俺の同僚の顔が良すぎる (チキンうまうま)
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コラボ回
職場のヤンデレたちの顔が良すぎる 



 まさかまさかのコラボ回です。

【エリモス】
 うちの主人公。女好きだけどモテないアスラン。

【カドヤ】
 『狼黒』さんの『ヤンデレって怖いね(小並感)』の主人公。色々闇の深いサンクタ。




 

 某月某日。ロドス・アイランド製薬のオペレーター・エリモスは当てもなくロドスの廊下を歩いていた。この日彼は非番、つまりは休みなのである。そして間の悪いことに、ノイルホーンやスポット、ミッドナイト、マドロックといった友人達は軒並み仕事なのである。そのため彼はその日非常に暇を持て余していた。

 

「……ん?」

 

 そんな彼がブラブラと歩いていた足を突然に止めた。何かを感じとったのだろうか、そのまま普段あまり使わない獅子耳をぴこぴこと動かすと、彼は身体の向きを変えた。その先には、特になんの変哲もない談話室へと繋がる扉がある。

 

「…なんだ?」

 

 扉を見つめたまま彼は訝しげな声をあげた。彼は普段は阿呆だが、優秀なオペレーターの1人。そんな彼が違和感を感じ取ったと言うのなら、それは何かがあるに違いな─

 

「この先から美女の気配がする…!」

 

 これはひどい。

 そんなあまりにも知性も理性も欠片も感じ取れない発言が彼の口から飛び出した。

 

「美女の気配…。つまりこれは進むしかない、と言うことだな。」

 

 んなわけない。ないのだが、ロドスの誇る玉砕王ことエリモスの頭には、そんな考えは欠片もなかった。そして思うが早いが彼は欠片も躊躇せず、その扉を勢いよく開け放った。

 

「どうもー、お邪魔しまー…」

 

 声をかけながら入室した彼だったが、その中で行われているものを見た途端にその動きを止めた。もはや石化した、といってもいい。それほどまでに見事に彼は硬直していた。

 

 だがそれも無理はないと言えるだろう。

 

「……………!!!!!」

「ほーら、抵抗しないの。モスティマ、そっち押さえてて。」

「わかったよエクシア。ほら、カドヤ。じっとしててね。」

 

 その部屋には、3人の女性達がいた。それだけならロドスではさして珍しいことではない。だが、彼女らのしていることが問題だった。彼女達は昼間から公共の場であるにも関わらず、【ピーーーー】で【ズキュウウウン】なことに励んでいたのである。部屋の鍵も掛けずに、だ。いくらエリモスといえど、流石にその状況には思考がフリーズしたのか、呼吸すら止まったかのようにその動きをとめている。

 

「ちょ、ま…モスティ…ひ、人来た…」

 

 そして意外なことにエリモスの入室に真っ先に気がついたのは2人の間に挟まってで攻め続けられている小柄なサンクタの少女だった。彼女は息も絶え絶えになりながら、その頬を羞恥に染めて、その行為を止めようとしている。

 

「ん?ああ、本当だ。エリモス来てるね。」

「でもフリーズしちゃってるね。うーん、どうする?」

「放っておこうか。そのうち動き出すだろうしね。」

 

 残る2人、赤い髪のエクシアと青い髪のモスティマはそう言っていつも通りにあっさりと流した。彼女らに取って、エリモスが如何に路傍の石の如き存在であるかが窺える。

 

「…お」

 

 彼女らがそんな話をしている中、ようやくエリモスが動きを再開した。

 

「お邪魔しましたあああああああ!!!!」

「待って!置いていかないで!!!」

 

 全力で彼女らに背を向けて走り出したエリモスの背中に、カドヤの悲痛な声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや本当さ、公共の場所であんなことすんなよお前。」

「これでも悪いとは思ってるんだよ。まさかエリモスが来るとは思わなかったからさ。」

 

 その翌日。任務へと向かう車の中で振動に揺られながらカドヤとエリモスは膝を突き合わせていた。

 

「それ以前の問題だろ。全く公共の場でイチャイチャしやがって…まあ別に羨ましくもなんともないけどな。」

「本当は?」

「妬ましい。」

「素直すぎない?」

 

 オペレーター・カドヤ。元男とかラテラーノの闇を知る人物とか色々言われてはいるが、そんなものエリモスにとっては大して興味はない。そんなものより大事なものがあるのだ。

 

 それはこのカドヤがハーレム(女)王ということである。

 

 ペンギン急便、龍門近衛局、ジェシカ、ブレイズ、ラップランド、W…ロドス内外を問わず顔の良い女達に囲まれ、そして愛されるその様子はまさにハーレムの主。そんなカドヤの様子には、多くの独身オペレーター達が涙を流しているとかなんとか。勿論エリモスも例外ではなく、自身のモテなさもあいまって今までどれだけの涙を流したことかわからない。

 

「いやだってさあ!考えてもみろよ!絶対いけると思ってたリードには振られるし!俺が振られたチェンさんは今やお前の恋人だし!世界は理不尽だ!」

「…そういやエリモスは前にチェンに告ってたね。」

「そうだそうだよそうですよ!まあ玉砕しましたけどね!?」

 

 そう言って喚くエリモスの肩に、カドヤがポンとその手を置いた。気のせいか、その手には万力の如き剛力が込められている。

 

「…カドヤ?痛いんだが…」

「ああ、ごめんよ。ただ、ちょっと聞きたいんだけど…」

 

 いくら体が頑丈なエリモスと言えど、痛いものは痛い。抗議すべくその手を払い除けようとしたところで、エリモスはヒュッと息を飲んだ。

 

 カドヤの瞳孔がガンギマリになっている。

 

「まさかまだチェンのことが好きとかないよね?」

(やっべえカドヤのハイライト死んだああああああああ!!!???)

 

 無自覚激重女、ヤンデレモードカドヤさん降臨である。やたら重いと噂の過去が関係しているのか、カドヤは一度でも気を許したが最後、カドヤはその相手をとにかく大事にする。そしてそれを脅かすものには本当に容赦しない。こええよマジで。

 

 とにかくここを切り抜けるには一つしかない。エリモスは今なお握り潰されんばかりに痛む肩を無視して、乾いた笑い声を上げた。

 

「ははっまさか!そんなことあるわけないだろう!?」

「そっか。ならいいけど。」

 

 エリモスの訴えによって少しは気が緩んだのだろうか、僅かにハイライトさんが帰ってきたところで車が減速を始めた。どうやら任務地の近くについたらしい。

 

「ほら!ほらカドヤ!仕事だ!行くぞ!」

「はいはい、分かってますよっと。」

 

 マシになったとは言え、いまだに圧を放ち続けるカドヤから逃げるように、エリモスは盾を持って車から飛び降りた。いやあまさか会敵に感謝することがあろうとは夢にも思わなかったぜ。そしてその後に続いて自分の得物を持ったカドヤも降りていく。そして2歩、3歩と歩いていくうちに2人の目は日常を生きる者のそれから、戦士のものへと変わっていく。

 

「俺が崩す。お前が仕留めろ。」

「ん、了解。」

 

 テラの荒野に、獅子と天使が降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「カドヤ!無事だった!?」

「ごめんよ、私たちに仕事があったばっかりに…」

「大丈夫だよ。私はそこまで弱くないし、エリモスもいたからね。」

 

 ロドス期間直後。間髪入れずに美女美少女に囲まれたカドヤを見て、エリモスは滝のような滂沱の涙を流した。

 

「ちくしょう格差だ!格差を感じる!」

 

 ギャン泣きである。なんで自分は連戦連敗なのにあいつはモテるんだろうか。地面に膝を突き悲しみに暮れる彼の背を通りすがりのオペレーターたちが叩いていくなか、そんなエリモスの耳に涼やかな声が届いた。

 

「エリモス?帰ったのか。」

「…ああ、マドロックか。ただいま。」

「お帰り。どうしたんだ?そんなに泣いて。怪我でもしたのか?」

 

 エリモスの前にはいつの間に来たのか四つん這いになっている彼に合わせるかのようにちょこんと屈んだ白髪のサルカズ、マドロックがいた。心配してくれているのか首を傾げているが、普通ならあざといとしか言えないその動作がよく似合っている。ちくしょう顔がいい。

 

「いやなに、世界は理不尽だと思っただけだ。大したことじゃねえ。」

「本当に今更だな。しかしなんでまた…ああ、カドヤか。」

「そういうこった。」

「なるほど。だが…あれを見ても本当に羨ましいと思うのか?」

 

 そう言われてエリモスは目線をマドロックの方からずらしてカドヤの方を見た。そして今、カドヤのいる一角は先ほどとは随分と様子が異なっている。

 

「ところでカドヤ。本当に怪我はないんだろうね?」

「ないよ、大丈夫。エリモスもいたしね。」

「そっか、良かった。もしカドヤが傷つけられてたら私は相手をどうにかしなくちゃならなかったからね。」 

 

 普通にやばい発言が飛び出した。やべえよやべえよ。なんだよあれ。ちょっとぼかしてる辺りが余計に怖いよ。

 

「…て言うか、あたしたちカドヤが任務に行くって聞いてなかったんだけど。」

「あれ?そうだっけ?ドクターからも聞いてないの?」

「そうだね、私も聞いてないよ。」

「えっ。」

 

 おっと段々エクシアとモスティマのハイライトが消えていきますね。これはまずいですよ。

 

「そっか…カドヤは私たちに黙って出かけたんだね。」

「えっ」

「これはお仕置きかな?」

「ちょっ」

「今夜は寝かさないから。」

「覚悟しておいてね?カドヤ。」

「………ハイ。」

 

 なんて会話だ。周囲に子供達がいないのが幸いである。…と言うか、

 

「やっぱり裏山展開じゃねえかあああああああああ!ちくしょおおおおおお!」

「でも自由に外出もできないんだぞ?」

「…そう考えるとアレだな、うん。やっぱ羨ましくないかもしれんわ。」

 

 そんなカドヤの様子をみてエリモスは再び地面に伏せて泣き喚いていたが、ようやくノロノロと立ち上ると膝の埃を払い落とした。そしてそれに合わせてマドロックも立ち上がる。お互いに屈んでいた時は分からなかったが実は2人はそれなりに身長差があるのだが、示し合わせたかのように同じタイミングで、そして同じ歩幅で歩き出した。

 

「なあマドロック、今晩時間あるか?」

「あるが…どうした?酒か?」

「ああ!飲むぞ!ヤケ酒だ!」

「…あれ?エリモス!」

 

 さあ飲むぞ飲むぞと決意を固めながら人の輪から離れて行こうとする2人だったが、突然に背後から声をかけられて足を止めた。そしてエリモスはくるりと振り返って、声のした方を、声の出した相手であるカドヤの方を向いた。

 

「もう帰るの?」

「おう。今から俺は酒に溺れるぜ。」

「そっか。じゃあね、エリモス。また明日。」

 

 多くの人に囲まれて、カドヤはエリモスにそう言った。

 

「ああ、また明日な、カドヤ。」

 

 マドロックの隣でエリモスもカドヤにそう言った。

 

 そしてそれを最後に、2人は元の方へ向き直って歩き出した。お互いに背を向けて、そしてその距離は段々に離れていく。それでもきっと、今は離れても、また明日になればいつも通りに馬鹿騒ぎをするんだろう。

 

 また明日。もう一度だけ声に出さずにそう思って、2人の姿はロドスの日持に溶け込んでいった。





 と言うわけで今回は『ヤンデレって怖いね(小並感)』の作者である【狼黒】さんよりお誘いいただいてのコラボ回でした。まさかクソ隠キャな私にこんな素敵なお話をいただけようとは…感無量です。と言うわけでみんなも『ヤンデレって怖いね(小並感)』を読もうね。面白いから。
 そして狼黒さんの方でも後々コラボ回を書いてくれるそうです。楽しみ。私はこうやって二次創作者同士で交流するのは初めてだったのですが、狼黒さんがすごい良い方で、今回こうやってコラボしたのが狼黒さんで本当に良かったと思っています。ありがとうございました。
 それではみなさま、またお会いしましょう。
 
 狼黒さん、今回は本当にありがとうございました。またお願いします!



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方舟日常編
俺の同僚の顔が良すぎる


 

「彼女が欲しいんだよ。」

「…それをなんで私にいうんだ。」

「いや、こんなこと言えるのマドロックくらいしかいないからさあ。」

 

 ロドス本艦、その中の訓練室にて2人の人物が訓練後の熱気も冷めないままに話をしていた。そのうち1人はくすんだ金髪をした獅子人(アスラン)で、もう1人はパワードスーツに身を隠した正体不明の大柄な人物であった。

 

「…そもそもどうしてそうなったんだ、エリモス。」

 

 マドロック。そう呼ばれたパワードスーツの方が、エリモスと呼ばれたアスランに尋ねた。

 

「いやーそれなんだけどさあ。大した理由じゃないんだけど。」

 

 エリモスはそう言って一度息を吸った。

 

ロドス(うち)のオペレーターさ、みんな顔が良すぎない?そんな人と一緒に働いてたらそりゃそんな気分にもなるよね。」

「…言いたいことはわからなくもないが。」

 

 それでいいのかおまえ。いいに決まっているだろう。そう言った2人の間に妙な沈黙が落ちた。

 ロドスは今日も平和である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し俺─エリモスについて話をしよう。

 エリモス、はコードネーム。本名は××××××。出身はヴィクトリア、のスラム。親は知らない。幸いなことに、鉱石病(オリパシー)には未感染。ヴィクトリアに駐留していたロドスの職員に保護され、今では戦闘オペレーターの1人となっている。

 

 そして大切なことに、おれは前世の記憶、とやらを持っている。それもこのテラではないどこかで過ごした記憶、というものが。

 これは役に立つ時もあるし立たない時もある。ただ、平和な時代を何も考えずに生きていた、という幸福は今の自分からしたらあまりにも羨ましいものではあった。が、基本的にこれは役に立たない。なにせ今の俺からしたら異世界の知識な訳だからな。

 

 そして、この記憶を遡るに、俺は一つの結論に至った。

 それこそ、『この世界の住人は顔とスタイルが良すぎる』ということである。

 

 考えてみてほしい。前世ではありえないほどに整った顔立ち、及びスタイルの女性が、ちょっと考えがたい程の露出度の服装で肌を晒してその辺を歩いているのである。そんなの色々と性癖が歪むものだろう。

 

 つまり長々と話したが今この俺、エリモスは。色々と「持て余している」状態なのだ。

 

 

 

 

 

 

「…そんな精神で彼女を作っても長続きはしないんじゃないか。」

「一理ある。」

 

 滴り落ちる汗を拭いながら、エリモスはドリンクを口に運んだ。

 

「それでも俺は彼女が欲しい。それがたとえひと時の夢であっても…!」

「人の夢、と書いて儚い、と読むらしいが。」

「うるせえぞマドロック!どうせお前は強くてモテるからそんなことが言えるんだ!」

「いや私はモテないが。」

 

 軽く煽られてふぎゃあと食ってかかるが、悲しいかなエリモスの力ではマドロックのパワードスーツは揺るがせない。ただしこれはエリモスが非力という意味ではない。むしろ彼は戦闘オペレーターという意味ではかなりの怪力をしているはずなのだが、マドロックが規格外に強いだけだったりする。

 

「うるせえ!お前もどうせそのマスクの下はたいそうなイケメンなんだろう!?エンカクとか社長とかファントムみたいな!あんな耽美系イケメンなんだろう!?」

「いや、違うが。」

「うわああああああん!俺もイケメンに生まれたかったよお!」

「…………話を聞いてくれ、エリモス。」

 

 汚い高音を上げながらぐわんぐわんと揺さぶってくるエリモスにも構わずマドロックはため息をついた。同じ重装、土を扱うアーツの使い手ということもあって親しい2人だが、実はマドロックは諸事情あってエリモスに素顔を晒していないのである。

 

「うるせえええ!ちくしょうううう!俺もイケメンに生まれて美女美少女からチヤホヤされたいいいいい!」

「…顔よりもむしろそういうところじゃないか?」

 

 ついに涙が混じり始めた。あまりにもみっともない。その様にマドロックは割と心の底から呆れたが、よく考えるといつものことだったので軽く流すことにした。

 

「はあ…エリモス。愚痴なら聞くから頼むから騒ぐのをやめてくれ。周りの目が痛い。」

「…マドロックが今晩一緒に飯食ってくれるなら。」

「なに?私と食事?本気か?」

「本気だ。」

 

 聞き返したマドロックにエリモスはピタリ、と涙を止めるとその視線をマドロックの顔の方へと向けた。

 

「お前は感染者だのなんだの気にしてるのかもしれないがな。俺はその辺気にしねえよ。ってか、知り合って時間も経ってて、しかもこんなに色々話してんのに飯の一つも一緒に食ってないなんざ寂しいだろうが。」

「………。」

「ただ素顔がイケメンだったら奢らせるからそのつもりで。」

「……まさか、最初からそれが狙いか?」

「それこそまさか。」

 

 そう言って彼はニヤリと笑った。

 

「ただ俺はお前と飯を食ってみたいだけだよ。」

 

 

 

 

 

 

 その後。流石に今まで素顔を隠し続けてきたマドロックが人前にいきなり顔を晒すのは厳しかろう、という判断で2人はエリモスの部屋で飲むことに決め、今エリモスはその準備を行なっていた。

 

「酒は…こんなもんでいいだろ。あーでも、サルカズって強いんだっけ?もうちょいあったほうがいいか?」

 

 ぼやきながらガサゴソと酒瓶を机に並べていく。すでに酒瓶は5本は並んでいるのにまだいるというのだろうか。

 

「まあ酒とツマミはあいつも持ってくるらしいし、足りるか…?ほんで足りなかったらクロージャのところ走るか。」

 

 皿とコップも構えたし、あとは待つだけ…となったところでエリモスの部屋のチャイムが鳴った。マドロックが来た合図だ。

 

「お、来たか。時間通りだな。」

 

 その音に反応して玄関へと向かう。オートロックというのはこういう時に「開けてるから入ってくれ」ができないのが不便だった。そしてカギを開けて扉を開け放つと、部屋の前に立っているであろう人物を迎え入れる。

 

「よう、来たなマドロッ………!?」

「ああ、邪魔をするぞ、エリモス。」

 

 が、ガチャリ、と扉を開けた先にいたのは予想だにしない姿の人物。その隙にエリモスはピタリと動きを止めてしまう。

 

「エリモス?エリモス?どうした?」

「……どうした、もなにも。え、マドロック、だよな?」

「?ああ。私はオペレーター、マドロックだが?」

「え?え?、まじで?」

 

 エリモスの知る限り友人、マドロックの特徴は身長190ほどで、ゴツいパワードスーツを着ていて、声はくぐもっている。おまけにかつてはレユニオンで小隊を率いており、今でも普段から戦鎚を振り回しているのだから、当然ムキムキの男だと思っていたのだが。

 

「お前女だったのかよおおおおおお!!!!!?????」

「え、そうだが…」

 

 目の前にいるマドロックは身長160ほど。シミひとつない白い肌に、抜けるような白髪。ほっそりとした手足にルビーのような赤い瞳。顔立ちは人形のように整っていて、いま小首をかしげる様が似合うこと似合うこと。そんな彼女は今黒いワンピースを着て、エリモスの部屋を訪れていた。

 一方エリモスはマドロックのことを当然のように男性だと思っていたのに、実際は超がつくほどの美人が出てきた結果。彼は今フリーズしてしまっていた。

 

「お、お、お、…」

「お?どうした、エリモス、大丈夫か?」

「だ、大丈夫なわけあるか!お前も…」

 

 彼は静かに天を仰いだ。

 

「お前が美人だなんて!俺は全く聞いてない!!!!」

 

 友人に愚痴って心の負担を減らすはずが逆にとんでもない事実を知ってしまって。彼の心は今とんでもなく大荒れだった。




エリモス
 名前の由来はギリシャ語で「砂漠」。砂系のアーツを使うアスランの重装。彼女ができない愚痴を友達に吐き出すつもりが、その友達がまさかの女性、しかも超美人だったことに衝撃を隠せない。

マドロック
 多くの方を驚愕の渦に落としたオペレーター。強い。好き。


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俺の同僚の顔が良すぎる 2

 

 自分よりゴツイ大男だと思っていた同僚が実は可憐なる美女だった。

 

 お前は何を言ってるんだと思われるだろうが、事実なのである。ロドスオペレーター、エリモスはその真実にしばし天を仰いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…まさかマドロックが女だったとは…。」

「すまない。言い忘れていた。」

 

 玄関での衝撃的な邂逅から数分後。もっきゅもっきゅと酒とつまみを頬張りながら2人はなんだかんだで夕飯にありついていた。

 

「いや軽いな?いや別に俺はお前がどうだろうと良いけどさあ。」

 

 これは紛れもなく彼の本心であった。そもそもエリモスはマドロックの顔が何ひとつわからない時から友人をしているのである。それを素顔がどうとかで態度を変えるのはあまりにも失礼だろう。

 

「それはありがたい。…いけるな、このチキン。」

「お?それか、美味いよなそれ。ロドスキッチンお手製の一品なんだけどさ。」

「なんだ、エリモスが作ったのじゃないのか。」

「残念。俺は料理できないんだよ。」

 

 もひ、とローストチキンを一口つまんだマドロックが驚いた。それほどにこれは絶品であり、キッチンの惣菜に並ぶたびに即売り切れる人気商品である。たまたまではあるが今日手に入ったのは運が良かった。

 鶏をつまみにビールを呷ると、ゴク、ゴクと音を立ててキンキンに冷えた苦味のあるアルコールが喉を通っていく。勢いに任せて一気に飲み終えると、空になったジョッキが机とぶつかり合って小さな音を立てた。

 

「ほう、なかなかいい飲みっぷりだな、エリモス。」

「だろ?まだまだあるからマドロックも好きに飲んでくれ。ビール以外にもウイスキーもウォッカもあるぞ。あと俺が漬けたやつでよければ梅酒。」

「梅酒…?」

 

 聞き慣れないのかマドロックが首を傾げた。梅酒は前世持ちである自分には馴染みがあるものだが、確かにヴィクトリアでは酒はあまり飲まれていなかった。というかそもそもよく考えるとそもそも梅は東の方の植物のような気がする。

 

「そう、梅酒。極東の梅…っていう果物を漬け込んだ酒。美味しいぞ。」

「ふむ。ならそれを貰おう。オススメの飲み方は?」

「個人的にはロックだなー。」

 

 言うが早いがグラスに氷を適当に放り込んで梅酒を漬けていた瓶の蓋を開けると、梅特有の香りがほんのりと漂った。注いで一混ぜしてからマドロックへとグラスを差し出す。

 

「む、これが梅酒か。」

「そそ。極東だとよく飲むらしいぞ。個人的にも割と好きなんだけど…どう?」

 

 そう言うと、マドロックは梅酒をちびりと舐めるように飲んだ。

 

「…今まで飲んだことない味だな。」

「そりゃ馴染みはないか。」

「ああ。だが…。」

 

 もう一口を口に含んで、マドロックは微笑んだ。

 

「美味しい、な。これは。」

「…そうかい。」

「ああ。…本当に、美味しい。」

 

 両手でグラスを持って柔らかな笑みを浮かべたマドロックからほんの少し目を逸らして。エリモスはほてった体を冷やすべく冷たいビールに口をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

「…む?寝たのか?エリモス。」

 

 数時間後。しばらく2人で料理と酒を楽しんでいたのだが、酒を飲みすぎたのかエリモスは小さく船を漕ぎ始めていた。訓練の疲れがある上に、酒豪で知られるサルカズと同じペースで飲んでいたのだから仕方ないとも言えるが。

 

「まだ…まだ起きてる…まだいける…」

「そう言っている時点でダメだろう。」

 

 もはや首がガクガクになりながらもいまだに酒を求めるエリモスから酒瓶を取り上げると、マドロックは彼を担ぎ上げた。うごっと小さく悲鳴が聞こえたが、そこは気にしない。気にせずにマドロックはエリモスをベッドへと適当に転がした。

 

「ほぶべっ。」

 

 哀れにも放り投げられたエリモスからは潰れたカエルのような声が漏れ出た。

 

「はあ…エリモス。もう今日はやめておけ。これ以上は体に悪い。」

「もう手遅れだろ…」

 

 ベッドの上で呻くエリモスに水の入ったグラスを渡すと、どうにか起き上がった彼はチビチビと飲み始めた。一応は飲みすぎた自覚はあるらしい。

 

「…まさかと思うが、エリモス。いつもこんな深酒しているのか?」

「それこそまさか。俺は普段ここまで飲まねえよ。」

 

 マドロックの問いに、水を飲んでほんの少しだけ回復したのだろうエリモスが返した。

 

「ようやくお前とサシで飲めるんだ。そりゃあはしゃぐってもんだろうが。」

「…それは、どういう意味だ?」

「?どうもこうもないだろ。」

 

「友達と飯行ったら普通テンション上がるだろ?」

 

 こともなげにそう言ったエリモスに、マドロックは一瞬だけ目を見開き、そして直ぐにクツクツと笑い始めた。

 

「…あれ。俺なんか変なこと言った?」

「いや、そうじゃない。久々に友人、ができたと思ってな。…そうか。友人か。」

「…え?あれ?これもしかしてお前のこと友達だと思ってたのと俺だけ?あっるぇ?」

 

 未だに小さく笑い続けるマドロックに、エリモスはしきりに首を傾げた。彼の中ではマドロックはすでに大切な友人なのだ。

 

「いや、お前は私の友人だ。間違いなく、な。」

 

 それを聞いて美しきサルカズは心の底から楽しそうに笑った。



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俺の上司の顔が良すぎる

 

 ロドスには艦内にいくつか談話室が存在する。これはドクターの『オペレーター同士での交流を増やして欲しい』という願望から生まれたものであり、時折ドクターのポケットマネーによって内装が変わったりする。

 

 そんな談話室は、基本的に多くの人で賑わっているのである。大人組ならポーカーだの麻雀だのダーツだのに興じていたりするし、それより年下の学生と大差ないオペレーター達なら普通にお茶をしたりして、談話室は普段誰かの声が絶えない場所なのだ。

 普段なら、の話だが。

 

「……はあ。」

 

 今やこの談話室には人はエリモスを含めて2人しかいない。他の奴らはいち早く磨かれた直感に従って部屋から撤退していたのだ。取り残されたのはため息をつき続ける1人のオペレーターと、直感が何も仕事をしなかった1人のライオンのみ。

 そんな愚かなライオンは、とうとう意を決して離れた場所に座る女性に声をかけた。

 

「……あの、サリアさん。」

「……なんだ、エリモス。」

「ヒェッ…あの、どうしたんですか?いったい。そんなため息ばっかりついて。」

 

 彼と少し離れた場所に座ってため息を吐き続けるのは1人の銀髪にその双角が特徴的な竜人(ヴィーヴル)。物理的にもカタブツ、と揶揄される女傑、重装オペレーター、サリアであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 オペレーターサリア。元ライン生命の警備課主任にして研究者という文武両道を地で行く人物であり、現在ではロドスの重装オペレーターの中でも重鎮となっている存在である。そんな彼女だが、持っているのは力と知恵だけではない。天は彼女に二物も三物も与えたのだ。

 

 この人もとんでもなく顔がいいのである。

 

 174cmというモデルのような長身に、クールな雰囲気を醸し出す切れ長の瞳。まつ毛なんかマッチ棒が3本乗るんじゃあないかと思うくらいに長く、琥珀色の瞳からは揺るぎない意志の強さが感じ取れる。

 背中まで伸ばされた銀色の髪は多忙の中でもその几帳面さが現れているのか丁寧にケアがなされており、枝毛の一つも見当たらない。そしてそれはヴィーヴルの特徴とも言える角においても同様。頭部から伸びる角はいつも輝いており、彼女がいかにそれを大切にしているかがうかがえた。

 

 さて、そんな文武両道、完全無欠な我が上司、サリア女史であるが今はその平生の覇気はどこはやら。どことなく煤けた背中でため息をつき続ける中年のおっさんのような存在となっている。

 

「……そうだな、エリモス。今時間はあるか?相談に乗って欲しいんだが。」

「まあ時間はありますが。何事ですか?」

「……イフリータについてなんだが。」

 

 イフリータ。エリモスは彼女についてそこまで詳しくは知らないが、どうやらサリアと同じライン生命に所属していたらしいオペレーター。サリアが彼女のことを気にかけているのは重装界隈では有名な話であった。

 

「イフリータ。あの火炎放射器振り回してる子ですよね。」

「ああ、そうだ。…本題に入ると、これはこの間の話なんだが。」

 

 そう言ってサリアは一度胸元のタバコを取り出しかけ、ここが禁煙だと気づいたのか直ぐにしまった。普段その辺りを忘れることのないサリアがうっかりそんなことをするあたり、いかにこれからの話が話しづらいものであるかが窺える。

 

「その…お前が知っているかは知らないが、私は今でも戦闘オペレーターと研究員を兼任しているんだが。」

「知ってますよ。よくできますよね、そんなこと。どっちかでも大変でしょうに。」

「慣れればどうということはない。…で、だ。この間、というか一昨日の話なんだが、その日私はイフリータと、あとサイレンスと夕飯を食べにいくことになっていたんだ。」

「へえ。いいじゃないですか。」

 

 なんだろう。普通の話のはずなのになんか聞いているだけで不安になってくる。

 

「ああ。だが、その日は運の悪いことにトラブルが頻発してしまってな…。その、時間に間に合わないどころか予約していたレストランが閉まるタイミングになってしまったんだ。」

「…うわお」

 

 これはあかん。思わずエリモスは手で顔を覆ってしまった。

 

「それで、その…イフリータが怒ってしまってな。そもそも全面的に悪いのは私だし、サイレンスは研究員だから理解はしてくれていて一緒に執りなしてくれているんだが、どうにもならなくてな…。一体どうしたらいいのかわからないんだ。」

「………。」

 

 パパじゃん。喉から飛び出しかけたその言葉を押し留めた俺はまじで偉いと思う。

 

 

 

 

 

 

 なんだろう。俺は一体何を聞かされているんだろうか。

 目の前でうんうん唸る上司を冷めた目で眺めながら、俺は本気でそう思った。

 

 父親がサリアで母親がサイレンス。そして娘がイフリータ。通称楽しいライン生命一家とまでこの3人組は揶揄されている。そんな家族の団欒に、それも娘が楽しみにしていたにも関わらず父親が仕事で来れなくなった、となると怒られるのもやむなしというものであろう。

 

 とはいえサリアが出れなくなったのも仕方ないといえよう。ただでさえ製薬会社であるロドスの医療部門は激務。その上にチームでトラブルが起きた、となるとリーダーである彼女が帰れなくなるのは仕方がない。今回の一件はただ運が悪いだけの話なのである。

 

「…謝りはしたんですよね?」

「ああ。謝ったが、それでも当たり前だが納得はしてもらえていないみたいでな。」

「あら…その、言い方はあれですけどお菓子で釣る、とかは?」

「サイレンスに禁止されているから無理だ。」

 

 パパじゃん。娘に甘くてお菓子あげまくった挙句にママに怒られるパパじゃん。

 てか前世でもいたわ、こんな人。『娘との距離感がわからねえ!』って叫んでた上司。いい人だったけど今何してるんだろうか。

 コーヒーを啜りながらかつての自分に思いを馳せていると、エリモスは談話室の入り口でぴょこぴょこと動く金髪を見つけた。おそらく角度的にサリアからは見えていないだろう位置に、だ。

 ふむ、ならばとエリモスは一計を案じた。

 

「…サリアさんは、仕方なかったとはいえイフリータに悪いことしたとは思ってんですよね。」

「……ああ。あの時、約束を破ってしまったのは事実だからな。」

「なるほど。…だってよ、イフリータ。聞こえたか?」

「…聞こえてるよ。」

「イフリータ!?」

 

 ここであえて隠れていた金髪の人物─イフリータに話題を振ってみる。そしてサリアは本当に気がついていなかったようだ。普段なら気付けていただろうに、どれだけ焦燥していたのだろうか。突如現れたイフリータに驚愕している。

 

「イフリータ、こんなところにいた…って、サリア。」

「…オリ、サイレンスか。」

 

 名前だよな?今名前で呼ぼうとしたよな?サリア主任よ。

 パタパタと足音を立てて現れたイフリータを探しに来たであろう医療オペレーター、サイレンスを確認すると、エリモスは席をたった。ここからは自分は部外者になるだろう。

 そうなる前にオペレーターエリモスは静かに去るのだ。

 

「…ごめん、サリア。」

「…謝るのはこっちだ、イフリータ。本当にすまなかった。」

 

 彼女らの声が聞こえなくなっていくのを感じながら、きっと彼らはうまく仲直りができるだろうという確信を胸にエリモスは1人廊下を歩いて行った。

 

 願わくば彼らに幸せがあらんことを。ひとりぼっちのライオンは確かにそう願った。




オペレータープロファイル
【コードネーム】エリモス
【性別】男
【戦闘経験】4年
【出身地】ヴィクトリア
【誕生日】8月10日(ただしこれは便宜上のものである)
【種族】アスラン
【身長】184cm
【鉱石病感染状況】
メディカルチェックの結果、非感染者に認定。




サリア
 イフリータのパパ。弊ロドスではいろんなピックアップですり抜け続けた結果、グレイディーアを除いて唯一の完凸星6である。強い。好き。

サイレンス
 イフリータのママ。ドローンとかいう超優秀スキルを持つ医療オペレーター。意外と背が小さい。

イフリータ
 直線こそ至高。とりあえずすくすく育って欲しい。


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俺の後輩たちの顔が良すぎる


パゼオンカ来ませんでした。


 

 ロドスのオペレーターの多くは何かしらの前職を持っている。

 

 それは例えロドスが製薬会社だからと言って、医薬品関連の前職の者ばかりではない。ホストであった者もいるし、傭兵であったものもいる。ただの学生であった者や元ファッション誌の編集者、中には元女優、なんてとんでもない経歴を持った者もいるのだ。

 

 その中において、エリモスの前職は一般的なものだと言えるだろう。

 

「…ふむ、これはもうちょい調整するか。」

 

 彼は今、自分の工房にて預けられたアーツロッドをいじくり回していた。

 これは決して趣味だからではない。ロドスに入職した際に彼が申告した前職により、戦闘任務以外の際に託された仕事だからだ。

 

 オペレーター、エリモスの前職はしがない機械工であった。

 

 

 

 

 

 

 実際のところ、機械工、とは少し違うのかもしれない。彼はスラムに流れ着いた源石製品やアーツユニット、ただの壊れかけた機械や自動車に至るまでを修理し、あるいは分解して部品を売ることで生計を立てていたのだ。本人曰く、「まさか大昔(前世)に学んだことが活かされるとは思っていなかった」とのこと。この知識がなければエリモスは今頃のたれ死んでいたかもしれない。

 

 そして入職時に人事部に報告した結果、彼は工房を与えられて艦内の様々な備品の整備及び点検に勤しむことになったのである。

 

「…はい、これでこいつは調整終わり。あとは訓練用の盾を整備して…」

 

 んおおおお、と伸びと大欠伸を一つずつ。いくら訓練用の簡単な作りのものとはいえ、アーツロッドの調整はなかなかに肩が凝るのである。

 そしてそれはほんのわずかにリフレッシュした直後、盾を整備しようと手を伸ばした瞬間のことだった。

 

「こーーーーーんちわーー!」

 

 ドゴン、と言うすごい音と元気な少女の声がしたかと思うと、いきなり工房の扉が勢いよく開け放たれた。それと同時に飛び込んでくる薄いベージュの髪の一人の犬人(ペッロー)の少女。彼女が部屋に入ってくると、それを追うように赤紫の髪をした一人の猫人(フェリーン)の少女も入ってきた。

 

「メ、メイリィ…ノックしなきゃダメだよ…。」

「あ、そっか!エリモスさん、ごめんなさい!」

「あ、うん。いや、別にいいけどよ…。」

 

 素直だ。やっぱすっごい素直だなこいつ。目の前でごめんなさーい、と謝る2人の後輩、メイリィ─もといコードネーム、【カーディ】と、フェリーンの少女─【メランサ】を見ながら静かにエリモスはそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何の用だ?わざわざ俺のとこ来るってことはなんかあったんだろ?」

 

 コポコポ、と2人に甘いココアを淹れながらエリモスは尋ねた。なお本日のお茶請けは蜂蜜クッキーである。マグカップに入れたココアとクッキーをまとめて2人の前に出すと、カーディの尻尾がパタパタと忙しなく揺れた。

 

「おお、美味しそう…」

「メイリィ……」

「わ、わかってるよメランサちゃん!」

 

 出されたココアに気を取られて本題を忘れつつあるカーディに、メランサが声をかけた。…絶対言われなかったらおやつ食べるだけ食べて帰ってたな、こいつ。

 

 

 こんなちょっと抜けているカーディは白っぽい、あるいは明るい色合いの犬人(ペッロー)。いつも元気で、前向き。文字通り元気なわんこ、と言った感じの美少女である。

 そして彼女の世話を焼くメランサ。彼女は落ち着いた雰囲気で、まさしくお嬢様と言った雰囲気の(実際かなりいいところのお嬢様らしい)猫人(フェリーン)。こう言うのを深窓の令嬢、と言うのだろうか。彼女もまた滅多に見ないレベルの美少女である。

 

 それにしてもこの2人、何と言うかバランスがいい。ボケとツッコミ、ではないが、明るい美少女と静かな美少女の組み合わせとか完璧、と言って差し支えないのではないだろうか。こんな組み合わせはロドスだと他に誰がいるだろう。グラニとスカジ、あるいはセイロンとシュヴァルツあたりだろうか。あのあたりもコンビとして完成されている雰囲気がある。

 そんなどうでもいいことを考えていると、ようやくカーディが本題を切り出した。

 

「えっとね、エリモスさんに盾の様子見て欲しくて持ってきたんだ!」

「盾の?何かあったのか?」

「何かあったわけじゃないんだけどね。でも『たまには点検に出せー』ってドーベルマン教官に言われたからさ。」

「なるほどな。で、メランサはその付き添いか。」

「はい…。まあメイリィに連れて来られたんですけど…。迷惑じゃないですかね?」

 

 確かにそれなら自分はそれなりに適任かとエリモスは納得した。同じ盾使いで、種類こそ違えどアーツ使い。かつエリモスはアーツユニットの調整も複雑なものでなければできるために、それなりに親交のある先輩である彼をカーディが頼りにしてくれるのも当然と言えた。

 

「全然迷惑じゃねえよ。今マドロックもスポットもミッドナイトもノイルホーンもいねえからさ、話し相手もいなくて暇なんだよ俺。」

 

 エリモスのアーツは周囲の砂を操る、というかなり環境に依存した性質をしている。だが今回の任務はどうやら湿地帯らしく、それこそ泥を自在に操るマドロックや、現地での作戦遂行のために堅実な動きができる行動隊A4と行動予備隊A6の連中が駆り出されたらしい。

 そんな悪友たちがこぞってロドス不在のため、エリモスは仕事を終えると割と暇な日常を送っていた。普段なら工房に誰か来たりもするのだが、それもなくて手持ち無沙汰であったのは確かだ。

 

「そっかー…。結構大規模な作戦中だもんね、今。」

「そういうことだ。それに作戦行動なんざ適材適所だからな。今回は俺が行ったところで何の役にも立たねえし、こればっかりは仕方ねえよ。…んで、メランサ。」

「…えっ。何ですか?」

 

 種族柄猫舌なのか、ふーふーとココアを冷ましていたメランサは、急に話しかけられて肩をびくつかせた。メランサみたいな雰囲気の少女にそんな反応をされるとなんか罪悪感がひどい。

 

「ああ、すまん。大した用じゃないんだけどな。お前の刀、整備とか大丈夫か?刃こぼれとかしてないか?」

「あ、はい、大丈夫です。この間ヴァルカンさんが見てくれたので…。」

「ヴァルカンさんか。あの人手入れめっちゃ上手いよな。」

 

 あの人が見たなら大丈夫か、と言ってエリモスはコーヒーを置いて立ち上がった。カーディの盾の調整をするためである。

 眼球保護用のごつ目のゴーグルをかけると、エリモスは2人の方に振り返った。

 

「じゃあ今から調整するけど、なんか要望はあるか?塗装変えて欲しい、とか重心変えて欲しい、とかならどうにかできるぞ。」

「んー…そう言うのは大丈夫!」

「はい了解。んじゃ、今からちょっとうるさくするぞ。」

 

 そう言ってひょい、とカーディの盾を持ち上げると、工具の置いてある方へと向かった。

 

 数分後、あまりの音の大きさに目を回した2人が部屋から飛び出したのは別の話である。

 

 

 

 

 

 

 

「はいこれ、調整おわってるぞ。またなんかあったら持ってこいや。」

「はーい!ありがとう、エリモスさん!」

 

 あれから1時間ほど後のこと。調整を終えた盾を手渡すと、カーディはそれを抱き抱えてくるくるとその場で踊るかのように2、3回った。本当に元気な少女である。

 

「調整してもらえて良かったね、メイリィ。」

「うん!メランサちゃんもきてくれてありがとう!エリモスさんもまたねー!」

 

 そう言ってカーディはメランサと共に工房から去っていった。尻尾がブンブンと振られているあたり、かなりご機嫌な様子。あそこまで喜ばれると整備士として嬉しいと言うものだ。

 

 2人を見送ると、エリモスは残されていた仕事に手をつけた。急にカーディの盾の整備が入ったとは言え、今日は仕事に余裕がある。今からでも定時には十分間に合うだろう。

 

 仕事が終わったら久しぶりにバーにでも行こうか。そう決めてエリモスは再び工具を手に取った。




カーディ
 本名:メイリィ。可愛いわんこ系女子。もう一回昇進させてあげたい。

メランサ
 可愛い猫耳お嬢様。でも剣聖のあだ名は伊達じゃない。



オペレーター : エリモス
能力測定
【物理強度】優秀
【戦場機動】優秀
【生理的耐性】標準
【戦術立案】 標準
【戦闘技術】優秀
【アーツ適性】優秀

個人履歴
 本名は■■■■■■(本人の希望により非公開)。コードネームは【エリモス】。ヴィクトリアのスラムの生まれのようで、公的記録が一切存在しない。ロドスに所属する前は機械工をしており、現在では戦闘員だけでなく裏方としても仕事を行なっている。


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俺の教え子の顔が良すぎる

 

「エリモスってさあ。」

「なんだ?安心院(あんしんいん)

「だからあたしの名前は『安心院(あじむ)』だってば…。って、そうじゃなくて。」

 

 昼下がりの食堂にてズズ、とシェイクを啜りながら、エリモスの前に座る狐人(ヴァルポ)の少女、安心院(あじむ)アンジェリーナは尋ねた。

 

「エリモスってさ、結構頭いいけど本当に学校行ってないの?」

「行ってないぞ。ロドス(ここ)来てから龍門(ロンメン)の高卒認定取ったり仕事に使う資格取ったりしたけどそのくらいだな。」

 

 そもそも当時はそんな余裕無かったし。そう答えながら彼はスルスルと手に持ったプリントの採点を進めていく。プリントには高卒程度の問題が並んでおり、書かれた解答はアンジェリーナによるものだ。

 

「ふーん…それにしては頭いいよね、あ、いや、バカにしてるとかじゃなくてね!?」

「大丈夫大丈夫。分かってるから。で、はい採点終わり。ここの計算ミス無かったら満点だったな。」

「え?…あ、本当だ。うわー…。」

 

 今度は返されたプリントを手に持ったアンジェリーナを眺めながらエリモスがアイスコーヒーを啜った。彼女がプリントを見たままむむむ、と首を振るたびにそのふわふわとした髪が揺れ、整った顔立ちがわずかに歪む。

 

 シラクーザの若きトランスポーターとロドスの技師兼オペレーター。そんな2人の関係は、誠に奇妙ながら『教師と教え子』であった。

 

 

 

 

 

 

 ことの初めは数ヶ月前。鉱石病によって学校を辞めざるを得なかったアンジェリーナにドクターがせめて高卒認定だけでも取ってはどうか、と提案したのが始まりだった。そしてその話がドクターから巡り巡ってエリモスの元へ辿り着き、時間のある時に勉強をみるようになっていた。

 

 これには彼がロドスに来てから学位をとったことや、他の学歴持ちたちは基本多忙であることが関係しているのだが、その辺りは今回は割愛しておこう。

 

「…ごめん、エリモス。ここ分かんない。」

「どこだ?…ああ、そこか。これは確か…テキスト108ページだな。大事なところだしもう一度解説しておくぞ。」

「うん、ありがとう。」

 

 教える側からすると、アンジェリーナは真面目な生徒である。まあ元はただの女子高生であったのが鉱石病によって学校を辞めてしまったと言うのだから学校にまだ思うところがあるのかもしれない。給料のために勉強しただけの自分とはやる気から違うのだ。

 

「…はい、てなわけだが、分かったか?分からなかったら言ってくれ。」

「うーん…多分大丈夫。」

「それは大丈夫じゃない奴の台詞なんだわ。」

 

 うんうんと呻きながらテキストを睨め付けるアンジェリーナを見ながら、エリモスは今度はポテトを齧った。流石はカランド随一のコックお手製のポテトである。ソース含めて絶品であった。

 

「ま、わからないところを急に理解しようってのが間違いだろ。まああいつがいないうちにこっそり頑張って褒めてもらおうってのは理解できるが…」

「はあ!?ちょ、違う!違うからね!?」

 

 そう言うと急に顔を真っ赤にして叫びながら立ち上がった。とりあえずここ食堂だから静かにしなさい。

 

「ほう?違うのか?」

「違うよ!?誰もドクターに褒めてもらおうだなんて…」

「俺はあいつ、とは言ったがドクター、とは一言も言ってないけどな。」

「…お、おあああああ………。」

「おお、耳まで真っ赤じゃねえか。」

 

 語るに落ちるとはこのことか。とは言えアンジェリーナがドクターに淡い恋心を抱いていることなど大人組ではあまりにも周知の事実なのだが。

 

「おおおおお………。」

「ああ、うん。その…気にすんなよ。」

「気にするよお…みんなには隠しとくつもりだったのに…。」

「え?ああ…そうか。でもな、安心院(あんしんいん)。」

 

 まじか。隠せてるつもりだったのかこいつ。あまりの衝撃に一つ決意したエリモスは心を鬼にしてアンジェリーナに真実を告げることにした。

 

「お前の恋模様、大人組の飲み会だと定番の話題になってるぞ。」

「───────────!!!!???」

 

 その事実にアンジェリーナは声にならない悲鳴をあげた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 たっぷり数分後。そこには哀れにも耳まで真っ赤にして机に突っ伏すアンジェリーナの姿があった。犯人の男といえばそんな彼女の姿を見ながら呑気にコーヒーを飲んでいるが。

 

「うう…嘘でしょ…?」

「マジだよマジ。まあ厳密に言えばお前だけじゃなくてドクター周り…お前とかアーミヤとかプラチナとかスカジとかのドクターガチ恋勢の様子が、だけどな。ついでにその中で最後は誰が勝つかで賭けができてる。」

