恥ずかしがり屋の司書の異世界譚 (黒蒼嵐華)
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プロローグ
0時間目


ネギまが再ブームになってしまったので、勢いで書き始めました。


 ――皆様、ご搭乗ありがとうございました。当機はまもなくロンドン・ヒースロー国際空港に着陸いたします――

 

 え? もうロンドンについたんだー。じゃあ後はウェールズまで行ってゲートまで行くだけだったよねー。ネギ先生(せんせー)は空港で待っててくれるんだよね。高校生になって初めての夏休みだし、夕映にはやく会いたいなー。夕映はアリアドネーで魔法をするために留学中だから会うのは久しぶりだなー。ゴールデンウィークはアイシャさんたちとは一緒に色んなダンジョンに行ったけどー、それで夕映とは会う時間がなかったから余計に楽しみだよー。

 

飛行機の座席にいた少女――宮崎のどかは自分の荷物をまとめ、飛行機を降りるために準備を始めた。着陸し、降りるように支持するアナウンスが流れると、のどかは到着口に向かって動いている人の波に乗って動いた。そして、入国審査やらいろいろなことを終えると、荷物を受け取った。のどかに向かって走ってくる少年の姿を見つけた。

 

「のどかさーん、こっちですよー」

「あ、ネギ先生(せんせー)、お久しぶりです」

「そうですね。お久しぶりです、のどかさん。それじゃあ行きましょうか」

「はいー」

 

 少年の名前はネギ・スプリングフィールドと言う。ネギは11歳だが、ちょうど4ヶ月ほど前までは麻帆良学園女子中等部の教師を勤めていた経験を持っている。更に今はBlue Mars計画の発案者でもあり、魔法世界(ムンドゥス・マギクス)を救った英雄でもある。そんな英雄と親しいのどかは、彼が教師を勤めた約1年間ネギの生徒だった。また、彼と契約したパートナーの一人でもある。

 

「のどかさん、最近勉強の方はどうですか? 心配ないと思いますけど、何かわからないことがあったら遠慮なくメールしてくれて構わないですよ。もっとこうして皆さんと会いたいんですけどね……」

「いえー、勉強の方はまだ大丈夫ですよー。そうですよねー、先生(せんせー)はお仕事すっごく忙しいですからー。」

 

 二人はそんなような会話をしながらネギの故郷であるウェールズへと向かった。ウェールズには魔法世界へと続くゲートがある。世界に12箇所あり、麻帆良学園にもある。麻帆良学園のゲートの調子が悪いので、のどかは今回ウェールズのゲートを使うことにしたのだ。

ウェールズに着き、ネギはのどかに話しかける。

 

「じゃあ、のどかさん。とりあえず今日は(うち)で休んでください。長旅で疲れたでしょう? 家でネカネお姉ちゃんが料理を作って待っててくれているはずですから」

「ネギ先生(せんせー)は戻らないんですか? 用事があるなら私もお手伝いしますけど……」

「いえ、戻りますよ。その前にスタンさん達に会いに行こうと思って」

「あ、そうでしたか。わかりましたー。先にお邪魔させていただきますー」

「はい! じゃあまたあとで」

 

 ネギは大きく手を振りながら、笑顔で去っていく。のどかはそんなネギに声をかける。

 

「ネギ先生(せんせー)! このかさんがすっごくすっごく頑張ってますからー! 絶対に大丈夫ですー!」

 

 本来のどかはおとなしい少女だ。前髪で目を隠し、恥ずかしがり屋ないわゆる文学少女である。そののどかが大きな声で叫んだのだ。ネギは思わずこちらを振り返り、また笑顔でのどかに答える。

 

「のどかさーん! ありがとうございます! 少しだけ不安になっちゃってたけど、木乃香さんがそんなに頑張ってくれてるなら心配ないですね! じゃあすぐ治るってスタンさんに報告してきますよー!」

 

 のどかはネギの晴れやかな笑顔を見て赤面しながら、その場に立ち尽くしていた。

 

 あわわわわ、ネギ先生(せんせー)があんな風に笑うの久しぶりにみたよー。うぅ、やっぱりあの子が羨ましいなー…………あ、ネカネさんのところに行かないとー。待たせちゃってるかもしれないしー。

 

「のどかちゃん、いらっしゃい。ご飯も作ってあるし、日本式のお風呂も入れておいたわ。とりあえず、ネギが来るまで少し時間あるでしょうし、お風呂入ってもらっていいかしら?」

「はいー、わかりましたー。えーっと、荷物はどこに置けばいいですかー?」

「そうねぇ……のどかちゃんが泊まる部屋はここだからここ置いておけばいいわ」

「ネカネさん、ありがとうございます」

「いいのよ、気にしないで」

 

 のどかは言われた部屋に荷物を置き、荷物の中から着替えを取り出し、着替えてから風呂場に向かった。

 

 ふぅー、いいお湯だなー。イギリスでもこんなふうにお風呂に入れるのは嬉しいなぁ。明日は早いし、今日はさすがに本は読めないかなー。ネカネさん、料理も準備してあるって言ってたから早めにあがろうかな。

 

 のどかが体や髪を洗い終え、お風呂を上がったところで気づいたことがあった。身体を拭くためのバスタオルがないということだった。その瞬間、扉が開けられた。入ってきたのはいつの間に帰ってきたのかネギだった。ネギはネカネに言われてバスタオルを持ってきたのだ。ネギと目があったのどかはしばらくすると、キャーッと叫び声を上げ、腕で身体を隠しながら膝を曲げた。ネギは顔を真っ赤にしながらも、のどかに持ってきたタオルを謝りながら渡した。のどかのスタイルは一概に良いとは言えないが、かなり綺麗な身体をしている。胸は小ぶりだが、お腹から胸にかけてのラインを見ると美しいと形容され、足から腰を見ると、足は長く、腰も女性的なそれになっている。また、お風呂上がりで肌がほんのりと紅潮して綺麗なピンク色になっている(ネギに見られたからかもしれないが)。前髪もいつものように目にかかっていないので(最近はいつも目は出ているが)、のどかの可愛い顔がよく見えるようになっている。

 

「ね、ねねね、ネギ先生(センセー)、あのそんなに見られると……恥ずかしい……です」

「……あ、あ、え、えと……のどかさん、ごめんなさーい!」

 

 のどかはもっと頬を紅潮させてネギに抗議すると、ネギは年頃の男子らしい反応を見せて慌てて出ていった。その後、ネカネにからかわれたのは言うまでもないことだった。

 

 夜が明けて、のどかとネギはゲートにいた。初めてのどかたちがゲートを使おうとしたときは案内人が必要で、人も多かった。だが、今はあまりそういうことを必要とせずに動くようなシステムになっている。これは麻帆良のオーバーテクノロジーと魔法使いが協力して成り立っている。

 

 昨日は恥ずかしいコトがあったけど……い、今はそれは置いおくとしてー。夕映にやっと会えるんだー。待っててね夕映―。

 

「……かさん。のどかさん」

「ふぇ? あ、なんですかー?」

「ゲートを開きますから準備してください」

「はいー、わかりましたー」

 

 ネギはのどかに合図を送ると、ストーンヘンジには似つかわしくないゼンマイを巻き始めた。このゼンマイを巻くと魔法世界(ムンドゥス・マギクス)に繋がるゲートが開くのである。ストーンヘンジに刻まれていた魔法陣がゼンマイを巻くたびに呼応して、輝き始める。次第にその輝きは増していき、のどかとネギを包み込んだ。

 

そこで、異常が起きた。

 

本来ならば一瞬で着くにも関わらず、10秒、30秒、1分経ってもまだ光の中にいるのだ。しかも、体が段々と浮き始めた。

 

「のどかさん、どうやらここも壊れているみたいです。このままだと、どこの世界に行くかわかりません! 下手したら向こうに行けずに、並行世界に飛ばされるかもしれません!」

「ほ、本当ですか!? ネギ先生(せんせー)! これをー!」

 

 のどかが自分のカバンから投げたのは小さな懐中時計だった。それを見たネギは驚愕した。

 

「これって!? なんでカシオペアがここに!?」

「似ていますけど、違うものです! これはこの前のゴールデンウィークでアイシャさんたちと見つけたマジックアイテムの一つです! ほんの少し魔力を込めると未来へ跳ぶ力があります!」

 

のどかが説明している間にも、ネギとのどかの距離は離れていく。ネギは急いでのどかを引き寄せようとした。

 

「のどかさん! (クソ、なんとかしてのどかさんの側に行かないと、のどかさんは助からない!) ラス・テル ラ・スキル マギステル!」

「ダメです! せんせー! この中でせんせーの魔法を使ったら多分戻ってこれないと思います! 私のことは心配いりません! ネギ先生(せんせー)は脱出してください!」

「でも!」

「大丈夫です! 私だって白き翼(アラアルバ)の一員です! 刹那さんや楓さん、それに夕映と比べると頼りないかもしれないですけど、ネギ先生(せんせー)信じてください!」

 

 ネギはのどかのその言葉に信頼と同時に、自分の不甲斐なさを痛感した。もっとはやくのどかを自分の元に引き寄せていれば、もっとはやくにゲートが故障していると気付けていれば……そんな後悔の念がネギを支配していた。

 

「そうですよね、のどかさんだってあの夏の冒険を乗り越えてきたんですから。それに今はもっと身体強化もできますしね。……のどかさん、ごめんなさい! 絶対に見つけてみせます!」

 

 ネギが光の中から姿を消すと魔法具使ったからか、光がより一層強くなり、一気にのどかを包み込んだ。

 

 うう、あんなこと言っちゃったけど、やっぱり少し不安だよぅ。夕映ゴメンね。またしばらく会えなくなっちゃった。せんせー、迷惑かけてごめんなさい。

 

 のどかは光に呑まれながら自分の親友と初恋の相手を想い消えていった。一方ネギはカシオペアの力で未来にたどり着いていた。のどかが消えてからほんの数秒後の未来だった。

 

「光は収まってる。のどかさんはどこか別の世界に飛ばされた可能性が高いな。クソォ!僕がもっとしっかりしていれば! 夕映さんに合わせる顔がないよ……」

 

 のどかが目を開けるとそこは見たことのない場所だった。自分の荷物も同時に飛ばされてきているのを確認した。周りは一面が草原。唯一建物があるとすれば、中世風の城のような建物だった。

 

「ここは……? とりあえずあの建物に行こう。もしかしたら魔法世界(ムンドゥス・マギクス)の一部かもしれないしー……」

 

 そんなのどかの淡い期待はそこで出会った人々によって裏切られることになった。

 




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入学編
1時間目


のどかのキャラが違うような気がする……難しい


のどかは学院長室と呼ばれる場所でヒゲが長い老人とカツラをかぶり、杖を持った中年の男と対面していた。その老人はオールド・オスマンと言い、のどかがゲートの事故によって飛ばされた後、すぐに見つけた建物――トリステイン魔法学院の学院長らしい。そして中年の男の方はコルベールと言い、教師をしているらしい。

 

 なんか麻帆良学園の学園長さんと雰囲気が似てますー。魔法使いを育成する学校はアリアドネー以外にもないことはないからてっきりそこに飛ばされたのかと思ったんだけど……

 

「ふむぅ、では君は別の世界から来た、と? にわかには信じられんのぅ、信じろという方が無理な話じゃ」

「そ、そうですよね。私でもそんなことを急に言われたらその人を疑っちゃうと思いますしー」

 

 オールド・オスマンがのどかの言葉を訝しげに見ているのに対し、コルベールは感極まった様子でのどかに近づくと、手を握り、目をキラキラと輝かせていた。手を握ったところでのどかは身体をビクッとさせ、困った様子でコルベールを見る。

 

「キャッ! え、えとー。あのー……」

「ミヤザキノドカさん、でしたね! 私はあなたの話を信じようと思います! オールド・オスマン! 彼女の異世界の話は作り物にしては出来すぎています! 鉄が空を飛ぶ! そんなことが考えられますか!? 私はもうそんな想像をしただけでドキドキしてしまいますぞ! しかも、飛行船よりも速い! 乗ってみたいですなぁー」

「これこれ、コルベールくん。簡単に信じすぎじゃろ。確かに、彼女がウソをついとるようには見えんしのぅ。ワシは立場上、こんな突拍子もない話を簡単に信じるわけにはいかんのじゃ。君の着ている制服のデザインは見たことないが、オーダーメイドなら簡単に作れるじゃろうし。系統魔法の種類の違いも筋が通っておった。じゃが、妄想と言われればそれまでじゃ」

 

 のどかはその通りだ、と思った。自分の言ったことは筋が通っていても証明する手立てがない。のどかが少し考えていると、コルベールは何かを思いついたらしくあることを提案した。

 

「オールド・オスマン、彼女の魔法を見せてもらえば良いのでは? 我々とは違う属性の魔法を扱うことが出来れば、証明になるかと」

「その通りじゃが、それじゃと異世界の魔法とはどんなものかと期待し、油断しとるワシらを簡単に殺せるかもしれんからのぅ」

「あ、あのー。ゴメンなさい、私は魔法の才能がないらしいので、魔法を使えないんですー。出来ても、身体強化くらいでー」

 

 のどかが自分について説明したところでコルベールは疑問に思ったことがあるらしく、のどかに説明をした。

 

「? ミヤザキさん、貴方は貴族なんですよね? 貴族じゃないと魔法は使えないはずですが……」

「貴族、ですか? 違いますよー。身分制度なんてないようなものですよ。魔法世界(ムンドゥス・マギクス)ではそういう制度もあると思いますけどー。それに、身分で魔法が使えるとか使えないとかはありませんよー。私の友達も貴族じゃありませんけど、魔法の才能がありましたしー」

「なるほどのぅ。これは大きな違いかもしれんのぅ。貴族を前にしてそんなこと言える平民はおらんじゃろうて」

「ど、どういうことですかー?」

「なに、単純なことじゃ。ワシらの世界、と言ったほうが良いかの。ワシらの世界で平民と貴族はあまりにも力の差がありすぎる。それは身分だけではなく」

「魔法が使えるかどうか、ですね?」

「うむ、理解が早いのう」

「そ、そんなことないですよー。ただ、今までの話から推測できることだと思いますー」

「では、なぜ魔法が使えると偉いのかわかるかの?」

「恐らく、オスマンさんの世界では科学技術が発達していません。ここで重要になってくるのは、魔法使いの存在だと思われます」

「こっちではメイジというのですが……」

「コルベールくん! 話の腰をおるでない!」

「申し訳ありません! 宮崎さん続けてください」

「あ、はいー。魔法使いじゃなくてメイジですね。簡単な話、重要な仕事にはメイジがつく、ということかと。土のメイジは建築業、風のメイジは飛行船の動力源になってくれたり、水のメイジは話を聞く限りお医者さん、火のメイジは思いつきませんけどー。後は嫌ですけど、戦争に出向くのもメイジなのではないかと……思い、ます」

「まあ、そんなところじゃの。じゃあ最後にメイジが平民に協力することがあると思うかの? 君の話ではメイジと平民がお互いに協力し合っているように聞こえるのぅ」

「………………じゃあやっぱりメイジの人は平民の人を見下しているんですね……魔法が使えないからと言って……ひどいです。……そういう、ことならメイジの人がいなくても動力となるモノが必要になってきますよね。それはきっと資源なんでしょうね。魔法の力が宿ったナニカだと思います」

「その通りです! いやはや素晴らしいですぞ! オールド・オスマンが誘導したとはいえ解にたどり着くとは!」

 

 コルベールがのどかが出した答えに興奮して舞い上がっているのを見てオスマンは少し苦い顔をした。

 

「…………うむ。これが我々の世界のルールじゃ。(洞察力がハンパじゃないのぅ。しかも、()()()()と言ったということは初めからそれは推測しておったことじゃろうな。まあ、貴族と平民の差は本の世界と同じだから浮かんだ、と思ってしまえばそれまでじゃがの。恐ろしく頭の回転が速い。更に、おっとりしておるからと言って油断しとると危険じゃのぅ。ここは、ここに留めておかなければならんのぅ)」

 

 あわわ、私何かまずいこと言っちゃったかなー。オスマンさんは普段通りを装っているみたいだけどー……こんなこと考えちゃダメなのに……やっぱり私ってダメだなー。

 

「ミヤザキくん、ここの生徒になる気はないかのぅ?」

「オールド・オスマン!? さすがにそれは……」

「オスマンさん、そのお誘いは嬉しいですけど、私には魔法の才能は……それに証明が出来たわけではないですし」

「ふむ、そうじゃな。正直に言おう、ワシは君が恐ろしい」

 

 その言葉にコルベールは驚愕した。メイジの中でも最強と謳われているオールド・オスマンがただの少女に恐怖している、と言ったのだ。コルベールにはそれが信じられなかった。

 

「(オールド・オスマンが宮崎さんを怖がっている!? 確かに、彼女の観察眼や推理力は目を見張るものがありますが……)」

 

 私が恐ろしいって……やっぱり私何かしちゃったのー!?うぅ……フェイトさんにも言われたんだよねー……

「宮崎のどか、君は敵に回すと厄介だから真っ先に狙っていたんだけどね。というか正直邪魔だったよ。ついでに言うと今ネギ君は僕と話しているんだ。つまり、今も邪魔だということだ。だからどこかに行ってくれないかい?」

 うぅー、思い出しても悲しくなってくるよー。アレって強制だったような……

 

「何やらトリップしておるようじゃが、話しても良いかの?」

「あ、すいません」

 

 オスマンは場の雰囲気を引き締めるように咳払いをすると、普段の彼を知っている人物からは想像できないような真剣な面持ちになり、のどかを見た。のどかもその雰囲気を感じ取りオスマンに目を合わせる。

 

「君を敵に回したくないというのが本音じゃ。君をここに置いておきたい。気付いておるとは思うが、監視という名目もつくがの」

「魔法は使えませんけど、そういうことでしたら。監視されるのも当然ですし」

「うむ、すまんのう。あと、こんなことは言いたくないんじゃが、ワシが君を恐れている理由を話してもよいかのう?」

 

「い、いえー、必要ないですー。あ、ある人に散々言われましたからー。あ、証明できるものを思いついたので、いいですか?」

 

 のどかの言葉を聞いて真っ先に反応したのはコルベールだった。彼は先程のオスマンの発言など忘れてのどかに詰め寄っていた。のどかはコルベールが急に近づいてくるので、乾いた笑いを漏らしていた。オスマンはのどかを注視していたが、先程のような雰囲気はなく、コルベールほどではないが、楽しみにしているようだった。

 

 よく考えたら、アーティファクトを出せばそれで済むはずなんだよねー。なんで思いつかなかったんだろー。

 

 のどかは服のポケットからのどかの絵が描かれたカードを取り出すと説明を始めた。

 

「これはパクティオーカードと言って、魔法使いの従者になった証ですー。呪文を唱えると契約した人専用のマジックアイテムが出てきます」

「ほう……実演してもらってもいいですかな?」

「いや、コルベールくん。その必要はないじゃろう。ワシが宮崎くんを信頼しておるからのぅ。くだらんウソはつかんじゃろ。マジックアイテムはワシも気になるところじゃが、このようなところで使う必要もあるまい。そのカードを調べれば良い話じゃ」

「な、なるほど」

「あ、どうぞー。これが私のカードですー」

 

 のどかがカードを渡すとオスマンとコルベールはお互い顔を見合わせた。そしてひとつの結論に達した。

 

――このカードは間違いなく異世界の魔法がかかっている――

 

「間違いないようじゃな」

「そうですね、このような魔法の術式は見たことありません。オリジナルかと思いきやそうでもないようですね。我々の魔法のコントラクト・サーヴァントと似ていますがね」

「従者になると言っておったからの。似ておっても不思議ではないじゃろう。この文字はどういう意味なのかの?」

「えーっと、それはー。恥ずかしがり屋の司書です。仮契約(パクティオー)、つまり主従関係を結んだ時にその人に与えられる称号のようなものです」

「なるほどのう。これを見るとどんな人かわかる、とうことじゃな。宮崎くんは司書というくらいじゃから本が好きなのかの?」

「はい! 大好きですー。色んな本を読むんですけど……」

「ほほう、そっちの世界の本も読んでみたいものじゃ」

 

 異世界の本に思いを馳せているのどかにオスマンはカードをのどかに返すと、すぐに羽ペンを取り出し、編入手続きをしてくれていた。コルベールは二年生の召喚の儀式があるからと学院長室を出ていった。オスマンはのどかに一人部屋はないから誰かと同室になってもいいかと確認した上で、部屋を手配した。のどかはオスマンから言われた資料を受け取って書かれている部屋に向かった。文字は読めないが、部屋までの地図をもらえたので問題なくたどり着くことができた。

 

 勝手に入っちゃダメだよね……同室の人が来るまで待とうかな。

 

 のどかが部屋の前に座って待っていると、相部屋の人がやってきたらしい。小柄で綺麗な水色の髪をした少女が前に立っていた。

 

「誰?」

「あ、ここの部屋の方ですかー?」

「そう」

「今日から相部屋になった宮崎のどかと言いますー。よろしくお願いしますー」

「相部屋? 聞いてない」

「今日決まったらしいのでー。これは学院長さんにもらった資料ですー」

 

 少女はのどかが見せた資料を見て納得したらしい。

 

「タバサ。よろしく」

 

 小さく自分の名前を名乗るとのどかを部屋に招き入れた。

 

 無口な人だけど、いい人で良かったー。それにしても豪華なベッドだなー。麻帆良学園の方が大きかったけど、貴族は違うんだー。なんだか物語のお姫様になった気分だよー。

 

夜になり、寝ようと思ったところでのどかは一つ疑問に思ったことがあった。言葉が読めなかったのに、どうして会話ができるのだろう、と。それを考えているとひとつの結論に達した。パクティオーカードの効果、ということである。魔法世界(ムンドゥス・マギクス)でも日本語が通じたのはそういう理由だろう。それ以外には考えられなかった。のどかは文字が書けない。魔法が使えない。これでは怪しまれてしまうのではないかと想い、そのことをオスマンに相談することを決めて、その夜は眠りについた。

 

寝る前になぜか男子の叫び声が聞こえてきた気がするが、気にしてはいけない。

 




とりあえず同じ本好きということでタバサと同室に。

パクティオーカードの設定はオリジナルです。実際はカードにそんな効果ないんですよね。亜子たち普通に会話してましたし……こ、細かいことは気にしないことに……
才人もルーンをもらうまでルイズたちが何を言っているのかわかっていなかったので、こういう便利な能力をカードに付与しました。

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2時間目

今回はタバサとのどかの仲が少し進展したはず……!


 のどかは差し込んできた陽の光で目を覚ました。のどかは朝が弱いというわけではないが、特別強いというわけでもない。ただ、中学時代のクセで朝早く起きてしまうのだ。ルームメイトだった夕映やハルナが家事をやらないので、のどかが朝ごはんを作ったり、掃除をしたりと家事をこなしてきたのである。目が覚めたのどかは隣のベッドでまだ寝ているタバサを起こさないように、いそいそと麻帆良の制服(高等部のデザインは中等部とあまり変わらない)に着替え始めた。そして、新たにルームメイトとなったタバサに何か料理を振舞おうと思ったのだが、キッチンがないことに気がついて困惑していた。

 

 あ、あれー? キッチンがないよー。あっ、そういえば冷蔵庫もないみたいだしー。どうやってご飯食べてるんだろー? オスマンさん……じゃなくてー、学院長さんに聞いておけば良かったなー。そういえばここに住んでいる人達って貴族だけなのかな……うーん、昨日のお話だとお世話役の人がそれぞれいるのかなー。それともー、ここで働いている人がいるのかな……きっといるんだよね。貴族の人たちは自分でご飯を作れなさそうだしー、料理人の人も住み込みで働いているってことなのかなー。わぁ、本当に物語の偉い人みたいだよー。

 

 のどかは初めて魔法と出会った時のこと――狗族の少年、犬上小太郎を出し抜き、ネギを救ったことを思い出していた。その時はネギを救うことで頭がいっぱいだったが、その後ネギが魔法使いであると聞いた時のドキドキが再び蘇ってきていた。のどかが一人で微笑んでいると、後ろから衣擦れの音が聞こえたので、振り返るとタバサが着替え始めていた。

 

「あ、タバサさん。おはよーございますー」

 

 のどかはタバサに当たり前のように挨拶をすると、タバサはそれに慣れていないのか、眠たそうな目を一瞬大きくさせた。すぐに戻ったが、少しどう答えようか迷ったあと小さな声でのどかに挨拶を返した。

 

「……おはよう」

 

 タバサさんってなんか夕映に似てるかもー。眠そうな目とかー、身長とかー……これを言ったら夕映に怒られちゃうかな。ふふっ、この部屋見ると本が好きみたいだし、友達になれるといいなー。

 

「そういえば、タバサさん。ここでの食事ってどこで食べるんですかー?」

「食堂。一緒に行く?」

「案内をお願いしてもいいですかー?」

「構わない」

 

 タバサはのどかが着替え終わっているのを見て、部屋を出ようとしたが、のどかに止められてしまった。

 

「どうしたの?」

「ゴメンなさいー。ちょっとだけ待ってくださいませんかー?」

 

 タバサは軽く頷くとドアノブにかけた手を戻し、逆の手に持っていた本を広げ始めた。のどかは鏡台があることを確認していたので、自分のカバンからリボンを取り出し、ポニーテールにした。

 

「タバサさん、お待たせしましたー。もう大丈夫ですー」

「あまり待ってない」

 

 タバサは今度こそドアノブを回し、ドアを押して部屋から出た。のどかもタバサの後についていった。

 

「ここ」

「わぁー、立派な建物ですねー。この建物が全部食堂なんですかー?」

「そう」

「へぇー。なんだか見ているだけでも楽しいですねー」

 

 のどかとタバサが食堂の中に入っていくと、その中は更にすごかった。ロウソクが何本も立てられ、シャンデリアは当然として、おおよそ朝だけでは食べきれないほどの量の食事。更にそれだけでは飽き足らず、フルーツを盛ったバスケットまで用意されている。そのフルーツはどれも新鮮ということが判るほどにつやつやであった。

 

「わぁー! こんなに立派な食堂なんですねー! 本当に物語の登場人物になったみたいですー」

「登場人物?」

「あ、いえー。なんでもないですよー」

「そう」

 

 タバサは自分の席はここ、と言うようにまっすぐ歩いて行った。のどかもタバサから離れたくはなかったので、タバサの隣に座る前に一つ聞いた。

 

「席って決まってたりしますかー?」

「自由」

「良かったー。あっ、隣いいですかー?」

「もちろん」

「ふふっ、ありがとうございますー」

 

 タバサはのどかがどうして笑ったのか分からずに首をかしげていたが、料理が運ばれてくると、そんな疑問はなかったかのように食べ始めた。のどかも運んできた人にお礼を言いながら、料理に舌鼓を打った。料理を運んできたメイドは何やら逃げるようにして去っていったが、のどかは気に留めなかった。

 

 はふぅー、もうお腹いっぱいですー。それにしてもタバサさん、そんなに食べるなんて思わなかったよー。

 

「タバサさん、私は明日から授業に参加することになっていますのでー、一度お別れしますねー」

「どこに行くの?」

「学院長室ですー。昨日だけでは説明が足りなかったのでー」

「わかった」

「失礼しますー」

 

 のどかはペコリとタバサに頭を下げてから出ていった。食堂から寮までの道のりと、寮から学院長室までの道のりを覚えていたので、難なく学院長室に到着した。

 

「学院長さん、いますかー? 宮崎のどかですー」

 

のどかはコンコン、と扉をノックして、オスマンがいるかどうかを確認する。そうすると、中からコルベールの声が聞こえてきた。

 

「ミヤザキさんですか? はて、まだ何か用事がありましたかな?」

「コルベールさん、えーっと昨日気づいたことがあったので、そのことでお話したいんですけどー」

「構いませんぞ。オールド・オスマンも中にいらっしゃいますからどうぞ」

「失礼しますー」

 

 のどかが部屋に入ると昨日と同じようにオスマンとコルベールがいた。

 

「いきなり本題じゃが、気づいたこととは何かの?」

「えーっと、私ここの文字が読めないんですー。これじゃあ怪しまれてしまうと思ったのでー」

「ふむ……そうじゃなぁ。じゃったら、東方の出身にすれば良いのじゃ」

「なるほど! 名案ですな、オールド・オスマン」

「東方……ですか?」

「うむ、東方とはエルフが守っておるその更に先にある場所じゃ」

「エルフが守っている……ですか」

「まあそのことは良いとして、じゃ。そこの出身で何かしらの自然に出来たゲートによってこっちまで飛ばされてきた、ということにすればなんの問題もないはずじゃ」

「あの、どうして東方の出身なら問題ないんでしょうか?」

 

 オスマンはのどかのその疑問に意外そうな顔をした。コルベールも同様で、驚いているようだった。

 

「聡明な君ならば、気づいているのではないのかね?」

「オールド・オスマンの言うとおりだと私も思っていました。昨日のアレほどの推理をした君ならばお見通しなのではないですか?」

「……予想はできますけど、もしそうなら、私は嫌です」

「ふむ、君はどうやら戦いに良いイメージを持っておらんらしいのぅ。まあ仕方ないことなんじゃが……」

「戦争なんてモノは例え国に利益を生み出したとしても、それによって不幸になる人民の方が多いですからな。私もできることならば、戦争は避けたいところですな」

 

 コルベールは苦々しい表情を一瞬見せたが、すぐに普段通りの温和な表情の一教師に戻っていた。

 

「あの、それでですね。私、読み書きができるようになりたいんです!」

「読み書きですかな? それだったらそういう教材がありますぞ。あとで、お渡ししましょう」

「本当ですか!? ありがとうございますー!」

 

 のどかの笑顔を見たコルベールは若干顔を紅くしてそっぽを向いた。昨日は髪を結んでいなかったから、気付かなかったらしい。つまるところ、のどかは可愛いのである。目もパッチリしているし、顔の形やバランスを見ても可愛いと分類される少女である。しかも、多少アグレッシブになったとは言え、基本は恥ずかしがり屋な性格である。そんなのどかがパァっと目を輝かせたら可愛いに決まっている。コルベールもそれでやられたようであるし、色々な美女を見てきたオスマンでさえも唸るほどだった。

 

「? どうかしましたかー。も、もしかして私、何か失礼な事しちゃったとかですかー!?」

 

 急に黙り込んで、そっぽを向いたコルベールに何か悪いことをしたのでは、とのどかは慌てていた。その瞬間、コルベールは我に返り咳払いをしてから口を開いた。

 

「そ、そんなことはありませんぞ! むしろ悪いのはわた」

「キャーッ!」

 

 コルベールが何か言いかけた瞬間だった。突如爆発音が聞こえてきたのである。のどかは不意を突かれたらしくピョン、と軽くジャンプして悲鳴をあげていた。オスマンとコルベールの二人は溜息をつき、顔を見合わせた。そして、またか、と言った。

 

「あ、あのー。な、何があったんでしょうかー? 急に爆発したような音がしましたけどー……」

「あ、いやー。なんでもないぞい。ただ魔法が失敗しただけじゃろう。何時ものようにのぅ」

「そうですな。何時ものように、ですな。では、私は午後の講義は休講ということを伝えてきますので、これで」

「うむ、ご苦労じゃな。ミヤザキくんも戻りなさい。休講になるならば、ミス・タバサもおるじゃろう。友好を深めておくのも学生の本分じゃ。(我ながら酷いことしとるのぅ。彼女が学院から離れられないようにするために、大切な友人を作らせようとするなど……本当にすまんのう。ワシはこのようなことをしてまで君が欲しいのじゃ。エルフとワシら人間が敵対関係にあり、戦争は続いている、ということも看破したようじゃしな。末恐ろしい、じゃが味方についてくれれば……君はいずれ最高の武器になるはずじゃ。そんなことが起こらんと良いのじゃがな)」

「わかりましたー。それでは失礼しますー」

 

 学院長室から出るとのどかは一度寮に戻った。タバサが帰ってきていなかったので、窓を通して、部屋から外を見ると食堂に行くときに見た中庭のテラスに人が集まっているのが見えた。

 

 あ、あそこに人がたくさんいるからー、タバサさんもいるかもー。行ってみようかなー。

 

 中庭のテラスについたのどかはタバサを探してキョロキョロしていた。そして、求めていた人物を見つけると、近づいていった。そこには、燃えるような赤い髪をし、制服のブラウスのボタンを外し、胸元を大きく開けた褐色肌の女性がいた。のどかはその女性にやや気後れしながらもタバサにおずおずと話しかけた。

 

「あ、あのー。タバサさん、お、お隣いいですかー?」

「構わない」

「あら、タバサ、珍しいじゃない。あなたに人が寄ってくるなんて。服が違うけど、この子平民?」

「違う」

「そうよね〜、平民がこんなところに入れるわけないものね。それじゃあ何?」

「転校生」

「あ、なるほど。だから服が違うのねー。納得したわ。初めまして、あたしはキュルケ、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。よろしくね」

「あ、はいー。私は宮崎のどかですー。よろしくお願いしますー、キュルケさん」

「ノドカね。それにしてもその服可愛いわねー。どこで買ったの? 教えてくれない?」

「これは私が通っていた学校の制服でしてー……」

「へぇ~、どこの国かしら? 留学生ってことよね?」

「え、えーっとぉ……私は東方の出身でして……て、天然のゲートに巻き込まれちゃってこっちに来ちゃったんですー」

「ウッソォ!? 東方ってどういうところなの!?」

「……初耳。私も気になる」

「やっぱりタバサも気になるのね! それでどういうところなの!?」

「飛行機という乗り物がありましてー……」

 

 のどかがキュルケとタバサに日本のことや、麻帆良にある不思議ジュースの話をしていると、メイドがケーキを運んできてくれた。紅茶を淹れ、一礼して去ろうとしたところで、のどかが一声かけた。

 

「メイドさん、ありがとうございますー」

「えっ!? きっ、貴族様にお礼を言われるようなことはしていませんので! し、失礼いたします!」

 

 のどかがお礼を言ったらまたメイドは逃げるようにして去っていった。そのことで、キュルケは驚いていた。

 

「のどか、あなたメイドにお礼を言うなんてどうかしてるわ。メイドが給仕するのは当然のことなのに……」

「ふぇ? あっ、そうですよね。私の国では違ったのでー」

「え? どういう風なの?」

「ここではあまり言えないですけど、貴族制はほとんどなくなっています。あまり身分の違いはありませんしー……」

「信じられないわ。東方は進んでいるのか、遅れているんだかわからないわね」

「同感」

 

 少し経つと、三人から少し離れた場所が騒がしくなってきていた。キュルケは野次馬よろしくそこに行こうと言い、無理やりタバサとのどかを引きずっていった。その中心ではチャラそうな男と、のどかの世界の格好をした(青いパーカー)を着た青年が言い合っていた。最終的に、決闘ということに落ち着いた。その発端となったメイドは顔面蒼白になって、青いパーカーを着た青年にあなた、殺されちゃうと言ってどこかに走り去っていった。その後、桃色がかったブロンドの長髪の少女が青年に掴みかかっていた。のどかが疑問に思っていると、キュルケが説明してくれた。

 

「ああ、ノドカは知らなかったわね。あの男の子、サイトって言うんだけど……あのちっちゃい女、ルイズね。ルイズの使い魔なのよ。普通は人間が使い魔になるなんてありえないことなんだけどねー」

「へぇー、そんなこともあるんですねー。もしかしたら、私のせか……じゃなくってー、国の人かもしれませんねー」

「そうね、ちょっとルイズをからかってやろうかしらー」

 

 キュルケがルイズ――先程の少女に話しかけると、さっきから真っ赤だった顔が更に赤くなり、今にもキュルケに飛びかかりそうな様子になっていた。

 

「悪趣味」

「あ、あはは。ほ、本当にそうですねー」

 

 なんだか、委員長(いいんちょ)さんと明日菜さんを見てるみたいですー。犬猿の仲なんだろうなー。

 

 のどかが級友を思い出しているとタバサに服を引っ張られていた。

 

「タバサさん、どうしたんですかー?」

「私が文字教える」

「本当ですかー? ありがとうございますー!」

「だから、私もあなたの土地の文字を教えてほしい」

「? 構いませんけど、どうしてですかー?」

「あなたが持ってきた本を読みたい」

 

なぜタバサがのどかが文字の読み書きができないと知っていたのかは、キュルケと喋っている時にのどかが自分で言ったからである。普通は言語ができないのでは? という質問がタバサからあったが、それをぼかして答えたあと、のどかは本が好きだ、と答えた。そして、のどかの世界(くに)の本を数冊持ってきている、と言ったからである。

 タバサは自分の目的を話すとき、ほんのりと顔を赤くしてのどかを見つめていた。のどかもニコッと笑っていた。

 

「タバサさんもやっぱり本が好きなんですねー」

 

 のどかは笑顔のままタバサに話しかける。タバサは気恥ずかしくなったのか目を逸らして頷いた。のどかはその様子を見て、夕映を思いだし、嬉しくなっていた。

 

 やっぱり、タバサさんって夕映に似てるんだよねー。夕映、会いに行けなくてゴメンね。きっと心配かけちゃってるけど、私は大丈夫だからね。まだ帰れないけど、絶対に帰る方法を見つけて帰るからね。

 

 その後、キュルケが戻ってきて、今度は決闘の場所へと連行され、決闘を見届けることになった。

 




今回は決闘の直前までです。

感想お待ちしております!


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3時間目

初の戦闘です。今回はのどかの強化された一端を見ることができます!


 のどかとタバサがキュルケによって連れてこられたのはヴェストリの広場という普段はあまり使われていないような場所だった。だが、今はのどかたちだけではなく、多くの人が集まっていた。ガーデンテラスで何やら事件があったらしいのだ。その事件とはチャラい金髪の男子――ギーシュが二股をかけていて、それが発覚してしまったからである。発覚したのには理由があり、学園のメイドがギーシュが落とした香水の瓶を拾ったことが原因である。その香水の瓶は彼が付き合っていた女生徒が自分で作成しているもので、他人には渡さないことで有名だったからである。それが彼のポケットから落ちたということは、彼とその女生徒は付き合っているということになる。実際彼の周りにいた貴族たちもそれを見て、はやし立てた。そこまでならば良かったのだが、偶然にもその女生徒ともう一人、ギーシュが狙っていた女生徒が居合わせたのである。その結果、どちらにもフラれてしまった彼はその責任をメイドに押し付けたのである。それを見た青いパーカーを着た少年――サイトがギーシュに突っかかった。そして、いろいろあり、決闘ということになって現在に至る。ちなみに、のどかはそんなこと1ミリも知らないのであった。

 

 うーん、なんでこんなに人が多いんだろー。キュルケさんは普段は使われていない場所だからいいって言ってたけど、どういうことなんだろう……

 

「タバサさん、ここで何をやるか知っていますかー?」

「知らない。私はあなたとずっと一緒にいた。知る手段がない」

「そ、そうですよねー。変なこと聞いてすいません」

 

 のどかは隣にいたタバサに尋ねたが、タバサが言ったとおり、彼女とずっと一緒に行動していたので、知るタイミングはなかった。ちなみに、事の成り行きを知っているキュルケはというと、タバサほど小さくはないが、それでもピンクがかったブロンドの髪を持つ小さな少女をからかいに行ってしまった。残されたのどかたちは、何か始まるのをずっと待っていた。

 

「諸君、決闘だ!」

 

 ギーシュがそういうと周りは歓声に包まれた。中央にいるギーシュはその声を心地よさそうに聞きながらバラの花を上に掲げた。少し経ち、観客が道を開けると、サイトがやってきた。

 

「逃げずに来たようだな、平民。それだけは褒めてやろう」

「誰が逃げるかよ」

 

 余裕な態度を崩さないギーシュをサイトは睨みつけていた。

 

「では、始めるとしようか。愚かな平民、ゼロのルイズの使い魔よ」

「ごちゃごちゃうるせえ! 喧嘩は先手必勝だ!」

 

 言うやいなや、サイトは駆け出した。先手を取るというのはかなり大きい。しかし、ギーシュは焦ることなく、対処した。ギーシュがバラを振ると、花びらが1枚宙に舞った。そして、甲冑を着た女戦士の形をした、銅の人形が出来上がった。サイトは驚きを隠せなかったらしく、立ち止まってしまった。

 

「なっ、なんだこれ!?」

「僕はメイジだ。だから魔法で戦う。まさか文句はあるまいね?」

「てめぇ……上等だ!」

 

 サイトが再び駆け出そうとした瞬間……人形の腕がサイトの腹に突き刺さっていた。もちろん、貫通はしていないが、鳩尾をしっかりと捉えていた。なんの警戒もしていなかったサイトは咳き込んでいた。遠くから見ていたのどかは思わず口元を抑えてひどい、と呟いた。

 

「言い忘れていたな、僕の二つ名は【青銅】。青銅のギーシュだ。僕の『ワルキューレ』たちがお相手するよ」

 

 ワルキューレ、北欧神話で戦死者を選ぶ乙女だったっけー。名前負けしてるようなー……でも、青銅の重さで攻撃されちゃったら……かなり痛いはずだよー。止めなきゃ……

 

 のどかがサイトにやられるのを見て、助けなければ、決意をした時だった。キュルケにからかわれていたルイズが決闘を止めに入った。

 

 あ、止めてくれるんだー。じゃあよかったー、もうこんなことを続けさせたくはなかったしー。

 

 のどかが安堵し、ふぅ、と息を吐いた。しかし、サイトがまだ戦おうとしているのを見て、のどかはまた身体をこわばらせた。そして、ギーシュの使役する人形の数が増え、サイトを6方向から殴りかかった。それを見たのどかは思わず飛び出した。

 

 あんなの……ひどい。さっき、キュルケさんは平民が召喚されたって言ってたけど、きっと彼はこの世界の人じゃない! 確信はないけど……

 

戦いの歌(カントゥス ベラークス)……」

 

 のどかが発したその声はタバサにしか聞こえなかった。タバサはのどかを見て驚いた。のどかの体が薄く光っていたからだ。

 

「呪文詠唱?」

「はい、ある人に教わったんです。なんどもお願いしました。それでようやく教えてもらえたんです」

「何するの?」

「決闘を止めます。これ以上は見てられませんから」

「あなたじゃ無理」

「大丈夫です、止めるだけなら」

「……そう」

 

 タバサはのどかは言っても聞かないと不承不承ながらも引き下がった。のどかとタバサの会話が終わった時、フラフラになったサイトの顔にワルキューレのパンチが迫っていた。のどかはそこに割り込んだ。そして、サイトに殴りかかっていたワルキューレを投げ飛ばした。

 

「なっ……」

 

 その声はギーシュのものだった。彼はドットメイジながらも自身の魔法に少なからず自信を持っていた。実際、彼のワルキューレの精度はそこまで高くはないが、素早く動くことができる。更に、数も多く、それなりに厄介ではある。相手が生身ならば、まず負けはしないだろうと彼は思っていた。不意打ちだったとはいえ、非力そうな少女に自慢のワルキューレが投げ飛ばされたのだ。彼はそのことで頭がいっぱいだった。混乱し、恐怖している彼は普段ならば絶対に女性には攻撃しないというのに、ワルキューレを使って攻撃を始めた。

 

「君はなんのつもりかね! これは決闘だぞ! じゃ、邪魔をすると言うならば君も……」

 

 ギーシュは茎だけとなったバラを振った。それに合わせて、ワルキューレたちが同時に襲いかかった。同時、と言っても攻撃が完全に同時になることはない。少しずつ攻撃する速度にはズレが生じる。完全に同じしてしまったら、ワルキューレ同士で相打ちしてしまうためである。のどかはそれを理解していた。

 

 私の戦いの歌(カントゥス ベラークス)はネギ先生(せんせー)みたいに何十分も続けられません。動かずに3分……動きながらだと、1分半しかもちません。その時間が勝負です。さっき割り込んだ時に瞬動術を使ったけど、やっぱり入りですら完璧にできないし……まだまだってことだよね。時間がないからエヴァンジェリンさん直伝の合気柔術で……一気に決めます!

 

 ギーシュのワルキューレは最初に投げたモノを除いて後6体。合気柔術は相手の力を利用して投げる。これは相手の攻撃を見切らなければならない。のどかは見切りなんてできないので、戦いの歌(カントゥス ベラークス)で動体視力を底上げしてようやく見えるようになるのだ。つまり本当に3分間が勝負になる。しかも、合気柔術をエヴァンジェリンに教えてもらっていたとは言っても、所詮付け焼刃である。のどかは相手の単調な攻撃にしか対応できない。そう言う意味ではギーシュのワルキューレは好都合だった。数が多くても、プログラミングされた攻撃であることには変わりない。つまり、のどかにとっては、やりやすい相手だったのだ。

 死角からの攻撃が迫る。サイトは危ない、と言いかけて止まった。のどかは身を屈め、拳を躱し、伸ばしきっていたワルキューレの腕を掴んで勢いのまま投げ、次は既に右から来ていた拳に手を添え、そのまま受け流した。その時にワルキューレの背中を押し左側に倒れさせた。その先にはのどかが避けた先を狙っていたワルキューレがあった。二体のワルキューレは音を立てて崩れた。

 

「はぁ、はぁ……」

 

 後三体……これならいけるはず!

