時は泣いて喜んでたっけな。

で、めでたく女子を出産。ただ、IS部隊隊長と子育ての両立は難しかったらしく、織斑先生が代わりに子供を預かることがよくあったらしい。

そのせいか、子供が最初に覚えた言葉が「ちーちゃん」だったらしく、それを聞いたボーデヴィッヒは膝から崩れ落ちたんだとか。

 

 

篠ノ之束。

IS学園卒業生を集めた宇宙ステーション建造が一段落着いたところで、次の目標を火星のテラフォーミングに決定。と思いきや2年間の休止を宣言。

それで何をしていたかと言えば、一夏との間に一男一女を出産。こいつ、計画的に産みやがったんだよな……。

出産後はテラフォーミングで使用する機材を開発する傍ら、クロニクルと一緒に子育てに精を出していた。

そして篠ノ之道場に行くついでに織斑家にも顔を出しては、『ねぇねぇちーちゃん!』と連呼していたらしい。

ボーデヴィッヒの子供が『ちーちゃん』を覚えたのはこれが原因だろうな。

 

 

織斑千冬。

一夏達の卒業後もIS学園の学年主任を続投、相変わらず出席簿アタックが火を噴いているらしい。

休日、桜花に乗ってアーリィをボコってストレス発散している姿を、教員用アリーナでよく見かけるんだとか。アーリィのご冥福を(ry

学園が長期休暇の時には家に戻り、忙しいボーデヴィッヒに代わって子供を預かったり、襲来した束を追い返したりしている。

 

 

クロエ・クロニクル。

卒業後はラビット・カンパニーに入社、束の助手ポジションを確立した。

束の子供達の面倒もよく見ていて、『くーちゃん』の呼ばれた時には思わずガッツポーズしていたらしい。

事務処理能力も高く、経理の仕事を手伝っていたこともあって、スコール達からは救世主と崇められていた。(実際俺も目撃した)

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーー

 

目を開けると、映るのは白い天井。もはや見慣れ過ぎて、何の感慨も湧きやしない。

その、天井のみならず一面真っ白な部屋に、心電図モニターからの電子音だけが響いている。

そのモニターから伸びたケーブルは、俺の、枯れ木のような左腕に繋がっている。

もうこの病室に入ってから、どれだけの月日が経ったかも思い出すのが大変だ。

 

(懐かしい夢を見たもんだな……)

 

もはや起き上がることも出来ない体を揺らすように、しわがれた声で笑った。

 

あの激動の学園生活から、70年近くが経っていた。

かつての級友達も先に逝っちまった。()()()()()も……。

 

 

簪と刀奈。二人との生活は、俺にとって素晴らしいものだったと断言できる。

かつて幸せになることを恐れた俺が、二人を愛し、子を生し、ここまで生きてきたなんて、この外史に来る前の俺だったら信じなかっただろう。

 

色々思い出す。

第3回モンド・グロッソの後、更識家主導ですぐに結婚式が行われたこと。

簪との間に娘が、刀奈との間に息子が生まれたこと。

息子が刀奈の後を継いで、更識家の第18代目当主になったこと。

娘に彼氏を紹介されて、簪と一緒に動揺したこと。

二人が立て続けに結婚して、簪と刀奈と俺、3人で泣き腫らしたこと。

初孫が生まれ、そろそろ引き際だと自覚したこと。

 

そして……俺より先に逝っちまった、二人を看取ったこと。

 

(まるで走馬灯だな……いや、いつも通りの、走馬灯だ)

 

今まで外史を渡って来た時と同じだ。だから理解する。

俺の、この世界での命は、もう終わりなんだと。

 

(見送りが誰もいないのは寂しいもんだな……)

 

そして死んだら死んだで、あの野郎(ロキ)の面拝むことになるのか。なんだかなぁ……。

なんて思っていたら、体に残っていた力が無くなっていくのを感じた。もうすぐか。

 

俺はここで死ぬ。そしてまたあの真っ白な世界に戻る。

今までもそうだった。そして今回も。

けど、今の俺には、あいつらがくれたものがある。

大切なもの(刹那達)を失って、絶望して、空っぽになっていた俺は、もういない。

 