 

 なお現在の1位はケルシーである。

 

「ええ…何やってんのみんな…。」

「暇なんだよ、みんな。大人になると皆んな自分で恋愛するのがめんどくさくなるのさ。」

 

 ホシグマなんざその典型であろう。あの人男女問わずモテるくせに酒があればいい、とか言って全部断ったくらいだ。羨ましい。

 

「まあ俺はそうじゃないけどな!24時間365日彼女募集中だぞ!」

「そういうこと言うからモテないんじゃない?」

「急に辛辣になるなよお前。泣くぞ?180越えの成人男性が全力で泣くぞ?」

「本当にみっともないからやめてよ…。」

 

 急にスンとした顔になったアンジェリーナはそう言って溶けかけたシェイクを啜った。どうやらその程度の落ち着きは取り戻したらしい。

 

「ひどいなお前…ていうかさ。マジでなんで俺モテないんだと思う?」

「……………顔?」

 

 流石JK。思ってた100倍エグい答えが来た。

 

「ごめん、泣く。」

「ああ、ごめんごめん!別にエリモスの顔が悪いとかじゃないって!!」

「嘘だ!ガチトーンだったじゃねえか今!」

 

 これでもそれなりに生きて、かつクッソ波瀾万丈な人生を送っている身として精神的負荷には慣れている自信がある。あるのだが、それでも若い女子からのストレート罵倒は流石に心にくるものがあった。目から塩水が止まらない。

 

「いや、エリモスはそれなりに顔いいんだよ!でも他の人たちの顔が良すぎるから霞むだけでさ!」

「…………ああ、成程。」

 

 顔がいい男たち(絶対許さないリストの奴ら)といえば社長とかファントムとかミッドナイトとかエンカクとかか。特にエンカク。あいつは何があろうとも個人的に絶対許さないと決めている。戦闘狂でコミュ障(エリモス基準)のくせに花が好きとかいうギャップ持ちで温室の常連、加えて俺たちのラナさんと仲がいいとか天地がひっくり返ろうとも許されないのだ。

 

「……やはりあいつは闇討ちしかないか。」

「急になに!?物騒すぎない!?」

「うるせえ!俺はあのムッツリ野郎に現実を教えに行かなきゃならねえんだ!」

「待って!?それ誰の話なの!?」

 

 そもそもエンカクはムッツリではない。

 急に殺意を込めて立ち上がったエリモスをアンジェリーナは必死に押さえつける。やる。間違いなくこの男は放っておいたら闇討ちする。心優しき少女は、誰が被害者になるかはわからないがそれを放っておくことはできなかった。

 

「………おい、エリモス。」

「離せ安s…ん?ヤーカの兄さんじゃないですか。どうしたんです?」

「マッターホルンさん!?お願い!この人止めて!」

 

 とうとうアーツまでアンジェリーナが持ち出したところで、2人の間に1人の大柄な牛人(フォルテ)が割って入った。心なしかそのこめかみには青スジが入っている。

 

「いいか、エリモス。ここ食堂は確かに賑やかであることが許されている場所だ。」

「はいそうで…イタタタタタタタ!ちょっと!ちょっと待ってあんたの握力でアイアンクローはシャレにならない…!」

「それでも限度というものがあるだろう!いい年して何をやっているんだお前は!」

「ぎゃああああああああ!!!」

 

 流石はカランドのママ。アンジェリーナでは止めきることができなかった彼を一瞬で押さえ込んで見せた。そのままエリモスは恐ろしいほどの握力で顔面を握りつぶされ、汚い高音を断末魔に叫ぶと急に静かになった。ぶら下がった手足にも力が入っていない。いったいどれほどのダメージだったのだろうか。

 

「…これ、エリモス生きてる、よね?」

「大丈夫ですよ。手加減はしましたから。」

 

 多分そういう話ではない。ないのだが、静かになったので食堂の主としてはそれで満足だった。なお、マッターホルン的にはエリモスは割と適当に扱っていい枠に入っている。

 

 エリモスを仕留めた彼は再び厨房の方へと戻っていき、後には1人の瀕死体とJKが残された。

 

「えっ…?これあたしがエリモスどうにかしなきゃいけないかんじ?」

 

 彼女は若いながらも腕利きのトランスポーター。きっとうまいこと処理するだろう。

 とんでもない困惑と共に、アンジェリーナは心を落ち着けるべく完全に溶けたシェイクを啜った。




安心院アンジェリーナ
 元JKトランスポーター。エリモスは彼女のことを親しみを込めて「あんしんいん」と呼んでいます。



【オペレーター、エリモスのプロファイル】
【健康診断】
造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められない。循環器系源石顆粒検査においても、同じく鉱石病の兆候は認められない。以上の結果から、現時点では鉱石病未感染と判定。

【源石融合率】 0%
鉱石病の兆候は見られない。

【血液中源石密度】 0.16u/L
オペレーター、エリモスは普通なら鉱石病を発症してもおかしくない環境に長年身を置き続けてきました。それでも発症していないというのは体質もありますが、それ以上に運が良かったと言えるでしょう。─とある医療部職員

【第一資料】
 エリモスはヴィクトリアのスラム出身の機械工である。
 彼は数年前、まだ少年と言えるほどの年齢の時にロドスのヴィクトリア駐在職員の元へと数名の子供を引き連れて訪れた。そんな彼の要望はただ一つ。子供達の鉱石病を治療すること、だった。
 そんな彼の話を聞いた職員は子供達の治療をすることを約束し、それと同時に彼にオペレーター試験を受けることを勧めた。彼もまたオペレーターとして働きながらその給料を子供達の治療費に充てることに決め、その結果彼はオペレーターとなったのである。
 そして子供達がいなくなり、ロドスへの負債がなくなった今でも彼はオペレーターとして働き続けている。


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俺の同族の顔が良すぎる

 

 夢を見た。とても、とても懐かしい夢だ。

 

 

 

 

 

 夢の中で目を覚ますと、窓の外からミンミンと蝉の声がした。この国では当たり前のことで、毎年のことなのに聞くたびに腹が立つほどに元気な声だった。あまりのうるささに目を覚ました俺は、本で散らかった部屋で無駄に寝返りを打ち続けるしかできなかった。

 その時の俺はどうしていたのだったか。朝ゆっくり寝ていたのだから、部活が午後からだから、といった理由で二度寝でもしていたのかもしれない。

 

 階段の下からは母さんが仕事に行ってくる、と声をかけてきた。ああ、懐かしい声だ。そんな声に俺はああ、ともうん、とも取れる返事をして、また瞼を閉じた。

 

 その時の俺は、きっと明日も明後日もずっとこんな日が続くなんて信じていたから。

 

 

 

 

 

 

 瞼を開けると、そこは寒風吹き荒ぶスラム街だった。

 

 この景色にも俺は見覚えがある。何せここは()()()の幼少期を過ごした場所なのだから。

 

 風の一つも防げやしないボロボロのコートを着て、俺は記憶を頼りに歩き出した。途中でいつも通りに大人に襲われて、いつも通りにそれを切り抜けた。少し歩くとそこには俺の縄張り、小さな小さな俺の家がある。建て付けが悪い、なんて言葉では済まされない扉をこじ開けると、俺に群がってくる毛玉が4個。寒いなんてものじゃない世界で、こいつらだけが暖かかった。

 

「にいちゃん、おかえり!」

「■■にいちゃん、おなかすいたー」

「■■にいちゃん、あたし、この本読めたよ!」

「■■にいちゃん!おれ、ちゃんとこいつらの面倒見てたぞ!」

「あー、わかったわかった。わかったから離れろチビども。」

 

 へばりついてくる毛玉を引っ張り剥がして、それでも擦り寄ってくるチビどもの頭をぐりぐりと撫で回した。俺が昔一緒に暮らしていた爺さんと死に別れてから出会ったこいつらは種族もバラバラ。それでも俺にとっては大事な家族だった。

 

「腹減ってるだろ。飯作るからちょっと待ってろよ。」

「ご飯?なに!?」

「期待すんなよ?いつものスープだからな。」

 

 適当に相手しながらどうにか確保しておいた綺麗な水を鍋に移して、薪に火をつける。当時の俺は源石コンロは怖いから使っていなかった。…そうだ、俺は使っていなかったのだ!

 

「スープかあ…。」

「まあにいちゃんの料理の中だとマシな方だよね。」

「おいどういう意味だ?」

 

 確かに料理が下手な自覚はあるがそこまで言わなくてもいいじゃないか。失礼なことを言ってきた犬人(ペッロー)魔族(サルカズ)のチビどもの頭を軽く引っ叩くと、俺は再び料理に戻った。

 

 スープができると、びっくりするくらい硬いパンと一緒にみんなで食べた。お世辞にも美味しい、なんて出来ではないはずだけどそれでもチビ共は残さずに食べていた。お腹がいっぱいになると、みんなでひっついて暖をとりながら寝たものだ。

 

 そうだ、この頃のスラムでの日々は貧しくて、美味しいものも食べられなくて、寒くてかつての生き様に比べると信じられないくらい辛かったけど、それでもあいつらと過ごしていた日々は幸せだったのだ。あいつらはいつかちゃんと大人になって、俺もそれを見届けるものだと思っていたんだ。

 

─にいちゃん、これ、どうしよう…

 

 あの日、チビ共に一斉に結晶ができるまでは。少なくとも俺はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

─お…ル。…い、…きろ。

 

 どこか懐かしい声がする。その声で目を覚ました俺は、そこで初めて自分が寝ていたことに気がついた。

 

「…ああ、起きたか、エリモス。」

「…シージさんですか。すみませんね、寝ちまってて。」

 

 徐々に覚醒した意識と共に周りを見回すと、そこは見慣れた己の工房だった。そしてそこのソファに座るのは1人の同族(アスラン)。ヴィクトリアのギャング、【グラスゴー】のボスにして美しい金髪をたたえた美女。オペレーターシージであった。

 

「構わん。…と言いたいところだが、どうした。ずいぶんうなされていたぞ。」

「…大したことじゃあありませんよ。昔の夢を見ただけです。」

「…そうか。昔の夢、か。」

 

 そう言ってシージは手に持っていたロリポップを咥えなおした。

 

「ええ。大昔の、ロドスに来る前の夢ですよ。…まあそんなことは置いときましょうや。どうせメンテでしょう?」

 

 俺は無理して明るい声を出した。そうじゃないとこの雰囲気は変えられないと思ったから。シージもそれを察したのか一つ頷くと置いていたハンマーを俺に差し出した。

 

「そうだ。今日任務で派手に汚してな。掃除ついでにメンテしてもらいたい。」

「汚したって…それ泥、とかじゃないんでしょうね。どうせ。」

 

 シージの主武器はハンマー。彼女はそれを豪快に振り回し、敵の全てを粉砕する。…つまり、汚れとはそういうことだ。

 

「はあ…なら一度オーバーホールしますね。リベットはいつも通りに?」

「ああ。前渡したものが残っているだろう?それを使ってくれ。」

「了解。」

 

 渡されたハンマーを持ち上げると、パーツ同士を繋げているリベットをドリルで破壊する。手荒だがこうしないとリベットは取り除けないのだ。

 一度全てをパーツ単位で分解すると、あとは簡単。錆と汚れを落とした後に組み立て直すだけ。とはいえシージのハンマーは重いのでこれを手作業でできるやつはロドスでもかなり限られてくるのだが。

 

「えっと確かこの辺に…ああ、あったあった。」

 

 最後、パーツ同士を組み立てる段階になって取り出したのは一つの小箱。それを開けると中には大量のリベットが入っている。一見何の変哲もないそれだが、シージにとっては特別なものだった。

 

「…わざわざヴィクトリア職人お手製のリベットを使う。何かのこだわりですか?」

「こだわり、というほどでもない。」

 

 ロリポップを舐めながらシージは答えた。

 

「…ヴィクトリアで作られたリベットは外へ出て、そして最後にまたヴィクトリアへと帰る。…それに思うところがあるだけだ。」

「…そうですか。」

 

 それはエリモスには理解ができなかった。彼にとってヴィクトリアはすごく幸せな時間を過ごした場所ではあるけれども、それと同じくらいの絶望を味わった土地なのだから。戻りたくない、と言うのが正直なところなのだ。

 

 掃除し終えたパーツの全てを組み立て直すと、綺麗になったハンマーをシージに差し出した。それを受け取った彼女はその場で2、3度振ると、満足そうに頷いた。

 

「ああ、良い感じだな。」

「それは何より。また何かあったらいつでもどうぞ。」

「わかった。また頼むぞ。」

 

 そう言い残してシージは工房から去っていった。ハンマーをその肩に担いで。

 そんな彼女を見送ると、エリモスは静かに掃除を始めた。ハンマーを洗浄した後の床には、乾いた血や肉片が散らばっていたからだ。

 

「…それにしても。」

 

 箒で床を掃きながら彼はポツリと呟いた。

 

「何であの人、俺の名前知ってたんだろう。」

 

 ()()

 シージは確かにそう言った。彼女は自分でも忘れかけている本名を呼んだのだ。だが、エリモスはスラムを出てから、つまりロドスでその名前を名乗ったことはない。それなのに、彼女は己の名前を知っていた。

 

「…スラムの奴らに聞いたのかもな。」

 

 自分で言うのも何だが当時の俺は悪名高かったから、同じ区域を縄張りにしていたのならその可能性はある。

 そう結論づけて、彼はひとり掃除の続きに取り掛かった。

 




シージ
 色々とボリュームのすごいライオン。先鋒とは名ばかりの前衛。



【第二資料】
「ヴィクトリアから来ました、コードネーム『エリモス』です。種族はフェリーン。どうぞよろしく。」
 入職当日。彼はそう挨拶をした。そして誰も彼のその自己紹介に違和感を覚えなかった。─誰も目の前にいる、スラム街から来た少年があのアスランだと思わなかったのだ!
 健康診断で明らかになったその真実に、彼は激しく狼狽した。その様子は演技には見えず、彼がその事実を知らなかったのは誰の目にも明らかだった。
「…何かの間違いではないのですか?」「いいや、間違いはない。君はフェリーンではなく、アスランだ。」動揺を隠せない彼に、Dr.ケルシーは冷静に告げた。二度の宣告を受けて、少年は静かに天を仰いだ。


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俺の同僚の顔が良すぎる 3


みなさん、上級資格交換にマドロックが来ましたよ。交換の準備はいいですか?


 

 午前2時。文字通りの真夜中に私たち、ドクターの率いる作戦実行隊はロドスに帰還した。

 作戦に参加していたオペレーターたちの中でもドゥリンやポプカルはすでに夢の世界へ旅立っており、それぞれヤトウやミッドナイトに背負われながら装甲車を降りて行った。そんな中、一際大柄である私は彼らの邪魔にならないように、ドクターや他のメンバーが降りた後でゆっくりと車外へと歩きだした。

 

 外へ出ると、真夜中であるにも関わらず搬出口には多くの人が集まっていた。特に多いのは医療部のオペレーターたちだろうか。彼らは降りて行ったオペレーターたちに怪我の有無と、それから鉱石病(オリパシー)の進行具合を慌ただしく確認して回っている。私のところにも見覚えのある医療オペレーターがきたので、何も問題ないと告げておいた。やはり夜間だからだろうか、そう告げるとまた精密検査してくださいと言われただけで終わったのはよかったと言っていいだろう。

 

 そんな中、ロドスオペレーターに支給されるコートを来た一人の長身の男が私の目に入った。そのくすんだ金髪の男はなにやらノイルホーンやスポットと話していたが、私に気がつくと2人から離れてこっちへ歩いてきた。

 

「よう、マドロック。調子はどうだ?怪我はないか?」

「ああ、私は大丈夫だぞ、エリモス。」

 

 その男の名はエリモス。彼は真夜中であるにも関わらず、私たちを迎えにきていたらしい。

 

「そうか、そいつは何よりだ。」

 

 彼はそう言って笑った後、拳を差し出してきた。

 

「おかえり。マドロック。」

「ああ。ただいま、エリモス。」

 

 私も拳を差し出して、それに答えた。

 多くの人で賑わう搬出口で、私たちの拳がぶつかる音だけがやけに響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 コツ、コツと2人分の足跡がリノリウムの通路に響いた。ロドスは医療施設ということもあり、夜中でも明かりがついている通路が多い。今、そんな空間をエリモスとマドロックは連れ立って歩いていた。

 

「どうだった。作戦は。」

「いつも通りだ。ドクターが万全の指揮をとってこちらの被害はなし。相手は報告通り感染者が暴徒化した集団だったから、無力化して捕縛した後に警備隊に引き渡した、と言ったところだな。」

「なるほどな。本当にびっくりするほどいつも通りだ。」

 

 味方に被害無し、という吉報を聞いてなお、2人は喜びを顕にせず、ただ淡々とその事実を受け入れているかのように見えた。

 

「ああ。…ただ、な。」

「うん?」

 

 そこでマドロックの声が低くなった。

 

「…暴徒、と言ったはいいものの、奴らの装備はその…お粗末、なんてものではなかった。規模こそかなりのものだったが、龍門ならその辺のゴロツキの方がいい装備を持っているだろうな。」

「それは…。」

「そうだ。本当に生活に困った挙句に徒党を組んでの犯行だったのだろうな。」

「……ああ、そういう感じか。」

 

 救われない。彼はその言葉を口に出す寸前で飲み込んだ。ロドスは感染者と非感染者との差別を撤廃するべく活動しているが、それでも秩序を乱す者に対してはそれなりの手段を取らざるを得ない。…そしてマドロックは、目の前の友人はかつて望まざるとはいえそちら側にいた人物だ。

 

「ああ、救われない。彼らはただ生き抜こうとしただけなのにな。」

 

 だが、マドロックはさらりとそれを口に出した。そのことにエリモスは驚いたが、マドロックは特に気にした様子もない。

 

「…実はロドスの名と同じくらい私の名は彼らにも知られていたようでな。散々なじられたよ。『なんで感染者のお前が俺たちの敵に回るんだ!』とな。」

「…それは、大丈夫だったのか?」

「ああ。問題ない。」

 

 ここにきて2人の足音が一度止まった。彼らの今いるところは階段へと差し掛かる分岐路。エリモスの居室はここより上、マドロックの居室はここより下となる。

 立ち止まったままマドロックは階段の下を、あるいはその先を見つめた。

 

「私は戦友たちを救うために戦うと決めた。…なんと言われようとも、覚悟の上だ。」

「……強いな、お前。」

 

 エリモスの賞賛を受けて、マドロックが小さく笑った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……で、だ。マドロック。」

「?どうした、エリモス。」

 

 数分後。まだマドロックと共にいたエリモスは彼女に尋ねた。

 

「…お前、なんで俺の部屋にいるんだ!?今夜中の2時半だぞ!?」

 

 なぜかあの後マドロックは自室へと戻らずに、エリモスの部屋へと訪れていた。すでにスーツはその辺に脱ぎ捨てており、動きやすそうな服装に身を包んだ姿で、素顔を晒している。

 

「いや、実は移動中に変に寝たから今妙に目が冴えていてな。今から眠れそうにもないし暇だからエリモスに相手してもらおうかと思ったんだ。…確かシージが言っていたんだが、アスランは夜行性なんだろう?」

「え、いや知らん。そうなのか?」

 

 確かにそう言われてみるとシージは昼間よく寝ている気がする。とはいえ同じ種族でも個人差は当然存在する。同じ夜間に活動できる兎人族(コータス)でもアーミヤは昼間に活動していることが多いし、逆にアンセルは夜間に活動していることが多い。そういうのはあまり当てにならない、というのが実際のところだ。

 

 彼は口ではそう言いながらもエリモスは律儀にコーヒーと茶菓子を用意していた。前世の影響を受けてかスラム育ちのくせに無駄に舌の肥えた彼の部屋にはお菓子が常備されているのである。

 

「ミルクと砂糖はいるか?」

「いや、ブラックで大丈夫だ。…酒じゃないんだな。」

「生憎と今日は休肝日だ。身体が資本なんでな。」

 

 淹れ終えたコーヒーとバター茶風味のクッキーをマドロックの前に置くと、エリモスもまたコーヒーを啜った。どうせ明日、というか今日は非番。ならこの時間を楽しもうではないか。

 

「あー…沁みる。なんかわからんけど夜中のコーヒーってやたら美味いよな。」

「分からなくもない。…そうだ、エリモス。聞いたか?」

「何をだ?次の作戦か?砂漠地帯での作戦なら俺頑張るぞ?」

「違う、()()だ。もうすぐ貰えるらしいぞ。」

 

 休暇。それを聞いたエリモスは顔を歪めた。それを見て、予想していたのと違う反応にマドロックは首を捻る。

 

「…嫌なのか?休暇だぞ?」

「いや…休暇かぁ。そりゃ嬉しいんだけどよ。」

 

 ああ、そうか。お前初めてだもんな。そう言って彼は苦々しくコーヒーに口をつけた。

 

「覚えておけ。ロドスの休暇はハプニングがつきものだ。しかも毎度それで予定が潰れるんだよ。」

「…なんだと?」

「これはマジだ。前シエスタ行った時なんかありゃ酷かったぞ。何が楽しくて休暇中に馬鹿でかいオリジムシと戦わにゃならんのだ…。」

 

 あの時は突然休暇中に仕事が入ったりだとか、ナンパしたシュヴァルツにはあっさり振られたり、ヤケになって砂浜に作ったアートが5分で壊されたりとかで散々だった。とりあえずシエスタには二度と行きたくない。

 

「…大変だったんだな。あと、休暇の前に重装オペレーター内での飲み会するらしいぞ。」

「ああ、それは聞いてる。割と楽しみなんだよな。」

「なんだ、知ってたのか。ただこれを聞いたブレイズが参加したいって言ってたから他のポジションからも参加者が出る可能性はある。」

「あの酒豪来るのかよ!?嫌だぞ俺あの人に吐くまで飲まされるの!」

 

 あれは酷かった。ホシグマは笑いながら俺のジョッキに酒注いでくるしブレイズとニェンはコールしてくるし俺が断ったらメイリィ(未成年)が飲まされそうになるし。今まで生きてきて吐くまで飲んだのはあれが初めてだった。ついでにあの3人は次の日ケルシー先生にバチボコに叱られていた。

 

 …というかさっきからひどい思い出しかでてこない。もしかしてロドスはブラック企業なのではなかろうか。

 

「ふふっ。そこはエリモスが頑張るしかないだろう。」

「いや無理無理無理無理!頑張るとかじゃないんだよあの人は!」

 

 飲み会には行きたい。でも潰されたくはない。葛藤するエリモスを見ながらマドロックは1人カップを傾けた。

 

 賑やかな声が部屋を埋める中、月だけが2人を静かに見つめていた。




【第三資料】
「俺のアーツですか?そんな変なものでは無いと思いますが。別に体が砂に変わる、とかでも無いわけですし。」
 彼自身は自身のアーツについてこう語るが、それについて一部の術士オペレーターたちからは反論が上がっている。彼らは、エリモスのアーツの真髄は砂の操作では無いことに気がついたのだ。
「エリモスさんのアーツは砂、というよりかは…うーん、乾燥?いや、これも違いますわね。なんと言えばいいのでしょうか、とにかく砂を操れるのは一つの側面に過ぎませんわ。」
 スカイフレアは彼の戦いを見てそう言った。
「ただ、彼の本来のアーツがどんなものかは全くわかりませんの。彼自身もわかっていないのなら、私にはお手上げですわ。もしかしたらとんでもなく危険なものなのかもしれませんわね。」
 彼女はそう言ったが、彼自身は自身のアーツを作戦時以外には砂場で子供達と遊ぶ時くらいしか使っていない。彼の本来の力が発揮される時は来るのだろうか。


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俺の飲み友の顔が良すぎる



アルハラ、ダメ、絶対。
筆者との約束です。




 

「盃を()すと書いてぇ!?」

「乾杯と読む!!」

「「乾杯!!!!」」

 

 高らかに挙げられた音頭と共にエリモスは目の前のオニ族の女性─ホシグマとジョッキを打ち合わせた。そのまま腕を酌み交わすといわゆるドイツ式乾杯のポーズを取り、中のビールを一気に飲み干した。

 

「うぼっはああああ!なんぼのもんじゃああああい!」

「ははっ!流石、なかなかいけるじゃないか、エリモス。」

 

 飲み干したジョッキを机に叩きつけると、即座に再びジョッキにビールを注ぎ足される。継ぎ足した本人であるホシグマは彼のその様子にご満悦であった。

 

「そりゃそれなりにはいけるさ。…おい、待てホシグマ。その手に持ってるのはなんだ?」

スピリタス(度数96%)だ。もちろん飲むよな?」

「飲めるかあ!…おいやめろ、それを近づけるなせめてまだ別のを飲ませてくださいなんでもしますから!」

「ほう、言質はとったぞ。」

「やっべ。」

 

 酔ったはずみで軽々しく約束をしてはいけない。エリモスは近い未来に訪れる試練から目を逸らすべくジョッキを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 飲み会。人によっては死ぬほど嫌いなものであり、人によっては好き好んで開くものである。そしてどちらかと言うとエリモスは後者であった。

 

 ロドス内で開かれた重装オペレーターメインの飲み会。まああくまでメイン、というだけであって今回はエクシア(パリピ)ブレイズ(呑兵衛)、そして彼女らの愉快な仲間たちも参加しているのだが、とにかく今日はそれが開かれていた。

 …ところでマドロックはどうするんだろうか。一応誘ってはおいたが、どうするかはわからない。

 

「唐揚げうめえ。」

「鶏は揚げたらうめえんだよ。」

「マジで世界の真理だよな。揚げた鶏にハズレはねえんだよ。」

 

 始まってすぐ、エリモスはスポットとノイルホーンの2人と酒を酌み交わしていた。彼らは数少ない重装男子組として交流を持っているのだ。

 

「それヴィクトリア人の前で言うなよ。あいつらは揚げ物ですらうまく作れんからな。」

「…いや、お前もヴィクトリア人だろうが。」

 

 マジであれはギットギトで食えたものじゃねえよ、と吐き捨てたエリモスに、スポットが突っ込んだ。

 

「俺はいいんだよ。揚げ物以外も下手くそなんだから。」

「なんでちょっと自慢げなんだ。」

「流石厨房出禁リスト入りした男だな。面構えが違げえ。」

 

 これに関してはヴィクトリア出身者のほとんどが該当しているのだがそこは言わないお約束である。

 

「…これでもスラムの頃はチビ共に飯食わせてたんだがなあ。なんでか料理は上達しなかったんだよ。」

「聞くだけで悲惨すぎる。」

「子供たちがかわいそうだ。」

「うるせえぞ2人とも!お前らも人のこと言えないくらいには大概下手くそだろうが!」

 

 お前よりマシだわ、と言う反論を聞き流しながらやけになってビールを呷る。勢いよく飲み干すと、少しだけぬるくなった液体が喉を通り抜けていった。

 

「おーいい飲みっぷり。」

「景気いいな。」

「いいだろういいだろう。…景気いいといえばなんか景気いい話ないのかお前ら。」

 

 ドン、とジョッキを机に叩きつけてエリモスは2人に尋ねた。…まあ片方に関してはネタは上がっているのだが。

 

「俺はねえな。新しい漫画が手に入ったくらいだ。」

 

 即答したのはスポットだった。彼がいわゆるヲタクだというのはオペレーター内では割と有名な話である。

 

「よかったじゃねえか。」

「どこのやつ?極東?炎国?」

「極東。読み終わったら貸してやるよ。」

「助かる。…ノイルはどうだ?」

「あん?…あー、俺もなにもねえよ。」

 

 どうやらシラを切るつもりのようだ。彼の自供にスポットとエリモスは一度アイコンタクトを取ると、同時に口を開いた。

 

「「ダウト」」

「……んだと?」

 

 ピクリと眉を顰めたノイルホーンに(食事中だからか彼は今珍しくマスクを外している)、2人は淡々と知り得た情報を畳み掛けた。

 

「お前がヤトウとうまくいったって情報は入ってんだよ。」

「いやあ羨ましいですなあノイル君?同部隊に彼女がいてさあ?」

「まったくだ。」

「…知ってんのかよ。」

 

 2人の追求にノイルホーンはため息をついた。

 

「そもそも前々から噂にはなってたからな。」

「正直ようやくか、って感じだけどな。…いいなあ、俺も彼女欲しい。」

「…それお前ずっと言ってるよな。」

「ずっと言ってるね。」

 

 今度はエリモスがため息をつく番だった。

 

「今何連敗だ?5くらい?」

「えーっと…チェンさん、シュヴァルツ、スルト、リード、ニアールさん…5連敗だな。」

「聞く限りかなり濃いメンツだよな。」

「強い人が好きとかいう好みがマジで透けて見えるメンツだよな。」

「強い人っていうよりかはそう簡単に死にそうにない人って感じなんだけどな。」

 

 一度ジョッキを呷って中身を空にすると、即座にノイルホーンが追加のビールを注いでくる。ありがたく受け取ると、エリモスはまた口を開いた。

 

「あと顔。」

「…………そうか。」

 

 お前の好みなど知るか。スポットはそうバッサリ切り捨てると少しだけ冷めた唐揚げに手を伸ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「どうだ、飲んでるか?」

「……ホシグマ。」

 

 それからも男3人でチビチビとやっていると、ビール瓶を抱えたホシグマがフラリと現れた。飲み始めてからそれなりに時間が経っているだろうに、顔色は何一つ変わっていない。

 

「なに、そんな怖い顔をするな。別にとって食おうというわけでもないのに。」

「…自分が過去に俺に何したかを思い出せよお前。」

 

 ホシグマは相棒であるチェンですら彼女の酔ったところは見たことがない、と語るほどの酒豪。そんな彼女に酔い潰された者はロドスでは数えきれない。ホシグマがオフモードの時は特に、だ。そしてエリモスもまたその被害者の1人だった。

 

「ただ酒を飲ませただけだろう。大したことは何もしていないぞ。」

「量を考えろよ量を。なあ、2人と、も…?あれ?どこ行った?」

 

 エリモスが2人に同意を求めたが、返事がない。どころか、姿すら見当たらない。辺りを見回す彼に答えを告げたのはホシグマだった。

 

「あいつらならさっき同隊の奴らに呼ばれてどっか行ったぞ。」

 

 ほらあそこだ、と指を差した先には確かにA4とA6の連中に混ざる2人の姿が。彼らはこっちを見ると静かに一度敬礼をして、再び輪の中へと戻っていった。

 

「(あいつら俺を囮にして逃げやがった!)」

 

 今さら気付くももう遅い。すでにエリモスの肩にはホシグマの手がガッチリと回されていたのだから。

 

「なに、寂しく思う必要はないぞ。私がお前の相手をしてやろう。」

「…お手柔らかに頼むぜ。」

 

 今度訓練の時にあいつら殴ろう。その決心と共にエリモスは死地へと足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして30分後。そこには限界を迎えたエリモスの姿があった。あたりには酒瓶が転がっており、この短時間でどれだけ飲んだかが窺える。

 

「…もう無理。」

「なんだ、もう終わりか?」

「…鬼のお前と一緒にするなよ。」

 

 これでも人よりは飲める方だぞ、と絞り出すかのように言い返すと彼は机に突っ伏した。飲みすぎたからか、視界がおぼつかない。そんな彼の目の前に、コトリと音を立てて1つのグラスが置かれた。

 

「水だ。飲んでおけ、エリモス。」

「ああ、あんがと…。」

 

 水を置いてくれた白髪のサルカズにお礼を言うと、エリモスは一気に水を飲み干した。これだけで一気に気分がマシになった気がする。

 

「え、いや、ちょっと待っていただきたい。見ない顔ですが、あなたは…?」

 

 何故かホシグマが慌てているがどうしたのだろうか。ホシグマを心配する余裕はないのでひとまず放っておくことにする。

 

「ああ…生き返った…。ありがとよ。」

「この程度なら礼を言われるまでもない。…それにしても飲みすぎなんじゃないのか、エリモス。」

「自分から飲んだんじゃねえ。飲まされたんだよ。」

 

 気がつけば周りがざわめき始めている。そしてその視線は自分と、目の前のサルカズに向けられていた。

 

「それにしても、お前来れたんだな。」

 

 来ないものかと思ってたぜ。彼女が差し出した追加の水を飲みながらエリモスは言った。

 

「ああ、たまたま定期検診が重なってな。それで遅れたんだ。」

「なるほど。そりゃ仕方ねえわ。ま、来れたなら何よりだぜ、()()()()()。」

 

 その名前を出した途端、会場の空気がピシリと固まった。そして数秒後、爆音が2人を襲うこととなる。

 

「「「「「「「「マドロックだとおおおお!!!???」」」」」」」」

「うおっ?なんだ、急に。」

「うるせえ…頭に響く…」

 

 宴もたけなわ。まさにその状態のロドスオペレーターたちに新たな爆弾が落とされた。




エリモスの印
 古びたモンキーレンチ。技師として、そして戦士として。彼の全ての始まりの一品。

【第四資料】
 権限記録
 獅子は如何に育とうとも生まれた時から獅子なのだ。そのことを忘れるな。
 ─ケルシー


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俺の飲み友の顔が良すぎる 2


ノイルホーンの身長が意外と低い(180cm)と知った今日この頃。190はあると思ってたんですけどね。



 

 重装オペレーター・マドロック。 

 元サルカズ傭兵にしてレユニオンのマドロック小隊を率いていた人物であり、現在は仲間の治療のためにロドスへと加入したという経歴を持つ。また、常に戦闘用のスーツを纏っており、スーツを着た上でのその体躯は時折天井に頭をぶつけてしまうほどに大きく、声だってそれ相応に低くくぐもっている。

 

 さて、これを踏まえた上で、である。

 

「検査はどうだった?異常は無しか?」

「ああ。幸いにも前の検査から悪化したところはなかった。」

「そりゃ何より。ほれ駆けつけ一杯。」

 

 今エリモスから新しいジョッキを手渡された白髪のサルカズ女性、それも格別の美女が、そのマドロックだと誰が予想しただろうか。

 

「いやちょっと待っていただきたい!!??」

 

 その場にいた全員が色々と言いたいことがある中、最も近くにいたホシグマが誰よりも早く衝動を抑えきれずに声を上げた。

 

「どうした?ホシグマ。」

「いや、どうしたもこうしたも!え、本当にマドロックなのですか!?」

 

 くぴりとビールを口に含むマドロックにホシグマは尋ねた。ホシグマの普段の冷静かつ頼もしい彼女の姿はどこへやら、あまりにも予想外の事実にかなり取り乱した様子である。まあマドロックのギャップを考えると当然と言えば当然なのだが。

 

「ああ、私は正真正銘マドロックだ。」

「………嘘だろう!?」

「マジだぞ。まあ気持ちは分かるが。」

「…少し、頭を整理させてくれ…!」

 

 ホシグマだけでなく周りのオペレーターたち全員が似たような反応をする中、エリモスだけは静かに水の入ったグラスをマドロックと打ち合わせた。

 

 

 

 

 

  

「てかお前俺以外にも顔バレしてなかったのね。」

 

 てっきり個人個人では明かしているものかと思ってたんだが。もしゃもしゃと塩キャベツを頬張りながらエリモスは隣に座るマドロックにそう話しかけた。どこかでキャベツは二日酔いに効くとか聞いた気がするので早速実践しているのである。

 

「みたいだな。まあ医療部にはほぼ全員に知られているからそこから伝わっているんじゃないかとは思ったんだが…。」

「プライバシー保護ってやつかねえ。」

 

 遅れてきたとは言え料理も酒もまだまだある。マドロックは今、残っていた料理に舌鼓を打ちながら酒を飲んでいた。それにしてもエリモスに比べて食べる量が少ないのはこの場合見た目通りというべきなのか、それとも見た目に反して、と言うべきなのだろうか。ちょっと悩みどころである。

 

「かもな。ロドスは個人情報の管理がしっかりしているから、それはあり得るだろう。」

「しっかりした会社だねえ。いやいい事なんだけどさ。」

「と、いうかそんなことを言っているがエリモスだって周りに漏らしてないじゃないか。」

「そりゃわざわざそうする必要がなかったからな。…てか、今更だけど顔晒していいのか?なんか、そのあー…その、こだわり、とかあるんじゃねえの?」

 

 と、その時背後で一際大きな歓声が上がった。チラリと聞く限りではどうやら先ほどから行われていたニェンとエクシアの飲み比べはニェンの勝ちに終わったらしい。…実際のところあの無職はやたら酒に強いから最初から分かりきっていた勝負ではあるのだが、まあエクシアのことだから勢いでやっていたのだろう。楽しそうで何よりだ。

 

「いや、特にないぞ?単に素顔を晒すのに慣れてないだけだ。」

「ないのかよ。」

「ない。…というか、な。」

「どうした?」

 

 ビールを飲み終えたのか、マドロックは空いたグラスに近くの瓶から透明な酒を注いでいく。それを一飲みすると、彼女は苦々しく口を開いた。

 

「…その、うちの小隊の中でも私は素顔を知られていなかったらしくてだな。」

「…マジで?お前の小隊って結成してからまあまあ長くない?」

「ああ、それなりに長い。」

「なのに知らなかったのか…。」

「らしいな。しかも『うちの小隊にたまにいるサルカズ女性は貴女だったんですか!?』って言われた。」

「…んふっ。」

 

 つい笑いが漏れた。マドロックはそんなエリモスをジト目で睨むと、こほんと咳払いをしてから続けた。

 

「んっ…で、だ。流石にここまで素顔バレてないといざという時困るんじゃないかと思ってな。どうせエリモスにはバレているわけだし、今更ではあるけど素顔を出してみることにしたんだ。」

「なるほど。…っと、すまん。電話きたから出てくるわ。」

「ああ、私のことは気にせず行ってきてくれ。」

 

 そんな時に急にポケットに入れていたエリモスの端末が震えた。確認すると、発信元は我らが指揮官、ドクター。流石に作戦部のトップからの連絡は無下にできず、彼はそろりと部屋を抜け出して行った。無駄にネコ科としての能力を発揮している。

 マドロックがそんな彼を見送った直後、彼女の前に1人のオニ族の女性が席についた。

 

「よお、マドロック。相手がいないなら向かいいいか?」

「…ホシグマ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか、あのマドロックが女性だったとはな。」

 

 手元の升に一升瓶を傾けながらホシグマが話し始めた。さすが元ギャングというべきか、彼女の一挙一動が様になっている。

 

「…同じことを前にエリモスにも言われたな。」

「ほう?あいつにもか?…そういえばあいつは前から知っていた風だったな。」

「ああ。前に酒を酌み交わしたことがあってな。その時に明かしている。」

「なるほど。…それを皆に言わなかったのはあいつなりの気遣い、と言ったところかな。」

 

 ぐびりと一気に升の中の液体を飲み干すと、今度は瓶をマドロックの方へと向ける。彼女もまた、手近にあった空のグラスを差し出してそれに応えた。

 

「さあな。あいつのことだ、口では色々言いながらも案外何も考えていないのかもしれない。」

「ふふっ、それはあるかもな。あいつにはシージが頭を悩ませているくらいだ。」

「ほう?シージが?」

「ああ。リードとの件では特に、な。」

「リード…ああ、あの事件か。」

 

 マドロックは直接その場面を目にしたわけではないが、それでも本人から振られたから慰めてくれと泣きつかれた為にマドロックはエリモスとリードの間での一件を知っていた。

 

「そうだ。シージはあのリードとの一件を聞いて、ソファからひっくり返ったうえに飲んでいたコーヒーを吹き出したらしいぞ。」

 

 ホシグマからそれを聞いてもシージのその様子がマドロックには思い浮かばなかった。彼女にとってシージはカリスマ溢れる女傑、と言った存在なのであり、そんなシージがそんな痴態を晒すなど想像ができなかったのだ。

 

「…それ、本当か?」

「あくまで噂、だけどな。」

 

 そう言ってホシグマはクツクツと楽しそうに笑った。

 

「そういえば前にはうちのチェンも告白されているぞ。なんとも惚れっぽい奴だ。」

「確かに。あいつは前に『恋はいつでも砂嵐(サーブルス)!』とか言っていたくらいだからな。」

 

 まあそんなことを言っておきながらもエリモスは毎度の如く玉砕しているのだが。

 

「どこの言い回しだそれは…。」

「分からない。ただシージやスカイフレアが首を傾げていたからヴィクトリアでないことは確かだろうな。」

「…あいつは本当にヴィクトリア人なのか怪しい時があるな。」

 

 ため息と共にホシグマはさらに酒を流し込んだ。

 

「…そう言えばなぜかは知らんがあいつはやたら麺を啜るのがうまいんだ。ヴィクトリア人は食事中に音を立てることに抵抗があるらしいが…」

「まああいつは無駄に色々器用だから、何ができてもおかしくないだろう。この間なんて、メテオの壊した機械をマニュアル見ずに修理してたぞ。」

「本当になんなんだあいつは…。」

 

 共通の話題があれば話も酒も進む。2人は美酒と玉砕常習犯の友人を肴に、話に花を咲かせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で、これはどういうことだ、ホシグマ。」

「見たら分かるだろう?エリモス。マドロックだ。」

 

 数十分後。ようやく帰還したエリモスは驚きながらも目の前にある事実を確認した。

 

「と、いうよりも随分遅かったじゃないか。何があったんだ?」

「ちょっと俺の休暇の存続の危機でな。ドクターの執務室まで行って交渉してたんだ。おかげでどうにか休暇は守れたんだが…それより、だ。」

 

 コップに水を注ぎながら彼は尋ねた。

 

「…マドロックを酔いつぶすってお前どんだけ飲ませたんだよ…。」

 

 ホシグマの目の前にいるマドロック。彼女は今、飲みすぎたのか完全に机にうつ伏せになって寝落ちしてしまっていた。いったいこの短時間でどれだけ飲ませたのか、ちょっと想像がつかない。

 

「待て、誤解だ。私と呑む前にマドロックはだいぶ酔っていたんだ。本当だぞ。」

「はあ?いや、こいつ俺より酒強いんだぞ?そんな瓶1本程度の酒でそんなことあるわけ…いや、ちょっと待て。」

 

 ホシグマが慌てる中、エリモスはある空き瓶を見つけた。見つけてしまった。

 エリモスが見つけた空き瓶を手に取ると、その瓶の正体を知ったホシグマもまたその顔を驚愕に染めた。

 

「…まさか、こいつ()()全部飲んだのか?」

 

 その酒はスピリタス。ホシグマが場を盛り上げるために持ってきた、世界最強のアルコール度数を誇るシロモノである。結局エリモスが飲まなかったそれは、いつの間にか全て飲まれて空になっていた。

 

 マドロック、恐るべし。

 そんな2人の内心も知らぬまま、マドロックはすやすやと穏やかな寝息を立てていた。







この作品ではやっていますが絶対にスピリタスを原液で飲まないでください。喉が焼けます。



ヴィクトリア編書きたい気持ちはあるんですがその場合ネタに走れないので非常に悩みどころ。
あとエリモスの性癖ドストライクお姉さんがいるので確実にこいつが暴走する。



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職場の新人の顔が良すぎる


親戚からウツボをもらいました。干物で。



………食えと?