 

「そんな……バカなッ!」

 

 ギーシュは次々と倒されていく自分のワルキューレを見て激しく狼狽えていた。のどかに対しての恐怖心がどんどん上がっていった。

 残りの3体のワルキューレも同じように、投げられて砕けた。ここでのどかの戦いの歌(カントゥス ベラークス)が切れた。

 

「うわああああああ! いけェ! ワルキューレェェェェ!」

 

 ギーシュは半ばやけになって2体の壊れていなかったワルキューレでのどかを襲わせた。投げたワルキューレは地面に打ち付けられた衝撃で砕けていた。しかし、受け流すだけでは、破壊までには至っていなかったのだ。

 

「えっ、まだ残って……」

「させるかよォッ! グァッ!」

「キャッ!」

 

 のどかは完全に不意を突かれていたが、先ほどとは違い、今度はサイトがそこに割り込んだ。しかし、投げ飛ばすという芸当は出来るはずもなく、サイトは飛ばされた。のどかもサイトに巻き込まれて一緒に飛ばされた。ギーシュはその様子を見て高笑いをし、サイトを嘲笑い、それと同時にルイズのことも馬鹿にしていた。サイトはボロボロになりながらも、立ち上がった。立ち上がる時、脚がガクガクと震え、腕もプルプルしていた。体は限界だということがよくわかる。それでも、サイトの心は折れていなかった。むしろ、決闘が始まった直後より、気力がみなぎっていた。

 

 確か、サイトさん、だったよね。武器もなしに金属に挑むのは無謀すぎます。それにさっき助けてもらったお礼に……魔法剣を渡そう。アイシャさんたちが護身用にってくれた小さな剣だけどー……

 

「てめぇ! よくもやってくれたな! 今から俺がぶっ倒してやる!」

「ハッハッハ、そんな状態でよくそんなことが言えるものだな。しかも、君は攻撃をくらうだけだったな。僕のワルキューレを倒したのはそこのお嬢さんじゃないか」

 

 ギーシュはのどかが動かず、ワルキューレを投げ飛ばされなかったことから、もう動けないのだ、と結論づけて余裕を取り戻していた。冷静になったギーシュは女性に手を上げてしまった、とかなり後悔しているのだが……

 

「あの、サイトさんですよね?」

「ああ、そうだけど、どうして俺の名前を?」

「それは後で話しますー。これを……さ、さすがに素手では厳しいと思うのでー」

「これ剣か? でもサンキュな! 絶対勝ってくるぜ!」

 

 サイトに剣を手渡した瞬間、サイトの左手が光り始めた。サイト自身はそれに気づいた様子はなかった。そして、サイトは残り2体となったワルキューレに瞬動ほど一瞬で近づいたわけではないが、ものすごいスピードでワルキューレに近づき、そのままの勢いで切り裂いた。のどかの渡した魔法剣は、そこまで切れ味が良いわけではないのに、青銅で出来ているワルキューレがあっさりと真っ二つになった。

 

「バカなッ! そんな小さな剣で僕のワルキューレが真っ二つになっただと!?」

 

サイトが一番そのことに驚いていたが、きっともらった剣に何かそういう力があったのだろう、と解釈した。そして、残ったもう一体のワルキューレが迫っていたが、殴りかかってきた腕を切り落とし、一体目と同じようにワルキューレを切り裂いた。そして、ギーシュに肉薄した。

 

「まだ……続けるか?」

「ウソ……だろ。参ったよ、降参だ。僕の負けだ」

 

 ギーシュが負けを認めた瞬間、歓声が湧き上がった。ゼロのルイズの使い魔が勝ったぞー! だとかいろいろである。

 サイトはそのまま気絶してしまったが、ギーシュはのどかに近づいて謝罪した。

 

「申し訳なかった。僕が女性に手をあげるなんて……気が動転していたんだ。許してくれないかもしれないが許して欲しい。すまなかった」

「あ、謝ることはないと思いますー。私が割り込んだんですからー」

「そうだ、どうして割り込んだりなんかしたんだい?」

「それは……あなたが間違った力の使い方をしていると思ったからー、それを止めたかったんです」

「間違った力の使い方……?」

「は、はいー。貴族がどうして魔法を使えるのか、って考えてください」

 

 のどかの例えはギーシュにはうまく伝わらなかった。腕を組み、真剣に考えているようだが、まったく思い当たらないようだったが、何か考えついたようだった。

 

「うーんと、そうだな……今思いつくのは、民を守るために魔法がある、ってことかな」

「それでもいいんです。あなたはさっきその民を守る力である魔法を何に使っていましたか?」

「平民に制裁を加えるため……と思っていたが、単なる憂さ晴らし……になってしまう、ね」

「貴族だから、魔法を使えるから、何も成していない人が威張るのはおかしい、と私は思いますー」

「なるほど、君の言わんとしていることは大体分かったよ……気を付けよう」

 

 のどかはギーシュが理解してくれたことが嬉しかったらしく小さく笑った。

 

「! そうだ、まだ名前を聞いてなかったね。僕は、ギーシュ・ド・グラモン、だ。君は?」

「私は宮崎のどかですー。よ、よろしくお願いします。グラモンさん」

 

 のどかが微笑みながらそう言うとギーシュの顔は一瞬で茹で上がったタコのように真っ赤になり、よっぽど恥ずかしかったのか、すぐに後ろを向いた。

 

「あっ、ああ! よ、よろしく!」

「? どうかしたんですかー?」

「いっ、いやーなんでもないさー。気にしないでくれたまえ」

「それならいいんですけど……」

 

 ギーシュが顔を真っ赤にして後ろを向いた理由は言うまでもなく、のどかが可愛かったからである。ギーシュは最初からのどかを怖がっていたため、顔を見ていなかった。恐怖していた相手がものすごく可愛くて、性格も穏やかなので、ギーシュはそのギャップにやられてしまったのであった。その後、香水を作ってギーシュに渡した女生徒がギーシュを連れて行った。のどかはタバサに一瞬で移動した技術は何か、どうやって金属でできたゴーレムを投げたのか、など質問攻めにあっていた。

 

 

 

 ところ変わって学院長室では、遠見の魔法でコルベールとオスマンが今の決闘を見ていた。オスマンはのどかを見て、敵に回って欲しくない、という考えは正しかったと思っていた。コルベールはのどかよりも、サイトの方を注視していた。

 




戦闘描写って難しい……上手く書けてる自信ないし……しかも、ギーシュとの会話がグダグダになってるような……

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4時間目

今回はのどかが魔法学院に編入です!

お気に入り登録数が50を超えました! 皆さんありがとうございます!


 決闘が終わり、部屋に戻ったのどかはタバサの質問攻めにあっていた。

 

「あれは何? どうしてあんなに速く動けたの?」

「えー、えーっと……アレは瞬動っていう技術でー……」

「名前はいい。どうやったの?」

「そ、それはー。足に魔力を集中させてそれを爆発させてー、その勢いでー……」

「やって」

「へ、部屋の中じゃー、せ、狭いですー」

 

 タバサは部屋が狭いならば仕方がない、と思ったらしく、のどかの手を握って外に出ようとした。

 

「た、タバサさん。ちょ、ちょっと待ってくださいー。明日、明日なら全然いいですから今は少し休ませてくださいー」

「約束」

「はいー、約束です」

 

 タバサはのどかに約束を取り付けたあと、すぐに自分のベッドに戻って寝てしまった。のどかはその変わり身の速さに驚いていた。のどかもそれに倣って眠った。

 朝になった時、のどかはタバサに起こされた。寝ぼけ眼でタバサを見ると、タバサは既に着替え終わっており、のどかをジーッと見ていた。のどかが起きたことを確認し、一言。

 

「約束」

 

 タバサの言葉にのどかは面くらった。のどかは、まだ起きたばかりではっきりとしない頭をフル回転させていた。

 

 あうぅー、タバサさんが私を起こしてー、約束……っていうことはー、瞬動のことだよねー。とりあえず、このままの格好じゃさすがにまずいよねー……着替えないとー。

 

 のどかが瞼をこすりながら制服を手にして、着替えていくのをタバサはずっと見ていた。のどかは苦笑しながら、着替え終えた。タバサはのどかの手を引いて、外に連れ出した。昨日決闘があった場所――ヴェストリの広場に二人はやってきた。ヴェストリの広場は昨日は人が多かったが、普段は人が全くいないのだ。タバサはそれを知っていたので、のどかを連れてきたのだった。

 

「やって」

「い、いきなりすぎますー」

「約束」

「うぅー、わかりましたー」

 

 のどかが抗議の声を上げてもタバサはお構いなしだった。のどかもそれを察してか、諦めたようだった。そして、普段ののどかからは推測できないほどにキリッとした表情になると、大きく息を吸って吐いた。のどかが集中していることがタバサには、はっきりと分かった。なぜならば、空気がピリピリとして緊張しているのが伝わっているのだ。タバサはこれに似た空気を知っていた。

 

「(凄い集中力……恐らく、彼女は修羅場を潜ってきている。私も同じだけど、殺気以外でこんなに空間を支配することはできない。昨日の戦闘も彼女の技術――瞬動以外にも目を見張るものがあった。しかし、そんなに強くなかった。彼女の戦闘力はあまり高くはない。彼女に注目するのは技術だけ)」

「よし、戦いの歌(カントゥス ベラークス)

 

 のどかが小さく呪文を唱えると、昨日と同じようにのどかの体が薄く輝き始めた。そして、また同じように一瞬で元居た場所から4メイルほど離れた場所に一瞬で移動していた。昨日は中央までの距離がある程度長かったが、何回も連続で使用して一気にたどり着いたのだった。

 

「どうですか? 何か参考になりましたか?」

 

 タバサは急に声をかけられて驚愕した。4メイルの距離を一瞬で行って戻ってきたのだ。

 

「あなたの言うとおり、足に魔力を溜めたことはハッキリと視認できた。出来ればこの技術を教えてもらいたい」

「えっ、ご、ごめんなさい。それは難しいですー」

「なぜ? 東方の秘術のようなものだから?」

「い、いえー、そんなことはないんですけどー。ただー」

「ただ?」

「私の瞬動は下の下くらいのレベルでしてー……」

「アレで下の下……」

「で、ですからー。教えることができないんですー。上手くもないのに人に教えるなんてことはできませんからー」

「……そう」

「あ、で、でも私に教えてくれている人がコツを教えてくれたのでー。そうしたらタバサさんもできるようになるかもしれませんよー」

「教えて」

 

 のどかがタバサも瞬動が出来るようになるかもしれない、と示唆する言葉を発すると、タバサは飛びつくようにのどかの手を握り、目を輝かせていた。

 

「その人が言うにはー、『単に足に魔力を溜めるだけでは話にならん。瞬動だけで魔力を使い果たすなど、愚かにも程がある。というかこんなのは技術だ。コツだと? そうだな……軽く水たまりを飛び越えるようにすればいい。そのイメージで魔力を軽く使うだけでいい』みたいなことを言ってたのでー」

「大体理解した。やってみる」

 

 タバサは足に魔力を集中させて一気に跳躍した。のどかよりも長い6メイルほど飛び、盛大にズッコケた。

 

「だ、大丈夫ですかー!?」

「問題ない、次はうまくやる」

 

 もう一度魔力を溜め、爆発させた。今度は上手くいったようで一瞬で6メイルの距離を移動していた。タバサは自分が信じられないようで、目を見開いていた。のどかよりは入りがうまくはなかったが、それでも成功には変わりない。

 

 やっぱり、私って才能ないんだー……初めて出来るようになったのも4週間練習してようやくだったしー……自信なくしちゃうよー。

 

 のどかが少しだけうなだれていると、タバサが瞬動で戻ってきた。

 

「どうだった?」

「タバサさん、すごいですー。私瞬動が出来るようになるまでに、4週間かかりましたしー……」

「これは難しい?」

「難しいと思いますー。身体強化もなしでやっちゃうなんてー……」

「よかった」

 

 のどかはタバサが無表情ながらも喜んでいるのを感じ取っていた。そして一つ疑問が浮かんだ。

 

 どうして、私から瞬動を教えてもらおうとしたのかなー。こっちにはない技術に興味を持ったのかもしれないけどー……強くなることが必要だったから? 強くなるための理由が彼女にはあるということ? ううん、こんなこと考えても仕方ないからやめよう。

 

 その後タバサはしばらく瞬動の練習をしていた。食堂に向かう学生たちがちらほらと見えてきた。そこで、のどかはタバサに提案をした。

 

「時間ですし、そろそろ食堂に行きませんかー?」

「行く」

 

 タバサはお腹が減っていたようで、すぐに練習を切り上げ、のどかと一緒に食堂に向かった。

朝食を終えると、のどかはタバサに職員室の場所を聞いてそっちへ向かった。なぜ職員室に行くのかと言うと、のどかは転校生ということになっているので、教員に挨拶の必要があったからである。そこで、担当教員と初コンタクトを取るのである。のどかは職員室の前に着くと、軽く深呼吸をしてノックをした。中からどうぞ、という声が聞こえたのを確認してから、扉を開いた。

 

「し、失礼しますー。きょ、今日からお世話になりますー。宮崎のどかですー」

「ミヤザキさんですね、お話はオールド・オスマンから伺っております。私はシュヴルーズと言います。よろしくお願いしますね」

「は、はい。よろしくお願いしますー」

 

 シュヴルーズと名乗った小太りな女性にのどかが挨拶していると、ある教師が近づいてきた。

 

「ミス・ミヤザキ。私はギトーという。いきなりだが、君は最強の魔法とはなんだと思うかね?」

「え、えーっと……」

「迷うことはない、最強は『風』だ。なぜならば、風は火を吹き消し、水を吹き飛ばし、土を切り刻む。しかも極めつけは『偏在』だ。何人にも分身することができるのだよ。これを最強としてなんという!」

「あ、そ、そうですねー。で、でもー、本当に強いと思うならそこまで誇る必要はないと思いますー。『風』は確かに強いのかもしれませんけどー、『土』がなければ家は建てられません。『水』がなければ、治療薬や、魔法薬を作ることができません。『火』がなければ、暖をとることができません」

「む、むう。しかし、『風』が最強だ。虚無すら吹き飛ばしてみせようじゃないか」

「私は虚無のことは知りません。それに論点がずれています。確かに戦闘面で言えば『風』が一番なのかもしれません。でも、戦場でも『水』のメイジは回復、『土』のメイジならば、拠点の作成や、ゴーレムなどによる制圧、『火』のメイジによって夜戦を有利に進めることができます。それぞれの属性があってこそ、この世界は成り立っているんだと思いますー」

 

 のどかがそう言うと周りの教師はのどかに拍手を贈った。ギトーの話は『風』が最強、最強、とにかく『風』が一番だ、と言って聞く耳をもたなかったので、ギトーは言いたい放題だったのだが、のどかにジッと見つめられて彼女の話を聞いてしまっていた。のどかの話を聞いて、ギトーは少しでも確かに、と納得してしまった。それに彼は気づいて反論しようとしたが、できなかった。のどかはギトーが狼狽えているのも気づかず、話を切った。ギトーはのどかに見つめられたのが少し恥ずかしかったのか、それとも、論破されたことが悔しかったのかはわからないが、多少赤くなっていた。

 

「1時間目は私が担当しますので、ミヤザキさんは付いてきてください」

「わかりましたー」

 

 今日の最初の授業はシュヴルーズが担当するらしく、のどかはシュヴルーズについて職員室を出ていった。その時に一礼するのも忘れずに、である。のどかが出ていったあとの職員室はのどかの話題で持ちきりになった。

 職員室を出てから教室までの道中でのどかはシュヴルーズにベタ褒めされていた。曰く、ギトーの鼻を明かしてくれた、とのこと。普段もあの調子で、聞く耳を持たず、更に実力もあるので、皆何も言えずに困っていたらしいのだ。シュヴルーズだけでなく、他の教師ものどかに感謝しているだろう、とのことだった。のどかは大したことはしていないどころか、ただ普通に会話をしていただけだったと思っていたので、顔を赤くして照れていた。

 教室に着き、外で待っているように言われたのどかは、シュヴルーズに呼ばれるのを待っていた。

 

「ミス・ミヤザキ、入ってきてください」

 

 シュヴルーズの声が聞こえたので、扉を開けて教室に入った。教室には、タバサやキュルケ、昨日決闘を起こしたギーシュがいた。

 

 よかったー、タバサさんやキュルケさんがいてくれるとなんか心強いよー。夕映は凄いなー、だって記憶をなくした時は、知らないところに入学することになったんだもんね。よーし、私も頑張らなきゃー。

 

「では、ミス・ミヤザキ。挨拶してください」

 

シュヴルーズはのどかに挨拶するように促した。

 

「は、はいー。わかりましたー」

 

 のどかは多少緊張しているのか、軽く深呼吸をしてから自己紹介に入った。

 

「み、宮崎のどかと言いますー。す、好きなことは本に囲まれることです。こっちの文字はまだ読めないのでー、早く読めるようになりたいと思っています。あっ、文字が読めないのは、東方の出身でー、自然発生したゲートに巻き込まれてしまったからです。戻るに戻れないので、しばらく皆さんと一緒にお勉強させていただきます。よろしくお願いします」

 

 ふぅ、緊張したー。で、でもこれでいいんだよね?

 

 のどかが自己紹介を終えると、シュヴルーズはタバサの隣に座るように指示した。まだ慣れていないだろうからルームメイトの隣にしようと思ったらしい。のどかはその気遣いに感謝しながらタバサの隣に座った。ただ、一つ違和感を感じていた。

 

 ま、麻帆良学園ならここで歓声が上がったけどー、やっぱり麻帆良が特別だったのかな。静かなのは好きだけどー、麻帆良の空気に慣れてるとちょっと不思議な気分かもー。

 

 転入生がいても、授業は滞りなく進んだ。全ての授業が終わると、のどかはギーシュの彼女であろう人物に捕まっていた。彼女――モンモランシーは金髪ロールという特徴を持っていた。さすがに教室では問い詰めることができなかったらしく、のどかを教室の外に連れ出して詰問していた。

 

「それで? ミヤザキって言ったわよね。ギーシュに色目使わないでくれるかしら。大体、あなたが邪魔さえしなければギーシュが決闘に負けることなんてなかったし、更に言えば、私がギーシュを褒めて仲直りするっていう計画が……」

 

 確かー、モンモランシーさんだったよね。昨日キュルケさんから聞いたけど、この人ともう1人下級生の女の子がギーシュさんに二股をかけられていたんだっけ。最後の方は聞き取れなかったけど、別に色目を使ってるつもりじゃないよー。

 

「べ、別に色目を使っているわけじゃ……」

「ウソよ! だって昨日からギーシュの様子がおかしいもの! ずっと何か真剣な面持ちなのよ! そ、それもカッコイイって思っちゃうんだけど……」

「真剣なのはいけないことなんですかー?」

「そういうわけじゃないけど……ギーシュは私に謝りに来るべきなのよ! そうじゃないとまた付き合ってあげないんだから!」

 

 のどかがモンモランシーの我侭な言い分に困っていると、教室から出てきたキュルケが助けてくれた。

 

「なーに、モンモランシーあなたギーシュが自分を見てくれないからってノドカを脅しているわけー? ひどいことするわねー」

「なっ、キュルケ!? だってギーシュが……」

「完全に逆恨みじゃないの。ノドカは気にしないかもしれないけど、だいぶタチ悪いわよー。これじゃあギーシュもヨリを戻そうなんて言ってくれないかもしれないわねー。まあ、私は男と別れてもー、新しい男が寄ってくるんだけどねー」

「クッ、あんたみたいにホイホイと寄ってこないわよ!」

 

 のどかはキュルケとモンモランシーの言い争いに口を挟むことができないでいた。元々口数が少ない方なので、こういう時は大体黙ってしまうのだ。キュルケはのどかとモンモランシーを見比べて言った。

 

「そうねぇ、のどかとあんたはおっぱいの大きさはそんなに変わらないけど……のどかの方が可愛いからのどかの方がモテるんじゃないのー」

「なっ、何よ! あんたが大きすぎるのよ! 何よ、この子そんなに顔がいいっていうの!?」

 

 モンモランシーはのどかの方が可愛いと言われたことが頭にきたらしく、ポニーテールにしていても隠れていた顔を見るために、のどかの前髪を上げた。髪を上げられたのどかは恥ずかしから顔を赤くして俯こうとした。それはモンモランシーがさせなかった。モンモランシーはジッとのどかの素顔を見て、その場に崩れ落ちた。

 

「確かに、可愛いわ……悔しいけど負けた気がするわ……」

「ふふっ、でしょう?」

「かっ、可愛いなんてそんなことないですー……」

「なんで謙遜するのよ……」

 

なぜかキュルケが勝ち誇ったような顔をするので、モンモランシーはそれに食ってかかった。

 

「というかなんであんたが勝ち誇ってるのよ! あんた関係ないじゃない!」

「だってノドカってこういうところで自慢しないからあたしが代わりに、と思っただけよ」

「確かにそういうことする子じゃないって分かったけど……」

 

 モンモランシーはしばらく逡巡したあと、のどかに頭を下げた。

 

「ゴメンなさい、勘違いしてたみたい。あなたは男を誘惑なんてそんなこと出来なさそうだもんね」

「い、いえー。彼氏さんを心配するなら当然だと思いますしー。こんなふうに思われてギーシュさんも嬉しいと思いますよー。モンモランシーさんってすっごくいい彼女さんなんですねー。ギーシュさんが羨ましいです」

「なっ、そ、そんなことないわよー!!」

 

 モンモランシーはのどかの言葉に驚いてそのまま逃げていった。キュルケですら今の言葉に固まるほどだった。のどかは自分の発言の意味に気づいていないらしい。モンモランシーが逃げていったので、モンモランシーさーん、と呼び止めようとしていた。

 

「ノドカ、あんたすごいこと言うわねー。モンモランシーの弱点をしっかりつくなんて……」

「ふぇ? わ、私やっぱり何か失礼なことを言っちゃいましたかー!?」

「ううん、あの子にはとっても嬉しいことだと思うわ。多分これからギーシュにアタックしに行くんじゃないかしら。って、無理ね。きっと部屋でジタバタしてると思うわ」

「え、えーっと?」

「良かったってこと」

「そ、それなら良かったですー」

 

 この日の授業は既に終わっていたので、キュルケはのどかを連れてテラスに向かっていった。タバサは授業が終わると、用事があると言ってタバサの使い魔である風竜――シルフィードに乗ってどこかへ行ってしまったので、キュルケと二人だけである。2人は軽くお茶をした後、自室に戻った。のどかはコルベールからもらった教材に手を伸ばしていた。

 

 本当はタバサさんに教わりたいんだけど、基礎くらいはやっておかないとー……さすがに1から出来ないようじゃ迷惑かけちゃうだろうしー……

 

 のどかは教材を開いて勉強を始め、基本の文字と軽い単語を読めるようになった。コルベールのくれた教材は音声式で、貴族の子供や、学びたい平民にはもってこいの教材であった。のどかは聞くことはできるので、コルベールに感謝しつつ、夜遅くまで勉強していた。

 




のどかの師匠は言わずもがなエヴァンジェリンさんです。ネギのように完全に弟子入りしたわけではないので、師匠(マスター)とは呼びませんが……

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5時間目

あまり才人たちと接触できなかった……次こそはもっと友好を深められるようにしないと……


 のどかが編入してから3日が経った。それまでは、初日とさほど変わらなかった。キュルケやモンモランシーと会話などをしていた。タバサは用事があると言って出て行ってから昨日の夜ようやく帰ってきたのだった。偶然のどかとタバサの部屋にいたキュルケはタバサを見るやいなや、思い切り抱きついてキスしようとしていた。のどかはそれを見て顔を真っ赤にし、だーめーでーすー、と言ってキュルケを引き剥がしていた。一方のタバサは無表情のまま、キュルケとのどかのやり取りを見ていた。それが昨日の夜までの出来事である。

 3日目からはまた少し違っていた。のどかはタバサに起こされ、瞬動の出来栄えを見てほしいと言われ、すぐに着替えて、ヴェストリの広場へと向かった。のどかはタバサが出かけた後に、魔法の修練場があるということをモンモランシーから聞いていた。のどかはそこを使わないことを疑問に思ってタバサに聞いたところ、予約制で埋まってしまっているとのことだった。のどかは納得し、タバサとヴェストリの広場で瞬動の練習をした。のどかも戦いの歌(カントゥス ベラークス)を維持時間を伸ばすために、タバサと一緒に練習した。のどかはダイオラマ魔法球(別荘)があればいいのになぁ、と思っていた。時間を引き伸ばせるあのアイテムは本当に素晴らしいものだということに今更ながら気づいたのであった。

 

「そろそろ時間ですし、切り上げませんかー?」

「わかった」

「私は着替えもあるので、一度部屋に戻りますー。あ、あと軽くシャワーも浴びてから行きますけど、どうしますか?」

「私はいい。汗をかいていないから」

「わかりましたー、それでは後でー」

 

 タバサさん、すごいなぁ……ネギ先生(せんせー)ほど早くはないけど、瞬動をもう使いこなしてる。頑張らないとー……このままじゃエヴァンジェリンさんに怒られちゃいますー。魔法世界(ムンドゥス マギクス)に行く時も私はアーティファクトがあってこそだったしー。もうあの時みたいなことにならないようにしないといけないよね。あんな思いはしたくないし……私だって強くなるんだから。そういえば、どうしてエヴァンジェリンさんは私にアーティファクト使っちゃいけないって言ったんだろう。あの時は私もそれに頼ってちゃいけないと考えてたから、当たり前かなーって思ってたけどー……どうしてだろー?

 

 のどかはエヴァンジェリンの指導に今更ながら疑問を持ったが、今はその問題を置いておいた。それよりも今はどうやってこの世界から戻るか、ということだからだ。のどかはシャワーを浴びながら、その方法について考えたが、特に良いアイディアが浮かばなかったので、軽く溜息を吐いた。とりあえず身体を拭いて、制服に着替えて(タバサと練習していた時はまた別の服だった)食堂へと向かった。食堂に着くと、タバサはもう既に食べ始めていて、その隣にはキュルケが座っていた。キュルケはのどかに気づくと大きく手を振ってのどかを呼んだ。

 

「ノドカー! こっちこっちー、席取ってあるわよー!」

 

 あぅー、キュルケさーん。そんなに声出さなくても聞こえてますー……恥ずかしい。

 

 のどかが羞恥心に駆られているのに気づかずキュルケは笑顔でのどかを出迎えた。

 

「遅かったじゃない、タバサだけ先に来てるからビックリしちゃったわよ。タバサの次はのどかが休むのかと思ったわ」

「朝タバサさんと少し特訓していまして、汗かいちゃったので、シャワー浴びてから来たんですー」

「そうだったのねー。んもう、タバサ、それくらいなら教えてくれてもいいじゃないのー」

「……」

「何よー、確かにずっと自分の話ばかりしてたけどー……」

「わぁー、すごいですねー。キュルケさん、タバサさんが何を考えているかわかるんですかー?」

「まあね、あたしとタバサは親友だから。ノドカにはいなかったの? そういう友達」

「いました、私にとって一生の友達です。きっと忘れることなんてできません。例え魔法で記憶が消し去られたとしても、絶対に思い出せる自信があります。今はきっと心配かけちゃってると思いますけど……」

「あ、ゴメン。ちょっと今のは自分でもないと思うわ。本当にゴメン」

「い、いえー、謝らないでください。その人はきっと心配するけど、私を信じてくれるはずですからー」

「本当に信頼してるのね。すごいわ」

 

 のどかとキュルケが喋っている間もタバサは黙々と食べ進めていたが、のどかの例え記憶がという言葉には食べるのをやめて耳を傾けていた。

 

「(ミヤザキノドカ、彼女はやっぱり何か違う。戦闘技術には目を見張るものがある。でも、強くはない。……芯が強い。それに……記憶が消されてもその人のことを思い出せる自信があるなんて本当に凄い。じゃあ、あなたは心が狂ったとしても……)」

 

 のどかも朝食を終えたので、3人は教室へと向かった。キュルケは教室を見渡して目的の人物がいなかったのか、少し肩を落としていた。のどかは席に着くと、すぐにタバサにこっちの文字を教わっていた。基礎は出来たといっても、日本で言う平仮名、片仮名ができた程度なのだ。ここからはいろいろな単語、を覚えていく必要があるのだ。

 

 ここからが本番だよね。そうじゃないと本が読めないしー……絶対にマスターしないとー。

 

 タバサによる語学講座をしていると、あの桃色がかったブロンドの髪を持った少女と、青いパーカーの少年が入ってきた。その二人を見たあとのキュルケの行動は速かった。すぐに、2人組に近づいていった。そして少女をからかって遊んでいた。少女の方も顔を真っ赤にして反応するので、キュルケはそれが面白いようだった。クラスの人たちがそちらに視線を向けていた。のどかも例外ではなく、そっちを見ようとした瞬間に、タバサに顔を掴まれて、強制的に視線を下に落とされた。どうやら、自分の話を聞いてほしいらしい。というよりも、早くこっちの文字を習得してもらって、のどかの世界の言語を覚えたいというのが本音であるようだが……

 

「それでは授業を始めますので、席に着くように」

 

 いつの間にか始業の時間が来ていたようで、コルベールが教室に入ってきた。今日の授業は何時ものようには進まなかった。コルベールの授業はまだ良かったのだが、それからの授業――特にギトーの授業が最悪だった。

 

「では、授業を始める。諸君、知っての通り、私は『風』のメイジだ。『風』が最強であることは疑いようのない事実だが……ん? なぜ貴族の場に君のような平民がいるのかね? ミス・ヴァリエール、困るなぁ。こんな平民を連れてくるなんて……」

 

ギトーは公爵家の娘を侮蔑するためにサイトを馬鹿にするようなことを言ったのだ。

 

「なんだよ、貴族がそんなに……」

 

 サイトが何か言いかけたところで、それをルイズが言葉を遮った。

 

「サイト、黙りなさい。ミスタ・ギトー。お言葉ですが、彼は私の使い魔です」

 

 当然そうやって、返してくることはギトーはわかっていた。その上で、サイトを馬鹿にしたのだ。全てはルイズを馬鹿にするために。ギトーはそれがうまくいったのが嬉しかったらしく、ニヤニヤしていた。

 

「まさか! 本当に平民の使い魔を召喚したのですか! 公爵家の娘ともあろうものが!」

 

 ギトーの言葉には嘲りが含まれていた。周りの生徒もクスクスと笑い始めた。ルイズは俯いてしまった。キュルケはそれを見て、面白くなさそうな顔をしていた。タバサは無表情のままだったが、少し気を悪くしているようだった。のどかはルイズの様子とその言葉、そして、クラスの態度に少し苛立ちを覚えた。

 

「クソッ! もう知るか!(貴族がなんだよ! ギーシュってやつも! このクソッタレ教師も! そんなに貴族っていうことが偉いのかよ! それにルイズもなんで黙ってるんだよ! いつもみたいに言い返せばいいじゃないか!)」

 

サイトが我慢できないといった風で、ギトーに殴りかかろうとした。

 

「ッ! 戦いの歌(カントゥス ベラークス)(この距離なら一回分の瞬動で十分だから、そこまで魔力を練る必要はないはず……)」

 

その時、のどかがギーシュの時と同じように割り込み、サイトの腕を掴み、足を払い、サイトを一回転させて、着地させた。そのため、サイトは、ギトーまでその拳を届かせることはできなかった。

 

「あんた……このクラスの人だったのか。あの時は助かったけど……今のは止めてほしくなかったな……」

 

サイトはのどかの事を覚えていたらしく、感謝の言葉を述べつつも少し恨みがましい目でのどかを見ていた。

 

「ゴメンなさい、でもこうしないとあなたはあの人を殴ってしまうと思ったので」

「い、いや、殴ろうとしたんだけど……」

「それがいけないんです」

「? どういうことだ?」

 

 ギトーはそこで高笑いを始めた。自分がしようとしたことに気づいていないサイトを嘲笑っていた。それはやはりクラスの人達も同じようで、ほとんどの人が笑っていた。

 

「ミス・ミヤザキに救われたな、平民。貴様は今貴族に手をあげるところだったのだぞ!」

 

 サイトはギトーが言った貴族に手をあげるところだった、という言葉よりも、もっと気になる単語が聞こえたので、思わず聞き返していた。今まで浮かんでいた疑問すらも忘れて、である。

 

「ミス・ミヤザキ……?」

 

 サイトの呟きに答えたのは、当然ではあるが、のどかだった。のどかはサイトに後でお話しますのでー、と軽い調子で言った。そして、ニコッと微笑むと、ギトーに向き合った。ちなみに、サイトは少しだけ顔を赤くしていた。

 

「(かっ、かわいいな。この前は必死だったから気づかなかったけど、めちゃくちゃ可愛いじゃないか)」

 

 サイトがそんなこと思っているなんてことは露知らずのどかは初めて職員室に寄ったときのように、ギトーをジッと見つめた。ギトーはそれだけで、動けなくなっていた。

 

「ミスタ・ギトー。今のは少し、というよりも、かなりおかしいです。あなたはミス・ヴァリエールが彼を召喚したことは知っていたはずです。職員室でも話題になっていましたから」

「いや、私は知らない。平民が召喚されたなど、初めて聞いたな」

「そうですか、では、仮にあなたが初めてここで知ったとしましょう。あなたは、彼を一目見て、平民だと言いましたね。しかも、彼のことをミス・ヴァリエールに問いましたよね? それはなぜですか」

「当然、そこの平民が彼女の近くにいたからだよ」

「そこまではいいんです。問題はそのあとです。あなたは彼が召喚されたことは知らないと言いましたよね?」

「ああ、いかにも。私はここで初めて知った」

「それだとおかしいんです。あなたはさっき自分で()()()平民の使い魔を召喚した、と言ったんです」

「んなっ!? き、君の勘違いじゃないのかね!?」

 

 のどかはそう言われたらどうしようもない、と思って少し諦めたがキュルケが助けに入ってくれた。

 

「ミスタ・ギトー。(わたくし)も確かに聞きましたわ。あなたが本当に平民の使い魔を召喚したのですか、と言われたのを」

 

 キュルケがそう言うと、モンモランシーとギーシュも応援に入った。2人も確かにそう聞いた、と言ったのだ。ギトーはどんどん顔を赤くしていった。何も言い返さないところを見たクラスの人達はギトーがウソをついていたのだな、と納得して、今度はギトーを非難し始めた。のどかはクラスの非難を受けているギトーをこれ以上責める気にはなれなかった。

 

 本当は、もっと言いたいことがあるんだけど……それにこのクラスもひどいよ。自分たちもルイズさんのこと笑っていたのに、急に態度を変えるなんて……

 

 ルイズはサイトを一回叩いた後、のどかの前に来て、お礼を言った。

 

「ありがとうございます、助かりました。えーっとミス・ミヤザキ?」

「お礼を言われるようなことじゃないです。私は自分が思ったことを言っただけのでー。あ、それと好きなように呼んでくれて構いませんよー」

 

 ルイズとサイトはのどかの変わりように驚いていた。先程までののどかは、キレ者の雰囲気があり、今みたいに柔らかい印象なんてなかったのだから。驚きはしたが、ルイズは気圧されることなく、自分も普段の話し方で接し始めた。

 

「そう? じゃあノドカって呼んでもいい? 私もルイズでいいわよ」

「はいー、全然いいですよー。よろしくお願いします、ルイズさん」

 

 ギトーが今更ながら今は授業中だ、と大声で喚き始めたので、サイトとは、まだ挨拶できなかった。授業が終わるまで、終始顔を真っ赤にしていたのは傑作だったというのは、キュルケの弁である。授業が終わってからサイトはのどかに挨拶をした。そして、ミヤザキの意味を聞き出そうと質問したところで、ルイズに止められた。

 

「あんたねぇ! 今はノドカの名前よりももっと大事なことがあるの! 貴族と平民の立場の違いっていうのを教えてあげるわ!」

「あら、ルイズ。妙にやる気ね、ダーリンもタジタジよー」

「キュルケェ!? なんであんたがここにいるのよ!」

「だって、あたしとのどかは友達なんですものー。一緒にいたって不思議じゃないわー」

「ほ、本当なの!? ノドカ!?」

 

 のどかはやはり、明日菜と委員長(いいんちょ)の毎日の喧嘩を思い出しているところに話を振られたので、ひゃぃ! という変な返事をしてしまった。

 

「ノドカ、あんたボーッとしすぎよー。可愛いんだからちゃんと警戒しなきゃダメよー」

「か、可愛くなんてないですよー……からかわないでくださいー」

「もうっ、本当に可愛いわねー」

「あうぅ……」

 

 その後、ルイズによる貴族による貴族と平民の違いについてという講義にサイトが捕まってしまったので、のどかはサイトと今話すのを諦めて、タバサの語学講座を再び受けていた。タバサの語学講座のおかげで、のどかは簡単な絵本は読めるようになったのであった。絵本が読めるようになったとはしゃいでいたのどかをタバサが無言で見ていた。のどかは恥ずかしくなったらしく、顔を赤くして、本で顔を隠していた。ちなみに、その日は読めるようになった絵本を繰り返し読んでいたせいで、サイトと話す機会を設けることはできなかった。そして、のどかはサイトに申し訳ないことをしたなー、と思っていると、かなり大きな声が聞こえた。

 

「この犬ウゥゥゥ!」

「アオーン!」

 

 今の声って、ルイズさんと才人さんだよね。パルの本を手伝った時にそういうような絵が書いてあったような……ダメだよー! こんなこと考えちゃー……ねっ、寝ないとー。

 

 その夜、のどかがすぐに寝ることができなかったのはご愛嬌である。

 




ルイズとキュルケってベクトルは違うけど、明日菜とあやかみたいな関係ですよね。二人がじゃれあっているのは書いてて楽しいですw


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フーケ編
6時間目


お気に入り登録数が100件を超えてさらに120件も超えました!

更に日間ランキング10位になりました! 見たときは信じられなかったです!

これも皆様のおかげです! ありがとうございます!


 今日ものどかはタバサと特訓をしてから朝食を食べ、教室にやってきた。そして、タバサの語学講座……ではなく、今日はのどかの語学講座が開かれていた。昨晩のどかが絵本を読めるようになったので、1日ごとにお互いの世界の文字を教えあうことにしたのだ。

 

「この文字は“あ”これは“い”これは…………これが基本となる50音です。ここまでは、わかりましたかー?」

「問題ない。が、少し文字が多い」

「そうですねー、私の国の言葉は日本語と言って基本となる文字が多い上に、同音異義語や擬音語、擬声語、それに文の組み立て方が公用語とは違って、真逆なんです」

「公用語?」

「あっ、私の国ではいろいろな言語あったのでー、みんなが話せるように主要国の言語を世界の言葉として設定したんです」

「納得」

「それで続きですけど、公用語はこっちの言葉と同じように主語、動詞、目的語と繋がっていきます。日本語では主語、目的語、動詞というように順番が入れ替わっているんですー。だから、日本語は難しい言語とされているんですよー」

 

 のどかは一番の基礎となる五十音を教えていると、授業が始まってしまった。また後でー、と言ってのどかは授業に集中し始めた。タバサは学院の授業など受ける必要はないレベルのメイジなので、のどかに教えてもらった五十音の復習をしていた。それを見つけた教師が注意したが、それでもやめなかった。そのせいでタバサは、直径1メートルもの氷塊を作れと言われてしまった。タバサは教師に一瞥することなく、ただタバサの背丈以上もある杖を軽く振って、あっさりと氷塊を作り上げてしまった。しかも、その大きさは直径2メートルはあった。教師はタバサが思いのほか優秀だったので、完全に沈黙してしまった。

 

 わぁ、タバサさんすごいなー。あんなに大きくて、綺麗な氷を作っちゃうなんてー。氷はいい思い出がないけどー……

 

「きょ、今日はここまでとします! 後は自習をするなりなんなり自由にしてください!」

 

 教師はタバサの氷塊を見て、しばらくフリーズしていた。なんとか我に帰って自習を言い渡して、さっさと出て行ってしまった。タバサを一瞬睨んでいたが、当のタバサは教師が言ったことにすら気づいていない様子で、五十音表に目を通して、発音の練習をしていた。

 

「タバサー、ノドカー。一緒にテラスでスイーツでも食べない?」

 

 キュルケが声をかけると、その呼びかけに素早く反応したのは、意外にもタバサであった。行く、と小さく呟いてのどかの手を引いて教室から出ていった。どうやら、タバサも年頃の少女らしく、甘いものが好きであるらしい。食べる量を見てみると、食べることがすきなのかもしれないが……

 3人のあとを追いかける2つの影があった。それは才人とルイズである。珍しく、才人がルイズを無理やり引っ張っているのだ。才人はのどかに聞きたいことがあったのに、昨日聞くことができなかった。なので、聞くためにのどか達の後ろをつけているのであった。そして、のどかたちがテラスの場所を決めたところで、偶然を装って声をかけた。

 

「お、キュルケじゃないか。一緒でもいいか? (完璧だ、これなら何も怪しまれずに質問ができる。ついでに、ルイズに叩かれない!)」

 

 才人は自分で完璧な作戦だと思っていた。しかし、2箇所失敗していた。1つ目は、才人の演技力が足りなかったのだ。言葉は偶然を装っていても、棒読みになってしまっていた。それでは、台無しである。そのせいで、のどかたちに偶然ではないと気づかれていた。2つ目は、キュルケに話しかけてしまったことである。才人はルイズと一緒に3人を尾行していた(のどかとタバサにはバレバレだったが……)。そう、ルイズと一緒にである。ルイズとキュルケは家の関係で、ものすごく仲が悪い。つまり、ルイズの使い魔である才人がキュルケに自分から話しかけるということはどういうことになるか。ルイズの目には、才人がキュルケと一緒にお茶したいから仲間に入れてくれないか? と言っているように映るのだ。しかも、運が悪いことにルイズは才人の演技力の低さなど、見てもいなかった。すると、どうなるか……それは当然……

 

「こんのバカ犬ぅ! 何よ! のどかに話があるっていうから付いてきてあげたのに、結局、ツェルプストーと一緒にお茶したいだけじゃないの!」

「はぁ!? 何言ってんだよ! そんなつもりないっての!」

「ダーリン、あたしのこと嫌いなの? ひどいわ、そんなこと言うなんて」

「キュルケ、あんたは黙ってなさい!」

「あー、やだやだ。これだからヴァリエールは……ねー、ダーリン? こんな口うるさいルイズよりもあたしと一緒にいいことしない?」

 

 キュルケが才人の顔を手で包み、そのままキュルケの豊満な胸元に引き寄せる。才人は抵抗しようとしたが、キュルケの巨大な2つの果実を前にして顔をだらしなく緩ませて、なされるがままにしていた。その様子を見たのどかはあわあわしていたが、ルイズはと言うと、顔を真っ赤にして杖を取り出していた。

 

「この、エロ犬ぅ!!」

 

 杖を掲げ、そのまま振り下ろした。すると、才人が爆発した。

 

「ケフッ……」

「ダーリン!? イヤよ、死んじゃイヤよ! ダーリーーーーン!!」

 

 キュルケが三文芝居を打ちながら、倒れた才人の顔を更に自分の胸に埋めていた。ルイズはこれ以上赤くならないのではないかというくらい顔を真っ赤に染めてもう一度杖を振ろうとしたが、それはのどかとタバサに止められた。

 

「あ、危ないと思いますー」

「危険」

 

 2人がルイズを止めたおかげで、なんとか才人はその場ではもう一度傷つくことはなかった。なんとか復帰した才人はのどかとタバサに感謝してルイズを恨みがましい目で見た。

 

「何よ、あんたが悪いんでしょ。ツェルプストーみたいな女に鼻の下伸ばしちゃって」

「な、何か悪いのかよ! 別にいいだろ、それくらいは」

「ダメよ、特にツェルプストーはダメ」

 

 ルイズと才人がまた口喧嘩を始めようとしたところで、キュルケは呆れた顔を見せ、タバサは昼休みや休み時間にのどかから教わった簡単な言葉を復習し、のどかは意を決して2人の会話に割り込んだ。

 

「あっ、あの! 才人さんは何か私に聞きたいことあったんじゃなかったんですかー?」

 

 才人は口喧嘩でルイズに押されかけていたので、思わぬ助け舟が来た、と喜んでのどかの話に乗った。ルイズは何か文句を言っていたが、才人は聞こえないふりをして、のどかと話し始めた。

 

「なあ、のどか。のどかって日本の出身なのか?」

 

 才人の質問で聞きなれない単語があったので、ルイズとキュルケが同時にニホン? と聞き返していた。タバサは朝のうちに、のどかから日本という単語とその意味を聞いていたので、特に聞き返すことはしなかったが、ずっとノートに視線を向けていた。しかし、のどかの話は気になるようで、のどかの声に耳を傾けていた。

 

「はい、そうですよー。才人さんもそうですよね?」

「あ、ああ。のどかはいつからこっちにいるんだ? 帰る方法はあるのか?」

「ちょっとサイト! そんなに一気に質問してもしょうがないでしょ!」

「ルイズさん、大丈夫ですよー。最初の質問ですけどー、私がこっちに来たのは才人さんがこっちに来る数時間前です。帰る方法はわかりません」

「俺より数時間前、か。そりゃ帰る方法もわからないよな。ん? じゃあなんでそんなに落ち着いてるんだ!? 普通はもっと焦るもんだろぉ!?」

「えーっと、慣れてますからー。それにー、この建物を見たときにー、中世のお城みたいだなーって思いましてー……イギリスとかにはないような本格的な中世の建物ですからー。本の世界に来たみたいで、少し嬉しくなっちゃいましてー……」

「ほ、本の世界って……そういえばのどかこの前本好きって言ってたしな」

「へー、本読んでる子は違うのねー。あたしだったらダーリンみたいに振り回されちゃうと思うわ」

 

 才人は本当に、自分の世界の出身であるか確かめるために、総理大臣の名前や、大まかな歴史。有名な本の作者などを例に出した。のどかから帰ってくる答えは全て才人が記憶しているものと同じだった。のどかから聞かれた、埼玉にある学園都市はという質問に才人は自信を持って答えた。

 

「もちろん、麻帆良学園だろ? 俺あそこ行ったことあるぜ。去年の学園祭だけどな。とにかく、本当にすごいよなー。見てるだけで楽しいよ」

「そうですよねー、特に大学生の方々が本当にすごいんですよー。特にすごいのは、やっぱり麻帆良工学部だと思いますー」

「だよな! だよな! あそこって本当凄いよな! なんていうか本当にロボットが動いてるらしいし! ロマンだよなー」

「才人さんは大学部にしか行ってないんですかー?」

「うーん、他には……そうだ! お化け屋敷怖かったなー。女子中等部のだけどさ」

「お化け屋敷3クラスあったと思うんですけど、どこに行きましたかー?」

「全部行ったんだけど、3年A組が一番怖かったぜ。首が取れたように見えた時は本当に焦ったぜ……マジで走って逃げたよ」

「ありがとうございますー。楽しんでいただけようで良かったですー」

「えっ? のどかって麻帆良の生徒なのか!? スッゲー、羨ましいなー」

「そ、そんなことないですよー」

 

 才人は自分の世界にいた少女を見つけたと知った瞬間すごく元気になって、のどかと麻帆良学園祭の思い出を語っていた。ちなみに、キュルケやルイズ、タバサはと言うと、話がまったくわからないので、退屈そうにしていた。

 

「じゃあ、図書館探検部の催しには来てくれなかったんですねー」

「ああ、イマイチ魅力がなくてさー。図書館探検ってなんか飽きちゃいそうだしさー」

「残念ですー、男の子なら結構好きだったと思うんですけどー……」

「そうかなー、図書館って言ってもそんなに広くないだろ?」

「そんなことないです! 図書館島って言って、島1つが丸々図書館になっているんですよ! きっと……ううん、絶対に一生かかっても読みきることのできないほど本がたくさんあるんです。本っていうのは、その人の人生そのものだと思うんです」

「え、えーっとのどか?」

 

 才人が急に饒舌になったのどかに困惑しているのも気づかず、のどかは続ける。タバサは同じ本好きとして、のどかの本に対する想いや、情熱を知ろうとしていた。

 

「人類がどうしてここまで進歩できたのか、そう考えたとき、私はその理由は本、だと思うんです。さすがに昔は本で伝えることはできなかったので、口承だとは思うんですけど……ある人が生涯をかけてある真理たどり着いたとします。それを伝えなくてはまた誰かが同じことを発見するために生涯を費やすでしょう。ですけど、本にして残して、それを読むことでその人が生涯で得た知識を吸収することができるんです。そこからまた新しい真実を発見することがあるかもしれません。そして、またそれを伝えるために本に残します。いわば、本というのは人類が歩んできた歴史であると同時に人類の英知の結晶、そう言っても過言ではないはずです。本を読むということは、その結晶を溶かしていく……そして更なる知識の深みに辿りつくんです。なんだかそういうのってすごくいいと思いませんか?」

「あなたの意見は素晴らしいと思う」

「悪い、のどか俺には理解できない……」

「あたしもちょっと……」

「そういう考え方をするんだ。本は私も読むけど、さすがにそこまでは考えていなかったわ……」

 

 ルイズとタバサはのどかの演説に感銘を受け、才人とキュルケはお手上げ状態になっていた。そこでちょうどメイドがお茶とお菓子を運んできてくれたので、ちょうど話は切れた。

 

「はぁー、なんかのどかの話って難しいから聞いたあとだと、甘いものがいいわねー」

「お、キュルケもか。俺ものどかの話難しくってちょっと頭パンク気味だ。でも、のどかはそんなことずっと考えてるのかー、俺とは違うなー」

「ず、ずっとわけじゃないですよー……私の友達にお爺ちゃんが哲学者でその影響を受けている子がいましてー、私もその子の影響を受けているみたいでー」

「確かに理屈っぽいわね」

「あなたの話は面白い。機会があればもっと聞かせてほしい」

「はい、全然いいですよー」

 

 のどかたちはお菓子に出されたケーキを味わいながら、難しい話は抜きにしてだべっていた。主にキュルケとルイズが才人に関することで言い合いをして、のどかが慌てて、タバサはそんなことを気にせずに、日本語の勉強をしている、という中々異様な光景だ。

 タバサが用事があると言って、彼女の使い魔である風竜のシルフィードを指笛で呼ぶと、それに乗ってどこかへ行ってしまった。それで今日はお開きになったので、のどかは一度部屋に戻ってからヴェストリの広場にやってきて、周りに誰もいないことと、監視の目がないことを確認してから、小さな声である呪文を唱えた。

 

来たれ(アデアット)

 

 その呪文を唱えた瞬間、のどかの服装が変わった。麻帆良学園の制服からのどかが冒険者(トレジャーハンター)としてクレイグやアイシャ達と共に行動していた時のモノになっていた。そして、のどかの周りに一冊の本が浮かんでいた。のどかはその本を手に取ると、開いた。しばらくその本を眺め、そして閉じた。のどかは満ち足りた表情になって、もう一度呪文を唱えた。

 

去れ(アベアット)

 

 そして、自室に戻り、こちらの世界の絵本を読んだり、文字の勉強をした。床についたのは少し遅い時間だったが、昨日よりはマシだった。

 

 私のアーティファクトも問題なく使えるみたい。パクティオーカードで先生(せんせー)と連絡は取れなかったけど、仕方ないよね。異世界だから繋がらなくても、当然だよねー。今ここで私ができることって何かあるのかなー……

 




今回でのどかと才人が仲良くなって、タバサの好感度も上昇しましたw

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7時間目

今回から話が大きく動き始めます!


