この素晴らしい世界に祝福の音色を (レイファルクス)
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第1話

 

 

《カズマside》

 

 

「佐藤和真さん、あなたは不運にもお亡くなりにました」

 

 

俺の目の前に豪華な椅子に座り、これまた豪華な机に紅茶のセットを載せ、紅茶を優雅に飲む女性がいた。

 

 

「あの…、あなたは?」

 

 

「私は"アクア"、あなたの世界の概念で言う女神です。先程も申しましたが佐藤和真さん、あなたはお亡くなりになりました」

 

 

お亡くなり…?つまり俺、"死んだ"ってこと?何で…あっ。朧気(おぼろげ)ながら思い出した。確か学校からの下校途中で横断歩道を歩いていた小学生に信号無視をしたトラックが…。

 

 

「思い出しましたか?あなたは信号無視をしたトラックに轢かれて命を落としてしまったのです」

 

 

そうだ、俺は轢かれそうになった小学生を庇って…。

 

 

「因みにトラックの運転手ですが、酒を大量に飲んだ飲酒運転の上に居眠り運転をしていた為、信号が赤になっていることに気づかなかったようです。小学生の方も膝を擦りむいてしまいましたが、命に別状はありません」

 

 

トラックの運ちゃん飲酒と居眠りかよ!?絶対やっちゃいけないヤツじゃん!小学生の方は良かった。命を張った甲斐があるってもんだ。

 

 

「それで、あなたには2つの選択があります。まず1つは"天国へ行く"です。ですが天国は"魂だけの世界"なので、食事とかの欲求は無く、できることと言えばお喋りくらいです」

 

 

なんだそれ!?ほぼ無限地獄じゃん!

 

 

「もう1つは"現世の生まれ変わり"です。ですがこれに関しては"記憶を全て消去"しなければならないので、はっきり言ってお勧めはしません」

 

 

そりゃそうだ。今まで培った"俺"と言うものが無くなるのは正直嬉しくない。

 

 

「そこであなたには3つ目の選択肢があります。あなたには異世界に行ってもらいたいのです。その世界は"魔法"があり、"モンスター"が蔓延っており、"魔王"が存在します」

 

 

"魔法"とか"モンスター"とか"魔王"とか…、まるでファンタジーだな。でも、最初の2つよりも幾分かマシだな。

 

 

「そして異世界へ行ってくれるのなら、"特典"を差し上げられます。ですが、"時を止める"とか"世界を支配する"と言った強すぎる特典は与えることはできませんし、こちらのカタログから選ぶことになります」

 

 

女神は俺に昔の電話帳ほどの分厚さがある本を渡してきた。

 

 

「もしそのカタログに無い特典が申し出てください。その時は私の上司との相談の上、差し上げます」

 

 

成る程…、余程危険な特典でなければ大丈夫って訳か…。……よし!

 

 

「決まりました。『仮面ライダー響鬼』をお願いしたいです」

 

 

「『仮面ライダー響鬼』…ですか。確かカタログには載っていない特典でしたね、今上司と相談しますので少々お待ちください」

 

 

女神は自身の側に電話機を出し、ダイヤルを回して電話を掛けた。恐らくさっき言ってた上司に連絡するんだろう。

 

 

「…あっ、お疲れさまです。アクアです。お忙しい所申し訳ありません。実は…」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はい…、はい…、はい…。わかりました、丁度当人も側にいますので…。はい、ありがとうございました」

 

 

5分くらい経過しただろうか、女神は受話器を置いた。

 

 

「お待たせしました。上司に相談した結果、特典の譲渡は許可されました」

 

 

おぉマジか!

 

 

「ですが、1つ問題がありまして…。響鬼になるには"鍛え抜かれた肉体と精神"が必要不可欠で、今のあなたに譲渡しても…」

 

 

あっ…、そうか。鬼になれないどころか、最悪"牛鬼"になってしまうってことか。

 

 

「そこで、あなたにはここ天界で響鬼になる為の修行をつけることになりました」

 

 

えっ…、修行?マジで?

 

 

「修行の内容は私たち女神が課したメニューをこなしていけば、大丈夫です」

 

 

「先輩」

 

 

あれ?誰だこの人。さっき彼女のことを"先輩"って呼んだけど…。

 

 

「エリス!紹介します、私の後輩の女神でエリスと言います」

 

 

「アクア先輩からご紹介預かりましたエリスです、よろしくお願いします」

 

 

エリスと呼ばれた女神が頭を下げて挨拶してくれたので、俺も頭を下げて挨拶する。さっきのアクアと言った女神といい、このエリスと言った女神といい、女神と言う存在はみんな美形なのか?

 

 

「それで先輩、お願いしたいこととは…?」

 

 

「実は…、かくかくしかじか…」

 

 

「まるまるうまうま…と言う訳ですか。わかりました、私がカズマさんの面倒を見ます」

 

 

「お願いね?私も時間が空いたら様子を見るから。お礼は向こうの世界の"シュワシュワ"で」

 

 

なんか俺の知らぬ所で話がまとまっているんだが…?

 

 

「お待たせしました。カズマさん、修行の時は私エリスが見ることになりましたので、よろしくお願いしますね」

 

 

エリスは屈託の無い笑顔を俺に向けた。…ヤベェ、可愛い。

 

 

「それじゃ、早速始めましょうか」

 

 

そんなこんなで、俺の響鬼を譲渡するための修行が始まった。

 

 

《カズマside end》

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから…

 

 

《カズマside》

 

 

 

「……うん、身体共に精神は十分鍛えられました」

 

 

あれから約5年、俺は自分を鍛えに鍛え抜いた。…まぁそのほとんどが精神的修行だったが。

 

 

エリス曰く

 

 

「現状肉体を鍛えようにも、そもそも肉体が無いので鍛えることはできませんから」

 

 

だった。けど、苦しかった修行を終え、やっと特典を譲渡してもらえるからやって良かった。

 

 

「それではカズマさん、こちらをお受け取りください」

 

 

エリスは俺に『変身音叉 音角』を渡してくれた。

 

 

「その音角は特別使用で、魔力を込めれば剣になる代物です」

 

 

…成る程。試しに魔力を音角に込めてみると、確かに音角の角の部分が伸びて剣になった。

 

 

「それと、変身する前に"あるワード"を音声入力すると、武器が変わる仕組みになります。例えば、『音撃道・管』と言えば武器が管楽器に、『音撃道・弦』と言えば武器が弦楽器になります」

 

 

なにそれすげぇ!それなら戦いの幅が広がるってもんだ!

 

 

「それからこれを」

 

 

…んっ?なんだそのショルダーバッグは。

 

 

「これはあの有名な"青い猫型ロボット"が着けているポケットの仕組みをあしらえた"四次元バッグ"になります」

 

 

いやいやそんな著作権無視しちゃ駄目でしょ!?

 

 

「大丈夫ですよ、ちゃんと当人には許可を頂いていますから」

 

 

ニッコリ笑った彼女を尻目に、俺は頭を抱えた。

 

 

「このバッグの中にはディスクアニマル全種がそれぞれ20枚入った箱、それから『音撃鼓 爆裂火炎鼓』と『音撃棒 烈火』、『音撃管 烈風』と『音撃鳴(おんげきめい) 鳴風(なりかぜ)』、『音撃弦 列雷』と『音撃(しん) 雷轟(らいごう)』、『音撃増幅剣(おんげきぞうふくけん) 装甲声刃(アームドセイバー)』が入っています」

 

 

なにその大盤振る舞い!?

 

 

「エリス、特典の譲渡終わった?」

 

 

俺が譲渡された物に若干引いていると、彼女の後ろからアクアが現れた。

 

 

「先輩。はい、たった今譲渡の方は終わりました。ただ…」

 

 

「ああ~、譲渡した物が多過ぎて引かれたんでしょ?まったく、だから言ったじゃない。『渡す物が多過ぎ』って」

 

 

どうやらアクアは渡す物を減らすよう進言していたみたいだな。…まぁ、多いに越したことはないからいいけど。

 

 

「オホンッ、それじゃカズマさん。特典に関しての注意事項です。まず知ってるとは思いますが、変身した後は服は無くなり、裸になってしまいます。なので変身を解除する時には十分気をつけてください」

 

 

確かに人前で変身を解除すれば、俺の"お粗末な物"を見せることになるからな。

 

 

「それと、ディスクアニマルですが、もし壊れた場合、自動でこの天界に送られて、私たちが修理します。そして修理が終わったら、自動で箱に戻る仕組みとなりますので」

 

 

成る程、もし壊れたとしても直してくれるのか。ありがたい。

 

 

「他は…、そうそう!四次元バックに入っている武器は変身しなくても取り出せますし、変身した時に自動で転送されますよ」

 

 

おおっ!それはありがたい!いちいち変身した後に付け替えなくて良さそうだ。

 

 

「後は…、これで全部ね。カズマさんからは質問ありますか?」

 

 

質問…?そうだな…。

 

 

「向こうの世界の言語の読み書きとかは…」

 

 

「それは大丈夫です。向こうに着いたと同時に翻訳されますので」

 

 

それは良かった。じゃなきゃ言語の勉強をしなくちゃいけないからな。

 

 

「他は大丈夫ですか?」

 

 

「はい、大丈夫です。今までありがとうございました」

 

 

俺は着ている制服の上にショルダーバッグを担ぎ、魔方陣の上に立った。

 

 

「「それではカズマさん、あなたの旅路が良いものでありますように」」

 

 

女神二人は俺に祝福の言葉を掛けてくれた。そして俺は異世界へと送り出された。

 

 

 



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第2話

 

 

「おお…、これが異世界か!」

 

 

不運にもトラックに轢かれたカズマは女神アクアとエリスの二人から『仮面ライダー響鬼』の特典を受け取り、ここ『始まりの街・アクセル』に降り立った。

 

 

「……でも、ここからどうすればいいんだ?」

 

 

本来は女神から何処にどう行けば良いかを言われるのだが、カズマはその説明を受けてはいなかった。

 

 

「あれ?君…見ない顔だね、服も見たことが無いデザインだし…」

 

 

途方に暮れる寸前だったカズマに一人の少女が声を掛けた。

 

 

「あっ…、あぁ。俺は田舎からこの街に来たばっかりだから…」

 

 

「ふぅん…そっか。じゃああたしが案内してあげる!っと…、そう言えば自己紹介がまだだったね。あたしは"クリス"、見ての通り"盗賊"だよ」

 

 

「わざわざありがとう。俺はサトウカズマ、カズマって呼んでくれ」

 

 

カズマとクリスは互いに自己紹介を済ませる。

 

 

「わかった!じゃあカズマ君、まずは"ギルド"に行こう!」

 

 

クリスはカズマの手を取って引っ張る形で案内を始めた。

 

 

「(この子…、"あたし"とか言ってたけど、もしかして女の子か?)」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はい到着」

 

 

クリスに手を引かれたカズマは、冒険者ギルドに到着していた。

 

