はぐれ艦娘と孤立小隊 (小椋屋/りょくちゃ)
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第0話

今から少し昔。あるいは少し先の未来。激しい海の戦いがありました。そんな世界によく似たまた別の世界。歴史上にも残らない小さな小さな部隊のお話。

 

 

深海から突如現れた「深海棲艦」と人類海軍の戦争は、対抗手段を持たず外海の制海権を喪失した第一次侵攻、「第一次小笠原決戦」

近海まで接近を許し沖縄本島で陸上戦闘が行われ、後の第一次反攻まで地獄の戦闘が続いた第二次侵攻。「沖縄諸島の戦い」

「艦娘」の登場により人類が対抗手段を獲得し、沖縄本島、東シナ海の制海権を奪った第一次反攻、「東シナ沖海戦」

「東洋のジブラルタル」シンガポール、及び東南アジア最大の油田地帯、ボルネオ島近海の制海権を奪還した第二次反攻、「リアウ沖海戦」

西太平洋の帰趨を決すべく仮称「深海棲艦西太平洋方面艦隊」との決戦に望み、見事小笠原諸島、マリアナ諸島までの奪還に成功した第三次反攻、「第二次小笠原決戦」

米国政府との連絡に成功し、米海軍と共に北太平洋の打通、及び中北太平洋の敵艦隊撃滅に成功した、「AL作戦/ハワイ航空打撃作戦」

などが行われてきた。

 

深海棲艦が現れて早数年が経過し北太平洋海域の安定化に成功した現在、南方に兵を進め、オーストラリアの解放を目指した「南方進出作戦」が発令された。

航空戦力を基軸とし、水上打撃打撃部隊との混成連合艦隊が進出。緒戦航空戦は優位に進めていたが敵増援空母艦隊の来襲により制空権を喪失。艦娘側は対抗し得ず、順次後退を開始するもここで深海棲艦による追撃が開始され艦隊はほぼ壊滅してしまったのであった。

 

 

〜ソロモン諸島沖南方400㎞〜

各部の武装がボロボロになりながら、暴風雨の中必死に通信機に声を投げる黒髪の少女が1人。新鋭の「夕雲型駆逐艦」の1人として海軍の南方進出作戦に参加した駆逐艦「長波」であった。

「こちら第31駆逐隊所属長波!艦隊司令部応答願う!!」

無情にも聞こえるのは全身に叩きつける雨粒の音だけ。

「クソッ!通信機もコンパスもイカレてやがるっ!」

激しい戦闘に参加した彼女の艤装は節々が煙を上げ羅針儀は敵の爆撃の影響で狂ってしまい正しい方角も分からなくなっている。敵の攻撃に晒され続けた前線部隊の彼女は、日没とともにやってきた嵐の中敵水雷戦隊の強襲を受け本隊とバラバラにはぐれてしまい、進む方向も現在位置も分からないまま航行を続けているのであった。

 

 

灯り一つ無い嵐の海上は時間の感覚を失わせる程の闇の帳が覆い尽くし、少しでも身軽にするため通信機とインカムを捨てようとしたその瞬間、長波の耳に無線通信のノイズ音が聞こえた。気のせいかと思ったが、確かにノイズ音が聞こえる。微かに繋がった希望を頼りに、少しでも多く情報を得るため、通信周波数を少しづつ変え呼びかけを開始する。

 

 

通信機の向こうから「人の声」が入ることは無かったが、長時間動き続けるうち僅かに聞こえるのみだった無線強度が上がって来たことを確信する。すなわち「発信源」に近づいているのだ。まる一晩以上嵐の中単独航行を続けた彼女の体は悲鳴を上げていたが、燃料切れで漂流するしか無くなる。「発信源」が艦娘(ヒト)か深海棲艦か調べる術はないが進み続けるしか彼女に残された道は無い。

 

 

進み続けることさらに1日。太陽や月、星を目安に「ラバウル前進基地」を目指すことも考えたが、現在位置がほとんど分からない以上、ノイズを頼りに進むことを選んだ。しかし、時間が経つほど気力と体力は摩耗し、「発信源」に辿り着いたところで同じような末路を辿った艦娘の、無線機がノイズを発信し続けているだけで、隣にもう一つ同じような屍が増えるだけではないか、そんな想像が頭に張り付いて離れない。

 

艦娘として訓練を積み、一般人より精神的な強さが上とはいえ、彼女はまだまだ駆逐艦娘(子ども)であり、諦めかけたその時

「……ち……い…………………す…………」

と彼女の耳は確かに「ヒト」の声を聞いた。




初投稿からもう既に3年が経ち、断念してきた長編作品へのリベンジを込めた作品。

果たして今度は完走できるのでしょうか。
応援よろしくお願いいたします。


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第1話

のんびり書き進めて行きますよ


「……ち……い…………………す…………」

無線のノイズに混じり「ヒト」の声を確かに聞いた彼女は折れかけていた心を持ち直した長波は、調整し直した無線に声を吹き込む。

「こちら第三一駆逐隊長波!羅針儀の損壊により現在位置不明!救援求む!!こちら第三一駆逐隊長波!羅針儀の……」

出力を最大にし返事を返す。仮にも新鋭駆逐艦、大出力を送信できるシステムを積んでいた。発信主に届くと信じて、何度も何度も声を発する。もちろん発信源と思われる方向に進みながら。

 

「……ちら………ト………ス……………貴艦の……を…信…………。」

「やったっ!!届いたっ…!!」

まだまだノイズ混じりである中に「貴艦」というフレーズを聞いた私は大きなガッツポーズを取る。こんなに喜んだのは久しぶりかもしれない。

「これでなんとか燃料くらいは補給を受けれるはず……。」

本隊と合流出来ると仮定し諸々の計算を開始する。無線の出力、天候状況等を鑑み、半日と少しで合流できるはず、と結果が出た。

「助かった……。」

 

心の底から安堵の一言を漏らすと同時に、彼女の張り詰めていた気は一気に緩んでしまった。大出力無線での交信は深海棲艦に探知されるリスクについて、本来の彼女であれば十分承知しているはずが、不眠不休による集中力の欠落により失念しているのである。

 

そして不幸にも掃討戦に移行していた深海棲艦に探知されてしまっていた。

 

交信成功から数時間が過ぎ日没が迫る夕刻。深海棲艦の駆逐艦が長波を補足し追跡を開始していたが、長波は電探の故障も相まってその追跡に気づかない。本来の彼女であれば気づいてもおかしくないはずであったが、緊張の糸が切れ、うつらうつらとし始めた彼女が気づくことは無かったのである。

 

 

〜21:35、ニューギニア島東方約250㎞〜

「ふぁぁ……さすがの私でも眠ぃぞ………そりゃまぁ何日も寝てないし当たり前なんだけどな…。」

大きな欠伸をして独りごちる。数時間前に更なる交信に成功し、不明瞭ながらも救援の小隊を出しているという情報を手に入れた。私の現在位置は未だに不明だけれど、ラバウル基地方面に近づいていることだけは確かなようで、真っ赤に染まっていた海の色が、時間経過と共に薄くなる。奴ら(深海棲艦)の縄張りから離れられている証拠だ。

「しっかし……なんだぁ…?この嫌な感じは…。まるで誰かにつけられてるみたいな感じがする…ってそんなわけないか!あはは!」

いつものように笑い飛ばしたがその瞬間、べっとりと脂汗が流れるのを感じる。本能が警鐘を鳴らしている。何がおかしい、思考にスイッチが入る。交信にも成功した、もうすぐ奴らの縄張りも抜けられる…

「しまった!!!まだここはヤツらの縄張りじゃねーか!!!!」

そう叫んだ瞬間、左舷側にチカッと砲炎を見た。

 

ドォォォンという轟音が聞こえると共に砲弾が鼻先を掠める。

「迂闊だった!ちっくしょう!!そりゃ追撃受けて当たり前だよなぁ!!」

自分を叱り飛ばし、気合いを入れるために大声を出す。あいにくの新月も相まって、闇に溶け込んだ敵の数は分からない。少なくとも4〜5隻以上居ることだけはわかった。

「くっそ!燃料も弾薬も少ないのによぉ!!こんのっ!」

機敏に動き回り敵の砲撃を回避する。敵の砲撃の精度がだんだん上がってくるのが分かる。既に夾叉弾も出始めていた。落ち着いて、冷静に………

「まずは1つ!!!」

敵の砲炎に合わせて砲撃を叩き込む。

「夜戦でこの長波サマに勝てると思わないこと…だな!!」

斜め後ろから接近してきていたヒト型に回し蹴りを叩き込み胴に2発砲弾をプレゼントする。

「ほらっ!次ぃ!!」

速力を上げ肉薄し敵駆逐を一瞬で沈めていく。

海上を舞うように数的不利をものともせず見えた敵から片っ端から片付ける。それが長波の戦闘スタイルだ。

「くっそ…このままじゃ弾切れの方が先だぞ…!」

しかし彼女は既に満身創痍。弾薬も燃料も使い果たしかけていた。

「こんなことで…終わってたまるかよ!」

現状を打破するために疲れた体に鞭を打ち駆け回りながら脳を回転させる。

「だーもう!!弾と燃料(あぶら)さえあればっ!!!」

叫んだところで何も解決しないが、そればかりが脳裏をチラつく。こちらがそうそう簡単にやられそうにないことを学んだのか、敵の攻撃が一瞬小休止に入る。

「……1点突破だな。」

1つの答えを導き出す。今の私に出来るのはそれしかない。

おそらく後方から着いてきているであろうこの部隊の旗艦を潰し、敵が混乱している間に即反転して海域から離脱する。残りの燃料弾薬を鑑みて、それが一番効果的だと判断した。

 

「っし……。やるか!」

行動を開始するとタイミングを計ったかのように敵艦隊からの攻撃も開始される。狙うは旗艦(アタマ)ただ1つ。

「そんな攻撃は当たらねぇよ!!」

先程の何倍も秩序だった砲撃が繰り出されるが、彼女にとっては取るに足らない。

「そこだぁぁぁ!!!」

flagship(オーラ)をダダ漏れにしているヒト型に狙いを定め至近距離で砲弾を叩き込む。確実に行動不能だ。

「っしゃぁ!」

成功を確信し反転した瞬間、砲口をこちらに向けたヒト型(重巡ネ級)がニヤリと笑って進路を塞いでいた。旗艦は潰した。その判断自体は間違っていなかった。しかし彼女は、最後の最後で天に見放されたのである。

 

 

 

 

「沈むのか…案外呆気なかったなぁ…まぁそれも私らしいか。」

死を感じた刹那、あっさりとその死を受け止める私が居た。

「あぁ、楽しかったなぁ…夕雲姉たちは無事帰れてるといいな……」

姉妹達に思いを馳せ、"最期"を覚悟したその瞬間、目の前のヒト型が爆炎に包まれ吹き飛ぶ。

「何とか間に合ったのですっ!撤退するのです!!」

自分より小柄な駆逐艦娘に手を引かれ『こっち側』に還ってくる。

「早く〜あたし1人じゃ、こんなに相手にできないよ〜。」

と少し遠くで片翼の部隊を旧式艤装で相手にしながら声をかけてくる艦娘が1人。

「助かった…ありがとう……。」

「感謝はいいから、早く逃げるのです!!」

強く手を引く艦娘が煙幕を炊き早々と戦場海域を離脱していく。見事な手際による一瞬の出来事だった。

長波は、地獄の底から助け出されたのである。



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第2話

「ふぁぁ〜…眠いね〜電ちゃん〜…。」

「もう少しで基地なのですから、もうちょっと我慢なのです。」

「ん〜…死ぬほど眠いよ〜…。」

私より一回り小さい駆逐艦娘に手を引かれながら徐々に北上していく。2人は睦月型7番艦文月と、暁型4番艦電と名乗った。

「な、なぁ…今更だがどこに向かってるんだ……?というか、手は繋いでなくてもいいんだが……」

2人に救出されてからはや数時間、夜も深けきり自分たち以外には物音聞こえない海上を進んでいく。

「まぁまぁ、焦らずのんびり行こ〜よ〜。」

「なのです。細かいことは司令官に会ってから考えるのです。」

「いやだから、その司令官とかについても教えて欲しいんだが……はぁ……。」

向かっている先に着いて聞こうとしても、こんな調子で流されてしまう。実際疲労が溜まり過ぎているから難しいことを考えなくて済むのはありがたいのだが……。いやでも、着く前に少しくらい情報を……………

 

 

「長波ちゃん、寝ちゃったね〜。」

「まぁ、仕方ないのです。ずっと眠れなかったみたいなのですから…。」

長波の腕につけられた、煤汚れ焦げ破れて判読しにくくなった腕章を眺めながらそう返す。

「あたしも寝ていーい?」

「文月ちゃんはもうちょっと頑張るのです。」

「はぁ〜い。」

 

 

「─み…─みちゃん。」

意識の遠くから呼ぶ声が聞こえる。

「長波ちゃん、起きてなのです。もうすぐ入港できますよ。」

「ふぇぁ…?…って!?私!寝落ちてたか!?」

空にはもう日が登り始め、キラキラと水面が揺らめいていた。風も凪いでいる。確実に寝ていたようだ。

「スヤスヤ寝てて、可愛かったよ〜。」

「やっぱり、手は繋いだままにしといて良かったですね。」

「……何も言い返せねぇ…………。」

2人ににこにこした顔で言われ、昨夜の発言が恥ずかしくなってしまった。

「そんな事より─こちら第3特設駆逐隊旗艦電、まもなくポートモレスビーに入港するのです。どうぞ?」

『─了解。もう少しとはいえくれぐれも注意するように。』

「了解なのです。─ということで、やっと港ですよ。」「やっとこれで寝れるねぇ〜。」

「一応…帰ってこれた訳か……。」

水平線の向こうにニューギニア島が見えてくる。やっと帰りついた。それだけのことだが、どっと安心感と精神的な疲労が込み上げる。

「えっと、とりあえず入港したら長波ちゃんは即ドックに入渠できる様手配してあるので、気にせず入渠ドックに直行してください。」

「あぁ、ありがとうな…。」

「どういたしましてなのです。」

「電ちゃん、あたしは〜?」

「お風呂に行ってお部屋で休んでいいのですよ。」

「わぁ〜い、じゃあお疲れ様〜。」

文月はタタタと駆けて基地内へと入っていく。

「入渠ドックはそっちなのです。多分、妖精さんが居るので、じっくり怪我を治して欲しいのです。」

「おう、ありがとうな、また後で。」

入港し、電と別れドックへと向かう。

艤装を解除し修復をお願いする。

「お疲れ様、ゆっくり休んでくれよな。」

各種武装担当の妖精に声をかけ自分は身体の怪我の手当を開始してもらう。

「ってて……身体の怪我も、艤装みたいに速く治りゃいいんだけどなぁ……。」

擦り傷だらけの右腕を眺めながらそう呟く。

「まぁ…この程度の怪我で済んでるのも艤装のおかげなんだから、感謝しないと…か。」

自分の周りを医療器具を持って走り回る妖精さんを眺めているうちに、ウトウトとまた眠りに着いたのであった。

 