だから俺は、もう、大丈夫だ。

 

(そんじゃ、行ってくる。簪、刀奈)

 

逝っちまったはずの二人に向かって、動かないはずの腕を伸ばして――

 

ーーーーーーーーー

 

一面真っ白で、見渡す限り何もない世界。

戻って、来たか……。

 

「やあリク。久しぶり、って言っておこうか」

 

「確かにお前にとっては、70年は『久しぶり』の範疇なんだろうな」

 

振り向けば、もう何度顔を合わせたかも覚えていない、紺のスーツを着込んだ短髪の男が立っていた。

 

「臆病者だった君が、まさかこんな形で帰ってくるとはね」

 

「臆病者、か……」

 

不思議と、目の前の奴(ロキ)に言われて頭に血が上らなかった。いや、驚くほどストンと心の中に落ちた。

たぶんそれは、俺が向き合えたからなんだと思う。今まで逃げ続けてきた、自分の過去と。

 

「やっぱり、これだから人間ってやつは面白い」

 

「何がだ」

 

「僕達神と違って、君達人間は不完全。だからこそ僕達には無い"成長"する力がある。それが少ーし羨ましいなってさ」

 

「さよけ」

 

いいこと言ったつもりだろうが、そんなお道化た顔で言われたら感動なんかしねぇぞ。

 

「さてと。さっそくだけどリク」

 

「おい、まさかまた休みなしで次の外史に行けってか?」

 

「う~ん……休み、欲しい?」

 

「当たり前だろ――」

 

休ませろ、と言いかけて、

 

「いや、行く」

 

そうだ。ここで足踏みする必要なんてない。

 

(今の俺は、空っぽじゃない。あいつらがいる……もう、一人じゃねぇんだ)

 

 

だから俺は、立ち止まらない。みんなと共に、歩き続けるんだ。

 

 

Fin

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あのーリク? 実は君に言っとかなきゃいけないことがあってさぁ……」

 

「へ?」




シシカバブ伝統の、もうちょっとだけ続くんじゃ


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おまけ 契約継続

おまけという名の真・最終回

そしていつもと違う更新時間にシュゥゥゥ!


 

 

――陸が亡くなる数ヵ月前

 

 

深い深い、真っ暗な世界。

立っているのか座っているのか、もしかしたら浮かんでいるのかもしれない。

自分が今、どんな体勢なのかも分からない。けれど、不思議と不安は感じない。

 

(死って、こんな穏やかなものなのね……)

 

先ほどまで、病室に集まった家族の顔を思い出す。

立派に更識家当主を務めている、自慢の息子。

次代の当主として、努力を続けている孫。

結婚から今まで、息子を支えてくれている義娘。

そして、私の最愛の人……

 

(唯一不満があるとすれば、簪ちゃんがいなかったことね……)

 

姉より先に逝ってしまった、私の妹。

あの子が逝った時と同じように、陸君も私の手を握って、涙を流していたっけ。

 

(私は果報者ね)

 

こんなにも、たくさんの人に看取られながら逝けるんだもの。

うん、はっきり言えるわ。

 

(私、更識刀奈の人生は、満たされたものだったと)

 

一片の悔いもなく――

 

 

ホントウニ?

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

――刀奈が亡くなる数日前

 

 

思い返せば、私の人生はあの時、IS学園に入学した時から……陸に出会ってから大きく変わったんだと思う。

もし陸に出会わなければ、私はお姉ちゃんの陰に隠れているだけの人間でしかなかったかもしれない。

それがどうだろう、この70年で、たくさんのものを得ることが出来た。そして今、たくさんの思い出を抱えて、逝くことが出来る。

 

(なんて幸せなんだろう)

 

私のしわがれた手を握りしめながら涙を流す陸の頭を、反対の手でそっと撫でる。

かつて陸が、私にしてくれたように。

その撫でていた手にも、力がなくなっていくのが自分でも分かる。

 

(これで、終わりなんだ……)

 

徐々に視界が暗転していく。そして、何も見えなくなった。

でも、不安や恐怖は感じない。それは私が、満足しているからなんだと思う。

ああ、こんな満たされた気持ちで逝けるなら――

 

 

ホントウニ?

