トチ狂った日本国召喚 (北限の猿)
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日本国の異常な平和主義 またはこの国は如何にして配慮するのを止めて積極的平和主義を標榜するようになったのか

思いつくまま書きましたが、もしかしたら規約に引っかかって消えるかもしれません


遥かなる宇宙の片隅、広大なる銀河の一角。

青き水の星"地球"…その惑星は、その美しさとは裏腹に多くの争いの舞台となった。

毛の無い猿(人類)が生まれてから、彼らは棍棒で、石器で、青銅器で、鉄器で、銃器で、果には星の力()すら用いる戦争を幾度となく繰り返した。

 

そんな中、我らが祖国(日本国)はどうなったのだろうか?

第二次世界大戦に敗北し、牙を抜かれ、そのまま大国の思惑に踊らされ、都合の良い防波堤となって荒廃してしまったのだろうか?

はたまた深刻化する少子化に耐え切れず、緩やかに衰退してしまったのだろうか?

だが、幸いな事にそうはならなかったし、寧ろ何だかんだで様々な国難を乗り越えて今日まで存続していた。

それを示すように西暦2035年、日本国の中枢である霞が関、現在の政権与党である自由国民党の本部では党総裁にして現日本国内閣総理大臣である『成島 智治(なるしま ともはる)』が、会議室に備え付けられたモニターに目を向けつつ、熱い緑茶片手に煎餅を齧っていた。

 

ー「ご覧下さい、この広大な工場を!この工事は5年前、我が国がロシアとの交渉によって買収したスホーイ社、ミグ社、ツポレフ社、そして先の戦争によって固い絆を結んだウクライナのアントノフ社の日本法人を統合し設立した半官半民の軍用機メーカーである日本先進航空機の旗艦工場であり、本日初めて内部が公開されました!」

 

「バリッ…ズズッ…はぁ〜……。やっぱりテレビ越しだと大きさが伝わらんなぁ…」

 

女性アナウンサーのキンキンとした声に片眉をピクッと跳ねさせ、腕を組んで憮然とした様子で成島は画面から目を逸らして壁に掛かった額縁に収められた新聞の一面に目を向ける。

 

ー《露による侵略戦争終戦!宇政府は各国への謝意を表明!》

 

ー《露にて大規模金融危機か?日本政府は露への経済支援を検討との事》

 

ー《号外!日本政府、露の軍用機メーカー3社を買収!経済支援の見返りか!?》

 

「いやはやまさか我が国がこうなるとはな…。しかし、これでこの国に本格的な軍用機の工場が出来た。一昨年受注したキューバ空軍の戦闘機近代化改修作業も完了したし、後は引き渡しだけだ。まだまだ小さな実績だが、これを機に旧東側諸国が我が国に現用機の改修や、新型機の発注をしてくるようになれば、外貨でウハウハだな」

 

読者の方々はもう察していると思うが、この世界での日本は現実世界の日本とは違う道を歩んでいた。

東西冷戦の最中こそ大人しく西側の盟主(アメリカ合衆国)の防波堤となっていたが、冷戦終結後の世界的な軍縮の中でも冷戦気分から脱却出来なかった本邦は何をトチ狂ったのか、ソ連より独立したばかりのウクライナから建造途中の空母『ヴァリャーグ』を大枚叩いて買い取り、それを解析して来る訳がないロシア海軍空母機動部隊へ備えていたのだ。

 

しかし、原子力空母(スーパーキャリア)と比べればお粗末ながらも近代的な空母の実物と各種データが揃っている状況で、大日本帝国海軍(空母機動部隊のパイオニア)の末裔であるソ連海軍絶対殺すマン(海上自衛隊)が大人しく出来る筈もなかった。

防衛省はお得意の言葉遊び(方便)を駆使して、航空機搭載護衛艦(・・・・・・・・)という苦しすぎる造語を持ち出し、世論の反対も押し切って…調子に乗ってアドミラル・クズネツォフ級の準同型艦とも言える『しょうかく型航空機搭載護衛艦』を3隻(・・)も建造した挙句、当時最新鋭のミサイル護衛艦である『むらさめ型護衛艦』を20隻(・・・)も建造して、ミニ空母機動部隊とも言える艦隊を編成してしまうという暴挙をぶちかましたのだ。

 

だが日本国の狂いっぷりはこれに止まらない。

20年代初頭に勃発したロシアによるウクライナ侵攻、それを受けて日本政府はウクライナへと義勇兵と称した事実上の特殊部隊(陸上自衛隊特殊作戦群)を派遣、更には10式戦車や16式機動戦闘車の配備によって退役が進んでいた74式戦車及び90式戦車、それに加えてMLRS(多連装ロケットシステム)まで供与し、その上ウラジオストク沖に『ヴァリャーグ』が元となった『しょうかく』を中心とする『第一航空護衛艦隊』を遊弋(うろつかせ)てロシア軍の戦力を分散させる事でウクライナ側の勝利に多大なる功績を残した。

この功績によって日本は敗戦国(元枢軸国)から戦勝国(平和の守護者)となり、世界は日本を"蘇ったサムライの国"と畏怖され(讃えられ)るようになったのであった。

 

これにて一件落着…かに思われたが、吹っ切れた日本はまだ止まらない。

敗戦によって多大なる負債(賠償)を背負う事となり、経済的に窮地に立たされたロシアへ対して何と経済支援を行ったのだ。

これに対し世界は驚愕したが、無論日本も100%の善意で経済支援をした訳ではない。

日本政府は経済支援の見返りにロシアの主要航空機メーカーであるミグ、スホーイ、ツポレフを買収し、工作機械や治具、さらには主力技術者を真摯な交渉(高給と日本国籍)によって国内に誘致し、それに加えてウクライナから避難してきたアントノフ社の社員が設立したアントノフ社日本法人も傘下に収めた東洋一の航空機メーカーを設立する為であったのだ。

そしてその目論見は怖いぐらいにあっさりと達成され、今では航空自衛隊や海上自衛隊が運用する戦闘機の開発・製造を行いつつもロシアから距離を置きたがっている旧東側諸国が保有する軍用機の近代化改修まで行なっている有様である。

 

コンコンコン

 

「入れ」

 

閑話休題(それはともかく)、会議室のドアがノックされ、成島が入室を許可する。

 

「総理、失礼します。まもなく野党第一党、共同立憲党の党首との会談のお時間です。表に車を回しておりますので、ご準備を」

 

「ん?あぁ、もうそんな時間か…。あの若造との食事…正直言って、アイツは苦手なんだがねぇ…。言ってる事は正しいが、堅苦しくて敵わんよ」

 

入室すると共にスケジュール帳片手に淡々と述べる秘書の言葉に成島は腕時計で時間を確認しつつ、椅子に掛けていたジャケットとネクタイを持って会議室を後にした。

 

 

 

 

この数時間後、成島は…いや、日本国に住まう全ての人々は未曾有の事態に巻き込まれる事となるが、それを知る者は居る筈もなかった。




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21日後…

ご都合主義満載です


「はぁ〜〜……」

 

「総理、ため息をすると幸せが逃げますよ?」

 

総理執務室で深い溜息を吐く成島へ、秘書がノートパソコンをタイピングしながら淡々と忠告した。

 

「幸せならもう逃げてるよ…。なんだって私が総理の時にこんな…国土ごと異世界への転移(・・・・・・・・・・・)なんて馬鹿げた事が起きるんだ…。せっかくソ連の遺産を手中に収めたのに…。ウクライナ、ルーマニア、ブルガリア、ハンガリー、チェコスロバキア、それにアフリカ諸国…ソ連・ロシア製軍用機を運用する国々とのビジネスチャンスが全部パーだ!あんな大枚叩いて買い取った企業が金のなる木どころか、不良債権一歩手前なんだぞぉ!?」

 

荒ぶる成島であるが、彼がそうなるのも無理は無い。

何せ日本国は国土ごと異世界へ転移(・・・・・・)してしまったのだ。

それによって日本は諸外国との交流が全て断ち切られてしまい、通信・貿易・外交に関わる省庁及び企業は大混乱に陥り、転移後1週間は暴動一歩手前な状態であった。

 

「ですが、友好的かつ我が国に不足している資源を大量に持つ国家が近くにあって良かったではありませんか。クワ・トイネ公国、クイラ王国の両国へのインフラ輸出は着々と進んでいますし、防衛装備品輸出も現実的になりつつあります。転移前と比べれば利益は少なくなりますが、投資分を回収する目処は立ちましたね」

 

しかし、幸運な事に日本が転移した地点の近くには食糧自給率300%以上という『クワ・トイネ公国』、そこら中に良質な原油や鉱物資源が埋まっている『クイラ王国』が存在する『ロデニウス大陸』があり、日本はその2ヶ国と接触して国交樹立から貿易協定の制定、更には安全保障条約まで結んだのだ。

 

「しかし桑国(クワ・トイネ公国)杭国(クイラ王国)が友好的な国家で本当に良かったですよ。不可抗力とは言え領空侵犯を赦してくれた上、資源の輸出にも積極的なんですから。いくら我が国が20年代に食糧自給率向上政策を成功させ、エネルギー自給率向上政策によって核融合発電を稼働させているとは言っても豊かな食生活と、国防の為には外国からの食糧と地下資源の輸入が不可欠ですから。…とりあえず一息入れましょうか。緑茶でよろしかったですか?」

 

「あぁ、頼む」

 

異例の早さで桑・杭両国と国交を結んだとは言ってもそれは国民を一刻も早く安心させる為であった。

と言うのも日本政府は2020年代初頭に勃発したウクライナ戦争による食糧・原油価格高騰を受け、食糧・エネルギー自給率の改善に乗り出したのだ。

その結果全国の農耕放棄地は和製GPSやAI、ドローン技術を用いたスマート農業システムによって蘇り、運転停止していた原発の再稼働と平行して核融合発電を開発、商業運転にまで漕ぎ着けた事で日本は食糧・エネルギーともに自給率70〜90%を達成する事となった。

しかし、それでも日本国内では生育が難しい農作物や、兵器の燃料となる石油は輸入に頼らざるをえない。

その為、こうして異例のづくしの外交に乗り出したのである。

 

「ズズッ…はぁ〜…やっぱり知覧茶はいい…故郷の味だ。しかし、桑国、杭国に防衛装備を輸出するにしても彼らに扱い切れるか?彼らが持つ武力は剣や弓矢、それに魔法にワイバーンという正にファンタジーな代物だぞ?まるで10年程前に流行ったネット小説だ」

 

「それに関してはご心配無く。初接触の際、哨戒飛行を担当していたP-1(対潜哨戒機)のパイロットは迎撃に来たワイバーンは最高でも時速250km、到達高度は4000mが限界だと推測していましたし、桑国側の竜騎兵(ワイバーン乗り)も大体その程度だと話していました。その為、桑・杭両国ともに性能面でワイバーンを上回りつつも操縦が容易なT-7初等練習機を輸出する事となりました。勿論、航空戦力とするので機銃等の武装は取り付けていますが」

 

「なるほど。確かに25年にT-8初等練習機が採用されたから、T-7は輸出しても何の問題もないと言う事か。それて、その後の展望は?」

 

「はい。まずはT-7にて航空機に慣れ親しんだ後に、T-5高等練習機を輸出しようと防衛装備庁は考えているようです」

 

「T-5…確か元はロシアの物だったな?」

 

「はい。元々はロシアのヤコブレフ社が開発したYak-130と言う練習機兼軽攻撃機ですが、我が国が買収したスホーイ社でもSu-130と言う名で製造していたようです。そして買収時期がちょうどT-4高等練習機の後継を決定する時期だったものですから、Su-130に最新鋭の電子機器を搭載した上で素材の変更や設計の小改良を施して、T-5として採用したのです。これらの手直し(魔改造)によって本機は練習機としては勿論、爆弾・ロケット弾・誘導弾を搭載出来る多目的亜音速ジェット戦闘機としても運用出来るので、桑・杭両国に輸出するにはこの上無い商品でしょう」

 

「なるほど…空はそれでいいか。陸と海は?」

 

成島の問いかけに秘書はタブレット端末を確認しながら答える。

 

「陸上兵器に関しては保管庫で眠っている89式小銃やFH70 155mm榴弾砲、新型の登場で退役予定の16式機動戦闘車を輸出する予定となっていますが…海上兵器についてはまだ未定です。防衛装備庁は『もがみ型』の輸出を目論んでいるようですが、海上自衛隊としても『もがみ型』はまだまだ新しい艦ですし、他の艦はより大きく複雑なので桑・杭両国では扱いきれないでしょう。ですので『もがみ型』をベースにより簡素な艦を建造する案も浮上しています」

 

「ふむ…空と陸はまだしも海は厳しいか…分かった。とりあえず防衛装備庁には防衛大臣を通して私の考えを伝えておくよ。クワ・トイネ、クイラは我が国の安全保障上最も重要な国だ。それ加え、両国の隣国であるロウリア王国は人種差別的思想で侵略戦争を企てているそうじゃないか。それを踏まえて、多少の無理はしてでも両国が自衛出来るだけの力を与える事が出来るように努力してくれ、とな」

 

「賢明なご判断です。では、防衛大臣との会談の場をセッティングしましょう。予定が決まりましたら、追ってご連絡します。…では、そろそろお時間です。この後は駐日クイラ王国大使の就任式となっておりますので」

 

「もうそんな時間か。よし、日本国民の代表として頑張りますかね…っと」




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訓練状況異状なし

細かい事は気にしないのが本作を楽しむコツです


「いーちにーっ!いっちにっ!そーれっ!」

 

「「「「「いーちにーっ!いっちにっ!そーれっ!」」」」」

 

よく晴れたある日の午後。

クワ・トイネ公国の国境の街である『ギム』の守備隊駐屯地では、公国防衛軍の兵士達が訓練に励んでいた。

 

「よーし、小休止!水分補給を行え!」

 

ダミーの砲弾を担いでジョギングする兵士達を先導していた十士長(上官)がホイッスルを吹き鳴らし、休憩を命ずる。

 

「ふはぁ〜…疲れたぁ…。あんな便利な乗り物があるってのに、こんな走る訓練をさせられるとは思わなかったぜ」

 

「全くだな。しかもこんな錘を担いでなんて…。だけど、ジエイタイ(日本軍)ジエイカン(戦士)達はこれよりデッカいのを担いで俺たちより早く走るらしいぞ?」

 

「うへぇ、バケモノだ」

 

「だけど俺たちが乗る事になる"ヒトロクシキ"よりデカイ"センシャ"に乗るぐらいなんだから、それぐらい出来ないとダメなんだろうな」

 

息を整え、運動場の端にある木陰へと向かいながら談笑する兵士達であるが、彼らの視線の先には"鋼鉄の獣"が眠っていた。

角ばった多面体の箱を大小二段重ねにしたような姿をしており、下側の大きな箱には大直径の黒い4対8個の車輪があり、上側の小さな箱には太く長い鉄の柱のような物が1本、前方に向かって生えている。

これはかつて、海を渡ってやって来る敵国を撃破すべく日本国で開発され、陸上自衛隊によって運用されていた『16式機動戦闘車』である。

舗装路であれば時速100kmで走行出来、装甲車や場合によっては1世代前の戦車すらも撃破可能な105mmライフルを備えた優秀な戦闘車両なのだが、西暦2030年に行われた防衛省主導の陸自大改革計画によって後継車となる『30式モジュール装甲車』が開発・配備され始めた為、退役が進んでいたのだが、まだまだ使えるという事でクワ・トイネ公国とクイラ王国に輸出されたのだ。

 

「こうして見るとヒトロクシキでもとんでもないデカさなのに、"サンサンシキ"はもっとデカイんだよなぁ…。オレもいつかサンサンシキに乗ってみてぇ」

 

「その為にはまずヒトロクシキを完璧に使えるようにならないとな。…そろそろ休憩が終わるぞ。遅れたら全員腕立て伏せだから、早めに行くぞ」

 

「へーい」

 

兵士の一人が腕時計で時間を確認し、休憩時間がもうじき終わる事に気付くと、他の兵士を引き連れて再び運動場へと戻って行った。

 

 


 

「プレジデント・ナルシマ、提案とは一体なんでしょうか?」

 

総理官邸の応接室。

そこでは幾名かのSP(警備)が見守る中、日本国内閣総理大臣である成島と浅黒い肌の外国人が何やら話し合いを行っていた。

 

「急な呼び出しに応じていただき誠に感謝します、アントニオ・アルティーメ大佐」

 

成島の対面に座るのは、キューバ革命空軍第252連隊長であるアントニオ・アルティーメ大佐であった。

何故キューバ軍の佐官級の人物が日本に居るのか…それは、キューバがアメリカとの国交正常化を完璧な形で成し遂げたからである。

細かい経緯や政治的な事は省くが、とにかくアメリカとの敵対関係を解消したキューバはこれまで友好的にしていたロシアと距離を置く事を推し進め、その姿勢は軍事面にも影響を及ぼしていた。

しかし、残念ながらキューバ軍は万年金欠であり、最新鋭戦闘機(F-35)なんかには手を出せない。

だからと言って手持ちは冷戦期のロートル(Mig-21・23・29)ばかり…いくら近くに友好的な世界最強の軍事力(アメリカ軍)が居たとしても、それにべったり頼り切る事はキューバ人のプライドが許さなかった。

しかし、かと言って安く手頃な戦闘機を売ってくれるロシアはもう頼れない…そんなキューバへ手を差し伸べたのが、日本であった。

ロシアの軍用機メーカーを買収し、それらを使ってビジネスをしようとしている日本は販売実績を渇望しており、そんな折に都合よく戦闘機を欲する国が現れたものだから勢いよく飛びついたのだ。

 

日本は自国の技術をアピールする為に先ずはキューバが保有するMig-21bisの大規模改修を安価で提案し、キューバもそれが可能なのかと疑問に思いながらも藁にも縋る思いで合意したのだが、物作りガチ勢(魔改造狂い)な日本はとんでもない改修を実現してしまった。

その改修内容というのが以下の通りである

・レーダーをフェーズドアレイへ変更。

・エンジンをIHIが開発したF110並みの推力を持ちながらもよりスリムかつ低燃費なターボファンエンジンへ換装。

・エンジン、電子機器の小型化によって空いたスペースに燃料及びM61A2バルカン砲を搭載。

・エンジンノズルを三次元可変ベクターノズルにする事で運動性向上。

・ベクターノズルの性能を引き出す為に操縦系統をフライバイワイヤ化。

・向上した運動性に耐えるべく、主翼を複合素材一体成形の物に変更。

・各種西側製ミサイルへの対応。

等々…細かな物を含めればこんなものでは済まないだろう。

ともあれ、骨董品(Mig-21)がここまで変貌した事に驚愕したキューバ政府はすぐさま日本へと部隊を派遣し、日本国内で航空自衛隊と共同で評価試験を行なっていたのだが、そんな中で転移に巻き込まれてしまったのだ。

そんな訳でアルティーメ以下100名近くのキューバ軍人達は祖国に帰る事も叶わずに日本に留まっている。

 

「さて、本題ですがアルティーメ大佐。貴官は現状についてどう考えておいででしょうか?」

 

成島の問いかけに、アルティーメは片眉をピクッと跳ねさせ、少しばかり思案して口を開いた。

 

「正直に言えば不満です。祖国に帰れなくなった事はこの際置いておくとして、現在の我々は貴国に食わせてもらっている状態…誇り高き革命軍が他国の税金を貪って生きているなぞ…!」

 

何とも悔しそうなアルティーメだが、それも無理は無い。

なにせ今キューバ軍人達には緊急対処として日本政府が住居と生活費を与えているのだ。

他国のセーフティネットにタダ乗りして平気な顔をしていられる程、彼らは厚顔無恥ではない。

 

「はい、あなた方が抱えるお気持ちはよく分かります。そこで提案なのですが…"起業"してみませんか?」

 

「起業…?私達に会社を作れと?」

 

「勿論ただの会社ではありません。軍事力を保有し、顧客の要望通りの軍事的サービスを提供する民間軍事会社…いわゆるPMCです。あなた方が設立したPMCは自衛隊や我が国の友好国との訓練で仮想敵役となり、練度向上に協力していただきたいのです。そうすればあなた方の練度向上に繋がりますし、報酬で食っていく事も出来ます。政府としても、経営が安定するまで支援をいたしますよ」

 

「なるほど…アメリカのようなやり口ですな。確かにパイロットの育成には金がかかるし、仮想敵役を出来るだけの凄腕は特に時間もかかる。しかし、現状そうするのがいいのかもしれません。とりあえず部下達に相談してから結論を出す事にします。少し時間を頂けますか?」

 

「はい、勿論です。よいお返事を待っていますよ」

 

会談を終えた二人は固い握手をし、各々の仕事を果たすべく戻って行った。

 

 

1週間後、キューバ軍人によるPMC『252・エア・セキュリティー』が設立され、その日のうちに航空自衛隊と訓練支援に関する契約が結ばれた。




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マイハークの空に

書いてる本人もこんなの無理だって分かってますよ


ロウリア王国の首都ジン・ハーク。

その中心部に聳え立つ王城の大広間では、ロウリア国王であるハーク・ロウリア34世を中心として対クワ・トイネ公国及びクイラ王国侵攻作戦を実行する為の最終確認会議が行われていた。

 

「…以上がロデニウス大陸統一の為の作戦となります。陛下、何かご質問はありますでしょうか?」

 

「我が国が誇る重装歩兵と騎兵により地上戦力の撃破、それと同時進行で4400隻の軍船によって亜人共の海軍を殲滅したのちにクワ・トイネ最大の港であるマイハークを占領して二方向よりクワ・トイネを蹂躙する…。疑問があるのだが、クイラ王国はどうする?いくら我が国でも、二国を相手にするのは厳しいだろう?」

 

大きな机に広げられたロデニウス大陸(文明圏外)においては貴重な白い紙に描かれた地図を見下ろしつつ、ハーク王は侵攻作戦の司令官であるパタジンへと問いかける。

 

「それに関してはご心配なく。クイラ方面は障害物の無い平野が広がっているので大軍を動かせば直ぐに露呈しますし、何より連中は明日の食い物にも困る程です。防衛ならまだしも、逆侵攻なぞ不可能でしょう」

 

「ふむ…ならばニホンなる国はどうだ?」

 

「あぁ…あの国ですか…。あの国の連中はワイバーンや我が国の軍船を見て酷く驚いていましたので、それらが無い国なのでしょう。身なりこそ小綺麗でしたが、護衛の兵の格好は泥と草の汁が染み付いた汚らしいものだったので、底が知れています。大した連中ではありません」

 

「左様か…ならば良い。これで余の懸念は全て消え去った」

 

「おぉ…では王よ」

 

「うむ、時は満ちた。ハーク・ロウリア34世が命ず!これよりクワ・トイネ公国及びクイラ王国への侵攻作戦を開始せよ!そして亜人を根絶やしとし、ロデニウス大陸を統一するのだ!」

 

亜人排斥を国是とするロウリア王国にとってエルフ・ドワーフ・獣人をロデニウス大陸から消し去る事は正に悲願である。

それ故にロウリア王国にとって今日は記念すべき日となるだろう。

 

「「「「万歳!ロウリア王国万歳!」」」」

 

集まっていた将軍達が一斉に立ち上がり、熱狂の中で万歳をする。

その光景にハーク王は満足気に深く頷くが、彼の側に控える黒いローブの男が耳打ちしてきた。

 

「クックックッ…ハーク王よ。此度の戦争、勝った時には確りと約束を果たしてもらうぞ」

 

「分かっておるわ!貴様に言われんでも…」

 

「おっと。私は"列強国"パーパルディア皇国の者だぞ?そのような無礼な口を聞いてもいいのかな?」

 

「くっ……」

 

「まあ、今日は浮かれてしまったという事にしておこう。では、吉報を待っているぞ」

 

悔し気に口を噤むハーク王を置き去りにして、黒いローブの男は足音も無く広間を後にした。

 


 

「何っ!?それは本当かね!?」

 

「はい。桑国(クワ・トイネ公国)のみならず杭国(クイラ王国)からも同様の…ロウリア王国が一ヶ月以内に侵攻を開始する事は間違いないとの情報が寄せられています。総理、如何なさいますか?」

 

「どうするもこうするも、両国へ防衛に協力しなければならんだろう!桑・杭両国は我が国の生命線と言っても過言では無いし、何より侵略戦争を見て見ぬふりをするのは世論が許さないぞ!?」

 

ウクライナ戦争以降、日本国民の間では侵略戦争に対する意識が高まっており、転移前には勃発が危惧された台湾有事に対して備えるべきだという論調が大多数となり、なんと巡航ミサイルを装備した原子力潜水艦の配備を支持される程となっていたのだ。

そんな世論は、異世界での初めての友人である桑・杭国を見捨てる事を決して許さないだろう。

 

「では、防衛省に繋ぎましょう」

 

「うむ、頼む。桑・杭国には防衛装備品を輸出して訓練を施しているが、万全を期したい。西部方面隊の即応部隊を桑国へ派遣するんだ」

 


 

一週間後、クワ・トイネ公国の経済都市マイハーク。

その港の上空には、巨大な飛行物体が飛来していた。

 

ーゴォォォォォォォ…ザザァァァ…

 

飛行物体は海面へと滑るように降り立つ。

マイハークへ飛来したのは、海上自衛隊の『US-5 戦略輸送飛行艇』だ。

傑作機『US-2飛行艇』の艇体と同規模のフロートを2つ備え、『C-2輸送機』の胴体より一回り大きな艇体を備える世界最大の飛行艇である。

そんな"空飛ぶ軍艦"とも言える巨人機が総勢9機、マイハークの沖合いに着水し、機首を跳ね上げるように開いて内部からデジタル迷彩が施された車両をそのまま進水させる。

 

US-5から進水したのは、陸上自衛隊の『30式モジュール装甲車』であった。

これは陸上自衛隊大改革の一環で開発されたものであり、共通の車体に砲塔・走行装置・車内モジュール・追加装甲を組み合わせる事で様々な戦闘車両に組み替える事が出来る画期的な車両であり、島嶼防衛・奪還を想定して水上航行能力も備えた次世代の装甲車両なのである。

今回、桑国へと派遣された8輌の内訳は60mm無人砲塔と装輪走行装置、砲弾ラックモジュールを装備した偵察車型が2輌、レーダー搭載25mm連装砲塔と装軌走行装置、砲弾ラックモジュールを装備した近接防空型が3輌、120mm後装迫撃砲塔と装軌式走行装置、砲弾ラックモジュールを装備した自走爆撃砲型が2輌、そしてそれらを指揮する為の12.7mm銃塔と装輪走行装置、指揮車モジュールを装備した指揮車型が1輌である。

それに加え、普通科(歩兵)が総勢400名に、後方支援要員150名が車両を搭載していない1機のUS-5の艇体や他機のフロート部に備えられたキャビンから出てきてボートでマイハークへと次々と上陸してゆく。

 

そんな現実離れした光景を目にしたマイハーク市民は、老若男女問わずあんぐりと口を開けたまま、にこやかに手を振って行進する自衛官達を見送る事しか出来なかった。




でたらめをやってごらん、って言いますからね


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ギム・レッド・ライン

知識は色々と付け焼き刃です


クワ・トイネ公国とロウリア王国の国境の街『ギム』。

そこは両国による衝突が差し迫っているという事もあり、普段よりもピリピリとした雰囲気が漂っていた。

 

「モイジ団長、ジエイタイの方々が到着されました!」

 

「おう、通せ」

 

ギムの守備を任されている国境防衛団の団長であるモイジの元へ一人の兵士が報告し、彼はその言葉に短く応えた。

 

「失礼します。陸上自衛隊西部方面隊即応機動連隊副連隊長の淡島 誠(あわしま まこと)二佐です」

 

「初めまして、アワシマ殿。改めまして、国境防衛団長のモイジと申します。とりあえず立話もなんですからこちらへ…」

 

「では失礼して…」

 

自己紹介を交わし、団長室に置かれた大きなテーブルを挟んで座る淡島とモイジ。

 

「では早速ですが淡島殿、私の部下より既に説明されているかもしれませんがもう一度私が現状を説明します」

 

「お願いします。齟齬があったらいけませんので」

 

「では…」

 

テーブルに羊皮紙を広げ、描かれたギム周辺の地形を指さすモイジ。

 

「我々の偵察兵によるとロウリア王国軍は約3万の兵力を率いて越境、現在はこのギムより1.5km西にある『ハルムルガの丘』の裏側、そこから更に1km程先に野営地を築いています」

 

「なるほど…より正確な地形や敵陣地の情報が必要ですね。少々お待ちを」

 

古びた羊皮紙の地図を見ていた淡島は何かを思い付いた様子で無線機を取り出すと、何処かと交信し始める。

 

「……お、来た来た。モイジ団長、此方が最新の敵軍の布陣状況です」

 

淡島は戦闘服の胸元に取り付けられている個人携行用情報端末(タブレット端末)を取り外すと、羊皮紙の上に置いて、画面に動画を映し出した。

 

「これは…確かジエイタイが使っている"どろーん"なる飛行機械、によるものでしたか?」

 

「はい、これは陸上自衛隊にて運用されている『31式偵察無人航空機(31式ドローン)』が撮影した映像です。リアルタイムの映像ですので、気になった箇所を好きに注視出来ますよ。何か気になる所は?」

 

淡島が要請したのは、今回ギムに派遣された部隊の内、ドローンを専門に扱う小隊へのドローンによる偵察であった。

その小隊が運用する31式偵察無人航空機、通称31式ドローンは通常の固定翼機をそのまま小さくしたような姿をしており、発進時は紙飛行機のように人力で飛ばせる程に軽いが、西暦2028年に開発された全固体電池をバッテリーに用いている他、機体フレームの一部を全固体電池とする事で従来の同程度のドローンを遥かに上回る滞空時間を有している。

陸上自衛隊では本機を大量導入しており、特科(砲兵)の弾着観測は勿論、機甲科(戦車隊)普通科(歩兵)の索敵にも用いられており、今回の運用は正に模範的な運用である。

 

「んー…淡島殿、あの天幕(テント)の前に居る者を」

 

「この男ですか?」

 

「おぉっ!ここまで拡大出来るとは…失礼。この男はホークですね。ホーク騎士団と呼ばれるロウリア軍の最精鋭部隊を率いる男なのですが…妙ですね。この男の近くには赤目のジョーヴという者が付き従っている筈です」

 

「そのジョーヴとやらが何か?」

 

「奴は極めて危険な男であり、ごろつきばかりを集めた第15騎馬隊を率いています。連中に狙われたら最後、男は縄で括られて馬で引き回され、女子供は犯されてしまいます」

 

「それは危険ですね…。そんな奴が居ないとなると…」

 

「別働隊として動いているか、もしくは何処かで死んだか…出来れば後者だとありがたいのですが」

 

「希望的観測は危険です。現在マイハークへ向かっている海上自衛隊の第二航空護衛艦隊に連絡して、艦載機(ハリアーII)でギム周辺をパトロールしてもらうように要請します」

 

「ありがとうございます」

 

「いえいえ、友好国(友人)の為ですから。ところでモイジ殿、そこにある89式は…」

 

淡島は先ほどから気になっていた、木製ガンラックに納められた89式小銃に目を向ける。

それはかなり使い込んだのか表面処理が摩耗して銀色に輝いており、ストックには白い油性ペンで"北742"と書かれている。

 

「貴国から頂いた"ハチキューシキ"ですが…何か?」

 

「いえ、私が新人教育の時に使っていた物です。懐かしいなぁ…まさかこんな所で同じ個体に出会うとは」

 

「それは運命的ですな。どうです、持ってみますか?」

 

「良いのですか?ではお言葉に甘えて…」

 

モイジから差し出された89式小銃を撫でる淡島。

 

「あぁ…懐かしい…。おっ、このレシーバーの傷は銃剣で引っ掻いた時のだ。あの時はしこたま怒られたなぁ…」

 

 


 

夜もふけた頃、ロウリア軍の野営地では指揮官クラスの者が焚き火を囲んでいた。

 

「明日、ギムを落とすぞ」

 

クワ・トイネ公国を侵略するために編成された東方征伐軍の司令官パンドール将軍が高級品であるガラスの杯に注がれた酒の水面を揺らしながら告げた。

 

「3万もの兵力に加え、150騎にも及ぶワイバーン…これを止められる者なぞこのロデニウス大陸には存在せん。小手先の策なぞ不要、真正面から蹂躙してくれるわ」

 

にやり、と不敵な笑みを浮かべたパンドールは杯を煽って酒を一気に飲み干した。

 

「将軍、ギムを落とした際に手に入る戦利品については如何なさいますか?」

 

「アデムよ、貴様に一任する」

 

「はっ!」

 

副将アデムの問いかけにパンドールは鷹揚に応え、連れて来たお気に入りの娼婦に酒を注がせた。

 

「皆の者!明日、我々はロウリア王国によるロデニウス大陸統一の嚆矢となるのだ!我々の名が大ロウリアの歴史書に刻まれる記念すべき日となるであろう!わーはっはっはっはっ!」

 

「きゃんっ!もう…将軍ったらぁ…」

 

酒が回ったのか杯を天高く掲げるパンドールは娼婦を抱き寄せて豊満な胸元を鷲掴みにすると、恥じらいながらも満更でもなさそうな彼女を引き連れて上機嫌のまま、将軍専用の天幕へと消えた。

 

「おい、明日ギムを落としたら100人ぐらいは生かしておけ。好きにしても構わんが、歩いて近くの街に行けるぐらいにはしておくのだ」

 

「はい、何故そんな事を?」

 

パンドールの天幕から聴こえる女の嬌声を鬱陶しそうに聴き流しつつも、アデムは部下へと命令する。

 

「ギムでの出来事を伝えさせるんだ。そうして恐怖を伝播させ、亜人や連中に協力する者の心を折ってやろう」

 

怪訝そうな部下に対し、アデムはサディスティックな笑みを浮かべてそう応えた。

 

それから数時間後、ロウリア軍は夜明けと共に朝食を済ませると野営地より出陣。

ワイバーンと騎兵を先頭にギムへの本格侵攻を開始した。




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ハルムルガ・ヒル

少し短めです
ところで、サブタイトルが映画のパロディになってるの気付きました?


「出陣!出陣!」

 

朝靄漂う中、ロウリア軍が野営地より出陣する。

その数、2万7千名。野営地防衛兼予備戦力として野営地に3千の兵を残しているが、それでもギムを落とすには十分な戦力である。

 

「ふふふ…なんと壮観な事か。これに加えて150騎ものワイバーンによる上空支援も加わるとは…ギムは昼まで保たんな」

 

どう考えても負ける筈が無い状況に、パンドールは早々に勝った気でいた。

そんなパンドールや精鋭部隊を率いるホークが率いるロウリア軍は1千名単位の方陣を組み、一糸乱れぬ足取りで小高いハルムルガの丘の西側を登ってゆく。

パンドールはこのハルムルガの丘の頂上に指揮所を設け、戦場を俯瞰しながら指揮を執ろうと考えているのだ。

 

ードォォォォォン……

 

「ん?何だ?」

「雷か?」

「馬鹿言え、こんなに晴れているんだぞ」

 

遠くから聴こえる轟音に、兵達が足を止めて陣形を乱す。

しかし、それぞれの方陣を纏める千人長達がそれを諫め、再び行進を再開させる。

 

「ワッシューナよ、先程の轟音は何だと考える」

 

「はい、伯爵。私が考えるにあれは遠雷でしょう。遠くに落ちた雷であっても、条件によっては聴こえてくるものです」

 

ロウリア軍の一翼を担う東部諸侯団を纏めるジェーンフィルア伯爵は聴き慣れぬ轟音を不審に思い側近である魔導士ワッシューナへと問いかけるが、ワッシューナの応えは先述の通りであった。

 

「ふむ、なるほど…。なら大した事は無いか」

 

ワッシューナの言葉を信じたジェーンフィルアは轟音の事なぞ忘れ、愛馬の脇腹を拍車で小突いて一足先に丘の頂上へと向かおうとする。

 

ーヒュゥゥゥゥゥゥ……

 

「ん?」

 

まるで下手な射手が射た鏑矢を思わせる不快な風切り音。

それはどうやら上空から響いているようだ。

 

「…なんだ?」

 

ジェーンフィルアが見上げた先にあったのは青空にポツンと浮かぶ黒点であった。

それは徐々に大きく、それに伴って風切り音も大きくなってゆく。

"アレ"は、此方へ向かって落ちてきているのだ。

 

「マズイ…全員、離れ……」

 

猛烈な嫌な予感を覚えたジェーンフィルアは喉が張り裂けんばかりの大声で後続の将兵へと退避するように命令する。

しかし、それは余りにも遅すぎた。

 

ードンッ!

 

目の前に雷が落ちたかのような轟音と共に落下物が空中でバラバラに砕け散り、その破片が東部諸侯団が形成するロウリア軍右翼を物言わぬ死体の山に変えた。

 

 


 

ギムの西方に展開した陸上自衛隊即応機動連隊桑国派遣部隊、その装甲車両部隊に所属する2輌の120mm自走迫撃砲が砲口より次々と巨大な砲弾を打ち上げている。

 

「ワグナーを聴いた事はあるか?」

 

「ワグナー…クラシック音楽のですか?申し訳ありませんが音楽にはあまり興味が無くて…」

 

装甲車両部隊を指揮する指揮車の中、何枚ものモニターに囲まれた空間で部隊長である国場 能人(くにば たいと)一尉が部下へと問いかけた。

 

「なんだ、聞いた事が無いのか。俺は東欧でよく聴いたよ」

 

「東欧と言うと…オーストリアのウイーンとかですか?やっぱり本場のオーケストラは違うんでしょうねぇ…」

 

「あぁ、最高だ。少し演奏してやろう。本物のワグナーではないが、よく似た"音"を奏でるだろうさ」

 

ニヤッ、と口角を吊り上げた国場はポケットからケースを取り出し、大粒の錠剤(ブドウ糖タブレット)を一粒出して口に咥えた。

 

「あぁ…あぁぁぁ…」

 

ーガリッガリッ

 

シートに座ったまま背筋を反らし、車内の天井を見上げるように顔を上に向けたまま肩を動かしつつ、体を捻りながら錠剤を噛み砕く。

 

「国場一尉、敵部隊の一部が撤退を意図しているようです」

 

「ふぅ〜…自走迫撃砲(自迫)に通達。弾種、曳火広範囲榴散弾(空中炸裂型フレシェット弾)。敵部隊後方へ叩き込め」

 

「はっ!」

 

国場の命令を自走迫撃砲へと伝えつつ、ドローンによって観測された映像が映し出されているモニター(タッチパネル)で目標を指示する。

最新のデータリンクシステムを装備している30式装甲車ならば、迅速かつ正確かつ簡単に他車へと目標の座標を伝える事が出来る。

 

ードンッ!ドンッ!

 

腹の底に響くような重厚感ある発射音と共に120mm迫撃砲弾が天高く打ち上がる。

それはそのままほぼ垂直に近い形でハルムルガの丘の反対側で右往左往するロウリア軍へと落下する。

 

「……命中。撤退を企図した敵一部部隊は壊滅したようです」

 

しかし、そのまま落下して地面に衝突する訳ではない。

先程放った砲弾には時限信管が設定されており、高度50m程で炸裂、内部に詰め込まれた数百発の対人・対通常車両(対ソフトスキン)用フレシェット弾を広範囲に降り注がせたのだ。

その結果、撤退をしようとしていたロウリア軍の弓兵隊と攻城兵器隊は文字通り壊滅し、未知の攻撃に曝された生き残り達は逃げ場を探して右往左往しているのだ。

 

「国場一尉、敵騎兵が増速。丘を越えてきます」

 

偵察車(60mm砲搭載型)防空型(25mm連装砲搭載型)を出せ。取り逃がしは桑国軍に任せておけ」

 

「はっ、了解」

 

ーダダダダダンッ!ダダダダダンッ!

 

待機していた5輌の装甲車が砲口から火を噴く。

高速の60mm砲と、圧倒的弾幕の25mm砲に狙われては騎兵の機動性なぞ無きに等しい。

青々とした下草が生い茂っていたハルムルガの丘は瞬く間にロウリア軍の兵士と軍馬の死体で埋め尽くされ、流れ出した血で小川が出来た。




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バレットネード

本作の日本、中々に強かです


ードンッ!ドンッ!ドンッ!

 

「何だ!何が起きている!?」

 

意気揚々と出陣したロウリア軍は大混乱であった。

頭上で轟音が響くたびに何十何百と兵が倒れ、軍勢が削られる様は雑草が大鎌に刈り取られるようである。

 

「うぅ〜っ!痛い…痛い!誰か医者を!」

 

「伯爵!気を確かに!…あぁ、ダメだ!血が…血が止まらない!」

 

轟音と共に降り注ぐ"破壊"から逃れるように地面に這いつくばるパンドールの耳に届く絶望的な言葉。

その方向を見れば、倒れ伏したジェーンフィルア伯爵へ側近のワッシューナが回復魔法を施していたがジェーンフィルアの背中には数センチ程の小さな鉄の矢(フレシェット弾)が無数に突き刺さっており、そこから夥しい量の血が流れ出していた。

 

(あれではもう助かるまい…)

 

蒼白なジェーンフィルアから視線を離すパンドールだが、絶望はまだ終わらない。

 

ードォォォォォン!

 

「なっ、何だ!?」

 

後方から鳴り響く一際大きな轟音。

それに驚き、振り返ったパンドールの目に映ったのは、原形を留めない程に破壊された野営地であった。

帆布と木材で作られた天幕が建ち並ぶ野営地は奇襲を受けた場合を考えて馬車や荷車で防壁を築いていたが、天から降り注ぐ破壊(120mm高性能榴弾)には全くの無力だ。

クワ・トイネ側の別働隊に備えていた3千の兵も、兵達の息抜きの為に連れてきた娼婦達も見るも無惨な骸と成り果てている。

 

「クソッ!クワ・トイネの亜人ごときがなぜこんな力を持っているのだ!おい、魔信兵は居るか!?」

 

「こちらに!」

 

「本陣にワイバーンの支援を要請しろ!此方に回せる分を、ありったけだ!」

 

「はっ!」

 

とにかく状況を打開するには戦場の支配者と謳われる飛竜(ワイバーン)の導力火炎弾により、この猛烈な爆裂魔法らしきものを放っていると思われる魔導士を打ち倒すしかない。

そう考えたパンドールは手近にいた魔信兵(通信士)を呼び寄せると、ロウリア側の国境の街に展開している侵攻軍本陣へワイバーンの支援を要請した。

 

「総員、これより我が方のワイバーンが来る!しかし、この場に留まったままでは敵の爆裂魔法により一網打尽だ!よって、我々はこれより丘を越えてギムへと突撃する!あれだけの威力は確かに脅威だが、故に敵味方が近ければおいそれと使えまい!なるべく散り、全力でギムへと走れ!」

 

その上でパンドールは全軍突撃を命令した。

確かに彼の言う通り、このまま固まって留まったままだと何も出来ずに死ぬだけ…なら前に進み、敵味方入り乱れた混戦に持ち込んだ方が勝ち目がある。

 

「突撃ぃぃぃぃぃぃぃっ!!」

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」

 

パンドールの号令と共に生き残ったロウリア兵約1万が倒れ伏した戦友を置き去りにして走り出す。

上り坂であるため思うように足が動かないが、走らなければ死が待っている。

 

「うぉぉぉぉぉっ!よし、頂上に……」

 

兵が次々と稜線を越え、下り坂に差し掛かる。

こうなれば坂を利用して加速し、ギムまで突っ走るだけだ。

しかし、一歩を踏み出そうとした兵の一人が力なく崩れ落ち、ゴロゴロと下り坂を転がって行った。

勢い余って転倒した…という訳ではない。

というのも、ロウリア兵達は再び破壊と死の嵐の真っ只中へ飛び込んでしまったのだ。

 

「うがっ…」

「ぅっ…」

「あぁぁっ!腕…俺の腕がぁぁぁ!」

 

ヒュンッヒュンッと矢よりも速く小さな何か(弾丸)がロウリア兵へと襲い掛かり、彼らの肉を裂き骨を砕き、四肢をもぎ取り命を奪う。

反射的にその場へ蹲る者も居るが、死への時間を僅かに引き伸ばすだけで直ぐに血の花を咲かせて息絶えた。

 

「な、何だ!?どうなっている!いったい何が……」

 

必死に状況判断しようとするパンドールであったが、それは遂に叶わなかった。

飛来した黄色く輝く光弾を胸元に食らった彼は、そのまま命の源(心臓)が熟した果実のように破裂し、その命を散らした。

 


 

「敵指揮官らしき目標に命中」

 

「胸に50口径弾(12.7mm弾)が当たったんだ。間違いなく死んだな」

 

ギムを取り囲む城壁上に展開した陸上自衛隊普通科隊員達が肩に担いだ巨大な銃を、丘を越えて来るロウリア兵へ向かって発砲する。

陸上自衛隊の普通科向け銃火器と言えば『20式5.56mm小銃』であるが、彼らが扱う銃火器はそのサイズも構え方も20式とは全く違うものであった。

全長は人の背丈程もあり、そんな"砲"と言っても差し支えない銃のストックを肩に担ぐようにして構えている。

『29式12.7mm重機関銃』、それがその銃の名前であった。

ロシアで開発されたKord重機関銃を参考に開発された本銃はウクライナ戦争以降、各国で大々的に運用されているドローンへの対抗手段と位置付けられており、歩兵携行型対空ミサイルより安価で、尚且つ対空機関砲より軽便な対空火器として運用されている。

とは言うものの、三脚に据え付ける重機関銃(M2ブローニング)で扱うような12.7×99mm弾を歩兵が携行する銃火器で、しかも連射するともなれば対空射撃なぞ無理な話だろう。

しかし、陸上自衛隊はそれを解決する為の秘策があった。

 

それこそが隊員達が身に付けている『34式強化戦闘服』、つまりはパワードスーツだ。

元々陸上自衛隊では特科(砲兵)向けに『25式補助装具』という簡易的なパワードスーツを運用しており29式採用後は普通科でも本銃を運用する為に仮採用していたが、25式は砲弾や装薬の運搬を補助する物であり、最前線で走り回る普通科には適さない物であった。

そこで満を持して開発されたのが34式である。

ベースは25式と同じく電力を必要としない空気圧を用いる人工筋肉によるパワーアシストを主軸とし、全固体電池バッテリーやバッテリー化フレームの採用によって得られた豊富な電力によって弾道計算コンピューターや戦術データリンクシステムを稼働させる事で、今まで敗れ被れでしか無かった歩兵による対空射撃を一世代前の対空機関砲並みの精度まで高める事が可能となった。

しかも、普通科の対空射撃手段はそれだけではない。

 

「…おい、ロウリア側からワイバーンが来ているみたいだ。クワ・トイネ側はワイバーンを飛ばしてないから、間違いなく敵だと」

 

「了解。ならコイツの出番かね」

 

そう言うと先程まで射撃していた29式を肩部マウントから外した隊員は、29式より一回り大きくもややスマートな印象を受ける銃を足元に置いてあったケースから取り出し、肩部マウントに接続する。

 

「31式狙撃擲弾銃、認識完了。弾種、対空炸裂弾」

 

「固定、確認よしっ!射撃、いつでもどうぞ!」

 

「射撃、開始!」

 

ーダァァァンッ!ダァァァンッ!

 

飛来するワイバーンへ向かって12.7mm弾より巨大な弾丸…いや、砲弾と言うべき弾体が飛翔する。

それは50騎以上は居るワイバーンの編隊の目の前で炸裂し、無数の破片を撒き散らして2騎のワイバーンを撃ち落とした。

『31式狙撃擲弾銃』、40mm高初速擲弾を発射するいわば狙撃グレネードランチャーとでも言うべき代物だが、そのルーツは中国にある。

というのもウクライナ戦争中、日本政府は偶然にも中国国営企業がロシアへミサイル関連部品を密輸している証拠を握り、それをダシに領土問題に対しての譲歩や軍事技術の公開を脅迫(要請)していたのだ。

その結果、日本政府は中国から手に入れた『11式狙撃グレードランチャー』をベースに対上陸用舟艇・水陸両用装甲車両・ドローン用の歩兵携行火器として再設計し、現在は半ば34式専用装備として運用している。

 

「おー…これはすごいな…。空自も海自も出番がねぇや」

 

「ワイバーンもこんなもんか…。まあ、近付かれたらヤバいから、油断せずに行こう」

 

軽い感じで言葉を交わす隊員だが、その間にも対空型30式装甲車も加わった対空射撃により、ロウリア側のワイバーンは1騎残らず叩き落とされた。

 




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ハリアー 〜怒りの翼〜

結構評価を頂いて、少し驚いてます


ギムにて激しい(一方的な)戦闘が繰り広げられている頃、ギムより東へ20km程離れた位置にとあるエルフの集落がある。

彼らは古くより森に住む一族であり、排他的ではないが先祖の教えと暮らしを守って静かに暮らしていた。

しかし、最近になって集落の近くでロウリアの騎馬隊、しかも悪名名高い"赤目のジョーヴ"が率いる騎馬隊が目撃された事によって、彼らは女子供の疎開を決定した。

 

「アーシャ、大丈夫かい?」

 

「お兄ちゃんは心配し過ぎだって。私は大丈夫だよっ」

 

草原の寂れた街道に列を成して歩みを進めるエルフの女性と子供達。

その一員であるパルンは妹であるアーシャを気遣いつつ、歩みを進めていた。

男手一つで育ててくれた父は先祖代々の地を守るために武装し、他の男性エルフと共に集落に残っている。

今、まだ幼い妹を守れるのは自分しか居ない。

父の言い付けと、兄としての矜持を胸にパルンはアーシャの手を引いて歩き続ける。

 

「ろ、ロウリアの騎馬隊だぁぁぁ!」

 

そんな中、護衛の為に疎開民について来ていた若い男性エルフが遠くを指差しながら叫ぶ。

思わずその方向に目を向ければ、ロウリア軍旗をはためかせた騎兵の集団が土煙を蹴立てて此方へ向かって走って来るではないか。

その数、100以上…対してエルフ達は10名程度の戦闘経験の無い若者と、戦力には成り得ない女子供ばかりだ。

 

「お兄ちゃん!」

 

「アーシャ、先に行くんだ!僕は少しでも奴らを食い止めるから!」

 

不安げに縋り付くアーシャを振り払い、懐に隠していた小刀を取り出す。

病で亡くなった母がくれた大切な形見、それを両手で握り締めるようにして構える。

 

「来い…来いよ…!一人でも道連れにしてやる…!」

 

慌てふためいて槍を構える男性エルフに混ざって立ちはだかるが、膝がガタガタと震えて仕方ない。

 

(父さん…母さん…アーシャ…そして太陽神様…。どうか僕に力を!)

 


 

血のように赤いマントをたなびかせ、ロウリア軍の精鋭ホーク騎士団の一角を担う第15騎馬隊は進路上に発見したエルフの集団目掛け、まるで放たれた矢のように猛進していた。

 

「隊長ぉ、さっきの言葉は本当ですよね?」

 

「おう、当然だ!奴らは死ぬまで好きにして構わねぇ。どうせ本隊は俺たちが何をやってるか分かんねぇさ!」

 

「ヒャッホーイ!」

 

いかにもガラの悪い荒くれ者達を率いるのは、赤目のジョーヴと呼ばれる札付きのワルであった。

ロウリア軍の尖兵として戦場を渡り歩いた彼の悪名は数知れず、自身に歯向かった者の指を全て切り落としただの、捕まえた女性を馬に犯させただの、洞穴に隠れていた子供達を男女構わず犯しただの、まあとにかく擁護しようの無い極悪人である。

そんな彼に率いられた素行不良者の寄せ集めである第15騎馬隊は、今まさにロクに抵抗する力も持たない女子供(弱者)へと、その穢れた牙を剥かんとしている。

 

「ゲハハハハ、ありゃエルフ共だな!エルフのガキは具合がいいんだ!ギャンギャン泣き喚かせてやるぜぇ!」

 

下卑た欲望を隠しもせず、幾人もの命を奪った長剣を振り回すジョーヴ。

その姿にエルフ達は恐れ慄くが、それは彼にとっては最高のスパイスだ。

 

「おらおら!先ずは一人…」

 

ーゴォォォォォォォッ!