「──っあ…あぁーよく寝た……。」

色んなところに包帯やガーゼが当てられた状態だが動かすことに支障はない。拘束具も無いことから絶対安静にする必要も無さそうだ。大きく伸びをして1つ息を着く。

「おはようございます、長波ちゃん。」

「ん?電か、どうした?」

こちらが起きるタイミングを計ったかのように電がやってくる。

「艤装と制服の修理が終わったので確認をお願いしたいのです。」

「おぅ、任せとけ。………うん、問題無さそうだな。」

大した労力でもないのでちゃちゃっと済ませ、基地内の紹介と自室へと案内されることになった。

いわゆる「鎮守府」としての体裁はちゃんと整えられており、既に大型滑走路まで設営されていた。他には作りかけだが大きな隊舎まであり、ニューギニア島全体の制圧戦の前線基地になる予定なのかもしれない。

「ここを自室に使ってほしいのです。」

基地内に据え付けられたシンプルなつくりの部屋に案内された。私個人としてはあまりここに長居する予定はないのだが...。

「それでは、電は秘書艦のお仕事があるのでいったん失礼するのです。」

「あ、待ってくれ。ここの提督に挨拶させてくれないか?」

「わかったのです。こっちなのです。」

周辺の状況を確認するためにも、三十一駆逐隊(原隊)の情報もわかるかもしれない。

 

「失礼します、電なのです。」

「入ってくれ。」

「長波、失礼します。」

電に続き部屋に入る。

「長波さんですね、私はここを預かる羽田 碧(はねだ あお)と言います。これからよろしくお願いしますね?」

「あぁ、そのことなんだけどな...」

「どうかしましたか?」

「私はいつ原隊に戻れる?できればなるべく早く巻波たちと合流したいんだが...。」

「あぁえっと...。」

司令官の目が曇る。

「ん?どうした?」

「あなたの部隊がどうなったかは...わかりません。」

「えっじゃあ私は...」

「あなたの安否に関しても"行方不明"です。」

「えっでもここはちゃんとした基地なんじゃ...?」

命令系統が接続されているなら、私の生存も連絡されているはずだ。

「なぜなら今のここは......孤立無援の、最前線に取り残された、連絡不能の前進基地ですから。」



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第3話

「なぜなら今のここは......孤立無援の、最前線に取り残された、連絡不能の前進基地ですから。」

提督の口から衝撃的な話が通告される。

「うそ…だろ……?」

「嘘ではありません。おそらくですが、我々は行方不明…最悪、戦死扱いになっていてもおかしくありません。」

極めて冷酷に、淡々と衝撃的な内容が説明される。脳が理解を拒む。

「順を追って説明しましょうか。電さん、地図をお願いします。」

「はいなのです。」

スラウェシ島からソロモン方面までが書き込まれた地図が広げられる。

「ここが我々の居るポートモレスビーです。先日オーストラリア奪還作戦前哨戦として南方進出作戦が行われました。結果に関しては…あなたも充分ご存知だと思いますが。

その際ニューギニア島北方のラバウル前進基地とここポートモレスビーが敵別働隊による空襲を受けました。ラバウル基地の方は航空隊が充実していたこともあり損害は軽微だったようですが、こちらは通信設備に深刻なダメージを負いました。連絡不能になったことにより大本営はここポートモレスビーの部隊は空襲により壊滅したと判断し、ラバウル基地は放棄、ニューギニア島制圧作戦は破棄されました。長距離通信が不可能な我々はラバウル基地による中距離通信中継という望みもなく孤立してしまったという訳です。」

「なるほど…な………。」

生真面目な長ったらしい説明を聞いているうちに冷静になってきた。

「1ついいか…?」

「なんですか?」

説明を聴きながらずっと気になっていたことを尋ねる。

「なんでその情報を持ってるんだ…?私と通信できたのは、まぁ中距離通信設備の復旧に成功したからだと思ってるが…。」

「それはねぇ〜あたしが頑張ったからだよぉ〜。」

「文月!?いつの間に!?!?」

不意に背中に飛びつかれ声が裏返る。

「えへへぇ〜、ついさっきだよぉ〜。」

「びっくりしたなぁもう……それで、文月が頑張ったってのは…」

制服を整え改めて聞き直す。

「ん〜とねぇ…あたしの逆探で傍受した…ってのが正しいかなぁ…?」

やけにフワッとした回答が帰ってくる。

「えっと…どういうことだ…??睦月型の逆探がそんなに高性能だと聞いたことは無いんだが…。」

「えぇっとねぇ、旧式化しつつある1部の艦娘に、試験目的で様々な試験装備改装が行われたんだよ〜。あたしはその時に、逆探設備と、強力な傍受設備を貰ってて、それを使って情報収集艦としての活躍を期待されてたんだよねぇ…。」

「それを味方に使う羽目になるなんて皮肉なのです…。」

「お陰様で、情報を手に入れることは出来たんですけどね。」

「なるほどなぁ……。」

妙に納得させられてしまった。

「ところで…これからどうするんだ…?ここ…。私は三十一駆から除隊させれてそうだし…。」

根本の問題に立ち返る。

「一応既に、今後の方針は既にいくつか立案してあるんですが…折角ですし長波さんの意見も参考にしてみましょうか。」

「おぉ!そういうことなら任せておけ!!」

こういう話なら私は得意だ。

「まず第1案ですが、西へ退却することです。西へ行けばある程度島伝いに人類側勢力圏へ帰ることができます。第2案はニューギニア島東端を迂回し北進してグアム島方面へ退却することです。グアム方面軍は未だ撤退再編が行われて居ないので、西方撤退より短い距離で勢力圏へ合流が可能です。第3案は…ここで粘り強く戦い続けることです。ニューギニア島最大4000m峰を踏破し陸路移動することは全く現実的ではありませんから。」

論点を整理した案だと思う。

「…私は……第3案しかないと思う。」

「電は…撤退する方が吉だと思うのです。資源も食糧も、その他物資も圧倒的に不足してるのです。」

資源収支の面から反対するのは電だ。

「でも…無事に辿り着ける保証はどこにもないよ…?司令官も一緒に連れていかなきゃだし……。」

「自分のことは、切り捨ててもらっても構いませんよ…?」

文月が身を案じるような発言をすると、即自分には構わないよう否定する。

「そういうわけにはいかないのです…!!」

「ならどうするの…?」

電が見捨てる選択肢を取る訳にはいかないと反発するがそうすると答えがさらに遠のく。

「…深海棲艦は、先の戦闘の勝利で、グアム方面か…あるいはジャワ方面に逆侵攻をかけるだろうから敵の最前線へ飛び込むような真似をするのは……やはり第3案が妥当…だと私は思う。私たちのこの位置は、南太平洋を拠点とする深海棲艦の中枢と前線を繋ぐ補給線上にあるとも言える。ゲリラ的に補給を圧迫させることが出来れば、前線への支援に繋がるし、補給物資をうばえれば、その分私達が長く動けるようになるはずだ。」

「なるほどぉ……。」

「散発的に攻撃を行えば"ここ"がバレる心配も少なくなるしな。もちろん、偽装は充分行ってもらわなきゃ困るが…どうだ??」

「……反対できる理由がほとんど無いのです。」

「…これでどうだ?提督」

司令官を伺い見る。

「自分は、基本的にあなた達の意見を尊重するので、皆さんで結論を出していただければ、ですね。」

どうも自棄思考が入ってるのが気になるが、承諾は出た。

「よし!じゃあ決まりだな!!駆逐艦だけの小隊だが、やれるだけやってやろうぜ!!」

こうして、地獄の戦場へ飛び込む事になるのだった。




なんというか、拙い書き方になって来てる気がする


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第4話

〜03:00、バンダ海洋上〜

「こちら長波、戦闘終了、こちらの損害なし。敵輸送艦の鹵獲に成功、これより帰投するぜ。」

『了解です、敵戦力に留意しつつ帰投してください。』

インカムの向こうから生真面目な返答が帰ってくる。

「あいよぉ。」

 

 

徹底抗戦を続けることを決めてから早1週間。鎮守府、泊地としての「通常業務」を行うのにすら事欠くほどに物資が払底し始めていた。そんな時、

「物資が足りないなら、深海棲艦から貰っちゃえばいいんじゃないかなぁ…?」

と文月が提案した。

「貰う…どういうことなのです……?」

キョトンとした顔で電が聞き返す。

「ほら、輸送艦とか沈めるんじゃなくて無力化して鹵獲して…中身を貰っちゃえばいいんだよ〜?」

ニコニコとした顔で説明をする。

「いい笑顔でとんでもないこと言い出すなぁ……。」

さすがの私でも思わずボヤいてしまった。

「とはいえ、悪くは無い…ですかね。活動を停止した深海棲艦であれば工廠で解体することもできますし…。悪くは無いと思います…が、やれますか……?」

おそらく私たちの心情を気遣っているようだが…

「最初期から戦い続けてきた歴戦駆逐艦2人と、最前線で駆けずり回って来た精鋭駆逐艦を舐めないで貰いたいねぇ!」

「なのです!」

「その通りだよ〜!」

即座に2人とも同調する。

「なら…それが今の所、最善手かもしれませんね…。」

あまり浮かない顔をしている…やはり場馴れしていなさそうだ。

「っしゃぁ、じゃあ、早速そのために動く準備を始めようぜぇ、な?司令官?」

この状況なら一時期艦隊司令艦を務めた私が気合いを入れさせるべきだろう。

「え、えぇ、そうですね。文月さん、深海棲艦側の最近の動静はどうですか?」

スイッチが入ると、指揮官として配置されているだけ物事の順序がよく分かっている。

「えぇっとねぇ確かねぇ…主力艦隊はもっぱら前進したみたいだよぉ〜?」

地図に敵主力の進出推定ポイントを記していく。

「となると我々は落ち着いて輸送艦狩りができますね。」

冷静に地図を眺めながら輸送路と思われる航路をピックアップしていく。

「状況的には最高だなぁ…。」

地図を俯瞰し奇襲にピッタリなポイントを決めていく。深海棲艦の「投錨地」は既によく知られており、私の頭の中にも何ヶ所か覚えがあった。

「どこから攻撃してみるのです…?」

「行動範囲的に動きやすく、なおかつここが察知されにくいところ…となるとニューギニア島東岸、バンダ海の辺りが島陰にも逃げ込み易くいいんじゃないですかね…?」

地図上の1つのポイントを指す。スラウェシ島とニューギニア島の間にある、島嶼の並ぶポイントだ。

「あたし的には問題無さそう〜。」

「私としても大丈夫だな。小回りが利くのが私ら駆逐艦の最大のメリットだし。」

「電は、どこでも大丈夫なのです。」

「ではここを起点とした襲撃計画を立てます。文月さんは明日以降も情報収集をよろしくお願いしますね。」

 

〜23:00、バンダ海洋上〜

「こちら長波、投錨中の敵輸送船団を視認。護衛は少ない模様、どうぞ。」

秘匿回線で司令室の提督に連絡を取る。

『事前情報通りですね。こちらも作戦通りに攻撃を開始してください。』

「了解…!」

攻撃開始許可を得ると同時に、2人にサインを出す。それを確認した2人は展開を開始する。全戦闘妖精さんを戦闘配置に着かせ呼吸を整える。

「全艦、長波に続けっ!突撃するっ!!」

照明弾を空中に打ち上げ全速力で敵艦隊の中央に突撃を敢行する。

「ってぇーっ!」

主砲弾を的確に土手っ腹に叩き込んでいく。本来ならここで魚雷もお見舞いするが私の役割は攪乱。寝起きの深海棲艦共に爆薬をプレゼントしていく。

「そんな甘い砲撃じゃ当たらないよっとぉ!」

敵軽巡の砲撃をヒラリとかわし正面にズドン。

「そんな回避機動じゃ沈んじゃうよぉ!!」

ジタバタと逃げようと動く敵駆逐の横っ腹にズドン。

片っ端から戦闘艦艇を無力化していく。

「っと…この長波サマに近接で勝てると思われるたァ舐められたもんだねぇ?主力オブ主力もぉ!」

肉薄してきていた敵雷巡を返す刀で一撃で屠る。

「こちら電、目標数の輸送艦の鹵獲に成功したのです。」

「こちら文月、こっちも目標数達成したよぉ〜。」

2人から報告が届く。

「待ってたぜぇ…!ウェポンフルオープン、魚雷1から4番、右舷2時方向に集中投射っ!」

魚雷担当妖精さんに、魚雷投射の指示を出す。一撃必殺の酸素魚雷が、重たい腰を上げ始めた敵輸送艦を貫く。主砲弾が敵を無力化する。縦横無尽に駆け回る夜の歴戦駆逐は、誰にも止められない。遺るのはただ、重油と船体だった物ばかりだった。

 

〜02:00、バンダ海洋上〜

「こちら長波、戦闘終了、こちらの損害なし。目標数の敵輸送艦鹵獲に成功、これより帰投するぜ。」

『了解です、敵戦力に留意しつつ帰投してください。』

「あいよぉ。」

やはり戦術的な話で言えばこの司令は優秀だ。文月の情報収集能力にも助けられたが、現に完璧なタイミングでの夜襲に成功した。チラッと確認したが、3隻と1人であれば、しばらく事欠くことは無い量の物資を手に入れた。問題は、時間が経てば経つほど襲撃が難しくなる事だが…。




先週は投稿できず誠に申し訳ございませんでした。
皆様のTwitterアカウントはご無事でしたでしょうか、投稿主はメイン垢が凍結の憂き目に会い酷い目に遭いました。

個人的にイーロンに恨みはないですが、不具合も頻発しているようで対応をして欲しい限りです。


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第5話

比較的平和回です。

地獄の戦闘に突入するためには英気も養って貰わなくてはいけませんから。


「艦隊、帰投したぜ~。」

「お疲れさまでした。補給などは用意してあるのであとで受けっとってきてくださいね。」

執務室で待っていればいいものをわざわざ出迎えに来たようだ。

「あたし、もう寝てもいいかなぁ~?」

ズルズルと運んできた輸送艦をドックに陸揚げしつつ、そんなことを言う。

「文月ちゃん、さすがにシャワーくらい浴びた方がいいと思うのです...。」

返り血をべったりと浴び、揚陸や軽い解体でさらに朱く染まっているわけだが...本人は全く気にしていないようだ。

「なぁ文月...ソレ、嫌じゃないのか...?」

頭から足先まで煤に油に、そして血にまみれている状態の文月を一瞥しながら陸揚げを手伝う。

「あたしは別に~?むしろ、こうやってぐちゃぐちゃにしてやれるだけ気が晴れるかなぁ...?」

一瞬、文月の瞳に残虐な色の火が灯るがすぐ消える。

「あーあ、駆逐艦なんかじゃなくて戦艦だったら、沢山、あたしの手で殺ってやれるのになぁ...。」

心底悔しそうにそうつぶやく。

「あぁ、そういうことか、すまなかったな。」

電も、提督も、伏し目がちに作業を進める。「沖縄諸島の戦い」と同時並行して、深海棲艦の一部部隊が全国各地の港湾都市を襲撃していた。おそらくその際に肉親が殺されたりしてしまったのだろう。この時の攻撃は苛烈を極めた地域もあり、酷いところだと数千人単位で被害者が出た地区もあると聞いたことがある。幸い、「私自身」の故郷は海からは程遠く家族や知り合いが亡くなることはなかったが、「艦娘」として戦場を駆けるようになってからは、様々な「別れ」に直面してきた。だが、それだけである。彼女だ体験してきたような思いを、私は味わったことがまだ無い。