 

 

(っ!)

 

突然沸き上がった声無き声に、止まったはずの心臓が鷲掴みにされたような気がした。

 

 

ホントウニ、ココロノコリハナイノ?

 

 

(心残り、そんなものは……!)

 

わざと不安を掻き立てるような声に、私は心の中で言い返そうとして

 

 

陸のことが、頭を過った

 

 

陸もいつか、この世界で死ぬことになる。けれどそれは、私達と同じじゃない。

この世界で死んでも、別の外史を巡る存在として生き返る……確かあの神様(ロキさん)はそう言ってた気がする。

その時、また陸は一人。

 

『君はいいのかい? 現地作業員として永遠に近い時をもって外史を巡るリクにとって、君と一緒にいる時間は泡沫うたかたの夢のようなものだ』

 

『その短い時間が、陸にとって一番幸せな時間になると確信してるから。それが、私の望みだから』

 

かつて神様と初めて言葉を交わした時に、私が切った啖呵。

この気持ちに、偽りはない。ない……けど……!

 

 

ホントウニ、ココロノコリハナイノ?

 

 

「あるに決まってる……」

 

もう動かないはずの喉が、出ないはずの声を絞り出す。

もっと陸と一緒にいたかった。ずっとずっと、一緒にいたかった。

 

「私は……」

 

本当は私は……!

 

 

 

「陸を残して逝くなんて嫌だ!!」

 

 

 

有らん限りの声を張り上げた瞬間、私の視界は真っ暗から真っ白に反転した。

 

 

ーーーーーーーーー

 

 

「ここ、は……?」

 

気付いた時には、私は見たこともない場所に立っていた。

一面真っ白で、見渡す限り何もない世界に。

 

(ちょっと待って。私、()()()()()……?)

 

数年前に歩けなくなってから、自力で立ち上がることも出来なくなっていたはずなのに。

それに、今までより視界というか、視線の位置がズレてる気がする。

 

「一体何が……って、ええ!?」

 

体の異変を感じて、自分の手を見て驚いた。

その手は皺のない、若かりし頃の手だった。そして視線を下に向けたことで、さらにおかしいことに気付いた。

 

「これ……IS学園の制服?」

 

自分の手を見た時一緒に視界に映ったのは、IS学園の制服だったのだ。

もしかしてと思ってポケットの中を探ると、いつも入れていた手鏡が入っていた。それを見て、私は今度こそ絶句した。

 

「嘘……」

 

それは確かに私だった。70年前、IS学園にいた頃の、私の姿だった。

 

「簪、ちゃん?」

 

「え……」

 

何もない世界だと思っていたところで突然名前を呼ばれて、私は思わず勢いよく振り向いた。

 

「本当に、簪ちゃん、なの?」

 

「お姉、ちゃん……?」

 

お姉ちゃんだった。記憶の中にある、IS学園の生徒会長だった頃の、お姉ちゃんだった。

 

「あ、ああ……!」

 

お姉ちゃんが目尻に涙を溜めて、私にゆっくりと近づいてくる。私も、ゆっくりお姉ちゃんに近づいて――

 

「~♪――ファッ!?」

 

「え?」「え?」

 

さらに第三者の声に振り向くと、そこには――

 

「――(ダバダバダバ)」

 

紺のスーツを着込んだ短髪の男の人が、口からコーヒーらしき液体をマーライオンしている姿があった。

あれ? 今の声、聞き覚えが……

 

「もしかして、ロキさんですか?」

 

そうだ、陸を私達の世界に送り込んだ神様だ。どこかで聞き覚えがあると思ったら。

 

「アイエエエ!?カンザシ!?カンザシナンデ!?」

 

マーライオンから戻って来たロキさんが、次は忍殺語を叫び始めた。私ニンジャじゃないんですけど……。

 

「シギュゥゥゥゥン! ヘルゥゥゥゥプ!!」

 

そして錯乱したような目をしたロキさんは、突然現れた光の中に消えてしまった。ついでにその光も。

 

