創造のハジメと破壊の光輝 (大トロ)
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プロローグ ある日の若者達


気分転換の為に執筆しました。

いつまで続くかわからないですが…


 

ハジメ「はあ〜、疲れたー!!」

 

月曜日

 

南雲(なぐも)ハジメは疲れた表情を浮かべながら登校した

 

売れっ子漫画家の母の手伝いを一晩中し気がついたら朝だった、なんてことは良くあることだ

 

教室に入ると何名かがこっちを見たが別段気にしなかった

 

例外はいるが

 

檜山「よぉ、キモオタ! また、徹夜でゲームか? どうせエロゲでもしてたんだろ?」

 

この糞を掃き溜めにしたようなゲスな顔を浮かべる男檜山(ひやま)は、度々取り巻きとともにハジメをからかう

 

クラスでもオタクの部類に入るハジメをよくバカにする

まあこの男がハジメをバカにするのには他にも理由があるが

 

ハジメ「……はぁ…朝から不快な声聞かされるとはな…これだからゲームアニメの良さを知らない非オタは」

 

檜山「あぁあ!?」

 

気だるそうにしながら檜山に苦言をすると檜山が睨みながら胸ぐらを掴もうとした

 

カズマ「グッドモーニングハジメ♪お、その顔はまたお袋さんの仕事の手伝いしてたな?」

 

そこへハジメの親友である佐藤和真(サトウカズマ)が横入りをしてきた

 

ハジメ「まあな、お陰で一睡もしてこなかったわ。いやー檜山達は良いな暇そうで、俺なんか将来やる仕事が決まってるから忙しくて忙しくて寝る暇もなかったわー」

 

檜山「テメェ!、俺達を馬鹿にしてんのかあぁ!?」

 

アクア「最初にハジメを馬鹿にしてたのはアンタ達でしょ?」

 

更にカズマの後ろから同じく友人である水神(みずがみ)アクアが割り込んできた

 

アクア「自分達のこと棚に上げて良くも人のこと馬鹿にするわね」

 

カズマ「そう言うなアクア。こういう奴らは自分達の言動と行動が周りからどんなふうに見られてるのか分かってねえんだよ。正直うるさい」

 

ハジメ「全くだ……なんで人様が働いて疲れて学校に来たっていうのにこんなクソどもの相手しなきゃあならねえんだよ……わかったらとっとと失せろこの暇人共が」

 

檜山「テ、テメェ!!調子に乗るんじゃねえぞー!!」

 

今度こそ檜山がハジメを殴ろうとした

 

その時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「おい」

 

次の瞬間、檜山が横から来た何かに蹴り飛ばされた

 

檜山「ぐっ!」

 

そのなにかに目を向けるとそこに立っていた、勇者っぽいキラキラネーム、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人である天之河勇輝(あまのがわゆうき)

 

 

ではなくその双子の弟である天之河光輝(あまのがわこうき)その人だった

 

光輝「道を塞ぐな、失せろ」

 

檜山「あ、天之河!?き、急になにしやが」

 

光輝「黙れ、失せろ」

 

そう光輝が睨みを効かせると檜山とその取り巻きが離れていった

 

そして彼はその檜山に殴られそうになっていたハジメと

対面、ハジメも光輝と対面すると

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/光輝「「テメェ嫌いだって言っただろうが失せろ!!」」

 

何故か喧嘩腰になった

 

カズマ「はあ〜、またか。」

 

アクア「本当に仲が悪いわね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《キャラクターズファイル》

 

佐藤和真(サトウカズマ)

 

現在休載中の《このふたりの男女に祝福を!》のIF時空から現在の世界に転生した日本人

 

かつて日本で死後女神だったアクアと出会い共に異世界に降り立ちそこで仲間達と魔王軍と戦い倒し、穏やかな余生を仲間たちと過ごした

死後生前世話になった女神エリスの頼みで転生後他世界の邪神によって異世界転移させられるであろう者達のサポートと邪神討伐を頼まれる

 

生前は家族同然に愛した仲間達の事が何よりも大切であり、世界よりも仲間達を優先するほどの仲間思いな性格

 

前世の記憶を所持したまま転生し、同じく記憶持ちで転生したアクアと共にいつも過ごしている

 

アクアとは相棒であり前世から続く深い絆と相思相愛の気持ちを持っており、前世同様最優先にしている

 

南雲ハジメとは中学からの友人でありハジメの事情をよく知る数少ない存在

 

かつてはイチパーティーメンバーを率いたリーダーだったこともあり人並み以上のリーダーシップ能力を持っている

 

水神(みずがみ)アクア】

 

現在休載中の《このふたりの男女に祝福を!》のIF時空から現在の世界に転生した元水の女神

 

かつて日本で死んだ和真と出会い共に異世界に降り立ちそこで仲間達と魔王軍と戦い倒し、穏やかな余生を仲間たちと過ごした

カズマ達の死後後輩女神であるエリスの頼みで転生後他世界の邪神によって異世界転移させられるであろう者達のサポートと邪神討伐を頼まれ、女神の殆どを手放しカズマたちとともに転生

 

生前はどこか抜けていて問題を起こすが家族同然に愛した仲間達の事が何よりも大切であり、仲間の為なら女神としての使命を放棄してまで仲間を優先するほどの仲間思いな性格

 

前世の記憶を所持したまま転生し、同じく記憶持ちで転生したカズマと共にいつも過ごしている

 

カズマとは相棒であり前世から続く深い絆と相思相愛の気持ちを持っており、前世同様最優先にしている

 

また女神としての力の殆どを失って入るが、他人の魂を知覚したり除霊、簡単な回復などはできる

 

南雲ハジメとは中学からの友人でありハジメの事情をよく知る数少ない存在

 

南雲(なぐも)ハジメ】

 

本作の主人公格であり、原作初期とは違い受け身な性格ではなく普通に反抗し、自身の趣味をオープンに晒している

 

他人の感情には敏感で、自身の事を慕うとある女子生徒の事は少し鬱陶しいと思いつつも満更ではない

 

カズマとアクアとは中学のときのとある出来事以来からの友人であり、このふたり以外にも友人はいる

 

また高校の入学式の日に初めて会った天之河光輝(あまのがわこうき)とはなぜか初対面から互いに嫌い合っており学校でも有名な犬猿の仲である

 

しかし光輝と出会う前までの性格は原作初期のままだったが光輝との出会いが今の性格へと変わった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実はアクアいわくなぜか一つの身体にふたつの魂を宿している

 

 

天之河光輝(あまのがわこうき)

 

本作のもう一人の主人公格であり、原作とは違い他者を寄せ付けない人間嫌いな性格でありどこか影のある男

キャラクター像は銀魂の高杉晋助と仮面ライダー鎧武の駆紋戒斗を合わせたような存在

双子の兄である天之河勇輝の事をものすごく毛嫌いしており、兄のような独善的な者や弱者、強者の皮を被った弱者、己の意志を持たず流される者を嫌っている

かつては兄である勇輝同様正義感の強い性格だったが小学生の時に起きた事件以来人が変わり、今の性格へとなった

 

 

普段の風貌と時より授業をサボったりするせいで不良のレッテルを貼られているが、実は兄である勇輝以上の容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人である

 

高校の入学式の日に初めて会った南雲(なぐも)ハジメとはなぜか初対面から互いに嫌い合っており学校でも有名な犬猿の仲である

 

また自身の事を事件後も気にかけて来る幼馴染の女の子がいるが必要以上に拒絶している

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

実はアクアいわくなぜか一つの身体にふたつの魂を宿している





本作でのカズマは主人公ではなくあくまでサポート役にまわる為一応準主人公ポジになります。

あとここの光輝は原作見た後に思うところがあってかなり性格改変にしてます。


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第一話 異世界転移先はトータス

 

《カズマ視点》

 

香織「南雲くん。珍しいね、教室にいるの。お弁当? よかったら一緒にどうかな?」

 

その日の午前中の授業を終え、俺達はそれぞれ昼食を取る

 

ハジメは10秒チャージの奴を食べて昼寝をしようとしたが、それを邪魔する存在がいた

 

突然だがこの学校には3大女神と呼ばれる女子高生がいる

今始めに声を掛けたのはその一角である白崎香織(しらさきかおり)

そしてなぜかハジメに惚れており、ハジメも薄々勘づいている

 

ハジメ「白崎さん。悪いけど僕疲れちゃってて眠いから遠慮するよ。それに飯なら食べたし」

 

香織「えっ! お昼それだけなの? ダメだよ、ちゃんと食べないと! 私のお弁当、分けてあげるね!」

 

ハジメ「いや断ってるんすけど」

 

カズマ「その辺にしな白崎。ハジメは親の仕事の手伝いで疲れてんだから寝かせてやんなよ。ほらいつものだ、冷めても食えるやつにだから放課後にでも食べな」

 

ハジメ「いつもありがとうカズマ」

 

カズマ「なに、二人分作るのも三人分作るのもそう変わらねえから」

 

香織「むう〜、私のは受け取らなかったのに佐藤君のは受け取るんだ」

 

アクア「そんな言い方しないの香織。カズマのはハジメの事情を考えたメニューにしてるのよ。そういう香織の弁当はどうなの?冷めても美味しいものなの?」

 

香織「うぅ…それは」

 

アクア「もしハジメに食べてもらいたいなら、後でも食べられるような物にしなさい」

 

アクアに論されて仕方なく引こうとする香織だったがそこへ

 

勇輝「香織。こっちで一緒に食べよう。南雲はまだ寝足りないみたいだしさ。せっかくの香織の美味しい手料理を寝ぼけたまま食べるなんて俺が許さないよ?」

 

光輝の双子の兄であり、香織の幼馴染天之河勇輝

 

カズマ/アクア「「ジー…」」

 

こいつは勇者っぽいキラキラネームで、容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ……って言うのは世間一般視点から見た評価であり、俺とアクアの評価は正義感の強すぎる…というか思い込みの激しい奴で精神面はまるでガキだな

かなりの独善的で自分こそが正しいって思い込んでいる

 

後他人の悪意だとか好意とかに対してかなりの鈍感で、まるでラノベの鈍感系ハーレム主人公の悪化バージョンみたいな奴だと思った

 

双子である光輝とこの天之河兄とは正反対過ぎてもはや他人なんじゃね?って感じる始末だ

 

そしてこの天之河兄のいったのに対し香織は

 

香織「え? なんで勇輝くんの許しがいるの?」

 

カズマ/アクア/教室の何名か「「「ブフッ…!」」」

 

素で聞き返されそれに思わず俺とアクア、更にはコイツらのやり取りを聞いていた教室にいるクラスメイト数名も吹き出した

 

ザマァ見ろ天之河兄

俺はお前みたいな独善的で他人の恋愛の邪魔をする輩は嫌いなんだよ

お前なんか馬にいや、ベルディアの馬に蹴られてそのままジャイアントトードに丸呑みにされちまいな

 

ちなみに3大女神と言ったが二人目は今俺の隣にいるアクアだ

まあアクアは前世は女神だったから実質女神なのはこいつだけだな

そしてあとの一人は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「ほっとけって言ってるだろ!!」

 

突然の怒鳴り超えに俺達は声の方向を見た

 

そこには光輝に睨まれている3大女神の最後の一人であり、天之河兄、香織の幼馴染である八重樫雫(やえがししずく)がいた

 

彼女の実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、彼女自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者であり、現代に現れた美少女剣士として雑誌の取材を受けることもしばしばあり、熱狂的なファンがいるらしい

3大女神と呼ばれるだけあって彼女も香織やアクアにも並ぶ美少女だ

まあアクアには負けるけどな←身内贔屓

 

そして香織や天之河兄の幼馴染であるということは当然光輝とも幼馴染でもあるのだが

 

雫「で、でも…あなた普段お昼ご飯なんて食べないでしょ?だ、だからお弁当を作ってきたからこれをた、食べて欲しくて」

 

光輝「雫、いつも言ってるよな?『俺に余計な事するな』あと『俺のことはほっといてくれ』ってな」

 

雫「で、でも」

 

光輝「くどい!」

 

ただでさえ人嫌いな光輝からはよく拒絶されている

この光景もよく見る

日頃の振る舞いで周りからは不良のレッテルを貼られている光輝に唯一近づいて関わろうとしている

 

勇輝「光輝!お前雫になんて態度なんだ!!せっかく雫がお前のために作った弁当を受け取らないばかりかそんな横柄な態度を取るなんて!!」

 

光輝「俺はそいつに頼んでもないのにお節介な事をやって来るそいつに言ってやっただけだ」

 

勇輝「でも雫の優しさを無下にするとは何を考えているんだ!!」

 

光輝「俺としては未来永劫優しさも関わりも断ってほしいんだがな」

 

そう言うと光輝は教室から出ようとした

 

勇輝「おい待て光輝!逃げるな!兄弟(・・)の言うことを聞け!!ぐあっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「……これも言ったはずだ?俺を、気安く、兄弟って呼ぶなってな!!お前とはとっくの昔に兄弟の縁は切ってんだよ。二度と俺に兄貴ズラもするな」

 

次の瞬間光輝によって蹴り飛ばれた天之河兄

 

その時の光輝の表情は雫に対して向けたとき以上の怒りを向けていた

 

カズマ「……」

 

あまり他人の事情に踏み込むのは良くないことだとは思うが、なぜこいつらがここまで歪んだ兄弟関係になったのか……知りたいと思う自分がいる

片や独善的な正義感の塊の兄

片や幼馴染も兄も何もかもを嫌う弟

 

前世の異世界でもここまで歪んだ対人関係なんて見たことないぞ

 

俺はそう思いながら隣で一緒に見ていたアクアに顔を向けた

アクアも俺と同じ事を思っていたのか複雑そうな表情を浮かべていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

突如天之河兄の足元から光り輝く円環と幾何学きかがく模様の魔法陣が浮かび上がり、教室全体を満たすほどの大きさに拡大した。 俺とアクアこれを見てついにかと思った

 

たまたまクラスにいた社会科の先生である畑山愛子(はたやまあいこ)先生が咄嗟に「皆! 教室から出て!」と叫んだのと、魔法陣の輝きが爆発したようにカッと光ったのは同時だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」

 

そして気が付くと俺達クラス全員は異世界『トータス』に異世界転移したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《キャラクターズファイル》

 

白崎香織(しらさきかおり)

 

ご存知原作ありふれの突撃系サブヒロイン

本作も原作同様の理由でハジメに好意を抱いており本人は隠しているつもりだがハジメを初めとした数名から勘付かれている

高校生になってあったときとは性格も風貌も変わっているハジメに戸惑いを感じてはいたがすぐに気にならなくなりハジメとの話題作りのためにオタク知識を身につける努力をした

 

勇輝と光輝、龍太郎(まだ出てない)、そして親友である雫とは幼馴染であり雫とアクア合わせて3大女神と称される程の美少女

 

当初はハジメと関わることが多かったアクアの事を恋仇と思っていたが後に和解して友人同士となった

 

天之河勇輝(あまのがわゆうき)

 

簡単に言えば兄弟設定を付け、名前を変えただけの天之河光輝

香織と雫、そして親友である龍太郎とは幼馴染で光輝の双子の兄

性格は原作天之河光輝同様の独善的な正義感の塊であり、光輝アンチだった作者がいっそ光輝をメインにしたいと思った末に誕生した存在

だから原作光輝が行った所業はほぼ全てこいつにまわる

光輝とはかつてはそれなりに仲の良かった兄弟だったが原作でも起きた雫のイジメ事件がきっかけで光輝から兄弟絶縁を言われそれ以来仲の悪い兄弟関係になった

 

 

 

坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)

 

次回登場予定の光輝と香織と雫、そして親友である勇輝とは幼馴染で原作同様の脳筋であり常に勇輝と共におり勇輝のやることに特に考えることもなく肯定してばかりのため光輝からは内心『考える脳を持たない己の意思を持たない奴』と見下されている

 

 

八重樫雫(やえがししずく)

 

光輝と勇輝と龍太郎、そして親友である香織とは幼馴染であり香織とアクア合わせて3大女神と称される程の美少女

いつも勇輝のやることの後始末をやっており、それによってカズマからは同情されている

実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である(カズマ曰く異世界にいたら間違いなく名の通った冒険者になっている逸材)。また同じ道場には勇輝とかつては光輝もいた

小学生の頃、自身がいじめられる事件があり、それを一人で解決したが変わりに道場をやめ勇輝とは不仲になり周りの人間を拒絶するようになった光輝には対して罪悪感を抱いており、いつかまた一緒にいられる日を夢見ており、何年も光輝に接触するがことごとく拒絶されている

 

 

 

 

 

 

 





感想お待ちしております!!

そしてここの雫は光輝のメインヒロイン枠です。


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第二話 異世界戦争参戦

 

《ハジメ視点》

 

愛子「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることはただの誘拐ですよ!」

 

クラスメイトから愛ちゃんの愛称で親しまれている畑山先生がイシュタルに怒鳴り込む

 

なぜこんな状況になっているのかと言うと

 

このイシュタルという男は語る

 

曰く、このトータスには人間族、魔人族、亜人族の大きく分けた3種族が存在し、 人間族は北一帯、魔人族は南一帯を支配しており、亜人族は東の巨大な樹海の中でひっそりと生きており、人間族と魔人族は何百年も戦争を続けている。

魔人族は、数は人間に及ばないものの個人の持つ力が大きいらしく、その力の差に人間族は数で対抗して戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近になって魔人族側の力が増しておりこのまま行けば人間族は滅びの危機を迎える

 

そこで人間族が崇める神『エヒト』が人間族を救うために他世界からの勇者一行つまり僕達が召喚という名の誘拐をされたというわけ

 

つまり早い話が、『私達滅びそうだから他世界の者達よ、戦争に参加して我らをすくい給え』ってことだな

 

なんていうか、ラノベみたいなことが今現実と化しているのが伝わるなあ…

 

正直驚いているけど、今は冷静に今後のことを考えるか

ってよく見るとクラスメイトのうち何名かは今自分たちの置かれている状況について冷静に考えているな

 

その大体がこのクラスにいる僕の友人達だ

そして畑山先生の言葉へ繋がる

 

多分だけど畑山先生

ラノベの展開だとおそらく僕たちは

 

イシュタル「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」

 

……だろうなあ…

 

愛子「そ、そんな……」

 

畑山先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた

 

「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」

 

「いやよ! なんでもいいから帰してよ!」

 

「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」

 

「なんで、なんで、なんで……」 パニックになる生徒達

 

未だパニックが収まらない中、天之河兄が立ち上がりテーブルをバンッと叩いた。その音にビクッとなり注目する生徒達。天之河は全員の注目が集まったのを確認するとおもむろに話し始めた

 

勇輝 「皆、ここでイシュタルさんに文句を言っても意味がない。彼にだってどうしようもないんだ。……俺は、俺は戦おうと思う。この世界の人達が滅亡の危機にあるのは事実なんだ。それを知って、放っておくなんて俺にはできない。それに、人間を救うために召喚されたのなら、救済さえ終われば帰してくれるかもしれない。……イシュタルさん? どうですか?」

 

イシュタル 「そうですな。エヒト様も救世主の願いを無下にはしますまい」

 

勇輝「俺達には大きな力があるんですよね? ここに来てから妙に力が漲っている感じがします」

 

イシュタル 「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」

 

勇輝「うん、なら大丈夫。俺は戦う。人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!俺がみんなを守る!!」

 

その言葉により彼のカリスマは遺憾なく効果を発揮し、絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている

 

龍太郎「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」

 

ここで天之河兄の幼馴染であり親友である坂上龍太郎(さかがみりゅうたろう)がまるでどこぞのジャンプ主人公に賛同する相棒ポジみたいなことを言って隣に立った

 

勇輝「龍太郎…」

 

雫「そうね…今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」

 

勇輝「雫…」

 

香織「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」

 

勇輝「香織…」

 

いつものメンバーが光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。畑山先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが勇輝の作った流れの前では無力だった。 結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろうな

 

果たして本当の意味で理解してるものは何人いるか…

 

それと

 

ハジメ「……チッ、あいつも気づいているか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《カズマ視点》

 

カズマ「お、いたいたこんなところにいたか光輝」

 

光輝「……なんのようだ…」

 

カズマ「ちょっとお前と話がしたくてな。なに、そんなに時間はかけねえって」

 

異世界転移を果たしたその日の夜

 

クラスメイト達は皆各々用意された部屋で眠りついていたが、俺は寝ずに光輝に会いに行った

 

光輝「……で、話とは何だ?」

 

カズマ「んまあ、まず初めに…異世界転移した感想はどうだ?」

 

光輝「……どうもしねえな。ただ、他世界の人間に頼らなければならないほど。この世界の人間は弱者って事くらいだな……」

 

カズマ「やれやれ……相変わらずの弱者嫌いな性格だな…」

 

光輝「……それで、本題は何だ?」

 

カズマ「……ぶっちゃけ、どう思ったか?」

 

光輝「……信用ならないな……あのイシュタルとかいう爺もそうだがこの世界の人間共もな……あいつ…クラスメイト共が帰れない事にパニックを起こしていた時、まるで『エヒト様に選ばれておいてなぜ喜べないのか』とでも言いたそうな侮蔑な表情を浮かべてたな……あれは間違いなくエヒトの狂信者だ…それこそエヒトの為なら俺達を迷わず始末しようとするくらいにな……おまけにあいつ、あの場に居る者の中で誰が一番クラスメイト共に影響力があるかを見抜きやがった………」

 

カズマ「……その影響力を持っているのが…お前の兄貴だな」

 

光輝「あいつを兄なんて呼ぶな、……あいつは昔からカリスマだけはあったからな……それを付け込ませるためにわざわざこの世界の人間共がこの先迎えるであろう残酷な部分を強調させ、あいつが自分達のために戦うよう誘導させた……とんだ狸爺だな」

 

カズマ「……そこまで見抜いているとは流石だな…伊達に人嫌いやってるな」

 

光輝「……よく言う……俺が今言った全てを見抜いていた上で俺に聞いてきたな」

 

カズマ「まあね、この状況だ……こういうこと話せるのは今この状況をよく理解してるやつだけだ」

 

光輝「……そう言うお前こそ…あの時あの場で冷静に現状を把握している連中が誰か知ってるんじゃないか?」

 

カズマ「ああ、まずは俺とアクア……それとハジメと幸利と浩介に恵里……後お前と八重樫だな」

 

光輝「チッ、あいつも気づいてやがったな」

 

カズマ「ほんとなんでお前はハジメと仲悪いんだよ…」

 

光輝「あとの連中はこれから自分達がすることを全く理解できていない馬鹿どもだ……あいつの言葉に流されて己で決めきれなかった愚者達だ」

 

カズマ「なら…あの時あの場で戦争参戦に反対しなかった俺達は意見すらせずに流された愚者と見るか?」

 

光輝「そうだ……と言いたいところだが……お前たちがあそこで反対しなかったのはあの場で反対すればクラスからの非難は確実。おまけに俺達を戦争に戦争に勝つための道具としか見てないあの狸爺とその教会連中に目をつけかねられん。この世界に来たばかりでこの世界の常識も地理にも全く詳しくない、最悪の場合異端者として弾圧されかねない。だから敢えて何も言わなかった」

 

カズマ「正解!やっぱよく見てるなお前、あの独善野郎にお前の垢を煎じて飲ませてやりたいくらいだな………ちなみにお前としてはこの世界の事は」

 

光輝「どうでもいいな……この世界が滅ぼうと、人間が魔人族に滅ぼされようと。心底どうでもいい……他力本願な時点でこの世界の人間共は負けてるんだよ」

 

カズマ「……そう…か」

 

その言葉に思うところはあったが…あいつならそう言うだろうなとは思っていたから流すことにした

 

カズマ「じゃ、俺はもう寝るわ…またな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう言い俺はその場を去ろうとしたが

 

光輝「……この世界に来た直後…他の奴らが慌ててる中、お前と水神は全くと言っていいほど落ち着いてやがった……いや、この世界に来る直前での教室でもお前と水神は落ち着いていた…俺や他も焦っていたというのに……お前ら……実はこうなることはわかっていたんじゃないのか?」

 

カズマ「……例えば俺がそれを分かっていたとして……あるいはそうなるように誘導したとして……お前は…どうするつもりだ?」

 

光輝「……どうもしないな……だが一つ言えることがあるとすれば……お前と水神は恐らく、この世界を救おうとしている……ただしそれは恐らく戦争で魔人族を倒すとは違うやり方でだ…………佐藤…水神

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前達は何者だ」

 

カズマ「……」

 

光輝「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「フッ…まあいい…お前たちが何者かにせよ……俺にとっては心底どうでもいい」

 

そう言われ、俺は黙ってその場をあとにした

 

 

 

 

 

カズマ「まさか……ここまで勘のいいやつだったとはな…」

 

俺は光輝がいる方向に目を向けた

 

カズマ「しっかし何者かねぇ……俺に言わせれば

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一つの身体にふたつの魂を宿す(・・・・・・・・・・・・・・)おまえたちの方こそ何者なんだ……光輝、ハジメ」



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第三話 創者と破者

 

《カズマ視点》

 

翌日から早速訓練と座学が始まった

 

まず、集まった生徒達に十二センチ×七センチ位の銀色のプレートが配られた。不思議そうに配られたプレートを見る生徒達に、騎士団長メルド・ロギンスが直々に説明を始めた。 騎士団長が訓練に付きっきりでいいのかとも思ったが、対外的にも対内的にも勇者様一行を半端な者に預けるわけにはいかないということらしい。

メルド団長本人も、「むしろ面倒な雑事を副長(副団長のこと)に押し付ける理由ができて助かった!」と豪快に笑っていたくらいだから大丈夫なのだろが

 

メルド 「よし、全員に配り終わったな? このプレートは、ステータスプレートと呼ばれている。文字通り、自分の客観的なステータスを数値化して示してくれるものだ。最も信頼のある身分証明書でもある。これがあれば迷子になっても平気だからな、失くすなよ?」

 

ステータスプレート…前世の異世界で言うところの冒険者カードか…

懐かしいなあ…あの頃はあのカード一枚で今の自分の実力も使えるスキルもはっきりしていたし…

 

団長曰くこのステータスプレートは神代のアーティファクトであるらしく、今現在存在する唯一の代物らしい

 

アーティファクトとは現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具でまだ神やその眷属達が地上にいた神代に創られたと言われている

 

なるほど、と頷き生徒達は、顔を顰しかめながら指先に針をチョンと刺し、プクと浮き上がった血を魔法陣に擦りつけた。すると、魔法陣が一瞬淡く輝いた

 

俺もアクアも同じようにしてみせた

そして浮かび上がったステータスはというと

 

 

 

 

 

 

 

佐藤和真 17歳 男 レベル:1

 

天職:冒険者

筋力:7000

体力:9400

耐性:4600

敏捷:8200

魔力:88000

魔耐:5700

 

技能:言語理解  マジックオールマイティ スキルオールマイティ 無詠唱 魔法術

 

おいおいおい、これもしかしなくても前世の俺の全盛期じゃねえかよおい

 

俺の前世の職業冒険者(弱)はこの世のすべてのスキル魔法を覚えられるかわりに本職以下の効果しか使えなかったがこれは俺の努力とこれまでの戦闘経験で本職以上に使いこなせられるようになったんだった

 

このマジックオールマイティとスキルオールマイティは恐らくこの世界全てのスキル魔法を使うことができるやつだろうな

ってこのマジックとスキルオールマイティの部分をタップすると、前世で使っていたスキルや魔法まで表示されている

やったー!これで前世と変わりなく戦えるな!!

けど欲を言ったら、前世でもよく使っていた俺の愛刀達があったらなお良かったんだけどなあ……まああれは今頃俺の子孫達に受け継いでるだろうな

 

あと魔法術は前世で俺に魔法を教えてくれた師匠であるリッチーが授けた物だ

 

アクア「か、カズマ…これ」

 

するとアクアがどこか青ざめた様子で俺にステータスプレートを見せてきてその内容に思わず叫びかけた

 

水神アクア 17歳 女 レベル:1

 

天職:アークプリースト

筋力:2000

体力:7000

耐性:9000

敏捷:7100

魔力:500000

魔耐:67000

 

技能:言語理解 浄化魔法 破魔魔法 全回復魔法 無詠唱 水魔法適性 全属性耐性 異常状態耐性 水性特化(神) 物理耐性 魂認識 封印術 結界魔法 宴会芸全般

 

まじかよ…

これかつてアークプリーストだった頃のステータスとスキルじゃねえかよ

 

やばいな…相変わらず魔法関連がやばすぎる

 

てかこれやばくね?

今団長が話していたんだがこの世界のレベル1の平均は10らしいから傍から見たらもはやチートオブチートだな

 

あとこの天職って言うのはいわゆる才能であり、技能と連動しておりその天職の領分においては無類の才能を発揮するらしく、天職持ちは少なく、戦闘系天職と非戦系天職に分類されてるみたいだが戦闘系は千人に一人、ものによっちゃあ万人に一人の割合で非戦系も百人に一人の割合で生産職は持っている奴が多いようだ

 

ちなみに天之河兄のステータスは

 

天之河勇輝 17歳 男 レベル:1

 

天職:勇者

筋力:100

体力:100

耐性:100

敏捷:100

魔力:100

魔耐:100

 

技能:全属性適性・全属性耐性・物理耐性・複合魔法・剣術・剛力・縮地・先読・高速魔力回復・気配感知・魔力感知・限界突破・言語理解

 

他のやつから見たらチートだが俺やアクアのステータス見ると霞んでしまうな

 

まあ俺達前世で魔王軍相手にドンパチやって討伐した実績ある伝説の冒険者パーティーのリーダーと女神だし

 

てか天職勇者ってなんだ…まるでザ・主人公みたいだな

 

ってやべ、次俺達のステータスが見られる、なんとか誤魔化さねえと

 

そう思っているとアクアが俺と自分のステータスプレートに魔力を流し始めた

 

すると表示されたステータスが2桁ほど下がった

 

メルド「なっ!?なんだこれは!?ふたりとも魔力飛び抜けているだと!?それ以外のステータスも高いが魔力面が高すぎる!?それに技能も見たことないものばかりだ!!特にアクア、お前は魔力面も魔耐も勇者以上だな!!」

 

お陰で魔法が高すぎでその他が平均より少し高いくらいで誤魔化せた

出来したアクア!

後で部屋で撫で回してやろう←同室

 

そして個人的に気になるハジメと光輝のステータスはというと

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:1   37%

 

天職:創者

筋力:120

体力:200

耐性:110

敏捷:140

魔力:400

魔耐:120

 

技能:錬成 投影構築 無詠唱 言語理解

 

メルド「な、なんだと!?全ステータスが勇者以上だと!?それになんだこの創者は!?見たことないぞ!?」

 

まさかの勇者以上のステータスを持ったらしいですうちの親友…

 

そしてもう一人気になるあいつはというと

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:1    50%

 

天職:破者

筋力:200

体力:200

耐性:140

敏捷:160

魔力:300

魔耐:120

 

技能:火適性 雷適性 全属性耐性 剣術 剛力 写輪眼 気配感知 魔力感知 無詠唱 言語理解

 

こいつもこいつでかなり高い

まさか弟のほうが強いなんて兄貴の面目丸つぶれだな天之河兄ィ

 

メルド「まさか…全ステータス勇者以上の奴が二人もいるとは……そして破者…」

 

流石だな…

伊達にふたつの魂を宿してないな

 

……恐らくこの世界で明かされるだろうな……なぜお前達にはふたつの魂を宿しているのかをな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハジメ視点》

 

ハジメ「…なんでやねん」

 

香織「……え?」

 

ステータスプレートから数日後

明日はいよいよメルド団長率いる騎士団員複数名と共に、【オルクス大迷宮】へ挑戦する。実戦経験を積むための訓練として、宿場町【ホルアド】を訪れそこに泊まる。

 

明日も早いので寝ようとしたら突如

 

白崎さんが僕の部屋に訪れた

……が、その格好純白のネグリジェにカーディガンを羽織っただけの姿だった

 

ハジメ「……そんな格好でなんのようなの?夜這いでもかけに来たの?」

 

香織「よ///よば///ち、違うの南雲君!!こ、これはその、ついさっきまで眠っていたら悪夢を見て起きたばかりで…」

 

曰くその夢は僕がいたが……声を掛けても全然気がついてくれず……走っても追いつけず、最後には消滅する

 

………前夜で見るかそんな不吉な夢……

 

そして白崎さんは皆に説得するから明日は参加しないで欲しいという

 

ハジメ「……そっか……白崎さんの気持ちはありがたいけど……ここで僕だけ行かないなんてことになったら、周りは反感を持つだろうね……それに、しょせん夢でしょ?……大丈夫だって」

 

香織「で、でも南雲君!」

 

ハジメ「なに…心配ないよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球に帰るまでは何が何でも生き残るさ…これでも僕意外としぶといんだぜ?」

 

そう不敵な笑みを浮かべてみせるとそれに対し白崎さんは最初ポカーンとした表情を浮かんでいたがやがて

 

香織「変わらないね。南雲くんは…」

 

そして話し始めた

実は白崎さんは中学から僕のことを一方的に知っていたらしい

 

中学の頃、たまたま不良連中に絡まれていた子供とお婆さんおばあさんは助けるためにちょっと身体貼ったことがあった

 

そしてその時の姿を白崎さんは離れてた所で見ていた

するとそこへ警察官を連れてきた男女達が来て無事解決した

 

その男女こそが現在の僕の友達であるカズマとアクアさんだった

 

身体を貼ってまで助けようとした僕のことを白崎さんはかっこいいと思ったようだった

 

……もしかしたら……僕に惚れた理由ってそこなんじゃ

 

その後互いに少し話したあと、彼女は自分の部屋へ帰ろうとした

 

ハジメ「あ、けどその前に…『投影』」

 

僕のこの投影構築は頭の中で物質の構造を浮かび上げそれを魔力を消耗させ再現するというもの

 

ちなみに今構築し再現させた物は

 

香織「て、手錠?」

 

ハジメ「白崎香織17歳…深夜徘徊及び夜這い疑惑、そして深夜に男の部屋に露出した格好で来た罪で現行犯逮捕する」

 

香織「え、ええ!!??」

 

こうして僕は手錠、そしてカーディガンを頭に被せて警察に連行されてる途中の容疑者みたいにした白崎さんを八重樫さんの元へ連行した

 

香織「離して!!私は無実よー!!」

 

ハジメ「はいはい続きは署でじっくりと聞かせて貰うよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《雫視点》

 

雫視点「は!?」

 

時刻は深夜を過ぎ、間もなく日の出に差し掛かるときだった

 

悪夢にうなされていた私は飛び起きた

 

その夢では

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼が居なくなる夢だった

 

雫「はぁ…はぁ…はぁ…光輝……」



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第四話 離れていく者達

 

《ハジメ視点》

 

翌日、等々訪れたオルクス大迷宮にて、それぞれが魔物相手に実践訓練を行っている

 

そして僕はというと

 

ハジメ「『錬成』」

 

まず向かってきた魔物の足元を錬成で落とし穴を出現させそのまま落とし、そこへ

 

ハジメ「『投影』」

 

魔力で構築した剣や鑓、斧などを落とし穴の真上に生み出しそのまま落とした

 

魔物はなすすべなく僕に命を刈り取られた

 

メルド「お、おお…まさか錬成をそんなふうに使うとはな…それは本来錬成師が武器や物を作るためのスキルなんだがな…」

 

カズマ「メルド団長、どんなスキルだって使い方によっては最強の刃物に成り代わりますよ。こんなふうに」

 

そう言うとカズマが丁度向かってきた魔物に

 

カズマ「『クリエイトアース』、『ウィンドブレス』!」

 

手に少量の土を生成させ、そこから風を発生させ魔物に向かって土の目潰しをした

 

それを受けた魔物はのたうちまわった

 

メルド「な、なるほど…僅かな量の土でも武器になり得るのだな…」

 

幸利「お、カズマ。こいつ俺のスキルの実験台にしていいか?」

 

今声を掛けたのは僕とカズマの友人であるクラスメイトの清水幸利(しみずゆきとし)君だ

 

天職は闇術師とかいうまさに中二心くすぐるものでその最大の強みは相手の精神に干渉し支配することができるというものだ

 

とどのつまりやろうと思えば魔物を自身の配下にして戦力を増やすことだって可能だ

 

元々彼はクラスでもあまり目立たない影のある生徒だった

けどある日、彼が本屋でラノベを買っている姿を僕とカズマが見て声を掛け、気がつけば話しが盛り上がり、現在ではオタク仲間となりクラスでもよく話す間柄になった

幸利君自身かなり暗かったけど僕達と関わるようになってから明るくなったと思う

 

浩介「すげぇな幸利!マジもんの魔物使いになってるじゃねえか!!」

 

カズマ/幸利「「あ、いたんだ浩介」」

 

浩介「いやお前ら酷くね!?」

 

そして今出てきた影のうす…失礼、生徒はカズマ、幸利君に続く僕の友人の遠藤浩介(えんどうこうすけ)君だ

 

ちょっと影の薄いところはある(毎日学校に来たのに先生に気づいてもらえなかったり、自動ドアに3回中2回反応されない)が中々話せる奴で、時々みんなと一緒に遊びに行く仲だ

 

ちなみに天職は暗殺者で持ち前の影の薄……気配を感知できない為にとても向いていると思う

 

とまあ、みんな順調そうだ

っとそう思っていると八重樫さんに向かって奇襲して来た魔物を八重樫さんが持っている剣で斬った

 

が、完全に仕留めきれてなかったのか起き上がり八重樫さんを襲う

 

雫「きゃあ!!」

 

それに思わず生徒達が助けるために駆け出そうとしたが

 

魔物「グギャア!!」

 

すると後方から石が飛んできてそれが魔物の顔にめり込む

あまりの威力に魔物の顔面から血が流れ出し、魔物も瀕死と化す

 

生徒たちが石の飛んできた方を見るとそこには

 

光輝「……」

 

足を蹴りのフォームにしていた天之河がいた

 

恐らく今石を蹴り飛ばしたのは彼だろう

 

雫「こ、光輝」

 

光輝「油断するな、倒したかどうかの確認を怠るな」

 

雫「ご、ごめん」

 

そして彼は瀕死の魔物に近づくと

 

光輝「……」

 

持っていた剣に雷を纏わしてそのままとどめを刺した

 

……数名除いて周りは大なり小なり魔物殺ることに抵抗がある感じだったが、あいつは全くそんなことないか

 

そして迷宮の下へ下へ階層を降りていると

 

アクア「あれ?」

 

カズマ「どうしたアクア?」

 

アクア「さ、さっきまで持っていたポーションバックが無くなってる!!」

 

カズマ「おま!置いてきたのか上の階に」

 

アクア「う、うう…ごめん」

 

カズマ「……はぁ…仕方ねえな、ハジメ、幸利、浩介、俺達ちょっと上の階層まで忘れ物取ってくるよ。なに、そんなに時間は掛からねえよ、悪いけどこのことメルド団長に伝えといてくれないか?」

 

浩介「いや今から取りに行くのか?…面倒じゃないか?」

 

幸利「まあ、ふたりともステータスはこのクラスでも比較的高いから大丈夫だと思うけど」

 

ハジメ「なるべく早く帰ってきてよ」

 

カズマ「分かってるって…ほら、さっさと行くぞアクア」

 

アクア「は、はーい」

 

そう言うとカズマとアクアさんは上の階まで急ぎ足で上がっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次に彼らに会うときには…僕の一人称も姿も変わることになってたなんて、このときの僕は思わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やってくれたな檜山のクソ野郎!!

 

あれから少し経った現在

僕達のクラスは最大のピンチを迎えていた

 

というのも僕達はあれから更に下の階層を進んでいると檜山の馬鹿がトラップ作動させて更に下の階層にテレポートする羽目になり、更にそこにはかつてこの世界で最強だった冒険者達が倒せなかった現在判明している魔物の中でも最強格である『ベヒモス』

その周りには骨格だけの体に剣を携えた魔物『トラウムソルジャー』が湧いて出てくる

 

また橋の上という足元の悪い場での戦闘を余儀なくされた

 

予期せぬ自体にパニックになっている現状を尻目に、僕はやれることをやる

 

しかし、一応このクラスのリーダー格である天之河兄はリーダーとして周りに指揮することを放棄して、間違いなく今の自分の実力でも倒せないベヒモスと戦っている

正直言って合理的じゃない

 

倒せないなら倒せないなりに足止めをするとかやればいいのに無策に真正面から立ち向かっている

これじゃあ魔力や体力の無駄遣いだ

 

……仕方ない…

あいつをベヒモスから引き剥がし、この状況を立て直す

 

そしてあいつは……ベヒモスは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕らで倒す

 

けどまずは

 

ハジメ「『投影』!」

 

クラスメイト達を取り囲むトラウムソルジャーの頭上から剣や斧、槍に矢を構築し放つ

 

それによって周りのトラウムソルジャーの何体かは倒し、残りは警戒のため後退した

 

ハジメ「聞けー!!クラスメイト達!!」

 

クラスメイト達「「「「!!」」」」

 

ハジメ「これが戦いだ!これが命のやり取りだ!今まで争いとは無縁だった日本で学生をしていた僕達が今こうして戦っている!怖いのはわかる!武器を持つのが嫌なのはわかる!でも忘れるなー!!僕たちが戦う訳を!!」

 

クラスメイト達「「「「……」」」」

 

ハジメ「この世界の人々を救うため?世界を平和にするため?色々あるだろうけど僕達の共通の願いは唯一、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球へ、僕達の故郷に帰るためだ!!家族とまた会う為、将来やりたいことをやるために…大好きだった事をするために、食べたかったものをまた食べるためにも、僕たちはこんなところで死ぬわけにはいかないんだー!!もし、故郷へ帰りたい…生き残る意志があるやつは武器を持て!覚悟を決めろ!!故郷へ……僕たち自身のために、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦えー!!

 

クラスメイト達「「「「うおおおおおおお!!」」」」

 

僕の言葉にクラスの活力を底上げすることができた

 

中には僕が構築した武器を両手に持って戦う者もいた

 

よし、とりあえず持ち直した

 

さて、次は

 

勇輝「な、何をする光輝!!あいつを倒さなければならないのに邪魔をするな!」

 

光輝「お前、この状況でよく指揮放棄なんてできるな?」

 

勇輝「え?」

 

光輝「このクラスでまとめ役を担うお前がそんなんじゃ、このクラスはここで壊滅する……もっと周りをよく見ろ!」

 

その言葉に天之河兄はハッとして周りをよく見る

 

雫「勇輝、光輝の言う通りよ、今私達がするべきなのはこいつを倒すことじゃなくて、クラスの基盤を立て直すことよ!!」

 

そこへ八重樫さんの言葉を聞き、天之河兄は考え直し、クラスメイト達の下へ助太刀しに行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「随分と気が利くことするね」

 

光輝「フン、あいつが居たら邪魔だったからどかしてやっただけだ」

 

ハジメ「あっそ、んじゃあとりあえず」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/光輝「「こいつを倒すか」」

 

そこからは早かった

 

僕が構築した武器を大量に額に向かって発射し、その間天之河は雷を纏わせた剣で両足を攻撃していった

 

ベヒモスは前へ行こうとしたが僕たちの連続攻撃に怯み進むことができないでいた

 

やがて何百もの武器を額に発射し続けた結果額に徐々にヒビが入り始めた

 

ハジメ「はあ、はあ、やっとか…トドメ譲ってあげるから、さっさと決めちゃいなよ!」

 

光輝「言われなくとも、そのつもりだ!!」

 

そして天之河は右手に雷を纏わせた手刀を繰り出した

 

光輝「『千鳥(ちどり)』!」

 

千鳥と呼ばれたそれはベヒモスの額に突き刺すと全身を稲妻で覆いかぶさり、やがて焦げた

 

ハジメ「……チドリのさえずりのようにチリチリなるから千鳥なんて…実に安直」

 

光輝「黙れ、俺は気に入っている」

 

が、そこへ黒焦げになったベヒモスがまた起き上がろうとした

しかし、流石に受けたダメージがでかすぎたのか立つのもやっとなほど弱り切っていた

 

ハジメ「チッ、しぶといな……まあ後は他の奴らに任せるか」

 

そう思っていると

クラスメイト達がそれぞれおのおのの使える魔法を使いベヒモスに攻撃した

 

あまりの数に僕達は当たらないように場所移動をしようとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間突如僕と天之河のいた場所に火球弾が飛んできて予期せぬダメージを負った

 

更に最悪なタイミングでベヒモスが最後の力を振り絞り橋に力を込めた結果、橋が崩壊した

 

皆は橋の向こう側にいたことで落ちることはなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕と天之河以外は

 

そして僕らが最後に見た光景は

 

飛び出そうとした白崎さんと八重樫さんを天之河兄と坂上君が羽交い締めにされ…他のクラスメイトは青褪めたり、目や口元を手で覆ったりし、メルド達騎士団が悔しそうな表情を浮かべ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ある生徒が悪意のこもった笑みを浮かべていた

 

ごめん…白崎さん…カズマ、アクアさん

 

 





第4.5話

https://syosetu.org/novel/307613/11.html


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第五話 豹変と開眼

 

《光輝視点》

 

光輝「(情けない…)」

 

俺事天之河光輝は、そう感じながら

壁にもたれ掛かっている

 

ここはオルクス大迷宮の下の階層だろうな

 

あの火球弾が俺と南雲に当たり、更にベヒモスの最後の力で俺達は橋から落ち、気づけば知らない場所にいた

 

南雲は見つかってない

生きているのか、死んでいるのかどうかは知らないが

ただ確かなのは、生きていたにせよ無事ではないと言うことだな

 

この階層に落ちてから数日は彷徨っていたが、出てきた魔物の強さが地上とは比べ物にならなかった

 

最初は俺が勝っていたが徐々に苦戦を虐げられ、最後には現れたあの熊、あの熊がかなり強かった

 

そして今、あの熊から逃げ隠れている

 

あいつは今も俺を探している

このままでは時期に見つかる

 

今のまま戦えば確実に殺られる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

情けない

 

本当に情けないな

 

この俺が…あんな獣畜生如きに逃げ隠れするなんてな

 

あいつは俺を獲物と思って舐めてやがる

 

ふざけるな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな獣如きが!!

 

俺が獲物だと!?

 

俺が狩られる側だと!?

 

獲物はお前で

 

 

狩るのは俺の方だ!!

 

その瞬間、目から妙な力を感じたかと思えば、普段よりも視界がよく見えるようになった

 

そして俺はあの熊の前に立った

 

熊は俺に向かって爪で切り裂こうとしたが、今の俺にはそれを見切るのが実に容易かった

 

何が起きているのかは分からなかったが、興奮状態に入ってアドレナリンが満ちているのか…まあそんなことはこの際どうでもいい

 

重要なのは今この瞬間

 

俺がこの獲物(熊)を圧倒してるということだ

 

熊はさっきまでと違い、自身を圧倒する俺に怯えを感じているのか、怯え始めている

 

光輝「!?」

 

そうして奴を追い詰めていると妙な気配がこちらに近づいて来るのを感じた

 

この気配…恐らくそこの熊より上だな

 

そう思いつつも、俺は剣を取り出し暗闇へ目を向けた

 

そして暗闇から出てきたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「゛アァ?゛」

 

南雲ハジメだった

 

しかしその姿は変わっていた

まず髪が白髪になっていて片腕無くしている

 

それと目つきも雰囲気も地上に居たときとはかなり違っていた

 

そしてよく見ると残っている手には大型拳銃を握っていた

 

何があったのかは知らないが言えることがある

こいつも俺と同じく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

狩る側だということがな

 

 

ハジメ/光輝「「そいつは俺の獲物だ!!」」

 

気がつけば俺と南雲はそれぞれ手にしている武器を持って熊に襲いかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「なるほどな…魔物の肉を食すことで力を得たか……魔物の肉が猛毒なのはガキにだってわかる常識のはずだが食ったのか」

 

ハジメ「うるせえ!少し精神状態がまともじゃなかったときに食ったからこうなっただけだ!」

 

光輝「しかも『神水』まで見つけるとは……随分と運に恵まれたようだな」

 

ハジメ「チッ」

 

熊と殺りあった後に南雲と話したが、どうやら落ちたあとに魔物と殺りあっていたらしいがあの爪熊とかいう俺を喰おうとしていた熊に片腕飛ばされ、命がけで逃げた先で『神水』と呼ばれるものを飲んで一命をとりとめたようだった

 

その後奴は腹を満たすために魔物を食べ、猛毒に苦しみながら神水を飲むを繰り返し、ある程度力を付け錬成によって周りにあった鉱物と組み合わせて『ドンナー』と呼ばれる大型リボルバー型の銃を作って爪熊にリベンジしようとしたようだが、丁度俺と遭遇

 

ハジメ「それよりさっきのあれはなんだ!瞳に巴があったが、それにあの目が開眼してからの動きが尋常じゃなかった……なんだったんだあれは」

 

光輝「……詳しくは知らないが、俺の持つ技能の一つ『写輪眼』と呼ばれるものらしい…ステータスプレートに書いてあったが実際に使ったのは今回が初めてだ……先の戦いでわかったことといえば動体視力の向上……見切る能力が開眼する前とは比べ物にならないほど上がっていた……実際、あの熊の攻撃やお前の放った弾丸も目で追えたからな」

 

ハジメ「マジかよ……魔眼持ちってお前…中二心くすぐるじゃねえかおい…」

 

光輝「……俺に言わせてもらえば、銃を持っているお前も大概だと思うが……それで、お前はこれからどうするつもりだ?」

 

俺は本題に入った

この地下深く、いつ地上に出れるかわからないこの状況……脱出するためには先へ進まなければならないが、恐らく先へ進めばあの爪熊以上の魔物と遭遇する……もしかすればこの先この写輪眼を持ってしても勝てない敵が来るかも知らない…

 

光輝「最初に言っておこう…俺は先へ進むつもりだ……少なくともここが俺の死に場所ではないからな…」

 

ハジメ「そうかよ…俺は何が何でも生き残り、地球へ帰る……この世界のやつらのために戦うなんて真っ平だ」

 

光輝「全くだな…俺も他世界の人間に頼りっぱなしのあいつらなどどうでもいい…だがまずは生き延びることからだ」

 

ハジメ「ああ、当然だ……生き延びる…そして故郷へ帰る……それを妨げるなら誰だろうが」

 

光輝「俺は俺の道を行く……誰だろうと指図は受けない……俺の道を遮るようなら……誰であろうと」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/光輝「「殺して喰らってやる/滅ぼしてやる」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「それはそうとお前、ここ数日どうやって生き延びた」

 

光輝「幸運なことに保存食が入ったポーチは持っていたからな。少しずつ食べて生き延びた」

 

ハジメ「クソが!俺なんか魔物の肉だっていうのによ」

 

光輝「お前の持つ神水俺にも分けるなら残った保存食を全部やるがどうするか?」

 

ハジメ「チッ…持ってけ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第5.5話

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第六話 吸血鬼の娘

 

《ハジメ視点》

 

「私は、裏切られただけ!」

 

もう僅かしか開いていない扉。

しかし、女の子の叫びに、閉じられていく扉は止まった。ほんの僅かな光だけが細く暗い部屋に差し込む。 十秒、二十秒と過ぎ、やがて扉は再び開けた

 

天之河と共にオルクス大迷宮を進んでどれだけだったか分からなかったが、あれから魔物を殺して喰らうを繰り返し、俺も天之河も強くなった

 

その過程で天之河の姿もかなり変わった

 

髪色は俺と同じ白髪に、背も伸びている

地球に居たことはアイツのほうが高かったが、今では同等といったところ

 

やがて俺達は大きな扉の前まで到達し入ろうとしたが、某RPGゲーよろしくサイクロプスが2体出てきた

 

まあすぐに始末したが

そして扉を開け中を見ると

 

……なんか金髪の少女が立方体状のに上半身より後ろが埋め込まれている姿があった

 

どう見ても罠か何かだと思った俺と天之河はスルーすることにしたが

 

その少女の言葉につい足を止めてしまった

 

そして俺は彼女と話をした

 

後ろの方で天之河は興味なさげにしているが

 

曰く彼女は吸血鬼族の王族でそれも先祖返りらしくうちに秘めた力が大きく、叔父がそんな自身を恐れ封印したようだった

その力は凄まじくどれだけ怪我しても直ぐ治り、首を落とされてたとしても再生する不死性らしい

 

しかもそれだけでなく魔法の力も尋常じゃないほど高く、詠唱も陣もいらないようだ

 

話を聞く限りだと勇者以上のスペックを持った怪物だな

 

「助けて…」

 

ハジメ「……はぁ…」

 

気がつけば俺は彼女を出すために行動していた

 

そして天之河はそんな俺達の姿を眺めているだけだった

 

てめぇも手伝いやがれ!!

 

やがて彼女を閉じ込めていた正方形状の入れ物を破壊することに成功した

 

「ありがとう…」

 

よく見ればこの娘服着てねえな

 

俺はとりあえず魔物の毛皮で作ったコートを被せた

 

「エッチ…」

 

ハジメ「解せねぇ…」

 

そう言っていると頭上から大きな魔力の反応を感じ吸血鬼娘を掴んで離れた 

 

それは体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた

 

サソリモドキ…俺はそう呼ぶがそれが2体もいる

 

さっきまで全く気づけなかったのは恐らくこいつを閉じ込めている封印を解いたときのトラップだったのだと推測する

 

ハジメ「チッ…こっちは結構魔力使ってるっていうのに容赦なく出てきやがって…」

 

俺はドンナーを取り出し相手をしようとした

 

光輝「待て南雲…こいつらは俺が相手する」

 

ハジメ「゛アァ゛?テメェ、散々見てた癖に獲物の横取りするのか?」

 

光輝「なにか勘違いしているようだから言っておくが、そいつを勝手に助けたのはお前だ…俺は助けるつもりなんざ端からなかった。その事に文句をつけられても困るな……それと、必要以上の消耗は避けたかったってのもある……お陰で、こいつらを相手にする分の体力と魔力も余っている……ついでに実験と行くか」

 

天之河はそう言うと2体のサソリモドキの前に立ち

 

光輝「……!!」

 

その瞬間、天之河の写輪眼が開眼した

 

すると目の前にいたサソリモドキ達の瞳に変化が…

 

そう、天之河の写輪眼の瞳と同じようになった

 

やがてこの2体はなぜか互いに攻撃しあった

 

ハジメ「な、何が起きている!?」

 

「……幻術」

 

ハジメ「え?」

 

「彼……あの魔物達に幻術を掛けた……幻術を掛けられた者は術者か他者が解除するか自力で解かない限り幻術から抜けられない……それもあのレベルの魔物に掛けるなんて…」

 

幻術……あいつ、見ただけで相手を操ったっていうのか……マジの魔眼じゃねえかよ!!なんであいつが持ってんだよ俺だって欲しいわ!!

 

……いっそ奪って移植するか←サイコパス

 

光輝「南雲、この2体お前に差し向けてやろうか?」

 

チッ、勘付かれたか

 

光輝「この目にも慣れてきた……この目でできることはだいたい理解できた」

 

そうあいつは涼しそうに言うが俺は知っている

 

あの目、写輪眼は確かに強力だ

ぶっちゃけ開眼状態のあいつは俺より強いだろうが、あの目にはデメリットがある……それは開眼できる持続時間に制限があり、更にその間の魔力消費も馬鹿にならない

それとああいう魔眼にありがちな視力低下もあり得るな

 

俺の見立てじゃ今のあいつは魔力全快状態なら5分って所か

 

「ねえ、あなたの名前は?」

 

そこへずっと黙っていた吸血鬼娘が名前を聞いてきた

 

ハジメ「こんな状態で聞くべきじゃねえと思うけどな……ハジメ、南雲ハジメだ」

 

吸血鬼娘は「ハジメ、ハジメ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた

 

そして

 

「ハジメ、私を信じて」

 

そう言うと彼女は俺の首にキス…ではなく噛み付いた

 

首筋にチクリと痛みを感じ、やがて体から力が抜き取られているような違和感を覚えた

咄嗟に振りほどこうとしたが、自分は吸血鬼だと名乗っていたことを思い出し、吸血されているのだと理解する

 

「……ごちそうさま」

 

そう言うと、おもむろに立ち上がりサソリモドキに向けて片手を掲げた

同時に、その華奢な身からは想像もできない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。 そして、神秘に彩られた彼女は、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。

 

「『蒼天』!」

 

その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。 直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。 だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。俺は腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。

 

やっぱ勇者以上のチートだな

 

光輝「チッ…まさか獲物を横取りするとは…やってくれるな」

 

そう呟く天之河

 

「…!……久しぶり過ぎて、腕が鈍ってる……一発じゃ仕留め切れなかった」

 

そう言いサソリモドキ達の方を見ると、彼女の魔法を受け弱って入るが倒されていなかった

 

光輝「だが、大した魔法だ……こんどは俺の番だ」

 

そう言うと天之河は再び写輪眼を開眼……そして

 

ハジメ「……!おいおいおい…マジかよ…」

 

「!……これって……」

 

彼女と俺は驚いた……それはそうだ……今天之河が発動しようとしている魔法に見覚えがあった……それは……

 

光輝「『蒼天』!」

 

彼女がついさっきまで使っていた魔法を、天之河が再現して放った

 

それによって今度こそサソリモドキ共は死滅した

 

ハジメ「(写輪眼の最大の強みは動体視力の向上…、見切る力を高める……それはつまり解析する力を底上げするということ………だからあいつは彼女の魔法を見切り解析し、再現ができた)」

 

相手の魔法を模倣することができる

 

彼女もそうだがこいつもチートだな

 

「ねえ…名前、付けて」

 

ハジメ 「は? 付けるってなんだ。まさか忘れたとか?」

 

突然名前をつけて欲しいと言われ困惑した

長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるも彼女はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……ハジメの付けた名前がいい」

 

ハジメ「……はぁ、そうは言ってもなぁ」

 

下手な名前を付けるかも知れないからやだなあと思いつつも一応考えやがて

 

ハジメ「ユエ〟なんてどうだ? ネーミングセンスないから気に入らないなら別のを考えるが……」

 

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

 

ハジメ「ああ、ユエって言うのはな、俺の故郷で〝月〟を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、お前のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたんでな……どうだ?」

 

思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、彼女がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

ユエ「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

ハジメ「おう、取り敢えずだ………ここを出ようか」

 

 

 

 




第6.5話

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第七話 迷宮を超えたその先《前編》

 

《ハジメ視点》

 

ユエ「……ぐす……ハジメ…光輝…つらい……私もつらい……」

 

ユエを連れて安全そうな洞穴に身を隠すことにした俺達だったが、ユエになぜここにいるのかを聞かれ俺が話すとユエが俺たちに同情し涙を流す

 

ハジメ「泣くな……やられたことに関して俺は特に気にして……無いわけねえが、それは後回しだ……まずはこの迷宮からの脱出……俺を殺ろうとしていた奴への報復はその後だ……んでその後は元の世界へ帰る方法を見つけねえとな」

 

光輝「……あれだけの混戦状態で魔法の雨を放つ中で俺達を狙うとは…あの小物らしいな」

 

ハジメ「!……気づいていたのか…俺達を狙っていたやつの事を」

 

光輝「ああ……地上の迷宮に居たときから醜くて醜悪な視線をお前に向けていたからな……いつかはやるとは思っていたが、まさか俺ごとやるとは思わなかったがな…………あの小物は簡単には殺さない…地獄を味合わせてやる」

 

天之河の言葉には俺達をここへ落とした奴への怒りがこもっていた

 

ユエ「ハジメ達は帰るの?」

 

ハジメ「うん? 元の世界にか? そりゃあ帰るさ。帰りたいよ。……色々変わっちまったけど……故郷に……家に帰りたい……」

 

ユエ「……そう」

 

ユエは沈んだ表情で顔を俯かせる。そして、ポツリと呟いた

 

ユエ「……私にはもう、帰る場所……ない……」

 

ハジメ「……」

 

そんなユエの様子に彼女の頭を撫でていた手を引っ込めると、カリカリと自分の頭を掻いた。 別に鈍感というわけではない。なので、ユエが自分に新たな居場所を見ているということも薄々察していた。新しい名前を求めたのもそういうことだろう。だからこそ、元の世界に戻るということは、再び居場所を失うということだとユエは悲しんでいるのだろう

 

ハジメ「……なら、一緒に来るか?」

 

ユエ「え?」

 

ハジメ「この旅に……それと俺の故郷に……まあ向かうへ着いたら色々面倒事があるとは思うけど…」

 

しばらく呆然としていたユエだが、理解が追いついたのか、おずおずと「いいの?」と遠慮がちに尋ねる。しかし、その瞳には隠しようもない期待の色が宿っていた。 キラキラと輝くユエの瞳に、苦笑いしながら頷く俺

すると、今までの無表情が嘘のように、ユエはふわりと花が咲いたように微笑んだ。思わず、見蕩れてしまう自分に気がついて慌てて首を振った

 

ハジメ「つうわけで、ユエもたびに同行するが構わねえな?」

 

光輝「…勝手にしろ………ただしそいつの面倒はお前が見ろ…俺は絶対に手は貸さねえからな」

 

天之河はそういった

 

つまりユエがなにかしても自分は特に干渉もしないし面倒も見るつもりもない、そして何かあれば俺が責任取れと

 

ハジメ「……前前から思っていたが、なんでお前はそう他人を嫌うんだ?」

 

光輝「人なんざ所詮一皮むけば脆弱で醜い存在だって分かっているからな」

 

そう言い洞穴の奥へ消えていった

多分俺達と離れて眠るつもりだろうな

 

ユエ「……ねえハジメ…光輝ってここへ落ちてからこんな性格になったの?」

 

ハジメ「いや、アイツの人嫌いは前からだ……何があってあんな性格になったのかは知らんが」

 

その後ユエから色々なことを聞き、この日は早々に眠りについた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「あー、やっとか」

 

それから数日

道中の魔物を殲滅し喰らい、時には新しい武器や技能や魔法の実験台にしてようやく100階層までたどり着いた

 

ユエに会ったあの日にユエの口からこの大迷宮が何なのか聞いた

曰くここは反逆者と呼ばれるかつて神代に神に挑んだ神の眷属が世界を滅ぼそうとしたらしいが、その目論見は破られ、彼等は世界の果てに逃走し、 その果てというのが、現在の七大迷宮(この世界における有数の危険地帯をいう)といわれているらしい。この【オルクス大迷宮】もその一つで、奈落の底の最深部には反逆者の住まう場所があると言われているのだとか

 

光輝「!」

 

ユエ「!……ここ」

 

ハジメ「……ああ、いかにもな扉だな」

 

俺達の視線の先には全長十メートルはある巨大な両開きの扉が有り、これまた美しい彫刻が彫られている。特に、七角形の頂点に描かれた何らかの文様が印象的だ。

 

ハジメ「これがゲームならこの先は魔王とかのラスボスが待ち構えているだろうな」

 

光輝「こんな序盤の迷宮にラスボスクラスの敵が出てくるなんざとんだクソゲーだな」

 

ハジメ「ところが現実にはそんなクソゲーが普通に存在するらしいからな……主に操作性だとか仕様とか敵AIが高すぎとかが原因で」

 

ユエ「?…ふたりが何を話しているのか…わからない」

 

ハジメ「気にするな……んじゃあ、この扉を開ければ十中八九中からやべえのが出てくるぞ……覚悟は?」

 

ユエ「ん…問題ない」

 

光輝「聞くまでもない」

 

ハジメ「そう言うと思った……さて、行くか!」

 

そして扉を開き、その先へ進むと魔法陣が展開し、現れたのは

 

体長三十メートル、六つの頭と長い首、鋭い牙と赤黒い眼の化け物。例えるなら、神話の怪物ヒュドラだった

 

「「「「「「クルゥァァアアン!!」」」」」」

 

そしてそれぞれの首が俺達を殺そうと攻撃を仕掛けてきた

 

それぞれの首には色んな色の模様が刻まれており、赤は炎を吐き、白は回復、青は口から散弾のように氷の礫を吐く

 

俺はこの旅で手に入れた『念話』でふたりに話しかけた

 

ハジメ“まずは回復役を潰すぞ!ユエは攻撃を避けながら白頭を”

 

ユエ“ん…了解”

 

そう言うとユエが魔法を放とうとしたがヒュドラがユエに炎を吐くが

 

光輝「『豪火球』!」

 

天之河が手から炎球弾を放ち相殺させた

 

ユエ「『緋槍』!」

 

そこへ 閃光と燃え盛る槍が白頭に迫る。

しかし、直撃かと思われた瞬間、黄色の頭がサッと射線に入りその頭を一瞬で肥大化させた。そして淡く黄色に輝きユエの緋槍も受け止めてしまった。衝撃と爆炎の後には無傷の黄頭が平然とそこにいてハジメ達を睥睨している

 

ハジメ「チッ、面倒だな……だがやることは変わらねえ、回復役を潰してその次は盾役を潰してやるぞ」

 

そう言ってユエに指示を出そうとした瞬間

 

ユエ「いやぁああああ!!!」

 

ユエが絶叫し、それに気づいて駆け寄った

 

迫りくる頭を投影構築で作成した槍や剣を放ち時間を稼いだ

 

ハジメ「おい!しっかりしろユエ!!」

 

そういえば黒いの頭が未だ何もしていないことを思い出す

 

ハジメ「まさか!?天之河!黒い頭と目を合わせるな!あいつは!?」

 

そこへ天之河に注意を呼びかけようと声をかけたが返事がない

 

まさかと思い周囲を見渡すと

 

ハジメ「!?おい嘘だろ!?」

 

なんと天之河が立ったまま動かなくなっていた

 

ユエは見ての通り恐慌状態になっているが、天之河はどうだ!?

 

目の焦点が定まってない

いや、身体が微動だにしてない

 

まさかあいつもユエと同じように幻術に掛かっているのか!?

 

クソ!

 

あいつはひとまず後回しだ

 

今はユエが先

 

俺はユエを抱きかかえると道中の旅で作った持っている焼夷手榴弾と閃光手榴弾を投げられるだけ投げてその場を一旦離れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《光輝視点》

 

ここは……俺はどうなったんだ?

 

俺は気が付くと辺り一面モノクロの空間に一人立っていた

 

南雲やユエは……それにあのヒュドラはどうなった…

 

そう思いながら先を歩くと目の前に鏡が現れた

 

その鏡には俺の瞳…写輪眼が写っていた

 

こうしてみるのは初めてだが……三つ巴なんだなこの目は

 

この旅の道中…ずっと考えていた

 

なぜ俺にはこの魔眼があるのかを…

南雲の天職である創者とはなにか

そして自分の天職である破者とはなにか

 

……考えても仕方ないことを考えるなんて俺らしくもない…

 

そう心の中で自分自身を嘲笑っていると鏡の向こう側に何かの光景が浮かび上がった

 

そこに写っていたものは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多くの人々の死体の中

 

血に塗れた女性を抱きしめる

 

俺と同じように魔眼を持った男が立っていた

 

光輝「!」

 

その光景を見た時……何故か俺の心から言いようのない怒りと憎しみ、そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

悲しみが伝わり、涙を流していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





ここでのNARUTOの口から放つ系の物は口からではなく手から放つようになっています


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第七話 迷宮を超えたその先《後編》

 

次に写った光景は、幼い頃の雫と俺自身だった

 

幼い雫「ねえ光輝君、私…どうすれば良いかな…?」

 

このときの事は良く覚えていた

 

幼い頃……俺とアイツ…勇輝は雫の実家で開かれていた剣道場で八重樫流を習っていた

 

雫はその道場の一人娘で、当時はあんなにも強い女が居る事に驚いた

 

俺とアイツが剣道を始めたきっかけは、今亡き祖父が弁護士として多くの人を救っていた話を幼い時から聞かされていた事だった

 

祖父の話を聞いた俺とアイツは、いつか誰かを助けるヒーローになりたい

その為に強くなりたいと思うようになり、その強さを求め、八重樫流道場に入門した

 

そんな俺とアイツの周りには、いつもいろんな奴ら(主に女)が集まってきた

 

そのうちのふたりが龍太郎と香織だった

 

そして今だからこそわかる……あの頃の俺はただひたすらに真っ直ぐで歪みもなく、人の善性のみを信じていた

 

ただのガキだったとな

 

ある日…病に伏していた祖父が死ぬ直前

その時、偶然アイツが居なく、俺だけしか居なかったときだった

 

祖父は死ぬ直前になって俺にあることを伝えた

 

それは自身がこれまで話していた弁護士としての仕事の話、実は幼い俺とアイツのことを考えて美化しており、弁護士としての綺麗な部分だけを強調していたと…その話を聞いたとき、俺の中で何かが壊れそうになった

 

それでもそれをこらえ、祖父の言葉を最後まで聞いた

 

そして

 

祖父「いいか光輝……この世は決して綺麗事ばかりではない……生きていれば否が応でもどうしても汚いものも見てしまう……だが…これだけは言っておく……正義は決して一つだけじゃない…正義はあっても正解というものはないんだよ……人の数だけ考えも夢も価値観も無限に存在する………決して自分の考えこそが正しいと思うなよ……光輝」

 

その言葉を最後に…祖父は息絶えた

 

祖父が亡くなったあと

 

一人で考える時間が増えた

祖父の言っていた言葉の意味を

 

結局幼い自分にはわからないままだった

 

だが…祖父の言葉を聞いて以来

 

俺の目には周りの人々…特に俺達に近づいてくる奴らの殆どが汚く醜く見えてきてしまっていた

 

幼い雫「……光輝君?」

 

幼い光輝「え?ああいや、何でもないよ」

 

確かこのときの俺は雫から自身が受けているいじめの相談を聞かされ、つい祖父の言葉を思い出していたんだった

 

幼い光輝「ええっとそうだな……とりあえず先生に頼るのがいいかな…出来れば信用のおける大人、例えばお父さんやお母さんとか」

 

幼い雫「え…で、でも私…」

 

幼い光輝「多分雫はお母さんとかに話して迷惑が掛かるかも知らないって思っているからこうして俺に相談すると思うんだ……確かにその気持ちはわかるけど、一人で解決しようとするのはどうかと思うんだ……どうかな?」

 

幼い雫「う、うん…」

 

もしかしたらこのとき、祖父の言葉を聞いてなかったら、このときの俺は人の善性を疑わないガキで、雫のいじめにも真面目に取り合わず、いじめられている事自体信用してなかったかもしれない

 

幼い光輝「(大人に任せよう……こういうのは子供の俺がしゃしゃり出るのは辞めたほうがいいと思う)」

 

そう俺は判断した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い光輝「は?」

 

それから数日、雫からいじめの相談を受けることがなかった為、俺は解決したと思っていた

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の目の前で雫がいじめられていた

 

複数人の女子に髪を掴まれて、罵声を浴びせられていた

雫は泣いていた

 

周りでは他のクラスメイト達も見ていたにも関わらず、誰も助けなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だこれ?

 

これが、こんなにも醜くいモノが同じ人間なのか?

 

この日、俺は人の醜さと愚かしさをその目に焼き付けた

 

気が付けば俺は雫をいじめていた女子共を殴りとばしていた

 

俺は雫に聞いた

 

なぜこんなことになったのかを

 

雫は話した

 

その訳を

 

なんと雫は俺との話の後に勇輝にも話しており、その時アイツは「きっと悪気はなかった」「みんな、いい子達だよ?」「話せばわかる」などと言い、その言葉通り雫に対するいじめについて勇輝が女の子達に話し合いにいった

 

その結果いじめが余計酷くなり、雫を傷つけた

 

俺は内心自身の兄のやったことを馬鹿なのかと思った

 

だが、よくよく考えればあの兄は祖父の最後の言葉を聞かなかったことで今も人の善性を信じている

 

そう考え、俺は祖父の最後の言葉を放課後、道場で伝えることにした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんで…

 

 

幼い勇輝「光輝!なぜ彼女たちをいじめた!!謝れ!」

 

幼い光輝「ち、違う勇輝!聞いてよ!あいつら雫をいじめていたんだ!勇輝が話し合いをしたあとも」

 

幼い勇輝「嘘をつくな!俺が話し合ったのにそんなことをする奴は居ない!」

 

なんで…

 

幼い勇輝「それより聞いたぞ彼女たちから!!お前が彼女たちを脅して雫をいじめさせていたって事を!なんてやつだ!まさかお前が黒幕だったんだな!」

 

なんで…

 

幼い光輝「それはあいつらが勇輝を騙すために嘘をついたんだ!本当にいじめていたのはあいつらの方だって!」

 

幼い勇輝「言い訳なんか聞きたくない!俺と一緒にヒーローになると誓いあった兄弟がまさかこんな悪者に成り下がるなんて失望したよ!!」

 

なんで…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

弟の言葉を信じないの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《ハジメ視点》

 

ハジメ「はぁ…はぁ…ユエ、もう少しだ。やれるな?」

 

ユエ「ん…問題ない」

 

あれから色々あり、正気に戻すことに成功したユエとともにヒュドラに再び挑んだ

 

現在ヒュドラの頭は殆ど潰し、残すは後一つの頭だけ

アイツとの戦いで片目を失い、かなり魔力を消耗したがなんとか勝てそうだ

 

それにしても天之河め、未だに目覚めやしねえ

 

人様がこれだけボロボロになってまで戦っているときによくもまあすやすやと眠れるな

 

そう内心苛立たせながらも俺は最後の閃光手榴弾を投げつけ空きを作った

 

ユエ「『蒼天』!」

 

そこへユエのドドメが叩き落され、ヒュドラが地に付した

 

これでもう終わりだと安心し地面へ倒れた俺とユエ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう油断していたのがまずかったんだろうな

 

ヒュドラは最後の力を振り絞り起き上がると近くで倒れている俺達…ではなく天之河に向かって首を伸ばす

 

ハジメ「やばい!」

 

俺はすぐにドンナーを持ち撃とうとしたが間に合わない

 

ハジメ「起きろ!天之河!!いつまでも眠ってんじゃねえ!!」

 

そして天之河をその口で喰らいつこうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幼い勇輝『謝れよ!!傷つけた彼女達に謝ってよ!』

 

黙れ

 

幼い勇輝『雫にも謝れ!!傷つけてごめんなさいって!!』

 

黙れ

 

幼い勇輝『そして二度と雫に近づくな!道場もやめろ!!』

 

黙れ

 

幼い勇輝『二度とヒーローを目指そうとするなよ!!お前なんかヒーロー失格の唯の

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽善者なんだ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「黙れ!!

 

その瞬間突如天之河の身体から巨大な紫色のオーラを纏った骸骨のような腕が飛びだしヒュドラの首を掴む

 

いや、あれは化身とかそういう物に近いんだろうな

 

こんなものを見るのは初めてだ

 

ハジメ「なんだ…あれは」

 

ユエ「!…ハジメ!……光輝の瞳が…」

 

そう言われ天之河の目を見るとその両目が写輪眼とは違う物に変わっていた

 

これまでのあいつの写輪眼は三つ巴の勾玉だったが今のあいつの瞳は六芒星になっていた

 

ハジメ「変わってやがる……それと心なしか魔力も上がってないか?」

 

ユエ「あの腕……膨大かつ高密度の魔力が集まって形成している……多分あの目の能力だと思う」

 

あのヒュドラに幻術を掛けられた後に何があったんだ…

 

そう思っていると天之河がヒュドラに向かって目をカッ!と開き一言呟く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「『天照(アマテラス)』」

 

その瞬間ヒュドラの身体から黒い炎が発生しヒュドラを燃やし尽くす

 

「グゥルアアアア!!!」

 

それに苦しむヒュドラ

 

残った首から氷を吐き冷却しようとしたが全く消えることはなかった

 

ハジメ「あ、あのヒュドラの氷でも消せないほど高火力なのかあの炎は」

 

ユエ「……消えない炎」

 

そして最後には全身を黒い炎で覆い続け、ヒュドラは動かなくなった

 

それを確認した天之河はあの腕を引っ込め瞳を閉じた

すると黒炎が消え去った

 

光輝「ぐっ!」

 

突然天之河が苦しみだし倒れ込んだ

 

よく見るとあの目から血が流れていた

 

ユエ「……多分あの腕を出すのはかなりの負担があると思う…それとあの瞳も……」

 

ハジメ「……ああ、恐らくあの瞳から睨んだ先に黒炎を放ち、瞳を閉じない限り消えないんだろうな……なんて身体への負担の激しい技を連発しやがる」

 

そうつぶやき、今度こそヒュドラの死を確信した俺はそのまま倒れ意識を失った



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第八話 世界の真実

 

《ハジメ視点》

 

ハジメ「な!なんでこうなってるんだ!?」

 

俺事南雲ハジメは現在の状況に驚きを感じざるを得なかった

 

まず見知らぬ部屋のベットに居て、なぜか裸になっていて極めつけはユエが寝ていたしかもなぜかカッターシャツ一枚だけしか着ていなかった

 

ハジメ「ま、まさか…俺が眠っている間に俺のことを喰った(性的な意味)のか!?」

 

俺は自身が眠っている間に大人の階段に登ったのかと疑い焦っていた

 

思わず下半身の方も確認しようとしたら

 

光輝「……」

 

ハジメ「あ…」

 

部屋の扉が開き、天之河が入ろうとしていた

 

アイツは俺の事…更には近くで寝ているユエを見て

 

光輝「………ハァ…」

 

そうため息をつくとすぐに扉を閉めた

 

ハジメ「おい待て天之河!!テメェ今のため息はなんなんだ!!おいユエ起きろ!起きやがれ!!」

 

閉められた後俺は急いでユエを起こそうとした

 

ちなみにこの時の光輝のため息には『また面倒なことを…香織が見たら発狂モノだな』と言う意味が込められていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「随分と遅かったな……目覚めの一発でもやっていたか?」

 

ハジメ「うるせえ!そんなんじゃねえ!!つうかお前そんなこと言うキャラだったか!?」

 

あのあとユエを起こし着替え軽く探索をしているととある部屋に入るとそこで天之河が俺達を待っていた

 

ユエ「……あの…骨は…?」

 

そう、俺も気になっていた

 

部屋に直径七、八メートルの今まで見たこともないほど精緻で繊細な魔法陣が部屋の中央の床に刻まれていた。しかしそれよりも気になっていたものがあった

 

その魔法陣の向こう側、豪奢な椅子に座った人影である。人影は骸だった。既に白骨化しており黒に金の刺繍が施された見事なローブを羽織っている

 

ハジメ「あれが反逆者とやらの成れの果てか?」

 

俺はそう思いつつ、魔法陣に触れようとした

 

光輝「先に言っておくが……それに触れてしまえば後悔するかもしれない……それでも触るか?」

 

恐らく先に触っていたであろう天之河にそう言われた

 

が、それに臆するつもりはなく俺は無言で魔法陣に触れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「……マジか…」

 

魔法陣に触れた瞬間、頭に映像が流れ込んだ

 

その映像ではとある人物が俺に多くのことを語っていた

 

その人物、オスカー・オルクスは語った

 

かつて神代の少し後の時代、世界は争いで満たされており、人間と魔人、様々な亜人達が絶えず戦争を続けていた

様々な理由で争っていたが一番の理由は神敵だから

今よりずっと種族も国も細かく分かれていた時代、それぞれの種族、国がそれぞれに神を祭っており、その神からの神託で人々は争い続けていた

だが、そんな何百年と続く争いに終止符を討たんとする者達が現れ、それが解放者呼ばれた集団だった

彼らには共通する繋がりがあり、それは全員が神代から続く神々の直系の子孫であったことだ

そのため解放者のリーダーは、ある時偶然にも神々の真意を知ってしまった

何と神々は、人々を駒に遊戯のつもりで戦争を促しており、解放者のリーダーは、神々が裏で人々を巧みに操り戦争へと駆り立てていることに耐えられなくなり志を同じくするものを集め、神域と呼ばれる神々がいると言われている場所を突き止め、メンバーの中でも先祖返りと言われる強力な力を持った七人を中心に神々に戦いを挑んだ

だが神は人々を巧みに操り、解放者達を世界に破滅をもたらそうとする神敵であると認識させて人々自身に相手をさせたのである

守るべき人々に力を振るう訳にもいかず、神の恩恵も忘れて世界を滅ぼさんと神に仇なした反逆者のレッテルを貼られ解放者達は討たれていった。

最後まで残ったのは中心の七人だけであり、世界を敵に回し、もはや自分達では神を討つことはできないと判断しバラバラに大陸の果てに迷宮を創り潜伏することにし、試練を用意してそれを突破した者に力を譲り、いつの日か神の遊戯を終わらせる者が現れることを願って待ち続けた

 

オスカーの最後は最後に言った

 

神殺しを強要するつもりはないが悪しきことに使わないで欲しい、そして自分達がなんのために戦ったのかを知って欲しかった

 

それが彼の願い……ってことなんだろうな

 

光輝「……中々濃い内容だっただろ」

 

ハジメ「ああ……ひでぇ内容だ……元々俺達を誘拐同然に異世界転移させた神だからろくなもんじゃないとは思っていたがここまでとはな」

 

光輝「……それで、神代魔法とやらは手に入ったか?」

 

ハジメ「まあな……そういうお前は」

 

光輝「手に入ったが………適性がないのか使える気がしない」

 

ちなみに手に入れた神代魔法は『生成魔法』と呼ばれる物でこれは魔法を鉱物に付加して、特殊な性質を持った鉱物を生成出来る魔法

 

つまりはアーティファクトを自らの手で生み出すことも可能だ

 

俺の天職『創者』はいわば生み出す職業であるためまさに俺のためにあると言っても過言ではないな

 

……そうなると天之河が使うことができなかったのはあいつの天職が『破者』だからか?

 

あの天職…結局何なのか今でも分からないが恐らく戦闘向け……『破』が付いているから壊すことに特化しているのか?

 

思えばこいつの技能は色々おかしい

 

写輪眼のような魔眼やあの紫色の骸骨の腕…それと瞳の変化に消えない黒炎

 

俺から見てもかなり異質だ

 

ユエ「ハジメ……光輝……これからどうする?……」

 

ハジメ「やることはこれまで通りだ……元の世界へ帰る……だが神代魔法を集めれば恐らく元の世界へ帰れるかもしれない……だから地上を出たあと他の迷宮探索をするつもりだ…」

 

ユエ「そう……なら光輝は…?」

 

光輝「俺はこの世界に残る……そして神を討つ」

 

ハジメ「は?」

 

ユエ「え?」

 

天之河のその言葉に俺達は驚いた

 

ハジメ「なんのつもりだ?お前はこの世界の連中がどうなろうと知ったことないんじゃなかったのか?」

 

光輝「勘違いするな…別に世界の為、人々の為に神を潰すんじゃない………単純にあの神の存在そのものが気に食わないだけだ」

 

そう返された

 

ハジメ「……なら、お前もこの旅に同行するって事で」

 

光輝「……ああ…」

 

ハジメ「決まりだな……ひとまずは2ヶ月くらいはここでアーティファクトの作成……更にステータスを上げるための鍛錬期間にするか」

 

ユエ「ん…なら私もする」

 

 

俺達が意気込んでいると

 

光輝「………」

 

一人部屋から出ていこうとしている天之河

 

光輝「俺はこの瞳の事をもう少し調べる」

 

と、俺達に六芒星の瞳を見せてきた

 

ハジメ「……結局の所、何だったんだそれは…」

 

光輝「さあな…だが…完璧に物にすれば最強の武器になる……そう確信している」

 

そう言うと天之河は出ていった

 

ユエ「……光輝……私達と距離を置くつもりね…」

 

ハジメ「ほっておけ……いないならいないでどうにでもなる」

 

こうして俺達は2ヶ月ほど鍛錬をすることにしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《オマケ》

 

その日の晩

 

ハジメは風呂に浸かりながら全身を弛緩させてぼんやりと眺めていた

 

奈落に落ちてから、ここまで緩んだのは初めてである

 

ハジメ「はふぅ~、最高だぁ~」

 

今のハジメからは考えられないほど気の抜けた声が風呂場に響く。全身をだらんとさせたままボーとしている

 

が、向かい側には

 

光輝「……」

 

呆然と風呂に浸かっている光輝がいた

 

ハジメとは対象的にほぼ喋らず目を瞑っている

 

と、突如ヒタヒタと足音が聞こえ始めた

 

完全に油断していたハジメは戦慄する

 

タプンと音を立てて湯船に入ってきたのはもちろん

 

ユエ「んっ……気持ちいい……」

 

一糸まとわぬ姿でハジメのすぐ隣に腰を下ろすユエである

 

ハジメ「……ユエさんや、男だけで入るって言ったよな?」

 

ユエ「……だが断る」

 

ハジメ「ちょっと待て! 何でそのネタ知ってる!」

 

ユエ「……」

 

ハジメ「……せめて前を隠せ。タオル沢山あったろ」

 

ユエ「むしろ見て」

 

ハジメ「いやマジでやめろ、天之河だっているんだぞ」

 

ユエ「ん…大丈夫…光輝目を瞑っているから問題ない……そうでしょ光輝?」

 

光輝「うるさいのが入ってきたな……風呂くらい静かに入らねえか」

 

ユエ「………入ってくる事自体には咎めないんだ」

 

ハジメ「な、なあ?あいつもああ言ってるんだし入ってくることに文句言わないからもうちょっと大人しくだな」

 

ユエ「……えい」

 

ハジメ「……あ、当たってるんだが?」

 

ユエ「当ててんのよ」

 

ハジメ「だから何でそのネタを知ってんだ! ええい、俺は上がるからな!」

 

ユエ「逃がさない!」

 

ハジメ「あ、あのユエさんやめてもらえないですか!?あ、ちょ!誰か助けて!!カズマ!アクア!幸利!浩介!!恵里!この際天之河でもいいから助けてくれ!!」

 

光輝「ハァ……また騒がしい…香織が見たら発狂者だな」

 

ハジメ「な!?お、お前まさか」

 

光輝「あれだけお前にベタベタしてお前への好意に気づかないのはあのクソ勇者か脳筋くらいだ」

 

ハジメ「バ、バカ!こんな時に白崎の事を」

 

ユエ「ねえハジメ……白崎って誰?」

 

ハジメ「ちょ、まて、ユエさん!?あっ、アッーーーーー!!!」

 

その後、何があったのかはご想像にお任せする。

 

 

 

 

 

 





第九話

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第4.5話 クラス達の変化➀

 

香織「いやー!!南雲君!!光輝君!!」

 

奈落に落ちゆくふたりに取り乱す香織

 

その後ろでは雫が地面に両膝をつけ過呼吸を起こしていた

 

雫「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ(そんな!…光輝が!南雲君が!……落ちて行った…消えて行った!)」

 

過呼吸を起こして苦しんでいる雫の横では香織があとを追うと奈落へと近づき、それを勇輝が取り押さえた

 

香織「離して! 南雲君の所に行かないと!!光輝君が!!」

 

勇輝「香織! 君まで死ぬ気か! 南雲はもう無理だ! 落ち着くんだ! このままじゃ、体が壊れてしまう!」

 

浩介/雫「「!?」」

 

過呼吸を起こしていたが話を聞いていた雫とハジメと光輝の落下で放心状態になっていた浩介はそれを聞き自身の耳を疑った

 

雫「(南雲君はってどういうことよ!実の弟の生存は諦めてないのに南雲君のことは諦めているの!?)」

 

浩介「(アイツ自分がこの戦争にクラス中を巻き込ませた癖に、皆救うとか抜かしていたくせにいざハジメが落下したら早々に見捨てやがった!)」

 

勇輝と龍太郎に抑え込まれつつもそれでも無理して抜け出そうとする香織

そこへ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「はぁ…はぁ…なにが…あった…」

 

息を切らせた様子のカズマとアクアが合流した

 

カズマはすぐに周囲の様子と人数の確認をした

 

カズマ「幸利、手短に伝えてくれ」

 

幸利「!、ベヒモスが出てきてハジメと天之河が応戦して最後にクラス中が放った魔法の雨の中でふたりに命中してベヒモスと一緒に奈落へ」

 

カズマ「……そうか」

 

一瞬カズマの表情が暗くなった

 

だがすぐに切り替え

 

カズマ「幸利、使役することができた魔物で肉壁にしながらクラスメイト達を守れ」

 

幸利「わ、わかった!」

 

カズマ「恵里はすぐに技能を使って周りのクラスメイト達の精神状態を安定させてくれないか?少しの間だけでいい、できるか?」

 

恵里「や、やってみる!」

 

カズマ「浩介は幸利が肉壁に使った魔物が空きを作った所を見計らって攻撃してくれ。出来れば急所、それが無理なら足とか動きを遅くできる箇所を狙って欲しい」

 

浩介「り、了解!」

 

カズマ「アクアはクラスメイト達の回復と掩護の両方だ」

 

アクア「任されたわ!」

 

いつもつるむメンバー達に指示を出し奈落のそばで暴れている香織と過呼吸を起こしている雫に近づき

 

カズマ「『スリープ』!」

 

眠りの魔法でそれぞれの意識を眠らせた

 

龍太郎「さ、佐藤!」

 

カズマ「……詳しいことは地上で聞く、引くぞ」

 

そう言い両肩に香織と雫を乗せ運ぶ

 

なにかいいたそうにしていた勇輝だったがメルドに止められ、クラスメイト達に向けて声を張り上げる

 

勇輝「皆! 今は、生き残ることだけ考えるんだ! 撤退するぞ!」

 

こうして最初の実践訓練は、ふたりの犠牲を出しながらも無事帰還を果たしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

檜山「ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。キモオタのくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんなキモオタに……もうかかわらなくていい…天之河だってそうだ!…あのキモオタのそばにいたアイツが悪いんだ!…俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ」

 

ホルアドの町に戻った一行は何かする元気もなく宿屋の部屋に入った。幾人かの生徒は生徒同士で話し合ったりしているようだが、ほとんどの生徒は真っ直ぐベッドにダイブし、そのまま深い眠りに落ちた。 そんな中、檜山大介は一人、宿を出て町の一角にある目立たない場所で膝を抱えて座り込んでいた。顔を膝に埋め微動だにしない。もし、クラスメイトが彼のこの姿を見れば激しく落ち込んでいるように見えただろう。

 

だが実際には醜い現実逃避と自己弁護をしていただけだった

 

檜山は以前からハジメの事が気に食わなかった

 

それは自身の想い人である白崎香織が彼に好意を抱いていた事に対してだった

 

地球にいた頃からハジメをバカにしてきた彼だがハジメはそれに対し全く相手にはせず、むしろバカにする自分を小馬鹿にして煽ってきた

 

これにより檜山の中でハジメに対する殺意が高まってきた

 

そして今回の大迷宮

 

階段への脱出とハジメの救出。それらを天秤にかけた時、ハジメを見つめる香織が視界に入った瞬間、檜山の中の悪魔が囁いたのだ。今なら殺っても気づかれないぞ? と。 そして、檜山は悪魔に魂を売り渡した

 

バレないように絶妙なタイミングを狙って誘導性を持たせた火球をハジメに着弾させた。流星の如く魔法が乱れ飛ぶあの状況では、誰が放った魔法か特定は難しいだろう。まして、檜山の適性属性は風だ。証拠もないし分かるはずがない

 

ただ光輝まで当たったのは想定外だった

しかし檜山は光輝の事も内心では気に食わなかった

 

人嫌いでいつも孤高であり、不良のレッテルを貼られながら勉強も運動も自分よりも遥か上に立ち、自分以上のルックスも持っていた

そして度々自分が南雲や佐藤に絡んだりすると蹴り飛ばしてきたり睨んできたり、あまつさえ自身を見下すような目を向けたりと、そのたびに腹が立っていた

 

目障りだと思っていたやつがふたりも消えてくれたのは本当に嬉しい

 

そう思っていると罪悪感なんてものがなくなっていくのを感じていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?」

 

その時、不意に背後から声を掛けられた

 

檜山「ッ!? だ、誰だ!」

 

慌てて振り返る檜山。そこにいたのは見知ったクラスメイトの一人だった。

 

檜山「お、お前、なんでここに……」

 

「そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?」

 

その人物はクスクスと笑いながら、まるで喜劇でも見たように楽しそうな表情を浮かべる。檜山自身がやったこととは言え、クラスメイトが一人死んだというのに、その人物はまるで堪えていない。ついさっきまで、他のクラスメイト達と同様に、ひどく疲れた表情でショックを受けていたはずなのに、そんな影は微塵もなかった。

 

檜山「……それが、お前の本性なのか?」

 

呆然と呟く檜山のそれを 馬鹿にするような見下した態度で嘲笑う

 

「本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら……」

 

「ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……」

 

「ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?」

 

檜山は追い詰められる。まさか、こんな奴だったとは誰も想像できないだろう。二重人格と言われた方がまだ信じられる。目の前で嗜虐的な表情で自分を見下す人物に、全身が悪寒を感じ震える

 

「でもまあそうだね…君が僕の手足となって従ってくれるなら見返りとして黙っておいてあげるよ……それともう一つ」

 

檜山「そ、そんなの……」

 

実質的な奴隷宣言みたいなものだ。流石に、躊躇する檜山。当然断りたかったが

 

「白崎香織、欲しくない?」

 

その言葉で断ろうとしていた気持ちが止まった

檜山「ッ!? な、何を言って……」

 

驚愕する檜山に

 

「僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?」

 

檜山「……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!」

 

あまりに訳の分からない状況に檜山が声を荒らげる

 

「ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、強いて言うなら欲しいモノいや、欲しい人がいるとだけ言っておくよ……それで? 」

 

あくまで小バカにした態度を崩さないその人物に苛立ちを覚えるものの、それ以上に、あまりの変貌ぶりに恐怖を強く感じた檜山は、どちらにしろ自分に選択肢などないと諦めの表情で頷いた。

 

檜山「……従う」

 

「アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ」

 

楽しそうに笑いながら踵を返し宿の方へ歩き去っていくその人物の後ろ姿を見ながら、檜山は『ちくしょう……』と小さく呟いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





第五話

https://syosetu.org/novel/307613/6.html


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第5.5話 クラス達の変化➁

 

数日後

 

宿場町ホルアドで一泊し、早朝には高速馬車に乗って一行は王国へと戻った。とても、迷宮内で実戦訓練を続行できる雰囲気ではなかったし、勇者の同胞が死んだ以上、国王にも教会にも報告は必要だった

 

だが教会の者や一部貴族は亡くなったハジメや光輝を魔人族と戦わずに散った弱者と罵った

強力な力を持った勇者一行が迷宮で死ぬこと等あってはならないこと。迷宮から生還できない者が魔人族に勝てるのかと不安が広がっては困るのだ。神の使徒たる勇者一行は無敵でなければならないのだから

 

もちろん、公の場で発言したのではなく、物陰でこそこそと貴族同士の世間話という感じではあるが。やれ死んだのが無能でよかっただの、神の使徒でありながら役立たずなど死んで当然だの、それはもう好き放題に貶していた

 

これにはクラスメイトの大多数が怒っていた

自分達が生きているのも、あのベヒモスを抑えて弱らせてくれたのも、その無能と罵ったクラスメイトだったからだ

特に浩介や幸利は怒りのあまり飛びかかりかけたが、勇輝が激しく抗議したことで国王や教会も悪い印象を持たれてはマズイと判断し、ハジメや光輝を罵った人物達の処分を受けたようだが逆に、勇輝は無能にも心を砕く優しい勇者であると噂が広まり、結局、勇輝の株が上がっただけで、ハジメと光輝は勇者の手を煩わせただけの無能であるという評価は覆らなかった

 

その一方であの時の無数の魔法が嵐の如く吹き荒れており、それが万一自分の魔法だったらと思うと、どうしても話題に出せなかった

それは、自分が人殺しであることを示してしまうから

けどこれは仕方がないことかもしれない

自覚してやるならともかく無我夢中で自分か誰がやったかもわからないあの状況では自分か他人がやったと疑心暗鬼になっても無理はない

 

実践訓練後のクラスはハジメや光輝を罵った教会や貴族達の為に戦いたくない派と一度死にかけた事でもう戦いたくない派、それでも世界を救おう為に前へ進もうとする勇輝についていく派に別れた

 

また、今回大迷宮で自分たちが死にかけた原因を作った檜山に対してクラス中が責め立て、それを土下座で謝った檜山

その檜山の謝罪を受け取らず攻めていたクラス中を鎮めたのは他でもない勇輝だった

 

檜山はこうなることを予想していたので、ひたすら謝罪するに徹した。こういう時、反論することが下策以外のなにものでもないと知っていたからであり、檜山の狙いは勇輝の目の前での土下座することだった

勇輝なら確実に謝罪する自分を許しクラスメイトを執り成してくれると予想していたのである。 その予想は功を奏し、勇輝の許しの言葉で檜山に対する批難は収まった。涙ながらに謝罪する檜山を特段責めるようなことはしなかった。檜山の計算通りである

 

が、これに対し大きく反対する者が居た

 

浩介「ふざけるな!俺達が危険な目に合う原因を作りつつ、あいつらが落ちるきっかけを作っておいてお咎めなしだ!?」

 

幸利「それじゃあ奈落に落ちて行ったアイツらの無念はどうなる!!」

 

ハジメと仲の良かった浩介と幸利が声を荒げていった

 

クラスメイト達は普段ここまで声を荒げて怒りを見せたことなかったふたりに動揺していた

 

勇輝「ま、まってくれ遠藤、清水!確かに檜山のやったことでクラスが危険な目にあった!けどそれを今更責めた所で南雲は帰って来ない!だったら彼の想いを受け取ってこのまま前へ進むべきだ!」

 

その言葉にクラスの一度は驚愕した

 

当然このふたりも

 

浩介「言いやがったな!?てめぇ自分の弟が生存していることを疑わないくせにハジメの事は諦めてやがるな!!」

 

幸利「大方ハジメのことを内心勇者である自分よりも下って認識してたんだろうな…それ以前にお前は地球に居たときからアイツ事気に食わなかったみたいだしな…」

 

勇輝「なっ!?何を言っている!?そんなことあるわけないだろ!!」

 

幸利「どうだか、特にそこのクズは地球に居たときからハジメを目障りに思っていたからな……実はあのときの魔法弾撃ったのはお前なんじゃないか?」

 

檜山「ふ、ふざけるな!!そんなわけあるか!!」

 

これには檜山が声を荒げ幸利に掴みかかった

 

が、それを幸利は

 

幸利「!」

 

檜山「ぐふぁ!」

 

思いっきり殴り飛ばした

 

勇輝「ひ、檜山!!清水!お前なんのつもりだ!!」

 

幸利「なんのつもりも何も、誰もこいつを罰しないから俺が罰してやろうとしただけだ」

 

浩介「ああ、なんだったら俺も罰してやろうか?」

 

そう言うふたりの目はギラついており本気でいつでも目の前の檜山を仕留めそうとしていることが伺える

 

勇輝「や、やめるんだふたりとも!!どうした!地球に居た時はこんなふうに暴力を振るやつじゃなかったはずじゃないか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩介/幸利「「俺達のダチとクラスメイトが落ちる原因を作った奴に、怒らないわけねえだろ!!」」

 

クラス中「「「「!!」」」」

 

そうして一触即発に成りかけたそこへ

 

恵里「ふたりとも止めて!」

 

同じくクラスメイトでメガネを掛けたナチュラルボブであり降霊術師を天職にしている美少女、仲村(なかむら)恵里(えり)が止めに入った

 

浩介「離してくれ恵里!俺達はこいつらが許せねえ!」

 

幸利「ああ!皆を守るとか言いながら守らねえ自称勇者にも!親友が落ちる原因作ったあのクズのことも許せない!!」

 

恵里「だから落ち着いて!ふたりの気持ちは良くわかるよ!でもここで怒ったってふたりの立場を悪くするだけ!今は怒りを抑えて!」

 

浩介「だが」

 

恵里「……怒りたいのは僕だって一緒だよ」

 

浩介「!」

 

恵里「僕だけじゃない……あのふたりだって怒りたい気持ちを抑えてるんだよ……君たちよりも付き合いの長いあのふたりが抑えているんだよ………お願いだから…今は抑えて…」

 

幸利「……」

 

そう恵里に言われふたりは落ち着きを取り戻す

 

そして

 

浩介「……部屋に行ってる……後俺はもうここの連中のために戦わねえ」

 

幸利「同じく……」

 

そう言いふたりはその場を後にした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「それでアクア、どうなんだ?」

 

アクア「う〜ん…」

 

同時刻

クラス達が寮として使うとある一室では…アクアが魔法陣を展開しなにかを行っていた

 

カズマ「(あのふたりが死んだとはとてもじゃないが信じられない)」

 

王国へ帰還した後、心身に傷を負った者たちのメンタルケアを自ら勝手でたカズマとアクアは数日かけてクラスメイト達のメンタルをある程度回復させることに成功した

 

そしてやっとできた時間でアクアがかつて異世界でアークプリーストとしての能力を使いハジメと光輝の魂の行方を追っていた

 

もし死んでいたら魂はこの世界から居なくなっているが…生きているなら見つけられる

 

カズマ「(ふたつの魂を宿し、その上勇者以上の力を持ったアイツらがくたばるとは考えられねえ……頼む……生きててくれ)」

 

そう祈るようにアクアの隣で座る事一時間

 

アクア「!結果が出たわ!!」

 

カズマ「!それで、どうなんだアクア!!」

 

アクア「うん!ふたりとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魂の融合が進んでるけど生きてるわ!!」

 

カズマ「!!そうかそうか………は?」





第六話

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第九話 旅立ち

 

《ハジメ視点》

 

ハジメ「『風爪』!」

 

光輝「『豪火球』!」

 

俺の風の刃を放つとそれを天之河が火球を放ち相殺させた

 

ハジメ「!」

 

相殺させた際に出来た煙の中から俺はドンナーの弾丸を放った

 

魔物から取得した技能「纏雷(てんらい)」を利用し弾丸を電磁加速することでまるでレールガンのように放つ

更にドンナーを改造した事で弾丸に自分の魔力を込めることで一発の弾丸から複数に分裂することができるようにした

 

煙の中から飛び出す弾丸の雨

 

普通なら避けきれないだろうな

 

普通の奴ならな(・・・・)

 

光輝「甘い!」

 

天之河の奴は瞬時に写輪眼を開眼し、これを避けた

 

ハジメ「そう来ると思ってたぜ!」

 

畳み掛けるように閃光手榴弾を投げ込み視界を光で遮った

 

写輪眼の弱点の一つは目に頼った戦い方に依存する所

 

だからこうして視界を遮れば写輪眼の見切りは上手く機能しなくなる

 

ハジメ「(貰った!)」

 

俺は天之河の背後にまわりこみドンナーの銃口を奴の背に向けた

 

ハジメ「悪いな…今日のところは俺の勝ちだな」

 

俺はそう言い勝ちを確信した

 

光輝「……言ったはずだ……甘いとな」

 

ハジメ「!」

 

その瞬間、俺の周囲が揺らいだかと思うと景色が一変し、気が付くと俺の背後から千鳥を向けた天之河が立っていた

 

ハジメ「お前…いつ俺に幻術をかけやがった」

 

光輝「お前が閃光手榴弾を投げて光る直前にだ」

 

ハジメ「……一瞬で掛けやがったのかよ……相変わらずクソチートだな…お前の万華鏡写輪眼(まんげきょうしゃりんがん)の瞳術は」

 

あれから約2ヶ月が経ち、再び旅立つ前に天之河と最後の勝負をした

 

この2ヶ月間にした事とどのくらい強くなったか振り返ってみるとまず俺はオスカーが残したアーティファクトや設計図を利用して色々な物を作った

 

まずは今まで失くしていた片腕にオスカー作の義手を取り付けた

 

この義手実はアーティファクトであり、魔力の直接操作で本物の腕と大差なく使える上擬似的な神経機構が備わっている為魔力を通すことで触った感触もきちんと脳に伝わる様に出来ている

また生成魔法により創り出した特殊な鉱石を山ほど作りそれを素材に様々なアーティファクトを生み出した

 

他にはオスカーが保管していた指輪型アーティファクト『宝物庫』と呼ばれる物も手にした

これは指輪に取り付けられている一センチ程の紅い宝石の中に創られた空間に物を保管して置け代物で空間の大きさは、正確には分からないが相当なものだと推測している

なおこれを見た天之河は『つまりドラえもんの四次元ポケットか』とボソッと呟いていた

 

……あいつの口からドラえもんなんてワード聞くことになるとは思わなかったがな

 

歩いて旅するのも大変と思ったので移動用に魔力駆動二輪と四輪を作った

これは自身の魔力か神結晶の欠片に蓄えられた魔力を直接操作して駆動し、速度は魔力量に比例する

アイツ(天之河)の分を作るのは癪だったがやむを得ず作ることにしたが

 

それとヒュドラとの戦いで右目を極光の熱で眼球の水分が蒸発して失明したので、ユエ考案で創った魔眼石を埋め込んだ

この魔眼石は生成魔法を使い神結晶に、魔力感知と先読を付与することで通常とは異なる特殊な視界を得ることができる眼を生み出した。

これに義手に使われていた擬似神経の取り込むことで魔眼が捉えた映像を脳に送ることができるようになった

 

この魔眼の能力は通常の視界を得ることができない代わりに魔力の流れや強弱、属性を色で認識できるようになり発動した魔法の核が見えるようにもなる

 

魔法の核とは、魔法の発動を維持・操作するためのものであり、発動した後の魔法の操作は魔法陣の式を遠隔の魔法とリンクしておりこの魔眼で相手がどんな魔法をどれくらいの威力で放つかを事前に知ることができ、発動されても核を撃ち抜くことで魔法を破壊することができるようになった

ただし核を狙い撃つのは針の穴を通すような精密射撃が必要なうえ神結晶を使用したのは、複数付与が神結晶以外の鉱物では出来なかった、恐らく莫大な魔力を内包できるという性質が原因だと推測している

生成魔法の扱いには未熟の域を出ないので三つ以上の同時付与は出来なかったがこれは数をこなしていくしかないと考えている

 

本音を言えばこの魔眼石を作った理由の一つに天之河の写輪眼が羨ましいと感じたからでもある

 

ただこの魔眼、神結晶を使用しているせいで常に薄ぼんやりとではあるが青白い光を放っている

 

はっきり言って眩しくて仕方なく、薄い黒布を使った眼帯を着け、鏡の前に立つとその姿は『白髪、義手、眼帯』どう見ても厨二キャラにしか見えない

 

思わず絶望して膝から崩れ落ち四つん這いになりかけたがたまたまそばにいた天之河が『闇落ちした金木研みたいな姿になりやがって』と言われ俺は思わず『誰が闇落ちした金木研だ!』と怒鳴りそのまま大乱闘になった

 

他に作った武器といえば最大射程十キロメートルの対物ライフル『シュラーゲン』と口径三十ミリ、回転式六砲身で毎分一万二千発射ができる電磁加速式機関砲の『メツェライ』に長方形の砲身を持ち、後方に十二連式回転弾倉が付いている連射可能ロケット&ミサイルランチャー『オルカン』、最後にドンナーの対となるリボルバー式電磁加速銃『シュラーク』を感性させた

 

正直言ってここまで作った武器の大半は俺の趣味全開の物ばかりで作っている最中はとても楽しくて充実していた

地球に居た頃から俺はなにかを生み出すことが性に合っていたからまさに天職だな

 

それと魔物を殺して食ったり鍛錬をした事で今現在のステータスはこんな感じだ

 

南雲ハジメ 17歳 男 レベル:??? 48%

 

天職:創者

筋力:13950

体力:16190

耐性:12670

敏捷:16450

魔力:26780

魔耐:17780

 

技能:錬成[+鉱物系鑑定][+精密錬成][+鉱物系探査][+鉱物分離][+鉱物融合][+複製錬成][+圧縮錬成]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作]・胃酸強化・纏雷・天歩[+空力][+縮地][+豪脚][+瞬光]・風魔法適性[+風爪]・夜目・遠見・気配感知[+特定感知]・魔力感知[+特定感知]・熱源感知[+特定感知]・気配遮断[+幻踏]・毒耐性・麻痺耐性・石化耐性・恐慌耐性・全属性耐性・先読・金剛・豪腕・威圧・念話・追跡・高速魔力回復・魔力変換[+体力][+治癒力]・限界突破・生成魔法・言語理解・ 投影構築 ・無詠唱・言語理解

 

ここまで来ると笑いを通り越して唖然ってなる

 

だってこの世界の人間の限界を軽く超越してるって人目でわかるほどステータスがバグっているからだ

 

もはやここまで来るとステータスプレートの故障を疑う

 

唯一つ、気になることがあるレベルが表示されなくなったことではなく

 

このステータスプレートに刻まれた俺の周囲のレベル欄の隣で点滅している数値……これは一体何なんだ?

思えば初めてステータスプレートを貰ったあのときから存在していたが……あのときは特に何も考えなかったが

 

あ、それとなんか気づいたらステータスの技能欄に風魔法適性なんて出てきたな

 

それはそうと天之河についてはというと

この2ヶ月はほぼ一人で鍛えており、主に写輪眼の持続時間の継続と新たに開眼した眼の能力を最大限に使いこなせないか模索していた

 

あの時あいつが開眼してみせた写輪眼とは全く違う六芒星模様の魔眼は万華鏡写輪眼と呼ばれる物らしく

 

その能力は簡単に言えば写輪眼でできていたことすべてを上回る完全上位互換の魔眼であり、両目それぞれには固有能力(以後これを瞳術と呼ぶ)を宿している

 

ヒュドラにぶつけた消えない黒炎は左目の瞳術『天照』であり、右目はその天照の姿形を変化させ、天照の『視点にしか機能しない』という欠点を補ういわば天照の制御装置的な役割を持つ『加具土命(カグツチ)

 

更に鍛錬を続けた結果、左目の模様を三枚刃の手裏剣に変化させることができ、別の瞳術も扱えるようになった

 

その瞳術の名は『月読』

目を合わせた相手を空間・時間・質量すらも術者のコントロールする幻術の世界に引きずり込む

相手の意識に直接干渉するためこの幻術により体感する痛みや時間の感覚は術を受けた者にとって現実のそれとなんら変わらない

通常の幻術は時間経過が現実に即するが、この術は幻術世界での時間すらも術者が自在に操ることができる

つまり、普通の幻術ならばかかり切る前に仲間が対処できるが、この術ならば現実では一瞬、幻術世界では72時間攻撃されるという離れ業が可能

要は幻術内で受けた攻撃による疲労や精神的苦痛、72時間分の体感時間を一瞬で味合わせることができるチート能力だ

 

今アイツとの勝負で使った月読の内容は恐らく、閃光手榴弾を投げたあと俺がヤツの背後に回り込み勝ちを宣言するって内容だろうな

 

その気になれば月読内で俺を捕らえ何時間でも何日でも何年でも拷問にかけるなんてこともできるが敢えてやっていない

 

もしこいつが敵で実戦なら俺が殺されていたかも知れない

 

ただしこの万華鏡写輪眼の持続時間と一度の瞳術の使用には写輪眼以上の膨大な魔力の消耗が激しく、視力にも負担が掛かるデメリットもある

 

そして奴のステータスはこんなところだ

 

天之河光輝 17歳 男 レベル:??? 72%

 

天職:破者

筋力:14820

体力:17230

耐性:12850

敏捷:15160

魔力:25800

魔耐:17680

 

技能:《錬成系統と風適性と生成魔法と投影構築を除いたハジメと同じ技能を身に着けた》・火属性適性・雷属性適性・剣術・写輪眼・万華鏡写輪眼[+天照][+加具土命][+月読]・須佐能乎・無詠唱・言語理解

 

全体的に一部ステータスを俺を追い越しているものがあるが総合的な実力で言えば俺以上だ

 

あとこいつにも妙な数値が浮かび上がっている

天之河曰く最初に見たときは50%だったらしいが今では72%まで上昇しているようだ

 

なんで俺と天之河にはこの数値があるのか、そしてなぜ俺よりこいつのほうが数値が高いのか知らないが…考えられるとすれば俺とこいつの天職が実は関係しているのではないかと疑わざるを得ない

 

ユエ「ん…ハジメ、光輝…そろそろ行こ」

 

ハジメ「ああ…チッ…これで78戦36勝42敗か…」

 

光輝「フッ……まだまだだな」

 

ハジメ「゛アァ゛!?お前自分が勝ちこんでるからって調子に乗るなよな!!チート魔眼使って勝ちやがって」

 

光輝「お前こそ高火力の武器を作成して火力と数のゴリ押し戦法で来やがる癖に何言ってやがる」

 

ハジメ「俺は俺の能力を最大限活かした戦い方をしているだけだ」

 

光輝「俺の方こそ俺の能力を活かしたやり方で戦ってるんだ。文句つけるんじゃねえこの敗者が」

 

ハジメ「もう一ラウンドやってやろうか天之河!!」

 

光輝「上等だ!また潰してやるぞ!!」

 

そう言い俺と天之河が激突しようとしたところへ

 

ユエ「ふたりともストップ……喧嘩はそこまでにして…そろそろ行こう……」

 

ユエに止められ俺は仕方なく手を引いた

 

……ここだけの話…絶賛ユエに惚れられ…その…なんだ……俺もユエに対してそういう気持ちを抱いている事を否定できない程度に惚れている

 

俺がユエの言うことを効くのは惚れた弱みってやつだ

 

そうして俺達は大迷宮の外へ出るための魔法陣を起動させた

 

ハジメ「ユエ……俺の武器や俺達の力は、地上では異端だ。聖教教会や各国が黙っているということはないだろう」

 

ユエ「ん……」

 

ハジメ「兵器類やアーティファクトを要求されたり、戦争参加を強制される可能性も極めて大きい」

 

ユエ「ん……」

 

ハジメ「教会や国だけならまだしも、バックの神を自称する狂人共も敵対するかもしれん」

 

ユエ「ん……」

 

ハジメ「世界を敵にまわすかもしれないヤバイ旅だ。命がいくつあっても足りないぐらいな」

 

ユエ「今更……」

 

ハジメ「俺がユエを、ユエが俺を守る。それで俺達は最強だ。全部なぎ倒して、世界を越えよう」

 

俺の言葉を、ユエはまるで抱きしめるように、両手を胸の前でギュッと握り締めた。そして、無表情を崩し花が咲くような笑みを浮かべた

 

ユエ「……でも光輝は誰が守るの?」

 

ハジメ「必要ねえな」

 

光輝「ああ…他人に守られるのは嫌いだからな…なにより俺以下の実力の奴らに守られたくないからな」

 

ユエ「……」

 

ハジメ「んで、運が良ければ……地上であいつらに会えるかもしれないしな」

 

ユエ「それって…ハジメが話していた友達達のこと?」

 

ハジメ「そうだ…あいつらには俺が無事生きていて地球へ帰ろうとしていることを伝えてやりたいからな」

 

ユエ「……大事なんだ…その友達は…」

 

ハジメ「まあな…」

 

そう俺が言いながら魔法陣の光は俺達の視界を満たされて行ったのだった





第9.5話

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第十話 亜人の娘

 

《ハジメが視点》

 

ユエ「ハジメ…大丈夫?」

 

ハジメ「大丈夫って何がだ?」

 

ユエ「だって……ハジメ……人を殺すのはこれが」

 

ハジメ「初めてだな……けどまあ……思ったほどなんとも思わないな…」

 

ユエ聞かれ、俺は返事を返す

そんな俺の周りには鎧を着た兵士の死体が転がっていた

 

オルクス大迷宮から脱出し、俺達は『ライセン大峡谷』にたどり着いた

 

その道中に魔物に襲われていた兎の亜人『シア・ハウリア』を助けたらなぜか自身の家族を助けるよう頼まれた

 

当然拒否したがしつこくしがみつかれたので俺はドンナーに装填したゴム弾を発射したりユエは魔法で吹き飛ばしたがそれでも食らいつくこいつに根負けし、とりあえず話だけを聞くことにした

 

なおその間天之河の馬鹿は例の如く興味なさげにしていたが

 

シア曰く、こいつら兎人族達は『ハルツィナ樹海』と呼ばれる場所で数百人規模の集落を作りひっそりと暮らしていた

兎人族は、聴覚や隠密行動に優れているものの、他の亜人族に比べればスペックは低いらしく、突出したものがないので亜人族の中でも格下と見られ軽んじられていた

 

温厚で争いを嫌い、一つの集落全体を家族として扱う仲間同士の絆が深い種族らしく、容姿に優れておりエルフのような美しさとは異なった、可愛らしさがあるので帝国などに捕まり奴隷にされたときは愛玩用として人気の商品となる

帝国とは『ヘルシャー帝国』のことでありこの国は、およそ三百年前の大規模な魔人族との戦争中にとある傭兵団が興した新興の国で、強力な傭兵や冒険者がわんさかと集まった軍事国家であり実力至上主義を掲げている

ぶっちゃけ今の人間族が納める国の中では総戦力は最大級だな

 

俺が地上に居たときに読んだ本によると

亜人族は被差別種族で彼らが差別されるのは魔力を持たなかったからであり、神代において、エヒトを始めとする神々は神代魔法にてこの世界を創ったと言い伝えられ、現在使用されている魔法は、その劣化版のようなものと認識されている

それ故、魔法は神からのギフトであるという価値観が強い

 

その為魔力を一切持たず魔法が使えない種族である亜人族は神から見放された悪しき種族と考えられている

 

聞いていて実に愚かしいと感じざるを得ない

 

んでシアはある日異常な力を持って生まれた女であり、本来亜人族には無いはずの直接魔力を操るという固有魔法を使えた

 

この世界では直接魔力を操れる存在として魔物がいるがそれと同様の力を持ってるのは異端以外のなんでもなく迫害の対象となる

だが、彼女が生まれたのは亜人族は家族の情が深い種族である兎人族だったこともあり、シアを見捨てるという選択肢がなかった

 

そして彼女の存在が他の亜人族にバレた結果

一族総出で逃げ出した

しかしそこへ運悪く帝国の兵士の一個中隊規模に遭遇

なんとか逃げ出すも次々と捕まり最後に残ったのはシア一人だった

 

それでもなお助けを求めて彷徨っていたところ魔物に襲われていたところ俺達と出会った

 

それを踏まえてなお俺達に助けを求めたが俺が拒否したところ以外な所から援護が

 

ユエ「……樹海の案内役として連れて行くついでってことならいいと思う…」

 

ユエに言われ、俺もやむなく聞くことにした

 

その後俺たちは無事シアの家族である一族と合流することができた

 

しかし、そこへシアの家族を捕らえていた帝国の兵士共と遭遇した

 

連中はシアを見ると下劣な笑みを浮かべこちらへ渡すよう要求してきた

 

当初シアから聞いていた数より少なかった為奴らの何人かを殺して脅して聞いた

 

そして奴らは言った

『人数を絞って帝国へ移送した』

 

 

『人数を絞った』……つまり売る価値のない老人や売れそうにない兎人族は殺したってことだ

 

こいつらの所業や言葉を聞き……俺の中でわずかに残っていた良心がこいつらに対し怒りが湧いたかと思った瞬間

 

帝国兵士「ぐあぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

突如兵士の一人が黒炎に身を包まれ、それに続くように周囲の兵士まで燃え盛った

 

このとき、俺とユエはさっきから無言だった天之河が天照を発動し焼き尽くした事に気づいた

 

シア「ヒッ!あ、あの人目から血が…」

 

光輝「……」

 

やがて周りにいた残りの兵士は皆天之河が一人残らず天照でジワジワと焼き殺した

 

ユエ「光輝……どうして彼らをあんなふうに殺したの…?」

 

光輝「……俺は弱者が嫌いだ……力のない…それ故に誰かに頼るしかない、己でどうにかしようと足掻かない弱者がな……だがそれ以上に俺は弱者をなぶり、蔑むことで自身を強者だと勘違いする強者の皮を被った弱者が嫌いだ……それと俺は即死なんていう一瞬の苦しみで終わらせるつもりはない……」

 

ユエ「……そう」

 

ハジメ「……」

 

こいつとはそこそこの付き合いで分かったことがある

 

地球にいた頃から周りに不良のレッテルを貼られているが、こいつ自身が他者を虐めたりすることはなく、またそういう輩を嫌っているのは見ていてわかる

 

他人嫌いの癖に意外とああいう輩の存在を許さない程度には正義感を持ち合わせているようだが…あいつはそれを果たしてどう思っているのか俺は知らん

 

それと俺も初めて人を殺したが意外となんともなかったな

 

これが地上にいた頃ならもう少し怯えてたかもしれない

 

地下へ落ちて壊れたか

 

ただ天之河の場合…地上にいた頃から……いや、もしかすれば最初から壊れていたのかもしれない

 

光輝「……行くぞ」

 

ユエ「…うん…」

 

ハジメ「……ああ…」

 

そうして俺達はハルツィナ樹海に向けて進んだ

 

道中シアが俺達の生い立ちを聞いてきたので話した

 

……天之河は会話に入らなかったが

 

話を聞いたシアは自分の境遇以上にキツイ目にあった俺達に同情し涙を流した

 

そして自身もついていきたいと言ってきたが、俺は

 

ハジメ「俺達の目的は七大迷宮の攻略だ。おそらくは化物揃いでお前じゃ瞬殺される…だから同行を許すつもりは毛頭ない」

 

そう言い拒否した

 

やがて俺達一行はハルツィナ樹海と平原の境界に到着した

樹海の外から見る限り、ただの鬱蒼とした森にしか見えないのだが、一度中に入ると直ぐさま霧に覆われるらしい

 

だから地元民であるこいつら亜人たちでなきゃ迷うことになる

 

こいつらを連れてきたのは幸運だったかもしれない

 

そう思いつつ俺達が進もうとしたところ

 

周囲の霧から魔物が飛び出して一行に襲いかかる

 

それを

 

ユエ「『風刃』!」

 

ハジメ「『風爪』!」

 

光輝「『業火球』!」

 

俺達三人が対処した

 

その後も何度か襲撃を受けたがどうにか一人もかけることなく進むことができ、樹海に入って数時間が経つと

 

???「お前達……何故人間といる! 種族と族名を名乗れ!」

 

そう霧の中から声がした

その声の正体は虎模様の耳と尻尾を付けた、筋骨隆々の亜人だった

手には両刃の剣が抜身の状態で握り周囲に数十人の亜人が殺気を滾らせながら包囲網を敷いている

 

「あ、あの私達は……」

 

シアの父親であり族長であるカムが何とか誤魔化そうと額に冷汗を流しながら弁明を試みるが、その前に虎の亜人の視線がシアを捉え

 

虎の亜人「白い髪の兎人族…だと? 貴様ら……報告のあったハウリア族か……亜人族の面汚し共め! 長年、同胞を騙し続け、忌み子を匿うだけでなく、今度は人間族を招き入れるとは! 反逆罪だ! もはや弁明など聞く必要もない! 全員この場で処刑する! 総員かッ!?」

 

虎の亜人がこちらに攻撃を仕掛けようと周りに号令を掛けようとした瞬間

 

俺は殺気を放った

 

それとほぼ同時に天之河からも俺に負けず劣らずの殺気を放った

 

結果周囲は俺と天之河の殺気により支配され

攻撃をしようとした亜人共とシア達ハウリア族も地に付した

 

ユエはなんともなさそうにしていた

 

そして、俺達に攻撃を仕掛けようとした連中にただ一言漏らす

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/光輝「「今死ぬか?」」



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第十一話 亜人革命

 

襲ってきた亜人共を威圧し鎮圧したハジメと光輝はその後、連中の集落まで案内させ

フェアベルゲンの長老のひとり、アルフレリックの前に立ちここへ来た目的やこの世界の真実を話す

 

するとアルフレリックは『この世界は亜人族に優しくはない、今更だ』と返してきた

神が狂っていようがいまいが、亜人族の現状は変わらないということらしい

 

それと大樹の周囲は特に霧が濃く、亜人族でも方角を見失うため一定周期で、霧が弱まるタイミングでのみ大樹の下へ行くことができ、次に行けるようになるのが十日後と言われた

 

このときアルフレリックは亜人ならば誰でも知っているはずなのだと言われたが、シアを始めとしたハウリア族全体はそれを忘れていたらしく

 

ユエに全員お仕置きされた

 

初めてシアに会ったときから

物凄くうざく絡まれていてハジメやユエはシアの事をウザ兎と呼び、シアの家族のハウリア族は初めて会ったときから残念感を醸し出し、ハジメからは残念兎と呼んでいた

 

またシアやハウリア族、それとハジメやユエ、光輝に敵対心剥き出しの熊の亜人が襲ってきた

 

が、なぜかハジメ達のいる方向とは見当違いな場所に飛びかかり目に見えないなにかを攻撃していた

 

この瞬間、ハジメとユエは光輝が写輪眼で幻術にかけたのだと分かった

 

熊の亜人「はぁ…はぁ…おかしい…なぜ攻撃が当たる瞬間消える!」

 

アルフレリック「南雲ハジメ。……あやつがさっきから見当違いな場所に攻撃をしているがあれは…」

 

ハジメ「天之河の奴が幻術に掛けてやったんだよ……幻術を解かない限りあの熊はあのままだ」

 

アルフレリック「なんと!?」

 

ユエ「……珍しい……今度は実力行使しないんだ」

 

光輝「あいつはさっきまで俺の言っていた嫌いな奴らとは違うからな……それに万華鏡写輪眼を使うほどでもなかったからな…」

 

そうしてハジメ達は各亜人の長老達の集会所に集まり大樹への案内を話しだしたが

虎人族のゼルが

 

ゼル「ならば、我々は、大樹の下への案内を拒否させてもらう。口伝にも気に入らない相手を案内する必要はないとあるからな」

 

と言われ、拒否した

 

更に

 

ゼル「ハウリア族に案内してもらえるとは思わないことだ。フェアベルゲンの掟に基づいて裁きを与える。何があって同道していたのか知らんが、ここでお別れだ。忌まわしき魔物の性質を持つ子とそれを匿った罪。フェアベルゲンを危険に晒したも同然なのだ。既に長老会議で処刑処分が下っている」

 

ゼルの言葉に、シアは泣きそうな表情で震え、カム達は一様に諦めたような表情をしている。この期に及んで、誰もシアを責めないのだから情の深さは折紙付きだ

 

ゼル「そういうわけだ。これで、貴様が大樹に行く方法は途絶えたわけだが? どうする? 運良くたどり着く可能性に賭けてみるか?」

 

他の族長達も口には出さないがゼルと同意見であると示し、また案内をして欲しければこちらの要求を飲めと言いたそうな態度をとる

 

がしかし

 

ハジメ「俺はお前らの事情なんて知らねえんだよ。俺からこいつらを奪うってことは、俺の行く道を阻んでいるのと変わらないだろうが……つまりお前ら全員……俺の敵ってことでいいんだな?」

 

ハジメは長老衆を睥睨しながら、スっと伸ばした手を泣き崩れているシアの頭に乗せた

ピクッと体を震わせ、ハジメを見上げるシア

 

ハジメ「俺から、こいつらを奪おうってんなら……覚悟を決めろ」

 

シア「ハジメさん……」

 

アルフレリック「本気かね?」

 

ハジメ「当然だ」

 

アルフレリック「フェアベルゲンから案内を出すと言っても?」

 

ハジメ「何度も言わせるな。俺の案内人はハウリアだ」

 

アルフレリック「なぜ、彼等にこだわる。大樹に行きたいだけなら案内人は誰でもよかろう」

 

アルフレリックの言葉にハジメは面倒そうな表情を浮かべつつ、シアをチラリと見た。先程から、ずっとハジメを見ていたシアはその視線に気がつき、一瞬目が合う

 

すると僅かに心臓が跳ねたのを感じた。視線は直ぐに逸れたが、シアの鼓動だけは高まり続ける

 

ハジメ「約束したからな。案内と引き換えに助けてやるって」

 

アルフレリック「……約束か。それならもう果たしたと考えてもいいのではないか? 峡谷の魔物からも、帝国兵からも守ったのだろう? なら、あとは報酬として案内を受けるだけだ。報酬を渡す者が変わるだけで問題なかろう」

 

ハジメ「問題大ありだ。案内するまで身の安全を確保するってのが約束なんだよ。途中でいい条件が出てきたからって、ポイ捨てして鞍替えなんざ…………カッコ悪いだろ?……なあ、それでいいだろ天之河?」

 

ハジメはここでこれまで会話に入らずに黙って聞いていた光輝に声をかけた

 

光輝「………俺としては案内してくれるなら誰でも構わない……」

 

シア「!」

 

光輝「が……貴様ら亜人は俺達に対し敵意、疑心、悪意を持ち合わせている……そんな奴らに案内させられてもな……馬鹿でも面倒でも、ハウリアのほうがマシだ」

 

シア「!光輝さん…」

 

しばらく、静寂が辺りを包み、やがてアルフレリックがどこか疲れた表情で提案した

 

アルフレリック「ならば、お前さんの奴隷ということにでもしておこう。フェアベルゲンの掟では、樹海の外に出て帰ってこなかった者、奴隷として捕まったことが確定した者は、死んだものとして扱う。樹海の深い霧の中なら我らにも勝機はあるが、外では魔法を扱う者に勝機はほぼない。故に、無闇に後を追って被害が拡大せぬように死亡と見なして後追いを禁じているのだ。……既に死亡と見なしたものを処刑はできまい」

 

ゼル「アルフレリック! それでは!」

 

完全に屁理屈である。当然、他の長老衆がギョッとした表情を向ける。ゼルに到っては思わず身を乗り出して抗議の声を上げた

 

そこからは長老同士の言い合い合戦となりオロオロするシア

 

が、そこへ

 

ハジメ「俺も、シアと同じように、魔力の直接操作ができるし、固有魔法も使える。次いでに言えばこっちのユエや天之河もな。あんた達のいう化物ってことだ。だが、口伝ではそれがどのような者であれ敵対するなってあるんだろ? 掟に従うなら、いずれにしろあんた達は化物を見逃さなくちゃならないんだ。シア一人見逃すくらい今更だと思わないか?」

 

しばらく硬直していた長老衆だが、やがて顔を見合わせヒソヒソと話し始めた。そして、結論が出たのか、代表してアルフレリックが、それはもう深々と溜息を吐きながら長老会議の決定を告げる

 

アルフレリック「ハウリア族は忌み子シア・ハウリアを筆頭に、同じく忌み子である南雲ハジメの身内と見なす。そして、資格者南雲ハジメに対しては、敵対はしないが、フェアベルゲンや周辺の集落への立ち入りを禁ずる。以降、南雲ハジメの一族に手を出した場合は全て自己責任とする……以上だ。何かあるか?」

 

ハジメ「いや、何度も言うが俺は大樹に行ければいいんだ。こいつらの案内でな。文句はねぇよ」

 

アルフレリック「……そうか。ならば、早々に立ち去ってくれるか。ようやく現れた口伝の資格者を歓迎できないのは心苦しいが……」

 

ハジメ「気にしないでくれ。全部譲れないこととは言え、相当無茶言ってる自覚はあるんだ。むしろ理性的な判断をしてくれて有り難いくらいだよ」

 

こうしてハウリア族の処刑は免れ、ハウリアの面々は驚きのあまり呆然とし、シアは涙を流したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△△

 

ハジメ「おらあ!!どうした!!その程度で生き延びられると思ってんのか!!」

 

ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!ドパンッ!

 

ハジメはドンナーを持ち、容赦なくハウリア達を撃った

 

あれから数日、どうにか命が助かったハウリア族だったが

 

それはあくまでハジメ達がいる間のみの一時的なもの

 

ただでさえ亜人の中でも弱小である彼らがハジメ達が居なくなったあと生き延びられるわけがなく

 

ハジメは彼らを鍛えることにした

 

だがその道のりは険しく

ただでさえ戦闘能力が弱いだけに飽き足らずかなり性格が甘すぎて命を刈り取ることにも抵抗があり、結果ハジメを怒らせることになり、ハジメは手加減なしで地獄のようなトレーニングを積ませることにしている

 

また別のところでは光輝が一部のハウリアを引き連れ鍛えている

 

実はこの二人、初日のうちに鍛えることの方針と考えの違いから喧嘩し10日後の出発までにどちらが『育手』として向いているのかを勝負することになった

 

ハジメはとにかく向かってくるものには手加減せず、仕留めることだけ考え奪われる前に奪えの方針で鍛え、一方の光輝は概ねはハジメと同じだがハジメと違い肉体的よりも精神面的な部分を鍛えることに赴いていた

 

その結果10日後にはハウリア達は見違えるどころかもはや『お前誰だ』と言われてしまうレベルで豹変

 

口調や態度まで変わっており、ハジメに鍛えられたカムを含むハウリアはハジメをボスと呼び

 

光輝に鍛えられたハウリアは光輝をリーダーと呼んだ

 

その後互いのハウリア族同士で自分達を始末しに来た熊の亜人族の一団が襲ってきたがそれを圧倒するレベルで力の差を見せつけた

 

ハジメ「ふぅ…さてと…ユエ、シア…どうだ?どっちのほうが育手として向いているか?」

 

光輝「……」

 

ふたりが喧嘩してそれぞれ分かれる前、ハジメはユエとシアに審査役を頼み込み…ふたりはそれぞれのハウリアの事を見ながら数日間戦いあった

 

どうやらシアはハジメに惚れ、旅に同行したいと言いだし、最初は拒否していたユエだったが、あまりにもしつこかったので自分にかすり傷でもつけられたら許可すると言い…そこから数日間渡り合いのすえ、シアはユエにかすり傷をつけることに成功

 

ユエ「ん……それじゃあ審査結果発表」

 

今にもドラムロールが流れそうな空気の中

 

ふたりが同時に指を指した

 

ユエ/シア「「光輝(さんですぅ)」」

 

光輝「フッ…」

 

ハジメ「なっ!?なんでだ!!俺のどこが間違っていたんだ!!」

 

シア「間違いだらけですよー!!確かに私の家族を強くしてくれた事には感謝してますしもう弱小なんて馬鹿にされないくらい強くなりましたよー!!でもなんですかこれは!!戦いを……奪うことに楽しみを持ち10日前まで持っていた優しさをなくしたただの蛮族みたいになってしまったじゃないですか!!私の家族返してくださいー!!」

 

シアが泣きながらうずくまり、それにユエが優しく肩に手を起き撫でながら

 

ユエ「ん…対して光輝が育てたハウリアは戦闘能力で言えばハジメが教えたハウリア以下だけどその分武器を使った技術力は勝っていて人格面は常人の範囲内で収まらせているから…」

 

光輝「南雲……お前の育てたハウリア……はっきり言って殺そうかと思った」

 

ハジメ「!」

 

光輝「何故かわかるか?お前が育てたハウリアはまるで、奪うことを楽しみ、弱者をいたぶり尽くすことで自分達を強者だと思っていた…あの帝国の兵士共と同じ目をしていたからだ」

 

ハジメ「……」

 

ユエ「ん……ああいうのを放っておけばいずれ帝国の兵士みたいになっていたかも知れない……そしたら彼らは今度は帝国の兵士がしていたことをするようになる……」

 

光輝「理性のない拳なんざ、ただの暴力だ……俺があいつらに教えたのは強くなることだけじゃない……戦う相手に対して…いかに己の心と向かい合い、力の使い方を間違えないように教えてやった……ただそれだけだ」

 

ハジメ「……はぁ…」

 

シア「と、というわけで…審査結果により、光輝さんが育手として優れていることが審査されました!!」

 

ユエ「…これを機にハジメはもう少し理性と力の使い方を間違えない事を心掛けよう」

 

ハジメ「クソ…人嫌いの奴に人格面の形成で負けた」



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第十二話 ライセン大迷宮と開眼


本来なら数話挟むところ一話一話で大幅カットを挟むことで話を速攻で進ませる
これぞ『超割愛の術』だ!


 

一行は無事大樹に到着することができたが、どうやら最低でも7大迷宮中半分、つまりあと3つの神代魔法を集めなければならないらしく

 

やむなく後回しにし次の大迷宮へと旅立つ

 

ハウリア族達と別れたハジメ達はその後一番近くの街であるブルックへ到着

そこのギルドで換金やらギルドの職員であるキャサリンと名乗るオバチャンから地図をもらったり宿を取ったり食料や道具の調達した

 

その間ユエがいいよって来た男共の股間をブレイクし『股間スマッシャー』の二つ名を得たり、ユエとシアがハジメと同じ部屋で眠る為に争ったりと、騒がしい日々を過ごした

 

なおその間相変わらず光輝はただ一人で過ごしていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△△

 

ハジメ「クソが!性格悪すぎだここの制作者は!!」

 

ユエ「ん…ミレディ・ライセンだけは解放者云々関係なく、人類の敵で問題ないな」

 

シア「激しく同意ですぅ!!」

 

無事旅に必要なものを集め、再びライセン大峡谷を魔力駆動二輪(以後バイクと呼ぶ)で走らせ大迷宮の捜索してまわること丸一日、とうとう秘密の入り口を発見した

 

なおこのときびっくりトラップがありシアが失禁してしまうハプニングが発生した(なおこのとき光輝が持っていた水筒をわざとこぼし中身をシアにぶちまけたとき『悪かったな…つい手を滑らせた』と言い布拭きを渡してきた……シアは光輝の優しさに涙を流しユエは『光輝優しい』と一言漏らした)

 

この大迷宮『ライセン大迷宮』の中に入った一行を待ち受けたのは様々なトラップに人の神経逆なでする内容の煽り文字の山だった

 

一番ひどいのはあれだけ苦労して通った先が実はスタート地点でオマケにそばの壁に

 

<ねぇ、今、どんな気持ち?>

<苦労して進んだのに、行き着いた先がスタート地点と知った時って、どんな気持ち?>

< ねぇ、ねぇ、どんな気持ち? どんな気持ちなの? ねぇ、ねぇ>

 

<あっ、言い忘れてたけど、この迷宮は一定時間ごとに変化します>

< いつでも、新鮮な気持ちで迷宮を楽しんでもらおうというミレディちゃんの心遣いです>

< 嬉しい? 嬉しいよね? お礼なんていいよぉ! 好きでやってるだけだからぁ!>

<ちなみに、常に変化するのでマッピングは無駄です>

<ひょっとして作っちゃった? 苦労しちゃった? 残念! プギャァー>

 

という酷い煽り文句が壁に刻まれていた

 

最初は余裕そうにしていたハジメとユエだったが、やがて頭に青筋を浮かべ、この大迷宮の制作者へ向けて殺意を撒き散らし始めた

 

ただ一人、光輝だけ一言も文句も悪態もつかず、黙ってトラップをさばいていた

 

やがて一行は疲れ果て…大迷宮にある何もない部屋で一夜を過ごすのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしその次の日…転機が訪れた

 

ユエ「!ハ、ハジメ!!」

 

シア「ハ、ハジメさん!!」

 

ハジメ「は?なんだ急に?」

 

光輝「!……おい…お前の眼」

 

光輝にまで言われ、ユエに頼み氷の鏡を作らせ覗き込むハジメ……そこにはなんと

 

ハジメ「な、な、なんじゃこりゃー!!」

 

なんとハジメの魔石眼とは別の片眼が真っ白になっている

 

それも普通の白目とは全く違っており

まわりのこめかみに血管の筋が浮き出ていた

 

最初は何かハジメの身体に異常がきたしたのかと焦るシアとユエだったが、ハジメはというと

 

ハジメ「な…なんだこれは…お前たちの人体が透けて見える……いや、お前たちだけじゃねえ…なんだ…壁の中やその奥まで何もかもが透けて見える……それになんだ……あれは…この先の壁のその更に先の壁の奥からでかい魔力の塊が見えた……多分あれがこの迷宮のラスボスだろうな」

 

この自信に目覚めた魔眼に驚きつつもテンションを上げていた

 

なぜなら、光輝の持つ写輪眼の魔眼を羨ましく思っていた自分にも魔眼が開眼したからだ

 

光輝「……その眼…どうやら『白眼(びゃくがん)』と呼ばれるものらしいな」

 

いつの間にか光輝がハジメのステータスプレートを手に取り、覗き込んでいた

 

ハジメ「マジか……」

 

光輝「……それと…お前のレベル欄の隣の数値が、『50%』に達していたぞ」

 

ハジメ「!!」

 

光輝「……そういえば、俺のステータスプレートに写輪眼が載っていた時の数値は『50%』だったな」

 

ハジメ「……つまりなんだ…?俺とお前の魔眼の開眼条件は…その横の数値が50%に達した場合ってわけか?」

 

光輝「……さあな…だが…とにかくこれで向かうべき道ははっきりした……」

 

ハジメ「……まあ、そうだな……シア」

 

シア「!あ、はい!」

 

ハジメ「『壊せ』……ここからは一方通行だ」

 

シア「!」

 

ハジメに言われ、シアはハジメに作ってもらった専用アーティファクトの『ドリュッケン』と呼ばれる戦槌を取り出し壁を破壊してまわる

 

元々シアは身体強化に特化したアタッカータイプであり、強化後のステータスで言えばハジメや光輝の約5割といった程度だ

 

とはいえそれは勇者である勇輝を圧倒的に凌駕するレベルであり、この世界の基準で言えば十分怪物レベルだ

 

その後シアのゴリ押し特攻により最短距離で最後の部屋までたどり着き、その先に一行が出会ったのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やほ~、はじめまして~、みんな大好きミレディ・ライセンだよぉ~」

 

「「「……は?」」」

 

ミレディ・ライセンと名乗る巨大なゴーレムだった

 

ハジメ「……テメェがミレディ・ライセンか……オスカーの手記には人間の女と書かれていたんだがな……まあ大方魂に関わる神代魔法かなんかで魂だけ残したんだろうな」

 

ミレディ「お、おおお!!大体あってるよ!!まさか久々に会った人の口からオーちゃんの名前まで聞けるなんて、もしかしてオーちゃんの大迷宮攻略してから来ちゃった?」

 

なんかおちゃらけた雰囲気を醸し出して話すこのゴーレムが解放者のひとりなのかって内心疑うハジメだったが一応返事を返す

 

ハジメ「まあな…」

 

ミレディ「そっかそっか…じゃあ真面目な質問いくね?………何のために神代魔法を求める?」

 

嘘偽りは許さないという意思が込められた声音で、ふざけた雰囲気など微塵もなく問いかけるミレディ

もしかすると、本来の彼女はこちらの方なのかもしれない。思えば、彼女も大衆のために神に挑んだ者。自らが託した魔法で何を為す気なのか知らないわけにはいかないのだろう

オスカーも記録映像を遺言として残したのと違い、何百年もの間、意思を持った状態で迷宮の奥深くで挑戦者を待ち続けるというのは、ある意味拷問ではないだろうか

軽薄な態度はブラフで、本当の彼女は凄まじい程の忍耐と意志、そして責任感を持っている人なのかもしれない

 

ハジメ「……故郷に帰ることだ。お前等のいう狂った神とやらに無理やりこの世界に連れてこられたんでな。世界を超えて転移できる神代魔法を探している……お前等の代わりに神の討伐を目的としているわけじゃない。この世界のために命を賭けるつもりは毛頭ない……お前らのことは正直気の毒に思うが、生憎付き合うつもりはない」

 

ミレディ「…そっか…」

 

次の瞬間には、真剣な雰囲気が幻のように霧散し、軽薄な雰囲気が戻る

 

ミレディ「ん~、そっかそっか。なるほどねぇ~、別の世界からねぇ~。うんうん。それは大変だよねぇ~よし、ならば戦争だ! 見事、この私を打ち破って、神代魔法を手にするがいい!」

 

ハジメ「いや脈絡なさすぎて意味不明なんだが……何が『ならば』何だよ。っていうか話し聞いてたか? お前の神代魔法が転移系でないなら意味ないんだけど? それとも転移系なのか?それかあれか?教えてほしければ私に勝てとか言わないよな?」

 

ミレディ「そのまさかさ〜。さぁ、もしかしたら私の神代魔法が君のお目当てのものかもしれないよぉ~、私は強いけどぉ~、死なないように頑張ってねぇ~」

 

そうミレディは煽るように言いながら自身の配下のゴーレムを並べた

 

ユエ「……はぁ…結局こうなる…」

 

シア「や、やっぱり…簡単にはいかないですね」

 

光輝「……」

 

ハジメ「まあいい…そっちのほうが分かりやすくていいわ……こいよ…この迷宮に来てから散々苛立たせられた分全部返してやるよ!!」

 

 



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第十三話 さらばウザゴーレム

 

ミレディ「いや〜、君達ほんと強いねえ…正直負けるなんて思わなかったよ〜」

 

シア「いえ…私は特にやれてないのですが…強いて言えば周りのゴーレム倒したくらいしか」

 

ミレディ「いやいや君がそうしてくれたおかげで他の三人が集中して戦えたんだし誇っていいよ。君も強かったよ」

 

シア「ミ、ミレディさ〜ん」

 

ハジメ達の前でボロボロとなったミレディが横たわる

 

ミレディとの戦いの結果は無事ハジメ達の勝利だった

 

ミレディの神代魔法『重力魔法』により自身や足場を浮かして襲ってきたが、それをハジメと光輝、ユエが対処しながら戦っていたが、最後はミレディにより天井に敷き詰められていた大量のブロックを降り注がしてきた

 

ミレディ「いや〜しかし、まさかあのブロックの山を全部避けきるなんて驚いたよ…」

 

ハジメ「正直、あれは避けきれるとは思わなかったがな……この眼のおかげだ」

 

そう言いハジメは白眼を開眼していた方の目に触れた

 

あの大量のブロックが降り注いだとき

 

ハジメはユエとシアに自分に捕まるように言い

 

光輝と共にそれぞれの魔眼を開眼し、ブロックの隙間の通り道を見抜き、交わしていった

 

そしてブロックの雨を避けきったあとは、白眼の透視能力によりミレディの身体の核を見抜き、そこを重点的に攻め、ヒビを入れるとそこへ光輝が千鳥で貫き、核を破壊した

 

ハジメ「いや〜この眼ほんと便利だな。透視能力があるから簡単に弱点見抜けたりかなり広い範囲で索敵できたりほぼ360゚の視界見れたりできるからな…まあ欲を言えば天之河の写輪眼見たく万能であって欲しかったがまあいいか」

 

ミレディ「あのぉ~、いい雰囲気で悪いんだけどぉ~、そろそろヤバイんで、ちょっといいかなぁ~?核の欠片残ってるからもうあと少ししか話せないから聞いてくれない?」

 

ミレディは口答で他の大迷宮の場所を教えた

 

ミレディ「そういえばそこの君には聞いてなかったけど、君も故郷に帰るために大迷宮の攻略に乗り出してるの?」

 

ミレディはこれまであまり話していない光輝に方へ顔を向けた

 

光輝「いや、俺はお前達が倒せなかった神を倒すためにここに来ている」

 

それを聞いたミレディは嬉しそうにしながら声を荒らげた

 

ミレディ「え、ええ!?き、君マジ!?ほ、本当にあのクソったれの邪神を倒そうとしてるの!?」

 

光輝「勘違いするな…別に俺としてはこの世界がどうなろうとこの世界の人がどうなろうがどうでもいい」

 

ミレディ「……じゃあどうして神殺しを果たそうとしているの?」

 

光輝「気に食わないからだ」

 

ミレディ「…え?」

 

光輝「高いところから見下すように居座っているあいつの存在が気に食わない……ただそれだけだ」

 

ミレディ「……そっか……」

 

それにミレディがなにか納得したような態度になり、

 

ミレディ「いいかい?…君は君の思った通りに生きればいい…君の選択が……きっと…………この世界にとっての……最良だから……」

 

ミレディの体は燐光のような青白い光に包まれていた

 

その光が蛍火の如く、淡い小さな光となって天へと登っていく。死した魂が天へと召されていくようだ

とても、とても神秘的な光景である

 

ユエ「……」

 

ユエはおもむろにミレディに近づくとただ一言漏らす

 

ユエ「……お疲れ様」

 

ミレディ「!………ありがとう…」

 

その言葉を最後に、ミレディの身体淡い光となって天へと消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミレディ「やっほー、さっきぶり! ミレディちゃんだよ!」

 

ユエ/シア「「……」」

 

ハジメ「ほれ、みろ。こんなこったろうと思ったよ」

 

光輝「……」

 

ミレディ消滅を見送ったハジメ達は部屋を出て、その先の部屋へ進むとなんと小さいミレディゴーレムがいた

 

ミレディ「あれ?君達ふたりは大して驚いてないね?なんで?」

 

光輝「この眼は魔力の流れを形として視認し性質を色で見分けることが可能だ…そもそも俺達と話していた最初のお前は本体であるお前がここで遠隔操作していたのはわかっていた」

 

ハジメ「俺はこの眼の透視能力でお前がここにいたのはわかっていた。まあそもそも意思を残して自ら挑戦者を選定する方法をとっているとしたら、一度の挑戦者が現れ撃破されたらそれっきり等という事は有り得ない。それじゃあ一度のクリアで最終試練がなくなってしまうだろうが」

 

ミレディ「……ふふ、正解だよ…そこまで見抜かれてたなんて…案外あの神を殺すのは君達かもしれないね」

 

そう言うとミレディは魔法陣を起動させ始めた

 

試練をクリアしたことをミレディ本人が知っているので、オルクス大迷宮の時のような記憶を探るプロセスは無く、直接脳に神代魔法の知識や使用方法が刻まれていく

ハジメと光輝とユエは経験済みなので無反応だったが、シアは初めての経験にビクンッと体を跳ねさせた。 ものの数秒で刻み込みは終了し、あっさりとハジメ達はミレディ・ライセンの神代魔法を手に入れる

 

ミレディ「ミレディちゃんの魔法は重力魔法。上手く使ってね…って言いたいところだけど、君とウサギちゃんは適性ないねぇ~もうびっくりするレベルでないね!」

 

ハジメ「やかましいわ。それくらい想定済みだ!」

 

ミレディの言うとおりハジメとシアは重力魔法の知識等を刻まれてもまともに使える気がしなかった

 

ユエや光輝が生成魔法をきちんと使えないのと同じく、適性がないのだろう

 

ミレディ「まぁ、ウサギちゃんは体重の増減くらいなら使えるんじゃないかな。君は……生成魔法使えるんだから、それで何とかしなよ。金髪ちゃんとそこのイケメン君は適性ばっちりだね。修練すれば十全に使いこなせるようになるよ」

 

その後ハジメはミレディから攻略の証とミレディがこれまで持っていた所持品を強だ……要求して奪…貰っていった

 

ミレディ「はぁ~、初めての攻略者がこんなキワモノだなんて……もぅ、いいや。君達を強制的に外に出すからねぇ! 戻ってきちゃダメよぉ!」

 

ミレディは、いつの間にか天井からぶら下がっていた紐を掴みグイっと下に引っ張った。

 

「「「「?」」」」

 

一瞬、何してんだ? という表情をするハジメ達

 

だが、その耳に嫌というほど聞いてきたあの音が再び聞こえた。 ガコン!!