 

待ち構えていたエルフが持つ槍を切り払い、そのまま馬で跳ね飛ばした瞬間だった。

空に轟音が響き渡り、上空を大きな影が高速で飛び去った。

 

「何だぁ!?」

 

「た、隊長!ありゃなんですかい!?」

 

ジョーヴと彼の部下、そしてエルフが見上げる空にあったのは、濃い灰色をした鉄の飛竜(航空機)であった。

しかし、航空機なぞ知らない彼らはそれが何か分からず、混乱している。

 

「ワイバーン…いや、違う!なんだありゃ……」

 

その正体を確かめるべく目を細めて注視するが、ジョーヴの意識はそこで途絶えた。

空より降り注いだ鉄塊を喰らい、愛馬ごと粉微塵になってしまったからだ。

 


 

「こちらカワセミ、ロウリア兵と思わしき一団が避難民らしき一団を攻撃している。民間人保護の為、攻撃してもよいか?」

 

《こちら"おおすみ"。攻撃は問題ないが、民間人への被害は禁物だ。高威力の爆弾やミサイル、ロケット弾による攻撃は控えよ》

 

「了解。では機関砲による掃射を行う」

 

《了解。通信終わり》

 

「キジバト、聞いたな?機関砲を使うんだぞ」

 

クワ・トイネ側からの情報により、ロウリア軍の別働隊を警戒する事となった自衛隊は、第二航空護衛艦隊に所属する揚陸輸送艦『おおすみ』より発艦した『VA-8B改 ハリアーII』による哨戒飛行を行なっており、丁度エルフの疎開民を第15騎馬隊の攻撃から守る事が出来た。

 

《チクショウ…ロウリアめぇ…。エルフ達に何をしやがるつもりだったぁ?エルフは世界を挙げて護るべき宝物だろうが!》

 

「お前、この世界に来てからオタクを拗らせたなぁ…。金髪巨乳エルフの薄い本ではしゃいでた頃がまだ良かったよ」

 

《そんな事よりあのロウリア野郎どもをぶっ殺すぞ!あんな奴ら、絶対エルフの美少女達にあんな事やこんな事するに違いない!絶対そうだ!オセアニアじゃ常識なんだよ!》

 

「オーストラリアへの熱い風評被害」

 

《ともかく俺は先頭に居る奴を狙う!お前は逃げようとする奴らを一人残らず()れ!》

 

「はいはい…」

 

ちょっとテンションの可笑しい相方に呆れつつも、カワセミは兵装選択で25mmガトリング砲を選ぶと、HUDに投影された照準で空を見上げるロウリア兵に狙いを定めると、操縦桿のトリガーを引く。

 

《ヒャッハー!逃げる奴はロウリア兵だ!逃げない奴は訓練されたロウリア兵だ!これだから人助け(戦争)はやめらんねぇ!》

 

胴体の下面に取り付けられた機関砲パックが火を噴く度にロウリア兵は馬ごと粉砕され、跡形も残らない。

どうにか逃げようとする物も、時速数百kmで飛行するハリアーIIから逃れられる訳もなく、先に逝った者の後を追うだけであった。

 

 

その後、ロウリア兵が全滅したのちにおおすみより飛び立った『V-22 オスプレイ』によってエルフの疎開民は全員救助され、馬に跳ね飛ばされた男性エルフも重傷ではあったが命を取り留めたのだった。

 

余談だが、おおすみに戻ったキジバトは自身が助けたエルフの中にどストライクな女性エルフが居り即座に口説きに掛かったが、その件と作戦中の言動が問題となって一ヶ月の甲板清掃が命じられたのだが…

彼と、彼に口説かれた女性エルフが初の異世界婚を成したカップルとして話題となるのはまだ先の話である。

 




おおすみ型は現実とは違いますし、ハリアーの型式はAVだと日本じゃアレなので変わってます


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日本の艦隊

繰り返しになりますが、細かい事は気にしないで下さい


クワ・トイネ公国最大の港町にして経済都市であるマイハーク。

その港と街並みを見下ろすように小高い丘の上に建てられたクワ・トイネ公国海軍の総司令部の一室では、第二艦隊提督のパンカーレと彼の側近であるブルーアイがテーブルを挟んで話し合っていた。

 

「ふむ…ロウリア海軍は4000隻以上、対する我々は50隻か…。これでは練度どころの話ではない。圧倒的な数ですり潰されるだけだ」

 

「しかし、日本が援軍を出してくれます」

 

「とは言っても10隻だろう?いくら彼らの軍艦が優れてはいても…」

 

「パンカーレ提督、お言葉ですが日本の力は我々の比ではありません。提督もご覧になりましたでしょう?日本が我が国との国交締結の際、外交団を乗せてきた巨大な客船と護衛の軍艦を」

 

「確かに…ブルーアイ、君の言う通りだな。歳をとると新しい物を知り、受け入れる事が難しくなる。という訳でブルーアイ、君を日本の軍艦に観戦武官として派遣したい。君は若く優秀だ。将来の公国海軍を率いる為、日本軍の力を間近で見聞し、役立てて欲しい」

 

「承知しました、提督。若輩者ですがこのブルーアイ、全力で観戦武官としての勤めを果たします」

 

パンカーレとの固い握手を交わした後、ブルーアイは迎えに来た海上自衛隊の『SH-60L』に搭乗してマイハーク沖で待機する『第二航空護衛艦隊』へと向かった。

 


 

機体上面に装備されたガスタービンが高速回転する事による甲高い音と、直径16m以上のローターが空気を叩く轟音が響く中、ブルーアイは眼下に広がる海に展開する艦隊に目を奪われていた。

 

「わぁ…ぁ…」

 

言葉を失うとは正にこの事だろう。

SH-60L(ヘリコプター)の垂直離着陸能力やワイバーンにも匹敵するような速度にも驚いたが、白波を蹴立てて大海を走る艦隊と比べれば些末な話だ。

 

「ブルーアイさん、此方が我ら海上自衛隊が誇る航空護衛艦隊の一つ、第二航空護衛艦隊です。一部補助艦艇は本土にて待機していますが、それでも圧巻でしょう?」

 

目を丸くするブルーアイへ、ノイズキャンセリング付きヘッドセット越しに問いかけるのは彼の案内役である『荒牧 信治(あらまき のぶはる)』であった。

 

「え、えぇ…。もうなんと言ったらよいか…あれらはどんな船なのか教えて頂けますか?」

 

「はい、もちろん構いませんよ。では…あの艦隊の左右に配置された艦から紹介致します。あちらは『あさひ型護衛艦』の『あさひ』『まきぐも』『あきぐも』『あさかぜ』です。これらは艦隊の"何でも屋"と位置付けられており、対艦攻撃は勿論、対空、対潜攻撃等によって艦隊を敵の攻撃から護衛します」

 

「対潜…たしか日本には"センスイカン"なる海に潜る船があるんでしたよね?それに対抗する能力…という認識で?」

 

「はい、正にその通りです。次は艦隊後方の2隻ですが、此方は『まや型護衛艦』の『はぐろ』『あそ』と言って此方は"イージス艦"と呼ばれる強力な対空戦闘能力を持つ艦となっております」

 

「イージス艦、とは?」

 

「我々の世界ではあなた方で言うところの"誘導魔光弾(ミサイル)"が主力であったのですが、主にこれらの誘導弾を撃墜する事を主任務としています。先程紹介した『あさひ型』も同様の能力を保有していますが、それは限定的なものであり『まや型』を始めとしたイージス艦とは比べ物になりません。極端な例ですが、『あさひ型』10隻より『まや型』1隻の方が対空戦闘能力は高いと言っても良いでしょう」

 

「ロウリアのワイバーンに勝てますか?」

 

「余裕です。『まや型』1隻…いえ、『あさひ型』1隻でも十分ですよ」

 

流石のブルーアイも荒牧の言葉は信じ難いものだったが、彼の自信満々な言葉と態度は反論する余地すら無い。

 

「は、はぁ…。で…では、艦隊の前方に居る一際大きな船は…?」

 

「あれは『ながと型打撃艦』の『ながと』『とさ』です。海上自衛隊の大型艦としては初めて"護衛艦"以外の艦種名を与えられた艦なのですよ。あの艦は大口径の砲と対地・対艦ミサイルによる攻撃を重視しており、我が国に多数存在する島嶼部の防衛・奪還任務を期待されています。ちなみにこちらはイージス艦でもありますので、対空戦闘も水準以上です」

 

荒牧が紹介した艦隊の前方に展開している艦、それは『あさひ型』や『まや型』とは全く違う姿をしていた。

まるで切れ味の良い刃物で切り落としたかのように直線的なシルエットを持ち、全体的にのっぺりとした印象を受ける。

実を言えばこの『ながと型打撃艦』、アメリカ海軍が開発していた『ズムウォルト級ミサイル巡洋艦』の準同型艦なのだ。

 

日々増大する中国海軍の戦力に危機感を覚え、国内に点在する島嶼部の防衛及び奪還作戦は従来の護衛艦では力不足であると試算した防衛省は当時開発中だった米海軍の『ズムウォルト級ミサイル駆逐艦』に資金・技術協力を申し出、開発難航によって資金難に喘いでいた米海軍はこれを承諾して本級は日米共同開発となった。

その際、当初主砲は『AGS 62口径155mm単装砲』2門であったが日本側の強い要望で『AGS 60口径203mm単装砲』2門となり、それに伴って艦体も一回りサイズアップした結果、満載排水量1万8千トン、全長201m、全幅26.5mと在りし日の"戦艦"に匹敵するような巨艦となったのだ。

その結果、米国側は『タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦』以来の巡洋艦となり、日本側は"護衛艦"の呪縛から解き放たれた"打撃艦"なる新たな艦種が生まれたのである。

 

「ロウリア海軍は我々が把握しているだけでも4000隻以上の数がありますが…」

 

「問題はありません。『ながと型』が2隻も居ればあっという間に海の藻屑です」

 

「な、なるほど…では艦隊中央は?」

 

「艦隊の中央後方の艦は『おおすみ型揚陸輸送艦』の『おおすみ』です。転移前の同盟国であったアメリカ合衆国海兵隊が保有している『ワスプ級強襲揚陸艦』を参考に建造されていまして、『VA-8B改 ハリアーII』という"垂直離着陸機"や上陸用舟艇の運用能力を持ち、沿岸部へ陸戦部隊を迅速に展開可能です。そして『おおすみ』前方の艦は『しょうかく型航空護衛艦』の2番艦『ずいかく』です。本艦は『F/A-18E スーパーホーネット』という超音速戦闘機を運用し、艦隊防空や制空、対地・対艦攻撃において非常に高い戦闘力を誇ります」

 

「超音速…話には聞いていましたが、未だに信じられません…。私はあの『ずいかく』に?」

 

「いえ、『ずいかく』は後方に展開しますのでブルーアイさんは前線で実際に砲火を交える『とさ』に乗艦して頂きます」

 

そう言っている内にSH-60Lは徐々に高度を落とし、『とさ』のヘリ甲板へと着艦した。

 

「ようこそ、我が艦(・・・)へ。改めまして『とさ』艦長の荒牧と申します」

 

「か…艦長だったのですか…?」

 

このままでは心臓が幾つあっても足りない。

そんな事を思いつつ、自衛官達の敬礼に出迎えられたブルーアイは荒牧のエスコートに従い、『とさ』の艦内へと入って行った。

 




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空自がやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!

今更ですが、原作既読者向けに書いております


ロデニウス大陸北側の海域を無数の木造船が突き進んでいた。

その数4400隻。その多くが手漕ぎのガレー船であり、数十隻のやや大きなキャラック船に似た帆船が100隻程度のガレー船を指揮している。

そんな中、総旗艦である一回り大きな帆船に乗船するクワ・トイネ征伐艦隊司令官のシャークンは、海を覆い尽くさんばかりの大艦隊を前に感嘆の吐息をついた。

 

「美しい…何と壮観な事か。この艦隊を以てすればロデニウス大陸統一…いや、第三文明圏すらロウリア王国の版図とする事が出来そうだ」

 

そうは言うものの、それが無理な事はシャークン自身がよく分かっている。

確かにロウリア王国は大国であるが、それは"文明圏外にしては"という注釈が付く。

いくら文明圏外の大国が足掻こうが文明国の小国には勝てず、文明国の大国であっても列強国の力を以てすれば瞬く間にすり潰されてしまうだろう。

この世界においては、それが自然の道理なのだ。

如何にロウリア王国が戦力を揃えようが、列強国である『パーパルディア皇国』の足元にも及ばない。

 

「今はまだ無理かもしれん。しかし、ロデニウス大陸統一によって更なる国力を得られれば子や孫の代には…」

 

「シャークン将軍!」

 

未来のロウリアを夢想していたシャークンであるが、マストの上から見張り員によって呼びかけられる。

 

「どうした!」

 

「前方に島が見えます!小さな島が2つです!」

 

「なんだと?」

 

怪訝に思ったシャークンは海図を広げ、遠くに見える沿岸の形から艦隊の位置を今一度確認する。

 

「…いや、そんな筈はない。この辺りに島は無い」

 

陸地から遠く離れた絶海の孤島ならまだしも、こんな陸地が見える近海の島を記録していない訳が無い。

そう考えたシャークンは自身の目で確認する為に、天然石をレンズ代わりにした原始的な望遠鏡で見張り員が指していた方向を見る。

 

「……なんだあれは」

 

見張り員の言う通り、視線の先にあったのは"島"と形容すべき物であったのだが、それはシャークンの知る島とは全く違っていた。

海岸の砂浜や磯は無く、植物なども一切生えていない。

スパッと切断されたかのような直線で形作られた三角形に近い形の灰色をした"何か"としか言い様がない。

そしてそれはシャークンの目がおかしくなっていなければ、ロウリア艦隊へ近付いているように見える。

 

「バカな…まさかあれは、船なのか?」

 

困惑するシャークンを他所に、その島と見紛う程の船らしき物から小さな影が飛び立った。

その小さな影はバタバタと干した絨毯を叩いているような音を立てて、ロウリア艦隊の上空へと飛来した。

 

《あー、あー、ロウリア王国軍、こちらは日本国海上自衛隊である。貴軍は現在クワ・トイネ公国の領海に侵入している。それ以上船を進めるなら、我々はクワ・トイネ公国との安全保障条約に基づき、貴軍への攻撃もやむ負えない》

 

信じ難い事に空中で完全に止まってみせた"何か"からは人の声が聴こえる。

シャークンも日本はワイバーンを知らぬ未開国だと聞かされていたが、それは彼等がワイバーンを知らないのではなくワイバーン以外の航空戦力を持っている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)が故の事なのではないか?

そんな可能性に行き着いたシャークンなぞ露知らず、水兵達は弓やバリスタを射て声を発する飛行物体を撃ち落とそうとするが、中々当たらない。

どうやらその飛行物体は強烈な風を出しているらしく、近くまで飛翔した矢が途端に失速してヘロヘロと落ちて行った。

 

《撤退の意思は無い、という事か。では言葉通り、実力にて排除する》

 

ゾッとするような冷たい声を発した飛行物体は踵を返すようにして、島のような船へと戻った。

それを見た水兵達は汚い言葉で飛行物体を罵るが、シャークンは額に冷や汗を浮かべて島のような船を注視している。

 

「マズイ…あの巨体で突っ込まれたら何隻も巻き添えになる。しかもあんなに凹凸が少ないのでは、移乗しての白兵戦にも持ち込めない。あれは巨体を活かした衝角攻撃を主力とした船だな。我が方の船同士の間隔をなるべく広く……」

 

ードォォォォンッッ!!

 

「っ!?」

 

海上に響きた渡る轟音と共に島のような船の一部から炎が噴き出た。

火矢に使う為の油に引火したようにも見えるが、かつてパーパルディア皇国へ赴いた事があるシャークンは、その光景に見覚えがあった。

 

「ま、まさか…!魔導砲(・・・)…!?」

 

文明国及び列強国の力の象徴とも言える、鉄塊を数km先まで飛ばす兵器。

それを今まで名も知らぬような国が持っているとは思えないが、シャークンの目の前で消し飛んだ数隻のガレー船は、それが紛れも無い現実であると知らしめていた。

 


 

ードンッ!ドンッ!

 

「弾着、今!…命中、敵舟艇3隻の撃沈を確認しました」

 

(北朝鮮)の工作船やミサイル艇に比べれば止まっているようなもんだ。しかも距離は5kmしか無い。外す方が難しいって話よ」

 

『ながと』の内部、無数のモニターに囲まれたSMC(発展型CIC)の内部で艦長の荒牧が大した事も無さそうに告げる。

『ながと』の主砲である203mm単装砲の有効射程(・・・・)は通常砲弾でも40km以上を誇り、ロケットアシスト誘導砲弾ならば100kmを超える。

さらに言えばCIWS(近接防御火器)として艦橋後部、ヘリ格納庫構造物の舷側に前後違い違いに装備された『ボフォース 57mm単装速射砲Mk.3』でさえ20km以上の最大射程を持つのだ。

それらの火器と優秀な目と頭脳(センサーとコンピューター)を持つ『ながと型』にとっては5kmなぞ目と鼻の先の距離である。

しかし、ブルーアイ(文明圏外人)からしてみれば常識外な話だ。

その証拠に荒牧の隣に座る彼は艦上空で待機する『MQ-8C(無人ヘリ)』のカメラで撮影されたロウリア艦隊が次々と沈む様を捉えた映像が映し出されたモニターを見て、あんぐりと阿呆のように口を開けている。

 

「荒牧艦長、西方空域に多数の識別不明飛行体を確認。ロウリア軍のワイバーンと思われます。数は113」

 

(やっこ)さん、本腰入れてきたようだな。『ずいかく』『おおすみ』へ防空支援を要請しろ」

 

「はい。……ん?荒牧艦長。空自から『ずいかく』の艦隊司令部へ要請があったようです」

 

「要請?空自が我々(海自)にか?」

 

「はい。どうやら空自も作戦に参加したいらしく…」

 

「ははぁ…なるほど。ギムでは陸自、海では海自が暴れてるのはズルい、って感じか。艦隊司令は何と?」

 

「最前線に展開する『ながと』『とさ』両艦の艦長判断に任せると」

 

「わかった。ならば空は任せようかね。空自さんも新しいオモチャ(兵器)を手に入れたから、早く使いたいんだろう」

 

「はい。その旨を艦隊司令部へ伝達します」

 

荒牧と通信士が艦隊司令部とやりとりしている間、ブルーアイは呆然としながらも敵である筈のロウリア兵に心底同情するのであった。

 


 

日本の南西に浮かび、屈指の観光・リゾート地として有名な沖縄県は那覇市。

そこに置かれた航空自衛隊第9航空団は久々の出撃命令により、作戦機(戦闘機)の準備を急ピッチで進めていた。

 

「よーし!久々の出撃だ!中国が無くなったお陰でスクランブルも無かったからな!……()、元気かなぁ…」

 

スクランブル中によく空中で会い奇妙な友情を育んでいた中国人パイロットを思い出しつつも、一人の空自パイロットが洋上迷彩が施された戦闘機へ飛び乗る。

空自の洋上迷彩戦闘機と言えば『F-2戦闘機』であるが、本機は我々が知るF-2とは違う。

と言うのも本機は米国で『A-10攻撃機』の後継として再開発された『F-16XL』の制式採用型である『F-16L』の日本版である『F-2C/D』なのだ。

 

鏃を思わせる『クランクドアロー翼』を持ち、エンジンも新型に変更、更には炭素繊維強化複合材の割合を増やしてレーダーも最新型にし、機体自体も各所にステルス性を意識した設計となった結果、本機はステルス性以外は第5世代戦闘機に匹敵する性能を持つ『最強の多用途軽戦闘機』との評判である。

因みに本機は西暦2035年時点で実験機を除いた全機が機体背面に取り付けるコンフォーマルタンクを装備しており、航続距離は大型機である『F-15E』にも匹敵する。

 

「コイツの初陣が木造船とはな…」

 

「まあまあ、いいじゃないか。そういうのもコイツの仕事さ」

 

続いて2人組のパイロットが乗り込んだのは『F/B-1』と命名された元スホーイ社製戦闘爆撃機『Su-34』の改良型である。

カモノハシを思わせる扁平のレドームや2人のパイロットが並列に座るような基本設計は変わっていないが、海自で採用された『F/A-18E/F』を参考に各所にステルス性を意識した構造を採用し、レーダーやエンジンを日本製の高性能かつ小型の物にしている為、原型機よりも二歩三歩先を行く性能だと評されている。

 

そして本機には空自で採用された基本モデルである『J型』を始め、4人乗りの電子戦機である『JE型』、同じく4人乗りながらも磁気探知機(MAD)やソノブイや短魚雷を装備した対潜型である『JP型』も採用されており、全バリエーションが対艦ミサイルを最大で6発搭載可能という陸海空自衛隊(対艦ミサイルガチ勢)らしい、頭のおかしい仕様だ。

 

そんな空自を象徴するような戦闘機達が滑走路から次々と飛び立って行った。

その数、32機…かの米海軍第7艦隊を以てして「空自と戦えば我々は全滅する」と言わしめた世界最強(・・・・)と名高い対艦攻撃部隊が平和を乱す侵略者(ロウリア王国)へ、その力を振り下ろす。




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RocketRocketRocket

Su-34のコックピットってかなり広々してますよね


《ハシビロコウ、お前はワイバーンをやってくれ。こちらで船艇をやる》

 

「ウグイス、了解」

 

『F-2C』を駆る口数の少なさから『ハシビロコウ』のあだ名(TACネーム)を付けられたパイロットは、感情の読めない目で前方を見詰める。

僅かに上下する無数の黒点はクワ・トイネ公国との演習によって、ワイバーンであると機体に搭載されているコンピューターが認識してくれる。

 

「……」

 

HMDに投影されたロックオンカーソルが先行しているワイバーンの1騎と重なり、コックピット内にロックオンが完了した事を告げる電子音が響く。

 

「ハシビロコウ、フォックス5」

 

周辺の味方機へミサイル発射を伝える通信から一拍置き、操縦桿のボタンを押し込む。

すると、主翼下に懸下されたランチャーより2発のミサイルがロケットモーターの燃焼煙と共に発射された。

現代の空対空ミサイルと言えば近距離用の赤外線誘導ミサイル、中〜遠距離用のセミアクティブ・アクティブ誘導ミサイルが基本だが、発射したミサイルはどちらでもない。

これは西側諸国で幅広く運用されている航空搭載用ロケット弾『ハイドラ70』に誘導装置を取り付けた、超短距離空対空ミサイルというべき代物だ。

 

偵察・自爆ドローンが幅広く使われている2030年代、各国は安価な対ドローン兵器を求めており、本兵器はその需要に応えて開発された兵器であるのだ。

シーカーは赤外線イメージセンサーを用いる事で飛行中の発熱が少ないドローンでも捉える事が出来、弾体そのものも攻撃ヘリ向けに大量生産されていたハイドラ70ロケット弾にシーカーと軌道修正用の動翼ユニットを追加しただけなのでコストが低く、『FIM-92 スティンガー』よりも射程が長いという優れものである。

しかも発射に必要なランチャーは従来のハイドラ70用の各種ランチャーに若干の改造を施した物を用いる為、戦闘機や戦闘ヘリは勿論、武装汎用ヘリや練習機転用軽攻撃機、更には車両や艦艇にまで搭載出来る汎用性の高さを持つ。

 

そんな低コストミサイル(誘導ロケット弾)はフレア等の欺瞞に弱いという弱点こそあるが、大量のワイバーンを保有する異世界国家との武力衝突の際には有効に活躍出来ると判断され、陸海空自衛隊に追加配備されているのである。

 

「…ターゲットダウン(目標撃墜)、次の目標へ向かう」

 

近接信管によって目標の手前で炸裂した2発の誘導ロケットは無数の金属片を撒き散らし、ワイバーンを騎手ごとズタズタに引き裂いた。

それを一瞥し、ハシビロコウはHMDに表示された残弾数を確認する。

残り150…19連ポッドを8基搭載している為元々は152発だったが、先程2発発射した為だ。

しかし、それでも150発もある。

この誘導ロケットの利点は低コストの他に、この膨大な搭載量でもあるのだ。

150発もあれば、ハシビロコウ機だけでも敵ワイバーンを少なくとも半数を撃墜する事が出来るだろう。

 

「ハシビロコウ、フォックス5」

 

再び誘導ロケットを発射。

白煙の尾を引き、目標(ワイバーン)の目前で炸裂して撃墜する。

 

「ハシビロコウ、フォックス5 」

 

あとはそれの繰り返しだ。

ロウリア軍のワイバーンは火炎弾の射程外から、超音速で飛来する誘導ロケット弾になす術もなく、ハシビロコウ機を含めた12機のF-2Cによって瞬く間にその数を減らしていった。

 


 

「おーおー、スゴイ数だな。これが全部イージス艦だったら世界大戦でも勝てるだろうな」

 

「ははっ。でも実際は手漕ぎ船と帆船です。どう考えても、負けはしませんよ」

 

F-2C部隊が空対空戦闘を行なっている頃、18機のF/B-1は高度1000〜2000m付近を低速で飛行していた。

その内の1機に搭乗するカワウとカワゲラは眼下に広がる海に展開するロウリア艦隊を見下ろし、感嘆の声を零す。

4000もの艦隊は壮観であるが、全てが木造船となれば話は別だ。

 

「ロウリアの連中には悪いが、こっちもクワ・トイネやクイラが滅んだら困るんでな」

 

そう言って機長であるカワウが操縦桿のボタンに親指を乗せる。

 

「そうですねぇ…。転移直後はコーヒーの値段が爆上がりしましたし、転売ヤーまで湧いたんですよ。クワ・トイネ産コーヒーが無くなったら…ゾッとします」

 

カワゲラが自身の前に設置されたモニターを注視し、モニターの脇に生えたジョイスティックを軽く握る。

そうしてジョイスティックの天辺に付いているボタンを押してやれば、モニターに赤い光線と、光線を照射されるロウリア船が映し出された。

F/B-1に装備された目標指示ポッドによるものだ。

 

「目標指示完了。発射、いつでもどうぞ」

 

「よし、発射!」

 

F/B-1から2本の白煙が伸び、ロウリア船へと突き刺さると同時に炸裂する。

F/B-1にもF-2Cと同じ誘導ロケットが装備されているが、此方は対地・対水上モードに切り替えている為、目標指示ポッドを使用する事で精密攻撃が可能となっている。

 

「命中!目標轟沈…というより木っ端微塵になりましたね。2発同時発射はオーバーキルなのでは?」

 

「そうは思うが、交戦規定でそうなってるから仕方ないだろう」

 

自衛隊の交戦規定では誘導ロケットは2発発射し、命中率と打撃力を高める事となっているが、小さな木造船相手にはどう考えても威力過剰だ。

しかし、だからと言って現場判断で1発のみの発射にすると問題になる可能性がある為、今のところは交戦規定通りにするしかない。

だが、F/B-1は19連ポッドを18基も搭載しているため342発の誘導ロケットを発射可能だ。

それを踏まえれば正味171隻もの船艇を撃破可能であり、同様の装備をしたF/B-1があと19機も居るのだから十分な弾数である。

 

《カワウ機、前方に一回り大きな帆船が見えるか?》

 

「ウグイス、確認した」

 

《魔信傍受により、当該帆船が旗艦であると思われる。撃沈し、敵の指揮系統を破壊せよ》

 

「了解。…カワゲラ」

 

「目標指示完了。いつでもどうぞ」

 

高高度で戦場を俯瞰している指揮機のウグイス機からの指示を受け、カワゲラは先んじて一回り大きな帆船へ非視認性赤外線レーザーを照射する。

 

「流石、仕事が早い。ならば早速…発射ぁ!」

 

気の利く相棒の手際を見て満足そうに頷いたカワウは、早々に誘導ロケットを発射した。

白煙を引いて飛翔する誘導ロケットは寸分違わず一回り大きな帆船(ロウリア艦隊旗艦)の横っ腹に命中し、容易く海の藻屑へと変えてしまった。

 

その後、ワイバーン部隊の全滅と旗艦轟沈を受けてロウリア艦隊は敗走を始め、自衛隊は追撃する事なく漂流するロウリア兵の救助に着手した。




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日本が戦車でやって来る

時間があったので、短いですが書きました


ーバリーンッ!

 

「い、今なんと…?」

 

ロウリア王国首都ジン・ハークの王城。

パタジンより報告を聞かされたロウリア王は、葡萄酒の入ったガラスの杯を取り落として割ってしまった。

 

「はっ…クワ・トイネ公国征伐の為に出陣した陸軍、海軍共に壊滅した模様です…!加えて、援護に出撃したワイバーン150騎に至っては1騎たりとも帰還しておりませぬ!」

 

顔がふやけそうな程に冷や汗を浮かべたパタジンが跪きながら再度報告した事でロウリア王もそれが紛れもない事実だと認識したのだろう。

まるで崩れ落ちるようにして玉座より滑り落ちてしまう。

 

「我々の援助があったにも関わらず、何たる体たらくか」

 

「あれほどの戦力をむざむざと浪費するなぞ…」

 

「失敗か…。早く皇国に帰って書類を処分せねば」

 

ロウリア首脳陣が悲惨な雰囲気に包まれる中、パーパルディア皇国者達は早々にロウリア王国を見限ったらしい。

黒いローブを翻すと、足早に王城を後にした。

 

「陛下、何故クワ・トイネ如きが我が国の軍を打ち破れたのかは分かりませんが、とにかく現状は侵攻作戦より逆侵攻に備えた防衛準備を整えるべきです。国境に各諸侯より徴収した兵を配置し、このジン・ハークには近衛騎士団を中心とした精鋭部隊を配置しましょう」

 

「う、うむ…。貴様に任せる…」

 

いち早く立ち直ったパタジンが素早くクワ・トイネ公国による逆侵攻に備えた戦略を提案する。

クワ・トイネの主戦力は軽装歩兵であり、重装歩兵や騎兵が潤沢なロウリア軍を打ち破れる可能性は低い。

侵攻作戦では地の利を活かした戦法をとられたが故の損害であろうが、防衛作戦ともなれば立場は逆転する。

重装歩兵の圧力は軽装歩兵では打ち破れず、その間に騎兵が敵後方に回り込んで挟み撃ちだって可能だ。

それを踏まえればパタジンの戦略は決して間違いでは…いや、むしろ最適解と言ってもいいだろう。

ただし、それが彼らが知るクワ・トイネ公国相手なら(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)である。

 

「緊急!緊急!」

 

玉座の間へと飛び込んで来るのは、各所の砦から届く魔信を受信して取りまとめていた魔信兵だ。

 

「何事だ!?」

 

「アルバレス砦より報告!クワ・トイネ公国と不明国の部隊が越境!見た事もない緑色の巨大な角が生えた魔獣の背に乗り、とんでもない速さでジン・ハーク方向へ進撃しているとの事です!」

 

「ま、魔獣!?それに不明国とは何だ!?」

 

「それがアルバレス砦との連絡が途絶えたせいで詳細は不明です…」

 

パタジンと魔信兵が現状把握に四苦八苦する中、ロウリア王は密かに頭を抱えて小さく震え始めた。

 

「魔獣を従える…まさか…魔帝なのか…?」

 


 

クワ・トイネ公国から越境し、ロウリア王国へ足を踏み入れた公国陸軍と陸上自衛隊の連合車両部隊は、燃え盛るロウリア軍の砦を尻目に荒野を駆け抜ける。

 

「あれが日本の誘導魔光弾…いや、ミサイルの威力か…。我々なら何ヶ月もかけて攻略するロウリアの砦が一瞬であのザマだ…」

 

公国陸軍所属のメキワは16式機動戦闘車の砲塔に腰掛けて、砦だった物(・・・・・)を畏怖が混ざった目で眺める。

越境した連合車両部隊は難攻不落として名高いアルバレス砦を放置する訳にはいかず、先に攻略すべきと桑国が主張したのだが、それを受けた陸自は海自へと支援を要請し、それを快諾した海自は海上で待機していた『とさ』より巡航ミサイル(トマホーク)を発射し、一瞬で砦を破壊してみせたのだ。

その結果、アルバレス砦のロウリア兵は散り散りになって逃げ出し、連合車両部隊は街道沿いにジン・ハークへ向けて驀進(ばくしん)しているのだ。

 

「それにしても…やはりジエイタイのセンシャは凄い迫力だ。ヒトロクシキが子供に見えてしまう」

 

続いてメキワが目を向けたのは16式と並走する陸自の主力戦車『33式戦車』である。

主砲として44口径130mm滑腔砲を装備した本車は『90式戦車』の後継として開発されており、広大な北海道での運用は勿論、北米や欧州諸国への輸出を意図していたため『10式戦車』よりも大柄な車体が特徴だ。

 

ーキッ!

 

「おっと…なんだ?」

 

「すまん、遠くにロウリア軍の騎馬隊が来ているようだ。ジエイタイが教えてくれた。我々で撃破するから、歩兵諸君は一度降りてくれ」

 

「敵…。はい、分かりました」

 

砲塔のハッチから顔を出していた車長がメキワを始めとする歩兵に一旦降りるように指示を出し、全員が降車した事を確認するとハッチを閉めて数十mほど先行する。

 

「俺たちも警戒しよう。あと大砲の衝撃と音には気を付けろ」

 

メキワも周囲の仲間へ注意を促しつつ、自身も89式小銃の二脚を展開して伏射体勢で待機する。

そうして89式の安全装置を外した瞬間、16式の砲撃が始まった。

 

ードンッ!ドンッ!

 

8輌の16式が105mmライフル砲を撃ち、遥か遠くに見えるロウリア軍へと砲弾を叩き付ける。

音よりも速く飛翔するHEAT-MP(多目的榴弾)は騎馬隊の至近に着弾すると同時に信管を作動させ、炸薬の破裂と共に破片を撒き散らして人馬を殺傷した。

 

「うぉぉぉ…よく見えないがスゴイ事になってるな…。やはりジエイタイの兵器はとんでもない。これなら魔帝にだって勝てるんじゃないか?」

 

1輌につき3発程度の砲撃であったが、それによって1000騎近く居たロウリア騎馬隊は壊滅。

10騎にも満たない生き残りは一目散にジン・ハークの方向へと逃げ去って行った。




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我の楯

今回でロウリア戦を終わらせるつもりでしたが、思ったより長くなったのでロウリア戦終結は次回か次々回です


首都ジン・ハークの郊外に広がる荒野。

そこに展開したロウリア王国の切り札である重装歩兵隊は、重厚な大盾と長槍を構えて東方を睨んでいた。

 

「クワ・トイネの軍か…。本当に来るのか?」

 

緊密な陣形を組む重装歩兵隊の中でも一際異彩を放つ盾を持ったスワウロという名の兵士がポツリと呟く。

普段は首都防衛のために温存されてきた彼らが根こそぎ駆り出されるという事は王国の危機であるという証拠であり、それを匂わせる噂もあちこちで囁かれている。

 

曰く、万の軍勢が手も足も出なかった。

曰く、4000もの艦隊が300程しか帰ってこなかった。

曰く、150騎のワイバーンが1騎も帰ってこなかった。

そして、それらの噂に尾鰭が付き、人々は次第にこんな噂を囁くようになった。

 

クワ・トイネ公国は復活した古の魔法帝国に下り、その力の一端を授けられた…と。

 

「古の魔法帝国…眉唾だが、クワ・トイネが我が国(ロウリア王国)の軍勢を打ち破れる訳がない。何か…それこそ魔帝並の力を持つ国がクワ・トイネに味方したのか?」

 

出兵前に妻より持たされた先祖伝来の『伝説の盾』を構え直し、目を細めて土煙で霞む地平を睨む。

 

「…ん?地面が揺れている?」

 

微かな、本当に微かな振動であった。

例えるなら街道を走り抜ける馬車のすぐ近くに立っていた時に足裏に感じる、そんな微かな地面の振動に近い。

 

「おい!なんだありゃ!?」

 

「なんだ?」

 

兵の一人が驚愕の声を上げ、遠くを指さす。

それにつられてスワウロも同じ方向に視線を向けるが…

 

「な、なんだ…"アレ"…?」

 

スワウロ達が目にしたのは、角ばった体に長い角を生やした緑色の巨大な魔獣…陸上自衛隊の33式戦車と、クワ・トイネ陸軍の16式機動戦闘車であった。

 

「ま、魔獣だ!」

「何てこった!クワ・トイネが魔帝と手を組んだって噂は本当だったんだ!」

「よく見ろ、人が背に乗ってる!なんて大きさなんだ…」

 

部隊に動揺が走り、鎧や盾がぶつかり合ってガチャガチャと金属音を立てる。

 

「えぇい、狼狽えるな!よく見ろ!相手は魔獣とて、数は我が方が優っている!それに、此方には首都防衛の竜騎兵も騎馬隊も温存されているのだ!戦力的優位は此方にある!」

 

一際煌びやかな鎧で固めた部隊長が兵達を鼓舞する。

すると兵達は自分達の優位を認識したのか徐々に落ち着きを取り戻した。

 

「よし、何も恐れる事はない。我々毎日血の滲む鍛錬を積んできた。我々こそロデニウス大陸最強の……」

 

(…光った?)

 

自身の言葉によって兵達が持ち直した事に気を良くしたのか、更に士気を上げる為に演説を始める部隊長だったが、スワウロはその中で遥か先に見える(戦車)が一瞬だけピカッと光ったのを目撃した。

その僅か数瞬の事である。

 

「よって、我々が勝利するのは必然であり…」

 

ードゴォォォォンッ!!

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

部隊長を含めた陣形の中央前列が轟音と共に宙を舞う無数の土塊によって覆い隠された。

 

「げほっ!げほっ!ぺっ…ぺっ…!な、何が…?」

 

中央後列に位置していたスワウロは頭から大量の土塊を被ってしまい、口の中に入った土を吐き出して前列に目を向ける。

 

「うっ……」

 

いったいどのような力が働いたのだろうか?

精鋭揃いであり、最も質の良い装備を与えられていた筈の中央前列の兵達は誰だったのかも判別がつかない程の肉塊か、或いは四肢がもげて絶命してしまっている。

 

「うぅっ…」

「痛え…痛ぇよぉ…」

「あ"あ"あ"っ!目が!目がぁぁぁ!」

 

被害はそれだけに留まらない。

前列の右翼と左翼の一部も被害を受けており、血を流して倒れ伏す者や体の一部を押さえて転げ回る者が見受けられる。

 

「あの光…あの光か!?皆!あの魔獣は光と共に何かを出してこっちを攻撃しているんだ!盾を構えろ!」

 

スワウロは光のすぐ後に何らかの破壊力が襲いかかった事に気付き、兵達へ指示をする。

スワウロは士官ではないため従う義理は無い筈だが、それでもこの混乱を極めた場で的確な指示を出してくれるなら誰でも良かったのだろう。

前列の兵は壁のように、それより後ろの兵は屋根のように盾を構えて鉄壁の防御陣を展開する。

 

ードゴォォォォンッ!

 

しかし、それは全くの無駄であった。

再び響き渡る轟音と共に重い鎧を装着している筈の重装歩兵が木の葉のように宙を舞い、地面に叩き付けられて兵士だった物(死体)と化す。

それに伴ってその周囲では重軽傷問わず多くの負傷者が発生し、治りかけていた動揺は再び波紋のように広がる。

 

「うぁぁぁぁぁぁ!」

「魔帝だ!魔帝が復活したんだ!」

「助けてくれぇぇぇぇ!」

 

陣形の端から恐慌状態に陥った兵が象徴である筈の盾を捨て、がむしゃらに逃走を始める。

しかし、彼らはまるで見えない何か(・・・・・・)に殴られたように体をガクッと大きく揺らして、次の瞬間には地に倒れ伏した。

33式戦車の同軸機銃から放たれた7.62mm弾によるものであったが、"銃"の存在すら知らないロウリア兵に取っては見えない力によって殺されたようにしか見えない。

 

「死…死の魔法だ!」

「こんな盾で防げるかよぉ!」

「逃げるんだ!なるべく遠く…がぁぁぁぁ!」

 

盾も鎧も捨てて逃げる者、盾を構えたまま蹲る者…どちらにせよ運命は変わらない。

機関銃にて狙撃されるか、多目的榴弾によってズタズタにされるかの違いでしかないのだ。

逃れられぬ死の運命…しかし、そんな中でも生を諦めない者が居た。

 

ードゴォォォォンッ!

 

「ぬぅぅぅぅぅぅぅっ!」

 

スワウロだ。

彼は先祖伝来の盾を両手でしっかりと構え、出来る限り体勢を低くしていた。

そしてその体勢は偶然盾を斜めに構える形になっており、ちょうど傾斜装甲と同様の効果を発揮する事となったのである。

その結果、スワウロは多目的榴弾が撒き散らす破片は勿論、時折飛来する12.7mm弾の直撃にすら耐えて生き長らえていた。

 

ーガキィンッ!ガキィンッ!キュィンッ!

 

「ぐっ…うぅぅぅっ!」

 

盾越しにスレッジハンマーで叩かれているような衝撃が絶え間なく響き、骨が軋んでいくつもの内出血が起きる。

しかし、それでもスワウロは倒れない。

家で帰りを待つ妻の為、そして彼女の中に宿った新たな命の為にもここで倒れる訳には行かない。

 

「負けるものかぁぁぁぁぁ!」

 

もし多目的榴弾が直撃すれば間違いなく彼は跡形も残らないであろう。

しかし、幸運な事に砲撃の担当は練度が低いクワ・トイネ陸軍の担当であった。

そんな幸運なぞ露知らず、凡そ10分程経過した時点で砲撃と射撃は止んだ。

 

「……止まった…?」

 

静かになった戦場に不安げなスワウロの声がやけに大きく通る。

 

ーブロロロロ…

 

戦友だった物(・・・・・・)が転がる中、呆然と立ち尽くすスワウロの元へ33式戦車が近づいてきた。

 

「おー…あの銃砲撃の中で生きているとは…。お前さん、名前は?」

 

「……スワウロだ。お前は?」

 

魔獣だと思っていた33式の一部(ハッチ)が開いて人間が姿を現した事に驚くが、どうにか自身の名を告げて相手に聞き返す。

 

「オレは日本の陸上自衛隊の戦車長、『長友 茂(ながとも しげる)』だ。…あー、一応聞くが戦う意思はあるかい?」

 

「まさか。もう全身痛くて喉もカラカラ…立っているのもやっとだ…」

 

「ははっ、だろうな。よし、ちょっと待ってろ」

 

今にもその場に座り込んでしまいそうなスワウロに苦笑した長友は一旦車内に戻ると、スポーツドリンクのペットボトルと一枚の紙を持って再び現れた。

 

「この後にオレ達の仲間が来るが、別にお前さんを殺すような事はしない。武器を持たないようにして、この紙を渡せばいい。悪いようにはせんさ。あと、これを飲め。この白い蓋を捻って回せば開くから」

 

「あ、あぁ…ありがとう。…なぁ、アンタらはジン・ハークに行くのか?」

 

「そうだ。だが安心してくれ。オレ達が狙ってるのは、この戦争を始める事を決めた連中と、武器を持って立ち向かって来る奴等だけだ。出来る限り一般市民は傷付けないと約束する」

 

「……そうか」

 

「信用出来んかもしれんが、少なくともうちの国(日本国)の方針はそれで一貫している。…おっと、そろそろ行かないと。それじゃあ、また何処かで」

 

立ち尽くすスワウロを置き去りにして33式と、それに率いられる16式がジン・ハークへと突き進む。

 

「死ぬんじゃねぇぞ!」

「ナイスファイト!」

「その盾誰が作ったんだ?」

 

33式の車外に乗った自衛官達の労いの言葉が遠のいた後、スワウロはへたり込んで教えられた通りペットボトルのキャップを開けて、スポーツドリンクを勢いよく喉へ流し込む。

 

「っ…はぁ〜っ!うめぇ…少しだけ甘酸っぱくて…まるで体に染み込んでいくみたいだ…」

 

ドラッグストアの激安特売品(プライベートブランド品)であったが、幸いにもスワウロは気に入ったらしい。

その後、彼は長友が要請したUH-1J(ヘリコプター)によって保護された。




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ジン・ハーク 陸自と空自と、時々、海自

今回でロウリア編、終了です


「重装歩兵隊全滅との報告が!」

「わ、ワイバーンが全て叩き落とされました!何なんだ、あの鉄の竜は!?」

「北城壁の6番砦が崩落!遥か遠方より何かが飛来したとの報告がありますが、詳細は不明!」

 

王城の侵攻作戦司令部へと次々と届く絶望的な報告の数々。

 

「ば…馬鹿な…。何だこの被害拡大の早さは…!?あり得ん…あり得ん!!」

 

通常の侵攻、特に城攻めはそれこそ何ヶ月もかけて行うものだ。

特にこの王城は各所に砦を持つ三重の城壁に囲まれており、城門は分厚い樫材と鉄の帯で補強された頑強な物であるため、生半可な戦力では返り討ちにされるだろう。

しかし、現在は東側の城壁の2つが突破され、一番内側の城壁すら今にも崩落しそうな有様である。

 

ードォォォォォン…

 

「くっ…また鉄の魔獣(・・・・)の雄叫びか!」

 

遠くから響く轟音…パタジンはそれが王城東側に展開した鉄の魔獣(戦車)雄叫び(砲声)であると理解しており、それが響く度に城壁の何処かが崩れ落ちる。

 

「えぇい、あの鉄の魔獣をどうにかするのだ!」

 

「駄目です!騎馬隊もワイバーンも壊滅です!皆、鉄の魔獣と空の鉄の竜(・・・)にやられました!」

 

「クソッ!奴らはいったい何なんだ!?まさか本当にクワ・トイネが魔帝に下ったとでも言うのか!」

 

地を疾走する鉄の魔獣(戦車)と高速で天を駆ける鉄の竜(戦闘機)を前に成す術なくすり潰される軍勢。

パタジンはどうする事も出来ない現状に苦しむ事しか出来ない。

 


 

ジン・ハークより100km程離れた沖合い、その海中に潜む鉄の鯨(・・・)の体内では無数のモニターに囲まれた空間で自衛官達が様々な機器を操作していた。

 

「艦長、敵本拠地へのヘリボーン降下を担当する第一空挺団より支援攻撃の要請が」

 

「第一空挺団からか…奴らの実力ならそんなもの必要ないだろうが…。まあ、頼まれたからにはやるしかないな。座標は?」

 

「ドローンによる誘導を行うそうです」

 

鉄の鯨こと海上自衛隊所属の潜水艦『みかさ型潜水艦』の一番艦である『みかさ』の艦長、『飯田 一仁(いいだ かずひと)』は制帽を被り直して、命令を下す。

 

「よろしい。では、1番垂直発射筒より巡航ミサイルを発射。中間誘導は地形照合誘導、終末誘導はレーザー誘導だ」

 

「はっ。27式対地巡航誘導弾、発射用意」

 

この『みかさ』を始めとした『みかさ型潜水艦』は同盟関係にある英国(イギリス)との共同開発により建造された日本初の戦略型原子力潜水艦(・・・・・・・・・)である。

水中排水量1万8千トン、全長155m、全幅13mの船体に4基の533mm魚雷発射管と12基のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)垂直発射筒を備え、英国では『ドレッドノート級』の名で核抑止力の一翼を担っているが、現状(・・)核戦力を持たない日本においては米国(アメリカ)の『改良型オハイオ級巡航ミサイル潜水艦』を参考に垂直発射筒を巡航ミサイル発射筒にする事で、発射筒1基につき7発の巡航ミサイル…つまり84発の巡航ミサイルを搭載する巡航ミサイル潜水艦として運用しているのだ。

 

しかも搭載する巡航ミサイルは安心と信頼の米国製ベストセラー『トマホーク』の他に、国産の『27式対地巡航ミサイル』がある。

特にこの27式は4000kmもの長射程を持ちながらも巡航速度はマッハ1.2、終末誘導時には最大でマッハ3もの速度を発揮する上、ランダム機動による迎撃回避まで備えた世界最高クラスの巡航ミサイルなのだ。

そんな高性能巡航ミサイルを前時代的なロウリア軍が迎撃出来る訳もなく、予めドローンによって記録された地形データに沿って超音速で飛行する27式は陸自が運用するドローンより照射される赤外線レーザーが作り出す反射光に向かってマッハ2.5で突入した。

 

「…命中。目標の敵拠点崩壊しました」

 

「よろしい。そろそろ第一空挺団降下を始める頃だろう。我々の出番はもうないな」

 

海上に浮かべたフロート付きアンテナで受信した、陸自のドローンが撮影した動画には27式が直撃した砦がガラガラと崩壊する様子が詳細に映し出されていた。

それを見た飯田は、警戒状態を一段階下げさせると同時に海中待機を命じた。

 


 

あちこちから火の手が上がり、瓦礫が散乱する王城の上空に陸上自衛隊が運用するティルトローター機『V-280J』が飛来し、主翼両端のローター(プロペラ)を垂直方向へ向けてホバリングする。

 

「いくぞ野郎共!レイシスト(亜人差別者)のロウリアに痛い目を見てもらうぞ!」

 

V-280Jに搭乗する14名の第一空挺団所属の分隊。

その分隊の隊長である『城ヶ崎 勝(じょうがさき まさる)』が20式小銃へ弾倉を叩き込みながら部下を鼓舞する。

 

「「「「うぉぉぉぉぉぉっ!」」」」

 

無論、部下である自衛官はやる気十分だ。

精強無比と謳われり彼らは一人でも一般的な普通科隊員20人分の練度があるとされており、一分隊も居れば相当な戦闘力だ。

それ故に敵の本丸(ロウリア王城)への殴り込みを任されたのである。

 

「降下位置に着きました!いつでも降下どうぞ!」

 

「よーし、行け行け!」

 

パイロットの言葉から間髪入れず、城ヶ崎は降下を命令した。

 

「ひゃっほーう!」

「行くぞ前線豚共!」

「チェストォォォォッ!」

 

それを受けて血気盛んな(ちょっとおかしい)隊員達がキャビンから飛び降り、王城の中庭に着地する。

彼らが身に付けている34式強化戦闘服は脚部のアシスト機構にショックアブソーバーが仕込まれている為、5〜6mの高さから飛び降りても装着者にダメージが伝わらないようになっている。

しかし、第一空挺団の隊員達は着地の衝撃を受け流す特殊な受け身によって10〜15mの高さから飛び降りてしまうのだ。

 

「行け行け行けぇ!ロウリア王を絶対に逃すな!」

 

最後に降下し(飛び降り)た城ヶ崎が隊員を率いて王城に突入する。

押っ取り刀(大慌て)で王城の衛兵が駆けつけるが、隊員は直様20式小銃を発砲して瞬く間に撃破、その後に手近な部屋を片っ端から開けてクリアリングしてゆく。

 

ーバンッ!

 

「うぉっ!目が!目がぁぁぁぁ!」

 

「ボサッとしてんなぁ!」

 

ーババババッ!

 

フラッシュバン(音響閃光弾)を投げ込み、扉の向こうの相手を怯ませてる内に突入し、武装した兵士だと分かれば躊躇いなく発砲する。

 

「きゃぁぁぁ!?」

 

「おっと、悪いねお嬢さん。ちょっと大人しくしててね〜」

 

非戦闘員であればアンダーバレルグレネードランチャーを使って粘着ネットを飛ばして捕縛する。

それを何度も繰り返し、彼らはとうとう広間へとたどり着いた。

 

「ふふふ…よく来たな。我が名はランド。ロウリア王国が近衛隊大隊長にして、王の剣であり王の盾!」

 

広間には大仰な鎧と剣、盾を持った男が待ち構えていた。

 

「さあ、お前達の中で最も優れた腕前の…」

 

「うるせぇぇぇぇぇっ!」

 

ランドと名乗った男は最も強い者を一騎討ちで討ち取る事で士気を下げようとしたのだろう。

しかし、それは目にも止まらぬ踏み込みで彼の懐に飛び込んだ城ヶ崎によって阻まれた。

 

ーガゴォォンッ!