 

「いらっしゃいませ~」

 

 

早速中に入ったカズマが見た光景は、昼にも関わらず、ガヤガヤと酒を飲みながら賑わっている冒険者たちだった。

 

 

「カズマ君、こっちこっち!」

 

 

クリスに呼ばれたカズマは急ぎ足でクリスの元へと向かった。

 

 

「この人はギルドの受付嬢の"ルナ"さん。ルナさん、彼はカズマ君って言って、田舎からこの街に来たみたいなんだ」

 

 

「そうでしたか。ようこそ、始まりの街・アクセルへ!」

 

 

「はじめまして、サトウカズマと言います。それでクリス、俺を呼んだ理由は?」

 

 

「うん、ここで冒険者の登録をしてくれるから呼んだんだ」

 

 

カズマはクリスに自分を呼んだ理由を聞き、クリスはルナさんを見ながら説明する。するとルナさんは一枚のカードをカズマの目の前に置いた。

 

 

「本来でしたら登録料として千エリス支払っていただくのですが、そちらは既にクリスさんが支払ってくださいましたので結構です。次にこちらのカードに触れていただければ、あなたのレベルやステータスが表示され、適した職業を選ぶことができます」

 

 

ルナさんの説明を聞いたカズマは早速カードに触れる。するとカードが光り、カズマのステータスが表示された。

 

 

「はあああっ!?筋力と生命力、幸運がずば抜けて高いですよ!?他のステータスは平均よりやや上なのに…。これなら"剣士"や"クルセイダー"がお勧めですよ!」

 

 

カズマのステータスを見たルナさんは興奮気味に喋る。

 

 

「あっ…、えっと…。すいません、"冒険者"でお願いします…」

 

 

「……えっ?あの、冒険者は基本職で"最弱の職業"なんて言われていますが…」

 

 

「冒険者でお願いします」

 

 

どうやらカズマは冒険者として登録したいようだ。

 

 

「……わかりました。ではサトウカズマさんは冒険者という事で登録します」

 

 

ルナさんはカズマからカードを受け取り、登録をする。そして登録が済んだカードをカズマに返した。

 

 

「登録が済みましたので、カードをお返しします」

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「ねぇねぇ、なんで冒険者にしたの?ルナさんが勧めてた剣士やクルセイダーでも良かったのに…」

 

 

クリスはカズマが冒険者に拘る理由を聞いた。

 

 

「確かに剣士やクルセイダーでも良かったけど、それだと使える武器に制限が掛かる恐れがあるんだ。だから武器の制限が無いであろう冒険者にしたって訳さ」

 

 

「ふ~ん…」

 

 

カズマの説明にクリスは疑問を持った。それもそのはず、今のカズマは武器を"一切持っていない"のだ。

 

 

「ま、いいや。それよりも、これで晴れて冒険者の仲間入りだね!」

 

 

「ああ!それと登録料払ってくれてありがとうな」

 

 

「いいよいいよ、これも何かの縁だから」

 

 

カズマとクリスはお互いに笑った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さて…と、クリス、初心者の俺にお勧めのクエストはあるか?」

 

 

カズマはクリスにお勧めのクエストを聞いた。

 

 

「そうだねぇ…、これなんてどうかな?」

 

 

クリスが指差した紙には『ジャイアントトードの討伐』と書かれていた。

 

 

「この辺りに生息する蛙で、比較的強くはないんだ」

 

 

「成る程…、こいつの特徴は?」

 

 

「体長は三メートルくらいかな?それと体が柔らかいから打撃が効かないんだよね」

 

 

カズマはクリスからジャイアントトードについて質問をし、クリスは特徴を述べる。

 

 

「打撃が効かないとなると、烈火は相性的に却下だな。それなら烈風か列雷が妥当かな?」

 

 

カズマはクリスから教えられた特徴から、戦略を練る。

 

 

「あらクリス?」

 

 

「お姉ちゃん!」

 

 

すると後ろからクリスを呼ぶ声がしたので振り返ると、そこには水色の髪の女性がおり、クリスは彼女のことを『お姉ちゃん』と呼んだ。

 

 

「クリスのお姉さんか?」

 

 

「あっ、紹介するね。あたしのお姉ちゃんの…」

 

 

「"アスタ"よ、よろしく。職業は"アークプリースト"よ」

 

 

クリスかれ自己紹介を引き継いだ女性"アスタ"はカズマに手を差し出した。

 

 

「カズマだ、職業は冒険者。よろしく」

 

 

カズマは差し出された手を握り、握手をする。

 

 

「ところでクリス、アンタこんな所でなにを?」

 

 

「彼にお勧めのクエストを紹介してたんだ。カズマ君は冒険者に成り立てだから」

 

 

アスタはカズマを見て、クリスが言っていたことに嘘が無いことを悟った。

 

 

「ねえ、もしよかったら私も一緒にクエストに参加してもいい?」

 

 

「えっ?なんでまた…」

 

 

「可愛い妹が毒牙に襲われないか心配だから」

 

 

アスタはクリスを抱きながらカズマをひと睨みする。

 

 

「あはは…、お姉ちゃんは心配性だなぁ。カズマ君はそんなことしないよ、ねっ?」

 

 

「ああ」

 

 

クリスの質問にカズマは力強く頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それからカズマは受付でジャイアントトードの討伐のクエストを受注し、カズマ、クリス、アスタの三人はジャイアントトードが出没する平原に来ていた。

 

 

「あれがジャイアントトードか…、確かにデカいな」

 

 

カズマは遠目でジャイアントトードを見ていたが、そのデカさに若干引いていた。

 

 

「んじゃまずはサクッと倒しますか!」

 

 

カズマは四次元バッグから列雷を取り出した。

 

 

「あ…、アンタ!それ今どこから出したの!?」

 

 

アスタはカズマが出した列雷に驚いていた。

 

 

「俺のこのバッグは特別製でね、大きさ関係無しに出し入れできるんだ。っと悪いクリス、これ預かっててくれ!」

 

 

カズマの説明にアスタは口が開いたままになり、クリスはカズマが投げてよこしたバッグを受け取った。

 

 

「さてそれじゃ…、『音撃道・弦』!」

 

 

《弦・ゲン・ゲーン!》

 

 

カズマは音角に音声入力をすると、音角から奇妙は音がした。

 

 

「なに?今の音」

 

 

「……音は気にしないでくれ」

 

 

カズマは音角の角を展開し、鳴らす。すると音角の角から波紋が拡がり、カズマは音角を自分の額に近づけた。

 

 

そしてカズマの額に鬼の紋様が浮かび、カズマの体は紫の炎に包まれた。

 

 

「ちょ、カズマ君!?」

 

 

「アンタ、なにやってんの!?」

 

 

「ハアアアァァァ…、ハァッ!」

 

 

二人が炎に包まれたカズマに驚くのを尻目に、カズマは右腕を

左から右に振り抜くと、カズマの姿が変貌していた。

 

 

筋肉が盛り上がった身体に紫の皮膚。顔は目と鼻と口は無く、額からは二本の角。たすき掛けに似た銀の装飾に腰に巻いたベルトには雷轟が装着されていた。

 

 

今異世界に『魔を滅する鬼』仮面ライダー響鬼が誕生した。

 

 

「「へ…、変身した!?」」

 

 

「へへっ…、そんじゃ行くぜ!」

 

 

カズマは列雷を担ぎ、ジャイアントトードに向かって走り出した。

 

 

「オリャ!」

 

 

ズバッ!ドシャ…。

 

 

カズマが列雷を一振り、横凪ぎに振るうと、ジャイアントトードは胴体を真っ二つに切り裂かれ、絶命した。

 

 

「よっしゃ次!」

 

 

ズバッ!ズバッ!ズバッ!

 

 

ドシャ…、ドシャ…、ドシャ…。

 

 

カズマは縦横無尽に列雷を振り、ジャイアントトードを次々に屠る。

 

 

「これで…、最後!」

 

 

カズマはジャイアントトードの腹に列雷を突き刺し、雷轟を列雷にセットすると、列雷に格納されていた刃が展開した。

 

 

「音撃斬・雷電激震!」

 

 

カズマは音撃モードになった列雷を何度も鳴らす。激しいギター音と共にジャイアントトードも苦しみ出す。

 

 

そして最後に一回列雷を鳴らすと、ジャイアントトードは爆散した。

 

 

「「す…、凄い…」」

 

 

唖然としている二人を横目にカズマは列雷を一回転させ、再び肩に担ぐと、変身を解いた。

 

 

「どうだった?」

 

 

カズマは自分の戦い形を質問するが、クリスは顔を真っ赤にして手で隠した。

 

 

「アンタ…、何で"服を着ていない"の?」

 

 

「えっ?…あっ」

 

 

アスタに指摘され、カズマは気づいた。今まで戦闘によって張っていた緊張の糸が戦闘終了と共に緩んだことで、"全身の変身"を解いてしまったのだ。

 

 

「あの…、これは…」

 

 

「いいから早く服を着なさ~い!/////」

 

 

アスタに投げられたバッグを顔面で受け取ったカズマはいそいそと着替えるのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「本当にごめんなさい…」

 

 

「あはは…、もういいよ。"アレ"を聞いたらしょうがないって思うもん。それに、カズマ君だって不本意だったんでしょ?」

 

 

ギルドにクエスト成功の報告を終えたカズマ一行は街の大通りを歩いていた。その際にカズマはなぜあんな格好をしていたのかを説明し、クリスに何度も謝っていた。

 

 

カズマからの説明を聞いたクリスは苦笑いしながら頬を掻いて今もなお頭を下げるカズマを許したのだった。

 

 

「それはそうと、カズマはジャイアントトードを討伐したおかげでレベルもアップして"スキルポイント"も手に入れたから、何かスキルを覚えた方がいいかも」

 

 

「スキル?」

 

 

「スキルは言うなれば職業の能力だね。盗賊なら奪う系、プリーストなら癒し系みたいに」

 

 

クリスはカズマにスキルの説明をし、カズマはクリスの丁寧な説明で理解が早かった。

 

 

「そうだ!よかったら僕のスキル"窃盗(スティール)"を教えるよ!これがあればもし武器を落としてもすぐ回収できるからね!」

 

 

「…確かに。相手の攻撃で武器を落とすことはあるだろうし、取りに行く暇が無かった時には重宝するな。クリス、教えてもらえるか?」

 

 

カズマはクリスに窃盗のスキルを教えてほしいと頼むと、クリスはニコニコ顔で了承した。

 

 

「まずスキルは覚えたいスキルを持っている人に使い方を教わると、カードの習得可能欄に表示されるの。それでポイントを振ればスキルを習得できるわ」

 

 

カズマ一行は大通りから路地裏に移動し、アスタからスキル習得の方法を教わる。そしてある程度距離を取り、クリスは窃盗を発動させた。

 

 

「あちゃー、石ころだったよ」

 

 