 

「「「「!?」」」」

 

そう、トラップの作動音だ。その音が響き渡った瞬間、轟音と共に四方の壁から途轍もない勢いで水が流れ込んできた。正面ではなく斜め方向へ鉄砲水の様に吹き出す大量の水は、瞬く間に部屋の中を激流で満たす。同時に、部屋の中央にある魔法陣を中心にアリジゴクのように床が沈み、中央にぽっかりと穴が空いた。激流はその穴に向かって一気に流れ込む

 

ハジメ 「てめぇ! これはっ!」

 

ハジメは何かに気がついたように一瞬硬直すると、直ぐに屈辱に顔を歪めた。 白い部屋、窪んだ中央の穴、そこに流れ込む渦巻く大量の水……

 

ミレディ「嫌なものは、水に流すに限るね」

 

まるで便所だった

 

全員が激流に飲まれ、中央の穴へと流される

 

ミレディ「それじゃあねぇ~、迷宮攻略頑張りなよぉ~!?」

 

が、その次の瞬間

ミレディの身体を紫色の骸骨の腕に掴まれた

 

この腕は光輝の万華鏡写輪眼の能力にして奥の手、『須佐能乎(スサノオ)』だ

 

その正体は光輝の持つ膨大かつ高密度の魔力で構成された骸骨の像を形成し、操るというものだ

 

人体程度なら軽く握り潰せるほどのパワーを持ち、あらゆる魔法・体術に対して強力な防御力を誇るが魔力を膨大に消費する上、全身の細胞に負担がかかるというリスクがあったので、余程なことがない限り光輝も使わないようにしていたのだが

 

光輝「貴様…このままここで終わらせてやろうか?」

 

ハジメ「いいぞ天之河!そのまま潰してしまえ!!」

 

シア「す、凄い!光輝さんあんなことできるんですね!!破壊しちゃってください!!」

 

ユエ「!光輝!!それはあなたの身体に激しい負担が掛かるもの!!すぐに解いて!!」

 

ユエは光輝の身体を心配するが他のふたりは心配せずそのまま潰すよう促す

 

ミレディ「う、うりゃあー!!ミレディちゃんをなめるなあ!!」

 

が、ミレディはその小さな身体から重力操作を発動させ須佐能乎の腕を引きちぎり拘束を解いた

 

ハジメ「いつか絶対破壊してやるからなぁ!」

 

光輝「ぐっ!…次は消えない炎を浴びせてやる」

 

ユエ「ケホッ……絶対許さない」

 

シア「殺ってやるですぅ! ふがっ」

 

ハジメ達はそう捨て台詞を吐きながら、なすすべなく激流に呑まれ穴へと吸い込まれていった

 

ミレディ「ふぅ~、濃い連中だったねぇ~。ふふ、願いのために足掻き続けなよ……さてさて、迷宮やらゴーレムの修繕やらしばらく忙しくなりそうだね……ん? なんだろ、あれ」

 

ミレディは足元に落ちている物に目が行く

 

それはミレディが見慣れてない…いや見るのが初めてのものだ

 

それもそのはず、この世界に決して存在しているわけがない物が落ちていたからだ

 

それはハジメ達地球人に済む者たちですらお目にかかる機会がめったにないシロモノ

 

そう…地球に住む者たちはそれをこう呼んでいる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プラスチック爆弾』、あるいは『C4』と

 

その直後ミレディのいる部屋

 

それと大迷宮のあちこちにハジメが仕掛けていたC4全てが起爆した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「お前C4なんていつの間に仕掛けていた」

 

ハジメ「あのウザゴーレムが作った悪質大迷宮によってスタート地点に戻された辺りからだな…せめてこのくらいの仕返ししたって罰が当たらねえだろ?」

 

 




第13.5話

https://syosetu.org/novel/307613/21.html



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第6.5話 動く者たち

 

《カズマ視点》

 

カズマ「悪いな…こんな遅くに呼び出して」

 

その日、訓練を終え…皆が寝静まる深夜に俺とアクアの部屋に浩介、幸利、そして恵里を集めた

 

浩介「それは別に構わないが…どうしたんだ?」

 

幸利「それよりお前ら大丈夫か?あまり寝てそうにないが」

 

恵里「ふたりともあれからあまり休んでないでしょ?身体は大丈夫?」

 

アクア「ありがとうね恵里。私達は大丈夫よ…それよりカズマ」

 

カズマ「ああ、んじゃあ本題に入ろうか……こんな遅くにお前らを呼んだのは他でもない……ハジメ……それと光輝についてだ」

 

浩介/幸利/恵里「「「……」」」

 

カズマ「つい昨日のことだ……アクアの天職に魂の行方を探る技能があってだな……それでハジメと光輝の魂を探った……もし死んでいるなら魂はこの世界から消えているんだが……ふたりの魂はこの世界から消えていなかった」

 

浩介「!じ、じゃあ…あのふたりは!」

 

アクア「うん……生きてたわ…ふたりとも」

 

アクアの言葉を受け、三人は周りに気づかれないように大声を出さなかったが

 

幸利「そ、そうか…生きているんだな…あいつら!!」

 

浩介「は、はは…マジかよ」

 

恵里「生きてたんだ…本当に生きてたんだ!!」

 

それぞれ嬉しそうに口を並べた

 

カズマ「んでさ、本来ならすぐにでも救出してやりたいところなんだが……いくつか問題がある…」

 

そう言い俺は指を一本立たせた

 

カズマ「その1、あいつらが落ちて生きている階層は恐らく未開の地だ……集団で行けば安全だがその分進むのが遅い……その2、仮に救出できてもあいつらがまともな扱いを受けられる確実性がない……もうあれから一週間経つっていうのに未開の地で食料もなしで生き延びている時点でまともな状態ではないと思う……もし連れて帰ってみろ…教会の連中がなにを言い出すか……そして3つ……今のクラスはバラバラになっている……戦いを恐れて進めない者……協会や王国に従いたくない者……そして天之河兄に付いていき戦う者の3つにな……最初は天之河兄の言葉に流され表面的には一つだったクラスがだ……」

 

浩介「……ならカズマ……どうするつもりなんだ?」

 

カズマ「そうだな……本来ならまずはふたりの救出から先だ……と言いたいところだが……敢えてそれは後回しにする」

 

幸利「なっ!?なんでだ!!」

 

カズマ「勘違いするなよ…別に見捨てるつもりで言ってるんじゃない……実はふたりの魂の行方を見つけた後もアクアに見てもらっていたんだ……」

 

ここでアクアにバトンを譲る

 

アクア「あのふたりの魂が強くなっているわ……これは大迷宮の下層のほうでなにかして強くなってるって考えるのが自然だわ……」

 

カズマ「それにな……あのふたりはそう簡単にはくたばらない……そんな気がするんだ……まあ勘だけどな」

 

浩介/幸利/恵里「「「……」」」

 

俺の言葉に三人はなにかを考える素振りを見せ

 

幸利「はぁ…わかった…とりあえずはそれで納得してやる」

 

浩介「でも助けないまま、ってわけじゃないだろ?」

 

カズマ「当然だ」

 

恵里「じゃあいつになったら救出しようと考えてるの?」

 

カズマ「その前にいっておくが、あのふたりが生きている事は他言で頼む……」

 

浩介「はあ!?どうしてだよ!」

 

カズマ「あのふたり…ただでさえ無能って扱い受けているのに今生存していることが知られれば連中が何するかわからねえ…最悪異端者にかけるかもしれないからな……それと、クラスはハジメと光輝のふたりが死んだと思っている……その為精神的に落ち込んでいる…いくらメンタルケアをしたからって、平和な日本で学生として過ごしていたアイツらからすればさっきまで普通にいた奴らの突然の死という体験………この先あいつらがそれをどう乗り越えていくか……大事になる」

 

恵里「……つまり、精神的な成長のために敢えて…?」

 

カズマ「そもそも異世界転移に加え世界を救ってくれるよう頼まれて浮かれていた奴らだ…いかに自分達が軽い気持ちでいたってことが今度のでわかっただろうな……少なくともこれを乗り越えて自らの意思で考えて動いていく必要がある……とりあえず2ヶ月だ……その2ヶ月の間にクラスの実力と精神状態の変化を見届けて……それから色々やってから俺とアクアで救出に行くつもりだ」

 

幸利「はあ!?いや待てよ!いくらふたりのステータスが高いからって流石にふたりだけじゃ…」

 

カズマ「……これは内緒だぞ?」

 

俺は自身のステータスプレートを見せた

そしてアクアも自身のステータスプレートを見せた

 

これには全員が驚いた

 

浩介「な、なんだこのステータス!!」

 

幸利「ま、魔力が万単位…!?」

 

恵里「それになんなの…この技能の山は……」

 

カズマ「騒ぎになるとまずいから隠していた……これで俺達の実力なら問題ないことがわかっただろ?」

 

浩介「あ、ああ…」

 

カズマ「とにかくだ……俺はまずお前たち三人を鍛えたい…だからこれから2ヶ月、どんなことがあろうと生き残れるよう厳しく鍛えたいと考えている……どうかな?」

 

浩介/幸利/恵里「「「……」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

浩介「俺は…強くなりたい……この世界で生き残るために…故郷に帰るために…」

 

幸利「……俺もだ…」

 

恵里「僕も……だから教えて…強くなるための方法を!!」

 

カズマ「……ふぅ…これから毎日、昼間の訓練が終わって、晩飯が終わったら指定した場所に集合だ…内容は俺が決める……みんな…必ず俺達は故郷へ帰る……いいな?」

 

浩介/幸利/恵里「「「ああ/うん!」」」

 

こうして俺達は他のクラスメイト達とは別で団結し、新たな派閥を作った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




第七話

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第9.5話 動き出す者たち

 

《カズマ視点》

 

カズマ「ふぅ……やっぱふたりだけだと探索が早く済むな」

 

アクア「そうね…後周りに誰もいないから堂々と本気出せるしやりやすいわ」

 

2ヶ月が過ぎ、俺とアクアは現在オルクス大迷宮を探索している

 

現在97階層に到達しており、これはこの世界の人類が到達できた最高地点を超えていることになっている

 

下の階層に進めば進むほど魔物が強くなるがそれでも俺達の敵ではなかった

 

なんだったらベヒモスとも遭遇したが一分で片付けた

 

アクア「それでカズマ…勘は戻ってきた?」

 

カズマ「ああ、ちょっとずつだが全盛期の頃の勘が戻ってきている…この分ならあいつらと再会するまでには完全に全盛期を取り戻せるはず」

 

あれから2ヶ月が経過し、俺とアクアはメルド団長に今の人間側と魔人族側の戦局を知るため、見聞を広げるために旅立つと言った

が、実際はメルド団長に本当のことを話し、メルド団長が俺達に気を利かせてそういう名目で許可した

 

あの人は教会や国側の中でも数少ない俺達クラスメイトの事を考える良識な人だったこともあり俺は信用している

 

カズマ「それより…あいつらうまくいってるかねえ…」

 

アクア「幸利は途中で愛ちゃん先生の護衛隊の方に行っちゃったしね…おかげで最後まで鍛えられたのは浩介と恵里だけなのがね…」

 

カズマ「まあ大丈夫だと思うが…とはいえ少し心配だな」

 

この2ヶ月、俺は途中で離脱した幸利を除いたふたりを鍛えながら、かつての異世界でも行った商品開発をこの世界でも実施した

 

結果この世界には存在しない物が飛ぶように売れ気づけばこの世界での俺の個人財産はそこらの貴族以上にまで蓄えた

 

幸利のことは正直まだ鍛えてやりたいとは思ったがこれは幸利自身の意見と俺の考えから幸利には愛子先生の護衛隊に配属するように頼んだ

 

愛子先生の天職は『作農師』と言いその最大の特徴は食料の生産特化である

 

戦争に置いて、食料や物資の補充は重要であり、食料の蓄えがあるだけでも戦局や戦争の士気に大きく影響を与える

 

その為魔人族側からすればある意味愛子先生は勇者以上に厄介で早急に排除したい対象であるといえる

 

その愛子先生の護衛隊にはクラスメイトでも上位カーストの園部優花(そのべゆうか)とその他複数名が名乗りだした

 

だが本人たちは曰く『愛ちゃんをどこの馬の骨とも知れない奴に渡せるか!』と いう意思からだったようだ

 

その訳というのは愛子先生の護衛の為に配属された騎士たちなんだがそいつら全員が全員、凄まじいイケメンだったからだ

 

大方愛子先生という人材を王国や教会につなぎ止めるための思惑

要はハニートラップみたいなものだろう

 

それに気がついた生徒の一人が生徒同士で情報を共有し「愛ちゃんをイケメン軍団から守る会」を結成した

 

まあ元々幸利は園部達のパーティに配属(という名の潜入)をしようとしていたので時期が早まったと言うべきだ

 

そもそも俺は浩介、幸利、恵里にはそれぞれ役割を与えようと考えていた

 

浩介にはふたつある前線組のパーティーの1つである永山の率いるパーティに入り皆の士気を上げながら攻略の手助け

 

幸利は園部のパーティに入り愛子先生の護衛と園部達が未だに戦いの恐怖が抜けきれてない為その補助とメンタルのケアを

 

そして恵里にはもう一つの前線組であり今のクラスの最大派閥である天之河兄率いる勇者パーティーに加入(という名の潜入)し攻略の手助けと勇者パーティ内の情報を集めること

これは天之河兄の人間性を完全に理解するためや奴に勇者のいや、イチパーティーを率いるリーダーとしての資質があるかを見極める為だ

 

後このパーティーには恵里の親友である谷口鈴(たにぐちすず)も所属しており、恵里自身もこのパーティーに入りたがっていた

 

以上のパーティー3つは現段階のクラスのパーティーでも特に大きく、ゆくゆくはこの3パーティの統合とそれに伴い今は恐れて戦えない者たち全員が故郷に帰るために一致団結させることが最終的な目的だ

 

頑張れよお前ら

 

特に幸利

俺がお前を園部のパーティに加入させたのはお前のためでもあるんだからな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクア「ねえカズマ…この大迷宮って100階層までなのよね?」

 

カズマ「……そのはずだ」

 

アクア「でももう私達140階層位まで来てるはずよね?」

 

カズマ「……もしかしてだが……地上から100階層までっていうのはあくまで本当の大迷宮へとたどり着くまでの仮のもので…100階層超えてからが真の大迷宮ってことなのかも知れない…」

 

アクア「そ、そんなのってありなの!?…考え過ぎじゃなくて?」

 

カズマ「……いや、その可能性は低いな……なぜなら100階層を越えたあたりから魔物の実力が数段階も上がっている。お前も見ただろあの兎」

 

アクア「確かに強かったわね…でもあの兎なんかおかしかったのよね…他の魔物と違って知性感を感じさせるっていうか、私達の言葉を理解してたような気が…」

 

カズマ「俺がボコった後仰向けになって『殺すなら殺せ、喰うなら喰え』って態度取ってたな」

 

アクア「それでカズマが『俺は兎肉は嫌いだし無駄な殺しはしないから』って言ったらなんかすぐ居なくなったわね……でも本当に見つかるかしらふたりとも」

 

カズマ「……多分いると思うぞ…これ見てみろ」

 

アクア「え?」

 

俺は地面に落ちていたとある物を拾いアクアに見せた

 

アクア「こ、これって…」

 

カズマ「銃の弾丸だな……この世界には拳銃なんてもの存在してない、ましてやここは人類未探索の階層だ…これがあるはずないんだよな……地球出身のやつでもいない限りは…」

 

アクア「!!つまり…これって…」

 

カズマ「ハジメだなこれ作ったのは……それによくよく考えたらあいつミリオタだったしあり得るな……それとよく見たら壁や地面をなにかが斬った跡が残っている……斬るといえば…光輝は剣持っていたな……」

 

アクア「カズマ」

 

カズマ「ここからは少しスピード上げていくぞアクア」

 

こうして俺とアクアは真のオルクス大迷宮を駆け抜けていった





第十話

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第十四話 思わぬ再会

 

無事ライセン大迷宮を突破し、次の目的地である

商業の都市フューレンへとたどり着いたハジメ達一行

 

そこで太った貴族にユエとシアが目をつけられ一悶着あった(ハジメは貴族の雇った冒険者を潰し、光輝は月読に掛け多大な精神的苦痛を与え廃人寸前に追い込んだ)がともなく、フューレンの冒険者ギルドにて支部支部長イルワ・チャングと対面し、ここへ来る前にキャサリンオバチャンから渡された(色々規格外でトラブル起こすだろうからと)手紙を渡すと色々とこちらの都合を汲んでくれた

 

なんでも王都のギルド本部でギルドマスターの秘書長をしており、当時マドンナ的存在、あるいは憧れのお姉さんのような存在だった

その後ギルド運営に関する教育係になり各町に派遣されている支部長の五、六割はキャサリンの教え子だったそう

しかし結婚してブルックの町のギルド支部に転勤した。その結果各町のギルドの教え子たちは荒れるに荒れたそうな

 

そんなイルワから依頼を受けてくれないかと話をされた

 

なんでも自身の友人であるとある冒険者志望の貴族の息子が北の山脈地帯で最近に魔物の群れを見たという目撃例が何件か寄せられ、その調査依頼に臨時で組んだパーティメンバーと行った後、魔物の襲撃にあい臨時でパーティを組んだメンバー達は怪我こそすれど命は落とさなかったが逃げる途中ではぐれたらしく、その貴族の息子『ウィル』を探してきてほしいと

 

それについてハジメは3つ条件を出し、それを呑むなら受けるといった

 

一つ目はユエとシアにステータスプレートを作ること

 

二つ目はキャサリンオバチャンの手紙の内容を他言無用にすること

 

そして最後にギルド関連に関わらず、イルワの持つコネクションの全てを使って、ハジメ達の要望に応え便宜を図る

 

最後のやつは実質ハジメ達の手足になると言うことになる

 

それには当初イルワは苦い顔になったができる範囲でならと条件を呑んだ

 

そして一行はその北の山脈地帯へ向け再びバイクを走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

愛子「な、南雲君!?それに天之河君!?」

 

ハジメ「げ…」

 

光輝「畑山…」

 

北の山脈地帯へと向かう途中にある湖畔の町ウルにて今晩は寝泊まりしようと訪れたハジメ達

 

そこではなんと自分達と同じように異世界転移で巻き込まれた社会科教師の畑山愛子と、園部優花を始めとしたクラスメイト(菅原妙子、宮崎奈々、相川昇、仁村明人、玉井淳史)たちも居た

 

園部「嘘…南雲!?」

 

ハジメは内心ここで顔見知りと会うのは色々面倒だと思っており、できれば知らないふりしたかったが…流石に無理があると思いやむなく軽く話しだけはすることにした

 

愛子「なっ!?な、南雲君!!複数の女性と関係を持つなんて不純ですよ!!」

 

ハジメ「いや俺はユエとだけ持ったつもりなんだが」

 

愛子「天之河君も!南雲君が複数の女性と関係を持つことをなぜ止めなかったのですか!?」

 

光輝「知るか、こいつが例え100人の女と関係を持とうが、その果てに包丁で背中からぶっ刺されたとしても俺は知らん」

 

愛子「それよりもなぜふたりともそんな風になったのですか!?」

 

ハジメ「色々あってな…話すと長い…簡潔に言えば命がけで生き残ろうと足掻いた結果だ…髪は痛みで色が抜け落ち、腕と目はその過程で失くした…以上だ」

 

愛子「そ、そんな…」

 

愛子は変わり果てたふたりの生徒の経緯に心が押し潰れそうになった

 

本来なら大人である自分が生徒を守らなければならなかったというのに、守れなかったばかりかふたりとも体の一部を欠損する程の重症を負ったのだから

 

が、ハジメと光輝…そしてユエとシアは特に気にすることもなくニルシッシル(異世界版カレー)を食べる

 

その様子にキレたのは、愛子専属護衛隊(ミイラ取りがミイラになり騎士団が皆愛子の虜になった)隊長のデビッドだ

 

愛する女性が蔑ろにされていることに耐えられず拳をテーブルに叩きつけながら大声を上げた

 

デビッド「おい、お前! 愛子が質問しているのだぞ! 真面目に答えろ!」

 

ハジメは、チラリとデビッドを見ると、はぁと溜息を吐いた

 

ハジメ「食事中だぞ? 行儀よくしろよ」

 

全く相手にされていないことが丸分かりの物言いに、元々、神殿騎士にして重要人物の護衛隊長を任されているということから自然とプライドも高くなっているデビッドは、我慢ならないと顔を真っ赤にした。そして、何を言ってものらりくらりとして明確な答えを返さないハジメから矛先を変え、その視線がシアに向く

 

デビッド「ふん、行儀だと? その言葉、そっくりそのまま返してやる。薄汚い獣風情を人間と同じテーブルに着かせるなど、お前の方が礼儀がなってないな。せめてその醜い耳を切り落としたらどうだ? 少しは人間らしくなるだろう」

 

この世界の亜人への差別意識というのは本当に酷く、ここへ来る前のブルックでもシアには首輪をかけ奴隷のように見せかけなければすぐにでも人攫いや迫害を受けることになっていた

 

あんまりと言えばあんまりな物言いに、思わず愛子が注意をしようとするが、その前に俯くシアの手を握ったユエが、絶対零度の視線をデビッドに向ける。最高級ビスクドールのような美貌の少女に体の芯まで凍りつきそうな冷ややかな眼を向けられて、デビッドは一瞬たじろぐも、見た目幼さを残す少女に気圧されたことに逆上する

 

デビッド「何だ、その眼は? 無礼だぞ! 神の使徒でもないのに、神殿騎士に逆らうのか!」

 

ユエ「……ちっさい男」

 

唯でさえ、怒りで冷静さを失っていたデビッドは、よりによって愛子の前で男としての器の小ささを嗤われ完全にキレた

 

デビッド「……異教徒め。そこの獣風情と一緒に地獄へ送ってやる」

 

無表情で静かに呟き、傍らの剣に手をかける

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、次の瞬間、突如剣を持った手をおろし、更には震えながら涙を流しなぜか愛子に謝罪するというさっきとはまるで違う態度を浮かべた

 

周りにいたデビッドの部下の騎士達はそんな隊長の様子にオロオロしだした

 

ハジメ「……お前…またかけやがったな…幻術を」

 

ハジメは光輝に目を向けそう言うと光輝は

 

光輝「食事中は静かに食べたいから黙らせた」

 

そう返しながら食事を続けた

 

ユエ「……ちなみに掛けた幻術の内容は?」

 

光輝「奴は畑山に好意を抱いていたようだったから自分が畑山を斬ってしまいオマケに斬った畑山から呪詛を吐かれるって内容だ」

 

ユエ/シア「「うわ…残酷」」

 

光輝「この程度の幻術で精神を崩してしまうあいつが悪い……」

 

平然とした態度で返す光輝

 

やがて騎士達はデビッドを連れて奥の部屋に休ませに行った

 

愛子「あ、あの南雲君達はなぜここへ」

 

ハジメ「依頼だ依頼……この先にある山脈地帯へな……それと俺はクラスに戻るつもりはない…やることがあって旅をしている最中だ……一晩寝たらすぐ立つつもりだ」

 

愛子「そ、そうですか……できればあなた達にも手伝って欲しかったです」

 

ハジメ「農業をか?それこそホームレスとか手の開いてる奴らに食料と引き換えの労働力として雇えば済むだろ」

 

愛子「い、いえそうではなくて………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

清水君が居なくなって」

 

ガチャリッ!

 

その時、テーブルからスプーンが一つ落ちていった

 

そして

 

ハジメ「…おい、それ…どういうことだ……幸利が行方不明ってどういうことだ!!」

 

今までユエや愛子達が見たこともない動揺した様子のハジメ

 

そのあまりの迫力に愛子は涙目になり事情

 

愛子「に、2週間前の事でした……清水君が謎の失踪を遂げてずっと行方を探りましたが未だに見つからず……」

 

ハジメ「ッ!」

 

ハジメは自身の義手となっている方の手を強く握り、色々考えた

 

当初の予定としてはさっさと依頼達成させて次の迷宮へと行くはずだったがまさかの同郷と再会、そして自身と親しかった友人の清水幸利の失踪

 

その考えに考えた末の結論は

 

ハジメ「……ユエ…シア…天之河…寄り道だ…依頼達成と幸利の捜索だ」

 

愛子「!」

 

園部達「「「「「「!!」」」」」」

 

ハジメ「それから先生達もだ…着いてきたけりゃあ明日の早朝宿の前に来い…遅れて来れば問答無用で置いていく…」

 

愛子「!は、はい!!」

 

こうしてハジメ達一行は愛ちゃん護衛隊を引き連れ依頼と幸利捜索に乗り出すことにしたのだった

 

 





原作のハジメなら問答無用で自分の目的を遂行させますがここのハジメは友達思いであり目的を蹴ってでも優先させます。

第十五話

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第13.5話 少年少女の珍道中

 

《カズマ視点》

 

カズマ「ふう…随分と面倒な相手だったなあのヒュドラ」

 

アクア「そうね…しかも首一つ一つに役割があってやり辛かったわ…前の世界で戦ったクーロンズヒュドラよりも面倒だったわ」

 

カズマ「まああれデストロイヤーとぶつけさせて一気にトドメ指してたけどな」

 

あれから攻略スピードを進め、ようやく真の大迷宮100階層に到達した

 

そのまま進むとこの大迷宮にはとても場違いな建物があり、中を調べた

 

そこでわかったのはこの大迷宮はかつて解放者の一人であるオスカー・オルクスの隠れ家だった場所であり、中には映像としてオスカーのメッセージが残されていた

 

カズマ「……ここまではエリス様が教えてくれたとおりだったな」

 

アクア「そうね……それにしても聞けば聞くほどエヒトって奴本当に度し難い、最っ低のクズね」

 

カズマ「全くだ…多くの命を弄び、あまつさえそのことに一切の罪悪感を抱いてない……狂ってるな…」

 

これまで俺の出会った神は皆良くも悪くも人を愛していた…邪神と呼ばれながらも自分が爆裂魔法を教えた少女の成長を見届けながら逝った風呂好きの邪神

 

どれだけ面倒なことがあろうと自身が友人と呼んだやつのために何度も何度も手助けしてくれた幸運の女神

 

そして…面倒事を起こしてばかりだけどいつだって多くの人々と楽しむ心を持ち、上からではなく人の目線になって話し、いつも俺や仲間を支えてくれた水の女神

 

俺の中での神の定義は人を良くも悪くも愛し、時には手助けしたり、時には試練を与え人の成長進化のきっかけを与える存在だと思っている

 

ただこいつは人を愛する以前に自分の快楽を満たす玩具程度でしか見ておらず、助けるどころか苦しむ様を笑ってみている

 

俺の横にいるこいつはたしかに面倒事を起こすが、辛い時も楽しい時も悲しい時も幸せな時だって俺達とずっと一緒にいた

 

俺はこいつに対し信仰心なんてものは持ち合わせてないが、こいつのことは自分以上に大切に思っている

 

アクア「ん?どうしたのカズマ?」

 

カズマ「ん…いや別に…お前はあのクズ神みたいにならなくて良かったってな」

 

アクア「はあ!?何言ってるのよ!誰があんな奴みたいに好き好んでなるのよ!」

 

カズマ「わあってるよそんなこと…お前がなるわけないってことくらいな……」

 

アクア「大体私は人のことは好きよ……神々にはない力と魅力を持ってる所とかね」

 

カズマ「ああ美味い酒作ったり美味い飯作ったり面白いゲーム作ったりな」

 

アクア「まあそれもあるけど……でも私はそれ以上にカズマのことが大好きよ」

 

カズマ「ッ!」

 

アクア「あ///いやカズマだけじゃなくてめぐみんやダクネスのことも…あ、後地球人に転生したあとはハジメに恵里、それに幸利とかもね……あ、でも異性として云々って意味じゃ///」

 

アクアが照れ顔で口調が普段より少し遅れている

 

カズマ「ふ〜ん……んで……異性としては?」

 

アクア「……もう///…わかってるくせに」

 

アクアは俺の手を握ると俺に顔を向け一言漏らす…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクア「転生する前も転生した後も…私が心から愛した男はカズマだけよ………カズマは?」

 

カズマ「……ふっ…お前こそわかってるくせによ………俺だってそうだ……ずっと愛しているさ……お前も……そんであいつらもな」

 

アクア「フフッ…今のセリフ、ふたりにも聞かせてあげたいわ」

 

カズマ「そういえばあいつらはたしかにトータスに転生する手筈だったが…未だに見つからないな……」

 

アクア「きっと居るわよ…必ず見つけましょ…そしてみんなで一緒にエヒト倒して、残りの二度目の人生はみんなと一緒にイチャイチャしながら余生過ごそ?」

 

カズマ「……そいつは…悪くない余生だな」

 

そう言いながら俺は指先をアクアの顎を掴むと、アクアと唇を重ねた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「ここらは魔法が使えなくて面倒だな…いや、使えないこともないが」

 

オルクス大迷宮を抜け、ライセン大峡谷に到着したが、ここでは発動した魔法に込められた魔力が分解され散らされてしまう

 

一応込める魔力量を増やせば発動することはできなくもないが

 

アクア「ここ、ハジメ達は歩いていったのかしら…道中の魔物倒しながら…」

 

カズマ「……いや、恐らく乗り物だな」

 

アクア「え?」

 

カズマ「ほら、よく見てみろ…地面には何かの通ったあとが残っている……このあと…まるでバイクだな……そう言えばオスカーの隠れ家で神代魔法手に入ることができていたから恐らく移動用にって作ったんだな…」

 

アクア「ゲッ…じゃあどうする?一旦戻ってカズマも作る?」

 

カズマ「俺生成職じゃねえから作るのに絶対時間かかるな……止む終えない…アクア、乗れ」

 

アクア「の、乗れって…もしかしてカズマ」

 

カズマ「俺の背中に乗れ…そんで『魔力活性』の身体強化と両足にエンチャント掛ければ速く進める」

 

アクア「で、私はカズマが魔力切れを起こさないように『ドレインタッチ』で魔力補給するための魔力ポンプ代わりになるわけね」

 

カズマ「ああ」

 

そう言いアクアを背中に乗せ

 

カズマ「『エンチャント』」

 

両足に風と雷魔法を付与し、一気に走り出した

 

疾風迅雷(シップウジンライ)

 

両足に風と雷の魔法を付与する事で圧倒的な速度で動き回ることができる

 

なおこれは常時魔力が消耗するため前世でもあまり使わなかったが俺の背中には膨大な魔力を持つアクアがいる為魔力吸収をすることができるため長時間移動ができる

 

このときの俺は地球のそこらのバイクより速いと思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カム「いやー面目ない…まさかボスとリーダーのご友人に喧嘩を売るとは本当に申し訳ない……」

 

カズマ「いやいいよ。あのふたりがここを通ったことがわかっただけでも収穫あったし」

 

その後も走り続けるとハウリア族と呼ばれる兎人の亜人族と遭遇

 

襲ってきたが難なくいなした

 

こいつら中々の連携に身体能力と気配感知能力を持っていて強かった

 

多分地上のそこらの冒険者より強いな

 

それにしてもハジメと光輝め…何やってるんだ

 

ハウリア以外の亜人と出会い話しを聞くところによると元々のハウリア族はこの地に住む亜人の中でも弱小であり戦いを好まない温厚な性格だったそうだ

 

しかしハジメと光輝がこいつらを鍛えてしまった結果、この地に住む亜人族の中でも最強に上り詰めたらしい

 

戦いを好まないとか温厚とかの面影がねえな

 

その後ハウリア族の族長であるカム曰く、ハジメ達は大迷宮攻略のために旅に出たそうだと

 

しかしこの地にある大迷宮は他の大迷宮を突破しなければ行けないため後回しにしたそうだ

 

まだまだあいつらに追いつけなさそうだな…

 

 





第十四話

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第十五話 竜人族の女性

 

ハジメ「は?」

 

翌日北の山脈地帯に到着し、貴族の息子ウィルと幸利を探しにきたハジメ一行と愛ちゃん護衛隊の面々は、魔物を討伐しながら探していた

 

道中ハジメは白眼を、光輝は写輪眼を開眼して探し回った

 

すると光輝の写輪眼には大きな魔力の跡を見つけ、ハジメの白眼には大きな魔力の塊の近くに小さい魔力の塊を見つけ出した

 

もしかすればあれがウィルで、そのでかい魔力の主が襲おうとしているのかと思い、皆が急ぎ足で近づいた

 

が…魔力の塊のある洞窟へ到着し彼らの目に写ったのは

 

ウィル「あ、あのティオさん……み、みなさんが見てますので」

 

ティオ「ふふ…見てるなら見せつければよいではないかご主人様」

 

なんか二十歳くらいの青年に抱きつく和装格好の黒髪金眼の美女だった

 

ハジメ「あ、ああー、お前がウィルであってるか?」

 

ウィル「あ、はい!私がウィル・クデタです!」

 

ハジメ「俺達はフューレンのギルド支部長イルワ・チャングからの依頼で捜索に来たんだが…思ってたより元気だな……それと…ウィルに抱きついているそこのお前は何者だ?」

 

ハジメはドンナーを取り出しながらウィルに抱きついている女性に目を向けた

 

ティオ「う、うむ…申し遅れた。妾の名は『ティオ・クラルス』。最後の竜人族クラルス族の一人じゃ」

 

ユエ「竜人族!?」

 

ティオの自己紹介にユエが驚いていた

 

ハジメ「……竜人族っていやあかつて滅んだと言われた種族だったな……たしか…人にも魔物にも成れる半端者にも関わらず恐ろしく強く、どの神も信仰していなかった不信心者……って俺は聞いていたぞ」

 

ティオ「うむ…その認識であっておるぞ」

 

シア「え、えっと…ウ、ウィルさん…その…あなたのことはイルワさんから聞きました。なんでも臨時でパーティを組んでいた人達と魔物の襲撃時に離れ離れになったらしいと……」

 

ハジメ「……何があったんだ…それとなんでこの竜人族とイチャコラしてるんだ?」

 

愛子「南雲君!?」

 

ウィル「そ…それが…」

 

ウィルは臨時で組んでいた冒険者たちと別れたあとの事を話した

 

魔物の襲撃を受け逃げ続けていた所

突如竜化したティオが現れ、襲われた

 

ティオは周りにいた魔物を全て倒した後ウィルの事も狙った

 

追い詰められ、もう駄目かと思っていた時だった

 

なんとティオがウィルに語りかけた

 

ティオはウィルに言った

 

自分は操られている

少しの間自分を抑えているからそのうちに逃げろと

それに驚いたウィルは逃げようとしたが、苦しみながら自分を抑えているティオの姿になにか思うところがあったのか

 

逃げずにティオにどうすれば助けられると聞き、それにティオは当初驚いたがすぐに、強い一撃を喰らわせることができれば或いはと言われ、非力ながらもどうすればいいか考えたウィル

 

その時竜化した状態のティオの背後にある坂に倒れている大木を見てダメ元でウィルは動いた

 

坂の方まで行くと大木を力いっぱい押しこみ少しづつ下り坂まで持っていき、最後に大木を坂から滑り落とすことに成功した

 

が、ここで一つのハプニングが発生した

 

このときウィルはダメ元でティオの腹(強固な鱗)に向けて大木をぶつけるつもりだった

 

しかし、滑り落ちる途中で軌道がズレ、直撃した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ケツ穴に

 

ティオ『アッーーーーー!!お尻がぁ~、妾のお尻がぁ~!!』

 

光輝を除いた一行「「「「えぇ…」」」」

 

それに驚きつつも、どうにか操り状態から脱却できたのを見届け、つい気が抜け落ち気絶したそうだった

 

そして次に目が覚めたときには洞窟の中にいて、自身のそばには和装の美女が手当していた

 

その女こそがあの竜、ティオの人の姿

 

ティオは自身を救ってくれたウィルに感謝した

 

が、それだけではなく

なんとウィルに惚れてしまったそうだ

なんでも自身の住んでいる隠れ里でも、一、二を争うくらいの実力を持ち、特に耐久力は群を抜いていて、今まで痛みらしい痛みを受けることが殆ど無かったのだとか

それがまさか自身に激しい痛みを与えたウィルに惚れてしまったそうだ

 

ハジメ「……つまり…ウィルのせいで新しい世界に到達してしまったのか」

 

ティオ「そうじゃ!妾、自分より強い男しか伴侶として認めないと決めておったのじゃ……じゃが、里にはそんな相手おらんしの………初めてじゃったのに……いきなりお尻でなんて……しかもあんなに激しく……もうお嫁に行けないのじゃ……じゃからご主人様よ。責任とって欲しいのじゃ///」

 

そうティオは息を荒くしながらウィルに迫った

 

ウィル「ええ!?あ、あの!た、たしかにそれについては私の責任だと思います……で、ですが……」

 

ウィルがハジメ達に助けて求めるかのように視線を向けるがハジメ達はというと

 

ハジメ「あー…責任は取るべきだな」

 

ウィル「!?」

 

ユエ「ん…責任は取るべき」

 

シア「せ、責任は取るべきだと思いますですぅ」

 

園部「え、ええっと…せ、責任は取ったほうがいいと思う…」

 

愛子「と…とりあえずは責任を取るべきだと思います」

 

と、責任は取れと言われ…さっきから無言だった光輝ですら『責任取れ』と一言漏らされた

 

ハジメ「つうかウィル…そもそもお前なんで逃げなかった」

 

ウィル「!」

 

ハジメ「お前わかっていたはずだろ?自分がいかに非力で脆弱だと……なのになぜ逃げずにティオを助けた?……怖くなかったのか?」

 

ハジメはウィルになぜ逃げなかったのか聞いた

 

ウィル「た、たしかに最初は怖かったです……正直に言いますとティオさんに襲われていた時…本当に助からないと思いました……ですがティオさんが私に逃げるように言われた時安心しました…これで助かると……そう思って逃げようとした時……苦しそうにしているティオさんを見て……気づきました……」

 

ハジメ「何をだ」

 

ウィル「ティオさんがとても優しい人だと」

 

ティオ「!」

 

ウィル「だって貴女は……あんなにも苦しそうに洗脳に抗う程…私を殺すのが嫌だったんですよね?……これが人を殺すことになんの抵抗もない人なら…いくら洗脳されていたとはいえ私なんかの命を奪うことになんの躊躇もないはずだったから……そう思ってしまったら…恐怖心とか、逃げられる安心感とかが吹っ飛びました…そしたら考えるよりも先に身体が勝手に動きました」

 

ウィルがそう言うと周りの空気が変わった

 

愛子と愛ちゃん護衛隊の面々にユエやシアの表情が明るくなった

 

光輝「………強くなければ…自分や他人を守ることはできない」

 

そこへこれまで話さす見ていた光輝が割って入った

 

光輝「弱者はふたつ存在している……力も心も弱い弱者……そして、自分よりも弱いと思っている奴を痛ぶり蔑む事で自身を強者だと勘違いしている…強者の皮を被った弱者が…貴様は前者だ」

 

ウィル「……」

 

光輝「が……お前の場合は……力は弱いが心は弱くない(・・・・・・・・・・・)

 

ウィル「!」

 

光輝「今は弱いが…お前には将来性がある……その心を忘れない限りな」

 

光輝はそう言うと洞窟から出ていった

 

ハジメ「……あいつが他人を評価するなんてな」

 

ユエ「ん…珍しい」

 

ティオ「ご主人様…」

 

ウィル「う、うぇぇ///テ、ティオさん!?」

 

するとティオがウィルを抱き締めた

が、さっきと違い今度は優しくそれでいて息を荒くせずにだ

 

ティオ「そんな…そんな理由だけで妾を助けてくれたのじゃな」

 

よく見るとティオの頬は紅くなっており…さっきまでのマゾっ気は一切出さず只々ウィルに対しての好意だけが感じられた

 

ティオ「妾はご主人様に好意を抱いたのは妾を救い痛みを与えたからじゃったが……今のご主人様の言葉を聞いて…ますます好きになったのじゃ〜///」

 

ウィル「ええええ!?///」

 

ハジメ「お前もうそいつ貰ってやれ」





光輝は基本敵対している者や他人を貴様呼ばわりするが認めた相手には『お前』呼びするようになる


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第十六話 規格外の怪物達対魔物達

 

ハジメ「おい急げ!!お前が言っていることが本当なら今頃魔物の群れが町に向かっている真っ最中だぞ!」

 

ティオ「言われずとも今の妾に出せる最高速度で飛んでおる!!」

 

シア「あ、ハジメさん!見えてきました!!」

 

無事ウィルを救出した一行であったが、ティオからとんでもないことを聞かされた

 

そもそもティオが隠れ里からここまで来たのには、エヒトに呼ばれた神の使徒に関する情報を集めるために調査しに来ていた

 

が、その前に休息を取るために睡眠状態になった

その間はよほどなことがない限り起きない為、その間にローブを着た男に洗脳や暗示などの闇系魔法を多用して徐々にその思考と精神を蝕んでいった

 

洗脳されたあとはローブの男に従わされ魔物の洗脳を手伝わされ、数多くの魔物を洗脳してきた

その数およそ数千以上

 

しかし、洗脳が不完全だったのか

途中で逃げ出すことができ、その道中でウィルと遭遇したそうだった

 

一行はティオを洗脳したものに心当たりがあった

 

特にハジメはそれが誰なのかすぐに頭に思い浮かんだ

 

だが、それをする動機があるのかと考えた

 

そこへ光輝が最悪のシナリオを口ずさむ

 

光輝「……例えばだ……大量に集めた魔物を人のいる町に放てば一日も待たずに滅ぼすことができるな」

 

ハジメ達「「「「!!」」」」

 

光輝「それと、ここから一番近い町はここからそんなに距離がなかったな」

 

その言葉に全員の脳裏に浮かんだのは、一番近い町は……ウルが大量の魔物の襲撃を受け、無惨に壊滅された姿だった

 

すぐに町へ戻ろうと一行は動き出した

 

そこへティオが自らが町へ送るとかってでて、竜化しその背中に皆を乗せた

 

竜化したティオの姿は黒竜であり、全身が硬い鱗に覆われており、ハジメですらも戦えば少し面倒だったと言わしめるほどだった

 

やがて一行は町にたどり着き、迫ってくる魔物の群れに備えた

 

魔物の群れが迫ってくると知ると町は大パニックとなり、統制が乱れた

 

そこでハジメは愛子を『豊穣の女神』と呼び、更には愛子が居れば我々は勝てると大きく名乗りを上げ、極めつけは持っていたシュラーゲンを使いこちらへ向かってくる飛行系の魔物を討滅してみせた

 

なおこれをやったのには色々理由があるが一番の理由は何か面倒事があったとき良いように押し付けるためである

 

それを見た町の住人達は落ち着きを取り戻し皆が大声で

 

「「「「「「愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳! 愛子様、万歳!」」」」」」

 

と騒ぎ出した

 

これには愛子本人は青ざめた

 

なおこれをやった当の本人は素知らぬ顔で次の準備を進めた

 

ハジメはユエ達にそれぞれ自身の作った武器を渡し、用意する

 

ハジメは白眼を開眼し、魔物の群れの奥で魔物を操っている存在を見つけた

 

ハジメ「……幸利」

 

ユエ「?……魔物を操っている人とハジメはどういう関係?」

 

ハジメ「……ダチだよ…俺が大迷宮から落ちる前まで普通に話していたダチだ……」

 

そう…魔物を操っている者の正体は幸利本人だった

 

幸利の天職は闇術師と呼ばれる闇系統魔法を操る職業だった

 

闇系統の魔法は、相手の精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている。やろうと思えば相手の認識をズラしたり、幻覚を見せたり、魔法へのイメージ補完に干渉して行使しにくくしたり、更に極めれば、思い込みだけで身体に障害を発生させたりということができる。

だがこの闇系統魔法の最大の特徴は、極めることができれば対象を洗脳支配できるというものだ

 

実際幸利は最初のオルクス大迷宮の時も魔物を使役することができていた

 

そんな幸利がなぜこんなことを…幸利のしている事にハジメは戸惑いを覚えていた

 

ハジメ「……なぜだ」

 

ユエ「……ハジメ」

 

光輝「……そんな事…やつを捕らえた後に確かめればいいだけだ」

 

ハジメ「!」

 

光輝「奴にどんな目的や意思があってこんなことをしてるのかは…本人でもないお前が考えたって仕方がない……なら本人から直接確認しろ」

 

ハジメ「天之河…」

 

光輝「だが……その本人が悪意を持って街を滅ぼし、大量虐殺を図ろうとしていたとすれば……お前はどうする?」

 

ハジメ「!」

 

光輝「お前は奴の友として……その始末をつけられるのか?」

 

ハジメ「ッ!」

 

光輝「………お前にできないなら俺がやる」

 

そう言い光輝は自身の持ち場へと向かった

 

ハジメ「……すー……はぁーー……」

 

ハジメは一気に息を吸い思いっきり吐いた

 

ハジメ「……お前に言われなくても、万が一の時は俺がケジメをつけてやる」

 

そうしてドンナーを取り出しながら、武器を持つユエ達に目を向け

 

ハジメ「じゃあ、始めるか」

 

その言葉と共にハジメ達は持っている武器を向かってくる魔物に向け放った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第十七話 闇術師

 

幸利「お前……ハジメか!?」

 

ローブの男…幸利のいる場所に向かう道中、向かってきた魔物を始末しながら進み、ようやく幸利と対面することができた

 

ハジメ「お前やっぱ幸利だな!?」

 

幸利「カズマとアクアの言うとおり、生きていたんだな!」

 

ハジメ「!」

 

自身の生存を知っていた事に驚きつつも、幸利に語りかけた

 

ハジメ「お前が幸利なら、なぜ町を滅ぼそうとする!今すぐやめろ!」

 

幸利「無理だ……俺には止められない…」

 

ハジメ「!なぜ…」

 

幸利「止めないんじゃない……止められないんだよ……これのせいでな」

 

そう言うと幸利は自身の首を見せた

 

そこには妙な紋章が刻まれた首輪が付けられていた

 

試しにハジメが白眼を開眼し首輪を見ると

 

ハジメ「これは……隷属の刻印が刻まれてるな」

 

幸利「ああ、これのせいで刻印に刻まれた命令を強制させられる……それに命令とは違う行動を起こしたり首輪を外そうとすれば全身に激痛が走るようになっている………俺に許された行動はこうして今話せることだけだ…!」

 

次の瞬間

幸利の影が触手状に伸びたかと思うとまっすぐこっちに向かってきた

 

幸利「くっ!それに触れるな!動きを止められるぞ!」

 

そう言われハジメは避けながら距離を取る

 

幸利「これを破壊してくれ!……それが無理なら俺を殺せ」

 

ハジメ「!」

 

幸利「この首輪を破壊するか俺を殺せば、操られている魔物達の洗脳が解けて、こいつらは町から離れる!頼む…このままじゃ俺は罪もない人の命を奪うことになりかねない」

 

首輪の破壊か自分を殺すかを懇願され、ハジメは一瞬揺らぐが

 

ハジメ「冗談じゃねえ!誰がお前を殺すか!少しだけ待ってろ!すぐそれを破壊してやる!!」

 

そう言いたがら取り出したドンナーで周りの魔物を始末しながらどうすればいいか考えた

 

光輝「やはり清水か」

 

そこへ剣を握っている光輝が現れた

持っていた剣は返り血まみれになっており、相当な数を相手にしていたというのに本人は余裕そうだった

 

ハジメ「ああ…アイツ、首に従属の刻印付きの首輪をされて行動を制限されている」

 

光輝「……破壊するか」

 

ハジメ「それにはアイツの動きを抑える必要がある…ただ、近づけばアイツの影から黒いのが伸びてくる。アイツ曰く触れられれば俺達の動きを抑えられるらしいからな」

 

光輝「……なら問題ない」

 

その瞬間光輝の身体から須佐能乎の腕が出るとそれが幸利の身体を掴み動きを封じた

 

ハジメ「!これなら!!」

 

ハジメは瞬時にドンナーを幸利の首を狙い放った

 

幸利「!」

 

その弾丸は無事幸利の首についていた首輪に命中し破壊された

 

それにより幸利の身体の自由、そして幸利を通して操られていた魔物達が解放された

 

ハジメ「幸利!!」

 

ハジメは幸利に駆け寄り、軽く今の状態を白眼で見た

 

ハジメ「……どこも異常なしか」

 

幸利「……お前…本当にハジメなんだな……その姿まるで闇落ちしたかn」

 

ハジメ「おっと、それ以上は黙ろうか。誰が闇落ちした金木研だ」

 

幸利「いやまだ言ってない……それよりその白い眼は…」

 

ハジメ「へへ、これか?こいつは白眼っていう魔眼だ」

 

幸利「!まじかよ…羨ましい」

 

ハジメ「なんだったら幸利のも作ってやろうか?……人工の奴だけど」

 

幸利「いやできれば天然の方が」

 

そう地球に居たときのノリで話していると、洗脳から解放された魔物の群れが大量に迫ってきた

 

ハジメ「いっけね、こいつらのこと忘れてた。幸利、ここは離れるために俺に掴まれ」

 

と、幸利に声を掛けたハジメだったが

 

幸利「待てよ……俺のせいでここまで面倒事になったっていうのに、その落とし前つけずに逃げられるかよ」

 

そう言いたがら幸利は杖を取り出しながらなにかを詠唱出した

 

幸利「『影縛り』!」

 

すると幸利の足元から影が四方八方に伸びだし周囲の魔物の足元…もとい影にくっつくと全魔物の動きを封じ込めた

 

光輝「!」

 

ハジメ「!これは…」

 

幸利「影縛り…いや、この場合『影真似』成功って言うべきか」

 

幸利がそう言いたがら座ると周りの魔物たち全員が跪いた

 

ハジメ「!こいつらお前と動きが連動してるのか!!」

 

幸利「そういう魔法だからな…そしてこれで!!」

 

それぞれの影から先端が鋭利に尖った刃が飛び出し、それが全ての魔物の首や急所部位に突き刺さり、すべての魔物が息絶えた

 

幸利「終いだ…」

 

ハジメ「お前…あんな魔法使えたのか…」

 

幸利「いや、これをここまで使えるようにしたのもこの魔法を完成させたのはつい最近だ…」

 

そこへユエ達や、愛子に愛ちゃん護衛隊の面々が駆け寄ってきた

 

幸利「よお…畑山先生…それに皆も」

 

愛子「清水君、落ち着いて下さい。誰もあなたに危害を加えるつもりはありません……先生は、清水君とお話がしたいのです。どうして、こんなことをしたのか……どんな事でも構いません。先生に、清水君の気持ちを聞かせてくれませんか?」

 

ハジメ「いや畑山先生…幸利は別に敵対していたわけじゃねえ」

 

そこでハジメがこれまでの幸利のやった行動の訳を全て話した

 

ハジメ「そもそも幸利…お前なんで隷属の首輪なんてつけて、いや付けられていたんだ…」

 

幸利「……ウルの町に来たばかりの時だ…ずっと考えていた自作の闇魔法の開発とその実用を兼ねて町の外の魔物相手にずっと練習していたんだ……周辺の魔物には通じたが、もっと上の魔物相手にも使えるか試すために北の山脈地帯に行った……そしたら」

 

ハジメ「……魔人族が居たんだな?」

 

光輝を除いた全員「「「「「!!」」」」」

 

ハジメがそう言うと光輝を除く全員が驚いた

 

幸利「…よくわかったな」

 

ハジメ「いや普通に考えたらわかるわ…そもそもこの世界で一応神の使徒にこういうことする明確な動機があるやつなんざ、魔人族くらいだからな……んでそこの魔人族に仲間になるよう勧誘を受けたがお前は当然」

 

幸利「断ったな…いくらこの世界の為に戦うつもりが無くとも敵対勢力の仲間になるのはもっと無いな」

 

ハジメ「んで断ったからお前は隷属の首輪をされたと……いやそれ以前にお前あれだけいた魔物をたった一人で始末できるくらい強いくせになんでやられてるんだ」

 

幸利「………ちょうど魔物相手に新術使ってたら魔力と体力をかなり減らしていてな……消耗していたタイミングで勧誘してきやがった……いや、今にして思えばわざと消耗していた時に出やがったな」

 

光輝「……勧誘を断ったとしても隷属させられるからか…大方向こうも消耗する前は勝てない事を把握していたからだな」

 

幸利「だろうな………それはそうとお前は天之河か……随分と姿が変わったな……それにさっき見たぞ……お前も魔眼を開眼したのか」

 

光輝「……今更か?」

 

ハジメ「それとお前の話でわかった……操られていたとはいえお前が魔物を引き連れウルの町を攻め滅ぼそうとしていたわけが…そもそもあんな町一つ滅んだところで人間族側は対した痛手にはならねえし、魔人族側も特にプラスになるわけじゃない………にも関わらずあの町を滅ぼそうとしたのは………畑山先生の存在だろ?」

 

愛子「!!」

 

幸利「……正解だよ…あの魔人族…首輪を付けたあと俺にあの町を滅ぼし…全ての人の命を確実に奪えるくらいに戦力…もとい魔物を集めさせるよう命じやがった……あいつは畑山先生を殺せなんて言わなかったが…あんな町が無くなったって両陣営対した損得ないにも関わらず俺に滅ぼすよう命じた…なら考えられるのは畑山先生の命を確実に奪うことだ……あの町を拠点にして居るからこそ狙われたんだよ」

 

園部「!!そ、そんな…どうして…愛ちゃん先生が…」

 

光輝「……そういうことか…」

 

愛子「?」

 

光輝「アンタ気づいてないのか?……アンタの天職は相手からすれば勇者以上に厄介なものだ……食料を生み出せる……それだけでも戦場の士気…更には味方陣営の生存率にも大きく影響を与える………しかし相手側も良く見ている………戦力を容易く増やせる闇術師の清水に…食料の生産能力のある畑山……俺が魔人族ならお前たちは確実に狙うな…味方にするか積極的に殺しに掛かるくらいに」

 

愛子「!!」

 

ハジメ「だがまあ…とにかくどっちも死ななかったし……とりあえず一件落着だな」

 

そうハジメは言うと肩の力を抜き幸利にこれからのことを話そうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしこれがいけなかった

 

ここはまだ町の外……戦場跡ではあるが警戒すべきだったと

 

シア「!ッ!? ダメです! 避けて!」

 

シアは、一瞬で完了した全力の身体強化で縮地並みの高速移動をし、愛子に飛びかかった

 

シアが無理やり愛子を引き剥がし何かから庇うように身を盾にしようとした

 

その瞬間

蒼色の水流が、シアと愛子のいる位置へレーザーの如く通過した

 

本来なら、このときの水流はシアと愛子を貫通していたであろう……が、ふたりには貫通しなかった

 

なぜなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

幸利「ガハッ!!」

 

幸利が当たる直前だったふたりを弾き飛ばし

その胸に貫通したのだから

 

ハジメ「幸利ぃぃぃぃぃぃ!!!!!」



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第十八話 清水幸利という男

 

清水幸利という男は一言に言えば普通の少年だ

 

彼にとって、異世界召喚とは、まさに憧れであり夢であった。ありえないと分かっていながら、その手の本、Web小説を読んでは夢想する毎日。夢の中で、何度世界を救い、ヒロインの女の子達とハッピーエンドを迎えたかわからない。清水の部屋は、壁が見えなくなるほどに美少女のポスターで埋め尽くされており、壁の一面にあるガラス製のラックには、お気に入りの美少女フュギュアがあられもない姿で所狭しと並べられている。本棚は、漫画やライトノベル、薄い本やエロゲーの類で埋め尽くされていて、入りきらない分が部屋のあちこちにタワーを築いていた

 

そんな彼が生粋のオタクになったのは中学の頃のいじめによる引きこもりがきっかけである

 

特別親しい友人もおらず、いつも自分の席で大人しく本を読む。話しかけられれば、モソモソと最低限の受け答えはするが自分から話すことはない。元々、性格的に控えめで大人しく、それが原因なのか中学時代はイジメに遭っていた

当然の流れか登校拒否となり自室に引きこもる毎日で、時間を潰すために本やゲームなど創作物の類に手を出すのは必然の流れだった。親はずっと心配していたが、日々、オタクグッズで埋め尽くされていく部屋に、兄や弟は煩わしかったようで、それを態度や言葉で表すようになると、清水自身、家の居心地が悪くなり居場所というものを失いつつあった。鬱屈した環境は、表には出さないが内心では他者を扱き下ろすという陰湿さを清水にもたらした。そして、ますます、創作物や妄想に傾倒していった

 

しかしそんな彼の人生に変化をもたらしたのは高校に入ってしばらくの頃だった

 

いつものように行きつけの本屋で自身のお気に入りのラノベの最新刊を買おうと本に手を伸ばしたときだった

 

過去ハジメ「あれ?君って確か同じクラスの清水君だよね?」

 

偶然同じクラスにいた南雲ハジメと遭遇した

 

彼は自身のクラスの生徒であり自身と同じオタクだった

 

ただ彼との違いは清水は自分がオタクだということを隠しているに対し南雲ハジメは自身がオタクである事を隠さないオープンなオタクだということだ

 

それ故クラスにいる生徒の何名かは彼に対し冷めた目で見てくるが、それを全く気にする素振りは見せない

 

本音を言えば清水も彼と話がしたかったが内気な性格が災いし話しかけられなかった

 

過去ハジメ「え?もしかして、君もこれ買おうとしていたの?」

 

そう言われ思わず頷いてしまった

 

その結果、彼に連れられ近所の喫茶店で彼の好きなラノベやアニメの話し合いが勃発し、最初は少し控え目に話していた清水も気づけば自身の好きなラノベやアニメの話をするようになり、互いに盛りあがった

 

このとき、本音で話せた清水は心から楽しさを感じられた

 

やがて時間が来てハジメが家に帰ろうとした時

 

過去ハジメ「じゃあ清水君。また明日話そう!」

 

過去幸利「!」

 

また明日

 

どうやら彼は清水との交流を今日限りではなく今後も続けて行きたいようだった

 

それに清水は内心なんとも言い難い嬉しさを覚えた

 

それから彼はハジメと、彼の友人であるカズマとアクア…そして恵里とも交流するようになった

 

ある日彼はハジメに聞いた

 

なぜ自分の趣味を隠さず堂々としているのか…周りの目が怖くないのか

 

すると彼はこういった

 

過去ハジメ「たしかに僕らの趣味は世間や周りからすれば理解され難い、根暗っぽく見えるかもしれない……でもさ、別に僕達の趣味が誰かに実害与えるものでもないでしょ?万引きやカツアゲにピンポンダッシュを趣味にしている人達と比べたら僕達はかなりマシじゃん。そもそもさ、自分を隠して生きていくのって、窮屈で溜まっていくでしょ?」

 

過去幸利「!!」

 

過去ハジメ「人間たった一度の人生を生きているんだ。どうせたった一回の人生なら、悔いのない楽しい人生を送ったほうがいいじゃん!」

 

過去幸利「……」

 

過去ハジメ「それにさ、別に周りが僕らの趣味を理解せず冷たく見られても気にしないでよ。そんな奴らの視線なんざ浴びたとしても、僕らの趣味をバカにせず理解する人たちがいるから全然問題ないよ」

 

過去幸利「!!」

 

過去ハジメ「幸利はさあ…今まで友達も居なかったし理解者も居なかったでしょ?……これからはちゃんと君の理解者達がいるんだからさ…もっと堂々としようよ。むしろ僕たちが堂々としていたらもしかしたら他に隠れている僕らの同志が出てくるかもしれないよ?……って言ってもこれはカズマの受け売りだけどね…」

 

ハジメは笑いながら頭をかいた

 

過去ハジメ「……僕もさ……中学の頃は君と一緒で静かに過ごしていた……自分を隠して、人とも最低限しか関わってこなかった……別にそのことに不満はなかったよ……あの頃から趣味に生きていて人との関わりを断っていたから……でもさ…カズマに出会ってから…僕の生き方は変わったんだ……そしてカズマに言われた……『一度しかない人生……もっと堂々と生きたほうが楽しい』って……それから僕は自分の趣味を隠さず、もっと堂々とするようになったし人とも関わるようになったんだ……そしたらさ、今まで一人で過ごしていたときよりずっと楽しくなっちゃってさ…自分でも友達作りたくなったんだ……幸利が僕と同じ趣味を持ってるって知ったときは、なんとしても友達になって同じ趣味を楽しもうって思ったんだ。君はどう?今まで一人で人とも関わらず過ごしていたときと今…どっちが楽しく感じた?」

 

過去幸利「……俺は」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「おい幸利!!しっかりしろ!」

 

突如放たれた魔法からシアと愛子を庇った幸利は、胸に穴が空きそこから赤黒い血が流れている

 

誰がどう見ても致命傷……助からないと断定できるほど傷が深かった

 

ユエ「!!ハジメ!あれ!」

 

ユエが魔法の飛んできた方向をハジメが白眼で見ると遠くで黒い服を来た耳の尖ったオールバックの男が、大型の鳥のような魔物に乗り込む姿が見えた

 

恐らくあれが幸利に近づいた魔人族で、この機会に愛子を始末するつもりだったのだろう

 

ハジメ「(クソ!油断した…戦いが終わって、気を抜いていたこのタイミングで!!)」

 

ハジメはどうにか傷を塞ごうと躍起になるが、傷は塞がらない

 

愛子「清水君!」

 

園部「清水!!」

 

愛ちゃん護衛隊「「「「清水!!!」」」」

 

ユエ「ハジメ!…神水は…」

 

ハジメ「……あれはもうない……天之河は…」

 

光輝「……生憎全部使ったあとだ…」

 

ハジメ「クソ!」

 

神水はオルクスにこもっていたときに傷の手当に使い切ってしまい、手元には一滴も残っていなかった

 

幸利「はぁ…はぁ…ハ…ジメ……畑山…せんせ…い…は…お前の…連れ…は無事…か?」

 

ハジメ「!!」

 

そこへ幸利が痛みに耐えながら弱々しくもハジメに語り掛けた

 

ハジメ「…ああ…お前が庇ってくれたから…どっちも無事だ」

 

幸利「そう…か……人に迷惑かけた俺の末路がこれ……か……まあ…死にかた…としては…思って…いたよりも…悪く…なかっ…たな…」

 

ハジメ「!何言ってるんだ…お前は…」

 

幸利「ハジメ…お前も……わかっ…てるんだ…ろ?……俺はも…う……ここまで…だ……身体が…スゲェ…いてぇ…」

 

ハジメ「諦めるな!まだ助かる!!俺だってオルクスで転落しても生き延びたんだ!お前だって!!」

 

幸利「………ハジメ…俺は…な……天之河や…カズマ…お前…みたいに…なりたかった……」

 

ハジメ「…へ?」

 

幸利「…俺は……家族からも…周りからも…取るに…ならない存在だ…って…思われていた……それが…嫌で…天之河兄…見てぇな…特別…な奴に…なりたかった……まあ…今…じゃ…あん…な…能力…と…カリスマ…だけ…のやつ…に…なりたく…ないけ…どな…そう…いう…特別な…奴に…劣等感…を感じ…ていた……そんな…時だ…お前と…出会ったのは……」

 

ハジメ「……」

 

幸利「お前に…言われ…た…あの…言葉で……俺は…変わる…ことが…できた………そして…お前達に…憧れ…た………お前…達みたいに……何者に…も流され…ること…もなく……自分の……確固たる…意志と…信念を…持って……生きている……お前たちに……さ」

 

幸利はそう言いながら愛子やシアの方を見た

 

幸利「フッ…まさか…俺が……他人…を庇うなんて……な……昔…の自分では……考えら…れねえな……昔はもっとこう……自分…しか…考え…なか…ったんだけど…な……これも……お前や…カズマと…関わったから…だな……けど…これも…悪く…ねえ……ゴファ!」

 

幸利は血を吐き出し、それに周りが狼狽えた

 

幸利「ハ…ジメ…最後…に…頼みが…ある……お前の……銃で……トドメを…さし…てくれ…」

 

ハジメ「!!」

 

幸利「もう……ほんと…うに…苦しくて…痛くて…な……それ…に…意識…も…」

 

幸利にトドメをさすよう言われ、ハジメのドンナーを握る手が震えた

 

ユエ「ハジメ……」

 

幸利はもう助からない…

なら友人として自身に出来ることがあるとすれば…その苦しみから解放させるために、その生涯を終わらせる事だけ

 

そんなことはわかっているはず……だというのに

 

ハジメ「……」

 

ハジメは………幸利にドンナーを向けた……が……引き金を引けなかった

 

引けるわけがなかった…

 

当然だ

ハジメにとって幸利は地球に居た頃からの友人であり、カズマの次に仲の良かった存在だ

 

その介錯の役割を…自身はできない

 

ハジメ「!!お前…なんのつもりだ!」

 

光輝の方へ思わず目を向けると光輝は剣を抜き今にも幸利にとどめを刺そうとしていた

 

光輝「……お前がやらないなら俺がやる……そう言ったはずだ……そもそも……お前に…そいつは殺せない……」

 

ハジメ「!」

 

そう言われ…最初は止めるつもりだったハジメの腕が力なく項垂れた

 

ハジメだって分かっていた

これ以上幸利を苦しめたくなかった…だが自身では殺せない……

 

幸利「……わる…いな…天之…河……最後に……こんな…面倒事…やらせ…て」

 

光輝「……」

 

幸利「あぁ…それと…ハジ…メ……あの時…お前…言って…いたよな…?『今まで一人で人とも関わらず過ごしていたときと今…どっちが楽しく感じた?』か…」

 

ハジメ「………!!」

 

自身が光輝に斬られる寸前だというのに

幸利は苦しみや無念、痛みに満ちておらず

その表情は

 

幸利「あのとき言えなかった答えだ……俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

楽しかったぜ!……お前達と過ごせてよ……

 

一切の後悔も感じない笑みだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???「おっと、そこまでだ」

 

ハジメ「!!」

 

光輝「!!」

 

ユエ達「「「「「「!?」」」」」」

 

幸利にトドメを刺そうとした光輝の背後から突如声とともに剣を振ろうとした光輝の腕を掴み、辞めさせた

 

その声に驚き皆が声の主の方を向くと

皆が驚いた

なぜならその声の主はここに居るはずのない人物

 

幸利「!……俺…は…ゆ…めで…も見て…いる…のか……居るはずの…ない…お前達の…姿が…見え…る」

 

???「…酷い傷ね……よくここまで持ちこたえたわ……でももう安心して……私が…ううん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私達が来たから!!!」

 

カズマとアクアだったのだから

 

 



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第十九話 緑と青の再会

 

ハジメ「うぅ…、ううぅぅ…」

 

ユエ「おはようハジメ…昨日はちゃんと寝られた?」

 

ハジメ「いやな…昨日は色々ありすぎて脳がバグってハイになってたから一睡もできてねえ…」

 

ウルの町攻防戦を無事乗り越えた翌日

 

宿の外に出たハジメにユエが声を掛けた

 

ハジメは昨日のこともあり眠れなくて不機嫌そうな表情を浮かべていた

 

そこへ

 

ハジメ「まあ…なんだ、お前のおかげで色々助かったのは事実だし……俺もまだまだだってことを教えてくれたことには感謝しているけどな…カズマ」

 

カズマ「そいつはどういたしましてだ」

 

宿から出てきたカズマに語り掛けた

 

カズマ「それより、朝食ができたみたいだから呼びに来たが…お前食欲あるか?」

 

ハジメ「あ〜、いや、もっかいベッドで横になってくるわ」

 

カズマ「そっか…ならユエに膝枕でもさせて貰えよ…多分眠れると思うぞ」

 

ハジメ「なっ!なんでお前にそれが分かるんだよ!!」

 

カズマ「俺も眠れないときはアクアにそうしてもらってたからな」

 

ハジメ「……なあ?前から聞きたかったが…カズマとアクアって実は付き合ってないか?」

 

カズマ「さあ?……どうだろうな?ご想像におまかせするわ」

 

そうハジメのことをからかうような素振りを見せながら宿へ戻っていった

 

ハジメはそれにため息を吐きながら自分の部屋に戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【ウル攻防戦後】

 

アクア「もう安心して……私達が来たから!!!」

 

光輝が幸利に介錯しようとしていた寸前

 

ここに居るはずのない人物

カズマとアクアが駆けつけてきた

 

ハジメ「!なんで…ふたりが…ここに…!」

 

愛子「佐藤君!水神さん!」

 

カズマ「お、愛子先生、それに愛ちゃん護衛隊のお前らも無事みたいだな……幸利以外」

 

園部「な…なんで佐藤達がここに居るのかはともかく、清水が死にそうなの!なんとかならない!?」

 

愛子「お願いです!!もしおふたりに清水君を助けられる方法があるのでしたら、助けてください!!」

 

シア「わ、私からもお願いします!この人、私と先生さんを庇って、こんな傷を…」

 

ハジメ「…無駄だ…こんだけの傷だ…それこそ神水レベルの回復力でもない限り幸利の傷はふさが」

 

アクア「『セイクリッド・ヒール』!」

 

ハジメの言葉を被せる形でアクアが幸利の胸の傷に回復魔法を掛けた

 

それはこの世界に存在する回復魔法とは一線を覆すもので、面倒な詠唱を一切せずそれでいてこの世界でも最高位の回復魔法を扱えるはずの白崎香織のそれをも凌駕するものだった

 

結果、幸利の胸の傷は完全に消え去り、さっきまで苦しそうにしていた幸利の表情は安らかなものへと変わっていった

 

アクア「ふう〜、これで幸利は大丈夫よ…でも一応念のため一日寝かせといたほうがいいわね」

 

光輝を除くハジメ一行と護衛隊面々「「「「「「「はあ!?」」」」」」」

 

これにはハジメ達も驚きのあまり思わず声を漏らし、光輝も口には出していないが表情は驚きに満ちていた

 

ハジメ「うそ…だろ…幸利の胸の傷を…こうもあっさりと……これは…神水と同等の回復力があるって事だぞ!!」

 

カズマ「ふふん♪アクアの回復魔法を侮ることなかれ。アクアの回復魔法は間違いなく世界最高クラスだ。それこそ瀕死の奴がたちどころに助かるレベルにな……それはそうと久しぶりだなハジメ、それに光輝。よく無事だったな…」

 

ハジメ「!」

 

カズマ「なんだその顔は?俺が髪色と眼帯と義手付けた厨二全快で闇落ちした金木研みたいな外見したからと言ってダチを見間違えるわけないだろ?」

 

ハジメ「誰が闇落ちした金木研だ!!」

 

幸利「な、なんかさっきも聞いたような…なあ…俺は…助かったんだよなあ…?」

 

カズマ「おうよ。ついさっきまで死にかけて危うくあの世へゴー!する寸前だったのをアクアが現世に引き戻してくれたんだよ」

 

幸利「そ、そうか…助かったよアクア…ありがとう」

 

アクア「お礼なら私だけじゃなくてカズマにも言いなさい…カズマが私を背負ってここまで来たから私の回復魔法で助けられたのよ」

 

ハジメ「は?いやちょっと待て!色々聞きたいことがあるがまず…お前らどうやってここまで来た」

 

アクア「えっと、カズマに背負ってもらってだけど?」

 

ハジメ「まずそこからおかしい…背負ってだと?……どこからだ?」

 

カズマ「ライセン大峡谷からだな…あそこは魔法が使えなくて面倒だったが一日もかけずに通れたな…道中ハウリア族に遭遇したが、お前らの行き先を聞いて地上へ上がったけどな」

 

ハジメ「……さっき幸利から聞いたんだが…俺と天之河が生きていたことを知っていたようだが…あれはどうやって」

 

カズマ「あれはアクアの技能によるものだ…お前らの魂がこの世界に残っていたから、きっと生きているって知って…それから2ヶ月色々やることやってアクアと一緒に先日オルクス大迷宮を降ってお前たちの捜索をしていた」

 

ハジメ「はあ!?お、お前達たったふたりであの迷宮を超えたっていうのか!?」

 

カズマ「まあな…道中の魔物がやたら強くて面倒だったがまあ問題なく一番下の階層までつくのに6日も掛かったけどな…お前らの事を探さなくちゃいけなかったからなおかかっちまったよ」

 

ハジメ「!あそこを6日…だと!?」

 

光輝「あの迷宮は俺達でさえ色々と手の焼いた所だ…それをわずか6日…」

 

ユエ「ん…あそこの魔物は地上とは比べ物にならないくらい強い…生半可な実力では到底勝てない」

 

カズマ「それからオスカーオルクスの隠れ家にも辿り着いたぞ……恐らくお前らも見たんだろうけどな……それからライセン大峡谷に辿り着いてそこからはアクア背負って走って駆け抜けて」

 

ハジメ「いやちょっと待てや!!お前今なんて言った…『走って』だと?」

 

カズマ「仕方ないだろ…お前らと違ってこっちはバイクがないから走るしかなかったんだからな…」

 

ハジメ「……なん何だお前は…」

 

カズマ「んで地上へ上がったあとお前らのバイクの通ったあとを辿ってここまで辿り着いたってわけ……いや〜めっちゃ疲れたからな?こんなに走ったのなんて一体いつ以来だか」

 

仁村「いや地球にいたときでもそんなに走る機会なんかあるか!」

 

相川「てか今のお前の話が本当かどうかも分からねえよ!」

 

玉井「仮に本当だとしたらお前が本当に人間なのか疑うわ!!」

 

カズマ「失敬だな…人間だよ。ちゃんとな…ただし、他の人間よりもちょびっとだけ強い人間だけどな」

 

園部「全然ちょびっとじゃない!!」

 

カズマ「まあそこはあれだ。お前らよりも俺のほうがステータスが高かったからできたってことで納得してくれ」

 

愛子「で、ですがふたりが生きていることに気づいていたのならなぜ」

 

カズマ「言わなかったのか?…そんなのは簡単だ…大迷宮に転落しておきながら食べ物のない環境で生き延びている時点でまともな状態じゃない。下手すれば教会から異端者認定される恐れがある……だから話せなかった…まあ俺の信用できる奴らには話しているけどな。そこの幸利もその一人だ」

 

愛子「……それじゃあ、私は佐藤君に取って信用できない人なんですね……」

 

カズマ「いやあんたの場合は隠し事とか苦手そうだから……それと黙っていた本当の理由はこの世界に来て浮かれていた奴らの精神の成長の為だ…自分達はこのいつ死ぬかわからない世界に来ている。だからその心持ちをしっかりさせる意味でも言わなかった。今日話していた奴が明日には死んでいるかもしれない、もしくは自分が死ぬかもしれない。そういうことを頭に入れつつ、この世界を生き延びるよう意識を固めさせたかった…まあ結果としては何名かはそれが出来ているみたいだけどな」

 

愛子「!」

 

アクア「ねえ、それより私達も移動しましょ。いつまでもここで話するのも何だし」

 

カズマ「……だな…続きは町で話すか」

 

その後カズマ達は町へ戻り、自分達がオルクス大迷宮で知った事を事細かく話をしたのだった

 

それには愛子を含めた護衛隊の面々も驚いていたが、幸利はそんなに驚かなかった

 

曰く『自分たちの了承もなしで誘拐同然に転移させた神が一度も姿見せない時点でろくな存在じゃない』と考えていたかららしい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその夜

カズマは宿のベランダにいたハジメと光輝に話しかけた

 

カズマ「なあハジメ、そして光輝……お前らもこの世界の真実を知った身だ……真面目な話。お前らはそれぞれどうしたい?」

 

ハジメ「俺は元の世界に帰る。あんな狂った神から世界なんざ救うつもりはない」

 

光輝「俺はあの存在そのものが腹ただしい神を殺す…だが世界の為ではない」

 

カズマ「そうか……なあ、お前らの旅に俺とアクアも同行させてくれ」

 

ハジメ「駄目だ」

 

光輝「断る」

 

カズマ「……理由を聞かせてもらおうか?」

 

ハジメ「俺達の旅はただでさえ命がけのものだ。そして下手すれば国から異端者と認定されてもおかしくない事を今後するつもりだ。それにカズマとアクアを巻き込みたくない」

 

光輝「お前には地球に居た頃色々と世話になっているが……お前らは力不足だ…付いてくるな」

 

カズマ「……」

 

ふたりに面と向かってついてくることを拒否されたカズマだったが

 

カズマ「……ありがとよ……俺達の事を気にかけてくれてるんだろ?ハジメは知ってるが、光輝にまでそう言われるなんてな……」

 

カズマは笑みを浮かべながらふたりにそう言った

 

カズマ「しっかしそれにしても

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

たかが十数年生きた程度のガキが随分と俺を舐めているみたいだな?

 

ハジメ/光輝「「!?」」

 

その瞬間カズマから凄まじい殺気が流れ、それに思わず距離を取ったハジメと光輝

 

カズマ「……そこまで言うなら今から試してみるか?俺の実力をよ………ついでに俺もお前らの実力を把握しておきたいしさ……ああ、それとお前らふたりがかりで構わないからな?追い込んでくれたほうが俺も本気出しやすくなるしな」

 

そう冷めた目でふたりにそう言うカズマに、ふたりは過去一警戒心を強めたのだった



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第二十話 創者と破者対冒険者

 

カズマ「どうした?……オルクス大迷宮を生き延び、既にふたつの迷宮を突破したお前らの実力はこんなものか?」

 

ハジメ「はぁ…はぁ…」

 

光輝「チッ……」

 

ウルの外では

ハジメと光輝がカズマに戦いを挑むが、その姿は遠巻きに見ていたユエやシア、ティオにウィル…幸利を含めた地球組も驚きのあまりに言葉を失っていた

 

特にこれまでふたりの戦いを見てきたユエとシアは他の誰よりも驚いていた

 

ふたりにとってハジメと光輝は他を圧倒する絶大な力を持ち自分達の知る者の中でも間違いなく最強と呼べる存在だった

 

しかし今そのふたりは息を切らせボロボロになっていた

一番共にいたユエですらこれだけボロボロになったふたりを見たのは初めてだった

 

そしてそのふたりと対峙しているカズマはというと

 

ハジメ「マジかよ……ふたりがかりで呼吸すら乱れてないのかよ…」

 

光輝「それどころか…俺達の攻撃を全てことごとくかわし、あまつさえかすりもしない」

 

ハジメも光輝も手を抜かず本気でやっているにも関わらず、カズマはそれを涼しい顔で相手取っている

 

カズマ「ふう……全く……随分と自分達の実力を過信していたみたいだな……まあ無理もないな…たしかにあれだけのことができれば過信もする………ほら、さっさと立てや。全体的なステータスはお前らのほうが上回ってるんだぞ…もっとうまく立ち回れ」

 

ハジメ「はあ!?俺達の攻撃を全部交わしてあれだけ俺達にダメージを与えたっていうのにお前のステータスが俺達以下なんて冗談にしても笑えねえぞ!」

 

カズマ「いや?それは本当のことだ……まあ正確に言えば魔力面は俺のほうがずっと上だけどな……おっと」

 

その瞬間、光輝がカズマに天照を当てようとしたがそれを瞬時に交わした

 

光輝「『加具土命』!!」

 

更に光輝の発火させた黒炎は刃の形状へと変化しそれがカズマを斬り掛かった

 

カズマ「消えない炎とは…中々強力だな…氷でも消せないのは厄介だな」

 

ハジメ「!(まただ…あいつ、天之河の天照を当たる直前にかわしやがった……しかも)」

 

光輝「チッ!……俺の眼の能力を見抜きやがったな」

 

カズマ「(光輝の眼……あれは魔眼的な奴だな……眼を合わせたり視界に入るのはあいつの眼の術の発動条件と射程範囲になるな……あの突然発火する黒炎は視界に入った範囲……それとさっき掛けられた幻…幻術は眼を合わせたら引き釣りこまれる……そしてあの眼…相手の術のコピー、更には動きを見切る素振りを見せていたところを見るに…恐らく動体視力、見切る力を向上させると見た……それとハジメのあの白い魔眼……俺の見えないところからの魔法攻撃を躱しやがった……それと俺の体内の魔力量を見ていた……恐らく透視能力に望遠能力といったサーチ能力を持っている………光輝のは戦闘向けだがハジメのはさしずめ探索や感知に優れている………)」

 

光輝「(あいつ…俺の幻術を瞬時に跳ね除けやがった……しかも俺に月読に掛けられないよう眼を瞑ってやがる……だというのに俺達の事をまるで見えているかのように避けている……)」

 

ハジメ「(マジで何なんだアイツの魔力量…軽く俺の倍以上ある……どうなってるんだ…俺達と違ってあいつは魔物を食ったわけでもねえのに…)」

 

カズマ「お前らさあ……その程度で本気で目的を達する気あるのか?それくらいの実力で満足しているようなら、お前らマジで一回くたばったほうがいいぞ?」

 

ハジメ/光輝「「!!」」

 

カズマ「それとさあ…見ていて思ったんだが、お前ら無駄と宝の持ち腐れが多すぎんだよ……例えば光輝…お前はの魔眼はたしかに強力だがその分魔力の消耗が激しいとみた……だというのにお前は使う必要のない場面で使って、逆に使うべき場面で使ってない……切り替えが下手…魔力の無駄遣いだ。後さっきの『千鳥』だっけ?……あれさあ、腕に雷を集中するのは良いけどそれだけじゃ決め手に掛ける」

 

光輝「なに!?」

 

カズマ「俺ならまず体内の魔力を使って肉体の活性化をはかって身体能力の向上によるスピードアップをした上で高速の突きをするな…お前のはただの雷を纏っただけの突き…未完成にも程がある……それとハジメ、お前は高いステータスを持っている癖にやたらと油断し過ぎている場面が多いぞ。これがオルクスに転落する前のお前ならもっと警戒心を持って動いていたはず……大方強くなりすぎて高いステータスに精神が追いつけてないんだろうな……今のお前、アニメとかに出てくる格上だが慢心してしまった結果格下の奴に殺られるポジションの奴と同列だからな?」

 

ハジメ「ぐっ!」

 

カズマ「とまあ……こんくらい言えば少しはマシになるか…な?」

 

そう言うとカズマの掌に風が収束していく

最初は大玉サイズだった風の塊は野球ボールサイズまでに圧縮した

 

カズマ「避けてみな…『エアーバレット』!」

 

カズマが飛ばした風の塊に瞬時に後方へ飛ぼうとしたハジメと光輝だったが

 

ハジメ/光輝「!!!」

 

次の瞬間

圧縮した風の塊が一気に元に戻り、とてつもない衝撃波がふたりのいる方へ発生した

 

ユエ「!!」

 

シア「そ、そんな!!」

 

幸利「やべぇ……あのステータスプレートで見た通りの化け物魔力持ってるからこそできる芸当だ…」

 

土煙が舞い

ふたりの姿が見えなかったがカズマは警戒し眼でふたりを探した

 

やがて土煙が晴れ、ふたりが姿を表す

 

カズマ「!!」

 

光輝「やってくれたな…佐藤」

 

ハジメ「とっさに地面を錬成で固めて盾にしなかったらヤバかったな」

 

ハジメは大きな土壁でガードし、光輝は須佐能乎を出して防いだ

それもこれまでのような腕だけではなく体全体を出した

 

その姿は紫のオーラを纏った巨大な骸骨だった

 

カズマ「へえ〜、手加減してたとはいえ今のを防ぐとはな…」

 

ハジメ「お前の言うとおりだカズマ…俺はお前を甘く見ていた。そして慢心していた…俺としたことが昔地球でお前と好きなバトル漫画でありがちな事を言い合っていた時に俺が言ったことを俺自身がやっていた…だが、もう油断しない…」

 

光輝「悪かったな……お前の言うとおりだ……俺は無駄が多かった。それでいて工夫も足りない……二度はない!」

 

その言葉とともに須佐能乎の腕がカズマを掴もうと手を伸ばすが

 

カズマ「そっちがその気ならこっちもだ!『クリエイトアースゴーレム』!」

 

カズマが地面に触れると土からゴーレムが生まれ須佐能乎の腕を両腕で掴み

 

カズマ「おらよ!」

 

須佐能乎を出している光輝ごとそのまま背負投げし、地面に叩き落した

 

ハジメ「カズマ!!」

 

そこへメツェライを持ったハジメが弾丸の雨を振らせてきたが

 

カズマ「!」

 

カズマは両足を『魔力活性』による身体能力の向上によるスピードアップで全て避け

ハジメの両腕を掴み

 

カズマ「油断せず相手を容赦無く仕留めようとするその意志は見事だ……だが詰みだ」

 

ハジメ「!!」

 

その瞬間ハジメのドレインタッチによりハジメの残っていた魔力を吸われ、膝をつく

 

ハジメ「ぐうぇ…」

 

カズマ「さて、後はあいつだけだが……!」

 

カズマは光輝の方へ目を向け驚く

 

光輝「……」

 

光輝は右手に雷を一点集中し…それでいて体内の魔力の流れが速まっていた

 

そう……光輝は先のカズマの『魔力活性』を見て見様見真似で再現した

これも写輪眼の動体視力ならではの習得速度だ

 

ハジメ「!!」

 

カズマ「(こいつ……)……こい。光輝!」

 

光輝「!」

 

その瞬間光輝は目にも止まらぬ高速スピードで走り抜け、カズマの懐寸前まで到達し

 

光輝「『千鳥』!!」

 

その雷を纏いし高速の手刀がカズマを貫く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「甘ぇよ」

 

寸前に光輝の顎に魔装(魔力を纏う事で強度や威力を高める)で強化した拳でカウンターアッパーをかまし光輝をふっ飛ばした

 

光輝「ぐあぁ!!」

 

それを受けた光輝の身体は宙へと飛び、地面に倒れたあとそのまま気絶した

 

カズマ「まさかこの短い間に完成させるなんてな……けどまあこういう一直線上に速く動く技は相手のカウンターを見切れずに逆にやられることだってある……こういうときこそその魔眼使うべきだろうに……って聞いてないな……けどまあ…お前ら伸び代は悪くない……あとは数をこなせば克服するだろ」

 

そう言うとカズマは気絶した光輝を肩に抱え、もう片方の腕でハジメを運んで行った



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第二十一話 明かされた秘事

 

カズマ「どうした急に俺を呼び出して」

 

ハジメと光輝と戦った翌日

よく眠れてなかったハジメが二度寝し時刻が夕暮れを過ぎたときだった

 

ハジメに呼び出され彼の部屋に行くとそこにはハジメと光輝、ユエにシア、幸利とティオがいた

 

ハジメ「……お前と話がしたくてここへ呼んだ……まず最初に謝らせてほしい……お前の強さは本物だ……それこそ俺達の強さが霞んでしまうほどに洗練されていた……あまりにも自分の力を過信し過ぎていた」

 

カズマ「理解できたなら結構だ……それで、俺とアクアも同行してもいいよな?」

 

ハジメ「その前にお前に聞きたいことがある……ここにいる面々は皆お前に対して色々思うところがあるが共通していることがある」

 

光輝「……お前の実力…その戦いの慣れ具合…そして一切無駄のない洗練された技術……とても異世界に来て約3ヶ月の熟練度ではない」

 

ティオ「うむ…妾はこう見えてもお主らの何十倍以上も生きているのだが…そんな妾から見てもお主の戦いは見ていて違和感を覚えておる」

 

幸利「思えばカズマ。お前は異世界転移したばかりの頃からずっと達観した姿勢だった……今まで剣も振るったことのない学生でありながら周りと違って戸惑いなんてものが無かった」

 

ユエ「ん…ハジメから聞いたけど……あなたは特別何か武道を嗜んでいた訳でもない……にも関わらず」

 

シア「圧倒的なステータスを持つハジメさんと光輝さんを終始圧倒しましたですぅ!!」

 

ハジメ「俺達は魔物の肉を食べた無理なステータス上げをしてこの世界の人類も魔人も遥かに上回るステータスを手にしたっていうのに…わかるか?……俺達のお前への共通認識が……『お前がやけに慣れすぎていることだ』…なあ…真面目な話だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前は一体…何者なんだ?」

 

カズマ「………」

 

周囲のカズマを見る目は疑心と警戒心に満ちていた

 

そして

 

カズマ「………フッ…長ーい話になるんだがな」

 

語りだす

 

かつてこの世界とは違う異世界を救った冒険者の前日譚

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《転生前》

 

 

 

こことは違う異世界『トータス』

そこでは人と魔人族が長い間争っている

 

しかし、そのふたつの種族は全てトータスの人間族が崇める神、『エヒト』が黒幕であり、人々に崇められていく内に神性を得たが、それによって人々が築き上げたものを壊すことに愉悦を感じる歪んだ性格になった

 

そしてこれから十数年後、エヒトは地球に住む日本のとある学校の高校生複数名を『遊戯(ゲーム)』の為に戦争の駒として召喚させる

 

エリス「そこでお願いします。貴方方にはそのエヒトの野望を阻止するため、それぞれ地球とトータスに転生して下さい!本来なら貴方方は魔王討伐を果たしこの世界の人類を救った英雄……にも関わらず死後も再び他世界を救うという大役を押し付けてしまうのは本当に申し訳ないと思っています。ですが……貴方方しか信用できないのです!!……ですからどうか………あ、ちなみに転生する場合、記憶はそのままで転生します」

 

死後の世界

魔王を倒し、その後の余生を過ごし、その生涯を終えためぐみんにダクネス……そして最後に死んだカズマを看取り天界へ帰還したアクアの4名は自分達と長く交流を深めていた幸運の女神エリスに呼ばれ、話を聞かされた

 

めぐみん「……どうしますか?……正直に言えば私は構わないのですが…」

 

ダクネス「うむ…私としても異世界でまた冒険者として振る舞えるのは悪くないし…エリス様の話を聞いて放っておけないのだが…」

 

アクア「……カズマはどうする?……カズマの意見が私達の総意見よ……」

 

カズマ「……エリス様…一つ聞きたいんだが、こういうのって本来神様のやるべき案件じゃないのか?……どうして俺達なんだ?」

 

エリス「そ、それが……本来神が世界に直接干渉していいのは制限こそあれど自分の管轄の世界だけであってトータス担当じゃない私達が干渉することができないのです。エヒトは元々はトータスとは違う世界から偶然訪れ、その世界の神を殺し神になりかわり人々に崇められていく内に神性を得て神へと昇華しました………ですのであの世界には奴を止められる神は一人もいません。彼を止めようとした者達も居ましたが皆全滅しました…その結果トータスはエヒトの遊び場と化し、今もなお数多くの命が犠牲となっています………人が他世界に干渉していいのは神の手によって転移転生させられた場合のみ……こちらにエヒトの動きを読むことのできる神が居ますので、エヒトがいつどこで誰を転移させようとするのかがある程度わかります……」

 

カズマ「……ちなみにだ…この話を断ることって」

 

エリス「はい。これは強制ではなく神々からのお願いです……無論…貴方方はこれを断る権利があり、私達には強制する権限はありません…その場合でも記憶をそのままに転生させます…私としては…出来ることなら受けて欲しいです……」

 

カズマ「……そっか…」

 

そこでカズマは目を瞑り考えた

 

自分達はただでさえ一つの世界を救った

にも関わらず転生後もまた救わなければならないのかと……たしかに大勢の人の命を見捨てるのは嫌だ…その話を聞いて助けたいとも思った

が、自分にとって世界よりも後ろの三人の方が遥かに大切だ

万が一があるかも知れないそれに巻き込みたくない……

 

アクア「カズマ…」

 

そこへアクアがカズマの手を握り、めぐみんが後ろから抱きつきダクネスがもう片方の手を掴む

 

アクア「カズマが何を心配しているかなんてよくわかるわ……私達を心配してくれるその気持ちは嬉しいわ…でもね」

 

めぐみん「カズマはこれまで自分の心に正直に生きてきたじゃないですか……諦めて妥協するなんて事をしてこなかったじゃないですか」

 

ダクネス「私達を助け、守ったように…カズマが心から望む事を…どうしたいのかを言って欲しい……何処へ行こうとも…何処へ辿り着こうとも、私達はカズマを信じているのだからな」

 

カズマ「…………エリス様」

 

エリス「はい…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「もっとトータスについての情報、それとエヒトが異世界転移に巻き込もうとする場所と日時を教えてほしい」

 

エリス「!!」

 

カズマ「お前らも知っているとは思うが……俺にとってお前らは俺の命以上、それこそ世界よりも大事だ……けどな……見捨てられねえんだよ……この話を聞いたあと……他世界を救うことから逃げたとして……学校行ったり遊んでたり飯食っててふと気持ちが途切れた時『あぁ 今エヒトのせいで大勢の命が亡くなってるんだな』って凹んで『俺は関係ない』『俺のせいじゃない』って自分に言い聞かせる……そんなの俺らしくねえよな?自分が救いたいと思ったものを救い…自分が大切だと思ったそれを手放さない……それが俺なんじゃないのか?」

 

エリス「カズマさん…」

 

カズマ「俺は俺らしくありたい……お前らも巻き込むことになるかも知れない……それでも…俺のワガママについてきてくれるか!!」

 

その瞬間、アクアとダクネスがカズマを抱きしめた

 

アクア「フフッ…それでこそ私達の勇者様ね」

 

ダクネス「ああ…お前はそれでいい……お前はこれまで私達のワガママに付き合ってきた…なら…私達だってお前のワガママについて行こうか」

 

めぐみん「はい。他世界であっても見捨てない貴方は……本当にカッコいいですよ」

 

カズマ「……お前ら…」

 

エリス「フフッ…ありがとうございます…皆さん……それでは、私の知る限りのことを話します」

 

そうしてエリスはカズマ達に自身の知り得る事をすべて話し、やがて転生の為の魔法陣を展開した

 

その際本来なら女神であるアクアは上記のルールの為に一度神性を捨て人間に転生する事にした

 

そして人間に転生しその生涯を終えたあとは再び戻ることとなった

 

またトータスと地球へはそれぞれめぐみんダクネスとカズマアクアに別れることとなった

これは神が記憶持ちを転生させられる上限が一つの世界にそれぞれふたりまでが限度である為であった

 

めぐみん「………それでは…しばしの別れですね」

 

ダクネス「……そう、だな」

 

カズマ「何言ってんだよ…また会えるさ……そんでエヒトを倒したあとは、みんなで楽しい余生を送ろうじゃないか」

 

アクア「そうね……まあ私とカズマは地球に転生するからトータスに転移されるまではステータスがロックされてただの一般人になってるけど…ふたりはそっちで転生後若い時の力発揮できるからってハメを外さないでよ?」

 

カズマ「やりすぎて俺たちが来る前にエヒトに目を付けられたりしたらシャレにならねえしな」

 

そして魔法陣から強い光が漏れ出しエリスが声をかけてきた

 

エリス「それでは転生の儀を発動します……皆さん!ご武運を!!」

 

めぐみん「あの…カズマ……アクア…これで当分会えなくなります……ですので…今のうちに私にキスしてもらえますか!!」

 

ダクネス「ま、まて、そう言うことなら私にも!!」

 

めぐみんとダクネスが言い終える前に俺はめぐみんとダクネスの唇にキスを…アクアはふたりの頬にキスした

 

カズマ/アクア「「またな/またね………俺/私の大切な家族達」」

 

ふたりに一時の別れの言葉を告げ、それにふたりも返してきた

 

めぐみん/ダクネス「「また会いましょう/また会おう…………私達の愛しい家族達」」

 

その言葉を最後に、魔法陣の強い光がカズマ達を包み込み、やがて消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二十二話 加わる仲間

 

カズマ「ってのが俺の全てだ……んで、この話を聞いて質問とか疑問があるなら言ってくれ…」

 

ハジメ一行「「「「「……」」」」」

 

カズマの長い長い話を聞き終えたハジメ達は皆無言だった

否、無言ではあるがその表情は様々で思っていることは別々だった

 

ユエやシアは疑いの目を向け

ティオと幸利、光輝はどこか納得している様子だった

 

そしてハジメはというと

 

ハジメ「……つまり…カズマ……お前は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

転生者でアクアは元女神でそのアクアとほかふたりを嫁にしていたってことなんだな!?」

 

カズマ「いや着眼点おかしくないか?…ここ本来なら俺の言ったことに対して疑心とか持つ場面何じゃないか?」

 

ハジメ「いやお前が転生者って所は正直信じられない部分があったが同時に納得がいく…あれだけ戦い慣れていたのも、年の割にかなり達観していたりとか時々年上みたいに振る舞ってたりするところとか」

 

カズマ「ちなみに俺の精神年齢と実年齢は前世と合わせたらお前の10倍くらいだからな?」

 

幸利「つまり爺ってことか」

 

カズマ「爺言うな。とにかくこれが俺の知る全てだ」

 

ティオ「……転生者…か…なるほど…あれだけ見た目と中身が伴っていなかったのはそのような理由だったのじゃな」

 

シア「ま、まあいいじゃないですかカズマお爺さ!!」

 

次の瞬間カズマがシアにげんこつを食らわす

 

ハジメ「今のはシアが悪い」

 

幸利「てか世界救ったことあるんだ…」

 

カズマ「まあな…んで世界救ったあとはアイツらと余生を過ごしたな……いやー今思い出しても楽しかったなあ……魔物討伐しに行ってアクアが喰われかけたり、めぐみんが魔力切れでジャイアントトードに少しずつ飲まれて行ったりダクネスが魔物に喰われたのに硬すぎて牙が折れて逆に弱々しくなったり」

 

ハジメ「(なんだそのエピソードは…)」

 

カズマ「あとは稼いだ金を全部散財したらなんか鉱石の鉱山発掘されたり古代の魔道具発掘したりで逆に金が増えたりとか面白い人生だったなあ」

 

ティオ「な、中々濃い人生を送っておったのじゃな(汗)」

 

光輝「……」

 

ハジメ「なあ…お前の言うことが本当なら…お前は知っていたんだな……俺たちがこの世界に転移させられることも」

 

カズマ「……ああ……正直言うとお前達が異世界転移されるのを止められることができたはずだった……にも関わらず止められなかった」

 

ハジメ「言っておくが別にお前のことを怒ってない……まあアレだ…おかげで自分の嫁見つけることができたし異世界を体験することはできた……色々辛かったけどな」

 

ユエ「ハジメ///」

 

シア「ハジメさん///」

 

ハジメ「いやお前は違うだろ…とにかくだ…俺は怒ってない…てか幸利も怒ってないみたいだしな…そうだろ?」

 

幸利「まあね。魔法とかファンタジーとか、現実とはかけ離れた世界を味わえたし……一回死にかけたから心構えとか大きく変えるきっかけを持てたしさ」

 

ユエ「……光輝は?」

 

光輝「……もとの世界を色々うんざりしていたからこの世界に来て正解だと感じている……」

 

ハジメ「てかやっぱお前とアクアはそういう関係だったんだな!!」

 

ユエ「……どういうことハジメ?」

 

ハジメ「こいつとアクアは地球に居たときからやたら距離が近かったから初めは付き合ってるって思ったんだがこいつらの態度と距離感が恋人同士のそれじゃなくて家族に対するそれだったんだ…それはそうか、前世から続くものなら距離が近いのは当然だな」

 

ユエ「カズマとアクアってハジメの友達?」

 

ハジメ「まあな、俺が中学生の頃に偶然であったんだ…学校は違かったが色々話とか合ってたし毎週遊んでたりしてたな」

 

カズマ「それでさ……俺はゆくゆくはエヒトを倒さなければならない……だからハジメ」

 

ハジメ「……」

 

カズマ「お前は神代魔法を手に入れて元の世界に帰る手段を見つけたらクラスメート達と帰りな」

 

ハジメ「なっ!?」

 

カズマ「これは俺たち転生者がやらなきゃいけないことだ……お前達は本来なら関係なく巻き込まれた側だ………それともう一つ……ごめんな……あの日、お前達から離れちまって」

 

ハジメ「!」

 

カズマ「俺とアクアがあの時離脱したせいで、お前と光輝が転落し地獄のような痛みと苦しみを味合うことになって…あまつさえ、人殺しまでさせちまった…」

 

ハジメ光輝「「!!」」

 

カズマ「驚いたか?これでも伊達に長生きしているからな…分かるんだよそういうの……ただでさえ戦争に巻き込まれた挙げ句人殺しまでさせた……これは俺のミスだ」

 

ハジメ「待てよカズマ。この世界にいるなら遅かれ早かれやっていた事だ…今更人殺しすることに抵抗も罪悪感も」

 

カズマ「だがお前は幸利を殺せなかった。それは少なからず人を殺めることに抵抗があったからだ。それが例え自身の友人であろうと…」

 

ハジメ「!」

 

カズマ「俺は…できることなら……お前たちに人を殺す感触もその心へ侵食する痛みを味合わせたくなかった…すまない」

 

ハジメ「……カズマ」

 

カズマは光輝とハジメに頭を下げた

 

彼が頭を下げた姿はハジメや幸利ですら見たことがなく、その姿勢には彼の持つ罪悪感が漂っていた

 

光輝「……顔を上げろ……それと言っておくが俺達が落ちたのはお前のせいではない」

 

カズマ「光輝…」

 

光輝「俺達が落ちたのは俺達を落とそうとした小物の仕業であってお前の責任ではない……それとオルクスに落ちてからのあれは俺にとっては地獄でもなんでもない……ただ生き残るために喰らっただけ……人を殺したのだってそうだ……奴らは己が生きる為、弱者を痛ぶって蔑んだ……当然命を奪うからには自身も奪われる側になる覚悟を持つべきであって奴らにはそれがなかった……俺は自身がいつまでも安全圏にいると思って弱者を遊びで痛ぶった奴らが気に食わなかったから殺した……それだけだ…奴らが死んだのは自業自得だ…少なくとも俺はそう思っている……地球とここでは人の命の価値観が違う……この世界にいればどのみちいつかは殺していた………それと俺は命を奪ったからには今度は自分が殺される覚悟も持っている……それはそこにいる南雲だってそうだ………貴様が何もかも責任を持つのはいささか傲慢が過ぎる」

 

カズマ「……」

 

ハジメ「……はあ…珍しくだが今回ばかり俺も天之河と同意見だ……なあ、いつからお前は俺達の保護者になった?……俺も天之河も当然覚悟も責任も何もかもを心に抱いた上でやったことだ……だから……カズマがその責任の所在を背負うのはやめてくれよ」

 

カズマ「ハジメ……」

 

ハジメ「それにさ……せっかくこれから一緒に旅をしようって時に気まずい空気のままでいるのはどうなんだか…」

 

カズマ「!!」

 

ハジメ「俺としては、お前に…来てほしい。無論アクアもだ……だがその前にお前の本音が知りたかった……だから聞いた……おかげで色々知れた……」

 

カズマ「じゃあ…」

 

ハジメ「カズマ…お前さえ良ければだが…こっちの方こそお前を誘いたい」

 

そう言うとハジメは義手の方の腕を差し出した

 

カズマ「!……ああ…これからよろしくな」

 

そう言いカズマも腕を出し互いに握手したのだった

 

 



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第二十三話 これから

 

カズマ「そういやちゃんと自己紹介していなかったな……俺は佐藤和真。ハジメと幸利の友人で昨日話した通り転生者だ。んで横の青髪は」

 

アクア「水神アクアよ。カズマと同じ転生者で生前は水の女神をやらせてもらっていたわ…」

 

ハジメ「……水の女神だから水神って名字なのか」

 

アクア「これ私が転生した先の名字で私が別になにかしたわけじゃないから」

 

幸利「一応俺もだ…清水幸利。ハジメやカズマとアクアの友人で同じく地球から転移させられた」

 

ユエ「なら私達も……私はユエ…オルクス大迷宮で300年間封印され続けていた吸血鬼で…ハジメから名前をもらった…」

 

ハジメ「こう見えてもユエは王族出身の吸血鬼だ」

 

カズマ「へえ…俺の知っている吸血鬼とはだいぶ違うんだな」

 

ユエ「……一応聞くけど貴方の知る吸血鬼って?」

 

カズマ「いやな?俺の居た異世界の吸血鬼ってどっちかっていえばアンデッドとかに近い分類だったな。太陽の光に弱かったり破魔魔法で消滅させられたり『俺は、人間をやめるぞ!!』ってセリフ吐きながら仮面かぶって人から吸血鬼になるやつとかいたな」

 

ハジメ/幸利「「(なんか最後のやつどっかで聞いたことある!!)」」

 

シア「わ、私はシア・ハウリアっていいます!!」

 

カズマ「へえ…兎人族ねえ…俺のいた異世界でも亜人族はいたが兎人は初めて見るな…」

 

シア「そ、そうなんですか?」

 

カズマ「まあでもここと違って亜人の迫害とかは無かったな。人間と変わらずの扱いだったよ」

 

シア「そ、そうなんですか…」

 

ティオ「そして妾はティオ・クラルスじゃ。竜人族でありこのたびお主らに同行をすることにしたのじゃ」

 

カズマ「は?同行ってマジ?」

 

ハジメ「……正直こいつにはついてきてほしくはないが実力はある…あるんだが…」

 

カズマ「?……なにか言いづらそうだな」

 

幸利「あの…俺、ティオさんに謝らなきゃいけないことがあるんだ」

 

幸利はそう言うとティオに向かい合う

そして

 

幸利「アンタが眠っている時に洗脳して人殺しの片棒を担がせようとしてすみませんでした!」

 

ティオに頭を下げ謝罪した

それに対しティオはといえば

 

ティオ「幸利…といったか?…お主のことはハジメから聞いておる…お主だって操られて不本意だったそうじゃな…」

 

幸利「けどそれでも俺は」

 

ティオ「それにな…操られていた時の事は覚えておるが…お主、かなり抵抗しておったではないか…」

 

ハジメ「は?いや初耳なんだが」

 

ティオ「お主が首輪の拘束にあらがっておったおかげで妾に掛けられた洗脳の力が弱体化し逃げ出すことができ、ご主人様と出会うことができたのじゃ///」

 

カズマ「……ご主人…?」

 

ハジメ「……昨日ウィルって奴にあっただろ?……アイツのことだ…」

 

カズマ「ああ……だいたいわかった」

 

シア「あ、あの幸利さん…」

 

今度はシアが幸利に向かい合い頭を下げてきた

 

シア「昨日は私を助けて頂いてありがとうございました!!」

 

幸利「い、いや俺は…」

 

アクア「はは!幸利ったらシアにお礼を言われて照れてるわ」

 

幸利「う、うるさいぞアクア。仕方ねえだろ、こちとらあまり他人に感謝されたことないんだからな」

 

カズマ「ま、ともかくこれで自己紹介は済んだな…それはそうとお前らに言っておかなきゃいけないことがある……」

 

そう言うとカズマは幸利の肩に手を起きながらハジメ達の方を向く

 

カズマ「ええ実はこの度幸利、それとウィルのふたりを鍛えることにした…んでゆくゆくはふたりにはこの先の旅に同行できるくらいに強くさせようと思う」

 

ハジメ「はあ!?」

 

ティオ「うおぉぉ!!ご主人様も同行するじゃとお!?」

 

幸利「俺の方から頼んだんだ…最低でも勇者である天之河兄以上になるためにな…」

 

シア「え、もしかしてこれからも旅の同行者が増えてくことになるのでしょうか?」

 

カズマ「さあ…まあ幸利の方はともかくウィルはお世辞にも強くないからウィルを重点的に鍛えるつもりだ………っていうのもそもそもの話これはウィル本人が俺に頭下げてお願いしてきたんだよ……昨日のエヒトの話を聞かされてウィルの奴も立ち向かうことにしたらしいんだよ…だが今のままじゃ足手まといになるからって俺から強くなる為の指導を受けたいと言ってきたんだ……まああいつは実力はともかく精神面は申し分ないからな…意外とああいうやつは化けるぞ俺の経験上」

 

そうなにかを楽しむようにニヤリと笑うカズマ

 

ハジメ「そうか……まああいつらの同行させるか有無はカズマに全権を任すことにする……お前は俺より人の素質や本質を見抜くことに長けてそうだからな……それと、時々でいいから俺のことも鍛えて欲しいんだが」

 

カズマ「OKだ…んじゃあ明日の早朝お前らフューレンに依頼達成の報告をしてくるんだよなあ?」

 

ハジメ「まあな…ウィルが生きていることとあいつはこれからも冒険者で居続ける為に修行をするってな」

 

カズマ「そうか。なら明日俺が速攻でフューレンに送ってやるよ」

 

ハジメ「は?いやいくらお前が速く行けるからってまさか俺達を背負って行くつもりじゃ」

 

カズマ「いやいや、そりゃあ初めて行く場所なら行きは時間かかるが一度行ったことのある場所ならテレポート魔法で送れるぞ?」

 

ユエ「テレポート!?」

 

シア「ええ!?そ、そんなことができるのですか!?」

 

カズマ「そういえば俺の本来のステータスプレート見せたことがなかったな」

 

そう言いながらカズマは自身のステータスプレートを取り出してみせた

それとついでにアクアもステータスプレートを見せた

 

ハジメ「はあ!?…なんだこの技能の数は…それに全ステータスが高すぎるだろ…俺は魔物肉喰って全ステータス一万代に達したっていうのに…魔力が俺の3倍はあるぞ!それになんだこのアクアのバカでかい魔力量…50万って…」

 

カズマ「そういえばツッコもうと思っていたがやっぱ魔物肉喰ってからそこまで力をつけたんだな……魔物肉って一応猛毒なはずなんだが……そこは昨日お前が言っていた神水とやらの回復力でどうにか乗り切ったってところだな?」

 

ハジメ「まあな…」

 

カズマ「なあ、ついでだからお前と光輝のステータスプレートも見せてくれないか?」

 

ハジメ「あいよ」

 

光輝「…フン」

 

カズマがそう言うとハジメと光輝が渡してきてそれぞれに目を通す

 

カズマ「げぇ…お前ら相当喰ってきたな……しかも絶対使わねえやつや要らない技能混ざってるだろ」

 

ハジメ「まあ目にして喰えそうなものを喰ってきたからな」

 

カズマ「……悪食…いや他に食べられそうな物がなかったから無理もないか……(料理スキルあるし、今度あいつらに地球の旨い料理食わせてやろう)……」

 

この後彼らは軽く雑談をし明日に備えてそれぞれ眠りにつくのだった



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第二十四話 ハジメ○○になる/カズマ○○○○○○になる!?

 

ハジメ「うわ…マジで一瞬でフューレンに着いたな」

 

ユエ「ん……長距離移動を数秒で済ませられたのはすごく便利」

 

シア「い、今までの長距離移動が馬鹿らしくなりますですぅ…」

 

ティオ「ま、まあ…ともかく速く着けたのじゃから良いではないか」

 

光輝「……(これでも奴にとっては力の一端に過ぎないのか…)」

 

翌朝、ハジメと光輝、ユエにシア…そしてなぜかティオまでがフューレンに着いた

 

ティオ曰く、ウィルの生存を伝えるための承認+自分が何日も共に居た間のこと…そしてあわよくばウィルの両親にご挨拶を!と意気込んでらしい

 

ちなみにカズマはウルに残って幸利とウィルを早朝から指導しており、幸利達への指導をしながらハジメ達を転送させた

 

ハジメ「んじゃ、とっとと報告済ませるか…」

 

ユエ「ん、了解」

 

シア「早く済ませましょう!!そしてその後ハジメさんとデートを!」

 

ティオ「なんじゃ、シアはハジメとそのような予定をいれておったのじゃな?」

 

シア「フッフフ…ユエさんに約束を取り付けてましてね…今日一日ハジメさんとふたりっきりです!!」

 

ユエ「……今になってあんな約束するもんじゃ無かったって後悔している」

 

光輝「……(こいつハーレム街道まっしぐらだな)」

 

こうして彼らはイルワに無事依頼達成報告をし、ウィルは修練の為戻らずに残ることを伝えたのだった

 

また今回の依頼達成の条件の一つであるユエとシアのステータスプレートを差し出されたのだが、ついでにティオの分も作ってもらうことにした

 

そして現在ユエ達のステータスはというと

 

ユエ 323歳 女 レベル:75

 

天職:神子

筋力:120

体力:300

耐性:60

敏捷:120

魔力:6980

魔耐:7120

 

 

技能:自動再生[+痛覚操作]・全属性適性・複合魔法・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮][+遠隔操作][+効率上昇][+魔素吸収]・想像構成[+イメージ補強力上昇][+複数同時構成][+遅延発動]・血力変換[+身体強化][+魔力変換][+体力変換][+魔力強化][+血盟契約]・高速魔力回復・生成魔法・重力魔法

 

シア・ハウリア 16歳 女 レベル:40

 

天職:占術師

筋力:60 [+最大6100]

体力:80 [+最大6120]

耐性:60 [+最大6100]

敏捷:85 [+最大6125]

魔力:3020

魔耐:3180

 

 

技能:未来視[+自動発動][+仮定未来]・魔力操作[+身体強化][+部分強化][+変換効率上昇Ⅱ] [+集中強化]・重力魔法

 

 

ティオ・クラルス 563歳 女 レベル:89

 

天職:守護者

筋力:770 [+竜化状態4620]

体力:1100 [+竜化状態6600]

耐性:1100 [+竜化状態6600]

敏捷:580 [+竜化状態3480]

魔力:4590

魔耐:4220

 

技能:竜化[+竜鱗硬化][+魔力効率上昇][+身体能力上昇][+咆哮][+風纏][+痛覚変換]・魔力操作[+魔力放射][+魔力圧縮]・火属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・風属性適性[+魔力消費減少][+効果上昇][+持続時間上昇]・複合魔法

 

皆それぞれハジメや光輝程ではないにしろかなりの高ステータス

 

これは勇者である勇輝すらも軽く上回るレベルであり普通にこの世界でも上位に君臨できる実力者揃いだ

 

ちなみにシアの未来視は少し先の未来を見ることができる能力だがあまり多様ができずたとえ見たとしてもそれによる被害や不幸を回避できるかは本人次第という不確定なもの

 

その後はハジメとシアはデートをし、ユエとティオは町の喫茶店で会話し、光輝は光輝で町を一人でまわるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「……で…なにがあってそうなったんだ?」

 

それから数時間後、ハジメ達を迎えにフューレンに訪れたカズマだったが

 

目の前の光景に思わず頭を書きながらハジメ達に話しかけた

 

ハジメ「ああー、簡単に言っちまえば……パパになりました」

 

カズマ「そうか」

 

シア「いやそうかじゃないですぅ!!なに納得しちゃってるんですかカズマさん!!」

 

カズマ「いやまあ言わんでいいぞ。大方その子助けるために色々はっちゃけて挙げ句懐かれてパパになったんだろ?」

 

ティオ「お主読心術でも使えるのか!?なぜそれだけで何もかも察せられるのじゃ!?」

 

カズマ「どうしてもなにも………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

こんだけ町のあちこちが明らかにお前らの手で荒らされて挙げ句ボロボロのその子見たら理解したわ」

 

その言葉通り、フューレンのあちこちの建物はなにか強い力で瓦礫の山と化しており、更にはハジメの連れている幼女の見た目はボロボロになりながらもハジメから離れずにギュッと引っ付いている

 

その後シアからことの詳細を聞いたカズマ

 

曰くこの幼女の名はミュウ

海人族と呼ばれる亜人族の中でもかなり特殊な地位にある種族であり、西大陸の果て【グリューエン大砂漠】を超えた先の海【海上の町エリセン】で生活しており、その種族の特性を生かして大陸に出回る海産物の八割を採って送り出しており、亜人族でありながらハイリヒ王国から公に保護されている種族を受けている

しかしその特異性から人攫いに目をつけられることも珍しくなく、ミュウは人攫いにあい、母親から引き離され、その後人攫いから逃げた先でたまたま出会ったハジメ達に保護され、その過程でミュウは自身が受けた酷い仕打ち、更には自分以外にも誘拐され非人道的な扱いを受けた亜人の子供達の話をしていた

 

それ聞いたハジメは一瞬頭に血が登りつつもどうせグリューエン大砂漠に行く予定だった為ミュウを故郷へ送ろうと考えた

しかしその矢先にミュウを攫おうとこの町の裏を取り仕切る犯罪組織が襲撃してきた

危うく誘拐されそうになったミュウを救ったのは、単独行動を取っていた光輝だった

 

話を聞いてなかった光輝だったが、大体の事情やこの町に巣食う膿の存在に他の誰よりも感知していた光輝は町の犯罪組織の支部を次から次へと潰していった

 

またそんな光輝について行ったユエとティオ曰く、支部の地下牢で瀕死の子供や既に息絶えていた子供達の姿を見た光輝は特に声を荒げることもなく、生きている子に声をかけることは無かったが、そこにいた犯罪組織の構成員を一人残らず残酷な殺し方で始末して行ったそうだ

 

曰く天照による火炙り

曰く須佐能乎の手で握り潰した

曰く月読に掛け精神を崩壊させ廃人にさせた

 

犯罪組織のやってきた所業に光輝もわかりやすいくらい怒りが湧いていたそうだった

 

ティオは光輝の事は当初冷たい男と称していたがこれを見てティオは光輝の事を内面はとても情に厚い男と言った

それを言ったティオに対しユエは『分かりづらいけど元々光輝は優しいよ』と言った

 

その後フューレンの町にあった犯罪組織は光輝達により壊滅され、ミュウを連れて行くことにしたのだが、自身に優しくしてくれたハジメに懐き、パパと呼ぶようになったそうな

 

光輝の事は光輝お兄ちゃんと、ユエやシア、ティオの事はお姉ちゃんと呼んでおり…ある程度距離は縮まったようだった

 

カズマがミュウに近づくとミュウはビクッとしてハジメの後ろに隠れようとした

 

カズマ「こんにちはミュウちゃん…俺はカズマ…ハジメパパの友達だよ」

 

ハジメ「ハジメパパはやめろ」

 

カズマ「もう大丈夫だよ…ここに君を傷つける人は居ないから…君のことは、俺達がちゃんとお家に返してあげるからね」

 

ミュウと同じ目線になるよう膝を曲げながら優しく言うカズマに最初は怖がっていたミュウも警戒心が薄れ、ハジメから離れた

 

そんなミュウにカズマは頭を優しく撫でた

その後ウルまで戻って来た一行は幸利や愛子に愛ちゃん護衛隊の面々に事情を話した

ちなみにカズマとアクアは愛子に自身の素性を話した

最初はそれを信じてもらえなかったが本人たちの強さや年齢の割にかなり達観していた事などが合わさり、とりあえずは信じると言った所となった

その頃にはミュウはカズマの事も懐いた

 

しかしこの時ミュウはカズマの事をカズマお兄ちゃんではなく

 

ミュウ「カズマおじいちゃん!」

 

ハジメ「…は?」

 

シア/ティオ/幸利/ウィル/愛子「「「「「!?」」」」」

 

ハジメ「ミ、ミュウ……な、なんでカズマの事をおじいちゃんって呼ぶんだ?」

 

ミュウ「ユエお姉ちゃんがね、カズマお兄ちゃんのお年はおじいちゃんだからおじいちゃんって呼んでっていったからなの!」

 

それを聞き、ハジメ達はユエの方を向く

 

実はユエはカズマに対してある種の対抗心を抱いていた

なぜなら自身が愛するハジメや気にかけている光輝を一方的に痛ぶり、挙げ句自分よりもハジメと長くいて自身よりもハジメの事を知っているなど、嫉妬心も抱いていた

 

これはその対抗心や嫉妬心によるちょっとした嫌がらせのつもりだった

 

しかし

 

カズマ「そっか…カズマおじいちゃんか…」

 

ミュウ「?おじいちゃんって呼んじゃ駄目なの?」

 

カズマ「いやいや全然良いよミュウ。せめて一緒にいる間は俺がミュウのおじいちゃんで居てあげるよ」

 

ミュウ「わあ〜!!」

 

思ったよりも大人の対応したカズマに一同はほっとした

 

カズマ「所でハジメ…ユエっていくつだっけ?」

 

ハジメ「!!」

 

が、安心したのもつかの間

カズマの質問に少し冷や汗をかくハジメだったが

 

ハジメ「2、23歳だったはず…」

 

とりあえず(オルクス大迷宮に閉じ込められていたときの年数を除いた)年齢を答えたが

 

カズマ「おいおいそんなわけ無いだろ?大迷宮に300年も引きこもっていた奴が23歳な訳がない……ねえミュウ、ユエの事をなんて呼んでるんだっけ?」

 

と切り替えした

この時点でハジメ達はものすごく嫌な予感がした

 

ミュウ「?ミュウはユエお姉ちゃんって呼んでいるの!!」

 

カズマ「ハハハ、駄目じゃないかユエ。子供に嘘ついちゃ」

 

そう笑いながら言うカズマだったが目は全くと言っていいほど笑っていなかった

 

カズマ「300年も生きているのにお姉ちゃんは無いじゃん。実年齢100歳以上の俺がおじいちゃんなら300歳超えのお前はおばあちゃんじゃないか」

 

その言葉にユエからは冷たい空気が流れ出し、シアやティオはミュウを連れて避難しようとした

 

カズマ「あ、ごめん間違えたな。300年も生きているならおばあちゃんじゃなくて大大大ばあちゃんだな」

 

その瞬間ユエから氷の魔法が飛んできたがそれを首を動かす程度で避けたカズマ

 

そして明らかにユエの背後から暗雲と雷を背負った龍の化身が現れた←ただの幻覚

 

ユエ「……そこまで私を煽るなら…相手になってあげる……来い…若造が」

 

カズマ「掛かってこいよ…ヴァンパイア」

 

そう言いながらカズマはユエに中指を立てて挑発した

 

そしてこのあとユエ対カズマの大乱闘が勃発した

 

最初はシアやハジメが止めに入ろうとしたが巻き添えを喰らいかねなかったため傍観することにした

 

ちなみに最終的にはユエの魔力がギリギリ切れそうになったあたりでユエから魔力を吸い出してカズマが勝利を収めた

 

またこれ以降カズマとユエの喧嘩は度々行われることとなる

 

 



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第二十五話 勇者パーティの危機

 

 

 

相川「な、なんだこれ!?」

 

仁村「今までこの世界で食ってきたどんな料理よりも美味え!!」

 

菅原「美味しい!すごく美味しいよ!!」

 

宮崎「味付けも風味もばっちりで食べれば食べるほど食欲が増す!!」

 

玉井「うぅ…地球の母ちゃんを思い出す…」

 

ティオ「なんじゃこれは!?この肉厚感…柔らかくも口の中でとろける!」

 

ウィル「はい!それに一緒に使われているソースが絶品です!!」

 

シア「どれも見たこともない料理ばかりですがすっごく美味しいですぅ!!」

 

ユエ「ん……美味しい…美味しいけど…すごく複雑…」

 

園部「わかるわ…私これでも料理屋の娘で料理には自信があったのに…これ食べたらなんか負けた気がする…」

 

幸利「まさか異世界に来て地球の料理が食えるなんてな……」

 

愛子「美味しいです佐藤君!!」

 

ハジメ「カズマおかわり!!」

 

光輝「……」←無言で皿を出す

 

カズマ「はいはい、そんな慌てなくてもお前らの腹がはち切れるくらいおかわりはあるからな?」

 

ミュウを迎え入れたその日の夜

 

カズマはかつて前世でも使っていた料理スキルで彼らに料理を振る舞った

 

この世界の食材で地球の料理を模した物を作りだした

 

最初はシアやユエに料理できるかどうか言われたが『少なくとも300年引きこもってたやつよりかはできるから問題ない』と発言したところ再び乱闘

 

そして完成した料理をハジメ一行や愛ちゃん護衛隊の面々にウィルに出すと皆手を止めずに料理にがっついた

 

カズマ「どうだミュウ?俺の作った料理は美味しいかい?」

 

ちなみにミュウにはお子様セット(ミニオムライス、ウィンナー、ミニハンバーグにブロッコリーモドキと人参モドキ、オレンジジュースモドキ)を作り食べさせた

 

ミュウ「うん!食べたことないものだけどすっごく美味しいの!!」

 

ミュウは口元にソースを付けながら笑顔で答えた

 

アクア「ミュウ、ソースが付いてるわよ」

 

アクアはアクアでミュウのそばに来て食べさせている

 

シア「アクアさん。とても面倒見がいいです…」

 

ティオ「というよりカズマ共々子供の扱いに慣れておらぬか?」

 

カズマ「まあこれでも俺とアクア一応親だったときもあったし…」

 

アクア「なんだったら祖父母だったこともあるからね…」

 

ハジメ「!(そうか…いやそりゃあそうか……)」

 

カズマ「……(みんな…やっぱ地球の料理は安心するか…)」

 

カズマの料理を笑顔で食べる一同を見て、カズマは心の中で笑みを浮かべ、ハジメと光輝に盛り付けた皿を渡すのだった

 

カズマ「そういえばハジメ、俺たち用のバイクはあとどれくらいで完成しそうなんだ?」

 

ハジメ「もう明後日って所だな…そういうお前も武器作りの進捗はどうだ?」

 

カズマ「これでも前世じゃ色んなもの制作してたからな…明日には完成するよ……出発は明後日だな……行き先はホルアドだ…まあ俺は幸利達の指導のためにもウルを今後何回も往復するけどな…」

 

ハジメ「改めて聞くとお前のテレポートは本当便利だな……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《浩介視点》

 

浩介「はぁ…はぁ…クソ!」

 

オルクス大迷宮の階層を呼吸を荒らげながら上層階へと登る浩介

 

そこへ数頭の魔物が襲い掛かった

 

浩介「俺はさっさと助けを呼ばなきゃいけないんだよ!!邪魔すんな!!」

 

その瞬間浩介は魔物の方へ走り出しすれ違いざまに持っていたナイフで急所の部位を切り裂き絶命させた

 

現状の浩介の戦闘能力は神の使徒(地球転移組)の中では上位に位置し、お得意のステレス能力を発言させればカズマじゃない限り感知ができなかったりする

 

浩介「クソ!あの駄目勇者が!!あいつ戻ってきたらぜってぇぶん殴ってやる!」

 

なぜ彼がここまでボロボロになりながらも地上を目指すのかというと、それは数時間前に遡る

 

カズマの言いつけどおり、永山の率いるパーティに所属しながら彼らの攻略を手伝った

 

そして今日…勇輝達勇者パーティ…そして檜山率いる小物グループと合同でオルクス大迷宮の攻略を進めていた

 

だがそこで潜んでいた魔人族の罠に掛かり一同は大きな被害を出しつつ後退を余儀なくされた

 

しかし、彼らが追い込まれ敗走せざるを得なくなったのは、勇者である勇輝の勝手すぎる行動が原因である

 

敵の魔人族は自身が率いる魔物を使いながら威嚇しつつ、自分達につかないかと勧誘を持ちかけられた

 

しかし、これを勇輝は仲間に相談せず代表して、即行で断った

こんな勧誘は不快だ!これ以上の問答は無用、投降しないなら力づくでも! という意志を示した

 

これには浩介に永山や雫は内心で舌打ちしつつ、魔人族の周囲に最大限の警戒を行う

彼らは、場合によっては一度、嘘をついて魔人族の女に迎合してでも場所を変えるべきだと考えていたのだが、その考えを光輝に伝える前に彼が怒り任せに答えを示してしまったので、仕方なく不測の事態に備えているのだ

 

この時点で浩介はただでさえ低い勇輝の評価が更に下がった

 

皆を率いる立場でありながら一人で自分勝手にあれこれ進める

おまけにハジメの死を悲しみながらも生きていると信じる香織に場違いな発言をしたり、相変わらずハジメの死は疑ってないくせに弟である光輝の生存は諦めてない

 

挙句の果ては逃げられる、相手の手の内がわからない以上迂闊に攻めるべきでないにも関わらず馬鹿の一つ覚えなのか真っ向から立ち向かった結果

 

逆にやられ、結果全パーティが追い込まれる要因を作った

しかしその当人は自分のせいで殺られかけた事に気づかない、いや認めないだろう

 

その後、他の怪我人たちと逃げ隠れていたが、同じグループの永山達に地上まで助けを呼びに行くよう頼まれた

 

ステレス能力と今いるメンバーの中でも高いステータスを持つ浩介ならばと皆から背中を押され、浩介は助けを求め地上へと駆け上がる

 

その道中、メルド達騎士団と遭遇し彼らにも事情を話した

 

その時彼は浩介にあることを言う

 

メルド「……浩介。私は今から、最低なことを言う。軽蔑してくれて構わないし、それが当然だ。だが、どうか聞いて欲しい………何があっても、勇輝だけは連れ帰ってくれ。今のお前達ですら窮地に追い込まれるほど魔物が強力になっているというのなら…勇輝を失った人間族に未来はない。もちろん、お前達全員が切り抜けて再会できると信じているし、そうあって欲しい……だが、それでも私は、ハイリヒ王国騎士団団長として言わねばならない。万一の時は、勇輝を生かしてくれ…はっきり言おう…アイツは人類の希望だ」

 

浩介「……」

 

それは、より重要な何かを生かすための犠牲の発想、上に立つ者がやらなければならない選択

浩介にはできずそれ故に、浩介の表情はひどく暗いものになっていく

 

そして答える

 

浩介「メルドさん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お断りです」

 

メルド「!?」

 

メルドの言葉を聞き、それを拒否する浩介

 

浩介「アイツが人類の希望?馬鹿言わないでくださいよ。その人類の希望であるアイツのせいで俺達は敗走に追いこまれてるんですよ!!正直言って、アイツが人類の希望である時点で人類は終わってるとしか思えないですよ!」

 

その言葉にメルド達面々が驚きの声を漏らす

 

浩介「それに…本当の人類の希望は他にいる……アイツらがな」

 

メルド「!……それは…カズマやアクアのことか?」

 

浩介「そうですけど、彼らだけじゃない……今はまだ居ないが、ハジメや天之河だってそうだ!……あんな奴に人類の未来託す位なら…俺はアイツらに託す!」

 

その言葉とともに浩介は再び走り出し、上層階へと登っていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして更に数時間後

 

ハジメ「!!お前…浩介か?」

 

浩介「!!」

 

ホルアドのギルドに飛び込んだ先で浩介の目に入ったのは…何人かの女と幼女を抱きかかえた…白髪眼帯の自身の友人…南雲ハジメと同じく白髪となった天之河光輝だった

 

浩介「お、お前…ハジメなのか!?……ど、どうしてそんな…闇お」

 

ハジメ「言わせねえよ!!誰が闇落ちした金木研だ!!」

 

 



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第二十六話 再会する面々

 

カズマの言っていた明後日のホルアドへと行く当日

ハジメ達はギルドに来ていた

 

ちなみにカズマとアクアは買い物があると出ていき、それにすれ違うタイミングで浩介がギルドに駆け込んできた

 

浩介「い、いやまあ…お前と天之河が生きていることはカズマから聞いていたし、そこは驚かねえんだけど……なんで子供抱いてるんだ?…それと周りの女子達は?」

 

ハジメ「ああ…色々あった…簡単に言えば惚れられてパパになって一緒に旅してる」

 

浩介「……ああ…(詳しく聞きたいが今は駄目だな)」

 

シア「(やっぱり困惑しちゃってるですぅ)」

 

ハジメ「それより浩介、何があった…お前がそれだけボロボロになってるのには何かあったってことだろ?」

 

浩介「ああ!!そんなんだ!!」

 

そこで浩介はこれまでの事を事細かに話した

 

ハジメ「……何やってるんだあの馬鹿は」

 

ユエ「ん…酷い……とても光輝と同じ日に生まれた双子とは思えない…」

 

シア「はわわ、ど、どうしますかハジメさん光輝さん!?」

 

ハジメ「どうしたもこうしたもないだろ。さっさと戻るんだよ!」

 

そう言うとハジメはミュウをシアに預け、自身とユエも行こうとした

 

浩介「あれ?そういえば天之河は?」

 

が、そこでさっきまで居たはずの光輝の姿が見えないことに気づき、辺りを見渡す

 

ハジメ「!……あいつ…まさか……(あいつ…わかってるだろうな……昨日カズマが話していたことを…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わってオルクス大迷宮

 

浩介が救助を呼びかけたその数時間後

勇輝達を追い詰めた魔人族の女性カトレアとカトレアが率いる魔改造の魔物達に再び見つかり交戦

 

更には彼女達は合流してきたメルド達騎士団を品詞に追い込み人質に使い、ただでさえ劣勢だった勇輝達は更に追い込まれた

 

極めつけは土壇場で能力の覚醒を果たした勇輝の攻撃により形勢逆転され、後はとどめを刺すだけとなったのだが

 

カトレア「ごめん……先に逝く……愛してるよ、ミハイル……」

 

愛しそうな表情で、手に持つロケットペンダントを見つめながら、そんな呟きを漏らす魔人族の女に、勇輝は思わず聖剣を止めてしまった

覚悟した衝撃が訪れないことに訝しそうに顔を上げて、自分の頭上数ミリの場所で停止している聖剣に気がつく魔人族の女

 

勇輝の表情は愕然としており、目をこれでもかと見開いて魔人族の女を見下ろしている。その瞳には、何かに気がつき、それに対する恐怖と躊躇いが生まれていた。その勇輝の瞳を見た魔人族の女は、何が勇輝の剣を止めたのかを正確に悟り、侮蔑の眼差しを返した

 

カトレア「……呆れたね……まさか、今になってようやく気がついたのかい? 〝人〟を殺そうとしていることに」

 

勇輝 「ッ!?」

 

勇輝にとって魔人族とはイシュタルに教えられた通り、残忍で卑劣な知恵の回る魔物の上位版、あるいは魔物が進化した存在くらいの認識だった

が、実際魔物と共にあり、魔物を使役していることが、その認識に拍車をかけた

しかし、自分達と同じように誰かを愛し誰かに愛され、何かの為に必死に生きている、そんな戦っている〝人〟だとは思っていなかったのである

あるいは、無意識にそう思わないようにしていたのか…… その認識が、魔人族の女の愛しそうな表情で愛する人の名を呼ぶ声により覆された

否応なく、自分が今、手にかけようとした相手が魔物などでなく、紛れもなく自分達と同じ〝人〟だと気がついてしまった。自分のしようとしていることが〝人殺し〟であると認識してしまったのだ

 

カトレア「まさか、あたし達を〝人〟とすら認めていなかったとは……随分と傲慢なことだね」

 

勇輝「ち、ちが……俺は、知らなくて……」

 

カトレア「ハッ!『知ろうとしなかった』の間違いだろ?」

 

勇輝 「お、俺は……」

 

カトレア「ほら? どうした? 所詮は戦いですらなく唯の〝狩り〟なのだろ? 目の前に死に体の一匹・・がいるぞ? さっさと狩ったらどうだい?おまえが今までそうしてきたように……」

 

勇輝「……は、話し合おう……は、話せばきっと……」

 

カトレア「アハトド! 剣士の女を狙え! 全隊、攻撃せよ!」

 

その言葉とともにカトレアの率いる魔物は勇輝の次に厄介な存在である雫を狙う

 

雫「ぐぅぅ!!」

 

魔物の腕が雫の首を掴み、動きを止められた

 

勇輝「雫ぅぅぅ!!!」

 

すぐにでも助けに行きたかった勇輝だったが、ただでさえ自身は基本ステータスの三倍の力を発動できる『限界突破』の上位互換である『覇潰』を使い基本ステータスの五倍の力を得たが発動の副作用により身体が自由に動けなかった

 

香織「雫ちゃん!!」

 

谷口「シズシズ!!」

 

他の面々も助けに行こうとしたが周りの魔物が邪魔で助けに行けない

 

この時

雫は自身の死を覚悟した

 

そしてこれまでの人生が頭の中を駆け巡った

 

そんな彼女が唯一…後悔しているものがあった

 

それは…

 

雫「(……光輝)」

 

自身の幼馴染であり…自身が何年も何年も気にかけ続けてきた男だった

 

自身がいじめられたあの事件をたった一人で解決した

しかしその代わりに彼は道場をやめ、兄である勇輝とも険悪になり、しまいには自身を含めた多くの者と関わろうとしなくなり、人を嫌うようになり…一人になってしまった

 

雫「(あれ以来……私と光輝の間に距離ができた………私が…私のせいで!…光輝をあんなになってしまう位に追い込んじゃった!!……私は……貴方を一人になんてさせたくなかったのに!……ごめん…ごめんなさい!……光輝…)」

 

涙を流しながら、心のなかで光輝に謝った

 

そして魔物の攻撃が雫に止めを刺そうと迫りくる

 

雫は目を瞑りながら最後の瞬間まで

 

雫「(もう一度………貴方に会いたかった……)」

 

 

彼を思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし

 

いつまで経っても自身に迫りくるはずの痛みの衝撃が来なかった

 

思わず目を開くと目の前には自身を掴んでいた魔物の首が無くなっており、その魔物の身体が地面に倒れ、雫は腕から開放された

 

そして魔物が倒れたことにより、その背後に立っている者の存在に気がつく

 

その者は白い髪をし、手には刀を握り雫を見下ろしていた

 

この突然の自体に周りも雫も困惑していた

が、彼女はその者の顔を見て呟く

 

雫「!………こう…き…なの?」

 

光輝「……」

 

そんな雫の言葉に返答をせず、魔物達に目を向ける光輝

 

そこへ

 

ドォゴオオン!!

 

轟音と共に天井が崩落し、同時に紅い雷を纏った巨大な漆黒の杭が凄絶な威力で飛び出し 、そのまま地面に突き刺さった

 

パイルバンカー

 

ハジメの作った物の一つであり、今回はショートカットの道具として利用された

 

そして崩落した天井から人影が飛び降りてきた

 

その人物とは

 

ハジメ「全く…人の話を最後まで聞かずに一人突っ走りやがって…」

 

光輝「フン……連中がどの程度やれるのか見てみたかっただけだ」

 

ハジメ「……そうかい……んで、評価の程は?」

 

光輝「駄目だな……よく今日まで生き延びたなとしか言えん……」

 

ハジメ「やっぱそう思うか…んじゃ、ここからがハイライトだ……ユエ、お前は後ろの面々を守りな」

 

ユエ「ん…了解…ハジメ、光輝…言う必要がないと思うけど……カズマの言葉を忘れずにね…」

 

ハジメ「わかってる…それより天之河、お前分かってんだろうな…」

 

光輝「フン!言われずともな!」

 

その言葉とともに光輝は刀を握りしめ、ハジメはドンナーを構えた

 

ハジメ/光輝「「行くぞ」」



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第二十七話 創者と破者の無双

 

光輝「『千鳥』!」

 

光輝は右腕に雷魔法を集中させ

 

光輝「『千鳥流し』!」

 

地面に向け放ち、周りの魔物に浴びせた

 

魔物共「「ぐあぁぁぁぁぁ!!!」」

 

ハジメ「たく、一人で全部仕留めんな、よ!!」

 

その背後ではハジメがドンナーを持ち弾丸を放つ

 

光輝「おい、そっちには」

 

ハジメ「わあってる!」

 

光輝の言葉を遮りながらもハジメは白眼を開眼した

 

すると目に見えない透明の魔物がユエ達の方へ向かっていた

 

ハジメ「この眼から逃れられると思うな!!」

 

その言葉とともにハジメは透明の魔物に接近し後頭部をつかみ上げ、そのまま壁へと投げつけた

 

光輝「『豪火球』!!」

 

光輝の飛ばした火球弾が魔物に命中し燃やし尽くされた

 

龍太郎「な、なんなんだあいつらは…」

 

勇輝「……彼らは一体、何者なんだ!?」

 

香織「か、かれ…ハジメ君よ!……それに彼は…」

 

雫「……光輝…」

 

龍太郎「なっ!?光輝だって!?それに南雲だと!?」

 

勇輝「!!」

 

浩介「ああ、信じられないだろうがあいつら生きてやがったんだ……」

 

永山パーティの面々「「「「あ、いたんだ浩介」」」」

 

浩介「クソが!やっぱこうなんのかよ!!」

 

突如舞い降り戦闘を始めたハジメ達に多くのクラスメートの面々は驚きのようで見ていた

 

カトレア「くっ!なんだっていうの!私の配下達がこうもあっさりと……」

 

そんな光輝に最も巨大な魔物が掴みかかるが

 

光輝「!」

 

光輝は自身が握る刀で魔物の腕を細かく切断した

 

光輝「……(黒金(クロガネ)……良い刀だ)」

 

黒金

それはカズマが光輝の為に作った刀であり、ハジメのドンナーなどの武器と同様生成魔法を使って作った刀型のアーティファクト

 

その効果は世界でも最高峰の強度の鉱石で作られてるため刃は決してかけることがなく、魔力を流すことでその効果を倍増

 

光輝「!」

 

光輝は黒金を魔物の額に向かって投げつけた

その結果魔物の額に刀がぶっ刺し絶命した

 

そんな丸腰の光輝に周囲の魔物が同時に襲いかかったが

 

光輝「(戻れ黒金)」

 

そう心の中で念じると魔物に突き刺さったまんまだった黒金が消え、光輝の手元に出現した

 

光輝「ッ!!」

 

その刹那

光輝は身体を回転するように動き周りの魔物を切り刻んだ

 

この刀の能力の一つ

それが❲アポート〕

持ち主の手元から離れても心の中で『戻れ』と念じればどれだけ遠くでも、また別の世界にいたとしても必ず持ち主の手元に出現する

 

ハジメ「『投影構築』!」

 

ハジメは自身の周りにいくつもの武器を作成し

 

ハジメ「『ウェポンバレット』!!」

 

武器の雨を魔物共の頭上に落として仕留めた

 

皆が、信じられない思いで、ハジメと光輝の無双ぶりを茫然と眺めていると、ひどく狼狽した声で浩介に喰ってかかる人物が現れた

 

檜山「う、うそだ。南雲は死んだんだ!それに天之河もそうだろ? みんな見てたじゃんか。生きてるわけない! 適当なこと言ってんじゃねぇよ!」

 

浩介 「はあ!?んだよお前! ステータスプレートも見たし、本人が認めてんだから間違いないだろ!」

 

檜山「うそだ! 何か細工でもしたんだろ! それか、なりすまして何か企んでるんだ!」

 

浩介「いや、何言ってんだよ? そんなことする意味、何にもないじゃないか」

 

浩介の胸ぐらを掴んで無茶苦茶なことを言うのは檜山だ

 

その表情は青ざめさせ尋常ではない様子でハジメと光輝の生存を否定する

周りにいる近藤達も檜山の様子に何事かと若干引いてしまっているようだ。

 

檜山「ヒッ!」

 

その瞬間、檜山に対し3つの強い殺気が檜山に向けられた

 

一つは自分達の護衛をしているユエから

そして残りはハジメと光輝からだった

 

特にふたりからは凄まじい殺意が流れており、まるで『こっちはもうすぐ済む…その次はお前だ』とでも言いたげな睨みをきかせた

 

そして

 

カトレア「はぁ…はぁ…全く…アンタ達本当に人間?本当は化け物何じゃないの?」

 

手持ちの全ての魔物を始末され、挙げ句自身の魔法すらも聞かないふたりを前にカトレアは追い詰められた

 

ハジメ「さあな?……ま、どっちでもいいな……あんま長ったらしく話すのもアレだから簡潔に言うぞ……あの魔物は神代魔法によって生み出されたいわゆる改造型の魔物で、お前ら魔人族内でも七大迷宮を突破して神代魔法を得た攻略者がいるな?……」

 

カトレア「…はは…なるほどね……それは強いに決まってるわね…あの方と同じ攻略者がここにも……もはやこれまで…か……さ、ひと思いにやっちゃいなさい…あたしは捕虜になんかなりたくないわ…」

 

捕虜にされるくらいならば、どんな手を使っても自殺してやると魔人族の女の表情が物語っていた

そして、だからこそ、出来ることなら戦いの果てに死にたいとも

 

カトレア「いつかあたしの恋人がアンタ達を殺すよ」

 

その言葉に、ハジメは口元を歪めて不敵な笑みを浮かべる

 

ハジメ「敵だと言うなら神だって殺す。その神に踊らされてる程度の奴じゃあ、俺には届かない」

 

互いにもう話すことはないと口を閉じ、ハジメは、ドンナーの銃口を魔人族の女の頭部に向けた

 

しかし、いざ引き金を引くという瞬間、大声で制止がかかる

 

勇輝「待て! 待つんだ、南雲! 彼女はもう戦えないんだぞ! 殺す必要はないだろ!」

 

ハジメ「……」

 

ハジメは、ドンナーの引き金に指をかけたまま『この馬鹿は何言ってんだ?』と訝しそうな表情をして肩越しに振り返った

 

勇輝は、フラフラしながらも少し回復したようで何とか立ち上がると、更に声を張り上げた

 

勇輝「捕虜に、そうだ、捕虜にすればいい。無抵抗の人を殺すなんて、絶対ダメだ。俺は勇者だ。南雲も仲間なんだから、ここは俺に免じて引いてくれ」

 

余りにツッコミどころ満載の言い分に、ハジメは聞く価値すらないと即行で切って捨てた。そして、無言のまま引き金を引こうとしたその瞬間

 

シュパッ!!

 

風を切る音が室内に木霊する

 

狙い違わず魔人族の女の首が飛び、宙を舞う

 

静寂が辺りを包む。クラスメイト達は、今更だと頭では分かっていても同じクラスメイトが目の前で躊躇いなく人を殺した光景に息を呑み戸惑ったようにただ佇む。そんな彼等の中でも一番ショックを受けていたのは雫だった

 

覚悟はしていた

この世界に来てしまった以上このようなことはいつか起きると頭の中でずっと思っていた

 

しかし…魔人族を…いや…人を殺したのは自分ではなく…自身がずっと気にかけていた男

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「南雲、そいつにトドメを刺すのにどれだけ手間取っている」

 

天之河光輝その人だった

 

 



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第二十八話 2大女神の涙/愚者の勇者

 

勇輝「なぜだ…なぜ彼女を殺した」

 

そう震える声で光輝に詰め寄る勇輝だったが

 

光輝「……フン」

 

光輝それを無視しながら来た道を引き返す

 

勇輝「あ、おい!待て!!」

 

アクア「ふう…これでもう大丈夫よ…傷も深かったけど即死じゃなかったから助けられたわ」

 

その声にクラスメイト達は振り返る

 

そこにはいつの間にか来ていたアクアがメルド達騎士団の治療にあたっていた

 

香織「ア、アクアちゃん!?」

 

恵里「!!」

 

谷口「い、いつ戻ってきてたの!?」

 

アクア「さっきよ…全く、私居るのに先に行っちゃって…」

 

そう不貞腐れるようにいうアクア

 

香織「アクアちゃん…メルドさんを助けてくれてありがとう。それにハジメ君も光輝君も…私達のことも……助けてくれてありがとう」

 

ハジメと光輝にお礼を言う香織

それに続き檜山グループ以外の面々も光輝とハジメに礼を言った

 

香織はハジメと光輝の変わりように激しいショックを受けはしたが、それでも、どうしても伝えたい事があったのだ。メルドの事と、自分達を救ってくれたことのお礼を言いつつハジメの目の前まで歩み寄る。 そして、グッと込み上げてくる何かを堪えるように服の裾を両の手で握り締め、しかし、堪えきれずにホロホロと涙をこぼし始めた。嗚咽を漏らしながら、それでも目の前のハジメの存在が夢幻でないことを確かめるように片時も目を離さない。ハジメは、そんな香織を静かに見返した

 

香織「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、ありがどうっ。あの時、守れなぐて……ひっく……ゴメンねっ……ぐすっ」

 

クラスメイトのうち、女子は香織の気持ちを察していたので生暖かい眼差しを向けており、男子の中でも何となく察していた者は同じような眼差しを、近藤達は苦虫を噛み潰したような目を、勇輝と龍太郎は香織が誰を想っていたのか分かっていないのでキョトンとした表情をしている

鈍感主人公を地で行く勇輝と脳筋の龍太郎、雫の苦労が目に浮かぶ

 

が、その雫本人はというと

 

光輝「……」

 

雫「待って!!」

 

この場を去ろうとした光輝に雫が止めた

 

光輝「……」

 

雫「貴方が…南雲君と貴方があの後何があったのか…私にはわからない……今までどこで何していたのとか……なんであんなにも強くなったのとか……どうしてそんな姿になったのとか…色んなこと…聞きたいことがあるわ………」

 

光輝「……」

 

黙っている光輝に雫は顔を光輝の胸に押し付ける

 

雫「光輝…私はあの日…貴方と南雲君が転落したあの時から…ずっと心にぽっかり穴が空いたような虚無感を覚えたわ……でも香織は南雲君と貴方が生きていることを信じていたわ……あの時…もしかしたら助けられたかも知れないのに…助けられなかった……自分の力の無さを恨んだわ……きっと貴方のことだから…何があったのか…答えてはくれないと思う……でも…でもね……答えてくれなくていいの…わ、私は……私は!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ゛な゛た゛が!……生゛ぎ゛で゛!…こ゛う゛し゛て゛ま゛た゛!……か゛え゛っ゛て゛き゛た゛だ゛け゛で゛!!」

 

光輝「!」

 

光輝が転落し、心に深い傷を負った彼女は…オルクスでの一件以降、一時期塞ぎ込んだ

 

しかし、ハジメと光輝が生きていると信じる香織の言葉に、雫も信じて今日まで生きてきた

 

そして、その光輝が生きて自身の前に現れ、守ってくれた

 

それによりずっとこらえていた雫の目から大粒の涙が流れだし、光輝の胸元を濡らす

 

この時、ハジメや香織を含めた地球にいた頃の光輝を知る者は、近づく者に対し拒絶する光輝が最も拒絶する相手である雫のことをまた突き放すと思っていた

 

しかし

 

光輝は突き放さなかった

いや、突き放せなかった

 

普段光輝の表情は無表情

だがこの時、ユエだけは光輝の表情が一瞬動揺したように見えた

 

涙を流しながら自身から離れない光輝は最初は無言だったがやがて

 

光輝「………奈落に落ちたあと、生き延びるために魔物を殺して殺して喰らって喰らって生き延びた…身体は魔物の毒素の後遺症だ…脱出後は、他の大迷宮を攻略するために旅をしていた」

 

雫「!」

 

ずっと無言だった光輝が初めて答えてくれた

 

雫「そ…そんな…」

 

光輝「別に…俺にとってあそこは地獄でもなんでもない……生きることに必死に喰らいついたら生き延びた…ただそれだけだ」

 

それをなんともないよう振る舞う光輝

 

ハジメ「まあな 俺もそいつも生き延びたんだ…まあ俺なんか片目と片腕無くしちまったけどな……とにかくだ八重樫に白崎……頼むからあんま泣かないでくれないか?」

 

クラスの2大女神達の流す涙にハジメは苦笑気味に言った

 

勇輝「……ふぅ、香織と雫は本当に優しいな。クラスメイトが生きていた事を泣いて喜ぶなんて……でも、南雲は無抵抗の人を殺そうとして光輝は殺した!話し合う必要がある。もうそれくらいにして、ふたりから離れた方がいい」

 

しかし空気の読めない自称勇者の言葉にクラスメイトの一部から『お前、空気読めよ!』という非難の眼差しが勇輝に飛んだ

 

この期に及んで、この男は、まだ香織の気持ちに、そして雫の光輝に対して向ける深い情に気がつかないらしい

 

何処かハジメと光輝を責めるように睨みながら、ハジメに寄り添う香織を、光輝にくっつく雫を引き離そうとしている

 

単に、香織と雫に触れ合っている事が気に食わないのか、それとも人殺しの傍にいることに危機感を抱いているのか……あるいはその両方かもしれない

 

龍太郎「いや待てよ勇輝! 南雲に光輝は、俺達を助けてくれたんだぜ? そんな言い方はないだろ?」

 

勇輝「だが、彼女は既に戦意を喪失していたんだ。殺す必要はなかった。こいつらがしたことは許されることじゃない」

 

勇輝の物言いに、龍太郎が反論する

更にクラスメイト達もそんな龍太郎に加勢する形で反論したが、檜山達は元々ハジメと光輝が気に食わなかったこともあり、勇輝に加勢し始める

 

ユエ「……くだらない連中。ハジメ、光輝、アクアもう行こう?」

 

ハジメ「あー、うん、そうだな」

 

絶対零度と表現したくなるほどの冷たい声音で、勇輝達を〝くだらない〟と切って捨てたのはユエだ

 

その声は、小さな呟き程度のものだったが、勇輝達の喧騒も関係なくやけに明瞭に響いた

 

一瞬で、静寂が辺りを包み、勇輝達がユエに視線を向ける

ハジメは、元々浩介から話を聞いて、恵里や(勇輝や檜山共を除く)クラスメイト達に香織への義理を果たすために来ただけなので用は済んでいる

対して光輝は今のクラスメイト達の実力を見る為に来た

 

実は誰よりも早く来ていた光輝は勇輝が覚醒しカトレアを追い詰める寸前まで見ていた

 

そんな彼らに勇輝が待ったをかけた

 

勇輝「待ってくれ。こっちの話は終わっていない。南雲に光輝の本音を聞かないと仲間として認められない。それに、君は誰なんだ? 助けてくれた事には感謝するけど、初対面の相手にくだらないなんて……失礼だろ? 一体、何がくだらないって言うんだい?」

 

ユエ「……はぁ…」

 

勇輝が、またズレた発言をする言っている事自体はいつも通り正しいのだが、状況と照らし合わせると、『自分の胸に手を置いて考えろ』と言いたくなる有様だ

ここまでくれば、何かに呪われていると言われても不思議ではない。 ユエは、既に勇輝に見切りをつけたのか、会話する価値すらないと思っているようで視線すら合わせない

というか内心勇輝のことを『こいつ本当に光輝と兄弟なのか?…実は顔そっくりの赤の他人何じゃないのか?』と思っている始末

勇輝は、そんなユエの態度に少し苛立ったように眉をしかめるが、直ぐに、いつも女の子にしているように優しげな微笑みを携えて再度、ユエに話しかけようとしたが無視された

 

勇輝「くっ!光輝!!お前はなんで彼女を殺した!!殺す必要なんてなかったはずだ!どうしてだ!!」

 

ハジメやユエとは話が通じないと思った勇輝だったが今度は光輝に突っかかった

 

光輝はそれに対し侮蔑を込めた眼を勇輝に向けながら一言呟いた

 

光輝「貴様のせいだ」

 

勇輝「なっ!?」

 

光輝「貴様があの魔人族を殺さなかったからこうなったんだよ…後は……南雲がトドメを刺すのに手間取っていたからだ」

 

ハジメ「言っておくが手間取ったんじゃねえ!そこの臆病者が殺るのを邪魔したからだ」

 

勇輝「なっ!?俺が臆病者だと!?」

 

ハジメ「事実だろ?天之河兄、存在自体が色んな意味で冗談で面倒なお前に、いちいち構ってやる義理も義務もないが、しつこく絡んできそうだから、少しだけ指摘させてもらう」

 

勇輝「指摘だって? 俺が、間違っているとでも言う気か? 俺は、人として当たり前の事を言っているだけだ」

 

ハジメ「誤魔化すなよ 。お前は、俺があの女を殺そうとした事や天之河が殺したから怒っているんじゃない。人死にを見るのが嫌だっただけだ。だが、自分達を殺しかけたあの女を殺した事自体を責めるのは、流石に、お門違いだと分かっている。だから、無抵抗の・・・・相手を殺したと論点をズラしたんだろ? 見たくないものを見させられた、自分が出来なかった事をあっさりやってのけられた……その八つ当たりをしているだけだ。さも、正しいことを言っている風を装ってな。タチが悪いのは、お前自身にその自覚がないこと。相変わらずだな。その息をするように自然なご都合解釈」

 

勇輝「ち、違う! 勝手なこと言うな! お前が、無抵抗の人を殺したのは事実だろうが!」

 

ハジメ「敵を殺す、それの何が悪い?」

 

勇輝「なっ!? 何がって、人殺しだぞ! 悪いに決まってるだろ!」

 

光輝「甘ったれた事を言うな!!