 タバサがまた戻ってきたのは2日後の夜だった。タバサは疲れていたのか、帰って来ると、すぐに眠りについた。着替えるのも億劫だったのか、帰ってきた格好のままだった。この次の日は虚無の曜日と言い、いわゆる休日である。のどかが起きると、もう既にベッドの上にちょこんと座り、本を読んでいた。のどかは昨日タバサがすぐに眠ってしまったのを知っていたので、昨日と服が変わっていないことに気づき、タバサにある提案をした。

 

「タバサさん、シャワーでも浴びたらどうですかー? 少し身体を温めたほうがきっと本も集中して読めると思いますよー」

「必要ない」

 

 あっさりと断られてしまった。のどかはガクリと肩を落としたが、まだ諦めてはいないようだった。

 

 うーん、やっぱり外国人みたいな感じなのかなー。あまりお風呂には入らないみたいだしー……せっかくだからお風呂の良さを知ってほしいかも。

 

「タバサさん、実はお風呂の用意できてるんですー。一緒に入りませんかー?」

「必要ない」

 

 ううー、頑固だよー。あ、そうだ。もしかしたら……

 

「タバサさん、実はお風呂って日本の文化の一つなんですけどー、それでもダメですかー?」

「入る。早く言ってほしい」

「あ、あはは。ごめんなさい」

 

 のどかはタバサの変わり身の速さと自分のアイディアがこんなにも上手くいくとは思っていなかったので、驚きを通り越して呆れを覚えていた。タバサは自分の着替えを持って、お風呂に行くために、外へ出ようとしていた。

 

「どこに行くんですかー?」

「浴場」

「よ、浴場なんてあったんですか?」

「当然」

「そ、そうですよね、よく考えたら貴族の方たちが自分でお風呂掃除とかするわけないですもんね」

 

のどかはどこに行くのか聞いて驚いた。のどかはどうしてその可能性を考えなかったのかと少し落ち込んでいた。とりあえず、タバサが外に出ようとすることを制止すると、お風呂場に連れて行った。2人の部屋のお風呂には浴槽があるが、貴族のタバサにとっては小さいと感じてしまうものだろうとのどかは予想していた(それでも、一般家庭のものよりは大きいのだが……)。のどかは、初めて来た日から貴族たちが使う大浴場ではなく、備え付けの浴槽を使用していた(単に、大浴場の存在を知らなかっただけだが)。脱衣所で服を脱ぎ終えた2人は扉を開けて、お風呂場に入っていった。

 

「少し狭い」

「そんなことないですよー。これでも日本の一般家庭よりは大きいんですよー」

「そう……浴槽に蓋がある。どういうこと?」

「開けてみればわかりますよー」

 

 のどかはタバサの疑問を解消する方法を提示した。タバサも気になっていたのか、浴槽に近づき、蓋を開けた。すると、湯気が立ち込めてきた。立ち上る湯気を見たタバサは更に疑問を浮かべた。

 

「蓋の意味を知りたい」

「それはですねー、お風呂場がカビやすくなっちゃうからです」

「大浴場は蓋がないが、カビがない」

「それは、きっとメイドさんたちが一生懸命お掃除してくれているからだと思いますよ。それに蓋をするとお湯が冷めにくいんです。」

「……なるほど」

 

 タバサは少し考えて自分の中で結論を出したようだった。

 

「お湯が多い、なぜ?」

「これが日本式のお風呂なんです。警戒しなくていいですから入ってみてください」

 

 タバサは、それでも多少警戒しているようだったが、のどかに勧められたので、浴槽のお湯に身を沈めた。すると、大浴場では絶対に起こらないことが起きた。それは、はぁーっと大きく息を吐いたことだった。タバサは普段絶対に起こらないことが起きたので、ほんの少し顔を赤くさせた。しかし、のどかもお湯に浸かるとタバサと同じように大きく息を吐いた。タバサはこれを不思議に思って、のどかに聞いた。

 

「あなたも、私も大きく息を吐いた。これは?」

「あー、これはですねー。肺に溜まっていた空気が温められて、その空気を吐き出しちゃうからだそうですよー。やっぱり大浴場だと半身浴なんですねー」

「確かに体の半分しか浸からない」

「日本のお風呂はここがいいんですよー。全身がポカポカしてきませんかー?」

「する。心地が良い」

「これが日本式のお風呂です。外国の方もこの感じが好きなようで、結構気に入ってくれるんですよー」

「納得。私も嫌いじゃない」

「ありがとうございますー」

 

 タバサはお風呂が嫌いじゃない、と言ったのに、のどかがお礼を言った理由がわからず、小首をかしげた。

 

「なんだか私の国が褒められている気がして、嬉しいんです。タバサさんも自分の国の文化が褒められると嬉しくなったりしませんかー?」

「私にはわからない」

「そうですか……これから見つけていきましょう。自分の好きなところとか……」

 

 タバサが暑いと言い始めるまで、2人はお風呂の中で談笑していた。タバサが湯船からあがると、のどかも一緒に湯船からあがり、タバサに浴場に置いてあった椅子に座るように促した。タバサはのどかの言うとおりにして、椅子に座った。のどかはタバサの髪をシャワーで濡らすと、シャンプーを自分の手に出した。そして、手のひらをこすり合わせ、泡立てると、そのままタバサの髪を洗い始めた。ワシャワシャと乱暴にするのではなく、丁寧に洗った。タバサも気持ちが良いらしく、目を細めて、されるがままになっていた。

 

「流すので目を閉じてくださいねー」

「わかった」

「じゃあいきますよー」

 

 お湯をタバサの頭から流した。それをタバサの髪についているシャンプーの泡が完全に流れ落ちるまで繰り返した。今度はタバサが、のどかの髪をお礼に洗いたいと言い始めた。のどかも笑顔でお願いした。タバサの洗い方はぎこちなかったが、のどかもタバサと同じようにしていたので、恐らく気持ちが良かったのだろう。

 

「流す。目を瞑って」

「はい、わかりましたー」

 

 タバサはのどかが目を瞑ったのを確認してからお湯をかけた。当然、シャンプーの泡が流れ落ちるまでそれを繰り返した。その後は身体を洗おうと思ったのだが、タバサがのぼせ気味だったこともあって、仕方なく浴場から出た。

 

「タバサさん、大丈夫ですか? すいません、全身浴が初めてなのにのぼせるまで一緒に付き合ってもらっちゃって……」

「構わない。これならまた入りたい」

「そう言ってくれると嬉しいです。あ、これで体と髪を拭いてください。ドライヤーとかないので、髪は乾くまで時間かかると思いますけどー」

「ドライヤー?」

「髪を乾かす道具です。もしかして似たようなものってありますか?」

「ある」

 

 そういうとタバサは、のどかから受け取ったタオルで体を拭きつつ、ドライヤーの代わりのモノを取り出した。それは当然だが、コンセントがなく、スイッチ1つで動くようだった。

 

「わぁ、ありがとうございますー」

「気にしないで」

 

 2人は髪を乾かし、着替えを終えると、ベッドの上で本を読み始めた。2人とも本の虫だけあって、お互いが本を読んでいる間は静かなもので、タバサが『サイレント』の魔法を使う必要などなかった。その無音の空間は恐らく、学院の図書館よりも静かなものだろう。人が歩く音もなく、ただ本のページがめくられる乾いた音だけがある、そんな空間だった。タバサは1人で本を読んでいる時しかこの空気を感じたことはなかった。のどかはタバサとは違い、親友である夕映とならばこの空間を築くことができたので、特別には感じていなかった。しかし、タバサは違った。のどかのいる空間で本を読むことはあっても、一緒に本を読むことはなかった。なぜなら、今週タバサはいろいろと学院を開けることになってしまったり、のどかに言葉の読み書きを教えたり、教えられたりしていたので、ゆっくり本を読む時間はなかったからである。のどかと一緒の空間で別々の本を読むことはなかったのだ(お互いの国の本を2人で一緒に読むことはあったが)。タバサにとって読書中の他人は例外の人物であろうと、煩わしく思ってしまう。

 

「(私はこの人のことを気に入っているみたい。キュルケと同じくらいかそれ以上に大切なのかもしれない。また辛くなるだけなのにどうして……)」

 

 のどかは読書中のタバサでも、煩わしく思うことない稀有な人物のようだった。タバサはその考えをすぐに打ち切り、本に没頭した。

 昼前になり、2人の部屋のドアが激しくノックされた。タバサは気づいたようだったが、無視していたのに対し、のどかは本を読み始めると、周りの音が聞こえなくなるので、本当に聞こえないようだった。すると、ドアが突然開いた。鍵をかかっていたのにも関わらず、だ。タバサはドアが開けられた瞬間に『サイレント』の魔法を使った。入ってきた人の正体はキュルケであった。キュルケは何か言っているようだが、タバサには当然聞こえない。仕方なく、のどかに話を振った。のどかはキュルケが入ってきたことに、声をかけられてからようやく気づいた。

 

「ど、どうしてキュルケさんがここにいるんですか!? 時間的にはお昼のお誘いですかー?」

「そうね、一緒にお昼もいいわね……って違うわよ! タバサに用事があるのに、タバサが『サイレント』を使っているせいで、聞いてくれないのよー」

 

 タバサはキュルケがのどかに話しかけた時点で『サイレント』は解いていた。そのことに気づいたキュルケはタバサに泣きついた。理由も説明しつつ、である。そうやって、ようやくタバサは頷いた。窓を開けて、指笛を吹くと、タバサの使い魔であるシルフィードが飛んできた。

 

「ねえ、タバサ。ノドカも一緒でいいかしら?」

「当然」

「本当ですかー? 竜種の背中に乗るなんて初めてですー。タバサさんありがとうございます」

「構わない」

「なにー? タバサとノドカやけに仲良くなってるじゃない。何かあったの?」

「えーっと、一緒にお勉強したりですとか、特訓したりですとかー……」

「へー、いいわねー。でも、あたしは勉強は嫌だわー。特訓もだけどねー」

「全くいいって思ってないじゃないですかー」

「内容はともかく仲良くなれて良かったわね」

「あ、はいー」

「どっち?」

 

 タバサはのどかとキュルケが喋っているのが少し気に入らないのか少々声に苛立ちが含まれていた。

 

「なに、タバサあなたもしかして嫉妬してるの? あたしとノドカが仲いいから」

「違う。本が途中になった。それでどっち?」

「そういうことにしておくわ。…………ゴメン、どっちかわかんない」

「馬2頭。食べちゃダメ」

 

 タバサがそういうと、シルフィードはかなりのスピードで飛び始めた。そして、シルフィードが自分の仕事を始めたのを確認すると、キュルケの豊満な胸を背もたれに本を読み始めた。のどかは初めて竜種に乗って、興奮していた。

 

 えへへー、帰ったら夕映に自慢しないとー……竜種の背中に乗ったんだよーって。ふふ、楽しみだなー。でも、もし、帰ることになったらタバサさんたちとはもう二度と会えないんだよね……それはイヤだなー。せっかく仲良くなれたのに……

 

 しばらくして、シルフィードはトリステインの近くに降り立ち、3人は街の中へ入っていった。ちなみに、トリステインとはハルケギニアの西方にある国である。のどかの通う魔法学院もこの国にある。

 

「何よ、ルイズたちったら王都に来たかったの? まあいいわ、いくわよ。タバサ、ノドカ」

 

 キュルケは2人を引っ張ってルイズたちを探し始めた。いろいろなところを見て回った。魔道書店、食べ物屋、露天商、ランジェリーショップなどなど。それでもルイズたちを見つけることは叶わなかった。キュルケが半ば諦めかけていたとき、のどかが1つ思いついたように言った。

 

「あの、キュルケさん。もしかしたら武器屋かもしれないですよ。才人さんは私の持っていた武器を持ったら強くなったので、ルイズさんがそのことを覚えていたなら、剣を買ってあげようと思うはずですからー」

「なるほど……でもねノドカ、そういうのは先に言いなさい! 無駄に歩き回っちゃたじゃないのよ!」

「ご、ゴメンなさいー」

「とにかく行くわよ」

 

 魔道書店にずっと留まっていたタバサを回収して、3人は武器屋へと向かった。路地裏を入って、更にまだ奥へと続く道を行った先にようやく武器屋があった。3人が武器屋を見つけた時に、ちょうどルイズと才人が武器屋から出てきたところだった。キュルケは普通に声をかけようとしたのどかの口を抑えて、物陰に引っ張り込んだ。のどかは苦しそうにもがいていた。タバサはキュルケの手を引き剥がした。

 

「大丈夫?」

「は、はい。大丈夫ですー。でも、キュルケさん。どうして挨拶しちゃダメなんですかー?」

「決まってるでしょ、ルイズを悔しがらせてやるためよ」

「なんだか悪役っぽいですー」

 

 3人は武器屋のドアを開けて、入った。そうすると、胡散臭い店主がいた。店主は意外そうな顔をして、こう言った。

 

「こりゃ、驚いた。1日に二回も客が来るとは! へへ、それで何をご所望で? と言ってもウチには剣の類しか置いていないんですがね」

 

 キュルケはそれを無視すると、カウンターに置いてあった金で出来た剣に目を付けた。

 

「これいくらかしら?」

「(こいつはなかなか金持ってそうだなあ。甘ちゃんの貴族を騙してやるぜ)へへ、3000エキューでさあ」

「高いわねぇ、もっと安くならないの?」

 

 キュルケは胸元を店主に見せつけた。店主の目はキュルケの谷間にクギ付けになった。キュルケは薄く笑うと、交渉を始めようとした。その時だった。

 

「あ、あのー。非常に申し上げにくいんですけど、これ偽物ですよ」

「「へ(は)?」」

 

 のどかがこう言うと、店主とキュルケは同時に固まった。店主はいち早く我に返り、のどかに激昂した。

 

「なんだとぉ!? これはかの有名なゲルマニアの……」

 

 店主が何かを言いかけたところで、のどかが遮った。

 

「本物ならそうだと思います。でも、これはあなたが軽々と持ち上げていました。男の人とは言え持ち上げたんです。純金製と言われるこの剣を。もし、純金ならば重くてとても使うことができないと思います。恐らくメッキでもしたんでしょう」

「(バレてるだと……!? この俺が本物を模倣して作ったというのに……クソッ!どうすりゃいいんだ)」

「その様子ですと、もしかして偽物を掴まされた可能性も否定できないですね」

「マジかよ……ウソだろ(へへっ、ラッキー。お前の話に合わせればいいだけだぜ。これだから貴族ってのはバカなんだよ。自分が騙されているとは思わねーんだからなー)」

「そうですか、じゃあ仕方ないですね。あ、そうでした。あなたのお名前教えてくれませんかー?」

「へ?(何言ってやがるんだ、この(アマ)。まあ名乗るだけならいいか)へぇ、俺の名前はロック・ド・グリードと申しますぜ。もしかして、何か操作に役立ててくれるんですかい?」

「ありがとうございます、ロックさんですね。そうですね、そんなところです」

「なーに? 平民のくせに姓まで持ってるわけぇ?」

「(あっ、しまった! 怪しまれちまう! こいつがおっとりしていやがるからつい口が滑っちまった)え、えーっとそれは……」

「まあいるのよねー。貴族に憧れて、自分に姓を付けちゃう痛い人」

「へ、へへ。いやーお恥ずかしい限りです(つくづくバカで助かるぜ)」

 

 のどかは後ろを向き、ポケットからカードを取り出した。そして、ある呪文を唱えた。

 

来たれ(アデアット)

 

 今回は服装は変えずに、そのままの服装であるが、本が突然現れた。更に、耳には羽の形をしたイヤリングのようなものが付いていた。それを確認できたのはタバサだけだった。タバサは目を見開いていた。突然何もないところから本が出てきたのだから当然である。そして、のどかが衛士隊を呼んで来てほしいとタバサにお願いした。タバサは店を出て、のどかに言われて通りにした。のどかは店を出る寸前のところで、踵を返し、店主――ロックに近づいた。先程出現した本が開いている。ロックは本が開いていることなど、気にも留めず頭に疑問符を浮かべた。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

なんだこの(アマ)。急に戻ってきやがった。まだなんかあるのかよ。まさかここにある刀剣のほとんどが贋作だってバレたのか!? いや、そんなはずはねえ。落ちても俺は元貴族の土のメイジだ。こういうのは一番得意だった。大丈夫のはずだ。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「ほとんどの刀剣が贋作、偽物ですね? そして、あなたは元貴族の土メイジ。一番得意なことは、他社の作品の模倣、そうですね?」

「きゅ、急に何をおっしゃっているんですか!? そんなわけがないでしょう!」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

その通りだぜ。俺の魔法は他人の作った剣や、ツボ、盾、他にもいろいろ見た目をコピーできるぜ。俺のことがわかるんだ! くそ、ありえねえ! 待て、カマをかけられていると見るべきだ。あいつが衛士から雇われていたとしたら……いや、ありえねえ。じゃあなんでわかるんだ!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「そうよ、ノドカ。急にどうしちゃったのよ。だいたいそんなことあるわけないわ!」

「キュルケさんも疑問に思っていたじゃないですか。なぜ彼が姓を持っていたのか。彼が貴族だとするならば、辻褄が合うんです」

「確かにそうだけど……」

 

キュルケがイマイチ納得できない様子でのどかを見て、困っていると、のどかはロックにまた質問をした。

 

「ロックさん。あなたがこれまでに稼いできた金額とこの武器屋にある贋作を全て教えてください」

「は?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

は? 稼いだ金額は4000エキューだな。こいつが売れればもっと稼げるんだがな。そして、贋作は良と最良と書いてあるやつ全部だぜ。それにしてもなんだこの質問。さっきからこいつは何をして……はっ! まさか俺の心を……ありえねえ! ありえねえ! ありえねえ! そんなバカなことがあってたまるかよ! もしかしたら今考えていることもバレてんのか!? だとしたら……やべえ! そういえばあの青い髪のチビはどこいった!? まさか……衛士を!?

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 のどかが武器屋の良、最良と書かれたものすべてを引き出し終わると、衛士が到着した。衛士はカウンターに置いてある刀剣類を全て確認し始めた。ディテクトマジックで、だ。ロックは言い逃れすることはできなくなっていた。そして、刀剣がほぼ全て、偽物だったため、ロックは御用となった。タバサとキュルケがのどかに駆け寄ってきた。

 

「タバサさん、ありがとうございました」

 

 のどかがお礼を言うと、タバサは知りたいことあった。それはのどかが何をしたのか、だ。それはキュルケも同じようで、のどかを問いただした。

 

「何をしたの?」

「そうよ、何したの? のどかが質問して、あの店主が焦っていくだけだったじゃない。まさか、カマをかけたの?」

「いえ、私の力です。タバサさんは見ていましたけど、この本を取り出して、使いました」

「本? そういえばずっと開いてたわね」

「どんな能力?」

「私のこの本はDIARIUM EJUS(いどのえにっき)と言います。こっちの世界であるかはわかりませんが、私の世界ではマスターピースと言われるアーティファクトです。能力は名前を呼んでからこの本を開くと、その相手の心を読むことができます。これが私の力です」

「心を……読む」

「ウソ……めちゃくちゃ強いじゃない。じゃあのどかはあたしやタバサの心も読むことができるってこと?」

「はい、偽名さえ使っていなければ、ですけどね」

 

 のどかの力を聞いた2人は驚きを隠せないようだった。

 

「(彼女の力は恐ろしい。でも、彼女の性格からは大事なことにしか使わないはず。だから彼女の力になったのかもしれない。私が恐れてはダメ、私が恐れなければいけないのは、彼女があいつの手に落ちること。絶対に渡さない)」

 

 タバサはシルフィードの背中の上で、そのことを固く誓ったのであった。

学院に帰ったあと、才人にプレゼントを買い損ねたことに気づいたキュルケは帰ってから悔しそうにしていた。仕方なく、才人を無理やり抱きしめて胸に埋もれさせて楽しんでいたようだった。ルイズはそれを見て当然顔を真っ赤にして怒っていた。そして、魔法の勝負だ、ということになり才人が的になってしまったのであった。そして、ルイズの放った『ファイヤーボール』が宝物庫の壁に少し穴を開け、どこからか現れたゴーレムが壁を破壊し、あるものが奪われ、1つの手紙を残して去っていった。

 

【破壊の杖、確かに領収いたしました。 土くれのフーケ】

 




今回はいどのえにっきお披露目です。そしてすまない武器屋の店主……勝手にメイジにしたうえに、逮捕までされてしまった……

次はVSフーケです!

感想お待ちしております!


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8時間目

フーケの戦いを終わらせるつもりだったのに、始まってすらない……だと……!?


 トリステイン魔法学院の教師たちは早朝から学院長室に集められていた。全ての授業が休講になり、生徒達は急に出来た休日に喜び、何が起こったのか考えようともせず、ただただどのように過ごすか考えているようである。だが、ルイズは違った。才人を連れて、学院長室の中にいるのである。そこにはルイズ達以外にもキュルケ、タバサ、そしてのどかがいた。

 

「ふむ、では君たちが昨夜のゴーレムの目撃者ということかの?」

 

 髪とヒゲが一体化した老人――オールド・オスマンが確認するようにルイズたち4人に問いかける。ちなみに、才人もその場に居たのだが、彼が使い魔であり、更に平民であるので、勘定されていない。オスマンのその言葉に真っ先に答えたのは、ルイズであった。

 

「はい、私たち4人とそこの使い魔だけです」

「ふむ……残された手紙を見ると、土くれのフーケで間違いないようじゃな。君たちの話にも巨大なゴーレムが学院の壁を破壊し、宝物庫に侵入したという話じゃしな」

 

 オスマンは教師陣を見渡すと案の定諍いが起きていたので、溜息を吐きその夜の宝物庫の見張り当番であったシュヴルーズを糾弾するギトーを諌めた。

 

「これこれ、サトーくん。あまり女性を虐めるものではないぞ」

「オールド・オスマン、お言葉ですが私の名前はギトーです」

「そうじゃったかの、ヒトーくん。今回のことを想定して見張り番を置いておったのは、事実ではあるがの。彼女がたまたまその日の当番だっただけじゃろう? 最近では、皆も宿直の仕事をサボっとったじゃろ。君に彼女を批判する権利はないぞ。もちろんワシにも、他の教師たちにも、じゃ」

「た、確かにそのとおりですな。それと……オールド・オスマン、私の名前はギトーです」

「ホッホッホ、そうじゃったな。ミセス・シュヴルーズ。このことは、君だけの責任ではないのじゃ。あまり思い詰めんようにの」

 

シュヴルーズはそのオスマンの言葉に感極まって泣いてしまった。オスマンはそんなシュヴルーズを慰めるのに必死だったが、やがてあることに気づき、不満を漏らした。

 

「しかし、こんな時にミス・ロングビルはどこに行っておるんじゃ。まさか寝ておるわけではなかろうな」

 

 オスマンの不満に答えたのは開け放たれた扉だった。そこから入ってきたのは、今まさにオスマンが探し求めていた人物――ロングビルと呼ばれた緑髪の女性だった。

 

「ミス・ロングビル、君は今までどこに行っておったのかね。こっちは大変なことになっておったのじゃぞ」

「申し訳ありません、オールド・オスマン。朝起きたら、このような事態になっておりましたので、国を騒がせている盗賊の仕業だと判断し、すぐに調査を致しました」

 

 コルベールはロングビルの仕事の速さに驚いていた。彼女が赴任してきたのは最近で、いつもオールド・オスマンに軽いセクハラを受けていた印象が強く、ここまで仕事ができるとは思っていなかったのだ。オスマンも感心したように、ほう、と唸り、その結果を求めた。

 

「して、結果は?」

「フーケの隠れ家を発見いたしました」

「な、なんですと!?」

 

 コルベールは素っ頓狂な声を上げて軽く飛び上がった。そのせいで、軽くカツラがズレているが、今は誰も見ていないことにしていた。しかし、才人だけはその様子に失笑を禁じ得なかったようで、何事かと思った教師陣は才人を見て、なんだ平民か、と納得したようである。それを見たルイズはその様子を恥ずかしく思い、本当はお仕置きをしたかったのだろうが、場が場なのでグッと堪えたようであった。キュルケはそんな才人を可愛いと思ったらしくニヤニヤしていた。タバサは相変わらずの無表情、のどかはと言うと、ロングビルの次の言葉を待っている。

オスマンは崩れた場の空気を戻すように大きく咳払いをした。

 

「それで、誰に聞いたのかね?」

「近隣の農村に住んでいる農民ですわ。その農民に聞いたところによると、黒ずくめローブを纏った男が森の廃屋に入っていったそうです。恐らく、その人物がフーケで、森野廃屋はフーケの隠れ家なのでしょう」

 

 ロングビルの言葉を聞いたルイズは思わず叫んでいた。

 

「黒ずくめのローブ? それはフーケです! 間違いありません!」

 

 オスマンは目を鋭くさせ、ロングビルを見た。

 

「ミス・ロングビル。それは近いのかね?」

「はい。徒歩で半日、馬ならば4時間といったところでしょう」

「すぐに王室に報告いたしましょう! 王室衛士隊もフーケと聞けばすぐに飛んでくるでしょう!」

 

 コルベールの提案は当然と言えば当然のものであった。しかし、オスマンの意見は違っていた。

 

「馬鹿かね、君は。そんなことをしている間にフーケに逃げられてしまうわい! 身にかかる火の粉ぐらい自分たちで払えなくて何が貴族じゃ! 何がメイジじゃ! 更にこれは魔法学院の問題じゃ! この件は我々で解決する! さあ、フーケを捕まえて名を上げようというメイジはおらんのか! おるならば、杖を掲げよ!」

 

 まるで、この答えを待っていたかのように笑うロングビルの姿があった。

オスマンの呼びかけに答える者は誰もいないと思われたが、ある少女がゆっくり、迷っているようだが、なんとか杖を掲げた。それはルイズだった。

 

「私、やります!」

 

 それを見たシュヴルーズが慌ててルイズを止めた。

 

「ミス・ヴァリエール! あなたはまだ学生ではないですか。危険です! この件は我々教師陣に任せて……」

 

 しかし、そんなシュヴルーズに対し、ルイズは言った。

 

「誰も杖を掲げにならないじゃないですか。それにフーケを取り逃がしたのは私だし……」

 

それは教師全員に言っているものだった。更に後に続いた言葉はルイズが心配で杖を掲げようとしていたキュルケに火を付けた。

 

「それは……」

 

シュヴルーズが言い淀んでいると、キュルケは迷わず杖を掲げた。

 

(わたくし)も行きますわ。ヴァリエールにばっかりいいカッコさせられないもの」「ミス・ツェルプストー、あなたまで……」

 

 キュルケが杖を上げたことにより、タバサも自分の身の丈以上もある杖を少し、持ち上げた。

 

「私も」

「タバサー、あなたはいいのよ。これはあたしとヴァリエールのことなんだから」

「心配」

「タバサ、あなたのそういうところ、私大好きよ」

 

 タバサがそう言った瞬間にキュルケは嬉しくなったようで、タバサを抱きしめた。タバサは苦しそうにしていたが、キュルケの親愛を感じているようで、嫌ではないようだ。ルイズもタバサに小さくお礼を言った。

 

「タバサ……ありがと……」

 

タバサはキュルケに抱きしめられながらも、のどかを見つめていた。来ないの? と訴えかけているようだ。のどかはタバサを見返し、そして、おずおずと杖の代わりに手を挙げた。

 

「あ、あのー。私も行っていいんでしょうかー?」

 

 のどかの言葉に答えたのはオスマンだった。オスマンはのどかをジッと見つめ、微笑んだ。

 

「当然じゃ。それに君ならば任せられる」

 

教師陣からどよめきが起こった。一介の学生、しかも編入生がオスマンの信頼を得ているからである。しかし、その評価を当然だと思う教師も大勢いた。ギトー論破したことや、授業中の真面目な姿勢、これらがのどかの評価を高めているのである。また、のどかへの評価が高いので、余計に危険だ、という教師もいた。

 

「彼女はワシがあとで推薦しようと思っていたところじゃ。断られればそれまでじゃがな」

 

 学院ののどか擁護派の教師がオスマンに意見した。

 

「確かに彼女は優秀ですが、まだ学生です!」

「ふむ、ならば他の生徒はいいのかね? それに君が行こうというならば考えを変えても良いがの」

「行きますよ! ミス・ミヤザキを行かせるくらいならば、この私が!」

「君は教師の鑑じゃな。しかし、救うのは彼女だけかの? 生徒という理由であるのならば、君は1人で行かなければならないがのー」

「な、そ、それは……」

 

教師が狼狽えている間も、のどかの言葉に続くものは現れなかった。オスマンはルイズ、キュルケ、タバサ、のどかを一瞥すると、咳払いをして話し始めた。

 

「もう良いかの。では、君たち4人に頼むとしようか」

 

 コルベールは何も言えなかった。いや、言う必要がないと思ったのだ。なぜなら、タバサとのどかがいるからである。きっと彼女達ならば何とかしてくれるだろうという期待をしているのだ。

 

「教師があまりにも心配するからの。その心配を払拭してやろうかの。まず、ミス・ヴァリエールじゃが、彼女は優秀なメイジを輩出してきたヴァリエール家の娘じゃ。今はまだまだじゃが、いつかきっとその才能が開花してくれることじゃろう。もしかしたら、今回かもしれんがの。更に彼女の使い魔はグラモンの息子を倒しておるという噂がある。」

 

 ルイズは思わず顔を赤くした。羞恥からではなく、期待されているということが嬉しかったようだった。才人は相変わらず何が起こっているのか分かっていない様子であるが……とりあえず褒められていることはわかったようで、照れているようである。ルイズたちの説明だけを聞くと、教師たちはますます不安になったが、オスマンはそれをわかっていた。

 

「次にミス・ツェルプストーじゃ。彼女はゲルマニアの優秀なメイジを輩出してきた家の娘じゃ。更に彼女自身の火の魔法もかなり強力と聞いておる」

 

 キュルケはオスマンに紹介されると、彼女の特徴的な赤髪をかきあげた。

 

「次にミス・タバサじゃが、彼女は若くしてシュバリエの称号を持つ騎士だと聞いておるが?」

 

 タバサはボケっと立っているだけだったが、それに驚いたのはキュルケだった。

 

「タバサ、本当なの?」

 

 キュルケに聞かれて、ようやくタバサは口を開いた。

 

「本当」

 

 キュルケどころか、教師たちもこれには驚いた。なぜなら、『シュバリエ』の称号は爵位としては最下級のものである。爵位は買うことができるが、『シュバリエ』は違う。これは、実力でしか手に入らないものであるからだ。つまり、その称号を持っているだけで、相当の実力があるということが証明されるのである。

 

「そして、次に。ミヤザキくん……いや、ミス・ミヤザキじゃが、彼女は東方(ロバ・アル・カリイエ)の出身である。彼女は魔法は得意ではないようじゃが、何よりも素晴らしいのが、その洞察力と思考速度じゃ。ワシはこれを高く評価しておる。心当たりのある者もおるのではないか?」

 

 オスマンがそう言うと、ギトーは悔しそうな顔をした。のどかに論破されたことを思い出したのだろう。しかし、それと同時にオスマンの言っていることがわかってしまうので、彼女がフーケを探しに行くことには大いに賛成していた。

 

「この4人に勝てるものがおるのならば、申し出よ!」

 

 オスマンの言葉に答えるものはいなかった。そして、案内役にロングビルを据えたフーケ捜索隊が編成された。学院長室に集められていた教師たちは解散となった。後は、吉報を待つだけである。

 集合の時間になり、ロングビルは全員が馬車に乗り込んだのを確認すると、馬を走らせた。その道中で、キュルケがロングビルに質問しようとしたり、いろいろあった。ちなみに、のどかとタバサは2人で一緒に本を読んでいた。今回読んでいたのは日本語の本なので、才人も話に入っていた。

 

「これはどういう意味?」

 

 タバサが指差したところに書いてあった文字は与件だった。才人がどれどれと息巻いていたが、わからなかったらしく、頭を抱えた。

 

「悪い、タバサ。俺わかんねえ」

「どうして?」

 

 タバサは聞けば答えが返ってくると思っていたので、才人のわからないという答えが理解できないでいた。

 

「なんでって……そうだなぁ」

才人がどう答えようか迷っていると、どちらの質問ものどかが答えた。

 

「あ、それはですねー。日本語は日常生活で使う単語っていうのは大体決まってきているんです。公的な場だったらまた変わってくるんですけどー。その与件という言葉はいわゆる小論文で使われたりすることが多いですね。ちなみに、意味は推理の出発点として与えられたり、仮定されたりする時に用いますー。筆者が自分の推論の出発点はここですよー、という時に使ったりしますねー。この本は、比較的そういう言葉が多く使われていますのでー、小論文みたいに感じますよねー。その本は夕映から借りた本なので、哲学的な本なので、ちょっと難しいと思います」

 

 のどかが嬉しそうに名前を出したので、才人は思わず聞き返してしまった。

 

「夕映? 誰だ?」

「夕映は私の親友です」

「のどかは親友と離れて寂しくないのか?」

「寂しいです。でも、それはちょっとある事件で慣れちゃいましたから。こうやって夕映の持っていた本を読むと、繋がりが感じられるような気がして、なんだか安心しますし」

 

 のどかが今は会うことが出来ない友人に思いを馳せている姿を見たサイトは見惚れていた。

 

「……へ、へー、そういうこと言ってもらえると、俺も希望が見えるよ。なんかありがとな」

「そ、そんな大したことじゃないですからー。私が勝手にそう思っているだけですのでー」

「いや、それでも……」

 

 才人とのどかがループに入ろうとしたところで、タバサによって止められた。才人と、のどかの間に入り、才人を追い出して、のどかにズイっと近づき、本のページを見せてここがわからない、といってのどかを独占し始めた。タバサに場所を奪われた才人は仕方なく、ルイズのところに戻った。

 途中から馬車では行けなくなったので、歩いて向かうことになり、進んでいくと、ロングビルの言うとおり森の奥に廃屋があった。あの廃屋に人がいるかどうかを確認するため、誰かが小屋に近づくことになった。それで最も素早いと思われる人物である才人が選ばれた。才人は決闘の時の動きを根拠に、のどかを推したのだが、のどかは自分の行動は目立つといい、才人に任せたのである。そして、才人が廃屋に近づき、中の様子を伺い、合図を送った。予め決めておいた合図だ。人がいたならば、手のひらをのどかたちに見せる。人がいなければ、両手を挙げてバンザイの格好をするというものである。才人が送った合図は後者であった。なので、2人が廃屋を調べ、他3人が見張りをするということになった。ちなみに、ロングビルはフーケが近くにいるかもしれないと言って、森の中に行ってしまった。そして、あっさりと『破壊の杖』を見つけた才人とタバサが出てきたタイミングでまたあの巨大なゴーレムが現れたのであった。

 




次回こそはフーケ戦終了までいく予定です。

感想お待ちしております!


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9時間目

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 突如現れたゴーレムに真っ先に反応したのは見張りを勤めていたルイズだった。ルイズは杖を振り下ろし、ありったけの魔力を込めて魔法を放つ。

 

「『ファイヤーボール』!」

 

 ルイズの魔法は常に失敗する。どんなに頑張っても起こるのは爆発だけ。今回はそれが功を奏した。ルイズの放った魔法は、ゴーレムの肩に飛来し、吹き飛ばした。肩を吹き飛ばされたため、そこから先の腕は崩れ落ちる。

 

「やった!」

 

 ルイズはゴーレムの一部を破壊したことで、軽くガッツポーズを取っていた。しかし、片腕が崩れたゴーレムならばバランスを崩してもおかしくはない。しかし、ゴーレムがバランスを崩すことはなかったのである。なぜならば、破壊された腕が再生を始めたのである。それを見たタバサはシルフィードを呼び、背中に乗った。近くにいたキュルケとのどかを乗せ、才人も拾おうとしたところで、ルイズと才人が何やら言い合いをしている。そして、ゴーレムの巨大な足がルイズに迫っていた。それを見た才人の行動は速かった。ルイズを救おうと走りだした。彼が背中に背負った剣――デルフリンガーを握っており、そのスピードは凄まじかった。瞬動のように一瞬で移動するわけではないので、一気に近づくことは出来ないが、それでも速かった。ゴーレムの足を目前にしたルイズは絶望感に打ちひしがれているようだったが、間一髪で才人の助けが入った。そして、そこでシルフィードが一気に近づいた。ルイズと才人を乗せて、退却するためだ。

 

「乗って!」

 

 タバサが叫んだ。彼女が少し焦っているのがわかる。ルイズはすぐにシルフィードの背中に乗ったが、才人は乗ろうとしなかった。

 

「俺は大丈夫だ!」

 

 才人はこれ以上人は乗れない、と判断して一番すばしっこい自分が地上で戦おうと考えたのだ。更にもう一つ彼には考えがあった。しかし、ルイズはそれを是としなかった。

 

「何言ってるのよ! 今のはギリギリ避けれたけど、今度もまたうまく行くかわかんないのよ!」

「わかってる!」

「わかってない!」

 

 タバサはこれ以上ここに留まるのは危険だと判断し、シルフィードに飛び上がらせた。飛び上がる瞬間、のどかがシルフィードの背中から飛び降りた。キュルケとルイズの声が重なる。

 

「ノドカ!? 何やってるのよ!」

「ノドカ! ダメ、戻ってきなさい! あなたがいなくなったら一番悲しむのはタバサなのよ! あなたはタバサの……」

 

 ルイズとキュルケの悲痛な叫び。声は届いたらしく、地上に降りたのどかは飛び上がっていくシルフィードの方に目を向け、ニコッと微笑んだ。大丈夫です、そんな言葉が浮かんでくるような笑顔だった。ルイズとキュルケはそれでもなお心配だったようだが、タバサはのどかのその笑顔を見て、胸をなでおろした。

 

「タバサ!? 大丈夫なわけないでしょ! のどかがダーリンと一緒に死んじゃうかもしれないのよ!」

「大丈夫。あの子がそう言うなら問題ない。それに、あるものを受け取っている。作戦も聞いた」

「タバサ……のどかのこと信頼してるのね。ちょっとのどかが羨ましいわ」

「あるもの? あるものって何?」

 

 ルイズはタバサがのどかから受け取ったモノに対して、疑問を持ち上げたが、タバサの答えはまた意外なモノだった。

 

「秘密」

「なっ! 作戦くらい教えなさいよ!」

「私とあの子の約束」

「何よ!」

「それよりいいかしらルイズ? ダーリンが潰されそうよー」

「ウソッ!? ってホントにウソじゃない! ふざけないでよ!」

「悪かったわよ」

 

ルイズの癇癪でいつもの調子を取り戻したキュルケがいつも通りルイズをからかう。それでルイズも少しは落ち着きを取り戻したらしい。ルイズは、そっぽを向いてありがと、と短く小さな声でお礼を言った。キュルケもこの事はからかわず、ルイズに対し、微笑みで返した。

 飛び降りたのどかに驚いたのは才人も同じであった。

 

「のどか!? 何やってるんだ! まだ間に合うから急いで戻れ!」

「大丈夫です、これでも魔法で出来たゴーレムとは何回も対峙してますからー」

「へ? いやだって、のどかも俺と同じ世界出身なんだろ!? なんでそんなものと戦うみたいなことがあるんだよ…………のわっ!」

 

 才人はのどかの言葉に驚き、つい問いただそうとしてしまっていた。当然、ゴーレムには敵だと認識されているので、待ってはくれない。ゴーレムの足が2人に迫っていることに、才人は気づかなかったのである。のどかはいつの間にか光を纏っており、瞬動を使ってゴーレムの足を回避した。当然、才人を抱きかかえて、である。才人は自分の景色が一瞬で別のものになったため、変な声を出してしまったのである。

 

「才人さん、時間がありませんので、すぐに準備をしてください。私はあまり戦闘は得意じゃありませんけど、あなたの考えならわかりますからー」

「お、おう。俺は『破壊の杖』を使えれば、って思ってるんだけど……」

「私は『破壊の杖』を見てませんけど……そういうことですか。わかりました」

「え? のどか何がわかったんだよ」

「なんでもないです、それよりゴーレムが来てます!」

 

 のどかの言うとおりゴーレムが迫っていた。ゴーレムは先程妙な動きをしたのどかに狙いを定めているようだった。しかし、ことごとく躱されてしまう。単調な動きのため、回避しながらのどかは思考する。

 

 『破壊の杖』がロケットランチャーだったなんて……つまり、私たちのモノがこっちに流れ込んできているとしたら、必ず帰る方法はある。それよりも今は……ゴーレムが私を狙ってきている、ということは術者が近くにいるということ。犯人はあの人だと思うけど……何か理由があるのかな。今は『破壊の杖』であのゴーレムを倒さないと。

 

「タバサさん! 今から『破壊の杖』を使ってあのゴーレムを破壊します! 『破壊の杖』を才人さんに!」

 

 のどかが声を上げると、タバサは『破壊の杖』を才人めがけて投げた。才人はなんとか受け取ると、構えた。しかし、ここで才人は自分でもわからないことが浮かんできて焦っていた。

 

「(え? なんだこれ、俺はこれの使い方なんて知らないのに、どうして使えるんだ。わかるんだ。せいぜいトリガーを引くだけだと思っていたのに……いろんな使い方がわかる。……そういえばさっきも、ギーシュの時も……剣の扱い方がわかった。しかも、体が軽くなった)」

 

 才人は自分の変化に驚いて、トリガーを引くのに戸惑った。そのせいで、才人はゴーレムの拳に反応することができなかった。ロケットランチャーの威力は高い。今撃てば自分も爆発に巻き込まれてしまう危険性があった。だから、才人は回避行動を取ったのだが、間に合わなかった。

 

「(やべえ、避けれねえ。クソ、ルイズを見返したかったのによ。こんなんじゃあカッコ悪いぜ)」

 

 のどかは才人が決めると思っていたのにも関わらず、才人が撃たなかったことに対して反応が遅れることはなかった。なぜなら、飛び降りる少し前に才人の名前で彼女のアーティファクトDIARIUM EJUS(いどのえにっき)を発動していたからである。DIARIUM EJUS《いどのえにっき》は才人を対象として発動してあった。それで、才人の作戦、戸惑い、そして危険を察知することができたのである。だから、迅速に動ける。そして、ゴーレムの危機から才人を二度救ったのである。

 

「……え? 助けられちまったな。サンキュー、そういえば、イヤリングいつの間にしたんだ? って今はどうでもいいな。それよりも今ので『破壊の杖』を落としちまった! 悪い……」

「大丈夫です、才人さん。それよりも今はアレの安全な使い方を教えてください。出来るなら、図を使って詳しくお願いします」

「な、何言ってるんだ? 図? そんなことより大切なことがあるだろ!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

なんだ? 急にどうしたんだ? 使い方? それは……さっき浮かんできた使い方……肩に担いで、腰を落とすだろ。そして、片膝をつく。あ、この時膝をつく方は担いだ方と同じな。そして、反対側の足は膝をつかずに立てておけばいいかな。後は敵に狙いを定めてトリガーを引くだけだ。違う! 今はそういうことを言うんじゃなくて! ロケラン回収して、倒さないと! タバサはさっき使い方がわからないって言ってたから、俺とのどかのどっちかしかあいつを倒せないんだ!