「お初にお目にかかりますわ。」

 

 そう言ってその桜色の髪をした狼人族(ループス)の女性はオペレーターたちの前で優雅に礼をした。

 

「妾の名は─とりあえずはコードネーム、パゼオンカと名乗っておきますわ。スローガンやキャッチコピーをお考えの際にはぜひお声かけくださいまし。」

 

 集まったオペレーターたちがそう挨拶したパゼオンカに拍手と歓声を送るなか、その中に混じっていたエリモスは思った。

 

 ─またとんでもない新人が入ってきやがった。

 

 

 

 

 

 

 

 オペレーター・パゼオンカ。現在は外勤において狙撃オペレーターとして活躍しており、また、最初の挨拶通りに広報部の手伝いなどをしているらしい。ロドスの内外を問わず活躍しているというのは人材不足に悩み続けている現状、極めてありがたいと言わざるを得ない。言わざるを得ないのだが、

 

 このパゼオンカ。とんでもなくえっっっっなのである。

 

 えっっっっっっっっっなのである。大事なことなので2回言った。なんなら2回目は強調させてもらった。だが、これはともに仕事をしていく上で本当に大事なことなのである。

 

 そもそもパゼオンカという人物はどのような人物か。

 小人族(ドゥリン)たちの都市から来たループスであり、おそらくはいいとこの出身なのであろう立ち居振る舞いと教養を兼ね備え、(特定の相手にではあるが)献身的な優しさを持つ女性である。我が友ミッドナイトは彼女を「ウルサスの奇跡」と称した程だ。

 

 パゼオンカは身長177センチという長身に加えてロドスでもそうそう見られないモデル体型と、黙っていれば深窓の令嬢と言わんばかりの美貌を兼ね備えた『美しい』としか表せないような儚げな雰囲気を持つ絶世の美女である。

 

 の、だが。服装が…その、ですね。あまりにも周りの目を気にしていないとでも言いますか。…具体的にはここでは口にしないでおこう。ただ一言言わせてもらうならば『セイロンを見習え』とだけ。紳士に対してならばこれである程度は伝わるだろう。

 

 というか割とガチなお嬢様であるセイロンがパゼオンカを見て『シュヴァルツよりエッチですわね…?』と言ったとかいう噂が回っているが本当なんだろうか。本当ならそもそも姉代わりにしてボディガードをそんな目で見るなと言いたい。

 

「…また長々と続けたね、エリモス。」

 

 あまりにも長く熱弁したためか、目の前にいる人物は呆れた声を出した。

 

「これは失礼、ついこの思いが抑え切れず。」

 

 相手が相手なのでエリモスも口調を敬語に戻し、目の前に座る人物に詫びた。それもそのはず、彼─だと思っているのだが、最近はマドロックのこともあり相手の性別がわからない─は自身の所属する部署のトップにいる人物なのだから。

 

「うん、君が真面目な顔をしている時は大体馬鹿なことを考えているってのは知っているんだけどね。」

 

 なんてひどい評価なんだろうか。これでもクロージャとかよりは問題起こしてない自信があるのだが。

 

「…君が起こす問題は確かに少ないけどその分かなり厄介なんだよ。まあそれはさておいて、君は何が言いたいんだい?」

 

 そう言って首を傾げてくる相手─ドクターにエリモスは苦々しく口を開いた。

 

「パゼオンカに…!パゼオンカにまともな服を着させてください………!!!あの人と話すたびに正直目のやり場に困るんです……!!!!」

「………そう来たか。」

 

 

 

 

 

 

「…だけどエンジニア部所属の君は彼女と関わりはないんじゃないのかい?作戦にもまだ一緒に行ったことないだろう?」

 

 仮面の隙間から器用にコーヒーを飲みながらエリモスの主張を聞いたドクターが尋ねた。

 

「いやドクター、あの人のタイプライターを武器に改造(なお)したのは俺ですよ?そりゃ話したことありますって。」

 

 あの時は大変だった。『タイプライターを武器にするってなんだよ』から始まり、試作を作るたびに試し撃ちに訪れた彼女のただでさえ露出の多い服の隙間からチラチラと素肌が…この話はやめよう。

 

「あれやったの君だったのか!?」

「あれ?知らなかったんです?てっきりドクターの指示の元での改造だと思ってたんですけど。」

 

 そう聞くと彼はブンブンと首を横に振った。

 

「いや、私はその辺りノータッチだよ。…よくあんな魔改造できたものだね。」

「まあ一応本職ですから…ってんなことはいいんですよ。ドクターから聞きたいのはあの人にまともな服を着させられるかどうかです!死活問題なんですよ!俺の!理性の!」

「ふむ。まあとりあえずはコーヒーでも飲んでリラックスしなよ。」

 

 そんなどこかで聞いたことあるセリフと共に差し出されたコーヒーをエリモスが一口飲むと、それを確認してドクターは口を開いた。

 

「話を戻すけど…まあ無理だろうね。そもそもロドスは服飾規定ないもの。」

「…ま、言われてみればそりゃそうっすよねえ…。」

「じゃなきゃみんなあんな好き勝手な服装しないだろうね。人によっては前職の制服だったりするし。」

「…確かに。でも、その私服が悩みの種なんですよ…。」

 

 頭を抱えたエリモスに、ドクターはふむと思案したのちに口を開いた。

 

「ならとりあえず聞こう。…メテオの服装、どう思う?」

「おへそがけしからんと思います。」

「モスティマは?」

「ホットパンツとゴツ目ブーツに生足って合法なんですか?」

「…スペクターは?」

「ニーハイ×シスター服は至高。」

 

 ここまで聞くとドクターは懐から端末を取り出すと急に何やら通話を始めた。

 

「もしもしポリスメン?」

「あいや待たれよ!?」

 

 危なかった。危うく国家権力のお世話になるところだった。

 慌ててドクターから端末をひったくると、ドクターはすごく納得のいかない顔をして…いるはずだ、まあそんな雰囲気でこっちを見てきた。

 

「何するんですかドクター!ロドスにはその手の本職が駐在しているんですよ!?」

 

 ホシグマとかスワイヤー女史とか。

 

「だから連絡したんだろう?」

 

 鬼かこいつ。いやこの人の種族知らんけど。

 

「俺は聞かれたことに正直に返しただけだろうが!」

「いや、思ったよりアレだったからつい…。」

 

 彼のついで危うく人生が詰むところだった。冷や汗を流すエリモスに、ドクターがため息と共にある事実を告げた。

 

「ま、ともかく今の発言を聞く限り君は多分どんな格好でもフェチを見出すタイプだと思うよ。」

「どんな格好でもフェチを見出すタイプ。」

「うん。端的に言ってまあまあの変態だね。だから多分仮に全員が制服きたら君の性癖は確実に制服になる。賭けてもいい。」

「…………。」

 

 上司からまあまあの変態呼ばわりされている件について。いや、エリモスの魂の母国は世界に名だたるHENTAI国家だから仕方ないと言えば仕方ないのだが、だが、それでもエリモスはドクターにだけはそれを言われたくなかった。

 

「どうしたんだい?エリモス。反論や否定がなかったらとりあえず仕事を手伝ってくれると嬉しいんだけど…。」

「…いや、まあ否定はできないんだけど、ドクターにそう言われるのは納得いかねえなって。」

「ほう?」

 

 そう言い返すと、ドクターの雰囲気がわずかに戦場へ立つ時の、冷徹なものへと変わった。そのことに微かに背筋が震えるなか、ドクターがエリモスへと尋ねた。

 

「…それは、どういう意味だい?」

「どういう意味もこういう意味もないでしょうよ…!」

 

 それでもエリモスは引かない。彼にだってプライドはあるのだ。

 彼はミジンコよりも小さなプライドを胸にドクターへと声を張り上げた。

 

「ドラゴンと装甲車で興奮する変態にだけは言われたくねえよ!」

「何を言っているんだそれは一般性癖だろう!?」

「んなわけあるかこの【※ヴィクトリアスラング】!!!!」

 

 彼らの言い争いはこの数分後、騒ぎを聞きつけた一部オペレーターたちにより拡散、果てにはロドスを巻き込んだ性癖戦争を起こすことになる。

 最終的に発端であるドクターとエリモスの2人は始末書を書かされ、ついでに休暇が減った。2人は泣いた。ついでに他のオペレーターたちもきっちり叱られた。

 

 戦争は何も生まない。ロドスのオペレーターたちはそれを学んだという。

 

「こんなくだらないことからそんな大切なことを学ばないでください」─某製薬会社CEO

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ひどい目にあった。」

 

 始末書をケルシーに提出した後、彼女の長い長いお説教を受けたエリモスはトボトボと廊下を歩いていた。流石に戦闘オペレーターといえど疲労が溜まっているのだろう、その足取りは極めて重い。

 

「…とりあえず部屋帰ったら風呂入ろ…って、あれは?」

 

 そんな彼の目の前を歩いているのは桜色の髪の女性。その胸に何かを抱えている。

 

「パゼオンカ…?いや、その前に何を持って…!?」

 

 その女性は例の新人、パゼオンカ。彼女は今、その胸に何かを、いや極めて小柄な誰かを抱えている。どころかときおりスンスンとその匂いを確かめているようにも見えた。なんてヤバいことをしでかしているのだろうか。

 そしてエリモスにはパゼオンカが抱えている人物に確信にも近い心当たりがあった。

 

「まさか、あいつ…!」

 

 そしてここに来てパゼオンカはエリモスがいることに気づいたのだろう。何かを言おうとしているが、それを無視してエリモスは取り出した端末を三度叩き、ヒトミミの方へと押し当てた。

 

「もしもしポリスメン?」

「お待ちになって!?」

 




パゼオンカ
 顔が良くておもしれー女。何故か出番が少なかった。ただし彼女もテラの住人であることをお忘れなく。

エリモス
 魂の故郷的に他にもなかなか素敵な性癖を持っていると思われる

ドクター
 こんな性癖だからこそトトカルチョ1位がケルシーなんだろうなあ…

ドラゴンと装甲車
 一般性癖です。



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俺の同僚の顔が良すぎる 4


 薩摩ホグワーツってなんだよ。


 すいません熱出して倒れてました。なんとか生きてます。


 

 プルプルと震えた竿が、魚がかかったことを知らせてくる。それと同時に竿を握っていたエリモスは軽くアワせると、すぐに一匹の魚を釣り上げた。

 

「いいサイズだ。」

 

 彼は釣り上げられた魚を見て満足げに頷くと、すぐに氷の入ったクーラーボックスに放り込んだ。そのまま彼は再び針に砂虫(ドクターの私室から奪い取って来たもの)をつけて、ポイントへと送り込む。この釣果によって晩酌のお供が変わるのだから、かなり真剣である。

 

 その調子で彼が釣りを続けていると、後ろから誰かが桟橋を歩いてきた。釣り人だろうか、そう思ってそちらを窺うと、そこにいたのは予想外の人物であった。

 

「どうだ?エリモス。釣れているか?」

「…マドロック?なんでここに?」

 

 彼の元へと来たのは、友人にして同僚、マドロック。その身に水着を纏った彼女は炎天の中わざわざビーチから少し離れたこの桟橋まで訪れていた。

 

 ここはリゾート、ドッソレス。ロドスのオペレーターたちは今、最高に休暇を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリモスは釣りをするんだな。ヴィクトリアでもしていたのか?」

 

 ぷかぷかとウキが波に揺られているのをエリモスの隣で眺めながら、マドロックが聞いた。

 

「こう言う時にちょろっとするぐらいだな。…あと釣りはロドスに来たばっかりの頃Aceに教えてもらったんだよ。ヴィクトリアにいた頃はそんな余裕なかったし。」

 

 教えてもらったついでに道具も貰ったんだ。そう言ってエリモスはそばに置いてあった釣具一式を指差した。道具は種類も数も少なく、少し古びているがその手入れのされ具合から大切にされているのがよく分かった。

 

「Ace…私がロドスにくる前にいなくなった人だな。確かエリートオペレーターの。」

「そうそうその人。…いい人だったよ。訓練厳しかったけど。」

 

 ちゃぷん、とウキが沈むのに合わせて彼は竿をあげた。竿先から垂れ下がる糸の先には、今まででいちばんの大物がかかっている。

 

「なかなか大きいな。」

 

 小さく手を叩きながらマドロックはそう言った。生きている魚が珍しいのか、ビチビチと跳ね回るそれに視線が釘付けになっている。

 

「だな。このサイズなら刺身でいける。」

 

 針から手際よく魚を外すと、再びクーラーボックスへと放り込んだ。一々締めるのが大変な時はこの手に限るのだ。

 

「刺身。…生で食べるのか。」

「引くなよ。馴染みはないかもしれないけど美味いんだぞあれで。」

「いや、カルパッチョならともかく、流石に生魚をワサビ?とか言うハーブで食べるのはちょっと…。」

「ハーブ…ハーブか?あれ。」

 

 やはり生食に馴染みがない文化圏出身のマドロックは刺身に難色を示している。かく言うエリモスも幼い頃はヴィクトリアの食文化に馴染めなかったので人のことは言えないのだが。

 

「まあフライとかスープも作ってもらうから食べるならそっちにしとけよ。…マドロックも釣ってみる?」

 

 砂虫を針にかけながら、ふと思いついたエリモスが聞いた。

 

「いいのか?」

「別にいいぞ。もう充分釣ってるし、見てるだけなのも暇だろ。」

「…なら、やらせてもらおう。」

 

 そしてエリモスはマドロックの方を向いて竿を手渡そうとして─目を逸らした。

 

「どうした、エリモス。何があった。」

「………いや、今更なんだけどさあ、マドロック。」

 

 急にそっぽを向かれてマドロックが戸惑うなか、エリモスは明後日の方向を見たまま聞いた。

 

「……なんで水着?」

「本当に今更だな?」

 

 彼の発言にウキを放り投げたマドロックはため息と共に肩をすくめたが、エリモスが視線を逸らしたのも無理はないといえよう。それほどに水着姿の彼女は眩しかった。

 

 そもそもが10人いれば10人振り返るような美女であるマドロック。そんな彼女が纏っているのは、シンプルな黒いビキニに腰から下を覆うパレオ。決して派手でないその服装こそが素材の良さを引き立たせ、出るところは出て引っ込むところは引っ込んだスタイルは露出の多い服装によってより強調される結果となっている。

 そんな彼女の艶やかな肢体のあまりの眩しさに、エリモスがつい目を逸らしてしまったのも仕方ないだろう。

 

「まあ大した理由ではないんだが…せっかくのリゾートなんだからとリサや小隊のみんなに着せられたんだ。そのままお前を探してビーチからここまで歩いてきただけでな。」

「…だとしても上着くらい羽織れよお前…。流石に目のやり場に困るだろ…。」

 

 そう言うエリモスの顔が赤いのは、決して日光の下に長時間居たからではないだろう。そんな彼の珍しい様子に、マドロックは少しだけ笑った。

 

「…なんで笑うんだよ。」

「ふふっ、すまない。意外とお前にも初心なところがあるんだと思ってな。普段はあんな感じなのに。」

「あんな感じとか言うなよ…。なんて言うか、こう…ここまで近くに水着の美人が居たことはないからな。流石に反応に困ってるんだよ。」

 

 耳まで赤らめ、目を逸らしながらエリモスはそう言った。

 

「…そうか。」

「…まあ、はい。そうです。そんな感じです。はい。」

 

 2人の間に奇妙な沈黙が訪れた。色白のマドロックの耳が赤くなっているのも、決して気のせいではなかっただろう。

 

 それから魚が釣れるまで、2人はどこかぎこちない時間を過ごすこととなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それにしても。」

「ん?」

 

 しばらくの後、エリモスは再び自分の元へと帰ってきた竿を操りながら、マドロックと話していた。時刻はそろそろ夕暮れ。夕陽が沈み始める頃合いである。

 

「エリモスがビーチじゃなくてここにいるとは思わなかったな。てっきり賑やかな方にいるかと思ってたんだが。」

「あー、それもそうか。まあ確かに普段ならそっち行ってたと思うぞ。」

 

 タイプの娘探しにな。そう言ってエリモスは少し笑った。

 

「…普段なら?今回は違うのか?」

 

 聞き返してきたマドロックに、エリモスは嘆息と共に答えた。

 

「んー、まあ、どうせすぐ分かるし、誰にも言うなとは言われてないからいいか。」

「…何があったんだ?」

 

 わずかの間の後に、エリモスが竿を引き上げるが針には何もかかっていない。彼は竿にエサをつけながら、目線を合わせずに言った。

 

 

 

「ヴィクトリアに行く。1人でな。」

 

 

 

 その言葉の後で、2人には沈黙が流れた。

 そして、それを破ったのはマドロックだった。

 

「…エリモス、それは、ヴィクトリアが今どういう状態かわかってて言っているのか?」

「ん。まあな。」

 

 エリモスは再び仕掛けを海に投げ入れ、ウキを見ていた。

 

「…チェンさんからドクター経由で連絡があってさ。あの人の昔の友達?がロンディニウムで人探してるんだってさ。そんでその人を探しに行くのと、あとはまあ、ロンディニウムの今を見てくるって感じ。」

「…それは、エリモスじゃないとダメなのか?」

「多分ね。」

 

 まだウキを見続けるが、それは波に揺られるだけだった。

 

「ロンディニウムの壁を1人で越えられて、土地勘があって、それなりに戦える人材。そんなの俺しかいないでしょ。」

「………。」

「んな顔すんなって。こっちはロドスがロンディニウムに向かうって聞いた時点でそれなりに覚悟決めてんだからさ。」

 

 再びウキが揺れるが、また針には何もかかっていなかった。とうとうエサが尽きたエリモスは釣りを切り上げることに決めて、竿をしまい始める。

 

「…んでまあ、ロンディニウムに行くってなったら急にAceのこと思い出してさ。久しぶりに釣り道具引っ張り出してきたってわけだ。」

「…エリモス。」

「ん?」

 

 深刻な話題だと言うのにいつも通りにヘラヘラと笑っている友人に、美しき悪魔が口を開いた。そしてようやく彼女の方を向いたエリモスと、マドロックの目が随分と久しぶりに向き合った。

 

「帰って来てくれ。絶対に。」

「当たり前だろ。俺はまだ去年漬けた梅酒飲んでないし、それ飲むまでは絶対に死なないって決めてるんだよ。」

 

 まあすぐに行くわけじゃないけどな。そう言って片付けを終えた彼は立ち上がった。そんな彼に続いてマドロックも立ち上がる。

 

「ほんじゃあ帰るか。今から捌いてもキッチンの使用時間には間に合うだろ。」

「…お前はキッチン出禁じゃなかったか?」

「俺は捌くだけで作るのはジェイだから無問題(モーマンタイ)。…マドロックも食べるよな?」

「そうだな、もらおうか。」

 

 夕陽が街全体を照らす中、並んで歩きはじめた2人の影がどこまでも長く続いていた。





こんなことを書いておきながらヴィクトリア編はさらっと流す可能性が高い。あまりにも重いんですよねえ…。

マドロック
 マドロックとラ・プルマの水着は絶対交換しておいた方がいい(ガチ)

釣った魚を即座に氷の入ったクーラーボックスに入れる
 マジでおすすめ。1匹ずつ締めるのよりかは鮮度が落ちるが、手間が大いに省ける。
 そろそろ釣りシーズン開幕なのでまだ釣りしたことない方は是非今年こそ釣りにチャレンジしてみてください。春メバルは簡単に釣れるし美味しいですよ。

エリモスの戦闘力
 ロドス重装オペレーターでも割と上の方。ニアールとかサリア相手はさすがに厳しいがそれでもコンディション次第では勝ち目が多少なりある、くらい。
 ただし胃袋を掴まれているのでマッターホルンには勝てない。

Ace
 フィディア(ユーネクテスと同じ種族)なんかお前


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私の部下の様子がおかしい


 祝・ドッソレス復刻



 

 私がアーミヤと食堂に着いた時、そこはすでに食事を楽しむ多くのオペレーターたちで賑わっていた。今停泊しているのがドッソレスという土地柄故か、張り出されているメニューにも海鮮が多い。2人で何にしようと悩んでいると、一際盛り上がっている食堂の一角で悲しそうな声が上がった。

 

「俺のキャベツーーーー!?」

残念だったな(ふぁんねんふぁっふぁな)これはもう俺のものだ(ふぉれはふぉうふぉれのふぉふぉふぁ)。」

「何やってるのブラザー!?」

 

 声の上がった方から褐色の青年、ソーンズが塩キャベツの入った大皿を抱えてボリュームのある金髪の青年、エリモスから逃げ回っていた。流石というべきか、その逃げ足は恐ろしいほどに洗練されている。

 

「くそ!おのれあのウニめ!俺のキャベツを根こそぎ奪いやがって!」

「ごくん。…ふっ、見たか?このイベリアの至高の術(デストレッツァ)を。」

「うるせえ!俺のキャベツを返せ!」

 

 どうやらソーンズがエリモスのキャベツを根こそぎ食べようとしているらしい。…と言うかソーンズはそんなにキャベツが好きだったのか。いや、精神年齢が男子高校生の彼らのことだから、ただのじゃれ合いの可能性は高いんだけども。

 

「まあ落ち着け、エリモス。無くなったならまた新しく頼めばいいだろう?」

「そういう問題じゃないんだよマドロック!」

「そうだそうだ。どうせ割り勘なんだからそうすればいいものを。」

「てめえが原因だろうがソーンズ!」

 

 ついに機動力の差でソーンズを捕まえたエリモスが器用に片手で皿を確保しながら彼にヘッドロックをかけている。恐るべしはエリモスが誇るオペレーター屈指の怪力。技をかけた瞬間にあのソーンズがノータイムで腕をタップし始めている。

 

「…何と言うか、みなさん楽しそうですね。」 

 

 周りが歓声を上げ始めるその様子を見て、アーミヤは嬉しそうに言った。人の感情に敏感な彼女だからこそ、この様子が喜ばしいのだろう。

 

「まったくだ。ったく、宴会してるってのなら私も参加したのによ。」

「うお!?」

「ニェンさん!?」

 

 そんな私たちの後ろから1人の白髪の女性が急に話しかけて来た。騒ぎの方に気を取られていた私たちはその女性─ニェンの接近に気づかず、相当に驚いてしまう。

 

「いや、そんな驚くなよ。…にしても、あの小僧も楽しそうにしてんなあ、おい。最初に見た時はやべえなこいつって思ったけどよ。まあ楽しんでるなら何よりだ。」

「…あの小僧?」

「ニェン、それはソーンズか?それともエリモスか?」

「あん?そんなのエリモスに決まってんだろうが。」

 

 何を言っているんだと言わんばかりに彼女は言った。一つため息をつくと、こちらを見て少し片方の眉を上げてくる。

 

「…まさかお前ら気づいてねえのか?」

「なにに、ですか?」

「…どう言うことだい?エリモスはまあ時々奇行に走るけど、それ以外はまともな人だが…。」

「あー、まあそうだな。でもまあ、私が言いたいのはそう言うことじゃなくてよ。」

 

 横に置いてあったトレーを取って、何でもないことかのように彼女は続けた。

 

「あいつ、異常だろ?色々と、さ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「も、もう限界…。ちょっと休んでくるよ。」

 

 翌日。オペレーターたちに誘われてビーチへと来ていた私は、一足先にパラソルの元へと撤退していた。デスクワークと指揮が常の私にはオペレーターたちと同じように動こうと言うのが土台無理な話だったのだ。

 

 アンジェリーナやプラチナがえー、と漏らした不満を背中に受けながら、私はどうにかパラソルの影に腰を落ち着けた。軽く全身の水気を取り、海をぼーっと眺めていると、後ろから誰かが近寄ってくる足音がした。

 

「どうも、ドクター。飲み物いります?」

「エリモスか。もらうよ。」

 

 近寄って来たのはその手に冷えたジュースを持ったエリモス。私にその片方を手渡すと、彼もまた私の横に腰を下ろした。そのまま私の方にジロジロと視線を向けてくる。

 

「…ドクターの素顔ってそんな感じなんですね。」

「あれ、見せたことなかったかい?一部の人たちは知ってるんだけど。」

「俺は知らないですね。記憶失う前のドクターも基本顔隠してましたし。」

 

 彼は私が眠る前からロドスにいたのか。これは知らなかった。

 

「まあ当時の俺は戦闘部門にいなかったんで関わりはなかったんですけどね。当時のドクターとは話したこともなかったですし。」

 

 そう言って彼は海の方へと視線を向けた。少しだけ私たちの間に沈黙が落ちると、次第に彼の顔が真剣みを帯びていく。

 

「…エリモス。何か悩みでもあるのかい?」

「…ドクターには隠せませんか。」

 

 昨日のニェンの言ったこともあってつい聞いてしまうと、彼は真面目な顔で頷いた。

 

「悩みというか、ドクターに聞きたいことが一つありまして。ヴィクトリアに行く前にこの問題に答えを出したいんですよ。」

「…なんだい?私に答えられることなら答えるよ。」

「ありがとうございます。ならお聞きしますが…」

 

 『ヴィクトリア』。そこはエリモスの故郷にして、確実に複雑な因縁のある場所。そこに行くのだから当然悩みの1つや2つくらいあるに決まって─

 

「メイドビキニってメイド服にカテゴリしていいと思います?」

 

 馬鹿なのかこいつは。

 

「む。何ですかその顔は。さては俺のことを馬鹿だと思っていますね?」

 

 彼の言う通り、寸分の狂いもなくそう思っている。

 

「ですがドクター、考えていただきたい。世の中には着物メイド服なるものもあるのですよ?あれはメイド服に入るのですか?」

「…考えたこともないな。」

 

 その必要がなかったとも言える。

 

「なんでですか。男なんて誰でも何で水着は下着と大差ないのに恥ずかしがらないのかな、とかメイド服はロングとミニスカどっちがいいかで悩む生き物でしょう?」

 

 …何でこいつはそんなことを考えているのだろうか。もっと他のことで人生に悩めよ。

 

「いや今回こんなことを考えるにもちゃんときっかけがありましてですね。こないだメイド喫茶行ったらメイドビキニフェアってのやってまして。やっぱドッソレスだしそういう土地柄なのかな?とは思ったんですけど、それでもいまいち腑に落ちないんですよ。」

 

 マジで何やってんだこいつ。と言うかよくマドロックにバレずにいけたな。

 

「いや、なんか最近俺とマドロックはニコイチ扱い受けてますけど、普通に別行動の時の方が多いですからね?」

 

 そう言われてみるとそうかもしれない。ただそれでもマドロックと絡んでいる時が最近目につくのは否定させないが。

 

「…まあ、そこはいいんですよ。とにかく俺は悩みすぎて夜しか眠れないんです。」

「健康的でいいじゃないか。」

 

 と言うかここで悩むとは流石は服装フェチ。水着は当然守備範囲内と言うことか。

 

「いや水着なんて普通でしょう?俺はメイド服もビキニも競泳水着もワンピースも旗袍(チーパオ)も制服も着物もディアンドルもスーツも、あ、これはスカートもパンツスーツもどっちもですけど、あとパーカーもブレザーもセーラー服もニーハイもハイソも「あ、マドロックだ。」何でもありません。」

 

 長い。いくら何でも長い。しかも放っておくとまだ続きそうだったので適当にマドロックの名前を出したのだが、まさかここまで効果があるとは。…それにしてもここまで長々と語っておいて『何でもありません』は無理があるだろう。

 

「いや待てマドロック。今のは聞かなかったことに…ってあれ?いない?」

「うん。まあ適当に言ったからね。」

 

 私は悪びれずにそう言うと、憤慨するエリモスを尻目に先程彼から渡されたコーラのペットボトルを口につけ、立ち上がった。まだ日も高い。休憩もしたことだし、もう一度遊んでくるとしよう。

 

 そう決めて私は太陽に熱された砂浜に足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『あ?あいつのおかしいところ?んなの決まってんじゃねえか。』

 

『全部だよ。と言うかそもそもあいつのアーツは、制御ミスったらいつ死んでもおかしくないものだぞ?』

 

『私が前に同じようなアーツ使ってるやつ見たのは…何年前だ?ありゃ。まあそいつもうまいことやってたけどな。最後はミスって死んじまってる。派手に周りを巻き込んでな。』

 

『エリモスはそいつ以上に上手くやってるから目立たないけどな。それでもあいつが爆弾抱えてるってのは変わらねえ。それに本人が気づいてないってのもおかしな話だけどな。』

 

『それにおかしいと思わなかったのか?あいつスラムの頃は源石を防護できてないのにいまだに未感染なんだぞ?そんなのあり得ないだろ、普通に考えて。』

 

『あとは、なんだ?持ってる知識とか、妙にちゃんとしてる倫理観とかか?あとは…種族か。とにかくあいつは突つくといくらでも闇が出てくるぞ。』

 

『まあそう言うところが面白いんだけどな。あんな色々とチグハグな人間は私も久々に見たぜ。』

 

『どうなるんだろうな、あいつは。』

 

 




ニェン
 無職
 
エリモス
 メイド喫茶には1人で行った模様。

ソーンズ
 こいつにキャベツを食べさせるのは割と前から考えてました。
 みんなもロドスキッチン見てね。


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俺の同僚の顔が良すぎる 5


 今話からはヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。


 

 なんてこったい。

 

 ヴィクトリア潜入前のミーティングにて、エリモスは内心で舌打ちをした。状況はある程度伝わっていたし、グラスゴーの面々の態度からもそれは察することができた。できたが、実際は聞いていたよりも遥かに状況が悪かった。

 

 何があったかを話してくる元ヴィクトリア軍人であるヴイーヴル、バグパイプの話を聞きながら、メモをとっていく。…こんなことなら、もっと早いことサイラッハにでも様子を尋ねておけば良かったかもしれない。ヴィクトリア軍人というだけで避けていたのはこっちなのだが。

 

 それにしても、まさか俺があのヴィクトリア軍人を助ける日がくるとは。バグパイプから渡された写真を見ながらエリモスは自嘲した。昔、スラムにいた頃はただスラムの孤児というだけで散々やられたものである。まあ当然やり返しはしたのだが。一緒に暮らしていたチビ共も、軍人に絡まれていたのを助け出した奴らばかりだった。最後には向こうから仕掛けてきたというのに逆恨みで徒党を組んできたから難儀したものである。…そんな理由で、エリモスはヴィクトリア軍人にいい思い出が一つもないのだ。

 

 とはいえ今回の件は俺がやらねばならない仕事だ。そう割り切って、エリモスは再び資料に視線を落とした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ってことがあってだな。」

 

 夕飯時。もしゃり、と鶏肉を噛みちぎりながらエリモスはマドロックにそう言った。割と久しぶりの、そしてヴィクトリア潜入前最後のエリモスの部屋での宅飲みである。

 

「ヴィクトリアの軍人か。どんな人だった?」

「どんな人…話した限り普通にいい人だったぞ。今まで見てきた連中の中でも抜群に、な。それと面白い武器を持ってたな。」

 

 ついでに口には出さないがファッションセンスが俺的に抜群だった。

 黒いブレザータイプの軍服に、赤いスカート、そして黒いゴツメのニーハイとショートブーツ。まるでJKの制服を思い浮かべる服装だが…いかんでしょ。これはいかんでしょ。成人した軍人…成人してるよな?が着ていい服装ではない。似合ってないからとかではなく、似合うからこそ余計に着てはいけないのだ。理由は…まあ察しろ。

 

 というかテラは割とみんな好きな服装を許容する文化があるからみんな何も言わないんだが、チェンさんとかシュヴァルツとかの服装って実は相当やばいんじゃないだろうか。渋谷のJKでもあんな格好しねえだろって服装してるもん。ヘソだしホットパンツは攻めすぎなんすわ。

 

「…今何か変なことを考えてないか?」

「ははっ、まさか。」

 

 アルコールの入った頭で阿呆なことを考えていると、それを見抜いたのかマドロックが嘆息と共にそう言ってきた。…だんだんこいつ俺の思考読めるようになってきてないか?

 

「いや、お前は割と考えていることが顔に出るぞ?」

「だから思考を読むんじゃないよマドロック。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「…それにしても、本当に行くんだな。」

「まあ、そういう任務だしな。ロドスの本格作戦前には帰ってくる予定だけど。」

 

 お互いに何度も酒を酌み交わしながら、夜は更けていく。…考えたくはないが、これが話せる最後の機会なのかもしれないのだから、話が途切れることはない。

 

「そうか。ならMiseryよりは早く帰ってくるんだな。」

「その予定ではある。…今の状況を考えたらどうなるかなんて分からんけどな。」

「任務なんてそんなものだ。傭兵の頃は、私もそうだった。」

「ああ、そういえばお前傭兵だったね。」

 

 なんというか、マドロックは傭兵らしくないのだ。金にもそこまで執着してないし、好戦的な方でもない。本当にその辺にいる女の子なのである。…それなのに武器をとって戦わなければならないのが、この世界というものなのだろうか。

 

「傭兵どころか、元レユニオンだぞ、私は。」

「すぐ抜けてるくせに何言ってやがる。つかそれならイーサンだってWだってそうだろうよ。あいつらに比べりゃお前はまともすぎるから、どうしても傭兵だのレユニオンだのが頭から抜け落ちるんだ。」

「いくらなんでもあの2人とは比べないで欲しいんだが‥。」

 

 片や爆弾魔。片や盗み食い及びイタズラの常習犯である。確かに普通の人はロドス屈指の問題児である彼らとは比べられたくないであろう。

 

「まあ比べなくても、だ。お前はいい奴だよ、ほんとに。」

「そうならいいんだけどな。」

 

 マドロックは苦笑いしながら、梅酒の入ったグラスを傾けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、そうだ。マドロックに預かって欲しいものがあってさあ。」

「ん?なんだ?」

 

 もうそろそろ日付も変わろうかという頃。料理も無くなり、酒もそろそろ入らなくなってきたところで、エリモスがそれを思い出して、窓際からあるものを持ってきた。

 

「いやさ、俺しばらくいないじゃん?こいつの世話して欲しくて。」

「こいつ?…ああ、それか。えーと、ボンサイ?」

「そうそう盆栽。ついでに言うとこれは梅ね。今日飲んだ奴。」

 

 持ってきたのは一つの盆栽。今は花も咲かせておらず、ただ葉を茂らすのみとなっている。

 

「適当に水だけやってくれればいいからさ。ほんとに無理なら園芸部に預けてくれればいいし。」

「水だけでいいのか?こう、肥料とかは…」

「いらないいらない。まあほんとはいるのかもしれないけど、俺は使ってないよ。…で、どう?頼んでいい?」

「ああ、この程度なら任せろ。」

 

 助かる。そう言ってエリモスはマドロックのグラスにウイスキーをなみなみと注いだ。原液で。それを見てなんてことをするんだとマドロックは少しだけ怒った。

 

「ははっ、すまんすまん。…でも飲めるだろ?」

「そう言う問題じゃないんだ。」

 

 言いながらもマドロックはウイスキーの原液に口をつけた。そのまま一気に流し込んでいく。相変わらずの飲みっぷりに、エリモスは口笛で囃し立てた。

 

「やるぅ。」

「まあ、この程度ならな。…それにしても、エリモスは梅が好きなのか?」

「おん?…まあ、好きだな。美味しいし、いい匂いするし、綺麗だし。」

 

 昔家に植えられてたんだよ、とは言わなかった。言えなかった。

 

「そうか。なら大事に預からせてもらおう。」

「託したぜ。…後もう一つ。正直こっちがかなりメインだ。」

 

 今度はエリモスは一つの鍵をマドロックに放り投げた。小さな革製のキーホルダーのついたそれが、放物線を描いてマドロックの手元へとたどり着く。

 

「鍵?なんのだ?」

「俺の酒コレクションの入った棚の鍵。」

 

 興味深そうにその鍵を見ていたマドロックだったが、それを聞いて目を見開いた。だが渡した当の本人はといえば平然とした様子である。

 

「エリモス、これお前、どう言う意味で…」

「どう言う意味もなにも。俺が死んだら中身あげるよってことだ。まあ死ぬ気はないけど、一応な。」

 

 そう言ってエリモスは笑った。

 

「俺家族いないから何かあったら全部捨てられるんだよね。別に家具とかはそれでもいいんだけど、コレクションを捨てられるのだけは避けたくてさ。色々考えたんだけど、そうなるくらいならマドロックにあげるよ。」

「………。」

「あ、変なのは入ってないぞ?ワインとかはかなりいいやつだし。」

「……エリモス。」

「おん?」

 

 託された鍵を見つめたまま黙っていたマドロックだったが、突然に口を開いた。だが、その口はどうも重いようだ。

 

「…いや、なんでもない。」

「ん、そうかい。ああそうだ、マドロックはなんか俺にして欲しいこととかある?」

「あるぞ。聞きたいことが1つ、な。」

「お?なんだ?」

 

 思いの外にマドロックは即答した。鍵を上着のポケットにしまい、エリモスの目を見つめてくる。

 

「お前の名前が、知りたい。『エリモス』ではない、お前の本当の名前が。」

「…本名か。え、そんなことでいいのか?」

「ああ。それがいいんだ。」

「そうかよ。」

 

 本名。まさかそんなものを尋ねられるとは思わず、エリモスは少しだけ驚いた。まさか今更その名を名乗ることになろうとも思ってもいなかったのだ。

 

「『アルトリウス』」

「なに?」

「『アルトリウス・フェアフィールド』。…それが俺の名前だ。苗字の方はジジイから貰ったものだけどな。」

 

 ジジイと呼ぶ人物とエリモスは血が繋がっていない。エリモスが赤子の頃に、どう言う関係だったのかは知らないが、彼はエリモスを死に際の母から託されたために育てたらしい。スラムの技師であったジジイは亡くなるまで、エリモスの親であり続けた。

 

「…アルトリウス・フェアフィールド。いい名前だな。」

「派手すぎるから好きじゃねえんだけどな。エリモス、くらいでちょうどいい。」

 

 そう言ってエリモスは最後の一杯を呷った。

 

「てかそう言うなら、お前の本名も教えてくれよ。マドロック以外にもあるんだろ?」

「まあ、あるが…それはまだ教えないことにしよう。」

「なんでだよ。ケチかお前。」

「そうじゃない。…おまえがロンディニウムから帰ってきたらその時に教えるさ。」

 

 そう言ってマドロックは悪戯が成功した童女のように笑った。

 

「…そいつは、帰ってこなくちゃなんねえな。」

「そうだな。そうしてくれ、エリモス。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 栄華は崩れ去り、今やその国には暗雲が立ち込めている。

 果たして砂嵐は、暗雲を払うことができるのか。それは誰にも分からない。





途中でネタを挟まないと死んじゃう病の患者が私です。

あとアークナイツ×モンハンコラボおめでとう。君たちの顔もいいってことは知ってたよ。


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ヴィクトリア編 砂獣疾走
砂獣疾走 1



ヴィクトリア編以降のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。









 

「エリモス、今時間あるか?少しでいい。」

「おやシージさん。えっと、今なら…5分くらいは大丈夫です。どうしました?」

「…お前がヴィクトリアに行く前に、言っておかねばならないことがある。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「エリモスはん、()えへんなあ。」

 

 ロドス内の搬入口にて、ペンギン急便所属の牛人族(フォルテ)、クロワッサンは仲間であるエクシア、テキサスの隣でそうぼやいた。彼女たちペンギン急便は、そのトランスポーターとしての腕を見込まれて、今回エリモスをヴィクトリア近郊まで送り届ける役目を担っているのだ。

 

「ほんとだねー。何かあったのかな?」

「さっきシージと何か話していたのを見た。終わり次第すぐ来るだろう。」

 

 クロワッサンのぼやきにエクシアが同調し、チョコ菓子を咥えたテキサスが補足する。これから危険な任務に赴くというのに、彼女たちは極めて平然としていた。そんなペンギン急便所有の車の前で駄弁っている3人の元に、1人のアスランが近寄ってくる。

 

「へー?じゃあもう直ぐ来るかな…ってもう来た。」

「いやあ、すまんな待たせちまって。ちょっと話が長引いたもんでよ。」

 

 ようやくやって来たのは彼女らの同行者にして輸送対象、エリモス。彼は普段着ているロドスの制服ではなく、少し草臥れた、ヴィクトリアでよく見られる服を着ていた。おそらくは現地で怪しまれないようにするための処置なのだろう。

 

「一応は時間前やし、別に大丈夫やで。…でもま、揃ったことやしそろそろ行こか。」

「そうだな、早めに行くに越したことはない。」

「はい了解。そんじゃ、短い間だが旅の間よろしく頼むぜお前ら。俺の安全はお前らにかかってるんだからな。」

 

 テキサス、エクシア、クロワッサン、エリモス。今回行動を共にする4名が揃ったことで、依頼は開始された。全員が武器を持って車の方へと向かい、テキサスが運転席に座ろうとしたところでその肩を掴まれる。

 

「…なんだ?エリモス。」

「すまねえ。前言を撤回するようでなんなんだが…」

 

 彼女の肩を掴んで止めたのはエリモスだった。彼はテキサスの肩を掴んだまま、大真面目な顔で彼女の方を見ている。

 

「テキサス、運転は俺がやる。お前は助手席にでもいてくれ。」

「なんでだ?いつも運転は私がしているんだから、お前の方こそ後ろでゆっくりしていてくれ。」

「そうそう、それにエリモスはあたし達のクライアントみたいなもんなんだからさ、ゆっくりしてくれていいんだよ?」

 

 そんな運転席を巡ってバチバチと火花を散らす2人の間にエクシアが割って入った。流石は陽気なラテラーノ人である。

 

「なら、言わせてもらうけどな。」

 

 ため息と共にエリモスは言った。

 

「俺は作戦前に車酔いになるのは避けたいんだよ。」

「「ああ〜…。」」

 

 そんな彼の主張に、テキサスを除いたペンギン急便の2人は深い理解を示した。仕事仲間ではあるが、お世辞にもテキサスの運転は丁寧とは言い難い。まあ仕事柄交戦することもあるため仕方ないのだが、長旅で、しかも慣れていないのならばそれはかなり厳しいだろう。

 

「…テキサスはん、今回は譲ったり。慣れてない長旅でうっかり車酔いとかしたほうが大変やわ。」

「…仕方ないな。ただ、何かあったら私が運転するぞ。」

「おうよ。その時は頼むわ。」

 

 クロワッサンの仲裁もあって、エリモスは無事に運転席を手に入れた。乗り込んだ彼はテキサスから渡されたエンジンキーを回す。エンジン音と共に、車体が小気味良く震え始めた。

 

「…ところでなんだが、今の俺にはいい話と悪い話がある。どっちから聞きたい?」

「え、なになに?じゃあ、いい方からで!」

 

 フロントガラス越しにマドロックを見つけて、エリモスは小さく手を振った。マドロックも、エリモスの方に手を振って挨拶をしてくる。言葉こそ交わさなかったが、お互いにそれで充分だった。

 

「OK。いい話ってのはな、俺は免許をとってから無事故無違反ってことだ。」

「おお、本当にいい話じゃん。…で、悪い話ってのは?」

「…おい、エリモス。まさかだが…。」

「そのまさかさ。」

 

 正面の出入り口が開いていく。薄暗かった搬入口に、外の光が差し込んで、そちらを向いていた全員の視界が白く塗りつぶされた。

 

「俺は免許をとってから一度も運転したことがない。」

「…は?」

「え、ちょい待って?」

「…やはりか。」

 

 入り口横のオペレーターの合図に合わせて、全員の体が後ろへと沈み込んだ。車が動き出したのだ。

 

「シートベルトは締めたな?神様へのお祈りは?座席の隅でガタガタ震えて無事を願う心の準備はOK?」

 

 後ろでエクシアとクロワッサンが顔を青くしているのに気がつきながら、エリモスはアクセルを踏み込んだ。オフロード仕様の車が軽快にコンクリートを踏み締めて進んでいく。

 

「そんじゃ、行くぜお前ら!」

「仕方ない、か。」

「「嫌ーーーーーー!?」」

 

 乗っている者たち皆が絶望し、運転手だけが楽しそうに笑うなかで今彼らはテラの大地へと降り立った。

 

 

 

 

 

 

 

「…納得できん。」

「何がだ?クロワッサン。」

 

 数日後。無事にヴィクトリア近郊へと辿り着いた彼らは簡単に食事の準備を行っていた。食事の準備とはいえ、缶のスープを温めて乾パンを袋から出すだけなのだが。

 

「あのフリからやったら、普通はすごい運転が下手なはずやん?」

「まあ、普通はそうだろうな。」

「…なんであんな運転上手いん?」

 

 彼らは無事にここに辿り着いたのである。途中で襲われはしたものの見事にパンクの一つもせずに、だ。普段なら何かしらのトラブルがあるのだが、今回はそれもなしにたどり着いている。

 

「なんでって…まあロドスでもフォークリフトは乗り回してたからな。ある程度のコツは掴んでるさ。」

 

 その原因としては主に運転手のエリモスだろう。彼は華麗なハンドルテクニックで出来る限りの障害物を避け、さらに荒地はアーツによって整地することで進みやすくして進んできたのだ。

 

「いやー、それにしては上手かったで?どや?テキサスはんの代わりに運転手せえへん?」

「コーテーは人使い荒そうだし遠慮しとく。……あ、沸いた。飯にするぞ。」

「え、もう沸いたん?エクシアー!テキサスはーん!ご飯やでー!」

 

 沸いたスープの匂いとクロワッサンの呼び声に釣られて、2人が寄ってくる。彼女らの背後には遠く離れたここからでも見えるほどに巨大な城壁が微かに見えた。

 

 そうして4人のヴィクトリア入り前、最後の食事が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっと。これで全部かな。」

 

 その日の晩21時。ついにエリモスがロンディニウムの城壁を越える時が来た。彼はヴィクトリアに紛れる服装をしたうえで、左手に盾を、腰には剣を吊っている。さらに肩からは色々な荷物の入った鞄を下げていた。

 

「…本当に行っちゃうんだね。」

「そういうお仕事だからな。…よし、全部持った。そんじゃあ行ってくるぜ。」

 

 ペンギン急便3人娘に見守られるなか、エリモスは全ての準備を終えて立ち上がった。それと同時に、彼の足元に砂が集まり始める。

 

「ああ、無事を祈る。」

「ほんまやで!またみんなで飲み会しよな。」

「そうだな。そうしよう。」

 

 集まった砂はエリモスの足元でサーフボードのような板状になり、大きさも彼が乗れるほどになる。それを確認して、彼は砂のボードの上に乗った。そうして彼はペンギン急便たちの方へと手を振って愛用のゴーグルをつけた。

 

「またな、お前ら。」

 

 その言葉を最後に、エリモスを乗せた砂のボードはどんどんと高度を上げていく。それはあっという間に地上に残された者たちから見えないほどにまで登っていった。彼はロンディニウムの城壁を、監視の届かない高度から侵入することで突破しようとしているのだ。

 

 エリモスの姿が見えなくなっても、彼女たちはエリモスの登って行った方をじっと見つめ続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヴィクトリアは工業都市だ。

 

 街のあちこちで煙が上がり、工場の灯りが夜でもあちこちで光っている。今は見えないが、きっと工場の中では工員たちが労働に勤しんでいるのだろう。

 そんなかつてよく見ていた光景は、エリモスにとって随分と懐かしいもののように思えた。

 

「…戻って来たんだな。この街に。」

 

 今彼がいるのはロンディニウム上空300メートル。宵闇と工場の排煙に紛れて、1人のアスランは確かにヴィクトリアへと帰還した。

 





ペンギン急便
 みんな大好き龍門のトランスポーターたち
 テキサス異格マダー?

エリモス
 「まあ確かに龍門で免許取ってからは運転してないがな。」
 「それまでに運転したことがないとは言ってないぞ?」
 「…左ハンドルだったらこうは上手くいかんけどな。」


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貴猫微笑 1


この話はヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。 



 そういえばみなさん、『東京アニメセンター』で行われるアークナイツ展のポスター見ました?アーミヤとチェン、スルトに並んで我らがマドロックがポスター入りしましたよ。やったぜ。まだ見てない方はアークナイツ公式Twitterからでも見れるので、是非見てみてください。

 


 

 朝がきた。この日は曇った日の多いロンディニウムにしては珍しく晴天。地面もぬかるんでいない、歩きやすい状況である。

 

(まずは『ハイディ・トムソン』氏を探して、ロドスに無事に到着したことの報告か。確か彼女の住所は…)

 

 活気の無い街を歩きながらエリモスは出発前に叩き込まれた情報を思い出す。当然だが万一に備えて情報を紙に書いておくわけにはいかないのだ。

 

(…それにしても、俺が大手を振ってロンディニウムのメインストリートを歩く日が来るとはな。いや、密入国だから別に大手は振れてないのか?)