 

「シシカバブッ!?」

 

扉を打ち破る為に持ってきたバッティングラム(取手付き鉄柱)を顔面に叩き込まれ、珍妙な悲鳴と共に数メートルに渡ってぶっ飛ぶランド。

だが、第一空挺団(狂戦士達)はそれに構わず、広間の奥にある扉へと殺到する。

 

「開けろ!日本国自衛隊だ!」

「陸自や!開けんかい、ゴルァ!」

「ロウリア王、君は包囲されている。大人しく出てきなさい」

 

分厚い扉をガンガンと叩く隊員達。

その向こう側で、ロウリア王は頭を抱えてガタガタと震えていた。

 

「タスケテ…タスケテ…魔帝が来た…」

 

程なくして扉は破られ、第一空挺団の手によってロウリア王は捕縛され、後にロデニウス動乱と名付けられた紛争は終結を迎えた。

これにて一件落着、ロデニウス大陸には一時の平和が訪れたのだが…それは決して長くは続かなかった。




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ものすごく野蛮で、ありえないほど前時代的

今回より日本の列強訪問編です
パ皇戦はもうちょっと先になります


ロデニウス動乱が終結して2ヶ月程経ったある日の事であった。

 

「総理、大変です」

 

首相官邸の執務室へ、仏頂面の秘書官がノックも無しに入ってきた。

 

「……はぁ〜〜」

 

この秘書官と長い事仕事をしているが、彼がこうやって来た時は大概ロクでもない事態が発生しているのだ。

それをよく知っている成島は深いため息をつき、クッションがへたり始めた椅子に深く座り直した。

 

「君、せめてノックはしたまえよ…」

 

「申し訳ありません。しかし、これは一刻も早くお伝えすべき案件だと思いまして」

 

成島の注意に悪びれもせず、秘書官は彼の前に資料の束を置いた。

『ロデニウス動乱におけるロウリア王国が侵略戦争を決断した原因について』

それが資料のタイトルらしい。

 

「ロウリア王国がクワ・トイネ公国へ明確な領土的野心を抱いて侵攻したロデニウス動乱ですが、桑国(クワ・トイネ公国)及び杭国(クイラ王国)共に、《ロウリア王国は近隣諸国と比べれば大国であるが、此度の動乱で確認された諸戦力は明らかに多すぎる》との見解を示しています」

 

「…つまり、第三国がなんらかの支援を行ったと?」

 

「はい。加えて現ロウリア王国臨時首相であるパタジン氏が我が国(日本)に泣き付いてきました。《このままでは我が国はパーパルディア皇国への返済で破産してしまう。どうか貴国の慈悲を乞いたい》と」

 

「パーパルディア皇国…確か…」

 

「はい、詳しくは資料の25ページをご覧ください」

 

秘書官の言う通り、成島は資料をペラペラと捲って25ページを確認する。

 

「総理は既にご存知でしょうが、今一度おさらいしましょう。この世界…マスコミや国民、ネット界隈では新世界(・・・)と呼称していますので我々もそれに倣います。新世界には"列強国"と呼ばれる5つの大国が存在します」

 

「うむ、地球で言うところのG7…いや、常任理事国のようなものだな」

 

「概ねそのようなものです。先ず列強国の中でも筆頭であり、世界最強(・・・・)と名高い『神聖ミリシアル帝国』」

 

「アメリカのようなものだな」

 

「続いて列強第二位。この世界においては"異端"とされる科学技術による文明を築いた『ムー』」

 

「我々も科学技術立国であるし、是非とも仲良くなりたいものだ」

 

「そして列強第三位。"竜人"なる希少な種族による単一民族国家『エモール王国』」

 

「竜人か…エルフや獣人、ドワーフは分かるが竜人は想像出来ないな…」

 

「一つ飛ばしまして列強第五位。ムーの隣国であり列強の中では最弱とされる『レイフォル』」

 

「なんでも滅びたという噂が流れているらしいな」

 

「最後に、列強第四位。我が国に最も近い列強国にしてロウリア王国に援助したとされる『パーパルディア皇国』です。以上の五カ国が新世界のパワーバランスを担う列強国ですので、我が国はこれらの国家に接触して国際的に認められる必要があるでしょう。しかし…」

 

「先ずはパーパルディア皇国か…。援助していたロウリア王国は我が国が打ち負かしたから、敵対する事になるか?」

 

「いえ、その可能性は低いでしょう。パタジン氏の話によればパ皇(パーパルディア皇国)文明圏外国(発展途上国)を見下しているらしく、泥を塗るような真似をしなければ態々敵対はしないとの事です。しかし、ロウリア王国はロデニウス大陸統一の暁にはパ皇へ多大な謝礼を約束していたそうです」

 

「多大な謝礼?」

 

それを聞いた成島の脳裏を過ったのは、地球における中国(中華人民共和国)の振る舞いであった。

発展途上国に対する多額の融資を行い、返済が滞れば港や土地を奪う野蛮な手法…パ皇もそうかもしれない。

 

「物的資源と人的資源…要するに奴隷(・・)を含めたあらゆるモノです」

 

秘書官の言葉は成島の予想を悪い意味で上回った。

 

「奴隷って…おいおい…。それはいくらなんでも…」

 

「私も総理と同じ意見です。しかし、新世界においては奴隷は当たり前のものであり、奴隷制を廃止している国の方が少ないのです。特に件のパ皇は周辺諸国を侵略し、植民地とするお手本のような帝国主義国であり、奴隷と資源を絶え間なく欲しているとの事です。その上、かの国は酷くプライドが高いらしく…」

 

「ロウリア王国が謝礼を渡さなければ、懲罰と称してロデニウス大陸に来る可能性が高い…と言う事か」

 

「はい、このままではせっかくの平和が台無しです。ですので総理、ロウリア王国の負債を肩代わり(・・・・)しては如何でしょう?」

 

「何っ!?我が国が何故そんな事を!それはロウリア王国が解決すべき問題であり、言ってしまえば自業自得…」

 

成島は信じられないといったように秘書官に反論するが、当の秘書官はしれっとした顔で成島の言葉を遮るようにして言葉を続けた。

 

「総理のお考えもごもっともです。しかし、このままロウリア王国がパ皇の要求に従って無理な資源・奴隷の献上を行えばいつかはそれらが枯渇し、ロウリア王国は再び侵略戦争を企てるかもしれません。それがなくてもロウリア政府主導の窃盗や誘拐が横行し、加えて経済的に困窮したロウリア国民が難民として桑・杭両国に流入する可能性があります。そうなればロデニウス大陸の治安は悪化し、我が国の資源的安全保障が脅かされる事となるでしょう」

 

「うむむ…た、確かに…」

 

「それを防ぐためにロウリア王国へ援助、あるいはパ皇への謝礼を我が国が肩代わりすべきでしょう」

 

「パ皇への謝礼と言っても、どうするんだ?日本人を奴隷として差し出せと?」

 

「まさか、そのような事はしませんよ。そうですね…我が国の建築、農業技術を開示する事を謝礼代わりにするのはどうでしょう?」

 

「帝国主義国がそれで満足出来るかね?」

 

「満足させるのですよ。話によればパ皇の軍事技術は中世から近世程度であり、戦列艦やマスケット銃が主力であるそうです。そんな技術の国からすれば我が国の優れた建築技術や農業技術は喉から手が出る程欲しいでしょう。勿論、軍事技術も要求するかもしれませんが、そうならないようにファーストコンタクト時点で圧倒的戦力差を見せ付け、下手な事を言えないようにするのです」

 

「その上で、先方の顔を立てる為に建築・農業技術の開示か…」

 

腕を組み、逡巡する成島。

たっぷり10分程、額に脂汗を浮かべて思案した彼は躊躇いがちに口を開く。

 

「……私は…」




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今日いきなり来た危機

原作とは大幅に変更されてます


第三文明圏の覇者、五列強の一角であるパーパルディア皇国。

その首都である『皇都エストシラント』に聳える皇宮では、皇宮の主にしてパーパルディア皇国皇帝である『ルディアス・パールネウス3世』が優雅に暮らして…

 

「ん"ぅぅぅ〜〜…」

 

いなかった。

彼は今、自身の執務室で眉間に深い皺を刻み、腕を組んで唸っている。

 

「本当にどうすれば良いのか…分からん…余の至らなさに腹が立つ」

 

彼を悩ませているのは、一向に近代化の道を歩めない自国に関してであった。

というのもルディアスは皇太子時代、神聖ミリシアル帝国へ数年間留学しており、同国で先進的な政治の在り方を学んでいた。

その際、高名な経済学者の講義にてこのような事を言われたのである。

 

ー「良いですか、殿下。貴国を否定する訳ではありませんが、奴隷に頼り切った国家運営は非常に危険です。奴隷という安い労働力は健全な経済成長を妨げるばかりか、産業の機械化を消極的にさせます」

 

当初はその言葉の意味が分からなかったが、今なら痛い程に分かる。

皇国は労働の多くを奴隷に頼り切っており、自身の手では服を繕う事も出来ず、産業にしても高価な機械を導入するよりも安い奴隷を使い潰した方がいいと認識されている始末だ。

こんな状況では上位列強である神聖ミリシアル帝国やムーのような機械化による産業革命は不可能であろう。

しかし、だからと言って奴隷廃止を訴えればルディアス自身に危険が及ぶ。

 

「く〜っ…先祖は何故パルファレス公爵家を存続させたのか…!連中が居なければ今頃は…」

 

ルディアスは確かにパーパルディア皇国の皇帝であり最高権力者であるが、絶対的な存在ではない。

隙あらば彼を玉座(皇位)より引き摺り下ろし、自身が成り代わろうとしている者は両手の指では足りないぐらいに居る。

その代表格がパーパルディア皇国皇族である『パールネウス大公家』の分家である『パルファレス公爵家』だ。

初代皇帝の弟が開祖であるパルファレス公爵家は皇国の西側、全国土の内三分の一を治めており、その力は歴代皇帝すら無視出来ない程である。

過去には時の皇帝を暗殺し、皇位すら狙う野心も持った公爵家であるが、神聖ミリシアル帝国との政治的繋がりの強さから皇帝ですら容易く手出し出来ずにいる、ルディアスにとっては正に目の上のたんこぶなのだ。

 

「ルディアス様、一息入れては如何ですかな?あまり根をつめてしまうと思考が堂々巡りになってしまいます」

 

「あぁ、ルパーサ。そうするか…」

 

静かに控えていた老人、相談役であるルパーサの言葉を受けてルディアスは椅子から立ち上がると伸びをしながら窓へ近づいた。

 

「ミリシアル産の紅茶でよろしかったですかな?」

 

「うむ、頼んだ」

 

魔法で湯を沸かし、紅茶を淹れる準備を始めたルパーサを横目にルディアスは窓から見えるエストシラントの街並みを見渡す。

朱色のスレート(薄い石板)が葺かれた屋根を持つ石造りの建物が幾つも建ち並び、綺麗に区画整理された街並みは風光明媚であるが、時折奴隷が鞭打たれながら荷車を曳く光景が見られる辺りに皇国が古い価値観から脱却出来ない事を何よりも如実に表している。

 

「陛下、どうぞ」

 

「うむ」

 

ルパーサより手渡されたソーサーに乗ったティーカップを受け取ると、憂いを湛えた目で街並みを見下ろしながら紅茶の香りを楽しむ。

 

「よい茶だ。花のような香りと僅かな土のニオイ…やはり紅茶はミリシアル産に限る」

 

左手にソーサーを持ち、右手に持ったティーカップを傾けて褐色の水面を唇に触れさせ…

 

「陛下陛下陛下ー!大変です!」

 

「……何用か」

 

穏やかな昼下がりのティータイムは、無礼にもノック無しに騒々しく入って来た第一外務局次官のハンスによって唐突に終わりを迎えた。

 

「…あっ!も、申し訳ありません!緊急事態が発生したもので…」

 

「はぁ…よい、貴様がそれほど慌てているという事は余程の事があったのであろう?」

 

「寛大な御心に感謝申し上げます…。それで本題なのですが…あの…その…」

 

「何だ、まさか誰かしらが予算の不正流用でもしたか?国家戦略局のように、何処かしらの文明圏外国に援助をでも行ったのか?」

 

「いえ。しかし…あー…と、ともかくこれで海の方をご覧になって下さい!」

 

凄まじい勢いで差し出されたムー製の望遠鏡にルディアスは驚くが、戸惑いつつもソーサーを置いて受け取る。

 

「一体なんなのだ…。全く…エルトは部下にどのような教育を…」

 

ルパーサよりお叱りを受けているハンスを尻目に、紅茶を啜りながら望遠鏡を覗いて海を見る。

 

化け物イカ(クラーケン)でも出たの……ブーッ!?」

 

少しの間、望遠鏡を振ってハンスが自身に見せようとしている物を探していたルディアスであったが、"それ"を見た瞬間に口から霧状に紅茶を吹き出してしまった。

 

「な…ななななっ…なんだアレはァーーっ!?」

 

ルディアスが見たのは、皇国が誇る120門級戦列艦が小型ボートに見えてしまう程に巨大な船…それが20隻程横並びとなり、エストシラントへ向かって来る光景であった。




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ルディアス陛下の踊る会議

サブタイトルの割にそんなに踊る会議ではありません


日も沈み、闇夜が皇都を覆い始めた頃、皇宮の大会議室には皇帝であるルディアスを始めとしたパーパルディア皇国の首脳陣が集結していた。

 

「では皆様お揃いのようですので、緊急帝前会議を開催いたします」

 

ルパーサが会議の始まりを宣誓し、ルディアスの斜め後ろにある椅子に座る。

一拍おき、皇国軍最高司令官である『アルデ・ナルバス』が挙手し、発言の許可を得ると立ち上がって書類片手に口を開いた。

 

「先ずこれまでの経緯を確認し、互いの認識の相違が無いように致します。ことの発端は本日昼前、皇国海軍の近海保安艦隊(沿岸警備隊)に所属する32門級フリゲート『32-66艦』が皇都より南東200kmの海域にて訓練中、200m級の大型艦にて構成された艦隊を発見。当初は神聖ミリシアル帝国あるいはムーの艦隊の練習航海だと判断したそうですが、艦上に掲揚された国旗および海軍旗らしき旗が見慣れぬものであった為、魔信にて呼びかけたところ当該艦隊は『日本』という国家の海軍である『海上自衛隊』に所属するものであるとの返答がありました。目的は皇国との国交開設及び交渉(・・)との事でしたので、規定の臨検を行って皇都の近海まで誘導を行いました。後は外務局の方に…」

 

「では、私が…」

 

アルデが外務局幹部が着席しているエリアに目を向けつつ着席する。

それを受けて入れ替わるように立ち上がったのは、文明圏外国との外交を担当する『第三外務局』局長の『カイオス・ザルィード』だ。

 

「先ず始めに言っておかなければならない事があります。日本は自らを第三文明圏外にある国家であると名乗っていたので我々外三(第三外務局)が対応いたしましたが、正直申しまして彼の国は文明圏外国とは言い難く、文明国…いや、皇国を上回りミリシアルやムーに匹敵(・・・・・・・・・・・・・・・・・)するような列強国相当の技術力を持つ事は間違いありません」

 

カイオスの言葉に会場は騒つく。

しかし、それでもカイオスの見解を否定するような野次は飛ばない。

勿論、それはこの場が帝前会議という国家の命運を左右する場である事もあるが、何よりも参加者は一様に日本の艦隊を遠巻きながらも自身の目で見たからである。

 

「…続けさせていただきます。加えて日本の軍艦は魔力探知機に反応しなかった事から機械動力…つまり、ムーと同系列の科学文明国(・・・・・)であると推測出来ます」

 

「それは余も理解している。だが、あれほどの軍艦を建造する事が出来る科学文明国が第三文明圏外にあるとは聞いた事がない。外三は把握していたのか?」

 

訝しむようなルディアスの問いに、カイオスはより一層背筋を伸ばしながら答える。

 

「いえ、全く把握しておりませんでした。日本は皇国の東側、文明圏外のロデニウス大陸の北にあると自称しておりますが、外三の記録を全て洗い出してもその辺りには小さな島が点在するというものしかありませんでした。しかし、彼らは…日本はある日突然この世界に転移した(・・・・・・・・・・・・・・)と言っているのです」

 

「国土ごとの転移、か…。私の記憶がただしければ、ムーの神話がそうであったな?」

 

「陛下の仰る通りです」

 

目配せしたルディアスに応えるように口を開いたのは、列強国との外交を担当する第一外務局(外一)の局長『エルト・タルタリア』だ。

 

「神聖ミリシアル帝国に次ぐ第二列強であるムー…異端の科学文明国であるかの国は1万2千年前、大陸ごとこの世界に転移してきたと自称しており、それは国家公認の歴史書にも記されています」

 

「ふむ…国土ごとの転移、そして科学文明国…。ムーと日本、偶然とは思えぬ一致がある。日本はムーと深い関係にあるのではないか?」

 

「現時点では確定出来ませんが、おそらくそうではないと考えられます」

 

ルディアスの推測に、カイオスが反論する。

 

我々(外三)もそう考え、日本の外交官に問い質しましたが『ムーへはいずれ訪問する予定にあるが、現状は接触していない』との事でした。無論、それが虚偽の可能性もありますが、国交の有無をわざわざ隠す必要はありませんので…」

 

「私もカイオスの意見には賛成です。日本の艦隊が皇都の沖に姿を現した際、まだ情報が伝達されていなかったので我々(外一)はミリシアルかムーの艦隊だと考え、艦隊の寄港予定を両国の大使館に問い合わせましたが、両国共に自国の艦隊ではないと申しておりました」

 

カイオスとエルトによって否定された日本とムーの関係に、会議の参加者は一様に頭を悩ませる。

上位列強に匹敵するような艦隊に、それらの国々との関係も無い…となれば、転移してきたという日本の言い分を信じるしかない。

 

「あ…あの…もしかしてあれはハリボテで…」

 

「あんな巨大なハリボテを作り、海を渡って来れる技術がある時点で相当なものです。何より、臨検した兵によればあの軍艦は金属で出来ており、とてもハリボテとは思えないものであったと証言しています」

 

誰かの発言を、アルデがキッパリ否定する。

そして、彼の発言はそれだけに留まらない。

 

「加えて申し上げますが、あの艦隊は快速であるフリゲート艦を易々と追い抜き、一際大きな軍艦…ミリシアルとムーが運用する航空母艦(空母)に酷似した軍艦より飛び立った飛行機械は、皇都防衛隊の『ワイバーンオーバーロード』を上回る速度を持ちながらも、垂直離着陸が可能なのです。彼らはその飛行機械を『オスプレイ』と呼称しているようですが、件のオスプレイはなんと輸送用であり、戦闘用の飛行機械はより速いらしく…」

 

「もう良い」

 

アルデの言葉を遮ったのは、両の目頭を摘むようにして頭を抱えるルディアスだ。

 

「つまり、日本は我が国を上回る兵器を持っている…その認識で良いな?」

 

「はっ。おそらくは…」

 

「して…そのような国が我が国に交渉を申し出たと言っておったな?カイオス、何を交渉するのだ」

 

「陛下、先日私めが陛下より叱責された件は覚えていますでしょうか?」

 

「覚えているとも。外三の傘下にある国家戦略局が予算を無断で使用し、文明圏外国に多額の援助を行った件であろう?」

 

「はい。その件で、国家戦略局が援助したロウリア王国ですが、隣国であるクワ・トイネ公国、クイラ王国の戦争で敗北し、国家戦略局の目的は失敗致しました。ですが、日本が…」

 

「はぁ…なるほど。クワ・トイネ公国とクイラ王国には日本が味方したのだな?それで、日本はロウリア王国を援助した事について、我が国に何かしらの代償を求めているのだろう?」

 

「いえ、少々事情が異なりまして…」

 

自身の予想が外れた事に、ルディアスは片眉をピクッと跳ねさせ、カイオスの言葉を待つ。

 

「日本は…ロウリア王国が抱える皇国に対する負債を肩代わりすると申し出たのです」

 

「……は?」

 

聡明で知られるルディアスもこれは予想外であった。

戦争で負かした国が抱えた負債を肩代わりする…全く意味が分からない。

 

「私も正直驚きました。しかし、日本は『ロウリア王国が経済的に困窮すればロデニウス大陸の治安が悪化する。それは我が国の安全保障に関わる為、工業製品等を譲渡するのでロウリア王国への資源・奴隷の供出命令は撤回してもらいたい』と申しており…」

 

「工業製品…具体的には?」

 

「はっ…えぇ…と…。農機具や肥料、建築用の工具、そして中古の自動車を…」

 

資料を捲りながら日本からの提案を確認するカイオスだが、ルディアスは目を見開き喜色を顔に滲ませた。

 

「自動車?自動車とはミリシアルやムーにあるような、あの馬が必要無い馬車の事か」

 

「はい。日本には何百万台と自動車があるらしく、年間で相当な数の中古が出回るそうです。その内の1万台程度を皇国に譲渡するとの事でして…」

 

これはチャンスだ。

皇国の産業革命を悲願としていたルディアスにとっては、優れた機械を導入するまたとない好機…しかし、何も考え無しに食い付いてはいけない。

 

「分かった。しかし、日本が本当にそのような国であるのかを確認する必要がある。よって、日本へ視察団を派遣しようではないか。視察団の人員は余自らが決定する。良いな?」

 

無論、皇帝に逆らう者がこの場に居る筈もなかった。

 




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グレイテスト・シティー

キャラも原作とは結構違います


深夜、ルディアスは魔力灯の光の下で書類と格闘していた。

 

「むぅ…やはり外務局長を二人も派遣するのは過剰か…?しかし、列強との交渉に慣れているエルトは必須だし、様々な国を見聞しているカイオスの知見も必須だ。……仕方あるまい。多少の反発には目を瞑って、このメンバーで決定しよう」

 

日本へ派遣する使節団の面子を直々に考案していたルディアスだが、執務室のドアがノックされた。

 

「ルディアス様、私です。レミールです」

 

「レミールか。入れ、鍵は開いている」

 

「では失礼致します」

 

ルディアスの許可を得て執務室へ足を踏み入れたのは、やや性格がキツそうな印象を除けば絶世の美女と言って差し支えない容姿を持つ『レミール・パルファレス』であった。

 

「陛下、こんな時間までご公務をなされていたのですか?」

 

「あぁ、レミールよ。これはどうしても私の手で、確実にやり遂げねばならない事であるからな」

 

インクで汚れた手にレミールの耽美な手が添えられると、ルディアスは険しい表情を消して微笑みを浮かべた。

それもそのはず、レミールはルディアスの婚約者であるからだ。

 

「…日本へ送る使節団の内訳ですか?」

 

「うむ。日本は未知の国だ。文明圏外にありながら上位列強に匹敵する技術力を持つ…何か不測の事態があっても対処出来るような面々でなくてはな」

 

「それにしてもこのメンバーは過剰ではありませんか?これでは陛下に反抗的な貴族…特に私の叔父上がなんと言うか…」

 

レミールの表情が曇る。

姓で察せられるが、レミールはルディアスの一族と険悪な関係にあるパルファレス公爵家の当主の姪なのだ。

それを聞くと彼女はルディアスを籠絡する為に送り込まれた敵対者に思えるかもしれないが実際は、形だけの恭順を示す為に押し付けられた人質(・・)である。

当代パルファレス公爵の弟を父に持つ彼女は正直言ってあまり頭が良く無く、顔以外に良い点は無い公爵家の恥と扱われており、そんな中で父と母が馬車での事故で死亡してしまうと、次は自身の後継を皇都に送りたくない公爵の手によって名ばかりの後継にされ、人質としてルディアスの元へやってきた。

ルディアスも当初はパルファレス公爵家の者である彼女を警戒していたが、自身の弱みを覆す為に奮闘し、ルディアスの支えとなるべく献身しているレミールを見て徐々に認識を改め、今では相思相愛の婚約者なのである。

 

「レミールよ、そなたが気にする事ではない。このような汚い物事は余に任せ、そなたは我が妻として…そしてゆくゆくは余とそなたの子の良き母となれるように励む務めがあろう?」

 

「しかし、私も陛下のお役に立ちたいのです。何かこのレミールめに出来る事はございませんか?」

 

レミールの言葉を聞き、ルディアスは少し考える。

 

「ふむ…なら、そなたも日本に行ってみぬか?」

 

「私が…ですか?」

 

「うむ。今回の使節団には外一局長エルトと外三局長のカイオスが居る。ともなれば日本との交渉に不備が無いかを監査する必要があろう?」

 

レミールは外務局での不正を取り締まる『外務局監査室』に在籍している。

外務局の局長二名が直接相手国に赴くのであれば、何か不備がないように監査室から人員を同行させるべきであろう。

 

「私でよいのですか?」

 

「不満か?」

 

「い、いえ…私は外務局からは嫌われていますし…」

 

外務局監査室に配属された当初、レミールは自身に与えられた仕事を全うする事に必死だった為しばしば強権を振るう事もあり、外務局員からは『狂犬』と呼ばれ恐れられ(嫌われ)ている。

 

「だが、使節団は様々な省庁の人員から成っている。各々を纏める為には、余の婚約者であるそなたが向いている。余が直接行けない以上、これが最善策だ」

 

「陛下……。分かりました。不肖レミール、使節団としての責務を全ういたします」

 

 


 

所変わって日本、九州北部に位置する福岡県福岡市にある福岡空港。

そこに降り立った日本政府専用機『B-777』から、ボーディング・ブリッジを通ってパーパルディア皇国使節団がターミナル内に姿を現した。

 

「これが…日本…」

 

ターミナルビルの大きな窓から見える福岡市街を見て、使節団の一員であるエルトが感嘆の声を上げる。

数えきれない程の高層ビルに、植物の根のように張り巡らされたアスファルト舗装の道路と、そこを走る無数の自動車は、神聖ミリシアル帝国やムーよりも発展した都市である事は疑いようが無い。

 

「"イシガキ空港"でも立派だったのに、"フクオカ空港"はとんでもない…。アルタラス王国にあるムーの空港何個分だ?」

 

滑走路や駐機場で待機する旅客機に目を奪われるカイオスは、検疫と自衛隊のオスプレイから政府専用機に乗り換える為に立ち寄った石垣空港を思い出しつつ、巨大な航空機を何機も保有する日本の国力に感心している。

 

「陛下が日本を気にするのも当然か…。凄まじい国だ…」

 

「皆様にお褒め頂き光栄です」

 

全てが初めて見る物ばかりなレミールがキョロキョロと辺りを見回していると、使節団の案内役である日本国外務省の外交官『朝田 泰司(あさだ たいじ)』が謙虚な態度ながらもどこか誇らしそうにそう告げた。

 

「朝田殿、この大都市が地方都市というのは本当なのですか?」

 

「ええ、我が国の首都である東京はより栄えていますよ。最も最近は行政機能の分散や地方活性化政策によって、以前よりも落ち着いていますが」

 

「朝田殿!あれは!あれは何という飛行機械ですか!?」

 

「あれは我が国の哨戒機『P-1』をベースに開発された旅客機『YP-22』ですね。およそ150人の乗客を運べる国内線向けのものですが、最近では国際線向けに胴体と翼を延長したバリエーションも開発されてまして……」

 

使節団の面々の質問に朝田がタブレット端末片手に答える中、レミールは…

 

「これは…?」

 

「あら〜、お客様。もしかして外国の方ですかぁ?もし良かったらこちらの化粧品、試してみませんか?」

 

「あ、いや…私は仕事で…」

 

「直ぐに終わりますから〜。あらあら〜♪お客様、とぉ〜ってもお綺麗ですねぇ〜。でもそのファンデーションはお客様には合わないかもしれません。ですので、発色を抑えたナチュラルな色合いの……」

 

免税店の化粧品売り場で、店員に捕まっていた。




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皇国が破産する危機

本作のパ皇首脳陣は日本の力を見せ付けられたので割とマトモに現状把握出来てます


福岡市中心部に聳え立つ高級ホテルの高層階、海外要人の利用も視野に入れて作られたスイートルームのリビングでは、パーパルディア皇国使節団がフカフカのソファーに深く座って話し合っていた。

 

「いやはや…日本は自らを文明圏外国と名乗っているが、実態は全く違う。これは文明国すら通り越し、列強国…それこそムーやミリシアルのような上位列強に匹敵する国だ」

 

疲れを滲ませながらも感心したようにそう口にするカイオス。

福岡空港に到着した後、簡単な説明を受けた一行は日本政府が用意した観光バスに乗って福岡市内の視察(観光)を行ったのだが、これが彼らに幾つもの衝撃を与えた。

 

「私もカイオスに同意だ。天を突くような高層建築物の数々に、路地裏に至るまで平らに舗装され、人々は"スマートフォン"という高性能な個人用通信機器を持っている…。控えめに言ってオタハイト(ムーの首都)はおろか、ルーンポリス(ミリシアルの首都)を遥かに上回る発展具合だ」

 

カイオスに続いて、エルトが炭酸水が注がれたグラス片手に告げる。

 

「ふむ…外務局長の御二方が仰るなら間違いないでしょうな。私も以前ムーへと行き、空港を見学した事がありますが、日本の空港はムーの物とは比べものになりません。しかも運用される飛行機械も『ラ・カオス』より遥かに巨大で、高速…もしあの飛行機械に爆弾を搭載し、投下出来るような改造を施したら皇国は勿論、ムーもミリシアルも…最強の航空戦力である『風龍』を運用するエモール王国ですら迎撃出来ないでしょう」

 

パーパルディア皇国軍作戦参謀である『マータル・ヨヒム』が空港に置かれていた航空会社のフリーペーパーを開き、読者から投稿された旅客機の写真を険しい顔で睨みながらそう述べる。

 

「ふむ…マータル殿、日本の飛行機械はそれほどまでに?」

 

「えぇ、ご覧下さい。これは地方線に就役したYP-22という飛行機械ですが、高度1万mを時速850kmで巡航出来るのです。これは驚異的…速度は勿論、高度1万mともなればワイバーンはもちろん、風龍やミリシアルの『天の浮き舟』ですら到達出来ない高度ですよ。もし、皇国が日本と敵対したとしたら、皇国が手出し出来ない高みから攻撃される事となるでしょう」

 

離陸するYP-22の写真を指差しながら半ば諦めたように述べるマータル。

この世界では古くからワイバーンによる制空権争いと空対地攻撃の概念が根付いていた為、日本の航空技術の高さが否応にも理解出来てしまう。

 

「しかもこれは"旅客機"…つまりは人や荷物を運ぶ為の物です。本格的な戦闘用となれば、我々が想像だにしない超高性能な代物が出てきてもおかしくはありません」

 

「ふむ…ロウリア王国に派遣されていた国家戦略局の職員がとんでもない飛行機械によって4000隻もの艦隊が蹂躙された、と報告して精神病扱いされたらしいが…彼は精神を病んだ訳では無く、事実を言っていたのだな」

 

「おそらくは…。カイオス殿、よければ帰国後にその者に会って話を聞きたいのですが、可能ですか?」

 

「可能です。彼は強制入院となりましたので、手続きを踏めば退院出来るでしょう」

 

「……良いか?」

 

「レミール様、如何なさいました?」

 

マータルとカイオスが話していると、沈黙を守っていたレミールが口を開いた。

その事に彼女の悪評を知るカイオスとエルトが身構えるが、続くレミールの言葉は良い意味で二人を裏切った。

 

「私は…日本を不必要に刺激すべきではないと考えている」

 

カイオスとエルトが信じられない物を見たように目を丸くするが、レミールはそれに気付かないのか、はたまた見て見ぬふりをしているのかは不明だが特にリアクションもせずに言葉を続ける。

 

「私とて日本はあらゆる面で皇国を凌駕している事は非常に悔しいが理解出来る。もし、皇国が文明圏外国にそうするように、日本に戦争を仕掛けたら間違いなく返り討ちに会うだろう。それを踏まえれば、皇国は日本に対して友好的に振る舞い、敵対しないように立ち回るべきではないか?」

 

「レミール様、お言葉ですがそれは少々難しいかと思われます」

 

恐る恐ると言った様子でレミールの言葉に反論したのは、皇国の対外貿易を担当する『商業交流局』の副局長『リンド・パーカー』であった。

 

「何故だ?」

 

「はい、結論から申し上げますと日本と友好的な関係を築きますと、皇国は経済的に日本の植民地となるでしょう」

 

リンドの言葉に使節団の面々がざわつく。

そんな中、リンドは言葉を続ける。

 

「日本には多くの優れた製品があります。例えば我々の頭上にある『電灯』は皇国で使われている『魔石灯』より小さく明るい、この我々が座るソファーも、浴室にあったカミソリも…あらゆる物が皇国にある同機能の製品より優れ、尚且つ安い。これが皇国に大量輸出されればどうなりますか?」

 

「……あっ」

 

誰が言ったかは不明だが、使節団メンバー全員が悟った。

より優れた安い製品が大量に輸入されれば、皇国内の同業者は無理な品質・価格競争に挑まねばならないだろう。

しかし、産業の機械化が遅れている皇国にとっては勝ち目のない戦である。

そうなれば最終的には皇国のあらゆる産業は衰退し、日本よりの輸入に頼らねば生きていけない…正に経済的植民地(・・・・・・)と成り下がり、日本に外貨を吸われるだけの存在となってしまう。

事実、現状でも同じ魔法文明ながら機械化を成し遂げた神聖ミリシアル帝国の製品によって皇国の産業は一部が衰退し始めているのだ。

 

「な、ならば日本からの輸入品には高い関税を…」

「そんな事をすれば日本はそれを口実に圧力をかけてくる。それに反発した国内の過激派によるクーデターの可能性だって…」

「ならば輸入量自体を制限して…」

 

武力ではなく経済力による植民地支配…それを回避すべく使節団メンバーはアイデアを絞り出すが、どれもこれも日本を刺激してしまうだろう。

 

「……もう止めよ」

 

一向に終わりが見えない話し合いであったが、ため息混じりのレミールの一声によって強制的に切り上げられた。

 

「我々はまだ日本と接触して日が浅く、日本に来て1週間も経っていない。日本という国を理解出来ぬまま、話し合っても仕方なかろう」

 

そう言ってレミールは立ち上がり、最上階に用意された自身の部屋に向かう。

 

「本格的な日本視察は明日からだ。日本との付き合い方を考えるのは、それが終わってからでも良かろう」

 

伸びをしながらエレベーターに乗り込むレミール。

使節団メンバーは「それもそうか」と考え、明日からの視察に備えるべく各々に用意された部屋へ戻ったのであった。




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日本は静かに笑う

良く考えたらハリアーシリーズって相当長生きですよね


福岡駅より新幹線に乗り、広島駅で降りて観光バスに揺られて呉港へと到着したパ皇使節団一行。

彼らが来日前に日本の軍事施設の見学を希望した為、日本政府は海上自衛隊が保有する基地の中でも最大級である呉基地へ案内したのだが…

 

「おぉ…こ、これは軍艦なのか…?」

「まるでミリシアルの魔導戦艦のようだ…」

「皇国の150門級より遥かに巨大だ…」

 

感嘆の声を漏らす使節団メンバーの視線の先にあるのは、海上自衛隊が誇る第4護衛隊群と第1潜水隊群の姿である。

臨時旗艦(・・・・)である『いずも型護衛艦』の2番艦『かが』を始めとして『ながと型打撃艦』や『あさひ型護衛艦』、小柄な部類である『もがみ型護衛艦』すら皇国海軍最強と名高い『超フィシャヌス級(150門級)戦列艦』の倍以上のサイズであった。

そして何より彼らの目を引くのは、船体の殆どを海に沈めた黒光りする船のようなものだ。

 

「パーパルディア皇国の皆さま、初めまして。この基地の案内を担当する『黒川 寿二(くろかわ ひさじ)』と申します」

 

初めて乗った新幹線すら上回る衝撃で狼狽えている使節団の前に、呉基地所属の自衛官がやって来ると、キビキビとした振る舞いでビシッと敬礼して自己紹介をした。

 

「あ、あぁ…黒川殿。私は皇国軍作戦参謀を務めるマータル・ヨヒムと申す。それで早速質問があるのだが…」

 

「はい、マータル閣下。機密に触れない範囲とはなりますが、何なりとお聞き下さい」

 

「では、あの黒い…船のような物は何ですかな?大部分が沈んでいて…浮桟橋にしてはあの大きな出っ張りが邪魔に思えるのですが」

 

「あれは潜水艦(・・・)という軍艦です」

 

「セン…スイカン…?」

 

軍艦である事は分かったが、潜水艦なる物は聞いた事が無い。

全体的につるんとした質感で、砲も無く、高さもない為移乗攻撃に向きそうも無い。

そんな軍艦に出来る事はなんだろうか?マータルを始めとした使節団の軍関係者が頭を捻るが答えは出ない。

 

「潜水艦というのは自発的に水中に潜る事が出来る(・・・・・・・・・・・・・・)軍艦となります。そうする事で敵からの探知を避け、水中から魚雷…簡単に言えば泳ぐ爆弾を打ち出して敵艦を攻撃する兵器なんです」

 

「す、水中に潜る!?しかも泳ぐ爆弾!?」

 

作戦参謀なだけあり、マータルはすぐさま潜水艦という兵器の脅威に気付いた。

 

(そ、そんな軍艦があっては戦列艦も竜母も意味が無いではないか!魔導砲は水面に着弾した瞬間に炸裂するか急速に威力を失ってしまうし、ワイバーンの火炎弾は消えてしまう!しかも水中から爆弾で攻撃されれば、船底に穴が空いて浸水し、あっという間に沈没してしまうぞ…!)

 

「あ、あの…因みに速力なんかは…」

 

冷や汗を浮かべながらマータルは黒川に問いかける。

確かに潜水艦の脅威は分かったが、もし信じられない程に鈍足であればまだ対処のしようがある…そんな藁に縋るような問いであったが、それは黒川からの回答によりいとも容易く打ち砕かれた。

 

「そうですね…機密となるのであまり詳しくは言えませんが、こちらにある『さつま型潜水艦』は水中で30ノット以上を発揮し、先程お話しした魚雷は200ノット以上の速度で10km以上の射程を持ちます」

 

「さ、30…!?しかも200ノット?10km!?」

 

皇国の魔導戦列艦や竜母は空気圧を操作する魔石『風神の涙』を用いて帆船としては高速な15ノットでの航行が可能だ。

しかし、日本の潜水艦は水の抵抗を大いに受ける水中で倍以上の速度を発揮出来、武装である魚雷に至っては信じられない速度と射程を持っている。

もし、皇国が日本と敵対すれば、皇国海軍は日本の海上自衛隊によって一方的に蹂躙されてしまうだろう。

そんな評価を下したマータルは冷や汗を通り越し、顔を青くして小さく震えながら日本を決して敵に回してはいけないと決意した。

 

「失礼、私からも質問をよろしいですか?」

 

「はい、えぇ…っと…」

 

「私はハルカス・サマレスと申します。皇国において兵器の研究・開発を行っている『先進兵器開発研究所』の研究員です。それで質問ですが、日本の軍艦は砲が1門か2門程度しかありません。これでは火力不足なのでは?」

 

確かに皇国のように100門以上の砲を持つ戦列艦を運用していれば護衛艦…地球由来の軍艦は砲門数がなんとも頼りない物に見えてしまう。

もちろん、ハルカスも兵器を研究する職務にあるため長砲身の後装ライフル砲を回転砲塔に搭載すれば10門程度の砲門数でも100門級戦列艦を圧倒する性能を発揮出来る事を理解しているが、それでも護衛艦の砲門数は少なすぎる。

しかも、最も大きな砲を搭載している『ながと型』でもムーの『ラ・カサミ級戦艦』の主砲よりも小さい。

それ故の質問だったが、彼の疑問は黒川の言葉によって激し過ぎるぐらいに解決した。

 

「それは簡単な話で、我々が生まれ育った異世界(地球)では海戦における砲の価値が著しく下がったからです」

 

「砲の価値が…下がった?」

 

「はい。かつては我が国も46cmもの砲を9門備えた大戦艦を保有しており、他国もやや小さいながらも多数の戦艦を運用していたのですが、先程紹介した魚雷によってその優位は崩されました。海を征した戦艦は潜水艦や航空機から放たれる魚雷や爆弾…時代が進めば対艦誘導弾(対艦ミサイル)によって砲の射程外より攻撃されるようになり、次第に建造・運用コストがかかる戦艦は時代遅れの産物と成り果てたのです。詳しくはこの基地の見学後に見学される『大和ミュージアム』で調べる事が出来ますので、この辺りにしておきましょう。ともかく、砲より遠距離から精密に攻撃出来る兵器の登場により、現代の軍艦は最低限の砲しか装備していないのです」

 

「なっ…ほ、本当に日本は誘導魔光弾を保有しているのか!?」

 

一応、事前に簡単な説明を受けてはいたが、やはり面と向かって説明されると凄まじい衝撃である。

神話に語られる『古の魔法帝国』の力の象徴…世界最強と謳われる神聖ミリシアル帝国すら開発出来ていない誘導弾を主力として運用している日本には、逆立ちしたって勝てないだろう。

それを嫌という程頭に叩き込まれたハルカスは、自身の研究が果たして意味のあるものなのか分からなくなってしまった。

 

「わ、私からも良いだろうか?」

 

「はい、貴女はレミールさん…でよろしかったでしょうか?」

 

「うむ。ここに来るまでの間、バスの運転手が「臨時旗艦になってから少し寂しくなった」と呟いていたが、この軍港に停泊している艦隊の旗艦は他にあるのか?」

 

「はい、ご明察の通りこの基地を母港とする第4護衛群の本来の旗艦は『しょうかく型航空機搭載護衛艦』の1番艦『しょうかく』なのですが、現在『しょうかく』はドック入りして改修作業中です。なので、『しょうかく』と同じく航空機運用能力を持ち、十分な司令部設備のあるこの『かが』を臨時旗艦としているのです。まあ、現代では通信機器の発展によって艦隊を指揮するには本国の陸上基地でも十分ですが、通信障害に備えつつも慣例に従う意味でも艦隊旗艦を設定しています」

 

「なるほど…ところで『しょうかく』とやらは皇国に来た貴国の艦隊にいたあの空母なのか?」

 

「あれは2番艦の『ずいかく』ですね」

 

「ふむ…となると、『かが』とやらは『しょうかく』よりも随分と小さく見えるが?私も皇国に来た貴国の艦隊を見たが、『かが』の隣にある軍艦に比べて『ずいかく』は随分と大きかった。『かが』もかなりの大きさだが、『ずいかく』と比べれば幾分か小さいようだ」

 

「それは『かが』は敵対国の潜水艦に対抗する為に建造されたからですね。本来『かが』を始めとした『ヘリコプター搭載護衛艦』は"ヘリコプター"という垂直離着陸が出来る航空機を用いて、搭載する機器を駆使して潜水艦を探知・攻撃する事が目的です。しかし、『いずも型護衛艦』は『航空機搭載護衛艦(空母)』と比べて幾分か劣りますが戦闘機の運用能力を備えており、有事の際には簡易的な空母として運用なのです」

 

「なるほど…あの甲板上にある2種類の飛行機械が"戦闘機"とやらか」

 

レミールが『かが』の甲板上を指差し、駐機されているハリアーIIとF-35Bを指し示す。

 

「はい。あれはハリアーIIとF-35Bという戦闘機でして、どちらも垂直離着陸が可能な戦闘機です。特にF-35Bは超音速で巡航可能で、高度な誘導兵器の運用能力、そしてレーダーによる探知を無効化するステルス能力を備えた高性能機です」

 

「……レーダーとは何だ?聞いた事はあるが…」

 

「あ、あぁ…レミール様、レーダーというのはムーやミリシアルで開発・運用されている探知機器でして、"電波"という目に見えない物を用いて100km先の敵を探知する事が出来る装置らしいのですが…。申し訳ありません、これ以上の詳細は私にもさっぱりで…。しかし、もし日本の言う事が真実なら、日本の戦闘機は上位列強ですら捉える事が出来ず、一方的に攻撃を仕掛ける事が可能となるでしょう。……もっとも、ステルス能力なるものが無くとも超音速を発揮する速度性能や誘導兵器の運用能力がある時点で勝負にならないと思われます。無論、それは皇国が威信を懸けて開発した『ワイバーンオーバーロード』相手でも同じ事になるでしょう」

 

「左様か…」

 

黒川の説明を受けてマータルに問いかけるレミールだが、返ってきた答えに半ば諦め気味な様子だ。

皇国はムーが開発した飛行機械(戦闘機)『マリン』に対抗すべく魔導技術を駆使してワイバーンの最上位種とも言える『ワイバーンオーバーロード』を開発した。

最高速度430km/h、これまでより高速かつ高温な火炎弾を短いスパンで発射可能であり、体表を覆う鱗も鋼鉄に匹敵する強度を誇る空の覇者(・・・・)と呼ぶに相応しい存在だったが、日本は当たり前のように超音速かつ誘導弾を運用する戦闘機を保有している。

最早、馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

 

「あの、ではハリアーIIとやらはそれらの能力を持っていないのですか?」

 

控えめに手を挙げたマータルの側近が質問する。

黒川によるF-35Bの紹介では、超音速巡航能力、誘導弾運用能力、そしてステルス能力が強調されていたため、もしやハリアーIIにはそれらの能力が無いのか?と考えたためだ。

 

「えぇ、確かにハリアーIIはF-35Bと比べれば能力は数段劣ります。何せ初飛行は50年以上前、原型機の初飛行は70年以上前なので、本機種には持続的な超音速飛行やステルス能力はありません。とくに速度は初飛行当時でも比較的低速な1000km/h程度ですし…」

 

「50年以上前の兵器なのですか!?」

 

「もちろん、50年前の物そのままではありません。新造されたり、最新の機材を搭載して定期的な能力向上(アップデート)がなされていまして、我々が運用する機体は射程100km以上の『27式空対空誘導弾』と呼ばれる敵航空戦力を撃墜する為の誘導弾を装備する事が出来るので、決して単なる旧式ではありませんよ。ただ、やはり改修にも限界が見えてきたので、練習機として運用されている複座型以外は退役し、友好国に売却するという話もあります」

 

「売却…皇国が買うと言ったら売っていただけますか?」

 

マータルの側近が期待を滲ませた表情で問いかける。

確かに日本にとっては旧式かもしれないが、皇国にとっては正に異次元の性能であり、それこそ上位列強の航空戦力すら上回る力がある。

もし、自衛隊から退役するハリアーIIを大量導入出来れば皇国は上位列強の仲間入り…或いはミリシアルすら超越する事が出来るかもしれない。

そんな期待を存分に含んだ問いかけだったのだが…

 

「そうですね…これは私個人の考えなのですが、我が国は他国を侵略して植民地支配を行うような覇権国家に対して兵器を輸出する事は無いでしょう。我が国は今では平和を国是としているので、輸出した兵器が"護るために"ではなく、"破壊するために"使われる事は決して許容出来ません」

 

「そ、そうですか…」

 

明言はされなかったが、黒川の言葉は言ってしまえば「色んな国を侵略する皇国に兵器を売る訳ないだろ」という事だ。

普段の皇国ならそんな事を言われて要求を拒否された時点で戦争を吹っ掛けるだろうが、どう足掻いても日本に勝てない事を理解している使節団は押し黙ってしまった。

 

「では、この後は体験乗艦のお時間です。せっかくなので『かが』に乗艦し、ハリアーIIとF-35Bの離着艦訓練の見学も予定しております。さあ、こちらにどうぞ」

 

皇国使節団の打ちひしがれたような雰囲気を尻目に、黒川は『かが』の舷側から伸びるタラップへ彼らを案内し始めた。

 




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銃と皇国の旅立ち

あまり長々とやっても仕方ないので、パ皇の日本接触編はこの辺りで切り上げます

あとそろそろネタが無くなってきたので、次回からのサブタイトルは映画パロディの他にマンガ、ゲーム、アニメ、楽曲、文学作品のパロディも加えていきます


使節団が日本視察から帰ってきて1ヶ月後、皇宮の大会議室では使節団メンバーが纏めた報告書を各々読み上げていた。

 

「……である事から日本の技術力は上位列強と同等或いは上回る為、今後は慎重に交渉せねばならないでしょう」

 

「分かった。今後とも日本について分析し、皇国の利益となる点については積極的に取り入れよ」

 

もうこのやり取りは何度も繰り返されていた。

「日本はヤバいから気を付けろ(意訳)」という報告は全員が必ず報告の終わり際に口にしており、それだけ使節団が日本に対して強い衝撃と警戒感を持っている事が見て取れる。

 

「ふぅ…これで全員の報告は聴き終えたな。では次だ」

 

「はっ。では皆様、各々今回の視察において得られた成果を発表して下さい」

 

首筋を揉みながら一息つくルディアスが会議の議題を次に進めろと指示を出し、それを受けたルパーサが議題を告げる。

 

「では私から…」

 

真っ先に手を挙げたマータルが自身の背後に控えさせていた兵士を側に呼び寄せ、持たせていた3つの箱をテーブルに置かせた。

 

「先程の報告でも申しましたが、日本の兵器は凄まじい性能です。彼らの練習機(・・・)は最も性能が低い『T-8』…彼らが"スーパーツカノ"と呼んでいた飛行機械ですら皇国の切り札であるワイバーンオーバーロードを上回る飛行性能を持つばかりか、合計1.5トンにも及ぶ爆弾や誘導弾を搭載する能力がある事からも軍事技術において日本は皇国の遥か先を行っています。そこで、ダメ元で日本に対し、兵器の輸出を打診しましたが…やはり断られてしまいました」

 

マータルの言葉を聞き、報告会の参加者達の反応は概ね二分された。

一方はわざわざ価値観が相容れない他国に兵器を輸出しないだろうと考えていた者達、もう一方は新参者が五大列強を蔑ろにするとはけしからんと考える者達である。

だが、続くマータルの言葉に相反する二者は驚きを露わとした。

 

「ですが、更なる交渉を行なったところ"銃"の輸出ならば前向きに検討するという回答を得る事が出来ました」

 

マータルの目配せに、兵士がテーブルに置いた箱を開ける。

その中にはそれぞれ1丁ずつ、3種の銃らしき物が緩衝材に包まれた状態で収められていた。

それを見た参加者達はまさかと言うような目で見慣れぬ銃らしき物に視線を注ぐが、それに構わずにマータルは一番小さな…それこそ掌に収まりそうな程小さな銃を取り出し、ルディアスに向かって恭しく捧げるように掲げた。

 

「日本が皇国への輸出を認めた銃は3種…まずこちらは『ニューナンブ M60』と呼ばれる短銃(ピストル)です。こんなにも小さいというのに5発の弾丸を連射可能で、威力も対人用としては必要十分といった具合となります。どうぞ、弾は入っていないので安心してお取り下さい」

 

「ほう…これが日本の銃か。小さい割には案外ズッシリとしているが、重くて持てん程ではない。しかし、こんなに小さいと射程はさほど無いだろう」

 

「はっ。その件ですが信じ難い事に本銃は熟練者であれば50m先の目標に命中させる事も出来ると日本側は申しておりました。皇国の歩兵銃(マスケット銃)は教本では50から60mが有効射程とされているので、日本の銃は皇国の銃よりも優れている事は間違いありません」

 

「なんと…」

 

マータルの手からニューナンブを受け取って検分していたルディアスは、その小さな見た目からは想像も出来ない性能に驚愕する。

だが、彼を驚愕させる銃はあと2つもある。

 

「続いてこちら…『M3サブマシンガン』と言う銃となります。日本側は『グリースガン』とも呼称しておりました」

 

「サブマシンガン?」

 

「簡単に言えばミリシアルやムーで運用されている連射式銃、"機関銃"を小さくした物との事です。こちらは本格的な機関銃より射程や威力は劣るそうですが、その分歩兵一人でも簡単に扱えると言う利点があります。そして劣るとされる射程については50から90m、威力も対人用としては十分…しかも1分間に400発程を連射出来るので、本銃1丁で歩兵数十人分の火力を発揮出来てしまうのです」

 

「なんと…!この小脇に抱えられるような銃1丁でか?」

 

「はい。日本で実際に発砲されたところを見ましたが、的が瞬く間に穴だらけになった有様は忘れる事が出きません」

 

「むむっ…。これは恐るべき銃だな」

 

「私も陛下と同意見です。…では次はこちらの銃です」

 

正に鉄の塊といった風貌のグリースガンを箱に戻したマータルが次に取り出したのは、皇国人でも馴染み深い木製の銃床とハンドガードを持つ銃だ。

 

「こちらは『M1カービン』と言う銃でして、我々にも見慣れた姿をしておりますが、性能は段違いです。射程は300m、威力はワイバーンの鱗どころか『地竜リントヴルム』の甲殻を貫徹する程であります」

 

「な、なんだと!こんな小さな…皇国軍主力歩兵銃より一回りも二回りも小さく華奢な銃がより遠くから、地竜を狩れるというのか…!?」

 

目を見開いて狼狽えるルディアスだが、彼の反応も無理は無い。

何故なら皇国は周辺諸国を圧倒する海上・航空戦力を誇っているが、最も得意とするのは火を噴く巨大な亀のような地竜『リントヴルム』を先頭に進撃する陸戦なのだ。

そんな皇国陸軍の主力を射程外から一方的に屠る事が出来る銃…ルディアスは自身の手にある"それ"が何倍にも重く感じた。

 

「わっはっはっ!日本も愚かよなぁ…こんな銃を輸出するなんて、自らの手の内を明かしているようなもの!これらの銃を解析し、量産すれば日本なぞ瞬く間に…」

 

「お言葉ですが、それは不可能ですな」

 

「なんだとぉ!?」

 

日本に対して憤りを覚えていた者達の一人が、日本を蔑む言葉を口にするが、マータルによって一蹴された。

 

「私の報告をお聞きにならなかったのですか?日本には超音速で飛行する飛行機械、鋼鉄の装甲を持ち馬より速く駆ける"戦車"なる戦闘車両、射程100km以上の砲を持つ軍艦…更には当たり前のように誘導弾を運用しています。間違いなく歩兵同士の白兵戦になる前に、皇国軍は壊滅的な被害を受けますよ」

 

「ぐっ…」

 

「それに貴殿は銃を解析しろと言いましたが、これらの銃は本体は勿論、弾薬に至るまで皇国の技術力では再現不可能な程に高度な技術が用いられています。それに加え、これらの銃は日本があった世界では90から70年程前に開発された物であるとの事です。我々に輸出されるのは、倉庫で眠っていた物、或いは特殊な用途の為に細々と生産されている物です。そんな銃を持ち、誘導弾や遥かに優れた技術を用いて作られた銃を装備した日本に勝てますかな?私は正直無理だと判断しております。加えて…」

 

「ぐっ…ぅぅ…」

 

「止めよ。そのような議論は後にせよ」

 

マータルの反論にギリギリぐうの音を出して押し黙る男だが、ルディアスの一声によってマータルの追撃は止まった。

 