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 才人はのどかの質問の意図が分からずにいた。しかし、のどかは上手くいったという表情をしているが、才人はますます混乱しているようで、とぼけた顔をしている。すると、シルフィードが急降下し、タバサは才人が落とした『破壊の杖』を回収すると、シルフィードから降りて、『破壊の杖』を構え、ゴーレムに照準を合わせ、撃った。それはゴーレムに命中し、爆発が起き、ゴーレムは跡形もなく、砕け散った。タバサは才人を見て、どうだ、自分も使えるんだ、と誇っているような顔をした後、のどかに駆け寄っていく。

 

「あ、タバサさん。大丈夫でしたか? 耳とか痛くありませんか?」

「大丈夫、あなたは?」

「大丈夫ですよー。やっぱりタバサさんにお願いして良かったですー」

「そんなことはない」

 

 タバサとのどかがお互いのことを心配して、話し合っていると、才人が納得できないといった表情で近寄ってきた。

 

「なんでタバサはアレが撃てたんだ? さっき聞いたときは撃てないって言ってたじゃないか。俺が構えたからか? でも、それだけで撃てるもんなのか」

「違う。彼女の能力」

「へ? のどかの能力ってどういう」

「サイト! 何してるのよ! バカバカバカァ! 本当にやられちゃうかと思ったじゃない! ノドカに感謝しなさいよね! もう……本当に心配したんだからね」

 

 才人がそれについて聞こうとしたところで、ルイズに邪魔された。

 

「ルイズ……悪かったよ。これじゃあカッコつかないな。本当に悪かった。のどかも改めてサンキューな、助かったよ」

「ダーリン、今回はあまり活躍できなかったわねー。でも、ルイズを助けたのはかっこよかったわよ。さすがはあたしのダーリンね」

「何言ってるのよ! これは私の使い魔! ペットよ! あんたになんかあげないんだから!」

「あら、いいじゃない。あたしに渡しなさいよ」

「嫌よ!」

「なんでよー」

「だからさっきも言ったけど……」

 

 キュルケはルイズをからかい、ニコニコとしている。そんな2人を見て、才人は終わったんだな、としみじみ感じていた。すると、森の奥からガサガサと音がしたので、才人は思わず、誰だ! と叫んだ。その正体はロングビルで、ものすごい爆発音を聞きつけて、戻ってきたという。才人とルイズ、キュルケはロングビルだったので、気を緩めた。もし、フーケだったらどうしようかと思っていたのだ。しかし、のどかとタバサは違った。タバサはロングビルの周りを水の攻撃魔法である『ジャベリン』を打ち込んだ。突然のことにルイズたちは動けないでいるようである。ロングビルが目を見開いて、タバサとのどかを見た。のどかは右手の人差し指に、中央に鬼の目を連想させるような装飾が施され、更に左右に鋭く尖った羽のついた指輪のようなものを装着し、ロングビルをにそれを向けてこう言った。

 

我 汝の真名を問う(アナタノオナマエナンデスカ)

 

 のどかが何かすると思っていたロングビルはへ? と間抜けな声を出した。

 

「イヤですわ、ミス・ミヤザキ。私はロングビルですよ」

 

 のどかの指が勝手に動き始める。それは空中に何か文字を書いているような動作だった。

 

「マチルダ」

 

 のどかがそう言った時、ロングビルの目が大きく見開かれた。

 

「マチルダ・オブ・サウスゴータ。これがあなたの名前ですね」

「ち、違います。私はロングビルです。しかも、サウスゴータだなんて……」

 

 ロングビルは平静を装ってはいるが、焦りが見え隠れしている。ルイズたちは急に変わったのどかの様子とロングビルの会話に入り込めないでいる。しかし、タバサは違った。タバサはのどかの意図を察してか自分が預かっていた本を返した。キュルケもその本を見て何か納得したようだった。

 

再アデアット(リロード)、マチルダ・オブ・サウスゴータ」

 

 のどかは本を一度閉じ、呟いたあと、また開いた。タバサとキュルケ以外はその意味がわからないようで、困惑している。そんな中でものどかはロングビルに質問をした。

 

「マチルダさん、あなたは土くれのフーケで間違いないですね?」

「な、何言ってるんですか。そんなわけないじゃないですか」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そのとおり、私が国を騒がせているフーケよ。 なんで私の本名を知っているの? まさか、さっきのあなたのお名前なんですかー? って言うのはあたしの本当の名前を暴くための力? そんな馬鹿な! 幾ら何でも強すぎるわよ! それにしてもこいつの声ってテファに似ているのよね。今はそんなことはどうでもいいのよ。この状況をどう打開するかが問題ね。『破壊の杖』を奪ったはいいけど、使い方がわからなかったから、こいつらに使い方を見せてもらって奪おうとしていたのに……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「やっぱり、あなたがフーケですね。そして、私たちの誰かに『破壊の杖』を使用させ、そして、それを奪い、私たちを亡き者にしようと考えていましたね」

 

 のどかの言葉にロングビルは動揺を隠せなかった。しかし、言葉だけはまだ平静を保っている。

 

「な、なんでそこまでわかったのかしら? 本当にあなたは賢いわね」

 

 ロングビル――フーケがそう言うと、ルイズと才人はのどかが適当なことを言っていたわけではないとわかったらしい。

 

「そ、そんな……ミス・ロングビルがフーケだったなんて……」

 

 ルイズの声には絶望感と悔しさが混じっている。ルイズの様子を見たフーケはルイズを馬鹿にした。魔法が使えないメイジだの、平民を呼び出したおかしなメイジと言った。そして、最後は何も知らないお嬢様。その言葉の真意はのどかに伝わってしまった。のどかはフーケが一種の義賊であることを聞いてしまったのだ。

 

「マチルダさん、あなたは進んで悪事を働いていたわけではないんですね」

「は? 何を言っているの? 私は自分の意思で悪事を行ってきたのよ」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

そう、私はテファのために盗賊になった。あの子が笑ってくれるなら、私は汚れても構わない。あの子が幸せに暮らしてくれれば、それでいい。私はあの子を絶対に守り通す、そう決めたんだ。だから、ここで捕まるわけには……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「それは、ある人たちのためだったんですね。でも、悪いことをしたなら罪は償わないといけないと思いますー。去れ(アベアット)

 

 そう言うとのどかはアーティファクトをカードに戻した。そして、フーケに笑顔で手を差し伸べた。

「なんで知ってるのよ! あなたはどこでそれを知ったっていうの! 誰にも漏らしてない! その情報を! 手を取れって言うの? まるで人の心を読んでいるみたいなあなたの!」

「それで、合ってます。私はさっきの本で心を読むことができます。だから、あなたの想いも聞いちゃいました。お願いです、その子もこんなこと望んでいないと思います」

「心を読む……ですって。何よ、それ。あの子がこんなこと望んでいない? そんなことわかってるわよ! でも、お金がないのよ! 稼がないといけないのよ! あの子のために! それが分かっているんでしょう! 見逃してくれてもいいじゃない!」

「ゴメンなさい、それはできません」

「そうかい、まあこんな演技に引っかかるわけはないわよね(ゴメンね、テファ……しばらく会えそうにないよ。こいつは優秀だ、恨もうなんて思いもしないくらいにね。善悪がしっかりわかっている。テファがこいつと一緒にいたら強くなれるかもしれないわね)」

 

 フーケは観念したようで、のどかの手を取った。のどかは笑顔でフーケの手を握り返した。

 

「あの、なんとか罪が軽くなるようにオスマンさんに掛け合ってみます。早くその子にも会いたいと思いますから」

「何言ってるんだか、そんな情けまでかけられるとはね。私がここで暴れるかもしれないわよ(まあ、そんなことするつもりはないんだけどね。甘すぎるわ、テファみたいな声してるせいでこの子も可愛がりたくなっちゃうじゃないの……この声のせいで、こうやって言うこと聞いてるのかもしれないわね)」

「そんなことになるなら、攻撃された時点でもう反撃したと思います」

「敵わないね、まったく(なんか吹っ切れた気がするわ。出所したら傭兵でもやろうかね。なんかこの子の思い通りになってるような気がするのは癪だけど、今の私は何かしようとする気力はないわね。それよりもこの子のことを知りたい)」

「え? これで終わりなのか? あっけない幕切れだな」

 

 才人が思わずそう言ってしまうのも無理はない。それくらいあっさりとカタがついたのだ。帰りの馬車に乗り込んでも、フーケは脱走しようともせず、おとなしくしていた。のどかと喋っているが。

 

「いつから気づいたの? 私がフーケっていうことにさ」

「実はここに来る前からそうなんじゃないかなー、って思っていました」

「そんなに早くから!? あのエロじじいがあなたを評価しているだけはあるわね」

「エロじじい?」

 

 いつの間にかタバサがのどかの隣に来ていて、フーケとの会話に参加していた。

 

「そうよ、オールド・オスマンのこと。あいつ、私が秘書やっている間、セクハラばかりしてきたのよ。嫌になっちゃうわよね(それにしても、このタバサっていう子、来る時もこの子の側を離れようとしなかったわね。そんなに大事なのかしら。まあ確かに可愛いけど)。そうだ、あなたのことノドカって呼んでいいかしら? 私もマチルダで構わないから」

「あ、はい。全然構わないですよー。えーっとマチルダさん」

 

 のどかが遠慮しがちに言うと、マチルダはそれがおかしかったようで笑いながら言った。

 

「はははっ、なんでそんなに遠慮してるのよ。さっきまでキリッとしてマチルダさんって普通に言えてたのに」

「あ、あうー。ゴメンなさい」

「ふふ、別に謝るようなことじゃないよ」

 

 タバサはのどかがマチルダと喋っているのが面白くないらしく、自分も話に混ざろうとしているが、何を喋っていいかわからず、困惑しているようだ。のどかはそれに気づいたらしく、ニコッと微笑んで、タバサの話題にした。

 

「マチルダさん、実はタバサさんもあなたがフーケじゃないのかって疑っていたんですよー。マチルダさんが馬車の準備をしている間、少し部屋に戻ったんですけど、そこで私の推論を話したらタバサさんも同じことを思っていたようで、その後作戦を立てたんです。今回はそれが見事にはまったので、助かりましたけど」

 

 マチルダはのどかだけでなく、タバサも優秀だったという事実に驚いた。そして、思わず2人の頭を撫でていた。

 

「本当にすごいわね(って私なにしてるのよ。あー、つい子供たちの頭を撫でるくせが出ちゃったわね。というかこのタバサって子も可愛いじゃない。小さいし、眠そうな顔してるけど中々……私は何考えてるのよ)」

 

 のどかとタバサは頭を撫でられたのに驚いたが、マチルダが笑顔で撫でていたので、そのままにしていた。

 学院に着いた時は既に衛士隊がおり、マチルダ護送車に自ら入っていき、乗り込む少し前に、のどかにウインクした。そして、マチルダの姿が見えなくなり、護送車が出発し、のどかたちはそれが見えなくなるまで、見送っていた。ルイズと才人はフーケを逮捕したのは、いいもののこんな形でいいのかとずっと思っていたようだが、キュルケが恨まれて、またゴーレム出されたらたまったもんじゃないでしょ? と言うと2人は潰されかけたことを思い出したらしく、顔を青くして首を横に振っていた。実に単純である。

 

 マチルダさん、あの様子ならきっともう悪いことはしないよね。そうだ、手紙を送ろうかな、ある程度文字は書けるようになってるし、喜んでくれるといいなー

 

「何を考えているの?」

 

 のどかが護送車が見えなくなってもずっと同じところを見ていたので、タバサが気になったようで、のどかに問いかけた。

 

「マチルダさんに、お手紙送ろうかなー、って考えていたんです。タバサさんも書きますかー?」

「あなたが書くなら私も」

「はい! それじゃあ一緒に書きましょう。きっとマチルダさんも喜んでくれますよ」

「約束」

「約束ですね、わかりましたー」

 

 その後、のどかたちはオスマンに報告に行き、今夜はフリッグの舞踏会だ、ということを聞かされキュルケは慌てて、ルイズはキュルケに負けるのがなんとなく癪だったらしく、同じように急いで、のどかとタバサは談笑しながらゆっくりと部屋に戻っていった。才人は学院長に話があると残されていたが……

 

「じゃあ失礼します」

 

 才人がオスマンとコルベールとの話が終わるとそう言って退出した。オスマンは才人がいなくなると、自慢の長いヒゲを弄りながら、困ったような顔をしていた。

 

「伝説の『ガンダールヴ』か……しかし、そろそろミヤザキくんの能力も把握しておきたいのう。ミス・タバサにうまくはぐらかされてしまったからの。彼女自身は話しても構わない、と言っておったしの」

「そうですな、そろそろ彼女の力を知っておかなければなりませんな。何しろあのフーケを改心させたそうですからな。どうやってのか気になりますな」

「今度彼女と話す場を設けなければならないの」

「ですな。その時は私も是非呼んでください」

「わかっておる、ツルベールくん」

「コルベールです!」

 

 そんなやり取りをしていたオスマンとコルベールの2人も舞踏会に顔を出すために、自室に戻り着替えるのだった。

 




フーケ戦終了です! なんかフーケがのどかとタバサのお母さんみたいな扱いになってしまった……まあいいか

次回は舞踏会です!


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10時間目

昨日はどうにも頭が痛くて投稿できませんでした。いやー申し訳ないです


 のどかとタバサはそれぞれドレスに着替え、フリッグの舞踏会が開催される食堂の上にあるホールにやってきた。ホールに入ろうとする前に、大きな扉がある。2人が扉を開くと、横で待機していた衛士が2人の到着を告げた。

 

「フーケ捜索隊の一員であり、見事フーケを捉えたお二方! タバサ嬢とミヤザキノドカ嬢のおな~~~り~~~!」

 

 衛士がそう言うと、会場にいた全員がフーケを捉えた若き乙女達を見ようと振り返る。そこには、水色のネグリジェ風のドレスに身を包んだタバサと、白いノースリーブのドレスに身を包み、腕には白い手袋、首には胸元でリボンを出来るチョーカーをあしらったのどかがいた。タバサはそんな視線など気にせずに、いつもの無表情で、料理の元へと歩いていく。その時にのどかが変な男に誘われないようにしっかりと手を引いて、だ。のどかはタバサに手を引かれるまで、その視線を受け、真っ赤になっていた。男たちは顔は可愛くても無愛想なタバサよりも顔を赤くしていたのどかに好印象を抱いたようで、ダンスに誘おうとしているようだった。

 

「ミス・ミヤザキ。僕と踊っていただけ……ウッ!?」

 

 タバサが料理を取りに離れた時に、意を決して、のどかに声をかけた男子生徒がいつの間に戻ってきたのかタバサに蹴られていた。蹴る、と言っても必殺仕事人のような早業だったので、大抵の男子生徒には見えなかったようだ。つまり、周りにはのどかに声をかけた男子が急に苦悶の表情を浮かべ、股間を抑え倒れたのである。

 

「食事中」

 

 タバサがボソッと呟いた声はのどかにしか聞こえなかった。

 

 タバサさん、やりすぎだよー。今の痛い……よね? コタローくんもそこだけは痛いって言って…………うぅ、こんなこと考えちゃダメだよ。は、はしたないよー。それに、タバサさん誘われたのは私なんだから気にしなくていいのに……

 

「タバサさん、私一応ダンスは出来ますから、守ってもらわなくてもいいですよー」

「ダメ、あなたは疲れている」

「た、確かに疲れてますけどー。大丈夫ですよー」

「瞬動をあなたの限界以上に使用していた。普段ならもっと短い距離、短い時間。でも、今日は違った」

 

 確かに瞬動の距離を伸ばしてたし、時間も限界以上だったけどー……どうしてかわからないけど、そこまで疲れていないんだよね。エヴァンジェリンさんが来たれ(アデアット)するなって言ってたのはこれが理由なのかなー。カードにネギ先生(せんせー)の魔力が残っているから、なのかな。また先生(せんせー)助けられちゃったのかなー。今回も才人さんの知識とタバサさんの協力がなかったら、マチルダさんには勝てなかったんだよね……それになぜかマチルダさんもあっさりと捕まってくれたし……いい人だったっていうことだよねー。……お肉!?

 

 のどかが自分の世界に入ってしまったため、タバサはのどかの眼前で手を振ったり、自分で持ってきた肉をフラフラさせてみたりしていた。のどかもお肉が目の前で揺れていたらさすがに驚いたようだった。

 

「た、タバサさん、ビックリしましたー」

「食べる?」

「あ、はい。いただきますー」

 

 タバサが切り分けた肉をのどかは更に小さく切り分けて口に運んだ。

 

「わぁ、美味しいですねー」

「同意」

「ここって料理美味しいですよねー。きっと腕のいいシェフさんがいらっしゃるんだろうなー」

「ここの料理は絶品。特にこれ」

「これ、なんですか?」

「ハシバミ草。あなたの世界にはないの?」

「ないですね。見たことも聞いたこともないですー」

 

 タバサがのどかにあーんをしようとすると、のどかはさすがに恥ずかしかったようで、苦笑しながらそれはちょっと……と言ってもタバサはやめようとはしなかった。しばらくそのやり取りが続く。やり取りと言っても、のどかが一方的に遠慮しようとしているだけなのだが……やがてのどかが折れ、タバサからあーんされた。

 

「どう?」

 

 のどかがハシバミ草を食べると、のどかは笑顔のまま固まった。しかし、口は動いている。数分後、のどかはようやく飲み込むに成功した。

 

「これは……苦い、ですね。あ、ははは。私は苦手かもですー。ゴメンなさいー」

「残念」

「あ、でも私の親友の夕映なら喜んで食べるかもしれないですよー。夕映ってそういう物好きですからー」

「会ってみたい」

「そうですねー、きっと会えると思います」

「楽しみ」

 

 タバサはずっと食事をしているようだが、のどかは軽く動きたい気分だった。タバサはのどかが踊ることを頑なに拒んだが、才人と不埒な目で見てくる相手じゃなければ構わない、と言って許可してくれた。

 

 タバサさん、すごく私の心配してくれるんだよねー。ここの人たちや、才人さんも絶対に悪い人じゃないと思うんだけどなー……うーん、クレイグさんに教わったダンスしか出来ないけどー、誰か踊ってくれないかなー。でも、踊るなら誰か知ってる人がいいなー。

 

「あ、ミヤザキさん。い、いや! ミス・ミヤザキ、僕と踊っていただけませんか?」

 

 のどかに声をかけたのはギーシュだった。隣にモンモランシーがいるのにも関わらず、他の女の子に声をかける勇気は凄いものだ。

 

「あ、えーっと……」

 

 のどかはモンモランシーを見る。踊ってもいいかの確認だ。モンモランシーは諦めたように、頷いた。のどかは会釈して、ギーシュにオーケーを出した。

 

「本当かい!? 実はモンモランシーが他の子と踊るのを全然許可してくれなくてねー。でも、ミヤザキさんなら良いってモンモランシーが言っててね。ようやく見つけたんだよ」

「た、大変でしたねー」

 

 のどかはギーシュに手を差し出した。ギーシュは跪いてその手を取り、軽く口づけをすると、壊れやすい物を扱うようにのどかの手を持ち上げる。そして、曲が流れると、ギーシュのリードで踊り始める。のどかはリードされているだけでなく、クレイグから教わった方法で逆にギーシュをリードする。ギーシュがそれに驚いた様子だったが、すぐに顔に笑みを貼り付けた。

 

「驚いたな、これは東方(ロバ・アル・カリイエ)のダンスかい? 可憐だね、君にそっくりだ」

「うぇ!? あ、い、いえー、これは私の仲間に教えてもらったダンスでー、その私はそんな……可憐だなんてー」

 

 のどかはギーシュの歯が浮くようなセリフは言われ慣れてないので、顔を真っ赤にしてそれを否定した。ギーシュはその様子を楽しんでいるようで、更に続ける。

 

「ははは、本当に可愛いな、君は。どうだい? このまま僕と一晩を……うぁ!?」

「ギ~~~シュ~~~! あんたは何やってるのよ! ……ってあれ?」

 

 モンモランシーがギーシュの制裁にやってきた時には既に、ギーシュは股間を抑えて尻を突き出した格好で倒れていた。空の皿を持ったタバサが、ギーシュの股間を蹴ったのだ。タバサはギーシュを見下した後、料理のおかわりに行ってしまった。のどかはまた苦笑を漏らすことしかできないでいた。

 

「も、モンモランシー、許しておくれ。僕は、僕はもう……ダメかもしれ……ない。ガクッ」

「そんな!? ギーシュ! ギーシューーーーー!」

 

 ギーシュは気を失ったフリをし、モンモランシーはそれに気づかずギーシュに駆け寄る。そして、彼の名前を呼んで、ギーシュの服を掴む。そうすると、ギーシュがモンモランシーの背中を抑え、自分に近づける。

 

「ありがとう、モンモランシー。君のおかげで、僕はまた立ち上がれそうだ。しかし、パーティーだからと言って、その下着はやりすぎじゃ……ウッ!?」

「最っ低ッ! そのまま不能になっちゃえばいいのよ!」

「ああ! 待っておくれ、モンモランシー! 僕のモンモランシー!」

「もうギーシュなんて知らない!」

「あ、ミヤザキさん。一晩って言うのは冗談だけど、今度は僕とモンモランシーも君たちの茶会に混ぜてもらいたいな。じゃあこれで」

 

 ギーシュのモンモランシーを呼ぶ声が遠ざかっていく。2人がどこかに行ってしまったせいで、のどかは1人取り残されてしまった。しばらくボーッとしていると、知らない男子たちからダンスを申し込まれていた。申し込んだ人は後輩、先輩、同級生、と様々である。ちなみに、全員が全員イケメンである。まさに選り取りみどり。のどかの友人が1人でもいれば、モテ期なのか! モテ期なのか! とそうはやし立てるだろう。しかし、のどかは男慣れしていない。ネギや、クレイグたちのおかげで多少はマシになったがそれでもまだまだ苦手ではある。

 

「ミス・ミヤザキ、是非このボクと」

「いやいや、この私と」

「ミヤザキ先輩。僕と踊ってください!」

 

 申し込んでいるのはこの比じゃないくらい大量である。のどかはどんどんパニックになっていき、目を回していた。そして、誰かがのどかの腕を掴んだ。のどかを引っ張って、男たちから解放されないとのどかはその人物を確認できなかった。

 

 一体誰が……あ、才人さんだったんですねー。

 

「のどか、俺と踊ってくれ。さっきの奴らよりはマシだろ?」

「マシだなんて、むしろ才人さんで助かっちゃいましたー。ありがとうございます」

 

 のどかが笑顔でお礼を言うと、才人は顔を赤くした。のどかは先程まで男子生徒の中にいたので、少しだけ他の場所よりも暑かったのだ。なので、肌が上気し、ほんのりとピンク色に染まっていた。頬だけでなく、露出した肩や、首筋、胸元までである。のどかの可愛らしさだけでなく、ほんの少しエロスがプラスされているのである。その上、のどかの笑顔である。これで男が照れないだろうか、いや、照れないはずがない。照れない男は確実にホモである。

 

「どうかしましたかー?」

「……あっ、いや何でもないんだ。気にしないでくれ」

「そうですか? じゃあ踊りましょうか」

「ああ、でも、俺ダンスなんて出来ないぞ」

「じゃあ、私が教えますねー。あとで、ルイズさんをビックリさせてあげてください」

「る、ルイズをか!? うーん、あいつこんなことでビックリするかなー」

「きっとしてくれると思いますよー。それに多分嬉しいと思います」

「ま、まあいいや。じゃあせっかくだから教えてくれよ」

「はい」

 

 のどかは才人に手取り足取りダンスを教えた。その中で、才人はのどかにどうしても聞きたいことがあったので、それを聞いた。

 

「なあ、のどかは帰れないことに不満はないのか?」

「不満、ですか? そうですね、友達がどうしているのか、とか先生(せんせー)がどうしているのか、とか色々考えちゃいますけどー」

「……けど?」

「ここでの出会いや生活も悪くはないかなーって思います。永住するか、と言われればそれはわかりませんけど……」

「俺もここでの暮らしは気に入ってるよ。ルイズの仕打ちが気に入らないけどさ。それでもやっぱり日本に帰りたいよ」

「そうですね……でもここに来たことには何か意味があると思います」

「意味?」

「私は本当に事故ですけど、才人さんは呼び出されるべくして呼び出されたんじゃないかなー、って思います」

「呼び出されるべくして……なんでそう思うんだ?」

「才人さん、一つ質問いいですかー?」

「ああ、なんだ?」

「才人さんは元々剣を持っただけで、あんなに早く動けましたか? ロケットランチャーを持った時に、使い方が頭に浮かんできたりしましたか?」

「ッ!? ロケットランチャーは持ったことないからわかんねえけど、剣はないな。友達がさ、ナイフ好きでよく持たせてもらってたけど、あんな風に使い方がわかるなんてことはなかった」

「やっぱり、あらゆる武器を操る力なんですね。その能力が何か重要な役割を持っているんだと思います」

 

 才人はのどかの推論に驚いた。オスマンとコルベールから聞かされた伝説の使い魔『ガンダールヴ』の能力を言い当てたからだ。

 

「才人さん? どうかしましたか?」

 

 才人が黙ってしまったので、心配して声をかけた。

 

「のどか、俺が伝説の使い魔、って言ったら信じるか?」

 

 才人はオスマンから他言無用だと言われたことを話そうとしていた。

 

「伝説の使い魔、ですか? こっちの伝承は読んでいないので、わからないです。でも、そう言うということは、本当に伝説の使い魔なんですね」

「ああ、『ガンダールヴ』って言うらしい。このルーンが証拠だってさ。能力はのどかが言ったとおり、あらゆる武器を操る」

 

 のどかは少し思案した後、才人にまた質問をする。

 

「……才人さん。私たちの世界で英雄が生まれる時の条件って知っていますか?」

「英雄? そりゃ何か凄いことやった時だろ」

「そうですね、それは現代の英雄です。じゃあ古代は? 中世は?」

「えっと…………もしかして戦い、か?」

「そうです、昔は戦争に勝つことで英雄になれたんです。ここでも、きっと近いうちに戦争が起こるんじゃないかと私は思います」

「せ、戦争!? じゃあ俺はその戦争のために呼ばれたってことか!? なんでだよ! なんで俺なんだ!」

「そればっかりは私もわかりません。でも、才人さんが伝説の使い魔『ガンダールヴ』なら、才人さんを英雄たらしめる何かが起こるはずです」

「そうとは限らないだろ。もしかしたら俺が科学技術をここで発達させるかもしれないじゃないか」

 

 才人は自分が戦争の道具として喚ばれたことに納得がいかないらしく、反論していた。

 

「私も最初はそう思いました。でも、それならば、『ガンダールヴ』の力はもっと別のものだと思います」

「そう、か。そうだよな。第一俺そんなに頭良くないしな。戦争、か。ハハ、余計に帰りたくなってきた」

「起きるか分かりませんよ。あくまでも、私の推測ですから。それに、ルイズさんを守るためかもしれませんよー」

「あいつを? そうかもな、そっちの方が気楽だな。つまり、俺はここで何かやるためにここにきたってことか」

「そうだと思います。有名なフランスの思想家ルソーはこういうことを言っています。[われわれはいわば二度生まれる。一度は生存するために、二度目は生きるために、一度は人類の一員として、二度目は姓をもった人間として]この言葉は本来、第二次性徴を表す言葉なんですけど、新しい土地で頑張る才人さんが、ここで新たな成長をしてくれることを願って……」

「ルソーは知ってるけど、そんなことまで言ってたのか。ありがとな、なんか元気出たよ」

「い、いえー。私こそ変な事ばかり言ってすいません。戦争だなんてそんな物騒なことをー」

「いや、いいんだ。俺が来た意味があるかもしれない、そう思うだけで全然違うからさ」

「それなら良かったですー」

 

才人がスッキリした顔をしていると、ルイズがやってきたことを告げる衛士の声が聞こえたので、ルイズに気づかれる前に2人はダンスレッスンをやめ、バルコニーに移動し、談笑を始めた。やがてルイズが才人に気づき、バルコニーにやってきた。腰に手を当てて、赤くした顔を背けながら才人に声をかけた。

 

「サイト、楽しんでいるみたいね」

「ああ、さっきスッキリしたんだ。胸に支えてた物が取れた感じだよ」

「そう。ゴメンね、ノドカ、ちょっとサイトと話したいから席を外してもらっていいかしら?」

「構いませんよー。じゃあ私はこれでー」

 

 ルイズさん、きっと才人さんのこと褒めるんだろうなー。私はどうしようかなー。もう結構踊ったから、タバサさんのところに行こうかなー。タバサさん、まだ食べてるー!? すごいなー……

 

 のどかは、パーティーが終わるまでずっとタバサの食べっぷりを見ていた。タバサは時々のどかに食べ物をあーんして、楽しんでいるようだった。

 




キュルケ出てないなー、と書き終えてから思ってしまった。ごめんよ、キュルケ。君の枠はギーシュ先生食われたんだ

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11時間目

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皆さんありがとうございます!


 フリッグの舞踏会が終わった翌日、のどかはタバサに気づかれないように部屋を出た。いつもよりも遅い時間だったが、昨日は色々あったのでタバサも疲れてまだ眠っているようだった。なぜ、のどかがタバサに告げずに部屋を出たかというと朝起きた時、オスマンの使い魔がやってきたからである。オスマンの使い魔であるハツカネズミは小さな手紙を持っており、それをのどかに渡すとどこかへ行ってしまった。その手紙の内容はのどか自身の能力について話がしたいとのことだった。しかし、オスマンよ、人を呼ぶためとはいえ自分の使い魔を女子寮にやるのはどうなのだろうか。

 

「宮崎ですー。失礼します」

 

 のどかはコンコンとノックをすると、学院長室に入っていった。そこにいたのは案の定オスマンとコルベールであった。

 

「おお、待っておったぞ。早速なんじゃが、君のその仮契約(パクティオー)カードの力を教えてくれんかの」

「オールド・オスマン、なぜ今更になってそんなことを……まあ私も気になりますが」

「なぜか、じゃと? 単純なことじゃ、今知りたくなったからじゃ」

「はぁ……確かにこの前いつでも聞いてください、とは言っていましたが……急すぎませんかな」

「い、いえー。私もいつかは話さないといけないと思っていましたしー」

「ほれ、ミヤザキくんは優しいんじゃ」

 

 のどかの言葉にオスマンは勝ち誇ったような顔で、コルベールを見る。コルベールは確かに、と頷いた。

 

「スマンのう、話が最初から脱線してしもうた。では見せてくれるかね?」

「はい、わかりましたー。来れ(アデアット)

 

 のどかがそう言うとひとつの本が現れる。しかも、今回はそれだけではない。のどかの服も変化していた。いつもの麻帆良学園の制服ではなく、のどかが魔法世界(ムンドゥス・マギクス)でフェイト一味に散り散りにされた時から愛用しているお気に入りの服だ。白を基調とした動きやすい服。冒険者(トレジャーハンター)の仕事をする時は、常にこの服で行っている。これはアイシャがその格好(制服)じゃ動きにくいだろう、ということで買ってくれたものだった。だから、のどかもこの服にはかなりの愛着を持っている。仮契約(パクティオー)カードの機能の一つに服を登録できるものがあるのだが、それをこの服に設定している。

 

「服が変わるとは一体どういう手品じゃ?」

 

 オスマンも急に服が変わるとは思っていなかったので、驚きを隠せないでいた。コルベールはそれよりものどかの手元に現れた本に注目していた。

 

「こ、これはー。カードの機能の1つで、服を予め設定できるんですー」

「ほう……」

「それで、ミヤザキさん! あなたのその手元にある本はどのようなものなのですかな?」

 

 コルベールはやや興奮した様子でのどかに詰め寄る。

 

「これこれ、コルベールくん。傍から見るとそれはかなり危ないぞ。いい年した大人が年端もいかぬ少女に興奮しながら迫るというのは。タバサくんに股間を蹴られてしまうぞ」

 

 オスマンは昨晩のタバサの冷酷無比な股間蹴りを思い出して顔を青くさせた。コルベールも同様でオスマンと同じようになっていた。

 

「えと、そのー、は、話をしてもいいですかー?」

「うむ、スマンのう。何度も何度も」

「い、いえー」

 

 そう言うとのどかは咳払いをして、彼女のアーティファクトの説明を始めた。

 

「この本の名前はDIARIUM EJUS(いどのえにっき)と言います。その能力は名前を知っている相手の心を読むことができます。いわゆる読心術です」

 

 のどかのその言葉にオスマンたちは驚きを禁じ得なかった。なぜなら、心を読むということは魔法でも不可能だからだ。相手の取りそうな行動を予測して動くことはできるが、そんなことは達人の域に達した者しかできはしない。それ以上のことを相手の名前を知るだけで、簡単に読めてしまうというのだからこれほど恐ろしいものはないだろう。

 

「な、なんと!? 心を読む……ですか。にわかには信じられませんな」

「ううむ、ワシも長いあいだ生きてきたが、そんなことができるものなど見たことはないのう。君を信用しとらんわけではないのじゃが、試しにワシが考えていることを当てて見せてくれないかのう。さすがに読心術と言われて、一口に信じるわけにはいかんのう」

 

 のどかは少し迷った後、オスマンの言葉に頷いた。

 

 今回は仕方ないよね。信用してもらうためだしー……

 

「あ、あのー、確かに私の能力は思考をリアルタイムでトレースできますけど、今はきっと私の能力の真偽しか頭にないと思うので、質問をしてもいいですかー?」

「ふむ、構わんぞ」

「じゃあ失礼します。オスマンさん、質問です。どうして今朝女子寮に使い魔を放ったんですか? ただ、私を呼ぶためですか?」

 

 のどかが質問したのは、どうしてオスマンの使い魔を女子寮に放ったのか、というものだった。これはのどか自身が呼ぶだけだったら、女教師に任せれば良いのに、と思ったからである。きっと手間だったのだろう、とのどかは思っていたが、オスマンの思考は違った。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

それは決まっておるじゃろ。モートソグニルに今の若い子たちの発育やら下着の色やらを確認してもらってワシと共有するためじゃ。ミヤザキくんはガードが硬いからいかんのう。他の貴族の子たちならもっと緩い服を着ているんじゃが……ただミヤザキくんを呼ぶだけなら、教師に呼ばせればいいからのう。しかし、こんなことを本当にわかっておるのかのう。もし、ばれていたらかなりマズいんじゃが……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 のどかはオスマンの考えを見て顔を真っ赤にした。こんな不埒な目的があったとは思いもしなかったのだ。オスマンはその表情を見て、思わず本当に読めるようじゃの、と言った。コルベールだけが話についていけていない。

 

「い、今ので何かあったのですかな!? 私には本を見ていたミヤザキさんが急に赤くなっただけに見えますが……」

 

 コルベールはどうしても知りたいようだが、どうすればいいかわからず、オロオロしている。そこで、のどかはDIARIUM EJUS(いどのえにっき)をコルベールに渡した。

 

「これを見ればよろしいのですかな? どれ……」

 

 コルベールはその内容を見て、オスマンをジト目で見た。

 

「オールド・オスマン、これはいくらなんでも……」

「大体予想は付くがの。黙っておいてくれんかのー」

 

 オスマンがそう言うと、また本にオスマンの思考が浮かび上がる。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

しかし、本当に心を読むことができるとはのう。ふむ……彼女の思考速度、判断力、そして読心術を持ち合わせれば、神の頭脳(ミョズニトニルン)に勝るとも劣らないかもしれんのう。だとしたら、ワシらはとんでもない力を2つも手に入れてしまったのかもしれん。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 のどかのアーティファクトを持っていたコルベールはオスマンの思考していることがあまりにも危険すぎるため、叫んだ。

 

「オールド・オスマン! それ以上は危険ですぞ! その考えは捨てるべきです!」

「急にどうしたんじゃ、コルベールくん。ッ!?」

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

なんじゃ、急にどうしたと言うんじゃ。まったく、彼のツボはどこにあるかわからんのう。しかし、なぜ……ッ!? そうか、ワシの思考は全てあの本に記録されている。つまり……先程の考えも全部読まれてしまうというわけじゃな。なんと恐ろしい……

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

「み、ミヤザキさん、これはどうすれば思考をトレースできなくなるのですかな」

 

 コルベールは慌ててのどかに質問する。オスマンの思考をこれ以上読ませないようにするためと、その記録を消したいからだ。

 

「あ、すいません。心を見られるなんて気分が悪いですよね。去れ(アベアット)

 

 のどかがそう言うと、本が消え、カードに戻る。すると、のどかの服も元の麻帆良学園の制服のものに戻った。コルベールはふぅ、と大きく息を吐いた。さすがのオスマンものどかの能力の恐ろしさを改めて思い知ったようである。そして、今度からは変なことはしないでおこう、と心に誓ったのであった。

 

「なんと恐ろしい力じゃ。何か弱点はないのかね。ワシが思いつくのは相手の名前がわからないと力を発揮できんということじゃな」

「そうですね、相手の名前がわからないと、私のアーティファクトは使えません。でも、それを打開するために別のアイテムがあります」

「そんなものまであるとは……末恐ろしいですな」

 

 のどかはあるものを取り出した。それはフーケと名乗っていたマチルダの本名を暴くときに使った悪役を連想させる指輪だ。それを見たオスマンは秘めている魔力の大きさに感嘆した。

 

「これは、鬼神の童謡(コンプティーナ・ダエモニア)という魔法具です。発動のキーワードは我 汝の真名を問う(アナタノオナマエナンデスカ)という必要があります。これは相手が私を認識している状態じゃないと使うことができません。これが成功すれば、相手の名前がわかります」

「ただ相手の名前がわかる魔法具というのは微妙じゃが君のアーティファクトと組み合わせると恐ろしいのう」

「全くです、私も驚きましたぞ。そういえば、オールド・オスマン、私もこの弱点のようなものを発見しました」

「ほう、さすがじゃな。コルベールくん」

「いえ、これは使えば分かることなのですが、使用するためには視線を相手から外して、文字を読まなければなりません。これでは戦闘中に使用はできませんな。使い道があるとすれば、やはり拷問の代わりでしょう」

「君はまたそうやって血なまぐさいことを考えよってからに。なるほど、確かにコルベールくんの言うとおりじゃな。じゃが、解決方法はあるのじゃろう?」

 

 オスマンはコルベールがすぐに気づいた弱点をのどかが補強していないわけがない、と考えた。

 

「はい。私もそのことは常に思っていました。だから、これを使います」

 

 のどかはまたもある物を取り出した。白い羽のイヤリングであった。

 

「それは?」

「これは、書物を読み上げることが出来るイヤリングです。これを使えば、相手から視線を外すことなく、能力を使用することができます」

 

 2人は弱点を完全に克服しているのどかを素晴らしいと思った。

 

「なるほど、素晴らしいですな。ミヤザキさんは自分の弱点を知り、克服している。中々できることではありませんぞ」

「うむ、コルベールくんの言うとおりじゃな。誇って良いぞ」

「そ、そんなことないですー。私なんか全然です」

「謙遜は美徳じゃが、あまり謙遜しすぎるのは良くないのう。こういう時はビシッと胸を張っておればいいんじゃ」

 

 オスマンがそう言うと、のどかは顔を少し赤らめた。

 

「は、はい! あ、ありがとうございます……?」

「うむ、それで良いのじゃ」

 

 のどかが照れながらお礼を言うと、オスマンは笑顔になった。

 

「今日はこれで解散にするかの。朝から呼び立てて済まなかったの」

「い、いえ、それじゃあ失礼します」

 

 オスマンの言葉で今日は解散になり、のどかが部屋に戻った頃には昼近くになっていた。本来授業があるのだが、モートソグニルの手紙には今日の授業は出席しなくて良いということだったので、のどかは部屋に戻ることにした。

 

「遅い」

 

 のどかに部屋に入ると、タバサがのどかのベッドの上で布団に包まったタバサがいた。のどかが置き手紙だけして出ていってしまったせいで、タバサはかなりご立腹のようだ。

 

「ご、ゴメンなさい」

「あなたの能力はあまり他人に喋るようなものじゃない。気をつけて」

「は、はい。気をつけます」

 

 のどかを恨みがましい目で見たあと、タバサは寝転がっていた体を起こして、座ったあと、ポンポンと隣を叩いた。おそらく隣に座れ、ということだろう。のどかは恐る恐るタバサの隣に座った。

 

 ううー、タバサさんがなんだか怖いよー。確かにこの前オスマンさんに私の能力を話そうとした時もなんだか怖かったけど……やっぱり出来るだけ話さないほうがいいのかなー。そういえばタバサさん授業はどうしたんだろう。サボタージュ……?

 

「日本語を教えてほしい」

「あ、はい。どこからやりましょうかー」

「この本に書いてあった文字の読みと意味を教えてほしい」

 

 タバサが指差した文字は長閑だった。ある小説の中に使われていた言葉を抜き出したようだ。その文字を見てのどかはちょっと笑った。

 

「これは、私の名前と同じ読み方をするんですよー。意味は静かで落ち着いているさま、のんびりとしているさま、とかです。」

「のどか、そう」

 

 タバサがそう言うと、のどかの表情は更に明るくなった。

 

「どうしたの?」

 

 タバサはそれが不思議だったようで、のどかに尋ねた。

 

「いえ、ただ初めて私の名前を呼んでくれたなーって思っただけですよ。いつもあなたって呼ばれていたのでー」

「名前……」

 

 タバサはどこか遠いところを見た。その後、のどかをしっかり見て、照れながら言った。

 

「…………のどか。これでいい?」

 

 言葉こそ淡々としているが、のどかに問いかける時はそっぽを向いているので、恥ずかしかったのだろう。それを見たのどかはタバサを抱きしめていた。

 

「うん! 改めてよろしくね。タバサ」

 

 のどかは敬語を取り払ってタバサに抱きついた。

 

 タバサさん、はもう終わり。これからは名前で……やっぱり夕映に重ねちゃってるのかも。それはひどいことかもしれないけど……夕映、ハルナ、先生(せんせー)、みんな、私1人でも大丈夫だから、配しないでね。

 




のどかが遂にタバサを名前で呼び始めました! ここから2人の仲は更に進展しますよ!


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12時間目

今回はキュルケならではの勘違い回です!