 

その時、光輝から大きな怒鳴り声とともに魔力が溢れ出し大迷宮が揺れた

 

それにクラスメイト達は驚きのあまり皆が動けずにいた

 

光輝「これが戦争だ!互いが互いの命を奪い合う。生きるか死ぬかを決める戦いだ!俺達がやっているのは、ガキの喧嘩ごっこやゲームじゃねえんだよ!!相手が殺そうとしたら身を守るため戦い殺す。それが戦争の歴史だ!……その戦争に参加すると最初に言い出したのは貴様だ…にも関わらず、その貴様がこのザマ……これが人類の希望となる勇者だと思うと、情けなさ過ぎて頭が痛くなるな…」

 

勇輝「な!?」

 

ハジメ「そもそも最初に俺達にいっていたあの言葉…なんだっけか?『人々を救い、皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!俺がみんなを守る!!』だったか?……できもしない事を簡単に言うな」

 

勇輝「い、いや!出来もしないことじゃない!!実際、誰も死んでないじゃないか!!」

 

ハジメ「『俺がみんなを守る』……なあ、お前がいつ誰かを守ったか?そもそも俺達が転落した時点でお前の言っていたあの言葉は嘘でしかねえんだよ。あまつさえあの魔人からお前らを救ったのも、トドメを刺したのも俺達だ……もう一度聞くが、お前がいつ誰を守ったか?」

 

勇輝「そ…それは…」

 

光輝「そもそも貴様があの魔人族を殺していれば、こんな事態にはならなかった……あの魔人族を始末したのは俺だ…お前達を奴らから救ったのも俺達だ…貴様の不手際が招いたことだ。間違えても貴様に俺達を責める資格などない……自分の失態を俺達の人殺しの罪を責める形でなかったことにしようとする……貴様は度し難いな」

 

勇輝「!ち、違う!!俺は!」

 

光輝「貴様が本当にクラスメイトの誰も死なせずに皆地球に返すと言うならば……俺達に人殺しがいけないことだと言うのなら…俺達を戦争に参加せざるを得ない状況にした…貴様が率先してその汚れ役をやるべきだったはずだ………最も…貴様には手を汚す覚悟も己の言葉を実現させるだけの力もなかったようだ…」

 

勇輝「!!」

 

光輝はそんな自身の兄に対し侮蔑の気持ちを込めた言葉を吐き捨て、今度こそ上へ向かうために歩き出した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カトレア「なんなんだい……これは?」

 

カトレアは…自身の置かれている状況に驚きを隠せなかった

 

勇者と同じ顔をした白い髪にトドメを刺されたように感じていたが、なぜか身体は斬られておらず、周りの者達がまるで自分の事が見えていない様子だった

 

カトレア「(どうなっているの?……あたしは確かに斬られたはず…でも周りはあたしが見えていない……どうして?)」

 

そう考え込んでいるカトレアに一人の男が近づいてきた

 

それに気づいたカトレアは腰に付けていた短剣を取り出そうとした

 

???「おっと、武器は置いてもらえるか?……安心してくれ。俺はアンタの敵じゃない……大切な話があるんだ…この世界とアンタの種族を含めた全ての人類にまつわる重大な話がな……ま、立ち話も何だし、場所替えしようか」

 

そう男が言うとカトレアと自身を魔法陣が包み込むとやがて消えていった





理想主義者の勇輝と現実主義者の光輝という感じです

第28.5話

https://syosetu.org/novel/307613/42.html


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第二十九話 白崎香織という女/愚者の勇者②

 

ミュウ「パパぁー!! おかえりなのー!!」

 

【オルクス大迷宮】の入場ゲートがある広場に、そんな幼女の元気な声が響き渡る。 各種の屋台が所狭しと並び立ち、迷宮に潜る冒険者や傭兵相手に商魂を唸らせて呼び込みをする商人達の喧騒

そんな彼等にも負けない声を張り上げるミュウに、周囲にいる戦闘のプロ達も微笑ましいものを見るように目元を和らげていた

ステテテテー! と可愛らしい足音を立てながら、ハジメへと一直線に駆け寄ってきたミュウは、そのままの勢いでハジメへと飛びつく。ハジメが受け損なうなど夢にも思っていないようだ

 

ハジメ「ミュウ、迎えに来たのか? シアはどうした?」

 

ミュウ「うん。シアお姉ちゃんが、そろそろパパが帰ってくるかもって。だから迎えに来たの。シアお姉ちゃんは……」

 

シア「ここです」

 

ハジメ「おいおい、シア。こんな場所でミュウから離れるなよ」

 

シア「目の届く所に居ましたが、。ただ、ちょっと不埒な輩がいてミュウちゃんに悪影響になると思いまして」

 

ハジメ 「なるほど。それならしゃあないか……で? その自殺志願者は何処だ?」

 

シア「いえ、それなんですが」

 

カズマ「俺がシメておいた」

 

そこへひと仕事終えた様子のカズマがハジメ達に駆け寄った

 

カズマ「よおお前ら、久しぶりだな。それに浩介に恵里も、無事みたいだな」

 

浩介「カズマ!」

 

恵里「カズマ!!」

 

彼らとの再会を喜ぶカズマの横を何かが素通りした

 

香織だ

香織は、ゆらりゆらりと歩みを進めると、突如、クワッと目を見開き、ハジメに掴みかかった

 

香織「ハジメくん! どういうことなの!? 本当にハジメくんの子なの!? 誰に産ませたの!? ユエさん!? シアさん!? それともアクアちゃん!? まさか、他にもいるの!? 一体、何人孕ませたの!? 答えて! ハジメくん!」

 

ハジメの襟首を掴みガクガクと揺さぶりながら錯乱する香織。ハジメは誤解だと言いながら引き離そうとするが、香織は、何処からそんな力が出ているのかとツッコミたくなるくらいガッチリ掴んで離さない。香織の背後から、『香織、落ち着きなさい! 彼の子なわけないでしょ!』と雫が諌めながら羽交い絞めにするも、聞こえていないようだ

 

香織「あだ!」

 

そこへ光輝が刀の鞘の底で香織の頭を小突いた

 

光輝「落ち着け、冷静に考えろ。そのガキは海人族だ。仮に南雲の娘なら相手は海人族だ。それに転落してから半月も経たずにガキができるか。なによりどう見ても生まれて4、5年経ってるだろうが」

 

カズマ「それにハジメがアクアを孕ませるわけないだろ……そんなことしたら今頃、ハジメはこの世にいられるわけがない

 

その瞬間カズマから冷たい殺気が流れクラスメイト達やシアが震えた

 

ハジメ「はっ!…馬鹿言え、そんなことしてみろ……俺確実に殺られる未来しかねえ…」

 

ハジメが少し冷や汗を流しながら言う

 

香織は自身の勘違いに対して羞恥心を抱きつつも、どうするべきか考えていた

勇輝達がぞろぞろと、出ていこうとするハジメ達の後について来たのは、香織がついて行ったからだ

このままハジメとお別れするのか、それともついて行くのか

心情としては付いて行きたいと思っている。やっと再会出来た想い人と離れたいわけがない。 しかし、明確に踏ん切りがつかないのは、勇輝達のもとを抜けることの罪悪感と、変わってしまったハジメに対する心の動揺のせいだ

しかも、その動揺を見透かされ、下でユエに嘲笑されてしまったことも効いている

香織も、ユエがそうであったように、ユエがハジメを強く思っていることを察した

そして、何より刺となって心に突き刺さったのは、ハジメもまたユエを特別に思っている事だ。想い合う二人。その片割れに、『お前の想いは所詮その程度だ』と嗤われ、香織自身、動揺する心に自分の想いの強さを疑ってしまった

だが

 

香織「……負けたくない」

 

香織の瞳に決意と覚悟が宿る

傍らの雫が、親友の変化に頬を緩める。そして、そっと背を押した。香織は、今まで以上に瞳に〝強さ〟を宿し、雫に感謝を込めて頷くと、もう一つの戦場へと足を踏み出した。そう、女の戦いだ! 自分達のところへ歩み寄ってくる香織に気がつくハジメ達

ハジメは、見送りかと思ったが、隣のユエは、『むっ?』と警戒心をあらわにして眉をピクリと動かした

シアも『あらら?』と興味深げに香織を見やり、アクアは『カズマこれ修羅場かしら』とほざいている

どうやら、ただの見送りではないらしいと、ハジメは、嫌な予感に眉をしかめながら香織を迎えた。

 

香織「ハジメくん、私もハジメくんに付いて行かせてくれないかな? ……ううん、絶対、付いて行くから、よろしくね?」

 

ハジメ「…はい?」

 

思わず、間抜けな声で問い返してしまった。直ぐに理解が及ばずポカンとするハジメに代わって、ユエが進み出た。

 

ユエ「……お前にそんな資格はない」

 

香織「資格って何かな? ハジメくんをどれだけ想っているかってこと? だったら、誰にも負けないよ?」

 

香織は、ユエにしっかり目を合わせたあと、スッと視線を逸らして、その揺るぎない眼差しをハジメに向け、はっきりと……告げた

 

香織「貴方が好きです」

 

ハジメ「……白崎……俺には惚れている女がいる。白崎の想いには応えられない。だから、連れては行かない」

 

はっきり返答したハジメに、香織は、一瞬泣きそうになりながら唇を噛んで俯くものの、しかし、一拍後には、零れ落ちそうだった涙を引っ込め目に力を宿して顔を上げた。そして、わかっているとでも言うようにコクリと頷いた

 

香織の背後で、勇輝達が唖然、呆然、阿鼻叫喚といった有様になっているが、そんな事はお構いなしに、香織は想いを言葉にして紡いでいく

 

香織「……うん、わかってる。ユエさんのことだよね?……でも、それは傍にいられない理由にはならないと思うんだ。だって、シアさんもハジメくんのこと好きだよね? 違う?」

 

ハジメ「……それは……」

 

香織「ハジメくんに特別な人がいるのに、それでも諦めずにハジメくんの傍にいて、ハジメくんもそれを許してる。なら、そこに私がいても問題ないよね? だって、ハジメくんを想う気持ちは……誰にも負けてないから」

 

そう言って、香織は炎すら宿っているのではと思う程強い眼差しをユエに向けた。そこには、私の想いは貴女にだって負けていない! もう、嗤わせない! と、香織の強い意志が見える。それは、紛れもない宣戦布告

 

たった一つの、〝特別の座〟を奪って見せるという決意表明だ。 香織の射抜くような視線を真っ向から受け止めたユエは、珍しいことに口元を誰が見てもわかるくらい歪めて不敵な笑みを浮かべた

 

ユエ「……なら付いて来るといい。そこで教えてあげる。私とお前の差を」

 

香織「お前じゃなくて、香織だよ」

 

ユエ「……なら、私はユエでいい。香織の挑戦、受けて立つ」

 

香織「ふふ、ユエ。負けても泣かないでね?」

 

ユエ「……ふ、ふふふふふ」

 

香織「あは、あははははは」

 

告白を受けたのは自分なのに、いつの間にか蚊帳の外に置かれている挙句、香織のパーティー加入が決定しているという事に、ハジメは遠い目をする

 

笑い合うユエと香織を見て、シアとミュウが傍らで抱き合いながらガクブルしていた

 

シア「ハ、ハジメさん! 私の目、おかしくなったのでしょうか? ユエさんの背後に暗雲と雷を背負った龍が見えるのですがっ!」

 

ハジメ「……正常だろ? 俺も、白崎の背後には刀構えた般若が見えるしな……まあアレだ。天之河の須佐能乎みたいなもんだと思えばいいぞ……まああっちと違ってこっちのは気迫だけどな」

 

ミュウ「パパぁ~! お姉ちゃん達こわいのぉ」

 

カズマ「へえ…気迫だけでここまでとは」

 

アクア「アンタも偶に出してるわよ」

 

そんなこんなで香織のパーティー入りが決まったその時だった

 

勇輝「ま、待て! 待ってくれ! 意味がわからない。香織が南雲を好き? 付いていく? えっ? どういう事なんだ? なんで、いきなりそんな話しになる? 南雲! お前、いったい香織に何をしたんだ!」

 

ハジメ「……何でやねん」

 

どうやら、勇輝は、香織がハジメに惚れているという現実を認めないらしい。いきなりではなく、単に勇輝が気がついていなかっただけなのだが、勇輝の目には、突然、香織が奇行に走り、その原因はハジメにあるという風に見え、 完全にハジメが香織に何かをしたのだと思い込み、半ば聖剣に手をかけながら憤然と歩み寄ってくる

 

それを見た光輝は心のなかで『こいつ…本気で殺してやろうか?』と徐々に殺意を覚え始め

 

雫が頭痛を堪えるような仕草をしながら勇輝を諌めにかかった

 

雫「勇輝。南雲君が何かするわけないでしょ? 冷静に考えなさい。あんたは気がついてなかったみたいだけど、香織は、もうずっと前から彼を想っているのよ。それこそ、日本にいるときからね。どうして香織が、あんなに頻繁に話しかけていたと思うのよ」

 

勇輝「雫……何を言っているんだ……あれは、香織が優しいから、南雲が一人でいるのを可哀想に思ってしてたことだろ? 協調性もやる気もない、オタクな南雲を香織が好きになるわけないじゃないか」

 

勇輝と雫の会話を聞きながら、事実だが面と向かって言われると意外に腹が立つと頬をピクピクさせるハジメ

 

香織「勇輝くん、みんな、ごめんね。自分勝手だってわかってるけど……私、どうしてもハジメくんと行きたいの。だから、パーティーは抜ける。本当にごめんなさい」

 

そう言って深々と頭を下げる香織に、鈴や恵里、綾子や真央など女性陣はキャーキャーと騒ぎながらエールを贈った。永山、浩介、野村の三人も、香織の心情は察していたので、気にするなと苦笑いしながら手を振った

 

しかし、当然、勇輝は香織の言葉に納得出来ない

 

勇輝「嘘だろ? だって、おかしいじゃないか。香織は、ずっと俺の傍にいたし……これからも同じだろ? 香織は、俺の幼馴染で……だから……俺と一緒にいるのが当然だ。そうだろ、香織」

 

香織「えっと……勇輝くん。確かに私達は幼馴染だけど……だからってずっと一緒にいるわけじゃないよ? それこそ、当然だと思うのだけど……」

 

雫「そうよ、勇輝。香織は、別にあんたのものじゃないんだから、何をどうしようと決めるのは香織自身よ。いい加減にしなさい」

 

幼馴染の二人にそう言われ、呆然とする勇輝。その視線が、スッとハジメへと向く。そのハジメの周りには美女、美少女が侍っている

 

その光景を見て、勇輝の目が次第に吊り上がり始めたあの中に、……自分の(執着心)香織が入ると思うと、今まで感じたことのない黒い感情が湧き上がってきたのだ。そして、衝動のままに、ご都合解釈もフル稼働する

 

勇輝「香織。行ってはダメだ。これは、香織のために言っているんだ。見てくれ、あの南雲を、女の子を何人も侍らして、あんな小さな子まで……しかも兎人族の女の子は奴隷の首輪(この世界は亜人に対する差別が強く、首輪をしていなければ人攫いや強姦されるおそれがある為つけている)まで付けさせられている。南雲は、女性をコレクションか何かと勘違いしている。最低だ。南雲は人だって簡単に殺そうとするし一緒にいる光輝は簡単に殺せる、強力な武器を持っているのに仲間である俺達の為に残って協力しようともしない。香織、あいつに付いて行っても不幸になるだけだ。だから、ここに残った方がいい。いや、残るんだ。例え恨まれても、君のために俺は君を止めるぞ。絶対に行かせはしない!」

 

勇輝の余りに突飛な物言いに、香織達が唖然とする。しかし、ヒートアップしている勇輝はもう止まらない。説得のために向けられていた香織への視線は、何を思ったのかハジメの傍らのユエ達に転じられる

 

勇輝「君達もだ。これ以上、その男の元にいるべきじゃない。俺と一緒に行こう! 君達ほどの実力なら歓迎するよ。共に、人々を救うんだ。シア、だったかな? 安心してくれ。俺と共に来てくれるなら直ぐに奴隷から解放するから!!」

 

そんな事を言って爽やかな笑顔を浮かべながら、ユエ達に手を差し伸べる勇輝

雫は顔を手で覆いながら天を仰ぎ、香織は開いた口が塞がらない。 そして、勇輝に笑顔と共に誘いを受けたユエ達はというと

 

ユエ/シア「「……」」 もう、言葉もなかった。シアは勇輝から視線を逸らし、両手で腕を摩っている。

 

ユエに関してはというと

 

勇輝に近づき、その手に触れようとした

 

この時勇輝は自分の誘いに乗ったのかと思っていたが

 

伸ばした手で思いっきり振り払った

 

勇輝「!」

 

ユエ「ねえ………お願いだから……もう何も話さないでくれない?口閉じてて…お前が一言一言話す度にお前への苛立ちと光輝への同情心が湧いて出てくる……こんな兄を持って本当に可哀想だから…」

 

そんなユエ達の様子に、手を差し出したまま笑顔が引き攣る勇輝

視線を合わせてもらえないどころか、気持ち悪そうにハジメの影にそそくさと退避する姿に、若干のショックを受ける

そして、そのショックは怒りへと転化され行動で示された。無謀にもハジメを睨みながらもう止まらないと言わんばかりに聖剣を地面に突き立てるとハジメに向けてビシッと指を差し宣言した

 

勇輝「南雲ハジメ! 俺と決闘しろ! 武器を捨てて素手で勝負だ! 俺が勝ったら、二度と香織には近寄らないでもらう! そして、そこの彼女達も全員解放してもらう!」

 

ハジメ「……イタタタ、やべぇよ。勇者が予想以上にイタイ。何かもう見てられないんだけど」

 

勇輝「何をごちゃごちゃ言っている! 怖気づいたか!」

 

聖剣を地面に突き立てて素手の勝負にしたのは、きっと剣を抜いた後で、同じようにハジメが武器を使ったら敵わないと考え直したからに違いない。意識的にか無意識的にかはわからないが……ユエ達も香織達も、流石に勇輝の言動にドン引きしていた

しかし、勇輝は完全に自分の正義を信じ込んでおり、ハジメに不幸にされている女の子達や幼馴染を救ってみせると息巻き、周囲の空気に気がついていない

元々の思い込みの強さと猪突猛進さ、それに初めて感じた〝嫉妬〟が合わさり、完全に暴走しているようだ。 ハジメの返事も聞かず、猛然と駆け出す勇輝

 

そんな勇輝の攻撃をハジメは簡単に避けた

 

ハジメ「お前白崎の彼氏かなんかか?束縛しようとしたり嫉妬しやがって情けない」

 

勇輝「うるさい!!お前なんかに!香織をやるもんか!!お前から香織を守る為にも!!南雲ハジメ!!お前を倒す!!」

 

ハジメの言葉に更に嫉妬心と怒りが芽生え、勇輝は本気で仕留めるつもりでハジメを斬りかかり

 

勇輝「ここだあ!!」

 

空中へ避けた所を勇輝もジャンプし、ハジメの胴体を聖剣で貫いた

 

ハジメ「ゴファ!!」

 

それによりハジメはまともにダメージを受け、そのまま聖剣に刺されたまま地面に倒れた

 

勇輝「はぁ…はぁ…どうだ……俺は勇者だ……お前のような悪人に負けないんだ!!」

 

そう地面に横たわるハジメに勇輝は言う

 

ハジメ「……」

 

そんな勇輝にハジメは震える手で勇輝の前に出すと2本指を何処かへ向けた

 

その指の先を思わず見た勇輝だったが

 

勇輝「なっ!?」

 

その先にいたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「俺の様な悪人に……なんだって?」

 

自身に刺され、敗北したはずの南雲ハジメだった

 

勇輝「ど…どうなっているんだ!?」

 

驚きながらもまた地面のハジメの方を向くと、そこに居たはずのハジメは消えていた

 

勇輝「クソ!!」

 

勇輝は頭を振りながらも聖剣を握り、またハジメを斬る

 

勇輝「なに!?」

 

だが、また違うところからハジメが現れ、斬られたハジメはまた消えた

 

勇輝「どうなっている!?」

 

今自身が体験しているこの現象に勇輝は戸惑いと焦りを見せ始めた

 

そして

 

勇輝「うおおおおお!!南雲!!お前だけは!絶対に倒す!!そして香織も彼女達も!この世界も救って見せる!!」

 

考えることを放棄し、馬鹿正直に聖剣を持ちハジメに飛びかかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香織「ゆ、勇輝君……なんで、何にもないところで剣を振るうの!?」

 

突如誰もいない所を聖剣で振りながら一人で何かを言っている勇輝に香織達は戸惑っていた

 

ハジメ「……天之河…」

 

光輝「……フン……『香織も彼女達も!この世界も救って見せる!!』だと?……笑わせるな……この程度の幻術から抜け出せもしない貴様に救える物は…何一つない……(……もし、じいちゃんのあの言葉を聞いていなかったら……俺もこいつみたいになっていたのかと思うと……他人事の様に思えんな)」

 

そう言う光輝の両眼には写輪眼が開眼されていた





幻術の中のハジメが勇輝にした指差しはNARUTOでサスケ対イタチ戦の序盤の幻術の掛け合いでやった奴のアレンジです。
ちなみに光輝が勇輝にかけた幻術はイザナミではありません

そもそもイザナミは眼と引き換えに相手を改心させるための優しい禁術であって、光輝は勇輝の為に眼の光を無くす程の情はありません。


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第三十話 愚かな小物の末路

 

ようやく、邪魔者はいなくなった

……と思ったら、今度は檜山達が騒ぎ出す。曰く、香織の抜ける穴が大きすぎる。今回の事もあるし、香織が抜けたら今度こそ死人が出るかもしれない。だから、どうか残ってくれと説得を繰り返す。特に、檜山の異議訴えが激しい。まるで、長年望んでいたものがもう直ぐ手に入るという段階で手の中からこぼれ落ちることに焦っているような……そんな様子だ

檜山達四人は、香織の決意が固く説得が困難だと知ると、今度は、ハジメや光輝を残留させようと説得をし始めた。過去の事は謝るので、これからは仲良くしよう等とふざけたことを平気でぬかす。 そんなこと微塵も思っていないだろうに、馴れ馴れしく笑みを浮かべながらハジメの機嫌を覗う彼等に、ハジメや光輝だけでなく、雫達も不愉快そうな表情をしている。そんな中、ハジメは、再会してから初めて檜山の眼を至近距離から見た。その眼は、香織が出て行くことも影響してか、狂的な光を放ち始めているようにハジメには思えた。

 

ハジメ「……そう言えば俺……やらなきゃいけないことがあったな」

 

そういうと檜山に近づき胸ぐらを掴む

 

ハジメ「お前、よくも俺達を転落させてくれやがったな」

 

そのハジメの発言に一同は驚き、檜山は焦りながらも反論する

 

檜山「な、何を言ってるんだ南雲?た、確かに俺がトラップをき、起動させたせいで、べ、ベヒモスと戦う羽目になったが、お、お前と天之河がお、落ちたのは俺のせいじゃないだろ!」

 

ハジメ「……何か勘違いしているようだが…俺が言っている『転落させたな』はそういう意味で言ったんじゃねえ……あの時、周りが一心不乱に放った魔法弾の中に、お前の魔法弾も含まれていて、それが俺と天之河にあたり、落ちる原因を作ったんだよ……しかもお前の放ったそれは事故ではなく故意にやった物だ」

 

檜山「ち、違う!!アレはわざとじゃない!!間違えてやった物だ!!」

 

ハジメ「…ほう?そうか…そうだったのか…そいつは悪かったな……所で八重樫…俺達が転落した後、こいつはみんなの前で謝罪とかしていたか?」

 

雫「!え、ええ…自分がトラップに引っかかったせいで皆を危険な目に合わせたって……!!でもその後清水君と遠藤君のふたりが責めたてて『実はあのときの魔法弾撃ったのはお前なんじゃないか?』って言ったら檜山は『ふざけるな!!そんなわけあるか!!』って反論していたわ」

 

ハジメ「そうか…つまり檜山…お前は故意ではないとはいえ自分が俺達を落とした事を自覚しておきながら…その事を言わず自分は落としていないと嘘をついたってことか?」

 

檜山「は!?」

 

香織「嘘…」

 

檜山のついた嘘に香織を初めとした多くの者が驚きの声を上げた

 

そして何名かは『確かに言っていたな』と、檜山の発言を思い出していた

 

ハジメ「これってさ…普通に殺人未遂だよな?…たとえ故意ではなくとも……しかもお前はそれを黙っていた…」

 

その言葉に檜山は冷や汗を流しながらも弁解しようとした

 

ハジメ「まあ、俺はお前が事故ではなくワザとやったと思うんだがなあ……なんせ…お前ならいつかはやりかねねえとは思っていたがな…お前地球にいた頃から俺に対して散々負の感情を向けていたからな…」

 

檜山「ふざけるな!!確かに俺は周りから責められたくなくて黙っていたが故意にやったわけじゃねえ!!お前や天之河の事は気に入らなかったのは事実だがそれだけの理由で俺がお前らを転落させる動機になるか!!大体俺が意図的にお前らを転落させようとした証拠はあんのか!?」

 

檜山が声を荒らげながら強く反論する

 

確かにそれだけじゃ殺人を犯そうとした証拠としては不十分

 

そこでハジメは光輝の方を見てある方法で無理やり証拠を出させようとした

 

それは写輪眼で幻術にハメて直接自供させるという方法

光輝もそれを察したのか、檜山に幻術をかけようとした

 

しかし、そこへ待ったを掛けた人物がいた

 

カズマ「いやハジメ、光輝。その必要はない……お前らが確かめなくともとっくに裏は取れてる……こいつはお前らをワザと転落させた。動機は自分が惚れた女である白崎がお前に好意を抱いていることへの嫉妬心やお前への苛立ちだ。だから目障りだったお前をあの土壇場で特定されないために魔法の雨の中から狙ったんだ…んで光輝に関してはただ巻き込まれただけ…だが、お前のこともこいつは妬ましく思っていたようだ……しかもこいつ、自分がやったことに罪悪感をまったくと言っていいほど持ってねえ上に保身に走りやがった」

 

カズマはそうハジメ達に檜山のやったことは事故ではなく故意にやったことだと主張した

 

檜山「な、なにを言っている!お、お前まで俺がワザとやったって言うのか!?南雲にも言ったが俺には故意にやった証拠がねえ!!だから俺がワザとやったっていうのはお前らの思い込みだ!!」

 

カズマ「へえ…つまり檜山、証拠さえ出せばお前がワザとやったと認めるのか?そこまで言うなら……証拠、見せてやろうじゃないか……いいぞ」

 

カズマがそう言うとクラスメイト達の方から何かが飛んできてそれをキャッチする

 

それは、この世界には存在しないはずの、地球の文明の利器『スマホ』だった

 

カズマはそれをいじるとスマホからある男の声が流れ出した

 

檜山『ヒ、ヒヒヒ。ア、アイツが悪いんだ。キモオタのくせに……ちょ、調子に乗るから……て、天罰だ。……俺は間違ってない……白崎のためだ……あんなキモオタに……もうかかわらなくていい…天之河だってそうだ!…あのキモオタのそばにいたアイツが悪いんだ!…俺は間違ってない……ヒ、ヒヒ』

 

それは…檜山の声だった

 

これにはクラスメイト達はもちろん、檜山は驚きの声を漏らした

 

更に

 

『へぇ~、やっぱり君だったんだ。異世界最初の殺人がクラスメイトか……中々やるね?』

 

檜山『ッ!? だ、誰だ!……お、お前、なんでここに……』

 

『そんなことはどうでもいいよ。それより……人殺しさん? 今どんな気持ち? 恋敵をどさくさに紛れて殺すのってどんな気持ち?』

 

檜山『……それが、お前の本性なのか』

 

『本性? そんな大層なものじゃないよ。誰だって猫の一匹や二匹被っているのが普通だよ。そんなことよりさ……このこと、皆に言いふらしたらどうなるかな? 特に……あの子が聞いたら…』

 

檜山『 ッ!? そ、そんなこと……信じるわけ……証拠も……』

 

『ないって? でも、僕が話したら信じるんじゃないかな? あの窮地を招いた君の言葉には、既に力はないと思うけど?……でもまあそうだね…君が僕の手足となって従ってくれるなら見返りとして黙っておいてあげるよ……それともう一つ』

 

檜山『そ、そんなの……』

 

『白崎香織、欲しくない?』

 

檜山『ッ!? な、何を言って……』

 

『僕に従うなら……いずれ彼女が手に入るよ。本当はこの手の話は南雲にしようと思っていたのだけど……君が殺しちゃうから。まぁ、彼より君の方が適任だとは思うし結果オーライかな?』

 

檜山『……何が目的なんだ。お前は何がしたいんだ!』

 

『ふふ、君には関係のないことだよ。まぁ、強いて言うなら欲しいモノいや、欲しい人がいるとだけ言っておくよ……それで? 』

 

檜山『……従う』

 

『アハハハハハ、それはよかった! 僕もクラスメイトを告発するのは心苦しかったからね! まぁ、仲良くやろうよ、人殺しさん? アハハハハハ』

 

檜山『ちくしょう……』

 

その檜山の嘆きを最後に音声は終了した

 

カズマ「……以上で…檜山大介の行為が事故ではなく明確な殺意の元行われた殺人未遂行為だということが立証された……」

 

証拠である音声を聞いた多くのクラスメイト達は皆檜山に対し侮蔑や明確な批難のこもった眼差しを向けた

 

その檜山はというとさっきまでの青ざめた表情から一変し、絶望に染まった…完璧に追い込まれた者の表情へと変わっていた

 

カズマ「さて…なにか言うことはあるか檜山?」

 

カズマの問いに震える声で檜山は聞いた

 

檜山「な、なぜ…なぜお前があの会話を!」

 

カズマ「ん?……単純な理由だよ……」

 

カズマはそう言うと持っていたスマホをクラスメイト達の方へと投げた

 

するとクラスメイト達の中からスマホをキャッチした手が出てきた

 

クラスメイト達「「「「!!」」」」

 

そしてクラスメイト達の輪から出てきたのは、檜山と話していた共謀者であり、スマホの持ち主である

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恵里「僕ってさ、携帯は普段手元に置いておく派なんだよね」

 

中村恵理その人だった

 

谷口「エ、エリリン!?」

 

雫「嘘…」

 

檜山「お、お前…裏切ったのか!?」

 

恵里「裏切った?…フフッ、随分人聞きが悪いこと言うね…元々僕は君の味方になったつもりはないよ………種明かしすると、君がハジメ達を明らかにワザと狙って落とした事を目撃した僕はカズマにそのことを話したんだ…そしたらカズマから君の口から明確な殺意の元おこなったと証言を得るために僕に君の協力者を装いながら証拠の音声を取るようお願いされてね…結果君は無警戒にも色々話しちゃった上こうして証拠まで取られちゃったってワケ……」

 

檜山「ぐっ!」

 

恵里「本当はさ、証拠取ったらすぐにでも大勢の前に晒しておきたかったんだけどカズマが」

 

カズマ「お前のせいで転落したあいつらの前でお前を裁きたかったから…今まで黙っていた……さてと、後はハジメと光輝……お前らに任す。こいつを煮るなり焼くなり…好きにしな……」

 

檜山「!?」

 

その言葉を聞いた檜山は狼狽えながら周りに助けをこうが、檜山のやったことがやったことなので誰も助けようとしない…ましてや嘘をつき嫉妬や妬みでクラスメイトを殺すような男を誰が庇うか

 

ハジメ「檜山…俺はお前に対しての慈悲の心は持っちゃいねえし、可哀想だとも思ってない………だが、特別に選ばせてやる。俺に銃で射たれてあっさりと処されるのと、天之河に幻術を掛けられてジワジワと処される…どっちがいいか?あ、何だったら天之河のは生き延びるチャンスがあるぞ」

 

檜山「な!?」

 

光輝「……俺の幻術を受けて、決められた時間まで精神が保ってられたなら特別に生かしてやろう」

 

その言葉に檜山の表情が明るくなった

生き延びるチャンスを得られ、これで助かると意気込んだんだろう

 

檜山「わ、わかった……天之河の幻術って奴を受けるぜ……」

 

そしてニヤつく

よほど生き延びられる自信があるのか

はたまたたいしたことないと思っているのかは分からないが、光輝は一度目を瞑ると両眼を万華鏡写輪眼にした

 

その瞬間

檜山は地面に倒れた

 

突然倒れた檜山に驚きつつも皆がそれを見守っていた

 

そしてそれからわずか数秒後

 

檜山「ぎゃあああああああああああ!!!!」

 

檜山が突如発狂し、絶叫の声を漏らした

 

そして起き上がると両手で身体を掻きむしりながら周りが見えていないのかクラスメイト達にぶつかりそうになり最後は壁に激突した

 

それにより檜山は気絶した

 

光輝「……やはり…駄目だったか…」

 

ハジメ「お前……今度は月読使いやがったな……」

 

雫「月尊?」

 

カズマ「光輝のあの両眼、万華鏡写輪眼の持つ能力で、その効果は眼を見た対象を術者の精神世界に引きずり込み幻覚を見せる。ま、ここまでなら普通の幻術と同じなんだが光輝の月読はそれを遥かに凌駕する物だ。それは、時間を含むありとあらゆる法則・理論が術者の思い通りに構築されるもの…通常の幻術は現実の時間と体感時間は同じなのに対しこちらでは現実での数秒を精神世界では何時間、何日、何年といった具合に時間の流れすら変えられる……しかも通常の幻術と違って月読は対象者の意識と繋がっている為、精神世界内で攻撃を受けると対象者にその痛みが体感される……要するにやろうと思えばたった数秒で相手を廃人になるまで無限地獄を味合わせることができる」

 

香織「!!」

 

クラスメイト達「「「「!!」」」」

 

雫「じ、じゃあ…檜山は…」

 

ハジメ「ああ……もうそいつは駄目だ……完全に心を壊された……二度とまともに生きていくことができねえ……まあ、命を落とす事と比べたらよっぽどマシだと思うがな……もっとも、自分の意思を完全に無くしてしまったなら死んでるのと大差はないが………」

 

ユエ「……ちなみに光輝…そいつに掛けた月読の時間と内容は?」

 

光輝「……貼り付けにされたまま複数人の俺に刀で一秒ごとに身体を刺され続ける……これを72時間継続」

 

シア「はわわ…な、なんて酷い拷問なんですか!!」

 

光輝「それから、幻術内で複数人の香織から呪詛を吐き続けられ、極めつけは目の前で檜山が忌み嫌う南雲が香織とイチャコラして圧倒的な差を見せつける……これが決めてとなり、あいつは精神を崩壊した……ちなみに時間にしてたったの2時間少し……精神力の強いやつなら耐えきれる物だ……もっとも…こいつは耐えきれなかったようだがな……小物のこいつらしい……惨めな結果だ…」

 

ハジメ「……お前、端からこいつに達成させるつもりなかっただろ…」

 

光輝「耐えきれたなら、俺は見逃してやろうとは思っていた……ただ、仮にこの場で見逃されたとしても……残りの奴の人生は他人から白い目で見られ続けるものだろうな……まあ、軟弱すぎるこいつに耐えきれるとは期待はしてなかったが…」

 

カズマ「……ま、それはともかくとしてだ……みんな今回の事で最初のベヒモス戦以上に色々と感じたことはあるだろうが、それは夜にでも話し合おうぜ……今日はゆっくりと休みな……俺達は明日にはここを立つつもりだが、俺は定期的に戻ってくるつもりだから…今後の事……どうするかは俺も交えて決めてこうか…」

 

カズマがそう言いながら皆をまとめ上げた

 

その時のカズマを見た一部のクラスメイト達は『佐藤の姿がまるでリーダーみたいだった』『天之河兄よりも頼りになりそう』だと思ったそうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその日の夜

 

ホルアドの宿で、皆がそれぞれ思い思いに疲れを癒やしていた

 

町の外では光輝とカズマがやり合っていた

 

光輝は前回の反省も踏まえて、眼に頼りすぎない戦法を使いながらも、写輪眼と千鳥を併用した一発一発の攻撃に重きを置いていた

 

それがしばらく続くも、やがて魔力と体力の消耗により生まれた隙をカズマに狙われ敗北した

 

カズマ「ふう……いい運動になった…やっぱお前とハジメは伸びしろいいな…マジで追いつかれるのも時間の問題かもしれん」

 

光輝「よく言う…結局今回も貴様に一撃も当てられなかったと言うのに」

 

カズマ「ま、それはそれはそうだろ。戦いの年季が違うんだよ……と、それはそうとして……そろそろ出てきてくれないか?」

 

近くに生えている木の陰に向かってカズマが声を掛けた

 

すると木の陰から、雫が出てきた

 

雫「凄い戦い…佐藤君があんなに強かったなんて、知らなかったわ…」

 

カズマ「それはどうも……でも、ここへ来たのは俺達の戦いを見る為じゃないんだろ?」

 

カズマがそう言うと雫は頷いた

 

雫「光輝、佐藤君………お願いがあるの……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私を…この旅に連れて行って」

 

カズマ「それはもちろ(光輝)『断る』…」

 

雫の連れて行ってという願いにカズマは承認しようとしたが、光輝は拒否した

 

雫「ど、どうして…」

 

光輝「どうしてもこうしてもない……お前が旅に同行しようとする理由はよく分かっている……心の拠り所である香織が同行すること……だが一番の理由は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺に付いて来るつもりなのだろ…地球に居た時のように」

 

雫「!!」

 

その光輝の眼は共に写輪眼を出し、雫に威嚇していた





以上を持ちまして檜山大介は脱落しました

まあ原作と違って死んでないぶんマシだよね?

第30.5話

https://syosetu.org/novel/307613/56.html


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第三十一話 八重樫雫という女

 

雫「!」

 

光輝「お前は地球に居た頃から散々俺に近づき関わろうとしてきたな……俺が何処かへ行こうとするたび、お前は付いてきていた……香織も南雲に対しストーカーしてた時があったがその点に関して言えばお前はそれ以上だ」

 

カズマ「……」

 

光輝「香織のは南雲に対して好意があるからだとわかる……が、お前に関しては俺への好意ではない……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺への抱く必要もない罪の意識がそうさせている」

 

雫「!」

 

光輝「お前…まだあのときの事を気にしているのか…」

 

雫「それは…」

 

光輝「言ったはずだ。……あれはお前のせいじゃない……だから…お前が余計な罪の意識を抱くな」

 

雫「光輝…」

 

光輝は雫にそう言い聞かせた

そうまでして光輝は雫を自分に近づけさせたがらなかった

 

そこへ

 

勇輝「光輝!!お前また雫に何をした!!」

 

空気の読めない勇者が割って入ってきた

 

この勇者、光輝の幻術を何時間も受け、やがて疲れて意識を失いさっきまで眠っていた

 

その後目覚めてから香織を探して探し回って居たところ、光輝に詰め寄る雫を見つけ駆けつけた

 

光輝「別に……こいつが付いてくると言ってきたから来るなと行っただけだ」

 

勇輝「!お前!!南雲だけじゃなくお前まで、俺の幼馴染を連れて行くつもりだったのか!!」

 

カズマ「いや何を聞いたらそう聞こえるんだ、脳みそ頭に詰まってんのかこの馬鹿は」

 

雫「ごめんなさい…勇輝は昔からアレだから…」

 

勇輝「お前は二度と雫に近づくなと昔に言ったはずだ!!」

 

光輝「だから俺はあいつに近づいて無いと言ったはずだ…それと俺が雫に近づかないのは貴様に従ってではない。俺の意思でそうしてるだけだ」

 

勇輝「言い訳なんか聞きたくない!お前が雫と一緒にいても、雫を不幸にさせるだけだ!昔、お前が雫を傷つけたようにな!!」

 

雫「!!」

 

カズマ「!」

 

光輝「……」

 

勇輝「お前と居ても雫は不幸になる!!香織だってそうだ!南雲なんかを好きになって一緒に居たとしても、彼女が不幸になる!!お前達ふたりは!!決して誰かを幸せになんか出来ない!!」

 

雫「!勇輝!!貴方!」

 

勇輝の言葉を受け、雫が詰め寄ってやめさせようしたが

 

カズマ「はい、八重樫そこまでな…」

 

カズマが雫を止め、代わりに勇輝に近づく

 

カズマ「所で天之河兄…お前に聞きたいことがある……今回…お前は魔人族を殺せなかった……そのせいで危うく全滅しかけた……今後…また魔人族をあと一歩まで追い詰めた時……お前はどうするつもりだ?」

 

勇輝「え?」

 

カズマの問いに勇輝は唖然とし答えられなかった

 

カズマ「!!」

 

勇輝「ぐぁ!!」

 

その瞬間、カズマは勇輝の顔面にパンチをかました

無論手加減して

 

カズマ「判断がおせぇ!!お前は判断が遅すぎるんだよ!!なんで判断が遅いのかわかるか!?お前に覚悟がないからだ!!今回お前が戦った魔人族はお前でも倒せるレベルの強さだった…にも関わらずお前は負けた上危うく八重樫が殺されるところだった……わかるか?お前の覚悟の無さが、八重樫を死なせる所だったんだ!!」

 

勇輝「!」

 

カズマ「光輝、お前と八重樫になにがあったか知らないが、はっきり言って俺は八重樫を連れて行くことに賛成だ…こんな駄目勇者の側に居させてもこいつの為にならねえしなにより…こいつと居るより俺達と居たほうが生存率高いからな…」

 

勇輝「な、なんだと!?」

 

カズマ「事実だろ?実力も覚悟も勇者としてもリーダーとしても不適合なお前が、誰を守れる……もっとわかりやすく言ってやろうか?俺やハジメに光輝以下のお前に守れる物は何一つない……それと、今回の事で、お前にいちパーティーを率いる資格がないことが証明された……今後は遠隔でだが俺が率いることにした」

 

勇輝「な!?い、いつそんな事を決めた!!」

 

カズマ「お前が眠っている間に他のクラスメイト達と話し合ってな……皆お前にリーダー任せるより俺に任せたほうがずっと良いと言われてな」

 

勇輝「ふ、ふざけるな!!俺は勇者だ!!俺が皆をまとめるリーダーなんだ!!勝手な事を言うな!!」

 

カズマ「勝手なのはお前の方だろ。戦う以外にも選択があったにも関わらず、誰にも相談せず自分勝手にあれこれ決めやがって…なにより…お前はリーダーとして最も守らなければならない事を守りきれていない」

 

雫「さ、佐藤君…その最も守らなければならないことって一体…」

 

カズマ「……『共にいる仲間を決して死なせず…危険な目に合わせないよう最新の注意をはらう』事だ……仲間を危険な目に合わせるようなリーダーに、一体誰がついていくって言うんだ」

 

勇輝「ぐっ!」

 

カズマの言葉に勇輝は苦味潰す様な表情を浮かばながら雫の方を見る

 

雫「勇輝…ごめんなさい……勝手だけど、私はこのパーティーを抜けて、彼らについていきたい……もう後悔はしたくないの」

 

勇輝「雫…駄目だ……君が何を言おうと、絶対に駄目だ!!彼らに…光輝についていけば…君は今度こそ不幸になる!!……大丈夫だよ!またあの時みたいに……俺が君を守」

 

その瞬間光輝から魔力が溢れ出し、須佐能乎の腕が飛び出し勇輝を掴む

 

勇輝「ぐぁぁぉぁ!!」

 

光輝「……俺が守る?……貴様がいつ雫を守った……守るどころか…余計傷つけた貴様がよくもそんなセリフ吐けたな……あの時……俺に言ったセリフをそっくりそのまま返してやろうか。『お前なんかヒーロー失格の唯の偽善者だ』」

 

そのセリフとともに光輝は勇輝に幻術にハメてそのまま気絶させた

 

雫「……」

 

光輝「………そいつの言葉に同調してるわけじゃないが……旅にはついてくるな…」

 

そう雫に向かって言いながら光輝はその場を去ろうとする

 

雫「…!」

 

そんな光輝を、雫は走って追いかけた

 

しかし…どれだけ追いかけようと光輝に追いつかず…その距離は離されていく…

 

『もう……俺を追うな』

 

雫の頭の中で、光輝の言葉が流れた

それに雫は表情を暗くし、足を止めた

 

雫「私は…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間…誰かが背中を軽く押す

 

雫「!」

 

「……後悔…したくないんだろ?」

 

その言葉に、暗くなっていた表情が変化した

 

雫「!……ありがとう」

 

そう言うと雫は光輝を追いかけた

 

光輝「……しつこい……なぜそうまでして俺を追いかける…」

 

雫「……決まってるでしょ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴方を…一人にしないためよ!!

 

光輝「……」

 

雫「あの日…勇輝と貴方が言い合ったあの日以来…貴方は誰かと関わる事を避け、ずっと一人でいた…勇輝は貴方を悪者みたいに言うけど…そんなことないわ!!貴方は…いじめられていた私をただ一人…助けようとしたわ…真面目に取り合わず、問題の先送りをしていた勇輝と違って…貴方は私の話をよく聞いて……助けようとしてくれた………勇輝は貴方をヒーロー失格の偽善者なんて言ってたけど…貴方は…あのときの私を本気で助けようとした貴方は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

他の誰よりもヒーローだったわ!!

 

光輝「!!」

 

雫「そんな貴方が……だれとも関わらず…ただ一人、孤独の道を進もうとしている貴方を……放っておける訳がない!!放って置きたくない!!たとえ貴方がそれを望んでいたとしても……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私が……貴方を絶対に孤独になんかさせない!!

 

その瞬間

 

雫の目に映る景色が変わった

 

気がつくと雫は地面にうずくまっており、その向かいでは、光輝が驚愕していた

 

光輝「!……俺の月読を…破った…だと!?」

 

そう…雫が追っていた光輝は実は既に光輝によってかけられていた月読だった

 

どれだけ走っても決して追いつけない……そう言う内容だった

 

しかし…雫は諦めなかった……その諦めなかった強い意志が、光輝の月読を破ったのだ

 

光輝「……雫」

 

カズマ「……」

 

雫「私は…諦めないわ……絶対に、絶対に…貴方の心に抱えた孤独を…取っ払うまで!!……貴方を追うのをやめない!!」

 

雫の表情…その目は強く、そしてまっすぐと光輝を見ていた

 

それは…自分が本気であること……自分はどこまでもついていくと

 

光輝「……」

 

雫「……」

 

互いに見つめ合うふたり

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「…………俺にはついてくるな(・・・・・・・・・)…」

 

そう言いながら今度こそ立ち去る光輝

 

雫「……光輝」

 

カズマ「良かったじゃねえか八重樫!!」

 

雫「え?」

 

カズマ「あれ?気づいてなかったか?さっき光輝は『俺にはついてくるな』っていっただろ?……でも旅にはついてくるなとは言ってないぜ?」

 

雫「!!」

 

カズマ「要するにだ…『旅の同行は許すが俺についてくるのは駄目だ』ってことだな」

 

雫「そ、そう…なんだ…」

 

カズマ「でもいいじゃねえか!!大きな一歩だぜ八重樫……お前とあの兄弟の間に何があったかは知らねえけど……あいつのこと…頼むよ……俺も出来ることなら……あいつをあのまま一人にさせたくないからさ…」

 

雫「!……ええ……わかってるわ!」

 

カズマ「んじゃ、改めてよろしくな八重樫……いや、もう一緒に旅するなら雫…って呼ぶべきか…」

 

雫「なら…私もカズマ君って呼ぶわ……改めてよろしくね」

 

そう言うとふたりは互いに握手した

 

 

 

 



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第三十二話 再会する紅と黄色

 

大迷宮巡りの旅に雫も同行することが決まった翌日

 

雫は自身もついていくとクラスメイト達に謝りながら告げた

 

クラスメイト達も思うところはあるようだが、この旅を無事終えたその先に、地球へ帰還できる方法を見つけられるかもしれないとカズマが告げた事で、彼らは納得した(約一名を除いて)

 

これには親友と一緒に旅ができると香織は喜んでいた

 

早朝、カズマはウルの方へ行き、ティオを連れて戻ってきた

 

そして出発のときにハプニングが発生した

 

それは、人数の多さ(ハジメ、光輝、ユエ、シア、ティオ、ミュウ、カズマ、アクア、香織、雫)に魔力駆動二輪(軍用車両)では乗り切れず、約2名はバイクで行くことになる

 

だがそこでこのパーティーのまとめ役(ハジメ指名)のカズマが何を思ったのか光輝はバイクでしかも乗り物事情が改善されるまでは雫とふたり乗りをするよう頼んだ

 

これには一同はもちろん、雫も驚いた

 

それを言われた光輝は最初無言でカズマを見たが数秒の沈黙後

 

光輝「……早く改善しろ」

 

それだけ言い雫を乗せた

 

この光輝の対応にはカズマの光輝への頼み以上に周りが驚いていた

 

その後一行は次の大迷宮である【グリューエン大火山】のある【グリューエン大砂漠】に向け出発した

 

道中、無言でバイクを走らせている光輝の背中にしがみついていた雫だったが、思えば家族以外の異性にここまで密着したのはこれが人生初だった事に気づき、走行中ずっと頬を赤くしながらしがみついていた

 

雫「……(光輝の背中……いつの間にかこんなに大きくなったのね…)」

 

そう思いながら雫は光輝の背中に顔を押し付けていた

 

砂漠へ到着した一行は道中襲ってきた魔物をハジメがドンナーで射殺したりシアが叩き潰したり光輝が轢き殺したり(後ろにいた雫は目をしかめていた)と戦いが続いていたが、そんな中、砂漠で行き倒れになっていた【グリューエン大砂漠】最大のオアシスである【アンカジ公国】の領主の息子であるビィズ・フォウワード・ゼンゲンを救助した

 

しかしビィズは謎の状態異常を起こしており、魔法でも治療ができず香織は困惑していた

 

が、

 

アクア「『セイクリッド・ハイネス・ヒール』!」

 

この世界でもトップクラスの治癒魔法が使える香織ですら治せなかったビィズの身体をアクアがあっさりと治療した

 

これには転落した想い人や幼馴染を助けられるくらい強くなろうと2ヶ月間必死に努力してきた香織のプライドをズタズタに切り裂き、わかりやすいくらい落ち込んだ

 

そんな香織を雫は肩に手を置きながら慰めていた

 

曰くビィズと父が納める【アンカジ公国】で住人達が生活用水にと使っているオアシスの水源から原因不明の汚染水が流れ、それにより数多くの住民が汚水の毒により死にかけていると、ビィズも汚染水を飲んでおり、苦しんでいたが、王国に救援要請するために砂漠を歩いていたそうだ

 

ちなみに状態はというと『魔力の過剰活性と体外への排出不可、発熱と意識混濁に全身の疼痛と毛細血管の破裂、それに伴う出血』であった

 

一応解決策として魔力の活性を鎮める効果を持っている特殊な鉱石『静因石』を粉末状にしたものを服用すれば体内の魔力を鎮めることが出来る

 

しかしこれは砂漠のずっと北方にある岩石地帯か【グリューエン大火山】で少量採取できる貴重な鉱石であり、手に入れるのに苦労する代物であり、採取に困っていた……のだが…

 

カズマ「……この問題…アクア居ればどうにかなるな」

 

ビィズ「え?」

 

カズマ「アクアならさっきみたいに状態異常治せるし何だったらオアシスの汚染を浄化できるな……」

 

ビィズ「ほ、ほんとうですか!?」

 

カズマ「ああ…お前ら…悪いがちょっと寄り道してもいいか?……ほうっておけないからさ」

 

こうしてカズマ達一行はアンカジへ向け乗り物を走らせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数時間も経たずに一行はアンカジへたどり着き、宮殿の中へ入った

 

宮殿の中の一室では、ビィズの父であるランズィが執務にあたっていた

どうやら治癒魔法と回復薬を多用して根性で執務に乗り出していたらしい

 

早速アクアにランズィの治療を頼もうとビィズが振り替えると

 

カズマ「……」

 

カズマがアクアの手を引き、部屋から出ていった

 

それに驚くビィズだったがそこへハジメが待ったを掛けた

 

ハジメ「聞きたいんだが……この宮殿にはアンタら以外にも誰かいるか?」

 

ビィズ「あ、はい…今この宮殿には使用人と寝室には母上……そして姉上と義妹が……」

 

ハジメ「……なあ…もしかしてだが…お前の姉と義妹

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ものすごく強かったりしないか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「……」

 

アクア「ね、ねえカズマ…どうしたの急にこんなところにまで連れ出して」

 

宮殿の奥へと進むカズマとアクア

 

アクアはなぜか無言で宮殿の奥へ連れて行くカズマに困惑していた

 

やがてふたりは宮殿のとある一室前にたどり着いた

 

カズマ「……」

 

そしてカズマが扉にノックを数回した

 

すると

 

???「私の種族は?」

 

アクア「!!」

 

ドアの向こう側から聞き覚えのある声が来た

 

カズマ「紅魔族」

 

???「私の得意魔法は?」

 

カズマ「爆裂魔法」

 

???「私の宗派は?」

 

今度は別の聞き覚えのある声が来た

 

アクア「エリス教!」

 

???「私はSかMかで言えば?」

 

アクア「ドM!!」

 

そして少しの沈黙の後に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???/???「「私達は誰(ですか)だ?」」

 

ふたり同時に言ってきた

 

カズマ/アクア「!!」

 

その瞬間、カズマとアクアは扉を開け、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ/アクア「「めぐみんとダクネス!!!」」

 

扉の奥の人物達に抱きついた

 

めぐみん「カズマぁぉ!!アクアぁぁ!!会いたかったです!!」

 

カズマ「ああ!!俺達もだ!」

 

アクア「久しぶりね!!私達がいない間、良い子にしてた?」

 

ダクネス「再会してそうそうに聞くことがそれか!?そう言うアクアこそカズマに迷惑かけなかったか?」

 

アクア「そんなこと無いわよ、ねえカズマ?」

 

カズマ「いや?いっぱいかけた」

 

アクア「カズマさーん!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐみん「ふふふ…」

 

ダクネス「ふふ…」

 

カズマ「……ははは…」

 

アクア「…ふ…ふふ…」

 

カズマ/アクア/めぐみん/ダクネス「ハハハハハハハ!!!」

 

久々にかつての世界でのノリでの会話をした所、つい可笑しくなって笑い合う4人

 

そして4人は互いに見つめ合い

 

カズマ/アクア「「ただいま、俺/私の大切な家族達」」

 

めぐみん/ダクネス「「おかえり、私達の愛しい家族達」」

 

かつて一時の別れの前に告げた言葉と似たような言葉を言い、4人は互いの再会を喜びあった



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第三十三話 集う伝説のパーティー

 

アンカジに来て、感じたことのある魔力を辿り、とうとう再会を果たしたカズマとアクア、めぐみんとダクネスの4人はその後、ランズィ達のいる部屋へと戻った

 

その道中、カズマはふたりにこの世界へ転生した後の事を聞いた

 

曰くダクネスは領主の娘として転生し、めぐみんはというと赤子の頃に親が流行り病により早死したあと孤児院に入れられ、丁度この孤児院を運営していたゼンゲン家に引き取られ養子になった

実はダクネスが偶然幼いめぐみんを見つけ出し、父に頼みゼンゲン家の養子にさせた

 

つまり、この世界に転生しためぐみんとダクネスの関係は義姉妹と言うことになる

 

部屋に戻った後、カズマはふたりの事を話した

そこで驚くべき事を知る

 

ランズィ「そうか…君たちふたりが娘たちの言っていた『待ち人』だったのか…」

 

なんとめぐみんとダクネスは、自分達の事情を全て家族に話していた

 

普通自分達が転生者であることやこの世界の神が実は争いを引き起こした黒幕であると話しても信じてもらえないだろう

 

だが、ランズィを初めとした家族の者や使用人一同はふたりの話を信じていた

 

ふたりがつまらない嘘をつくはずのないことや年の割りにかなり達観していたことに加え…幼少期からたいして鍛えていたわけでもないのにも関わらず物凄く強かったことなどが決め手となり、信用された

 

そしてゼンゲン家やその使用人達を含め、彼らは人間以外の種族に対し差別意識を持たないこの世界ではかなり希有な存在だった

 

なおこの話を聞いた香織と雫は物凄く驚いていたがふたりも色々納得できる部分があり信用された

 

ただこの時香織はカズマに対して『じゃあカズマ君はなろう系のハーレ厶主人公だったんだ!!』と言われ、『なんか似たような事をハジメに言われたんだが…』と少し苦笑していた

 

ランズィとその家族の治療を終えた一行は、次にアンカジ内の数多くの病人を治療(アクアがメインの治療、香織は補佐、カズマは持ち前の魔力を供給させた)して周り、その間ハジメ達はオアシスに調査しに行き、そこに潜んでいた汚染の元凶である魔物を始末した

 

この魔物は新種で見たことのないタイプだったと言うアンカジの調査員

 

それに対しハジメは恐らく魔人族が生み出した物だと断定

 

その後オアシスの浄化をアクアがやってのけ、無事アンカジは救われた

 

これには回復も浄化も何もかもが自身を遥かに上回っている事実に香織がまた落ち込み、雫が『向こうは世界一つを救った伝説のパーティーの女神様よ…初めから勝負にならないわ』と慰めていた

 

アンカジの人々や領主達に感謝され、その日は公国挙げての大宴会が繰り広げられた

 

その宴会では、かつて前世で冒険者ギルドでもよくやっていた宴会芸スキルを披露し公国中が大盛り上がりを見せた

 

アクアの宴会芸を見ためぐみんとダクネスは『本当に昔に戻った気分』だと懐かしむ様子を見せた

 

また料理を食べていたハジメにユエやシア、香織が食べさせようとして一悶着があった

 

そんな彼らを横目にカズマ達は前世や転生後の話を肴に4人は楽しんでいた

 

決して喧嘩せず、皆が楽しんでいる姿を見たハジメは心のなかで『あれこそ本当のハーレム系主人公のあるべき姿』とぼやいていた

 

そんな彼らを可笑しそうに見ていた雫だったが、そこで光輝の姿が見えないことに気が付き、料理を乗せた皿を片手に探し回った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらくするとオアシスにかけられた橋で光輝が一人黄昏れていた

 

光輝「……なんのようだ」

 

雫「あ、その……」

 

少し言いづらそうにする雫だったが意を決して光輝に言う

 

雫「こ、光輝が居なかったから…どこに行ったのかなぁって…思って…」

 

光輝「………一人になりたかったからここに来ていただけだ……ああいう大勢で騒ぐ場は好きじゃないからな…」

 

雫「そ、そう…」

 

光輝「……」

 

雫「……」

 

しばらくの間…ふたりは無言でいた

静寂がふたりを包んだ

 

それから数分が経ち、光輝が話し掛けた

 

光輝「それで……お前はなぜ料理を持ってきている」

 

雫「あ、そうだったわ…これ…光輝あまり料理食べてないだろうなって思って持ってきたけど……その、良かったら…食べる?」

 

光輝「……」

 

光輝は無言で雫から皿とフォークを貰い、食べ始めた

 

光輝「……異世界の食事には…もう慣れたか?」

 

雫「!う、うん…異世界の料理も美味しいのは美味しいけど……やっぱり…お米が食べたいわ…そういえばウルの方に米があるんだったわよね……どうだった?」

 

光輝「別に……地球の物と大差はなかった……が、食べ比べれば違いがわかるだろうな……俺にはもう…地球とトータスの米の違いがわからんからな」

 

雫「そう…なんだ……」

 

光輝「……ただこのパーティーに居れば佐藤が地球の料理と似たようなものを作ってくれる」

 

雫「え?そうなの!?」

 

光輝「ああ…あいつの作る料理の味は悪くはない……お前も何か食べたい物があるなら奴に言えばいい…」

 

雫「うん!!」

 

そう返事すると雫は何を頼もうか考えていた

が、何かを思いついたのか光輝に顔を向け

 

雫「ねえ光輝…そういえば私…地球にいた時何度も貴方に弁当を作ったよね…?」

 

光輝「ああ、頼んでもないのにな…香織が南雲に頼まれたわけでもないのに弁当を作るレベルで面倒だった」

 

雫「うぅ……そ、それは悪い事したと思ってるわ…でも貴方いつも最後には食べてくれたじゃない…」

 

光輝「お前がしつこかったからな」

 

雫「と、とにかく……私思えば貴方が何を食べたいか聞いたことが無かったわ………それで…光輝は何が食べたかったの?」

 

光輝「聞いてどうする…」

 

雫「だ、だから…その……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もし…私が光輝の……食べたい物作ったら……食べてくれる?……」

 

光輝「……」

 

雫「あ!で、でも!貴方が本気で食べたくないならいいの!!そ、それにカズマ君ほど上手にできないかも知れないから『不味くねえよ』…?」

 

自分の発言に少し戸惑いと焦りを見せた雫を光輝は止めた

 

光輝「お前が作る料理で不味いと思った事は一度としてない……作ったなら食ってやる」

 

そう言いながら光輝は宴会場へ向けて歩き出した

 

雫「あ、ど、どこ行くの?」

 

光輝「戻る……これ以上お前とふたりっきりになればらしくないこと言いそうだからな」

 

雫「!!」

 

宴会場へと歩き出す光輝の後ろ姿を少しの間見ていた雫だったがやがて笑顔を浮かべ、光輝の隣を歩き出した

 

光輝「……(何をらしくないこと言ってるんだ俺は…)」

 

雫「……(フフッ…光輝の態度が少し軟化したわ…)」

 

自分のやろうとすることや少しでも関わろうとする雫を拒絶しなかった事に、雫はなんとも言いようのない嬉しさが心の中を満たされていくのだった

 

 



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第三十四話 マグマ世界


WBC日本世界一位奪還おめでとうございます!!

まあ自分あまり野球見ないけど←サッカー派


 

ハジメ「だあぁァァァクソ!!あっついし面倒だし、ミレディの所とは違う意味で苛つくなあ!」

 

ユエ「ん…暑すぎて魔法じゃ涼しくなれない」

 

シア「うぇぇぇ……暑すぎて耳が…」

 

香織「ぬ、脱ぎたい…今すぐに服を脱ぎたいよぉぉぉ…」

 

雫「やめなさい香織、気持ちはわかるけどそれはやめなさい…」

 

光輝「……」←暑すぎて普段以上に口数が少ない

 

ティオ「むぅぅ…妾もこれだけの暑さは初めてじゃ…」

 

大宴会を終えた翌日

ハジメ達は【グリューエン大火山】へと向かい大迷宮の攻略へと乗り出した

 

ちなみにメンバーはカズマ達伝説のパーティーメンバーとミュウを除く面々だ

 

残る理由はミュウの面倒を見るためと作らなければならない物があるのと、もうしばらく再会した面々と一緒に過ごしたいという物だった←これ一番の理由

 

大火山に入ったハジメ達だったが、中はマグマの熱で物凄く高温であり、しかも内部にはマグマの魔物まで出てきており、一行を苦しめたが、主にハジメと光輝が仕留めていった

やがては百を超えるマグマの魔物が群れを成して襲ってきて、それを一匹残らず始末していった

途中光輝の須佐能乎がマグマの熱で溶けるハプニングがあったものの、誰ひとりかけることなく戦い

そして、最後の魔物であるマグマ蛇を仕留めた瞬間だった

 

何の前触れもなく、突如、天より放たれた白き極光に巻き込まれたハジメと香織

 

ユエ「ハジメぇぇぇ!!」

 

雫「香織ぃぃぃ!!」

 

その直後、ほぼ同時に無数の閃光が豪雨の如く降り注ぐ

 

それは、縮小版の極光だ。先程の一撃に比べれば十分の一程度の威力と規模、されど一発一発が確実にその身を滅ぼす死の光

 

それをティオが魔法で防ぎ、光輝は近くに居た雫を守るように前へ出て全て刀で防いだ

 

「……看過できない実力だ。やはり、ここで待ち伏せていて正解だった。お前達は危険過ぎる。特に、その男は……」

 

そんな声が上空から聞こえ、一同は上を見上げた

 

そして驚愕に目を見開いた

いつの間にか、そこにはおびただしい数の竜とそれらの竜とは比べ物にならないくらいの巨体を誇る純白の竜が飛んでおり、その白竜の背に赤髪で浅黒い肌、僅かに尖った耳を持つ魔人族の男がいた

 

「まさか、私の白竜が、ブレスを直撃させても殺しきれんとは……おまけに報告にあった強力にして未知の武器……女共もだ。まさか総数五十体の灰竜の掃射を耐えきるなど有り得んことだ。貴様等、一体何者だ? いくつの神代魔法を修得している?」

 

ティオに似た黄金色の眼を剣呑に細め、上空より睥睨する魔人族の男は、警戒心をあらわにしつつ睨み返すユエ達に、そんな質問をした。ユエ達の力が、何処かの大迷宮をクリアして手に入れた神代魔法のおかげだと考えたようだ

 

光輝「……そういうことか……貴様が魔人族側の攻略者ということか?」

 

「ほう…その口ぶり、そういう貴様らは人間族側の攻略者と言うことだな…それにしても…絶滅したと思われた吸血鬼族に竜人族、亜人族に人間族とは…随分とまとまりのない一行だな……私の名はフリード・バグアー。異教徒共に神罰を下す忠実なる神の使徒であり…わが魔王にして魔人族崇拝の神、アルヴ様…そして我が魔人族の存亡の為に戦う魔人族の戦士だ」

 

光輝「……忠実なる神の使徒……操り人形の間違いだろ」

 

光輝のその言葉にフリードの眉間が一瞬ピクッとなったかと思えば強い眼光を光輝へと向けてきた

 

フリード「貴様…今のその言葉はどういう意味だ」

 

光輝「そのままの意味だ…神とやらの言葉を疑いもせず真に受けた挙げ句、終わらない戦いを続ける愚かな存在と言ってんだ……もっとも…愚かなのはこの世界のエヒトを信じる人間族も同類だがな」

 

光輝の言葉に何か違和感を感じたのかフリードの強い眼光が少し弱まった様に感じられた

 

フリード「貴様らは…人間族の味方では無いのか」

 

光輝「興味ない…他人の力に頼るばかりのこの世界の人間族がどうなろうと、俺には関係ない……そして俺は貴様ら魔人族など眼中に無い」

 

フリード「なっ!?」

 

光輝「神狩り……俺はいずれエヒトやお前らの崇める神もこの手で狩り取るつもりだ」

 

そう言う光輝の両目は写輪眼を開眼させていた

 

フリード「ならば…貴様らは尚更この場で倒しておく必要がある!!」

 

光輝「……それはそうと、貴様らはいつまでそんな上から見下ろしている……頭が高い」

 

その瞬間、フリードやその配下の竜達が突如急降下、いやまるで何か目に見えない強い力で下に引っ張られる様に見えた

 

それにより竜の大半がマグマ溜まりに落下した

 

残っていたフリードとフリードが乗っている白竜はというとフリードが何かを詠唱した瞬間、マグマ溜まりへ落下する寸前に光り輝く膜のようなものが出現し、それに飛び込んだ

 

すぐに周囲を警戒する光輝達だった

 

そして

 

フリード「やってくれたな…貴様ら」

 

再びフリードが光の膜から飛び出してきた

 

フリード「私の配下の竜達を瞬く間に全滅させ、危うく私まで殺られる所だった」

 

光輝「……(重力魔法……強力だがあれだけの数と範囲を覆い尽くすのにかなりの魔力を使うな……そして今のワープ移動……恐らく神代魔法……能力は空間移動ってところか)」

 

光輝はフリードとの会話の合間にミレディの大迷宮で手に入れた重力魔法を使い、一気に勝負に出たが、フリードとフリードの乗る白竜は仕留めきれずにいた

 

光輝「……やはり簡単には仕留められないか」

 

フリード「貴様…」

 

光輝「さて…どうするつもりだ?……貴様の配下の竜はその乗っている白竜を除いて全滅させた……貴様だけでも戦うか?……もっとも…それはオススメしないが」

 

フリード「なに?」

 

光輝「まだ気づいてないか?……貴様は既に完全方位されていることに」

 

フリード「……!」

 

そしてフリードは周りを見て気がついた

 

周りには数多くの剣や槍に矢に斧にナイフといった数多くの武器がその場で浮遊しており、フリードは武器達に囲まれていた

 

すると岩影から無傷のハジメと香織が出てきた

 

ハジメ「たくよ…良いところ皆持っていきやがって…やられたふりすんのも楽じゃねえんだよ」

 

光輝「フン……どうせお前のことだからあんな攻撃、避けて次の一手に勤しんでいるだろうなと思っていたからな」

 

ハジメ「チッ…今度はお前がこの役やれよな……それはそれとして、どうするフリード…このまま俺達とやり合うか?……お前の味方を立った一人で倒したそこの天之河はこれでも全力じゃねえし、俺も本気ではない…このまま戦えば…お前は確実に死ぬぞ?……だが…このまま引いてくれるなら死なずに済む」

 

フリード「……私を見逃すと言うのか?」

 

ハジメ「うちのリーダーからの指示でな…魔人族と遭遇しても出来ることなら殺すなって言われたからさ…」

 

フリード「……なぜだ…なぜ私を殺そうとしない…貴様らの実力ならそれも容易かろう……貴様らの目的はなんだ?……」

 

ハジメ「俺は故郷に帰ることだが、そこの天之河とうちのリーダーの目的は神殺しだ………リーダー曰く、お前ら魔人族にもいずれ選択の時が来るらしいから…その時までは不殺であって欲しいとさ」

 

フリード「なんだと?」

 

ハジメ「フリード…お前が本当に自身の種族の生存を願うなら……争う必要のない平和な世界を望んでいるなら……本当に倒すべき相手を間違えるな…」

 

フリード「!?」

 

ハジメ「もし、またお前と会う機会が合ったら……うちのリーダーと話をしな……お前ら魔人族だけじゃねえ……この世界に生きる全ての種族の存亡に関わる問題だからな…」

 

ハジメがそう言うと周りに浮かせていた武器は全て落下した

 

フリード「………」

 

フリードは何も言わず、再び空間移動の魔法を使いその場を去った

 

ハジメ「……俺達も行くか」

 

そして再び一行は探索を始め、遂に魔法陣のある部屋にまでたどり着いた

 

ハジメ達は互いに頷き合い、その中へ踏み込んだ。 【オルクス大迷宮】の時と同じように、記憶が勝手に溢れ出し迷宮攻略の軌跡が脳内を駆け巡る。そして、マグマ蛇を全て討伐したところで攻略を認められたようで、脳内に直接、神代魔法が刻み込まれていった

 

ハジメ「……これは、空間操作の魔法か」

 

光輝「……恐らくこれが奴の空間移動の正体だ」

 

シア「ああ、あのいきなり背後に現れたやつですね」

 

どうやら、【グリューエン大火山】における神代魔法は『空間魔法』らしく、とんでもないものに干渉できる魔法だ

 

ハジメ達が、空間魔法を修得し、魔法陣の輝きが収まっていくと同時に、カコンと音を立てて壁の一部が開き、更に正面の壁に輝く文字が浮き出始めた。

 

〝人の未来が 自由な意思のもとにあらんことを 切に願う〟

 

〝ナイズ・グリューエン〟

 

ハジメ「実にシンプルな言葉だな」

 

そう呟いたハジメだった

 

こうして3つ目の大迷宮を攻略した一行はアンカジへと帰路につくのだった

 

 





第三十五話

https://syosetu.org/novel/307613/43.html


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第28.5話 平和への道のり

 

カズマ「さて…あんな話をしたあとにこんなことを言うのも何だが…お前らにはどうしても話しておかなきゃいけないことが他にもある」

 

ホルアドへ行く前日の夜のことだった

 

カズマはハジメ達(光輝、ユエ、シア、ティオ、幸利)を部屋へ呼ぶとすぐに本題へときりだした

 

カズマ「俺が転生する前…エリス様って言う女神にエヒトやトータスのことについて色々聞いたって話はしたよな?」

 

ティオ「うむ…そのエリスとやらがお主達を転生させたとも聞いたのじゃが…」

 

カズマ「……そのエリス様から聞いた話の中にこんなものがある……人間族が神『エヒト』を崇拝するように魔人族側にも奴らが崇拝する神がいる……その神の名は『アルヴ』……今の魔人族の王…魔王をも担っている存在であり……エヒトの眷属にあたる神だ」

 

ハジメ達一同「「「「!?」」」」

 

カズマのカミングアウトにハジメ達は驚きを隠せないでいる

 

ハジメ「……いやな予感がするんだが…」

 

幸利「……なあ、もしかしてだが…エヒトが人間族を煽って魔人族と争わせるよう仕向けたように…そのアルヴも魔人を煽って人間族と争わせるよう仕向けてたりしないか?……」

 

カズマ「幸利……正解だ…後アルヴを裏から動かしているのはエヒトだからこの世界の争いも全ての種族は奴の掌で踊らされていることになるな」

 

ハジメ「いやふざけんなよ!!じゃああれか?結局のところこの世界の神を名乗る存在は皆ろくでもないだけじゃなく最終的に笑ってるのはエヒトだけってことか!?」

 

ユエ「ん…そうなる」

 

シア「い、陰謀だらけじゃないですかぁ!!」

 

カズマ「それでだ…人間族が敵対している魔人族もこの世界の人間族と同じような立場にある…だから」

 

光輝「まさかとは思うが…魔人族をも救うつもりだとでも言うつもりか?」

 

カズマ「……そのまさかさ……」

 

光輝「お前…自分が何を言っているのかわかっているのか?……お前の目的はエヒトを倒すことであってこの世界の種族を救うことではないだろ?」

 

カズマ「まあな……だが俺は……出来ることなら…多くの種族を助けたいと思っている……彼らが争うのはあいつらの上位に位置する神々がそうさせているからだ……争う必要がないなら争わせたくない……そしてゆくゆくはエヒト達を倒すために、この世界の種族が団結して共に神を討ちたいすら思っている……このトータスは…奴の退屈しのぎのための遊び場なんかではなく…この世界は…今を一生懸命生きている全ての種族の物だってな………このトータスが奴の箱庭になってしまったなら…それを奪い返すんだよ…この世界の人達と共にな!」

 

光輝「……俺には…この世界の種族にそんな価値があるとは到底思えん……神の言葉に流され、疑いもせずそれを正しいと信じてしまっている愚かな人間族と魔人族………神に見放されたと言われ、それを受け入れずっと弱者で居続ける亜人族……そして……エヒトに敗れ、更には世界の真実を知る身でありながらそのことを他の誰かに伝えることもせず、隠れて世界が壊されていく様をずっと傍観していただけの竜人族……俺に言わせればこの世界の種族は皆エヒトに負けた弱者共だ……ましてやたとえエヒトを倒したとしてもこの世界に平和が訪れるとは思えん……長いこと染み付いた遺恨は簡単には消えない……」

 

光輝の言葉にユエやシアにティオといったこの世界の出身者達が反応を見せた

 

ティオの種族はかつて世界の真実を知り、エヒトに戦いを挑んだが返り討ちにあい、多くの同族が殺された

 

その後表向きには絶滅したように見せかけて竜人族の隠れ里で何百年も身を隠していた

 

光輝「お前はそれでもこの世界の種族を救おうと思っているのか?……人が本当の意味で理解し合える時が来ると、お前は信じているのか?」

 

カズマ「……ああ…」

 

光輝「……なぜだ…なぜそう言い切れる」

 

カズマ「……かつて俺が異世界で冒険者をしていたとき……本来なら敵であるはずの連中と友達になったり、弟子になったり……普通に話せたことだってあった……結局は俺達が魔王軍壊滅させちゃったけど…それからは、元魔王軍の連中とも上手くやっていけたよ……その時に思ったんだ……俺達はもっと話し合うべきだったんじゃないかって……戦う以外にも選択はあったんじゃないかって……だから…2度目の異世界では…俺は悔いのないようにやりたい!わかり合えるなら仲良くしたい。血を流す必要もなく、命の奪い合いもする必要のない……言っている事はお前の兄貴みたいな甘い事って自覚はしている……だがな……俺はお前の兄貴と違って、中途半端に成そうとは思っちゃいない!いったことを現実にしたい…そう思っている!!」

 

光輝「!」

 

カズマ「だから……もしお前らがこの先魔人族と遭遇しても…殺すのはやめてくれ……連中とは俺が直接話をして味方に引き入れる……もし、それでも連中が敵対して、それでお前らを傷つけたりするようなことがあったら……そのときは…俺が責任取って始末して、俺も自害する」

 

光輝「!!」

 

ハジメ達「「「「!?」」」」

 

カズマ「軽い気持ちで実現させようと思ってない……俺は…命を掛けて、このトータスを争いとは無縁の、どの種族が共に手を取り合い、たとえ他種族であっても自分の子と呼び、共に酒を飲みかわし笑い合える…そんな平和な世界にしてやりたい!!」

 

カズマの言葉には、トータス出身者はもちろん地球出身者も含め驚いていた

 

そして

 

光輝「………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの馬鹿よりかはマシか」

 

カズマ「え?」

 

光輝「……説得はお前がやれ…それ以上は手は貸さん」

 

カズマ「!!」

 

ハジメ「……はぁ…まあ…俺は帰るだけだから…それまでなら手を貸してやる」

 

カズマ「ハジメ…」

 

幸利「話を聞いていたら…俺にとっても他人事のように聞こえないな……それに、お前やアクアには命を救ってもらった恩があるし…できる限りのことはする」

 

ティオ「カズマ、妾はお主のその熱意と本気で争いを止めようとする強い意志に猛烈に感動したのじゃ!!」

 

シア「もし、カズマさんの言う通りの世界になったら…私達亜人も堂々としてられますね…」

 

ユエ「ん……言ってることは大変だけど…実現させようとする精神は本物だった…」

 

カズマのやろうとすることに周りは共感する意思と協力的な姿勢を見せた

 

カズマ「……悪いな…恩にきる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△△△△

 

カズマ「ふぅ…以上…これが俺の記憶だ……」

 

カトレア「……」

 

ホルアドを訪れ、勇者一行のピンチに駆けつけたハジメ達であったが、ハジメがとどめを刺そうとする素振りを見せ、光輝がカトレアの首をはねた

 

しかし、実際はカズマの頼みを忠実に守っていたふたりが一芝居をうち、光輝が幻術に掛け周りには自身がとどめを刺したように見せた

 

その後周りが幻術にかけられ、カトレアが見えていない所をカズマが回収し、オスカーの隠れ家までテレポートで移動したのだった

 

そしてそこでカズマは昨夜の自身の記憶を見せた

これは光輝の万華鏡写輪眼、月読を使った

 

カズマの技能『スキルオールマイティ』は他人の技能や固有能力を使うことが出来るというもの

 

ただし、性能や効果は本人以下であり、光輝なら人睨みで月読にかけて現実の時間数秒で精神世界で無限に時間を操ることができるに対し、カズマの月読はかけるのに十数秒、精神世界内での時間操作もあまり長く出来ない…

 

カズマ「(結構負担が大きいな…月読でこれなら天照なんて使った日には目を失明するんじゃないのか?)」

 

光輝が平気そうに使っている瞳術だが、光輝は何度も使って負担に慣れたのに対しカズマは光輝以上の負担を負っている

またあくまで技能や固有能力を使えるのであってハジメや光輝の写輪眼に白眼を自身に開眼させることは不可能

 

本当は普通の幻術でカズマの記憶を見せると言うことも可能だが、通常の幻術はかけるのも幻術内の時間が現実とリンクしてしまうため、早く地上へ戻りハジメ達と合流するためにもできる限り早く済ませられる月読を使ったのだ

 

そして今

世界の真実、更には自分達が崇め従っていた魔王である神アルヴが自分達の敵である人間族の神の眷属の神であり共に長い年月人間族と魔王族の争いを裏から暗躍していた事実を

 

カトレア「何なの…!…あたしは…あたし達は皆神々にいいように踊らされてたっていうの!?今まで犠牲になった魔人族は皆…あたしの家族も……エヒトやアルヴの遊びの為に死んでいったっていうの!?」

 

カトレアはあまりのショックに地面に膝をつけ、身体は震えながら涙を流していた

 

無理もない…今まで信じていたものが偽りでありそれが自分達長年を苦しめさせた元凶だったのだから

 

そんな姿をカズマは無言で眺めていた

 

それからしばらくして、少しは落ち着きを見せたカトレアがカズマへ顔を向けた

 

カトレア「アンタは…本気でエヒトやアルヴを倒そうと思っているの…?」

 

カズマ「当然だ…」

 

カトレア「……それがどれだけのことか…わかって言っているの…?」

 

カズマ「俺の記憶を見たアンタなら分かるはずだ……俺は本気だ……本気で神を倒そうと思っている…………アンタら魔人族を含めた全ての『人』の命をおもちゃみたいに弄ぶあいつらが許せん……だから倒す……そして、この世界に住む全ての種族が争うことなく、良き隣人、良き友、良き家族である世界にしたいと思っている」

 

カトレア「!!」

 

カトレアは驚いた

 

カズマの記憶を見たとき、カズマの抱いている感情も感じられた

そこには嘘偽りのない、本気で神を倒し、この世界を、本当の平和にし、全ての種族が争う必要のない世界にしたいという意志が

 

そして、今彼は自分達魔人族だけでなく、この世界に住むすべての種族を『人』と呼んだ

 

この世界の人間族と魔人族は互いに忌み嫌い合い、相手を人だとは思ってなかった

神に見放されたと言われている亜人族も人扱いされず、人にも魔物にもなれる半端者と称されている竜人族も人として扱ってなかった

 

だがカズマはそれら全てを同じ存在だと思っている

 

カトレア「……アンタは……あたしにどうして欲しい…?」

 

カズマ「そうだな……できれば神を倒すために力を貸して欲しいとは思っているけど…無理強いはしたくない……アンタに決めさせる……もし協力したくないと言ったとしても、アンタは殺さない……ガーランドには行ったことないからそこまで送ることは出来ないが、できる限り近いところまでなら送ってやれる…」

 

カトレア「……」

 

カトレアは考えた

 

自分が取るべき選択がなんなのかを……

 

本当の平和……それは自分が生きている間に見れるものなのか……

もう誰も争う必要もない……血を流すことも、死体の山が出来ることもない……

 

そして……

 

カトレア「……ミハイル…」

 

カトレアは、自身のつけているロケットペンダントを見た

 

自身の愛する男との間に、いつかは築きたいと思っている家庭……生まれてくるかもしれない子供が戦いを知らず、戦う必要のない……そんな世界を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カトレア「……見てみたい」

 

カトレアは決意した

 

自身も神と戦うことを……そして、この目の前の男と協力する事を

 

カズマ「……決めたみたいだな」

 

カトレア「……あたしはここに残る……この先アンタが連れてくるかも知れない、神殺しの同胞達の受け皿になるために」

 

カズマ「そっか……よかったぁ……正直不安だったんだよなあ……説得に失敗して殺し合うことになるとか本気でやだったからさぁ…」

 

カトレアの決意を知り、カズマは肩の力を抜いた

 

カトレア「フフッ、おかしな男ね……アンタはあの勇者よりも強いくせに……今はすごく弱々しく見せるなんて」

 

カズマ「そりゃあ足元救われないためにも他のやつの前じゃもっと強く堂々と見せてるさ……んじゃ、俺はそろそろ行くけど、オスカーの隠れ家の入口の扉開けるなよ?ヒュドラが出てくるから…出口の魔法陣はライセン大峡谷に繋がってるから気をつけな?」

 

そう言うとカズマはテレポートの準備を進める

 

カトレア「ねえ……アンタの名は?」

 

カズマ「……カズマ…サトウカズマだ…アンタは?」

 

カトレア「あたしはカトレア……ガーランド特殊部隊所属のカトレア……」

 

カズマ「……そっか…それじゃあ今日から俺とアンタは同志ってことだな……よろしくな、カトレア」

 

そうカズマは笑みを浮かべながらテレポートで消えていった

 

 

カトレア「……フフッ…(同志ね……まさか、人間族にそんな事を言われる日が来るなんてね………彼……なかなかいい男だったわね……ミハイルと出会わなかったら惚れてたかもしれないくらいに…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「おっと、なにやらシアとミュウの所で騒ぎが起きてんな……あいつらが戻ってくる前に片付けちゃお」

 

 





第二十九話

https://syosetu.org/novel/307613/36.html


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第三十五話 海底世界

 

ミュウ「ママー!!」

 

「ミュウ!!」

 

グリューエン大火山の大迷宮をクリアした翌日

 

一行はアンカジへと戻ったあとカズマ達と合流

次の大迷宮へと向かう道中にあるミュウの故郷、海上の町エリセンへと旅立った

 

更にこの旅からはめぐみんとダクネスの2名も同行することとなり、よけいに乗り物事情が悪化することとなり、バイクに乗るのがカズマとアクア、光輝と雫になった

 

アンカジから旅立とうとしたところランズィが

 

ランズィ「ララティーナ、めぐみん……離れていてもお前達は一生、私の家族だ」

 

そう言いふたりを抱きしめた

 

ふたりとも前世の記憶を持ち、それぞれ前世の親が居たがこの世界では親が違う……しかしそれでもふたりにとっては親であることには違いはなく、涙を流しながら別れを告げた

 

そうしてバイクと車を走らせ、日が暮れる少し前にエリセンにたどり着いた

ただ町に入ろうとしたところ海人族が囲んできてカズマ達を警戒していた

 

しかしミュウを見せるとその警戒を解いてくれた

 

曰くミュウの誘拐が合って以来、町に来るものを警戒し常に監視する体制であったらしく、今回よそ者だったカズマ達の来訪に皆ピリピリしていたようだった

 

そして今、ミュウとミュウの母『レミア』が無事再会を果たすことができた

 

しかし、レミアの足はミュウを誘拐した誘拐犯によって歩けない程の重症を負わされていた

 

すぐに治療をしようと香織が詠唱をするが

 

アクア「『セイクリッド・ヒール』!」

 

アクアが詠唱せずに速攻で足の傷を完治させた

 

香織「うん分かってた…このパターンはわかってたけど………アクアちゃんが傷を治すなら私のいる意味は…」

 

3度どころか4度もアクアに出番を喰われた香織が地面に膝をつけ落ち込んだ

 

雫「か、香織ったら…そんなに落ち込まないで」

 

光輝「ほっとけそんなストーカー」

 

香織「酷い!!」

 

光輝「事実だろ?雫は日常じゃあつけたことはなかったが、お前は学校外でも南雲をつけてただろ?」

 

香織「!!」

 

光輝「いくら自分の惚れた男の事を知りたいからって……あれはないな……一番酷いのは教室であいつが飲んで捨てた飲むゼリー飲料をあとから回収しようとしたことだな……流石に途中でやめたようだが、もしやってたら警察に通報しようと思った」

 

雫「香織…今の話なんだけど」

 

香織「は、ははは…その、あ、あれだよ……あんまり一緒に居られないフラストレーションを解消しようって思ってつい」

 

雫「……はぁ……光輝…そういうことはもっと早く言ってほしかったわ…」

 

ハジメ「………(オルクス大迷宮に入る前日の夜這い疑惑といい……やっぱ危険だな…)」

 

ミュウ「ありがとうアクアお姉ちゃん!!」

 

レミアと再会を果たしたミュウがハジメをパパと呼んだことで「レミアが……再婚? そんな……バカナ」「レミアちゃんにも、ようやく次の春が来たのね! おめでたいわ!」「ウソだろ? 誰か、嘘だと言ってくれ……俺のレミアさんが……」「パパ…だと!? 俺のことか!?」「きっとクッ○ングパパみたいな芸名とかそんな感じのやつだよ、うん、そうに違いない」「おい、緊急集会だ! レミアさんとミュウちゃんを温かく見守る会のメンバー全員に通達しろ! こりゃあ、荒れるぞ!」などの、色々危ない発言が飛び交っていった

 

このあと、レミア宅に世話になることになったのだが、部屋割りでハジメと一緒に寝たいユエとシアと香織の三つ巴のが勃発し、暗雲と雷を背負った龍を出すユエと般若を出す香織、そしてそのふたりに怯えるシアと言う構図ができ、最終的には人ん家で騒ぎ立てるふたりをカズマがふたりを厳しく叱りつけ喧嘩を止めた…なおこのときハジメ達にはカズマの背後で白い龍と黒い龍がふたりの化身モドキを締め上げているように見えたそうだ

 

結局「パパとママと一緒に寝る~」というミュウの言葉に場がカオスと化したりしたが、一応の落ち着きを見せた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから数日、海を渡るための潜水艦、損壊、喪失した装備品の修繕・作成や、新たな神代魔法に対する試行錯誤をし、とうとう4つ目の大迷宮のある【メルジーネ海底遺跡】の探索に乗り出した

 

またカズマとアクア、めぐみんとダクネスの格好が変わっていた

皆カズマとアクアの自作であり4人ともかつての異世界の冒険者時代に来ていた服装になっていた

 

服装を変えたアクア達女性陣は

 

アクア「フフッ、やっぱりこの格好が一番だわ!!」

 

めぐみん「すごく懐かしいです……昔を思い出します」

 

ダクネス「そうだな………一気に若返った気分だ」

 

それぞれテンションをあげていた

 

カズマ「いや一応外見年齢若返ってるだろ……まあ…気持ちはわかるけどな」

 

更に今回、カズマは雫にカズマ作の刀型アーティファクトを贈った

 

その名は『白金(シロガネ)

光輝の持つ黒金と同様世界でも最高峰の強度の鉱石で作られてるため刃は決してかけることがなく、魔力を流すことでその効果を倍増させる

 

これには雫はすごく喜んでいた

 

そして出発のとき……しばしの別れに、物凄く寂しそうな表情をするミュウ。盛大に後ろ髪惹かれる思いのハジメだったが、何とか振り切り桟橋から修繕した潜水艇に乗り込もうとする。ミュウが手を振りながら「パパ、いってらっしゃい!」と気丈に叫ぶ。そして、やはり冗談なのか本気なのか分からない雰囲気で「いってらっしゃい、あ・な・た♡」と手を振るレミア。 傍から見れば仕事に行く夫を見送る妻と娘そのままだ。背後のユエ達からも周囲の海人族からも鋭い視線が飛んでくる。迷宮から戻って来ることに少々ためらいを覚えるハジメであった

 

そんなハジメを光輝は不敵な笑みを浮かべてみていた

 

雫「光輝…」

 

光輝「なんだ?」

 

雫「貴方……ハジメ君の気苦労を面白そうに見てるわね」

 

光輝「面白いからな…」

 

雫「……(そういえばこのふたり、地球に居たころさんざん喧嘩してたわ…)」

 

今回の探索メンバーは全員であり、アクアだけは潜水艦に乗らずに海を泳いで楽しんでいた

 

この海を泳いでいるアクアの姿にハジメ達は皆驚いていた

 

まず潜水艦を圧倒するレベルの速さで泳ぎ、更に深海に入っても息切れを起こさず水圧による負荷が全くといっていいほど掛かっておらず…一同は困惑していた

 

カズマ「そういえば言い忘れてたがアクアの技能『水性特化』は水関連においては無類の強さを発揮するものだ…そもそもあいつの前世は水の女神だからこの程度あいつにとっては散歩するくらい気軽なもんだ」

 

ダクネス「前世でもアクアの水に対する強さは尋常じゃなくてだな……水中戦をやらせたら誰も勝ち目が無いくらい強かったぞ……依頼でシーサーペントやクラーケンなどの水性生物を一人で相手取ってたぞ…」

 

めぐみん「あの人、その気になれば世界一つを洪水にすることだってできますよ?」

 

ハジメ「マジかい…」

 

雫「リアルノアの方舟ね」

 

アクアの規格外にまわりは引いていたが、それから探索を続けることしばらくして大迷宮の入口を見つけた

 

どうやら中は洞窟になっていたらしく皆が潜水艦から出た

直後圧縮された水のレーザーが一行を襲った

 

ユエとアクアがすぐに障壁を出しガードする

 

光輝は写輪眼を出し飛んできた水のレーザーをかわした

 

カズマとめぐみんにダクネスといった歴戦の冒険者達、シアにティオなどの実力者…そして勇者パーティーにいた頃から勇輝に次ぐ実力を持つ雫は対処できた

 

だが、香織はそうはいかなかった

 

香織「きゃあ!?」

 

余りに突然かつ激しい攻撃に、思わず悲鳴を上げながらよろめく。傍にいたハジメが、咄嗟に、腰に腕を回して支えた

 

香織「ご、ごめんなさい」

 

ハジメ「いや、気にするな」

 

あっさり離れたハジメをチラ見しながら、普通なら赤面の一つでもしそうなのだが、香織の表情は優れない。抱き止められたことよりも、自分だけが醜態を晒したことに少し落ち込んでいるようだ。 そして、それ以上に、ユエの魔法技能の高さに改めてショックを覚える

 

更に治療師としての自身の回復魔法や浄化魔法などと言った自分の技能をも上回る力を見せたアクア

 

さらに障壁の発動速度だけなら〝結界師〟たる鈴にだって引けを取らないユエ

強度でいえば鈴以上のアクア

香織も防御魔法は使えるがそれでも、ユエとアクアに比べると、自分の防御魔法など児戯に等しいと思わせられる

 

元々感じていた力の差をさらに見せられた気分である

 

〝劣等感〟

 

自分は、足でまといにしかならないのではないか? その思いが再び、香織の胸中を過る

 

雫「香織……大丈夫?」

 

香織「えっ? あ、ううん。何でもないよ」

 

雫「……そう」

 

香織は咄嗟に誤魔化し、無理やり笑顔を浮かべる

 

雫は、そんな香織の様子を心配したが、強がる香織に特に何も言わなかった

 

そのことに、香織が少しの寂しさと安堵を感じていると、未だに続いている水のレーザーを防いでいるユエがジッと自分を見ていることに気がついた

 

その瞳が、まるで香織の内心を見透かそうとしているようで、香織は、咄嗟に眼に力を込めて睨むような眼差しを返す。 いつかのように、自分の気持ちを嗤わせるわけにはいかない。そんな事になれば、ハジメの愛情を一身に受ける目の前の美貌の少女は、香織を戦うべき相手とすら認識しなくなるだろう

 

それだけは……我慢ならない

 

光輝「……」

 

ハジメ「……」

 

カズマ「……」

 

そんな香織の姿を男連中は見ていた

 

一行が洞窟の奥へと進むと大きな空間に出た

 

その空間に入った途端、半透明でゼリー状の何かが通路へ続く入口を一瞬で塞いだのだ

 

シア「私がやります! うりゃあ!!」

 

咄嗟に、最後尾にいたシアは、その壁を壊そうとドリュッケンを振るった、が、表面が飛び散っただけで、ゼリー状の壁自体は壊れなかった。そして、その飛沫がシアの胸元に付着する

 

シア「ひゃわ! 何ですか、これ!」

 

シアが、困惑と驚愕の混じった声を張り上げた。ハジメ達が視線を向ければ、何と、シアの胸元の衣服が溶け出している。衣服と下着に包まれた、シアの豊満な双丘がドンドンさらけ出されていく

 

「シア、動くでない!」 咄嗟に、ティオが、絶妙な火加減でゼリー状の飛沫だけを焼き尽くした。少し、皮膚にもついてしまったようでシアの胸元が赤く腫れている。どうやら、出入り口を塞いだゼリーは強力な溶解作用があるようだ

 

そんなシアの姿を見たダクネスが『スライム…溶ける…ジュルリ』と言っていたのでカズマが『再発したか…』と呆れていた

 

腫れた皮膚はアクアに治してもらった

 

めぐみん「……カズマ…あのスライムモドキ…どうやら魔力を溶かすみたいです」

 

ティオ「ふむ、やはりか。先程から妙に炎が勢いを失うと思っておったのじゃ。どうやら、炎に込められた魔力すらも溶かしているらしいの」

 

ティオの言葉が正しければ、このゼリーは魔力そのものを溶かすことも出来るらしく、中々に強力で厄介な能力を持っている

まさに、大迷宮の魔物に相応しい

 

直後

天井の僅かな亀裂から染み出すように現れたそれは、空中に留まり形を形成していく。半透明で人型、ただし手足はヒレのようで、全身に極小の赤いキラキラした斑点を持ち、頭部には触覚のようなものが二本生えている。まるで、宙を泳ぐようにヒレの手足をゆらりゆらりと動かすその姿は、全長十メートルのクリオネのような化け物だった

 

その巨大クリオネは、何の予備動作もなく全身から触手を飛び出させ、同時に頭部からシャワーのようにゼリーの飛沫を飛び散らせた

 

それぞれが攻撃をしたが、まったく答える様子を見せず再生するクリオネに業を煮やした

よく見ればその腹の中に、先程まで散発的に倒していたヒトデモドキや海蛇がおり、ジュワーと音を立てながら溶かされていた

 

シア「ハジメさん…さっきから攻撃しているのに魔石が見当たりません……どこにあるか見つけられますか?」

 

シアの言葉を受けたハジメは白眼を開眼させた

 

……結果

 

ハジメ「……ないな。あいつには、魔石がない」

 

その言葉に全員が目を丸くする

 

香織「ハ、ハジメくん? 魔石がないって……じゃあ、あれは魔物じゃないってこと?」

 

ハジメ「わからん。だが、強いて言うなら、あのゼリー状の体、その全てが魔石だ。俺の白眼には、あいつの体全てが魔力の塊に見える。あと、部屋全体も同じ色だから注意しろ。あるいは、ここは既に奴の腹の中だ!」

 

光輝「要するに…神代魔法っていう撒き餌に誘き寄せられた獲物が俺達ってことか」

 

そう話をしていたところ、今度は足元の海水を伝って魚雷のように体の一部を飛ばしてきてもいる

 

光輝「!!」

 

そこを光輝が須佐能乎を出しガードした

その背後からユエ達による本体への攻撃も激しさを増し、巨大クリオネもいよいよ本気になってきたのか、壁全体から凄まじい勢いで湧き出してきた。しかも、いつの間にか水位まで上がってきており、最初は膝辺りまでだったのが、今や腰辺りまで増水してきている。ユエに至っては、既に胸元付近まで水に浸かっていた

 

ユエ達は何度も巨大クリオネを倒しているのだが、直ぐにゼリーが集まり、終わりが見えない。 殲滅の方法が見つからない上に、戦闘力を削がれる水中に没するのは非常にまずい。なにせ、巨大クリオネには籠城が通用しないのだ。魔法で障壁を張ろうとも、潜水艇を出して中に入ろうとも、殲滅方法がなくてはいずれ溶かされてしまう

 

カズマ「……(さて、どうするか……めぐみんの爆裂魔法ならこいつを倒せるだろうが俺達があぶねえ……かと言って攻略法がわからん今、ここにいても危険だ…いったんテレポートで逃げるか?…)……仕方ねえ…ハジメ!光輝!一緒に地面を破壊して一端離脱するぞ!!地面の下に空間がある。どこに繋がってるかわからないから、一人ずつにならないよう固まって動け!!」

 

ハジメ「チッ!やむを得んな」

 

光輝「……今はそれしかないようだな」

 

ユエ「んっ」

 

シア「はいですぅ」

 

ティオ「承知じゃ」

 

香織「わかったよ!」

 

雫「うん!!」

 

アクア「わかったわ!」

 

めぐみん「了解です!!」

 

ダクネス「わかったぞ!」

 

全員の返事を受け取り、ハジメは火炎放射器を取り出し振り回して襲い来るゼリーを焼き払いながら、渦巻く亀裂に向かって錬成を行い、光輝は須佐能乎を出し地面を殴り亀裂を押し広げ、カズマは地面に風魔法を当て削りとりドンドン深く穴を開けていく

 

やがて地面に大きな亀裂が走り、大きな穴ができ、腰元まで上がってきていた海水が、いきなり勢いよく流れ始め、ユエ達も足をさらわれて穴へと流されていく

 

流される面々は一人にならないよう互いの身体にしがみつきながら、洞窟の下の空間へと落ちていった



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第三十六話 狂信の向かう先

 

雫「光輝……これって」

 

光輝「廃船……船の墓場とやらか」

 

クリオネからの逃亡の為地面に穴を開け、下の空間へと流れた光輝と雫がたどり着いたのは、大量の廃船ひしめく船の墓場とおぼしき場所だ

 

周りを見渡しても他に流れ着いた者が居なかったため、この場所には光輝と雫しか辿り着けなかったということ

 

船の墓場の中にある廃船に移動したその瞬間

突然、大勢の人間の雄叫びが聞こえたかと思うと、周囲の風景がぐにゃりと歪み始めた。驚いて足を止めた光輝達が何事かと周囲を見渡すが、そうしている間にも風景の歪みは一層激しくなり――気が付けば、光輝達は大海原の上に浮かぶ船の甲板に立っていた

そして、周囲に視線を巡らせば、そこには船の墓場などなく、何百隻という帆船が二組に分かれて相対し、その上で武器を手に雄叫びを上げる人々の姿があった

 

「全ては神の御為にぃ!」

 

「エヒト様ぁ! 万歳ぃ!」

「異教徒めぇ! 我が神の為に死ねぇ!」

 

雫「なに…これ…」

 

光輝「これは幻術か?…!」

 

光輝は、なぜいきなり戦場に紛れ込んだのか? などと疑問で頭の中を埋め尽くしながらも、自分たちにも飛んできた炎弾を迎撃すべく豪火球を撃ち放った

 

その傍らでは雫が炎弾を刀で斬ろうとした

 

しかし、全く予想外なことに炎弾を斬るどころか直撃したにも関わらず、そのまますり抜けて空の彼方へと消えていってしまった

 

雫「ええ!?」

 

光輝「!」

 

それを見た光輝は何を思ったのか刀を取り出し雫と同じように飛んできた炎弾を斬る

 

すると雫と違って斬ることができた

 

光輝「……そういうことか……魔力の篭ってない攻撃はすり抜けるが、籠もった攻撃なら効果があるとみた…」

 

それを聞いた雫も魔力の籠もった攻撃をしながら魔法弾、更には襲ってきた大勢の人々を斬って行った

 

しかし斬った人々は手応えこそあれど淡い光となって霧散してしまった

 

雫「…本物……じゃないわよね?」

 

光輝「さあな……実像のある幻術…攻撃した感触も体感もある…俺の月読に近いものだ……」

 

雫「でもこんなに攻撃してもきりがないわ……さっきから無限湧きしてる気が…」

 

光輝「……止むを得ん……全て焼き尽くすか」

 

そう言うと光輝は一度目を瞑り、もう一度開く

両眼共に万華鏡写輪眼になり呟く

 

光輝「『天照』!!」

 

その瞬間光輝の視界に映る全ての船や人々が焼き尽くされていく

 

大勢の人々が悲鳴と苦痛に満ちた声をあげており、雫はこの地獄絵図に動揺しつつも光輝の方を見た

 

雫「!!光輝!……貴方…眼から血が…」

 

光輝「…気にするな……これはこの瞳術を使ったときの副作用だ…ぐっ!」

 

しかし、光輝は流血した方の眼を抑えながら苦しむ

 

光輝「(流石に……あの量を焼き尽くすのは、魔力と眼への負担が大きいな……)」

 

雫「光輝!!」

 

光輝「……問題ない…だがこれではっきりした……この大迷宮のコンセプトが」

 

雫「コンセプト?」

 

光輝「大迷宮にはそれぞれ解放者達が用意したコンセプトがある……お前はこの世界の真実や解放者の事を佐藤から聞いたか?」

 

雫「う、うん…丁度香織と一緒に聞いてきたわ……まさか…私達をこの世界に呼んだ神様が黒幕だったなんて…」

 

光輝「……ここで俺達が目にしたものは…実際にあった、かつての戦争を幻術か何かで再現したものだろうな……………この迷宮のコンセプトはおそらく…」

 

雫「……狂った神がもたらすものの悲惨さを知れ……ってこと…よね?」

 

光輝「……恐らくな…」

 

そう話す光輝と雫は廃船の中でも特に巨大な船に乗り込む

すると、周囲の空間が歪み始める

また何か見たくもない光景を目にするのかと雫は警戒する

 

気がつくと今度は、海上に浮かぶ豪華客船の上にいた 時刻は夜で、満月が夜天に輝いている。豪華客船は光に溢れキラキラと輝き、甲板には様々な飾り付けと立食式の料理が所狭しと並んでいて、多くの人々が豪華な料理を片手に楽しげに談笑をしていた

 

予想したような凄惨な光景とは程遠く肩透かしを喰ったような気になりながら、その煌びやかな光景を、光輝と雫はおそらく船員用の一際高い場所にあるテラスから、巨大な甲板を見下ろす形で眺めていた

 

すると、ふたりの背後の扉が開いて船員が数名現れ、少し離れたところで一服しながら談笑を始めた。休憩にでも来たのだろう

その彼等の話に聞き耳を立ててみたところ、どうやら、この海上パーティーは、終戦を祝う為のものらしい。長年続いていた戦争が、敵国の殲滅や侵略という形ではなく、和平条約を結ぶという形で終わらせることが出来たのだという。船員達も嬉しそうだ。よく見れば、甲板にいるのは人間族だけでなく、魔人族や亜人族も多くいる。その誰もが、種族の区別なく談笑をしていた

 

雫「……少し前に…カズマ君の夢を聞いたわ………争いのない…いがみ合いもない平和な世界を………これはカズマ君の望む光景なのよね?…」

 

光輝「……」

 

雫「終戦のために奔走した人達の偉業ね……終戦からどれくらい経っているのか分からないけど………全てのわだかまりが消えたわけでもないのに……あれだけ笑い合えるなんて……」

 

光輝「………」

 

雫が目の前の光景を嬉しそうに話しているにも関わらず、光輝の表情はあまり良くなかった……否…光輝はその楽しそうな光景とは別の所を見ていた

 

甲板に用意されていた壇上に初老の男が立っており、周囲に手を振り始めた

それに気がついた人々が、即座におしゃべりを止めて男に注目する。彼等の目には一様に敬意のようなものが含まれていた。 初老の男の傍には側近らしき男と何故かフードをかぶった人物が控えている

時と場合を考えれば失礼に当たると思うのだが……しかし、誰もフードについては注意しないようだ。 やがて、全ての人々が静まり注目が集まると、初老の男の演説が始まった

 

「諸君、平和を願い、そのために身命を賭して戦乱を駆け抜けた勇猛なる諸君、平和の使者達よ。今日、この場所で、一同に会す事が出来たことを誠に嬉しく思う。この長きに渡る戦争を、私の代で、しかも和平を結ぶという形で終わらせる事が出来たこと、そして、この夢のような光景を目に出来たこと……私の心は震えるばかりだ」

 

そう言って始まった演説を誰もが身じろぎ一つせず聞き入る。演説は進み、和平への足がかりとなった事件や、すれ違い、疑心暗鬼、それを覆すためにした無茶の数々、そして、道半ばで散っていった友……演説が進むに連れて、皆が遠い目をしたり、懐かしんだり、目頭を抑えて涙するのを堪えたりしている。 どうやら初老の男は、人間族のとある国の王らしい

人間族の中でも、相当初期から和平のために裏で動いていたようだ。人々が敬意を示すのも頷ける

 

演説も遂に終盤のようだ。どこか熱に浮かされたように盛り上がる国王

場の雰囲気も盛り上がる。しかし、この時点で雫はそんな国王の表情を何処かで見たことがあるような気がして、途端に嫌な予感に襲われた

 

「――こうして和平条約を結び終え、一年経って思うのだ………………実に、愚かだったと」

 

国王の言葉に、一瞬、その場にいた人々が頭上に?を浮かべる。聞き間違いかと、隣にいる者同士で顔を見合わせる。その間も、国王の熱に浮かされた演説は続く

 

「そう、実に愚かだった。獣風情と杯を交わすことも、異教徒共と未来を語ることも……愚かの極みだった。わかるかね、諸君。そう、君達のことだ」

 

「い、一体、何を言っているのだ! アレイストよ! 一体、どうしたと言うッがはっ!?」

 

国王アレイストの豹変に、一人の魔人族が動揺したような声音で前に進み出た。そして、アレイスト王に問い詰めようとして……結果、胸から剣を生やすことになった。

 

刺された魔人族の男は、肩越しに振り返り、そこにいた人間族を見て驚愕に表情を歪めた

その表情を見れば、彼等が浅はかならぬ関係であることが分かる。本当に、信じられないと言った表情で魔人族の男は崩れ落ちた

場が騒然とする「陛下ぁ!」と悲鳴が上がり、倒れた魔人族の男に数人の男女が駆け寄った

 

「さて、諸君、最初に言った通り、私は、諸君が一同に会してくれ本当に嬉しい。我が神から見放された悪しき種族ごときが国を作り、我ら人間と対等のつもりでいるという耐え難い状況も、創世神にして唯一神たる〝エヒト様〟に背を向け、下らぬ異教の神を崇める愚か者共を放置せねばならん苦痛も、今日この日に終わる! 全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ! それ故に、各国の重鎮を一度に片付けられる今日この日が、私は、堪らなく嬉しいのだよ! さぁ、神の忠実な下僕達よ! 獣共と異教徒共に裁きの鉄槌を下せぇ! ああ、エヒト様! 見ておられますかぁ!!!」

 

そこから先の光景は、一方的な虐殺だった

パーティー会場である甲板を完全に包囲する形で船員に扮した兵士達が現れ、一斉に魔法が撃ち込まれ抵抗虚しく次々と倒れていった

何とか、船内に逃げ込んだ者達もいるようだが、ほとんどの者達が息絶え、甲板は一瞬で血の海に様変わりした。ほんの数分前までの煌びやかさが嘘のようだ。海に飛び込んだ者もいるようだが、そこにも小舟に乗った船員が無数に控えており、やはり直ぐに殺されて海が鮮血に染まっていく

 

その光景に雫は思わず吐きかけたがどうにかこらえた

 

光輝はというと

 

光輝「……」

 

いつの間にか両眼ともに写輪眼を開眼させていた

この胸糞の悪い惨劇に光輝も内心では言いようのない苛立ちが立っていた

 

そして気がつくとまわりは元の光景へと変わっていた

 

雫「ねえ…光輝……もしかして光輝があの楽しそうな雰囲気を見ても表情が険しかったのは…」

 

光輝「……あの王の眼……あのタヌキ教皇と同じような眼をしていた……相当な狂信者の眼だった……あの眼を見た時点でこのあと何が起こるのか予想ができた」

 

雫「……そうね…、たしかにあの眼はイシュタルさんと同じような眼をしていたわね……」

 

光輝「おそらく…あの光景は、見せることそのものが目的だったのだろうな……神の凄惨さを記憶に焼き付けて、その上でこの船を探索させる……この世界の連中は信仰心を持っている者だらけだから余計に効くな」

 

雫「……そう考えたら……中々キツイ試練ね……でもさっきの光景……終戦したのに、あの王様が裏切ったっていうことなのかしら?…」

 

光輝「そうも考えられる……が、まわりからは敬意と親愛の篭った眼差しを向けられていた……こうは考えられないか?あの王は本当に他種族との和解を求めていた……しかし」

 

雫「……終戦して一年の間に何かがあって豹変した……と考えるのが妥当かも……問題は何があったのかということだけど」

 

光輝「考えるまでもない……十中八九神関連だろうな…」

 

雫「うん、イシュタルさんみたいだった……見ていて気持ち悪かったし怖かった…」

 

光輝「『全てを滅ぼす以外に平和などありえんのだ』…か……なら、佐藤の平和の為の方法は最も難しいものと言えるな」

 

雫「うん……でも、それが最も望ましい方法だと思うわ」

 

その後船内を進むふたり

途中まるでホラー映画とかに出てきそうな幽霊モドキや貞子モドキが襲ってきて、雫は怯えていたが

 

光輝「『天照』!」

 

光輝はそれを容赦なく燃やし尽くした

お陰で怖さが薄れた雫だったが

 

雫「……(問答無用で容赦なく燃やせる光輝の方が怖い)」

 

と内心思ったのだった

 

そうして進んでいると今度は武装した兵士の幽霊モドキがふたりを遅い、それぞれ分断された

 

光輝は向かってきた兵士の幽霊モドキを全て始末した後、雫の方を向く

 

雫は汗を流しながらも兵士を全て倒したあとだった

 

雫「も、もうやだ…お家帰りたい…」

 

雫がそんな弱気な事を言いながら光輝の方へと近づき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ

 

光輝に刀を突き刺した

 

光輝「!!」

 

それに驚く光輝だったが、刺された箇所が急所であった為、そのまま倒れた

 

雫?「はは…ははは…はははははは!!ついに!ついに身体を手に入れたわ!!……!?」

 

雫の声で雫とは思えない振る舞いをする雫?が笑いながら地面に倒れている光輝を見た

 

が、地面に倒れている者の姿を見て驚く

地面に倒れていたのは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己自身だったのだから

 

その瞬間、周りの景色が変わり、雫?は光輝の須佐能乎によって拘束されていた

 

光輝「……精神的に疲弊していた雫の心の隙間を狙うとは……随分と姑息だな」

 

雫?「な、なにをするの!?…まさか、このまま私を殺るつもりなの!?アンタこの女の身体がどうなってもいいの!?アンタの女なんだろ!?いいっていうの!?」

 

光輝「……『月読』」

 

光輝がそうつぶやくと周りの景色が再び変わり、雫の肉体を乗っ取っている者は全身を鎖で縛られていた

 

光輝「貴様に言っておくことがある……こいつは俺の女じゃない……別に俺はこいつに好意を抱いているわけじゃない……だがな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴様ごときが好きにしていい女じゃない!!」

 

その言葉とともに雫の肉体を乗っ取っている者が黒炎に包まれた

 

苦しみの声を上げながら、そのまま消失したのだった





今回ふたりが居る場所は原作でハジメと香織が通るはずだった場所です。

ふたりは別のルートを通ってますがやり取り自体は原作通りです。


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第三十七話 クリオネの最後

 

雫「ごめんなさい…光輝」

 

光輝「……謝るな……」

 

雫を乗っ取っている者を排除した光輝は、そのまま雫を背負って先を進んでいた

 

しばらくして目を覚ました雫は驚き、自分で歩こうとしたが、身体が想像以上に疲弊しており、まともに立つこともできないでいた

 

これはここまでの精神的疲労と乗っ取っている間に光輝の月読を受けた上に乗っ取っている者への制裁による体感がわずかばかりだが雫にも影響が出ており、それが身体にきていた

 

雫が今の状態になったのは自身にも責任はあると思っている光輝はそのまま雫を背負った

 

雫「……ねえ光輝……人って…あんなにも怖い生き物なのね…」

 

光輝「……」

 

雫「昔…私をいじめていたあの娘達だってそう……皆最初はなんの悪意も知らない赤ちゃんから始まったのに……成長したら…あんなにも豹変してしまう……あの人達だってそう……狂信に走ってしまった結果……かつての面影も、優しさも感じられないくらいに…人の悪意に染まりきっちゃう………何かが違えば……私もあんなふうになっていたかも知れない……」

 

雫は、さっきまで自身の見ていた光景…そしてかつて自身をいじめていた者達を思い出し、少し怯えていた

 

光輝「……いや……多分……お前はああなってなかっただろうな……」

 

雫「え?」

 

光輝「お前は人の悪意や狂気を恐れている……言ってしまえば臆病だ……だが言い方を替えれば自分もそうなるのを恐れている……そういうやつは自分が他人を傷つけたりする事を嫌う……痛みを負う者の気持ちを理解している証拠だ………お前は昔っから、他人に傷つけられたとしてもやり返したりしなかった……それは…そうすることで他人が傷つくのが嫌だったからだろ?」

 

雫「!そ、それは…」

 

光輝「俺はやられっぱなしが嫌いだからお前みたいには出来ない………だが…お前は他人の悪意を受けたとしても……決して染まることがなかった………だからこそ……ああいう輩は…そのお前の優しさを付け込んでいじめた……本人達は無意識だろうが…自身と同じ存在をああやって増やしていこうとしてる」

 

雫「……」

 

光輝「……昔…俺の無くなった祖父が最後に俺に残した言葉にこんなものがある……『この世は決して綺麗事ばかりではない……生きていれば否が応でもどうしても汚いものも見てしまう………正義は決して一つだけじゃない…正義はあっても正解というものはない……人の数だけ考えも夢も価値観も無限に存在する………決して自分の考えこそが正しいと思うな』……あの言葉を聞いて以来……その事をずっと考えていた……今でも答えは見つからない……それと…それ以来……俺の目には、周りの人間の多くが汚く醜く見えるようになった………」

 

雫「……光輝…」

 

光輝「雫……お前はそんな風にはなるなよ……俺の嫌いな人間にはな…」

 

そこから先は無言で雫をおぶって進むのだった

やがてふたりは魔法陣の前までたどり着き

躊躇いなく魔法陣へと足を踏み入れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

魔法陣を抜けると既に他の面々も揃っていた

神殿のような空間に彼らは集っていた

 

他の面々にも聞くとどうやら彼らもこの世界で起きた悲劇や裏切り、口にするのも惨たらしい光景を見せられたようだった

 

また、劣等感を感じ落ち込んでいたはずの香織はハジメと共に進み、その先で色々あり、今は元気を取り戻し、自信を持つようになっていた

 

そして皆が神殿中央の魔法陣に入り、皆の脳内に新たな神代魔法が刻み込まれていった

 

ハジメ「ここでこの魔法か……大陸の端と端じゃねぇか。解放者め」

 

ユエ「……見つけた『再生の力』」

 

ハジメが悪態をつく

それは、手に入れた【メルジーネ海底遺跡】の神代魔法が『再生魔法』だったからだ

思い出すのは、【ハルツィナ樹海】の大樹の下にあった石版の文言。先に進むには確かに〝再生の力〟が必要だと書かれていた。つまり、東の果てにある大迷宮を攻略するには、西の果てにまで行かなければならなかったということであり、最初に【ハルツィナ樹海】に訪れた者にとっては途轍もなく面倒である。ハジメ達は、魔力駆動車という高速の移動手段を持っているからまだマシだったが

 

カズマ「ふ〜ん…これが神代魔法か…」

 

めぐみん「……私はあまり使えなさそうですね」

 

ダクネス「私もだ…そもそも前世でも魔法は使えなかったからな…」

 

アクア「私は使えそうね」

 

カズマ達が手に入れた神代魔法にそれぞれが感想を述べると魔法陣の輝きが薄くなっていくと同時に、床から直方体がせり出てきた。小さめの祭壇のようだ

 

その祭壇は淡く輝いたかと思うと、次の瞬間には光が形をとり人型となった。どうやら、オスカー・オルクスと同じくメッセージを残したらしい。 人型は次第に輪郭をはっきりとさせ、一人の女性となった。祭壇に腰掛ける彼女は、白いゆったりとしたワンピースのようなものを着ており、エメラルドグリーンの長い髪と扇状の耳を持っていた。どうやら解放者の一人メイル・メルジーネは海人族と関係のある女性だったようだ

彼女は、オスカーと同じく、自己紹介したのち解放者の真実を語った。おっとりした女性のようで、憂いを帯びつつも柔らかな雰囲気を纏っている

やがて、オスカーの告げたのと同じ語りを終えると、最後に言葉を紡いだ

 

メイル「……どうか、神に縋らないで。頼らないで。与えられる事に慣れないで。掴み取る為に足掻いて。己の意志で決めて、己の足で前へ進んで。どんな難題でも、答えは常に貴方の中にある。貴方の中にしかない。神が魅せる甘い答えに惑わされないで。自由な意志のもとにこそ、幸福はある。貴方に、幸福の雨が降り注ぐことを祈っています」

 

そう締め括り、メイル・メルジーネは再び淡い光となって霧散した。直後、彼女が座っていた場所に小さな魔法陣が浮き出て輝き、その光が収まると、そこにはメルジーネの紋章が掘られたコインが置かれていた

 

「証の数も四つですね、ハジメさん。これで、きっと樹海の迷宮にも挑戦できます。父様達どうしてるでしょう~」

 

シアが、懐かしそうに故郷と家族に思いを馳せた。しかし、脳裏に浮かんだのは「ヒャッハー!」する父親達だったので、頭を振ってその光景を霧散させる

 

ハジメは、証のコインを〝宝物庫〟にしまうと、シアと同じように「ヒャッハー!」するハウリア族を思い出し、頭を振ってその光景を追い出した

 

と、証をしまった途端、神殿が鳴動を始めた。そして、周囲の海水がいきなり水位を上げ始めた。

 

ハジメ「うおっ!? チッ、強制排出ってかっ。全員、掴み合え!」

 

ユエ「……んっ」

 

香織「わわっ、乱暴すぎるよ!」

 

シア「ライセン大迷宮みたいなのは、もういやですよぉ~」

 

ティオ「水責めとは……やりおるのぉ」

 

光輝「離れるな雫!!」

 

雫「!え、ええ!!」

 

カズマ「アクア!手はず通りに頼むぞ!」

 

アクア「ええ!!任せて!」

 

めぐみん「こっちもしっかりとやることこなします!!」

 

ダクネス「気をつけろアクア!」

 

凄まじい勢いで増加する海水に、ハジメ達は潜水艇を出して乗り込む暇もなく、あっという間に水没していく。咄嗟に、また別々に流されては敵わないと、全員がしっかりお互いの服を掴み合い、〝宝物庫〟から酸素ボンベ取り出して口に装着した

 

しかし、水中でも問題なく動けるアクアはカズマの手を掴み、そのカズマは片手でめぐみん、ダクネス、ティオ、シア、ユエ、光輝、雫、香織、そしてハジメといった具合に空いた片手で他の者の手を握り

 

アクアはそのまま水中を突き進む

 

水中で無類の強さを誇るアクアの手にかかれば、一人で10人を引っ張ることも楽勝であり、水中を進み続けた

 

そこへ会いたくない者と遭遇した

ハジメが向けた視線の先には、一見妖精のような造形でありながら、全てを溶かし、無限に再生し続ける凶悪で最悪の生物――巨大クリオネがいた

 

クリオネが攻撃をしようとした瞬間

 

アクアがクリオネに手を向け呟く

 

アクア「『水牢』!」

 

その瞬間、クリオネの周りの海水が渦状に回転したかと思うと、クリオネを閉じ込めた

 

ハジメ「!(あのクリオネ……アクアの水魔法を溶かせてないだと!?)」

 

ハジメはそれに驚きつつも、急いで潜水艇を宝物庫から取り出し、急いでハッチから乗り込む

 

船内にはアクアを除いた面々が揃う

 

カズマ「…やっぱ来たかクリオネ…念の為討伐法を考えといて正解だったよ」

 

ハジメ「どういうことだ…?なぜあのクリオネはアクアの水魔法を溶かせてない?」

 

カズマ「なに、簡単なことだ…あのクリオネはあくまで魔力や魔力で生み出した物を溶かす(・・・・・・・・・・・・・・・・)のであって魔法で操る物を溶かせないだけだ(・・・・・・・・・・・・・・・)。あの魔法は生成した水か、その場にある水を操って閉じ込める魔法だ……さて、後は」

 

カズマは外にいるアクアに目を合わせると、アクアは頷き、水の牢をそのまま海上へと移動させた

 

カズマ「ハジメ、あのクリオネは確実に仕留めるぞ…このまま海上にあげてくれ」

 

ハジメ「あ、ああ…」

 

カズマの指示を受け、ハジメは潜水艦を操縦し海上へと上がった

 

そしてアクアの水牢はと言うと

 

シア「うわぁ…空に打ち上げてますね…」

 

カズマ「ま、このくらい距離あったほうがいいか…んじゃめぐみん。久しぶりに見せてくれよ……お前の魔法をよ」

 

カズマがそういうと言うとめぐみんはウキウキした様子で甲板へと出て

 

めぐみん「それではハジメ達……今から私がお見せするのは……私が前世で唯一使えた魔法にして……最強の魔法です……とくとご覧ください」

 

そういうとめぐみんは杖に魔力を込め始めた

すると杖から巨大な魔法陣が出現した

 

ハジメ「!!」

 

光輝「!!」

 

ユエ「!!」

 

ティオ「!!」

 

その込められた魔力量とその威圧感に、魔力に敏感な面々の表情は変わった

 

ハジメ「(なんだこのバカみたいにデカい魔力の集束は…)」

 

光輝「(恐ろしく強く、恐ろしくデカい魔力だ…)」

 

ユエ「(凄い……こんな魔法初めて…)」

 

ティオ「(な、なんじゃこれは……大き過ぎる…)」

 

香織「し、雫ちゃん…な、なんだか潜水艦が揺れてない?」

 

雫「そ、そうね……何かの前兆みたい…」

 

ダクネス「みんな…良く見ておいてほしい……これが、かつて私達の世界で強敵や大物達を仕留め、めぐみんを最強のアークウィザードにまで上り詰めさせた。最強にして究極の極地」

 

カズマ「そして味わいな……あいつの、めぐみんの最強魔法

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

爆裂魔法をな」

 

めぐみん「『エクスプロージョン』!!」

 

そしてめぐみんの杖に現れた魔法陣から、とてつもない光とともに分厚い光線が放たれ、水牢に閉じ込められたクリオネを飲み込んだ

 

その威力は凄まじく、余波で津波が発生するだけではなく、爆裂魔法の放たれた先の空の雲が晴れてしまうほどだった

 

やがて魔法が終わり、クリオネのいた方を見ると、クリオネは影も形もなく、消滅していた

 

カズマ「ふう……やっぱすげぇなめぐみんの爆裂魔法は……」

 

めぐみん「ふ、ふふふ…私も……久々に撃てて…気分がいいですぅ…」

 

ハジメ「は…ははは……マジかよ……クリオネ消失しちまったよ…」

 

光輝「クリオネですら溶かすことのできないほど……高威力かつ高濃度の魔法攻撃か……俺の須佐能乎で防ぎきれる威力じゃないな…」

 

アクア「久しぶりに見るとやっぱりめぐみんの爆裂魔法は凄いわね……」

 

ダクネス「それはそうとめぐみん…お前あれは全力じゃないな?」

 

ハジメ達一同「「「「「!?」」」」」

 

めぐみん「はい……全力で撃ったら次元の空間を粉々にしたり余波で私達のいる場所もまきこまれるので加減しました」

 

ユエ「!!…これで加減…って…」

 

シア「す、凄すぎません!?」

 

ティオ「な、なるほどのう……これが…伝説のパーティーの魔法使いの実力なんじゃな…」

 

香織「雫ちゃん…私怖いわ…」

 

雫「香織…私も怖いわ」

 

とにかくこうしてクリオネを倒した一同は、ミュウ達のいるエリセンへと帰還した



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第三十八話 エリセンでの日々

 

エリセンに戻った一行は、出発するまでの数日間を皆バカンス気分で過ごしていた

 

海の方ではユエとシア、香織、ティオ、アクア、そしてミュウが彼女達と水中鬼ごっこをして戯れる

 

ミュウは海人族の特性を十全に発揮してアクアを除くチートの権化達を翻弄するが、鬼役がアクアになると一転した

 

本来泳ぐことにかけてはこの世界の種族の頂点に立つはずの海人族ですら追いつかれ追いつけないほどの速度で泳ぐアクアに最終的にアクア一人に鬼をさせ、一人で全員を捕まえる役をやらせた

 

浜辺ではめぐみんとダクネス、雫…そして雫に頼まれ渋々光輝までスイカ(に似た果物)割りをしており

 

その傍らではカズマとハジメはとある開発作業を進めていた

 

それは過去、ハジメがオルクスやライセン大迷宮を攻略した際に得た、神代魔法の存在していた頃…解放者たちの時代に彼らが考案した術のことが記述されたいわゆる開発書だった

 

カズマ「……魔力で実像を生みだす術ね……それとこれは契約したものを召喚する物……発想自体はされていても実現まではされてないものばっかだな…」

 

カズマは記述された術の解読作業を…

 

そしてハジメはというと…

 

ハジメ「……」

 

片手に魔力を集中させ…掌で魔力を螺旋回転させながら球状に圧縮……まるで小さな台風のようになったそれを

足元の砂に向けて押し付けた

 

すると足元の砂がえぐられたかのような穴ができていた

 

ハジメ「はぁ…はぁ…」

 

カズマ「お…初めてのオリジナル魔法の開発にしては悪くないな…」

 

ハジメはオリジナルの攻撃魔法を編み出していた

以前からハジメは光輝の千鳥を見て思っていた

 

自分もオリジナル魔法を編み出したいと

 

そう考えていたところ…かつてカズマと戦ったときの魔法をヒントに自分で考案し、開発していた

 

ハジメ「…お前の……あの風魔法を参考に、俺も考えてみたが…どうだ?」

 

カズマ「『エアーバレット』な?……あの魔法は魔力で生み出した風を圧縮して衝撃波を放つやつだ……込めた魔力が大きければ大きいほど威力と範囲は拡大する……けどお前のは自身の魔力を螺旋状に高速回転し球体にした物……当たった箇所をえぐるように破壊する……これだけでもかなりの威力がある……後はそれにお前の得意魔法を付与させれば威力も今以上に上がるな……」

 

ハジメ「……そうか……なら」

 

そう言うとハジメはまたワザの開発をしようとしたが

 

香織「ハジメ君、カズマ君…そろそろ遊ぼう?攻略での疲れを癒やす為の期間なのに休めてないよ?」

 

ハジメ「そうは言ってもなあ……俺あんまアウトドアな遊びは好きじゃないからなあ……どっちかと言えばゲームしたり本読んだりして過ごしたい所だな」

 

香織「もう!せっかくの海なのに遊ばないなんてもったいないよ!見てよ、あの光輝君でさえ遊んでるっていうのに!あの光輝君が!!」

 

光輝「おい!聞こえてるぞ!!」

 

カズマ「まあハジメ…ここは香織の言う通り遊んでこいよ……俺もそろそろ一区切りしようと思うから……ついでに香織の水着姿の感想を述べよ」

 

ハジメ「!!」

 

そういうカズマに反応するように香織は恥ずかしそうにしながらも白のビキニから覗く胸の谷間にハジメの腕をムニュと押し付けた

 

ハジメ「『恥じらい+ボディタッチのアプローチ』!?」

 

それに戸惑いを感じながらも水着の感想を言う

 

ハジメ「そ、その…に、似合ってる…と思うが……ボディタッチしてくる必要はねえだろ」

 

そこへ同じく水着を着たレミアも近づいてきた

 

ハジメをパパと呼ぶミュウに便乗する形で貴方と呼ばれることに戸惑いを感じていたハジメは内心苦手意識を持っていた

 

またなにか要らんことを言われるのかと警戒したが

 

レミア「有難うございます。ハジメさん」

 

ハジメ「いきなり何だ? 礼を言われるようなことは……」

 

いきなりお礼を述べたレミアにハジメが訝しそうな表情をする

 

レミア「うふふ、娘のためにこんなにも悩んで下さるのですもの……母親としてはお礼の一つも言いたくなります」

 

ミュウと出会い、パパと呼ばれるくらいに懐かれたハジメはすっかり、ミュウを本当の娘のように思い始め、この先の旅に連れて行くのは危険と思いつつも、少し歯痒い気持ちを抱いていた

 

そして別れを告げるのも…

 

ハジメ「それは……バレバレか。一応、隠していたつもりなんだが」

 

レミア「あらあら、知らない人はいませんよ? ユエさん達もそれぞれ考えて下さっているようですし……ミュウは本当に素敵な人達と出会えましたね」

 

レミアは肩越しに振り返って、ミュウのいたずらで水着を剥ぎ取られたシアが、手ブラをしながら必死にミュウを追いかけている姿をみつつ、笑みをこぼす。そして、再度、ハジメに視線を転じると、今度は少し真面目な表情で口を開いた

 

レミア「ハジメさん。もう十分です。皆さんは、十分過ぎるほどして下さいました。ですから、どうか悩まずに、すべき事のためにお進み下さい」

 

ハジメ「レミア……」

 

レミア「皆さんと出会って、あの子は大きく成長しました。甘えてばかりだったのに、自分より他の誰かを気遣えるようになった……あの子も分かっています。ハジメさん達が行かなければならないことを……まだまだ幼いですからついつい甘えてしまいますけれど……それでも、一度も〝行かないで〟とは口にしていないでしょう? あの子も、これ以上、ハジメさん達を引き止めていてはいけないと分かっているのです。だから……」

 

ハジメ「……そうか。……幼子に気遣われてちゃあ、世話ないな……わかった。今晩、はっきり告げることにするよ。あと数日後には出発するって」

 

レミア「では、出発の前日はご馳走にしましょう。皆さんのお別れ会ですからね」

 

ハジメ「そうだな……期待してるよ」

 

レミア「うふふ、はい、期待していて下さいね、あ・な・た♡」

 

ハジメ「いや、その呼び方は……」

 

そんな二人の姿を面白くなさそうに見る香織とユエ、胸を隠すシアに…それを面白そうに見ているカズマ

 

カズマ「まあでもよ、俺テレポート使えるから会おうと思えばいつでもすぐに会えるからな?」

 

ハジメ「……ほんとお前が居て助かるな」

 

カズマ「レミアさん。そういうわけだから…もしかしたら度々ここへ来ることがあると思うんだが…その時は」

 

レミア「ふふ、はい。いつでも貴方方の来訪をお待ちしています。あの子にパパとおじいちゃんと呼ばれてたのには驚きましたが…あの子がそこまで言うほどおふたりに心を許している姿に…成長を感じました……でもカズマさんはまだお若いのにそう呼ばれるのは複雑じゃありません?」

 

カズマ「……こう見えて俺の実年齢はアンタの倍だからな?」

 

レミア「え?」

 

ハジメ「レミア、こいつの言っていることは戯言でも無ければ虚言でもなく本当のことだからな?」

 

レミア「え、ええ……その…ちなみにですが………カズマさんはおいくつなのでしょうか……」

 

カズマ「ああ、俺の歳は」

 

そこでカズマの実年齢を聞いたレミアは驚きのあまり口に手を当てた

 

そして小声で若作り?と漏らした

 

それに苦笑するカズマ

 

そこへ背後からはシアが、その自慢の双丘をハジメの背中に押し付けながらもたれかかった。未だ、ミュウに水着を取られたままなので、体を隠す意図もあるようだ。ただ、ハジメとしては、極上の柔らかさの他に、当たっている二つの特徴的な感触が非常に困るところだ

 

この空気を変える目的と先程の香織のアプローチに触発された事へのボディタッチ

 

そしてユエも四つん這いになりながら迫る

 

そんな、美女・美少女に囲まれたハジメのもとへ、ミュウが海中から浮かび上がってきた

 

レミアとハジメの間に割り込むように現れたミュウは、そのまま正面からハジメに飛びつく。咄嗟に抱きとめたハジメに、ミュウは「戦利品とったどー!」とばかりにシアの水着を掲げ、それをパサッとハジメの頭に乗せた

 

どうやら、娘からの贈り物らしい

 

シア「ミ、ミュウちゃん!? なぜ、こんな事を……はっ!? まさか……ハジメさんに頼まれて? も、もうっ! ハジメさんたら、私の水着が気になるなら、そう言ってくれれば……いくらでも……」

 

ユエ「……ハジメ、私のもあげる」

 

香織「わ、私だって! ハジメくんが欲しいなら……あ、でもここで脱ぐのは恥ずかしいから……あとで部屋で、ね?」

 

レミア「あらあら、じゃあ、私も……上と下どちらがいいですか? それとも両方?」

 

頭に女物の水着を乗せ、四方から女に水着を献上される男、南雲ハジメ。 ポタポタとシアの水着から滴る水が、頬を引きつらせるハジメの表情と相まって何ともシュールだった

 

そんなハジメの姿を面白そうに見るカズマ

 

香織「あ///か、カズマ君も居たんだった!!」

 

シア「ひ、ひゃあぁぁぁ///は、恥ずかしいですぅ///」

 

ユエ「…カズマの変態」

 

カズマ「失礼な奴らだな…俺が見ていたのはお前らじゃなくてお前らに水着献上されて引きつってるハジメにだ……生憎お前ら以上の女を知ってるからそれ以下のお前ら如きの裸なんぞ眼中に無いわ……お前らが美少女美女なのは認めるが、この世の男ども全てがお前らに釘付けになると思ったら大間違いだ。自惚れるな小娘共が!!」

 

レミアとミュウを除く女性陣「「「!!」」」

 

その発言にカチンと着たレミアとミュウを除く女性陣が反抗意識を持ち、そんなに言うなら試してみようではないかと思ったのか、それぞれ手ブラにしていた部分をさらけ出した

 

これには3人とも羞恥心を抱く

 

それに驚くハジメ

 

そして当のカズマはと言うと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「………フッ」

 

カズマから(眼中にないと言ったのにわざわざ醜態をさらすとは随分と自分に自信があったようだな小娘共が)とでも言いたげに鼻で笑われた

 

ユエ/シア/香織「「「がぁぉぁぉぁぁぁぁ!!!」」」

 

これには全員が前を隠すことを忘れそのまま怒りの感情のままカズマに襲いかかったが、

 

カズマ「よっと」

 

カズマは海に飛び込み、ちょうどそばでものすごい速さで泳いでいたアクアの手を握り

 

カズマ「また会おう小娘共!!色気云々に関してもう百年ほど出直してこい!」

 

そのまま沖の方まで逃げて行った

 

そしてユエ達の心に言いようのない敗北感が植え付けられたのは言うまでもなかった

 

そんな彼女達を慰めるハジメとティオの姿があった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ちなみに、少し離れたところでハジメ達のやり取りを見ていた面々はというと…

 

雫「……何やってるのあの娘…」

 

光輝「雫…お前の親友だろ……ちゃんと常識云々教えておけ」

 

雫「し、知らなかったわよ!!香織があんなにも大胆なことするなんて!!少なくとも恋する前のあの娘はもっと常識的だったしあんな破天荒じみた事なんてやったことなかったわ!!」

 

光輝「……恋は人を変えるとは……よく言ったものだ…」

 

雫「……そうね……」

 

めぐみん「まったく……遊びすぎですねカズマは……ふふ///」

 

ダクネス「ああ…いくらあいつが人生経験豊富で慣れてるからと言って、あれはやりすぎだ……ふふふ///」

 

光輝「……(こいつら佐藤に香織達以上の女と呼ばれて機嫌良いな)」

 

余談だがその日を境に何処からともなく「白髪眼帯の少年に気をつけろ。やつの好物は脱ぎたての水着。頭から被る事に至上の喜びを見出す変態だ」という噂が流れ、これに頭を抱える白髪眼帯とそれを指をさして笑う男の姿があった

 

 



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第三十九話 異端者

 

???「香織!雫!!カズマさん!アクアさん!!」

 

香織「リリィ! やっぱり、リリィなのね? 見覚えが有ると思ったの。まさか、こんなところにいるとは思わなかったから」

 

雫「嘘!?」

 

カズマ「リリィ……王女のお前が護衛もつけずに一人で来るってことは……なんかあったな?」

 

アクア「どうしたの?一体何があったの?」

 

ミュウに別れを告げ、また会いに来ると伝え、エリセンを立つ一行はホルアド付近までテレポートで移動した

 

そこでローブを着た少女が話し掛けた

 

ユエやシアにティオと言った面々は誰なのか知らなかったが、地球組や貴族の娘だったダクネスとめぐみんはそれが誰なのか分かった

 

リリィと呼ばれる彼女は『リリアーナ・S・B・ハイリヒ』

ハイリヒ王国の王女であり、王国内でも数少ない、地球組を戦争の道具として見ず、自分達の勝手な都合で呼び出してしまった面々に罪悪感を感じるなどの人格者であり…かなり気さくで香織達からはリリィと愛称で呼ばれていた

 

そして王族であるための苦悩や重圧によるストレスや悩みの相談をしたりするカズマとアクアを内心ではまるで兄や姉のように思っている

 

そんな彼女がなぜ身を隠していたのか

 

ことの発端は少し前

 

王宮内での様子がおかしくなったとリリアーナは感じていた

父親であるエリヒド国王は、今まで以上に聖教教会に傾倒し、時折、熱に浮かされたように〝エヒト様〟を崇め、それに感化されたのか宰相や他の重鎮達も巻き込まれるように信仰心を強めていった

それだけなら、各地で暗躍している魔人族のことが相次いで報告されている事から、聖教教会との連携を強化する上での副作用のようなものだと、リリアーナは、半ば自分に言い聞かせていたのだが…… 違和感はそれだけにとどまらなかった。妙に覇気がない、もっと言えば生気のない騎士や兵士達が増えていったのだ。顔なじみの騎士に具合でも悪いのかと尋ねても、受け答えはきちんとするものの、どこか機械的というか、以前のような快活さが感じられず、まるで病気でも患っているかのようだった。 そのことを、騎士の中でもっとも信頼を寄せるメルドに相談しようにも、少し前から姿が見えず、時折、勇輝達の訓練に顔を見せては忙しそうにして直ぐに何処かへ行ってしまう

 

結局、リリアーナは一度もメルドを捕まえることが出来なかった。 そうこうしている内に、ウルに居た愛子と愛ちゃん護衛隊(ウィルも護衛のメンバーとしてついてきた)達が王国へ帰還

 

帰還後ウルの町での詳細が報告され、その席にはリリアーナも同席したらしい。そして、普段からは考えられない強行採決がなされた。それが、ハジメ達の異端者認定だ。ウルの町や勇者一行を救った功績も、〝豊穣の女神〟として大変な知名度と人気を誇る愛子の異議・意見も、全てを無視して決定されてしまった

 

自分達が異端者認定されたことにハジメ達はあまり驚きはしなかった

元々いつかはそうなると思っていたのでむしろやっとかと感じていた

 

その有り得ない決議に、当然リリアーナは父であるエリヒドに猛抗議をしたが、何を言ってもハジメ達を神敵とする考えを変える気はないようだった。まるで、強迫観念に囚われているかのように頑なだった

むしろ、抗議するリリアーナに対して、信仰心が足りない等と言い始め、次第に、娘ではなく敵を見るような目で見始めたのだ。 恐ろしくなったリリアーナは、咄嗟に理解した振りをして逃げ出した

 

そして、王宮の異変について相談するべく、悄然と出て行った愛子を追いかけ自らの懸念を伝えた。すると愛子から、ハジメと光輝が奈落の底で知った神の事や旅の目的を夕食時に生徒達に話すので、リリアーナも同席して欲しいと頼まれたのだそうだ

愛子の部屋を辞したリリアーナは、夕刻になり愛子達が食事をとる部屋に向かい、その途中、廊下の曲がり角の向こうから愛子と何者かが言い争うのを耳にした。何事かと壁から覗き見れば、愛子が銀髪の教会修道服を着た女に気絶させられ担がれているところだった

リリアーナは、その銀髪の女に底知れぬ恐怖を感じ、咄嗟にすぐ近くの客室に入り込むと、王族のみが知る隠し通路に入り込み息を潜めた。 銀髪の女が探しに来たが、結局、隠し通路自体に気配隠蔽のアーティファクトが使用されていたこともあり気がつかなかったようで、リリアーナを見つけることなく去っていった。リリアーナは、銀髪の女が異変の黒幕か、少なくとも黒幕と繋がっていると考え、そのことを誰かに伝えなければと立ち上がった

 

ただ、愛子を待ち伏せていた事からすれば、生徒達は見張られていると考えるのが妥当であるし、頼りのメルドは行方知れずだ

 

そこで思いついたのが、今王国にいない頼りになる友人である香織や雫、更には話をするとまるで兄や姉のような安心感と優しさを感じさせるカズマとアクアを頼ろうと王宮を出て探し出した

 

そして偶然ホルアドにたどり着いたタイミングで彼らと再会を果たしたのだった

 

リリアーナ「私は……今は……教会が怖い……一体、何が起きているのでしょう。……あの銀髪の修道女は……お父様達は……」

 

自分の体を抱きしめて恐怖に震えるリリアーナは、才媛と言われる王女というより、ただの女の子にしか見えなかった。だが、無理もないことだ。自分の親しい人達が、知らぬうちに変貌し、奪われていくのだから

 

そんなリリアーナにカズマとアクアがそばに駆け寄り、アクアは優しく抱きしめ、カズマが頭を撫でながら言い聞かせた

 

カズマ「大丈夫……後は俺達に任せな………リリィはゆっくり…おやすみ…」

 

その言葉を聞き終えるとリリアーナは少しずつウトウト下かと思うと、やがて眠りについた

 

カズマ「……よっぽど怖かったみたいだな……それも、恐怖心で眠らず奔走するくらいに」

 

リリアーナの寝顔を見ながらカズマはそう呟く

 

光輝「……まるで神に魅入られた奴らの末期状態だな……今王宮は非常に危うい状況だと言える」

 

カズマ「……ああ…愛子先生が攫われた理由は十中八九、神の真実と俺達の旅の目的を話そうとした事が原因だろうな…おそらく、駒としての天之河兄達に不審の楔を打ち込まれる事を不都合だと思ったからだろうな……」

 

ハジメ「……これは…早急に王国へ行く必要があるな……ま、『神山』に行く予定があったから寄り道みたいなものだけどな」

 

そもそも彼らがホルアドによったのは【神山】も七大迷宮の一つだからである

しかしそこは聖教教会の総本山でもあり、【神山】の何処に大迷宮の入口があるのかわからない

探索するにしても、教会関係者の存在が酷く邪魔で厄介だった

だが今回の王宮で起きている状況を聞き、カズマ達は予定変更を決めた

 

そしてカズマはそれぞれ役割分担を言い渡した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

薄暗く明かり一つ無い部屋の中に、格子の嵌った小さな窓から月明かりだけが差し込んで黒と白のコントラストを作り出していた。 部屋ののベッドの上で壁際に寄りながら三角座りをし、自らの膝に顔を埋めているのは畑山愛子その人だ

この部屋に連れて来られて三日が経とうとしている。 愛子の手首にはブレスレット型のアーティファクトが付けられており、その効果として愛子は現在、全く魔法が使えない状況に陥っていた。それでも、当初は、何とか脱出しようと試みたのだが、物理的な力では鋼鉄の扉を開けることなど出来るはずもなく、また唯一の窓にも格子が嵌っていて、せいぜい腕を出すくらいが限界であった

 

もっとも、仮に格子がなくとも部屋のある場所が高い塔の天辺な上に、ここが【神山】である以上、聖教教会関係者達の目を掻い潜って地上に降りるなど不可能に近いのだが。 そんなわけで、生徒達の身を案じつつも、何も出来ることがない愛子は悄然と項垂れ、ベッドの上で唯でさえ小さい体を更に小さくしているのである

 

こうして何もない部屋で監禁されて、出来る事と言えば考えることだけ

そうして落ち着いて振り返ってみれば、帰還後の王宮は余りに不自然で違和感だらけの場所だったと感じる。愛子の脳裏に、強硬な姿勢を崩さない、どこか危うげな雰囲気のエリヒド国王や重鎮達のことが思い出される。 きっと、あの銀髪の修道女が何かをしたのだと愛子は推測した。彼女が言っていた、〝魅了〟という言葉がそのままの意味なら、きっと、洗脳かそれに類する何かをされているのだ

どうか無事でいて欲しいと祈りながら、思い出すもう一つの懸念。それは『イレギュラーの排除』という言葉。意識を失う寸前に聞いたその言葉で、愛子は4人の生徒を思い出した

 

強気な物言いで圧倒的な力を持ちながらも、友人への情を捨てきれなかった南雲ハジメ

 

それとは反対に冷酷に容赦のない選択を取り、同じく圧倒的な力を持つ天之河光輝

 

前世の記憶を持つ転生者にしてこの世界の真実を誰よりも速く知り、神殺しを果たそうとする佐藤カズマ

 

同じく転生者でありカズマと共に神殺しを果たそうとする前世が女神の水神アクア

 

彼らは強い…それは理解しているものの、内心では心配する気持ちを抑えきれずにいる……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「ここであってるよな?」

 

浩介「おお!ここだここ。前から少しずつここの構造や警備の配置を調べながら進んだから間違いない!」

 

愛子「!?」

 

聞き覚えのする声に愛子が驚きベットから飛び起きた

 

そこにいたのは自身が心配していた4人の生徒の一人である佐藤カズマ、そしてクラスでもトップクラスのステルス能力を持つ遠藤浩介のふたりだった

 

愛子「さ、佐藤君!遠藤君まで!?」

 

カズマ「あ、先生…無事みたいだな」

 

愛子「ど、どうして…ここへ?」

 

浩介「おかしなこと聞くなあ…助けに来たに決まってるでしょ先生」

 

ホルアドでそれぞれの役割を言い渡したカズマはどこかに囚われている愛子を探し出していた

 

そこへ丁度ステルス全開で神山に潜入中だった浩介と再会を果たした

なんでも実は浩介、愛子が見知らぬ修道女に誘拐されているのを見かけた

最初は助けようとしたものの、その修道女が明らかに桁違いに強いことを感知することができ、立ち向かえば間違いなくやられると思い見てることしかできなかった

 

しかし、殺すことが目的なら攫わずその場でやるはずだったので、殺しが目的ではないと考え、とにかく修道女の行先をつけていき、その場所が神山だとわかると更に慎重に行動していた

 

カズマは愛子に近づくと腕に取り付けられていたアーティファクトを破壊した

 

カズマ「はい、これでもう大丈夫だ……んじゃ、俺はもうひと仕事してくるから、愛子先生の事任せたぞ」

 

浩介「ああ任せろ」

 

愛子「さ、佐藤君……その…た、助けてくれて…ありがとうございます」

 

カズマ「……気にしないで欲しい……アンタはどっちかって言うと俺達のせいで巻き込まれたようなもんだから…むしろ……謝らなきゃいけないくらいなのに…」

 

愛子「そ、そんなことありません!!貴方方は世界の為、多くの人のために奔走してるじゃないですか!!……貴方達と比べたら…私なんかとても非力です……ですが…私にだってできることはある……そう信じて動こうとしたまでです…だから…貴方達を感謝したり褒め称えることはあっても恨みを吐いたりなんかしません!!」

 

カズマ「……フッ……やっぱアンタはいい先生だよ……アンタが俺達の担任なら本当に良かったくらいにさ…」

 

それだけ言うとカズマは壁を魔法で破壊してそのまま飛び降りた

 

愛子「ええ!?こ、ここすごく高いところなんですよ!?」

 

浩介「か、カズマだから大丈夫だと思う……」

 

 



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第四十話 神の使徒

 

カズマが愛子を救出する少し前、王国にたどり着いたハジメが白眼を開眼し、愛子を探していると王国の外から魔人族が攻めてきていることに気がついた

 

それをカズマに言うとカズマはユエとシアとティオに元々頼んでいた役割とは違う物を頼んだ

 

その役割とは、魔人族の無力化する程度に戦ってほしいとのこと

 

それ以外の者の役割は以下の通り

 

カズマは愛子の救出、救出後はユエ達と合流

 

アクアはおかしくなった王宮の者達の状態異常の解呪

 

ハジメはそんなアクアの護衛

 

香織と雫は王宮内にいるクラスメイト達と合流後すぐに脱出させる

 

めぐみんとダクネスはリリアーナと共にホルアドで待機

 

そして光輝に与えた役目はというと

 

『畑山愛子を誘拐した銀髪の修道女の始末』

 

リリアーナからその修道女の事を聞いた光輝を含めた数人は、明らかに只者でないこと…

そしてその人物はエヒトの配下のである可能性があると考えた

なら自分達が動けば向こうとの衝突は免れないだろう

すると光輝が自分がやると言いだし、彼にその役目を与えた

 

王宮内へと入った光輝達はそれぞれ分かれて行動した

 

ユエ達は魔人族と交戦し、それぞれの得意分野で相手を抑え込んでいた

このときカズマから『最悪手足の骨を折って戦意を無くさせてほしい。後で治すから』と言われた

これには3人とも少し過激だとは思ったが、殺さない辺りまだマシだと思ったそうだ

 

襲撃に来た魔人族の中にはフリードもおり、フリード自身、魔王からの命令で攻めては来たものの、わずか3名に軍を抑えられ、更には殺すのではなく無力化をしてくるユエ達に疑問を抱いていた

 

フリード「……それは貴様らのリーダーとやらの指示だとでも言う気か?」

 

ユエ「ん…私達の役目はお前たちを倒すことではなく、取り押さえることだけ…殺しは目的じゃない」

 

そう言われたフリードは少し戸惑いつつも、攻撃の手をやめなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

王宮へ入った面々達はそれぞれの役目を果たす

 

アクアは洗脳を受けている国王を初めとした国の重鎮達…更に兵士達の解呪を果たした

そんなアクアの傍らでハジメは洗脳され敵意むき出しで襲いかかってきた兵士を気絶する程度にいたぶった

 

彼らが役目を果たしていたその頃

 

雫と香織は王宮にいるクラスメイト達と再会を果たす

 

彼らは戻ってきた2大女神を喜んでいた

特に勇輝はというと戻ってきたふたりにハジメ達から逃げたのだとか、やっぱり自分が言ったとおりだとか抜かしていたが、それを強く否定する香織と雫

 

そしてふたりはすぐに王宮からの脱出を言い渡す

そして王宮内での事を手短に話した

 

するとクラスメイト達の何名かも王宮内での空気の違いを勘づいていたようでふたりの言葉に同調し、すぐに逃げるよう周りにも言う

 

 

雫「!!……最悪…」

 

香織「嘘…」

 

そこへ現れたのはリリアーナが話していた件の銀髪の修道女だった

 

一見すれば無害の女性に見えるが事前にリリアーナから聞いていた彼女の行ったことと旅を通して様々な経験をしてきたふたりはすぐに、目の前の相手が自分たち以上の強さを持った相手だと気づいた

 

しかし、後ろにいる勇輝を含めた面々は現れた修道女がそんなに強そうだとも敵とも思っておらず、『この人も一緒に連れて逃げよう』などと言い出す始末

 

勇輝が代表して近づこうとした瞬間、勇輝の後ろから影が伸び、それが修道女の足元の影にくっつくと修道女の動きが止まる

 

幸利「馬鹿やろう天之河兄!!なに無警戒に近づいてんだ!!そいつお前どころかこの場の面々総出で挑んでも勝てないくらい強えぞ!!」

 

幸利自作の拘束術

『影縛り』、その効果は自身の影を伸ばし、自身の影に触れた他の影の持ち主の動きを拘束する

 

ウルの時は大量の魔物を一人で拘束することができたなど、高い拘束力を持つ……が

 

幸利「グッ!……やべぇ…拘束が…」

 

高い拘束力を持つ影縛りをモノともせず、動こうとする修道女

 

幸利「恵里!速く援護してくれ!!」

 

幸利は後ろにいる恵里に呼びかけた

 

恵里「わかってる!鈴、僕の身体預けるね…『心転身』!!」

 

中村恵里の天職は降霊術師

 

幸利も使う闇系魔法は精神や意識に作用する系統の魔法で、実戦などでは基本的に対象にバッドステータスを与える魔法と認識されている

降霊術は、その闇系魔法の中でも超高難度魔法で、死者の残留思念に作用する魔法であり、聖教教会の司祭の中にも幾人かの使い手がおり、死者の残留思念を汲み取り遺族等に伝えるという何とも聖職者らしい使用方法がなされているが、この魔法の本当の使い方は、遺体の残留思念を魔法で包み実体化の能力を与えて使役したり、遺体に憑依させて傀儡化するというものだ。つまり、生前の技能や実力を劣化してはいるが発揮できる死人、それを使役できるのである。また、生身の人間に憑依させることでその技術や能力をある程度トレースすることもできる

 

だがここで恵里は思った

この降霊術を極めれば、他人の精神に自分自身が憑依できるのではないか?