 

 目指すのはケルシー専属のトランスポーター、ハイディの自宅。幸いにも、周りの目を気にしながら歩いたところで、みんながそうしているのだから目立つことはない。そこらじゅうを歩いているサルカズ傭兵たちの注意を引かないようにだけ注意しながら、エリモスはハイディのもとへとその足を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 こいつは驚いた。

 

 エリモスはハイディという女性を見てそんな感想を抱いた。彼は事前にケルシーから彼女についての情報を簡易的に得ており、その際に『高貴な雰囲気を纏ったフェリーンの女性』と知らされている。

 

 ところが現実はどうだ。

  

「ケルシー先生から貴方のことは伺っています。よくロンディニウムにまで来てくださいました。」

 

 今エリモスは、事情が事情ということもあって手土産の一つも持っていないにも関わらずハイディに歓待されていた。

 

「そう畏まらないでください、ハイディさん。我々ロドスとしてもこの一件は見逃せませんし、それにこのロンディニウムは一応俺の故郷でもあります。一度離れて以来寄り付かなかった場所ではありますが、それでも見捨てるにはあまりにも思い入れがあるのです。」

「なるほど。それで今回は貴方が1人で。」

 

 これが本当にあの得体の知れないDr.ケルシー直属のトランスポーターか?眼前にいる女性に対して、エリモスは素直にそう思った。それほどに彼女はか弱く、そして危険がなさそうに見えたのだ。

 

 そしてそれと同時に、彼はこうも思った。

 

『この服装で高貴は無理では?』

 

 いや待つんだ。言いたいことはわかる。そもそも相手を前にして、且つこの非常事態においてお前はなに平然と煩悩に塗れているんだという誹りは当然といえよう。だがそれでも俺は声を大にして言いたい。『その服装で高貴は無理でござるよ』と。いや、この事実はあのスケスケ女医の主観によるものであることを考慮に入れるべきだったのかも知れない。

 

 そもそもテラにおいて、高貴な雰囲気の女性、という評判はあまり当てにならない。ロドスだとそんな評判を得ているのは…確かパゼオンカとカンタービレあたりか。彼女らに関しては、パゼオンカは室内で水着…だよな?を着たドゥリコンのやべーやつ。カンタービレは腋、長手袋、太ももベルトを完備したロドス太もも四天王の一角である。…ここまで来れば聡明な諸君にはお分かりいただけるだろう。そう、つまり高貴な雰囲気の女性というのはテラ性癖欲張りセットなのだ。

 

 考えてみると、前世において高貴な雰囲気の女性の格好は…まず前提として露出が少なかったはずだ。女性らしさを出しつつも、衣服をもってその肢体を隠す。それがエレガントの大前提なのだ。この時点でテラと前世の違いが見せるか見せないかという根っこの時点で現れてくる。さて、果たしてロドスにそんな人はいるだろうか?マドロックくらいじゃ無いか?露出がない女性って。…ああ、ジェシカがいたか。狙撃手のくせに重装顔負けのフル装備をして訓練に来た時は目を疑ったものだ。

 

 ここまでの思考に一瞬で辿り着いたエリモスだったが、ようやく自分が任務の最中であることを思い出した。そして自分が今、あのケルシーの懐刀の目の前にいるということも同時に思い出した。彼が思考の海に沈んでいたのはほんの1秒程であったが、考えていた内容を悟られないように一つ咳払いをして、話題を戻した。

 

「…ええ。それにロドスで最もあのロンディニウムの地下スラムを知り尽くしているのは俺です。そして今回の目的である自救軍の本拠や、捜索対象である『リタ・スカマンドロス』中尉の潜伏場所はそこである可能性が高い。ただでさえ入り組んだあのエリアを動き回るなら、単独行動の方が都合が良かったのですよ。」

 

 ハイディの淹れた紅茶で喉を潤しつつ、エリモスはそう言った。彼は根っからのコーヒー派で、紅茶はほぼ飲んだことがないが、この紅茶は美味しいと素直に思った。

 

「そのような意図でしたか。…それで、今回は貴方の到着をケルシー先生にお伝えすれば良いのですね?」

「ええ。これからは通信機器が使えませんからね。…それともう一つ、伝えていただきたいことがあります。」

「なんでしょう?」

 

 ハイディはエリモスの目を見て尋ねた。彼女の美しく、そして恐ろしいほどにまっすぐなその目線を受け止めて、エリモスは答えた。

 

「『いざとなれば【釘】を使う』。Dr.ケルシーにそう伝えてください。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「【釘】?それはなんだ?」

 

 同時刻のロドスアイランド。偶然であるが、ドクターとケルシーの間でエリモスの持つそれについての話題が登っていた。

 

「エリモスの切り札、ということになっているものだ。」

 

 恐ろしいほどに濃いインスタントコーヒーを啜りながら、ケルシーはドクターからの問いに答えた。長らく寝ていないのか、彼女の目の下には隈ができている。

 

「現物は私も一度見ただけだが、詳細については書面で報告を受けている。初めに見た時は正直、あいつは頭がおかしいんじゃないかと思ったが。」

「…そんなに酷いのかい?私はそれ知らないんだけど。」

「隠していたんだろうな。おそらくはロドスでそれを知っているのは直接報告を受けた私と、あとは直属の上司であるサリアくらいのものだろう。」

 

 ケルシーはそう言って、取り出した端末を叩いた。するとすぐに、ドクターの端末が何かを受信したことを知らせてくる。

 

「見てみるといい。今送ったものが、エリモスの【釘】についての詳細だ。」

 

 その言葉に従ってドクターは送られてきたデータに目を通していく。報告のタイトルから彼は眉間に皺を寄せていたが、読み進めていくに従ってその皺はどんどんと深くなっていき、最後に読み終える頃にはうちから湧き出る怒りを抑えるので精一杯だった。

 

「…ケルシー。」

「なんだ。何が聞きたい?」

「これは本当にあのエリモスが作ったのか?」

「そうだ。」

 

 眉間に深い皺を刻んだままのドクターに、ケルシーは端的に返した。

 

「これは数年前、エリモスが家族─共に暮らしていた子供達を立て続けに亡くして不安定だった時に作ったものだ。あの時ほど、あいつがこれを作れるほどの技術と知識、そして設備を持っていたことを恨んだことはない。」

 

 吐き捨てるかのように彼女はそう言った。

 

「こんなものは窮地を切り抜けるための切り札でもなんでもない。地獄をまた別の地獄に変えるだけの、ただ悪趣味にも程があるだけのものだ。あいつがこれを使わないことを私は祈っている。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではハイディさん、お世話になりました。何かあったら、その時はお願いします。」

「ええ。私としても、あなたが良い知らせがあることを期待しています。」

 

 エリモスがハイディのもとにいたのは30分もない短い時間だった。彼らにはやることが山のようにある。ならばこれ以上長居するわけにはいかないのだ。

 

「ありがとうございます。…このご時世です。貴女も身の回りには警戒してください。」

「それは、貴方もですよ?」

「俺は別にいいんですよ。戦うのが仕事なんですから。…それでは。」

 

 一礼してハイディに背を向けると、エリモスは歩き出した。向かう先はヴィクトリアの地下にある工業地区にしてスラム。彼の故郷(ホーム)

 

(そういえば、このルートはジジイの墓の前を通るな。)

 

 活気の無い通りを歩きながらエリモスはそのことに気がついた。

 墓、と言っても遺体を埋葬したわけではなく、ましてや墓石があるわけでも無い。スラムの感染者の末路がそんなに上等なわけがないのだ。

 

(どうせ通り道だし、一瞬だけ寄ってみよう。…何も残って無いんだろうけど。)

 

 彼は周りの目を掻い潜って裏路地へと入り、ついに地下へと潜り始めた。ここまでくれば一応は一安心、と言ったところか。

 地下道を歩くたびに足音が地下道に響き、耳を叩いた。埃とカビの臭いが鼻をつく中、それを気にせずに彼は目的地へと歩いて行く。

 

(…もう一回、ジジイに会いたいな。)

 

 それが叶わないのは彼がよく知っている。二度目、なんて奇跡は本来あってはならないものなのだから。いや、彼の場合は奇跡、なんて素敵なものではなく、二度目の生は呪いのようなものなのだが。

 

(まあ俺の場合はそれ以前の話だけどな。)

 

 仮に─本当にあり得ない仮定の話だがもしジジイがいたとしたら、エリモスは絶対に顔を出せなかっただろう。育ての父である男を殺したのは、まだ生きていけるはずの彼を死に至らしめたのは、間違いなくエリモスなのだから。

 

 誰もいない地下道に、エリモスの足音だけが響き渡った。

 




ハイディ
 その格好で気品は無理でしょ

ロドス太もも四天王
 個人的にはスカジ・グラニ・カンタービレ・ユーネクテス
 異論は認める

重めの話のときは性癖を開示する。これは紳士の嗜みです。 
そしていい加減気がついたと思いますが、私は骨のある大人の女性が大好きです。


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疵狼奮戦


この話はヴィクトリア編のネタバレを含みます。お気をつけください







Q ロドス後方支援部からのアンケートです。ロドスの制服についてどう思いますか?

1 ノイルホーンの場合
 「文句はねえよ。動きやすいしな。」

2 アンセルの場合
 「そうですね、丈夫ですし、収納ポケットも多くて助かっています。」

3 エリモスの場合
 「(*この回答は不適切だったため削除されました)」


 

「こんにちは、いや、もうこんばんは、の時間ですかね。」

 

 ジメジメとした澱んだ空気と悪臭に満ちたロンディニウムの下水道に、その男は突然に現れた。壁面に設置されていた金属板が急に開けられたかと思うと、彼はそこから出てきたのである。

 突然現れた金髪の男に警戒心を露わにしながら、無言でリタ─ホルンは装備の下に隠していたナイフへと手を伸ばした。相手が何者かはわからないが、仮に敵だった場合、ここで終わるわけにはいかないと、そう思ったのだ。

 

「まあどっちでも良いか。では初めまして、貴女はリタ・スカマンドロス中尉ですね?」

「…だとしたらどうするの?」

「何もしませんよ。少なくとも貴女を傷つけることは、ね。」

 

 そう言って彼は腰に下げていた剣をホルンの足元に放り投げて両手を頭の上にあげた。それはホールドアップ、つまり危害を加えないという証だった。とりあえずの敵意は無さそうだと少しだけ安堵しつつも、彼女は警戒を解かない。彼が怪しい動きをした瞬間にその喉笛を掻っ切れるように構えながら、彼女は男に尋ねた。

 

「そう。…見たところ貴方はヴィクトリア軍人ではないわね。なら、貴方は誰?なんのために私を探しているの?」

「ああ、そう言えばまだ名乗っていませんでしたね。」

 

 そのことに今更気がついたのか、彼は両手を上げたままで名乗った。

 

「俺はエリモス。製薬会社ロドス・アイランドの社員にして、貴女の部下、バグパイプから頼まれて貴女を探しにきたものです。」

「バグパイプですって!?彼女は無事なの!?」

 

 彼の発言の後、狭い下水道にホルンの驚いた声が響き渡った。慌てて口を押さえるももう遅い。彼女の声はきっと遠くまで届いたことだろう。目の前にいたエリモスに至っては突然に大声を出されて渋い顔をしていたが、すぐに真剣な顔をしてある提案をした。

 

「ええ、元気ですよ。ついでに言うと彼女から手紙も預かっています。できればすぐにでも渡したいのですが…今の声が誰かに気づかれた可能性があります。とりあえずここから移動しましょうか。」

「…ええ。そうしましょう。」

 

 エリモスの提案に、ホルンは頷いた。いくら周りに人がいないとはいえ、ここが敵地である以上警戒はしすぎることはない。そんな彼女の様子を見て、エリモスは先程通ってきた通路の方を指差した。

 

「では、こっちへ。さっき歩いた様子だとこの道はまだサルカズ達に見つかっていないはずですから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう何時間歩いただろうか。下水道横の通路の地面は塵や埃が溜まっているうえに汚水や廃液で湿り、歩くたびに足が滑りそうになる。そんな通路を2人が歩いていた時だった。突然ホルンが足を滑らせたかと思うと、その体勢を崩す。幸いと言うべきか今回は完全に崩れ落ちる前にエリモスが彼女を支えることができたため、彼は焦りながらもほっと胸を撫で下ろした。

 

「…ホルンさん、その、大丈夫ですか?こんな場所ではありますが、一度休憩を取りますか?」

「…いえ、大丈夫。問題ないわ。…私たちには時間がない。早く先へ進みましょう。」

 

 これまでゆっくりと、だが確実に2人は進んでいたが、エリモスに比べてホルンの足取りは重く、鈍い。だがそれも無理はないだろう。彼女はコナー群からヴィクトリアまで移送され、そして先日ようやく逃げ出したばかり。つまり心身共に限界なのだから。

 確かに彼女の言う通り時間はない。だが、それを口実にして無理をするのも、今の彼女にとっては厳しいものだと言えた。今まで幾度も休憩を進言したが、彼女はそれらを全て断ったのだ。だからこそエリモスは彼女に対して配慮が足りなかったと自省する反面、ある決断を下した。

 

「…ホルンさん、少し失礼しますよ。」

「なにを…?」

 

 そう言ってエリモスは、額に汗を浮かべて、それでも歩くことをやめない彼女の肩に手を回し、支える体勢を取った。身長差があるために腰を屈めるようになるが、ホルンは長身のため、そこまで苦痛があるわけではない。

 

「…ありがとう。」

「どういたしまして。」

 

 ホルンの持つ装備は重い。ただでさえ衰弱した身体の負担になっていたそれかと支えられて、彼女の足取りは随分と楽になっていた。…いや、それだけではない。確実に地面も歩きやすくなっていることにホルンは少ししてから気がついた。

 

「…地面が、乾いてるの?」

 

 最初に気がついたのは足音の変化だった。エリモスに支えられ始めてすぐ、先程までベチャベチャとしていた足音がしなくなった。そしてそれと時を同じくして、足を滑らせることも無くなった。そのことに気がついた彼女が足元を見ると、足元の泥が乾いて、歩きやすくなっている。

 

「ええ、こっちの方が歩きやすいかと思って乾かしました。俺のアーツは痕跡が残りやすいので出来るだけ避けたかったのですが…この際、出し惜しみはなしでいきましょう。」

 

 ホルンの問いにエリモスはなんでもないことのように答えた。彼にとってはそれよりもサルカズ傭兵たちに見つからないようにする方が大事なのだ。

 

「乾かしたのは貴方のアーツ?炎系統の能力なの?」

「さあ?確かに乾かしたのは俺のアーツですが、系統は分かりません。なんでか知りませんが、俺のアーツは使うと周りが乾燥するんですよ。」

「…なんでそんなのを使ってるの?」

「便利だからですかね?」

 

 先ほどよりも格段に歩きやすくなったためか、ペースを上げた2人は話しながら歩いていく。

 

「貴方のアーツ…雨の日なんかは乾燥機が要らないわね。」

「残念なことに、無理に乾かすからか生地が滅茶苦茶痛んじゃうんでそれができないんですよ。それができたら俺はロドスの人気者だったんですけどね。」

「残念。…実はこの後服を洗いたかったんだけど、それならできそうにないわね。」

 

 ホルンは彼女らしくもない軽口を叩いた。ようやく闇夜の中に一筋の光が見えたからだろうか。

 

「服ならサイズが分かれば代わりのものをすぐに用意しますよ。いえ、それだけではありません。食事も、硬くて良いならベッドも、簡易的にではありますがシャワーだって用意します。」

「…そんなことが出来るの?」

「できます。」

 

 ホルンは上流階級の出身で、スラムには詳しくない。だが、そんな彼女にも今言っていることが難しいことだと言うのは容易に想像ができた。だが、それでもエリモスはできると、そう断言してのけた。

 

「今向かっているのは、俺の拠点です。そこなら簡易的にではありますが、ベッドも、あとは水さえ手に入ればシャワーも使えます。ここを抜けたら、そこで休みましょう。」

「…それは、ありがたいわね。」

「でしょう?戦うのは、無理をするのはそれからです。」

 

 ようやく遠くに光が粒ほどの大きさではあるが見えてきた。その光を見てホルンからああ、とうめき声が聞こえる。この地下で彼女がどれほどいたのかはわからないが、光を見るのはいつ以来なのだろうか。

 

「…見えてきました。あそこから先は地上です。」

「そこは、サルカズたちはいないの?」

「確認済みです。ついでに入り口は隠していますから、そう簡単には見つかりません。安心してください。」

 

 うっすらと涙を浮かべるホルンの肩に回した手に力を込めて、エリモスは歩き続けた。もし彼女がいつ気を失っても良いようにだ。

 

 

 

 

 

 それから何分歩いただろうか。もう意識が朦朧としているホルンの頬を澄み渡った風が撫でた。それは今まで散々に吸ってきた澱んだ空気とは全く違うもの。それを認識して、ホルンは目を見開いた。気がつけば、周りには光が満ちている。

 

「ああっ……!」

 

 光だ。目の前には光が広がっている。

 

 そこには華やかな屋敷はない。豪華な庭も、整えられた草木も、装飾の整えられた街灯も、華やかなものなんてなにもない。だけど、そこは光で満ちていた。

 

 何も考えられずに建てられたのだろう、ひしめき合う崩れかけの建物。テントというのも憚られる、布を張っただけの小屋。そしてそこを行き交う人々。あちこちで、怒号や歓声、ケンカを煽る囃し声までが聞こえてくる。貧しく、そして何もかにも足りていないのに、そこは『生』で満ちていた。

 

「ようこそ、ヴィクトリアの底辺へ。」

 

 気がつけばホルンの目からはボロボロと涙がこぼれ落ちていた。そのことに気づかないふりをしてエリモスはそう言うと、彼女を拠点へと連れていく。もはや動けなくなっていた彼女を抱えるようにして、エリモスは動き始めた。

 

「拠点に着いたら、まずは傷の手当てをしましょう。治療キットは持っていますから安心してください。」

「…何から何まで、本当にありがとう。」

「お気になさらず。…は貴女の力が必要だからやっているという面もあるのです。」

「私の、力が?」

「ええ。」

 

 エリモスに抱えられたままのホルンは驚きながらも尋ねた。

 

「この事態に対して俺たちロドスはあまりにも人が足りず、情報が足りない。それを補うために、現地の協力者が必要なのです。」

「それが私?」

「ええ。貴女なら必ず立ち上がると、バグパイプが言っていたものでして。」

「バグパイプが…!」

 

 はい、とエリモスは肯定した。エリモスとバグパイプは顔を合わせた回数は少ないが、それでも彼女のホルンに対する熱意は非常に強いものだと、そう理解しているのだ。

 

「…一つ、聞いてもいい?」

「なんでしょう。俺に答えられるものならお答えしますよ。」

「ありがとう。…私が戦うとしたら、貴方は手伝ってくれるの?」

 

 エリモスの目を見て聞いてくるホルンに対して、エリモスは一度目を閉じた。

 もしこれがロンディニウムの今を知るまでなら、もしかしたらNOと告げていたかもしれない。彼はあくまで事前調査とホルンの捜索、そして現地での協力者の確保が目的なのだから。

 

 だが今、エリモスは現実を知ってしまった。己の宿命を、この地での地獄のような事実を知ってしまった彼には、もはや選択肢はない。彼は閉じていた目をもう一度開いた。

 

「ええ。俺も戦いますよ。」

 

 …当初の予定はもはや守れない。ロドスが作戦を展開する前に帰るつもりだったが、それはできないだろう。ハイディに頼んでそれをロドスまで伝えてもらわなければならない。

 

 果たしてロドスに戻れるのはいつになるだろうか。いや、俺は戻れるのだろうか。そんなことを考えていると、ほんの少しだけ梅の花の香りがした気がした。




ホルン
 高身長で信念があって諦めなくて強くてスタイル抜群で美人な軍人お姉さん。どうあがいてもエリモスのドストライク。この状況でなければお茶にでも誘っていたと思われる。


途轍もないシリアスになりそうな気配。まあアークナイツって元々シリアス且つベリーハードなんですけどね。ネタを挟む気配がかけらもないのが困ったところです。


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獅子狼戦線

この話はヴィクトリア編のネタバレを含みます。お気をつけください。







Q. ロドスで文化祭をします。なにかやりたいことの希望があれば書いてください。

A.カーディの回答
 「お化け屋敷!」
 《楽しそうでいいと思います》─後方支援部

A.エアースカーぺの回答
 「感電体験会」
 《需要はどこですか?》─後方支援部

A. エリモスの回答
 「コスプレ喫茶。詳細は付属した別紙に。」
 《まさか8ページに及ぶ資料がついてくるとは思いませんでした。》─後方支援部


 

 ロンディニウムのあるスラム。その一角にある小さな粗末な小屋の前で、エリモスは1人佇んでいた。どうも手持ち無沙汰なのか、その手にはレンチが握られており、暇を潰すためか時々くるくると回されている。

 

 と、そんな時だった。目元をゴーグルで隠した、角のあるサルカズの男性がエリモスの方へと近づいてきたのである。その男はエリモスの横に立つと、不機嫌さを隠そうともせずに口を開いた。

 

「…『黒いタイツは?』」

 

 サルカズのその発言を聞いて、男とは対照的にエリモスは上機嫌さを隠そうともせずに片頬を吊り上げた。そのままで朗々と、とてもとてもいい声でその続きを紡ぐ。この場合、いい声の理由は声帯の質ではなく、心の持ちようの問題だ。

 

「『いいタイツ』だ。うーん、いつ聞いても素晴らしい合言葉だな。」

「俺はこれを考えた奴の頭も、採用した奴の頭もイカれていると思うがな。」

 

 サルカズの男、Miseryは満足そうなエリモスに対してそう吐き捨てた。なお、この合言葉を考えたのも勝手にこれを採用したのもエリモスである。

 

「酷いな、Misery。そんなに不満なら他のに変えるか?『無いなら反れ、あるなら丸まれ』とかどうだろ「もういい、黙れ。」はい了解。」

 

 なおこの『無いなら反れ、あるなら丸まれ』は前世におけるエリモスの人生に大きな影響を与えた人物の残した名言である。彼女からは後々彼の人生におけるメニアックの精神を学んだものだった。皆もツンシュンをすこっていけ。

 

「本当にお前は…こんな状況でなんでそんないつも通りなんだ?」

「今はホルンさん寝てるし、焦っても何もできないからな。あ、そうそう情報提供ありがとな、Misery。お前の情報無かったらホルンさん見つけるのにあと1週間くらいかかってたかもしれんわ。」

「構わない。それが俺の仕事だからな。」

 

 ロドスのエリートオペレーター、Miseryは当然とばかりにそう言った。さすがはロドス屈指の仕事人である。エリモスがロンディニウム入りしたと言う情報を手に入れた彼はホルンのいた基地をエリモスに伝え、そこからエリモスはホルンの行動を予測して、救助へと繋げたのだ。

 

「だとしてもだ。この1週間はでかいぜ、ありがとよMisery。」

「そうか。なら受け取っておくとしよう。…今は、彼女は寝ているのか?」

「おう。死ぬほど疲れてるみたいだからな、できれば起こさないでやってくれ。」

「わかった。では挨拶は別の機会にしておこう。」

 

 そう言い残してMiseryはエリモスへと背を向け、足音を立てずに歩いていく。そんな彼の方を見ずに、エリモスは尋ねた。

 

「行くのか?」

「ああ。俺にはやるべきことが残っているんでな。」

 

 Miseryはそれに歩きながら答えた。エリートオペレーターとしてやるべきことの多い彼には、無駄な時間など許されないのだ。

 

「そうかい。死ぬんじゃねえぞ。」

「お互いにな。」

 

 それを最後に、エリモスの周りには再び沈黙が訪れた。くるり、くるりとレンチを回して、エリモスは1人再び動き出す時を待ち続けた。

 

 

 

 

 

 

 その日、ホルンは日差しが差し込む固いベッドの上で目を覚ました。遠くからは羽獣の声も聞こえてくる。

 

「ここ、は…?」

 

 まだ開ききっていない目で周りを見渡すが、確認できるのは粗末な作りの壁と、床に置かれた自分の装備だけだった。見覚えこそ無いが、そこは今まで彷徨っていた下水道のとは違う、明らかなら住むことを前提とした場所。それを認識したあたりで、ホルンの頭は徐々に動き始めた。

 

「そうだった、私は…」

 

 思い起こされるのは昨日起こった怒涛の展開。基地から脱走に成功したはいいものの、下水道を彷徨うしか無かった自分が出会った謎の人物。そしてバグパイプに頼まれて自分を探しに来たと言う彼に連れられて、私は─

 

「セーフハウス、ね。こんなのがあるなんて。」

 

 ベットから上体を起こして、ホルンは呟いた。このセーフハウスにたどり着いた後、治療とシャワー、そして温かい食事を終えてからの記憶が彼女には無い。おそらくその直後に眠ってしまい、ベッドまで運ばれたのだろう。…シャワーの際、自分でも悲鳴をあげるほどに汚れが出てきたのは内緒だ。…と言うか、この状態で私は彼に支えられていたのか。非常事態だから仕方なかったとは言え、1人の女性として大切なものを失った気がする。そんなことをホルンが考えていると、扉が3度叩かれるとともに小屋の外から声がした。

 

「ホルンさーん、起きましたー?」

「ええ、すぐそっちに行くわ。」

「ゆっくりで大丈夫ですよー。」

 

 外から聞こえてきたエリモスの声に応えて、ホルンは身体にかかっていた布団を跳ね除け、立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはようございます、ホルンさん。ちゃんと眠れました?」

「ええ。お陰様でずいぶんと久しぶりに眠れたわ。」

「そいつは上々。突然寝落ちした時はビビりましたが…まあそれだけ疲れてたんでしょう。」

 

 ホルンの現在の同行者にして協力者、エリモスは小屋の外にいた。彼はホルンが出てくるまでレンチで手遊びをしていたが、彼女が起きてきたのを確認すると荷物の中からレトルトの麦粥(ポリッジ)の袋を取り出した。

 

「味気ないレトルトですが、食べますか?流石に普通の食事はまだ厳しいでしょうし。」

「ええ、頂くわ。貴方はどうするの?」

「俺はもう食べてますから大丈夫です。今温めますから、少し待ってくださいね。ついでに食べながらでいいので、これからの話をしましょう。」

 

 そう言った彼は横に置いていた荷物の中から携帯コンロを取り出し、そこで何かに気付いたのかホルンの方を向いて、口を開いた。

 

「あ、それとですが、今って小屋の中入っても大丈夫ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 ふつふつと沸いたお湯の中に入れられたレトルトの袋と横に置かれたビタミン錠を見ただけで、ホルンの胃袋は過敏に反応した。この数ヶ月碌なものを食べていない彼女にとっては、ビタミン錠剤と麦粥ですら、途轍もないご馳走なのだ。

 

「一先ずしなければならないことですが、まずは人を集めます。現状我々は2人ですが、このままではサルカズに戦いを挑むどころか、小隊にすら何もできずに負けるでしょうから。…うわ熱っ!」

 

 温まった袋のフチを切って、ホルンに手渡しながらエリモスは言った。

 

「熱ぅ…それと、俺の私用にはなりますが、貴女が無事に見つかったとロドスに連絡を入れなければなりません。それから俺がまだしばらくロンディニウムに残ることも。」

「ええ、それならこの後すぐにそうするとしましょう。誰かトランスポーターでもいるの?」

「ええ、ロドスの協力者がいます。彼女に頼んだらどうにかなるはずです。」

 

 コンロをしまい、今度は地図を取り出してホルンに見せながらエリモスは続けた。地図には印のようなものは何も書かれていない。

 

「それからもう一つ、今ロンディニウムには『自救軍』と呼ばれる抵抗組織があるようです。おそらくは同じ目的を持つものとして、できるだけ彼らとは関わりを持っておきたいですね。俺たちは直接行動をともにせずとも、後続のロドス本隊が関わる可能性がありますから。」

「なら、彼らを探すのもしなければならないと言うことね。…やることが多いわね。」

「何もできない、よりはマシでしょうよ。」

 

 頭を抱えたホルンに、エリモスは笑った。彼は地図をホルンに押し付けるようにして渡すと、今度は荷物の中からコンパクトな工具箱を取り出した。

 

「あとは…貴女のその装備を整備しましょうか。このしばらく碌な整備もできてないでしょうし、流石にガタがきているでしょう?」

「貴方、整備までできるの?」

「任せてください。これでも本職は機械工ですよ、俺は。」

 

 そう言ってエリモスは不敵に笑った。

 

 数分後、そんな彼がホルンの装備のあまりの複雑さに悲鳴をあげたのはまた別の話である。

 

「おのれヴィクトリア軍!こんなに技術力が高いなんて聞いてないぞ!」

「…まあ普通に考えてそういう情報って軍事機密よね。できないなら工具だけ貸してちょうだい。私が整備するから。」

「あ、はい。おなしゃす。」

 

 彼らが動き出すまでは、まだしばらく時間がかかりそうだ。





妖狐×僕SSはいいぞ


ホルンの装備はあのクロージャですら驚くほどに複雑らしい




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獅子狼戦線 2


この話はヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。







【すごく雑な人物紹介】
シージ
 カリスマのある方のアスラン。大体いつも酸っぱい飴を咥えている。

エリモス
 カリスマのない方のアスラン。大体いつもアレなことを考えている。

マドロック
 エリモスのマブダチ。白髪赤目はオタクによく刺さる。筆者の性癖その1。

リード
 エリモスとちょっと色々あったドラコ。尻尾がよく動く。

ホルン
 エリモスの現在の協力者。筆者の性癖その2。


 

『おや珍しい。あなた、この本読むんですか?』

 

 彼と初めて話したのはロドスへ来てすぐの頃だった。鉱石病と怪我の治療が行われていた当時の私にとって、図書室は数少ない楽しみだった。ロドスの図書室は多くのオペレーターのために多種多様な蔵書が取り揃えられており、私を退屈させることがなかったのだ。

 

 その日も私は、読む本を探して図書室内を彷徨いていた。そのまましばらく歩いたのち、私がたどり着いたのはヴィクトリア文学のコーナー。その一角の目立たないところで、私は一冊の本を見つけたのだ。

 

 それはヴィクトリア人の詩人によって書かれた詩集。少し前に発表され、王都では人気を博していたそれは、私がいた環境も相まって読むことができていなかったものだ。私は少しの歓喜と共にその本を手に取った。

 さて、私が彼に声をかけられたのはその本を手に取って、中身をパラパラと見ていた時だった。急に声をかけられた私が驚いて肩をびくつかせたのを見て、彼は慌てながらもぺこぺこと頭を下げた。

 

『すみません、急に声をかけてしまって…。確か、あなたは最近入ってきた新人さんですよね?ヒロック郡から来た。』

 

 そうだ、と簡潔に私は答えた。別にこの男に素性を明かす気はなかったからだ。だが男の方も別に私の素性に興味はないのか、その本の方に話を振った。

 

『それでですか。図書室で初めて見る顔なんで物珍しくてつい声をかけてしまいました。驚かせてしまったのは…ほんとすみません。』

 

 構わない、と返した。それと同時に、その男の耳と尻尾が、私と縁深いもののそれであることに気がついた。とはいえ向こうが私の種族に気がついた素振りはなかったので言及することはなかったが。

 

『おっと名乗っていませんでしたね。俺はエリモス。戦闘部所属の重装オペレーターにして、後方支援部所属エンジニアの1人でもあります。もし装備のことで何かあれば是非ご一報を。』

 

 エリモス。その名前はヴィクトリアらしくない名前だな、と言う感想しかなかった。後から聞いた話だが、実際にGreek、というヴィクトリア語ではない言葉からとったらしい。

 

『ところで、あなたの名前は?お伺いしても?』

 

 名乗られたのならば名乗り返さなければ。そう思って私は自分の名前を彼に教えた。

 

 自分の名前はリードである、と。

 

 この時以来、私はちょくちょく彼と話すようになり、同じ作戦に組み込まれることも多くなっていた。短い時間ではあったが、最後の方は、友人と、そう呼んでもいい関係だっただろう。

 

 エリモスのそばは心地よかった。彼はよく笑い、誰よりも前へ出てみんなを護り、少しでも多くを救おうとその足を進め、手を伸ばす男だったから。私も、彼のそばでは誰かに強いられた役割ではなく、素顔を晒せた気がしたのだ。…だからこそ、最初に私は気づくべきだった。そうしておけば、彼のあんな顔は見なくて済んだのだろうから。

 

 砂漠で葦は暮らせない。私はそのことに気づくべきだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ”助けてくれマドロック。”

 

 

 エリモスは拠点の中で遠いところにいる友人にそう願った。彼はつい先ほどまでありあわせの材料からクロスボウと弓を作っていたのだが、その作業の手を止めてまでである。そんな彼の視線の先には現在の同行者にして、現地協力者、ホルンの姿がある。彼女は工具を片手に、自分の装備の整備に精を出していた。

 

 ”本当に助けてくれマドロック。”

 

 そんな彼女の背中を目で追いながら、エリモスは心の中のイマジナリーマドロックへと助けを求める。

 

 ”このままだと俺この人のこと好きになってしまう!”

 

 お前本当にこの非常事態に何をやっているんだ。ほかの人に知られたら確実にそういわれそうなことをエリモスは考えていた。

 

 だがそれも仕方ないのだ。このホルンという女性、恐ろしいほどにエリモスの好みど真ん中なのである。彼女は強く、賢く、不屈の精神を持ち、かつ輝かしいほどの美貌を兼ね備えた傑物である。ついでに言うと動きやすいように改造されたその制服がどちゃくそ好みだったりする。

 

 ついでなので彼女の着ている服装について語るとしよう。彼女の服装はこう、なんというか、基本的には戦闘用の上着を纏っているのに、要素要素が露出しているのがそれが余計にメニアックさを引き立てているのである。例を挙げるならゴツ目の上着の下にタンクトップを着ていたりとか、なぜかボトムスがホットパンツ?とサイハイブーツだったりとかである。上着は上着で丈が短く、実質的に半袖といってもいいレベルなのだ。加えて言うと、ええ、どこ見ているんだと言われそうだがその胸元の謎ベルト。それいります?いや、ちゃんと落ちてこないように何かを支えてはいるんだろうけど、そこじゃなくてもいいじゃん。そこじゃなくてもいいじゃん?場所変えよう?

 

 総評すると、ただでさえ全体的にこう、アーミーな感じなのに要素要素で女性らしさが見え隠れする、素晴らしい服装なのである。さすがヴィクトリア、我が第二の故郷にして変態紳士の跋扈する国である。彼らが軍人に対してもその精神を発揮していることに賞賛を隠せない。ぜひ服飾担当者とは話してみたいものだ。この状況だし生きているか知らんけど。仮に生きていたらロドスに勧誘する。絶対にだ。

 

 まあ少し話がそれたが、何が言いたいかというとこのホルンという女性がありとあらゆる面でエリモスの好みドストライクという事実である。そんな人と狭いセーフハウスで一緒に暮らしているのだ。彼がそんな思考にたどり着いてしまうのも仕方ないといえよう。

 

「…どうしたの?何か問題でもあった?」

「あ、いえ、なんでもないです。少し考え事をしていただけで。」

 

 少し長く手を止めすぎたからか、ホルンもまた作業の手を止めてエリモスに尋ねた。正直、こんなことで作業を中断させたのがあまりにも申し訳なさすぎる。

 

「そう。…私の方はもう直ぐ整備が終わるわ。弾薬が足りないのがネックだけど…こればかりはどうにもならないわね。」

「流石にここで源石を加工して弾薬を作るのは無理ですね。あるものを切り詰めるしかなさそうです。」

「なら基本的にはクロスボウを使うことになりそうね。いくつできた?」

「クロスボウが4に弓が6です。矢もそれなり、と言ったところでしょうか。…用意したのは遠距離武器ばかりですが、よかったんですか?」

「ええ。例え兵士を助け出せたとしても彼らは弱っているはず。なら、下手に前に出すよりも後ろから射撃に徹させた方がいいわ。」

「なるほど。」

 

 そう言ってホルンは整備を終えた装備を持ち上げた。それは盾にして砲。個人携行用の武装でありながら、要塞の如き威容をたたえた武器である。彼女がそれを身に付けたのを見て、エリモスは作り上げた武器をバックパックの中にしまい込み、自身の剣と大盾を身に付けた。

 

「エリモス、とりあえずはハイディ氏の元へ向かうのでいいの?」

「ええ。まずはハイディ氏の元へ行きます。そこで連絡を済ませ、自救軍の情報を得たのちに彼らと接触。軍の生き残りを捜索しつつ、彼らと接触します。」

 

 金属の触れ合う音を立てながら、2人はセーフハウスの外へ出ていく。今の時刻は夕方、灯りの少ないスラムではこれから本当の暗闇が広がる時間帯だ。だからこそ、人目を避けた行動ができるのだ。

 

「ハイディ氏の元へは俺が先導します。地下の道筋が分かりますし、種族柄、夜目が利きますからね。」

「流石は()()()()()ね。頼りにしてるわ。」

 

 刻一刻と闇の濃くなるスラムへと2人は歩き出した。ホルンはヴィクトリアを奪還するために。そしてエリモスはこれ以上の犠牲を出さないために。

 

 かつてこの国のために戦った英雄たちと同じように、獅子と狼は自らの命を賭けた戦場へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、ヴィーナ。ちょっといいかな。」

「ドクター?どうしたんだ?」

「いや、少し聞きたいことがあってね。」

 

 ロドス艦内。ドクターはあることを尋ねに、シージと接触していた。それも人払いの済ませた執務室で、である。

 

「聞きたいこと?私とドクターの仲だ。なんでも聞いてくれ。」

「そうかい。なら聞くんだけど…。」

 

『君とエリモスはどういう関係なんだい?』

 

 彼のその問いにシージは目を細め、数秒の沈黙ののちに口を開いた。

 

 




エリモスとリード
 意外にも仲が良かったらしい。実際にはそうならなかったがもしこの2人が付き合い始めたら、シージとケルシーは胃痛で倒れていた。

ヴィクトリア軍の服飾担当
 ロドスに来てくれ。お前の力が必要だ。

シージとエリモス
 別に仲がいいわけではない。基本的には整備士と顧客の関係である。


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獅子狼戦線 3

この話はヴィクトリア編のネタバレを含みます。お気をつけください。








いやー今回のイベントどうです?サリアさん強すぎません?流石俺たちの主任。なんか漫画でも掘り下げられてるので見てない方はそちらも是非。公式Twitterから見れますよ。


 

 私たちの戦いはいつだって死との隣り合わせだ。だからこそ、死者に対してどうしても鈍感になっていく。特に私は、過去の在り方から死者に対してなんの感慨も持たなくなっていた。他のオペレーターたちも、大なり小なりその傾向にあったと思う。

 

 あいつを除いて、の話だが。

 

 その日の死者は敵である暴徒の1人だった。彼は最後の最後に懐の爆弾を起爆し、自らをも焼きながら壮絶な最後を遂げた。あまりにも痛ましいその最期は、悲惨なことに我々になんの被害も与えず、そして私たちにとってありふれた死の形でしかなかった。そのためか、作戦に参加していたオペレーターたちは各々の事後処理にあたったのだ。

 

 そんな中、ふと彼を探すと、彼だけはその遺体の前にいた。遺体の前に屈んでいた彼は、両手を合わせてただじっと目を瞑っていた。どんな流儀の元の儀式なのかはわからなかったが、あれは確かに死者への弔いだった。…それを見て初めて、私はあいつとの明確な違いを認識したんだと思う。

 

 自分の手がもう取り返しがつかないほどに、あまりにも紅く染まっていることに初めて気がついたのは、その日のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…エリモスは、まだ帰ってこないのか。」

 

 ロドスの一室で、マドロックは1人呟いた。彼女の手にはエリモスから託された小さなジョウロがあり、それを使って梅に水をやっていたのだ。マドロックは律儀に毎日世話をしているのだが、そんなものは数分で終わる。空になったジョウロをコトリと置くと、彼女はベッドへと倒れこんだ。

 

「…………。」

 

 そう言えば、エリモスとここまで顔を合わせなかったことは無かったんじゃないだろうか。自分しかいない静かな自室で、マドロックはそんな考えに至った。今になって思えば、自分とエリモスが長期の別行動をしたのはそれこそ湿地帯での長期任務の時くらい、それも1週間程度の話である。それ以外はだいたい何かしらで毎日顔を合わせていたのだ。

 

「……もうすぐ、帰って来るはずなんだがな。」

 

 確か予定ではそろそろ帰ってくると言っていたはずだ。そもそもエリートオペレーターでないエリモスは、その任務の難易度が彼らのそれとは大きく異なる。とは言えエリモスやサリア、ニアール、ユーネクテス、そして自分のような者たちはエリートオペレーター相当に数えられるためあまり当てにはならないのだが…それでも、そろそろ帰ってきてもおかしくない頃合いなのだ。

 

「…………。」

 

 そこまで考えて、マドロックは首から下げた鍵を手に取った。エリモスから預かったそれは、かなりアンティークなデザインのもの。聞いた話では例の棚は昔打ち捨てられていた家具を修理したものらしい。いい拾い物をしたぜ、とドヤ顔で自慢してきたのをよく覚えている。

 

「…会いたい、な。」

 

 鍵をぎゅっと握りしめて、マドロックは小さくそう呟いた。

 

 

 そして、エリモスがヴィクトリアへの駐留を続けることになったとマドロックが聞いたのは、その日の夜のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「自救軍の拠点はこの辺りなのよね?」

「地下ですがね。まあ、この辺りって分かってれば入り口も分かってはくるんですが。」

 

 ハイディとの接触を終えて、ロンディニウム市街の人気のない裏道を2人は歩いていた。全身に装備を満載した今、下手に表を歩けばそれだけでサルカズ傭兵たちに怪しまれてしまう。だからこそ2人はエリモスの主導で人の目を避けながら、少しずつ自救軍の本拠へと近づいているのだ。

 

「…私はロンディニウムにはずっと住んでたのに、貴方には頼りっぱなしね。」

「逆に俺は中心部は何もわかりませんからおあいこですよ。そもそも貴族には貴族の、スラムにはスラムの生き方というのがあります。それが交わった今回が異常なんです。」

 

 疲労からか、ホルンの口かららしくもない愚痴がこぼれた。

 

「スラム、ね。貴方の態度はスラムの住人らしくはないけど、そう言えばそうだったわね。」

「…俺みたいなのは極少数派です。勘違いなさらないように。」

 

 少しだけ吐き捨てるかのようにエリモスは言った。彼の過去はあまりにも特異で、そして幸運にも周りに恵まれたということを彼は自覚しているのだ。

 

「…さて、ここですね。ここを潜れば自救軍の元へい…!?」

 

 行けるはずです。ある扉の前でエリモスがそう言おうとした時、突然に周囲が爆音に包まれた。爆音に遅れること数瞬、衝撃波と砂埃が襲いかかる。

 

「何事!?」

「爆発かしら。こんな街中で起こるなんて…戦闘かしら?」

 

 路地裏にまで住民や警邏にあたっていたサルカズ傭兵たちの声が届くなか、ホルンは極めて冷静に事態を把握しようと努めた。その姿は、流石は歴戦のヴィクトリア軍人である。それに追従するかのように、エリモスも絞っていた耳を激しく動かして、周りの観察を始め、すぐに答えを出した。

 

「場所が場所ですし、あり得なくはありません。…どうしますか?」

「行くわよ。状況によっては加勢するから、準備を済ませて。」

「必要ありません。いつでも行けますよ。」

 

 鋭い眼光と共に出されたホルンの号令に、エリモスは盾を軽く叩くことで応えた。それと同時に剣と盾に僅かな光が集まっていく。その光は、アーツを撃てる準備が整った証だ。

 それを見て、ホルンも自分の持つクロスボウに矢を番えた。腰の矢筒の中身を確認し、爆音と煙の中心へとその視線を向ける。

 

「そう。なら行くわよ。」

「了解です。」

 

 濁流の如く押し寄せる人混みにかち合わないように注意しながら、それとは逆の方向へと彼らは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 サルカズの部隊に捕まった自救軍のメンバーを助ける。それが彼ら、フェイストの率いる部隊の目的だった。

 基地に忍び込み、仲間を助け出す。彼らの任務は言葉で言うのは簡単だが、実行するのはあまりにも難しかった。現に今、潜入前に見つかった彼らは小規模ではあるが警備部隊に追われ、苦戦を強いられているのだから。

 

「ロックロック!そっちはどうだ!?」

 

 彼らを率いる青年、フェイストは戦いながらも遠くでドローンを操る黒髪のフェリーンに大声で尋ねた。

 

「みんなまだ大怪我はしてない!だけど、このままじゃ…!」

「くそっ…!」

 

 ロックロックの悲痛な叫び声を聞いて、フェイストはその顔を歪めた。彼らは元はただの一般市民。戦闘訓練なんて受けたこともないし、装備だって貧弱だ。今傭兵部隊と戦えているのが奇跡と言ってもいい。

 

「何をしている!早く捕えろ!」

「「「はっ!」」」

 

 そんな彼に、更なる絶望が襲いかかる。今まで様子見に徹していたサルカズたちが本格的に自救軍を始末するために動き始めたのだ。圧倒的な戦力を有する傭兵たちは、自救軍の決死の反抗も意に介さず、どうにか空けていた両者の距離をみるみる縮めていく。

 

「そんな…ドローンが!」

 

 そんな彼らに更なる悲劇が襲いかかった。重要な戦力であるロックロックのドローンが急に制御不能に陥ったのだ。もはや顔色が悪いを通り越して青白くなったロックロックを嘲笑いながらサルカズたちは武器を構えてその距離を縮めていき─

 

「…通信が、途絶えた?」

 

 急に耳の通信機を押さえてその足を止めて立ち止まった。そんな彼らの唇に、突然にヒビが入り、そこから一筋の赤い血が流れ落ちる。その血を拭った指を見て、その顔を驚愕に染めながら彼らは口を開いた。

 

「…なんだ?アーツか?」

「だが、こいつらの中にそんなことができる奴がいるのか…?」

 

 二度起こった異常。いや、それだけではない。気がつけば周りの中空には、無数の砂が漂っている。明らかに普通ではありえないそれによって、彼らは自救軍の面々からついに意識を外した。外してしまった。

 

 それこそがその犯人たちの狙いなのだとも知らずに。

 

 傭兵たちは足を止めた。自救軍の面々が走って逃げる隙を与えた。彼らとの距離を空けてしまった。

 

「誰だ…!」

 

 未だに姿を見せない犯人に対して傭兵の1人が吠える中、その返答は凄まじい速さで放たれた矢だけであった。視界がどんどんと悪くなる中、次々と放たれるそれは恐ろしいほどの精密さをもって傭兵たちを撃ち抜いていく。

 

「ぐっ…!?」

「おい、しっかりしろ!」

 

 まさかの奇襲。それの対応に追われる中、ついに漂っていた砂は激しく躍動を始め、砂嵐へと変貌した。傭兵たちの付けているゴーグルは砂にひっきりなしに叩かれ、視界が奪われる。耳につけたヘッドホンだってそうだ。今やなんの通信も拾わなくなったそれは、砂に打たれて雑音を発するだけのものとなっている。

 

 霧の街、ロンディニウム。本来砂嵐とは無縁のその街は、今やあり得ないほどの砂塵で埋め尽くされようとしていた。

 





 ライン生命だけじゃなくてマドロックも公式は掘り下げてくださいお願いします。元敵幹部で、鎧の下が美女とか言う超美味しい役どころですよ?

 ところで、ミントってオペレーターいるじゃないですか。僕あの子中学生か高校生の16、17歳くらいかなって思ってたんですよ。見た目的に。
 大学生らしいですあの子。マジで?うちのエリモスより下手すりゃ年上なの君?


