改造人間短編集 (ボンコッツ)
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警部補、網戸洋一は霊能力者である。


カオ転本編の『★悪魔召喚プログラム(メ)について語るスレ その35』

改造人間の半終末突入~エンジェルチルドレン編ぐらいの時期の話です。

多分!!(時系列とかガバガバだからネ)

ガイア連合【警察俺達】のちょっとしたお話。


 

【東京都 警視庁内部 某所】

 

 

日々、市民の平和と秩序を守っている警察組織の本拠地、警視庁。

 

右肩上がりの不審死や行方不明事件に各県の県警が悲鳴を上げている中、警視庁の一室に集まる警察官たちがいた。

 

防音に加えて窓もなく、盗聴・盗撮は最新かつ細心の注意を払い、オカルト面の防護すらショタオジ印の結界つき。

 

そして集まった警察官の一人……網戸洋一(アジト ヨウイチ)警部補は、集まった面々を見回して息をのむ。

 

ガイア連合の『黒札』であり、自身もLV20を超えている超人だからこそ肌で感じるプレッシャー。

 

アナライズこそしていないが……上限で言えば『ガチ勢』に近い強さの警察官もいるのではないだろうか。

 

 

(掲示板じゃダメ人間やら変態だった『俺達』もいるけど、

 それを踏まえても各県警のエースや超人が勢ぞろい……。

 

 ブラックラグーンのバラライカが緊急来日でもしないと集まらないメンバーだぞ!?)

 

 

集まった全員が各県警の剣道・柔道・射撃等の逮捕術大会で上位を独占している現代の超人たち。

 

検挙率でも非常に高い数字をたたき出し、未解決事件を解決に導いたリアル刑事ドラマなヤツまでいる。

 

その正体は、各地に散らばっている『警察俺達』。

 

そして彼らの部下や同僚である『オカルト対策班』の幹部メンバーである。

 

ガイア連合への所属という視点では古参も新参もいるが、おおむねガイア連合で共有されてる情報は知らされている。

 

その上で『終末後の市民の安全確保』のために、各県警と本庁の『LV5以上の覚醒者』だけを集めて組織された特別チームだ。

 

数年前から水面下で『警察俺達』が進めていた『オカルト対策班設立計画』、これにより各県警の災害対策部署を偽装して作り上げられた覚醒者の群れである。

 

当然黒札持ちも鍛錬を積んでおり、出世もレベリングも全力で取り組んできた。

 

が、『警視』まで出世した『俺達』やキャリア組『俺達』がいても、こんなドリームチームをまとめられるほどの権限はない。

 

それも各県警の超人を集める横紙破り全開の人事、それこそ『鶴の一声』が無ければ不可能だが……。

 

 

このチームは鶴どころか不死鳥の一声で集められたのだ。

 

 

全員が揃った後に、会議室の前のドアを開けて入ってくる一人の男性。

 

その姿を目視した瞬間、会議室にいた全員が一斉に起立し敬礼する。

 

普段は肩で風を切って歩き、悪魔相手にも果敢に立ち向かう超人たちが、だ。

 

入ってきた人物は微かに笑みを浮かべつつ、軽く敬礼を返し「楽にしてくれ」と言う。

 

それでも、会議室に満ちた緊張の糸が途切れることはなかった。

 

 

「今日は皆、よく集まってくれた。

 

 警視庁が秘密裏に進めてきた『オカルト対策班設立計画』は、ついに最終段階に入った。

 

 これも全ては、市民の平和と秩序の為に邁進してきた君たちの尽力の賜物だろう。

 

 ……君たちのような部下を持てたことを、一人の人間として嬉しく思う」

 

 

(『本郷警視総監』……まさか警視庁のトップが直で動いてるとか、関係者以外は想像もできないだろうなぁ)

 

 

本郷 猛(ホンゴウ タケシ)……IQ200以上、学生時代からオートレースで様々な記録を残し、専門外のスポーツも万能。

 

生化学に関しては博士号クラスの知識量を持つが、大学院や民間の研究所に勤めて博士を取るのではなく、何故か警察に入った変わり者。

 

……だったのだが、その超人っぷりをフルに発揮して警視総監にまでなってしまった、フィクションもびっくりの超人である。

 

もうすぐ60歳だというのに若々しく、今でも大型バイクに乗らせればプロのレーサーと勝負ができる、生涯現役の体現者だ。

 

……ついでに。

 

「では、各対策班の班長から進歩報告を。

 

 それから、最近配属となった者のためにG3シリーズの説明も……龍騎くん」

 

「警視総監、悠木です。悠木 真(ゆうき まこと)」

 

 

よく人の名前を間違えるのがちょっとしたチャームポイントである。

 

悠木 真……悪魔やダークサマナーの起こす『神隠し』案件と呼ばれていた失踪事件を担当。

 

索敵・追跡においてはオカルト対策班でも1、2を争う鼻の持ち主だ。

 

 

「えー、ガイア連合技術部にデモニカ『G3MILD』タイプの増産計画が通りました。

 細かいバージョンアップをしながらなので、生産量については少しずつ上げていく方針です。

 ガイア連合の兎山氏が開発したMILDタイプは先行量産型ですからね。

 

 現在採用されている『G3』タイプよりも数を揃える方針で行けそうです」

 

「うむ、やはり数は力だからな……これだけの覚醒者を揃えられたのもデモニカの力が大きい。

 それと、G3MILDの詳細なスペックは……ギャレン君」

 

「警視総監、木谷です。木谷 連(きや れん)」

 

 

木谷 連……オカルト対策班での技術担当トップであり、自身も前線を張る霊能力者。

 

さらに拳銃射撃競技では毎年トップ争いをしている現代のガンマンである。

 

それぞれの手元には部外秘の資料が配られ、G3シリーズについて簡単な解説が挟まる。

 

 

「まず、G3MILDは現在各々の班で運用中である『G3』タイプの廉価版です。

 量産型デモニカスーツ『G3』、これは期待通りの性能を示してくれました。

 

 しかし、非覚醒者を覚醒者にするという目的に対してやはり重すぎる重量。

 量産型とするには製作速度が物足りない事も含めて、性能はともかく運用に難がありました」

 

 

全部ハンドメイドなので生産性最悪。

非覚醒者では自衛隊ですらキツいと言うほど重い。

修理はささいなモノまでガイア連合に戻さないと絶望的。

 

……みたいな初期型から大幅に改善され、ブラックボックス以外はパーツも交換出来て束特製『式神マザーマシン』によってパーツの予備も生産中。

 

軽量化やUI面でのブラッシュアップを経て完成した『G3』は自衛隊では高い評価を得たが、

元から(常識的な範疇での)超人揃いだったゴトウ部隊と違い、警察ではやはり運用に難があった。

 

 

「この『G3MILD』はそれらを踏まえて、各地での運用データをもとに更にスリムアップ。

 性能はややG3に劣りますが、生産性と整備性は大幅に向上しています。

 

 相変わらずブラックボックスは交換前提ですが、こればかりは仕様ですから。

 実際に運用した感想については、隣の垣州の方から……」

 

「うむ、頼んだよ、カリス君」

 

「警視総監、垣州です。垣州 肇(かきす はじめ)」

 

 

垣州 肇……大学時代はアーチェリーの五輪日本代表候補にまで選ばれていた弓の名手。

 

木谷と同じ県警所属、銃使いの木谷と弓使いの垣州はそこの実力派二枚看板。

 

変装術の達人でもあり、潜入調査のプロだ。

 

 

「基本はG3と同じですね、UIやアシストAIもG3と同じモノなので、問題なく使えます。

 ですがデモニカが邪魔になる感覚が来るのはG3よりも早いでしょうね、この性能では。

 高レベルになってくると逆にデモニカは足かせになります。

 

 装甲面の心配もありますし、G3とG3MILDは別途運用を分けた方がいいと具申します。

 幸いG3MILDは強化改造によってG3にできますから、まずはG3MILDを優先的に確保。

 装着者の性能に合わせて強化していくのが良いでしょう」

 

「なるほど、ではアギト君」

 

「警視総監、網戸です。網戸洋一」

 

「おっと、そうだったね。ガイア連合技術部との交渉は確か君だったハズだ。

 今後はG3MILDの納入を優先して行う、という連絡を頼むよ」

 

 

ガイア連合技術部に仲のいい黒札がいる、という理由で、網戸はガイア連合との交渉役に任命されていた。

 

この対策班にいる他の黒札持ちは、技術部とはビジネスライクな付き合いしかしていないか新参寄りのメンバーが多かったのである。

 

比較的古参で、なおかつ技術部にちょくちょくお邪魔している網戸は色々と丁度良かったのだろう。

 

なんせ元々山梨県警所属だったが、より連絡を円滑にするために対策班の予算で山梨支部に近い立地のマンションまで用意されてしまった。

 

今では何かあったら警視庁と山梨支部をマラソンする役目である。

 

 

「では、新たに追加された分も含めて、G3シリーズの装備についての説明を……斬鬼君」

 

「警視総監、財樹です。財樹 蔵之助(ざいき くらのすけ)」

 

 

財樹 蔵之助……純粋な身体能力ならばこの中でもピカイチ。

 

ゴトウ司令との腕相撲に勝ったこともあるほどのフィジカルエリート。

 

面倒見がよく懐も深い。厳しいところもあるが、必要な厳しさしか見せないタイプの年長者だ。

 

 

「以前から使われていた装備と、これから追加予定の装備を合わせて説明します。

 

 『GM-01 スコーピオン』。対悪魔用突撃銃ですが、実態はサブマシンガン。

 高い貫通力と速射性を持ち、装弾数は72発。G3シリーズの最も基本的な武装です。

 構造上高い反動があるため、生身での使用は推奨されません。

 デモニカスーツのパワーアシスト、あるいはLV10以上の超人なら別ですが。

 

 『GG-02 サラマンダー』。GM-01に連結して使う対戦車用グレネードランチャー。

 自衛隊の現行戦車に有効打を与えられるほどの高火力兵装です。

 これも、反動の問題で生身での使用は非推奨。

 

 『GS-03 デストロイヤー』。腕部に装着して使用する超高周波振動剣。

 悪魔だけでなく対物破壊にも有効。災害救助では瓦礫の除去にも役立つでしょう。

 

 『GA-04 アンタレス』。ここからは今回追加予定の武装ですね。

 GS-03と同じく腕部に装着する装備で、こちらはワイヤーアンカーです。

 高所への移動、悪魔の拘束、どちらかと言えば補助的な武装です。

 

 『ガードアクセラー』と『ガートチェイサー』……特殊電磁警棒と対悪魔用バイク。

 どちらもG3の装甲と同等の素材で作られており、対悪魔戦に耐えうる強度を持ちます。

 ガードアクセラーはガートチェイサーのキー兼グリップにもなっております。

 ガートチェイサーはガイア連合が生産予定の対悪魔用バイク『トライチェイサー』、

 その白バイモデルで、操作性と強度を重視したカスタマイズが施されてます」

 

 

「なるほど……使いこなせれば戦車でも倒せそうな武装が揃っているな。

 

 それでは、バージョンアップに従い追加された機能を……ホッパー君」

 

「警視総監、保葉です。保葉一朗(ほっぱ いちろう)」

 

保葉一朗……本郷警視総監と同じ城南大学出身であり、こちらは物理学を専攻。

 

水素エネルギーに関する論文で在学中ながらに注目を浴びたが、大学院ではなく警察官に。

 

城南大学からはこういう生徒が出まくったため、実質的に警察官の青田刈り先みたいな評価を受けつつある。

 

 

「まず、G3の頃から搭載されていた悪魔の有無を確かめる『エネミーソナー』や、

 周辺の建物の構造、異界か否か、おおよその危険度を確かめる『マッパー』、

 ある意味最も重要な、悪魔を視認し解析する『アナライズ』、

 悪魔との会話・交渉が可能になる『悪魔会話』。

 

 これらに加え、新たに『悪魔召喚プログラム』という新機能を搭載予定です」

 

「ふむ……すまないが、その悪魔召喚プログラム、というのは?」

 

「財樹警部補が使っている『封魔管』の機械化バージョン、といったところでしょうか。

 このプログラムをDLした機械をCOMPといい、これを使って悪魔の使役が可能です。

 LV10以下の悪魔を3体まで召喚・使役可能で、控えに悪魔をストックすることも可能。

 デモニカとの接続も当然可能なので、デモニカ側から思考操作で召喚・帰還もできます。

 予定ではPDAのようなモノに入れて、G3のアタッチメントに装着する形になるかと」

 

 

LV10の悪魔を使役できる、という言葉に会議室がざわめく。

 

この場にいる面々はLV5以上の覚醒者、デモニカ込みとはいえ悪魔との戦闘も経験済みだ。

 

とはいえ、全国各地から集めた精鋭といえど才能的な限界はどうにもならない。

 

そんな彼らにとってLV10の悪魔というのは、1匹出ただけでも要警戒対象。

 

数で上回る状況を必ず作り、先手を取って火力で圧殺せねば危険な悪魔である。

 

単独で倒せるのは、各県警のエースである警察俺達ぐらいだろう。

 

 

「……すさまじい性能だが、デメリットは?」

 

「MAGの消費ですね。悪魔を呼び出しているだけで装着者のMAGを悪魔が持っていきます。

 3体呼び出せば当然3倍、なおかつ安全装置があるので使用者以下のLVの悪魔しか使役できません」

 

「ふぅむ、やはりこの手の技術は使用者によって利便性が上下するな」

 

「ガイア連合の協力者である探偵の渥池に、COMP単独での実験も依頼しています。

 データが集まれば、より高性能な悪魔召喚プログラムも作成可能かと」

 

「うむ、アンク君にもよくお礼を言っておいてくれ」

 

「警視総監、渥池です。渥池小五郎(あくち こごろう」

 

 

何度目かもわからない天丼を挟んた後、本郷警視総監がゆっくりと立ち上がった。

 

 

「聞いての通り、デモニカスーツ『G3マイルド』の生産・配備は順調だ。

 

 近いうちに各県警に相応の数が配られ、今のように1機を複数人で使い回すことは無くなる。

 

 だが……それで終わりではない。それが始まりだ」

 

 

ぐるり、と会議室の面々を見回す。

 

先程までの朗らかさすら感じる気配は引っ込み、ちりちりと肌を焦がす威厳が部屋を満たす。

 

これが本郷 猛警視総監の、警視庁のトップとしてのカリスマだ。

 

 

「我々は正義の味方ではない。我々は秩序と、市民の味方だ。

 

 市民が今と同じ、道を歩くだけで通り魔や悪魔に襲われる恐怖を感じない日々の為にいる。

 

 諸君らは無辜な市民の盾になるべく、こうして様々な力を与えられてきた。

 

 ……それに恥じない活躍をしてくれることを、切に願う」

 

 

すっ、と敬礼をした警視総監に、またも会議室の一同が揃って敬礼を返した。

 

 

「それでは、解散。今回配られた資料と報告の内容を元に、各県警で引き続き対策を練ってくれ」

 

「「「了解っ!!」」」

 

 

各自があわただしく席を立ち、各県警へ戻るために歩き出す。

 

オンライン会議を使わないのはハッキング対策だ。

 

急ぎならトラポートで戻れる者もいるので、態々こうして本庁まできて会議しているのである。

 

網戸もまた、途中まで帰り道が一緒で、大学の同期である悠木と共に部屋を出てきた。

 

 

「しかし、相変わらずの威厳だったよな、本郷警視総監」

 

「ああ……俺腰抜けたかと思ったよ。さすがオカルト対策班と日本警察のトップ」

 

 

今の会議の感想を漏らしながら、特別区画を出る前にぽつりと二人が呟き、同意を重ねる。

 

 

「……あれで転生者でもなんでもない金札一般人だもんな」

 

「……デモニカで覚醒したのつい最近だから、それより前の逸話、未覚醒の頃だよな」

 

 

 

 

『人間 ホンゴウ タケシ LV1』

 

 

知能指数200以上。

 

学生時代からオートレースで様々な記録を残す一流レーサー。

 

専門外のスポーツも万能なスポーツマン。

 

生化学に関しては博士号クラスの知識量を持つインテリ。

 

何故かガイア連合技術部からワンオフデモニカ『技の1号』を贈られた。

 

そんな経歴を持つだけの……ただの警視総監である。

 

 

「……ただの警視総監ってなんだ……???」

 

 

思わず網戸が呟いたそれは、きっと哲学とかに類する疑問であった。

 





なお、このオカルト対策班の黒札は全員……。

生前の仮面ライダー知識は『ああ、そんな特撮あったよね』ぐらいのモノとする。


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『PROJECT G4』


時系列は『泣いた悪渦鬼』編の序盤ぐらいです。



 

『G3ユニット』……ガイア連合技術部のとある転生者が発足したデモニカスーツのテスト部隊であり、

自衛隊とは別口でデモニカスーツの試験・運用を行う試験部隊だ。

 

現地人(特に金札)に対してデモニカスーツの譲渡を行う黒札が増えたことに伴い、自衛隊のような訓練された組織以外での運用データの不足が表面化。

 

さらに自衛隊のように『数を揃えてゴリ押す』以外の場面が求められる事も増えたため、別口での装備開発の必要性まで発生。

 

前者に関してはその転生者が個人的な付き合いのある黒札、あるいはそこを経由して地方霊能組織に『G3MILD』を譲渡することで運用データの収集を行っている。

 

が、流石に試験武装までとなるとあちこちにバラまいてデータ収集するには不適当。

 

仮に地方霊能組織に試験運用任せたら実戦で欠陥発覚して死にました、なんてことになったら色々とマズい。

 

そのため、ある程度は技術部転生者の思うままに動かせるデモニカ部隊が必要になったのだ。

 

そして今日もまた、G3ユニットに新たな変態装備が持ち込まれる……。

 

 

 

 

 

 

【霊山同盟支部所属 ガイア連合兵器試験場】

 

 

 

「というわけで、新たな試験装備がやってきたぞー!」

 

 

ハイテンションにG3ユニットを呼び出した彼女の名は『兎山(トヤマ) シノ』

 

G3ユニットを発足した転生者であり、量産型デモニカスーツ『G3MILD』の開発者である。

 

コストダウン・軽量化・量産性の向上を同時に達成しながら戦闘に耐えうる『G3MILD』の開発者というだけあって、

技術部向けの霊能の才能を持ちつつ、本人の(前世含めた)技術者・科学者としての知見もたっぷりという、技術部になるために生まれてきたような女性であった。

 

 

「……またですか」

 

「今回はマトモなのだといいですね」

 

「低レベルだと生身で撃ったら骨折と脱臼するサブマシンガン*1が初期装備だぞ、私は諦めた」

 

 

それでもこんな扱いになるあたりマッドサイエンティストっぷりはお察しである。

 

ちなみに、こんな愚痴をこぼす二人の名は『ソフィア・ミハイロヴナ・パヴリチェンコ』と『タティアナ・アラーベルガー』。

 

G3ユニットの隊長と副隊長であり、どちらもLV10を超えている一流の霊能力者*2でもあり、

 

状況が悪化し続けている海外からの亡命者でもあり、自衛隊関係者以外では数少ない『正式な軍事訓練』を修了している貴重な人材である。

 

 

「といっても、今回は技術交流の結果生まれた新兵器って感じだけどねー!ほら、あっちでデータ取ってるのが、シノさんとは別のガイア連合の技術部チーム」

 

「……横のつながりとかあったんですね、ガイア連合技術部」

 

「普段『規格統一もできないのかあの趣味人どもぅうわぁあ~!!』ってキレてますもんね、シノ司令」

 

「や、あそこの技術部はまーだマシだよ。ヘンテコな外見のネタ装備作ったりはするけど。

 それはそれとしてデモニカから収集したデータのフィッティングの手間が増えるから、

 できればG3系列を採用してほしいけど……かといって1つに絞ると技術の停滞がおきる。

 いろんな形式を『消費リソースが常識的な範疇で』試すのは大事!」

 

 

いずれG3タイプ、あるいはデモニカスーツそのものに欠陥が見つかる可能性も0ではない。

 

例えば、シノはいずれガイア連合外でもG3タイプが生産できるよう、少しずつ製造難易度や製造工程を簡略化し、フランチャイズ契約のような形で外部委託できるように計画を立てていたのである。

 

崩壊後は友好的なシェルター等に『G3MILD』タイプの生産設備を設置、技術者を育成しG3MILDを使ったチームを編成。

 

異界でも通信できるG3トレーラーの大型通信機を発展改良していき、ガイア連合の金札や地方黒札等を主体に連絡網を作る。

 

崩壊後はシェルター同士に『道』の概念をを付与していないと各地のシェルターの流通が完全に寸断される問題も、

 

通信技術と各地の戦力さえ確立しておけば現在行っている『霊道』や『ターミナル』の設置と合わせ、救援や異常事態の報告が迅速に行えるのだ。

 

 

「だから、将来的にはG3MILDの生産は『外部委託』する予定だったんだよねぇ。

 そうすればガイア連合はG3やG3Xなんかのハイスペックデモニカに集中できるし。

 生産拠点そのものが増えれば、自然とG3系列で規格統一されていくだろうから。

 なんせパーツの安定供給力が違うわけだし。でも、そうなったら今ほど色んな実験はできない」

 

「なるほど……自衛隊や警察の影響力と合わせて、G3系列がトップシェアを独走する前に他の技研で様々な研究・実証をしてもらいつつ、シノ司令の研究成果との技術交換によって『安定性』と『意外性』をバーターする、と」

 

「そゆこと!実際、巷で出回り始めた『G3R』*3ってシロモノもあるから、

 早いとこ生産拠点を外部に作らないとAKみたいにパクられかねないからねー」

 

「確か……規格外品や試作品をくみ上げた『G3リサイクル』でしたか?」

 

「そそ。G3MILDは生産性を重視した機体だけど、初期のころは失敗もあったからね。

 大量生産目指そうとして規格に満たないパーツが結構でたし、ボツになったパーツもあるし。

 他の技研に捨て値で売ったりしたパーツもあるから、それを組み合わせて作ったんじゃないかな。

 特許料(パテント)?オカルト世界にそんなモノはぬぁい!」

 

「とはいえ、私やタティアナのような『非才』の身からすれば『G3R』だろうとデモニカは喉から手が出るほど欲しいモノ……」

 

「だーよーねー。結局のところシノさんが開発したデモニカ・マザーマシン*4を他の技研の技術と交換で流して、少しでもデモニカの流通量を上げるしかないんだよねー。最大の問題は『デモニカ不足』だから」

 

 

こればっかりはデモニカ・マザーマシン式神の開発が遅れたのが悪い。

 

というのも、デモニカ・マザーマシン式神は別に万能デモニカ生産機ではない。融通が利くだけで一般的な工作機械の延長線上にあるのだ。

 

マザーマシンを式神化し、オカルト系のアイテムやデモニカのパーツを効率的に生産できるようにする……というアイディアはよかった。

 

が、そのためにはデモニカ・マザーマシンで『何をつくるのか』を明確にする必要がある。

 

ところがガイア連合は自由人の集い、マザーマシンに打ち込むデータの元になるデモニカ自体がデザインから細部の仕様まで千差万別。

 

技術者Aのデモニカと技術者Bのデモニカではパーツの互換が下手するとブラックボックスぐらい、なんてアホな事になってるパターンすらあった。

 

だいたい趣味に走った技術部俺たちが自分が大好きなアレやコレやを再現するために弄りまくった結果である。

 

そのためシノはデモニカ全体に対応できるデモニカ・マザーマシンの開発を打ち切り、自衛隊のゴトウ部隊や警察の対オカルト対策班に採用が決まった『G3』タイプを改良。

 

マザーマシンの設計を弄るのではなく、ソレで生産するモノの設計を弄り、さらに生産物をデモニカの量産ラインにブチこむことで無理やり解決したのだ。

 

デモニカ『不足』ではなくデモニカ『枯渇』になっていない原因の一端は、これによってG3系列のパーツを大量確保したシノの功績と言えよう。

 

……まあ、その為に『まずは数優先!』で完成品のデモニカ・マザーマシンだけでなく、試作機のデモニカ・マザーマシンまで使った結果発生した規格外品が『G3R』となったので、人生何がどう転ぶか分からないモノである。

 

 

「閑話休題!そんなわけで今回は『デモニカ・マザーマシン』の技術と交換で入ってきた『あるモノ』を組み込んだデモニカをテストしてほしいんだよねー!」

 

「!? か、完成品のマザーマシンそのものを技術交換に出したのですか!?」

 

「まあね。と言っても、それだけの価値はあるモノは仕入れられたし。

 あそこの技術者はシノさんに負けず劣らず天才だわ。負ける気はないけど!」

 

「……天才って書いてキチガイって読みませんか?」

 

「ソフィア隊長諦めてください、ガイア連合は大体そんな感じです」

 

 

会話をしている間にも、ガチャガチャとなにやら『調整』していたモノをG3トレーラーから引っ張り出してくる。

 

一見すれば『黒いG3X』タイプのデモニカスーツ。しかし、細部の仕様はG3Xと異なっているように二人には見えた。

 

既存のパワードスーツに使われている人工筋肉をオカルトで強化したモノではなく、よりオカルトに近いパーツを多く使っている。

 

デモニカというよりは、一部の黒札が使っているような高性能装備に近い印象を受ける。

 

 

「デモニカ『G4』……G3Xですら追い付かなくなってきた霊能力者用に試作したモノだよ」

 

「G4、ですか。具体的にはどのような違いが?」

 

「ガイア連合ロボ部が開発した『試作型人工筋肉』*5

 これを採用しつつ全体的にオカルトパーツを増やした強化型だね。

 強度は3.1倍、パワーアシストは2.6倍、その代わり軽量化なんかは考えてない。

 完全に覚醒用、それもG3Xで物足りない人向けのハイエンド機さ!」

 

「……ですが司令、それだと既に育てたデモニカから乗り換えることになるのでは?」

 

 

デモニカスーツは所有者に合わせて最適化・成長するパワードスーツだ。

 

後からスキルを追加することもできるし、いくら性能がいいからといってすぐに乗り換えられるような装備ではない。

 

 

「もちこーす、そこも解決済みでノープログレム!

 G3シリーズのデモニカは、シノさんの手が入った後期型からは対策済み!

 ブラックボックス含めた記憶領域のカートリッジ化が進んでるのさ!」

 

「……ではまさか、先週受けた我々のデモニカのアップデートは……」

 

「そ♪『主要パーツのカートリッジ化』改造!カートリッジ部分を前のデモニカと取り換えることで、前のデモニカが学習した内容を次のデモニカに移行することができるんだよー!LV・スキル・装着者に合わせたクセまで事細かく!シノさんは『フィッティング』って呼んでるけどね」

 

 

確かに、この機能がG4にもついているのなら、G3Xでも持て余すようになる高レベル異能者でも対応可能だ。

 

元々使っていたG3XのカートリッジをG4に移植し『フィッティング』を行えば、元のデモニカと同じ使い心地で性能をアップさせることができるのだ。

 

代わりに元のデモニカは初期化された状態になってしまうが、それはそれでメンテナンス後に新人向けに回せばいい。

 

これから先必要になってくるハイエンド機としてのニーズに応えられるよう作ったのだろう。

 

 

「しかし、現状G3Xですらフルスペックを発揮するには程遠い。我々でもG3で十分な場面がほとんどです。このG4の装着者として想定されているのは一体……」

 

「んー……まあ、私みたいな『超人』かな。今後、シノさんたちに追い付いてくる後輩がいないとも限らないし」

 

(そうポンポンいるものでもないと思うが……)

 

「ともあれ試作機だからね、G3タイプになれてる二人にテストパイロットを頼みたいってわけ。

 この人工筋肉を提供してくれた技研の皆も、人型に近い状態に加工してからの運用データはいくらあっても足りないだろうし」

 

「ええ、もちろん断ることはありえません、ありえませんが……もう1つだけ、質問があります。

 

 このG4の『仮想敵』は、なんですか?」

 

 

装着者は最低でもシノに近いレベルの超人。

 

つまり一般的なDLVのレギュレーション3だと測定不能になる強さの怪物たち。

 

そんな怪物が纏う装備の仮想敵……既存のC3Xの2~3倍という基礎スペックを考えれば、マトモな悪魔ではあるまい。

 

少なくともソフィアとタティアナの二人がG3Xを身にまとい部隊を率いれば、『DLV70』近い悪魔はギリッギリなんとかなる。

 

となれば、もはやDLVという基準が役に立たない戦場に投入される装備である、と推測したのだ。

 

 

「……新潟の『アラハバキ案件』って聞いてる?」

 

「……? いえ、恐らく我々『金札』には開示されていない情報、かと」

 

「正確には許可が出てない金札には開示されてない情報かなー。

 オッケー、ってことはまだあっくんからは聞いてないんだね。

 

 つい最近、新潟県にて国津神アラハバキが復活。ただし早期接触・交渉に失敗。

 人工物を分解し自然に返還す力をもって暴走を開始したせいで結構な被害が出かけたんだよね」

 

「なっ……あ、アラミタマ、というやつですか?まさか、G4の仮想敵とは……!?」

 

「うーん微妙なラインだけど大体そんな理解でイイヨ!幸いにして【田舎ニキ】*6……

 まあ、黒札の一人が早期に接触・鎮圧。事なきを得たんだけど、備えあればうれしいなっ、て」

 

(……『備えあれば患いなし』では?)

 

 

『アラハバキ案件』、と言っても具体的な事件名が決まっているわけではない。

 

ショタオジが出張ったことで掲示板の話題になった事件の1つであり、上記の通り【国津神 アラハバキ LV30】が起こした事件だ。

 

つまり、このG4デモニカの仮想敵とは『LV30を超える悪魔』や、封印を解いたはいいものの交渉ぶっちぎって大暴れおっぱじめた神々と言うことになる。

 

なるほど、とソフィアとタティアナは一応の納得を得た。

 

 

「それにね、二人とも……このアラハバキ案件は『相当スマートに片付いた』事件なんだ」

 

「スマート、ですか?」

 

「うん、田舎ニキの迅速な対応と、協力してくれた黒札たちによる支援も大きいけど……

 アラハバキが『破壊』じゃなく『回帰』。神々による再度の支配を望んでいたからだろうね。

 これがそんな穏当な目的じゃなく、ただただ大暴れしたい……なんて神が目覚めてみなよ。

 

 MAG不足だろうと温存なんて考えない、弱体化どころか破滅覚悟でLV上限をぶっちぎる。

 50、60……いや、もっとかな。普通に国家存亡の危機が訪れるとシノさんは推測してる。

 だからこそ、使える手札は1枚でも必要なんだよ」

 

 

ごくり、と生唾を飲む音は誰のモノだっただろうか。

 

その理性的なアラハバキ神ですら、G3ユニットを皆殺しにして余りある強さを誇る。

 

それ以上を想定した装備の試験ともなれば、二人も少し緊張感が戻ってきた。

 

……のだが、一方のシノが「たはー、でもねぇー?」と肩の力が抜ける顔をしたせいで、また緊張感がどっかいってしまった。

 

 

「試作には『妖鬼』系の素材がドンドコ必要っていうのがネックなんだよねー。

 人工筋肉の補充もなかなかはかどらいから、中々こういう起動テストも行えなくって。

 先日二人に話した『大江山』の件が上手く進めば、妖鬼の素材もがっぽがっぽなんだけど」

 

「酒呑童子の配下を試験素材にする気ですか司令……」

 

「いつもながらガイア連合はどこかイカれてますね……」

 

 

先にテストパイロットをするのはタティアナの予定なので、会話は装着しながら行う。

 

オートフィッティングにより、小柄なタティアナにしっかりフィットするようサイズが変化するG4。

 

この人工筋肉は『妖鬼系MAGへの適正で同調率が変化する』特性があるが、そこは元々タティアナが覚醒者だった事&シノによる調整と改造で克服したらしい。

 

 

「しょうがないじゃーん!【田舎ニキ】とはバイク用の石油との取引でG3MILDや付属装備を流す交渉中だから遠方への出張は誘いづらいし、『古都』周辺での活動実績がある【アーッニキ】*7は別の理由で誘いづらいし!一応どっちも声はかけてるけどさ!」

 

「【アーッニキ】……?」

 

「あー……ガイア連合の凄腕の黒札の一人で、噂では倒した悪魔が危ない薬をキメたような白目で見つかるとかなんとか……」

 

「……この前合同で仕事をした淫魔交じりのジャパニーズ・クノイチたちの系譜ですか?」

 

「流石に対魔忍と同じ扱いはやめてあげて。うーんと、【アーッニキ】は奥さんとか恋人とか愛人とか何人かいるんだよね。それ自体は珍しくないじゃない?」

 

 

G4に接続した機器から送られてくるデータを記録しつつ、キーボードを叩いていたシノがため息をつく。

 

この場にいる3人は、別に男が何人女を囲おうがこれと言って思うところはない。

 

寧ろソフィアとタティアナは(自分は加わる気0だが)黒札がやるのなら、多くの種を残してくれるハーレム状態は歓迎すべきものであった。

 

……日本各地で現地霊能者相手に種だけ残してヤリ捨てしてる安部ほど割り切るのもそれはそれとしてアレだが。

 

シノも似たような考えなので、どうやら『組ませづらい』というのは別の理由があるらしい。

 

 

「1つ目は、あっくんがアーッニキを見た時に『うほっ……いい男』な視線送ってたせいか無意識に避けられてる可能性があること。面識あるのか一方的に見ただけなのかはシノさんも知らないけどね」

 

「なにをやってるんですかあの破界僧」

 

「後で聞いたら鍛えられたいい体といいケツの形をしてたってニッコニコだったよ」

 

「なにを言ってるんですかあの破戒僧」

 

「もう一つは、あっくんじゃなくてたっちゃんの方。こっちが本命」

 

 

調整を終えてアップデート待ちの画面になったところで、常温のスポーツドリンクを一口飲んでからシノが口を開く。

 

 

「アーッニキのお嫁さんの一人が、たっちゃんの母親に瓜二つなの。双子の姉妹かクローンかってレベルで」

 

「……そこまでですか?」

 

「うん。まあ霊能力者としても人格面でもぜんっぜん別人なんだけどね、外見と声はクリソツ。まあつまり私やたっちゃんと似た声なんだけどさ」

 

「一緒にいたらものすごく会話が面倒くさそうですね」

 

 

なにせCV田〇ゆかりが4人である。

 

ともあれ、ハルカの母親が起こした事件の概要*8や、それまでの鷹村家での扱いを聞いたことがある二人からすれば、シノが【アーッニキ】(正確にはその妻)とハルカを会わせる機会を減らしたがるのも何となく理解できた。

 

 

「向こうも多忙だろうけど、戦力は一人でも欲しいから声をかけて……できればたっちゃんと会わないように采配する程度しかできないけどね。アーッニキ自身はあっくんよりよっぽとマトモだし」

 

「自分の惚れてる男をそこまで下げますか……」

 

「あっくんが世界で一番のゲス男でもシノさんは大好きだもーん♪」

 

「はいはい……」

 

 

はーっ、とげんなりしたようにため息を吐く二人をヨソに、調整が終わったのか、G4の拘束具が外れる。

 

シノのナビゲーションに従ってG3トレーラーを歩いて出たタティアナは、G4の稼働テストを行う試験場へと歩を進める。

 

試験用弾丸を装填した『GM-01 スコーピオン』を手に、ボウリング玉をG4目掛けて飛ばす多数の射出装置の中心に立った。

 

 

『G4システム、稼働試験を開始します』

 

「了解……稼働試験を開始します!」

 

 

 

……この2日後、全ての稼働試験を終えた『G4システム』は、大江山にて起きた『百鬼夜行討滅作戦』に投入。

 

兎山シノを装着者とし、大きな戦果を上げる事となった。

 

さらにここで採取された妖鬼系の素材は、シノを通じて人工筋肉を発明した技術チームに優先的に配給・販売。

 

同じ技術者としてのよしみか、多量の素材を使い惜しみなく技術研究に励めるように取り計らうのであった……。

 

 

*1
『GM-01 スコーピオン』

*2
現地人基準

*3
【カオ転三次】マイナー地方神と契約した男の話 Ex5 デモニカ販売

*4
式神化したマザーマシン。G3MILDなら最新型マザーマシンだけでブラックボックス以外の8割以上のパーツが生産可能

*5
故郷防衛を頑張る俺たち 技術開発班ロボ部&戦艦開発

*6
【故郷防衛を頑張る俺たち】の主人公

*7
【求む】カオス転生でダークサマナーが就職する方法 の主人公

*8
霊能力者 鷹村ハルカは改造人間である  転換期の思い出話 『凱旋と凶兆』&最後の思い出話『ボクたちはあちらに戻れない』



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ギルス×レ〇プ!NOVEL大戦MEGAS〇X!

 

【日本某所 KSJ研究所】

 

 

「絶対にゆ゛る゛さ゛ん゛ッ!!!」

 

「最初の1行でこの短編を終わらせないでくれ」

 

(((深夜テンションで仮面ライダー名乗ってたら仮面ライダーが乗り込んできた……!?)))

 

 

 

もう初手からして出オチ感満載だが、KSJ研究所のドアをライダーキックでブチ破って乗り込んできた『変身済みでバリバリ戦闘体勢のギルス』。

 

その後ろからやれやれって感じでついてきた保護者もとい阿部が、今日のKSJ研究所唯一のお客さんであった。

 

大騒ぎのせいでその後のお客さんが途切れただけじゃないかって?そうかもしれない。

 

なんにせよ、過激派特撮俺達がキレる前に改名しようと相談中であった三人には寝耳に水の出来事であった。

 

 

「仮面ライダー名乗ってやってる事がアレでアレでアレなので1アウト!

 メシア穏健派相手とはいえ強姦・拉致・洗脳とかやってる時点で2アウト!

 組織人として虚偽報告や事後報告のスレスレライン突いてるところで3アウトじゃぁー!!!」

 

「どうしよう俺達子供に正論で説教されてる」

 

 

ふーっ!ふーっ!と今にも3人そろって首チョンパしにきそうなギルス。

 

とはいえギリッギリ理性がそれを抑えているのか、まずは『会話』からスタートした。

 

……ちなみに、結界・警報装置その他は阿部がさっくりハッキング、凸った直後に主を守るために出てきた式神達も、流石にLV99相手では分が悪かった。

 

麻痺・睡眠等でさっくりと拘束され、現在ギルスとKSJが向き合っている。

 

寧ろKSJの3名の方が『あ、これは最初は話し合いからだな』と判断出来て冷静なぐらいだ。

 

 

「まず1ぉつ!貴方たちはいまでもガイア連合所属の人間です!!

 当然ガイア連合のリソースを使って活動してますし、責任の所在はガイア連合にあります!

 ここまでド外道な事をやってメシア穏健派にケンカ売るならガイア連合抜けてからやれ!!

 万が一バレたらガイア連合VSメシア穏健派の盛大な最終戦争が始まるわ!!」

 

「い、いや、でもガイア連合の技術と資源無しでここまでのことは……」

 

「じゃあ諦めろ。ガイア連合のスネ齧らないと復讐できないぐらい弱いアンタたちが悪い。

 恨みがある相手を狙うんなら百歩譲って理解しなくもないが、八つ当たりに巻き込むな。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いで最終戦争の種を撒くんじゃない!

 真面目に世界の為に頑張ってる人間がバカみたいじゃないか!」

 

 

うがーっ!とキレながらも手を出すんじゃなく、まずは自分が乗り込んできた理由を語る。

 

出張扱いかつ黒札を保有したままということは、少なくともカズフサは今もガイア連合の一員だ。

 

復讐のために黒札の権利まで返上してメシアぶん殴る!とかなら、おそらくギルスはここまでキレない。

 

自分のやっていることが同胞に迷惑をかけると認識したうえでやってるからこそ、迷惑をかけられる側が乗り込んできた、それだけなのだ。

 

バレなきゃいい、と取れなくもないが、実際今回バレて乗り込まれているのでそれも通らない。

 

なにより、ショタオジにバレない根拠が『ショタオジは黒札に甘いし疑わないから』とショタオジの精神性由来なのがマズかった。

 

逆に言えば、がっつり疑うつもりで来てる超人クラスの相手なら探り当てるのは不可能じゃないのだ。

 

今回の場合、占星術ではショタオジ以上である阿部が情報面で協力してギルスを凸らせたのである。

 

 

「その2ぃ!メシア教穏健派潰すためにジェネリックメシア教過激派になってるので潰します」

 

「すごいシンプルかつ心が痛いッ!?」

 

「やってることが海外からの報告で過激派がやってる事と大差ないんだもん!?

 そりゃ潰しに来るよ!最低でも止めるよ!つーか止められたくないならこっそりやるなよ!

 

 黒札もっとたくさん抱き込んで根回しして権力でゴリ押せよ!」

 

「仮面ライダーが権力でゴリ押せとか言い出した!?え、つまり俺たちがそれやってたら乗り込んでこないの!?」

 

「いえ、その時は僕はプラチナカードを返上して単身『仮面ライダー』として貴方がたを潰しに来ますが……」

 

「ですよね!?」

 

 

ここら辺は英雄メンタルすぎるハルカと一般人メンタルなままのカズフサたちのアンジャッシュポイントかもしれない。

 

復讐&八つ当たりにしても組織の庇護を抜けるのが怖いから同胞を欺いてもこっそりやろうとするカズフサ達と、

 

自分の身とかぶん投げてでも正しいことをやろうとしつつなるべく周囲を巻き込まないようにするハルカ。

 

 

……そして、実はメシア教は過激派も穏健派もあんまり好きじゃない、という点はハルカも同じ。

 

ここまでならやり方さえもーちょっと考えれば、ハルカを何とか説得できる目もあった。

 

第二のメシア教過激派がガイア連合から生まれるという最悪の可能性を感じさせない程度に、メシア教穏健派への妨害・暗躍を行うなら、それは組織抗争の範疇だ。

 

 

「そして最後の1つ……お前たちは仮面ライダーを名乗った」

 

 

が、そのワンチャンスが最後の1つで消し飛んだ。

 

ここまではあくまで、霊山同盟支部の支部長、鷹村ハルカとしての公的な理由だ。

 

だが、最後の1つはある意味この3人と同じ感情論……仮面ライダーギルスとしての言葉である。

 

 

「女性を拉致して?監禁して?洗脳して?オカルトアイテムの材料に使って?仮面ライダー?」

 

「……まあ、確かに東〇とか石〇プロには許可取ってないけど、ガイア連合は特撮系にも出資してるし……」

 

「カズフサ、コイツ『本物』と遭遇済み」

 

「それ反則じゃない!?」

 

 

ある意味一番文句つけづらい所が文句つけにきた形である。

 

何はともあれ、KSJの三人の前でギルスのMAGが荒れ狂い……。

 

 

「さあ、お前の罪を数……「スイッチオフ、と」……」

 

「ん、んん?」

 

 

襲い掛かろうとしてきたギルスがぴたりと止まり、ばたんと前に倒れこむ。

 

しゅんしゅんしゅん、という効果音と共にギルスの体が縮んでいき、一枚の御札になった。

 

 

「『鷹村ハルカ』の人格を再現した札を、MAGで作ったギルスの体に埋め込んだニセモノさ。

 本物との差異は1%未満、戦闘力は劣るが、言動や思考はほぼ本物だ。

 いきなり本人呼んだら収集がつかなくなるからな、コイツで試した」

 

「そ、そういうことだったのか……」

 

ふう、とカズフサが息を吐く。本気で戦えば『打てる手』はいくつも思い浮かぶし、ギルスを返り討ちにするのも不可能ではないだろう。

 

しかし、プラチナカードの支部長の失踪となれば相応に調査が入るし、ショタオジにも黙ってやっているこの計画が表ざたになりかねない。

 

メシア穏健派にバレれば間違いなく大ごとを超えた大ごとになるし、偽ギルスが語っていたガイア連合VSメシア穏健派という最悪のシナリオも十分にありうるだろう。

 

 

「まあ要するに、計画がガバいから警告ついでに俺が釘刺しに来たわけだ」

 

「が、ガバいって……くそみそニキの占い&予知持ちがピンポイントに俺達を狙う、なんてまずないんじゃないか?」

 

「お前ら今もガイア連合所属なんだぞ?