「別に、全然大丈夫だよ~?長波ちゃんは何も悪くないし、悪いのはあいつらなんだから...。」

そう絞り出した声には、恨みや悲しみが詰まっていた。

 

 

「あったかぁ〜い……このまま寝れそ〜……」

浴槽にもたれ掛かりながら文月がそう漏らす。放っておいたらそのまま寝てしまいそうだ。

「寝ちゃダメなのですよ?」

隣に電が入り文月の様子を伺う。

「わかってるって〜。大丈夫だよぉ〜。」

それなりに構っていれば大丈夫そうだ。汚れを落とした私も2人に合流する。

「はぁ……休まるなぁ……。」

「なのです。妖精さんと司令官さんには感謝なのです。」

文月が運搬していた大発動艇からの陸揚げが終わると、司令官は「後はこちらでやるから」と、私らに休むように指示をした。実際、夜通し動き回り疲労がピークに達していたので大人しく休ませて貰うことにした。

「そういえばだが…ここの風呂はどうやって沸かしてるんだ…?そもそも真水も貴重だろうにこんなに沢山使っても良いもんなのか…?」

ふと気になったことを電に尋ねる。私が居た前進基地じゃ、身体を洗ったり流すのは可能でも、入浴が出来るのはそこそこ稀であった。

「えっと、元々ここはニューギニア島、ソロモン諸島、オーストラリア攻略の陸軍部隊用の前進司令部施設が建築される予定だったのです。そのために、真水確保は重要であるからと雨水を貯めたり海水を浄化するシステムが元から備わっていたのです。敷地外縁の方には風力や太陽光の発電設備が備わっているのでこの人数と妖精さんが使う分には充分足りている、という話らしいのです。」

「へぇ…なるほどなぁ…。そういう事なら合点が行くなぁ…。……文月〜寝るなよー?」

溶けかけている文月を突っつきながら話を聞く。

「大丈夫大丈夫〜……。」

いつもどこか掴めない雰囲気をしているが、掴めない状態になられると非常に困る。服を着せたり部屋まで運ぶのは私たちなのだから。

「しかしまぁ…私も肩が凝ったりするし気持ちは分かるが…普段ももう少しだけシャッキリしてくれると助かるんだけどなぁ…。」

浴槽を出て「ほら文月、出るぞ〜」と声を掛けつつ文月を引っ張りあげてる。

「…………………のです…。」

胸の辺りに手を当てながら何かをブツブツ呟いている。

「電、何か言ったか?」

文月をおぶりつつ聞いてみる。

「な、なんでもないのですっ!//」

すごい剣幕で返される。

「お、おう……顔真っ赤だし、のぼせる前に出ろよ〜…。」

何があったか分からないが、気に触ったようなら後で謝っておこう、そう思いながら文月を連れ脱衣所へ向かった。

 

 

「なんでも…ないのです…………。」

静かになった浴室で、電は1人ごちる。

視線を下げると子供体型とも呼べる細い身体が目に映る。

実年齢はあの2人より少し上なのに、艦娘になってからというものほとんど成長していない、2人ともより貧相な身体に手を重ね。

「いつか私も……あんな風に………なれると………うぅん、きっとなれるのです!そう思うことにしておくのです………。」

顔半分を沈めぶくぶくとさせながら

「長波ちゃん……羨ましいのです…………。」

と脱衣所で文月と格闘している長波に向け、嫉妬とも羨望とも取れる言葉を聞こえるはずのない彼女に放り投げたのであった。




作者の脳内設定では艦娘自体は、生物学的な「ヒト」と何ら変わりは無いと解釈しています。

被弾しても、被雷しても、「即死」しないのはなんででしょうね。
こういう裏話的設定が気になる方がいればこのシリーズで設定についても語っていこうと思います。


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第6話

「っと……今回はこんなもんか。」

文月の運搬する大発動艇に輸送ワ級を詰め込む。

「護衛の艦隊も増えたね〜。」

手馴れた手つきで積み込んだワ級を崩れないようにした文月が大発から降りる。確かにココ最近は敵護衛艦隊の質も量も明確に増えていた。

「でも、これくらいなら一捻りなのです。」

この3人で行う夜間襲撃も、私が突撃、撹乱し、電が目標の輸送ワ級を無力化し、文月がとどめを刺すというルーティンが完璧に確立していた。

「さてと、日が昇らないうちに帰らないとな。」

「そうだね〜。」

ここは敵地ど真ん中、輸送艦隊の襲撃を阻止するために日が昇れば深海側の索敵機が飛び回るだろう。

今回はいつもより遠くに足を伸ばしており、急ぎ足で帰投する必要があったのだが…

 

「クッソ、こんな時に限って嵐じゃねぇか!」

赤道直下、熱帯の海上は嵐が起きやすい。

帰路大嵐に巻き込まれ進むに進めなくなっていたのだった。

「文月ちゃん大丈夫?」

「あたしは大丈夫だけど、大発が……。」

電が文月のサポートをしながら進む。あくまで大発動艇は文月の装備下であるため、壊れることは早々無いが、駆逐艦娘にとって辛い嵐の上に、大発のコントロールまでしなければならない文月はキャパオーバーになり掛けていた。

「1回休憩するぞ!あの島に上陸しよう!!」

『ヒト型』であることを活かして小島に上陸。波が収まるまで待機する判断をした。

「こちら長波、提督、応答願う。」

『どうしま…した…がなみさん、どう…。』

嵐のせいで通信回線も雑音が酷い。

「この嵐で大発の運搬がかなり怪しくなった、現在小島に退避している。」

『わ…りまし……気をつけ……さい………。』

最低限の連絡を取り、大発を砂浜に引き上げるのを手伝う。

「ありがとう長波ちゃん〜…。」

「困った時はお互い様…だぜ。」

艤装のパワーアシストがあるとはいえ、相当辛いが、根性で波に攫われない位置まで引きづりあげる。

「文月ちゃん、掴まってなのです。」

疲労でフラフラになった文月を支え電が島の木陰へと連れていく。ただでさえ凌波性に乏しい旧式艦艇な上に、大発動艇のコントロールまでする必要があるため相当な重労働だったはずだ。そこまでならもっと早く、その旨を伝えて欲しかった。私たちは一蓮托生、文月が居なければ、この作戦も成り立たないのだから。速成の駆逐隊であるが故の弊害が、出てきてしまっていた。

 

「っっ…寝ちまった……。」

艤装に備え付けの携帯食料を食べ、嵐が過ぎるのを待って居るうちに、眠ってしまって居たようだった。日も高く登り今から行動するのはあまり良くなさそうだ。

「電と文月は……。」

伸びをしながら辺りを見渡すと、隣の木で、肩を寄せ合い眠っていた。

2人を起こさないように、その場を離れて提督に連絡をする。

「こちら長波、応答願う。」

『大丈夫でしたか?連絡が無いので心配しました。』

コールを飛ばすとすぐに不安そうな声色の提督が出る。かなり心配を掛けたようだ。

「あぁ、今のところは問題ない、日が暮れてから動こうと思う。」

『了解しました。場合によってはこちらから航空支援も出しますが十分発見されないよう気をつけてください。』

「了解。」

サッと通信を終え艤装を着けたまま島を探索する。

艤装の影響で、数日程度であれば飲まず食わずでも活動できる身体ではあるが、そんな状況ではもちろん集中力もパフォーマンスも低下する。少なくとも飲水…出来れば食糧も何か手に入れたかった。

 

 

 

「しかしまぁ…思ってたより広いなぁ…ありがたいけどさ…。」

それなりに突き進んだところで湧水を確保し、流れ着いていたボトルに貯める。嵐の影響で想定航路から外れた島に上陸していたようだった。

「さて…そろそろ戻るか…。」

180度向きを変え、元来た道を帰ろうかと思った時、視界の端に何かを捉えた。

「あれは…なんだ……?」

鬱蒼とした茂みには似つかわしくない人工物のように見えた。

確認するために近づくとそれは…

「おいおい、軍の輸送機じゃねぇか……。」

墜落時期的には「南方進出作戦」とほぼ同時期だろうか、パイロットと思われる遺体は既に骨だけになっていた。

「……さすがに、こういうのは気分が良くねぇな。」

機内を探索し終わり降りたところで、見張り員妖精が「生物」の痕跡を発見する。それはだいぶ小柄な、靴の足跡のようだった。時間がそれなりに経過しており、熟練の見張り員が居なければ発見出来なかっただろう。

「おいおい、まさか……。」

その痕跡を追跡し進んでいく。

「大丈夫か!おい!!」

その先には、黒髪に私たちと同じように「艤装」を装備した少女が倒れていた。

だいぶ衰弱しているがまだ息はある。「加護」の力が生きていたおかげでここまで生命が繋がったのだろう。だがしかし、残された時間は多くないように見えた。

体の傷や、骨折していた左腕に応急処置をし、水分をどうにか補給させる。

「頼む、帰るまでは持ってくれよ…!」

どうにかこうにか抱き上げ降り立った浜辺へと戻る。

"強行帰投"する必要が発生してしまったのだった。




黒髪で小柄な艦娘…一体誰でしょうかね。


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第7話

「頼む、帰るまでは持ってくれよ…!」

ボロボロになった身体を抱き上げ浜辺へ駆け出す。

彼女の主機を下ろそうかとも思ったが、彼女の命脈を繋いでいるのは艤装による「加護」だ。武装の類は持っていないことが幸いだが、主機を背負ったままの艦娘1人となるといくら小柄とはいえ相当な重さだった。

 

ゼェゼェと息を切らせながら浜辺に戻ると、電や文月も起きており、各自で艤装のチェックや、陸上に引っ張り上げた大発の偽装作業をしていた。

「すまん!2人とも!急いで出発だ!!」

「どうしたのです!?」

「大丈夫〜…?」

ただならぬ雰囲気を感じ取ったのか2人が駆け寄ってくる。

「この子が奥に倒れてた!もう時間がなさそうなんだ!鎮守府まで運びたい!!」

身体に障らないように、なるべく揺さぶらないように運んできたつもりだが、その影響かだいぶ身体にガタが来ていた。運んできた艦娘を一旦文月に預け、呼吸を整える。

「三日月ちゃん!?」

その艦娘の顔を見て文月が反応した。

「面識あるのか!」

「面識があるも何も、姉妹艦だし、一緒に戦ったこともあるもん…!」

どうやら浅からぬ縁があるようだ。尚更助けなくては。

「電!!鎮守府に連絡を!!!」

「は、はいなのです!!」

文月から三日月を受け取り、背中におぶる。私の主機もあるが、抱き上げたまま運ぶよりかは楽だ。大発にも目をやるが、そこには深海棲艦が満載だった。

「「せーの!!」」

文月と共に大発を海面に降ろす。幸い満潮に近いこともあり時間もかからず戻すことが出来た。

「受け入れ態勢を整えて待ってるとの事なのです。」

鎮守府に連絡をつけた電が合流し島を後にする。

残る燃料で出せる最大戦速で海を駆ける。

「電!この速度なら何時頃までに帰投できる!?」

「現在時刻が0927(マルキュウニーナナ)なので、1600(ヒトロクマルマル)頃までには近海に入れるはずなのです!」

「そうか!頼む、間に合ってくれよ…!」

酷い栄養失調状態であり、いつ「加護」の力が切れてもおかしくない。「ヒト」としての死を「加護」の力で強引に先延ばしにしているだけの状況であり、一刻も早い治療が必要だった。

 

深海の偵察機に見つからないように雲と雲の間を縫うように動きながら最短距離を駆け抜ける。

命の灯は、刻々と薄れていく。

 

「前方に敵艦隊!はぐれ駆逐なのです!」

偵察役を買って出た電が報告する。水平線上に僅かに見えるだけだが向こうもコチラに気づいたようだった。

「邪魔なんだよっ…!」

遠距離ではあるが精密な雷撃と砲撃を先頭の駆逐艦に叩き込む。三日月を背中に背負っているため、いつものような肉薄突撃はできない。しかし…

「三日月ちゃんとは私も縁があるのですっ!だから今は!沈んでいて欲しいのです!!」

静かに近寄り、的確に急所を撃ち抜く一撃。本来の電であれば、滅多にしないような、『確実に息の根を止めるためだけの攻撃』。電だって、何度も何度も死線をくぐり抜けてきた猛者なのだ。ただ、自分の信条のため、それを使うことが多くないだけで。

「ごめんなさいなのですっ!!」

発言とは裏腹に、素早く、的確に、一体ずつ潰していく。あまりの肉薄が故に、顔にまでベッタリと返り血を浴び、さながら悪鬼羅刹のようにも見えた。むしろ『本来の彼女』はこちらなのではないか、そう思わせる雰囲気まで纏いながら殲滅する。

「すまない、助かった電。」

「大丈夫なのです。三日月ちゃんのためですから。」

綺麗な茶髪が、深海棲艦の血で紅く染まったままニコリと笑ってみせる。文月とはまた違ったベクトルで、深海棲艦に対して何かを抱えているのかもしれない…そう痛感した。

 

日が暮れだす頃に、ポートモレスビー近海にたどり着いた。呼吸もかなり弱々しくなっていたが、何とか間に合った。数度、はぐれ駆逐には遭遇したが、その都度電が殲滅した。

「待っていましたよ皆さん!」

状況が状況のため、提督が湾内移動用の船に乗って出迎えに来た。数体のドッグ妖精さんも連れてきているのが見える。

「だいぶ遅れた!!すまない!!」

素早くそちらに飛び乗り、三日月を降ろす。

「命が繋がっているなら、大丈夫ですから。」

提督と協力し、船内に安定させる。直後、数体の妖精さんが三日月の診察を始める。ドッグ管轄の妖精さんとリンクしたことで『艦娘としての死』からは免れられたようだ。しかし、極度の栄養失調等により『ヒト』としての死は、もう目前に迫っていた。

「少し飛ばしますよ!!」

珍しく、感情をモロにむき出しにした提督が船を飛ばす。缶とタービンを積んだ時の最大戦速並の速度が出ているようだった。

湾内とはいえそんな速度であれば大揺れも起こすが、妖精さんたちはテキパキと応急処置をしていく。

少し目を離しているうちに栄養剤を1本、静脈注射しているようだった。

そのまま工廠に突っ込むように入港し、2人で入渠ドッグまで運ぶ。

「間に合った…のか……?」

強行軍で飛ばしてきた私はフラフラと座り込む。

「えぇ…ここから先は妖精さん達が全部治してくれるはずです…。」

基本的には冷静な提督も、息を切らすほどだった。

戦闘以外で、ここまで精神をすり減らすのは初めてのことだったかもしれない。それほどまでに、命は重いのだ。重くて然るべきなのだ。

ただ、大発に積まれた深海棲艦(生き物)を物資としか思っていなかった自分が、半ば殺戮を繰り返していた自分自身の手が、戦争という狂気に呑まれたこの常識が、途端に恐ろしくなった。