 

そう思い、恵里はカズマとの訓練の傍らで降霊術の修行も続けていた

結果恵里は自分だけのオリジナル技である『心転身』を身に付けた

 

これは自分の精神エネルギーを丸ごと放出し相手の精神に入り込み体を乗っ取る術で成功すれば相手の体を自分の体のように意のままに操ることができる。

しかしそれに伴うリスクも大きく万一外せば精神は自分の体にも戻れないまま数分間漂うことになり肉体は無防備となる

 

そして術を発動した恵里の身体はまるで眠りについたように倒れ、それを親友の谷口鈴が抱きとめた

 

恵里の術を受けた修道女はさっきまで幸利の術を受けても動こうとしていたが、恵里の術がキマると動きを完全に止めた

 

雫「と、止まった…」

 

幸利「へ、へへ、俺の『影縛り』で身体を拘束、恵里の『心転身』で精神を拘束……そんで後は浩介の死角からの急所への一撃が決まれば完璧なんだがなあ………おい、今のうちに他の奴らは逃げろ!多分これもそんなに長く持たねえからよ!!」

 

修道女の動きが止まったのを確認した幸利はすぐに他のクラスメイト達に逃げるように言う

 

だがここで待ったをかけるものがいた

 

勇輝「ま、待ってくれ!!なぜあの人を拘束する!それに逃げろって、なぜ逃げなきゃいけないんだ!!」

 

この空気を読まない勇者(笑)だった

 

雫「敵だからよ!!それに元々私達が来たのは貴方達を逃がす為であって戦闘は目的じゃないのよ!あとあの修道女は畑山先生を誘拐した誘拐犯で今城で起こっている妙な空気や神への強すぎる信仰心の風潮を作った元凶!!今畑山先生はカズマ君が救出に向かったわ!後は皆が逃げれば私達の役目は終わり!この人のことは光輝に任せて私達は逃げるのよ!!」

 

そう言い今度こそ逃げるように言おうとしたが

 

勇輝「なんでだ!抑えている今なら、勝てるじゃないか!!光輝が来るのを待たずに今ここで俺達が倒せるじゃないか!!」

 

香織「ゆ、勇輝君!待って!雫ちゃんがそれをしないのは私達が攻撃してもあまり効果がないからだと思うの、そうでしょ?」

 

雫「ええ、清水君の拘束を自力で解こうとする上、対峙したときに感じたあの強さ…光輝やハジメ君にカズマ君くらいしか対処できない強さよ!私達が攻撃したところで、効果がない!!」

 

勇輝「ッ!」

 

雫に言われた言葉に勇輝はショックを受けた

それはつまり、雫からも自分はハジメや光輝以下と思われ、しかもいても足手まといにしかならないと言われたように思えたからだ

 

地球に居た頃から劣っていると思っていたハジメと自身の弟である光輝に対し強いコンプレックスを抱いていた勇輝は感情のまま聖剣を抜くと叫ぶ

 

勇輝「南雲や光輝なんか必要ない!!俺が倒すんだー!!万翔羽ばたき 天へと至れ『天翔閃』!」

 

〝限界突破〟終の派生技能[+覇潰]を発動させ、基本ステータスを数倍にまで上げた状態で零距離攻撃を修道女にかました

 

攻撃が命中すると修道女は壁を突き破りながら吹っ飛んだ

 

幸利「ッ!何しやがる!!今ので拘束が解けちまったじゃねえか!!」

 

勇輝「はぁ…はぁ…で、でも…今の攻撃…俺の全力を乗せた一撃……これをくらって生きてる訳がない」

 

実際、今の攻撃は人類側からすれば一発逆転の威力を持った一撃

 

しかし

 

恵里「……はっ!な、何が起きたの!?」

 

そこへ恵里が目を覚まし辺りを見渡す

 

鈴「エ、エリリン!今天之河君があの修道女さんをふっ飛ばしちゃったの!!でも多分今ので倒せたと思うからこれでもう大丈『……違う』……え?」

 

恵里「あの人…人間じゃなかった…多分生きてるよ。すぐにここを離れないと!」

 

龍太郎「お、おい!何をそんなに慌ててる中村、大体人間じゃねえってどういうことだ!?」

 

恵里「……どんな生き物にだって…心の中…精神内には何かしらのものがある……それが感情だったり自我だったり…生き物としてあって当然のものがある……でもあの修道女の精神内は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

空虚…空っぽだった……おまけにその空っぽだった精神は僕の心を徐々に蝕んでいた……もしあのまま居たら、僕の精神まで空になるところだった…」

 

???「そのとおりです」

 

そのセリフとともに壁が砕けて粒子状に破壊され、修道女が姿を現れす

 

もっとも、その姿は先程までの修道服ではなく、代わりに白を基調としたドレス甲冑の姿になっていた

 

ノースリーブの膝下まであるワンピースのドレスに、腕と足、そして頭に金属製の防具を身に付け、腰から両サイドに金属プレートを吊るし、まるでワルキューレのようだった

 

その背中から銀色に光り輝く一対の翼を広げていた

この世のものとは思えない美しさと魅力を放っていたがその瞳だけが氷の如き冷たさを放っていた。その冷たさは相手を嫌悪するが故のものではない。ただただ、ひたすらに無感情で機械的。人形のような瞳だった

 

両手に白い鍔なしの大剣が握られていた

銀色の魔力光を纏った二メートル近い大剣を、重さを感じさずに持っている

 

ノイント「ノイントと申します。我が主に作られし〝神の使徒〟であり…不要な自我に感情は持ちあわせておりません……そして主の盤上より不要な駒を排除します…」

 

ノイントから噴き出した銀色の魔力が周囲の空間を軋ませる。大瀑布の水圧を受けたかのような絶大なプレッシャーが香織達に襲いかかる

香織や雫と言った旅に同行する面々とカズマから訓練を受けていた幸利と恵里は必死に歯を食いしばって耐えようとするもの

 

一方、勇輝を含めたクラスメイト達はそのプレッシャーに押しつぶされかけていた

 

ノイント「貴方達はまだまだ駒として動いて欲しかったですが……それも難しそうなので……ここで退場してもらいます」

 

その言葉とともにノイントの翼から銀翼から殺意をたっぷり乗せた銀羽の魔弾が放たれ、それが雫達を襲った

 

 



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第四十一話 怒る鎧武者

 

カズマ「ありゃりゃ…随分とやっちまってんな…」

 

愛子を救出し、王国外へとたどり着いたカズマが目にしたのは、ユエ達によってあちこちで地にふしている魔人族の姿があった

 

だが全員息はしており、怪我はしてるが生きている

 

フリード「……貴様が、人間族側の攻略者のまとめ役か」

 

カズマ「…ま、一応な……名はサトウカズマ……アンタが魔人族側の攻略者、フリードであっているな?」

 

フリード「そうだ……貴様の仲間の眼帯をつけていた男が言っていた……貴様は私が知らないことを知っている……そしてそれは、我が魔人族を含めたこの世界の全種族の存亡に関わるものだとな……それがハッタリかどうかはわからないが興味がある…」

 

カズマ「……そうか…なら教えてやる……俺の目をよく見てな」

 

そう言うとカズマは月読を発動した

 

するとカズマとフリードは一切微動だにしなくなった

 

それを見た周りの魔人族はカズマが何かしたと思い全員が武器を持ち魔法を放とうとしてきた

 

それをユエやシアにティオが食い止めた

 

???「貴様!!カトレアだけじゃなく!!フリード様まで!!」

 

雄叫びを上げながら金髪を短く切り揃えた魔人族の男が襲いかかったがそれをシアがドリュッケンで受け止めた

 

ユエ「……カトレア?」

 

金髪の魔人族「赤髪の魔人族の女を覚えているだろう?貴様らがオルクス大迷宮で殺した魔人族の女だ!!」

 

それを言われたユエは思い出した

 

一方でカトレアに会ったことのないシアとティオはそれがカズマがオスカーの隠れ家に残っている魔人族の女であることを思い出した

 

金髪の魔人族「よくも、カトレアを……優しく聡明で、いつも国を思っていたアイツを…………貴様らだけは!許せない!!」

 

そう叫ぶと持っている武器をシアに向かって振り下ろした

 

金髪の魔人族「!!」

 

その瞬間、横から武器を握っていた腕をカズマが掴んで止めた

 

シア「カ、カズマさん!!」

 

カズマ「悪い…今終わったところだ……んで、話はフリードに月読掛けていた時から聞いていたが……なあ、もしかしてお前の名はミハイルか?」

 

ミハイル「!?な、なぜお前が…俺の名を…」

 

カズマ「カトレアがロケットペンダント握りながら呟いていたの聞いてたからな…」

 

ミハイル「貴様が、俺の婚約者の名を!気安く呼ぶな!!」

 

カズマ「落ち着け、お前の婚約者は殺してねえし捕虜にもしてねえって…」

 

ミハイル「!!な、何を言って…」

 

カズマ「ま、それは自分の目で確かめてきな…」

 

そう言うとカズマはミハイルの胸に手を当てると、テレポートを発動しミハイルを転送させた

 

突如消えたミハイルに周りの魔人族達も驚きの声を上げつつすぐにカズマに攻撃をしようとしてきたが

 

フリード「やめろ…」

 

フリードがそれをやめさせた…

 

魔人族「フ、フリード様!?し、しかし、ミハイルが」

 

フリード「……ミハイルは消されたわけではない…そうなのだろう?」

 

カズマ「ああ、会いたい人の所へ移してやっただけだ…」

 

フリード「……引くぞ」

 

そう言うとフリードはゲートを作り、自身の配下の魔人族達を引き連れ、その場を去った

 

カズマ「ぐっ!」

 

フリード達が去った直後、カズマは目を抑えながら苦しむ

 

ティオ「カズマ!?」

 

シア「カズマさん!?」

 

ユエ「!!」

 

カズマ「だ、大丈夫だ……光輝と違って、一回一回の負担がでかいな……こりゃあ後数回程使えば失明するかもな」

 

シア「あ、あまり使いすぎない方が…」

 

カズマ「ああ…わかってるさ……それより、俺達も王宮の方へ!!」

 

その時、王宮の方から膨大な魔力の放出と衝撃音と共に王宮の一部が倒壊した

そして王宮の方から紫色の矢の様な形状の物が黒炎と共に天へと向けて放たれた

 

カズマ「!!…まさか…あれは」

 

ティオ「!カズマ!」

 

カズマ「わかってる!!お前らこい!王宮へ飛ぶぞ!」

 

そう言うとカズマはユエ達と共にテレポートで王宮へ転移した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「はぁ…はぁ……」

 

香織「し、雫ちゃん!!」

 

雫「私は良いから!……香織は他のみんなの傷を治して!」

 

ノイントとの戦闘が続くこと数分

 

ノイントからの総攻撃を受け続けた地球組の面々は皆大きく負傷はしているもののどうにか生きている

 

それは治療師であり、再生魔法を会得している香織がいるからであり、香織が居なければすでに何人かは死んでいただろう

 

そして今、ノイントの攻撃からクラスメイト達を守っているのは雫ただ一人のみ

 

幸利や恵里は魔力切れになり戦闘不能

龍太郎をはじめとした前衛組は軒並みやられて地にふしている

 

ノイントの拘束を解く原因を作った勇輝はというと前に出てノイントの攻撃を避けることも防ぎ切ることもできず、早々にダウンした

 

雫はというと身体中に傷ができており、ノイントの攻撃からクラスメイトを守るので精一杯で一切の攻撃が出来ないでいた

 

一応後方から魔法組の魔法攻撃をしたが、ノイントに当たる前にまるで砂に溶けるかのように粒子状になって消える

 

それを見て雫は気付いた

 

ノイントの能力は『分解』

魔法を含めたありとあらゆる物を分解し消し去る

 

触れただけで一発ゲームオーバー

飛ばしてくる銀羽の魔弾に分解の効果がないのは相手が本気ではないからだろう

 

ジワジワといたぶってから最後にとどめを刺そうと考えてるのだろう

 

感情がないとか言っていた割に随分とSっ気のある攻め方をすると雫は思っていたが、これのお陰で現状死者がでてないと思うと複雑な心境である

 

だが、雫はただ守っているわけではなかった

 

守りながらも、ずっと試していた

攻撃を防ぎながらそれを同時並行でするのはきついがそろそろ発動できそうだ

 

雫「『界穿』!!」

 

雫が発動した魔法は空間魔法であり、フリードが使っていたようなワープゲートを生み出す魔法で、それを自身の後ろにいる香織を含めた面々の足元にワープゲートを作成した

 

香織「!?雫ちゃ─」

 

雫の意図に気付いた香織が親友の名を叫ぶが言い切る前にワープゲートに消え、ワープゲートも消滅した

 

ノイント「……自らの命と引き換えに彼らを逃しましたか……」

 

雫「はぁ…はぁ…はぁ…それが…私の役目だからよ…」

 

ワープゲートが消えたあと、膝から崩れ落ちる雫

雫はわかっていた

仮にワープゲートを作成できたとしても、今の自身の魔力と体力では逃げられるのは自分以外の面々だけであり、その後の自身には逃げる力も抗う力も無くなる事を

 

それでも雫には、彼らを誰一人として死なせたくなかった……彼らを助けるためなら、自分の命をかける腹積もりでいた

 

たった一人で皆を守り、逃し、己の命すらかける覚悟を持つ彼女は、他の者が見れば勇者である勇輝よりも勇者であると言えるだろう

 

ノイント「貴方を排除したあとは…彼らも排除しなくては……」

 

そう言うとノイントは片手を雫へ向ける

その手からは銀色の魔力が集まりだした

 

それはアニメや漫画とかに出てくるエネルギー砲のようなものであり、くらえば確実に死ぬ

しかし、今の雫には防ぐ力も避ける気力も残ってなかった

 

雫は覚悟した……今度こそここで自身は終わりだと

覚悟を決めた

しかし、刀を握る手は決して弱めず、ノイントがこれから放つであろう攻撃に目を瞑ることもせず、まっすぐと、目を逸らさず睨みつけた

 

たとえ最後の時であっても、逃げない

 

そう心の中で強く思う雫

 

そしてのノイントの手に銀色の魔力が完全に集まり

 

雫「……香織…光輝…」

 

銀色の光とともに雫に向かって放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノイント「……?」

 

雫「……え?」

 

かと思うと、雫の目の前に何かが飛んだ

 

飛んだそれには金属の武具がつけられており、つい先程まで何かを放とうとしていたのか、銀色の光が掌から出ていた

 

そしてそれの後ろには赤い液体が付着していた

 

最初はそれがなにか分からなかったそれが、ノイントの腕だったと気づくのに数秒近くかかった雫

 

そんなノイントの後ろから誰かが近づいてきた

 

ノイント「!!」

 

それに気付いたノイントは一瞬でその人物の後方へ移動し、そのまま銀羽の魔弾を放った

 

が、それを身体から紫色の骸骨の形状をした物に防がれた

その人物は片手に刀を握りしめ、雫に歩み寄り、膝を曲げ同じ目線になろうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「……済まなかった……来るのが遅れた」

 

雫「こ、光輝…」

 

その人物、光輝は悲痛の表情を浮かばながら、雫に謝る

 

そんな中でもノイントは容赦なく魔弾を放つ

 

しかも今度のは分解の魔法を含ませたものであり、須佐能乎の身体に命中すると、徐々に分解し出した

 

ノイントはいつの間にか現れたイレギュラーである光輝を早急に排除しようと躍起になっていた

 

自身の腕を一瞬で切断し、攻撃を防ぐ鎧のようなものを出した光輝にこれまでにないくらい本気で排除しようとした

 

光輝「………貴様が……雫を殺ろうとしたのか…」

 

ノイント「……だからなんだといいますか?イレギュラーは全て排除……それが我が主の命であり…感情も自我も持たない私の唯一の使命です…」

 

光輝「……そうか……ならいい……ならばこれから貴様の心に初めての感情を植え付けてやる。その感情の名は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

恐怖だ

 

その言葉と共に、光輝の須佐能乎の姿が変化した

それまでの須佐能乎は紫色の骸骨だったが、変化した姿は以前までのものとは別物だった

その姿は骨格を覆う人型であり、陣羽織を纏った武将のような姿となった

その須佐能乎の腕には盾と一体化した弓が装備されており、放出している魔力も普段の物とは比べ物にならないほど向上していた

 

ノイント「!?」

 

その姿…そして光輝の両眼の万華鏡写輪眼を前にしたノイントは無意識のうちに天井を破壊し飛んで逃げた

 

なぜ勝手に動いたのかは分からなかった

だが本能が…これ以上ここにいるのは不味いと感知したのだ

 

が、そんなノイントを見た光輝は

 

光輝「逃さん……」

 

光輝の須佐能乎が腕に取り付けられていた弓をノイントへと向けられ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「『須佐能乎加具土命(スサノオカグツチ)』……死ね」

 

そう呟くと弓に装填させた紫色の矢に黒炎が纏わりつき

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ノイント「!!!」

 

射出され、その速度は、ティオをも上回る速度で飛ぶノイントに一瞬で追いつき、一瞬で胴体を貫く程だった

 

身体を貫かれたノイントはそのまま落下した

だが、黒炎は消えることなくノイントの身体を焼き尽くす

 

最後にノイントの脳裏を過ぎったのは、自身を圧倒的な力でその命を奪おうとした、万華鏡写輪眼を開眼させた光輝の怒りの形相だった

 

すると感情のないはずの自身の心に言いようのない気分が過ぎった

主の前でも一度としてよぎったことのない…それの前にいることも目にすると…心を鷲掴みにされ、自身は何もできない無力感…

 

それが自身の心に宿した最初で最後の感情である……恐怖心であるとは気付くことなく、ノイントの身体は地上に落ちる前に焼失したのだった

 

 



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第四十二話 神の使徒との戦いの後


はい、まさかの毎日投稿をここまで続けられたことに驚きを隠せないでいる作者です。もうすぐ大学が始まりますので、投稿ペースが落ちると思いますが何卒よろしくお願いします。

ちなみにこれはエイプリルではございません←本当です


 

香織「あ!雫ちゃん!!」

 

ユエ「……起きた?」

 

親友と同行者の顔が目に移り、自分がいる場所にも気がついた

 

雫「か、香織…ユエ?……あれ?なんで私、王宮の寝室に…」

 

香織「そっか…雫ちゃん覚えてないんだった……あのね雫ちゃんはね」

 

そこで香織は話す

曰く雫は光輝に助けられた後すぐに気を失ってたらしい

 

魔力をほぼ使い切り、死ぬ直前だったが光輝に救われたことでそれまでの緊張感が臨界点を超えてたこともあり気絶した

 

それからすでに1日経っていた

そして香織は雫が気絶していた間のことを話す

 

あのあと香織達とクラスメイト達は気絶した雫をお姫様抱っこで持ち上げた光輝と無事合流した

 

自分が眠っている間に光輝にお姫様抱っこされたことを知った雫は頬を赤らめる

 

その後ハジメやカズマ達とも合流

 

王宮内の王族や重鎮達も無事魅了を解呪できており、皆正気になっていた

 

操られていた騎士達の中にはメルドも紛れており、死者が一人も出なかったのはまさに奇跡だった

 

国王であるエリヒドは正気に戻ったあと魅了されていたときの記憶を持っており、自身が操られていたこと、そして娘に辛く厳しいことを言ったことなどで心を病み、リリアーナやクラスメイト達に深く謝罪した

 

カズマが代表して、ことの経緯やこの世界の真実を話すと国王や重鎮達は最初は信じられなかったが、カズマがまた月読にかけ記憶(自分達の事やオスカーオルクスの遺言など)を見せたことで信じてもらえた

 

しかし、イシュタルを始めとするエヒトの狂信者達はエヒトが人類の敵であるとは聞き入れてもらえず、それどころか『エヒト様のお言葉は何者にも覆せない決定事項』『たとえエヒト様が人類の滅亡を願い、世界の崩壊を望んでいたとするなら、私達はそれを受け入れるのみ』と、エヒトを全面的に支持していた

 

光輝の言う通り、エヒトの為なら平気でなんだってできる狂信者達だった

しかもそれから教会の総本山である神山を調べるとなんとなんと教会はその権力と権威を利用して汚職や秘密裏に人を殺めていたりなど、汚いことにも平気で手を出していた

 

これにはエリヒド王はイシュタルを含めた信者共々全員を捕らえるよう命じた

 

このとき、変に抵抗されない為に幸利と恵里に浩介の三人が出向き、見事全員引っ捕らえた

 

そこからはとにかく忙しかった

 

まず国王は今の教会が権力乱用と汚職を働いた邪教と化していた事や、エヒトが実は悪神であるなどを国民に伝えた

 

当然こうなると国中でパニックが起こった

 

しかし、国王は続けて言う

 

こことは違う他世界から邪神を倒すため、そして世界から争いを無くすため、他世界の神からこの地へと送られた神の使徒(カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス)がいると

 

そして豊穣の女神である畑山愛子は、その者たちと共に世界を平和へと導くために舞い降りた現人神であると

 

この世界において、豊穣の女神の名は大きな影響力があり多くの国民がそれを聞き、国中で起きていたパニックは沈静化された

 

なお国王が言った言葉は皆カズマが考えたものであり、これを聞いた雫は苦笑した

 

これには香織もカズマに色々と言ったようだったがそれに対しカズマ曰く『人に嘘を信じさせるコツは8割の真実と2割の嘘がベストだ。この場合嘘なのは愛子先生が現人神であることや先生が俺達と共に神を倒そうとするって所がな』と言った

 

ちなみに当人である愛子は『世界の人々のために頑張っている貴方方の役に立てるなら、私の名を遠慮なく使って欲しい』と言われたので、国王にこの内容を国民に伝えさせたのだった

 

その他にも色々あった

 

カズマは今回の事で世界の真実をクラスメイト達にも話すべきだと判断し、クラスメイト達を集めて全て話した(カズマと同席者としてハジメと香織と光輝も一緒)

 

ちなみに恵里と浩介には以前のホルアドでの勇者パーティー救出後のその日のうちに話した

 

全てを聞き終わり、真っ先に声を張り上げたのは勇輝だった

 

勇輝「なんだよ、それ。じゃあ、俺達は、神様の掌の上で踊っていただけだっていうのか? なら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだ! オルクスで再会したときに伝えることは出来ただろう!」

 

非難するような眼差しと声音に、しかし、ハジメは面倒そうにチラリと光輝を見ただけで何も答えない

 

それに対し光輝は無言だったがそこそこの付き合いであるハジメにはそれが怒るのを我慢しているものだとすぐにわかった

 

その態度に、勇輝がガタッ! と音を立てて席を立ち、カズマ達に敵意を漲らせる

 

勇輝「何とか言ったらどうなんだ! お前が、お前達が!!もっと早く教えてくれていれば!」

 

いきり立つ勇輝にハジメは五月蝿そうに眉をしかめると、盛大に溜息をついて面倒くさそうな視線を勇輝に向けた

 

ハジメ「それを言って、お前が信じたのかよ?」

 

勇輝「なんだと?」

 

ハジメ「どうせ、思い込みとご都合解釈大好きなお前のことだ。大多数の人間が信じている神を〝狂っている〟と言われた挙句、お前のしていることは無意味だって俺から言われれば、信じないどころか、むしろ、俺達を非難したんじゃないか? その光景が目に浮かぶよ」

 

勇輝「だ、だけど、何度もきちんと説明してくれれば……」

 

カズマ「いいや、お前は絶対信じなかったな…そもそも俺達に対して敵意向けてる時点でお前は俺達の如何なる発言も信じなかった」

 

その発言にこれまでの勇輝の後先考えない無鉄砲な行動を見続けていたクラスメイト達も納得していた

 

だが、勇輝だけは納得できないようで未だ厳しい眼差しをハジメ達に向けている

 

勇輝「で、でも、これから一緒に神と戦うなら……」

 

ハジメ「待て待て、勇者(笑)。俺がいつ神と戦うといったよ? 勝手に決め付けるな。向こうからやって来れば当然殺すが、自分からわざわざ探し出すつもりはないぞ? 大迷宮を攻略して、さっさと日本に帰りたいからな。神と戦うのはカズマ達と天之河だけだ」

 

その言葉に、勇輝は目を大きく見開く

 

勇輝「なっ、まさか、この世界の人達がどうなってもいいっていうのか!? 神をどうにかしないと、これからも人々が弄ばれるんだぞ! 放っておけるのか!」

 

ハジメ「顔も知らない誰かのために振える力は持ち合わせちゃいないな……」

 

勇輝「なんで……なんでだよっ! お前は、俺より強いじゃないか! それだけの力があれば何だって出来るだろ! 力があるなら、正しいことのために使うべきじゃないか!」

 

勇輝が吠える。いつもながら、実に正義感溢れる言葉だ。しかし、そんな〝言葉〟は、意志なき者なら兎も角、ハジメには届かない

 

ハジメ「……〝力があるなら〟か。そんなだから、いつもお前は肝心なところで地面に這いつくばることになるんだよ。……俺はな、力はいつだって明確な意志のもと振るわれるべきだと考えてる。力があるから何かを為すんじゃない。何かを為したいから力を求め使うんだ。〝力がある〟から意志に関係なくやらなきゃならないって言うんなら、それはもうきっと、唯の〝呪い〟だろう。お前は、その意志ってのが薄弱すぎるんだよ………最も、軟弱なのはそこだけじゃないけどな」

 

それだけ言うとハジメは勇輝なんぞ興味なんかねえとでも言いたげな態度を取った

 

が、ここでカズマにバトンタッチされた

 

カズマ「そういえばさ天之河兄……お前よお…香織や恵里達から聞いたんだが……余計な事をしたんだったよな?」

 

勇輝「え?よ、余計なことって?」

 

カズマ「……自覚が無いみたいだから一応言ってやろう……あの神の使徒ノイントってたっけか?せっかく幸利と恵里が動きを止めてお前らを逃がす為に動いたっていうのに、お前が余計な事をしたせいでノイントからの攻撃でクラスメイト達は死にかけた。おまけに余計な事をしたお前は真っ先にダウンときた…そしてボロボロになっていた雫に守られた……お前前に言ってたよな…『俺が君を守る』って……守るどころか結局雫一人にしわ寄せが来て危うく殺されかけたんだが…それと香織から聞いたんだが雫が光輝が来るまで足止めしてその間にクラスメイト達を逃がすって言ったのにお前はそれを無視して『南雲や光輝なんか必要ない!!俺が倒すんだー!』とか言ってたみたいだが………地球に居たときから思っていたが、お前がハジメや光輝を下に見ていたのは感じてはいたが、その下に見ていた奴らが自分以上の実力を持ったことにくだらないプライドが働いて勝手な事をしたわけだな?………つまりお前は、クラスメイト達の命や安全よりも自分の自己満足とプライドを優先させたわけだ……度し難い…」

 

カズマの言葉に周りが唖然とした

 

勇輝は震える声で否定しようとするが

 

光輝「……貴様は…どこまで俺を苛立たせれば気が済む」

 

ずっと自身の怒りを抑えていた光輝が身体から殺気が流れ出し、それにクラスメイト達は失神しかけた

 

光輝「……貴様はなんだ?…そうまでしてヒーローになりたいのか?守るとか抜かした相手の事を蔑ろにしてまで出しゃばるのか?……さっき貴様はこれからは俺達も一緒に戦うと言ったがその俺『達』の中に、まだ共に戦うとも言ってないクラスメイト達を勝手に加えたのか?」

 

勇輝「!!い、いやそれは…」

 

光輝「それともう一つ……俺達もと言ったが、貴様らなんか居ても役に立たん。足手まといにしかならん……貴様らと戦うくらいなら一人で戦ったほうがまだマシだ」

 

勇輝「なっ!?そ、そんなわけ無いだろ!!俺達が足手まといなんて!!」

 

光輝「現に貴様らはあのノイントとやら一人に何もできなかったじゃないか……それどころか貴様は戦える者、対抗できる者の足を引っ張っただけだ…貴様はいないほうがよっぽどいい」

 

勇輝「ふ、ふざけるな!!」

 

勇輝が感情のまま光輝に殴りかかるがそれを光輝はあっさりと避けると地面に転ばせ倒れた所を刀を抜いて首に当てた

 

光輝「俺はな…貴様のことを最も殺したい相手だと思っている……だがこれではっきりした……貴様には殺す価値なんかない……ただ生きているだけで目障りなだけだ……今後俺を苛立たせる真似をしてみろ……命を奪わなくとも檜山のように精神的に殺してやるからな?……」

 

それだけを言うと光輝は刀をしまい、その場を去ろうとする

 

勇輝「くっ!お前は昔と変わってしまったな、光輝!!」

 

光輝「……貴様が昔から進歩してないだけだ……ガタイはデカくなっても、中身はあの頃のまま…人の善性を信じ続けるガキそのものだ」

 

そう言い今度こそこの場を去ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「……そんな…ことが…」

 

香織「……光輝君……よっぽど雫ちゃんが傷つけられたのがすごく頭にきてたみたい…………それと、自分が来るのが遅くなったせいで雫ちゃんが傷ついちゃったことを気に病んでた…」

 

雫「え?……」

 

ユエ「ん……あの時、遠くからだったけどノイントを仕留めようとしていた光輝の須佐能乎から怒りや殺意が溢れてた……それと、私達がこの部屋に来る前、光輝がベットで眠っている雫を悲痛な表情を浮かべて見ていた……」

 

雫「……そう…」

 

香織「……やっぱり…光輝君は変わらないね…昔から…」

 

ユエ「?……昔の光輝って…どんなだったの?」

 

香織「そ、それは…」

 

雫「香織…いいの……私が話すわ…」

 

そう言うと雫はユエにかつて自身と光輝の間に何があったのか話しだした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「……」

 

王宮の木々に囲まれた庭に一人目を瞑りながら佇む光輝

 

その周りの木々や地面、草むらにはマトがいくつも置かれている

そして両手にはいくつものクナイを指の間に挟めて握っていた

 

光輝「……!!」

 

その瞬間光輝の姿が消えたかと思うと一瞬で宙に逆さの体制で飛び、そのまま両手のクナイを全て投げ、その直後新たなクナイを素早く取り出しほんの僅か前に投げたクナイを更に上回る速度で投げ、先に飛んでいたクナイとぶつけさせ、軌道をずらさせた

 

結果全てのクナイは全てのマトのど真ん中に命中していた

 

そして地面に着地した光輝の両眼は写輪眼へと変わっていた

 

光輝「……(俺が……もっと早く来ていれば……あいつは…)」

 

その光輝の表情は……悲痛と怒りに満ちていた





ちなみに光輝が使っているクナイはカズマに作らせたものです。
作らせた理由は単純に光輝の好みだったから


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第四十三話 天之河光輝と八重樫雫の過去

 

八重樫雫が初めて光輝と出会ったのは、小学生の時だった

 

実家は有名な剣道場で祖父や親も剣道界でも名を轟かせる程の達人だった

 

そんな家系に生まれた雫も例に漏れず、幼いうちから竹刀を握っていた

雫自身自覚していなかったが、自身は祖父や親から才能があると称される素質を秘めていたようだった

 

親達から褒められ、期待されるのが嬉しくて剣道を続けていたが雫自身は普通の女の子のように在りたい気持ちがあった

 

他の女の子のように可愛いものに触れ、綺麗なものを身に着けたり、当時小学生の女子たちがやっているような遊びだってしたかった

そう思っていたが、親や祖父からの期待の気持ちを裏切りたくないと、幼かった雫は本心を抑えつけていた

 

これがきっかけで彼女は自分のことを後回しにする、他人のために辛いことも我慢する性分となった

 

そんなある時だった

 

道場にふたりの男子が入門してきた

 

そのふたりは双子であり自身と同い年

そして道場にいる他の門下生の中でも才能に満ちていた自身にも並ぶくらいの才覚を秘めていた

その双子天之河勇輝とその弟天之河光輝は、どちらも強い正義感を持っていた

そしてどちらも小学生ながら賢く高い運動能力を持ち、顔も良くカリスマを持っていた

まさに完璧とも呼べる存在だった

 

本心で言えばふたりが来たとき王子様がやって来たと思ったほど浮かれていた

 

ふたりには弁護士の祖父がおり、その祖父がいつも話していた自身の仕事により救われた人の話をよく聞かされ、いつか祖父のような誰かを助けるヒーローになりたい

その為に強くなりたいと思い入門してきたそうだった

 

この話を聞いた当時、ふたりに対し強い憧れの気持ちを抱いた

特に勇輝から『雫ちゃんも、俺が守ってあげるよ』 っと言われたときは、自身が物語のお姫様になった気分だった。彼なら自分を女の子にしてくれる。守ってくれる。甘えさせてくれる。そう思っていた

 

だが、彼がもたらしたのは雫に対するやっかみだけだった

 

小学生の時から正義感と優しさに溢れ、何でもこなせる勇輝と光輝は女の子達の注目の的だった

 

一方、女の癖に竹刀を振り、髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題にも付いていけない雫が彼らと一緒にいたことが女の子達には我慢ならなかった

それからは隠れた所で雫はいじめられた

物を隠される

トイレで罵声を浴びせられる

 

特にひどかったのは『あんた女だったの?』と言われたことだった

 

その言葉に強いショックを受けた彼女は最終的に光輝に頼った

 

当時、光輝と勇輝が慕っていた祖父が亡くなったばかりでもあった為、相談するのは心苦しかったが、それでも相談してしまった

このときの雫は光輝なら『自分が直接言って聞かせるよ』と言うと思っていた

しかし、返ってきた答えは雫の想像と違うものだった

 

『ええっとそうだな……とりあえず先生に頼るのがいいかな…出来れば信用のおける大人、例えばお父さんやお母さんとか』

 

そう言われた雫は驚いた

 

まさかそう返されるとは思ってなかったので、思わず聞き返した

 

『多分雫はお母さんとかに話して迷惑が掛かるかも知らないって思っているからこうして俺に相談すると思うんだ……確かにその気持ちはわかるけど、一人で解決しようとするのはどうかと思うんだ……どうかな?』

 

おもわず返事をしたが、同時に光輝の事をたよりないとも思ってしまった

 

だから今度は勇輝を頼った

 

すると勇輝は『きっと悪気はなかった』『みんな、いい子達だよ?』『話せばわかる』などと言い、その言葉通り雫に対するいじめについて勇輝が女の子達に話し合いに行った

 

これでもういじめられないと安心した

そして勇輝は頼りになるとこのときは思っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、待っていたのはそれまで以上の陰湿ないじめだった

勇輝の前では謝ってもうしないと言ったが、勇輝がいなくなるとそれまではしなかった暴力までふるようになった

 

抵抗したかった

雫自身、強さで言えばいじめてきた女達よりも強く抵抗しようと思えばできた

 

しかし、雫は他人を殴ったり傷つけたりするのが嫌だった、結果そのことを漬け込みいじめてきた女達は余計に雫をいじめた

 

涙を流し、ただただ殴られ続けた

 

しかし、そのいじめは意外な事にすぐに終わりを告げたのだった

 

『……なにやっている…!!』

 

そう…自分が頼りない…他人任せだと思っていた光輝にそのいじめの現場を見られた

そして、その時の光輝の怒った顔を初めて見た

 

それを怖いとも思っていたが、なんと光輝は自身をいじめていた女達全員を殴り飛ばした

 

光輝は勇輝と一緒で誰にでも、特に女子に優しかった

他人に暴力を振るうことだってなかった

 

その光輝が初めて他人に、それも女子に暴力を振るった

 

この事実に雫は内心驚いた

そして涙を流した

 

自分を助けたのは、自分が頼りないと思っていた光輝だった

そして理解した

光輝が自分から動かなかったのは『自分が動けば余計にいじめが酷くなる』とわかっていたからなのだと…

 

光輝は何があったのか聞かれ、それに答えた

それを聞いた光輝は勇輝のことを『考えなしの馬鹿か』と罵っていた

 

雫はそんな光輝に謝った

頼りないと思ったことを…光輝の言う通りにしなかったことを

 

そして彼は、その日のうちに道場で兄と話をつけると言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが、その結果は予想出来ていなかった

 

光輝に殴られた女子達は先に勇輝のもとにいきあることないこと吹き込んだ

 

『光輝が彼女たちを脅す形で雫をいじめさせていた』

 

そんな彼女達の言ったことを鵜呑みにした勇輝は一方的に光輝を弾圧

 

挙句の果てには光輝に『雫に二度と近寄るな』『道場もやめろ!!』『ヒーロー失格の偽善者』と罵倒した

 

勇輝の全ての罵声を受けた光輝

 

それを見ていた雫は当然止めようとした

 

でも止められなかった…目の前で繰り広げられていた兄弟の言い合いに入り込めなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その時だった

 

光輝から発せられる空気が変わったことに気がついた

 

勇輝は気づいてなかったようでなおも光輝を罵倒しようとした

 

が、そんな勇輝をまるで汚物でも見るかの様な目で見る光輝

 

そして

 

光輝「……偽善者か……なら…お前はそのままでいろ…そして後悔しろ……その思い込みと独善的な考えは…何れお前を追い詰めることになる……言われなくとも道場はやめてやる……それと……今日限りで、俺とお前は兄弟でもなんでもない……」

 

それだけ言うと光輝は道場から出ていこうとした

 

空気だけじゃない

口調も変わっていた

まるで別人みたいに

 

勇輝「ま!待て!!何分けわからないこと言っている!!それに兄弟の縁を切るって、ふざけたこと言うな!!」

 

勇輝が怒りのまま竹刀を持って光輝に殴りかかった

 

雫「!!やめて!!」

 

そんな勇輝を止めようとした雫だったが

 

勇輝「ぐあ!!」

 

なんと竹刀を持っていた勇輝が逆に返り討ちにあった

 

光輝「……生憎…女だろうが元兄弟だろうが…一人殴るも二人殴るも今更躊躇なんかしない…そしてこれでわかった……俺だけじゃない…お前もヒーロー失格の偽善者だってことがな…」

 

そう言うと今度こそ道場から出ていった

 

勇輝「お、俺は、偽善者なんかじゃない!!ヒーロー失格なんかじゃない!!これからそれを証明してやる!!お前なんかとは違う事を!!」

 

そう叫ぶ勇輝

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自身がこのふたりの兄弟の仲を引き裂くきっかけを作ってしまった雫は涙を流すのだった

 

そしてこの日を堺に天之河光輝は変わってしまった

 

口調も態度も風貌も変わり、まわりはそんな光輝を怖がり誰も近づかなくなった

 

光輝自身も誰かと関わることを拒み、いつも一人でいるようになった

 

それだけでなく、家でも光輝は一人だった

光輝の起こした暴力事件を知り、勇輝が光輝を一方的に悪者にし、両親はそんな光輝を責めた

 

普通小学生の子供が親に叱られるなら少しは怯えたり泣いたりするだろう

 

しかし、この時の光輝は涙を流さず、怯えもせず挙げ句の果ては両親に向かって

 

光輝「そんなに言うなら俺を追い出せばいい。俺は別に構わんが」

 

そう、とても子供とは思えない口調とそこから溢れ出した威圧するような空気に両親は自分達の子供である光輝を不気味がり、それからは光輝を腫れ物に触るかのように扱われた

 

外でも一人、家でも一人

 

そんな光輝が変わってしまったきっかけを作ったのが他でもない自分

自分を助けたせいで、自分が光輝を孤独にしてしまうきっかけを生んでしまった

 

雫は小学生ながら、強い罪悪感を抱くようになった

そして同時にこうも思った

 

もし、このまま光輝を一人…孤独のままにさせてしまったら、いつか光輝は駄目になる…

 

そう思った雫は光輝に近づいた

 

しかし

 

光輝「来るな!!」

 

そんな雫を光輝はきつく拒絶した

 

それを受けた雫は傷ついた

 

しかし、それでも光輝に近づいた

 

その度に光輝から拒絶された

 

もう、あの優しかった光輝は…ヒーローに憧れていた光輝が戻ってくることはない…

そういつしか思うようになった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし中学生になったある日…

 

買い物帰りの時だった

 

公園を通って行こうとした時

どこかで泣いている子供の声の声が聞こえた

 

そして目に写った

 

木の上で泣いている子供の姿が

 

どうやら木に登って降りられなくなっていたようだった

 

雫は助けようと動こうとしたが

 

光輝「いつまで泣いている!……誰かが助けてくれると思っているなら大間違いだ!」

 

そこへ聞き覚えのある声がした

 

木の下を見るとそこに立っていたのは光輝だった

 

光輝「そうやってずっと泣き続けるか?それとも、今すぐ飛び降りるか?」

 

そう泣きじゃくる子供に光輝は厳しく言う

 

光輝「最後に頼れるのは自分だけだ……助けられることを当たり前だと思うな!」

 

光輝はそう厳しくも真っ直ぐな眼光で子供を見た

いつの間にか子供は泣くことをやめていた

 

助けようと動こうとしていた雫もそれを黙ってみていた

 

そして3時間後

 

子供は飛び降りた

 

それなりに高いところからだったので雫も驚いていた

 

が、

 

光輝「……随分と決断に時間をかけたな……だが…それでいい………今の感じを……忘れるな」

 

落ちてきた子供をキャッチして言い聞かせた

 

雫「!!」

 

子供は光輝にお礼を言い、その場を去っていった

 

この時、雫の心にある感情が溢れた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは『嬉しさ』だった

 

雫は光輝のことをなにもかも変わってしまったと思っていた

 

しかし、一連の全てを見た雫はそれが間違いだと気付いた

 

たしかに光輝は変わってしまった

だが、『優しさ』は無くしてなんかいなかった

 

助けないとか言っていた光輝だったが

見ず知らずの子供が一人勇気を踏み出すのをずっと同じ位置で動かず待っていた

 

それがすごく嬉しかった

 

自分がかつて憧れた、自分にとってのヒーローそのものだった

 

カズマ「ん?お前って確か八重樫雫だったよな?…たしか雑誌で見たことある天才剣道女子の?」

 

そこへ雫に声をかける者がいた

 

彼の名は佐藤和真

 

自分が通っている中学とは別の中学生だった

 

彼もまた光輝の一連の行動をずっと見ていたそうだ

 

そんな光輝をずっと見ていた雫を気になり声をかけたそうだった

 

カズマは雫になぜ光輝をずっと見ていたのか聞いてきた

 

あまり過去のことを話したくなかった雫は『昔、自分が光輝を一人にさせてしまう原因を作ってしまった……一人にさせたくなくて、自分から関わろうとしてもいつも拒絶される………もう自分の知る光輝はいなくなったと思っていた……けど……優しさはなくしてなんかなかった』と、ただそれだけ言った

 

そんな雫にカズマは

 

カズマ「そうか…なにがあったのかは聞かないでおいてやる………けどよ……お前の幼馴染は本当の意味で孤独じゃねえよ」

 

雫「え?」

 

カズマ「だってさ、自分のことをこんなにも気にかけ、関わろうとするやつがいるんだ…本当の孤独って奴じゃねえよ……」

 

雫「……本当の…孤独?」

 

カズマ「本当の孤独っていうのはな、誰からも気にかけられない、親しい者も無ければ、心を通い合わせる者もいない…それが本当の孤独だ……でもよ、あいつにはお前がいる……お前がアイツに関わろうとする限り…あいつは本当の意味で孤独なんかじゃないさ……もしかしたら…お前が関わろうとしなかったら…あいつは今のような優しさも損失していたかもしれないな」

 

雫「!!」

 

カズマ「八重樫…お前があいつを孤独にしたくなかったら……これからもしつこく絡みな。それこそうんざりするレベルで………いつか…あいつが心を開いてくれるその時までな」

 

それだけ言うとカズマは去って行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「それからカズマの言葉に吹っ切れた私は、光輝とこれまで以上に関わろうとしたわ……まあ…光輝には当然の如く拒絶されたわ……でも、少しだけど……彼が私の事を少しずつ…受け入れていったわ……すごく嬉しかった……昔の彼に……戻った気がして……ってユエ!?」

 

話に夢中になっていた雫がユエの方を見るとユエの目から涙が流れていた

 

ユエ「うっ…グスッ……光輝も雫も可哀想すぎる……それにどっちも優しすぎる……」

 

香織「………これは…もう……話しておいたほうがいいかな………雫ちゃん……これは光輝君から口止めされてることなんだけど……その頃の雫ちゃんって…とても暗かったって思わない?」

 

雫「ええ……でも香織……貴方が励ましてくれたり…私を精神的に支えてくれたから…」

 

香織「……たしかに……そんな風に暗くなっていた雫ちゃんのことが放っておけなくて……私は雫ちゃんの支えになろうとしたのは本当よ……でもね…その前に…光輝君からお願いされたの」

 

雫「……え?」

 

香織「『一生のお願いだ……お前が、雫の心を支えてやってほしい……』……そう言われた……光輝君……後悔していたみたい………あの時……他に解決方法はあったんじゃないかって……雫ちゃんの心に傷を負わせないことだって出来たんじゃないかって………多分…今もずっと後悔している…」

 

それは、雫ですら知らなかった事実だった

 

ユエ「……光輝」

 

ユエはかつて、自らの力のせいで伯父によって長年封印されていた

 

ハジメと光輝が来るまで、300年もの間ずっと孤独だった

 

会いに来てくれる人もいない

話し相手も居ない…そして先祖返り出会ったため死ぬことすらなかった

 

永遠の孤独

 

そんな地獄の中にずっと一人だった

 

だから孤独の辛さは誰よりもわかっている

 

そんな孤独だった自分の人生に転機が訪れた

 

ハジメと光輝との出会いだ

 

ふたりが自分を連れ出した

ハジメは自分に名を与え、孤独から開放してもらった

 

光輝はというとあまり関わろうとしなかった

しかし、彼の醸し出すそれは、かつての自身と近しいものを感じていた

 

周りから恐れられ封印され孤独になったユエ

人を助けた事で兄弟や家族から嫌われ、周りからも恐れられ、誰にも心を開くことなく孤独になった光輝

 

ユエはそんな光輝に対し親近感が湧いた

 

孤独の辛さがわかるからこそ…ユエも光輝を孤独にしたくなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「゛う゛ぅ゛ぅ゛……゛光゛輝゛!!……゛光゛輝゛!!……゛優゛し゛す゛ぎ゛る゛わ゛よ゛!!……゛あ゛な゛た゛は゛!!」

 

たとえ自身が一人になったとしても…雫のことを気にかけている

 

自分は光輝に守られていた……そう感じながら涙を流すのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「………盗み聞きするつもりはなかったが……随分とえらいこと聞いてしまったな……」

 

ハジメ「……ああ…」

 

王宮の廊下を歩くふたり

 

ふたりとも雫のお見舞いに来たのだが、光輝と雫の過去に何があったのか話しだしたそれに、思わず聞き耳を立ててしまった

 

そして知った

 

人嫌いで他人に心を開かない光輝がなぜそうなってしまったのかを……

 

カズマ「……あいつ……雫のことになるとそれまでの態度と一変するけど…それってさ…」

 

ハジメ「……過去のトラウマが原因だな」

 

これから光輝を見る目がこれまで以上に変わってしまいそうだと思うふたりであった

 

 



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第四十四話 帝国崩壊


帝国編?……そんなもの一話でいいわ


 

カズマ「い、いや〜…まさかこんな簡単に国が崩壊するなんてな……」

 

ハジメ「まあこの国大本が実力主義だからな………まさか2時間もせずに終わるとは思わなかったが…」

 

 

光輝と雫の過去を知り、今後のことをクラスメイト達に話した数日後

 

カズマを筆頭(アクア、ハジメ、シア、光輝、雫)にハイリヒ王国の同盟国であるヘルシャー帝国に来ていた

 

ここを訪れた訳とは、エヒトの事を含めた世界の真実を話す為、その神と戦うときが来たら協力して欲しい…更には国が抱えた奴隷となった亜人達の解放を言いに来たのだった

 

なぜこんなことをするのかハジメはカズマに聞いた

 

カズマ「味方を増やす為……亜人の奴隷解放をすれば全世界にいる亜人達から信用を得られる……そんであわよくばエヒトと戦うための同士を募りたい……まあでもそれとは関係なしに助けたい気持ちもあるけどさ。そしてエヒトを倒したあとの世界で、亜人達が差別されないよう円滑に進め安くするためにすぐにでも亜人の奴隷解放をさせたい所だ」

 

そして付いてくるハジメにこれは攻略と関係無いからこなくてもいいといったが

 

ハジメ「……俺は神殺しに同行しないが…せめて義理は通す」

 

カズマ「……そうかい」

 

因みにシアがついてきたのは自らも同族を解放したいと言い出したので同行させた

 

アクアはカズマが行くからと

 

光輝は『実力主義の帝国に興味がある……奴隷解放はついでだ』といい雫は『皇帝には借りがあるから一発かましてやりたい』といい着いてきた

 

実はオルクス大迷宮に行く2ヶ月の間に勇者一行に会いにヘルシャーから使者が来た

 

元々、エヒト神による〝神託〟がなされてから勇輝達が召喚されるまでほとんど間がなかったため、同盟国である帝国に知らせが行く前に勇者召喚が行われてしまい、召喚直後の顔合わせができなかった

 

もっとも、仮に勇者召喚の知らせがあっても帝国は動かなかったと考えられる

なぜなら、帝国は三百年前にとある名を馳せた傭兵が建国した国であり、冒険者や傭兵の聖地とも言うべき完全実力主義の国だからである。 突然現れ、人間族を率いる勇者と言われても納得はできないだろう。聖教教会は帝国にもあり、帝国民も例外なく信徒であるが、王国民に比べれば信仰度は低い。大多数の民が傭兵か傭兵業からの成り上がり者で占められていることから信仰よりも実益を取りたがる者が多いのだ。もっとも、あくまでどちらかといえばという話であり、熱心な信者であることに変わりはないのだが

 

使者が勇者一行に会いに来たのはこの2ヶ月の間に【オルクス大迷宮】攻略で、歴史上の最高記録である六十五層が突破されたという事実をもって帝国側も勇輝達に興味を持ち、帝国側から是非会ってみたいという知らせが来たのだった

王国側も聖教教会も、いい時期だと了承し、当日

 

訪れた使者達の護衛が勇者一行のリーダーであり勇者である勇輝に手合わせを願われた

 

帝国に勇輝を人間族のリーダーとして認めさせることは簡単だが、完全実力主義の帝国を早々に本心から認めさせるには、実際戦ってもらうのが手っ取り早いと判断した国王とイシュタルは立ち会いのもと模擬戦を行わせた

 

その勇輝と戦った護衛はというとなんとも平凡そうな男だった。高すぎず低すぎない身長、特徴という特徴がなく、人ごみに紛れたらすぐ見失ってしまいそうな平凡な顔。一見すると全く強そうに見えない。 刃引きした大型の剣をだらんと無造作にぶら下げており。構えらしい構えもとっていなかった。 勇輝は、舐められているのかと些か怒りを抱く。最初の一撃で度肝を抜いてやれば真面目にやるだろうと、最初の一撃は割かし本気で打ち込むことにした

 

このときこの戦いを見ていたカズマとアクア…そしてカズマから厳しい訓練を受けていた恵里と浩介(幸利はウルへ)はその護衛が只者じゃないことを見抜いた

 

すぐに終わるかと思われた戦いはすぐに決着がつくことはなかった

 

その護衛は勇者一行を除き、人間族でも上位の実力を持つメルドと同等がそれ以上の実力を持っていた

 

しかもその護衛は殺す気で戦ったのに対し勇輝はというと

 

勇輝「さっき俺を殺す気ではありませんでしたか? これは模擬戦ですよ?」

 

護衛「だからなんだ? まさか適当に戦って、はい終わりっとでもなると思ったか? この程度で死ぬならそれまでだったってことだろ。お前は、俺達人間の上に立って率いるんだぞ? その自覚があんのかよ?」

 

勇輝「自覚って……俺はもちろん人々を救って……」

 

護衛「傷つけることも、傷つくことも恐れているガキに何ができる? 剣に殺気一つ込められない奴がご大層なこと言ってんじゃねぇよ。おら、しっかり構えな? 最初に言ったろ? 気抜いてっと……死ぬってな!」

 

護衛が再び尋常でない殺気を放ちながら勇輝に迫ろう脚に力を溜める。勇輝は苦しそうに表情を歪めた。 しかし、護衛が実際に踏み込むことはなかった。なぜなら、護衛と勇輝の間に光の障壁がそそり立ったからだ。

 

イシュタル「それくらいにしましょうか。これ以上は、模擬戦ではなく殺し合いになってしまいますのでな。……ガハルド殿もお戯れが過ぎますぞ?」

 

ガハルド「……チッ、バレていたか。相変わらず食えない爺さんだ」

 

そう、その護衛の正体は魔導具で変装していたヘルシャー帝国の皇帝ガハルド・D・ヘルシャーだった

 

なんでも、この皇帝陛下、フットワークが物凄く軽いらしく、このようなサプライズは日常茶飯事なのだとか。

 

なし崩しで模擬戦も終わってしまい、その後に予定されていた晩餐で帝国からも勇者を認めるとの言質をとることができ、一応、今回の訪問の目的は達成されたようだった

 

しかし、その晩、部下に本音を聞かれた皇帝陛下は面倒くさそうに答えた

 

ガハルド「ありゃ、ダメだな。ただの子供だ。理想とか正義とかそういう類のものを何の疑いもなく信じている口だ。なまじ実力とカリスマがあるからタチが悪い。自分の理想で周りを殺すタイプだな。〝神の使徒〟である以上蔑ろにはできねぇ。取り敢えず合わせて上手くやるしかねぇだろう」

 

部下「それで、あわよくば試合で殺すつもりだったのですか?」

 

ガハルド「あぁ? 違ぇよ。少しは腑抜けた精神を叩き治せるかと思っただけだ。あのままやっても教皇が邪魔して絶対殺れなかっただろうよ」

 

どうやら、皇帝陛下の中で勇輝達勇者一行は興味の対象とはならなかったようである。無理もないことだろう。彼等は数ヶ月前までただの学生。それも平和な日本の。歴戦の戦士が認めるような戦場の心構えなど出来ているはずがないのである

 

ガハルド「まぁ、だが何名か俺の正体を見抜いていやがったのがいたな……中々面白そうなのが紛れていた分、一応は期待してやろうとは思ってる。ほかも魔人共との戦争が本格化したら変わるかもな。今は、小僧どもに巻き込まれないよう上手く立ち回ることが重要だ」

 

そんな評価を下されているとは露にも思わず、勇輝達は、翌日に帰国するという皇帝陛下一行を見送ることになった。用事はもう済んだ以上留まる理由もないということだ。本当にフットワークの軽い皇帝である

 

ちなみに、早朝訓練をしている雫を見て気に入った皇帝が愛人にどうだと割かし本気で誘ったというハプニングがあった。雫は丁寧に断り、皇帝陛下も「まぁ、焦らんさ」と返したそうだ

 

ちなみにだがこれを聞いた光輝は表情には表さなかったがわずかに殺気が流れていた

 

これにはカズマとハジメは『過保護』と思ったそうだ

 

 

その後カズマが主に対話をし真実を知ったガハルドだったが、要求の却下と信憑性に対し疑いを向けられた

 

そして言われた

 

ガハルド「ここは力と腕っぷしが物を言う国、ヘルシャー帝国だ!!お前らが戦おうとしている強大な相手と戦うだけの力、俺にその要求を呑ますだけの実力を示してみろ」

 

そういうとガハルドは大量の兵士を呼び出した

 

この国ヘルシャー帝国は傭兵団が設立した新興の国で、実力至上主義を掲げる軍事国家というだけあって、兵士を始めとするこの国で戦いを生業にするもの

 

そして皇帝であるガハルドの実力は人間族でも間違いなく上位に位置する……もっともそれは、イレギュラー達を除けばの話だが

 

カズマ「……はぁ…ま、ここが軍事国家って聞いていたときからこうなるとは思ってたが……」

 

ハジメ「だが、シンプルでわかりやすい」

 

光輝「……力に物を言わせるか……」

 

シア「ふ、ふぇぇ…結局こうなっちゃいましたぁ!!」

 

アクア「どうするのカズマ?やっちゃう?やっちゃうの!?」

 

雫「アクアはどうしてそう張り切っちゃってるのよ!!」

 

カズマ「……そうだな……ガハルド皇帝……アンタがこの国の流儀で示して欲しいと言うなら…お望み通り、こっちもその流儀に乗ってやんよ……」

 

ガハルド「そうか。ならお前達が勝てば、お前達の要求を全て呑もうだがお前たちが負けた場合は?」

 

カズマ「……全てだ」

 

ガハルド「なに?」

 

カズマ「俺の全てだ……命も、時間も…持っているものすべてだ……まあ要するにアンタの奴隷に成り下がってやるって言ったんだ」

 

ガハルド「ほう?……だがこの国が出来てから今日まで続く風習を無くすんだ……それだけじゃな『なら私も全部よ!!』……む?」

 

そんなカズマに続く形でアクアも名乗り出た

 

ハジメ「……んじゃ俺も」←手を上げた

 

光輝「……」スッ←手を上げた

 

シア「私も!!」←手を上げた

 

雫「……貴方が勝てば…愛人にもなんでもなってやるわ……もっとも…こっちが負けるなんてことは万に一つもないけどね!!」

 

カズマ「そういうわけだ……そっちはいくらでもかかってきてもいいぜ……帝国の持つ全戦力を叩き潰してやる!!」

 

カズマ達のすべて差し出す宣言を受け、ガハルドは自身の持つ全戦力を一行にぶつけた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「それで……もう終わりか?こっちは魔法も使ってねえし体力もまだまだ有り余ってるからやれるぞ?」

 

ガハルド「ちくしょうが! 俺の負けだ! 要求を呑む! ……帝国は強さこそが至上。こいつらは本当に全ての戦力を叩き潰した……“ヘルシャーを代表してここに誓う! 全ての亜人奴隷を解放する! 今、この時より亜人に対する奴隷化と迫害を禁止する! これを破った者には帝国が厳罰に処す! その旨を帝国の新たな法として制定する!”文句がある奴は、俺の所に来い! 俺に勝てば、あとは好きにしろ!」

 

そして約2時間後

 

ガハルド、そしてこの帝国全ての戦力を根こそぎ叩き潰した一行にガハルドは降参宣言と奴隷解放宣言を発令した

 

そんなガハルドのまわり、カズマ達の周りには多くの兵士、元兵士、軍の将校、冒険者、元冒険者、傭兵、元傭兵、暗殺者など文字取りこの国の戦力全てを倒した

 

しかもその全員を殺さずにおいた

 

これはガハルドに『我々はその気になれば殺すのも容易いがこれから神と戦うのに貴重な戦力をむざむざ減らすのは馬鹿じゃないか?』と示しており、ガハルドはその圧倒的な力の差を前に認めざるを得なかった

 

こうして長く続いた亜人奴隷の解放に成功した一行は今後のことをガハルドと話し合うのだった

 

以外にもガハルドは負けは素直に負けと認め、最初に口約束したことも律儀に守るなどどこぞの勇者にも見習って欲しいと思うほど誠実な男だった

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だがこの時アクアを見たガハルドが愛人にならんか宣言をした時首が斬り落とされた様な殺意を感じ、その殺意の元であるカズマが

 

カズマ「皇帝陛下様〜?人様の女に手を出そうとするなんて……今日をヘルシャーの血筋の命日にしてやろうか?

 

その時のカズマの目は全く笑っておらず、側にいたハジメやシアに雫すらもビビってしまうほどの殺意が流れていた

これにはガハルドも『獣のいや、竜の尻を蹴り飛ばしちまうとはな(トータスのことわざで【手を出さなければ無害な相手にわざわざ手を出して返り討ちに遭う愚か者】という意味)』とボヤいた

 

一応許しては貰えたが

 

カズマ「もし今度似たような事をしたら……股間スマッシャー様に頼んで世継ぎができないようにするからな?」

 

と脅した

 

それにはガハルドも股間を抑えながら頷くのだった

 

尚ハジメからは「人の女を不名誉なあだ名で呼ぶなそして頼むな!てかなんで知ってんだ!?」

 

カズマ「いやお前らを探すためにブルックに来たときにそんな呼び名の噂とその人物の特徴を聞いてさ、ウルでユエにあったときにもしやって思って聞いたらユエだった」

 

カズマとハジメの会話に何があったのか気になった雫だったがシアが教えるのだった

 

そして俺の女と呼ばれたアクアは頬に手を当てて照れていた



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第四十五話 忘れ去られし神代魔法

 

カム「カズマ殿!ボス!リーダー!!我らの一族を救っていただいたご恩、一生忘れません!!」

 

アルフレリック「我々フェアベルゲン全亜人全一族も、貴殿らに感謝とご恩を」

 

無事亜人の奴隷解放を果たした一行は、帝国の奴隷にされた亜人達を引き連れフェアベルゲンにたどり着いた

 

そこでは奴隷にされ離れ離れになった家族や恋人、友人の再会を喜ぶフェアベルゲンの亜人達の姿が見えた

 

そんな亜人一同はカズマ達に惜しみない感謝を伝えた

 

そんな中、帝国へ戦争を仕掛けようとする亜人の声が聞こえたがカズマが

 

カズマ「今はただでさえ人間族と魔人族が争っている中お前達まで戦争に参加してみろ。それこそこの世界の人々の争う姿を楽しむ邪神の思うツボだ……お前達が人間族を憎む気持ちはよくわかる…やり返したい気持ちもな………けどよ……それをやってしまったら……終わらない憎しみの連鎖が更に深まるだけだ……お前たちは、これから生まれてくる子孫たちにまでその憎しみの連鎖に巻き込むつもりなのか?」

 

カズマの言葉に帝国へ報復しようとした亜人達は驚き、声をあげられなくなっていた

 

カズマ「歩み寄らなきゃ…互いに……でなきゃ何も変わらない……俺は知って欲しいんだよ……人間も亜人も魔人も竜人も皆一緒だってな………確かにそれぞれの種族の壁や違いはある………けどな………家族がいて友達がいて……誰かを愛し、大切な人の為に戦う…大切な人の死に涙を流し怒る……違わないんだよ……内面は皆一緒だ……けどそんな彼らやアンタ達を終わらない争いの道へと進ませたのはこの世界に住む人々の命をおもちゃのようにもてあそぶ邪神エヒトだ………俺はエヒトを倒し、奴に支配されたこのトータスという箱庭を解放する……そしてこの世界に住む人々が争いや差別に遭わない……平和で戦う必要のない世界したい……それが俺の夢だ……大変なのはわかる……それを絵空事だと思うなら笑えばいい」

 

笑えばいいと言ったが、亜人達に笑うものは一人も居なかった

 

ハジメ「……わかってるみたいだな……それを笑うってことは……かつてこの世界をエヒトの支配から解放しようとした解放者達をも笑うことになるってことを………こいつのやろうとしていることは、確かにこの世界の住人達からすれば馬鹿みたいなことだろうよ……けどな…こいつの事を馬鹿にするのは俺が許さん……」

 

シア「カズマさんがやろうとしていることは、この世界に住む、私達を含めた全ての種族が、明るい未来へとたどり着けるようにするためです!!本来ならこの世界とは全く関係無い世界の住人でありながら、この世界の人達の為に!!」

 

アルフレリック「……我々は…どうすれば……」

 

ハジメやシアに気圧された亜人一同

 

その亜人一同を代表してアルフレリックが聞いてきた

 

カズマ「……俺は今、エヒトを倒すために様々な同志を集めている……今も集まっているがその中に魔人族の同志だっている……………本音を言えば…エヒトを倒すため、あんた達の力を借りたいと思ってる……けど強制はしない……自分でどうするべきか自分で決めなきゃ意味が無いからな…………」

 

それだけ言うとカズマははじめ達と共にハイリヒ王国へと飛んだ

 

カズマ達が去ったあと、アルフレリックとカム達フェアベルゲンの亜人達はこれからの自分達を考え話し合った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「あ、そういえば神山の大迷宮忘れてたわ」

 

ハイリヒ王国へ戻ったあとカズマのセリフを聞きそういえばそうだったとハジメ達も反応した

 

その後集まったカズマ達伝説のパーティーとハジメ一行は神山に訪れた

 

早速大迷宮探しを始めようとした時だった

 

アクア「……!!カズマ…あれ」

 

アクアが指差した方を見ると白い法衣のようなものを着た禿頭の男が立っていた

 

しかしその姿は透けてゆらゆらと揺らいでいた

 

禿頭の男は、カズマ達が自分を認識したことに察したのか、そのまま無言で踵を返すと、歩いている素振りも重力を感じている様子もなくスーと滑るように移動した

 

そして、姿が見えなくなる直前で振り返り、カズマ達に視線を向ける

 

香織「……あれ…ついて来い…ってことだよね?」

 

カズマ「……恐らくな…」

 

雫「ね、ねえ…あの人半透明でゆらゆらしてたけど…も、もしかしてあれって…」

 

アクア「幽霊ね」

 

雫「グフぅ!」

 

リアル幽霊を見たショックに気を失いかける雫

 

アクア「なんちゃって、冗談よ冗だ痛!!」

 

アクアの冗談に怒った雫が涙目でアクアを叩く

 

香織「……そういえば雫ちゃんって怖いのとか苦手だったよね…?」

 

一行がその幽霊?についていくこと5分

 

幽霊?が目的地らしき場所にたどり着いたかと思うと今度はある地点に指を差した

 

その場所に近づくと地面から大迷宮の紋章が出現した

 

その地面の紋章が発する淡い輝きがカズマ達を包み込んだのだった

そして、次の瞬間には、カズマ達は全く見知らぬ空間に立っていた。それほど大きくはない。光沢のある黒塗りの部屋で、中央に魔法陣が描かれており、その傍には台座があって古びた本が置かれている

 

どうやら、いきなり大迷宮の深部に到達してしまったらしい。 カズマ達は、魔法陣の傍に歩み寄った。カズマは、ハジメ達と頷き合うと精緻にして芸術的な魔法陣へと踏み込んだ。 と、いつも通り記憶を精査されるのかと思ったら、もっと深い部分に何かが入り込んでくる感覚がして、思わず皆ともに呻き声を上げる。あまりに不快な感覚に、一瞬、罠かと疑うも、次の瞬間にはあっさり霧散してしまった。そして、攻略者と認められたのか、頭の中に直接、魔法の知識が刻み込まれる

 

カズマ「……魂魄魔法?」

 

ティオ「う~む。どうやら、魂に干渉できる魔法のようじゃな……」

 

ユエ「……ミレディが、ゴーレムに魂を定着させて生きながらえていたのはこの魔法の力」

 

ハジメ「だろうな…」

 

アクア「この神代魔法、再生と合わせて私適性あるわ!」

 

めぐみん「私は無いですね……やはり爆裂一択しかないです」

 

ダクネス「私は生前から魔法の適性が全くないからこの魔法も上手く使えないな」

 

その後ハジメが台座に安置された本を手にとった

 

どうやら、中身は大迷宮【神山】の創設者であるラウス・バーンという人物が書いた手記のようだ。オスカー・オルクスが持っていたものと同じで、解放者達との交流や、この【神山】で果てるまでのことが色々書かれていた。 しかし、ハジメには興味のないことなので、さくっと読み飛ばす。ラウス・バーンの人生などどうでもいいのである。彼が、なぜ映像体としてだけ自分を残し、魂魄魔法でミレディのように生きながらえなかったのかも、懺悔混じりの言葉で理由が説明されていたが、スルーである

 

書紀の最後の辺りで、迷宮の攻略条件が記載されていたのだが、それによれば、先程の禿頭の男ラウス・バーンの映像体が案内に現れた時点で、ほぼ攻略は認められていたらしい

 

あの映像体は、最低、二つ以上の大迷宮攻略の証を所持している事と、神に対して信仰心を持っていない事、あるいは神の力が作用している何らかの影響に打ち勝った事、という条件を満たす者の前にしか現れないらしい

 

つまり、【神山】のコンセプトは、神に靡かない確固たる意志を有すること

 

おそらく本来、正規のルートで攻略に挑んだのなら、その意志を確かめるようなあれこれがあったのではないだろう

 

ただカズマ達はこの神山に入る前に神の使徒と戦ったりエヒトに染まった教会連中をひっ捕らえたりなどこの世界の神に抗う行動をしてみせたので色々ショートカットできたのだろう

 

この世界の人々には実に厳しい条件だが、カズマ達には軽い条件だった

そして台座に本と共に置かれていた証の指輪を取ると、カズマ達は、さっさとその場を後にした

 

王宮に戻ったあとカズマが

 

カズマ「!!……あの神代魔法……降霊術師の恵里なら適性あると思う!!そして恵里があれを覚えたら恵里と俺とアクアでラウス・バーンの考案した術が使えるかもしれない」

 

カズマのいう術とは、書紀に書いてあった生前のラウス・バーンが未完成の末残してしまった遺産のことであり、それにはアクアレベルの魂魄魔法の使い手がふたり必要である

 

ハジメ「いや急だな…それにラウスの神代魔法は最低でも2つの神代魔法を持ってなきゃいけないから無理だろ」

 

カズマ「フッ…忘れたかハジメ。俺にはテレポートがある…一度行ったことある場所ならテレポートで好きなようにまわることができる!」

 

ハジメ「!ま、まさか…」

 

カズマ「つうわけでちょっと今から恵里とプチ攻略してきまーす」

 

それだけ言うとカズマは恵里を探しに王宮をまわっていった

 

その翌日

 

王宮に帰ってきたかカズマの横には、色々と疲れ果てた様子の恵里の姿があった

 

ちなみに恵里はオスカーとメイルの神代魔法を手に入れたようだった



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第四十六話 四つの証と再生の力


投稿初めて2ヶ月と2週間ちょっとで50話過ぎたのは普通に快挙です。これは一年かけて投稿する数だったので…


 

ハジメ「ついに来た……思えばここを後回しにしてまた来るのにどれほど掛かったか…」

 

カズマが恵里を連れ回した後、一行(カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス、ハジメ、ユエ、シア、香織、ティオ、光輝、雫)は再びフェアベルゲンに到着した

 

丁度霧は晴れており、大樹までたどり着くことができた

 

また亜人達の中には一部がカズマに賛同しエヒトに立ち向かうと決めた物が現れた

 

しかもハウリア族はカムを含めた全員が集った

 

それに喜んだカズマがテレポートで彼らをオスカーの隠れ家まで送った

 

一行が大樹の前にある石板に近づく

 

そこには4つの攻略の証と再生の力と書かれており、ハジメがこれまで得た大迷宮の証を取り出しながら、証をはめ込む窪みがあり、ハジメが神山以外の攻略の証をはめ込んだ

 

直後、大樹そのものが盛大に輝き、紋章が出現した

 

ティオ「む? 大樹にも紋様が出たのじゃ」

 

ユエ「……次は、再生の力?」

 

カズマ「多分な……ユエ、アクア、香織…やってみな」

 

カズマに言われた3人が大樹に出現した輝く紋様に歩み寄り、そっと手を触れながら再生魔法を行使する。 直後

 

パァアアアアア!!

 

今までの比ではない光が大樹を包み込み、3人の手が触れている場所から、まるで波紋のように何度も光の波が天辺に向かって走り始めた。 燦然と輝く大樹は、まるで根から水を汲み取るように光を隅々まで行き渡らせ徐々に瑞々しさを取り戻していく

 

シア「あ、葉が……」

 

ダクネス「生命に…満ちているな」

 

まるで、生命の誕生でも見ているかのような、言葉に出来ない不可思議な感動を覚えながら見つめるハジメ達の眼前で、大樹は一気に生い茂り、鮮やかな緑を取り戻した

少し強めの風が大樹をざわめかせ、辺りに葉鳴りを響かせる。と、次の瞬間、突如、正面の幹が裂けるように左右に分かれ大樹に洞が出来上がった。数十人が優に入れる大きな洞だ。 ハジメ達は顔を見合わせ頷き合うと、躊躇うことなく巨大な洞の中へ足を踏み入れた。 ハジメが少し懸念していたこと――実際に四つ以上の大迷宮を攻略していないメンバーは樹海の大迷宮に挑戦できないのではないかという点については、どうやら杞憂だったようである

 

問題なく全員が洞の中へ入ることが出来た。 おそらく他の大迷宮と同じく、『入りたければ、あるいは入れるものなら入ればいい。但し、生きて出られる保証は微塵もないけど』というスタンスなのだろう

 

直後、洞の入口が逆再生でもしているように閉じ始めた。 入口が完全に閉じ暗闇に包まれた洞の中で、咄嗟にユエが光源を確保しようと手をかざした。が、その必要はなかった。 なぜなら、足元に大きな魔法陣が出現し強烈な光を発したからだ

 

香織「きゃあ!な、なにこれ!?」

 

雫「なになに! なんなのっ!」

 

ハジメ「騒ぐな! 転移系の魔法陣だ! 転移先で呆けるなよ!」 動揺する香織達にハジメが注意した直後、彼等の視界は暗転した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「っ……ここは……」

 

再び光を取り戻したハジメ達の視界に映ったのは、木々の生い茂る樹海だった。大樹の中の樹海……何とも奇妙な状況である

 

アクア「みんな、大丈夫?」

 

アクアが軽く頭を振りながら周囲の状況を確認し仲間の安否を確認した。それに雫が「大丈夫」と返事をする。ユエ、シア、ティオ、香織も特に問題はないようで、周囲を警戒

 

ハジメ達が飛ばされた場所は、周囲三百六十度、全てが樹々で囲まれたサークル状の空き地であり、取るべき進路を示す道標は特に見当たらなかった。 頭上は濃霧で覆われているので飛び上がって上空から道を探すことは出来そうにない。

 

ハジメ「……取り敢えず、探すしかないな」

 

光輝「……」

 

ハジメは不機嫌そうに呟きながら白眼を開眼し道を探しながら歩く

 

それを見てカズマ達が頷く

他のメンバーもその後を付いて行く。しかし、ハジメだけは、どこか瞳に冷たさを宿しながら何故かその場を動かない

 

歩き出して、それに気がついたシアが頭上に〝?〟を浮かべてハジメの方へ振り返った

 

シア「……ハジメさん? どうし――」

 

シアが、ハジメに声をかけた……その瞬間、 シュバッ! そんな風切り音が響いたかと思うと、一瞬でユエとティオがワイヤーに巻き付かれた挙句、両端の球体が空中で固定され拘束されてしまった。ハジメが、神速で〝宝物庫〟から拘束用アーティファクトであるボーラを取り出し投げつけたのである

 

ジタバタともがくユエ、ティオ。そんな彼女達を見てシアと香織が唖然とする。

 

更にそのそばでは雫を須佐能乎で拘束する光輝

カズマに向けて水の鎖で拘束しそれぞれ杖と剣を向けるアクアとめぐみんとダクネス

 

香織もどこか緊張したような表情でハジメ達に視線で事情説明を求めた

 

ハジメ「……少し黙ってろ」

 

ハジメはそれだけ言うとユエのもとへ無言、無表情でスタスタと歩み寄った。 そして、自分を困惑したように見上げるユエの額にゴリッとドンナーの銃口を押し付けた。その瞳には絶対零度の冷たさが宿っており、ハジメが激烈な怒りを抱いていることが示されていた

 

ユエ「ハジメ……どうしっ」

 

ユエが、自分に銃口を向けるハジメを見て信じられないといった表情をする。そして、ハジメの名を呼びながら疑問の声を上げようとした。 が、その直後、 ドパンッ! ハジメは躊躇うことなくドンナーの引き金を引いた。樹海に、乾いた炸裂音が木霊する。一応、銃口は額から外されてユエの肩に向けられていたが、それでもハジメが最愛の恋人を撃ったことに変わりはない

 

その事実に、シア達は当然激しく動揺する

 

そして、ハジメの正気を疑うような眼差しを向けた。

 

香織「な、何をやってるの! ハジメ君!」

 

シア「ハジメさん! やめて!」

 

シアと香織が、焦燥感に満ちた制止の声を上げハジメを止めようとするが、そこでようやくシアが違和感に気がついたようで逆に香織を手で制した

 

ハジメ「許可なくしゃべるな、偽物。紛い物の分際でユエの声を真似てんじゃねぇよ。次に、その声で俺の名を呼んでみろ。手足の端から削り落とすぞ」

 

ハジメが声を発した瞬間、まるでその場が極寒の地にでもなったかのように冷気で満たされた。実際に気温が下がっているわけではない。その身から溢れ出る殺意が、生命の発する熱を削ぎ落としているのだ。心なし、周囲が暗くなった気さえする

 

またその側からアクア達の憤怒まで伝わっていた

 

アクア「ねえあなた…なに私達のカズマさんの姿で喋ってるの?」

 

めぐみん「死にたいのですか?今すぐにその身体をその世界から細胞残らず消し去ってやりますか?」

 

ダクネス「本物のカズマをどこへやった?話さなければここを貴様の墓場にしてやる」

 

その彼女達の憤怒を上回るほどの殺意が光輝から垂れ流れていた

 

光輝「……悪趣味だな……ここは…下手すればライセンやメルジーネの大迷宮の方が幾分かマシなほどに」

 

ハジメ「お前は何だ? 本物のユエは何処にいる?」

 

ユエ「……」

 

ユエの姿をした〝何か〟は表情をストンと落とすと無機質な雰囲気を纏って無言を貫いた

〝何者〟ではなく〝何か〟なのは、撃たれた肩から血が流れ落ちないので〝人〟ではないのは確かだ

 

ドパンッ!

 

ハジメは、今度は逆の肩を撃ち抜く。しかし、ユエの偽物は表情一つ変えることはなかった。どうやら痛覚がないらしい

 

ハジメ「答える気はないか。……いや、答える機能を持っていないのか。ならもういい。死ね」

 

ドパンッ!

 

ハジメは、ドンナーの銃口をユエの額に向けると今度こそ頭部をレールガンで撃ち抜き吹き飛ばした。ユエ(偽)の後方に、何かがビチャビチャと飛び散る。

 

思わず顔を背ける香織達だったが、堪えてよく見てみれば飛び散ったのは脳髄などではなく赤錆色のスライムのようなものだった。頭部を失ったユエ(偽)の胴体は、一拍おいてドロリと溶け出すと、同じように赤錆色のスライムに戻りそのまま地面のシミとなった

 

ハジメは続けてボーラで拘束しているティオの頭部も撃ち抜く

 

その傍らではアクアがカズマを水牢に閉じ込めたかと思うと手をグッと握る

すると水牢は一気に圧縮し中にいるカズマは潰れた

しかし、出てきたのはユエの偽物と同じスライムモドキだった

 

そして光輝も天照を使い雫を焼き尽くすが悲鳴一つ挙げずに焼失した

 

ハジメ「チッ。流石大迷宮だ。いきなりやってくれる……」

 

シア「ハジメさん……ユエさんとティオさんにカズマさんと雫さんは…」

 

ハジメ「転移の際、別の場所に飛ばされたんだろうな。僅かに、神代魔法を取得する時の記憶を探られる感覚があった。あの擬態能力を持っている赤錆色のスライムに記憶でも植え付けて成り済まさせ、隙を見て背後からって感じじゃないか?」

 

ハジメが恋人をダシにされて不機嫌そうに表情を歪ませる。ハジメの推測を聞いて香織とシアが感心したように頷いた

 

香織「なるほど。……それにしてもハジメ君だけじゃなくて光輝君にアクアちゃん達もよくわかったね」

 

シア「はい、私達にだって見分けがつかなかったのに、どうやって気がついたんですか?」

 

シアが、また成り済ましで仲間に紛れられたら困るとハジメ達に見分け方を聞いた

 

そんな疑問に対するハジメの答えは……

 

ハジメ「どうって言われてもな。……見た瞬間、わかったとしか言いようがない。目の前のこいつは〝俺のユエじゃない〟って」

 

アクア「馬鹿にしないでくれない?こちとら何十年連れ添ってると思ってるの?」

 

めぐみん「全くですよ、アクアと違って私とダクネスはブランクがありますが」

 

ダクネス「私達が生涯唯一人惚れた男の事を見分けがつかない訳がない!」

 

ある意味、惚気とも言えるような回答に香織とシアがガクッと脱力した

 

ちなみに光輝はというと

 

光輝「知らん、目にした瞬間に身体が勝手に動いた」

 

本能なのかそれとも勘なのかは知らないが光輝は雫を見たときに一瞬でそれが本物ではないと察知した

 

ちなみにハジメと光輝はともに魔眼を使ってない

 

こうして一行は、大迷宮のその先を進んでいくのだった



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第四十七話 怒る者達/変化した者達

 

大樹の中の大迷宮を進んでしばらく経つが、未だにカズマ達の姿が見えない 

 

その道中虫型の魔物が襲ってきた

 

虫型の魔物は地上の魔物以上の強さと数で攻めてくる

おそらくこれが他の者達が攻略に来ていたら数の暴力ですぐに壊滅していただろう

 

しかし…

 

ズドォオオオン!! ドォゴォオオン!! ゴォバァア!!

 

樹海の中に地を揺らす程の轟音が幾度となく響き渡り、生息する生き物が半ば恐慌に陥ったかのように爆心地からの必死の逃亡を図っていた

 

ハジメ 「オラァ!! 森ごと果てろやァ、ドカス共がァ!!お前ら雑魚は数に入んねえんだよ!!さっさと失せやがれ!!」

 

絶えず響き続ける轟音に混じって、そんなガラの悪い叫びが聞こえる。 声の主はハジメだ

その両手にオルカンを持ってロケットやミサイルを乱発している

 

アクア「来るなら手加減しないわよ…今私達ものすごく機嫌が悪いから」

 

アクアは向かってくる魔物に魔法で生成した大量の水を圧縮した水の塊を操って魔物に高速でぶつけていく

 

とてつもない量を圧縮した水の塊により魔物は身体を次々と潰され絶命した

 

めぐみんは杖から超加減した爆裂魔法を魔物の群れに放ったり近づいてきた魔物の身体に直接触りその身体に爆裂魔法(威力超加減)をエンチャント(魔法の付与)させ、身体を爆散させた

 

ダクネスはというとデコイ(挑発スキル)を発動し向かってきた魔物を特にスキルも使わず長剣で斬り裂く

 

しかしその一つ一つの攻撃に殺意が込められており、地面に叩きつけると地面にクレーターができるほどの威力で魔物を切り裂いていた

 

そして光輝はというと無言だがその目には怒りと殺意が籠もっており魔物を刀とクナイで一撃で仕留めていた

群れが向かってくれば天照で焼き尽くしたり、須佐能乎の弓矢で仕留めるなど、大した苦戦はしていないものの5名共に苛立ちと怒りの空気を放っていた

皆大樹をこのまま滅ぼす勢いで攻めていた

 

シア「あ、あの、ハジメさん、光輝さん、アクアさんにめぐみんさんダクネスさん、もうそれくらいで……」

 

香織「そ、そうだよ、皆。きっとあの魔物も、もう死んじゃってると思うし……やり過ぎだし」

 

オロオロしながらシアと香織が制止の声をかける。 しかし……

 

ハジメ 「あ゛ぁ゛?」

 

アクア「ごめんなさいシア、香織…なにか言ったかしら?

 

めぐみん「すみません。爆音でよく聞こえてませんでした…なにか言いましたか?

 

ダクネス「すまない、なにか言ったか?

 

光輝「……」←苛立ちと殺意の目を向けた

 

シア「ヒィッ!!い、いえ、何でもないですぅ!!」

 

香織「う、うん!じ、邪魔しちゃってごめんなさい!!」

 

血走った目で振り返ったハジメに、威圧感のある声で話す3人娘に無言だが目に苛立ちと殺意に満ちていた光輝の5人に臆し即行で前言を撤回してすごすごと引き下がったシアと香織

 

シア「い、いつものアクアさん達じゃないですぅ!!」

 

香織「う、うん。あんなに怒ったアクアちゃんなんて初めて見たわ……でも無理ないよね」

 

荒れてるのには訳があった

それはカズマ達を探しながら大迷宮の探索した時のことだった

とある魔物と邂逅したことが発端である

 

その魔物は猿型の魔物で群れをなして襲ってきた。樹々を足場に縦横無尽に飛び回って、あらゆる角度から飛んでくる攻撃は中々に厄介で、どこから手に入れたのか棍棒や剣なども装備していた

 

猿型の魔物はそのトリッキーな動きで一行を翻弄しようとしたが、当然それでもハジメ達の敵ではなかった。 出来るだけ早くユエ達と合流したかったハジメや光輝にアクア達はさくさくと片付けていった

仲間があっさり殺られていくことに危機感を覚えたらしい猿型の魔物は、この時点で最優先目標をハジメ達5名に変更

猿型というだけあって知能は高いのか、人質を取ろうと行動し始めた。しかし、ハジメにとっては、その程度の浅知恵などお見通しであり、むしろ人質を取ろうとする猿型の魔物の思考すら利用して瞬殺していった

その辺りで、猿型の魔物もどうあっても敵わない相手だと気が付いて撤退すれば良かったのだが……中途半端に知恵が回るものだから選択を誤ってしまった。そう、彼等にとって最悪の選択をしてしまったのだ。 その主たる原因は猿型の魔物が持つ固有魔法――〝擬態〟である

 

あのハジメ達を怒らせた赤錆色スライムと同じだ。 転移陣が読み取ったユエ達の情報も受け取って、はぐれた大迷宮挑戦者の仲間に成り済ますことが出来る

ただ、赤錆色スライムと異なるのは猿型の魔物達が先に述べたように知恵が回るという点だ

すなわち、どのような人物に擬態して、どのような行動をとれば相手が心を乱すか、という点を考えることが出来るのである。考えることが出来てしまったのである

 

結果、彼等は擬態した。最も危険な敵が、最も大切にしている者に。激しく動揺させるために最低の方法で。 猿型の魔物達は、奥の茂みから擬態した同胞を引きずって来たのだ。その姿はユエと雫だった。あられもない格好で傷だらけとなり、なされるがままに引きずられる姿。赤錆色スライムと同じく、転移陣によって読み取られた情報をもとにしているので見た目は本物と寸分違わない

 

当然、ハジメ達はそれがあっさり偽者だと見抜いたくらいであるから、猿型の魔物達が引きずって来たそれがユエでないことはわかりきっている

 

それでも、本物と寸分違わない以上はユエと雫はほとんど裸とも言える悲惨な姿を見ているのと変わらないので、取り敢えずユエ(擬態)の裸が目に映らないよう光輝の目を潰そうとしたが、そのハジメの腕を掴み受け止めた

 

ハジメ「お前…なんのつもりだ?」

 

光輝「お前の方こそなんのつもりだ…」

 

ハジメ「偽物とはいえユエの裸体を俺以外の男の視界に入れさせたくないだけだ。大人しく潰れてろ。そっちこそ雫の裸体を俺に見せたくないんじゃないか?」

 

光輝「それを俺に言ってどうする。あいつを俺の女かなんかだと思っているなら今ここで消すぞ」

 

互いに人場離れした握力で掴み合っていた

 

この時点で既にハジメ…そして光輝もキレかかっていたが、まだ十分に理性は利かせられていた。しかし、知能はあっても空気は読めない猿型の魔物達。ハジメと光輝の目の前でユエ(擬態)と雫(擬態)を殴りつけると下卑た笑みを浮かべ、更に擬態した魔物がハジメと光輝に目を向けながらユエと雫の声で

 

ユエ(擬態)「……ハジメ、助けて」

 

雫(擬態)「助けて……光輝」

 

などと言ってしまった

 

その時、誰もが確かに耳にした。ブチッと何かが切れる音を

 

その瞬間ハジメと光輝の姿が一瞬で消えたかと思うと

ハジメが上空に飛びドンナーをユエ(擬態)と後方の猿共に放つ

それとほぼ同時に光輝が雫(擬態)と後方の猿共の首を一瞬ではね、振り返りざまに天照で徹底的に焼き尽くした

 

その直後にボロボロに痛めつけられたカズマまで引きずり出された

目は潰され両手両足は切り落とされ、達磨と化していた

 

それを目にしたアクア達は相手のカズマ(擬態)が何かを言う前に大量に圧縮した水(一粒重さ20トン)の雨、威力と魔力を抑えつつ分裂する爆裂魔法の雨を、衝撃と斬撃の雨を降らせた

 

そして現在、業火に包まれる樹海の一部を見れば、何があったか一目瞭然だろう。 既に、四方五百メートルが完全な焼け野原となっている。よく見れば、人型の炭化した何かがあちこちに転がっている。他にも蜂型の魔物やアリ型の魔物らしき残骸もちらほら見られた

 

これだけの惨劇を生み出した5人に対し、シアと香織は色んな意味でひいていた

 

その時、何かがこちらに向かってくる気配を感じたハジメと光輝はその方向へ目を向けた

 

すると現れたのは3匹のゴブリンだった

 

突然現れたゴブリン達にに警戒するシアと香織だったが、さっきまで暴れていた5人はなぜかそのゴブリン達を攻撃しようとしなかった

そのうちの一匹のゴブリンにアクアとめぐみんとダクネスは抱きついた

 

そして叫ぶ

 

アクア/めぐみん/ダクネス「「「カズマー!!」」」

 

シア/香織「「ええええ!?」」

 

3人娘がゴブリンに抱きつきそれをカズマと呼ぶ姿に驚くふたりだったがその傍らで

 

ハジメ「……ユエだよな?」

 

ゴブリン1「グギャ!」

 

シア/香織「「……は?」」

 

今度はハジメがゴブリンをユエと呼んだ

 

そして

 

光輝「……雫か…」

 

ゴブリン2「!……グギャ」

 

光輝「……そうか…」

 

最後に残ったゴブリンを雫と呼ぶ光輝

 

シア「えっと、ハジメさん。まさかと思いますがユエさんなんですか。その、私には魔物に見えるのですが……その…アクアさん達もその魔物をカズマさんって呼んでますが…」

 

香織「わ、私も魔物に見えるよ。本当にユエなの?…それに……本当に雫ちゃんなの光輝君…?」

 

疑問の声を上げて目の前のゴブリン達を見るシアと香織

 

そんな二人を、ユエと呼ばれたゴブリンはチラリと見たあと何かを訴えるように「グギャ、グゴゴ、ギャアギャ」とハジメに向けて鳴き始めた

 

そして、やはりまともに喋れないことに悄然と肩を落とす。 しかし、そこはハジメ。ユエをこよなく愛する彼の前に不可能はない

 

ハジメ「ん? ん~、転移したあと気が付けばその姿に変えられていたって?」

 

ゴブリン1「! グギャ! ……グゴゴ」

 

ハジメ「ふむ、肉体そのものが変質したってところか……」

 

ゴブリン1「グギャ……ギャギャ、グギ」

 

ハジメ「装備品も失ったのか。……ああ、爆音が響く場所にハジメありってか? まぁ、間違ってないか……」

 

ゴブリン1「……ギュウウ、ゴゴ」

 

ハジメ「そうか、魔法も使えないと……でも、これ以上変質するような感覚もないか」

 

ゴブリン1「ギギギ、ガギ」

 

ハジメ「まぁ、大丈夫だろう。これもおそらく試練の一つだろうしな。不可避のスタート地点に立った時点でゲームオーバーとか試練の意味がない」

 

ゴブリン1「……ギュウウ?」

 

ハジメ「ああ、あとティオはいないんだ。おそらくユエ達と同じだろう。何の魔物かまでは分からないが……まぁ、そう心配するなよ、ユエ。いつも通り何とかするさ」

 

ゴブリン1「……グギャ!」

 

普通に会話が成立していた

 

ちなみにその横では

 

ゴブリン3「ゴガガガ!!ガ!」

 

アクア「そうね、魔物に姿変わるなんてあっちの世界以来よね」

 

めぐみん「あのときはウィズの魔導具の影響でゴブリンになってましたね」

 

ダクネス「ゴブリンなのにやたら強かったのがすごい印象的で何十年たった今でも鮮明に覚えてるぞ」

 

ゴブリン3「ギャ!ゴグゥ、バグッ!!」

 

アクア「フフ、確かに…正直一生ゴブリンのままかと思って焦ったわ…」

 

めぐみん「たしか戻るのに5日は掛かったはずです」

 

ダクネス「屋敷の中にゴブリンがいるのは絵的に違和感を覚えたが3日くらいで慣れたな」

 

ゴブリン2「ゴギィ……」

 

光輝「……なんだ…」

 

ゴブリン2「!!ジギャ!?」

 

光輝「普通に話せ…普段通りのつもりで話せ…」

 

ゴブリン2「ジジャア、ジョウゴ……」

 

光輝「……なってしまったものは仕方ないだろ……気を落とすな……試練が終われば戻れるはずだ」  

 

なんか思い出話に花を咲かせているゴブリン(カズマ)とアクアめぐみんダクネスと人の言葉が話せなくて落ち込むゴブリン(雫)を慰めている光輝

 

シア「いやいやいや!!なんで話が通じてるんですか!?」

 

香織「そしてなんで見分けつけるの!?」

 

あまりにも普通に見分けた上に会話までしている5人に驚きながら聞くふたり

 

そんなふたりに対しハジメとアクア、めぐみんとダクネスはというと

 

ハジメ「は?姿形が変わったくらいで、俺がユエを見失うわけない。それだけのことだ」

 

アクア「だから言ったでしょ?何年連れ添ってると思ってるのよ…」

 

めぐみん「確認せずとも彼が私達の男であるカズマだとわかりますよ」

 

ダクネス「ああ、それにカズマがゴブリン化するのはこれで二度目だから……もっともそれが無くとも見分けがつくが」

 

シア/香織「「……さいですか…」」

 

ほとんど惚気に近い事を言われふたりは口から砂糖が出そうになった

 

ちなみに光輝はというと

 

光輝「知らん…目にした瞬間にそれが雫だと考えるよりも先に気付いただけだ」

 

本人すらもよくわかってないが雫だと見分けたようだった

 

その光輝のセリフに心なしかゴブリン(雫)の頬が紅くなったように見えた

 

その後再生魔法を使って元に戻そうとしたが上手く行かず、一行はそのまま先へ進むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが道中ゴブリンの群れにいたぶられて喜んでいるゴブリンを見かけた一行はそれがティオであると気づくがあまりにも酷い絵面に助けようか迷ったという

 

なおそれを見たダクネスが軽く息を荒らげているとゴブリン(カズマ)がまるで『こいつ年のせいで無くなったと思っていた性癖が再発し始めてるな』とでも言いたげな目をダクネスに向けたのだった

 

 



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第30.5話 旅の前日





 

カズマ「いいんだな…?俺がお前らのリーダーになってよ…」

 

永山「ああ…はっきり言って天之河兄の決断力の鈍さや自分の不手際の癖にお前に南雲や天之河を責めるあの態度は問題しかない……まだお前の方があいつよりリーダーとして向いているって俺は思っているし、他の奴らもお前なら納得してる…」

 

ホルアドの宿に戻り勇輝やハジメ達を除く面々とカズマが話し合っていた

 

カズマはハジメ達と一緒に地球へ帰還できる方法を見つける旅をするといい、勇輝の次に大きなパーティーを持つ永山や他の面々に推され、地球組の面々の総まとめ役になった

 

カズマ「時々戻ってくるが…その間はそうだな……永山がまとめといてくれ…んで浩介と恵里は補佐役頼むわ」

 

浩介「了解」

 

恵里「うん、わかった」

 

カズマ「もし天之河兄がなんか言ったらこう言っとけ『なにも決断できないお前についていくほど俺達は馬鹿じゃない』ってさ……それと浩介と恵里…あとで俺の部屋に来てくれ」

 

それだけ言うとカズマはその場を去った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その日の夜

 

カズマとアクアが使う宿の部屋に集まった浩介と恵里に自分達の秘密やこの世界の真実を話した

 

ふたりは驚いた様子だったがカズマとアクアの強さに歳の割に達観している姿勢などを考えると納得したのか信じてもらえた

 

そしてカズマとアクアがこの世界に残りエヒトを倒すと言うとふたり共カズマ達に力を貸すと言ってくれた

 

浩介は友達残して地球に帰りたくないからと、恵里はふたりが残って戦うならと言い、今日だけでカトレアを含め3人の同志が集まった

 

その後浩介は部屋を出ていき

部屋にはカズマとアクア…そして恵里だけが残った

 

カズマ「ん…今日だけで色々なことがあって疲れたなあ……」

 

アクア「そうね……でもお陰で目的には近づけてるからいいじゃない…」

 

カズマ「まあな……それはそうと恵里……うん?」

 

アクア「もう私達だけしか居ないから……ね?」

 

そう言うとふたりは恵里に向かって両手を広げ、いつでも抱きつけるようにした

 

恵里「!!………もう疲れたよお兄ちゃん(・・・・・)!!お姉ちゃん(・・・・・)!!」

 

するとそれまでの態度と一変し恵里がカズマとアクアに抱きついた

 

恵里はかつて、親からの虐待により自殺をしようとしていたが、それを食い止めたのが他でもないカズマとアクアだった

 

転生し子供になったふたりだったが精神年齢は前世から引き継いでおり、恵里の悩みをまるで父と母のように優しく聞き出し…その虐待していた親を警察に引き渡せるよう手引きし、恵里を毒親から救い出した

 

その後恵里は親戚の家に引き取られる事になったが、そんな恵里を気にかけたふたりはその後も恵里と交流を共にする

 

当時心が荒んでいた恵里だったが、自分にここまで真摯に向き合うふたりに心を許すようになり、やがて荒んでいた恵里の心は晴れ、まるで兄や姉の用に接してくるふたりを『お兄ちゃん』『お姉ちゃん』と呼ぶようになった(カズマとアクアと自分しか居ないとき)

そんな恵里をふたりはまるで自分達の妹のように接し、度々恵里を甘やかせていた

 

恵里「もうやだー!!…あの勇者(笑)は問題ばかりしか起こさないし龍太郎は脳筋+金魚の糞だし香織は突撃娘だし檜山の香織に向ける視線気持ち悪いし鈴はセクハラしてくるし雫は可哀想だしでもう精神的に疲れたよ!!」

 

アクア「ヨシヨシ、恵里は頑張ったわね」

 

カズマ「ああ、悪いな。お前に面倒な役目を押し付けてしまって…」

 

恵里「!ううん、それはいいよ!僕はお兄ちゃん達の役に立ちたかったから……でもここまで精神的に疲れることになるなんて思わなかったよ……あの勇者(笑)達のせいでメンタル削られるし……まあでも鈴や雫達に浩介と会話してある程度精神回復させれたからいいけど……」

 

カズマ「……ほんとごめんな…」

 

そう言いながらカズマは恵里の頭を優しく撫でた

すると恵里は撫でていたカズマの手とアクアの手を取ると頬に押し付けるように握りしめた

 

その表情はまるで大好きな人形を抱きしめてるかのような癒やしと安心に満ちていた

 

恵里「……ねえお兄ちゃん、お姉ちゃん……明日には……行っちゃうんだよね?………お願いがあるんだけど………もし雫が行きたいなんて言い出したら…連れて行ってあげて」

 

カズマ「…!」

 

恵里「近くで見ていて感じたんだけど……彼女ね、弟君(光輝の事)の事でとても悩んでいたよ……大迷宮の探索のときも、うわの空だったことが多々あった……そして今日……ハジメと弟君が来たときに…雫、すごく泣いてた……嬉しかったみたい……それを見て思った……雫は香織と一緒…ううん、それ以上に自分が一途に思っている人と一緒にさせたほうが良いって……正直あの勇者パーティーにこれ以上置いとくのは彼女の為にならないと思うんだ……」

 

アクア「……恵里は……一緒に来ないの?」

 

恵里「フフッ…本当は僕だってついていきたいよ……でも僕まで行くと王国が手薄になるからね……自慢じゃないけど今の僕、お兄ちゃん達やハジメ達を除く地球組の面々の中じゃ割りと上位に立てるくらい強いからさ…」

 

カズマ「………すまん…もうしばらく王国で待機しておいてくれないか?……それと、雫の件は任せてくれ」

 

恵里「フフッ……ありがとう………ねえ、明日には旅立つなら…今日はこのままふたりと一緒に寝てもいい?」

 

カズマ「!!……ああ…もちろんだ」

 

アクア「フフッ、恵里と一緒に眠るなんていつ振りかしらね……」

 

そう言いながら恵里の頭を撫で続けるアクアとカズマ

 

やがて恵里は心地よい寝顔を浮かべながら眠りにつくのだった

 

カズマ「……そういえばこのあと俺光輝に指導しなきゃ行けないんだったな…」

 

アクア「そうなの?……じゃあ鍵は開けてるわね」

 

カズマ「おう。んじゃあ行ってくるわ」

 

そう言いながらカズマはコートを羽織り、宿の外へ出ようとした

 

そこへ

 

雫「…佐藤君……ちょっと良いかしら?」

 

なにかを悩む表情を浮かべた雫がカズマを呼びかけた

 

カズマ「……どうかしたか八重樫……」

 

恵里にはああ言ったが、カズマは雫の口から直接聞きたかった

 

『自分も連れて行ってほしい』と

 

雫「……佐藤君……私は……どうしたらいいの?」

 

カズマ「……」

 

雫「この世界に来て…光輝と離れ離れになって、また会えたと思ったらまたどこかに行く……このままなにもしなかったら……光輝がドンドン遠くに行っちゃいそうな気がするの、物理的じゃなくて心情的な意味で………」

 

雫は悩んでいた

自分は光輝を放っておけない…放っておきたくない……でもどうすればいいかが分からなくて躓いていた

 

そんな悩める雫にカズマは口を開く

 

カズマ「……なあ八重樫……お前はどうしたい?」

 

雫「……え?」

 

カズマ「確かにこのままだと光輝は2つの意味で離れ離れになるだろうな………なら一つしかないだろ?」

 

雫「!!……で、でも……光輝はきっと」

 

カズマ「拒絶するだろうな……お前がついてくることに……だがな雫……お前自身……そしてお前の心は…後悔……したくないんだろ?……」

 

雫「!!そ、それは……」

 

カズマ「……今のお前に必要なのは白崎の様に相手を一途に思い、そんな相手に何があろうとしがみついて離さない、スッポン並みのしつこさと積極さだ」

 

雫「……一途に思い……しつこさと積極さ…」

 

カズマ「……俺これから光輝と乱闘するから……自分の中で考えを決めたらこい……答えをきかせによ」

 

それだけ言うとカズマは宿を後にしたのだった

 

それから十数分が経ち

 

雫「……ふぅ…そうね……もう決めたわ!!」

 

それだけを言い宿を飛び出し街の外まで走る長髪ポニーの姿があった





第三十一話

https://syosetu.org/novel/307613/38.html


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第四十八話 理想の現実

 

地球、日本で高校生として、理想通りの恋人であるユエと楽しい日常を送っていた

 

こんな甘くて優しい世界が続けばいいと思っていたハジメ

 

だが

 

(……理想通りの恋人? 甘く優しい世界? 馬鹿か、俺はっ!)

 

ハジメは目元を手で覆うとギリギリと音がしそうな程歯を食いしばった。そうしなければ、流されかけた自分の弱さを許せそうになかったのである

 

(……自分で立てた誓いも忘れて、仮初の世界に溺れそうになるなんて、我ながら反吐が出そうだっ)

 

ハジメは手を下ろすと気合を入れるように、あるいは罰を与えるように思いっきり自分の頬を殴りつけた。ドガッと生々しい音が響く。ハジメの突然の行動に驚いたユエが慌てて駆け寄りその手を伸ばすが、 バシッ! ハジメの振るった手に勢いよく振り払われてしまった

 

 

 

ハジメは思い出した

自分たちはハルツィナ樹海の大迷宮を探索していた

ゴブリンの姿をしたティオを回収したのち、再び魔法陣を見つけそれに飛び込んだ

そして目を覚ませば、自分は日本にいて、トータスの世界にいた記憶を忘れており、日本にいないはずのユエやシア達と甘酸っぱい学園生活を送っていた

しかし、その日常が進めば進むほどハジメの心に言いようのない違和感となにか忘れてはいけないことを忘れているのではと思うようになった

 

 

 

決め手となったのはユエの笑顔だった

 

その笑顔を初めて見たのは己がトータスでユエと出会い、行く場所も変える場所もない彼女に一緒に地球へ来るかと誘った時だった

 

『共にハジメの故郷に行く』

あったばかりだというのに、それだけのことで表情の乏しかったユエが、まるで花が咲いたように満面の笑みを浮かべたのだ。心底、幸せだとでも言うように

 

そして今、悲しげな表情で自分の手をもう片方の手で包み込むユエの顔が目に浮かぶ

 

その表情に、おそらく大迷宮が作り出したその表情に、ハジメは「……ふざけやがって」とドスの効いた声音で悪態を吐いた

 

偽ユエ「……ここにいて? ここにいればハジメはずっと幸せ」

 

ハジメ「黙れ、偽者。気安く俺の名を呼ぶな」

 

偽ユエ 「……どうして? 私はユエ。ハジメの恋人。理想通りの恋人。何が不満なの?」

 

ハジメ 「全部だバカ野郎。俺の言うことなら何でも聞く、俺を独占しようとしてくれる、都合のいい理想通りの恋人? それはもう、ただの人形だろうが。俺は人形を愛でるような趣味を持っちゃいない」

 

偽ユエ「……違う。人形じゃない。全ての人格を引き継いだ上でハジメの理想を体現したのが私。だから、ここにいて。ハジメが望めば全てが理想通り。ずっと傍にいるから」

 

どうやら、ただの偽者というわけではないらしい。この世界も、登場人物達も転移陣で読み取った記憶と人格を元に作り出されたもののようだ。そこに、本人の〝もし、こうだったら〟という、叶うはずのないIFを付け足し、より理想的な世界を作り出したのだろう。 確かに、奈落で味わった苦痛や、これから立ち向かわなければならない困難を思えば、それなくしてユエ達とあの平和な日本で暮らしていられるというのは理想的と言えるかもしれない。

 

だが、

 

ハジメ「度し難いな。余りに的外れで哀れになるぞ」

 

ハジメは、つまらなさそうにそう言うと、カッ! とその体から紅い光を爆ぜさせた。透き通るような紅い魔力が一瞬で仮初の世界全体に伝播し、それだけに留まらず、その密度を凄まじい勢いで高めていく

 

偽ユエ「なぜ…」

 

ハジメ「何故もクソもあるか。簡単な話だ。俺の理想通りのユエなんてゴミ以下だよ。現実のアイツは俺の理想なんか遥かに超えている。現実のユエ以上に魅力的な女なんて存在しないんだよ!他の連中もそうだ。どいつもこいつも俺の理想なんて踏みつけて、俺を俺たらしめてくれる! つなぎ止めてくれる! 強くしてくれる! 思う通りになんてまるでなりゃあしない厄介な奴等ばっかりだ! だがな……だからこそ俺達は一緒にいるんだよ!!」

 

バリィイイイン!!

 

やがてハジメと偽ユエの世界は、ハジメの持つ魔力により崩壊したのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天之河光輝はどこにでもいる普通の高校生……ではなかった

 

スポーツ万能、成績優秀、抜群のルックスにカリスマを兼ね備えた完璧超人とも言うべき脂質を兼ね備えたスーパー高校生だった

 

そんな彼には幼い頃から夢があった

それは、泣き祖父のような誰もを助けられるようなヒーローになることだった

 

彼には自身と同じ夢を持つスーパー高校生である双子の兄天之河勇輝、その勇輝と親友である坂上龍太郎、幼馴染であり二大女神と呼ばれるほどの可憐な美少女白崎香織、そして八重樫雫の5人といつも楽しく充実した毎日を一緒に過ごしていた

 

 

 

怒りや失意、罪の意識に憎悪とは無縁の優しい世界

 

溢れ出る安心 安らぎ 多幸感

 

 

 

 

 

そんな日々に包まれていた彼は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なんだ この気色の悪さは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

激しい不快感を抱いていた

 

 

 

光輝は思い出した

自分がトータスで大迷宮の攻略をしていたことを

魔法陣に入り、気づけば地球の日本にいた

 

傍らには自分に笑いかける兄や幼馴染達の姿が、そして頭に流れてくるのは、この世界での自身の記憶

 

その記憶の中では、自分はいじめられていた雫を一切の暴力(・・・・・)を振るうことなく守り、更には兄から自分の間違いを謝罪され、幼馴染達と共に楽しく笑顔で夢を叶えようと頑張り続ける日々を送っていた

 

それに対し酷い不快感と怒りの感情が溢れ出る

 

その感情と共に溢れ出た光輝の膨大な魔力は世界を揺るがし、その魔力に当てられた兄や幼馴染の面々も地面にふした

 

偽勇輝「ど、どうしたこう」

 

偽者の勇輝の言葉を聞くことなく、光輝は須佐能乎を出し、勇輝と龍太郎、香織の偽者を潰した

 

偽雫「ど、どうしてなの光輝!?これは、貴方が望んだ人生じゃな!?」

 

そう言う偽物の雫を須佐能乎の拳で掴み上げ

 

光輝「………るな…」

 

偽雫「……え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「あいつを傷つけ、笑顔を奪った俺に、あいつと同じ声で笑いかけるな偽者が!!

 

そのセリフと共に天照を発現し、雫の偽者を焼く

 

光輝「……これが…俺の理想の人生だと!?……ふざけるなよ……俺は、こんな風に笑える…あいつがあんな優しい笑顔を俺に向ける……こんな優しい世界に居ていい存在じゃないだろ!?………」

 

光輝は怒りの表情を浮かべつつ、自分自身を呪うかのような目を向ける

 

そんな光輝に、未だ焼かれ続けている雫の偽者が口を開く

だがその声は雫ではない、別の誰かだった

 

「……合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」

 

その言葉を聞き終えた光輝はそのまま雫の偽者を握り潰した

 

光輝「……馬鹿言ってんじゃねえよ……俺は……決して幸せになっていい人間じゃねえ……俺はもっと醜く残酷な世界で、ゴミみてぇな最後を迎えなきゃいけねえ人間だろうが」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「……違う!!」

 

ドレスを着て、姫と優しい笑みで自分を呼ぶ王子……光輝に大きな違和感を感じ、そして思い出した

 

自分はトータスで大迷宮の攻略をしていた事を

 

探索中に見つけた魔法陣に触れ、気がつくと自身はお姫様になっており、そんな自分を優しくエスコートする光輝の姿

 

それに多幸感を抱いていたが、自分に優しい笑みを浮かべた光輝を見て記憶を取り戻した

 

そして思い出す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの日から笑顔を浮かべることが無くなった光輝が……笑顔を奪った自分に笑顔を浮かべるわけがない

 

 

 

雫「光輝が優しく笑顔を浮かべることができる世界……でも私はこの世界に居ていい存在じゃない……そして忘れてはいけない………彼を孤独にしてしまった事を…笑顔を…夢を奪ってしまった自分の業を…」

 

雫は自分が被っていたティアラやドレスのスカートを引き千切った

 

それは自分はこの世界にとどまるつもりはなく、目を覚まし現実へ戻るという意思表示だった

 

そんな雫に偽者の光輝は口を開く

 

「……合格だよ。甘く優しいだけのものに価値はない。与えられるだけじゃ意味がない。たとえ辛くとも苦しくとも、現実で積み重ね紡いだものこそが君を幸せにするんだ。忘れないでね」

 

そして偽者の光輝から強い光が放たれ、世界が一変したのだった

 

 



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第四十九話 精神の試練

 

カズマ「おい!起きろ光輝!雫!!」

 

魔法陣を通り抜けた一同は、それぞれが甘く優しい理想の世界にいる夢を見ていた

 

ハジメが目を覚ますと既にカズマとアクアとめぐみんとダクネスが起きていた

 

曰くこの手の精神的な試練には慣れていたとのこと

要は経験の差

これにはハジメも伊達に年食ってないなと思った

その後次々とメンバー達が目を覚ます

 

なお魔法陣を抜けたあとにはゴブリンに変わっていたカズマとユエと雫とティオは元の姿になっていた

その後目覚めた順番にどんな夢を見ていたのかを聞くと

 

カズマ達伝説のパーティーは生前の異世界での楽しい冒険者ライフを送っていた

 

ユエは吸血鬼族の王妃として生き、ハジメとの間にダース単位で子宝に恵まれていた

 

シアは家族が追われる前にハジメ達と出会い、その上一緒に暮らしており、シアの弱さを許容するような生き方を許されていた

 

ティオはウィルに毎日のように容赦のない責めを受けていた

 

香織はハジメとのR18指定の夢を見ていた

 

しかし一同はそんな優しくも甘い理想郷の世界に大きな違和感を覚え、最後には自力で破った

 

そして最後に目覚めた光輝と雫だったが、その表情はあまり良くないものだった

 

光輝は不機嫌そうであり、雫も夢の内容になにか不満があるのかあまりよろしくなかった

 

気になったカズマがふたりにどんな夢だったか聞くと

 

光輝「実に反吐が出る不快な夢だった」

 

雫「あんな理想と甘さしかない夢を受け入れかけていた自分に腹が立つ」

 

と、夢の内容を教えてはもらえなかった

 

それから一同は再び先へ進むと様々な試練が遅い掛かった

 

触れると発情する液体の雨を降らすスライムに襲われ、高い異常状態耐性を持つダクネスとアクア以外は皆やられたがハジメは当たらなかった為発情せず、ユエ達は一度は発情仕掛けたが持ち前の精神力で耐え、ティオは『妾はご主人様(ウィル)の下僕ぞ! この程度の快楽、ご主人様(ウィル)から与えられた痛みという名の快楽に比べれば生温いにも程があるわ!! 妾をご主人様(ウィル)以外に尻を振る軽い女と思うてくれるなよぉ!!!』と叫んだ

 

これには一同引いていた

なお唯一ダクネスだけはティオの言葉に強い共感を覚えたそうだった

 

カズマはある程度の耐性を持っており、めぐみんは発情仕掛けるたびにカズマに軽めの魔法を流し痛みで発情を止めていた

 

雫はというと剣術を習う上で、父から心を静める方法はみっちり叩き込まれていたようで精神統一で耐えていた

 

そして光輝はというと

 

光輝「!!」

 

自らの身体に雷を流していた

その表情は自分を発情させ、女性陣(特に雫)をそういうふうに見させようとしたスライムに対し深い苛立ちを感じていたようだった

 

そしてスライムは全て天照で焼き尽くされたのだった

 

やがて発情は止み、一行は歩き続け、再び魔法陣を見つけ、そこに飛び込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ達が転移した場所は、やはり洞の中だった。

 

しかし、いつもと違うのは正面に光が見えること

外へと通じる出入り口が最初から開いているのだ。 ハジメが周囲を見渡せば、メンバーも欠けずに転移して来た様子。白眼を使っても偽物の存在は感じ取れない。つまり、今回はそのまま進めということなのだろう。 ハジメ達は互いに一つ頷き合うと光が差し込む出入り口に向かって歩みを進めた

 

ハジメ「これは……まるでフェアベルゲンみたいだな」

 

ハジメが光の先を見てそう呟く。その感想にユエ達も確かにと頷いた。 洞の先はそのまま通路となっていたのだが、その通路と見紛うものは洞から続く巨大な枝だったのだ。ハジメが背後を振り返れば、端を捉えきれないほど巨大な木の幹が見える

つまり、ハジメ達がいたのは巨木の枝の根元にある幹に空いた洞だったというわけだ。 木が大きすぎて幅五メートルはある枝がそのまま通路となり、同じく、巨木のあちこちから突き出している巨大な枝が空中で絡み合って、フェアベルゲンと同じように空中回廊となっているのである

フェアベルゲンと異なるのは、向こうが幾本もの大きな木から生えた枝が絡み合って空中回廊となっているのに対し、こちらは、巨木一本から生えた枝だけで広大な空間に空中回廊を作り上げているという点だろう

上を見上げれば石壁が見えるので、ここが馬鹿でかい地下空間だとわかる。そして、この世に大樹のような巨木が何本もあるとは思えないことから、ハジメ達が立っている巨大な枝とそれが生えている背後の巨木は……

 

ユエ「……大樹?」

 

シア「そういうことになりますよね。ここは大樹の真下の空間ってことですか」

 

香織「でもそれだと、地上に見えてた大樹って……」

 

ダクネス「ふむ、地下の幹から枝が生えているということは、本当の根はもっとずっと地下深くということだな。ならば、地上に見えていた部分は大樹の先端部分という事になりそうだ」

 

ティオ「 いやはや、大樹の存在は知っておったが、まさかあれがほんの一部だったとは……」

 

アクア「本当の大きさはどれくらいになるかしら?」

 

皆が皆、改めて大樹の凄まじいまでの巨大さに度肝を抜かれて無意識に頭上を仰いだ。視線の先は天井の壁に阻まれていたが、それでも全員、天を衝く大樹の姿を幻視する。

と、その時、シアのウサミミがピクピクと動き出した。何かの音を捉えたようだ

 

シア「何の音だろう?」

 

と、その正体を確かめるべく枝の淵へと歩いていく。 ガサガサ、ザワザワと微かに聞こえるそれは何となく生理的嫌悪感を覚えるもので、ずっと下の方から響いてくる。シアはウサミミ障りなその音に顔をしかめ、いつの間にか鳥肌の立っていた肌をさすりながら、そっと下を覗き込んだ。

 

シア「ん~? 暗くてよく見えないです。……あの、ハジメさん」

 

ハジメ「どうした?」

 

シア「何だか下から嫌な感じの音が聞こえてくるんです。でも私の目じゃ暗くて正体が……」

 

ハジメ「ああ、俺に確認しろってことか」

 

シア「はい、お願いします。何か、蠢いてる? そんな感じの音です」

 

ハジメ「……嫌な音だってことはよくわかった」

 

そう言いながらハジメは白眼を開眼しようとしたが

 

カズマ「ああハジメ……俺……分かっちゃったわ……この音の正体」

 

突然カズマがハジメに向かってそう言った

 

それに怪訝そうな目を向けるハジメにカズマは

 

カズマ「多分見たら後悔するぞ……いや、どのみち後悔するか……あの音……地球出身者やアクアにめぐみんとダクネスも聞いたことあるやつだ……」

 

ハジメ「いやだから何なんだよ正体は!」

 

カズマ「……そうだな……ヒントは台所によく出没し…その見た目のインパクトは一度見たら忘れない……ハエは3匹見かけてもなんともないが、そいつは一匹見つけただけでもパニックになる程の圧倒的存在感……そして圧倒的な生命力とIQ300超えの超生物……つまり?答えは」

 

ハジメ「……っ!?」

 

ハジメはそれが何か理解した途端、すぐに白眼を開眼してみせ、声にならない叫びを上げつつガバッ! と顔を上げて、目頭をキツく指先で摘みながら青褪めた表情をした

 

シア「ハ、ハジメさん!? 一体、どうしたんですか! ハジメさんがそんな反応するなんて……一体何を見たんです?」

 

ユエ「……ハジメ、大丈夫?」

 

カズマのヒントを聞いたハジメはまるで恐怖に戦くように顔を青褪めさせている姿に、一体何事かとユエ達も集まって来た

 

いや、よく見るとカズマ達伝説のパーティーと光輝と雫はカズマのヒントを聞きすぐに臨戦態勢を取る

つまり彼らはカズマのヒントを聞き、その正体に気がついたということ

 

ユエと香織が心配そうにハジメの背中をさすっている。シアも、そっと手を握った。 その温かさで少し気を持ち直したハジメは、真剣な表情で全員を見渡すと震える声で呟いた

 

ハジメ「……悪魔がいる」

 

ユエ/シア/香織「「「悪魔?」」」

 

要領を得ないハジメの言葉に三人娘が首を傾げる。

 

ハジメ「ああ、悪魔だ。お前等もよく知っている黒い奴等だよ…………」

 

そう言うとハジメも臨戦態勢を取る

 

ユエ達もなんのことだか分からないが同じように臨戦態勢を取る

 

やがて一行の目の前にカサカサカサと不快な音とともに姿をあらわしたの

 

一匹見つけたら三十匹はいると思え! という言葉と共に恐れられてきた黒い悪魔の名を冠する頭文字Gのあんちくしょう。いつもカサカサ這いよる混沌、陰から陰へ高速で移動し、途轍もない生命力でしぶとく生き足掻く。宙を飛べば、地球であっても混乱と恐慌の状態異常をもたらす固有魔法まで使える強者、お母さん達と飲食店の仇敵

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その名を……ゴキブリ

 

そのゴキブリが、この地下空間の底辺に、数百万、数千万、否、もはや測定不能なほど蠢いているのだ。例えるならゴキブリの海。波の如く寄せては返すのはゴキブリの波だ

 

それが一行に襲いかかった

 

 

 



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第五十話 Gの呪い

 

 

 

アクアやユエ、香織が結界魔法を使いゴキブリが近づけないようにした

 

迫りくる大量のGことゴキブリの群れに全員が持てる力のすべてを発揮しゴキブリの殲滅に当たった

香織や雫は何度か気絶しかけたがその度に他の面々が励まし、どうにか気を落ち着かせた(というよりこの地獄の光景から気絶して夢へ逃げることが許せなかった)

 

光輝でさえゴキブリに強い拒否反応を示しており、天照や豪火球に千鳥流しを使い100メートル以内に近づかせないようにしていた

 

ハジメも火炎放射器を使い汚物の消毒をする

 

どうにかこのペースならなんとかなると思っていたその時だった

 

結界に群がっていたゴキブリが一斉に引いたのだ

何事かと訝しむハジメ達の前でゴキブリの波は空中で球体を作ると、それを中心に囲むように円環を作り出した。 巨大な円環の外周に更に円環が重ねられ、次には無数の縦列飛行するゴキブリが円環のあちこちに並び始める。次第に幾何学的な模様が空中に作り出されるその光景を見て、ハジメの頬が盛大に引き攣った

 

ハジメ「おいおいおい、まさか……魔法陣を形成してるのか?」

 

カズマ「だから言っただろ?ゴキブリはIQ300超えの超生物だって。魔法だって使えてもおかしくねえよ!」

 

ハジメ「いやそれは追い込まれたり危険を察知した場合の話だろうが!!」

 

めぐみん「今がまさに向こうがその危険を察知して魔法が使えるくらいの頭脳を持ち始めたんじゃないですか?」

 

という感じでやばいと思ったハジメ達が一斉に攻撃をするがまるでその魔法陣とその魔法陣の中央に存在する球体を守るようにゴキブリの波が立ちはだかった。 文字通り、肉壁となってハジメ達の攻撃を阻む。吹き飛ばされ絶命したゴキブリの死骸が豪雨となって下方へ降り注ぐが一向に減ったようには見えなかった。 そうこうしている内に魔法陣が完成してしまったらしい。空中に浮かぶ直径十五メートル近い魔法陣が強烈な赤黒い光を放つ。そして、次の瞬間弾けるとゴキブリで構成された中央の球体がグネグネと蠢き形を変え始め、遂には……全長三メートルほどの巨大ゴキブリ……ボスゴキブリとなった

 

 

ボスゴキブリは、不快な鳴き声を発しながら赤黒い燐光を纏う。すると、周囲にゴキブリが集まり、更に魔法陣を形成し始めた。どうやら、ボスゴキブリは他のゴキブリを自由に操れるらしい。そして、新たな魔法陣の中央に幾分小さめの球体が幾つも形成され始める。

 

ボスゴキブリ程ではないが、大きく特殊なゴキブリが出現するのは明らかだ

 

ハジメ「チッ、させるッッ!?」

 

ユエ「……んっっ!?」 ハジメとユエが、同時に魔法陣に対して攻撃を加えようとした瞬間、突然、足元から魔力の奔流が発生した。 咄嗟に視線を落とす二人だったが、足場の枝通路には何もない。だが、ハジメの魔眼は枝通路の更に下――通路の裏側に、いつの間にかゴキブリが集まって魔法陣を形成している光景を捉えていた。 おそらく、眼前で派手に魔法陣を形成し、それに注目させている間にこっそりと作っていたのだろう。ハジメがマズイ! と思った瞬間には既に発動した後だった。 足場の枝通路を透過して赤黒い魔力が迸る。激しい光にハジメ達が顔を手で庇った。爆発したかのような閃光が周囲一帯を包み込み、そして収まった後、そこには……無傷のハジメ達の姿が

 

一体、何だったんだ? と訝しみながら、ハジメは隣のユエを見た

 

ユエ「……」

 

そうして湧き上がった感情は無事な姿に対する安堵でも、いつもの愛おしさでもなく…… ――嫌悪だった

 

いや、もう憎悪と言い換えてもいいかもしれない。そんな深く暗い感情を、ハジメは――――ユエに感じていた。 それは、どうやらユエの方も同じようだ

 

すぐ傍で、ハジメを見上げるその表情は憎々し気に歪められ、瞳には殺意すら宿っている

 

ハジメ「ユエ」

 

ユエ「……ハジメ」

 

互いに慣れ親しんだ名前を呼び合い、同時に不快感をあらわにする

 

ハジメ「……お前のことが滅茶苦茶憎いんだけど」

 

ユエ「……あなたのことが凄く憎い」

 

そして、同時に澱んだ感情をストレートに浴びせつつ武器を突きつけあった。ハジメはドンナーをユエの額に、ユエは蒼炎を宿らせた右手を掲げて。ついでに

 

ハジメ「あ?」

 

ユエ「んん?」

 

とヤクザ屋さんも真っ青なメンチを切り合う。

 

シア「ちょっと、何をしているんですか、二人共」

 

と、そんな一触即発の二人に、突如、声がかけられる。シアだ。ドリュッケンを肩に担いだまま、いや、どちらかというと振りかぶったような体勢で二人に制止の声を……

 

シア「お二人をぶっ殺すのは私ですよ? 勝手なことしないで下さい」

 

かけることもなく、ハジメ達と同じく、その瞳に嫌悪と殺意を宿らせて睨んでいた。 ハジメも、ユエに感じる殺意に近い悪感情をシアに感じる。ハジメが思わず射殺しそうになるのを堪えながら周囲を見渡せば、ティオと香織もハジメやユエ、そしてシアにとそれぞれがそれぞれに憎しみの眼差しを向けているのがわかった

 

光輝と雫も互いのことを憎むように見ていた

 

カズマ「……なるほどな…今のは好意と悪意の反転する魔法か…」

 

ダクネス「だ、大丈夫か!!」

 

アクア「私はなんとかね…一応異常状態の耐性はあるけど気を抜くと魔法の影響受けそうだわ……こういうとき女神だったときに使ってた羽衣があればこんな魔法の効果効かないのに…」

 

めぐみん「私は自分の魔力で魔法の効果の侵食を抑えてますが…結構キツイです」

 

一方、カズマ達伝説のパーティーは魔法の効果に抗っていた

 

ダクネスはパーティー随一の生身の防御力と高い異常状態耐性を持っており魔法の効果が反映されないでいた

 

カズマとアクアはダクネスほどではないが異常状態耐性を持っておりどうにか事なきを得た

 

そしてめぐみんは3人程の異常状態耐性は持ってはいないものの、持ち前の魔力で心身に作用する魔法の効果の侵食に耐えていた

 

カズマ「……さっきティオがここの大迷宮のコンセプトの考察していたが………絆だっけか?……たしかにそのとおりかも知れないな」

 

道中ティオはこの大迷宮のコンセプトについて考え、それは『絆』ではないかと考えた

大迷宮の入口の石板にもヒントがあり

 

その内容は

 

『四つの証』『再生の力』『紡がれた絆の道標』『全てを有する者に新たな試練の道は開かれるだろう』

 

最初のは4つの大迷宮攻略の証を指し

再生の力は再生魔法

 

紡がれた絆の道標は当初亜人族による大樹までの案内だけとおもっていたが、攻略において絆を試すという意味でもあったのではないか

 

仲間の偽物を見抜くこと、変わり果てた仲間を受け入れること、これぞ〝紡がれた絆〟が試されているのではないかというのがティオの考察

 

更に理想の現実の試練に快楽の試練、そして仲間同士の好意と悪意の反転の試練

 

最後の試練はかなり厄介極まりなかった

 

なぜなら味方を敵のように思うだけでなく、それまで嫌悪感を抱いていた敵……ゴキブリが愛おしく思えてしまい攻撃の手が緩めてしまう…

 

このままでは連携などまともに取れず、それどころか足を引っ張り合ってゴキブリの津波に呑み込まれるか、ボスゴキブリと次々と生み出されている体長一メートルくらいの中型ゴキブリを前に刃が鈍り餌食になるか

 

…… 普通なら絶体絶命というべき状況なのだろう

 

……しかし、ここにいるメンバーは普通などという評価からは最も縁遠い存在だ

 

特に

 

ハジメ「……なあ天之河、俺普段お前の事が何故か嫌いだ…初めて会ったときからな……けど今はその反対に仲良くやれそうだと思っている……が」

 

光輝「……ああ…俺もお前が嫌いだ…初めて会ったときから……俺もお前とは仲良くやれそうに思う……が」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/光輝「「……それ以上に気持ちわりぃ!!!」」

 

この異常者共は魔法の効果が反映され、普段仲が良いとは言えない関係だったが魔法の効果で互いのことを快く思っている……そのことが魔法の効果を上回るレベルの気色悪さに上書きされた

 

更にふたりともかなりキレていた

 

魔法の効果で今は憎む気持を抱いて入るがハジメはユエとの愛情と優しさの日々を覚えているために自分達がどれだけ想い合っていたのか理解でき、その想いを利用されたが故のもの

 

光輝はかつて自身が傷つけてしまった雫へ憎悪の感情を向けたことによる怒りだった

 

二人の大切を弄んだが故の怒り

 

激烈などと言う表現ではまるで足りない、言葉で表現などとてもしきれない巨大な怒りが、今、互いに感じる好意を置き去りにし、更にはゴキブリに対する愛おしさをサディスティックなものへと転化する。それはきっと、今この瞬間だけでなく、これまでの迷宮の試練に対する鬱憤も含まれているのだろう

 

そして、それはハジメと光輝だけではなかった。 ハジメと光輝が発する物理的な衝撃すら伴っていそうな巨大な怒りのプレッシャーにゴキブリ達が怯んで後退る中、ユエ、シア、ティオ、香織、雫の5人もまた表情を怒り一色に染めて鬼のような形相になっている

 

各々がこれまで築き上げた絆や想いを踏みにじられたかのような怒りを覚え、自らの想いで元凶であるゴキブリへの好意を悪意に変えた

 

カズマ「あらら……これはゴキブリ達死んだな…」

 

アクア「これ私達必要かしら?」

 

めぐみん「まあ…危なくなったら加勢すればいいですよ」

 

ダクネス「ああ…今は彼らの怒りの鬱憤を晴らさせてやろう」

 

ダクネスの言葉にカズマ達は賛同した

 

そしてそこからは怒り狂ったハジメたちによるゴキブリの大虐殺劇が幕を上げ

それからゴキブリ達が全滅するのにそう時間がかかることはなかったのだった



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第五十一話 第六の神代魔法

 

カズマ「うぇ…ゴキブリの死骸まみれじゃねえかよ…」

 

アクア「ここを歩いていくのは勇気がいるわね」

 

めぐみん「どうしますか?私の爆裂魔法で滅菌しますか?」

 

ダクネス「いや、お前の場合は滅菌じゃ済まなくなりそうだ…滅菌っていうより消滅だな」

 

ハジメ達によりゴキブリは一匹残らず滅ぼされ、魔法の効果を受けていた一同は正気に戻った

 

ユエ「…ハジメ!!」

 

ユエがハジメに抱きつき謝った

 

それに答えるハジメはユエにキスをする

 

それを見たシアに香織もハジメにキスをせがむ

 

その横では雫が光輝に申し訳なさそうにしていた

 

雫「光輝……私…」

 

光輝「……謝るな……あれはゴキブリ共のせいであってお前の意思じゃないだろ…なら気にするな…」

 

それだけ言うと光輝は聞こえるか聞こえないかくらいの音程で『すまない』とボヤいた

 

なお雫にはしっかりと聞こえていた

 

その時

突然、天井付近の大樹の一部が輝き始めた。

メキメキッと音を響かせながら大きな枝が新たに生え始める。 その枝は、新たな通路となってどんどん長さを伸ばすと、遂にハジメ達がゴキブリに襲われた四本の枝通路が合流するポイントに五本目の枝通路として引っ付いた。上から伸びてきた枝通路なので、枝の節とも相まって天へと伸びる階段のようにも見える。 ハジメ達は顔を見合わせると、休憩もそこそこに先へ進むことにした

 

ただし、ハジメはユエを抱っこしたまま。ユエが離れようとしなかったし、ハジメが離そうとしなかったのだから仕方がない

むくれたシアと香織が左右から抱きついたのは言うまでもない

 

そんなハジメ達をカズマ達は『若いなあ』『若いわねえ』『若いですね』『若いな』とボヤき、ティオからは『お主ら年寄りくさいのじゃが?』と言われた

 

五本目の枝通路を登りきると、そこにはいつものように洞が出来ていた。躊躇いなく進むと、案の定、光が溢れ出し転移陣が起動する。 光が収まったあとハジメ達の目の前に広がっていたのは……庭園だった

空が非常に近く感じられる。 空気はとても澄んでいて、学校の体育館程度の大きさのその場所にはチョロチョロと流れるいくつもの可愛らしい水路と芝生のような地面、あちこちから突き出すように伸びている比較的小さな樹々、小さな白亜の建物があった

そして一番奥には円形の水路で囲まれた小さな島と、その中央に一際大きな樹、その樹の枝が絡みついている石版があった。 ティオがスタスタと歩いて庭園の淵に行き眼下を覗き込む

 

ティオ「カズマよ。どうやらここは大樹の天辺付近みたいじゃぞ?」

 

ティオの言葉に、他のメンバーも庭園の端から下を見やる。すると、眼下には広大な雲海と見紛う濃霧の海が広がっていた

 

アクア「……それじゃあ…ここがゴールってことよね?」

 

アクアの呟きに香織達がハッとした表情をする。

口々に「ここが……」とか「やっと……」などと呟いている

それらを尻目にハジメは一番奥にある石版のもとへ歩いて行った。 水路で囲まれた円状の小さな島に、ハジメ達が可愛らしいアーチを渡って降り立つ

途端、石版が輝き出し、水路に若草色の魔力が流れ込んだ。水路そのものが魔法陣となっているのだ。ホタルのような燐光がゆらゆらと立ち昇る。 いつもと同じように記憶を精査されるような感覚と、直後の知識を無理やり刻み込まれる感覚

ハジメが流れ込んできた知識から読み取った新たな神代魔法を口にしようとしたその時、おもむろに目の前の石版に絡みついた樹がうねり始めた。 何事かとハジメ達が身構える。そんなハジメ達を尻目に立ち昇る燐光に照らされた樹はぐねぐねと形を変えていき、やがて、その幹の真ん中に人の顔を作り始めた。ググッとせり出てきて、肩から上だけの女性とわかる容姿が出来上がっていく

 

そうして完全に人型が出来上がると、その女性は閉じていた目を開ける。そして、そっと口を開いた

 

リューティリス「まずは、おめでとうと言わせてもらうわ。よく、数々の大迷宮とわたくしの、このリューティリス・ハルツィナの用意した試練を乗り越えたわね。あなた達に最大限の敬意を表し、ひどく辛い試練を仕掛けたことを深くお詫び致します」

 

どうやら樹を媒体にした記録のようだ。オスカーのような映像の代わりということだろう。どこかリリアーナのような王族に通じる気品と威厳があるように感じる。樹の幹から出来ているのではっきりとは分からないが、ストレートの髪を中分けにした美人に見える

 

と、ここで光輝が万華鏡写輪眼を開眼させたのを見てカズマが『ステイ!光輝ステイ!』と言って止めている

 

どうやら散々試練で散々な目に合わせたことに苛立ちが募り、本人ではないことはわかっていても八つ裂きにしたいと思っていたそうだった

 

リューティリス「しかし、これもまた必要なこと。他の大迷宮を乗り越えて来たあなた方ならば、神々と我々の関係、過去の悲劇、そして今、起きている何か……全て把握しているはずね? それ故に、揺るがぬ絆と、揺らぎ得る心というものを知って欲しかったのよ。きっと、ここまでたどり着いたあなた達なら、心の強さというものも、逆に、弱さというものも理解したと思う。それが、この先の未来で、あなた達の力になることを切に願っているわ…あなた達が、どんな目的の為に、私の魔法―― 〝昇華魔法〟を得ようとしたのかは分からない。どう使おうとも、あなた達の自由だわ。でも。どうか力に溺れることだけはなく、そうなりそうな時は絆の標に縋りなさい……昇華魔法は、文字通り全ての〝力〟を昇華させる。それは神代魔法も例外じゃない。生成魔法、重力魔法、魂魄魔法、変成魔法、空間魔法、再生魔法……これらは理の根幹に作用する強大な力。その全てが一段進化し、更に組み合わさることで神代魔法を超える魔法に至る。神の御業とも言うべき魔法――〝概念魔法〟に」

 

その言葉に一同は息を呑む

 

リューティリス「概念魔法――そのままの意味よ。あらゆる概念をこの世に顕現・作用させる魔法。ただし、この魔法は全ての神代魔法を手に入れたとしても容易に修得することは出来ないわ。なぜなら、概念魔法は理論ではなく極限の意志によって生み出されるものだから」

 

ハジメは説明を聞いて眉をしかめる。〝極限の意志〟……何て、ふわっとした説明なんだ、と

 

リューティリス「わたくし達、解放者のメンバーでも七人掛りで何十年かけても、たった三つの概念魔法しか生み出すことが出来なかったわ。もっとも、わたくし達にはそれで十分ではあったのだけれど……。その内の一つをあなた達に」

 

リューティリスがそう言った直後、石版の中央がスライドし奥から懐中時計のようなものが出てきた。それを手に取るハジメ。表には半透明の蓋の中に同じ長さの針が一本中央に固定されており、裏側にはリューティリス・ハルツィナの紋様が描かれていた。どうやら攻略の証も兼ねているようだ。ハジメが、手中のそれをしげしげと見つめているとリューティリスが説明を再開した

 

リューティリス 「名を〝導越の羅針盤〟――込められた概念は〝望んだ場所を指し示す〟……どこでも、何にでも、望めばその場所へと導いてくれるわ。それが隠されたものでもあっても、あるいは――別の世界であっても」

 

きっと、リューティリスの言っている〝別の世界〟とは神……エヒトのいる世界のことだろう

極限の意志のみによって概念魔法が生み出されるというのなら、解放者達の意志など決まっている

それは当然、神を倒すことだ。 ならば、この羅針盤は神のいる場所を探し出すために作り出されたのだろう。おそらく、オスカー辺りが概念魔法を生成魔法で付与した材料を使って、この羅針盤を作成したに違いない。 だが、別の世界でも、その場所を示して導いてくれるというのなら――それは、故郷でも、日本でも可能なはずだ。 故郷に帰るための一手が手に入った。……ハジメの胸中に、どうしようもない程の歓喜が湧き上がる

それを察したのか、傍らのユエが優しげな眼差しでハジメを見上げながらギュッと手を握り締めた

 

リューティリス「全ての神代魔法を手に入れ、そこに確かな意志があるのなら、あなた達はどこにでも行ける。自由な意志のもと、あなた達の進む未来に幸多からんことを祈っているわ」

 

伝えることは最低限伝えたということか、リューティリスはそれを最後の言葉に再び樹の中へと戻っていき、後には唯の石版に絡みついた樹だけが残った

 

それに光輝が『チッ』っと舌打ちし、苦笑する香織とシア

 

ハジメ「ユエ、念の為に聞くが……昇華魔法を使えば……空間魔法で………………世界を越えられるか?」

 

ユエは、その言葉の重みを知っているがために即答は避けて、必死にその可能性を探る。刻み込まれた知識と、間違いなく現代において最高最強の魔法使いとしての知識をフル活用する。 その結果、得た答えは……

 

ユエ「…………ごめんなさい」

 

ハジメ「そうか……」

 

そういうことだ。ただ昇華しただけの空間魔法で世界が越えられるなら、きっと解放者達も苦労しなかったに違いない。 リューティリスは言った。三つの概念魔法を作ったと。一つは〝導越の羅針盤〟に付与した概念。ならば、後の二つは異なる神の世界に行く為の概念と打倒するための概念だろう

 

つまり、概念魔法の域に達しなければ世界を越えることは至難だということだ。 ハジメの期待に応えられなかったせいか項垂れるユエに、ハジメは優しげな眼差しを向けると、そっとその美しい黄金の髪を指で梳いた。地肌に触れる感触に、ユエはくすぐったそうに首を竦めながら上目遣いでハジメを見つめる

 

ハジメ「なに、問題ないさ。あわよくばって思っただけだ。必要な神代魔法はあと一つ。それを手に入れればいいだけだからな。なんにせよ、ユエがそんな顔をする必要はねぇよ」

 

そんな優しそうに言うハジメにユエは頷き抱きしめた

 

それにまたギャアギャア喚くシアと香織

 

カズマ「これでいよいよあと一つなんだなハジメ?…」

 

ハジメ「……まあな……一応現時点で概念魔法を手に入れられる可能性が特に高いのは…俺とユエと天之河だけだ…」

 

カズマ「……そっか……それじゃ…次で最後なんだナ……お前らと冒険できるのは…」

 

ハジメ「!!」

 

その言葉にハジメが反応する

 

これまで共に居たカズマ達はエヒトを倒すための味方集めと神代魔法集めの為に同行しており、地球へ帰ることを第一に考えているハジメと香織、更に地球へ共に行くことを決めているユエとシアは最後の大迷宮攻略後は離別することになる

 

雫は恐らく残るだろうが、それ以外の地球組の面々でエヒトと戦いたくないものは皆ハジメ達と一緒に帰ることになるだろう

 

カズマ「そんじゃ、フェアベルゲンに戻って、ゆっくりと休むことにしますか」

 

そうしてカズマ達は歩き出すのだった

 

ハジメ「……そうだったな……」

 

そんな歩くカズマを見て、ハジメはなんとも言えない気持ちになるのだった



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第五十二話 それぞれの葛藤


はい。無事一ヶ月連続投稿達成できました!!

まさか2ヶ月半で60話投稿と一ヶ月連続投稿ができるとはこれ以上ない喜びです。

恐らく次回から投稿ペースが落ちるとは思いますが、今後ともご視聴ください。


 

フェアベルゲンに戻り休んでいた一行にフェアベルゲンの亜人達が集まり、自分達も戦うことを決めたと決意を伝えてきた

これでフェアベルゲンの亜人は戦えない者以外ほぼ全員が神への反逆を決めたこととなる

 

それを聞いたカズマは来るときが来るまで各々準備と鍛錬をするよう言う

少しでも生存率と戦力を増やす為であり、更にカトレアやカム達のいるオスカーの隠れ家まで行くと志願した者達をテレポートで送り届けた

 

その後一行は、少し休んだ後王宮へと戻った

 

その翌日

まだ日が昇る前

 

ハジメ「………」

 

ハジメは眠れず、王宮のベットで横になっていた

疲れているはずなのに、ハジメの頭の中は、あることでいっぱいになり眠れずにいる

 

ハジメ「……最後……か」

 

それは、次の大迷宮攻略後自分やユエ達、地球に帰りたいと願うクラスメイト達は皆地球に帰るが…カズマ達は残り、エヒトと戦う

 

わかっていた

何れはカズマ達と離別することになることは…

 

だが、改めてその事実を考えてしまうと、なんとも言えない感情が湧いて出てくる

 

不思議だった

 

あれだけ故郷への帰還を切望していたはずなのに…今の自分は故郷へ帰ることに躊躇いを覚えている

 

カズマからは帰る手段を見つけたら地球へ帰れと言われた

 

旅に同行させたのは神代魔法をより集めやすくなるために力を借りたいと思い、神殺しには手を貸せないがせめて友人としての最低限の義理を果たしたいと思っていたからだ

 

もうここまで義理は果たしたんだ

あとは心置きなく最後の神代魔法を手に入れ、生み出した概念魔法で故郷へ帰るそれだけのはず……だというのに

 

ハジメ「……クソ……俺は…どうすれば……」

 

故郷への切望……友へ義理

 

ハジメは己の胸に抱く想いに葛藤を覚えるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ブン!ヒュ!ヒュ!ヒュ!