 ショタオジだって霊視ニキたちと会議するときは市販品持ち込めない。

 結界内でも盗撮されかけたんだ、それからは作ったモノしか会議中の御茶うけに出ない。

 ガイア連合の黒札がコソコソやってたら、多神連合あたりは探りに来る」

 

「あっ……!?」

 

 

そう、これが一番やっかいというか、ガイア連合は世界中から頼られすり寄られる立場なのだが、すり寄ってくる連中もがっつりこちらを内偵してくるのだ。

 

ショタオジですら結界ではじくのを諦めて盗撮・盗聴の元になりそうなモノを排除するという方向で動いた以上、カズフサたちの対策でも安全とは言えない。

 

そして、ガイア連合の黒札が裏でメシア穏健派を潰すための計画を練っていると、仮に多神連合が知ったとしよう。

 

間違いなく多神連合はカズフサたちをフルに悪用しにくる。ガイア連合とメシア穏健派を共食いさせてまとめてオイシイところをいただくチャンスだからだ。

 

 

「メシア穏健派への復讐心で脇が甘い、やるならもっと闇に潜るか、逆に大々的にやれってことだ」

 

「す、すまない、返す言葉も無い……って待ってくれ、くそみそニキも特撮俺達だろ!?止めないのか、俺達のやってる事!?」

 

「俺だってあちこちの霊能一族に俺の種蒔いてコネ広げて、将来的に穏健派の『数』に対抗しようとしてるんだ。対穏健派の暗躍って意味じゃお前らと同じ思想だよ。

 

 まあ、仮面ライダーレイプって名前に関しちゃできればやめてほしいが……」

 

「あ、今日の会議でメシアンスレイヤーに改名が決まって……」

 

「ならヨシ!」

 

(((いいんだ……)))

 

 

とりあえず仮面ライダーレイプと言う名前は改名し、この先の活動方針についても相談しよう、と思ったKSJの三名。

 

阿部は懐に札をしまい、最後に少しだけ言い残して去っていった。

 

 

「ハルカがプラチナカードに推薦されたのは、ガイア連合内での鉄砲玉って意味合いもある。

 アホやった黒札や金札を、同じ黒札は殴れないだろ?『同胞』なんだからよ。

 

 だがアイツは違う。相手が悪なら自分の母親のクビをハネることもできる。

 俺の育て上げた『内部粛清にも使える正義の味方』、それがハルカの役割の1つだ」

 

「……小学生を身内用の鉄砲玉にしたのか……!?」

 

「ああ。 まあつまり、外道をやるならこういう風にやれって事だ。

 大手を振って『必要だから』とショタオジや幹部を説得、周知。

 最終的にオレが自分で責任(ケツ)をもってやると宣言して今に至る」

 

 

自己嫌悪でMAGが歪むほど、自分がやっている事に『自覚』があるカズフサが小さく呻く。

 

 

「今のお前らは、万が一外にバレて最悪のパターンを辿ってもなんの責任も取れない。

 それも世界を救うとかそんな大義でもなく、根底にあるのは八つ当たり。

 

 やるならもっと『上手く』やれ。あるいは失敗しても周りを巻き込まないよう退路を断て」

 

 

『お前らがイイ男でいたいんならな』と言葉を結び、阿部の研究所電撃訪問は幕を閉じた。

 

 

 

三日後、それはそれとして阿部の元へ結界とドアの修繕費の請求がきたので、阿部はガチャ用の貯金を切り崩してソレを払ったのであった。

 

 



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どこにでもいるOLのお話

 

友恵マナミ(2X歳)はどこにでもいるOLである。

 

地毛から金髪で、なんか縦ロールっぽくなる奇跡の天然パーマで、そこそこ顔とスタイルが良くて。

 

大学で民俗学を先行したが、研究者にはならず就職。

 

趣味はお菓子作りとテレビゲーム(ライトゲーマー)。

 

紅茶はティーパックよりも茶葉からこだわって入れる派で、夕飯のメニューはスーパーで割引になっている食材を見てから決めるタイプ。

 

周りの知人たちが結婚していくことにちょっと焦りを覚えつつ、運動不足解消にジム通いを始めただけの……。

 

 

前世の記憶を持った、転生者である。

 

 

いつものように会社に出勤し、ルーチンワークとなった事務員としての仕事を終えて帰宅する。

 

フレックスタイム制の事務所に勤めているため、趣味や娯楽に使える時間の確保はそう難しくはない。

 

今日はちょっとお高めの輸入茶葉と牛乳を買ってきたので、それをロイヤルミルクティーにして飲むために早めに帰宅。

 

クッキーと一緒にテーブルに並べ、普段はロクに見ないテレビのニュースをつけた。

 

それが、彼女の運命を変えた。

 

 

『自衛隊でも採用しているパワードスーツ、『G3』シリーズを警察の災害・テロ対策班に配備することが正式に決定いたしました』

 

(ああ、そういえばだいぶ前に自衛隊でパワードスーツが実用化されたとかなんとか……)

 

『これは自衛隊の五島一等陸佐が推進していたパワードスーツ、『G3』シリーズと同型で……』

 

(ふーん、G3……ん、『自衛隊』の『ゴトウ』……?)

 

 

マナミの頭の隅に何かが引っかかる。

 

今の人生の記憶ではない、ここ数年使っていなかった前世の記憶。

 

学生時代は受験や大学のレポート作成にフル活用していたソレの中に、今のワードで引っかかるモノがあった。

 

もう一口ロイヤルミルクティーを飲んだところで、記憶の奥底に眠っていた『フンドシ姿のマッチョメン』が脳内にフル投影。

 

 

「ぶふぅっ!?」

 

 

どこぞの良い風が流れる街のハーフボイルド探偵並みの勢いで紅茶を吹き出し、げほげほとせき込んでからテレビのニュースに目を向ける。

 

しかし、所詮はニュースで軽く取り上げただけの内容。目線を向けた時にはどこぞの動物園でライオンの赤ちゃんが生まれたとかなんとかというニュースに変わっていた。

 

急いで吹き出した紅茶をふき取り、部屋に置いてあったノートパソコンを立ち上げていくつかのワードを検索する。

 

 

『女神転生』……ヒットなし。

 

『五島一等陸佐』……ニュースサイトやまとめサイトがいくつかヒット。

 

『メシア教』……公式サイトがヒット、かなりの情報量。

 

『ガイア教』……ヒット無し、ただし『ガイアグループス』という大手企業がヒット。

 

『悪魔召喚プログラム』……オカルト系のまとめサイトにそれらしいワードが散見。

 

 

「……ウソでしょう……!?この世界って『女神転生』だったの……!?」

 

 

確かに、幼いころに自動車事故で死にかけてから妙なことはあった。*1

 

せいぜい平均程度だった運動神経が、クラスでリレー選手のアンカーを任されるぐらいに上昇したり。

 

ちょっとした切り傷や打撲程度ならその日の内にケロっと治っていたり。

 

肝試しで行ったオカルトスポットからものすごく嫌な気配がして、体調不良のフリをして全員で帰ったり。

 

とはいえ、彼女の女神転生の知識はそれほど豊富とは言えない。

 

ありったけの知識を絞り出しても、この先この世界がどうなっていくのかさっぱりわからないのだ。

 

 

(前世の子供の頃に、マ〇オ買いにいったときにゲームソフトの抱き合わせ販売に入ってたのをプレイして、難易度高すぎて一度投げたのよね……確か『真女神転生』ってタイトルだったはず)

 

 

その後、前世の大学で民俗学を履修した際に『女神転生』を進められ、実家に帰った時に古いゲーム機とソフトを引っ張り出し、

 

『話題のタネぐらいにはなるだろう』と攻略サイトとにらめっこしながらクリアしたのが唯一のメガテン知識なのが彼女だ。

 

体感では40年近く前、それも一周しただけのゲームである。おおざっぱなストーリーとインパクトのあった要素だけ覚えてるだけでも自分を褒めたいぐらいだろう。

 

大学で民俗学・神話学を学ぶうちに聞いた名前がちらほらなければほとんど忘れていたに違いない。

 

 

(ええと、一番まずいのは確か……東京に核が落ちる!ここはS県だけど影響がわかんない!

 核の前から悪魔も出てくるはず!それこそ道端とか病院でも!……あれただの病院かしら?

 外国に逃げる?移住するにしたってそんな大金……それに日本以外が安全かもわからない!

 もしも、世界のどこにいっても悪魔が野良猫みたいな頻度で出てくるとしたら……)

 

 

『対策』は必須だ。序盤で出てくるピクシーやノッカーだって、人間を殺せる強さがあるのだから。

 

そう思ってからの行動は早かった。近所のサバイバルショップで『特殊警棒』や『防塵ベスト』を購入。

 

頭を守る防具は、工事現場用ヘルメット(ライトつき)があったのでこれを購入。

 

あとはアウトドア用のブーツ等、なるべく頑丈そうな衣類で身を包む。

 

新しいノートパソコンを買う予定だった貯金が吹っ飛んだが、背に腹は代えられない。

 

ゲームと同じかは分からないが、『悪魔』を倒せば人間はレベルアップする、はず。

 

少なくとも、ふらっと出てきた悪魔に対処できる程度の強さを得なければおちおち暮らしていられない。

 

 

(なるべく弱い悪魔……ゲームと同じなら、ゾンビとかピクシーかしら。流石に『ちんぴら』を殴り倒すのはちょっと……)

 

 

警棒やヘルメットはスポーツバックにつめて、防刃ベストの上からコートを羽織って隠す。

 

ボーナスでローンを組んだマイカーは、新古車の軽だし通勤ぐらいしか使っていないが目的には十分。

 

大学時代、民俗学のレポートであちこちを回っていた時、家から車で行ける距離でも『嫌な感じ』がする土地はいくつかあった。

 

最近だと、再開発予定の廃墟の近くを歩いていた時、バリケードの向こうからその感覚を感じたのである。

 

(確か、ずいぶん昔にガス漏れからの火災で何人も亡くなってからずっと廃ビルだったのよね。

 なんにせよ、ここに『悪魔』が出るんなら、ジム通いの代わりにココで鍛えないと!)

 

 

 

 

……その日から、友恵マナミの日課に『悪魔退治』が加わった。

 

廃ビルの異界は幸いにして、LV1~2の悪魔がちらほら出る程度。

 

こそこそと物陰に隠れ、後ろを取ったら不意打ちで警棒や金属バットを振り回してぶん殴れば倒せる。*2

 

火炎瓶の作り方もちょっとアングラなサイトには乗っていたので、ソレをぶつけて燃やしてもいい。*3

 

なにより、弱そうなスライムを2、3匹倒したあたりから『なんとなく悪魔の位置が分かる』し『姿を見れば種族や強さも分かる』。*4

 

 

(流行りの転生チートみたいなアレかしら……?)

 

 

自分の手を見たり、あるいは鏡に自分を映せば生前『真女神転生』で見たようなステータスが表記される。

 

悪魔に関しても似たようなモノで、遠目に見ていれば強みも弱みも丸わかり。

 

……実の所、これが本当に一般人なら、最初に踏み込んだ時点でスライムに食われて死んでいる。

 

霊視・霊感に高い素養を持つ『感知タイプ』ともいうべき才能の持ち主かつ、才能の器が各作品の主人公クラス。

 

転生者ゆえの恵まれすぎた才能による常時先手必勝&不意打ちガード、これによって無理やりソロでの悪魔退治を成立させていた。

 

 

(ようやく、LV3!アギとかジオとか使えないけど、ディアは使えるし、『見える・感じる』力も鋭くなってきたわ)

 

悪魔退治を初めて一か月弱、LV2まではサクサク上がったものの、LV3にようやく到達。

 

アギは火炎瓶で、ジオは折れた警棒を買いなおす時に選んだバトンタイプスタンガンで。

 

傷薬や魔石なんてモノはないので、一日数回程度は使えるディアでそれを補いながら悪魔を倒す。

 

ゾンビを殴り倒すのも、スライムやモウリョウに火炎瓶を投げつけるのも慣れたものだ。

 

なんだか段々バイオハザードとかの主人公みたいな気分になってきた彼女は、今日もご近所の噂になる前にとっとと自分に課したノルマを片付けるために異界に踏み込む。

 

 

「……?(なにかしら、普段なら一階にもスライムやモウリョウの一匹ぐらいはいるのに)」

 

 

明らかに、普段と比べて悪魔の数が少ない。

 

ゲームのようにわらわら出てくるモノでもない、というのは分かっているが、それを加味してもいつもと違う。

 

そろりそろりと、一カ月弱通い詰めたおかげで暗記してしまったビルの内部を進んでいく。

 

階段を上がり、火事があってから放置されている業務用のデスクやひっくりかえった棚等に身を隠し、進先の安全をしっかりと確認しながら、奥へ奥へと。

 

普段なら、ここまでで1度ぐらいはスライムかモウリョウ、あるいはゾンビかゾンビドッグを見かけるはずだ。

 

今の自分では少し危ないと判断した『悪霊 ゴースト LV4』がいるビルの3階には基本的に近寄らないので、細かい構造まで把握できているのは2階まで。

 

一通り二階を散策し、悪魔の気配どころか『悪魔が出そうな空間の気配』まで薄くなってきたところで、嫌な予感が友恵の背筋を伝う。

 

 

(おかしいわ、絶対に。こんなこと今まで……)

 

 

電磁警棒を構えたまま、なるべく音をたてないように一階へ戻ろうとしたのが功を奏した。

 

かつん、かつん……硬質なナニカが一歩ずつ、地のコンクリートがむき出しになっているこのビルの階段を降りてくる音が聞こえたからだ。

 

思わず出そうになった悲鳴を抑えるクセは、この一か月で必死に身に着けた習慣である。

 

構造的に1→2階の階段と2→3階の階段が別の場所にあるので、背後から足音が響いただけでも最初のころの彼女ならあんまり可愛くない悲鳴を上げていただろう。

 

なるべく一階への階段に近い物陰に身を潜め、こそこそと音がする怪談を覗き見た。

 

 

 

そして、見た。見てしまった。

 

昆虫を思わせる緑の角と甲殻、そして牙。筋骨隆々とした黒い肢体は鋼のごとく。

 

右手に掴んでいるのは、恐らく階段で遭遇したらしいゾンビだ。首根っこをひっつかみ、ズルズルと引きずっている。

 

そして、フリーズした友恵の目の前で、ゾンビの首を握りつぶした。

 

友恵は見た、その目で見た。今出回っている粗悪品のCOMPよりずっと精度の高いアナライズでその姿を見た。

 

だからこそ、ある意味非常に正確で、それ以上に間違ったデータを見てしまった。

 

 

『?? ネフィリム LV50』

 

 

「~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!!!」

(なにあれなにあれなにあれなにあれマズいマズいマズい!!!)

 

 

【ネフィリム】……知識だけは知っている。大学で単位のためだけに学んだ民俗学や神話学には、一神教の聖書もあった。

 

堕天使と人間の間に生まれた巨人であり、たいそうな力持ちでバベルの塔の建設にも貢献した。

 

しかしそれ以上に大食漢であり、あらゆる生物を食べつくし、挙句の果てに共食いまで行った。

 

そのせいで罪深き人間と共に、聖書の神の大洪水で滅ぼされた、と。

 

 

(どう考えても人間を頭からバリバリってオレサマオマエマルカジリするタイプの悪魔!

 しかもLV50……50!?5とか15とかじゃなくて!?)

 

 

LV50と言えば、彼女が大学で学んだ著名な神々や悪魔が属するレベルだ。

 

レベルが1ケタ、いってしまえばそこらにいそうな妖精や地霊とガチバトルやってる友恵の敵う相手ではない。

 

恐怖のあまりあふれそうになる涙を何とか堪え、両手で口を押えて出そうになっている悲鳴を無理やり飲み込む。

 

荒くなりかけている呼吸をなんとか整えようとして、なにかの身間違いじゃないかともう一度階段の方を覗き見て……。

 

 

 

ぐりんっ、と……友恵が隠れている物陰に、ネフィリムが勢いよく振り向いた。

 

 

 

「ヴォアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!??」*5

 

「くぁwせdrftgyふじこlp!?!?!?」

 

 

ついに友恵の一般人メンタルが限界を迎え、唸り声か遠吠えかもわからない声を上げたネフィリムから脱兎のごとく逃げ出す。

 

一階につながる階段に飛び込み、途中で思いっきりずっこけで転げ落ち、しかし【覚醒】に至った肉体はその程度では動じない。

 

涙と鼻水と涎と血と、とにかくいろんな液体で顔中べったべたにしながら出口目掛けて駆け抜ける。

 

思考は『死にたくない』一色で染め上げられ、背後からあの怪物が追ってくる音が聞こえれば、何を言っているのかも不明な発狂ボイスをブチまけながら駆け抜ける。

 

そして、あと出口まであと10m足らずまで来たところで……ダンッ、とナニカが床を蹴る音。

 

友恵をあっさり補足したネフィリムは、跳躍と共に友恵を追い抜き、出口と友恵の間に着地した。

 

ゆっくりと状態を起こしながら彼女の方に振り向くネフィリムに対し、ぺたり、と地面に崩れ落ちる。

 

彼女の顔にゆっくりと伸びてくる右腕、近くで見ればますます異形だと脳の冷静な部分が変に分析。

 

恐怖が限界を超えたのだろうか、異界に入る前に済ませてきたはずなのに、彼女の太ももが生温かい感触で湿っていき……。

 

 

「えヒゅ……」

 

 

それを認識する前に、ぷつん、と頭の中で何かが切れて、ふわりと意識が遠のいていった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……というのが、私が霊山同盟支部の事務員をすることになった経緯ですね」

 

「いや色んな意味で端折りすぎやろ!?何があったんやそこから!?」

 

「その後は目覚めた後にガイア連合について説明を受けて、ガイアグループスに転職して、

 実家に近い霊山同盟支部に配属希望を出した以外これといって話せることが……」

 

「いやそーだけども!確かにそっからさきはテンプレだけども!?」

 

 

霊山同盟支部の食堂にて、たまには支部の食堂でも使ってみようかなー、と思い立った葛葉 茜。

 

どうやら職員の昼休みにもカブったようで、顔見知りの受付だった友恵と共に昼食をとっていたのだが。

 

話題が『ガイア連合に入ることになったきっかけ』になり、簡単な結界で防音にした隅のテーブルで話し始めたのである。

 

 

「でも、私はここにきてよかったと思ってるわ。あれだけ無茶なレベル上げをしていたのも、誰にも頼れなくて一人で頑張らなきゃ、ってなっちゃったせいだもの」

 

「まあ、いきなりとんでもない世界に転生したってことが分かったら、パニックにもなるわなぁ……」

 

「そうね……でも、今はゆっくりとだけど一歩ずつ、この先の事を考えながら進んでいける。

 上には上がいるけれど、なんとか私と家族の分ぐらいは避難先も何とかなりそうだから。

 

 ……今世には親しい友人もいないし……恋人もいないし……」

 

「ちょ、ちょいちょいちょい。ヘコまれてもこまるわ!ほら、カキフライ食べながら持ち直しや!」

 

「うう、もぐもぐ……カキフライおいしい……」

 

 

コントじみたやりとりではあるが、終末が来るという恐怖に一人怯えていた女性はもういない。

 

ガイア連合の後発黒札の一人として、地道なレベリングと受付業をこなし、来るべき末法の世に備える新たな同士がそこにいた。

 

 

 

 

「でもいまだに変身した支部長は怖いわ」

 

「軽くトラウマになっとるやんけ!!」

 

 

僕は悪くねぇ!という仮面ライダーの叫びが聞こえたが、こういう時は男が悪くなるのが世の常なのであった。

 

*1
この時の臨死体験で覚醒した模様

*2
ただし転生者に限る

*3
アギ系の素質がある転生者に限る

*4
霊視・霊感系の素質がある転生者に限る

*5
訳「なんでここに一般人が!?」





登場人物資料 『友恵 マナミ(トモエ マナミ)』



年齢 27歳

LV 3
(ガイア連合加入時)

※主な習得魔法のみ抜粋

霊視(アナライズ)

ディア
パトラ
ポズムディ
アギ
マッパー



霊視ニキや流石兄弟等と同じく、察知・解析の才能に優れた転生者。

外見は魔法少女まどか☆マギカの『巴マミ』……だが、年齢もあって『巴マミの平凡な日常』バージョンである。中学時代のジャージも使ってる。

前世も今世も民俗学・神話学を大学で学んでおり、神話系の知識は中々に豊富。

ちなみに前世で専攻した理由は『なんとなく面白そうだったから』であり、
今世では『前世で書いたレポート等を思い出せば課題はほぼ丸写しでいいから』。

極論学歴のために学んだ程度だったが、それが以外にも役に立った形である。

性格は優しく、面倒見がよく、しかし若干引っ込み思案。

ただし行動力自体は(良くも悪くも)一度スイッチが入るとスゴいものがあり、走り出した時の爆発力は稀有なモノがある。

現在は、上記の失神から目覚めた後に手当と説明とついでにお風呂も貸してくれたハルカの勧めでガイア連合霊山同盟支部に勤務。

簡易式神やアガシオンをレンタルしつつ、専用式神の購入を目指して業務とレベリングに励んでいる。


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かまぼこ二枚分の人生

 

 

(げっ……今日はかけ蕎麦の日か……)

 

 

佳乃 杏(ヨシノ アンズ)にとって、かけ蕎麦とは負け犬の味であった。

 

別に蕎麦アレルギーであるとか、蕎麦という料理そのものが嫌いであるとかそういうわけではない。

 

ただ単に、K県のとある町にある小さな教会を管理している神父が父である佳乃家という環境。

 

その清貧を是とする教義とあまり裕福ではない家計の事情から、物心ついたときから週に一度は夕飯がかけ蕎麦だけの日があっただけだ。

 

市販のツユに安売りしてた蕎麦を放り込み、自分や妹も手伝っている家庭菜園からとってきたネギをちらしただけのかけ蕎麦。

 

もやは食べ慣れすぎて感動もなにもない蕎麦を啜りこむ、食事ではなく栄養補給100%の感覚だ。

 

小学生になったばかりの妹にとってはこれといって思う所は無いらしいが、食べ盛りである彼女にとっては思う所しか無い。

 

……これで、この市にある教会がこの小さな教会1つだけというなら納得もしよう。教会の娘なんてこんなもんだ、と妥協もできたかもしれない。

 

 

(いいよなぁ、【メシア教】の教会は。ウチよりデカくて豪華で、カネもあって……)

 

 

ずずっ、と蕎麦をすすりながら遠い目をする。

 

まだ中学生になったばかりとは思えない、若干スレた目つきであった。

 

それなりに面積と人口があるこの市では、もう1つ【メシア教】の教会があったのだ。

 

自分達の管理している【一神教系】の教会より寄付金も補助金も多いようで、土地の広さも建物の新しさも、ついでに信者の数も比喩ではなくケタが違う。

 

同じ中学校に通う生徒にはメシア教のシスター見習いもいたが、明らかにお小遣いは自分より多そうだった。

 

 

(同じ神様信仰してるんなら、ウチもメシア教にしちまえばいいのにさ……)

 

 

そんなことを思いながらも口には出さずに夕飯を終え、ごちそうさまとだけ言って部屋に戻る。

 

リビングで流れているニュースには、バラバラ殺人だの連続失踪事件だの、はっきりいって気分が余計暗くなるモノが増えてきた。

 

無駄にお人よしの父親はそれに心を痛めているようだが、心を痛める前に肉と野菜を炒めて蕎麦に肉野菜炒めの一皿でもつけてほしいのが彼女の本音である。

 

毎日質素な食事というわけではないが、週に一度ランダムで自分が【メシア教に信者取られてる教会の娘】だと思い知らされているような気がして。

 

そのうちに、杏にとってかけ蕎麦は負け犬の象徴になっていた。

 

 

(つまんねぇなー……なんかないのかよ、面白い事……)

 

 

ベッドに寝転がって、読み飽きたマンガを床に放り投げながら天井を見上げる。

 

これといった将来の展望もなく夢も無く、このままいけばどこにでもいる普通の女性になるか、この教会を継いでシスターになるか、だ。

 

何の面白みも刺激も無い日常は、思春期を迎えた彼女にとっては倦怠感だけを募らせるだけの日々なのだ。

 

 

 

……それでも、何事もなく昨日から地続きの明日が来る。

 

そんな日常がこの上なく幸せなモノだったと認識したのは、それからしばらくたったある日の事。

 

ニュース番組の内容が、どこぞの国が宣戦布告だの、海外への渡航制限や輸出入制限だの。

 

どっかでミサイルが撃たれただの、戦争が始まっただの、アメリカでカルト教団と化したメシア教がどーとかだの。

 

このご時世にスマホも持っていなかった杏にとっても、テレビのニュースや立ち読みで読む雑誌の記事から伝わってくる不穏な空気は尋常じゃなかった。

 

両親もどこかソワソワとしている日が増え、彼女と妹に非常用持ち出し袋の位置を覚えさせたり、連絡用に携帯電話も契約して貰ったり。

 

今どきガラケーかよ、と少しだけ思った杏であったが、どう考えても尋常じゃない昨今のアレコレを考えれば何も言えなかった。

 

そしてついに届いた携帯電話を手に、少しだけ上向いたテンションを自覚しながら友達に初めての電話をかけようとした、その時であった。

 

 

 

まるでトラックか何かが壁をブチ破って突っ込んできたような轟音と衝撃が鳴り響き、寝そべっていたベッドから転がり落ちる。

 

「いっつつ……なん……なんだ今の?!」

 

思いっきり頭をぶつけたせいでくらくらする視界を無理やり整え、まずは隣の部屋にいる妹の様子を確認した。

 

幸いにして怪我はなかったようで、今の音と衝撃に怯えて青い顔で震えていた。

 

ここで大人しく待ってろよ!と妹に言い聞かせ、手近な所にあった箒を片手に恐る恐る教会の方へと歩いて行く。

 

本当にトラックが突っ込んできたならまだいい(修繕費用考えたらよくはないが)、最近では国内でもテロだなんだと物騒なニュースがチラついていた。

 

もしもカルト教団がウチに爆弾でも放り込んだのなら……なんてぶっ飛んだ想像が出てきてしまうのは中学生故か。

 

 

だがしかし、時に現実というのは妄想をはるかに超えて残酷になる。

 

 

忍び足でドアを開け、教会に併設された居住スペースから教会の方へと足を進める。

 

古い建物なだけあってちょっとした迂回路や裏口もあり、杏子はよく掃除やミサをサボってそれらを使って遊びにいった経験があった。

 

その経験が功を奏したのか、足音の1つすら立てずにさっきの轟音がした礼拝堂にまでたどり着き……。

 

 

巨大なバケモノが、父と母【だったもの】を貪り食う光景を目にした。

 

 

「~~~~~~~~~~~~~ッ!?!?!?」

 

悲鳴を上げそうになった自分の舌を思いっきり噛みしめて無理やり悲鳴を抑え込む。

 

口の中に血の味が滲み喉の奥からすっぱいものがこみあげてくるが、それも無理やり飲み込んだ。

 

じわり、と目じりに涙が浮かんでくるが、潤んだ視界を無理やり袖で拭って来た道を戻る。

 

バクバクとうるさい心臓を死ぬ気で抑え込み、妹の部屋にもどってこちらを見上げてくる妹の手を取った。

 

 

「モモ、逃げるぞ!」

 

「え、でも、パパとママは……」

 

「いいから!お姉ちゃんの言う事聞くんだ!早く!!」

 

 

なるべく声を上げないように、しかし妹を急かすように立ち上がらせる。

 

部屋に置いておくように言われた非常用持ち出し袋を急いで担ぎ、サイフと携帯電話だけポケットに詰め込んで裏口から外に出た。

 

外に出れば、街のあちこちから聞こえてくる轟音と悲鳴。パトカーや消防車のサイレンも遠くから聞こえてきた。

 

緊急時は中学校か小学校に避難するようにと言われていたが、それどころではない。

 

なにせ避難場所に向かう途中の道で、同じように逃げようとしていたらしい家族連れが【エサ】になっているのを見たからだ。

 

子供が受け止めるにはあまりに凄惨な光景に、茫然自失のショック状態な妹を引っ張って逃げ切れたのは奇跡に近い。

 

助けを呼ぶ声や悲鳴の全てに目を背け、たった一人の家族を守るために体に鞭を打って走り続ける。

 

それから数分か数十分か数時間か、時間の感覚など完全に狂いきった頃に……。

 

 

「こっちよ!早く!!」

 

 

疲労と酸欠でふらつき倒れそうになった体を、横から伸びてきた手に支えられ、二人は【ガイアコーポレーションの避難所】へと足を踏み入れたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(肉、食いたいなぁ……)

 

ガイアコーポレーション(【ガイア連合】という名前も聞こえてきた)の避難所は、良くも悪くも避難所以上でも以下でもない。

 

現在地である防災センターの避難所は元々収容人数50人ぐらいだったそうだが、ガイアコーポレーションの出資で200人まで拡張されたと同じ避難民から聞いた。

 

小学校~中学校の避難所は500~1000人ぐらいは収容できるのに、なぜこんな小さな避難所まで拡張するのかさっぱりわからなかったが、今なら彼女にも理由が分かる。

 

教会の壁を簡単にブチ破った怪物が、なぜかこの避難所には近寄ってこない。

 

悪魔が湧き出たあの日、手を引いて避難させてくれた女性から少しだけ事情を聞くことができた。

 

彼女はその【ガイア連合】の一員であり、いちおう悪魔と戦うデビルバスターでもあるらしい(あまり強そうには見えないが)。

 

 

(まさか、あの怪物……『悪魔』の対策してる企業だったとはなぁ……)

 

 

各所の避難所にも、あの悪魔が近寄れない『結界』とやらが設置してあるらしい。

 

もっと開発が進んでたりガイアコーポレーションの進出が進んでる地域なら、街ごと結界で覆ってるところもあるそうだ。

 

が、残念ながらこの街はギリギリでガイアコーポレーションの守備範囲外。

 

となりのS県を中心に活動している支部が急ピッチで避難所に結界を張って対策をしていたらしいが、逆に言えばそれが限界だったようだ。

 

オマケに今はどれだけ強いのかもわからない【大悪魔】とやらがうろついているため、避難所から安全な支部に移動することも難しいらしい。

 

そのため、支部への道が開通するまでは避難所生活なのだが……。

 

 

(カロリーブロックじゃ食った気しねぇよなぁ……)

 

 

食事は一日3回、朝と昼にカロリーブロックとゼリー飲料が出て、夜は軽食とミネラルウォーター。これにときどきコンペイトウや飴玉のような甘味がつく。

 

ガイア連合製カロリーブロックは味は悪くないし腹も膨れるが、どうしてもこうなるまえの食事を思い出してしまう。

 

少ないお小遣いをやりくりして買い食いした肉まんの味がちらついて、もうすぐ夕食の時間なのもあって腹が鳴る。

 

隣にいる妹も、両親が死んだあの日からふさぎ込んでいる。

 

なんとかしないと、と思うばかりで対策など思いつかず、余計に鬱屈とした気分が溜まってきたところで声をかけられた。

 

 

「二人とも、大丈夫?はい、御夕飯もってきたわよ」

 

「あ……友恵さん」

 

彼女こそが、その恩人である【友恵 マナミ】。金髪縦ロールという少女漫画でしか見ない髪型だが、これで天然パーマらしい。

 

 

夕食が乗っているらしいトレーを受け取り、今日はなんだろなと視線を下す。

 

げっ、という声と表情を出さなかったのは奇跡に近い。

 

 

(かけ蕎麦……いや、一応かまぼこ二枚乗ってる……)

 

 

嗅ぎなれた市販のめんつゆの匂い、保存用らしき乾麺をゆでたモノとあわせ、その上に薄く切ったかまぼこと乾燥ネギを添えた普通の蕎麦だ。

 

避難所で出された蕎麦のほうが家でたべていた蕎麦より具沢山なことに思うところはあるが、腹は自分以上に正直だった。

 

ぐぅ、と小さく鳴った胃袋に盛大にいら立つが、文字通り背に腹は代えられない。

 

妹にもトレーごと蕎麦を渡し、自分の分の箸を手に取って「いただきます」と一言。

 

 

ずるるっ、とひと啜りしたら、もう止まらなかった。

 

暖かい食事というだけでもごちそうなのに、ひと啜りごとに何かがこみあげてくる。

 

杏にとっては負け犬の象徴のような料理だったはずの蕎麦が、今では失った日常の象徴になっていた。

 

父親はお人よしに過ぎるがよい人だった、母親はちょっと口うるさいけど優しい人だった。

 

あんな死に方をしていい人間じゃなかった、ここにいていいはずの人だった。

 

 

「ふ、ぐっ、うっ……!」

 

 

うめき声か泣き声か分からないソレは、果たして自分のものなのか、隣にいる妹のものなのか。

 

じわり、と目の奥から溢れてくる雫を堪えながら、妹と一緒に蕎麦を啜る。

 

ぽふ、と友恵の手が二人の頭を撫でる。恥ずかしいからと払いのけてもおかしくないソレが、何故だか無性に暖かかった。

 

生きていく気力もとっくに失せて、ここ数日はただ息をして、ただ食事をする肉の塊になりつつあった二人。

 

つゆの一滴まで飲み干して、目元の涙を拭った後に杏は誓った。

 

 

(……これが負け犬の味でもいい。かまぼこ二枚分だけ負け犬じゃなくなったんだ。

 もうちょっとだけ、生きてみよう。モモと二人で、いけるところまで……)

 

 

小さな誓いを胸に、線香花火より儚い光とはいえ【生きる気力】にもう一度火をつける。

 

頭を撫でるどころか、無言で二人纏めてハグしてくる友恵を振り払う気にもならず、抱きしめられながら【生きる】事を誓いなおした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(それなのに……こんなのって、アリかよ……!?)

 

かまぼこ入りの蕎麦を食べてから一週間後、避難所の管理者から通達があった。

 

ガイア連合の部隊によって比較的安全な避難経路が確立されたため、これからここにいる避難民はそちらに移動する、と。

 

ニュースで見たこともあるパワードスーツ『G3』が何体も訪れ、2台の輸送用トラックで避難民を輸送するらしい。

 

子供から先に、という声に推されて、アンズとモモは最初のトラックにのりこむ事が出来た……まではよかった。

 

ガイア連合の職員である友恵も一緒に乗り込んで、不安そうなモモへの

 

「大丈夫、いざとなったら私が悪魔なんてやっつけてあげる!こう見えて結構強いんだから!」

 

……という苦笑しかできない励ましを聞き流しながら、輸送トラックは出発した。

 

周囲をG3の駆るバイクに囲まれ、護衛されながら走り続ける。これでようやく避難所生活とおさらばと思った矢先になにかが起きた。

 

 

「もうすぐ避難所よ」と友恵が言った直後、トラックが止まる。

 

あわただしい気配がトラックの中にも伝わってきて、自分たちと同じように先んじてトラックに乗せてもらった少年少女の間にざわめきが起きた。

 

嫌な予感が全身を包む、友恵の「大人しくここにいるのよ、いいわね!?」という言葉が耳に届いたが、精神的にはそれどころじゃなかった。

 

装飾の施されたマスケット銃をかついでトラックの外に飛び出していった友恵を見送ってから、自分も妹に「いいか、ここにいろよ?」と言ってこっそりと外を覗く。

 

どうしてもダメそうな状況なら、他の全員を囮にしてでも自分と妹は逃げ切る。そんな覚悟を杏は決めつつあった。

 

護衛のG3たちと、なぜかその中心にいる友恵が対峙している悪魔はたった一匹。

 

しかし、その威圧感は教会で見た両親の仇を大幅に上回っていた。

 

 

「『邪龍 ワイアーム LV37』……霊道を守る結界の弱所でも抜けてきたのかしら?」

 

『その通りだ、これだけ広大な霊道……探せば結界のムラの1つや2つはあると思っていたが。

 フハハ!どうやらお前たちの必死の努力も無駄だったようだな、ニンゲン!』

 

「なるほど、結界の薄いところをこのレベルの悪魔が全力で攻撃すれば抜けられなくはない、と。

 いい教訓になったわ、次からは結界の弱所を補強するのを優先するように手配しておきましょ」

 

『次?次だと? ……これから喰い殺される貴様らに『次』などないわ、阿呆共が!

 とっととそこをどけ、前菜としてやわらかい子供の肉を踊り食いしてくれる!

 恐怖に染まった子供のMAGは芳醇な味と香りを放つのでなぁ……』

 

 

悪魔の嘲笑がやけに大きく響き渡る。

 

トラックの中からおびえた声が聞こえ、周囲を包囲していたG3たちがたじろいだ。

 

やはりというかなんというか、彼ら/彼女らよりも目の前の悪魔は格上らしい。

 

咆哮や威圧どころか、常時はなっているプレッシャーだけでG3たちの足がすくんでいる。

 

聞いた噂だと警察の対オカルト対策班らしいが、あまりにも相手が悪すぎた。

 

おまけに明らかに避難民の子供狙いな発言……トラックを抜け出して逃げてもおってくるかもしれない。

 

「いっそほかの子供を囮にして自分とモモだけでも」、そんな人でなしの発送すら浮かび始めたとき、こちらに背中を向けて悪魔と対峙している友恵が一歩前に出た。

 

 

「……つまり、貴方は子供たちの匂いにつられて結界を突き破ってきたのね?」

 

『そうだ。若々しく新鮮なMAGの気配、この俺様からごまかしきれると思ったか!弱肉強食、弱い人間は俺様の食事になって踊り食いされるのが関の山よ!』

 

「そう……なら、手加減も遠慮もいらないわね」

 

 

杏と悪魔の見ている先で、友恵が右のポケットから【携帯電話】を取り出した。

 

黄色い縁取りに黄色と紫の『X』のマークがついた、全体的にメタリックでゴツいリボルバー式の携帯電話だ。

 

いつのまにやら左手に持っていた【バックルのないベルト】を腰に巻き付け。携帯電話を開く。

 

『助けでも呼ぶ気か?悠長な……』と余裕綽々に友恵を見下す悪魔の前で、友恵が『コード』を打ち込んだ。

 

 

「私、それほど厳格な性格じゃないけど」

 

【 9 】

 

「それでも、堪忍袋の緒はあるつもりなの」

 

【 1 】

 

「貴方の言う弱肉強食、それが自然の摂理なら……」

 

【 3 】

 

「望み通りにしてあげる!」

 

【ENTER】

 

 

コードを打ち込み、通常の携帯電話にはついていない【ENTER】のボタンを押し込めば『Standing by』という電子音性が響き渡る。

 

胸の前に携帯電話……【カイザフォン】を構え、腰に巻いた【カイザドライバー】に斜めにして叩き込んだ。

 

 

「変身ッ!!」『complete』

 

MAGによって具現化した光り輝く黄色いラインが描かれ、彼女の周囲を囲んでいく。

 

そのラインにそってスーツが、装甲が、武装が出現。友恵の全身を包み込んで装着……いや、変身した。

 

X、あるいはギリシャ文字の【χ(カイ)】を模した仮面、対悪魔用防護壁『ハーモナイザー』が全身を覆う。

 

その名は【913(カイザ)】、兎山シノの開発した【展開型デモニカスーツ】の試作機3体の1つである。

 

G4タイプと同じく高レベル向けの調整が施され、既にLV30を超えている友恵でも邪魔にならないだけの性能が保証されていた。

 

悪魔のたじろぐ気配、周囲のG3たちが援護に回り、マスケット銃の外見をした【高性能対悪魔銃】を構えた友恵を中心とした戦闘が開始される。

 

 

そこから先の結果など、言うまでもないだろう。

 

 

子供たちを守るために戦う【正義の味方】が、このシチュエーションで負ける事などありえないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな激動の撤退戦から、いくばくかの時が流れ。

 

ガイア連合霊山同盟支部が管理しているとある結界内の居住区に【彼女】はいた。

 

あれから少しだけ背も伸びて、成長期なのもあってか体つきも精悍さを増している。

 

どこか無理をしていた少女の面影はすっかり失せて、一人前の【デビルバスター】らしい顔つきになった【吉野 杏】がそこにいた。

 

 

「おばちゃん、いつものやつね!」

 

「はいよー。 かけ蕎麦にかまぼこね。杏ちゃんはホントにお蕎麦好きねぇ」

 

「あー……好きってわけじゃないけど、手軽だし、ゲン担ぎもあるからさ」

 

 

この施設……ガイア連合傘下のハンター協会支部の中にある食堂にて、仕事に行く前の食事を手早く済ませる。

 

妹は隣の結界内にある学校に通っており、移動の手間もあるので会えるのは週末だけだが元気に暮らしている。

 

両親のことはいまだに二人とも引きずっているが、ちいさなお墓を立ててできる限りの供養はした。これから時間をかけて割り切っていくだろう。

 

届いた蕎麦を勢いよくすすりこみ、かまぼこをよく噛んで飲み込んでから水を一気飲み。

 

ごっそさん、と食器を指定の場所に置いて、午後からの仕事のために待機所へと走っていった。

 

 

待機所にはすでに同じ仕事……結界内の見回りと、低レベルの悪魔の間引きを受けた同僚が数名待機している。

 

男女別の更衣室へと移動し、私服を脱いで対悪魔用のスーツを着込んだ。

 

ぴっちりとしたスーツは最初こそ恥ずかしかったが、彼女の使うデモニカが破損したら命を繋ぐのはこのスーツなので慣れるしかない。

 

 

「それにしても、杏はいつまで【旧型】使ってるのよ。新型のほうが楽じゃない?」

 

「いいんだよ、それにいつも言ってるけど旧型じゃなくて【試作型】な?」

 

 

同じでしょ、とあきれ顔の同僚に何を言われても、彼女はその【試作型】を手放す気はなかった。

 

G3デモニカのデータを収集した後、ガイア連合技術部の【兎山 シノ】が開発した【展開型デモニカ】シリーズ。

 

ほとんどゴツいベルト一本にデモニカ関連の機能が詰め込まれており、ロックを解除することで内部に格納された装甲服が全身に装着&オートフィッティングされるという便利機能つきだ。

 

デモニカの欠点の1つだった『非装着時の持ち運びが大変』『装着に手間がかかるので緊急出動に弱い』等を改善した次世代デモニカである。

 

さらにG3タイプに搭載されている疑似的なムドへの身代わりシステムを拡張。

 

即死レベルのダメージを受けた際に防御壁『ハーモナイザー』の出力を一気に引き上げ、デモニカスーツがダメージを全吸収&装着者をはじき出す。

 

これにより、緊急時にはデモニカが故障して強制的に変身が解除される代わりに装着者を保護する『絶対防御』システムが搭載されたのだ。

 

杏たちがデモニカの下に対悪魔用スーツを着ているのは、この絶対防御システムが作動したときの保険である。

 

……半面、性能はG3タイプと同等だがコストは1.3倍。自動修復機能があるので放置してれば最長数日で修理できるが、細かい部品も増えたのでオーバーホール級の整備の手間は増えるという欠点もある。

 

そのため、量産が容易なG3タイプと併用されているのが現状であった。

 

 

「じゃ、アタシは先行ってるからね?」「あいよ」

 

 

同僚の少女は腰に巻いた【ガイアバックル】のバックル型レバーを横に倒し、量産モデルの展開型デモニカ【ガイアトルーパー】に変身。一足先に結界の外周部へと向かっていく。

 

見た目は完全に仮面ライダー555の【ライオトルーパー】だが、兎山シノの「ガイア連合のトルーパーだからガイアトルーパーで!」の一言でこの名前に決定した。

 

杏のほうも一足遅れて準備を終え、腰に【バックルのついていないベルト】を巻き付け、【赤い縁取りがされた折り畳み式携帯電話】を取り出す。

 

慣れた手つきでソレを開き、コードを打ち込んだ。

 

 

(そうさ、形から入るのはあんまり好きじゃないが……アタシはいつか、この姿にふさわしいデビルバスターになってやるんだ)

 

【 5 5 5 ENTER】『standing by』

 

 

ガイアバックルの試作機、【ファイズギア】……これを使い続けているのは、あの日みた正義の味方へのあこがれからだ。

 

今は雑魚悪魔の掃討や結界周辺の見回りぐらいが関の山だが、現在の彼女はレギュレーション3で【DLV27】。

 

DLV30を超えれば、二線級を担当する【支援班】から最前線の【戦闘班】に志願できる。

 

そうすれば、孫請け支部ではなくガイア連合直轄の支部がある結界に行ける。

 

妹をもっと安全な所に住ませてあげられるし、あの日以来会えなくなった【憧れの彼女】に会えるかもしれない。

 

ガイア連合の悪魔図鑑で調べたが、ワイアームの強さは【DLV測定不能】、それを倒した彼女もまた、ガイア連合の黒札かそれに並ぶ実力者のはず。

 

ならば、戦闘班として出世することこそが最短ルートだと杏は思っていた。

 

 

(正義の味方なんて、ガラじゃないけどさ……目指すぐらいなら、いいよな)

 

「変身ッ!!」『complete』

 

 

腰に巻いた【ファイズドライバー】に携帯電話型変身デバイス【ファイズフォン】を装填。

 

赤いMAGのラインが体を覆い、装甲が各所に展開、装着。

 

試作展開型デモニカ【555(ファイズ)】……デビルバスターになったその日に、ふらっと現れた女性技術者から「む、ティンときた!」と押し付けられたソレだ。

 

友恵のカイザによく似た形式で、性能も新型であるガイアトルーパーと大差ないことから今も使っている。

 

 

手首を一度スナップさせて、同僚たちの後に続くように駆け出した。

 

彼女にとってかまぼこ二枚分の人生は、どうやらまだまだ味わい足りないらしい。

 

あこがれに追いつく、その日まで。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、しばらく後に霊山同盟支部直轄の結界に移籍して友恵と再会はしたものの。

 

彼女の「ごめんなさい、私戦闘班じゃなくて受付・事務担当で……」という言葉に宇宙猫になるのであった。

 

 



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『PROJECT G4』 page2


発想元は『故郷防衛を頑張る俺たち』様のロボ部掲示板回(47話)から。

時系列的には

『PROJECT G4』

大江山百鬼夜行事件

今回のお話

『故郷防衛を頑張る俺たち』47話

というイメージ。まあパラレルなので細かいい矛盾は無視!