艦娘も深海棲艦も、何よりまず「生き物」ですからね。それは1個の「命」であることに違いはないと作者は解釈しています。
だからこそ「ヒトとしての死」と、「艦娘としての死」は別物であると解釈している訳なのですが。


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第8話

翌日、まだ日も登らぬ時間に起きてしまう。

昨日は資材の揚陸、分別もそこそこに休息、就寝となったため、いつもより早く起きてしまった。

もしかしたら、三日月が起きているかもしれない。着替えて様子を見に行くことにした。

 

廊下に出ると、バッタリと電に出会う。

「おはようございます、長波ちゃん。」

「おう、おはよう…これから入渠ドックか?」

「はいなのです。入渠が完了したと報告があったのです。」

鎮守府内の妖精さんによる動きは、逐一秘書艦権限を有する艦娘に報告される。原理は…不思議な妖精さんネットワークによるもの、としか形容できないが。

「私も着いて行っていいか?」

色々と聞きたいこともあるし、もし支えが必要なら私も居た方が役に立つだろう。

「もちろんなのです。」

ニコッと笑うと、そのままドックのある方へ歩き出す。

「電は、今まではどこで戦ってたんだ?」

後ろから着いていきながら、話しかける。

「電は基本的に、後方支援及び島嶼攻略支援がメインだったのです。だから、長波ちゃんみたいなのは、ちょっと憧れちゃうのです。」

はにかみながらそう話す電。

「なるほどなー…。」

焼けこげた二水戦腕章を残して置いてくれたのは電の計らいだったのだろうか、そんなことを思いながら相槌を打つ。

「そういえば、どうして電はポートモレスビーに居たんだ?」

ずっと聞いてみたかったが中々聞けなかったことを聞いてみる。

「ニューギニア攻略支援先遣駆逐隊として配属となったのです。当初の予定だと、後続として第四戦隊の人や三水戦の人も来る予定だったらしいのです。本当ならそのままソロモン諸島海域方面まで、私たちは足を伸ばすはずだったんですけどね。」

「そうだったのか…。」

攻略支援艦隊と銘打っては居るが、深海棲艦も艦娘も、特段陸上戦が得意なわけでない。完全な地上であれば相応の訓練を受けた部隊の方が圧倒的に強いだろう。その彼らが、海上から逆侵攻を受けないようにするのが本来の役割だったはずだ。

 

「っと、着いたのです。三日月ちゃん、起きてますか…?」

話している間に入渠ドックまで着いていた。

「あれ…電ちゃん……?電ちゃんが居るってことは…ここは…?」

キョロキョロと辺りを見回し、自分の体を確認する。

「ポートモレスビーだぜ。」

三日月に制服を渡し着替えるように促す。

「えっと…あなたは?」

怪訝そうな顔で私を見てくる。

「あぁ、すまない、自己紹介が遅れた。夕雲型駆逐艦4番艦、長波だ。現在はここに配備ということになってる。よろしく。」

そう言いながら右手を差し出す。

「睦月型駆逐艦10番艦、三日月です。よろしくお願いします。」

まだ打ち解ける程では無いが、しっかり握手をしてくれた。真面目な性格なのだろう。

「それで、三日月ちゃん、体の調子はどうですか?」

「今の所…大丈夫……だと思います。」

制服を身につけクルクルと回るように全身を確認して答える。

「それは良かったなぁ…せっかく命を繋いだのに後遺症が…なんてなったらやるせないしな……。」

無事そうな様子を見て胸を撫で下ろす。正直自分でもびっくりするほど三日月のことを心配していたようだ。

「その…長波さんが助けてくれたんですか…?」

艤装のチェックために工廠に向かいながら話しかけてくる。

「あーいや、私は見つけてここまで運んだだけだよ。それも電が居てくれたから余計な怪我をさせず運んでこれたんだ。私だけの力じゃない。」

「なるほど…でも、長波さんが見つけてくれなかったら死んでた訳ですから、私の命の恩人は長波さんですね。」

何故かそういう解釈をされてしまった。間違ってる訳でもないから無理に訂正はしないでおく。

「艤装も大丈夫そうですね。」

艤装のチェックも問題なく終わらせたところで、文月がやってくる。

「あ〜いたいた〜。朝ごはん、準備出来たよ〜。」

私たちがここで色々としている間に、文月が用意してくれたようだ。

 

「…私の事ですか?」

朝食を食べながら三日月について聞くことにした。

「そう。なんであんなところに居たんだ…?」

三日月を見つけたのは辺鄙な無人島。おそらく輸送機がいた事から大方予想は着くが…。

「そもそも三日月ちゃんはあたし達と同じくニューギニア攻略支援先遣駆逐隊所属だったんだよ〜。」

そういうことだったのか。

「艤装のオーバーホールと新装備のテストをするために内地に配置転換になったんじゃなかったのです?」

「そのはずだったんですけど…その……輸送機が襲撃を受けて……空中迎撃のために艤装を着けたおかげで…生き延びれたみたいです…。」

伏し目がちにそう答える。なるほど、そういうことだったのか。

「でも…それってかなり前なんじゃ……?」

キョトンとした顔で電が尋ねる。

「……今日って……何日ですか……?」

それに触発されたように三日月が日付けを尋ねる。

「今日はもう7月5日だな。」

私がそう答える。

「!?そんなに経ってたんですか!?」

驚愕のあまり三日月が声を上げる。

「ざっと三日月ちゃんがここを出たのが6月2日だから……大変だったねぇ………。」

あの文月が目を丸くして驚いている。1ヶ月もあの状況で気を失っていたのならあの状態になっても仕方ないだろう。それを救出したのが私という訳なのだった。

 

 

 




先週は投稿できず申し訳ございませんでした。


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第9話

三日月を発見してからはや数日、ポートモレスビーには落ち着いた雰囲気が戻ってきた。

電、文月と三日月は互いに面識があり、根が真面目な三日月と長波は気が合った。

「おはよう三日月。いい朝だな!」

カーテンをめいっぱい開け朝日を取り込む。窓から見える水面は落ち着いている。ここが孤立無援の最前線でなければ、芝生で昼寝と洒落こみたいところだった。

「はい、おはようございます。長波さん。」

ピンと制服のシワを伸ばし、タイを締めた三日月が挨拶を返してくる。鎮守府宿舎はだだっ広いが、親交を深める目的と、三日月の精神面含めた観察のため長波と三日月は相部屋となっていた。

「なんだぁ…そんなに畏まらなくてもいいのに…。もっとラフに行こうぜ?」

生真面目さが前面に出たその仕草を見ながら、ごちる。

「これが私の『ラフ』なんです。ごめんなさい。」

クスッと笑いながら、しかし丁寧に返す。

「それならまぁ仕方ないけどさぁ……。」

半ば冗談にもこう返されると調子が悪い。相性が悪いわけでは無いのだが。

 

「おはよう電、文月。」

部屋から出たタイミングでちょうどよく電と文月に遭遇する。

「2人とも、おはようございます。」

「おはようございますなのです。」

「長波ちゃん、三日月ちゃん、おはよう〜。」

それぞれ挨拶を済ませ朝食を取りに。数千人近い人数の腹をかなりの期間満たせる分の物資があるため、数ヶ月で餓死…なんてことは有り得ないだろう。しかし、いつまでこの状況が続くか分からない上に、最悪の場合、前線がさらに後退する可能性もある。敵主力を一旦やり過ごすためポートモレスビー在留を選択したが、そろそろ移動するために準備をするのもありなのかもしれない。そうした不安感が鎌首をもたげてきた。

「長波さん、大丈夫ですか?」

ひょいと視界に大きなアホ毛と満月のような明るい黄色の瞳が飛び込んでくる。

「あ、あぁ、大丈夫だ。」

「もう〜ちゃんとご飯食べなきゃダメだよ〜?」

どうやらいろいろと考え込んでいたせいもあって完全に上の空になっていたようだ。

「あぁ、そうだな。」

ニコッと笑って朝食をパッパと平らげた。

 

「提督、長波だ。」

トントントンと、重厚な扉にノックをする。朝はワタワタとしてしまって結論を出せなかったが、今1度提督と話しておきたかった。一応、今現在の小隊長は私でもあるし、三日月の件もある。

「どうぞ、入ってください。」

数拍の間を置いて入室許可が出される。

「失礼します。」

中に入ると、敵味方の勢力圏や推定される行動が書き加えられた海図とにらめっこしながら次の襲撃ポイントを計画していた。

「ご要件は…?」

深く椅子に腰掛け直し、ふぅと息を吐く提督。

「あぁ、三日月の件と、今後の方針についてなんだが…忙しかったか?」

極限状況に置かれているようなものなのだから、精神的にかなり疲労しているようだった。

「いえ…構いませんよ。それで、三日月さんの様子は?」

疲れたような表情から一変、我が子を心配するような表情になる。

「概ね経過は良好だ。艤装の調子も悪くないらしい。ただ、そうなん期間中の1部の記憶混濁や、私が助けたからか、若干私に縋ってるようにも見えた…ほんの僅かな差だけどな。」

さながら命の大恩人のように扱われた時はびっくりした。辞めるよう良く言い含めて置いたが、即改善するようなものでも無い。

「そうですか……。時間が解決してくれることを祈るばかりですね。」

表情が翳る。まぁ無理もない。前線勤務がそれなりにある私は、もっと酷いダメージを精神に負った例も見ているが、提督はここが初勤務なのだから。

「それと、今後の方針についてなんだが………。」

卓上に広げられた各種海図や勢力圏図を覗き込む。

「どうかしましたか?」

怪訝そうな顔でこちらを見てくる。

「今後の敵、味方の動静が掴みきれない以上、撤退、あるいは移動のための前進基地をニューギニア島西岸の方に作った方がいいと思うんだ。航空隊基地を設置すれば索敵範囲も広がるし、万一ここが破壊されてもそこに逃げ込むことが出来る。」

現状、基地航空隊の偵察機と、文月の情報傍受以外での情報入手手段がない以上、偵察範囲を広げて動静を確認するのは必須のはずだ。

「ですが、それをするとなるとあなた達の行動範囲、作戦範囲も今まで以上に広がります。大丈夫ですか…?」

同じことを考慮していたようで、既に用地選定は始まっているようだった。が、しかし私たちの負担を考慮して決めかねて居たようである。

「私たちは艦娘。それも2年以上この海を駆けてきた叩き上げの熟練艦娘だ。見くびってもらっちゃあ困るなぁ…?」

私はまだ2年と数ヶ月だが、電に至ってはもう4年近く艦娘として戦い続けている。1年以上艦娘として戦い続けられる者は多くないこの戦争を生き延び続けているのだ。

「……わかりました。ですが念入りに調査、準備は行いますよ。これ以上の無理はさせたくないので。」

この提案が私から出たことに安堵するような、前途を不安視するような、複雑な表情のまま椅子に沈み込む。

「それはこっちのセリフだ。私たちからしたら唯一の提督、司令官なんだ。疲れてるのはわかってるんだから1日くらい休んだらどうなんだ?基本業務は私と電で回すぞ??」

依然として秘書艦は電の担当のため、基本的な業務は彼女がいれば事は足りる。提督の決済が必要な大本営、軍令部宛の機密書類という物も、指揮系統から外れた部隊では存在しないからだ。

「……申し訳ありません…。お言葉に甘えて休まさせていただきます……。」

新任指揮官にはあまりに重いプレッシャーだった。

「おう、休めるうちに休むんだぞー。」

提督と電が交代し、執務室から提督を見送る。

私たち小隊の戦争は、まだ始まったばかりだった。



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第10話

「さてと、これで大丈夫そうだな。」

完成した物資輸送計画の最終確認を行い、第1段輸送のための物資を積み込んだ。

「私もここから指示は出しますが…現場の指揮と判断は長波さんに一任するしかありません…。大丈夫ですか?」

執務室に戻り想定航路や敵艦との遭遇が危惧されるポイントなどが書き記された海図を再度頭に叩き込む。

「あぁ、大丈夫だ。これくらいなら何度もやってるからな。」

詳細な航行計画を立案しながれ行程を詰めていく。

「会敵した場合は物資の投棄をしても構いません。くれぐれも無理はしないように………。」

神妙な面持ちでこちらを見てくる。

「わかってるよ。死ぬために戦いに行く訳じゃないさ。命あっての物種だしな。」

海図をしまい、後ろ手に手を振りながら執務室を後にする。しんみりとした作戦指導は嫌いだった。

 

 

私たちが向かうのは西パプア州南岸、セラム海の東端の湾にあるビントゥニと呼ばれていた場所だ。過去には飛行場が置かれており、艦娘の体では入り込みやすい大河もあるため、ここを選定した。機雷戦や潜水艦による監視は受けやすいが、艦娘にとって、機雷や潜水艦そのものは脅威になりにくい。

「あ、長波さん、お疲れ様です。」

部屋に戻ろうとしたタイミングでちょうど三日月と鉢合わせる。

「おう、おつかれさん…」

挨拶もそこそこに部屋に入ろうとすると、三日月がこちらの瞳を覗き込んでくる。

「…何かありましたか…?」

心の底まで見透かされるような綺麗な瞳にドキリとする。

「…別に、なんともないぞ?」

思わず目を逸らしてしまう。

「……そうですか。無理はしないでくださいね。私たちの隊長なんですから。」

そういうとてくてくと歩き出して行った。

 

部屋に入り布団に倒れ込み深い溜め息をつく。薄暗く静かな部屋に私の溜め息だけがこだまする。慣れてきたからこそ、提督の生真面目さや、理想主義的な面に引っかかるようになってしまった。

これは戦争だ。いつ誰が死んでもおかしくない。

明日被雷して、明後日には愉快な魚礁の仲間入りをしていてもおかしくない。ましてや孤立無援の最前線の基地なのだ。「無理をするな」と言われても、どこかで無理をしないとどの道死んでいる。この基地の命脈を維持している敵輸送部隊の襲撃拿捕だって、作戦的には無茶苦茶で、あまりにリスクが大きい。しかし、この選択が、あの時の、あの瞬間の最適解だったと私は思っている。だから無理をする。今日の命を明日に。明日の命を明後日に繋ぐために。

今更考えても仕方の無いことだと理解しながらも、喉元まで出かかった言葉を改めて飲み込み直す。

「死ぬな」と言われても死ぬ為に戦ってるわけじゃない。

今日を生き抜くために戦ってるんだ。そう提督に面と向かって言ってやりたかった。

 