「えっと、何がどうなってるの?」

 

「分かんない……」

 

お姉ちゃんと私は、その場に立ち尽くすしかなかった。

 

・・・・・・

・・・・・

・・・・

・・・

・・

 

「「尸解仙?」」

 

ロキさんが連れてきた(腰まで伸びた銀髪の)女性――シギュンさん――の説明に、私とお姉ちゃんの疑問形がハモった。

 

「マジか……でも確かに尸解仙なら、この世界に来たのも納得だよ」

 

「あの、尸解仙って何なんですか?」

 

勝手に納得しているロキさんを放ってお姉ちゃんが質問すると、シギュンさんが『本来は私達、北欧の神々は管轄外なのですが』と前置きしたうえで

 

「中国の道教に、仙道を体得し不老不死となった存在、仙人というものがあります。この仙人には大きく3種類あり、その中の一つが尸解仙、死後何らかの要因によって仙人化した存在なのです」

 

「つまり……私とお姉ちゃんは、仙人になった?」

 

「うっそぉ……」

 

「嘘なら良かったのですがね……」

 

シギュンさん曰く、この世界は本来、神や神に呼ばれた存在しか入ることが出来ないらしい。

 

「でも仙人なら、僕達神が呼び込んで神性を持たせた人間、つまりリクとかと近い存在と言える。だからこの世界に来れたのも納得ってわけ」

 

「ですが、いくら尸解仙が仙人の中で下位とはいえ、そう簡単になれるものではないはず……ここに来る直前、一体何を?」

 

「と言われても……」

 

「心当たりと言ったら……」

 

とりあえず、この世界に来る直前のことを話してみたら、ロキさんとシギュンさんがUMAを見たような目を向けてきた。解せぬ。

 

「り、リクを残して死ねないって思ったら仙人に?」

 

「うっそやん……」

 

シギュンさん、口調口調。

そしてまさか、お姉ちゃんも同じことを思ってたなんて……。

 

「しかし、どうしましょう? この世界に来てしまった以上、元の外史に戻すわけにいきませんし……」

 

「そうだねぇ……」

 

ロキさんは腕を組んでうんうん唸ってたけど、『そうだ!』と手を叩くと

 

 

 

「二人とも、現地作業員になってみない?」

 

 

ーーーーーーーーー

 

「というわけなんだ。で、二人ともまだ現地作業員としては新人だから、教育係をリクに任せたいなーって思ってね」

 

「陸」「陸君」

 

「「ご指導ご鞭撻、よろしくお願いしま~す♪」」

 

「……」

 

そう言って俺の腕を掴む二人に対して、俺は二の句を継げないでいた。

嬉しさ混乱頭痛。色んなものが俺の中を走り回り、ようやっと出てきた言葉が

 

「ええい! 二人とも、俺に付いてこい!」

 

だった。

もう少し気の利いたセリフを言えればよかったんだが、今の俺にはこれが限界だ。

 

「も~陸君ってば。どこまでも付いてっちゃうわよ♪」

 

「うん。もう二度と、離れる気はない」

 

「おっも!……一応聞いとくけどリク、やっぱり教育係、やめとくかい?」

 

「何を今更」

 

口元を引き攣らせるロキに、俺は鼻で笑って答えてやった。

 

 

 

「俺と二人との契約は、まだまだ継続中なんだよ」




今度こそ本当にラストです!(ドンッ)

本作を書き始めたのが去年の12月。それから約9か月掛かって、ようやっと完結までたどり着きました。
それも、更新のたびに読んで下さった皆様のおかげです。UA数やお気に入り数を見ると、モチベ上がるよね。

以前どこかの回でも書きましたが、もし番外的、DLC的なものを書く気になった場合、season2的なタイトルで新規作成するつもりです。せっかく完結したのに、連載中の札掛けたままズルズル伸ばしたくないもんで……。
もし次回作を見かけましたら、隙間時間の暇つぶし感覚で読んでいただければ幸いです。


それでは改めまして、ここまで『俺と契約して、ブリュンヒルデになってよ!』を読んでいただき、ありがとうございました。


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