【正月特別編】たった二人の大晦日 (ミズヤ)
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【正月特別編】たった二人の大晦日
遅くなってすみません。正月特別編です。
正月といっても内容は大晦日なんですが……。
というわけでいつもの僕の特別編の内容とは違って恋愛というわけではないです。
ただ、おそらくほっこりとした話になっていることでしょう。
多分僕が大人になった結果ですね。
それではどうぞ!
「くそ、今日も遅くなってしまったな」
俺はそう呟きながら肩を落としてバッグを手に引っさげながら歩いていた。
もう深夜も深夜。ギリギリ日付はまたいでいないものの、もうこの時間ともなると外に出歩いている人も少ない。
そんな中、俺は街灯を頼りにゆっくりとゆっくりとふらふらとした足取りで歩いていく。
別にこの遅い時間まで飲みに行っていて酔っぱらってふらふらしているというわけではない。
ついさっきまで残業地獄、ようやっと帰ることができるようになり、疲労によって地面に垂直に立てないという非常に危なっかしい状態で帰宅することになってしまっているのだ。
ちなみにこんなに遅い時間まで仕事が続くような状況じゃ飲みに行けるわけもないから、暫く飲み屋には行っていないし、そもそもとしてこれだけ遅くまで残業が続いているのに低賃金。
飲みに行く時間なんてないのはそうだが、飲みに行く金すらもないのだ。
そんな俺はすごく安いアパートの一室を借りて生活している。
部屋を見てみると若干光が漏れてきていた。とはいえ、別に俺が電気を消し忘れて出てきたというわけではない。
今日だから電気がついているんだ。
玄関前までやってくると俺は静かに鍵を開けて部屋の中に入ると、やはり明かりがついているのを見て俺は軽く口元を崩して「ふっ」と笑った。
慎重に部屋の扉を開いて中に入ると、そこにそいつが居た。
「あー、まぁそうだよな。頑張ってくれたんだよな」
畳に寝転がるそいつを見て俺は少し申し訳なく感じる。
俺の視線の先にいるのは俺とは10歳ほど離れている小学生の少女だった。
だが、別に事案というわけではない。なぜならこの少女は俺の妹なのだから。
すごく年が離れている妹だが、俺たちは血のつながった実の兄弟である。
俺、
母親とは幼いころに離婚してしまい、俺は母に見捨てられてしまって父に育てられることになった。
それからずっとシングルファーザーで育ててくれていたのだが、小学4年のころに父が再婚し、今目の前で眠っている少女、
その後、俺を除いた家族全員を乗せた車は逆走車に突撃され、交通事故に遭ってしまった。ちょうど俺はその時、小学6年の修学旅行中で遠い地に居たため、俺は電話で知らされることとなってしまい、青ざめて修学旅行を中止して急いで帰り、病院へ着いた時にはすでに両親は息絶えてしまっていた。
俺が来るちょっと前までは何とか息はあったようだが、それから息を引き取ってしまった直後に俺が来たということらしい。
つまり、俺は親の死に目に会えなかったということだ。
とてつもなく悔しかった。自分がいない時にこんなことになってしまって、両親が大変な状況の時に一緒に居られなかった自分が憎くて仕方がなかった。
こんな状況だ。全員死んでしまったんじゃないかって、そう思っていたのだが医者の言葉は予想外の言葉だった。
「お母さまが抱えていらっしゃいました。どうやら衝撃がだいぶ緩和されていたようで、女の子は無事です」
そう言って見せてきた赤ん坊は俺の妹である茉由だった。
か弱い女の子の赤ん坊。だが、親の愛というやつで守られたその少女はとても元気そのものだった。
「あ、あぁぁぁ……ま、ゆ……まゆああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」
俺はその後、一晩中泣き叫んだ。
俺のことをずっとシングルファーザーで育ててくれたお父さんと、再婚してできた連れ子である俺にもすごく優しくしてくれたお母さんだ。
悲しかった、悔しかった。
そんな俺の支えになってくれたのは――
「おにーたん、だいじょーぶ?」
「茉由……」
「だいじょーぶ。おにーたんにはまゆがついてるから」
「茉由、ありがとうな」
妹の茉由だった。
それから俺はもう大切な人を失わないために全力で茉由を守り続けると決意した。
俺たちは両親を失ってしまったことから親戚の家に引き取られることとなってしまい、俺が中学3年生になるまではお世話になっていたのだが、どうにも親戚の家ということで居心地が悪く、中学を卒業してからは親戚の家を出てアルバイトをしながら一人で暮らそうとしていた。
だが、そこに茉由が駄々をこねて俺と一緒に来たいというので、一緒に暮らすことになった。
今では俺と茉由の二人暮らし。
だが、俺の給料が少ないせいで10歳という育ち盛りの茉由に無理をさせてしまっている。
本当なら茉由はまだ親戚の家にお世話になっていた方がいいのだろうが、茉由がどうしても俺の家に居たいというので仕方がなく一緒に暮らしている。
俺としてはかわいい妹と暮らせているので満足しているのだが、茉由には満足いく生活をさせることができているのか、いつも心配になる。
そして俺は畳の上で小さく丸まっている妹の隣に座ると優しく妹の頭をなでる。
妹の髪は俺とは違ってサラサラのストレートヘアーだ。おそらく母さんの方に似たのだろう。俺の髪は父さん似でくせっ毛だからうらやましい。
「うにゅ……おにい……ちゃん?」