もう一度深い溜め息をつく。日もすっかり落ちて暗くなっていた。

「…お話なら聞きますよ?」

目の前にいつの間にか三日月が居た。

「わぁっ!?!?」

驚きのあまり素っ頓狂な声をあげ頭をぶつける。

「大丈夫ですか!?」

あまりの驚きように三日月まで驚かしてしまった。

「いっつつ……いつから居たんだよ…。」

完全に逆恨みだが三日月に対して悪態をつく。心の内に入り込まれたようで正直気分は良くなかった。

「さっきからですけど…お邪魔でしたか……?」

一瞬ビクンと身体が震え、1歩引く。少し怯えさせてしまったかもしれない。

「……そうか。ならいいんだ。」

身体を起こし伸びをする。三日月を抱き寄せ頭を撫でてやる。

「あ、あの……長波さん…?」

びっくりしたように身体を固くしていたが、次第に弛緩する。

「……三日月に当たるようなことして悪かったな。」

そのまま撫でて行く。小柄な三日月を抱き抱えていると、じんわりと心まで暖かくなる。

「……私で良ければ、何時でもお話相手になりますからね。」

私のことも落ち着けるように、丁寧な声色で話しかけてくる。

「あぁ…ありがとうな。」

こっちが撫でてるのかあやされてるのか分からなくなってしまったので、離して夕飯のために部屋を出る。

作戦開始は今夜の明朝だ。早めにゆっくり休息を取らねばならない。

基地航空隊による前路掃討、航空誘導を活用し初日に稼げるだけ距離を稼ぐ目算だ。そこから先は私たち次第だ。

物資輸送要員は三日月と文月。私と電はその護衛という扱いだが中に燃料を積んだドラム缶を1つ携行する。

あのルンガ沖夜戦のように、物資を投棄した上で敵艦を撃滅しても意味が無い。幸い今の身体は大きな鋼鉄製では無く、自由に駆け回れる「ヒト」の身体だ。もうあんな失敗は犯さない。無理をしてでも護衛してやる。

 

その決意を、艤装を装備し胸に拳を握る。痛いくらいに力が籠る。やらなければ、明日は無い。それだけの事だ。

 

「仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊、旗艦長波抜錨!出撃するぜ!」

こうして反復輸送作戦の火蓋が切られた。

それは、地獄のような戦闘の始まりだった。




いつもより少し短いです、申し訳ございません。


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第11話

「仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊、旗艦長波抜錨!出撃するぜ!」

 

こうして反復輸送作戦の火蓋が切られた。

覚悟を決め、威勢よく飛び出したはいいものの、事前に策定した、遭遇率の少ない航路を往くだけだ。それでも気が急く上に、いつも以上に緊張している。

「長波ちゃ〜ん、あんまり緊張してもダメだよぉ〜?」

そんな長波に落ち着くよう、文月が声をかける。

「……そうだな。先導機が居るうちは少しリラックスさせてもらおう…。」

その一言でスイッチを1度切り替えることができた。

 

天気は穏やかであり波や風も強くない。往復分の燃料は考慮しつつも、安定して距離を稼いでいく。

「まもなく第2チェックポイントなのです!想定よりだいぶ早い通過なのです。」

先導する電が私に近寄り報告する。

当初の予定では第2チェックポイントで休息を取り、以後は夜間航行に切り替え隠密輸送を行う予定だった。しかし想定以上に穏やかな海は、ぐんぐんと足を伸ばさせ、到着予定時刻の日没までまだまだ余裕があり、距離を稼ごうと思えばまだまだ稼げる距離だった。

「どうしようか…。」

夜間航行は敵潜水艦の発見が困難になり、発見、追尾されるリスクが大きくなる。が、日が出ているウチは航空機に発見されるリスクも同様に存在する。

「長波さん、どうしたんですか?」

私たちが足を止めてるため後続の三日月と文月も合流する。

「なにかトラブル〜?」

「あぁいや、トラブルと言う訳では無いんだが、想定より早く第2チェックポイントまで来てしまってな。どうしようかと話してたんだ。」

端的に状況を説明し、取り出した海図を眺め顔を突き合わせる。

「やっぱり行程通り休憩にした方がいいと思うのです。」

電は慎重に、行程通りに進むことを主張した。第2チェックポイントから先、第3チェックポイントまで休息できそうな浜辺は確認出来ていないからだ。

「え〜早く進もうよ〜…早く終わらせたいし……。」

というのは大発運用中の文月だ。確かに天気も波も穏やかな内に進んでおく方が彼女たちへの負担は少なそうではある。どちらも一理ある主張だった。

「どうします? 旗艦は長波さんです。私たちはその決定に従いますよ?」

三日月が2人を取りまとめこちらをじっと見てくる。同調するように電も文月もうんうんと頷いている。

「……各種警戒を厳としつつ、前進する。敵勢力内にて滞在する時間を減らそう。」

気象班員の妖精さん曰く、明日以降天気が悪化する可能性があるとの報告も聞いたため、ロスを生まないためにも、大発運用をしている2人の負担が少ないうちに距離を稼ぐためにも、前進を決定した。

 

「ふぁぁ…さすがに眠いよぉ〜…。」

日没後しばらくしてから、文月の間延びした声が宵闇に響く。

「文月お姉ちゃん、もう少し我慢して…?」

三日月が釘を刺しつつ目的地を目指して進み続ける。

予定をかなり繰り上げて航行中のため、休憩無しで10数時間ぶっ通しでの移動である。口には出さないが、全員、疲労のピークに達していた。

「……?…!長波ちゃん!10時方向、電探に感5つあり!なのです!!指示をください!」

ピケットラインを上げるために先行していた電から報告が入る。おそらく通常の通商路護衛用の水雷戦隊だろう。

「了解、これより当艦及び電は水上戦闘用意に入る、左舷砲雷撃戦準備開始。文月、三日月両艦は対潜、対水上警戒を厳としつつ現状航路を維持せよ。」

電から送られてきた情報をリンクしつつ速やかに指示を飛ばす。

「「「了解!」」」

三日月、文月に1部権限を移譲し、速やかに電に合流する。

「敵情は?」

警戒、追跡中の電に合流する。

「以前14knotで東進中。こちらに気づいた素振りは無いのです。どうするのです?攻撃を仕掛けるのです…?」

電探で補足し続けたまま追跡を続ける。

「……いや、余計な攻撃をして今後の警戒艦を増やしたくない。……組織的な運用が有るかどうかは分からないがな。」

自嘲気味に笑いながら、敵艦隊と距離を取ることを選択する。

「艦隊合流、転針!第2ルートに移る!」

予め決めていた、別ルートへと経路を変え、物資輸送を最優先に動く。

「良いのですか?」

小声で電が聞いてくる。

「仕方ないさ、私達の今の目的は、物資輸送が最優先目標なんだからな。」

主砲を背部にマウントしながら、文月たちと合流。先を急ぐ。

 

 

「まもなく第4チェックポイント、湾開口部に侵入するのです。」

第3チェックポイントで半日弱休息を取った私たちは、その後敵艦隊と遭遇することなく、夜間隠密輸送任務第1段は概ね成功裏の終わりが見えてきた。

「了解。警戒シフトを第2種に変換、後続の文月、三日月と長波は位置を交代。後方からの追跡に警戒する。」

とは言ったものの、追跡している艦なんて居ないはずだった。



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第12話

「ふぅ…もう少し……。」

文月たちが運用する大発を座礁しないように押しながら、マングローブの繁る河口を上流へ移動していく。最終目的地であるビントゥニ空港のある、ビントゥニ市街地へ向けて進む。艦娘である私たちは、最低限の水深と川幅があれば、「水上艦」が入れない地帯へも入っていけるからだ。

「それにしても、静かなのです…この辺りに住んでいた人達は………。」

遡上していくにつれ、小型舟など、人の痕跡が見つかる。電がそう呟くと、深海棲艦によって大切な人を喪った文月が少し反応した。

「避難できた…と、思っておきましょう……。」

三日月が小さくつぶやく。私もそう思いたい。しかし…日本程の防災先進国ですら、深海棲艦からの初動避難はマトモに出来なかった。まして占領下となった島なんて……あまり考えたく無いものだった。

「私らが奪還して、元々住んでた人たちを返してやろうぜ。」

重苦しい雰囲気を払うように一言、つぶやく。

川の中程を進む私たちに、日差しがジリジリと照りつける。深夜行をしていたのも相まって、気力がどんどん削がれていく。

 

あまりに静かな空間。

鳥のさえずりや野生動物の気配すらあまり感じない。

これが「支配された」場所なのかと思うと、暗澹たる思いになる。

深海棲艦によって制圧された海域は、「紅く」変色する。その原理は不明ながら、その海域を奪還すると色は薄れ、消えていく。実際、ニューギニア島周辺海域も、ほとんど真っ赤に染まっていた。「紅い海」は人体や生物に悪影響があることは証明されていない。しかし、その海域の魚の数が著しく減少したり、活動的で無くなることが報告されている。死なないだけで、未知の悪影響があることはおそらく間違いない。しかし、「妖精さん」の存在原理同様、それを証明する方法がない。奪還さえすれば概ね元通りになることはよく知られているが、やはり元通りに戻る原理も不明。人類にとって、「分からないことだらけ」なのだった。

 

「長波ちゃ〜ん、この辺で、降ろしていいかなぁ…?」

いつものように間延びしたテンポで文月が聞いてくる。

「ん〜…まぁ…この辺で陸揚げしても問題ない……か?」

旧市街地にある空港は、海から距離があったため、ある程度遡上してきたが、引き潮も相まって、そろそろ大発が水底に乗り上げてしまいそうだった。

「ここから先に大発で進むのは難しそうなのです。」

様子を見に行っていた電が合流し報告する。

「OK分かった、揚陸しよう。妖精さんも、頼むぞ。」

艇首を開き、妖精さんにより運用される人型サイズのブルドーザーやロードローラーなど、整地、飛行場設営に必要な重機から物資まで、降ろしていく。

なるべく近づけるところまで近づいたが、それでも空港のあった所までは数キロあった。が、川辺の木が妖精さんの手によって切り倒されると、眼前にはビントゥニ旧市街地が現れた。アスファルトで舗装された市街地の道を進めば楽に物資輸送が可能だろう。

降ろした物資を妖精さん運用トラックに載せ、物資を全て預ける。

ここから先は、妖精さん達に任せればいい…とは言ったが、輸送した物資の量はまだまだ少ない。鎮守府に帰ればすぐまた輸送しなくてはいけない。

「あとは任せだぞ、妖精さん。あんたらに私らの命運がかかってると言っても過言じゃなくなるかもしれない。またすぐ、物資を持ってくるよ。」

設営隊隊長の妖精さんにそう伝えると、サムズアップして答える。基本的に口を開くことはないが、妖精さんたちは感情表現が豊かだ。

「それじゃあ、頑張ってくれよな〜!」

手を振り妖精さん達を見守る。彼(彼女?)らは仕事一徹の職人だ。すぐにでも取り掛かるらしい。私たちは日暮れを待って、ここから離脱する予定のため、思い思いに休息を取った。

 

「文月ちゃん、起きてなのです。」

電が、大発の上で寝ていた文月を起こす。

「ふぁぁ…もう朝〜……?」

眠そうな目を擦りながら身体を起こす。

「朝じゃないですけど、時間ですよ。これから、帰るんですから。」

三日月がそう言いながら文月に艤装を装備させる。もちろん、大発の操作リンクも忘れずに。

「よし、時間ピッタリだな。」

潮も十分に満ちており、大発を湾口まで戻すのも時間がかからなさそうだ。

眠気まなこだった文月も、もうある程度しゃんとしており、今からの行動にも耐えられるだろう。

「よし、仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊、旗艦長波抜錨。これより鎮守府へ帰投する!」

そう宣言し河を下っていく。思っていた通り、あっという間に湾部分に到達することが出来た。

「このペースならあっさり帰れそうなのです。」

月明かりの晩。風も凪いでいて、電探も好調である。

「すぐ帰って寝られそうだねぇ〜…。」

「何事もなく帰れそうで嬉しいですね。」

そんなにことを話す文月と三日月。往路行での負担を考えるなら、確かに早く帰れるに越したことはない。

キラキラと水面に月光が映える。

ここが戦地のど真ん中で無ければどんなに綺麗だったろうか。海がもっと綺麗ならどうだっただろうか。

美しい波間に人工物のような物を発見しげんなりとしてしまう。

「文月!三日月!最大戦速!電に合流しろ!!!」

思わず叫ぶ。その瞬間、見張り員が右舷に雷跡を発見する。そう「人工物のようなもの」それは深海棲艦の潜水艦の、潜望鏡なのであった。




イベントやってて投稿するの忘れてたとか言えない(気づいてよかった)


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第13話

「文月!三日月!最大戦速!電に合流しろ!!!」

雷跡を発見し、二人にそう叫ぶ。比較的小柄で快速な私たちにとって、めったに脅威とはならないが、それでも不意を突かれたことは事実だった。射線から退避し連続して第二撃がないことを確認する。

対潜装備を持たない二人を離脱させ、私が敵潜水艦に対峙する。対潜戦闘の基本は爆雷しかない。インカムの接続された水中聴音機に意識を集中させ、敵潜水艦を捜索する。逃げ場の少ない湾内かつ、潜航中の潜水艦は高速航行することはできない。

「そこかっ!」

艤装のアシストを使って正確に反応があった個所に投射する。

その瞬間、左舷側に雷跡を発見する。反応があった場所とは正反対だ。

「くそっ!」

高速で迫る雷撃を回避しつつ、発射地点と思われるところに爆雷を投擲する。しかし反応はない。

「これだから対潜水艦は嫌いなんだよ!」

回避しては投射し、投射しては回避する。精度がよくない聴音機だけとはいえここまで当てられないのは初めてのことだった。

「簡易爆雷だけじゃ足りない!」

対潜、対空、対水上戦とこなす必要のある今は予備の爆雷などもほとんど持ってきていなかった。優速であることを生かして離脱してもいいのだが、追跡されたり、連絡されて待ち伏せされても困る。連絡云々は、もうすでに希望的観測かもしれないが...。

「っ!!そこっ!!!」

大きな水柱が上がる。やっと一体だ。不意を突かれたことも相まって、翻弄され続け、ようやく反撃が入った。それでも、狼のような連携プレーで雷撃を撃ち込んでくる。

「鬱陶しいなぁ……!」

爆雷を投げ込み、飛んで跳ねて駆けて雷撃を避ける。

「当たらねぇ!!探信儀が欲しいっ!!!」

敵潜水艦の「位置」を補足できる探信儀が何より欲しかったが、今の長波は持っていなかった。

「っ…!そろそろ爆雷が切れるぞ…!!」

駆け回り主砲も駆使して沈めようとするが、相手の練度が無駄に高く、避け続けられる。爆雷の残りも少ない。その事が意識を焦らせ不注意に陥らせる。

「なっ!?しまっ…」

気づいた時には、回避不可能な所にまで迫っていた。

 

どぉぉーんという轟音が鳴り響く。が、痛みや衝撃は感じない。目を開けると、何事も無かったかのように航行している自分がいた。

「遅れてごめんなさいなのです!」

電が駆けつけ、魚雷を撃ち抜いていたのだった。

「わりぃ!助かった!!」

一気に増速し第2射を避け、合流する。

「文月と三日月は?」

事務的に、しかし重要なことを聞く。

「陸上に1時退避してもらったのです。」

そう答えた時にはもう、電は対潜水艦に集中していく。

電は探信儀を装備しているため、私より格段に対潜能力が高い。

「長波ちゃん、10時の方向、深度30なのです。」

次の瞬間には指示が飛んでくる。

「あいよぉっ!」

指示された通りに爆雷を投げ込むと、爆音とともに水柱が上がる。

正直、聴音機だけでも戦えなかった完全に私の落ち度だった。

瞬く間にこの場で襲撃を仕掛けてきた潜水艦達を殲滅していく。

とはいえ深海棲艦の「戦術」が格段に向上していた事も紛れもない事実だった。

 