クリスの手のひらには石ころが1つ握られていた。

 

 

「まあしょうがないわね、"窃盗"は幸運度で成功率が左右されるから」

 

 

「だね。それじゃカズマ君、カードに"窃盗"のスキルが追加されていると思うから、早速習得して練習しよ!目標はあたしが持ってるナイフだよ」

 

 

カズマはカードの習得可能欄にある窃盗のスキルにポイントを振り、"窃盗"を習得。そしてクリスに手のひらを向けて"窃盗"を発動させた。

 

 

「…んっ?」

 

 

「あっ…」

 

 

「ふぇ…?」

 

 

カズマが"窃盗"したもの。それは"女性用のパンツ"だった。クリスはスカートの上から股を探り、カズマが"窃盗"したパンツが自分の物であることに気づいた。

 

 

カズマはクリスにパンツを返すと

 

 

「どうかこの卑猥なクソ野郎を殺してください」

 

 

その場で土下座したのだった。

 

 

 



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第3話

 

 

「まったく…、一度ならず二度までも!アンタ、私の妹になにするのよ!」

 

 

「面目次第もございません…」

 

 

路地裏から出てきたカズマ一行だが、アスタは怒りが収まらない感じで、クリスは顔を赤くしたまま俯いており、カズマに至っては左の頬に真っ赤な紅葉を作っていた。

 

 

「もし次にクリスに恥ずかしい思いをさせたら…、わかってるわね?」

 

 

「イ…、イエッサー!」

 

 

カズマはアスタの威圧感に震え、思わず敬礼してしまった。

 

 

「お姉ちゃん、もういいよ。それにお姉ちゃんも言ってたでしょ?『"窃盗"は幸運度に左右される』って」

 

 

クリスが言ったことを思い出したのか、アスタはバツが悪そうな顔をする。

 

 

「それよりも、これからどうする?」

 

 

「どう…とは?」

 

 

「パーティーメンバーだよ。あたしたちはいつも一緒に行動できる訳じゃ無いからね、カズマ君なら一人でも大丈夫だと思うけど、できることなら仲間を増やした方が一人で戦うよりも戦いやすいし、負担も減ると思うんだ」

 

 

クリスの考えにカズマは思考を巡らせる。

 

 

「(…確かに仲間がいれば、俺は前衛か後衛のどちらかに集中することができる。)そのパーティーメンバーはどうやって集めるんだ?」

 

 

「おっ、乗り気だね。まあ集め方はギルドの掲示板に"メンバー募集"の張り紙を張ればいいと思うよ?」

 

 

クリスの提案に乗ったカズマは早速クリスに手伝ってもらい、パーティーメンバー募集の張り紙をギルドの掲示板に張ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

3日後…

 

 

「来ないな…」

 

 

「来ないね…」

 

 

掲示板に張り紙を張ってから3日、カズマとクリスは項垂れていた。

 

 

掲示板に張り紙をしたのが夕方近くだったため、受付のルナさんに募集に関しての一言を伝え、解散したのだったが、宿屋は満室で唯一空いていたのが馬小屋だったので、カズマは仕方なく馬小屋を借り、そこで寝泊まりすることになった。

 

 

張り紙を張った翌日、カズマはクリスとアスタの二人と合流し、ギルドで張り紙を見た冒険者を待つことにしたが、その日は誰も来ず、2日目は金銭的余裕が無くなったのでクエストを受注。そして3日目の今、1日目と同じ状況になっていたのだった。

 

 

因みにこの日はアスタは用事があるらしく、不在だった。

 

 

カズマは椅子の背もたれに体を預けながらクリスを横目で見る。

 

 

「(クリスって顔整ってんな…、きっと色んな男から声掛けられてるんだろうな…)」

 

 

カズマの視線に気づいたのか、クリスはカズマの方に顔を向ける。が、それと同時にカズマが視線を反らしたので、クリスはカズマが自分を見ていたことに気づかなかった。

 

 

「すみません。募集を見て来たのですが…、ここでよろしいでしょうか?」

 

 

すると二人の目の前にいかにも魔法使いの格好をした少女が現れた。

 

 

「そうですが…、あなたは?」

 

 

カズマが少女の質問に答え、誰なのかを訪ねる。すると少女はマントを翻し

 

 

「我が名は"めぐみん"!紅魔族随一のアークウィザードにして最強魔法『爆裂魔法』を扱う者!」

 

 

魔法使いの少女"めぐみん"の自己紹介に二人は呆気に取られた。

 

 

「(なあ、コイツ頭大丈夫か?)」

 

 

「(ああ、カズマ君は知らないんだね。あの子は"紅魔族"って言って、紅い瞳とユニークな名前が特徴なんだよね)」

 

 

正気を取り戻した二人はめぐみんに背を向けて内緒話をする。

 

 

「あの…、もしよければご飯を……。もう三日も食べていないので…」

 

 

「あまり高いのはナシな?すみませーん!」

 

 

カズマはギルド内にいるウェイトレスに食事の注文をするのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」

 

 

三日ぶりの食事にありつけためぐみんはものすごい勢いでサンドイッチを咀嚼していた。

 

 

「そんなに慌てて食べると喉につまらすぜ?」

 

 

カズマはそっとオレンジジュースをめぐみんに渡す。

 

 

はひふぁほうほらいはす(ありがとうございます)

 

 

「それでカズマ君は彼女をメンバーに加えるの?」

 

 

ジュースを飲んでいるめぐみんを横目に、クリスがカズマに質問をする。

 

 

「カードを見た所、確かに職業はアークウィザードだし、後衛には向いている。だけどこれだけじゃ判断はできないから、後でクエストを受注してみようと思う」

 

 

カズマはめぐみんにカードを返しながら自分の考えをクリスに伝える。

 

 

「そういうことでしたら、存分にお見せしましょう私の力を!」

 

 

ジュースを飲み終えためぐみんは鼻息を荒くしていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

めぐみんを加えたカズマ一行は、平原にいるジャイアントトードを討伐するために出掛けていた。

 

 

「私が使う"爆裂魔法"は発動するのに若干時間が掛かりますので、その間カエルの足止めをお願いしたいです」

 

 

「それくらいなら任せとけ」

 

 

早速ジャイアントトードを発見した一行は、まずめぐみんの実力を見るために、彼女に攻撃をさせることにした。

 

 

「見ていてください。これが人類が行える魔法の中で、最も威力がある魔法。これこそが究極の攻撃魔法…」

 

 

めぐみんは瞳を閉じ、魔力を集めるため集中する。すると彼女の魔力が空気を震わせた。

 

 

「エクスプロージョン!!」

 

 

そしてめぐみんが魔力を一気に解放させた瞬間、三匹のジャイアントトードを中心に爆発が起こり、爆煙が晴れた所にはジャイアントトードはおらず、クレーターが残っているだけだった。

 

 

「(すげぇ…、カエル共を一瞬で!)凄いじゃないかめぐみ…」

 

 

カズマはめぐみんに言葉を掛けようとして止まった。何故ならめぐみんが地面にうつ伏せで倒れていたからだった。

 

 

「ちょ、めぐみん!大丈夫?」

 

 

「大丈夫ではありません。爆裂魔法は威力が絶大ですが、消費魔力も絶大で…。一日一発が限度な上、使用したらしばらくは動けなくなります…」

 

 

「「(なにその中途半端な魔法は!)」」

 

 

この時カズマとクリスの心は1つとなった。

 

 

「っ!カズマ君、あたしの"敵感知"スキルに反応があったよ」

 

 

するとクリスは敵の増援が来たことをカズマに伝える。

 

 

「数は?」

 

 

「数は3つ。動き方からしてジャイアントトードみたい」

 

 

クリスは敵の増援がカエルであることをカズマに伝えた。

 

 

「ならクリスはコイツとめぐみんを頼む。寄ってきたカエルは俺が処理する」

 

 

カズマは四次元バッグから烈風を取り出すと、バッグをクリスに渡した。

 

 

「音撃道・管!」

 

 

《管・カ・カーン!》

 

 

「なんですか今の音は?」

 

 

「……音は気にしないでくれ」

 

 

音角から流れた音が気になっためぐみんはカズマに質問をするが、カズマは気にしないように言った。そしてカズマは音角を鳴らし、響鬼へと変身する。しかし腰に装着されているベルトには以前装着されていた雷轟では無く、鳴風が装着されていた。

 

 

「フッ!」

 

 

カズマは烈風のピストンバルブを操作し、空気の弾を撃ち、カエルを次々に穴だらけにした。

 

 

「最後は…、これだ!」

 

 

カズマは再び烈風のピストンバルブを操作し、銃口をカエルに向け、引き金を引く。しかし発射されたのは空気の弾では無く、紅い光を放つ3つの石だった。

 

 

カズマはその石を三連発(バースト)連射で二回、計九個の石がカエルの腹に埋め込まれた。

 

 

そしてカズマは腰に装着している鳴風を烈風の銃口に装着させて引っ張り、烈風に装着されているマウスピースを烈風の後ろに装着させ、烈風を音撃モードにした。

 

 

「音撃射・疾風一閃!」

 

 

カズマはカエルに向けて烈風を吹き鳴らす。するとカエルは苦しむようにもがき、腹に埋め込まれた石が共鳴するように紅い光が強くなっていった。

 

 

そしてカズマが最後の一吹きを終えると、カエルは爆散したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ、凄いです!まさかあなたも爆裂魔法を使えるとは!」

 

 

「ありがとう。でもあれは爆裂魔法じゃないんだ」

 

 

クリスとめぐみんの下に戻ったカズマは、顔だけ変身を解いた。

 

 

「ねぇねぇ、さっきカエルに撃ち込んだのは何?」

 

 

「カエルに撃ち込んだのは"鬼石(きせき)"って言って、音撃の力を相手に流し込む不思議な石なんだ。この前クリスが見た雷電激震も列雷に仕込まれた鬼石で音撃を増幅させていたんだよ」

 

 

カズマが説明すると、クリスは納得したように頷いた。

 

 

「さて、早くギルドに戻ってクエスト成功の連絡と報酬を貰おうぜ。めぐみんの歓迎会をしなくちゃならねぇしな」

 

 

「えっ…?加えていただけるのですか…?」

 

 

「めぐみんの爆裂魔法は切り札になり得るし、使い所を間違えなければ心強い戦力になる。これからも頼むぜ?めぐみん」

 

 

「……はい!」

 

 

めぐみんはまさか自分がパーティーに加入されることにびっくりしてカズマに質問をする。そしてカズマから帰ってきた返答を聞いて、めぐみんは満面の笑みを浮かべるのだった。

 

 

 



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第4話

 

 

新たなパーティーメンバー"めぐみん"を入れたカズマ一行は、ギルドに寄る前に砂埃や汗わー拭うために大浴場へと向かうことにした。

 

 

その途中でクリスの姉のアスタと偶然にも出会い、四人で一風呂浴びることになった。

 

 