 次の日、のどかが起きると、タバサがいなかった。タバサのベッドの上に置き手紙がしてあり、のどかはそれを読んだ。内容はとある任務に行くことになったから少し出かけてくる、というものであった。また、明日までには戻るとも書いてあった。

 

 タバサ、任務だなんてどうしちゃったんだろー。私を頼ってくれてもいいのにな……まだ信頼されていないのかなー。

 

 のどかはそう思っているが、タバサはそうは思っていない。むしろのどかは、こんな短期間でタバサの信用を勝ち取っているのだ。タバサも少なからず(かなりと言ったほうが正しいだろうが)、のどかを大切に思っている。それ故に、のどかを巻き込みたくないのだ。今までのタバサの行動からしても当然と言えるだろう。

 

 タバサがいないなら考えても仕方ないよねー……とにかく、今日はちゃんと授業に出ないとー。

 

 のどかは制服とは違う動きやすい服に着替え、部屋の外に出た。まだ時間としては早いのだが、『瞬動』の練習をするためである。

 

 戦いの歌(カントゥス ベラークス)の持続時間をもっと伸ばさないとー……カード溜まってるネギ先生(せんせー)の魔力だって無限にあるわけじゃないんだしー。動きながらでも3分、ううん5分は持つようにしないと……

 

 のどかは大きく息を吸って、静かに呟いた。

 

戦いの歌(カントゥス ベラークス)

 

 のどかは戦いの歌(カントゥス ベラークス)を使い、身体能力を大幅に向上させた。体からは魔力の光が溢れている。その状態でのどかは『瞬動』を連続して使い始めた。そうすると、すぐに限界が来てしまい、瞬動を使おうとしても全く動かなかった。単純に魔力切れを起こしたのである。のどかはその場に座り込んでしまった。

 

「はぁ、はぁ……なんでマチルダさんのゴーレムが相手だったらあんなに持ちこたえられたんだろう。あの時は確か……アーティファクトの展開以外にずっとどうやって勝つかを考えていたけどー……」

 

 のどかが座り込んでその時を思い出していると、今はもう聞きなれた声とどこか懐かしい声が聞こえた。

 

「毎回悪いな、シエスタ。手伝ってもらっちゃって」

「いいえ、気にしないでください。私は仕事ですし、それに好きでやっていることですから」

 

 才人とメイドの1人だろうか、2人が仲睦まじく話をしている。庭に座り込んでいるのどかを見つけた才人は

 

「おーい! のどかー! そんなところで何やってるんだー?」

 

と叫んだ。のどかは才人の近くにいるメイドが恐縮してしまうのではないかと考えたが、声をかけられたのに行かないのも失礼だろう、と思い才人たちに近づいた。

 

「才人さん、おはようございます」

 

 のどかがまず和やかに挨拶すると、才人はこの前のことで吹っ切れたらしく、ニカっと笑って挨拶を返す。

 

「おう、おはよう。それでさっきは何をやっていたんだ? 座り込んでたけどさ」

「さっきはちょっと修行みたいなことをしていてー、ちょっと疲れちゃったので座って休憩していたんです」

「修行、か。凄いな、のどかは」

「そんなことないですよー。でも、ありがとうございますー」

 

 才人とのどかが話していると、先程才人にシエスタと呼ばれた少女がおずおずと才人に尋ねた。

 

「あ、あの才人さん。こちらの方は?」

「あれ? シエスタ会うのは初めてだったっけか? シエスタ、こっちはのどか。俺が危ないところを何度も助けてもらった、いわゆる恩人だな。それとのどか、こっちはシエスタ。俺が飢えているところに飯をご馳走になってる、シエスタも恩人だな」

 

 シエスタは才人とギーシュの決闘は才人の圧勝だと思っていたので、のどかが才人を救う場面など想像することもできないでいたが、才人の言葉ならば本当なのだろうと納得したようだ。のどかはシエスタの声でクラスメイトの1人を思い出していた。

 

「えと、シエスタさん。宮崎のどか、と言いますー。よろしくお願いします」

「き、貴族の方が私なんかに敬語だなんて恐れ多いです」

「あ、気にしなくていいですよー。私貴族って言われていますけど、才人さんと同じところの出身ですからー」

「と言いますと?」

 

 のどかの言葉はシエスタが疑問を抱くには十分だった。シエスタも思わず聞き返してしまうほどだった。

 

「えーっとですね、私は貴族じゃないんです。貴族ではないですけど、オスマンさんが私を東方(ロバ・アル・カリイエ)の貴族と偽って、入学させてくれたんです。だから貴族じゃありませんし、そんなに堅くならないでください」

 

 シエスタはにわかには信じられないといった様子だったが、それならばと思い、才人と一緒にいる時のような笑顔でのどかに改めて挨拶をした。

 

「じゃあミヤザキさん。私はここでメイドをやっています。シエスタです。こちらこそよろしくお願いします」

「俺はそろそろルイズのやつを起こしに行かないと。じゃあな、2人とも」

 

 才人はルイズを起こす、という重大な役目を背負っているらしく、駆け足でどこかに行ってしまった。

 

「あの、ミヤザキさんは急がなくてもいいんですか? そろそろ朝食の時間ですけど」

「私は今からゆっくり行っても間に合いますからー。それより、才人さんとは何を話されていたんですかー?」

「ああ、それはですねー。主にミス・ヴァリエールの事なんですけど、やれルイズがすぐにブツだの、ルイズが横暴だの、ルイズの魔法は痛いだの、ずっとそんな感じです」

「ぐ、愚痴を聞かされているんですね」

 

 シエスタは楽しそうに才人との会話の内容を話すが、のどかはそれを見て苦笑しかできなかった。

 

「あ、そういえばミヤザキさん。私たちメイドにお礼を言ったりとかしましたか?」

「? 言いましたよ、どうしてですかー?」

「やっぱりですかー。話してみてミヤザキさんしかいないなーって思ったんです。同僚の子が貴族様にお礼を言われてしまったーって、ずっと言っていたんですから」

「も、申し訳ないですー」

 

 のどかは転入初日のことを思い出していた。お礼を言ったら逃げていくメイド達。まだこっちに慣れていなかったので、つい癖でお礼を言ってしまったのだった。

 

「あはは、いいんですよー。その子達も言われてビックリしちゃっただけですから」

「そ、そうなんですかー?」

「はい、落ち着いたあとは貴族様にお礼を言われたって自慢するくらいでしたから」

「へ、へー。そうなんですかー」

 

シエスタと少しの間談笑して、のどかは自分の部屋に戻った。のどかは女の子である。汗をかいたあとは、汗を流したいのだ。シエスタと雑談していたので、少し時間がなくなってしまったようだが、のどかはすぐにシャワーを浴び、髪を乾かし、制服を着て、食堂へと向かった。食堂ではいつものように豪華な朝食が並んでいた。のどかが食堂に入ると、キュルケが手を振っていた。

 

「あら、タバサは? また、なのね」

 

 キュルケはタバサがいないことに驚いたようだったが、すぐにその意味を察したらしく、表情を曇らせた。

 

「キュルケさん、タバサがどこに行っているか知っているんですか?」

 

 のどかは普段出さない大きな声でキュルケに迫っていた。

 

「ええ、何かの任務っていうことは知ってるわ。でも、どこに行っているかは毎回違うからわかんないわ」

 

 キュルケはのどかの豹変ぶりにもいつもと同じ様子で、喋っていた。それには、理由があった。それはのどかがタバサ、と呼び捨てたことである。フリッグの舞踏会での会話を聞いていたキュルケはその時までは確かにのどかがタバサのことをタバサさん、と呼んでいたのを覚えていた。

 

「(待って、ノドカがタバサを呼び捨てた、ということは……何かあったの? ハッ! そういえば昨日は2人とも授業休んでいたわね。タバサはまた任務で、それにのどかを連れて行ったんじゃないかって思っていたけど、まさか昨日2人は大人の階段を上ったってこと!? ここは人生の、いいえ、恋の先輩としてなんとかアドバイスしないと)」

 

 キュルケが長い思考の渦に囚われしまった。のどかはキュルケが考えていることなど露知らず、呑気に運ばれてきた朝食を食べている。

 

「のどか……」

 

 キュルケが口を開いた。その言葉にはかなりの重みが込められている。

 

「はっ、はい」

 

 のどかもその様子を察し、食べていた手を止め、緊張した声色でキュルケの方に向き直った。

 

「女同士っていうのも私はアリだと思うわ。でもね、まだ貴方たちには早いと思うわ。だから、今度は私も混ぜて一緒にシましょ?」

「へ……?」

「え……?」

 

 のどかはキュルケの言った意味を理解することはまだ出来ていないようだ。キュルケがのどかの反応に素っ頓狂な声を出したあと、のどかの顔が真っ赤に染まった。顔だけではない、耳、さらにうなじまでも真っ赤にしていた。

 

「あ、わかったみたいね。そうなんでしょ? ねえ?」

 

 キュルケはのどかの反応でのどかが理解したことがわかったらしく、他の生徒には聞こえないように、さっきよりも近づき、興奮した様子で話しかける。

 

「ち、ち、ち、ち、違いますよ~~~。そ、そんなことするわけないじゃないですか!」

 

 のどかが目を回して否定するので、キュルケはますます怪しいと思い、更に問い詰める。

 

「のどか、ウソはダメよ。したんでしょ? ○○(ピー)とか××(ピー)とか」

「そっ、そんなことするわけないじゃないですかー! そんな女の子同士でひ、非常識ですー!」

 

 キュルケはここではそろそろマズいと考えたらしい。

 

「あら、そう。残念だわ」

 

 と言って、引き下がった。のどかは授業が始まるまで、顔を赤くしていた。

 授業が終わると、のどかはここではまだ入ったことのなかった、図書室にやってきたようだ。

 

 うわー、広いなー。さすがに、図書館島ほどではないけどー、これくらいだったら中等部の図書室と同じくらいかなー。ふふっ、いっぱい本があるー。なんだか幸せー。

 

 のどかは図書室の本を手に取って、表紙を眺めたり、パラパラとめくってみたり、手にとって、その質量を確かめたりといろいろしていた。そして、気になった本があったらしく、それを持って、備え付けの椅子に座り、読み始めた。その本の名前は『イーヴァルディの勇者』というものである。その本の内容は囚われのお姫様が勇者によって助けられるという簡単なものだった。しかし、のどかはそれに思うものがあったようだ。

 

 すごく、いいお話だなー。きっとこの世界の子供たちはこういう本を見て、お姫様に憧れたり、勇者様に憧れたりするんだろうなー。きっと長い間親しまれてきたんだろうなー。本の表紙もボロボロ、背表紙も文字がなんとか読めるっていうくらいだし。印刷術が発見されていないのかな、それともそれを専門に行うメイジの人がいるのかな。今はそれよりも、いい本に出会えたよ。帰れたら夕映に教えてあげなくちゃー。そういえばタバサもこの本のこと知っているのかなー……

 

 突然だが、のどかは本を読むのは速い方ではない、速読術なんていらない、と思っているほどだ。速読術を学んだ人は本が速く読めるようになって、時間が短縮できるなどと言っているが、のどかは違う。彼女は速読術を使えば、確かに速く本の内容を理解することができるだろう、とは思っている。しかし、本を速く読むだけでは伝わらない、内容を理解するだけでは伝わらない、本の声があると信じているのだ。のどかはこの『イーヴァルディの勇者』を何度も、何度も、繰り返し、繰り返し読んだ。その内容を頭に残すためだけではない、書いた人の心を知るために……そしてこれを子供の頃に読んだのならば、どんな気持ちになるのか考えるために……

 

 あ、もうこんな時間なんだー。急いで戻らないと……もしかしたらタバサも帰ってきているかもしれないしー。

 

 のどかが部屋に戻っても、まだタバサの影はなかった。のどかはそれに落胆したが、帰ってきていないのならば仕方ない、と思いお風呂を入れた。お風呂が沸き、体を洗ってから、部屋の外に出ると、なんとのどかのベッドの上にキュルケがいるではないか。キュルケはなぜか紫色のスケスケの服を着ており、のどかを誘っている。

 

「ほら、のどか。あたしの胸に埋まってもいいのよー」

 

 のどかは一瞬、キュルケの行動の意味がわからなかったが、すぐに理解したようで、顔を真っ赤にしてキュルケを自分のベッドから追い出した。

 

「もう、やっぱりタバサじゃないとダメってわけー?」

「だから違うって言ってるじゃないですかー! タバサがそんなことするように見えるんですか?」

「割と見えるわよ。特にノドカに関しては……ね」

「へ? どういう意味ですか?」

 

 キュルケの真意がわからずのどかがそれを聞こうとした時、窓がノックされた。タバサが帰ってきたのだ。のどかはキュルケの話しそっちのけで、窓を開け、タバサを向かい入れた。

 

「タバサ、お帰りー」

「ただいま、のどか」

 

 キュルケはタバサがのどかを名前で呼んだところでますます燃え上がり、今度はタバサに詰め寄った。

 

「タバサ! あなたとノドカってどういう関係なの? 教えてよ」

「友人」

「ウソよ、それ以上の関係に見えるわよー。本当のところはどうなの?」

「友人」

「はぁ、面白くないわね。せっかく2人を盛り上げようとしてこんな格好までしたっていうのに……」

 

 キュルケは先程までの盛り上がりが嘘のように、心底面白くなさそうになり制服に着替えて自分の部屋に戻っていった。

 

「何かされた?」

「ううん、タバサと同じようなこと言われただけだよー」

「そう、それなら良かった」

「シルフィードに餌あげてくれる?」

「うん、全然いいよー」

 

 のどかは調理台に立つと、手早く料理を始めた。朝帰ってくる前にシエスタからお肉はないか、と聞いたら挽いたものだったらたくさんあるとのことだったので、図書室からの帰りにもらってきたのだ。

 

それを使い、ハンバーグを作った。のどかはシルフィードに対し、これで足りるのだろうか、と思ったがとりあえず渡すことにした。シルフィードはのどかお手製のハンバーグを食べ、美味しかったらしく、もっともらおうと思ったのだが、タバサの視線を感じ、使い魔たちの寝床に戻っていく。よほど、タバサが怖かったらしい。

 

「私も食べる」

 

 タバサはのどかが作ったハンバーグの臭いにつられて、それを要求した。のどかは自分の作った料理がタバサに食べてもらうのが嬉しかったので、笑顔でそれに応えた。

 

「結構自信あるんだけど、どう?」

「美味しい」

「よかったー。まだまだあるからおかわりしていいからねー」

「おかわり」

「は、速いねー」

 

 のどかはシエスタからもらったかなりの量の肉を使い切るまでハンバーグを作り続け、タバサはそれを全て食べきったのであった。その後、タバサはお風呂に入り、のどかの日本語講座漢字編を軽く受けて眠りについた。ちなみに、タバサは教わるときなぜかのどかの膝の上に乗っていたが気にしてはいけない。タバサ曰く、居心地が良いとのことである。

 




のどかとタバサの絡みは書いていて楽しいです!

感想お待ちしております!


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アルビオン編
13時間目


ようやくアルビオン編に突入です!


 ある夜のことである。のどかはタバサと修行をするために外に出ていた。タバサは魔法、のどかはエヴァンジェリンに習った合気柔術のおさらいをしている。のどかは相手がいないと投げることができないので、相手をイメージして組手をする。のどかがイメージするのはエヴァンジェリン……ではなく、エヴァンジェリンの魔法人形たちである。エヴァンジェリンとやっても相手にならないのが現実である。タバサはわざわざ魔法の修練場の予約をとって魔法の威力を確かめているようである。かなりの時間そうやっていると、タバサがペタンとその場に座った。

 

 あれ? タバサ大丈夫かなー。もしかして怪我とかしちゃったのかもー。

 

「タバサどうしたのー?」

「魔力が切れた」

「そうだよね、結構長い時間だったしー、気づかなくってゴメンねー」

「構わない」

「部屋に戻ろっかー」

 

 のどかはそう言って歩き始めたが、タバサがついてこない。どうしたのかと振り向くとタバサはのどかに両手を広げて

 

「おぶって」

 

と言った。

 

「あ、動けないんだよねー。ゴメンねー」

 

 のどかはすぐにしゃがみ込み、タバサに背を向け、両手を後ろに差し出した。タバサはのどかの肩に掴まり、自分の太ももがのどかの手のひらに収まるように乗った。のどかはタバサが乗ったことを確認すると立ち上がって、寮の部屋に戻っていく。のどかにおんぶされているタバサは顔をのどかの肩に乗せ、心地よさそうにしている。

 

「感謝する」

「ううん、気にしないでー」

 

その帰り道、才人の悲鳴が聞こえたような気がしたがきっと気のせいだろう。

 

「タバサ、部屋ついたよー。私はお風呂入るけどー、どうする?」

「入る」

 

 タバサは即答した。実は部屋を出る前に、のどかがお風呂を入れいていたことをタバサは見ていたのである。

 

「実はもう入れてあるんだー。明日も早いからすぐに入ろっかー」

 

 タバサ、反応早くてビックリしちゃったー。でも、こんなに早く返事してくれるってことはお風呂気に入ってくれたんだよねー。ふふ、なんだか嬉しいなー。

 

 のどかとタバサは脱衣所で服を脱ぐと、お風呂に入り、いつものように流しっこをしたりした。そして、いつもとはちょっと変わったことがあった。2人はいつも向き合って湯船に浸かっているのだが、タバサがあることを言ったので、いつもとは少し違ったようになったのである。その言葉とは、

 

「少し狭い」

 

である。そうすると、のどかは当然、湯船から出ようとする。タバサはそれを見越していたのである。

 

「出る必要はない」

 

 タバサのその言葉は鋭さを持っていた。

 

「え? でも、狭いなら私が出たほうがいいんじゃないかなー」

 

のどかは困惑しているようであった。

 

「問題ない」

 

 そういうとタバサはいつも2人が言葉の勉強をしている時のようにのどかの膝の上、今回は足の上に乗り、のどかの体に体重を預ける。

 

「これなら狭くない」

「う、うん。そ、そうだねー」

 

 のどかが少し困惑した様子で答えるとタバサはのどかの方を向いて小首をかしげた。

 

「嫌?」

 

 そんなことを言われて、のどかが嫌と言えるはずもなく、むしろ笑顔で返した。

 

「そんなことないよー。のぼせてきたら言ってねー」

「わかった」

 

 結局タバサがのぼせるまで、2人はそのまま話していたのであった。

 

「タバサー、大丈夫? のぼせてきたら教えてって言ったのにー」

「すまない」

「でも、よかったー。急にお風呂に沈んちゃったときはどうしようかと思ったよー。今度からはちゃんと言ってね」

「善処する」

「じゃあ電気消すねー。お休み、タバサ」

「お休み……のどか」

 

 タバサの名前を呼ぶ声は小さすぎて、のどかの耳には届かなかった。

 

 

 

 同日、同時刻。とある監獄でのことである。

 

「お、ノドカとタバサから手紙が来てるじゃない。いやー、こんなところでもあの子達の手紙は励みになるわねー」

 

 マチルダが声を出しても誰も迷惑はしない。ここはマチルダ1人しかいないからだ。誰かが来ることは滅多にない。食事を運んでくるときくらいしか人がやってこない。しかし、その日は違った。一段一段階段を降りてくる音が響いてくる。石段特有のカツン、カツンという音だ。マチルダがそこで見たのは意外な人物だった。そして、その人物はマチルダを脱獄させる代わりに自分たちの味方になれ、と言い、その内容にマチルダは少し悩んだが、自分の本名を出されたところで、渋々その提案を受け入れ、その日、土くれのフーケは牢獄から姿を消した。

 

 

 

 次の日、のどかたちは教室でありえない光景を目にした。才人が犬の真似をしているのだ。そして、ルイズがムチを持って、才人をしつけているのである。

 

「キャン! キャン!」

「ほら、ご主人様に挨拶をしなさい!」

「く、クゥ~ン」

 

 のどかは思考停止し、タバサはそれをジッと見つめている。我に返ったのどかはタバサが見えないように手で目を覆い隠し、自分たちの席まで移動した。

 

「た、タバサー。今日は日本語の勉強しよー」

「わかった」

「実はねー、一昨日に図書室でテキストとか作ってみたんだー」

 

 のどかは現実逃避するように、タバサに日本語を教え始めた。それもそうだろう、昨日まで普通に接していた友人たちがおかしな大人の階段を登っていたのだ。しかも、一晩である。何があったのかは分からないが、機能の悲鳴が原因だということは明白である。

 

「じゃあ、このテキストの説明するねー。このテキストは……」

 

 のどかが友人たちから目を背け、タバサと2人だけの世界に逃げ込んでいると、チャイムが鳴った。さすがに、チャイムが鳴ったあとはルイズたちも犬の真似事はやめたようで、おとなしく席についていた。才人はなぜかお座りの格好ではあったが……タバサはそんな才人を見て、誰にも気づかれないようにニヤッとしている。それに意味があるのかは分からないのだが……入ってきた教師はギトーだった。ギトーはまた最強の属性について話し始め、風が最強だと力説していた。それに異を唱えたのはギトーに当てられたキュルケであった。

 

「いいかね? 君の全力で私に魔法を放ちたまえ」

「へぇ……よっぽど自身がお有りなのですね。では遠慮なくいかせてもらいますわ。『ファイヤーボール』!」

 

 キュルケが放った『ファイヤーボール』はいつもより大きかった。ギトーに散々馬鹿にされたのだ。キュルケが怒るのも当然である。それでもギトーは慌てる素振りも見せず、杖を取り出して一閃した。そうすると、突風が巻き起こり、『ファイヤーボール』をかき消しただけでなく、キュルケを吹き飛ばした。幸いキュルケが壁にぶつかる前にタバサが受け止めていたので、特に大事には至らなかった。

 

「どうだね、諸君。『風』が如何に強いかが分かっただろう。『火』をかき消し、『水』を吹き飛ばし、『土』すらも破壊する。おそらくだが、『虚無』をも吹き飛ばしてしまうだろうね。まあ試すことはできないがね」

 

 ギトーは生徒たちが感心したのを見て、機嫌を良くしたのか、更に饒舌になっていく。

 

「では、君たちに『風』が最強たる所以を教えよう。それは」

 

 ギトーは杖に魔力をみなぎらる。

 

「ユビキタス・デル・ウィンデ……」

 

 低く、そして重く詠唱する。杖が輝きを放ち始めた、その時だった。教室の扉が開かれ、コルベールが入ってきた。頭には来客用のカツラをかぶっている。金髪のロールした変なカツラである。のどかと会いたいした時は普通の黒髪のカツラだったのだが、どうしてこうなった。おしゃれのつもりなのだろうが、恐ろしいくらい似合っていない。しかも、急にこしらえたためか、動くたびにズルズルと落ちていく。

 

「ミスタ、何の用ですかな」

「あやや、すいません」

 

 ギトーはコルベールを睨みつけ、短く言った。

 

「授業中ですよ」

「それなのですが、今日の授業はすべて中止です!」

 

 コルベールのその言葉に生徒たちが歓喜した。そして、コルベールはなぜ中止になったのか話そうとしたところで、頭に乗せていたカツラがずり落ちた。教室は笑いに包まれなかった。急なことで、全員固まったのだ。

 

「滑りやすい」

 

 タバサが杖でコルベールの頭を指して言うと、今度こそ笑いに包まれた。それに激怒したコルベールの剣幕に一瞬で静かになり、コルベールはなぜ授業が中止になったのかを話し始めた。その理由とは、ゲルマニアの訪問の帰りに、アンリエッタ姫殿下が立ち寄るとのことである。したがって、粗相があってはいけないということで、授業中止になり、式典の準備をする、ということであった。生徒たちは姫殿下を一目見ようと、すぐに教室を出ていった。タバサは授業がなくなったなら部屋で勉強しようと言って、のどかを連れて行った。

 

 お姫様を一目見たかったんだけどなー。明日菜さんはお姫様っていう感じじゃなかったしー、テオドラさんもラカンさんと一緒だとなんだか違ったしー……もしかして、お姫様ってどこの世界でもオテンバなのかもー。

 

 のどかはタバサに引きずられるようにして、部屋に戻り、勉強を始めた。

 

「この単語にはこういう意味があってねー……」

 

 のどかがずっとタバサに説明をして、タバサはそれを日本語で書きとっている。のどかの渡したテキストは書き込み式になっており、書きながら説明を聞くことで、頭にスッと入るだろうというのどかのアイディアであった。時折休憩を挟みつつ、夜まで2人は時間を潰した。その日は特にやることもなかったので、床につくのであった。その日の夜にのどかの評価が高まっていることなど知らず……

 

ところ変わってここはルイズたちの部屋である。ルイズと才人の部屋にはある人がいた。それは、アンリエッタ姫殿下その人である。才人はアンリエッタとルイズの芝居がかった話をボーッとしながら見ていた。

 

「ルイズ、友情を確かめ合ってるところ悪いんだけどさ、アルビオンって戦争やってるところなんだろ? もしかして俺も行くのか?」

 

 才人はのどかに言われたことを思い出しながら、ルイズに聞いた。その表情は先程までのボケっとした表情ではなく、何か覚悟を決めた、そんな表情だった。

 

「当たり前でしょ。剣も買ってあげたでしょ」

 

 ルイズはさも当然といった様子で才人に言葉を返す。

 

「そうか……やっぱりか(のどか、やっぱりお前の言ってたことは当たってたみたいだ。俺戦争に行くみたいだ。やっぱり俺はルイズを守るためにこっちにきたのかもしれないんだな。ルイズだけじゃない、いつかはのどかも守れるような存在になってみせるさ)」

 

 才人がそれだけ言って黙り込んでしまったので、ルイズは不満なのかと聞いた。しかし、才人の答えは予想だにしていないものだった。

 

「不満? そうじゃない、俺はいよいよかって、思っただけだ。のどかに言われたんだよ。もしかしたら俺はこの世界の英雄になるために来たんじゃないのかってさ。それでのどかが言ったのが戦争で勝利することだった。聞いてると今回はそういうのじゃないみたいだけどさ、それでもやっぱりのどかの言ってたこと当たってたんじゃないかって思ってた。それだけだ」

 

 才人のいつもと違う様子にルイズは戸惑った。いつもはくだらないことしか考えていないようなのに、今回はそうではなかったから余計に驚いていたのだ。それはアンリエッタも同じようで、目を丸くしている。

 

「あの、そのノドカという方は?」

 

 アンリエッタは才人ではなく、ルイズに尋ねた。

 

「ノドカは私の友人です。実はフーケを捕まえられたのはノドカの力があったからなんです」

 

 ルイズは誇るように言った。才人もその意見に同意していた。なにせ二回もゴーレムから助けられたのだ。本当に感謝してもしきれないほどのことであった。

 

「まあ、そんな方がいらっしゃるのですか? 是非ルイズを守ってほしいのですが……」

 

 才人はルイズを守るのは自分の役目だと思っていたので、アンリエッタのその言葉に少しムッときた。

 

「姫様、ルイズは俺が守ります。多分身体能力ならのどか以上はありますし」

「あら、そうなの? じゃあお願いするわね。ルイズの頼もしい使い魔さん」

 

 そう言うと、アンリエッタは才人に手を差し出した。それを見たルイズは慌ててアンリエッタを止める。

 

「ひ、姫様!? こんな使い魔なんかにお手をお許しになるなんて!」

「いいのよ、ルイズ。この使い魔さんはあなたを守るって自分から言ったんですよ。普通そんなこと言えるものではないわ。本当はそのノドカさんにもお会いしたいのだけど……まあ居ないのなら仕方ないですわね」

 

 このあと、才人によってアンリエッタの唇が奪われたり、ギーシュが乱入してきたりするのだが、そこは割愛させていただく。詳しくは原作を読んでね!

 

 次の日のどかが目を覚ますと体が重く、起き上がれないので、布団をめくってみると、タバサがのどかの上に乗って眠っていた。まだ目を覚ます様子はなく、スースーと眠っている。のどかはまあいいか、と思ってそのまま二度寝しようとしたところで、扉がノックされた。のどかは何とかタバサを起こさないように引き剥がし、扉を開けると、そこにいたのは、シュヴルーズだった。

 

「ミス・ミヤザキ。オールド・オスマンがあなたを呼んでいます。支度をしてすぐに、学院長室へ行ってください」

「わ、わかりましたー」

 

 オスマンさんが私に用事? なんだろー。

 

「どこ行くの?」

 

 のどかが部屋で着替えていると、タバサが目を覚まし、のどかに問いかける。

 

「オスマンさんに呼ばれたから、学院長室だよー」

「私も行く」

 

 そこからのタバサの行動は速かった。のどかが作っておいた朝食をすぐに平らげ、制服に着替え終えたのである。所要時間なんと約2分。驚異的な速さ、のどかが待っていたのはたったの1分くらいであるから驚きである。

 

「は、速いねー。じゃあ行こっかー」

 

 タバサはこくりと頷いて、のどかの後ろをひよこのようについて行くのであった。

 




今日はデジモンで重大な発表がありましてちょっと舞い上がっていたらこんな時間になってしまいました。まさか高校生になった太一を描くとは……

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14時間目

キュルケに言われてばっかりじゃつまらないので、ちょっと理由をつけてみました。うまくいっているかは知りません


 オスマンに呼ばれたのどかは学院長室にいた。学院長室に入る前にタバサも一緒で良いかと聞いたところ構わないとのことだったので、タバサも一緒である。学院長室にはオスマンとコルベール、そしてもう一人、見目麗しい女性がいた。その女性は、美しいバイオレットの髪を持ち、顔立ちもルイズと同じくらいかそれ以上に整っていた。

 

 わぁ、綺麗な人だなー。こんな綺麗な人がいるんだー。なんていうかお姫様ってこんな感じなのかもー。

 

「さて、急に呼び出して悪いんじゃがのう。ミヤザキくんに是非会ってみたいと姫殿下がおっしゃるのでな」

 

 オスマンが部屋に入ってきたのどかにまず言ったのはそんなことだった。その言葉にのどかは驚いた。

 

 ほ、本当にお姫様だったなんてー……うーん、本当に綺麗な人だなー。羨ましいよー。お姫様が私に用事があるんだー。……ふぇ? わ、私なんかに用事!? な、何か粗相しちゃったのかな。もしかして、昨日の式典に出席しなかったのがバレちゃったとかー!?

 

 タバサはのどかの考えを見破ったのか、アンリエッタのことを考えたときに少しムッとした顔をした。見破ったというよりは、のどかの頬が紅潮していたので、見とれているとわかったからであるが。

 

「あなたがノドカさんですね? わたくしはアンリエッタ・ド・トリステインと申しますわ」

 

 アンリエッタはのどかに近づいて手を握った。のどかは急にお姫様に話しかけられたので、答えるのに少し間が空いてしまった。

 

「…………あっ、はい。わっ、私は宮崎のどかと言います、じゃなくって、と申しますー。よ、よろしくお願いしますー」

 

 何とか答えることができたのだが、それでも緊張しているようでしどろもどろになりながらの返事だった。それでも、アンリエッタは気にした様子はない。むしろ、ニコッと微笑んだ。

 

「そんなに緊張しなくても大丈夫ですわ。わたくしが王女だからと言って遠慮する必要はありませんわ。いつも通りにしてくれればそれで良いのです」

 

 にこやかな笑顔はアンリエッタの癖であった。いわゆる営業スマイルというやつである。幼い頃から外交や、貴族同士の茶会などに出席してきたアンリエッタは相手が誰であろうと、笑顔で相対しているのである。昨晩その営業スマイルのせいで大変なことになったのだが、ここでは割愛させていただく。

 

「は、はいー。え、えっとアンリエッタ姫殿下は」

 

 のどかがアンリエッタに何かを言いかけたところで、アンリエッタに制止された。

 

「姫殿下なんてそんな堅苦しい呼び方はしないでくださいまし。わたくしはあなたとお友達になりたいのです。ですから、気軽にアンリエッタ、とお呼びくださいな」

 

 アンリエッタの表情は真剣そのものだったが、のどかは逆に緊張してしまった。一国の姫をそんな風に気軽に呼ぶことは憚られたのだ。アンリエッタはのどかにそう呼んで欲しいらしく、いつ呼んでくれるのかとニコニコしている。

 

「ア、アンリエッタさん」

 

 のどかが恐る恐るそう呼ぶと、アンリエッタの表情は更に明るくなった。ちなみに、タバサは不機嫌そうである。更に、部屋の外にいた姫直属の衛士も不機嫌である。

 

「はい、なんでしょう?」

 

 アンリエッタの声色はかなり弾んでいる。

 

「え、えーっと、どうして私なんかを呼んだんでしょうか?」

 

 のどかの疑問は至極当然である。のどかからしたら、朝起きたら一国の王女に呼び出されたのである。これが緊張せずにいられるだろうか、いや、いられない。少なくとも、のどかは緊張し続けている。

 

「それはですね、わたくしの親友であるルイズとその使い魔さんからあなたのお話を聞いたのですわ。なんでも、あの『土くれ』を相手に一歩も引かなかったらしいではないですか。更に予め『土くれ』の正体に検討をつけて、そのための作戦を立てたりしていたらしいではないですか。そんな素晴らしい逸材を一目見ておこうというのは当然ですわ」

 

 アンリエッタは王女として自分の発言の重さを自覚しているつもりではある。これは、自分の発言の意味をのどかが正しく受け取ることができるかという軽いテストのようなものである。実際、それを理解したコルベールは驚きを隠せずにいたし、オスマンはやはりか、といった表情をし、タバサは無表情であるが、思わずのどかを不安げな目で見つめてしまっていた。当然、のどかもその言葉の重要性には気がついていた。しかし、今触れることではないと判断し、その思考を打ち切ったのである。今は姫様の意図を考えるよりも、言葉を返すべきだと思ってのことであった。

 

「い、逸材だなんて、そ、そんなことないです。それに、マチ……フーケさんはなぜかすぐに諦めてくれましたし、アレはわたしの手柄ではないはずです」

「そうですか……でも、ルイズはあなたを高く評価していましたわ。あの子が人を褒めるなんて滅多に見ないものだから……つい、ね(ルイズがあんまり凄い凄い言うものだから、どんなものかと試してみましたが、本当にキレ者なのでしょうか……ちょっと期待はずれかもしれませんわね。枢機卿にも将来有望な子がいるかもしれない、と言ってここに来ていますのに……でも、あの青い髪の子は気づいたみたいね。あの子を将来有望と言っておこうかしら)」

 

 アンリエッタは表情こそ笑顔であるが、腹の中ではいろいろ考えているようである。タバサはのどかが敢えて触れなかったことに安堵していた。

 

「姫殿下、ミス・ヴァリエールから彼女の能力は聞いているのですかな」

 

 質問したのは、コルベールである。のどかのアーティファクトの恐ろしさと強力さを知っている彼はのどかの能力がバレていないか気が気でなかったようだ。オスマンもそのことを気にしていたようで、コルベールのことを内心でよく聞いた、と褒めている。

 

「(もし、ミヤザキさんの能力がバレているのならば、すぐにでも引き抜かれてしまうだろう。おそらくバレてはいないのだろうが……彼女が引き抜きに遭うと帰れなくなってしまうかもしれない。それはマズい、彼女は私たち魔法学院が預かっているのだから)」

 

 コルベールの質問にアンリエッタは頭に疑問符を浮かべたようだが、すぐにいつもの笑顔を貼り付けて答えた。

 

「そうですわね……確かしゅんどうという技で速く動けるとのことでしたわ。あと、青銅で出来たゴーレムを軽く投げることができるとも伺っておりますわ。それがどうかいたしましたか?」

「い、いえ、魔法を使用しない彼女の戦い方は、貴族としてあまり広めて欲しくないものですからな。いやー、お恥ずかしい限りです」

 

 アンリエッタは口に指を当てたあと、確かにと言ってコルベールからのどかに向き直った。

 

「そういえば、ノドカさんはどんな魔法を使うのですか?」

「わ、私は魔法の才能があまりないらしいので、出来ることはほとんどないです」

「あら、そうなのですか。少し残念ですわ(魔法も使えないのに、ルイズのサポートが出来るのかしら。本当は彼女にもルイズの護衛に向かってほしかったのだけれど、これでは及第点にも届きませんわ。……少し厳しいですわね)」

 

 アンリエッタがそう思考していると、部屋の扉が急に開けられ、人の波が流れ込んできた。部屋の外には衛士がいたはずだが、衛士も一緒に巻き込まれているようだ。生徒たちがアンリエッタがここにいると情報をどこからかキャッチしたらしく、一目見ようと学院長室に押しかけたのが原因であった。数の暴力で、衛士を巻き込んで倒れ込んできたのだ。それに対して怒ったのは当然コルベールであった。

 

「何事ですか! こんなことをして貴族として恥ではないのですか! 出て行け小童ども! 無礼であろう!」

 

 しかし、コルベールの一喝も功を奏せず、次から次へとアンリエッタに謁見しようと、生徒たちが流れ込んでくる。さすがにこれはマズいと思ったアンリエッタは逃げようとしたが、退路は生徒たちで塞がれてしまっている。その時である。

 

「アンリエッタさん、失礼します。少し怖いかもしれませんけど、我慢してくださいね」

「ノドカさん。一体何を……キャアッ!」

 

 のどかがアンリエッタをいわゆるお姫様抱っこをして、学院長室の窓から飛び降りた。アンリエッタは思わず悲鳴をあげた。こんな体験は初めてだから仕方がない。タバサは飛び降りたのどかを追って、すぐに空いている背中に抱きついた。

 

「危険」

 

 と言うと、シルフィードを呼んだ。シルフィードはタバサたち3人を背中に乗せて、空を飛ぶ。

 

「ありがとー、タバサ」

「構わない。でも、あまりしないで欲しい」

 

 タバサがのどか少し睨むようにすると、のどかはあはは、と笑ってタバサを見つめた。

 

「タバサなら私のやろうとしていることすぐにわかってくれるって思ったからー」

「……次からは気をつけて」

「うん、ゴメンねー」

 

 タバサは顔を少し赤くして、のどかの背中に抱きついた。アンリエッタは今の一連の出来事をイマイチ理解できていないようで、ボーッとしている。そして、我に帰ると、のどかの思い切りの良さとタバサと息の合った行動を賞賛していた。

 

「凄い! 凄いわ! わたくしお城を抜け出したり、いろいろしたことはありましたが、飛び降りるなんてことはしたことありませんわ! よく思いつきになられましたわね」

 

 アンリエッタは興奮して、のどか達を褒める。

 

「え、えーっと、それはタバサがいたのでー、大丈夫かなーって……」

「タバサ? ああ! そちらの青い髪の方ですわね! 助かりましたわ。正直、あの量の生徒を相手にすることはできませんでしたから。タバサさんもありがとうございますわ」

「私はのどかを助けただけ」

「ふふっ、お二人は仲がよろしいみたいですわね」

 

 3人は空の旅をしばしの間楽しみ、そして地上に降り立った。生徒たちの騒ぎも収まっている(諦めた)ようで、静かになっている。先程の、のどかの行動でアンリエッタはのどかの評価を改めていた。

 

「ノドカさん、タバサさん。今からアルビオンに行くルイズたちの護衛に行っていただけませんか? お二人にならば任せられると思うのです。いいえ、任せられます」

 

 のどかはルイズたちがどこに何をしに行っているかを聞いたら、居ても立ってもいられないようで、タバサを見た。タバサはこくりと頷いて、のどかの意見を受け入れた。

 

「では、お願いいたしますわ。わたくしの責任なのに、ルイズたちだけでなく、今日会ったばかりの友人の方々にもお願いすることになるなんて……本当に申し訳ありませんわ」

 

 アンリエッタは本当に申し訳ないらしく、深く頭を下げる。

 

「アンリエッタさん、私はルイズさんや才人さん、ギーシュさんの力になりたいから行くんです。どうか気にしないでください。それに、私は私なりの修羅場を潜ってきていますから、心配しないでください」

「ですけど……!」

「あなたは、自分の責務を全うすべき。王女なら当然のこと」

 

 なぜかわからないが、タバサの言葉には重みがあった。アンリエッタですら、気圧されるほどであるから相当のものである。更にタバサは続ける。

 

「のどかは私が知る限り最も聡い人物。心配する必要はない」

 

 アンリエッタはその言葉には反論したくなった。なぜなら、先程自分の意図を察せずにいたからだ。アンリエッタがそれを言おうとすると、タバサが遮った。

 

「のどかはさっきの貴方の意図を理解している。ただ場にふさわしくないと思っただけのはず」

「そうなのですか? ノドカさん」

 

 アンリエッタはあまり喋らないタバサがここまで言うのだから、少し信じてみようと思ってのどかに聞いた。

 

「はい、タバサの言うとおりです。アンリエッタさんが私のことを褒めてくれているのに、話の腰を折るのは失礼だと思ったので……」

「そうだったのですね……では、改めて聞きますわ。わたくしはあなたをどうしようと思っていたのか分かりますか?」

「それは、私を王室の役職に引き抜こうとお考えになっていたんだと思います」

「その通りですわ。まあこれくらいは簡単ですわよね。それであなたの評価を落としていたなんて申し訳ないことをしましたわ」

 

 アンリエッタは今日何度目になるか分からない謝罪をした。その後、すぐに衛士たちが来て、アンリエッタを連れて行き、残された2人はシルフィードに乗ってルイズたちを追いかけようとしたところで、ある人物に声をかけられた。

 

「何よ、2人とも。あたしも連れて行きなさいよ。盗み聞きなんてらしくないけど、聞いちゃったものは仕方ないわよね。それにダーリンもいるなら行くしかないわ」

 

 その人物はキュルケだった。シルフィードが降りてくるところを見て、近づいたらアンリエッタと2人がいたので、声をかけずに隠れて話を聞いていたらしい。

 

「キュルケさんがいてくれると私も心強いです」

「同感」

「じゃ、決まりね。さっさと追いついてダーリンたちを助けるとしましょうか」

 

 3人はシルフィードに乗ると、ルイズたちに追いつくためにすぐに出発した。ちなみにタバサはお気に入りの場所となったのどかの膝の上に乗って、本を読んでいる。のどかもそれを気にする様子はなく、タバサを人形のように抱いて、タバサの読んでいる本のページを見ていた。キュルケはやはり2人はそういう関係なのかと疑っているようで、機会があったらタバサをけしかけようと考えていた。

 そして、シルフィードがルイズたちを見つけた時、ルイズたちは盗賊に襲われていた。それを追い払って遂にルイズたちと合流するのであった。

 




盗賊は簡単に追い払うことができた覚えがあるので、省略されましたw

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15時間目

一昨日は用事、昨日は友人たちと13時間カラオケ行って死んでましたwww


 盗賊を追い払ったのどかたちはアルビオンに行くための船の便を待つためにラ・ロシェールにやってきた。ラ・ロシェールまではタバサ、のどか、キュルケの3人はシルフィードに乗っていたので、髭男爵という言葉似合う男――ワルドとは自己紹介をしていなかった。

 

「では、改めて自己紹介をしようか。僕はワルド、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドだ。君たちのことをお聞かせ願おうか」

 

 ワルドはのどかたちに柔和な笑顔で話しかける。先程盗賊を退治したあとのキュルケに対しての態度とは大違いである。

 

「キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーですわ」

「タバサ」

「わ、私は宮崎のどかですー」

 

 キュルケは先程のことでワルドに興味がなくなったらしく、ぶっきらぼうだが一応丁寧に、タバサは名前だけを完結に告げ、話すことは何もないという様子で、のどかは緊張した面持ちでワルドにそれぞれの名前を告げた。

 

「よろしく。では、宿なのだが……『女神の杵』に宿泊しようと考えている。ここで、一番高級な宿だ。どうだろうか?」

 

 ワルドの言葉に異を唱えるものはいないように思われた。なぜなら、ギーシュは馬できたことで疲れており、才人は何かあったのか不機嫌な様子で、ルイズはワルドの言うことをそのまま受け入れており、キュルケは一番上等な宿ならば、ゆっくりできるだろうと考え、タバサは何を考えているか分からないが、何も言わないということは、特に反論する気がないのだろう。しかし、のどかは違うようだった。

 

「あ、あのー。『女神の杵』というお宿は、一番高いんですよね」

 

 のどかの確認にワルドは呆れて様子で答える。

 

「ああ、その通りだ。君は東方(ロバ・アル・カリイエ)の貴族らしいが、そんなことも理解できないのかね?」

 

 のどかは辛辣なワルドの言葉に、多少萎縮しながらも言葉を返す。

 

「え? あ、す、すいません。で、でもー一番高い宿だと、そのアルビオンの貴族が襲ってくるかもしれませんしー」

「確かに、一理あるな。しかし、先程の盗賊も我々を物取り目的で襲った、と言っていたんだ。アルビオンの連中にはバレていないと思うが」

「でも、ここってアルビオンのいわゆるお膝元というか、情報を集めやすい場所なんじゃないかなーって思うんです。だから、あまり貴族が立ち寄りそうな場所には行かない方がいいと思います」

 

 のどかの指摘にワルドは思わず唸った。しかし、それを聞いてもワルドは自分の意見を曲げることはないらしい。

 

「しかし、旅の疲れもあるだろう。出来ればゆっくりできる方がいいと思ったのだが……それに、賊が襲ってきたのならば、それを倒せばいい。貴族だったのならば、そいつらから情報を聞き出すとしよう」

 

 ワルドは自分の腕に相当の自信があるようである。しかし、のどかはワルドの的外れな言葉にのどかは少しの違和感を覚えた。

 

「(どうしてそこまでして、『女神の杵』に泊まろうとするんだろう。確かに、私の指摘なんてただの不安要素だしー、多少は気を配らないといけないと思うけど……まるで、そこに泊まらないといけない理由があるみたいなー……それに、疲れを取るためのはずなのに、戦闘を想定してもあまり関係ないと言っているみたい。自分の力に自信があるみたいだしー、そういうものなのかなー)わ、わかりましたー」

 

 のどかは疲れているギーシュや、機嫌が悪そうで早く休みたいと思っているだろう才人を見て、ワルドの言葉に頷いた。のどかがそう言うと、ワルドは一瞬ホッとしたようだった。

そして、『女神の杵』に着くと、ワルドは部屋割りを決めた。

 

「では、部屋割りなのだが、2人部屋が3つと1人部屋が1つ取れた。誰かが、1人にならないといけないのだが……とりあえずサイトとギーシュが相部屋」

 

 才人とギーシュはお互いに睨み合った。

 

「次に、キュルケとタバサが相部屋」

 

 タバサがムッとしたのをキュルケは見逃さなかった。

 

「あら、タバサ。残念だったわねー、ノドカと一緒じゃなくて」

 

 キュルケはタバサをからかい、タバサは顔色を変えることはなく、違う、と否定した。

 

「そんなに、ムキにならなくてもいいのよー。だってノドカにべったりだものねー」

「勉強を教えてもらっているだけ」

「まあ、そういうことにしておいてあげるわー」

 

 ワルドが大きく咳払いをすると、キュルケはさすがにバツが悪いと感じたらしく、黙った。

 

「次に、僕とルイズが相部屋だ。婚約者なのだから、当然だろう?」

 

 その言葉に才人は驚愕した。それは、ルイズも同じようで思わず声に出して反論した。

 

「ダメよ、私たちまだ結婚していないんですもの」

 

 才人もルイズの言葉に同意しているようで、うんうんと頷いている。

 

「大事な話があるんだ、2人きりで話したい」

 

 ワルドの目は真剣そのもので、ルイズは何も言えなくなってしまっていた。

 

「ということはノドカが1人?」

 

 キュルケがそう言うと、ワルドは頷いた。

 

「ああ、申し訳ないが、これがベストだと思う。盗賊を退治したタバサとキュルケのコンビネーションは目を見張るものがあった。恐らく、賊程度ならば楽に倒せると思ったからね。それに、ギーシュとサイトは一見、仲が悪いがかなり仲が良いのではないかと思ったのだよ。そして、さっきも言ったが、僕とルイズは婚約者だ。そうなると、ノドカだったかな、君が1人になってしまったんだ。構わないかい?」

 

 ワルドは自分がどう部屋を決めたかを皆に伝えた。それには、納得するものもいたが、才人とのどかは同じことを思っている。婚約者だから同じ部屋という理論はおかしい、ということである。のどかは反論しようと思ったが、何を言っても先程のようにワルドが自らの意見を変えることはないだろう、と判断したようである。

 

「私は別に構いませんよー。」

「そうか、すまないね」

 

 ワルドはのどかに一言謝ると、鍵束の中からそれぞれに鍵を渡していく。

 

「それじゃあ今日はもう解散としようか。各々睡眠はしっかりと取るように」

 

 のどかも渡された鍵の部屋に向かい、部屋を開けると、さすが貴族を相手にしているだけあって、上等なものだった。話し合っていたロビーもかなり綺麗だったが、部屋も同じかそれ以上に綺麗にされている。常に掃除されているらしく、ホコリなど見当たらないし、ベッドは天蓋付きで豪華なものである。のどかはそんなベッドは本や、テレビでしか見たことがなかったので、驚いていた。実は、ルイズの部屋のベッドにも天蓋が付いているのだが、そんなこと知らないのどかはそのベッドに軽く興奮しているようであった。

 

 凄いなー、こんなベッドがあるなんてー。なんだか、お姫様になったみたいー。そう考えると、ここで良かったかもー。明後日の朝が出発だけど、ちゃんと休まないとー。

 

 のどかがそう考えていると、部屋の扉がノックされた。

 

「はーい、今開けますー」

 

 誰だろー、タバサかなー。そうだとしたらどうしたんだろー。

 

 のどかが扉を開けると、そこにいたのはタバサではなく、緑色の髪をした眼鏡の似合う美人だった。その人をのどかは知っていた。

 

「マチルダさん!? どうしてここに……」

 

 マチルダはのどかを部屋に押しやると、無理やり部屋に入ってきた。

 

「ゴメンね、ノドカ。私の弱点を突かれて、協力することになったの。でもね、さっきあいつから私は基本何してもいいって言ってたから、あなたたちの妨害はしないわ。するように言われたんだけどね。とりあえず、今の私が言えるのはここまでよ。あなたなら多分大丈夫よ。せっかく、また新しく人生をスタートできると思ってたのに、ゴメン。ノドカの気持ちを無碍にしちゃって……もう真っ当な職にはつけそうにないねぇ」

 

 マチルダは何度ものどかに謝った。どうやら、誰かに何か弱みを握られているせいで、脱獄してしまったらしい。

 

「マチルダさん、私の世界には覆水盆に返らず、という言葉があります。これは、こぼれた水は再び皿の中に戻ることはない、ということから起こしたことは元には戻らないという意味です。起きたことは仕方がありません。ちょっと残念ですけど……それでも、経歴を隠して傭兵につけば、大丈夫です。贖罪ができなくなっても、罪を意識し続けるという十字架を背負うことに意味があると思いますから……前は罪を償うべきだとか言ってましたけど」

 

 マチルダはのどかの言葉に少し心が楽になったらしく、笑顔になった。

 

「ありがとう、気が楽になったよ。じゃあね、うまくやりなさい。ノドカなら問題ないと思うけどね」

 

と言って部屋から出ていった。そして、マチルダがいなくなってからノドカは思案する。

 

 マチルダさんはきっと脅されているんだ。そうじゃないと、脱獄なんてするわけがないから。脱獄しなかったらその場で殺されていたかもしれないっていうことだよね……一体誰なんだろう。名前を言わないということは私が知らないか、それとも……

 

 のどかはある程度考えをまとめ終えると、眠りについた。次の日、目を覚ますと普段のナイトキャップを被らずに、キュルケが着るようなパジャマのような何かを着て、のどかの上で眠っていた。

 

「た、タバサ!? ど、どうしてそんな服着てるの!? あ、う、ううん、そ、そうじゃなくて、えとえーっと……」

 

 のどかはタバサのいつもと違った服装だとか、どうしてここにいるのかだとかいろいろな考えがごっちゃになってしまって、目を回している。

 

「おはよう、のどか」

 

 タバサはのどかの声で起きたらしく、呑気に挨拶をした。

 

「あ、う、うん。お、おはよー、タバサ」

 

 のどかは未だに困惑していたが、なんとか挨拶を返したようだ。そして、タバサはジッとのどかを見つめている。

 

「のどか、ご飯にする? お風呂にする? それとも私?」

 

 タバサのその言葉はよく新婚夫婦がする会話である。のどかは本でよくその言葉を知っていた。だから、タバサの言った意味を理解して更に慌てる。

 

「た、たた、タバサ!? それは誰に教えてもらったの!? それに、その服……」

「キュルケ。昨日連れ出された」

「きゅ、キュルケさん……どうしてこんなことー……」

 

 タバサはのどかの様子からキュルケの作戦は失敗したことを悟ったらしく、部屋から出ていった。スケスケのパジャマでだ。のどかはさすがにそのまま返すわけには行かなかったので、慌てて自分の服をタバサに貸した。タバサはのどかの服を羽織らずに、わざわざ着て、出ていった。それになんの意味があるのかはわからないが……

ちなみに、キュルケの作戦はこうである。まず、スケスケの服でのどかの部屋に入る。鍵がかかっていても、魔法で外す。次にのどかに気づかれる。そして、先程タバサがやった新婚夫婦の真似事をする。そして、のどかが飛びつけば良し、飛びつかなければそのまま帰る。そうすると、のどかは当然服を渡すだろうからそれを受け取る。そして、戻る。つまり、キュルケの第二の作戦であるのどかの服をもらう、ということは成功したのであった。

 のどかはそんなこと露知らず、タバサのせいで火照った体を冷ますために、部屋を出ると、ワルドとルイズが部屋に入っていくのが見えた。

 

 ルイズさんと、ワルドさん? 何かあったのかな、少しルイズさんの元気がないように見えるけどー……

 