「わりぃ。文月、三日月、迷惑かけちまったな。」

速やかに2人と合流し、夜の海を駆けていく。

「大丈夫だよ〜。長波ちゃんが無事で良かったよぉ〜。」

にこやかに文月が返してくれる。三日月も同じ意見だった。

敵潜水艦の襲撃を受けたことで、より警戒を怠らないようにしつつ、先を急ぐ。

深海棲艦にもピケット艦や、通報のシステムはあるのだから、もしかしたら私たちの存在がより上位の深海棲艦に伝わっているかもしれなかった。夜間戦闘であれば、私たち駆逐艦が、艦種の壁を打ち破ることが出来る。

とはいえ、ほぼ非武装の2人と、簡易武装の2人では相手できる量にも限りがある。だから、なるべく遭遇したくなかった。

が、悪い予感は当たると言うもの。電探に、重巡洋艦率いる有力な部隊が引っかかる。

「2時の方向、巡洋艦隊。こちらを発見してはいない模様。念の為11方向に変針。取舵。」

幸いにして敵艦隊はこちらを発見していなかったため、変針して接近を回避する。交戦することが目的でなく、今は撤退することが目的だからだ。

 

幸か不幸か、その後は特に敵と遭遇することも無く無事母港であるポートモレスビーに帰投することが出来た。

第1段輸送作戦としては、成功だったが、敵に捕捉されたこと、追い散らすことに失敗したことなど、私たちとしては苦い勝利であった。私個人としても、対潜水艦戦の練度不足を思いっきり痛感させられる事態となった。

それ以上に、深海棲艦が「戦術行動」を取っていることも異常事態と言えば異常事態であった。

帰投後、すぐに提督には報告したが、ここは通信途絶中の最前線。大本営に報告が届く訳でも無い。

私たちに出来ることは限られているのだ。

そのできることを増やすため、前進基地を作るために物資輸送を行う。自分たちのやれることをする。ただそれだけのことであって、それ以上でも以下でもない。私たちは「艦娘」であり、「軍人」なのだから。



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第14話

寝落ちたせいで投稿忘れたとか言えない()


「はぁっ...。はぁっ...。」

ぜぇぜぇと、肩で息をしながら、頬を汗が流れていく。

「長波さん~!そろそろ終わりです!!」

波止場の方から、呼びに来た三日月の声が聞こえる。

「おう!すぐ戻る!」

そう返事はしたものの、かなりくたびれていることに間違いはなかった。

第一段作戦終了から早数日、提督が計画修正に追われている間、私はひたすらに鍛錬にいそしんでいた。工廠妖精さん謹製の疑似的を追跡、射撃、爆雷で撃破する、ということを繰り返していた。

「大丈夫ですか?」

ドックに戻ると三日月が待っていてくれたようだ。

「あぁ、一応な。」

艤装を外し、工廠妖精さんに預ける。整備のほとんどを肩代わりもしてくれる妖精さんには頭が上がらない。

「それならいいんですけど。」

少し不安そうな、心配そうな顔を見せてくる。相変わらず、私に対する執着は消えていないようだ。

「出撃は明日だっけか。」

すでに山ほど物資を積み込んだ大発動艇が見える。方針転換を行い、大発の運用ができない私と電は、ドラム缶の携行をやめ、索敵と戦闘にのみ専念し、さらに文月と三日月も大発の数をひとつづつ減らし、爆雷を装備することとなった。燃料の安定生産(曰く、妖精さんによる自然油田からの原油の回収)の目途が立ったため、反復輸送による燃料消費を考慮しなくてよくなったからだ。

「はい。だから心配してるんですよ?」

執務室に向かいながら、三日月に小言を言われる。確かに、傍から見たら熱くなりすぎてたかもな。と少し反省はする。

「分かってるよ。それでも、訓練不足で仲間を喪って、後悔したくない。」

握るこぶしに力がこもる。これは戦争だし、実際私だって、様々な戦域を渡り歩いて、人が死んでいくところも見てきた。だが、身勝手かもしれないけれど「自分のせいで」仲間を殺されるのは、自分のことを許せなくなりそうだからだ。

「長波さんは、強いですね。」

夕暮れ時の廊下に、三日月の声だけが反響する。

―強くなんかないよ―

「何か言いましたか?」

口をついてそう飛び出した一言は、三日月には聞こえなかったようだ。

 

「旗艦長波、ただいま戻りました。」

執務室に入室すると、既に文月と電が待っていた。

「お疲れ様です、長波さん。既に聞いてるとは思いますが、第二段作戦始動は明日ですが、問題ないですね?」

提督の目がこちらを捉える。この一連の作戦で、提督は成長しているようだった。

「あぁ、もちろん。調整はバッチリだ。」

胸を張って答える。成長したのは提督だけでは無い。私だってそうだ。

「では作戦を通達します。ポートモレスビー攻略支援小隊は、明朝、〇七〇〇より、第二段作戦として、飛行場設営のための物資を輸送せよ。策定航路以下詳細は各員で確認せよ。」

私たちのビリビリとした空気に、呑まれたのか、言葉遣いが硬くなる。

「「「「了解!!!!」」」」

呼応するように、声に力が籠る。

「では、解散。」

訓示によって、一層やる気が漲る。私たちは、血気盛んな水雷屋。こういうことは、やはり心に来るものがあるのだった。

「長波ちゃ〜ん、ちょっといいかなぁ〜?」

執務室を出てすぐ、文月に声を掛けられる。

「どうした?」

こういう時に、文月から声を掛けられるのは稀だった。

「ん〜敵のことなんだけどねぇ〜?まだこれは司令官には言ってないんだけど…」

顔をグイッと近づけ、寄ってくる。

「戦艦…か?」

トーンを落とし小声で話す。

「ご明察〜。詳細は全然わかんないんだけど、前線で損傷した戦艦率いる遊撃部隊が後退してくる……ぽい?んだよねぇ〜。」

文月が実証試験として装備している対深海通信傍受装置からの情報にしては、酷く曖昧な表現になっている。

「ぽい…?」

「うん。多分なんだけどね〜、一部が暗号化されてるみたいで、内容がよく分からないんだ〜。」

しれっと超重要な情報を伝えてくる。

「おい!それって…!!」

思わず語気が荒くなる。

「し〜。こんな不確定な情報、司令官に言ってもなにかが改善する訳じゃないからねぇ〜。」

文月の目が鋭くなる。

「でもそれは…」

思わず後ずさりしてしまう。

「確かに重要な情報かもしれないけど、ここでしりごみさせたら、もっと打開出来なくなっちゃうかもよ…?動けなくなった私たちは、ジリ貧になって、縊り殺されちゃうだけだよ?」

恨みの籠った声色と、確かな正論に気圧されそうになる。

「わかった。明日出撃は、変わりなくするよ。だが、ちゃんと報告しろ。それはそれで、筋だ。」

文月の目を見て、確かにそう返す。

「…わかったよぉ〜。長波ちゃんにそう言われちゃったら、そうするしかないからね〜。」

いつもの声色に戻り、「じゃ、報告するから」とくるりと回って執務室に入っていく。

戦艦。其れは、作戦の成否に関わる戦略兵器であり、水上戦闘において、最強の戦術兵器でもある。

予定変更はなく、明日出撃の方針を司令官は撤回しなかった。が、「暗号」を扱うようにもなった深海棲艦は、どこまで成長するのだろうか。



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第15話

「さてと、それじゃあ行きますか。」

いつものように艤装を背負い、いつものように出撃の準備を済ませる。

深海の戦艦を中核とすると推測される部隊がこちらに接近していることはほぼ確実だが、すでに当初の計画から輸送ペースの遅延をきたしており、これ以上の遅延は許容できない状況へと近づいていたからだ。

基地航空隊による水上部隊撃滅の用意や、念の為に私と電は輸送物資を持たず、完全武装をする羽目になったが、背に腹は変えられない状況だ。既に、私たちの存在は深海棲艦にはバレて居るだろうし、そうなると、鎮守府が強襲されるリスクも時間が経てば経つほど上がる。

そうなってしまえば、包囲下にあると言ってもいい私たちはジリ貧になる。そのための前進基地であり、航空戦力の増強移設である。

 

「仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊、第2段輸送作戦開始!」

定刻通りに進発。昨夜の時点から行われた偵察の結果、今日中に進む予定の航路上に部隊は発見できなかった。さらに、陸上偵察機部隊がより確実な偵察を現在進行形で行っている。

問題は、味方飛行隊の哨戒域から外れる今夜以降の航路だった。

件の移動部隊との接敵可能性があるのが明日以降だ。もしも傍受した内容通り、戦艦を中核とした戦闘部隊なら、接触するのは確実に避けたい。そのために傍受装備や逆探も装備している。私たちが水偵を装備出来れば話は変わるのだが、適性がない装備は運用ができない。

「ふぁぁ〜…暖かいから眠くなるねぇ〜…。」

大きなあくびをする文月。艤装の影響で、暑さ寒さに対する抵抗があるため、南方の強い日差しも、ジトっと纏まり着くような潮風も、艤装さえ装備していれば気にならない。なぜなら艤装を着けているあいだの私たちは「艦」なのだから。

「文月ちゃん、緊張感が無いのですよ。」

電が横目に注意するが、電の言葉にも緊張感は薄い。

「だって〜、逆探にも傍受機にも反応が無いんだもん〜。」

それはそうだ。ここはまだ私たちのテリトリーと言っても過言では無い。深海の水上艦が居ようものなら基地航空隊の大失態だ。

「っと…ソナーに感あり。敵潜水艦の恐れあり、全艦増速、文月と三日月は離脱せよ。」

足下に何かを探知する。まだ我々の領海内だと言うのに潜水艦とは。

「「了解!」」

さすがは熟練の駆逐艦。弛緩した状態から命令1つで簡単にスイッチが入る。

「長波ちゃん?」

電が駆け寄ってくる。怪訝そうな表情だが、パッシブソナーしか持たない電には見つけられなかったようだ。

「多分、2隻、真下だ。休息中のようだ。今叩く。」

アクティブソナーに、確かに2つの反応が有った。推定潜水カ級。最もスタンダードな深海棲艦の潜水艦。こちらが発見する前に休息中のところを見つけられたのは僥倖だった。

「…仕方ないのですね。」

ふっと目を伏せる。奪わなくてもいい命までは奪いたくないのだろうが、これは戦争だ。しかも、こんなところの潜水艦を見逃せば、後々に響くことは確実だ。

「…………。」

何も言えなかった。

「……ゆっくり休んでください。」

そう呟いた電は、爆雷を投下した。

 

「まさかあんなところまで来るとは、想定外でしたね…。」

その夜、休憩中にそう呟いたのは三日月だった。

「あぁ、まさか…な。まだ私たちの鎮守府は割れてないと思うが…本当に時間の問題かもな……。」

星空を仰ぎ見ながらそう呟く。野良の深海棲艦や、先遣隊の部隊に潜水艦が居ることはよくある事だが、嫌な予感がする。

「深海棲艦は、とっとと片付けちゃわないとだねぇ〜。」

可愛い笑顔で相変わらずなんてことを言うのだろうか。

「文月ちゃん、笑顔が怖いのです。」

電が思わずツッコムが、至極最もだと思う。

「ともかく、だ。この輸送作戦を成功させて、拠点を作らないと…だな。」

今この状況で、ポートモレスビーが包囲されてしまったら、今の私たちはもうおしまいだ。

「戦うためには、まだまだやるべき事が山積みですね。」

「まずは、輸送作戦から…なのです。」

生真面目な三日月と電が、至極真っ当なコメントをする。

「さてと、そろそろ時間だ。動くぞ。」

敵艦隊との接触を避けるため、索敵情報から構築された作戦計画通りに行動する。

この時間帯が、1番敵の哨戒の目が薄いことは確定情報だった。不確定要素である例の艦隊を除けば。

 

「…!無線傍受したよ〜!」

空が白み始めた頃、文月の装置が敵の通信を捉える。

「距離は分かるか?」

文月に近寄り詳細を聞く。

「うーんちょっと待ってねぇ〜…。うーんだいぶ遠いみたい…。ざんね〜ん…。」

本当に狂犬のようなコメントばかりである。とはいえ、任務優先ということは理解した上で言っているようだが。

「そうか…それならいいんだが……。」

予定通り進もうと離れる。

「ん、ちょっと待ってぇ…?」

文月が怪訝そうな表情で私を呼び止める

「どうした?」

その表情を見て、電と三日月も寄ってくる。

「えっとねぇ…復号中だから……。」

敵艦隊の暗号を、文月の妖精さんが平文に戻し、それを共有する。

「何かを探してるのか……?」

1部の情報を解読しきれていないが、何かを探しているような内容の無線が飛び交っているようだった。

「…でもこの文面じゃ、私たちを探してるわけでは無さそうなのです。」

それを読んだ電がコメントをする。

「私たちの基地を探してるわけでも無さそうですし…何を探しているんでしょう…」

三日月も首を傾げるしかない。何せ、私たちには情報が足りない。

「とはいえ、戦艦クラスがいるのは確定みたいだな。」

文面から、艦隊司令を務めるクラスの深海棲艦が出張っているのは確定情報だった。とはいえ、こんなに統率の取れた艦隊行動をする深海棲艦がいるなんて聞いたことは無い。何かが起こり始めているのは、間違いのないようだった。




誠に申し訳ない限りですが、投稿日を毎週月曜日から毎週木曜日に変更させて頂こうと思います。

今後ともこのシリーズをよろしくお願いします。


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第16話

最前線に取り残された私たちの部隊は、一路ビントゥニへと向かっているところ、謎の戦艦率いる深海棲艦の部隊に対して無線傍受という形ではあるが接触を試みることとなった。その結果は、「何かを探している」ということしか分からなかった。しかし、深海棲艦が目的を持ち行動していることだけは理解出来る。刻々と動き出した戦況に、不安を不安を覚えたのは、私だけでは無いようだった。

「一体何が起きているのです…。」

声色に不安が滲み出る。心根が優しい分、私よりショックや不安に対して少し弱いのかもしれない。

「今まで、こんなことはなかったですからね…。」

うーんと唸りながら、三日月もそう返す。一路進みながらも、出てくる話題は件の戦艦部隊のことばかり。

「どうして急に、こんなことになってるのかも気になるよねぇ……。」

暗号解読のために、傍受と復号要員の妖精さんを連れている文月にもお手上げのようだ。

「情報が不足してて、何も分からないのが正直なところだしなぁ………。せめて、何を探してるのかが分かればいいんだが……。」

最前線で戦い続けてきた私たちにとっても、あまりに未知数なことが多すぎた。そしてその、「知らない」ということは「不安」に繋がる。ただでさえ、半ば極限状態のような状況に取り残されている私たちである。「不安」が「恐怖」となり恐慌状態にならない保証はどこにもない。どれだけ理性的で居られるか、それにかかっている。そう胸に刻みつける他になかった。

 

 

「ふぅ…ひとまず往路は何も無く…ってところか……。」

戦艦部隊とのすれ違い以外特筆することはなく、目的地にたどり着く。前回揚陸したポイントの付近に行くと、妖精さんが作業したのか、簡易的な波止場や作業場ができており、内陸部へ進むための道までできていた。