《めぐみんside》

 

 

私はめぐみん!紅魔族随一のアークウィザードにして爆裂魔法を極めし者!そして私は今、パーティーのリーダーであるカズマの計らいによって大浴場に来ました。

 

 

「こうしてお姉ちゃんと一緒にお風呂入るの、久しぶりだね」

 

 

私が服を脱いでいると、横で一緒に服を脱いでいるクリスが私の横で服を脱いでいるアスタに声を掛けました。

 

 

「……確かに。一緒のお風呂って、いつ以来かしらね」

 

 

アスタが服を脱ぐと、下着に包まれた豊満な"モノ"が私の視界に入ってきた。

 

 

「……めぐみん?なんか視線が痛いんだけど…?」

 

 

「……いえ、なんでもありません」

 

 

私は自分の体を見る。……うん、小ぶりながらもちゃんとある。私もいつかは彼女のような……。

 

 

「めぐみん?早く来ないと体冷えるわよ?」

 

 

「今行きます」

 

 

私はこれ以上考えないようにして、二人の後を追いました。

 

 

《めぐみんside end》

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ルナさん、お疲れさまです。クエストの報告に来ました」

 

 

「カズマさんお疲れさまです。ではカードをこちらに翳してください」

 

 

カズマはあらかじめ受け取っていためぐみんのカードと自分のカードを認証機に翳した。

 

 

「……はい、カズマさんとめぐみんさん三匹ずつで、計六匹ですね。確認いたしました、これが報酬になります。お疲れさまでした」

 

 

カズマはカードと報酬を受け取ってめぐみんたちがいる所へ戻ろうとすると

 

 

「あっ、カズマさん。ちょっとお待ちいただけますか?」

 

 

ルナさんから"待った"が入った。

 

 

「実はパーティーメンバー募集の張り紙を見て、加入したいと仰った方がいまして…」

 

 

「その方はどちらに?」

 

 

「ごめんなさい、カズマさんたちがクエストに行ってると伝えたら、出直すと言われまして…」

 

 

ルナさんはバツが悪そうな顔をする。そしてカズマはルナさんから加入希望者の特徴を聞いてめぐみんたちの下へ向かった。

 

 

「あら、遅かったわね」

 

 

「遅れてごめん。実はパーティー加入希望者がいたとルナさんから聞いてね」

 

 

カズマはアスタたちに合流が遅れた理由を話す。

 

 

「それで、その方はどちらに?」

 

 

「それが、俺たちがクエストに行ってることを聞くと、出直すって言ってギルドを出たそうなんだ。とりあえずルナさんからその人の特徴を聞いたから、明日ギルドに来れば会えると思うぞ?」

 

 

めぐみんの質問にカズマは答え、明日ギルドに集合と予定を決めた後、めぐみんのパーティー加入を祝した小規模な宴会をしてその日は解散となった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日…

 

 

ギルドの前で偶然にもカズマ、めぐみん、アスタ・クリス姉妹のカズマパーティーが全員合流し、ギルドに入った。

 

 

「あっ、カズマさん!こちらです!」

 

 

ルナさんに呼ばれ、カズマ一行は彼女の下へ行くと、彼女の横には鎧を着たオレンジの髪の女性がいた。

 

 

「あれ?"ダクネス"じゃん」

 

 

「本当だわ。ダクネス、久しぶりね」

 

 

クリスは彼女の名前を言うと、アスタも思い出したかのように挨拶する。

 

 

「うむ、アスタ、クリス。久しぶりだな」

 

 

「なあ、お前ら彼女と知り合いなのか?」

 

 

カズマは親しそうに話す彼女たちに質問をする。

 

 

「そうだよ。紹介するね、あたしの親友のダクネス」

 

 

「ダクネスだ、職業は"ナイト"の上級職"クルセイダー"。よろしい頼む」

 

 

ダクネスはカズマに手を差し出す。

 

 

「俺はカズマ、職業は冒険者。アスタとクリスの"友達"だ。そして彼女はめぐみん、俺のパーティーのメンバーだ。こちらこそよろしく」

 

 

カズマはダクネスの手を握り、握手をした。

 

 

『緊急クエストですっ!冒険者の各員は至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します…』

 

 

「なんだなんだ!?」

 

 

その時、街から放送案内が響き、カズマは狼狽える。

 

 

「ん……、多分"キャベツ"だろうな」

 

 

「そろそろ収穫の時期ですしね」

 

 

そんな中、ダクネスとめぐみんは落ち着いて現状を予想していた。

 

 

「は……っ?キャベツ?」

 

 

「皆さんっ!今年もキャベツの収穫時期が来ました!今年は出来が良く、1玉につき一万エリスになります!皆さん、いっぱい収穫して下さいね!」

 

 

「よっしゃー!いっぱい捕まえるぞ!」

 

 

「網持ってこい網!」

 

 

カズマが呆然とする中、他の冒険者は次々にギルドの外へ向かって行った。

 

 

「あれ?カズマ君は知らないの?」

 

 

クリスの疑問にカズマは首を横に振った。

 

 

「じゃあ教えてあげるね、キャベツは"飛ぶ"んだよ。芳醇にして濃厚、シャキシャキと歯ざわりのいい繊維質はクセになり、その魅惑的な味に酔いしれる者は数多いけど、強い魔力と生命力で羽ばたき、大陸を渡り海を越え、人知れぬ秘境の奥地でその生涯を終えるの。簡単に食べられてたまるかって」

 

 

「……俺の異世界概念が崩れ去ったぞ今」

 

 

クリスの説明にカズマはドン引きしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「納得いかねぇ、何でただのキャベツ炒めがこんなに旨いんだ」

 

 

「生きていますからね、食べるだけでも経験値が貰えるのですよ」

 

 

キャベツ収穫のクエストを終え、不機嫌そうな表情のままキャベツ炒めを食べていたカズマにめぐみんが説明をする。

 

 

「それにしてもダクネス、中々の活躍だったじゃない。その身一つでキャベツの体当たりを受けていたのだから」

 

 

「うむ!あれはあれで中々気持ちよかった!」

 

 

アスタがダクネスを褒めると、ダクネスは頬を紅くしていた。

 

 

「……なあクリス、ダクネスってもしかして"ドM"か?」

 

 

「……ハッキリ言うね…」

 

 

カズマはダクネスの性癖を見破り、クリスは苦笑いしていた。

 

 

「まあダクネスは優秀なクルセイダーだから、何かと役に立つと思うよ?」

 

 

「……まあな」

 

 

カズマはダクネスをチラ見する。

 

 

「…んっ?どうした」

 

 

「別に」

 

 

カズマの視線に気づいたダクネスはカズマに質問をするが、カズマはそっぽを向く。

 

 

「それはそうとカズマ、アンタも中々の活躍だったじゃない!」

 

 

「うむ!私たちだけで無く、他の冒険者たちにも指示を出していたからな!」

 

 

そう、カズマはダクネスたちだけで無く、他の冒険者たちにも指示を出していたのだ。そのおかげなのか、冒険者たちの懐も大いに潤い、カズマを称賛し、『今回の功労者は誰か?』と聞けば、全員が"カズマ"の名を上げるほどだった。

 

 

「私もカズマには感謝しています。爆裂魔法を撃つタイミングを作ってくれましたから」

 

 

めぐみんの言う通り、カズマは烈風を使いキャベツを射抜くだけでは無く、わざと外したり、ディスクアニマルの"茜鷹(あかねたか)"を使い、一ヶ所に集中させることで、爆裂魔法をより効率的に使うタイミングを作り出していたのだ。

 

 

「それに、ダクネスがキャベツに襲われている時に、クリスと一緒に"窃盗"で収穫してたし、この中じゃ一番経験値を稼いだんじゃない?」

 

 

「経験値を稼げばスキルポイントも貰えます。それで魔法やスキルを習得するのも一つの手です。私としては爆裂魔法を覚えてもらい、一緒に撃ってみたいものですね」

 

 

「それはごめん被る。パーティーメンバーは俺とめぐみん、そして"ダクネスの三人"だけだ。二人とも爆裂魔法でぶっ倒れたら誰が守ったり運んだりするんだ?」

 

 

カズマの正論にめぐみんはぐうの音も出なかった。

 

 

「……んっ?"三人"…ですか?」

 

 

「そう、"三人"。俺とめぐみんとダクネス。アスタとクリスはパーティーに入ってもらいたいが、二人とも外せない用事とかあるから俺たちのせいで束縛はしたくない」

 

 

カズマはアスタとクリスの二人を見ながら自身の考えを口にする。

 

 

「私は別に入ってもいいけど?カズマと一緒なら面白そうな予感がするのよね」

 

 

「あたしもお姉ちゃんに同意。ってことで、お姉ちゃん共々よろしくね?"リーダー"」

 

 

クリスはちゃっかりカズマのことをリーダーと呼んだ。

 

 

「おいおい、リーダーって…「私は異論ありませんよ」ってめぐみん」

 

 

「カズマなら私たちの長所を生かし、短所を補う戦略を立ててくれると信じています」

 

 

「それって、『爆裂魔法を組み込んでください』って言ってるものじゃない」

 

 

アスタに言われ、めぐみんは舌をちろっと出したのだった。

 

 

「……わかったよ。サトウカズマ、このパーティーのリーダーを勤めさせていただきます!すみませーん、シュワシュワ3つとオレンジジュース2つ!」

 

 

カズマはウェイトレスに注文をし、届いたシュワシュワをアスタとダクネス、ジュースをめぐみんとクリスに渡した。

 

 

「それでは新たに加入したダクネスとアスタとクリス、そして俺たちのパーティー結成を祝して、乾杯!」

 

 

「「「「かんぱーい!!」」」」

 

 

カズマたちは飲み物を一気に煽った、そしてカズマの言葉を聞いたのか、他の冒険者たちもカズマたちをお祝いし、ギルド内は大宴会さながらの空気になり、どんちゃん騒ぎが明け方まで続いた。

 

 

もちろん、カズマ、アスタ、ダクネスの三人は二日酔いになりその日一日は静かに過ごす結果になったのは言うまでもない。

 

 

 



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第5話

 

 

めぐみん、ダクネス、アスタ、クリスの四人を仲間にしたカズマは意気揚々とクエストを受ける…ことは無く、のんびりする…ことも無く、日々忙しそうに動いていた。

 

 

ある時はアクセルの街を囲う壁を補習するために大工仕事を。

 

 

ある時はキャベツ狩りで知り合ったウィザードや剣士に初級魔法や両手剣スキルを教えてもらったり。

 

 

ある時は料理スキルを習得するためにギルドの厨房で料理したり。

 

 

ある時は武器の手入れをするために鍛治屋で鍛治スキルを教わったり。

 

 

カズマは着々とスキル能力を伸ばしていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふぅ…」

 

 

この日、カズマはギルドの厨房の手伝いを終えて、飲食スペースで寛いでいた。

 

 