 のどかはルイズの様子を見て、才人のことが心配になった。なぜなら、ルイズがああなるのは、才人関係でしかありえないと知っているからである。更に、昨日の才人はどこかおかしかったからである。ルイズのことに一喜一憂し、ワルドをやたらと敵視していたこともあった。しかし、才人がどこにいるか検討もつかなかった。とりあえず、才人とギーシュの部屋に行ってみたのだが、中からギーシュのいびきが聞こえるだけなので、才人はいないらしい。他に才人がいそうな場所は思いつかなかったので、部屋に戻ると、部屋の前には才人がいた。才人はのどかを待っていたらしい。

 

「のどか、悪い。少し部屋に入れてくれないか」

 

 才人の顔は悔しさでいっぱいだった。それは声色にも含まれていた。

 

「わかりました。どうぞ、部屋に入ってください」

 

 のどかが部屋に招き入れると、才人はありがとう、と小さくお礼を言った。しばらく才人は何も話さなかった。のどかも何も聞かずに、才人から話すのを待っている。

 

「何も聞かないのか?」

 

 才人はのどかが何も言ってこないことを疑問に思ったらしく、こう言った。

 

「私から聞いても、きっと何も解決しませんから」

 

 のどかがそう言うと、才人はポツリポツリと話し始めた。

 

「さっきさ、ワルドと決闘……したんだ。決闘って言っても、ガチなやつじゃなくてさ……ほんの手合わせみたいなものなんだけどさ。それで、負けちまったんだよ。ルイズの前で、さ」

 

 才人はまだ何か溜め込んでいるようである。それを話さないということは、まだ心の整理がついていないのだろう。

 

「その、さ。えっと……俺、はさ。弱いって実感したよ。思えば、のどかにずっと助けられてきたからな。ギーシュの時も、フーケの時も、盗賊の時なんてワルドに助けられちまった。伝説の使い魔なのに情けないよな……」

「才人さん、私はそうは思いませんよ。才人さんが頑張るから私もお手伝いするんです。ギーシュさんの時、私は才人さんに助けられました。あの時、才人さんは守ってくれました。それに、マチルダさんの時は、才人さんの『ガンダールヴ』の力があったからこそ、タバサさんにロケットランチャーの使い方を教えることができたんですよ」

「ギーシュの時はそうかもしれないけど……フーケの時は2回もゴーレムにやられかけたのを助けてくれたじゃないか。のどかの方が俺を助けてくれてるよ」

「才人さんだって助けてくれている、って言っているんです。私は1人じゃ何もできません」

「そんなことねえよ。のどかには心を読むっていう力があるじゃないか」

「読心術は確かに強力です。それで、何回もピンチを切り抜けてきました。でも、心を読むだけじゃ勝てません。だから、私はある人に身体能力を強化する術を教わりました。1年近く練習しても、強化し続けられるのはほんの少しの間だけです。それだけの間努力を続けても、私は1人じゃ何もできません。こっちに来て初めてファンタジーに触れた才人さんが1人で何もできなくても仕方ないじゃないですか」

「でも! 俺は伝説の使い魔なんだ。なのにどうして……」

「才人さん、伝説と言っても努力しない人は大成しません。英雄たちには才能がありました。私は才人さんの剣筋は悪くない、と思います。努力が必要なんです。経験も。それがない英雄なんて英雄とは言えない、と私は思います」

「確かに、俺は努力なんてしてないな……のどかはずっと頑張ってきたんだよな。俺よりも長い間……」

「それはワルドさんも同じでしょう。才人さんは努力と経験が足りない、ということだと思います。それがあればきっとワルドさんなんてすぐに追い越しちゃいますよ。何せ伝説、なんですからね」

 

 才人はまたしばらく黙った。俯いて、何か考えているようだ。のどかはその様子を見ていた。才人は顔を上げて、のどかを見た。

 

「あの、さ。のどかありがとうな、少しスッキリしたよ。ワルドのやつも努力したからあんなに強いんだな。俺も頑張らないとな……」

「私も頑張りますから、一緒に頑張っていきましょう、才人さん」

 

 のどかが才人に笑顔を向けると、才人は顔を赤くして、目をそらした。

 

「(あれ、俺……さっきまでルイズのことでドキドキしてたのに、のどかの笑顔でもなんかドキドキする。のどかって可愛いんだよな……俺って甲斐性なしなのかなぁ。ルイズがワルドに盗られるのもなんかスッゲェむしゃくしゃするし、のどかが誰かに盗られるのもスッゲェむしゃくしゃする。きっと、同じ世界の人間だから、こうやって相談しちまうし、それを聞いてくれるから、結構心を許してるのかもしれないな……)なあ、のどかはワルドに俺が『ガンダールヴ』って話してないよな?」

 

 才人は唐突に話を変えた。才人にとっては、今の考えを打ち消すために言った適当なことだった。

 

「言ってませんよー。ワルドさんが才人さんのことを『ガンダールヴ』だって言ったんですか?」

「ああ、そうなんだよ」

「才人さん、ワルドさんなんて言っていたか覚えていますか?」

「ああ、俺も不思議に思ったから覚えてる。て言っても、さっきまで忘れてたんだけどさ。確か……グリフォンに乗っている時にルイズに聞いた、とか。王立? 図書館で調べたとか」

 

 才人が語った、ワルドの言葉を聞いた瞬間、のどかは真剣な顔をした。

 

「やっぱなんかおかしいよな。俺はルイズにも『ガンダールヴ』だって言っていないのにさ。なんで知っているんだろうな」

「そうなんですか?」

「ああ、ルイズにも言ってない。知っているのは、学院長とコルベール先生くらいだぜ」

「才人さん、今から私の推論を話します。真偽はわかりませんけど……」

「何かわかったのか? 今のだけで?」

「はい。恐らくですけど、ワルドさんは敵です。アルビオンの貴族ではないでしょうけど、貴族派の人間だと思います。ルイズさんたち王党派と敵対している組織の人間だと思われます」

「マジかよ!? どこからそんなことわかるんだ!?」

 

 のどかの言葉に才人は驚きを隠せなかった。

 

「まず、最初に私はルイズさんが本当にグリフォンの上で話していた、と思って考えていました。実際には違いましたけどね。その考えでは、ルイズさんから『ガンダールヴ』ということを聞いてから王立図書館で調べたように聞こえてしまいます。もしかしたらマチルダさんを尋問した時に、聞いて興味を持ったから先に調べた可能性もありましたけどね」

「あ、確かにフーケを尋問した時って言ってたな」

「そうなると、この考えは消えますね。次の疑問点は何かわかりますか?」

「俺が『ガンダールヴ』だってルイズが知っていたこと?」

「惜しいけど、少し違います。この場合は、ルイズさんがどうして知ったかよりも、知っていたと仮定します。そして、どうしてワルドさんに話したかを考えるべきです。私の知っているルイズさんは聡明です。才人さんならきっと口止めすると思います。私にはしませんでしたけど、ちょっと話していいか迷っていたような気がしましたから。ルイズさんはさっきも言ったとおり聡明な方です。それにも気づくと思います。それに、ワルドさんが婚約者だからとか、今回の任務で必要なことだから、と言われても話さないはずです」

「俺もそう思うよ。ルイズはなんだかんだ言っても、そういうことは守ってくれるからさ」

 

 才人ものどかの言葉に相槌を打つ。

 

「本当に都合のいい解釈ですけど、ルイズさんが話したなんてウソをついたのかということになりますよね」

「確かにな」

「つまり、ワルドさんは元々才人さんが『ガンダールヴ』だと知っていた、ということになります。ここから導き出される答えは才人さんは伝説の使い魔、伝説の使い魔は虚無の担い手にしか現れない。これは伝承をあのあと読みました。つまり、ルイズさんは虚無の担い手ということになります。ルイズさんと2人きりになりたがったり、才人さんの自信を喪失させたり、まるでルイズさんの信頼を勝ち得ようとしているかのようです。そして、その目的は……」

 

 のどかは自分の推論を才人に最後まで話した。才人にとっては考えられないようなことだったが、のどかの推論には筋が通っていたので、のどかの考えを肯定した。そして、ある程度作戦を立てた。

 

「もしかしたら、のどかの推論が本当に当たっているかもしれないんだよな。そしたら、俺は絶対に止めるよ。最初のやつの行動がのどかの予想通りだったら、迷わないようにする。絶対にミスらないようにする。のどかが読心術すれば早いんだけどな。それだと、俺たちがあいつに怪しまれちまうもんな。頑張るよ、俺」

 

 才人は決意した。その胸中はワルドの計画阻止は当然だが、ルイズに見直してもらおうという下心があるようだ。才人はのどかの立てた作戦を何度も何度も確認した。のどかが紙に書いたので、バレないか心配だったようだが、才人やのどかの世界の文字は恐らくタバサくらいしか読めないから大丈夫とのことだった。

 

「お願いします。これはタバサにも知らせませんから、才人さんが頼りです」

「ああ、なんとかやってやるさ」

 

才人とのどかは解散した。才人はのどかの部屋に入る前と後では、別人かと思うほど纏う雰囲気が変わっていた。

 

「(それにしても、のどかってズルイよなぁ。普段はなんかおしとやかって感じがするのに、ああやって自分の考えとか話すときはスッゲェキリッとしてるし、顔もめちゃめちゃ可愛いんだよなぁ。とりあえず今は、ルイズを助ける! 絶対に!! まだ何もされてないんだけどな)」

 

 そして、才人は寝ているギーシュの隣で、二度寝を始めた。夜に備えて、である。

 




原作主人公に活躍してもらわないといけないな、と思ったので、こうなりました。

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16時間目

ギーシュを活躍させるつもりだったのに……うまくいかないなぁ……


 才人は最初の作戦通りバルコニーで月を眺めていた。これはのどかの作戦の第一歩である。

 

「サイト」

 

 ルイズが声をかける。才人が振り向くと、ルイズが腕を組んで、才人を睨みつけていた。

 

「負けたくらいで何よ、感傷的にならないでよね」

「……もうなってねえよ」

 

 才人のその言葉は真実であったが、語気を強めて言ったので、ルイズの目には才人が強がっているように映った。これはのどかの作戦で、才人が少し不機嫌を思わせるような態度を取れば、ワルドがより油断しやすいだろうと思ってのことである。

 

「強がっても無駄よ、わかるんだから。私はあんたのご主人様なんだからね」

「別に強がってねえよ。ただ、少し地球のことを思い出していたんだ」

「悪かったとは思ってるわよ」

 

 ルイズはさすがにバツが悪そうに言った。

 

「でも、犬扱いじゃないか」

「仕方ないじゃない、私は貴族であんたは平民なんだから」

「のどかとは態度違うじゃないか」

「それは」

「それは俺が使い魔だからか? 使い魔の俺がいなくてもワルドみたいな強い奴がいるから、俺が本当に必要なのかわからなくなって、地球に帰りたい、日本に帰りたいって思っていたんだ」

「ワルドは今関係ないじゃない。やっぱり負けたこと気にしてるんじゃない。それと……ゴメン。こんなところに呼び出しちゃって」

「もういいよ。本当に1人だったらずっと悩んでいたかもしれないけど、のどかがいるからまだマシだって思えるしな」

 

 ルイズは才人が本当に落ち込んでいないことを理解した。才人と話しているうちにわかったのである。

 

「……そう、本当に大丈夫そうね。ノドカにお礼言わなくっちゃ。うちの馬鹿な使い魔を元気づけてくれてありがとうって」

「なんでのどかが励ましてくれたってわかったんだ?」

「顔を見ればわかるわよ。第一、ノドカじゃないとサイトを励ますなんてこと出来ないでしょう? 同じチキュウ? 出身なんだから」

「そういうことか、なるほどな(よし、ここまでは順調だな)」

 

 才人は内心でガッツポーズを取った。のどかの最初の作戦はルイズと仲直りである。恐らく、ワルドはルイズと才人の関係をギクシャクさせることで、自分に振り向かせようとしていたの。そのため、グリフォンなどを使って散々アピールしていた。もちろんこれは、才人の主観である。そこで、のどかはワルドの作戦の根本をまず崩すことをしたのだ。単純にルイズと才人の仲が悪いとのどかも居心地が悪いからという理由も含まれているのだが。

 

「ルイズ、悪かったな。その、心配かけて、さ」

 

 これも才人の本心である。才人はのどかに正直に自分の思ったことを告げるように言っていた。才人は少しためらったが、了承した。ルイズに自分の気持ちを話すのは少し気恥ずかしかったらしい。勇気を出して、なんとか謝ることができた才人は晴れやかな気分になっていた。

 

「な、何よ、急に。気持ち悪いわよ」

「なっ、せっかく人が勇気を出して謝ったのによ! なんだよそれは!」

「ビックリするわよ! いつもならもっと反抗的というか躾のなっていない犬みたいに吠えてくるのに……熱でもあるんじゃないの?」

 

 ルイズは才人がいつもとは違う様子だったのに、驚いたが、その後すぐに才人がいつもの調子に戻ったので、自然と笑顔になっていた。それは才人も同じようで、ルイズと一緒に笑っていた。

 

「まあいいわ、そろそろ下に降りましょう。ゴメンね」

 

 ルイズの最後の言葉は小さく呟くようなものだったので、才人は最初の言葉しか聞き取れなかったようである

 

「ああ、そうするか」

 

 バルコニーから一階の食堂に降りる階段でルイズは急に立ち止まった。才人はどうしたのかとルイズに声をかける。

 

「ルイズ、どうした?」

 

 ルイズは俯いたまま、才人に話し始めた。

 

「ゴメン、サイト。私、ワルドと結婚するわ」

 

 才人は驚いた。ルイズがワルドと結婚するという告白にではなく、のどかの予想が当たっていたことに対してである。

 

「なっ! マジ、かよ(ウソだろ、のどかは婚約者の立場を利用して、ルイズさんを手に入れるつもりかもしれません、って言ってたけど……マジで当たっているなんてな。のどかって名探偵の孫とか、高校生探偵だったりはしないよな……?)」

 

 ルイズは本当に申し訳なさそうに謝る。

 

「ルイズ…………」

 

 才人とルイズはそれっきり喋らずに食堂まで降りていった。ルイズが喋ろうとしなかったのである。そして、才人とルイズが食堂で飲んでいるワルドとギーシュを見つけて近づいていった。そこにはのどかやタバサ、キュルケもいた。つまり、全員集合である。ルイズはワルドに呼ばれて、才人を一瞥しワルドの所に行く。才人はのどかに近づいていく。

 

「あら、ダーリン。あたしに会いに来てくれたのー? 嬉しいわー、昨日の続き、する?」

「しない。それより、俺はのどかに用があるんだ。悪い、タバサ。ちょっといいか?」

「あら、冷たいのね」

 

 キュルケが情熱的に才人に話しかけてきたが、才人はキュルケに目もくれず、のどかの上に座って、皿に収まりきらないくらいの量の料理を食べているタバサに話しかける。

 

「……」

 

 タバサは少しの間無言だったが、才人が今はやましいことを考えているわけではない、とわかったらしい。

 

「構わない」

 

 と言った。そして、のどかの上から降りた。のどかはタバサにお礼を言いつつ、才人と少し別のところに移動しようとした。そこで、酔っ払っている貴族に絡まれた。

 

「こらー、サイトー。ミヤザキくんとどこにいくつもりなんだねー。ゆるさんぞー」

 

 ギーシュであった。ギーシュは先程まで、ワルドと飲んでいたので、顔を紅潮させ、しゃっくりをしながら才人とのどかに近づいてきた。

 

「ギーシュ……スマン」

 

 そう言うと才人はギーシュの腹を殴り、ギーシュはくぐもった声を出して、床に倒れた。しかし、倒れたギーシュの顔はなぜか幸せそうであった。

 

「こいつMなんじゃ……」

 

 才人の中で、ギーシュはM認定されかけているのであった。ワルドから離れたところで、才人はのどかに作戦の状況を話し始めた。

 

「のどか、とりあえずルイズとは仲直りできた、と思う。それと、ルイズがワルドと結婚するって言ってた。多分ここまではのどかの推測通りだ。次はここが襲われるんだっけ?」

「確証はないですけどね……それと、たまたま当たっていただけですから。あまり全部信じない方がいいです。全て上手くいくなんてことはないんですから。それと、ルイズさんはワルドさんと結婚することに対して引け目を感じているはずです。特に、才人さんと仲直りできた、ならですけど……」

「わかってるって。でも、ここまで当たってるとのどかは預言者なんじゃないかな、って思っちまうよ」

「か、買い被りすぎですよー。ここからが本番です、気をつけてくださいね」

 

 才人はのどかのことを全面的に信頼しているようである。のどかも才人に結構心を許しているようであった。

 

「そういえば、なんでここが襲われるなんて思ったんだ?」

 

 才人の疑問は一度のどかが説明したことなのだが、それ以上に才人には大事なことがたくさんあったので、覚えていないのも無理はないな、と思ってもう一度説明を始めた。

 

「これも確証があるわけないじゃないです。でも、最初私が他の宿に変えよう、と提案した時に、頑なにこの宿に止まらなければならない理由があったように話していたので、少し気になっていたんです。その時はほんの少しシコリが残った程度だったんですけど、もし本当に敵だとするならば、私たちを分断しようと考えているはずです。本来は才人さんとギーシュさんをこの宿に縛り付ける予定だったんだと思います」

「どうして敵が襲ってきたら俺とギーシュがここに残ることになるんだ?」

 

 才人の疑問にのどかは答える。

 

「それは、親書を届けたりだとか、それを持ち帰ったりだとか、そういう命の危険が伴う任務は半分近くがたどり着けば成功とされるんです。つまり、ルイズさんとワルドさんの2人で任務を達成しようと考えたはずですから」

「でも、のどかたちが来たから、俺がルイズたちにくっついていけるってわけか。つまり、ここを襲撃させることは俺たちの分断が目的ってわけだな。あれ? 俺一回これ聞いたよな?」

 

 才人はこの理由を聞くのは二回目じゃないか、と思ったらしく、のどかに聞いてみた。

 

「そうですね。でも、他に大切なことがいっぱいありますからー。忘れてても仕方ないと思います」

「なんか、悪いな。でも、のどかと別れてからのことは、理由も全部頭に入ってるから大丈夫だぜ」

「はい、お願いします。私もすぐに追いつけるように頑張りますから」

 

 のどかと才人が戻ってきたところで、玄関から傭兵が現れたのだ。ギーシュはそのことで飛び起き、酔いも一気に冷めたようで、急に慌てだした。そんなギーシュをタバサが引っ張って、物陰に引き込んだ。ワルドはルイズを抱き寄せて、タバサたちと同じところに隠れた。

 

「まさか、本当に敵が来るとは……済まない、見通しが甘かったようだ」

「仕方ない」

 

 ワルドが一言全員に謝るとタバサが一番早く言葉を返した。どうやってこの状況を切り抜けるか考えているようだ。全員が隠れている場所に、のどかと才人が滑り込んできた。何とか矢をやり過ごしてきたようである。

 

「参ったな。この間の連中はただの物盗りじゃなかったらしい。手練の傭兵と見ていいだろう」

 

 ワルドの言葉にキュルケは頷いた。ギーシュが『ワルキューレ』で戦おうとしたが、それはキュルケとワルドによって止められた。

 

「いいか、諸君。このような任務は」

「半分がたどり着けば成功、だろ?」

 

 ワルドが言おうとしたことを才人が続けた。先程ののどかの言葉をそのまま言っただけである。

 

「そ、その通りだ。問題は誰を選出するか、だが」

 

 タバサはすぐに自分と、ギーシュ、キュルケを指して、囮、と言った。ワルドはそれに対し時間は、と聞いた。今すぐ、とタバサが答える。そして、タバサはのどかを見た。のどかもここに残るつもりだったことに気づいたらしい。

 

「行って、あなたの力が必要になるはず」

 

 タバサの言葉は確信に満ちていた。

 

「タバサ、ありがとう。絶対に失敗しないよ」

 

 タバサはのどかが何やら作戦を立てていることに気づいていたのだ。恐らく先程の才人の表情で読み取ったのだろう。実際それがなければ、のどかにもこの場に残ってもらうつもりだったのである。のどかもタバサの意図をすぐに察したのか、タバサにお礼を言って、すぐに動く準備をした。ルイズは急なことにまだ戸惑っているようだった。

 

「さあ、行くぞ。援護を頼む」

 

 ワルドがそう言うと、タバサはコクりと頷いた。そして、裏口に回るために、4人は矢の雨が降り注ぐ中に身を晒した。のどかとルイズ、才人は反射的に目を瞑ったが、矢が届くことはなかった。タバサの『風』の魔法のおかげである。

 

「タバサ、ありがとー。気をつけてねー!」

 

 のどかの言葉にタバサは杖を掲げて答えた。そして、囮役の3人と、任務遂行組の3人に別れるのであった。

 

「大丈夫なの? あの傭兵たちって結構強いんでしょう?」

 

 ルイズは慌てた様子だった。

 

「わからない。もしかしたら3人とも命を落とすかもしれない」

 

 ワルドは悔しそうに言う。その言葉にルイズは驚きを隠せなかった。グリフォン隊の隊長であるワルドがわからない、というのだ。相当危ないのではないか、と思ってしまうのは当然だろう。

 

「ルイズ、心配するなよ。大丈夫だ、だってタバサとキュルケがいるんだぜ? ギーシュはイマイチだけどさ」

「サイト……そうね、あのツェルプストーが簡単に負けるはずないわ! 大丈夫に決まってるわ……」

 

 ルイズは自分の天敵であるキュルケが簡単にやられるはずがない、と自分を鼓舞しているようであった。

 

「ルイズさん、大丈夫です。才人さんの言うとおり、タバサだっているんですから。あの2人が負けるようなことはそうそうないと思います」

「ノドカ、ありがと」

 

 4人が夜の街を走っている間、残された3人は傭兵と相対していた。

 

「ギーシュ、厨房から油の入った鍋を持ってきてちょうだい」

「油の入った鍋? そんなものでいいのかい? わかった、持ってくるよ」

 

 そう言うと、ギーシュは厨房にあった油鍋を持ってきた。その間、キュルケは手鏡を取り出し、メイクを始めていた。

 

「持ってきたけど、って君はこんな時にまで化粧か。何をやっているんだ」

「あら、今からパーティーだって言うのに主役がメイクもなしじゃもったいないでしょ? 輝かなくっちゃね。ギーシュ、その鍋を向こうに投げなさい」

「投げろだって? 重いんだぞ、これ。だけど、それくらいなら僕にだって出来る! やってやるさ」

 

 ギーシュは雄叫びと共に、鍋を投げた。そうすると、キュルケが立ち上がり、杖を掲げた。そして、油に自慢の火の魔法を使って引火させた。遠くにいた弓部隊は無事だったようだが、制圧するために中に入ってきていた歩兵には、効果抜群だった。たまらずに逃げ出していった。そして、いつの間にか弓が止んでいることに制圧部隊は気づいていなかった。火で焦ったわけではない。裏口から出たタバサに制圧されたのである。タバサの動きは迅速であった。それはなぜか。『瞬動』のおかげである。タバサはのどかと『瞬動』の練習をしていた。それを今回初めて実戦に用いたのである。弓を掻い潜って、裏口にたどり着くためには、10メイルの距離を移動しなければならなかった。タバサは着地を失敗してもいいから、敵部隊に気づかれずに、裏口まで行くために、全力で『瞬動』を行ったのだ。結果は成功。そして、シルフィードに乗り、弓部隊の後ろから攻撃したのである。そして、火にたまらず出てきた制圧部隊も難なく倒してしまった。

 

「タバサ、お疲れ。さすがね」

「君たちだけこの作戦を知っていたのか!? いつ立てたんだ!?」

「あんたが鍋を取りに行ってる時よ。その場にいないのが悪いんじゃない」

「君が命令したんだろう!? うう、あんまりだ……」

 

 ギーシュがうなだれているとタバサはシルフィードに跨っていた。

 

「追う、乗って」

「そうね、行くとしましょうか」

 

 タバサとキュルケが今すぐにでも4人を追いかけようとしていたので、ギーシュはシルフィードの上に渋々乗った。そして、どこから現れたのか分からないが、ギーシュの使い魔であるジャイアントモールのヴェルダンデも一緒に上空へと飛び立つのであった。ちなみに、ヴェルダンデはシルフィードにくわえられている。

 

「さすがに、疲れたわね。でも、泣き言を言っていられないのも事実よね。とりあえずダーリンたちに合流しないと。もう船は出ちゃってるだろうからシルフィードで先回りしましょうか」

 

 タバサはキュルケの案に賛成した。そして、シルフィードにそう命令して、アルビオンに向かうのであった。

 




ギーシュのやったことは酔っ払うと鍋を持ってくるの二つでした! こんなはずでは……


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17時間目

時間が取れずに、投稿できず……申し訳ないです


 タバサたちが囮として賊と戦っている頃、のどかたちは闇夜の街を駆けていた。階段を駆け上がっていくところで才人は一つ疑問を覚えた。

 

「『桟橋』に向かうのに登るんすか?」

 

 ワルドに聞いたものだったが、ワルドは答えずにさっさと走っていく。才人はムッとした顔になったが、今はこの長い階段を上ることが重要だと考えて黙って走った。のどかは元々体力がないこともあってか才人たちから大分遅れていたが、なんとかついてきているようだ。

 

「おーい、のどかー! 大丈夫かー?」

「はぁ、はぁ、だ、大丈夫ですー!」

 

 のどかは息を切らしていたが、それでも懸命に走り続けていた。全員が階段を上り終わると、そこにあったのは巨大な木だった。

 

「デケェ、本当にここが『桟橋』なのか?」

「ああ、そうだ。アルビオンは空中に浮いている都市だ。そしてあそこにぶら下がっている木の実のようなものが船だ。遠くてあまり見えないだろうがね」

 

 そう言うと、ワルドは目当ての階段を探し始めた。そして、それを見つけたらしくこっちだ、と言って3人を呼んだ。3人がワルドの元へ行こうとした時、後ろから追いすがる足音が聞こえた。それに真っ先に気づいたのはのどかで、バッと振り返ると、白い仮面をつけ、ローブを纏った人影がのどかと才人を飛び越えた。そして、ルイズの背後に降り立った。

 

「ルイズ! 後ろだ!」

 

 才人は叫んだ。ルイズに危機を知らせるためである。ルイズも才人の鳴らした警鐘をないがしろにすることなく、背後に降りた影から離れようとしたのだが、その影は閃光の如き速さでルイズを持ち上げ、そのままジャンプした。ワルドもその様子を見ていたらしく、詠唱を終えていたらしく、風の槌で男を吹き飛ばした。男は階段の手すりを掴んだ後、どこかに消え、ルイズは投げ出され、階段から真っ逆さまに落下していく。ワルドは間髪入れず、ルイズを助けるために階段を飛び降りようとしたが、距離が空いていたため、間に合わない。

 

「ルイズさん! 戦いの歌(カントゥス ベラークス)!」

 

 ワルドよりも圧倒的に近かったのどかがルイズを助けるために走り出す。のどかも頭から落下する形になったが、何とか落ちていくルイズに追いつき、そのまま抱きかかえた。のどかはそこから階段の手すりを足場に『瞬動』で反対側の岩に飛びつき、同じようにして、才人のところに戻った。

 

「あ、ありがと、ノドカ。助かったわ」

「いえ、ルイズさんが無事で良かったです」

 

 ルイズが助かったのを確認したワルドがゆっくりとこちらに近づいてくる。

 

「助かったよ、僕のルイズがキズモノになったらどうしようかとヒヤヒヤしたよ。えーっと、ミヤザキだったかな? 婚約者を救ってくれてありがとう」

 

 ワルドは本当に安堵した様子でのどかに柔和な笑みで語りかけてくる。

 

「い、いえ私はできることをしただけですから」

「謙虚だね。そうだ、君がさっきやった魔法はなんだい? ただの身体強化だと思ったんだが、それ以上に素早い動きをしたからね。少し気になるんだ」

 

 ワルドの目つきが優しい穏やかなモノから、険しい鋭いモノへと変わった瞬間ルイズから助け舟が入った。

 

「ワルド、今はそんなことよりも重要なことがあるはずよ」

 

 ルイズに続けて才人も言う。

 

「あんたが戦いが好きってことは知ってるけどさ、まさかのどかみたいなか弱い女の子にも手をあげるわけじゃないよな?」

 

 ワルドは2人の言葉でそれもそうだ、と頷いた後、先程ワルド自身がいた階段に向かった。ワルドにルイズが続き、才人はのどかと一緒に歩いていく。

 

「なあのどか、ワルドが裏切り者じゃなかったのか? それともワルド以外に仲間がいるのか?」

「わかりません。でも、仲間がいると仮定してもいいと思います。仲間にしてはワルドさんも魔法をためらいなく放っていたのが気になりますけど……」

「そうだよな……仲間だったら本当にあんなこと出来ないと思うんだよなぁ。俺がそういう立場で、のどかを攻撃しろとか言われたら絶対にためらっちまうし……」

 

 2人は喋っていたせいで、少し遅れていた。遠くでルイズが呼んでいるので、少し急いで、ルイズたちのところに向かった。

 

「もう、何やってるのよ! 遅いわよ! 時間がないんだからちゃっちゃとしてよね!」

「悪い悪い、ちょっとあの敵が気になってな。ルイズお前なんか気にならなかったか?」

「あの敵? もうやっつけたしいいんじゃないの? まあいいわ、サイトじゃなくて、ノドカが気にしてるみたいだし」

「んなっ! 一応俺だって気にしてるんだぞ!」

「そういうことにしておいてあげるわ」

「な、何をー!」

「ルイズさん、何か気になることがあったんですね?」

「ええ、ほんの少し違和感があっただけなんだけど……」

 

 ルイズとのどかが才人を無視して話し始めてしまったので、才人はふてくされて、地面に「の」の字を書き始めた。

 

「その違和感ってなんですか?」

「うーんとね、なんか抱き上げられた時やけに優しく抱きかかえられたのよ。後、ワルドにやられた時もなんでか分からないけど、ちょっと『風』の魔法で私を浮かせたのよ」

「なるほど……ありがとうございました」

「え!? 今のでわかったの?」

「まだ少しピースが足りませんけど、おおよその検討はつきました」

「すごいわね……のどかは王室で働くべきよ。姫様も大歓迎だろうし」

「でも、私一応他国の貴族っていう扱いになっていると思うんですけど……」

 

 のどかがそう言うと、ルイズはハッとした顔になった。

 

「(姫様……のどかを引き抜こうと考えていたみたいですけど、それは叶いません……)」

「る、ルイズさん? あのールイズさん?」

「な、なんでもないわ。少し、トリステインの未来が不安になっただけよ……サイト! いつまでふてくされてるの!」

 

 ルイズはウジウジしている才人に喝を入れた。

 

「へいへい、悪ぅござんした」

 

 才人が立ち上がると、のどかの後ろから先程の仮面の男が杖を構えていた。のどかは

気づいていないらしい。

 

「のどか!」

 

 才人はデルフリンガーを引き抜きのどかを突き飛ばした。仮面の男が魔法を放ってきた。

 

「相棒! 俺を構えろ!」

「デルフ!? 何言ってんだ! クソッ! うわああああああ!」

「相棒!」

 

 激しい電撃が才人を襲い、才人は地に伏した。相当強力な電撃だったらしく、才人の体はビクビクと跳ねている。ワルドが気づき、すぐさま風の槌――『エア・ハンマー』で敵を追い払った。

 

「すまない、油断していた。僕がもっとしっかりしていれば」

 

 ワルドが頭を下げる。ルイズは才人の名前を呼び続け、のどかは倒れている才人を見て、決意を固めたようだった。

 

「いってぇ……くっそぉ……」

「サイト! 大丈夫!?」

「大丈夫……じゃねえけどっ」

 

 才人の息は荒く、腕が痛いと言ってそこをずっと抑えていた。立ち上がりはしたが、相当苦しそうな表情を浮かべている。

 

「今の呪文は『ライトニング・クラウド』。『風』の強力な呪文だ。奴は相当強力な敵らしいな」

 

 デルフリンガーが悔しそうな声で言った。

 

「普通ならくらっただけでも、命を落とすような強力な呪文なのだが、その剣のおかげなのか? なんにせよ、腕だけでよかった」

 

 ワルドがそう言うと、デルフリンガーを見る。のどかは才人に肩を貸している。

 

「才人さん、ゴメンなさい。私のせいで……」

「のどかのせい……じゃない、さ。大分痛みも治まってきたし、何とかなるよ」

「才人さん……本当にすいません。あとは私に任せてください。全部分かりましたから」

「え? だったら俺も!」

 

 才人が急に大きな声を出したため、ワルドがこちらを振り返った。ルイズは才人のことが心配でぴったりとくっついているのだが、先程ののどかたちの会話は聞こえていないようであった。

 

「サイト、急に大きな声ださないでよ……心配するでしょ」

「わ、(わり)い……」

 

 その後、ワルドとアルビオン行きの船の船長とで交渉事があった。

 

「サイト、傷は大丈夫?」

 

 ルイズは才人が心配だったらしく、才人の肩に手を置いて、問いかける。

 

「ああ、大分マシになった。心配かけちまってるんだな。本当に悪い」

「べ、別に! 私はあんたのご主人様なんだから当然でしょ!」

「ありがとよ、ご主人様」

 

 才人はルイズの不器用な優しさに気づいてお礼を言った。

 

「なんで素直になるのよ! なんか気持ち悪いわよ!」

「なんだよ! 好意を素直に受け取っちゃダメなのかよ!」

「ダメよ! あんたはそうやってキャンキャン犬みたいに騒いでる方がお似合いよ!」

「お前の中の俺のイメージはどうなってんだ!」

 

 甲板にはルイズと才人の痴話喧嘩のようなものがずっと聞こえてきていた。

 

 のどかは自分に割り当てられた部屋で、制服とは違う、冒険者(トレジャーハンター)の格好をしていた。そして、服の内側にネギがエヴァンジェリンと戦うために用意した魔法銃の感触を確かめていた。

 

(これは魔法世界(ムンドゥス マギクス)で私の護身用に買った魔法銃。迷宮に潜ったりする時は重宝するけど……これがあの人に効くかはわからない。先生(せんせー)小太郎(こたろー)くん明日菜さん、刹那さん、楓さん、そして夕映みたいに戦うことが出来れば、才人さんを傷つけなくて済んだのに……こういうことにならないためにエヴァンジェリンさんに教えてもらったはずなのに……)」

 

 のどかが自分の思考の中に落ちていくと、急にカードが光り始めた。

 

「(え? カードが? これって……カードの通話機能?)」

 

 のどかがそう思ってカードを手に取り、額に当てると、のどかの予想通り声が頭の中に響いてきた。

 

「あっ! 繋がった! 皆さん! 繋がりましたよ!」

 

 そこから聞こえてきたのはこちらに来る前に最後に会った少年の声。

 

「ね、ネギ先生(せんせー)!? どうして念話が!?」

 

 のどかもこれには驚きを隠せなかった。ネギはのどかの声を聞いて安心したらしい。

 

「良かった、のどかさん、無事で良かったです」

「ネギ先生、だから言ったです。のどかなら心配はいらない、と」

「そうですね、夕映さんの、皆さんの言ったとおりでした」

「ネーギー、あんた無駄に心配させすぎなのよ! 帰って早々、のどかさんが、のどかさんが僕のせいでー、僕のせいでーって」

「あ、明日菜さん!? それは言わないって!」

 

 のどかは懐かしい親友の声やクラスメイトたちの声を聞いて涙ぐんでいた。

 

「のどかさん!? どうしたんですか!? 何かひどいことされているんですか!?」

「す、すいません。みんなの声が懐かしくて……」

「のどかさん……」

「ネギ先生、申し訳ないのですが、変わってほしいです」

「わかりました。のどかさん、夕映さんに変わりますね」

「のどか、あなたがどこにいるかは私たちもわかってはいません。こうやって連絡が取れたのはネギ先生の魔力があなたのカードに残っていたからです。そして、のどかか私たちがのどかのいる場所に近づいたからだと思われます」

 

 のどかは親友の説明に耳を傾けている。

 

「のどか、私に言えることは一つです。あまり無茶をしないように、です」

「うん、夕映ありがとね。でも、私ここでやることが出来たんだ。戻れるかも分からないけどー、信じて」

「当然です。出来れば早く会いたいので、そのやることを早く終わらせてくれると助かるです。ってハルナ! その目はなんですか! ダメです! 今は私がのどかと話しているのですよ! あっ……」

「ヤッホー、のどか元気してるー? まあ夕映の反応見る限り全然元気みたいだけどねー。そうそう、聞いてよ。って何するのよ! 夕映!」

 

 親友たちの懐かしさを感じさせる会話を聞いているだけで、のどかの気持ちはリラックスできていた。

 

「あーもう! やめるです! のどか! 絶対に無事に帰ってくるですよー!」

「うん! 絶対に帰ってくるよー!」

「夕映さん、貸してくださいまし」

「宮崎さん! 私ですわ、雪広あやかですわ。あなたとはネギ先生のことで……」

 

 委員長の雪広あやかに変わった途端なぜか長々と昔の思い出を話し始めた。そうすると、周りからいいんちょ話長いぞー! だとか、本屋ちゃんが死んだみたいでしょ! など賑やかしい声が聞こえてくるので、のどかは笑っていた。

 

「と、とにかく! 委員長として、あなたが帰ってこないと許しませんわよ! あなたが抜けると、テストの点数がダダ下がりですわ! お願いしますわよ!」

「は、はい。わ、わかりましたー」

「それならば良いのですわ。それではネギ先生にお返しいたします」

「の、のどかさん。皆さんのどかさんが心配だったようで……」

「一番心配してたのはネギじゃない」

「あ、明日菜さーん。のどかさん捜索隊を結成したんですけど……その隊長が」

 

 のどか捜索隊の隊長はのどかにとって、思いもよらぬ人物だった。

 

「やあ、宮崎のどか」

 

 のどかはその声に聞き覚えがあった。聞き覚えがあるというレベルではない。のどかを最も危険視し、一度は石化させた張本人。フェイト・アーウェルンクスだった。

 

「ふぇ、フェイトさん!? ど、どうしてー……」

「決まっているだろう。君がいないことで、ネギ君が全く使い物にならないんだ。そうなると、僕は一応ネギ君の補佐みたいなモノだからね。君を探し出して、彼の不安を取り除こうとするのは当然だ」

 

 フェイトはのどかが未だに困惑しているとわかったらしく、続けて言った。

 

「とりあえず、君のやるべきことが何なのかは分からないけど、君のいる世界が見つかったら連れ戻すから、そのつもりでね。まあ安心しなよ、世界が見つかっても、連れ戻す手段がないからね」

「そこは(チャオ)さん待ちですね。フェイト、のどかさんが怖がっているじゃないか。やっぱり君じゃない方がいいんじゃないのか?」

「そんなことはないよ、ネギ君。僕が適任だ。僕なら彼女を問答無用で連れ帰るからね」

「いや、そういう話をしてるんじゃないんだけど……あっ、のどかさん。もう僕の残留魔力が……」

「ネギ先生(せんせー)、夕映、ハルナ、皆……ありがとう」

 

 のどかがそう言うと、カードから光が失われた。

 

「(ふふっ、なんだか悩んでいたのがバカみたい。でも、皆の声が聞けて良かった。絶対に無事に戻るからね。才人さんと協力しよう。さっき分かったことを……)」

 

 のどかは才人たちが甲板で言い合いが終わるのを待つことにしたのであった。そして、言い合いが終わり、戻るところで、才人に声をかけるのであった。

 




久しぶりのネギパーティーとの会話はのどかをかなり元気にしたようです


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18時間目

お盆の方が忙しい……なぜだ!


「才人さん、少しいいですか?」

「ん? どうしたんだ?」

「少し、お話したいことがありまして……」

 

 才人は少し頭に疑問符を浮かべた。のどかはそんな才人に構わず話を続ける。

 

「才人さん、私の仲間から連絡が入りました。多分、この世界を探知することができると思うので帰れる可能性がかなり高くなりました」

「本当か!? そっか……のどかの仲間って凄いんだな。もう連絡取れちまったし」

「どうしてかは私にもわからないですー」

 

 才人は帰れる可能性が高くなったと聞いて、とても嬉しいようであった。声の調子も明るくなり、いつもよりも表情に輝きがある。

 

「でも、帰れるかもしれないんだろ? それだけでも嬉しいよ。でも、ルイズのやつが心配だな……」

「きっと大丈夫です。私の仲間ならきっとこの世界と私たちの世界を繋いじゃうと思いますから」

「そ、そんなことできるのか!? マジかよ……」

「はい、それくらいすごい人たちなんですよー。フフッ」

 

 才人はのどかの笑顔で赤面した。

 

「(やっぱり可愛いよなぁ。ルイズもスッゲェ可愛いけど、のどかも可愛いし……俺ってこんなやつだったのか……そういえばのどかって好きな奴とかいるのかな? 彼氏とかいても不思議じゃねえよな……)」

 

 才人がそう思案していると、のどかは先程よりも真剣な面持ちで才人に喋りかける。

 

「才人さん、実はさっきの事なんですけど……」

「うぇ? さっきのこと?」

「はい、さっき私が1人で全部解決するなんて言ってたんですけど……やっぱり1人じゃダメだって気づきました」

「ず、随分急に心変わりするんだな。のどかってもっと頑固だと思ってたよ」

「(私ってそう思われてたんだ……なんだかショックかもー)うう、失敗しちゃったら元も子もないですからー。それで、さっき分かったことをお話します。やっぱりワルドさんは敵です」

「敵? でも、だとしたらあいつは自分の味方をためらいなく、魔法で攻撃したんだぞ。それは躊躇するってのどか自身がそう言ってたじゃないか。どうして?」

「それは、あの攻撃してきたメイジがワルドさん自身だったからです」

「へ?」

 

 才人は素っ頓狂な声をあげた。

 

「アレは恐らく、『偏在』という最高クラスの『風』の魔法だと思われます。ちょうど、アンリエッタさんが来るということで、中断されたギトー先生が使おうとしていたものですね」

「『偏在』って?」

「『偏在』は自分の分身を作る魔法です。そして、ワルドさんは『風』のメイジ。あの敵も『風』のメイジ。ワルドさんが、なんのためらいもなく攻撃できたのは、分身体だったからだと思います。根拠はそれだけなんですけど……信じてくれますか?」

 

 才人はのどかの答えに笑顔で返す。

 

「当然だろ、のどかの言うことは今まで外れなかったからな。今回も信じるよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 才人の真っ直ぐな答えにのどかは面食らったが、すぐに微笑みで返したのであった。

 

「そうだ、のどか」

「なんですかー?」

 

 才人は先程浮かんだ疑問をのどかにぶつけることにした。

 

「のどかって好きな奴とかいるのか? 彼氏とかは?」

 

 才人の突然な問いかけにのどかは顔を真っ赤にしてあたふたし始めた。

 

「さ、さ、才人さん!? ど、どうして急にそ、そんなことをー」

「(のどかってやっぱりこういうことに免疫ないのかな? 麻帆良女子中等部って言ってたし……男慣れしてないのか?)い、いや気になったから」

「え、えーっと……は、話さないとだ、ダメですか?」

「無理に話さなくていいからな。単純に俺の興味だから。ゴメンな、急に」

「い、いえー……すいません。慣れていなくてー」

 

 のどかと才人はどこかギクシャクした様子で割り当てられた部屋に戻っていった。のどかの部屋は1人用だったのだが、なぜかそこにはワルドがいた。

 

「待っていたよ、ミヤザキ。君に聞きたいことがあるんだ」

 

 のどかは思わずワルドを警戒した。当然だろう、のどかはワルドを敵だと認識しているのだ。警戒するなという方が無理な話である。

 

「わ、ワルドさん。ど、どうして私の部屋に?」

「言っただろう? 君に聞きたいことがある、と」

 

 ワルドはのどかを注意深く観察しているようだ。のどかが妙な動きをしないかどうか監視しているようだ。

 

「君はどうして、僕をそんなに警戒するんだい?」

「それが、聞きたいことですか?」

「いや、これは君がずっと僕を警戒しているのでね。多少気になっているんだ」

「私の部屋に勝手に入ってきたのに警戒するな、というんですか?」

「これはすまないことをした。確かに、その通りだ」

 

(ワルドさんは一体何をしに私の部屋に来たんだろう。聞きたいことがあるっていうのはきっと本当。でも、本当にそれだけなのかな?)

 

「さて、本題に移ろうか。君の力についてだ。あのルイズを助けた時の瞬間移動のような技術。それを教えてほしくてね。教授しなくてもいいんだ。その名前と特徴を知りたくてね。他にも何か隠しているようなことがあれば聞いておきたいところだな」

東方(ロバ・アル・カリイエ)の技術だと思ってください。なので、あまりお話したくはないです」

 

 のどかはワルドの目的を探ろうと、ワルドの一挙一動を注視していた。ワルドものどかをジッと見ている。

 

「なるほど、それならば仕方ない。では、失礼するとしよう」

「はい、お休みなさい。ワルドさん」

「ああ、お休み。それではね」

 

 ワルドが部屋から出ていくと、のどかはようやく落ち着いて息をすることができた。ワルドはなぜかのどかを鋭い目で見ており、居心地が悪かったのである。

 

(どうして私に話をしにきたんだろう。それに、聞きたかったことのはずなのに、あっさりと引き下がったことも気になるし……)

 

 のどかは思考の海に飲まれていき、そのまま眠ったのであった。のどかが目を覚ますと、アルビオンが見えたぞー!という声が聞こえてきた。

 

(航行中には何も問題なかったってことだよね。昨日はシャワーも何も浴びてなかったし……シャワー浴びようかなー。あるかなー?)