 

 

「できるわきゃねぇーだろぉー!!!」

 

 

ガイア連合技術部所属の某実験施設にて、一人の若い女性の雄たけびがこだました。

 

若い女性なのに【雄たけび】なの?みたいな揚げ足取りはおいといて、近くのデスクから「またか」と言いたげなため息が一つ。

 

叫んだついでに近くに転がったガイア連合特性栄養ドリンク(ほぼ霊薬)の瓶をゴミ箱に放り込みつつ、自分の『友人』に声をかける。

 

 

「シノ……もとい【ウサミミネキ】、今日で何度目だ。確かにだいぶ難易度の高い案件だが……」

 

「掲示板で1回か2回使ってからはずーっと名無しでやってるからまーったく馴染みのないHNで呼ばなくていいからね?サクラちゃん」

 

「ちゃんはやめろ、もう25だぞお互い」

 

 

シノと同じシンプルな白衣を着て、ブラックコーヒーを胃に流し込みながら資料を纏めている彼女の名は【士村 桜(シムラ サクラ)】。

 

厳格そう、あるいは真面目そうな雰囲気をまとった黒髪の美女であり、ガイア連合技術部に所属している黒札……転生者の一人である。

 

少々つり目気味だとか、威圧感のせいか子供に泣かれるだとか、そんなことを気にしながらも真面目に働いている技術部の一人だ。

 

普段はシノの助手のような立ち位置であり、『スコーピオン』用の弾丸の製造工場や支部に建設予定のデモニカ製造ライン等を担当している。

 

なお、以外にもガイア連合の掲示板にはまるで顔を出さないシノに代わり、掲示板に【ブロッサムネキ】名義で進捗報告をしている掲示板担当でもある。

 

 

「しかし驚いたな、まさかロボ部から『G4システム量産化の要望』が来るとは」

 

「デモニカを使う後発組の黒札もいるから、彼ら/彼女らがG3Xで物足りなくなった時のための試作機だったんだけどねー、G4。

 まあ、確かにガチ勢でもなければ転生者の使用にも耐えうる性能を確保できてるけどさぁ……

 こっちは田舎ニキから送られてきた『スコーピオン』の射撃データを基にした調整案の作成もあるんだぞー!*1

 欲を言えばあと50体ぐら天使ブチ殺して来てほしい!オマケして30体でもいい!!

 ついでに研究資金調達のために田舎ニキに霊山同盟支部で作ってる『呪殺弾』と『破魔弾』を紹介して紹介料を……」

 

「一昔前のソシャゲのお友達紹介ボーナスみたいなことをするんじゃない。

 ……なあ、シノ。私は外部担当だからお前が半分趣味で作っていたG4に関してはそれほど詳しいわけじゃない。そんなに量産機にするには問題がある仕様なのか?」

 

「問題があるっていうかぁ、例えるなら『ウェディングケーキを量産してくれ』って言われた感じというかぁ……まあいいや」

 

 

普段会議(基本的に総勢二名)で使っているホワイトボードを取り出すと、今回の案件についてのアレコレを書き込んでいく。

 

『ガイア連合ロボ部の要望』

『G4のメリットとデメリット』

『量産における課題』

 

と、主要なアレコレを大雑把に書き出していく。ちょっとした授業風景だ。

 

 

「まず、ガイア連合ロボ部からはG4シリーズみたいなハイエンドデモニカの制作……。

 というより、現行のG3シリーズみたいな量産の希望が届いてるんだよね。

 さすがに警察や自衛隊じゃなく、黒札で使う以上は生産数も減らせるだろうけど」

 

「この資料を見る限り、G3シリーズと違ってマザーマシンによる生産を考慮してないのか。

 ほかのデモニカと同じハンドメイド……なるほど、少数でも『量産品』にはできんな」

 

 

十数体から数十体ぐらいなら、覚醒者であるシノが本気を出せば作れなくはない。

 

が、作って終わりではないのだ。その後は整備用のパーツ等をコンスタントに作って供給しなければならない。

 

デモニカには自己修復機能があるので放置しててもある程度は整備しなくてもいいが、戦闘を繰り返せば不具合は出てくる。

 

そうなった時に交換用パーツがありません、は笑えない事態すぎるのだ。

 

 

「で、G4は仕様上既存の人工筋肉よりも高性能な悪魔素材人工筋肉を使用。

 シノさんが試作品として作った、妖獣・魔獣素材の人工筋肉も試験的に搭載してるんだよね」

 

「ふむ……妖鬼素材よりも軽量かつ柔軟、靭性に優れると……下半身のパワーアシスト部分はほとんどコレだな」

 

「その分耐久性と剛性に優れた妖鬼素材の人工筋肉で上半身を覆ってるけどねー」

 

 

パワーとタフネスに優れた妖鬼素材の人工筋肉と、しなやかさと軽さに優れた妖獣系の人工筋肉の合わせ技。

 

前者はともかく、後者は技術交換で受け取ったデータをもとに、G4用としてシノが自分でイチから作ったワンオフ素材だ。

 

量産体制を整えるとともに、妖獣・魔獣系の悪魔が沸く異界の確保までしなければならない。

 

 

「あと、G4は高レベル向けにデモニカの『欠点』をいくつか克服しつつ、長所を伸ばしてるんだ。それがG4を量産する最大のメリットだね」

 

 

ホワイトボードの『G4のメリットとデメリット』のデメリットの下に先ほどまでのあれこれを書き連ねてから、メリットの下にもいくつかの事項を書いていく。

 

 

「元のデモニカにもあった『思考操作システム』。ようは考えただけでCOMPの操作が可能。

 悪魔召喚プログラムも動かせるし、スキルカードで追加したスキルも思考だけで発動できる。

 式神に覚えさせる手もあるけど、自己強化系のスキルなんかはどーしようもないからね」

 

戦闘中に悪魔召喚プログラムを弄ってる余裕なんて基本的に無い。

 

COMPにスキルカードを刺していても、ポチポチボタン操作してアギ放ったところでタイミングもクソもない。

 

それら全部を『思考操作で』行えるデモニカは、それだけでも黒札にとって有用なはず。

 

 

「次に、ブラックボックスを身代わりにした疑似的なムド耐性を強化した『絶対防御』システム。

 致死ダメージを受けたときに、そのダメージをデモニカに肩代わりさせる外付けの食いしばり!

 瞬間的にハーモナイザーの出力を上げることで、装着者のダメージを最小限にすることもできる。

 万が一の事故を防ぐための保険だね、食いしばりスキルとは別枠だから保険の数が増やせる」

 

ブラックボックス=式神パーツが代わりに死ぬことによる疑似的なムド耐性。

 

これを拡張し、式神パーツの『かばう』+ハーモナイザーの瞬間的な最高出力を同期させたのが『絶対防御』システムだ。

 

食いしばり系はどの黒札でも欲しがるシロモノだし、食いしばり後はデモニカの下に着込んでいた防具が適用される。

 

既存の防具も『デモニカが食いしばり使った後の生命線』という利用法が出てくるのだ。

 

……なお鎧のようなゴツい防具だとそもそもデモニカの下に着れないという問題がでたせいで、

 

後に対魔忍スーツを研究開発・発展させてデモニカ用ぴっちりスーツを作る羽目になるシノである。

 

 

「さらに、既存の霊的防具に一番劣っていた『耐性の穴』をふさぐための工夫だねー。

 体の各部パーツにハーモナイザー含めた『耐性障壁』スロットを搭載。当然カートリッジだ。

 スキルカードを使ってカートリッジに耐性を組み込めば、既存の防具に近い耐性を獲得できる」

 

既存のデモニカは全身装備扱いなので、細かに耐性を埋めるのなら既存の対悪魔防具の方が小回りが利いた。

 

が、スキルカードによる耐性の差し替えだけでなく、耐性を決定する部分をカートリッジ化。

 

火炎属性の悪魔と戦うのなら、スロットに火炎耐性のスキルカードを刺したカートリッジをセットすればいい。

 

まあ、カートリッジを差し込んでからフィッティングの時間があるので戦闘中に変えるのは現実的ではないが、それは既存の防具も同じである。

 

 

「当然、各種パワーアシストやUI、戦闘補助AIはレベル30オーバーの黒札向けに最適化!

 なんならシノさんどころかあっくんやたっちゃんが着ても邪魔にならないよ、これ!」

 

「…本当に性能はとんでもないな」

 

 

はっきりいってもはや『デモニカ』の枠を半歩飛び越えたスーパーパワードスーツだ。

 

なまじデモニカの利点を残しつつ欠点だけ改善してるのが余計に手におえない。

 

結果的に『無覚醒者を戦えるようにする』というデモニカ本来の目的をぶん投げてるあたりも含めて、デモニカから『半歩』だけ飛び越えた装備なのだ。

 

 

「最後に、それらを総括した量産化向けへの課題点……コスト!生産難易度!素材不足! 以上!」

 

「まあ、それはそうか……」

 

 

これだけのハイエンドデモニカだ、1機作るだけでもG3X何機分かかってるかもさっぱりわからない。

 

さらに明らかにワンオフのパーツも多数、現状作れるのはシノだけのハンドメイド品。

 

トドメに妖獣・魔獣の素材不足……ここまでくると笑えてくるほどに『量産』に向かないのだ。

 

 

「うわーん!だからいったんだよぉ!ウェディングケーキを量産するようなもんだ、って!」

 

「ああ、パティシエの技術を凝らしたワンオフ品だもんな、あれも……私達に縁がなさそうだが」

 

「サクラちゃんマハブフーラ叩き込まれたい???」

 

「やめろ、私は戦闘向けじゃないんだ、やめろ」

 

 

正確には技術部の【ブランカ】氏と同じ、戦闘向けの才能はあったがそれを活かしていない組である。

 

覚えるスキルは【デカジャ】や【ラクンダ】、さらに【刹那五月雨切り】。

 

モロに近距離で刀剣を使って戦う前衛型の才能持ちだが、前世一般人で剣道すら経験がない彼女には、刀ぶん回して悪魔と戦うのはハードルが高すぎた。

 

技術部必須のレベル上げも、式神を盾にして銃やストーンでせん滅するのが基本スタイル。

 

とはいえ【刀剣類】への理解度は武器制作にも生かされ、G3系列の装備である超高周波ブレード『GS-03 デストロイヤー』や、

 

最近開発された折り畳み式電磁ナイフ『GK‐06 ユニコーン』も彼女の設計である。

 

……なお、戦闘力という意味では才能をしっかり活かしているシノにはやはり及ばない模様。

 

 

「人工筋肉は素材が安定供給されてる妖鬼系で補うにしても、機械系のパーツがねー。

 今のシノさんに作れる式神マザーマシンじゃ、到底G4の量産なんて無理無理カタツムリ。

 ある程度のパーツはなんとかなるけど、結局半分以上ハンドメイドになるよー!」

 

「ならどうする?ロボ部に丁寧に断りの連絡でも入れるか?」

 

「それはそれでこの天才のシノさんのプライドがボッコボコでしょ!!??

 シノさんは前世も今世もマサチューセッツ工科大学を飛び級卒業した天才なんだぞー!

 『できません』は敗北宣言なんだよー!!」

 

(ロボ部もそういう技術者の性質を見越して依頼してきてる気がする……)

 

 

そんなわけでG4の量産過程を少しでも簡略化できないかと書類やパソコンとにらめっこしているのだが、なにをどーやっても自動生産できるパーツは『5割』が限度。

 

ショタオジに頼んで超ハイスペック式神マザーマシンでも作ってもらえばなんとかなるかもしれないが、それこそシノの信念に反する。

 

シノの信念は『天才が道を切り開き、凡人が切り開いた道を支える』世界。

 

切り開くのも整えるのも支えるのも一部の天才任せになった世界がどれほど悪夢になるのかを、シノは前世でたっぷりと経験した。

 

……具体的には、大企業の研究室に就職した後、シノ一人で特許とれるレベルの新発明できるからってワンオペブラック労働させられまくって過労死した過去である。

 

 

「いっそのこと、G4並みの性能が出せて量産に向く機体でも新設計するか?基礎設計から見直せばワンチャン……」

 

「はぁーん?あのねー、サクラちゃん。そんな理想の上司とかオタクに優しいギャルみたいな幻想の存在が……」

 

 

ぴたり、とシノの動きが止まった。

 

 

「……基礎設計?」

 

「え、あ、ああ。フレームから見直せば、もっと簡略化できる場所が……」

 

「いや、そうだ、そうだよ。そもそも初手から間違ってたんだ!」

 

 

ダンッ!と勢いよく立ち上がり、冷蔵庫の中の栄養ドリンクを数本まとめてマイジョッキに注いで飲み干す。

 

過剰投与のせいでブッ、と吹き出してきた鼻血をぬぐい、設計用のコンピュータから『G3』シリーズのフレームを呼び出した。

 

 

「これは、G3シリーズのフレームか?見たところG3X用の補強フレームだが……」

 

「これだよ!そもそも基礎となるパーツ自体は限界まで簡略化してるじゃないか!G3MILDを作った時に!!」

 

 

限界まで簡略化・軽量化し、生産性を跳ね上げたデモニカG3シリーズ、それがG3MILDだ。

 

式神マザーマシンでの量産のために再設計したときに、どうすればコスト・重量を抑えつつ生産性を上げるための簡略化ができるのかをできる限り話し合った。

 

そして完成したG3フレームは、それらの条件を満たしつつ『拡張性』に優れた名機となったのである。

 

 

「G3Xの補強フレームを軸に、G4のパーツを『G3Xの規格に合うように再設計』!

 G4をそのまま量産する気でいたから駄目だったんだよ!簡略化にしても限界がある!

 G4を『規格統一前のハイエンドパーツの塊』として考えればいいんだ!」

 

「……つまり、G3MILD→G3→G3Xと強化改造する先に、G4を据えるということか?!」

 

「そゆこと!流石に完全なワンオフハンドメイドのG4には劣るけど、それでもハイエンドデモニカとしての要求スペックは十分に満たせるし、G3Xで物足りなくなった黒札の選択肢、っていう当初の目的には最適だ!」

 

 

なにせ使ってるG3Xに『強化用のハイエンドパーツ』を組み込むだけでいいのである。

 

性能不足のジムを近代化改修でジムⅡにしていたところに、さらにジムⅡをジムⅢにする選択肢を付け加えたというだけなのだ。

 

G4のパーツをもとに、G3Xと規格を統合。カートリッジスロットや外付け食いしばり等も追加パーツやブラックボックスのアップグレードで実現できるように再設計。

 

基礎フレームや半分近いパーツをG3Xから流用できる以上、コスト面もぎりっぎり『買えなくはないが高い』で収まる範疇だ。だからお前らマッカで払え。

 

ともあれ、方針が決まればサクラも動ける。ともに脳みそをフル回転させ、G4から可能な限りのパーツをG3Xへの移植用に最適化。

 

現在移植できるパーツをリストアップし、シュミレーション上でG3Xのフレームに組み込めば……。

 

 

「……まだペーパープランやシュミレーターの中だけだけど……!」

 

「ああ。これならいけるぞ……!」

 

 

デモニカG3シリーズ最新型。

 

LV30以上の高レベル使用者向けハイエンド高級量産機。

 

 

その名は……『デモニカG4X』

 

静かな産声を上げた新たな武器は、この数日後にガイア連合ロボ部へ『量産型G4プランへの回答』として持ち込まれる事になるのだった。

 

 

*1
故郷防衛を頑張る俺たち 『田舎ニキ、切れる。』でのデータ。天使相手に有効なのは実証した上で、衝撃と威力の兼ね合いは血を吐きながら続ける悲しいマラソンである。





『故郷防衛を頑張る俺たち』のロボ部掲示板回を見る

よっしゃガンダムみたいなワンオフ機であるG4の量産計画を期待されて七転八倒するシノ書いたろ!

向こうもエンジェルチルドレン編参考にして返してるから小説でキャッチボールじゃー!

その結果がコレだよ!



登場人物資料『士村 桜(シムラ サクラ)』

年齢 25歳


主な習得スキル

刹那五月雨切り
タルカジャ
ラクンダ
デカジャ
チャージ




兎山 シノの友人であり、今世の幼少期から付き合いのある幼馴染の女性。

ともに転生者だったのだが、高校卒業あたりから疎遠になりガイア連合で再会した。

外見はインフィニット・ストラトスの『織斑 千冬』。ただしあんまり鍛えてないので体つきが一部だらしない。

真面目で常識的、若干口調が厳しいこともあるが自由人なシノとは良相性なデコボココンビ。

現在はガイア連合技術部にてシノの相方兼助手のような立ち位置となっていて、霊山同盟支部でのオカルトアイテム生産指導や各種弾丸の製造工場の立ち上げ等の実績を持つ。

シノが才能を磨き続けた天才なら、彼女は努力で相応の成果を出している秀才(ただし黒札基準)。

シノの変態武器を再設計・再調整して良品に変えたり、効率最優先のスパゲッティコードをきれいに整理しなおしたり。

いないといろんな意味で困る人材なのもあり、周囲からの評価は高い。


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ハルカ君、修道士になる。


作者も含めて、メシア教穏健派以外の一神教に入ってるならセーフ!という理屈をちょくちょく見るが。

あれ?そういえばメシア教以外の一神教ってあんまり描写されてなくね?という理由で書いた短編。

時系列はエンジェルチルドレン編の少し後ぐらい。

相も変わらず設定・キャラはご自由にお使いください。


 

【S県・K県の県境某所 土曜日 午前8時24分】

 

 

「支部長としての仕事とはいえ、色々急すぎない……?」

 

 

そんなことをぼやきながらも、田舎のあぜ道という言葉がぴったりな畑ばかりの風景を歩くのは、もはやお馴染み『ギルス』こと鷹村ハルカである。

 

霊山同盟支部の支部長として、K県とS県の県境を中心に『取り込み』のための訪問中だ。

 

霊山同盟支部発足後、元々霊山同盟と付き合いのあった霊能組織は可能な限り取り込む事にした霊山同盟支部。

 

S県中部~西部は霊山同盟と犬猿の仲であったニノウエ家・ヒノシタ家という家を中心にまとまっているようなので、まずは組織力で負けないよう足場固めを優先することになったのだ。

 

巫女長とイワナガヒメ曰く『戦後のメシア教によるオカルト狩りで真っ先に逃げだすかメシア教に媚び売った連中の末裔』とのことで、正直霊山同盟組からの印象はよくない。

 

ガイア連合の支部ができた以上『負け』はないが、かといって勝つまでにどれだけの時間がかかるのかはこういった仕込みの段階でだいぶ変わってしまう。

 

とはいえ霊山同盟とつながりがあるということはガイア連合の噂もある程度届いているわけで……。

 

 

「まさかあの異界を単身で制覇してしまうとは……」

「うわさに聞く黒札とはこれほどの、え、黒札じゃない?」

「……つまり黒札の霊能力者はこの少年よりも強い?」

 

「「「これはもうガイア連合に全振りしかない!!」」」

 

 

だいたいこんなノリで東部は急速に纏まりつつあった。

 

同時に見合いやら縁談やら許嫁やらおねショタワンナイトラブやら、行く先々でハルカにアレやコレやが勧められまくるのだが……とりあえず全て断ってダッシュで次の予定地に向かう。

 

そもそも小学生に勧めるなよ……というまっとうな論理感を持った人間はオカルト界隈にはいない。

 

いや、いなくもないかもしれないが、少なくとも地方霊能組織はそこらへん基本ガバガバである。

 

なにはともあれ、支部長としての仕事で回る予定の場所は次で最後。一神教系である【調和派】の教会だ。

 

 

(たしか巫女長の紫陽花さんが言うには、オカルトとの関わりは薄い教会らしいけど……)

 

 

薄い、であって0ではないのがキモだ。

 

戦後のメシア教による各地への霊的粛清の後、メシア教以外の一神教系外国人もまた、肩身の狭い時代がやってきた。

 

当然のように比較的大手の教会では【事故死】や【行方不明】も多発したようで、そんな時代を運よく生き延びた宗派の1つらしい。

 

とはいえ念には念を入れ、洗脳・毒物対策も万全にして向かうことになった。

 

【一神教調和派】、郷に入れば郷に従えという日本の言葉を体現したかのような宗派である。

 

戒律は緩く、あくまで一神教的な文化を継承する程度にとどめ、メシア教の弾圧から逃げ隠れしながら存続してきた宗派だ。

 

おおよそのスタンスはこの教会の大シスターの言葉を借りるなら。

 

 

『聖書なんてーのは守ってりゃある程度健やかに過ごせます、って健康マニュアルみたいなモンなんだから、無駄に崇め奉って絶対視するんじゃないよ!書いたのが神やら神の子やらその弟子だからって!聖書は人間のためのモンで聖書のために人間がいるんじゃないんだよ!!』

 

 

……である。おかげでいまだにメシア教穏健派との仲がよろしくない。

 

 

「ここか……あんまり言いたくないけど、メシア教の教会に比べると……」

 

 

教会の入り口まで到達し、ノッカーをたたく前に建物を見上げてぽつり。

 

その先の「地味だな……」という感想が口を突いて出ることはなかった。

 

気遣いからここでストップをかけたのもあるが、バターン!と音を立てて勢いよく教会の入り口が開いたからである。

 

 

「アイリ!アンタまた礼拝サボって二度寝……ん、なんだいアンタは?」

 

「うぇい?!あ、えー、えーっと……が、ガイア連合霊山同盟支部の支部長、デス」

 

 

出てきたのは恰幅の良い老婆……この教会の大シスター【シスター・グリムデル】であった。

 

出身はスイス。前にこの教会を担当していた大シスターが【事故死】した後、メシア教の粛清を恐れて誰一人赴任したがらない状況で唯一手を挙げた女傑だ。

 

戦後の混乱期を硬軟織り交ぜた交渉と隠遁で生き延び、その後もメシア教以外の一神教にとっての駆け込み寺として現代までこの教会を維持し続けた。

 

異能者としてはメシア教のテンプルナイトには及ばない程度の『LV4』。霊山同盟との関係がなければ教会を守る結界の維持も難しいレベルである。

 

 

「ほー、アンタが新しいここらのトップかい。子供と聞いてたが、本当らしいね」

 

「……子供でも、一応支部長の仕事はやれてますが……」

 

 

その物言いに少しだけムっとしたハルカ。

 

霊能組織の対応にはピンキリあったが、小学生ということでナメられる事も少なくなかったのだ。

 

普段はレムナントに同行してもらうことで『大人』担当を任せているが、今回は式神ボディの調整が必要とのことで山梨支部でシノに預けてきている。

 

エンジェルチルドレン事件の後から彼の式神となった元メシア教の天使『レムナント』であるが、この時点では信頼よりも困惑と見定めという感情が強かった。

 

なにはともあれ、明らかに自分が支部長ということに不満があるようなのだが……。

 

 

「やれるやれないの問題じゃないんだよ!アタシが不満なのはアンタに『子供』をやらせてやれない周りのバカ共さ!」

 

「えっ」

 

「逆に聞くけどアンタ、天才的な政治家の才能があるからって小学生を総理大臣にする政治家をマトモだと思うのかい?ンなわきゃないだろう!」

 

「いや、まあ、そうですけど」

 

「最悪責任とれる人間がトップに立って次代を育成ならまだわかるがね、その次代を育成前にトップに据えるんじゃないよ!バカどもが!

 

 ホモ野郎の阿部か若作りの紫陽花あたりがトップに立ってアンタを育てるのが常識ってもんだ!」

 

「アッハイ」

 

 

もう10割正論過ぎてあっという間にハルカはやり込められた。

 

一応反論や論争も可能ではある、あるが。

 

これらの言葉に込められた感情がただ文句つけるだけじゃなく『こんな子供に重い荷物背負わせるな』という思いやりだったことを感じ取ってしまったのだ。

 

一神教だからと警戒して読心スキル等も強化してきたのだが、心の内を探ってもすべて本音である。

 

 

「まあいい、決まっちまったモンは仕方ない。今日は視察だったね!」

 

「え、ええ。まあ、最近メシア教穏健派がさらにきな臭いですから、一応一神教系の組織には一度監査が入ることになって……」

 

「ああ、阿部のヤツから聞いてるとも。それじゃこれだ」

 

 

はい?と首を傾げたハルカに手渡されたのは、ホウキとチリトリ。

 

なにこれ?と言葉を返す前にひょいっと持ち上げられて、そのまま教会の中へと連行。

 

 

「阿部のヤツには視察ついでにコキ使っていいって言われてるからね。

 新米修道士としてココで暮らしながら視察してもらうことになったのさ」

 

「…………あのクソホモ野郎オオオオオォォォォォッ!!!!!」

 

 

いつか殴る、何度目かになるその決意を固めたが、毎回模擬戦では手も足も出ないハルカなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……で、3日間だけ過ごすことになったけど……なんというか、普通だ)

 

 

6時に起きて、7時までは朝の祈りとミサ。

 

それから朝食を取り、30分ほどの祈りの時間。

 

その後の午前中は教会の掃除やボランティア、内職や畑の管理などを昼までこなす。

 

12時に昼食を取った後、午後は再びそれらの作業に戻り、6時頃には切り上げてその日の労働は終わる。

 

夕食を取り、晩の祈りを終えた後は自由時間。ただし基本的には夜更かしせずに早めに寝る。

 

祈りの文句なんかは下調べしてきたので問題なく唱えられたし、早朝に起きて鍛錬しているハルカからすれば馴染むのは簡単だった。

 

寧ろ、厳しい所だと【朝三時起き】だったり、日に5回の祈りがあったりするので、この教会はだいぶ緩い方と言える。

 

言えるのだが……。

 

 

(修道士と修道女の比率で圧倒的に前者が少ないのが微妙にやりづらい……)

 

 

修道院、というとやはりシスターのいる場所というイメージが日本では根強いようで、修道女はともかく修道士はあまりココに来ないらしい。

 

養護施設としての側面もあるため子供の比率も多く、普段なら幼い修道士/修道女が同じぐらいの数いるのだが……。

 

 

「ねえねえ、アンタがリカの言ってた『ヒーロー』でしょ!」

「アネさん追ってきた天使をぶっ殺したってマジ!?」

「わー、予想よりかわいい顔してるじゃん!修道士じゃなくて修道女でも通るんじゃない?」

 

「これ!だよ!もう!」

 

 

『エンジェルチルドレン事件』の後、黒羽市にて保護された少女達。その行先は様々だった。

 

最も多かったのは、リーダー格であったリカと共にガイア連合に所属した者。

 

アウトローなのはもう勘弁、と足を洗って学校に通いなおしたり、親元に戻った者。

 

役所の監視付きとはいえ、ガイアコーポレーションの下請けとしてアルバイト中の者。

 

その中には『親の方に問題がある』少女たちも当然いたわけで、そんな少女たちの引き取り先の1つがこの教会だったのだ。

 

ちなみにメシア教穏健派からも『罪滅ぼしとしてウチで面倒を!』という声が上がったが、マジギレ5秒前なガイア連合の面々が一切シャットアウトした。

 

というわけで、保護された少女たちが多数シスターになっていたため、教会の男女比率が大幅に女性に偏っていた。

 

オマケにハルカの事をリカから聞いていたようで、もみくちゃの扱いは3日程度では収まりそうもなかったのである。

 

 

「アンタらいつまで騒いでるんだい!!もうすぐ消灯時間だよ、とっとと寮に戻りな!!」

 

「げっ、オニババが出た!」

 

「聞こえたよアイリ、あんただけ明日の朝飯を塩スープにしてやろうか!」

 

「虐待だー!あれただのあっためた塩水じゃん!!」

 

(最低でも一回はソレを飲まされてるのに懲りないのか……)

 

 

わーっ!と声を上げて散っていった少女達。中学生~高校生ぐらいの年齢であり、平日は近所の学校に通っている。

 

既に『覚醒』してしまっている少女もいるので、そういった子供はガイア連合の援助を受けながら、霊山同盟でレベリングに励む予定らしい。

 

覚醒してしまった以上、悪魔に負けない程度には力をつけなければ、いつか目をつけられてエサになるだけ……この世の摂理とはいえ、ハルカにとっては複雑である。

 

 

(親元に戻った子とか、足を洗って一般人に戻った子とかも、アルバイト代わりにハンター協会に登録してる状態だからなぁ)

 

 

本物の悪魔や天使、魔法や超能力が存在すると知ってしまった以上、見て見ぬふりはできない。

 

親元に戻った少女は家族を守るために、一般人に戻った少女はもう一度こちら側に踏み込む前の最後のモラトリアムのために。

 

リカを慕ってついてきた少女達だけあって、ド根性はそこらの大人よりよっぽど鍛えられていた。

 

なにはともあれ少女達から解放されたが、はっきりいって今回の視察は『問題なし』以外の判定が下せそうにない。

 

式神・ギルスには様々な探査機能がついているが、それらのセンサーでも隠し部屋や危険なオカルトアイテムの類はなし。

 

洗脳アイテムである『天使の羽』の使用跡もないし、賛美歌による簡易洗脳の形跡もなし。

 

というかそもそも天使に該当する悪魔の出現痕跡無し……シロもシロ、真っ白だ。

 

結果として土日丸々教会で生活するハメになったが、明日の朝にはレムナントが迎えに来てトラポートで帰る予定になっている。

 

 

(修道服ともこれでオサラバだな……多分今後一生着ることは無さそうだし)

 

 

一神教への隔意はないが、メシア教に中途半端に近いせいで複雑な感情がぬぐえない。

 

鷹村家があそこまでクズだらけになった原因の一端は戦後のメシア教だし、エンジェルチルドレン事件はメシア教の内紛だし。

 

はっきり言ってハルカ個人としてのメシア教穏健派への認識は『遠くにいる分にはぎりぎり許容範囲だけど近寄ってきて欲しくない』相手だ。

 

過激派?仮面ライダーにとってのショッカー以外の何物でもない。

 

あとは修道士の少年たちがいる寮に戻って眠るだけ……と思っていたのだが。

 

 

(……? 人の気配?)

 

 

磨き抜かれた五感が、ほんのわずかに人の気配を捉えた。

 

寮に向かおうとしていた道を引き返し、気配がした方向……祈りをささげる教会堂の方へと歩みを進める。

 

気配を消し、足音を消し、呼吸も最小限にしながら音もなくドアを開けていく。

 

念のためにいつでも変身できる準備だけは整えてから、教会堂へと踏み込んだ。

 

 

(気配は……一人か。アナライズ結果は……シスター・グリムデル?)

 

 

見れば、教会堂の中でシスター・グリムデルが一人佇んでいる。

 

女神像に向き合い、手を組んで、目を閉じて、祈りの構えを取ったまま。

 

あくまで一神教の知識は学問程度にしか学んでいないハルカでもわかるほどに、見事な『祈り』であった。

 

 

「……シスター・グリムデル。もう消灯時間ですよ」

 

「ん?ああ、支部長かい」

 

(動揺はナシ、周囲のMAGの流れを『感じ取った』けど、ホントにただ祈ってるだけか)

 

 

仮面ライダーにはこの手の『超感覚』が割とデフォで備わっている、という理由で、阿部の手によりギルスには様々なセンサーが内蔵されている。

 

MAGの流れや気配を感じ取るのもその機能の1つだ。なので『メシア教っぽい気配のMAG』を少しでも感知したら鎮圧するつもりだったのである。

 

 

「悪いね、いつも消灯時間の後に祈りをささげるのが日課なのさ」

 

「……? 待ってください、なぜ他の修道士や修道女を眠らせた後に?」

 

「そんなもん決まってるだろう。 

 あの子たちの無事を、あの子たちに祈らせるわけにゃいかない。

 私利私欲のために祈ったところで、天の父がそれを鑑みてくれるわけがないからね」

 

 

(……ああ、なるほど。この人はこの上なく『本物』だ)

 

豪胆な女傑であるシスター・グリムデル。しかし、その本質は純粋すぎるほどに『修道女』だ。

 

誰もが行きたがらないメシア教の影響下にあった戦後の日本に赴任し、他の一神教の信徒にとっての駆け込み寺で居続けた。

 

駆け込んできた彼ら/彼女らが元の宗派に復帰するのも一切止めず、来るもの拒まず、去る者追わず、ただし悪ガキは尻叩き。そのスタンスで何十年もやってきた『本物の宗教家』である。

 

この祈りも、ハルカが読心スキルやMAGの読み取りで探ったうえで断言できるが……裏表無しに、ここにいる修道女・修道士たちの無事を祈ったモノ。

 

その信念に感じ入ったからこそ、ハルカはシスター・グリムデルの隣に立ち、同じように祈りの構えを取った。

 

 

「……付き合う必要はないよ?言われて祈るのはワルガキだけで十分さね」

 

「なら、自分から祈りたくなったから祈るのはいいんですよね?シスター・グリムデル」

 

「……好きにしな、ひねくれモン」

 

 

フン、とハルカを鼻で笑いながらも、その表情はなぜか柔らかく。

 

隣でハルカが祈ることを一切止めず、シスター・グリムデルとハルカは一時間弱ほどそこで祈り続けた。

 

救いを求めて訪れた、子羊だちの健やかな明日を。

 

……ただ一点だけ違うとすれば。

 

 

「ちょいといいかい、支部長」

 

「? なんですか?」

 

「アンタは見る限り、『生きなきゃいけない』理由だけで生きてる。あるいは『死んじゃいけない』理由のために……もしくはその両方だ」

 

 

図星を突かれた、とハルカの目がわずかに見開かれた。

 

誰かのために生きなければいけない、仮面ライダーであるために生きなければいけない。

 

そんな思考だけでハルカは生きている。あるいは、そんな未練のために『生かされている』。

 

 

「何年も拗らせたガキみてりゃピンとくるさ……説教できるほど立派な女じゃないがね、良くお聞き。

 

 1つでいい、アンタが『このために生きたい』って思えるモノを見つけな。

 

 好きな女でも将来の夢でもなんでもいい。生きなければいけないって思いは麻酔にしかならない。

 

 ……『生きたい』って思いがいつか、アンタの背を推す力になる」

 

 

「……肝に銘じます、シスター・グリムデル」

 

 

鷹村ハルカが、メシア教以外の一神教への苦手意識を真に克服したのはこの時であった。

 

視察任務を終えて帰ってきたハルカを見た巫女長は、一言だけ感想を語ったという。

 

「まるで胸のつかえがまとめて取れたようだった」と。

 

 

 





登場人物資料 『シスター・グリムデル』

本名 ジェニファー・グリムデル

年齢 64歳

LV 4→17

ディア
メディア
ペンパトラ
ザン
マハザン
テトラジャ

etc.


一神教調和派の大シスター。

外見は『BLACK LAGOON』のヨランダ。ただし両目ともに無事。

性格は見ての通りの女傑オブ女傑。肝っ玉かあちゃん型シスター。

よいこには手作りのビスケット、悪い子には尻叩きと説教。

ただし慈しみの心はガチであり、信仰心もひじょーに健全かつマトモ。

天使どころか神ですら絶対視はしておらず、なんなら四文字が真2みたいな事しようとしたら。

「いい加減子離れしな!!」

って言いながらあのハゲ頭ひっぱたくタイプ。

この話の後にガイア連合霊山同盟支部からG3MILDが届き、それを使ってレベリングを開始。

修道士/修道女たちも希望者だけはレベリングに参加させ、それ以外はシェルターへの避難訓練で終末対策をしている。



ちなみにシスター・グリムデルは布教にそれほど熱心ではなく、あくまで来るもの拒まず去る者追わず、のスタンス。

が、彼女の教えを受けた修道士/修道女は大なり小なり似たようなスタンスの神父やシスターに育つので、

ガイア連合の一部黒札からは

『地元にメシア教穏健派の教会作られるぐらいならシスター・グリムデルの弟子を誘致して教会立てようぜ!』

という理由で大人の修道士/修道女へスカウトが飛んできている。

シスター・グリムデルも裏があることは承知でソレを受けているが、それはそれとしてメシア教穏健派との諍いに弟子が巻き込まれたりしたら本人が殴りこんでくる模様。

そこそこの確率でハルカもギルス状態で乗り込んでくるので、何気にメシア教穏健派による布教という名の侵食への牽制にはなる。

欠点は一神教の教会を誘致ってだけで地元霊能組織との兼ね合いが必要なことと、教会を建てる土地と金であるが、黒札ならガイア連合パワーでごり押しが利くのであった。



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自衛隊S地方協力本部のお話


『救えぬ者/救われぬ者』編の前後ぐらいのお話。


【S県某所 自衛隊協力本部 本部長室】

 

 

 

 

 

(これは……どうしたものか)

 

 

 

 

 

自衛隊S地方協力本部長、木筆(きふで)一等陸佐。 

 

地味に長い肩書だが、ざっくりいえばS県の陸上自衛隊で一番偉い人である。

 

S県における陸・海・空の自衛隊の総合窓口である自衛隊協力本部のトップであり、父親は元防衛大臣。

 

タレ目が特徴的な男性で、小太りに見える体だが陸自の訓練は病欠もなく皆勤賞の真面目な自衛官。

 

特筆すべき才能は見当たらないが、人が良く慕われる。それが木筆一等陸佐という男であった。

 

そんな彼を悩ませているのは、以前から『とある同期』より上がってきていた『悪魔』に関する報告書。

 

最初は半信半疑だった彼も、ゴトウ部隊や各地方の協力本部、さらに警察までが運用し始めた『デモニカ』を身に着けたことで存在を確信した、してしまった。

 

さらに五島陸将より渡されたレポートに記された、現在の日本の絶望的な状況も。

 

そこに付け込んで浸食しつつあるメシア教穏健派と、唯一の希望であるガイアコーポレーション……『ガイア連合』の存在も。

 

このままいけば霊的な防護が穴だらけである日本は悪魔や古き神々、そして天使を名乗る悪魔の手によって蹂躙されてしまうということも。

 

 

(だが、私にできることはなんだ……?)

 

 

木筆一等陸佐の長所は『人のよさ』と『真面目さ』だけだ。はっきりいって、その2つ以外に彼に取柄はない。

 

彼自身今の地位は不相応だと思っており、こんな地位につくハメになったのは元防衛大臣だった父の影響だと彼も考えていた。

 

彼を出世させれば、かつて父が現役時代に作った派閥に取り入ることができる……そんな魂胆が丸見えだったのである。

 

逆に言えば、彼の地位とはそんな『父親の作った派閥に取り入りたい人間』が作り上げた砂上の楼閣。

 

そんな『えこひいき』を受けていると気づいたのも、一等陸佐への昇進が明らかにほとんどの同期より早いと気づいたときなのだから。

 

別にその地位自体を失うのはどうでもいい、彼はいつだって任された職務を真面目にこなしてきただけだ。

 

海外派遣に行けと言われれば行き、震災の救助に行けと言われれば行き、自衛隊反対のデモの警備をしろと言われればやった。

 

任された地位と仕事を一生懸命にこなす……それだけが彼の取柄だった。

 

だからこそ、こんな『英雄のような器と判断力』が求められそうな場面において、彼は明らかに力不足だったのである。

 

だったのである、が。

 

 

「……それでも、私は本部長だ……本部長としての仕事は、せんとな」

 

 

本部長室にある電話を手に取り、県内の駐屯地へと電話を掛けた。

 

協力本部長としての『責任』を果たすために。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【数日後 自衛隊協力本部 本部長室】

 

 

 

本部長室に集まっているのは、県内の駐屯地から集められた駐屯地司令だ。中には自衛隊学校の学校長を兼任している者もいる。

 

文字通り、県内の自衛隊において一定の地位を持つ者を可能な限り秘密裏に集めたのだ。

 

ゴトウ部隊や『協力者』から受け取った『デモニカG3』、および『デモニカG3MILD』を装備させた自衛官に周囲を警戒させる。

 

警備担当者や駐屯地司令には念には念を入れてガイアカレー*1まで食べさせた。

 

少なくとも、今の木筆本部長ができる対策を最大限行ったこの『密会』。これこそ木筆にとって一世一代の賭けであり、S県における対オカルト戦線の転換期であった。

 

 

「今、なんと?木筆本部長」

 

「……わ、我々自衛隊S地方協力本部は、ガイア連合霊山同盟支部と協調路線を取る!