「おやカズマ」

 

 

「ダクネスとめぐみんか」

 

 

するとそこにダクネスに背負われためぐみんが現れた。因みにダクネスの今の格好はレディースーツである。普段着用している鎧はキャベツ狩りの時に所々凹んでしまい、修理に出していた。

 

 

「二人が一緒ってことは、"日課"か」

 

 

カズマが言った"日課"とは、めぐみんが一日一回爆裂魔法を放つ"爆裂散歩"のことである。

 

 

「ここ二~三日カズマが付き合ってくれなかったので、ダクネスに頼みました」

 

 

「と言うことだ」

 

 

「あ~、それはすまなかったな。お詫びと言ってはなんだが、俺が作った料理があるから、それを食べよう。明日は俺が爆裂散歩に付き合うから」

 

 

カズマはダクネスからめぐみんを引き取り、めぐみんを椅子に座らせると、厨房へ行き、料理を両手いっぱいに持って帰って来た。するとめぐみんたちがいる所にアスタとクリスがいた。

 

 

「……って、アスタにクリス。いつの間に来てたんだ」

 

 

「ちょうど今よ、めぐみんたちが座っていたから相席したら、カズマがちょうど料理を持って来たのよ」

 

 

「…まあいいや、料理を持って来たから、食べてくれ」

 

 

カズマは次々に持っていた料理をテーブルに並べていった。

 

 

「悪いわね、それじゃいただきます」

 

 

「「「いただきます」」」

 

 

アスタを真似して三人が料理を前に拝み、カズマの料理を口にする。

 

 

「「「「美味しい~っ!」」」」

 

 

どうやらカズマの料理は絶品だったようで、みんな一心不乱に料理を平らげていった。

 

 

「「「「御馳走さまでした!」」」」

 

 

「はいお粗末さま。…で、味はどうだった?」

 

 

「どれもこれも美味しかったわよ!味付けも好みだったし、点数を付けるなら100点満点!」

 

 

カズマは料理の感想を聞くと、アスタは親指を立てながら高評価を出し、めぐみん、ダクネス、クリスの三人はアスタに同意するかのように頷いた。

 

 

「こんな美味しい料理を食べたから、今夜のクエストも張り切れるってもんよ!」

 

 

「んっ?クエスト?」

 

 

「実は…」

 

 

クリスが言うには、街の共同墓地に現れる"ゾンビメーカー"の討伐をルナさん直々から依頼されたそうな。

 

 

「"ゾンビメーカー"?」

 

 

「"ゾンビメーカー"とは、死体に乗り移ってゾンビを操る悪霊のことです」

 

 

カズマが疑問に思っていたことにめぐみんが説明をすると、カズマは理解したようで、頷いていた。

 

 

「なら今夜、その共同墓地に現れるゾンビメーカーを倒せばいいんだな?」

 

 

「カズマ、付き合ってくれるの?」

 

 

「当たり前だろ?プリーストとはいえ、夜中に女の子を歩かせるわけにはいかないからな」

 

 

カズマははにかみながらアスタの頭を撫でる。するとアスタは顔を紅くし、俯いてしまった。

 

 

「お~お~、男前だねぇ~。因みに、あたしたちも女の子なの?」

 

 

「なに当たり前のこと聞いてんだよ?みんな可愛い女の子に決まってんじゃん」

 

 

カズマは当然と言わんばかりに言うと、全員の顔が紅くなった。

 

 

「あはは~、ありがとう…(うぅ~、そんなこと平然と言われたら恥ずかしいよ~!)」

 

 

「(何でしょうか…?カズマにあんなこと言われたら、顔が凄く熱いです)」

 

 

「(このような攻めは好きでは無いのに、顔が熱くなる!)」

 

 

カズマは顔が紅くなったメンバーを見て、首を傾げた。

 

 

「とにかく、今日はゾンビメーカーの討伐をやろう、俺は用意しなきゃいけない物があるから、これで失礼するぞ。アスタ、クリス。悪いが手伝ってくれ」

 

 

カズマはアスタとクリスを連れてギルドから出ていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

夜、カズマパーティーはゾンビメーカーを討伐するため、共同墓地に来ていた。

 

 

「カズマ、焼けたわよ」

 

 

「ありがとう」

 

 

ゾンビメーカーやゾンビたちが動き出すのは夜中らしく、動き出すまでは暇なので、バーベキューをすることとなり、カズマたちは網の上で焼かれた肉や野菜を頬張っていた。

 

 

「"クリエイトウォーター"、"ティンダー"」

 

 

カズマはマグカップにコーヒーの粉を入れ、水の初級魔法である"クリエイトウォーター"でコーヒーを作り、火の初級魔法である"ティンダー"でマグカップの底を熱し、温かくなったコーヒーを一口啜った。

 

 

「カズマ、私にも水を下さい」

 

 

「あいよ、"クリエイトウォーター"」

 

 

「カズマ、もうちょっと火を強めてもらえる?」

 

 

「わかった、"ティンダー"」

 

 

カズマはめぐみんのマグカップに水を注ぎ、火を強くした。

 

 

「って何で器用に初級魔法を使いこなしているんですか!!余りにも自然過ぎて違和感を感じませんでしたよ!」

 

 

初級魔法を器用に扱うカズマにめぐみんは驚いていた。

 

 

「確かに初級魔法は使用魔力は少ないが威力も少ない。けど"状況"や"組み合わせ"次第で強くなる。例えば土の初級魔法"クリエイトアース"と風の初級魔法"ウインドブレス"を組み合わせれば目潰しになったりな。"モノは使いよう"ってヤツさ」

 

 

カズマは誰もいない所で実演してみせた。

 

 

「なるほど、私の故郷である"紅魔の里"でも初級魔法を覚える人はいませんが、これはこれで便利そうです。今度里へ帰った時に進言してみるのもアリですね」

 

 

めぐみんは初級魔法の使い所を考えていた。

 

 

「…っ、冷えてきたな」

 

 

ダクネスは冷えた体を暖めようと自分の体を抱き締める。

 

 

「クリス、このブランケットをダクネスに渡してくれ。ダクネス、そのブランケットを太もも辺りに被せれば、ある程度寒さを凌げるぞ。でも火元には近づき過ぎないようにな?ブランケットに火が移るから」

 

 

カズマは四次元バッグからブランケットを一枚出し、クリスに渡した。そしてクリスはダクネスの太ももにブランケットを被せたのだった。

 

 

「用意が良いな」

 

 

「昼間"用意しなきゃいけない物がある"って言ったろ?いくら季節が春とはいえ、夜は冷える。それにここ数日晴れが続いていたから"放射冷却"で体温を大幅に奪われると思ったからな」

 

 

「「「「放射冷却?」」」」

 

 

「"放射冷却"ってのは、日中地面が暖められても遮蔽物が無いと夜に暖まった熱が無くなる現象のことだ。主に砂漠とか遮蔽物が無い所では日中の気温はかなり高いが、夜になると一気に冷える。時と場合には水が氷になるほど冷たくなるんだ」

 

 

カズマの説明に全員が感心していた。

 

 

「「っ!」」

 

 

するとカズマとクリスは同時にある方向を向いた。

 

 

「…感じた?」

 

 

「ああ、向こうに"反応"がある。数は…五」

 

 

「カズマ、もしかして"敵感知スキル"を?」

 

 

ダクネスがカズマに質問すると、カズマはゆっくり頷いた。

 

 

「買い物をしている時にクリスから教わった、とにかく行こう!」

 

 

カズマはクリエイトウォーターで火を消し、全員で敵感知の反応があった場所へ向かった。

 

 

「あれは…?」

 

 

小高い丘でカズマたちは様子を見ると、ゾンビたちが一ヶ所に集まっていた。すると中央にいた人影を中心に魔方陣が展開された。

 

 

「あれ…?あの人…」

 

 

「お姉ちゃん、もしかして…」

 

 

魔方陣の光によって照らし出された人物を見たアスタとクリスは、互いを見て頷いた。

 

 

「知ってる奴か?」

 

 

「まあね、害は無いから行きましょう!」

 

 

「あっ!おい待て!」

 

 

アスタとクリスは魔方陣を展開している人物の下へ向かった。カズマたちも二人の後を追うように走った。

 

 

「久しぶりね、"ウィズ"」

 

 

「えっ…?あっ、アスタさんにクリスさん!」

 

 

魔方陣を展開していた人物、ウィズと呼ばれた者は被っていたフードを外した。

 

 

「あ~。アスタ、知り合い…か?」

 

 

めぐみんを背負ったカズマがアスタに質問をする。

 

 

因みに何故めぐみんを背負っているのかと言うと、アスタとクリスを追いかけている途中、めぐみんが先に力尽きてしまい、仕方なくカズマがめぐみんを背負う形となった。

 

 

「えぇ、紹介するわ。アクセルの街で魔法具店を営んでいる"リッチー"のウィズよ」

 

 

「はじめまして、"リッチー"のウィズと申します。"ノーライフキング"なんてやってます」

 

 

"リッチー"とは魔法を極めた大魔法使いが人の身体を捨て成り果てたアンデットの王である。絶大な魔力と魔法防御を持ち、通常の武器では傷一つつけられず、加えて触れるだけで相手の魔力や生命力を吸い取る伝説級のモンスターである。

 

 

「ところでウィズ、アンタなんでこんな所に来てるのよ?」

 

 

「実は…、この共同墓地の魂はお金が無いためロクに供養してもらえず、天に還ることもできず、毎晩彷徨ってまして……」

 

 

「あぁ~、リッチーであるアンタは死者の声を聞くことができるから、いてもたってもいられなかった訳ね」

 

 

アスタがウィズが共同墓地に来ている理由を聞くと、ウィズは恐る恐る話し、アスタは全てを理解した。

 

 

「それは立派だが、それって普通街のプリーストがするんじゃないのか?」

 

 

カズマは最もな疑問をウィズに投げ掛ける。

 

 

「その…、この街のプリーストさん達は"お金第一"で…。お金が無い人は後回しで…、ほとんどここに足を運ぶ人も居ませんし…」

 

 

「まったく、同じプリーストとして腹が立つわね!『彷徨える魂を導き、救い、天に還す』がプリーストの本懐だと言うのに!」

 

 

ウィズの話を聞いたアスタは怒りを露にした。

 

 

「流石アスタ、プリーストの鑑だな。でもウィズ…だっけ?魂を天に還すのなら、この周りにいるアンデットは?」

 

 

「あっ…、これは私が意図的にしている訳では無く、私の魔力に死体が勝手に反応して目覚めちゃうんです。私としてはここで彷徨う魂が無くなればここに来る理由も無くなるのですが…」

 

 

カズマはアスタを褒めつつ、ウィズにアンデットのことを質問すると、ウィズは困ったように答えた。

 

 

「いいわ!私が纏めて天に還してあげる!」

 

 

そこにアスタが胸を張って答えた。

 

 

「本当ですか!?」

 