「物資に破損も無いし、いい感じ〜!」

大発のコントロールから開放されたからか、文月がやけに楽しそうな声色で波止場に飛び乗る。

「実際、海も全然荒れませんでしたからね。」

テンションが高めな文月とは裏腹に、三日月は生真面目に荷降ろしまでやっている。

「三日月〜、手伝うのはいいがしっかり休めよ〜?荷降ろしやらは妖精さんだってやれるんだからな〜?」

そんな調子の三日月に一言釘を刺し、艤装を外して上陸する。

「あ、長波ちゃん。どこへ行くのです?」

艤装を降ろし、妖精さんに預けたタイミングで電に声をかけられる。

「あぁ、ここから少し…と言っても歩いたらそれなりに時間かかるけど、街があったらしいんだ。だから、見に行こうかなって…。……もし何かあったら電が指揮してくれ。無線は持っていくから。」

と、制服のポケットに入れた通信機と、セットしたままのインカムを指さす。

「了解なのです。帰投時刻までにはちゃんと戻ってきてくださいね。」

電の見送りに、おう。と返事をして、林の中を分け入っていく。道と言っても、人一人通れるか怪しいサイズの獣道のようなもの。それでも妖精さんにとっては十分過ぎるほどだが。

 

十数分もしないうちに、街の外縁に差し掛かったようで、緑に呑まれた廃墟がポツポツと目につくようになる。まだ数年しか経っていないはずなのに、相当な時間の流れを感じさせる。

「…どれだけの人が、無事逃げられたんだろうな。」

風化した壁に手を当て、思いを馳せる。中部太平洋、南太平洋を起点に現れたという深海棲艦は、瞬く間にニューギニアやオーストラリアまでもを席巻した。

人口の大半が沿海部に集中しているオーストラリアなどは人口の半数以上が侵攻に巻き込まれたというデータもでている。

「一体なんのために、奴らは海の上に出てきたんだろうな。」

1人ぼやきながら、街中へ進む。

割れたアスファルト舗装から頭を出した雑草を踏みわけ踏みわけ進んでいく。

建物に使われているコンクリートや鉄材を再利用したのか、明らかに人の手、この場合妖精さんの手だが、が入って解体されている建物もある。

「所業無常…か。」

いつぞやに習った一節を思い出す。人の世とは無常のものなり…そんな(うた)だったか。確かにそうかもしれない。人が一度いなくなれば、そこは自然に還っていく…そんなことを実感させられる。

「私もいつか、こうなるんだろうな。」

ただ、漠然と怖くはなかった。艦としての"私"もそうなっている。ただ、「そうなる」のは自然の摂理なだけであって、恐ろしいものでは無い。

そういう実感が、湧いてきた。

「……でも、まだ『そう』はなりたくないな。」

何となく、としか形容できないが、そういう実感が私を包み込む。

「………さて、戻ろうか。」

なんだかとても"相棒"が恋しく感じる。まだ1時間と経っていないのに。

 

私にはまだまだすべきことがある。『そう』なるのはその後。何より私自身したいことがある。そう改めて認識したのだった。




お久しぶりです、作者です。
体調不良やったり五月病になったりリアイベ楽しみすぎて体調崩したりしてました。

来週は定期投稿できるように頑張ります(遠い目)


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第17話

「点呼……しなくても全員居そうだな。」

ビントゥニ湾の奥地にて、前進基地建設のための物資輸送を行っている私たちこと、仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊は、往路輸送を完了させ、復路に就くところだった。

「長波さん、その…どうでしたか……?」

私が旧市街地を見に行ったことについて、三日月が聞いてきた。

「どう…ってことは無かったよ。……でも、まだまだ死ねないなって言う思いが込み上げてきた…って言うのがいいのかな。自分でもよく分かってないんだがな。」

自分ながら、釈然とした回答ができない。

「三日月ちゃ〜ん、長波ちゃ〜ん、行くよ〜!」

タイミングを見計らったかのように文月が私達を呼ぶ。作戦は時間厳守なのだから、旗艦の私がゆっくりしている場合ではなかった。

「おう!今行くよ!…さ、行こうぜ三日月。」

文月に返事をして三日月の手を引いて進む。するとそんな私を見てか、くすくすと三日月が笑う。

「…?どうしたんだ?三日月」

文月と電を待たせている以上、立ちどまる訳にはいかないが、三日月の様子を伺う。

「憑き物が落ちたような顔をしているのに、自分自身のことは無頓着なんだなって思ったらちょっと可笑しくって。」

そんなことを言いながら、またくすくすと笑う。そんなに深刻そうな顔をしていたのだろうか、自分では全く気にしていなかった。

「わりぃ、少し待たせたな。」

と電と文月に合流した時も

「あれ、長波ちゃん、少し変わったのです…?」

「何かいい事あったの〜?私も行けばよかったかな〜。」

と電と文月の2人にまで同じようなことを言われてしまった。確かに、そこまで言われてみれば、ここ最近は沢山の事で悩み続けていたのは事実かもしれない。

「あぁ…私にとってはいい……かもな。」

と、やっぱり曖昧に、返す。事実というより、感覚の問題だから。

そんなことを話ながらポートモレスビーに向かう。と、そんなことを話していると、電探に何かが引っかかる。真正面に敵艦隊が居ることがわかる。

「電探に感あり!総員警戒を厳とせよ!」

途端に緊張が走る。

「無線傍受!重巡が居るみたいだよぉ〜!」

文月の傍受がまたしても役に立つ。敵中突破か迂回か、判断に迫られる。

「ん〜……こっちのこと、もう見つけてるみたいだよぉ〜。」

文月が衝撃の情報を齎す。それなら選択肢はもう1つしかない。

「全艦単縦陣!敵中突破、撃滅する!!」

号令を掛け、陣形を整える。

「「「了解!」」」

先頭は旗艦である私、長波。速力を一気に上げる。

「目標発見!全艦、長波に続け!突撃する!!」

見張り員妖精が発見を報告すると同時に、ほぼ最大船速で接近していく。大発動艇運用中とはいえ、物資を満載していないため負担も少ない。三日月と文月も後衛とはいえ戦闘に参加してもらう。

「ってぇー!」

有効射程ギリギリから射撃を開始する。重巡の方が射程が長いのは百も承知だが、攻撃は最大の防御であり、先制攻撃で機先を制する。

「ごめんなさいなのです!!」

射程距離ギリギリだと言うのに電が敵軽巡を撃ち抜く。

「くらえ〜!」

「当たって…!」

後衛の2人も射撃を開始する。距離も相まって命中はしないが、外れた水柱が、目隠しになり、向こうからの射撃が途切れる。

「ナイスアシスト…!」

その隙を見逃す私では無い。一気にトップスピードに乗り、敵艦隊の戦闘に居た重巡に肉薄し、思いっきり蹴り飛ばす。こんなに接近されると思っていなかったのか、ギョッとした顔のまま蹴り飛ばされていく。

「させないのです!!」

私が敵中に突っ込んだため、私の側面を取ろうとする駆逐艦を続いてきた電が撃ち抜く。

「おぉっと!そんなちゃちな手は効かないぜ…!」

敵の雷撃を踊るように飛び越え、魚雷を放ってきた雷巡にゼロ距離射撃を叩き込む。そのまま流れるように後続していた駆逐艦に雷撃をお見舞いし、敵艦隊の中央を強行突破する。

「あたしだって、これくらいはできるんだよぉ〜!」

文月と三日月も接敵する。

「負ける訳にはいかないんですっ!」

精密な射撃で、私が掻き回した敵艦を沈めていく。

私が引っ掻き回した敵艦隊を、冷静に着実に、片付けていく。敵の標準は、敵陣を中央突破した私に集中する。1人でも道連れにしようと攻撃が集中する。

「私を沈めたかったら…もっと連携を鍛えるんだなぁ!」

無闇に接近してくる敵をいなし、背後を取ってくるこようが踊るように回避し反撃をプレゼントする。てんでバラバラな攻撃を避け、片っ端から砲雷撃を叩き込み、轟沈させていく。接敵から、あっという間に壊滅させていった。

「…ごめんなさいなのです。」

沈み消えていく敵艦に対して、そう電がしゃがみこみ、呟く。

「…戦闘終了。お疲れ様、だ。」

そんな電に近寄りそっと声をかけ、返り血に染まってはいるが、電に手を差し伸べる。

「……ありがとうなのです。」

ほにゃっと笑い、手を取る。

「…さ、帰ろうか。」

三日月と文月も合流し、帰路を進む。

「ふぁぁ…疲れたねぇ〜…。」

大きな欠伸をする文月。

「もう、文月ちゃんは気を抜きすぎですよ。」

そんな文月にツッコミを入れる三日月。

こんな平和も守りたい。そう思わせるには十分すぎる光景だった。



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第18話

遅刻遅刻〜()


今回の輸送も今回の輸送で様々なことに見舞われた。だいぶクタクタであり早く帰投したい…。まもなくポートモレスビー近海というところでいつものように定例無線を飛ばす。

「仮設第一ポートモレスビー攻略支援小隊旗艦長波、ポートモレスビー応答願う。」

「………」

何も反応がない。

「こちら仮説第一ポートモレスビー攻略支援小隊。ポートモレスビー、応答願う。」

再度呼びかけるが、

「…………」

反応がない。

「どうしたのです?」

電が寄ってくる。私が数度コールし、会話になってないことを耳聡く気づいたようだ。

「ポートモレスビーからの応答がない。おそらく敵襲か何かだと思う……。」

ノイズしか入らいない無線を切り、戦闘態勢に移行させつつ推測を述べる。

「えっそれって……」

途端に電の顔が青ざめていく。ただショックを受けている暇はない。

「あぁ、周囲警戒を頼む。文月!敵無線を何か捉えてないか!」

微睡みかけている文月を少し強引におこし、聞く。

「んぇ…?うーん、なにも入ってないよぉ……?」

やけにふわふわしているが、こういうことで漏れを出したことは無いため信用する。統率された敵艦隊などによる襲撃は無さそうではある…とはいえこの鎮守府が孤立するきっかけのような、空襲などの可能性もあるが…。

「長波さん!あれ!」

と考えていると三日月の声が響く。

雲間にキラキラと何かが反射しているのが見える。あれは…

「っっ!対空電探に感あり!直上超高高度を何かが飛行中なのです!!」

確信した。確実に重爆撃機による基地空襲に違いない。

「全艦最大戦速!ポートモレスビーに急行する!旗艦に続け!!」

急いで鎮守府へと向かう。超高高度の重爆撃機からこちらを見つけることはさすがにできないだろうと海を駆ける。空も雲が多いことも幸いした。

 

近海付近まで近づいていたこともあり、あっという間に地平線に近づくが、モクモクと黒煙が立ち上っている。

「くそっ私たちがいない間に…!」

遠目に見ても相当の損害が出ているようだ。

「酷いのです……。」

すぐ隣に着いてきている電も同様に感じたらしい。とにかく急いで入港する。幸い港湾機能と工廠機能はまだ生きているようで妖精さんがワタワタと走り回っていた。

「提督!提督はいるか!!」

艤装もそのままに上陸し提督を探す。

横目に三日月と文月が遅れながらも港にたどり着いたことを確認しつつ、さらに奥へと進む。

「提督!提督!!」

探しながら駆け回る。無事でいて欲しい、とにかくその想いが募る。

「そんなに叫ばなくても…聞こえてますから…。」

背後から聞きなれた声が聞こえる。振り返るとそこには肩の当たりから血を流している提督が居た。

「提督…ひとまず無事で良かった……。」

すぐ背後の建物の陰に居たようだ。とはいえまだ出血は続いている。ヘナヘナと座り込みかけるが提督に駆け寄る。

「迂闊でした…早く迎撃機を上げさせれば良かったのに……。」

支えつつ提督を座らせ、艤装から止血帯などを取り出して手当していく。

「喋るなよ…血が止めにくい……。」

止血をするために腕の辺りを触ると顔をしかめる。どうやら骨折もしているようだった。

「…不甲斐ないばかりです。」

私に手当させてるということが、提督の自己嫌悪を掻き立てているようだ。

「…黙ってろって。」

少し語気を強めて喋らせなくする。黙々と止血と手の固定を進め、手当を完了する。あくまで応急処置だが。

「長波ちゃん…と司令官さん!?」

電が私を追いかけてこちらに来てくれたようだが、士官服が焦げ煤け、私の手の辺りが血塗れになっているのを見てギョッとしていた。

「そこそこ酷い怪我だか命に響くことはないはず…だ。医務室が無いから妖精さんに診てもらうしかない。運ぶから、担架を持ってきてくれないか…?」

電に指示を出し、提督の隣に座る。

「わ、わかったのです!」

そう返事すると探しに駆け出す。

妖精さんは基本的に、人の治療は専門外だ。私たち艦娘の身体も、艦娘になると同時に特異に治癒が早くなる。とはいえ、身体の中や身体その物の構造は人とそう変わりはない。だから、人の身体を診察、治療することが出来る妖精さんも居る。提督のことは彼女らに任せることにしよう…そう思った。

「長波ちゃん!担架持ってきたのです!」

だいぶ急いで持ってきてくれたようだ。

「ありがとう…。さ、乗せて運ぶぞ…!」

艤装のアシストもあり、移して運ぶのは簡単だった。

入渠ドッグの隣、いわゆる集中治療室のような設備に提督を預け、文月と三日月に合流する。

「電…被害状況はどんな感じなんだ…?」

工廠で大発と艤装を解除しながら、電に聞く。

「ええっと、システム面は一応全て稼働できてるのです。航空隊も、滑走路の修復さえ終われば使えて、それももうすぐ終わるのです。」

さすが妖精さんさながらである。

「庁舎の中は私が見てきたので報告しますね。爆撃の衝撃で中はぐちゃぐちゃで、1部の部屋は吹き飛んでいました。」

と三日月が話してくれる。

「まぁ…そうだよな……。」

ところどころ崩れ、今だに煙が燻っていることからなんとなくは想像できたが、やはり酷い有様なようだった。

「さて…これからどうするからなぁ……。」

一応艦隊の旗艦であるから指揮権自体は電より上位である。私が現状ここの全指揮権を持っている形になっている。

ひとまず再建は進めるが、悠長なことは出来ないだろう。また私たちは岐路に立たされているのだった。



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第19話

投稿忘れです本当に申し訳ございませんでした。
首切って詫びたい。


ついに見つかってしまった私たちの現本拠地、ポートモレスビー。

「南方進出作戦」時の空襲で壊滅したと思わせるための偽装の効果もあり、私がここで活動をし始めてから昨日までここの設備が生きていることは確定できていなかったと言っても過言では無いだろう。たがしかし、敵の攻撃に際して対空砲火などの迎撃によって未だ機能が残っていることが深海棲艦にもバレてしまった。

仮に人間的な「戦術」を理解している敵なら、ここの厄介さにはもう気づいているはずであり、攻撃の計画を立てているに違いないだろう。

「あ、長波ちゃん。おはようなのです。」

と、小難しいことを考えているうちにひょっこりと電が現れる。

「あぁ、おはよう電。とりあえず疲れは取れたか?」

攻撃の影響で宿舎の1部が崩壊し、いつも使っている部屋が使えなかった関係上、確認はしておきたかった。

「よく寝られたのです。少し心配なのは文月ちゃんですけど……。」

と電。本人がしっかり者だからかどうかは分からないが何ともなかったようだ。

「まぁ、文月の寝起きがあんまり良くないのはいつもの事だから大丈夫だろ。」

と話しつつ工廠へと向かう。大怪我を負った提督の様子を確認するためだ。

 