「マータルよ、日本には勝てぬのだな?」

 

「100年先、200年先なら分かりませんが、少なくとも我々が生きている内は不可能でしょう」

 

「左様か…だが、だからと言って歩みを止める訳にもいくまい。日本より銃及び建築・農業技術を取り入れる為の特別予算を組む。一先ず、他国への侵攻は取りやめ、皇国内のインフラ再整備と皇国軍改革に尽力するのだ」

 

「「「「「はっ!」」」」」

 

この日、ルディアスの勅令により皇国大改造計画が始動。

これにより、皇国は大きな変革の道を歩み始めたのであった。




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日本からの艦隊X

あまり考えずにノリだけで書いているので矛盾点が散見されるかもしれませんが、気にしないで下さい


神聖ミリシアル帝国、それはこの世界で生まれ育った者であれば知らぬものは居ない。

世界のパワーバランスを担う五大列強国の筆頭にして、世界最強の軍事力を誇る超大国(・・・)であり、来るべき『古の魔法帝国(魔帝)』復活の際には世界の国々を率いて人々の自由と安寧を守るために戦うと自負している。

そんな大国の経済基盤を担う港町『カルトアルパス』には軍の魔導戦艦や天の浮舟(戦闘機)が動員され、物々しい警戒態勢が布かれていた。

 

「まるで戦時だな…」

 

港を見下ろす高台に設置された港湾管制塔の管制室で港湾管理局長の『ブロント・サンラクト』が編隊を組んで港の上空を旋回する天の浮舟部隊を見上げながらポツリと呟く。

確かに彼の言う通りカルトアルパスの現状は迫り来る敵を迎え撃つ為に準備しているかのようだが、もちろんそんな事は無い。

しかし、神聖ミリシアル帝国という超大国のメンツ(・・・)を守る為という点に関してはある意味戦争のようなものだ。

 

「局長、魔導電磁水上探知機(対水上レーダー)に反応があります。帝国海軍の警備艦(フリゲート)クラスの反応が5、巡洋艦クラスが1、空母或いは戦艦クラスが3、それと非常に小さな…それこそ曳船(タグボート)程の反応が2です」

 

「うん?確か日本は空母2隻を中心とし、巡洋艦が2隻と"クチクカン"とかいう帝国海軍の小型艦に相当する軍艦が3隻と大型補給艦が1隻、民間の客船が1隻、そして"センスイカン"なる特殊な艦が2隻という艦隊で来訪すると予告していたではないか」

 

「しかし、レーダーを見るに間違いありません。もしかしたら日本側で何かしら問題が発生し、直前になって変更が生じたのでは?現状、日本と我が国のやり取りは駐パーパルディア皇国大使館を介して行われていますから、艦隊の変更に関する連絡が遅れてしまったのかもしれません」

 

「確かにあり得るな。まったく…変更があるなら早く言ってもらいたいものだ。此方は日本艦隊の為にわざわざスペースを確保していたのだぞ。…しかし、日本の船乗りも大変だっただろう。タグボートのような船でわざわざ来たのだから」

 

部下からの報告を受け、憮然とした様子で日本艦隊がやって来るであろう方向を眺めるブロント。

レーダーに映ったという事はよほど鈍足でもなければもうじき望遠鏡で見えるようになるだろう。

そう考え、凡そ5分おきに望遠鏡を覗きつつ、時折レーダースクリーンを確認していると…

 

「君、そのスクリーン壊れているんじゃないか?」

 

「まさか、そんな筈はありません。一週間前に新しい機材に交換されましたし、レーダーも4日前に定期メンテナンスされたばかりですよ?」

 

「それは知っている。しかしだねぇ…補給艦と客船はまだしも、私の目には巡洋艦が5隻と空母が2隻に見えるのだが…」

 

ブロントの言う通り、水平線の先から現れた日本の艦隊はミリシアル基準で言えば巡洋艦クラスばかりであり、それに続く空母は2隻あるがどちらもミリシアル海軍の主力である『ロデオス級航空魔導母艦』よりも大きい。

と言うか空母の後に続く補給艦や客船と思わしき船も感覚がおかしくなりそうなサイズ感である。

 

「……確かに妙です。日本の艦隊を捉えるまでは正常に稼働していたのに…。もしや日本の艦隊はレーダーを誤認させる何らかの機能を持っているのでは?」

 

「分からん。しかし、もしそうならば日本と敵対した場合は肉眼でしか正当な戦力評価が出来ないという事になる。一応、我々の所感を報告書に纏めておこう」

 

「はい、承知しました。…あ、日本艦隊よりの通信です。では予め用意していた停泊スペースに誘導致します」

 

「うむ、頼んだ」

 

部下と言葉を交わしつつ、ブロントは日本艦隊の洗練された姿に釘付けとなるのであった。

 


 

「司令、ミリシアル側より水先人の移乗要請が来ています」

 

「よろしい。では水先人は本艦に移乗していただこう。是非とも世界最強の国(・・・・・・)の方に本艦の…この『たいほう』の威容をしっかりと知って頂きたいのでね」

 

人材交流事業によってクワ・トイネ公国より派遣された魔信通信士からの言葉に、海上自衛隊第三航空護衛艦隊司令官『佐藤 武治(さとう たけじ)』が応える。

彼が座乗するのは、『改しょうかく型航空機搭載護衛艦』の1番艦『たいほう』だ。

ウクライナより買い取った旧ソ連海軍空母『ヴァリャーグ』は日本の手で解析された後に完成され『ほうしょう』と名付けられ、練習空母のように運用されていたのだが、長年造船所に放置されていた影響からか各所にガタが来ており、2020年代末には限界が来るだろうと想定されていた。

そこで日本は『ヴァリャーグ』の準姉妹艦であり発展型とも言える『しょうかく型』の設計を改良した上で『ほうしょう』の後継艦の建造を決定。

これにより就役したのが、『改しょうかく型』の『たいほう』である。

 

2020年代の最新技術をふんだんに投入された本艦は全長320m、全幅78mと一回り以上サイズアップしており、排水量に関しては満載で8万トン以上という米海軍の原子力空母に次ぐ超巨大空母(スーパーキャリア)であるばかりか、世界で初めて動力に核融合炉を採用、原型艦のスキージャンプ式飛行甲板を取りやめ4基の電磁カタパルトを装備する等している上に、ステルス性にも配慮したデザインはレーダー上では巡洋艦にしか見えないと言う、2030年代において最高峰の能力を持つ空母なのだ。

しかも艦載機はF/A-18E/Fを始めとして、F-35Bや英国との共同開発によって生み出された『F-3』の艦載型を搭載している為、周辺海域の制空権を握るなぞ容易い事であろう。

因みに現在ドック入りしている『しょうかく』は『たいほう』に準じた改装を施されている最中であり、それが完了次第『ずいかく』にも同様の改装が施される予定となっている。

 

更に艦隊には『たいほう』を中心として『あさひ型型護衛艦』が3隻に、『ながと型打撃艦』が2隻、『ましゅう型補給艦』の後継として開発された4万トン級高速補給艦『びわ型補給艦』が1隻、『おおすみ型輸送艦(強襲揚陸艦)』が1隻、『みかさ型潜水艦(戦略原潜)』が1隻、『さつま型潜水艦(攻撃型原潜)』が1隻…日本の製品や文化を紹介してもらう為に同行させた民間人やメディア関係者を乗せた高速客船『じぱんぐ丸』を別にすれば、この艦隊だけで神聖ミリシアル帝国海軍を壊滅へ追いやる事も現実的な戦力だ。

 

「司令、ミリシアルのボートが接近中」

 

「本艦の舷側を縄梯子で登らせる訳にはいかん。搭載艇を下ろして、そちらに移乗させた上でクレーンで吊り上げるんだ」

 

水先人とは言え、客人を迎えるにあたって気を引き締めるように制帽を被り直す佐藤。

それを受け、他の乗組員も日本を代表する立場である事を再認識し、気を引き締めたのであった。




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驚異的な技術

なんだか日本のサービスが良すぎる気がしますが、変にミ帝に目をつけられるよりはマシですからね


カルトアルパスの一角、日本がミリシアルに要請して間借りした荷物の仮置きスペースにはイベント用テントが立ち並び、『おおすみ型輸送艦』や『びわ型補給艦』に積み込んでいた日本の文化・技術・軍事力に関する様々な展示を行う博覧会が行われていた。

このカルトアルパスには多くの国からの来訪者がおり、ミリシアル海軍にも負けない艦隊を引き連れてきた日本は彼らの好奇心を大いに唆り、博覧会は大盛況である。

 

「うむ…うむむむ…」

 

人々の熱気が立ち込める博覧会会場の一角で難しい顔をして展示された模型を見つめているのは、神聖ミリシアル帝国において軍事技術開発を行う『技術研究開発局』の開発室長を務める『ベルーノ・ヤサラク』である。

 

「最高速度はマッハ2.2、上昇可能高度は1万8千m以上、多数の誘導弾を装備可能で、その状態でも700km近い戦闘行動半径を持つ…何という性能だ。我が国の天の浮舟(戦闘機)とは比べ物にならない高性能だというのに、日本では既に退役済み…」

 

敗北感を滲ませるベルーノが見つめるのは、歴代航空自衛隊作戦機の模型が展示されているエリアに置かれていた、『F-4EJ改』の模型であった。

原型機の初飛行は80年近く前、自衛隊での採用は60年以上前、そして退役してから10年程経っているF-4EJ改は地球においてはロートル(おいぼれ)であるが、その性能は異世界(新世界)においては世界最強(・・・・)と名乗っても文句なしな代物だ。

 

「しかし、このF-4EJ改という飛行機械…どことなく『ジグラント3(戦闘爆撃機)』に似て居るな…。それに対空用誘導弾だけではなく、対地・対艦用誘導弾の運用能力もあると書いてあるからには、この機体も制空戦闘と対地戦闘をこなせる万能機なのかもしれん。だが誘導弾ももちろんだが、何故この機体は音速を超えられるのに、天の浮舟には出来ないのだ?何かしら設計の工夫が…?」

 

「失礼します。我が国の戦闘機にご興味がおありですか?」

 

機体解説が書かれたパネルに釘付けとなるベルーノに声を掛けたのは、案内役として会場を巡回している自衛官であった。

 

「えぇ、私は帝国において技術開発の職務を任されているのですが、どうもこの機体が超音速を発揮出来る理由が分からないのです」

 

「でしたらご説明いたしましょう。先程まで熱心にご覧になられていたので基本的な解説は省略致しますが、本機の飛行性能のキモはずばりエアインテーク(空気取り入れ口)"です」

 

「ほう…」

 

にこやかな笑顔の自衛官がタブレット端末を起動させ、CGで描き起こしたF-4EJ改のモデルを表示させた。

 

「ではエアインテークの説明をさせていただきます。模型を見て頂ければお分かりいただけると思いますが、胴体とエアインテークの間に隙間がありますよね?」

 

「はい、わざわざ隙間を設ける意味が分からなかったのです。こんな隙間があっては余計な空気抵抗を生むだろうし、隙間を作る為に部品点数が多くなって重量増加や整備工程増加が発生するのでは?」

 

「仰るとおりですが、実は飛行中の航空機の機体表面には"境界層"と言う遅い気流が発生してしまうのです。それを吸い込んでしまうと、エンジンの出力が下がり、最悪の場合は停止してしまいます」

 

「つまり…その境界層とやらを吸い込まない為に、わざと隙間を設けているのですか?」

 

「はい、その通りです」

 

「ですが、実機やモックアップ(原寸大模型)が展示されている貴国の現用機にはこのような隙間がありません。特に『F-2A/B』は発展機である『F-2C/D』になり、翼面形状はもちろんエアインテークの形状も変わって隙間が無くなっています。これはいったいどのような意味が?」

 

頭に疑問符を浮かべたベルーノが、F-4EJ改の隣にあるF-2A/Bの模型と、やや離れた位置に展示されているF-2C/Dを見比べるように視線を動かす。

A/B型とC/D型は確かに翼面形状が大きく異なっているが、よく見れば機体の画面に取り付けられたエアインテークの形状が異なる。

A/B型は一点に力が加わったかのような若干の歪曲がある楕円形であるのに比べ、C/D型は機体に沿う形で凹字型のものが密着している。

その姿はミリシアル空軍の制空型天の浮舟(制空戦闘機)である『エルぺシオ3』に似ていなくもない。

 

「あれは『ダイバータレス超音速インレット』と呼ばれる形式でして、俗に『DSI』とも呼ばれます。あちらは貴殿がさっき仰った通り隙間を設ける為に必要な部品や機構を省略し、軽量化・低コスト化を狙った物となります」

 

「うん?では境界層とやらを吸い込んでエンジン性能が下がってしまうのでは?」

 

「その件に関しては問題ありません。綿密に計算された形状により、境界層を"切り裂く"ようにして打ち消す事でエンジンへ正常な気流を取り入れる事が出来るようになっています。設計と製造には高い技術力が必要ですし、飛行中の騒音が大きくなるという欠点がありますが、我々の世界(地球)では技術が進んだ事でそれらの欠点はほぼ解消されています。それにDSIはステルス性を確保する為にも必須ですので、多少の無理をしてでも採用する価値はある技術です」

 

「ステルス性…この博覧会では時折聞きますが、イマイチどのようなものか理解出来ていないのです。レーダーによる探知を無効化する技術、という事以上はなんとも…」

 

「それが理解出来ていれば十分です。レーダーが物体を探知する原理については?」

 

「電磁波が物体に反射した反射波を受信機で捉える…簡単に言えばこうですな」

 

「はい、その通りです。基本的に電磁波とは光と同質であり、物体に当たれば殆ど入射方向に跳ね返されます。しかし、もし電磁波をあらぬ方向に反射(・・・・・・・・)させたり、エネルギーに変換して吸収(・・・・・・・・・・・・)してしまうとしたらどうでしょう?」

 

自衛官の言葉にベルーノは、はっとした様子で何かに気付いた。

 

「そ、そうか!レーダーは反射した電磁波を探知するから、想定外の方向に逸らされたり吸収されてしまえば探知出来ない!」

 

「その通りです。地球ではそう言った技術が発展している為、航空機や艦船、車両もステルス性を意識した設計となっていますし、ステルス兵器を探知する為にあらゆる手段が用いられているのです」

 

神聖ミリシアル帝国は魔帝がいつ何時復活しても対応出来るように国内の様々な基地にレーダーを配備しており、それはそのまま高度な迎撃システムの礎となっている。

しかし、日本はレーダーに探知されない戦闘機や軍艦を保有している…もし、日本を敵に回せばレーダーに映らぬ超音速機や誘導弾を多数搭載した軍艦によって帝国は蹂躙されてしまうだろう。

それに気付いたベルーノは狼狽え、額に冷や汗を浮かべた。

 

「しかし、ステルス性を持つと言っても完全にレーダーから消える事は出来ません。例えばあちらに見える『ながと型』は戦艦に匹敵するサイズですが、レーダー上では小型艦艇に見えるとは言え捕捉出来ますし、航空機に関しても小さく映るだけで捕捉出来ない事はありません」

 

「ほ、ほう…っ…ならば…」

 

「例えばあちらの『たいほう』の甲板上にあるF-35Bはレーダー上では小鳥ぐらいの飛行物体に見えるでしょうね」

 

「こ、小鳥…!?」

 

そんな小さな反応ではミリシアルのレーダースクリーンには映らないし、よもや映ったとしてもそれが小鳥なのかノイズなのか日本の戦闘機なのかは判断出来ないだろう。

一瞬見えた希望すらも容易くへし折られ、ベルーノは顔面蒼白である。

 

「と、ところでステルス性は大体理解出来ましたが、やはり高性能な機体を実現するにはエンジンが重要ではありませんか?貴国の飛行機械が搭載するエンジンについて教えて頂きたいのですが…」

 

「現用機については流石に機密なのでお教え出来ませんが…F-4EJ改に搭載されていた『J79』や『F-1支援戦闘機』に搭載されていた『アドーア』であれば映像資料があります。ご覧になられますか?」

 

「是非!是非ともご教授願いたい!あと出来ればでいいので誘導弾についても…」

 

「そちらも退役済のものならば映像資料がありますので…あ、よろしければご興味のあるご友人やご同僚の方々もお誘い致しませんか?『じぱんぐ丸』の船内で説明会の場を設けますので」

 

「よろしいのですか!?」

 

「はい。この博覧会は2週間を予定しておりますので、その期間中でしたらいつでも。参加者様がお決まりになりましたら手近な者に私の名を…広報官の『井上 美沙(いのうえ みさ)』を出して頂ければ直ぐに用意出来ますので」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

「いえいえ、これから皆様とは友人になるのですから当然ですよ。…では、私はこれで」

 

深々と頭を下げるベルーノへ、井上は優雅に手を振ってポニーテールを揺らしながら人混みへ消えて行った。




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ルーンポリスの休日

次でミリシアル接触編は終了です


カルトアルパスにて開かれた日本博覧会。

軍事技術に関する展示にはひっきりなしに見物客が訪れているが、日本の文化を展示するエリアにも多数の客が詰めかけていた。

 

「お前ぐらい意気地無しはないよホント……。ばか、間抜け、トンチキ!お前なんぞゼリーの角に頭をぶつけて死んでおしまい!」

 

「「「「わはははっ!」」」」

 

日本文化展示エリアでは落語の実演が行われており、生粋の演劇好きで知られるミリシアル人は、たった一人が演じながらも多彩な表現で観客を魅了する落語に夢中なようだ。

無論、日本側もこれまで交流してきた国々からの話でミリシアル人の演劇好きは承知しており、落語を始めとして能や狂言、歌舞伎や講談といった伝統芸能を異世界人でも分かりやすいようにアレンジし、各界の名人に演じてもらっているのだ。

そして、それは何も伝統芸能だけではない。

 

《アニキは死んだ!もう居ない!だけどオレの背中に、この胸に!一つになって生き続ける!》

 

「「「「うぉぉぉぉっ!」」」」

 

ミリシアルには存在しない空想上の人物だけで繰り広げられる映像戯画(アニメーション)は落語等に匹敵…或いはそれらを超える程の衝撃を以て受け入れられ、公開されてから一週間も経っていないというのに熱狂的なファン(アニオタ)が現れる程だ。

 

「いやー、素晴らしい盛り上がりだ。元の世界(地球)では面倒な連中(ポリコレ)が煩かったが、新世界の人々は分かっている(・・・・・・)人達ばかりで嬉しいな…」

 

主人公が乗るロボットが合体する場面で大盛り上がりするミリシアル人を感慨深そうに遠目に眺めるのは、文部科学省でこの度新設された『異世界日本文化発信局』の局長である『小鳥遊 雄一郎(たかなし ゆういちろう)』である。

地球では欧米の過激派フェミニズム団体より目の敵にされ、過剰な修正や発禁の憂目にあっていた日本のサブカルチャーだが、異世界にはそんな無粋な連中は居ない。

何せ日本には肌の色が白黄黒どころか青や緑の人種が大活躍する作品もあれば、エルフやドワーフや獣人が大人気ヒロインとして活躍する作品もある。

そんな多様性を通り越して混沌(カオス)な日本作品は異世界人にとっては夢中になれるものばかりだ。

 

「あのー…」

 

「はいっ、如何なさいました?」

 

熱くなる目頭を押さえていた小鳥遊へ、一人の老紳士が話かけてきた。

シルクハットにモーニング…日本のやんごとなきお方(・・・・・・・・)と見紛うような気品に満ち溢れた立ち姿だが、エルフである時点で小鳥遊の脳裏に過ぎった方々ではない事は確かだ。

 

「私は田舎の…それこそ"都市序列"3桁の町の町長なのですが、日本の事を知りたく遥々カルトアルパスまで出てきたのです。申し訳ありませんが、この田舎者を案内してはもらえませんかな?」

 

「ええ、この小鳥遊が喜んで案内させていただきますよ。えーっと…お名前は?」

 

「『エイルト・ミーシャー』と申します」

 

物腰柔らかく、謙虚な態度というのは日本人に対してはかなり有効的である。

そういった態度を見せる外国人に対して、日本人という民族はとことん甘い為、小鳥遊もエイルトへ職務としては勿論ながら個人的な感情においても和かに対応した。

 

「では、エイルトさん。どちらをご覧になりますか?」

 

「そうですね…。では、日本の食べ物について教えて頂けますかな?私が町長を務める町は日々の食事にあまり変化が無いもので…」

 

エイルトの言葉を聞き、小鳥遊は内心で納得した。

事前情報で、ミリシアルには復活した魔帝からの先制攻撃でルーンポリスやカルトアルパスといった主要都市が壊滅的被害を受けた場合を想定し、各都市に序列を付けて有事の際に指揮系統の移管をスムーズに行えるようにしており、その中でも序列が100以下の都市は正にド田舎であると聞いていた。

そんな田舎の町からすれば、外国の文化に触れるのは正に一生に一度あるか無いかであろう。

 

「分かりました。ではエイルトさんはエルフですので…此方は如何でしょう?」

 

「……これは?」

 

小鳥遊によって日本食展示ブースの試食コーナーにエスコートされたエイルトに差し出されたのは、小皿に載った白い立方体であった。

 

「これは『豆腐』と言いまして、我が国では古くから食べられていた伝統的な食品です。大豆という豆を蒸したものから搾った『豆乳』という液体に凝固剤を混ぜた物で、動物性の原料は全く使用しておりませんが、筋肉などを作るためのタンパク質が豊富に含まれています」

 

「ほう…」

 

エルフは伝統的に肉類をあまり食べない。

しかし、古来よりの経験則で肉を食べないと力がつかない事を知っており、大抵のエルフは仕方なく肉を食べているという状況だ。

しかし、豆腐は肉に頼らずにタンパク質を摂取出来るという点がエルフの伝統と合致しており、事実ロデニウス大陸のエルフコミュニティでは豆腐が一大ブームとなっている。

 

「あむ…んむ…んむ…味は薄いが、微かな甘さと豆の味がして…中々良いものですな」

 

「本来であれば様々な薬味や、醤油という同じく大豆から作ったソースをかけるのですが…どうやら異世界の人々の口には醤油が合わないようでして…。ですので、基本的には野菜とともに煮たり炒めたりしています」

 

「ですが、このトーフとやらは見る限り水気が多くて直ぐに腐ってしまいそうですが?」

 

「確かに仰る通りですが、冷凍乾燥させた『高野豆腐』であれば日持ちしますよ。見た目や食感はかなり変わりますが、スポンジのように味を吸いますので、煮物との相性は抜群ですよ」

 

「ほほぅ…それも興味深いですな。しかし…」

 

何とも名残惜しそうにエイルトは遠くに見える時計台に目を向ける。

 

「実はこの後に別の用事があるのです。もっと日本の事を知りたかったのですが…」

 

「それは残念です。ですが、貴国との国交が開設されれば直ぐに日本製品の輸入が始まるでしょう。そうなればエイルトさんの町でも日本の食べ物が買えるようになる筈ですよ」

 

「ははっ、ではその時まで首を長くして待っていますよ。では…」

 

「はい。また何処かで!」

 

シルクハットを脱いで深々と頭を下げた後に、歩き去るエイルト。

小鳥遊はその背中に再会を願う言葉を投げかけながら頭を下げた。

 


 

ーバムッ

 

カルトアルパスのメインストリートより一本入った裏通りに停まっていた魔導車(自動車)の後部座席にエイルトが乗り込む。

 

「…ご満足頂けましたか?」

 

「15分以内というのは厳し過ぎる。せめて孫達への土産ぐらい買わせぬか」

 

「孫達って…荷車が何台あっても足りませんよ?しかも、今の貴方(・・・・)は田舎の町長なんですから、そんな大金は持ち歩けませんよ…」

 

「ならば、日本との貿易が始まればルーンポリスに日本製品の販売店を作るぞ。可能な限り、『アルビオン城』の近くにな」

 

「恐れながら陛下(・・)、それは警備上難しいかと…。それより、そろそろその変化魔法を解除されては?この魔導車の中であれば外からは見えません」

 

「この姿は楽なのだがな…」

 

そう仕方なさそうにボヤくエイルトと、呆れたような運転手を乗せ、魔導車は密かにカルトアルパスを駆け抜けた。




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極右思想の一族

次回からはムー接触編です
多分、待っていた方も多い事でしょう


神聖ミリシアル帝国の首都『ルーンポリス』にそびえる『アルビオン城』。

世界最強の国家である同国の中枢たるその城では現在、皇帝を始めとした首脳陣による帝前会議が行われていた。

その会議の議題は無論、突如として現れた超科学文明国『日本国』についてである。

 

「では、陛下。こちらが日本との国交開設を証明する調印書及び、日本との協商条約調印書となります」

 

「うむ」

 

外務大臣である『ぺクラス・ドルマゲード』が恭しく差し出した皮の装丁が施された文書類を受け取り、重々しく頷きながら内容を確認するのは、神聖ミリシアル帝国に君臨する皇帝『ミリシアル8世』だ。

 

「……ふむ、問題はない。しかし、いくつか確認しておきたい。国交開設に伴う各種取り決めに関しては余が日本を列強国相当として取り扱うように、と指示したが故に特に言う事は無いが…協商条約についてだ」

 

ミリシアルは下位列強以下の国々とは異なり、奴隷や植民地等は廃止しており、勿論日本に対しても一方的な搾取を目的とした要求は行っていない。

関税自主権を始めとした取り決めは、正に異世界における先進国としてあるべき姿だ。

しかし、ミリシアル8世が気にしたのはミリシアルと日本の間で結ぼうとしている協商条約…貿易や両国間における人々の移動についての取り決めである。

 

「輸入品に対する関税の税率に、防疫の点から禁輸に指定すべき物品は問題無い、よく出来ておる。しかし、この『技術交流を目的とした両国間の官民挙げての人員交流』、これはどのような意図があるのだ?」

 

「陛下、その件に関しては私が…」

 

ミリシアル8世の問いかけに応えたのは、軍務大臣『シュミールパオ・ラック』だった。

 

「カルトアルパスにて日本が開催した博覧会において日本の高い技術力を我々は否応無しに理解しました。ですが、我々はただ打ちのめされただけではありません。日本は優れた流体力学や加工技術によって高性能な兵器をいくつも開発しており、それは科学によるものながら幾つかの技術は我々(魔法文明)にも応用出来るものがありました」

 

そう言ってシュミールパオは会議室に設置されている大型モニターを操作する。

 

「此方は技術研究開発局がテストベッドとして運用している天の浮舟『エルぺシオ1』ですが、博覧会中に得られた知見を元に各種の改良を行ったところ、速度は最新鋭機である『エルぺシオ3』に匹敵する物となる等、大幅な改善が見られました。また、現在は『ルーンズヴァレッタ魔導学院』にて日本の『J79』なるエンジンを参考にした新型の『魔光呪発式空気圧縮放射エンジン(マジックジェット)』と、『F-86D セイバードッグ』という亜音速後退翼機を参考とした機体を開発中であり、これらは従来の天の浮舟を上回る性能になる可能性が非常に高いとされています」

 

モニターに映し出された航空機を示しながら言葉を続けるシュミールパオ。

 

「ルーンズヴァレッタの研究者達は日本が持つ技術を解析すればより高性能な…超音速機や誘導弾の実用化すら可能であると証言しています。ですので、我が国が魔帝復活に備える為には…」

 

「日本の技術が必要不可欠である。そうであるな?」

 

「はい。しかし、日本もタダで技術を与える愚は犯さないでしょうし、金銭による取引となりますと多額の情報料を要求されかねません。ですが、幸いな事に日本は魔導技術に大きな関心を寄せているようでして、特に魔石の加工技術については国交開設交渉の場で非公式ではありますが、技術移転を打診された程です」

 

「ふむ…日本は魔法が存在しない異世界から転移してきたと自称しておったな。もし、それが事実であれば彼らにとって未知の技術である魔法は魅力的な資産なのだろう。……良い。ではこの技術交流を前提とした人員交流はこのままで進めよ。ただし、くれぐれも開示する技術は精査するように。日本側もそうするであろうからな」

 

「「ははーっ!」」

 

ミリシアル8世の言葉にぺクラスとシュミールパオが平伏するように頭を下げる。

 

日本との付き合い方を考える帝前会議は、日が沈むまで続けられた。

 


 

神聖ミリシアル帝国東部、『ミルキー王国』との国境近くにある序列18位の都市『エパ・レサス』。

地方議会の会議室では、市長である『パーヴェル・レサス伯爵』を始めとした市政を司る地方議員達が集まっていた。

 

「諸君、中央議会は日本との国交を開設したようだ。内容としてはまるで日本を列強国と見ているかのような消極的な各種条約…まったく以て嘆かわしい!ポッと出の新興国、しかも下劣な科学文明国を貴人のように扱うなぞ、神聖帝国の名が泣く!」

 

憤りを隠しもせず、テーブルに拳を叩きつけるパーヴェルに議員達はそうだそうだと同意し、中央政府を痛烈に批判する彼を称賛する。

神聖ミリシアル帝国は魔帝の先制攻撃に備えて各都市が首都として機能出来るように地方自治制度を整備していたのだが、それは近年になって悪い方向に地方自治が進んでしまっている。

特に顕著なのがエパ・レサス地方議会のような魔法文明・ミリシアル至上主義政党…つまりは極右政党の台頭だ。

彼らは「魔帝に対抗出来るのはミリシアルだけであり、他国はミリシアルの為に資源を供出し、有事の際は弾除けになって散るべきである」といった身勝手な思想を持ち、「科学文明なぞ魔法も使えぬ劣等種族の苦肉の策」と断じる、正に厄介な連中なのである。

特にエパ・レサスは中央政府から離れている上に代々統治するレサス伯爵家がそういった極右思想の持ち主である事から、ミリシアルにおける極右の総本山となっているのだ。

 

「しかも日本はフィルアデス大陸の東…つまり、我が国は東は日本、西はムーという野蛮な科学文明国に挟まれてしまったのだ!野蛮で蒙昧な科学文明人はいつ、どのような卑劣な手段で他国を侵略し、魔帝に対抗する我が国を妨害するか分かったものではない!よって私は、日本を滅ぼすべく見込みのある友人(・・)へと援助を行っている!早ければ2年後には日本は滅び、中央政府は蛮国に尻尾を振った己の愚かしさを思い知る事となるだろう!その時こそ弱腰の中央政府を糾弾し、我々が帝国の中枢となる時である!皆の者、神聖帝国が世界帝国となる日は近いぞ!」

 

「レサス伯爵万歳!」

「伯爵!一生着いて行きます!」

「日本もムーもこの世界には要らない!」

 

熱狂と称賛の中、パーヴェルはワイングラスを掲げて悦に浸っていたのだった。




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技術に囚われた男

更新が遅れてしまい申し訳ありません


神聖ミリシアル帝国での博覧会、並びに国交開設交渉を無事に終えた日本は続いて第二列強にしてこの世界では数少ない科学文明国である『ムー』の商業都市『マイカル』へ艦隊を寄港させ、博覧会を開催していた。

 

「すごい!すごいすごいすごいぞ!これが日本!これがムーが転移した後の地球の技術か!」

 

駐パーパルディア皇国大使である『ムーゲ・ニソー』と日本の外交官による接触によってムーと日本は同じ世界からこの世界に転移してきた事、また日本はムーが地球にあった頃の友好国であった『ヤムート』の末裔である可能性が非常に高い事が判明し、同じ科学文明立国である事も相まってムー国民の日本に対する関心は最高潮となっている。

それを示すようにカルトアルパスでの博覧会よりも多くの見物客が押し寄せ、入場制限を設けなければならない程であった。

 

「これが"戦車"か…。なんて大きさだ。まるで要塞じゃないか!」

 

開場三日目である本日はムーの政府・軍関係者のみ入場可能となっており、幸運にも入場を許可されたムー軍随一の技術士官としてちょっとした有名人である『マイラス・ルクレール』は高すぎるテンションのまま、陸上自衛隊の装備品を展示したブースの一角に存在感満々で鎮座する『33式戦車』の周りをグルグルと歩き回る。

 

「44口径長130mm砲を主砲に、主砲脇の7.62mm機関銃、砲塔上面には12.7mmもしくは20mmの遠隔操作式重機関銃。平地であれば時速70kmで走行可能…防御力に関しては詳しく書かれていないけど、きっと自分の主砲に耐えうるぐらいはあるはずだ。すごい…すごいぞ!正に陸上戦艦じゃないか!もしムー陸軍と陸上自衛隊がぶつかったらこちら(ムー陸軍)は手も足も出ないぞぉぅ!」

 

自国の軍が負けると言う予想を立てているというのに何処か嬉しそうなマイラスであるが、技術オタクな彼はムーが去った後の地球がこんなにも高い技術に到達している事に喜びを覚えているのだ。

 

「おっ!こっちは搭載する砲弾かな?なになに…多目的榴弾に、徹甲榴弾…これは…装弾筒付翼安定徹甲弾?……ほー…発射と同時に周囲の筒が外れて、真ん中の細長い矢のような弾体のみが飛翔する仕組みか。なるほど…これなら発射のエネルギーを一点に集中出来ると言う訳か。…1m以上の厚さの均質圧延鋼装甲を貫通可能!?軍艦でも相手にするのか!?」

 

ムー軍、特に陸軍は他国への侵攻よりも領土防衛を主軸としており、有事の際は塹壕や掩体壕、トーチカを駆使する事によって敵軍を一歩たりとも進めさせないというドクトリンをとっている。

しかし、33式のような戦車があればどうなるか…幅広の履帯は塹壕や障害物を軽々と乗り越え、巨大な砲は掩体壕やトーチカを易々と破壊し、その強固な装甲は機関銃や野砲を弾き返す事であろう。

そうなれば列強最強の陸軍(・・・・・・・)と謳われたムー陸軍は蹴散らされてしまう。

 

「うむむむ…見れば見るほど凄まじい兵器だ…!しかし、この兵器は純粋な科学文明の産物。我が国も時間はかかるだろうが、戦車を開発出来るはずだ!」

 

幸いな事にムーには履帯を備えた農業用トラクターが実用化されており、また高初速砲を製造する技術もある。

いきなり33式レベルとはいかないかもしれないが、それでも戦車を開発する事は不可能ではない筈だ。

そう考えるマイラスは技術士官としての使命に燃えていた。

 

「こっちは…『10式戦車』というのか。なになに…33式と同時運用されていて、33式は広大な土地における敵の大戦車部隊との決戦に、対して10式は都市部や起伏の多い地域における敵特殊部隊や軽装甲車部隊を排除する為に運用されている…か。なるほど、確かに10式は33式より一回りぐらい小さいな。だけどこっちもかなりの大きさだし、主砲だって120mmだ。それにこっちは縮尺模型だけど、『90式戦車』ってのもある。90式は33式の純粋な前世代型なのか…という事は日本にとっては型落ちの兵器…。うーん…技術屋がこう言っちゃなんだが、日本が90式、欲を言えば10式を売ってくれれば良いんだが…。あと出来れば技術移転も…」

 

ムーはムー大陸の半分を治める大陸国家であり、強力な陸上戦力…特に戦車のように火力・防御力・機動力を併せ持った兵器は喉から手が出る程に欲しい。

時間をかければ一から開発する事も出来るであろうが、日本と同レベルになるには何十年かかるか分からない。

 

「我が国と日本は離れているし、まだ100%確定している訳ではないけど、同郷の古馴染みだ。政府が余程下手な真似をしなければ兵器輸出ぐらいは…」

 

ブツブツとつぶやきながらマイラスが向かったのは、歩兵用装備が展示されているブースであった。

 

「おっと、大物もいいけどやっぱり陸戦は歩兵が重要だ。ほうほう…これが日本の歩兵銃か。5.56mmの軽量高初速弾を用いる"アサルトライフル"と言う連射銃で、アルミニウム合金と樹脂(プラスチック)を多用した軽量な設計…あ、持っても大丈夫なんですね」

 

展示台に置かれている『20式小銃』を前にしてパンフレットと見比べていると、近くに居た広報官から実際に持っても大丈夫だと言われ、興味津々な様子で20式を構えてみるマイラス。

 

「…軽い。我が国の制式採用歩兵銃は装弾数5発の手動装填(ボルトアクション)で約4kg…対してこっち(20式)は装弾数30発で連射が可能なのに同じぐらいの重さだ。しかも銃床や頬当てが可動式で、扱う兵士が好きに調整出来る…素晴らしい銃だ。こんな銃が全軍に配備されているのなら、全歩兵が機関銃を持っているようなものじゃないか」

 

展示用に作られた20式の無稼働実銃の可動式ストックやチークピース、セレクターなどを検分するマイラスは、こんなにも精巧な銃を大量配備する日本の技術に驚愕しきりだ。

 

「え?これは配備が始まったばかりの装備なのですか?…えぇ!?装備体験までよろしいのですか!?」

 

一頻り20式を検分し終えたマイラスへ、広報官が展示品を指差しながら案内する。

マイラスが案内されたのは、自衛隊が配備しているパワードスーツ『34式強化戦闘服』に『29式12.7mm重機関銃』と『31式狙撃擲弾銃』の無稼働実銃を搭載した物を着用体験出来るエリアだった。

 

「おっ…おおっ!軽い!体が軽い!まるで何も持っていないような…いや、むしろ見えない力で体の動きを補助されているかのようだ!」

 

29式と31式、それらの弾薬のダミー合わせて合計重量は50kg以上にもなるが、装着者であるマイラスにはその重さは全く伝わってこない。

こんなにも高性能な補助具が一切の動力を使わずに稼働しているのは驚愕の一言だ。

 

「これ…欲しいなぁ…。絶対必要になる装備だ。政府には何が何でも日本との友好関係を構築してもらいたいものだ」

 

やはりムーの発展の為には日本との友好関係が必要である。

それを改めて痛感したマイラスは、34式を纏ったまま飛んだり跳ねたりしていた。

 




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ロボタンク

色々と忙しくて更新が遅れました


マイカルにて様々な展示が行われている頃、市街地より離れた位置にあるムー陸軍マイカル連隊の基地の射撃場では、多数のムー軍人と少数の日本の自衛官が集まっていた。

 

「えー、ではこれより我々(陸自)が運用する車両の走行実演及び搭乗体験会を開催致します。本日、皆様の案内を務めるのは私『雁臼 大渡(かりうす おおと)』です。気軽に"雁臼"と呼んで下さい」

 

用意された木箱の上に乗り、拡声器越しに名乗った雁臼にムー軍人達の視線が向くが、彼らの意識は雁臼の背後に並べられた自衛隊車両に釘付けだ。

 

「皆さん、私より私の後ろにある物が気になりますよね?……あぁ、大丈夫ですよ。お気持ちは分かりますので。では早速、車両の説明に移りましょうか」

 

雁臼の言葉に気不味そうにするムー軍人達だが、彼らの内心を察している雁臼は軽やかな足取りで木箱から降りると、整然と横に並べられた車両の右端へと歩み寄った。

 

「先ずはこちらは『1/2tトラック』という車両です。乗車定員6名、積載量440kgであり輸送用車両の中では最も小型の物ですが、民生品がベースとなっているので乗り心地や燃費が良好なので広く使われています。前線で直接撃ち合うような車両ではありませんが、幌を外せば荷台に機関銃を搭載する事が出来ます。あ、因みに本車は先程言ったように民生品ベースですので、暖房や冷房が備え付けになっているので快適ですよ」

 

「となると日本車には暖房と冷房が当たり前に装備されているのか…」

「暖房ならまだしも冷房が付いた車なんて、我が国では国王陛下や首相が乗る専用車ぐらいしかないぞ」

 

「では続いて此方の車両は『高機動車』と言いまして、こちらも幅広く使用されている車両となります。10名の人員、或いは2トンの物資を積載可能となっており、バリエーションとして各種誘導弾、レーダー、大型発電機を搭載した物があり、陸上自衛隊以外にも航空自衛隊の基地警備用として多数が配備されています。今回の展示車両は市街地に浸透した敵部隊との戦闘を考慮し、追加装甲や遠隔操作式機関銃を備えたタイプとなっております」

 

「日本の誘導弾はこんな車両にも搭載出来るのか…」

「しかし、さっきの1/2tトラックと比べたらかなり大きいぞ。こんな図体で市街地戦闘が可能なのか?」

 

「それに関しては問題ありませんよ。本車は確かに大柄ですが、4WSというステアリング機構が備わっていまして、曲がる際は前輪だけではなく後輪も若干ながら可動するので意外と小回りが効くのですよ」

 

ギャラリー(ムー軍人達)から挙がった疑問に答えつつも、雁臼は3トン半や7トンといったトラックの解説を行っていき、遂には一際存在感を放つ車両の前へと辿り着いた。

 

「こちらは現在マイカルで行われている博覧会で展示されている33式戦車の車体を流用し開発された重装甲型歩兵戦闘車『33式歩兵戦闘車』となります。隊員内では33IFVと呼ばれていますね」

 

雁臼が示したのは、33式戦車によく似た姿を持つ装軌式車両であった。

これこそ89式歩兵戦闘車以来の歩兵戦闘車となる『33式歩兵戦闘車』である。

本車は33式戦車の車体を流用して開発されたのだが、33式戦車自体がウクライナ戦争後に日本政府に引き抜かれたロシア人戦車開発者の協力を得た上で、更には乗車保護能力に定評のあるイスラエルの『メルカバ』を参考に開発されたものなのだ。

その為、33式戦車は車体前方に頑強なディーゼルエンジンを搭載、その後ろに4名の乗員を収容する装甲カプセル、その後ろは弾薬庫となっており、爆発物と乗員を完全に隔離する事で高い乗員保護性能を担保しているのだ。

そしてそのような特異な構造を有している事から本車の後方は弾薬を下ろせばそれなりのスペースを確保出来る為、陸自は本車をベースに30mm機関砲を装備した砲塔に挿げ替え、130mm砲弾を収納していた弾薬庫を乗車スペースとする事で主力戦車に匹敵する防御力を持ちつつも、8名のパワードスーツを装備した歩兵を収容出来る重IFVこと33式歩兵戦闘車としたのである。

 

「すいません、歩兵戦闘車とはなんですか?」

 

「あぁ、そっか…この世界には歩兵戦闘車は無いのですね。えー、歩兵戦闘車というのは前線まで素早く安全に歩兵を運搬出来る速度と装甲を備えつつも、敵装甲車両との戦闘も行える攻撃力を持った戦闘車両です。場合によっては敵戦車すら撃破可能なので、地球においては重宝されていました」

 

「なるほど…」

 

「はい。本車の武装は30mm機関砲なので正面からの撃破は不可能ですが、対戦車誘導弾を搭載可能なので十分戦車に対抗出来る攻撃力は確保されていますよ。では続いて…こちらを紹介致します」

 

続いて雁臼が示したのは、33IFVよりかなり小さな─半分とまでは言わずとも30〜40%程小さい─装軌式車両であった。

 

「此方は今年になって部隊配備が始まった最新鋭の戦闘車両『36式無人戦闘車』です」

 

「無人!?」

 

誰かの驚愕した声が一気に波及し、ムー軍人達が大きくざわめく。

それが落ち着くのを待ち、雁臼は解説を始めた。

 

「皆さん、大変驚いているようですが、本車は皆さんの想像通り無人で戦闘が出来る(・・・・・・・・・)車両となります。……皆さんの中にはマイカルでの博覧会をご覧になった方もいらっしゃいますでしょうが、もちろん33式戦車はご覧になりましたよね?」

 

雁臼の言葉に十名程が頷く。

 

「では、こう思ったのではありませんか?…なぜ33式戦車は4名搭乗出来るのに、乗員は車長、砲手、操縦手の3名だけなのだろう、と…」

 

「あ…」

「た、確かに…」

「そう言えばそう思った…」

 

33式戦車の乗員区間は通常の自動車のように縦横2列に座席が配置されており4名搭乗可能だが、90式・10式から引き続き自動装填装置を採用しているため装填手が不要である。

それ故になぜわざわざ4人目のスペースを確保しているのか…33式戦車を見学した者達はそれを気にしていたのだ。

 

「その疑問の答えがこれ(・・)です。33式戦車、並びに33式歩兵戦闘車の4人目の乗員こそが、36式無人戦闘車の制御を担う『無人兵器管制手』なのです。元々は空から偵察を行う小型UAV(ドローン)の操作を行っていたのですが、36式の実戦配備によって本来の能力を発揮出来るようになったと言えますね」

 

「あ、あの!33式戦車では3名の乗員が必要でしたよね?なのに36式無人戦闘車はたった1名で、しかも遠隔操作が出来るのですか?」

 

「その件については問題ありません。36式は搭載したレーダーや各種センサーから得られたデータを人工知能(AI)によって解析処理する事で完全に単独で戦闘を行う事が可能なんです。ただ、誤射や不測の事態を回避するために無人兵器管制手が監視し、場合によっては遠隔操作や強制停止を行う事になっています」

 

「な、なるほど…因みに武装は…?」

 

「33式戦車と同様の44口径長130mm砲を主兵装とし、12.7mmや7.62mmの機関銃、更には敵歩兵による肉薄攻撃や対戦車兵器を迎撃するためのアクティブディフェンスシステムも搭載しています。人が乗っていない以外は戦車と変わりません。あと余談ですが本車の管制システムは非常にコンパクトですので、先程紹介しました1/2tトラックや高機動車に搭載して運用する事も可能です」

 

「なんと…」

 

40代後半と思わしきムー軍人が頭を抱える。

彼はムー西部方面隊の主力部隊が置かれたキールセキ駐屯地の司令官『マクゲイル・セネヴィル』と言い、国境に近いため彼が指揮する部隊はムー陸軍有数の精鋭なのだが、彼の部隊を以てしても陸自の戦闘車両に勝てる気が全くしない。

例え決死の自爆攻撃で1両や2両撃破しても無人車両ならば人的損害を与える事すら出来ないのだから、マクゲイルの苦悩も当然である。

 

「おっと、少し解説に時間を取りすぎましたね。ではそろそろ搭乗体験会に移りたいと思います。これよりどなたがどの車両に搭乗するかを抽選しますので、番号を呼ばれた方は前へお越しください。えー、では36番の方ー…」

 

マクゲイルの苦悩を知ってか知らずか、雁臼は箱に入ったクジを引き、書かれた番号を読み上げてゆく。

余談だが、マクゲイルは幸運にも33式歩兵戦闘車に搭乗する事が出来たのだが、日本の戦闘車両を間近に感じて更に打ちひしがれる事となった。

 

 

 

 

 




特にプロットなんかは作ってないので矛盾や以前の話との食い違いが発生するかもしれませんが、気にしないで下さい


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マイルド・スピード

ムー接触編は次回で一区切りです


場所は再びマイカルの日本博覧会会場。

マイカル港に停泊した豪華客船『じぱんぐ丸』の応接室。

そこでは二人の男性がテーブルを挟んで向かい合っていた。

 

「初めまして。私は『ガラッゾ・オートモービル』取締役専務の『マヒルダ・ガラッゾ』と申します」

 

名刺を差し出したのは、ムー最大の自動車・二輪車製造メーカーであるガラッゾ・オートモービル現代表取締役社長の息子にして、取締役専務を務めるマヒルダ。

それに対し、対面に座る男性も名刺を受け取りつつ、自らの名刺を差し出した。

 

「これはこれはご丁寧に…こちらこそ初めまして。私は『スザキ株式会社』社内相談役の『洲崎 徹(すざき とおる)』と申します」

 

洲崎 徹…その名は日本の自動車業界において知らない者は居ないとされる人物だ。

軽自動車やコンパクトカーを主力商品とするスザキ株式会社を成長させ、転移前はインドにおいてスザキ車のシェア50%を達成させた経営手腕を持ち、代表取締役を退いた現在でも社内相談役として存在感を放つ敏腕経営者である。

しかも御年105歳、人呼んで『自動車業界の長老』『軽自動車の妖怪』…その渾名は数知れないが、そんな彼が老体ながらも長い船旅で遥々ムーまで来たのには理由がある。

 

「マヒルダさん、早速ですが…我が社の自動車は如何でしたか?」

 

「えぇ、私は貴社の『ワゴンL』でしたか。それに試乗しましたが…もう、何と言っていいか分かりません。静かで、乗り心地が良く、運転し易く、更には燃費まで良いと言う話ではありませんか。一言で言うなら"素晴らしい"に尽きますよ」

 

洲崎からの問いかけに、マヒルダは悔しさ半分といった様子で応える。

今回の日本艦隊による主要国訪問には民間技術を展示しており、当然ながらそこには日本が世界に誇る自動車の展示もある。

しかし、それはあくまでも"展示"に過ぎず、試乗をするに留まるものだ。

だが、スザキは他社に先んじて動いている。

 

「それは良かった。あの自動車は我が社躍進の象徴と言える製品ですので」

 

「それは納得ですが…貴殿からのご提案、あれは本気なのですか?」

 

「勿論です。このような場で無意味な社交辞令を言ってあなた方の期待を裏切るような事は致しません」

 

「という事は…?」

 

「えぇ、我々スザキ株式会社はムーへ我々が持つ自動車生産技術を移転(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)しましょう」

 

洲崎の言葉にマヒルダは目を見開き絶句する。

そう、スザキは他の自動車会社に先駆け、異世界での海外工場設置を企てているのである。

 

「し、しかし…自動車は謂わばその国の技術の集大成ですよ?エンジンは勿論、優れたタイヤやサスペンション、ギアボックス等軍事転用されかねない技術の塊です。そのような自動車の製造ノウハウを貴社の独断で我が国(ムー)に移転しても良いのですか?」

 

「それに関しては問題ありません。我が国と貴国の国交開設及び通商条約締結が恙無く完了すれば、我が国の自動車生産技術を貴国に移転しても構わないと了承を政府より頂いています」

 

スザキは他社に比べれば小さな会社だ。

日本どころか世界一の自動車メーカーである『トヨハタ』、二輪車・ビジネスジェットでも頭角を示す『コンダ』、軍需産業にも深く関わる『ミツバ』に比べればスザキは吹けば飛ぶような規模ではあるが、故に意思決定に必要とするプロセスはコンパクトに済む。

そこでスザキは現取締役社長を筆頭に失ったインド市場を補うべく、政府と直接交渉をしてムーへの工場設置許可を得ていたのだ。

 

「なんと…随分と根回しが早いもので」

 

「伊達に長生きはしていませんよ」

 

舌を巻くマヒルダに対し事もなさげに返す洲崎。

しかし、洲崎が行った根回しは政府に対してだけではない。

というのも洲崎は他社との協議により、自社を異世界における斥候(・・)にすると説明したのだ。

これは簡単に言えば工場が問題なく操業出来るか、どのような車種が売れ筋なのかをスザキが検証し、そのノウハウを他社と共有するという事だ。

これにより他社は危険な賭けをする事無く工場設置や異世界向け新型車の開発を行う事が出来、スザキは危険と引き換えに他社に先駆けて異世界での大規模生産を行えるのである。

 

「それで、かなり気の早い話ですが貴社からの技術移転はどれぐらいの時間がかかりそうですか?」

 

「試乗して頂いたワゴンLと同じプラットフォームを使用している車種の生産設備に関しては直ぐにでも移転出来ますよ。あの手の自動車は法改正で売れ行きが落ちたので、維持していても意味が無いのですよ」

 

日本で庶民の足として親しまれている軽自動車だが、2030年に施行された法律で軽自動車は従来よりボディサイズが拡大され、エンジン排気量も660ccから880ccとなった。

それにより従来の軽自動車は"旧規格車"となり新車の売り上げは激減し、多くのメーカーは"新規格車"の製造に切り替えており、その際に不要となった旧規格車の生産設備が日本国内にあぶれているのである。

その為、スザキとしても不要な設備を処分する事が出来、またムーはまだまだ使える設備を入手出来、更に日本国内の旧規格車ユーザーもムー製造のパーツが入手出来る…正に三方に良し、な計画だ。

 

「ですが、あの自動車は我々では概念すらも無い"半導体"という部品が使われているのですよね?」

 

「はい、その通りです。本来なら半導体も貴国で製造出来れば良いのですが、流石に半導体の現地製造は政府からの許可が降りませんでした。ですので、半導体は我々が製造して輸出しますので、そちらはエンジンやボディを製造、ムー国内で組み立てるという方式に致しましょう」

 

「なるほど…確かにそれならどうにかなりそうです。とは言ってもあれ程の剛性を持ったボディと、静粛性に優れたエンジンの製造は一筋縄ではいかないでしょうが…」

 

「はっはっはっ、それについても我々が全力でサポート致しましょう。定年で暇を持て余しているウチの若いの(・・・)を再雇用して指導員として派遣しますよ」

 

「何から何まで…本当にありがとうございます。しかし、私達は大したお礼なんて出来ません。本当によろしいのですか?」

 

至れり尽くせりな提案にマヒルダは申し訳無さそうに問いかける。

すると須崎は年を感じさせぬ軽い挙動で立ち上がると、半分飾りのような杖を片手に窓辺に歩み寄った。

 

「……その昔、我が国の自動車は嫌われていました。安く、性能の良い日本車は他国の自動車メーカーを危機に曝し、多くの失業者を生み出す原因となったのです。私はそれを間近で見ていました」