 

 その後、のどかは自分の部屋を見渡す。しかし、シャワールームらしき場所はなかったので、大浴場があるのか、と探しに行ったが見つからなかったので諦めるのであった。その後、空賊がのどかたちを乗せた船を襲ってきたせいで、腕を縛られてしまい、そのまま甲板に引っ張られてしまった。

 

「ほう、貴族の客も乗せているのか。こりゃあ別嬪だなぁ。どうだ、お前俺の船で皿洗いをやらねえか?」

 

 空賊の頭らしき男がルイズの顎を手で持ち上げた。ルイズはその手を叩き落す。

 

「下がりなさい、下郎」

「驚いた! 下郎か、下郎ときたもんだ!」

 

 男は大笑いした。才人はデルフリンガーに手をかけたが、ワルドが止めるよりも速く、のどかに止められた。

 

「才人さん、今はダメです。私たちだけなら構いませんが、船員の方々を危険に晒すわけにはいきません。それに、今一番危ないのはルイズさんです」

 

 のどかの言葉にワルドも同調する。

 

「そうだ、ミヤザキの言うとおりだ。今はおとなしくするしかない」

「クソッ」

 

 才人は苦虫を噛み潰したような表情をした。その後、空賊の頭はのどかたちに近づいてきて、今度はのどかの顎を持ち上げた。

 

「ほう、こっちの娘も中々別嬪じゃないか。お前は俺らの船の清掃員でもどうだ?」

 

 のどかはルイズと違い、頭の手を叩くことはしなかったが、キッと睨みつけてはっきりと言った。

 

「お断りします」

「ほう……気が弱そうかと思ったが、そんなこともねえのか。中々気に入ったぜ」

 

 その後、ワルドと才人を縛るように命令し、自分たちの船に連れ込むのであった。のどかたちは船の船倉に閉じ込められていた。その時にワルドとルイズは杖を、才人は剣を取り上げられた。才人も剣がなければ一般人程度であるし、ワルドとルイズも杖がなければメイジとしての力を発揮できない。ルイズはあまり関係ないのだが……のどかは特に取り上げられるものがなかった。パクティオーカードはただのどかの絵が書いてあるだけに見えるため、取り上げられなかったのである。魔法銃はのどかが冒険者(トレジャーハンター)スタイルの場所にしまってあるので、何も問題はない。つまり、カード最強である。

 船倉には穀物の詰まった樽や、火薬箱、いろいろなものが積まれている。それをワルドは興味深そうに見ている。のどかは積荷を見て、また何か考え始める。才人は船倉の隅に腰を下ろす。その時に激痛が走り、ツッ! という唸り声をあげた。ルイズがそれに気づき、才人に近寄る。

 

「何よ、やっぱり傷が痛むんじゃない」

「大丈夫、これくらいなら」

「ウソよ、ちょっと見せなさい!」

「おい、やめろよ!」

 

 ルイズが強引に才人の袖を捲ると、ルイズは驚愕した。

 

「何よこれ! どうしてもっと放っておいたの!?」

 

 ルイズがこう言ったのは当然である。なぜならば、才人の腕は手首から肩にかけてミミズ腫れが悪化していた。更に、水ぶくれにもなっており、肩も痙攣を起こしている。

 

「別に放っておいたわけじゃ」

「うるさい! ちょっと! 誰か、誰かいないの!?」

 

 ワルドはルイズの様子に驚愕せざるを得なかった。ルイズがこんなにも取り乱すところなど見たことはなかったからである。のどかもルイズの様子に気づき、2人に近づいていった。そして、ルイズがあまりにも大きな声で癇癪を起こしたので、看守がやってきた。

 

「うるせえな、どうしたんだよ」

「水を! それと『水』系統のメイジはいないの!? 怪我人がいるのよ!」

「いるわけねえだろ。水くらいは持ってきてやるよ」

 

 そう言うと看守は奥に引っ込んでしまった。

 

「ルイズ、もういいよ。確かに痛いけどさ、一応捕まってるんだから、おとなしくしていよう」

「な、何言ってるの! ダメよ!」

「ルイズ! 落ち着いてくれ!」

 

 才人が怒鳴ったことで、ルイズは黙ってしまった。顔が歪み、目に涙を溜め、才人から目を背けた。

 

「おら、水だ。それと、食事だ」

 

 看守はぶっきらぼうに水の入った容器と、スープの入った器を渡すと、元の場所に戻っていってしまった。ルイズは船倉の奥で座り込んだ。のどかはそんなルイズにスープを持っていく。そして、微笑みかける

 

「ルイズさん、食事にしましょう」

 

 ルイズは目元を腫らしていた。

 

「あんなやつらの寄越したスープなんて飲みたくないわ」

 

 ルイズはのどかが持ってきたスープを突っぱねた。

 

「でも、食べないと体が動きませんよ」

「…………わかったわ」

 

 ルイズは渋々スープを飲み始めた。全員がスープを飲み終わった頃に看守が戻ってきた。どうやら皿を回収しに来たらしい。

 

「そうだ、おめえらはアルビオンの貴族派か? それとも王党派か?」

 

 看守は思い出したように言った。

 

「それじゃあこの船は貴族派の船っていうことね?」

「いや、それは違うな。一応俺らと反乱軍とは対等な立場で取引しているんだ。まあお前らには関係ねえことだがな。で、どうなんだ? 王党派か? 貴族派か?」

 

 ルイズは看守を睨みつけ、堂々と言った。

 

「誰が薄汚い貴族派なもんですか! 私たちは王党派よ!」

「彼女の言うとおりです。私たちは王党派です。トリステインを代表してここにいます。つまり、アルビオン王国への大使です」

「そういうこと、大使としての扱いを要求するわ!」

 

 才人はのどかとルイズが王党派であることを隠そうとしないので、かなり焦っていた。それはワルドも同じようであった。

 

「ちょ、のどかはともかくルイズは何考えてるんだ!」

「ちょっと、なんでノドカは別なのよ!」

「のどかが考えなしにこんなこと言うわけがないだろ! お前は感情的すぎるんだよ! もっと考えて行動しろ!」

「なっ、何よ! 私とノドカの言動が一致したんだからいいじゃない!」

「ふ、2人とも落ち着いてください。ここからですから」

 

 看守はひとしきり笑ったあと、のどかたちを一瞥して言った。

 

「お前ら、正直なのは美徳だが、どうなるか知らねえぞ」

「え、俺もか!?」

「じゃあな、頭に報告してくらあ。その間にゆっくりと考えるんだな」

 

 看守が戻ってくるまでの間、才人はどうやって脱出するか考えようと言ったが、ワルドの冷静なツッコミによってそれはなかったことになった。半ば諦めかけていた頃に看守が戻ってきた。

 

「頭がお前らに会いたいと言っている。着いてきな」

「上等じゃない……」

 

 狭い廊下を抜け、細い階段を上り、4人が連れてこられた場所は立派な部屋だった。後甲板の上に設置された部屋こそが空賊の頭の部屋らしい。ルイズは息を飲んで、覚悟を決めた様子で、才人もルイズと同じように覚悟を決めた様子で、ワルドは何があっても対応出来るように緊張感を高め、のどかは何かを確信したようだった。

 




アルビオン編もいよいよ佳境です!

感想お待ちしております!


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19時間目

長い間投稿せずに申し訳ございませんでした。決してエタったわけではありませんので、よろしくお願いします!


 のどかたちは(かしら)の部屋に通されると、派手な格好をした男が水晶のついた杖をいじっていた。どうやらこの男が件の頭らしい。周りにはニヤニヤと笑う、ガラの悪い男たちが4人を取り囲んでいた。

 

「頭、連れてきました。こいつらです」

 

4人を連れてきた男が言う。頭は4人を見ると、睨んでいるルイズに気づき、ルイズを舐めるように見た。ルイズはそれがかなり不快だったようで、更に強く睨みつける。

 

「いいね、気の強い女は好きだぜ。子供でもな。さて、名乗りな」

「大使としての扱いを要求するわ」

 

 ルイズは頭の言葉を無視し、毅然として言った。

 

「そうじゃなかったら、あんたたちなんかと一言だって口を聞くもんですか」

 

 ルイズの言動はすぐに殺されてもおかしくないようなものだったため、才人はビクビクしていた。しかし、頭は気に留めた様子もなかった。ルイズの発言を無視して報告にあったことを確認する。

 

「お前ら、王党派と言ったな」

「ええ、言ったわ」

 

 ルイズは毅然とした態度を崩さない。

 

「何しに行くんだ? あいつらは明日にでも消えちまうぞ」

「あなたたちに言うことではありません。少なくとも、今はまだ」

 

 ルイズに代わってのどかが答える。最後はあまり声に出さなかったので、誰にも聞こえていなかったが。

 

「貴族派につく気はないかね? あいつらはメイジを欲しがっている。たんまり礼金も弾んでくれるだろうさ」

「死んでもイヤよ」

 

才人はさすがにまずいと思ったのか、おい、ルイズと言おうとした。その時に気づいた。ルイズは震えているのだ。ルイズは怖くても男をまっすぐ見ている。のどかが小声で話しかけてきた。

 

「才人さん、ルイズさんもあなたと同じなんですよ」

「そう……だな。(俺もギーシュとやりあった時は同じだったよなぁ。あの時と同じなら止めても無駄だよな。ご主人様のお手伝いくらいしねえとな)」

「もう一度言う。貴族派につく気はないかね?」

 

 頭の言葉には次はない、というくらいの気迫が含まれていた。ルイズが答えるよりも速く才人が答えた。

 

「つかねえって言ってんだろ!」

 

 頭が才人を睨む。そう言ったことを何度もしてきたのだろう。人を射すくめるのには慣れた眼光であった。

 

「なんだ貴様は?」

「使い魔さ」

 

 才人は間を空けずに答えた。

 

「使い魔?」

「そうだ」

 

 頭は笑った。大声で笑った。

 

「トリステインの貴族は、気ばかり強くって、どうしようもないね。まあ、どこぞの国の恥知らずよりは何百倍もマシだがね」

 

 頭は、わっはっは、と笑いながら立ち上がった。才人とルイズは何がなんだか分からずに顔を見合わせていた。

 

「いや、失礼した。貴族に名乗らせるならこちらから名乗らねばな」

 

 周りに控えていた男たちは下卑た笑いをやめ直立した。そして、頭は黒髪を剥いだ。黒髪だと思われていたものはカツラだったらしい。そして、眼帯を取り、作り物であるらしいヒゲをベリベリっと剥がすと、現れたのは、凛々しい金髪の青年だった。

 

「私はアルビオン王立空軍大将、本国艦隊司令官……、と言っても今は『イーグル号』しかない無力な艦隊だがね。まあそっちの肩書きよりこっちの方がわかりやすいだろう」

 

 そう言うと、青年は誇らしく、高らかに名乗った。

 

「アルビオン王国皇太子、ウェールズ・テューダーだ」

 

 ルイズと才人は予想外だったのか、ルイズは口をあんぐりと開け、才人は事の重大さを理解しきれずにボーッとしている。ワルドは皇太子を興味深そうに見ている。のどかは少しアテが外れたような顔をしている。

 

「(王党派の船だとは思っていたんだけど、皇太子様が乗っているとは思わなかったなー。もし、貴族派だったら問答無用でやられてしまっていたでしょうしー。貴族派と偽ったほうが安全なんでしょうか……?)」

 

 ウェールズはにっこりと魅力的な笑みを浮かべたあと、4人に席を勧めた。

 

「さて、大使殿。御用の程を伺おうか?」

 

 ルイズと才人はあまりのことに口が聞けなかった。のどかが喋ろうとしたが、その前にウェールズが2人に説明を始めてしまった。

 

「その顔は、どうして私が盗賊風情に身をやつしているのだ? といった顔だね。そこのお嬢さんはなぜかわかるかい?」

 

 ウェールズはのどかに聞いてきた。2人はまだ固まっていたので、緊張が解けるまで、先程と変わらない様子ののどかと話をしようと思ってのことであった。

 

「お、恐らく自軍の補給物資の補充、敵軍の補給経路の破壊を同時に行うというのが真っ先に浮かびます。私たちが乗っていた船の物資を奪ったのもそれが目的だと思います。それを王軍の旗を掲げて行ってしまうとあっという間に包囲されてしまうと思います。なので、安全のために盗賊の格好をしている、ということでしょうか」

 

 のどかが考えていたことを話すとウェールズは驚いたような顔をした。年端もいかないような少女が自分の気まぐれの質問に答えてみせたからだ。

 

「素晴らしい、その通りだよ。しかし、驚いたな。君ほどの年で我々の作戦が看破されてしまうとはね。しかし、あの一瞬でよくわかったものだ」

「いっ、いえ、今のだけでわかったわけではないんです。船倉の積荷を見たときからずっと考えていたんです」

 

 ウェールズはのどかの言葉に疑問を覚えた。

 

「積荷?」

「はい、この船の積荷には食料が多く積み込まれていると思ったんです。でもこの船の積荷は硫黄が多く、食料はほとんど見当たりませんでしたから」

「それだけでなぜこの船が王党派だとわかったんだね?」

 

 ウェールズがのどかに尋ねる。ワルドものどかを注視し始めた。

 

「確証はなかったんですけど、貴族派に売るんだったら大量の食料の方がいいかな、って思ったんです。それにこれだけの硫黄が必要ということは」

「つまり、ミヤザキはこう言いたいのだな。アルビオン王国には火力が必要だ、と。だから、食料ではなく硫黄が必要になっているということだね?」

 

 のどかの言葉を遮り、ワルドが答える。その答えはのどかとは違っていたものの、のどかはそれに頷いた。

 

「なるほど、最近の魔法学院の生徒は賢いのだな。我々ももう少し考えて行動しなければな。そろそろ本題に移ろうか。大使殿?」

 

 ルイズはまだ心の準備が出来ていないらしく、プルプル震えていた。これではまともに喋ることはできないだろう。それを見たワルドが頭を下げ優雅に話し始める。

 

「アンリエッタ姫殿下から密書を預かってまいりました」

「アンリエッタから? 君は?」

「トリステイン王国魔法衛士隊、グリフォン隊隊長、ワルド子爵」

 

 そう言うとワルドはルイズたちを紹介した。

 

「そしてこちらが姫殿下から大任を仰せつかったラ・ヴァリエール嬢とその使い魔、最後にミヤザキ嬢でございます。使い魔の彼と彼女は東方(ロバ・アル・カリイエ)から来たらしいのです」

「なるほど、君のような男があと10人居れば我々の国も今日のようなことにはならずに済んだだろうに! して、その密書というのは?」

 

 ルイズがその言葉で我に返ったらしく、慌てて胸のポケットから密書を取り出し、ウェールズに恭しく近づこうとしたが、立ち止まった。

 

「どうしたのかね?」

「あの、失礼ですが、本当に皇太子様?」

 

 ウェールズは笑顔で答えた。

 

「先程のことを考えれば当然の反応だな。君の優秀な仲間が示したとおり、私たちが王党派で、本物の皇太子さ。なんなら証拠をお見せしよう」

 

 そう言ってウェールズは、ルイズの持つ水のルビーを見つめ、自分の指に光る指輪を外すと、ルイズの手を取り、水のルビーに近づけた。そうすると、2つの石が共鳴し合い、虹色の光を振りまいた。

 

「この指輪はアルビオン王家に伝わる風のルビーだ。君が嵌めているのは、アンリエッタが嵌めていた、水のルビーだ。そうだね?」

 

 ルイズは頷いた。

 

「水と風は、虹を作る。王家の間に架かる虹さ」

「大変失礼をば、いたしました」

 

 ルイズは皇太子に一礼をして、手紙を渡した。ウェールズはその手紙を愛しそうに見つめ、花押に接吻した後、慎重に封を切った。そして、その手紙に目を通し始める。

 

「ああ、何てことだ。姫は結婚するのか? あの愛らしいアンリエッタが。私の可愛い……従妹は」

 

 ワルドは無言で頭を下げ、肯定した。そしてまた、手紙に視線を落とした。最後の一行まで読むと、微笑んだ。

 

「了解した。姫は、あの手紙を返して欲しいとこの私に告げている。何より大切な姫からもらった手紙だが、その姫の頼みとあれば断る理由がない」

 

 ルイズの顔が輝いた。才人もその答えに安堵したようだった。

 

「しかし、今この場にはないんだ。ニューカッスルの城にある。誰が大切な姫の手紙を空賊の真似事をする場に連れてくるわけにはいかぬのでね」

 

 ウェールズは笑って言った。

 

「少々、面倒だが、ニューカッスルの城までご足労願いたい。それまでゆっくりと休むといい。何かあるかね?」

 

ウェールズが笑顔で問いかけると、才人は間髪入れずに答えた。

 

「飯が食いたいです!」

「ちょっとサイト! 失礼でしょ! 申し訳ありません、皇太子様。私の使い魔が……」

「ははっ、いや構わないさ。食事は、そうだな。ニューカッスルの城でご馳走しよう。この船には食料が少ないからね」

「ありがとうございます!」

 

 ルイズは今にも才人を叩きそうな勢いだったが、ウェールズの手前、なんとかこらえていた。4人が退室する前にのどかがウェールズに才人の傷を治すメイジをお願いし、解散となった。

 




久しぶりの上に文字数もあんまりないですが、いろいろと終わりましたので、これから投稿頑張っていきます!

感想お待ちしております!


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20時間目

前回久しぶりに投稿したのですが、すぐに感想をもらうことができて感無量です! 皆さんありがとうございます!

さて今回はのどかがウェールズの信頼を勝ち取れるかどうかの話です!


 のどかたちの乗った『イーグル』号は、敵船に見つからないようニューカッスルに入るために、雲の中を抜けていた。その時に元はアルビオンの船であった『ロイヤル・ソヴリン』号が『レキシントン』と名を変え、敵の手に落ちていたのを目撃したのどかはあることを確信させる。

 

「(あの硫黄の量とこの戦況から考えると、ウェールズ皇太子は……)」

 

 のどかが解決策をずっと考えていると、ウェールズとワルドのやり取りが交わされた後、船が少しずつ上昇し始めた。どうやら、ニューカッスルの入口は大陸の下部分にあったらしい。当然だが、敵はウェールズ達が篭城していると考えている。なので、上から接岸しようとすれば、当然集中砲火を受けてしまう。なので、雲が厚く、船の座礁も多いので気づかれることはないのだ。

 そして、タラップをウェールズはルイズたちを促し、タラップを降りた。そうすると、老メイジがウェールズの郎を労った。

 

「ほほう、これは大した戦果ですな、殿下」

 

 そう言った後、鍾乳洞の中から『マリー・ガラント』号が現れた。それを見たウェールズは頬をほころばせ、

 

「パリー! 喜べ、大量の硫黄が手に入ったのだ!」

 

 と叫んだ。その声を聞いて集まってきた兵隊が歓声をあげた。それは心から歓喜する声だった。地鳴りがすると形容してもいいくらいの声だった。何やら涙を流しているものさえいる。

 

「おお、硫黄ですか! 火の秘薬ではありませんか! これで我々も彼奴らに一泡吹かせ、我々の名誉も守られるということですな!」

 

 そう言うとパリーと呼ばれた老メイジは先程の兵隊と同じようにすすり泣きを始めた。

 

「先の陛下にお仕えしてから60年……これほど嬉しいことはありませぬ! 殿下、反乱が起こってからは、苦渋を舐めっぱなしでありましたが、これだけの硫黄があれば……」

 

 そこまで言うと、ウェールズはにっこりと笑ってパリーに、兵に語りかけた。

 

「王家の誇りと名誉を、叛徒どもに示しつつ、敗北することができるだろう」

 

ゆっくりと、声を張り上げることはしなかったが、その言葉は力強く、決意に満ちていた。同時に誇りを取り戻すことへの歓喜を抑えられないようであった。

 

「名誉ある敗北ですな! この老骨、武者震いがいたしますぞ。して、ご報告なのですが、叛徒どもは明日正午に攻城を開始すると伝えてきましたわい。いやぁ、間に合ってよかったですわい!」

「おお、それは良かった。まさに間一髪とはこのことだな! 戦に間に合わぬは武人の恥だからな」

 

 ウェールズやパリー、兵隊たちは楽しそうに笑い合っている。しかし、ルイズと才人は考えられないといったような表情をしている。なぜなら敗北、という言葉はすなわち死ぬということであるからだ。この人たちは死ぬのが怖くないのだろうか、ルイズがそう思ってしまうのも無理はないだろう。のどかも苦虫を噛み潰したような表情をしている。

 

「ねえ、ノドカ。もしかして、き……気づいていたの?」

 

 のどかの表情を見てルイズが疑問を口にする。

 

「……はいッ、出来れば当たってほしくはなかったんですけど……」

 

 のどかを見てルイズも悔しそうに下。ウェールズを止めることはできないだろう、と悟ってしまったのだ。

 

「(何か、何か方法があるはずです……!)」

 

 笑い合っていたパリーがウェールズにルイズたちのことを尋ねていた。

 

「トリステインの大使殿だ。王国から重要な案件で参られたのだ」

 

 パリーは滅びゆく王国に一体何の洋画あるのかと訝しげな表情をしたが、すぐに笑顔を作った。

 

「ようこそいらっしゃいました、大使殿。殿下の侍従を務めさせていただいております。遠路はるばるご苦労様でした。今夜はささやかながら祝宴をご用意しております。是非とも参加してください」

 

 パリーがそう言ったあと、ウェールズに連れられ、ルイズたちはウェールズの自室に来ていた。ウェールズの自室は王族とは思えないほど質素な部屋であった。木で出来た粗末なベッド、同じような木の椅子、テーブルなどなど。そして、ウェールズは椅子に座り、机の引き出しに自分の首からかけていたネックレスを外した。そして、それを引き出しから出した、箱に差し込んだ。どうやら鍵になっているらしい。ルイズがそれがなんなのか気になって覗いたので、ウェールズは少し照れくさそうに微笑みながら、言った。

 

「宝箱でね」

 

 その後、アンリエッタからの手紙を渡される際にルイズはそれがアンリエッタとの恋文であるのではないかと考え、それを指摘したが、ウェールズはそれを否定した。しかし、その口調や表情から察するにルイズの指摘したことは図星であったようだ。更に亡命のことを示唆していたということも見破り、同じように追求した。ウェールズも同じような態度を取ったので、ルイズはそれを見逃すはずもなかった。

 

「殿下! トリステインに亡命なさいませ! 恐らく姫もそれを望んでいるはずです!」

 

そこで唐突にワルドがルイズの肩に手を当て、ウェールズに言った。

 

「お願いでございます! 私たちと共にトリステインにいらしてくださいませ!」

 

 ルイズはワルドが自分の考えに賛同してくれたことを心強く感じ、ワルドを見た。

 

「それはできんよ」

 

 ウェールズは困ったように笑った。

 

「ですが! 姫さまからの手紙にはそう書いてあったのでしょう? ですから!」

「そのようなことは書かれていない。アンリエッタは王女だ。市場だけでそのようなことを書くはずがないだろう? それに仮にそのようなことが書かれていたとしても私は今と同じことを言うだろう。それほどまでに、私の決意は固いのだ。そう思っているから君も黙っているのだろう? ミヤザキ嬢?」

 

 のどかは小さく頷いた。ウェールズの意思が固い以上、のどかに出来ることはない、と思っていたからだ。しかし、ルイズは諦めようとしなかった。

 

「どうしてノドカ!? 決意が固くてもあなたなら何でもできるんじゃないの!?」

 

 ルイズは後半には瞳に涙を浮かべていた。今にも溢れ出しそうなほどだ。ワルドが優しくルイズの肩を抱いた。

 

「……ルイズさん、私にはそんな力はありません。戦力差をひっくり返すような圧倒的な力も、作戦も思いつきません。皇太子様が亡命するつもりが少しでもあるならって思っていたんですけど……それにルイズさん、これは王女様の名誉を守るためでもあるんです。仮に亡命を薦める内容が手紙に書いてあったとして、皇太子様が亡命したとすると、王女様は情に流された、と家臣に思われてしまいますから。そういった理由もあるかもしれません」

 

 ルイズは今度こそ諦めたようだった。ここで、少し落ち込んだルイズの手を取り、まっすぐ見つめていう。

 

「君は正直な女の子だな。ラ・ヴァリエール嬢。だが、大使がそのように素直では務まらんよ。しっかりしたまえ」

 

 ウェールズはにっこりと笑って言った。

 

「しかしながら、このような滅び行く王国への大使としては適任かもしれぬ。滅びを待つだけの王国は誰よりも正直だからね。守るのは名誉だけさ。対して、ミヤザキ嬢は大使向きだ。相手の言動や、周囲のモノを見て、そして自分で仮説を立て、それが当たっている。大使よりは参謀の方が適しているかな」

 

 ウェールズはそう言うと大きく咳払いをした。

 

「今宵はささやかながら祝宴だ。君たちは王国最後の客だ。存分に楽しんでくれたまえ」

 

 3人が退室したあと、ワルドだけは少し用事があるからと部屋に残った。のどかは退室こそしたが、2人に先に行くように促した。自分もウェールズに用事があるのだ、と言って。

 

いどのえにっき(ディアーリア・エーユス)簡易小型版二冊分来れ(・ミノーラ・ドゥオアデアント)

 

のどかは小さく分割した自身のアーティファクトを出した。大きい本ではなく、メモ帳が複数個ある。これはのどかが修行で身につけた成果の一つである。そのうちの一冊を手に取り、呟く。

 

「ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド」

 

そしてメモ帳となった『いどの絵日記』を開く。するとすぐにワルドが出てきた。どうやらそんなに多くは話していなかったらしい。のどかは、いつものように『読み上げ耳(アウリス・レキタンス)』はつけていない。先程までの格好と変わっているとワルドに怪しまれるからだ。メモ帳となった『いどの絵日記』も開いたままルイズが密書を入れていたように、既に胸ポケットに入れている。

 

「おや、ミヤザキ。君も殿下に用事かね?」

「はい、少しだけお話したいことがありまして」

「ふむ、そうか。僕もご一緒させてもらってもいいかな?」

 

 ワルドの目が鋭さを増す。一つでも間違えればここで殺してもおかしくないくらいであった。殺気こそうまく隠し通しているが、どうなるかはわかったものではない。

 

「別にいいですけど、ワルドさんはルイズさんに付いていて欲しいなと思っています。今ルイズさんは不安でいっぱいだと思うので」

 

 ワルドに対して、のどかの切札(ジョーカー)はルイズだ。いきなり使うことで、さして重要ではないという印象を与えるという効果が得られるが、逆に何かを焦っているとも思わせることにもなってしまう諸刃の剣だ。

 

「そう……だな。ルイズは今日のことはショックだっただろう。確かに婚約者である僕の役目だな。それに、僕も彼女に話したいことがあったしね」

 

 ワルドがそのまま進んでいこうとしたところでのどかは呼び止めた。

 

「ワルドさーん」

 

 足を止め、ワルドが振り返る。

 

「なんだい?」

 

 一目でワルドが警戒しているとわかってしまうほどにピリピリしていた。

 

「ルイズさんとよく一緒にいるんですけど、ワルドさんの目的ってなんでしょう?」

 

 ワルドには見えないが、のどかには冷や汗が流れていた。『目的』という言葉を使ったからだ。分の悪い賭けだった。ワルドにのどかの能力が露見していないとは言え、危険なことであるには変わりはない。もしかしたらバレるかもしれないからだ。

 

「目……的? 決まっているじゃないか! ルイズと結婚することさ!」

 

のどかはハッとした表情を浮かべた。

 

「皇太子様にお願いって、もしかして?」

「ああ、その通りだ」

「ちょっと早い気がしますけど、おめでとうございますー」

「ああ、ありがとう。では」

 

 ワルドが見えなくなるまでのどかはウェールズの部屋には決して入らなかった。見えなくなったあと、アーティファクトを確認してから、ノックをしてウェールズの部屋に入る。

 

「おや、どうしたのかね、ミヤザキ嬢?」

「ウェールズ・トゥーダー様にお話がありまして」

「話? 私にかい?」

 

 ウェールズは心底不思議そうな顔をする。先程までのどかからは皇太子様と呼ばれていたのにフルネームにされたからもあるが、のどかから話などないだろうと思っていたからだ。そののどかはと言うと、小さなメモ帳のようなものを2冊開いている。

 

「はい、いきなり本題に入ります。ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド彼をどう思いますか?」

 

 ウェールズますます不思議そうな表情を強める。のどかの真意が掴めないでいるようだ。疑問に思いつつも、答える。

 

「そうだな、彼は立派なメイジだと思うな。グリフォン隊の隊長なのだから」

「なるほど、では、そのワルドさんが、アルビオン王国の敵である『レコンキスタ』の一員だとしたら信じますか?」

「信じると、思うかね?」

 

 ウェールズはのどかに杖を向ける。しかし、のどかは避けるようなことをせず、まっすぐウェールズを見つめ続ける。しばらく睨み合いが続いたが、ウェールズが折れた。

 

「話だけなら聞こう。何より、君たちの前で『レコンキスタ』の名を出していないのに君がそれを知っているということも気になるからね」

 

 のどかはふぅっと肩の力を抜いて一歩ウェールズに近づいた。

 

「ありがとうございます、ではこれを見てください」

 

そう言ってウェールズにメモ帳となった『いどの絵日記』を渡す。

 

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

ん? ミヤザキノドカ。なぜここにいる。まあいい。

こいつがウェールズに用事? なんの用だ。何かを伝えようとしているのか?

ならば私も一緒に入ればいいだろう。妙なことを言おうとすれば、この場で殺す。

ルイズが? クッ、婚約者であるという建前がある以上これ以上の追求は自分の首を絞めるか。まあいい、こいつが何を言おうとウェールズの信頼は私のほうが上なのだからな。

 ルイズに明日結婚するということを伝えなければ……

 なんだ、まだ何かあるのか? うるさい女だ。

 目的?そんなこと決まっているだろう。第一に虚無の担い手である可能性の高いルイズを我ら『レコンキスタ』のものにするため。婚約など本当はどうでもいい。第二にルイズがウェールズからもらったあの手紙だ。アレがあればトリステインは弱体化し、ハルケギニア再興に近づく。そして第三、それはウェールズの命。これで我々は兵を失わずにアルビオンを奪うことができる。それが目的だ。しかし、ここはルイズのことを聞いているのだろうな。

 ふっ、私が情報を漏らすことなどあるはずはない。残念だったな、ミヤザキノドカ

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

渡されたものに書かれたことを見てウェールズは目を白黒させた。

 

「なんだこれは?」

 

 その声は怒りに満ちていた。のどかに対しての怒りだ。のどかは若干気圧されながらも答える。自信を持って。

 

「それはワルドさん本人の思考です。人の思考をリアルタイムで追跡(トレース)する。これが私の能力です。それは先程ワルドさんから引き出した情報です」

 

 のどかは自信に満ちたキリッとした表情でウェールズを見る。

 

「信じられない」

 

 ウェールズの言葉はそれだけだった。

 

「今あなたにもそれは使われています。信じていただけるのであれば、その力をお見せします」

「なるほど、そっちのメモ帳に書かれているのだな。現在も」

「はい、ですから今皇太子さまが私に対して不信感を募らせているのもわかっています」

 

 ウェールズは顔を歪ませている。眉間に皺がより、のどかのことをどう判断して良いか迷っているのだ。そして、のどかが信じてもらうために、一つ提案をする。

 

「皇太子様、私からご質問してもよろしいでしょうか?」

「では、私の答えと一字一句違わなければ信用しようじゃないか」

「わかりました。では……アルビオンの国民が死んでしまうことについてどう思っていますか?」

 

 ウェールズが言い淀んでいると、のどかが先に口火を切る。

 

「死んで欲しくない、私のことなどいいから逃げて欲しい。死ぬのは王族の自分だけで十分だ」

 

 のどかの言葉はウェールズの考えと一字一句違うことはないと、ウェールズは認めた。

 

「わかった、君のこの力を信じよう。よって子爵のことも真実なのだろう。恐れ入ったよ。まさか読心術師とは……」

「出来ればこのことは内密にお願いします。ワルドさんが動くのは明日の結婚式だと思われます。その時にあなたを殺害し、ルイズさんを連れ去る。こういうシナリオだと私は思っています」

「そうか、だから子爵は私にアレを頼んだのか。私の命はこの国と共にある。賊などに命を取られるつもりはない。感謝する。ミヤザキ嬢、君がこの国に居てくれればこのようなことにはならなかったであろうに。実に惜しい人材だ」

「ありがとうございます」

 

 そう言ってのどかはゆっくり微笑んだ。今のウェールズに対して謙遜するのは失礼であるように思われたからである。ウェールズに会釈をしてからのどかは、部屋を退室した。結婚式の時に本性を表すと睨んでいるが、祝宴の時に事を起こしてもおかしくはないからである。戦いに備えて魔法銃をいつでも使えるように準備して会場に向かった。

 




アルビオン編クライマックスです!

感想お待ちしております!


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21時間目

ゼロの使い魔が完結のプロットあったらしくて、続巻決定したらしくてすごく嬉しいです!

今回でワルド戦終了です。長らくお待たせしました。新生活に慣れなくて時間取れなかったです。


のどかと才人はイーグル号の艦上にいた。ワルドとルイズは今結婚式の途中だろうということは、のどかにも才人にもわかっていた。才人は黙ったままののどかに話しかける。

 

「なあ、のどか。なんでこんなところにいるんだよ。奇襲って言ってたけど少し遠くないか?」

 

 才人の疑問は最もだ。今まさにルイズとワルドが結婚しようとしているのにも関わらず、2人は艦上にいるだけなのだから。しかも昨日のことを才人にも話しているので、ここで待っているというのが不思議でならないといった様子だ。

 

「そうですね、もういいと思います。私はワルドさんに警戒されていましたから、おとなしくここで待っていないと何をされるかわからなかったんです。でも、もう大丈夫そうなので、そろそろ行きましょう。今は警戒の目も薄れているはずです」

「なるほどな、俺だけいてものどかの作戦だって思われちまうかもしれなかったのか。オーケー、行こう」

 

 才人とのどかはイーグル号から降り、閑散とした結婚式へと乗り込んでいった。ワルドに気づかれないようにだが。

 

「才人さん、無理はしないでくださいね。腕の怪我もありますから。私個人ではそんなに力はありません。何とか隙を作るので、お願いします」

「ああ、わかった。なあ、のどか。さっきから左目がぼやけてきてるんだけど、なんでかわかるか?」

 

 そう言って才人はしきりに目をこすっている。

 

「いえ、わからないですー。すみません」

「いや、ゴメン。いいんだ。あ、これってルイズの……?」

 

 才人の目はルイズとリンクをしていたのである。伝説の使い魔『ガンダールヴ』としての能力である。その証拠に才人の左手の紋章が白く光り輝いている。

 

「ゴメン、のどかわかった。これ、『ガンダールヴ』の力なんだ。きっとルイズが危ない」

「みたいですね、ギリギリ間に合いました」

 

 のどかと才人がルイズたちがいる場所にたどり着いた時には、ワルドが激しく狼狽しているのが見えた。話を聞くと、ルイズがワルドとの結婚を拒んだのだ。そして、のどかは戦闘の準備をし始める。ワルドは未だにルイズを説得しようとしている。

 

来れ(アデアット)

 

 その言葉とともにのどかの体は光に包まれる。光が消え、現れたのはリュックを背負い、白を基調としたフード付きの長袖ワンピースに同じようなスウェットパンツ、黒いソックスを履いていた。トレジャーハンターの時のものだ。昨日カードにしまっていた、服に着替えてから、またこの衣装にチェンジしたのだ。そして、アーティファクト『いどのえにっき』を手に持ち、ワルドの名前を唱えてから開く。読み上げ耳(アウリス・レキタンス)も耳につけ、魔法銃を取り出し、準備を完了した。

 

「ふぅ、あと少しですね」

「のどかでも緊張するんだな。ちょっと意外だ」

 

 才人の言うとおり、のどかは緊張していた。理由は簡単、のどかにとってワルドは格上の相手だ。奇襲とはいえワルドが油断しきったところを狙わなければ、ウェールズは助けられない。

 

「才人さんは私を買い被りすぎですよー。緊張だってします。怖いです。守られてばかりでした。変わりたかったんです。それなりに頑張っても怖いものは怖いんです。ゴーレムと戦うのだって本当は嫌だったんですよー」

「ウソだろ? 俺に比べたらのどかは本当にすごいやつだけどな」

「ふふっ、才人さん、ありがとうございますー。じゃあ行ってきます。少し、緊張がほぐれました」

 

 のどかは才人に向けていた顔をワルドたちの方に向けた。そして『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』を発動させ、魔法銃をワルドに打つと同時に瞬動。ワルドたちの方向ではなく、先程いた場所から斜め右に飛ぶ。移動しながら一発。着地してから二連続でトリガーを引く。

 

「何ッ!? 銃だと!?」

 

 銃声のある方向にワルドが目を向けると、既に光弾が迫っている。ウェールズに放とうとしていた魔法を光弾の相殺のために発動。打ち消したと同じくらいにまた銃声。今度は先程の位置から少しずれた場所。移動しながら打っているのだ、と推測できた。更に二発。光弾が迫っていても、ワルドは冷静だ。

 

「実弾ではない代わりに、速射性に優れている光弾か。ミヤザキノドカの銃か。確かに速いが威力は弱いな。『閃光』をなめるなよ!」

 

 その言葉と同時に魔法を使用し、迫る三つの光弾を同時にかき消した。ワルドの魔法が大きな音を立てた。その瞬間にのどかは再び瞬動を発動させ、一瞬でウェールズとルイズをワルドから遠ざける。

 

「ありがとう、助かったよ、ミス・ミヤザキ。君なら来ると信じていた。私も微力ながら手伝いをさせてもらうぞ」

「いえ、奇襲でしたから。これからが勝負です。それに逃げてください。殿下が殺されてしまっては……」

「いや、君一人では彼の相手は難しいだろう。私も手伝わせてくれ」

「わかり……ました」

 

 のどかがウェールズの参戦を悔しそうに認めている中、ルイズが悲痛な声を上げて叫ぶ。

 

「待ってください! 殿下はお逃げください!」

「ルイズさん……」

「一人がダメなら(わたくし)がいます! ですからお逃げください!」

「逃げるわけにはいかない。私が逃げるわけにはいかないんだ。わかってくれ、ラ・ヴァリエール嬢」

「そんな……」

 

 ルイズが諦めたような顔をしているところで、ワルドの魔法が飛んできた。風の魔法『ウインド・ブレイク』だ。のどかは落ち着いて、それを打ち落とす。

 

「(裕奈さんや龍宮さんみたいに銃を上手く扱えないけど、それでも!)殿下、ルイズさん。援護をお願いします。殿下、『合図』と同時に攻撃をお願いします」

「任された」

「ノドカ……ええ、わかったわ!」

 

 のどかは再び瞬動を発動。ワルドに飛びかかる。ワルドは再び『ウインド・ブレイク』を繰り出す。しかし、のどかは何もしない。

 

「やはり、途中で向きを変えることはできないようだな! そのまま吹き飛ばされるがいい!」

 

 のどかは『ウインド・ブレイク』に対して魔法銃を使わなかったのには理由があった。同じ魔法ならば、同じ魔法で相殺すればいいだけのこと。そして、ワルドの放ったものと何かがぶつかって消えた。

 

「なめるなよ、子爵、いやワルド。私とて『風』のメイジだ! 『ウインド・ブレイク』には『ウインド・ブレイク』だ!」

 

 ワルドはウェールズを睨みつけ、「ウェールズ……」と憎々しく言った。のどかは一瞬でも注意がウェールズに向いているあいだに、ワルド背後へ着地を成功させ、ゼロ距離で、魔法銃を連射する。できる限り多くのダメージを与えるために。

 

「今です!」

「ぐっ、しまった!」

 

 ワルドが気づくも、のどかの狙い通りだった。今度はのどかに注意が向いた瞬間にウェールズが魔法を放つ。のどかの先程の言葉は自分へ注意を向けると同時に、ウェールズのことをワルドが思考の外に追いやった瞬間に、ウェールズが魔法を放つタイミングを指示するためでもあった。しかもそれを逃さないのが『いどのえにっき』の強みである。

 のどかの魔法銃は『魔法の矢(サギタ・マギカ)』一発分の威力だが、ゼロ距離ならばもっと威力は上がるが、ワルドにとっては大した威力ではないことは明白。だが、それものどかの作戦。

 

「グゥッ! この程度!」

「(今ワルドさんはウェールズさんの魔法に気づいていない。もっとギリギリまで引き付ける!)」

 

 ワルドは狙い通りに引き付けられ、のどかに『ライトニング・クラウド』を浴びせようとする。詠唱を始めたと思ったらワルドの身体が吹き飛んだ。ウェールズの魔法が炸裂したのだ。

 

「何だと!? しまった、ウェールズか!(なぜこうも後手、後手にまわる! グリフォン隊の隊長まで登りつめたこの私が! あの勢いを利用し突き刺してやる。やつは殺しても問題はない)」

 

 ワルドが吹き飛ばされたあとに、のどかは追撃をかける。ワルドはそれを見越して、杖を突き出す。のどかはそれを読み、杖が届くギリギリで着地するように調整、一歩踏み込む。ワルドの腕を掴み、ワルドを投げ飛ばす。そして、ここで『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)が切れてしまう。のどかを覆っていた光が消え、その場にへたり込む。息も絶え絶えになっていた。これでワルドが気を失わなければ、のどかは敗北するだろう。

 

「(意識は……? 途切れて……ない。そんな……)はぁっ、はぁっ」

 

 のどかはケホケホっ、と咳き込んでいた。それまでに真剣に戦ったのだ。しかし、ワルドはまだ意識を持っている。両手を地面について肩で息をする。ワルドを投げた方向を見ると、土煙の中から横に並ぶ4つの影と後ろに1つの影が見えた。

 

「偏在……」

「その通りだ。ミヤザキノドカ。君はもう燃料切れのようだな。恐ろしいよ、この私が何もできなかった。どうしてかはわからないが、君は僕の行動を読んでいたということになる。その浮いている本に仕掛けがあるのか、まあいい。これまでだな。『偏在』は使うまでもなかったか」

 

 ワルドはゆっくりとのどかに近づいている。勝利を確信しているのだろう。

 

「させないわ! 『ファイヤーボール』!」

 

 ルイズがワルドの影に向けて魔法を放つ。しかし、それは見当違いの方向に飛んでいき、天井に当たる。そこが崩れて、ワルドの影に雨のように細かくなった破片や、岩のような大きさの破片が集中する。しかし、5人のワルドは危なげもなく、それらを避ける。ルイズはその間に、もう一度『ファイヤーボール』を発動させ、一体に命中させた。

 

「やった! 消せたわ!」

「ルイズ、悲しいよ。矯正するしかないんだね」

 

 ワルドのうちの一体が、ルイズに迫る。当然ウェールズが魔法で妨害をするが、『閃光』の名のごとく、凄まじい速さで迫る。

 

「クッ! 速い! 間に合わな……!」

 

 ウェールズを刺し殺そうとワルドが杖を振り上げた時だった。そのワルドの身体が真っ二つになった。

 

「させるかよ! のどか、もういいんだよな!」

「そうだぜ、相棒。それでいいんだ!」

 

 岩陰から現れたのは才人だった。デルフリンガーも才人を鼓舞する。ワルドは才人見て、すぐにのどかに向き直った。そして才人の方に二体を向かわせ、のどかに近づいていく。

 

「のどか! 今こいつら片付けてそっち行くから待ってろよ!」

「サイト……どうして? あんなに酷いこと言っちゃったのに」

「決まってるだろ? ご主人様を助けるためさ。安心しろ、ルイズ。お前を絶対助けるから!」

 

「才人さん……お願いします」

 

 のどかは力なくつぶやいた。そして、魔法銃でワルドを狙うが、当然避けられる。何度も何度も同じことを繰り返し、ワルドがのどかの目の前に立ったところで、魔力切れなのか、魔法銃がカチカチと乾いた音を鳴らすのみとなった。

 

「さて、もう限界のようだな。お前は一番恐ろしい。死んでもらうが、それでは私のプライドが傷ついたままだ。楽に殺しはしない」

 

 ワルドは杖を引き抜き、『ライトニング・クラウド』の詠唱を始める。

 

その頃、才人たちは二人のワルドに苦戦を強いられていた。ルイズは気絶し、ウェールズも左肩に傷を負い、右手でそこを抑えている。2人のワルドを相手にしては、援護に回れず、ひたすらワルドの攻撃を回避するしかなかったようだ。その中で、ウェールズは傷を、ルイズは魔法か何かで気絶させられたのだろう。その後、デルフリンガーが真の姿を現して、その力で魔法を吸い込むなどしてもかなり厳しいようだった。

 

「クソッ! こいつらやっぱり腐ってもワルドだな。かなり強え、なんとかしねえと! デルフ! なんか必殺技とかねえのかよ!」

「そんなもんあるわけねえだろ、相棒」

 

 ワルドが疑問を投げかけてきた。才人の力量が上がったわけでもないのに、この場に戻ってきたからだ。才人は先程からワルドにこっぴどくやられている。足は震え、怪我している腕は痙攣を起こしている。もうフラフラの状態だ。

 

「お前、なぜこんな死地に戻ってきた? さっきルイズを助けるとか言っていたな。それはつまり、ルイズに惚れていたということか?」

「惚れてなんかねえ! うおっ!? てめえ!」

 

 話途中にワルドが挟撃をしかける。才人はそれを何とか縦に飛んで回避する。

 

「ちっ、なかなかにすばしっこいやつだ。次で決めるが、その前に、だ。先程の答えを聞こうか」

 

 ダメージは確実にあてているが、決定打になる一撃を才人が上手く回避していた。それに苛立たっているようであった。更に、少し前にのどかにこっぴどくやられたせいだろう。しかし、それ以上に才人に興味があるようにも見えた。

 

「ただ……せいッ!」

 

 才人は先程のお返しと言わんばかりにデルフリンガーを縦に振るう。ワルドは意に介した様子もなく、次を促す。

 

「ただ、なんだね?」

 

 才人は一度顔を伏せてから、はっきりとワルドの顔を見て叫んだ。

 

「ドキドキすんだよ!」

「ドキドキだと?」

「ああ、そうさ! 顔を見るとドキドキすんだよね! それだけだ! 理由なんかどうでもいい! だからルイズは俺が! 守るッ!」

 

 絶叫しながらもワルドにデルフリンガーを振るい続ける。縦に振り下ろす、避けられたなら、手を返してもう一度、斜め、横、順々に振るう。ワルドはそれを避ける。その時だった。

 

「思い出したぜ、相棒! 先代の『ガンダールヴ』もそうやって力を溜めてた! そうだ! 感情だ! 怒り! 悲しみ! 喜び! そして、愛! なんだっていい! 感情を爆発させろ! それが『ガンダールヴ』だ!」

 

 デルフリンガーが叫ぶ。その声に合わせて才人はスピードは上がっていく。ワルドは最初こそ捌いていたものの、段々と追いつかなくなってきているのがはっきりとわかる。そして、才人の速度に追いつけなくなったワルドが1人切り伏せられた。

 

「きゃあああああッ!」

「のどか!」

「ミス・ミヤザキ!」

 

 切り伏せたと同時に、のどかの悲鳴が木霊した。才人とウェールズの悲痛な声が響く。全身を青白い電撃が走っている。手足がピクピクと動いて震えているのがわかる。それでもまだ気を失ってはいないようだった。

 

「ほう、また何か妙なものを使ったのか。『ライトニング・クラウド』を受けてもまだ意識があるとは。しかし、時間がなくなった。私があいつの相手をしないといけないらしいからな」

「どうでしょうね。ただ、『白き翼(アラアルバ)』を甘く見ないことです」

「ふん、くだらん」

 

 そして、杖に魔法をまとわせる。『エア・ニードル』だ。先程、ウェールズを殺そうとし、のどかにカウンターをあてようとした魔法である。杖にまとわりついた風が唸りをあげる。

 

「さらばだ、ミヤザキノドカ」

「(今だ……!)」

 

 のどかに『エア・ニードル』が迫ろうとした刹那、ワルドの体が硬直した。先程、のどかに散々やられた箇所。つまり、背中からの一撃。完全に死角だった。

 

「バカな……。なぜ……?」

「はあッ!」

 

 のどかはワルドを投げ飛ばす。才人が戦っている場所へ。そして、一人呟く。ワルドに聞こえているかはわからないが」

 

「はぁっ、はっ、あっうぅ。ゆ、だんしまし、たね。私の作戦勝ち、です」

 

 のどかの作戦とは最初の奇襲からだった。ワルドがどういう対策を取るのか、常に把握できていたのどかはある作戦に出た。最初に速射性の高い魔法銃を使い、ワルドの出方を見る。ワルドがどう対処するかを読心してから魔法銃で連射する。そして、三つの光弾をかき消すためにワルドは大きな魔法を使う。その音に合わせて今度は打ってからホールドすることのできる光弾を何発も放つ。この光弾はのどかのタイミングで放つことができる。その間、魔力を消費し続ける必要があるが。当然、音が鳴り続いている間に。光弾は上空で合成され、一つになる。あとはワルドに感づかれないようにする。ルイズの魔法でかき消されるかもしれなかったが、何とかうまくいったようだった。『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)』を止めて、疲弊しきったふりをする。そして、魔力を充填した魔法銃でワルドに対して時間稼ぎ。『ライトニング・クラウド』に合わせてもう一度『戦いの歌(カントゥス・ベラークス)を発動。意識を飛ばさないようにする。完全に油断しきったところで、ホールド弾を解除し、最後の力で才人の方に投げる。これが作戦である。予想外のことはルイズの魔法だけであった。あれでホールド弾にあたっていたら、全てムダになっていたことになる。運も味方したということである。

 

「のどかうまくいったんだな! あとは任せろ!」

 

 ワルドの本体が飛んできた時にはもう一体を切り伏せていた。予め、のどかから作戦を聞いていた才人は一瞬動揺したが、それをなんとか飲み込んで、すぐに目の前のワルドに切り替えることができたおかげで、ワルドを切り伏せることに成功していたのだ。

 

「あとはお前だけだ! うおおおおッ!!」

「グァァッ!?」

 

 体勢を崩していたワルドは才人が迫るのを見て避けようとしたが、完全に避けることはできず、左腕を切り落とされた。

 

「クッ、目的の一つも果たすことが出来んとは……。まあいい! ここにはすぐに『レコンキスタ』の軍が攻め込む! 聞こえるだろう? 歩兵の足音や、竜の羽音が!」

「待ちやがれ!」

 

 才人はワルドが逃げるのを追おうとしたが、体力も限界に近いのだろう。その場に倒れ込んでしまった。ルイズの側へ地面を這いながら移動する。のどかは歩くだけの体力はあるらしく、才人たちの方へ歩いていく。ウェールズはのどかたちに水の魔法がかかった薬を渡していた。

 

「我々がなんとか軍を食い止める。その間に君たちは逃げてくれ。方法は……すまない。何も用意することはできない。でも、なんとか逃げてくれ。もう会うことはないだろう。君たちに勲章を授けたいところだが、あいにくとそんな時間も力もなくなってしまったからな。すまない」

 

そう言うと、自分を待つ艦隊へと歩いていった。その後ろ姿は王族にふさわしい貫禄に溢れていた。のどかは歯を食いしばってその後ろ姿を見送った。その目には涙が溜まっている。才人も同様であった。ウェールズが去り、才人とルイズ、そしてのどかが残されていた。どうしようかと悩んだところで、地面がポコッと盛り上がったのであった。

 




魔法銃とかオリジナルだけど良かったでしょうか?