 

 デモニカG3シリーズの供給や、『対悪魔』戦闘用の装備の補充は今後、霊山同盟支部を中心にガイア連合から行う。

 

 さしあたっては、霊山同盟支部が進めている『東海道霊道化計画』への全面的な協力をお願いしたい」

 

 

正気ですか本部長、という感情が集めた駐屯地司令全員に共有される。

 

そりゃあそうだ、悪魔云々は彼らの所にも情報として流れてきているが、それに対する信用度は全員バラバラ。

 

はっきりいってゴトウ部隊を『防衛費の金の流れを少しでも増やして中抜きしたいヤツらの思惑の結果』なんて言いきる人間もいるのだ。

 

悪魔という存在そのものについての確度もそうだが、それ以上に防衛省が大きく動いていないというのが大きい、大きすぎる。

 

いわば、この『悪魔対策』は完全な独断専行。どこの協力本部も駐屯地も、防衛省の意向ガン無視で動くしかないのだ。

 

 

「う、うむ、皆の言いたいことは良くわかる。私自身悩んだ、本当にこれでいいのか、と」

 

 

「悪魔の存在については我々の中でも意見が分かれます。実在するのかしないのか、すら。

 仮に実在するとしても、それに対抗している霊能組織・霊能者一族の噂もつかんでおります。

 それでもなお、我々自衛隊にも悪魔対策が必要だと?防衛省の意向を確認もせず?」

 

 

 

「……防衛省はだめだ、それどころか政府も含めてメシア教のイエスマンでしかない。

 霊能組織もピンキリだが、最大手である根願寺ですら近年のオカルト災害には対抗できない。

 唯一対抗できているのが、ガイアコーポレーションが組織した対オカルト部隊……」

 

 

『ガイア連合』だけだ、と語る木筆の真剣な顔色に、駐屯地司令達は複雑な表情を浮かべる。

 

実際はガイア連合が先でガイアコーポレーションが後なのだが、彼が知っているわけもないしそこはどうでもいい。

 

各駐屯地司令も近年の行方不明者や不可解な事件について多少なりとも調査しており、半信半疑とはいえオカルトチックな『何か』の存在を感じ取っていたのである。

 

それでも現実逃避して「悪魔なんて存在しない!」とここで怒鳴り散らすような目先の利かない人間は、駐屯地司令などになれはしない。

 

いざというとき、彼らの一挙一動が部下の命や市民の生死に直結するのだから。

 

 

「……では、そのガイア連合と協調路線を取るに至った理由は何ですか?

 我々は市民の平和と安全を守る自衛官です。市民を守るために悪魔と戦うのは問題ない。

 しかし、こう言っては何ですが……本部長は『人が良すぎる』所がある」

 

 

ガイア連合はガイアコーポレーション……不可解な吸収合併や資産運用を繰り返し巨大化した巨大企業の手先、という情報を基にするのならば。

 

真面目さと人の好さを持っている、いや持ちすぎているこの本部長を、口先三寸でだまくらかして取り込む程度は簡単なはず。

 

人間的な好悪はともかく、狡猾な陰謀や裏取引などにもっとも向かない人種だと知っているからこその懸念である。

 

そして、木筆自身も「君の言うことはもっともだ」と返答した上で……。

 

 

「それでも、ガイア連合……いや、S県最大の拠点である霊山同盟支部に協力する理由がある。

 

 霊山同盟支部の支部長、つまりS県の悪魔対策の責任者は……中学生の少年だ」

 

 

「……は? ど、どういうことですか本部長!?」

 

「S県の人口は約360万人ですよ!?その安全対策を行っているのが……子供!?」

 

「霊能組織に大人は、いや、マトモな大人はいないのですか?!」 

 

 

驚愕を隠し切れない駐屯地司令達に、「う、うむ。そうなんだ」と本人もいまだに納得がいっていない顔色で言葉を紡ぐ。

 

彼らを呼ぶまでの数日間の間に、木筆本部長は霊山同盟支部と一度接触していた。

 

警護にあたっているG3シリーズはその際秘密裏に貸し出されたモノであり、実は本部長室には盗聴・盗撮対策の結界まで張られている。

 

 

「霊能組織は、管理能力と同時に霊能力者としての能力も高く評価される……らしい。

 トップである少年も単なる傀儡ではなく、稀代の霊能力者の一人……だ、そうだ。

 

 だが、諸君。 それでいいのか?」

 

 

驚愕と困惑にみちていた駐屯地司令達をぐるりと見まわし、木筆本部長は人生で一度あるかないかの勇気を絞り出す。

 

テーブルの上に置いてあった水を一口飲んで、自分がガイア連合霊山同盟支部に協力すると決めた理由を話し始める。

 

 

「霊能力者としての才能があるというだけで、中学生の少年を鉄火場に立たせ続けるのか?

 防衛省の許可が出ないから、政府がメシア教の傀儡だから、市民団体の連中が煩いから。

 我々自衛官は、常に無駄飯食らいなのが最善なのは否定しない、

 税金の無駄遣いだといわれ続け、銃など訓練以外で撃たないのが最高だ。

 

 だ、だが……少なくとも私は。 職務の中でも、教官からも、防衛大学でも……」

 

 

『子供に殺し合いをさせている間、尻でイスを磨けとは教わってこなかった』

 

 

たったそれだけだ。彼が『ガイア連合』ではなく『霊山同盟支部』に協力すると決めた理由は。

 

職務にまじめで、自分の役職と仕事を一生懸命にこなす。

 

それが彼の唯一の取柄ならば、こんな現状になんの感情も抱かないはずがないのだ。

 

子供の頃から、だれかを守れる大人になれと父親に言われて育った。

 

防衛大学では、自衛官としての心得を徹底的に叩き込まれた。

 

自衛官になった後も、綺麗ごとと根性論混じりの『責務』を学び続けた。

 

 

「わ、私はなんの取柄もない人間だ。依怙贔屓で本部長になってしまった男だ。

 

 与えられた職務を、できるかぎりこなす……それしかできない人間だ。

 

 同期の【五島陸将】のような英雄では、ない。超人でも、ない。

 

 だがしかし、一人の自衛官として……大人として……男として……。

 

 せめて、子供の味方ぐらいはしたいと、思うのだが……だから……」

 

 

ぽつり、ぽつりとこぼれる本音は、段々と尻すぼみに小さくなっていく。

 

だがしかし、そこには【自衛官】としての1つの模範があった。

 

冷や汗脂汗だらけで、顔色も悪く、自信なさげで威厳などかけらもない。

 

しかし、彼の姿と【この言葉】だけで、ここにいる人間は腹をくくった。

 

 

「……私は、【吉田茂 元首相】の言葉に、殉じようと思う」

 

 

 

『君たちは自衛隊在職中 決して国民から感謝されたり、

 歓迎されたりすることなく 自衛隊を終わるかも知れない。

 非難とか誹謗ばかりの一生かもしれない。ご苦労なことだと思う』

 

 

 

『しかし、自衛隊が国民から歓迎されチヤホヤされる事態とは、

 外国から攻撃されて国家存亡のときとか、災害派遣のときとか、

 国民が困窮し国家が混乱に直面しているときだけなのだ』

 

『言葉を換えれば、君たちが日陰者であるときのほうが、国民や日本は幸せなのだ』

 

『どうか、耐えてもらいたい。

 自衛隊の将来は君たちの双肩にかかっている。しっかり頼むよ』

 

【防衛大学一期生に向けた言葉。 吉田茂 著 『回想十年』より引用】

 

 

彼らからすれば耳にタコができるほど聞いた、あるいは読んだ言葉である。

 

日陰者でいいではないか、誰にも知られず悪魔と戦い市民を守る、結構な事ではないか。

 

 

「誰かが、ここにいて、戦わねばならない。

 

 誰かが、市民を日向に置くために日陰にいなければならない。

 

 わ、私は……日陰(ここ)にいようとおもう。役に立つとは、思えないが。

 

 ソレが、私の仕事で、役目なのだから」

 

 

ザッ、と。ソレを聞いた駐屯地司令達が一斉に立ち上がる。

 

びくっと木筆本部長の肩が跳ねるが、そんな彼に見えるように駐屯地司令達が『返答』を返す。

 

そこに言葉はなかった、申請書の一枚もなかった、あったのはただ1つ。

 

この場にいる全員が叩き込まれた仕草……『敬礼』のみであった。

 

それを見た木筆本部長もまた、一瞬驚いた後にゆっくりと立ち上がる。

 

ああ、そういえば、と。彼は防衛大学にいた頃を少しだけ思い出した。

 

 

真面目さと、思いやりの心と、もう1つ。 

 

『敬礼の綺麗さ』だけは教官に褒められたな、と、敬礼に敬礼で返しながら。

 

 

この日この時から、S県の自衛隊による『対オカルト戦線』が開戦した。

 

 

 




登場人物資料 『木筆一等陸佐』

本名 木筆 正良(きふで まさよし)

肩書 自衛隊S地方協力本部長(ゴールドカード)

LV 0→1


五島一等陸佐と防衛大学で同期だった自衛官。

外見は『HELLSING』の『シェルビー・M・ペンウッド』。

ただし日本人なので髪色や瞳はアジア系の色合いになっている。

名前も ペン→筆 ウッド→木 と 筆木=不出来のダブルミーニングである。


真面目で実直、優しいけれど優柔不断で自己肯定感低め。

ただしここぞという時は自分のケツにケリを入れて決断できるタイプ。

実は霊山同盟支部に連絡を取った時点ではまだうじうじしていたが、使者として来たハルカが支部長と知った時点でいろいろとスイッチが入った。

この後は霊山同盟支部と協力し合いつつ、G3シリーズと各種対悪魔兵装やオカルトアイテムを実装しつつレベリングを進めていく。

なお、彼個人は霊的な才能も戦闘センスも無いため、今も『自分にできる仕事』を一生懸命に頑張っている。

具体的には、他県の協力本部への働きかけや、警察の対オカルト対策班との協調等。


ちなみに、同期だった煉獄ゴトウ曰く『覇気は一切感じないが器は大きく気の優しい漢!』。

意外と向こうからは評価されていたらしい。


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異形の造花

【某月某日 S県某市 廃墟の異界】

 

 

夏が終わり、秋に入り始めたS県の某所にて、COMPを操作し探索を行う二人組の少女。

 

 

「マッパー完了、内部に妙なトラップや空間湾曲は無し、と」

 

「こっちも偵察用式神戻ってきたよ。事前の情報通り、いるのはあーしらで狩れる悪魔のみ」

 

 

【SMART BRAIN】のロゴが入った衣服を身に着けた二人組は、都市開発計画で取り壊し予定の廃墟の前で建物を見上げている。

 

……半終末に突入してからというもの、地脈の活性化による異界の発生頻度上昇、及び異界の難易度上昇は無視できない数字になりつつある。

 

比較的安定していたS県も、最近は他の都道府県と大差ない危険地帯に変貌している。

 

このような【ちょっと曰く付きの建物】が低位の異界化することもザラにあり、ダークサマナーの集団が大悪魔クラスの悪魔を召喚した例すらあった。

 

今回は式神の偵察によってただの低位異界だと判明しているため、スライムやモウリョウ、ガキ等を始末するだけ簡単な仕事だ。

 

二人はアタッシュケースから【ベルト】を取り出し、腰に巻き付けながらふと思う。

 

 

((ホント、あーし/私はなんでこうなった……))

 

 

……10代の少女にはとても見えない、遠い所を見ているような目をしながら、彼女たち二人がココに来ている経緯を思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【7月某日 S県某市 繁華街 裏路地】

 

 

「クッソ、なんだよ、アイツら……!?」

 

 

夜まで騒がしい繫華街の裏路地、派手なネオンが目立つ表通りとは違い、アングラな店や廃ビルだらけのダーティな区画。

 

そんな裏路地を、息を切らしながら走っている少女が二人。

 

出るとこだけ出ている豊満な体に三白眼、サロン等でキレイに焼いている褐色肌が特徴的な、高校生程度の年齢に見える少女だ。

 

どこかの学校の制服らしきモノを露出マシマシに改造しているようで、モロに【ビッチ&黒ギャル】的な印象を受ける。

 

名を【三白 命子(ミシロ メイコ)】、この市内で活動している半グレ異能者集団の一人である。

 

 

もう片割れはグレーのフードパーカーを羽織った少女。

 

ちょっとくせっ毛のある明るめの髪色だが、それに反比例して目が死んでおり、人相もややスレた印象を与える少女。

 

こちらの名は【橘 響子(タチバナ キョウコ)】。メイコと組んで暴れている半グレガールズの片割れであった。

 

 

某県黒羽市や、新潟の某市で確認されていた異能者集団に近い、才能のある一般人が半終末の影響で覚醒してしまった人間たち。

 

悪魔の餌食になったり、COMPを手に入れたりガイア連合やメシア教穏健派に囲われたりする者もいるが、こうして力を非合法な方面に振るうものも当然多かった。

 

やっているのはハピルマや劣化マリンカリンをつかった売春・詐欺……これならまだ可愛い方。

 

一部の才能がある者は暴力団の用心棒や強盗にまで手を出し、そうでなくても人外じみた被害を出すケンカまでやらかす。

 

LV2~3にもなれば大型の野生動物クラスの生物が出てくるのがこの世界の常識だ、そして、才能さえあればそのあたりに到達する者も出てくる。

 

メイ子は特に才能があった側のようで、同じ【覚醒者】が3人がかりで仕掛けてきた時も辛くも勝利するほどの腕っぷしがあった。

 

今のところは同じ半グレ集団がらみのケンカやカツアゲぐらいが関の山だが、このままズブズブと社会の闇に堕ちていくのは目に見えていた。

 

 

……今日、この日までは。

 

 

「メイ子、どうする?絶対張られてるよ、この辺一帯……!」

 

「それでも逃げるしかないっしょ、あーしらに帰る場所なんてないんだからさ!」

 

「……それも、そうか。とりあえず、寝床に使ってるネカフェに戻ろっか。ギリギリで表通りだし、そこまで逃げれば……」

 

 

いつものように、そこらで異能を悪用してる人間を2,3人締め上げてサイフをカツアゲして生活費を手に入れ、そこから毎日のイベント扱いである覚醒者同士のケンカに殴りこむ。

 

手から火を出すわ電撃がとんでくるわ吹雪が飛んでくるわ衝撃波や突風が飛んでくるわ、スリリングこの上ないケンカはこの二人にとって格好の娯楽であった。

 

そういった超能力じみた攻撃*1を紙一重で避けて、懐に飛び込んでぶん殴る。

 

一通り片付いた後はしっかりと【戦利品】を頂いて帰る……そんな、30年ぐらい前の不良漫画じみたイベントが覚醒者同士の喧嘩……【だった】。

 

 

(なんなんだよあの【仮面とスーツ】の連中!あーしらでもあそこまでデタラメな強さしてないぞ!?)

 

 

大乱闘メガテンシスターズに発展しかけたその瞬間に、奇妙な全身装備を身にまとった集団が乱入してきたのである。

 

警官数名が乱入してくることぐらいはあったが、その時は逆に警官が返り討ちにされる程度には覚醒者同士のケンカは止めようがない。

 

しかし、リーダー格らしき【ギリシア文字のX(カイ)を模した仮面の戦士】と【それを簡略化したような装備の集団】は、たやすく覚醒者たちを鎮圧して拘束していった。

 

どこぞのヤクザからぶんどったらしき拳銃を持ち出してくるチンピラ程度は見たことがあるが、その集団は本物のゴツい銃を全員が所持。

 

リーダーらしき仮面の戦士は剣と銃が一体化したヘンテコな武器をつかっていたが、強さは仮面の集団からさらに頭1つ抜けていた。

 

ぞろぞろと群れている仮面の集団ですら、前述の拳銃で撃たれても平然としているのを見た時点で、メイ子とキョウコはしっぽを巻いて逃げることを決めたのである。

 

 

(もうすぐだ、もうすぐ表通り!あとは人ごみにまぎれて逃げ切れば……!)

 

 

裏路地を短距離走のインターハイ選手もびっくりな速度で駆け抜けて、二人は見慣れた路地へとたどり着いた。

 

あとはこの路地を抜ければ表通り……というタイミングで、すぐ先の出口に一台の車が回り込んだ。

 

出口をふさぐように現れたその車の助手席から、一人の少女が下りてくる。

 

……腰に【ゴツいベルト】を巻いたその少女は、拳銃のグリップのようなモノを口元へもっていき……。

 

 

「あの短い時間でよく逃げたじゃない……でもここまでよ。  

 

 【 変 身 】『Standing by』

 

 

そして、音声認識でコードを入力した『グリップ型携帯電話』をベルトに装填すると、『Complete』という機械音声と共に光が溢れ……。

 

 

「さあ……お前らの罪を数えろ」

 

 

光の中から先ほど見たばかりの『仮面の戦士』に類似した戦士が現れた時点で、メイ子とキョウコは逃走を諦めた。

 

 

 

 

そして視点は『現在』に戻り……。

 

 

 

 

(あれからあれよあれよと連行されて、よくわからない呪いみたいの受けたら力が抜けて……)

 

(保護観察処分通り越してキョウコとまとめてネンショ行きになりかけたところで、

 それがイヤなら【ラッキークローバー】の下っ端になれ、って言われるとは……)

 

(どんな裏技使ったんだろう、警察も文句1つ言わずに釈放するとか……)

 

 

【ラッキークローバー】……急成長中のベンチャー企業【スマートブレイン】が、秘密裏に組織したオカルトチームである。

 

スマートブレインは【ガイアコーポレーション】内のいち企業であり、主に携帯電話関連のサービスを提供している会社だ。

 

近年では【スマートブレインモーターズ】という派生企業も生まれ、そちらでは主に大型バイク等を手掛けている。

 

そして、ラッキークローバーはガイアコーポレーションの裏の顔……巨大オカルト組織【ガイア連合】の下部組織にあたる。

 

先行量産型の対オカルト兵器等を運用する事も多いらしく、そのために一人でも多くの覚醒者が必要だったらしい。

 

二人も詳しくは知らないが、自分たちのような【ダークサマナー】と呼ばれる人種も所属している。

 

……が、例外なく本物の【呪い】をつかった契約を結ばされ、それを理由に悪魔と戦い続けるハメになっているのだ。

 

 

(まあ、安全マージンは十分とられてるし、結構な金ももらえるんだけどさ……)

 

 

支給された装備である【ベルト】がしっかりと装備されていることを確認し、縦になっていたバックル型レバーを横に倒す。

 

二人の体が一瞬光に包まれ、光が収まった時には、二人を拘束した【仮面の戦士】がそこにいた。

 

 

……先行量産型デモニカ【ガイアトルーパー】*2

 

数か月前に試作機が開発された『展開型デモニカ』の先行量産型であり、ベルト一本でデモニカを持ち運び、腰に巻けば即座に装着可能な手軽さがウリの新世代機だ。

 

試作機である【Δ(デルタ)】【X(カイザ)】【φ(ファイズ)】の運用データをもとに各部を簡略化し、G3系フレームとのパーツ互換もある決定版である。

 

現在は先行量産型が順次制作されており、こうしてラッキークローバー等で実戦テストが行われているのだ。

 

 

量産型とはいえデモニカはデモニカ、自衛隊でも使われている【G3】に匹敵する性能を誇る。

 

太もものホルダーに装着されている量産装備【アクセレイガン】を引き抜き、沸いてきたスライム目掛けて構える二人。

 

ブレードモードとガンモードの切り替えが可能で、さらに刃を赤熱化させることで物理/火炎属性の切り替えも可能な便利装備。

 

オマケに右腰のホルダーにはG3シリーズで実績のある電磁警棒【ガードアクセラー】が装着され、

 

左腰のホルダーには試作機から引継ぎで採用された【ガイアショット】と呼ばれるデジタルカメラ型ツールが装備されている。

 

デジタルカメラとして使えば一時的にアナライズ精度を強化し、アナライズデータを動画・画像ごと高画質保存可能。

 

拳にセットすれば高威力のパンチングユニットとして機能する。

 

どれもガイアトルーパーにとって標準的な装備であり、デモニカ・ガイアトルーパーを購入すればまとめてついてくる基本セットである。

 

 

アクセレイガンから放たれた【破魔弾】がスライムやモウリョウにブチ当たり、加工元となっているハマストーンの破魔の力を解き放つ。

 

体内でハマを発動されたに等しい攻撃は低位悪魔に耐えられるモノではなく、おぞましい叫びを漏らしながら消えていった。

 

 

「モウリョウやゴースト、ガキやスライム程度だしなんとかなりそーだな。

 全部LV1か2、高くても4だけど、ガキのひっかきにだけ気を付けよっか」

 

「悪霊の精神攻撃もある程度はガードされるしね、デモニカスーツ……そりゃこんなもん量産できたら強いよ」

 

 

近づく前にアクセレイガンで破魔弾か火炎弾を打ち込めば終わる、ひじょーに簡単な戦闘である。

 

異界の主であった『悪霊 シェイド LV9』は少しだけ強敵だったが……。

 

 

「ゴーストと同じで銃無効!あと電撃耐性!近接戦で仕留めるよ!」

 

「おっけー、あーしが一撃入れるから、キョウコがトドメね!」

 

 

アクセレイガンをブレードモードに変形させたメイ子が前に出て、赤熱化させた刃でシェイドに一撃。

 

注意を引き付けている間に、キョウコの方は腰に装着していた【ガイアショット】を手に取り、右拳に装着。

 

『Ready』の電子音声によって準備完了が知らされた。

 

パンチングユニットモードになったガイアショットを口元に持ってくると、拳に「チェック」と囁いた。

 

デモニカスーツの音声入力システムが起動し、『チェック』のコードに登録されているスキルをオートで合体発動させる。

 

 

【タルカジャ】+【チャージ】=【エクシードチャージ】*3

 

 

デモニカスーツから『Exceed Charge』と電子音声が流れ、MAGの光がガイアショットに集約してゆく。

 

アクセレイガンでシェイドを足止めしていたメイ子が、キョウコからの通信で「退いて!」と言われた瞬間に飛びのいた。

 

攻撃スキルにエクシードチャージを組み合わせ、最大威力になった拳が放たれる。

 

 

「はああああぁあぁぁぁッ!!だぁっ!!」

 

 

【エクシードチャージ】+【鉄拳パンチ】=【グランインパクト】

 

MAGの光を纏った拳をたたきつければ、シェイドの体に【O】のようなマークが浮かび、直後に散滅。

 

僅かなMAGの残骸を残し、異界の主であった悪魔の討伐に成功した。

 

一昔前までは異界の鎮圧ともなれば大仕事であったが、ここ最近は異界の発生頻度も上がっている分、低レベルな異界も増えている。

 

……その低レベルな異界ですらどうしようもない地方霊能組織ばかりだったあたり、戦闘用デモニカスーツの発明は本気でコロンブスの卵なのだろう。

 

少なくとも、デモニカスーツを脱げばちょっと腕っぷしの強い女チンピラで終わる二人ですら、異界の討伐が可能なのだから。

 

無論、この二人がロバと呼ばれる面々よりも上回る……レア度で言えば『R』ぐらいの才能の持ち主なのも大きい。

 

半終末になってから、ケンカ三昧だっただけで覚醒した二人だ。才能だけはある方なのである。

 

 

「んじゃ、とっとと報告書出してかえろっか……あーしシャワー浴びたい……ココ埃っぽいし」

 

「私も……あ!今日アレがあるよ、本社の会合!」

 

「うええぇ……マジかぁ……」

 

 

消えつつある異界から脱出し、変身を解除したメイ子が嘆く。

 

【ラッキークローバー】に所属している霊能力者は、月に1~2回ほど『スマートブレイン本社』に足を運ぶ義務がある。

 

はっきりいって逃亡を抑止するための制度なのだが、首輪をつけられている側からすればうざったいことこの上ないのだろう。

 

……とはいえ、通常ならこの会合は『活動しているオカルトチームの代表者一名』が本社に訪れれば問題ない。

 

どのチームも基本的に4~6名程度で活動しており、その中にはチームリーダーや班長と呼ばれる人間がいるからだ。

 

だというのに、この二人が『二人だけのチーム』で活動を許されているのには一応ワケがある。

 

 

「……ま、首輪付きとはいえ、一応『幹部』なんだし、行かなきゃダメかぁ……」

 

「本社の社員用シャワー借りられないか聞いてみようよ、汗臭いまま幹部会に出たくないし」

 

 

 

『人間 ミシロ メイコ DLV30』

 

『人間 タチバナ キョウコ DLV30』

 

 

 

レギュレーション3.3でDLV30以上*4……オカルト界隈の世間一般では『一流の霊能力者』に踏み入れる強さのライン。

 

それに到達し、【ラッキークローバー】の幹部に就任したばかりの二人にとって、実質的な幹部会でもある本部の会合は出席義務のあるイベントなのであった。

 

移動に使っているバイクにまたがり、20分ほど軽くトばせばスマートブレインの本社が見えてくる。

 

どうにかシャワーを借り、戦闘で破れた時のために準備しておいた服に着替え、スマートブレインの機密区画にある会議室へと向かう。

 

首輪付き*5の身でありながら、スマートブレインの幹部まで成り上がった二人は確かに出世頭だ。

 

実力も確かについてきており、彼女たちは世間一般で言うところの【一流の霊能力者】と呼ばれる力があるのだろう。

 

しかし……二人はこの会合に参加するたびに思うのである。

 

 

会議室のドアを開くと、先に来ていたスマートブレインの幹部たちが視界に入ってくる。

 

 

「おや、二人とも遅かったッスねー……あ、そういえば異界討伐の仕事、今日だったッスね」

 

『超人 アカネ アキ DLV48』

 

オカルト関連のアイテムやスマートブレイン開発の武装を西へ東へ捌いている『運び屋』。

軽い調子に騙されそうになるが、ラッキークローバーの結成前からラッキークローバーのボスと組んでいた古参……【朱音 秋(アカネ アキ)】

 

 

「あれ、そうなんですか? ……若さに任せて無理しちゃダメですよ?」

 

『異能者 シップウ ツユコ DLV42』

 

肩書はスマートブレイン社の技術部所属の研究員。

社長である【兎山 シノ】やその右腕【士村 サクラ】からの信任も厚い若手技術者のホープ……【櫛風 梅雨子(しっぷう つゆこ)】

 

 

「……じゃれてないでとっとと座りなさいよ、全員。アタシはヒマじゃないんだから」

 

『ペルソナ使い ナナミ リカ DLV測定不能』

 

もはや説明不要、ラッキークローバーのトップにして、ガイア連合霊山同盟支部の幹部でもあるペルソナ使い。

 

クローバーの四葉になぞらえて4人選出した幹部全員を相手にしても勝利できる、ラッキークローバーの最高戦力……【ナナミ リカ】

 

 

 

 

((この化け物だらけのなかで、一流の霊能力者『ごとき』にどんな価値が……?))

 

 

鼻っ柱をへし折られた元ヤン×2の嘆きなのであった

 

*1
当然だがどれもこれもアギやブフといった低位の魔法である

*2
外見はほとんど仮面ライダー555の量産型ライダー『ライオトルーパー』

*3
自身の攻撃力を二段階上昇+次に行う力依存の攻撃のダメージが二倍

*4
つまりガイア連合基準でLV9~10

*5
元ダークサマナー等に適応される、呪術込みの契約書を結ばされている霊能力者への蔑称




登場人物資料


三白 命子(ミシロ メイコ)

LV9

年齢 17

外見:やる夫スレオリジナルキャラ『三白 メイ子』


ガイア連合霊山同盟支部の下部組織【ラッキークローバー】所属の霊能力者。

数少ないDLV30超えということで同組織の幹部待遇を受けており、専用のデモニカスーツを与えられている。
(ほかの霊能力者はレンタルか自費購入)

中学の時に両親が離婚、母親に引き取られるが、その母親が離婚後に精神が不安定になり盛大にカルトにハマる。

そのカルトがメシア教過激派の残党だったからさあ大変……となるところだったが、そのカルトの本部にナナミが凸ったことで壊滅。

彼女はその際のゴタゴタに紛れて逃げ出し、地味だった外見をモロに黒ギャルビッチなメイクに変えて盛大にグレた。

その後はキョウコを相棒にして女だてらにケンカ三昧していたが、上記の流れでとっつかまってラッキークローバーの下っ端となる。

とはいえ才能はあったようで、今では555で言う琢磨くんポジに落ち着いている。


橘 響子(タチバナ キョウコ)

LV9

年齢:17

外見:戦姫絶唱シンフォギアの『立花 響』……ただし通称『グレ響』ver


ガイア連合霊山同盟支部の下部組織【ラッキークローバー】所属の霊能力者。

メイ子と同じような待遇を受けており、実質的にコンビとしてみなされている。

ここに来るまでの経緯だが、中学校まではメイ子と同じく普通の中学生。このころは目にハイライトがあった。

しかし、通っていた学校で行われた林間学校にて、使われていたキャンプ場が突如異界化。

溢れだした悪魔によって阿鼻叫喚の地獄絵図に代わるが、水汲み等でキャンプ場から離れていた者だけは奇跡的に生き残っており、彼女もその一人だった。

その事件は地方霊能組織によってキャンプ場へのクマの乱入という形で処理されたが、半覚醒状態だった彼女は悪魔を見てしまっていた。

「あの事件は怪物がやったんだ!」と主張したものの、当然周囲には受け入れられず、家族もカウンセリングや精神科医を受診させるばかり。

腫れ物扱いが学校総出のシカトに代わり、陰湿ないじめに発展したあたりで家出。

元々習っていた空手をストリートでぶん回していたが、同じくフラフラしていたメイ子と意気投合。

傷のなめ合いのような友人関係の果てに、現在に至る。


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『PROJECT G4』 page3

 

【ガイア連合霊山同盟支部 三等技術開発室】

 

 

 

 

ここはガイア連合霊山同盟支部内部にある【三等技術開発室】。

 

霊山同盟支部の技術開発室は、行う研究によって一等・二等・三等に格付けされている。

 

実質的にシノを含めた一部の黒札専用であり、ガイア連合でも最先端クラスの物品を取り扱う【一等技術開発室】。

 

そこで開発された品のブラッシュアップによる量産化改良や実地テストを管轄する【二等技術開発室】。

 

金札以下の研究者……つまりガイア連合黒札の言う所の【現地人】たちが、そこからさらに一般化した技術やアイテムの研究・量産を行う【三等技術開発室】。

 

 

一応二等技術開発室までは黒札以外の技術者でも就任できるようになっているが、今の所技術者希望の現地人は三等技術開発室どまりである。

 

信用問題というより、純粋にガイア連合の技術レベルが高すぎて、元々オカルトアイテムの製造を担っていた人間でもついていけなくなるのだ。

 

とはいえ、三等技術開発室でも『G3MILDの量産体制管理』『各種オカルト素材を使った対悪魔弾の製造』『新レシピの傷薬の治験』等、一般的な霊能組織で言えば割ととんでもない項目を扱っている。

 

現地人ばかりということは、逆に言えばここで安定して製造できるようになった技術は【外部の工場に任せてある程度の安定生産が可能】という証左でもあるのだ。

 

製造ラインに乗せられるか否かのリトマス試験紙、それが三等技術開発室である。

 

 

 

……最近ではガイア連合各支部でも

 

「燃費はいいけどもうスペック的に戦力外だし技術部的に研究しても面白くないし……」

 

という理由で持て余し気味な『あるモノ』も、三等技術開発室の重要研究項目となり……。

 

 

 

「よーしよし……今度は行けるぞ!アナライズかけろ!」

 

「はい! ……『式神 妖魔 アガシオン LV5』……MAGの数値も安定、成功です!!」

 

 

研究室の中心、結界の中にある壺からちょこんと頭を出しているのは、ガイア連合の量産型使い魔としてポピュラーな【アガシオン】。

 

そのアガシオンのアナライズ結果を聞いた瞬間、ワッ!と三等技術開発室の研究者から歓声が上がる。

 

彼ら・彼女らが進めていた大きなプロジェクトはいくつかあるが、その1つが『黒札に頼らないアガシオンの製造』であった。

 

初期のガイア連合技術部が送り出した製品の1つであり、黒札も低レベルの間は愛用し、今でも各地の支部ではひっきりなしに『ウチにも売ってくれー!』という要望が届きまくる『アガシオン』。

 

が、技術部黒札からすればほかの事に時間を含めたリソースを使いたい。今更アガシオンなんてつまらないモン作りたくない……という者が大半を占めつつあった。

 

デモニカと同じく簡易式神、アガシオン、イヌガミ等は品不足が続いていたのである。

 

なにせ現地人基準では『LV10かそれ以上の式神』なんていうのはチート武器に等しい。FFタクティクスのシドが量産されて配られているようなモノなのだ。

 

名家(笑)に伝わる秘伝の式神(笑)がLV1あればいい方とかそんなのが今の現状である、こういったガイア連合の量産型(現在も量産してるとは言ってない)式神はどこも手が出るほど欲しい。

 

技術部黒札の新人が増えている間は新人の練習用に作らせるのによかったが、半終末に突入してから技術部の新人もドンドン減ってるわけで。

 

アガシオンを作れる人間はガイア連合にごまんといるけど、そいつらはアガシオンよりもっとすごいモノ作ってる、という状態だったのだ。

 

 

「やりましたね!まだ時間はかかりますし、生成できるアガシオンは最高LV5が精いっぱいですけど……」

 

「ああ。ここから工程を見直していけば、より早く、より高レベルなアガシオンが作れるはずだ!」

 

 

そして、霊山同盟支部の三等技術開発室にて、ついに黒札が一切関わらない状態でのアガシオン製造が成功したのだ。

 

さすがに機材や素材は霊山同盟支部のモノだが、制作を行ったのは全員が現地人。

 

オカルトアイテム製造を行っていた業者や、霊山同盟で札や霊水を制作していた巫女、あるいは黒札の身内で技術屋志望だった元一般人。

 

 

……そういった面々の手によってつくられた試作アガシオン一号、識別ネーム『HOPE』は、三等技術開発室最初の大金星として開発史に名前を残す事になる。

 

 

そんなわけで、地方霊能組織から求められまくってる【ガイア連合的にはあんまりリソース割きたくない研究】のぶん投げ先として三等技術開発室は大忙しなのだ。

 

 

 

【ガイア連合霊山同盟支部 二等技術開発室】

 

 

「よし、試作中の【ガイアトルーパー】用式神マザーマシン、調整できました!チェックお願いします!」

 

「【ヒヒイロカネ・マルエージング合金】のサンプルはどうだ?対悪魔ミサイルに使った試射の結果は?」

 

「『ギガント』用ミサイルの規格で製造してみましたが、威力が既存のマルエージング合金の時に比べて174.52%向上。とはいえコストかかりすぎますし、予定通り装甲材に使うのがよさそうですね」

 

「G4X生産ラインから報告です、鬼種の人工筋肉の加工機械に不具合発生!」

 

「ガイアカレーの改良案、【ガイアシーフードカレー】のサンプルできました!」

 

「芦ノ湖の水質改善後に発生した新種のマス類ですが、どうやらニジマスとヤマメが変異した【稲羽マス】種及び【コハクヤマメ】と断定!異界化した区画での生存も可能との報告が!」

 

「山梨支部のジャン*1に連絡しろ!食用に適せば終末後の水産資源になるぞ!」

 

 

そしてこっちはある意味霊山同盟支部のお財布を支えている【二等技術開発室】。

 

各支部の技術部、特に山梨支部の技術部と主に技術交流をしているのはココだけであり、最低でもここに来るには『黒札がやってるレベルのオカルト技術開発』についてこれる必要がある。

 

それこそ現地人ではSRですら修羅にならないと無理難題に等しく、SSR級の才能持ちかつ才能が技術よりの人間でようやく現実的な入門が見えてくる修羅の国だ。

 

山梨支部のエドニキや霊山同盟支部のシノといった一部の天才技術者クラスがぶん回している技術をブラッシュアップ、より作りやすく・使いやすく整えたり、試作が始まった装備のデータ分析等が主な仕事である。

 

現在の大プロジェクトは『ハイエンドデモニカ『G4X』の生産体制管理』『新世代デモニカ『展開型』用の式神マザーマシン開発』『ヒヒイロカネと各種金属の合金研究』等々……。

 

1つでも結実すれば、ガイア連合の黒札クラスにも影響が大きい技術の目白押しである。

 

一応名目上のトップは『士村 桜』が務めているため、新しいモノを生み出すよりも『研究成果を研究室の中で終わらせない』ことが至上課題となっている。

 

 

「よし、G4Xの生産ラインはなんとかG3X用式神マザーマシンの改良で行けそうだな……大量生産は無理だが、受注生産方式でいけるぞ」

 

「山梨支部のロボ部から『オートバジン』のブラッシュアップ案来ました!」

 

「学習型AIの方はどうだ!ハードができてもソフトがバカじゃ話にならんぞ!」

 

「G3ユニットからG4Xの運用データ届きました!!」

 

 

……こんな感じで、日々喧々諤々な大騒ぎが絶えないのが二等技術開発室である。

 

たまに爆発音とか聞こえる?カガクのハッテンに犠牲はツキモノデース!!

 

 

 

 

【ガイア連合霊山同盟支部 一等技術開発室】

 

 

そしてお待ちかねの大本命、厳重に結界その他で隔離された機密区画にある【一等技術開発室】。

 

シノとサクラを筆頭に、技術部でも指折りの黒札が新開発に取り組んでいる技術の魔窟だ。

 

ここで開発された技術は、各種検証の後に秘匿・廃棄されるか二等技術開発室に送られるかが決まる。

 

G4Xやオートバジン、展開型デモニカも元はここで開発され。量産のために二等技術開発室へと回された発明品だ。

 

 

そんな一等技術開発の一角で、今日も新技術の開発にいそしむシノ。

 

昔は発明品のブラッシュアップまで一人でやっていたが、最近はロボ部や二等技術開発室に任せられるようになったので、新発明だけに注力できるようになったのだ。

 

初期の人がいない頃は三等技術開発室でやってるようなアレコレまでシノの担当だったのである。そりゃ徹夜常連にもなるだろう。

 

というわけで、最近のシノは徹夜することも無く……。

 

 

 

「うひひひひひひひひランナーズハイキターッ!これであと三日はいけりゅ!!」

 

「……なんでまたお前は徹夜の日々なんだ……」

 

 

温泉旅行で疲れを癒したのもつかの間、精力アップの霊薬をがぶがぶ飲みながら新開発の日々に逆戻りだ。

 

とはいえ急を要する仕事は来ていないので、サクラの方は割と健康的な日常に戻りつつある。

 

……以前と比べれば、という注釈がつくが。

 

 

「オートバジンで【車両と人型の変形機構】のデータは積めたからね、今なら【パワーダイザー】の開発もいけるはず!」

 

「……自衛隊の【多脚戦車】じゃだめなのか?ほら、あのタチコマみたいなヤツ」

 

「人型ロボットじゃないと協力者のロボ部のモチベが5割は下がるんだよ……いやタチコマ好きにはたまらないんだろうけどさ」

 

「お、おう」

 

 

まあ、多脚戦車とオートバジンのデータもあるので、サイズアップ化から始めれば基礎設計はそうかからないはずだ。

 

少なくともG4Xを設計したときほどの無茶ぶり&デスマーチではないので、シノも無(理のない)徹夜で済ませている。

 

え、ランナーズハイ入ってる時点でアウトだろって?ディアラマ一発使うかガイアカレー食えば治るんだ、LV30超えの黒札だし。

 

 

「実際多脚戦車や装甲車で【デモニカと既存兵器のデータリンク】*2はもうできてるんだよね。

 ソレを発展させて操縦系統までリンクさせる方法を考えようって話にもなってくるわけだ。

 COMP用の思考操作が反映できれば、それこそ体みたいに動かせるロボットにできるからね!

 

 というわけで完成品がこちらになります」

 

「お前が徹夜してたのはそのためか」

 

阿頼耶識システムと名付けたよ!!

 

ロボ部の掲示板が鉄血の名言まみれになるからやめろ!!

 

 

やーめない!と徹夜明けのハイテンションでシノが出してきたのは、見慣れない形式のAIチップであった。

 

どうやらデモニカーパワーダイザー間のデータ処理を担う『情報処理AI』が搭載されているらしい。

 

デモニカ側に思考操作で入力された指示を高速処理、パワーダイザーの人工筋肉に疑似的な電気信号として伝達し、それに合わせてパワーダイザーが動く。

 

つまりは『右手を上げよう』と思うだけで、操縦者の脳内にある右手を上げるイメージをデモニカ・ブラックボックス経由でAIチップが読み取り、パワーダイザーに反映するのだ。

 

 

「巨大シキガミの『シキオウジ』も、術者が乗り込んで操縦できるようになってたじゃん?

 

 アレを参考にしたレバー式手動操縦も可能だけど、搭乗者のイメージ通りに動くほうが『人型ロボット』の利点は活かせるでしょ。

 

 テスト用のロボットアームで試したけど、シノさんならナイフでリンゴの皮も剥ける!」

 

「いやお前は器用すぎて全く参考にならん。とはいえ、新機軸の操縦系統としてはアリか」

 

 

各種データが表示されている画面をザッピングしつつ、戦闘に使うのならこの高速処理&イメージ反映は武器になるな、とサクラも太鼓判。

 

あとはちょっとした衝動に反応しないよう思考読み取りの精度やAIの判定による安全装置の搭載も急務化、と考えたところで。

 

ふと、サクラはあることが気になった。

 

 

「そういえば、このAIチップの素材はなんだ?倉庫にあったオカルト用半導体でこんな精度の高い素材あったか?」

 

「ああ、それ?シノさんの培養脳細胞シートで作った半導体使ってるから

 

「なるほど、それでか………………。

 

 は?

 

 

今なんかものすごい冒涜的というか、あるいは頭過激派なワードが聞こえたような、と思わず聞き返す。

 

しかし、サクラが聞いたワードは聞き間違いでもなんでもなかった。

 

サクラの目の前にシノが表示したデータ……シノの脳から採取した脳細胞を培養して細胞シート化するまでのデータだ。

 

細胞シートとは、IPS細胞の原理を利用して培養された細胞で作られた移植用シートである。

 

近年では心臓移植等に使われ、慢性的に臓器の足りない臓器移植等に代わる新技術として注目されている。

 

……つまり、この女は自分の脳細胞からIPS細胞を生成し、それを培養して細胞シートにして、さらに加工して『オカルト生体部品の半導体』としてAIチップにしたのだ。

 

ぶっちゃけ過激派メシアンのやっている『生体部品を使ったICBM』系の技術、いや、寧ろその発展形である。

 

 

「おま、おまっ、いつの間にそんな……」

 

「採取した部分は回復魔法で治せるし、IPS細胞化もオカルト技術でごり押しが利くし、あっくんに協力してもらってちょっちゅねー」

 

「阿部ぇ! ……いやあいつならやるか、やるよな、うん」

 

 

脳と重要臓器だけを異形型シキガミボディに移植して仮面ライダー作ったコンビである、このぐらいはサラっとやるだろう。

 

 

「それにほら、腕やら足やらどころか回復魔法つかって肉体数個分式神にするガンギマリもいるし」

 

「それを言われるとなぁ……ん、いや待て。これ培養シートが元ってことは量産できるんだよな?