 

王宮の中庭では雫が訓練用の剣を握り鍛錬をしていた

 

雫の足元には、すり足が地面に刻んだ幾条もの円と細切れになった木の葉の残骸が無数に散らばっていた。 しかし、その有様に反して、雫の体幹は疲れ知らずとでも言うように僅かなブレも生じていない。一本芯を通したような美しい姿勢で、ただひたすら無心となって剣を振るう

 

雫「――っ」

 

が、このまま永遠に踊り続けるのではと思われた雫の演舞に、突如、乱れが生じた。剣筋がぶれて斬られるはずだった木の葉をすり抜ける。くるりくるりと地面に落ちる木の葉と同じく、雫も円運動の遠心力に弄ばれてくるりくるりとバランスを崩した。 辛うじて転倒するという無様だけは避けられた雫だったが苛立たしげに頭振る

 

トレードマークの黒髪ポニーテールが、その心情を表すように右に左にと盛大に荒ぶる

 

雫「明鏡止水。明鏡止水よ、私」

 

わざわざ言葉にしつつ、大きく深呼吸して心に静謐な泉を思い浮かべる。精神を整え静かな状態を保つ練習は、日本にいた頃、それこそ剣術を習い始めた時からやっていることだ。もはや習慣にすらなっているそれにより、雫の荒れた心は直ぐに静けさを取り戻した

 

実は雫

昨日からほぼ一睡もできてなかった

大迷宮での疲れを癒すため早々に休息に入りベットに潜り、大迷宮での事を振り返ると疲れていたにも関わらず眠れなくなり何時間も悶々とした後、このままベッドにいても仕方ないと丑三つ時を回っているにもかかわらず訓練用剣(白金はカズマが魔法の付与のために預かっている)を手に飛び出したのだ

 

雫「はあ〜)」

 

あのときは深く考えてなかったが、寝るときになり冷静に大迷宮攻略を振り返ると自身が抱いていた想いに気づき眠れなかった

 

他の面々も大迷宮時に大迷宮側の精神的な試練を受けたが雫が特に気にしていたのは理想の世界の試練と好意と悪意の反転の試練の2つについてだった

 

前者はかつて自身が夢に描いていた姫である自身を王子が迎えに来るというもの……問題はその相手が地球にいた頃から一緒だった勇輝や龍太郎ではなく…更には共に旅をする異性であるカズマやハジメではなく…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝だったことだ

 

そして好意と悪意の反転の試練時

 

あのときの雫は周りに、特に光輝に対し深い憎しみと憎悪を向けてしまい、魔法の効果が解けたあとは光輝に謝った

が、ここで雫は気づいてしまった

あの好意と悪意の反転はその人物に対して常日頃から感じている好意と悪意の度合いでその効力が変わることを

 

普段ハジメに好意を抱いていたユエやシアに香織はハジメに憎悪を向けていた

 

そして自分も光輝の事をユエ達に匹敵するくらいの憎悪を向けていた

 

つまりそれは

 

雫「……なにやってんのよ私は…」

 

雫はため息をついていた

 

自分にとって光輝は憧れであり、自分を守ってくれたヒーローそのもの……しかし、その自分を守ったために光輝は夢を捨て、人を嫌うようになり…一人を望むようになった

 

そんな光輝への罪の意識と一人にさせたくないとの想いからずっと光輝と関わろうとした

 

自身を散々拒絶してきていた光輝だったが、旅に同行するようになってから話すことが増えたりなにかと気にかけられたりなど、地球にいた頃よりも距離が縮まったかのように思え、それがすごく嬉しくてとても楽しかった

 

しかし、旅を通し共にいる時間が増えたが、未だに雫は光輝に対し罪の意識を向けており、光輝も光輝で雫に罪悪感を抱いたままだった

 

そんな自分が光輝に淡い想いを抱いていると気づくと、恥ずかしさよりも自分自身を軽蔑するかのような気持ちを抱く

 

雫「……(………最っ底よ私は……どうして…………自分が原因で消えない傷を負わせた彼のことを………私はただ…彼を孤独に……一人にしたくなかっただけなのに…………)」

 

傷つけた者への好意……そんな己を蔑む感情

 

雫は己の胸に抱く想いに葛藤を覚えるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「……」

 

カズマ「……はぁ…そんなふうに後ろに立たれると鍜冶に集中しずらいんだが?……つうか寝てこいよ…お前も大迷宮での疲れは溜まってるはずだろ?……主に精神的な意味で」

 

光輝「眠る気にならないだけだ……お前こそ眠らなくてもいいのか?」

 

カズマ「これでも前世じゃ何日も徹夜することなんて珍しくなかったからな………」

 

王宮の鍛冶師達が使う工房では、カズマが光輝と雫の刀『黒金』と『白金』を整備、そして新たに手に入れた神代魔法を組み込ませている

 

そんなカズマの後ろで光輝が腕を組みカズマを見ていた

 

カズマ「……それで……ここへ来たってことは…俺になにか言うつもりなんじゃねえのか?……」

 

カズマは振り向かずに刀に神代魔法を組み込ませていた

 

光輝「…………俺は……人と馴れ合いすぎたんじゃないかと思わねえか……」

 

カズマ「……そうかもな」

 

光輝「地球にいた頃……俺は誰かと関わることもなければ群れることもなかった……俺が南雲やお前達と群れるのは神代魔法を手に入れやすくする為で俺一人で手に入る者なら一人で大迷宮巡りをしている」

 

カズマ「……だろうな……お前は地球にいた頃から一匹狼(ローン・ウルフ)だったしな……誰かと関わることを拒み、特に雫への拒絶していた態度は尋常じゃなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

けどそれは雫を大切に思うがゆえの裏返しの態度なんじゃねえのか?」

 

光輝「!!」

 

カズマ「……『俺には付いてくるな』とか言ってる割に同行させてから今日まで…雫を守ったり庇ったり…あいつになにかあれば怒りを見せたり…特に気にかけているのは他でもない光輝自身……………お前が雫との間に何があったのか話したがらないがある程度のことは推測できる………『昔なにかしらのことがあってそれに雫への罪の意識から距離を置くようにしていた』(雫の過去を盗み聞きする前から思っていたこと)って所か?」

 

その瞬間

光輝から殺意と共に須佐能乎の腕が飛び出し、カズマを掴む

 

光輝「黙れ……それ以上なにか言ってみろ……たとえお前が相手だろうと殺すぞ…」

 

両目共に万華鏡写輪眼を開眼させながら睨む光輝

しかしそんな光輝の睨みをものともせずため息を吐くカズマ

 

カズマ「……はぁ…なんでお前はそう……本心とは真逆の行動と態度を取るんだ…」

 

そう言った次の瞬間

 

カズマが消えた

 

光輝「!?」

 

それに驚く光輝だったがすぐに落ち着きを取り戻し周りを見渡す

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「普段なら今のだって見分けれたはずだぞ……お前…今どれだけ見えているんだ?(・・・・・・・・・・・・)

 

振り返るとカズマが鞘に納めた白金と黒金を向けていた

今のは解放者たちが考案したが未完成のまま書記に残った術の一つであり、それは魔力で己の実像を生み出すというもの(名前は未定)

 

カズマ「……まあいいさ…今はな……けどこれだけは言っておくぞ………自分の本心との折り合いはつけておけ……たとえそれが自分にとって許し難いものだとしても…それが本当の想い…お前自身の願いだからな?……ほらよ、無事に整備と付与完了させておいたぞ……それと」

 

カズマは黒金、そして黒い目隠しを渡した

 

カズマ「これも持っていけ、それは普通の目隠しじゃねえよ…再生魔法を付与させて作ったアーティファクトだ。なんと付けていても特に問題なく周りが見れ…付けている間視力と体力の回復、更には肉体の治癒力が増す優れもんだ…付けているだけで効果が発揮するから日常的に使える代物だ」

 

光輝「……」

 

光輝は無言で取るとそのまま工房から出ていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「………」

 

旅を続け、気づけば大勢と共にいるようになった

 

それは地球にいた頃の自分ではとても信じられないことだった

 

望んで一人になっていた自分が、気づけば他の面々や雫と居るようになり、彼らと過ごすことによる苛立ちやストレスを感じていた反面、心の何処かでは安らぎを感じていた

 

だが今回の大迷宮を通して、自分は誰かと居ていい人間ではないことを思い出した

そして指摘された己の心の内

 

カズマの言っていることは正しかった

 

人を信じきれなくなったから…

『雫への罪の意識』が光輝が一人になることにこだわるようなった

 

雫のことはただただ罪の意識……そしてもう傷ついてほしくないからこそ遠ざけていた…庇っていた…ただそれだけのはずだった

 

 

 

しかし…光輝は鈍感ではなかった

 

薄々自分が雫の事を庇護の対象としてではない……もっと別のモノとして見初めていることに

 

それがわかったのはあの大迷宮の最後の試練

 

周りにも悪意を向けていたが特に雫に対しては激しい憎悪の感情を向けていた

 

それが何を意味しているのか……光輝にはわかっていた

 

わかっていたが……

 

光輝「……チッ!馬鹿か俺は…………馴れ合い過ぎて腑抜けてしまったか………俺は決して人並みの幸せなんざ求めてはいけねえんだよ」

 

望んで一人になったにも関わらず大勢でいることにどこか悪くないと思いつつもやはり自分は一人であるべき………罪の意識から雫を傷つけまいとしていたがその雫に抱いてはいけない想いが芽生えかけている自分を蔑む

 

光輝は己の胸に抱く想いに葛藤を覚えるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「はあ〜………今どきの若者は…どうしてこう思い詰める奴ばっかなんだ…」

 

黒金を整備し終えたカズマは白金の方に移っていた

 

カズマ「雫はともかく……光輝は絶対本心は言いたくないタイプだしなあ……あのふたりが大迷宮を通して…その後の心身に影響出るのは考えるまでもない」

 

カズマにはわかっていた

 

光輝と雫が大迷宮での経験が後々自身に影響を及ぼすことに…それぞれが芽生え始めているものにも

 

カズマ「……本当は………互いのことが心から大切な癖によ…」

 

そう言いながらカズマは白金を見た

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「おい、佐藤……」

 

カズマ「なんだ光輝?…それよりお前のもう一本の刀、もう少しで完成するぞ。その名も『白金』」

 

光輝「……そのことだが……やはり、刀は一本のほうが使いやすい……悪いがその刀はお前が渡すべきだと思う奴にでも渡せ」

 

カズマ「!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「ねえカズマ君……ちょっとお願いがあるの…」

 

カズマ「?雫がお願いなんて珍しいな……どうかしたか?」

 

雫「う、うん…あのね……光輝の眼のことなんだけどね…」

 

カズマ「……もしかして…視力の低下を気にしてるのか?……あいつ一応再生魔法で自分の眼の視力を戻してんだけどな、適性がないからそんなに効果がねえんだよ……なのに本人そのこと周りに言わねえしさあ…」

 

雫「……光輝……自分の事や自分の身体のことで誰かに頼りたくないみたい…………でも、あのままじゃ光輝は失明しちゃうかもしれないの……だから…」

 

カズマ「……わかった……どうするか俺も考えてやる……」

 

雫「!!ありがとう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「……年長者として……リーダーとして……あいつらのダチとして……幸せになって欲しいんだけどなあ…」

 

カズマは少しお節介と思いつつも、光輝達の未来が決して暗い物ではなく、明るい物であって欲しいと願うのだった





なお雫と光輝は自分のことに夢中になり互いが自身に憎悪を向けていた事を頭の片隅に存在してません。


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キャラクターズファイル① スリートップ

 

南雲ハジメ 本作の主人公の片割れ

 

【概要】

原作『ありふれた職業で世界最強』の主人公であり、本作の主人公の片割れの日本人

地球にいた頃は原作初期とは違い受け身な性格ではなく普通に反抗し、自身の趣味をオープンに晒している

 

カズマとアクアとは中学のときのとある出来事以来からの友人であり、このふたり以外にも友人はいる

また高校の入学式の日に初めて会った天之河光輝とはなぜか初対面から互いに嫌い合っており学校でも有名な犬猿の仲である

しかし光輝と出会う前までの性格は原作初期のままだったが光輝との出会いが今の性格へと変わった

原作と違い『錬成師』ではなく『創者』と呼ばれる天職であり、初期ステータスも高かった

原作通り敵対者には容赦しないが本作では友人が何人も居るせいか時折甘さを見せたり友人を切り捨てられないなどの優しさを持っている

また普段は自身に殺意や敵意を見せる者を意に返さないが自分よりも格下のステータスのはずのカズマからの冷たい殺意にはビビってしまうなど、意外にも弱点や苦手が存在している

原作同様ユエを愛しており、自身に想いを寄せるシアや香織の事を内心では大切に思いつつもそれを表に出さないでいる

地球へ帰ることを第一に旅を続けていたが、自分とは違いエヒトを倒すため旅に同行している友人であるカズマは残って戦う意思で動いており、それについてハジメ自身は迷いを覚えていた

 

攻略者パーティー(カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス、ハジメ、光輝、ユエ、シア、ティオ、香織、雫)の中ではカズマと光輝に並ぶ首脳メンバーの一人であり、カズマがリーダーとして指名されるまでは実質的なまとめ役だった

実はアクア曰くなぜか一つの身体にふたつの魂を宿している

 

【実力】

戦闘能力は原作以上であり、今なお成長を続けている

戦闘スタイルは高いステータスに物を言わせた肉弾戦から制作した武器を使う戦闘に得意魔法である風を使った物までわりと汎用性が高く

全体のステータスの高さは光輝に続くナンバー2であり、現時点ではパーティー内の総合的な強さで言えばカズマ、光輝に続くナンバー3である

 

現時点では未だに天職の全貌が明らかになっては居ないが、単純な構造でなら魔力で物を構築できる『投影構築』が使えるところを見るに何かを生み出し作り出せる『錬成師』に近い物だとハジメは考察している

 

また義眼ではないもう片方の眼には高い感知能力と透視能力を持つ『白眼』を開眼しており、本人はかなり気に入っている

 

 

天之河光輝 本作の主人公の片割れ

 

【概要】

原作『ありふれた職業で世界最強』の登場人物であり、本作の主人公の片割れであり、原作や二次創作ではアンチ・ヘイトの激しい人物だったが本作での光輝は原作とは違い他者を寄せ付けない人間嫌いな性格でありどこか影のある男

 

キャラクター像は銀魂の高杉晋助と仮面ライダー鎧武の駆紋戒斗を合わせたような存在

原作では強い正義感と独善、人の善性を疑わない性格だったが、本作での光輝は今亡き祖父の最後の言葉を聞いたことで自身の中で人の善性や正義の形がぐらつき、小学生の時に起きた幼馴染である八重樫雫のイジメ事件以来人が変わり、人を嫌い、人と関わらない、人を信用しない性格になった

 

双子の兄である天之河勇輝の事をものすごく毛嫌いしており、兄のような独善的な者や弱者、強者の皮を被った弱者、己の意志を持たず流される者を嫌っている

人を信じなくなったことと引き換えにかなり思慮深くなり、結果相手を見ただけでそいつが善人か悪人かわかるようになった。その為トータス召喚されたばかりの時のイシュタルを見てその考えや狙いを当てた

 

地球にいた頃は普段の風貌と時より授業をサボったりするせいで不良のレッテルを貼られているが、実は兄である勇輝以上の容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人であり、何でもそつなくこなすと見た目からは察せられないほど才に恵まれている

高校の入学式の日に初めて会った南雲ハジメとはなぜか初対面から互いに嫌い合っており学校でも有名な犬猿の仲である

人と関わることを嫌う一方で奴隷にされた罪無き子供の姿や遺体を前に静かに怒り、自身が認めた者に対してはある程度寛容に接する(敵対者や他人を『貴様』と呼ぶが認めた相手には『お前』や名前で呼ぶ)

原作と違い敵対者には原作のハジメ並みに容赦なく殺す冷酷さを見せるが、よほど怒らせた相手には一瞬の苦しみではなくジワジワと苦しめて殺す

 

イジメ事件以来雫の事を強く拒絶していたがそれは自身がもっと考えていれば雫がイジメ事件の時に心に深い傷を負うことがなかったのではと思う自責の念と雫への罪の意識から雫を遠ざける(ユエや雫曰く優しすぎる)など原作と違い自身のやったことに対する罪の意識が激しかった

また雫がパーティーに加入した後は雫を守ったり、雫を傷つけた者に殺意を剥き出しにするほどに雫の事を庇護の対象として扱うなど関わることが増えある程度心を開くが第6の大迷宮を終え自身が雫に対し庇護の対象以外で見始めている事に気づき、自分はやはり人と関わるべきではなかったと葛藤を覚えるなど、本作の人物の中で最も苦しむ心情が描写されている

自身は地球へは帰らず、気にいらないと称しているエヒトを倒そうとしている

原作と違い『勇者』ではなく『破者』と呼ばれる天職であり、初期ステータスは勇者である勇輝以上だった

 

攻略者パーティー(カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス、ハジメ、光輝、ユエ、シア、ティオ、香織、雫)の中ではカズマとハジメに並ぶ首脳メンバーの一人

またこう見えて時代劇、特に忍者が大好きでありカズマにクナイや手裏剣の制作を頼むほど好いている

実はアクア曰くなぜか一つの身体にふたつの魂を宿している

 

【実力】

戦闘能力は原作を遥かに上回っており、今なお成長を続けている

実は本作に登場するキャラの中でも屈指の才能の持ち主

戦闘スタイルは高いステータスに物を言わせた肉弾戦から愛刀である『黒金』を使ったり得意魔法である火と雷を使った物までわりと汎用性が高く

全体のステータスの高さはパーティー随一であり、現時点ではパーティー内の総合的な強さで言えばカズマに続くナンバー2である

 

現時点では全貌が明らかになっていない『破者』だが光輝は破壊に関する物だと考察している

 

また両目共に高い見切りと動体視力を兼ね備え、強い幻術を掛けることのできる『写輪眼』と強力な瞳術(時間も質量も空間も支配する幻術『月読』、見た場所から消えない黒炎を発火させる『天照』、天照の姿形を自在に変化させ操る『加具土命』)を扱える上位互換の眼『万華鏡写輪眼』を開眼しており、カズマからは戦いの天才と称されている

そして万華鏡写輪眼開眼時のみに使うことのできる切り札、己の膨大かつ高密度の魔力で構成したヒトガタを形成し操り、人体程度なら軽く握り潰せるほどのパワーを持ち、あらゆる魔法・体術に対して強力な防御力を誇るが魔力を膨大に消費する上、全身の細胞に負担がかかるというリスクのある『須佐能乎』などといったハジメ以上の能力の数々を持っている

 

 

佐藤和真 伝説の冒険者パーティーリーダー

 

【概要】

現在休載中の《このふたりの男女に祝福を!》のIF時空から現在の世界に転生した日本人

かつて日本で死後女神だったアクアと出会い共に異世界に降り立ちそこで仲間達と魔王軍と戦い倒し、穏やかな余生をアクア、めぐみん、ダクネスたちと過ごした

死後生前世話になった女神エリスの頼みで転生後他世界の邪神によって異世界転移させられるであろう者達のサポートと邪神討伐を頼まれる

 

生前は家族同然に愛した仲間達の事が何よりも大切であり、世界よりも仲間達を優先するほどの仲間思いな性格 前世の記憶を所持したまま転生し、同じく記憶持ちで転生したアクアと共にいつも過ごしていた

アクアとは相棒でありめぐみんやダクネスの三人共に前世から続く深い絆と相思相愛の気持ちを持っており、前世同様最優先にしている

ハジメとは中学時代からの友人であり、彼を始めとした何人もの友人を持っている

また他人を嫌い、信用できないでいる光輝のことを気に掛けている

前世から合わせて実年齢100歳以上である為人生経験や考え方が達観しており、時にはハジメ達面々に年長者として言うべきことを言う

人の本質や資質を見抜くなど人を見る目に長けている

かつてはイチパーティーメンバーを率いたリーダーだったこともあり人並み以上のリーダーシップ能力を持っている

 

普段は年長者としてかなり落ち着いた態度で周りと接しているが愛する者達(アクア、めぐみん、ダクネス)が絡んだりすると一気に精神年齢が下がるなどわりと子供っぽいところも見受けられる

攻略者パーティー(カズマ、アクア、めぐみん、ダクネス、ハジメ、光輝、ユエ、シア、ティオ、香織、雫)の中ではハジメと光輝に並ぶ首脳メンバーの一人であり、それまでまとめ役を担っていたハジメから直々にリーダーに指名された

本人はエヒトを倒すため、そしてエヒトを倒したあとのトータスが誰も争わない、平和で明るい世界にしたいと奔走している

また光輝や雫が心に抱えている物にあまり口を出さないものの、内心では共に幸せになって欲しいと願っている

 

【実力】

戦闘能力、手数の多さ、魔法や魔力の扱いはパーティー中トップクラスであり戦闘スタイルは武器、魔法、体術といったあらゆる分野を使いこなす万能型であり、天職『冒険者』は前世で覚えた魔法やスキル全てを扱い、更に今世で見た技能、魔法を扱うことができる

全体のステータスの高さはパーティー内で光輝、ハジメに続くナンバー3であるが、総合的な強さで言えばパーティー最強である

その最大の特徴は前世で長年培った戦闘能力や魔法魔力の扱いを始めとした戦闘経験

それにより自身よりも格上のステータスであるはずのハジメと光輝を立った一人で圧倒し勝ってみせるほどであり、キレたカズマの殺意はハジメやユエたちでさえ怯えるほど尋常ではない

そして前世でリーダーだった経験も合わさり、指揮能力はパーティー随一だったりする

 

また前世では武器や商品、魔法やスキルの開発も担っていたためハジメに続く製作者キャラでもある

 

 



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キャラクターズファイル➁ 攻略者パーティー①

 

水神アクア 伝説のパーティーの女神

 

【概要】

現在休載中の《このふたりの男女に祝福を!》のIF時空から現在の世界に転生した元水の女神

かつて日本で死んだ和真と出会い共に異世界に降り立ちそこで仲間達と魔王軍と戦い倒し、穏やかな余生を仲間たちと過ごした カズマ達の死後後輩女神であるエリスの頼みで転生後他世界の邪神によって異世界転移させられるであろう者達のサポートと邪神討伐を頼まれ、女神の殆どを手放しカズマたちとともに転生

生前はどこか抜けていて問題を起こすこともあったが家族同然に愛した仲間達の事が何よりも大切であり、仲間の為なら女神としての使命を放棄してまで仲間を優先するほどの仲間思いな性格

前世の記憶を所持したまま転生し、同じく記憶持ちで転生したカズマと共にいつも過ごしている

カズマとは相棒でありめぐみんやダクネス共々前世から続く深い絆と相思相愛の気持ちを持っており、前世同様最優先にしている

一応カズマの正妻であったが側室の立場であっためぐみんやダクネスとは仲がよく、カズマをめぐって争わないなど互いのことを想い合っている

転生の際女神としての力の殆どを失って入るが、他人の魂を知覚したり除霊、回復などはできる

人を楽しませることや手先の器用さが神がかっており宴会芸や手作業をやらせるとプロ顔負けのレベルで披露する

また前世では自身やカズマやめぐみんにダクネス共々親であり祖父母だったこともあり子供への扱いに長けている

 

【実力】

天職は前世に引き続きチートクラスの回復魔法や浄化魔法、支援魔法、魂に関わることのできる『アークプリースト』であり、更に水を司る女神だったこともありとてつもない魔力量を有しており、水魔法を始めとした水関連全般(水の放出量、深海の水圧耐性、泳ぐ速度、水中での呼吸無制限)において絶対的な強さを持っており、水中戦では何者も勝てない

実はその気になれば世界一つを水没させることができるなど作中屈指のチート後方支援者

 

 

めぐみん 伝説のパーティーの杖

 

【概要】

現在休載中の《このふたりの男女に祝福を!》のIF時空からトータスに転生した元紅魔族(生まれつき高い知力と魔力を持った種族)の娘

かつて日本で死んだ和真と出会い共に魔王軍と戦い倒し、穏やかな余生を仲間たちと過ごした

死後女神エリスの頼みで転生後他世界の邪神によって異世界転移させられるであろう者達のサポートと邪神討伐を頼まれ、地球へ転生したカズマとアクアとは別にダクネスと共にトータスへ転生

生前は唯一にして最強である爆裂魔法一本で世界最強になる夢を持ち実現させた

家族同然に愛した仲間達の事が何よりも大切であり、仲間の為なら夢を捨てる覚悟で仲間を優先するほどの仲間思いな性格

前世の記憶を所持したまま転生し、同じく記憶持ちで転生したダクネスと共にいつも過ごしていた

 

先に転生し、貴族の娘となっていたダクネスとは年の離れた義姉妹として過ごしており、カズマとアクアにダクネス共々前世から続く深い絆と相思相愛の気持ちを持っており、前世同様最優先にしている

この世界での名はめぐみん・フォウワード・ゼンゲン

 

【実力】

天職は前世から続く魔法職の中でも上級職に位置する『アークウィザード』であり、めぐみんは紅魔族随一の才覚とアクアに続く魔力量を有しており、唯一使える魔法『爆裂魔法』はあらゆる存在に絶対的なダメージを与え、あらゆるものを破壊尽くす最大にして最強の攻撃魔法。それを自身で独自にバリエーション(空から降り注ぐ爆裂魔法、範囲を絞り一点に集中させることで威力を絶大までに底上げする爆裂魔法、触れた相手に爆裂魔法の威力をギリギリまで抑えてた物を付与させ爆発させる)を築き上げて要所要所で使い分ける

本気を出せば空間すらも破壊でき、エヒトでさえまともに喰らえば一発で消滅するパーティー随一の火力を持っている

 

 

ダクネス 伝説のパーティーの盾

 

【概要】

現在休載中の《このふたりの男女に祝福を!》のIF時空からトータスに転生した元大貴族の令嬢

かつて日本で死んだ和真と出会い共に魔王軍と戦い倒し、穏やかな余生を仲間たちと過ごした

死後女神エリスの頼みで転生後他世界の邪神によって異世界転移させられるであろう者達のサポートと邪神討伐を頼まれ、地球へ転生したカズマとアクアとは別にめぐみんと共にトータスへ転生

生前はその類まれな耐久力と持ち前の筋力で仲間の盾として振る舞っていた

家族同然に愛した仲間達の事が何よりも大切であり、仲間の為なら貴族としての地位を投げ捨ててでも仲間を優先するほどの仲間思いな性格

前世の記憶を所持したまま転生し、同じく記憶持ちで転生しためぐみんと共にいつも過ごしていた

 

先に転生し貴族の娘となった後は偶然孤児院で見つけためぐみんを引き取り、年の離れた義姉妹として過ごしており、カズマとアクアにめぐみん共々前世から続く深い絆と相思相愛の気持ちを持っており、前世同様最優先にしている

この世界での名はララティーナ・フォウワード・ゼンゲン

 

ダクネスとは冒険者名であり、本当の名はララティーナであるが自分に似合わないかわいい名前である為仲間からからかい気味で言われるのを嫌がる

実は前世ではティオと同レベルのドMだったが年を取ったことで性癖が止んでいたが転生後徐々に再発してきている

 

【実力】

天職は前世から続く『ナイト』の上級職『クルセイダー』であり、高い身体能力に強靭な筋力と耐久力を兼ね備えており、身体の頑丈さで言えば竜化したティオ以上であり、あらゆる異常状態に対して強い耐性とあらゆる攻撃や魔法に対してとてつもない防御力を持っており、ハジメや光輝クラスでもまともにダメージを与えられないほど強固である

また一度受けた攻撃に対し二度目からは強い耐性を得て7、8割のダメージカットや受けたダメージを攻撃に変換するスキルなど攻防一体の能力を持っている

 



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キャラクターズファイル③ 攻略者パーティー➁

 

ユエ 封印されし吸血鬼の王女

 

【概要】

原作『ありふれた職業で世界最強』でハジメ側のメインヒロインだった元吸血鬼族の王女であり、本作でもハジメ側のメインヒロインを努めている

原作通りの生い立ちと性格であるが、ハジメと共に出会ったもう一人の人物である光輝に対し親近感を抱いており、内心では弟のように思い、ハジメの次に身を案じている

自分よりもハジメの事を知ってなおかつ親友であるカズマには嫉妬混じりで喧嘩をすることが多く、カズマからもその喧嘩を買われることもしばしば

ハジメのことが大好きであり、ハジメの為なら全てを敵にまわす覚悟を抱いている

 

【実力】

肉弾戦は得意ではない代わりに魔法の才能はパーティー内はおろかトータストップクラスであり、ユエ以上の魔法の使い手であるカズマやめぐみんからも一目置かれている

また自身は先祖返りの為高い不死性を持っている

 

 

シア・ハウリア 突然変異のバグウサギ

 

【概要】

原作『ありふれた職業で世界最強』でハジメ側のヒロインを努めた兎族

原作通りの生い立ちと性格であり、本作では描写されてないが自身のウザさでハジメやユエ、カズマに光輝から制裁されている

ハジメのことが大好きであり、ハジメの為なら全てを敵にまわす覚悟を持っている

 

【実力】

原作通り魔法の才能がない代わりに高いパワーと武器であるドリュッケンを使った戦闘スタイルを駆使する

 

 

ティオ・クラルス 滅びから生き延びし竜神族

 

【概要】

原作『ありふれた職業で世界最強』でハジメ側のヒロインを努めた竜神族だったのだが、本作ではハジメではなく自身を救ってくれたウィルに好意を抱くこととなった

原作通りの生い立ちと性格、そしてドMだがあまり描写されてない

ただ時よりダクネスがティオのマゾっ気を見て再発されかけることがしばしば

年長者としての威厳を出すこともあるがまわりからは似合わないとされそれに軽くショックを受けることも

 

【実力】

原作通り竜化して戦ったりブレスを吐いたりなどしており、竜化時の耐久力は世界でもトップクラス

 

 

白崎香織 三大女神の突撃娘

 

【概要】

ご存知原作『ありふれた職業で世界最強』の突撃系ヒロイン

本作も原作同様の理由でハジメに好意を抱いており本人は隠しているつもりだがハジメを初めとした数名から勘付かれている

高校生になってあったときとは性格も風貌も変わっているハジメに戸惑いを感じてはいたがすぐに気にならなくなりハジメとの話題作りのためにオタク知識を身につける努力をした

勇輝と光輝に龍太郎、そして親友である雫とは幼馴染であり雫とアクア合わせて3大女神と称される程の美少女

性格も原作と違わないが、光輝の過去を知る数少ない人物であり、光輝の身を案じている

 

【実力】

原作通り治癒や浄化魔法に優れているがアクアと比べると大きく劣っており本人もそれを気にしている

また原作と違いノイントの身体を手に入れてないので原作と比べると弱い

 

 

八重樫雫 孤独の男に寄り添いし娘

 

【概要】

 

原作『ありふれた職業で世界最強』でハジメ側のヒロインだったが本作では光輝のヒロインであり、本作の光輝同様作者のお気に入り

光輝と勇輝と龍太郎、そして親友である香織とは幼馴染であり香織とアクア合わせて3大女神と称される程の美少女

いつも勇輝のやることの後始末をやっており、それによってカズマからは同情されている

実家は八重樫流という剣術道場を営んでおり、雫自身、小学生の頃から剣道の大会で負けなしという猛者である(カズマ曰く異世界にいたら間違いなく名の通った冒険者になっている逸材)

また同じ道場には勇輝とかつては光輝もいた 小学生の頃、自身がいじめられる事件があり、それを一人で解決したが変わりに道場をやめ勇輝とは不仲になり周りの人間を拒絶するようになった光輝には対して罪悪感を抱いており、いつかまた一緒にいられる日を夢見ており何年も光輝に接触するがことごとく拒絶されている

ハジメとともに奈落に落ちた光輝に対し過呼吸を起こしてしまうほどその頃から自身の中で光輝は大きな存在だった

そして再開後に光輝に泣きつき、孤独にしたくない一心から旅の同行を申し込み、そんな雫を拒絶する意味で放った光輝の『月読』を精神力ではねのけ無事認められ旅に同行する

その間最も光輝のそばにおり、光輝に守られ続けていた

王宮での一件後、改めて光輝の優しさに涙を流し、ますます自身の中で光輝の存在が大きくなり、第6の大迷宮攻略後に自身が光輝に対し好意を抱き始めていることに気づき葛藤を覚えた

 

【実力】

原作通り八重樫流の剣術に加え、時々カズマや光輝から護身のために鍛えられていた



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第五十三話 最後の大迷宮

 

ユエ「ハジメ……ここが…」

 

ハジメ「……ああ……とうとうたどり着いたな…ここが」

 

香織「…最後の……大迷宮……」

 

カズマ達は最後の大迷宮である【氷雪洞窟】のある【シュネー雪原】に辿り着いた

 

そこは南大陸の東側

南大陸中央にある魔人族の国ガーランドのお隣である

 

最後の神代魔法を得るため、一行はハジメが作った自作の飛行艇『フェルニル』に乗り辿り着いたのだが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇輝「ここが…大迷宮の入り口なんだな……ここに来れば、神代魔法を手に入れられて、今よりも強くなれるのか!!」

 

なぜか勇者(笑)である勇輝が同行している

 

彼がここにいるのは丁度シュネー雪原へと向かう当日の朝にカズマ達に自分も同行させるようしつこく絡んできた

これは自身の幼馴染ふたりが既に自分よりも強くなっていることや勇者である自分の立場がないこと、そして更に強くなりつつあるハジメや光輝に対しての焦りや嫉妬から何が何でも同行しようとした

 

これにはユエを始めとした面々からは反対されたが、カズマは同行を許可した

これには一同が驚いたがそれに対しカズマは『いい加減このご都合主義で現実を見ないこいつには現実を思い知らせる必要がある』と言った

 

つまりカズマは勇輝が神代魔法を手に入れられるとは微塵も思っていない

 

実力が低いのはともかく、精神面がしっかりしていれば会得できる可能性はあったが勇輝の精神面は光輝曰く小学生の頃から変わってない未熟極まりないものだった為会得率は0%

 

なおそんなふうに思われているとはつゆ知らないこの勇者は他の面々よりも張り切っており、何名かはそれをうざく感じていた

 

ちなみに勇輝同行に最も反対するであろう光輝はというと『こいつが目障りなことをすれば殺すがそれでもいいなら』と言った

 

だからパーティー内の何名かはいつ光輝が兄弟殺しになるのかとヒヤヒヤしていた

 

そうして一同は洞窟に入っていった

そこはまるで、ミラーハウスのようだった。 大迷宮らしく中の通路はかなりの広さがあり、横に12人並んでもまだ余裕がありそうなほどだ。 しかし、全ての壁がクリスタルのように透明度の高い氷で出来ており、そこに反射する人影によって実際の人数より多くの人がいるように錯覚してしまう。結果、その広さに反して、どうにも手狭に感じてしまうという不思議な内部構造だった。 そして、不思議と言えばもう一つ。この洞窟、常に雪が舞っているのである。洞窟であるから当然、空から降ってくるわけではないのだが、洞窟内を吹き抜ける風に乗って横殴りに吹雪いており、しかも入口から吹き込んで来たわけではなく洞窟の奥から吹いて来るのだ。 更に、この雪、ただの雪というわけではないようで、ドライアイスのように極めて低い温度で出来ているようで、触れると即座に凍傷を起こしてしまうのだ

そこはユエや香織にアクア達が障壁を張って守ってもらっている

 

そして洞窟内には氷漬けになった魔人族も見つかった

恐らくここでフリードが神代魔法を手に入れたことで魔人族側の動きが活発化し、フリードが攻略したことで挑戦するものも出てきたと推測するハジメとカズマ

 

ティオ「ふむ。攻略情報があれば行けると踏んだのじゃろうが……やはり、そう簡単にはいかなかったようじゃのう。他のルートのことも考えると、どれだけの者が挑んだのやら」

 

香織「でも、国を挙げて挑んだのなら、そのフリードっていう人以外にも攻略できた人がいる可能性はあるよね。もしそうなら、魔物の軍団が再編されるのも時間の問題かも……」

 

心配そうな表情を見せる香織。王都に残してきたクラスメイトとリリアーナ達のことを想っているのだろう

 

雫「大丈夫よ、香織。少なくとも直ぐに攻められることはないと思うわ。内通者の可能性は徹底的に潰したし、ハジメ君とカズマ君が共同で作った大型レーザー兵器もあるし清水君達もいるから戦力が揃っても安易には動かないはずよ」

 

香織 「雫ちゃん……うん、そうだね」

 

雫の客観的で的確な予測に、香織は幾分、安心したように微笑んだ。ハジメと共に地球へ帰還するということは、すなわち、リリアーナ達を見捨てるということでもあるのだ。この世界でずっと続いている今更な争いではあるが、その背後にいる者の存在や個人的な感情を考慮すると何とも心に痛い。 そこへ、勇輝が会話に入った

 

勇輝「……安心してくれ、香織。力を手に入れて狂った神を倒し、人間も魔人も皆、俺が救って見せる。ここに残ってリリアーナ達も俺が守る。全ての神代魔法を手に入れれば、いずれ自力で帰れるからな。俺は、誰も見捨てない」

 

香織「勇輝くん……」

 

実に勇者らしい言葉だ。だが、その言葉とは裏腹に、勇輝の視線は香織ではなくハジメや光輝に向けられており、まるで当てつけるかのような響きが含まれていた。片やトータスやそこへ住む人々を見捨てて故郷へ帰ろうとするハジメ……片やトータスも人々もどうでもいいと考え神を倒そうとする弟

その為、香織は勇輝の言葉に、むしろ不安を滲ませることしか出来なかった。 以前は、ご都合解釈と思い込みの激しさはあれど、心底、善意から出ていたであろう言葉。しかし、今はどこか負の感情が含まれているような気さえする。嫉妬、疑念、焦燥、苛立ち、もどかしさ等、色々な感情が入り混じって飽和しているような、それを必死に抑えているような、そんな不安定さを感じるのだ。 そんな勇輝の視線に気がついたのか、先を歩くハジメが肩越しに勇輝を見る。どこか責めるような眼差しを受けて、しかし、ハジメは肩を竦めるだけでスルーした。同じく前を歩く光輝はそもそも相手にしなかった

そんなハジメと光輝の態度にキリリと眉を釣り上げる勇輝だったが、ここまでの旅で双方の意思が平行線しか辿らないことを十分に理解していたので言葉にはしなかった

 

そんな彼らを迷宮の魔物が襲ってきた

相手はこの環境に順応した物ばかりで障壁の外へ出れば凍傷を起こしてしまう

おまけにここで火属性魔法を使えばその効果を減らされ、初級の火魔法を使う場合は上級魔法並に魔力を消耗しなければならない

 

だが

 

光輝「『天照』!」

 

障壁内から放たれる光輝の消えない炎『天照』はその限りではなかった

 

そもそも『天照』は正確には光輝の万華鏡写輪眼から放たれる『瞳術』であるためこの大迷宮内の制約には引っかからなかった

 

その為道中の敵の殆どは光輝と銃を持つハジメに任せた

 

連続で天照を使う光輝の姿に心配する一同(ハジメと勇輝は除く)

特に雫と香織、ユエから心配され、そんな光輝と自分ではどうすることも出来なかった魔物を光輝とともにあっさりと倒すハジメに勇輝の嫉妬心が徐々に大きくなっていった

 

極めつけはカズマから防寒用のアーティファクトを渡され、ここらで自分も活躍しようと魔物に挑むが決定打にならなかった

それどころか魔物にいいようにやられ、むしろ無様な姿を見せた

そんな状況に置かれ、焦りながらも無理に戦おうとする

 

勇輝「俺だってやれる……俺がやるんだ……南雲や光輝なんかより、俺が……正しいのは……俺で……」

 

意志は強烈でも、聖剣に集まる光は弱々しい。それを見て、勇輝は〝限界突破〟を使おうと口を開きかけた。

 

勇輝「限界と……」

 

香織「勇輝くんってば!」

 

その瞬間勇輝の後方から放たれた光輝の須佐能乎の矢が魔物を撃ち抜き粉砕した

 

光輝「……」

 

自分があれだけ苦戦した魔物を顔色一つ変えず、動かずに倒した光輝に勇輝が突っかかる

 

勇輝「!なぜ勝手に倒した!!あれは俺が相手していたっていうのに!!余計な真似するな!」

 

光輝「倒すのが遅い貴様が悪い…どのみちあのまま戦っても勝てなかっただろうな」

 

勇輝「!なんだと!!」

 

光輝「あの魔物は外殻が硬い、だが良く見れば脆い部位も存在していた。あの魔物の硬い外殻を割れるほどの攻撃力がないなら脆い部分から攻め落とせばよかった。それを馬鹿の一つ覚えに真っ向から攻めたてるとは……貴様の脳みそは野生の魔物レベルか?」

 

勇輝「!!」

 

そう吐き捨てて光輝は歩き出した

 

そんな光輝を背後から睨む勇輝

 

ただでさえ中の悪いふたりを心配する香織と雫

 

いつ光輝が兄弟殺しにならないかヒヤヒヤするハジメを除く面々達も歩き出し、やがて一行は冗談のように広大な迷路にたどり着いた

 

一応ハルツィナの大迷宮で手に入れた羅針盤がある為道に迷う心配はなかった

 

なお道中シアの漏らした発言から既にハジメとシアがヤッた後であることが判明した

 

そんなハジメにカズマが『一応聞くが避妊はしたか?』と言われたがハジメは汗を流しながら目を逸しシアは『避妊?』と聞き返され、そこからはカズマから十数分に渡るお説教を受ける羽目になった

 

カズマ「お前保健体育ちゃんと受けたんだよなあ?しかも未成年だろうが!!万が一妊娠した時の責任は取れるのか!?」

 

ハジメ「い、いやそれはもちろん責任は取るつもりだ」

 

カズマ「あのな、まだ満足に働ける年と資格を持ってない学生のうちに子供できるのは普通にアウトだからな!?親にも迷惑かけるつもりか?」

 

ハジメ「そ…それは…」

 

カズマ「……念の為聞くが……ユエとは……」

 

ハジメ「………」

 

カズマ「お前武器や乗り物作る前に避妊具作れやー!!」

 

ハジメ「ゴファ!!」

 

カズマの懇親の右ストレート(魔装で強化)をまともに喰らったハジメが迷路の壁に叩き込まれた

 

香織「は…はわぁ…(もし私もハジメ君としてたら今頃…)」

 

そんなハジメに駆け寄るユエとシアにカズマは懐から何かを取り出して投げた

 

カズマ「たくっ……いくら思春期真っ只中の高校生だからって……もう少し考えてからやれ……今度からはこれ使え」

 

それをキャッチしたユエとシアだったがそれがなにか分からず困惑するが、それがなにか知っている地球組(光輝は除く)やめぐみんとダクネスは顔を真っ赤にする

 

香織「カ///カズマ君///!?そ///それ///!!」

 

雫「な///なんでそんなもの持ってるの///!?」

 

ハジメ「お!おま!!なんでそんなもん懐にしまってるんだ!?」

 

ティオ「む?それは何じゃ?」

 

カズマ「ああこれ?いやな、俺とアクアがまだ王国に居た二ヶ月間の間に金集めしようとしてよ。前世でもやった商品開発をして適当な名のある商人に知的財産権を売っぱらったんだ。俺の作った商品はこの世界にはないものばっかな上実用性が高くて高値で売れたよ。んでこれは俺の作った数ある商品の一つ……まあ簡単に言えば避妊具だな」

 

そしてカズマの口から売っぱらった知的財産権で得た莫大な財産額を聞いて何名か驚きのあまり口を大きく開いたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シア「ん?……というかカズマさん常日頃から避妊具持ち歩いていたってこと!?」

 

カズマ「いや単純にいつか思春期真っ只中の男女に渡すことになるかも知れないって思ってたから」

 

ハジメ/香織「「ビクッ!」」



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第五十四話 己に打ち勝つ

 

一行が迷路を進んでしばらくすると突如それぞれにしか聞こえない声が聞こえてきた

 

良く聞けばそれは自分達の声だった

それぞれに語りかけるかのような内容で一同は困惑した

 

さらに

 

勇輝「うわぁあああっ!?」

 

雫「ゆ、勇輝!? どうしたの!?」

 

突如奇声を上げて氷壁から飛び退いた勇輝に驚く一同

 

曰く氷壁に映る自分の顔に違和感を覚えよく見るとその表情は微動だにせず無表情であり、呟いた際に動いたはずの唇もそのままで硬直し、氷壁に映る勇輝は……スっと口元を割いていたという

 

カズマ「……大迷宮内は常に何が起こるかわからない非現実な場所だ……何が起きてもおかしくない……例えば氷壁に映る自身が飛び出して襲ってくるとかな……念の為壁から離れるか」

 

その後、特に氷壁に映る自分が異なる行動を取るという怪奇現象もなく、一行は遂に、通路の先に巨大な空間を発見した。部屋の奥には、先に見た封印の扉によく似ている意匠の凝らされた巨大な門が見えた

羅針盤を確認してもゴールで間違いはなさそうだ

 

ハジメ「ふぅ、ようやく着いたようだな。あの門がゴールだ。だが……」

 

ユエ「ん……見るからに怪しい」

 

シア「ですねぇ。大きい空間に出たら大抵は襲われますもんねぇ」

 

ハジメは、いい加減迷路にも飽きていたのでゴールが見えたことによりホッと息を吐きながらも、白眼をフルに使って索敵を行う。経験則上、ゴール手前の大きな空間で何もなかったためしがないのだ。それに、ユエ達も激しく同意し、警戒感をあらわにする

 

ハジメ「……相変わらず、反応はねぇのな。まぁ、行くしかないか」

 

やはり魔力反応は何も感知できなかったらしいハジメが、眉をしかめながら先陣を切った。ユエ達も後に続く。 そして、部屋の中央まで歩を進めたとき、案の定、それは起こった

 

ダクネス「む? ……あれは太陽?」

 

突如、頭上より降り注いだ光に、見上げたダクネスが発した言葉。ユエ達が頭上を見上げれば、そこにあるのは確かに〝太陽〟というべきものだった。 雪煙に覆われた迷宮の上空で、輝きを増していく一点の光。迷宮内ということを考えれば本物であるはずがないが、確かに感じる熱が〝太陽〟だと錯覚させるのである

 

ユエ「……ハジメ。周りが」

 

視線を険しくして擬似太陽を見上げていたハジメに、ユエが注意を促した。それに従って視線を周囲に巡らせたハジメの目に異常事態が映る。 何と、周囲の全てが煌めいているのだ。天空から空を覆う雪煙を貫いて差し込む陽の光が空気中の細氷に反射しているのだろう。いわゆる、ダイヤモンドダストというやつだ。 だが、自然界のダイヤモンドダストに比べると些か様子がおかしい。というのも、煌きが明らかに強すぎるのである。まるで宙に浮く無数のランプの如く、一部の氷片が強く輝き、しかも刻一刻とその光を強くしていく

 

カズマ「……ダイヤモンドダストと称するには少々危険な香りがするな。全員、防御を固めろっ!」

 

カズマの目には、それらの光輝く氷片が、まるでエネルギーを溜め込む砲台のように見えた

 

反射的に一塊になり、ユエとアクアと香織が〝聖絶〟を展開したその瞬間――閃光が駆け巡った。

 

ハジメ「っ、まるでレーザー兵器だなっ」

 

ハジメの言う通り、部屋の宙に浮かぶ幾百の輝く氷片は、溜め込んだ光をレーザーの如き熱線として解放したのだ。 特に、ハジメ達だけを狙ったわけではないようで、部屋の中を純白の細い光が縦横無尽に奔り、氷壁や地面にその軌跡を描いていく。ユエとアクアと香織が張った〝聖絶〟にも、ビッーー! と音を立てて傷を付けながら通り過ぎていった。 氷片から放たれる閃光の軌跡は完全にランダムのようで、宙に浮く氷片が回転したり移動したりするのに合わせて、無秩序に光の軌跡を奔らせた。氷壁や地面に、あっという間に幾条もの傷ができ、その度に新たな氷片が撒き散らされる。 更に、まるで天空の擬似太陽に落とされているかのように上空を覆っていた雪煙がハジメ達のいる広間に降りてきた。このままでは、数秒もしない内に【ハルツィナ樹海】並に視界を閉ざされてしまうだろう

 

めぐみん「まずいですね。このままでは煙に囲まれて立ち往生します」

 

カズマ「落ち着け。一応3重の結界で護られてるから対して問題はない。後こっちには白眼と写輪眼持ちのふたりがいるから煙で見えなくても進める。とにかく進むぞ」

 

カズマの号令と共に一斉に駆け出す。その間も、熱線は容赦なく盾状の〝聖絶〟を襲うが3人の中で特に強い結界術が使えるアクアのお陰で結界が壊れること無く、特に問題なく進めると思っていたが

 

ズドンッ!!

 

地響きを立てながら上空から迫る雪煙から、大型自動車くらいの大きさの氷塊が複数落ちて来たのだ。かなりの重量があるようで、落ちた衝撃により地面が砕けてクレーターが出来ている。向こう側が透けて見えるほど透明度の高い氷塊で、いわゆる純氷というやつなのかもしれない。胸元には、わかりやすく赤黒い結晶が見えていた

 

ハジメ「チッ、本命か」

 

ハジメが舌打ちをする。それに呼応でもしたかのように、直後、氷塊は一気に形を変えて体長五メートル程の人型となった。片手にハルバードを持ち、もう片手にはタワーシールドを持っている。その数は全部で12体。ちょうどハジメ達と同じ数だ。ゴーレムのようにずんぐりしていて、横列となって出口を塞いでいる

 

勇輝「!!あいつらが出口の番人!…なら今度こそ俺が(光輝)『天照』!?」

 

勇輝が聖剣を抜き今度こそ倒そうと意気込んでいたら突如全てのゴーレムの身体から黒炎が発生し焼き尽くしたのだった

 

振り返ると目を流血させた光輝がゴーレム達を睨んでいた

 

勇輝「!!お前また一人で倒したな!俺の相手を取るな!」

 

光輝「あのゴーレムは先程貴様が倒せなかった魔物よりも強い。どうせ結果は一緒だ……ならばさっさと倒したほうが効率的だ」

 

そう勇輝の事を意に返さない態度で言う光輝

 

勇輝「魔物を倒さなければ神代魔法は手に入らないんだぞ!!お前一人占めするつもりだっていうのか!?」

 

光輝「……そう思っているようなら貴様は無理だな」

 

勇輝「なっ!?」

 

ユエ「ん…確かに無理」

 

カズマ「天之河兄…お前なにか勘違いしているな?神代魔法獲得資格って言うのはなにも魔物を倒したかの有無で決まるわけじゃない。むしろ通過点でしかない。重要なのは大迷宮のコンセプトを理解し、試練を受けた精神面に左右される……今のお前は力を得ようと無理に動き回って焦っている……それじゃあ獲得はできない……狭い視点でしか物事見れないのはお前の欠点でしかない…頭に入れておけ」

 

そうカズマに言われた勇輝は何も言い返せずにいた

 

しかし、当の勇輝は、雫をチラリと見ると何か恐れるような眼差しを一瞬だけ向けて直ぐに逸らし、それから瞑目してしまった

 

だが、瞑目する直前に向けたハジメと光輝への視線……カズマとハジメと光輝だけが気がついたそれが憎悪に染まっていたと感じたのは、気のせいだろうか……

 

カズマ「……厄介なコンセプトだ……」

 

それからしばらくして、全員の回復がある程度終わったので光の出口へと進むことにした。完全回復とまではいかないが、それでも囁き声が続くこの迷路内にいて精神をすり減らすよりはいいだろうという判断だ

 

カズマ「さて、それじゃあ、行こうか」

 

カズマの言葉と共に、全員が光の門へと飛び込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界を染め上げた輝きが収まり、カズマはゆっくりと目を開いた

 

カズマ「……分断されたか。まぁ、予想はしてたが……しっかし一人くらい一緒でも良かっただろうに」

 

周囲に仲間の姿はない。一人である。 視線を周囲に巡らせば、カズマのいる場所は細い通路のようだった

 

二メートル四方のミラーハウスで、上下左右に自分の姿が映っている。後ろを振り返って見ても、あるのは突き当たりの壁だけで、出入り口らしきものは一切ない。前に進むしかない場所だった。 おそらく、ハジメ達もそれぞれ一人で同じような別の通路に飛ばされたのだろうと推測し、カズマは先へ進むことにした

 

カツカツと鏡のような氷の地面を歩く足音が反響する

 

大体、十分くらい歩いただろうか。分かれ道のない一直線の道を歩き続けて、やがてカズマは、中央に天井と地面を結ぶ巨大な氷柱のある大きな部屋に辿り着いた。鏡のような氷壁と同じく、円柱型の氷柱もよくカズマの姿を反射している

 

カズマ「他に通路はい……ってことは、あの氷柱か……」

 

そう独りごちながら、カズマは氷柱に歩み寄って行った。直径が大きいので、正面から相対してもハジメの姿が歪曲することはなく、まるで鏡の奥の世界からもう一人のハジメがやって来ているかのように、カズマが近づくにつれ、その姿が徐々に大きくなっていく

 

カズマ「……」

 

カズマはそれを無言で見ていると氷柱の中のカズマもこちらを見ている

 

鏡写しに映るふたりのカズマ

 

そう沈黙すること数分

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡のカズマ「いや流石になんか喋れよ」

 

カズマ「あ、やっぱ喋ったか。なんとなくこういう事が起こるんだなあって思ってたから」

 

突如鏡の中のカズマが喋り出したがカズマはそれに驚かず話した

 

鏡のカズマ「……驚かねえんだな…」

 

カズマ「まあ伊達に100年生きてるからな。この程度じゃ驚かねえよ…んでお前が出てきたってことはここのコンセプトってやっぱりあれなんだな?」

 

鏡のカズマ「……ちなみに何だと思うか?」

 

カズマ「ん?お前は俺なんだから知ってるんじゃないのか?」

 

鏡のカズマ「生憎全部ではないからな……それで?」

 

カズマ「……『自分に打ち勝つこと』。己の負の部分、目を逸らして来た汚い部分、不都合な部分、矛盾……そういったものに打ち勝てるか。おそらく、神につけ込まれないためのやつだ……」

 

鏡のカズマ「正解!……そしてこういうコンセプトってことは己の闇である俺がお前と戦うことになるんだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前とっくに精神面が完成されてるから闇とか負の部分とかがねえんだよ!!この試練受ける意味ねえよお前は

 

そう鏡のカズマが声を荒らげながら言う

 

カズマ「あー……まあ…前世じゃ色々あって自分の心の折り合いとかつけてたし…今は自分のやることに迷いとかないしな…」

 

鏡のカズマ「……この大迷宮の歴代挑戦者の中でお前みたいな奴は初めてだ…流石転生者……試練を受けずに突破するとはな」

 

カズマ「ん?」

 

鏡のカズマ「お前は闇だとか矛盾とか迷いとかが無いから受ける必要なんかない……だからお前はここへ来た時点で突破したことになる……たく…ここの大迷宮を作った解放者すらも予測できない突破方法だよ……」

 

カズマ「あー…なんかごめんな?」

 

鏡のカズマ「……まあ…本当に大変なのはこの先だ……お前のやりたいことは世界そのものを変える行為だからな?全種族の和解……ま、お前ならそれもよくわかってると思うけどな……せいぜい足掻けよ…それと嫁達を大切にな?」

 

そう言うと鏡のカズマは姿を消すのだった

 

 



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第五十五話 もう一人の自分

 

虚像のハジメ「チッ…揺さぶりかけるつもりで言ったっていうのにあんまし効果無いか」

 

ハジメ「当然だ。自覚しているからな」

 

別の空間では、ハジメと虚像のハジメのふたりが戦っていた

 

虚像のハジメの姿はまだ眼と腕を無くす前の『僕』だった頃の南雲ハジメそのものだった

服装も髪も黒く、白のハジメとは対象的だった

 

虚像のハジメはハジメに揺さぶりを掛けようと『ユエを愛することはただ安心感が欲しかったから』と言うがそれに意を返さない

 

ハジメ「確かに、俺は帰郷を心底願いながら、同じくらい恐怖している。そして、望んだ結果にならなくても、ユエがいる……そう、思ってしまっていることも事実だ」

 

虚像のハジメ「なら、どうして動揺しない。人間は、己の醜く、汚い部分を直視できない生き物だ。容赦なく晒されれば、それだけで目を閉じ、耳を塞ぎ、蹲って動けなくなるような、それでも無理に直面させれば壊れてしまうような、そんな生き物だ」

 

ハジメ「随分と、〝全てじゃない〟部分が出てきているな? 俺にしては口調が真面目すぎるぞ?まぁ、いいか。どうして動揺しないか、だったな。そんなもん考えるだけ無意味だからに決まってるだろう?確かに、拒絶される可能性はあるし、それは恐ろしいことだが、そんなもん未来のことだろう? 今考えても答えなんて出ない。考えるだけ無駄だ。なら、恐怖を抱えたまま、ぶつかってみるしかない。俺はな、もう、帰ると決めたんだ。誰にどんな事情があろうと、俺自身が恐怖を抱えていようと、そんな些事には構わず帰る。そうと決めた以上、押し通る。それだけだ」

 

そうはっきりと返すハジメ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚像のハジメ「内心では帰る意思が揺らいでいる(・・・・・・・・・・・)癖に良くそんな事が言えたな?」

 

ハジメ「!」

 

が、虚像のハジメのその言葉に動揺を見せた

 

虚像のハジメ「なんだ?ユエの事には動揺しねえのにそれには動揺するとは、自覚してなかったのか?……いや、見た所自覚してはいるものの迷いがあると見たな…」

 

ハジメ「……」

 

虚像のハジメ「帰る意思はある。だがその反面カズマ達を残して帰ることに負い目を抱えたままこの試練を受けてしまった事が災いだったな!」

 

その瞬間、虚像のハジメの動きが突如速くなりハジメに襲いかかり、ハジメはその攻撃をモロに受けてしまう

 

ハジメ「がぁっ!?」

 

虚像のハジメ「迷っているな?これは己を乗り越える試練だ。自らが抱える負の感情を乗り越える度に、負の虚像である俺は弱体化していく。逆に、目を逸らせば逸らすほど強化されていく。迷いを抱えたままのお前が俺に勝てるかよ」

 

そう言いながら虚像のハジメの拳が振り下ろされる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「はぁあああっ!!」

 

虚像の雫 「あら、また剣筋が乱れたわよ?」

 

気合の入った雄叫びと共に、神速の抜刀術が放たれる

一瞬で宙に幾筋もの黒線が引かれるが、その鋭い剣閃は唯の一筋も相手には届かない。 それどころか、一瞬の乱れを指摘されると同時に、縫うように伸びて来た突きによって眉間を貫かれそうになる。咄嗟に頭を振ってどうにかかわすが、こめかみを浅く切り裂かれてしまった

 

雫「っ、〝焦波〟!!」

 

先に受けた突きは八重樫流の刀技の一つ。故に、その突きが三段構えであることを、雫は誰よりも理解している。こめかみを裂かれ、僅かとは言え崩された体勢では回避は困難だ。 故に、迫る閃光の如き二段目の突きが己を穿つ前に、雫は地面に鞘を押し当て衝撃を撒き散らした。砕かれた地面の氷片を即席の散弾に変えて、どうにか間合いから逃れる

 

虚像の雫「カズマ君からの贈り物があって良かったわね? それがなければ、とうの昔に私貴女は死んでいるものね?」

 

雫「はぁはぁ……」

 

揶揄するような口調で白金を納刀する白い雫に、黒髪ポニーテールの雫は肩で息をしながら無言のままだ

雫は現在、ハジメと同じく虚像の自分と戦っていた

相対する虚像はハジメの場合と異なり限りなく白かった。白髪ポニーテールに白磁のような肌。刀も衣服も全てが白だ。赤黒い炯々たる瞳がやけに映える。 その白い雫はニヤニヤと普段の雫から考えられないような嫌味ったらしい表情を見せながら口を開く。先程からずっと続けられていることだ。その内容は当然、雫の負の感情を曝け出すもの

 

虚像の雫『痛い? 苦しい? 恐い? 泣きたい? 隠さなくてもいいわよ? 私は貴女なのだから全て分かっているわ。そう、何でも分かっている』

 

雫「ぐぅ…」

 

虚像の雫「惨めね貴女私……こんな惨めな姿……いつ以来かしらね?……ああ!思い出したわ!!確かアレは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇輝を頼った結果よりいじめられた時や勇輝と光輝の兄弟喧嘩を泣きながら見ていることしか出来なかった時以来ね!!

 

雫「!!」

 

虚像の雫「今の貴女私も惨めだけどあのときの貴女私も惨めだったわね……なんだったかしら?勇輝と光輝が家に入門して来たとき、王子様がやって来たのかと思った。勇輝に『雫ちゃんも、俺が守ってあげるよ』って言われてカッコイイ男の子との絵本のような物語を夢想したわよね。彼なら自分を女の子にしてくれる。守ってくれる。甘えさせてくれる。そう思っていた。でも、勇輝がもたらしたのは、貴女私に対するやっかみだけだった。そうでしょう? 小学生の時から正義感と優しさに溢れ、何でもこなせる勇輝と光輝は女の子達の注目の的だった。女の癖に竹刀を振り、髪は短く、服装は地味で、女の子らしい話題にも付いていけない貴女私が、そんな彼達の傍にいることが、女の子達には我慢ならなかったのね。そうそう、あの言葉は今でも覚えているわ。勇輝と光輝を好いてる女の子の一人に言われた言葉。『あんた女だったの?』って。ショックだったわよね?」

 

雫「うるさい!!」

 

虚像の雫「そんな事を言われた貴女は光輝に頼ったわね。貴女私は光輝なら『自分が直接言って聞かせるよ』と言うと思っていたけれど返ってきた答えは貴女私の想像と違うものだった。確か『ええっとそうだな……とりあえず先生に頼るのがいいかな…出来れば信用のおける大人、例えばお父さんやお母さんとか』って。 そう言われた貴女私はまさかそう返されるとは思ってなかったから思わず聞き返したら『多分雫はお母さんとかに話して迷惑が掛かるかも知らないって思っているからこうして俺に相談すると思うんだ……確かにその気持ちはわかるけど、一人で解決しようとするのはどうかと思うんだ……どうかな?』 って言われた。そしたら貴女私ったら光輝の事をたよりないって思ってしまったわよね?だから今度は勇輝を頼ったら『きっと悪気はなかった』『みんな、いい子達だよ?』『話せばわかる』って言ってその言葉通り貴女に対するいじめについて勇輝が女の子達に話し合いに行ってこれでもういじめられないと安心した…………けど待っていたのはこれまで以上の陰湿なイジメだった……それまで振るわれることもなかった暴力も振るわれ、もうだめかと思っていたわね………でもそのいじめを終わらせたのは他でもない…貴女私が頼りないと思っていた光輝だった……光輝は貴女私をいじめた女の子たちを一人残らず殴って止めた……あの光輝が…今まで一度たりとも人に暴力を振るったことのなかった光輝がよ……馬鹿な貴女私はそれで思い知ったはず……光輝が自分ではなく大人に頼るように言ったのは『自分が動けば余計にいじめが酷くなる』ってわかっていたから……まあそれに気づかず馬鹿正直に勇輝に頼った結果ああなった貴女私も悪いけど」

 

雫「!ええそんな事私が良くわかっ」

 

虚像の雫「その結果が彼と勇輝の兄弟喧嘩からの絶縁、そして彼は夢を捨てた……『誰も傷つけず人々を救う正義の味方』を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚像の光輝「自分が信じていた奴らからの裏切り、人の持つ悪意…その醜悪さを目に焼き付けたお前は奴らに…いや……人間そのものに失望………雫を傷つけた連中への暴力……それまで一度も感情に任せて暴力を振るったことのなかったお前がだ……そしてお前は理解したな」

 

場所は変わり

光輝は己の虚像と戦っておらず…ただ対話をしていた

 

虚像の光輝の姿は奈落に落ちる前の己の姿をしていた

 

光輝「……ああ……こいつらに救う価値なんかない………そして……『誰も傷つけず人々を救う正義の味方』を掲げていた俺がいざとなればその理想なんてものを無視して平気で相手を傷つけることができる……それが本当の自分だってな…………そんな人間がなれるわけがない……だから夢を捨てた……その結果に後悔はしていない……自分がいかに理想主義の現実を見ないガキだったかを理解することが出来たからな……」

 

虚像の光輝「そうだな……お前は自分の夢を綺麗さっぱり捨てた…人が生きるのは心に原動力があるからだ…それが夢を叶えるだったり人生を謳歌することだったりな……だが夢も捨て…人を信じきれず失望したお前にはその生きる原動力がこれっぽっちも存在しない……南雲は生への執着が大きかったがお前には生への執着も死への恐怖も存在しない……乾いてしまってるな……」

 

光輝「………」

 

虚像の光輝「だがそんなお前が再び人を信じようとしている……あいつらと出会ってな………だがお前は恐れている……また裏切られるのではないか……信じていたのは自分だけだったのかってな……」

 

光輝「……」

 

虚像の光輝「雫に対してもそうだ………自分が傷つける原因を作り…そんなあいつへの罪の意識からお前は陰ながらずっと守ってきた……許されたいからか?……それとも感謝されたいからか?そしてあいつに抱いた想いは果たしてただの罪悪感だけか?…………この試練は本来自らが抱える負の感情を乗り越える度に、負の虚像である俺は弱体化していき、逆に目を逸らせば逸らすほど強化されていく……が…お前は他の挑戦者と違い己の負に目を逸らしておらず自覚しているが乗り越えていない……お陰で俺は強くもなれねえし弱くもなれねえ……つまり今のお前と同等ってことだ……だからこその対話だ……お前に問う………さっきの質問に嘘偽り無く答えろ」





最後の試練はカズマとハジメに光輝、雫視点でのみ語られますが他のメンバー達は大体原作通りの内容となっています。ちなみにアクア達3人は前世の世界での経験で精神面が完成されてる為カズマ同様試練を受けずに突破しました。


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アクア誕生日特別編2023年


はい今年もやってまいりました私の最推しのヒロインアクアの誕生日が!!

原作このすばを見てたときからアクアが特に大好きで毎年誕生日にはアクアの誕生日特別編を各小説やっています!!ちなみに時系列は未定です。まあパラレルみたいな扱いだと思って下さい!!

ちなみにヒロインレースにはレミアは不参加です。


 

アクアと光輝を除く攻略者パーティ一同と恵里浩介幸利「「「「「「カンパーイ!!!」」」」」」

 

場所はトータスの荒野

 

ハジメとカズマが即席で作った仮設パーティー会場で酒を片手に騒ぐ一同

 

今日はアクアの誕生日

仮設パーティー会場にはたくさんの料理が立ち並ぶ

 

更にはトータスの酒を始めとした地球のドリンク(カズマ自作)が置いており、地球組はこぞってドリンクを飲む

 

アクア「みんな今日はありがとうね。まさか異世界で私の誕生日祝うことになるなんて思っても見なかったわ」

 

めぐみん「ふふ、またこうしてアクアの誕生日を祝えれるのはとても嬉しいですよ」

 

ダクネス「ああ…また一緒に居ることができる実感が湧くからな…」

 

アクア「うん!地球に転生してからふたりとまた会うまではずっとカズマが祝ってくれてたから…またいつもの4人で誕生日を送れるのは凄く嬉しい!」

 

カズマ「ま、これからはまた前世のときみたいに4人一緒の誕生日を迎えられるから、心ゆくまで楽しもうか♪」

 

そう前世で死ぬまで一緒にいた伝説のパーティーの面々が会話しながら楽しむその傍らで

 

ハジメ「あいつら、俺達そっちのけですっかり自分たちだけの空間形成させやがって」

 

シア「ハジメさんとユエさんがふたりっきりの時はだいたいあんな感じですよぉぉ!」

 

浩介「いや、それとはだいぶ違うだろ」

 

幸利「ハジメとユエのはイチャラブだがあの4人のは家族とかそれのに近いもんだな」

 

恵里「ハジメが絡むとユエ達いつも喧嘩するけどカズマが絡んでもあの3人はちっとも喧嘩せず平等に仲良くやれてるね」

 

ティオ「うむ…ユエ達も見習うべきではあるが……お主達は独占欲が激しいから厳しいのう」

 

香織「だって!好きな人を独占したいって思うのは恋する乙女の性分じゃない!!」

 

ユエ「ん…それについては同意するけどハジメは渡さないから…それと香織もシアも正妻の私に挑む形でこの恋のレースに参加したことを忘れなく」

 

シア「まだ結婚してないじゃないですか!!」

 

香織「結婚してないからまだ正妻の座は空席!!そしてそこに入るはこの私しらさ、いいえ…この私南雲香織よ!!」

 

シア「貴女も貴女でなに抜け駆けしようとしてるんですか!!それを言うなら正妻はこの南雲シアですよ!!」

 

ユエ「ん…ふたりじゃなく不足。ここはハジメの初めてを美味しく頂いた私…南雲ユエが」

 

香織「この私を前にそういう方面でマウント取ろうなんていい度胸ねユエ!!」

 

ユエ「…文句言うなら勝ち私から勝ち取ってみて……最も…敗残兵に負けるほど私は弱くないから」

 

香織「誰が敗残兵よ!!そっちがその気なら相手になるよ!!」

 

シア「もうここらで誰がハジメさんの正妻なのか決着つけましょう!!」

 

そう言い3名はともに相手に飛びかかろうとした瞬間

 

光輝「うるさい」

 

それまで黙って料理を食べていた光輝が3人の頭を目にも止まらぬ速度で殴り黙らせた

 

シア「い、いだぁぃでずぅぅぅ!!」←涙目で頭を抑えてる

 

ユエ「うぁぁぁぁ…」←頭を抑えて悶えてる

 

香織「痛ったぁぁぁ!!!ちょっと光輝君!いきなり女の子の頭を叩くなんて!!」←涙目になり頭を抑えながら睨む

 

光輝「黙れ。日頃から南雲関連で喧嘩するが今日ぐらい静かにしろ。それと食事中に騒ぐな」

 

雫「ハ…ハハハ…」←思わず苦笑いする

 

光輝は3人を睨みながら注意する

 

 

シア「で、でも光輝さんも気になりません!?誰がハジメさんの正妻になるのかを!」

 

ユエ「ん……光輝は私こそハジメの正妻に相応しいと思うでしょ?」

 

香織「ああ!また抜け駆けして!!光輝君!ここは幼馴染の私がハジメ君の正妻に相応しいって思うよね!?」

 

シア「ふたりばかりずるいですよ!!光輝さん!このふたりよりも私が相応しいですよね?」

 

3人に迫られる光輝だったが

 

光輝「どうでもいい」

 

ユエ/シア/香織「「「!?」」」

 

光輝「お前らのうち誰かが南雲の正妻になろうと、どうでもいい……それとユエ…南雲の童貞を奪ったマウントで正妻ズラするな。只々妾臭い…ほか2人もギャアギャア喚くな煩わしい」

 

ユエ「グハァ!」

 

シア/香織「「冷た!」」

 

そう冷たく吐き捨てると3人共心にダメージを負った

 

雫「こ、光輝…うるさかったのはわかるけど言い方が…」

 

光輝「文句なら己の女を御せないそこの眼帯に言え」

 

ハジメ「黙れ天之河。あいつらの俺の取り合いは今に始まったことじゃねえし制御できねえほど我が強えからどうすることもできねえんだよ」

 

幸利「まあ確かにあの中に入り込む勇気は無いわな」

 

浩介「思ったんだが幸利と恵里ならあの3人の喧嘩止められたんじゃねえのか?」

 

恵里「嫌だよ。誰が好き好んで痴話喧嘩の仲裁役なんてやるって思ってるの」

 

幸利「右に同じく」

 

ティオ「しかし…本当にカズマ達とは雲泥の差じゃのう…」

 

ハジメ「なあ…前から思ってたんだが、なんでアクアとめぐみんとダクネスはそう仲良くやれてんだ?」

 

シア「それ私も思いました!どうして御三方はカズマさんで取り合いになったりしないのですか?」

 

ユエ「好きな人の独り占めはしたいと思わなかったの?」

 

香織「そうそう、アクアちゃんにめぐみんちゃんもダクネスさんもそうしたいと考えなかったの?」

 

ハジメ達に聞かれ、料理と酒を摘んでいた4人はピタッと動きを止め振り替える

 

すると少し考える素振りを見せたかと思えば4人はハジメ達に答えを言う

 

アクア「そうね…まあ簡潔に言えば……カズマの事が大好きだけど2人の事も同じくらい大好きだからね///」

 

めぐみん「はい…私もアクアと一緒でカズマの事を愛してますがそれと同じくらい2人の事も愛してますので///」

 

ダクネス「私もだ……私にとってもカズマだけでなく、アクアやめぐみんも決して切れない繋がりがある///」

 

カズマ「ははは…なんか唐突に愛の告白されて気恥ずかしいが…俺もそうだな……」

 

カズマが頬をかきながら照れ臭そうに答えた

 

アクア「だからね…カズマと結ばれる前…カズマが私達のうちの誰かで、例え私が選ばれなくてもめぐみんとダクネスなら私は納得できたわ」

 

めぐみん「私もアクアかダクネスなら潔く身を引けます」

 

ダクネス「私もだ。アクアかめぐみんなら満足できた……そのくらい私達は互いを尊重し合っていたし、信頼していたからだ……」

 

雫「……信頼?」

 

アクア/めぐみん/ダクネス「「「私達のうちの誰かならカズマを幸せにしてあげられる」」」

 

ユエ/シア/香織「「「!!」」」

 

アクア「人と結ばれることで特に重要なことはね…その人を幸せにしてあげれるか……」

 

めぐみん「カズマなら私達を幸せにしてあげられる…」

 

ダクネス「なら私達は自分が選ばれたのならそのカズマに幸せを与えられるか……それが重要なんだが…」

 

カズマ「俺が一人ではなく3人まるごと選んじゃったからさ…」

 

アクア「フフ、そう言えば私達がカズマに気持ちを伝えた日…カズマ言ってたわね」

 

めぐみん「はい…あれを聞いて心から嬉しくなりましたね」

 

ダクネス「選んでくれた嬉しさもあったがその言葉が特に嬉しかった!」

 

ユエ「……その言葉って?」

 

アクア「フフッそれはね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ『じゃあお前ら3人まとめて選べば俺は人の3倍幸せになれるのか!!』

 

光輝を除く面々「「「「「!!!」」」」」

 

アクア「まさか…私達のうち一人を選ぶのかって思ったら全員よ……」

 

カズマ「良いだろ別に。お前ら3人を選んだのはお前らの事が狂っちまいそうなくらい愛してしまったんだから仕方ねえだろ」

 

浩介「うわ……愛情深…」

 

アクア「だからね…私達はカズマを独り占めしようなんて思ってないの…というか何十年も一緒に居た家族を切り離せるわけ無いでしょ」

 

めぐみん「貴女達も…今はまだ良いですが考えるのですよ。自分達だけの幸せだけじゃなく」

 

ダクネス「お前たちが…ハジメを幸せにしてやれるかどうかもな………」

 

ユエ/シア/香織「「「………」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香織「確かに……私、少し自分のしあわせばかり考えすぎてたかも」

 

ユエ「…自分の幸せだけじゃなく……」

 

シア「ハジメさんの幸せ……それを与える側になるはずでしたのに……自分の幸せしか考えてませんでした……」

 

ユエ「ん……少し反省…喧嘩はしても、これは意識しなきゃいけない……ハジメを幸せにしてあげるのは私達の役目だって…」

 

香織「そう…だね…」

 

シア「正妻の座はひとまず置いておいて……まずはハジメさんに幸せを与えることから考えましょうか!!」

 

アクア達の言葉を聞き、ユエ達の正妻戦争は一旦休戦となった

 

浩介「凄えな…あの3人の喧嘩を止めさせやがった」

 

幸利「流石は経験者達だ」

 

恵里「凄い…」

 

光輝「おい」

 

ハジメ「ンダよ?」

 

光輝「わかっているとは思うが、人の3倍幸せになるってことは、人の3倍幸せにしてやるってことでもあることを頭に入れておけ」

 

ハジメ「………わかってるさ……言われなくてもあいつらのことも幸せにしてやる」

 

そういうとユエ達が頬を赤らめながらハジメを見てきた

 

アクア「……さ!とにかく今日は私の誕生日!!私の誕生日でこんな空気の中楽しむなんてできないから仕切り直ししよ!!みんなグラスを持って乾杯し直そ!!」

 

そう言いながらアクアはジョッキを片手にテーブルに登り

 

アクア「それじゃあ!!私の誕生日とカズマ達とハジメ達の永遠の愛と幸福を祝して

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾杯!!!

 

そう高らかに乾杯し、周りもそれに続くのだった

 

その日彼らは夜遅くまで騒ぎ楽しみ続けたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《オマケ》

 

アクア「それにしても……こんなに多くのご馳走……よく3人だけで作れたわね」

 

アクアが料理の品を見渡しながら呟く

 

ダクネス「確か料理担当は光輝と香織と雫だったな」

 

香織「あ……そのことなんだけどね」

 

めぐみん「?……どうかしたのですか?」

 

雫「ええっと……その……今回の作った料理のうち

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

6、7割は光輝が一人で作ったものなの…」

 

ハジメ「はあ!?この料理の半分以上をあいつ一人でか!?」

 

雫「私と香織が一品作る間に光輝が2、3品作ったの……しかも味付けも盛り付けも完璧…」

 

浩介「え?あいつ料理やりながら会場設営までやったのかよ!?」

 

ハジメ「は!?」

 

恵里「弟君……会場設営の方の手伝いやってたのは見てたけどまさか料理まで……」

 

ハジメ「………(正直俺たちの中で一番祝いそうにないと思っていたやつが他の誰よりも準備に携わって祝っていた件)」

 

 





アクアの誕生日特別編とか言いつつ本編じゃあまり描かれなかった伝説のパーティーのイチャラブものでした。

後光輝は兄貴以上に何でもできる高スペック持ちですのでやらせたら何でもやってくれます。


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第五十六話 本心


はい、三週間ぶりの投稿になります。色々忙しくて遅くなりました。投稿できるうちに投稿してできれば今年中に最終章行けたらと思っています。


 

《ハジメ視点》

 

本当はわかっていた

 

自分の本心を……それを言い訳並べて見て見ぬふりをしていた

 

俺がカズマと出会ったのは中学生の頃だった

 

香織が俺を一方的に知ることとなったあの土下座事件のあったあの日

 

たまたま不良連中に絡まれていた子供とばあさんを助けるためにちょっと身体貼ったことがあり、その時に警察官を連れてきた男女……カズマとアクアと出会い……ダチになった

 

当時の俺は人とあまり関わることがなく、いつも一人だった

別に天之河みたいな理由ではないが俺みたいな人間は世間一般からしたら恥ずべき存在だったこともあり、友達も居なかった

 

そんな俺に声を掛け、俺の趣味を笑うこと無くそれどころか共通の趣味を持っていたこともあり俺達はすぐにダチになった

 

そして言われた

 

『一度しかない人生……もっと自由に堂々と生きたほうが楽しいに決まってんだろ』

 

この言葉に感銘を受けた俺は自分を隠さず堂々と生きるようになった

 

本人には言ってないが、俺は内心カズマに強い憧れを抱いていた

 

いつも的を得たかの様な達観した発言をするだけでなく、やりたいことをやりたいようにやる姿勢

 

そして時に見せる人を惹きつける魅力

 

幸利は俺やカズマのようになりたかったと言っていたが……その気持ち……俺にもわかるよ

 

俺もそうだったのだから

 

奈落で死にかけ、何が何でも故郷に帰りたいと強く願い、その為に敵を殺して殺してその末にカズマ達と再会、そこで知るカズマたちの実力とその過去

 

俺はカズマから『エヒトを倒すために力を貸してくれ』と頼まれるのではと身構えていたが、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『お前は神代魔法を手に入れて元の世界に帰る手段を見つけたらクラスメート達と帰りな』

 

返ってきたその言葉に俺は驚いた

 

確かに俺は地球にさっさと帰りたかった

この世界のことだとか住人達の事もぶっちゃけどうでもよかった……だが…心の何処かで俺のことも頼って欲しかったとは思っていた

 

カズマには負けたが俺だってこの世界じゃ最高峰の実力者になったのだから……だがカズマは一度たりとも『力を貸してくれ』や『一緒に戦って欲しい』とも頼まなかった

 

本当に自分たちだけで神殺しを成そうとしていた

 

そして俺やユエが全ての神代魔法を集め地球へ帰ろうとしている事を理解したうえでそれまでの間旅の同行を願い出た

 

アイツは俺が神殺しの意思がないことを理解したうえでこれまで旅の間、何度も手助けしてくれた

 

そんなカズマに俺は心の何処かで罪悪感を抱いていた

 

これまで助けられてきたっていうのに……この世界のために神殺しをしようとするアイツを置いて俺はユエ達と地球へ帰還……………

 

なあ

 

これでいいのか?俺

 

本当にいいのか?俺

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アイツが命かけて神殺しを成し遂げたとして……俺はそんなアイツに胸張ってダチなんて言えるのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『一度しかない人生……もっと自由に堂々と生きたほうが楽しいに決まってんだろ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

虚像のハジメ「…お前……顔付きが変わったな」

 

虚像のハジメが繰り出した拳を受け止めたハジメ

拳が飛んでくる僅かな時間の中、ハジメは己の中の本心と向き合い、かつてカズマが自身に向けた言葉を思い出す

 

ハジメ「…はぁ…はぁ…悪かったな……お前の言うとおりだ……認めよう……俺は確かに迷っていた。このまま帰っていいのかってな……神殺しを果たそうとしているカズマを置いて俺達は地球に帰っていいのかってな……」

 

口から血を流しながら…だが表情はさっきまで追い込まれていた物とは思えない笑みを浮かべていた

 

ハジメ「俺としたことが………肝心なことを忘れるなんてな……そうだ……そうだったな……俺はこれまで、自分のやりたいようにやってたんだ……故郷に帰るために試練を挑み続けた…だがあいつらは神を殺す為に残って戦おうとしている………そんなあいつらを置いて帰ろうとすることも心に引っかかった……ならどうすべきか……故郷へ帰るか……あいつらと一緒に神殺しをするか………そんなの簡単な答えだったな」

 

虚像のハジメ「クククッ……そうだ……実に簡単な答えだ」

 

ハジメ「ああ…そうだ。……俺は故郷へ帰りたい……だが神殺しを成そうとするあいつらを置いて行きたくない……だからこそ俺は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ達と一緒にエヒトを倒し、あいつらと一緒に地球へ帰る!!

 

虚像のハジメ「………フッ……ようやく迷いは晴れたか」

 

ハジメ「ああ……だから俺は…この試練を突破してあいつと話をする!!その為に……俺は……お前という俺を超える!!

 

その瞬間、虚像の己を掴む手とは反対のもう片方の掌を広げた

するとその掌に風と魔力が集束し高密度に圧縮・乱回転させた球体が誕生した

 

虚像のハジメ「!?」

 

ハジメ「青ざめたな?生憎これはまだ使い慣れてなくてね。下手したら俺のほうが負傷する恐れがあって実戦で使うのはもう少し先だって考えていたが……確実を求めるあまり少し臆病になったからな……俺に必要なのは、無謀ゆえの勇気だ!

 

そう叫ぶと風と魔力を乱回転させた球体を虚像の己に胴体に思いっきり押し付けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ『やったなハジメ!ついに完成させたな!』

 

ハジメ『ああ。カズマの協力のおかげだ』

 

ユエ『威力もある…奇襲にも向いてる……後は名前』

 

めぐみん『ならここは私が名付けましょう!』

 

カズマ『却下だ。お前が名付けたら厨二臭くなるからな。ただでさえ見た目闇落ちした金木研だっていうのにこれ以上酷くさせられるか』

 

ハジメ『だから誰が闇落ちした金木研だ!は?イヤ待て、お前今まで俺の見た目酷いって思ってたのか!?』

 

シア『ならここは指導してくれたカズマさんの名前も入れて『光輪発起旋毛和真双式ノ丸』』

 

カズマ『いや投げぇダサいから却下で』

 

ユエ『ん…ならここは間をとって『光輪発起旋毛和真葬式ノ丸』にしよう』

 

カズマ『おいユエ、どこが間をとってだ。ただ名前が双式から葬式になっただけだ。お前まじ後で体育館裏に来い』

 

ハジメ『いやここ異世界……ここはシンプルに決めようか…螺旋状に回転する球体……』

 

アクア『あ!ならこういうのはどうかしら。螺旋状に回転する球だから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「螺旋丸(らせんがん)!」

 

虚像のハジメ「がァァァァァァァ!!!!」

 

そう叫びながら球体を叩きつけると虚像のハジメは胴体に螺旋状の傷を負わせながら吹っ飛んで行き、氷の壁に叩きつけられた

 

壁に叩きつけられた虚像のハジメは身体から黒い血を流しながらもこちらに不敵な笑みを浮かべていた

 

虚像のハジメ「そう…それでいい……己の本当の願望や本心……それを自覚し、過去の自分を超え、今へ…いや…未来の強くなった自分になりな…」

 

それだけを言うと虚像のハジメはまるで砂に溶けるかの如く消えていくのであった

 

ハジメがドンナーをホルスターに仕舞うのと同時に、部屋の壁の一部がにわかに溶け出し、その奥に通路が現れた

 

ハジメ「ユエ達は……まぁ、大丈夫だな」

 

そんな呟きと共に、ハジメは、通路の奥へと進んで行った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚像の光輝「……それが……お前の本音か…」

 

光輝「……ああ……」

 

虚像の光輝「……はっ!……あれだけ人を嫌い、関わりを絶ってきたお前の本音がそれとはな……」

 

光輝「なんとでもいえ………もっとも…誰にも言うつもりはないがな」

 

虚像の光輝「………確かに……お前なら神に付け入られることは無いだろうな………その重荷を……あくまで死ぬまで貫き通すつもりか……」

 

光輝「……ああ……」

 

虚像の光輝「……フッ……なら……精々苦しみ続けろ……」

 

それだけ言うと虚像の光輝は壁に吸い込まれて消えた

 

光輝「………行くか」

 

虚像の己が消えたのを確認した光輝は先へ進むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

虚像の光輝『雫に対してもそうだ………自分が傷つける原因を作り…そんなあいつへの罪の意識からお前は陰ながらずっと守ってきた……許されたいからか?……それとも感謝されたいからか?そしてあいつに抱いた想いは果たしてただの罪悪感だけか?…………この試練は本来自らが抱える負の感情を乗り越える度に、負の虚像である俺は弱体化していき、逆に目を逸らせば逸らすほど強化されていく……が…お前は他の挑戦者と違い己の負に目を逸らしておらず自覚しているが乗り越えていない……お陰で俺は強くもなれねえし弱くもなれねえ……つまり今のお前と同等ってことだ……だからこその対話だ……お前に問う………さっきの質問に嘘偽り無く答えろ』

 

光輝『……そうだな……俺は━━━』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第五十七話 少女の想い

はい。最後の大迷宮の試練のトリを飾るのは本作女性キャラでも高い人気を誇る八重樫雫です。

果たして彼女はどう乗り越えるのでしょうか!!


 

虚像の雫「もう、立ち上がらなくていいのよ? 貴女が苦しまなくても誰かがクリアしてくれるわ。そうすれば家に帰れる。大丈夫よ。そのまま諦めても命は取らないから。そのまま寝ていれば、目を覚ました時には全て終わっているから」

 

雫 「なに、を……」

 

ハジメと光輝が試練を突破した時を同じくして…雫は己の虚像に追い詰められていた

 

身体を何度も斬られ、口や身体から血を流し地に伏していた

 

そんな苦しむ雫に虚像の雫は甘く囁いた。優しい声音で、口元を三日月のように裂きながら、まるで悪魔のように

 

虚像の雫「ただの選択よ。……もちろん、諦めないなら殺すわ。容赦なく切り刻んで上げる」

 

ニッコリと怖気を震うような笑みを浮かべる虚像の雫

その手に持つ抜き身の白刀には、スノーホワイトが雪に垂らした血の如く、雫を刻んだ証がベットリと付着していた

 

虚像の雫「ねぇ、貴女。あの時は嬉しかったわよね?」

 

雫「え?」

 

いきなりの質問に雫が呆けた表情で声を漏らした

 

虚像の雫 「光輝とハジメ君が助けに来てくれた時よ。分かっているでしょう? 貴女私の人生で一番劇的だったあの瞬間を忘れるわけがないわ」

 

雫「何を言って……」

 

虚像の雫「絶体絶命のピンチ……いえ。あの時、貴女私は確かに諦めた。全て諦めて理不尽な死を受け入れようとした。でも…そんな貴女を彼は……何も言わず颯爽と貴女を助け、守った……そしてハジメ君と圧倒的な強さで敵を殲滅した………小さい頃からずっと見ていていつの間にか大きくなった背中、敵を決して貴女私に近づけず守り抜いたその姿……そうね………まるでいじめられていた貴女私を助けた時のようだったわね……そんな彼だからこそ貴女私は彼のことを」

 

雫「ち、ちがっ………」

 

決して認めたくない、認めるわけにはいかない何かを言われるような気がして、咄嗟に雫は否定の言葉を叫ぼうとする。だが、そんな抵抗は無駄だとでも言うように、虚像の雫は容赦なく言葉を解き放った

 

虚像の雫「貴女私…本当になにも変わってないわね……子供の頃もそう…あの時もそう……そして今も変わらず弱くて惨めで情けなく…こうして地に伏して……またそうやって彼の……貴女私の救世主様に助けを求めるの?よくもまあそんな事を思えるわね…彼の夢も奪って親兄弟だけじゃなく大勢の人を嫌い、孤独になるきっかけを生んでおいて…そんな彼に抱いてはいけない淡い想いを抱いてしまって…」

 

虚像の自身がそう冷たく…それでいてゴミでも見るかのような瞳を向けられ…思わず後退りするとそこへ虚像の雫が斬撃を飛ばしてきた

 

雫「ヒッ!」

 

虚像の雫「…そんなに我が身が大事なの?……そんなに自分の負と弱さから目をそらしたいのね?…そう…やっぱり止めだわ…貴女私はここで殺すわ」

 

雫「!」

 

そう言うと雫を蹴り飛ばし壁に叩きつけ、追い込んだ雫に刀を向けた

 

虚像の雫「最後に何か言い残すことはあるかしら? 氷壁にでも刻んでおいてあげる。ここはそれぞれの空間と繋がっているから、運がよければ自分の試練を突破した誰かがやって来て遺言を見つけるかもしれないわよ?」

 

雫「……」

 

雫は答えない

いや…答えられなかった

その頬に涙の雫が流れ落ちた

 

ただ静かに、光りの粒がはらはらと頬を伝い、ポタリポタリと膝の上に染みを作っていく

 

雫自身にも何故涙が溢れ出るのか判然としなかった。己の死を悟ったが故の恐怖からか、未来を失ったことへの絶望か、言われっぱなしで降された悔しさからか、大切な人達ともう会えない悲しさか……あるいは、その全てか。 それを無言で見つめながら、虚像の雫は抜き身の刀をグッと後方へ引き絞った

 

刀身が向かう先は、雫の頭部だ

 

虚像の雫「最初はもう少し抗うことを期待してたけど…ここまで精神的にまでズタボロになった上無様に生き急ぐ姿見せられたら……生かす気も失せたわ……もうこれで最後になるから最後にこの言葉を送るわ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

己の弱さで彼を追い詰め孤独にし、傷つけた貴女私に生きる資格なんかないわ……さようなら……醜く脆弱で哀れな貴女私

 

その言葉とともに刀を振り下ろされた

 

振り下ろされる刹那

 

雫には周りの時が遅くなったかのような錯覚を覚えた

刀身に映る涙を流す無力な己の顔

 

そんな己の姿を見て更に涙を流したくなった

 

雫「(…悔しい!!悔しい!!私は…弱いまま!!強くなった気でいたのに…弱すぎる!!…なにも言い返せなかった!)」

 

その言葉は、ただひたすら己の不甲斐なさを呪う言葉

 

まだ、死にたくない。会いたいのだ

 

親友に、仲間に、家族に、そして、彼に。もう一度。 でも、もう一人では立てないから。身も心も疲れきってしまったから。 だから……

 

雫「た、すけ、て……だれ、か……たす、け、て…よぉ……」

 

その白き刀身が雫の身体を切り裂く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ『雫ってさ…自分のことが嫌いだろ』

 

雫『へ?』

 

カズマとの訓練を受け、その休憩中にカズマが漏らしたその一言に雫は驚く

 

雫『嫌いって…急にどうしたの…?』

 

カズマ『いやな…俺一応お前らの数倍の人生生きてきたからさ…人を見たらある程度の事がわかるんだよな…例えばめぐみんは自分のことが好き。ハジメは好きでも嫌いでもなく普通って感じだな………けどお前と光輝は自分のことが…そこらの悪人よりも嫌いなんだって見ていて感じた』

 

雫『!』

 

カズマのその言葉に思わずつばを飲み込む

 

カズマ『……初めて会ったあの時からずっと感じてた……けど……悪い……王国でお前がユエにお前自身と光輝の過去を聞かせていた時……ハジメと一緒に部屋の外から盗み聞きしてた…』

 

雫『!……そう…』

 

聞かれていたことにも驚いたが、それ以上に己の心情を察せられていた事に驚いた

 

それからポツリと語りだした

 

雫『ええ……カズマ君の言うとおりよ…私は……私が嫌い……大嫌い……』

 

そうまるでなにかを思い出すかのような、嫌悪と負が混じり合った表情を浮かべた

 

雫『…私は……今も昔も弱いまま……いざという時…泣いてることしかできない私が……目の前で大切なものが砕かれそうになっている時も……私が傷ついている時も…命に瀕している時も…なにもできないでいる私を……いつも何も言わず守ってくれている光輝に…なにもしてあげられないそんな私が……弱い私が大嫌い』

 

カズマ『……そうか…』

 

そう自己嫌悪を吐く雫の拳は強く握っており、今にも手を傷つけ血が出そうになるほどだった

それほど雫は己が嫌いだということを物語っていた

 

カズマ『つまり…雫は自分が許せないんだな?』

 

雫『……ええ…』

 

カズマ『なあ雫……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

別に弱くてもいいだろ?』

 

雫『……へ?』

 

カズマ『確かに弱ければなにもできない……大切なものを守ることも…自分の信念も守ることもできない……でもさ…誰もが最初から強かったわけじゃない……強くなったやつはみんなその弱さを悔いて、挫折して…一旦立ち止まって……そして弱さを受け入れて強くなったんだよ……ハジメは奈落の底での無力さに………光輝は何も知らなかった己の無知と人の善悪に…香織は想いだけでは届かない、ライバルとの力の差に……みんな…自分の弱さに一度はうちのめされ…最後には自分の弱さを受け入れ、立ち上がった奴らだ……弱い自分は…これから強くなる自分のための通過点に過ぎねえんだよ』

 

雫『……それじゃあ…カズマ君も…?』

 

カズマ『…まあね…でも俺は以外と立ち直るのが早かったな……あいつらが居てくれたから』

 

そう言うとカズマは奥でボードゲームをして遊んでいる嫁たちを見た

 

カズマ『あいつらさ…俺が落ち込んでたり弱ってるといつもなにも何も言わずそばに居てくれるんだよ……励ましの言葉を送ることもなく…気分を変えるよう行動もしない…けどな…居てくれるだけで…安心する……心を落ち着かせる…弱さを受け入れ立ち上がる勇気を与えてくれるんだ』

 

雫『!』

 

カズマ『だからさ雫……弱くてもいい…挫折して一度立ち止まっても良い……大事なのは自分の弱さを自覚し受け入れ、それでもなお立ち上がろうとする心だ……』

 

雫『カズマ君…』

 

カズマ『今はまだ…弱いが……お前なら必ず自分の弱さを…乗り越えられるって信じている………最後には一人で立ち上がらなきゃいけないが、俺達が背中を押して手助けしてやるよ……なんてったって俺達は一人じゃないからさ……そして…いつの日か……弱い自分自身を許してやれ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「(そう…そうだったわ……私は弱い……けど一人じゃない……一人で抱え込む必要なんかない……背中を押してくれる人たちがいる……香織やカズマ君達に背中を押してもらえた……後は……私自身が立ち上がるだけ……!)」

 

虚像の雫「!」

 

虚像の己のトドメを寸前で回避する雫に虚像の雫は驚きの表情を浮かべた

 

虚像の雫「あら……さっきまでの弱りきっていたはずの貴女私とは思えない表情ね…この期に及んで生きたくなったかしら?」

 

雫「……ええ…そうよ……貴女の言う通り……私は自分の弱さで光輝を追い詰め傷つけた……どうにかしたいと思っても彼の心を癒やすこともできないでいた………傷ついて欲しくなかった……彼のあんな表情を見たくなかった……凄く痛かった………彼を傷つけた自分の弱さが許せなかった……でもだからこそ……ここで終われない…!」

 

雫は白金を握る手とは別に、腰のホルダーからクナイを取り出し投げつけた

 

意外にもクナイが手に馴染むと感じた雫は光輝だけでなく自身もカズマに制作を頼んでいたのだった

 

しかし投げつけたクナイは虚像の己には通じず全て剣先で弾かれた

 

虚像の雫「こんな小細工が私に通じるとでも?……良い加減無駄な足掻きはやめてさっさと斬られて楽になりなさい!!」

 

そう言いながら虚像の雫が放つ斬撃を全てよけ、白金で弾く雫はクナイをまた取り出し構えた

 

虚像の雫「……またそればかり……何度やっても無駄なことよ…貴女私が何度光輝の傷ついた心を癒そうと…孤独にしたくない想いから近づいても無駄だったようにね……良い加減諦めなさい……結局貴女私には彼の心を救うことはできないのよ」

 

虚像の己の言葉を聞く雫だったがその表情には一切の迷いはなかった

 

雫「言いたいことはそれだけかしら?……悪いけど……もうこっちは吹っ切れたのよ……自分の弱さも認める……そして……諦めるつもりはないわ」

 

虚像の雫「は?」

 

雫「…この世界に来る前から…決めているのよ………何度彼に拒絶されても!何度彼が孤独に突き進もうとしても!……私が孤独にさせない!!そして傷ついたその心も私が必ず癒やしてみせる!!

 

先程のように心を折ろうと吐いた言葉は雫には通じず、それどころか強くなってきている雫の気迫に押されそうになった虚像の雫は苛立ちの表情を浮かべながら

 

虚像の雫「!!何度やっても一緒だって言ったでしょ!!いい加減に諦めなさい!!」

 

刀に魔力を集中させ、これまでとは比べ物にならないほどの速度で雫に斬りかかる

 

対する雫は白金を握りながらクナイを複数個投げ、こちらも白金に魔力を集中させ虚像の己を斬りかかる

 

このまま行けば3秒後には互いの刀が相手に届く

どちらが相手よりも先に斬るかで決着がつく

 

雫「……貴女の方こそ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間雫の姿が消え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「私が諦めるのを!諦めなさい!!

 

虚像の雫「!?」

 

刹那…虚像の雫は一瞬姿を消し、いつの間にか己の目の前に姿を現した雫に

 

雫「飛雷神斬(ひらいしんぎ)り!

 

 

すれ違いざまに斬られたのだった

 

 




この虚像の雫が他の虚像よりも厳しめなのは己を許せないでいる雫自身の心が強く反映されてるからです。

最近THE LASTナルト・ザ・ムービーを見て感動しました。特にラストのナルトとヒナタのやり取りや月の下のキスシーンに結婚式は涙が出そうになりました。
ずっと一人ぼっちだった主人公が最後は自分の家族ができるまでの流れを綺麗に描かれたのはジャンプ作品の中でもNARUTOが一番だと思いました。


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第五十八話 雫の想い/相容れない兄弟


はい。なんとか早めに投稿できました

そして今回で遂に試練突破し次回から神代魔法を授かります。

そしてここからタグのカップリングは加速する


 

 

ハジメ「あ?最初に会ったツラがてめぇかよ」

 

光輝「……ふん…お前は随分ボロボロだな…よほどお前の中の負とやらは大層強かったみたいだな」

 

ハジメ「チッ…」

 

試練を終え、大迷宮の合流場らしき大広間でハジメと光輝は再会した

 

ハジメ「あいつらは…まだ来ねえか……他よりも先に来ちまったのか…」

 

光輝「……ここは他の大迷宮と比べても…負とやらがでかいやつにとっては難関だが…負が弱ければそれほど難しくない……あのフリードとかいう魔人族はここで手に入れた神代魔法で軍を活発化させた……」

 

ハジメ「ああ…そう言えばなにげにここを突破出来てたんだったなあいつ……となると…あいつも自分の中の負と向き合ったってわけか…」

 

そう言いながらハジメはホルスターから取り出したドンナーを軽く整備しようとしたが

 

ハジメ「ん?」

 

そこへ何者かの気配を感じ、その方向へと目を向けた

 

が、ハジメの横にいる光輝はどこか険しそうな表情を浮かべていた

 

ハジメ「……おいおい…どうやら…堕ちてしまったらしいぞ…」

 

光輝「……」

 

次の瞬間…その気配の主ふたりはハジメと光輝に斬り掛かってきたがそれを難なく防ぐ

 

ハジメ「全く……期待してなかったとは言え……この結果は流石に笑えねえぞ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

天之河兄」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一瞬の斬り合いを制したのは雫だった

 

虚像の雫は肩から胸を斬られ、膝を着いていた

 

虚像の雫「!……い…ま…のは…」

 

雫「……『飛雷神(ひらいしん)』……私が自分で考えて編み出した…空間魔法の応用……光輝の千鳥にハジメ君の螺旋丸……あのふたりはそれぞれ自分に合ったオリジナル技を持っている……強くなりたかった私も自分に合った技を考えたわ…そしたらカズマ君が『まず今の自分が使えるもの全てを見直してその中で得意だと感じた物から考案してみな』って言われて自分の使える全てを試した……それでわかったことは私は神代魔法の中でも空間魔法が得意だってことが……だから考えた……空間魔法は魔力の消耗が激しくてなおかつ小回りがあまり効かない…だからできる限り消耗を最小限に抑えつつ、小回りが効くよう試行錯誤試した末……物にマーキングをしてそこへ瞬間移動するこの形に収まったわ……さっき投げたクナイ…あれにマーキングを施していたから貴女よりも早く斬る事ができた」

 

虚像の雫「で…も…それは…」

 

雫「そう…貴女は私だから知っていて当然よね……なぜなら…これはまだ未完成だったはずなのだから……本当ならこれは完成するまで実戦で使おうと思わなかったの……けど自分の殻を破らなかったら…今よりも強くなれない……だから少し無謀だったけど一か八か貴女相手に使ったわ…」

 

雫の言葉に虚像の雫は最初驚きを隠せないでいたが…やがてフフッと笑ってみせ

 

虚像の雫「なによ…それ……貴女……まるで物語の主人公みたいな覚醒なんかして…」

 

そのまま地面に倒れた

 

虚像の雫「貴女はわかってるでしょうけど………それ(・・)を口にしたんだから…半端な覚悟でこの先…彼の心を救おうとするんじゃないわよ」

 

雫「……ええ…わかってるわ……それと…ありがとう……貴女のお陰で……私は強くなれたわ」

 

虚像の雫「!……フフッ…貴女を殺そうとした相手に…お礼なんて…最後くらい……呪詛の一つでも吐きなさいよ……さよなら…(貴女私)

 

雫「……さよなら……貴女私()

 

その言葉とともに…虚像の雫は溶け込むようにして消えていった。その横顔はどことなく満足そうに綻んでいるようだった

 

雫「……勝った…」

 

そして虚像の己が消えたのを確認した雫だったが…グラリと体を傾け崩れ落ちる

極度の疲労と緊張からの解放により気が抜けて立っていられなくなったのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「おっと…危ねえな」

 

だが、雫が硬い地面に叩きつけられることはなかった

 

雫「カ…ズマ…君?」

 

カズマ「おう…お前達のリーダー。佐藤和真さんだぞ」

 

雫が倒れる直前、滑り込みで入ってきたカズマに支えられ事なきを得た

 

雫「どうして…?ここに…」

 

カズマ「いや…俺はただ自分の試練を終えて道を進んでいたらちょうどお前とお前の虚像がやり合っている場面に出くわしたからずっと眺めてたらお前が勝って倒れそうになってたから飛び込んだだけだ」

 

雫「え!?そ、そんな前から見てたの!?」

 

カズマ「ああ…一応本当に危なくなったら止めようかと思ったが……雫…見事自分の弱さを受け入れ殻を破ったな」

 

雫「!」

 

そう言うとカズマは雫を背中におぶりながら歩き出した

 

カズマ「『飛雷神』だったっけ?……あれもよく考えた……それもかなりの速度だったな……多分あれ、光輝の写輪眼でも見切るのは容易じゃないな」

 

雫「そ、そんなに?」

 

カズマ「ああ…空間魔法をああいう形で応用するとはな………次からは俺も使おうと」

 

雫「いや私が苦労して編み出した物をそう安々と使おうとしないで!!」

 

カズマ「そう言うが俺……ハジメの螺旋丸や光輝の千鳥……どっちも使えるからな?」

 

雫「……聞きたくなかったわ……」

 

やがて雫は疲れから喋らなくなり、…別のことを考えていた

 

雫「……」

 

 

 

虚像の雫『彼の夢も奪って親兄弟だけじゃなく大勢の人を嫌い、孤独になるきっかけを生んでおいて…そんな彼に抱いてはいけない淡い想い(・・・・・・・・・・・・)を抱いてしまって…』

 

雫「(……うん………わかってる……わかってるわ……自分でも……いけないことだと思ってる……でも…決めたから……私が彼を…孤独に突き進もうとする彼の心を救いたいって……だから…私はもう……自分の本当の想いを…………目を逸らさない……私が彼を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝のことを……愛しているって…)」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「は?」

 

雫「え?」

 

大迷宮の先を進んでいき、やがて広いところへ出たカズマと雫だったが、目の前の光景に思わず口を開いてしまっていた

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ顔をした3人のうち一人によって、腕をもがれた一人を踏みつけにし、その腕ともう一人の頭を両手で持ち上げられていた

 

 

ハジメ「あ、カズマと雫か…良いときに来てくれたな」

 

カズマ「あー…一応聞くが……踏みつけにされてるのは天之河兄で天之河兄を足蹴にしながら首と腕を持ってんのは光輝だよな?」

 

ハジメ「ああ……ついでに言うとあの首チョンパされてんの天之河兄の虚像な…どうやら試練を突破できなかった上心を負に飲まれちまった挙げ句、俺達に斬り掛かってきやがったんだ」

 

ハジメによると自分の虚像に負けてご都合解釈全開に八つ当たり気味に勇輝とその勇輝に便乗した虚像の勇輝はハジメと光輝に斬りかかり、散々呪詛やこれまでふたりに対し貯めていた負を吐き出し挙げ句のはては

 

勇輝『お前達さえ、お前達さえいなければ、全部上手くいってたんだ! 香織も雫もずっと俺のものだった! この世界で勇者として世界を救えていた! それを、全部お前達が滅茶苦茶にしたんだ!……人殺しのくせにっ。簡単に見捨てるくせにっ。そんな最低なお前達が、人から好かれるはずがないんだ! 香織も雫も、ユエもシアもティオも、みんな洗脳して弄んでいるんだっ。どうせ龍太郎や他のみんなだって洗脳するんだろう!? そうはさせない。 俺が勇者なんだ。みんなお前達の手から救い出して、全部、全部取り戻す! お前達はもう要らないんだよっ!!お前達を倒して、香織や他の女の子達にかけられた洗脳も全て解いてやる! そして、彼女達と共に、俺は世界を救う!!だから死んでくれ南雲!光輝

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼女の幸せのために、俺が彼女達を幸せにするために!お前達は俺が倒す!!!

 

そう発言した次の瞬間、光輝の表情は一瞬で鬼のような形相へと変貌したかと思うと一瞬でふたりの間を駆け抜けた

 

その一瞬のうちに光輝は虚像の勇輝の頭と勇輝の腕を武器を使わず素手でもぎ取ったのだった

 

勇輝は腕を亡くした痛みとショックで叫び声を上げ、虚像の勇輝は一瞬自分が何をされたのかを理解できなかったが己の首と胴体が別れたのを見て恐怖に引きつりながら絶命した

 

そして痛みでのたうち回っていた勇輝を光輝が足蹴にした

 

カズマ「おい…これかなり不味いな…マジでこのままじゃ兄弟殺しが勃発しちまう」

 

そう言うとカズマは光輝を止めようと駆け出そうとした瞬間前方で黒炎の壁ができ道を塞がれた

 

光輝「ここへ来るな…こいつは…こいつだけは…今ここで殺す必要がある…」

 

勇輝「ヒッ!」

 

光輝「何が幸せのためだ……何が俺が幸せにするためだ……貴様がそれを口にする資格なんざない……アイツを不幸にさせた要因の一端である貴様がそれを口にするな」

 

そう言いながら勇輝の傷口を強く踏みつける

 

勇輝「がァァァァ!!!」

 

光輝「……なぜだ…なぜ貴様は同じ日に生まれた…なぜ同じ顔をしている…なぜ双子だ…なぜ同じ人に憧れておいてこうも違ってしまった……貴様は俺にとって許しがたい存在であると同時に俺の有り得たかもしれない存在そのものだ……だからこそ俺は…貴様がなにかをやらかすたびにそれを自身の犯したモノと思えてしまい不快極まりない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前なんか…生まれて来るべきじゃなかった!!

 

勇輝「!」

 

その言葉とともに光輝は思いっきり踏みつけ頭部破壊をしようとしたが

 

ユエ/シア/ティオ/香織/アクア/めぐみん/ダクネス「「「「「駄目!!!」」」」」

 

そこへちょうど他のメンバー達が合流し光輝を止めた

 

皆光輝の身体を掴み動きを封じた

 

光輝「!離せ!!お前ら!!」

 

ユエ「駄目!離さない!」

 

シア「離したら光輝さん、絶対あの人を殺しますよね!!」

 

ティオ「だめじゃ!それはだめじゃ!!」

 

香織「勇輝君への怒り気持ちはわかるけどそれは駄目!!」

 

アクア「そうよ!いくら彼が許せないからって、兄弟殺しをしちゃ駄目!」

 

めぐみん「彼との間に何があったのかは知りませんが!それ以上はやめて下さい!」

 

ダクネス「そうだ!血を分けた兄弟を手にかけてその手を血に染まるのは駄目だ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「この期に及んで何言ってる?

 

ハジメ/カズマを除く全員「「「「「ゾクッ!」」」」」

 

その瞬間光輝から強い殺気が放たれ、その場を飲み込む

 

光輝「この期に及んでお前らがなぜ俺の手を気にする」

 

香織「だってそれは(光輝)『356人』……え?」

 

光輝「俺がこの世界に来て殺してきた奴の数だ」

 

シア「え!?…光輝さん…貴方…もしかして…」

 

アクア「数えてたの!?今まで殺してきた人の数を」

 

光輝「流石に人を殺すのは記憶に残るからな…それだけ殺しておいて…今更手なんざ気にするか……ましてや俺にとってそいつ殺したとしても殺した奴の数に加算するだけであって……特に何も思わないんだよ」

 

ユエ「!」

 

光輝「この際だから言っておこう…俺にとってそいつも、地球にいる両親も妹も血が繋がっただけの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

赤の他人なんだよ

 

その言うと光輝は須佐能乎を発現させた

しかもその姿は以前までの骸骨や陣羽織を纏った武将ではなく、武将をさらに覆う形で山伏のような巨人に変化した

 

ハジメ「!」

 

カズマ「この感じ…前の須佐能乎よりも強くなってやがる……怒りや憎しみで力を増したか…」

 

光輝「どけ…お前ら……」

 

光輝はユエ達を睨みながら言うが周りは決して退こうとしない

 

雫「やめて!!」

 

そこへ光輝の足元にクナイを投げ、飛雷神の瞬間移動で光輝の前を経ち塞ぐ雫

 

光輝「!」

 

雫「だめ…それはだめよ光輝…貴方がこれまで殺してきた人はみんな奪うことを楽しんで、楽しみで殺しておいて自分は決して奪われないって高を括ってた下衆ばかりだった…光輝はそういう人達が嫌だったから殺してきた…でも勇輝はそれに当てはまらない…貴方の主義に反する!何より…貴方が彼を嫌いでも…殺してしまったら……本当に後戻りできなくなる!!……お願い……彼を殺さないで…そして…私に貴方達幼馴染の兄弟殺しを見せないで!!……」

 

勇輝「し…ずく…」

 

両手を広げ、勇輝を庇う雫

 

光輝「なぜ…だ……なぜそんなやつを庇う……こいつが何をしたのか忘れたのか!?こいつが…こいつがお前の話を鵜呑みにせず、後先考えなかったせいで………お前が……そして……俺のせいで……」

 

そう話す光輝だったが…発現させていた須佐能乎は徐々に弱まり…ついには消えてしまった

 

気づけば光輝から放たれていた凄まじい殺気は消え失せ、後に残ったのはどこか暗い雰囲気を漂わせる光輝だった

 

光輝「……そいつを…俺の視界に入れるな…」

 

ついには見ることすらも嫌がるほど…勇輝を嫌っているとわかる態度で他のみんなから背を向け一人先を歩き出した

 

カズマ「……アクア、香織…早く天之河兄を治療しろ…さっさとしないと多量出血で死ぬし、腕もくっつけなきゃなあ」

 

カズマがそういうとアクア達はいそいそと勇輝の治療を始めるのだった

 

ユエ「…」

 

香織「光輝君…」

 

雫「光輝…」

 

そして、一人皆と離れ…歩く光輝の後ろ姿を見て…彼との距離を感じる一同だった





八重樫雫
ついに己の想いと向き合う

そしてこれ以上ないほど溝が深まる天之河兄弟


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第五十九話 集いし神代魔法

 

瀕死だった勇輝の治療を終えた一行は先へ進んだ光輝を追いかける

 

なお勇輝は痛みに耐えきれず気を失いカズマに引きずられている

かなりぞんざいな扱いだがあれだけの事をしたのだからむしろ置いていかないだけありがたいと思いたい

 

それに周りは止めはしなかったが流石に香織と雫は引きつった表情を浮かべていた

 

その道中、ユエは己が受けた試練で過去の自分の記憶の断片を思い出したことを話した

 

今から三百年前

ユエが王位についた吸血鬼族の国は小国ではあったが、小さな鬼神の国と謳われたほどの強国だった

それは、吸血鬼族という種族の特殊性に理由がある。血という媒介を経て、身体を強化し、魔力を増幅させ、寿命すら延ばす。そんな力を持った種族は他にはいなかった。吸血行為自体に、畏怖の念を抱かれていたというのもある

そんな国の直系王族として生まれたのがユエだった

生まれついての魔法の天才だったユエは赤子の頃から将来を期待されていた

魔法でも知識でも与えれば与えた分だけ吸収していく天賦の才能。生憎、武に関する才能だけはなかったが、そんなもの不要と断じられるほどユエの存在は一線を画していた。 そして極めつけは、十二歳の時に発現した反則級の力。魔力の直接操作能力と魔法陣想像構成能力、そして固有魔法〝自動再生〟――書物に記される神代の登場人物達の如き凄まじい能力。 当時は今とは比べ物にならないほど多くの国で溢れており、戦争は激化の一途を辿っていたのだが、自国の即戦力として戦場に駆り出されたユエはその力を遺憾無く発揮し、文字通り鬼神となって敵を蹂躙した。 結果、ユエに対する名声と畏怖は膨れ上がり、弱冠、十七歳にして王位に就くことになる

十二歳で戦場の殺意と憎悪に塗れ、僅か五年後に国を支える支柱となった。普通の少女なら、余りの重圧に押し潰されて精神を病んでいただろう。だが、潰れてしまうには、ユエは強すぎたし聡明すぎた。

しかしある日、最も信頼していた叔父が部下達と共にユエを殺しに来た。ユエが王位に就いて二年ほど経った頃から、叔父と妙に距離が出来ていた

いや、正確に言うなら叔父がユエを避け始めていたのだ。それは、彼の部下も同じだった。 当時のユエは、ある意味、両親よりも接する時間の長かった叔父との唐突な距離感に随分戸惑った

自分が何か不快にさせるような失敗をしてしまったのだろうかと悩みながら、何度も話し合いの機会を設けようとした。 しかし、叔父との腹を割った話をする機会はとうとう実現せず、気が付けば二人の関係に溝が出来てから更に数年が経ってしまった。 しかも、いつしか民達のユエに対する畏敬の念は、化け物に対するような単純な恐怖に変わっていた。ユエに関する様々な悪い噂が絶えることなく流れたからだ。自国を守る為の戦場での活躍が、皮肉なことにその噂に拍車をかけた。 最も信頼していた者達は、既に皆ユエの傍から去っていった。代わりに、叔父が権力を増していき彼の周りに人々は集まるようになった。それはもう不自然なほどに。 ユエの両親――前国王夫妻やその側近達は、皆こぞって叔父の排斥を訴えた。謀反の疑いがあるとして。しかし、ユエは何を言われようとも叔父を疑ったりはしなかった。きっと何か理由があるのだろう、と。最後の最後まで信じていた。 そして、その最後の日が訪れてしまった。運命の日だ。 玉座にて他国の使者を迎えているおり、叔父が完全武装した部下と共になだれ込んで来た。そして、前国王夫妻派の側近達を問答無用に惨殺し、その凶刃を、殺意を、ユエにも向けたのだ

呆然としている間にユエは幾度も致死性の攻撃をその身に受けた。〝自動再生〟が、瞬時に傷の尽くを修復してしまうが、それでも混乱の極みにあった、否、現実を否定していたユエに反撃など出来ようはずもなく、気が付けば身動き出来ぬように封印され、あの奈落へと幽閉されている最中だった。 客観的に見れば、叔父が野心故に国王の座を狙いクーデターを起こしたようにしか見えない。実際、三百年の幽閉の中で、ユエも現実に屈するように叔父に裏切られたのだと思うようになった

 

しかし、己の虚像との戦いである矛盾に気づいた

自動再生は確かにどれだけ傷を負おうとも再生するが絶対ではない

それは魔力に依存するからだ。魔力が枯渇すれば再生は起こらない。魔力が枯渇するまで攻撃を続ければ殺しきることは可能なのだ。実際、あの時、ユエはショックの余り抵抗せず、最後の方では再生のしすぎで魔力は相当目減りしていた

 

ユエの叔父は内政者としても戦闘者としても他の者とは一線を覆すほどの男だった

そんなあの男がユエを殺し損ねるとは到底思えなかった

 

ではなぜ殺すのではなく封印だったのか……それはどれだけ考えてもわからなかった

 

しかし、過去の記憶を読み解いていくうちに…かつて封印される直前に断片的にだが叔父からの最後の言葉を受け取ったことを思い出した

(――、すまな――。これ以外に、方――。いつの日か、きっと、――に寄り添う者が現れる。その者なら、きっと――から守ってくれるはずだ。――、私に、こんな――。だが、忘れ――。――を、愛して――)

 

親としての愛情を与えてくれたのは叔父であり、両親は愛情というよりも敬愛に近く、よくよく思い返せばどこか【メルジーネ海底遺跡】の試練で見た神に魅了された国の人々と雰囲気が似通っている気がしていた

 

ユエの記憶する限り、当時の戦争も例に漏れず宗教が多大に絡んでいた。だが、自国に関しては不自然なくらい関わりが薄かったように思えた

即位してからも、宗教関係者との接触時には必ず叔父が同席していたし、そもそも接触そのものも止むを得ない事情でもない限り全て叔父が対応していた。 叔父は内政となれば誰よりも知識深く賢明で、戦闘となれば何体もの魔物を使役する強力な魔物使いだった。だが、今思えば、一吸血鬼としては常軌を逸していたように思う

 

即位して一年も経つ頃の叔父は、常に苦悩に眉根を寄せ、急速に老けていくようだった。その変化は、きっとごく親しい間柄の者にしかわからなかっただろう。当時のユエは、距離を置かれる不安や悲しみを感じると同時に、とても心配していたのだ。 叔父は野心の為に自分を裏切り、長い長い暗闇の牢獄へと閉じ込めた。そう信じていたユエだが、虚像の言葉に揺るがされ、蘇ってきた記憶の断片は少しずつ他の可能性をユエに示し始めた。 きっと、客観的に見た叔父のしたことと果てしない闇の牢獄が、ユエの記憶を一つに固定してしまったのだ。誰かを恨まなければ、希望を捨て絶望に浸りながら無気力に過ごさなければ、心が耐えられなかった。だから、一番、見た目通りの筋書きが真実であると信じ込んだ

 

これにはハジメも出会った頃から疑問に思っていたそうだった

 

そして一行は先を歩いていた光輝と合流できたが光輝はこちらとは目を合わせようとしなかった

 

それは勇輝がいるからか…それともさっきまでのやつで気まずくなったからか…或いは両方か

 

やがて一行は魔法陣を見つけ底へ飛び込む

 

飛び込んだ先は広い空間だった

幾本もの太い円柱形の氷柱に支えられた綺麗な四角形の空間で、やはり氷で出来ている。今までの氷壁のように鏡かと見紛うような反射率の高い氷ではなく、どこまでも透き通った純氷で出来ているかのような氷壁だ。 そして、何より目を引くのが地面だ

ここに来るまで、ついぞ見なかった水で溢れていたのである。どうやら、この空間はそれほど低温ではないらしい。大量の湧水が流れ込んでいるようで、広い湖面のあちこちに小さな噴水が出来ている。おそらく、どこかに流れ出ていく穴もあるのだろう。 そして、そんな湖面には氷で出来た飛び石状の床が浮いており、それが向かう先には、巨大な氷の神殿があった。ちょうど、ハジメ達が出てきた側の対面だ

そこまで四角形の湖面に浮く氷の足場が続いているのだ。 ハジメは、水が凍てつかないことから、試しにと防寒用アーティファクトを外してみた。すると、案の定、冷えた空間ではあるが、涼しいと感じるくらいで寒いというほどではなかった

 

ここが【氷雪洞窟】の最深部というのは間違いなさそうである。住処が極寒とか、いくら〝解放者〟でも勘弁だろう

 

神殿入口前まで来ると入口は両開きの大きな扉になっており、そこには雪の結晶を模した紋章が描かれていた

 

解放者〝ヴァンドゥル・シュネー〟の紋章だ

特に封印などがされている気配はなく、すんなりと開いた

 

ハジメ「見た目は神殿なのに、中身は住居だな」

 

ユエ「……ん。オスカーの隠れ家と似てる」

 

扉を開いた先には、教会のようなステンドグラスや祭壇など一切なく、代わりに氷で出来たシャンデリアが吊るされた邸宅のエントランスがあった。奥へ続く廊下と、両サイドから二階へと上がる階段がある。 ハジメは、羅針盤を使って魔法陣の場所を探った。それによると、一階の正面通路の奥のようだ。ハジメの先導に従って奥へと進む。途中、いくつか部屋があったので扉を開けてみると、普通に家具が置いてあった。

氷壁も、触ってみると氷なのにひんやりしているだけで冷たいという程ではない。ハジメの防寒用アーティファクトのように、何らかの防寒措置が施されているのだろう。 そうして、屋敷の中を感心しながら進んでいると、遂に重厚な扉に行きあたった

 

カズマ「……あれだな」

 

カズマはそう呟き、躊躇いなく扉を開ける

そこには、確かにお目当ての魔法陣があった。 早速、その魔法陣に入るメンバー。いつもの如く、脳内を精査されて、攻略が認められた者の頭に、直接、神代の魔法が刻まれる

 

最後のそれ――【変成魔法】を修得し、喜びをあらわそうとカズマ達が互いに顔を見合わせたその時

 

ハジメ「ぐぅ!? がぁああっ!!」

 

ユエ「……っ、うぅううううっ!!」

 

光輝「ッ!!」

 

苦悶に満ちた悲鳴が上がった

ギョッとしてその悲鳴の方に視線を向けたカズマ達。そこには、激しい頭痛を堪えるように頭を抱えながら膝をつくハジメとユエと光輝の姿があった

 

シア「ハジメさん!? ユエさん!?光輝さん!?」

 

カズマ「おい!?どうしたお前ら!!」

 

シアとカズマが驚愕の声を上げる

 

ティオ「落ち着かんか! 香織! アクア!呆けるでない!」

 

香織「え? あっ、うん、直ぐに診るから!」

 

アクア「ご、ごめんつい」

 

突然の出来事にオロオロするメンバーにティオの一喝が落ちた

治療のエキスパートであるアクアと香織も叱咤されたことで我を取り戻す

そして、急いで診察しようとした、その直後、

 

ハジメ「っぁ……」

 

ユエ「……んっ」

 

光輝「……ッ…」

 

脂汗を大量に浮かべたハジメとユエと光輝は正体不明の苦痛から解放されたのかガクッと体から力を抜き、そのまま倒れ込んだ

 

それを、シアと香織と雫が咄嗟に支える

様子を見てみれば、三人共気絶しているようだった

チートを通り越してバグレベルに至っている三人が気を失うほどの負荷……一体、何が起こったのかと静寂の戻った部屋に呆然とした空気が流れる

 

ティオ「取り敢えず、二人を休ませんとの……」

 

一同「「「「「「「………」」」」」」

 

こんな時、冷静で頼りになるティオ(変態)の言葉に、メンバーは困惑しきった様子で顔を見合わせるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シア「ハジメさん達…どうして倒れたんでしょう…」

 

気絶したハジメ達を別室に運んだカズマ達は居間らしき部屋に集まりしばらくの間ソファーにくつろいぎながら話し合っていた

 

カズマ「あの3人の共通点は全ての神代魔法を得ていることだ…つまりあの3人は概念魔法を使う条件を満たしたってことだ…ここにいる全員…既に神代魔法を得ていたのだから経験してるだろ?脳に直接魔法とその知識が刻まれたことが……多分あいつらは全ての神代魔法を得たことで俺たちとは別で脳に刻まれたより多くの知識によりオーバーヒートしたんだろうな……まあ今のは憶測だけどな」

 

めぐみん「ですが概ね間違えてないとは思いますよ」

 

アクア「頭に急に難しい言語とか知識を大量に入れようとしたらパンクしちゃうもんね!」

 

ハジメ「お、お前らここにいたのか」

 

そこへ気絶から目覚めたのかハジメとユエが合流してきた

それにシア達は驚きつつもふたりに抱きついて安堵を浮かべていた

 

そしてなぜ倒れたのかを聞くと概ねカズマの言っていた通りであった

 

3人が脳に刻まれたのは変成魔法だけでなく概念魔法についての知識も刻まれたのだ

しかしそれだけでなくこれまで得た神代魔法をより深く理解するための知識━━神髄である概念魔法を習得するための前提知識が頭に刻み込まれた

 

これまで得た神代魔法の基本的知識と真髄を並べて説明すると

『生成魔法』はオルクス大迷宮で入手できる神代魔法で

鉱物に魔法やスキルの効果を付与してアーティファクトを創り出せる魔法

この魔法の正しい定義は『無機的な物質に干渉する魔法』であり鉱物だけでなく水や食塩などにも魔法を付与できる

 

『重力魔法 』はライセン大迷宮で入手できる神代魔法で重力へ干渉し、浮遊や重力球を作ることができる

この魔法の正しい定義は『星のエネルギーに干渉する魔法』であり、地脈や岩盤及びマグマなどにも干渉し地震や噴火を意図的に起こすことも可能である

 

『空間魔法 』はグリューエン大火山で入手できる神代魔法で空間へ干渉し、遠隔地への移動などを行える。空間の切断などにより、回避不能な攻撃を行うことも可能

この魔法の正しい定義は『境界に干渉する魔法』であり、異界なども作り出すことができ、例えば現実と幻の境界に干渉することで幻に実体を与えたり逆に実体あるものを幻にすることができる

 

『再生魔法 』はメルジーネ海底遺跡で入手できる神代魔法で有機物・無機物問わず、あらゆるものの損壊を修復することが出来る。対象を逆再生させることで、相手の古傷を生傷に巻き戻すことも可能

この魔法の正しい定義は『時に干渉する魔法』であり、あらゆるものを復元したり過去や未来を垣間見ることもできる。シアの未来視はこの魔法が起源だと思われる

 

『魂魄魔法』は 神山で入手できる神代魔法で生物の魂魄や精神などに作用することが出来る。時間内であれば魂が劣化する前に死者を蘇生し、乱れた精神状態を整えることも可能。ミレディはこの魔法によって自身の魂をゴーレムに移し、実質不老不死の状態になった

この魔法の正しい定義は『生物の持つ非物質に干渉する魔法』であり、魂魄だけではなく生物が持つ魔力や熱などのエネルギーや思考や記憶、感情などにも干渉できる。理論上はこの魔法で人工知能の創作も可能である

 

『昇華魔法』はハルツィナ樹海で入手できる神代魔法で全ての力を昇華、最低でも一段進化させることが出来る。その進化は神代魔法も例外ではない。応用することで知覚能力や身体能力を瞬間的に上昇させることも可能

この魔法の正しい定義は『情報に干渉する魔法』であり、あらゆる既存の情報を閲覧し、魔力量に応じた対象に対する情報干渉ができる。ステータスプレートはこの魔法によって作られたアーティファクトと思われる

 

そして最後に

『変成魔法』はここ氷雪洞窟で入手できる神代魔法でありフリードが最初に取得したもので、既存の生物を魔物に創り変え、強化する魔法。強化段階が存在し、生物の魔物化、あるいは魔物の従魔化をスタートラインとするなら、身体能力や固有魔法の能力増大が第一段階。そこから理性と思考力を与え、術者とある程度の意思疎通が可能になるのが第二段階。第三段階が、その身体能力、固有魔法能力、意思能力の増大となる。後は、術者の熟練度に合わせて、魔物の強化限界も上がっていく。 そもそも魔石というのは、魔物化するほど魔力を溜め込んだ生物の体内で、余剰分が結晶化したもの。要は、自然魔力の結晶が神結晶で体内魔力の結晶が魔石

この魔法の正しい定義は『有機的な物質に干渉する魔法』であり、生物だけではなく植物や食料、人体に対しても行使できる。無機的な物質に干渉する生成魔法とは対をなす魔法と言える

ティオ達竜人族が使う竜化の起源がこの魔法であると考えられる

ちなみに、〝導越の羅針盤〟は、魂魄魔法により使用者の望むものを汲み取り、その対象を空間魔法によって空間的な隔たりや距離を無視して探査し、昇華魔法によって対象の情報を補足するというものらしい。いずれも、そのままの神代魔法では成し得ないことだ

 

雫「なるほどね。本当に、大きな、それでいて根本的な事柄に干渉できる魔法なのね。人が触れていい領域を超えているように思えるわ。……でも、そうすると、まだ帰還の為の概念魔法は生み出せそうにないってことかしら? 聞く限り、相当難易度が高いように感じるけれど……」

 

ハジメ「まぁ、確かに難しくはある。リューティリスが極限の意思なんてふわっとした説明をしていたが、実際、その通りなんだよな。魂魄魔法と昇華魔法で〝望み〟を概念レベルまで引き上げて、それに魔力を付与して無理矢理事象を現出させる……簡単にいうと、そういうことなんだが、普通は昇華魔法を使ったところで成功はしない。それどころか、概念魔法は、その時の意思を元にするので一度発現したからといって次回以降も安定して使えるというわけではない。通常は一回こっきりの魔法となるな」

 

ユエ「……ん。ハジメの生成魔法で羅針盤みたいに物へ付与しないと」

 

ハジメ「そうだな。ユエの魔法に対する制御能力と俺の錬成……息を合わせて世界を越える為の概念を付与したアーティファクトを作る。だが、召喚防止の為の概念も、となると……少し時間がかかりそうだ」

 

シア「出来なくはないんですね?」

 

ハジメ「当たり前だろう? 何が何でも成功させる。その為に足掻いて来たんだ。帰還のアーティファクトだけなら直ぐに取り掛かれるし、奴らからの干渉を防ぐ概念も必ず編み出してやる」

 

ハジメの瞳が、ゴゥ! と炎を宿したように見えた。過酷な環境を生き延びて、切望し続けた帰郷に手が掛かったのだ。こんな場所で躓いているわけにはいかないという強烈なまでの意思が瞳を煌めかせる

 

カズマ「ま、それはそうと……光輝と天之河兄はまだ気絶したまんまだよな?」

 

ハジメ「あ?……ああ、兄のほうは知らねえが天之河ならまだ寝ているな……」

 

カズマ「そっか……時にお前ら……皆それぞれ自分の中の負と向き合ったことで精神的成長を遂げたとは思うんだよな」

 

シア「は、はい」

 

ティオ「妾も自分の負と向き合えたことでこうしてここに立っていられておる」

 

そうシアとティオを皮切りにメンバー達も次々と反応していったが

 

アクア「あー……その…すっごく言いづらいですけど……その…私…自分の負に『貴女自分の負をとっくに受け入れて乗り越えてるから試練のしようがないわ!』って言われて特に何もしないまま突破しちゃった…」

 

アクアが気まずそうに自分が試練を突破したときの話をした

それにメンバー達は驚きを隠せないでいたのだが

 

めぐみん「ええ…アクアもですか?……実は私も」

 

ダクネス「私も同じく…」

 

カズマ「いやー良かった…俺だけ対して苦労せず試練突破したんじゃないかって少し不安になってたから安心したよ」

 

アクアの告白を皮切りにめぐみんとダクネス…そしてカズマもカミングアウトした

 

ハジメ「いや…マジでどうなってんだお前ら……」

 

香織「ハジメ君…よくよく考えたらあの人達転生者だから常識が当てはまらないよ…」

 

ハジメ「ああ…そうだった…」

 

カズマ「特にこの中で言えば……ハジメとユエ…そして雫が大きな成長を遂げたな」

 

ハジメ/ユエ/雫「「「!」」」

 

カズマ「そしてもっとも大きく成長したのは雫だな……お前らにも見せたかったぜ。こいつの殻を破る瞬間を……なんだっけ?『貴女のほうこそ、諦めるのを諦めなさい!』だったか」

 

雫「カ///カズマ君!?」

 

カズマ「特に光輝関連でも大きな変化をみせたな」

 

雫「カ///!?」

 

カズマのそのセリフにその場にいた全員が一斉に『!?』と驚きの表情を浮かべた

 

カズマ「まあこの話は後にするとして…早速アーティファクト……作ってくるか?」

 

ハジメ「ああ…やれるうちにやっておこうと思ってな」

 

シア「任せて下さい、ハジメさん。お手伝いが出来ない分、お二人の邪魔は誰にもさせません」

 

カズマ「俺も概念魔法が使えりゃあ手伝えたんだがな。ま、俺達のことは大丈夫だから…やって来な」

 

ハジメ「ああ。頼んだ、カズマ…シア」

 

ユエ「……ふたりがいれば安心」

 

堂々と胸を張り自信に満ちた声で宣言するシアといつもの調子でふたりの背中を押すハジメ。逞しく頼もしいその姿と言葉に、ハジメとユエも無類の信頼を寄せて微笑んだ。 そうして、再び、神代魔法の魔法陣がある部屋に行き、シア達の見送りを受けながら、二人は重厚な扉の奥へと消えていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シア「ところで雫さん……光輝さん関連の大きな変化について詳しく聞いてもいいですか?」

 

雫「エエ///!?」

 

カズマ「まあまあ…その話はハジメ達が戻ってきたあとじっくりと」

 

雫「……泣きたい///」





今回の話大体がウェブからの引用
神代魔法の説明はほぼウィキです申し訳ございません。


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第六十話 本当の望み


すみません
今回も引用ばっかです。

そして物語もいよいよ最終章に近づきつつあります。


 

ハジメ達が、帰還の為の概念魔法を込めたアーティファクト作製の為、邸宅の一室に籠り始めてから、およそ二時間が過ぎている。ハジメとユエが気絶している間の時間も含めると、それなりに休んでいることになるので、かなり回復してきたはずだ。その余裕が、余計なことを考えさせるのだろう

 

その間に勇輝が目覚め、居間に訪れた

 

そんな彼を見る他の面々(シア、香織)の目は厳しかった

当然といえば当然

己の負に負けただけでなく、自分達が愛する人であるハジメや仲間である光輝を…実の弟を殺そうとしたのだから

本音をいえばシアもティオも勇輝は死んでも構わないとは思っているが、光輝に兄弟殺しをさせたくない思いで庇ったのだった

 

謝罪する勇輝に対しシアはその胸の内を話す

 

それに勇輝は顔を歪めた

 

そして

 

雫「……勇輝。……貴方の幼馴染として一つ報告するわ……私ね、彼が……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝のことを好きになったわ。ううん…ずっと前から好きだった……一人の女として見て欲しいと思ってる

 

勇輝 「っ……」

 

カズマを除くその場の全員「「「「「!!」」」」」

 

雫の言葉に、勇輝の表情が一瞬歪んだ。更にカズマ以外の全員が反応した

 

ずっと傍にいた幼馴染からストレートに告げられた言葉はどれだけ取り繕おうと、やはり勇輝にとって認め難い現実なのだろう

 

勇輝「……それで、これからは光輝について行くってことか? ……雫、考え直した方がいいんじゃないかな? 悪いことは言わな――」

 

心の内に湧き出した黒い感情を極力漏らさないように気を付けながら、取り繕う勇輝の言葉に被せるように、雫は静かに首を振った

 

雫「勇輝。私は別に意見を求めているわけじゃないわ。今のはただの報告よ。幼馴染だから」

 

勇輝「……」

 

きっぱりした物言いに勇輝は苦虫を噛み潰したような表情で押し黙った。何となく、援護を求めて香織を見たが返って来たのは静かな肯定の表情

 

もちろん、肯定しているのは雫の言葉であり、その気持ちだ。 自分に同調してくれる者がいないと分かり、勇輝は表情を消していく。どうあっても、自分にとって好ましくない現実を退けることが出来ないのだと理解し、ままならない現実への苛立ち、焦燥、妬み、憎悪といった感情が、矛先を求めて彷徨い始めた

 

だが、感情に任せて暴れるということはない。その対象たるハジメや光輝はいないし、何より、それをして光輝に半殺しにされたばかりなのだ

暗く澱んだ感情はあるものの、それが牙を剥くことは当面ないだろう。それこそ、何か大きなきっかけでもなければ…… 何となく、勇輝の中の割り切れない暗い感情を察した香織達だったが、結局、自分で乗り越えなければならない問題なので、どうしたものかと顔を見合わせるに止まる。 そんな仲間の態度すら何となく心を逆撫でされてしまい、勇輝は行き場のない感情を皮肉な言葉に込めて発してしまう

 

勇輝「ははっ、皆、あいつらの味方だな。人を簡単に殺して、簡単に見捨てるような奴なのに……」

 

雫 「勇輝!」

 

雫が思わず声を上げる。シアやティオの視線が少し細められた。香織も、にこやかだった笑みが少し崩れる。 だが、それに気が付かず、いや、気が付いていたとしても行き場のない感情を子供のような精神は止めることが出来ない。故に、言ってしまう

 

勇輝「こんなことなら、あの時、橋から落ちるのは俺だったら良かッ!?」

 

それは、誰に対しても余りに無神経で心無い言葉だった。だから、あの事件でもっとも心を痛めた女の子達――香織と雫によって物理的に止められてしまう

パシンッ! と派手な音を立てて、ふたりの張り手が勇輝の頬に炸裂したのだ。 呆然と、叩かれた頬に手を添える光輝に、香織は振り抜いた手もそのままに、厳しいながらも、どこか悲しそうな表情で口を開いた。

 

香織「……勇輝くん。勇輝くんのことは大切な幼馴染だと思ってる。……だから……嫌わせないで」

 

勇輝「……か、おり」

 

勇輝が、思いがけない衝撃に言葉を失い、それでも何か言わねばと口を開きかけた、その時、 ゴゥ! そんな豪風の風圧にも似た衝撃が駆け抜けた

 

その正体は、絶大な魔力の波動。〝衝撃変換〟などされていないはずなのに、それでも体内の魔力が反応して衝撃と感じてしまうほど莫大な量の魔力が邸宅の壁を透過して広がったのだ

 

カズマ「おい…今のって…」

 

シア「……ハジメさん! ユエさん!」

 

雫「…光輝!!」

 

明らかに尋常でない事態にシアが、そしてふたりの入っていった部屋には未だ目を覚まさないでいる光輝がいることを思い出した雫が一気に部屋を飛び出していく。今まで、ハジメがアーティファクトを作るときに、こんな事態になったことはないのだ。 魔力の波動は脈動を打つように断続的に広がり続けており、メンバーの体内の魔力を強かに打った

しかし、そんなふたりの行動にハッと我に返った香織達は、直ぐに魔力を整えてシアと雫の後を追った

 

シアの言葉通り、魔力の波動はハジメとユエが発生源らしかった。二人が籠っている部屋に近づけば近づくほど、駆け抜ける魔力の波動は密度を増していく。台風の直撃でも受けたかのように荒れ狂う廊下をどうにか進むと、部屋の前に辿り着いた。 部屋の扉は既に開いており、シアと雫が二人の無事を確認する為、中に入った後のようだった。吹き荒れる魔力に顔を庇いながら、意を決して香織達も中へと踏み入る

そこに広がっていたのは、紅と金の魔力が螺旋の奔流となって吹き荒れる光景と、その中央で、膝立ちになりながら向かい合って手をつなぎ、瞑目したまま微動だにしないハジメとユエの姿だった

そしてふたりの背後には未だに眠ったままの光輝がいた

 

ハジメとユエの間には青白い光を放つ拳大の結晶といくつかの鉱物が置かれている

 

香織「シ、シア…雫ちゃんこれどうなって……」

 

雫「わからないわ…」

 

シア「でも、取り敢えず、ハジメさんとユエさん…それと光輝さんに何かあったわけじゃないみたいです」

 

先にやって来て、魔力の嵐にウサミミを盛大に弄ばれているシアと雫に香織が尋ねた

シアと雫は腕で顔を庇い姿勢を低くしながらも、目を細めてハジメとユエと光輝の姿を確認し、どうやら大丈夫のようだと安堵の息を吐く

その視線を辿れば、確かにハジメもユエも危険な状態にあるわけではないようだった。それどころか、二人共極度に集中しているようで、シア達が入って来たことにも気が付いていないようだった。額に流れる大量の汗が、今この瞬間も、概念魔法を込めたアーティファクトの作製に全力を注いでいることを示していた

そしてこんな状況でも目を覚まさない光輝

 

カズマ「……無事なら、出た方がいいな」

 

ティオ「そうじゃな。妾達のせいで失敗などしたら……お仕置きされてしまうのじゃ」

 

めぐみん「……そこは嬉しそうに言っちゃだめですよティオ」

 

ダクネス「…、お仕置き」

 

アクア「ダクネス!?」

 

シア達は、ハジメ達の邪魔をしないようそっと扉へ向かって後退した。 そんな中、勇輝だけがジッとハジメと光輝を見つめていた

その瞳に感情の色は見えないが、それが逆に激情を押さえ込んでいるようにも思えて危うく見える

 

雫「勇輝」

 

雫が呼び掛ける。しかし、勇輝は応えない

むしろ、スッと一歩を踏み出そうとした

 

雫「勇輝!」

 

勇輝「っ……」

 

咄嗟に、雫が勇輝の腕を取る。魔力の嵐にトレードマークのポニーテールをなびかせながら、真剣な眼差しで勇輝を真っ直ぐに見据えた。その視線に、まるで怯えたように動揺をあらわにして、勇輝は踏み出しかけた足を逆に一歩、後退らせた

 

その瞬間

 

シア「! 何ですか!?」

 

めぐみん「え、映像?」

 

ダクネス「暗い……洞窟か?」

 

眼前に突如、どこかの風景が映り始めた。まるで霧をスクリーン代わりに映像を映すように、魔力光そのものが媒体となって断片的に流れていく。特異な状況に、部屋を出るのも忘れて見入るシア達

 

アクア「!カズマ……ここって……」

 

カズマ「ああ……間違いない…【オルクス大迷宮】だな……」

 

その言葉にオルクス大迷宮に入ったことのないめぐみんとダクネスとシアとティオを除く面々が反応した

映っている洞窟の風景がカズマ達の知っている洞窟だったのだから

 

突然の事態と不可解な映像に困惑を深めるシア達だったが、やがて映像が巨大な四辻を映し岩陰から覗くようなアングルとなって、その奥に白い体毛と肥大した後ろ足、そして体を這う赤黒い血管のような筋を持ったウサギ型の魔物を捉えた瞬間伝わった感情と共に映像の正体を悟った

 

香織「これは、不安? ……それに焦り」

 

雫「恐怖も感じるわ。……記憶、なのね。この映像は」

 

ティオ「おそらくハジメじゃな。話に聞いていた〝奈落〟という場所の記憶というわけじゃの」

 

シア達の推測は正解だった

 

映像と共に、部屋を満たす魔力から伝わる感情。見た事もない明らかに異常な魔物を前に溢れ出る不安、焦燥、恐怖。どういう理由で、あるいは原因で、こんな事態になっているのかは分からなかったが、少なくとも、見える映像も感じる感情もハジメのものだということは理解できた。 奈落での出来事は、ユエと出会った後のことはともかく、それ以前についてハジメは多くを語っていなかった。既に終わったことであり、ハジメに苦労自慢や不幸自慢をする趣味はなかったからだ。単純に面倒だったというのもあるが。 なので、シア達は自分の知らないハジメの過去を知れると、一瞬、目配せをして意思疎通を図ると、部屋を出て行かずに穴が空きそうなほど真剣な眼差しで映像を凝視し始めた。好きな人の今を形成する始まりが知れるのに、退室など出来るはずがなかった。勇輝も興味が出たのか同じく映像に集中し始める

 

だが映像に映っていたハジメはそれまで散々見せてきた無双するほどの強さを持っておらず、むしろ魔物にいたぶられる姿だった

 

左腕を粉砕され、更に現れた爪熊がハジメを追い詰め、左腕を奪い、それを目の前で咀嚼される

自分を捉える眼光は、食料に対するそれで、噴き出す血と、徐々に形を失っていく己の腕が、否応なくその現実を助長する。 聞こえるはずのない絶叫が、魔力の波動に乗って伝わった。人という種族がまず向けられることのない眼を向けられ、実際に体の一部を喰い散らかされ、決壊した恐怖と苦痛。そして、恥も外聞もなく、ただ一ミリでも遠く恐怖の権化から離れたいと死に物狂いで穴ぐらへと這いずって行く。 映る映像は既に暗闇。伝わる感情は飽和してしまったのか既に判然としない。ただ、ハジメが泣き叫び、それすら徐々に弱まっていくことだけが、命の灯火が消えていく光景を連想させながら伝わった

 

やがて命からがら逃げ延びた先で水を滴らせる神秘的な結晶体と出会う。神結晶と神水だ。 ハジメはそれを飲み、砕かれた心を抱えて暗い洞窟の中で蹲った。助けを求めながら……どれだけ助けを求めようとも誰一人応えることのない圧倒的な孤独。自分という存在すら呑み込まれそうな暗闇。狂いそうなほどの飢餓感。絶えることのない幻肢痛

 

 

苦しんで苦しんで…その苦しみの果てに…ハジメは決心した

生き延びるため、故郷へ帰るため…それを邪魔する全てを殺し喰らい尽くすと

 

そして、武器を作ることしか出来ない力と、異世界の火薬の原料を駆使して、気の遠くなるような試行錯誤の末、兵器を産み落とし、己の心を一度は砕いた爪熊へ自分が戦えることを証明する為に戦いを挑みに……そこで光輝と再会し激戦の末、爪熊を制し、その血肉を喰らった

血肉を喰らうハジメと光輝だったが、その毒素に声を上げ苦しむハジメと声を出すことなく気力で耐えきる光輝

何十回、何百回の苦しみを超え…今の自分達が知るふたりへと変わった

 

――帰りたい

 

そのハジメの想いに呼応するように、部屋を満たす魔力が脈動した。いつしか、ハジメの体は紅色の魔力光に包まれており、ハジメとユエを中心にして、更に魔力が跳ね上がった。 だが、それは無差別に撒き散らされるような魔力ではない。二人と中心に渦巻く螺旋の奔流へ吸い込まれるように集束していく

 

――帰りたい

 

再び、魔力を通してハジメの純粋にして強烈な願望が伝播した。その想いに、心打たれたようにシア達が自分の胸元をギュッと握り締める。 紅の魔力は止まるところを知らず燦然と輝き、その紅の輝きを支えるように金色こんじきの魔力が寄り添う。キラキラと煌きながら徐々に穏やかさを取り戻していく魔力流は、ゆったりと二人の周囲を回り始める。それはまさに煌く銀河の如く

 

――故郷に帰りたいんだ

 

静かな、されど何者にも揺るがすことなど出来ない、自然とそう理解させられるような強烈な意志の込められた想いが染み渡るように伝わった。それはまさに、極限の意志と言うべきもの。 映像の中のハジメは、一度、天を仰いだ後、静かに瞑目した。自分の中で、想いと覚悟を確かなものとするように。そして、瞳をスッと開くと、迷宮の深部へ向けて通路の奥の深淵へと躊躇うことなく向かって行った

 

映像を映していた魔力光はそこで吸い込まれるように、ハジメとユエの周囲を周回する魔力の渦に加わる

 

勇輝は……力の抜けたような、空虚な眼差しを虚空に向けていた。その胸中には、先程、自分が奈落に落ちていればと言ってしまった時のことが過ぎっていた。 今の今まで、勇輝はハジメと光輝の強さを卑怯だとさえ思っていた。雫に、凄まじい経験をして来たに違いないと言われても実感など微塵もなく、ただ奈落に落ちることで簡単に力を手に入れて好き勝手やっている奴だと、本気でそう思っていたのだ

 

だが、知ってしまったふたりの道程は、自分のそんな思いを吹き飛ばすような凄まじいもので

 

勇輝「(……帰りたい……か)」

 

心の中で呟く。自分は果たして、そこまで帰郷を望んでいるだろうかと疑問が湧く。同時に、求められるまま勇者としてこの世界を救うと公言して来た自分の想いは、魔力を通して直接伝わったハジメの純粋で強烈な想いと比べると、何とも薄っぺらな気がして……

 

勇輝「(ち、違う……俺は間違ってない。南雲の想いは……わかったけど……でも、だからって……それに、香織まで……俺から何もかも奪って……)」

 

過ぎった自己否定の感情を、必死に振り払う

勇輝が自分の内面と問答していると、ハジメとユエに変化が現れた。正確には、ハジメとユエの間にある結晶体と鉱物に、だ。 澄み渡った紅い魔力に包み込まれ、徐々に形を変え、あるいは融合し、魔力を取り込んでいくそれらは、紛れもなく錬成が行われている証

 

香織「あれは、鍵……かな?」

 

雫「そうね。水晶で出来たアンティーク調の鍵みたいね」

 

ハジメとユエの間で形作られていくそれは、持ち手側に正十二面体の結晶体を付け、先端の平面部分に恐ろしく精緻で複雑な魔法陣の描かれた鍵だった。 神結晶と他の鉱物との融合で創られており、ハジメとユエの魔力を大量に取り込んで紅水晶に金の意匠があしらわれた何とも美しい芸術品めいたアンティークキーとして仕上がっていく。 そして、完全に形が創られた直後、今まで微動だにしなかったハジメとユエが、手を繋いだままスッと眼を開けた。薄く開いた瞳には、何も映していないようでもあり、二人にしか見えない何かを見つめているようでもあった。 異様にして、どこか神秘性も感じる雰囲気に、誰かのゴクリと生唾を呑み込む音が響いた。次の瞬間、今度は、二人の唇が震える。そうして小さく開かれた口から紡がれた言葉は……

 

ハジメ/ユエ「「――望んだ場所への扉を開く」」

 

刹那、恒星の如き眩い光の奔流が二人を中心に噴き上がった。一度は落ち着いていた銀河の流れは、まるで超新星爆発でも起したかのように部屋を純白の光一色に染め上げ、その場の全ての者の意識をも白く塗り潰した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『クリスタルキー』

それがこの鍵型アーティファクトの名前

その効果は〝導越の羅針盤〟でとある場所の座標を特定してから、クリスタルキーに魔力を注いで起動させ前方に突き出し、ある程度の目的地との距離や場所のイメージができなければ繋げられないが世界を超えることのできるアーティファクト

 

魔力の枯渇により意識を失いかけたふたりにカズマはすぐ自身の持つ魔力を分け与え意識を保たせた

 

カズマ「ふたりとも上手く完成させたな!」

 

ハジメ「ああ…」

 

カズマ「これで晴れて地球へ帰還できるな!!」

 

ハジメ「……ああ…」

 

シア「ハジメさん?」

 

香織「…どうかしたの?」

 

様子のおかしいハジメにシアと香織が声を掛ける

 

そして

 

ハジメ「……ユエ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地球へ帰るの……先延ばしにしちまってもいいか?」

 

その言葉にその場にいたほとんどが驚愕した

あれだけ故郷へ帰ることを願い続けたハジメが故郷に帰ることを止めたのだから

 

それにユエも少し驚いた様子だったがやがて…

 

 

ユエ「……ん…わかった……」

 

ハジメの顔を見て納得した様子だった

 

カズマ「ハジメ…お前……いいのか?地球に帰らなくて…」

 

ハジメ「ああ…帰るさ……エヒトをぶっ殺して、全員でな」

 

アクア「!!」

 

ハジメの変貌に勇輝が突っかかる

 

勇輝「どういう風の吹き回しなんだい?散々この世界の人々のために戦いたくないって言っておいてどうして今になって」

 

ハジメ「勘違いするな…今だってこの世界の連中の為に戦おうなんて思っちゃいねえよ……ただ…気付いちまっただけだ」

 

勇輝「気づいた?」

 

ハジメ「カズマ……お前が…お前たちが命かけて神殺しを成し遂げたとして……俺はそんなお前達に胸張ってダチなんて言えるのか?ってな…」

 

勇輝「!そんな理由で」

 

ハジメ「どんな理由だって構わねえだろ…むしろダチの為に神殺しを手伝う…立派な理由じゃねえかよ」

 

ユエ「ん…そもそも他人の為に……戦うのに…理由なんていらない」

 

勇輝「!」

 

ハジメ「お前はなんだ?…自分が人を助けるのに他人を理由にしなきゃできねえのかよ」

 

勇輝「そ、そんなことは…」

 

ハジメ「そういうわけだ…シア…香織…悪いがまだ帰るわけに行かなくなった…まあ安心しろ…すぐに帰りたいやつは先に帰してやるから…だからお前らも」

 

シア「いいえ……ふたりが残るなら私も残ります」

 

香織「私も…ずっと考えてた…皆を置いて本当にこのまま帰ってもいいのかなあって…よかった…私だけじゃなかった……どこまでも付いていくよ」

 

ハジメ「……ふたりとも…」

 

カズマ「ハジメ…ユエ…シア…香織」

 

ハジメ達に続いてシアと香織も残って戦う決心し、そんな彼らにカズマが近づく

 

ハジメ「カズマ……本音を言えば…頼って欲しかった……俺は…お前に助けられてばかりのダチなんかじゃねえって言いたかった…」

 

カズマ「……………フッ……お前らが居れば百人…いや…一万人力だな」

 

それに笑みを浮かべるカズマ

その後ろでアクア達も嬉しそうにしていた

 

アクア「良かったわー!正直言うと、貴方達が居なくなるの少し寂しかったのよね」

 

めぐみん「途中から同行した身とは言え…結構情が湧いてますもんね」

 

ダクネス「心強いぞ…お前達が一緒で」

 

ユエ「アクア…めぐみん…ダクネス…」

 

カズマ「んじゃ、改めてよろしく頼むぞ」

 

そう言うとカズマが手を、それに続く形でめぐみんとアクアとダクネスも手を差し出した

 

ハジメ「ああ!」

 

ユエ「こっちこそ」

 

香織「またよろしくね」

 

シア「よろしくですぅ」

 

カズマにはハジメが、めぐみんにはユエが、アクアには香織が、そしてダクネスにはシアが握手した

 

こうして、晴れて攻略者パーティー内でエヒトを倒す者達が全員集結できたことに喜ぶ一同だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、その時

 

ハジメ「おい!」

 

突如彼らの背後から先程と同じように映像が投影された

 

もう終わったはずのそれはなんの前触れもなく流れ出した

ただし…その内容は先程のハジメの記憶ではなかった

 

香織「ねえ…あれって……もしかして………」

 

雫「……ええ…アレは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝の記憶ね」

 

そう…それまで眠っていた光輝の記憶だった

しかもそれは大迷宮での記憶ではなかった

 

香織「あれ?……これって…」

 

勇輝「!」

 

雫「……地球の…………それも……小さい頃のやつね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「ここは……」

 

神代魔法を手に入れ、脳に刻まれた知識の深さに耐えきれずオーバーヒートを起こし気を失っていた光輝

 

目を覚ますと底は真っ白な空間で、水面の上に立っていた

 

光輝「この感覚……確かオルクスでも…」

 

???「ようやく…この深層にまでたどり着いたか」

 

声がして振り替えるとそこには両目に青紫色の隈取りを付け両耳と後ろの長髪を束ねている青年が立っていた

 

光輝「お前は………あの時俺が見た記憶にいた……何者だ」

 

???「私は……お前が生まれてきたときから、お前の中からずっと見続けていた者

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

名をインドラという





遂に長きに渡る伏線がここから回収されていきます!!


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第六十一話 決別

 

突如流れ出した幼き日の光輝の記憶

 

思えばあまり光輝の過去を知らない幼馴染組以外の面々は食い入るように映像を見た

 

そもそもなぜハジメだけでなく光輝の記憶まで流れたのか

それに対しカズマは『あのふたりのそばにずっと居たからその影響を直接受けてしまったんじゃないか?よくわからんけど(憶測)』と言った

 

そして流れた光輝の記憶を見たその場の多くの面々は知ることとなった

 

かつての光輝が今の勇輝と同様、強い正義感と人を救うヒーローになりたいという願望を持つ少年だったと

 

しかし、今亡き祖父の言葉を聞き、人の善性を疑うようになったと

 

これには勇輝はとても驚いていた

祖父がこれまで話していた弁護士として活躍した話…しかし当時幼かった自分達に気を使って暗い、汚い話をしてこなかったことを…

 

場面は代わり、光輝と勇輝に集まる同級生達やそんなふたりのカリスマや才能を褒める大人たちの姿が

 

しかし、彼らは決して光輝や勇輝個人を見ていなかった

見ていたのは才能や周りを従えるカリスマだった

 

その結果自分達がなにか間違えを犯しても誰も指摘しなかったりむしろ自分達の方が正しいとでもいうかのように振る舞っていた

 

――なんなんだこいつらは

 

勇輝はそれに気づかなかったが光輝はそれに気づき集まってくる者達の殆どが汚く醜く歪んで見えた

 

――人は皆本当は良いやつばかりじゃないの?

 

それを見続けていくうちに光輝の中で人の善性に対する考えがぐらつくようになった

 

そして

 

――なんだこれは こんなに醜くて歪んだのが本当に同じ人間なのか

 

自身の運命を決定づけた『雫のいじめ事件』が起き、雫を助けようとした結果雫が更に傷つけられ、この日光輝は人の醜さと愚かしさをその目に焼き付けることとなり

 

極めつけは、いじめた主犯たちの言葉に流され、光輝を厳しく弾圧した勇輝

 

――なんで 弟の言葉を信じないの

 

勇輝『お前なんかヒーロー失格の偽善者なんだよ!』

 

実の弟を信じない兄から言われた罵声

 

パリーン!!

 

それが光輝の中でなにかを壊した

 

その瞬間光輝の雰囲気が大きく変わった

 

光輝『……偽善者か……なら…お前はそのままでいろ…そして後悔しろ……その思い込みと独善的な考えは…何れお前を追い詰めることになる……言われなくとも道場はやめてやる……それと……今日限りで、俺とお前は兄弟でもなんでもない……』

 

こうして光輝は変わってしまった

 

信じていた人の善性が嘘だったこと

人なんて救う価値のない存在だと思い知らされ

それまで抱いていた正義感も夢も捨て去った

そんな変わってしまった光輝にそれまで集まっていた同級生や大人たち、挙句の果てには家族からも敬遠されるようになった

 

皆結局は光輝の事が好きでもなければ光輝自身を見てたわけじゃなかった

皆が見てたのは光輝の外側だけで人を嫌うようになった光輝を気にかける者などいなかった

 

――結局人なんて醜く醜悪で嘘を並べた愚かな存在だったな

 

――こんな奴らを救おうとしてたとはな

 

――どうせ他人なんて皆そうだ

 

――勝手に信じたのが馬鹿だった

 

――こんな想いするくらいなら

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――俺はもう 誰も信じない

 

こうして 光輝は人を嫌うようになったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユエ「……酷い」

 

シア「そんな…」

 

ティオ「これが…」

 

アクア「光輝が…人を嫌うようになった…理由」

 

光輝の過去を知り…カズマと香織と雫を除く面々が驚いた

 

あれだけ人と距離を置き、群れる事を嫌っていた光輝の人嫌いとなった原因を知ったのだから

 

その一方で

 

香織「光輝…君」

 

雫「光輝…」

 

幼馴染ふたりは改めてそれを見て、悲しげな表情を浮かべていた

 

雫にいたっては泣きそうだった

 

カズマ「……人ってさ…幼少期での過ごし方や環境がその後の人格を形成するらしいが……こんな事があれば……それを引きずって成長してしまうな」

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇輝「そ…ん……な…俺…が……俺の…せいで…雫は…光輝は…」

 

最も大きな衝撃を受けたのは勇輝本人だった

 

無理もない

気づかなかったとはいえ助けたつもりでいた雫は自分のせいで更に傷つけ、それに気づかず挙句の果てには、その雫を守った弟を心のない言葉で弾圧してしまい、光輝の心に大きな傷をつけてしまい、今の性格に変わってしまったのだから

それだけでなく、自分は誰も救ってなどいなかった

救った気になっていただけに過ぎなかったと

 

大きなショックを受けた勇輝は膝を地面に付け頭を抱えうわ言のように懺悔の言葉を漏らした

 

ハジメ「……!……お前…いつから起きていた」

 

ハジメ以外の全員「「「「!?」」」」

 

突如ハジメが話しだしたことで一同はそこで気付く

 

光輝「……」

 

いつの間にか起きていた光輝がこちらを見ていた

 

シア「こ、光輝…さん」

 

まわりはなにか言いたそうにしていたがうまく話せずにいる

 

光輝「……」

 

そんな彼らを光輝は無視して今度は勇輝を睨んだ

 

勇輝「こ…光輝…俺は…」

 

光輝「――れ」

 

勇輝「お前や…雫に…なんてことを」

 

光輝「――まれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇輝「お前がそんなふうになる原因を俺が作ってしま」

 

光輝「黙れって言ってるだろ!!