「あり? 起こしちゃったか。ごめんな」
「ううん。おかえりお兄ちゃん」
どうやら俺が触ったことで起こしてしまったらしい。
茉由はまだ眠いのか目をこすりながらも体を起こして、その場にぺたんと座り込んだ。
「お茶、飲むか?」
「のむぅ」
「りょーかい」
眠いのかふにゃふにゃした口調の茉由。目も半分閉じかけている。
ぽわぽわしている妹は兄の贔屓目なしにしても非常に可愛らしいと思う。
茉由はすでに美少女という感じだからもう少しお姉さんになったら美人さんになって俺とは違って学校でもモテモテになるんだろうな。
兄としては少し複雑な気分だが、妹が好かれるのは悪い気はしない。
俺は麦茶をコップに入れて茉由に渡すと、茉由は両手でコップを受け取りちびちびと飲み始めた。
「ありがとー」
俺も麦茶を手に畳の上に胡坐をかいて座ってテレビをつけると、その隣に茉由が座りなおしてきて、こてんと頭を俺の肩に乗せるようにして俺に体を預けてきた。
二人で麦茶を飲みながら静かにテレビを見続ける。
「ごめんな」
「なぁに?」
「今日は一緒に過ごすって約束していたのに、いつも通りに残業だった」
「ううん。大丈夫だよ。だって今はこうして一緒にテレビを見れているんだから」
「茉由…………」
実は今日は事前に一緒に過ごそうと約束していて早く仕事を終えて帰るつもりだった。
だが、気が付けば俺のデスクの上にある仕事は山積みになっていていつも通りに残業をする羽目になってしまった。いや、これでもいつもより早く帰ってこれた方なのだが、茉由との約束を守ることができなかったため、罪悪感に苛まれていたのだ。
だからそういってもらえるととても救われる。
「あとね、お兄ちゃんがいつも私のためにお仕事頑張ってくれているのを知っているから。いつもありがとうお兄ちゃん」
「………………」
「な、なんで無言でなでるのお兄ちゃん」
茉由の言葉を聞いていたら俺は無意識に茉由の頭をなでてしまっていたようだ。
あんまり茉由が可愛いことを言うから愛でたい気持ちを抑えられなくなってしまったらしい。
いつもいつもブラック労働で心身ともに疲弊しているのだが、この仕事を続けられているのは茉由の存在がでかい。
茉由が居なかったら絶対に挫折していたと思う。
だが、中卒で雇ってくれるところなどほかにはないため、この仕事をやめるわけにはいかないのだ。
せめて茉由には大学まで行かせてやりたいからな。
『もうすぐ新年です。カウントダウンの準備は良いですか?』
テレビから見えてくる音声。カウントダウンの準備は良いか? という問いから分かるように、本日は12月31日。大晦日である。
だから今日は茉由がこの時間まで起きているし、一緒に過ごそうと約束をしていたのだ。
昔から大晦日はこうして茉由と一緒にまったりと過ごしてきたため、一緒にまったりとテレビを見て過ごしたいのだが、ここ数年は俺の仕事が忙しすぎて全然待ったりできていなかった。
せめて日付が変わる前に帰ってこれてよかった。
「いつもごめんな。あんまり時間作ってやれなくて」
「だ、大丈夫だよ? あ、それよりもご飯食べる? あっためようか?」
「いや、大丈夫だ。自分でやれるよ」
「お兄ちゃんはゆっくり休んでてよ。疲れてるんでしょ?」
「あ、あぁ……ありがとうな。それとごめん。いつも家事を任せっきりにして」
「大丈夫だよ。私、お兄ちゃんのために家事をするのすごく好き。それになんだかお嫁さんみたいだし」
最後になんて言ったのかは聞き取れなかったが、いつも俺が遅いせいで家事は完全に任せっきりになってしまっていたのだが、茉由がそれを負担に感じていないのならよかった。
茉由はこうして俺と二人暮らしで家事も任せっきりにしてしまっているから同年代のほかの子よりもおそらくしっかりしている。
親戚の家にお世話になっていたころから茉由は家事の手伝いをしていたからすぐに家事はできるようになったからな。
今では俺じゃ全く役に立てないほどに茉由の家事は洗練されている。料理もとてつもなく美味い。
「はい、どうぞお兄ちゃん」
「ありがとう」
俺は茉由の出してくれた料理に舌鼓を打ちながらテレビを見る。
「美味い」
「ありがとう。いつも美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるよ」
いつも俺が茉由の作った料理を食べている姿をうれしそうに眺めている。
そんなやり取りをしていると年明け数秒前となった。
テレビではカウントダウンが開始されようとしていて数字が大きく表示されていた。
『それでは行きますよ! カウントダウン。5…………4…………3…………2…………1…………』
これからも辛いことがあると思う。だけど、茉由さえ、妹さえいればこれから先も頑張ることができるだろう。
妹のためならば……妹を守るためならば……俺はどんなに辛いことだって乗り越えることができる気がする。
「お兄ちゃん――」
「茉由――」
「「あけましておめでとうございます」」
はい!正月特別編終了です
今回はいつもとは趣向を変えた内容でしたが、いかがでしたか?
茉由ちゃんのような献身的な妹が欲しかったですね。
僕は一人っ子なので、少し兄弟や姉妹が欲しいと思ったことはあります。
まぁ、たぶん妹が欲しいと思って小説などに妄想を書き連ねている時が一番幸せだという説はありますけどね。
それでは!
さようなら
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