 

 ……おい、いくつ作った?」

 

「手始めに一万個。ライオトルーパー全部にオートバジンつけようぜ!」

 

「多いわバカッ!!」

 

 

明らかに試作品というレベルの数ではない。が、これには理由がある。

 

とりあえずどのぐらい細胞シートが生成可能なのか、という実験をシノは行ったのだが、オカルト技術と併用したせいか培養が加速しすぎてしまったのだ。

 

結果として予定以上に細胞シートが生成され、一応黒札の肉体ではあるので悪用されないように全部加工した結果がコレである。

 

え、どっちにしろバカだろって?それはそう。

 

 

「というかまさかお前、その数ってことはこれロボ部や二等技術開発室でも使うつもりか!?」

 

「ロボ部の掲示板にはさっき書き込んできたよ!カレンデバイスだの頭鉄血だの書かれてるね!」

 

「当たり前だ! ……まあ、作ってしまったモノは仕方ない。有効活用の方法は考えよう……」

 

 

なんだかどんどん悪の組織になっている気がする、と遠い目になるサクラと、新開発の予感にイキイキのシノ。

 

凸凹コンビな二人だが、なにはともあれ仕事にとりかかろうとしたところで、連絡用端末にメールが届く。

 

あて名は『阿部 清明』、みんなご存じクソ畜生なイイオトコ師匠、阿部からのメールであった。

 

 

「んー?あっくんから?なんだろ」

 

「どうせまたどこぞの地方で女を口説いたとかじゃないのか?」

 

 

二人してメール画面をのぞき込み、一応は下まで読み進める。

 

読み終えた後、ガタンッ!とシノは勢いよく立ち上がり、設計中だったパワーダイザーの製作図にとりかかり始めた。

 

サクラは即座に【技術開発ロボ部】の掲示板と、ロボ部に所属している黒札の知り合いに連絡を取った。

 

 

「私だ、サクラだ!【パワーダイザー】の開発をなるべく優先して進めてくれ、シノも動いている。

 

 こちらで収集したオートバジンのデータもつける、ヒヒイロカネ製変形パーツのデータもだ。

 

 理由?今から掲示板に書き込むが、心して聞いてくれ」

 

 

 

 

372:名無しのロボ部

 

 

こちら霊山同盟支部の一等技術開発室より緊急報告。

 

くそみそニキの【占い】で、詳細は不明だが【終末阻止にパワーダイザーが必須】になった。

 

どの【終末案件】にかかわってくるかは不明だが、手が空いている人間は設計に協力してくれ。

 

 

 

*1
カオス転生外伝 霊能グルメと食材俺たち 参照

*2
カオス転生本編 楽しいデモニカスレ 第11+α 参照



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開催!ガイアプロレスIN新潟!(上)


『故郷防衛を頑張る俺たち』様より出来事・キャラ等をお借りしましたー。

名無しのレイ様、いつも小説によるキャッチボールありがとうございます。


 

【新潟県新潟市 某喫茶店】

 

 

「よう、今回は時間取らせて悪いな」

 

「いや、こっちも大きな商談なんかはひと段落した所だったから」

(あと、婚約者とかのアレコレを整理する時間も欲しかったし……)

 

 

新潟県の某所にある喫茶店にて、奥にあるテーブル席に腰掛ける男性二人組。

 

片方はガタイは良くて濃い顔の男といった風貌で、もう片方は柔和な青年といった外見だ。

 

一見すれば会社の先輩後輩、あるいは上司と部下……そんな距離感だ。

 

『特別親しいわけじゃないけどある程度関わりのある相手』といったところか。

 

ガタイの良い方の男……くそみそニキ、あるいは破界僧『阿部 清明』は、ブラックのコーヒーを一口飲んでから話始める。

 

 

「今日は二つほど要件があってな、『田舎ニキ』。ちょいと時間を作ってもらったんだ」

 

「それはいいですけど、チェーンの喫茶店で大丈夫なんです?オカルト関連の話とか……」

 

「安心しろ、お前さんが店に入ってくる前から結界で店ごと覆っておいた。

 外からじゃまず気づけないし、盗聴・盗撮も不可能とは言わんが手軽じゃない。

 そして、手軽じゃない方法で覗き見しようとすれば俺が気付くってわけ」

 

「……うわぁ、本当だ。ちょっと注意して見たらここ結界の中だ……中に入って気を張ってないと気づけない結界って……」

 

 

気づけるだけお前もすごいんだけどな?と阿部は苦笑しつつ、本題の方へ意識を切り替える。

 

彼の目の前にいるのは、新潟派出所を含めて新潟県各所の霊能組織をまとめ上げているHN『田舎ニキ』こと『碧神 凍矢』。

 

ガイア連合でもレベリングを真面目にやっている所詮『ガチ勢』の一人であり、【国津神アラハバキ】【破壊神ザオウコンゲン】【魔王ミトラス】といった新潟に出現した大物悪魔を狩ってきた腕利きだ。

 

トンデモ組織であるガイア連合だからこそ地方の雄ぐらいで済んでいるが、そうでなければ一国の切り札ぐらいの扱いはされてそうな霊能力者である。

 

え、ガイア連合はそんな一国の切り札クラスの霊能力者何人も抱えてるだろって?いるけどそれでも終末どうしようもねーんだよ!

 

 

「【魔王ミトラス】*1の件でな、個人的に礼を言いたいってのが1つ目だ。

 

 すまんな、俺も流石に世界全部見通せるほどの千里眼ってわけじゃないんだ」

 

「? ええっと、くそみそニキが出張るほどの相手じゃなかったような……いや、俺達がいなかったら対処不能な相手ではあるけど」

 

「や、その辺は個人的な事情でな……例の過激派残党の狙いが成功してたら、マジでシャレにならない事態になってたのよ」

 

 

え゛っ、と声が漏れた田舎ニキを見つつ、阿部が頼んでおいたスイーツを一口食べてから続きを話す。

 

 

「連中の狙いは、魔王ミトラスを呼び出した後に別側面……あるいはルーツ繋がりの【大天使メタトロン】へと変貌させることだった。ここまではあってるよな?」

 

「あ、ああ。まあ……古代ペルシャの全知の神ミトラ=ミトラスから影響を受けて創造されたのがメタトロンだから、っていう理由だったような」

 

 

そうそうそれそれ、とスイーツにクリームを塗りつけてからもう一口。それを苦いコーヒーで流し込み。

 

 

「実を言うと、だ。  全く別の場所で大天使メタトロンが召喚されてるのをこっちで確認してる。あ、これガチ機密ね」

 

「……はいぃ!?」

 

「うん、そういう顔になるのは分かる、わかるがとりあえず落ち着け。何か飲み物頼む?」

 

 

田舎ニキからすれば久々にマジギレしながらも仕留めて、召喚を阻止したはずの【大天使メタトロン】。

 

それが別の場所で召喚されてたとか、自分のマジギレ&ミトラス君コキュートス送りはなんだったのかと言いたくもなろう。

 

が、それを踏まえて阿部は話を続ける。

 

 

「だが、どうも【英雄 エノク】の側面が強いみたいでな……黒札なら英語読みのイーノックの方が有名か?」

 

「えっと、前世でMAD動画作られまくってたのを見たような……」

 

「そう、アレアレ。おかげでだいぶ話せる性格ではある。今も何かやらかさないか俺が監視中だけどな」

 

 

そりゃあそうだ、と納得している田舎ニキ。監視担当なのが阿部なのもある程度は納得できるらしい。

 

バイでホモで変態で日本各地に認知だけしてる子供がいて養育費*2だけ支払ってる、控え目に言って人間のクズだが、

 

それはそれとして霊能力者として、あるいは予言者としての能力は本物なのだ。

 

……実際はそれに加えて、堕天使ルシフェルまで行動を共にしている上に三人で盛大に暗躍中とか、田舎ニキが宇宙猫になりそうな真実が隠れているが。

 

 

「あれ、じゃあ【同じ大物悪魔は基本的に召喚されない】んだから、ミトラス急いで倒した意味……」

 

「大ありなんだがこれが。 【基本的には】だろう?抜け穴は色々ある。同じ悪魔の別側面で召喚する、とかな」

 

 

アスタロトとイシュタルのように、ルーツが同じだったり同じ悪魔の別側面だったりすれば、大悪魔が同時に出てくる場合もある。

 

阿部が監視しているメタトロンが【英雄エノク】の側面であるならば、ミトラスをメタトロンに変化させた場合は【エノク以外の側面】が出てくるわけで……。

 

 

「人間の側面を他に取られてる以上、思いっきりメガテンの天使オブ天使なメタトロンが出てきてただろうな……」

 

「 う わ ぁ 」

 

 

しかも地球上の霊脈のほとんどをメシア教が抑えている以上、出てきたメタトロンがミトラスを元にしたレベルで済むという保証もない。

 

星のMAGそのものはメシア教過激派が握っている以上、日本に大天使がポップした場合の影響は未知数なのだ。試すわけにもいかないし。

 

え、神託的なのを受けて大天使を仲魔にした男がいる?それは阿部の管轄外だ。

 

 

「そういうわけで、改めて礼は言っておきたかったのさ。監視してる身としてはキモが冷える事件だからな」

 

「う、ウッス……って、あれ、これと並ぶレベルの『もう一つの要件』って……?」

 

「あー……こっちは今も継続中だ、残念ながら」

 

 

これを見てくれ、と言って差し出したのは、何枚かの写真と報告書らしき書類。

 

ふむふむ、と読み進めていく田舎ニキだが、写真と報告書の内容を理解していくにつれて表情がこわばる。

 

報告書に記されているのは、新潟にて【一神教調和派】の教会を任されている元メシアン【歌住 桜子】の素行調査の内容であった。

 

それ自体には大きいな問題はない、いやまあ新潟に来てからの素行まで事細かに記されてるのは若干危機感覚えるが、

 

報告書の製作者が【サスガブラザーズ】となっている時点で現代のニンジャの仕業と思う事にした。

 

……問題は、その報告書に添付されている写真の方。

 

田舎ニキの弟子である【秋葉 ほむら】が、桜子に盛大にナックルブローをカマしている写真であった。

 

 

「またアイツは……元メシアンだから隔意があるのは分かるけどここまで……」

 

「コトはそう単純じゃないぞ、田舎ニキ。少し頭を回せば今の状況のヤバさが分かるはずだ」

 

「? それはどういう……」

 

 

「シスター・桜子の所属はもうメシア教じゃない、一神教調和派だ。

 

 そして、既に一神教調和派は『霊山同盟支部の下部組織』になっている

 

「………… あ゛っ!」

 

 

事ここに至って、田舎ニキ……もとい、碧神 凍矢の脳細胞がフルスロットルし始めた。

 

シスター・グリムデルが実質的なトップであり、桜子が改宗した先である一神教調和派。

 

その日本支部…ヨーロッパがアレなので実質的な総本山…は阿部が後見人となっている【ガイア連合霊山同盟支部】の下部組織だ。

 

規模こそ大きくはないが、黒札からは『一神教の中ではマシ』扱いを受けており、新潟以外にもいくつか教会がある程度にはちゃんとオカルト組織をやっている。

 

そして、色々と複雑な事情はあれど、桜子はちゃんと調和派の大シスターであるグリムデルの元で改宗し、新潟の新たな教会を任される立場となって帰ってきたのだ。

 

新潟にできる予定の一神教調和派の拠点や教会は新潟派出所の指揮下に置かれるので、何かしら指示を出す権限自体は田舎ニキが持っている。

 

つまり、桜子の出身は新潟であるが、その所属は『新潟派出所と霊山同盟支部の二重登録』状態に近いのだ。

 

 

「……で、そんなときに『田舎ニキの弟子である秋葉ほむら』が『一神教調和派のシスターである桜子を暴行した』わけで……」

 

報告書読む限りノーダメージみたいだけど盛大に霊山同盟支部にケンカ売ってるー!?!?

 

 

がびーん、という擬音が凍矢の背後に見えるレベルで彼は叫んだ。それはもう盛大に。結界が無ければ店の人に怒られるレベルで。

 

阿部がわざわざ『黒札同士で話し合いたい案件がある』と凍矢を呼び出す理由も一発で納得できてしまった。

 

元の元をたどれば、魔王ミトラスの一件……というより、そこで暗躍していたメシア教の闇を見た桜子が、メシア教に見切りをつけて一神教調和派に改宗したのが始まり。

 

が、一神教調和派は実質的な総本山であるシスター・グリムデルの教会がまるごと霊山同盟支部の下部組織になっている。

 

つまり、桜子はこの時点で『霊山同盟支部の下部組織である一神教調和派のシスター』としての面も持つようになってしまったのだ。

 

そして、一神教調和派のシスターとして新潟に『派遣』され、さあこれから心機一転頑張るぞ!

 

 

……というタイミングで、新潟派出所のトップである凍矢の弟子という身内も身内な人間であるほむらが、桜子にデンプシーロールかましてしまったのである。

 

そしておそらく、普段は凍矢にとってのブレインである『九重 静』もまた、メシア教への隔意からかこの件について問題視していない。

 

ようは『元メシアンだし殴ってもいいよね!』という暗黙の了解が出来上がってしまっており、それが盛大なピタゴラスイッチを起こしているのだ。

 

 

「報告書にある秋葉ほむらも、霊山同盟支部と普段交渉している九重 静も、一神教調和派についてあんまり詳しくないよな……?」

 

「……はい」

 

「んで当然、霊山同盟支部の内部構造なんてもっと詳しくないはず……。

 

 下手すると『潰れかけの一神教の適当な宗派で経歴ロンダリングして出戻りしてきた』としか思ってない、と」

 

 

マジかー、と頭を抱える凍矢。

 

そりゃあそうだ、なんせ霊山同盟支部と新潟派出所は、近々ヒノエ米を含めた大口取引の予定がごまんと入っている。

 

さらにガイア連合ロボ部を通じた技術交流も盛んで、距離さえ遠くなければもっと色々できるのに!と霊山同盟支部の支部長が嘆くレベルの相手なのだ。

 

そんな時にこれである。新潟派出所ははっきりいって九重家……そして九重 静がいなければ回らない状態だ。

 

報告書によれば、少なくとも九重 静はこの一件をちゃんと知っている可能性が高い。

 

となれば、この件が表沙汰になった場合、彼女は霊山同盟支部の支部長から

『報告受けてんのに責任者が何してんだゴルァ!』となる可能性が高い。

 

ほむらの方も『ウチの下部組織で研修受けたシスターに何してんじゃゴルァ!』される可能性はあるが、こっちはまだ個人だからマシだ。

 

九重 静……いや、九重家そのものが詰め腹切らされる事になったら、新潟派出所は霊山同盟支部にもダメージ波及させつつ盛大に大爆発する。

 

黒札のお気に入りの家。その座を狙っている名家はそれはもう多いだろう。

 

九重家の『次』を狙って内輪もめしまくるのは想像に難しくない。

 

 

「調和派は裏どりと読心その他でシロ判定が出たなら、メシア教からの改宗も認めてる駆け込み寺だ。実際、他にも元メシアンはいる。

 

 今後新潟派出所と霊山同盟支部が取引を続けていくなら、元メシアンのシスターがそっちに出向く機会も増えるわけで……」

 

 

「絶対にモメる!間違いなく!というか今起きてるこのもめごとだけで割と致命傷!!

 

 というか婚約者云々で悩んでる場合じゃないなこれ!?」

 

 

「(婚約者……?)だろうな。シスター・グリムデルが聞いたらノータイムで新潟に殴りこむ。

 

 だからギリッギリの所で俺の手で情報が流れるのを止めた、が。

 

 今後また何か起きれば、コレが蒸し返される可能性はゼロじゃない。

 

 そこでだ。無かったことにするんじゃなく、いっそ【管理できる大火事】にしないか?」

 

 

管理できる家事?とハテナマークを浮かべた凍矢に、新たな書類を出してくる阿部。

 

新潟の僻地、S岡県よりの某所。地脈・霊脈的にも問題ないとされた野原を記された地図。

 

そして、それと共に渡された【ガイア・プロレス計画書】という書類。

 

 

「……なんですかこれ?」

 

「調和派に情報が渡るのは止めたが、霊山同盟支部の支部長にわたるのは止めてないからな。

 

 向こうも今回の一件についてはたいそう興味があるらしい」

 

「ちょっ!??」

 

 

一番大事な所が片手落ちじゃん!?とツッコもうとした凍矢を、まあまあ、となだめつつ言葉を続ける。

 

曰く、霊山同盟支部の支部長である【鷹村ハルカ】は、正義感こそ強いが同時にそろばん勘定も得意な性格をしていると。

 

今回の件をただ表ざたにして九重家とほむらに責任を取らせても、新潟派出所と霊山同盟支部が共倒れするだけで終わってしまう。

 

そこで、今回の計画に誘った黒札と両組織のトップだけで【盛大なブックありきのプロレス】をやろう、という計画を立案したのだ。

 

 

「まあつまり、今回の件を知ったハルカが『ザッケンナコラー!』と新潟に怒鳴り込む。

 

 これは本体じゃなくて分身だ、殺そうがバラバラにしようが凍らせようが何の問題もない。

 

 なので、怒り狂ってる分身の迎撃にお前さんが出て、ド派手にドンパチアリのプロレスする。

 

 場所はさっきの資料に会った野原がいいだろう、クレーターになろうが影響は最小だ」

 

 

凍矢の脳みそがさらに回転力を上げる。この計画の狙いはなにか、と。

 

 

(1つ……ほむらによる暴行を『向こうの支部長の暴走』で相殺して痛み分けに持ち込む。

 

 2つ……調和派に下手なことをしたら同じことが起こる、というのを内外に分からせる。

 

 3つ……黒札クラスの戦力同士が殴り合うような事を今後やらかさないように釘を刺せる)

 

 

恐らく静は今頃婚約者となったことでウキウキ気分だろうが、ここで釘を刺しておかねばハイになったテンションのまま同じことが起こりかねない。

 

オカルトに踏み込んで歴の浅いほむらも同様だ。自分が逆立ちしても収拾できない事件がたやすく起こりうる、という事を徹底できる。

 

霊山同盟支部の方でも、シスター・グリムデルが動く前にハルカが動くことで『トップ同士の解決』という前例を作り、下の軽挙を咎められる。

 

そしてその対決は周辺更地にしても問題ない場所を指定して、なおかつハルカから凸ることで距離的にグリムデルが介入する余地を無くす。

 

 

……そして、このレベルの霊能力者同士が派手にぶつかり合う光景を見せれば、互いが率いている『下の人間』の軽挙も無くなるだろう。

 

無くならなかったら?そんなバカは『転校』しちゃったんだよ、で済ます。

 

 

「……一石何鳥ですかこれ、計画は阿部さんが?」

 

「いや、大部分はハルカだな。アイツこういうの得意だから」

 

「司馬懿か何かですか彼……」

 

「孔明ほどの先見の明が無いって考えると絶妙だな司馬懿」

 

 

そんなわけで、ハルカの分身が近日中に新潟の野原から新潟派出所に向けて全力疾走。

 

それと偶然()遭遇した凍矢が迎え撃つ……というブックありありのプロレスが開催することとなった。

 

 

「ところで田舎ニキ、1ついいか?」

 

「……その半分ぐらい残ってる『シロノワール』*3の事で?」

 

「正解……カフェオレじゃなくてブラックにしても食べきれないんですけど。

 口の中が甘ったるいんですけど、量が逆写真詐欺で多いんですけどぉ!?」

 

なんでコ〇ダ珈琲を待ち合わせ場所にしたのかと思ったら来た事なかったのかよ!?

 

 

盛大にツッコミをいれた凍矢の前で、シロノワールに溺れつつある阿部。

 

未来は見通せてもコ〇ダトラップは見通せない男なのであった。

 

 

*1
故郷防衛を頑張る俺たち  メシアン桜子現る! 参照

*2
魔石等の阿部ならごっそり手にはいるアイテム

*3
コ〇ダ珈琲名物のスイーツ



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開催!ガイアプロレスIN新潟!(下)

 

 

【某月某日 新潟県某所 放送席】

 

 

「さー!これから始まりますは田舎ニキVSショタギルスによるタイマンプロレス!

 

 実況はわたくし、ガイア連合白衣の似合う美女コンテスト第四位!

 

 ウサミミネキこと兎山シノがお送りしまーす!」

 

 

「解説のくそみそニキこと阿部です、よろしくお願いします」

 

 

『ガイアプロレスIN新潟』の会場付近にて、外部から不可視になる結界を張った放送席が設置されていた。

 

天幕を張り、イスとテーブルを並べ、各々が好みの飲食物まで設置したゆるゆるなプロレス実況席である。

 

偵察用式神を改造した『撮影用式神』が飛び回り、テーブルの上にはシノの脳細胞チップを搭載したパソコンが置かれ、実況スレをリアルタイムで追っている。

 

特撮俺たちは今か今かと生放送の開始を待ち構えている……当然、黒札限定放送だ。

 

この戦いがプロレスであることは黒札に周知されており、それどころかスパチャ可能な生配信として放映中だ。

 

まだ試合前なのに続々とスパチャが集まってきている。日本円・マッカ・マッスルドリンコ・傷薬・魔石……。

 

なお、どれもこれも霊山同盟支部の倉庫に収まることになる模様。

 

最初の頃はギルスの戦闘シーンの配信で霊山同盟支部の運営費用を稼いでいたのだ。ノウハウは十分にある。

 

 

「ところであっくん。今回のプロレスだけど、ぶっちゃけあっくんならもっと穏便に解決できたよね?」

 

「まあ、そうだな。ほむらとやらをメスガキわからせしてから両組織の会談……でまあ、落としどころを探るって手もあるにはあった」

 

 

それをやらなかった理由は、可能な限りこの事件を派手に爆破炎上させ、大量の黒札を巻き込んで『釘』の威力を上げるためだ。

 

はっきりいってこれだけ黒札がかかわってきてる以上、当事者である二人ですら盤上のコマでしかない。

 

釘を刺す対象である二人の関係者に至っては、盤上にすら上がれない『巻き込まれてるだけの存在』だ。

 

こうしてマッチ程度のボヤ騒ぎを山火事にしてやれば、次は大火傷じゃ済まない、と認識して軽挙に出るのを慎む。

 

ブラック~プラチナの人材は貴重なのだ。

 

協力者……という名の一部の超人におんぶにだっこな現地人が、因縁や私情で行動して足元の小石になられちゃたまらない。

 

 

……というのが『建前』だ。

 

 

 

「ぶっちゃけて聞くけどあの二人のプロレス見たかっただけだよね???」

 

「もちろんさぁ!!」

 

「あっくん、最近ろくでなし通り過ぎてひとでなしになりつつあるよ?そんなあっくんも好きだけど」

 

 

いつの世も、悪党というのは影で笑うモノなのである。

 

 

 

 

 

 

【某月某日 新潟県某所 決闘場】

 

 

(ついに来てしまったこの日が……)

 

 

先日、阿部との会談によって決定した【ガイアプロレスIN新潟】。

 

田舎ニキこと碧神 凍矢からすれば、いろんな面倒くさい問題あれこれを一切合切先送りにできる機会ではある。

 

そう、これは『先送り』だ。お前らがお前らの私情で動いたらこーなるんだぞ!いいのか!?と言う実例を見せつけて理性を補強する、それだけのイベントだ。

 

いずれこの釘差しも効果が薄れ、私情を優先し軽挙に走る者も出てくるだろう。

 

だが、そもそも根本的な解決云々となるとひっじょーにこの問題は面倒くさい。

 

 

(根っこにあるのがメシア教への隔意だからなぁ……)

 

 

というか、だ。

 

これがまるっと解決できるようならカオス転生本編・外伝で読者から「メシア教うぜぇ」扱いはされていない。

 

結局のところ過激派が世界中で暴れまわってて、数はカンストしてる穏健派はガイア連合を彼ピ扱いしてて。

 

なおかつ過激派の一部が穏健派に潜伏中かつ穏健派も数が多いから人格がピンキリ……。

 

そんな極まったクソゲー状態なのがすべての元凶なのである。こんなもんジョニデが復活してもどうしようもない。

 

今度はジョニデ認める派と認めない派で大戦争おっぱじめるだけである。

 

 

……というわけで、そもそも明確な解決策なんてないのだ。この問題には。

 

いつか爆発する問題だった、そこでほむらが火種を投げ込んできた。だから不燃性のバリケードで囲ってからガソリン注ぎこんだ後に鎮火しよう。それだけのお話なのだ。

 

なのだが、それで『影の国の修練を終えた相手』とタイマン張るとか、凍矢からすれば憂鬱極まりない。

 

 

(プロレスだしレギュレーション決まってるけど、向こうの分身は『LV50』。

 

 なおかつ回復アイテムは緊急用のモノ以外は禁止で、後遺症が残りそうなモノも禁止。

 

 逆に言えばそれ以外は『なるべく派手にやる』以外制限なし、か……)

 

 

ここら一帯は確かに人里からは遠い、地脈・霊脈ともに問題はなく、更地にしてしまっても地ならし代が浮くレベルの僻地だ。

 

オマケに阿部の手で会場外に影響が出ないよう結界が張られている。強度は少なくとも流れ弾が当たってもヒビが入らないレベル。

 

手はず通りなら、戦闘開始してしばらくしたら『関係者』をサスガブラザーズが連れてくる事になっている。

 

結界の外から観戦させて、下手にガイア連合の戦力同士がぶつかったらどうなるかを見せる……そのように計画し、細かい部分まで詰めてきた。

 

 

(安全のためにシノさんからレンタルしてきた『コレ』があるけど……。

 

 壊したら弁償かなぁ!?これもしかして弁償かなぁ?!また借金増えるのかなぁ!?)

 

 

なんなら技術投資で彼の借金が増えるのを楽しみにしてるフシがあるヒトデナシからレンタルしてきてしまったことを今更ながら後悔している凍矢であった。

 

そんなこんなで謎の苦悩に右往左往していると、結界の入り口から何かが入ってくる気配を感知。

 

そちらへ振り向けば、台本どおりに『怒りの演技』のままこちらに走ってくる霊山同盟支部の支部長……『鷹村ハルカ』がそこにいた。

 

 

(よーし、あとはブックに従ってなるべく派手に……暴れてくるか!)

 

 

上着をはだけて、その下に巻いた『ベルト』を露出させる。

 

ハルカもそれに合わせたのか、両腕を胸の前でクロスさせて力を込めた。

 

凍矢が『スマートブレイン社製のゴツい携帯電話』を取り出すのと同時に、ハルカの腰に『メタファクター』*1が出現。

 

そのゴツい携帯電話……『ファイズフォン』に指定されたコードを入力し、腰のベルト『ファイズドライバー』に叩き込む。

 

 

【5 5 5 ENTER】『Standing by』

 

 

「「 変 身 ! ! ! 」」『Complete』

 

 

物質化したMAGの赤いラインが凍矢を囲み、神聖な光がハルカを包む。

 

その中から現れた『ハイエンドデモニカ・555(ファイズ)』と『式神・ギルス』の拳が交差した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【十数分後 決闘場外部】

 

 

「一体全体どういうことなんですかこれは!?」

 

「いやー、そこは俺達に聞かれてもなぁ……」

 

 

プロレス開始の直後、予定通りに新潟派出所に到着した『流石兄者』から、『九重 静』と『秋葉 ほむら』にプロレスの情報が伝達。

 

そこから凍矢の式神である『破裂の人形』にも話が伝わり、全員で現地へと向かうことになったのである。

 

といっても、このガイアプロレスIN新潟の目的を考えて盛大に加工されたモノであり……。

 

おおよそ『ほむらと桜子の一件にキレた霊山同盟支部の支部長が乗り込んできて、それを凍矢が迎撃中』とだけ伝わっていた。

 

トラポートを使って新潟派出所から決闘場の近所まで転移、その後は覚醒者特有の超人的な身体能力でダッシュ中である。

 

 

「ともかく、霊山同盟支部とか調和派の方は弟者が向かってる。俺たちは俺達で現地に向かおう」

 

「なんでこんなことになるのよぉ!?」

 

(ついに婚約の話まで出た矢先にこのような……!)

 

 

色んな意味で急展開である。

 

桜子とほむらの一件は静も把握しているが、ガイア連合とメシア教穏健派の関係ははっきりいって冷え切っていると認識していた。

 

穏健派は一方的なアプローチを繰り返し、ガイア連合はガイア連合で穏健派を切れないのでしぶしぶ同盟を組んでいる……そんな関係だと予測していたのである。*2

 

元メシアンである桜子のために他の支部や派出所まで殴りこんでくる人間がいるなんて、はっきりいって想定の範囲を大幅に超えていたのだ。

 

寧ろ『霊山同盟支部でも本音では元メシアンである桜子をうっとおしく思っているはず、その連帯感を利用して穏健派を共通の敵にして牽制を』とか考えていた。

 

天国から地獄、一歩間違えば霊山同盟支部との取引にも影響が……と思考を巡らせている静とほむらはしかし、現場にたどり着くことはできなかった。

 

 

「これは……結界!?」

 

「【紅蓮の手刀】!……傷一つつかない!?なによこの結界バカじゃないの!?」

 

「あー、こりゃ阿部さんの結界だわー。多分外に被害が出ないよう隔離したんだな」

 

 

当然兄者は詳細まで知っている立場なので、結界で現地が隔離されていることも承知の上だ。

 

かといってどうこうする気はないし、真相を言う気もない。流石兄弟にとって、各地の支部・派出所は例外なく『商売相手』だ。

 

なんなら依頼とあれば穏健派だろうが地方霊能組織だろうが飛び回り、調査や調伏を請け負っている。

 

そんな立場からすれば、支部・派出所同士の争いなんて損はあっても得はない。

 

何より、今回は阿部からの依頼を受けて『仕掛け人』として動いているのだ。この二人をハメるのも仕事の内である。

 

 

「こっちでも解除できないか試してみるが、しばらくはそこで見てるしかないな」

(結界の反対側には弟者がシスター・グリムデルや桜子ちゃんを呼んでるはず、あっちの釘差しはあっちでやるだろ)

 

 

そんな悠長な、と二人が言おうとしたところで、結界の中から響いてきた轟音が無理やり三人を黙らせる。

 

重いナニカがぶつかりあう音が何度も響き、そのたびに音の発生源が四人の方へ近づいてくるのだ。

 

何事かと音の方に目をこらしてみれば、明らかに現実ではありえないような光景が目に映る。

 

 

最初は『青と赤の竜巻がこちらにせまってくる』ようにしか見えなかった。

 

しかし、近づいてくればその正体が見えてくる。同時に、鈍く響く音の正体も。

 

片方は、赤いラインの特徴的なデモニカスーツを装備し、絶対零度の冷気を身にまとった戦士。

 

片方は、緑と黒の生物的な肉体が特徴的な、烈火の爆炎を振るう異形の戦士。

 

 

「あのデモニカが放っている冷気……まさか、凍矢様?!」

 

「間違いありません、マイマスターです。しかし、あの見慣れないデモニカは一体……!?」

 

「……ハイエンドデモニカの『φ』タイプだな。LV30以上推奨の試作機だったはずだ」

(なーるほど、搭載されてる『疑似食いしばり機能』がありゃ死ぬことはないもんな。万が一の保険か)

 

 

『ハイエンドデモニカ・555』……この設計素体となっている『デモニカ・G4X』には、絶対防御システムという機能が搭載されている。

 

『装着者に致死量のダメージが発生した場合、デモニカ側でソレを引き受け、装着者を守る』という機能だ。

 

代わりに高確率でデモニカが破損するが、プロレスとはいえ事故で凍矢が死亡したら絶対に遺恨になる。それを防ぐための措置である。

 

……なおハルカの方は分身なので、本人から凍矢に『遠慮なく八つ裂きにしちゃっていいよ!』という許可が出ている。言われた凍矢は盛大に引いた。

 

 

凍矢の放った右拳をギルスが左手の甲で逸らし、カウンター気味に右アッパーが放たれる。

 

それを僅かに上体をスウェーさせた凍矢が避け、そのままの勢いでギルスの腹にヒザがねじ込まれた。

 

おぐっ、と小さくうめいたギルスに、綺麗なワン・ツーのコンビネーションで追撃。

 

恐らく『復讐の氷拳』*3を打撃に乗せているのだろう。殴られるたびにギルスの体が凍り付いていく。

 

かといって、ギルスフィーラー等で牽制しようとすれば『ブフバリオン』で氷像の完成だ。中~長距離戦はあきらかに凍矢に分がある。

 

だからこそ体が凍結することを覚悟で突っ込むしかないのだが……。

 

 

「ヴォアアアアアアアアアァァァァァァッ!!!!」

 

「うおっ!?」

 

 

しかし、その凍り付いた肉体がギルスの身にまとった炎で一瞬にして解放される。

 

『バーニングフォーム』……とある『大天使』がこっそりハルカに授けた『シナイの神火』を纏った姿だ。

 

緑の装甲が赤く染まり、首元に炎でできたマフラーを巻き、四肢からは炎が吹きあがる。

 

一瞬だけ全身から炎を吹き出して凍矢を牽制、打撃を押しとどめたのだ。

 

しかし。凍矢も一筋縄で攻略できるほど甘い相手ではない。

 

即座にバックステップで距離を取り、腰に突いた『デジタルカメラ型ユニット』を手に装着する。

 

『ready』の電子音声と共に装着されたソレの名は『ファイズショット』。ガイアトルーパーが装備している『ガイアショット』の試作型であるパンチングユニットだ。

 

そして、腰に巻いたベルト『ファイズドライバー』を操作すれば、デモニカに登録されているスキルが自動で発動。

 

【タルカジャ】+【チャージ】=【エクシードチャージ】*4

 

【エクシードチャージ】+【鉄拳パンチ】=【グランインパクト】

 

『EXCEED CHARGE』という電子音声で準備が整ったことを察知すると、自身の拳に意識を集め、『復讐の氷拳』をさらに上乗せする。

 

デモニカスーツが力依存攻撃を、凍矢が魔依存の攻撃を。ハイエンドデモニカとそれにふさわしい超人だからこそ可能な荒業だ。

 

 

一方のギルス……いや、『バーニングギルス』も、その一撃を全霊をもって迎撃にかかる。

 

スカサハ直伝の【会心の覇気】*5で限界まで高めた力を両腕に集中。

 

【会心の覇気】+【火龍撃】*6=【バーニングライダーパンチ】

 

互いの拳が衝突し、周囲が火炎旋風と極寒の吹雪に包まれた。

 

元々【魔】型であり肉弾戦が苦手な凍矢はデモニカによってそれを底上げし、一方のハルカ/ギルスはステータスのごり押しでバフの差を補う。

 

纏っている冷気と熱気が激突の衝撃でまき散らされ、結界のすぐ外で見ていた面々が思い思いの悲鳴を上げて身を伏せる。

 

大半は結界によって外に漏れださないように調整されているが、観戦者に対する『脅し』もかねて衝撃の一部が伝わるようになっている。

 

 

(これが……凍矢様の、いや、ガイア連合の『本気』……!?)

 

(侮ってたわけじゃないけど、どう考えても追いつける領域に無い、なくない……?)

 

 

なお、ガイア連合的には本気どころか上には上がいる模様。当然、どっちも。*7

 

吹雪と爆炎の押し合いは、バフの差もあってかじわりじわりと凍矢が押しつつある。

 

分身ではなく本体がきてフルパワーならともかく、このレギュレーションでゴリ押しは通じない。

 

なにより、ギルスは本来パーティ戦の前衛or対メシア系に調整された個体だ。今回はどちらの能力も活かせていない。

 

 

……が、しかし。『その程度』で押し切れるようなもやしっ子なら、影の国での修行でくたばっているのだ。

 

「ライダアァァァ……」

 

「ッな……」

 

「ダブルッ!パァンチッ!!」

 

 

エネルギーを『両腕に』集中していたことを活かし、打ち合っていた左腕を引き、凍矢の体勢を崩してからみぞおちへ右拳を叩き込む。

 

ごふっ、と息を無理やり絞り出された凍矢を、そのままアッパーカットの要領で真上に跳ね上げた。

 

だがギルスも理解している、パンチの感触が鈍い。デモニカ555に搭載された『物理耐性』がダメージを軽減したのだろう。

 

そして凍矢もガンギマリ勢の一人、ただで吹っ飛ばされるほどヤワな相手ではない。

 

 

「ッ……おおおぉぉっ!!」『ready』

 

空中で体をひねって体勢を制御、腰からデジタルサーチライト型キックユニット『ファイズポインター』を取り外し、右足にセット。

 

ドライバーのエンターキーを押し、再度【エクシードチャージ】を発動させた。

 

チャージ系は重複できないので【コンセントレイト】は使えないが、その分はパッシブスキルの【氷結ハイブースタ】*8で補う。

 

MAGがデモニカスーツのラインを通って右足に供給され、攻撃対象をロックオン・拘束する【ポインティングマーカー】が射出。

 

ギルスをロックオンしたマーカー目掛け、凍矢の跳び蹴り……【クリムゾンスマッシュ】が飛んできた。

 

ご丁寧にシノが凍矢向けに刺したスキルカードの【氷龍撃】を【飛び蹴り】の代わりに使った一撃である。

 

 

「ヴォオオオォォアアァアアァァァァッッッ!!」

 

 

対するギルスもまた、それをむざむざ無策で受けるつもりはない。

 

自身が巻いている炎のマフラーを掴むと、それを引き抜く。

 

引き抜いた炎のマフラーが形を変化させ、『S字に折りたたまれた状態の刀剣』となって形成された。

 

【シャイニングカリバー】……バーニングフォーム、そして【光輝への目覚め】と呼ばれる姿でのみ使える武器だ。

 

S字に折りたたまれた【エマージュモード】から、双刃刀型の【シングルモード】へと変形させて凍矢を迎え撃った。

 

 

あらゆる物を凍らせる冷気を纏った飛び蹴りを、あらゆる物を焼き尽くす劫火を纏った双刃が迎撃。

 

相殺しきれなかった炎と冷気が周囲に飛び散り、巻きあがり、決闘場をあっという間に覆いつくす。

 

凍り付いた空気中の水分が一瞬で蒸発し、それでなお焙られ続けて水蒸気爆発が連続する。

 

挙句の派手に両者のMAGが物理法則を歪め、光る光帯となって周囲を巻き込んで広がっていった。

 

 

「これパラダイス・ロストでさいたまスーパーアリーナぶっ壊したヤツぅ!?」と放送席のシノが叫んだ直後に、ギリギリで相殺し合っていたエネルギーが炸裂。

 

ICBMでも叩き込まれたんじゃないかというほどの閃光と轟音、そして衝撃の後に、倒れこんだ面々がなんとか起き上がる。

 

くらくらとする視界と頭をどうにかこうにか最初に上げたのは、転生元の影響か『光』に対しては慣れがはやそうなほむらであった。

 

 

「……なによ、これ……」

 

 

だが、見た所で目の前の光景が理解できるかと言うとそうではない。

 

決闘場は真ん中に一本線を引いたかのように、視界の右と左で光景が違いすぎた。

 

右側……バーニングギルスがいた方は、地面がガラス化し、岩が溶岩となり、草木は灰も残さず焼き尽くされた灼熱地獄。

 

左側……凍矢/ファイズがいた方は、激突する直前の光景そのままにすべてが氷像となり、あらゆるものが停止した永久凍土。

 

それが激突したポイントに空いているクレーターを境に分かれているのだ。ゲームかなにかの宣伝ポスターのような光景である。

 

さらに、ほむらが全力で攻撃してもキズもつかなかった結界がいつのまにか壊れている。*9

 

直後に「マイマスター!!」という破裂の人形の声が聞こえ、ほむらの隣をすりぬけて駆け抜けていくのを見て、静と共にそれに続いた。

 

 

結界の反対側で観戦していたらしいシスター・桜子やシスター・グリムデルも走り寄って来た。

 

クレーターの中で、力を使い果たしたようにギルスと凍矢は仰向けに倒れこんでいる。

 

電子音と共に凍矢の変身が解除され、その姿が静たちにとって見慣れたソレに戻った。

 

 

「凍矢様?!お怪我はっ……!?」

 

「え?あ、ああ。大丈夫……すごい疲れたけど」*10

 

「ハルカ支部長、大丈夫ですか!?」

 

「あ、桜子さん。大丈夫大丈夫、これ本体じゃないから」

 

 

駆け寄ってくる静たちをどうどうと抑えつつ、ふらつきながらも立ち上がる凍矢。

 

一方のハルカだが、こちらは変身が解けても立ち上がる様子を見せなかった。

 

 

「と、さすがにMAGを使いすぎました……ここまでみたいですね」

 

「ああ……あとはこっちで後始末しておく。ありがとう」

 

「ええ。 じゃ、プロレスの件含めて説明をば……お願いしますね」

 

 

え、それも俺がやるの!?と凍矢がツッコんだ瞬間、ハルカの体が霞のように消え去った。

 

実体分身は個別でHPを持ち、それが0になるか維持しているMAGが切れれば消滅する。

 

今回はハルカがリモートで動かしていたので、恐らく本体が供給を切ったのだろう。

 

消滅したハルカに驚く面々に、元々分身についての説明を聞いていた凍矢が解説した。

 

 

「……つまり、凍夜様とあの激戦を繰り広げていた支部長も分身で……」

 

「もっというと、師匠もあの支部長も全力は出してない、ってこと……?」

 

「まあ、そうなるな」

(俺、本来ならあんな殴り合いスタイルじゃなくて後衛魔法型だし……)

 

「……なるほど、よくわかりました」

 

 

この場でプロレスの決着を見た面々が、バラバラの立場ながら1つだけ意識を統一した。

 

『ガイア連合でそれなりの立場にいる人間同士がカチ合うマネだけはさせちゃいけない』と。

 

なお、凍矢の苦労はまだまだ続く。具体的は……。

 

 

「ところで凍矢様。今回の一件についての事細かな事情を……」

 

「マイマスター、なぜ私を伴ってプロレスするのは却下なのですか?」*11

 

「あ、田舎ニキー!これ回収した555のレンタル代とメンテ代ね!データ収集のお仕事込みってことでお安くしとくけど!!」

 

「とりあえず俺の結界は解除したし戻そうと思えばこの光景も戻せるけど……。

 

 しばらくは地元組織へのナマハゲ用に残しておこうぜ!見に来た現地人が白目剥くのが目にみえらぁ!」

 

 

「ん゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」

 

 

頑張れ田舎ニキ!負けるな田舎ニキ!一応生配信に届いたスパチャの半分は田舎ニキのモノだぞ!!*12

 

*1
仮面ライダーギルスのベルト。ハルカにも式神パーツ兼装備として搭載されている。

*2
なお大正解である。

*3
敵単体に魔依存の氷結・打撃属性攻撃。攻撃成功時、自身を会心状態にする。

*4
自身の攻撃力を二段階上昇+次に行う力依存の攻撃のダメージが二倍

*5
次に行う力依存の攻撃が必中&会心

*6
敵単体に火炎属性の力依存攻撃

*7
ショタオジとか運命愛され勢とか。

*8
所有者の氷結属性攻撃を大きく強化

*9
攻撃の余波で壊れたように見せかけて、タイミングよく阿部が解除しただけ。

*10
主に威力控え目なのに派手に見せる調整のために。

*11
静たちに篭絡されちゃう程度にはチョロいからです。間違いなく阿部が「お前の式神には言うなよ?」って止めてました。

*12
なおそれ含めてもプラマイはトントンぐらい。幸い借金は増えなかった。



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レッツトライ!霊感商法!(上)

 

【某月某日 S県とA県の県境沿い】

 

 

「今日はよろしくお願いします、鎮西さん」

 

「ええ、といっても参考になるかどうかわからないけれど……」

 

 

S県からE県に向かう電車の中で、4人がけのボックス席を二人で使い、人避けの結界を張って話し込む二人の少年がいた。

 

片方の名は、もはやお馴染みの仮面ライダー(見習い)、鷹村ハルカ。

 

もう片方は、霊山同盟支部に短期所属することになった黒札霊能力者……名を『鎮西 与一(シズニシ ヨイチ)』である。

 

長い黒髪を後ろで1つに束ねた青年で、若干ツリ目気味な事を除けば、線の細い美青年だ。

 

ノリの効いたビジネススーツを身にまとい、きっちりとネクタイを巻いたその姿は『衣服だけ見れば』新人サラリーマンに見えなくもない。

 