 

窓から見えるマイカルの街並みを一目見ると、再びマヒルダへ目を向けた。

 

「それから私は常々こう考えているのです。"ただ作り売るだけではなく、人々に寄り添う製品を作るべき"だと…。だからこそ私はあなた方に寄り添いたい。同じ科学文明国として、同じ地球で生まれた者として、共に歩んで行きたいのです」

 

 

 

 

 

 

 




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新兵器の為の対抗策会議

色々と忙しくて遅くなりました
申し訳ありません


──ボォォォォォォ……

 

遠くで汽笛が鳴り響き、微かに人々の歓声が聴こえる。

二週間にも及ぶ博覧会と外交交渉を終え、無事にムーとの国交開設に至った日本国艦隊が次の目的地であるレイフォルへと出港して行くのを、ムーの人々が見送っているのだ。

 

「レイフォルはグラ・バルカス帝国なる国によって支配されているが…まあ、彼ら(日本)ならば大丈夫だろう」

 

港を遠くに望むムー国防軍マイカル防衛局の建物の会議室の窓に寄り掛かって参謀本部の大佐『ミック・マルダー』が呟く。

 

「大佐、参加者の方々が揃いました。始めましょう」

 

「うむ、そうしよう」

 

秘書からの言葉を受け、ミックは会議室に並べられたテーブルの一角に歩み寄ると、集まった30名程のムー国防軍関係者達を見渡した後に口を開いた。

 

「では皆さん、これより日本国に対する認識を共有する為の会議を行います。皆さんから何かありますでしょうか?」

 

「では、私からよろしいでしょうか?」

 

初めに挙手したのは、ムー陸軍屈指の精鋭である西部方面隊を率いるマクゲイル・セネヴィル大佐だ。

 

「マクゲイル大佐、どうぞ」

 

「では…先ずは陸軍である私から見た日本陸軍(陸上自衛隊)の戦力についてですが…正直に申しまして我が国は勿論、神聖ミリシアル帝国陸軍でさえも鎧袖一触に屠ってしまうでしょう」

 

「西部方面隊の幹部である貴官がそう評するとは…私もある程度は聞き及んでいますが、その判断に至った理由を説明して頂けますか?」

 

「はい。そもそもの話として日本には我が国には存在しない強力な兵器が幾つも存在します。先ずは戦車…この兵器は主武装である130mmもの口径を持つ高初速砲と副武装として8mm級及び13mm級の重機関銃を装備し、複合装甲と呼ばれる2000mmもの厚みを持つ鋼鉄板に相当する防御力を持つ装甲に覆われ、その上で無限軌道によってあらゆる地形を走破し、最高で70km/hもの速度で走行する事が出来ます。正に動く要塞…もし、我々が戦車を撃破しようとするならば重砲の直撃か、大量の爆薬を埋めた地点に誘い込むぐらいしか打つ手がありません」

 

「ふーむ…私も展示されている物を見学しましたが、そんなにも手強い相手なのですか?」

 

「えぇ、手強いどころの話ではありません。他の方面隊幹部と話合ってシュミレーションをしてみましたが、1台の戦車を撃破する為には鉄筋コンクリート製のトーチカや各種火砲、精鋭の戦闘工兵を一個師団分用意してやっと勝てるかどうか…と言ったところです。しかも日本陸軍は戦車を4台1組として運用し、場合によっては無人戦車をさらに4〜8台追加で運用する想定であるようです。そうなれば単純計算ではありますが、それだけで12個師団に匹敵する戦力となるでしょう」

 

「12個師団!?」

「陸軍の常設師団は24個…つまり戦車とやらの部隊が陸軍の半数に匹敵する戦力だと言うのか!?」

「わ、我が国も戦車の開発をすべきだ!」

 

「静粛に!……マクゲイル大佐、他には?」

 

マクゲイルが提示したシュミレーション結果に参加者から次々と驚きの声が挙がる。

それに対し進行役であるミックは狼狽する参加者らを静かにさせると、マクゲイルへ続きを話すように促す。

 

「後は砲兵火力も圧倒的です。射程40kmを超え、目標まで誘導される自走能力を持つ重砲や、軽便な車体に搭載されながらも105mmという口径を持つ榴弾砲…さらには航行する艦船を射程外から一方的に攻撃する事が出来る地対艦ミサイル(・・・・・・・)と呼ばれる対艦誘導弾に、地上部隊の空を守る対空誘導弾の数々…もし、日本が我が国に上陸して橋頭堡を築かれれば最後、二度と奪還は出来なくなる事でしょう」

 

「なるほど…つまり日本と敵対するのは得策ではないと…」

 

「先の博覧会も我々にそう思わせる為の策略なのでしょう。そして、我々がそう思った以上、日本の策略はまんまと成功したと…」

 

「失礼、私からもよろしいか?」

 

マクゲイルとミックが日本の実力を改めて噛み締めていると、参加者の一人である海軍准将『レイダー・ガーランド』が挙手した。

 

「レイダー閣下、どうぞ」

 

「では…マクゲイル大佐からの情報は非常に有意義なものだった。確かに日本陸軍による上陸を許せば我が国は壊滅的な被害を被るだろう。しかし、上陸をする為には我々海軍を突破しなければいけない。如何に優れた陸軍戦力を持っていようが海で隔てられている以上、艦隊決戦に勝利せねば上陸は果たせない」

 

「ではレイダー閣下は日本の艦隊を…」

 

「うむ、自信を持って勝てないと言おう」

 

「えぇ…」

 

レイダーから飛び出た"勝てない"という発言にミックは困惑の表情を浮かべる。

 

「まぁまぁ、そんな顔をしないでくれ。私だって得られた日本艦隊の情報を精査し、その上で机上演習の真似事をして色々とシュミレーションしたのだよ?しかしだねぇ…30ノットで走り回り、100kmもの射程を持つ砲、400kmもの射程を持つ対艦誘導弾、無数の対空誘導弾を装備した艦船をどう倒せばよいのだ?しかもそれだけではなく、超音速機を搭載した空母に、水中に潜って魚雷なる兵器で喫水線下を攻撃する"潜水艦"なる艦船…どう足掻いても我々がどうにか出来る相手ではない」

 

「そ、そうなのですか…」

 

「あ、あのっ!」

 

レイダーの言葉を受けて天を仰ぐミックへマイラスが挙手する。

 

「その潜水艦という艦船ですが、どうにかなるかもしれません」

 

「君は確か…」

 

「技術士官のマイラス・ルクレールです。私も自分なりに色々と推測してみたのですが…潜水艦を探知するには音と磁気(・・・・)が重要になると思います」

 

「ほう…」

 

「先ず潜水艦は自発的に潜水出来る事から、深度が浅ければ目視での発見、浮上していれば近年実用化されたレーダーによる発見が可能でしょうが、水深50m以上に潜られればそれらも不可能になるでしょう。しかし、音は別です。鯨のような一部海棲哺乳類が音波によって遠方の同族とコミュニケーションを行うように、音波は水中では空気中より遠くに届く特性があります。これを利用し、潜水艦が発する音を探知すれば大まかな位置が割り出せる筈です」

 

「なるほど…水中の音を察知出来るような装置があれば良いのか」

 

「はい、そう言った装置がいくつかあれば測量の要領でより細かい位置を特定出来るでしょう」

 

「「「おぉ…」」」

 

未知の兵器への対抗策を自力で編み出したマイラスへ参加者達(ギャラリー)の感嘆の声を投げかけるが、レイダーは更に問いかける。

 

「君は音と磁気と言ったな?音は理解出来たが、磁気はどういう事かね?」

 

「はい、えぇ…っと…これ、借りますね」

 

レイダーからの問いかけを受け、マイラスは会議室の壁に取り付けられている黒板から磁石を拝借すると自身が身に付けていた安物のネクタイピンにくっつけた。

 

「日本の技術は優れていますが、基本的な部分は我々も知る技術の延長線上にあると思われます。ですので、おそらく艦船も基本的には金属…鉄で作られている筈です」

 

「だろうな。乗艦したが少なくとも木材や樹脂ではない」

 

「はい。コストや強度、加工難易度を考えれば主要な材料は鉄…そして鉄であればこのように…」

 

そう言ってマイラスはネクタイピンから磁石を外し、ネクタイピンの方を黒板に近付けた。

 

──カチッ…カチッ…

 

「ご覧下さい。磁石と暫く接触させただけでただの鉄だったネクタイピンに弱い磁力が発生しています。そしてこれはネクタイピンより大きな艦船にも同じ事が言えるのです」

 

「……地磁気か」

 

「はい、レイダー閣下。惑星はそれ自体が巨大な磁石であり、惑星上に存在する物はすべからく地磁気の影響を受けています。それを踏まえれば、建造中や停泊中の艦船も地磁気の影響を受け、少ないながらも磁気を帯びている筈であり、航行すれば地磁気に乱れを発生させると思われます」

 

「つまり、地磁気の乱れを探知する装置があれば先程の水中の音波を探知する装置と組み合わせて潜水艦を探知出来ると?」

 

「はい。ですが、これは私の推測でしかありません。もっといい方法があるかもしれませんし、それ以前に潜水艦の音や磁気を探知出来るかも不明ですので…」

 

「マイラス君」

 

保険を掛けるように言葉を続けるマイラスへ、レイダーが声をかける。

 

「君は中々に…いや、とても優秀だ。未知の兵器への対抗策をこうも思い付くとは感服したよ。君のアイデアを海軍本部へと提出したいのだが…提出レポートの作成を手伝ってもらえないだろうか?」

 

「わ、私で良ければ!」

 

「あー…レイダー閣下、マイラス技術士官、続きをしたいのだが…」

 

若き才能に感動するレイダーと、自身を認められた事に浮つくマイラス。

そんな二人を前に、ミックは苦笑いしつつ進行役としての責務を果たそうとしたのだった。




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この海で、蜂はやらかした

今回からグ帝接触編です


ムー大陸西方海域、文明国『二グラート連合』と列強国だった(・・・)『レイフォル』との領海が接する海域。

やや波の高い海面を切り裂くように航行する黒鉄の艦隊があった。

 

「巡航速力16ノット、機関好調」

 

艦隊の中でも一際目立つ巨艦の艦橋内で操舵輪に手をかける操舵手がいつも通りの口調で事務的に報告する。

 

「うむ、今回の訓練航海(・・・・)も何事もなく終わりそうだな。だが各員、気を抜くなよ」

 

行手を阻むモノなぞ何も無い大海原を眺めながらそう述べたのは巨艦…グラ・バルカス帝国海軍が誇る世界最強最大(・・・・・・)の戦艦である『グレードアトラスター級戦艦』の一番艦『グレードアトラスター』に座乗する東方艦隊司令長官であり"軍神"と名高い『カイザル・ローランド』である。

彼が率いる艦隊は帝国の頂点に君臨する皇族の一人を理不尽に処刑した『パガンダ王国』、そして同国の宗主国であり五大列強の末席たるレイフォルを滅亡させた後は帝国の領土となったレイフォルの首都であった『レイフォリア』を母港にしているのだが、時折こうして周辺諸国を威圧する為にムー大陸沿岸を訓練航海と称して彷徨いているのである。

 

「しかし、いささか心苦しい面もありますな。途中でニグラート連合の帆船が退去を命じて来ましたが、軽巡洋艦が近くを通っただけで転覆しそうになっていました。あんな貧相な船で我々に立ち向かわねばならない彼らの心境を思うと同情してしまいます」

 

長官席で寛ぐカイザルに声をかけたのは、グレードアトラスターの艦長である『ラクスタル・ライグーマ』だ。

 

「気持ちは分かるが、だからと言って同じリングに立って戦ってやる義理は無い。それに、君もこの世界(・・・・)の野蛮さは知っているだろう?」

 

「えぇ、パガンダ王国は"文明国"という立場でありながらハイラス殿下を処刑し、宗主国であり列強国という立場にあったレイフォルは偽りの降伏を行って本艦に攻撃を加えました。あまりにも野蛮で程度の低い者ばかりです」

 

「うむ。だからこそこの世界は我々が…グラ・バルカス帝国の先進的な理念と教育によって統治するべきなのだ」

 

極東の島国(日本国)と同じく異世界より転移してきたグラ・バルカス帝国は、所謂先進国(・・・)と呼ばれる国々から非礼極まる対応を受けており、カイザルが述べたような思想が主流となっているのだ。

 

「艦長、お話中申し訳ありません。対空レーダーに反応が」

 

「うん?ニグラート連合か野生のワイバーンか?」

 

「いえ、それが妙なのです。反応は2つあるのですが、高度5000mを時速約900kmで飛行しています。初めはレーダーの不具合かと思ったのですが…」

 

「時速900km!?バカな…我が国の実験機ですら時速700km程度だぞ!?」

 

「もしかしたら磁気嵐の影響かもしれませんが…」

 

「いや、他の機器には影響が見られない。これは間違いなく未知の飛行物体だ。直掩機を向かわせ、確認させるんだ」

 

「了解」

 

報告に驚くも、ラクスタルは直ぐに冷静さを取り戻し命令を下す。

 

「カイザル長官、万が一に備えて本艦で最も分厚い装甲を備えている司令塔へ移動をお願いします」

 

「いや、反応が2つであるならば仮に敵性飛行物体だとしても大規模な攻撃を想定したものではあるまい。おそらくは偵察であろう。そして何より、時速900kmもの速度を発揮出来る飛行物体の正体が気になる。是非とも自分の目で確かめたい」

 

「…かしこまりました。念の為、何かに掴まっていて下さい」

 

「未確認飛行物体、間もなく視認距離!」

 

カイザルの熱意に根負けしたラクスタルだが、彼らの頭上へ"未知"が飛来するまで猶予は無かった。

 


 

「航空司令部、こちらアルバトロス。大規模な艦隊を視認したが…」

 

《こちら司令部。アルバトロス、どうした。何か問題が発生したか?》

 

「あぁ…司令部、これは凄いぞ。偵察ポッドで撮影した画像を送信する」

 

日本国海上自衛隊所属の航空機搭載護衛艦『たいほう』所属のF/A-18Eを操縦するTACネーム『アルバトロス』は、自身が目にした物を共有すべくコンソールを操作して主翼下に搭載した偵察ポッドで撮影した画像を母艦(たいほう)へ送信する。

 

《こ、これは…》

 

「ビックリしただろう?まさか大和型戦艦(・・・・・)とは…マストの旗を見るに噂に聞くグラ・バルカス帝国の軍艦らしい」

 

哨戒飛行中、レーダーで大規模な未確認艦隊を発見した時にはまさか伝説の巨大戦艦(大和型戦艦)が居るとは夢にも思わなかった。

しかも大和型モドキ(・・・)の周りに展開する軍艦も、海上自衛隊の先輩(大日本帝国海軍)が使っていた軍艦に瓜二つだ。

 

《うぉぉぉぉぉっ!すっげー!大和型に翔鶴型!おっ、あれはまさか長門型!?動いてる旧軍の軍艦だ!》

 

「……コンドル、テンションが上がるのも分かるが落ち着いてくれ。相手は初接触の相手だ。慎重に…」

 

《本物の大和型ー!武蔵は俺の嫁ー!》

 

「…あのバカ!」

 

ミリオタ(軍事マニア)であり、某艦船擬人化ゲームを愛するアルバトロスの相棒(バディ)であるTACネーム『コンドル』が機体を大きくバンクさせ、急降下してゆく。

 

「司令部、コンドルが急降下して未確認艦隊に接近しようとしている。撃墜するか?」

 

《笑えない冗談はやめてくれ。はぁ…まあ、いい。コンドルには後でしっかりと注意する。だがグラ・バルカス帝国の艦隊を至近距離から撮影するチャンスだ。相手に攻撃でもしない限りは大丈夫だ》

 

「了解」

 

自由奔放なバディを見下ろしつつ、レーダーと目視を駆使して周囲を警戒する。

空母が居るのであれば直掩機が迎撃に来ているだろう。

 

「おいおい…こんな所まで旧軍そのままか…」

 

だが、警戒するまでもない。

既にレーダーは4つの機影を捉えており、コンソール上に表示されたカメラ映像はアルバトロスを更に驚嘆させた。

 

零戦(・・)…曾祖父さんが乗ってたヤツだ…」

 

アルバトロスを迎撃する為に上昇して来るのは、旧日本海軍が誇る艦上戦闘機『零式艦上戦闘機』に酷似したレシプロ戦闘機であった。

 

「撃墜は…流石にやめておくか。かと言ってまぐれ当たり(ラッキーパンチ)を喰らうのも怖いから、ちょっと鬼ごっこと洒落込みますかね」

 

首を左右に振って関節をゴキゴキと鳴らしたアルバトロスは、操縦桿を握り直した。




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そして日本よ、もう少しマトモに

現代ジェット戦闘機の姿を文章だけで表すのって難しいですね


「未確認機急降下!繰り返す!未確認機急降下ー!」

 

急激な機動をし、こちらに向かって急降下して来た未確認機を前に、グレードアトラスター…いや、東方艦隊は蜂の巣を突いたような騒ぎとなっていた。

 

「総員落ち着け!様子を見るんだ!」

 

ラクスタルが乗組員へと冷静になるように呼び掛けるが、未確認機が発するキィィィィィンという不気味な高音と、一目見て分かる程の高速によってパニックに陥ってしまっている彼らは、無断で発砲するような事こそ無かったが、明らかに浮き足立っている。

 

「未確認機、急接近!」

 

「近付いて来るか…!対空戦闘用意!いいか、用意だけだぞ!命令が下るまで発砲は厳禁とす!」

 

明らかにワイバーンやムーの戦闘機(マリン複葉機)とは違う洗練された姿に、超高速飛行。

相手がどのような意図で接近してきたか分からない以上、そんな未知の高性能機を万が一撃墜でもすれば未知の国家となし崩し的に開戦してしまいかねない。

そう判断したラクスタルは、こちらからの手出しを厳禁としてあくまでも様子見に徹する事にした。

 

「未確認機、本艦へ急速接近!ぶ、ぶつかる気か!?」

 

「落ち着け!未確認機も恐らく人が乗っているはずだ!戦艦に衝突すればあちらが砕け散る事ぐらい分かっているだろう!」

 

「うわぁぁぁぁ!来るぅぅぅぅぅ!」

 

ギュンッと鋭く海面ギリギリで切り返した未確認機は、海面に二筋の水飛沫のラインを描きながらグレードアトラスターへと接近してくる。

それを目にしたラクスタルは祈りにも似た言葉を発して、乗組員を落ち着かせようとする。

 

ーゴォッ!!

 

「うぉぉぉぉぉっ!?」

 

未確認機が艦橋の真横を通り過ぎた瞬間、嵐と見紛う程の轟音と暴風が艦橋を襲った。

 

「な、なんだアレは!デカい…アンタレスより2倍はあったぞ!?」

 

誰かが驚愕を隠さず叫ぶように述べたが、それはラクスタルにも理解出来た。

というのも演習等で腕自慢のパイロットが同じように艦橋をフライパスする事があるが、それと比べても未確認機はアンタレスの2倍はありそうである。

 

「艦長、万が一に備えて未確認機を高射装置で捕捉していたのですが…全く捉えられていませんでした。おそらく、未確認機は本艦に搭載されている『エウロパ型高射装置』で捉えられる限界速度…つまり時速700kmを超える速度で飛行していると見られます」

 

「バカな、エウロパ型高射装置はオーバースペックであり予算の無駄遣いと言われた代物だぞ。それでも捉えられなかったのか?」

 

高射装置は測距儀やレーダーから得られた情報を元に、目標となる敵航空機の距離・高度・速度を歯車やカムを組み合わせたアナログコンピューターで算出し、対空火器を管制する為のものであり、特にグレードアトラスターに搭載された最新型の『エウロパ型高射装置』は算出速度の向上や捕捉可能な敵機の速度を時速700kmまでとする等、従来の『ガニメデ型高射装置』よりも高性能な物であった。

そんな、一部では過剰性能(オーバースペック)な高射装置でも捉えられない未確認機…もし、あの未確認機が敵であり、何十何百と居たら果たして帝国は勝てるだろうか?

 

「ラクスタル君、あの未確認機のキャノピーを見たかね?」

 

「はい、長官。速すぎて一瞬しか見えませんでしたが…人らしき姿がありました。人が乗っているのなら、交渉により戦闘を回避する余地があるやもしれません」

 

「うむ、君の言う通りだが…はははっ。皮肉なものだ」

 

「はい?」

 

「我々は異世界国家を圧倒的軍事力によって威嚇する為にここに居るというのに、逆に我々が未知の勢力によって圧倒的軍事力を見せ付けられている。因果応報とはこの事か…」

 

自嘲するように嘆息し、おもむろに煙草を取り出すカイザル。

 

「長官、お言葉ですが戦闘配置中は禁煙です」

 

「……やれやれ」

 

バツが悪そうに煙草を仕舞いつつ、空を見上げるカイザル。

艦橋に備え付けられている無線が鳴り響いたのは、それから数分後の事であった。

 


 

「なんだアレは…プロペラが無いし、オレの目がおかしくなってなければやたらデカいように見えるんだが…?」

 

艦隊上空に飛来した未確認機の内、上空に留まっている方を迎撃する為に上昇するアンタレスのコックピットでは、小隊長を務める准尉はゴーグルの下で目を細めた。

母艦からの話では、レーダーに映った反応はアンタレスと同程度かそれ以下の飛行物体であるとの事だったが、照準器のレティクルとの対比を考えると幅はアンタレスよりやや大きく、長さはアンタレスの2倍はある。

 

「爆撃機…いや、降下した機はかなり機敏に動いていたから戦闘機か?あの図体であんな機敏に、しかもかなりの速度を出せると言うことは、頑強な機体構造と優秀な空力特性、なにより強力な推進力を持っているのだろう」

 

准尉が駆る戦闘機『アンタレス07式艦上戦闘機』は1300馬力のエンジンと必要十分な防弾装備を備えながらも徹底的に軽量化した機体によって高い運動性能と速力、長大な航続距離を持った前世界『ユグド』における最強の戦闘機(・・・・・・)であった。

准尉もそれは熟知しており、それを疑う事は無かったのだが…

 

「…嫌な予感がする」

 

高みを悠々と飛行する未確認機からは言葉に出来ない()のようなモノが滲み出ているように思えてしまう。

しかし、だからと言って遠巻きに見ていては帝国軍人の名折れだ。

 

「総員、未確認機との接触を図る。同高度に到達次第、未確認機を前後左右から挟み込め」

 

率いる小隊員へ無線を介して指示すると、スロットルを開けて上昇する。

エンジン出力の割に機体が軽いアンタレスは上昇力に優れており、グングンと未確認機との高度差を縮めて行く。

 

「やはりデカいな。レーダー手め…デタラメを教えやがって。どこの飛行機だ?」

 

同じ高度まで到達し、接近してみるとその異様な姿に圧倒される。

機首にプロペラは無くまるで騎兵の突撃槍(ランス)のように鋭く、三角形の主翼と機首後端にかけて魚のヒレかエラを思わせるような急角度のフィンが取り付けられており、2つの垂直尾翼は何故だか斜めに生えている。

彼の常識では考えられない異形の航空機に改めて驚愕しつつも、彼の目は機種と主翼上下面に描かれた"白い縁取りの赤い丸"をしっかりと捕捉した。

 

「あれが国籍マークか?我が国(グラ・バルカス帝国)のものに似ているな…」

 

グラ・バルカス帝国軍機の国籍マークは"赤い丸に白い十字"であり、赤い丸を基調とする点は未確認機もよく似ている。

 

「とにかくこちらの母艦に強制着艦…は出来ないか。艦上機であるかも分からないし、何よりあの図体では離着艦出来るとは思えん。というよりアレはどこから飛んできたんだ?ムー大陸に存在する国家にあんな航空機を持つ国家があるとは思えん。まさか、神聖ミリシアル帝国…ではないか。国籍マークが違う」

 

考察しながら未確認機に近付いて行くが、一向に追い付く気配がない。

これでも最大速力に近い時速540kmを出しているが、それでも追い付くどころか徐々に引き離されているようだ。

 

「くっ…ダメだ、追い付けん。少なくとも時速700kmかそれ以上は出ているぞ」

 

実用単発機では世界最速と謳われたアンタレスが振り切られようとしている。

そんな状況に驚愕するばかりだが、ここまで圧倒的だと逆に冷静になってきた。

 

「ダメだ、未確認機は超高速で飛行しており、我々では追い付けん」

 

《分かった、無理はするな。何より、その未確認機から通信が入った。どうやら我々とは違う形式の通信を使っている都合で、今まで上手く通信出来なかったらしい》

 

母艦へ屈辱的とも言える報告をするが、母艦から返ってきたのは准尉を再び驚愕させた。

 

「通信が?彼らは一体何を…」

 

《未確認機の所属は、日本国という国の海軍であるらしく、彼らは我が国との国交開設交渉の為にレイフォルへと向かっている途中で、我々と出くわしたらしい。敵対の意思は無いとの事だ》 

 

「日本国…聞いた事が無いな…」

 

遥か遠くに見える日本国の航空機を見つめる准尉を知ってか知らずか、件の日本国の航空機は身を翻し、垂直に上昇して見せた。




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大和型に花束を

筆が進んだので更新します


かつてのレイフォリア港はムー大陸以西の第2文明圏外国家との貿易で栄えた港町であったが、レイフォルがグラ・バルカス帝国の怒りを買ったその日に猛烈な艦砲射撃で廃墟と化し、今ではグラ・バルカス帝国の手によって近代的な軍港を兼ねた港へと生まれ変わり、帝国植民地(・・・・・)レイフォルから吸い上げた資源を帝国本土へと送り届ける植民地経済の象徴と成り果てていた。

そんな第2文明圏屈指の港に停泊するのは黒鉄の艦隊…レイフォリアを灰燼に帰した張本人である帝国海軍東方艦隊だ。

旗艦であるグレードアトラスターを始めとした金属製機械動力艦達は安い労働力として酷使されるレイフォル現地民を睥睨するように市街地に睨みを効かせており、現地民は怒鳴り散らす帝国民とそれらの艦隊に怯えながら必死に働いている。

 

「……酷いものだ。兵器だけではなく、こういった面も20世紀初期の地球とそっくりだ」

 

呆れたように吐き捨てるのは、東方艦隊から少し離れた桟橋に停泊する異形の艦隊…日本国海上自衛隊第三航空護衛艦隊の司令である佐藤だ。

海上にて出会したグラ・バルカス帝国艦隊は旧日本海軍(大日本帝国海軍)に酷似した艦艇や艦載機によって構成されていたが、まさか国家運営も20世紀初期(第二次世界大戦前)と酷似…いや、下手をするとそれより酷いかもしれない。

まるでアフリカや中南米を植民地化した近世の西欧諸国が第二次世界大戦レベルの軍事力を持った帝国主義国家、それこそが佐藤が覚えたグラ・バルカス帝国像であった。

 

「個人的にはあまり関わりたくない国だな」

 

これまで日本が接触してきた国々…パーパルディア皇国や第三文明圏外諸国は地球で言えば中世から近世に相当する文明の発展具合なため、価値観もそれ相当になるのは理解出来る。

そして神聖ミリシアル帝国やムーは現代日本と似たような価値観を持っているため、彼らとは友好的に接する事が出来るだろう。

しかし、グラ・バルカス帝国は文明レベルを見ればそろそろ植民地経済や帝国主義から脱却してもいい頃合いだが、ご覧の通り現地民を奴隷のように扱う様は日本と彼の国が相容れない価値観を持っている事を否応無しに伝えているかのようだ。

 

「政府はどう考えるかな…」

 

グラ・バルカス帝国は日本と同じく異世界から転移してきたと主張しているが、それが事実なら彼の国があった世界は帝国主義が蔓延した悲惨な世界だったのだろう。

そんな世界の常識が染み付いた国と友好的に接する事は出来ないと佐藤は考えているが、佐藤個人の考えで国同士の交流を左右する事は出来ない。

何せ自衛隊はシビリアンコントロール(文民統制)の元で成り立つ軍隊であり、戦前のような軍部の独断と暴走はあってはならない。

そんな事を考えつつ、佐藤は『たいほう』の艦橋内から空を見上げ、展示飛行を行うF/A-18Eの編隊を眺めるのであった。

 


 

《現在展示飛行を行っているのは、海上自衛隊の主力艦上戦闘攻撃機であるF/A-18E、通称スーパーホーネットです。本機は同盟国であるアメリカ合衆国によって開発された機体であり、最高速度はマッハ1.6、つまり時速にして約1700kmとなります。更に本機は戦闘攻撃機の名に恥じない多数の兵装運用能力を備えており、射程100km以上、飛翔速度マッハ4以上を誇る空対空誘導弾である『AAM-7』を始め、射程300km以上、飛翔速度マッハ3以上を発揮する対大型艦船を想定した空対艦誘導弾『ASM-3改』等、様々な兵装を混載して1回の出撃で航空優勢を確保しながら敵艦隊を攻撃する事も可能です》

 

轟音を響かせながら海上自衛隊のスーパーホーネット4機が見事なダイヤモンド編隊を組んでレイフォリア上空をフライパスする。

 

「アレはスーパーホーネット、と言うのか。しかし、超音速飛行が可能で誘導弾まで実用化しているとは…やはり日本は我々とは違う技術体系を構築しているらしい」

 

空を縦横無尽に飛ぶスーパーホーネットを見上げつつカイザルはそう呟いた。

日本艦隊と接触した東方艦隊は日本側から異常接近について謝罪されつつ、国交開設交渉の場を設ける為に帝国政府との仲介を頼まれたのだ。

その際、カイザルは日本の技術の高さを一目で見抜き、帝国政府に対して細心の注意を払って対応するように進言し、日本側が提案した博覧会開催で日本の技術を見極めつつ、レイフォルの植民地統治政府を介して国交開設交渉を行う事となった。

そしてカイザルは日本の軍事力がどのような物かを検分し、その対抗策を編み出す事を期待されて博覧会会場を彷徨いている。

 

「しかし…あんな兵器を前にどうしろと言うのだ。射程100kmを誇る超音速の誘導弾なぞアンタレスでどうこう出来る相手ではないぞ」

 

会場に響き渡るアナウンスの言葉を信じるなら軍神と謳われるカイザルの頭脳をもってしてもお手上げだ。

アンタレスは最高速度時速560kmの高速性能と、軽い機体に起因する高い運動性と上昇能力を活かした格闘戦で数多の敵を撃ち落としてきた傑作機な事は間違いない。

しかし、100km先から超音速で誘導弾が突っ込んで来るとなるとどうしようもない。

大多数は気付かぬまま撃墜され、気付けても為す術なく撃墜されるだろう。

 

「ふむ…だがそんな誘導弾であればおそらくは非常に高価かつ製造工程が多く時間がかかるだろう。そうなると、大量の航空機や艦艇で短時間の内に波状攻撃を仕掛け、誘導弾の枯渇を狙うのが確実だが…そうなると大量のパイロットと機体を無駄に消耗させてしまう。如何に日本に勝つためとはいえ、それでは此方が消耗しきってしまうぞ」

 

帝国軍の一部部隊は捕虜や占領地の住民を追い立て地雷原を歩かせて地雷除去をしていると聞くが、空戦や海戦でそれをしようとするのであれば、高価な航空機や艦艇とそれらを操る事が出来る人員を無駄遣いするという事になる。

それでは日本に勝てても帝国は戦力の多くを失ってしまい、他国によって…それこそムーや神聖ミリシアル帝国によって攻め込まれ、敗北してしまいかねない。

 

「むう…やはり日本との衝突は全力で回避する、あるいは上手く技術を盗み出すより他無いが…いや、望み薄だが艦隊決戦ならば勝ち目があるかもしれない。日本の艦艇は確かに図体はそれなりだが、どれもこれも砲は少ない。12cmから20cm程度の砲が1門か2門程度で砲戦には役に立たないだろう。おそらく対艦誘導弾が主力であるが故なのだろうが…対艦誘導弾が枯渇すれば我々に分がある。如何に対艦誘導弾が高威力であろうが、分厚い装甲と細かい水密区間と十分な予備浮力を持つ戦艦を一撃で沈める事は不可能なはずだ」

 

「あーあ、お前がいたらん事したせいで展示飛行から外されたわー。あー、辛いわー」

 

「悪かったってぇ…。でもさぁ、大和型が目の前にあったんだぞ?間近で見ないと」

 

「ん?」

 

カイザルが対日戦の戦略を練っていると、箒と塵取りを持った二人の若者が不満げな表情でゴミを掃き集めていた。

レイフォリア港には金属クズや紙ゴミが落ちている事がよくあるが、日本人は綺麗好きなのかよくゴミを拾って掃除している。

そのおかげでレイフォリア港の博覧会会場内はゴミ一つ無い。

 

「失礼、君達が言っている大和型とは何かね?我々の戦艦はグレードアトラスター級と言うのだが…もしや日本にも同じような戦艦が?」

 

「あっ、グラ・バルカス帝国の軍関係の方ですか?」

 

「そうなんですよ!日本にはかつて大和型と呼ばれる世界最大最強の戦艦があったんです!世界最大級の艦砲である45口径長46cm3連装砲を3基備え、副砲も世界最大の60口径長15.5cm3連装砲を4基!装甲は砲塔防楯で660mmもあり、満載排水量7万トン超!正に海に浮かぶ要塞で男のロマンを体現したような戦艦だったんですよ!あっ、でもそちらのグレードアトラスター級は副砲が半減して高角砲や機銃が増えているので大戦末期の対空戦闘能力を向上させた改修後の姿ですねー。個人的には就役時の姿が好きなんですが…まあ、大和が沈んで90年、動いてる姿を見れただけでも大満足ですよ!あっ、そうだ。グレードアトラスターの写真って…」

 

ーゴチンッ!

 

「痛っっっっぁぁぁ!」

 

「お前、相手が困ってるじゃねぇか。すいませんねー、コイツ、軍艦の事になると目が無くて。ほら、次は『たいほう』艦内の掃除だぞ」

 

「分かったから引っ張るなよぉ…」

 

まるで機関銃のように喋っていた若者だったが、もう1人の若者によって脳天に拳骨を喰らって引き摺られて行く。

その光景を見てカイザルは呆然としていた。

いや、正確には若者の言葉を聞いて驚愕していたのだ。

 

(バカな…何故、日本の軍人がグレードアトラスター級の諸元を知っている…?グレードアトラスター級の諸元は我が国の国民でも知らない機密だったはずだ…いや、それより日本にも似た戦艦があった!?しかも沈んでから90年…つまり我が国の最新鋭戦艦は日本からしてみれば90年前の骨董品だというのか!?)

 

グラ・バルカス帝国における90年前の軍艦と言えば、それこそこの世界で現役な戦列艦が主力であり、初期の蒸気船が漸く出現し始めた頃だ。

その頃の人間がグレードアトラスター級の出現を予見出来なかったのと同じように、カイザルが90年先の技術を持っている日本の実力を正確に予測出来るはずも無い。

 

(日本…やはり予断を許さない相手だ。私の進退…いや、命を懸けてでも政府が早まるのを阻止しなくては…!)

 




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太陽を模した国

あまりにも察しが良すぎる気がしますが、エリートってこんなもんでしょう


「……デカイ」

 

航空機展示会場を一先ず後にしたカイザルは、次に艦船展示会場へとやってきたのだが、やはり圧倒されていた。

海上で出会しここまでエスコートしたが、岸壁から見上げる日本海軍(海上自衛隊)の軍艦達は圧巻のサイズ感だ。

 

「この一番小さな艦は…『あさひ型護衛艦』というのか。全長151m、全幅18.3m、基準排水量5100トン…む?この護衛艦(・・・)というのは日本独自の言い回しであり、地球(・・)にある他国では同様の艦を駆逐艦として扱っている…?……駆逐艦?」

 

思わず首を傾げるカイザル。

帝国海軍の主力駆逐艦は『キャニス・ミナー級』と呼ばれる地球で言う旧日本海軍の駆逐艦『吹雪型』に酷似した物であるが、それと比べれば『あさひ型』は一回りも二回りも大きく、帝国海軍主力軽巡洋艦であり旧日本海軍の『5500トン級軽巡洋艦』に酷似した『キャニス・メジャー級巡洋艦』に近いサイズ感である。

 

「まあ、それは一旦置くとして…ふむふむ…主砲は対空と対艦両方に使える127mmの単装砲が1基に、高性能20mm機関砲なる物が2門…あとは対空・対艦誘導弾発射器と…むっ、対潜水艦用誘導魚雷発射管!?日本は魚雷にまで誘導能力を持たせているのか!?」

 

『あさひ型』の前に置かれた解説ボードを食い入るように読みながら驚愕するカイザル。

これまで見てきた日本の軍事技術から魚雷も当然存在するだろうと考えていたカイザルだったが、まさか魚雷にまで誘導能力があるとは思いもしなかった。

 

「対潜水艦用…つまり、日本があった世界には潜水艦が普及しているという事か…!」

 

前世界ユグドでは外洋航行可能な潜水艦を開発出来たのは帝国だけであり、この世界では潜水艦の存在が確認されなかった事から軍部は帝国海軍の潜水艦の存在が何よりのアドバンテージだと考え、潜水艦の増産に乗り出していたのだが、潜水艦の存在を認識し、対抗策まで持っている日本が居るとなると話は変わってくる。

 

「しかもこの艦は対潜水艦戦闘能力を向上させたものであり、誘導魚雷をロケットや艦載機に搭載して数kmから100km以上先の潜水艦を撃破出来る…これでは潜水艦が近付けないではないか…」

 

無論、帝国は誘導魚雷なぞ保有している訳も無く、潜水艦が魚雷を確実に命中させる為には1km以下にまで接近する必要がある。

そしてそれは相手がこちらに気付いていないという前提での話だ。

相手が対潜水艦戦闘を重視した海上自衛隊護衛艦なら、間違いなく帝国海軍の潜水艦は一方的に沈められてしまうだろう。

 

「不味いな…これは帝国の海洋戦略を1から見直す事になるやもしれん」

 

頭を抱えるカイザルが次に向かったのは、黒一色のつるんとした船体を持つ艦…潜水艦の前だった。

そしてそこには先客が居た。

 

「カイザル、遅かったわね」

 

「ミレケネス、すまんな。色々と驚く事ばかりで…な?」

 

カイザルを待っていたのはパンツスーツ姿の妙齢の女性、帝国海軍特務軍司令長官である『ミレケネス・ファーティマ』だ。

 

「まったく…人が久しぶりの休暇を楽しもうとしている矢先に呼び出して、挙げ句の果てに遅刻とはいい度胸ね?つまらない要件なら殴り飛ばしている所よ」

 

「はっはっはっ、"女帝閣下"にそう言われては恐ろしくて仕方ありませんな。それで、コレ(・・)はつまらない要件ですかな?」

 

「まさか!むしろ私を呼んでなかったら殴り飛ばしてたところよ」

 

戯けてみせるカイザルへ、ミレケネスは日本の潜水艦を指差しながらそう応えた。

 

「これが日本の潜水艦…我々の『シータス級』とは似ても似つかないな」

 

「えぇ、シータス級が潜れる船(・・・・)だとしたら日本の潜水艦は潜る為の船(・・・・・)…そんな感じね」

 

帝国海軍にはシータス級と呼ばれる3機の水上攻撃機を搭載可能な潜水艦が存在するが、確かにそれと比べれば日本潜水艦の凹凸の無い滑らかな姿は洗練されており、水棲哺乳類を連想させる。

 

「見て、カイザル。大きさはシータス級と似たような物だけど…航続距離と潜航可能時間を見て」

 

「航続距離と潜航可能時間?そんなもの機密中の機密だろう。大方、非公表とでも…ん?…んん!?」

 

ボードに書かれた文字を見て、二度見、三度見…四度見までしたカイザルは、ゴシゴシと目を擦ってボードに鼻先が付くほどに顔を近付けた。

 

「カイザル、そんなに近いと逆に見えないわよ?」

 

「……ミレケネス、私の目がおかしくなったのか?はたまた私がまだこの世界の文字(大陸共通語)を理解しきっていないのか?」

 

「大丈夫よ。それには間違いなく、航続距離と潜航可能時間の欄に無制限(・・・)と書いてあるわ」

 

「そ、そんな事がある訳ないだろう…?」

 

カイザルがそう言うのも無理はない。

潜水艦という物は普段は水上をディーゼルエンジンで航行し、潜航中は水上航行中に充電したバッテリーの電力でモーターを回して航行するものだ。

故に水上航行中は燃料残量が、水中航行中はバッテリー残量が航続距離の限界を決め、特に水中航行中は艦内の酸素残量が底を尽きれば乗組員が窒息するため、バッテリー容量ばかり増やしても潜航可能時間はそうそう伸びない。

 

「これは私も上手く理解出来なかったのだけど、日本の軍人に聞いてみたら、この潜水艦は『核分裂反応』という原子核が分裂する際に発生する熱エネルギーで蒸気を作ってタービンを回し、それを発電や推進力に使っているそうよ。私が話を聞いた日本の軍人によれば、その核分裂反応とやらは僅か1gの物質で石油1トンと同じエネルギーを発生させられるとか、反応には空気が必要無いから潜航中でもフルパワーを発揮出来るから水中でも30ノット以上出せるとか、電気を使い放題だから海水から淡水や酸素を作り出せて食料が続く限り潜航出来るとか…もうわけが分からないわ。正直言ってこんな潜水艦が海を彷徨いていたらお手上げね」

 

「たった1gの物質が石油1トンと同等のエネルギーを発生させるだと!?日本はそんな物質を生み出す事が出来るという事は…はっ!ま、まさか!」

 

「大丈夫よ。日本の軍人が言うには件の核分裂反応を用いた動力、『原子炉』の製造にはかなりのコストが必要だから潜水艦や空母のような戦略価値の高い軍艦にしか搭載出来ないそうよ」

 

「違う!そうじゃない!」

 

宥めるように告げるミレケネスに対し、カイザルは青い顔をしながら彼女に耳打ちした。

 

「いいか?日本の話を信じるなら、核分裂反応出来る物質を100g集めたらどうなる?」

 

「……単純計算で石油100トンのエネルギーね」

 

「では帝国海軍の艦上爆撃機が使う250kg爆弾の炸薬量は?」

 

「確か110kg程度…カイザル、まさか…」

 

そこまで聞いてミレケネスも察したようだ。

 

「そうだ。核分裂反応物質を110kgも詰め込めば、10万リットル以上の石油と同等のエネルギーを発生出来る可能性がある。そんなエネルギーが市街地のど真ん中で炸裂しようものなら…」

 

「間違いなく壊滅的な被害が出るでしょうね。そんな話をするって事は…日本はそんな兵器、謂わば『核分裂反応爆弾』を配備していると?」

 

「可能性はある。私のような核分裂反応をついさっきまで知らなかった者でも思い付くような物を動力として活用している日本が思い付かない筈もない。配備している、と考えるべきだろうし、誘導兵器の弾頭を核分裂反応爆弾にでもすれば…」

 

「何百kmも先から超音速で追いかけてくる、都市破壊級の兵器が完成…ね。ゾッとしないわ」

 

「あくまでも私の想像でしかないが…日本は底知れぬ国だ。そんな国がご丁寧に、こんな博覧会を開催しているのだからしっかりと検分して対抗策を見出さなくてはな」

 

「ふぅ…これは暫く休暇は取れないわね。仕方ない、貴方に付き合うわ」

 

「ありがとう、ミレケネス」

 

《これより、乗艦見学のご案内を行います。整理券をお持ちの方は32番桟橋まで…》

 

事前に整理券を手に入れていたカイザルとミレケネスは顔を合わせて頷き合うと、日本の軍事技術をより深く知るべくアナウンス通りに桟橋へと向かった。

 

 

 

 




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とある日本の超電磁砲

もうタイトルがネタバレですね


海上自衛隊艦船への乗艦体験の開始時間となったが、カイザルとミレケネスは他の軍関係者や政府関係者とは違う艦へ案内されていた。

 

「いやはや、よもやこんな特別待遇を受けられるとは…」

 

「当然ですよ。艦隊の司令長官がお二方もいらっしゃると知っていればもっとそれなりのおもてなしを致しましたのに」

 

音もなく滑るように走るハイヤーの後部座席に座るカイザルとミレケネスは、助手席に座る『ながと型打撃艦』の4番艦『するが』の艦長である『徳田 光太郎(とくだ こうたろう)』のエスコートを受け、『するが』が停泊する地点まで向かっている。

 

「…静かな車ね。それに乗り心地もいいわ」

 

「この車は我が国最大にして、前世界最大でもあった自動車メーカー『トヨハタ』がタクシー向けに開発した物の上位グレードでして、自衛隊内では幹部の送迎用によく使われているのですよ」

 

「私もこんな車が欲しいわね。帝国と日本が国交を結べば輸入出来るかしら?」

 

「それは政府の判断によりますね」

 

カイザルとミレケネス、徳田がそんな事を話していると『するが』が停泊する桟橋に到着した。

 

「これが日本の戦艦(・・)…我が国の『オリオン級』や『ヘルクレス級』に匹敵する大きさだな」

 

「正確には戦艦ではなく打撃艦(・・・)、あるいは巡洋艦なのですが…まあ、役割的には戦艦に近いかもしれませんね」

 

「徳田艦長、ところでこの艦は他の艦とは姿が随分と違うようだけど、何か意味があっての事かしら?」

 

「それはステルス性を高める為ですね」

 

「ステルス性?」

 

ミレケネスの疑問に徳田は『するが』の輪郭をなぞるように虚空に指先を滑らせた。

 

「はい。我々の世界において索敵方法はレーダーが主流となっており、数百km先の目標を捉える事が出来る程に高性能化したレーダーによって潜水艦以外の艦船は容易に探知されるようになりました。そこで各国は敵のレーダー照射や通信を妨害する為に電波妨害技術を発展させてきましたが、そんな中に現れたのが艦船や航空機そのものにレーダーに映らないような工夫を施す『ステルス技術』です」

 

「レーダーに映らない?そんな事が本当に?」

 

「はい。とはいっても完全に映らない、という訳ではありません。レーダー波の反射を極力抑え、敵のレーダー上では大きさを誤認させる事が可能となっていまして、例えばこの『するが』を始めとした『ながと型』であればレーダー上では小型漁船程度の大きさにしか映らないとされています」

 

「しかし、我々がグレードアトラスターのレーダーで捉えた際には巡洋艦や戦艦並の大きさに映ったのだが…」

 

「あの時は事故を防ぐために、レーダーリフレクターと呼ばれる意図的にレーダー波を反射しやすくする機材を展開した状態でしたので」

 

「なるほど…」

 

カイザルはステルス性という未知の概念に驚愕しながらも脅威を覚えつつ、徳田の案内で『するが』艦上へと続くタラップをミレケネスと共に昇ってゆく。

もちろん、海軍軍人として甲板上一歩手前で艦尾に掲げられた軍艦旗(旭日旗)へ敬礼する事も忘れずにだ。

 

「ご丁寧にありがとうございます」

 

「いや、軍人として当然だ」

 

徳田からの感謝の言葉に謙遜するように返すが、甲板上で作業をしていた乗組員が一斉に敬礼を返した事にカイザルは内心で舌を巻いた。

 

「規律が行き届いているわね」

 

「あぁ、規律正しい軍隊は多少戦力が劣っていたとしても油断ならぬ相手だ。どうやら日本軍(自衛隊)は己の力を過信せず、日々能力向上に努めているのだろう」

 

「見習いたいものね」

 

「まったくだ」

 

転移してからというもの、技術的に劣る国々ばかりを相手してきたためすっかり油断と慢心が横行してしまった帝国軍の現状と、自衛隊の士気の高さを比較しつつカイザルとミレケネスは改めて『するが』へと乗り込んだ。

 

「では始めに本艦最大の特徴である主砲から紹介致します」

 

「主砲…?砲身が無いようだが」

 

「もしかして砲身を格納しているのかしら?ステルス性とやらの為に」

 

「はい。ミレケネス閣下の仰る通りです。本艦を始めとした『ながと型』および同盟国アメリカの姉妹艦である『ズムウォルト級』はステルス性向上の為に主砲及び副砲の砲身を砲塔内に格納しているのです。ただいまより砲身を展開致しますね。…砲身展開!」

 

徳田が高らかに告げながら右手を振り上げると、平面を複雑に組み合わせた砲塔の上面が開き、内部から長い砲身が姿を現した。

 

「おぉっ!」

 

「こちらが本艦の主砲である『AGS 60口径203mm単装砲』となります。最大射程は100km以上となり、主に対地攻撃に用いられる事を想定していましたが、改修によって移動目標及び対空目標にも対応出来るようになりました」

 

「射程100km!?誘導弾ならともかく、そんな遠距離を砲で狙える訳ないわ!まさか…」

 

「はい、ミレケネス閣下。お察しの通り誘導砲弾を使用しております。この誘導砲弾は対地・対艦攻撃用でして、遠距離から高い仰角で打ち上げれば目標に対してほぼ垂直に直撃し、厚さ8mの鉄筋コンクリート、あるいは厚さ2mの装甲板を貫通可能な威力を発揮します」

 

「203mmの砲がそんな貫通力を!?」

 

ミレケネスとカイザルがそれぞれ驚愕する。

それもそのはずであり、帝国海軍最強の戦艦グレードアトラスター級は最大射程42kmの砲を持ち、装甲は最も厚い部分で660mmもある攻守において右に出る者はいないとされている。

だが日本側の話を信じれば、射程は倍以上、貫通力はグレードアトラスターの主砲防楯を貫く威力ながらも口径は半分で更に誘導能力まである砲がこの艦には2門も装備されているのだ。

もう悪い冗談としか思えない。

 

「しかし、この主砲ももうじき1門になってしまうかもしれません」

 

「砲を減らす…?何故そんなわざわざ戦闘力が下がるような真似を?」

 

「あっ、いえいえ。砲を減らすのではなく、艦首側の1番砲塔を新開発の砲に変更するのです」

 

「新開発の…砲?」

 

「はい。およそ3年前に開発されたばかりの新型艦載砲『127mm電磁投射砲』、通称『レールガン』へと換装するのですよ」

 

「電磁…投射砲…?レールガン?それっていったい何なのかしら?」

 

「えぇ…っと…いざ説明すると難しいですね…。あー…お二方は電磁力についてご存知ですか?」

 

「懐かしいな。学生時代に物理学の授業で習ったよ」

 

「確か、金属なんかの通電する物体に電気を流したら磁力が発生して、それによって特定の方向に力が発生する…という原理だったかしら?」

 

「まさにそれです。レールガンはその原理を用いる事で従来の火砲とは全く違う原理で砲弾を撃ち出す事が出来るのです」

 

徳田の解説にカイザルもミレケネスも頭上に疑問符を浮かべたままだ。

 

「あー…んー…つまり、どうなるのかね?」

 

「要するに今までの火薬で発射する火砲よりも高初速で砲弾を撃ち出す事が出来るのです。具体的には秒速8km…時速に換算すると時速3万km弱となり、マッハだと約23となりますね」

 

「マッハ23…!?つまり音の23倍って事!?」

 

「もちろんこれは最大出力の話でして、実戦ともなれば目標に応じて出力を調整してより遅くするでしょうね。あ、因みに艦橋より後ろにある副砲とも言える57mm砲も40mmレールガンに換装予定です。これが実現すれば、誘導弾に頼らずに安価かつ精度の高い対空戦闘が可能となるでしょう」

 

「ミレケネス、お前は理解出来るか?」

 

「無理、パンク寸前よ」

 

「まあ、他の方々も同じような反応をされていました。次は艦内を案内しましょう」

 

次々と未知の概念と兵器が現れる事にグロッキー状態になりながらも、カイザルとミレケネスは徳田に案内されるまま『するが』の艦内へと足を踏み入れた。




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イージスシステムは異世界戦争の夢を見るか?