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砂塵遁走 1

この話はヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。






『エリモスって割となんでもできるけど、弱点ってなんなの?』─ドクター
『感動もののホームドラマを見せたら一瞬で涙腺があばあばになるぞ。』─マドロック
『…マーマイトが苦手。』─リード
『NTRものは死ぬほど嫌いみたいだな。』─スポット
『そういうのじゃなくてさあ』─ドクター



 

「…まさかここまで上手くいくなんて。流石ね。」

 

 砂嵐によって機能不全に陥った傭兵部隊を見て、ホルンは感嘆の声を上げた。やってみせます、と言うから任せたものの、本当にやってのけるとは思わなかったのだ。

 

「ロドスは人数少ない分、こう言う作戦することも多いですから、慣れてるんですよ。…てかホルンさんこそよくこの距離で、しかも視界悪い中で当てましたね。」

 

 手に持ったアーツユニットである剣に全力で力を込めながら、エリモスは返した。よほど力をこめているのか、その額からは汗がボタボタと流れ落ちている。

 

「そう言う手筈だもの。外すわけにはいかないわ。…エリモス、あの砂嵐はあと何分持つ?」

 

 ホルンの構えたクロスボウのスコープ越しに、砂嵐に紛れて自救軍のメンバーがどうにか逃げおおせたのが確認できる。幸いと言うべきか彼らの進行方向は自分たちに程近く、この後すぐにでも合流できるだろう。

 

「…30秒持てばいい方ですかね。ただあの砂嵐を維持するだけなら3分はいけるんですけど…。」

「けど?」

 

 力を込めすぎたのかゴフッと咳き込みながら、エリモスはじっと砂嵐を睨んで、言った。

 

「所詮アレはアーツの産物ですし、何より今回は範囲を広げた分威力が低い。…それがわかっているなら、あいつら絶対どうにか対処してきますよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

「鬱陶しい…!」

 

 全方位から襲いかかってくる砂嵐に対して、傭兵の男は忌々しそうに吐き捨てた。これのせいで視界は奪われて、聴覚すら潰されている。頼りの通信は完全に遮断され、あと一歩というところまで追い詰めていた自救軍にも逃げられた。突如として吹き始めたこの砂嵐が完全に状況を覆したのだ。

 

「…そして本当に、忌々しい!」

 

 その怒りを胸に傭兵は吠えた。彼が吠えると同時に、その怒りに呼応するかのようにその手からアーツが放たれる。本来アーツユニットを使わないと使用できないアーツ、だが感染者である彼は、それを介さずに極めて強力なアーツを行使することが可能だった。

 

 彼から放たれたアーツが、周囲の砂嵐と激突し、アーツの衝突時独特の光を放った。しばらく二つは拮抗していたが、徐々に傭兵のアーツが砂嵐を押し返し始める。そして数秒もしないうちに、彼のアーツは自身の周囲から砂嵐を完全に吹き飛ばすことに成功していた。

 

「いつまでそうやっている!」

 

 まずは1人。砂嵐から脱した戦士は仲間へと檄を飛ばす。

 

「お前たちはこの程度のアーツにしてやられるのか!?その程度の雑魚の集まりか!?んなわけねえだろうが!」

 

 まだ彼以外は砂嵐の中、聴覚は封じられているはずだ。なのに、その声に応えるように、一つ、また一つと砂塵の中で光が生まれ、砂埃を吹き飛ばしていく。その様子に、最初の傭兵は頬を吊り上げた。

 

「そうだ、それでいい!こんな砂埃くらい、とっととどうにかしやがれ!」

 

 20秒も経つ頃には、周囲の砂嵐はほぼ完全に吹き飛ばされていた。そしてそのあとから、傭兵たちが重厚な足音を立ててその姿を現した。

 

「…お待たせしました、隊長。」

「遅え!」

 

 負傷した者も、比較的無事な者も。全身がアーツを纏った砂によってその身に纏った装備が痛めつけられながらも一度は完全に策に嵌ったはずの傭兵たちの士気は微塵も落ちていない。寧ろ、してやられたことに対する怒りからか普段に増して全身が気迫に満ちている気さえした。

 

「それは失礼。さて、どうしますか?」

「決まってんだろ!追うぞ!」

「「「了解!!」」」

 

 隊長の号令に応え、傭兵部隊は雄叫びをあげた。彼らは悪名高いサルカズ傭兵団。獲物は地獄の底まで追い詰める。武器を握るその手に力を込めて、傭兵団は一つの生き物の如く動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、やばい。」

 

 アーツユニットに力を込めていた手を止めたエリモスが、突然に双眼鏡を目に当てて呟いた。

 

「…どうしたの?砂嵐が破られた?」

「だけなら良かったんですけどねえ。感覚奪った上での奇襲かましたのにあいつらまじで士気が欠片も落ちてません。どうします?」

「…流石はあのサルカズ傭兵ってところね。対応力としぶとさが半端じゃない。」

 

 その報告に、あれこれと思案していたホルンは顔を顰めた。普通なら、あんな芸当を見せられたら少しは怖気付くものなのだが、彼らはその真逆。命ある限りは何度でも立ち上がる、相手にしたくないタイプの筆頭にくる連中であることを再認識してしまったのだ。

 

「…どうもこうも、ここから離れるしかないでしょう。私たちも自救軍の方へ行くわよ。」

「ですよね。」

 

 言うが早いが2人は全力でその場から走り出す。幸いにも彼らとの距離は離れており、自救軍が逃げた痕跡も砂で覆い隠せている。今すぐ追いかけても傭兵たちにすぐ追い付かれることはないだろう。

 

 傭兵たちの怒号を背に2人はロンディニウムの街を駆けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「隊長、今の砂嵐、なんだったの?」

「…わからない。わからないけど、俺たちにとっては幸運だったのは間違いないよ、ロックロック。」

 

 同時刻、自救軍の面々はどうにか砂嵐に紛れて逃げ切ることに成功していた。メンバーは何人かが軽傷を負い、任務も達成できなかったがそれでも全員が生き残れたのは本当に幸いと言っていいだろう。

 

「もしかしてさ、この街に私たちの知らない味方がいたりするのかな。ほら、ハイディさんみたいに表立って行動してないだけでサルカズ傭兵に立ち向かってる人が。」

「それは…いや、待てよ?」

 

 そんなロックロックの言に、フェイストはあることを思い出していた。それは彼女の言うハイディの伝えた情報。『自救軍の協力者になるはずのロドスのオペレーターが既にロンディニウムにいる』という事実。もし彼女のいうことが真実だとしたら、その人物が助けてくれた可能性がある。

 

「ロックロック、もしかして…」

「そう、そのもしかしてですよ。」

 

 それを口にしようとしたところで、突然に頭上から知らない声がした。そのことに驚いて見上げると、ビルの屋上から飛び降りてくる。2人の金髪の人物。おそらくはループスと…フェリーンだろう。彼らは高所から飛び降りたにもかかわらず綺麗に着地を決めると、すぐに立ち上がった。

 

「上から突然に失礼。さて…まずはご無事で何よりです、自救軍の皆さん。どうにか間に合って本当に良かった。」

 

 先に口を開いたのは金髪の男の方だった。声からしてさっき声をかけてきたのもこの男だろう。

 

「…もしかして、さっきの砂嵐は君が?」

「ええ。俺のアーツです。…名前も素性もわからないのもあれですし、簡単に名乗っておきましょうか。名刺がないのは許してくださいね。」

 

 そう言って男は全員の視線が集まる中で言った。

 

「俺はエリモス。ロドス・アイランド製薬の戦闘オペレーターです。今は本隊が動く前の先行メンバーとして活動しています。で、こちらが…」

「リタ・スカマンドロス。ホルンでいいわ。所属はヴィクトリア軍、階級は中尉。…階級なんて今はなんの意味もないけれど。それでも私たちは、ヴィクトリアを取り戻すために戦っているわ。」

「ヴィクトリア軍…!」

 

 誰かが息を呑んだ。今やヴィクトリア軍はなんの機能もしていない。そんな中で、今こうやって戦っている人物がいるのは驚くことであった。

 

「…思うところはあるかもしれませんが、今はそういう時間はありません。どうか、貴方達の拠点へ連れて行ってはもらえませんか?」

 

 場の雰囲気を察したのだろうか、そんなエリモスの発言に一同は顔を見合わせたあと、駆け足で拠点へと向かっていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「驚いたな。」

 

 城壁の上。1人のサルカズの男が、砂嵐の吹いた跡を見下ろして呟いた。

 

「まさか自救軍にあれほどのアーツを使えるものがいようとは。…いや、自救軍とは限らないか?」

 

 生憎、術者の存在は観測できていない。おそらく、術者は観測者(スポッター)の存在を恐れて、無理矢理にでもあれほどの広範囲に砂嵐を広げたのだろう。そしてそれは正体を隠し切ったという意味では確かに良い手であったと言える。

 

「だが、二度目はない。」

 

 サルカズの男、マンフレッドはそのアーツを知っている。術者が誰かこそは知らないが、それでもそのアーツが放たれた痕跡を見て、その能力が何かを察したのだ。

 

「次見た時は…そうだな。完成したこの砲をもって撃退させてもらうとしよう。」

 

 念には念を。なにせあれは自分たち(この街)の天敵なのだから。

 

 城壁の上にずらりと並ぶ砲を背に、眼下のどこかにあるであろう相手を思ってサルカズの将軍は唇を舐めた。





 サリアさんのロリ時代出たじゃないですか、漫画で。あの人にもあんな時代があったんだなって安心したんですけど、あの人すごいしんどい人生送ってるなって感じでした。なんか、鉱石病とかのしんどさじゃなくて、こう…理解できるしんどさというか。そりゃあんな性格になるよなって感じしました。

 あとドロシーですね。引きました。出るまで。なのでドロシーさんについて語りますね。
 まずなんですかその可愛らしい顔立ちは。あなた本当に主任なんですか?成人していて、しかもその身長でその可愛さは卑怯ですよ本当に。はーやっぱテラはみんな顔がいいぜガハハ。ついでに大きなお耳とか最高ですよね。なんというか、ザラックらしいというか、すごく好きです。服装についてですが、基本的には「研究者」って言っても通じる服装してるんですよねこの人。ちょっとお胸のガードが緩くてスカート丈が短いだけで。あーだめですえっちすぎます。よくも白衣をここまで神デザインにしたもんですわほんま。マジリスペクト。しかもあの格好で、肩が出ているんですよ。肩が!出て!いるんですよ!これはえっちポイント高い。グリフィンドールに1万点。なんか手袋も左右でデザイン違うし、左手は長い指抜きグローブですし。そんなの嫌いな人おらんやん。ドロシー半端ないって。そんなのできひんやん普通。長手袋つけた綺麗なお姉さんとか嫌いな人おらんやん?そしてあのおみ足ですよ。生脚!そう、ショートブーツに生脚なのですこの人!わかってらっしゃる。これには脚フェチ大歓喜。いやーやっぱアークナイツは最高だぜガハハ。
 みんなもドロシー引こうね。おじさんとの約束だぞ。


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反旗掲揚 1


 この話はヴィクトリア編のネタバレを含む可能性があります。お気をつけください。




そしてみんながイベントやってることを信じて書きました。
もししてない方がいらっしゃいましたらネタバレを含みますので、お気をつけください。


 

 ドラコとアスラン。同じように王の血を引く存在でありながら、私たちは真逆だった。

 

 立場を強いられ続けた私と、自由であり続けた彼。

 殺すために戦う私と、生かすために戦う彼。

 

 彼のあり方は私の手に入れられなかったものだった。だからこそ、きっと私は彼に憧れたんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こっちこっち、みんな急いで!」

 

 遠くの方から怒号と号令が響く元ヴィクトリア軍の施設内を、私は助け出した自救軍のメンバーを連れて走っていた。敵に見つからないように慎重に、だけど戦っているみんなに負担をかけないように出来るだけ早く。そうやって衰弱したメンバーを励ましながら、私は走っていた。

 

「ロックロック、助けてくれたのはありがたいが…大丈夫なのか?この先にもサルカズたちがいるんじゃ…。」

 

 そんな中、1人のメンバーがヨタヨタと走りながらも、心配気に尋ねてきた。彼の全身には無数の傷があり、今までどんな扱いを受けてきたのかが窺える。そんな彼を勇気づけるために、私は出来るだけ明るい声を出して答えた。

 

「大丈夫。今の私たちには、頼れる援軍がいるから。」

 

 ちょうどその時、遠くにあった煉瓦作りの建物が砂へと変わっていくのが見えた。それと同時に、サルカズたちの悲鳴が聞こえてくる。この様子だと、流石というべきかきっと彼はうまいことやったのだろう。

 

「ほら、みんなもう少しで合流できるから、頑張って!」

 

 もう少しで隊長たちの元に辿り着ける。みんなをそう励まして、私も両足に力を込めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【拝啓、親愛なるマドロック様。

 ヴィクトリアは日に日に事態が悪くなっていますが、いかがお過ごしでしょうか。ロドスは変わりないでしょうか。】

 

 ガチャガチャと手元の工具を操って、簡易的なクロスボウを作り上げる。先日からの自救軍との連携の結果、捕えられたヴィクトリア軍人と自救軍のメンバーを救出したため、今武器が足りていないのだ。

 ならば武器の補充を、というところで自救軍の指揮官、クロヴィシア嬢とホルンさんからクロスボウを要請されたため、製作ノウハウを持つ俺が量産に勤しんでいるのである。

 

【俺は今、自救軍とヴィクトリア軍の生き残りと一緒に戦っています。相手はサルカズ傭兵ですが、正直言ってマドロックやエンカクと全然違う粗野な奴らで驚いています。

 おまけにこっちは割と戦える人員が限られているので、俺は常に最前線配備です。ヴィクトリアは煉瓦作りの建物や石畳が多いので割と戦いやすいフィールドであるのだけが助けです。】

 

 クロスボウは極端な話、装填さえ出来れば誰でも使える武器だ。ただそれに時間がかかるので、人が足りていたら長篠システム(3段撃ち)を採用したいところではある。…それをするにはありとあらゆるものが足りていないのだが。

 

【あとはご飯がまずいです。本当にまずいです。泣きたくなるくらい美味しくないです。早く帰ってマドロックと美味しいあったかいご飯が食べたいです。】

 

 組み立て終えたそれを手に取り、簡易的に動作確認を行う。どうせ後からホルンさんによる点検と使い手に合わせた調整が入るので、ここではとにかく動くかどうかだけを重視する。

 

【…本当に、早く帰りたいです。】

 

 点検を終えたので、それを点検待ちと書かれた木箱に入れて次の作業に移る。矢の方は他のメンバーが作ってくれているので、今の俺の仕事はとにかく本体を作ることだ。

 と、次のクロスボウを作ろうと材料に手を伸ばした時、エリモスの背後から金属の床を叩く足音がした。この足音の軽さからすると、おそらく来たのは女性だろう。

 

「エリモスさん、今いい?」

「ん?ロックロックか。いいよ、どうした?」

 

 やってきたのは自救軍のメンバーである、ロックロックであった。何やら用事がありそうな彼女に合わせてエリモスは作業をしようとしていたその手を止め、椅子に座ったままロックロックの方へと向き直った。

 

【お前に、会いたい。】

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロックロック。自救軍の初期メンバーの1人であり、父親がボイラー技師であったという経歴を持つフェリーンの少女である。ついでに言うと、エリモスが最初に遭遇した自救軍メンバーの1人でもある。

 

 どうやらエリモスはフェリーンだと思われているようで(実際アスランとフェリーンはほぼ見分けがつかない)、技師である点や出身地区がかなり近いこと、また年齢が近く、誤解ではあるが種族が同じであることなどから自救軍の中でもよく話すようになっていた。

 

 さて、そうなると問題が出てくるのだ。

 

 このロックロック、えっちえっちなのである。

 

 とってもえっちえっちなのである。よくぞ自救軍の若い男たちは平然としていられるものだ。エリモスは驚愕した。いやまあそんな余裕ないだけなのかもしれないが。むしろお前なんでそんな余裕なんだ意味わからんぞ。

 

 それでも声を大にして言おう。ロックロックはすごいぞ、と。

 

 まずその格好だ。ボイラー技師の系譜である彼女はどうやらその過酷な仕事に耐えうる格好をしているようなのだが…お前それはマジで言ってるのか?色々露出していらっしゃいますよ?それで仕事をしようなど、舐めるなよボイラー技師を。いやテラの人類は基本クソ頑丈だからこれでもいけるのかもしれないけどさあ。火傷とか大丈夫かお前。え、大丈夫?あ、そう…。

 

 と、まあ最初はそう思ったわけだが。実際に彼女の格好を見ていただきたい。まず基本は黒いレオタードにミニスカだ。()()()()()()()()()()()()だ。おいおいおいやべーわこれ。もうここだけでえっちポイントすごく高い。スリザリンに100万点。そしておまけに謎の胸下ベルトと穴をドン!いるのかそれは!?いらないんじゃないのか!?お前その格好で普通に仕事しようとしてるんじゃないよ!周りの奴らが集中できないぞ!ただでさえお前スタイルいいのに、それを主張してどうするんだ!…スタイルいいから主張するのか。そうかそうか。

 

 …さて、ここで少し視線を下にしてみよう。レオタードにミニスカという破壊兵器に目を眩まされたあなたに、ニーハイゴツ目ショートブーツが襲いかかる。うーんなんという破壊力。野球でいうなら160キロストレート。シンプルに強い恐ろしい存在である。おまけにその太ももだ。彼女の太ももは、なんというか質感がすごい。ロドスの太もも要員の1人であるモスティマなんかは折れるんじゃないかと思うくらいに細いが、彼女はその真逆。しっかりとその存在を主張している。太ももの錬金術師にも負けていない。

 

 それだけじゃないロックロック。いやむしろここからだ。もう一度言うが、彼女は駆け出しであろうとも技師である。となると、工具を持っているのだ。しかもまあまあ大きめの。…はいみなさんお分かりですね?美少女×工具。これが嫌いなやついる?いねえよなあ!?武器だって無骨なアーツユニットだし、スチームパンクな雰囲気を醸し出している。いやー素晴らしい。俺の心がスタンディングオベーション。あとはざっくり流すが、上着もゴツい。これに関しては慣れの問題なんだろう。納得はする。あとついでに最高だぜって言っておく。おまけに右手が長手袋、左手が普通のグローブ。…ひゅう、やるじゃねえか。ロドスで耐性のできている俺じゃなかったら耐えれなかったぜ。危なかった。ロックロック、なんて危険な美少女なんだ。

 

 以上、『ここがえっちだロックロック』でした。次回もお楽しみに。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたんだ、ロックロック。何か問題でも起きたのか?」

 

 脳内でとんでもないことを考えつつも、それを欠片も悟らせない名演技とともにエリモスは尋ねた。かつてこれを見破ったのはマドロックだけである。

 

「ううん、そっちは指揮官とかホルンさんのおかげでどうにかなってるよ。やっぱり上に立つ人ってのはすごいね。」

「そりゃそういう勉強してきてるんだろうしな。俺らみたいな小市民には縁がないんだろうけど。」

「それもそうだね。…で、そうじゃなくてさ。エリモスって元々は普通の、技師だったんだよね。」

「スラムの技師を普通と呼ぶかは知らんけどな。まあ、特筆する何かはなかったはずだ。」

 

 血統については当時は知らなかったからセーフ。それ以外なら、育ての親がやたら工学に詳しくて読み書きができたことくらいである。十分におかしい。

 

「だよね。それでそこからロドスへ、ヴィクトリアを出て行った。」

「そうそう。チビ共の治療のためにな。…もう帰ってこないとは思ってたんだけどな。」

「そっか…私ロンディニウムの外って知らないんだよね。ロドスってどんなところ?」

 

 ロンディニウムの壁。ロンディニウムに生まれたものの多くはこの壁を越えずにその生涯を終える。その理由は単純、ロンディニウムの外へ出る理由がないのだ。こんなことが起きるまでロンディニウムはテラ有数の大都市で、ありとあらゆるものが揃っている街だった。なので金のある市民はわざわざ危険な外へ出ることをせず、金のない貧民は教育を楽に受けられないために外へ出るという発想がない。そういう意味で、スラムから外を目指したエリモスは極めて異常と言える。

 

「いいところだぞ。たまに…たまに?ブラックなところはあるがそれ以外は基本過ごしやすいし。問題もちょいちょい起こるけど、慣れちまえばそれも楽しいもんさ。」

 

 最近だと『テラで一番盛り上がるのは何祭り〜ロドス大爆発祭り〜』があった。あの時はソーンズ、クロージャ、メイヤー、アーと言ったマッドサイエンティストたちがこぞって自慢の爆薬を作り上げたのである。あの時は楽しかったけどマジで事後処理が大変だった。

 

「…それ、怪我とか誰もしなかったの?」

「みんなその辺に関しては最低限の倫理観はあるからな。ちゃんとやる前には事前に避難させてたぞ。」

「そういう問題でもないと思うけどね。…でも、楽しそうだね、ロドス。私も行ってみたいな。」

「いや来ればいいだろ普通に。ロドスは基本来るもの拒まずだぞ?」

「…わからないから。明日、どうなってるかなんて。」

 

 ロックロックが小さな声でそういうと、エリモスはああ、と呻いた。…最初からこうなると知っていてヴィクトリアに来たエリモスと違って、彼女は突然に当たり前の日常を奪われた存在だというのを失念していたのだ。

 

 エリモスは少しだけ黙っていたが、すぐに顔を上げてできるだけ明るい声を出した。

 

「大丈夫だって。どうにかなるからさ。」

「…なるの?」

「なるってか、する。俺は強いからな。悪い奴なんてぶっ飛ばしてやるよ。」

 

 冗談めかしてそう言ったエリモスに、ロックロックは小さく微笑んだ。

 

「そっか。期待してないで待ってる。」

「いや期待して?頼むから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「完成したか。なら、そろそろ…」

 

 

「試し撃ちと行こう。もっとも…試し撃ちで終わるかはわからんがね。」

 

 

 




ロックロック
 ロックロックはいいぞ。

 さてここでそろそろイベントも始まって時間が経ったのでこの方について語りますね。
 そう、ホルハイヤです。
 突然現れてみんなの心をかき乱していったお姉さんです。今回はこの方について『癖』を語ります。
 まずはそうですね。この方やたら肉感的すぎませんか?なんか、アークナイツに今まであんまいなかったレベルのムチムチというか、子供の頃に見てしまったら確実に脳を破壊されるレベルの妖艶なお姉さんだと思います。
 彼女を見た時、最初に目に入るのはその豊かなお山なのではないでしょうか。Oh!What a big mountain!あ、アンソニー君は呼んでないから下がっていてもろて。そしてこの方も例に漏れず謎の胸下ベルトがあるので、強調されているのですね。えっちですわね。
 さらにこの方、黒タイツを標準装備されていらっしゃいます。黒いタイツはいいタイツ。私は以前こう書きましたが、これは揺るがぬ我が信念であります。でも別にこの方、足がムッチムチではないのですよ。なのに何故か、とんでもない存在感があるんですね。美脚なんですよ、とにかく。細いとか太いじゃなくて、バランスのいい脚。それがタイツによって強化されているのです。強いものに強いものを合わせたら強い。スカーフカイオーガみたいなもんです。これは恐ろしい。
 そしてこの方を語る上で、忘れてはいけない。それがお腹です。
 お腹です(迫真)。
 ご覧ください、このピッタリと身体に張り付いたこの服を。こんなの服の仕事してませんやん。ただ直接見せてないだけですやん。うっすらと腹筋とか太ももの根本のカタチ見えてますもん。こんなんやばいって。他のところがコートで隠されている分、余計にここに目がいくんですよ。なのですごく目立つんですね。そこにこのピッチリお腹ですよ。…ふう。さて、次にいきましょう。
 最後、尻尾です。この方リーベリ(仮)なのですが、尻尾があります。まあテラですからね、そんな人もいるでしょう。ですがそんなことはいいのです。この人の尻尾、鱗生えてるんですよ。鱗、そう!鱗です!全身ふっわふわでもっちもちみたいな質感のお姉さんに、こんな尻尾があるんですよ!?他はあったかいのに、この尻尾だけ冷たかったら、僕はすごい興奮します。うーん救いようがない。
 というわけで、運営はホルハイヤ実装はよ。腎臓までは出すぞ。


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絶望都市 1








【皺まみれの手紙】
 宿舎に飾れば雰囲気をよくする。
 『何度も書き直された跡のある手紙。もはや何が書いてあるかもわからない。』




 

 自救軍・ヴィクトリア軍の残存兵による合同作戦は、主に夜に行われる。理由としては単純に、姿を隠しやすいからだ。数でも質でも劣る彼らは、そのような小細工を弄することでしか勝負することができない。それでも、彼らは少しでもこの事態を良くするために戦うのだ。

 

 その日の作戦も、これまで同様に夜に行われた。目標はヴィクトリア軍の施設であったとある建物。調査によって、そこには捕虜となった軍人や捕えられた市民が多くいることが判明している。彼らを助け出すために、ホルンを前線指揮官としての作戦は決行されたのだ。

 

 

 

 

 

 

 自救軍、ヴィクトリア軍の兵士たちは、息を殺して壁を乗り越え、敷地内へと潜入した。基本的にサルカズ傭兵たちとは戦わない。戦ったところで勝てるのはホルンやエリモスをはじめとしたほんの一握りのメンバーだけなのだから、戦えない、の方が正しいのかもしれない。

 

「…ホルンさん。」

「ええ、エリモス。あなたも気がついた?」

 

 さて、潜入してからすぐに、彼らはその違和感に気がついた。それは軍人たちだけではない。素人同然の自救軍兵士たちにもそれは気がつくほどに、その違和感は顕著だった。

 

「…流石に、ここまで徹底してれば気がつくでしょうよ。」

「そうね。…罠、かしら?」

「可能性は非常に高いですが…それならばなんのためにか、が気になるところですね。」

 

 盗聴の可能性は捨て切れないので、焦りながらも小声で2人は会話をする。だが、それは当然だ。なにせ、()()()()()()()()。ここは軍の要所だったというのに、1人もだ。

 

「…どうします?ホルンさん。作戦は?」

「撤退よ。流石に底が知れなさすぎるわ。」

 

 誰かが投げかけた問いに、ホルンは即答した。今はとにかく戦力を少しでも失いたくない。ならば、この得体の知れない状況で長居をするつもりは彼女には微塵もなかった。

 

「了解。各部隊にもそう指示を出します。」

 

 流石は軍人というべきか、そこからの動きは速やかだった。素早く周囲に散開していた各部隊に伝達を済ませ、撤退の準備を整える。彼らのこの判断は、潜入してからここまで3分もかかっていなかっただろう。

 

 それでも、それはあまりにも遅すぎた。

 

「…なんです?あれ。」

 

 最初に気がついたのは誰だっただろうか。彼の指差した先、ロンディニウムの壁の上で何かが輝いた。3つあるその光は、段々に増していっている。

 

「…こっちを向いている気がしますが…ライトですかね?」

「分からないわ。ただ、とにかくここから早く離れたほうが良さそうね。」

「間違いない。そうしましょう。」

 

 あれは何だ。わからない。

 なんのためのものだ。わからない。

 いつからあった。わからない。

 

 わからないことだらけだが、彼らはとにかくその場から離れることを優先した。そして全員が施設を抜け出そうとした時。

 

「!!!!伏せろおおおおおおおお!!!!!!」

 

 最初にそれに気がついたのはエリモスだった。

 

 彼がそれに気がつけたのは、偶然としか言いようがない。真っ先にそれに気がついた彼は、反射的に持っていたアーツユニットに力を込め、味方を守るべく全力で防御姿勢をとった。彼の剣と盾から放たれたアーツが周囲の砂を浮き上がらせ、瞬時に壁を形成する。そうしたにも関わらず、エリモスは叫んだのだ。

 

「エリモス!?何をして─」

 

 突然に進行方向を塞がれ、尚且つ大声を上げたエリモスをホルンが訝しんだ途端、

 

 

 

 

 世界が、揺れた。

 

 

 

 

 爆音と爆風が砂の壁を悠々と突き破り、兵士たちを吹き飛ばしていく。あるものは数メートルも上に吹き飛び、石畳へと叩きつけられた。またあるものは勢いよく近くの建物のガラス窓へと突っ込んだ。一瞬。ほんの一瞬で、直撃を免れたにも関わらず、部隊は半壊していた。

 

「…おい!無事かお前ら!」

 

 そんな中、真っ先に地に伏せ、剣を地面に突き立てていたエリモスはまだマシだった。彼は全身がキズと砂埃でまみれていたが、数メートルは最初の場所から移動したものの、それでも吹き飛ぶことなく無事でいたのだ。

 

「…装備が重くて助かったわね。」

 

 エリモスの叫び声に最初に答えたのはホルンだった。彼女も衝撃で数メートル吹き飛んでいたものの、それでも装備の防御力と受け身をどうにかとったお陰で、全身に傷を負いながらもどうにか無事に乗り切っていた。

 

「よかった…他は?」

 

 答えはない。沈黙が広がった。

 

「だれか!?おい!いるんだろ!?おい!?」

 

 答えはない。うめき声すら、聞こえない。

 

「…嘘、でしょ?」

「……冗談だろ?」

 

 2人の周りには、生者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「素晴らしい。一撃で建物を一つ吹き飛ばすとはね。」

 

 その様子を、城壁の上でマンフレッドは椅子に座ったまま、余裕たっぷりに眺めていた。

 

「今の射撃の報告を。」

「はっ!ただいまの射撃は2号砲台から発射されました!放たれた砲弾は予定通りに目標に命中。ヴィクトリア軍の残存兵には命中こそしませんでしたが、確認致しましたところ、余波で2名を除いて全滅いたしました。」

「よろしい。下がりたまえ。」

「はっ!」

 

 報告を受けて、マンフレッドは上機嫌に椅子から立ち上がった。そのまま鼻歌でも歌いそうなほどの声音で口を開く。

 

「この威力…これこそ陛下の求めていらっしゃるものだ。そして我々は、試作ではなく、これを完成させなければならない。」

「では、どうしますか?」

「決まっているだろう?完成品を作るにはデータがいる。」

 

「撃ちたまえ。弾がある限り。」

 

 マンフレッドはそう言って、薄い笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ロックロック!今のはなんだ!?」

「分からない…!?大砲!?」

 

 別行動をとっていた別の班であるフェイストとロックロック率いる部隊は、少し離れた場所に落ちた大砲の余波から免れていたのである。

 

「なるほど、大砲か…!サルカズたちは、こんな武器まで作ってたのか…!」

「言ってる場合じゃない!どうするの!?」

「逃げるしかないだろ!こんな─」

 

 フェイストの発言を遮るように、城壁の上が光り輝いた。そしてその直後、轟音と爆風がフェイストたちに襲いかかる。

 

「うわああああああああ!?」

 

 悲鳴と、恐慌。ただの市民にすぎなかった彼らには、それはあまりにも恐ろしいものだった。それは部隊の構成員だけではない。ロックロックも、気丈に振る舞ってはいるものの、フェイストだってそうだった。

 

「こっちにまで撃ってきた!」

 

 誰かが泣きながらそう叫ぶ中、フェイストはあることに気がついてしまった。

 

「待て…あの光って、さっき3つなかったか?」

 

 光1つにつき、一発。さっきは3つ。放たれたのは二発。なら、残りはいくつ?

 

「まだ、あるのか…?」

 

 終わった。誰かがそう呟いた時のことだった。

 

 最初に大砲が落ちた場所に、光が満ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ホルンさん。逃げてください。」

 

 二発目が放たれた直後。エリモスはポーチから、途轍もなく厳重にロックされている小さな容器を取り出しながら、そう言った。

 

「…何を言っているの?」

「何もかにも。そのままですよ。貴女だけでもここから逃げてください。」

 

 いくつものダイヤルを回し、その蓋を開ける。パキ、という乾いた音と共に、作られて以来日の目を見ることのなかったそれはその姿を現した。

 

 それを見た途端、ホルンは背筋に氷の棒が突き刺さったような感覚に襲われた。それが何かは知らない。なんのためのものかもしらない。それでも、それから感じたのは、根源的な、生物の本能としての恐怖だった。

 

「…仮に私が逃げたとして、貴方はどうするの?まさか諦めるだなんて言わないでしょうね。」

「まさか。そんなことしませんよ。ただ…」

 

 震える身体を押さえつけ、どうにか口を開いたホルンに、取り出した【釘】を力強く握りしめてエリモスは応えた。

 

「あれを撃ち落とします。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホルンが走り去っていくのを見て、エリモスは一つ大きく息を吐いた。

 

「…いい人だったなあ、あの人。」

 

 彼女は最後まで、自分を置いていくことに難色を示した。自分も残ると言って聞かない彼女を、最後には巻き込みたくないから、そして今から包囲してくるであろうサルカズ部隊の対処を頼む、という理由でどうにか行かせたのである。

 

「…あー、まじ怖え。」

 

 握りしめた【釘】─見た目は本当に10センチほどの、ただの釘のような代物を眺めながらエリモスは呟いた。

 

 遠くの方で、残り1つだった光が2つになった。3つになった。残弾はまだまだあるようだ。

 

「…死にたくねえなあ。」

 

 このままだと100パー死ぬ。だけど、これを使えば0.1パーくらいの確率では生き残れる。どのみちこのまま生き残る確率は絶望的に低いが、それでもその僅かな確率に賭けることに決めた。

 

「…まだ、あいつの名前聞いてないもんな。」

 

 エリモスは一つ覚悟を決めて、釘を勢いよく自分の首筋に突き立てた。そして彼の口からは、一筋の血と、苦悶の声が漏れ出した。

 

 瓦礫に溢れた霧の街に、紅い華が咲いて。

 

 夜の街に朝が来た。

 

 

 

 

 

 








これは地獄への片道切符。


貴方はもう戻れない。












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砂獣咆哮 1









 

 その恐怖は、夜中であるにも関わらずロンディニウムの中をすぐに走り抜けた。

 

 人々の住む家は今までにないほどに揺れ、衝撃で窓ガラスにヒビが入る。怯えながらも寝ていたはずの子供達が目を覚まし、その小さな眼に涙を浮かべた。

 

 そして誰もが、いったい何が起こったのかと、ついにロンディニウムが終わる日が来たのかと、そう思って外を見た。彼らの視線が向かうのは城壁にある光が狙う先。悪魔(サルカズ)たちがその鉄槌を振り下ろした場所。彼らは諦観と、絶望を胸にそこを見た。そのはずだった。

 

「綺麗…」

 

 誰がそう呟いたのだろうか。わからないが、それを見た者の誰かがそう呟いた。その呟きは次第に、人々の間を伝播していく。

 

 遥か遠く、彼らの視線の先にあったのは月のない夜中であるにも関わらず、ヴィクトリアの街灯全てを集めたかの如く輝く光。そしてその中でたった1人、城壁に向かって剣を構える男。

 

 あれは誰だ。誰がが叫んだ。それを知っている者は誰もいなかった。それでも、彼らには一つの絶対的な確信があった。

 

 まだ、ロンディニウムは終わっていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 思ったより熱いし痛いな、これ。

 

 遥か数十メートルも上から自身のある方に向けて放たれんとする砲の光を睨みながら、エリモスはぼんやりとそんなことを考えていた。その手には、昼間の太陽を切り取ったかの如く光り輝く黄金の剣が握られている。それは全てを懸けて生み出された、アーツによる燐光であった。

 

 心臓が脈打つのに合わせて首筋の釘が痛む。仕方ない、そう言うものだ。

 

 壁上の光が強くなった。発射まであと数秒か。エリモスはここに来て左手の盾を捨てた。ガシャン、と言う音を立てて地面に落とされたそれを気にも止めず、彼は剣を両手で上段に構えた。逸る呼吸を落ち着かせ、今もなお輝き続ける剣に全力を込める。失敗は許されない。

 

 あの光がここに来るまで何秒だ?それはわからない。わからないが、何秒だろうと対応できる。無理矢理にでも能力を底上げした今なら。

 次第に剣の輝きが落ち着いていく。だがそれは、光が弱まっているのではない。全方位に広がっていた光が、ただ一点、剣に収束し続けている証だった。

 

 そして今、ついに光が放たれた。その狙いは先の2つ変わらず、彼のいる旧ヴィクトリア軍施設。遥か上を狙って放たれたそれは、すぐに放物線を描いて重力と共に大地へと降り注ぐ。それは当たれば一撃で建物の一つを、いやもしかしたら一区画をも破壊できる一撃。それが地面へと激突しようとした時だ。

 

 エリモスはその剣を全力で振り抜いた。

 

 上段から全力での振り下ろし。それは真っ当な剣術を修めていない彼が考える、最高威力の剣撃。アーツを纏った剣による、一撃必殺の絶技。その一撃に合わせて剣から放たれたのは途轍もない威力の光条。その一撃は夜を裂き、迫り来る鉄槌へと轟音と共に衝突した。

 

 激突した両者がせめぎ合っていたのは、ほんの一瞬だった。余波だけで大地を揺らし、軽々と人を吹き飛ばすその衝突は恐ろしいほどすぐに決着がついたのだ。

 

 勝つのは果たして地を穿つ砲か。天を裂く光条か。僅かの激突の後に勝ったのは、天を裂く光条であった。激突に押し勝ったそれは砲弾を塵へと変え、それでも飽き足らず夜空へと伸びていった。

 

 そしていつまでも続くかと思われたその光条も次第に弱まり、その姿を消した。跡に残るのは、微かに宙を漂う塵屑のみ。それだけが、砲撃が放たれた証であった。

 

 どうした三流傭兵共。

 

 担い手は吠える。彼の視線の先は遥か彼方の城壁。そこにいるはずの、けれども見えるはずもない相手に向かって彼は吠えた。

 

 この程度で(ヴィクトリア)が落とせるとでも思ったのか?

 

 再び城壁の上から振り落とされんとする鉄槌を迎え撃たんと、獅子もまたその剣を構え直した。

 

 そんな彼の服の下、誰からも見えない肌の上に。小さな音と共に、黒い石が姿を見せた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…成程。今までは本気ではなかったようだな。」

 

 試作品とはいえ新兵器である大砲を一度無効化されてなお、マンフレッドはその余裕を崩さなかった。

 

「そのようです。確実に今までとはアーツの出力が違いますから。」

「そうだな。だが、それだけではない。」

 

 彼の独り言に律儀に答えた部下を一瞥すると、マンフレッドは補足のために口を開いた。

 

「よく見ておけ。あれこそが、あの術者のアーツの真の能力だ。決してそれは、石や煉瓦から砂を作り出し、操るものではない。」

「…では、アレの能力はなんなのですか?」

 

 それを聞いて部下は怪訝な声を出した。彼らの周りでは、大砲の再装填を急ぐ部下たちの大声で溢れかえっている。

 

「『結合の切断』だ。」

 

 マンフレッドは今度は部下の方を見ずに、今もなお次の砲撃に備えているであろう相手の方に視線を向けながら答えた。

 

「あれはこの世の、ありとあらゆる形あるものに対する鬼札(ジョーカー)。形あるものがその形をなくすまでに小さな砂粒にまで変えることも、水気を帯びたものから水だけを切り離して干上がらせることもできる。()()ことと()()ことに特化した、まさに悪魔のような能力だ。砂を操る能力はその副産物、末路としての砂を操っているといったところだろうな。」

 

 どこか楽しそうに彼は言った。

 

「…そんなアーツが、あるのですか。」

「そうだ。そして、だからこそ。」

 

 マンフレッドは眼下の相手に手を向けた。その眼は鋭く、一切の油断を感じさせない。

 

「アレは絶対にここで殺す。」

 

 彼の迫力に押されて、怒号の飛び交っていた城壁に沈黙が訪れた。その沈黙の中、歴戦の傭兵たる将軍は命じた。

 

「攻撃目標は『ロンディニウム』。アレだけを殺そうとするな。街ごと殺せ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今の、見た?」

 

 視界の先、砲撃を見事に撃破して途切れていく光条を見て、ロックロックは声を出した。

 

「…ああ。あれって、エリモスの攻撃なのかな?」

 

 答えたのはフェイストだった。彼の脳裏に浮かぶのは、最近できた友人。くすんだ金髪を持つ、ロンディニウムの外から来た頼れる男。強く、そして明るい、短い間ながらも自救軍のメンバーを支えてくれた相手である。…ことあるごとに男連中を巻き込んで猥談に誘ってくるのだけはどうにかして欲しかったが。あれは今になって思えばだが、彼なりにみんなの緊張をほぐそうとしていたんだろう。

 

(…でも、1回くらいはしておくべきだったかな。)

 

 そんなことを考えていたフェイストの元に、重い金属音と走ってくる足音が聞こえてきた。その音に聞き覚えのあるメンバーたちが、すぐに反応してそちらへと向き直る。

 

「…エリモスはうまくやったみたいね。」

「ホルンさん!無事だったんですね!」

「ええ。運良く、だけど。貴方たちも、無事でよかったわ。」

 

 現れたのは前線指揮官にしてメンバーの誰よりも大きな装備を持った狼人族(ループス)、ホルンだった。彼女はフェイストたちの部隊の様子を見て無事を喜んだのも束の間、すぐにある方向を指差した。

 

「無事だったのはいいけど、今は時間がないわ。おそらくここにサルカズの部隊がくるだろうから、すぐにここを離れるわよ。」

「わかった…待ってくれ、ホルンさん。他のメンバーは?あと、エリモスはどうするんだ?」

 

 その問いに対して、ホルンは彼らに背を向けた。

 

「…他のメンバーは、もういないわ。あと、エリモスは…」

 

 その視線を城壁へと向けて、彼女は誓うかのように言った。

 

「絶対に見捨てない。必ず、助け出してみせる。だから…今はここを離れるわよ。」

 

 そう言ったホルンに続いて、一度顔を見合わせて頷きあったメンバーたちは走り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう何発撃ち落としただろうか。大砲が放たれるたびにそれを撃ち落としていく。何度も、何度もだ。限界なんてとうに超えているにもかかわらずその剣を振るい続ける。

 

 剣にアーツを込める度に、首に埋め込んだ釘の周りが痛む。だが、もしこれがなければ今頃自分は死んでいるのだから、文句は言えない。そう思って、釘の効果で身体を無理矢理に動かして剣を振るう。

 

 また放たれた砲弾にアーツを当てて、塵に変える。それと同時に、皮膚を突き破って体表に黒い結晶がまた現れた。気がつけば口の中は血の味がする。

 

 残された時間はあと何分だ?

 

 朦朧としてきた意識を、釘にアーツを流すことで無理矢理に覚醒させる。辛い、やめたい。でも、ここまで来たらもうやめられない。やめたら死んでしまう。あいつに会えなくなってしまう。辛さよりもその恐怖が勝って、身体中を襲う痛みをぎゅっと目を瞑ってどうにか押し殺した。

 

 閉じられた瞼の裏で、フワリと銀髪が揺れた気がした。





【釘】
 一本の釘の欠落が、一国の王を殺すこともある。
 では、釘が一本多いと、どうなる?




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回顧録 1















 

 無機質な執務室に、キーボードが小気味よく叩かれる音だけが響く。その音の主であるロドス・アイランドのドクターは、これから始まる大規模長期作戦を前にして己のやるべき職分を果たそうとしているのだ。そしてそんな彼の前には、ソファに座って書類に目を通す一人の金髪をした獅子人族(アスラン)の女性がいた。

 

 オペレーター・シージ。種族、経歴を問わないという触れ込みのロドスにおいても、多くのオペレーター(主にヴィクトリア出身者)たちから過去を推察されている存在である。そして現在ドクターよりも一足先にロンディニウムに向かっているオペレーター・エリモスの過去を知る唯一の人物。

 

 そんな彼女の口から先日放たれたエリモスの経歴は、彼に大きな衝撃を与えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

『─エリモスと私の関係は…実の姉弟、と言うことになる。出自だけで言うなら、だがな。』

 

 彼女の口から語られたその発言自体は、そう驚くことでもなかった。考えてみると、二人の間には共通点が意外にも多くある。

 

 出身地。髪の毛の色。そしてその髪質。瞳の色。長身。その身体つきからは想像もつかないほどの身体能力と、それを操るセンス。見てくれ以外で言うならば、実は血液型なんかも一致していたりする。纏っている雰囲気が両者であまりにも異なるが故にあまり目立たないが、そのフィルターを除いてみれば、実際のところ2人は姉弟と言われても納得のいく容姿をしているのだ。

 

『…驚かないのだな。エリモスはこれを聞いてかなり驚いていたのだが。』

 

 そんなドクターの反応を見て、シージは懐かしむかのように言った。…いつの間にエリモスにこの真実を伝えたのだろうか。

 

『あいつがヴィクトリアに発つ直前に、だ。ほんの数分しか時間が取れなかったが、あいつにはその時に伝えている。…あの時のエリモスはものすごく驚いていてな。なにせ、開口一番に “ああ、道理で目と鼻と耳の数が同じだと思いました” とか言い出したくらいだ。』

 

 …それはロドス内でもかなりの数の人が一致するやつではなかろうか。

 

『まああいつはそもそも自分のことをフェリーンだと思っていたようだからな。ロドスに来て自分の種族を知ってからは、アスランはアスランでもサルゴン出身の系譜なのではと思っていたらしいが。』

 

 確かに、まさかエリモスもスラム育ちの自分が王族の系列だとは夢にも思うまい。…それにしても、それが本当なのだとしたら、彼は何故スラムにいたんだ?そんな私の問いに、シージは懐かしそうな顔をした。

 

『そうだな。ずいぶんと昔の話だが…あいつが生まれた時の話だ。その日のことは今でもよく覚えている。何せ、私の弟が生まれた日だからな。生まれたばかりのあいつは、しわくちゃの顔で、そしてものすごく小さな手で私の指を掴んできたんだ。』

 

 そう語るシージは今までに見たことのない、弟を慈しむ姉の顔をしていた。

 

『だが…その、エリモス、いや、アルトリウスは…生まれた時からアーツが恐ろしく強くてな。だが、生まれたばかりの赤子にアーツなんて当然制御なんてできるはずはないだろう?その結果として、あいつは生まれて1週間経つかどうかと言うくらいの時期に離宮の一部を吹き飛ばしたのだ。』

 

 なにをやらかしているんだあいつは。いやまあ生まれたてなのだから仕方ない話ではあるのだが。というか確かにエリモスはオペレーターたちの中でもかなりアーツ出力が高いが、それは昔からの話だったのか。

 

『それに両親は頭を悩ませてな。結論として、アルトリウスを一人の騎士の元に預けることにしたんだ。その騎士は父の腹心で、アーツに極めて長けた男だった。彼ならばアルトリウスのアーツを抑え込めると判断したのだろう。その上で父はアルトリウスに、彼の元でアーツの使い方と戦い方を学ばせる魂胆だったようだ。』

 

 …と言うことは、彼の言う“ジジイ”とはその騎士のことかい?

 

『いや、そうではない。何せ、その騎士はアルトリウスを預かってすぐに亡くなっている。…いや、()()()()()()。彼の屋敷にいた使用人ごと、な。』

 

 …()()()()()使()()()()()

 

『そうだ。私が聞いた話だと、その時に残された死体は全て判別が難しい状態で、遺体の残っていない者も多かったらしい。屋敷の中は真っ赤で、手入れのされていたはずの庭にはまるで何かが這いずり回ったかのような痕跡が残っていた、と。…そして調査が行われた結果として、アルトリウスはその襲撃のせいで死んだと、そう判断されたのだ。』

 

 …だが、実際には生きていた。

 

『そうだ。おそらくはその騎士は襲撃の最中、部下にアルトリウスを託してその場から逃したのだろう。託された部下は、襲撃者の目を避けてスラムへと逃げ…』

 

 そこでエリモスを育て上げた、か。彼は何故、君たちを頼らなかったんだい?