感想お待ちしております


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22時間目

皆さんのおかげでお気に入り登録数が500件を超えました! ありがとうございます! 不定期更新になりがちですが頑張ります!


 土が盛り上がった後にポコッと出てきたのは、でかいモグラだった。才人はそのでかいモグラに見覚えがあった。ギーシュの使い魔であるヴェルダンデである。

 

「ヴェルダンデ……? どうしてここに」

 

 才人が疑問を口に出したあと、ヴェルダンデはルイズに飛びかかっていた。鼻をしきりに鳴らしながら、ルイズを舐めまわすように鼻の先で小突いている。才人は何してんだ、とモグラを止めようとしたが、どうにも体力がない。のどかはヴェルダンデの行動をただ見ているだけしかできなかったようだ。モグラが開けた穴から人影が現れた。ギーシュの使い魔であるならばその影は当然ギーシュだ。

 

「コラ! ヴェルダンデ! どこまで穴を掘るつもりだね! 別にいいけど!」

 

 ギーシュは才人とのどか、横たわっているルイズを見たあと、とぼけた声で言う。

 

「君たち、こんなところにいたのかね。」

「おまえこそ! なんでこんなところにいるんだよ!」

 

 才人は怒鳴った。ギーシュはそんなことは意に介さず、自分の髪の毛をいじりながら答える。

 

「いや、なに。華麗に盗賊どもを追っ払ったあとで、君たちをすぐに追いかけたのさ。そして、ヴェルダンデがここまで導いてくれた、というわけさ。この任務は姫殿下の名誉がかかっているからね。ところで、ミヤザキくんがやけに疲弊しているようだが、大丈夫なのかね?」

 

 ギーシュは才人に軽く答えたあと、のどかの様子が普段よりも疲弊していることに気づき、気遣った。この辺りはさすがに紳士的である。

 

「大丈夫、ですよー。大したことないですからー」

 

 のどかはそう言うが今にも倒れそうな状態だった。

 

「あら、ノドカ派手にやられたわねー」

「キュルケさん……」

 

 今度は穴からキュルケの姿が現れた。キュルケは穴の外に出たあと、顔をハンカチで拭いていた。土埃で汚れているのが気になるだろう。そうしながら、キュルケは先程のギーシュの言葉を訂正する。

 

「ギーシュ、盗賊を倒したのはあたしとタバサのコンビネーションのおかげでしょ~。だいたいあんたがやったことなんて、酔っ払って鍋持ってきただけじゃないの」

「なっ、何を言うのかね! 女神の杵を出た後は役に立っただろう!」

「ええ、盗賊のいい的になってたわー。ついでにあたしの」

「そうだ! 君の魔法は危なっかしい! もっとちゃんと狙いたまえ! 僕とワルキューレが前線で頑張っているというのに君は……」

 

 ギーシュの小言は聞き飽きたようで、キュルケはタバサのシルフィードに乗ってきたことをのどかたちに伝えた。

 

「なるほどな。それでここまで来たってことか。ってちょっと待て! そんなこと言ってる場合じゃないんだ!」

「どうしたんだね?」

「て、敵だ! 敵がすぐそこまで来ているんだよ! 早く逃げるぞ!」

「逃げるって……任務は? ワルド子爵は?」

「ワルドさんは、敵でした。手紙も手に入れましたー」

「そういうこと、後は帰るだけだ!」

 

 その時に竜の雄叫びが聞こえ、洞窟全体が揺れるような地響きが起こった。これは大量の歩兵が攻め込んでいるのだろう。その音が止まった。その後のどかたちがいた建物の前方が崩れ始めた。それを見聞きしたキュルケとギーシュが慌てている。しかし、のどかと才人は何が起こったかわかっていた。2人は呟くように話し始める。

 

「ウェールズ皇太子だ。敵を食い止めるって、会うのも最後だって言ってた。きっとあの人がここが崩れない程度に建物を壊す仕掛けをしたんだ。そしたらここにいる俺たちは助かるかもしれないから」

「そう、ですね。私たちは助かっても……。一緒に逃げられたらって思ったんですけど……国に殉じるんですね」

 

 のどかは顔を伏せた。才人はのどか以上に深い悲しみや怒りを覚えたらしく、拳を強く握り、震えていた。そんな才人やのどかにギーシュとキュルケは声をかけられずにいた。しかし、のどかが才人の肩に手を置いた。才人が振り向くと、のどかは一筋の涙を伝わせながら、帰りましょうと悔しそうな顔で言った。

 

「ああ」

 

 才人は頷いた。のどかの思いを察しながら。隣に寝ているルイズをお姫様抱っこしたところでギーシュが穴の近くで2人を呼ぶ。

 

「おーい! 何をしているんだね、早く逃げるのだろう?」

 

 ギーシュは先程までの2人ならば声をかけるのを戸惑ったのだが、のどかはいつもののどかに、才人はいつもの才人に戻ってことを察して2人に声をかけた。そうしてのどかたちは脱出し、シルフィードの背中にキャッチされ、アルビオンの大地から少し離れたところ、爆音が聞こえた。空間の音が一瞬消えたと思わせるような音。それはウェールズが塞いでくれた場所が壊された音なのか、硫黄を乗せた船が爆発した音かはわからない。才人はウェールズたちに黙祷を捧げ、大切なものを守りぬくことを心に決めていた。

 シルフィードの背中に乗ったのどかたちは、トリステインの王宮に向かっていた。アルビオンが敵の手に落ちたことを一刻も早く報告するためだ。その道中、ウェールズにもらった秘薬をのどかと才人は使って傷を癒していた。才人は自分でやり、のどかはタバサにやってもらっていた。

 

「染みる」

「ひゃっ、冷たっ! これが、水の秘薬なんですねー。なんだかすごく気持ちがいいですねー」

「ノドカ、それ高いのよー。だからちょっと経てば傷の痕もなくなるわ」

 

 のどかがキュルケから色々なことを教わっていると、タバサがまた秘薬を塗り始める。新しく塗られるたびにのどかは軽く悲鳴のような艶のある声をあげる。タバサは表情こそ変わっていないものの、実に楽しそうにしている。

 

「た、タバサ、や、やめっ!」

 

 のどかの息が絶え絶えになったところでようやくタバサは手を止めた。

 

「終わり」

「ふぅ、ふぅ、あ、ありがとー」

 

 のどかはタバサに笑顔を向け、起き上がろうとしたところで、タバサに頭を抑えられてしまう。何度起き上がろうとしても、タバサも同じことを繰り返していた。

 

「……ここでこうしてればいいの?」

 

 タバサは返事はしなかったが、コクっと頷いた。のどかも観念したようで、そのまま目を閉じた。その後ろでは、才人がルイズに口づけをしているのだった。ギーシュは悲しいかな、一人でヴェルダンデの心配をしていた。

 

ところ変わって、才人に腕を切られたワルドが治療をしていた。近くには誰もおらず、自分で手当をしているようだ。

 

「ウェールズを討ち取ったという報告は来た。しかし、ウェールズが礼拝堂を崩したというのも気になる。爆発させた先には誰も、何もいなかったという。僕が直々に見聞する必要があるな。ミヤザキノドカ、やつは危険だ。この『レコンキスタ』にとって障害となるのは明白。そして、戦闘中に口にしたアラアルバ、それがやつの所属する組織と見ていいだろう。しかし、あの本に仕掛けがあったとして、どうしてだ。やつは常に僕の動きを先読みし、最良な選択肢をとっていた。分からないことだらけだな。あの女ならば、あの状況からも逃げただろう。今度は油断などしないで、偏在で一気に潰す」

 

 ワルドは一人、危険因子となったのどかを抹殺する手段を講じるのであった。そして、のどかの存在によって、三つの目的の一つも果たせなかったことをある男に報告するために、傷を癒し準備を整えた。そのようなことが起こっているなどのどかは知る由もなかったが……。

 




感想お待ちしております!


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23時間目

お久しぶりです。パソコンを買い換えたので、これからしっかり投稿していきますよ!


 のどかたちを乗せたシルフィードはトリステイン王宮の上空を通り、中庭へと降り立った。

現在のトリステイン王宮はなぜか強い緊張感を持っていた。ある噂が流れていたからである。その噂とは、アルビオンを制圧した貴族派の「レコン・キスタ」がトリステインに攻めてくるというものである。そのため、トリステイン王宮の上空には、船、幻獣を問わずに飛行禁止令が出されていた。更に、出入りの者たちに対してもディテクトマジックでメイジが化けていないか、魔法で操られていないかなどを確認されていた。

 王宮の中庭へと降り立ったシルフィードは即座にマンティコア隊に包囲された。マンティコア隊の隊員たちは腰からレイピアのような形をした杖を取り出し、いつでも呪文の詠唱が発動できるように構えている。ごつい髭面の男性が一歩前に出て、大声で叫ぶ。

「杖を捨てろ!」

 シルフィードに乗っていた者、ルイズ、キュルケ、ギーシュはむっとした表情を浮かべたが、マンティコア隊を見てタバサが首を振り、杖を捨て、言った。

「宮廷」

 その一言で、3人とも仕方がないといった様子で、杖を捨てた。

「今現在、王宮の上空は飛行禁止だ。触れを知らんのか?」

 ルイズはその問いに答える様子も見せず、毅然として言う。

「わたしは、ラ・ヴァリエール公爵が三女、ルイズ・フランソワーズです。怪しいものではございません。姫殿下に取次ぎ願いたいわ」

 先ほど前に出た男、マンティコア隊の隊長である彼は、口髭を触りながら、ルイズを見る。

「ラ・ヴァリエール家の三女とな? ふむ、確かに目元が母君にそっくりだ。して、要件を伺おうか?」

「それは言えません。密命なのです」

「では、姫殿下に取り次ぐわけにはいかぬ。要件も尋ねずに姫殿下に取り次いだ日にはこちらの首が飛ぶからな」

 困った声で、隊長がそう言った。そのまま間髪入れずにサイトがシルフィードから飛び降りて言った。

「密命だもの。言えないのは、しょうがないでしょう」

 隊長は降りてきた才人の格好を見て苦い顔つきになった。才人の格好はどう見ても、平民のそれであったからである。

「無礼な平民だな。従者風情が貴族に話しかけるという法はない。黙っていろ」

 その態度から才人は頭にきた様子だった。背中に吊ったデルフリンガーの柄に手をかけると、ルイズに聞いた。

「なあルイズ。こいつやっちゃっていい?」

「何強がってるのよ。ワルドに勝てたのなんてノドカの力があったからじゃない。そうじゃないとあんたはワルドにだって勝てなかったわよ」

「いや、そうだけど……」

 隊長はルイズと才人のやり取りを聞き、目を丸くした。ワルドに勝った、ワルドというのはグリフォン隊の隊長のワルド子爵か? なんにしても「ワルドに勝った」とは聞き捨てならない。

「貴様ら何者だ? とにかく、殿下に取り次ぐわけにはいかぬ」

 その声は硬く、警戒しているようであった。

「あんたが余計なこと言うから、疑われちゃったじゃない」

「だってあの髭生意気なんだもの」

「いいからあんたは黙ってなさいよね!」

 才人はそう言われたあと小さく、この世界の髭は生意気なやつしかいないのかよ、と小さく呟く。

 妙なやり取りを見た隊長が隊員に目配せして、隊員全員に杖を構えさせ、捕縛するために呪文を唱えさせようとした時だった。宮廷の入口から鮮やかな紫色のマントとローブを羽織った人物が、ひょっこりと顔を出した。魔法衛士隊に囲まれているルイズの姿を見て慌てて駆け寄ってくる。

「ルイズ!」

 駆け寄るアンリエッタの姿を見て、ルイズの顔が、薔薇を思わせるように赤く染まり、ぱあっと輝いた。

「姫さま!」

 2人は一行と魔法衛士隊が見守る中、ひっしと抱き合った。

「ああ、ルイズ! 無事だったのね。うれしいわ。ルイズ・フランソワーズ……」

「姫さま……」

 ルイズの目から涙がこぼれる。

「件の手紙は、無事、このとおりでございます」

 ルイズはシャツの胸ポケットからそっと手紙を見せる。それを見たアンリエッタは大きく頷き、ルイズの手を固く握り締めた。

「やはり、あなたはわたくしの一番のおともだちですわ」

「もったいないお言葉です。姫さま」

 しかし、一行の中にウェールズの姿が見えないことに気づいたアンリエッタは、顔を曇らせる。

「ウェールズ様はやはり父王に殉じたのですね……」

 ルイズは目をつむって、神妙に頷いた。

「……して、ワルド子爵とノドカさんは? 姿が見えませんが。別行動をとっているのかしら? まさか……、敵の手にかかって? そんな、あの2人に限って、そんなはずは……」

ルイズは慌ててシルフィードの背中を指差した。

「姫さま、ノドカはあそこです。ただ……」

  ルイズの指差す方向へ目を向け、アンリエッタは少し安心したようだった。ルイズの表情が曇ると、才人が言いにくそうに告げた。

「ワルドは裏切り者だったんです、お姫さま。のどかはワルドの攻撃を受けて動けない状態です。水の秘薬で多少は良くなったんですが、まだ動けないみたいで」

「裏切り者?」

 アンリエッタの顔に雲がかかった。そして、興味深そうに見つめている面々に気づき、マンティコア隊に説明した。

「彼らはわたくしの客人ですわ、隊長どの」

「さようですか」

 アンリエッタの言葉で納得した隊長はあっけなく杖をおさめると、隊員たちと持ち場に戻っていった。

「道中何があったのかお聞きしたいところですが、ノドカさんの治療が優先ですわね。水の秘薬はまだ余っていますか?」

 タバサがアンリエッタに水の秘薬を差し出す。それを受け取るとシルフィードの背に乗っているのどかに近づき、秘薬を媒介に呪文を唱え始める。

「あ、アンリエッタさんすみません、ウェールズさんを連れてくることができませんでした」

 アンリエッタが魔法を唱えると、のどかの傷はみるみるうちに治っていく。ただ秘薬を塗りこんだ時とは違い、「水」の力を受けた秘薬は傷を治すことができたのである。

呪文を唱え終えたアンリエッタは柔らかく微笑んだ。

「わたくしがあなたに依頼したのはルイズたちの護衛ですわ。そんなことまで頼んだ覚えはありませんわ。お気になさらないで」

 のどかは目を伏せ、はい、と力なく呟いた。空になった秘薬の小瓶をのどかに渡し、ルイズたち一行を部屋に案内する。治療によって歩けるようになった、のどかもその後に続いていく。のどかとタバサ、キュルケやギーシュは謁見待合室に残され、ルイズと才人だけがアンリエッタの自室に招かれた。

「それにしても豪華ねぇ。あたしの家もかなり大きいけど、やっぱ宮廷には敵わないわ。これいくらするのかしらね~」

沈黙に耐えかねたキュルケが口を開く。

「君はこのようななところでも相変わらずだな。もう少し静かにしたらどうかね? 貴族としての品格が疑われるぞ」

 ギーシュは何やら緊張しているようで、声が震えて自分でも何を言っているのかわからない様子である。

「はぁ。あんたね、急に何言ってんのよ。それに待合室に通されたってことはあたしたちには用がないってことでしょー。緊張するだけ無駄よ」

キュルケはいつもの飄々とした態度でギーシュを適当にあしらう。ギーシュはそんなことわかっているとも、と言って、それっきり黙ってしまった。

「ねえ、ノドカ」

 ギーシュが黙ってしまったので、今度はのどかに狙いを定めたキュルケが話しかける。のどかがキュルケの方を向き、言う。

「な、なんでしょう?」

「ノドカはまだあのお姫さまに渡すものあったの? ほらさっき、ダーリンに渡していたじゃない? 何かはわかんなかったけど」

「はい、実は秘薬の小瓶から出てきたんです。アンリエッタさんは気づいていませんでしたけど、空になって、受け取った時に気づいたんです。きっと才人さんならうまく渡してくれると思いますからー」

のどかがアンリエッタと才人を想うように目を閉じる。キュルケはのどかを見て余計に気になったようだった。

「それなんだったのよ?」

 のどかが困ったような表情を浮かべていると、キュルケは諦めたようだった。

「はぁ、やめとくわー、タバサも教えないって感じの顔してるしねー」

「すみません、キュルケさん」

「いーのよ、わかってたしねー。気にしないで。元々不躾なのはあたしだし」

 キュルケがそう言ったタイミングでアンリエッタの部屋の扉が開き、才人とルイズが出てきたのだった。

 

 シルフィードの背中にはのどか、タバサ、ルイズ、キュルケの4人だけが乗っていた。才人とギーシュはと言うと、キュルケが手紙の中を知りたいと冗談でゴネた時にシルフィードのバランスが崩れた時にギーシュは落下し、のどかだけが唯一ギーシュさん! と声をあげただけでほかの人たちは全員どうでもいいというような様子を貫いていた。才人はギーシュが落ちそうになった時にルイズもバランスを崩したので、才人が腰に手を回して支えたのだが、その様子を見たキュルケがおちょくったせいで、顔を真っ赤にしたルイズが、才人を突き飛ばして落としたのである。落ちたとは言え、ギーシュはメイジ『レビテーション』の魔法でふわりと減速し着地。才人はタバサが面倒くさそうに『レビテーション』をかけることで事なきを得たようであった。

 のどかは落ちた二人が気になるのか、後ろをしきりに確認しながら、タバサに話しかける。

「あのね、タバサ。私2人を乗せるために戻ったほうがいいと思うんだけどー……」

 タバサはのどかを見たあと、キュルケを見た。

「この風竜が疲れちゃうから却下ってさ。まあ半日くらい歩けば着くから大丈夫じゃない?」

 のどかは困ったように笑って、そ、そうですかー、と言ってそれっきり黙ってしまった。先程まで顔を真っ赤に染めて怒っていたルイズも落ち着きを取り戻したようで、のどかに話しかける。その表情は暗く、先程とは別人のようだった。

「ゴメンね、ノドカ。私のせいで怪我させちゃって、痛かったでしょ?」

「ルイズさん、気にしないでください。アンリエッタさんの魔法で完治しましたから。もう大丈夫です」

 のどかがルイズを安心させようと穏やかに微笑むがルイズの表情は暗いままだった。

「ルイズー、あんたね。謝るよりもお礼でしょ。ダーリンがお姫さまに渡したものとか、ワルドでの戦いのこととかね」

 キュルケはしおらしくなったルイズを見るのが嫌らしく、桃色がかったブロンドの髪を引っ掻き回す。

「キュルケ! やめなさいよ! もう……。あ、ノドカ今回もありがと。えっと……タバサとキュルケもあ、ありがと」

「あら、ヴァリエールがあたしにお礼を言うなんて、世も末ねー」

「照れ隠し」

「なっ! 違うわよ、タバサ! もう!」

 トリステインの空に3人の少女の笑い声が吸い込まれていった。

 




次回は才人の奇行、コルベール先生の蛇くんあたりが書けたらいいなぁと思っています。

ゼロの使い魔21巻が2月25日に発売が決まったようですね。それが最近の楽しみになってますw


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24時間目

テストも終わり、今日から春休みということで、書き上げました。

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 のどか達が帰ってきた翌日。のどかはベッドから目覚め、いつもの日常に戻ってきたという実感を得ていた。のどかがベッドから出て着替えていると、タバサも起きてくる。

「修行?」

タバサは小さく寝ぼけ眼でのどかに問いかける。食堂に行くには少し早い時間に着替えているからそう思ったのだろう。その問いにのどかは小さく頭を振る。

「ううん、今日は修行やめておこうかなー。ちょっと疲れてるから」

「そう」

 のどかが着替え終わる頃に、タバサも着替え始めた。タバサも着替え終えた後、背中合わせ朝食の時間になるまで、本を読み始めるのだった。

 

 朝食の時間が近づくと、二人は余裕を持って部屋を出て行く。そして、食堂に着いて、しばらくすると、不思議な光景を目にする。ルイズが才人を貴族の席に座らせたのだ。その後、マリコルヌが抗議をするが、才人が一睨みすると、すぐに自分で自分の椅子を取りに行ったのである。

「ルイズさん、どうしたんだろう?」

 のどかの小さい呟きに答えたのはキュルケだった。

「恋よ、ルイズはダーリンに恋しちゃったのよ」

「えっ!? そ、そうなんですかー!?」

「あら、気づいてなかったの、ノドカはとっくに気づいてるものだと思ってたわ」

「い、いえ、全然ですー」

 キュルケは「なるほど」と言うと、新しいおもちゃを見つけた子供のようにニヤニヤと笑いながらのどかに顔を近づけて言う。

「さては、ノドカも恋したことないわねー」

「わ、わたしは!」

 のどかが何かを言いかけるが、キュルケはそれを両手で制す。

「大丈夫よ、わかってるわ。ノドカみたいな恥ずかしがり屋に恋は少し荷が重いわよね」

「そうじゃないんですー。そうじゃなくて私だって」

「祈り」

 のどかが顔を真っ赤にして、慌てながら一生懸命説明しようとしていたところで、タバサに止められる。キュルケも「わかったわよ」とタバサに言う。どうやらタバサはのどかを助けたらしかった。のどかは説明しようとするのに必死で気づいていなかったが。

 

 朝食を終え、授業が始まる前、のどかとキュルケ、タバサから休んでいた理由を聞いていた。しかし、タバサはそもそも話すようなことはしないし、キュルケもお喋りではあるが、重要なことなので、話さないと決めている。のどかも普段の様子とは打って変わって、頑なに教えようとはしない。そこに新しく現れたのが、ルイズたちであった。そこで、モンモランシーが席についたルイズたちに近づいて、授業を休んだ理由を尋ねる。お調子者のギーシュがそれに答えようとすると、「姫さまに嫌われるわよ」というルイズの鶴の一声でギーシュは押し黙り、下を向いている。そんな二人の様子を見たクラスメイトたちは、やはり何かあったのではないか、と勘ぐり始め、ルイズたちに迫る。

「別に、なんでもないわよ。オスマン氏に頼まれて、王宮までおつかいに行っただけよ。そうよね、ギーシュ、キュルケ、ノドカ、タバサ」

 キュルケは笑みを浮かべながら、磨いた爪のカスをフッと吹き飛ばし、ギーシュは頷く。のどかもギーシュと同じように頷き、タバサは本をジッと読んでいる。生徒たちはつまらなくなったのか、自分の席に戻っていく。全員で隠し事をするために、生徒たちは口々に負け惜しみを言う。

「どうせ、たいしたことじゃないよ」

「そうよね、ゼロのルイズだもの。魔法が使えないあの子に大きな手柄が立てられるわけないわ。きっとフーケを捕まえたのだって、偶然とかでしょう? たまたま、破壊の杖の力を引き出しただけなんだわ」

 そう言いながら、モンモランシーも自分の席に戻ろうとする。その途中、才人はルイズを馬鹿にされたことが頭にきたようで、モンモランシーの足を引っ掛ける。

「きゃあ!」

 そのまま床にビターンと転んだ。そして、起き上がり才人をキッと睨む。

「何するのよ! 平民のくせに貴族を転ばせるなんて!」

「ちゃんと見てない貴方が悪いんじゃない」

 ルイズがモンモランシーに言う。

「何よ! あなた、平民の肩を持つつもり? ゼロのルイズ!」

「平民でも、サイトはわたしの使い魔なの。その使い魔を侮辱することは、わたしを侮辱することと同じよ、洪水のモンモランシー。文句があるならわたしに直接言いなさい」

 ルイズの言葉にフン、と鼻を鳴らしてスタスタと戻っていく。気づけば、才人がルイズを暖かい目で見ている。それに気づいたルイズが「何見てんのよ!」というと、才人はハッとした顔になり、「ごめんなしゃい」と言う。ルイズと才人がそんなやり取りをしていると、コルベールが入ってきた。

 

「コホン、それでは授業を始めていきますぞ。それではこれを」

 そう言うと、コルベールは何かを机の上にドンっと置いた。

「先生、それはなんですか?」

 生徒の一人が質問した。

 生徒が質問するのもよくわかる。長い円筒状の金属の筒に、これもまた金属のパイプが伸びている。パイプはふいごのようなものに繋がり、円筒の頂上には、クランクがついている。そして、クランクは円筒の脇に建てられた車輪に繋がっている。

 一体何が始まるのだろうか、と生徒たちは興味深そうにその装置を見ている。

「え、この装置を使う前に『火』系統の特徴を誰かこの私に開帳してくれないかね?」

 コルベールはその言葉と同時に、教室を見渡す。そして、コルベールと生徒たちの目線が集まったのは『火』系統として有名なゲルマニア貴族のキュルケであった。キュルケは手入れしている爪から目を外さず、気だるそうに答えた。

「情熱と破壊が『火』の本領ですわ」

「そうとも!」

 自身も『炎蛇』の二つ名を持つ、『火』のトライアングルメイジであるコルベールはにっこりと笑って言った。

「だがしかし、情熱はともかくとして、『火』が司るものが破壊だけでは寂しいと、このコルベールは考えます。諸君、『火』は使いようですぞ。使いようによっては、いろんな楽しいことができるのです。いいかね? ミス・ツェルプストー。破壊や戦いだけが『火』の見せ場ではない」

「トリステインの貴族に『火』の講釈を承る道理がございませんわ」

 キュルケは自信たっぷりに言い放つ。先程まで爪を手入れしたのに、その手を止めていることが何よりの証拠だ。コルベールはキュルケの嫌味にも動じず、ニコニコとしている。

「でも、その妙なカラクリはなんですの?」

 キュルケは心底不思議そうに机の上の装置を指差す。

「ふふ、ふふふ、よくぞ聞いてくれました! これは私が発明した装置ですぞ。油と、火の魔法を使って、動力を得る装置ですぞ」

 生徒たちはぽかんとしていたが、才人とのどかはそのどこかで見たことあるような装置に見入っている。

「まずこの『ふいご』で油を気化させる」

 コルベールはふいごを踏む。

「すると、この円筒の中に気化した油が放り込まれるのですぞ」

 慎重な顔で、コルベールは円筒の横に空いた小さな穴に、杖の先端を差し込んだ。

 呪文を唱える。すると、断続的な発火音が聞こえ、発火音は気化した油に引火し、爆発音に変わった。

「ほら! 見てごらんなさい! この金属の中では、気化した油が爆発する力で上下にピストンが動いておる!」

 すると、円筒の上にくっついたクランクが動き出し、車輪を回転させた。回転した車輪は箱についた扉を開く。すると中から、ピョコっとヘビの人形が顔を出した。

「動力はクランクに伝わり車輪を回す! ほら! するとヘビくんが! ほら! ぴょこっ! ぴょこっ! 顔を出してご挨拶! 面白いですぞ!」

 生徒たちは反応が薄く、コルベールがなぜ興奮しているかわかっていないようだった。その様子を熱心に見ているのは才人とのどかだけであった。

 誰かが心底どうでもいいというように、とぼけた声で感想を言った。

「で? それがどうしたって言うんですか?」

 コルベールは自分の発明品がほとんど無視されているので、少し悲しくなった。冷めている生徒たちを見てオホン、と咳を吐き、説明を始めた。

「えー、今は愉快なヘビくんが顔を出すだけですが、この装置を乗せれば、車輪を回転させる。すると馬がいなくても、荷車は動くのですぞ! 他にも、船に取り付けて、大きな水車を取り付けて、この装置を回せばなんと帆がいらないのですぞ!」

「そんなの、魔法で動かせばいいじゃないですか。なにもそんな変な装置を使わなくても」

 生徒たちは、みんなうんうん、と頷きあった。

「諸君! よく見なさい! もっと改良すれば、この装置は魔法がなくても動かすことが可能になるのですぞ! 今は点火に『火』の魔法に頼っていますが、断続的に点火ができる方法が見つかれば……」

 コルベールは必死にこの装置について伝えようと、興奮した様子であったが、生徒たちの「それがどうしたんだ?」という表情で、生徒たちには伝わっていなかった。コルベールの発明のすごさに気づいているのは才人とのどかだけであった。

「先生! それすごいですよ! それは『エンジン』です!」

「えんじん? それは一体?」

 コルベールは才人をキョトンとして見つめた。

「はい! 俺たちの世界じゃ先生が今言ったことを、実際にやっているんです! なあ!のどか!」

「はい、実際に私たちの世界では『エンジン』を使って色々なことをしていますー」

「な、なんと! やはり気づく人は気づいておる! ミス・ミヤザキにミス・ヴァリエールの使い魔の少年だったな! ミス・ミヤザキと同じ世界ということは君も別せか……ゴホン! 失礼、東方(ロバ・アル・カリイエ)から来たのかね?」

 コルベールは才人が『ガンダールヴ』の紋章を手に浮かび上がらせた少年であることを思い出した。更に、のどかの同郷と知り、改めて強い興味を持ったのだった。

「良かったわね、サイト。ノドカがいて」

 ルイズの小声での言葉に才人は頷きで返す。

「はい、そうです。俺はのどかと同じ所の出身です」

 ここで、生徒たちがザワザワする。のどかが東方の出身だと知っていたのはほんの一部だけで、ましてや才人も同じだとは思っていなかったからだ。なぜ、生徒たちがここまでざわついているかというと、東方からハルケギニアに来るには、エルフの管理する土地を超えてこなければならないからである。才人は召喚されたからともかくとして、のどかが超えてきたとなると、それは驚くべきことであるからだ。

「あー、諸君、少し補足しておくと、ミス・ミヤザキはエルフの土地を超えてきたわけではない」

 コルベールの言葉に生徒たちは耳を傾ける。

「彼女は偶発的に現れたゲートのようなものに巻き込まれてここに来たとのことです。戻る手段が見つかるまで、ここで預かっているというわけですな」

 生徒たちも納得したようで、静かになった。

「それでは、気を取り直して……ミス・ミヤザキ。この装置を動かしてはくれんかね?」

「わ、私がですかー?」

「うむ、他の人にもやってもらうから大丈夫ですぞ」

「わ、わかりましたー」

 のどかは教壇まで行くと、昔使っていた星などの装飾がついた初心者用の杖ではなく、小さな、木の杖を懐から取り出す。コルベールだけでなく、タバサやキュルケ、ルイズ、才人ものどかが、身体強化以外の魔法を使うところは初めてなので、他の生徒と同じように、見守っている。のどかは緊張しながらも、落ち着いていた。

「プラクテ ビギ・ナル火よ灯れ(アールデスカット)

その呪文と詠唱しながら、手首をクルッと一周させる。すると、杖の先から小さな赤い火が灯る。弱々しい炎だが、安定はしているようだった。のどかはふぅ、と息を吐く。コルベールはほう、とその炎を見る。教室の誰もが、聞いたこともない魔法をジッと見つめている。その杖を装置に向け、先端についた炎を装置の中に入れる。すると、先ほどと同じことが起きた。ヘビの人形がピョコっと顔を出し、挨拶をする。

「ミス・ミヤザキ、ありがとうございまいした。席に戻ってもらって大丈夫ですぞ。それでは、次は誰にやってもらうかな……」

 コルベールに言われ、席に戻るとのどかは緊張から解放されたようで、ホッとしていると、タバサとキュルケに問い詰められる。

「魔法」

「え? アレくらいしかできないんだ。本当に実用的じゃなくてー」

「へー、ノドカって意外とちゃんとした魔法も使えるのねー。なんか自分で頑張るだけしかないのかと思ってたわー」

「そんなことないですよー、そんなに成功率良くなくてー」

 そう言っている間に次に挑戦する人が決まったようで、教壇を見てみる。そこには、コルベールとルイズの姿があった。どうやら、モンモランシーがルイズを挑発したようである。

 キュルケはため息を吐きながら、「何やってんのよ」とひとりごちる。タバサはのどかを引っ張ってそそくさと机の下に隠れる。

「おい、モンモン!」

「なっ! 誰がモンモンよ! 私はモンモランシーっていう名前が」

 モンモランシーが反論しようとするが、才人がその言葉を途中で遮って、言う。

「あんまルイズを挑発すんなよ! また教室が爆発するだろうが!」

 そこまで言って才人は失敗に気づく。コルベールも同様に失敗に気づいたらしく、慌てて、顔を赤くしたルイズをなだめるが、意味がなく、ますます赤に染まっていく。そして、魔法を行使する。しかし、当然ながら教室は音の衝撃で揺れた。そして、静まり返った教室の中で、ボロボロになった装置を見て、ルイズが一言。

「ミスタ、これ壊れやすいです」

 その言葉を契機として、今まで黙っていた生徒たちが口々に「お前が壊したんだろ!」と罵声が飛ぶ。しかも、コルベールは爆発の衝撃で気絶していた。

「おい、燃えてるぞ! 早く消せ!」

 モンモランシーが『水』の魔法を使って火を消して事なきを得た。その後、モンモランシーがルイズに勝ち誇ったように言う。

「あら、余計なお世話だったかしら? あなたは優秀なメイジだもんね。あのくらいの火簡単に消せたわよね?」

 ルイズは悔しそうに唇を噛み締めた。のどかはルイズに声をかけようとしたが、キュルケに「今はやめておきなさい」と言われ、タバサとキュルケとともに教室を出ていった。ルイズが落ち込んでいるだろうというキュルケなりの気遣いであった。




後2話くらいで、トレジャーハンターのどかが書けるかなぁ。書けるといいなぁ


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25時間目

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 のどかとタバサは授業が終わったあと、部屋で今日の修行の内容を決めていた。

「それじゃあ迷惑にならないようにしないとねー」

 のどかがこう言ったのはわけがあった。夕方から夜にかけて、訓練する予定だからである。いつもは朝に訓練しているのだが、いつも同じ環境ではその環境でしか力を発揮できないかもしれないというタバサの意見であった。

「時間」

「うん、わかったー」

 タバサはいつもの魔法学院の制服で、のどかは制服ではなく、トレジャーハンターとしての装いで修行しに出て行く。

 二人はヴェストリの広場で修行をすることにしていた。あまり人が来ず、修行するには格好の場になっていたからだ。

「じゃあ、始めるよー!」

 のどかの言葉にタバサは頷きで返す。二人とも真剣味を帯びた表情をしている。それは、今回の修行は、技を磨くのではなく、実践形式で行おうとしているためである。

大きめのコインを投げ、それが落ちたら始めの合図である。

のどかはコインを放射線上にふわっと下から投げる。投げられたコインはゆっくりと落ちていく。そして、地面に落ちる。

 その瞬間に二人は動き出す。のどかはまず距離を取るために、『戦いの歌(カントゥスベラークス)』を発動、そのまま瞬動をする。下がりながら、魔法銃を取り出し、同じように瞬動で距離を詰めてきたタバサを牽制し、着地後に『戦いの歌』を解除する。タバサは開始直後にエアハンマーを詠唱しながら瞬動。しかし、のどかの魔法銃を打ち消すために、エアハンマーを振るう。追加の魔法銃の攻撃を横に転がりながら躱す。

「『コンデセイション』」

 タバサの呪文は水属性の初歩的な呪文だったが、トライアングルメイジのタバサが使うことで、より強力なものになる。大気中の水蒸気を液体に変える。その量は人一人を包みこむこともできるだろう。更にそれを凍らせる。それにより、のどかの魔法銃を止めることのできる盾を作り上げる。

「盾……それなら!」

 のどかは魔法銃をもう一つ取り出す。そして、右手に持った銃で、氷壁に向かって打つ。もう片方で左に打つ。今度は銃を持ち替えて先ほどとは逆のことをする。左の銃で氷壁を狙い、右の銃は右に打つ。そのあとは両手で氷壁に向かって構える。タバサが出てきならば、すぐに狙うためである。

 タバサも氷壁を作っただけで安心とは考えていない。氷壁の裏側でエアハンマーを詠唱、銃撃がやんだところで、氷壁を崩し、氷をつぶてとして飛ばそうとする。しかし、タバサの右側から光が迫る。氷壁ができてから、打った一発の銃弾が大きな弧を描きながら氷壁の裏側に向かってきたのである。タバサは光弾を一つ確認してから、逆側からも同じ光弾が迫っていることに気づく。最初の光弾はギリギリまで引きつけ、次弾が来るのを待つ。そして、光弾が近づいてきたところで、エアハンマー左側から横向きになぎ払う。光弾をかき消し、氷のつぶてで反撃、更にもう一つ迫ってきた光弾をも振り抜いて打ち消す。

 のどかは氷のつぶてを打ち落とすことは不可能だと判断し、再び『戦いの歌』を発動し、瞬動を行う。まっすぐ進んでは、つぶてに飛び込んでしまうので、一度斜めに逃げ、もう一度すぐに瞬動を行う。

 タバサはすぐさまエアシールドを形成、不可視の防壁をのどかがタバサを投げるために手を伸ばしたところに配置する。エアシールドに阻まれたのどかはすぐに離れようとするが、今度はエアシールドをのどかの真後ろに作り上げる。のどかは瞬動の勢いのまま、それにぶつかり、ケホッと咳き込む。タバサはそのあいだにエアシールドでのどかを囲い込む。のどかが逃げようとするも、四方を塞がれては逃げることができなくなっていた。

「うーん、参りましたー」

「勝ち」

 その言葉を契機として、さっきまでの緊張した空気が和らいでいく。

「うーん、今のは飛び込みすぎたのかな。風の魔法だとさっきみたいに逃げ場なくなっちゃうんだねー」

「わかっていたから」

「そっかー、動きは読みやすかった?」

「少しだけ」

 二人は話し合いながら、お互いのミスを見つけて改善しようとする。段々と日が落ちてきたため、もう一度同じように模擬戦をする。結果はまたタバサの勝ちだった。

「やっぱり動きを止められちゃうとダメだねー。壊せないから」

「心を読む?」

「そうだけど……もう少し自分で予測をしないといけないかなーって。いつでも『いどのえにっき』が使えるわけじゃないからー」

「決定打」

「私の課題はそこだねー。決定打を何か見つけないと……タバサは特に問題ないよねー、瞬動も使いこなしてるし」

 のどかがそう言うと、タバサは小さく首を横に振る。更にのどかに聞こえないくらい小さな声で「まだダメ」と伏せ目がちに呟く。のどかには聞こえていないようだった。

 

完全に日が落ちたので、二人はそろそろ部屋に戻ろうとしたところで、一つ気になるものが目に入った。それはヴェストリの広場の隅っこにあった。

「あれって鍋……だよね?」

「……鍋」

「大きいね……」

 二人は巨大な鍋がなぜ広場にあるのかが気になり、近づいていった。そこには、才人とメイドのシエスタが鍋の中にいた。二人は何やら談笑しているようで、のどかたちには気づいていないようだ。のどかは混乱しているようで、目を回して考えていた。

「戻る?」

 タバサの声で我に返り、首を縦にブンブンと振ってこっそりと逃げていく。できる限り音を立てないように、その鍋から離れていった。誰にもばれずに離れていった。実はもう一人才人たちを見ていた人物がいた。その人物とは、キュルケである。キュルケもたまたま才人とシエスタがお風呂に入っているのを目撃していた。そして、その様子を見て、自分に振り向かない才人に少し嫉妬していたのである。

 

 キュルケは部屋に戻った後、すぐにタバサの部屋に来て、タバサにあることを頼み始めた。

「ねえ、お願いタバサ。シルフィードでルイズたちの窓が見えるところに連れってってよお願い!」

 ついにはキュルケがタバサに抱きついて、その豊満な胸でタバサの顔を挟んでいる。キュルケの胸の形がタバサの顔に合わせて形を変える。それを見たのどかは顔を赤くして目を背ける。

「ねえ? いいでしょー?」

「わかった」

 キュルケの胸の圧力から解放されたいタバサはそれを了承する。しかし、キュルケは「ありがとー! さすがタバサー!」と言ってタバサをより強く抱きしめる。タバサも苦しそうに顔を歪め、のどかに目で助けを求める。

「あ、あの。キュルケさん」

「何? ノドカもやっぱり気になるの? そうよね~、やっぱり気になるわよね~」

「えっ? えと、気にはなりますけど……そ、そうじゃなくてですね、タバサが苦しそうですー」

「え? あー、ゴメンね、タバサ」

「構わない」

 キュルケの謝罪に口では良いと答えるが、そっぽを向き、キュルケから離れた後、のどかにくっつく。

「嫌われちゃったわー。じゃあ次はのどかを抱きしめないとねー」

「なっ!? なんでそうなるんですかー!?」

 キュルケがのどかを後ろからガッチリと抱きしめ胸の谷間に落とし込む。のどかは目をクルクル回して倒れてしまった。

 

 のどかが目を覚ましたのは次の日の朝だった。起きると、同じ布団にタバサがすぅすぅと寝息を立てている。のどかは無意識にタバサの髪を梳いていた。タバサの髪は指通りがよく、触っていて飽きないものだった。やがてタバサが目を覚ますと、いつものように出かけていく。

のどかとタバサが授業を終えて戻ってくる途中に、ある光景が目に入った。昨日の夜、才人と一緒に鍋風呂に入っていたメイドがルイズの部屋に入っていったのだ。それが気になり、のどかはタバサに先に部屋に戻ってもらうように言ったあと、ルイズの部屋をノックする。すると、中から才人の「やばい!」という声とともにガチャガチャと音が聞こえてくる。そして、音が聞こえなくなったあと、才人の震えた声で「ど、どうぞ」と聞こえてくる。

「失礼します」

 入ってきたのが、のどかだったので、才人はほっと胸をなでおろした。

「な、なんだ、のどかか……ルイズだったらどうしようかと思ったぜ」

「ふふ、ルイズさんだったらノックなんてしないと思いますー」

「……それもそうだな。のどかは何か用があって来たんだろ? ルイズは今いないぞ」

「いえー、特に用があってわけじゃないんです。ただ、メイドさんが部屋に入っていったので、少し気になって」

 才人はギクッとした様子で、顔を引きつらせる。そして、少し考えたあとシエスタにもう出てきても大丈夫だと声をかける。すると、布団の中からシエスタがひょこっと顔を出し、おずおずと出てくる。

「あ、あのサイトさん。良かった、ミヤザキさんだったのですね」

シエスタも安心した様子で出てきたそして、先ほど才人と話していた『飛行機』のことについて聞いたりした。

「そういえば、貴族ではないと仰っていたのですが、やっぱり貴族は偉いんですか?」

「実は私たちの国は貴族制はなくなっているんです。他の国にはまだあるんですけどね」

「貴族がいないなんて、考えられないです! 貴族がいないなんて考えたこともなかったです」

「そうですね。私もあんまりこっちに来て初めて貴族制に触れましたからてんてこ舞いです」

「ミヤザキさんは魔法を使っていましたよね? 貴族でなくても魔法を使えるんですか?」

「確かに、こっちみたいに貴族だから使えるわけではないです。でも、才能の有る無しで決まってしまいますね。それに、『飛行機』とかがある時代ですから、『魔法』自体は内緒になっているんです。多分、ここに来なければ、才人さんも一生魔法に関わらなかったんじゃないかと思います。もちろん私もある人が来なかったらそうなっていたと思います」

「わぁー、やっぱりサイトさんたちの国は素晴らしいですね! 行ってみたくなっちゃいます! サイトさん、いつかは連れて行ってくださいな?」

「えっ、それは……」

 才人が口ごもっていると、のどかが、連れて行くことがまだ難しいことを説明し、笑顔を作って補足をする。

「でも、近いうちに行き来できるようにしますからー」

「そんなことができるんですか!? そうしたらなんだか素晴らしいです!」

「俺も会ったことはないんだけど、そういうことまでできるらしいんだ。のどかの仲間たちは」

 のどかも仲間が褒められると嬉しくなり、ニコッと笑う。その時に髪で隠れた目元が見えて、それを見た才人が赤面し、それを隠すようにブンブンと頭を振る。シエスタは才人の世界の妄想に浸っているようで、気づいてはいないようだった。のどかも、シエスタが悪い人ではないということを確かめたので、「そろそろ部屋に戻りますね」と言って出て行った。

 のどかが出ていき、部屋に戻り、夜を迎える。のどかは今日も修行をしようと思っていたのだが、タバサが「勉強」と言ったので、お互いにお互いの言語を学びあっていた。

ヴェストリの広場で謎のテントがギーシュによって発見されたのは、その3日後だった。のどかや、タバサは色々な状況での修行をしていたため、ヴェストリの広場は使用していなかったので、発見できなかったのである。何より才人の風呂場と思っていたので、尚更立ち寄らないようにしていたのも理由の一つであった。




この休み中にいっぱい投稿していきますよー


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