 

次の瞬間光輝は勇輝を壁に蹴り飛ばした

 

そして間髪入れずに勇輝の首を掴んだ

 

勇輝「がぁっ!」

 

雫「光輝!!」

 

そんな光輝を止めようとまわりが動こうとした時光輝は万華鏡写輪眼を開眼させまわりに威嚇した

 

光輝「……貴様がアレを見てどう思おうがそっちの勝手だ。今更謝罪の言葉なんざいらねえ。だがこれだけは言っておく。俺は、貴様がこれまでやってきた数々の仕打ちを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決して許すつもりはない!そして二度と俺の前に姿を見せるな!分かったかこの偽善者

 

そう言うと勇輝を放り捨て

 

光輝「……佐藤…こいつを王都に送還しろ…これ以上こいつを視界に入れるなら今度こそ殺す」

 

そう言ったのでカズマも止む無く勇輝を王都へ転送させた

 

光輝「……なんだ?言いたいことがあるなら言え」

 

すると光輝はそれまで黙ってみていた面々に顔を向けた

 

シア「こ、光輝さん…貴方は…人が嫌いだった(・・・)のですか?」

 

光輝「……だった(・・・)じゃねえ……今も嫌いだ……ついでに言っておいてやる……俺は地球の人間だけでなく、トータス全ての人種が嫌いだ」

 

カズマを除く全員「「「「!!」」」」

 

光輝「俺が地球の人間達を嫌う理由は……お前らが見たとおりだ……トータスに召喚されたあの日……俺は少し期待していた。ここの連中は地球の奴らよりかはマシなのかってな……が、蓋を開けてみれば、地球の連中と何も変わってない…いや、むしろもっと醜い…神なんていう目に見えない存在に縋り付き、信託が下ればそれが何であれ疑問を抱かず思考を放棄し従う人間族に魔人族。神に見放されたと言われ、迫害を受けてながらも決して抗わず弱者で居続けた亜人族。世界の真実を知っていながら何もせず傍観し続けている竜人族……佐藤が扇動してからでなきゃこれまで疑問も抱かずにいたような連中ばかり……佐藤は救うつもりでいるみたいだが俺はそんな気はない……むしろそんな奴ら滅べばいいとすら思っている。俺がここにいるのはただの利害の一致だ。エヒトを殺す。だがそれには全ての神代魔法を得る必要があった……そして全てが揃った今、潮時だ」

 

光輝はそう言うと部屋から出ていこうとした

 

ユエ「光輝…どこに…行くの?」

 

光輝「言ったはずだ…潮時だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は今日限りでこのパーティーを抜ける」

 

カズマを除く全員「「「「!?」」」」

 

カズマ「(光輝……お前…)」

 

光輝の脱退宣言に一同は驚いた

 

ユエ「なんで…」

 

光輝「……俺が南雲やお前達と群れたのは神代魔法を手に入れやすくする為であって俺一人で手に入るなら一人でだって大迷宮巡りをしている。そうでなきゃお前らとこれまで行動をともにはしねえ」

 

そうこれまで共にした仲間達に冷たく吐き捨てる光輝にハジメがキレてかかる

 

ハジメ「てめぇ…俺たちを利用するだけ利用して、用が済んだらそれまでか!」

 

光輝「なにをキレている。俺は神代魔法を手に入れることと引き換えに力を貸してやった…お前達もそうだろ……これはずっと前から決めていたことだ」

 

そう言い今度こそ部屋から…いや、この大迷宮から出ていこうとした

 

雫「待って!」

 

出ていこうとする光輝を引き止めようと駆け寄る雫だったが

 

雫「!」

 

そんな雫に光輝は

 

黒金を向けた

 

光輝「言ったはずだ……俺にはついて来るな」

 

そう冷たい眼差しを雫へ向けて言う

 

光輝「ッ!」

 

その瞬間光輝に向かってハジメがドンナーの引き金を引き弾丸が放たれ、それを刀身で受け流す

 

光輝「南雲…」

 

ハジメ「テメェ!お前を散々気にかけてきた女に何刀を向けてんだ!!」

 

光輝「頼んでもいないことを勝手にしてるだけだ……この際だからはっきり言ってやろうか雫……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

迷惑だ……お前もアイツ同様俺の前に顔を出すな

 

雫「あっ…」

 

その言葉は…光輝を誰よりも強く想う雫を傷つけるには十分だった

 

ハジメ「天之河ぁぁぁぁ!!」

 

その瞬間ハジメは螺旋丸を形成させながら光輝に突っ込んで行った

 

ハジメ自身、自分はろくな人間じゃないと思っている

だが、そんな自分を想い愛してくれる女達がいる

そのありがたさを理解していた

 

だからこそ、同じように光輝を想い愛しているであろう雫を傷つけた光輝が許せなかった

 

だが

 

光輝「遅い」

 

光輝も千鳥を発動させた腕をハジメの螺旋丸を形成させた腕にぶつけた

 

ふたりの技が衝突したことで部屋に大きな衝撃波ができた

 

 

ハジメ「ぐぁぁ!!」

 

技の競り合いに負けたのはハジメであった

 

ハジメはそのまま壁に叩きつけれ、血を吐く

 

光輝「フン…魔力が全くない状態で俺に勝てると思っていたのか?……お前達は精々…これまで通りその力を自分と自分の大切とやらの為に振るうんだな……」

 

そういうとハジメ達に背を向け今度こそ出て行こうとした

 

シア「あ、貴方には…居ないのですか…?……自分にとっての……大切が」

 

光輝「……ないな……俺はそこの南雲や佐藤…お前達とは違う……他人の為に力を振るうつもりはない」

 

そう最期にカズマ達を見て、消えて行ったのだった

 

めぐみん「……彼…なんだか冷たくなってましたね…」

 

ダクネス「ああ…意識を失っている間に…何か…あったのか……」

 

カズマ「……」

 

アクア「………」

 

ティオ「まさか…このような事になろうとは…」

 

香織「どうしてなの…光輝君…」

 

雫「光輝…」

 

ユエ「……光輝」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

辺りが真っ白な空間な空間では……額に白い布を巻き、両耳の髪を束ねている青年が見上げていた

 

???「お前がここに来るのも……そう遠くない未来だな…ハジメ…………再会の時は近いですよ……兄さん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第六十二話 魔人国ガーランド

 

光輝の離脱から一夜が明け

 

ハジメ達は大迷宮から出ていこうとする

 

目指すは魔人族の国『ガーランド』

目的はエヒトの配下の神であり魔人族の王『アルヴ』を倒す為だ

 

しかし昨日の光輝離脱で、メンバーのほとんどがなんとも言えない気分になり、皆口を開く事なく眠りについた

 

思った以上に光輝が居なくなったことが心に来たようだった

 

雫「……」

 

ユエ「……」

 

特に雫とユエは他の面々よりも光輝離脱が心に来ていた為、他よりも元気がなかった

 

片やきつい言葉を吐かれ、片やこれまで長く共にしていたというのにどうにもできなかったことに

 

カズマ「(……いつかはこうなる気がしていたが…本当にそうなったか)」

 

カズマ「ほら、お前ら。しっかりしろ…これから魔人族の国に行くっていうのにそのテンションの下がりようは」

 

香織「ごめん…カズマ君……光輝君の離脱…結構来るものがあったから…」

 

ティオ「……無理もない……妾もじゃ…あやつはああは言ったのじゃが……妾達は利用したつもりなどない……」

 

シア「光輝さんが私達の事を仲間と思ってなくとも……私達にとっては仲間でした……人嫌いでしたけど…優しい人でした…」

 

めぐみん「……はい…私やダクネスは途中からの付き合いでしたが…口数が少なく、どこか距離を置いている節はありましたが…私は嫌いではありませんでした」

 

ダクネス「ああ……私もだ…」

 

ユエ「……うん…私も……」

 

アクア「地球に居たときから見てるけど…あれで根は真面目な良い子なのよね」

 

と、仲間達は自分達が抱いていた光輝への気持ちを吐き出した

 

カズマ「……ハッ…中々罪な男だな…光輝……こんだけお前を大切に思ってくれてる人がいんのに出ていきやがって………ま、心配せずとも…あいつは近いうちに戻ってくるさ」

 

香織「え?」

 

シア「ど、どうしてそれが…わかるのですか?」

 

カズマ「俺の人生経験…と、勘だな」

 

ユエ「勘…?」

 

カズマ「勘を馬鹿にしちゃあいけないな…いざとなれば知識よりも当てになる」

 

あっさりと言うカズマにアクアを始めとした嫁達とハジメを除く面々が少し啞然としたが…不思議とそう思える気がして暗くなっていた空気が少し明るくなったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「あらら…こちらから出向くつもりだったんだが…まさか……そちらさんから来てくれたか」

 

 

無事大迷宮の外に出ることができた一行を待ち受けていたのは

 

二回りは大きくなった白竜とその上に騎乗するフリード、灰竜を主とした数多の魔物達

 

そして、数百体はいるであろう、おびただしい数の、銀翼を生やした同じ顔の女〝真の神の使徒〟――ノイントが待ち構えていた

 

めぐみん「うわ…どこからこれだけ集まってきたんですか…」

 

ダクネス「しかも一人一人同じ顔をしている……」

 

カズマ「言ってみれば量産型みたいなもんだな……また会ったな……フリード」

 

フリード「……貴様もな…イレギュラー…」

 

ハジメ「……そいつらと来ているってことは…やっぱお前ら魔人族の所の神とエヒトはグルだったわけか」

 

フリード「……」

 

沈黙をしているがそれが肯定であることを意味していた

 

ティオ「……これ…不味いのじゃ…」

 

ユエ「……こんな所に…なんの要?……私達を始末しに来たのなら…相手になる」

 

シア「ユエさん!?この数ですよ!出方考えましょうよ!!」

 

一体一体が高い戦闘能力を持つ神の使徒

以前王都に襲来した神の使徒ノイントは雫達を苦しめたが、怒りを露わにした光輝により一方的に叩き潰され最期には骨も血も残らず焼き消された

 

それが今、フリードとフリード率いる魔物達と共に数百人超えで空中から見下ろしていた

 

対してこちらは最高戦力だった光輝が抜けたことで10人しか居ない

 

どう見ても圧倒的なまでの人数差

 

ハジメ「(……数は多いな数は)」

 

ダクネス「(……戦いになれば厄介だな)」

 

めぐみん「(……魔力効率と討伐数を考えると一発広範囲の爆裂魔法がいいですね)」

 

アクア「(……皆同じ表情で不気味ね…ここで襲って来たら)」

 

カズマ「(………面倒だな……襲って来れば)」

 

このパーティーでも光輝を除く最高戦力者である五人は相手と戦闘になった場合の事を考えていた

 

どう見ても不利なのはこちら側なのは明白だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ/ハジメ/アクア/めぐみん/ダクネス「「「「「(まあ……勝てないことはない(わ)(ですね))」」」」」

 

しかし、彼らの心には敗北の文字も無ければ頭の中で追い込まれたとも思っていなかった

 

フリード「!」

 

その瞬間、五人から殺気や闘気…体内に内包する膨大な魔力を表に出し威嚇する

 

それだけで神の使徒達や魔物の表情が一気に変わり、下手に近づけなくなった

 

フリード「逸るな。今は、貴様等と殺し合いに耽るつもりはない。地に這い蹲らせ、許しを乞わせたいのは山々だがな」

 

ハジメ「へぇ、じゃあ、何をしに来たんだ? 駄々を捏ねるしか能のない神に絶望でもして、自殺しに来たのかと思ったんだが?」

 

揶揄するような口調のハジメに、フリードの眉がピクリと反応する

 

フリード「……挑発には乗らん。これも全ては我が主が私にお与え下さった命めい。私はただ、それを遂行するのみだ」

 

ハジメ「そうかい。で? 忠犬フリードは、どんなご褒美命令を貰ったんだ?」

 

フリード 「……寛容なる我が主は、貴様等の厚顔無恥な言動にも目を瞑り、居城へと招いて下さっている。我等は、その迎えだ。あの御方に拝謁できるなど有り得ない幸運。感動に打ち震えるがいい」

 

それにカズマ達伝説のパーティーを除く面々が驚きを隠せなかったが、どう考えても罠だと思い、誘いに乗らずここで全員倒すとハジメが言うと

 

フリードの前に鏡のようなものが3つ発生して割り込んだ

訝しむハジメ達の前で、それは一瞬ノイズを走らせると、グニャリと歪んで何処かの風景を映し出した

 

空間魔法の一つ。〝仙鏡〟――遠く離れた場所の光景を空間に投影する魔法だ

 

仙鏡に映し出された光景は3つ

 

一同全員「「「「「!」」」」」

 

ハイリヒ王国 アンカジ公国 海上の町エリセン

 

皆彼らが訪れたことのある場所ばかりだ

 

だが、それに驚いたのではなかった

 

彼らが真に驚いたのは

 

ハジメ「チッ…やってくれやがったな…お前ら」

 

それぞれの映像には彼らの知人達が、この場の神の使徒達程ではないにしろ包囲されていたのだから

 

ハイリヒ王国ではリリアーナや愛子に生徒達(よく見ると抵抗したのか幸利や浩介、龍太郎や勇輝がボロボロにされていた)

 

アンカジ公国ではランズィを始めとした公国の人々が

 

そしてエリセンではレミアやミュウが人質にされていた

 

要するに『何もせずに付いて来い』

 

カズマ「……お前らの所の神…いよいよなりふり構ってられなくなったみたいだな」

 

香織「ど、どうしよう…ハジメ君…カズマ君…」

 

ハジメ「……行くしかねえか……まあ元々行くつもりだったけどな」

 

そう言い一同はフリード達の方へ歩こうとすると

 

フリード「待て」

 

そこでフリードに止められた

 

フリード「……そこの転生者(・・・)共は残れ。お前達は招待されてはおらん」

 

カズマ「……俺達が転生者なのを…奴も勘づいたか」

 

雫「嘘…カズマ君達もここで離脱なの…」

 

カズマ「……仕方ない…悪いがハジメ達は行っておいてくれ……こっちはどうにかする……なに、俺達こっち片付いたらそっちに行くからさ…」

 

ハジメ「……信じていいんだな?」

 

カズマ「おいおい…誰の心配してんだ?……俺達は最強の冒険者パーティーだぜ?」

 

カズマを筆頭にアクア達も皆こっちの心配は無用とでも言いたげな顔を見せた

 

ハジメ「……後で落ち合おう」

 

そう言いハジメ達はフリードが空間魔法で作ったゲートを潜り抜けていったのだった

 

それから約2分の沈黙がその場の空気を支配していたのち

カズマがそれを破る

 

カズマ「……さて…これで俺達だけになったが…多方お前らの所の神に俺達の足止めを言われたみたいだな」

 

フリード「…そうだ…貴様達はアルヴ様とその更に上にいるお方にとって厄介極まりない……よって足止めをしろと言われたわけだが……別にお前達を生かしておけとも言っていない」

 

そう言うとフリードからもこちらに対し殺意と闘気らしきものが向けられた

 

カズマ「……ま、予想は出来ていたが…こうなるか……」

 

そう言うとカズマは『宝物庫』(ブレスレット型)から二本の刀を取り出した

 

カズマ「お前ら……出し惜しみはなしで行くぞ……」

 

アクア「当然よ」

 

めぐみん「早くこの場をくぐり抜けて、他の場所へ増援に行きましょう!」

 

ダクネス「ああ…故郷を滅ぼさせないためにもな」

 

フリード「……では始めるか」

 

カズマ「ああ!これが…俺達の神への反逆だ!行くぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクア!めぐみん!ダクネス!フリード(・・・)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「……何が起きている…」

 

ハジメ達がゲートをくぐり抜け、ガーランドに来た同時刻

光輝はガーランド国内に訪れていた

 

ハジメ達と別れた後大迷宮を抜け、そのままガーランドの国境までバイクを走らせた後

 

国内に侵入し、空き家になっていた家で一晩夜明かしをし、…写輪眼を使い国内でも最も高い魔力を感じさせる城へと向かっていた

 

服装は普段着の上に黒いコートにカズマから渡された黒い目隠し(再生魔法付き)

どう見ても怪しい人の格好だが光輝は人の少ない裏通りを進んでいた

ここを訪れた光輝の目的はただ一つ

それは、エヒトの配下である神アルヴを単独で倒すためであった

 

エヒトを倒す…つまり単独で倒そうと考えている

 

だが相手は曲がりにもこの世界に君臨する神

なんの策もなしに勝てると思うほど馬鹿ではない

 

その為の神代魔法と概念魔法の習得

 

だがこれだけで勝てると確信は持てなかった為、光輝は考えた

 

『エヒトの配下の神であるアルヴ……奴に通じるか試してやる』

 

エヒトよりも格下とはいえアルヴも神

そのアルヴと戦いエヒトとの戦いでも勝算があるかを確かめたかった

 

そうして城を目指していたが

 

光輝「……なんだ…この魔力は」

 

魔人族の城から膨大で不穏な魔力が流れたかと思うと城の一部が内側からの攻撃により倒壊した

 

光輝「……これは急いだほうがいいか…」

 

そう言い走ろうとしたが…

 

魔人族「そこまでだ!!」

 

まわりにはいつの間にか武器を持った魔人族達の兵士達が光輝を囲っていた

 

光輝「……悪いが…今急いでんだよ」

 

そう言いながら外した目隠しの下には、写輪眼を開眼させていたのだった

 

 



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第六十三話 降臨する神

 

カズマ「……以上が…俺の記憶だ」

 

フリード「……」

 

フリードとの最初の月読内での密談

 

王都を攻めてきた魔人族の軍を率いるフリードに月読を掛け、精神世界で会話と用いる情報を全て提示した

 

フリードは当初こちらの話が信じきれないでいたが…俺の見せた記憶とそれまで何度も感じていた矛盾と辻褄が合い…少し考えがぐらつきかけていた

 

カズマ「……なあフリード…お前はなんのために戦ってきたんだ?」

 

フリード「なに…?」

 

カズマ「……俺がこの世界に来て…これまで戦ってきた面々達は…良くも悪くも…何かを守るためだった……そりゃあ中にはエヒトを信仰し、人間族以外の種族を認めないなんていう輩もいるが……皆故郷を…家族を…家を…恋人…友達を…仲間を守ろうと命をかけてきた………お前は……お前達魔人はどうなんだ?……お前達も守るものは…守るべきものは…一緒なんじゃないのか?」

 

フリード「!!」

 

カズマに言われたその瞬間、駆け巡る記憶の奔流

 

思い出す。自分が未だ、一介の魔人族に過ぎなかった頃、どうして大迷宮に挑もうとしたのか

 

どれだけ痛い目に遭おうと…死にかけようと…それでも歩むことを諦めなかったのか…

 

フリード「(……そうだ……私はただ、同胞達が何に脅かされることもない、安心できる国にしたかっただけだ。その為に力を求めたはずだった。何よりも同胞達が大切だった。その為なら何だって出来ると思っていた。だというのに……だというのに…いつの間にか……〝神の意志なら仕方がない〟………そう思うようになっていた…)」

 

カズマ「……フリード…この話は…また今度にするか」

 

フリード「……どういうつもりだ」

 

カズマ「……まだ完全に決めきれないでいるだろ?……考える時間をやる……次に会うときまでに決めてくれ……」

 

フリード「……一つ聞かせろ……私がもし…お前達と敵対すると言うならどうするつもりだ?」

 

カズマ「……そん時は…………戦うさ……ただし殺さん…できる限り無血不殺で和平を築けるよう尽力するつもりだ……俺の夢はこの世界の人々が誰一人争うことなく、仲良く平和に生きていける世界にする……その障害になる相手が神なら……俺は神殺しにでも何にでもなるつもりだ」

 

そう言うとカズマは月読を解除した

 

現実世界に戻った後

彼らは別れたのだった

 

そして…

シュネー雪原でハジメ達がゲートくぐり抜けてからの戦闘までのあいだの僅かな時間

2度目の月読内での密談

 

カズマ「……それで……決めたのか?……いや…今日のお前の口ぶりと態度的に……アルヴがエヒトの眷属だって気づいたのはつい最近みたいだな……」

 

フリード「……そこまで気づいていたか……そうだ…アルヴ様は私に告げた……自分はエヒト神の眷属であると……そしてなぜ我々を争わせ続けたと長々と話したが……私には……もうアルヴ様……いや…アルヴの声が届かなくなっていた……貴様の見せた記憶…それと一致していた……あれだけ壮大そうな理由を並べていても…結局はアルヴもエヒトの為に…我々魔人族を弄び続けていただけだった……」

 

カズマ「……」

 

フリード「お前に言われて…考えさせられて……目が覚めた……私が戦ってきたのは……アルヴのためではなかった……私は……私はただ…故郷を……そして同族である魔人族を守りたかった……もう誰も死ぬことのない………平和な国にしたかった………だから…」

 

カズマ「もういい………ほんとのことを言うとだな…お前の本心は……最初の月読のときから知っていた……後はお前自身の声で聞きたかった………」

 

フリード「……私がここへ来たのは、あのイレギュラー達をガーランドへ送ることとお前達の足止めをするよう命令されたこと……そして…私の答えを伝えるためだ……だが…」

 

カズマ「ああ……必要ないな………拳を合わせろ」

 

カズマは自分の拳をフリードへ向けた

それにフリードは少し戸惑う様子を見せながらも拳を合わせた

 

カズマ「フリード……俺は…俺達はこれから神殺しを果たす……それは…今の世界をぶっ壊すことになる……その結果……どうなるかは誰にもわからない……ただ一つ言えることは……これまでのように神にコントロールされた世界ではない…俺達『人類』が決めていく世界だ…………神が支配するこの世界を変える……これは…神への反逆を意味する……俺は覚悟はできている……お前はどうだ?」

 

フリード「……フッ…愚問だな……神代魔法を得た時から……いや……同族を守ると決めたあの日から……覚悟はできている!!」

 

その瞬間

まわりの景色は変わり…互いに現実世界に戻った

 

そして

 

フリード「……では始めるか」

 

カズマ「ああ!これが…俺達の神への反逆だ!行くぞ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アクア!めぐみん!ダクネス!フリード(・・・・)

 

それぞれ武器を持ち、神の使徒達に飛びかかるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ユエ「貴方は…誰?」

 

ガーランドの王宮へとたどり着いたハジメ達はそこで、魔人族の王にして魔人族の信仰する神アルヴと対面を果たしたが…その正体は神の反逆者にして神アルヴをその身に宿したユエの叔父ディンリード・ガルディア・ウェスペリティリオ・アヴァタールだった

 

そして多くを語った

彼も大迷宮を攻略し世界の真実を知る者の一人だったことを

エヒトの眷属であるアルヴはエヒトのやってきたことに疑問を抱き、エヒトの駒として地上に降り人々の戦争を激化させ、混乱に陥れる魔王役を担う――という建前の下、地上にて対抗できる手段と戦力を探した

神域と呼ばれる空間でしか神は力を行使できなかった為、その力を行使できる器となる人物…ディンリードを見つけその身体に宿った

エヒトもまた、地上に直接力の干渉を果たすことのできる器となる者を探しまわり…それがユエ……本名アレーティア・ガルディエ・ウェスペリティリオ・アヴァタールであった為…守るために止む無くユエを封印することにしたと

 

ディンリード「さあ…共に神を打倒しよう。かつて外敵と背中合わせで戦ったように。エヒト神は既に、この時代を終わらせようとしている。本当に戦わねばならないときまで君を隠しているつもりだったが……僥倖だ。君は昔より遥かに強くなり、そしてこれだけの神代魔法の使い手も揃っている。きっとエヒト神にも届くはずだ」

 

そう言いユエを包み込もうとでもいうのか、そっと両腕を広げるディンリード

 

だが…

 

ユエ「……貴方は…誰?」

 

これまでの長ったらしい説明を受けてなお…ユエには不信感が募っていた

 

ハジメ「それ以上…俺の女に近づくんじゃねえ……」

 

ハジメはドンナーをディンリードに向けながら殺意剥き出しになっていた

 

実はハジメはこのディンリードとの会話の間にも頭の中でディンリードの話す内容にいくつかの矛盾や違和感を見つけ考えていた

 

最愛の姪だというなら、三百年も暗闇の中に放置するはずがない。 また、ユエに対して施された封印処置は、どう考えても自分亡き後のことを考慮したものだ。自分がいなくなっても、決してユエの気配を察知されることなく、また自分の死をもって秘匿を完全なものにする。そういう意図が透けて見える対処なのだ。現存する者が取る方法としては、少なくとも愛情など感じられない

 

他にも色々あったがなにより

 

ハジメ「俺の目には…お前の薄汚れた魂が見えてんだよ!」

 

ハジメは自身の魔眼である白眼の透視能力に魂魄魔法を掛け合わせることで相手の魂魄を見ることが出来るようになった

 

結果、ハジメの魔眼には、一つの薄汚い魂魄しか見えなかった。まるで、蜘蛛が張り巡らせた巣のように肉体を侵食している魂魄。普通は溶け込むように調和した状態で、体の中心に燦然と輝いているはずなのだ。 そういうわけで、肉体はともかく、中身はディンリードではないなにか…と結論付けた

 

ディンリード?「……いや、全く、多少の不自然さがあっても、溺愛する恋人の父親も同然の相手となれば、少しは鈍ると思っていたのだがね……しかし…そこのイレギュラーはともかく……なぜ…私がディンリードではないとわかったのかね…アレーティア?」

 

先程までと異なり全く温かみを感じないどころか、むしろ侮蔑と嘲笑をたっぷりと含めた声音でそんなことを言うディンリード

 

ユエ「……確証はなかった……声も…その姿も叔父様だった……でも……私の心は……私の心が!お前はディン叔父様なんかじゃないって叫んでいた!!

 

ディンリードはアレーティア…ユエに親としての愛情を与えてくれた存在であり、ユエも敬愛していた……だからこそ…裏切られたと思った時は失意のどん底に落ちてしまっていた

 

でも…それでもユエにとっては大切な家族同然だった人…だからこそ…ユエには目の前で話す叔父が叔父ではないなにかだと察することができた

 

ディンリード?「まさか、そんな理由で気付かれたとは……エヒト様の器になるべくして生まれてきた分際で…よくやってくれたものだね」

 

ディンリード?「せっかく、こちら側に傾きかけた精神まで立て直させてしまいよって。次善策に移らねばならんとは……あの御方に面目が立たないではないか」

 

ユエ「……叔父様じゃない」

 

ディンリード?「ふん、お前の言う叔父様だとも。但し、この肉体はというべきだがね」

 

ユエ「……それは乗っ取ったということ?」

 

ユエが右手に蒼炎を浮かべながら尋問する。その姿に、ディンリードはニヤーと口元を裂きながら嗤った

 

ディンリード?「人聞きの悪いことを。有効な再利用と言って欲しいものだ。このエヒト様の眷属神たるアルヴが、死んだ後も肉体を使ってやっているのだ。選ばれたのだぞ? 身に余る栄誉だと感動の一つでもしてはどうかね? 全く、この男も、死ぬ前にお前を隠したときの記憶も神代魔法の知識も消してしまうとは肉体以外は使えない男よ。生きていると知っていれば、なんとしても引きずり出してやったものを」

 

ユエ「……お前が叔父様を殺したの?」

 

ディンリード?「ふふ、どうだろうな?」

 

ユエ「……答えろ」

 

ユエから殺気が噴き出す。紅の瞳が爛々と輝き、手元の蒼炎が煌きを増していく。その青き焔は〝神罰之焔〟だ。選別した魂のみを焼き滅ぼすことも出来る凶悪なもの。その脅威は、標的にされている魂そのものが感じ取るはずだ。 だが、相対するディンリード――否、その皮を被った悪神は、人を食ったような笑みを浮かべるだけで、なんの威容も感じていないようだった

 

ディンリード?「ほぅ、いいのかね? 実は、今の言葉も嘘で、ディンリードは生きているかもしれんぞ? この身の内の深奥に隠されてな?」

 

ユエ「っ……」

 

ディンリード?「くくっ、いい顔をする。その滑稽な表情に免じて、一つ教えてやろう。……死ぬ直前のディンリードの言葉だ。お前に宛てた最後の言葉だ」

 

ユエ「……叔父様の……」

 

ユエを嬲るような言葉の連続に調子に乗ってんじゃねぇぞと銃口を向けたハジメも、ユエが手を止めたことで同じように動きを止めてしまう。 しかし、後に、ハジメはこの選択を後悔することになった。ユエを想うばかりに、敵に対する手を鈍らせたことを。たとえ、ユエの望みに合わなくとも、敵の言葉など聞く必要はないと制するべきだったのだ。 嫌らしい笑みを浮かべながら、たっぷりと勿体振って、ディンリード…いやアルヴは口を開いた

 

アルヴ「ディンリードはな、お前の名を呟きながら、こう言っていた」

 

――苦しんで死んでいればいい

 

ユエ「っ……」

 

言葉の矢がユエの胸に突き立った。精神を乱すようなことは無くとも、鋭い痛みを感じずにはいられない

 

その時だった

 

――天から白銀の光が降り注いだ。天井を透過した綺麗な四角柱の光は、頭上から真っ直ぐユエへと落ちて来る。

 

それに続く形で

 

アルヴ「お返しだ。イレギュラー」

 

――アルヴのフィンガースナップと同時に、ハジメ目掛けて特大の魔弾が飛んだ

 

神の使徒「駆逐します」

 

――天井を突き破って侵入してきた数十体の使徒達が、ハジメ達へと一斉に襲いかかった。 タイミングを見計らっていたとしか思えない完璧な同時奇襲攻撃に皆がそれぞれ対応する中

出来てしまったほんの一瞬のうちに

 

ユエ「うっ、あ?」

 

小さな呟きが響き、ユエの姿が光の柱に呑み込まれた

 

ハジメ「ユエっ!」

 

シア「ユエさん!」

 

ハジメとシアが、思わず焦燥に駆られた声音で叫んだ。正体不明の、明らかにユエを狙っている、嫌な予感しかしない光の柱に呑まれたのだ。焦らないわけがない

 

急いで破壊しようと光の柱に近づくが

 

アルヴ「させるわけがなかろう」

 

アルヴが、ハジメの険しい表情を見て愉悦に表情を歪めながらパチンッと指を鳴らした。その瞬間、謁見の間におびただしい数の魔物と使徒、そして魔人族までが現れた

 

恐らく空間魔法の類だろう

 

それまでなんの予兆もなくハジメ達に襲ってきた

 

襲い掛かる使徒や魔物に魔人族(カズマの言いつけを守って殺してない)達を、ハジメはとにかく強引に倒しユエの下へ急ぐ

 

そうして数人の使徒を粉砕したハジメは、遂に光の柱へと辿り着いた

 

ハジメ「ユエっ!!」

 

中にいるユエですら破壊できない光の柱

 

ならば…昇華魔法でスペックをあげつつ今持てる魔力の大部分を右手に収束させ発動させるのはハジメオリジナル技の螺旋丸…但しそのサイズはこれまでのものよりも一回り大きく、なおかつ収束させた魔力量も風も従来の螺旋丸を上回るそれをユエを閉じ込める光の柱にぶつける

 

その名も

 

ハジメ「『大玉螺旋丸』!!」

 

大玉螺旋丸を叩き込まれた光の柱は徐々にヒビが入りそして

 

パァアアンと破砕音を響かせながら粉微塵に砕いた

地上へと降り注いでいた光は氾濫したように荒れ狂い、光の粒子を撒き散らしながら、一時的にハジメとユエの姿を隠してしまう

 

シア「ハジメさん!ユエさん!」

 

香織「ハジメ君!」

 

ティオ「ユエ!」

 

雫「ハジメ君!ユエ!」

 

そんなふたりを心配し大声をあげ呼びかける面々達

 

光の柱の中で苦しむユエの姿を見ていた為、ハジメもシア達も内心穏やかでいられなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがてふたりを包みこんていた眩い光は晴れ

そこにいるふたりの姿を見て駆け寄ろうとするようやくシア達は安堵の笑みを浮かべふたりに近づこうとした

 

シア「良かった…ユエさん、ハジメさん…無事だったので!?」

 

そこでシアの表情が一瞬で激変した

 

それに続きティオ達も同じように驚愕した

 

ユエ「……ふふ、平気だ。むしろ、実に清々しい気分だ」

 

シア達にそう告げるユエだったのだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その腕は、驚愕したハジメの腹を貫いていた

 

ハジメ「ガハッ……てめぇは……」

 

ユエ?「ふふふふ、本当にいい気分だよ、イレギュラー。現界したのは一体、いつぶりだろうか……」

 

ハジメは距離を取れなかった。ユエの声音、ユエの姿、されどユエではないと確信させる、どこか怖気を震うような雰囲気を纏う〝何者か〟によって――腹を貫かれたままでいたからだ

今のユエが明らかに普通の状態でなく、自分に対して攻撃の意思を見せている以上、とにかく、距離を取るべきだと判断し、距離を取ろうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、それもまた叶わなかった

 

ユエ?「エヒトの名において命ずる――〝動くな〝」

 

ハジメ「ッ!?」

 

シア/ティオ/香織/雫「「「「ッ!?」」」」

 

その瞬間、ハジメ達は全員動けなくなっていた

 

ハジメが驚愕に目を見開く。理由は二つ。ユエの口から飛び出した〝名〟と、その命令に己の体がなす術なく従ってしまったこと。まるで、体中の神経を遮断された挙句、標本のように固定されてしまったかのようだ

 

ユエの姿をした、そのナニカは艶然と微笑んだ。その笑みに、ハジメは既視感を覚える。ユエの微笑みではない、もっと前に見た……そう、この世界に召喚されたときに【神山】は聖教教会本部、その大聖堂で見たエヒトの肖像画、そこに描かれていた微笑みのようだった

 

そのユエの姿をしたナニカは動けず脂汗を流すハジメの腹部から腕を引き戻した。途端、ハジメの腹部からブシュッと盛大に血が噴き出す。その飛沫を浴びながら凄惨な赤に彩られたナニカは、手に滴る血にゆるりと舌を這わせる

 

ユエ?「ほぅ、これが吸血鬼の感じる甘美さというものか。悪くない。お前を絶望の果てに殺そうと思っていたのだが……なんなら、家畜として飼ってやろうか? うん?」

 

ハジメ「ふぅ、ふぅ、ッッアアアアアアッ!!」

 

にこやかに微笑みながら悪意に満ちた言葉を吐き出すナニカの前で、正体不明の術に拘束されていたハジメが絶叫を上げた。穴の空いた腹部からおびただしい量の血が噴き出すが、気にした様子もなく力を込めていく

 

香織「だれ…なの…貴方は……」

 

ユエ?「ふむ…もうここまでの事を見てもまだわからないとはな……ならば改めて名乗ろう……我が名は……エヒト……この世界を統べるモノにし……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

創造と破壊を司る神…エヒトだ



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第六十四話 奪われたモノ


皆さんこんにちは作者です。

そろそろ大学の後期が始まろうとしてますので進めるうちに進めていきたいです。

そして今回結構長いです。


 

ハジメ「ユエを返しやがれー!!」

 

ハジメは持てる全てのアーティファクトや魔法、技能を持ち入りユエの肉体を乗っ取っているエヒトに攻撃したが、どれも通じなかった

これが万全ならともかく、今のハジメは腹を貫かれ、無理やり傷を防ぎつつも痛みで意識を失いかけるのにも耐えている状態だ

そんな状態ではエヒトに通じるわけがなかった

しかもエヒトはユエの肉体に宿ることでユエの持つ魔法の才能+神である自身の力を上乗せし、ハジメ達に猛威を振るう

 

それだけではなく

 

エヒト「エヒトの名において命ずる――〝平伏せ〟」

 

エヒトが神言と呼ぶそれは、聞いたもの全ての行動を支配するものであり、ハジメは辛うじて足掻こうとするが、足掻こうとするたび無理やり塞いだ傷が開きかけるなど、これまでにないほど追い込まれていた

挙句の果てにはハジメが宝物庫を起動しようとしたその瞬間、エヒトが、どこか優雅さすら感じさせる所作でパチンと指を鳴らした。 すると、ハジメの指に嵌っていた宝物庫の指輪がフッと消えて、次の瞬間にはエヒトの掌へと転移してしまった。しかもハジメの宝物庫だけでなく、エヒトの周囲にドンナー・シュラークやドリュッケン、白金など、ハジメやカズマが手掛けたアーティファクトの数々が転移してクルクルと回りながら浮かんだ

 

エヒト「よいアーティファクトだ。この中に収められているアーティファクトの数々も、中々に興味深かった。イレギュラーの世界は、それなりに愉快な場所のようだ。ふふ、この世界での戯れにも飽いていたところ。魂だけの存在では、異世界への転移は難行であったが……我の器も手に入れた……これでようやく停滞していた我が目的(・・)も果たせようぞ……今度はイレギュラーの世界で遊んでみようか」

 

クツクツとユエでは絶対しないような邪悪な笑みを浮かべて宝物庫を弄ぶエヒトは、おもむろに手を握り締めた。そして、僅かに掌中から光を漏らしたあと開かれた手の中には宝物庫は消滅していった

それに続く形で他のアーティファクトも消滅させていった

 

エヒト「おっと、忘れるところであった」

 

絶対に忘れていなかったと確信できる笑みを浮かべながら、エヒトの視線がハジメの義手に向く。そして、他のアーティファクトにそうしたように魔力を放ちながらパチンッと指を鳴らした。 それだけで、ハジメの義手がゴバッと音を立てて崩壊する。ハジメの義手は、魔力による擬似的な神経が通っており触感も温度も感知できる。当然、痛みも、だ。調整は出来るとはいえ、いきなり左腕を粉砕され激痛に苛まれたハジメは怒り混じりの咆哮を上げた

 

ハジメ「くそったれがぁああああ!!」

 

エヒト「よく足掻くものだな。もう中身がぐちゃぐちゃであろうに。お前を器とするのも良かったかもしれんな。三百年前に失ったはずの我が器が、生存していたことに心が逸ってしまったか……いや、魔法の才が比較にならんか」

 

エヒトを睨みつけるハジメにエヒト特に気にした様子もなくユエ自身の体をじっくりと観察しながら思案顔をする。ハジメの足掻きなど取るに足りないと思っているようだ。 それを見たハジメは……直後、その紅い魔力を脈動させた。ドクンッドクンッと波打ち、限界突破の魔力が更に際限なく上昇していく。直後、噴火したかのように紅の魔力が噴き上がった。螺旋を描きながら天を衝く紅い魔力の奔流――〝限界突破〟の最終派生〝覇潰〟だ

 

少し離れた場所でエヒトの降臨に恍惚の表情を浮かべながら涙していたアルヴが、ハッと我に返り戦慄の表情を浮かべた。それは、ハジメの発する力の奔流が、ディンリードという優秀な男に憑依して現界した、神格を持つ自分に匹敵していたからだ。自分の力はエヒトには遠く及ばないとは言え、驚愕せずにはいられない

 

アルヴ「我が主!」

 

エヒト「よい、アルヴヘイト。所詮、羽虫の足掻きだ。エヒトルジュエの名において命ずる――〝鎮まれ〟」

 

先程と名が違う。いや、更に付け足された。その効果は、ハジメに対し絶大な力を以て作用した。それこそ、先程の〝動くな〟という命令よりも遥かに。 うねりを上げていた魔力光が徐々にその輝きを収めていく。まるで、ハジメ自身がエヒトの命令に従ったように、自分の意思で覇潰を解除しようとしているのだ

 

ハジメ「ぁああああっ!!」

 

ハジメが再度絶叫を上げた。それを見て、エヒトは、ユエの顔を邪悪に歪めた。心底、面白い余興を見たとでもいうように。あるいは、必死の足掻きを嗤うように

 

エヒト「ほぅ、まさか我が真名を用いた神言にすら抗うとはな。……中々、楽しませてくれる。仲間は倒れ、最愛の恋人は奪われ、頼みのアーティファクトも潰えた。これでもまだ、絶望が足りないというか」

 

ハジメ「……当たり、前だ。てめぇは……殺すっ。ユエは……取り戻すっ……それで終わりだっ」

 

エヒト「クックックッ、そうかそうか。威勢がいいが残念ながら、貴様たちでは我を倒すことは不可能だ……我を倒せる者が居るとすれば……貴様達に紛れている異世界の転生者とやらだな……そろそろ仕上げと行こうか。一思いに殲滅しなかった理由を披露できて我も嬉しい限りだ」

 

血反吐を吐きながら殺意を溢れさせるハジメに、エヒトは満面の笑みを浮かべた。そして、敢えて、ユエが作り上げたオリジナル魔法を発動する

 

エヒト「――五天龍……中々に気品のある魔法だ。我は気に入ったぞ」

 

ユエオリジナル魔法にして五属性込みの魔法で生まれた五体の魔龍だが、その威容はユエが行使していたときのそれを遥かに越える。存在の密度が桁違いなのだ。 五属性の魔龍は鎌首をもたげ、その眼光をそれぞれの標的に向ける。シア、ティオ、香織、雫、そしてハジメだ

 

何をする気なのかは明白。ハジメの目の前で、シア達を魔龍達に喰らわせながらハジメを葬ろうとしていると

 

ハジメ「ユエッ! 目を覚ませ!」

 

エヒト「ふふ、遂に恋人頼りか? 無駄なこと。これは既に我のものだ。ここまで抗ったことは褒めてやる……だが、所詮は矮小な人間よ」

 

ハジメ「ユエッ! 俺の声が聞こえるはずだっ。ユエッ!やめろー!!」

 

ハジメの殺意に当てられて近場にいた魔物の数体が意識を喪失し倒れるが、エヒトは心地よいそよ風でも受けたように目を細めると、愉悦と共に、身動き取れない者達へ、ユエ自身が研鑽を積んできた魔法の牙を剥こうとした。 見せつけるように掲げられたたおやかな指が、命脈を断つように振り下ろされ、五天龍が降り注ぐ

 

絶望に染まる面々達に愉悦の笑みを浮かべるエヒト

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「やめろって言ってんだろうがぁぁぁぁ!!

 

その瞬間、ハジメからこれまでとは違う質の魔力が溢れ出したかと思えばハジメのいる地面から木で出来た巨大な木の龍……木龍が飛び出し五天龍を喰らう

 

シア/ティオ/香織/雫「「「「!?」」」」

 

突然の出来事に驚く一同だったが、一番驚いていたのはエヒト本人だった

 

エヒト「!?ば…馬鹿な……この魔力(・・)は…そして…この能力(・・)は……まさか!?貴様(・・)は!!」

 

それまで余裕の表情を浮かべていたエヒトが始めてその表情が崩れた

そしてそれだけでは終わらなかった

 

エヒト「ッ!? 何だ……魔力が……体が……まさかっ、有り得んっ」

 

突然、エヒトが大きく目を見開き、その身を震わせた。まるで体の自由が利かないとでもいうように動揺する

 

シア達も絶体絶命の窮地において、エヒトが苦しみ出したことに瞠目する。 そこへ、声が響いた

 

――させない

 

念話のように謁見の間に響いたそれは、苛立たしげに悪態を吐くエヒトと同じ声音

されど、ハジメ達からすれば、ずっと可憐で愛らしい声音だ

 

ハジメ「ユエっ!」

 

シア「ユエさん!」

 

ハジメとシアが声に喜色を乗せて叫ぶ。香織達も口々にユエの名を叫んだ。 ハジメが、既に致死量に近い出血をしているにもかかわらず活力を取り戻したかのように肉体と魔力を唸らせる。シア達も気合いの雄叫びを上げて立ち上がろうとする

 

しかし

 

エヒト「くっ、図に乗るな、人如きが。エヒトルジュエの名において命ずる! ――〝苦しめ〟!」

 

脂汗を流しながらも、エヒトは真名による強力な神言を放った。それにより、体全体に凄まじい激痛が奔り、シア達は苦悶に満ちた表情を晒し、悲鳴を上げて身悶えする

 

エヒト「……アルヴヘイト。我は一度、【神域】へ戻る。お前の騙りで揺らいだ精神の隙を突いたつもりだったが……やはり開心している場合に比べれば、万全とはいかなかったようだ。我を相手に、信じられんことだが抵抗している。調整が必要だ」

 

アルヴ「わ、我が主。申し訳ございません……」

 

アルヴの最初の語らいは、エヒトの憑依を確実にするためのものだった。体と精神の関係は非常に密接なもので、たとえ神であろうと完全に乗っ取るのは難しい。それは、【神域】でなければ十全に力を発揮し得ないという制限故なのだが……とにかく、そのためにユエの心を一瞬でも開かせるために、ディンリードとの思い出を利用したのだ

 

恐縮するアルヴヘイトに、エヒトは軽く手を振って答えた

 

エヒト「よい。三、四日もあれば掌握できよう。この場は任せる」

 

エヒトはどうにかユエの意識を抑え込んだようで、アルヴ達に指示を出すと手を頭上に掲げた

すると、その手から先程降り注いだのと似た光の粒子が今度は舞い上がり、謁見の間の天井の一部を円状に消し去って、直接外へと続く吹き抜けを作り出した。 光の粒子はそのまま天へと登って行き、魔王城の上空で波紋を作りながら巨大な円形のゲートを作り出した。天地を繋ぐ光の粒子で出来た強大な門――まさに神話のような光景だ。おそらく、エヒトの言う【神域】という場所へ行くための門なのだろう

 

エヒトはおもむろに手をはらう仕草をすると目の前に仙鏡のような巨大なスクリーンが投影された

 

エヒト「人間族…並びにこの世界に生きる全ての種族の諸君……我はエヒト……この世界を総べる神なり…我は長年この世界統べる者として君臨し、人々の争いを見てきた……実に愉快だった……我…そして我が配下であるアルヴヘイトの言葉を信じ、諸君ら下等種が我を愉しませるために争い続ける姿はいつ見てもな……しかし…いい加減飽きた………これまでワケあって姿を見せることができなかった……だがしかし…ようやく器を手に入れたことで…こうして下界に顕現することができた………今までご苦労だったな……褒美として…貴様達には……我が完全な存在(・・・・・)へと昇華するための糧としようぞ」

 

恐らく今のはエヒトが世界に向けて飛ばした映像

 

エヒトは、掲げた腕を下ろすとふわりと浮き上がり、天井付近からハジメ達を睥睨した

 

エヒト「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。可愛らしい抵抗をしている魂に、身の程というものを分からせてやらねばならんのでね。それと、三日後にはこの世界に果実(・・)を咲かせようと思う。生命の命で作りし大いなる力の実(・・・・・・・・・・・・・・・)をな。最後の遊戯だ。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている…」

 

どうやらエヒトは、本気でこの世界を終わらせて、新天地として地球を選ぶ気のようだ

そして、そのタイムリミットが三日。ユエの肉体を掌握するのに必要な時間

 

ハジメ「ま、てっ、ユエを、返せ……」

 

地の底から響くような声でハジメがユエに手を伸ばす。いつの間にか、神言の影響すら跳ね飛ばして起き上がっている

だが、それを使徒達が背後から強襲して組み伏せてしまった。更に、アルヴがなにかしらの術を行使してハジメの体を硬直させる。組み付いた使徒は分解の能力で、纏った魔力や衣服等に仕込まれた錬成の魔法陣を全て霧散させてしまった。 それでも、出血多量で霞む意識を殺意と憎悪で繋ぎ留め、なお足掻きく

それを一瞥したエヒトは口元を歪めて鼻で嗤った

 

エヒト「……生きていれば……神域の奥で待っておくぞ…アシュラ(・・・・)よ」

 

そして、そのまま天に輝くゲートへと上って行った

使徒、魔物も浮かび上がり、その半数程が天へと上っていく。魔王城の外でもおびただしい数の使徒や魔物が天に輝くゲートを目指していき、そのまま溶けるように光の中へゲートともに消えていった

 

ハジメ 「ユエェエエエエエエエエエッ!!!」

 

ハジメの絶叫が虚しく木霊する。 伸ばした手には、何も掴めない。 そこに、いつもの温かく愛しい感触は…… もう、なかった

 

絶叫が木霊する魔王城、謁見の間。 最愛の恋人の名を叫ぶ声音は余りに悲痛で、慟哭のようだった。 その絶叫を上げた本人であるハジメは、使徒数人掛りで押さえ込まれ、今は額を床に擦りつける状態となっている。創世神エヒトの寄り代となって去っていったユエを求めて伸ばしていた片腕も、使徒によって関節を極められて背中に押し付けられていた。 シア達も〝神言〟の影響で身動きが取れずにいる

 

頼みのアーティファクト類も、今はもうない

 

だからこそ、エヒトも、ハジメ達に止めを刺すことより、ユエの抵抗により生じた問題の解決を優先したのだろう。 ユエを求める絶叫を上げたハジメに対して、向けられたエヒトの歪んだ笑みは、〝ハジメの苦しむ姿を存分に見た〟という愉悦と快楽に染まった満足げなものだった。それも、後事を眷属であるアルヴヘイトに任せた理由なのだろう。 十人程の使徒と、三十体程の魔物を残し、幾分閑散とした雰囲気となった謁見の間に、コツコツと足音が響く

 

アルヴ「ククッ。無様なものだな、イレギュラー。最後に些か問題はあったが、エヒト様はあの器に大変満足されたようだ。それもこれも、お前が〝あれ〟を見つけ出し、力を与えて連れて来てくれたおかげだ。礼を言うぞ?」

 

たっぷりの愉悦と嘲笑を含んだ声音で、ヘドロのようにドス黒い悪意の言葉を吐き出すアルヴヘイト。 対するハジメは、反論するどころか顔を伏せたままピクリとも動かない。その身からは、先程使徒達でさえ戦慄させた殺意と憎悪、そして止まることのない力の奔流は微塵も感じられない。その怪我の度合いや出血量から、一見すると既に息絶えてしまっているようにも見えた。 アルヴヘイトもそう思ったのか、首を傾げて、ハジメを拘束している使徒の一人に視線を向けた。使徒は、静かに首を振り、険しい眼差しをハジメの後頭部に向ける。どうやら、まだ、しっかりと生きているらしい

 

アルヴ「ふむ、最初の威勢はどこにいった? と言いたいところだが、さしものお前も限界というわけか。もっとも、腹に穴を空けられ、あれだけ我が主の魔法を受け、更に何度も限界を超えるような力の行使を体に強いたのだ。まだ息があるだけでも驚異的ではあるな。それとも、最愛の恋人を奪われたことが止めとなったか? うん?」

 

シア「……いい加減にしやがれですっ。この三下ァ! 」

 

香織「この悪魔!!」

 

ティオ「こやつらは…こやつらだけは!!」

 

雫「許せない!!許さない!!」

 

嬲るようなアルヴヘイトの言葉に、しかし、ハジメは反応せず、その代わりと言わんばかりにシア達から怒声が上がった

 

アルヴ「無駄だ…エヒト様と比べ格下とはいえ…私もまた神であると忘れたか?。アルヴヘイトの名において命ずる――〝何もするな〟」

 

シア/ティオ/香織/雫「「「 「――ッ」」」」

 

アルヴ「ふむ、どうかね? イレギュラー以外の愚者共も、少しは絶望というものを味わってくれたかね?」

 

どうやら一思いに殺さなかったのは、シア達の心を折るためだったらしい。 アルヴヘイトは、エヒトの器となるべきユエに対して、エヒトが肉体を奪いやすいように心を開かせるか、次善策として動揺させるという役目を負っていた。それが不完全であったために、エヒトは再調整の手間をかけざるを得なくなった。それ故、敬愛する己の主から与えられた命めいを完遂できなかったばかりか、その手を煩わせてしまったことに精神を波打たせていたのだ。 つまり、シア達に対する反抗の許容と、その後の鎮圧は、彼女達に絶望を叩きつけて愉悦に浸ろうという、八つ当たりじみた発想から来ているのである

 

アルヴヘイトは、己に楯突く不遜な輩共を更なる絶望へ叩き落とし、失意の内に果てさせるべく、嘲りをたっぷりと含んだ表情で口を開いた

 

アルヴ「だが、神に不遜を働いた罰としては、少々、軽すぎるというものだろう。故に、とても素敵なことを教えてやろうではないか……エヒト様も仰られていたように、この世界は、もう間もなく終わる。【神域】より使徒の軍勢を召喚して、この世界の生き物を皆殺しにするのだ。最初の標的はハイリヒ王国。【神山】は【神域】へと通じる【神門】を作り易いのでな」

 

香織「!!酷い…」

 

アルヴ「酷いかね? むしろ栄誉だろう? 信じて疑わない神が遣わした使徒達に、終わりをもたらして貰えるのだ。揃って首を差し出すべきではないのかね? くっくっくっ」

 

悲痛さと怒りを滲ませた声音でアルヴヘイトを罵る香織。それを心地よさそうに受け止めるアルヴヘイトは、その視線を異世界からの来訪者達へと巡らせた

 

アルヴ「お前達の故郷は、エヒト様の新たな遊技場となる。光栄に思うがいい。エヒト様の駒として召喚され、その故郷も捧げることが出来るのだ。この場で果てるとしても、誉ほまれと共に逝けることだろう?」

 

雫「ふざけっ、ないでっ!」

 

魔法はないものの、遥かに危険な兵器の類も、国も、宗教も、人口も多い地球でエヒトが暗躍すれば、一体どれほどの犠牲が出るのか…… 想像もしたくない

そうなれば、家族も友も故郷も…何もかもが壊されていく

 

アルヴ「イレギュラー。いつまでそうしている? エヒト様のご遊戯を色々と邪魔しただけでなく、私に恥までかかせた罪、その程度の絶望で贖えると思っているのかね? そんなわけがなかろう? さぁ、顔を上げるのだ。そして、お前の仲間達の頭が弾け飛ぶ光景を目に焼き付けろ。飛び散った脳髄と血潮に濡れて、泣き叫べ! さぁ!」

 

アルヴはそう言うと手から巨大な火球弾を出現させそれをシア達に向ける

 

愉悦に浸るアルヴ 悔しそうに睨みつけるシア達

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…静かだった。 ユエを奪われたことがショックだったのか、それで心が折れてしまったのか……

 

顔すら上げないハジメに痺れを切らしたアルヴヘイトが、使徒に目配せをした。 使徒は、何故か、ハジメを拘束したときから全く崩さない険しさを感じさせる眼差しでハジメの後頭部を一瞥する。そして、驚いたことに、僅かに躊躇うような素振りを見せた後、意を決するといった雰囲気で慎重に髪を掴み……その顔を強制的に上げさせた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、アルヴヘイトは自分でも自覚できないままに一歩、後退った。何故か、突き出した自分の手がカタカタと小刻みに震えているのだ。 アルヴヘイトの背後に控えていた魔物も、頭を垂れるようにしてジリジリと後退っていく。見る者が見れば、本来は赤黒く凶悪な眼光を放っている魔物の瞳が、小波のように揺れていることに気がついただろう

 

――怯え。 魔物、それも神代魔法による強化を受けた怪物級の魔物には全く似つかわしくない、その感情。彼等の瞳に奔る波は、明らかに、それだった。アルヴヘイトの震えもまた、同じ

 

その原因は一つ。 深淵だ。 目の前に広がる深淵が、根源的で本能的な恐怖を呼び起こしているのだ。 闇よりなお暗く、奈落よりもなお深い。神の身でありながら、そのまま呑み込まれ〝無〟となって消えてしまうのではと錯覚してしまいそうなほどの圧倒的な虚無をたたえる

 

――瞳  ハジメの隻眼

 

アルヴ「ッ――こ、ころ――」

 

一刻も早く始末してしまいたい、一瞬でも早く消し去ってしまいたい。 感情などあるはずがないのに、アルヴヘイトの呂律の回っていない不完全な命令を、餌のお預けを食らっていた忠犬の如く実行しようとしている彼女達の姿は、まるでそんな感情をあらわにしているかのようだった。 使徒達の手刀が、銀色の光を帯びる。分解能力を以て、眼前の満身創痍の男を完全に消滅させる! が、その行動は少し、否、致命的に遅かったようだ。 アルヴヘイト達は、ハジメに時間を与えすぎた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、ハジメを組み伏せていた三人の使徒の身体から鋭い枝が複数本生え串刺しになった

 

そして、その直後には、身体を埋め尽くすほどの鋭い枝が生え刺さりまくり僅か数秒で使徒は見る影も無くなっていた

 

誰もが絶句し、大きく目を見開いたまま動けずにいる中、轟ッと魔力が噴き上がった。 いつの間にかハジメの片眼は白眼を開眼していた

 

ハジメ「……」

 

アルヴ「こ、殺せ!!奴を殺せー!!」

 

アルヴは必死になり使徒達に命令する

その命令を受けた使徒や魔物達はハジメを殺しに掛かった

 

今までの静かさが嘘のように、ハジメから怖気を震うような鬼気が溢れ出す。全てを呑み込むが如く血のように赤い・・魔力がぬるりと広がっていった。それはさながら、地獄の釜の蓋が開いたかのよう。 そうして、遂に発せられたハジメの声音もまた、地獄の底から響いて来たと錯覚させられるもの。その意味も、ただひたすら煮詰めたような暗く重い……言うなれば、〝呪言〟だった

 

ハジメ「――認めるか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何 も か も 消 え ち ま え(ユエの存在しない世界を認めない)

 

その瞬間、世界を否定する概念が解き放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルヴは困惑していた

 

――なぜこうなった!?

 

最初は優勢だったはずの自身が追い込まれている事実に

 

謎の覚醒を遂げたハジメに僅かな時間で使徒も魔物も皆殺しにされ…抵抗しようとしたアルヴ自身も手足を切断された

 

そして今

 

アルヴ「あ、あっ、ま、待てっ。待ってくれ! の、望みを言えっ。私がどんな望みでも叶えてやる! なんならエヒト様のもとへ取り立ててやってもいい! 私が説得すれば、エヒト様も無下にはしないはずっ。世界だっ。世界だぞ! お前にも世界を好きに出来る権利が分け与えられるのだ! だからっ!」

 

これまでずっと見下していたイレギュラー事ハジメに命乞いをしていた

 

その姿に神としての威厳など微塵も感じられず、そこにいるのは…自分を無敵かなんかだと勘違いしていた神を名乗る敗者の姿があった

 

謎の覚醒を果たしたハジメはアルヴの手足を切断した後、木で生み出した仁王像の姿をした木の巨人……木人にアルヴを捕まえさせている

 

ハジメの片手には、ユエを失った損失から生まれたアーティファクト……それも神を殺し、全てを否定する概念を込めた鎖が握られていた

 

ハジメは木人の手に鎖を巻かせると、木人は少しずつアルヴを握る腕に力を込めていく

身体に鎖が当たるとこれまでに無いほどの痛みと死の気配を感じさせ

 

アルヴ「止せっ、止せと言っているだろう! 神の命令だぞ! 言うことを聞けぇっ。いや、待て、わかった! ならば、お前の、いや、貴方様の下僕になります! ですからっ。あの吸血鬼を取り返すお手伝いもしますからっ。止めっ、止めてくれぇ!」

 

恐怖と絶望に濡れた絶叫が響く

 

ハジメ「……お前…生きたいか?」

 

アルヴ「え、あ?」

 

ハジメ「生きたいかと聞いている」

 

ハジメの質問に呆けていたアルヴヘイトだったが、その意味を理解したのか瞳に僅かな希望が浮かぶ

 

アルヴ「あ、ああ、生きたいっ。頼む! なんでもするっ」

 

それを見届けたハジメは

 

ハジメ「そうか……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

駄目だ

 

アルヴ「え? ひっ、止めっ、ぎぃいいいいい、ァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

なんの躊躇もなく、木人に握りつぶさせた

同時に、聞くに耐えない断末魔の悲鳴が謁見の間に響き渡り ……数秒後、絶望と苦痛の果て、この世から一柱、神が消え去った

 

ハジメは、アルヴヘイトの末路を見届けると、城のベランダの方へ出る

 

外ではエヒトの流した演説と言う名の世界の滅亡に魔人族達がパニックを起こし慌てふためいている

 

香織「……酷い…」

 

雫「あんなもの流されたらそうなるわ……」

 

ティオ「じゃがこれで目的の一つだったアルヴは倒せた……じゃが…ユエが…」

 

シア「ま、まずはカズマさん達と合流しまってハジメさん!?」

 

外の光景を一望し今後の事を話しているシア達をよそにハジメは足に魔力を集中させベランダから魔王城の外へ飛び出し、空中に出た

 

そして手には、ユエの居ない世界の全てを否定する鎖が握られており、そこには切れかけていたはずの魔力が込まれていた。よく見るとハジメはその鎖を魔王城の下にある城下町に振り下ろそうとしていた

 

シア「なにを!?」

 

ティオ「!!ま、まさか…ハジメは…」

 

そこでシア達は最悪のシナリオが脳裏を巡った

 

今のハジメは…ユエを失ったハジメはユエの居ない世界を否定する存在なのだ

 

今のハジメにとって、少なくとも本人が意識するところでは、この世界のものは全て等しく価値がない。捕虜にする意味どころか、その存在そのものが無価値であり、むしろ、いるだけで目障りなのだ

だからこそ

 

ユエの居ない世界に意味はない(・・・・・・・・・・・・・・)

 

だからこそ全てを消し去る(・・・・・・・・・・・・)

 

その意思だけで動いており、今振り下ろそうとしている鎖には…効果範囲拡大のための魔力が込められている

 

これが意味することはただ一つ

 

目の前に映る建物も、命も、景色も、全て消す

 

ただそれだけだった

 

香織「やめて!!ハジメ君!(いつもの優しい貴方に戻って!)」

 

雫「目を覚まして!!ハジメ君!(お願い…誰か…誰か彼を止めて!!)」

 

シア「早まっちゃだめです!!(そっちに行っては駄目です!!)」

 

ティオ「止めぬかハジメ!!(クソ!ここからでは間に合わぬ!)」

 

仲間達が口々にハジメのやろうとしていることを止めようと大声で呼びかけるが

 

ハジメ「……」

 

ハジメにその声は届かなかった

 

ただ一言呟いた

 

ハジメ「何もかも消えちまえ

 

その言葉とともに全ての存在を否定する鎖を街に振り下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「!」

 

瞬間、黒炎を纏った巨大な矢が鎖を弾いた

 

ハジメは地面に降りると、鎖を弾いた張本人へと目を向けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「少し見ないうちに……変わったな…南雲」

 

ハジメ「……この期に及んで…なにしに来た……天之河」

 

 



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第六十五話 認めない者と認める者

 

ハジメ「……この期に及んで…なにしに来た……天之河」

 

ユエを奪われた失意から全てを否定する存在となったハジメを止めたのは、パーティーを脱退した光輝だった

 

光輝「見ればわかるだろ……ここにいる神の一柱を始末しようと来たんだが…一味遅かったみたいだな………それだけでなく…ユエを連れてかれたか……まさか…器がユエだったとは…流石の俺も気づかなかったが……」

 

ハジメ「!……テメェ……何を知ってやがった」

 

光輝「……俺一人で全ての神を滅ぼすつもりでいたが……どうも不可能らしいな……お前らが戦っている様は見れなかったが…アルヴをお前が倒したのは、写輪眼で見てわかった…つまり俺もアルヴならともかく、それより格上のエヒト相手では…今の俺では勝てないことがわかった」

 

ハジメ「聞いてんのは俺だ……テメェ何知ってやがる!!」

 

そう言いながら鎖を光輝に向かって振り下ろすがそれを光輝は避けた

 

光輝「……その鎖が…アルヴを倒した神殺しの鎖か……いや…それにはこれまでの魔法とは一線を覆す物が感じられる……概念魔法とやらか…教えろ…お前……その鎖を城下町に振り下ろそうとしていたな?……なにをしようとしていた」

 

ハジメ「決まってんだろ……ユエの居ないこの世界全てを消し去ってやる」

 

ハジメの目には、ユエを奪った神への憎しみ…愛する者を救えなかった己への怒り……そして、自身に降りかかった理不尽に対して、もう心の中はごちゃごちゃになっていた

その結果が、目に映る全てを葬る

いわば八つ当たり

まるで氷雪洞窟での試練を乗り越えられず己の負につけ込まれた勇輝のようだった

 

光輝「……さしずめ『ユエの存在しない世界を認めない』鎖か……実にユエ中心のお前らしいアーティファクトだな……」

 

ハジメ「ああっ……だからそこをどけ……ユエは居なくなった……だから全てを葬ってやる」

 

そう言いながら鎖に魔力を込めようとすると黒炎の刃を発生させそれを光輝が飛ばした

 

それを鎖でハジメがはらう

 

ハジメ「なにを…しやがる…」

 

光輝「別に……俺は地球に居た頃からお前の事が気に食わなかった……だが…今のお前はそれ以上に気に食わねえ………だから邪魔してやる」

 

ハジメ「ッ…!そうかよ……なら街よりも先にお前を葬ってやるよ!!」

 

その言葉とともにハジメの立つ地面から巨木の根が飛び出してそれが光輝を襲う

 

光輝「それがお前の新たな能力か…『天照』!」

 

それを黒炎の壁で焼き防ぐが、それですら焼き切れ無いほどの根が壁を突き破り光輝の身体を縛ろうとする

 

光輝「『千鳥刀』!」

 

襲い掛かる根を光輝は黒金に雷を流し込み、雷の刀身を生み出し刀身の長さを増やし、自身を囲む根を切り裂く

 

光輝「!」

 

そこへ間伐入れずに巨木の手が光輝の立つ地面から飛び出してきた

 

光輝「ッ!」

 

それを須佐能乎を出してガードするが

 

ハジメ「消えろ!!」

 

そこに鎖を振り下ろし飛び込んでくるハジメの姿が

 

光輝「チッ」

 

光輝はすぐに須佐能乎を解き距離を取った

 

光輝「(あの鎖は全てを否定するモノ…俺の須佐能乎は仮に壊れても魔力があれば再構成できるが……万が一あの鎖が触れたモノを完全に消すモノだとすれば……鎖に触れた俺の須佐能乎は二度と出せなくなってしまう)……どうした…俺を消すんじゃなかったのか?……最も…今のお前相手に負けるとはこれっぽっちも思ってないがな」

 

ハジメ「黙れ!すぐだ。すぐに終わらせてやるよ」

 

必死になっているハジメの姿を見て光輝はため息を吐き

 

光輝「……はぁ…つまらん…実につまらん……仮にもこの俺に佐藤以外で唯一黒星をつけた男が女一人居なくなった程度でこのザマとはな」

 

ハジメ「……アッ?」

 

光輝「……今のお前をユエが見ればどう思うか…最も、ユエのことなんざ諦めたお前にはどうでもいいことか」

 

ハジメ「黙れ!お前には関係ねえだろ!!人嫌いのくせに魔人族を守るような真似しやがって。今頃になって善人ぶるのか?俺と同じように散々人を殺しておいて」

 

光輝「少なくとも俺はお前と違ってテメェの女救えなかった不甲斐なさから他人を殺して八つ当たりしようなんざ思わん…それこそ俺が嫌う人間のすることだ……それに守ったつもりはない……言っただろ。つまらん事をするお前が気に入らないから邪魔してやってるだけだ」

 

ハジメ「ッ!」

 

光輝に自分の胸の内にあった私怨を指摘され思わず動揺した

 

光輝「………南雲……この世界において…お前と俺は同じ日に奈落に落ち、そこでクソ不味い魔物肉を喰らい鍛えてきた……にも関わらず…お前が俺に一歩及ばないワケ……わかるか?……実に単純な答えだ…………俺と違いお前には大切と言う名の足枷があるからだ

 

ハジメ「……なに……言ってやが」

 

光輝「わからないか?大切なんてモノがあるから……こうも狂ってしまう…こうも乱れてしまう……俺を見ろ……お前と違い俺には何もない…しがらみも枷もなにもない…だからこそ俺は気にせず戦える………………南雲…俺に本気で勝ちたいと思っているなら……その胸の中にある大切全てを捨てろ……出なければ俺には到底及ばん!!」

 

そう言うと光輝は再び須佐能乎を出し、ハジメに拳を振り下ろした

 

ハジメ「!」

 

それを巨木の二本の腕でクロスして防ぐが

 

光輝「甘いな!」

 

その間を駆け抜けた光輝の蹴りが炸裂する

 

ハジメ「!」

 

それを自身の片腕で防ごうとしたが、それよりも早く飛んできた蹴りに対応できず吹き飛ばされた

 

ハジメ「がぁ!」

 

地面を…木々を…そして岩にぶつかり突き破りながら身体を投げ出され…数バウンドの末地面に転がった

 

光輝「なあ?いつまでその大切にこだわっている……もういいだろ…お前はもうユエは居ないと思っている…ユエの居ない世界に意味なんてないなら…その他の大切全て捨て去ればいい」

 

ハジメ「ッ…!」

 

黒金を地面に倒れているハジメに向け

 

光輝「捨て切れないなら…お前は俺には及ばん……」

 

そうして光輝は黒金をハジメに振り下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「捨て……きれる…かよ…」

 

ハジメを斬ろうとしたが、ハジメがそれを手で掴み受け止めた

 

当然手から血が溢れるが掴むのをやめなかった

 

ハジメ「ユエは…あいつは……あいつらは…俺の足枷なんかじゃねえ……あいつらは…俺を…立ち上がらせてくれる……一緒に居るだけで……勇気をくれる…一人じゃねえことを教えてくれる存在だ!……大切の居ねえお前には…わからん…だろうけどな!」

 

光輝を睨みながら勢いよく立ち上がり光輝に頭突きするハジメ……距離を取りながら少し顔を抑える仕草を見せた光輝だったがすぐに手を放した

 

光輝「なんだ?ユエの事を諦めた癖に結局諦めきれないのか?」

 

ハジメ「ッ!」

 

光輝「言ったはずだ……大切があるうちは俺に勝てんとな!」

 

光輝は須佐能乎を出し弓に矢を装填した

更に矢には何かを込めていた

感じからしてこれは恐らく概念魔法と感じたハジメは

 

ハジメ「だったら俺は!」

 

巨木の巨人…木人を出し、鎖を拳に巻き付けた

 

ハジメ「大切を抱えたまま、お前に勝つ!!

 

光輝の須佐能乎の矢が、ハジメの木人の拳が衝突した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

衝突した瞬間

2つの衝撃波がぶつかり合い、ふたつを中心に地面がえぐられ、大きなクレーターができた

 

そのクレーターの中で、比較的軽傷の光輝とハジメが立っていた

 

衝突した矢と鎖を巻いた木人は消滅していた

 

ハジメ「鎖が…消えただと!?」

 

光輝「…初めてにしてはよくできたほうか…」

 

ハジメ「お前……なにしやがった…」

 

光輝「別に難しいことはしてない……お前が『ユエの存在しない世界を認めない』のなら…俺は『ユエの存在する世界を認める』……相反する意志が衝突したからこそ相殺した……最も俺はお前と違いもの作りは得意じゃねえ……だから須佐能乎の矢に付与させた……」

 

ハジメ「それは不可能だ!概念魔法はただ7つの神代魔法を集めたからと使えるものなんかじゃねえ。最も重要な『極限の意志』が無ければ完成しない!だがお前は」

 

光輝「そうだ……お前の言う通り…俺の概念魔法は概念魔法という名の不完全魔法だ……お前が生んだ鎖のような極限の意志はない…だから効力で言えばお前の鎖以下でしかない……だが最初に対峙したときならともかく……俺の言葉にぐらつき…否定したことでお前の中の意志が揺らぎ、鎖に込められた概念魔法は弱体化した……だからこそ俺の不完全な神代魔法でも相殺することが出来た」

 

そこで初めてハジメはいつの間にか自身の心の中を巣食っていた負の感情が消えかけていることに気がついた

 

光輝「なあ南雲……あの場に居なかった俺が言うのも何だが……本気でユエはもう居なくなったと思っているのか?」

 

ハジメ「!」

 

光輝「あの女が…お前が愛したあの吸血鬼が…あんな邪神如きに消されちまうようなヤワな女と思っているのか?」

 

ハジメ「…テメェが……俺の…女…の何が…」

 

光輝「ああ…わかるさ……あいつは俺の女ではないが……付き合いで言えばお前の次に長いからな……一緒に旅していた間も、雫に続いて俺が一人になっていたら声を掛けたりやたら世話を焼いて来やがるほどのお節介……挙げ句にはお節介焼く理由聞いたら『私がお姉ちゃんだから』とか意味不明なこと抜かしてくるわで……ほんとなんなんだあの吸血鬼は…」

 

ハジメ「おい!それ初耳なんだが!?なに人の女と親密な関係築いてやがんだ!!」

 

光輝「こっちは築いたつもりなんかねえよ……本当に弱い女なら……あの暗くて冷たい大迷宮の中で300年も心を壊さず意識保ってられねえだろが」

 

ハジメ「ッ…」

 

光輝「あいつの男でもない俺はユエが消えたとは思っちゃいねえ……お前はどうだ南雲?あいつの男であるお前は……テメェの女とはもう会えねえって…本気で思ってんのか?」

 

ハジメ「……思ってねえよ」

 

光輝のその言葉にハジメは否定した

するとそれまで残っていた負の感情が完全に消え去ったように感じた

 

光輝「なら…こんなところで時間を無駄にしてる暇があるなら…とっととユエを連れ戻す算段でも考えてろ…」

 

ハジメ「ッ…」

 

その瞬間、ハジメは地面に倒れた

これまでダメージを無視して神々と戦った無理が今になって蓄積した負担が身体にのしかかった事を自覚し意識を失った

 

ハジメ「(クソ…が……よりによって……テメェに間違いを…正される…なんて……な……ダセェな…俺……は)」

 

意識を失う直前…ハジメは己の恥に悪態をつきそのまま眠りについた

 

光輝「……」

 

それを見届ける光輝

それからまもなくして、シア達が駆けつけた

 

皆光輝がいることに驚きを隠せなかったが

 

光輝「……香織…とっととそこの馬鹿の治療をしろ…こんな奴でも…エヒトを倒すには必要だからな……俺の足手まといになられても困る……決戦までに完治させておけ」

 

雫「!そ、それって…」

 

光輝「……業腹だが…今の俺ではアルヴはともかくエヒトには勝てねえことがわかった……少しでも勝算のある方を取ってやる…」

 

シア「じ、じゃあ…貴方も来てくれるのですか!?ユエさんを取り戻すために、エヒトを倒すために」

 

光輝「……どうとでも思え……佐藤はどこだ……あいつらとも話がある……ユエを除く全員が揃い次第……教えてやる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺が知った…エヒトの目的を…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「なんだ…この空間は……」

 

気がつくと、ハジメは空は真っ白で緑に囲まれた空間にいた

 

人気もなく、魔力も何も感じない辺り一帯を見渡していた

 

???「ようやく来てくれたか………」

 

ハジメ「!」

 

その時だった

それまで一切気配を感じ取れずにいたハジメの背後から人の声がし、思わず振り返った

 

そこには額に白い布を巻き、両耳の髪を束ねている青年が見上げていた

 

???「ここへ来るのが遅すぎて、少し焦ってたところだったが…まあなんとか来てくれたな」

 

青年はハジメに対し一切警戒する姿勢を見せずに話しだした

 

不思議とハジメもこの謎の青年に対し警戒しようとは思わなかった

 

ハジメ「……誰だ…お前は…」

 

???「ああ!すまない。自己紹介が遅れたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺の名はアシュラ!。お前が生まれた時から内側でずっと見守っていた守護者みたいなもんだ」

 

 



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第六十六話 始まりの神/エヒトの野望


今回NARUTO要素がとにかく湧いて出てきます!!


 

その昔

 

トータスが今と違い、魔法も魔力も存在せず…世界を治める神も存在してないほどの大昔

 

世界には『神樹』と呼ばれるものが存在していた

 

神が存在していなかったその時代

人々はその神樹を信仰し、奉っていた

 

その神樹には千年に一度実るという神樹の実があり…それを口にした者は…全てを制する存在……神の如き力を得るとされていた

 

その実を口にした者『カグヤ』は全知全能の力をえ、神の如き存在へとなった

 

カグヤはその力をふるい、人々を支配した

 

だがある日、神となったカグヤに双子が生まれた

 

その子供の名は『ハゴロモ』と『ハムラ』

 

神樹の実に込められた膨大な力である魔力……当時の言葉でチャクラと呼んでいたそれは、カグヤ唯一人が持つ唯一無二の物だった……しかし…生まれたふたりの息子にもチャクラは流れており、母カグヤが力による統治により人々を苦しめていた事実に息子達は反抗した

 

やがてカグヤは神樹と一体化し、膨大なチャクラを持つ化け物…十尾(ジュウビ)となり息子達と死闘を繰り広げた末…ハゴロモとハムラによりカグヤは封印され…それが今現在の月となっている

 

封印の際、ハゴロモは十尾を十尾のチャクラと十尾の抜け殻である…外道魔像(げどうまぞう)に分け、更に十尾の力を9つに分けた存在。一尾(イチビ)二尾(ニビ)三尾(サンビ)四尾(ヨンビ)五尾(ゴビ)六尾(ロクビ)七尾(ナナビ)八尾(ハチビ)九尾(キュウビ)。通称尾獣(びじゅう)と呼ばれる存在を生み出した

生み出した尾獣全てを自身の体内に宿す存在、人柱力(じんちゅうりき)となった

 

一方ハムラは外道魔像を封印し、そのまま自身に賛同する者達を集め、月で外道魔像を見張ることとなった

 

こうして世界は平和となり…ハゴロモはその後人々が争いとは無縁の世界にすべく人々を導き、更に母カグヤが独占していたチャクラを多くの人々へ繋げ、平和の為の使い方を伝授し、多くの人々の手を取り合い続けたことで、母とは違い、恐怖と力による支配ではなく、愛と人望により崇められるようになった

 

その頃にはハゴロモは六道仙人(りくどうせんにん)とも呼ばれるようになっていた

 

そうして世界が平和となり、100年が経った頃だった

 

平和を滅ぼす悪魔が舞い降りたのだった

 

突如正体不明の侵略者がトータスを襲い、多くの人々が命を落とすこととなった

 

それを止めようとハゴロモは足掻いたが、敵の正体不明の技術に対応しきれなかったことと、神の如き力を得ながら肉体を捨てず人で有り続けたことでハゴロモは老衰により衰えていた

 

更に侵略者襲来の少し前………己の死期が近いことを察したハゴロモは長らく自身の中で共に過ごしてきた全ての尾獣達を、世界各地に封印することにした

これは平和な世で尾獣達を受け入れられずにいる人々がいる時代ではなく…いつの日か自分達を受け入れてもらえる人と巡り会えるその時まで眠りにつくよう考えてのことだった

 

もしかするとハゴロモも死期以外になにかを察知したうえでの処置だったのかも知れない

 

ともかく尾獣達が居なくなったことでハゴロモが持っていた膨大なチャクラのほとんどが無くなってしまっていた

 

そして、ハゴロモは世界の人々を殺めた張本人であり侵略者……まだ神になる前のエヒトにより殺害された

 

それだけでなく、ハゴロモを殺したエヒトはその後すぐに異世界の技術を使い月へ襲撃したのだった

 

襲撃先だった月には、ハムラが作った一族と文化が出来ていたが、それを壊滅寸前まで破壊し、更に月と地上を繋ぐ空間を破壊し行ききできないようにしたのだった

 

仕舞にはエヒトは自身をハゴロモに代わり世界を良くするために現れた異世界の神と名乗り、人々に異世界の技術『理法術』と魔法の原型となる物を広めたことで、トータスに魔法が生まれ、チャクラという言葉は魔力へと置き換わった

 

そうして人々に崇められたエヒトはその信仰を糧に肉体を捨て去り、神へと昇華したのだった

 

こうして世界はエヒトのおもちゃとなり、今なお争い続けるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガーランドでのハジメと光輝の激闘が終わり、ガーランド王宮にてようやく集結した攻略者パーティー達に、光輝はエヒトの野望を話そうとしたが

 

光輝「その前に…少し昔話をするか…」

 

そうして光輝はこの世界の起源を語った

その内容にシア達はもちろん、エリスからある程度のことを聞いていたカズマ達も驚いていた

 

そもそもカズマ達が聞いていたのはトータスのことやエヒトの正体だけであり、詳しい内容まではわからなかったのだから

 

シア「なんて神なんですか…」

 

ティオ「まさか……妾達の世界がその様な過程で今のような世界になってしまっていたとは…」

 

香織「酷い……せっかく世界を平和にしてきたハゴロモさんを殺して……こんな争いの絶えない世界にしたなんて…」

 

光輝「……そうしてエヒトは神となったが…エヒトには一つ不満があった」

 

ダクネス「不満だと?……それはなんだ?」

 

光輝「せっかくハゴロモとハムラの遺体から輪廻眼(りんねがん)転生眼(てんせいがん)を奪ったというのにその力を完全に引き出せなかったことがな」

 

香織「り、輪…廻眼?」

 

雫「て、転生眼?」

 

光輝「……輪廻眼とは…ハゴロモが母カグヤとの戦いの際に開眼した瞳術であり……俺の写輪眼が最終的に到達する領域だ」

 

雫「!」

 

光輝「そして…転生眼とは…同じくハムラがカグヤとの戦いの際に開眼した瞳術であり…南雲の白眼が最終的に到達する領域だ」

 

めぐみん「なっ!?」

 

それにめぐみんを始めとした皆が驚く

 

輪廻眼と転生眼……その時代で神の如き力をふるったカグヤを封印したふたりの息子の力……それはふたりの力もまた神の如き物であると語るようなものである

 

それと同じ物をハジメと光輝がいずれ開眼すると言っているのだから

 

カズマ「待て待て…とりあえずだ……輪廻眼と転生眼ってのはなんだ?…具体的に聞きたい…」

 

光輝「輪廻眼……それは全てを滅ぼし破壊する眼…そして転生眼はその真逆…全てを生み出し創造する眼」

 

シア「あ、あの…いきなり破壊だとか創造とか…話が大きくなりすぎて追いつけないのですが…」

 

光輝「……簡単に言えば一瞬で世界を滅ぼす力と一瞬で世界を創造する力…といえばわかるか?」

 

シア「!?」

 

アクア「もうそれ……人が持つ力の域じゃないわ……創造神と破壊神名乗れるわ」

 

香織「じ、じゃあエヒトはその2つの眼を自分の眼に移植したってことよね?」

 

光輝「だがおかしいとは思わないか?…そんな力を持つ眼を持っているが…その力を完全に引き出しきれてない……なぜだと思うか?」

 

ティオ「む…それは……」

 

カズマ「……もしかしてだが…自分で開眼した訳じゃない……他人が開眼した物を移植したからか?」

 

光輝「そうだ…あいつはこの世界の創造と破壊を司る神と自称しているが…実際にあいつが両方の眼の力を引き出せるのはよくて半分程度って所だ………笑えるだろ?今のあいつには世界を滅ぼす力も創造する力も完全に使えないくせに創造と破壊を司る神なんて自称してやがる……何が神だ完全に力を振るえないなら神未満だろうが」

 

アクア「神未満…」

 

めぐみん「……もしやエヒトの野望とは……」

 

光輝「……ああ…そうだ…ヤツの目的…それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

輪廻眼と転生眼の力を完全に使えるようにするために、トータス全ての生命を利用して神樹の実……チャクラの実を生み出すことだ

 

光輝を除く一同「「「「「!?」」」」」

 

エヒトの目的を聞き驚くがそれ以上に光輝が話した昔話に出てきた神樹の実が出てきたことに驚いた

 

シア「……神樹の実…それを作ることなんて…できるのですか?…」

 

光輝「……できなかったな……器を…ユエの肉体を得るまでは……」

 

香織「……そういえば…エヒト言ってたわ。停滞していた目的をこれで果たせるって……」

 

雫「……じゃあエヒトは…器がなかったから…これまで人類を滅ぼすなんてできなかったのね…」

 

光輝「そうだ…神樹の実を作るためにはまず第1に…輪廻眼が必要だ……ハゴロモとハムラの母カグヤは…両眼に白眼…額に第三の眼…輪廻眼と写輪眼両方の力を持つ輪廻写輪眼を持っていた……やつはその輪廻眼の力を使い…『無限月読』を発動し地上全ての人々に幻術を掛け支配した…」

 

アクア「無限月読?」

 

めぐみん「光輝の月読の上位互換ですか?…ていうか今地上全てって言いませんでしたか?」

 

光輝「ああ…この無限月読は月を依り代に地上にいるあらゆる生物全てに幻術を掛け操る…更に地表の膨大な魔力を集め高める術でもある……だが無限月読を発動するには輪廻眼ともう一つ……十尾の人柱力になる必要がある……これは、十尾の持つ膨大な魔力…チャクラが輪廻眼の瞳力を高め、それで始めて無限月読を発動できる…」

 

ティオ「じゃがそれじゃとその尾獣達…そして外道魔像とやらが無いなら十尾は作れないのではないか?」

 

光輝「……言っただろ…奴は神になる前…月に襲撃したと……その時に奴は封印されていた外道魔像を奪い取ったんだ…既に亡くなり、月のお守りとして奉っていたハムラの転生眼ごとな………そして実はハゴロモは長年尾獣達を体内に宿していた影響で…尾獣達がいなくなった後も身体にはかけらとは言え尾獣達全てのチャクラが残っていた……十尾を完成させるには尾獣全てのチャクラが必要だが…かけらでも問題なく完成させられる……そうしてやつは神域に完成させた十尾を置いている………後はエヒトが十尾の人柱力になれば…その力で地上に神樹を生やせる…そして無限月読を発動させれば…地上全ての生物は…なすすべなく神樹の養分となり……チャクラの実になる…それを喰らえばそれまで引き出せなかった輪廻眼と転生眼の力を完全に使えるようになる………だが…それにはあと一つ足りないものがあった……」

 

カズマ「……器…だな?」

 

光輝「そうだ……エヒトは神になった時にそれまで持っていた肉体を捨て去り…結果神域でしかその力を振るえない存在に成り下がった…肉体が無いということは…尾獣を入れる器になれないことを意味する…更に、神は肉体を持たなければ地上に直接干渉できない……だから奴はこれまで何もできずにいた……だがユエを手に入れたことで…事態は急変した」

 

シア「エヒトは…ユエさんの肉体を掌握するのに3日はかかると言っていました……」

 

カズマ「…つまり…その3日のうちに肉体を掌握したあと…人柱力になるつもりってことか」

 

光輝「……そうなるな…」

 

香織「……なら…急いだほうがいいよね…」

 

雫「……ええ…タイムリミットは…かなり短いわ……やれることはさっさとするべきね」

 

香織と雫の言葉に意気込みシア達を見たカズマだったが…

 

カズマ「……だが一つ…腑に落ちない点がある……なんでそこまで知ってるんだ……光輝…」

 

光輝「……」

 

カズマ「俺達と別れた間に知った……っていう感じじゃねえな…考えられるとすれば……最後の神代魔法を手に入れたあの日…ハジメとユエよりもずっと遅くまで眠っていたこと……あれと関係している気がするんだが俺は…」

 

光輝「……お前…いや…お前と水神は……もうある程度目星付いてんだろ?」

 

アクア「!」

 

光輝「俺は今まで気づかなかった……が…俺が気づいたのはお前の言う通りあの日だ…」

 

カズマ「そうか…光輝……お前」

 

光輝「ああ…俺には……俺の中には……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺以外にも別の魂が宿っている

 

カズマとアクア以外の全員「「「「ええ!?」」」」

 

光輝「俺の中に居るやつが教えてくれた……お前達が地球に居た頃から俺の中にいる別の魂に気がついていることを……そして…今まで話した全てを教えてくれた……なあ…誰か疑問に思わなかったか?ユエを手に入れる前まで他の器を見つけられなかったのか……他にも器になりうる奴が居なかったかとな…」

 

めぐみん「む…確かに……これまではユエがエヒトの器適合者一号と思っていましたが……実は前任者……いえ…その前に他にも候補者がいたのでは?」

 

光輝「……ああ…いたさ…」

 

カズマ「……そういうことか……その候補者って言うのが…お前の中に居るやつと……ハジメの中に居るやつ(・・・・・・・・・・)ってわけか」

 

カズマとアクア以外の全員「「「「ええ!?」」」」

 

光輝「……やはり南雲のことにも気づいてやがったか……なら…もう一つ……話しておかなければな……ユエの前の器候補者……インドラとアシュラについてな」

 






この小説では輪廻眼と転生眼の設定は原作とは違うものとなっています。

本作では輪廻眼は破壊の力 転生眼は創造の力となっています。


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第六十七話 インドラとアシュラ

 

エヒトは考えた

どうすれば器が手に入るか…それも神である自身を受け入れられるほどの強い器が欲しかった

 

地上で人々を争わせたのは楽しみであることと同時に、その戦乱の世で力を振るう強き者達の中に器になれるものがいないか探すためでもあった

しかし…転生眼によって生み出した使徒達や自身の力をわずかだが与え生み出した配下の魔人族の神『アルヴヘイト』を通して…魔人族…更には広い範囲で探させたが見つかることはなかった

 

だがある時エヒトは思いついた

 

器になれる者が居なければ作ればいい

 

そう考えたエヒトは何人もの生命体を生み出したが…ここである問題に直面した

 

生み出した者達は皆創造者であるエヒトに従うだけの思考しか持っておらず…力はあっても中身の器はまるで駄目だった

 

それについてエヒトこう結論付けた

 

肉体的な力だけでなく…精神面の成長…自我を持っていなければ器は育たない

 

そうしてエヒトは次に生み出す者にはそれまで生み出した者たちと違い、自我を残したうえで器の成長を見届けることにした

 

またこの時生み出す生命には、精神の成長だけでなく、これまで生み出した者達以上の力を持って欲しいと考えたエヒトは…ハゴロモとハムラから奪い、今では予備として所持していたもう一つの輪廻眼と転生眼を元に生み出した

 

そうしてふたつの生命が誕生し、エヒトは生まれたふたつの生命体に名を与えた

 

輪廻眼を元に誕生した生命体にはインドラ

転生眼を元に誕生した生命体にはアシュラ

 

自我を持って生まれたインドラとアシュラはそれまでエヒトが生み出した者達の誰よりも強い力と強い自我を持って生まれ、成長していった

 

インドラは写輪眼を…アシュラは白眼を持って生まれ…やがてそれぞれが輪廻眼、転生眼を開眼したその時こそ、器として完成する

 

同じ日に生まれ、同じ親(エヒト)を持つインドラとアシュラだったが……その性格には大きな違いがあった

 

兄インドラは自身達を器としか見ていないエヒトを、憎悪し憎んでいた…そして人を…人類に対し嫌悪感をつのらせていた

親であるエヒト…その配下のアルヴに騙され続けているとは言え、エヒトとアルヴが言えばそれを疑いもせず信じ、それがとても許しがたいことでも神の言葉だからと実行に移す姿……無意味に争い、互いを滅ぼそうとする人類を醜い存在として認識していた

 

弟アシュラはそんな人類を救済したいと願い、その時代にいた解放者たちとともに争いを、エヒトの野望を止めようとしていた

 

やがて考えの違いからインドラとアシュラは一騎打ちをして…その果てに互いに取り返しのつかない致命傷を負った

 

だが、エヒトを倒したいという想いはふたりとも一緒だった為…ふたりは魂の共闘をすることにした

 

それは…まだ輪廻眼と転生眼を開眼できないでいるが、力の一端だけは使うことができ…インドラが破壊の力で自身とアシュラの肉体と魂を破壊することで死後エヒトに肉体を再利用されないようにし、アシュラは創造の力で自身とインドラの魂の再生を果たした

 

しかし、魂はともかく…肉体の再生は不可能だった為…ふたりは長い長い年月を魂の修復に当てた

 

そして、いずれ魂が修復したその時、他者の肉体に入り込み…その者に力を与え、エヒトを倒そうと画策する……それが魂の共闘

 

魂の修復を終え…魂だけになったことでふたりはトータスではない別の世界に流れ着き……そこでそれぞれ産まれたばかりの子供の心に宿ったのだった

 

その世界こそが地球であり…インドラが入り込んだ赤子こそが天之河光輝、アシュラが入り込んだ赤子こそが南雲ハジメだった

 

 

光輝「……それが…俺と南雲の中にいる…インドラとアシュラだ……わかるか?……これはふたりが始めた戦い……俺と南雲はトータスに来る前からエヒトと戦う運命にあるってことだ…」

 

雫「…」

 

光輝「思えば……最初にトータスに召喚されたあの日……俺はエヒトの飾ってあった肖像画を見た……その瞬間……言いようのない憎悪と憎しみを感じた…恐らく俺の中のインドラの感情が流れちまったんだろうな…」

 

シア「あ、あの…その……光輝さんとハジメさんは…いずれその輪廻眼と転生眼を開眼するのですよね…その条件ってあったりしませんか?」

 

シアがそう疑問に思ったことを聞いてきたので、光輝は懐からあるものを取り出した

 

光輝「これを見ろ」

 

それは光輝のステータスプレートだった

 

光輝「このステータスプレート……俺と南雲だけ点滅した数値が刻まれているな?」

 

香織「あ、本当だ…」

 

光輝「最初は知らなかったが……今になってこれが何を示しているか理解できた……これは…俺達の中にいる奴との魂の融合指数を示している……今の俺の融合指数は94%……これが100%…つまり…俺とインドラの魂が完全に融合した時…俺はインドラの全てを引き継ぎ…輪廻眼を開眼できる」

 

香織「!そ、それじゃあ…逆にハジメ君も…」

 

雫「アシュラとの融合が完了したら…転生眼を開眼するのね…」

 

シア「あ…そういえば…エヒトに怒りを向けたハジメさんが植物や木を生やしたりしましたけど…あれって…」

 

光輝「転生眼の持つ創造の力の一端……ユエの事が引き金になって魂の融合が加速して…限定的だが使えるようになったわけだ」

 

カズマ「なるほどな……」

 

光輝「魂の融合は…時間とともに少しずつ進んでいくが……インドラとアシュラの魂を持つ者が激しい感情の高ぶりをすると…魂の融合が加速する……俺の万華鏡写輪眼…それと天照に須佐能乎も輪廻眼の持つ破壊の力の一端だ…………もし俺か南雲…どちらかが輪廻眼…転生眼を開眼させることができていれば…確実に勝てる……なぜならエヒトと違い俺達は自身で開眼させたのだから力を完全に使うことができる」

 

ティオ「な…なんじゃと…」

 

光輝「最も…後3日でどちらも開眼させることは難しい…ならそれとは別の方法で奴を倒すことを考えた方がいい」

 

カズマ「……そうか……なら急ぐか。ハジメがいつ目を覚ますかわからんが…目を覚ますまでの間にやるべきことはして置くべきだな。アーティファクトの制作に、戦えない人達の避難、他の国のトップ達とも話し合う必要がある…後戦う者達の選出もな……後怪我してるハジメのアーティファクト作りの補助もな……ああ…後この機会に残りの神代魔法を集めるか」

 

シア「あ、あの…それ3日でできる内容とは思えませんが」

 

カズマ「できないじゃない…やるしかないんだよ。やらなきゃユエが戻ってこれなくなるだけじゃない……この世界に生きる全ての命が……ヤツの養分になるだけだ………まあシアの言ってることは最もだ……本来なら3日で今言った全てをやるのは…不可能だな……俺じゃなければ」

 

そう言いカズマは指二本出してみせると

 

ティオ「なっ!?」

 

カズマの横にもう一人のカズマが出現した

 

カズマ「これは解放者たちが残した書記に記されていた未完成の魔法……だったんだが俺が解読して試行錯誤の末生み出すことができた…自分の魔力で実像を生み出す……そうだな…忍ぽく言えば『影分身の術』って言ったところかな?」

 

光輝「ッ…」←忍者が大好き

 

雫「?(今光輝が一瞬反応したような…)」

 

カズマ「でだ…この影分身の術……実体を持っているが魔力が当分割される上、分身体が消えると魔力もそのまま消費される。だが自分の意志で分身体を消した場合はそのまま本体の俺に還元されるって性質を持っている……これを使えば危険地帯への索敵にも使える…後単純に手数を増やせるメリットもある……まあ増やしすぎて魔力枯渇して死ぬ可能性もあるがな……そして」

 

カズマの周りから更に数十人以上の分身体が生まれた

 

カズマ「なんかさっきの影分身の術…あれが結構ネーミング的に合ってるように感じるから…こうして大量に分身体を作るのを『多重影分身の術』って呼ぶことにするか……こんだけ居れば同時並行に進められる!本体の俺はアクアとめぐみんとダクネスと一緒に大迷宮巡りしてくる。一応このガーランドにも二、三人残す。それ以外は補助だったり人集めだったり各地へ飛ぶ転送係でも何でもやるから…皆それぞれできることをやるようにな!俺達も神代魔法を集め次第、ハイリヒ王国に戻るつもりだ。じゃあお前ら、後で会おうな!」

 

それだけ言うとカズマはアクア達と一緒にテレポートで何処かへ飛んでいった恐らく残りの神代魔法集めのために近場に転移したのだろう

 

香織「え…ええっと…貴方はカズマ君の分身体で合ってるのよね?」

 

分身体カズマ「ああ…記憶も本体と同じだ…それじゃあシアと香織はハジメの補助を…一応分身体もつける……んで雫も分身体と一緒に王宮へ飛ぶぞ…クラスメイト達や先生にも話さなきゃいけないからな……んでティオは故郷に生き他の竜人族を集めてほしい…お前にも分身体をつける……それ以外の分身体も各地へ飛んでそれぞれの役割を果たしてくる」

 

ティオ「そ…それだけ動いて…お主は無事なのか?」

 

分身体カズマ「大丈夫だ…いざとなれば本体や俺達分身体も他者や大地や大気中に漂っている魔力を吸収するから」

 

雫「もう言ってることが寄生生物のそれじゃない!」

 

香織「というかやってることがエヒトのやろうとしてることと変わりない気が」

 

分身体カズマ「誰が寄生生物だ!一緒にすんな。エヒトと違って俺は命を吸い取るような真似はしねえよ」

 

そう言いながら分身体カズマは各地へ皆をテレポートさせるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「なっさけねえな…俺」

 

分身体カズマに連れられ、香織とシア…そして眠っていたハジメはオルクス大迷宮の解放者の隠れ家に訪れていた

 

分身体のカズマはそこにいるカトレアや他の亜人達に事情の説明とこれからの事を話に行き、目を覚ましたハジメはオスカーも使い、自身も滞在期間中にアーティファクト制作を行っていた作業部屋で壊されたアーティファクトを始めとしたアーティファクト制作をやっていた

 

作業中ぽつりとつぶやくハジメに香織達は疑問そうに目を向けてきた

 

ハジメ「……自分で言うのも何だが…俺にとってユエは全てだった……そのユエが居なくなった……いや…死んだわけじゃないのに……助けに行くことよりも…ユエを奪われた失望感で何もかも滅ぼそうとしてしまった……しかも…よりにもよって……あいつに俺の間違いを正されちまった……」

 

香織「…ハジメ君……」

 

ハジメ「地球に居た頃から……俺はあいつのことが気に食わなかった……なんでかは知らねえが……今にして思えば………俺とあいつが互いに気に食わなかったのは……あいつと俺の中にいるインドラとアシュラが反発……っていうよりも…あいつの生き方が気に入らなかったからだな…」

 

シア「生き方…ですか?」

 

ハジメ「俺は生きることを楽しいって思う反面…死ぬことを怖いと思っている……だがあいつは…生きてるっていうのにそれを楽しいと思ってねえし…死ぬことをこわいとも思ってない……あんな過去のせいで…あいつの中での生死の想いが乾いてしまったんだろうが……それでも気に入らねえ……今やっとわかった……地球にいた頃から…俺は……あいつには……あいつだけには負けたくない…負けたくなかったんだ……」

 

シア「ハジメさん…」

 

ハジメ「大丈夫だ……今度はそうはいかねえ……ユエを取り戻す……エヒトにも……そして天之河にも」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「よし!空間魔法ゲットだ!次はライセン大迷宮の重力魔法だ!」

 

グリューエン大火山まで来たカズマ達は道中のトラップや魔物をゴリ押しで突破し最速で神代魔法を手に入れた

 

めぐみん「そういえばあそこには解放者の一人…ミレディ・ライセンが居るとハジメが言ってました……かなりウザいらしいですが…」

 

ダクネス「なら彼女にも協力を仰ごう」

 

アクア「いいわね!解放者が味方に付けばもっと詳しいことが知れるかもしれないし」

 

カズマ「ああ……ハジメから聞いたがミレディもエヒトのこと相当憎んでいるらしいからな……まず確実に仲間になるな」

 

めぐみん「それでカズマ…概念魔法を手に入れたとして…その使い道は考えてありますか?」

 

カズマ「一応な……まあそれでもその概念魔法を奴にぶち当てられるかはわからんが…」

 

アクア「……でも大丈夫!……私達は最強…そうでしょ?」

 

ダクネス「ああ…私達がいて…負けるとは思えん」

 

カズマ「ああ…わかってるさ…当然もちろん…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「それで……俺には何をやらせるつもりだ?」

 

分身体カズマ「いや…お前は当日までここで俺と身体を動かす……恐らく現状お前はハジメよりも先に開眼する可能性がある……少しでも開眼できるよう魂の融合を早めたい……あわよくば奴との戦いの真っ最中にでも開眼できれば万々歳だ」

 

光輝「……南雲は今回のことで…恐らく自身の中にいるアシュラの魂と対面を話しているだろうな…」

 

分身体カズマ「だろうな……それで…真面目な話…お前の中ではこの戦い……俺達がエヒトに勝てる可能性は軽く見積もってどれくらいだと考えているか?」

 

光輝「……現状…俺は奴と直接やり合っていないから断定はできん…が……こちらの全戦力でぶつかれば9割以上……が………その大部分はヤツの配下の使徒や魔物がぶつかり合う為4割…………最高戦力だけで奴と戦ったとして3割にも見満たねえ………加え奴は不完全とはいえ輪廻眼と転生眼を使ってくる………総合的に考えて…良くて1割…最悪1割以下と考えてもいい」

 

分身体カズマ「……そうか…負けそうか?」

 

光輝「……いいや」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/カズマ/光輝「「「勝つさ」」」

 

 

 

 





原作と違いアシュラは白眼が使える設定です。

原作ではインドラとアシュラは六道仙人の息子ですが、インドラは六道仙人の持つ眼(チャクラと精神エネルギー)を…アシュラには肉体(生命力と身体エネルギー)の力を受け継ぎました。

また本作ではインドラもアシュラも誕生経緯が違う為厳密にはインドラはハゴロモの子ではありませんしアシュラもハムラの子ではありません。


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第六十八話 救いたい想い/戦いの準備/竜姫と青年の想い

 

龍太郎「おい勇輝!そろそろ出て来てくれ!」

 

勇輝「……」

 

ハイリヒ王宮にある勇輝の部屋の前で龍太郎はノックしながら呼び掛けるが勇輝は出てこなかった

 

龍太郎「たくよ…そのままで良いから聞いてくれ…今佐藤が雫連れてこっちに戻ってきたんだがよ…昨日のエヒトの演説あっただろ?どうやら3日後に全人類と戦うことになるらしいんだ!だから今佐藤達戦いのための準備しようとすげえ動き回ってるらしいんだ」

 

勇輝「……そうか…」

 

王宮へ強制送還された勇輝は…その日のうちに自身がした罪の全てを曝け出しあと……罪の意識に苛まれ部屋に引き籠もってばかりだ……それだけでなく…

 

龍太郎「だから勇輝!お前もここから出て…一緒に戦おうぜ」

 

勇輝「……無理だ」

 

龍太郎「はあ……勇輝……お前がしたことなんだが…お前一人のせいじゃねえよ……そりゃあ光輝と雫を知らず知らず追い込んじまった責任はある…けどよ…俺もそのことになにも気付けなかったし…お前の間違いを気づいて指摘してやれなかった責任がある………この戦いに勝たなきゃ……あいつらに謝ることも罪滅ぼしもできねえぞ」

 

勇輝「……もう…手遅れなんだ………俺は…もう戦えない……」

 

すっかり罪の意識に心を押しつぶされ…ベッドから起き上がれず気力も失っていた

 

龍太郎「うお!さと」

 

ベッドの上で蹲っていた勇輝だったが、突如鍵をかけたはずの部屋の扉が開いて思わず扉の方へ目を向けると

 

分身体カズマ「……よう…」

 

勇輝「さ…とう」

 

そこには自身を王都へ送った張本人である佐藤和真が立っていた

 

最も…本人ではなく分身体であるが…王都にいる者達は気づかない

 

分身体カズマ「今、3日後の決戦の日までに準備と対策…更に戦う者達を募らせようと思ったんだ……お前にも声掛けようと思ったんだが……随分と落ち込んでんだな…」

 

勇輝「……笑いたければ笑え……俺のことは期待しないでくれ……俺は…もう戦えないんだ…」

 

分身体カズマ「……」

 

勇輝「俺は……ずっと自分は…誰かを救える力を持った特別な奴だって思っていた……たくさん人を救った爺ちゃんの孫だから…俺だってそうなれるんだって……だから光輝が苛めっ子の主犯って聞いた時は…確認するとか考えず…一方的に酷いこと言ってしまった……雫だってそうだ…俺は……救った気になっていた……なっていただけで…実際には救うどころか余計彼女を傷つけてしまった!!……それだけじゃない……この世界に来て……勇者に選ばれて……助けを求められて……ここからが本当のヒーローになれる俺の道なんだって…浮かれていた……でも…俺が考えなしに了承してしまったせいで……皆を戦争に巻き込んでしまった……しかも…殺す覚悟もないくせに……相手が本当に人かどうかも知りもしなかった…知る気もなかったくせに…魔人族を一方的に悪だと決めつけ……いざって時になって殺せなかったせいで雫は死にかけ……俺がずっと下だと思っていた南雲や光輝に助けられたのに……俺はそんなふたりを責めてしまった……本当なら生きていることを知って安堵の言葉でも投げてやればよかったのに……俺にはできなかったことをあっさりとやってのけたふたりに嫉妬して……香織も雫も自分といるべきだって束縛して…ふたりの想いを一方的に決めつけ……そしてふたりを殺そうとした………挙げ句

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神の使徒が攻めてきた時…俺は手も足も出なかった上……奴らに連れてかれた恵里を救うこともできなかった」

 

そう……王国へ攻めてきた神の使徒達は、カズマによって王国へ送られためぐみんに使徒の大半をほぼ殲滅されたが…残り僅かな神の使徒により…恵里を連れ去られてしまった

 

恵里を人質にするように盾にしてきたのでめぐみんも手も足も出なかった

 

勇輝「なにが勇者…なにがヒーローだ……俺は…俺には誰かを救う力なんかなかったんだ……俺なんかよりも……南雲や光輝のほうが…ずっとヒーローだった………偽善者は俺の方だった………もう…俺は……何もしたくない」

 

己の犯してきた罪…それを自覚し、それまで持っていたご都合解釈は消え失せ…変わりに自分のことを許せない……まるで光輝のような状態になっていた

 

分身体カズマ「……」

 

そんな勇輝に分身体のカズマは近づくと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーーーンンン!!!!

 

思いっきり殴りつけ部屋の壁を突き破らせ、そのまま王宮の下にある中庭まで落下させた

 

突然の不意打ちに勇輝はノーガードで受けてしまい、そのまま地面に落ちた

 

勇輝「ご…ふぁ…」

 

龍太郎「お、おい佐藤!!」

 

そんな勇輝のそばへ降り立った分身体カズマと龍太郎

 

分身体カズマ「……天之河兄……なんで今俺がお前を殴ったかわかるか?」

 

勇輝「っ…」

 

分身体カズマ「お前が光輝や雫にしたことでも……お前がクラスメイト達を先導して戦争に巻き込んだことでも、香織や雫の想いを無視して、ハジメと光輝を殺そうとしたことでも…恵里を助けられなかったことでもない……今までのお前なら……恵里が連れ去られたら…エヒトが世界を滅ぼそうとしたのなら、なりふり構わず、助けに行こうとした…エヒトと戦おうとした。たとえ力及ばずともな………」

 

勇輝「……」

 

分身体カズマ「それが今……立てない理由はなんだ?自分が偽善者野郎だからか?散々人に迷惑かけてきたからか?救えなかったからか?……お前……今世界が滅ぶかどうかの瀬戸際で……助けなきゃいけない奴がいて……立てない……戦えないことを……テメェのせいにしてんじゃねえよ!!」

 

勇輝「!」

 

分身体カズマ「…なあ天之河兄……お前は軽い気持ちで安請け合いしたことや現実を見ない所とか問題はあったが……お前が人を救いたいと思う気持ち自体は評価しているつもりだ……もし………今でも自分の犯した罪を償いたいと思うなら……今でもたとえ一欠片でも……ヒーローになりたい……世界を救いたい思いがあるなら……立ち上がれ…だが……もう戦いたくない…動きたくないならそこでじっとしてろ……恵里は必ず……俺が助け出す……エヒトだって…俺達が倒す……だが…そのときには……お前は俺達の前に姿を見せるな……」

 

それだけ言うとカズマはその場を去っていった

 

龍太郎「……勇輝」

 

勇輝「………ッ」

 

カズマが去った後…勇輝は腕で目を覆いかぶさりながら涙を静かに流していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「流石のダクネスも膨大な知識の入れ込みに脳が耐えきれないか…めぐみんもやっぱ駄目か」

 

アクア「ミレディの所で私達も同じようにオーバーフロー起こしちゃった時は今の私達みたいにめぐみんとダクネスがつきっきりで介抱してくれたけど、目覚めるまで結構時間かかるのよね…」

 

カズマ「大体2時間くらいかな…」

 

一方

僅か一日で残りの大迷宮の神代魔法を集め、オルクスまで来ていたカズマ達だったが…そこでめぐみんとダクネスが最後の神代魔法である『生成魔法』を得たことでオーバーフローを起こしていた

 

カズマ「今俺の分身体がハジメの補助と雫の刀をまた作ってくれてる……今のところ結構順調そうに進んでるな……フリードのほうも明日までに戦う意思のある魔人族を連れてきてくれるみたいだ……っと噂をすれば」

 

そこへ分身体カズマに連れられたフリードが訪れた

 

フリード「ふむ…ここがオルクス大迷宮にある解放者の隠れ家か……先程ここへ来る途中……訓練された亜人達を見たが……あれは相当な腕前だな」

 

カズマ「ああ…あいつらここの魔物相手に訓練してるからな…」

 

アクア「あらフリード…貴方使徒達と戦ったあとも他の魔人族達を落ち着かせるよう頑張ったみたいだけど……もしかして神の使徒との戦いの傷を残してたりしてないでしょうね?」

 

フリード「案ずるな……というよりサトウカズマやお前達が強すぎて逆に私はたいして倒しきれなかったのだが」

 

ガーランドに向かう前……大量の神の使徒達と戦ったカズマ達だったが……その神の使徒の3分の2を10分足らずで倒しきり、戦っている最中にカズマがテレポートでアクアをエリセンへ、めぐみんをハイリヒへ、そしてダクネスをアンカジへ送り、そしてカズマはフリードとともに残りの使徒を殲滅させた

 

フリード「今だからこそいうが…あの使徒達を次々と蹴散らすさまを見た時…私は心の底からお前たちが敵でない事に心から安堵した………恐ろしく強かった……お前達だけでエヒトに勝てるのではないか?」

 

カズマ「んー…どうだろうな……まあこいつらと一緒なら何者にも負けない自信はあるぞ」

 

かつては敵だったフリードと今では心を開き会話をしていると

 

カトレア「フリード様!こちらへ来ていたのですね!!」

 

部屋の扉が開き、カトレアが入ってきた

 

フリード「カトレアか……お前も随分と強くなった様だな…以前会ったときとは見違える程にな」

 

カトレア「は、はい…ここへ来て様々な魔物や亜人達と戦い鍛えてきましたので……その…カズマ……アンタは分身体?…それとも本体かい?」

 

カズマ「本体だよ…ミハイルはどうしてるか?」

 

カトレア「ミハイルなら…今カム達ハウリア族と合同でヒュドラ狩りをしている所だね。もうかれこれ50回は倒してるはず」

 

カズマ「……いくらここの魔物が倒してもまた出てくるとは言え…一応この大迷宮のラスボス的存在のヒュドラをこうもポンポン倒されると…なんかラスボスの安売り感出てて価値が下がりそう」

 

カズマに送られたミハイルは無事カトレアと再会を果たし、そこでカトレアの口から世界の真実と、自分達を送ったカズマが全種族の和平の為に神を倒そうと手を回している事を話した

 

最初は怪訝そうだったミハイルも…時々訪れるカズマやカズマに送られた亜人達と交流を続けるうちに考えが変わり、今では自分達の種族を…そして神を倒したその先の世界を生きるために力をつけようと鍛えている

 

カトレア「そういえば…さっき変なゴーレムをアンタ達が引きずっていたけど…アレは?」

 

カズマ「あいつはミレディ…ミレディ・ライセン…解放者の最後の生き残りだ。魂に関わる神代魔法を使って今日まで生き延びていたんだ」

 

ミレディのいる大迷宮へ行きそこで試練を受け(約十秒でボロボロにした)無事カズマとアクアにとっての最後の神代魔法を得た

 

ちなみにミレディがボロボロにされたのは道中のウザいトラップや煽り挙句の果ては本人と対面した時もウザたため開始の合図と共に全員でボコボコにした

 

そして既にボロボロになっていたミレディをぞんざいに引きずりオルクス大迷宮まで来たのだった

 

一応ここに到着したときには治癒魔法は掛けたが仮にも世界をおもちゃのように弄んでいた神を相手に戦った者への扱いが酷かったのだが…当のミレディはハジメに渡す物があると言いハジメ達のいる制作部屋へ行ったのだった

 

カズマ「んじゃ…フリード…今から俺の分身体と一緒に各国各種族のトップ達が集まる作戦会議の場まで送る…一応なんかあったときのために護衛として俺の分身体を連れて行け」

 

フリード「すまない…助かる」

 

カズマ「なに、気にするな…全部が終わって、世界が平和なった後……お前とは…戦友として酒でも飲み交わしたいと思ってるから、まだ死んでほしくないんだよ」

 

フリード「……フッ…ならば無事に神を倒した暁には、私が貯蔵しているとっておきのワインでもご馳走しよう」

 

カズマ「お、そいつはありがたい。なら俺はそのワインに合うもんでも作ってやるよ。こう見えても料理は得意だからさ」

 

こうしてふたりは戦いが終わったあとの約束を交わすのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティオ「ご主人様!!」

 

ウィル「うおっ!?テ、ティオさん!?」

 

同時刻、各国種族の代表達が集まるハイリヒ王国の空を影が覆う

 

が、それはティオが引き連れた竜人族達だったためあわってることのなかった王都にいた分身体カズマと共にいるウィルだったが、黒竜姿から一瞬で人型に戻ったティオが、周囲の竜化した同族や、彼等を見て呆気に取られている人々を華麗に放置してウィルの胸元へダイブした

 

飛び降りたティオに驚きながらもしっかりとキャッチすることが出来たウィルは顔を頬を紅くしながらも焦っていた

 

なぜなら彼女は竜人族では族長の娘…それも姫君であることをティオの口から聞き知っていた為…ティオをあんな性癖にしてしまった原因である自身を焼き殺されないか心配なっていたのだから

 

そして心配は現実となった

 

ティオを好む竜人族は竜人族の隠れ里に何人もおり、中にはティオの条件だったティオよりも強い男になるために鍛えていた者達もいた…そのためよりにもよって…人間の…しかもその人間に取り返しのつかない傷(性癖)を植え付けられたことに激怒した竜人族の若者たちは次々とウィルを抹殺しようとした

 

一応そばにいた分身体カズマがウィルに迫る攻撃を何度もカバーしたが…ウィル自身も度々身体を鍛え、度々テレポートで会いに来たカズマに厳しく指導を受けてもらった結果…今のウィルは並の金ランク冒険者が50人がかりでも負けないくらいに強くなっていた為、高いステータスを持つ竜人族相手に善戦できた

 

カズマ曰くウィルは才能が無いのではなく、単純に引き出し方がなってなかっただけだと

 

ちなみに余談だがウィルを鍛えに行くたびにティオも連れ添い、ふたりが話をする姿やふたりだけで何処かへ行く姿を目撃し、カズマも案外相性悪くないと感じたのだった

 

アドゥル「よさぬか」

 

そこへウィルを攻撃していた竜人族達を長でありティオの祖父アドゥル・クラルスが止めさせた

 

「ぞ、族長……しかし!」

 

アドゥル「ティオが選んだことだ。もし、本当に洗脳でもされているのなら、私が気がつかないはずがない。ティオは本心から彼を慕っているのだよ。もっとも、私とてティオの変化には度肝を抜かれたが……」

 

「でしたら!」

 

アドゥル「だが、その変化も、ティオ自身が幸せであるなら私は構わない。あの子は隠れ里での生に飽いていた。竜人の矜持と自身の立場から掟を忠実に守ってきたが……やり場のない暗く重いものを抱え続けて、心は乾いていたに違いない。半ば無理やり此度の任務に就いたのも、無意識に〝何か〟を求めたからだろう。ティオは、その〝何か〟を見つけたのだ。そして、嬉しそうに笑っている。十分ではないか」

 

「そ、それは……」

 

ティオ「爺様……」

 

アドゥルがそう言うと視線を分身体カズマに向けた

 

アドゥル「初めまして、サトウカズマ君。君のことはティオから聞いている。魔王城での戦い振りも見せてもらった。神を屠るとは見事だ。我等では束になっても敵うまい」

 

分身体カズマ「初めまして、アドゥル殿。いや、魔人族の神を倒したのは俺達の仲間の一人であって俺ではない。それと初対面が分身体で申し訳ない……何ぶん時間がなくて今世界各地に分身体を送ってそれぞれ役割分担している真っ最中なもんで」

 

アドゥル「それでも君の実力は本物だ。分身体とはいえ…君の実力は私達を凌駕している…それより君が……全ての種族の和平と世界のためにエヒトを倒すために異世界の神に送られた転生者というのは…」

 

分身体カズマ「違いない……俺は本気だ……本気でこの世界を変えてやるつもりだ」

 

そう言うカズマの目をじっと見るアドゥルだったがやがて

 

アドゥル「……フッ…どうやら本気のようだ…君みたいな若者とは……もう数百年早く会いたかった」

 

そして今度はウィルの方へ視線を向けた

 

アドゥル「君がウィル・クデタ君だね…君のこともティオから聞いている。孫娘を救ってくれたことを…一族を代表して礼を言おう」

 

ウィル「は、初めまして。ウィル・クデタです!貴方の大切な孫娘様の変な扉を開いてしまったのは…私が原因です。殴られる覚悟はあります!!」

 

そう言うとウィルは身構えを取らずアドゥルの前へ出た

 

これは本器で拳を受けるつもりだということだ

 

アドゥル「ハッハハハ!!ウィル君。君は話に聞いていた通りの真面目な青年だ。君を殴るつもりはない。さっきも言ったが、ティオが本心から笑えているならば私はそれで十分だ。むしろ、己の信条のために五百年も独り身を貫く頑固者を受け入れてくれているようで嬉しいくらいだよ」

 

ウィル 「そう、ですか?」

 

アドゥル「うむ。幸せなら性癖など些細ことだ」

 

アドゥルの大物な発言に微妙な表情を浮かべたウィル

 

ウィル「……正直な話……最初…彼女に責任取れとか…周りから責任取れとか言われて…色々頭の中がごっちゃになりました…こんな思いもよらない形で求婚されましたので……」

 

ティオ「……ご主人様」

 

ウィル「で、ですが…彼女のことはもちろん嫌いではありません!!初めて会った時から彼女が優しい事には気づいてましたし……それに……私が師匠……カズマさんの指導を受けて…ボロボロになっていたらいつもそばに来て優しく手当してくれたり…時々一緒に町をまわったり…話したり……いつの間にか彼女といる時間が…私にとって掛け替えのない物になっていきました…」

 

ティオ「!」

 

ウィル「私は…もっと彼女と…ティオさんと一緒にいられる時間が欲しい……もっと彼女の事を知りたい…もっと……彼女と共に生きていきたいです……だから……こんな所で世界を終わらせられません……だから私は戦います!私は私の…『大切』を守るために!!」

 

ウィルは、自分の中にあったティオへの想いを全て吐き出した

それ聞いたアドゥルを初めとした竜人族達の表情が変わった

 

非力な青年だったウィルは今、己の大切の為に神と戦うと言った

その言葉に、先程までウィルに攻撃していた竜人族達は、もう認めるしかないとでも言いたげに殺意を解いた

 

そして

 

ウィル「うぉっ!ティオさん?」

 

それまで静かに成り行きを見ていたティオはおもむろにウィルに近づき思いっきり抱きしめた

 

ティオ「…良かった……」

 

ウィル「え?」

 

ティオ「妾は……ご主人様を……そなたを……好きになって……本当に良かったのじゃ…」

 

ウィルを抱きしめたティオは涙を流しながら笑顔を浮かべていた

 

ウィルはそんなティオに戸惑いながらもやがて優しくティオの背中に手をまわし、優しく抱きしめた

 

そんなふたりをアドゥルは可笑しそうに笑い声を上げ、そうして一頻り笑った後、その眼差しをティオに向け何かに納得したように頷いた

 

アドゥル「良い顔をする。里では終ぞ見なかった表情だ。里で説明してきた通り、お前は皆に愛され、そして愛しているのだな」

 

ティオ「爺様。その通りじゃ。妾はご主人様だけでなく、大切な仲間達のことも愛しておる。そして今、確信したのじゃ。皆にも愛されておるとな。幸せ過ぎて、今なら一人で神をも弑逆できそうじゃ」

 

ティオの返答に更に深い笑みを浮かべたアドゥルは、スっと居住まいを正すとウィルに視線を向けた。そして、頭を下げた

 

アドゥル「では、ウィル君。私の最愛の孫娘を宜しく頼む」

 

ウィル「…はい……確かに、頼まれました。私の命が果てるその時まで……彼女を守ります」

 

そうして幸せな表情を浮かべながらウィルは改めてティオを抱きしめ……そんなふたりの姿を見た分身体カズマは優しい笑みを浮かべるのだった

 

 





描写はありませんでしたが、ウィルとティオは度々会っています。

また本作のウィルは原作とは見違えるくらい強くなりました。


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第六十九話 決戦の前夜


そうか………逝ったか…五条……ゆっくり眠りな……もう起きあがるなよ……(by五条悟ファンの作者)


 

分身体カズマ「はあ!?冗談だろ!?」

 

エリヒド「いや…これは冗談ではない…カズマ殿…そなたには是非我々連合の総指揮官になって欲しい」

 

分身体のカズマが竜人族代表アドゥルを迎え、亜人代表アルフレリック、魔人族代表フリード、そして人間族は明確な代表が居ないため、今集まっている人間族の中でも特に高い地位にいるエリヒド王やガハルド皇帝を含め、四種族のトップが集まり、無事連合を結成し会議を始めることが出来た

 

当初はこれまでのこともあり歪み合いになったりして話の場がこじれると予想していたが、予想に反してみなしっかりとどうするべきか話し合うことが出来た

流石に世界が滅びるかもしれない瀬戸際で争う馬鹿はこの場には居なかった

これはこの場にいる全員が前もってカズマから直接世界の真実を教えていたことも大きいが

 

そして連合は皆をどこに配置させるか、勝利条件、人数の把握や武器の数など明確にするべき互いに持っている情報の交換をして会議は順調に進んでいった

 

そして最後になり誰が連合のまとめ役─総指揮官になるのかの議題に入り、我こそはと主張する輩が出ると当初は予想していたが、なんと満場一致で分身体カズマ…もといカズマになって欲しいと言われた

 

分身体カズマ「いやなんで俺なんだ!?そこはアンタらの中の誰か、あるいは大勢の指揮経験のある武将にでも任せればいいだろ」

 

フリード「そのことだが…ここで我々四種族の誰かにやらせれば、ただでさえこれまでのこともあり互いに不和のある連合に亀裂が走るだけでなく、最悪内乱になる恐れがある…ならばこの場の四種族の王や代表ではない…貴様に任せるのが得策だと我々は考えた」

 

分身体カズマ「いや俺一応種族的には人間族なんだが…それと人を指揮したことは過去に何度もあったが……流石に国単位の人を動かすなんてやったことねえしなにより俺も最前線には出るつもりでいたんだが」

 

アルフレリック「しかし…お主は南雲ハジメや天之河光輝と言った神殺しを成せるほど強者達を従えるだけの手腕を持つ」

 

ガハルド「それにお前は一応『異世界人』であってこの世界の人間ではない…だから俺達人間族とは別のカテゴリーだと考えている…俺達ではなく、お前なら連合も納得するだろうよ」

 

エリヒド「なによりそなたなら他種族に対して一切の差別も偏見もなく、皆を平等に導けると我々は思っている。既に連合の中には、君の掲げる思想に共感する者達は何人もおる」

 

アドゥル「総指揮官とは言ってもあくまで便宜上の物。ようはカズマ君。君には士気を上げる役をやってほしい。それさえ果たせれば先へ進んで良い…その後の指揮は我々が果たそう。君ほどの実力者を後ろに立たせるのはもったいない上…君にも前へ進まなければならない理由があるはずだ……頼む…」

 

そうまわりの代表的達に頼まれ、最初は渋っていた分身体カズマだったが…やがては

 

分身体カズマ「………はぁ…わかったよ……士気を上げることと連合の結束力を上げられるよう…なんかスピーチ考えてくる」

 

フリード「決まりだな」

 

こうして、トータス初の四種族の連合が正式に結成することとなった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして迎えた決戦の前夜

 

王宮を歩く分身体カズマの一体は見慣れたふたりのクラスメイトを目撃したので近づく

 

分身体カズマ「よおお前ら…なにしてんだこんな所でよ」

 

幸利「うえっ!?カ、カズマか」

 

浩介「一応聞くが、お前どっちだ?分身体か?本体か」

 

分身体カズマ「分身体な…お前らこそこんなところでなにこそこそしてたんだ?」

 

浩介「お、ちょっどいいぞカズマ。聞いてくれよ幸利の奴がさ」

 

幸利「あば、馬鹿!」

 

浩介「園部に告白しやがったんだ!!」

 

幸利「なんで暴露すんだよ浩介!!」

 

分身体カズマ「なんだ…やっとか…せっかくお前と浩介と恵里の3人を分散させる際にお前の好きな人がいるパーティーに配属させたのにやっと告白したんだ」

 

幸利「やっぱ俺を園部と同じパーティーに飛ばしたのはわざとか!……しかも知ってやがったな!」

 

分身体カズマ「俺はこのクラスの恋愛事情全て把握しているからな。例えば野村が同じパーティーの辻に好意を抱いていることも知っている」

 

浩介「こいつさらっと健太郎の恋愛事情暴露しやがった。俺も知ってたけど」

 

分身体カズマ「てかお前…なんでよりにもよって…決戦の前夜に告白しやがって…ちなみに返事は?」

 

幸利「そ、それが…あの時は緊張して思わず『全部が終わってから返事を聞く』って言ってきた」

 

分身体カズマ「おい、なに死亡フラグ立ててやがる。自殺願望者かおい」

 

幸利「いや俺もそう思ったんだが…いつまでも告白しないことを引きずるのもなんだかなあって思えてよ」

 

分身体カズマ「はあ……わかった…幸利…それと浩介…お前ら明日俺について来い」

 

浩介「いやちょっと待てよ!お前についていくってことは…」

 

分身体カズマ「無論最前線だな」

 

幸利「俺達に死ねって言うのか!?」

 

浩介「お前忘れてるかもしれないが俺も幸利もお前やハジメに天之河みたく強くねえんだよ!!」

 

分身体カズマ「むしろ俺のそばにいたほうが安全だと思うぞ…一応攻略者パーティーのメンバーで場をかためているからな」

 

幸利「いやその前に俺達がついていけず死んじまう!頼むから俺を死地に追い込まないでくれ!」

 

分身体カズマ「やかましい。告白の返事を先延ばしにしやがって、なおさらお前を死なせられない理由ができたわ」

 

浩介「待て、幸利はともかく俺はなんでだ」

 

分身体カズマ「ただのついでだ。俺達は最前線をいきながら恵里を助け出す。お前らの力も必要になると思うからな。とにかく来いよ」

 

浩介「……俺今のうち遺書でも書くかな…」

 

突然の最前線配属に嘆く浩介だったが内心ではカズマに付いていったほうが生存率が高いのではと思うのだった

 

幸利「ところで…本体はどうしてんだ?」

 

分身体カズマ「ああ…本体の俺ならアクアとめぐみんとダクネスの3人と一緒に概念魔法を組み込み終えて現在休んでる最中だ。まあ日付が変わる前までに終われて安堵しているよ」

 

幸利「……改めて思うがお前…ハーレム系主人公だったんだな」

 

浩介「全くだ…転生者ってことにも驚きだが嫁が3人もいるとか贅沢すぎるぜ」

 

分身体カズマ「はは…なに言ってやがる…お前もそのうち俺やハジメみたいになりそうなくせに」

 

浩介「……はっ?…」

 

分身体カズマ「気にすんな…ただの勘だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方ユエを除く攻略者パーティー女性陣達は王宮一室に集まり女子会をして盛り上がっていた

 

シア「ふあーー!!ティオさんすっごくよかったじゃないですかぁぁぁぁ!!」

 

香織「ほんとそうだった!ウィルさんからのプロポーズ!!凄く情熱的だったね!!」

 

アクア「おめでとうティオ!!」

 

ティオ「う///うむ///ありがとうなのじゃアクア///」

 

めぐみん「ウィル・クデタですか…そういえば以前見たことがありましたねダクネス」

 

ダクネス「ああ…確かにチラッとだが会ったことがあったな………改めて会って見てみると随分と見違えていたな……これもカズマの指導の賜物だな…最も…それも真面目に受け続けたウィル本人の努力も大きく反映していると感じたな」

 

アクア「カズマってなんやかんやで人に物教えるの得意だもんね」

 

シア「逆にユエさんは教えるのが下手でした…なんか擬音で魔法の解説してすっごく困惑しました……なんでしたら理解できたのが香織さんとめぐみんさんとアクアさんだけ…って結構居ましたね…」

 

ティオへの祝福の話から旅の道中の出来事へ話が変わった

 

ティオ「なぜあんな人間には理解できない言語で理解できたのかが謎じゃ…五百年生きた妾でさえ不可能だというのに」

 

香織「ええ…そんなに…?」

 

アクア「でも意外にも光輝の説明はわかりやすかったわ。カズマも言ってたわ。理解力と人を指導する能力は私達の中でも相当なものだって」

 

シア「ああ!それわかります。まだ出会ったばかりの頃…ハジメさんと光輝さんが私の家族達をそれぞれ指導した際に、光輝さんは力だけじゃなく人格形成もしっかりとしてました……逆にハジメさんは…」

 

アクア「…oh……(そういえばあのハウリア達って…)」

 

雫「……何気に光輝って地球じゃ授業サボったりすることがあるけどああ見えて学年トップの学力持ってるのよね……」

 

シア「あ、そうでした!!光輝さんと言えば雫さん!!……いつから光輝さんを好きになってたんですか!」

 

突然シアに話を振られ思わず頬を赤らめ返事が出来ずにいた

 

雫「あぅ///」

 

めぐみん「そうでしたそうでした…明確に光輝を好きだと口にしたのは最後の試練を受けた後でしたが……ということは…試練が関係してますね……好きになった……いえ…好きだったことを自覚し認めたのは……ということは実は地球にいた頃から光輝に対して無意識に好意を抱いてましたね」

 

香織「うわ…そこまでわかるんだめぐみんちゃん」

 

めぐみん「ふっふふ…こう見えても私、前世ではパーティー随一の頭脳の持ち主でしたので」

 

ダクネス「だがほとんどカズマに埋もれてしまって本人もつい最近まで忘れてたことなのだが」

 

めぐみん「ダクネス!!」

 

アクア「それは置いといて……それで…?実際の所どうなの雫?」

 

アクアに聞かれ…少し考える素振りを見せるが白状する

 

雫「……そう…ね……最初はただただ光輝に対して強い罪悪感を抱いていたわ…誰とも関わらず…いつも一人ぼっちだった……そんな光輝を見続けるうちに…このまま彼を一人にしていたら…孤独にしてしまったら駄目になる…そう感じて…私は…自分の罪の意識を抱えながら光輝に関わろうとしたわ……でも拒否されたわ…彼は私を自分に近づけさせたくなかった…そんな態度を露骨に出していた……本当はわかってた…光輝が私を近づけさせたくなかったのは…私に対して強い罪悪感を抱いていたからだって…」

 

香織「雫ちゃん」

 

雫「…夢を捨てて…生きる目的を無くして…乾いてしまって…人との関わりを断っていた光輝だったけど……優しさはしっかりと残っていることを知った………そこに嬉しさを覚えたの……彼を孤独にしたくない…もう一度彼の心からの笑顔が見たい……彼に生きることの楽しさを味合わせてあげたい…そう思って、ずっと光輝を見続けていた………そうしているうちに…彼が時より見せる不器用な優しさに触れて……いつも何も言わず守ってくれて……色々言ってくるけど…私のことを見てくれていたって事に気づいて……私の中で彼を意識することも増えていった……そして…光輝のことがいつの間にか好きになってた……でも…私は彼から夢を奪って…孤独にさせてしまった過去があった……だからそんな私が彼を好きになるなんて…あってはならないことだって…ずっと心の奥で封じ込めていた……そんなことはないって想うようになっていた……」

 

シア「雫さん…」

 

雫「でも…大迷宮の試練を受けて、私の心と向き合って…はっきりしたわ……私は光輝を孤独にしたくない……だったら私が光輝を強く想っている事からも逃げちゃいけない………例え彼からどう想われようとも…私は光輝のことを心から愛している…………だから…もう自分を誤魔化さないことにしたわ………本当はユエもいる時にでも話したかったわ……彼女…ハジメ君には愛情を向けてるけど…光輝には家族愛とか兄弟愛とかに近い親愛の感情を向けてるから…」

 

シア「はは…それわかりますよ。ユエさんって何気に光輝さんの事をかなり気にかけてますから…私の事を妹分って呼ぶ時とかありますけど…それならユエさんにとっては光輝さんは大切な弟なんでしょうね……本人は嫌がりそうですけど…」

 

めぐみん「彼……兄があれでしたから兄弟とかに対してあまり良い感情持ってませんでしたしね…」

 

アクア「……必ず助け出しましょ……そしたら今度はユエ含めてみんなで女子会して騒ぎましょ」

 

香織「……うん…」

 

アクアの言葉に香織が頷き…それに他の面々も言葉に出さずとも同意するのだった

 

そして、きたる明日の決戦…必ず生き残ろうと一同は強く思うのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分身体カズマ「こんな所にいたか…」

 

光輝「…なんのようだ」

 

同時刻、王宮の一室のベランダで一人黄昏ていた光輝に近づく分身体カズマ

 

分身体カズマ「なに…明日は最後の戦いになるから…その前にお前と」

 

そこでカズマは光輝に酒の入った瓶を投げ渡した

 

分身体カズマ「酒でも飲み交わしながら話しようと思ってさ」

 

光輝「……俺は酒は飲まない」

 

分身体カズマ「なんだ?飲めないのか?」

 

光輝「飲んでも酔えねえから面白くない……だからあまり好きではない」

 

分身体カズマ「そう言えば俺達がヘルシャー帝国に行って奴隷解放させたあとに寄った酒場でハジメがアルコール度数高い酒を飲んでたその横で店にあるアルコール度数高い酒全部混ぜた奴を一気飲みしたことあったな…しかも顔色一つ変えずに……そしたらハジメがムキになって同じもん注文して最終的に店の酒全部飲み干したことがあったな……まあとにかく飲もうぜ…今頃他の分身体もハジメと飲んでる所だろうしさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「ぷはぁー……この酒は悪くないがどっちかって言えば果実酒が好きだな俺」

 

分身体カズマ「お、そうか…俺はアルコール度数がそんなに高くない、日本酒みたいに苦みの少なくいろんな料理と相性の合う奴が好きだな」

 

同時刻

王宮にあるハジメの部屋で分身体カズマは晩酌をしている

 

ハジメ「あー…やべ…揚げ物が欲しくなるわこれ」

 

分身体カズマ「今なら酒飲みながら色んなもん摘んで食べる親父の気持ちとかわかるだろ」

 

ハジメ「ああ…そういや父さんはよくチーズとベーコン摘んで喰ってたな」

 

分身体カズマ「うちはコンビーフとししゃもだったわ……ここだけの話し、実は時々親父のビールこっそり持ち出してアクアと飲んでたわ」

 

ハジメ「うわ…俺のダチ平気で未成年飲酒してるぞ」

 

分身体カズマ「中身は100歳超えのジジイだけどな……アクアのほうの実年齢実は知らんけど」

 

ハジメ「……アクアといえば…あいつって地球にいた頃から他人の魂を見れたんだったよなあ?」

 

分身体カズマ「まあな…」

 

ハジメ「……つまり知ってたんだな…地球にいた頃から俺の中に別の魂がいることを……」

 

分身体カズマ「……ああ…だが勘違いするなよ。お前とダチになったのにそれは関係ねえからな。むしろそれ知ったのはダチになったあとだから。そこんとこ誤解すんなよ」

 

ハジメ「わかってるさ。お前やアクアがそんなやつじゃないことくらいな」

 

分身体カズマ「光輝のほうも知り合ったあとにあいつの中に別の魂があることを知った」

 

ハジメ「そういやお前と天之河は俺と出会うよりも前に知り合ってたな」

 

分身体カズマ「まあな…ちょうど雫と出会った日に一方的に知って、個人的に興味が湧いて話すようになった。……思えばあいつ…俺と出会った時…なにか探ってたっていうか…感じてたっていうか…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「お前と初めて会ったあの時……お前からはこれまで見てきた奴らとはどこか違っていたように感じた」

 

分身体カズマ「そうか…もしかしたらお前の中のインドラを通して俺が転生者だって感じていたのかもしれねえな」

 

光輝「思えば…お前ともそれなりの付き合いだったな」

 

分身体カズマ「それなりなもんかよ。俺が小説書く用の作業場に使うために契約したアパートの一室の管理任せたり、時々ゲームの相手になったり、書いた小説の感想聞いたりとか、結構な付き合いだと思うぞ」

 

光輝「前半のはともかく、後半のはお前がしつこく言うから止む無くやってただけだ」

 

分身体カズマ「その割には真面目にやってたけどな……あの頃のお前……いつも遅くまで外をであるいてたな……理由は聞かなかったが…家にいたくなさそうだった……そう感じたから…お前に住み込みでアパート一室の管理任せたんだ…」

 

光輝「……それについては感謝している……お前の言う通り……俺はあの家に居たくなかった…」

 

分身体カズマ「……まあ…あんなことがあれば無理もないけどな…」

 

光輝「……お前の書いた小説だが…あれはお前の前世を描いた物語だな?」

 

分身体カズマ「まあな…一応内容は五割くらいコメディーよりにして俺達の容姿と名前を別人に描いたけどな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分身体カズマ「せっかく前世の記憶あるんだから利用しない手はないと思って俺達の前世をラノベに描いたら驚くくらい売れてお陰で高校生の時点でサラリーマンの生涯年収よりも稼げてるし」

 

ハジメ「お前が俺の母さんに原稿を持ってきた時の事覚えてるぞ。母さんに見せたら母さんも『これはヒットする!』って言って知り合いの出版社に持っていたらすぐに掲載が決まって今では売上数500万部を超える人気ラノベ作家になるとは思わなかったなあの頃は……しかも人気になり過ぎてアプリゲームだったりアニメ放送されたりコミカライズ化もしたりよ…まああの内容は確かにバカウケするだろうがな。おまけに親名義で株取引とかもやるわでお前本当に高校生かって内心疑ったからな……」

 

分身体カズマ「まあ金はあり過ぎて困ることとか無いからな……」

 

酒の入ったグラスをグイッと飲み干しながら言う分身体カズマ

 

ハジメ「…………ほんと……この世界に来ることになって驚きの連発だったな……召喚した神は邪神で、嫁ができたりダチは転生者だったり神殺しすることになって挙げ句俺と天之河には別の魂宿ってたりで……ほんと…人生どうなるかわかんねえな……」

 

分身体カズマ「……それが人生だよ……明日…1分1秒後の未来…なにが起きるかわからない……それが人生の難しさであり…面白さでもある……」

 

ハジメ「……お前が言うと言葉に重みがあるな…」

 

分身体カズマ「伊達に百年生きてねえからな…」

 

ハジメ「……」

 

分身体カズマ「……」

 

それからしばらく沈黙が続いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

分身体カズマ「「なあハジメ/光輝」」

 

ハジメ/光輝「「なんだ?」」

 

分身体カズマ「「まだ俺達に言っていない事があるだろ……エヒトの目的や手段…生まれた経緯に生い立ち、本当はそれだけじゃないんだろ?お前達の中にいる奴との会話は……もっと別の……重要な事を聞いたんだろ」」

 

ハジメ「……はぁ…なんでお前はそういうのわかるんだよ」

 

光輝「……よくわかったな」

 

分身体カズマ「「まあ付き合い長いからな……それで…何を聞いて……何を知ったんだ?」」

 

ハジメ/光輝「「……」」

 

しばらくの沈黙の末…ハジメと光輝はそれぞれの分身体カズマに口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

決戦は目の前に迫っていたが…その日…分身体……もといカズマは知ることとなった……ふたりの仲間の抱える選択を……そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

生き残れるのはどちらかだけだということを

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





《小ネタ》

光輝が授業をサボるのは教科書読んで内容を完璧に理解した為わざわざわかる事を習うために時間を無駄にしたくないためその時間は屋上で語学の本を読んでいる

ちなみに現時点で英語とドイツを独学で習得し次は中国語を覚えようとしていた


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第七十話 開戦

 

一夜明け、迎えた決戦当日

ハイリヒ王国王都には数多くの人が集まっていた

 

戦えない避難民はヘルシャー帝国に避難させ、王都には数多くの種族が集まり開戦を今か今かと待っていた

 

しかし、ここでも問題が発生した

 

それは、これまで種族間の歪み合いがあり、この場にいる人間族と亜人族、魔人族の面々の一部が言い争いを起こし、それがまわりに広まり連合に亀裂が入りだした

 

そこには多くの憎しみ、怒り、嫌悪感が存在し、連合を覆い出した

 

このままでは、神の使徒達がせめて来る前に自滅に追いやられてしまうかも知れない

その不安が穏健派の者達の間に流れた

 

その時だった

 

カズマ「注目!!」

 

連合の前にある台座にメガホン越しで話すカズマが現れた

 

その横では、フリードを始めとした各代表達が控えていた

 

カズマ「…俺はサトウカズマ……この連合の総指揮官を任された異世界人だ……お前達に昔話をしてやろう。歴史に消えたその昔……エヒトやアルヴといった神がこの世界に君臨するよりも大昔…この世界は平和だった……種族間の差別もなく、争いもなく……他種族同士の交流もあり、皆が良き隣人、良き友、良き家族だった……それは…六道仙人と呼ばれる神にも等しい力を持った僧侶が願い、叶えた平和な世界そのものだった…」

 

カズマの昔話を聞いたその場の多くの者は驚愕した

自分達の先祖は今と違い他種族同士での争いがなかったことに

 

カズマ「だが……それをエヒトやアルヴがぶち壊した……平和だった世界を…自分の退屈を満たすために…そして力を得る為に…この世界の人々を争わせた……それは長い年月たった今日にも続く…遺恨そのものだ……なあ…お前達の敵は誰だ?人間族か?魔人族か?亜人族か?それ以外の全てか?違うだろ。お前達の敵は…お前達に戦いを強要させ、家族を、友を、仲間を、愛する者を失う原因である争いを引き起こさせ、この世界を…そして生きとし生けるもの全てをおもちゃのように弄んだ邪神…エヒトだろ……今この場にいるのは敵なんかじゃねえ。同じ共通の敵を持つ、仲間だ!!そして…お前達は一緒だ。姿や考え、信じるものは違うが、皆愛する者…家族や友。そして故郷がある…失えば悲しみ、憎しみ。嬉しいことがあれば笑い、楽しむ心がある。種族が違おうとも皆一緒だろ」

 

カズマの演説を聞いた連合の空気が変わった

カズマに皆仲間…同じ存在だと言われた彼らは困惑した

 

カズマ「俺には夢がある。かつて六道仙人が作った、争いのない平和な世界の実現。それは不可能でないと想っている!確かにエヒト達のせいとはいえお前達は争いすぎた!憎しみ合った!その憎しみの連鎖は簡単には無くならない………お前達は、エヒトを倒したこの先の世界でも…争い続けるのか?やっと神の支配から脱却したのに争うのか?これから先、生まれてくる何も知らない子供にも戦いを虐げるのか?争いの存在しない平和な世界を見せたくないのか?」

 

魔人族「…争いのない…」

 

亜人族「平和な…世界…」

 

カズマ「なあ…お前らはどうだ?お前達も見たくないか?」

 

そこでカズマから聞かれ、連合はざわめき出した

 

平和な世界……争いがない……

 

カトレア「あたしは、平和な世界が見たい!!」

 

そこでカトレアが連合から飛び出して皆の前に立つ

 

カトレア「平和な世界で、あたしは愛する人との間に子供を授かりたい。そして子供には戦いとは無縁の事を教えてあげたい!」

 

更に虎人族のゼルも前に出た

 

ゼル「俺もだ。これまで下に見ていたハウリア族達ともようやく仲良くなりだしたばかりだ。もし本当に他種族の和平が実現できるなら、俺も見てみたい」

 

そこへリリアーナも前に出て

 

リリアーナ「私は……幼い頃から、魔人族は敵、亜人族は神から見放された悪しき種族、竜人族は人にも魔物にも成れる半端者と教えられてきました。それが当たり前だと思っていました。ですが…今世界を…邪神の支配された世界を変えようと足掻いているのはその彼らを含めたすべての種族です。私は…明日を…新しい世界の夜明けに足踏みしたい。その世界では、人間も亜人も魔人も竜人も関係なく、皆が同じ目線になって生きて行く。そんな世界を望んでいます!」

 

小さな身体から発せられたと思えないほどの覇気と共に連合に言う

 

ここまで来ると連合内の嫌な空気がかなり薄れていた

 

そして…

 

フリード「私は……これまで多くの人間族や亜人族を殺してきた。それは全て、同族の為、故郷の為だった…だから私は他種族達から憎まれることも理解していた…全ては我々魔人族の…平和な世界を築くためだと……だが…私はある男と出会い…その者の夢を…望む世界を知り、私は驚いた。平和な世界を築くには自分たち以外の種族を滅ぼすしか無い。私はそう思っていた……だがその者……私の横にいるサトウカズマの目指す平和は他種族が争うことのない平和な世界……それを実現させようと、尽力していた…そしてその中には私を含めた魔人族もいた……目が覚めた気分だった…他種族同士和解する…そんなこと思ったこともなかった………私は…魔人族の平和を望んでいた。だが本当の平和とは…誰もが殺し合わない…他種族を滅ぼしての平和は平和とは言わん…………私は…この戦いをなんとしても勝ち抜きたい!今この場には、過去の遺恨により憎しみが募っている。ならばこの戦いを終えた後、魔人族に対し憎しみを抱く者が居るのならば、私の首を跳ねるがいい!!」

 

連合一同「「「「!?」」」」

 

フリード「その代わり、それを機に…もう魔人族に対する憎しみの遺恨は払い除けてほしい。神の支配から解放された世界にまで…憎しみの連鎖を残したくない!」

 

まさかのフリードのその言葉に場がざわついた

それはそうだ

 

仮にも魔人族代表であるフリードが己の首をかけてまで連合に語りかけたのだから

 

カズマ「……俺は……平和な世界を作りたい。お前達が争うことのない世界を作りたい。それにはまず神に勝たなきゃいけない。俺は強い……だが俺一人では勝てない。そして、どんなに優れた力や才を持っていたとしても…一人では世界を変えられない……この場から逃げたい……他種族なんかとは組みたくないと思うやつは、この場から出ていきな。だが!」

 

そこでカズマは連合をガッと睨みながら大声で叫ぶ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「この世界を…神の箱庭となった世界をぶっ壊し、争いとは無縁の世界を見たい者は、俺に力を貸してくれ!!一緒に築こう!!俺達、人類の新時代を!

 

その言葉が連合全体に大きく響き、ほんの僅かな沈黙した後

 

連合軍「「「「うおおおおおおおおおおあお!!!!」」」」

 

連合軍から大きな歓声と雄叫びが流れた

 

この瞬間

ほんの僅か数分前まで連合軍を巣食っていた怒りや憎しみ、憎悪といった負の感情は、カズマの演説により綺麗さっぱりと消え去った

 

カズマ「そうか!力を貸してくれるか!力を合わせてくれるか!!なら俺も、俺達も全身全霊になって、神をぶっ倒して来る!!だからお前達もしっかり生き残れ!!そして必ず!新時代へ足を踏み込みな!この場を持って!我々連合改め、人類連合軍結成を!ここに宣言する!!

 

カズマの宣言を受け、連合軍はさらなる活性化と連帯感を生んだ

 

一致団結する連合の姿を見届けたカズマは攻略者パーティー(&幸利、浩介)のいる布陣に来た

 

幸利「とんでもねえな…」

 

浩介「全くだ……よくもまあ…あんだけバラバラだった連合をまとめ上げたな」

 

カズマ「俺一人じゃ無理だったさ…フリード達賛同者がいたからこそここまでまとめることができたんだよ」

 

ハジメ「いや…いくら記憶見せたとは言え…あいつらから信頼を勝ち取ったのは紛れもなくお前だろうが………お前実は天之河兄よりもカリスマあんだろ」

 

カズマ「さあ?それはどうだろうな……まあそれはそうと……お前らわかってんな?開戦が始まったあとの流れは」

 

ハジメ「ああ…しっかりと頭に叩き込んできた」

 

シア「私達攻略者パーティーはこの軍の要であると同時にエヒトを倒す為の最高戦力にして最後の切り札…ですよね」

 

ティオ「じゃがあまり長引けばユエの肉体を完全に奪われ、更には人柱力になってしまう。じゃからそうなる前にエヒトの下へたどり着きエヒトからユエを引き剥がす……そこで」

 

ティオはハジメと光輝の方へ目を向けた

 

香織「私達の中でも個の力で最強のふたり……ハジメ君と光輝君をエヒトの下までの道中援護を私達が請けおう…」

 

雫「でも相手の使徒も同時にしなきゃいけない…だから最初の十分で勝負の流れを連合側の優勢にさせたあと、ハジメ君と光輝は神域へ…残りの私達は機を見て神域へ……」

 

幸利「なあ…一応念の為聞くが…本当に俺と浩介も一緒に行くのか?」

 

カズマ「当然だ。園部に告白して死亡フラグ立てたお前は特にだ」

 

ハジメ「はあ!?お前告白したのか園部に!?」

 

幸利「し、仕方ねえだろ///どうしても戦いの前に言っておきたかったんだよ///」

 

浩介「本当なんで決戦の前夜に告白したんだかこの馬鹿は」

 

ハジメ「…………お前ら」

 

作戦の流れを話し合っていたがは、カズマは攻略者パーティーに声をかけた

 

ハジメ「……礼を言わせてくれ…ユエのこと………助けるために力を貸してくれることを…」

 

ハジメは頭を下げた…この戦いはエヒトを倒すだけでなく、ユエ救出も目標となっている

 

早い話ユエを見殺しにエヒトを倒すなら攻略難易度は大きく下がる…自分達全員の命と世界が掛かった戦い…天秤に掛けたらユエを見殺しにエヒトを倒すべきではないか……ユエの恋人でもない物からしたらそう思えてしまうのではないかとハジメは思ってしまっていた

 

しかし

 

シア「なに当たり前なこと言ってるのですかハジメさん!」

 

ティオ「ユエは妾達の仲間。そして大切な友じゃ」

 

アクア「命かけて助ける理由なんてそのくらいで十分よ」

 

香織「そりゃあユエが居なくなったらハジメ君の隣は空席になって私にもチャンスがまわることになるけど…そんなのつまらないし私にだって情があるんだよ!!ライバルだから!」

 

雫「私だってそう…彼女とはもっと話がしたい…だから絶対に助けようハジメ君!」

 

光輝「……ユエを救うのはついでだ…エヒトを倒す為のな」

 

めぐみん「またそんなこと言って…」

 

ダクネス「まあまあ…ともかく私達に礼などいい。仲間なのだから…友なのだから助けるのは突然だ」

 

カズマ「喧嘩することはあるが…別に俺あいつの事嫌いじゃねえしな…」

 

そうなんとでもないかのようにいう一同に…ハジメはまた頭を下げた

 

ハジメ「……この借りは必ず返す」

 

幸利「悪いなハジメ…俺も浩介もお前達みたいに強くないから…ハジメの恋人さん助ける力になれそうにない…」

 

浩介「けどせめて道中の露払いくらいはやってやる」

 

ハジメ「……ありがとう」

 

そうハジメはふたりの友人にも礼を言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「………さて…………それはそうとお前ら……来たぞ」

 

その瞬間だった

 

世界が赤黒く染まり、鳴動したのは。 そして、カズマ達が向けた視線の先、【神山】の上空に亀裂が奔り、深淵が顔を覗かせた

 

赤黒く染まった世界

 

朝焼けの燃えるようなオレンジ色ではない。もっと人々の不安を掻き立て、恐怖心を煽るような酷く不気味で生理的な嫌悪感を抱かずにはいられない色。言うなれば、魔物の眼だ

そして、異様な色の世界には異様な音が鳴り響く。世界そのものが鳴動しているのだ。大地も、大気も、恐れ戦くように震えながら悲鳴を上げている。 人々が、否応なく世界の終わりが始まったのだと理解させられる中、一際大きな破砕音が鳴り響いた。 ビクッとその身を震わせた要塞の兵士、騎士、冒険者、傭兵、亜人達、魔人達、竜人族達が視線を巡らせる。すると、【神山】の上空に何やら一本の線が見えた。訝しみ、目を凝らしてみれば、歪に歪んだ線は、再度、ビキッバキッと音を立てて四方八方へと広がっていく

 

空に発生した歪な線は、空間そのものに走った亀裂だったのだ。 その亀裂は、まるで人々の恐怖心を煽るように、破砕音を世界に向けて奏でながら、ゆっくりと広がっていき、遂に轟音と共に空間が完全に粉砕された。 ガラスのように吹き飛び散らばるキラキラとした空間の破片

エヒト達が【神域】に戻る為に使った荘厳さすら感じさせる黄金の渦とは真逆の深く濃い闇。渦の代わりに粘性を感じさせる瘴気のようなものを吹き出している。 そこから、黒い雨が降り出した。否、雨のように見える――おびただしい数の魔物だ。空間の裂け目から【神山】の山頂部分へ降り注いでいるのだ。その数は、数万ではきかないだろう。何せ、地上から仰ぎ見る兵士達が黒い雨として視認できるほどなのだ。優に数百万、あるいは数千万に届くだろう凄まじい数だ

 

始まったのだ

 

神にとっては世界の…… 人類にとっては弄ばれた歴史の…… 終わりの始まりが

 

カズマ「アクア!!」

 

アクア「ええ!準備できてるわ!!」

 

カズマに声をかけられたアクアはすぐに動いた

 

アクアの天職『アークプリースト』はあらゆる回復魔法と浄化/退魔魔法、支援魔法を使いこなす

 

その特性上本来なら後方支援にまわるべきではあるが…元々水を司る女神だったこともあり水魔法や水を操る戦い方。更に本人も前に出て戦える為後方支援はあまりやらない

だが今回のような大勢でなおかつ大軍と戦う場合は話が変わる

それまでの前に出て戦う戦い方から支える戦い方へとチェンジする

 

アクアの魔法は基本的に詠唱や難しい魔法陣を必要とせず即効で発動できる

しかし、かける対象が数名ならともかく何十万超えの味方ならば魔法陣の作成、更には難しくて長い詠唱、込める魔力量を変えなければならない

そのためアクアは予めいつでも発動できるよう準備して待機していた

 

アクア「『ゴッド・ブレッシング・ステータス!!』」

 

アクアの持てる最強の支援魔法を連合全てに行き渡らせた

これにより連合側はステータス値が3〜4割まで上昇した

なお大勢にこれだけ支援魔法を掛けられたのはアクアの持つ魔力量が異常なほど高いからだ

しかし、普段魔力切れを起こさないアクアだが流石に今回の戦いではもたないだろうと踏んでいる

 

その恩恵を受けるのは連合軍だけでなくカズマ達攻略者パーティーもそう…

 

そしてこちらでも

 

めぐみん「行きます!行きますよ!!」

 

既に爆裂魔法を撃つ気満々…というより放つ寸前まで来ていためぐみん

 

めぐみんの爆裂魔法は前世の世界でもこの世界でも間違いなく最強の攻撃魔法

その威力は光輝の須佐能乎をもってしても防ぎきれず、エヒトでもまともに喰らえば即死は免れず魂ごと消滅してしまうだけでなく、めぐみんが本気を出せば世界の次元の壁をも破壊する、まさに破壊そのもの

 

爆裂魔法は、使用者の魔力の大半を持っていき、更には難しく長い詠唱をし初めて発動できる

 

しかし爆裂魔法一本で戦うことを決めためぐみんは、爆裂魔法の研究や使用用途、更には手数を増やせるよう試行錯誤した

その結果

少ない魔力で放つミニ爆裂魔法

触れた相手や物、己の肉体に付与させ好きなタイミングで爆発させる爆裂魔法

範囲を絞り一点集中により威力を底上げし放つ爆裂魔法

上空に放ち分裂しそのまま流星群のように降り注ぐ爆裂魔法と言った具合にバリエーションを確立させた

 

更に数え切れないほど爆裂魔法を放ってきたことで無詠唱で発動できるようになった

 

魔法の詠唱のメリットは集中力を高め、発動までの手順を確実にこなすことで100%の威力を発動できる

しかしその変わり発動に手間がかかり、長すぎるとその前に相手から攻撃を受けてしまう

だから優れた魔法の使い手はその間の手順を省くことで相手よりも速く魔法を発動させる

 

逆に無詠唱のメリットは間を省略することによる早撃ちだが、代償として本来の効果、威力が100%に達せられないこともざら…最も優れた魔法使いならばそれでも90%、あるいはそれ以上を発動させられる

 

今回めぐみんはアクアの支援魔法…更に詠唱、極めつけは昇華魔法を組み込み威力を底上げ

 

結果放たれるは200%超えの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

めぐみん「エクスプロージョン!!」

 

めぐみんの杖からは膨大な魔力で生み出した高出力の分厚い光線が、神域目掛け放たれた

 

光線は神域の出入り口である裂け目付近、更には神山付近にいる大量の魔物に神の使徒全てを巻き込む広範囲の大爆発が引き起こされた

 

結果…数千万を超える魔物や使徒の大半がめぐみんの爆裂魔法の餌食となり消滅した

 

連合軍「「「「「「「「「「ウォオオオオオオオオオオオオッーーー!!!!!!」」」」」」」」」」

 

空を覆うほどいた敵をたった一発で大半を滅ぼしてみせためぐみんの爆裂魔法に連合軍は歓声をあげた

 

カズマ「エヒト…そこで見てるかどうか知らんが言っておいてやる。お前は俺達人類が神に挑む挑戦者(チャレンジャー)だと思ってるようだが勘違いすんなよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

挑戦者(チャレンジャー)はそっちだからな?