 

『…ここからは私の推測になるが。』

 

 私の問いに、シージは一度瞑目して答えた。

 

『彼らは、襲撃を受けたその時に王宮に潜む脅威に気付いたのではないだろうか。このままアルトリウスを元いた場所に返したところで、再びアルトリウスの身に危険は訪れると、そう判断したんだろう。実際彼らの危惧通りに、その僅か数週間後に国王は突然に処刑されているからな。』

 

 ………。

 

『それに気がついた彼らはヴィクトリアの政府ですら監視の届かないところ…スラムを隠遁場所に選び、見事にアルトリウスを育て上げた。何もないあの場所で教育を施し、生き方と技術を学ばせ、アーツの扱いを身につけさせ、初歩的ながら戦いを教えている。あの環境でできる教育としては完璧と言ってもいいだろう。』

 

 そこからは、エリモスの語った通りの経歴ということか。

 

『あいつが嘘をついていないならばな。まあ、わざわざそうする必要もないだろうが。』

 

 そう言ってシージは肩をすくめた。

 それにしても、生き別れの姉と弟がヴィクトリアから遠く離れたこのロドスで再会する、なんてことがあるなんて思わなかった。運命的な話だ。

 

『…私も最初はそう思った。最初()な。』

 

 …最初()

 私がそう聞くと、シージは頭を両手で押さえて呻いた。なんだろう、どこか背中が煤けている。

 

『…まさか生き別れた弟が、あんなに色ボケになっていると思わないだろう…。なんでよりにもよって相手がリードなんだ…?他にもいるだろう…?』

 

 ああ、うん。そこの関係も大概複雑だよね。私がそういうと、シージは疲れ果てたような顔をして、こちらを向いた。

 

『…ドクター、この際だ。少し愚痴を言わせてくれ。少しの間だけでいい。こんなのを頼めるのは私にはドクター以外にいない。』

 

 え?と私が驚くのも気にせず、シージはその口を開いた。そして彼女の愚痴はそれから1時間もの間一瞬たりとも止まることはなかった。

 

 とりあえず帰ってきたらエリモスは色々と年相応に落ち着いてくれ。マジで。このままだとシージの胃に穴が開くぞ。

 

 今や遠くに行ってしまった部下のことを恨みながら、ぼんやりと私はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…怪物が。」

 

 自分の周りにいた誰かが畏れと共にそう呟いた。そう言ったのは一人だったが、その場にいた全員がそう思っていたと思う。

 

「…なんで生きてるんだよ、あいつ!」

 

 合計何発だろうか、数えきれないほど俺たちは何度も大砲を撃った。あいつに向けて撃った。都市に向けて撃った。わざと射程をあいつから外したし、3門同時に放ったりもした。

 

 なのに、その全てを撃破された。距離があろうが、同時に放とうが関係ない。その全てがあいつの放つ光条によって消し飛ばされたのだ。そして今、もはや大砲の残弾はない。そう、たった一人の男に、俺たちの最新鋭の大砲は無力化されてしまったのだ。

 

「なんなんだよ、あいつ…!」

 

 観測してみると、その男は今も口から血を吐いて苦痛に顔を歪ませながらも、それでも堂々と立っている。

 

 あまりにも勇ましく、そして誉高いその姿こそが、たった一人で俺たちに勝ってみせた証だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …これ、完全に癒着してないか?まだ引っこ抜けるか?

 

 光の消えた城壁を見て、俺はそんなことを考えていた。痛みは今、一周回って感じなくなってきている。そのまま俺は一瞬【釘】に手を伸ばそうとして、少し考えた後にやめた。まだこれを使う必要がある。

 

 そもそもこの【釘】とはなにか。それは簡単に言えば超高純度の源石を材料に使用したアーツユニットである。体内に突き刺すことでその効果を発揮するこれは、効果としてアーツ能力を飛躍的に上昇させる。実際に本来であれば俺のアーツ出力はロドスの中でのトップ20にも入れないであろうに、今ならロドスでも三指に入るほどの出力となっているだろう。この【釘】はそれほどに強烈な効果を有している。

 

 ならば、それはなんの副作用もなしに使えるのか?まさか。そんな上手い話があるはずがない。

 

 では、その副作用は?それは単純。このデメリットは()()()()()()()()()()()()ことと寿()()()()()こと。そもそもの仕組みとしてだが、数十秒という超短時間で体全体に超高濃度の源石を送り込む以上、絶対に鉱石病への感染は免れない。その送り込んだ源石を身体に急速に癒着させるために複数の医療アーツを無茶苦茶に使用する結果として、最低でも20年…いや、30年?は寿命を削ることになるだろう。…さらに言うならば、鉱石病にかかった上で起こる症状がわからない。これは人によって様々なので、予測の立てようがないのだ。これらが莫大な力を得るために俺が支払うことになった副作用である。

 

 今、俺には上半身を中心にいくつもの源石が体表に現れている。その数は幾つなのだろうか?実際に数えていないのでわからないが…ここまで出た以上、症状は相当重いと見ていい。だが、それはこれを作った時点で分かっていた話だ。

 

 明日を手に入れるために、訪れたかもしれない未来を捨てる。これは元からそう言うものなのだから。

 

 その事実を噛み締めて、俺は剣を持つ両手に力を込めた。
















そろそろ色々と『癖』を語りたい。


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砂獣疾走 2









ホルンさんにコーデがきたあああああああ!?
見てない人!早くググるのです!普段とのギャップやべえから!




 

 先刻まで怒涛の勢いでの砲撃を行っていた城壁は完全に沈黙した。なんの動きも見られないそれを見て、血を撒き散らしながらも安堵のため息をついたエリモスは、一呼吸おいて再び剣を握りしめた。

 

 ─まだ、これで終わりじゃない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は沈黙した城壁を、そしてそれを睨みつけるかのように剣を構える戦友を見て、足を止めた。急に止まったことで、先ほどまで運動を続けていた心臓が急に存在を主張し始める。それを無視して、彼女は首を振って周りを確認した。

 

 ─敵影、なし。

 ─味方の負傷、概ねなし。

 ─装備の損耗、無し!

 

 歴戦の兵士として訓練を積み重ねてきた彼女は的確にその判断を下すと、己の装備の最大の特徴であるその大砲を起動した。

 

 

 

 

 

 

 

「総員、撤退だ。」

 

 彼方で輝きを増し続ける黄金の光を見て、マンフレッドは苦々しく命令した。

 

「撤退の邪魔になるのならば荷物は捨てていけ。ただし、今回の試射の結果だけは持っていくように。」

「将軍!お言葉ですが、その…アレはもう良いのですか?」

 

 そんな冷静に指示を出す彼に、一人の部下が尋ねた。彼は先ほどから砲撃を行っていたうちの、主軸のメンバーである。そんな彼に、マンフレッドは本当に、本当に嫌そうな顔をして言った。

 

「…良くはない。良くはないが、今はそれどころではない。なにせ、あのアーツが直撃すれば、我々はひとたまりもないのだから。」

 

 他に何か言いたいことがあるものは?マンフレッドがそう聞くと、残りの部下たちは沈黙を保った。その様子に一つ頷くと、全員が城壁から離れるために移動を始める。

 

 そして、それはその時に襲いかかった。

 

 ある者が城壁から下に向かうための階段に向かおうとした時、突如城壁全体を揺らさんばかりの爆音と、そして振動が襲いかかった。あまりの衝撃に全員が一度目を瞑り、そしてもう一度目を開けて周りを見渡して全員が絶句した。

 

 ほんの一瞬目を離した隙に、先ほど階段に一番近かった人物は、今や瓦礫の中に紅い花を咲かせていた。そのことに驚く中、またしても彼らを同じ衝撃が襲う。何度も、何度もだ。

 

「攻撃…!?どこからだ!?」

 

 彼方で今も輝きを増すアーツではない、新たなる脅威がこの期に及んで彼らに襲いかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「攻撃命中!敵被害1!」

 

 今も煙を上げる砲に次弾を装填しながら、ホルンは観測主を務めるロックロックのその声を聞いた。彼女の装備には射程の底上げとして、本来ならロックロックが操っているはずのドローンが非常エネルギー源として使われている。

 

「そう。向こうの様子は?」

「混乱してます!少なくとも足止めには成功!」

「わかったわ。…次弾発射まで、あと5秒!」

「了解!」

 

 先ほど城壁の上にいたサルカズ傭兵たちを襲った攻撃を行った人物こそが、ホルン。現状の自救軍側が誇る最高戦力の一人である。彼女は今、サルカズたちにもう残弾がないことを察して、攻勢にでたのだ。

 

「3秒!」

 

 故郷を蹂躙された怒り。今までに受けた屈辱に対する怒り。そして、それ以上に彼女の心を占めているのは、

 

「発射!!」

 

 よくも私の部下を。

 

 怒りと、使命を背負って彼女は砲撃を放つ。様々な思いを乗せた砲弾もまた、彼女の狙い通りの場所に着弾、周囲を吹き飛ばした。

 

「命中!敵被害2!」

「了解、次弾装填するわ。」

 

 壁上でサルカズたちが混乱に陥るのを確認しながら次弾を装填する中、視界の端でついに夜を消し飛ばすかの如く金の光が一層の輝きを放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれは、ホルンさんの大砲か?

 

 壁上で爆発が起こるのを見ながら、エリモスはそんなことを考えていた。彼の手に握られた剣は、今やその負荷に耐えられず、少しひび割れ、ギチギチと音を立てている。それほどまでに強大なアーツを彼は操ろうとしていた。

 

 正直な話、俺があの大砲を吹き飛ばしたところで結局は変わらない。新しいのが作られて終わりだ。

 

 それがわかっていてなお、エリモスはそれをすると決めた。例え1週間後にまた作られようとも、明日泣く人がいないように。

 ここから壁上の大砲までは少なくとも1キロは離れている。それは本来ならばこちらの攻撃が絶対に届かない距離。だが、代償を払った今なら当たる。当ててみせる。吹き飛ばしてみせる。その意思に呼応して、アーツが剣の元へ収束していく。

 

 一個人が操るにはあまりにも莫大なアーツがエリモスを内側から襲う。剣を持つ手の血管が引きちぎれ、皮膚が弾け飛ぶ。彼の周りには赤い霧ができていた。それでもなお、エリモスは剣に込める力を欠片たりとも緩めない。それどころかさらに力を込め、裂帛の気合いを込めて勢いよく振り下ろした。

 

 ─ガワだけ見れば聖剣なんだけどなあ。

 

 痛みも何もかもがどこか遠くに感じながら、エリモスは砕け散る自分の愛剣に対して最後にそんなことを思った。そんな彼の握る剣は、今や世界のどの宝剣よりも眩い輝きを放っている。そしてそれと同時に、その輝き全てが解放された。

 

 これまでとは比べものにならないほどの極光が弾け、城壁を飲み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 その光条は今までの砲撃を消し飛ばしてきたものよりも大きく、強かった。

 

 それは放たれると同時に城壁に到達、すぐに全てを塵へと変えていく。今までヴィクトリアを見守ってきた城壁も、人々に牙を剥かんとしていた大砲も、そしてその上の傭兵たちも、その全てをだ。ホルンの砲撃によって逃げ遅れた彼らは、碌な抵抗もできずに消えていく。今まで彼らが人々にそうしてきたように。何の痕跡も残さず、塵となってこの世界から消えていった。

 

 その中にはマンフレッドもまた、例外ではない。城壁の上にいた彼も、部下たちと同じようにその光に呑まれようとしていた。彼はアーツで応戦、防御にあたったが、悲しいかな展開した防御障壁はすぐにひび割れ、その役目を終えようとしていた。

 

 そしてその時、彼の周りを赤黒いナニカが覆い隠した。それは一瞬のうちにマンフレッドの周りを包み込むと、すぐに黄金の光に呑まれていく。光が消え去ったとき、そこに彼の姿はどこにもなかった。

 

 城壁の上は、一つの影も残らず完全に静寂を取り戻した。

 

 

 

 

 

 

 

「エリモスがやったわ!」

 

 その様子を見て、ホルンが叫んだ。いや彼女だけではない。その場にいた自救軍の全員が叫んでいた。

 

 彼が成し遂げたのはただサルカズ傭兵の一団に勝利しただけではない。迫り来る脅威そのものを、放っておけばきっとこれから人々を恐怖のどん底に陥れていたであろうものを吹き飛ばしてみせたのだ。

 

 そのことに自救軍が沸き立つ中、ホルンは努めて冷静に指示を飛ばした。

 

「全員医薬品をあるだけ出して!今彼には何が必要か分からないわ!あと足に自信がある人は私についてきて!彼を迎えにいくわよ!」

 

 その声に全員が慌ただしく動き始めた指示を飛ばしてホルンでさえも、最低限の装備を残してまで、急いで彼の元に駆けつけようと機動力の確保をしようとしている。

 

「何としてでも、私たちは彼を見捨てない!今度は私たちが彼を助ける番よ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 上手くいったか?

 

 手に持った剣が砕け散り、その柄の感触だけを感じながら、エリモスは静かに目を閉じた。

 もはや目を開けることすらおぼつかないエリモスには、城壁がどうなったかがわからない。その身体からは力が抜けていき、砂埃を立てて地面へと倒れこんだ。碌な受け身も取れない身体に衝撃がダイレクトに伝わっていく。

 

 ああ、クソ痛え。なんだこれ、全身がやばい。

 

 全身が信じられないほどに痛い。なんでだ?ああ、そうか。【釘】のせいか。そうだ、これ抜かないと。そう思って彼は最後の力を振り絞って左手を首元の釘へと持っていき、そして

 

 音もなく左手が砕け散った。

 

 もはや悲鳴すら出ない。もはや痛みとかそんな問題ではなかった。本来ならば溢れ出てもおかしくない血が、なぜか傷口から霧のように消えていく。

 

 ああ、畜生。ここまでか。

 

 限界を越えたのか、痛みを感じなくなってきた。そして何より寒くて、眠い。その中で必死に右手で釘を抜こうとするが、身体がいうことを聞かない。必死に動かそうとした右手は肩まで届かず、ただ虚しくノロノロと空を切り続けた。

 

 嫌だ。死にたくない。

 

 全身をよじって、無様に足掻き続ける。

 

 帰りたい。あいつに、会いたい。

 

 もはや枯れ果てたのか涙も出ない。その状況で、必死に僅かでもあろうとも生を掴もうともがき続ける。そんな彼の元に、突如どこから現れたのか一つの足音が近寄ってきた。

 

「…死ぬんじゃねえぞ、とか言っておきながら随分なザマだな。そんな悪趣味なものを使うからだ。」

 

 近寄ってきた人物はそう言うと、エリモスの首に刺さっていた釘を抜いて手早く全身の傷に処置を始めた。もはや相手の姿を確認することもできないが、その声、そしてその手つきには覚えがあった。この声は散々今まで聞いたものだし、動きはロドスの研修で散々に叩き込まれた動きだ。

 

 お前は…そう言おうとしたが、喉が枯れて声が出ない。ただ意味のないヒューヒューとした音を出し続ける彼に、近寄ってきた人物はああ、と尋ねた。

 

「合言葉は必要か?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロドスの本隊がロンディニウムに入ろうとした時、彼らを周囲ごと城壁からの砲撃が襲った。市民も、建物も、その全てを無差別にだ。そのことに彼らが驚き、必死の抵抗を行っていた。だが、根本的な打開策がなければこの場を凌げないだろう。

 

 指揮官であるドクターがそう判断し、必死に頭を働かせていた時だ。突然に風が吹いて、かと思えば砂嵐が吹き荒れた。

 

「…砂嵐?ロンディニウムで?」

 

 急に吹き始めたそれは勢いを増していき、かと思えば城壁全てを覆い隠し始める。こうなれば砲撃も行われないだろう。そのことに戦っていたものたちがそれにどよめく中、ドクターの背後から複数の足音がした。

 

「お久しぶりです、ドクター。」

 

 背後から聞こえてきたのは随分と聞きなれた声だった。その声を聞いてドクターが声の方を向くと、そこには一人の金髪の男がいた。彼は全身に手当ての跡を残し、右手に見慣れないアーツロッドを持って上着の左手の袖をはためかせながらそこに立っていた。そんな彼の側には金髪のループスの女性が彼を守るかのように立っている。

 

「エリモス…!」

 

 私が彼の名を呼ぶと、それを聞いてエリモスは静かに微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 






 これで、エリモスのヴィクトリア編は終わりです。多分次からはロドスに帰るんじゃないでしょうか。

 この後は多分エリモスがドクターの指揮下に入って終わりなので大体本筋通りです。仮にイベントが増えるとしたらマンドラゴラと戦って能力相性的に完封したり、ブラッドブルードの大君とドンパチしたりするくらいですね。お前余命また減らす気か?

 そしてこんな突然に性癖を暴露し出しても読んでいただけたこと、本当に感謝しております。みんなも曝け出していこうな。

 さて、こんな拙い作品ではありましたが、読んでいただき誠にありがとうございました。これからもよろしくお願いいたします。







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方舟乱痴気編
俺の同僚の顔が良すぎる 6



みんなの性癖がコメント欄で見れて僕満足。



ムリおじ引きました?私は今回も引きました。出るまで。ペナンス貯金消えました。助けて。


 

 ヴィクトリアからロドス本艦へと戻る車内にて、1人の金髪の男が眠っていた。目を瞑り、身体に幾つもの機器を繋がれながら深い眠りに落ちている彼の周りには今、多くの医療オペレーターたちが入れ替わりで待機している。

 

 そんな医療オペレーターの1人、シャイニングがチラリと外を見ると遠くに荒野を行く光が見えた。それはロドス本艦が放つ光だった。

 

「起きれますか、エリモスさん。ロドスに着きましたよ。」

 

 彼女がそう言ってエリモスを軽く揺すると、彼は少しみじろぎをした後にうっすらと目を開けた。そのまま右手で顔を軽く擦ると、徐々に目をしっかりと開けていく。

 

「…ロドス、ですか?」

「ええ、ロドスです。私たちはようやく辿り着きました。」

「…本当にようやく、ですね。」

 

 彼がそう言って小さく笑うと、車が岩を踏んだのか小さく跳ねた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 同時刻、ロドス本艦、発着口。そこには今、艦内に待機していたオペレーターたちが集まってヴィクトリア行動班の帰りを今か今かと待ち続けていた。

 

 その中には白髪のサルカズ、マドロックの姿もある。彼女は今、かつてエリモスが自分にそうしてくれたように、彼の帰りを待っていた。なお、マドロックは知るよしもないが、彼女のそんな姿は周りのオペレーターたちから微笑ましく見守られている。

 

 彼らがしばらくそうやっていると、突然に発着口にブザーが鳴り響き、幾つものランプが点滅を始めた。ハッチが開く合図だ。そのことにざわめきが大きくなる中、腹の底に響くような音と共にハッチが開き、タラップが降りていく。その後に、隊列を組んだ装甲車の一団が続々と艦内へと入ってきた。

 

 人でごった返す発着口に、大歓声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 1人、また1人と車からオペレーターが降りてくる。降りてきた彼らは見知った顔を見かけると、そちらの方へ駆け寄ったり、大きく手を振ったりととにかく多種多様なやり方で再会を喜び合った。そんな中、エリモスもまた(ロッド)をつきながら車内からロドスへと降り立った。

 

(ああ、帰ってきたんだな。)

 

 発着口の雰囲気にのまれながらも、彼は安堵しつつそう思った。ロドスを発って以来数ヶ月、ようやく彼はロドスへと帰ってこれたのだ。そんな彼の元に、1人の白髪の人影が走り寄ってきた。

 

「エリモス!」

 

 走ってきた彼女はエリモスの名前を呼んで、立ち止まった。それに合わせて、彼女の長い髪がふわりとたなびいた。

 …ああ、随分と久しぶりにこいつの顔を見た。

 

「よう、ただいま、マドロック。」

 

 色々と言いたいことがある。それを一先ずぐっと堪えてエリモスはマドロックに笑いかけた。何よりも、今は再会を喜びたかったのだ。

 

 そしてマドロックはエリモスの左腕と、そして首筋から覗く源石結晶を見て、大きく目を見開いた。そのまま少しの間彼女の口は何かを紡ぎ出そうとしていたがそれも束の間、それを止めると右腕をとって、ぎゅっと握りしめながら口を開いた。

 

「お帰り、エリモス。」

 

 周りの視線を集めながら、2人はようやくの再会を果たした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「感動的な再会のところ申し訳ないけどね、2人とも。」

 

 そんな再会を喜び合う2人の間に、ドクターが割って入った。その暴挙に彼の後ろではアーミヤが目を見開いてドクター!?と声をあげ、周りのオペレーターたちからも少し冷ややかな視線がぶつけられている。だがドクターには、それを無視してでもしなければならないことがあった。

 

「と言うかエリモス。検査に行くよ。今すぐ。」

 

 ドクターのその言葉にはヴィクトリアに行っていた全員が納得した。彼の感染状況はかなり異質なため、早急な精密検査が必要だと全員がわかっていたのである。

 

「…明日じゃダメです?」

「いいわけないだろう?君、自分の状況分かってるかい?」

 

 そう言われてエリモスは肩をすくめた。かなりの無茶をした自覚は彼にもあるのだ。彼は渋々、といった様子でゆっくりマドロックの手を離させると、心配そうな顔をする彼女に苦笑した。

 

「…そんな顔しなくても大丈夫だ。ただの検査だし、明日にはまた会えるさ。」

「…そうじゃない。エリモスの、症状は重いのか?」

「それを調べるんだが…まあ多分大丈夫だろ。」

 

 ヘラヘラといつも通りに笑って、彼は先を行くドクターの後を追った。

 

「また明日な、マドロック。」

 

 最後にそう言い残して、彼はマドロックから離れていく。彼女は寂しげな顔を浮かべたが、そんな彼を見送ることしかできなかった。

 

「…ああ、また明日。」

 

 バランスを取るためか普段よりも大きく振られている彼の尻尾を見ながら、マドロックは目を伏せた。

 

「…お前まで、こっちにくることはなかったのにな。」

 

 エリモスの姿が見えなくなってから、周りにも聞こえないほど小さな声で、彼女は本当に小さく呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 やっぱ白衣っていいよね。すごく。長い長い検査の後、エリモスは全くもって働かない頭でそんなことを考えていた。

 

 なんて言うのかな、白衣ってそれだけですごい雰囲気が締まるのだ。例え下にアロハシャツを着ていようが、白衣を着るだけで医者とか研究者とか、そんな感じの雰囲気になるのである。

 

「お前何考えてんだ?」

 

 エリモスの前に座る緑髪を携えたアダクリスの女医、ガヴィルは本当に信じられないモノを見る目でエリモスを見ながら言った。

 

「何も?」

 

 ノータイムで答えた。嘘である。割と阿呆なことを考えている。

 …にしてもこいつスカート短くない?これで女医やるか?こいつ。黒い戦闘着に白衣とかさ、メニアックにも程があるんじゃないかお前。いやそう言うのは好きか嫌いで言うなら大好物だから別にいいけど。むしろ大歓迎。黒は女を美しく見せるが、それは白衣によってさらに強調される。『黒と白が交わり最強に見える』、やはりこれは世界を越えた真理であったのだ。

 

 そしてこのガヴィル、たまに艦内をスパッツで彷徨いていたりする。()()()()()である。おいおいおい。そいつはダメだろう?確かにそいつはお前の健康的な肢体の魅力を引き出せるかもしれんが、おみゃーこのロドスをなんだと思っていやがる?いくらなんでもそいつはこのとんでもない格好蔓延るロドスでもレギュレーション違反じゃないのか?…そうでもないかもしれんわ。もっとやばいやついくらでもいるもんな。がはは。

 

 ついでに言えばこれはガヴィルに限った話では無いが、みんな肩出し長手袋好きだよねほんと。長袖着ればいいんじゃ無い?ダメなの?いやこっちからすればその手の格好はありがたく五体投地させていただくんだが、それでいいのかお前。あ、いいんだ。そう…。ありがとう、それしか言う言葉が見つからない…。

 

 …にしてもよく考えるとこいつほんと子供の性癖狂わせそうだよな。前提として言わせてもらうとこのガヴィルという女、基本的に思考回路が戦士寄りなので治療も優しいとかそんな事はないのである。実際こいつはこの間は医療部に席を置いたまま前衛オペレーターとして強襲作戦に当たったとかなんとか。びっくりするくらい馬鹿みたいに強かった、とはそれを見た一般オペレーターたちの証言である。

 

 それはさておき、やはりガヴィルは治療もそこまで優しくない。別に雑とかそういうのではなく、むしろ仕事はめちゃくちゃキッチリやるのだが、歯に衣着せないというか…優しい治療は自分の仕事じゃない、とまで公言する女である。そんな彼女だが、子供に対してはちょっと甘く、頑張って注射を泣かずに我慢した子供には優しく褒めていたりするのだ。

 

 普段ガサツな美人なお姉さんが、辛いのを頑張って我慢したら褒めてくれるのである。

 

 歪むわ、こんなの。性癖が。(倒置法)

 

 いやだってさあ…ほんとに、こんな美人でスタイルもいい普段はちょっと怖いお姉さんが、「よく頑張ったな!」とか笑顔で言ってくれるのよ?…グレート。グレートですよこいつぁ…。俺にもして欲しい。切実に。

 

「いや今の話じゃねえ。そうじゃなくて、アタシはなんでこんなものを作ったのか、って聞いてんだ。」

 

 ため息をついて、ガヴィルはモニターに映し出された【釘】のデータに目を向けた。その情報は、エリモスがそれを使ったと判明したために急遽ケルシーから共有されたものである。…それにしても流石は顔が良すぎる女が揃うロドス、このガヴィルも例外では無いため、恐ろしいほどにその仕草が様になっている。

 

「…さあな。覚えてねえよ。」

 

 そう言ってうんうんと頷くエリモスだったが、ガヴィルはそんな彼を見て舌打ちをした。怖いよ、ほんとに。舌打ちめちゃめちゃやり慣れてるもん、こいつ。

 

「…白々しいな。ったく、とにかく、検査結果だけは渡しとくぞ。ただ治療方針とかは後で会議の後決めるから決まるまでまだしばらくかかるからな。」

「分かった。てか終わったならもう帰っていいのか?」

「いいぞ。…あ、やっぱりちょっと待て。その前に一つ。」

 

 嬉々として帰ろうとしたエリモスにプリントした結果を渡すと、ガヴィルは真剣な顔をして言った。

 

「お前、今日から禁酒な。」

「うっそだろおい!?」

 

 それはあまりにも残酷な宣告であった。どれほど衝撃的だったのだろうか、エリモスは膝から崩れ落ち、滂沱の涙を流している。そんな彼に呆れながら、ガヴィルは本当に不思議そうな声をあげた。

 

「いやむしろなんでお前普通に酒飲めると思ってんだ?」

 

 この後、エリモスがあまりにも泣き止まないためにガヴィル式の麻酔が火を吹いたとかなんとか。ただ一つ言えるのはガヴィルはケルシーから説教を受けたということだけである。





ガヴィル
 僕は頭トミミです。
 

【健康診断】
 造影検査の結果、臓器の輪郭は不明瞭で異常陰影も認められる。循環器系源石顆粒検査の結果においても、同じく鉱石病の兆候が認められる。以上の結果から、鉱石病感染者と判定。

【源石融合率】23%
体表に源石結晶を多数確認。病巣は左上半身を中心に分布しており、また、病状の進行速度から厳重な注意が必要である。

【血液中源石密度】0.61u/L
循環器系における結晶密度は急速に増加しており、早急に医療チームを編成しての治療にあたる必要がある。

『…生きていたことが何よりの幸運だ。少なくとも私たちにとってはな。』─サリア


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職場の儀仗兵の顔が良すぎる 1


「これ?5年日記。これ埋めることをひとまずの目標にしようかと思ってさ。」




 

 ロドス内にある自分の執務室で、私は医療部から上げられた報告書に目を通していた。その内容には先日のヴィクトリア作戦に参加したオペレーターたちの健康診断の結果が記されている。

 

「……。」

 

 そしてその最後のページを読み終えると、別紙で作られていた資料を手に取った。その資料の中身も同じく、ヴィクトリア作戦に参加したあるオペレーターの診断結果が載せられている。─ただし、こちらは他のオペレーターたちよりもはるかに深刻度が異なっていた。

 

 源石融合率23%、血中源石密度0.61u/L。これがその資料内の患者が示した症状であり、他の戦闘オペレーターの誰よりもその数値が高い。そしてこの数値は、恐ろしいことにほんの2カ月前までは未感染だった人物のものなのだ。だからこそ、今医療部は全力で手を尽くそうとしているのである。

 

「………。」

 

 ぺらり、ぺらりとページを捲る。数ページにもわたるその資料には各オペレーターたちから上げられた治療方針や義手の設計図、彼が発症した症状に対するリハビリプログラムまでが事細かく載せられていた。それを私は、医療部の責任者の1人として、そして何よりも彼が感染するきっかけを作った人物として、全てに目を通す。それが私のなすべき事なのだから。

 

 そして数分後、私がふと目線を紙束から上げた時だった。そこには2人の金髪の男女が座っていた。男性の方は黙々と皿の上にあるショートブレッドに手を伸ばし、女性の方は書類を片手に私の方を観察している。彼女は私が目線を上げたことにすぐに気がついたのか、声を上げた

 

「あ、気がついた?ドクター。」

「まじ?今何分経ったよ。」

 

 女性の方は今日私の秘書を務めるヴイーヴルのオペレーター、サイラッハ。そして彼女の向かいには、1人の隻腕の男が座っている。

 

「…エリモス?なんでここに?」

「お疲れ様です、ドクター。ちょっと用事があってきました。」

 

 ショートブレッドをつまみながら、件の人物であるエリモスは普段通りの様子でそう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、ジェーン(サイラッハ)。俺がきて何分経った?」

「5分42秒だね。だからこのゲーム私の勝ちでいいかな?」

 

 ゲーム。なんの話かはわからないが、サイラッハがそう言うとエリモスは肩をすくめた。

 

「…ま、そういうルールですからね。大人しく今度のお茶会(ティーパーティ)には参加しますよ。」

「わかった、じゃあみんなにそう伝えとくね。」

 

 降参、と言わんばかりの表情でそう言ったエリモスに、笑いながらサイラッハは返した。彼女が肩を揺らすのに合わせて美しい金髪が揺れる。気のせいかふわりといい匂いがした気がした。

 

お茶会(ティーパーティ)?」

「ああ、ヴィクトリア出身のオペレーターたちの集まりですよ。俺は滅多に参加しないんですが、まあ今回ジェーンに誘われまして。」

「さっき聞いたらほとんど来たことないって言うから…せっかくだしどうかなって思ってね。」

 

 なるほど。確かにそう言われるとスカイフレアあたりは定期的にそういうのをしている気がする。

 

「いやあれは別ですよ。単に毎日きっちり茶菓子まで用意して飲んでるだけ。」

「あの人ほんと毎日やってるよね…。」

 

 …そういう余裕のなかったであろうエリモスはともかく、一般的なヴィクトリア人であるサイラッハまでもが呆れたかのようにそう言っている。と、会話に一区切りついたからか突然にサイラッハがソファから立ち上がった。

 

「ドクター、私ちょっとお菓子の補充取ってくるね。さっき2人で食べてたらだいぶ無くなっちゃったから。」

「…美味しかったんだよ。ご馳走様でした。」

「口にあったなら、よかった。じゃ、ドクター。ちょっと行ってくるね!」

 

 無駄にキリッとした顔でそう言ったエリモスに笑いかけると、サイラッハは小さく手を振って扉から出ていった。後に残されたのはまだもぐもぐとお菓子を食べ続けるエリモスと、私の2人。彼はしばらく咀嚼していたが、コーヒーを飲んで、真面目な顔で口を開いた。

 

「…いやあ、危なかったですよドクター。」

「何がだい?」

 

 あまりにも真面目な顔をしているが…待て。こいつ今真面目な顔している?なら、もしや…。

 

「ええ。もし俺があと10歳…いや5歳若ければ、彼女に告白して振られていたでしょう。危ないところでした。」

「どうせそういうことだろうと思ったよ!!」

 

 そうだこいつはこんな奴だった。思わず語気を荒らげてしまった私に驚いたのか、エリモスは耳を窄めた。

 

「いやだってそうでしょう!?美人でスタイル抜群で笑顔の綺麗なコミュ力高めお姉さんですよ!?俺がこれまでに数々の玉砕をしてなかったら今頃危なかったですよ!」

「それを誇るな!そのせいでシージ(ヴィーナ)がどれだけ胃を痛めたと思っているんだ!?」

 

 具体的には私が愚痴に付き合わされるくらいである。

 

「知りませんよそんなこと!いいですか!?このエリモスのモットーは『恋はいつでも砂嵐(サーブルス)』!この燃え上がる感情を抑えることなんてしたくないのです!」

「それこそ知らんわそんなこと!てかその砂嵐は勝手に起こったものじゃなくて君が自分で起こしたものだろうが!いいのか!?それ以上ふざけたこと言うならマドロックにチクるぞ!?」

「それはレギュレーション違反でしょうが!」

 

 …いやほんと、なんでこいつこんなに普段通りなんだろうか。そう思いながらも首元から覗く源石をも気にせずにふぎゃあふぎゃあと騒ぎ立てる彼に対抗して、私は勢いよく椅子を蹴飛ばして立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ふう、一度落ち着こうか。」

「…そうですね。そうしましょう。てか、そもそもドクターに用があったんですよ俺は。」

 

 それから5分ほど経っただろうか。互いに言いたいことを言い終えた私たちは、休息の意味を兼ねて本題に移ろうとしていた。なんでいい歳こいた男2人がこんなに時間を無駄にしているのか、本当に理解に苦しむ。

 

「そういやそんなこと言っていたね。用事ってなに?」

「転属届です。重装から術師への。」

 

 そう言ってエリモスは一枚の紙を取り出した。内容は確かにオペレーターの転属届。ご丁寧にすでにサリアとスカイフレアのサインは貰っているようだ。こうなるとあとはトップである私の許可待ちと言うことになる。

 

「…なるほどね。エリモス。」

「なんでしょう。」

「君はまだ、戦い続けるつもりかい?」

 

 今の彼にはいくつかの選択肢がある。姉の元でヴィクトリアのために働くのもありだろうし、フェイストやロックロックたち自救軍のメンバーと一緒にロドスのヴィクトリア駐在事務所で働くのも良いだろう。ホルンや他のヴィクトリア軍人たちからは軍に来るのはどうかという誘いを受けているらしいし、治療さえできるのならば、シエスタやドッソレスのようなリゾート地に移動するのもいいのかもしれない。少なくとも私は、彼にはその権利があると思っている。

 

「そりゃ、まあ。これ出すくらいなんでそのつもりですが。」

 

 すっかり冷め切った紅茶を一口飲んで、私の目を見た。

 

「俺はあと何年生きれるか分かりませんからね。だからせめて、自分の満足できる生き方したいんですよ、俺は。」

「…それが、これかい?」

「そう言うことですね。まあ別に戦うのが好きってわけじゃありませんが…」

 

 なくなった、と言ってエリモスは音を立てずにカップを置いて、不敵に笑った。

 

「それで少しでも明日を生きる誰かが希望を持てるなら、俺は最後まで戦いますよ。ええ、最期まで、ね。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そうだ、エリモス。」

「なんです?また何か用が?」

「個人的なことだけどね。」

 

 手続きを終え、アーツロッドを持って部屋を出て行こうとするエリモスに私は声をかけた。割とお互いに時間がない日々を送っているので、聞くなら今しかないと思ったのだ。

 

「ふむ?なんでしょうか。」

「…君は、マドロックのことはどうするつもりだい?」

「………どう、とは?」

 

 彼のこちらを見る目が細められた。何かを探ろうとしているような、あるいは少しばかり彼の逆鱗に触れたような目つきだった。そんな彼の目線に負けじと、私は彼の目をじっと見た。

 

「分からない、とは言わせないよ。彼女、あんなに分かりやすいんだ。普段おちゃらけているようでその辺に聡い君が気づかないわけがない。」

「………。」

 

 目を逸らしたのは彼の方だった。彼は私から目線を外すと、ドアノブを回した。彼の顔に逆光がかかり、その表情は窺えない。

 

「…あいつを」

 

 数秒の沈黙の後、ポツリとその言葉が漏れた。

 

「…あいつを沈むと決まってる泥舟に乗せるわけにはいかんでしょう。」

 

 それだけ言って彼は執務室を後にした。

 

 一人残された私の耳に、彼の足音がやけに響いた。

 




オペレーター 明塵エリモス 
能力測定
【物理強度】普通
【戦場機動】標準
【生理的耐性】優秀
【戦術立案】 標準
【戦闘技術】優秀
【アーツ適性】卓越


サイラッハ
 めっちゃすこすこオペレーター。この人実装されるってわかった瞬間に僕は1ヶ月もやししか食べれなくなることを覚悟しました。そこまでは引かずに済んで本当に良かった。BIG LOVE……。

 まあまずは見てくれ。この人。美しいだろう?なんかモデルがジャンヌダルクらしいですね。関係ない話ですが僕はFG○始めたきっかけがジャンヌ(白)だったりします。それはさておき、私は白髪ロングが好きですが、それと同じくらい金髪ロングも好きです。碧眼だとなおよし。そしてこの青のカチューシャがいい味出してるんですよ…。これ地味に大事。あと角。この綺麗なお姉さん系のキャラデザで、結構立派な角があるのすごい好き。

 さてこの方、例に漏れずヴィクトリア軍人です。まあこの人は元、ですが。みなさんもうお分かりですね?…そう、やっぱりえっちな服装しているんです!ひゅう!流石ヴィクトリア軍だぜ!マジリスペクト。俺生まれ変わったらヴィクトリア軍の服飾担当になるんだ…。

 それはさておきこのお方。色々言いたいことはありますが、まずはそのおみ足を見ていただきたい。なっっっっが!股下スカイツリーやんけ…。リアルに体の半分脚なんですよこの人。どちらかというとほっそりした脚だから、余計に長く見える。そしてそれを包み込む白いトレンカ。そう、トレンカなんですこの人!それ知った瞬間僕は大歓喜。だってトレンカですよ!?ニーソの良さと足裏を同時に味わえる最強アイテムですよ!?これを考えたデザイナーさんにはマジ感謝。ああ、そうそう。この方絶対領域があるんですが…ここすごいやわらかそうなんですよ。脚は全体細いのに、太ももだけむっちりと言いますか。最高ですよね。控えめに言って。最高だと思います(大事なことなので二回言いました)。

 では次に上半身でっっっか!失礼しました、つい本音が。多分この人、ウエスト細いし胸下ベルトあるんで余計に大きく見えるんだと思います。流石儀仗兵…見た目には気を遣ってるんですね。襟とかどんな構造なってんのそれ、って言いたいんですけど、多分これ鎖骨見えるんでオッケーです。それだけで価値がある。あと腕の装備が意外とかなりゴツい。僕はこういう綺麗なお姉さんがゴツイ装備持ってるのすごい好きです。これ嫌いな人いる?いねえよな?

 さてこんな綺麗なお姉さん、サイラッハ。ここまで色々デザイン語りましたが、性格も良し、料理もできる、それでいてサボり癖ありと親しみやすいところもあるマジでとんでもない沼オペレーターです。みなさん次ピックアップ来たら引いてくださいね。強い、綺麗、えっち、かわいいの4拍子揃った神オペレーターですよ。そんなオペレーター、サイラッハをどうぞよろしくお願いします。


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私の同僚の顔が良すぎる



運営!?運営!?なんでこのタイミングでこの3人ピックアップ!?まさか見てるの!?




 

 小さく足音を立てて無機質なロドスの廊下を歩く。昼下がりのこの時間は、多くの者が仕事や訓練などで出払っているからだろうか、偶然にも私は誰にも出会うことなく、目的の場所に着いた。

 

「エリモス?いるか?」

 

 私が目指していたのはエンジニア部管轄のある一室、端的に言えばエリモスの工房であった。…いや、『元』工房と言うべきだろうか。原石粉塵を避けるために、あいつはこれから作業班ではなく事務方に回されるらしい。なので今、次の使い手に明け渡されるまではそこはエリモスの仕事道具のあるだけの部屋となっている。

 

 さて、その扉をノックしても返答がない。一拍置いて、更に大きな音を立ててノックしたが、それでも返答はなかった。留守か?と思ったが、扉には『在室』の札が掛けられているので、中にはいるようだ。よく見たらその札には『鍵は開いています。返答がなかったらご自由にお入りください』と書かれている。その言葉に甘えて扉を開けると、私は彼の部屋に足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 中に入ると、外に比べて少し冷ややかな空気が私の頬を撫でた。どうやら部屋の主はエアコンをつけているらしい。そしてしばらく主を失っていたこの工房は、随分と仕事場、と言った雰囲気が緩和されていた。…いや、これからもされていくのだろう。

 

 その奥、ソファのある方へと目を向けると、エリモスはそこで目を瞑り、静かに眠っていた。あまりにも静かだったものだからつい、呼吸をちゃんとしているのかと不安になってしまう。近寄って彼に耳を寄せると、規則正しい呼吸音が聞こえて、私はそっと胸を撫で下ろした。

 

 …それにしても、だ。

 

「…随分と静かだな。」

 

 手持ち無沙汰なので彼の左腕があった場所に付いている機械の義腕をキン、と弾いて呟いた。普段はかなり愉快な性格というか、よく喋る男だったのだが、ロンディニウムから帰ってきて以降は少し落ち着いたように見える。更に最近は昼間でもよく眠るようになったのだから、かなり静かになったように感じてしまう。

 

「…それにしても、気が付かないものだな。」

 

 未だに眠る彼から少し離れて、向かいのソファに腰掛けた。どうせやることもなく、話し相手の欲しさにここへ来たくらいなのだから別に全く急いでは無いのだが、ちょっとくらいは早く起きて欲しいという気持ちもある。…だが、果たして起こしていいものなのかという思いもあるのは事実だ。

 

 そこまで考えて、ふっと小さな笑みがこぼれ落ちた。正直な話、初めて会った時にはこの男とここまで親しくなることも、そしてそれ以上を求めるようになるとも思っていなかったのだ。そんな随分と昔のようで、それでいて実は最近の出来事をぼんやりと思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ロドスへ来た当初、私はそれなりにこのロドスという組織を警戒していた。ロドスは感染者のために尽力する集団であり、そして私のかつて所属していたレユニオンと対立していた組織。そこに事情があったとは言え仲間を引き連れて訪ねて行ったものだから、私の方もロドスからは警戒されていただろう。

 

 そんな私がフルアーマーを身につけてロドスを歩いている時だった。目の前に1人の金髪の男が腕を組んで立っているのを見つけたのだ。

 

「お前が今回入ってきた新人(ルーキー)か?」

 

 男の問いに、私はおそらくそうだ、と答えた。ドクターからも他に同時期に入ってきた者はいると聞いていないし、状況から判断するに私しかいないだろう思ったのだ。そしてそれを聞いて男は満足げに頷くと、私の方へと歩いてきた。

 

「そうかそうか!いやー噂で聞いちゃあいたんだよ!俺よりデカいやつが来るってさあ!」

 

 そいつは私の方へと近寄ってくると、馴れ馴れしくバシバシと背中を叩いてきた。別に痛くはなかったが、何より困惑したのを覚えている。…今になって思うとあいつは初対面の女性にそんなことはしない奴だから、本当に私のことを男だと勘違いしていたのだろう。

 

 というか、私のことを『デカい奴』としか聞いていなかったのだろうか。他にこう、『元レユニオン』とか、『サルカズ傭兵』とかあるのではないだろうか。

 

「いやその辺はもうすでに何人かいるし。別に目新しくもなんともないぞ?」

 

 なんなんだこの職場。私がいうのもなんだが本当にカタギなのか?

 

「一応真っ当な製薬会社だぞ。ちょっとした小国くらいならドンパチやれるくらいの戦力はあるらしいけど。」

 

 本当にカタギか?

 

「多分ね。正直ちょっと怪しいとは思ってる。」

 

 そう言って彼は肩をすくめた。

 

「…そうだ、名乗ってなかったな。俺はエリモス。コードネームだけどな。ついでに言うと『エリモス』の意味は『砂漠』。その名前の通り、砂を操るアーツ使いってことだ。どうぞよろしく。」

 

 彼の名乗りに私も応じた。私の名前はマドロック、その名前の通り沃土と大地を友とする者だと。

 

「へえ、泥岩(マドロック)ね。いい名前じゃねえの。…なんとなくだけど、お前とは仲良くやれそうな気がするぜ。」

 

 笑みを浮かべる男に、私は曖昧な表情で返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あの時は、ここまで親しくなるとは思っていなかったんだがな。」

 

 ぴひゅう、と謎の寝息を立てるエリモスを見て、苦笑いを浮かべながらも私は本当に懐かしい気分になった。あれがたったの数ヶ月前の出来事だなんて、到底信じられない。

 

「お前が初めてだったんだ。私を『感染者』でも『サルカズ傭兵』でも『レユニオン』でもない『私』で見てくれたのは。」

 

 エリモスは恐ろしいほどに私の経歴を気にしなかった。そして私とはただの同僚として、友人として接し続けた。果たしてこいつはそれがどれだけ珍しくて、どれだけ嬉しかったのかわかっているのだろうか?

 

 そんなエリモスだからこそ、私は慣れ親しんだあのスーツを脱ぎ捨てて素顔で接しようと決めたのだ。

 

「…ん?あれ、ここは…?」

 

 そうしていると、小さな声と共にエリモスが動き出した。どうやら目を覚ましたようだ。

 

「起きたか?エリモス。」

「ん?あれ、オレは……………ああ、工房か。」

 

 2、3目を瞬かせると、彼は自分の居場所を認識したのか大きな欠伸をした。そのままぐしぐしと目を擦って、そしてようやく私がいることに気がついたのか驚いた表情を見せた。

 

「……マドロック?なんでここに?」

「暇だったからな。話し相手になってもらおうと思って来たんだ。」

「マジか。すまんな、かなり寝てただろ、俺。」

「そうでもない。待ったのはほんの数分だ。」

 

 私がそう言うと、起こしてくれれば良かったのに、なんて言って彼は立ち上がった。義腕のお陰でバランスが取れているからだろうか、以前よりも尻尾の揺れは少ない。そのまま飲み物を淹れるためだろうか、コンロの前へと歩いている彼を追って、私も立ち上がった。

 

「なあ、エリモス。」

「なんだ?おやつにクッキーなら出せるが。」

「そうじゃない。」

 

 電気ケトルに水を注いで、彼は戸棚を漁り始めた。もうすでに運び出されたからだろうか、中身の随分と少なくなった戸棚だったが、どうやら必要最低限は残しているらしく、中からクッキーが姿を現した。

 

「ならなんだ?紅茶の方が良かったか?」

「そうでもない。明日は暇か?」

 

 私がそう聞くと、エリモスは怪訝な顔をした。何を言っているかわからない、と言った様子だ。だけど、私はそれを聞いておかなければならなかった。

 

「まあ、仕事終われば暇だけど。その後でいいか?」

「ああ、それでいい。その後、また一緒に食事にしないか?」

「……言っておくが、俺は今酒飲めねえぞ。」

 

 そう言ったエリモスに、私はポケットからあるものを取り出して答えた。

 

「わかっている。だから明日は私も飲まない。…それと、お前がまた飲めるようになるまでこれは預かっておくぞ。」

 

 取り出したのはエリモスから預かっていた鍵。彼秘蔵のコレクションが集められた酒蔵の鍵は、いまだに私が持っている。そしてこれを次に返すのは、あいつが()()飲めるようになった時だ。

 

「…それさ。お前俺の状態知ってて言ってる?」

「ある程度はな。…だがな、エリモス。例え今は鉱石病を治せなくても、いつかは治せるようになるかもしれないだろう?」

 

 そう、いつかだ。ロドスでは、いや世界中で沢山の人が鉱石病を治そうと足掻いている。今はそれがまだ実を結んでいないけれど、きっといつか、必ず彼らは望んだ未来に辿り着くだろうから。

 

「……だから、その時まで生きていろ、ってか。つくづくお前ってやつは…。」

 

 私の言いたいことを理解してエリモスは肩をすくめてぼやいた。

 

「そういうことだ。…また、絶対にまた一緒に飲もう。」

「……まあ、精々足掻いてみせるさ。」

 

 バツの悪そうにそう言ってエリモスはインスタントコーヒーの蓋を開けた。それでいい。私は、こいつはどんな形であれ絶対に約束を破らない男だと知っているから。こう言った以上、エリモスは絶対に最後まで生きようとするだろう。

 

 お前が鉱石病になった程度で、私がお前から離れていくとでも思ったのか?そう思っているのなら、ひとしきり笑ってから甘いと言ってやる。覚えておけよ、エリモス。私の想いは、お前の思っているよりずっと強くて重いんだぞ?