ちょっと短いですが、キリが良かったので


『するが』の艦内へと足を踏み入れ、艦橋へと案内されたカイザルとミレケネスを出迎えたのは、無数のモニターであった。

 

「これが…日本艦の艦橋か…」

 

「帝国艦の艦橋とは全く違うわね…」

 

二人が知る軍艦…というよりも船の艦橋や操縦室は小さな漁船から超巨大戦艦であるグレードアトラスターまで、規模の違いこそあれど無数の計器やレバー類、そして据え置き型の双眼鏡や舵を操作する為の操舵輪があるのが当然だが、日本艦の艦橋内には殆ど見られない。

その代わりに窓の上下には信じられないぐらいに薄いモニターが取り付けられており、中央部に置かれた中央をくり抜いた台形のような形をした台には、小さなレバーや小型のモニターらしき装置が無数に取り付けられている。

 

「何せ最新鋭の艦ですからね。操縦は勿論、作戦遂行能力に至るまで徹底した自動化(オートメーション化)が施されていますので、『ながと型』は大きさの割に非常に少ない人員で運用が可能なんです」

 

「ほう…同じような大きさのオリオン級だと1000名以上が乗り込んでいるが…」

 

「『するが』の乗組員数は凡そ100名です。場合によって増減しますが、航行するだけなら10名も居れば可能ですよ」

 

「たった10名で!?」

 

「とは言っても安全上の問題があるので、実際にはそんな事はしませんよ」

 

恐ろしい程に省人化と自動化が進んでいる日本の艦船に驚くカイザルとミレケネスを尻目に、徳田は解説を続ける。

 

「まあ、こんなに様々な機器がある艦橋ですが、ここはあくまでも平時における哨戒活動での利便性を追求したものであり、本格的な実戦ともなれば艦内部の奥深くに設置された『CIC』で操艦、通信、兵装運用を行う事になっています」

 

「CIC…?」

 

「『コンバット・インフォメーション・センター』、略してCICと呼んでいますが、簡単に言えばレーダーやカメラ、友軍の艦船や航空機から送信された各種データを集め、処理する艦の頭脳とも言える施設です」

 

「私達で言う司令塔みたいなものかしら?」

 

「貴国の軍艦の司令塔がどのような物かは分かりませんが、概念としては似たような物です」

 

「しかし、自艦のみならず友軍からの情報まで処理するとなると相当な人手が必要ではないのかね?」

 

「それに関しては問題ありません。何せ本艦には最新鋭の『イージスシステム ベースライン10J』が搭載されていますので」

 

得意げに述べる徳田に対し、カイザルとミレケネスは再び頭上に疑問符を浮かべた。

 

「おっと…イージスシステムについても少し解説いたしましょう。イージスシステムとは艦隊防空の為に作られたシステムであり、レーダーを始めとした各種センサーによって得られた情報を元に各種誘導弾・火砲を半自動的に管制し、艦隊に接近する敵航空機および誘導弾を撃墜する事を目的とした物となります」

 

「誘導弾を撃墜!?そ、そんなことが可能なの!?」

 

「はい。むしろその為に開発された物なので誘導弾の撃墜は本システムが得意とするところです」

 

「だが、そんなに高度なシステムでは計算に時間がかかってしまうのではないか?」

 

「それに関しても問題はありません。イージスシステムは最初期の物でも128の目標を捕捉・追跡可能であり、その中から脅威度の高い10以上の目標を同時迎撃可能な性能を持っています。当然、本艦に搭載されている最新モデルであるベースライン10Jはそれを遥かに上回る性能を持っています」

 

「そ、そうか…」

 

128の目標を捉え、10以上の目標に同時攻撃可能という性能は、同時に日本艦に搭載されているレーダーと計算機(コンピューター)の性能の高さを物語っている。

イージスシステムと誘導弾の組み合わせによる防空能力は、近接信管付き砲弾を満載した帝国海軍の巡洋艦艦隊を遥かに上回るだろう。

 

「詳しくは機密なので話せませんが、ベースライン10Jは我が国独自の改良が加えられていまして、対潜・対艦・対地攻撃に関しても300以上の目標を捕捉し、20以上の目標を同時攻撃可能となっています。この事から『ながと型』は従来の護衛艦10隻に匹敵する戦闘能力があり、メディア等では現代の戦艦(・・・・・)と呼ばれているのです」

 

「戦艦…か…」

 

徳田の言葉を受け、カイザルは今一度艦橋内をぐるっと見渡す。

 

「まさしく未来の戦艦だな。少なくとも、私はこの艦と戦いたくないな」

 

「同感よ、カイザル。私もどうやれば勝てるか全く思い付かないわ」

 

「私も同感ですし、勝ち負けは置いて戦争という事態は回避すべきです。血を流すのが我々だけならまだしも、戦争によって引き起こされる物資の統制や経済低迷は守るべき国民を苦しめてしまいます。しかし、もし戦争となれば私は一切の容赦をせず、敵を叩く覚悟はしていますよ」

 

「徳田艦長は良い軍人だな」

 

「お褒め頂き光栄です」

 

「でも私達も軍人として他国の軍事力を知る必要があるの。今後も博覧会を見て回るからよろしくお願いするわね」

 

「はい。閣下の立場も理解しています。機密情報以外は展示されていますので、どうぞゆっくりと見て回られて下さい」

 

そう言って徳田はカイザルとミレケネスへ順番に握手し、二人を艦外へと案内した。




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電子仕掛けの彼女

2035年という設定ですが、明らかに未来過ぎ感はありますね


グラ・バルカス帝国領レイフォルのレイフォリアにて行われている日本博覧会だが、他国で開催されたものとは違って軍・政府関係者、そして一部企業の社員にしか立ち入りが許されていない。

これは帝国側からの要請を受けてこのような形式となったのだが、その影響で日本文化を伝えるスペースは大幅に縮小されていた。

そんな他よりも小さな日本文化展示場の一角では、レイフォル植民地政府に出向している帝国外務省東部方面異界担当課長『シエリア・オウドウィン』が一台のノートパソコンと向き合っていた。

 

「こ、こんにちは…」

 

《こんにちは!日本文化展示スペースへようこそ!私は対話型AI(人工知能)の『秋津洲(あきつしま) アイ』と申します。気軽に"アイ"と呼んで下さいねっ♪》

 

「…!ほ、本当に応えてきた…!?あー…私はグラ・バルカス帝国外務省の東部方面異界担当課長のシエリア・オウドウィンだ」

 

《シエリアさん、でよろしいですか?お若いのに課長だなんて、すっごく努力されたんですね〜。凄いです!》

 

「そ、そうだろうか…?私は自分に出来る事をしただけなのだがな…」

 

モニターに映るアニメ調の美少女からの称賛に嬉しさを隠しきれない様子のシエリア。

彼女が話しているのは、日本の音響機器メーカー『UMIHA』が開発した対話型AI『秋津洲シリーズ』の第一弾にして民間向けコミニュケーションツールである『秋津洲 アイ』だ。

 

「それより、アイ殿…」

 

《シエリアさん、"殿"なんて堅苦しい呼び方はやめましょう。アイ、でいいですよ〜》

 

「む…なら、アイ。疑う訳ではないが、貴女は本当に人が作り出した架空の存在なのか?何処かに吹き替えている者が居るとか…」

 

《んー…証明する事は難しいですけど、私は正真正銘、人によって作り出された人工知能ですよ。先輩方(従来型AI)と比べて画期的だそうですが…やっぱり生身の人には敵いませんね。独創的な発想は私には無理ですから》

 

「そうは思えないな。アイは私とこんなにもスムーズに会話しているし、相手を尊重しようという意思が伝わってくる。はぁ…外務省もアイと同じような者ばかりだと働き易いのだが…」

 

《あははは…世の中には色んな人が居ますからね…。ところでシエリアさん、最近眠れていますか?どうも顔色が悪いように見えます》

 

「ん?あぁ…最近は仕事が忙しくてな…。だけど睡眠時間はキチンと確保しているつもりだ」

 

《もしよろしければ簡単な健康診断を致しませんか?人差し指をそこの機械で挟み込むだけですので》

 

「外交官は体が資本だからな…。よし、試しにやってみよう。えっ…と…この機械か?」

 

アイへの警戒心がすっかり無くなったシエリアは、彼女の言う通りに手のひらサイズの機械に人差し指を挟み込む。

すると人差し指を挟み込んだ部分で数度赤い光が瞬き、10秒程でピーッという電子音が鳴って測定が完了した事を通知した。

 

《はい、これで測定は完了しました。現在、測定結果を分析しています》

 

「もうか?採血なんかもあると思っていたが…」

 

《本格的な健康診断ならば採血やレントゲン撮影を行いますけど、さっきの検査は日常的に行うものなので、簡単に素早く出来るようになっているんですよ。…あっ、結果がでましたけど…これは…》

 

「な、何か悪い所が…?」

 

電子の存在ながらも顔を曇らせ眉をひそめるアイの表情に怯えるシエリア。

 

《シエリアさん…あなた…ズバリっ、コーヒーにたっぷり砂糖を入れるのが好きですね!》

 

「ギクっ!」

 

《しかも毎日飲んで、一日に5杯以上飲んでますね?》

 

「うぐっ!」

 

《さらにさらに、忙しいからって外食や出来合いのお惣菜で済ませて、野菜をあまり食べてませんね?》

 

「うぐはぁっ!」

 

《それとあまり大きな声では言えませんが…便秘ですね?》

 

「も…もう許して…」

 

測定結果から元に割り出したシエリアのバイタルデータは大正解だったらしい。

 

《うーん、やっぱり正解でしたか…。高血糖に高血圧、便秘…今は深刻ではありませんが、これはマズイですよ》

 

「具体的には…?」

 

《高血糖が進行すると糖尿病になって、毎日のインスリン注射が必要になりますし、重症化すると失明や脚の切断の可能性だってあります。高血圧は心臓病や脳梗塞の原因になりますし、便秘は体に毒素を溜め込むと同意義なので、一度病気をすると様々な合併症を引き起こす可能性があります。長期的に見れば間違いなく命に関わりますし、短期的に見てもお腹の張りやカフェインの過剰摂取が原因で睡眠不足となって仕事に支障が出てしまうでしょう》

 

「それは困る…努力してここまで登り詰めたというのに、病に伏せてしまっては何の意味も無い」

 

《ならば先ずは食生活から改善しませんか?コーヒーは一日に2杯まで、砂糖はスプーン1杯まで。食事は野菜を中心に、出来れば皮まで食べるのがいいですよ》

 

「しかし、恥ずかしながら私は料理が全く出来ないのだ。それに省庁街の近くにある料理店は作り置きが効く肉類の煮物が中心でな…」

 

《それなら私が収集したデータ群の中から今のシエリアさんに不足している栄養素が摂取出来る料理のレシピをお渡ししますよ。電子データならすぐにお渡し出来ますけど、貴国には再生出来る媒体が無いと思うので、印刷してお渡しします》

 

「そんな…なんと礼を言えばいいのか…」

 

《気にしないで下さい。私はこういう事をする為に作られたんです。医療や事務作業、軍事利用では妹達に負けますが、人々の生活を豊かで健康なものにする事が私の仕事なんですから♪》

 

「頼もしいな。貴女が居れば、日本国民は幸せに生きていけるだろう。むっ、すまない。私はこれから日本の外交官と会談があるのだ。これで失礼する」

 

《分かりました。では印刷したレシピはどなたかに届けてもらうので、お待ちして下さいね》

 

「ありがとう。では…」

 

《はーい、またお話ししましょうねー♪》

 

こうしてシエリアは博覧会会場を一旦離れ、レイフォル植民地政府の庁舎へと向かったのだった。




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日本は強し足掻けよ帝国

今回で日本の列強訪問クルーズ編は終了です
次回は魔王編に突入する予定です


光化学スモッグで煙り、汚水が垂れ流しにされる海から立ち昇る悪臭が漂うグラ・バルカス帝国の帝都(首都)『ラグナ』。

正に帝国の中枢たる都の中心部に聳えるコンクリート造の要塞が如き"城"の大会議室では、皇帝である『グラ・ルークス』も参加する御前会議が開催されていた。

議題は無論、日本国への対応を如何にするかである。

 

「…であるわけでして日本は決して油断ならぬ相手、それこそこの世界における超大国(・・・・・・・・・・・)である神聖ミリシアル帝国よりも警戒すべきでしょう」

 

そう締め括って上座に置かれた玉座に座るグラ・ルークスに深々と頭を下げ、帝国軍参謀本部の将校が自身の席に戻る。

 

「超音速戦闘機に重砲並の主砲を持つ戦車、果ては無限の航続距離を持つ潜水艦にそれら全てが誘導弾運用能力を持つ…荒唐無稽だな」

 

冷ややかな目で報告書に目を通すグラ・ルークスはため息混じりにそう告げた。

 

「しかしお言葉ですが陛下、これは私もこの目で…」

 

「冗談だ、余もそこまで愚かではない」

 

慌てた様子で立ち上がったカイザルの言葉にグラ・ルークスは報告書を一旦閉じ、彼に着席するように手で促しながら言葉を続けた。

 

「信じ難いが、帝国の忠臣たるそなたらがこのような場で世迷い言を嘯く筈がなかろう。臣下を信じずして何が帝王か」

 

「陛下…申し訳ありません。一時でも陛下を疑った自身の不明を恥じるばかりです…」

 

「よい、よいのだカイザル。そのように恐れずに進言する臣下こそが何よりの宝だ。しかし…臣民は余のようにはいかんだろう」

 

「と申しますと…?」

 

「ギムレー」

 

「はっ」

 

カイザルの疑問に答えるように、グラ・ルークスは『経済統制省』の大臣『ギムレー・ハリバット』へ発言を促した。

 

「えー、前世界における『ケイン神王国』打倒への最終作戦前、各植民地にあった兵力や入植者を一時的に本土へ帰還させた事は皆様もご存知の事でしょう。そのお陰で転移後も軍事力や人的資源を損なわなかった事は不幸中の幸いでしたが、何の問題も起きていないという訳ではありません」

 

「と言うと?」

 

「植民地ヘ入植した者の中には現地を開拓、或いは事業を始めた事で財産を築いた者が少なくありません。彼らは世間では『植民地成金』と呼ばれていますが、彼らと彼らが雇う従業員(小作人)は前世界の植民地へと帰還する事が出来なくなった為、本土にて持て余している状態です。植民地成金はそれなりの財産があるため食うには困りませんが、小作人達はそうはいきません」

 

「…失業者か」

 

「はい。植民地での事業継続が不可能となり、解雇された小作人達は失業者となりこのラグナはもちろん、各地方都市でも浮浪者同然となっている始末です」

 

「つまり…彼らに働き口を与える為にも植民地獲得は必須だと?」

 

「はい。失業者が増えれば社会情勢が不安定になりますし、治安の悪化も懸念されます。何より重大なのが…植民地成金からの不満です。彼らが今、政府に何と言っているかご存知ですか?」

 

「申し訳ない。あいにくそのような事柄には疎く…」

 

「"我々は安定した植民地経営に貢献していたというのに、政府が帰還を強制させたせいで財産の多くを失った。これは紛れもなく政府の責任であり、政府は我々に新たな入植地を与えるべきである"…彼らはそう主張しています。先日も議事堂前で大規模なデモが発生したのですよ」

 

「なんと…私がレイフォルに居る間にそんな事が…」

 

「ギムレーの言った通りだ」

 

ギムレーの言葉に驚愕するカイザルへ、グラ・ルークスが呆れたような態度で述べた。

 

「確かに此度の転移は予測不可能な事象であり、植民地喪失により発生した損害を被った者は同情すべきだろう。しかし、政府に責任を取れというのはあまりにも筋違いだ。そもそも転移に取り残されていればケイン神王国の軍勢に打ち負かされるのを待つだけだっただろうに…」

 

「なるほど…つまり、件の植民地成金の不満を解消する為に植民地獲得は必要になると」

 

「うむ、ギムレーよ。喪失した植民地と同程度の利益を出す為には、この世界のどれほどを征服すれば良いのだったか?」

 

「はっ。最低でもムー大陸の半分…ですが地形や土壌、埋蔵資源量が不明であるためムー大陸全土を支配下に置くのが賢明でしょう」

 

「ならば速やかにムーを征服してしまうのがよろしいでしょう。そうすればムー大陸にある他の国々も、世界第二位の大国たるムーを打ち負かした帝国を恐れ、軍門に下るやもしれませぬ」

 

「カイザルよ。余もそう考えたのだが…ダンダル」

 

「はっ」

 

グラ・ルークスから呼びかけられ立ち上がったのは、情報局局長の『ダンダル・バルメバ』だ。

 

「我々が調べた限りですと、どうやらムーは日本に対して技術支援を求めているようでして、最近では自動車に関する技術移転が正式に決定したようです」

 

「自動車…!」

 

ダンダルの言葉を受けてカイザルの脳裏に過ったのは、レイフォリアで試乗した日本車の高性能さだった。

 

「カイザルよ、心当たりがあるようだな?」

 

「はい。日本の自動車に触れた事がありますが、たった660ccのエンジンながらも時速100kmで巡航し、300km以上の航続距離、冷暖房完備だというのに庶民の年収の半分で買えるというものでした。正直に申しまして、帝国の自動車より遥かに高性能であり、物によっては軍事転用も可能でしょう」

 

「カイザル提督の仰る通り、優れた自動車は軍事転用も可能です。しかし、それ以上に厄介なのが基礎工業力の向上と…」

 

「ならば!早くムーを叩かねば…」

 

「カイザル」

 

自動車が基礎工業力に与える影響を悟ったカイザルはムーが高い技術力を手に入れる前に征服すべきだと主張するが、グラ・ルークスがそれを嗜めた。

 

「そなたの気持ちも分かる。だが、ムーへは日本が技術支援を行うのだ。つまり、ムーに日本人が頻繁に出入りする可能性がある。そんな中でムーに対して攻撃を仕掛ければどうなるか…分からん訳ではなかろう」

 

「はっ…!」

 

博覧会で日本は他国への侵攻を行わない専守防衛の国だとは聞いていた。

しかし、同時に邦人の生命や財産が脅かされる状況ともなれば何千何万km離れた相手でも叩く事が出来るだけの装備があるとも聞いている。

そんな(日本)の国民を戦火に巻き込んでしまったとなれば、恐るべき兵器によって帝国軍はズタズタに引き裂かれてしまうだろう。

 

「しかし、カイザルの懸念も理解出来る。ムーが力を付ける前にどうにかして…」

 

「会議中失礼します…失礼します…」

 

控えめにドアを開け、背を丸めながら入ってきた情報局の職員がダンダルに耳打ちする。

それを受けダンダルは何度か小さく頷いたのち、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

 

「…ダンダルよ。何があった?」

 

「はっ。陛下、これは速報であり確度はまだ低い情報ですが…日本はムーに対する兵器輸出に前向きな姿勢を表面したそうです。早ければ今年中にも、航空機、艦船、車両、銃器、誘導弾の輸出を行うらしく…」

 

その言葉を受け、会議室が騒めく。

 

「…いかんな。これではムー侵攻を早めれば日本による兵器輸出を早める結果となるかもしれん。カイザルよ、日本の兵器に対抗する策はあるか?」

 

「申し訳ありません。まだ理解が及ばぬ点が多く、全く策を編み出せていません」

 

「左様か…ならばカイザル。そなたは日本に渡り、日本の軍事力、兵器、戦術を徹底的に洗い出し、対抗策を模索せよ。その為には予算・人員に糸目はつけぬ。参謀本部もそれで良いな?」

 

「はっ!」

 

「かしこまりました。不肖の身ですが、全霊を以て任務を遂行いたします」

 

「軍神の閃き、期待しているぞ」

 

このあと暫くしたのち、会議は終了した。

そしてカイザルは直ぐ様人員を選出し、レイフォル植民地政府を介して国交を結んだ日本へと渡航する為の手続きを行ったのであった。




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マーリンマン

今回より魔王編です


所変わって第三文明圏外であるフィルアデス大陸北部に位置する『トーパ王国』。

この国は害獣(・・)である『魔物』が多く住まう大陸『グラメウス大陸』と細長い地峡で繋がっており、太古の昔に築かれたとされる『世界の扉』を拠点に、人類世界への魔物の侵攻を阻止しているのである。

 

「モア、ガイ。交代の時間だぞー」

 

「はーい、お疲れ様でしたー」

 

「ふぃー、お疲れでーす」

 

巨大な城壁を思わせる世界の扉の胸壁に寄り掛かってグラメウス大陸の方向を眺めていた王国騎士の『モア』と非常勤の傭兵である『ガイ』が同僚からの呼びかけに応じ、世界の扉を後にする。

 

「ガイ、あの話は聞いたか?」

 

「あの話?」

 

「ほら、日本の軍隊が来るって話」

 

「あー、それか」

 

「そうそう。なんでも同盟国のアメリカ?って国の軍隊と来て、グラメウス大陸を開拓するつもりらしいぞ」

 

「それは始めて聞いたな。アメリカなんて国、この辺にあったか?」

 

「いや、なんでも日本が元あった世界にあった国で、日本に沢山基地を置いてたみたいだ」

 

「それで日本の転移に巻き込まれたって事か」

 

「だけど日本と同盟を組めるだけの国が近くに出来るのはありがたいな。日本の『ユニシロ』で買った『ホットテック』だが、アメリカでも売ってくれたらなおさらありがたい」 

 

「あっ、いいなー。今度行く時は俺にも買ってきてくれよ」

 

鎧の下に着ているピッタリとした日本製インナーを自慢するモアと、それを羨ましがるガイ。

彼らが世界の扉の裾野に広がる城塞都市『トルメス』の大通りに差し掛かった頃、広場に人集りが出来ているのに気付いた。

 

「何だ?」

 

「見に行ってみようぜ」

 

その様子に興味を引かれた二人は、人混みを掻き分けその中心に行こうとする…必要はなかった。

 

「…巨人?」

 

「騎士?」

 

少し近付いただけで人集りの中心が見えた。

周辺の人々よりも頭二つ分高く、まるで騎士の兜を思わせるような頭部と厳つい肩に一抱え程もある金属製の筒を括り付けた人型の"何か"であった。

 

《参ったな…騎士団の所に行きたいのに、こうもファンが集まっちゃ歩けない。スーパーマンになった気分だ》

 

「あのー!何かお困りですかー!?」

 

《ん?おぉ、君はもしやトーパ王国のナイトかい?》

 

何か違和感を覚える声色ながらも困った様子の"何か"に対し、モアは人払いをしつつ近付く。

 

「えっと…貴方は…人…ですよね?」

 

《おっと、顔を見せないと失礼だな》

 

そう言うと"何か"は兜のこめかみの辺りを篭手に包まれた手で触る。

すると兜の面にあたる部分がプシュッとスパークリングワインを開けた時の様な音と共に上に跳ね上がり、中から真っ黒な肌をした彫りの深い男の顔が出て来た。

 

「初めまして。私はアメリカ合衆国海兵隊、第31海兵遠征部隊の司令官『マクゲイル・トラヴァース』大佐だ」

 

「司令官殿でありましたか。私はトーパ王国の騎士、モアと申します。こちらは非常勤傭兵のガイと言います」

 

「マクゲイルさん、貴方めっちゃ日焼けしてるじゃないですか。南方の出身ですか?」

 

「ん?あぁ、これか。私は黒人と言って生まれつき肌が黒い人種なんだ。肌の色以外は君達と同じ人間だよ。ところでこの街の防衛責任者に会いたいんだ。顔合わせはしたが、グラメウス大陸についてより詳しい情報が欲しくてね」

 

「ならば『アジズ』騎士長が詰め所にいらっしゃいますので案内しましょう」

 

「助かるよ。私の姿が珍しいのか、行く先行く先でギャラリーが集まって来て困ってたんだ」

 

「たしかにマクゲイルさんみたいな黒人なんてこの国にはいませんし、デカくて鎧まで着ているとなっちゃ目立っちゃいますよ」

 

「鎧…あぁ、このドレス(・・・)の事か」

 

モアに案内され歩くマクゲイルは、ガイからの指摘を受けて自身が身に纏う"鎧"の胸甲を裏拳でコンコンと叩く。

 

「これは『M1A2パワードスーツ バトルドレス』と言う機械の鎧なんだ」

 

「パワードスーツ…たしか日本の軍隊も同じ名前の物を装備していましたが、それとは違いますね」

 

モアの指摘にマクゲイルは頷きながら言葉を続けた。

 

「自衛隊のパワードスーツは外骨格型(スケルトンタイプ)でコストの安さを優先してあるんだ。あのタイプは我々も後方部隊向けに配備してある。だが、このドレスは全身鎧型(フルスキンタイプ)でコストは高いが、防御力と火力、着用時の快適性が段違いなんだ。これは我々(海兵隊)が遠征作戦の第一陣となるから、兵士一人あたりの火力と生存率を優先したからこうなっているのさ」

 

「へー…防御力と火力…。って事はまさかその肩のは武器なんですか?」

 

「ガイ君は中々に鋭いな。これは『カールグスタフM6』と言って、歩兵携行用の無反動砲をパワードスーツ用に再設計した物なんだ。砲身が長くなって初速と射撃精度が上がり、リボルバー式マガジンで5連発可能、更にレーザー誘導砲弾に対応していて、低速目標なら対空攻撃だって可能だ」

 

「これ、大砲だったんですか!?しかも誘導砲弾だなんて…パーパルディアの魔導砲とは大違いだ…」

 

「パーパルディア?あぁ、あの傲慢チキな国か。あの国ご自慢の砲兵部隊ぐらいならドレスを着た私一人で殲滅出来るだろうな」

 

「すげー…流石は日本の同盟国…。ところでまだ武器があったりするんですか?」

 

「当然だ。例えば…ほら、前腕には45口径サブマシンガンを内蔵しているし、背中には7.62mmのバトルライフルをマウントしている」

 

小さな駆動音と共に前腕の装甲が開いて銃身が姿を現し、背部のウェポンマウントがスライドして『SCAR-H』アサルトライフルが脇の下から伸びてそのままマクゲイルの手に収まる。

 

「おぉっ!かっけー!いいなー、俺もその鎧着たいなー」

 

「こら、ガイ。失礼だろ」

 

「はっはっはっ、いいさ。ガイ君、君さえ良ければグラメウス大陸に"新たなアメリカ"が出来た際には海兵隊に志願しないか?アメリカは移民の国だ。異世界人が居たっていいだろう」

 

「本当ですか!?」

 

「ただし、それなりの学力が無いといけないぞ。昔はバカでも入れたが、今はちょっとぐらい算数が出来ないとな」

 

「げぇっ、算数苦手なんだよな…」

 

「ガイはようやく足し算と引き算が出来るようになったぐらいだからな。海兵隊に入りたいなら勉強しろよ」

 

そんな事を言い合いながら、モア、ガイ、マクゲイルの3人は騎士団の詰め所へと入っていった。




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華麗なるマーリンコップ

本作の日本、めちゃくちゃ強いですが、アメリカはもっと強いです


かくして始まった在日米軍による新生アメリカ合衆国建国の為のグラメウス大陸調査・開拓作戦『オペレーション・フロンティアスピリット』は当たり前だが、米軍の快進撃が続いていた。

特に第31海兵遠征部隊の『装甲化歩兵(パワードスーツ兵)』による活躍は目覚ましく、極寒の荒野に潜む魔物をものともせずに前進を続けている。

 

《3時方向、ゴブリンが10体!援護しろ!》

 

《サーイエッサー!カールグスタフでぶっ飛ばしてやります!》

 

ドンッ!という轟音と共に砲弾とバックブラストが砲身から飛び出し、HEAT-MP(多目的対戦車榴弾)が小規模なゴブリンの群れの中心に着弾し、炸裂して撒き散らされた破片やワイヤーがゴブリン達をズタズタに引き裂いて物言わぬ肉片とした。

 

《うぉっ!?》

 

《軍曹!無事ですか!?》

 

《なんのこれしき!なんだオーク風情が!そんな打ち込み、ジジイのファックの方が気合い入っとるわ!》

 

岩場の影から飛び出して来たオークが棍棒を海兵の一人に打ち下ろすが、M1パワードスーツに装備されたバリスティックシールド(耐弾防楯)でいなされ、バランスを崩した所で無防備な背中に7.62mm弾を撃ち込まれ、濁った豚のような断末魔をあげて絶命した。

 

《伍長、今夜はポークビーンズだぞ!》

 

《お言葉ですが、軍曹のポークビーンズを食うならママのミートローフの方がまだマシですぜ!》

 

軽口を叩きつつも伍長はSCAR-Hを発砲し、仲間があっさりと屠られた事に動揺するオークを打ち倒した。

彼ら海兵隊パワードスーツ兵が装備するSCAR-Hは通常の物よりも機関部を強化してあり、肉厚の長銃身を装備し、使用弾薬は従来の『7.62×51mm NATO弾』よりも高いエネルギーと貫通力を持つ『7.62×72mm APマグナム弾』を使用している為、軽装甲車両程度ならば貫通出来る威力がある。

そんな対軽装甲目標(車両・パワードスーツ)用に開発された弾丸を防ぐ術なぞ、魔物には無い。

刃を物ともしない分厚い筋肉も、矢を跳ね除ける剛毛も意味を成さず、バタバタと薙ぎ倒されてゆく。

 

《海兵、こちら252・エア・セキュリティー。こちらのIRST(赤外線捜索追尾システム)にて前方30km程の地点で魔物らしき生命体の大規模な集団が確認された。数は…3000以上》

 

《キューバ空軍のPMCか。流石に3000は厳しい。そちらで対応出来るか?》

 

《もちろんだ。日本から新しい機材を買ったばかりでな、慣熟訓練にちょうどいい》

 

陣頭指揮を執るマクゲイルが空を見上げると、上空には1機の旅客機らしき機影が望遠カメラで確認出来た。

転移によって祖国へ帰還できなくなり、日本にてPMCとして活動しているキューバ空軍だ。

彼らは航空自衛隊に仮想敵役(アグレッサー)として雇われているが、その報酬で装備を徐々に更新しており、米海兵隊支援のために上空に展開している機影もその更新された装備の一つだ。

『E-3J』と名付けられたそれは用廃機となった『P-3C』の機体に『E-2C』のレーダーシステム、ロシア系の赤外線センサーを装備した物であり、対空・対地目標の早期発見・追尾・迎撃管制を目的とした簡易AWACS(早期警戒管制機)である。

因みに簡易的とは言ってもこの世界においては別格(チート)な性能をしていながらも日本からして見れば大した性能ではない為、こうしてPMCに売却したり、他国への輸出も考えられている。

 

《来たぞ!キューバの戦闘機だ!》

 

海兵の一人が南方を指差して歓声を上げる。

飛来したのは日本で徹底的に改修されたMig-21、通称『サムライミグ』と航空自衛隊にてT-5練習機として採用されているYak-130の輸出型『FAT-5』だ。

T-5をベースに単座化、主翼の大型化、エンジン強化、アビオニクス更新、背面コンフォーマルタンク装備、20mmリボルバーカノン装備、空母への離着艦能力付与といった手直しを施された本機は練習機らしい素直な操縦特性を持ちながらも対空・対地・対艦各種兵装を最大で4.5トンを搭載可能な亜音速戦闘攻撃機として生まれ変わったのである。

なお本機は既にクワ・トイネ公国とクイラ王国に輸出されており、最近では海上交通の要所であるフィルアデス大陸南部の『アルタラス王国』や、主要貿易国になるであろうムーへの輸出が検討されている。

 

《滑空爆弾、投下!》

 

FAT-5が主翼下に懸下された滑空爆弾を投下する。

滑空爆弾は翼を展開するとサムライミグが照射するレーザーによって誘導され、30km先で蠢く魔物の群れへ一直線に飛んで行った。

 

《……命中!魔物の群れは90%以上が破壊された模様!》

 

当然ならがら迎撃される事もなく魔物の群れの上空まで到達した滑空爆弾は炸裂し、数千個のタングステン弾を撒き散らして魔物達を文字通り蜂の巣にした。

その中には"伝説の魔物"と呼ばれる『ブルーオーガ』が居たのだが、重金属の豪雨に晒されて生き残れる筈もなく、なす術もなく物言わぬ死骸と成り果てたのである。

 

《海兵、排除完了だ。空は我々が見張るから、諸君らは気兼ねなく突き進んでくれ》

 

《252、感謝する!よーし、野郎共!日本が教えてくれた入植可能な地域までもう少しだ!今日中には辿り着き、明日には調査を始められるようにするぞ!》

 

新たなアメリカを作る。

それを合言葉に、海兵隊は突き進む。

 


 

「ブルーオーガがやられた…?」

 

「はっ、魔王ノスグーラ様」

 

グラメウス大陸の内陸部、魔物の巣となっている洞窟が幾つもある岩山の頂上に座する『魔王ノスグーラ』が側近である『マラストラス』からの報告を受け、片眉をピクリと動かした。

 

「人間共が世界の扉を越えた事に対する懲罰だったのだが…ブルーオーガがやられるとは予想外だ」

 

「ブルーオーガは3000のオークを率いて居ましたが、人間共の攻撃により瞬く間に殲滅されたようです。もしや、あの時の…『太陽神の使い』が再び現れたやもしれませぬ」

 

「太陽神の使い…忌まわしき連中が現れたのなら、ブルーオーガの部隊がやられたのも理解出来る。ならば我が出るのが良いだろう。一万数千年…連中を葬り去るためにあらゆる手段を模索した。同じ轍は踏まぬ」

 

「御出陣なさるのですね?」

 

「そうだ。マラストラスよ、来い。愚かにも我が領域に踏み込んだ猿共(人間)を喰らい尽くしてやるわ」

 

立ち上がり、雄叫びを上げる魔王。

それに呼応するように洞窟から次々と魔物が姿を現し、南へ歩みを進める魔王の後を追う。

その数、5万…空前絶後の魔物の軍勢が人間世界への進軍を開始した。




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ピザパーティーは狩りの後で

前回頂いた感想で、日本以外の国なんて誰も求めてない、と頂いたのですが、本当ですか?
私としては原作には出ない在日米軍や、本作の史実とは違った道を歩んだ日本の外交状況を描写する為に在日の地球国家人を色々と描写する予定なのですが、読者の皆様がそう思われるのであれば本作の存在意義は無くなるので、作品を消去するより他ありません。
日本以外の〜、という感想を下さった方はどうやら読者様方の代表者であられるようですが、皆様は如何ですか?
日本以外の国が出る事はご不満でしょうか?


「この辺りは随分と暖かいですね」

 

「はい、おそらくは南からの暖流のお陰でしょう。冬でも気温は氷点下を下回らないという事は、春になれば20度を超えるでしょうね」

 

「やはり魔物が蔓延る大陸だから手付かずだっただけで、人が住める場所は探せばあるものなんだな」

 

グラメウス大陸の東海岸、山脈により南北西を囲まれた平地は極寒だと思われていた大陸には似つかわしくない気候であり、荒れてはいるが開拓すれば人々が住まうのに支障は無いだろう。

 

「マクゲイル大佐!」

 

「ん?君は確か…」

 

「はい、航空自衛隊宇宙戦隊の月出 正信(つきで まさのぶ)一尉です」

 

マクゲイルに声をかけてきたのは、今回の作戦で米海兵隊の支援を行っている自衛隊の数ある部隊の一つ、宇宙空間における衛星運用を行う宇宙戦隊に所属する月出一尉であった。

 

「そうだったそうだった。確か日本の軍事偵察衛星を運用しているんだったかな?」

 

「はい、先程我が国の複合軍事偵察衛星『しんがん(心眼)』にて大陸北部に広域スキャンを行いました。こちらが埋蔵資源の推定値です」

 

そう言って月出はマクゲイルへ紙に印刷した資料を手渡した。

 

「鉄鉱石や銅鉱石、その他金属資源に…おっ、石油に天然ガスまで!近代国家に必要な物が一通り揃ってるじゃないか」

 

「とは言っても地中探査レーダーによるものなので細かい事は分かりません。ですが、少なくとも元々のアメリカに匹敵するような国家を作り、数百年に渡って運営出来るだけの埋蔵量がある事は間違いないでしょう」

 

今回の作戦にあたって日本はロシアからヘッドハンティングしたロケット技術者から得られた技術を用いて開発したペイロード130トン級の衛星打ち上げロケット『H-4B』を用いてグラメウス大陸上空の静止衛星軌道上に複合軍事偵察衛星『しんがん』3基を投入していた。

この『しんがん』は地上に置いた新聞を読める程の分解能を持ち、合成開口レーダー、赤外線探知機はもちろん、レーザー照射により振動を検知して音を探知したり誘導兵器を誘導したり、挙句の果てには複数の周波数の電波を間断なく切り替えて照射する事で地下の様子も探知出来る世界最高峰の性能を持つ衛星なのだ。

因みにオマケのように通信中継やGPS機能も搭載されている為、遠く離れたグラメウス大陸でも日本との交信や精密なマッピングが可能となっている。

 

「流石は日本の衛星だ。しかもこの作戦が終わったらそのまま我々(アメリカ)に譲渡するとは…感謝してもしきれん」

 

「いえいえ、アメリカは開国した時から我が国の友人…先の大戦(太平洋戦争)では不幸な行き違いで敵味方に分かれる事となりましたが、戦後は社会主義者達(東側諸国)による分割統治を事前に阻止し、日本の国体を守ってくれた恩があります。政府としても、その恩を返す時が来たと認識しているのでしょう」

 

「だが我々は君達の頭上に爆弾を落としたぞ?」

 

「無差別爆撃ではなく、軍事施設や軍需工場に限った爆撃だったではありませんか。核…原爆投下にしても、結果論ですが瀬戸内海と有明海に落ちて人的被害は殆どありませんでしたし」

 

「…日本人は本音と建前の使い分けが上手いな。だが、支援してくれるのならありがたく頂こう。しかし…これはやりすぎじゃないか?」

 

月出との歴史談義を切り上げたマクゲイルは、海岸線に次々と到着するUS-5戦略輸送飛行艇(超大型飛行艇)LCAC(ホバークラフト揚陸艇)から降ろされる各種戦闘車両や建築重機をある種の呆れを滲ませながら告げた。

 

「ウクライナ戦争以後、政府は旧式装備でも在庫(・・)として保有しておく事を重視し始めましたからね。流石に74式戦車は古すぎますが、90式戦車に89式歩兵戦闘車、その他トラックや施設科の重機類…少なくともこの入植可能地域を防衛しながらインフラ整備を行う事が出来るでしょう」

 

我々(海兵隊)は戦車をあまり持たないからな。古くても日本製戦車なら喜んで使うさ。ところで…あれは?」

 

感謝を述べつつマクゲイルが指差したのは、海上輸送コンテナやレーダー、戦車の砲塔等を搭載したトラックの一団であった。

 

「あれは『先進対砲迫迎撃システム』と言いまして、部隊内では『和製アイアンドーム』や『マイクロイージス』と呼ばれています」

 

「マイクロイージス!噂には聞いていたが、あれも譲ってくれるのか!?」

 

「政府としてはアメリカへの協力を惜しまない、という意思の表れでしょう」

 

『先進対砲迫迎撃システム』、これはPKO(平和維持活動)等で紛争地帯に展開する部隊・難民居住区を守る為に開発されたものであり、武装勢力からの砲撃及びドローン攻撃を早期に探知・迎撃・反撃する事が出来る。

自衛隊で広く用いられている『73式大型トラック』及び『19式装輪自走155mmりゅう弾砲』の車体である『18式汎用装輪車』をベースに、AIによる指揮補助機能を搭載した指揮車、フェーズドアレイレーダーを搭載したレーダー車、小型モジュール炉を搭載した電源車、40mmレールガンを搭載した迎撃車、155mm榴弾砲あるいは対地ミサイルを搭載した反撃車で構成されており、飛来する砲弾、ロケット弾、ドローン…場合によっては戦闘機やミサイルすら迎撃可能な性能を持つ対空システムなのだ。

それを日本政府は在日米軍に対し4セット供与し、うち1セットを今回の作戦に派遣したのである。

 

「これがあれば空の守りは完璧だな。まあ、魔物が大砲を使うとは思えんが」

 

「トーパ王国からの情報によりますと、数は少ないものの魔物の中にも飛行能力を持つ者がいるそうです。常に252(キューバ空軍)を上空に展開する訳にもいきませんし、何より電源車の余剰電力で機器の充電も出来ますよ」

 

「それはありがたい。電気オーブンを動かしてピザを焼きたかったんだ」

 

「アメリカ人ってやっぱりピザが…ん?」

 

「Mr.月出、どうした?」

 

「マクゲイル大佐、こちらを」

 

深刻な表情を浮かべ、タブレット端末をマクゲイルに見せる月出。

端末の画面には『しんがん』から撮影された地上の様子が映し出されていたのだが…

 

「この地より西側の内陸部に多数の熱源反応があります。数は…凡そ5万。おそらくは魔物の群れです」

 

「なるほど…縄張りに入り込んだ我々を排除するつもりか…よしっ、ピザは一先ずお預けだ。諸君、人喰い(魔物)共を殲滅するぞ!」

 

「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉっ!!」」」」」

 

海兵達の雄叫びが地を揺らし、一気に動きが慌ただしくなる。

北の地で、魔物と異世界人による"戦争"が始まろうとしていた。




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秒速1700メートル

前回の前書きでは見苦しい姿をお見せしてしまい申し訳ありませんでした
皆様からの温かい後押し、応援が心に染みました
今後とも雑音に惑わされる事無く我道を突き進んで行きますので、引き続き応援のほどよろしくお願いいたします

それと、これはおかしい、これは倫理的に不味い、といったご指摘があればご遠慮無く申し付けて下さい


「くっくっくっくっ…人間共め。何を思い上がったのかは知らんが、この地(グラメウス大陸)に足を踏み入れたのが運の尽き。魔王様が出るまでもないわ!」

 

雪がチラつく曇天の下を魔王の側近マラストラスが、石像のような魔物『ガーゴイル』およそ500を率いて人間達が拠点とする平地へと向かって飛行する。

このガーゴイルは魔王ノスグーラがかつて対峙した『太陽神の使い』が使役する『鉄の飛竜』に対抗する為に生み出した飛行能力を持つ魔物であり、時速400kmもの速度で空を飛び回り、口からは音速に近い速度の火炎弾を連射し、石の肌は鉛の礫を跳ね除け、血が通わないため手足を失おうが動き続ける恐るべき魔物なのである。

 

「空から徹底的に嬲り殺し、適当な人間を3〜4匹ばかり手土産にすれば魔王様も喜ばれるだろう。さて、あの稜線を抜ければ人間共の拠点だ!ガーゴイル達、魔王様より生み出されし貴様らの力を見せる時だ!」

 

「「「「「ギギィィィィィィ!」」」」」

 

不快な鳴き声と共にマラストラスに率いられたガーゴイルが一斉にスピードを上げ、山脈の稜線を飛び越える。

すると見えたのは疎らな明かりといくつかの建物…鉄の飛竜は居ない。

夜ならば鉄の飛竜とて飛べないだろうと踏んだのだが、それは的中だったようだ。

こうなればこっち(魔物達)のもの…『太陽神の使い』は鉛の礫を連射する武器を使うらしいが、それにしても空中を高速で三次元的に動き回るガーゴイルを捉えて撃墜する事は至難の技であろうし、何体か撃墜されたとて500もの数を短時間で殲滅するのなら奇跡でも起きない限り不可能だ。

 

「ギィィィィィ!?」

 

勝利を確信していたマラストラスだったが、その喜色に歪んだ醜い顔は直ぐに驚愕に歪んだ。

先行させていたガーゴイル30体が砕け散り、無数の石ころとなって落ちて行ったからだ。

 

「なっ…なんだ!?まさか鉛の礫か!?」

 

マラストラスの脳裏に浮かんだのは、ノスグーラより聞いた『太陽神の使い』の武器…機関銃と呼ばれる飛び道具だ。

しかし、ガーゴイルは機関銃の攻撃を弾く石の肌を持つため撃墜する為には複数発を撃ち込まねばならない筈…しかし、撃墜されたガーゴイルの様子を見るに凄まじい威力の攻撃により一撃で破壊(・・・・・・・・・・・・・・・・・)されたように見える。

『高射砲』或いは『高角砲』なる武器ならそれだけの威力があるのだが、それらは発射の際に轟音が鳴り響くという話だ。

 

「ギィッ!?」

 

「なっ…!?クソっ!撤退だ!人間共が新しい武器を持っている!魔王様に報告し対策を…!」

 

このままでは全滅すると確信したマラストラスは速やかに退却を命じたが、それは遅かった。

人間達の拠点より放たれし帯電した鉄の矢(・・・・・・・)はマラストラスの腰に直撃し、彼は驚愕の表情を浮かべたまま真っ二つになって絶命した。

 


 

「あれは…!」

 

「アジズ団長、あの魔物に心当たりが?」

 

人間達の拠点こと米海兵隊グラメウス大陸キャンプ。

そこに展開した先進対砲迫迎撃システム(マイクロイージス)の指揮車の車内では、現地協力者として同行しているトーパ王国城塞都市トルメス騎士団の団長アジズが、モニターに映し出されたマラストラスの姿を見て目を見開いた。

 

「マクゲイル殿、あれは魔王の側近と言われている魔物、マラストラスです。空を自由に飛び、何十人と手練れの騎士を屠ってきた恐るべき魔物でした」

 

「だが、今死にました。マラストラスとやらもついてませんね。マイクロイージスの射程圏内に入るとは」

 

ワイバーンが生息せず、対空兵器を持たないトーパ王国はマラストラスにとっては容易く攻撃出来る獲物であった。

しかし、フェーズドアレイレーダーによる補足とAIによる未来位置予測、マッハ5もの速度で放たれる炭化タングステン弾を前にしては彼の飛行能力も強靭な肉体も何の意味も無かった。

 

「しかし、あの未知の魔物(ガーゴイル)が残っています。マラストラスが指揮をしていたようですが、あの魔物は指揮官を失ったというのに逃げもせずにこちらに向かっていますよ」

 

「問題ありませんよ。AIによる戦力予測でもあの魔物の脅威度は武装汎用ヘリ程度…歩兵だけなら脅威となりますが、マイクロイージスや87式自走高射機関砲(ガンタンク)が配備されたこのキャンプでなら逆に狩り尽くせます。我々はこの暖房が効いた車内でコーヒーでも飲んで見守っていましょう」

 

「は…はぁ…」

 

とマクゲイルは言うが、アジズは落ち着かない様子だ。

幾人もの同僚をマラストラスの攻撃で喪ってきた経験がある彼は、空を飛ぶ魔物に対するトラウマがあるのだから仕方ない話である。

しかし、次の瞬間にはアジズのトラウマはすっかり解消されてしまうのであった。

 

「おー…流石日本の兵器だ。レーダー反応が次々と消えていくぞ」

 

「これは…!」

 

レーダースクリーンを埋め尽くしていたガーゴイルの反応だが、次々と消失してゆく。

その様はまるで、テーブルの汚れを拭き取っていくようにも見える。

 

「マイ、敵の数は?」

 

《サーイェッサー。残り敵数、123…120…115…》

 

「OK、分かった」

 

マクゲイルの問いかけに応えたのは、マイクロイージスに搭載されている戦術支援AI『秋津洲 マイ』の在日米軍向けモデル『マイ・フェアレディ』だ。

この迎撃も彼女(・・)が全て行っており、マクゲイル達は万が一の誤作動に備えて待機しているだけなのである。

 

「しかし…本当に色んな物が自動化してきたな。まあ、我々も新たなアメリカを作る為には省人化や無人化もどんどん取り入れていかねばならないだろう」

 

「我々としては今のままでも十分だと思いますがね…」

 

マクゲイルの呟きに、アジズは呆れ半分でそうツッコミを入れた。

レーダー上から反応が全て消えたのは、それから3分も経たない頃であった。

 

 




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シン・カイザーゴーレム

そろそろ魔王編も大詰めですね


人間達の拠点へと進撃する魔王軍。

それを率いる魔王ノスグーラは伝説の魔物『赤竜』の背でピクリと眉を跳ねさせた。

 

「マラストラスと飛行隊が…全滅した…?」

 

これは流石に予想外だ。

たしかにマラストラスもガーゴイルも『太陽神の使い』の『鉄の飛竜』とは真っ向勝負出来る程ではない。

しかし、以前の戦いで『鉄の飛竜』は夜間や悪天候下では飛べないという事をノスグーラは理解しており、今回の航空攻撃は正に『太陽神の使い』の弱点を突いた作戦の筈だった(・・・)

 

「まさか『高射砲』や『高角砲』か…?だが、こんなに早く殲滅されるとは考えられん。マラストラスめ…しくじったな」

 

自信満々にガーゴイルを率いて出撃した今は亡きマラストラスに悪態をつきながらもノスグーラは次の一手を考える。

5万もの軍勢を揃えはしたが、それでも航空戦力を喪失したのはあまりにも痛い。

このまま朝を迎えれば『鉄の飛竜』によって空から一方的に攻撃されてしまうだろう。

 

「仕方あるまい。アレ(・・)を使う…」

 

苦々しい表情を浮かべるノスグーラ。

本来ならばこんな所で使うつもりはなかったが、相手が『太陽神の使い』とあれば出し惜しみしている余裕は無い。

 

「ギッ!ギィィッ!」

 

「うるさいぞ、ゴブリン共!」

 

奥の手を使うべく詠唱をするノスグーラであったが、ゴブリン達の耳障りな呼びかけに顔を顰めつつも、彼らの汚らしい爪が指す方向に目を向けた瞬間であった。

 

「ギッ…」

 

「ぐぉっ!?」

 

何か丸太のような物が6本、空を飛んでいる事を認識した次の瞬間、"雨"が降った。

体に勢いよく打ち付けられる大粒の雨…それは雑兵であるゴブリンも、多少は頑丈な筈のオークも、あまつさえ魔物の中ではかなりの力を持つ『レッドオーガ』すらも貫き、物言わぬ骸へと変えてしまった。

無事なのは軍勢の外側に居た少数のゴブリンとオーク、そして即座に防御魔法を展開したノスグーラとその下に居た赤竜だけだ。

 

「な…なんだこの攻撃は…!?これは…鉛の玉…違う!鉛より硬いこれはなんだ!?『太陽神の使い』の新たな武器か!?」

 

レッドオーガの肉体を貫き、勢いを失って地面に転がった物を手に取ったノスグーラは、怒りと驚愕を露わにした。

それは雨の正体…僅か数mm程度の金属球であり、ノスグーラが散々苦しめられた鉛の礫(銃弾)よりも硬くて重い謎の金属である。

おそらくは先程目にした空飛ぶ丸太が炸裂し、この金属球をばら撒いたのだろう。

『太陽神の使い』が用いた『榴散弾』なる武器と似たようなものだろう。

だが、今更それを知っても何の意味も無い。

5万もの軍勢は今や1000を切る程しか居らず、その僅かな手勢でさえ負傷や混乱が目立つため戦力とはなり得ないだろう。

 

「おのれぇぇぇ〜…!『太陽神の使い』!貴様らはやはり魔帝様の障害となり得る害悪だ!今、ここで我が叩き潰してくれるわ!」

 

赤竜から飛び降り、詠唱を再開するノスグーラ。

すると詠唱が進むにつれ彼の体は地に埋まって行き、終いには完全に地中奥深くへと埋没してしまうのであった。

 


 

「M30A1ロケット弾、全弾目標上空にて炸裂!敵集団の90%以上を撃破しました!」

 

米海兵隊キャンプに展開した『HIMARS(高機動ロケット砲システム)』の乗員がノートパソコンに映し出された衛星からの映像を確認し、歓声を上げる。

HIMARSから放たれた6発のM30A1ロケット弾の弾頭には十数万個にもなるタングステン弾が詰め込まれており、それが互いの攻撃範囲をカバーするような形で炸裂したため、凡そ2km×2kmもの範囲にタングステンの雨を降らせる事となった。

もし相手が主力戦車や重装甲車を持っているなら話は別だが、魔物達がそのような物を持っているはずも無い。

 

《大佐ぁ!これじゃあ俺たちの出番がありませんぜ!》

 

《せっかく憧れの日本車に乗れたのになぁ!》

 

《砲兵隊の連中、張り切りすぎじゃねぇか?》

 

一方、海兵隊の戦車部隊はブーイングの嵐である。

日本から供与された10式戦車を使いこなす為の訓練を積み、いざ実戦となる前に敵があっさりと壊滅したのだから期待を裏切られたのだろう。

 

《うるさいぞ!そもそも楽に勝てるならそれに越した事はないだろう》

 

そんなブーイングをマクゲイルはパワードスーツの通信機越しに黙らせた。

 

「ん?まって下さい、マクゲイル大佐!衛星が何か大きな物体をレーダーで捉えました!これは…山…?」

 

マクゲイルの側で控えていた月出がタブレット端末を操作して先程まで魔物達が居た場所…土煙に覆われた地点を捉えたレーダー映像を表示する。

 

《山?大型魔物の死骸か何かではないのか?》

 

「違います、スペクトル分析でも岩石や土による隆起…つまり山が突然現れたというより他ありません!」

 

目を丸くして何が起きているのかを見届けようと画面を注視する月出であったが、それとは正反対にマクゲイルの視線は遥か遠くに向けられていた。

 

《Mr.月出…衛星よりも自分の目で見た方が早そうだぞ…》

 

マクゲイルの目に映っていたのは巨大な山…いや、違う。

二本の脚に二本の腕、煌々と光る赤い目を持った頭をこちらに向け、地震のような地鳴りを起こしながらこちらに向かってくるのは、巨人(・・)であった。

 

「あ…あれは…」

 

《まるでゴジラだな…日本政府にはガンダムかエヴァンゲリオンは無いのか?》

 

月出もマクゲイルも、皆が驚愕に目を見開く。

すると、巨大な声が辺り一面に響き渡った。

 

《グハハハハハハ!『太陽神の使い』よ!人間共よ!貴様らは最早捨て置けぬ!ノスグーラが、この『カイザーゴーレム』を以て貴様らを殺し尽くしてくれるわ!》

 




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無駄!無駄!無駄!