「提督、起きてるかー?」

一応治療室に入る前にノックをしてみる。

「えぇ、起きてます、どうぞ。」

といつものように堅苦しい返事が帰ってきた。元気そうな声ではあるので扉を開けて入ると、そこにはいつものように軍服を着た提督が…居るはずもなく、ギプスや包帯で覆われていた。

「…大丈夫なのです…?」

思わず電が聞く。

「……大丈夫です…と言いたいところですが、実際痛み止めが必須なほどです…。面目ありません。」

と何故か謝る。

「判断を誤って怪我したのは提督のせいかもしれないけど、怪我しちまったこと。そうなっちまったことをあたしらに謝る必要はねーんじゃねぇの?卑屈になりすぎだ。」

と、前々から思っていた事も含めて言ってしまった。

提督は何も言わない。

「この際だから言っておく。もし仮に、提督を置いて撤退しろなんて言い出したら、あたしが提督をぶん殴る。戦争は犠牲が付き物だけどな、犠牲前提で作戦を組み立てるような奴の下で戦いたくない。」

「長波ちゃん!言い過ぎなのです!!」

電が私に抗議してくるが、これは私の信念だ。綺麗事だなんだって言われようが曲げるつもりは無いし、曲げるくらいなら艦娘自体も辞めてやる。

「……そうですね。」

提督が小さくそう呟く。電もはらはらと提督の言葉を待っている。

「わたしが頭を使わないでどうするって話ですからね。誰も犠牲にならないように作戦を作ってみますよ。」

口調自体はいつもとあまり変わらないが、その目は確かに前を見据えていた。

「そういうことなら、どんな命令でもこの長波サマが全力でやってやるぜ?任せな!」

なんたって私は栄光の二水戦の一翼を担っていた最精鋭駆逐艦、長波なのだから。

「作戦立案は任されました。これからも頼みますね。」

私ら二人の目を見てそう言う。信念のこもった眼を見るのは好きだ。

「おうよ!」

「もちろんなのです!」

電も私も、自信をもってこれに応える。雨降って地固まる。私たちは再出発をしたのだった。

 

とまぁ、かっこよく締めたものの、そもそも鎮守府自体もボロボロで、物理的にも再出発しなくてはいけない。電と手分けして、修復された鎮守府施設内を総点検していく。とそのうち

「もぉ~うるさいなぁ~…。」

と文月がぼやきながら部屋から出てくる。

「どうした?」

と聞くだけ聞いてみるが、大方特殊艤装のリンクを切らずにいたのだろう。

「深海の飛び交ってるみたいで、ほんとにうるさいの…。」

やっぱり半ば自業自得だった。

「それで、どんな内容なんだ?」

不機嫌そうな顔に一瞬変わるが、すぐに処理を始める。

「えぇっとねぇ…。」

そのうちにみるみる表情が消え、困惑と狼狽の色が浮かぶ。

「どうしたんだ…?」

思わず聞かざるを得ない。

「深海棲艦が…平文で私たちに助けを求めてるみたい…。しかも深海水上艦の部隊が攻撃してるみたいだし…。」

しどろもどろになりながらも説明してくれる。

「『助け』を求めてるんだな?」

文月に念を押す。

「う、うん…。そうみたいだよぉ…?」

なら助けに行くしかない。善悪の判断は、後から決めればいし、今なら何とかなるかもしれない。救える命は、見捨てたくないからだ。

「ちょ、ちょっと、長波ちゃ~ん!!」

私の背中に文月の叫び声か届く。

「わりぃ!司令と電には文月から伝えてくれ!!」

そう叫びドッグへと急ぐ。

「駆逐艦長波、抜錨!出撃する!!」

駆け込み艤装を展開、緊急出撃する。もちろんフル装備で、電探を起動する。

「見つけた…!」

鎮守府近海なのをいいことに機関部が悲鳴を上げるギリギリまで加速する。

「おらぁ...!!」

トップスピードのまま敵艦隊に突進。追撃している部隊の先頭に思いきり体当たりをする。

そのまま返す刀でその後方にいる敵に主砲を叩き込み大きくバックステップ。

「大丈夫か!?」

追われていた深海棲艦を確認。中破しているようだが航行に支障はなさそうだ。

「マダ大丈夫。」

本人もそう言っているなら問題ないだろう。矢のようなスピードで突進をかまし、突如として新手が現れたことにいまだに混乱しているようだ。

「先行ってな!この先に鎮守府がある!!」

手傷を負っているその深海棲艦を横目に目の前の部隊に相対する。

アタマは一般的な重巡リ級だ。

「大丈夫、私ならやれる。」

大きく息を吸い込んで、足を踏み込みバネの要領で一気に加速する。狙いはまずアタマ。それをつぶせば有象無象の集団でしかない。

狙われたリ級は、ぎょっとした顔で私に向かって射撃を開始する。しかし…

「そんな反応速度じゃ二水戦の訓練すら潜り抜けられないねぇ!!」

タンタンタンと軽快なリズムで機関部と武装、そして胴体を撃ち抜きそのまま敵中を駆け抜け裏を取る。

最後尾にいた軽巡ト級がかろうじて反応できたようで、真後ろの私に対して弾幕を張り始めるが、軽快なステップで回避を選択。

「っとと…。あんたにゃこれがお似合いだ!!」

すぐさま魚雷を投射し牽制射撃。回避ルートを封鎖し魚雷を直撃させる。

私一人に攪乱され、統制を失い、あっという間に陣形も部隊そのものも崩れた。流れ作業のように追撃戦に移行し、各個撃破していく。

今倒さねば、どこかで誰かを殺すかもしれないし、私たちにいつか危害を加えるかもしれない。

電がここにいれば、私を静止しただろうか。そんな疑問を抱きながら私が最初にタックルを仕掛けた駆逐艦を屠る。

殺されるくらいなら、殺すしかない不条理を柄にもなく酷く憎んでしまった。




かっこいい波サマはやっぱりいいね。

そして銭湯パート、書き出すと止まらないです()
後半500文字楽しくなってしまったし…()


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第20話

謎の深海棲艦からの救援要請を受け飛び出した私は、追撃していた敵部隊をあっという間に殲滅することが出来た。

事態が事態だから飛び出したものの、後で叱られそうだなと思いつつ鎮守府に戻る。電探の反応的に、電か文月が例の深海棲艦と合流出来たようで一安心する。

「はぁ…それにしても何が起きてるんだがな。」

とボヤいてみるが誰かが反応するはずもなく、ただ響くのは私の艤装から出る音だけだった。

 

「もう!長波ちゃん!せめて一言言ってから出撃して欲しいのです!!」

ドックに戻ると、怒り心頭と言った感じの電が待ち構えていた。

「すまんすまん、時間も無さそうだったしつい、な?」

悠長に構えてる暇は無さそうだと思ったのは事実なのでそう弁明する。

「つい、じゃないのです!もしもっと強い部隊だったらどうするつもりだったのですか……!もう!」

と本気で叱られてしまった。

「…次からもうしないからさ、今はこう生きてるんだ。だからこれで、許してくれ、な?」

軽く抱きしめ頭を撫でてやる。涙目になっていた電も落ち着いたようだ。

「モウソロソロイイカ。」

私が電を慰めているのを見てバツが悪そうな顔を浮かべながらこちらを見ていた。

「あ、あぁ、すまん、大丈夫だ。」

改めて向き直るが、先程まで煙を上げていた艤装が治り始めて居た。

「…ワタシハドウスレバイイ?マッテイロトイワレタガ。」

足が無いため動けないようだ。

「ごめんねぇ〜もってきたよぉ〜。」

文月が車椅子を押して持ってくるが声色がだいぶ平坦になっている。深海棲艦自体への恨みがあるからか、ニコニコしているが目が笑っていない。

「………?」

一体何をしに来たのか分からないと言った表情だ。

「あーいいか、ちょっと持ち上げるぞ。」

と許可を取り車椅子に載せる。艤装があるとはいえ、身体が細いからか難なく載せることが出来た。

「…ナルホド、ソウイウコトナラ早ク言エ。」

と言うが早いか艤装をどこかへしまい込んだ。

これには私たち3人ともギョッとしてしまう。

「ナンダ、艦娘ハコンナ事モデキナイノカ。」

ぶっきらぼうな物の言い方に対して、文月が段々とイライラしてるのが見て取れた。

「あーその、なんだ。文月、電と一緒に休憩してきたらいいんじゃないか。この件は私に任せてくれ、な?」

「…じゃ、お言葉に甘えて〜。行こ〜?」

と、だいぶご機嫌ななめだが一旦距離を取らせれた。

「じゃあ私らの指揮官とあってもらうけど、いいな?」

車椅子を押してやりながら確認をする。

「…人間モ艦娘モ気ニ食ワナイガソレ以外ニナインダロウ?」

周りに人が減ったからか露骨に感情が出てくる。

「お前…」

さすがにこの物言いにはイラついてしまい抗議しようとするが機先を制される。

「モチロンオマエニハ感謝シテイル。命ノ恩人ナノダカラナ。アリガトウ。」

と、真っ当な感性は持ち合わせているようだ。だったら尚更教えてやらなくてはならない。

「私がお前を助けに行けたのは、文月…あー、黒い上着を羽織ってる方のお陰なんだ。アイツがお前の無線を拾ってくれなかったら誰も気づきやしなかったからな。」

相手も言葉遣いを気にしていないようなので、こちらも歯に衣着せず言ってやる。

「ソウカ。」

とだけ、数拍置いて返事が帰ってきた。

深海棲艦なりに、思うところがあるのだろうか。

そんなことを考えながら提督のいる病室へ向かうと、病室の前で三日月と出会う。

「その子が助けた…深海棲艦ですか?」

純粋に興味だけがあると言った表情で車椅子の正面から覗き込む。

「まぁそうなる。確か…『駆逐棲姫』って分類のはずだ。」

車椅子の客人から露骨に嫌そうな雰囲気を感じるが、今はそれしか呼び方が無いのだから仕方ないだろう。

「そうですか。しばらくよろしくお願いしますね。」

と屈託なく挨拶する三日月。三日月は深海棲艦に対して思うところは無いのだろうか。駆逐棲姫も毒気を抜かれたのか

「アァ、ヨロシク。」

と素直に返していた。

 

 

「こんな姿で申し訳ありません。私がここの司令官の羽田という者です。そちらが保護した深海棲艦……駆逐棲姫ですか……?」

簡単な自己紹介と挨拶をする提督。それに対して

「ナァ、ソノ『駆逐棲姫』ナンテ呼ビ方ハヤメテクレナイカ。」

とかなり不機嫌に返す。だがしかし、提督は大人な対応で済ませる。

「失礼しました。なんとお呼びすればよろしいですかね?」

「……ソウダナ…。『ハル』トデモ呼ンデクレ。」

と駆逐棲姫は名乗った。

 

「それで、いきなり本題ですみませんが、ハルさんはなぜ追われて居たんですか?」

と提督はド直球に聞く。下手な世間話をするよりこっちの方がいいと判断したのだろう。

「……私ハ別ニ、人間ハ嫌イダガワサワザ虐殺に加担スル程嫌イジャナイ。第一、海ハ皆ノ物ダロウ。ソレヲ占有スルノハ、同ジ海ノ者デモ人間デモ許セナイ。ダカラ反発シタ。ダカラ追ワレタ。ソレダケ事ダ。」

と淡々と語る。ここまで人間味に溢れる深海棲艦を私は見たことが無かった。いつかの報告書で、深海棲艦が人間の街にスパイとして紛れている可能性があるというのは見た気がするが。

「……なるほど。」

と冷静に返す提督。私は黙って見ているしか出来なかった。

「トニカク、私ハアイツガ気ニ食ワナイ。頭ガイイノカナンダカハ知ラナイガ、海ノ者同士ハ対等トイウ不文律ヲ忘レテイル。ソレニ…アソコハ私ノ生マレタ海ダ。追イ出スタメニ力ヲ貸シテクレナイカ。」

と言うことだった。

深海棲艦には深海棲艦なりのルールがあったということだ。…私たち人間は、海のことを全然知らなかったのかもしれない。




駆逐棲姫…通称わるさめちゃん、可愛いですよね。


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第21話

恥ずかしながら帰ってきました。
今後もゆるゆる続きを書いていくつもりです。

不定期投稿ですけれども。


助けを求めていた駆逐棲姫を無事救助し、提督と面会させることに成功した。

その「ハル」と名乗った深海の姫曰く、「深海には深海のルールがあり、それを守れぬ無頼者から離反した。」との事のようで、その無頼者が、どうやらインドネシア、マレー諸島近海に陣取る深海棲艦部隊の頭目のような存在らしいということがわかったのだった。

「なるほど。理解しました。」

何か考えていたのだろうか、数瞬の間を置いて提督が返答する。

「デ、協力シテクレルノカ。」

ぶっきらぼうに言い放つが、その瞳には期待の色が映る。

「そうですね…。あなたはルールと約束と言うものを大切にしているのですね。」

何かを確認するように相手を伺う。

「アタリマエダ。ソレガ我ラ深海ノ生キ方ノ基本ダカラナ。」

と自信満々に返すハル。

「でしたら、あなたと私たちの協力体制に関しても"約束"を交わして置きましょう。いいですか?」

と切り出す。深海棲艦であっても対等な交渉相手と扱える胆力はどこから湧いてきてるのだろうか。

「……イイダロウ。内容ハ?」

不敵に、しかし興味深そうに返答する。

「一つ、我々とあなたは目標達成まで完全な停戦、協力関係を結ぶことについて、互いに提供できる情報、物資は惜しまないこと。二つ、互いにとって利益に反することであっても協力関係が失効しない限り停戦は継続すること。三つ、協力関係の失効に関しては、相手方へ通知してから一週間後とする。で、いいですか。」

条件だけ見ればこちらにかなり有利なように見える。

「…モシ破ラレタラドウスレバイイ?」

そのあたりはやはり抜け目ないようだ。

「その時は、私の首でも持って行ってください。」

目が据わっている。

「おい、提督」

さすがに口を挟ませてもらう。私としても、聞き捨てならない。

「長波さんは静かにしていてください。あなたたちを無事に帰すために、私に賭けられるものはこれなんです。」

いつぞやに見た信念のこもった目に、私は何も言い返せなかった。

「…ハハハハハ!気二入ッタ!!乗ッテヤロウジャナイカ!!」

盛大な笑い声と楽しそうな声が執務室に響く。

「受け入れて貰えますか。」

安堵したような声色で確認をとる。

「イイダロウ。モシ違約ガアレバ、ソノ首貰ウゾ。」

一瞬空気がヒリつく。これはガチだ。自分の命を賭すことになろうと、刺し違えてでもそうするだろうという確信めいたなにかがあった。

「では、これからよろしくお願いしますね。」

「アァ、貴様ラヲ信頼シテイル。」

握手を交わす。

こうして、人と深海の、奇妙な協力関係が生まれたのだった。



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