 

「私だって、彷徨える魂が居続けるのは嫌だしね。カズマ、ウィズを連れて墓地から離れてくれない?大掛かりな浄化の魔方陣を展開するから、ウィズを巻き込まないようにしないと」

 

 

アスタのお願いにカズマは頷き、ウィズとダクネス、めぐみんを連れて墓地から離れた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

《アスタside》

 

 

「……うん。お姉ちゃん、みんな墓地から離れたよ」

 

 

感知スキルを使っていたクリスがみんなが墓地から離れたことを伝えてくれた。本当に良くできた"妹"だこと。

 

 

さてと、そろそろ魂を天に還してアンデットを浄化しないと!私は"この世界の姿"から"本当の姿"に戻って…っと。

 

 

「それじゃあなたたち、還る所へ行きましょう!"セイクリット・ターンアンデット"!」

 

 

私は頭上に墓地を覆うような巨大な魔方陣を展開し、アンデットを浄化し、魂を天に還したのだった。

 

 

《アスタ→"アクア"side end》

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「供養されていない魂が…ですか」

 

 

翌朝、カズマたちはクエストの報告のため、ギルドに来ていた。

 

 

「えぇ、その魂がゾンビメーカーになってアンデットを出していたようで。でも、アスタが"全て浄化"してくれたのでしばらくは大丈夫だと思います」

 

 

カズマは嘘を混ぜながら報告をする。

 

 

「……わかりました。わざわざありがとうございました!報酬をお受け取りください」

 

 

カズマはルナさんから報酬を受け取り、アスタたちの下へ向かった。

 

 

「カズマ、お帰り」

 

 

「あぁただいま。報告は嘘を混ぜながらだったけど、報酬は貰えたぞ」

 

 

カズマはテーブルに報酬が入った袋を置いた。

 

 

「それで配分だけど…、まずウィズが半分、残りの半分を俺たち五人で分け合う。報告前に確認したことだが、本当にこれでいいんだな?」

 

 

「えぇ。元々ウィズが善意でやっていたことだし、私たちはそのお手伝いをしただけ」

 

 

カズマの確認にアスタは首を縦に振る。そしてアスタに同意するかのようにクリス、ダクネス、めぐみんも首を縦に振った。

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

ウィズは遠慮がちにお礼を言い、カズマは報酬の半分をウィズに渡したのだった。

 

 

 



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第6話

時系列は前後しますが、先に屋敷入手します。


 

 

共同墓地でリッチーのウィズと出会ってから丸一日経過した日の昼、カズマはアスタとクリスの案内の下、とある店に辿り着いていた。

 

 

「ここがウィズが経営している"ウィズ魔法具店"よ」

 

 

「ネーミングそのまんまだな…」

 

 

カズマのツッコミを他所に、アスタは扉を開けた。

 

 

「ウィズ、こんにちは」

 

 

「アスタさん、クリスさん。それにカズマさんも、いらっしゃいませ」

 

 

カズマたちが扉を潜ると、ウィズが出迎えた。

 

 

「相変わらず閑古鳥が鳴いてるわね、ちゃんとご飯食べてる?」

 

 

「あはは…、この前頂いたお金で久しぶりに固い食べ物を口に…」

 

 

苦笑いを浮かべるウィズを横目に、カズマは身近な棚を見ていた。

 

 

「あっ、気をつけてください!その棚は爆薬が置いてますので!」

 

 

「ウェッ!?」

 

 

カズマはびっくりして棚から離れた。

 

 

「今お茶を淹れますので、少しお待ちくださいね」

 

 

ウィズはそう言って店の奥に引っ込んでいった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「お待たせしました」

 

 

ウィズは来客数と同じ数のティーカップをトレイに乗せ、カズマたちの前に置いた。

 

 

「ありがとう。……うん、いい香りね」

 

 

「……美味しい」

 

 

「クリスの言う通りだな、クッキーとか持ってくれば良かったかな?」

 

 

ウィズが出した紅茶をカズマたちは飲んだり匂いを嗅いだりした。

 

 

「お気に召して良かったです。ところで、今日は何のご用で?」

 

 

ウィズは来店した理由を訪ねる。

 

 

「実はカズマがウィズにお願いしたいことがあるみたいなの」

 

 

「カズマさんが…ですか?」

 

 

「ああ。ウィズに何か使えるスキルを教えて貰えないかなって思ってな」

 

 

カズマは来店した理由を口にする。

 

 

「私からスキルを…?」

 

 

「俺のパーティーって、前衛と後衛が二人ずつなんだ。クルセイダーに盗賊、アークウィザードにアークプリースト。んでもって俺は前衛と後衛どっちでもいけるオールラウンダーだから」

 

 

「確かにそうね。カズマは武器次第で前も後ろもこなすから」

 

 

そう、カズマは音撃棒・烈火と音撃弦・列雷と言った接近戦に加え、音撃管・烈風と言った遠距離攻撃もこなすため、前衛、後衛どちらもこなせるのだ。

 

 

「……わかりました。では"ドレインタッチ"なんてどうでしょうか?」

 

 

「"ドレインタッチ"ね…、確かに覚えて損は無いと思うよ」

 

 

ウィズの提案にクリスは頷いた。

 

 

「"ドレインタッチ"?」

 

 

「"ドレインタッチ"はリッチーのスキルの一つで、触れた相手の生命力や魔力を奪うことができるの」

 

 

「それを応用して、魔力を渡したい人に触れて魔力を送ることもできます」

 

 

「なるほど…、奪うだけじゃなく、与えることもできる…か。それって"他人の魔力を他人に与える"ってことはできるのか?」

 

 

クリスとウィズの説明を聞いたカズマはウィズに質問をする。

 

 

「できますよ、ただ、加減を間違えれば相手を死なせてしまう恐れがありますので…」

 

 

「そのあたりは大丈夫だと思う。それじゃウィズ、早速"ドレインタッチ"を教えてくれるか?」

 

 

「はい!」

 

 

カズマはウィズからドレインタッチを教えてもらい、無事習得し、授業料として"衝撃を与えると爆発するポーション"を幾つか買ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「この屋敷…か」

 

 

カズマたち一行はアクセルの街外れにある屋敷へと来ていた。その理由は、カズマたちがウィズの店から出ようとしていた時に不動産屋が訪れ、"屋敷に巣くう悪霊をお祓いして欲しい"と言う依頼をしたのが始まりである。

 

 

ウィズはその依頼を受けようと思っていたが、その日は用事があるらしく、そこでアークプリーストであるアスタがウィズの代わりにお祓いをすることになったのだ。

 

 

「随分と立派な屋敷ですね…」

 

 

「不動産屋の店長の話だと、何処ぞの貴族の別荘だったって話よ。でも、随分前に売りに出されたみたいなんだけど…」

 

 

「悪霊騒ぎのせいで、買い手が見つからず…って訳か」

 

 

カズマたちはとりあえず屋敷の中へと入っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「なぁアスタ、除霊はいつするんだ?」

 

 

夜、カズマの手料理を堪能したメンバーが寛いでいると、食器を洗い終わったカズマがアスタに質問をする。

 

 

「そうね…、悪霊に限らず幽霊って大体夜中に活動するから、それに合わせてって感じね。それと、この屋敷には悪霊はいないわ。代わりに地縛霊はいるけど」

 

 

アスタはさらっと爆弾発言した。

 

 

「地縛霊?」

 

 

「カズマが料理している間にちょっと調べたのよ。名前は『アンナ=フィランテ=エステロイド』、この屋敷の持ち主だった貴族とその貴族の下で働いていたメイドの間に生まれた隠し子ね」

 

 

「でも彼女は厄介者扱いされて幽閉されていたみたい。しかも親の貴族は病弱で生まれて数年後に病死、その翌年にメイドもそれから行方知れず…。彼女もまた貴族と同じ病になって、親の顔を知らずに…」

 

 

アスタの調べに全員が口を閉ざした。

 

 

「それじゃ、悪霊騒ぎの原因はもしかして…」

 

 

「クリス、勘違いしないで。恐らくだけど、彼女を慰めたり遊んだりしていた所を目撃されただけよ。だから私たちが話し相手になったり、お供え物をすれば、幽霊は来ないはずよ」

 

 

クリスが勘違いしそうになったのをアスタはやんわりと訂正させた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

夜中、カズマは自室にしていた部屋のベッドから起きた。どうやらトイレに行きたかったらしく、寝ぼけ眼を擦りながらベッドから出ようとする。だが、カズマの視界に"その場に無い物"が入った。

 

 

「(ななな…っ、何だ今のは!?あんなの昼間には無かったぞ!……いや、落ち着け。これってもしかして…)」

 

 

カズマは急いでベッドに潜り、思考を巡らせる。そしてベッドから頭を出すと、『酒瓶を持った女の子型の西洋人形』がカズマを覗いていた。

 

 

「○%§▲%&△□※#‡▼%△§!!!」

 

 

カズマは悲鳴を上げ、アスタがいる部屋へと走った。

 

 

「アスタ!」

 

 

「きゃああああ!!」

 

 

「うわあああっ!!…って、めぐみん!?」

 

 

カズマがアスタの部屋に入ると、そこにはめぐみんと言う先客がいた。

 

 

「カズマですか…、驚かさないでください」

 

 

「済まない…って、何でめぐみんがアスタの部屋に?」

 

 

「実は…、部屋で寝ていたら人形が私を上から見ていまして…、それでアスタに助けてもらおうと。…それと、一緒にトイレに…」

 

 

どうやらめぐみんもカズマ同様、アスタに助けを求めて来たようだった。

 

 

「……この際だ。めぐみん、俺と一緒にトイレに行こう。実は俺もトイレに行きたくて…」

 

 

「……わかりました。本来なら嫌なのですが、背に腹は変えられません」

 

 

カズマはめぐみんの手を引いて、恐る恐るドアを開け、人形がいないことを確認すると、一目散にトイレへと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふう…、すっきりしました」

 

 

トイレに到着したカズマとめぐみんは交代でトイレで用を済ませた。

 

 

「ところでカズマ、先程歌っていたのはどんな曲ですか?」

 

 

カズマはめぐみんに気を利かせるため、自分がそこにいることを証明するために歌を歌っていた。

 

 

「俺の故郷で流行っていた曲さ」

 

 

「へぇ~、今度私にも教えてください」

 

 

「機会があれば…な。それよりも、アスタはどこにいるんだ?」

 

 

トイレから出た二人はアスタを探すため、廊下を歩いていた。

 

 

「……もしかしてあの人形たちに」

 

 

「縁起でも無いことを言わんでくれ。……んっ?」

 

 

カズマは違和感を感じ、敵感知スキルを発動させると、外に反応があることに気づいた。

 

 

「…外に気配を感じる。行ってみよう!」

 

 

カズマはめぐみんの手を引いて、屋敷の外へ出た。

 

 

「あっ!カズマにめぐみんじゃない!」

 

 