はっきり申し上げますが、他人の作品でああしろこうしろと言うよりも自分で書いた方が建設的ですよ

それとも批判されるのが怖いから、他人の作品を改変させようとしているのですか?
正直、可哀想です


《グハハハハハハ!無駄無駄無駄ァ!貴様ら下種の攻撃なぞ痛くも痒くもないわ!》

 

海兵隊キャンプに向かってゆっくりと、しかしながら巨大な歩幅によって急速に向かってくるカイザーゴーレムに向かって放たれる数多の砲弾であるが、どれも効いていない。

正確にはカイザーゴーレムを構成する土砂や岩石はバラバラと崩れ落ちてはいるが、崩れたそばから周囲の土壌を吸い上げて再生している。

 

《砲兵、離れろ!何をしてくるか分からんぞ!》

 

《りょ、りょうか…うわっ!》

 

予想外の事態に動揺しながらも、マクゲイルは砲兵隊に撤退を命じる。

しかしそれは一歩間に合わず、『M777 155mm榴弾砲』の陣地に野球ボール程の岩石が無数に降り注いだ。

 

《ほう…なにやら妙な鎧を着けているな。生意気な》

 

幸いにも砲兵はパワードスーツを着用していたため死者は出ていない。

しかし、それでも人力よりも遥かに強い力で…それこそ岩石が割れる程の力で衝突したのだから、痛みに悶えるか衝撃で失神しているかである。

 

《戦車隊!頼んだぞ!》

 

《初戦が怪獣退治とは!怪獣退治は自衛隊の仕事でしょうに!》

 

砲塔正面に星条旗を描いた10式戦車が前進し、カイザーゴーレムの足元へ多目的榴弾を叩き込む。

だが、それでもびくともしない。

それどころかカイザーゴーレムが脚を振り上げ、力強く地面を踏み抜いた衝撃によって50トン近い10式戦車がまるで普通車のように横転してしまった。

 

《くっ…マイクロイージス…電源車を下がらせろ!いくら安全とは言え、万が一がある!》

 

マイクロイージスの電源車は以前に述べた通り、小型の原子炉を搭載している。

この原子炉は被弾する事も考慮して頑丈な装甲に包まれており、なおかつ万が一破損しても安全に核分裂反応を停止出来るような構造となってはいるが、それでも圧倒的な質量で踏み潰される事は想定していない。

それを危惧したマクゲイルは電源車を下がらせる事を命じた。

 

「マクゲイル大佐!あの巨大人型物体ですが、胸部に熱源があります!おそらくはあそこが弱点です!」

 

《ありがとう、Mr.月出!しかし、ここは危険だ!電源車に便乗して撤退してくれ!》

 

「分かりました。大佐、ご武運を!」

 

敬礼し、電源車に向かって走ってゆく月出を見送ったマクゲイルは、カイザーゴーレムの胸部を睨みつけると、生き残った戦車隊へと指示を飛ばした。

 

《戦車隊、奴の胸を狙え!心臓を潰してやるんだ!》

 

その指示を受けた10式戦車が最大仰角にて主砲を発射する。

次は心臓部を貫く為のAPFSDSだ。

現代主力戦車を正面から貫通可能な貫徹力ならば、土砂や岩石の装甲なぞ無意味なのだが…

 

《グハハハハハハ!狙いは良いが、このカイザーゴーレムのコア(心臓)を覆う外殻には貴様らが降らせた"鉄の雨粒"を練り込んでいるのだ!自らの武器が利用される気分はどうだ?》

 

なんとノスグーラはカイザーゴーレムを作り上げた時、周囲に散乱・埋没していたタングステン弾を胸部に集中させていたのだ。

これにより図らずも複合装甲に似た構造が出来上がり、APFSDSの弾体は侵徹の途中でタングステン弾によって様々な方向から応力を加えられ、コアに到達する前に破断されてしまったのだ。

 

《まさかタングステン弾を利用したのか…!?》

 

パワードスーツのマスクの下で驚愕に染まるマクゲイルの顔…いや、カイザーゴーレムに立ち向かう者全員が魔王の恐ろしさを目の当たりにして呆然とした。

 

《グハハハハハハ!所詮『太陽神の使い』共もこの程度!偉大なる魔帝様の最高傑作たる我の足元にも及ばぬわ!》

 

脚を振り上げ、勢いよく振り下ろして地を揺らすカイザーゴーレム。

その度に凄まじい地震と風圧、衝撃波が発生し、海兵隊キャンプに設営されていたテントや物資集積所、各種車両がなぎ倒されて行く。

 

《くっ…まさかこんな怪獣が居るとは…!総員、撤退だ!装備は放棄!命を最優先としろ!》

 

このままでは全滅してしまう。

一瞬、キューバ空軍や米海軍の戦闘機からバンカーバスターを落としてもらう事も考えたが、彼我の位置が近すぎるため巻き添えを食らう可能性がある。

こうなっては、一旦撤退して体勢を整えるより他無い。

 

《た、大佐…》

 

《その声は…この戦車か!?》

 

撤退の陣頭指揮を執るべく海岸へ向かおうとしたマクゲイルであったが、横倒しとなった10式戦車から通信が入った。

 

《大佐…申し訳ありません…。ひっくり返った弾みで車体が歪んだのか、どのハッチも開かないんです…》

 

《なんだと!?ふっ…ぬぅぅぅぅぅぅ!》

 

最も開けやすい砲塔上面のハッチを開こうとするが、びくともしない。

何か工具でもあれば良いが、あいにくこの混乱では見つけるのもやっとだろう。

 

《グハハハハハハ!『鉄の地竜』もひっくり返っては手も足も出まい。どれ、せめてもの慈悲だ…一思いに踏み潰してやろうぞ!》

 

カイザーゴーレムの巨大な足がゆっくりと上がり、マクゲイルと戦車へと下ろされて行く。

一思いにとは言ったが、その緩慢な動きは明らかに最期の瞬間まで彼らへ恐怖を与えようとしているものである。

 

《大佐、逃げて下さい…!》

 

《馬鹿な事を言うな!海兵隊はっ!仲間をっ!見捨てないっ!》

 

ハッチを何度も蹴り、どうにかこじ開けようとするマクゲイル。

しかし、無情にもカイザーゴーレムの足は迫り…

 

《むっ?》

 

踏み潰される寸前、カイザーゴーレムの動きが止まった。

 

《こ…この音は…!?》

 

カイザーゴーレムを操るノスグーラが恐怖の感情が混ざった驚愕の声を上げる。

ノスグーラが、その場に居た全員が聴いたのは夜明けの空に高らかに鳴り響く汽笛(・・)であった。

 

《あ、あれは…!!》

 

カイザーゴーレムの目が海の方を向く。

マクゲイルもそれにつられて海の方に目を向けた瞬間だった。

 

《待たせたね、マクゲイル坊や。私もコイツ(・・・)も老いぼれだから遅くなったよ》

 

しゃがれた女性の声が通信機から聴こえると同時に、"それ"は登り始めた朝日を背に現れた。

 

《来てくれたのか…》

 

高く聳えた艦橋に、無数の副砲と機銃。

ミサイルによる遠距離攻撃と対レーダーステルスを重視した現代艦とは似ても似つかない、巨大な砲とゴテゴテとしたスタイルの巨艦…それは100年近く前に大海を支配した戦艦(リヴァイアサン)であった。

 

《ケイト少将…『ミズーリ(・・・・)』…》

 

幼き頃にハワイで見た雄々しい姿を再び、しかも頼もしい援軍として見る事が出来たマクゲイルは、涙を流しながらもその光景を網膜に焼き付けていた。

 




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復活の戦艦

前書きで一部読者様への怒りを顕にして申し訳ありません
今後は気を付けますが、あまりにも目に余るような感想を見かけたら言及しますので、その際はご容赦下さい


「少将、目標視認しました!コイツは…とんでもないサイズだ…。『アーレイ・バーク級』を垂直に立てたと同じぐらいありますよ!」

 

「へっ、狼狽えるんじゃないよ。どんな物だって弱点の一つや二つあるもんさ」

 

グラメウス大陸沿岸に姿を表した『アイオワ級戦艦』の三番艦『ミズーリ』のCICの艦長席には齢60を数える女性『ケイト・ラインバック』が堂々とした態度で葉巻を吹かして座っていた。

 

《ケイト少将!奴は胸部が弱点のようですが、そこに我々が撃ち込んだタングステン弾を集中させて複合装甲の真似事をしています!》

 

「マクゲイル坊やかい。そいつはいい事を聞いた。よーし、一番、二番砲塔射撃準備!」

 

「アイマム!射撃準備!」

 

艦の前方に据え付けられた巨大な2基の砲塔『Mk.7 16インチ50口径砲(406mm3連装砲)』が旋回し、遠方に見えるカイザーゴーレムへ照準が向く。

 

「海兵隊、巻き込まれるんじゃないよ!主砲、撃てぇぇぇ!」

 

ミズーリを始めとしたアイオワ級戦艦は湾岸戦争での対地攻撃で大きな活躍を見せた為、以後も細かな改修が施されている。

その為、最新鋭とは言えないものの十分に現代でも通用するFCSによって管制された主砲は目標へと寸分たがわず砲弾を叩き込んだ。

 

《グオォォォォォォォォ!?》

 

カイザーゴーレムの上半身が爆炎に包まれ、轟音と共にノスグーラの悲鳴が鳴り響く。

 

「やったか!?」

 

1トンを超える徹甲榴弾が6発命中したのだ。

如何に巨大でも、如何に擬似的な複合装甲を持っていようとも、その圧倒的な質量攻撃の前では無意味…のはずだった(・・・・・)

 

《グッ…ヌォォォォォォ!グハ…グハハハハハハ!耐えた!耐えたぞ!『鋼鉄の神船』の攻撃を耐えたぞ!》

 

巨大な両腕を天に掲げ、ノスグーラの歓喜を表すカイザーゴーレム。

なんと信じ難い事にカイザーゴーレムは表面の擬似複合装甲に加え、圧縮した粘土層でコアを覆う事によって大型艦砲による砲撃を耐えたのだ。

 

「コイツは…参ったね…。まさか主砲が効かないとは…だが…」

 

その光景に驚愕するケイトだが、彼女にはまだ手札がある。

そしてそれこそが、このミズーリが未だ現役にある理由でもある。

 

「180°回頭!アレ(・・)を使うよ!」

 

「アレ…アレですか!?そんな!アレはまだ試作品で、まだ低出力での試験しかしていないんですよ!?使っても主砲より低い威力しか…」

 

「だからここで過負荷試験をやるんだよ。ほら、分かったらグズグズするんじゃないよ!金玉付いてんだろう!」

 

ケイトの言葉を聞いた技術者風な男が慌てふためくが、彼女はそれを強引に説き伏せると彼の背中をバシンッ!と強く叩いた。

 

《ほう…逃げるつもりか…。だが、アレは目障りだ。ここで始末しておこう!》

 

ゆっくりと旋回するミズーリを見たノスグーラは、それを逃すまいと振り上げられたカイザーゴーレムの両腕に魔力を集中させる。

封印されている間に溜め込んだ魔力を用いた大規模破壊魔法を使うつもりだ。

 

「三番砲塔、回路開放!砲塔内スーパーキャパシター(大容量コンデンサ)充電開始!」

 

「弾種、プラズマ化対策型APFSDS!」

 

「スーパーキャパシター、充電率50%…60…70…80…」

 

「90…100%!」

 

「まだ詰め込みな!出来るんだろう?」

 

「はっ!110…120…130…140…150%!スーパーキャパシター、容量限界です!」

 

ミズーリが回頭を終え、艦尾をカイザーゴーレムに向ける。

そこに鎮座するのは艦首側にあったのと同じ主砲塔が1基…ではなかった。

本来同じ太さの砲身が3本生えていた筈だが、406mm砲より細い砲身が1本だけしか無く、その砲身も外部に無数のケーブルやチューブが絡み付いている有り様だ。

 

《ふん、最期の悪あがきか。だが、それもさせぬ!貴様らは一花咲かせる事もなく滅びるのだ!》

 

カイザーゴーレムが天に掲げた両手に赤黒い炎が踊る。

それは巨大戦艦すら蒸発させる圧倒的熱量の火炎魔法…如何に二次大戦最強格の戦艦であるミズーリ言えど、耐えられるものではない。

 

《死ねぇい!『太陽神の使い』……!?》

 

火炎魔法を凝縮して作り出した火炎弾を放とうとした瞬間だった。

カイザーゴーレムの頭部で小さな爆発が起きた。

 

《へへっ。俺たちを忘れてもらっちゃ困るな》

 

それはすっかりノスグーラの眼中に無かったマクゲイルと横転していた10式戦車であった。

パワードスーツの人工筋肉が破裂する程の力を振り絞ったマクゲイルは何と10式戦車を倒して正常にさせ、戦車の乗員もまた全身打撲や骨折の痛みに耐えて多目的榴弾を叩き込んだのだ。

 

《おのれぇぇぇぇぇ!》

 

取るに足らない存在から思わぬ一撃を貰い、怒り狂ったノスグーラは一旦攻撃を取り止めてマクゲイル達を今度こそ踏み潰そうとする。

しかし、それがノスグーラの判断ミスであった。

 

「マクゲイル坊や、よくやったね。お陰で間に合ったよ!」

 

異形の三番砲塔に稲妻が走る。

これこそミズーリが現役にある理由…日米共同開発の大口径レールガン『Mk.1 12インチ50口径レールガン(305mm単装電磁投射砲)』だ。

この史上最大のレールガンを搭載するプラットフォームとしての価値を見出された為、ミズーリは現役に復帰し、実験の為に日本に来ていたのである。

 

「撃てぇぇぇぇぇっ!!」

 

湾岸戦争後、換装された大出力ガスタービンにより発電された電力を大容量コンデンサに溜め込み、それを一気に開放する事によってマッハ20もの速度で劣化ウランで作られた安定翼付き徹甲弾を投射した。

 

《ぬっ!?グオォォォォォォォォ!?》

 

タングステン弾を利用した擬似複合装甲と圧縮した粘土層は火薬を使った火砲では貫けなかったが、マッハ20という極超音速が生み出す莫大な運動エネルギーはそれをいとも容易く貫き、その奥にあったコアを穿った。

 

《馬鹿な!?我が…魔帝様の最高傑作である我が!!グ……グワァァァァァァァァァッ!!》

 

溜め込んだ魔力が行き場を失い、カイザーゴーレム自身をドロドロに溶かしてゆく。

その光景を目にしたケイトは新しい葉巻に火を点けながら、ため息混じりに呟いた。

 

「61歳のバースデーキャンドルにしちゃあ、ちょっと悪趣味だねぇ…」

 




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北の魔王が死んだ

今回で魔王編は終了です

アンケートがありますので、よろしければ回答をお願いします


「コイツは…何とも手酷くやられたもんだ」

 

魔王ノスグーラによる襲撃から数時間、すっかり日も登り明るくなったが、それが被害の大きさを物語る。

転がった車両にひしゃげた榴弾砲、バラバラになったテントやプレハブを眺めながらパワードスーツを脱いだマクゲイルが頭を抱える。

 

「しかし、死者が出なかったのは幸いだ。物はまた買えばいいが、人はそうはいかんからな」

 

そう自分に言い聞かせるように呟きつつ、迎えに来たハンヴィーに乗り込む。

 

「マクゲイル坊や、随分と落ち込んでるみたいだねぇ」

 

「っ!ケ、ケイト少将!」

 

何故か乗り込んでいたケイトの姿に驚き、マクゲイルは慌てて敬礼した。

 

「そんなに畏まらなくていいさ。ふぅ…それにしても試作品をぶっ壊しちまった。始末書では済まないかもね」

 

「いえ、レールガンによる攻撃が無ければどうなっていたか分かりません。上にも日本政府にも私から説明します」

 

「そいつは頼もしいね。それじゃあ助けたついでに一杯付き合いなよ」

 

「酒は医者に止められているのでしょう?軍医殿は政府よりも手強いですよ」

 

そんな事を言っていると、巨大な岩山の近くに辿り着いた。

その岩山は黒く鈍い輝きと共に猛烈な熱気を放っており、肌がジリジリと焼けそうだ。

 

「コイツが例のアレかい」

 

「はい。魔王ノスグーラが操っていたカイザーゴーレムなる巨大人型物体の残骸です」

 

その岩山はカイザーゴーレムが暴走した魔力によって溶け、それが冷え固まって出来た物だ。

いわば溶岩が固まったに等しく、その熱は数時間で無くなるものではない。

 

「マクゲイル大佐、と…こちらは確か…」

 

「海軍のケイト・ラインバック少将だ」

 

「よろしく頼むよ」

 

岩山の近くで耐熱服を着て調査していた月出がマクゲイルの姿に気付いて近付いてきた。

 

「お目にかかれて光栄です、ケイト少将」

 

「それでMr.月出、この岩山について何か分かったかい?」

 

「はい、いくつか驚くべき事が分かりました。先ず一つ、これは同行して頂いたトーパ王国の魔導師による分析ですが、この岩山には莫大な魔力が残存しているようでして、この岩山から放射される熱を帯びた魔力が徐々に拡散してグラメウス大陸全体を温めているようです。これは衛星を用いた気象観測により裏付けが取れています」

 

「大陸全体を…温めている?」

 

「具体的にどれぐらいになるんだい?」

 

「このような事例は初めての事ですので何とも言えませんが、スーパーコンピューターを用いた気象シュミレーションでは3年後には平均気温25〜5℃程度になると見られます。地球で言うならフランス辺りに近いですね」

 

「そのまま温め続けられて、灼熱地獄になったりするんじゃないのかい?」

 

「いえ、これ以上の気温上昇はこの大陸の上空にある強い寒気によって妨げられると予想されています。加えて申し上げますが、トーパ王国の魔導師によりますとこの魔力放射は短くとも今後数百年、長くて千年以上は続くとの事です」

 

「つまり…」

 

「はい。このグラメウス大陸全体が人類が居住し、農耕可能な気候になるという事です!」

 

月出の報告はマクゲイルにもケイトにも、そして新たなアメリカを作ろうとしている全ての人々にとって大いなる福音となった。

この広大な大陸が全て新たなアメリカとなる、しかも主である魔王ノスグーラを倒した以上、何の障害も無い。

 

「喜ぶのはまだ早いですよ。あの岩山、所々から溶岩が流れ出ているのが見えますよね?実はアレ、溶けた金属…しかも金や銀が主成分なんですよ!」

 

「金と銀!?そりゃ本当かい!?」

 

「すごい…魔王を倒して金銀が出るなんて、まるでRPGだな」

 

パッと見るだけでも結構な量の溶けた金と銀が流れている。

これなら建国に必要な資金には困らない。

 

「ですが、一つ気掛かりな事がありまして…」

 

「ん?どうしたんだ?」

 

「はい。これを」

 

月出が差し出したタブレット端末を覗き込む。

そこに写し出されていたのは、城壁に囲まれた都市のような物…

 

「これは…街かい?」

 

「はい。高度な、地球で言えば中世から近世程度の文明を持った都市だと推測されます。トーパ王国に問い合わせましたが、魔物はこんな都市は作れないだろうとの事でした」

 

「なるほど…つまり何らかの理由があって人類、あるいはそれに近しい種族がここに住んでいると?」

 

「おそらくは…しかし、どのみちこの大陸をアメリカにする為には彼らとの接触が不可欠です。友好的か敵対的かは不明ですが、あらゆる事態に備えるべきかと」

 

「月出の言う通りさね。見たところこの都市は内陸部だから、今度はミズーリの援護は出来ないよ」

 

そんなやり取りを交わしつつ、岩山の周囲を散策する3人。

 

「大佐ぁー!コイツを見て下さい!」

 

岩山の反対側に来た時、一人の海兵がマクゲイルへ呼びかけた。

 

「どうした!」

 

「はっ!魔王です!コイツ、まだ生きてやがります!」

 

海兵達が集まってライフルやマシンガンの銃口を向ける先、赤熱した岩石と融合するような形で瀕死の魔王が横たわっていた。

 

「グッ…ウゥゥゥ…貴様ら…『太陽神の使い』め…一度ならず二度も我が行く手を阻むか…」

 

「ふぅ…さっきから我々を『太陽神の使い』と行っているが…我々はアメリカ合衆国海兵隊だ。誰と間違っている」

 

「アメ…リカ?」

 

マクゲイルの言葉を聞いたノスグーラは、その白目の無い真っ黒な目を見開く。

 

「そうか…貴様らが『太陽神の使い』が戦う運命にあると言っていたアメリカか…グハハハハハハ…数奇なものよ…」

 

「な、何だって!?『太陽神の使い』なる存在がアメリカと戦う!?それはもしかして…」

 

ノスグーラから告げられた衝撃の事実に月出が思わず身を乗り出し問い質そうとするが、何が起きるか分からないため海兵達によって制止された。

 

「だが、もうじき…偉大なる魔帝様が復活なされる!その時が貴様らの最期だ!グハ…グハハハハハハ!」

 

その言葉を最後にノスグーラは生命力を使い果し、黒い塵となって消え去った。

 

「マクゲイル大佐。私は今から本国(日本)に戻って外務省を通じて神聖ミリシアル帝国の魔帝専門機関へコンタクトを取ります。もしかしたら先程の戦闘等の映像を提出して頂くかもしれませんが…」

 

「分かった。我々としても出来る限り協力する」

 

「まったく…私もアイツ(ミズーリ)もまだまだ引退出来ないみたいだねぇ…」

 

それから数ヶ月後、グラメウス大陸南東部にてこの世界におけるアメリカ合衆国こと『ニューアメリカ合衆国』の建国が宣言された。

その建国宣言は多くの国々に驚きを以て迎えられたが、実質的列強国と認識されつつある日本の後押しという事、そもそも利用価値が無いと思われているグラメウス大陸での建国という事も相まって、どの国も異議を唱える事はなかった。




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元海軍士官はかく語りき

アンケートの結果、日本との接触で各国がどう変わったかを描写していきます


第三文明圏の覇者にして唯一の列強国であるパーパルディア皇国。

その首都である皇都エストシラントは世界有数の都市であり、100万人もの人々が石造りの街並みで生活を営んでいる。

その光景は地球人から見れば、ヨーロッパの古都に見えるだろう。

しかし、そんな美しく栄えた都にも"闇"というものは存在する。

それこそがエストシラントの郊外、東側にある『旧市街』だ。

 

元々、パーパルディア皇国は『パールネウス共和国』という国であり、首都も内陸部にある『パールネウス』であった。

しかし、パールネウス共和国が他国を侵略・併合し巨大になると国号をパーパルディア皇国と改め、それに伴って獲得したフィルアデス大陸南部の沿岸部に新たな都市を作り、そこに遷都する事となったのだ。

その際、当時の皇帝は最新技術である干拓で干潟を埋め立てる事で新しい平地を作り、そこを皇都エストシラントとしたのだが、これには問題があった。

というのも当時の技術はまだ未熟であり、暫くするとあちこちが地盤沈下を始め、水道には海水が混ざるようになり、海に近い場所は少し海が荒れると波を被るようになってしまったのだ。

そのためエストシラントは徐々に西へ西へと移動し、現在の姿となったのである。

 

だが、話はそれでは終わらない。

というのも、旧市街は貧民や逃亡奴隷といった棄民が住みつき始め、巨大なスラム街と成り果ててしまったのだ。

もうこうなったら皇国政府もどうしようもなかった…というよりは何もしなかった(・・・・・・・)

"汚らしい者が一箇所に集まるなら好都合。下手に散らばるより良い"と判断した皇国政府は現状を放置し、旧市街での犯罪や病死、餓死、事故死は一切無視してていの良いゴミ捨て場(・・・・・)としたのである。

 

「ここが旧市街…いや、『ニホノポリス』か…」

 

そんな普通ならまず足を踏み入れない場所に馬車で乗り付けたのは、皇国海軍総司令官『バルス』であった。

地を踏み締め、歩くバルス。

彼の足元は藻や泥で滑る古い石畳…ではなかった。

地面は砂利を練り込んだ黒いアスファルトで平坦に舗装され、道路の脇には灰色のコンクリート製の側溝が平行線を描き、建ち並ぶ建物は白く塗装されたコンクリートの外壁を持つ洗練された集合住宅だ。

 

「日本の技術力はスゴイな…。僅か2年であの(・・)旧市街がここまで変わるとは…」

 

まるで日本の新興住宅地のようだが、この光景は正に日本の手によるものである。

そもそも日本はロウリア王国が抱えた負債を肩代わりする際、皇国に対して金銭や資源、奴隷ではなく建築・農業技術の提供を申し出た。

これに対し皇国政府は日本の技術力を目の当たりにしていたため軍事技術の提供が無い事を若干不満に思いつつも妥協して受け入れたのだが、それに待ったをかけたのが一部の有力地方貴族であった。

彼らは日本についての情報を殆ど知らなかったため、見ず知らずの新興国に配慮する中央への不信感を訴えたのである。

それを放置すれば地方貴族による反乱や独断先行によって内政が不安定化する事は確実…それを防ぐべく、皇帝ルディアスは日本の技術を内部に知らしめ、日本への配慮は妥当だと証明するために悪名高い旧市街の再開発を日本に委託したのである。

そしてその際、再開発地域の名を『ニホノポリス』と定めたのだ。

 

「んー…確か307号室だったかな?数字を押して…呼び出しのボタンを…」

 

とある集合住宅(アパート)の前にたどり着いたバルスはメモを片手に慣れない手付きでオートロックのテンキーを操作し、目的の部屋を呼び出す。

ピンポーンという呼び出し音が鳴り、直ぐにスピーカーから声が聴こえてきた。

 

《バルスか、よく来たな。入ってくれ》

 

「あぁ、ありがとう」

 

スピーカーから聴こえる旧友の声を懐かしく思いつつも、一人でに開いた自動ドアに驚きながら教えられた通りにエレベーターに乗り込み、目的の部屋の前に辿り着くと…

 

「バルス!久しぶりだな!」

 

「シルガイア!元気そうで何よりだ!」

 

インターホンを使うまでもなく、部屋の主である『シルガイア』がドアを開けてバルスを出迎えた。

シルガイアはバルスの士官学校時代の同窓生であり、卒業時も平民出身ながらバルスに次ぐ成績であった秀才であった。

しかし、軍に入ってからは派閥争いや政治対立によって閑職へと追いやられ、いつしか自主退役してしまったのである。

だがバルスはそれでもシルガイアを親友だと思っており、シルガイアもまたバルスの信頼に応える形で交流しているのである。

 

「さあ、バルス。入ってくれ。狭い部屋だが、貴族の邸宅より快適だぞ」

 

「では失礼して…おぉ…これはこれは…」

 

シルガイアに案内され、部屋に入ったバルスは感嘆の声を上げた。

部屋自体は日本によくある単身者向けの手狭な1DKであるが、石材と木材が主である皇国の建物よりも断熱性、機密性に優れているため、シルガイアが言う通り狭さ以外なら貴族の邸宅以上に快適だ。

 

「これは…魔石灯か?」

 

「いや、これはLEDという照明だ。このアパートの屋上にある太陽光発電設備で出来た電気を使って光っているんだ」

 

「この白い箱は?」

 

「それは冷凍冷蔵庫だ。食品が悪くならないように凍らせたり冷ましたりするものだ」

 

「なんだかガタガタ音がするが…」

 

「あぁ、すまない。それは洗濯機だな。洗濯物と洗剤を入れれば洗い、すすぎ、脱水をやってくれる機械だ」

 

「あの小さな黒い衝立は?」

 

「あれはテレビという機械で映像と音声を受信出来るんだ。今は使えないが、もうじきここでも使えるようになるらしい」

 

バルスの質問に答えてゆくシルガイア。

というのもシルガイアを始めとした旧市街の住人は再開発に伴い、一度日本が用意した貨物船を改造した洋上アパートで暮らしながら日本式の生活様式や労働を教育され、旧市街再開発の作業員として働きつつも、異世界人が地球の技術を扱えるかという実験のモニターをしているのである。

 

「ところでバルス。軍はどうだ?」

 

「どうもこうも…日本のおかげでメチャクチャだよ。上の人間は…と言っても私もだが、対日本戦略を練るのに四苦八苦している。だが、どう考えても勝てん。ミリシアルが味方になってくれるなら勝ち筋が見えるが、そんな事はあり得んだろう」

 

「そうか…大変だな」

 

「そう言うそっちはどうなんだ?」

 

「私か?私は旧市街再開発の現場監督をしているよ。まさか士官学校での経験がこんな形で活きるとはなぁ…」

 

「現場監督、スゴイじゃないか!お前も司令官という事だな!」

 

「よせよせ。私が任されているのは、一区画だけだよ。それより、時間はあるか?お前が来ると言うから、日本の酒を取り寄せたんだ。よく冷えたビールは美味いぞ」

 

「日本のビールだと!?それは予定をキャンセルしてでも飲んでおかないとな!」

 

「ははっ、変わらんなぁ」

 

地位を得ても変わらず酒と新しい物が好きな親友の姿を喜ばしく思いながら、シルガイアは冷蔵庫から冷えたグラスと瓶ビール、ツマミのサラミを取り出す。

 

「ではシルガイア」

 

「うむバルス」

 

互いのグラスにビールを注ぎ、グラスを触れ合わせた。

 

「「我々の友情に、乾杯!」」




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皇国はカモである

各国の変化についてはサクッと流していきます


エストシラント中心部、皇帝が住まう宮殿へと一直線に続く大通りを一台の自動車(・・・)が走っていた。

日本が世界に誇る自動車メーカー、トヨハタの高級ミニバン『ヴェルファード』のVIP専用モデルだ。

日本国内でも大臣クラスの政治家や大企業の幹部の送迎に使われるような自動車だが、本車は日本国政府がパーパルディア皇帝ルディアスへ、友好の証として献上(・・)したものなのである。

故に、乗り込んでいるのはルディアス、その人だ。

 

「はぁ…」

 

揺れや騒音も無く、まるで滑るように走るヴェルファードの後部座席でルディアスはため息をつく。

彼が見ているエストシラントの街並みはいつもとは変わらないが、二つほど違う点がある。

まず一つ目は道路だ。

元々のエストシラントの大通りや主要道路は石畳で舗装されたしっかりしたものであったが、それでも多少の凹凸があったため、上等な馬車であっても微細な振動に悩まされるのが常であった。

しかし、今では日本からの技術供与によりアスファルト、或いはコンクリートによって殆ど凹凸が無い平滑な路面への更新が進んでおり、このような自動車は勿論、古びた荷馬車でさえも快適に通行する事が出来るようになった。

 

もう一つが、自動車の普及だ。

ロウリア王国の負債を日本が肩代わりするにあたり、金銭・奴隷・資源の代替として皇国へ献上された5000台の中古自動車及び二輪車だが、それらは貴族や豪商といった富裕層の乗り物として使われ始めており、数は少ないもののエストシラントでは当たり前に自動車が走るようになっていた。

 

それだけを聞けば文明圏外国(ロウリア王国)に背負わせた負債の見返りとしては中々に良いものであるのだが、話はそんな上辺だけで済むものではない。

というのも皇国は現在進行形で対日貿易赤字(・・・・・・)が増大しているのだ。

 

「運転手、出発前に入れたガソリンはいくらだったか?」

 

「はい、陛下。ガソリンが30リットルで約9万パルクでありました」

 

「そうか、分かった」

 

日本製自動車には燃料、つまりガソリンが必要だ。

しかし、皇国は化石燃料(石油)を使うという文化が無く、故に石油を精製するような技術も無い。

だからこそ日本から精製された石油を輸入するしかないのだが、それがとんでもなく高い。

具体的に言えば1リットルあたり3000パルク…日本円に換算すれば1000円程であり、宮殿を出る前に給油した分だけでも平均的な労働者の年収に相当する。

この事に関して日本側に抗議しようとも考えたが、そもそも強大な軍事力を持つ日本に対して強気に出られる訳もなかった。

一応は日本と同じく科学文明国であり、以前から国交があったムーへ精製済み石油の輸出を打診したのであるが、日本車に使えるような高純度精製石油は国内需要で手一杯であり、そもそも輸出したとしても運送費の問題で日本製石油の10倍以上の値段になるという回答を叩き付けられたため、皇国は仕方なく日本からの輸入にたよっているのだ。

 

「以前と比べて随分と走り易くなりましたね。これも陛下の類稀な交渉があっての事です」

 

「……そうか」

 

助手席に座る護衛がゴマすりをするが、それを聞いたルディアスの表情はますます曇った。

確かに日本から得られた土木・農業技術支援だが、実を言うとこの技術支援というのが対日貿易赤字の大きな要因なのである。

というのも当初日本は皇国への技術支援を"開発途上地域の開発を主たる目的とする政府及び政府関係機関による国際協力活動"…いわゆる『政府開発援助(ODA)』として行う事としており、この事は皇国側にも伝えられたのだが、これが皇国側の逆鱗に触れた。

これは日本側の配慮が足りなかったというのもあるが、上位列強に対するコンプレックスを燻らせている皇国側は皇国を開発途上地域(・・・・・・)扱いしている事に怒り狂ったのである。

しかし、日本としては無償或いはそれに近い形での技術支援を行う為の予算を確保出来るのはODAしか無いとの事であったので、皇国は愚かにもプライドを優先して有償での技術支援を取り付けてしまったのだ。

 

「あのような挑発に乗る連中を止められんとは…余の力も陰ったものだ…」

 

自虐するルディアス。

今思えばあれは日本による策略だったのだろう。

皇国側の気質を理解し、コンプレックスを刺激して有利な条件で交渉をまとめる…日本は異世界から転移してきたと自称しているが、それが本当なら皇国の外交が児戯に思えるような激しく複雑な外交合戦を日本は積み重ねてきたのであろう。

 

「…悔やんでも仕方ない。今後どうするかを考え…」

 

眉間に深い皺を作ったルディアスが気持ちを切り替えようとしている矢先、車体が大きく揺さぶられた。

 

「っ!?」

 

「陛下!そのままお待ち下さい!」

 

護衛が日本から献上されたニューナンブを携え、助手席のドアを開ける。

ルディアスも恐る恐る防弾ガラスの窓から外の様子を確認してみると、一台の小型二輪車が左後輪の辺りに転がっており、その運転者と思わしき男性がうつ伏せに倒れていた。

 

「陛下、どうやら路地から出た際にぶつかってしまったようです。陛下に害を加える意思は無く、事故だと主張してしますが…」

 

「よい、衛兵を呼んで通常の事故と同じように処理をさせよ」

 

自動車に不慣れであり、交通システムが未熟な皇国ではこのような交通事故は日常茶飯だ。

だが、これを放置するわけにもいかない。

 

「日本から信号機や交通整理のノウハウを買い付けなければ…あぁ…また赤字が…」

 

皇帝辞めたい…そんな感情とキリキリ痛む胃を抱えたルディアスの姿は何とも痛々しかった。

 




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読んで、作って、空を飛んで

今回はミリシアル編です


神聖ミリシアル帝国には『魔導学院』と呼ばれる機関がある。

字面だけを見るのであれば魔法に関する教育を行う学校のように思えるが、ミリシアルの場合は違う。

確かに付属の幼年学校(小学校)青年学校(中・高等学校)は存在するが、魔導学院自体は魔導技術を用いた工業製品…特に兵器の開発・生産を主な生業としている、いわば国営軍需企業に近いのが実態である。

そんな魔導学院の一つ、天の浮舟(航空機)開発を得意とする『ルーンズヴァレッタ魔導学院』が保有する飛行試験場では、1機の天の浮舟がトーイングカーに牽引され、滑走路の端に停められた。

 

《管制塔、聴こえるか?こちらテストパイロットの…そうだな、ワーム1と呼んでくれ。只今より地上滑走試験を行う》

 

魔信(無線)から聴こえてきたテストパイロットの言葉に、管制塔で見守る技術者達の一人が応えた。

 

「了解、ワーム1。不測の事態に備え、脱出レバーをいつでも引けるようにしてくれ」

 

《私は我が国の技術者を信用しているよ。だが、信用している者にそう言われては従わなくてはいけないな。ではエンジンを始動するが、一応確認する。『ジグラント2』と同じ手順で良いか?》

 

「そうだ、ワーム1。その機体は新型とは言うが、見ての通りベースは帝国の主力戦闘爆撃機ジグラント2だ。基本的な操縦方法は変わっていない」

 

《それなら安心だ。では、エンジン始動!》

 

パイロットの言葉と共に気圧差を発生させる事によって気流を生み出す魔石『風神の涙』を搭載したエンジン始動車から送り込まれた圧縮空気がジグラント2のエンジンに吹き込まれ、タービンを回す。

ミリシアルの航空機に使われる魔光呪発式空気圧縮放射エンジン(マジックジェット)は地球におけるジェットエンジンと似通った構造をしているため、おのずと始動方法を似通ってくる。

 

《エンジン…うぉぉっ!?》

 

「ワーム1、どうした!?」

 

驚愕したような声を発したパイロットに技術者達は何かあったのかと冷や汗を流したが、それは杞憂であった。

 

《すごい…このエンジンはすごいぞ!今までのエンジンの2倍の出力が出ている!》

 

「2倍!?それは本当か!?」

 

今回の試験の目玉は新型エンジンだ。

技術者達の予想では従来品より出力が1.3倍程向上すると見積もられていたのだが、2倍とは良い意味で裏切られた。

 

《よし、では地上滑走試験に移る》

 

「その機体はエンジンもだが、機体自体にもいくつか手を加えている。何か違和感があったら無理をせずに直ぐに停止してくれ」

 

《了解した》

 

興奮冷めやらぬ様子で言葉を交わし、いよいよ本命の地上滑走試験へと移る。

降着装置のブレーキを解除し、スロットルを徐々に開いて、滑走路を進む。

この飛行試験場は干上がった湖の底であり、平坦な干し固まった粘土質の大地が何十kmにも渡って広がっているため、最高速度に達するまでゆっくりと加速する事が出来る。

 

《時速100…150…200…250…300…っ!?なっ!か、管制塔!》

 

「どうした、ワーム1!?」

 

地上滑走試験は順調に進んでいたが、速度が時速300kmを超えた辺りでトラブルが発生した。

 

《機体が…機体が跳ねる…っ!機体の尻が上下に動いてるようだ!》

 

「滑走中止!中止だ!脱出するんだ!」

 

《ダメだ!機体が壊れる!仕方ない…このまま離陸する!》

 

「ワーム1、何を言っている!?離陸試験はまだ予定されていないぞ!」

 

《だがこのままだと機体は無事では済まない!予定の前倒しだと思ってくれ!》

 

そう言うとパイロットは技術者の制止も聞かず、操縦桿を引いて機首を上げさせる。

 

《上がれぇぇぇぇぇっ!!》

 

激しく揺れる機体、汗ばんだ手、技術者の祈り。

しかし、その結果はあまりにもあっさりしたものであった。

 

《……え?あ…がった…?》

 

気付けば激しい上下の揺れは無くなり、地上が遠くなりつつある。

 

《っ!!》

 

その事に気づいたパイロットは引きっぱなしだった操縦桿をゆっくりと押し、急上昇中だった機体を水平飛行にさせた。

高度5000m、時間にして3分もかからずにこの高度まで到達してしまったのである。

 

《か、管制塔…現在高度5000m。機体にもエンジンにも異常は見られない。速度は…は、はははは!》

 

「ど、どうした…?」

 

《すごいぞ!現在の速度は時速600km!巡航速度でこれだ!》

 

「じゅ、巡航速度で!?」

 

これまでの天の浮舟は最高(・・)速度でも時速500km台後半が精一杯だった。

しかし、新型は巡航(・・)速度でそれを上回ったのだから、まさに驚きの一言だ。

 

《すごい…この機体はすごいぞ!噂の(・・)日本にだって負けてない!帝国はまさに最強だ!》

 

「は、ははは…喜んでもらえて何よりだよ…」

 

歓喜に打ち震えるパイロットだが、技術者達は何度も気不味そうだ。

その理由こそが管制塔に運び込まれた夥しい量の書籍…日本から取り寄せた戦闘機やジェットエンジンに関する書籍の山である。

これを見ても分かる通り、件の新型は日本の書籍から得られた情報を元に作られたのだ。

例えば殆ど意味を為さないどころかエアブレーキと化していたファンを取り払ってピュアジェットエンジン化したエンジン。

例えばエンジンへの吸気効率を上げる為のダイバータ(境界層隔壁)

例えばエリアルールに基づいた括れのある機体。

例えばボルテックスジェネレーターを装備した後退翼。

この新型に使われる新技術の全てが日本の…しかも民間人でも手に入るような書籍からの引用なのである。

 

「我々が何十年と…いや、帝国が何百年と積み上げてきた技術の遥か先を日本は歩んでいるのか…」

 

「日本の技術はまだまだこんなものではない。超音速飛行や、超音速巡航、レーダーに映らないステルス…更には誘導弾もある」

 

「我が国が第一列強に留まる為には形振り構っていられない。日本の技術を取り入れる為の政策と予算を陛下に上奏しなくては…」

 

《うひょぉぉぉぉっ!すごい!すごい!》

 

深刻な表情で話し合う技術者達であったが、パイロットはアクロバット飛行をしながら新型の性能に酔いしれるのであった。

 

 




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或る食卓の出来事

次回はムー編です


アルビオン城…神聖ミリシアル帝国の首都であるルーンポリスに聳えるその白亜の城は、歴代皇帝の住居であり、当然ながら当代皇帝のミリシアル8世とその近親が住まっている。

そんな城の一室、食堂に置かれた正気を疑う程に長いテーブルの上座に着席したミリシアル8世は召使いやコックが見守る中、粛々とした様子でナイフで皿によそわれた白っぽい塊を切り分け、フォークで口に運んだ。

 

「……」

 

「「「……」」」

 

ゆっくりと咀嚼し、何度かゆっくりと頷くミリシアル8世。

それを周囲の人々は固唾を呑んで見守る。

 

「……美味い」

 

ミリシアル8世の満足気な称賛の言葉を聞いた人々は一様に安堵と歓喜の表情を浮かべた。

 

「この『豆腐ハンバーグ』とやらは実に美味いな。この食べごたえでありながら肉は少量しか使われていないとは…日本の食文化は目を瞠るものがある」

 

ミリシアル8世が食していたのは、日本から取り寄せたレシピ本にあった豆腐ハンバーグであった。

ミリシアルにもハンバーグに似た挽き肉の塊を焼き上げる料理は存在するが、ミリシアル8世を始めとしたエルフは肉料理を好まないためあまり口にする事がなかった。

しかし、日本から伝わった大豆製品…特に豆腐や油揚げといった食材は植物性でありながらも十分な食べごたえとタンパク質を持っているため、エルフ向け食品としてミリシアル国内では俄に注目され始めているのである。

 

「陛下、よろしいでしょうか」

 

ミリシアル8世が食事を終えたタイミングで発言したのは、卓を共にしていたミリシアルの諜報機関である『情報局』の局長である『アルネウス・フリーマン』であった。

 

「日本についてか?よい、申せ」 

 

「はっ」

 

発言の許可を得たアルネウスは分厚い資料の束を手に立ち上がる。

 

「先ず日本、そして日本が存在した異世界についての歴史ですが…」

 

「それは今は話さずともよい。後で読んでおこう」

 

「承知しました。では…日本の軍事力について報告致します」

 

「うむ」

 

「では…海軍戦力から」

 

資料をペラペラと捲り、目当てのページを開いたアルネウスは眼鏡をかけ直して口を開いた。

 

「日本の海軍は砲撃能力に乏しく、艦砲に関しては最大でも20cm程度の砲を2門しか搭載していません。ほかは13cm、或いは8cm程度であり、砲撃戦ともなれば額面上(・・・)は帝国海軍はおろか、ムー海軍にも劣る事でしょう」

 

「だが、日本は誘導弾が主力であろう?」

 

「はっ、仰る通りです。日本海軍艦艇の主力はあくまでも誘導弾であり、艦砲は補助的な役割…具体的には対空射撃や対地攻撃、低脅威度目標に対する攻撃手段でしかありません」

 

「つまりは日本は艦砲に対する考えが我々(異世界国家)とは全く異なるのだな」

 

「はい。ですがかつての日本は我々と同じ戦術思想だったらしく、一時期は46cmもの艦砲を9門も備えた大戦艦を保有していたとの事です。とは言っても航空機や誘導弾の発達により、大口径砲を備えた戦艦…更に言えば多数の砲を搭載した艦の存在自体が時代遅れとなっており、日本が存在した異世界では誘導弾を主力とした巡洋艦から小型艦(駆逐艦)程度の艦艇が主流となっているようです。また、異世界には潜水艦という軍艦が存在します」

 

「自発的に海に潜るという軍艦か」

 

「はい。日本が保有する潜水艦は比較的低速ながらも探知が難しく待ち伏せ戦術を得意とする『通常動力型』、水中でも30ノット以上を発揮する事が出来る長距離侵攻を得意とする『原子力型』の2種類が存在します。そのどちらも『魚雷』と呼ばれる水中を高速で航行する大型爆弾を搭載し、話によれば大型戦艦・空母を一撃で撃沈出来るとのことです」

 

「ふむ…つまり我々が日本に攻撃するとなれば、水中に潜む潜水艦に警戒しなければならない…という事か」

 

「それだけではありません。水上艦、航空機、陸上からの対艦誘導弾による攻撃があるでしょう。正直言って、日本は対艦誘導弾にかける熱意が異常です。特に航空機に至っては兵装搭載能力がある物はもちろん、場合によっては輸送機にまで対艦誘導弾を搭載しているのです。きっと日本には対艦誘導弾が湧き出る泉があるのでしょう」

 

「そのような泉があるのなら、是が非でも手中に収めたいものだな」

 

アルネウスからの軽い冗談にミリシアル8世は苦笑交じりの言葉を返しつつ、白ワインで唇を濡らした。

 

「ですが、それら対艦誘導弾による猛攻を耐え凌ぎ日本に上陸したとしても更なる苦難が待ち受けています。日本の陸軍に存在する『戦車』と呼ばれる兵器がそれになります」

 

「確か…砲と装甲を備えた自動車だったな」

 

「はい。帝国やムーにも似たような兵器は存在しますが、日本のそれは正に桁違いの脅威です。砲は最も小さくても105mm、最も大きい物だと130mmにもなり、装甲に至ってはただの金属の一枚板ではなく、様々な素材を重ね合わせる事によって薄く軽量ながら1mもの厚みを持つ装甲用鋼鉄板以上の防御力を持っているそうです。それでいて最高時速60km以上の速力…現状、我々が対抗するには陸軍の重砲、海軍の艦砲、空軍の大型爆弾を用いる必要があるでしょう」

 

「ふむ、つまり日本に侵攻するとするなら…」

 

「簡単に纏めますと、潜水艦を含んだ誘導弾を搭載する艦隊を突破し、誘導弾を搭載した超音速戦闘機を撃墜し、陸上戦艦(・・・・)さながらの戦車を撃破する…正直申しますと、現在の我々には不可能です。軍の参謀部とも机上演習を行ってみましたが、99.99%の確率で我々は敗北します」

 

「残りの0.01%は?」

 

「残り0.01%のうち0.009%は日本で大災害が発生して戦争どころではなくなり我々に有利な講和を行う事…残り0.001%は日本国内で政変が発生し、我々に恭順する。といったところです」

 

「つまり、日本側に致命的な不運が無い限り我々は敗北するという事か」

 

「はい。因みに申し上げますと、この結果は通常兵器のみではありません(・・・・・・・・・・・・・)

 

「左様か」

 

ミリシアルには一部の人間しか存在を知らない秘密兵器、古の魔法帝国(魔帝)の遺産である超兵器がいくつか存在する。

魔帝の超兵器を以てすれば他の列強国どころか、ミリシアル対全世界となっても勝利する事が出来ると謳われているが…おそらく、日本に対しては無意味だろう。

 

「陛下、もう一つお伝えしたい事が…」

 

「申してみよ」

 

「はっ」

 

目を閉じて思考するミリシアル8世に対し、おずおずとアルネウスが声をかける。

 

「日本はどうやらムーと同じ世界から転移してきたようなのです。そのよしみかは不明ですが、日本はムーに対して兵器輸出を行う事を決定したようです」

 

「ほう…?」

 

「輸出兵器は歩兵用の小銃、機関銃、大砲、戦車を含む戦闘用車両…亜音速飛行が可能な練習機転用型戦闘攻撃機、小型戦闘艦、それらで運用可能な各種誘導弾との事です。輸出にあたりある程度性能を低下させた物(モンキーモデル)や旧式ではあるでしょうが、それでも我々の物より遥かに高性能だと予測されます。ここは日本とムー、両国に圧力をかけて輸出計画を頓挫させるべきでは…」

 

「アルネウスよ、それは悪手だ」

 

焦りを見せるアルネウスに対し、ミリシアル8世は冷静に返した。

 

「日本製兵器は確かに脅威だ。それこそムーの手に渡れば、我々は第一列強の座から蹴落とされてしまうだろう。しかし、先日日本より齎された魔王による予言と、それに伴う魔帝研究に対する協力要請…それを上手く進める事が出来れば、対魔帝を口実に日本の技術を手に入れる事が出来るだろう。今、無理にムーの邪魔をすれば、日本の心象を悪くして対魔帝戦略に日本を巻き込むという我々の思惑が瓦解してしまう。今は静観すべきであろう」

 

「陛下がそう仰るのならば従います。しかし、我々としても日本から与えられるのを待つのではなく、積極的に日本の技術を手に入れるべく活動を続けていこうと考えております。よろしいですか?」

 

「構わぬ。日本は味方に引き入れれば頼りになるが、敵に回ればこの上ない脅威だ。万が一に備え、日本の技術を解析する事に全力を尽くせ」

 

「ははーっ!」

 

平伏する勢いで深々と頭を下げるアルネウスに、ミリシアル8世は小さく頷いた。

 

 

 

 

 




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ミサイルに首ったけ

今回からムー編です


《では長谷川さん、今回成立した日本・ムー間の防衛装備品協定ですが注目すべき点を教えていただけませんか?》

 

《はい、今回の協定は転移前に行われた対ウクライナ・対台湾への防衛装備品協定に近いものがありますね。簡単に言えば日本がムーに融資し、融資された資金でムーが日本製の装備品を買うという事です》

 

《それではムーに数千億円もの負債を抱えさせてしまうのではありませんか?》

 

《確かにそうなりますが、ただ単に負債を抱えるのとは天と地の差があります。今回の協定による融資は無利子であり返済期限は無期限…つまりは何百年経とうが利子が膨らむ事なく、返済に何千年かかろうと構わないという言ってしまえば最悪返さなくてもよいというものです。もっとも、ムーはこの世界における大国なので面子のために返済を放棄するという事は無いでしょう》

 

《なるほど…では日本側のメリットは?》

 

《日本としては第二位の大国であるムーに防衛装備品が採用されたという実績を引っ提げ、販路を広げる思惑があるのでしょう。ただ政府としても輸出相手国を精査するでしょうし、爆発的に売れるという事はないでしょうが》

 

《ありがとうございます。では次に…》

 

太平洋だった(・・・・・・)海域を飛ぶ航空自衛隊所属の空中給油機『KC-1(P-1の空中給油モデル)』のキャビンに取り付けられたモニターに映し出されたワイドショーでは、元女優のゲストとコメンテーターがやり取りを交わしていた。

それを食い入るように鑑賞しているのは、ムーの技術士官マイラスと彼の幼馴染であり士官学校の同窓生である『ラッサン・デヴリン』だ。

 

「なるほど…そういうカラクリだったのか」

 

「まあ、そんな仕組みになってなきゃ政府も軍もあんな大量の兵器輸入なんてしないさ」

 

腕を組み、感心したように頷くマイラスとラッサンであったが、モニターの映像が切り替わり機内アナウンスが響いた。

 

《皆様、お疲れ様でした。当機は間もなく硫黄島分屯基地へと着陸致します。立たれている方はお席にお戻りの上、シートベルトの着用をお願いいたします。繰り返します…》

 

「お、もう着いたのか。『入間基地』から1000km以上も離れてるのに、2時間もしないで到着したぞ」

 

「日本ってのは鉄道も飛行機も速いな。ラ・カオスで遥々やってきた俺達がバカバカしく思えてきたよ」

 

そんな事を話しているとKC-1が着陸し、機体にタラップが横付けされた。

 

「上から見てもそうだったが、地上から見ても小さな島だな。こんな島に基地があるなんて…攻め込まれたら3日で陥落するぞ」

 

「いや、ラッサン。そうでもないみたいだ。日本があった世界では90年ぐらい前に全世界を巻き込んだ大戦争があったって日本本土の博物館て見ただろ?その戦争の激戦地の一つがこの島らしいんだけど…日本は2万人の歩兵戦力で、10万人以上の歩兵や数十隻の軍艦による攻撃に3ヶ月耐えたらしい。しかも攻めてきた相手に3万人もの損害を与えたって話だ」

 

「嘘だろ?そんな戦力差があったら半日で陥落するだろ…」

 

「でもこれは日本、そして日本と戦った相手両方の記録を比較して算出したものらしいから、かなり正確らしい。…あ、あれが慰霊碑みたいだ。せっかくだから祈っていこう」

 