年齢は19、黒札というだけあって相応を遥かに超えた霊能力者であり、LVは半終末の現時点で【27】を記録している。

 

とはいえ単純な戦闘力と言う点ではハルカ*1の方が先を行くあたり、ガチ勢・修羅勢ではなく無理なくレベル上げに勤しむ真面目勢なのだろう。

 

え?エンジョイ勢がなんで下位の神様ぐらいなら狩れそうなレベルなのかって?黒札だからです。

 

ともあれ、どちらもちょっと衣服を整えて化粧をすれば美女&美少女という美形コンビなのもあり、目立たない程度に結界等で自分たちを隠して移動している。

 

 

「師匠から『たまには参考になりそうな相手と仕事して来い』って言われて紹介されたのが鎮西さんですから、寧ろ期待の方が大きいんですけどね」

 

「ははは……まあ、私なりに期待を裏切らないようにするさ」

(それでも特撮俺達の中で名が売れてる『仮面ライダー』と一緒の仕事とか荷が重い気がするんだがなぁ)

 

 

ともあれ、前世はそれなりの大企業で営業部の管理職を務めていた鎮西からすれば、戦闘面以外は『売り込める』部分も多いだろう。

 

事実、阿部はそういう所を期待して鎮西にハルカを預けたのだ。

 

これから先、ハルカは霊山同盟支部の支部長としてあちこちの支部や派出所と交渉し、技術交流を行わなければならない。

 

その時に彼のような『交渉ができる人間』の指導は大きな経験になると踏んだのである。

 

 

「ま、昨日密かに送り込んだ調査員*2の話じゃユルい異界だから、苦戦することはないよ。

 ……その上で、今回君が学ぶのは『異界の攻略法』じゃあない。

 我々という『武力』をどれだけ高く売りつけるのか……そこに限る」

 

「高く売りつける……ですか?」

 

「ああ。慈善事業じゃ組織は回らない、っていうのは君なら理解してくれると思う。

 とはいえ営利10割だと先細りする、利益を上げるのなら長期的視野は必須だ。

 『相手に1儲けさせて自分は2儲ける』。これを意識に置けるようになれば一人前かな」

 

 

『とりあえず今回は見本を見せるよ』と気軽に言いながら、目的地の駅についたのを確認し座席を立った。

 

 

 

 

 

 

【A県某所 県境沿いの某市 霊能一族『西島家』屋敷】

 

 

霊能一族『西島家』。A県でも有力な霊能一族の大家であり、S県の霊山同盟に匹敵する霊能力者一族である。

 

元はA県のとある神社を細々と継いでいた家であったが、12世紀になってからその権力を拡大。

 

時代の流れか源頼朝による『流鏑馬の復活』を受けて神事としていち早く取り入れることで、武家との結びつきを強くした。

 

さらに源氏の家臣に巫女を嫁入りさせつつ、流鏑馬の『弓術』と『馬術』を魔払いの儀式として採用。

 

その後はメシア教による蹂躙からもなんとか生き延び、*3今日まで血を繋いでいる。

 

元がそんな成り立ちなので、女だてらに弓を取り、馬に乗り、かの巴御前のように流鏑馬も女が行う……という、変わった神社であった。

 

戦闘用の防具も、巫女装束ではなく弓道着に近いモノに防具を足した袴姿。

 

弓を手に取り戦う女傑……そういったイメージに近い巫女が多く在籍する組織『だった』。

 

 

「母上、件の『ガイア連合』とやらが到着したようです。

 もう間もなく屋敷に挨拶に来るとと連絡がありましたが……。

 かの異界は私と秋穂(アキホ)でも半分すら届かない魔境!いくらかのガイア連合とて!」

 

「それでもよ、夏芽(ナツメ)。既に西島家で前線で戦える霊能力者は片手の指程度。

 私と貴方、そして秋穂を中核に据えた編成でも道半ばで撤退を余儀なくされる以上……」

 

「……これ以上、身内の損害は許容できない、と?」

 

「……秋穂はまだ、治癒の方陣*4の上から出られないほどの重傷。

 私自身も悪魔との戦いで右腕を失い、もはや弓の一射すら引けぬ身。

 何とか戦えるのが貴方と、見習いの巫女数名では……賭けにすらならないわ」

 

 

数ヵ月前から突入した『半終末』により、A県の霊地もまた異常な活性化を見せつつあった。

 

異界内部の凶悪さはさらに増し、今まで1つだけの異界をなんとか抑え込んでいた所に二つ目の異界が発生。

 

現状維持すらどうにもならなくなり、一週間に乾坤一擲の賭けとして西島家の総力をもって『若い方の異界』の調伏に挑戦。

 

……結果、異界の主にたどり着くことすらできず、決死隊は半壊。生き残った者も死にかけの巫女を抱えて這う這うの体で逃げ帰る事になった。

 

参加した巫女の半数が意識不明、死者も出たし、無傷の者は一人もいない。最悪の敗走であった。

 

 

当主の『西島 春奈(ニシジマ ハルナ)』は右腕を失う重傷を負い、弓術による破魔矢*5を使えなくなった。

 

次期当主である『西島 夏芽(ニシジマ ナツメ)』は比較的軽傷だが、それも一族に伝わる霊薬*6の最後の1つを用いてなんとか復帰したからこそ。

 

その妹の『西島 秋穂(ニシジマ アキホ)』は、悪魔の呪いを受けたせいかいまだに意識が戻らず*7、このままいけば点滴があっても遠からず死ぬだけだ。

 

そう、既に西島家は詰んでいる。人柱の術を使って異界が広がるのを抑え込む程度しか、もはやできることはない。

 

ガイア連合から派遣されてきた霊能力者が調伏に失敗したその時は、己の命を持って異界を封印するつもりである。

 

県外から入ってくる噂話を聞いてはいるが、どうにも現実味のないおとぎ話じみた話ばかりが届いている弊害であった。

 

『意図的に誇張して伝えているのではないか』という疑念が生まれてしまっているのである。

 

 

「迎えに、いや。 見極めに行ってまいります。この地の未来を託すに相応しい益荒男なのかを」

 

「……無礼だけは働かないように。いいわね?」

 

「はい、無論です」

 

 

……そう言いながら、戦装束でもある襷姿で出迎える当たり、思う所アリアリなのは母の眼から見ても明白であった。

 

 

 

 

 

「ここが!あの女の!ハウスね!」

 

「昔師匠も言ってたけどなんなんですかソレ……」

 

「いつか使ってみるといいよ」

 

「ソレを使うような女性に出会いたくないんですけど」*8

 

 

石段を登った先で見えてきた屋敷へと歩を進める二人。

 

最初の石段を登り、途中でわき道にそれると西島家の屋敷があり、そのまま続く石段を登り続けると神社につくという立地らしい。

 

というわけで、正門が見えてきたところでオフザケはいったんストップした。

 

 

「(ハルカ君、ここからは事前の相談通り、読心を使った疑似テレパシーも使う、いいね?)」

 

「(あ、はい。了解です)」

 

 

ハルカはギルスの体に搭載された読心スキルで、与一は所有している道具を使った読心を使用。

 

『互いが互いに向けた心中の言葉の表層』だけを読み取るように調整することで、疑似的なテレパシーを可能にしているのだ。

 

ハンドサインも目配せもいらない相談を、高レベル特有の高速思考で可能。これだけでも取引や交渉において有利この上ない能力である。

 

 

正門を開いて出迎えたのは、次期当主である夏芽とそれに付き従う巫女たち。

 

霊視を用いたアナライズと、式神の機能としてのアナライズで、この面々で悪魔と戦えるのは夏芽だけだと一目で見抜いた。

 

他の巫女は全員未覚醒……となると、恐らく出迎えのためだけに修行中の巫女で数をそろえたのだろう。

 

 

「よくぞいらっしゃいました、ガイア連合の術師殿。 奥で当主がお待ちです」

(細腕のやわそうな男に子供……? どう考えても神話の術師等には見えんな)

 

「(わー、すごい侮られてますけどどうするんですか鎮西さん)」

 

「(むしろその方が足元ガバガバでハメやすいんですよ、ハルカ君?)」

 

 

相手を侮る、これはどのような分野であろうと禁忌とされる行為だ。

 

余裕があるのと慢心するのは違う。過度な慢心は綻びを生み、強者こそ敵の綻びは突き己の綻びは無くす。

 

そこに例外があるとするなら……。

 

 

(その『綻び』すら勢いで押し切っちゃえる君みたいなタイプなんだけど、まあ、これは蛇足か)

 

 

屋敷の中に入れば、畳敷きの部屋にて当主である春奈が出迎える。

 

周囲には何人もの巫女が控えているが、やはりアナライズしてみてもほとんどが未覚醒者。

 

先日の調査で『一週間ほど前に異界調伏に挑戦して失敗した』という情報は掴んでいるため、この点については違和感を覚えなかった。

 

堅苦しい挨拶や社交辞令を勧めながらもそれらを観察し、どういう風に切り崩していくかを計算する。

 

 

「(はっきりいって、大抵の組織はガイア連合の力を見せつければ盛大に私たちを『高く買う』。

  が、高く売りつけるだけじゃ三流だ。売ったはいいが向こうがネタ切れになれば逆効果。

  裸土下座でも何でもして『どうかお救いを』って求めてくる。払えるモノもないのにね)」*9

 

「(それは……まあ、そうなんですが……)」

 

「(うん、根っこがヒーローな君にとっては受け入れづらいだろうけど、これは必要な事なんだ。

  『誰か』がやらなきゃいけない、この残酷極まる利己的な損得勘定を……誰かが、ね。

  で、君はその『誰か』を他人に押し付けられるタイプかな?)」

 

 

自己紹介に加え、異界の状況やこうなるまでの経緯を聞き出しながらも、『教師』として『生徒』へ教えを説く。

 

暗に、この土地が滅びる最中で藁にも縋る思いで依頼してきた西島家を『教材』として扱っていることちらつかせながら、だが。

 

当然、そのことは依頼者には気づかせない。ポーカーフェイスはどちらも訓練済みだ。

 

あくまでスムーズに進めつつ、より高く自分たちを売りつけつつ、継続的な儲けが出るように画策する。

 

そして一通りの状況把握が終わった所で、与一は「なるほど!」と会話を転換した。

 

 

「では、今日は式神を用いて異界内部の調査を行います。

 その後、私とハルカ君で異界の調伏に挑みます故……」

 

「わかりました……ですが、調査は今からですか?旅の疲れを癒してからでも……」

 

(……? 調査?そもそも異界の内容なんかも資料で届いてるはずじゃ……)

 

 

訝しむハルカと、確実な調伏のために体調を整えてから、と心配する当主。

 

だが、与一は「その一日の余裕があるかどうかを調べねばなりませんので」と返してから。

 

 

「こういうのは即決即断。早いうちに情報だけは仕入れるのが鉄則なのですよ。

 ですが一応、だれか異界への案内をお願いしても?」

 

「……では、僭越ながら私が」

 

 

当主である春奈が戦えない以上、必然的に夏芽が案内役となり、その日は三人で異界へ向かった。

 

未だにハルカと与一の力を疑っている夏芽の視線に気づかないフリをしつつ、異界の入り口まで山道を歩く。

 

神社の裏にある山の1つが霊山となっており、そこが異界化したというよくあるパターンらしい。

 

地元の人間でも苦労する山道をひょいひょいと歩いていき、その時点で夏美が高レベルとそれ以外の身体能力差に驚愕していた。

 

 

(ま、まるで天狗か何かのように整備されていない山道を……もしや本当に……?)

 

「では、式神による偵察をば……ハルカ君、補佐をお願いします」

 

「あ、はい!」

 

 

ハルカの師匠は、ご存じイイ♂オトコな破界僧である阿部。

 

彼から陰陽術の手ほどきも受けており、レベルによるゴリ押しもあるが、ある程度の式神の作成・使役はお手の物だ。

 

どちらも梵字を書いた人型の紙を取り出す。簡易式神である『式神 ヒトガタ』を作り出す術式だ。

 

LV5いくかいかないかの式神とはいえ、現地人の霊能力者にとっては目を見開いて驚愕するしかないシロモノ。

 

当然、夏美もパクパクと口を開閉させ、異界の入り口にいた悪魔*10をなぎ倒して奥へ進んでいく式神を見送るしかなかった。

 

なんせ、今しがた薙ぎ払った悪魔ですら、一対一で勝てるのは西島家でも腕を失う前の母や自分、そして妹だけだったのだから。

 

 

「(いいかいハルカ君、落ち着いて、これが当然の事のようにふるまうんだ。

  我々にとっては大したことじゃないんだぞ……って雰囲気が、さらに価値を高める)」

 

「(謙虚な方が美徳、ってことですか……)」

 

「(そういうことだね。 さ、念には念を入れた偵察も終わった。引き上げるとしよう。

 

  ……『この程度』に引っかかる様なら、これ以上のテクニックも必要なさそうだしね)」

 

 

どことなく徒労感を感じる与一の声に、ハルカは頭にクエスチョンマークを浮かべるものの、いまいち確信を得られず。

 

『偵察は十分なのでこのあたりで』と夏美に声をかければ、驚愕に固まっていた夏美がようやく再起動する。

 

その瞳に籠る『もしかしたら……』という光を、与一は見逃さなかった。

 

 

 

(首尾は上々、後は最善の形で『家と土地ごと掌握する』だけ。いやぁ、世の地上げ屋がジェラシーに狂いそうな商売ですよ)

 

 

 

*1
この時期はLV30半ばぐらい

*2
いつもの流石兄弟である。なお、そのまま流石兄弟が潰しても良かったが教材のために残してもらった模様。

*3
ただし所詮『本家筋』は盛大に粛清され、資料も技法も盛大に焼失し、残ったのは霊的素質に劣る分家筋ばかり。ロバ~マシなロバ、程度の血しか残ってないという『いつもの現地人』である。

*4
ガイア連合にある温泉の超絶劣化版。中に寝かせておくと気持ちHPとか回復するかもしれない、したらいいッスね。

*5
メギド効果のアレではなく、ハマ属性が僅かに乗った弓矢というニュアンス。

*6
だいたい0.7傷薬ぐらいの効果。製造法は失われているので再生産不可能。

*7
カオス転生外伝 とある地方の異界事情 にて昏睡していた東郷さんと同じ状態。

*8
残念ながら出会います。

*9
カオス転生外伝 とある地方の異界事情 での大赦がわかりやすい。ガイア連合への支払いで盛大に資産を吹っ飛ばしたせいで、これ以上何かを絞ろうにも何も絞れない状態になり、人情に流された銀時が抱え込むハメになった。

*10
せいぜいスライムやモウリョウ。LV1~2程度。



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レッツトライ!霊感商法!(下)

 

【西島家の屋敷 客間】

 

 

 

 

『御用があればお声かけを』と言って客間を出ていった夏芽を見送り、客間に腰を落ち着けた二人は少しだけ緊張を解く。

 

異界の『偵察』の後、おおよそ流石兄弟から渡された情報が間違っていなかったことを確認し、本格的な調伏は明日からと言って屋敷へ戻って来た。

 

最初は疑いの視線が強かった夏芽ですら、最後は驚愕と期待とわずかな後悔を混ぜた表情で二人の後に続いていた事を考えると、少なくとも『偵察』の意味はあったらしい。

 

 

「調伏の前に僕たちの力を見せつけて、それに払う対価について『相談』する時間を設ける……これ、必要だったんですか?」

 

「ああ、もちろんさ」

 

 

そう、極論流石兄弟の情報だけで異界攻略には十分だし、低レベルの簡易式神を作って送り込む程度なら消耗も少ない。

 

そのまま異界に突入し、異界の主……そして封印されているらしき祭神を解放してしまえば、それで今回の依頼は終了だ。

 

 

「だけど、それでは『高く売れない』。彼女らは手持ちの資産をはたいて我々に『礼』をして……それで終わりだ。個人のヒーローならそれでいいが、組織のトップはそれじゃいけない」

 

「……そう、ですね。そう……ですよ、ね」

 

 

あからさまに落ち込むハルカに、小学生相手に言い過ぎたか?と僅かに思考に躊躇が混じる。

 

だが、霊山同盟支部の今後は彼にとっても見過ごせる案件ではない。

 

S県・A県・K県での活動を広げている彼にとって、S県とK県の県境に相応の拠点ができるのは非常に大きい。

 

何より、与一の出身はS県だ。生前はごく普通の会社員、今世も19年しか生きていない彼にとっても第二の人生の生まれ故郷を見限った罪悪感はあったのだ。

 

 

(まあ、その罪悪感も『だから私の手でS県を守るんじゃー!』ってならない程度だけどさ……)

 

 

他に誰もやらないまま時間経過していたならやったかもしれないが、やってくれる人間が出たならそれを支援することで自分に折り合いをつける。

 

ガイア連合の黒札にそこそこの頻度である傾向というか……『誰かがやってくれるならそれでいいじゃん』的な思考であった。

 

政治がー、とか、国がー、とか言う人間は多いが、そう言ってる人間の何割が選挙にいくのか。

 

もっというと、そこから自分で政治家として立候補して国を変えようと思える人間などどれだけいるのか。

 

黒札の大半が平凡な日本人気質だとしたら、その本質は『事なかれ主義』だ。

 

与一もまた、継続的な利益を無理なく追及するのはどこまでいっても自分のためであり、世界を救うだの故郷を守るだのに命賭けられるほどの情熱は持っていないのである。

 

 

(だから、この子には育ってもらわないと困るんだよね。私が故郷を守らなくてもいいように)

 

 

だからこそ、故郷を『守ってくれる』人間が現れたのは都合が良かったのである。

 

人材育成やスパチャという形で、故郷を守ることに『無理なく力を貸す』ことで精神を割り切る一助にするのだ。

 

今回の仕事もそう……ハルカに自分なりの『交渉の流れ』を見せることで、彼が今後S県を掌握するのに役立つ知識や経験を積ませる。

 

相手が子供だ……というごく常識的な理屈は、霊能組織特有の女子供でも戦うという現場状態と、転生者の中には少年少女もいるという現実が鈍らせる。

 

 

(そういうわけだ、せいぜい正義の味方をやっていてくれ。ハルカ君?

 

 私は『私の利益』のために動かせてもらうよ。欲しいモノも見つかったしね

 

 

ガイア連合の黒札は、決して善人だらけではない。

 

元一般人が大半である以上、そこそこの確率でクズも混ざる。

 

……与一は『マトモな方のクズ』であった。

 

 

「それに、こんな簡単な霊感商法に引っかかる家なんだ、遅かれ早かれ詰むよ」

 

「……? 霊感商法って、詐欺の一種ですよね?」

 

「ああ。私のような三流山伏のいう事にホイホイ乗ってる時点で、警戒心は薄いのさ。この家は」

 

 

……ん?とハルカは首を傾げ、与一に質問を続ける。

 

 

「あの、失礼ですが山伏としてはどの程度の修行と技術を?」

 

「神主の元で、残された資料を基に半年ほど修行詰めかな。無論、富士山で。

 たった半年の修行で身に着けた付け焼刃の技術でも、騙される霊能力者が多くて多くて……、

 ボロい商売すぎてマトモな仕事をする気がなくなるね、本当に」

 

 

(……いや、世間一般では貴方のその経歴は『天狗に修験道を習った』と大差ないモノなのでは?)

 

 

鎮西 与一。十九歳。

 

自己評価は霊感商法をやる詐欺師一歩手前の男だが、今の日本では法力を身に着けた超一流の山伏である。

 

 

 

 

【翌日 西島家 当主の間】

 

 

「取り入るべきです、どれだけの対価を払っても」

 

「……一日で随分と意見を変えたわね、夏芽。私も同意だけれど」

 

 

結論から言うと、この土地の異界調伏はとんでもないヌルゲーで終わった。

 

突入するガイア連合の二人は、LV20~30という彼女たちからすれば神話の英雄じみた超人たち。

 

一方の異界は、平均LV1~3程度の悪魔が沸いてくる『程度』の低位の異界。

 

調伏の際も案内役として同行した夏芽だが、彼女が援護する前にほとんどの悪魔が蹴散らされていくのを目の当たりにした。

 

 

『それじゃあ、今日は依頼通り、若い方の異界の調伏を行いますね』

 

 

昨日はスーツ姿だった与一と私服だったハルカは、持ち込んでいた『山伏の装束』に着替えて夏芽達の前に現れた。

 

おぉ……と思わず声を漏らしてしまうほどの神聖な気配。昨日までは霊能力者らしからぬ格好だったのもあって、余計に頼りがいを感じてしまう。*1

 

さらに、与一は背中に『弓』を背負っていた。彼女らが使っている梓弓とは大きく違う。

 

彼女たちは知るはずもないが、恐山の巫女も運用している機械弓……その中でも悪魔由来の素材を用いた強化型だ。

 

一方の少年は無手だが、戦い始めれば武器を持たない理由を一発で理解する。

 

 

【飛び蹴り+アギ】

 

『バーニングスマッシュ!!』*2

 

鷹村ハルカと名乗った少年が炎を纏った蹴り技を放てば、立ちはだかる悪魔は一撃で砕け散る。これなら夏芽達が振るう霊刀など必要ない。*3

 

 

【メギド+狙い撃ち】

 

『食らえ、破魔矢!!』*4

 

一方の与一が光り輝く矢を放てば、悪魔の群れが塵芥のように消し飛んだ。

 

 

どちらも神話の英雄がごとき超人、夏芽が100人いてもかなわぬ当代の出来物。

 

異界の主である大悪霊*5ですら、鎧袖一触で蹴散らした。

 

この状況において、意地を張ってこの土地を一族だけで維持し続けるのは悪手でしかない。

 

……が、どうにか違和感を持たれないように得た『明日までの猶予』*6は得られた。

 

約束していた報酬を払うのは当然の事として、どうにか『今後の付き合い』が続くようにしなければならない。

 

 

「ど、どうしようお姉ちゃん……目覚めたと思ったら色々ありすぎてついていけないんだけど……」

 

「言うな、秋穂……私も正直、混乱から立ち直ったと言い切れないんだ……」

 

 

そして、異界調伏を終えて帰って来た後に、報酬の支払いを行おうとした彼女らの前で起きた奇跡。

 

重傷と呪詛により余命いくばくもなかった巫女達を、あの二人は癒しの術*7でもって次々と治療していった。

 

意識が戻らず衰弱するばかりだった秋穂もまた、多少のふらつきはあれど既に起き上がって会話ができる状態である。

 

最終的に与一が「一人一人だと面倒くさいので全員集めてください」と言って、【メディア】と【ペンパトラ】という術を使いまとめて治療。

 

流石に疲労があったのか、無事の生還を抱き合って喜ぶ巫女をよそに二人とも

 

本当ならこれだけでも彼女たちの全てを差し出して礼をしなければいけない偉業である。

 

 

「その上、やろうと思えば失った私の腕の治療も可能とは……正直、異界調伏を含めてもガイア連合を侮っていた、としか言えないわね」

 

「はい……間違いなく彼らは常識外れの霊能力者の集団です。ここに派遣されてきたあの二人が特別格上、というわけではないでしょう」*8

 

 

そも、『取り込む』ではなく『取り入る』と表現している時点で、自分たちの側に引き込むのは不可能と判断しているも同じだ。

 

無論最上なのは婚姻関係の締結だが、ガイア連合に女の術者がいないとも思えない。

 

霊的な素養を重視するなら、ガイア連合内部でお見合いしたほうが圧倒的に効率的である。*9

 

ではいっそ一夜の過ちでもカマしてもらおうかと考えたが、片方は小学生でもう片方は明らかなキレ者。色仕掛けが通用する相手とも思えない。

 

 

「……そも、私たちの体でお礼を、という発想自体が……どう考えても私と秋穂の体程度じゃ不足では……」

 

「やめようお姉ちゃん!一応年頃の乙女なんだから!それ以上は大切なナニカが折れちゃうから!!」

 

 

娘二人は【JK】歳である。容姿も相応に整っているが、流石に絶世の美女というほどではない。

 

仮にハルカがレムナントを連れてきていたら、あんな美女がいるのに自分たちでは、と一歩引いてしまうぐらい自分の『女』に自信がないだけだ。

 

そんな娘たちの様子をみかねて、当主であり母である春奈は一つため息を吐く。

 

 

「私達の方からあれこれ押し付けても、向こうからすれば迷惑な事もあるでしょう。

 仮に故郷に恋人がいるとしたら、体で礼をすることはその恋人との仲を拗れさせる事になりかねません。

 

 恩を仇で返す前に、私が直接条件を詰めて来ます……ですが二人とも」

 

 

『何を要求されても受け入れる覚悟はしておきなさい』とだけ言って、その日の会合は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

【翌朝 西島家の屋敷 正門前】

 

 

 

「…………あの、夏芽さん」

 

「何も言わないでください、お願いします……!」

 

「じゃ、秋穂さん」

 

「すいません、いろんな意味で乙女としてのナニカが砕け散ったので、すいません……」

 

「あ、はい」

 

 

もう1つの、西島家の祭神が封印されているほうの異界の調伏については、交渉役等も準備してからじっくり進めることが決まった。

 

解放したはいいが、目覚めた神とトラブルになった案件は少なくない。第二のアラハバキ案件*10が起きたらシャレにもならない。

 

念のために結界に長けた黒札を派遣してもらい、万が一の場合は異界から出る前にシバき倒して調伏するという方針となった。

 

盛大に押し付けた恩に関しては、今後西島家は『霊山同盟支部』傘下の派出所となって、霊山同盟支部がA県で活動するときの拠点となることで決着した。

 

実質家ごとの身売りであり、彼女たちの持つ資産・財産・人材もまたガイア連合で運用することになる。

 

が、その代りとして送られてくる各種オカルトアイテムや【デモニカG3MILD】を考えれば破格すぎるトレードだ。

 

ここらで発生する異界は、四国の大赦が管理しているものよりは格上なのもあり、少量だがMAGやマッカ、稀に魔石程度は手に入るのが大きい。

 

ある程度支援して自立させつつ拠点として整備すれば、黒札が現地で活動するときの一時拠点としては十分に発展可能である。

 

 

ここまで冷静に利益の話をしてきたが、それは『目の前の光景』から現実逃避している少年少女の思考のせいだ。

 

具体的に言うと……。

 

 

「それじゃ、『はーちゃん』。次は祭神の解放をするときに来るからね♪」

 

「そ、そんな、はーちゃんだなんて……こんな年増を、それに娘の前で……」

 

「いいのいいの、それにまだまだ20代の美人さんで通る外見なんだから自信持たなきゃ♪」

 

「も、もう。与一さんってば……」

 

 

盛大に乳繰り合っている与一と春奈から目を背けたい小学生(ハルカ)と娘(夏美&秋穂)である。

 

詳細な条件を詰める、ということで行われた与一と春奈の話し合いだが、朝までかかったソレがどーいう内容だったのか。

 

だいたい想像はつくけどいろんな意味で想像したくないのが彼ら/彼女らの常識であった。

 

実の母親が死んだ父親を忘れたように雌の顔をしているのを見せつけられて宇宙猫になっている姉妹。

 

まさかの指導役が交代しても鋒山家案件*11が発生するという現実に頭痛を覚えるハルカ。

 

 

そう、与一の言う『自分の利益』とは、与一の難儀な性癖である『未亡人フェチ』にあった。

 

巫女等の血が強い家も多いため、この界隈なら夫を悪魔との戦いで失った美人未亡人はそこそこ見かける。

 

そーいう家を探し出し、俺TUEEEで救世主ムーヴしながら未亡人の愛人を増やしまくるという業の深い黒札……それが鎮西 与一であった。

 

女性型の専用式神を持たない理由も簡単で、何をどうやっても専用式神は『未亡人にはなれないから』というのが理由だ。

 

……ちなみに、人妻も好きだがリアル寝取りをやらかすほどの悪性が無いあたり、妙な所でバランスが取れている。

 

 

 

一方の春奈も、姉妹が幼い頃に夫を亡くしてからは当主として己に厳格さを強いてきた。

 

当然再婚など考えたことも無く、男性経験も少ない故に盛大な男日照り。

 

夫との出会いも霊能一族同士の見合い結婚ということもあり、年下の美青年かつ神話の英雄がごとき霊能力者である与一に口説かれ、一晩ですっかり骨抜きにされていた。

 

というか、与一の手で静音結界を張られた部屋だったので、それはもう朝まで『人に聞かせられない声が出るような行為』をされていた。

 

 

色んな意味で死んだ目になっている娘二人と、雌の顔で見送る春奈に手を振って、屋敷を後にしたハルカと与一。

 

来た道である石段を下りながら、与一は軽い調子で問いかけた。

 

 

「参考になったかな、ハルカ君?」

 

「ええ!最後以外はね!!!」

 

 

鷹村ハルカ、十二歳。魂の叫びであった。

 

 

*1
当然これも与一の狙い。一般的な霊能力者は、霊的な処理が施されているとはいえ私服で戦う彼らに盛大に違和感を覚えるので、あえて最初は私服で現れ、それからこの衣装を見せて『ギャップ』を狙う。

*2
敵一体に力依存の火炎ダメージ

*3
なお剣術はちゃんと嗜んでいるので、霊刀を持っても普通に戦える。

*4
アイテムとしての『破魔矢(真1)』をスキルで再現したもの。だいたいメギドと同じだが、弾速が上がっている分命中率に+補正。

*5
悪霊 ゴースト LV6

*6
「じゃあ俺ら帰るからー」するとめっちゃ引き留めに会うので、あえて一日余裕を作って西島家が相談する時間を作った。与一の話術によってそうなるよう誘導されていることに春奈も夏芽はまったく気付いていない

*7
ハルカもスキルカードで『ディアラマ』等は使える。

*8
実際半終末直後ということを考えれば、与一の強さは銀時ぐらいでハルカの強さは千代ちゃんぐらい。この後の大江山で一気にハネ上がるけど。

*9
なお多くの黒札は専用式神に夢中だったりするので、同じ黒札と関係を持つ者の方が少数派な模様。

*10
故郷防衛を頑張る俺達 出現!国津神アラハバキ! 参照

*11
霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である 第一話参照。





登場人物資料『静西 与一(シズニシ ヨイチ)』

年齢 19(前世は換算しない)

LV 27

狙い撃ち
連射撃ち
刹那五月雨撃ち

メギド
ハンマ
メディア
ペンパトラ

※主な習得スキルのみ抜粋


ガイア連合の黒札(転生者)であり、地方遠征組の一人。

外見はドリフターズの『那須与一』。

山梨支部所属の真面目にレベリング勢で、レベリングと同時に神主から修験道を学んだ山伏。

弓術関連のスキルも覚えてからは弓の練習も熱心に行っており、自己研鑽については修羅勢にならない程度に熱心。

……なのだが、欲を律するには程遠く、酒は嗜まないが肉欲にはひじょーに正直。

とはいえハニトラに引っかかるほどマヌケではなく、本編のとおり、高レベルの知力・魅力と顔と舌を活かして盛大に未亡人をひっかけている。

あちこちでこんな感じの霊能力者の愛人を作っては、遠征時の拠点替わりにしてるマジメ系クズ。

阿部ほどではないが愛人に子供も産ませているが、

養育費として後々ゴミになる日本円

魔石等のダンボールに詰め込めるほど手に入るオカルトアイテムで支援している。

総じて『クズではあるけどバランス感覚のあるクズ』である。



登場人物資料『西島家』

当主   西島春奈(母)  LV3
次期当主 西島夏芽(娘 姉)LV3
     西島秋穂(娘 妹)LV2

外見はガールズ&パンツァーの『西住しほ』『西住まほ』『西住みほ』。

才能は特筆して言うべきところはなく、ロバの中ではマシな方、程度。

弓術と合わせて中距離である程度戦えるのが利点だが、悪霊系の悪魔は銃耐性・銃無効が多いのでひじょーに相性が悪い。

そのためハマ系の術を乗せて放つ技術を奥義としてきたが、習得できる者が限られていた上に一度近づかれれば餌食になっていた。

この一件の後、ガイア連合製の弓矢に変えてからは悪霊をアウトレンジから殲滅できるようになり、安定して間引きができているとのこと。


……なお、後々当主である西島春奈に『姉妹と年の離れた妹』ができることになり、姉妹が余計に複雑な顔になる模様。



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悪魔しょうかんのお話


アビャゲイル氏の『悪魔しょうかん』三次をお借りしました。


 

【日本某所 悪魔娼館】

 

 

「一文字違うだけで盛大におかしいんだよなぁ……」

 

「何が?」

 

「僕がここにいる事とか修行のためにココに来る必要がある事とか全部!!!」

 

 

ガイア連合の黒札、【ミナミィネキ】が作り上げた商業娯楽施設……。

 

というより、ドストレートに言えば『悪魔の風俗嬢が働いている風俗店』。それが『悪魔娼館』である。

 

当然だが、悪魔との性行為はたとえ悪魔召喚プログラムで契約している悪魔であろうと危険が伴う。

 

魔術契約などで安全を確保しても抜け穴を見つけられればMAGを搾り取られて殺されかねないし、性交中は心身ともに隙だらけだ。

 

そうやって暗殺された悪魔召喚士は歴史上何人もいるのだろう、人間とはまこと業の深い生き物である。

 

 

……というわけで、黒札でありショタオジの弟子でもある【ミナミィネキ】が作ったのが、安全に悪魔と性行為が楽しめる【悪魔娼館】だ。

 

魔術契約に加え、ミナミィネキ手ずから訓練した美女・美少女・美青年・美少年の悪魔がお出迎え。*1

 

性技に加え、性格面でも徹底的な指導を受けたことで式神相手の性行為に慣れたお客様にもご満足いただける仕様である。

 

 

「いや、世界最古の職業って言うぐらいですし、娼婦に対して偏見は持ちませんよ?

 そういうモノが必要なのもわかりますし、情交が儀式的に意味があるのも理解してます。

 

 小学生を連れてくるんじゃないよ!特に……」

 

「あら、ハルカ君。しばらくぶり♪」

 

「これで3回目ですけどこの人と会うのにここはアウトでしょぉ!?技術部のラボとかじゃダメなんですか!?」

 

「こっちで会うほうがお前の反応が面白いから却下」

 

「クソ師匠コラァ!!」

 

 

……先ほどからちらほらと名前が出ている、ミナミィネキこと【新田美波】。

 

悪魔召喚・契約・式神作成などのガイア連合が誇る技術を十全に学んだ技術者であり、ガイア連合スケベ部で特に有名なド淫乱美女だ。

 

悪魔娼館なんてトンデモ施設を作り上げただけでなく、内部でできる事を考えたら実質【邪教の館】になりつつある、という有能な変態である。

 

まあ一般的にはシュメールでありそうな聖娼だの悪魔の風俗嬢だの男娼だのがごっそりのいる館なんて邪教極まりないから邪教の館であってそうだが、それはそれ、これはこれ。

 

スケベ部筆頭であることを除いても、シノや阿部とは別の意味で有能な技術者なのは間違いない。

 

……ハルカと並ぶとおねショタ犯罪臭がすごいが、阿部と一緒にいる時のほうがホモショタでもっとヤバいのでセーフ!

 

なにはともあれ、何故この施設を利用し無さそうなハルカが、それも3回も訪れてるのかというと……。

 

 

 

「それじゃあ、今日も式神ボディの調整をしましょうか……と言いたいけど、先に阿部さんの用事からね?」

 

「……ああ、そういえば今日は師匠も用事があるんでしたっけ」

 

 

ご存じ、ハルカの体のほとんどは【ギルス】という式神の肉体で構成されている。

 

コレのメンテナンスは式神技術に通じた黒札にしか行えず、必然的に施術できる場所も人材も限られるのだ。

 

とはいえ通常ならそこまで高頻度のメンテは必要ないのだが……。

 

 

「……ところで、今度は何やったの?生体装甲部分が全焼、式神筋肉が焼き切れるって。

 アギダインどころかマハラギダイン叩き込まれてもここまでウェルダンには……」

 

「ちょっと全身を内側から燃やしながら戦闘を……二回ほど……」*2

 

「エンチャントファイア!?」

 

 

もちろんそんな網の上で焼きすぎた焼肉みたいな状態で出歩くことはできないので、既に回復魔法や各種アイテムで治療済みだ。

 

が、こういった無茶をした後は当然体に不具合がでないか心配になるわけで。

 

死闘と呼べる戦闘を経験した後は、その都度阿部やシノやエドニキや黒医者ニキといった技術部黒札たちの診察を受けるのである。*3

 

 

「もうすぐ中学校に上がるので、後者で不具合起こして誤作動させるわけにもいきませんから……」

 

「あ、そっか。ハルカ君、来月から中学生だものね……うん、大丈夫。ちゃんと用事を済ませてから診察してあげる」

 

「ありがとうございます、新田さん」

 

(こうして普通の会話してる分にはただのほほえましい関係なんだが、ミナミィネキのせいで盛大にインモラルな雰囲気がするんだよなぁ)

 

 

イン♂モラルな雰囲気を作り出してる男が言えた義理ではないが、確かに風俗店の一室で会話してるのもあってひじょーに犯罪臭い絵面である。

 

なにはともあれ、阿部が「シノから渡されたブツだ」と言って持ってきたトランクと共に奥の部屋へ。

 

ハルカの方は、ミナミィネキから「あ、ジュースならあるから、遠慮なく飲んで待っててね?30分もせず終わるから♪」と言われ、待合室の隅っこでソファに座って待つことになった。

 

 

(……とはいえ、待っててね、と言われてもなぁ)

 

ストローをさしたオレンジジュースをちぅー、と飲みながら、どうしても周囲に目が行ってしまう。

 

3回目の来訪ということもあり、行きかう悪魔娼婦や悪魔男娼には見慣れた顔もなくはない。

 

ここは黒札の客・スタッフと従業員しか来ないVIP向けの待合室なので人気は少ないし、プレイルームでもないのでおっぱじめるバカもいない。

 

ちょっとしたキャバクラのような雰囲気になっており、目を付けた娼婦や男娼を連れて奥へ行って……なんてことも可能らしいが、ハルカはあんまり詳しく知らなかった。

 

 

(まだ昼間なのもあって、お客さんほとんどいないからなぁ。いや、まあ、そういう時間を選んできたんだろうけど)

 

 

阿部に聞いたところによると、このスペースは悪魔娼婦を侍らせながら黒札同士で商談をする『接待』に使われることもある、とかなんとか。

 

そこらへんは一般企業と同じだ、『接待』にキャバクラ使うとか昭和かよと言う人もいるかもしれないが、美女に囲まれれば気を良くするのが男のサガ。

 

黒札同士でモメないように色々工夫してるんだろうなー、とか考えていたら、ふいに人の気配を感じた。

 

『お客さんかな?』と思いつつちらりと振り向くと、金髪の少女がふらりと待合室に現れていた。

 

年齢は推定だが10代中盤から後半……ハルカよりいくらか年上に見える。黒札ならばこの年齢でとんでもない強者と言うのもよくある話だ。

 

しかしどこか陰のある表情で、微妙に退廃的だが明るい雰囲気の店内に対し、彼女の周囲だけ若干暗く感じるほど。

 

そして、彼女が訪れたとたんに悪魔の従業員……特に『男娼』の空気にわずかな変化があったのを、ハルカは微細に感じ取った。

 

 

(警戒、困惑、あとは忌避感かな? ……何があったんだろう、ここの従業員、新田さんがしっかり教育してるって話だけど)

 

 

オレンジジュースをちびちび飲みながら、すごすごと隅っこの席に座る彼女をもう少しだけ観察する。

 

以前、夜に訪れた時も彼女のような女性の客はいた。美少年の男娼を両側に座らせ、ゆるんだ顔で酒かジュースを飲んでいた記憶がある。

 

男性客とそれほど楽しみ方は変わらない以上、彼女も男娼を買いに来たはずなのだが……。

 

注文を取りに来た悪魔従業員にソフトドリンクだけを頼み、それを飲みながらテーブルに備え付けのタッチパネルを無感情に見ている。

 

 

(メニュー……あ、これか。 うわ、食べ物や飲み物のメニューだけじゃなくて娼婦のメニューもある!?)

 

 

最近の外食チェーンによく置いてある、タッチパネル式の注文機械。

 

一応キャバクラ風スペースでの注文にも使えるが、席に呼ぶ娼婦・男娼の注文もこれでこなせるようになっていた。

 

従業員を呼んで注文するのが億劫な者は、これを操作して注文してください、ということなのだろう。

 

なのだが、その少女は男娼を呼ぶ気配もなく、同性愛者のように娼婦を呼ぶ気配もなく、時折おかわりのドリンクだけを頼んで座っているだけ。

 

操作を見る限り、男娼を頼もうとする気配を見せてはドリンクのページに戻す……を繰り返しているようだ。

 

そして、こういう少女を放っておけない男がここにいた。

 

 

「すいません、隣に相席よろしいですか?」*4

(後で新田さんに土下座して謝ろう。それでもだめなら腹を切ろう)

 

「え……? あ、はい、どうぞ」*5

 

 

ダウナーなテンションのまま、隣に座ったハルカをちらりと見て返答する少女。

 

ハルカの方から少しずつ話題を振り、ちょっとした雑談交じりに距離を詰めていく。

 

いきなりグイグイいっても警戒されるだけ、当たり障りのない会話を間を開けて行い、少しずつ相手の情報を探る。

 

そして、10分程度会話を続ければ彼女のテンションが最底辺からやや低め程度まで回復し、彼女の名前……『伊予島 杏(いよじま アンズ)』と言うらしい……を聞き出すこともできた。

 

このぐらいのコミュ力を磨いておかないと支部長なんてやれないのである。超人だらけのガイア連合支部長たちと交渉しなければならないのだから。

 

ちなみに、この事態を受けて一部従業員がミナミィネキと阿部の所に駆け込んできたが……。

 

「占い的には吉兆しか出てないな」「うーん……じゃ、じゃあ経過観察で……」

 

と言う判断により、この二人のいるテーブルは要観察状態で放置される事となった。

 

 

「なるほど、このお店に迷惑をかけるような失敗をしてしまったのを気にしている、と」

 

「はい……あまり細かい事は話せないんですが、そのせいで大切なモノを無くしてしまって……」*6

 

 

彼女が起こした事件だが、詳細に語るとこの小説がR18になってしまうので概要だけ説明すると。

 

好みの美少年専用式神を貰ったのはいいが、俺の嫁にはYES LOVEだがノータッチ!という性癖だった為に手を出さず、

 

その分ため込まれた『美ショタとアレコレしたーい!』という欲求をこの悪魔娼館の男娼で発散。

 

問題は専用式神の自我が育ち始めており、その状態で元ゴブリン現美少年男娼に自分の主がギシアンされるのを黙認せざるを得ず。

 

結果的に式神はNTR脳破壊を長期的に受け続けてしまい、オキニの男娼二名を身受けしたところで店の中で盛大に暴走。

 

ミナミィネキによって鎮圧されたものの、悪魔娼館一号店に多大な被害が出た悪魔娼館初期の失敗例である。

 

 

「……借金返済は終わったんだけど、いざそうなると何をしていいかわからないの。

 あれ以来、何とか立ち直ろうと色々試してみたけど、どうしても立ち直れなくて……。

 このお店に来て何もせず帰るのも、これで4度目か、5度目か……。

 癒されたくてきたのに、誰かを指名してお話しする勇気も持てなくって……」

 

(ふむ……見た感じ、僕と同じぐらいかそれ以上の霊能力者だけど、ここまで折れるほどの何かがあったのか……)*7

 

 

この時点で、ハルカはおおよそ彼女の精神状態を察していた。

 

失敗や喪失があまりに大きすぎた事による『再起への恐怖』、それが心を食いつぶしている。

 

無理に立ち上がって挑戦しようとすれば、途中で心が耐えられなくなり余計に深みに落ちる。

 

かといって立ち上がれないままだとどんどんドツボにハマる、まさしく八方塞がりの袋小路だ。

 

こういう時は何かしらの気分転換でメンタルリセットするのが大事なのだが、良くも悪くもマジメそうなので引きずってしまっているのだろう。

 

 

(それでも店を壊した借金返済という『義務』のためになんとか頑張っていたが、それが終わったことで燃え尽きた、と)

 

「伊予島さんは、ちょっと何も考えなくなったほうがいいかもしれませんね」

 

「え……?」

 

「心が弱ってるときに何かを考えても、今以上にヘコみ続けるだけです。

 それならいっそ、何も考えない時間を過ごしつつ、誰かに弱みをぶつけるべきですよ。

 悪魔娼館(ここ)はきっと、そういう場所ですから。一時の夢で弱みを忘れるための……」

 

「一時の夢……なら、貴方が夢を見せてくれるの?