 

 今までよりほんの少し距離を詰めて、私はエリモスの側でコーヒーの香りを吸い込んだ。

 

 

 

 

 

 





さよなら石。いらっしゃいロックロック(4凸)。




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職場の女医の顔が良すぎる 1



追い課金しました。マドロックでした。BIG LOVE…。





 ロドス内のジムにて、1人の黒髪の猫人(フェリーン)の女性が、手元のストップウォッチを睨みつけていた。

 

「くっそ…キッツ…!」

 

 そして彼女の前では、金髪の獅子人(アスラン)がルームランナーの上を走っている。相当な負荷が掛かっているのだろうか、彼の息は荒く、口から漏れ出る悪態にもキレがない。

 

「あと30秒。ラストスパートですよ。」

「あ゛あ゛あ゛あ゛い゛!」

 

 そんな彼の様子に眉一つ動かさず、フェリーンの女性、フォリニックは淡々と告げた。そして男性の方、エリモスもまたそれに半分吠えながら応えると、脚を今までよりも一層力を込めて動かした。

 

 そして地獄のような30秒が過ぎ、フォリニックの持つストップウォッチが電子音を奏でる。ピッとボタンを押して音を止めると、彼女は口を開いた。

 

「終わりです。お疲れ様でした。」

「終わり!?よっしゃぁ!」

 

 緩やかに減速していくルームランナーに合わせて徐々にスピードを落としながら、エリモスは息を整える。彼の足はもはや棒のようになっていたが、それ以上に精神面でのダメージが大きかった。

 

「そのまま息を整えてください。絶対にすぐ止まらないように。」

「そんくらいはわかってる…仮にも戦闘班だからな…。」

 

 肩で息をしながら小走りに、そしてウォーキングに移行するエリモスを見ながら、フォリニックは彼の様子に驚愕していた。

 

(こんなにも体力が落ちているなんて…!)

 

 予想外、と言ってもいい。彼女の知る限りでは元々戦闘オペレーターたちの中でもエリモスは身体能力が極めて高く、持久力もまたそれに伴って相当なレベルであったと記憶している。

 だが、今となってはそれも過去の話。スピードも、走行時間も以前より数段レベルを落としてなお、彼は限界をすぐに迎えてしまっている。おそらく、循環器系にも鉱石病(オリパシー)の影響が出てしまっているのだろう。

 

「…?どうした、フォリニック。何かあったか?」

「…いえ、なんでも。それより、どうして私にトレーニングの指導を頼んだのですか?」

 

 無意識のうちに深刻な顔をしていたのだろうか、クールダウンを終えたエリモスが尋ねてくるのに強引に話を変えて、フォリニックは彼に尋ね返した。エリモスが元々戦闘オペレーターであった、と言うことは、つまり自分以上にトレーニングの知識のあるオペレーターと関わりがあるということなのだ。

 

「なんでって…『戦うため』じゃなくて『健康のため』のトレーニングならお前の方が詳しいと思ったからだ。実際教官たちにもそう言われたしな。」

 

 それを聞くと合点がいった。確かにその目的なら自分が適任だろう。それにしても、だが。

 

「健康のため…ですか。」

「おう。…ちょっとまあ、色々あってな。」

「なるほど、マドロックさんですね。」

「なんで知ってやがる!?」

 

 淡々とタブレット端末に今回の記録を打ち込みながらそう言ったフォリニックに、本気で驚愕しつつエリモスが食ってかかった。息が荒いが、これは果たして走ったからだろうか、それとも驚いたからだろうか。

 

「そもそも彼女がロドスに入職した際に口添えをしたのは私ですよ?そのつながりで今でも関わりはありますから。」

「…マジで?」

「はい。ああ、ついでに言っておきますが…。」

「なんだ?」

 

 その言葉の後で端末の画面を消し、エリモスを軽く睨む。元来気の強い彼女に睨まれて、エリモスは少し後ずさった。

 

「マドロックさんを泣かせたら、撃ちます。」

「怖いこと言うなよ!?」

 

 医療オペレーター・フォリニック。彼女はロドスでも珍しい、本当の意味で『戦う』医師であった。彼女が自分のことをただの非戦闘員、と侮った敵を討ち取ったことは一度や二度ではない。そのことはエリモスにもよく知られていた。

 

「本気ですよ、私は。…話はここまでです。午後からは予定があるんでしょう?」

「…ああ、ヴィクトリアから人が来るからな。シャワー浴びてくるわ。」

「そうですか。湯冷めだけはしないように。」

 

 そう言ってトレーニングルームを出ていく彼を尻目に、フォリニックは思考の海に沈んでいく。

 

 果たしてどのようなトレーニングが負荷が少ないのか。それでいて身体能力を維持させるにはどうしたらいいのか。医師として、彼に先んじて鉱石病に罹った者として、フォリニックは文献を漁るべく、先程落とした端末の電源をつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、ロドスに激震が走った。

 

「お久しぶりです、ホルンさん。」

「ええ、本当に久しぶりね。調子はどう?」

「最近は上々、てとこですかね。そちらはどうです?」

「どうにかってところね。被害があまりにも大きかったもの、復興までにはまだ時間がかかるわ。」

 

 エリモスが、ヴィクトリア軍の制服を着た人物と何やら親しげに話している。最初こそ深刻な話題だったが、徐々にその話題は世間話へと変わっていき、時折笑みが混じっている。その様子を見た一部のオペレーターたちは、ギョッとした目をした後、何故かそそくさとその場を離れていくのだ。

 

 果たして何故そのようなことになるのか。それは単純、彼らが『エリモスの彼女は誰になるんだろうねトトカルチョ』に参加しているからである。

 

 ネーミングセンスの欠片もないこのトトカルチョだが、意外にも参加者が多い。参加人数だけで言うならドクターを対象にしたものに次ぐ規模となるだろう。そして現在のところ、この賭けで一番人気が高いのはマドロックであった。それも他に圧倒的な差をつけて、である。が、それが揺らぎかねない事態であることを彼らは察してしまったのだ。

 

 と言うのもこのエリモス、過去の数々の玉砕によって女性の好みがほぼ完全に把握されている。強そうで、美人系の顔立ちで、髪が長くて、脚が綺麗で、身長が高いと尚よし。今までの傾向から考えた結果として、彼の好みは周囲からはそう認識されており、そして今、それにぴったり合致する人物が現れてしまった。

 

 なんと言うことだ。オペレーターたちは戦慄した。ただでさえ過去には圧倒的一番人気と称されたリードが参加者を阿鼻叫喚の地獄に叩き落とし、そしてまさかのマドロックという大本命が生まれたと言うのに、またしてもダークホースが産み出されるとは。参加者たちはこれからどうなるのかを尋ねるべく、胴元であるクロージャの元へと足を運ぶことになった。

 

「…エリ、モス?」

 

 そしてその様子を眺めていたのは賭けの参加者だけではない。エリモスとホルンが話していたのはロドスの搬入口。つまり人目が多いところなのだから、当然のように目撃者は増える。勿論エリモスのことを全く気にしない者がほとんどを占めるが、気にするものだって当然いるのだ。

 

「…あれ、は…誰だ?」

「知り合い、なんでしょうか…仲が良さそうですけど…。」

 

 今なお近い距離で笑い合う2人を遠くから眺めているのはマドロック、スズラン、フォリニックの3人。過去の奇妙な縁があって関わるようになった彼女たちは、たまたまであるが彼らの再会を目にしてしまっていた。

 

「…撃つって、言ったはずなんですけどね。」

 

 先程、エリモスの好みは割と知れ渡っていると言ったが、それはマドロックにだって例外ではない。思わぬ事態に目を見開くマドロックを見て、フォリニックは静かにそう呟いた。

 

 




フォリニック
 僕らのケルシー先生の弟子。つまりスケスケ女医の弟子です。と言うことはえっちなお姉さんと言うことですね。完璧な証明です。
 
 昇進1だとそこまで際立った何かがあるわけではありません(ロドス基準)。ごめんなさい嘘です。世界基準越えの美脚がありましたね。至高の黒タイツに包まれ、ホットパンツからスラリと伸びた美脚が。僕は脚フェチなのでこう言うのがすごい好きです。あと最近気づいたんですけど、ハイカットスニーカーとかも好きみたいですね。当然、フォリニックはそこも抑えています。流石はロドスの医師だぜ…。

 そしてコーデでは私服を眺めることができます。…私服ですって?その格好で!?やべえよテラ。刺さったポイントを具体的に言うならトレンカと、オフショルダー。サイラッハの時にも言いましたが、僕はトレンカを至高の産物だと考えているので、トレンカの発明者にはノーベル賞をあげていただきたい。大至急で。あとオフショルダーとは言いましたが、実際のところノースリーブです。…腋。見えませんか?あなた。いいんですか?見た感じ脇腹もかなりパックリ開いてますけど…師匠リスペクト?やっぱロドスは最高やな。

 他に好きな点でいうと、真面目なことですね。彼女の境遇ってかなりヘビーなんですけど、それに負けてない。母親とケルシーの縁から弟子入りしたみたいですが、あのケルシー先生の圧に負けずに弟子として一人前になった強メンタル持ちです。ウォルモンドの時のアレは、実際のところ友人のことを心配し過ぎて相当に動揺してたんではないかなって思ってます。普通はそりゃそうなるわって感じ。そんな人間としての弱みがある部分も好きです。完全無欠じゃない、ってのは個人的には大事ポイント。

 そんなフォリニック。なんと配布です。彼女と、そしてマドロックの出ているウォルモンドの薄暮は常設なのでいつでも見れますよ。ただしアークナイツしている話なので、覚悟は決めてください。


ホルン
 最初公式からの供給が多すぎる。もしかして僕は夢を見ているんでしょうか。




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俺の戦友の顔が良すぎる


「新章実装します!」
「マドロックのコーデ復刻します!」
「マドロックのフィギュア作ります!」
「アマツマガツチ復活します!」
「GW連勤です!」
「振られました(ガチ)!」

 うーんこの。



 

「………。」

 

 エリモスの目が、死んでいる。

 

「……………。」

 

 彼と同じ部屋で作業をしているクロージャの目もまた、死んでいる。

 

「「………………………。」」

 

 ここはエンジニア部の事務室。死んだ目をした2人は黙々と、余計な動作一つせずにモニターを睨み、キーボードを叩き続ける。そんな彼らの横には、このデジタル化のご時世にも関わらず、大量の書類が山を成していた。

 

「…終わらねえ。」

「本当にね…。」

 

 あまりにも先が見えない作業にエリモスがぼやくと、それが聞こえたのだろうクロージャが力なく答えた。

 

「俺さ、事務方入ったの最近だからわかんねえんだけど、普段からこうなのか?」

「普段はそうでもないんだけどねえ。ほら、この間うちとヴィクトリア軍とで提携があったから、その技術協力とかの関係で書類がバカみたいに多いんだよ。」

「…?ああ、なるほど。守秘義務とかか?」

「そういうことー。」

 

 そんなことを話ながら、生気を消した目で、それでも手は一切休めずに2人が作業をしていた時だ。突然にドアが3度、上品にノックされた。

 

「…はい、どうぞ。」

 

 ああ、仕事が増える。来客=仕事という計算式が成り立っていた2人はノックの音に顔を歪めたが、一瞬でそれを戻すと入室を促した。その後に失礼するわね、と言いながら入ってきたのは1人の金髪をした狼人族(ループス)の女性。彼女の姿を見てエリモスはおや、と腰を上げた。

 

「ホルンさん?どうしたんです?」

「あらエリモス、お邪魔するわよ。ちょっとエンジニア部に用事があってきたの。」

 

 そう言ってホルンは手に持った数枚の書類を見せると、自然にエリモスの左に立った。

 

「…もう左に立つ必要は無いですよ。」

「…ああ、そうね。慣れてたから、つい。」

 

 苦笑いしながらエリモスは書類を受け取ると、中身を読み始めた。内容としては大体さっきクロージャと話していたようなことが書かれている。なら責任者であるクロージャに回したほうがいいだろう。

 

「あ、この案件ですね。ならクロージャに回しときます。」

「え?今あたしの仕事増えた?エリモスじゃなくて?」

「増えたぞ。ドンマイ。」

 

 自分の机に置かれた書類を見て、クロージャは絶望的な表情になった。ただでさえ問題児の多いエンジニア部のチーフとして仕事が多いのに、それに更なる仕事が積み重なったので仕方ないと言える。

 そしてそんなクロージャを尻目に、エリモスはと言うとホルンの方へと向き直っていた。

 

「で、どうですホルンさん。ロドスは。」

「いい場所ね。久しぶりにバグパイプにも会えたし…それにみんないい人たちばかり。」

「そいつは上々。ついでに言うならここは飯も美味いですよ。キッチン連中の腕がいいんでね。」

「そうね。ただの社員食堂なのにヴィクトリアのレストランより美味しかったわ。」

 

 それはそれでどうなんだろうか。会話に混ざらないまでも聞いてはいたクロージャは本気でそう思った。

 

「それはそれでどうなんです?いや俺はヴィクトリアでちゃんとしたレストランとか行ったことないんで知らないんですけども。」

 

 そしてどうやらエリモスも同じことを思ったらしい。

 

「…昔士官学校で外から来た人が『食事が美味しく無い』って言ってた気持ちが今なら分かるわ…。」

「そんなにですか。」

 

 まあどんなに不味くても食えるだけマシですけどね、と言いながらチラリと壁の時計を見た。時刻は昼前。そろそろ食堂が混み合う頃合いだろう。

 

「こんな時間か…俺今から昼休憩取りますけど、ホルンさん一緒にどうです?」

「あら。お誘いは嬉しいけど、この後はドクターに呼ばれているの。また今度お願い。」

「それは残念。ではまた今度。」

 

 その後も少し2人は話していたが、キリの良いところでホルンが事務室を後にした。それを見送ったエリモスは一つ大きなノビをして、椅子から立ち上がった。

 

「お、エリモス休憩?」

「おう。ちょっと行ってくるわ。今日って日替わりセットなんだっけ?知ってるか?」

「知らなーい。」

 

 まだしばらくは作業を続けるつもりのクロージャはそう言ってマグカップを傾けた。ぬるくなったコーヒーが喉を通っていく。

 

「てかさあ、エリモス。」

「なんだ?」

「エリモスってホルンさんと仲良いよね。」

「どうした急に。」

 

 急な話題の展開に眉を顰めながら、エリモスはクロージャの方へと視線を向けた。

 

「いや気になってさ。まあヴィクトリアで色々あったんだろうしそんな急な話では無いんだろうけど。」

「分かってんじゃねえか。マジでその縁だわ。」

「ふーん。ならさあ。」

 

 カタカタとキーボードを高速で叩きながら、エリモスに視線を欠片も向けずにクロージャは口を開いた。

 

 

「マドロックとどっちが好きなの?」

 

 

「……あ?」

 

 クロージャの質問に、エリモスの顔が不可解なものを見る時のそれに変わる。

 

「いやちょっと気になってさ。ほら、ホルンさんってエリモスの好みど真ん中じゃん?」

「…まあ否定はしねえけどってちょい待て。なんでお前が俺の好み知ってんだ。」

「なんでって。この情報はだいぶ前から出回ってるよ。飲み会ででも誰かに言ったことあるでしょ?」

 

 そう言われたら心当たりしかなかった。

 

「…仮に100歩譲ってそうだとしても、プライバシーってものはないのか。」

「こんな狭い(ふね)でそんなのあるわけないじゃん。で、どうなの?」

 

 どうにか話題を逸らそうとしている中、再び切り込んできたクロージャにエリモスは大きく舌打ちをした。仮にも上司にしていい態度ではない。

 

「いやそんな舌打ちしても無駄だよ。ほらキリキリ吐きなよ。」

「…お前そんな恋愛事情に興味あるタイプだったか?」

「そりゃああたしも乙女だからね。恋バナへの興味はあるに決まってるよ。」

 

 嘘である。このクロージャ、自分が主催しているトトカルチョが、かなりの金額が動いていたにも関わらず中止になってしまったので、その腹いせに聞いているだけなのである。

 

「いやまあ聞かれても答えないけどな。」

「そんな!?」

「いやそうそう教えるわけないだろ。」

 

 社員証を乱暴にポケットに突っ込んで、エリモスは扉の方へと歩き出した。その背中にクロージャの恨めしそうな視線が突き刺さるが、彼はそれを無視できるだけの胆力を有していた。

 

「じゃ、お先に。」

「うええ…後でまた聞くからね…。」

「聞かれても教えんぞ。」

 

 その一言を最後に締められた扉を見て、クロージャはため息を一つついた後、ペースを上げてキーボードを叩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 いつ頃からだろうか。視界の隅に銀色が映るようになったのは。食堂までの、混雑した廊下を歩きながら考える。

 

 いつだ?白でも、灰でもないあの色の髪を、紅玉(ルビー)のような瞳を探すようになったのは。ヴィクトリア行った時から?その前からか?ちょっとだけ考えて、わかんねえや、と考えるのをやめた。要は気がついたら探すようになってた、と言うことだろう。

 

 まあ、確かにクロージャが言った通り、ホルンさんがドストライクってのは否定しねえけど。それはそれとしてってやつなんだろうか。ほらよく言うだろう?『好みのタイプと好きになるタイプは違う』ってのは。いや別にマドロックは中身も見た目も最高なんだけどさ。

 

 奇跡的に食堂までの道では誰にも会わなかった。グムに日替わり(今日は鱗獣のフライだった)を頼んで、そのまま席に着く。

 

 まあでもこれを本人に伝えることはないんだろうな。

 

 そんなことを思いながらフライに齧り付いた。流石と言うべきか、大量に作っているはずなのにサクサクに揚がっている。

 

 先に、それも、割とすぐに死ぬ俺じゃあいつを幸せにできないから。あいつを置いて行ってしまうから。ならあいつの横にいるのは俺よりも、もっとあいつを幸せにできる奴がいい。マドロックより長く生きて、マドロックを支えられるくらい強い奴がいい。そんな奴がいればいいんだけど。

 

 昼食を平らげて、トレイを返却口へと持って行くと、まだ時間があることを確認して歩き出した。この時間なら購買で缶コーヒーを買っても間に合うだろう。

 

 ああ、でも。

 

 目の前を走っていく子供達をみながら、ぼんやりと思った。

 

 それが俺ならよかったのに。

 

 無駄に長く生きているくせに、いやだからこそか?あまりにも面倒な自分に嫌気が差して、横の窓から外を見た。タイミングがいいのか悪いのか、丁度横を通った羽獣とすれ違う。

 

 窓の外には、曇天が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

 





すっげえ余談なんですが、エリモスは最初の段階ではアスランではなくアビサルハンターでした。スカジとかの後輩枠。

てか皆さん。フィギュア注文しました?僕はしました。いやーありがたい。届くのが来年なのが今から待ち遠しいですね。この調子でマドロックに新コーデお願いします。個人的には私服系の…縦セタでお願いします。


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職場の吸血鬼の顔が良すぎる


 おいでませペナンス。なぜおいでくださらないテキサス。




 

 その朝目が覚めた時、私はわずかに違和感を覚えた。違和感、と表現したが、実際は、不調と言った方が良いかもしれない。頭にはわずかに靄がかかり、普段よりも思考が鈍っている感じがする。

 

 昨日まではそんなことはなかったのに、なんでこうなったのか。私は少し考えて、そして一つの答えを導き出した。そう言えば最近眠りが浅かったな、と。近頃は色々と考え事が多くて、今までよりも安眠できていなかったのだ。だからこそ今回の不調は起こってしまったのだろう。

 

 さて、私はその事実に気がついたが、それを気に留めることはなかった。傭兵であった頃はこれ以上の不調なんてものはよくある話だったし、それに今感じているものも些細なものだ。だからこそ私は特に何も気にせず、温もりを抱えたベッドから身体を引き摺り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「Aセットで、卵はサニーサイドアップでお願いします。」

「あ、うちも同じので。」

「俺もAセットで、卵はオーバーハードで。」

 

 朝食を取ろうとする人でごった返すロドスの食堂。エリモスは偶々遭遇したホルンと、そしてバグパイプと共に朝食を取ろうとしていた。彼らの目の前では多くのキッチンスタッフたちが目まぐるしく動き、熟練した動きで卵をフライパンに割り入れていく。

 

「オーバーハード?エリモスは固いのが好きなの?」 

「生卵が苦手なんです。あのドロっとした感じが。」

「あー、そう言う人は割といるべ。うちの友達にもいるいる。」

 

 2人の分に対して、エリモスの分は最も長く火を通すために遅れて渡された。それを受け取って席に着くと、食前の祈りを捧げた後に揃って口をつける。─真面目に祈る2人に対して、神など欠片も信じていないエリモスの祈りは上辺だけ真似たものであったが。

 

「うーん…おいしい〜!」

 

 彼らの朝食はパンに目玉焼き、サラダにスープというシンプルなメニュー。それに口をつけて、すぐにバグパイプは幸せそうな声をあげた。

 

「本当に美味しそうに食べるわね…。」

「いや本当に。まあいいことですけど。」

 

 卓を囲むのは一応の同郷3名。彼らの食事は談笑から始まり、時に真面目な仕事の話、そして祖国の話へと移りながらも和やかに続いていく。

 

「─へえ、じゃあエリモスはしばらく出撃ないの?」

「ええ。まあ体調のこともありますけど、それよりも今エンジニア部が忙しいですからね。今日も昨日も明日も明後日も…俺含めてエンジニア部の奴らはみんなそっちにかかりっきりです。」

「それって、私たち(ヴィクトリア軍)絡みのことで?」

「いえ。単にロドスを増築するとかなんとかで。こうなると電気配線から排水設備から全部いじるんで大変なんですよ。」

 

 ため息をつきながらエリモスは器用にサラダを飲み込んだ。と、その時彼の視界に銀光が走る。

 

「…お?」

「あら?知り合い?」

「いや、知り合いかどうかでいうなら俺はロドス内の大体が知り合いになりますが…。」

 

 歴の長さ故か無駄に顔の広い男である。

 

「そっか。エリモスはロドス古参だもんねえ。挨拶でもしてくる?」

「…ええ、じゃあお言葉に甘えて。ただ、それよりも…。」

 

 促され、席を立ちながらもエリモスは訝しげな声をあげた。そのまま人混みの中を歩いて行き、1人のサルカズに話しかける。

 

「よっす。」

「ああ、エリモスか。おはよう。」

 

 話しかけられたマドロックは、わずかに普段よりも頬を赤く染め、エリモスの方を向いて微笑んだ。そんな彼女の様子にエリモスはある確信を抱いて、わずかに目を細めて口を開いた。

 

「…おう、おはようマドロック。…ちょっといいか?」

「?ああ、なん、だ…?」

 

 その言葉の後のエリモスが取った行動に、マドロックの声が上擦った。突然エリモスが自身の本当に目の前に立ったかと思うと、彼の手が自身の額に当てられたのだ。突然の、本当に突拍子もない行動にマドロックがあ、とかうあ、とかの声にならない声を上げる中、エリモスは悲鳴のような声をあげた。

 

「マドロック!」

「な、なんだ?」

「お前熱あるじゃねえか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「結論から言うとしよう。」

 

 それから30分ほどの後、食事も何もかもほっぽり出して、血相を変えたエリモスによってマドロックが医療部の元へ連れ込まれ、入念な検査を受けた後のことだ。

 

「…どうだった?」

 

 今回マドロックを診察したのはワルファリン。彼女によって、一応の付き添い人となったエリモスに容体が説明されようとしていた。彼女は眉を顰め、深刻な顔をするエリモスに対して、手元のカルテを眺めながら口を開いた。

 

「なんのことはない。単なる風邪と、それによる発熱だ。」

「…それだけ?」

「ああ。ただ、咳は無くとも熱は高いな。あと頭痛も多少はあるようだ。平然としておったのが信じられんくらいだ。」

「…まあ、俺が遠目に見てもわかるくらいだったからな。」

 

 エリモスは獅子耳を伏せながら答えた。そんな彼に、呆れたような声がかけられる。

 

「いや、正直妾たちは見ただけでは体調不良かどうかわからんかったぞ。そうであるのに体温計差したら高熱だったから驚きはしたが。」

「は?いや分かるだろ。」

「それができるのはお主だけだ。」

 

 ため息と同時にワルファリンはカルテから目を離してパソコンの方へと向き直ると、キーボードを猛烈な勢いで叩き始める。

 

「お主はあの子達の看病も長かったからな。全くと言っていいほど不調が顔に出んマドロックの異変に気がついたのはそのおかげもあるだろう。」

「…なるほどな。」

 

 まあそれを抜きにしても気がつけたのはお主くらいだろうがな。ワルファリンはそう言おうか一瞬迷って、やめた。そういうのは趣味じゃない。

 

「まあ良い。容体がわかったのならマドロックの元に行ってやれ。自分が病人であることを自覚した途端に弱りはじめたからな。」

「ああ、そうさせてもらうぞ。」

 

 一応は深刻な状態では無かったからだろう。明らかに先ほどよりも安堵の表情を見せたエリモスが立ち上がると、つい、と言った感じでこぼした。

 

「…にしてもただの風邪でよかった。これなら医療部に連れてくる必要もなかったか。」

「何を言っておる。今回連れてきたのはファインプレーだぞ。」

 

 エリモスの呟きは、ワルファリンからしたら許容できるものではなかった。苛立ちを込めて言い返す。

 

「…どう言うことだ?」

「どう言うことも何も。マドロックの鉱石病(オリパシー)の進行度を考えると、医者に見せるのが確実、と言う話だ。」

「…それは経験から言っているのか?」

「…妾は今まで、ただの発熱だと、ただの風邪だと勝手に自己判断した後に急変して亡くなった患者を見ておるから、余計にそう思うんだがな。」

 

 そう言ってワルファリンは、何かを誤魔化すかのようにこめかみを揉んだ。きっと今、彼女の脳内には今まで見て来た患者の顔が浮かんでいるのだ。

 

「…なら、今回はそうじゃ無くてよかった、と言うところか。」

「ああ。違いない。特にマドロックは、あれで相当に感染が進んでいるからな。」

 

 ワルファリンはそう断言して、マグカップを探す。しばらく手がデスクの上を彷徨った後、自分のデスクの上に常にあるはずのカップがないことに気がついた。ここは自分のデスクではなく、診察室なのだ。あろうはずもない。ワルファリンはそのことに気がついて、ため息をこぼした。

 

「話が長くなったな。早く行ってやれ。」

「…ああ。」

 

 短くそうとだけ返して、エリモスが去っていく。ワルファリンもまた、黙って手を振るだけで彼を送り出した。今日もまた、途方もつかないほどに忙しくなるであろう診察室。束の間ではあるがそこにわずかな静寂が広がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マドロック、寝てるか?」

 

 マドロックの病室。病状に対して大袈裟ではあるが、万一に備えて割り当てられたその部屋に小声で語りかけながらエリモスが入ってきた。

 

「…寝てる。」

「起きてるじゃねえか。」

 

 帰ってきた答えに苦笑いが溢れてくる。そう言えばチビたちがいた昔はよくこんな会話をしたものだ。

 

「寝とけ寝とけ。ワルファリンが言うことにはただの風邪らしいからな。栄養とって寝れば治る。」

「風邪、か。しばらく引いていなかったんだがな。」

「それでも風邪ってのは引く時は引くもんだ。…寝れないなら何かいるか?リンゴとか持ってくるぞ?」

「…いや、必要ない。ただ、一ついいか?」

「ああ。なんだ?」

 

 横になるマドロックの顔を覗き込むようにエリモスが立っている。そんな彼にマドロックは薄く開けた目を向けた。

 

「…私が寝るまで、そばにいてくれ。」

 

 その言葉にエリモスは目を丸くして、すぐに小さく笑った。

 

「お安いご用だ。」

「……ん?」

「…この方が、俺がいることが分かるだろ。」

 

 直後、自分の手に温かい何かが当たる感触。それがエリモスの手だと認識するのには数秒もかからなかった。義手の、鋼の掌ではなく、生身の、幾つものマメがあるゴツゴツとした手を、マドロックは少しだけ力を込めて握りしめた。

 

「…今日は休みだからな。1日空いてるし、することないからここにいるさ。」

「…いいのか?仕事とかあるんじゃ。」

「どうにかするだろ。クロージャが。」

 

 これこそ上司に仕事を押し付ける、ダメな部下の鑑だ。冗談めかしてそう言ったエリモスにマドロックは笑って、それから目を閉じた。目を閉じても繋がれた手のひらから、彼の温度が伝わってくる。

 

「…おやすみ、マドロック。」

 

 繋がれた温もりと、耳朶を打つ聞き慣れた声。体調は相変わらず悪いけれど。それでも今日は、昨日までよりもずっとよく眠れるに違いない。そんな確信を持って、マドロックは夢の世界へと落ちていった。

 

 





 異格テキサスとペナンスさんが実装されました。以前コメ欄にいらっしゃったらテキサス待機勢の方が無事にお迎えできたことをお祈りしています。私はペナンス3名、テキサス0でした。偏りがすごい。でも本当に最近のループスは的確に僕の性癖を差してくる。ホルン、パゼオンカ、そしてペナンス。全て僕の癖にあっています。僕はね。信念のある大人の女性が大好きなんだ…。

 そして今回のアプデで、星6指名券が販売されていますね。みなさんは誰にされましたか?僕は今回はホルンさんです。マドロックは前回来てくれたので、その分今回はホルンさんの番となりました。重装女子大好き。と言うわけでペナンスも好きなんです。黒コートミニスカニーハイ絶対領域吊り目意外と物腰柔らか裁判官とかいう属性の塊。しかもピアス開いてる。控えめに言ってbig love…。自分の正義を持ってるところも好きだし、それで迷い続けてるのも好き。俺、生まれ変わったらヴィジル君になりたい。

 そして完全に余談ですが前回チラッと言った原案エリモス(アビサルハンター)は身長2メートル超えで、アビサルハンター特有の白髪赤目とか言う今とは割と別物の存在です。モデルは白鯨(マッコウクジラ)。名前も今とは違うものでした。
 こいつを没にしたのは、こいつを主人公にしてしまうと、アークナイツの世界に花山薫が爆誕してしまうことに気がついたからです。それはそれで楽しそうですが。


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俺の同僚の顔が良すぎる 7













これを見てくださっている方々にも、テキサスやペナンスのみならず、推しのオペレーターが来てくれることを切に願います。

あと今回は後書きに旧エリモス時代の小ネタがありますが、興味なければ読み飛ばしてください。



 

 鼻唄を歌いながら、エリモスはその手に握ったナイフを動かした。危なげなく操られたナイフは真っ赤に熟れたリンゴに当てられており、器用にも一切皮が途切れることなく皮を剥いていく。

 

「…ほい、剥けたぞ。」

「ありがとう、エリモス。」

 

 皮を剥いたリンゴを切り分け、小皿に乗せてマドロックへと差し出した。昨日に比べて随分と顔色が良くなった彼女はそれを受け取って、小さな口でしょりしょりと咀嚼する。その様子に内心で安堵しながら、エリモスはゴミの処理に勤しんでいた。

 

「にしても、前も思ったんだが。」

「なんだ?」

「料理できないって言う割には鱗獣捌いたり、リンゴを剥いたりはできるんだな。」

「俺のことをなんだと思っていらっしゃる?」

 

 ベッドから上体だけを起こして、ロドスの病棟服を着たマドロックは感心したようにそう言った。

 

「これでもちゃんと自炊経験はあるんだぞ俺?昔はチビ達のために料理とかもしてた訳だし。」

「でも上達はしなかった、と。」

「…悲しいことにな。」

 

 ため息をついて、エリモスは今度はフルーツの缶詰を取り出した。あくまで彼のイメージだが、病人にはリンゴと缶詰である。少なくとも遥か遠い記憶の中の、かつての母は己にそうしてくれたのだ。

 

「まああの頃は材料も酷かったし、レシピ本も酷かったからな。なにせ手本にしたのが『ソースには白胡椒を使ってください。もちろん味という面では黒胡椒でも問題はありませんが、それをしてもいいのは見た目を一切気にしない不精者だけです。』とか書いてる本だぞ?」

「ヴィクトリアのレシピ本、口悪くないか?」

「そりゃそうだろうな。…覚えておけ。ヴィクトリア人(奴ら)は基本、嫌味と皮肉を交えずには生きていけない連中だ。」

 

 呆れたようにそう言ったマドロックに、嫌なことを思い出したのか吐き捨てるようにエリモスは返した。もはやロドスでの日常と、自救軍の善良なるヴィクトリア市民たちに慣れて忘れつつあるが、基本的にスラムの人間とは一般市民からすると人間扱いはされない存在なのだ。

 

「じゃあエリモスはかなり珍しいんだな。」

「俺には上手い皮肉を捻り出す頭がないだけさ。さて…。」

 

 話題を変えるためか彼は一度頭を振ると、取り出した缶詰を手に持って尋ねた。

 

「いるか?これ。」

「いや、今はいい。そこまで食欲があるわけでもないからな。」

「そうか。いや、そりゃそうだな。ならまた今度食べてくれ。」

 

 エリモスは再び缶詰を袋の中にしまった。実はこれは先程購買部で調達して来たものだが、その際店番をしていたクロージャから非難がましい目で見られたことを追記しておく。というかあの人仕事多過ぎじゃなかろうか。

 

「…よし。マドロック、何かしたいことあるか?」

「したいこと、か。」

 

 む、とマドロックは少し考えた。考えて、何かを思いついたのか口を開いた。

 

「着替えたい。」

「……はい?」

 

 その言葉にエリモスの動きが止まった。よほどの衝撃だったのだろうか、ギシ、ギシと軋んだ機械のような動きになっている。

 

「いや、昨日は熱があったから、私は汗をかいているだろう?」

「…はい。そうですね?」

「だから、ちょっと今ベタついていてな。そろそろ服を着替えたいんだ。」

 

 そう言ってマドロックは無意識なのか、入院服の胸元を軽く引っ張った。そのせいで先程まで隠されていた真っ白な鎖骨が、そしてその深い谷間が見えそうになり─

 

「ふううううん!!!」

「エリモス!?」

 

 エリモスは最後の理性を総動員して、全力で自分の頬を殴りつけた。それも義手の方で。勢いよく金属が人体にぶつかる鈍い音が病室に響き渡り、マドロックが心配そうな声を上げた。

 

「エリモス?エリモス!?大丈夫か!?急にどうしたんだ!?」

「…ああ。問題ない。ちょっと世界平和について考えていただけだ。」

「絶対嘘だろう!?」

 

 血の味が口の中一杯に広がるのを押し隠して、エリモスは努めて平気を装った。マドロックが心配そうな顔をしているが、それは一旦スルーする。彼は席を立つと、扉の方へと歩いていった。

 

「…じゃあ、ちょっと俺医療部の誰か呼んでくるわ。着替えだけでいいのか?」

「あ、ああ…。本当に、大丈夫か?」

無問題(モウマンタイ)。俺は丈夫なんだ。」

 

 とりあえず詰所へ行けば誰かいるだろう。そう考えてエリモスは病室を出ると歩き始めた。

 

 余談だが、この後彼の左頬を見た医療部のオペレーターたちに彼がこっぴどく怒られたことは当然と言えるだろう。ただし彼はこの行動をとったことをかけらも後悔していないとかなんとか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………。」

 

 午後。左頬にガーゼを貼ったエリモスが、ベッドの横の椅子でうつらうつらと船を漕いでいた。おそらくは鉱石病の症状か。そう思ったマドロックは、とりあえずタオルケットを彼の膝にかけておいた。大したものではないが、それでもないよりはマシだろう。

 

「失礼します…あれ、エリモスさんもいるんですか?」

 

 そんな中、ノックの後で病室に1人のペッローが入って来た。腕章から見ると、きっと医療部の誰かなのだろう。彼女はマドロックよりも、横で眠るエリモスの方に驚いた様子だった。

 

「ああ。昨日から看病をしてくれていてな。」

「そうなんですか。」

 

 マドロックの返答に、意外にも淡白な返しをしていくつかの器具を取り出した。どうやら体調を調べに来たようだ。

 

「じゃあ、熱測りますね。頭痛とか、吐き気とかないですか?」

「もう無い。大丈夫だ。」

「そうですか。それはよかったです。」

 

 医療オペレーターは検温を終えると、忙しなくカルテに何かを書き込んでいく。この辺りは医療知識が全く無いマドロックには何をしているのかさっぱりだった。マドロックがその様子を黙って見ていると、突然に沈黙が破られた。

 

「…エリモスさん、誰かの看病とかするんですね。」

「…ああ、エリモスは昔は働きながら子供達の看病をしていたらしいからな。その手には慣れていると言っていた。」

 

 ほとんどの作業は医療部がやってくれているとはいえ、流石に迷惑をかけている自覚はあった。ただそれを見越してか、エリモスは『溜まりに溜まった有給消化のチャンスができた』などとほざいているのだが。

 

「いえ、そうではなく。」

 

 カルテから目を離さずに、医療部オペレーターは告げた。

 

「この人、例の子供達はともかく、そこまで誰かの看病とかしてるの見たことないですよ、私。」

「……え?」

「これは本当の話で。私それなりに長い間ロドスで働いてますけど、この人がこんなに誰かの病室につきっきりでいるのは初めて見ました。お見舞いとかは割と来てるみたいですけどね。」

「…………そう、か。」

 

 なんだろう。これはあれか。特別扱いと見ていいんだろうか。そんなことを思ったマドロックが、顔が熱くなるのを堪えてエリモスの方へ視線を向けると、彼はマドロックの心境など知らずに穏やかに寝息を立てていた。そんな彼を見て、わずかに口角が上がるのを感じながら呟いた。

 

「それは悪く無い、な。」

 

 静かな病室に、マドロックの呟きがよく響いた。

 

 






以下おまけ。読まなくてもなんの問題もございません。



───────────────────────────────────


 彼女に出会ったのは偶然だった。

 その日、俺─コードネーム『メルヴィル』─は、ドクターに頼まれてある荷物を運んでいた。それは人が抱えられるほどには小さいが極めて重く、人の手では運び難いが、機械を使うにはいささか大仰な代物。だからこそ、俺のような常識はずれの怪力を持つ存在が運ぶのが一番都合が良かったのだ。

 それはさておき、俺がその荷物を小脇に抱えて、鼻唄を歌いながらロドスの廊下を歩いていたときだ。少し離れたところにあるソファに1人のサルカズの女性が座っているのを見つけた。そして彼女もまた、俺が来たことに気がついたのか伏せていた目を上げてこちらを向いた。俺と彼女の視線がぶつかり合う。

 彼女の髪は夜に輝く星のように白く銀の光を帯びていて、瞳はまるでルビーのように紅かった。俺の髪と目も、手術の影響で白く、そして赤いが、彼女のものとは全くの別物だ。サルカズという種族の特徴である角は、彼女の側頭部から2本、天を衝くかのように生えている。サルカズの角には個人の特徴がよく現れるが、彼女のそれは今までに見たことない角だった。
 とは言えロドスは広いので、初めて顔を合わせる人がいたとしても不思議ではない。名も知らぬ彼女は動きやすそうなよく言えばラフな、言い方を変えれば些か露出の多い服装に身を包んでいて、その服装こそが彼女の女性らしい肢体をより艶やかに見せている。体表にはいくつかの源石結晶が浮かんでいたが、そんなものが欠片も気にならないほどに彼女は美しく、魅力的だった。

 そんな彼女は俺と目が合うと、小さく微笑んだ。その笑みを見て、俺の心臓が激しく動悸する。今までに俺は幾度も命の危機を切り抜けて来たが、その時でもこれほど激しく心臓が高鳴ったことはなかった。それほどまでの衝撃だった。

 それからのことはよく覚えていない。多分慌てて彼女に会釈かなんかをして、そして荷物を抱えて走ったんだろう。気がつけば俺は自室に備え付けられた、体格に見合わない大きさのベッドの上で寝転がっていた。

「…うおお…。」

 呻きながらゴロン、と寝返りをうつと、ベッドにおさまり切らなかった身体が床に落ちた。派手な音がしたが、大して痛くはない。それよりも今は、火照った身体に床の冷たさがありがたかった。

「ぬおお…」
 
 ベッドから落ちてもなお、呻きながら俺は床を転がり続ける。身長が2メートルを超す、筋骨隆々とした大男が床をのたうち回る様は、側から見れば非常に気味の悪いものであるだろう。それでも、俺は止まることができなかった。それほどまでに、彼女の存在は一瞬で俺の中に刻まれたのだ。

 その日、俺は彼女に鮮烈なる一目惚れをしたのだった。









「マドロック、お前に聞きたいことがあるんだ。」

 翌日。俺は目の前で岩をいじって人形を作る友人、マドロックにに例の女性について尋ねることにした。例の女性はサルカズ。ならば彼女の素性を探るならサルカズに聞くのが一番良いのではないかという結論に俺は至ったのだ。

「どうした?私に答えられることなら答えるぞ?」
「助かる。」

 マドロックは俺に一度目を向けると─いや、パワードスーツ越しなので本当に向いているかどうかはよくわからないが─再び手元で作業をしながらくぐもった声で答えた。あいも変わらず素顔のよく見えない男である。

「人を探しているんだ。」
「人?どんな人だ?」
「とんでもない美人だ。サルカズの。」
「………なに?」

 俺がそう言った途端にマドロックの手が止まった。やはりこいつも男だったか。美人と聞いてつられるとは、割とその辺に淡白な奴だと思っていたが俗なところもあるじゃないか、がはは。メルヴィルは友人の健全な反応に心底安心した。それはそれとして彼女は渡さないが。というかなんか不機嫌なのは気のせいだろうか。

「サルカズの美人?どんな人だ?」
「身長は160前後。髪色は銀のロングで、瞳は紅色。」
「…なに?」
「髪は枝毛なんて一本もないほどにサラッサラで滑らかだったし、めちゃくちゃ輝いてた。目もでかいし、澄み渡っていて─」
「いや、いい。もう喋るな。」

 彼女について語っていると、マドロックがそれを遮って来た。悲しいことだ。この程度では語り足りないと言うのに。

「‥それで、角はどうだったんだ?相手がサルカズというのなら、それが分かればかなり早いと思うが。」

 ふむ、一理ある。サルカズやヴィーヴルといった角持ちたちは、それを個性として非常に大事にする傾向にある。だからこそ、マドロックはそれが気になったのだろう。

「ああ、それだ。俺もそう思ったんだが…見たことない形でな。2本の黒い角が、側頭部から生えてて、前に向かって伸びた後、曲がって上に伸びてるんだ。」
「………なに?」

 マドロックの手が止まる。ははあ、こいつ何か知ってるな?