「そうだな。えー…もらった水で悪いけど…」

 

指定された場所に向かう道すがら、慰霊碑を見つけたマイラスとラッサンは機内で貰ったまま手付かずだったペットボトル入りのミネラルウォーターを供えると、片膝をつくムー式の祈りを捧げた。

 

「ありがとうございます。英霊の皆様もきっと喜ばれていますよ」

 

「あなたは…?」

 

「はじめまして。私は防衛装備庁の『浅野 雄也(あさの ゆうや)』と申します。ムー国の…技術士官マイラスさんと、戦術士官ラッサンさんでよろしいでしょうか?」

 

「はい。遅れてしまい申し訳ありません。マイラスの奴が悪い風邪を引いて…」

 

「ラッサン!」

 

「お気になさらず。マイラスさんは優秀な方だと聞いていますので、そのような方に我々の装備品を見て頂くのはこちらとしても楽しみですよ」

 

浅野の引率を受け、マイラスとラッサンはとある格納庫へと足を踏み入れた。

 

「おぉ…これが…」

 

「日本の…戦闘機!」

 

格納庫に鎮座していたのは、T-5練習機を実戦仕様にしたFAT-5軽戦闘攻撃機と、同機の前にずらっと並べられた各種兵装であった。

 

「まずこちらはFAT-5です。最高速度は時速1000km、実用上昇高度は13000m、兵装搭載量は4.5トン、戦闘行動半径は対艦ミサイルと対空ミサイルを2発ずつ搭載して400kmとなっています」

 

「事前に貰っていた資料で確認したが…すごい性能だな」

 

「ラッサン、たしかにすごい性能だがこれはあくまでも練習機転用だぞ。日本の主力はもっとすごい性能だ」

 

「マイラスさんの仰る通りですが、この世界の航空戦力の中では間違いなくトップクラスですよ」

 

浅野の言う通りワイバーンが主力であり、最強(・・)と名高い神聖ミリシアル帝国の天の浮舟であっても時速600km台がせいぜいなこの世界ならば、FAT-5程度の性能でも掛け値の最強だろう。

もっとも、日本を除けばだが…

 

「そう言えば今回の協定では誘導弾の輸出も行われるようですが…」

 

「それはこちらですね。『80式空対艦誘導弾改』…我々は『輸出型対艦ミサイル』と呼んでいます」

 

「輸出型…つまり劣化版ですか?」

 

「正直に言えばそうですが、その分価格や整備性は頑張りましたよ」

 

そう言って浅野は4枚の翼が生えた葉巻型の対艦ミサイルをペチペチと叩いて解説を始めた。

 

「この対艦ミサイルの原型は初の国産対艦ミサイル『80式空対艦誘導弾』をベースにしておりまして、固体燃料ロケットで推進します。速度は時速1100km、射程は40〜50km程で赤外線により誘導されます」

 

「マイラス、赤外線って何?」

 

「赤外線ってのは目に見えない光だよ。熱源なんかから発散されているから、あの誘導弾は熱源に向かって飛んでいくみたいだ」

 

「ほー…」

 

小声でマイラスとラッサンがやりとりする中、浅野は言葉を続ける。

 

「本ミサイルはFAT-5のような航空機は勿論、上昇用ブースターを取り付ける事で艦艇や陸上から発射出来るように設計されています。今回の輸出品目にある艦艇や車両へも搭載されていますよ」

 

「ファミリー化構想、でしたか。陸海空あらゆる場で運用出来るように兵装の部品各所を換装出来るようにしたとか…」

 

「はい、マイラスさんの仰る通りです。最新鋭の対艦ミサイルも全ては80式のバージョンアップと言えるものなのです。そのおかげでこうして敢えて性能を抑えた物を容易に製造出来たのですよ」

 

「性能を抑えたにしても我々にとっては凄まじい性能だ。これは戦術の概念が覆るぞ」

 

マイラスとラッサンがそれぞれ驚きの声を上げるが、浅野による解説はまだまだ続く。

 

「では次は空対空ミサイルですが…」




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さまよう艦

次回からはグ帝編です


「いやー、すごかったなラッサン!」

 

「そうだな、マイラス!あれは戦術の概念を覆すぞ!」

 

港へと向かうSUVの車内でマイラスとラッサンはムーへの輸出が予定されている兵器について語り合っていた。

 

「90式空対空誘導弾…あれはとんでもない兵器だったな。今までは結構接近して機銃を使わなきゃいけなかったのに、あれを使えば数km先から百発百中の攻撃を繰り出せるんだから」

 

「しかもあの誘導弾も車両や艦艇に搭載出来るバリエーションがあるそうじゃないか。そうすれば地上部隊や艦隊が空からの攻撃に強くなるな」

 

「地上部隊と言えばあれもだな。16式機動戦闘車と74式戦車…えー…」

 

「FH70榴弾砲だろ?155mmもあって、射程が20km以上もあるなんてまるで艦砲だな」

 

「俺としては16式と74式の組み合わせが革命的だと思うな。どちらも105mmの高初速砲を持っているが、装甲は薄いが高速で走れる16式を沿岸部に、速度は劣るが分厚い装甲を持った74式を内陸部の陸上国境線付近に配置すれば侵攻してくる敵に対して強固かつ柔軟な防衛戦術をとれる。74式は比較的状態のいい中古品をかき集めたから大した数は無いらしいが…出来れば戦車を大量導入、欲を言えば国産化したいな」

 

二人がそんな言葉を交わしていると、SUVが港の一角に停車し、案内役の浅野が後部座席のドアを開けた。

 

「到着致しました」

 

「ありがとうございます」

 

「小さな島だけど立派な港だなぁ」

 

元々硫黄島には地方の小さな漁港程度の港というか波止場しか無かったが、転移後にロデニウス大陸を往復する船舶にトラブルが発生した際の待避港として整備された為、今では20万トン級のタンカーの寄港が可能となっている。

そして今回はそこにムーへ輸出される2種の軍艦が停泊していた。

 

「こちらが貴国へ輸出される艦艇…『輸出型コルベット』と『輸出型小型潜水艦』です」

 

「…それが正式名称なんですか?」

 

「実はこの2種は転移前の友好国であったウクライナと台湾へ輸出される予定だったのです。なので命名は現地に任せるはずだったのですが…」

 

「転移でそれが出来なくなった、と?」

 

「はい。ですがせっかくなら有効活用しようという事になりまして、この世界での友好国に輸出する事にしたのですよ」

 

「なるほど。そのウクライナと台湾とやらにとっては災難だったようですが、我々としてはありがたい話です。どんな兵器か教えていただけますか?」

 

「はい、もちろんです。先ずは輸出型コルベットから解説しましょう」

 

そう言って浅野は停泊している小型艦を指差した。

 

「なんだか…不思議な形をしていますね」

 

「なんだろう…すっげぇ違和感があるな…」

 

「ラッサンさんの違和感はおそらくこの艦が"双胴型船体"を採用しているからでしょう」

 

「双胴型船体…?」

 

マイラスが疑問符を浮かべると、浅野はタブレット端末を取り出して輸出型コルベットの三面図を表示した。

 

「双胴型船体とはこのように2つの船体を甲板で繋げたような設計の事を指します。こうする事で水の抵抗を抑えて高速・低燃費を実現しつつも、安定性を高める事が出来るのです」

 

「へー、ミリシアルの空母みたいなもんか。武装はどうなんです?」

 

「武装としましては対艦ミサイル発射機が8基、24連装短距離対空ミサイル発射機(日本版SeaRAM)が4基、20mm高性能機関砲(ファランクス)と76mm速射砲が1基ずつ、3連装対潜魚雷管が2基となっています」

 

「すごいな。これ1隻だけで凡ゆる戦闘がこなせるじゃないか」

 

「海軍のお偉方は卒倒するだろうな。大枚叩いて建造した戦艦より高性能な艦がこんなに簡単に手に入るなんて」

 

「では次はこちら、輸出型小型潜水艦です」

 

浅野が次に指したのは、乾舷が低いつるんとした外見の艦であった。

 

「潜水艦…自発的に海に潜って攻撃する兵器、か…」

 

「海に潜られたんじゃ見つけられないし、発見出来ても攻撃出来ない。対潜水艦用兵器が無いなら一方的に嬲り殺しだ」

 

この世界には潜水艦という兵器が存在せず、故に対潜兵器も存在しない。

そんな中では例え排水量1500トン程度の小型潜水艦であっても大きな脅威になり得る。

 

「私達が居た世界…貴国が居た世界の遥か未来ではある意味で潜水艦が戦艦の代わりになっているのです。如何に強大な艦隊でも、その海域に潜水艦が居るというだけで慎重な行動を強要されますからね」

 

「確かにそうですね。大型艦すら一撃で沈め得る魚雷を抱え、海中に潜んでいるのですから船乗りとしては恐ろしい兵器なんでしょう」

 

「うーん…この新しい兵器を活用する為の戦術かぁ…。難しいな…やっぱり日本から書籍を取り寄せないとな」

 

「ですが…これらの艦には欠点もあります」

 

「ほう…?」

 

気不味そうな浅野の言葉にマイラスの目が輝く。

根っからの技術屋…というより技術オタクな彼としては、高い技術力の結晶である艦の欠点に興味を惹かれるのだろう。

 

「見ても分かりますように、これらの艦は小さいので外洋での運用や長期間の運用には向かないのです。元々がウクライナ(内海での運用を前提とした海軍)台湾(近海での防衛を前提とした海軍)での運用を目的としているので、大陸間の航海となると厳しいものがあります」

 

「なるほど…そこは大きさなりの能力という事か…」

 

「まあ、ムーは外征をしなくなって久しいし、これからもそんなつもりは無いだろう。近海防衛が主体だから、それでも大丈夫か」

 

「ラッサンさんの仰る通り、近海防衛なら頼もしい力になるでしょうし…これはまだ未定なのですが、今後貴国との関係次第ではより大きな艦艇を輸出するという話もあります」

 

「ならば我が国はより貴国と親密になるべく努力しないといけませんね」

 

「それもだが、日本とは絶対に戦争したくないな…」

 

浅野とマイラス、ラッサンはそんな言葉を交わしながらより詳しく見るために潜水艦の中に入って行った。




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参謀達の沈黙

今回からグ帝編です


グラ・バルカス帝国軍統合参謀本部。

帝国軍の頭脳である組織であり、そこは高級将校達が集まり、帝国による世界征服の為の戦略を練る為の場所であるのだが、現在彼らの興味はただ一国に向けられていた。

その国とはもちろん、日本国である。

 

「本当にそっくりだ…」

 

「あぁ、航空機に車両に艦船…多少の差異はあれど、我が国の兵器の生き写しではないか」

 

「しかも見ろ、この『富嶽』という爆撃機…日本では数機しか作られなかったようだが、我が国の最高機密である『グティマウン型爆撃機』にそっくりだ。スペックこそグティマウンが上だが…」

 

参謀達が読み漁っているのは太平洋戦争について記された各種書籍であった。

とは言っても日本に設置された大使館の職員が集めて送ってきたものである為、手に入った書籍は民間向けの物ばかりだ。

しかし、それでも記されている情報は彼らを驚愕させ、帝国の徹底した秘密主義を嘲笑うものであった。

 

「ふむ…日本にとっては我が国の軍事技術は100年近く前のものでしかない、か…道理でグレードアトラスターのスペックを知る者が多く居るはずだ」

 

天を仰ぎ、肩を震わせて笑うカイザル。

気が触れた訳ではない、もう笑うしかないのだ。

何せ自分達が絶対の信頼を寄せ、転移前も後も最強にして最新鋭だと奉じてきた帝国の技術は、日本からしてみれば博物館に並ぶような代物でしかない。

もし、帝国と日本が戦う事になれば、いままで自分達がそうしてきたように…帝国が帆船やマスケット銃程度しか持たぬ後進国を蹂躙してきたように、帝国は日本の圧倒的技術力によって蹂躙される事だろう。

因果応報とはまさにこの事か。

 

「カイザル、悲観するのはまだ早いわ。日本は専守防衛を標榜しているから、少なくとも日本本土に手を出さなければ直接戦う事はない筈よ」

 

「甘いぞ、ミレケネス。確かに日本はそのようなドクトリンだが、状況が変わればあっさりと専守防衛を捨てるだろう。そしてそうなった時、我々にその力が向けられる可能性は高い」

 

「無限の航続力を持つ潜水艦や超音速機、100mm以上の砲を持つ戦車が敵に…誰か、帝国と日本が戦ったらどうなるか分かるかしら?」

 

ミレケネスの問いかけに、参謀の一人が答える。

 

「はい、ミレケネス閣下。えー…単刀直入に申しまして、局地戦で限定的な勝利を納める事すら不可能だと思われます」

 

「それは日本を買い被り過ぎじゃないかしら?」

 

「いえ、これは楽観的に見立てた(・・・・・・・・)上での結果です」

 

怪訝そうなミレケネスの言葉に、参謀が申し訳なさそうに述べる。

 

「前提として、これは帝国によるムー大陸掌握を日本が阻止しようとするという想定です。先ず、日本の潜水艦によりムー大陸東方に展開した戦艦や巡洋艦といった主力艦は全滅します」

 

「は?」

 

「次いで、後方に展開した空母機動艦隊も日本の潜水艦、あるいはレーダーを掻い潜って接近した『ステルス機』によって発射された対艦誘導弾によって空母を無力化・撃沈され、戦闘力を失ったところに艦載機と艦艇から発射される対艦誘導弾によって護衛艦隊も撃滅されます」

 

「待て待て待て」

 

「海軍はこのようにして砲を撃つまでもなく、艦載機を飛ばすまでもなく日本によって致命的な損害を受けるでしょう。続いて陸上ですが…」

 

「いや、もういい…」

 

参謀から淡々と語られる対日戦の戦況予測を狼狽しながら聞いていたミレケネスだったが、カイザルが助け舟を出してくれた。

 

「つまり、帝国は日本に勝てないというのだな。しかも楽観的に見ても、だ」

 

「はい、その通りです」

 

「では悲観的に見たらどうなる?」

 

「日本には数千kmを時速1000kmで飛翔する『巡航ミサイル』なる兵器が存在するようです。もし、日本が諜報や偵察によって帝国本土の位置を知れば…」

 

「帝国本土が…何千kmも先から狙われる!?」

 

「それだけなら爆撃機と変わらんが、相手は誘導弾…つまりは無人の戦闘機のような物だ。こちらが必死に迎撃したところで日本に人的損害を与える事すら出来ん。日本にとっては撃ち得(・・・)な兵器という事だ」

 

グラ・バルカス帝国は高い軍事力を持っているが、それでも敵国本土への直接攻撃はそれなりに損害が出るし、損害が出れば爆撃機の搭乗員が失われるという事だ。

軍上層部としてもそれは避けたいところだが、日本は誘導弾を用いて人的損害を無視して本土攻撃をする事が出来る。

最早インチキ(チート)としか言えない。

 

「それに…巡航ミサイルとやらの弾頭がただの炸薬だったらまだマシだ」

 

「毒ガスや細菌兵器…そして『核分裂反応爆弾』ね」

 

「そうだ。初めて知った時には私の個人的な予想でしかなかったが…日本に渡航し、博物館を見学した時に予想は現実だったと思い知らされたよ」

 

コップを手に取り、唇を湿らせたカイザルは言葉を続ける。

 

「『原子爆弾』或いは『核兵器』…たった一発で大都市を消滅させ、数十年にも渡る汚染を残す最悪の兵器。それを搭載した巡航ミサイルが何十何百と飛来すれば帝国は文字通り消滅だ」

 

「だけどカイザル。日本には『非核三原則』というものがあって、核兵器は保有出来ないんじゃなかったの?」

 

「私もそう思ったんだが、非核三原則は歴代政権の目標のようなものらしい。憲法などには明記されていないようだ」

 

「つまり、政権が撤回すれば日本が核兵器を保有する可能性があるという事ね…」

 

「カイザル閣下、ミレケネス閣下。ここは我々も核兵器の開発に乗り出すべきなのでは?幸い日本から取り寄せた書籍には核兵器の構造を記した物があります。『ウラン』或いは『プルトニウム』なる物質の調達をせねばなりませんが、日本に対する牽制には…」

 

「いや、それは早計だ」

 

書籍を手に力説する参謀へ、カイザルは首を横に振った。

 

「帝国が核兵器の開発に乗り出したとしたら日本も対抗する為に核兵器開発を行うに違いない。そうなれば、核兵器に近い技術を確立している日本が先に実用化するだろう」

 

「それに運搬手段の問題もあるわ。日本は誘導弾や超音速機に搭載出来るでしょうけど、帝国の場合は爆撃機に搭載するか砲弾に詰めて撃ち出すしかないわ。そんな運搬手段では日本の兵器に迎撃されて終わりよ」

 

「そんな…ですが、帝国が日本に対抗するには核兵器しか…」

 

「核兵器の研究はすべきだが、実用化の目処が立たない限りは機密にすべきだ。それまでは通常戦力で対抗する手段を探るより他無いだろう」

 

「はっ!」

 

カイザルの言葉を受け、参謀達は話し合う。

 

「質で劣るのならば数だ。幸い日本軍は数が少ない。如何に質が良かろうが、百倍千倍の数なら…」

 

「だがそんな数をどう捻出する?」

 

「いや、いい考えがある。植民地の若い男を……」

 

そんな時、ドアが開かれた。

 

「失礼します!情報局より馳せ参じました『ナグアノ・ボルン』です!」

 

「どうした、何があった?」

 

「はい、いいニュースと悪いニュース…どちらを先に聞きたいですか?」

 

「なら悪いニュースから聞かせてちょうだい。後から嫌な事は知りたくないの」

 

「では悪いニュースから…」

 

ミレケネスから促されナグアノはよれよれになった書類を捲ると、息を整えてから言葉を発した。

 

「ふぅー…日本はムーに対して大規模な兵器輸出を正式に行う事を決定しました。輸出兵器には誘導弾や潜水艦などがあり、輸出用の性能低下型言えど大きな脅威になる事は間違いありません」

 

ナグアノの報告に悲壮な雰囲気が漂うが、カイザルはそれに構わず問いかけた。

 

「ではいいニュースとは?」

 

「はい、実は…日本の戦闘機を入手しました。退役済みとはいえ、マッハ2を発揮出来る実戦機です!」

 




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星を奪うもの

次回は久々に日本国内の事を書きます


ナグアノの報告を受け、居ても立ってもいられなくなったカイザルとミレケネス、参謀達は入手した日本の戦闘機が保管されている『先進技術実験室』の研究所へと駆け付けた。

 

「カンダル!」

 

「ナグアノ…って、おいおい。大物を連れてきたな…」

 

「カイザル閣下、ミレケネス閣下。こちらは私の友人で先進技術実験室の第1級技士の『カンダル・ランプ』です」

 

「カンダル君だね。早速だが、日本の戦闘機を見せてくれ」

 

「かしこまりました、カイザル閣下。ではこちらに…」

 

急かすようなカイザルの言葉を受けて、カンダルは研究所の一角に建つ格納庫の外階段へ案内した。

 

「しかし、日本の戦闘機が手に入るなんて…どんな手を使ったのかしら?」

 

「それは情報局に聞いて頂けますか?」

 

「分かったわ。で、どうなの?」

 

「あー…それは全くの偶然なんですよ。私達もあんな物(・・・・)が入手出来るだなんて夢にも思いませんでした」

 

金属製の階段を上りながら話していると、格納庫内部の上層に設けられたキャットウォークへと繋がる扉へとたどり着いた。

 

「では、ご覧下さい。これが日本の超音速戦闘機です!」

 

カンダルがテンション高めに告げ、扉を開け放つ。

 

「これは…!」

 

「あれが…日本の戦闘機!?」

 

キャットウォークから見下ろす日本の戦闘機は帝国の如何なる戦闘機ともかけ離れた姿をしていた。

ペンを思わせる円筒形で先が尖った胴体に、揚力を期待出来そうにない小さな主翼。

尾部には垂直尾翼があるが、その垂直尾翼の上の方に水平尾翼が付いており、推進力となるプロペラは無い。

カイザルもミレケネスも参謀達も「これが本当に空を飛ぶのか?」と疑わしい表情を浮かべていたが、日本のものらしい書籍を広げて解説をするカンダルの言葉を聞いて、その考えを改めた。

 

「この機体についてですが…名称は『F-104J 栄光』、全長16.7m、全高4.1m、翼幅6.7m、空虚重量は約6トンで最大離陸重量は13トン以上になります。また最高速度は時速2450km、実用上昇限度は1万5千m以上、最大航続距離は2000km以上…書籍によりますと、日本では40年近く前に退役した機体のようです」

 

「そ、そんな高性能機が40年前の物だと!?」

 

カンダルの言葉を受け、参謀の一人が…いや、カイザルもミレケネスも他の参謀も驚愕する。

何せあらゆるスペックが帝国の主力であるアンタレスを大きく引き離しており、勝てる点は航続距離ぐらいしかない。

正に異次元の性能だが、日本にとっては40年前に退役済の機体という事実が驚愕を加速させる。

 

「えぇ、日本としては流出しても何ともない技術なのでしょう。しかし、我々にとっては貴重な超音速機の機体とエンジンのサンプルです。早急に解析し、技術を我が物として発展させる事が出来れば、日本の戦闘機に対抗する事も不可能ではない筈です」

 

自身満々に述べるカンダルに、カイザルは頷いた。

 

「分かった。君がそう言うのなら期待しよう。もっと近くで見ても?」

 

「はい、構いませんよ。何かご質問があれば呼んで下さい」

 

カンダルの許可を得たカイザル達はキャットウォークから降り、F-104Jの側に歩み寄る。

 

「随分とくたびれているな…やはり正規の手段で入手した物ではないのだろう?」

 

「はい、カイザル閣下。現在情報局は日本の基礎工業力を探る為にムー国内の企業を買収し、それを経由して様々な日本製品を取り寄せているのですが、その中に金属スクラップもあるのです」

 

「金属スクラップ…そうね。冶金技術を探るにはいい手だわ」

 

「ミレケネス閣下が仰る通り、情報局としてもそれを期待していたのです。ですが…日本から届いた鉄・アルミ混合スクラップが入っているという輸送コンテナを開けた瞬間、腰が抜けましたよ。分解されていたとはいえ、戦闘機が丸々1機入ってたんですから」

 

帝国が日本の戦闘機(F-104J)を手に入れられたのは全くの偶然だ。

というのも元々F-104Jは退役後に一部が米国に返還され、台湾に再輸出されたのだが、台湾でも退役するとスクラップとなって再び米国へと渡り、米国内の航空機マニアの手によって再生されて飛行可能状態となった個体があった。

しかし、所有者が手放し売りに出されていたところに日本国内のマニアがスクラップという名目で輸入したのだが、船便で到着したところで転移現象、そして購入者の急逝が重なってしまい、所有者不明のまま長らく港に放置されていたのだ。

その後は行政代執行により撤去され、所有者不明ではあるものの他の書類は揃っていたためロクに中身をチェックされる事もなく、流れ流れてムーにある帝国が買収した貿易会社に買われ、帝国が手に入れるに至ったのである。

 

「なんたる幸運か。都合が良すぎて何らかの罠を疑ってしまうな」

 

「でも好機である事に違いはないわ。いくら古くても速度なら日本の最新鋭機に匹敵する…もし、現用機(アンタレス)を全て置き換える事が出来たら日本に勝つ事も不可能ではないわ」

 

「幸い、この機体に関する書籍もいくつかありますし、日本国内にはより詳しい資料が存在するかもしれません。情報局としても先進技術実験室と協力して、日本の戦闘機をコピー出来るように全力を尽くします」

 

如何に40年前に退役済の機体とは言え、日本の主力戦闘機(F-15J)だって初飛行は50年近く前だ。

多少の性能差ならば数やパイロットの技量で補えるはず…そう考えると、先程までの絶望感は霧散していた。

 

「よし、私が直接陛下に掛け合って予算の増額を上奏しよう。財布を緩めない財政省の連中も陛下からの勅命であれば無視出来んだろう」

 

「カイザル閣下はグラ・ルークス陛下と親しいのですか?」

 

「ナグアノ君。カイザルってば士官学校時代に入学したばかりの陛下を知らずに海に放り投げたのよ。ベッドメイクがなってないって言ってね」

 

「ミレケネス!」

 

「私もその場に居合わせたから、先帝陛下と先代侍従長から事情聴取を受けてね…それ以来、カイザルとは腐れ縁なのよ」

 

「カイザル閣下…なーにしてるんですか…」

 

ある意味で日本の戦闘機よりも衝撃的な事を知ったナグアノは、肩を落として脱力した。

 




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夫婦の時間を、もう一回

次の日本編が終わったらいよいよパ皇戦編です


日本のとある地方都市、昭和の時代からリフォームを重ねつつ現代まで生き残ってきた団地の一室。

そこには母と子が住んでいた。

 

信明(のぶあき)、母さんの勤め先なんだけど最近売り上げがすっごく上がってるらしくて時給が上がったのよー。これで信明が行きたがってた大学に行けるわよ」

 

大橋 晴美(おおはし はるみ)は夫の不倫で離婚した後、息子である信明を女手一つで今日まで育ててきた。

幸い夫は養育費をしっかり支払っているため困窮する事はなかったが、信明の医者になりたいという夢を実現させるべく、日夜パートを掛け持ちして働いているのだ。

 

「母さん…もう大丈夫だよ」

 

「え?」

 

喜んでくれると思ったが、信明の反応は想定とは違った。

 

「だって母さん、俺が小さい頃からずっと働き詰めじゃないか。もう若くないんだから、パートを減らして自分の時間を大事にしてよ」

 

「だけど信明、お医者様になりたいんでしょう?医学部はお金がかかるし、信明には勉強に集中してもらいたいから母さんが頑張らないと…」

 

もしや自分の頑張りが却って息子に重圧をかけてしまったのではないか?

そんな考えが頭を過り、晴美は狼狽えるが、信明はカバンから一枚のチラシを取り出した。

 

「俺、この『自衛官奨学金』で大学に行こうと思うんだ」

 

チラシには陸海空三自衛隊の制服を着用した三人の若者が敬礼している様が印刷されていた。

『自衛官奨学金』、それは人手不足を防ぐために防衛省が設立した奨学金だ。

これは大学等へ進学する際に奨学金を貸与するが、自衛隊に入隊し一定年数勤務すれば返済が免除となるシステムである。

この奨学金が始まってから日本は大学進学率が急上昇し、自衛隊は質の良い隊員を安定して採用出来るという正にいい事ずくめであった。

 

「信明、自衛隊に行くの?でもそしたらお医者様には…」

 

「大丈夫だよ。自衛隊には病院もあるし、そこで経験を積めば民間の病院にも行ける。なんならそのまま自衛隊の病院で働き続けても十分な給料を貰えるしね。…まあ、帰省するチャンスは減るかもだけど」

 

「……信明」

 

息子の言葉を聞いて暫く考え込んでいた晴美であったが、意を決したように口を開いた。

 

「信明…すっかり大人になったのねぇ…ごめんなさい。私、信明をずっと子供扱いしてたわ」

 

「そ、そんな事いわないでよ!母さんは俺の為に頑張ってくれたんだから、今度は俺の番だよ。まだ大した事は出来ないけど、母さんが自分の時間を大切に出来るように頑張るから」

 

「信明…っ…」

 

すっかり成長した息子の姿に母は目を潤ませた。

 


 

三重県伊勢平野。

ここには日本政府がロシアから買収した(買い叩いた)スホーイ、ミグ、ツポレフとアントノフ日本支社、そして在来の日本航空機メーカーの一部が統合し設立された『日本先進航空機』通称『JAA(Japan Advanced Aircraft)』の旗艦工場が設立され、日夜日本国内向け及び輸出用の航空機が製造されている。

 

「次はクイラ王国に輸出するSu-27(フランカー)を…40機!?オイルマネーに物言わせ過ぎだろう…」

 

日本への原油輸出によって空前絶後の経済成長中なクイラ王国の爆買い(・・・)に呆れたようにボヤくのは、工場長である『蒔果路府 盛流鯨(まかろふ せるげい)』であった。

名前からも分かる通り、日本に帰化したロシア人である。

彼はもともとスホーイ社のエンジニアであったのだが、実質的な独裁体制であったロシアに不信感を持っており、ウクライナ侵攻を受けて祖国を出奔し、ウクライナにて戦闘機のメンテナンスを行っていた。

終戦後は裏切った祖国に帰る事も、ロシア人である自分がウクライナに残る事も憚られるという事で、日本政府による勧誘に乗って日本に渡ったのである。

 

「それにムー向けのFAT-5、自衛隊向けのF/B-1…あぁ…アルタラス王国とトーパ王国向けのMig-29(ファルクラム)もあったな…早く新工場が出来ないと我々は過労死してしまうぞ…」

 

日本に来た事を若干後悔しつつもパソコンに向かって書類を作成する盛流鯨。

そんな時、工場長室のドアがノックされた。

 

「入れ」

 

「失礼します、工場長」

 

「おお、草場部長」

 

入室してきたのは、エンジン関連の製造部門の部長である『草場 駿介(くさば しゅんすけ)』であった。

 

「明日から3日間の有給に入りますのでご挨拶に…」

 

「あぁ、先月申請した分だな。わざわざ挨拶なんて必要ないのに君は真面目だな」

 

「ははは…前みたいにちゃらんぽらんじゃいけませんから…」

 

「それにしても仕事人間の君が3日間も有給を取るなんてどんな風の吹き回しだ?……おっと、有給の理由は聞いてはいけなかったな」

 

「あー…まあ、工場長になら大丈夫ですよ。実は私…15年程前にやらかしましてね…子供が居るのに…その…」

 

「……なるほど」

 

歯切れの悪い草場の声に盛流鯨が何かを察したように頷く。

 

「一時の気の迷い…いや、私が全面的に悪いですね。それで妻と別れたんですが、最近元妻から連絡がありまして」

 

「ほう」

 

「"息子の養育費を忘れずに払い続けたから反省している事は分かった。だからもう一度話し合おう"って言われたんですよ」

 

「ヨリを戻すのか?」

 

「元妻と…息子次第ですかね。私としてはヨリを戻したいんですけど…」

 

「……草場部長。ちょっと耳を貸してくれ」

 

盛流鯨の言う通り、彼に耳を近付ける草場。

すると、草場の頬に盛流鯨の平手が炸裂した。

 

「っ〜…!?」

 

「これがロシア流だ。草場…いや、駿介。お前はとんでもない事をした、それは間違いない。だが、人は罪を償う事が出来、罪を赦される事が出来る。お前は十分に自分の罪と付き合い、償った…きっと、お前の妻も息子も赦してくれる。悔いの無いように、しっかりと話してこい」

 

「はい…ありがとう…ございます…っ!!」

 

差し出された大きな手を握り、深々と頭を下げた草場の目には涙が浮かんでいた。




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優しい日本の接し方

皆さん、この先の展開を予測するのがお好きですね
せっかく予測するなら公営ギャンブルでもしたらいいと思います


「…という訳でして、異世界国家との貿易は好調です。とりわけ原料を輸入し、製品に加工して輸出する我が国(日本)の貿易スタイルのお陰で異世界国家が莫大な貿易赤字を抱える事態とはなりませんでしたので、各国共に対日感情は上々との事です。また、異世界国家への投資や技術支援も好調でして、中でもロデニウス大陸3ヶ国(クワ・トイネ、クイラ、ロウリア)は各企業の進出や電子機器の輸出が行われており、急激な経済成長を遂げています。最近の調査では、テレビ、冷蔵庫、洗濯機といった家電はもちろん、自動車や携帯電話(ガラケー、スマホ)の普及が目覚ましく、各家庭に1台はあるとの事です。続きまして…総理、何か?」

 

淡々と報告していた秘書だったが、成島総理の眉間のシワが深くなっている事に気付き、言葉を一旦切って問いかけた。

 

「うむ、各省庁や民間企業、マスコミからの反応でそれは理解しているよ。特に我が国の経済成長は凄まじい…見たまえ、今朝の『経済産業新聞』の一面だ。"経済成長率トップ!高度経済成長期とバブルが同時に"…との事だ」

 

成島がデスクに広げた新聞にある通り、日本は未曾有の経済成長の最中である。

先程秘書も言っていたが、異世界国家の豊富で手付かずな資源を輸入し、国内で加工して製品として輸出する日本の貿易スタイルは日本に莫大な利益を齎しつつも資源輸出国にも利益を齎し、資源輸出国は得た利益によって日本製品を買う、そうして製品が売れた利益で日本は更に資源を買うという理想的な相互貿易黒字状態となっており、特に異世界において日本と初めて関わったロデニウス大陸の国々は1990年代末の日本と同程度の技術・経済レベルまで引き上げられていた。

また、日本は資源を持たぬ国も見捨てる事はなく、例えば最貧国として悪い意味で有名な『フェン王国』にはやや離れた海域に豊かな漁場があるという事で、遠洋漁業の技術支援や水産加工場の誘致を支援する事で経済成長を促しており、そんな事もあって周辺諸国(第三文明圏外)において名実ともに日本は盟主と認識され始めているのだ。

 

「そうですね。民間では人手不足が危ぶまれ、新卒採用競争はスゴイらしいですよ。特に製造業では中途採用であっても採用試験に来るための旅費や宿泊費の全額負担はもちろん、場合によっては入社を決めてくれれば月給の半年分を入社ボーナスとして支給するという企業も出ています」

 

「改めて聞くととんでも無いが…私が心配しているのはそこではない。果たして異世界国家へ技術支援を続けても良いのか?という事だ」

 

「と言いますと?」

 

「うむ。我が国は地球においても世界トップクラスの技術立国だった。世界初の商用核融合発電に、全固体電池の実用化…正に世界に革命を齎す発明をいくつも世に出してきた。言わば技術とは我が国の優位であり生命線だ。だが、異世界国家への技術支援はその優位を揺らがせかねないのではないか?」

 

成島の懸念ももっともなものだ。

地球においても日本は発展途上国に技術支援を行ってきたが、その結果より安い製品を作られてシェアを奪われたり、技術を盗まれるという事が何度もあった。

異世界でもそうなってしまえば経済成長がストップしてしまいかねない…そう考えた故の言葉であった。

 

「ですが、異世界国家もある程度の技術を持っていなければ貿易が成り立ちません。中世の人間にスマホを渡しても使いこなせませんし、原始人に車の運転なんて出来ないでしょう?ある程度の技術流出は甘んじて受け入れ、その上で優位を保つべく努力すべきです。もちろん、核心技術は徹底して死守しますよ」

 

日本は製品だけではなく、製造設備や工作機械の輸出も行ってはいるが、輸出を認めていない物もある。

その代表例がマザーマシン…工作機械を作る為の工作機械だ。

確かに日本の工作機械は世界トップクラスの性能を持ち、異世界国家からしてみれば喉から手が出る程に欲しい物だが、工作機械は手に入れて終わりではない。

使っていくうちに発生する摩耗を補修する為の定期的なメンテナンスや部品交換が必要になるが、そのメンテナンス機材や交換部品を作る為のマザーマシンは日本にしか無い。

もちろん、異世界国家にもマザーマシンに相当する物はあるのだが、世界最高の技術を持つ神聖ミリシアル帝国のマザーマシンでさえ、日本の古びた工作機械には遥かに及ばない。

例え日本の工作機械を手に入れても、日本にしかないマザーマシンが無ければ性能を保つ事が出来ないのだ。

そういった意味では、マザーマシンのような核心技術を死守すれば日本の優位は揺るがないと言えるだろう。

 

「うむ…まあ経産省も似たような事を言っていたしな。それに日本製品が売れるのは万々歳だ。内閣支持率も上がるしな」

 

秘書からの言葉をすんなり受け入れると、先程までの懸念は忘れたようにふんぞり返る成島。

心配性だが、心配事が無くなると一転して突き進む彼らしい態度だ。

 

「それに周辺諸国の対日感情は最高ですよ。邦人旅行客なんて王族のような歓待を受けているらしいです」

 

「まあ、パーパルディアがあるからな。そういう意味ではあの国があって良かったよ」

 

第三文明圏内外はパーパルディア皇国の影響力が強く、言わば皇国の顔色を伺って外交をしなければならなかった。

貿易に関してもそうだ。

皇国と貿易しようものなら輸出品は買い叩かれ、輸入品は質の悪い物をぼったくり価格で買わされる…それに抗議すれば貿易停止ならまだいい方で、運が悪ければ難癖をつけられた挙げ句戦争をふっかけられ、そのまま国土は植民地、国民は奴隷である。

そんな中、適切な価格で資源を買って、適切な価格で製品を売ってくれるばかりか投資や技術支援で経済・文明レベルを引き上げてくれる温厚な日本は正に地獄に仏なのである。

しかも軍事力でも皇国を圧倒しているとあれば、皇国との関係を切り捨て、日本につく国が出るのも当然な話だ。

現に今まで皇国との繋がりが強かった『トーパ王国』と『アルタラス王国』は皇国との貿易関係を停止し、日本企業や自衛隊海外拠点の誘致を行って、皇国との断交まで秒読み状態にある。

 

「……っ!?総理!」

 

秘書が持っていたタブレット端末と、成島がポケットに入れているスマホに通知が届く。

音からしてニュースアプリの速報だろう。

 

「速報か?転移してから小さな火山性地震しか起きてないから大地震ではなさそうだが…」

 

タブレット端末を確認して驚愕する秘書に目配せしつつ、ポケットからスマホを取り出して通知欄をスワイプする。

 

《速報 パーパルディア皇国にて大規模軍事衝突。内戦か?》

 

「……は?」

 

僅か幅2cm程の通知バーに表示された短い見出しは、成島の浮かれた気分を一気に冷めさせたのであった。

 

 




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さらば皇帝の治世

日本国召喚最大の見所の一つ、パ皇戦の始まりです


冬が終わり、春となり、農民が作物の植え付けを終えた頃。

晩春から初夏へと移ろいゆく季節に始まるのがパーパルディア皇国最大の祭り『創世祭』だ。

これは皇国の初代皇帝が国号を現在のものに変えた事を記念して開催されたものであり、5年に1度の国中を巻き込んだ盛大な催しとなる。

無論、それは皇都エストシラントも例外ではない。

皇都市民は勿論、各地方から訪れた国民や外国からの訪問者も盛大に皇国最大の祭日を祝う為に皇都に集まり、普段よりも活気に溢れた街並みを散策するのだ。

 

「おぉ!エルダスア伯爵の隊列だ!」

 

「次はターファン侯爵の騎馬隊が来たぞ!」

 

そんな中、一際目立つのは皇宮まで伸びる大通りを行進する各地方を治める貴族達が持つ軍勢によるパレードだ。

ただその役割は領地の治安維持等が主であるため規模は小さく、装備も国軍である皇国軍のお下がり(・・・・)ではあるのだが、それでも見栄っ張りな貴族達はせめて外見だけでもと考え、綺羅びやかに着飾った軍勢を見物人にお披露目するのである。

そしてそんな中でも一際目立つ軍勢がある。

 

「おい、パルファレス公爵の隊列だぞ!」

 

鼓笛隊が奏でる行進曲に合わせて一糸乱れぬ歩みを見せるのは、皇家の分家であるパルファレス公爵家の軍勢であった。

数こそ比べるまでもないが装備の面では皇国軍と同等であり、皇国軍の象徴とも言える地竜『リントヴルム』や『ワイバーンロード』と言った一線級戦力を配備している。

 

「いやー、他の貴族には悪いがやっぱりパルファレス公爵家は一味違うな。華やかで勇ましい!」

 

「皇国軍の実戦志向って感じも悪くないが、こういう場ならパルファレス公爵家の方が見栄えがいいな」

 

「きゃー!見て見て!すっごい男前ばっかり!」

 

見栄っ張りで派手好きというパーパルディア国民の国民性を的確に突いたパルファレス公爵家の隊列はあっという間に注目の的になった。

老若男女が皇国の力強さと、繁栄の華やかさを両立したような姿に心を奪われ、後に続く皇国軍の隊列に対する興味は薄れてしまっている。

 

「けっ…なんで公爵んとこばっかり…」

 

「俺達は予算が削られてるってのに…」

 

「陛下が日本との商売で失敗したツケさ。いつも割りを食うのは俺達みたいな現場の人間だ」

 

勿論、そんな状況は皇国軍にとっても面白くない。

せっかくこの日の為に厳しい訓練を重ね、装備品をピカピカに磨いてきたというのに、公爵軍の兵士は皆が真新しい銃を持ち、胸には宝石を嵌め込んだ勲章を付けている。

正直割って入りたいが、そうすれば見物人からの顰蹙を買うのは間違いない。

その代わりとばかりに、皇国軍兵士達はこの場に居ないルディアスへの八つ当たりじみた不満を小さく溢し始めた。

 

「……ん?なあ、公爵軍の銃…なんか違うよな?」

 

そんな中、一人の皇国軍兵士が公爵軍が装備する銃に違和感を覚えた。

というのも公爵軍が装備しているのは本来なら皇国軍と同じマスケット銃であるはずなのだが、彼等が持っている銃はマスケット銃よりもスマートで洗練された姿をしている。

パレード用の作り物…そう考えられるが、違和感を覚えた兵士はそれだけの事とは思えなかった。

 

「お集まりの皆様!本日は我らが主、パルファレス公爵より重要な言伝を預かって参りました!」

 

突如として声を張り上げる公爵軍を率いていた部隊長らしき男。

やや芝居がかった手振りで懐から上等な羊皮紙を取り出すと、それに書かれた文章を読み上げ始めた。

 

「現皇帝ルディアスは日本などという蛮族に誑かされ、皇国臣民の血税を浪費している。これは皇帝による皇国全体に対する反逆と言ってもよいだろう。よって、現時点を以てパルファレス公爵家は皇家の代行として皇国を統治する!異論がある者は…」

 

数発の銃声が鳴り響き、警備をしていた近衛騎士が倒れ伏す。

その銃声は、公爵軍の兵士が持つ先進的な銃…ボルトアクション式ライフル銃から放たれたものだった。

 

「皇国の改革に反抗する反乱分子として排除する!」

 

その瞬間、大通りには悲鳴が響き渡り、混乱が波紋のように広がった。

 


 

「うぅ…頭が痛い…」

 

「まったく、深酒をして二日酔いをするお前の悪いクセはまだ治ってないようだな。しかも今日は創世祭の初日だというのに…海軍司令が遅刻しては大問題だぞ!」

 

「面目ない…」

 

アスファルトで舗装された道路を規制速度を守りながら走る軽バン。

それを運転するシルガイアが、助手席に乗るバルスを誂っている。

というのもバルスはシルガイア宅にて共に酒を飲んでいたのだが、日本酒の味わいにすっかりハマってしまい飲み過ぎ、早朝に海軍本部に向う予定だというのに寝坊してしまったのだ。

 

「うぐっ!し、シルガイア…揺れが…」

 

「日本製とは言っても古い中古品で荷物を運ぶ為の物だ。乗り心地には期待するなと言われている」

 

道路の繋ぎ目を乗り越えた瞬間の揺れでバルスの頭痛はより酷くなったが、シルガイアはバルスからの要望をバッサリと切り捨てた。

 

「なんと慈悲の無い…まあ、自業自得なのは否定できんな…。しかしまあ、お前がこんな自動車を持つまでになるとはな。私でも買えないぞ」

 

「安物だから買えただけだよ。これならお前の収入だったら10台以上は買えるぞ」

 

「確かにそうだが海軍司令ともなると持ち物もそれ相応でなくては色々と言われるんだよ…。あー、私も自分で運転してみたいなぁ…」

 

「だったら日本が運営してる自動車教習所に通うところからだな」

 

「時間が確保出来るか…?」

 

そんな他愛のない会話をしていると、ようやく皇都の大通りの入口へと到着した。

ここから先は許可を受けた車両以外は進入出来ないため、シルガイアによる送迎はここまでだ。

 

「着いたぞ」

 

「ありがとう。…よかった、間に合いそうだ。ところでシルガイア、このあとはどうするんだ?」

 

「せっかくだから創世祭を見物していくか。…あ、しまった。駐車場が無いな…」

 

「ならば海軍司令部の裏に停めればいい。私の方から言っておこう」

 

「本当か?」

 

「勿論、これで貸し借り無しだぞ」

 

「こっちの貸しが大きい気がするが…まあいいだろう。ではお言葉に甘えさせて…」

 

そんな時だった。

大通りの至る所から悲鳴が上がり、人々が脇目も振らずに走り出す。

 

「なんだ!?」

 

「け、ケンカか何かか?」

 

創世祭ほど大きなイベントともなればケンカのようなトラブルはありがちなものだが、人々の混乱ぶりを見るにただ事ではないように思える。

 

「君、何が…待ってくれ!」

 

事態を把握しようとバルスが逃げ惑う人々を捕まえて話を聞こうとするが、それどころでは無いとばかりに振り払われてしまう。

 

「……バルス!こっちだ!」

 

一方、シルガイアは愛車に装備されていたリアゲートのタラップ(はしご)を昇り、ルーフキャリアの上に立って大通りを俯瞰する。

 

「何か見えるか!?」

 

「火だ!火が見えるぞ!」

 

「あれは…リントヴルムの火炎ではないか!まさか御者の制御が外れたのか!?」

 

「事故か?」

 

「かもしれ…ん!?」

 

まさかこんな重大事故が国を挙げたイベントで発生するとは…そんな事を考えていたバルスであったが、頭上に飛来したワイバーンロードの姿を見てその考えは覆された。

 

「ワイバーンロード…パルファレス公爵家所属の騎か。手伝いに来てくれたのだな。これて一安心…っ!?」

 

なんと信じがたい事にパルファレス公爵家の紋章を付けたワイバーンロードが皇宮に向かって火炎弾を発射したではないか。

しかも複数が多方向から一斉にだ。

 

「まさか…謀反…!」

 

動きからして明らかに計画されたものである事に違いはない。

おそらくはこの日に謀反を起こす為に以前から準備していたのだろう。

 

「バルス、私にも何が起きているかぐらいわかるぞ!乗れ!海軍司令部まで乗せていく!」

 

「すまん、頼んだぞシルガイア!」

 

すぐにでも皇宮に向かいたいが、下手に動けば攻撃に巻き込まれてしまうだろう。

ならば通信設備が整った海軍司令部に向かい、情報収集と事態収拾の為に動くべきだ。

その考えに至った二人を乗せた軽バンは、クラクションを鳴らしながら人々を轢かないように気を付けつつも全力で海軍司令部へと走って行った。

 




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国の支配者

色々と忙しくて遅れてしまいました


皇宮の廊下を早足で歩くルディアスと閣僚達。

彼らは急いではいるが、慌てた様子を見せる事無く大会議室へと向かっていた。

 

「陛下、ご報告が!」

 

「よい、時間が惜しい。申せ」

 

「はっ!各所から寄せられた情報から、此度の謀反の主犯はパルファレス公爵家で間違い…」

 

官僚の報告を遮るように皇宮全体が小さく揺れる。

ワイバーンの火炎弾如きではこうはならない。

おそらくは魔導砲、しかも携帯式ではない本格的な牽引式魔導砲からの砲撃が皇宮近くに着弾したのだろう。

 

「うわぁぁぁ!?」

 

「落ち着け!この宮殿は大改修で重魔導砲の至近弾にも耐えうる強度を得ている。パレードの名目で持ち込める魔導砲では直撃でも大きな損害は受けぬ」

 

「陛下!遅れてしまい申し訳ありません!」

 

「アルデか。よい、馳せ参じたのであれば多少の遅れは構わぬ」

 

「ありがとうございます。現在、皇都防衛隊がメイガ陸将指揮の下で対処しております」 

 

「他の部隊は?」

 

「パレード参加の準備をしておりましたベルトラン陸将麾下の揚陸師団も現在、実戦用装備への切り替えを行っており、完了次第鎮圧に参加するとの事です」

 

「一先ずはベルトランへは待機を命ぜよ。皇都に戦力が集中してしまえば混乱が無闇に広がってしまい、二次被害のおそれがある。海軍はどうした?」

 

「先程バルス海将より、海軍司令部へ到着したとの連絡と退役将校の臨時登用を求める旨の通達が…」

 

「構わぬ。いざとなれば在留外国人を…列強国と日本国の民を脱出させねばならん。海軍はいつでも出航出来るように準備をさせよ」

 

「しかし、退役将校とやらがパルファレス公爵と内通している可能性があります」

 

「それを見抜けぬ程バルスは愚かではない」

 

「はっ!」

 

そんな風に歩きながらの対策会議ではあったが、大会議室に到着した事で仕切り直しとなった。

 

「いくらか居らぬが、時間が惜しい。遅れた者には手近な者が情報共有するように。では先ず、現状はどうなっている」

 

「では私が」

 

ルディアスから促され、第一外務局長であるエルトが立ち上がった。

 

「事の発端は地方貴族によるパレードの最中、パルファレス公爵軍の兵士が警備にあたっていた近衛騎士団へ発砲した事であります。当初は予期せぬ暴発事故、あるいは個人的な怨恨によるものだと思われましたが、他の公爵軍兵士も立て続けに発砲、更には地竜が警備詰所へと火炎放射し、計画的な武装蜂起…つまりクーデターであると確信しました」

 

「歴史的に皇家とは一触即発の関係だったとはいえ…よもや創世祭に事を起こすとはな。公爵軍の兵力は?」

 

「はっ!現時点ではパレード参加の歩兵1500名、地竜30頭、ワイバーンロード30騎…それに加え、エルダスア伯爵、ターファン侯爵といった有力諸侯及び小貴族が公爵軍に合流し、現時点では少なく見積もっても歩兵戦力1万近くが…」

 

「1万か…皇都防衛隊では荷が重いかもしれない。陛下、やはりベルトランの部隊を参戦させるべきです」

 

エルトの言葉を受けてアルデはそう提案するが、ルディアスは首を横に振った。

 

「いや、ここは市民の避難を優先させるべきだ。皇都で大規模な戦闘が勃発すれば大勢の市民が犠牲となる。そうなればクーデター軍側に大義名分を与える事になりかねん」

 

「承知しました。では皇都防衛隊は遅滞戦法によるクーデター軍の足止めを、稼いだ時間を利用して揚陸師団による市民の避難誘導を行います」

 

「よろしい。そこの魔信を使うがよい。ミリシアルから輸入した最新型だ」

 

「ありがとうございます」

 

ルディアスからの許可を得て会議室に置かれた魔信の前に座ったアルデは、部下に用意させた皇都の地図と睨み合いつつ、各所に展開した部隊へと指示を出す。

元は魔信士官だったとだけあり、その所作には全く澱みが無い。

 

「鎮圧はアルデに任せよう。他に何か報告は?」

 

「私からよろしいでしょうか?」

 

「カイオスか。よい、申せ」

 

「はっ。これはまだ速報…つまり確度が低い情報なのですが、クーデター軍は連発銃(・・・)を纏った数使っている可能性があります」

 

その言葉を聞いた瞬間、会議室にざわめきが広がった。

連発銃、つまり弾倉を備え僅かな操作だけで次々と弾丸を発射する事が出来る銃は皇国では研究開発中の代物であり、現在においても試作品が10丁程度しか存在しない。

そんな最新兵器を如何に大貴族とは言えど一貴族が揃えられる訳がない。

 

「エルト!」

 

「可能性としましてはミリシアルとムーです。しかし、ムーは他国への兵器輸出は行っておりません。ですがミリシアルは近年、中央政府と地方領主との乖離が進んでいると言われています」

 

「ミリシアルに…いや、地方領主の独断であれば中央政府は把握していないだろうし、痕跡を残す程マヌケではないだろう。それに、下手にミリシアルの責任を追求している最中にミリシアル国民に被害が出れば、皇国による陰謀を疑われるかもしれない。現状はミリシアルへの責任追及は後回しだ」

 

個人間の責任追及であれば状況証拠だけでもゴリ押せるかもしれないが国家間…それも目上の国家に対してはそうもいかない。

決定的な物的証拠と、責任者による証言も必要だ。

 

「だが如何に優れた銃を持とうが敵は少数だ。数なら皇軍が遥かに上…多少の犠牲は出るだろうが、間違いなく鎮圧可能だ!」

 

確かに今回のクーデターは衝撃的な出来事だったが、それ以上続くとは思えない。

一気呵成に皇宮を制圧し、ルディアスを確保すればクーデター軍の目論見は達成出来たであろうが、こうしてルディアス達が対策会議を開けているだけの余裕がある時点でクーデターはほぼ失敗したと言っていいだろう。

あとは時間と皇軍が解決してくれる。

そのはずだった(・・・・・・・)

 

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

揺れる床、砕け散るガラス、倒れる調度品、至る所で上がる悲鳴…ただ事ではない。

 

「どうした!?」

 

「へ、陛下!」

 

誰かに様子を見に行かせようとしたルディアスだったが、アルデからの言葉によってそれが無用だと悟る事になった。

 

「皇都の沖合に…ミリシアルの魔導艦らしき艦影(・・・・・・・・・・・・・・)を確認!皇宮周辺に艦砲射撃を行っている模様!」




次は早く更新出来るようにしたいですね


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