「っ!アスタの声だ!どこにいる!?」

 

 

「カズマ、上です!」

 

 

めぐみんが上、つまり屋敷の屋根を指差すと、そこには女神の姿となったアスタとクリス、そして淡く光る球体が幾つも浮いていた。

 

 

「ア…、アスタ…?」

 

 

「そうよ?何、仲間の顔すらわからなくなったの?」

 

 

「あの…、"先輩"?今のあたしたち…」

 

 

「あ…っ」

 

 

アスタは今自分たちがどういう格好をしているのか、忘れていたようだ。

 

 

「あの…、カズマ。あの二人は本当にアスタとクリスでしょうか?私には女神にしか見えないのですが…」

 

 

「安心しろ…、俺もそう見える…」

 

 

二人の招待を知ったカズマとめぐみんは呆然としていた。

 

 

「さて、あなたたち満足したでしょ?還る所へ還りなさい」

 

 

アスタが屋根の上で立ち上がると、光の球体はふわふわと上空へ登っていった。そしてアスタとクリスは屋根に括り着けたロープを使い、地上へと降り立った。

 

 

「さて…、まずは何から話そうかしら」

 

 

「なあアスタにクリス…、お前ら…その、本当に"アクア様"と"エリス様"…なのか?」

 

 

「……うん、あたしたちはカズマさんが以前天界でお会いした女神です」

 

 

「……カズマ、どういうことですか?私には何が何だかちんぷんかんぷんです」

 

 

めぐみんが状況の説明を要求すると、我に戻ったカズマが説明をする。

 

 

『自分が何処から来たのか。彼女たちが何者なのか』を。

 

 

「そういうことでしたか」

 

 

めぐみんはまだ信じられないようで、カズマてアスタとクリスを見る。

 

 

「カズマさん、今まで騙すような事をしていて、申し訳ありませんでした」

 

 

「あたしたちは、女神であることを隠すために、あんな格好をしていたんです」

 

 

アスタ…否、アクアとクリス…否、エリスはカズマに頭を下げて謝った。

 

 

「何でそんなことをしていたのか…、話しては…くれないんですね?」

 

 

「ごめんなさい、これに関してはカズマさんやこの世界の人に話すことはできません」

 

 

「わかりました。……でも、ここ最近、エリス様はともかく、アクア様はこの世界にいられますけど、何か理由でも?」

 

 

カズマはアクアが異世界に滞在している理由を聞いた。するとエリスが

 

 

「よくぞ聞いてくれましたカズマさん!」

 

 

泣きながらカズマにしがみついた。

 

 

「先輩ってば、全然"休まない"んですよ~っ!」

 

 

「……どういうこと?」

 

 

エリスが言っていることが分からず、カズマはエリスに聞き返した。

 

 

エリス曰く、アクアは24時間、365日、ずっと"休まず"に女神の仕事をしていたそうな。

 

 

更にエリスと言った後輩の女神や天使の面倒を良く見たりしており、仕事を丁寧且つ分かりやすく説明したりするので、エリスたち後輩女神はアクアが休んでいる所を見たことが無いそうだ。

 

 

しかもエリスたちが休むよう言っても『別に疲れていないから大丈夫よ!』と言われる始末であった。

 

 

「それでこの前、天界に帰ったらあたしたちの上司に当たる神様に言われたのです『女神アクア、そなたは働き過ぎじゃ。このままではいずれ身体を壊しかねん。そこで、女神エリスが担当する世界で、ゆっくり羽根を伸ばしなさい』って」

 

 

カズマはアクアを見ると、アクアはカズマの視線を逃れるかのように首を反らした。

 

 

「先輩、天界に還る魂のために色々な知識を取り込むのは結構です。ですが、時々は休んでくださいね?」

 

 

「……わかったわよ。そんな潤んだ瞳で見ないでくれる?罪悪感がひしひしと襲って来てるから」

 

 

アクアはバツが悪そうな顔でエリスと約束をしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日、カズマとアスタの姿となったアクアは不動産屋に訪れ、店長に除霊が完了したことを伝えた。すると事前にギルドに相談をしていたそうだ。

 

 

カズマはギルドに向かうことを伝えると、店長から二つ頼まれ事を聞き、それを承諾するとギルドへ向かい、ギルドから臨時報酬を受けとるのだった。

 

 

「まさかお墓の掃除と、冒険譚を話すことがこの屋敷に住む条件とは…」

 

 

カズマ、めぐみん、ダクネスの三人は中庭の掃除をしていた。

 

 

そう、店長に頼まれたこととは、『地縛霊の墓掃除』と『地縛霊に冒険譚を話す』の二つだった。

 

 

カズマは墓の前に座ると、墓石をたわしで擦り、苔を落とし、果実酒をお供えして合掌した。

 

 

「……俺たちの話で良かったら、聞いていいからな」

 

 

カズマは綺麗になった墓石を撫で、屋敷の中へと入っていった。

 

 

その墓石の後ろに女の子が立っており、優しく微笑んだのをカズマは知らなかった。

 

 

 



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第7話

 

 

カズマたちが屋敷を手に入れ、アスタとクリスの正体が判明した翌日…。

 

 

「カズマ、爆裂散歩に付き合ってください」

 

 

カズマがリビングで寛いでいると、めぐみんが爆裂散歩の催促をしてきた。

 

 

「あぁ良いぞ。ちょうど暇だったしな」

 

 

カズマは二つ返事でめぐみんの要望を聞き、二人は散歩に繰り出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

屋敷から出たカズマとめぐみんは、街から離れた湖畔に辿り着くと

 

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 

早速めぐみんが爆裂魔法をぶっ放した。

 

 

その後カズマはめぐみんを背負い、屋敷に戻る。

 

 

それからと言うもの、雨が降る日も

 

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 

晴れた昼下がりの日も

 

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 

風が強い日も

 

 

「『エクスプロージョン』!」

 

 

カズマはめぐみんの爆裂散歩に付き合った。時には突如現れた廃城に放ったり。そして気づけばカズマはめぐみんの爆裂魔法の良し悪しが分かるほどになっていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「うん、昨日の爆裂魔法は中々良かった。骨身に走る衝撃波がなんとも」

 

 

「カズマも爆裂道と言うものが分かってくれて嬉しいです。どうでしょうか?この機会にカズマも爆裂道を極めるのは」

 

 

「いや、遠慮しとく。それに俺は、音撃道を極めたとは言い難いからな。まずは音撃道を極めて、その後考えるかな」

 

 

ギルドの酒場でカズマはめぐみんの爆裂魔法を評価し、めぐみんはカズマにも爆裂魔法を撃てるよう勧める。だがカズマはめぐみんの誘いをやんわりと断った。

 

 

「アンタたち、よくやるわね」

 

 

「あぁアス…タ?」

 

 

そこにアスタが現れ、カズマは声を掛けようとした所で言葉が詰まった。なぜなら今のアスタの格好は普段の青色の修道着では無く、メイドの格好をしていたからだった。

 

 

「アスタ…?何でそんな格好を?」

 

 

「この前のキャベツ狩りなんだけど…、どうやら私が捕まえた殆んどが"レタス"だったみたいでね、まあ報酬は少し上乗せしてもらったんだけど」

 

 

「それにお金には不自由してないわよ?クエストでもらったお金は殆んど使ってないし。でも、最近"魔王軍の幹部"が街の近くに住み着いたらしくて、近辺の弱いモンスターが出てこなくなったらしいのよ」

 

 

「それで暇だったから、ウェイトレスのアルバイトをしているって訳。それに、このメイド服も一度着てみたかったしね♪どう、似合う?」

 

 

アスタは何故メイドの格好をしているのかを説明し、その場でくるりと一回転する。ロングスカートがふわりと浮かび、靴下に包まれた足が見えた。

 

 

「とても似合いますよアスタ」

 

 

「ありがとう♪それじゃ私は仕事に戻るから。ご注文の追加がございましたら、ぜひ仰ってくださいね?」

 

 

アスタはウインクをしてカズマたちがいるテーブルから離れた。

 

 

「あんなあざとい仕草をされたら、大半の男連中はアスタ目当てで集まるだろうな…」

 

 

カズマはちらりとめぐみんを見た。

 

 

「……何ですかカズマ、私の顔を盗み見て」

 

 

「……別に(やっべぇ、めぐみんのメイド姿を想像していたなんて、口が裂けても言えねぇ)」

 

 

カズマが想像していためぐみんのメイド姿とは、『アスタのメイド姿のミニスカート状態』だった。

 

 

《緊急!!緊急!!》

 

 

すると、ギルドから緊急放送が流れた。

 

 

《全冒険者は装備を整え、正門前に集合して下さい!》

 

 

「何かありましたかね?キャベツの時期はもう過ぎましたし…」

 

 

「だよな?…なあアンタ、一体何があったんだ?」

 

 

カズマは近くを通り掛かった冒険者に話を聞いた。

 

 

「俺も聞いただけなんだがよ、何でも"魔王軍の幹部"が来たって話だぜ?あんたも冒険者なら早く正門前に来たほうがいいぜ!」

 

 

冒険者は話すことだけ言って足早に正門前に向かった。

 

 

「魔王軍の幹部…ですか」

 

 

「とりあえず、俺たちも向かった方が良さそうだな」

 

 

カズマとめぐみんは頷いて正門前に向かうのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマとめぐみんが正門前に到着すると、既に集まった冒険者でごった返していた。

 

 

「カズマ!これは一体何の騒ぎだ!?」

 

 

そこにダクネスが人混みわ掻き分けて来た。

 

 

「ダクネス!何でも"魔王軍の幹部"が来たとか…」

 

 

「何だって!?」

 

 

カズマとダクネスが正門に視線を向けると、そこには漆黒の甲冑を身に纏った騎士が漆黒の馬に跨がっていた。だが、漆黒の騎士は首を左脇に抱えており、馬もまた、首が無かった。

 

 

「あれはまさか…、強大な力を持つアンデットモンスターの"デュラハン"か!?」

 

 

「マジかよ…、でも何でそんな奴がこの街に…」

 

 

カズマが何故初心者の街と呼ばれるこのアクセルの街にデュラハンが来たのか疑問に思っていると、デュラハンは馬から降りた。

 

 

「貴様らに問う…。毎日毎日俺の城に爆裂魔法を撃ち込んでくる大馬鹿は誰だぁーっ!!」

 

 

「よく聞け貴様等!この街には低レベルの雑魚しかいないのは知っている!どうせ俺には手を出せまいと放置していればポンポンポンポン撃ち込みおって!おかげで耳鳴りは止まらんわ食事は喉を通らんわで陰湿にも程があるわーっ!!」

 

 

どうやらこのデュラハンは自分の城に爆裂魔法を撃ち込まれた鬱憤を言うためだけに来たようだ。

 

 

そして冒険者たちは"爆裂魔法"と言うフレーズを聞き、一斉にめぐみんへと視線を向けた。視線に耐えかねたカズマはめぐみんの手を握り、デュラハンの前に立った。

 