「それともう一つ。お前が彼女を見た時、どんな格好だった?」
「動きやすそうな格好だったな。スポーツ系、とでも言えばいいのか?それにしては飾り気はなかったが…それがいい。」
「そんなことは聞いてない。」

 嘆息と共にマドロックは立ち上がった。こいつもまた、俺と同じくらいの、つまり2mを超える背丈の持ち主で、ロドスで1、2を争う体格をしている。そんなマドロックと俺が共に並んでいるというのは離れてみれば相当な威圧感がある光景だろう。

「…とは言え、私はその女性に会ったことはことないな。」

 メルヴィルから少し視線を外して、くぐもった声でマドロックは答えた。その様子にメルヴィルの狩人としての勘が囁く。

「本当かあ?お前なんか知ってそうな感じしてるぜ?」
「………いや、知らないな。」
「ええー?本当でござるかあ?」

 最近知った言葉を使って揺さぶるも、マドロックの返答はつれない。本当に知らないのだろうか。

「まあいいや。ロドスにいるのはわかってるからな。そのうち会えるだろ。」
「可能性は高いだろうな。…と言うか、メルヴィル。」
「うん?」
「その人に会って、どうするつもりだ?」

 メルヴィルには何故か分からなかったが、いやに真剣な声音でマドロックが尋ねた。

「どうするもなにも。とりあえずはお友達から、ってやつだ。」

 そしてそれにメルヴィルも真剣に答えた。例え動機がどれほど不純であろうとも、この気持ちには真摯であろうと決めている。

「…そうか。うまくいくといいな。」
「おうさ。吉報、期待しとけよ。」

 








 パシュ、と音を立てて部屋のドアが開いた。そこから部屋に入ってくるのは、極めて大きな体躯をもつ、全身にパワードスーツを纏った人物─マドロック。マドロックは自室に入ると、兜に手をかけた。

「…ふう。」

 もわ、と熱気と共にマドロックの─いや、『彼女』の素顔が明らかになる。真紅の瞳に、銀糸のロングヘアー。側頭部から突き出た、2本の天を衝く黒い角。それは奇しくも、先程メルヴィルが語った女性の特徴と合致していた。

「……。」

 がじゃん、と今度は鎧を脱ぎ捨てる。そこからは女性らしさを残しつつも、よく鍛えられた肢体が現れた。そんな彼女は先ほどまで2mを超えるパワードスーツを着ていたとは思えないほどに、極めて一般的な女性の身長をしている。今の彼女を見て、先程までのマドロックと同一人物だと察するのは不可能であろう。体表にはいくつかの源石結晶が現れているが、それが気にならないほどには美しい体であった。そんな彼女は、鎧の下に動きやすそうな、ラフな服装にその身を包んでいた。

「…おど、ろいた。」

 誰も見ていない自室で、彼女は1人呟いた。心なしか、その頬は赤く染まっている。

「まさか、メルヴィルが言っていた人は…」

 そうだ。確かに昨日遠くからメルヴィルを見た。話しかけようとも思ったが、その前に彼がぎこちなくどこかへ去っていってしまったのでそれは叶わなかったのだ。なのに、まさかこうなるなんて!いや、メルヴィルのことが嫌いとかでは無いが、今までにそう言った経験がないからこそ、彼女は非常に困っていた。

「これから、どんな顔して会えばいいんだ…?」

 オペレーター・マドロック。元アビサルハンターにして現ロドスオペレーター・メルヴィルの友人にして、彼が知らないうちに彼の想い人になってしまった美しきサルカズ。羞恥と興奮を胸に頬を赤く染めながら、彼女の苦悩はまだまだ続くのであった。



【メルヴィル】
 元アビサルハンター。スカジの後輩。
 エリモスからスケベさを抜いて、戦闘力を跳ね上げた感じ。

【マドロック】
 推し。旧バージョンからこの人のポジションは変わっていない。

 


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職場の赤竜の顔が良すぎる



この作品は今回のイベントの内容を含みます。お気をつけください。






 

 ロドス・アイランドに夏が来た。気温は連日35度を優に超え、日差しを遮ることのない甲板上ならばそれをはるかに上回る。エアコンの多少は効いている艦内でも、暑さに弱い地域のオペレーターたちが溶けたかのように落ちている時期だ。

 

「失礼しまーす。」

 

 そんな中、エアコンをガンガンにかけた執務室でドクターが書類仕事に励んでいた時のことだ。乱雑なノックの後、1人の黒い装いに身を包んだ獅子人(アスラン)が姿を見せた。

 

「おや、エリモス。こんなに暑いのにそんな格好をしてどうしたんだい?」

「…俺にも事情がありましてね。まあそれは置いといて、これを受理して欲しくてきました。」

 

 普段のロドス制服とは違う、黒いスーツを着たエリモスはそう言ってドクターに何枚かの書類を差し出した。内容はなんてことない、施設利用許可証。ただ、その場所が問題だった。

 

「…本気かい?」

「言いたいことは分かりますが…まあ、俺にも考えがあるんですよ。」

「いや、死ぬよ?マジで。」

 

 苦笑いするエリモスをドクターは問いただした。それもそのはず、彼が使おうとしているのは、この真夏の、しかも真昼の甲板なのだから。冗談抜きで今の気温では、今のエリモスだと死にかねない。

 

「その辺はまあ大丈夫ですよ。アスランは暑さに強い種族なので。」

「…マドロックとかホルンさんに付き添い頼んだほうがいいと思うよ。」

「あ、今回はそれダメです。絶対。」

 

 ブツクサ言いながらもドクターは渋々許可証に判を押した。それを受けとったエリモスはあっさりと踵を返す。

 

「…何をする気だい?」

「約束を果たしに、ですかね。」

 

 投げかけられた問いにそうとだけ答えて、エリモスは執務室を後にした。後に1人残されて、再び書類に目を通し始めたところでドクターは気づく。

 

「あれ、さっきの格好って…。」

 

 エリモスの着ていた黒いスーツ。今さっき見た時はそうとしか考えていなかったが。よく考えるとあれはスーツではない。あれは─

 

「喪服か。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パチリ、パチリと音を立てて火の粉が飛んだ。真昼間であるが故に音以外に目立つことなかったそれが、空中で虚しくも消えていく。

 

「うあっつぅぅぅ…………。」

 

 そしてその傍で、昼間から火を起こしている男─エリモスが1人。彼はこの昼間から、炎天下の中で焚き火をするという地獄の所業に徹していた。

 

「ああああ…ビール飲みたいぃ……部屋に戻りたいぃ……。」

 

 暑さに強いアスラン。そう自称しつつも、この暑さの中では弱音しか出てこない。文句を垂れながらそばに置かれた何箱もある段ボールから燃料である雑誌を取り出し、どんどんと火にくべていった。

 

「…うわあ。何してるの?エリモス。」

「…うぇ?ああ、ドクターですか。」

 

 そんな彼の元に近寄る影が一つ。それはいつも通りの不審者ルックに身を包んだドクターであった。ドクターはエリモスに冷えたスポドリを放り投げると、持ち込んだパラソルを立てて見物し始める。

 

「…ただ雑誌燃やしてるだけなんで楽しいもんじゃありませんよ?」

「それは見たらわかるけどね。…てか、なんの雑誌?」

「あ、ちょっと!」

 

 エリモスの制止も間に合わず。興味本位で段ボールのなかをドクターは覗き込んだ。

 

 中身はピンクな雑誌しか入っていなかった。

 

「……え?」

「ドクター!勝手に見ちゃダメっすよ!」

「いやいやいや!」

 

 もう一度確認する。やっぱりピンクな雑誌しか入っていなかった。

 

「……あのさあ。」

 

 あまりの衝撃に天を仰いで、ドクターは声を絞り出した。

 

「…何やってんの?お前。」

「違いますからね!?これ俺のじゃねえですからね!?」

 

 真夏の昼間からアレな雑誌を処分する成人男性。あまりにもその姿が悲しすぎて額に手をやるなか。エリモスの切実な主張だけが誰もいない甲板に響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…つまり、なんだい?」

 

 数分後。ことの次第を聞いて落ち着きを取り戻したドクターがパラソルの下で口を開いた。

 

「これは先日亡くなった君の友人の遺品で、その処分を任されたと、そういうわけかい?」

「だから最初からそう言ってるじゃないですか…。」

 

 ゲンナリとした様子のエリモスが答えた。その原因は明らかに暑さのせいだけではないだろう。

 

「いやあ、君にはあまりにも前科があるものだから、ついね。」

「酷いつい、もあったもんだ。大体ですねえ、ドクター。」

「なんだい?」

「間違ってもらっては困りますが、俺は電子派です。」

「聞いてないよそんなこと。」

 

 真剣な顔をしてそんなことを言い出したエリモスの主張をバッサリ切り捨てて、ドクターは火元へと目をやった。熱気に煽られて、燃え損ねた紙切れがふわりふわりと空を舞う。

 

「危ねえ。」

 

 その紙片がエリモスのアーツにより一瞬で塵になった。いくら何でも流石にこれを公共の場に残すことはできないという判断だろう。エリモスのアーツによって解読不可能になった塵は、すぐに風に吹かれてどこかへと消えていった。

 

「…最初からそうすればいいんじゃない?」

「正直それはアリなんですけどね。」

 

 再び段ボールから雑誌を取り出して、火に放り込んだ。古びた雑誌とカビと埃の匂いが一瞬だけして、でもそれはすぐに熱でかき消される。

 

「あいつ…これの持ち主に言われたんですよ。『あっちでも読めるように出来るだけ燃やしてくれ』って。」

「…その相手は、極東出身かい?」

「よくお分かりで。で、まあそういうわけで今俺はこうやって重労働に勤しんでるんです。」

 

 そっか、なんて声がドクターから漏れた。

 

「今の時期だと昼間は甲板に誰も来ないもんね。」

「ええ。穴場ですよ穴場。何せ下手すりゃ普通に死にますからね、ここ。ドクターも適当に帰ったほうがいいですよ。」

 

 汗を拭い、冷えたドリンクに手を伸ばそうとする。そんな彼らに、コツコツと甲板。叩く音が聞こえてきた。それが聞こえたのだろう、伸ばされかけたエリモスの手が中途半端なところでぴたりと止まった。

 

「ドクターに…エリモス?」

「え…リード?」

 

 この暑さもなんのその。平然とした顔で灼熱の甲板を歩いてきたのは赤竜(ドラコ)、リードだった。彼女を見てその動きを止めたまま、マジで?なんてエリモスがつぶやく中。パチリ、と焚き火の爆ぜる音だけがやけにひびいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねえ、エリモス。」

 

 数秒の硬直の末、最初に口を開いたのはリードだった。

 

「…ああ。なんだ?」

「これ、何を燃やしてるの?」

 

 色々思うところがあるのだろうか。僅かに緊張を含んだ声音のエリモスに対して、リードはおそらく何も考えずに今もなお燃え盛る焚き火を指差して尋ねた。そしてエリモスの目もそれに合わせて動き─

 

「ふうぅぅぅぅん!!!!」

「うわああああ!?」

 

 ノータイムでアーツを起動した。おそらくアーツユニットを兼ねているのだろう左の義手が輝いたかと思えば、放たれた光条によって一瞬で焚き火が段ボールごとかき消される。後に残るのは甲板につけられた痕と、風に吹かれる塵だけだった。

 

「何するんだ急に!てか約束はどうした!」

「この状況でそんなこと言ってられるか!それよかリードにこれ見られるほうが俺にとってもあいつにとってもまずいでしょう!」

「ならせめて私に一声掛けてからやってくれ!心臓に悪い!」

 

 文字通り目の前を通り抜けたアーツに腰を抜かしながら、ドクターとエリモスが醜く言い争う。そんな2人に、リードは首を傾げた。幸いと言うべきか、何を燃やしていたかについては気づかれていないようだった。

 

「えっと、お邪魔だったかな。」

「いや、気にするな。それよりリードはアレか?ドクター探してた感じか?俺席外そうか?」

「ううん、大丈夫。」

 

 冷や汗を流しながら場所を移そうとしたエリモスだったが、その言葉にその足を止めた。そして、リードの方を向く。

 

「リードさ。」

「どうしたの?」

「雰囲気変わったな。だいぶ。」

「…そうかな?」

 

 そのままポツポツと交わされる言葉。2人をよく知るドクターにとっては、その光景は珍しいものだと言えた。

 

「そうだろ。昔はもっとこう…ツンケンしてた。」

「…ツンケン?してないと思うけど。」

「してたろ。」

「してない。」

 

 この2人がこうやって話すのはあの頃以来だろうか。当時のこのコンビは高い戦闘能力を持つリードをエリモスが補助する形でよく戦闘に駆り出されていた。

 

「それにまあ、武器まで変えちまって。槍はもう使わねえのか?」

「使わないわけじゃないけど…今はこれが必要だから。」

「必要?なんでだ?」

 

 首を捻ったエリモスに対して、ドクターはああ、あれかと頷いた。

 

「うん。私は一度、ヒロック郡に─ターラーに戻るよ。」

「…………。」

「その時に、あの槍のせいで正体がバレるわけにはいかないから。だから、この杖に変えたの。」

「……そうか。気をつけてな。」

「うん。」

 

 2人の間を熱された風が吹き抜けた。横でそんな2人を見守るドクターの喉を生唾が伝う。

 

「なあ、リード。1つ聞いてもいいか?」

「うん。なに?」

「…お前が俺を振ったのは、俺がアスランだからか?」

 

 エリモスは目を逸らしてそう尋ねて、それを聞いたリードは目を見開いた。

 

「ううん。そうじゃない。単に、私がキミの側に居られないって思っただけ。」

「…どう言うことだ?」

「エリモス。私の手はね、びっくりするくらいに赤いんだ。」

 

 寂しげにそう言って、リードは杖を握る自分の手を見つめた。

 

「キミが誰かを守ろうとしている時に、私は何人も、何人も、言われるままに殺してきた。そのことに気がついてしまったから。…そんな私じゃ、キミの側にいる資格はないって、そう思ったから。…それが理由。」

「…資格なんていらなかったのに。」

「キミはそう言ってくれるけど、私が気にするんだ。」

 

 そう言ったリードに対して、エリモスは悔しげに唇を噛み締めた。

 

「でもねエリモス。キミが私のことを好きだと言ってくれたのは、嬉しかったよ。」

「…終わった後でそう言われてもな。」

「それもそうだね。」

 

 苦笑いで返したエリモスに、リードも少し笑って返した。その顔は今まで見た中でもずっと穏やかで、そのことはエリモスにも、ドクターにもとても嬉しく感じられた。

 

「ねえ、エリモス。」

「なんだ、リード?」

 

 呼びかけたはいいものの、何かを言おうとして彼女は少し考えこんだ。きっとうまいこと言葉が纏まらなかったのだろう。10秒ほど考えて、そしてようやく口を開いた。

 

「……またね、エリモス。」

 

 紡がれたその言葉にエリモスは目をぱちくりと瞬かせて。そして口角を釣り上げた。

 

「ああ、またな。リード。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いやあ、行っちまいましたねえ。」

 

 遠ざかっていくリードの姿を見て感慨深げにそう言うエリモスに、ドクターはため息で返した。

 

「…私空気だったね。」

「それは、その…すいません。」

 

 ドクターはこのクソ暑い中、2人の成り行きを見ていたのである。それに思い至ったエリモスの内心には罪悪感が押し寄せていた。

 

「いいよ、別に。それよりもだ。」

 

 クーラーボックスから冷えたドリンクを取り出して、ドクターは床を指差した。

 

「君のアーツ痕。そっちをどうにかしないとね。」

「…また修理しときますね。」

「うん。頼んだよ。」

 

 真夏の日差しが照りつける中、することの無くなった2人は荷物を纏め始めた。一仕事終えたとはいえ、まだ日は高い。艦内に戻ればやることはまだまだあるだろう。

 

「あー…風呂入ろう。すぐに。」

「うわいいなあ。私まだやることあるよ。」

「…手伝いましょうか?」

「いいの?ならお願いするね。」

 

 荷物を持った2人は、陽炎揺れる甲板を歩いていった。

 

 





リードさんのね。異格が実装されたんです。引きました。難産でした。ヤトウ貯金が消えました。悲しいね。でも後悔は無いです。ただハーモニーが1人も来なかったのは本当に謎。まあそのうちひょっこり来てくれるでしょう。多分。




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俺の教え子の顔が良すぎる  2


【急募】
卵ともやしだけで1カ月生き延びる方法




 

─やばい。

 

 安心院アンジェリーナは恐怖した。彼女は薄暗い自室で1人、猛暑の中にも関わらず身震いが止まらなかった。

 

 安心院は1度目を閉じると、再び現実を見つめるべくその大きな、吊り目がちな両目を見開いた。彼女はその行動の間に先程突きつけられた事実が嘘であることを祈ったのだが、当然のようにそこには変わらない事実だけがあった。

 

「…やばい、マジで。」

 

 うら若き少女であるにも関わらず、昼間から肌着しか纏っていない状態でとうとう彼女は力なく床にへたり込んでしまった。その目は虚ろで、どれほどに衝撃を受けたのかが窺える。

 

 その体勢のまましばらくへたり込んでいたが、突然にぽつりと呟いた。

 

「……………なきゃ。」

 

 その呟きの後、彼女は勢いよく顔を上げた。先ほどの虚ろな目つきはどこへやら、気がつけば彼女の双眸にはギラギラとした光が宿っている。その視線の先には壁にかけられた、幾つもの予定が記入されたカレンダーがある。その中の一つ、大きく赤丸がつけられた日を睨みつけた。

 

「……ダイエット、しなきゃ………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で言うわけでいいダイエットの仕方知らない?」

「それをなんで俺に聞いた?」

 

 真剣な面持ちをする安心院に、エリモスは冷めた目でアイスコーヒーを啜りながら返した。グラスの中で溶けた氷がカラン、と涼しげな音をたてる。

 

「そんなデリケートな問題はこんなお兄さんじゃなくてJKたちの間でシェアしなさい。気まずいから。」

「だってこんなのウタゲとかには相談できないもん。じゃあ誰にしようかってなると大人ならエリモスくらいしかいないし。」

「いや知らねえよそんなの…てか他にいるだろ?頼れる大人の女の人たち。マドロックとかホルンさん呼ぶか?」

「あー、そうじゃなくて。」

 

 ずこここここ、と勢いよく談話室中に音を立てて安心院はドリンクを飲んだ。

 

「こういうのってほら、男の人の意見も聞きたいじゃん?」

「……まあ、そう言われるとそうかもしれねえけど。」

「でしょ?あとはその、こう言うのはウタゲとかには相談できないんだよね…。」

「?何でだよ。仲良いんじゃねえのお前ら。」

「…仲はいいよ。仲はいいんだけどさ………!!」

 

 安心院は何かを堪えるように強く下唇を噛み締めた。

 

「あの発育の暴力にこんな悩み打ち明けられないって……!!」

「発育の暴力。」

 

 一瞬にしてエリモスの目が死んだ。野郎だけの時ならともかく、こういった場では成人男性にはあまりにも反応がしづらい話題である。

 

「エリモスは見たことないでしょ!?ウタゲのあれはね、もう…やばいんだよ、本当に。大きさとかそんな話じゃなくてさ、」

「OKわかった、それ以上はやめてくれ。周りの目が痛い。」

 

 特に離れた場所に座っているマドロックとホルン(例の2人)の目線が。2人して『未成年になにしてるのか』と言わんばかりの冷ややかな目線を向けている。

 

「んっ…とにかくさ。ウタゲだけじゃなくてアンブリエルとかキララとかもマジでスタイル良いし、相談しづらいって言うか…。」

「なるほどな。じゃあ大人の女の人は?」

「大人は基本『その年頃ならそんなものよ』って言ってくるから相談にならない。」

「…うん。それはあるかもな。」

 

 何ならエリモスも子供相手には割とやる。

 

「でしょ?しかもさ、エリモスってドクターと仲良いじゃん?」

「それなりにな。それでも一般的な良好な上司と部下の関係の範疇ではあるんだろうけど。」

 

 エリモスの脳裏をフルフェイスの不審者がダブルピースでよぎった。楽しそうだなお前。とりあえず今はその幻影は放置しておこう。

 

「いやそれはないでしょ。あのシルバーアッシュさんより仲良さそうに見えるって言われてるよ?」

「ウッソだろオイ。あのカランドの社長よりかよ?」

「うん。…で、話戻すんだけど、エリモスってドクターの好みとか知ってるでしょ?」

「ドクターの好み、ねえ…。」

 

 ドラゴンと装甲車である。

 

「まあ知らなくはねえけど。」

「やっぱり!?じゃあさ、ロドスにドクターの好みの相手っているの?」

「あー…ちょい待て。考える。」

 

 そう言うなりエリモスは腕を組んで瞑目し、今までのドクターの言動を振り返る。さて、彼の言動の中で、誰かに教えれるようなものはあっただろうか。

 

『なに?私のタイプ?それはもちろんツヤと張りのある巨大な鱗─』

 

 違う。これじゃない。

 

『よく磨き上げられたボディ、戦いを想定した無骨さ、あとはあの機能性を優先したフォルム─』

 

 これも違う。

 

『超常な存在であるドラゴンと下等生物である人間の作った装甲車の感情の交わりがだね─』

 

 落ち着いて欲しい。装甲車に感情はない。

 

『永遠を生きるドラゴンといつかは朽ち果ててしまう装甲車の運命─』

 

 要は歳の差ということか?

 

『……疲れた。癒しが欲しい。』

 

 とりあえずドクターにはちゃんと休んで欲しい。…とはいえ、癒しというのは大事だろう。

 ここまで回想して、エリモスはあるオペレーターを想起した。いや、もはやケルシーとかよりも、その存在こそがドクターの好みど真ん中なのではないかと、そこまで考えていたほどだ。

 

 その考えに至った直後、彼は目を開いた。やはり気になるのだろうか、周囲のオペレーターたちからの視線も強くエリモスに突き刺さっている。その視線の中で、エリモスは厳かに口を開いた。

 

「─Lancet-2だ。」

「は?」

「だからLancet-2だ。間違いない。」

 

 談話室の空気が死んだ。やっぱあいつは当てになんねえわ、なんて声も聞こえてくる。なんて失礼なんだろうか。こちらは大真面目である。

 

「なに言ってるの、エリモス。そんなわけないじゃん。」

「いやそんなことはねえ。間違いなくLancet-2こそがドクターの好みど真ん中だ。」

 

 ツヤやかなボディに、機能性を優先したフォルム、癒しに満ち溢れた言動。激務に疲れ果てたオペレーター達から陰で『Lancet-2ママ』と呼ばれている彼女─彼女?こそがドクターの理想である。間違いない。

 

「……そっか。で、なんかいいダイエット知らない?」

「脈絡なく話を変えるな!俺だって傷つくんだぞ!?」

 

 どうやらエリモスの回答はお気に召さなかったようである。安心院は諦めた顔でドリンクへと手を伸ばした。

 

「いや、だってもうエリモスが何の役にも立たないことはわかったし。ならまだこっちの方が役に立つかなって。」

「オブラートって言葉知らんのかお前は…!…とはいえ、だ。俺から言えるのは2つだ。」

「なに?」

 

 首を傾げた安心院に、エリモスは黙って彼女の手元を指差した。そこにはいかにも今時JKの好きそうな甘いドリンクが鎮座している。

 

「カロリーを摂るな。運動しろ。以上だ。」

「…うん。それ以外での話なんだけど。」

「無い。」

 

 2人の間に沈黙が落ちた。周りの喧騒が痛いほど染み渡る。

 

「無いの?なんか、こう…簡単に痩せるアーツとか薬とか。」

「アーツも薬も万能じゃねえんだぞ…。…まあ体重だけってことなら一時的にでもいいなら簡単に落とす方法はあるが。」

「そう!そういうの欲しかった!」

「いや、でもこれはマジでおすすめしねえぞ…?」

「いいから!今は一刻を争うの!」

 

 身を乗り出した安心院に、渋々と口を開いた。

 

「なにも飲まないこと。それだけで体重はかなり変わるぞ。」

「あ、無理。」

 

 ノータイムで安心院は首を振った。懸命な判断である。

 

「あとはあれだな。片腕無くなったら体重そのものは落ちるぞ。ほら俺もそれで6キロくらい落ちたし。」

「それ痩せたって言わない…!」

 

 哀れにも安心院はとうとう机に突っ伏してしまった。そんな彼女を慰めるかのようにかけられる優しい声。

 

「大丈夫だ、安心院(あんしんいん)。ドクターはな、そんなの気にしねえよ。」

「あたしが気にするの!」

「そうか。…なら運動しかねえな。選べ。トレーナーはドーベルマン教官かシデロカかフォリニックかだ。」

「ガチの人選じゃん…!」

 

 優しい声から一転。告げられたなんの容赦もない人選に、安心院は突っ伏したまま悲痛な声を上げた。

 

「なあにお前は若いから代謝もいい。すぐに結果は出るさ。」

「うう…やるしかないのかなあ…。」

 

 呻きながらもノロノロと立ち上がった安心院に、エリモスは眩しいものを見るかのような視線を向けた。なんだかんだと言いながらも、彼女のそのあり方は今の彼にはあまりにも輝かしいものであったのだ。

 

「頑張れよ、安心院。」

「…うん。」

 

 ぽしょりと小さくそう返して、安心院は着替えるために自室へと歩き出した。その背中に頑張れーなんて気の抜けた声をかけて、彼はグラスを手に取った。カラン、と涼しげな音がする。

 

「青春だねえ。」

 

 羨ましいもんだ。視界の淵でマドロックがこちらへ歩いてくるのを見ながら、エリモスは冷えたグラスに口をつけた。

 

 





 祝、リン・ユーシャ実装!!
 俺は!お前を!待ってたんだよ!!!いやー長かったですねこの人。最初でたのいつ?喧騒の掟?年単位で前ですよねこの人。正直最初の立ち絵は普通のネームドキャラかな、って感じだったんですけど、新規立ち絵から人気爆発しましたね。かくいう私もそのタイミングで好きになったタイプですが。
 それはさておきみなさん今回のガチャは引きましたか?私は引きました。いらっしゃいバグパイプ。私はヴィクトリアから逃れられないのか?あとアも来ました。チョンユエニキもリンさんが来るまでに来ましたよ。2人。ただ、はい。リン・ユーシャは激戦でした。本当に最後の10連まで来てくれませんでしたからね。いやー危なかった。なので今月はもやしと卵だけで生きていきます。いいレシピあったら教えてください(切実)。
 リン・ユーシャに話を戻しましょう。みなさんはアークナイツ公式配信見ましたか?私はその時ちょうど出かけてたのでYouTubeで後から見たのですが、すごかったですね。モデリングぱねえ。レベルの高いモデルがヌルヌル動いてましたもん。しかもイベント用のと、リン・ユーシャの日常パートみたいなので。僕は日常パートの方が好きですね。ギャルゲー感がある。そう、そこで確認して欲しいところがありまして。1:37:04の部分なんですが。ここでなんと、リン・ユーシャが『お花』って言ったんでせよ。『お花』って。お花!!!???嘘でしょ!!??貴女そんなクールな顔してお花って言うの!!!??わあい可愛い!!好き(挨拶)!!!ってなりまして。しかもその後のチェンさんとの噛み合いもね。もう…ええもの見させていただきました。
 このリン・ユーシャ。デザインからしてすっこすこです。お分かりですね?気品ありげな服装に黒タイツです。今まで読んでくれた人ならお分かりかと思いますが、私は黒タイツが大好きです。カラータイツもいいですが、そこは王道をいく黒。黒いタイツは王者の風です。それを着けているだけでポイント高い。そしてただでさえ女性を美しくみせる黒い、線の出る服装してるのに、袖と腰がヒラッヒラなのマジでやばいです。私的にポイント高い。そこだけで優雅さが出るんですよ。ただでさえガラスの剣なんて綺麗な武器使ってるのに、さらにそれを引き立てる、本人の余裕を表せる神デザだと思います。昇進したら生脚、かつ胸元が大きく開くのもこの人の特徴ですが、それ以上に私は言いたい。『それ背中どうなってます?』昇進2の画像みてほしいんですが、尻尾の付け根見えてるんですよ。尻尾の付け根が。えっっっっっっっっ!!!!!!!いやそれはあかんて。ロドスのショタがみんな目覚めてしまいますよ?いやだって、尻尾の付け根はあかんて。獣人系において付け根はかなり親密な相手にしか許さないのは定番では?それを大っぴらに見せる!?いいのか!?それは!!??やってくれるわアークナイツ。一生ついてく。しかもこれ多分背中もぱっくり見えてるんですよね…。おいおいおい。やべえよこれ。チェンはヘソ出し、リンは背中ってかガハハ。こんなところまで対になるとは。やっぱ仲良いだろ君ら。
 みんなもリン・ユーシャ引こうな。作者との約束だぜ。


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俺の/私の同僚の顔が良すぎる


えっちなサルカズが実装されたので初投稿です。




 

「にゃ。」

 

 オペレーター・ロスモンティス。まだ幼いながらもロドスのエリートオペレーターを勤める彼女の眼前を、ぱたりと金色の尻尾が振れ動いた。

 

「にゃっ。」

 

 金色の毛並みと、その先についた黒いふさふさの毛玉。猫人族(フェリーン)であるロスモンティスの本能を刺激する形をしたその尻尾がぱたぱたと揺れるたびに、小さく声をあげてロスモンティスがそれを捕まえようとする。その姿はまるで、子雲獣(ネコ)が親雲獣の尻尾にじゃれつくかのようであった。

 

「…にゃにゃっ。」

 

 右へ左へ、そして上へ下へ。ロスモンティスの興味をひきながらも、絶妙に捕まらない位置を尻尾は動く。その度に可愛らしい声をあげながら、彼女は尻尾を捕まえようとしていた。

 

「…やっべ。」

 

 そしてロスモンティスがじゃれついている尻尾の持ち主─エリモスはそんな彼女の様子を気にすることもなく、手に持ったタブレットと睨めっこに励んでいた。何かあったのか、時折りこめかみを揉んでは勢いよく画面を叩く。

 

「にゃっ、にゃっ。」

「ぬうん…。」

 

 奇しくも2人は猫人族(フェリーン)獅子人族(アスラン)という極めて近縁の種族。ソファに座り、タブレットに向かいながらも片手間でロスモンティスの相手をするエリモスの姿は、周りからはまるで親子か年の離れた兄妹かのように見られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?」

「む?」

 

 エリモスとロスモンティスのいる談話室の扉を開けた狼人族(ループス)のオペレーター・ペナンスと魔族(サルカズ)のオペレーター・マドロックはエリモスとロスモンティスの姿を見て、小さな声をあげた。

 

「これは…なんとも微笑ましい光景だな。」

「そうですね。あの2人をみていると私も昔レオンにああやっていたのを思い出します。」

「レオン?」

「ええ。あ、今は『ヴィジェル』と言った方がいいですね。彼と私は幼少期からの仲でして、コードネームではなく今でもつい本名で読んでしまうのです。」

 

 2人がそうやって話していても、タブレットと尻尾に夢中になっている彼らは気づく気配がない。片方は時折りうんうん唸り、もう片方はご機嫌に鳴きながら尻尾を追いかける。その様子を、特にペナンスは懐かしそうに眺めていた。

 

「それにしても…エリモスさんとロスモンティスさんは随分と仲が良いのですか?あまり見ない組み合わせではありますが。」

「さあ?ただエリモスは随分顔が広いからな。どこで誰と繋がっているかは本当にわからないんだ。」

「あら、そうなんですか。」

「…何か気になることでも?」

「ええ、まあ。」

 

 首を傾げ、ペナンスの下から見上げてくるマドロックにペナンスは頷いた。

 

「ですが、別に気にするほどでもないでしょう。考えてみると、エリモスさんは子供に対しては随分とガードが緩いので。」

「子供…ガード…?」

 

 むん?とマドロックは先ほどと反対方向に首を傾げ、数秒固まった。そのまま色々と考えていたのだろうか、しばらくしておずおずと口を開いた。

 

「その、ペナンス。まさかだが…。」

「なんでしょうか?」

「エリモスに小児生愛好者(ロリコン)の気があるということは…?」

「絶対にないと思います。」

 

 何を言っているんだこの人は。普段の丁寧な口調こそ崩さなかったが、ペナンスの表情は明らかにそう言っていた。ジト目になっているペナンスの視線を受けて、マドロックばバツの悪そうに視線を逸らす。

 

「そもそもこの人の好みとか、私よりも貴女のほうがよく知っているのでは?」 

「それはそうなんだが…。その、万が一ということも」

「ないです。」

 

 ペナンスはバッサリとマドロックを切り捨てると、一つ大きなため息をついた。そこでようやく2人に気がついたのか、エリモスもまたタブレットから視線を2人の方に向けた。

 

「おや?お疲れ様です。…それにしてもマドロックにペナンスさんとはこりゃまた珍しい組み合わせで。」

「お疲れ。というかそれはこちらも言いたい。エリモスとロスモンティスの組み合わせも珍しいだろう?」

「いや、実はそうでもないぞ?この子これでもロドスに来て長いし。それに…いや、その前に。」

 

 ほれ人来たから終わりだ終わり。何かを言いかけていたのを途中で切り上げて、エリモスはロスモンティスから尻尾を遠ざけた。結局最後まで尻尾を捕まえられなかった小さな両手が虚しく空を切る。

 

「にゃっ。…もう終わり?」

「終わりだ。マドロックも来たしな。」

「ん。じゃあ、また今度。」

 

 動きを止めたエリモスの尻尾を名残惜しそうに眺めながらも、そう言ってロスモンティスは立ち上がった。そのままマドロックの横を通り抜けて扉の外へと歩いていく。

 

「…ロスモンティスと俺は昔ちょっと色々あってな。」

 

 彼女の姿が見えなくなった後、エリモスはそう切り出した。

 

「とは言っても面白い話じゃない。昔はその、色々と暴れがちだったあの子をよく俺が抑え込んでたってだけの話さ。アーツと防御が得意だった俺には、ほら、そういうのは適任だったからな。」

「…なるほど。」

「ま、本人が覚えてるかは知らんけども。」

 

 肩をすくめてそう言うと、そこで終わりだと言わんばかりにエリモスはヒラヒラと手を振った。

 

「んで?俺に何か御用で?」

「ええ。本題ですが、ドクターが貴方をお呼びです。次の編成に貴方を組み込みたいとかで。」

「へえ?電話してくれればいいのに。」

「電話はしたけど繋がらないと言っていたぞ。電源は入っているのか?」

「まじで?」

 

 2人の発言に驚いたのか目を丸くしたエリモスは、慌てて上着のポケットから端末を取り出した。そのまま色々と操作したかと思うと、すぐに頭を抱えた。

 

「うわマジじゃん…全然気づかなかった…。」

「だろうな。後でドクターに連絡しておいてくれ。」

「あいよ。俺が呼ばれるってことは直線火力が必要ってことかね。」 

 

 てか着信も聞こえなくなってきたのか俺…?などとぼやきながらエリモスが立ち上がり、そしてマドロックとペナンスに見送られるままに扉を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「む…。」

 

 数日後。エリモスの部屋を訪れていたマドロックは悩んでいた。

 

「どうした?マドロック。」

「いや、ちょっと本に手が届かなくてな。」

「あー、なるほどなあ。」

 

 マドロックのその困った声にエリモスは苦笑で返した。それなりに上背のあるエリモスとパワードスーツを脱いだマドロックは20センチ以上の身長差がある。そのために、2人の間でこう言った事態はしばしば起こっていた。

 

「俺が取るし座ってろよ。どの本だ?」

「ありがとう。一番上の棚の右から3番目のそれだ。」

「一番上?」

 

 促されて席についたマドロックと入れ替わりにエリモスが立ち上がる。マドロックの目の前をエリモスの金色の尾が揺れた。ついつい先日のロスモンティスを思い出してしまい、目で追ってしまう。

 

「一番上って…ターラー文学のか?これを選ぶとはまた珍しい。」

 

 エリモスのその発言はマドロックにはもはや聞こえていなかった。彼女の意識は本から一瞬にして彼の尻尾へと移ってしまっている。

 

「これでいいな、マドロック?」

「………。」

「…マドロック?」

 

 問いかけても返事のないマドロックを疑問を抱き、エリモスが振り返ろうとした時、マドロックが不意に口を開いた。

 

「…エリモス。」

「なんだなんだ。これじゃなかったか?」

「そうじゃない。その…。」

「?」

 

 煮え切らないマドロックに、エリモスは本を手に取ってなんだなんだと眉を顰めた。そんな彼に、意を決したのかマドロックが告げた。

 

「…その、エリモスの尻尾を触ってもいいか?」

「……尻尾?」

「ああ。」

「俺の?」

「そうだ。」

「まあ、マドロックなら別にいいけど。」

 

 恥ずかしいのか顔を赤くするマドロックを珍しいものを見るかのような目で見た後、エリモスはヒョイと尻尾を動かした。

 

「いいのか?」

「いいぞ別に。そこらの奴には絶対触らせねえけど、まあマドロックなら全然いい。」

「そうか…。ならちょっと失礼。」

 

 言うが早いが、マドロックはそっとエリモスの尾に触れた。見た目に反して意外と毛は硬い。特に先の黒い房がある部分はかなり硬かった。

 

「これは、なかなか…。」

「意外と毛が硬いだろ。手入れ全然してないからな。」

「そこはするべきではないのか…?」

「単純に面倒なんだよ。毛が短いからたまに櫛通せば充分だし。」

 

 もし尻尾の毛が多ければ─例えばプロヴァンスのようなオペレーターであるが─尻尾の手入れは極めて複雑かつ大仕事になる。が、エリモスの尻尾は毛が短く、本人もあまりに気にしてないためにかなり手入れが雑であった。

 

「そんなものか?」

「そんなもんだ。マドロックは尻尾ないからわかんないかも知んないけどな、あれだ、お前の角みたいなもんだ。」

「ああ、なるほど。」

 

 それならばマドロックにも合点はいった。もっともサルカズには尻尾があるものもたまにいるのだが、生憎マドロックには角しかない。その角の手入れも、元傭兵である彼女は一般的な程度にしか手入れをしていなかった。

 

「ま、俺は角ないから分からんけど。」

「そうか。なら…触るか?」

「………は?」

 

 ピタリとエリモスの動きが止まった。そして油の切れた機械のように、ぎこちなく体をマドロックの方に向ける。

 

「……マジで言ってる?」

「マジだが。尻尾を触らせてもらったわけだし、それにエリモスなら別に構わない。」

「…あ、はい。さいですか。」

 

 そう言って天を仰いだエリモスを他所に、マドロックはソファの、自分の隣を軽く叩いた。要は『ここに座れ』と言うことである。エリモスはしばらくうんうんと唸っていたが、腹を括ったかのようにそこに腰を下ろした。

 

「え、じゃあ、その、触るぞ?」

「緊張しすぎだ、エリモス。普通に触ってくれていい。」

(普通とは!?)

 

 微笑むマドロックに対して、エリモスは心臓バックバクであった。何せ角に触れると言うことは、つまりマドロックとエリモスは向かい合っているということである。しかも普通に手の届く範囲の超至近距離で。なんならその状態で相手に触れるのである。エリモスの理性はかなり限界であった。

 

「…痛いとかなんかあったら言ってくれよ?」

「んっ…。わかった。」

(何その可愛い声ぇぇぇぇ!)

 

 そっとマドロックの角に触れる。見た目通りと言うべきか、マドロックのそれはひんやりとしていて、滑らかだった。よく手入れのされた爪の感触、が触った感覚では一番近い気がする。そのままできるだけ力を込めずに撫でると、マドロックの口から小さな声が漏れた。

 

「その、エリモス。触り方が…。」

「すまん!勝手がわからなくて…。」

「いや、いい。それよりも、もっと、こう…。」

 

 勝手のわからないエリモスが慌てて角から手を離そうとするが、それをマドロックが止めた。エリモスの手を掴み、やり方を教えるかのように自分の角に沿わせていく。

 

「力はちょっと入れて、上から下、に…」

 

 随分と骨ばった手だな、なんて思ったのは束の間だった。彼の手に自分の手を上から重ねるようにして、角を撫でていたマドロックはふとエリモスの方を向いた。

 

「………。」

「………。」

 

 マドロックの紅い瞳と、エリモスの金色の瞳が交差した。そしてそこにきて初めて、ようやくマドロックは2人の距離が今までにないほど近い距離で向かいあっていることに気がついた。

 

「…マド、ロック」

「…なんだ?」

 

 ゆるり、と重ねられた手が降りていく。いつのまにかマドロックが重ねていたはずの手は、エリモスの手が上に重ねられていた。そのまま少しだけ力を込めてマドロックの手が握られた。

 

「こんな時に言うのも変な話だけどさ。」

 

 心臓が早鐘を打つ。気がつけば2人の距離はさっきよりもずっと近くなっていた。エリモスが距離を詰めた?違いない。だけど、それと同じだけど距離をマドロックもまた詰めていた。そして今もなお、2人の距離は縮まり続けている。

 

「俺、お前のこと好きだ。」

「…そうか。」

 

 その言葉を聞いて、マドロックは自分の顔が熱くなっていくのを感じた。目の前にいるエリモスは、顔こそ普通を装っているが、耳が真っ赤になっている。ああ、この人も私と同じなんだな。そう思ってマドロックは静かに顔を傾けた。2人の距離がさらに縮まる。

 

「私もだ。」

 

 誰も見ていないロドスの船室で、2人の影が重なった。

 

 

 

 













 お久しぶりです。さて、新章がリリースされましたね。それと同時にあるサルカズがX(旧Twitter)を騒がせました。

 そう、マドロックです。

 イネスではありません。いや、イネスもいいのですが私の中ではマドロックがタイムラインを席巻していました。いつ見てもマドロックが私のおすすめ欄に上がってくるのです。仕事してますねXのサジェスト機能。いつもありがとう。これからもよろしく。みんなもマドロックで調べてアークナイツをトレンド入りさせような。
 さてこのマドロック、実は私の性癖からは若干離れているキャラだったりします。実際のところ、私の趣味は幾度も語ってきた通り高身長で美脚な強いお姉様だったりするのですが、マドロックは微妙に外れています。高身長かと言うと微妙ですし、美脚を語るには普段から脚が隠れている。強いのは間違いない。あと経歴見るに彼女かなり若いです。多分。なのに私の心にどストライクでした。こう言うキャラは大体深いところに刺さるんです。この現象に共感してくれる人は多いんじゃないでしょうか。
 そもそもマドロックは『元強敵が仲間になる』と『男だと思っていたら美少女だった』の2つの超強力属性を併せ持ちます。そこから放たれる銀髪紅目儚げ蒸れ蒸れ美少女です。無敵か?マドロック、お前は一体何を持ちあわせないと言うのだ?
 さて。そんなこんなでこの2次創作もここまできました。こんな作者の性癖の掃き溜めみたいな文章を読んでいただけていることに心の底から感謝いたします。これからどこまで続くのかは分かりませんが、これからもアークナイツを楽しむ傍ら、たまにでも思い出していただけたら幸いです。

 マドロックはいいぞ。



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俺の●●の顔が良すぎる


めりーくりすます(若干遅刻)



 

 あったかい。

 

 エリモスは一度マドロックから唇を離すと、ぎゅう、と彼女を抱きしめてそう呟いた。

 

「…エリモス?」

「…ん。」

 

 突然エリモスの腕の中に閉じ込められたマドロックが少しだけその身を震わせた。そのままおずおずと彼の服を掴む。どうしたらいいのかわからない、と言った様子だった。

 

「あったかくて、柔らかくて、いい匂いがする。」

「………。」

 

 そう言ってエリモスはマドロックを抱きしめる腕に力を込めた。そんな彼の姿に、マドロックもまた彼に身を委ねた。彼の胸元に顔を埋め、角が刺さらないように少しだけ顔の向きを傾ける。

 

「そう言うエリモスは、熱いな。」

「…ま、そりゃこんな状況だからね。」

「そうじゃなくてだ。」

 

 服越しに触れただけで感じられる彼の肢体。前線を引いたにも関わらず自分よりも遥かに骨張っていて、筋肉に包まれている。そのさらに奥、身体の中心から規則正しい音と共にその熱は届いていた。

 

「この熱は、生命(いのち)の熱だ。今、エリモスが生きている証の。」

 

 耳をすませばドクン、と一際強い音が聞こえてきた。

 

「…そうかい。」

「そうだ。エリモス。私は、この音が一番好きだ。“友人”たちの持たないこの音が。」

 

 マドロックはエリモスの胸板に顔を寄せたまま、目を瞑った。それと同じように、エリモスもぼすりとマドロックの髪に顔を埋めた。そのまま2人は口を閉じて、身じろぎ一つせずにいた。今はただ、互いの熱を、音を感じていたかった。

 

「…ねえ、マドロック。」

「どうした?」

 

 それからどれだけ経っただろうか。時計の長い針が随分と仕事をした後でエリモスは小さく口を開いた。

 

「頑張るよ、俺。」

「…ああ。」

 

 2人はお互いの吐息が重なり合うほどの距離でそう呟きあって、どちらともなく見つめあった。そしてその後。

 部屋に小さな水音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おかしい。

 

 エンジニア部所属のスーパーアドバイザー兼超優秀エンジニア(要出典)であるクロージャは、デスクで唸り声を上げた。彼女の両肘は机の上に立てられ、両手は顔を隠すかのように顔の前で組まれている。

 

「…………。」

 

 そんなどこかで見たことあるポーズ(ゲンドウのポーズ)をしている彼女の視線の先。そこでは1人のボリュームのある金髪をしたオペレーター、と言うかエリモスが慌ただしく働いていた。

 

「…はい、はい。了解しました。じゃあまた調整してから連絡しますんで…はい。…はい、お疲れ様ですー。」

 

 ヘッドホンとマイクをつけ、通話をしながらもキーボードを叩く手はひと時も休まることはない。通話しながらも彼のパソコンの画面は慌ただしく表示を変えていく。

 

 その様子を見て、やっぱり最近のエリモスはおかしいとクロージャは確信した。ついでに言えば恐ろしいほどに失礼な話だが、正直エンジニア部のほぼ全員がそう思っていた。

 

 と言うかそもそもの話だが、エリモスというオペレーターは別に極めて勤勉な方ではない。もちろん割り振られた仕事の分は確実にこなすし、勤務中にサボるわけでもない(突然机に突っ伏していることはあるが、それは鉱石病(オリパシー)が原因なので置いておくこととする)が、結局のところは彼の働きぶりは【至って普通】なのである。

 

 が、最近の奴はどうだ。恐ろしいほどに真摯に取り組み、ミスもほとんどない。今まで以上のタスクを悠々とこなし、それでいて周りを気にする余裕すらも感じられる。そして何よりも、だが─

 

「…んじゃ、俺上がりますんで。なんかあったら連絡してください。」

「あ、うん。お疲れ。」

「お疲れっす。」

 

 この退勤速度である。時計が退勤時間を指してから5分も経たないうちに最近の奴は自分のデスクを後にしている。いや別にタスクはこなしてるし別に文句はないんだが、こう…今までお前手ぇ抜いてたのかよ、とは言いたくなる。そんだけできるなら最初からやってくれ。あたしだってやりたいことあるんだから。

 

「いやー…最近あいつめっちゃ帰るの早いっすね。」

「ほんとねー。全力すぎでしょ、あいつ。」

 

 そんな感じで悶々としているクロージャの耳に、まだ仕事をしているオペレーターたちの会話が聞こえてくる。

 

「いやそりゃそうっしょ。俺がエリモスでも残業なくせるようガチで仕事しますもん。」

「まあそれもそうよねー。」

 

 カタカタとキーボードが鳴る音が響く中、クロージャの耳はなぜかその会話を執拗に拾い続ける。

 

 

「そりゃエリモスもあんな美人な彼女が部屋で待ってるなら本気出すわよね。」

 

 

 ……………なんて?

 

 クロージャの聡明な脳をもってしても、その言葉を理解するのにはたっぷり5秒を要した。少しばかり伏していた目を大きく見開き、もはや隠すこともなくその会話の方へと体を向ける。

 

「やっとか、って話っすよね。」

「そうね。やっと落ち着くところに落ち着いた、って感じよ。」

 

 おいおいおいおい?あたしそれ知らないんだけど?え、まじで?あそこ付き合いだしたの?やっと?てかいつから?…ていうか、

 

「…トトカルチョの分配やらなきゃ。」

 

 エリモスのせいでまた仕事が増えた。そう言ってクロージャは机の上の栄養ドリンクを呷った。ケミカルな味が舌の上を走り、無理矢理に脳を活性化させる。そのままいくつものスクリーンに視線を向けて、キーボードに手を伸ばした。

 彼女の夜はまだまだこれからだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 無機質なロドスの廊下を走る。時間が時間なだけに人通りの多いそこを、できる限り早く、でも人にはぶつからない速度でエリモスは走っていく。

 

 彼が進むのは住み慣れたロドスの、通り慣れた廊下。でもそこを抜けた先にはまだまだ慣れない光景がある。エリモスはあっという間に自室の前まで駆け抜けて、自室の鍵を開けた。空気が抜ける音と共に、ドアが開いていく。そのほんのわずかな時間が彼にはどうももどかしかった。

 

「…ん。」

 

 本来1人用の小さな部屋には先客が、銀の長髪に紅い瞳をした麗しきサルカズがいた。部屋の主の帰りを待っていた彼女は扉の開く音を聞いて部屋の奥から顔を出した。そのままパタパタと足音をたてて扉の方へと歩いていく。

 

「お帰り、エリモス。」

 

 ふわりと笑ったマドロックに、少しだけ息を切らしたままでエリモスもふにゃりと笑い返した。笑い返して、彼女を優しく抱き寄せた。

 

「ただいま、マドロック。」

 

 

 





最近はマドロックとホルンのコーデ並べて遊んでいます。
いい感じに“黒と銀”“白と金”で対照になって僕満足。



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