 

その言葉ともに人類と神の最終戦が開戦したのだった





今回の後半の流れが完全に呪術廻戦なのは作者が影響されたからですはい…


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第七十一話 人類連合軍対神の使徒


今回長らく判明してなかったカズマ達伝説のパーティーのアーティファクトが判明します。



 

カズマ「進め!!お前らー!!」

 

連合軍「「「「「うおおおおおおおお!!!」」」」」

 

迫りくる神の使徒と魔物の群れに対し人類連合軍はどうにか優勢を保つことが出来た

 

めぐみんの爆裂魔法による一番槍がよくも連合軍の士気を高めることに成功した

 

連合軍はアクアの支援魔法によるステータスアップに加え、カズマと分身体ハジメが急ぎで作った量産型のアーティファクトを持ち、次々と迫りくる敵に放つ

 

連合軍側では、カム達ハウリアやカトレアが魔物相手に無双している

これまでオルクス大迷宮の魔物相手に実戦訓練を積んできたこともあり、連合側でも大きな戦力を持つ者達となった

 

正直魔物程度ならどうにかなるが問題は神の使徒…皆が恐らくステータス値一万超えの者ばかり…はっきり言って物量で押し潰されても仕方ないほどの戦力差がある

 

対抗できるのは攻略者パーティーか竜人族、フリードくらいしか存在しない現状

 

かと言ってなにも考えずに力を振るい続ければいずれは息切れ…もといガス欠となり逆に追い詰められるので、各々自身の体力と魔力を考えての戦闘スタイルを取る

 

本来ならば光輝の須佐能乎やハジメの木遁(自然を生やし操る能力 命名者光輝)をフルに使って一掃したいがハジメと光輝はこの先に控えているエヒトとの戦いのため無駄に力を使うことができず、力を抑えながら相手をする

 

光輝「『豪龍火』!!」

 

ハジメ「『木龍』!!」

 

アクア「『水龍弾』!!」

 

ハジメと光輝とアクアがそれぞれ火の龍と木の龍と水の龍を生み放ち、それが神の使徒を喰らう

 

特にハジメの木龍には巻き付いた対象の魔力を吸収し成長する性質を持ち、サイズの肥大化だけでなく身体からは更に木々が映え、そこから巨大なツタが飛び出して魔物や使徒を巻き込む

 

更にハジメ制作のアーティファクト『太陽光集束型レーザー  バルスヒュベリオン』により使徒たちの上空から光の豪雨が放たれ死滅していく

 

ダクネス「『次元斬』!!」

 

ダクネスは己の長剣『オーディン』を振るい、次元ごと相手を斬る斬撃を飛ばした

 

『オーディン』はカズマ作のアーティファクトであり、剣には魔法だけでなく己の技能を付与させる事ができ、付与させた魔法技能を高めるだけではなく、ダクネスの持つ技能『痛覚変換Ⅹ』により、受けたダメージを力に変換させることができ、これを敢えてオーディンに付与させることで高い攻撃を生み出す

 

更にダクネスには一度受けた攻撃に対し強い耐性と防御を得ることができる防御系スキル『不屈の耐性Ⅹ』を持っており、前に出て盾になることができる

 

そのダクネスの傍らではめぐみんもカズマ作杖型アーティファクト『ドーン・トワイライト』から爆裂魔法を射出していた

その効果は威力を上げるだけでなく必要魔力量の低下とある程度オートで魔法が敵に向かって飛んでいく

 

アクア「『大瀑布』!」

 

更にアクアが同じくカズマ作の杖型アーティファクト『ポセイドン』から広範囲にわたり、数十メートルという高さまでうねり上げた水を巨大な滝の如く放出し、使徒たちを巻き込み一気に地面へと叩きつけた

その威力のまさに自然災害の後をすら想起させるほどのとんでも威力だった

 

杖の効果はその場に存在する全ての水を操るというもの。元々アクアは水を操る能力を持っていたが杖を加えることでより精密に、それでいて水を操る為に使っていた魔力を他にまわすことができるようになったため魔力の節約ができる

更にはアクアの最大魔力値分だけ、水を己の魔力として還元できる効果もついており、水さえあればほぼ永久機関となった

 

香織「うわ…改めてみるとアクアちゃん達規格外すぎるけれど」

 

シア「転生者も伊達じゃないですね」

 

雫「ふたりとも!無駄口叩いてないで身体動かしなさい『飛雷神斬り』!」

 

転生者組の戦闘を見て圧巻していたシアと香織に雫は注意しながらも神の使徒数体の首をはねた

 

香織「いや雫ちゃんも雫ちゃんでなに使徒圧倒しちゃってんの!?」

 

雫「相手がなにかしてくる前に一瞬で片をつけてるだけよ!それにハジメ君や光輝にカズマ君と比べたら大したことないわ!!」

 

シア「比較対象おかしくありませんか!?」

 

香織「そういえば雫ちゃんって何気にカズマ君に良く揉まれてたね」

 

ティオ「お主等何を話しておる!!」

 

その傍らではティオが魔物の群れに向かってブレスを吐き殲滅させていた

 

カズマ「やってんなお前達。なら俺も!」

 

そう言うとカズマは片手に魔力と風を集めさせ乱回転する球体を作った

 

香織「嘘!?」

 

雫「本当に使えるんだ…ハジメ君の螺旋丸を…」

 

カズマ「いーや、これは螺旋丸じゃねえよ」

 

その言葉通り、カズマの作った螺旋丸を核に、その周りを魔力で生んだ風が巨大な手裏剣の形状をとり、振動と風を切るような高音が発生する

 

アクア「!あれって!!」

 

雫「風の手裏剣!?」

 

光輝「!」←忍者モノ大好き

 

カズマ「見てろよお前ら!!こいつがハジメの螺旋丸を俺なりに考え発展進化させた新技、『螺旋手裏剣』だ!!」

 

そう叫びながら螺旋手裏剣を前方から攻めてきた神の使徒達に投げつけた

 

螺旋手裏剣は神の使徒達の元へ到達するとそこから螺旋丸が展開し、表面の風を中心に収束し微小な刃状に形態変化した大量の風が螺旋丸の乱気流に巻き込まれる形で神の使徒達を切り刻み、最後には身体が残ることなく細切れになった

 

カズマ「っしゃあ!!初実戦成功だぜ!」

 

ハジメ「いやお前なに俺の技進化させてんだ!!」

 

香織「うわ…血も骨も残らず細切れにされてる…」

 

光輝「…(俺の写輪眼でも見切りきれないほど攻撃速度と回数……しかも直撃せずとも手裏剣状の風に触れただけで切り刻まれる…)」

 

幸利「『影縫い』!!」

 

そこへ幸利が先程の螺旋手裏剣を受け負傷している使徒達の動きを止め

 

浩介「『無音殺法』!」

 

浩介が音もなくナイフ型の量産アーティファクトで急所を貫き始末する

 

カズマ「よし!こんだけ狩れば十分か。ハジメ!光輝!行って来い!!」

 

ハジメ/光輝「「!」」

 

カズマが合図を飛ばすとハジメは宝物庫Ⅱ(指輪型)、光輝は宝物庫(巻物型)からそれぞれバイクを取り出しそのまま神域のゲートに向けて飛ばす

 

とはいえ神域のゲートは神の使徒達、あるいはエヒトの赦しを得た者のみが出入りできる仕組みとなっているため、ハジメ達ではゲートを通り抜けられない

 

当初はハジメはクリスタルキー(ユエが居ないため一人で作らなければならず劣化版になった)を作りそれで無理矢理突破するつもりだったが

 

アクア「あ、私ならあのゲートの結界壊すことできるわよ」

 

と、アクアがなんてこともないかのような口調でサラッと言いのけてきた

 

それに対しハジメは『ほんとなんなんだこの女は……ああそういえばマジモンの女神だったわ』とでも言いたげな顔を浮かべていた

 

ハジメは自身の創造の力で生やした極太で長い根をゲートまで伸ばし、そこから光輝と共にバイクで走り抜く

 

カズマ「邪魔だ」

 

道中襲ってくる神の使徒達には、後ろからカズマが魔力活性による身体強化と風と雷を纏う『疾風迅雷』により高速移動し一瞬で殲滅する

 

そのカズマの両手には二本で一対の刀天牙(テンガ)地牙(チガ)が握られていた

 

元々2つの刀はカズマが急場凌ぎに作り、付与した魔法の効果を強めることと頑丈であるくらいでしかなかったが、準備期間中に改めて二本の刀に効果付与をした結果、現在の天牙と地牙は(真)のウェポンとなった

 

天牙と地牙はそれぞれ魔力を込める量が多ければ多いほど如何なるものに対し斬ることができ、更に魔力を流すことで姿形を好きなように変化させられる

刀の形状はあくまでデフォルトであり、望めば槍や弓矢、更にはナイフや銃剣にも変化させられ、カズマの意思で浮遊状態になったりオートで敵を斬り攻撃を防いでくれる

 

極めつけは例え手元から離れても心のなかで戻るよう念じると一瞬で手元に戻ることができ、刀には飛雷神のマーキングがなされているのでいつでも瞬間移動が可能だ

 

今ハジメ達に迫った神の使徒達はカズマの高速移動によりまるで某巨人漫画の人類最強の兵士の如く項事首チョンパされたのだった

 

ハジメ「うわ…あいつ本当に人間だよな?俺転生眼を開眼させた後でも勝てるビジョン湧かねえんだが」

 

そう背後で神の使徒達を殲滅しているカズマの姿を見てボヤくハジメ

 

その更に後方からアクアが杖から強い光の光線を飛ばし、カズマや光輝にハジメの上空を超え、ゲートに直撃する

 

少しの間ゲートと光線の衝突により、世界にその衝突音が響き渡り拮抗の末、ゲートにヒビが入り遂には空間が壊され、穴が空いた

 

【神域】への道が、開いたのだ

 

アクア「ゲートが開いたわ!!」

 

カズマ「行けお前ら!!ユエを!世界を救ってこい!!」

 

めぐみん「私達もいずれそちらに行きます!」

 

ダクネス「それまで頼むぞ!!」

 

シア「ハジメさん!光輝さん!ユエさんを救ってきてください!」

 

ティオ「負けるではないぞ!!」

 

香織「いってらっしゃい!!」

 

雫「無事にね!」

 

幸利/浩介「「勝ってこい!!」」

 

ゲートが開き、通り抜けようとするふたりに一同は声を上げて声援を送る

 

ハジメ「ああ!!行ってくる!!」

 

光輝「……」

 

それにハジメは仲間たちへ顔を向け大きな声を上げ、光輝は振り向かず無言で片腕を上げてみせた

 

そしてふたりはそのままゲートを通り抜けたその後には、ヒビ入りの穴の入ったゲートだけが残っていた

 

カズマ「……頼むぞお前ら…………悪いがここから先は通行止めなんだよ」

 

ふたりを追おうとゲートに近づく神の使徒達と魔物の前にカズマが立ちはだかる

 

その両手の刀の刀身には天照の黒炎と風魔法の風が纏っており、刀身を中心に激しく回転し黒炎の火力と速度が徐々に上昇して行き

 

カズマ「ここを通りたかったら……この俺を倒してから通るんだな!!『黒炎嵐』!」

 

その言葉と共にカズマは使徒達に向かい飛びかかりながら刀を振るう

 

その結果、黒炎の竜巻が広範囲に放たれ使徒達を巻き込んでいくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「……」

 

ハジメ「……こいつは…」

 

神域に無事侵入を果たしたハジメ&光輝コンビ

 

しかし、彼らを待ち受けていたのは数百超えの神の使徒達だった

無論殲滅するつもりでいたのだが次の瞬間ふたりの足元から巨大な魔法陣が出現したかと思えばふたりの身体に鎖の紋章が浮かび上がり消えた

 

特に身体に違和感はなかったのだが

 

光輝「……魔法封じの結界か…」

 

ハジメ「…ああ…しかも宝物庫から武器取り出そうとすると結界が妨害して取り出せねえ」

 

上空にいる使徒達のうち複数人の手から眩い光が込み上がっており、これが魔法陣の維持を果たしていた

 

これによりハジメと光輝は魔法、更には武器の取り出し使用不可状態となった

 

結界維持をする使徒達の中央には指示を出している…恐らく部隊長に該当する使徒がこちらを見下ろしていた

 

ハジメ「なるほどな…まともにやりあっても勝ち目がないから……こんなもんで俺達を縛るのか」

 

そのハジメの言葉に部隊長……ゼクストは答えた

 

ゼクスト「貴方方は我が主から特に警戒するよう申されていた……いくら貴方方が強かろうとも…流石にこの数…なにより戦う手段を封じられればどうにもできまい」

 

そうまるでこちらの詰みかのように発したゼクストの言葉を聞いたふたりだったが

 

ハジメ「……フッ…クククク!!」

 

光輝「…ハッ……フハハハハハハ!!」

 

それに対しふたりはただただ笑うだけだった

 

ゼクスト「な、なにを突然笑うのですか?……追い詰められておかしくなりましたか?」

 

ハジメ「なぜ笑うのかって?可笑しいからだよ!なあ天之河?」

 

光輝「ああ…感情を持たない貴様ら人形でも冗談吐けるとは驚きだ……だがそれ以上に」

 

そう言いながらハジメは眼帯を…光輝は目隠しを外した次の瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ/光輝「「この程度で俺達を本気で縛れると思っているお前ら/貴様ら人形共に驚きだ」」

 

一瞬でゼクストを始めとした結界維持をしていた神の使徒を素手で首をもぎ取り絶命させた

 

まわりにいた使徒達は驚愕した

魔法も武器も使えないはずのふたりに仲間が瞬殺されたことや、ふたりの動きを全く見えなかったことも

 

ハジメ「お前ら始末するのに武器も魔法もいらねえ、素手で充分なんだよ

 

光輝「丁度いい。エヒト殺る前のウォーミングアップに付き合ってもらおうか……簡単に壊れるなよ?

 

その瞬間

神の使徒達は瞬時に理解した

 

狩る側だと思っていた自分達は狩られる側であり、狩られる側だと思っていたイレギュラー達こそが狩る側であったのだと

 

それを完全に理解したその時には…死は眼の前に迫る直前だった

 

 

 




宝物庫はそれぞれ

ハジメ→指輪型

光輝→巻物型

カズマ→ブレスレット型


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第七十二話 戦況

 

龍太郎「はあ…はあ…クソ!多すぎるぜ!!」

 

街内では龍太郎をはじめとした地球組達がそれぞれ皆カズマから言われた言葉を守りながら魔物達と戦っていた

 

カズマ『いいか。お前達は魔物とだけ戦え。使徒の方は俺達がやるからお前らは確実に勝ててなおかつ死ぬなんてことがないよう常に戦況見極めつつ互いの背中を守りながら戦え。これまで度々お前らに教えた集の戦い方でだ。間違っても個の戦い方でやるなよ?危なくなったらすぐまわりを頼れ!いいな!!』

 

カズマの言葉をしっかりと脳に刻み互いを背中をしっかりと守り合いながら確実に仕留めて行った一同だがやはり数は向こうが多く、今のところ使徒がこちらに来ることは無いが厳しい戦いは続いていた

 

鈴「さ、坂上君!あまり無理しないで後ろに一旦下がって!!アヤヤンが回復してくれるから!」

 

龍太郎「そ、そうもいかねえよ。俺が前に出て戦わなきゃ、崩れちまう!!」

 

地球組でも特に強い勇輝が居ない今、最も強いのは龍太郎となり、その分負担がのしかかっている

 

勇者パーティー出身だった彼と同じく前線組だった永山は別の場所で戦っており、尚更一人で戦うことの負担が押し寄せてくる

 

龍太郎「なにより俺がこんな所で休んでられねえんだよ!!佐藤達がああやって使徒達と戦ってるっていうのに、止まってられねえ!!おらあぁぁぉ!!!」

 

龍太郎はそう言うとガントレットに魔力を込め大型の魔物を殴り飛ばした

 

鈴「……(佐藤君……)」

 

龍太郎の言葉を聞き鈴はこの場に居ない自分達のリーダーであるクラスメイトの言葉を思い出した

 

カズマ『使徒はそっちに一匹たりとも行かせねえ。そして恵里は俺に任せろ。だから谷口、お前は結界でクラスメイト達を守ってくれ。大丈夫だ。お前の親友は俺が必ず連れ戻してきてやる!!』

 

鈴「……(お願い…エリリンを……スズの親友を助けてあげて)」

 

谷口鈴にとって中村恵里は高校に入ってできた親友だった

高校に入ってから出会い、なぜか一緒にいて心が安らぐ存在だと感じた

また恵里自身、カズマとアクア以外の同年と一緒にいて楽しいと感じたのは鈴が初めてであった

恵里もまた鈴のことを親友だと思っている

 

だからこそ…神の使徒が王国を攻めてきた時、鈴を守る為一人で神の使徒に挑みそのまま敗北し捕らえられた

 

……親友が連れて行かれる時……助けることができなかった…手を伸ばすことができなかった…

 

鈴「……(本当は……スズが助けたかった……助けに行きたかった……でも…行けばきっと足手まといになる……邪魔になっちゃう……だから…スズはスズのできることをする!)」

 

鈴「絶対生き残る!またエリリンに会うために!!」

 

鈴に向かって急降下してくる魔物の眼の前に結界の壁を出現させ止めた

 

龍太郎「!谷口下がれ!!また上からくるぞ!!」

 

上空からは先程の魔物と同種が群れをなして急降下してくる

先程の様に結界の壁で止めようとすれば、数の暴力で破壊されてしまう

 

それでも回避するための時間稼ぎにしようと結界を貼ろうとしたが間に合わない

 

龍太郎「クソ!こうなったら俺が盾に『天翔閃』!っ!?」

 

その時、後方から飛んできた大きな光の斬撃が魔物達を飲み込み消失させた

 

鈴「嘘!?」

 

この攻撃に見覚えのあった鈴は思わず口に手を当てた

 

なぜならこの場に居ないはずの者の攻撃だったのだから

 

龍太郎「………たくよ……遅えんだよ親友!」

 

龍太郎はそれに悪態つけながら笑みを浮かべる

後ろは振り返らない

なぜなら後ろには彼がいるから

なら自分はなにも心配せず前だけ向けば良い

 

そう思いながら次々と魔物を倒していくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

勇輝「……」

 

後方から光の斬撃を放った主…勇輝はそれを見届けると地面に刺した聖剣を抜いた

 

勇輝「……向こうは……心配ないか」

 

そう言うと勇輝は聖剣を握りながら建物を飛び移り他のクラスメイト達が戦っている街内を駆け回る

 

勇輝「……(ここで俺にできることは……彼らと比べれば少ないかも知れない)」

 

分身体カズマに殴られ、一喝された勇輝はその後も部屋に閉じこもっていた

 

しかし、ただ閉じこもっていたわけではなかった

その間、自分の中で自問自答を繰り返し、自分を見つめ直していた

自分が正義を志すようになったあの時から…そして分身体カズマに殴られたその日までを振り返りながら

 

そして、開戦が始まったその少し前にようやく自分の中で区切りをつけた

 

勇輝「(今更俺に正義の味方を名乗る資格はないだろうな……だけど…目の前で死にそうになっている人達を放っておくことは出来ない…でも力が乏わなければ…知恵が乏わなければ…心が乏わなければ…助けられない人がいる……俺は今まで…足りないくせに身の丈に合わない人助けをしていた…本当に人を助けたければ…力も知恵も理解する心も持つべきだった…だから俺は今自分にできる精一杯で、人を守る!!そして……この戦いを生き抜いたあとは…これまで迷惑かけた皆…雫に…そして光輝に謝りたい……殺されるかもしれない…許されないかも知れない……けどそれでも…生き残らなければ……謝らなければ…俺は…天之河勇輝は前に進めない!!)いつまでも成長しないままの俺だと思うなよ佐藤…」

 

そう呟きながら光輝は眼の前から迫ってくる魔物の群れに飛びかかっていった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「あ゛ぁ゛ぁ゛…しんど。お前何匹殺ったか?俺百匹から先数えてねえけど」

 

光輝「関係ない。千だろうが万だろうが、目の前にいるなら問答無用で殺るだけだ」

 

同時刻

神の使徒達を殲滅し終えたふたりは身体についた汚れを払っていた

 

ハジメ「しっかし…随分と時間掛けちまったな…いい加減先を急ぐか」

 

光輝「…フン」

 

そう言うとふたりはバイクを走らせ神域内を進んでいった

 

ハジメ「ひでぇ場所だな……ここは」

 

ハジメが神域を見てそう呟いたのも無理もない

 

なぜなら神域内は果てというものが認識できない、様々な色が入り乱れた空間。まるでシャボン玉の中の世界に迷い込みでもしたかのようだった

そんな不思議な色彩の空間には、白亜の通路が一本、真っ直ぐに先へと伸びていた。否、通路というよりは、ダム壁の天辺のように、〝巨大な直線状の壁の上〟と表現するのが正しいだろう

先へ進むと目の前に波紋状の空間の入口が存在しており、そのまま向こう側へバイクで突っ込んだ

 

その先は整備された道路に高層建築が乱立する地球の近代都市のような場所だった。

 

ただしもう人が住まなくなって何百年も、あるいは何千年も経ったかのように、どこもかしこも朽ち果てて荒廃しきっていたが。 今にも崩れ落ちそうなビルもあれば、隣の建物に寄りかかって辛うじて立っているものもある。窓ガラスがはまっていたと思われる場所は全て破損し、その残骸が散らばっていた。地面は、アスファルトのようにざらついた硬質な物質が敷き詰められているのだが、無数に亀裂が入り、隆起している場所や逆に陥没してしまっている場所もある。 建物壁や地面に散乱する看板などに薄らと残る文字が地球のものでないことや道路につきものの信号が一切見当たらないこと、更にビルの材質が鉄筋コンクリートでないことから、辛うじて地球の都市ではないことが分かる

 

ハジメ「大方、昔、潰した都市でも丸ごと持って来たんだろう。潰した記念にとか、クソ野郎のやりそうなことだ。建築技術一つにも今のこの世界にはない魔法が使われていた形跡があるし、散々発展させてから、トランプタワーでも崩すみたいに滅ぼしたんだろう」

 

光輝「……まるで実写版バイオでも見ている気分だ」

 

そんな人々が積み上げてきたものを、あのエヒトルジュエは、嗤いながら踏み躙ったに違いない。哄笑を上げるエヒトルジュエの姿が目に浮かんで、ハジメと光輝は凄まじく嫌そうな顔になった

 

荒廃して見るも無残な状態になっているとはいえ、現代地球の都市部に近い町並みに、若干の郷愁と、エヒトを放っておけば地球もこうなるのだと見せつけられた気がして、ハジメはより気が引き締まる思いだった

 

ハジメ「……チッ、ここにもいやがるか。しつけえな!!」

 

荒廃した建物から神の使徒達が飛び出してふたりに襲い掛かってきた

 

光輝「いちいち立ち止まって相手にするのも面倒。このまま走り抜けるぞ!」

 

そう言いながらバイクの速度を上げるが後ろから追いかけてくる使徒達に業を煮やし

 

光輝「邪魔だ!」

 

バイクを走らせながら須佐能乎第二形態(羽織を着た武将)を発現させ、後方に向かい天照付きの矢を放つ

 

ハジメ「消え失せろ!!」

 

ハジメもまた木人を複数体出現させ使徒達の相手をさせた

 

そうして迫りくる使徒達を潰しながら先へ進むと、次の空間へ行くための入口に、ハジメの木人や光輝の須佐能乎の倍以上の巨体の神の使徒、ゴリアテが立ちふさがる

 

バイクに乗り突撃するふたりにゴリアテは、手持ちの巨大な剣を振り下ろし、ふたりを仕留めようとしたが

 

ハジメ「合わせろ!」

 

光輝「お前がな!」

 

しかし、ふたりは剣が振り下ろされる瞬間バイクから飛び、巨剣の平面に着地し、そのままがら空きになった胴体にハジメは螺旋丸、光輝は千鳥を構えた腕をそれぞれ突っ込む

 

この際、千鳥の雷が螺旋丸と一つになり、風と雷を纏った球体となり、それがゴリアテの胴体を貫く

 

ハジメ/光輝「「『颶風雷旋丸(ぐふうらいせんがん)!!』」」

 

ふたりの技を貫かれたゴリアテはそのまま後方の別空間に倒れ、ゴリアテから飛び降りたハジメと光輝は、運転手もいないまま走るバイクに飛び移り、次の空間へ突っ込むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「…やってくれやがったな…エヒト」

 

戦場ではカズマ達攻略者パーティーが使徒達を相手に無双し、死傷者の数を最小限に収めている

 

反対側の戦場ではゴーレム形態だったミレディが人間だった時の肉体に似せて作ったボディに魂を入れ、配下であるゴーレム軍団引き連れ戦ってくれている

 

だいぶ戦局が人類側の優勢に安定していた時だった

 

神域のゲートから使徒達と共に舞い降りる者がいた

 

その者を見た瞬間、一瞬でカズマとアクアの表情が憤怒へと変わり、その他の面々は驚愕した

 

舞い降りたその者は他の神の使徒のような翼をしていた

ただしその色は他の神の使徒の様に白でもなければ黒でもない、薄汚れた印象を与える灰色の翼

 

だが一同が驚愕したのは翼の色ではなかった

その翼の主が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「……恵里」

 

そう…その者は香織達のクラスメイトであり…カズマとアクアにとって妹分だった恵里だったのだから

 

恵里「……」

 

その恵里はというと神の使徒の様な翼を持ち、羽が地面に落ちると分解が発生する

瞳は虚ろとなっており、表情も無表情だった

極めつけは恵里からは黒い魔力が溢れており…それだけでまわりの使徒達とは比べ物にならないほど強いことがわかる

恐らくエヒトに肉体を使徒仕様に改造され、更に手を加えられたのだろう

 

今の恵里からは一切の生気を感じられなかった

 

恵里「……」

 

恵里が無言のままこちらに手を向けた瞬間、使徒達が一斉に光線を放った

今の恵里はエヒトに操られている状態であり、使徒達の司令塔でもある

 

光線の雨を浴び、土煙に巻かれた一同だったが

 

カズマ「……ざけやがって

 

その土煙から手裏剣状の風の塊や火炎弾、圧縮した水のレーザーに斬撃が放たれ、それが使徒達に命中する

 

カズマ「やってくれたな……許せねえ」

 

アクア「ええ…許せないわね…」

 

めぐみん「……アクア…カズマ…」

 

ダクネス「………シア達はまわりの使徒達を頼む…」

 

シア「え…で、ですが…」

 

ティオ「…シア…ここはカズマ達に任せ…妾達は妾達のやるべきことをしようぞ」

 

香織「……そうだね…」

 

雫「……私達はあの人たちの邪魔にならないよう立ち回るわよ」

 

幸利「…俺と浩介は残ってカズマ達のサポートにまわるわ」

 

浩介「そうしなきゃ俺達死ぬしな……」

 

その言葉とともにシア達はまわりの使徒達の始末に辺り、カズマ達伝説のパーティーと幸利&浩介は残るのだった

 

カズマ「待ってろよ恵里」

 

アクア「私が…私達が……すぐ助けるから!!」

 

 



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第七十三話 中村恵里という女/運命との出会い


今回は本編でもちょいちょい出番があり、カズマとアクアの妹分にして、原作と違い救済されたキャラクター

中村恵里の過去と出会いを描いています。

なぜ本作の恵里は原作のような性格にならなかったのか、なぜ恵里はふたりの妹分になったのか

どうぞご覧下さい。


 

中村恵里の幼少期は、世間の少年少女が送ってきたそれと比べても、実に悲劇的だった

既に夢も生きる理由も亡くしていた光輝とは別の意味で悲惨だった

 

彼女には娘に優しい父親と母親がいた(・・)

そう…いた(・・)のだ

 

恵里が五歳の時

父親と二人で公園に遊びに行って、はしゃいだ恵里が不注意にも車道に飛び出てしまい、悪魔的なタイミングで突っ込んで来た自動車から恵里を庇った父親が亡くなったという、ある意味、ありふれた交通事故の結果である

 

だが、結末としてありふれていなかったことが一つ。それは、その後の母親の態度だった

恵里の母親は幼心にも恥ずかしくなるくらい父親にべったり……それは単に夫を愛している、というだけでなく、もはや依存といってもいいレベルだったからだ

だからこそ、元々精神的に強くはなかった恵里の母親は、最愛にして心の支柱たる夫の死に耐えられず、その原因を作った幼い自分の娘――恵里に牙を向けるのだった

普通なら、父親の死を目の当たりにして傷ついているはずの娘を、涙を呑みながら支えるだろう

だがこともあろうに、恵里の母親はその憎悪を何のオブラートに包むこともなく恵里へと向けた

恵里の母親にとって、娘と夫を天秤にかければ後者に傾き、娘を愛していたのも、夫の娘だからという、それだけのことだった

 

そうして毎日のように行われる暴力と、吐き出される罵詈雑言に恵里は耐えた続けた

母親の「お前のせいで」という言葉を恵里は、納得してしまったからだ

自分の不注意が父親を殺した――誰よりも、そう信じていたのは、恵里自身に他ならなかった

 

そんな厳しい環境にいて笑顔になどなれるはずもなく、恵里は暗い雰囲気を纏う子として学校でも一人で大人しく、まるで嵐が過ぎ去るのをジッと蹲って待っているようなそんな様子で、それが同年代の子達には不気味だったのだろう

 

そんな孤独と自責と心の痛みと寂しさ……恵里の心は限界に近づいていた

 

そんな恵里に転機が訪れたのは九歳の頃だった――小学三年生になったある日

母親が家に知らない男性を連れて来たのだ。ガラが悪く、横柄な態度の大人の男。母親は、その男に甘ったるい猫なで声を発しながらべったりとしなだれかかっていた

 

誰かに支えて貰わなければ生きていけないほど心の弱い母親だからこそ…その父親の変わりを見つけた

 

男は典型的なクズそのものだった

そのうえ男の恵里を見る視線は、幼い少女に向けていい類のものではなかった

体を這い回るような気持ち悪さに、恵里は今まで以上に、家の中でも息を殺すようにして過ごした。それでも、男の言動は徐々にエスカレートし、やがて、恵里は自分を〝僕〟と呼び、髪を乱暴なショートカットにするようになった。それは、〝少女と見られなければ〟という小さな恵里のささやかな自衛手段だった

 

しかし、事件は起きた

恵里の母が居ない時に男が恵里に欲望の牙を剥いたのだ

幸い、恵里の悲鳴を聞きつけたご近所の人が警察に通報したおかげで、大事に至らなかった

 

いつかこんな日が来るのではないかと思っていた恵里だったが、これで母もようやく、目を覚ましてくれるはずだと思っていた

自分の娘を襲うような男とは縁を切って、父を思い出してくれるはずだとそう、思っていたのだ

 

だがそんな恵里に待っていのは母からの今まで以上の憎悪だった

誰かに依存しなきゃ生きていけない母親だからこそ……二度も依存先だった男を恵里が原因でいなくなってしまったことでついには恵里を自身の敵と認識するようになったのだった

 

この時になって、ようやく理解した

 

母は自分を愛さない。愛してなんかいない

 

昔の母になど戻らない。昔の穏やかな姿ではなく、眼前の醜さに溢れた姿こそが、母の本性だったのだ、と。

 

そう理解し――恵里は壊れた

 

信じていたものは全て幻想だった。耐えてきたことに意味はなかった。そして、この先の未来にも希望はない。幼い恵里が壊れるには十分過ぎる要因だった

 

その翌日

恵里は生きることに疲れ果て…自殺する決意をつけ、家を飛び出した

 

そうして当てもなくふらふらと彷徨い、川までたどり着いた

その上に架かる鉄橋の上からぼんやりと下方の流れる川を見つめていた恵里は、ここで死ねれば、その流れのままに、誰もいない場所へ運んでもらえるのではないかと思ったのだ

 

そうして恵里はその細腕によりどうにか持ち上がり、上半身が大きく欄干の外へとはみ出し、そのまま吸い込まれるように橋の下へ……というまさにその時

 

声を掛けてきた者がいた

 

その者こそ恵里もよく知っている、同じ学校で人気を一身に集める、輝いている男の子――天之河勇輝だった

振り返った恵里の暗い表情を見て、尋常ならざる事態と察した勇輝は、恵里を無理やり欄干から引き離し、その正義感を遺憾無く発揮した。 しつこく事情を尋ねる勇輝に、恵里はかなり省略した説明をした

 

端折りに端折った恵里の説明を聞いた勇輝は、こう理解した。 学校で孤立している恵里は、そのことで父親に厳しい躾を受けた。母親に助けを求めたら、母親まで父親と一緒に自分を叱った。味方がいなくて、悲しんだ恵里は自殺しようとした

 

断片的な情報だけなら間違いとは言えない

まだ幼く、性善説を前提とした思い込みが激しかった勇輝に、恵里の母親の行動原理など理解の埒外であったし、大の男が自分と同い年の女の子を欲望の捌け口にし、挙げ句母親が逆に子供の方を責めるなど想像も出来ない事態だった

そう理解した勇輝は、当時から女の子達を虜にした笑顔と力強さを以て、恵里の頬を両手で挟みながら至近距離で宣言した

 

勇輝『 ――もう一人じゃない俺が恵里を守ってやる』

 

言ってしまったのだ。壊れた少女の心に、自分は誰にとっても無価値なのだと理解した直後に、守るといつも通りに

 

学校で一番人気のある王子様のような男の子から劇的とも言えるシチュエーションで、そんなことを言われ、ずっと誰かからの愛情を求め続けた幼い少女にとって、その言葉は余りに強烈だった

 

しかも、その日、どうにか自殺を思い止まり、母親に追い出されるように学校へ行かされた恵里は、クラスの女子達が次々と明るく自分に話しかけてくるという状況に驚愕し、しかもそれが、勇輝の一言でなされたということを知って落ちたわけである

 

この時の恵里は有頂天だった

自分を守ると言った王子様

自分は、勇輝によって生まれ変わったのだと

だから、これからの人生は、輝く勇者のような彼と共に、同じように生きていけるのだと

 

だからこそ児童相談所の職員が恵里の母親の素行から虐待を疑い、幾度か調査に訪れることがあったときも

勇輝から引き離されることを拒むために全力で〝母親大好きな女の子〟を演じた

 

そんな恵里を母親は明確な恐怖へと鮮やかに変わっていくさまを見た恵里は幼いながらも理解した

やり方一つで、立場など、感情など容易く反転するのだと。今までの暗さが嘘のようにニッコリと笑ってやるだけで、母親は途端に目を逸らして口を噤む

 

母親をそれとなく脅して、家に生活費だけは入れるように仕向け、勇輝の傍にいられるよう環境を整えて……自分は王子様に選ばれた特別なのだと確信して……

 

だがそれもすぐに壊れるのだった

 

それは…いつものように近所のコンビニでお菓子買った帰りのことだった

 

丁度目の前を歩く勇輝の姿が目に入り駆け寄った

 

彼を抜き去り振り返り声を掛けようとして気がつく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼は勇輝……学校で女子から人気者の王子様天之河勇輝ではなく…その双子の弟でありかつては勇輝同様人気者だったもう一人の王子…否…墜ちた元王子、天之河光輝だった

 

自分の好きな人を見間違えたことについ呆然としていた所

 

光輝『……お前か…あいつの言っていた自殺未遂の同級生ってのは……あいつのそばをうろつく奴等といいお前といい、随分とめでたい奴らだな』

 

恵里『……え?なに言って…』

 

光輝『大方お前もあの偽善野郎に甘いセリフ言われた口だろ?……それで自分はあいつに救われた…あいつに選ばれたって都合よく解釈してるんだろ?……生きることから逃げたお前らしい…実に現実逃避な考えだな』

 

突如光輝の口から発せられたその冷たい言葉に思わず口を開き戸惑う恵里

 

光輝『言っておくがあいつに期待するだけ無駄だ…あいつにとってお前の自殺未遂や親からの虐待なんざ既に終わった問題…そしてお前自身終わった存在……あいつはそう認識している。アニメでヒーローに助けられた奴が、次の話からは全く出てこないのと同じようにな………』

 

恵里『え…いや…ちょ…ま、まって…よ…』

 

光輝の言葉を聞き、徐々に理解し始める恵里…いや…ずっと気づかないふりをしていたある事に気づき始めていた

 

それは……守ると言った勇輝自身は…まるで恵里をその他大勢と同じようにしか接してくれない

何故か勇輝の特別に見える女の子達

 

それを見るたびにその場所は「僕の居場所でしょう?」と思っていた

 

親しそうに話しかけてくれるクラスの女子は『勇輝の頼みだから』そうしているだけ

 

そして…恵里は理解した

 

勇輝の隣には、あの早朝の鉄橋で言葉を交わしたときよりもずっと前から、特別が侍っており、自分の居場所などなかったということを

 

恵里『あっ…ああぁ!!』

 

そのことを完全に理解した恵里は崩れ落ちる

 

光輝『……軽い気持ちでお前に甘いことを言ったあいつもあいつだが……目の前の現実から逃げたい一身で都合のいい解釈してあいつに縋ったお前もお前だな……一つ覚えておけ……人がヒーローやら救世主やら正義の味方を口にするが…そんな物は存在しない……それは辛い現実から逃げたい一身で人が思い描いた絵空事だ……そんな物が存在するなら……争いも憎しみも……この世の不幸も存在しない……結局頼れるのは自分だけだ。わかったらせいぜいあいつから離れておくんだな』

 

それだけ言うと恵里の前から消える光輝だった

 

それからの数日間

光輝の言葉が頭から離れずにいた恵里

 

改めて学校で女子達に囲まれている勇輝の姿を見て…

 

恵里の心はぐちゃぐちゃになっていった

 

結局、自分には居場所などなかった。〝特別〟など幻想に過ぎなかったのだということを。 それに気がついた途端、恵里は毎日狂ったように、否、文字通り狂いながら同じことを考え続けた

 

――もう一人じゃないって言ったよね?

 

――守ってくれるっていったよね?

 

――僕はあなたの特別なんかじゃないの?

 

――ねぇ、どうして、同じ言葉を他の人にも言っているのかな?

 

――ねぇ、どうして、僕だけ見てくれないのかな?

 

――ねぇ、どうして、今、こんなに苦しいのに助けてくれないのかな?

 

――ねぇ、どうして、他の女にそんな顔を向けるのかな?

 

――ねぇ、どうして、僕を見る目が〝その他大勢〟と同じなのかな?

 

――ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、

 

考えても考えても、結果は変わることはなく…恵里はとうとう…一度は実行しようとしてやめた自殺を実行しようとした

 

ただし今度は誰の邪魔が入らないよう…一気に死のうと考え、車の行き来の激しい車道の間へ飛び込もうとした

 

今度は勇輝のように邪魔するものが出てこないよう…確実に… そう思いながら恵里は車が目の前を通り抜ける直前を狙い飛び込もうとした

 

恵里『(ああ……結局……無駄に死ぬまでの時間が伸びただけだった……お父さん……ごめんね…お父さんが守ってくれた命だけど………もう…生きるのがいやになっちゃった…)』

 

飛び込む直前…恵里は心のなかであの世にいるであろう父に謝った… そうして恵里は目を瞑りながら歩道から車道へ飛び込んだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その瞬間、背後から2つの力によって車道から歩道に引き戻された

 

恵里『痛った!』

 

瞑っていた目を開け前を見ると、そこには茶髪の緑色の瞳をした少年と水色の髪の瞳をした少女がこちらを見ていた

恐らくふたりが引き戻したのだろうと理解した恵里は思わずふたりに文句を言おうとしたが

 

恵里『いきなりなにするの!せっかく死のうとしたのに邪魔する『バシッ!』……ッエ?』

 

その瞬間少年からビンタされ、思わず引っ叩かれた方の頬を手で触れる

 

少年『この、馬鹿野郎が!!』

 

恵里『ビクッ!』

 

少年『なにがあったか知らないが、まだ大人になってもいないうちに命を粗末にするやつがあるか!!』

 

少年は恵里のおこなった愚かな行為に激怒していた

自分と同い年らしいその少年にビンタされたことや、同い年とは思えない迫力に恵里は思わずビビってしまう

 

最初はふたりを警戒していた恵里だったが、明らかに今まで自分が出逢った人達とはどこか違うふたりにやがて警戒を解き、少年と少女と一緒に近くの公園で話す気になった

 

そうして恵里は自分の身の上話(勇輝や光輝に言われたことを飛ばして)をすると

それまで黙って話を聞いていた少年と少女が恵里を抱きしめた

 

恵里『え…』

 

恵里は驚いていた

このふたりも勇輝のような甘いセリフかなんかを吐くと思っていたら抱きしめてきたのだから

 

すると恵里を抱きしめている少女からすすり泣く声と恵里の肩に水滴が垂れてきた

 

それが少女の涙だと気づくのにさほど時間はかからなかった

 

少女『………辛かったわね…』

 

恵里『!』

 

少年『…ああ……一人でよく耐えたな…』

 

恵里『ッ…』

 

少年『でもな………それでお前が死ぬのは駄目じゃねえか……お前の親父さんが…どんな思いでお前を助けたと思うか?……お前を……娘を守りたい…その一身でお前を守ったんだ…』

 

恵里『…ッ……君に…なにが』

 

少年『そうだな…俺はお前の親父さんじゃねえ…でも、お前の親父さんがどう思ってたかは…よく分かるよ』

 

恵里『……どうして……』

 

少年『それが親だからだ………理屈じゃねえんだよ……親にとって…子供は自分以上なんだよ…お前の母親はそうじゃなかったが……世の子を思う親は皆……子供を守るためなら命だって投げ出す……確かに……親父さんを亡くしたのは…お前のせいかもしれねえ……でもよ…親父さんがお前を命がけで守ったってことは……それだけお前のことを心から愛していたってことだろ?……その娘が…苦悩の末…自分よりも長く生きれず自殺なんてしちまったら……天国にいる親父さんが浮かばれねえよ…なんのために庇ったって思うか?』

 

恵里『!』

 

少年『お前が親父さんのことを思うなら……生きてみやがれ。それこそ親父さんの何倍もな…』

 

そう言いながら、少年は恵里の頭を優しく撫でた

 

その瞬間…恵里の頭の中を…生きていた頃の父親との思い出が巡った

父親は自分に優しく…いつもたくさんの愛情を与えてくれた

 

母にはあまり撫でてもらった記憶はなかったが…父にはよく撫でられていた

その父の大きな手が、恵里は大好きだった

 

そして今…自分の頭を優しく撫でている手は、父と比べてとても小さく弱々しく感じる…でも父を思い出させてくれる

 

恵里『う゛ぅ゛ぅ゛ぅ!……お゛と゛う゛ざ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ん゛ん゛!…ご゛ぶ゛ぇ゛ぇ゛ん゛な゛ざ゛あ゛ぁ゛ぁ゛い゛ぃ゛!!!』

 

気がつけば恵里も涙を流しながら今亡き父に謝っていた

そう

自殺すれば…自分を守った父の行為を無駄にしてしまうことに気がついた

そして…それは自分のことを愛してくれた父が望むわけがない

父の命と引き換えに生きてしまったのなら…自分は父よりも長く生きなければならない

それが…生き延びた自分の責任なのだから

 

親身になって話を聞き、自身の気持ちを汲んでくれた少年と、自分のことを抱きしめながら涙を流した少女

 

ふたりに触れられ、ふたりの暖かさを心の奥底まで感じ、もうずっと忘れていた…人の暖かさを思い出した恵里だった

 

そしてふたりにより、恵里の母親が引き起こした虐待を警察に通報し、程なくして恵里の母親は逮捕された

 

警察に連行される直前、警察に連れてかれる恵里の母親を見る恵里と少年少女達

 

恵里の母親は恵里を見つけると罵詈雑言吐き散らかし、挙句の果ては恵里に『お前なんか産まなければよかった!!死ね!』と暴言を吐かれ、既に母親への情を亡くしていた恵里だったが、流石に実の母親に吐かれた心無い言葉に泣きそうになった

 

その時だった

 

恵里の母『ガッ!!』

 

少年が飛び出したかと思えば恵里の母親の顔面にドロップキックをかました

 

そして地面に倒れた恵里の母の上に馬乗りし恵里の母を殴りつけた

 

少年『子供に死ねなんて言う親がどこにいやがる!!親は子に生きれっていうんだよ!!

 

恵里『!!』

 

そのまま恵里の母のことをまわりの大人達が止めに入るまで殴り続けた

一方少女の方は恵里を抱きしめながら母親の方へむかって大声で叫ぶ

 

少女『自分がお腹痛めて生んだ我が娘に、産まなければよかったなんて言うんじゃないわよ!!

 

恵里『!!』

 

少年と少女は、自分の事を思い、自分の為に怒ってくれている

 

これまで、母親から一方的な怒りや憎悪を受けて生きてきた自分を、ふたりはそんな自分の事を守ってくれた

 

その事実に恵里はただ涙を流すのだった

 

そうして恵里の母親は逮捕され、残された恵里は市内に住んでいた親戚の家に引き取られ、学校も転校するのだった

 

親戚の者は、虐待されていた恵里に対し優しく接し、暴力を振るうことはなかった

こうして恵里に、決して戻ることのないと思っていた平和な日常が訪れるのだった

 

しかし、たった一つだけ…恵里には心残りがあった

それは…自分の事を助け、守り、自分の為に怒ってくれた…ふたりの少年少女にお礼が言えなかったこと

 

もう一度、ふたりに会いたい

会ってお礼が言いたい

 

でも…ふたりはきっと…勇輝と同じように…自分のことは…終わった問題だって思っていそう……そう考えてしまうと…ふたりがいた…あの町に足を向けられなかった

 

しかし

 

親戚の家に来て2週間が経った頃

 

親戚の人に呼ばれ、玄関に行く恵里

 

そこには

 

恵里『……え…』

 

少年『よっ!元気そうだな恵里』

 

恵里『…なん…で…』

 

少女『なんでって……あんなことがあって……貴女のことが心配になって、どうにかして住所調べて会いに来たのよ』

 

会いたいと思っていた

自分のことは終わったことと思っていたふたりが…自分に会いに来たのだった

 

この日、恵里はふたりの前で3度目の涙を流すのだった…

 

その後…恵里と少年と少女の交流は続き、いつしか旧知の仲となった

それまで友達がおらず、あまり他人と関わることがなかったのだが…ふたりと関わる事により、それまで暗い雰囲気を漂わせていた恵里は、少しずつ明るくなり、転校先でも笑顔を浮かべ、人と関わることも増えていったのだった

 

自分を守り、優しくし、同い年のはずなのにまるで年上かのような振る舞いと空気にいつしか恵里はふたりの事を心のなかで兄や姉のように思うようになり、ある日ふとふたりに呟いてしまった

慌てて訂正しようとした恵里にふたりは笑みを浮かべながら自分達も恵里の事を妹のように思っていたと口にし、気づけばふたりが居るときにだけ恵里はふたりをそう呼ぶようになったのだった

 

やがて月日が経ち、高校に上がってすぐ、恵里にとって無二の親友となる谷口鈴と出逢ったのだった

 

そして高校には自分に対し甘い言葉と厳しい現実を突きつける言葉を吐いた天之河兄弟もいた

 

だが恵里にとって勇輝に吐かれた甘い言葉はもはや過去のモノと化し、光輝の吐いた厳しい言葉に対しても、思い返せば、あのまま勇輝に盲信していればいずれは駄目になっていただろうと想像することができ、あれは光輝なりに恵里の身を案じて言った言葉だったとわかった

なにより光輝の言葉がなければ、自分はふたりと出会うことはなかったのだから、感謝こそすれど恨みはない

また成長した少年から光輝の事を聞いていた為、光輝のことは皆が言うような札付き者だとは思わなかった

 

そして、高校二年生になったある時

クラス全体を巻き込む異世界転移に巻き込まれ、そこで様々なハプニングに見舞われつつも、乗り切るのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかし、王宮を攻めてきた神の使徒達から襲われていた鈴を守る為、恵里は立ち向かったが力及ばず敗北し連れ去られ…エヒトの前に連れ出されたのだった

 

エヒト…否、ユエの肉体を乗っ取ったエヒトは恵里を値踏みするかのような目を向けたかと思えば

 

エヒト『ふむ…お前……中々の闇を心に宿しているな……』

 

恵里『!』

 

エヒトの言う闇…それに恵里は心当たりがあった

 

かつて…勇輝に救われ、選ばれたと思っていたあの頃…勇輝の側にいたい、離れたくないという思いで母親を脅していたあの時…恵里の心の中でこれまで一度たりとも感じたことのないなにかを感じていた

 

あのドロッとした…真っ黒で…離したくない、その為なら何でもできると思える心

 

それこそ…恵里が忌み嫌う、かつての母親が持つ執着心にほかならなかった

 

恵里は、その時心に抱いていた負の感情その物を忌み嫌い、母親と同じ道を辿りたくない…なにより…そんな醜い姿を…心を…敬愛するふたりに…親友に見せたくない

 

その一身でこれまで無かったことにしてきた

 

エヒト『ふふ……せっかくだ…イレギュラー達に、土産を贈るとするとしよう』

 

そう言うとエヒトは恵里に手を向けるとなにかを唱えだした

すると恵里の足元から黒い魔法陣が出現し、

 

恵里『ぐぁぉぁぁぁ!!!』

 

恵里の身体に激痛が走り出した

特に背中から尋常じゃない痛みが走り、気を抜けば気絶してしまいそうだった

 

そして魔法陣から黒い瘴気が飛び出して恵里の身体に纏わり付く

 

恵里『あっ…ああああ…』

 

エヒト『ふふふ……やはり我の見た目通り…中々の闇を秘めている……その魔法は、掛けた対象の心の闇を引き出し、その闇が強ければ強いほど、自我と引き換えに力へと変換する……イレギュラー達もさぞ驚くだろう…そして絶望するだろう……仲間だった者が…牙を向くのだから』

 

苦しむ恵里に笑うエヒト

 

変化していく己の身体と意識

 

恵里『(だ…め……いし…き…が……なく…なる…す…ず……)』

 

少しずつ消えていく己の意思……彼女が最後に心の中で呼んだ名は…己の親友…そして

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お兄…ちゃん……お姉ち…ゃん

 

 

己が兄と姉と慕う少年(カズマ)少女(アクア)だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





学校設定
攻略者パーティーと勇者パーティーと幸利と恵里と浩介は皆同じ市内の学校に通っており

光輝や勇輝に幼なじみ達と恵里はA小学校(後に恵里はE小学校に転校)
幸利はB小学校
ハジメと浩介はC小学校だったがお互いに接点がなかった
カズマとアクアはD小学校
恵里はE小学校

中学校はそれぞれ3つに別れていた
A中学校は光輝達
B中学校はカズマとアクアと恵里
C中学校はハジメと浩介と幸利(ただしいじめによりほとんど不登校だった)
また中学時代にカズマは雫と知り合い、一方的に光輝を知り、ハジメと出会い友達となった(ここでハジメは恵里とも友だちになった)

そして全員が同じ高校に入り、ここで幸利と浩介と友だちになった



光輝と勇輝の記憶の有無について

勇輝は恵里のことは終わったことだと認識し記憶の奥へ消えていった(転校した時は流石に驚いたがそれもすぐに忘れ、同じ高校になって会った時も殆ど忘れていたがやがて思い出した)が光輝は恵里のことを覚えていた(人を嫌い、信じられなくなった辺りから人を見る目と人を覚える記憶力が向上した。あのまま勇輝に盲信していればいずれ破滅へと向かうと思っていた為忠告したが人嫌いだった為厳しく言ってしまった。さすがの光輝もあんな言い方したのは悪かったと思っていたが…カズマ達と笑う恵里の姿を見て黙っていることにした。奇しくもこの時の忠告のお陰で原作恵里のようなヤンデレと末路を辿ることはなかった)
また恵里も光輝と会ってもそのことに触れずにいた

少年と少女の言葉

少年と少女…もといカズマとアクアは転生する前の異世界で複数人の子供を持つ父親と母親(これはめぐみんとダクネスも子持ちで母親)だったこともあり、幼い子供に対して人一倍愛情を持っており、それゆえ恵里を守って死んだ父親のことを親の鑑だと思う反面、実の娘に心無い暴力と暴言を吐いた恵里の母親の行いに激怒した


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第七十四話 助けたい想い《前編》


さて、今回でこの小説の投稿話数はなんと87話となりました!

これは私がこれまで執筆してきたシリーズ物で最高投稿数だった『このふたりの男女に祝福を!』の86話を超えたことになりました!!

まさか8ヶ月でここまで投稿できるとは私史上類を見ない快挙と言えます。

今後ともよろしくお願いします。


 

シア「いきますっ、――『レベルⅩ』!!」

 

シアが己の身体強化を上げる魔法を唱え、ティオはハジメから渡された黒鞭を取り出していた

 

身体強化レベルⅩ――正確には魔力操作の派生『変換効率上昇Ⅹ』

魔力1の消費に対し身体能力の数値を3上昇させることが出来るこの能力を昇華魔法で強制的に上限だった〝変換効率上ⅡからⅢへ

だがそれは、あくまでアルヴ戦の時までの限界値だったそれを、3日間の準備期間中にシアが自ら模索し己の限界値を越えようと躍起にしていた事に加え、手の空いていた分身体カズマとの鍛錬でものにすることが出来た

 

しかし、本来ならば時間を掛けて少しずつ上の段階に行くはずだったものを無理矢理強制的に伸ばしていく行為であるため肉体への負荷はとてつもなく大きく、最悪死ぬかもしれないそれを分身体カズマは忠告したが、シアの意思は固く、最終的に長時間の運用を控えることと引き換えの使用許可を出した

 

よって今のシアの強さはステータス値だけならばハジメどころか光輝すらも越え、事実この世界で最強のステータス値を持っていることとなる

 

最も、ステータス値が高くとも高い戦闘経験と技術力を持つカズマの分身体に翻弄され、最終的には限界使用時間推定3分を超える辺りまで全く触れることもできず強制的に戦闘を終わらされることとなった

 

そのシアによりたった一度の物理攻撃(ドリュッケン)に魔物達や使徒達は原型が無くなるほどの速度と威力をくらわせられることとなった

 

その傍らではティオが

 

ティオ「幸利よ。主の魔物、使わせて貰う!」

 

別れる前に闇術師である幸利から操った数十体以上の魔物を使うよう渡され、その魔物達を鞭で叩き巻き付けた

 

その鞭の正式名称は〝黒隷鞭〟という

柄の部分に小さな宝物庫がついており、そこに収納されている最大三キロメートルの長さの黒鞭が魔力を注ぐことで自在に出し入れ出来、一見すると無限に伸びる鞭であるがこの黒隷鞭は束ねた鋼糸にはまるでサメ肌のように対象を削り取るような構造になっている。表面には空間魔法〝斬羅〟が付与されており、使用者の任意で空間ごと切り裂くことも可能

 

だがこの黒隷鞭の真価はそこではない

 

ティオ「生誕せよ、産声咆哮と共に、『竜王の権威』!!」

 

ティオの威厳すら感じさせる声音が響いた

 

同時に、幸利から渡された魔物達が絶叫を上げた

 

「「「ギィァアアアアアアアアアアアアアアッ」」」

 

その絶叫と共にベキッゴキッグチャと生々しい音を響かせながら瞬く間に変形しおよそ三秒

 

それだけの時間で、魔物達の肉体は黒い鱗に覆われ、太く逞しい四肢と尾、鋭い爪牙、硬質な輝きを放つ翼を持つ魔物――黒竜へと変貌した

 

魂魄変成複合魔法〝竜王の権威〟――己の竜人族としての魂から竜化の情報を複製しかつ仮初の魂魄を作り出す魂魄魔法『竜魂複製』と、変成魔法『天魔転変』の複合により、対象の魔物を強制的に黒竜化させるという魔法

 

本来たった数秒で、それも他人(幸利)が支配している魔物を強制的に変化させた挙句、自分の眷属にするなど、いくら変成魔法に対してもっとも高い適性を持っているティオといえど不可能だ

その不可能を可能にしているのが黒隷鞭

その真価は、自在の伸縮性でも空間ごと切り裂く能力でもなく、強制竜化の補助デバイスとしての能力なのである。この黒隷鞭を媒介にした時のみ、ティオは大抵の相手を強制的に黒竜化させることが出来るのだ。 鞭打った相手を従わせる。 ドMの変態には似つかわしくないと言うべきか、ド変態という大きな括りで考えるなら似合いすぎと言うべきか。シア達が、ティオに黒隷鞭を贈ったハジメに色んな意味で懐疑的な眼差しを向けてしまったのは仕方のないことだろう

 

ティオ「征け!!出陣じゃー!!」

 

圧倒的な武力に圧倒的な兵力

 

戦力差は歴戦だったその場を制したのは

たったふたりにより生み出される質と量の力だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じ頃

恵里と戦っているカズマ達は恵里をどうにかして解放しようと躍起になっていたが

 

恵里はエヒトにより肉体を神の使徒仕様に変化させられていて身体的スペックが向上

加えてこの恵里からはユエの魔力も混じっていた

おそらくユエの肉体を乗っ取ったエヒトから能力の底上げ目的に植え付けられたのだろう

 

極めつけは恵里本来の能力である降霊術師と力により戦場中にいる人間族、魔人族、亜人族、竜人族に加え使徒や魔物の死体を操り百万を超える軍団を形成し、カズマ達に襲わせたが

 

幸利「『影縫い』!!」

 

浩介「『潜影』!!」

 

幸利が影を縫いつけ動きを止め、浩介が死角からの一撃を繰り出し次々と仕留める

 

ダクネス「『断爪』!!」

 

めぐみん「『エクスプロージョン・レイン』!!」

 

ダクネスは一振りで数百超えの斬撃の波を、めぐみんは爆裂魔法を上空に放ち、そこから数百超えに分裂した爆裂魔法が死人兵に降り注ぐ

そんなふたりの攻撃の撃ち漏らしを雫と香織が巻き込まれないよう立ち回りつつ仕留めていく

 

6人が各々戦っている横では

 

恵里「……」スッ

 

恵里が分解魔法込みの羽根を飛ばし、それをアクアが結界を張りガードする

 

本来ならば結界すらも分解できる力を持った恵里だったが、それ以上にアクアの結界が強固であったため分解し切れなかった

 

カズマ「はあ!!」

 

そんな恵里を横から駆け上がったカズマが斬り掛かるが空を飛び避けた

 

カズマ「チッ、また避けたな…もとの恵里とは思えない強さだ……もっと早く動けば斬れないこともないが…力加減がミスれねえしな」

 

アクア「一歩間違えたら恵里を殺しかねないからね…どうにかして恵里の動きを止めて…あの恵里の心を侵食している闇を祓わなきゃ…」

 

元水の女神であるアクアの目には恵里が今どういう状態にあるのかが分かる

 

そのアクアの目に見た恵里の心には、エヒトが植え付けたであろう魔法が根付いており、それが精神に深く干渉…加え恵里の持つ元々の心の闇を起点に、自我と引き換えのドーピング効果を生んでおり、このまま戦闘が長引けば恵里の命はいずれ消えてしまう

 

それが分かっているからこそできる限り急いで恵里を助けようとしているのだが、辺りどころや力加減をミスれないことや動き回る恵里に苦戦している

 

カズマ「…なあ…心無しか……恵里の動き……少しずつだが弱くなってきてないか?」

 

アクア「……恵里の精神を巣食っている魔法が…恵里の生命を食べているわ…このままだと恵里の命は…」

 

保って後数分の命

 

そうアクアが呟く

それを聞いたカズマは手を強く握りながら震えていた

 

カズマ「あの野郎、こうなることをわかってて俺達に恵里をぶつけさせやがったな」

 

アクア「……多分恵里を攫ったあとに記憶を読んだりして恵里と関わりの深い私達にぶつけさせることで時間稼ぎしようとしてたのね」

 

そう推測するアクアだったがアクアもまた手を強く握りながらエヒトに怒りを向けていた

 

カズマ「許さねえ…俺達の妹分を…捨て石にした上に弄ぶような真似しやがって!!」

 

エヒトに対しての怒りをあらわにしながらもカズマは恵里を助ける為にどうすべきか頭を動かす

 

生半可な拘束じゃ恵里を抑えきれない

たとえ拘束できるほどの魔法を放ったとしても動き回る恵里に当てるのは至難の業

生憎カズマとアクアの持つ拘束魔法では恵里を縛ることは出来ても恵里の動きを捉えきれるほどの速度は出せない

 

だがこうして迷っている間にも、恵里の命は徐々に消えていってしまう

ふたりが本気になれば恵里の身体を多少傷つけることになるが助け出すことができる

 

しかしそれは最後の手段にしており、あくまで無傷で助けようとしていたがそれもいよいよ厳しくなってきている

 

恵里「……」スッ

 

そんなふたりに恵里は手を向けると手に黒い魔力が収束したかと思えば分厚い黒き光線が放たれた

 

アクア「ッ!」

 

アクアが瞬時に結界を作ることでガードできた

 

これまで放たれた攻撃の中でも特に強く、一瞬結界にヒビが入ったがすぐにアクアの魔力で修復し耐えた

 

アクア「!…まずいわ。この魔法…恵里の命削ってるわ」

 

カズマ「クソ!どうする…考えろ。どうすれば…」

 

命のタイムリミットが近づいているこの現状にカズマは焦りながらも考えた

 

カズマ「(落ち着け…冷静になれ…一旦状況を分析しつつ打開策を考えろ……恵里は素早く動き回るから拘束魔法を当てられない。今こうして攻撃してきている今が当たるチャンスだが拘束魔法を使えば恵里はそれに気づき確実に避けてくる……今手持ちで動きを抑えられてなおかつ気付かれないような拘束魔法は……)」

 

頭に片手を置きながら足元へ目を向けながら考える

そうして考え始めて約10秒が経ったときだった

 

カズマの足元の影が僅かだが傾いたことに気がつく

そこで初めて、今の時刻が夜の一歩手前まで来ている夕暮れだということに

 

カズマ「!」

 

だがそこで、カズマは思いついた

否、思い出したというべきか

この状況を打開するための方法を

 

カズマ「そうだ…そうだったわ……俺としたことが……俺の強みを忘れてたわ」

 

そう言うとカズマは両手の指を合わせ印を組む動作をした

 

すると

 

恵里「!?」

 

それまで攻撃を続けていた恵里が突如攻撃を止め、動かなくなった

 

カズマ「『影縛り』完了…てか」

 

そう、カズマがやったことは凄く単純

 

それは幸利の自作した拘束魔法『影縛り』を自身がやることで恵里に気づかれることなく己の影からそばの瓦礫の影、そしてカズマ達に倒された死人兵の影を経由し恵里の影まで伸ばし恵里の影を縛ったのだ

 

カズマの天職『冒険者(弱)』とはかつてカズマがいた異世界に存在した冒険者という職業の中でも最もスタンダードかつ最弱職とまで言われていた物だ

なぜならばこの職業は全ステータスが軒並み他の戦闘職と比べても特に低く、才能無しが入るような物だった

しかし、そのかわりと言っては何だが…この職業唯一の利点が存在していた

それは…この職業はこの世のあらゆる職業のスキル魔法を会得することができる(ただし通常本職ほどの威力や効果は発揮できないが、本人の力量次第では本職と同等かそれ以上の力を発揮できる)

それをカズマは努力とこれまでの戦いで積んだ技術と経験により最弱職でありながら数多くの実戦功績を立てたことで『最強の最弱職』という二つ名を得ることとなった

この世界に来て、この天職となった後もそれは継続しており、一度見た技能や魔法は軒並み会得することができる(ただし写輪眼や白眼などの魔眼は技能というよりも特異体質系である為、瞳術は使えても実際に魔眼を使うことは出来ない。また難易度の高い技能魔法を使えるかは当人の力量次第)

そしてカズマは幸利や恵里達を鍛えていたため、無論技能魔法は見てきていた為使おうと思えば使える

 

ただこの世界に来て自身の天職はほぼ前世で使っていたスキル魔法を使うことに意識を向けていたため、螺旋丸や千鳥などの強力な技能魔法以外は使おうとしなかったためすっかり忘れていた

 

アクア「!カズマそれって…」

 

カズマ「ああ…まさかここでお前の技が役立つなんてよ…サンキューな幸利」

 

そう言いながらカズマは恵里のもとへ歩き出すと恵里もまたカズマと同じ動きで歩き出した

 

カズマ「『影真似』ってところかな…アクア!」

 

カズマがアクアを呼び掛け、アクアがカズマの隣に立つ

 

カズマ「今から恵里の魔法で恵里の心の中に入るから俺の肩に手を置け」

 

アクア「うん!」

 

アクアが返事し肩に手を置くとカズマは恵里に手を伸ばすると恵里も同じように手を伸ばしふたりの手が触れ合う

 

カズマ「待ってな恵里…今そこから引きずり出してやるからよ『心転身』!『心伝身』!」

 

心転身は己の精神を相手の精神へ入り込む魔法であり、心伝身は術者を中継点とし、手で触れた相手の意思を離れたところにいる別の相手に直接伝達する

 

しかしこれに心転身と組み合わせることで術者と共に対象の精神へ入り込むことができる

 

こうしてふたりは恵里の心の中へ飛び込むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





変換効率上昇Ⅹの経緯

原作と違いシアのレベルⅩ化はチートメイトDrではなく原作以上に無理して変換効率上昇を強制的に底上げしたものとなっております。また扱いとしてはNARUTOの八門遁甲の陣のようなものとなっており、NARUTOと違い第八死門に該当するレベルⅩは短時間運用に加えシア自身が常人を遥かに上回る肉体的な強さを持っていることで死ぬことはありません。


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第七十四話 助けたい想い《後編》


大トロ「俺さあ…実は主人公のハーレム物って好きじゃねえんだよなあ。どっちかっていうと女一人を愛する純愛物が好きなんだよなあ」

カズマ/ハジメ「「……」」←ならなんで俺達の嫁は複数人にしたのかって顔

光輝「……」←だから俺は上の奴らとは違うのかって顔




 

ハジメ「チッ…舐めやがって」

 

神の使徒達を相手取りながら神域を進むことしばらくし、ハジメと光輝はとうとう神域の最深部へと足を踏み入れた

 

最初に目にした光景は、まるでラスボスのいる大広間へ続くかのような巨大な螺旋階段

その次に目に映ったのは、その階段前で門番のように佇んでいた複数体の神の使徒だった

 

しかし、通常の使徒とは違い強力な白金の使徒だったことに加え、使徒達の能力を底上げさせる意味でユエの魔力を与えられ、見立てでは全ステータスが軽く66000ほどあり、これはハジメや光輝のステータス値を大きく上回っていることとなる

 

それに対し現時点でのハジメと光輝のステータス値はというと

 

南雲ハジメ

 

筋力:51000

体力:42000

耐性:42000

敏捷:51000

魔力:63000

魔耐:47000

 

天之河光輝

 

筋力:54000

体力:47000

耐性:49000

敏捷:56000

魔力:66000

魔耐:52000

 

この数値はオルクス大迷宮から出る前に測ったときと比べ、何倍も高くなっていることとなる(なおこれでも戦闘技術と経験が段違いのカズマには勝てません)

 

これまでの戦闘や心身の成長に加え、それぞれの中にいる者達との魂の融合が進む事に、その力がハジメ達の力と重ね合わさっていき、完全な融合を果たすことで、ふたりの力は文字通り最強に至る

 

そんな白金の使徒達が行く手を阻んだので無論ふたりは戦うことになったのだが、白金の使徒からユエの魔力を感じると光輝が言い、ハジメも気づくと白金の使徒の一人であり筆頭のエーアストがご丁寧に説明したが

 

エーアスト「正確には我が主であるエヒトルジュエ様の、と言うべきでしょう。既に、あの肉体も魔力も、全ては主のものです」

 

ここでエーアストはハジメにとっての地雷発言をした

 

ハジメの前でユエをエヒトの物とも取れる発言を取ったことでハジメのただでさえユエ関連に対し沸点の低かった頭に一瞬で血が昇りほんの0.2秒の『限界突破(ステータス3倍化)』を発現させエーアストを一瞬で葬り去り、その周囲にいる白金の使徒も瞬殺した

 

結果足元には神の使徒だった物の残骸が転がっており、ハジメが苛つきながらも残骸を踏んづけながら悪態をつく

 

光輝「……」←相変わらずのユエ馬鹿だなって顔

 

ハジメ「…んだよ…なんか言いたそうだな」

 

光輝「……別に」

 

ともかくハジメにより使徒達を倒すことができたので光輝はバイクを宝物庫に戻しハジメも戻すと長い長い螺旋階段に足をつけるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なにもない…真っ暗な空間の中

恵里…いや…幼い姿の恵里は膝を抱えながら涙を流していた

 

もうどれだけここにいるのかわからない

時間の感覚すらも分からなくなっている反面…命の終わりが近づいていることを感じ始めていた

 

そんな恵里の心には多くの負の感情が溢れており、今にも飲まれてしまいそうだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

暗い

 

 

 

痛い

 

 

 

何も見えない

 

 

 

何も聞こえない

 

 

 

なんで誰も居ないの?

 

 

 

なんで僕を独りにするの?

 

 

 

寂しいよ

 

 

 

怖いよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

独りにしないでよ   助けて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ/アクア「「恵里!!」」

 

恵里「!」

 

意識が完全に飲まれかけたその時

会いたいと思っていたふたりの自身を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げた恵里

 

そこには自分と同じように幼い頃の…出逢った頃の姿をしたカズマとアクアが前に立っていた

 

恵里の心の中へ入り込んだふたりは恵里を探し回った末にようやく見つけ出すことができた

 

カズマ「どうやら完全に飲まれる前に間に合ったみたいだな」

 

アクア「ごめんね遅くなって!でももう大丈夫よ!私達が来たから」

 

恵里「な…んで…?」

 

カズマ「ん?」

 

恵里「なんで…助けに…来たの?」

 

カズマ「……おかしな事聞くなあ、そんなの助けたいから助けに来たに決まってんだろ?それよりも早くここから出るぞ」

 

そう言いながら恵里の手を引いて外へ出ようとしたカズマ

 

恵里「!駄目!!」

 

その瞬間

恵里に付着していた闇が表立って出現したかと思えばそれがまるで恵里を守るかの如く恵里の周囲を駆け回った

 

恵里「それに触っちゃ駄目!!触ったらお兄ちゃんが死んじゃう!!」

 

カズマ「……どういうことだ?」

 

恵里「……それ…エヒトが僕に掛けた支配下に置く魔法でもあって仕掛けた罠でもあるの…」

 

アクア「……これが…恵里の生命力を吸い取っている闇の核ね……外にいた時は表立って出てきてなかったけど……これ、触れようとした者を次の宿り先にする寄生虫みたいな性質があるわ…もしそれに触ったら…」

 

カズマ「……俺も恵里みたいに肉体を支配されて命を吸い取られるのか………チッ…もし外にいた時に出てくれたらアクアの魔法で消すことができたっていうのに…」

 

アクア「ここじゃあ私もカズマも魔法が使えない……でもこのままじゃ恵里が…」

 

恵里を救いたいのに救える手立てがないことにアクアの顔は苦痛に歪む

 

 

恵里「……もういい…もういいから…ふたりとも

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

僕のことはいいから……僕を殺して…」

 

カズマ「……は?」

 

アクア「え?」

 

突如恵里に『殺して』と言われ、思わず呆けた声が飛び出したカズマとアクア

 

そんなふたりに構わず恵里は続けて言う

 

恵里「こうなったらもう…僕は助からない。それに、僕一人なんかに構っているうちにエヒトや他の神の使徒たちの侵攻は進んじゃう………そうなったら他の皆が危ない………だから僕を早く殺して、ふたりも先へ進んで…」

 

アクア「なに…言ってる…の…」

 

恵里の言葉にアクアが声を詰まらせながら話し、恵里は少し苦笑気味な笑みを浮かべた

 

恵里「……もういいよ……僕は…もう十分生きたよ…お父さんよりも長くは生きられなかったけど…本当ならあの時死ぬはずの僕が…今日まで生きてこれたのは………ふたりが居たから……」

 

カズマ「……」

 

恵里「そして……ふたりからたくさんの優しさに愛情を……ハジメ達や鈴からは楽しかった思い出や緩やかな日々を貰った……あの時死んでたら…僕は決してそれを味わうことはなかった……楽しかった…もう満足だよ…だから…ここで終わっても悔いはないよ……それよりも僕のせいでふたりや皆に迷惑かけたり傷つけてしまう方がずっと辛い……だから」

 

カズマ「ふざけてんじゃねえよ!!

 

そう満足そうに…何かを諦めたかのような表情の恵里の言葉にカズマが激怒した

 

恵里「え?」

 

カズマ「どこにてめぇの妹分殺す兄と姉がいると思ってやがる!!俺に同じことを言わせる気か!まだ大人になってもいないうちに命を粗末にするやつがあるか!!

 

恵里「!」

 

カズマ「諦めてんじゃねえよ…あの時みたいに、自分の命を諦めてんじゃねえよ!!お前が何を言おうと、俺は、俺達はお前を見捨てねえし殺さねえよ!!自分の妹分一人守れねえやつが、この世界の人々を守れるか!!」

 

そう言いながら恵里の方へ手を伸ばした

 

恵里「おにい!」

 

カズマ「黙ってみてろ…アクア」

 

カズマはアクアの方へ顔を向けると何かを察したのかアクアは無言のまま頷く

そうしてカズマは恵里のまわりを飛び回る闇に触れようとすると闇は瞬時に恵里からカズマへ移った

 

カズマ「っ!ぐぅぅぅぅ!!」

 

闇はカズマの手から身体へ流れ込み、カズマはそれに苦しむ様子を見せた

 

カズマ「と、とりあえず、これ、で…恵里のなか、の闇は、とり…のぞけ、た…な」

 

その次の瞬間、まわりの景色が大きく変化した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこは死体や使徒の残骸ひしめく戦場だった

 

恵里「…え?ここは…」

 

アクア「…術が解けて現実に戻ってこれたわね…そして」

 

アクアが目を向けた先には

 

カズマ「っっっっっっ!!!」

 

頭を抱えながら苦しむカズマの姿があった

 

アクア「闇と戦ってる…」

 

恵里「お兄ちゃん!!」

 

思わず恵里が駆け出そうとしたがアクアに止められた

 

恵里「離して!お兄ちゃんが!!お兄ちゃんが!!」

 

アクア「…大丈夫…大丈夫だから……あいつがあんな闇なんかに負けたりなんかしないわ…信じて……貴女のお兄ちゃん…私達の大切な人を…」

 

そう恵里を落ち着かせる様優しく引き止めながらカズマの方を見た

 

カズマ「そ、うだ…恵里…しんぱ…いは…いらねえ…ぞ…これしき…なんて…こと…な…い……おい…エヒト…俺を誰だと思ってやがる…」

 

苦しみながらも平気そうな素振りを見せ、神域のゲートの先へ顔を向けるカズマ

 

カズマ「畏れ多…くも…世界一…つ救っ…た伝…説の冒険…者パー…テ…ィ…リー…ダー、サ…トウカ…ズマだぞ…この…程度…で俺を…仕留…めきれ…ると思っ…てん…なら大…間違いだ…!」

 

そのまま右腕をゲートの方へ向ける

すると

 

カズマ「ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

カズマの中に巣食っていたエヒトが恵里に仕掛けた闇魔法が右腕に収束した

 

カズマ「身体…から…追い…出すことは…でき…ずとも…身…体の一…点に集まる…こと…はできん…だよっ!天牙!地牙!」

 

カズマが愛刀達の名を呼ぶと何も無い空間から2本の刀が浮遊した状態で現れた

 

そのまま天牙と地牙はまるで意思があるかのような動きを見せ、カズマへと向かって行く

 

カズマの愛刀『天牙』『地牙』

この二本の刀は他のアーティファクトの中で唯一持ち主の意思/司令に反映しオートで動くことができる

 

また普段カズマの宝物庫(ブレスレット型)にしまっているがカズマの呼び掛け、あるいは心の中で念じると宝物庫経由で出現する

 

そして、カズマが愛刀達に下した司令はただ一つ

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「最強の最弱職を舐めんな!!

 

ザッシュッ!!

 

己の右腕の切断(・・・・・・・)

 

恵里「!!」

 

カズマ「ッ!」

 

カズマは己の片腕を失った痛みに耐えながらも、速攻でもう片方の腕からある魔法を放つ

 

それは、己の愛した魔法少女が唯一使える魔法にして、唯一彼女から伝授された魔法

そして、カズマの使う魔法の中で最も高火力にして、最強の魔法

 

ただし、本家のそれと比べると威力も範囲も下位互換

そもそも彼女と比べると練度と魔力量に差がある

 

だからこそ、範囲を極限まで絞りつつ、込める魔力を限界まで圧縮することで威力を底上げし

 

放つ大技その名を

 

カズマ「『エクス・ブラスト!!』」

 

カズマの拳から放たれた高密度好圧縮の爆裂魔法…エクス・ブラストは、切断したカズマの右腕…そしてそれに取り憑くエヒトの置き土産である闇魔法ごと葬り去るのだった

 

 





進撃の巨人…終わっちゃったなあ……原作よりもアニオリ要素多めでよかったなあ
原作者が描きたかったのは漫画じゃなくてアニメの方って言われてるくらいなのは進撃の巨人くらいだと思います。
まさか劇場版のED曲が流れるとは思ってなくてビックリしたが曲選があって今じゃリピート気味に流してます。


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第七十五話 兄姉妹





 

長く続く道の先

 

ハジメ「……とうとう…辿り着いたか……」

 

神域の最深部

使徒達を始末し長い長い螺旋階段を登りきったハジメと光輝

 

光輝「……いるな……この先に」

 

ふたりが目にしたのはまるでゲームのラストダンジョンのラスボスが待ち構えてることを彷彿とさせる真っ白で巨大な扉

 

そして

 

ハジメ「……ああ……感じる……奴の存在も…魔力も……」

 

扉の奥から感じるラスボス…エヒトの存在を感じ取った

 

ハジメ「ッッッ…ここからでも、奴の力を感じる…はっきり言って、魔王城でユエの肉体を乗っ取った時よりも更に強く感じる」

 

光輝「この空間は奴にとってのホームグラウンド…おまけにユエの肉体を乗っ取ってから時間も経過している……当然奴自身本来の力を出せる」

 

ハジメ「チッ…できれば奴との戦いの前に転生眼を開眼させたかったが…そううまくはいかねえな」

 

光輝「わかってるだろうが…相手はユエの肉体を乗っ取っている…当然奴は俺達の動揺を誘う為にユエの姿であるはずだ……躊躇した瞬間…おしまいだと思え」

 

ハジメ「言われずとも理解している。……まずはエヒトをユエの肉体から引きずり出す…そんで次は奴を倒す……それが終わった後は」

 

光輝「……ああ」

 

互いの顔を見ずに、言葉だけを交わす

 

ハジメは銃を、光輝は刀を取り出しながら扉に手をかけた

 

ハジメ「……戦う前に言っておくことがある」

 

光輝「……なんだ…」

 

ハジメ「……はっきり言って…俺がお前にこんな事を言う日が来るとは思わなかったがな」

 

光輝「…だからなんだっていうんだ」

 

嫌そうな顔をするハジメに苛立ちを隠せないでいる光輝だったが

 

ハジメ「……ありがとう」

 

光輝「…は?」

 

ハジメ「魔王城で俺を止めてくれたことにだ……あのときの俺は…ユエの事を完全に忘れて……ただどこにぶつければ良いのかわからない怒りと憎しみに呑まれていた……あのまま行っていたら…俺はきっと何もかもを滅ぼすまで」

 

突如ハジメに礼を言われ一瞬呆けていた光輝だったが続けて言う言葉に気づけば

 

光輝「やめろ」

 

ハジメ「は?」

 

ものすごく嫌そうな顔を浮かべながらハジメを止めた

 

光輝「俺に礼を言うのをやめろって言ってんだ。別にお前の為じゃねえ…しいて言うなら俺自身の矜持の為だ……最終的にやめたのはお前の意思…お前に礼を言われるいわれはない…なによりお前からの礼の言葉なんざノーサンキューだ。気持ち悪い」

 

ハジメ「アァン?てめぇ人がその気持ち悪いを我慢して吐いた礼の言葉も素直に受け取らねえっていうのか!?」

 

光輝「お前も気持ち悪いと思ってるなら言わなければ良かっただろうが」

 

ハジメ「うるせぇな!生憎俺は例え気に入らねえ、嫌いだと思ってる相手だろうが助けられたのなら礼の言葉も言えないのが嫌な性分なんだよ!」

 

光輝「随分面倒な性分だな…」

 

ハジメ「…はぁ…たくよ…変に気を使ったのが馬鹿みてぇだ……まあいい……」

 

言い合いをやめたふたりは改めて扉にかけた手に力を込め押した

 

ふたりの身長を遥かに越すほどの巨大な扉

当然重くおまけに魔力、それも二人並の高水準持ち主が押さなければ弾き返される特殊な結界が組み込まれており、押す際は互いに魔力を込めながら押す必要があった為そうする

 

扉を押しながらハジメはドンナーに魔力を込め

 

ハジメ「あいつ…俺達だけが入れるよう魔力の結界を組み込んでるな…逆にそれ以外を拒むように…よほど自分の勝利を確信してやがる」

 

光輝も黒金に魔力を込め

 

光輝「上等だ…俺達をやすやすと招き入れる舐めた邪神には」

 

扉を開けたその瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドーーーーーーンンンンン

 

 

ハジメ/光輝「「挨拶代わりに受け取りやがれ!!」」

 

高出力の巨大な魔力弾と高威力の巨大な斬撃を飛ばし、その先の空間に大きな衝撃音と光に包まれさせたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ達がエヒトのいる空間へ入ってしばらくした頃の地上では、エヒトに操られた恵里との戦いに決着し、カズマはアクアによって傷の手当をしていた

 

恵里「うぅっ…」

 

カズマ「ああああ……しんどかったあ…たくっ、エヒトの野郎…面倒な置き土産仕掛けやがって。真っ向からやり合うならともかく、こんな姑息な手で無きゃ俺に勝てないって考えてる時点で駄目だな」

 

少しつかれた様子のカズマ

その傍らには涙を流しながらをカズマに抱きつく恵里の姿があった

 

恵里「うぅ…、ううぅッ…」

 

カズマ「おいおい…いつまで泣いてんだ…俺はなんともねえよ」

 

恵里「うぅ…だって…だって…お兄ちゃん…うっ…腕が…僕のせいで!!お兄ちゃんの腕が!!」

 

そう泣きながら言う恵里にカズマは己の右腕のあった箇所へ目を向けた

 

恵里から己に移したエヒトの置き土産だった魔法の大元だった闇を葬るために自らの片腕を引き換えにした無茶振りをし、無事消し去ることに成功はしたが恵里はそれを自分のせいだと思い涙を流し続けていた

 

そんな恵里にカズマは慰めようと平気な素振りを見せる

 

カズマ「だから俺は大丈夫だって言ってんだろ恵里…それによ…俺はお前のお兄ちゃんだぜ?俺にとっては腕一本と引き換えにお前を救えたのなら安いもんだと思ってんよ……いっ」

 

そういうカズマだったがアクアに軽く頬をつねられた

 

アクア「全く…カズマってば本当に無茶ばっかりしちゃって…」

 

カズマ「いやな…あの闇はお前の浄化魔法なら消せるだろうけど消し切る前にまた体内に逃げ込んじまう恐れがあったしなにより隙を与える間もなく仕留めたかったからさ」

 

アクア「だからって!あんなふうに自分の腕を消し飛ばすなんて正気じゃないでしょ!!いくら再生魔法でまた生やせるからって体張りすぎるしなにより見ていて生きた心地しなかったわよ!私も恵里も!」

 

珍しく自身を怒るアクアにカズマもバツが悪そうに答えるが

 

カズマ「それは悪かったって……」

 

アクア「もしも私やめぐみん達に恵里が同じことしても貴方は怒らないで居られるの!?」

 

アクアのその言葉に最後には本当に申し訳そうに謝った

 

カズマ「……ごめん」

 

アクア「……とにかく恵里…カズマは見ての通り心配ないし、私達も皆大した怪我もないから…気にしないで…」

 

恵里「…でも…でも…僕が……僕がエヒトに操られたせいで皆に…」

 

アクア「迷惑なんて思ってないわよ…少なくともここに貴女を悪く言う人なんか居ないの……それよりも」

 

アクアは恵里に近づくと優しく抱きしめた

 

恵里「!」

 

アクア「恵里が無事で本当に良かった……」

 

そう優しい声色で恵里に言う

それに続く形でカズマもふたりを抱きしめる

 

決して責めない

腕を無くしたことよりも自身が無事だったことに喜んで安堵するふたりに恵里は先ほど以上に涙を流すのだった

 

恵里「うぅっ…ごめん!!ごめんなさい!!迷惑かけてごめんなさい!!……僕の命を助けてくれてありがとう!!」

 

カズマ「…フッ……ほんとよく泣くやつだなお前は……」

 

恵里の感謝の言葉を聞き終え満足げなカズマは恵里の頭を優しく撫でるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんなこんなでカズマ達はその後すぐにめぐみん達と無事合流することができた

 

恵里「めぐみんさん…ダクネスさん…ごめんなさい……僕のせいで…お兄ちゃんが…」

 

めぐみん「……まあ…彼ならそうすると思いましたよ…気にしないで下さい、私達は怒っていませんよ」

 

ダクネス「あいつは自分の大切のためなら腕どころか命も掛けられる…そういう男だからな……その結果がどうあれ…私達はお前を責めやしないさ……それに私達もお前のせいとは思ってないからな…」

 

幸利「マジで無茶すんなおい…」

 

浩介「まあお前が無事で何よりだ恵里…」

 

合流した一同は皆カズマの片腕の損失に驚きはしたが恵里の無事に喜ぶのだった

戦場を見渡すとほとんどの使徒や魔物は無事倒され、戦局は人類側の優勢となっている

 

しかし、これで安心してはいけない

例えエヒトの配下が死んでも、肝心のエヒトが生きている限り、いつでも戦局をひっくり返せるのだから

 

アクア「ん、とにかくこれで恵里は助けられたし、私達も次行くわよ!!」

 

アクアのその言葉を聞き、一同は神域へ足を向かおうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾッ

 

カズマ「(!?……なんだ…今空気が変わった気が)」

 

浩介「お、おい…なんだ…あれは…」

 

神域へ向かおうしたその時

突如浩介の困惑した声が響き思わず一同は浩介が目にする方へ顔を向けた

 

一同「「「「「「!?」」」」」」

 

目にしたものに一同は驚愕した

浩介が目を向けた先は夜空

 

もう既に日も暮れ夜が迎えていた

当然空の暗闇には満月が出ており月光が辺りを照らす

 

しかしそのことに一同が驚いたわけではない

 

彼らが驚いたのは

 

月の表面に不気味な写輪眼の紋様を浮かび上がっていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)ことだった

 

 

──月を依り代に地上にいるあらゆる生物全てに幻術を掛け操る…更に地表の膨大な魔力を集め高める術

 

満月に浮かぶ謎の模様に一同は気づく

 

シア「嘘…」

 

ティオ「あれは…」

 

香織「も、もしかして…あれが!?」

 

雫「む、無限月読(ムゲンツクヨミ)…なの!?」

 

その正体に気が付く一同だったが、直後満月からまばゆい光が降り注ぐ

 

カズマ「(不味い)!皆!アクアに集ま」

 

カズマが全員に指示をするがそれよりも速く、月からの光が地上を照らすのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し経ち

 

神域の最深部

 

エヒトの居る空間は荒れに荒れ、辺りには激しく繰り広げられていたであろう戦闘の爪痕を示す瓦礫や残骸が散りばめられており

 

空間で鎮座するエヒトの目の前には

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

血を流して倒れている3人の姿があった(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 



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第七十六話 因縁の邂逅


遂に対面を果たすふたりの主人公(怪物達)とラスボス

バトルは次回からです。




 

扉の先の空間に鳴り響いていた衝撃音や煙、そして空間を飲み込んでいた光が消え失せたその場には

 

エヒト「ふむ、我と顔を会わせる間もなく不意討ちとはな…」

 

ハジメ「チッ…やっぱ効いてねえか…」

 

光輝「仮にも神を自称する寄生虫…あれで死ぬのなら拍子抜けも良いところだ」

 

トータスの全ての人類を苦しめた邪神エヒトの姿があった

エヒトに対し不意討ちの攻撃を飛ばしたハジメと光輝

 

しかし、肝心のエヒトには全くダメージを負った様子もなければかすり傷一つなかった

 

エヒト「改めてようこそ。我が領域、その最奥へ……お前なら来ると思っていたぞ、アシュラよ」

 

光輝には聞き慣れ、ハジメには可憐で透き通るような、心地よい聴き慣れた最愛の声が耳に響く

 

だが、今は少し濁っているように感じる

声音に含まれる意思が性根から腐っているからだろう、と思い、ハジメは僅かに眉をひそめた

 

そのハジメの視線の先が不意にゆらりと揺らぐ。 舞台の幕が上がるように、揺らぐ空間が晴れた先には十メートル近い高さの雛壇

その天辺に備え付けられた玉座には妙齢の美女が座っていた

 

先ほどから目の前の存在がエヒトであるのはふたりは知っており、その姿がユエそのものであることも理解している

しかし、魔王城でユエの肉体をそっくりそのまま乗っ取っていたあのときとは違い、今のエヒト…もといユエの肉体は本来では不老であるがゆえに肉体が10代前半のままであったはずが、その姿に劇的な変化が成されていた

 

波打ち煌く金糸の髪、白く滑らかな剥き出しの肩、大きく開いた胸元から覗く豊かな双丘、スリットから伸びるスラリとした美しい脚線。全体的に細身なのに、妙に肉感的にも見える。足を組み、玉座に頬杖をついて薄らと笑みを浮かべる姿は、〝妖艶〟という言葉を体現しているかのようだ

 

並みの男なら、否、性別の区別なく全ての人間が、流し目の一つでも送られただけで理性を飛ばすか、あるいは信仰にも似た絶大な感情と共に平伏するに違いない。そう無条件に思わせるほど、圧倒的な美がそこにはあった

 

そう…少女の肉体から大人の女性の肉体への成長

それが今のユエの姿となっていた

 

だが、ハジメは無表情のまま、何故か成長した姿のユエを見つめるだけで特に感情を波立たせた様子は見られなかった

 

その傍らでは光輝も汚物でも見るかのような目を向けていた

 

それは、見た目の美しさに反して、その眼や口元に浮かぶ笑みに内面をあらわすかのような〝嫌らしさ〟〝醜さ〟を感じさせられたからだろう

 

それが分かっているのか、いないのか……ユエ改め、その体を乗っ取ったエヒトルジュエはニヤニヤと嗤いながら、再度、口を開いた

 

エヒト「どうかね? この肉体を掌握したついでに少々成長させてみたのだ。中々のものだと自負しているのだが? 神に相応しき美しさとは思わないか?」

 

ハジメ「ああ、最悪だな。中身が伴っていなければここまで醜くなるのか。そもそも男の癖に女の身体を得たら得たで美だのなんだの口走る。なんだ?自称神からナルシスト系オカマにジョブチェンジしたのか気持ち悪い」

 

光輝「こんなときに言うのも何だが、こんな形で夢が叶ったのは内心複雑だろうなあいつ」

 

ハジメ「は?夢だって?」

 

光輝「あまり口にはしてなかったが、あいつはシアに香織、ティオや雫に水神にダクネスの体型を羨ましがっていたからな。自分はガキみたいな体型だったのを気にして」

 

ハジメ「いやちょっとまて!なんでテメェが知ってんだ!」

 

光輝「聞いてもいねえのにユエの奴がべらべら口開いて愚痴や願望込みで話しやがったんだよ」

 

ハジメ「なに聞いてやがんだ天之河ァ!」

 

光輝「だから聞いてもいねえのに口開いたのは向こうだって言ってんだろうが。文句なら目の前のゴミクズから引きずり出したあとにでも言えばいいだろうが。正直俺も参ってんだ。テメェの男でもねえやつにそんな愚痴聞かされるのはよ」

 

エヒト「ふむ…」

 

エヒトをよそに口論するハジメと光輝にエヒトが身体から軽く魔力を放出してその場を収めた

 

軽くとは言ったが、十分この空間を覆い尽くすほどの魔力が放出されたのだった

 

ハジメに目を向けていたエヒトは光輝の方を向くと

 

エヒト「そして……アシュラがいるならばお前も当然いると思っていた……久しいな、インドラ…会いたかったぞ息子たちよ」

 

光輝「……俺は会いたくなかったんだがな」

 

ハジメ「てか息子って呼ぶんじゃねえよ気色悪ィ。そもそも息子ではなく器の間違いだろ。お前ユエの前は俺達の中の奴らを器にしようとして失敗したんだってな」

 

光輝「そして俺をインドラと呼ぶな。俺はインドラではない」

 

ハジメ「俺もアシュラじゃねえ。だがこのクソみたいな因縁にはケリをつけてえんだよ。だがその前にユエは返してもらう」

 

エヒト「くくっ…できるか?お前達に…そして感じているだろう?この身体からは…あの娘の魂が感じ取れないことを……」

 

エヒトは邪悪な笑みを浮かべながらユエの肉体に手を触れた

 

エヒト「手遅れだったのだよ…あの吸血鬼の魂はもう精神の深淵の底へと沈んだ…もう戻ってくることもない…そう…もう会うことはないのだよ!!クハハハハハ!!」

 

何がおかしいのか、ユエの姿をしたエヒトは笑ってみせた

 

ユエの姿で笑うその姿はもはや邪悪そのもの

見た目以外の面影など一切感じさせない

 

それが目の前の邪神からユエの存在を感じることがないと自覚させられる

 

だが

 

ハジメ「……」

 

光輝「……」

 

そんなエヒトをよそにふたりは全く動じることはなかった

 

ハジメ「言いたいことはそれだけか?ならさっさと始めるか」

 

エヒト「…なんだ?動揺しないのか?貴様の愛する女とはもう会えないのだぞ?少しは感情を荒ぶらせないのか?」

 

ハジメ「生憎だが…ゴミクズのお前の戯言に耳を貸すほどこちとら脳天気じゃねえんでな…そしてなによりユエは…俺の女はお前程度の神モドキに簡単に消されちまうほど弱くはねえんだよ。お前もそう思ってんだろ天之河?」

 

光輝「フン……他人の肉体に寄生しなければ地上に力を行使することのできない自称神という名の寄生虫の分際で、あのお節介な自称姉の吸血鬼を完全に消し去ったと思えているとは…何百年も無駄に生き続けた事でボケがまわったか。哀れだな…その不釣り合いな玉座を貴様の墓石代わりに建ててやろうか?」

 

エヒトの言葉を聞いてもなお、ふたりはユエの生存を信じており、逆に煽り返していた

 

この間、ハジメと光輝はずっと無表情で淡々とした語りが嫌味などではなく本心から語っているのだと雄弁に物語っており、エヒトもピクリと反応した

 

そして、誰が見ても仮面だと分かる笑顔を貼り付けたままスっと口を開いた

 

エヒト「エヒトルジュエの名において命ずる――〝口を閉じろ〟」

 

極自然に放たれたのは【神言】――問答無用で相手を従わせる神意の発現

 

かつて、ハジメをして死に物狂いで足掻かせたその〝反則〟をふたりへ向けられた

 

それを受けたハジメと光輝はというと

 

光輝「なんだ?逆に自称神はこの程度の煽り如きに心を乱すのか?」

 

ハジメ「所詮はただの自称神だな。器も度量も程度が知れる」

 

エヒト「……我が【神言】が僅かにも影響しない?」

 

ハジメ「ハッ!俺の前で何度それを使ったと思ってる。ちゃちな手品なんざ何度も効くかよ」

 

毛ほども効いた様子を見せなかった

 

エヒトへドンナーの銃口を真っ直ぐに向けて来るハジメに、エヒトの眼が細められる。だが、決して余裕を崩さないまま、頬杖をつく手とは反対の手を誘うように差し出した。 途端、ハジメの持つドンナー&シュラークや宝物庫Ⅱなど、アーティファクトの周囲の空間がぐにゃりと歪む。が、直ぐにパシッと何かに弾かれるような音と共に正常な状態へと戻ってしまった

 

エヒトが度々使ってみせた『神言』

 

その正体は魂魄魔法に連なる魔法である

 

魂に直接言葉を響かせて無意識レベルで意識を縛り、強力な暗示を掛ける

仕様の際に名を呟くのはそれを下す者が必要という常識からそうするのだ

 

そして魔王城でハジメ達のアーティファクトを破壊した魔法にも対策が成されていた

 

エヒト「……なるほど。対策はしてきたというわけか」

 

ハジメ「むしろ、していないと思う方がどうかしている」

 

エヒト「調子に乗っているな、アシュラ。【神言】や【天在】を防いだだけで、随分と不遜を見せる」

 

ハジメ「お前からどう見えるかなんてどうでもいい。それと一つ訂正しておくが、お前の神言を防いだのは俺達自身じゃねえ。正確に言うなら俺達の中に居る奴らが防いでみせたんだよクソ野郎」

 

そう、本来なら神言対策用のアーティファクトでも作ってくるべきだったがハジメは作ることはなかった

 

なぜならば彼らの中にいる者達が護ってくれたのだから

 

既に魂の融合度合いは9割を越え、今では己の中にいるインドラとアシュラの魂をも知覚できるようになった上、それぞれの肉体の持ち主にこれまで以上の干渉と影響を与えることができ、結果エヒトの神言からインドラとアシュラがハジメと光輝の魂を護ってみせたのだ

 

ハジメ「あの時の言葉、もう一度言ってやる」

 

ハジメは、チャキッとドンナーの照準をエヒト―否、エヒトルジュエの心臓に合わせながら、己の持つ紅色の魔力を放ちながら朗々と宣言した

 

ハジメ「――ユエは取り戻す。お前は殺す。それで終わりだ」

 

その傍らでは光輝が同じように紫の魔力を放ちながら黒金の刃をエヒトルジェに向け宣言した

 

光輝「喜べゴミクズ。今日が貴様の命日だ。貴様の支配という名のままごとは、今日で終いだ」

 

白の空間は音を吸収しない。むしろ、凛と言霊を響かせた。 魔力とともに言葉の弾丸と言葉の刃を放たれたエヒトルジュエは、その決意を踏み躙るのが楽しみだと表情を邪悪に歪めながら、組んでいた足を解き、頬杖を外して、おもむろに立ち上がった。そして、玉座を背に上段から睥睨しながら莫大なプレッシャーを放ち始める

 

白金の魔力が白い空間を塗り潰していく

 

エヒト「よかろう。この世界の最後の余興だ。少し、遊んでやろうではないか」

 

その言葉とともに両者の魔力が衝突し空間が大きく揺れるのだった

 

 



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第七十七話 邪神と怪物達①

 

燦然と輝きながらエヒトルジュエの背後に現れたのは三重の輪後光。その大きさは、浮き上がったエヒトルジュエを中心に一重目が半径二メートル程で、三重目は半径十メートル以上ある

 

その輪後光から、無数の煌めく光球がゆらりと生み出されていく。その数は、まさに星の数と表現すべきか。だが、その壮麗さに反して放たれるプレッシャーは尋常ではない。一つ一つが、容易く人を滅し、地形すら変えかねない威力を秘めているのが分かる。 巨大な輪後光を背負い、数多の星を侍らせ、白金の光を纏うエヒトルジュエの姿は、なるほど、その内面の醜さを知らなければ確かに〝神〟と称するに相応しい神々しさを放っていた

 

それに対するハジメと光輝は、

 

ハジメ「生憎テメェの遊びに付き合う気はねえ。本気でやらせてもらう!」

 

鮮麗な紅の光を噴き上げた。荒々しく螺旋を描く魔力の狂飆はハジメの黒いコートをはためかせ、その体を紅色で包んでいく。そのエヒトルジュエの威光を前にしても僅かにも怯んだ様子のない隻眼は、いつしかレッドスピネルの如く澄んだ紅色で輝いていた。 限界突破の終の派生〝覇潰〟だ

この瞬間、ハジメのスペックは一気に五倍に膨れ上がった。そこに、白眼を重ねることで超人離れした動体視力が加わった

 

更にハジメの周囲には投影構築による大量の武器が並び足元からは大樹の根が生えておりいつでも攻撃ができることを示している

 

そのハジメの隣では光輝も須佐能乎第3形態(山吹の姿)を顕現させその手には天照の黒炎を、そして周囲には黒炎の刃を出し同じく攻撃体制を整えていた

 

かたや絢爛豪華な白金の輪後光と数多の煌めく星

 

かたや生命と無数の無機物の弾、全てを焼き尽くす黒炎の刃

 

互いに睨み合いながらそれらが互いを呑み込まんと、空間を軋ませながらせめぎ合う。 エヒトルジュエが、指先まで計算され尽くしたような優雅さで片腕を突き出した

 

エヒト「さぁ、遊戯の始まりだ。まずは――踊りたまえ!」

 

直後、数多の光星がハジメと光輝に目掛けて殺到した。それどころか、背後の輪後光からおびただしい数の白金の光が、まるで幾何学模様でも描いているかのように飛び出してくる。ある種の芸術性すら感じさせる光の流星群。球体状のものもあれば、刃のように曲線を描くものや、ブーメランのように回転しながら迫ってくるものもある

 

光輝「余裕のつもりか?舐めるな」

 

対する光輝は黒炎の刃を飛ばし光弾と衝突させた

その横をハジメが生み出した数多くの武器達がエヒトめがけ飛び、それもエヒトルジュエの光弾で抑えられた

 

一見どこにでもあるような無機質の武器達だったが、ハジメが投影構築で作ったそれら全てが高品質高威力高速に飛ばされ、まるで某英雄王のようなオールレンジ攻撃を生み出すことができる

 

エヒト「ほう…『投影構築』に『天照』とは、限定的とはいえ創造と破壊の力を使えるとは」

 

ハジメ「(やっぱ投影構築は創造の力か…ぶっちゃけ最近全く使ってこなかったから忘れてたが)いつまで余裕でいるつもりだ?」

 

飛ばした投影構築の武器、剣がエヒトルジュエの顔めがけ突っ込んだがそれを顔をそらすだけで避けた

 

ハジメ「甘ぇよ」

 

しかし、その剣はまるで意思があるかのように後方からブーメランのように半周しそのままエヒトルジュエの背中へ飛んだ

 

光輝「これはオマケだ」

 

更に光輝がその剣に天照の黒炎を纏わせた

 

黒炎を纏った剣がエヒトルジュエに突き刺さろうとした

しかしそれを横から飛んできた光弾に防がれた

 

エヒトルジュエの意識が一瞬背に向かったそこを光輝が千鳥による高速移動で接近し突きを放つが

 

エヒト「この一瞬でここまで接近し我に直接手を使わせるか。やはり貴様は器として実に優れているなインドラ」

 

その光輝の高速突きを見切り腕を掴み止めた

 

光輝「ッ」

 

空いたもう片方の手に握る黒金をエヒトに振るうがそれもエヒトルジュエに刃を掴まれる

 

そのエヒトルジュエの手から血が流れ、それを見たエヒトは興味深そうに黒金を見る

 

エヒト「ふむ、我に血を流させる武器…これも中々良いではないか」

 

光輝「おい、その汚え手で俺の刀に触れるな」

 

エヒトルジュエに止められる光輝であったがすぐに須佐能乎を出しその拳をエヒトルジュエに振り下ろすがエヒトルジュエは瞬時に光輝を離し避けた

 

ハジメ「潰れろ」

 

その避けた瞬間をいつの間にかハジメが出した木人の巨大な拳を振り下ろされたがそれをエヒトルジュエが指一本から出た結界で防がれた

 

光輝「『天照』!」

 

だが結界を光輝の天照で焼き尽くされ、拳はエヒトルジュエを潰そうとする

 

しかしそれをエヒトルジュエは空間魔法を使いワープして避けた

 

エヒト「今のは実に悪くない連携だった。この我に空間魔法を使わせるとはな…ならばこれはどうだ?簡単に死んでくれるなよ?」

 

愉悦をあらわにした笑みを浮かべ、エヒトルジュエが優雅に腕をひと振りする。すると、背後の輪後光が燦然と輝きを強め、その直後、ズズズと人型の光が現れた。光そのもので構成された人のシルエットは、その手に二振りの光で出来た大剣を携えていることもあって使徒を彷彿とさせる

 

エヒト「能力は使徒と同程度だ。しかし、この後光が照らす攻勢の中、果たして自律行動で襲いかかる光の使徒まで、対応できるかな?」

 

そんなことを言っている間にも、光の使徒はおびただしい数が生み出されていく。既にエヒトルジュエを中心に、輪後光を背にして並ぶ光の使徒の数は軽く百を超えるだろう

 

普通ならその光景を絶望的と捉えるだろうが

 

ハジメは鼻で嗤いそして口にする

自軍召喚の言霊を

 

ハジメ「物量戦はテメェだけの領分じゃねえんだよ――来い、グリムリーパー!」

 

宝物庫Ⅱから紅い魔力が溢れ出る。強烈な閃光と共に膨れ上がった魔力は、まるで爆発四散するかのように飛び散り、一時的とはいえ白金に満ちる空間を紅で染め上げた。そうして、一拍後、閃光が収まった後には

 

エヒト「これは……ゴーレムの軍団、か?」

 

呟きを漏らしたエヒトルジュエの視線の先には、紅い光を纏う数多の魔物の群れがいた。ただし、その体は鋼鉄よりも頑丈そうな鉱石で構成され、鋭い牙の奥には銃口が、背や腹には開閉する扉とミサイルが、爪は触れるだけで全てを切り裂きそうな超振動を起こしているという、異様さで溢れていたが

 

――ハジメ専用一人軍隊 グリムリーパーズ

 

大狼型、大鷲型、蟷螂型、大亀型、大猿型とバリエーション豊かな、生体ゴーレムの軍団

その数は百を優に超え、しかも体内にはハイブリッド兵器を満載している。痛みを知らず、疲れも知らない、殺戮軍団

 

ハジメ「俺にだってこのくらいのことはできるんだぜ?それとな」

 

ハジメはそこで指二本立ててみせた

すると

 

ハジメの背中から人の形をした木が生えたかと思えばそれが複数体に別れ、完全にハジメから離れるとその姿を見せた

 

それは一人一人がハジメと瓜二つの分身体達だった

 

ハジメ「『多重木分身』…ってところか?カズマの影分身を参考に俺も編み出したが」

 

ハジメが編み出した分身体は皆ハジメの持つ創造の力から出る生命をカズマが見せた影分身に組み込むことで生み出すハジメ流分身の術

 

しかも一人一人がドンナーを片手にエヒトルジュエに銃口を向けていた

 

口元を釣り上げたエヒトルジュエと、絶対零度の目を細めたハジメは、同時に命を響かせた

 

エヒト「光の使徒よ、不格好な魔物もどきを駆逐せよ!」

 

ハジメ「死神共、木偶人形を喰い殺せ」

 

その瞬間、互いの配下達は飛び出し殺し合った

相手の使徒達は強力だったが、ハジメのグリムリーパー達は己の持つハイブリッド兵器を駆使し使徒達を次々と仕留めていく

当然、光の使徒にやられるグリムリーパーもいるにはいたが、致命を受ける度に周囲を巻き込んで自爆するので、最低でも必ず相打ちには持ち込んでいた

 

使徒達をグリムリーパー達が相手取っている間にハジメ本人を含めた分身体達はエヒトルジュエに向けドンナーの魔力弾を放つがそれを光弾のレーザーで次々と撃ち抜く

 

エヒト「我が魔法に、物量で拮抗するとは……とても人間とは思えんな。流石はアシュラの器……しかし、逆に言えば、我と拮抗する程度が関の山だったということでもあ――」

 

ハジメ「随分とおしゃべりだな、駄神」

 

揶揄するように言葉を放つエヒトルジュエを遮って、ハジメ本人が、ドンナー&シュラークを抜き撃ちする。銃声は二発分。空を切り裂く閃光の数は六条。 それが、凄まじい激突を見せる破壊の嵐の中を、まるで泳ぐように潜り抜けて、術者たるエヒトルジュエを狙い撃ちにする

 

放たれた弾丸の位置は、頭、心臓、四肢の六箇所。針の穴を通すような射撃でありながら、一発たりとてミリ単位のずれすらない。衝撃と弾幕が溢れる中で寸分の狂いもなく放たれた絶技だ

 

しかし

 

エヒト「まさかあの飛び交う光弾の中から精密に、それでいて自動再生があるとはいえ恋人の心臓を躊躇いなく狙うその性根……楽しませてくれる」

 

そんなことを言いながら唇の端を釣り上げるエヒトルジュエの掌や胸は、何のダメージも受けていないようだった。 その原因は直前にかざした掌の先、そこに発生している小さな渦巻く黒い球体

おそらく、重力魔法の〝絶禍〟だ

弾丸を呑み込み、そのまま超重力で圧壊させてしまったのだ

 

そんなハジメの放った絶技を容易く退いて見せたエヒト

 

だがハジメは少しも焦った様子を見せず弾丸を放ち続ける

 

エヒト「どうした?他に手はないのか?そろそろ飽きてきたところだ」

 

ハジメ「こちとら相手を楽しませる趣味はねえんだよ。それより良いのか?俺一人にかまけておいて?(・・・・・・・・・・・・)

 

エヒト「!」

 

そこでエヒトは改めて気づく

先ほどから自身を攻撃してこないもう一人の存在を

 

その瞬間頭上から紫の光の流星群が降り注ぎエヒトルジュエをのみこんだ

 

光輝「頭上の守りがガラ空きだったんでな。これを攻めないほど俺はお人好しではない」

 

その正体は光輝の須佐能乎第2形態から放たれた矢だった

しかも光輝の周りにはなんと須佐能乎が何十体も存在し一斉に矢を放ったのだ

 

光輝「『影分身の術』…創造を除いて、南雲にできて俺にできないことはないんだよ」

 

そう、この複数体の須佐能乎は上空で光輝が発動した影分身体達が出現させたものだった

カズマの影分身を何度も見ていたこともあり、光輝も同じように出来るようになっていたのだ

そんな光輝の放つ須佐能乎の矢は光輝の使う攻撃の中でも最速を誇り、ハジメやカズマすらも避けるのは容易ではない速度を出す

 

高威力高速の矢がまるで流星群のように降り注ぐ

さすがのエヒトルジュエも喰らえばただでは済まないだろう

 

分身体たちとともに矢を放ち続ける光輝

しかし、この時の光輝は内心とある違和感に疑問を感じていた

 

光輝「(なぜだ…なぜ先ほどから輪廻眼と転生眼を使わない(・・・・・・・・・・・・)?)」

 

戦闘開始からしばらく、互いに拮抗しあってはいるが、未だにエヒトルジュエは輪廻眼と転生眼の創造と破壊の力を使った形跡が無いのだ

 

光輝「(これまで使った力は恐らく眼の力抜きの奴自身の力……そして一度も開眼して見せてない……使えないのか?…)」

 

一方須佐能乎の矢を降り注がせている光輝に続きハジメとハジメの分身体達も様々な銃火器を取り出しエヒトルジュエに向け蜂の巣にする勢いで放ち続けるが

 

ハジメ「(何を企んでいる?奴は)」

 

ハジメもまた、エヒトルジュエに対し違和感を感じていた

 

ハジメ「(さっきからこいつ…何かを気にしながら戦っている素振りがあるな…それどころか…まるで戦いを長引かせようとしているようにも思える……俺達の消耗を狙っているのか?……いや、そういうふうには思えねえ。悔しいが奴がはなから本気でやれば今の拮抗状態をすぐにでも崩せる……だがそれをしようとすらしていない…)」

 

エヒトルジュエの全力は間違いなく、ふたりを圧倒し今の情勢をも覆すことができるはず

だがそれを変えようとせず楽しみながら戦っている

 

かたや創造と破壊の力を使おうとしないことに

かたや本気を出さず時間稼ぎでもしようとすることに

 

ハジメ/光輝「「(お前/貴様は何を考えている、エヒト)」」

 

ふたりの怪物は違和感を抱くのだった

 

光輝「そろそろ出てきたらどうだ?貴様が本気じゃないことに気づいてないとでも思ったか?」

 

ガァァァァァァンンンン!!

 

そういう光輝に反応したのか強大な魔力の圧を全方位放ち、飛んできた攻撃全てを弾いてみせ、攻撃の雨からエヒトルジュエが姿を出してみせた

 

致命傷とはいかないものの流石に多少のダメージを負っている姿が見える

 

そんな中でも攻防の手を全く緩めることなく、ハジメと光輝、グリムリーパー達の攻撃を捌きながら、エヒトルジュエは余裕の笑みを浮かべて話しかけた

 

エヒト「そう言えば、アルヴヘイトをどのようにして仕留めたのだ? あれも一応は、神性を持つ我が眷属だ。いくらお前と言えど、そう簡単に討たれるとは思えないのだがな」

 

大きく迂回しながら四方よりハジメを狙う回転光星を、独楽のように回りながらドンナーで迎撃しつつハジメは鼻で嗤いながら返答した

 

ハジメ「ハッ、あの俗物が神? 笑わせるなよ。無様に命乞いしながらあっさり死んだぞ。あれなら迷宮の魔物の方がまだ根性がある」

 

エヒト「ほぅ、あっさりとなぁ……アレは我の配下の中でも指折りだったのだがな…」

 

少し残念そうな仕草をしながら自身の掌を軽く握る素振りを見せるエヒトルジュエ

 

それに対し上空から須佐能乎を出しながらエヒトルジュエの頭上に落下する光輝

 

光輝「安心しろ。南雲が貴様の配下のゴミを始末したように、今度は俺が貴様を殺してやるよ!」

 

そう言いながら顕現させている光輝の須佐能乎の姿はまた別なものへと変わっていた

 

第1形態の餓者髑髏

第2形態の武将

第3形態の山吹

 

とこれまで多くの変化を見せた須佐能乎がここに来て新たな形態を見せた

それは第2形態の武将に下半身が生え、左腕には弓、右手には巨大な大太刀が握られていた

 

体感だけでもそれがこれまでの須佐能乎をも上回る力を秘めていることは明白だ

 

須佐能乎第4形態 顕現

 

光輝「うおおおおおおおお!!!」

 

光輝の須佐能乎が大刀を振り下ろす

 

エヒト「ッ!!」

 

それを巨大な結界で防いでみせたが、その瞬間、大刀と結界が衝突し空間を大きく揺らすほどの衝撃波が発生した

 

その光輝の須佐能乎の一撃に結界からはきしむような音が流れ出し

 

エヒト「ッ」

 

ここで僅かにエヒトルジュエに焦りが見えたが

 

エヒト「甘いわ!!」

 

結界を発生させた方の腕とは別の方の手から強大な光弾を発生させ弾いてみせた

 

もし今のが決まっていれば恐らくエヒトルジュエの中にいるユエごと仕留めることになっていただろうが

 

光輝「チッ、仕留め損なったか」

 

光輝はちっともそれを気にしている素振りを見せない

 

ハジメ「(あいつ、ユエいること忘れてねえよな?……流石にユエごと殺る…なんてことはねえよなぁ…)」←さっきまで急所に弾丸当てようとしていた人



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第七十八話 邪神と怪物達➁

 

エヒト「むぅ…今のは少しヒヤッとしたぞ……だがいいのか?あり得ないだろうが万が一今のが完全に決まっていれば我の中にいる深淵に沈んだ吸血鬼の魂ごと仕留めていたのだぞ?そうなればただでさえ戻ってくる可能性が皆無な小娘が戻ってこれなくなっておったのだぞ?」

 

光輝の須佐能乎の攻撃をまともにくらいかけたことにエヒトルジュエが中にいるユエの魂をあからさまに盾にするような口振りで話す

 

光輝「……」

 

しかし、光輝は顔色一つ変えることなくエヒトルジュエ…否エヒトルジュエの中に目を向け

 

光輝「……ユエ……安心しろ……お前を殺すことになってもそいつは倒してやるからな」

 

エヒト「なっ!?」

 

無慈悲にも宣告した

 

光輝「なにか勘違いしているみたいだが…後ろの白髪眼帯はともかく俺はユエを救いに来たんじゃねえ……貴様を殺しに来ただけだ…その過程でユエが死ぬことになろうとも…俺のやることは変わらねえ…だからそいつを盾にしても無意味なだけだ」

 

エヒトルジュエの言葉に光輝は毛ほども気にしてない口振りをし、自分は本気だと言うことを示して見せる

 

エヒトルジュエに宣告する光輝にハジメは内心、気が気ではなかった

 

それはこの戦いが始まる数日前の作戦会議の時の光輝の発言が頭をよぎっていたからだ

 

光輝『断っておくが…俺はユエを助けるつもりで戦わねえ。ユエごとエヒトを殺すつもりで戦うつもりだ。相手は紛い物とはいえこの世界を統べる存在…加えて南雲を一方的に打ち負かすほどの力を持っている…恐らく次に戦うことになれば最初とは比べ物にならないほどの力を出してくる……そんな相手に倒す以外の気持ちと考えで勝つことができる余裕…俺達にあると思うか?』

 

この光輝の発言には作戦会議に参加していた一同に動揺が走ったが光輝の言うことは最もだった

 

ユエを助けなければならないのはもちろんだが、そのユエの肉体を乗っ取っているエヒトの力はその場にいる光輝とカズマ達伝説のパーティーに浩介、幸利以外は実際に目の当たりにしていたため、ユエからエヒトを引き剥がすことがどれだけの難易度なのか良くわかっている

 

かと言ってそのユエを見殺しにすることはできない為、結果光輝はエヒトを殺すこと、ハジメはユエを救うことを第一に挑むこととなった

 

光輝『俺はユエ事エヒトを殺るつもりで戦う…だから南雲。ユエを救うことを諦めるつもりがないなら俺が奴と殺りあってできた隙でもついて勝手にユエを助けろ』

 

今の光輝はユエを救うことは頭にはなく、エヒトルジュエを殺すことしかない

 

その為下手したら光輝がうっかりエヒトルジュエごとユエを殺すのではないかと心配になる

あまり口には出さないがハジメは光輝の実力を高く評価しており、自身と同等かあるいはそれ以上あるかもしれないこの男なら万が一…本当にエヒトルジュエにその刃が届くかもしれないと

 

エヒト「……そうか……インドラの器はそのつもりでいるのか…話を戻すが、隠すことはない。分かっているぞ。概念魔法を発動したのだろう? お前にとってあの時は極限と言える状況だった。まさか、アルヴヘイトを打倒し得るほどに強力な概念を生み出すなど、我にとっても予想外ではあったが……」

 

と、先ほどのハジメの発言を指摘するエヒトルジュエ

 

エヒト「恐らくは〝神殺し〟…分かるぞ?それこそがお前の切り札…それを虎視眈々と必殺の瞬間を願っているのだろう?」

 

ハジメ「(ちげぇんだけどな…まあ勝手に勘違いしてくれてるならそれでいいか)そこまで読むのか…まあ元々隠すつもりも無かったが」

 

そう言いながらハジメは自身の懐に目を向ける

 

『神越の短剣』

それは、決戦前にミレディが渡してきた神殺しの概念魔法を込めたアーティファクト

 

元々は解放者達と共同で生み出すことができ、その効果は文字通り神を殺すためにあるといえる代物

 

ちなみに誕生経緯はというと〝神殺し〟の概念を組み込むことができなかったことで業を煮やし、解放者全員でやけ酒した挙句、ベロベロ状態でエヒトに対する罵詈雑言大会をしていたら出来たというもの

そこに建前や理性や使命などという雑念が一切含まれていない

要するに〝エヒト死ねクソ野郎〟って気持ちだけを込めた一品

 

それをハジメが弾丸に加工し懐に仕舞っており、それをエヒトルジュエが感知したのだ

 

エヒトルジュエ「だができるかな?その虎の子を我に近づかせることが、叶うとでも思っているのか?」

 

そう言うとエヒトルジュエの周りから無数の魔法陣が展開されそこから数多くの属性魔法の魔弾が高速で放たれた

 

無論応戦してみせたハジメ達だったが徐々に分身体達やアーティファクトや武器が潰れていく

 

ハジメ「くっ!(こいつ、急に力を上げてきやがったか。やっぱ手を抜いてやがったな)」

 

エヒトルジュエ「そういえば先ほどの仕返しをしていなかったな、インドラの器よ!」

 

その瞬間エヒトルジュエの姿が一瞬で消えたかと思えば光輝の目の前に現れ

 

光輝「!?(速っ)」

 

瞬時に須佐能乎の一部を前に出しガードするのだが

 

エヒト「『雷神槍』」

 

エヒトルジュエの突き出した手の虚空から突如、雷が降り注いだ

極限まで集束・圧縮されたそれは、もはや雷で出来た槍

それが須佐能乎の硬いガードを貫くとそのまま神域の奥へと吹き飛ばされた

 

ハジメ「天之河!」

 

エヒト「よそ見している暇はあるのかアシュラの器よ」

 

その直後、エヒトルジュエが瞬時にハジメの前に現れノータイムかつ逃げ場のない圧倒的な攻撃を繰り出そうとした

 

しかし、ハジメは光輝のやられる姿を見ていたため光輝よりも早く防御に移ることができた

 

取り出したアーティファクト、可変式大盾『アイディオン』がハジメを覆う球状の盾が展開される

 

轟音

 

放たれた空間爆砕の衝撃は、一撃でアイディオンの一層目を木っ端微塵に吹き飛ばした。凄まじい衝撃が伝播してきてアイディオンを支えるハジメの左腕が悲鳴を上げる。 そこへ追撃の嵐。莫大な量の光星が、復元する間もなく次々と襲いかかった。光の嵐に呑み込まれたアイディオンは、まるで恒星のように輝く。 それでも、どうにか突破を許さない強固さは難攻不落の城塞と称するべきか。 だが、その防御力もエヒトルジュエにとっては面白い余興に過ぎないようで、おもむろに手を掲げるとその掌に蒼白い焔を生み出した。そして、そっと息を吹きかけるようにして送り出す。 スっと音もなく飛翔した蒼焔は、未だ集中砲火を受けているアイディオンに突撃し――そのまま防壁をあっさりと透過した

 

ハジメ「っ!?」

 

それに気がついたハジメがすぐにその場を離れようとしたが遅かった

 

ハジメ「がぁああああああっ!?」

 

アイディオンのギミックが解かれて、そこから蒼い焔に巻かれたハジメが飛び出して来た

 

間髪入れず迫る魔弾の流星群を、残ったグリムリーパーや木分身達が身代わりとなって防ぎ、鋼鉄の雨を降らせた。そんな周囲の犠牲に歯噛みしつつ強引に包囲を突破して、苦痛に歪んだ表情のまま紅の魔力を収縮。次の瞬間には衝撃に変換して蒼焔と殺到する魔弾を辛うじて吹き飛ばす。 同時に、後に残されたアイディオンが、鉄壁を崩して内への隙間を開いた為に内外から攻撃を受けて木っ端微塵に粉砕されてしまった

 

エヒト「はっははははっ、先程までの大言はどうしたのだ? 随分と見窄らしい姿になっているではないか」

 

エヒトルジュエが可笑しそうに嗤う

その視線の先には、あちこちに火傷を負い服の一部も焼損させて荒い息を吐くハジメの姿があった。魔力も蒼炎と魔弾の吹き飛ばすのに相当な量を衝撃に変換したようで、かなり目減りしている。全属性耐性や金剛の護りを気休め程度にしてしまう威力には戦慄せざるを得ない

 

ハジメ「(クソが!輪廻眼と転生眼を使ってねえにも関わらずこんなに強えのかよ…)はぁ、今のは……ユエの……」

 

エヒト「いや、我のだよ。吸血姫も使えたようだが、元々、我が使っていた魔法だ。あらゆる障害を透過し目標だけを滅ぼす。〝神焔〟というのだ。どうだ? 中々、美味であっただろう?」

 

ハジメ「チッ」

 

エヒト「しかし…まさか我が呼び出した異世界の力あるもの達の中で…お前やインドラがいるとはな…魂の同化が進んでいたことで…じっくり見なければ気づけもしなかった……まさかお前達が死に…数百年経ってもなお我を討ち滅ぼすことを諦めないとは…死に損ないを通り越して…もはや感心の域に達するぞ……おまけに厄介な転生者共まで引き連れ行ってからに。昔と違って、現代にはフリードに対抗できる人材がいなかったので、多少の調整とどうせならと、我の器と成り得る者、親和性の高い者を探した結果。お前達をこの世界に呼び出すことができた。神の身なれど、世界の境界を越えることは容易くない。まして、器なき身では【神域】の外で直接干渉することもままならんほどだ。結果として、どうにか上の世界(上位世界地球)から引き摺り落とすことには成功したわけだが、おまけの中にお前やインドラが紛れていて、それが吸血姫の他に竜人までもを引きずり出すとはな…どちらも上手く隠れたものだ…最初、特に考えもせず行い、意図せず繫がった世界の者共を召喚した結果が、我と世界をかけた戦いにまで発展するとは、流石に予想出来てなかったぞ。まあ…お陰で三百年前に失ったと思っていたこの器を見つけ出し、お前達と再び相見えることが出来たことを考えれば良しとする」

 

ハジメ「(なるほどな……つまり、天之河兄がその器候補としての資質があって、俺達はそれに巻き込まれたわけか)てめぇ…俺達には気づけなかったにも関わらずあいつら(カズマとアクア)には気づいてやがったのか」

 

エヒト「正確に言えば、この世界に呼び覚まして改めてその魂を見て気がついたのだがな……まさか他にも2名…我を倒すためにこの世界に転生した者がふたりも居たとは驚いたが……そしてお前達は既に我の正体にも気づいているのだろう?」

 

負傷しているハジメをよそに、まるで世間話でもするかのように振る舞うエヒトルジュエ

 

まるでこちらは余裕だからいつでも掛かってきてもよいぞとでも言いたげな隙だらけさを見せつける

 

ハジメ「……あぁ…お前の正体は俺達と同じ異世界人だ…大方魔法文明がトータス以上に発展した世界のな…お前が本当に神なら地上で起きている事やユエの居場所も事細かに知ることができるはずだ…にも関わらずそれができていない…他にも異世界から召喚するなんて行為……そもそも異世界の存在を知覚してなければできない発想だ…そして…魂だけの存在になったお前はこの神域を作ったのは……恐らくは延命目的だろうな……地上では器が無ければ力を行使できない……つまりお前は万能の神でもなんでもない…神を名乗るただの人間だ」

 

エヒトルジュエの目的はアシュラを通して既に知っており、カズマからもエヒトルジュエの正体に関する概要は聞いていた為、一部推測混じりの推理を言い出す

 

エヒト「……正解だ…だが一つ訂正しておこう」

 

そう言うとエヒトルジュエの目の前に魔法陣が展開され、そこからはかつてユエの肉体を乗っ取ったばかりのときに使って見せたユエの五天龍…しかしそれを更に上回りなおかつ魔物化させた上位互換魔法

 

五天之魔龍

 

それがハジメに襲いかかった

 

エヒト「信仰心を存在昇華の力に変える秘儀。それは間違いなく我に神性を与えた…故に我は神である……ふむ…せっかくだ…我の起源を見抜いた褒美だ。少し昔語りをしてやろう。語り終わるまでに死んでくれるなよ?」

 

ハジメ「知ったことか!」

 

ハジメは今持てる全ての武器と魔法を持って防ぎ切ろうとする

しかしエヒトルジュエは手を軽くかざし振ってみせると五天之魔龍全ての動きが高速化し、その周りからも魔法陣が出現し大量の魔弾が放たれた

 

エヒト「かつて、我の故郷は魔法技術が発展した世界だった…星そのものを管理下に置き自然現象の全てを掌握するほどにな……だが発展しすぎた世界が末期を迎えるということは自然なものだった…我の世界も例外ではなかった…この世界が滅びるのはもはや時間の問題…そう思いつつも、我を含めた到達者──神代魔法の真髄を個人で扱える者達と共に世界の理に触れ理法術──神代魔法を手にするつもりだった…無論それが世界を滅ぼす要因になることは知ってはいた…だが知的好奇心を抑えきれなかったのだよ。そんな時だ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

奴らが、異世界喰い(・・・・・)が攻めてきたのは」

 

ハジメ「…はっ?」



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第七十九話 邪神と怪物達③





 

異世界喰い

 

エヒトルジュエの口から出たそのワードにハジメは思わず呆けてしまった

 

エヒト「奴らは見たこともない技術と力を持って、我の故郷を壊滅寸前まで追い込んだ…ある者は略奪し、ある者はこの世界の命や世界を喰らい我が物とし、そしてある者は、ただただ破壊を楽しんでいた…もはやこの世界は終わりだと…そう悟った我らは奴らに対抗する為、世界の理に触れ理法術を得た、結果故郷を滅ぼすこととなった……しかし、手に入れたばかりの理法術を生かしきれず、同胞達は次々とやられ、最後に残った我だけは崩壊する故郷から逃げ延び、この世界…トータスへたどり着いたのだ」

 

ハジメ「そして今度はお前がその異世界喰いと同じことをしていると、とんだ皮肉だな!」

 

飛んできた魔弾を生み出した木人を盾にして防ぎつつも今度は木龍を複数体生み出し五天之魔龍に対抗する

 

エヒト「……この世界に来た時も驚いたぞ…このような原始的で取るに足らない者達がひしめく世界…だと言うのに無駄に強大な力を持つ者がいた…その者こそが」

 

ハジメ「……六道仙人…ハゴロモか」

 

エヒト「そうだ…あやつの力は確かに強大だった…正直年老いて無ければ勝てたかどうかわからんほどにな…我はそうして奴を殺し目を奪い、その後月に出向きそこにいたハムラの一族を虐殺しハムラの転生眼、そして封印されていた外道魔像を何かに使えるのではないかと思い地上に持ち出した。が、強大な力を持ち制御の効かない外道魔像は地上を荒らしてまわるので、どうせならば原住民共から簡単に信頼を得るために奴らの前で外道魔像を封印してみせた…結果連中は簡単に我を信じ神の如く崇めた。更に手に入れた輪廻眼と転生眼を移植し、我は理法術に加え神性、そして創造と破壊の力を得ることができた。そう、こうして我は全知全能の神へと至ったのだよ!!」

 

エヒトルジュエはそう高らかに誇らしげに言ってみせた

 

ユエの姿でそう言うので不快感全開となったハジメは攻撃をかわしながらどうにかしてエヒトルジュエに攻撃を当てられないか考えたが、こちらに来る攻撃を防ぐので精一杯だった

 

エヒト「だが…我は気づいてしまった…手に入れたこの創造と破壊の力は本来の力の半分程度でしかないと…そう…不完全だったのだよ。おまけに神となったことと引き換えに肉体を捨てざるを得なかった……結果我は地上に直接力を行使することができずにいた……せっかく人が築き上げていた物を壊す楽しみを、喜びを知ることができたというのにだ……今の我ではその楽しみを存分に味わえない…だからこそ、我は求めた。より強い力を!器を!!万物を超越し、すべての始まりと終わりを意のままに出来る!!完全な存在へと至るためにな!!だから神樹の実を生み出すために、十尾の人柱力になる必要があった。地上に直接干渉できてなおかつ完全な存在になるために」

 

ハジメ「クッ!!だから作ったんだろ?数多の種族をな」

 

エヒト「そう。我は手始めに原住民と魔物を組み合わせ、亜人と魔人、そして竜人を生み出してみせた。魔人は魔素と親和性の高さを、亜人は肉体的強度の高さを。そのふたつを組み合わせてできたのが竜人だが、どれも器としては不適切だったがな…竜人は悪くなかったが足りなかった。その過程で、現在の魔物や使徒といったものも作り出すことになったのだが、何が原因なのか、結局、我の器と成り得るものは出来なかった。ある程度は耐えられても、直ぐに自壊してしまうのでなぁ」

 

カズマ達転生者組、そしてハジメと光輝だけが知る事実

それは、この世界の種族の起源は人間であり、その他の種族は皆エヒトルジュエによって生み出された副産物であると

この事を公表せず隠していたのはこれ以上他種族同士の争いに余計な差別意識を生み出さないため敢えて言わなかったのだ

 

ハジメ「吸血鬼は…どうなんだ?」

 

しかしここでハジメはエヒトルジュエに聞き返した

唯一言わなかった吸血鬼の起源を

 

エヒト「さあ…アレは実のところ我自身もよく解らぬのだ」

 

ハジメ「…は?」

 

エヒト「恐らくは人間が起源であろうが…唯一我が手を加えることなく誕生した種族…それが吸血鬼族だ…だが…まさかその吸血鬼の中に我の器に相応しい者が居たとは驚きだったとも!まあ、器としての性能はあのふたりに比べ些か劣ってはいるが、この際贅沢はよそう」

 

吸血鬼はエヒトによって生み出されてなかった…流石のハジメも驚いたが、それでも戦う手を止めない

 

ハジメ「だが取り逃がしてしまった…そんでお前は腹いせに吸血鬼の国を滅ぼしたと……この時点で神とは程遠いな、もはやただのガキの八つ当たりだなっ!」

 

エヒトルジュエの行いを煽ってみせるとエヒトルジュエの攻撃がより激しさが増した

恐らく今のハジメの言動に怒りを覚えたのだろう

 

しかし表面上は表情を変えないでいるのは未だに神としてのプライドがあるからだろう

 

エヒト「元はといえばインドラとアシュラ。お前達が創造主の我に歯向かった挙げ句、勝手に相討ちになったお陰で、器を手にするのに更に大きな時間を有することになったのだ……いくら器の成長のためとはいえ、余計な自我を持った為にここまで遠回りすることとなった……わかるか?あの吸血姫の故郷が滅んだのも、我に狙われることとなったのは。全てはお前達のせいだということだ」

 

ここまでの事を自分でやっておいて、エヒトルジュエはその全ての責任や行為をインドラとアシュラのせいにした

 

ハジメ「ハッ!よく言う。仮にお前がふたりのうちのどちらかを器にしていたのなら、今頃このトータスは死に体…いや、滅んでいただろうな。結果的にあのふたりの相討ちがユエの命を、そんでこの世界を延命させることができたわけだ」

 

実際、エヒトルジュエがインドラかアシュラのどちらかを器にしていればその数百年もの間、トータスだけではなく数多の異世界が滅ぼされていただろう

異世界の全てを喰らい尽くす者

まさに『異世界喰い』

 

エヒト「改めて礼を言うぞ。我の器を見つけ出し、ここまで我を楽しませたこと、真に大儀であった。褒美に、最後は我の手で葬ってやろう…と言いたいところだが…」

 

そこでエヒトルジュエがハジメの方へ目を向けた

 

数多くの攻撃を防ぎつつも着実にダメージを受け続け、結果口や身体中から血が垂れ流れていた

しかも現時点で手持ちのアーティファクトも8割以上が壊され、残った武器

 

エヒト「フッ…既に重症。気づいているか?インドラの器に比べ、お前の攻撃は我にとっては実に軽い。これが我を本気で仕留めようとする者とそうでない者の差…おまけに奴が居ない今、お前には我を倒すことは疎か、我の中に居る吸血姫を取り戻すこともままならん」

 

ハジメ「うるっせぇ…」

 

ボロボロになりながらも、どうにか立つハジメ

既に重症を負ってはいるものの、その目は死んでいなかった

 

エヒト「ほう、向かってくるか…それだけ痛めつけられてもなお、諦めないとはな」

 

ハジメ「あたり…まえだ…誰が…諦めるかよ…たしか…に…お前は…強…い……だが…それだけ…だ…おまえ…には…なんの…信念…も…意志も…ない……お前は…人以下…だ」

 

エヒト「……強がりを…その有り様では…なんの説得力もないぞ?」

 

ハジメ「地上を直接…見ること…のできない…お前に…はわか…らねえだろ…うな……俺は…知ってんだよ」

 

──最弱種族のくせに、想い一つで……人外魔境に踏み込み、泣きべそを掻きながら、それでも〝共に〟と、ただそれだけの願いの為に必死に走り続けたウサミミ少女(シア)を──

 

──他よりも弱い現実を突きつけられても……決して折れず、歩み続け、寄り添うことを選んだ意志の強い少女(香織)を──

 

──仲間の為……守る為……愛する全ての為に、いざという時は誰よりも体を張る情に厚く聡明な彼女(ティオ)を──

 

──死の間際でも、大切な者を想い、孤独にさせないために立ち上がり、幾度死に瀕してもなお、親友を、仲間を、そして愛する者を強く想う愛情の深い優しすぎるくらいに優しい少女()を──

 

──友のため、そして自分のやれることを果そうと己の全てを賭ける影の如き少年(浩介)を──

 

──一度は絶望し、その人生を投げ出そうとしたが、再び立ち上がり、自分の人生という名の運命に抗った少年と少女(幸利 恵里)を──

 

──世界の為、そこに生きる多くの命を救う為、数多の種族の垣根を超え、その手を繋ぎ合わせようと奔走し、世界のわだかまりを鎮めようと己の夢、信じた道を突き進む、真っ直ぐ自分の思いを曲げない男(カズマ)と彼を想い、その夢について行き、愛する者のためならば己がどうなっても構わない強い想いを持つ水と紅と黄の女達(アクアめぐみんダクネス)を──

 

 

 

そして

 

 

 

ハジメ「体を乗っ取られても、今尚、戦い続けている。俺を愛し、あのバカ目隠し(光輝)の存在を気に掛ける。俺の月(ユエ)をな…お前は俺達の足元に及ばねえんだよ。わかったか、この人以下の神モドキが」

 

圧倒的な力の差を見せられてもなお、ハジメは足掻く

そして諦めない

 

その姿にエヒトルジュエは小馬鹿にするような目を向けつつも次はどう痛めつけようかと考えている

 

エヒト「……ふっ、そうやって挑発し我の精神を揺さぶる魂胆か? 切り札を切り損なえば終わりだからな。涙ぐましい努力だ。だが、今のままでは到底、〝神殺し〟は当てられまい」

 

ハジメ「ハッ…悪いが、俺はお前如きに負けてられねえんだよ」

 

ハジメが、スっと片足を引いて構えを取る。死にかけなのに、その身から覇気が溢れ出す。

 

エヒト「なに…?」

 

ハジメ「俺の女を取り戻すためにも…夢の為に戦うあいつの為にも、今も足掻き続けているあいつらの為にも、ぜってぇ負けたくないあいつに勝つ為にも、こんなところでくたばるわけにはいかねえんだよ!!

 

ハジメから莫大な力が噴き上がった。今までの〝覇潰〟の比ではない。更にそれを上回る力がハジメから溢れ出す。しかもその色に変化が訪れたのだ。最初に身体から噴出していた深紅のオーラが、徐々に変化したと思えばやがて緑色のオーラとなり、エヒトルジュエの白金のオーラを中和する

 

エヒト「っ!?なんだとっ」

 

死にかけだとばかり思っていたハジメの、ここに来て膨れ上がった力の大きさにエヒトルジュエが初めて表情を崩した。それは紛れもない驚愕の表情

 

ハジメ「はっ…どうやら…ここに来て俺の中のアシュラとの魂の融合度数が、やっと天之河レベルにまで近づけたか(と言っても…そう長く続かねぇな。このブーストも)……ま、勝負はこっからだ!!」

 

その言葉とともにハジメはエヒトルジュエに向かって飛び出した

 

エヒト「ッ!」

 

一瞬視認が遅れてしまうほどの速度で迫りくるハジメにエヒトルジュエは僅かに表情が崩れたがそれを整え相手取る

 

それまで遠距離戦だった戦いが一変し近接戦となった

 

ハジメはドンナー、シュラークを至近距離で放ちながら蹴りを合わせた我流の格闘術を叩きつけるが弾丸を避けつつ蹴り技を素手でいなして見せるエヒトルジュエ

 

両者がぶつかり合うたびに空間に衝撃が走る

 

ハジメの攻撃を避けるかいなしていたエヒトルジュエだったが少しずつその表情に焦りが見え始めた

 

先程まで間違いなく自身に手も足も出なかった男が確実にこの短い時間で自身に迫りうる力を身に着けつつあることに

 

エヒト「調子に、乗るな!!!」

 

エヒトが手を払いのけると強い突風が発生しハジメを上空に吹き飛ばした

 

だが

 

ハジメ「丁度いい。この位置が丁度いい!!」

 

ハジメは丁度エヒトルジュエの真上に飛ばされたが構わず、その場で木人を作ってみせたと思えば、木人の掌からこれまで生み出した螺旋丸を大きく上回る螺旋丸を生み出してみせた

 

エヒト「面白い!!では、真なる神の威をもって、その力を潰すとしよう!」

 

エヒトルジュエの背中の上にある三重の輪後光から凄まじい光を放ち、輪後光がそれぞれ逆回転を始め、輪後光から極太の閃光が放たれる。それは見るものが見れば、まるで勇者である勇輝の放つ〝神威〟だと思うだろう。もっとも、その威力・規模共に桁違いだが

 

ハジメ「『木人・超大玉螺旋丸』!!」

 

木人の巨大な螺旋丸とエヒトルジュエの真の神威が衝突する

 

ハジメ「ぐっ」

 

エヒト「ふはははははは!!無駄だ。貴様には到底押し勝ちようのない、滅びの光だ!!」

 

そう高らかにいうエヒトルジュエの言うように、当初拮抗状態にあった真の神威と超大玉螺旋丸は徐々にエヒトルジュエ側が優勢となり押されゆく

 

エヒト「残念だったな、アシュラの器よ。この我とここまで戦えたことは褒めてやるが、ここまで」

 

ドパンッ

 

その先の言葉をエヒトルジュエが発することはなかった

 

なぜならば、展開していたはずの障壁にたった今ハジメのドンナーから放った風の球体を圧縮して放った弾丸─螺旋弾がエヒトルジュエの障壁を貫いたのだ

 

限界突破の特殊派生──真匠

その効果は才能の無い者すらもあらゆる分野で神の如き力を振るようになる

 

戦闘中、ハジメは己の魔眼で障壁の解析を続け、つい先程その解析を終えた

それにより即席で神代魔法の付与を弾丸に込めることができたのだ

 

──神壁貫通弾──とでも呼ぶのだろう

 

更に螺旋丸を纏った弾丸は放つたびに障壁のヒビの中を激しく削りまわりそれが障壁のヒビをドンドン大きくしていき

 

エヒト「貴様ぁぁぁぁ!!」

 

自身を確実に殺せる弾丸が近付きつつある事に思わず声を荒げるエヒトルジュエ

 

早急に目の前の障壁の修復に力をあてつつ真の神威の勢いを更に上げようとハジメの居る頭上へと意識を向けた(・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして生まれた僅かな意識の隙間を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「やっと意識が逸れたな?(・・・・・・・・・・・)

 

この男が逃すわけがなかった

 

エヒト「なっ!?」

 

光輝「随分遅くなったが、これで終いだ」

 

エヒトルジュエは驚いていた

 

自身に気づかれることなく忍び寄りまるで暗殺者の如く心臓への迷いのない突きに

 

エヒトルジュエ…否、ユエの肉体を乗っ取っていたエヒトルジュエの心臓にはクナイが突き刺さっている

 

エヒト「き、さま……まさ…か、これは…」

 

光輝「誰が神殺しの武器を持ってんのが南雲一人だと言った。これは言ってみれば『神殺しのクナイ』…その効果はお察しの通り神殺し…貴様を殺すためのクナイだ」

 

そう、ミレディから託された神殺しの武器を銃弾に加工したハジメだったが、それでもエヒトルジュエに当てることは難しいと考え、第二の刃として半分をクナイに加工し光輝に託した

 

どちらかが囮となり、その間に確実に突き刺せるように

 

エヒトルジュエはハジメが神殺しの弾丸を宝物庫ではなく懐にしまっていたのはすぐにでも取り出す為であると思っていたが、実際は神殺しの弾丸を持つハジメに対し大きく意識を向けさせ、逆に神殺しの武器を持たない光輝への警戒心を少しでも減らす為

光輝の神殺しの武器は宝物庫(巻物型)に締まっていた為エヒトルジュエも全く気付けなかった

 

そして、光輝は狙っていた

自身を飛ばしたエヒトルジュエの意識がほんの僅かでもその場に居なかった自身から完全にハジメに切り替わって出来た意識の隙間を

 

光輝「それで、くらった感想はどうだ?ヤケ酒から生まれたらしい産物みたいだが」

 

まるで遺言でも聞くかのようにエヒトルジュエに問う光輝

それに対しエヒトルジュエは口から血を垂れ流しながら振り返った

 

エヒト「そう…だな…」

 

その表情は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒト「残念だったな。インドラの器よ

 

愉悦に染まった笑いを浮かべていた

 

光輝「ごっ、ッッッ」

 

直後エヒトルジュエの手から長剣が出現しそれが光輝の急所に突き刺さり、地面に倒れた

 

ハジメ「!」

 

突如突き刺された光輝にハジメも驚きを隠せずにいたその意識がそれ、超大玉螺旋丸の勢いが僅かに弱まる瞬間をエヒトルジュエは逃さなかった

 

真の神威は勢いよく超大玉螺旋丸を押し退け

ついに、木人に超大玉螺旋丸を押し付け返された

 

超大玉螺旋丸が木人に押し付け返される前に飛び降りて回避するハジメ

 

その瞬間、ハジメの飛び降り先の地面から大規模の火柱が発生しそれに飲み込まれた

 

しかし、既のところで風魔法を纏うことで大事には至らなかったが、身体の一部が焼けてしまっていた

 

ハジメ「ッッッ…」

 

結果ハジメは上手く着地ができず地面に倒れてしまう

 

エヒトルジュエ「見事だ。貴様達。まさかかたや戦闘中に我の障壁を打ち破るアーティファクトを生み出し、かたやこの我に切り札を当てるとは称賛に値する。最も切り札が常に切り札たり得るかと問われれば否と答えるしかあるまいが…」

 

滑稽なものを見るかのような目でハジメと光輝を見るエヒトルジュエ

今のふたりの姿を見て上機嫌になり、更に口を開く

 

エヒト「不思議か?なぜ我に神殺しが効いていないのか?単純な話だ。昔ならば有効だったかもしれんが、我は存在昇華の秘儀を続けているのだから、今の我の神格が神殺しの概念如きものともしない領域に至るのは必然…しかし、流石に確信は持てなかったのでな。何よりこの身体に『自動再生』があろうとも神体に傷をつけるなど言語道断の不敬であるのでな…受けるつもりは無かったが……」

 

火傷となっている箇所に手を当てるハジメ、さっきから動けず血を流すだけの光輝

 

エヒト「本当に見事であったぞ。この我に焦燥を感じさせるなど前代未聞の快挙であるぞ。余興のつもりで始めたこの戦い、我は実に楽しめた」

 

そう言いながらエヒトルジュエはハジメの方へ歩き出す

 

エヒト「さて、どうするか……お前達はどちらも悪くなかったのでな、どちらを使おうか(・・・・・・・・)迷うな。だが安心しろ。お前の大切なもの全ては、我の力の糧としようぞ。我の中で我の血肉となる栄誉を授けてやろうぞ。そしてこの身体も中々利用価値があるのでな、捨てずに使い続けてやろう。隅々まで、存分に、丁寧に、なぁ?」

 

さきほどから反応しない光輝はともかく、まずは目の前のハジメの心を折ろうと近づき囁やこうとするエヒトルジュエ

そうして心が壊れた時のハジメの表情が見れた時、きっと甘美で実に愉悦な気分を味わえるだろうと

 

ハジメ「……ッ…──ッ…」

 

エヒト「ん?」

 

しかし、そのハジメから小さな小さな呟きが聞こえた

 

それはきっと壊れてしまった者の絶望にひした声だと思い、最後の絶望という名の甘露を味わおうとハジメの口元に耳を寄せる

 

ハジメがスっと口を開いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グサッ

 

エヒト「──はっ?」

 

ハジメ「油断したな?