 正直、その……かなりみっともない所を見せる事になると思うのだけど。

 

 引かない?ホントに引かない?」

 

「僕でいいなら、よろこんで。それに、弱ってる女性に露骨な悪感情を向ける外道になったつもりはありませんから」

 

「そ、それじゃあ……」

 

 

そして、若干息を荒くした伊予島が少しずつハルカに近寄っていき……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【十数分後】

 

 

「【獣の眼光】のスキルカードはこれでいいわ。

 それにしても、よく用意できたわね、獣の眼光が入る情報媒体なんて。

 それに、確か貴方【龍の眼光】が使えたんじゃ……」

 

「シノのところの試作品さ、これでようやく獣の眼光が入った。

 まあつまり、龍の眼光が入るような情報媒体はまだ完成してないんだよ」

 

「ああ、なるほど……だから獣の眼光が使える私の所に来たのね」

 

 

阿部は【龍の眼光】は使えるが【獣の眼光】は使えない。

 

そして、スキルカード作成では【強いスキルが使える】事が必ずしも最適ではない。

 

なんらかの情報媒体にスキルを保存する以上、強力すぎるスキルや魔法は収まるカードが存在しなくなるのだ。

 

なので、需要がありそうなスキルはむしろ最上位よりもその一個下ぐらいのスキルの方が安定して生産できたりもする。

 

全門耐性ではなく各属性の耐性のスキルカードに需要があるのも、主にコスパと入手難易度の関係である。

 

 

「さーて、あの二人はどうなったかな。一応占いじゃ吉兆が出てたが」

 

「これで脳破壊事件アゲインだったら今回は弁償じゃ済まないからね?」

 

「そんときは俺が責任もってショタオジに土下座するさ、さーて……」

 

 

スタッフルームから待合室に向かおうとするが、なぜか従業員たちが物陰に隠れてこそこそと待合室をうかがっている。

 

「もっと詰めてよ!」「見えないでしょ!」と小声の押し合いへし合いでベストポジションを取ろうとしているあたり、何かしら【面白い事】は起きているらしい。

 

客があの二人しかいない時間帯とはいえ、ミナミィネキの訓練を受けた従業員がこうなる程度には、そこに『何か』がある。

 

 

「……何があったの?」

 

「あ、ミナミ様!アベ様!見てくださいアレ!」

 

 

小声で待合室を指さすイケショタゴブリンに、何事かとこっそりのぞき込んでみれば……。

 

 

「いちゅもいちゅもね、しきがみラブ勢がね、じとーってみてくりゅのよ!」*8

 

「うんうん、あんずちゃんは沢山頑張ったのにひどいねぇ」

 

「しょうなのぉ、あんずがんばったのにひどいのよぉ!たくしゃんマッカも稼いだのにぃ……」

 

「よしよし……さ、可愛いお顔が台無しですよ。目の下のクマが消えるよう、お昼寝しましょうね」

 

「んぅ、ぱぱぁ、はるかぱぱぁ……んちゅ、んちゅ……」

 

 

「「なにこれ……?」」

 

 

思わずそう呟いてしまうのも無理はない。なんせ状況を端的に説明瑠するなら

 

『自分より年下の男の娘寄りの美ショタ&筋ショタをパパと呼んで赤ちゃん言葉で甘えてる少女』である。

 

しかも膝枕までしてもらって、お昼寝と言われたら自分の親指をしゃぶりながらすやすやと寝始めた。

 

眼を離していた30分程度で一体何が?!と二人そろって宇宙猫になるのも無理はない。

 

 

「最初は普通の会話だったんですけど、ハルカ様が鼻息荒く近づいてきた伊予島様を『ハグして頭を撫でた』所から状況が変わりまして……」

 

「胸元に抱き寄せて『よしよし』って囁きながら慰め続けて、段々と困惑→羞恥→すすり泣き→安楽、って感じで推移していって……」

 

「最終的には見ての通り、ハルカ様を『ぱぱ』って呼びながら膝枕の上で甘え倒してます」

 

 

「「どういうことなの……?!」」

 

これに関しては、ハルカが本質的には『この店の従業員じゃない』のが非常に大きい。

 

この店はあくまで一時の夢を与える場所、ミナミィネキも以前の失敗から、ハマりすぎないように工夫する塩梅を身に着けた。

 

……が、伊予島に必要だったのはむしろ逆。自分を収められるほどの器を持つ相手にドロッドロに甘える経験である。

 

こればかりはイケショタゴブリン達では荷が重い、彼らはミナミィネキの教育のおかげで愛を与えることはできるが、元はゴブリン。

 

色んな意味でスレ切った彼女の精神を受け止めて、なおかつどれだけ寄りかかられても折れないだけの『心身の強さ』は無い。

 

 

具体的に言えば『彼女と文字通り同等かそれ以上の強さ』かつ『クソ重感情を受け止められる器』かつ『彼女の性癖にクリーンヒットする美ショタ』じゃなければいけないとかいうクソゲー案件である。

 

ショタオジでワンチャンあるかないか、とかいう超ニッチな条件を、しかしハルカは満たしていた。満たしてしまいました。

 

おしゃぶり代わりに自分の指をしゃぶりながら、久方ぶりの熟睡にふける伊予島。

 

感情抑制のために再改造された自分の式神を見た瞬間の悪夢を、毎朝毎晩延々と見続ける日々からようやく解放されたのだ。

 

 

 

 

 

その後、寝ている間に他のお客さんの迷惑にならないようスタッフルームの仮眠用ベッドにて八時間ほど爆睡した伊予島。

 

目覚めた後に改めてハルカを指名しようとして「あ、すいません。僕男娼じゃないんです」の一言で宇宙猫→土下座のコンボを華麗にキメて、

 

最初の一時間すら待たずに先に帰ってしまった阿部を追って、8時間ずっと膝枕をしていたハルカに礼を言ってから見送ったのであった。

 

しかし、今回の一件で盛大に目覚めてしまった新たな性癖に嘘はつけず……。

 

 

「ミナミィネキさん」

 

「……どうしたの?」

 

「私、パパのおっぱいを吸えるように頑張るね……」

 

「伊予島さん、寝てる間にテンタラフーにでもかけられたの???」

 

 

伊予島 杏。(原作通りかつ転生前計算に入れなければ)14歳。

 

家に帰ってから特撮俺達経由でハルカにスパチャを入れつつ、密かに霊山同盟支部への支援・移籍を検討し始めたのだった……。

 

 

*1
なお、外見を加工しただけの元ゴブリン現男の娘娼夫とかもいたりする。

*2
大江山の一件で使った暴走バーニングエクシードギルス×2回のせい。

*3
正確に言うと阿部は技術部黒札ではないが、そもそもギルス作ったのコイツなので実質本郷猛とV3の関係である。

*4
※裏 従業員「行ったーッ!?仮面ライダーがミス・脳破壊に行ったーッ!!」「え、いや、お店的にマズくないこれ!?」「だれか早く店長に報告!あと阿部さんにも!」

*5
「見覚えのない子だし、新人さんかな?」と思っている。

*6
「新人さんだし知らないのかな……」と思っている。

*7
半終末突入前にLV40という修羅勢の一人。流石に運命愛され勢ほどではないが、この時点のハルカ/ギルスとならほぼ互角か、少し上。

*8
式神ラブ勢・ガチ恋勢からすれば、伊予島の行動は「理解できなくはないが脳破壊まで追い込むほど相互理異界を放棄するな」「実質脳レイプと尊厳破壊じゃねーか」である。



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仮面ライダー、海へ行く。


【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策】様で行われていた宮城県の水性悪魔退治を見て。

「あ、これ傭兵も参加してるしハルカ突っ込めるな」

と思いましたので、一本書いてみました。

ついでに【君はこのソラを飛べる】も本日更新!

でも1日2本書くのはやっぱキツい(



 

「というわけだ、お前もちょっと行ってこい」

 

「いきなりどういうわけぇ!?」

 

 

久々の短編投稿が初手・師匠の無茶ぶりなのがこの作品の特色である(強弁)

 

『エンジェルチルドレン事件』からしばらく後、突如として阿部の呼び出しを受けたハルカ。

 

なんでも宮城県にてオカルト系の傭兵の大量募集が来ていたようで、レベリングと金*1稼ぎもかねて連れてこられたのである。

 

元々霊山同盟支部*2は出来て間もない上にトップが黒札じゃないということもあり、資金繰りの手段はいくらあっても困らない。

 

何故か特撮俺達*3や山梨支部*4からがっつり支援物資や支援金が届いているが、それだけに頼るわけにもいかない。

 

巫女達が作っているハマストーンやムドストーン、それらを弾丸に加工した呪殺弾や破魔弾。

 

他にもイワナガビメ協力の元、老化を遅らせる『停滞の霊薬』*5や『ガイアシーフードカレー』*6

 

将来的にはなんと『アガシオン』*7の量産体制を作り出すので、意外とニッチ層を埋める商品は取り扱われているのだ。

 

……が、それらの生産・販売が軌道に乗るのはもっともっと後、ハルカが中学校に上がってからのお話。

 

現在の主力商品は『デモニカG3MILD』*8、これを細々と黒札経由で売ってるだけの地味な新興支部なのだ。

 

なので、整備をそろえたり人材を誘致するため、時々こうしてほかの支部に『傭兵』としてハルカが放り込まれるのだが……。

 

 

「場所が!場所がおかしい!?なんでいきなり宮城県の沖合!?」

 

「いやー、なんでも妖獣クラーケンや妖鬼アズミなんかが群れをつくってるらしくてな?

 俺は別件で参加できないから、お前だけ置いたら帰るわ。代役任せた」*9

 

「海の上での戦闘とか未経験なんですけど!?」

 

「だからだよ。S県にも港はあるし、今までの水上・水中戦闘は湖と川だけだった。*10

 ここらで海での戦闘も経験しとかないと、海から来る悪魔に対応できん」

 

「ぐ、ぐぬぬ……」

 

 

ぐうの音も出ない、とはこのことだ。

 

とはいえ、前と同じく寝てる間に拉致されて、ロボ部が動かしてる戦艦に放り込まれたのは流石に文句を言っていいかもしれない。

 

これまた前と同じくベッドごと運ばれたようで、用意された部屋でパジャマから着替えるハメになったのだ。

 

 

「……まあ、漁師の皆さんも困ってるどころじゃないみたいですし、討伐に参加はしますよ」

 

「おお、そう言ってくれると思ってたぞ。そういうわけで後は任せる、詳細は船のヤツに聞いてくれ」

 

「あ、ちょっ……「トラポート!」……行っちゃったよ」

 

 

いつもの事だが、阿部は最低限の説明だけして放り出すのが恒例である。

 

一応水上・水中戦闘に対応する能力は備わっているが、だとしても未知の悪魔が多数、それも群れている。

 

あのクソ師匠いつか殺す、と何度目かになる決意を抱きつつ、乗り込んでいるであろうロボ部の面々に状況説明を求めたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【15分後】

 

 

「やっぱクソ難易度じゃないかぁー!!??ええい、変身!!」

 

 

水上歩行と水中呼吸、そして水泳速度の強化については式神ボディの改造で対策済み。*11

 

が、そもそもハルカ/ギルスの最も最適な戦闘スタイルは『前衛に居座っての削り合い』。

 

当然、得意な分野は『継戦能力』『生存能力』に割り振られている。

 

すなわち、ハルカ/ギルスにとって『多数が群れて数でゴリ押し』と『スピード重視の引き撃ち』は天敵とも言っていい相手なわけだ。

 

特に、後者は各種ドレイン系での回復が敵の火力を下回ったり、増援・増殖が殲滅能力を上回ったりすると逃げの一手しかなくなる。

 

 

「つーかクソ師匠、遠隔遅延トラポートとかいうクソトラップ仕掛けやがって!!

 状況説明と戦闘準備終った瞬間悪魔の群れの中にポイとかふっざけんな!!」

 

 

『妖鬼アズミ』*12の群れが寄ってたかって襲ってくるのを、鍛え上げた格闘術で制する。

 

背後から迫る一匹の顔面を裏拳で打ち抜き、ひるんだところを背負い投げで正面の一匹に叩きつける。

 

左右から挟み撃ちにしてきた二匹は屈んで攻撃を避けて同士討ちさせ、がら空きの腹部へ素早くヒジで二撃。

 

足元から水中へ引きずり込もうとしてきた一匹の腕を跳躍して避け、そのまま飛び蹴りで首をへし折る。

 

自分より随分低レベルな悪魔の群れ*13だからこそ成立している状態だが、それでも鍛え上げた武術は嘘をつかない。

 

 

『赤心少林拳・桜花の型』*14!」

 

 

合間合間にバフを挟み、比較的レベルの高い個体を『チャージ』付きの打撃で吹き飛ばす。

 

目に入る悪魔全てを式神アイでオートアナライズできるからこその戦術だ。

 

ちなみに、なんで彼がわざわざ海に降りたままで戦っているのかというと……。

 

 

『ハルカ君、そろそろデカいのが行くぞー!!』

 

「! 了解です!」

 

 

駆逐艦にいるロボ部からの通信を受け、近くにいたアズミを蹴り飛ばし包囲網を抜ける。

 

即座に『挑発』*15を使用し、悪魔のヘイトを買いながら駆けだす。

 

まだまだたっぷりといるアズミの群れの視線がギルスに集中し、ひと塊になって一直線に追って来たところで……。

 

 

「『キングブフーラ』!」

 

「どわぁお!?!」

 

 

宮城支部筆頭黒札こと『鵺原リン(通称・幼女ネキ)』*16の放ったキングブフーラが、アズミの群れを6~7割以上凍結させる。

 

そう、殲滅能力に劣るハルカ/ギルスの役目は、ロボ部の駆逐艦や足となる漁船に悪魔が向かわないようにするための囮(ヘイトタンク)。

 

そして、こういった大技をブッパする時のために『挑発』を使って群れの進路を誘導するトレイン役だ。

 

ちなみにハルカ/ギルスは巻き込まれない範囲ではあるが、いきなり強大な冷気が吹き荒れたせいで海面が荒れ、軽く跳ね上げられた。

 

 

「ひゃあ、すっご……僕、巻き込まれてたらひとたまりもないな……」

 

 

ハルカ/ギルスは最終回まで装備抜きだと『氷結耐性』なので、このレベルの氷結攻撃を叩き込まれると結構痛い。

 

なんならソロだとそのまま凍結でハメ殺されるので、巻き込まれたらと思うと冷気とは別の意味で背筋が寒くなる。

 

 

「……あれ、でもなんか今、水性悪魔と別のモノを巻き込みませんでした?

 なんか狐っぽい外見した乳房の豊満な美女が巻き込まれませんでしたちょっと!?」*17

 

『あー、大丈夫だ、問題ない。退避勧告出てるのに信仰ボーナスに目がくらんで前に出過ぎたのが悪い』*18

 

「そういう問題!?」

 

 

背後でさらなる大魔法が次々とぶっ放され、これこの辺だけ南極みたいになってない!?と叫びながらもとりあえず取って返すハルカ。

 

氷漬けになっているのが色々と『やらかした』*19日本神というのがロボ部からの通信で聞こえて入る。

 

が、それはそれとして困っている人も困っている悪魔も、悪党じゃなければ見過ごせないのがハルカなわけで。

 

ギルスの状態で両腕を胸の前で組み、烈火の気合と共に叫ぶ

 

 

『超変身』ッ!!

 

 

スピード最優先、この時点でのハルカにとっての最強形態『エクシードギルス』を躊躇なく使う。

 

背中から伸びる触手型武装『ギルスフィーラー』が生き残りのアズミやクラーケンに突き刺さり、本体の通り道を作り出す。*20

 

といってもハルカ/ギルスの使える回復魔法は『ディア』*21ぐらいなので、一応使いつつ離脱した。

 

 

「か、完全に気絶している……とんでもない冷気だなこれ……」

 

 

とりあえずひょいっとお姫様抱っこで抱え上げ、そそくさと離脱したハルカ/ギルスなのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なお、ハルカの帰りの足でもある駆逐艦にて行われた祝勝会にて。

 

 

「いやあの、僕は雇われとして来ただけなんで……」

 

「いいから食え食え!子供が遠慮するんじゃない」

 

「クラ刺し*22もゲソ焼きもあるぞー!」

 

「田舎ニキのトコロから美味い日本酒も仕入れたからな!!」

 

「バカ!堂々と子供に酒を勧めるな!そういうのはこっそり飲ませろ!」

 

「いやこっそりも勧めるなよ、幼女ネキは飲んでるかもしれないけど」*23

 

「え、ええ、と、はい、いただきます。あ、意外と美味しい」*24

 

 

会場の端っこで、漁協ニキ達やデビルシフター達にぐいぐい色々勧められ。

 

その中で遠慮がちにクラーケンのゲソ焼きを齧るハルカの姿があったとさ。

 

飲んべえのオッサンにとって宴会会場にいる子供ってかまい倒す対象だからね、ちかたないね!

 

 

ちなみに、スサノオの威圧については

 

「殺意は感じないけど、暴れ始めたら殺されるまでに指の一本ぐらいはもってけるかなぁ」

 

……と、実に師匠の教育が行き届いた思考回路になっていた模様。

 

頭仮面ライダーだからね、これもちかたないね。

 

 

*1
半終末なのでまだ日本円はバリバリ現役。ガイアポイントとかマッカのほうがオカルト関係者にとっては価値があるけど。

*2
ちなみに『S県支部』や『霊山支部』でも通るのだが、後者は恐山支部とかほかの霊山にある支部から抗議が来そう、という理由で霊山同盟支部の面々は使っていない。

*3
この頃から「リアル仮面ライダーキタコレ!」とスパチャが集まっており、大江山百鬼夜行編の後は更に2ケタほどハネた。

*4
山梨支部の隣県なのに黒札過疎地なS県を黒札の誰かに報酬回して支部作らせるぐらいなら、霊山同盟支部を支援してS県丸投げした方が安いから。

*5
だいたい一か月の間老化の速度が通常の8割になり、『老化加速』系の能力に耐性が付く。寿命もほんのわずかに伸びる。上位互換としてイワナガビメの加護があるが、四国支部みたいなことにならないよう覚醒者(LV3以上)限定なので、それ以下の覚醒者や非覚醒者向けの商品。

*6
効果はガイアカレーと一緒だが、具材からスープまで肉ではなく魚を使っているため一部宗教系霊能力者に需要アリ。材料は霊山同盟支部管理下の河川や湖で取れるようになった『稲羽マス』や『源氏鮎』。

*7
最初はLVL5程度が限界だった模様。悪魔召喚プログラム配布後も、ポケモンで言う御三家枠として地味に需要がある。三等研究室最大の研究成果。

*8
生産性・整備性・戦闘力のバランスを取った廉価版デモニカ。通常デモニカ相当のG3、高性能デモニカ相当のG3X、のちに開発されたLV30以上向けのハイエンドデモニカG4Xにもパーツ交換で強化でき、他支部にもリース生産を任せたりしてる定番商品。

*9
この頃は大江山の一件もあるのでわりかしガチめに対策中。一歩間違えば京都周辺が鬼が跋扈する魔境になるからね、ちかたないね。 詳しくは『霊能力者、鷹村ハルカは改造人間である』の『泣いた悪渦鬼』編を読もう!

*10
逆に言えば悪魔の出る湖や川に叩き込まれた事はある。阿部さんの修行はスパルタです、神主と同レベルで。

*11
シノさんがメンテナンスついでに一晩でやってくれました。

*12
作品によるがLV8~13ぐらい

*13
エンジェルチルドレン編の後、大江山での一戦の前なので、この時のハルカはLV35以下。バーニングもライジングも無いし、影の国での修行もしていない。

*14
タルカジャ+スクカジャ+チャージの効果

*15
3ターンの間、敵から狙われやすくなる。

*16
【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策 の主人公。デビルシフター系能力者であり、キングフロストは変身できる姿の1つ。

*17
【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策 様に登場する『ウカノミタマ』神。見た目はラスオリの『天香のヒルメ』とのこと。 氷結無効とはいえセリリちゃん相手にも遠慮してない幼女ネキがコイツに遠慮はしないよなぁ……と思ったので(白目)

*18
というこの世界線独自設定と言う事で一つ(タマヤ与太郎殿に土下座しつつ) 最初はセリリちゃん救出劇で考えたけど幼女ネキのハーレム入りの可能性チラついてるからハルカが救出したらなんかこう、イヤやねん! え、タマちゃんはいいのかって?まあタマちゃんは不憫枠が似合うし……(目逸らし)。

*19
【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策 の『転生ようじょ、謎のフィット感。』等を参照。

*20
ついでにドレイン系のスキルまで使ってHP・MP・MAGも確保。実に無駄が無い。

*21
阿部のガチャのハズレ。

*22
クラーケンの刺身らしい。

*23
見た限りでは飲んでなかった(はず)?

*24
元々阿部に色々食わされたので、悪魔食に抵抗は無い。どっちかというと「僕、黒札でもなんでもないのに参加していいのかなぁ……」という遠慮の側面が強い。





あの場にハルカがいたかどうかはタマヤ与太郎様にまかせりゅ!

なんならこの短編はIF世界の出来事ってことでガン無視でもいいですんで!

それはそれとして、【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策】。いち読者として追っていきますねー。


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幼女ネキと接待室。


おのれぃ、ハルカ君を使ってコメディタッチに仕上げてくるとは……。

当方に(ギャグ小説で)迎撃の用意あり!!

俺が一番ハルカ君(と変態達のコンボ)を上手く使えるんだ!(天パ並感)

というわけで、『TS^2ようじょの終末対策』様で触れられていた、
幼女ネキが霊山同盟支部で「アギトに会わせろー!」とダダこねてた一件のお話。

あ、『君は、このソラを飛べる』も同日投稿です。




 

 

「アギトに会うまで帰らないぞォー!どかしたければ実力行使でこぉーい!!」

 

「いや、実力行使で貴方をどかせる人間とかこの支部に数人しかいませんよ……」

 

 

まあそもそも居座ってる黒札を実力行使で退かせる人間が数人いるだけでも破格である。*1

 

そんな初手から始まったのは、ギルス撮影回やらG1開発計画やらがひと段落した後の霊山同盟支部。

 

幼女ネキこと【鵺原リン】、事の発端は彼女がある情報を仕入れた事であった。

 

 

『あ、そういえば分霊って形で【本物】が来たことあるみたいだよ、仮面ライダー』

 

『……は?』

 

 

当然だが、世界の破壊者とその相方が起こしたアレコレは阿部経由でショタオジにも報告済。

 

大江山でハルカ/ギルスが『本物のギルス』っぽい相手からアギトの力を譲渡された件も報告済。

 

取得物各種についても、山梨支部の技術班が解析及び運用を計画中と言う事も含めて報告済ときた。*2

 

それを聞いたショタオジは『意図的に四国で創世王降臨の儀とかしたわけじゃないしセーフ!』という割と甘めの判定を下している。

 

下手にアンチライダーな悪の組織ムーヴやって自分がライダー映画の黒幕みたいにされたらたまらないからだ。

 

そも、あれはライダー側でも『時間や空間を滅茶苦茶にしてる組織』*3がいたせいで両者の世界の境界が曖昧になり。

 

そこに天文学的な確率で『この世界の仮面ライダー』が発生したせいで起きた奇跡である。

 

どのぐらい奇跡かと言うとRXでも中々起こせないレベルの奇跡である。*4

 

とはいえ、禁止事項にするのなら当然『何があったのか』も周知する必要があるわけで。

 

ショタオジとの歓談中に『そういえば』ぐらいのテンションで語られた言葉に、幼女ネキは盛大に憤った。

 

 

「理想を言えば小野寺クウガじゃなくて五代クウガがいいけど世界の破壊者とかさ!

 この心の傷は本物のアギトと会って記念撮影と握手と2ケツしないと収まらない!」

 

「いやですから、そのアギト氏は中学生ですので、今は学校に……」

 

「私も小学校サボってるから問題ない!!」*5

 

「いやそれは義務教育的な意味では問題なのでは?」

 

 

どうしましょう、と対応していた『巫女長』はため息をつく。

 

シキガミ移植も行ったとはいえ、巫女長は未だにLV20にも届かない。*6

 

実力行使なんてやったらグーパン一発で戦闘不能になるぐらいに実力差があるのだ。

 

支部のロビーで子供みたいに(実際子供なのだが)駄々をこねるリンにほとほと困っていると、巫女長の携帯に着信音。*7

 

 

「はい、私ですが、ええ、ええ……え、いいんですかそれは?

 今は使用中で、しかも例の『アレ』では……ああ、はい。

 許可は得ている?はあ、それはまた……分かりました」

 

 

これは厄介事になるぞ、と若干遠い目になった巫女長は、通話を切ってからリンに向き直る。

 

 

「支部長から『考慮するからロビーではなく接待室に来てくれ』と言伝を預かりました。ご案内します」

 

「おおお、ついに!」

 

「あくまで『考慮』ですからね!?……とりあえず、こちらへどうぞ」

 

 

ニッコニコで立ちあがったリンを見て、いろんな意味で今回の件がナナメ方向に転がる確信を得た巫女長であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【霊山同盟支部 接待室】

 

 

 

「毎度毎度僕の動画に高額スパチャ送りすぎて生活費危うくしてるんじゃないよ!!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!もっと激しくお願いパパぁ!!

 

「仲魔からも止められるとかよっぽどだぞ!?元ゴブリンでしょうが彼ら!!」

 

「ごめんなさい!(ばしんっ)あっもっと強く(バシィン!)ヒヒィンッ!!」

 

「最近じゃこのお仕置き目当てで生活危うくしてるじゃないかこのダメ人間!!」

 

「ダメ人間でごめんなさい!もっと人格を否定して下衆を詰る感じでお願いします!追加料金支払いますからお願いします!ごめんなさい!!」

 

「メンタルケアとはいえ中学生にお金払ってこんなこと頼んで恥ずかしくないんですか!!」

 

「ごめんなさい!ごめんなさい!恥ずかしいけど気持ちいいんですごめんなさい!寧ろ恥ずかしいのが気持ちい(バシィン!)んひぃっ!もっとお願いします!」

 

 

接待室に入ったリンを待っていたのは、非R18小説でやれるギリッギリのラインのSMプレイ。

 

ハルカに平手打ちで尻をシバかれながら*8、とてもお嫁にいけない顔で謝罪とオネダリを続ける黒札。

 

悪魔娼館脳破壊暴走事件を引き起こした『伊予島 杏(イヨジマ アンズ)』*9の姿であった。

 

自分やハルカ/ギルスと同レベルか、下手すればそれ以上*10の霊能力者(それも黒札)が、非合法未成年にお金貢いで尻をシバいてもらってるのである。

 

それも前世どころか今世の年齢だけでも自分より年下*11の少年をパパと呼びながら、だ。

 

色々と変態も見慣れているリンであるが、リンが見て来た変態達とは『方向性』が違う。

 

あれらは性癖を隠せない、言ってしまえばオープンかつ露骨な変態だ。ギャグで済む変態ともいえる。

 

それに対してこれはもう色々とギャグでは済まない。

 

インモラルかつセンシティブ、年下の美少年をパパと呼びながら尻をシバかれる事に羞恥と快楽をアヘ顔になるほど感じている。

 

やってることはただのお尻ぺんぺんなのだが、なんというか、色々ヤバい。

 

見ちゃったリンがフリーズする程度にはアレ過ぎる光景だ。*12

 

なので更にそんな光景をもう一発!!

 

 

「んちゅ、んちゅ、ぱぱぁ……」

 

「おお、よしよし。あんずちゃんはいい子だねぇ」

 

「えへへ、ぱぱぁ、ぱぱだいしゅきぃ……♪」

 

 

年下の少年に赤ちゃんみたいにあやされながら哺乳瓶でホットミルク飲ませてもらってる黒札様だ。

 

前世での年齢は不明だが、少なくとも美少年性癖拗らせてる時点で第二次成長期はとっくに終わっているはず。

 

つまり精神年齢は最低でもハルカと親子ほどは離れているわけで……。

 

 

「ほーら、ミルクおいちい?あんずちゃん?」

 

「んちゅ、ちゅっ、おいちいよぱぱぁ♪」

 

 

それがコレとかはっきりいって尊厳破壊とかそういうレベルではない。

 

一切エロい事してないはずなのに下手なR18小説よりマニアックまである。

 

かつて『パパのミルクが飲みたい』とかいうトンデモ発言をぶっぱなした彼女。

 

このミルクがパパのミルク(意味深)ではなくパパのミルク(母乳)だったことが発覚した時点で既に性癖が手遅れであった。

 

だが、そんな変態極まる彼女の性癖に対しても、ハルカはストレートに応じて受け入れた、受け入れてしまった。

 

『こんな新興の支部にこんなに強い霊能力者の黒札が来てくれる時点で破格だし……』という思いも無くはない。支部長として当然だ。

 

が、それ以上に『これだけ追い詰められた人を放っておけない』という純粋な気遣いの心と、無駄に広い器で受け止めちゃったのである。

 

結果、伊予島 杏は特撮俺達以上にハルカに(色々と)ドハマリしている模様。

 

あのミナミぃネキですら『自分を超える天性のダメ女キラー』と評価する、鷹村ハルカの才能であった。

 

そして、フリーズしっぱなしのリンの前で、ミルクの時間を終えた杏がハルカの子守歌ですやすやと寝息を立て始め。

 

安眠できるよう、杏の耳にシノさん特製防音耳当てをきゅぽっとつけて。

 

 

「ふう……お待たせしました」

 

「いやお待たせしましたじゃなくてぇ!?」

 

 

鵺原リン、恐らく転生してから今までの人生で一番全力のツッコミである。

 

そりゃ目の前でショタおねSMプレイからのショタおね赤ちゃんプレイ見せつけられたのだ。

 

寧ろプレイがひと段落するまでフリーズで済んでた分冷静まである。

 

 

「なにこの部屋!?悪魔娼館の出張所!?」

 

「いえ、何故かギルス姿での記念撮影を希望する人が多いので。

 応接室とは別に、撮影設備その他を併設した『接待室』を作ったんですよ。

 杏さんみたいに、個人的に『接待』されたい人も含めて必要でしたから」

 

「いや身内*13でしょ杏ちゃん」

 

「身内でもメンタルケア必須な人の筆頭なので……カウンセリングとかペンパトラ*14とか効果なかったですし」

 

「ああうん、つまり精神病じゃなくて性癖が拗れまくったんだな」

 

 

ハルカは確かに、悪魔娼館で待ち合せとかされるとツッコミを入れる側である。

 

が、それはそれとして『変態を許容するレベル』が異常なほど高い。

 

師匠はホモ寄りのバイな上に日本全国に種ばらまいてるもっこり男。

 

よく一緒に仕事してる黒札は、チン〇ついた美少女になりたがってなってしまった後天的TS鬼娘♂な変態と所かまわず人妻・未亡人を光のNTRカマして孕ませたがる変態と発明の合間にハルカの女装用装備を定期的に作ってる変態だ。

 

支部の幹部に至っては自分・娘・孫の三色丼バッチコイとか言ってる巫女長まで完備。*15

 

はっきりいって『好みの女抱くために生やしました』なリンですら『あー、あるある』ぐらいで受け入れてしまう。

 

少なくとも今見せた杏ほどのインモラル感はないし。

 

 

「というかなんでここに呼んだ、そしてなんでアレを見せつけたんだ。どんなプレイだ」

 

「いや、普通にここで『接待』するので、それで帰ってもらおうかなーと」

 

「私は尻をシバかれた挙句哺乳瓶で授乳されて喜ぶ趣味ないんだけどぉ!?」

 

「流石にあのコース希望してるのは今の所杏さんだけです」

 

「……あれ、なんだか前会った時*16よりフランクさが欠けてない?」

 

「厄介客への態度なんてふぶ漬け出すかセメント対応ですよ鵺原さん」

 

 

なんかごめんなさいと言いそうな気分になってきた幼女ネキをさておいて、寝かせた杏にタオルケットをかけて準備完了。

 

こちらメニューになっておりますー、と杏に手渡されたのは、ファミレスや悪魔娼館でも使われている注文用タッチパネル。

 

とはいえこの前記念撮影はたっぷりやったしなー、と、ソファに座ったままぼやっとメニューを眺めていたのだが。

 

 

「…………」

 

 

スッ、スッ、スッスッスッ……と段々メニューをフリックする手が早くなっていく。

 

時折メニューを前のページに戻しながら、真剣な顔で何やら悩み始めた。

 

そして、タッチパネルで『あるモノ』を注文し……。

 

 

 

「はい『ギルスに変身してデモンズファングクラッシャー開いた状態で咆哮』コース入りましたー!変身!!」

 

「FOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO↑!!」

 

「ヴォアアアアアアァァァァァアアアアァァッ!!!」

 

「YEEEEEEEEEEEEEEEEEEEEES↑!!」

(※高速フリック&タッチで追加注文)

 

 

「はい『G3をレンタルして廃工場型セットでギルスと組み手』コース入りましたー!!」

 

「模擬弾を装填した『GM-01 スコーピオン』貸出オプションもお願いしまァーす!!

 あ、あと……『戦闘不能と同時にマスク割れ』オプションと!

 『決め技指定オプション』で『ギルスヒールクロウ』を!」

 

「はいオプション各種入りましたー!」

 

 

いやっほーい!とニコニコ顔で奥へ歩いていく鵺原リン。

 

『G3がギルスにメタクソにブチ壊された』シーンの再現を氷川君ポジションでありったけ堪能し。

 

エクシードギルスへの変身&咆哮を生で鑑賞し。

 

最後にハルカの宝物である『小野寺ユウスケのサイン』を手に取って記念撮影して……。

 

 

 

「「えがった……」」

 

 

 

丁度目覚めた杏と共に、恍惚とした顔で接待室から出て来た鵺原リンなのであった。

 

ちなみに、結局アギトに会えなかった事を思い出したのは宮城支部に帰ってからだった模様。

 

 

*1
LV的には一応ハルカ/ギルスとレムナント、複数人がかりでいいならイチロウ/アギトやアカネちゃん、あとは後見人の阿部も該当。とはいえ前者二人はタイマンだとだいぶキツいし、後者はそもそも滅多に支部にいないけど。

*2
後に世界の破壊者が残した『分霊クウガのライダーカード』については、シノの手で加工してスキルカードとなり、ハルカ/ギルスの式神ボディに投入されている。

*3
詳しくは仮面ライダージオウを見よう。

*4
劇場版で時空を超えてRX達が駆けつけたのも『相手が最初に時間操作やって時空の壁が薄くなってたから』なので、RXでも相手へのカウンターで奇跡起こして初めて可能な荒業だ。

*5
近々通う事になっている、と発言していたので。通い始めるのを延期してでもダダこねてるのか、通いはじめてすぐにココでサボってるのかは謎。

*6
救えぬ者/救われぬ者編のラストでもLV19。

*7
ちなみにガラケーである。

*8
流石に服の上からである。

*9
【R18】アビャゲイル氏の投下所 及び改造人間短編集の『悪魔しょうかんのお話。』より

*10
元スレでは終末前時点でLV40、つまり半終末突入した後はそれ以上。美少年に貢ぐために山梨支部の異界に潜りまくるやべー人である。

*11
AA通りなら初登場(終末前)時点で14歳。そこから数年経過してる事を考えると推定高校生である。どちらにせよハルカ(12~13歳)よりは年上だ。

*12
「今更女装男子程度でハルカ君が宇宙猫するかよぉー!」という作者の主張でもある。だがそれを直接ぶつけたらただの批判感想だ、作者ならば作品で語る!

*13
既に山梨支部から霊山同盟支部に移籍済み。

*14
軽度の状態異常(精神系含む)を治す魔法。

*15
外見は『東方project』の『八雲紫』かつイワナガヒメの加護で肉体的には20~30代なのが余計にアレ。

*16
【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策『転生ようじょ、企画する』の時。



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ドラゴンロッドのオマケの話。


寝る前にふと思いついちゃったのでぽい。



 

【霊山同盟支部 稽古場】

 

 

 

「……槍術、棒術といった『長物』は、近接武器の中でも独特の才能を強いられます」

 

 

ひゅるん、と音を立てて、手に盛った『たんぽ槍』をひと回し。

 

慣れた手つきで【槍】を扱うのは、ご存じ仮面ライダー、鷹村ハルカである。

 

霊山同盟支部にある稽古場は、実践訓練用に異界内に作ったものから、今ハルカが佇んでいる道場型のモノまで様々だ。

 

オカルト技術による強化を施された床や壁は、霊能力者同士の『試合』でも簡単には壊れないように加工されている。

 

流石にアギダインでも叩き込めば燃えるだろうが、武術の訓練をする分には十分だ。

 

併設された温泉は湯治にも最適で、イワナガヒメの加護を応用して肉体の回復能力を高める効果がある。

 

ガイアカレーを筆頭とした回復効果のある料理も取り揃えており、訓練場としての設備は悪くない。

 

……県一つ跨いだ先に山梨支部があるせいで黒札が来る理由が皆無という欠点こそあるが、現地霊能力者にとっては破格の設備だ。

 

その道場の中で、ハルカは『誰か』に武術の指南を行っていた。

 

 

「どのような武術においても、『間合い』というモノは最重要要素の1つ」

 

 

話している最中に、目の前の相手が突き出したたんぽ槍の先を、槍同士の軌道を合わせて『逸らす』ことで首のすぐ横を通り抜けさせる。

 

 

「この『間合い』というのは、攻撃が届く位置という単純な意味だけでなく。

 相手の防御・回避が間に合うか否か、意識や呼吸の隙間を突けているか否か。

 そういった様々な要素が絡みあった……『槍が当たるか外れるか』の判断基準です」

 

 

突く動きから薙ぐ動きに変わった相手に、すり足で少しずつ間合いを開ける。

 

純粋な瞬発力で言えば、ハルカよりも『対戦相手』の方が数段は上。

 

キック力ならば勝っているだろうが、100m走では負ける。そういう能力差だ。

 

だがしかし、何故か対戦相手の『間合い』にハルカの姿が入ってこない。

 

 

「ただただ走って追いかけるだけでなく、攻防の合間に距離を調整する。

 棒術や槍術の演武が美しく見えるのは、その距離を調整する足さばきの妙故に。

 ドタドタと走るばかりでは100年かかっても追いつけません。すり足です,すり足」

 

 

一瞬で間合いを0にする『対戦相手』の健脚を見ながらも、ハルカはあくまで冷静に。

 

一度間合いが近接戦になろうと、二度、三度と打ち合っている内にいつのまにやら互いの距離が開いている。

 

かつて、とある薙刀の達人は『彼女の足は床から紙一枚上を滑っている』と評価された事があるそうな。

 

それほどまでに、磨き上げられた歩法というモノは攻防においてアドバンテージになる。

 

 

「話を戻しますが……槍というのは面倒な武器でして。

 武器・武術の中でもことさらに『間合い』を重視する。

 拳や刀剣よりも遠くへ届き、弓矢や銃よりも判断を求められる速度が速い。

 故に、常に最適な『間合い』を維持する駆け引きと技術が必須となります」

 

 

 

対戦相手である『彼女』は、悪魔と戦い始めてからほんの数ヵ月。

 

シキガミパーツの移植とスキルカードを利用した『技術の習得』も行っていないとなると、棒術を習得する時間は無かっただろう。

 

黒札ですら、保証されるのはあくまで『霊能の才』のみ。武術の才は個々人の資質に深く依存する。

 

前世の経験、もとい前前世の種族によっては武術の天才と言う事もあるかもしれないが……。

 

『彼女』の前前世はどう考えても魔獣か妖獣、よくて聖獣か神獣だ。

 

人間の技術の集大成ともいえる『武術』に長けている種族とは思えない。

 

 

「貴方があの『棍』……いや、『棒』ですか?を武器として扱うのならば。

 ましてや、それが僕にとっても縁深い……『クウガ』の武器の模倣なれば。

 腕力だけの素人が、鉄パイプを振り回すような戦い方をさせるわけにはいきません」

 

 

気合の咆哮と共に放たれた上段突き、それを半身になって回避し、たんぽ槍の石突で足を払う。

 

常人離れして優れたバランス感覚であろうと、物理的な法則に囚われる以上、足が宙に浮けば転ぶだけ。

 

無論、0.1秒以下の時間で建て直せるのだが……接近戦において、その瞬きの時間は致命傷だ。

 

 

「僕も二流の槍使い*1という自覚はありますが。

 それでも教えられる事はある……槍術・棒術の基本にして奥義。

 足さばきと駆け引きによる間合いの測り方と変え方、それを覚えず長物を振るえば……」

 

 

どすっ、と対戦相手……即ち、厄介客二号こと『幼女ネキ』。……【鵺原リン】の鳩尾にたんぽ槍の先がめり込む。

 

無論、ただ頑丈になるよう加工されただけのたんぽ槍だ、食らっても大したダメージもない。*2

 

が、衝撃は別。足払いで宙に浮いていたのもあって、幼女ネキの体がすぽーんと道場の床を転がっていった。

 

 

「分かりやすく体験してもらいましたけど、こうなるわけですね」

 

「で、できれば体験じゃなくて理論からがよかったなーって」

 

痛く無ければ覚えませぬ。

 それに、数ヵ月で二年以上かけた僕と同等かそれ以上のレベルなのは驚嘆に値しますが、

 『同レベルかそれ以上で技術を持った相手』との経験が不足している様子」

 

「あー、まあ、レベリング最優先だからなぁ……」

 

 

数ヵ月でLV56というのは、黒札として考えても相当なハイペースだ。

 

レベリング最優先、かつ式神にまで経験値を配分してこのレベルとなると、幼女ネキの対人戦技術・及び武術習得度はそこまで高く無いと推測できる。

 

というか、そもそもメインの戦闘スタイルが『ヌエを中心とした悪魔に変身しての圧殺』だ。

 

人間の体で正拳突きを極めたからと言って、ヌエに変身したらネコパンチしかできないし、キングフロストとか腹が邪魔だし腕が短いし……。

 

というわけで、それこそ変身先が全部人間型悪魔でもないかぎり、デビルシフターにとって武術って学ぶ意味が薄いのである。

 

つまり、ハイペースでレベリングしてた幼女ネキが、彼女にとって『優先度の高く無い技術』なんて習得してる時間は無いわけで……。

 

山梨支部なら鍛練に付き合ってくれる黒札や指導用式神もいただろうが、結局武術の基礎とは反復練習。

 

となれば、大抵の黒札にとって木刀なんぞで素振りしてるヒマがあれば悪魔の一匹でもぶっ殺した方が強くなれるのである。

 

 

「ですが!ユウスケさんと同じ武器を使うのならば話は別!