 

エヒトルジュエは困惑した

突如自身の胸に痛みと共に口と胸から血が溢れ出したことに

 

胸から刀身が出ていることに

 

恐る恐る、自身の身体に突き刺さった刀身の出どころへと振り返るとそこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「思い込むという行為は何事においても恐ろしいことだ。特に自分の力や才能を絶対的だと過信する奴には更にタチの悪いことにな

 

先程まで血まみれになって倒れていたはずの光輝が十手を突き刺していたのだった






時系列としては

エヒトが神になる

完全な存在になろうと行動を起こす

他種族を生み出す

インドラとアシュラを生み出す

ふたりの死後何百年後にユエを見つける

取り逃がして三百年後に異世界召喚をする



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第八十話 最愛の吸血姫

 

光輝『ッッッ……やってくれたなあの寄生虫がぁ…』

 

エヒトルジュエの雷神槍により須佐能乎のガードすら意味をなさない程の威力を叩き込まれ吹き飛ばされた光輝だったが、すぐに立ち上がり写輪眼でハジメと激闘を繰り広げているエヒトルジュエの動きを見続けていた

 

光輝は探っていた

エヒトルジュエの意識に隙間が出来る瞬間を

 

その瞬間に〝とあるアーティファクトを叩き込む〟為に

 

ハジメ『おい』

 

そこへハジメが、否エヒトルジュエの攻撃から生き延びた木分身体のハジメが光輝に駆け寄ってきた

 

光輝『分身体か。お前の体感的に隙は作れそうか?』

 

木分身ハジメ『……はっきり言えばきついな…本体とリンクしている分。それがよく伝わる。確実に当てるにはエヒトの意識から俺かお前の存在を確実に消す必要がある』

 

ハジメの木分身はカズマや光輝の影分身と違い、耐久力が高く、本体との知覚意識のリンクが可能である為、リアルタイムで本体の意識や焦燥感が伝わる

 

木分身ハジメ『一番確実なのは、どうにかして神殺しを当てることと引き換えに奴からの致命傷レベルの攻撃を受け、奴の意識から俺かお前の存在を無くさせたところを本命ぶち当てることだろうが…そのための策が今ひとつ思い浮かばねえんだよな……だが流暢にしてらんねえ…本体の方も正直厳しい…どうにかして奴に2発…確実に叩き込む為の策を…』

 

そう言いながら木分身ハジメは考える仕草をする

 

その間も本体のハジメはエヒトルジュエに良いように攻撃を喰らわせられボロボロになりながらも立ち上がっている

 

光輝『……一つ、奴のことについて分かったことがある…』

 

木分身ハジメ『アァ?』

 

光輝『奴は自分の力に対し絶対的な自信を持っている』

 

木分身ハジメ『…それがなんだって言うんだ?』

 

光輝『……絶対的な自信……悪く言えば過信……思い込む……なら思い込ませればいい……当初の予定通り奴を偽のゴールにまで誘き寄せる案が効果的だ』

 

木分身ハジメ『……あの本番での戦いの中アドリブでやるってたやつか』

 

光輝『策としては、お前の持つ神殺しの弾丸を敢えて意識させ、そこを俺の〝神殺しのクナイ〟を当てる…奴はこの神殺しこそが自身を仕留めるための虎の子だろうと思い込ませる……そこまではいい…だがそれでは恐らく仕留めきれない…だからこその第二の刃たる〝コレ〟が鍵となる…俺かお前の神殺しを当てた後、敢えてその後の奴の攻撃を真正面から受けた上で……作った隙で本命を当てる…』

 

木分身ハジメ『……思い込ませる……!』

 

そこで木分身ハジメが何かを思いついた顔を浮かべたと思えば自身の身体に手を当てそして

 

光輝『!』

 

木分身ハジメ/光輝『あ、あぁぁー…声はこんなもんか』

 

見た目を光輝そっくりに変えた

 

光輝『へ、変化の術…だと…!?』←忍者大好き

 

木分身ハジメ/光輝『いやただ変性魔法使っただけなんだが?それよりもお前の持ってる゛神殺しのクナイ〟渡せ。俺に一つ良い案を思いついた』

 

変性魔法の変える力を自らに転用し己の姿を光輝に変えてみせた木分身ハジメは光輝に渡すよう要求しながらその策を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒト「ガァッ!?」

 

エヒトルジュエは驚愕していた

策を弄して自身を突き刺した男を自分の手で確かに急所を突いたはずだった

 

しかし、その自身が仕留めたと思っていた男に再び刺されている

 

エヒト「な…ぜ…貴様が…貴様は確かに我が…」

 

エヒトルジュエの呟きに、光輝はエヒトルジュエに突き刺した十手に力を込めつつも答えた

 

光輝「ああ、あのハリボテ(・・・・)のことか?」

 

ハリボテ…そう言われエヒトは先程自身が光輝を刺していた場所に目を向けると、そこには

 

エヒト「なっ!?」

 

自身が刺していた光輝ではなく、身体が木でできた光輝…いやハジメの姿があった

 

ハジメ「驚いたか?俺の木分身を変性魔法で声と見た目を天之河に変えてみたんだが…即席だがどうやら自称神の目を欺ける出来みたいだったが……お前、俺の作った天之河の偽物を始末して、あとは俺だけだと思い込んで後方の警戒を解いて天之河の存在を頭から消しただろ?その時点でこの結果は必然」

 

光輝「貴様のような己の力を絶対的だと過信する奴には偽のゴールまで誘き寄せ、思い込ませたあとに本命を叩き込むのが得策なんでな」

 

口から血を吐きながらも先程のように後ろにいる光輝に反撃しようするが

 

エヒト「!?(う、動けない!?)」

 

足を動かそうとしたが何かが絡みつき動かせないでいた

 

足元を見るとそこには、いつの間にか木の根が足に絡みつき動きを封じられていた

 

ハジメ「(この戦闘中、俺が放った弾丸全てに創造の力を込めてたんだよ。ここぞって時まで隠しておいた俺の動きを封じる策だ)」

 

ハジメの持つ創造の力は、限定的とはいえ物にその力を込め、任意のタイミングで発動させることが出来る

 

この空間のそこら中には創造の力込みの弾丸が落ちており、やろうと思えばいつでも縛れたがハジメは待ったのだ

 

確実にエヒトルジュエを突き刺すこの時を

 

エヒト「!?これは!?」

 

そこでエヒトルジュエは自身に異変が訪れたことを悟った

 

ドクンッ、ドクンッ!

 

と目覚めの狼煙が上がり、身悶える肉体の本来の持ち主が上げる意志の叫びを

 

エヒト「馬鹿なっ、吸血姫は完全に消滅したはずだ!」

 

確かに、消滅していく魂魄を感じていたのだ。エヒトルジュエは内から膨れ上がる自らを押し退けようとする力の奔流に顔を歪めながら困惑もあらわに疑問を叫ぶ

 

それに答えたのはハジメだ。未だ起き上がることも出来ない体でありながら、その口元には獰猛な笑みが浮かんでいる

 

ハジメ「ユエの方が一枚上手だった、それだけのことだろう?」

 

エヒト 「っ――」

 

その言葉で察する。すなわち、ユエの消滅はユエ自身がそう見せかけた策だったのだと。力尽き、消えたように見せかけて、自らの魂魄を隠蔽し身の奥深くへと潜んだのだと

 

いつか必ず、助けが来ると信じて

 

ハジメ「俺の〝神殺しの弾丸〟も、〝神殺しのクナイ〟も本来の役目はお前を仕留める為のものなんかじゃない。コレの役目はお前に虎の子だと思わせ、撃ち込みお前の魂魄を揺さぶり、ユエの魂魄を覚醒させる為の物」

 

光輝「そしてこの魂斬ノ逆鉾(コンシャノサカホコ)は、突き刺した対象の魂魄の繋がりを断ち切る物」

 

概念魔法〝神殺し〟――それは、ユエの肉体に影響を及ばさず神性を有する魂魄のみを消滅させる魔法。しかし、ミレディから与えられたこの力を、ハジメと光輝は信頼してはいなかった。それ故その特性のみを利用して本当の切り札を補助する目的で使うことにしたのだ。すなわち、致命傷には程遠かろうと、エヒトルジュエの魂が小さくない影響を受ける隙を突いてユエを覚醒させ、更にユエ自身が力を振るう隙を与えるということ。 そして本命として光輝がエヒトルジュエに魂ノ逆鉾を突き刺すというもの

 

十手型概念アーティファクト──魂斬ノ逆鉾

 

それはハジメが光輝用に作り出した概念アーティファクトであり、その効果はユエの魂魄への干渉禁止と、既にある干渉を断ち切る概念魔法

 

つまりは汝、触れることを禁ずる(俺の女に触るな)というハジメの強い意志が込められていた

 

ちなみに万が一これが失敗したときのために予備としてハジメの体内には魂斬ノ逆鉾を作る際に切り分けて作った同じ概念魔法効果を持った〝血盟の刃(ブルート・フェア・リェズヴィエ)〟の破片があり、いざとなればゼロ距離まで接近したところを錬成し己の身体ごとエヒトルジュエに刃を突き刺そうと考えていたが、無事ことが進みその必要も無くなった

 

そして光輝はただエヒトルジュエの隙を伺っていただけではなかった

 

ハジメの白眼と魂魄魔法を組み合わせるように、光輝も写輪眼に魂魄魔法を組み合わせることで、エヒトルジュエの中のユエの魂魄を捜し出す事ができ、結果ユエの魂魄に直接当てる事ができたのだ

 

しかも魂斬ノ逆鉾と血盟の刃にはそれぞれハジメの血をふんだんに含んでおり、ユエが唯一と決めた相手(ハジメ)からの吸血による効果を大幅に増大させる〝血盟契約〟によりユエの魂魄を強化させる

 

刻一刻と力強さを増していくユエの魂の力。自分の中から異物を追い出そうと荒れ狂う。これは私の体だと、触れていいのはハジメだけなのだと。渦巻き吹き荒れる白金の魔力が明滅するように黄金へと輝きを変え、その意志を示すように脈動がエヒトルジュエの魂魄を打ち据える。 エヒトルジュエは幻視した。スっと目を開き、その深紅の瞳で己を射抜く美しき吸血姫の姿を。その瞳には最愛のパートナーへの絶大な信頼が宿っており、今この瞬間を待っていたのだと雄弁に物語っていた。 それはすなわち、ユエも、ハジメも、想いは同じだったということ。意思疎通なくして、互いがどうするか理解し合っていたということ

 

あの時、ユエの体を乗っ取ったものの抵抗を受けてハジメを見逃した、その時から、もしかすると自分は二人の絆という名の掌の上で踊っていたのではないかと

 

エヒト「き、さまらぁ!!この我を!神である我を謀るかぁ!?」

 

叫びながら抵抗しようとするエヒトルジュエに光輝が更に魂斬ノ逆鉾を突き刺しそのまま滅多刺しにした

 

光輝「ごちゃごちゃうるせえんだよこの寄生虫がぁ…貴様はさっさとそこから出やがれ」

 

エヒト「ごっ!ぐぁっ!ぎ!ぎざまぁは!!われをだぉずのでばながっだのが!!」

 

光輝「アァ?」

 

エヒト「われごどごの吸血姫をごろずのではながったのが!!あればばったりがぁ!?(我ごとこの吸血姫を殺すのではなかったのか!アレはハッタリか!?)」

 

滅多刺しになりながらもエヒトルジュエは光輝に問う

 

それに光輝は手を止め見下ろしながら言う

 

光輝「勘違いするな。ユエを殺すことになっても貴様を倒すと言ったのは本当だ。だが生憎俺は貴様と違って慢心も過信もしない。輪廻眼を持たない今の俺が貴様に勝てるとは毛ほども思っちゃいない。だからこそ俺は勝率の高い方を取る……それは南雲と共に貴様を倒すことだ。だが南雲は貴様を倒すことよりもユエを救うことを優先している。ならどうするか?……答えは単純…南雲の意識をユエを救うことから貴様を倒すよう移行させる。その為にはどうするか?これも単純…」

 

ハジメ「……」

 

この時ハジメは、エヒトからユエを引き剥がしつつ倒す作戦会議仲間達としていたときのことを思い出していた

 

その時の光輝はユエを救うことではなくエヒトを倒すことを優先するような発言をしていた

 

──のだが

 

光輝『俺はユエ事エヒトを殺るつもりで戦う…だから南雲。ユエを救うことを諦めるつもりがないなら俺が奴と殺りあってできた隙でもついて勝手にユエを助けろ……だが、それで奴に勝てると思えるほど俺は楽観的じゃない……だから、勝率を少しでも上げるためにお前がエヒトを倒すことに意識を向けさせるために』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「貴様からユエを引きずり出してやる(・・・・・・・・・・・・・・・・)ことだ」

過去光輝『ユエを奴から引きずり出してやる(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

そう言うと光輝は魂斬ノ逆鉾をハジメに投げ渡した

 

光輝「後はお前が引きずり出してやれ」

 

魂斬ノ逆鉾を渡されたハジメはそれをエヒトルジュエに振り下ろす

 

ハジメ「返してもらうぞ。その女は、血の一滴、髪一筋、魂の一片まで、全て俺のものだ」

 

エヒト「――ッ!!」

 

神域に声にならない叫びが響く

 

それは果たして、エヒトルジュエが上げた悲鳴か、それともユエが上げた裂帛の気合か

 

直後、黄金の光が爆ぜた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それは、先程まで白金などよりずっと鮮やかで温かい色

 

ハジメを包み込むように照らし、どうしようもないほど切なくさせる。紛れもなく最愛の光。 光の奔流の中、ユエの体から影のようなものが吹き飛ぶように離れていった。 直後、目覚めるようにスっと開かれた瞳。鮮烈な紅玉は真っ直ぐに最愛を捉える

 

そして、燦然と輝きを放って蕩けるような笑顔を見せた

血濡れではあるが、そんなものはむしろ、彼女の艶やかさを助長するものでしかない。大人の魅力を携えた姿で、豊かな金糸をふわふわとなびかせて、迎え入れるように、あるいは迎えて欲しいというように、両手を広げてゆらりと飛び込んでくる姿は、いったい、どのような言葉で表現すればいいのか。

 

ハジメは、ただ、ひたすら愛しげな表情で、優しく目を細めながら恋人の願いを叶える為にスっと腕を伸ばした。 そこへユエが飛び込む。重さなど全く感じさせずに、まるで真綿のようにぽふっとハジメの上に腰を落とし、そのまま胸元に顔を擦りつける。回した腕はぎゅぅうううっとハジメを拘束し、無言で、一つに溶け合いたいと訴えているかのようだ

 

ハジメもまた、片腕を回してユエを抱き締める。腕や腹の痛みなど、彼女と離れていた時の心の痛みに比べれば毛程のこともない。 やがて、ユエが胸元に埋めていた顔を上げた。その瞳は込み上げる感情をあらわすようにうるうると潤み、可憐な桃色の唇から漏れ出す吐息は火傷しそうなほどに熱い

ハジメは、そっと薔薇色に染まったユエの頬に手を添えながら、愛しさの溢れる声音で言葉を贈った

 

ハジメ「迎えに来たぞ、俺の吸血姫」

 

ユエ「……ん、信じてた。私の旦那様」

 

お互いの冗談めかした呼び名に、くすりと微笑みを浮かべ再会を喜び合うのだった

 

光輝「……」

 

そんなふたりを見ていた光輝の顔は相変わらず変わることはなかった

 

しかし、他人には決して気づかない…そして本人も気づいているのかの否か、ほんの一瞬

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

彼の口元は僅かに笑みを浮かべていた(・・・・・・・・・・・・・・・・・)



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第八十一話 本当の戦い

 

ユエ「来てくれるって、信じてた」

 

ハジメ「ああ…遅くなって悪かった。今ここには居ないが、シアやカズマ達もお前を助けようと奮闘してる所だ」

 

ひとしきり抱きしめ合ったハジメとユエ

たった3日、されど3日一緒に居られなかったそれまでを取り戻すかのように強く密着していた

 

ユエはハジメのことを愛おしそうに触れる

そこで視界の隅でこちらに背を向けているもう一人の存在に気が付く

 

ユエ「!!……光輝!!」

 

そのもう一人──己が内心弟と呼んでいる光輝に気が付くとユエはハジメに再会した喜びとはまた違う喜びの表情を浮かべた

最後に顔を見たのはシュネー雪原での一方的なパーティ離脱をした時であり、喧嘩別れに近く、出ていったことに強い不安と悲しみを感じていたユエ

 

エヒトルジュエに取り込まれる寸前にハジメやシア達を、そしてその場には居ない光輝のことも想っていた為、その光輝と再会出来たことや自身を助けに来てくれたことに感動を覚えていた

 

ユエ「助けに…来てくれたんだ」

 

それに光輝は両眼を万華鏡写輪眼に変えユエをほんの数秒だけ見た

 

その数秒間、光輝はユエに月読をかけることでこれまでの出来事を伝えた

 

月読を解いた後光輝は

 

光輝「別に…ついでだ……この寄生虫を倒すにはお前を引きずり出す必要があったからだ。俺がお前を心の底から救いたがっていたと思っているなら勘違いするな」

 

冷たく言い放ちユエから顔をそらす

 

ユエ「…光輝」

 

ハジメ「天之河テメェ…再会してそうそう俺の女になに言ってやがる…ぶち殺すぞ」

 

ハジメが殺気立てながら詰め寄るが光輝はそれを無視する

 

光輝「あとにしろ。感動の再会もな。戦いは終わっていないというのに気を抜くな!まだ奴は生きている!このまま畳み掛けるぞ!」

 

光輝が目を向けた先には光の玉らしきものがあり、それにはある存在の魂を知覚できた

 

その魂こそがユエの肉体を乗っ取っていた張本人──エヒトルジュエそのものだというのはこの場にいる全員が知っている

 

黒金に天照の黒炎を纏わせる光輝がエヒトルジュエの魂に駆け出し、その魂を斬り裂こうとした

 

しかし

 

魂から眩い光とともに強い衝撃波が光輝達に飛び、それを腕でガードする

やがて衝撃波は止み光は人の形となり、その姿を見せた

 

その姿は若く、白い貫通衣を身に纏う両眼を瞑る青年だが、その身体から溢れる魔力量や質はその場の全員を軽く凌駕し、皆が動けないでいる

 

ハジメ「ハァッ!ようやく正体見せたかゴミクズが!」

 

ハジメは煽りながらも宝物庫から神水入りの瓶を取り出して飲み干す

エヒトルジュエとの決戦準備期間中、ハジメは白眼を駆使しオルクス大迷宮の地中を透視し鉱物や神水がないか探っていた

結果としては僅かだが見つけ出すことができ、それを他の攻略者パーティのメンバー達に渡した

 

結果手元にはユエと自分用に二本しか残っておらず、その最後の一本もユエに手渡し、体力と魔力を回復させた

 

エヒト「ほう…我から吸血姫を引きずり出したあとのことも考え用意していたか」

 

人の姿となったエヒトルジュエは先程まで必死に抵抗していたとは思えない余裕のこもった声をあげていた

本来の姿に戻って気を落ち着かせたのだろう

 

ハジメ「まあな、ユエをテメェから引きずり出した後こそが、本当の戦いなんでな。これで心置きなくテメェを始末できる。残念だったな、俺達が来る前に、或いは俺達を倒した後にでも十尾の人柱力になり無限月読を発動させようとしていただろうが、ユエから引き剥がされた以上、失敗したな」

 

そう勝ち誇るハジメ

倒すとは言ったが最悪カズマ達が来るまで時間稼ぎしつつ消耗させようと考えていた

全員でかかればどうにか勝てると踏んでのことだった

 

エヒト「心置きなく………失敗…か……クククッ…」

 

だが、そんなハジメをよそにエヒトルジュエは意味ありげに笑う

 

ハジメ「?…何が可笑しい」

 

そんなエヒトルジュエの姿に違和感を覚えたハジメはつい口にした

 

エヒト「いやはや、何もかもが間違っているお前のその言葉に、ついな…」

 

ハジメ「間違っている…だと?」

 

エヒト「ああ…お前達に訂正しておこう。第一に、お前は我がその吸血姫を器にし、十尾を取り込み人柱力となった後に無限月読を発動する…そう考えていたな?確かに、当初はインドラとアシュラのうちどちらかを器にした後、人柱力となり無限月読を発動しようとした…だがお前達がいなくなり長い年月が経ち、代わりに見つけた吸血姫を代替品として使い目的を果たそうとした。そうして吸血姫の肉体を手に入れ、後は人柱力となるだけ。そう思っていたが」

 

ここで光輝は何かに気付き反応する

 

光輝「!……俺達か」

 

エヒト「そう!そのとおりだ!まさか三百年前に失ったと思っていた本命の代替品を手に入れた直後にその更に前に失ったと思っていた本命であるアシュラを宿すイレギュラー、そしてインドラの魂を宿すイレギュラーがいたことに気が付いた。だからこそ我は手順を変えることにした」

 

エヒトルジュエはそう言うとハジメ達の前に仙鏡を発動しあるものを見せた

 

ハジメ/ユエ「「!?」」

 

光輝「!」

 

仙鏡に写っていた物に彼らは驚きを隠せずにいた

 

おそらくはこの神域のどこかだろう空間に〝ソレ〟はいた

 

実際に目の前に居るわけではないのに感じてしまう圧迫感。この世界に来て様々な生物を見てきたがソレはこれまでであったどの生物と比べてもデカくそれでいて見ているだけだが脳内で警報が鳴ってしまう圧倒的な存在感

 

〝巨大な身体に十本の尾と巨大な一つ眼を持つ怪物〟

 

ハジメ「アレが…」

 

光輝「…十尾か」

 

エヒト「続けようか。インドラとアシュラが死に、その代替品として吸血姫を器にし人柱力となろうとした。だがお前達がこの世界に存在していることを知り、我は欲した。より強い器となる者を(・・・・・・・・・・)!」

 

ハジメ「!まさか…お前」

 

エヒト「気づいたか。そう…お前達(インドラとアシュラ)を失い吸血姫(代替品)を本命にしようとしたが、より強い、かつての本命が今こうして目の前にいる。ならばより強い器を求めるのは当然だろう?結果その吸血姫は本命から予備へと降格した。ではなぜ我がその上で吸血姫を器にしたと思うか?(・・・・・・・・・・・・・)

 

ハジメ「……試したかったのか…俺達の…器になり得る俺達の力を」

 

エヒト「その通りだ。お前達はそこの吸血姫を取り戻すために、そして我を倒そうと躍起になり、全力で我に挑みに掛かることをふんで、吸血姫を人質としても利用するために連れ去ったのだ。結果お前達は我の望む力の一歩手前まで来ていることがわかった。まあ途中何度か殺しかけたが最悪死体でも肉体が残っていればどうにでもなる上、もう片方が生きていればそれはそれで…ともな。なによりその吸血姫は人質以外にもう一つの役目を果たしたのでな、我からすればもはや用済み」

 

光輝「用済み…だと?」

 

エヒト「ああ…無限月読を発動するには十尾の人柱力になる必要がある……そう思っているだろう?それは概ね間違いではない。そもそも十尾の人柱力になる必要があったのは、十尾の持つ膨大な魔力により我の輪廻眼の瞳力を高めることで月に我の力を転写し、依り代にした月を通し無限月読を発動させるためだったからだ。だがな…別に人柱力にならずとも発動自体は可能だ(・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ハジメ/光輝「「なっ!?」」

 

〝人柱力にならずとも無限月読の発動は可能〟

 

驚くふたりをよそにエヒトルジュエは話を続ける

 

エヒト「簡単なことだ。十尾の持つ膨大な魔力だけを吸収し発動する。とはいえそれで発動できるのは一回きり、おまけに人柱力時ならばともかく人柱力でない状態では発動までに時間を有する(・・・・・・・・・・・)。なにより、その間我は輪廻眼と転生眼が使えんのでな(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ハジメ/光輝「「!!」」

 

その言葉とともにふたりは察した

それは先程の戦いで感じた違和感の答え合わせとなっていたのだから

 

光輝「まさか…貴様が輪廻眼と転生眼を使わなかったのは(使わなかったのではなく、使えなかったのか(・・・・・・・・))」

 

ハジメ「やたら時間稼ぎするかのような戦い方していたのは(本当に時間稼ぎをしていたからか(・・・・・・・・・・・・))」

 

ふたりの反応にエヒトルジュエはニヤリと笑って見せたかと思えば

 

エヒト「ああ…少し遅かったな(・・・・・・・)

 

エヒトルジュエは仙鏡に手を向けて振ってみせるとそこに写る光景が変わる

 

───!!

 

そこに写る光景に3人は先程の十尾以上に驚愕した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紅く光る満月に浮かぶ怪しい紋様

そこから地上へ放たれる光

 

その光を浴びた全ての人種生物全てがその両眼に波紋のような薄紫の紋様が浮かんでおり、全てがその動きを停止していた

 

まるで光輝の幻術を掛けられた者のようになっていた

 

───無限月読の発動──

 

彼らの脳裏にその言葉は浮かんだ

 

ハジメ「…マジ、かよ」

 

ユエ「そんな…」

 

エヒト「正直、先程の魂分離の武器は少し焦ったぞ。ほんの少し、我から吸血姫を引き剥がすのが早ければ危うく無限月読の発動までの過程が中断され、無限月読は止められていたぞ」

 

光輝「チッ!しくじったか」

 

無限月読を止められなかったことを、そしてエヒトルジュエの策に気づけなかったことに顔を歪める光輝

 

エヒト「さて、もうそろそろ種明かしもここらで良いだろう。後は、お前達の肉体を頂くだけだ

 

エヒトルジュエはそう言いそれまで閉じていた両眼を開いてみせた

 

その瞬間先程以上の魔力の圧と衝撃がエヒトルジュエから発生する

 

そのエヒトルジュエの両眼には、これまで一度も見たことのない2種類の魔眼があった

 

 

右眼には紫色の波紋模様が浮かび

左眼には水色に二重十字の白い模様が浮かんでいた

 

全てを滅ぼし破壊する眼

 

全てを生み出し創造する眼

 

ハジメ「アレが…輪廻眼。そして」

 

光輝「…転生眼か」

 

エヒト「喜ぶがいい。そして恐れ慄くがよい。我にこの眼を開かせたのは、我が神となってからお前達が初めてだ。さあインドラ、アシュラよ。お前達を頂くぞ!!

 

その言葉とともにエヒトルジュエは襲いかかった

 

光輝「来るぞ!」

 

ハジメ「クソが!!」

 

ユエ「させない!!」

 

襲いかかる邪神に3人は己の持ち得る全てを掛けて衝突するのだった



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第八十二話 輪廻眼と転生眼


新年あけましておめでとうございます!←数日過ぎた後

なんとか今年中に完結まで行けたらいいなと思っております。
どうぞ今年も宜しくお願い致します。


 

エヒト「さあ!魅せてみろ!!そして最後には我の物となれ!!」

 

襲いかかるエヒトルジュエに3人は各々が動く

 

ハジメがメツェライの雨の如き弾丸の雨を、光輝は己の影分身達と共に最速の須佐能乎の矢の雨を放ち、ユエは様々な属性魔法弾の雨をエヒトルジュエに放つ

 

ほぼ隙間と隙間のない攻撃の雨

これにいかなる者も避けきることは不可能だ

 

しかし

 

エヒト「ふはははははははは!!!」

 

エヒトルジュエはそれを笑いながら走り抜け、全てを避けてみせた

それも凄まじい速度で3人に接近したが、本体の光輝の須佐能乎第四形態の大太刀攻撃が横から来るとそれを回避するため大きく飛び退く

 

ハジメ「(おいおい、いくら本気とはいえこれを避けるのか!?)チッ!気持ち悪いんだよこの寄生虫がぁ!!」

 

ユエ「(今までは無限月読発動までの猶予があったからこそ抑えていた。これがエヒト本来の実力)次は当てる」

 

光輝「(先程よりも早い。恐らくあれでもまだ全力ではない。ユエという器から解き放たれた結果が奴本来の力の行使)舐めるなと言っている!」

 

そこへ須佐能乎の大太刀に天照の黒炎を纏わせた斬撃を放つ

 

エヒト「『神雷槍』」

 

それを雷の槍を放ち相殺する

 

エヒト「!」

 

その直後四方からハジメの生み出した木人4体がエヒトルジュエを囲み間髪入れずその巨大な拳を叩き込んだ

 

エヒト「遅いな」

 

が、それすらも高く飛び交わす

 

ユエ「そこ!」

 

しかし、それを読んでいたユエがエヒトルジュエも使っていた空間魔法と違いゲートを用いず瞬間移動を行える『天在』を使いエヒトルジュエが高く飛んだ先に移動し

 

エヒト「!」

 

そのまま五天龍を発動しエヒトルジュエに五天龍を衝突させそのまま地上へと叩きつけた

 

ハジメ「魔法発動速度や威力が著しく向上してやがる!しかもあの魔法は」

 

ユエ「ん…私だってただ取り込まれた訳じゃない。エヒトに取り込まれて意識が沈んでいる間も能力の解析や知識の一部を取り入れてきた。今の私はエヒトの魔法の大部分を再現させることが出来る」

 

体を乗っ取られた直後から、身の内で何度も力の流れを感じ、その効果を見て、聞いた。戦乱の時代に僅か十代で当時最強の一角に数えられた魔法の天才であるユエならではの芸当

 

ハジメ「(ってなことを考えてもな、いくらなんでもそれは色々規格外過ぎねえか?紛い物とはいえ神の力を己に取り入れるとか)」

 

光輝「(やはり天才か)攻撃の手を緩めるな!そのまま続けろ!」

 

そういう光輝は天照を纏った斬撃をいくつも飛ばし続け、ユエは魔法弾を、ハジメもメツェライの弾丸に螺旋丸を纏わせた螺旋弾を大量にエヒトルジュエに放つ

 

時間にしてほんの数十秒間、エヒトルジュエに集中砲火をする3人

 

その間も3人はエヒトルジュエがまた天在で移動して避けたり接近しないか警戒する

 

ハジメ「チッ。カズマ達が無限月読に囚われてるのなら、今の予定プランを切り替えなきゃいけねえか」

 

ユエ「予定プラン?」

 

ハジメ「ああ…本来の予定としては、あいつからどうにかしてユエを引きずり出したあとは、そのまま戦って少しでも消耗させた後に合流したカズマ達と一気に叩くはずだった。だがその肝心のカズマ達が無限月読に囚われてしまった以上、どうにかしなきゃならねえ」

 

ユエ「そのプランって?」

 

ハジメ「輪廻眼で発動した術なら輪廻眼で解除が出来るはずなんだ。だからあいつからどうにかして輪廻眼を奪ってそれを」

 

光輝「言ってはいるが、それがどれだけ面倒な事かわかってんだろうな?」

 

目線をエヒトルジュエに向けながら言う光輝

 

ハジメ「わかってる上で言ってんだよ。つうかお前が輪廻眼を開眼させてたらすぐにでも解決しそうなんだっ!?」

 

光輝の方へ顔を向けて言うハジメ

だがその瞬間、エヒトルジュエの方から一瞬嫌な魔力の圧を感じ取り3人はそちらへ顔を向けた

 

ハジメ「なっ!?」

 

ユエ「!」

 

光輝「ッ!」

 

エヒトルジュエの方を見ると魔法攻撃により生まれた土煙は吹き飛ばされ、その中にいたエヒトルジュエ

 

だがその身体には一切のダメージを追った痕跡が残っておらず、それどころか身体を円形状の白い膜のような物で覆っていた

 

それだけ見ればユエを乗っ取っていた時にも使っていたただの結界術とも見て取れたが明らかにこれまでのエヒトルジュエが見せたものとは一線を覆していた

 

それは

 

エヒト「無駄だ。先程までの我と同一であるとは思わぬことだ」

 

白い膜のような物に触れた魔法がエヒトルジュエの肉体に取り込まれている(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ハジメ「吸収…してんのか…魔法を…」

 

ユエ「魔法…ううん、アレは魔力そのものを吸収している。まるでカズマの『ドレインタッチ』みたいに」

 

光輝「明らかにアレとは大違いだろ。アレは触れた相手の魔力を吸収できるものであって魔法から魔力のみを吸収することはできねえ上吸収速度も『ドレインタッチ』とは桁違いだ。さしずめ魔力吸収の結界ってところか」

 

ハジメ「マジか。魔法攻撃が通用しねえのか」

 

エヒト「まさか我の知識や能力を得て再現させるとは、やはり魔法の才は眼を見張るものがあるではないか。だがあくまでお前が得たそれは輪廻眼や転生眼抜きの我の力であって、我本来のそれとは程遠い」

 

ハジメ「チッ」

 

エヒト「それはそうと…先程言った無限月読の解除についてだが……輪廻眼…それと対になる転生眼を使えば解除自体はできる…はずだ…なんせこの術は解除を前提に使うつもりがなかったのでな…」

 

ハジメ「……そうかい…ならお前から奪った後はうちのユエに解除の為の研究や解析をやらせてでも解除してやんよ」

 

エヒト「ふっ…それはこの我から奪い取れたらの話であろう?不可能なことを口にするべきではないぞアシュラよ?それよりもお前達がそれぞれ輪廻眼と転生眼を開眼させたほうが早いのではないか?」

 

ハジメ「はっ!アホ抜かせ!それこそお前が求めた器の完成だろうが。宣言するが俺達が開眼した時点でお前の敗北は確定したってことでもあるからな?そこんとこわかって言ってんのかこのクソ神が」

 

互いに睨み合いながらも応酬する言葉の雨

 

エヒト「さて、そろそろ時間稼ぎはいいか?」

 

そう言うエヒトルジュエの背後からは雷魔法を纏わせた黒金を握りしめながら斬りかかる光輝

更に頭上からはカカト落としをする光輝

 

ハジメとの会話中

ほんの僅かにできたエヒトルジュエの意識の隙間

その瞬間を見抜いた光輝は気配を極限まで隠し影分身と共にエヒトルジュエに同時攻撃を行った

 

エヒト「無駄と言ってあろう」

 

が、それをエヒトルジュエは再び白い膜を発動させ雷を纏った黒金からは魔力だけを吸収し黒金の刃握りしめ、影分身体光輝の足を掴んで止めた

 

エヒト「インドラ。貴様のその気配を隠す練度、時間とともに増してきている。この短い時の間ですら確実に我に差し迫るほどに、やはりアシュラよりも貴様が先に開眼するか」

 

光輝「よく喋る口だ」

 

そう話す本体の光輝は黒金を離しエヒトルジュエを蹴り飛ばし後方へ大きく飛び退く

 

その直後、もう一体忍ばせた影分身光輝による須佐能乎の矢が放たれ共にいた影分身光輝諸共巻き込んだ

 

ユエ「光輝!」

 

光輝「問題ない。だが今のでわかったことがある。アレはあくまで魔力、魔力で構成した物を吸収するものであって、今みたいな魔法を纏った武器からは魔法のみの吸収、そして物理攻撃の吸収は不可能」

 

エヒトルジュエに攻撃を仕掛けた光輝だったが、正直まともに攻撃を当てられるとは思っておらず、それどころか魔力吸収の結界の攻略法、そして吸収できる物の条件を探るために敢えて攻撃を仕掛けたのだ

 

エヒト「フッ、この我を足蹴にするとは不敬である(ほう…今の僅かな攻撃で我の能力のからくりを見抜いたか)」

 

ハジメ「やりづれえ…どうすっか…魔法が効かねえなら物理攻撃でダメージ与えるしかねえのか」

 

今の己の魔力と体力を計算しながらどうしようか悩むハジメ

 

ユエ「でも見た所エヒトは身体能力も高い。だから奴が魔力吸収を発動する前にとにかく1秒でも動きを封じ込められたら」

 

ユエは魔力吸収発動前に攻撃を当てられないかを考える

 

光輝「………ユエ」

 

ユエ「ん?」

 

光輝「お前──」

 

そこへ光輝はなにかを思い付いた様子でユエを呼びかけ手短に話す

 

ハジメ「!たしかに…それなら或いは」

 

光輝「やれるか?」

 

ユエ「ん!やってみる。多分、ううん。必ずやって見せる!」

 

エヒト「作戦会議は終わったか?ならば続けよう」

 

エヒトルジュエは3人に向け魔法弾の雨を放つ

 

ユエは『天在』で回避し、光輝は千鳥による加速で魔法弾の雨の中を突っ切り、ハジメは

 

ハジメ「『樹界降誕』!」

 

足元から巨大な樹木を大規模に発生させ、それがエヒトルジュエに向け突っ込む光輝の背後から勢いよく迫りくる

 

エヒト「ぬぅ」

 

それに対しエヒトルジュエは苦々しい表情を浮かべると上空へと飛んだ

 

ハジメ「なるほど。実体のある物質を魔力で操作魔法の魔力吸収は不可能か」

 

光輝「逃がすか!」

 

上空に飛んだエヒトルジュエを千鳥を発動させた腕のまま高く飛ぶ光輝と背後からは木人を生み出しその背に乗り出現させた樹木を足場に高く飛ぶハジメ

 

エヒト「我を追い空へ来たか。逃れられんぞお前達?」

 

エヒトルジュエの周りからは魔法陣が出現しそこからユエを乗っ取っていた時も使っていた五天ノ魔龍が顔を出しており、今すぐにでも光輝やハジメに襲い掛からんとした

しかも魔法陣の規模や五天ノ魔龍自体も巨大化しており、無論その威力も先程までとは比べ物にならないことが伺える

 

それに構わずハジメは木人に超大玉螺旋丸を生成させ、光輝は須佐能乎第四形態に天照の黒炎を纏わせた剣を握らそのまま飛び込む

 

エヒト「無策に突っ込むか!それも良かろう!!」

 

そう言いエヒトルジュエが手を振り下ろし五天ノ魔龍をふたりに向け放とうとした

 

ユエ「誰が無策…なんて言った?」

 

エヒト「!」

 

エヒトルジュエのいる上空その更に上には先程と同じようにユエが待ち伏せていた

 

エヒト「貴様またも我の『天在』を!」

 

ユエ「そっちこそ私の『五天龍』をこんな不細工な姿に変えて無断使用なんて、こういうのをチョサクケンのシンガイ?って言うらしいってハジメも言っていた(まあそれなら私も勝手に使ってたけど)。『壊劫』!」

 

エヒト「ゴッ!?」

 

ユエが魔法を唱えるとエヒトルジュエがいる範囲に重力が発生し五天ノ魔龍ごと落下した

 

それを見届けたユエも己の腕に『神罰之焔』を纏わせエヒトルジュエに向け突っ込む

 

エヒト「(重力魔法だと!?それにこれでははさみ撃ち!不味い!ここは魔力吸収を、いや身体は動かせんこの状態で奴らの武器をかわし掴む余力がない。そこを付け込まれる恐れがある。ここは『天在』で)」

 

エヒトルジュエはすぐにでも空間魔法で回避しようとした

だがしかし、それを逃す魔法の天才(ユエ)では無かった

 

ユエ「『ユエの名において命じるっ〝動くな〟 』!」

 

エヒト「!?(神…言だと!?)」

 

そう、これがユエの奥の手『神言』

 

エヒトルジュエも使っていた『天在』を使えたのだから当然相手を従わせる『神言』も使えるのは必然

 

とはいえ流石にエヒトルジュエの使っていたものと比べると幾分拙さが残るその術は、しかし、見事に対象を拘束した

 

ユエ「ん、これでチェックメイト」

 

ハジメ「動きを封じて、魔力吸収もできねえ」

 

光輝「これで仕留められるとは思ってないが、最低でも体の半分を吹き飛ばさせてもらうぞ!」

 

動きを封じられ、3人の攻撃を避けきることが出来ず焦りを見せるエヒトルジュエ

 

もう数秒後には、3人の攻撃が命中しエヒトルジュエは耐え難いダメージを受けるだろう

 

これでこちらが優勢となる

 

3人はそれを疑わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう 疑わなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒトルジュエ「───────」

 

エヒトルジュエがその言葉を吐くまでは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

神羅天征

 

その瞬間

 

3人の見ていた景色が、空間が一変した



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第八十三話 神への抗い

 

神域の最深部

 

エヒトの居る空間は荒れに荒れ、辺りには激しく繰り広げられていたであろう戦闘の爪痕を示す瓦礫や残骸が散りばめられており

空間で鎮座するエヒトの目の前には

 

血を流して倒れている3人の姿があった

 

神域内は瓦礫、もといハジメの生み出した樹木までもが残骸と化し、戦いの激しさを物語っていた

 

光輝「ッッッッ(チッ、今ので右腕をやったか…なんなんだ今の攻撃は)」

 

瓦礫に埋もれていたが自力で這い出た光輝だったが、片腕に痛みを感じ抑えながら何が起きたのかを理解しようと頭を働かせた

 

ハジメ「ユ…エ…」

 

ユエ「ハ…ジメ…」

 

その横では同じく這い出たであろうハジメが大きく負傷しているユエを引きずり出していた

 

ふたりを見るとハジメは口から血を吐き、恐らく先程生み出した樹木の大枝が刺さったのか腹には何かが刺さった跡かのような傷が出来ていた

 

しかし、ハジメは木人、光輝は須佐能乎を出していた為エヒトルジュエの攻撃をある程度ガードでき、ユエほど大きな負傷はしていなかったが、ユエの方は何かで防ぐ間もなく直撃し、ふたり以上に大きな怪我を負っていた

 

頭から血が流れ、身体を強く打った痛みで今にも意識を失いかけており、身体を満足に動かせずにいる

 

ハジメ「なんだ…あの攻撃は」

 

ユエ「…エヒトが……何かを…呟いた瞬間…全身に強い衝撃…がきて…感じ…て気がつい…たら瓦礫…の中…」

 

3人がエヒトルジュエに同時攻撃を仕掛け、確実に当てることができると確信した

その瞬間、突如3人をこの神域をも巻き込んだ不可視の衝撃に襲われ、回避する間もなく直撃してしまった

 

光輝「…ッ…そういうことか…」

 

と、ここでずっと頭を働かせていた光輝が気が付く

 

ハジメ「わかったのか、天之河?」

 

光輝「ああ…実にシンプルなからくりだ」

 

ユエ「な…に?」

 

光輝「斥力…それが奴の不可視の攻撃の正体だ」

 

ハジメ「!」

 

ユエ「せき…りょく?」

 

ハジメ「簡単に言えば弾く力。重力魔法は言ってみれば引力、引っ張る力。その反対が斥力。あの瞬間、アイツは俺達全員を弾きやがった」

 

エヒト「そのとおりだ」

 

負傷している3人をそれまで黙ってみていたエヒトルジュエがここに来てやっと口を開いた

 

エヒト「今のは我の持つ輪廻眼と転生眼の持つ瞳力を従来の重力魔法を発動する際、魔力に練り込むことでその威力と効果を拡大させた物だ」

 

光輝「……それだけじゃない。重力魔法の効果を反転させ斥力を生んだな」

 

エヒト「それも正解。今のは我の世界の技術、いわゆる『反転魔法』と呼ばれる物だ。魔法効果を反転させることができるが高度な魔力運用技術と発動させる魔法に必要な魔力を倍近く消費させることでのみ発動可能だ。最も、この技術は我が魔法を広め長い年月が経った今においても類稀な才を持つ者の中ですら使える者が限られる」

 

エヒトルジュエは己が見せた不可視の攻撃の種明かしを得意げに話したが3人は内心気が気ではなかった

 

ハジメ「(おいおい、ならアイツはユエの肉体を乗っ取っていた時以上の魔法を行使出来んのかよ。あくまで輪廻眼転生眼の力は知ってはいたが瞳力に魔力を組み合わせての威力拡大なんてマジか)」

 

ユエ「(反転魔法…エヒトから得た知識の中にあったけど、流石にまだ物に出来ていない。例え物に出来たとしてもまだ身体が治りきってない今使えない)」

 

光輝「(クソ、あの魔法。魔法、物理全てを弾くだけでなくカウンターにもなる。しかも直撃すると全身に来る。あんなものを連発されれば攻撃が届かない。いや、流石に連発は不可能と見るべきか。あの規模の魔法を発動するなら発動までのインターバルがある筈。むしろそうであってくれ)」

 

エヒト「正直これは使うつもりはなかったのだがなぁ…お前達があまりにも我に歯向かうので、少し本気になってやった。認めよう。お前達はこの我をも殺しかねない力を有している。まさしく神殺しにふさわしき者達よ。だが、我が少し本気を出せば、今のように簡単に崩れてしまう脆き存在よ。それではまだまだ我の命に刃は届かん」

 

ハジメ「(マジィな…今の攻撃で俺達はかなり負傷した上ここまで消耗した。俺達だけでこの状況を切り抜けるのはかなり厳しい)」

 

エヒト「さて、次はどうする?お前達のことだ。まだまだやれるであろう?抗ってみせよ」

 

エヒトルジュエがニヤッと笑いながら魔法陣を大量に展開させる

 

ユエ「!」

 

ハジメ「まずい!(今手持ちの魔力じゃあれを防ぎ切るのは難しい!)」

 

光輝「!(消耗した今の状態では須佐能乎も第二形態が限界。防ぎきれねえ)」

 

エヒトルジュエが指を3人に向けたその瞬間魔法陣から大量の魔法弾が放たれた

 

その一つ一つが今の負傷しきった3人の命を容易く奪いかねない威力を誇っており、これが普段ならば避けるか防ぐかで解決しただろう

しかし、魔力も体力も大きく消耗しきり、更には身体も大きく傷ついている今、避けきるだけの気力が残っていない

 

ハジメ「(クソが!かくなる上は)天之河!」

 

光輝「(やむを得ないか)南雲!」

 

ふたりが何かを考えつき、互いに接近する

 

そんなふたりとユエを魔法弾の雨が降り注ぐのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒト「ほう…負傷しきった身体でどう防ぐか見物だったが、まさかそのような方法で防ぐか」

 

魔法弾の雨が止みソレによって生まれた土煙が晴れたエヒトルジュエが3人がどうなったのかを見た

そこには

 

ハジメ「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

光輝「はぁ…はぁ…」

 

木人に須佐能乎を纏わせる(・・・・・・・・・・・・)ことでしのぎきったのだった

 

ハジメ「はぁ…はぁ…(俺の木人は、須佐能乎ほどの強度は無いが生産させるコストは割と安く済む)」

 

光輝「はぁ…はぁ…(俺の須佐能乎は高い攻撃と強度を持つが形を作り顕現させるだけで魔力をバカ見たく消耗する)」

 

ユエ「(ハジメが木人を出して形を作って(・・・・・・)光輝が須佐能乎の力を付与させて余計な魔力(・・・・・・・・・・・・)消耗を抑えつつ強度を高めさせる(・・・・・・・・・・・・・・・))即席でこれだけのことを」

 

エヒト「やるな…ではもうしばらく楽しませてみよ?」

 

そう呟くとエヒトルジュエは3人に急接近する

 

ハジメ「冗談じゃねえぞ。こっちの残りの力知ってて言いやがるな」

 

ユエ「でもやるしかない」

 

光輝「ここまで来たら全て出し切ってでも潰してやる!」

 

3人はそれぞれ残りの魔力を全て出しきるつもりで攻撃しようとする

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その少し前

 

トータスの地上を無限月読の光が照らし尽くす

 

地上、地中、地下、海、建物

 

光が届かないはずの影すらも無限月読の光の前では全て照らし尽くされた

 

光を浴びた全ての生物

 

戦場にいる人間、亜人、竜人、魔人、魔物、神の使徒全ての瞳は月に浮かんだ輪廻写輪眼の紋様と同じ物が刻まれその動きを止めていた

 

そして、その無限月読の光が地上に照らされる直前に回避しようとした面々はというと

 

カズマ「お前らこっちこい。ひとかたまりになるぞ」

 

無事全員が無限月読の光を回避することが出来ていた

 

シア「か、かなりギリギリでしたが回避できて助かりました」

 

めぐみん「本当に一時はどうなるかと思いましたよ」

 

ティオ「うむ、アクアのとっさの結界が無ければ今頃妾達も外の者達同様幻術に囚われておったな」

 

幸利「正直助からないかと思った」

 

浩介「俺もだ。危うく幻術の中に囚われるとこだったな」

 

恵理「もう駄目かと思ったよ」

 

ダクネス「それにしても、よくこんな結界をとっさに生み出せたな。流石はアクアだ」

 

アクア「フフッ、私も即席で作ったものだけど効果があってよかったわ」

 

現在一同はアクアの作った結界の中(ただし中は真っ暗で光を通してない)にいる

 

カズマ「てかアクア、お前あんな神様レベルの幻術を放つ無限月読から身を守る結界は作れないとか言ってなかったか?」

 

アクア「まあたしかにそうよ。ただそれはあくまで無条件の幻術ならの話よ。そもそも無限月読の幻術にかかる条件って覚えてるかしら?」

 

香織「ええっと、月からの光を浴びたら、だよね?」

 

アクア「ええ。普段使っている結界は外部からの物理攻撃や魔法攻撃を防ぐための奴だけど無限月読の光はあらゆる障害物をもすり抜けて光を浴びせる効力があるから意味がなくてね。だからこそ私は普段の何かを防ぐ為の結界(・・・・・・・・・)じゃなくて|光を遮る為だけの結界(・・・・・・・・・・)を構築してみたの」

 

アクアの発想を聞き、伝説パーティーメンバーの中でも頭脳担当だっためぐみんとカズマがショックを受けた

 

カズマ「!ああそうだ!その手があったか!!だからこの結界の中は光がないわけか!」

 

めぐみん「まさか…アクアに発想と知恵で負けてしまうなんて…ショックです」

 

カズマ「同じく、まさかパーティー1の知能指数が低いアクアにアイディアで負けるとは…屈辱だ」

 

アクア「ねえ!?なんでふたりしてそんなショック受けてるのよ!しかもなに凄く失礼なこと言うの!泣くわよ!!」

 

雫「え、ええっと…その…言い過ぎじゃない……?」

 

ダクネス「(まあ…前の世界じゃ散々アクアの突拍子な発想とかで何度もピンチを引き起こされたことがあったからな…)と、とにかく。無限月読は発動してしまった。ということは、今ハジメ達はエヒトに追い込まれているということではないか?」

 

カズマ「あぁ…むこうが今どういう状況かは分からねえが、とにかくこちらも急いで加勢しなきゃいけねえんだが…まいったな…無限月読が発現してしまった以上。その解除方法も模索しなきゃなんねえ……一応神樹が出て来てねえからトータス中の人類はみんな幻術に掛かっている状態ってだけであって命に別状はない…が、解除しなきゃ一生このままだ…少し待ってろ」

 

カズマは目を瞑ると何かを探るかのような仕草をする

 

それからほんの少し経つとカズマは目を開く

 

カズマ「よし、決めた。シアとティオと香織と雫。お前達を今からハジメ達の所に飛ばす。俺達はここでやる事やってからすぐそっちに加勢に行く」

 

シア「いや待ってください!いきなり過ぎませんか!?それになぜ私達だけ」

 

カズマ「人選的な理由としては、回復役の香織。サポートの雫。盾役のティオに攻撃役のシアってな具合で決めた。それ以外はここでやる事があるから残る」

 

雫「でも送るって言ったってどうするの?」

 

カズマ「なに、そこは『避雷針』を使えばどうにかなる」

 

雫「え?」

 

カズマ「光輝に渡したクナイには俺が施した避雷針のマーキングがされてる。俺が一度触れた相手なら避雷針のマーキングがされた場所まで瞬間移動させることが可能だ。本当は無限月読が発動する前に光輝に渡した避雷針入りのクナイを通して俺が全員を瞬間移動させて行くはずだったが今回は送るだけだ」

 

雫「あのすみません。なんで私が作ったはずの術を私以上に使いこなしていてなおかつ私ですら知らないやり方をマスターしてるのでしょうか?」

 

香織「雫ちゃん!?」

 

なんてことないかのように言うカズマにあまりのショックでつい敬語で話してしまう雫に香織が思わずたじろぐ

 

カズマ「とにかく、4人とも集まれ。飛ばすぞ」

 

カズマに言われ、4人は集合する

 

めぐみん「これは餞別です。持っていってください」

 

めぐみんがそう言うと懐から取り出した神水入りの瓶を渡す

それに続く形でダクネスとアクアも渡した

 

アクア「それ使って、多分向こうじゃハジメ達はだいぶ消耗しているはずだから」

 

ダクネス「そして…もしユエを取り戻せたのならユエにも飲ませてやれ」

 

渡された神水を受け取るシアと香織と雫

 

カズマ「じゃあ送るぞ4人とも。後で落ち合おう。それともう一つ。生き延びろ、いいな?」

 

シア「!はい!!」

 

ティオ「うむ。必ず会おうぞ」

 

香織「言ってくる!」

 

雫「ええ、後でね!」

 

返事した4人を見届けたカズマは

 

カズマ「『避雷針の術』!」

 

術を発動させ、4人を神域まで飛ばすのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒトルジュエが3人に急接近し、互いが衝突するまでほんの数メートルに到達したときだった

 

エヒトルジュエ、ハジメ達の目の前にこの場にいないはずの面々が突如なんの前触れなく出現した

 

突然のことでエヒトルジュエもハジメ達も反応しきれずにいた

 

カズマが避雷針の術を発動するほんの2秒ほど前

 

シアの『未来視』は発動する

 

シアの見たその未来の映像には、ボロボロとなったハジメと光輝、そして無事救出されたユエの3人が見知らぬ男性、恐らくエヒトルジュエと衝突する光景が映っていた

 

なんの前触れなく現れたがためにエヒトルジュエは反応しきれなかった

 

だからこそ、未来視により誰よりも早く避雷針により飛ばされた先で何をすべきか知っていたシアは神域に入った瞬間他の誰よりも早く

 

シア「でゃあああああ!!!」

 

己の手に握る武器を思いっきり振り、エヒトルジュエに攻撃を当てることができた

 

エヒト「ごっ!?」

 

突然の乱入、突然の不意討ちに驚きながら吹き飛ばされるエヒトルジュエ

 

そんなエヒトルジュエの姿に一瞬香織達も反応が遅れた

 

 

シアの次に反応した雫はすぐに両手に握っていたクナイのうちの一本を地面に、もう一本を吹き飛ばされたエヒトルジュエに向け投擲

 

それにエヒトルジュエは飛んできた物が何か思考しつつも防ごうとしたが

 

雫「『避雷針斬り』!」

 

エヒト「ぐぉ!?」

 

続く雫の最速の攻撃に不意を突かれまともに肩から胴を斬られた

 

すぐに反撃しようとエヒトルジュエは片手から魔法弾を放つ

咄嗟だったため思う程威力が出なかったが、すぐに反撃された為雫も回避出来ずにいた

 

だが、その魔法弾と雫の間に香織が障壁を築いた為ほんの僅かだが雫に当たるまでの時間を稼ぐことが出来、この隙に雫は最初の避雷針を発動前に足元に刺していた避雷針入りクナイの所に瞬間移動し回避した

 

そして、障壁を突破した魔法弾をティオの持つ黒隷鞭が魔法弾を貫通し破壊しただけに飽き足らず、魔法弾のお陰でエヒトルジュエの斜線の先が遮られていた為、反応し切る直前にエヒトルジュエの肩を貫きながら身体に巻き付き

 

ティオ「はああああああ!!」

 

思いっきり振り回しそのまま地面に叩きつけた

 

それを見届けたシアは後ろにいるハジメ達の方を向くと

 

シア「どうやら、間に合ったみたいですね。ハジメさん、光輝さん、ユエさん。遅くなってすみません!助けに来ましたよ!!

 

満面の笑みを浮かべながらそういうのだった





まさかの乱入者達のコンボ炸裂

ちなみに反転魔法の元ネタは皆さんご存知某呪いバトルの『反転術式』から来ています。


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番外編① 指導


今回はちょっと箸休めです。

本編じゃ語られなかった天之河光輝の意外な一面をメイン回としたものです。

どうぞお楽しみ下さい


 

【指導】時系列第34〜52話

 

シア「お願いします!私を鍛えて下さい!!」

 

光輝「は?」

 

これは、グリューエン大火山から帰還してすぐのことだった

 

外で一人鍛錬をしていた光輝に、ドリュッケンを片手にシアが近づいたかと思えば突然頭を下げながら鍛えてくれるよう懇願してきた

 

だが余程のことがない限りは他人とは距離を置きたい光輝はそれを拒否する

 

光輝「……他を当たれ。他人に何かを教えるのは好かん」

 

シア「で、ですが、私の家族達を貴方はハジメさんと共に鍛えてましたよね?」

 

光輝「アレは南雲との競いと俺の気まぐれだ。気まぐれは続かん」

 

シア「で、ですが私は光輝さんに鍛えてもらいたくて」

 

光輝「くどい

 

シア「ヒッ!?」

 

あまりにもしつこく迫ってきたので殺気を飛ばし威嚇した光輝

 

光輝「少し馴染んだ程度で俺に馴れ馴れしくすんじゃねえ。今はそれなりの実力を得た身とはいえお前如き潰すのにたいした力もいらねえ。あまりにもしつこいようならお前の耳引き千切って口にねじ込めようか?大体なぜ俺にこだわる。他にも居るだろうが

 

光輝の殺気に怯えるシア

ここまでやれば流石にもう声を掛けることも無いだろうと光輝は内心思った

 

しかし

 

シア「わ、私は…今のままじゃいけないんです」

 

怯えながらもシアは口を開く

 

シア「ユエさんに鍛えてもらって、自分の中の力を引き出せたお陰で、私は…最弱種だった私が今もこうして戦えています。……ですが、今日のあの魔人族との戦い、私は何も出来ませんでした…もし戦っていれば、きっと負けていました。その時に思いました。『今のままじゃ、私はきっとあの人に、ハジメさんについていけない』……強くなっていた気になっていました…思い上がっていました…だから」

 

光輝「だから鍛えて欲しいと?なぜ佐藤や南雲にユエではなく俺だ?」

 

光輝には分からなかった

同じパーティー内でもあまり話すことのない自分になぜ教えを請いたいのか

 

自身やハジメ、時々雫をも指導しているカズマやその前からシアを鍛えていたユエ

自身に並ぶ強さを持つハジメではなくなぜ自分なのかを

 

シア「……貴方だからです」

 

光輝「は?」

 

体の震えを抑えながら口を開くシア

 

シア「パーティー1のストイックで、他人にも厳しい貴方だから。…的確に教えるカズマさんや教える際に少し甘さのあるユエさんでは甘えてしまいます。だから私は、私を厳しく容赦なく追い詰めてくれる貴方に鍛えてもらいたいんです。もう、あんな惨めな思いはしたくない。ハジメさん達と一緒に居られるだけの現状に満足なんかしたくない。私は 愛する人や仲間達に立ちはだかる全てを撃ちのめす力が欲しい だから 私を鍛えて下さい!!

 

そう言い真っ直ぐな瞳を向けるシア

 

光輝「……」

 

シア「お願いです!私を、強くして下さい。私の大切な人に並べられるように、貴方をボコボコにできるくらいに!」

 

シアはお願いの言葉と同時に光輝に対して挑発とも取れる言葉を発し頭を下げた

 

シア「(あ、やばい…終わった…つい勢いで光輝さんに喧嘩売るようなこと言っちゃった……ここで死ぬんだ私)」

 

このパーティーにおいて怒らせたら怖い人トップ3に入る光輝(ちなみに一番はカズマで三番目はハジメ)に怒られたことが何度もある為内心ヒヤヒヤするシア

 

ある時は須佐能乎で投げ飛ばされたり、またある時は雷を落とされたり、そしてある時は黒金をギリギリ当たりそうになる位置に投げつけられたりなど、散々痛い目を見てきた

 

そんなシアの様子を少しばかり見ていた光輝だったが

 

光輝「……クソ生意気な」

 

シア「ピギャッ!?」

 

額を軽くデコピンされ4、5m吹っ飛ぶ(筋力万超えの為軽めで吹っ飛ぶ)シア

 

シア「うぅぅぅっ…!」

 

涙目になりながら額を擦っていると

 

光輝「そういうセリフは、俺に一回でも写輪眼を使わせてから言え駄兎」

 

黒金を向けこちらを見る光輝の姿が写った

 

シア「…え?」

 

光輝「どうした…強くなりたいんじゃないのか?言っておくが、俺との鍛錬は死ぬ気でやれ。耳どころか手足を無くす覚悟でやれ」

 

シア「!あ、あの…それって!」

 

光輝「やるのか?やらないのか?無駄口叩いている暇があんのかお前に」

 

シア「!」

 

光輝「言っておくが、これは別にお前のためじゃねえ。ただの気まぐれだ……さっさと構えろ…」

 

そういう光輝から殺気が放たれ、シアは一瞬たじろぐもすぐにドリュッケンを握る手に力を込め

 

シア「よろしくお願いします!!」

 

光輝に向かってドリュッケンを大きく振りかぶりながら突っ込むのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シア・ハウリアから見た天之河光輝は自身の想い人である南雲ハジメ以上に扱いが難しく、他人嫌いの化身みたいな存在だった

 

他を圧倒する力と戦闘センス

カズマやユエですら舌を巻くレベルのポテンシャルを秘めていて、一度戦闘に入ればハジメと同等かそれ以上の戦いの爪痕を残すほどの戦いぶりを見せる

 

人嫌いである為かいつも他者とは極力距離を置いており、正直光輝の事が怖かった為仲間に入った当初は近づきづらかった

 

ただ関わっていくうちに、ただの人嫌いではない一面を何度も見せてくれていた

 

最低限の関わりはしてくるもののその中には他人を気遣うかのような振る舞いを見せた

他にもヒューレンで犯罪組織により牢に閉じ込められ衰弱した子供やそのまま死んでしまった子供達の姿を見た時、犯罪組織構成員達に対し静かに、決して顔に出ることはなかったが明らかに怒りを覚えていた

 

それだけでなく、彼の幼馴染である八重樫雫の危機には誰よりも早く動き、守っており、雫のことになると過剰なほど反応を見せる

 

日頃割とドライな反応や態度を見せる彼だったが、彼と関わっていくうちに、その内面に秘めた人間らしい所や関わってみなければわからない、彼の優しさがそこにはあった

 

それまでは光輝の事を怖いと思っていたシアだったが、今では不器用な優しさを抱いた大切な仲間だと内心で思っており、自身を妹分だと言うユエが光輝の事を弟と呼ぶのでそれなら自分にとっては兄のような人ではないかと内心考えていた

 

そして

 

シア「でりゃあああああ!!!『レベルⅢ』!!」

 

シアの持つ技能『変換効率上昇』

これは魔力1の消費に対し身体能力の数値を3上昇させることが出来る能力であり、本来ならばⅡまでが限界だったが今日手に入れたばかりの神代魔法『昇華魔法』により強制的に限界を超えⅡからⅢへと進化させ、更に身体能力を向上させ、ドリュッケンに重力魔法の重みも込め光輝に振り下ろす

 

光輝指導の鍛錬を受け始めて約1ヶ月

短い期間ではあったものの、その間シアはカズマからの指導を受けながら光輝の鬼の様な指導を受け続けていた

 

結果カズマからはステータス面だけでは測れない、戦いの駆け引きと技術を、光輝からは格上相手との戦いでの立ち回り方を学んだ。己の持つ技能、未来視は回避出来ない未来を映す能力であり。これを自身にとって都合の良い未来にするための努力を続けた結果

 

シア「はああああああ!!!」

 

光輝「!」

 

こちらに攻撃してくる光輝の姿が未来視に映り、カウンターで光輝をはじき飛ばし回避する前にその身に攻撃を叩きつけることに成功した

 

シア「はぁ…はぁ…っ!」

 

が、すぐに攻撃を当てたはずの光輝の感触に違和感を覚え、なにかに気づき振り返ると

 

光輝「よく油断しなかったな…それは未来視の見た未来か?」

 

両眼に写輪眼を開眼させた光輝の姿があった

 

シア「…今のは未来視ではなく、攻撃したはずの光輝さんに違和感を感じてすぐに気づきました。それより…使いましたよね。幻術…そして、写輪眼を」

 

光輝「…ああ…今のは使わなければ避けられなかったからな」

 

シア「それじゃあ!!」

 

光輝「……これで俺からお前への指導の課程は終了だ。俺に写輪眼を使わせたからな…後は佐藤からでも習っておけ…」

 

それだけ言うと光輝は黒金を鞘に戻しながらその場を去ろうとした時だった

 

シア「あ、あの!」

 

去ろうとする光輝にシアは大声で呼び止め

 

シア「ありがとうございました!!」

 

光輝の後ろ姿を見ながら頭を下げるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

光輝「(……気まぐれのつもりで始めたアイツの指導だったが…なんとか最後の大迷宮へ行く前に鍛えきれたな…どうせ、この最後の神代魔法を手に入れればこのパーティーとも別れるつもりだったしな……少しの間だったが…それなりに楽しめたぞ…シア)」



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第八十四話 神の使徒ペイン襲来


今更ですが、先月の22日を迎え、本作の投稿開始から1年が経ちました。まさかこの1年で約100話の投稿をすることが出来たのは私の中でも大きなことだと思っています。できれば22日までに100話投稿をしたかったですが大学が忙しくて出来なくて無念でした。

ともかく、これからも宜しくお願い致します。


 

香織「酷い怪我…よくこれだけ怪我して立ってられるね」

 

ハジメ「生憎痛みには慣れてるんでな」

 

ティオ「あの3人をここまで追い詰めるとは…アレがアヤツの本来の力というのか」

 

ユエ「ん…エヒト自身の能力はわかるけど…輪廻眼と転生眼の能力が未知過ぎてこっちもダメージ覚悟で看破している所」

 

無事神域に到着し3人と合流したシア達は不意打ちの連携でどうにかしてエヒトルジュエを吹き飛ばす事ができ、その間に3人の傷の手当と渡された神水入りの瓶を渡す

ハジメ達は渡された神水を飲みながらエヒトルジュエの能力や自分達も味わった輪廻眼と転生眼の能力の一端を語った

 

その際雫が光輝に神水を渡そうとして拒否られそれをハジメが奪って無理やり弱っていた光輝の口に瓶を突っ込むという一悶着があったもののこれでハジメと光輝とユエの3人の体力と魔力も回復することが出来た

加えユエの力を高めるためにハジメの血を吸血させるなど、エヒトルジュエとの戦いを制す為の万全の状態を整えていた

 

香織「魔力吸収に斥力…それ、対策はあるの?」

 

光輝「(あんの白髪眼帯が…無理矢理飲ませやがって)魔力吸収の方は発動する前に攻撃を当てるか物理攻撃と魔法攻撃を同時に当てるかだ。それ以外では魔力で操る物体や魔力で生み出した南雲の樹木までもを吸収できない…それと斥力による攻防は恐らくインターバルがあると見ていいだろう。それか斥力でも弾き飛ばせない力を当てるかどうかだな…」

 

香織「それってゴリ押しなんじゃ」

 

ハジメ「そのくらいしか攻略法が思い浮かばねえって話なんだよ…とにかくあいつにはふたり以上で攻めるしかねえ。あとダメージは最少に抑えつつな」

 

雫「さっきは不意討ちだったのと連携が上手く取れていたから攻撃を当てられたけど、次はもう当てられないかも知れない…」

 

光輝「(そうだ……現状、奴相手に確実に攻撃を当てる手段はないに等しい……だが佐藤達が無事なのは嬉しい誤算だ…なら)佐藤達が合流するまでの間に引き続きエヒトを少しでも消耗させる…メインは俺と南雲後はサポートだ」

 

ハジメ「確かに、あいつらが揃えばこの現状は大きく変わるだろうが…その前に俺達がくたばりそうだ。悔しいがシア達が揃ったところであいつに勝てるビジョンが浮かばねえ。ただでさえ俺達相手の時ですら本気を出してなかったってのによ」

 

さっきまでコテンパンにやられていたことを思い出し弱気なことを口にするハジメ

 

ユエ「…そう…勝率が1から2に変わった程度…でも、確実に私達が勝てる可能性は上がった。だから問題ない。だから私達は負けない…そうでしょ?ハジメ」

 

しかし、そんなハジメを立ち直らせようとユエがそういう

恋人の前でカッコ悪い姿見せたと僅かに羞恥を感じつつもなんとか立ち直る

 

ハジメ「……そうだな…俺としたことが、お前達が無事だったことを知って少し弱気になってた……俺達の勝利条件はカズマ達が到着するまでエヒトを弱らせつつ生き延びること。なに、さっきまでと違って体力も回復し、エヒトの手の内もある程度把握できて、おまけにお前達がいる。なんとかなるさ…勝つぞ、お前ら」

 

立ち上がりながらドンナーを引き抜き仲間達に顔を向けるハジメ

 

シア「はい!絶対、最後まで生き延びましょう!!」

 

シアを筆頭に光輝を除く面々は頷く

 

ゴッ!

 

エヒト「作戦会議は…終わったか?」

 

その直後空間が一瞬揺れたかと思えばシア達の連携を受け吹き飛ばされていたエヒトルジュエが空中に浮きながらハジメ達の前にその姿を見せた

 

ハジメ「お前、俺達に話す時間をわざわざ与えるなんて、意外と親切なんだなおい」

 

エヒト「ふ、どうせ最後には全て我にひれ伏す者共。最後に語らう時間を与えてやる神の慈悲よ」

 

エヒトルジュエの身体は雫達によりつけられたダメージの跡はすべて消え去っていた

 

エヒト「それにしても…よくも我が無限月読の光から逃れ、こうして現れてくれた。やはりあの転生者共は厄介だな……ふむ…7対1か…」

 

ハジメ「なんだあ?今頃になって人数差を気にすんのか?」

 

ユエ「ん…でも卑怯とは言わせない。お前はエヒト…」

 

ティオ「それだけ妾達は貴様を脅威だと認識しておるということじゃ」

 

エヒト「卑怯とは言わせない?当然だ…この程度我にとっては障害にならん。先程まではそこのふたりの分身体含め多数対一で戦っていたからな。……とはいえ…少し面倒だ……ならばコレはどうだ?」

 

そう言うとエヒトルジュエは空に手をかざす

すると空間が裂け、そこからオレンジ髪の使徒計6名がその姿を見せた

 

エヒト「これはかつて、インドラとアシュラを失い、その後代わりとなる器を生み出せないか試行錯誤の末創造してみせた者達…我はコヤツらを『うずまき』と名を与えたが…生憎生命力が強いことと封印術に優れているだけで我の求める基準に達していなかった…だが、せっかく作り出したのだから何かしらに使えないかと思い、我が生み出した時の流れが一切機能しない空間に放り込んでいたのだが……どうせなら今使ってやろうではないか」

 

エヒトルジュエは更に指を2本構えて見せるとうずまき全員の身体にまるで杭のようなものが空間から飛び出し打ち込まれた

 

杭を打ち込まれたその6人から生気が一切感じられなくなり全員が俯く

 

やがて6人が顔を上げるがその6人の顔…否、眼を見てハジメ達は驚愕した

 

香織「な、なんで…」

 

雫「あの6人の眼が…」

 

ハジメ「輪廻眼と転生眼、だと!?」

 

そう…本来はエヒトルジュエしか持たないはずの創造と破壊の眼をその6名はぞれぞれの両眼に存在していたのだ

 

エヒト「これも我が眼の能力。空間魔法と魂魄魔法に瞳力を重ね合わせ、対象に我が魂と力を分けた上で操る分身達…そうだな…今のコヤツらを仮に名付けるとすれば……そう、ペイン。インドラやアシュラ、吸血姫という我の器となるべくして産まれてきた者達を無くし、何百年も目的を果たせない日々を送った苦痛…貴様達が我に与えてきた手傷…それまで受けた全てを我から貴様達に痛みや苦痛という形で送る使徒と呼ぶべき存在…それがペインだ」

 

雫「…嘘」

 

光輝「チッ…(おそらくこいつら一体一体の強さは並の使徒、いや白金の使徒以上だな。7対7…といいたいが他と比べ攻撃手段を持たない香織は非戦闘員と考えれば実質6対7…)厄介な」

 

シア「(威圧感が…凄い…多分私やティオさんが倒した白金の使徒より強い)」

 

エヒト「さあ、続きと行こうか。足掻いてみせよ?」

 

エヒトルジュエの言葉とともに神の使徒 ペイン達はハジメ達に襲い掛かり

 

ハジメ「一人になるな!それぞれ味方のそばを離れるな!」

 

ハジメ達は身構えつつ相対するのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマ「無限月読が発動して、地上の生物全てが幻術に掛けられ、正直俺達以外無事な存在は居ないと思っていたが………やっぱアンタは無事だったか…ミレディ」

 

雫達を神域に飛ばし、地上に残った一行はというとカズマの指示の元各々が動いていた

 

雫達を送る際、戦場内にいる者達の魔力を感知してみると、とある存在を確認しカズマはアクアを連れその存在の下へ歩く

 

一方で残った面々であるめぐみんとダクネスに浩介、幸利、恵理はカズマから戦場内にいる残りの使徒や魔物の殲滅するよう言われそれぞれが残党狩りをしている

地上に残っているエヒトルジュエの配下達もまた無限月読の光を浴びたことで幻術に掛けられた状態となり、全てが棒立ち状態になっているため今なら簡単に殺すことが出来る

その際、アクアから別れて動くことになるためアクアが全員にそれぞれ無限月読の光を遮る為の結界を施すことで一人一人が自由に動き回れるようになった

 

ミレディ「カー君にアーちゃん!!無事だったんだ!!」

 

戦場で人間だった頃の己を模したゴーレムの肉体に魂を入れて自身の配下であるゴーレム達を引き連れ戦っていたミレディ・ライセン

無限月読の光を浴びたことで幻術に掛けられていたと思っていたのだが

 

カズマ「ここに来る道中…アンタの配下のゴーレムは問題なく動いていて、アンタの事もよくよく考えたら、今のアンタは言ってみれば空の器に取り憑く亡霊みたいな状態…ほぼ死人に近い存在なら無限月読の効果は受けないだろうと予想していたが…どうやら当たったみたいだな」

 

無限月読は光を浴びたあらゆる生物に対し幻術を掛けられる術であるが、生物ではない存在。ゴーレムなどの無機物や、生き物の肉体に宿っていない魂…死人には効果はなかった

 

カズマ「(昔アクアが言っていたな…身体…肉体とは魂の入れ物…器であり、肉体の衰えとはその器が魂を収められないほど損傷(怪我)、劣化(衰え)、錆びつき(病)を指し、やがては魂を器に保てなくなる状態を死と呼ぶ…ミレディの場合はゴーレムという肉体の劣化もない無機物にしがみつくことで生き長らえているが、そもそも生物の肉体ではないから生きているとは言えない…)それで、今このトータスがどういう状態かは…アンタも当然理解してるんだよなあ?」

 

ミレディ「うん……恐れていたことが…無限月読が、発動しちゃったんだよね……」

 

カズマ「一応無限月読は輪廻眼を使って発動する術ではあるから…輪廻眼さえあれば解除自体は出来ると思えるが……それまではどうしょうもねえ…この世界のすべての人々はずっと立ちっぱなしで何もできねえ…最悪栄養失調やらで勝手に死んでいくぞ……」

 

アクア「一応私ならあの幻術に掛けられた人をもとに戻すことはできなくはないわ。でもそれには時間も魔力も掛かるから、一人一人やってたらきりが無いの…」

 

ミレディ「いやアレ一応世界を揺るがす大幻術だよ!?規格外過ぎない!?」

 

解放者のリーダーであるミレディですら解除できない幻術をアクアは一人ずつなら解除できると知ると驚きの声を上げた

 

カズマ「あのさミレディ…アンタに聞きたいことがある……アンタを含めた解放者はかつて、エヒトを倒そうとずっと戦ってきた…それだけでなく無限月読の存在も知っていたんだ…アンタならもしかしたらなにかしらの対抗策を持ってたりしないかって思ってさ……何かないか?」

 

ミレディ達解放者はエヒトルジュエとの戦いをするなかで無限月読の存在を知っていた

かつてその時代、最高峰の魔法の使い手達七人の生き残りであるミレディならば或いはと思ったカズマは問いかけた

 

ミレディ「……正直に言うとね…無理…そもそも世界規模の術に私一人じゃどうしょうもないから…」

 

カズマ「……そうか…」

 

ミレディの口から不可能と言われ、カズマは頭の中で次の策を考えるのだった

 

ミレディ「……勘違いさせちゃったみたいだから一応言うとね…構想自体はできてるんだよ?……無限月読を解除するための…」

 

カズマ「…は?」

 

アクア「え…?」

 

が、ミレディの口から無限月読の解除するための方法の構想は出来ていると言われカズマとアクアは思わず呆ける

 

ミレディ「でもそれには…いくつか条件があってね……その一つが…私を含めた解放者七人の力がいる。だから不可能…」

 

しかし、今亡きミレディ以外の解放者達が必要と言い、ミレディは気落ちする

せっかくこの現状をどうにか出来るかもしれない策を口にはしたもののそれが不可能だと理解しているからである

 

だが

 

カズマ「……呼べばいいんだな?蘇らせるんじゃなく、呼べばいいんだな?」

 

ミレディ「言っておくけど降霊術じゃ駄目、できるだけ生きていた時に近い力じゃないととても」

 

カズマ「…あるぞ一つだけ…生前に近い状態で現世に呼ぶことの出来る術が!」

 

ミレディ「え…で、でもそんな術、私が知らないわけが」

 

カズマ「アンタが知らないのも無理はない。なんてったってその術は未完成だったんだからな?」

 

アクア「!カズマ…もしかしてそれって…」

 

カズマ「ああ…ならやることは決まったな。とにかく他のメンバーを集合させるか」

 

そう言うとカズマは上空に炎魔法を飛ばし照明弾代わりにし戦場にいる全てのメンバーを集めさせるのだった





ミレディの口調がよくわからん


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第八十五話 攻略者対異世界食い


今回で晴れて話数が100を超えました。
できれば本作の投稿日からちょうど一年目に達成したかったですが忙しくて断念しました。

今後とも宜しくお願い致します。


 

 

エヒトルジュエと配下の使徒ペイン達との戦いは苛烈を極めていた

 

ハジメ「おいおいおい!冗談だろ!?なんであいつの身体からあんなサイボーグじみた兵器が出てきてんだよ!!」

 

そう叫ぶハジメの戦っているペインの身体からは、このトータスにおいてハジメが制作でもしない限り決して存在するはずのない近代兵器が飛び出しそれがハジメを攻撃していた

 

エヒト「そのペインには我が眼の持つ力の一つである『異界の無機物』をその身に召喚する能力を与えた。無論貴様の世界に存在する武器も当然呼び出すことは容易い」

 

香織「うわああああああ!!ちょ、誰か助けて!!」

 

香織が相手をしているペインはというと、開幕とともに地面になにかしらの魔法陣を展開させたかと思えば大量の生物を召喚してみせた

その生物たちの目には輪廻眼と転生眼模様が浮かんでおり、そのうちの一体である巨大犬型生物は攻撃すれば頭の数が増えそれが分裂し犬型生物の数を増やしていく

 

香織「こんな魔物見たことがない!」

 

エヒト「当然だ…そのペインには『異界の生物』を召喚する能力を与えた。お前達はこの能力でトータスに呼び寄せたのだ。つまりその生物はトータスではない別世界の生物ということだ」

 

ユエ「チッ…よりにもよって私の相手は魔力吸収型…」

 

ユエの相手をするペインはエヒトルジュエも散々使ってみせた魔力吸収を使いユエの魔法攻撃を吸収し無力化する

攻撃手段が魔法しかないユエにとっては相性最悪としか言えない

 

雫「はぁ…はぁ…危なかった…」

 

ティオ「雫、分かっているじゃろうが、あの手に掴まれるではないぞ」

 

雫「わかってるわ。さっきみたいになるのはごめんだから」

 

雫とティオが相対する2体のペインの片割れは触れた相手から魂を抜き取る能力を持っており、先程雫はペインに危うく魂を取られるところだったが、既のところでティオが引き剥がしてくれたことで事なきを得た

 

エヒト「そのペインには決して掴まれないことだ。掴まれれば最後、魂は抜き取られそのまま死ぬのだから」

 

ティオ「肉体ではなく魂を掴むとは……」

 

触られたら即死…そのためふたりはこちらから近づき攻撃する場合には触れさせないよう避けようとするが

 

ティオ「じゃがそれ以上に…」

 

雫「どうなってるの!?なんで見えてないはずの箇所からの攻撃に対応できてるの!?」

 

そう、ふたりがペインに攻撃をする際、明らかに死角となっている箇所を攻めたのだが、見えてもいないはずなのに、まるで見えているかのような動きを見せ攻撃を避けるのだった

 

ティオ「(なぜじゃ?なぜこちらの攻撃が見えておる?ハジメの白眼のように広範囲を見通す目でも持っているのか?いや、アヤツの両眼の力の一部を宿したとはいえ、そのような能力の記載はハジメ達からは聞いておらぬ…)」

 

見えていないはずの攻撃を避ける動作に対しティオは頭を働かせながら闘い

 

ハジメ「こいつら…(よく見れば目の前の戦っている相手以外にも目を向けている……それも全体を…まさか…こいつら視界…あるいは…念話(あんま使ってねえけど)みたいなので情報を共有してんのか?…でなきゃステータスじゃ上回って筈の俺の攻撃を回避しきれている説明がつかねえ)」

 

ハジメは既に正解を導き出していた

 

ペインのデフォルトの能力

それは互いの見ているもの…目に映る全てを共有する

 

特殊な能力とは言わないが複数戦なら厄介な物に仕上がる

 

シア「やあああああ!!!」

 

シアが相対するペインにシアは思いっきりドリュッケンを振り下ろすが

 

シア「ッ!」

 

ペイン「……」

 

手から黒い杭のようなものを生成するとそれでシアの攻撃を受け止めた

その直後空いている片手をシアに向け

 

ペイン「『神羅天征』」

 

シア「!」

 

ペインのその言葉とともに衝撃…斥力がシア一人に向け放たれシアが大きく吹き飛んだ

 

シア「がっあぁぁ!」

 

ハジメ/ユエ「「シア!?」」

 

そのまま吹き飛ぶシアに対し

 

ペイン「『万象天引』」

 

ペインが再び手をシアに向けるとそれまで吹き飛ばされていたシアがペインの方へ引き寄せられた

しかもその手には杭が握られていた

 

ハジメ「重力!まずい!」

 

ハジメはシアを助けようとシアを引き寄せるペインの方へ駆け寄るが

 

ペイン「……」

 

ハジメを相手にしているペインが逃さない

 

ハジメ「どけ!邪魔だ!!」

 

ハジメすぐにでも限界突破で倒そうとするがそれでは間に合わない

 

ユエ「シア!防いで!」

 

ユエはシアに防ぐように言うが神羅天征を間近に受けたことで軽く脳震盪を起こしている為身体を動かすことは疎か意識朦朧としている

よって自身に迫るペインの凶弾からは逃れられない

 

香織「シア!(ここからじゃ障壁で足止めが出来ない!)」

 

ティオ/雫「シア!(眼の前のコヤツが相手で近づけない!/飛雷神で行こうにもクナイを投げさせてくれない!)」

 

各々がシアを助けようとしたが誰もシアのもとにいけない

 

ハジメ「(そうだ!天之河は!)」

 

しかし、当の光輝はというとエヒトルジュエに攻撃を仕掛けシアの方に見向きしない

 

ハジメ「あの野郎!」

 

ハジメは限界突破で身体を強化した蹴りをペインの頭部に思いっきり蹴り飛ばしそのままシアの方へ駆け寄るが間に合わない

 

ハジメ「シア!動け!!」

 

ハジメが大声を上げるがそれでも動かずにいる

 

そしてシアの行く末を全員が見た

ペインの杭がシアの急所に突き刺さる様を皆は想像した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

が、刺さったのはペインの方だった

 

杭がシアに刺さる寸前、どこからともなく飛んできた雷の針状の杭が複数本ペインに突き刺さったのだ

 

ハジメ「!シア!!」

 

雷の杭が突き刺さるとペインの引き寄せは停止しハジメは瞬時にシアを抱き寄せペインから距離を取った

 

ユエ「!あの雷は…」

 

ユエは雷が飛んできた先を見るとそこでは

 

エヒトルジュエに黒金の刀身を掴まれながらももう片方の腕に雷を纏わせた光輝の姿があった

よく見るとその腕のフォームは振ったあとだということがわかった

 

ハジメ「!(エヒトとやり合いながらシアを助けた!?)」

 

雫「(引き寄せる力…引力を使って対象を引き寄せるってことは…飛ばした攻撃は必ず引き寄せられ命中する!)」

 

エヒト「ほう、我を相手どりながら片手間にあの亜人を救うとは…不敬であるぞ(こやつ…ペイン共の見る数多の視界の僅かに存在する死角を狙って放ったというのか?)」

 

光輝「……」

 

エヒト「どうした?神を無視するのか?それもまた不敬であるぞ」

 

光輝「貴様…さっきまでは斥力やら魔力吸収を使っていたな?だというのに…今はそれを使っていない…」

 

エヒト「……何が言いたいのだ?」

 

光輝「使わないんじゃない…使えないんだろ?」

 

その言葉とともに光輝は黒金に雷魔法を流し込む

 

するとエヒトルジュエの表情が一瞬苦痛にゆがむ

 

光輝「貴様は言ったな。力を分けたと…つまり今が、貴様を倒すチャンスということだな!」

 

そう言うと刀の刀身に須佐能乎の力を付与させ、黒金には紫の強大なオーラが浮かび上がった

 

エヒト「!」

 

そのまま力の限りエヒトルジュエに向け力いっぱい黒金を押すとエヒトルジュエの足が僅かに引いてみせた

 

すぐに天在を使って逃げようとしたが

 

光輝「無駄だ!」

 

直後黒金に付与された紫のオーラが須佐能乎の大太刀の形に変化しエヒトルジュエを斬った

 

だが完全には斬れず切り傷をつけただけだった

 

光輝「(まだだ!最低でも半身は貰い受ける!)」

 

瞬時に刀の持ち方を変えエヒトルジュエに突き刺そうとする光輝

 

ハジメ「天之河!!」

 

しかしそこへハジメが自身を呼ぶ声が耳に入り、そこで初めて自身に迫る脅威の気配を感じ取り瞬時に須佐能乎を顕現しガードしようとするが、完全に顕現する前に身体を何かにいくつも突き刺され吹き飛ばされた

 

エヒト「それをわかっていて、我がそう簡単にやらせるとでも?…とはいえ、このざまでは言うほど説得力はないか」

 

そう言いながらエヒトルジュエを斬られた部分を軽く撫でる仕草をしてみる

すると傷はすぐ塞がり回復したのだった

 

対する光輝は吹き飛ばされはしたもののすぐに黒金を己に攻撃してきた者達の方へ向けた

 

目を向けた先にはペイン全員がこちらに黒い杭を向けている姿が見えた

 

そこで光輝は自身の身体に突き刺さっているモノ…杭に着目する

一見何の変哲もないないただの杭に見えるだろうが、刺された光輝にはこれがいかに厄介なものだと認識していた

 

光輝「(この杭…身体の動きや魔力コントロールが乱される……やりあってる時に刺されればそこを突かれて詰むな…)」

 

杭を抜きながらペイン達に対しどう対応しようか考えていた

 

そこで気がつく

 

光輝「(…あのペイン…さっき南雲の一撃で仕留めてなかったか?)」

 

そう、シアを助けようと限界突破で上げたステータスによる無我夢中の蹴りがペインの命を一撃で仕留めたはずだったが、そのペインはいつの間にか復活し加勢している

 

雫「光輝!あの一番後ろにいるペインは他のペインを蘇らせる能力を持っているわ!あのペインを倒さない限り何度でも復活する!」

 

雫とティオが相手していた2体のうちのもう片方の能力は謎のままだったが、光輝がハジメがシアを救出している間に、そのペインは閻魔のような顔を出現させたかと思えばその口からハジメが倒したはずのペインが出てきた

 

エヒト「魂を吸収する能力を与えたペイン…そやつが集めた魂を管理し自由に生き返らせる…それが最後のペインに与えし力よ…」

 

エヒトルジュエが最後のペインの能力を解説したことで、その場にいる者達はどうすべきか理解した

 

ハジメ「!ああそうかよ!ご丁寧に解説どうも。礼と言っちゃあなんだが、一人残らず捻じ伏せてやんよ!!(こいつらペインがいる間はエヒトは輪廻眼と転生眼の能力を使えない)」

 

手に炎を出しながらペインに突っ込むユエ

 

ユエ「(私達が抑えている間に光輝がエヒトを叩く)」

 

シア「(邪魔はさせない!あの人の下には行かせない!)」

 

ティオ「(そうじゃ!今この場において、あの邪神を倒せる可能性が最も高いのは)」

 

香織/雫「(光輝(君)だから!)」

 

各々がペインに攻撃を仕掛け、光輝の邪魔をさせないようにした

 

ハジメ「視界を遮んなら、『樹海降誕』!!」

 

ユエ達やペイン達事覆い隠すほどの大森林を生み出し各々が2対2になるよう囲う(ユエ&香織、ティオ&雫、ハジメ&シア)

 

これで例え視界の共有をしていようとも、それぞれが戦うもう一体のペインとの視界にのみ反映出来ず、共有も最大限に発揮されない

 

それぞれがペインと戦うが、倒すのではなく、足止めや弱らせることに留めている

復活させるペインを倒し、例え他のペインを倒したとすれば、恐らくペインに与えた能力がそのままエヒトルジュエに還元されまたあの脅威が戻ってくるだろうと一同は考えていたからだ

 

ハジメ「(チッ、本当は俺がエヒトをぶっ潰したかった…俺の女に手を出したアイツに報いを受けさせてやりたかった…だが現状、今があいつを倒すことのできる絶好の機会。そして、悔しいが…あいつの戦いにおける才能は俺達とは比べ物にならねえ……今求めるべきはアイツへの私怨を優先した先走りじゃねえ…より確実に、勝つ可能性を突き詰めることだ!だからよ天之河、俺のアイツへの仕返しは譲ってやるが、徹底的に叩き潰してやれ!)」

 

内心悔しさ混じりではあるが、勝つために手段は選ばないハジメは己の私怨を含めたあらゆるものを光輝に託した

 

そうハジメに内心で言われていることを知らない光輝だが、まわりが自身の邪魔にならないようサポートにまわってくれていることには気づいている為、まわりに目をくれず真っ直ぐエヒトルジュエだけを見て相手取る

 

エヒト「!!」

 

エヒトルジュエは周囲に大量の魔法陣を形成すると数多の魔弾を放つが

 

光輝「貴様のソレは、もう見飽きた!」

 

既に何度も放たれた攻撃に対し光輝はこれまで以上に攻撃を回避しきる

 

光輝「(俺に何度ソレを見せたと思っている?…その攻撃は、もう通じねえ!)」

 

光輝が、激闘の最中写輪眼を常時使い続けたのは、エヒトルジュエの放つ攻撃の軌道や速度などをある程度見抜き対応できるようになる為であった

 

最初は早く対応できない攻撃にも、時間経過とともに目が慣れ対応し追いつけるようになっていた

 

エヒトルジュエに接近した光輝はエヒトルジュエと肉弾戦をする

神を名乗るだけあって体術もとんでもないレベルであり、体術だけで他を圧倒することもできるだろうが、神を自称するだけあって、直接相手を触れるのはプライドが許せないのかこれまでの戦いでは最低限程度しか見せなかった

 

そんなエヒトルジュエも流石に余裕が無くなってきているのか体術にこれまで以上に力を入れており、光輝の蹴りや拳をガードしたかと思えば光輝を殴り飛ばすがそこは須佐能乎でガードし威力を最小限にトドメ、それに対して光輝も写輪眼の動体視力でエヒトルジュエの守りの隙間を見つけ重い一撃を胴体に叩き込む

 

エヒト「ゴッ!!」

 

光輝「生憎だが、肉弾戦は得意分野だ」

 

光輝の重い一撃を受けたエヒトルジュエは一瞬両眼が白目となり口から血を吐き、終いには拳を撃ち込んだ胴体からも血が溢れていた

 

無論これで終わるはずもなく、須佐能乎を顕現させ大太刀には天照の炎を纏わせた『迦具土の剣』でエヒトルジュエを斬ろうとするが天在で空間に逃げた

 

光輝「そこだ!!」

 

が、何度もやって見せた天在に対する対応方法をも見つけている光輝には通じず、なにもない所に向け迦具土の剣を投げた

 

すると

 

エヒト「ガァ!?」

 

なにもない空間から出てきた瞬間のエヒトルジュエの半身を貫き片腕を持っていき、おまけに天照の炎が傷口にまで燃え広がりエヒトルジュエは苦しむ

 

エヒト「なっ!?なぜ!?我の居場所を!!」

 

天在は空間魔法を極めた物であり、他の者が使う空間魔法は2つのゲートで移動するに対し天在はゲートを使わず瞬間移動をする

しかし、どちらも移動の際はわずかだがこの世界とは違う空間を通って移動し、その間は如何なる存在も手出しが出来ない

だが、それを光輝は己の写輪眼の動体視力に魂魄魔法を組み合わせることで異空間にいるエヒトルジュエの魂を見つける事で次にエヒトルジュエが出てくる場所に出てくる前に投げ込み攻撃を命中させたのだった

 

光輝「さあな、テメェで考えろ!!」

 

再生魔法で身体を修復しようとするが対象が消えるまで燃やし尽くす天照の黒炎により再生と修復を阻害する

 

光輝「(傷は直させねえ!逃げ道も与えねえ!ここで確実に潰す!!)」

 

光輝は須佐能乎による攻撃をエヒトルジュエに浴びせる

 

それにエヒトルジュエは、障壁を用いず自らのもう半身に残っている腕で防ごうとするが、防ぎきれずダメージを重ねるばかり

 

光輝「(障壁を使って防ごうとしねえ。傷を治すことに集中しているか、ペイン達を操るのにリソースを使ってんのか?まあ、どちらにしろこの機を逃さん!)」

 

その様子をハジメが白眼の透視能力で大樹林の先にいるエヒトルジュエと戦う光輝を見る

 

ハジメ「(いいぞ!とにかく叩き込め!最低でも重症まで追い込め!)」

 

目の前のペインと戦いながらも内心で光輝に激励を送るハジメ

 

光輝「ハァァァァァ!!!」

 

エヒトルジュエが攻撃を避けた直後、光輝はエヒトルジュエの足を踏みつけそこに己の足ごと黒金を突き刺す

 

エヒト「ぐっ!?」

 

光輝「これで貴様は逃げられん。受け取りやがれ!!」

 

そう言うと光輝は片手に千鳥を発生させ

 

エヒトルジュエの胴体を貫こうとする

 

ハジメ「(決まったな。これでエヒトは致命傷を負わすことができ、後はカズマ達に処置(・・)を任せて)」

 

これで自分達の勝利は揺るがないものとなった

 

と、唯一光輝とエヒトルジュエの戦いの行方を見ることのできるハジメは確信した

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その勝機がハリボテということに 気づいたのは

 

 

 

シア「ハジメさん!!」

 

 

 

シア・ハウリアただ一人(未来を見る目)

 

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

 

その勝機がハリボテということに 気づいているのは

 

 

 

 

エヒト「逃げられぬのは貴様のほうだろう インドラ?

 

  

 

 

   エヒト(異世界食い)ただ一人

 

 

 

その直後 何もかもが吹き飛んだのだった





原作の光輝は嫌いですが、二次創作での改変光輝は好きですので、本作の光輝は作者から愛されてます。

本作に登場するペインやうずまき一族は、原作NARUTOとは誕生経緯や設定が異なっております。

ペインの元となったうずまきとは、インドラとアシュラを失ったエヒトがどうにかしてインドラとアシュラの代わりとなる器を生み出せないか試行錯誤の末、人間を素体にあらかじめ採取しておいたアシュラの遺伝子を組み込んで誕生した改造人間(種族としては人間族のうずまき一族)だが封印術に長けていることや生命力が強いくらいでエヒトの望む強い器の水準に達しきれていないため失敗作の烙印を押されている。しかし、器としての性能は並の使徒以上であったことやせっかく作り出したのだからなにかの役に立つかもしれないと、普段は時の流れが一切機能しないエヒトが作り出した空間に放り込んでおり、そこではちょっとした文化が出来ている。彼らからしたらエヒトは自分達を生み出した神だと思っている反面厄災そのものと恐れられている。


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第八十六話 彼女が彼を想うのは


さて、長くなりましたが、そろそろエヒトルジュエとの戦いはいよいよ終わりに近づいてきました。正直4月までに今の章を終わらせたかったですが厳しいですが、できる限り投稿速度を早めたい所存であります。




 

 

てぇ──痛えな

 

強い痛みが身体の節々に響き、眠りから覚醒したハジメ

 

意識朦朧ながらも意識を失う前を思い出そうとする

 

最後に覚えているのは、シアに思いっきり突き飛ばされた直後に身体の全身に凄まじい衝撃とともに投げ出されたことを

 

ハジメ「(…アレは…神羅天征だったな……それも一度受けた奴以上の威力だった…距離が多少離れていることすら意味のない衝撃波が…全身に…そうだ、他の皆は)」

 

目を覚まし身体を動かそうとしたが、全く動かすことができなかった

 

それどころか動かそうとするたびに手足から強い痛みが込み上げて来て、そこで初めて自身の手足に杭を打ち込まれまるで罪人であるかのような仕打ちを受けていることを知る

更に指の方に違和感を感じ見てみると、指輪をしていた方の腕は皮膚が裂け、指を2本失っていた

恐らく神羅天征の余波を受けた際に指をやってしまったか

 

ユエ「ハ…ジ、メ」

 

ハジメ「!ユエ!!」

 

その時、自身を呼ぶ愛しき人の声にハジメはその方へ顔を動かす

そこには、自身と同じように縛られ杭を打たれているユエ…そしてユエ同様その他の皆が満身創痍となって縛られていた

 

香織「大丈夫…じゃないよね…?」

 

シア「す、みません…ハジメさん…せっかく未来視でどうなるか見えていたにも関わらず…守りきれませんでした…」

 

ティオ「シア……アレは仕方がなかったのじゃ…まさか…あの様な攻撃が前触れなく来るとは思わなかったのじゃから…」

 

雫「……」

 

唯一雫だけは意識がなく身体を動かしていなかった

 

すぐにでも助けようと身体を動かせば身体中に打ち込まれた杭から血が流れ、多量出血で死んでしまいそうになる

 

ハジメ「(クソが、身体を動かせねえ。魔法を使おうにもこの杭のせいで発動しきれねえ…てか敵を前に俺はどれくらい眠っていた。そもそもなぜエヒトの奴は神羅天征を使えた…力を分配していたのならあいつは使用不可状態だっただろ)」

 

エヒト「これはこれは…随分と眠っていたのだな…アシュラよ」

 

動かせない身体に苛つきながらも先程までの出来事を振り返り、なぜエヒトルジュエが攻撃できたかを考えていると、件の邪神が冷ややかな口調でハジメに話しかけた

 

ハジメ「……」

 

そのエヒトルジュエを忌々しそうな目で睨むハジメ

だがそんなハジメの姿を何処吹く風と気に求めずエヒトルジュエは話し出した

 

エヒト「貴様が考えていることを当ててやろうか?なぜ我が神羅天征を使えたのかと…インドラは我に言っていたな…使わないのではなく使えないと……確かに、ペインに我が眼の能力を分け与えた事で、我はその力の一部を使えない…ここまではあっていた…だがな、ペインに与えた力は、貴様達がペインを倒す。或いは我の意思1つでいつでも我に還元することができる……神羅天征は溜めに時間を履けば履くほどその威力を増すことができる…だからこそ、発動までその他に余計な力を注がず、インドラの攻撃を全て生身で受けていたのだ」

 

ハジメ「!(そうだったか!チッ、そういえばあの引力と斥力を操るペインは途中から能力使わなかったな!あの時から…)」

 

エヒトルジュエの種明かしを聞いたハジメはそこで自身が見逃していた点を思い浮かべ内心舌打ちをする

 

エヒト「それを此奴は」

 

エヒトルジュエが自身の背後を振り向き動く

そうすることでハジメがこれまで見えなかったエヒトルジュエの背後の足元に

 

存在するモノ(・・・・・・)に気がつく

 

ハジメ「なっ!?」

 

エヒト「チャンスだと言い、我が誘い込んでいるとも気づかず近付き、神羅天征を至近距離で受けたのだ…愚かな…『思い込むという行為は何事においても恐ろしく、自身の力や才能を絶対的だと過信する者はタチの悪いことにな』…先程我に述べた事を…自らもやって退けたのだ。実に滑稽だ…」

 

そう言うエヒトルジュエは地面に転がっているモノ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

身体中に杭を打ち込まれ血まみれのまま地に伏している光輝へ目を向けた

 

ハジメ「!(…あの天之河がここまで……)」

 

ユエ/シア/ティオ「「「光輝(さん)!!」」」

 

雫/香織「「光輝(君)!!」」

 

地に伏している光輝は杭を打ち込まれ魔法が使えず身体を動かせず、血を大量に流し瀕死の重症を負っている

 

身体中に打ち込まれた杭は明らかに内臓に位置する部位にも打ち込まれているが、見た所息はしているため、ギリギリ臓器を突き刺さない辺りを狙って刺したことが伺える

 

エヒト「いくら発動までの溜めに神経を注ぐ間、障壁を使わず攻撃を受け続けていたとはいえ、この我に好き勝手攻撃をしてきたこの不届き者を消し去るつもりで放ったのだが…存外頑丈でな、原型を留めるだけでなく生き延びておる…アシュラもそうだが器としてはこれ以上ないほどに優秀だ…我に歯向かわなければ尚良かったが…器としての成長のために必要とはいえ、やはり自我持つ者の支配は手が掛かる…今後の教訓とさせて貰うとしよう」

 

エヒトルジュエがそう言いながら光輝の頭を踏みつけにする

 

香織「やめて!!」

 

エヒト「この我に、これだけ手傷を追わせたのは我が神となって以来貴様達が初めてだ。この我にこれだけの不敬を働いた貴様達を生かすつもりはない…無論神であるこの我の身を特に傷つけた貴様も例外ではない、インドラ」

 

光輝「……(…チッ……身体が動かねえ…しくじったか…この傷では、さっさと回復しなきゃ助からねえな…)」

 

エヒト「どうだ?…いい加減に輪廻眼を開眼し器として完成させてみよ。さすれば我の器となった貴様は生き延びられるであろう」

 

瀕死の状態にある光輝に甘い囁きをするエヒトルジュエ

 

だがそれが意味することはただ一つ

 

エヒトルジュエに身体を奪われれば最後

その魂は深淵に沈み消えてしまう

 

それをわかっていたからこそ

 

光輝「……──と──ざ──な」

 

エヒト「ん?なんだ?聞こえんぞ?」

 

光輝の呟きにエヒトは顔を近づけ聞き取ろうとする

 

光輝「──ね、ごと…ほざくな、寄…生、虫が」

 

口もまともに動かせないほどに疲弊しているが、それでもエヒトルジュエに対しての暴言は止むことはなかった

 

エヒト「!」

 

ハジメ「はっ!全くだ。他人の肉体に寄生しなければ地上で力の行使をできねえ自称神様の寄生虫の分際で、寝言ほざいてんじゃねえよ(潮時だな…カズマ達が来るまでにできる限り弱らせておくつもりがこのザマ…まあ、エヒトに力を使わせまくって削ぐことはできたか…後はあいつらが来るまで生き延びられるかだが…)」

 

動けないながらも威勢をはりエヒトルジュエに対抗するふたりにエヒトルジュエは

 

エヒト「フン」

 

グサッ

 

ハジメ「がっ!?」

 

光輝「ッッッ!」

 

生成した杭をふたりの胴体に突き刺した

 

エヒト「これだけ致命傷となる傷を負わせても、まだそれだけの威勢をはれるか。貴様達が我の器となる資格がなければひと思いに消してやったが……そろそろどちらかには消えてもらおう」

 

ハジメ「ッッッ(やべ…良い加減に回復しなきゃここで死ぬ…もう少しのはずなんだがなあ…転生眼開眼すんの…時間…稼げるか?…カズマ達が来るまで)」

 

内心焦りながらもどうにかして時間を稼ごうとかと考えるハジメ

 

ユエ「や、めて!!」

 

香織「ふたりから!離れて!!」

 

ティオ「クッ!この杭さえ無ければ!!」

 

エヒト「ほう…貴様達は自らが痛むよりもこやつらの苦しむ姿が余程堪えるようだ…どの道貴様達はもう終わったも同然…ならば死ぬ前にせいぜい苦しむがいい…さて、ではまずは貴様からだ…インドラ!」

 

もう一本杭を生成したエヒトルジュエは光輝の腹部を突き刺す

 

グサッ

 

光輝「ッッッ!」

 

エヒト「む……この者達の中で貴様には特に痛めつけているはずだが…終始痛みで悶え苦しまぬなどころかうめき声の一つも吐かぬか…」

 

光輝「……こ…の程度…痛みのうち…に…入らん…」

 

光輝は痛みに耐えながらエヒトルジュエを睨みつける

 

エヒト「…なんだその目は……まあよい…器として覚醒しないのならば貴様の命運はここで尽きたな…我の器として役に立たぬならば、せめてその死に様で我を愉悦に浸らせるがよい」

 

そう言い更に杭を突き刺す

 

シア「この悪魔ー!!」

 

香織「やめて!!刺すなら私に刺して!!」

 

ティオ「いや!妾に刺すのじゃ!(このままでは、光輝が死んでしまう!)」

 

光輝「ッッ!(耐えろ…耐えやがれ…こいつはわざわざ急所を避けて刺してる。簡単には殺さず俺を長く苦しませたいだけじゃなく、俺を追い込むことで輪廻眼を開眼させようとしている……なら、俺が耐えていればこいつは俺一人に集中し他には手を出さん…佐藤達が来たときの為に戦力は残さなければ……耐えるんだ……)」

 

ハジメ「(天之河が死ねば次は俺か。この杭さえ抜ければ…魔法を使おうにも杭のせいで魔力もそれを扱う集中力が乱される…おまけに武器がねえ…あの神羅天征の時に思わず手放しちまったか?…宝物庫の指輪もねえし、早く来てくれカズマ達!)」

 

光輝「はぁ…はぁ…(だが、なにも抵抗しないわけには…いかねえ)アマ…テラ」

 

杭の痛みに耐えながらも光輝は天照を発動させようとする

 

通常の魔法と万華鏡写輪眼の瞳術を使う際、どちらも魔力を使うが勝手が違う為発動自体は可能だが

 

グサッ

 

エヒト「させん」

 

光輝「!ッッッッッッッ!!!!!」

 

ハジメ「!」

 

ユエ/シア/ティオ「「「!!」」」

 

香織「きゃああああああ!!!」

 

あろうことかエヒトルジュエは天照を発動させようとした光輝の左眼の万華鏡写輪眼を杭で突き刺した

 

杭で胴体を打ち込まれた時以上に苦痛を浮かべるが、それでもうめき声を吐かない光輝にエヒトルジュエはつまらなそうな表情を浮かべる

 

エヒト「ふむ…苦痛にゆがむ顔を拝められたがやはりこの程度ではうめき声をあげぬか……もう片方の眼も潰せば苦痛に耐え切れず悶えるか?」

 

そう言うと光輝の左眼を潰した杭を握り、もう片方の眼も突き刺そうとした

 

ハジメ「!(やばいな。命の前に眼を奪う気か!てか魔眼って再生魔法で治るのか?万が一治らなかったらあいつはもう…)」

 

光輝「ッッ(もう…片方も…潰す気か…無駄だ…俺はとっくに覚悟はできている。貴様に勝つためなら両眼どころか、命を失う覚悟でここにいる!むしろ目を潰すまでの時間すらあいつらが来るまでの時間稼ぎに利用してやる)」

 

ユエ「光輝!!」

 

シア「んの!(まずいです!こうなったら、両手足引き千切ってでも!)剥がれろ!」

 

ティオ「ぐっ!」

 

香織「もう…やめて…」

 

エヒトルジュエに両眼とも潰されそうになっているのを見て流石に焦りを見せるハジメとすぐにでも飛び出そうとするユエとシア、それを苦悩に満ちた表情で見ていることしか出来ないティオに涙を流しながらやめるよう懇願する香織、それに反しとっくに覚悟を決めている光輝はそれすらも時間稼ぎに利用しようと目をエヒトルジュエに向け次なる痛みに耐えようとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう 誰もが彼の持つ最後の眼から光を奪われると覚悟した

 

エヒトルジュエすらも 彼の眼を奪うという現実は 避けようのない己が作り出す未来の事実である

 

そう 確信していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう 己がこれから作り出す現実を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「ハァ!」

 

己が矮小と見下していた 人間の少女に防がれる結末を

予測しきれなかった

 

エヒト「ッ!」

 

光輝の眼に杭を突き刺そうとした瞬間、突如現れた雫の刀がエヒトルジュエの握る杭を弾く

 

ハジメ/ユエ/シア/ティオ「「「「!」」」」

 

香織「雫…ちゃん…」

 

杭を弾いた雫はエヒトルジュエに刀身を向け言い放つ

 

雫「これ以上、光輝に手出しさせない!!」

 

光輝「し…ず…く…」

 

眼を失う覚悟でいた光輝

しかし、眼を失わなかったばかりか

自分達同様杭に刺され身動き一つ取れず、気を失っていたはずの雫が今目の前にいることに驚く

 

ハジメ「(アイツ…俺達同様動けなかったはず…どうなっている…)!」

 

そこでハジメは気がついた

 

刀を握る雫のもう片方の手にあるクナイの存在に

 

ハジメ「(…そうか…飛雷神を使ったな)」

 

そう、雫は飛雷神のマーキングがなされたクナイを経由し杭から抜け出すことが出来た

 

皆が目を覚まし、光輝とハジメがエヒトルジュエに痛めつけられていたあの時

実は雫も目を覚ましていたのだった

すぐ己の今の現状を理解し、どうにかできないか頭を働かせた末、エヒトルジュエの神羅天征の際に自身が手放していた飛雷神のクナイのある場所まで瞬間移動して杭から脱出しようとした

 

直接身体から発する魔法と違い、マーキングした物質を経由し遠隔操作で発する魔法である飛雷神は、ユエ達の魔法と違い魔力を乱されることはなかった

 

だが、身体中を杭で突き刺され、痛みと出血をしている中で魔法を使うには凄まじい集中力が必要な上、刺され続けられる光輝を前に、何度も集中が切れそうになったが、もう片方の眼が潰される寸前に間に合うことができた

 

刀身と共に向ける雫の瞳を見るエヒトルジュエだったが

 

エヒト「…どうやってあの杭から抜け出ることができたかは謎だが…この場に割って入って、何をしようとする…?…インドラやアシュラ、あの吸血姫はともかく、貴様のような、素早く動くだけの矮小の小娘に、既に限界の身体を引き摺る貴様に…何ができる?」

 

杭を刺され、傷口を無理矢理再生魔法で塞ごうとしたが完全には防ぎきれず、身体から血が垂れ、これまでの戦いで蓄積してきたダメージにより既に肉体は限界に近づいていた雫の身体を指摘する

 

雫「……そうね。確かに、私では貴方には勝てない…そんな事は…私がよく理解している」

 

エヒト「わからぬな…理解していて尚…我の前に立ちはだかるか?」

 

エヒトルジュエが鋭い眼光と共に雫を睨む

 

雫「ええ…例え勝てなくても、力及ばずとも…彼を……光輝を守ることはできる!」

 

光輝「…なに…を…いって…いる……しず…く!…お前が奴と…戦っても…死ぬ…だけ…だ!…」

 

なおも戦おうとする雫を静止させる光輝

 

光輝「おまえだけ……でも…逃げ…ろ」

 

自分の身体がどれだけ傷つけられようと、決して声を荒げることもなかった光輝が、ここに来て声を荒らげながら逃げるように諭す

 

普段の光輝を知る面々には、その必死過ぎる光輝の姿に内心驚愕していた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「フフッ…やっと……私の名前を呼んでくれたわね……光輝……」

 

それを笑って受け止める雫

 

光輝「!」

 

この戦い…否

パーティーを離脱し、戻ってきてから一度たりとも、光輝は雫の名を呼ぶことはなかった

自分から雫に近づくことも、話し掛けることもなかった

 

雫「どれだけ厳しい言葉を吐いても……どれだけ人を遠ざけようと……嫌っていても……私は、貴方は本当に優しい人なのを知っているわ………どれだけ私を拒絶していても…いつも…いつだって…貴方は…何も素知らぬ顔で…私を守ってくれていた……嬉しかったわ……そして…ごめんなさいね………それは出来ないわ。ここで逃げだすことは………私の中にある……誓いからも逃げることを意味するから…」

 

光輝「ち…かい…だと…」

 

雫「貴方を孤独にさせない……私は、それを自分に誓ったから」

 

光輝「!」

 

雫「いつだって私は…貴方の後ろを見てきた…貴方の隣を歩きたかった…一人孤独に突き進もうとする貴方を…一人になんてさせたくなかったから…だから…私は強くなりたかった……貴方についていけるように…孤独にさせたくないように……そして…この旅を通して…カズマ君達と関わって……理解したわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

人は 本当に大切な何かを守りたいと思った時  本当に強くなれるものなるんだってことを

 

そう光輝に笑顔を浮かべる雫

 

光輝「…しず…く」

 

雫「いつも……ううん…今まで私のことを、守ってくれてありがとうね、光輝……だから今度は私が…貴方を守る!!

 

その言葉とともに、刀とクナイを握りしめた少女は、巨悪の邪神に立ち向かうのだった



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第八十七話 彼らの憎しみを呼び覚ますのは


ここからいよいよエヒトルジュエとの戦いが佳境に入ります。そして光輝に異変が…


 

神域の空間内にて

 

カズマ「!!」

 

時間をかけたものの準備を終え

神域に足を踏み入れたカズマ一行だったが

 

アクア「カズマ!今のって」

 

カズマ「……あぁ…最悪の事態到来だ(こうなる事態を避けるために飛雷神付きのクナイを渡したんだが、壊れたのか。マーキングの反応が出ねえ…)。急ぐぞみんな!」

 

神域の最奥から伝わる異変に、焦りを見せつつもカズマ達14人(・・)は急ぐのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「あ…れ…?」

 

何も存在しない空間の中で、雫は目を覚ました

 

先程までエヒトルジュエと戦っていたはずなのにも関わらず、まわりには誰も存在せず、戦いの跡も残っていなかった

 

 

雫「…なんで…?…どういうこと…?……私…戦ってたんじゃ…」

 

戸惑いの中、先程までのことを思い出そうとした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雫「…え?」

 

が、自分の手についていた血を見て驚く

 

それだけでなく、胸には貫かれた跡が…

 

そして足元に垂れている大量の赤黒い血の跡

 

極めつけは血溜まりに浮かんだ姿を見て理解した

 

──ああ…そっか…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私 死んだんだ

 

 

血溜まりに浮かぶもの 杭に体中を貫かれ 血まみれとなって力尽きた八重樫雫を見て、自分の結末を知ったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ

 

 

雫「……」

 

 

ピタッ ピタッ

 

少女に刺さった杭から垂れる赤い血

 

シア「あっ…ぁぁ…」

 

ティオ「そ…んな」

 

ユエ「嘘…」

 

ハジメ「クソが!」

 

香織「ヒッ…し…ずく…ちゃ……!」

 

身動きが一切取れない一同は

唯一エヒトルジュエに挑んだ仲間だった少女の最後に強いショックを受けていた

 

特に親友だった香織はその最後に涙を流しながら悲痛の声を上げる

 

呆気なかった

 

実に呆気なかった

 

血を流しながらもエヒトルジュエに果敢に挑み、どれだけ力の差を見せつけられようと絶望せず、最後の最後まで立ち向かった

 

だがそれでも、神を自称するこの男には勝てなかった

 

エヒト「フン…何が守ることができるだ…時間稼ぎにもならん。自ら自分の死を早めただけに過ぎん行為を進んで行うとは、所詮は下等種か…何がしたのかわからんな」

 

自身に刃を向け立ち向かって来た少女の亡骸を前に、エヒトルジュエは悪態をつく

 

エヒト「貴様の様な弱者に不意討ちとはいえ傷つけられたなどと、我が神生において恥でしかない……触れることすら無礼だと知れ」

 

そのエヒトルジュエの言葉に、雫が応えることはなかった

 

万象天引で引き寄せてからの杭刺し

 

たったそれだけで、これまで攻略者パーティとして戦ってきた少女は呆気なく散ったのだった

 

光輝「……」

 

エヒト「ん〜?」

 

そんなエヒトルジュエの目に惹かれたのは、戦っていた雫に逃げるよう諭したり避けるよう言っていたがその雫の最後を見たことで一切の声を荒らげなくなり、それまで動けないながらも身体から力を発していたが今ではそれも無くなり消沈した

破壊の力をその身に宿した少年の姿だった

 

エヒト「くくっ…やはりか…あの吸血姫の記憶通りだったな……貴様はあの小娘に対し、並々ならぬ執着心を抱いているのだったな…」

 

ピキッ

 

そんな光輝の姿を可笑しそうに笑うエヒトルジュエ

それまでどれだけ痛めつけようと折れることのなかった光輝の心を折ることの出来た事に、大きな喜びを抱いたのだ

だが、まだ心は壊れていない

絶望の末に人が壊れる瞬間 それこそエヒトルジュエが最も強く喜びと愉悦感を抱く時

 

エヒト「なぜあの様な小娘に執着するのかわからんが…実にくだらん。あぁ…そうだったな…そう言えば貴様にも居たな…インドラ?お前の器同様…貴様にも強い執着を抱いていた小娘が居たんだったな…?

 

光輝「……」

 

エヒト「あの小娘……どうなったか…」

 

ハジメ「?(なんだ…?今…一瞬空間が揺れ動いた気が…)」

 

エヒトルジュエはこの時点で己の勝利を確信しており、こうなれば敢えて光輝を器候補として扱わずとことん心を壊し、そのうえで殺してしまおうと考えた

壊したあと 残ったハジメを器として利用しようと思い、壊れた瞬間の光輝を想像し笑みを浮かべた

既に壊れかけている光輝だけでなく、その心の奥にいるであろうインドラに語りかけるかのように言うのだった

 

どこまでも性根の腐った邪神

 

誰もがそう思った

 

エヒト「ああ、思い出した!!アレはたしか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──はぁ はぁ はぁ

 

 

雫の最後をその目に焼き付けた瞬間

目の前が真っ暗になったかの様な感覚を味わった

それだけでなく

 

光輝の心に様々な感情が駆け巡った

 

これだけの感情が一度に心を埋め尽くす経験はこれまで一度たりともなかった

 

 

──あぁ 抑えきれねえ

 

──怒りが 憎しみが 殺意が 喪失が 

 

 

限界に達していた

 

既に心は暗闇に沈みかけていた

 

そしてフラッシュバックする雫との数年の思い出

 

 

初めて出会った日

 

笑って自分の夢を語った時

 

いじめられ助け その末の兄弟喧嘩に涙を流す姿

 

どれだけ拒絶しようと駆け寄り関わろうとする姿

 

オルクス大迷宮で魔物に殺されかけたのを助けた時

 

幻術をかけられようとも諦めなかった姿

 

海底遺跡での戦いや互いの心の内を話した時

 

ハイリヒ王国にてノイントの攻撃から守った時

 

樹海での入れ替わり騒動や互いの好意が反転した時

 

全ての神代魔法を集め終えた末 酷いことを言ってしまった時

 

再開したあと 一度たりとも声をかけることはなく ただ時よりその後ろ姿を見ていた時

 

そして 笑顔を浮かべ光輝を守ろうと立ち向かった末に散った姿を

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──もう いい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エヒトルジュエは告げた

 

 

───死んだんだったな? この娘同様

 

 

自ら滅びへと向かうその一言を

 

 

その瞬間

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──もう

 

 

──ナニモカモホロボシテヤル

 

彼の心は闇に沈み(・・・・・・・・)

 

全てを滅ぼす概念が解き放たれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピキッ

 

エヒト「ん?」

 

そこで初めてエヒトルジュエは気が付く

 

神域の空間に異変が訪れている事を

 

エヒト「(なんだ?…神域が…揺れている?一体何にだ?いつからだ?)」

 

神域の主であるエヒトルジュエが把握できないほどの揺れが、異常が神域に響く

 

ピキッ ピキッ ピキッ ピキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキキッッッ

 

それは徐々に強まり、ついには神域内のあちこちにヒビが入り出した

 

エヒト「な!?」

 

この異常事態に、エヒトルジュエは謎の焦燥感を抱く

 

シア「な、なにが起きているんですか……!」

 

ティオ「神域が…なにか…より大きな力の反動に耐えきれず、ヒビが入っているのじゃ…」

 

予期せぬ事態に動揺する攻略者パーティ一同

 

エヒト「なんなのだ…これは、……!?」

 

エヒトルジュエはそこで今起きている異常事態の元凶に心当たりがあったのか、その元凶に目を向けたが

 

エヒト「なっ!?何処だ!?」

 

先程までそこに存在していた元凶は消えており、あとに残っていたのは血の跡だけだった

 

ハジメ「!」

 

香織「皆!上見て!!」

 

ユエ/シア/ティオ「「「!?」」」

 

だが、その元凶の所在に最初に気づいたハジメ、続けて香織、ユエ、シア、ティオもその存在に気がつく

 

エヒト「!」

 

香織の声にエヒトルジュエもついその方向へ顔を向ける

 

そこには

 

光輝「……」

 

宙に浮く光輝の姿があった

身体に打ち込まれていたはずの杭はどこにもなくなっており、刺し傷すら塞がっていた

 

ユエ「こ、うき…?」

 

ティオ「なんじゃ?…様子が…」

 

エヒト「……これは…貴様が起こしたのか…インドラの器よ(この男……本当に先程まで我に瀕死に追い込まれ心を壊される寸前にまで疲弊していた男か?)」

 

違和感 自身が追い込んだはずの男に言いようのない違和感を抱くエヒトルジュエだったが  

 

エヒト「否、この際それはどうでもよいか…貴様の運命はこの我、エヒト神が死罪を下したのだ(殺す この男は今ここで殺さねばなにか 取り返しのつかないなにかが来る!!)。大人しく消えされ!!」

 

そう言いながらエヒトルジュエは掌から極太の魔力砲を放つ

これまで一度たりともなかった放ったことのなかったソレは、触れるものすべて消し去る威力があるのは見たとれた

 

ハジメ「アイツ!まだあんな力隠してやがったのか!!」

 

香織「いけない!光輝君!」

 

まともにくらえば消失しかねないエネルギーの塊

それが光輝に放たれ焦る一同だったが

 

光輝「……」

 

それを避けもせず、防ぐこともせずに受けた

神域に今 強大な魔力の圧が空間を包みこんだ

 

我こそが神域の主であることを示すかのように

 

エヒト「はぁ…はぁ…我としたことが…少し焦ったか……まあよい……あやつは結局絶望し心が壊れることなく、器として完成することもなく消えさったか…やはり自我とは…心とは思い通りにはいかぬものよな…今後の教訓とさせてもらおう…さて…残ったほうは果たして我の器となってくれようか?」

 

光輝を消し去ったと確信し、次はハジメを追い込み転生眼を開眼させ器として完成させようと目論みハジメ達の方へ足を向けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ゾクッ

 

エヒト「!?」

 

ハジメ/ユエ「「!?」」

 

シア/香織/ティオ「「「!?」」」

 

その瞬間 神域にいる者全ての心臓をナニかに掴まれたかのような感覚を覚えた

攻略者パーティ エヒトルジュエはこの様な感覚を過去1度たりとも味わったことはなかった

 

特に自身の力は絶対的なものだと過信していたエヒトルジュエは己が錯覚とはいえ心臓を掴まれた感覚を味わったことに言いようのない恐怖を覚えた

 

エヒト「まさか…!」

 

エヒトルジュエが放った魔力砲の跡には

強大な黒炎の渦が出来ており、それが魔力砲を防いでいた

 

ハジメ「アレは…」

 

ユエ「アマ…テラ…ス…?」

 

ティオ「あれだけの質量全てを燃やし尽くしたじゃと!?」

 

エヒトルジュエ「なっ!?」

 

黒炎の渦は周囲に存在する物を飲み込みながらも徐々にその勢いは弱まっていき

やがて 黒炎を操る者の姿を見せた

 

 

 

 

黒炎で出来た衣をその身にまとい

圧倒的なまでの存在感を神域内に刻み込み

 

それは この場には居ない神域内に入ったばかりのカズマ達だけでなく 地上にまで伝わる程の強大な力

 

神であるはずのエヒトルジュエが驚愕する圧を放つ存在

 

その者──光輝は佇んでいた

 

ただし、その容姿は先程までとは異なっていた

 

魔物肉を喰らいその毒素により痛みと共に抜け落ちた色素は白かったが、今彼の髪色は魔物肉を食べる前の色に戻っており、身体にあった全ての傷は消え失せていた

 

なによりの変化は彼の瞳にあった

 

彼の万華鏡写輪眼の模様がまるで六芒星にした時に使える左眼の瞳術『天照』と右眼の瞳術『加具土命』

左眼の万華鏡写輪眼の模様がまるで三枚刃の手裏剣の模様に変化させることで左眼の瞳術『月読』が使えた

使いたい瞳術を使おうとするたび、いちいち瞳の模様を切り替えなければならなかった

 

だが、今その彼の右眼の万華鏡写輪眼の模様は六芒星の中に三枚刃の手裏剣となっており、まるで二つが一つになったかのようだった

 

そして エヒトルジュエによって潰された左眼はというと、何事もなかったかのように再生しており、その瞳にも大きな変化がもたらされていた

 

その瞳はまるで水に物を落とした際に発生する波紋状の模様が浮かび、薄い紫色をしている

一見すればエヒトルジュエの輪廻眼の様なものだったが大きな違いが一点だけあった

 

それは、彼の瞳には写輪眼の巴模様も刻まれていた

 

片や他人から奪った眼

片や自ら開眼させてみせた眼

 

同じように見えても得た経緯は全くの別物

 

当然 奪った眼では本来の力を発揮できないとはいえエヒトルジュエの両眼の輪廻眼と転生眼は紛れもなく世界を揺るがしかねない力を持っていた

 

だがそれでも

 

 

 

雫と同様に死んだだと?

 

 

 

エヒトルジュエ如きでは太刀打ち出来ない圧倒的なまでの力が…眼がそこにはあった

 

香織「すご…い…」

 

シア「本当に…アレが…光輝さん…でしょうか…?」

 

ティオ「あぁ…まるで別物…いや、別格と言うべきじゃろう」

 

ユエ「でも…アレが…あの瞳が…」

 

なにせ 彼が…天之河光輝が開眼してみせたその瞳こそが 正真正銘  究極の眼

 

ハジメ「そうだ…あれが…全てを滅ぼし 全てを破壊する眼」

 

 

破壊の力 輪廻眼をもとに誕生した者 インドラ

 

そのインドラの魂をその身に宿し 己の魂と完全に一つとなった人間 

 

輪廻写輪眼(りんねしゃりんがん)開眼者

 

 

 

天之河光輝(破  者)

 

 

 

光輝『  』

 

 

 

 

その命を奪ったのは貴様らだろう

 

 

今 世界を破壊する力は目覚めたのだった

 



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第八十八話 全てを破壊する眼





 

神域を包み込む黒い魔力の圧

それを肌で感じた一同は思わず唾を飲み込む

 

ティオ「な、なんという禍々しい魔力!!アレが…たった一人の人間が放つものじゃと!?」

 

シア「こ、これが…覚醒した光輝さん本来の力…凄い…」

 

全てを破壊する眼 輪廻眼を開眼して見せた光輝

このタイミングで覚醒するとは思っていなかった一同に緊張が走る

 

だが

 

エヒト「フ、フフッ…フハハハハハハハハハハ!!!」

 

唯一エヒトルジュエのみは高らかに笑っていた

 

エヒト「遂にだ!遂に完成したか!!この時をどれほど待ちわびたか、!とうとう我の器として覚醒したか!!」

 

輪廻眼の開眼 即ち光輝とインドラの魂が一つとなりエヒトルジュエが長年欲していた器が完成したことを意味する

 

エヒトルジュエの目は歓喜に満ちており、長年待ち望んだものが手に入る目前に来ていること そして、己が望む力と未来が手に入るビジョンを思い浮かんでいた

 

エヒトルジュエとしては覚醒できればラッキー程度に追い込んでいたこともあり、その喜びは予定していたもの以上だった

 

エヒト「やはり!貴様こそが、我が器に相応しい逸材!

さあ!今こそ貴様の肉体、我の物となれ!!」

 

そういうと周囲に魔法陣を展開させ、そこから金色の鎖をいくつも取り出しそれが光輝の身体を縛り付け、鎖を通して力を吸収しだした

 

光輝「……」

 

エヒト「まずは貴様を弱らせてからだ……フフフ、やはり思った通り。素晴らしい力だ!この肉体を手に入れれば我は完全無欠の存在となれる!真の神の頂きに立てる!!フハハハハハハハハハハ!!!」

 

光輝の動きを封じ込めたエヒトルジュエは喜びに満ちながら光輝から力を吸い取る

輪廻眼を開眼させたとはいえ、光輝はまだ開眼したばかり

よってまだ力を使いこなすことは出来ず、今のうちに叩き潰し弱らせたところで肉体を奪おうと企んだ

 

そのエヒトルジュエの考え自体は悪くは無かっただろう

 

事実、これが他の者ならば何もできず力を吸い取られあっさり弱らせられた所で肉体を奪われただろう

 

 

 

 

 

 

 

 

そう──他の者ならば

 

エヒト「ハハハハハハハ!!……は?」

 

高らかに笑っていたエヒトルジュエだったが、そこで違和感を覚えた

力を吸い取っているはずの自身が、吸われているかのような感覚を味わったのだ

いや、ようなではなく実際に力を吸収されていたのだ

それもエヒトルジュエが出した鎖経由でエヒトルジュエの吸収力に迫る勢いで吸収し、ついにはエヒトルジュエの吸収を上回る勢いで力を吸収したのだ

 

エヒト「なっ!?き、貴様!!」

 

慌ててエヒトルジュエは鎖を仕舞い距離を取った

 

エヒト「こ、この我の力を、奪おうとしたのか!?」

 

エヒトルジュエの想像に反し、光輝は輪廻眼の力をすぐに使ってみせた

 

光輝「  」

 

焦りを見せながら言うエヒトルジュエに光輝は応えた

 

何度 私達(・・)を前に力を使っている

 

光輝の言う通り、エヒトルジュエは既に輪廻眼の力…もとい己の手の内をさらし続けていた

結果どういう能力なのか、またどう使えばいいのかなど、とっくに学習し己のものにしていた

 

とはいえ、いくら見てきたとはいえ開眼したばかりで輪廻眼をすぐに扱えるのはひとえに開眼した光輝の資質によるものだった

カズマから天性の才と評される彼は学習能力や模倣する力も常人のソレを上回っていた

加え日頃から写輪眼を使ってきたことで洞察力を向上させてきた

 

この戦いの中、光輝は常時写輪眼を使ってきた

これは仮に輪廻眼を開眼できたとしてもその扱い方を理解できなければせっかく手に入れた力を宝の持ち腐れにさせてしまわないために、エヒトルジュエの攻撃を避けるためと同時にその能力を観察し続けていたのだ

 

光輝がエヒトルジュエに抗って見せるだけでなく上回って見せた

だがそれ以上にハジメ達は驚く

 

香織「…え…?……」

 

シア「い、今…なんて…」

 

ティオ「私達(・・)じゃと?」

 

ユエ「待って…じゃあ…今戦っているのは…」

 

ハジメ「……マジか……魂が一つになったんだから、こうなってもおかしくないとは思っていたが…よりにもよって…今出てくんのかよ…」

 

光輝の言動に違和感を覚えた面々だが、その違和感の正体に気がついているハジメ

 

そして

 

エヒト「…屍の分際で我に歯向かうか インドラ!!」

 

その違和感の正体を生みの親であるエヒトルジュエが叫ぶ

 

エヒト 貴様が憎い これで貴様を、貴様の作り出した全てを滅ぼすことができる

 

光輝…否、光輝の肉体を操るインドラは鋭い眼光と凄まじい殺気と共に魔力の圧をエヒトルジュエに向ける

 

自分に向けられたわけではないはずなのに震えるシア達

 

何がどうなっていると考えるハジメとユエ

 

ゾクッ

 

殺気を当てられたエヒトルジュエは、己の手の震えを見て動揺していた

 

エヒト「(なんだ…?これは…怯え…だと!?この我が…)」

 

長い時を生きてきた自身が この世界に絶対的な存在として君臨してきた自身が怯えている事実に

それもかつて己が生み出した創造物の魂に怯えていることにエヒトルジュエは激しい憤りを覚える

 

エヒト「図に乗るなインドラ!!貴様如きが!我が創造物如きが!創造神に歯向かうな!!」

 

エヒトルジュエはそれだけ言うと大量の魔法陣を周囲に展開させた

 

それもこれまでとは比べ物にならない程の

それこそ神域内の上空を占めるだけの

 

シア「!なんて量なんですか!?」

 

ティオ「今まで本気では無かったのじゃろう…」

 

香織「アレ、私達も不味くない!?」

 

ハジメ「チッ!」

 

そこから放たれた大量の魔法弾はインドラに向け集中砲火され、神域内は大きく揺れた

 

香織「きゃあああああ!!」

 

ユエ/シア/ティオ「わあああああああああ!!」

 

ハジメ「ぐッッッああああああああ!!」

 

大量の魔法弾が衝突した衝撃から生まれた余波により、杭を打ち込まれ身動き一つ取れなかったハジメ達は全員吹き飛ばされた

 

幸い余波による怪我はなく

幸運なことに今の余波でシアのそばに飛ばされたハジメはシアに片腕に突き刺されていた杭を引き抜かせ、後は自力で杭を全部抜く

 

続けて他の面々の杭を抜き傷を癒やす

 

ハジメ「ッッッ…やっとこの忌々しい杭から解放できた…」

 

杭を打たれていた箇所を擦りながらエヒトルジュエとインドラの方を向く

 

大量の魔法弾を放たれたことで生まれた煙がふたりを包みこんでいた

 

香織「あ、あんな攻撃…一度に受けたりしたら…」

 

香織は大量の攻撃を受けたであろうインドラ(光輝)の安否を気にする素振りを見せるが

 

ハジメ「……問題ねえよ…仮にもアイツは輪廻眼の開眼者…なら当然あの程度の攻撃」

 

その言葉とともに晴れた煙から姿を見せたインドラは

 

ハジメ「今のアイツには届きやしねえよ」

 

無傷で立っていた

 

エヒト「!」

 

シア「あ、アレって…」

 

ユエ「ん…魔力吸収…エヒトが放った魔力弾全てを吸収した…」

 

ティオ「アレを全部…じゃと!?」

 

ハジメ「アイツはエヒトがやってみせたことを、アイツ以上の質でやり遂げることができる…完全にエヒトの上位互換だな」

 

エヒト「ッッッ!!まだ!これで終わりだと思うな!!」

 

そう言いながらエヒトルジュエは空間魔法を発動しペイン達を 更にその他の使徒達を呼び寄せた

 

その数およそ数千

 

エヒト「ゆけ!!」

 

エヒトルジュエの命を受けた意思なき使徒達は一直線上に攻めてくる

 

インドラ「……」

 

そんな大量の使徒達を前にインドラは己が身にまとっている黒炎の火力や量を増長させた

 

勢いよく燃え広がる黒炎はやがてその姿を形作った

 

その姿は 黒炎で形成された肉体と大剣を持つ まるでケンタウロスのような巨人

その表情からは凄まじい程の憎しみに溢れ、向かってきた心無き神の使徒達の間に存在しないはずの感情 恐怖心が芽生えたのだった

 

香織「なんなの…あれ…」

 

シア「アレも須佐能乎なんですか!?」

 

ユエ「でも…あんな須佐能乎見たことない。それに今まで見てきた須佐能乎とは比べ物にならない圧迫感に憎しみが肌に刺さる…」

 

ハジメ「ああ…とんでもなく禍々しい……」

 

黒炎の巨人は、周囲の黒炎を収束させた黒炎で出来た大剣を強く握り締め、上空にいる使徒たちへ大きく振りかぶった

 

その瞬間

 

黒き閃光の如き斬撃は 使徒を 空間を 世界を斬った

 

巨人が剣を振るったあとには 真っ二つに切り裂かれた使徒達 神域の空間 このトータスという世界そのものが斬り裂かれたのだった

 

シア「た…たった…一振りで…」

 

ユエ「……『世界を断つ斬撃』……アレも輪廻眼の力…」

 

ハジメ「…あいつこそが……破壊の神だな」

 

エヒト「なっ…!?」

 

たった一振りの斬撃で使徒や空間 世界が斬られた様を目の当たりにしたエヒトルジュエの顔には 先程以上の恐怖と屈辱に染まっていた

 

恐怖心を屈辱なまでの怒りで誤魔化し、更に使徒を呼び出し攻め続ける

その必死なまでの姿には神としての威厳は全く感じられず、まるで物語などに登場する余裕ぶっこいていた悪役が追いつめられそれまでの余裕やプライドを捨てて見苦しく生き長らえようとする様だった

 

更に襲いかかって来る神の使徒の大軍

 

その大軍を前に武器を構えず突っ立っている巨人

中にいるインドラもまた巨人の中で使徒の大軍を見上げていた

 

そしておもむろに使徒に向け

 

インドラの名において命ずる 滅せよ

 

ただ一言呟く

 

その瞬間、攻めてきた神の使徒全てがまるで天照でも受けたかのように肉体が一瞬で燃えさかり僅か数秒で神域から灰一つ残さず消え去った

 

ハジメ達「「「「!?」」」」

 

エヒト「!?」

 

ハジメ「…ユエ…今のは」

 

ユエ「…神言…に似てるけど違う…神言は魂魄魔法の極地。言葉を聞いた相手の魂に干渉して行動を操ることができる…でもあれは…事象の干渉…破壊、滅ぼす、死という事象概念に干渉して現実にする……多分ベースは神言…それに輪廻眼の破壊を組み合わせて放った…輪廻眼版神言。名前をつけるとしたら…『破言』。しかもそれだけじゃない」

 

ハジメ「ああ…あいつが破言を使う直前に感じた魔力の高ぶり…起こりって言うのか?魔法使う直前とかだと必ず発生するやつなんだが…インドラが使う直前の起こりが…まるで……『概念魔法』使う際の起こりみてぇだった…いや、みたいじゃなく概念魔法だな」

 

ユエ「ん…間違いない…概念魔法を使ったことあるからわかる…」

 

光輝を除いて概念魔法を使えるハジメとユエはインドラが行った攻撃の正体に目星をつけていた

 

香織「し、喋っただけで…」

 

ティオ「……相手を滅ぼす……もはや人のなせる技ではない…妾達もこの世界の人々からすれば規格外かもしれぬが…あやつは…それすらも上回る規格外。アレが…輪廻眼を持つ者の力…」

 

香織「で、でもいつ、いつ概念魔法なんて生んだの!?」

 

ユエ「……考えられるのはあの時……エヒトに追い込まれて、雫をやられた時…雫を殺したことが引き金を引いて…」

 

ハジメ「目覚めてしまったってわけか……皮肉だ…まるで俺の時と一緒だ……」

 

自分が怒りで概念魔法を発現させた時のことを思い出し顔をしかめるハジメ

 

ユエ「……でも…不味い……」

 

それ以上に顔をしかめるユエ

 

シア「な、なにが不味いんですか。ユエさん」

 

ユエ「…戦いの余波で神域が崩壊するかもしれない…でもそれ以上に……インドラ…ううん…光輝が保たない。見て」

 

ユエが言う言葉の意味を理解すべくエヒトルジュエと戦っているインドラのほうを見ると

 

インドラ「ッッッ!ぐぅぁぁ!!」

 

輪廻眼のある方の眼を抑えながら苦しんでいた

 

それを逃さないエヒトルジュエの攻撃

だがそれでも巨人は壊れない

 

香織「苦しんでる…?なんで…?」

 

ユエ「……ハジメ……今光輝の魂はどうなっているの?」

 

ハジメ「…少し待ってろよ」

 

ハジメはそう言うと白眼と魂魄魔法を使いインドラが使っている光輝の肉体を見てみた

 

ハジメ「……沈んでんな……あいつの魂……魂の一体化自体は出来ているが…魂の半分が黒い水溜りみたいなのに沈んでる」

 

ユエ「……多分沈んでる方に光輝の意思がある…沈んでないほうがインドラ……本来は沈んでない状態…光輝とインドラふたりの意思がある時に使うはずの輪廻眼をインドラだけが使っている状態……結果魂と肉体に負荷が掛かっている……このままじゃ…どちらも保たない…」

 

シア「も、保たない…って具体的にはどうなりますか!?」

 

ユエ「………」

 

それに答え切れないユエだったが、その表情を見れば最悪の結果になることだけはわかる

 

香織「じゃあ…どうしたら」

 

ユエ「……眠っている光輝の意思を叩き起こせば…多分…」

 

ハジメ「チッ…まいったな……あの状態のアイツに魂魄魔法での干渉は効果薄そうだ……ってその前に武器や宝物庫見つけねえとな」

 

どうすべきか考えながらとにかく落としたはずの武器を白眼で探すハジメ

 

ハジメ「……は?」

 

白眼を開眼していたハジメの眼には…あるモノに気が付き思わず呆けた

 

なぜならば、ありえないものがそこにはあったのだから

 

ハジメはすぐにソレがある所に駆け寄り、ユエ達も後ろからついていく

やがてハジメが見つけたモノの存在に一同は気が付く

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

香織「!……し、雫ちゃん…」

 

シア「ここに……投げ出されてたんですね…」

 

そう…そこにあった…否、いた者は…彼らの今亡き仲間の遺体だった

 

先程の魔力弾衝突の余波で雫の遺体も投げ出され、身体に未だに杭が刺さっていた

 

ティオ「……せめて…これ以上傷つかないように巻き込まれない場所に連れていきたいのじゃ…」

 

死んでしまった大切な仲間の身を案じ移動させたがるティオ

 

それ以外の面々も涙を堪えながらどうにかしてやりたいと思っていると

 

ハジメ「……どうなってやがる……」

 

ただ一人ハジメだけは雫の遺体を見て驚いていた

 

香織「ど、どうかしたのハジメ君?」

 

この状況でただ一人驚くハジメになにがあるのかと疑問を浮かべる香織達

 

それに答えるかのようにハジメは大声で言う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハジメ「なんで………心臓は動いてないはずなのに…死んで時間が立っているはずなのに……身体から魂が剥がれて無い!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻

 

 

真っ白な何も無い空間にて

 

紫の結晶に映るある青年(・・・・)の一生を見て

 

雫「……」

 

少女は涙を流すのだった





概念魔法 『破言』

輪廻眼を開眼している時にのみ使うことのできる概念魔法

エヒトルジュエが使っていた神言をベースに光輝が輪廻眼を開眼する寸前に抱いた極限の意志(滅ぼす)が組み合わさったもの

その能力は破壊 滅び 死という事象に干渉し現実のものとする

発動するには輪廻眼の瞳力を大量に使う為連発は不可能


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第八十九話 造られた命が過ごした日々


今回から一旦戦いから離れたストーリーとなります。

エヒトによって造られた命達が生きた人生の追憶です


 

エヒト「よいか…今日よりお前の名はインドラ。そしてお前はアシュラだ……精々我の為に役立つのだ」

 

インドラ──それが彼に与えられた名だった

同じく同時期に生み出されたアシュラとは誕生経緯が一緒なこともあり便宜上は兄弟とされた

 

インドラとアシュラ

このふたりはエヒトルジュエが過去に生み出した種族や使徒達とは違い、輪廻眼と転生眼をもとに生み出された

 

いずれ己の器となる為だけに造られた存在

 

輪廻眼をもとに造られたインドラ

転生眼をもとに造られたアシュラ

 

エヒトルジュエは過去に生み出した亜人、竜人、魔人族は力不足により失敗作の烙印を押し、自身に従順な使徒達には自分に従う以外の自我が存在せず精神の成長を一切遂げずにいた為従順なだけの失敗作と評し器の成長の見込みがなかったことで、エヒトルジュエは肉体的な成長と同じくらい精神的な成長にも着目し、生み出したふたりには他の使徒たちと違い各々の自我を尊重した

 

例えいずれ自身に歯向かうことになろうとゆくゆくは己の器として育ってくれるのならばと思いエヒトルジュエにしては他の創造物(他種族や使徒)と比べても破格なほどの高待遇だった

万が一それぞれが輪廻眼と転生眼を開眼し器として完成したうえで歯向かったとしても己ならそれすら跳ね除け肉体を奪うこともできると過信していた 

 

そうして生まれてから十数年間神域から地上の人類同士の争いを見て育った

 

同じ環境で育ったふたりだったがその感性は大きく異なっていた

 

弟アシュラはエヒトルジュエによって争わされている人類を憂い、人々がこれ以上争うことのないよういずれはエヒトルジュエを倒そうと考えていた

 

一方、兄インドラは人類の醜い争いや自分達の信じる思想こそ正しく、それ以外は全て悪と考え滅ぼそうとする様を見せられ人類に対し強い嫌悪感を抱いていた

いくらエヒトルジュエによって仕組まれた争いだとしても、それを含め人類の底が見えたように彼は感じていた

 

やがて造られてから何十年が経ち

エヒトルジュエが見聞を広げるという名目で地上に下ろしてくれた

だがそれも含めふたりの肉体と精神の更なる成長を地上の人類が施す要因となると考えてのものだった

 

それだけでなくエヒトルジュエはふたりの人類をどう思っているのかも含め監視役の使徒達から一言一句聞いていた為、地上に降りる少し前に自らを崇める宗教(後の聖教教会の祖)にて信託と言う形でふたりのことを伝えていた

 

ふたりを自身の力を分け与えた息子達と呼び、丁重に扱う様伝えた

無論この話はすぐに広まったがエヒトルジュエが伝えたのはそれだけでは無かった

 

兄インドラには破壊の力を

弟アシュラには創造の力を分け与えたとわざわざ伝えたのだ

結果地上に降りたアシュラは人間達から尊敬の目で見られ人々が集まり、逆にインドラには表立ってでは無かったが人間達から畏怖の目で見られ人々は恐れ近づくことは無かった

 

こうなることをエヒトルジュエはわかっていて敢えてやったのだ

人々を助けたいと願い人々を愛するアシュラと人々を愚かだと思い人々を嫌うインドラだからこそ、その心をより増長させる目的でふたりを見る人々の目を別々にさせるよう認識の誘導をさせたのだった

 

だがアシュラはそれに気づかずにいたが、インドラはこれがエヒトルジュエのやった企みであることに気づいていた

そのことに訂正する気は起きなかった

なぜならインドラにとって人類が自身をどう思おうがどうでもよかったのだから

人類に対し嫌悪感を抱くだけに飽き足らず、特に期待もしていなかった

 

やがてアシュラはこの地上にいる全ての種族が争わないよう救済の為の旅に出て、その先で出会った同じく争いを止めようとする者達、エヒトルジュエを倒そうとする者達を秘密りに集めるのだった(後にその中から、現代のトータスに伝わる解放者達の前任者達が誕生)

争いを止めようとする

平和を想い、人々が笑顔で暮らせる世界を作ろうと苦難に足掻く姿を見た人間族からは救世主と呼ばれるようになった

その中には彼に助けられ、彼が目指す世界を願う亜人族、竜人族、魔人族の姿も一部存在していた

 

しかし、一方のインドラは人間族だけでなく亜人族、竜人族、魔人族にもその存在が知られ、更に恐れられたのだった

どこへ行こうとアシュラのように尊敬や親しみは一切なく、まるで化物でも見るかのように見られていた

 

だが、それでもインドラは一度たりとも人類を殺すことは無かった

 

嫌いだから 気に食わないから 目障りだから

そんな理由で殺すのはまるで自分が嫌う人類のようだった

自分は人類とは違う 一緒ではない

 

そう内心強く想うのだった

だが日に日に増していく人類への嫌悪感は止むことはなく

しまいには一人だった自分と違い多くの同士を引き連れたアシュラがインドラの前に姿を現した

 

そしてインドラにも自分達と一緒に人類が争わない世界を作る為に、エヒトルジュエを倒そうと誘われた

 

しかし

 

インドラ「断る」

 

インドラはその誘いを跳ね除けた

 

アシュラ「ど、どうして!兄さんだって今の世界の現状は知ってますよね!人々が争いを続ける限り苦しみ続ける!」

 

インドラ「それで?」

 

アシュラ「それは俺達の父…いや、エヒトの企みが生んだ惨状。俺はこれ以上、奴のせいで犠牲になっていく人々を見てられない。世界の人々の為にも、エヒトは倒さなくちゃいけない。だから」

 

インドラ「だから共にエヒトと戦えと言いたいのか。尚更却下だ」

 

アシュラがどれだけ協力を呼びかけてもインドラがそれを頑なに拒む

 

アシュラ「なぜ、なぜなんですか!?なぜ人々の為に戦おうとしないのですか!?」

 

インドラ「簡単な話だ。私は人間が嫌いだから。いや、人間に限らず、亜人や竜人、魔人を含めた全ての種族が嫌いだ。存在そのものが吐き気を催すほど醜い奴らの為に、なぜ私が手を貸さなければならない…」

 

アシュラ「し、しかし…このままでは本当に人類が滅ぼ」

 

インドラ「私にとって人類が滅ぼうと心底どうでもいい…それとお前は勘違いしているようだが…人類が争うのはエヒトのせいだけではない」

 

アシュラ「……え?」

 

インドラ「いいか?エヒトのせいで人類同士争うのではない。人類が自らその道を選択し争うのだ。それが人の本質…自らの目的や欲しい物を手に入れる為なら平気で他者を踏み躙り、その命すら自らの欲の為の糧にする。自分に共感しない者は敵であるから潰しても良いと大義名分掲げてな……己の身の丈以上の幸福を求め、欲に走った結果が今の世界だ……例えエヒトが存在しなかったとしても、この世界の種族が人間だけだとしても、どうせ人類同士争う結末は変わらん。わかるか?これは自業自得だ。人類のな……やるならば貴様らで勝手にやるがいい」

 

それだけ言いインドラが去ろうとすればなおも呼び止めるアシュラ

 

アシュラ「兄さん!エヒトは俺達が器として成長することを望んでいる!このまま行けば、いずれは奴に身体を」

 

インドラ「そうなった時は、死ぬ気で抗う…それだけだ。自分の心配だけすればいい……それと、いい加減人を信用するのはやめろ。連中はお前の甘さに漬け込んで希望や期待を押し付けているだけだ……」

 

それ以上なにも言わずこの場を去った

それでも引き留めようとしたため殺気をアシュラとアシュラの背後にいた同胞たちにも向けた

 

アシュラの後ろで自身をまるで化物でも見るような眼はインドラにとって見馴れた物だった

 

恐らくアシュラは一度たりとも自身と同じように見られたことはなく、この先もインドラの気持ちや考えを理解する日は来ないだろうと、なんとなく分かっていた

 

別にその事に不満に思ったことは無かった

それも含め、輪廻眼を元に造られた命である自分の運命だと理解していた

 

だが

 

インドラ「……なぜ、こうも苛つく?」

 

今日、久しぶりに見たアシュラは地上に降りる前と変わらず世界中の人々の為に戦っていた

 

自分と違い、仲間を引き連れ人々から尊敬や信頼の目で見られるのはわかりきってはいたはずだが、仲間を引き連れるアシュラを見た時から言いようのない苛立ちを覚えたのだった

 

インドラ「……世界を救う……まるでハゴロモのようだな……」

 

輪廻眼を元に造られたインドラには、その眼の元の持ち主であるハゴロモの記憶が存在していた

 

反対に転生眼を元に造られたアシュラには、元の持ち主であるハムラの記憶があり、エヒトですら知らない事実をいくつも知っていた

 

だが、記憶を引き継ごうと歩む道は一緒では無かった

輪廻眼を持つハゴロモは世界を救い、ハムラの転生眼を引き継いでいるアシュラがハゴロモのように世界を救おうとしている

 

逆にハゴロモの輪廻眼を引き継いでいるインドラはハムラのように離れたところから傍観するだけ

 

アシュラから見れば世界を救える力を持ちながら何もしない者

だがそれ以外の者からすれば強大な力を持つ怪物

 

インドラ「……(……私は…いったいなんの為に生きてるのだろうな)」

 

人から恐れられ、人を信じず、世界がどうなろうが知ったことの無い、生きる意味や目的もなくただ一人で孤独に生きて行く

 

その生き方を選んだのは紛れもなく自分

だが時より感じる空虚さ…それがなんなのか、長く生きてきたインドラには決してわからないことだった

 

 

 

アシュラと別れて更に月日が流れ、トータス中を歩き回ったインドラ

どこへ行こうと種族同士の争いがあり、人々から恐れられ、自分にとって安住の地と呼べる場所はどこにもなかった

人からなんと思われようと関係ないが、せめて人の存在しないどこかを求めて

 

そうして歩き続けること更に数年

 

インドラ「……美しい」

 

ようやく辿り着いた 彼にとっての安住の地

 

広大な森

木々に囲まれ、草花が咲き誇り、目の前には広大な大滝があり、それが大きな虹を生んでいた

 

破壊の力を持って生まれた彼だが別に破壊そのものが好きというわけではなく、むしろこの様な壮大な大自然の風景を好んでいる

 

美しい風景が壊される

彼が争いを好まない理由の一つでもある

 

この地を安住の地に選んだインドラはまず自分の住むねぐらをどうしようか考えた

創造の力を持つアシュラならともかく破壊の力を持つ自分には家を建てる技量は持っていない

 

どうすべきか悩んだ末、いつの間にか夜になった為、適当な岩肌のある壁を破壊し穴蔵を作りそこで一夜を過ごした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、小鳥のさえずりを目覚ましに目を覚ましたインドラ

未だに眠気が残っており、脳が覚醒していなかった

少しの間ボーッとしていたが、いい加減起き上がろうと身体を動かす

 

ボンヤリしていたお陰で視界がぼやけて見えていたが、やがてまともに機能し完全に見えるようになると

 

インドラ「…は?」

 

普段何事にも動じないはずのインドラが何十年ぶりに動揺した

 

それもその筈、完全に見えるようになったインドラの目に真っ先に写ったのは

 

 

 

 

 

 

 

スヤスヤと眠る少女の姿だった

 

見た目は黒髪ロングの14〜15才ほどであり、亜人の尻尾や耳が無く肌も魔人特有のものでもなく、竜人の様な強さを感じさせない、この世界に存在する人類中最も弱く最も数の多い人間族だということが伺える

 

いつ どのタイミングでインドラの寝床に忍び込んで眠っていたか、そもそもなぜここで眠ったのか理解に苦しむが

 

インドラ「…おい」

 

少し乱暴に身体を揺すり起こそうとした

 

少女「う、う〜ん…」

 

少女は眠そうにしながら目をこすり目を覚ました

 

少しの間ボーッとしていたがインドラの存在に気が付くと

 

少女「あ、おはようお兄さん!」

 

なんてことないかのように挨拶してきた

 

インドラ「……お前、何者だ…」

 

このいつ自分に近づいてきたかわからない少女にインドラは警戒心を出しながら聞く

 

それに少女はまるで

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティア「私ティアっていうの!よろしくねお兄さん!!

 

まるで太陽の様なはちきれんばかり笑顔を浮かべながら名乗りを上げるのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この時のインドラは知らなかった

 

この人間の少女との出会いが 人類を嫌い 信じなかった孤高で孤独だった自分の人生を大きく変えた

 

運命の相手だということを



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