 彼の棒術を唯一見たことがある僕が指導役をやります!寧ろ無理やりにでも叩き込みます!

 具体的には先日霊山同盟支部のロビーでダダこねて業務妨害してた事へのペナルティで!!」

 

「別のペナルティにしてほしいです!!」

 

「じゃあ尻を出してください。イヨジマさんがすごい顔になる尻叩きを100回で手を打ちます。尻叩きだけに」

 

「ワーイ棒術ノ特訓ウレシイナー!!!」

(痛いとか通り越してメス堕ちしそうなスパンキングとか受けてたまるかァー!?)

 

 

鋼メンタルな彼女からすれば、たんぽ槍でシバき回される程度は苦にもならない。

 

痛みも無いし、なんなら安全が保障されている分山梨支部でのレベリングより肉体的には楽まである。

 

が、問題は精神面であって。

 

 

(自分より年下*3の少年にシバき回されるって精神的にクる!!)

 

「さ、この道場はクソ師匠による調整異界化のおかげでちょっとした精神と時の部屋状態です。*4みっちりやりましょう!」

 

「……ええい、これもドラゴンロッドを使いこなすためだァー!!」

 

「その意気です!はい、次はすり足保ったまま道場を100周ランニング!!」

 

「足ついたままなのにランニングって言うのか!?」*5

 

 

……なお、このしばらく後にハルカが影の国に放り込まれてスカサハ流槍術まで身に着けた上に、公式超ド級スパルタ師匠まで持って帰って来たせいで。

 

うっかりスカサハに見つかろうものなら影の国式槍術ブートキャンプに巻き込まれる可能性が出てしまった模様。

 

 

*1
比較対象・解放に協力した武神とか黒札武術ガチ勢とか神主の武術指導用式神とか。そも、物心ついた時から武術と霊能の鍛練積んで、二年間かけて阿部とそのツテで呼べる講師から武術の指導も受けて、この後は陰の国行きである。才能が足りてない以外は本気でとんでもない修練を積んだ武芸者なのだ。

*2
ただし無理やり肺の空気を絞りだされるので普通に苦しい。HPはほとんど減らないけど。

*3
肉体的には年上だけど、幼女ネキの転生前の年齢によっては親子並みに年齢差がある

*4
流石に本物ほど理不尽な時間差ではない。

*5
少なくとも作者が世話になっていた柔道道場では言わなかった。



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オカルト製品紹介チャンネル 1回目


霊山同盟支部やスマートブレインで購入できるオカルトアイテムのご紹介。

他にもいっぱいあるけど1回じゃ書ききれないんで1回目。

二回目?未定(




 

「はい、というわけでー!」

 

オカルト関係者や覚醒者限定の動画配信サイトにて、某ジャパネットのような番組セットが映し出される。

 

が、どういう機能なのか、画面右上のボタンで1カメ、2カメ、3カメが切り替え可能であり、それぞれのカメラを切り替えるとスタジオ全体が見えてくる。

 

そして、スタジオにずらっと並んだオカルトアイテムの山、山、山。

 

ガイア連合の外にもっていけば一生食うに困らないを通り越し、人生何回遊べるのかも分からないほどのアイテムの山が並んでいた。

 

 

「シノさんのシノさんによるシノさんのためのー!

 霊山同盟支部及びスマートブレインの、取り扱い商品の紹介チャンネル!

 【ガイアネットチャンネル】ー!まあ、前々からカタログは送ってたんだけどね!」

 

「カタログ送る先がガイア連合の各地支部、及び派出所。

 あとは注文を出した黒札だけという時点で宣伝効果最悪でしたからね……。

 あ、私はスマートブレイン社技術部門担当【櫛風 梅雨子(しっぷう つゆこ)】です。

 普段はほとんど表に出ませんので、皆様初めまして」

 

ウサミミロングヘアの妙齢美少女と、白衣姿のやぼったい女性が並んでいる。

 

ハイテンションなウサミミが、皆さんご存じマッドサイエンティスト入ってる黒札技術者『兎山 シノ』。

 

ローテンションの白衣女性が、この小説の短編『異形の造花』で名前だけ出ていた『櫛風 梅雨子(しっぷう つゆこ)』。

 

年齢は20代前半、磨けば光るけど磨く気配0、ガイア連合の『金札』であり、霊山同盟支部の下部組織……。

 

つまりはガイア連合の孫請け組織でもある『スマートブレイン』技術班のトップである。

 

オカルトアイテムだけでなく、携帯電話やスマートフォン、二輪バイク等を幅広く手掛ける大企業である。

 

ガイアグループスに初期から合流した企業の1つで、裏では『デモニカG3MILD』*1や『トライチェイサー』*2のパーツ生産も請け負っているオカルト組織である。

 

G3MILD等の製造工場は、表向きスマートブレインの自動車製造工場に偽装して建設しているのだ。

 

そんなわけで、ガイア連合内部の人間ならば霊山同盟支部に発注すれば手に入るモノを。

 

ガイア連合外部の人間でも、スマートブレインに発注すれば手に入るモノを。

 

それぞれ紹介していこう!という番組なのだ。

 

 

「というわけで、まずはスマートブレインへの発注カタログからご紹介!『デモニカG3MILDセット』!」

 

「いきなりデモニカスーツときましたか……スマートブレイン技術部でも、修理用パーツの生産しかしてない対悪魔用パワードスーツですね」

 

「そ!ついでに生産性や整備性を重視しつつ、戦闘力も最低限確保したのがG3MILDだね!

 デモニカの中ではかなりお安い上に、悪魔の視認が可能なだけの簡易デモニカよりは戦える!

 軽量化も相まって、未覚醒者でも装備して動ける範囲の重量に収まってるよ!」

 

「まあ、それでもある程度鍛えていることが望ましいレベルの重さですけどね」

 

「寧ろコレ着られない程度の身体能力なら、悪魔と戦う前にまず筋トレしたほうがいいね」

 

「まあ、覚醒者ならどうとでもなりますが、非覚醒者ならそうでしょうね。

 それで、G3MILDと何がセットになっているんですか?」

 

「はい、まずはこちら!対悪魔銃『GM-01 スコーピオン』*3

 次に、電磁警棒(スタンロッド)『ガードアクセラー』!

 更に、スマートブレインでも取り扱っている『呪殺弾』と『破魔弾』をケースでつけます!」

 

「あれ、意外と無難なラインナップ……どれもスマートブレインのオカルトアイテム購入窓口で発注できる商品ですね」

 

 

前述通り、霊山同盟支部の購入窓口で商品を買えるのは、ガイア連合に所属している人間のみ。

 

すなわち各支部・派出所の人間か、ブラックカード・ゴールドカード持ちの人間に限られるのだ。

 

その点、スマートブレインは営利企業の側面が強い。

 

上記の面々だけでなく、シルバーカード以下のガイア連合所属者。

 

他にもメシア穏健派・地方霊能組織・自衛隊・警察・一般デビルバスター等からも注文を受け付けているのだ。

 

 

「最近は派出所も増えて来たからね、現地の霊能組織用とか、家族の護身用とか。

 G3MILDの需要はガンッガン高まってる。これはまあ、そのための初心者救済セットだよ!」

 

「新潟支部の『戦術甲冑 震電』*4はどうなんですか?」

 

「そもそもあれ、まずは新潟支部とか各地の自衛隊に優先配備でしょ?

 外部が購入して配備できるほど量産ラインの増設・安定ができるまでまだまだかかるよ。

 G3MILD最大の利点は『既に数がそろっていて、発注があれば量産できる』点だからね。

 工業製品としての安定性は間違いなくぶっちぎり!スペックは帯に短しなんとやらだけど!」

 

「ああ……他の対悪魔用兵器は『ハイスペックな芸術品』ですもんね」

 

「そ。戦術甲冑 震電だって、ガンダムで言えば陸ジムとか陸ガンだよアレ。

 こっちはただのジムで数をそろえるのが最優先、性能よりも数とコストだよ」

 

 

新潟支部やその管轄下の霊能組織、及び自衛隊に優先して回されているのなら、アレを購入するツテなど各地の霊能組織には無い。

 

ならば、あれほど便利でなくても運用ノウハウがある程度揃っており、お財布事情がよほど終ってなければ購入できる『G3MILD』は『商売に使うのなら』最適だ。

 

そこにこれまた新潟支部やG3ユニットでの運用実績・信頼性がある『スコーピオン』や『ガードアクセラー』をつけ、

 

スマートブレイン経由で購入できる……つまり『使い勝手が良いと感じれば継続的に買ってくれる客が増える』道具である『呪殺弾』『破魔弾』をお試しでつける。

 

……何より、スマートブレインでは新型の量産デモニカである『展開型デモニカ・ガイアトルーパー』の量産が開始されつつある。

 

つまり、G3MILDは『ガイアトルーパーより安い』以外のメリットが今後見出せなくなるのだ。

 

それを見越して、スマートブレインや霊山同盟支部の生産力をガイアトルーパーその他の量産に割り当てられるよう、長野支部や新潟支部にもリース生産でG3MILDの生産ラインを設置。

 

G3シリーズの発注が各支部に分散するように仕向けたのである。

 

今回の目玉というだけあって、中々にあこぎな商売であった。

 

 

「はい、というわけでお値段と発注は、動画説明欄にもある霊山同盟支部の連絡先からお願いねー!

 次の商品は『ガイアシーフードカレー』!肉不使用、それでいてガイアカレーと効果は同じ!

 お値段も量も同じ!宗教上の理由でお肉が食べられないそこの貴方にもおすすめの逸品!」

 

「こちらもスマートブレインの販売窓口担当です、今回は買いやすい品重視ですから」

 

「ガイア連合特製回復アイテム『傷薬』!おひとり様一本限り!」

 

「霊山同盟支部の三等研究室がやってくれたそうですね、ついに」

 

 

三等研究室……以前LV5のアガシオンを黒札に手伝ってもらわずに製造してバンザーイ!してた面々である。

 

あの後も上記の『ガイアシーフードカレー』や『呪殺弾』『破魔弾』の量産効率化。

 

生産量は少ないが『傷薬』の抽出まで黒札抜きで成功させた、霊山同盟支部の出世頭である。

 

ツユコもかつてはここの所属であり、スマートブレインの技術班立ち上げの際に移籍してきたという経緯があった。

 

『黒札が遊び半分に作ったものを、三等研究室が量産化できるように研究し、スマートブレインで生産ラインを作る』

 

これが、霊山同盟支部とスマートブレインの経営戦略である。

 

 

「はいこちら、お馴染みスマートブレインの窓口でも取り扱っております『トライチェイサー』!

 対悪魔用二輪車の決定版!なにせ覚醒者が乗ればそこらの悪魔はひき殺せるもんね!

 しかも悪魔の攻撃でも中々壊れない程度に頑丈!車両の悪魔化を防ぐための概念防壁も完備!」*5

 

「なぜか黒札からの発注も来るんですよね……意味が分かりません」*6

 

「そして今回、霊山同盟支部の販売窓口で、この上位互換機である『ビートチェイサー』を販売開始!

 ただしガイア連合基準でLV30以上推奨の超絶モンスターマッスィーン!完全受注生産!!

 それ以下の人は素直にトライチェイサー買ってね!普通にバイクショップにも卸してるから!」

 

「……そんなにすごいマシンなんですか?」

 

「最高時速420㎞以上!乗ってる人間のレベルに応じてそれ以上の速度も出るよ!

 さらに少量とはいえ、とあるツテ*7から手に入れたヒヒイロカネ合金を使用!

 形状記憶合金と組み合わせて、多少の破損は勝手に修繕される上にすんごい頑丈!

 少なくともシノさんのブフーラ*8叩き込んでも壊れなかったよ」

 

「モンスターマシン(物理)じゃないですか。売れるんですかコレ」

 

「少なくとも一人買いそうな黒札知ってるから受注生産にしたんだよネ。*9

 当然、グリップ兼起動キー兼アクセルでもある『ガードアクセラー』もついてくる!」

 

「……ホントに売れるのかなぁ……」

 

 

なお、1時間もしない内に初期ロットとして作っておいた10台すべての売却先が決定。

 

余ったらG3ユニットで運用するつもりだったのだが、余るどころか追加生産が必要になった。

 

当然だが、トライチェイサーはともかく、ヒヒイロカネの加工が必須であるビートチェイサーは黒札技術部の協力が必須。

 

結果、シノと桜の仕事がまた増えた模様。

 

*1
ブラックボックス以外は式神マザーマシンがあれば黒札じゃなくても作れる。

*2
本編の大江山辺で言及されていた、対悪魔戦闘に耐えられる頑丈なバイク。ガソリンだけじゃなくMAGバッテリーでも動かせて、異界でも問題なく走行可能。

*3
非覚醒者でも使えるように威力調整済。

*4
『故郷防衛を頑張る俺たち』様に登場したデモニカ派生装備。

*5
流石に終末後に長期間放置されてたら厳しい。

*6
黒札特撮ガチ勢や黒札モヒカン勢からの注文が来る。

*7
主に新潟支部

*8
技術部とはいえ黒札、魔・知型のステでLV40は前後

*9
『TS^2ようじょの終末対策』の主人公である幼女ネキが欲しがっていた。



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霊山同盟支部の新人達


『ファッション無惨様のごちゃサマライフ』の『転生夏油さんの摩擦ライフ』
及び、アビャゲイル氏の投下所の投下ネタのちょっと後のお話。

ネタバレ・ハルカ君は今回もツッコミ役。


 

【霊山同盟支部某所】

 

 

「……まあ、うん、ええ、話は聞いてましたよ?話はね」

 

「そうだろう?ちゃんと事前に報告は上げていたし、お前も『作成者』や『投資者』に会っているはずだ」

 

「ええそうですね、最低限の事情は聴いてますよ、書類の上で。

 でもね、これはなんとなしにフルーツが食べたいって言ったら、

 パイナップル入りの大盛り酢豚をだされたようなもんなんですけど?」

 

「いいじゃんパイナップル入り酢豚」

 

「僕はすり下ろしてないとアウト判定する派です、じゃなくってぇ!!」

 

 

霊山同盟支部の応接室にて、ハルカのツッコミが今日も響き渡る。

 

事務室の隣に併設されている応接室は、主に霊山同盟支部のビジネス関連案件で使われる部屋だ。

 

もっと重要度が高い……ガイア連合黒札クラスや支部長であるハルカしか関われないような案件は、支部長室の近くにある貴賓室で対応する。

 

つまり、今回はそこまで重要度の高く無い……金札クラスやこの支部の幹部なら知っててもおかしくない案件なのだが。

 

それはつまり、世界観のシリアスが仕事しない案件ということでもある。

 

 

「先日の、キリカさんとシラベさんの件でKSJ研究所が対応してくれた事とか、

 再発防止のために人材不足を補う支援まで約束してくれたのは感謝しています。

 夏油さんが事務スキル持ちのシキガミをKSJ研究所に発注してくれた事や、

 その制作を師匠が手伝ってくれたことも大変感謝してますよ?」*1

 

「じゃあいいじゃん」

 

「よくねーっつってんだよボケぇ!!」

 

 

師匠に対する敬意とかそういうのが盛大に吹っ飛んでいる気がするが、そんなもん抱けるほど真面目な相手じゃないので仕方ない。

 

基本的にこの小説において、ハルカと阿部の師弟はどれだけ雑に扱ってもいいモノである。

 

あれは不憫枠(ガンダム)だ、作者(わたし)がそう判断した。

 

なにはともあれ、ハルカが何に対してツッコミ入れているのかと言うと……。

 

 

「はいそこの皆さん!右から自己紹介どうぞぉ!!」

 

「事務及び派出所管理としてKSJ研究所より派遣されて参りました。

 事務・管理向け万能式神の『ナカジマ ギンガ』と申します。

 所有権の譲渡も行われておりますので、これよりハルカ様の指揮下に入ります」

 

「同じく、『ナカジマ スバル』です!」

 

「同じく、『ナカジマ ウーノ』です」

 

「同じく、『ナカジマ ドゥーエ』です」

 

「同じく、『ナカジマ トーレ』だ」

 

「同じく「待て待て待てもういいもういい!??長いよ!!」ああんいけず♪」

 

 

途中で遮られたおさげ&メガネな『ナカジマ クアットロ』がわざとらしく言って見せるが、ハルカはそれどころではない。

 

式神がKSJ研究所と阿部・シノによる調整を終えて配属されるという報告が上がって来たのが10分前。

 

これでようやく月月火水木金金だったここしばらくの業務から解放される!と胸を躍らせたのもつかの間。

 

応接室の1つにやってきてみれば、ずらりと並んだ美女・美少女の群れ。

 

新品の事務員服に身を包んだ彼女らを見て、あれ?と首を傾げたのがこの小説1行目のちょっと前である。

 

そして、阿部から開口一番に語られた真実はとってもシンプル。

 

 

『あ、配属予定だった事務スキル入り式神さんたちがこちらでぇす♪』

 

 

ハルカは激怒した。

 

必ず、かの邪智暴虐の師匠を除かなければならぬと決意した。

 

ハルカには色事がわからぬ。ハルカは、この支部の支部長である。

 

体を鍛え、政(まつりごと)と神秘(オカルト)を学んで暮らしてきた。

 

けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

というわけで、そんな茶番やらなにやらを挟みながら現在に至るのである。

 

 

「なんでわざわざ全員美女・美少女に加工するんですか!?

 KSJ研究所で見た時は全員ほら、ドラクエのスライムみたいな外見でしたよ!?

 いやあの体でどうやって事務仕事するのかなーとは思いましたけども!!」

 

「まあ実際、人型にするメリットもあったしな。コスパ悪いけど。

 事務仕事に関してはちょっとした念力とかでもこなせるが、

 対人交渉とかやる時にデフォが人型じゃないと変身スキル必須になるからな」

 

「そのコスパ悪い改造に夏油さんがお金出したんですか?!ウソでしょう!?」

 

「いや改造は俺の自腹。夏油が買った式神をお前に譲渡する前に強化改造しただけ」

 

「『ギルスクロウ』ッ!!」

 

「判断が速いっ!!」

 

 

人間モードのまま、腕から金色の爪『ギルスクロウ』が飛び出してくる。

 

何気に本編で一回も使ってなかった機能であるが、実は人間モードのままでもギルスクロウは使用可能だ。

 

体内に武器型式神が縮小化されて収納されているだけなので、別にロックもかかってないのである。

 

欠点?ギルス形態と違って血肉をブチ破りながら出すしかない事。

 

というわけでギルスクロウの1突きはあっさり避けられ、舌打ちと共に体内に戻す。

 

自動回復によってあっという間に怪我が塞がり、応接室の机にべったり血がついてる以外は元に戻った。

 

シキガミの皆さん?展開が速すぎてついていけてませんが何か?

 

 

「っていうか、自己紹介中断したのは悪かったですけど、多くないですか?

 KSJ研究所で見た時はスライム君4体ぐらいしかいなかった気が……。*2

 ひいふうみい、なんで14人も……?」*3

 

「ああ、近々派出所増やす予定だろ?だから俺が追加購入したのと……。

 最後にお前がからかった意趣返しを提案したら夏油がノってきた。

 シノもノリノリでな、リアルおねショタ計画ってことで三人で追加購入をだな」

 

「どいつもこいつも僕を愉快な玩具とか思ってません!??」

 

「割と」

 

「割と?!割とって言った今!?」

 

「ね、ねえギン姉(ねぇ)。これがここの支部のデフォなのかな?」

 

「かもしれないわ、早めに慣れないと……」

 

「ああ、霊山同盟支部が盛大に勘違いされて……ないな!

 師匠とかシノさんとか杏さんとか有能な変態だらけだし!」

 

 

そんな支部にS県一帯の未来がかかってるとか今更ながら心配になるハルカであった。

 

ぐるりと見まわしてみれば、全員タイプ違いの美女・美少女だらけ。

 

デカパイお姉さんから長身武人気質、クール&ボーイッシュに眼帯ロリに腹黒おさげメガネ。

 

性癖の見本市である。こんなにいっぱいまとめて出したらキャラ薄れそうだけど。*4

 

信頼できる事務員の増員はうれしい、うれしいのだが……。

 

 

「LVは……全員ガイア基準で10、ステータスは知・速よりの万能型か。

 スキルは事務、交渉、計算、高度教養、性奉仕…………。

 

 性奉仕ってなんだコラぁ?!

 

「いや、全員お前の秘書みたいな扱いで各派出所や支部の部署に派遣するわけじゃん?

 お前とオフィス・ラブした時に失敗しないようにと、黒札一同からのプ・レ・ゼ・ン・ト♪」*5

 

「僕中学生!?この前まで小学生ィ!」

 

「じゃあお前はここにいる面々とのラッキースケベに興味はないのか!!」

 

「あるけど師匠(アンタ)と違って考える脳みそは股間じゃなくて頭についてるんだよこの全身生殖器!!」

 

「全身生殖器!?」

 

「なにショック受けてんだ今更!?客観的に自分を見れないのか!」

 

 

ボケとツッコミのマシンガントークが飛びかうが、一通りツッコミ終えればぜえ、ぜえ、とハルカは息を整える。

 

元々阿部がナナメ方向のテコ入れしかしないのは承知の通りだ。

 

コストをかけずに事務スキル持ちの人型式神が14体も加入した……そう考えた方が健全だろう。

 

オフィス・ラブとかは一度考えないようにした。いやまあ、ハルカも健全な中学生男子、美女・美少女に迫られて悪い気はしない、しないが。

 

それはそれとして、なんか妙にこの面々の視線が最初から好意的なのが気になっているのだ。

 

 

「ああ、それはマスター登録をお前に更新するときにお前の遺伝子情報使ったからな。

 黒札(オレたち)が使ってる固有式神クラスの絶対服従&超愛情持ちの14人だぞ♪」

 

「なんでそういうことするの!?」

 

「シスタープリンセス*6をリアルでやってみようかなって。

 いやまあ、それならナンバーズの12人だけのほうが元ネタ通りなんだがな。

 それ言い出したら全員お前より年上の外見だからシスターはシスターでも姉の方……」

 

「うーんこのいつも通りわけわからん理由でわけわからんことをしでかす男!!」

 

 

言ってる事がわけわからんのもそうだし、当然ハルカがシスタープリンセスなんて知っているはずもなく。

 

実際このタイミングで情報漏洩の心配がないLV10の事務員10人追加とかありがたいなんてレベルじゃないので、ハルカも思考を切り替えた。

 

アナライズ結果を見た限りだと、14人のステータスやスキルはほぼ共通。

 

元が事務・管理向けの量産型式神だからだろう、品質の差が少ないのだ。

 

逆に言えば、今からでも霊山同盟支部の事務業に突っ込めるスペックはある、あるのだが……。

 

 

「派出所の管理、となると少し不安ですね」

 

「ほう、その心は?」

 

「業務には何の支障もないと思います。そこらのザコ悪魔なら蹴散らせるでしょうし。

 ですが……ここは僕が赴任してからトラブル起きまくってる霊山同盟支部です。

 どーせ派出所にも何かしら面倒事が持ち込まれるんだろ!知ってるんだぞ!!」

 

「まあうん、お前の運勢が大凶と凶を行ったり来たりしてるし、そんな気がする」

 

 

将来的に使い潰すルートが本命とはいえ、ここまで幸が薄いとちょっとだけ同情してしまう阿部であった。

 

そして、ハルカの懸念も間違いではない。

 

影の国での修行を終えた頃から、黙示録の四騎士が襲来するまではそれなりに期間が開いている。

 

少なくともハルカは最終回時点でも中学生だが、それが何年生なのかを明言していないのはそのためだ。

 

つまり!修行を終えた一か月後に四騎士襲来かもしれないし、いろんな事件を解決して中学三年生になってから襲来→終末かもしれない!

 

メタ的に言うと時系列をボカして外伝や短編でいろんなイベント突っ込むための措置である。

 

 

 

「というわけで、僕が提案する対処法。もとい、この14人の運用案は……」

 

 

 

 

 

【一か月後】

 

 

「よーし、今日はアタシたちの番だね、ギン姉!」

 

「スバル、急ぎ過ぎると転ぶわよー?」

 

 

霊山同盟支部が保有している修行用異界の1つに、ナカジマ姉妹は対悪魔装備を手に訪れていた。

 

周囲には巫女衆やスマートブレインのガイアトルーパー隊といった、霊山同盟支部及び下部組織の戦闘員が並んでいる。

 

どれも比較的低レベルの戦力達であり、この異界の難易度もおおよそ察せられるだろう。

 

ハルカが提案したのは、ローテーションしながらのレベリング。

 

霊山同盟の管理している修行用異界に、2名ずつ霊山同盟支部所属の面々と共に潜ってレベリングを行う事にしたのだ。

 

12人を支部の事務業や派出所の管理に当て、基礎ステータスをレベリングでじわじわ上げることで作業効率を上げていく。

 

さらにもう1つ、シノから頼まれていた『あるモノ』を全員に配っていた。

 

 

「それじゃ、今回も使おっか、これ」

 

「私達のスキル容量を割かずに戦闘力を強化できるのは魅力的よね、本当に」

 

 

彼女らもボディはシキガミボディなので、スキルカードによるスキルの変更・増設は可能だ。

 

とはいえ所詮は事務・管理用の量産型式神、それらに必要なスキルを多く搭載すれば、戦闘に使えるスキルを突っ込む余裕はあまりない。

 

そこでハルカが提案したのが、シノから預けられていた『装備』を配布する事だった。

 

二人が取り出した『妙にゴツいガラケー』を開き、9・1・3と入力。

 

何故かついているエンターキーを押し込み、腰に巻いたベルトに装填する。

 

【STANDING BY】

 

「「変身!!」」

 

【COMPLETE】

 

MAGによって形成されたラインが体を覆い、武装型式神を装着展開。

 

『量産型カイザ』……シノがガイアトルーパーの上位互換機として生産を始めている展開型デモニカである。

 

デフォルトでG3X相当、強化パーツによってG4X相当の性能にできるハイエンドデモニカであるものの、これを集中運用できるようなレベル&信頼度の部隊はG3ユニットぐらいであり。

 

そのG3ユニットはG4X等のテストにかかり切りなので、量産型カイザは運用データが集まらないまま実機だけが放置されていたのだ。

 

オリジナルであるデモニカ・カイザは友恵マナミ*7が使用しているものの、1機だけではどうやってもデータが足りない。

 

そこで、事務・管理用式神として赴任してきた14名全員に第一生産ロットの量産型カイザを配布。

 

レベリングついでに運用データの収集とレポートの提出を仕事として割り振ったのだ。

 

そして量産型カイザもデモニカスーツなので、スキルカードによるスキルの追加が可能。

 

戦闘用スキルが物足りない彼女たちにとっては、まさしく最高のパワードスーツなのであった。

 

 

「今日のノルマは『妖虫モスマン』10匹!火力でガンガン押し切ろう!」

 

「周りもG3MILDとガイアトルーパーだらけだから、魔法と銃弾の弾幕でゴリ押しが効くものね……」

 

 

各々が選んだ武器を手に、数だけは多い『妖虫』系悪魔の異界に発砲音が鳴り響く。

 

後に、彼女らが事務方のトップであるマナミと合わせて勇名を轟かせたせいで。

 

『霊山同盟のカイザトルーパー』だの『恐るべき事務員達』だの『美しき粛清部隊』だの言われる事になるのを、まだ誰も知らない……。

 

 

*1
『ファッション無惨様のごちゃサマライフ』の『転生夏油さんの摩擦ライフ』及び、アビャゲイル氏の投下所を参照。

*2
AAの都合かもしれない。

*3
外見は『リリカルなのはシリーズ』に登場した『ナンバーズ』12名と『ナカジマ姉妹』2名。アビャゲイル氏のトコにスカリエッティが登場してるのにナンバーズいなかったんだもん!

*4
大体リリカルなのは原作でナンバーズのキャラ薄くなった原因である。ノーヴェとか続編でほぼレギュラー貰ってるけど。

*5
悪魔娼館とかKSJ研究所とか、性的なスキルのスキルカードを得られそうな知り合いがいっぱいいるのが悪い。なんなら阿部も作れる。

*6
12人の妹が遠く離れた兄にブラコンしてる感じのメディアミックス作品。

*7
『改造人間短編集』の『どこにでもいるOLの話』参照。



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霊山同盟支部の販路開拓


半終末当たりのお話。

『アビャゲイルの投下所』様のキャラクターをガッツリお借りしました。


 

【霊山同盟支部 貴賓室】

 

 

「とゆーわけで、商品は色々開発してるし製造工場もガンガン作ってるし。

 いざとなったらリース生産してる支部にも協力要請できるから、

 必要なのは売り先なんだよ売り先!いや今でも困ってないけどね!」

 

(呼ばれたと思ったら徹夜明けみたいなテンションで解説されている……!?)

 

 

霊山同盟支部の支部長室のすぐ近くにある、重要な商談等に使われる『貴賓室』。

 

阿部の手による結界複数に加え、シノを含めた技術部が思いつく限りの防諜設備を備えた商談・会議用の部屋だ。

 

流石に山梨支部のソレには遠く及ばないし、その山梨支部ですら方法によってはファイアウォールを抜けるようなので、これでもまだ『気休め』レベルらしいが。

 

そんな貴賓室に今回呼ばれているのは、ガイア連合内の組織の1つである『KSJ研究所』の代表者の一人、大森カズフサであった。*1

 

裏では強烈なアンチメシアン活動をやりまくっている研究所ではあるが、阿部とそれなりに縁が深い黒札勢であり、シノも一目置くほどの技術力を持った技術者系俺達の集団である。

 

特に『地下を進む船』のアイディアは阿部経由で知ったシノが「その手があったかァー!!」と机から後方2回転しながら地面に落下するほどの衝撃であったという。

 

阿部も愛用の『蟲毒皿』*2を納入してくれるお得意様でもあるので、こうして商談のために呼ぶことも少なくないのだ。

 

 

「いやーごめんにぃ?今日で徹夜20日目だからさ。さっき3日ぶりにシャワー浴びれたぐらい忙しくって!」

 

「……なんか、その割にはイキイキしてるような……」

 

「まあ技術者冥利に尽きる環境ではあるからさ!じゃぶじゃぶ開発費が使えて!

 人材もガンガン集まってきて他の研究所との技術提携もスムーズで!

 おまけにだいたいの発明品がピンキリありまくるとはいえ人類の役に立つ!

 流石に設備は山梨支部に劣るけど、自由度は圧倒的だもんねー!

 あとは単に徹夜明けの脳内麻薬ドバドバランナーズハァーイ!」

 

(この辺のマッドサイエンティズムは流石についていけないんだよなぁ……)

 

 

ガイア連合には変人奇人が多種多様に存在し、そういう奴ほど有能だったりするのが事実は小説よりなんとやら、なわけで。

 

意外と人格面は黒札の中ではマトモな部類であるカズフサ、メシアンや天使への憎悪を除けば現地人への支援量含めて大当たりの部類な黒札である。

 

逆に言えば、この手の【有能な変人】相手だと、若干テンションに押される所があった。

 

 

「で、えーっと、話を戻すけどさ。今回KSJ研究所に依頼したいのは、『海外への販路拡大』なんだよねぇ」

 

「……海外?というと、中華戦線や欧米のシェルターみたいな?」

 

「そーそー。一応狩人ニキ*3のツテもなくはないんだけどさ」

 

 

元々、狩人ニキは山梨支部(もといショタオジ)から物資・設備などの支援を受けた上で活動している黒札だ。

 

今更霊山同盟支部が出張った所で、せいぜい各シェルターに配布されるアイテムの点数が少し増える程度の効果しかない。

 

狩人ニキの一行が持っていけるアイテムは限られる以上、霊山同盟支部の支援物資は『山梨支部の物資を詰め込んだ空きスペース』が定位置になるからだ。

 

 

「まあ、確かにKSJ研究所は蟲毒皿や蟲毒皿ピッチャー*4をメインに色々運んでるけど……。

 霊山同盟支部から無理なく支援できるアイテムじゃ、焼け石に水な気がするなぁ」

 

 

呪殺弾は確かに天使相手に効果は高いが、KSJ研究所が提供している蟲毒皿で十分という感想が出てくる。

 

傷薬やマッスルドリンコ等の消耗品も同様だし、蟲毒皿ピッチャーでぶん殴ってるのを知った後は武器の供給も始めた。

 

ガードアクセラー*5は便利そうだが、現状のメインウェポンは蟲毒皿ピッチャーと小銃。

 

銃弾の方で色々カバーが効く以上、わざわざ『GM-01 スコーピオン』*6を持っていく理由も無い。

 

悪魔(天使)相手に近接戦を仕掛けられるような人材も少ない以上、シノの狙いがイマイチ分からないカズフサであったが。

 

 

最新バージョンの『デモニカG3』、20機ほど『無料提供』するからさ。

 信頼できるデビルバスターやシェルターに配ってきてくれない?」

 

「んなっ!?」

 

「いやー、狩人ニキにも5機ぐらい任せたんだけどね?

 どっちかといえば蟲毒皿の代わりになる呪殺弾が欲しいみたいでさぁ」

 

 

『デモニカG3』……ガイア連合で量産されたポピュラーなデモニカスーツである。

 

【仮面ライダーG3】とほぼ同じ外見を持ち、内装は当時の一般的なデモニカと同じモノ。

 

しかし、シノがこれに目を付け、共通規格化やフレームの統一という【生産性の向上】を重視した改造を実施。

 

これを元に、廉価版である【G3MILD】、強化版である【G3X】。

 

LV30以上推奨のハイエンドモデル【G4X】、その白兵戦調整型【G1X】*7等が生まれた名機である。

 

細かなバージョンアップが現在も続けられており、一般的な人工筋肉から悪魔素材を用いた人工筋肉をデフォルトで採用。

 

剛性・靭性に優れた【妖鬼】と、柔軟性・軽量が特徴の【妖獣】の素材を元にした複合人工筋肉により、強度及びパワーアシスト効果は初期型を遥かに上回る。

 

式神パーツを詰め込んだブラックボックスのカートリッジ化で、デモニカが故障してもカートリッジを入れ替える事で即座に応急修理が可能。*8

 

ガイア連合技術部が開発した『安全な悪魔召喚プログラム』の搭載まで可能にした、完成系ともいえるデモニカスーツなのだ。

 

 

「アプリは『悪魔召喚プログラム』を中心にメジャーなのは一通り入れてあるよ。*9

 更に悪魔召喚プログラム内に『式神アガシオンLV5』をプレゼント!*10

 ムドとディアは覚えさせてあるから、対天使なら数合わせ程度にはなるんじゃない?」

 オマケに装甲は『天使の羽』を素材にした対ハマ耐性装甲!

 ハマにも種類あるからね、ダメージ発生するタイプなら有効でしょ」*11

 

「まったまったまった!?このてんこ盛りデモニカ20機をタダで輸出!?」

 

 

確かに、デモニカとしての性能自体は『すごい便利』以上でも以下でもない。

 

G4Xのようなハイエンドモデルでもないし、ガイアトルーパーのような最新型でもない。

 

一般に流通しつつあるG3タイプの最新バージョンに、これまたガイア連合ならそれなりの日本円やマッカ、ガイアポイントで揃えられるオプション付きという代物だ。

 

ある程度レベリングしている黒札が、お気に入りの金札等にちょっとお高いプレゼントするよ!ぐらいのデモニカである。*12

 

問題は、そんなもんを20機まとめてKSJ研究所経由で輸出するという点。

 

はっきり言って、カズフサからすれば『狙い』が読めない。

 

 

「いやね、ぶっちゃけ霊山同盟支部……あとスマートブレインが今後直面するのがさ。

 『商品はじゃんじゃか作れるけど売り先が無い』って現象だと思うんだよね」

 

「? いや、各支部にリース生産を打診するぐらいデモニカG3は需要あるんじゃなかったっけ?」

 

「『今は』、ね。カズフサ君、終末後の環境で、ウチの商品が安定して販売できると思う?」

 

「……!!」

 

 

その時カズフサに電流走る。

 

確かに需要はある、ものすごくある、半終末でも終末後でも、霊山同盟支部の商品は売り先に困らない。

 

多神連合やメシア穏健派だって、廉価版である『デモニカG3MILD』を相場以上の金額で買いそうな勢いなのだ。*13

 

しかし、どれほど需要があろうと、終末後の時はまさに世紀末な世界で『安定した商売ができるのか』?

 

答えは『わからない』としか言いようがない。

 

 

「ターミナルシステムだって、いざ終末になった時に稼働率十割なんて期待できないしね。

 『試供品』を大盤振る舞いしてでも、終末後に商品を売れる先は確保しておきたい。

 上手く終末後もターミナルやデビオクが機能してくれれば、海外輸出も現実的になる」

 

「……なるほど、このデモニカ20機は『無料サンプル』か」

 

「スーパーでおばちゃんが売ってるウィンナーよりはお高いシロモノだけどね!」

 

 

KSJ研究所も、式神制作技術を抱えている以上、やろうと思えばデモニカやブラックボックスの製造も可能だ。

 

とはいえ今更設計図仕入れてデモニカ製造の練習を積むより、彼らはやるべきタスクが大量に積みあがっていた。

 

一方で、霊山同盟支部はデモニカの量産体制については全支部で1、2を争うほどに最適化と拡大が進んでいる。*14

 

だからこそ、KSJ研究所には『メシア過激派と戦っている海外組への支援強化』というメリットを。*15

 

霊山同盟支部は『終末後に残るかもしれない販路開拓』というメリットを。

 

海外の対メシア戦線の同志には『最新バージョンのデモニカに加えて新たな後援者』を。*16

 

一石三鳥な取引ということで、今回カズフサを霊山同盟支部に呼び出したのだ。

 

 

「とりあえず、俺の一存では決められないから、持ち帰ってジュンやスカリエッティとも相談するけど……ホントにいいのかこれ?初期投資にしても安くないぞ」

 

「いやー、ぶっちゃけさぁ。プレステ全盛期のソニーと同じミスをやらかしかねない状態でさぁ」

 

「……というと?」

 

「【G3MILD】と【G3X】が売れてるのに微妙に【G3】がダブついてるから輸出したい」

 

「なんで!!??」

 

 

思わずツッコんだカズフサであるが、これには深くて浅いワケがあった。

 

G3シリーズは共通規格に加えて強化改造も可能な発展性も確保されている傑作機。

 

やろうと思えばジムをジムⅡ→ジムⅢにするように、GMILD→G3→G3Xと強化していく事も可能なのだが……。

 

 

G3MILD=推奨LV15以下。未覚醒者の覚醒や低レベル時の補佐にうってつけ。

       LV15あたりで色々物足りなくなるが、お値段はお安い。

 

G3=推奨LV1~30。幅広く使える、良くも悪くも普通のデモニカ。値段は並。

 

G3X=推奨LV10~30。上記の2種では物足りなくなってきた人向けの拡張・強化版。

    LV10未満だと微妙に使い切れない機能が多いし、ちょっとお高い。

 

 

こういう具合である。

 

そして、デモニカは改造費用も安くはない。買い替えるよりはずっと安いが、デビルバスターからすれば他に金をかけたい部分はいくらでもある。

 

 

「そのせいで『G3MILDを安く買って長く使って、途中で一気にG3Xに強化して改造費用を浮かそう』って考えるデビルバスターが増えた……!!」

 

「あー……良くも悪くもG3が中途半端になっちゃったのか……」

 

「G3のフレームは大人気だけどね!ガワだけ変えて特撮ヒーローとか再現するのにちょうどいいから!G3は売れないけど!!」

 

 

なまじG3MILDの開発に心血を注ぎ、安くて戦闘に耐えうる最良のバランスを突き詰めてしまったからこその問題。

 

G3MILDでもそれなりのレベルまでは問題なく使える上に、G3Xまで一気に強化した方がG3を経由するより諸経費が浮く。

 

というわけで、一番オーソドックスなはずのG3に『在庫』が発生する前兆が見え始めたのだ。

 

 

「というわけでプレステ作りまくって在庫過多になったからアメリカに輸出したソニーと同じ手段を取りたい!

 頼んだよカズフサ君!あ、ちゃんと宣伝用に『スマートブレイン』のロゴを入れておいたから♪」

 

「うわホントだ胸部装甲のとこにシレっと!?っていうかまだ決定じゃないって言ってるでしょう!?」

 

「頼むよー!ウチにきて桜ちゃんをファックしていいから!」*17

 

「親友の貞操をこんなことで売らないでください!?」

 

 

 

ぎゃーすかぎゃーすかと騒がしくしがみついて来るシノを凌ぎながらも、なんとか『持ち帰って検討します』で済ませたカズフサなのであった。

 

……なお、終末後も東海道霊道やターミナルシステム、デビオクやガチャ等は問題なく稼働。

 

各販路がガッツリ生き残ったせいで、在庫どころか作ったものからハケるある種のバブルが到来。

 

結果、シノは今以上のブラック労働で様々なオカルトアイテムを制作するハメになりましたとさ、ちゃんちゃん。

 

 

*1
『アビャゲイルの投下所』様より。

*2
メシア穏健派の中でもガイア連合にあくどい事仕掛けようとして来た連中を【禁則事項】して量産しているムド系アイテム。ちなみに阿部は当然生産方式を知っているし、シノも現物を解析して「あ、こりゃ割とロクでもない方法で作ってるな」と察してはいるものの黙認している。 ただし、当然だがハルカには隠蔽しまくってるし、なんなら使わせもしない。

*3
カオス転生外伝で単身アメリカに突っ込んで各地のシェルターの支援やら過激派とのドンパチやってる武闘派黒札。

*4
ムド系の使い捨てアイテムである『蟲毒皿』を射出・投擲する事に特化したアイテム。ちなみにそのまま悪魔をぶん殴るのにも使える。

*5
対悪魔用の電磁警棒(スタンロッド)。カートリッジ交換で多種多様な状態異常攻撃に対応。

*6
霊山同盟支部で量産している対悪魔用突撃銃(実質サブマシンガン)。装弾数72発、並列弾倉式。炸薬式と電磁加速式の切り替えが可能。

*7
TS^2ようじょの終末対策 様を参照。

*8
ムド等でカートリッジが壊れたら予備のカートリッジに交換すればいいし、デモニカスーツが壊れたらカートリッジを引き抜けば別のデモニカにLVやスキルを引き継げる。

*9
エネミーソナー、アナライズ、マッピング等々。

*10
黒札の手を煩わせない工程で量産体制に乗せたので、こうして悪魔召喚プログラムにオマケのようにつけたり、オキニの金札へのプレゼント用、現地人霊能力者の貴重な戦力として需要ありまくりである。

*11
ハマ耐性の無い相手を即死させるだけのタイプと、即死+ダメージのタイプがある。真V等は後者。

*12
具体的にはカオス転生外伝でゆかりちゃんがあかりちゃんにプレゼントしたデモニカに、アガシオンやら悪魔召喚プログラムやら追加したモノに近い。つまり1機ならゆかりちゃんでも貢げるレベル。

*13
『カオス転生』本編で、多神連合の某神がデモニカ不足をせっついている。

*14
山梨支部は例外……と言いたいが、あそこの技術部俺達は割とすきなもんを好きなように作ってるせいでさっぱり読めない。デモニカが1日で10

0機製造される事もあれば一か月ぐらい納品されないとかも平然とありそうだし。

*15
メシア教ぶっ殺してくれる同志が強化されるんなら悪い事じゃないだろうし、必要な労力は輸送費程度である。蟲毒皿を持ってく時についでに運べばいいし。

*16
ただし今後はお値打ち価格とはいえ有料。とはいえ、天使ぶっ殺して確保できる悪魔素材やマッカやマグ等で取引できるが。

*17
後でこの発言がバレて桜にシメられました。



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