 

「むっ、何だ貴様」

 

 

「俺はカズマ、この街を拠点に活動しているパーティーのリーダーだ。そして彼女は紅魔族のめぐみん、あなたの城に爆裂魔法を撃った張本人だ。知らなかったとは言え、あなたの城に爆裂魔法を撃つよう指示したのは俺だ。本当にすまなかった」

 

 

カズマはデュラハンの前で頭を下げる。

 

 

「ほう…、潔いな。それで、貴様はその紅魔の娘を差し出すのか?」

 

 

「馬鹿を言うな。例えこちらに非があるとしても、仲間を売ったりは絶対にしない。もう城には爆裂魔法を撃たないと約束するから、この場は引いてくれないだろうか?」

 

 

カズマはデュラハンに交渉を持ちかける。

 

 

「…良かろう、貴様に免じてこの場は引こう。だが、紅魔の娘。貴様には然るべき報いを受けてもらうぞ!」

 

 

デュラハンは右手をめぐみんに向けると、漆黒の矢を打ち出した。

 

 

「めぐみん!」

 

 

ダクネスがめぐみんの前に移動するが、カズマがダクネスを押し退け、漆黒の矢がカズマに突き刺さった。

 

 

「ぐぅっ?!」

 

 

「ふんっ、予定は狂ったが…、紅魔の娘よ!その小僧は"死の宣告"と言う一週間後に死ぬ呪いを受けた!もし助けたくば「カズマ、カズマ!!」って人の話を…ん?」

 

 

デュラハンを他所にめぐみんはカズマの側に寄り、彼の名を叫んでいた。そしてカズマはその場に踞り、苦しそうに胸を押さえていた。

 

 

「カズマ、しっかりしてください!カズマ!!」

 

 

「ハァ…、ハァ…、うっ、グボッ!」

 

 

「……えっ?」

 

 

カズマは苦しそうに息をすると、口から"何か"を吐き出した。

 

 

「なんですか…これ…?…"血"…ですか?はは…っ、冗談はやめてください。私を驚かそうと仕込んでいたのですよね?そうですよね?カズマ…」

 

 

めぐみんはカズマに問い質そうとするが、カズマは咳き込む度に口から血を吐く。

 

 

「すみません、ちょっと通してください!めぐみん、大丈…夫……」

 

 

そこにクリスが到着すると、彼女は言葉を失った。

 

 

「カズマ君!ダクネス、この状況は一体…」

 

 

カズマは血を吐き、めぐみんはカズマが血を吐いたことによるショックで放心状態となっていた。クリスはダクネスに説明を要求すると、ダクネスは先程までの出来事を話した。

 

 

「それって"死の宣告"じゃない!早くなんとかしないと!お姉ちゃん!お姉ちゃんはいる!?」

 

 

クリスは人混みの中にいるであろうアスタを呼ぶ。すると人混みの中からアスタが現れた。

 

 

「ちょっと退いて!…ふぅ、やっと着いたわね。…って、何この状況!?」

 

 

アスタは血を吐くカズマと放心状態のめぐみんを見て驚いていた。

 

 

「お姉ちゃん!カズマ君が…カズマ君が…!」

 

 

アスタはカズマの状態を察すると

 

 

「クリス、退いて。『セイクリッド・ブレイクスペル』!!『ハイネス・ヒール』!!」

 

 

アスタはカズマに解呪の魔法と回復魔法を掛けた。

 

 

「……あれ?」

 

 

すると踞っていたカズマの顔色が良くなり、カズマは立ち上がることができた。

 

 

「解呪と、とりあえず回復の魔法を掛けたわ。体力は回復してるとは思うけど、あまり無理はしない方がいいわよ」

 

 

「そうか…、ありがとうアスタ」

 

 

「どういたしまして♪ほらめぐみん、カズマは無事よ」

 

 

カズマは助けてくれたアスタにお礼を言い、アスタは放心状態のめぐみんを正気に戻そうと、めぐみんの肩を揺すった。

 

 

「カズマ…?カズマ!!」

 

 

正気に戻っためぐみんは泣きながらカズマに抱き着いた。

 

 

「めぐみん…、心配掛けて済まなかったな」

 

 

カズマはめぐみんの頭を優しく撫でると、めぐみんは頭をカズマに強く押し付けた。

 

 

「めぐみん、今はあいつを何とかしないといけないから、今は離れてくれるか?」

 

 

カズマはめぐみんを離そうとするが、めぐみんは抱き着く力を強め、離れようとはしなかった。

 

 

「……めぐみん、約束する。俺は絶対に生きて帰ってくる」

 

 

「…約束ですよ?もし破ったら地獄の果てまでも追いかけて爆裂魔法を撃ちますから」

 

 

カズマは優しくめぐみんに話しかけると、めぐみんはそっとカズマから離れたのだった。

 

 

「ははっ、そんなことされたら閻魔大王様も真っ青になっちまうな!……行ってきます」

 

 

カズマはバッグから音撃棒・烈火を取り出し、バッグをめぐみんに預け、人差し指と中指を立てた右手を顔の前で一回転させ、右手首を捻り、敬礼をした。

 

 

「……待たせたな。デュラハン!俺との一騎打ちを申し込む!!」

 

 

カズマはデュラハンの前に立ち、決闘を申し込んだ。

 

 

「それは別に構わんが…、本当に大丈夫か?」

 

 

デュラハンはカズマの容態を心配しているのか、思わずカズマに質問をしてしまった。

 

 

「敵の心配より、己の心配をしたらどうだ?」

 

 

「……この俺を挑発するとは、要らぬ心配だったようだな。良かろう!貴様との一騎打ち、受けて立とう!」

 

 

デュラハンは何も無い空間から剣を取り出した。

 

 

「そう言えば、まだ名乗っていなかったな。我が名は"ベルディア"、魔王軍幹部が一人、デュラハンのベルディアだ」

 

 

ベルディアは名乗りを上げる。

 

 

「行くぜ、『音撃道・打』!!」

 

 

《打・ダーン!》

 

 

カズマはいつものように音角に音声入力をし、音角を展開させる。そして烈火に当てて波紋を出し、自身の額に近づけた。すると額に鬼の顔が浮かび、カズマの身体が紫の炎に包まれた。

 

 

「ハアアァァァ……、ハアッ!!」

 

 

カズマは炎を振り払い、響鬼へと変身を遂げた。

 

 

「貴様…、変身したと言うのか…!貴様に問う、貴様は一体何者だ!」

 

 

「我が名はカズマ!始まりの街アクセルを拠点にする最弱職にしてパーティーのリーダーになった者!そして悪しき者を清める音色を奏でし鬼となる者!我が名はカズマ!またの名を…、『仮面ライダー響鬼』なり!!」

 

 

カズマは烈火を構え、ポーズを取る。

 

 

「ほう…、良い名乗りだ。ならばカズマ…否、仮面ライダーヒビキ!いざ尋常に勝負!!」

 

 

ベルディアは剣を片手で構え、カズマは烈火を両手で一本ずつ持ち、間合いを図る。

 

 

「「ハアッ!!」」

 

 

そして二人同時に走り出す。リーチの長いベルディアの剣が先に当たると予想されたが、カズマは剣を避け、烈火をベルディアに当てた。

 

 

ベルディアは少し後退り、再び剣を振るうが、カズマは既に剣の間合いを見切っていたのか、容易に剣を避けた。

 

 

攻撃が当たらないことに苛々したのか、ベルディアは剣を頭上に掲げた。

 

 

「その時を待っていたぜ!!」

 

 

カズマはベルトに装着されている『音撃鼓・爆裂火炎鼓』をベルディアの胸目掛けて投げる。すると爆裂火炎鼓はベルディアの胸に張り付き、巨大化した。

 

 

「『音撃打・業火連舞(ごうかれんぶ)』!!」

 

 

カズマはベルディアに接近し、爆裂火炎鼓を何度も叩く。時折リズムを変えながら何度も、何度も叩く。

 

 

「これで終わりだ、ベルディア」

 

 

「そのようだ…、貴殿のような猛者と戦えたこと、騎士として誇りに思うぞ」

 

 

カズマは最後の一撃を爆裂火炎鼓に叩き込み、ベルディアは爆散したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「サトウカズマさん!魔王幹部ベルディアの討伐、おめでとうございます!」

 

 

カズマがベルディアを討伐した後、冒険者たちはギルドに集まり、ベルディアを討伐した英雄を称えようと集まった。

 

 

そして当のカズマ本人は椅子に座った状態で、メンバーを後ろに携えており、目の前にはルナさんがいた。

 

 

カズマはベルディアを討伐した直後、大の字に仰向けで倒れ、パーティーメンバーがカズマの安否を確認しようと走ったが、アスタとダクネス以外が小さな悲鳴を上げた。

 

 

カズマは倒れた後、変身が解けており、全裸の状態となっていたのだった。

 

 

その後アスタはめぐみんにバッグから服を出すよう指示し、めぐみんは言われた通りに服を出し、アスタがその服をカズマに着させ、ダクネスにおんぶしてもらい、アクセルへと戻ったのだった。

 

 

「ベルディア討伐に大きく貢献なされたカズマさんには、特別報酬"三億エリス"が贈呈されます!」

 

 

「あの…、今カズマは"動けない"状態なので、代わりに私が代理として受け取ります」

 

 

そう、カズマが椅子に座っている理由は、"動けない"からだった。

 

 

と言うのも、カズマがベルディアを討伐するために使った『音撃打・業火連舞』は響鬼の中では最強を誇る技なのだが、筋肉を酷使するため、全身の疲労が激しいのが難点である。

 

 

そのため、現在のカズマは筋肉痛を患っており、まるで『爆裂魔法を撃った後のめぐみん』状態となっていたのだ。

 

 

「わかりました。ではめぐみんさん、カズマさんの代理と言うことで、こちらをお受け取りください」

 

 

めぐみんはお金が入った袋を受け取り、カズマたちの方へ振り向くと、その袋を高々と頭上に掲げた。

 

 

 



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第8話

 

 

魔王軍幹部の一人であるデュラハンのベルディアを討伐してから数日後、カズマは久しぶりにギルドに顔を出していた。すると酒場でシュワシュワを飲んでいた冒険者がカズマに声を掛けた。

 

 

「よう英雄!体はもう大丈夫なのか?」

 

 

「もう既に筋肉痛は治まってるよ!」

 

 

カズマは筋肉痛を治すためにしばらくは屋敷で療養していた。しかもめぐみんが爆裂散歩に行かず、カズマを甲斐甲斐しく介護していたのだ。

 

 

食事の時は『あ~ん』をしたり、トイレに行く時も付き添ったり、挙げ句の果てには風呂やベッドまで一緒と言う始末である。

 

 

「ならいいことだ!……それと、クエスト受けるのは止めた方がいいぜ?まだ高難度のクエストしかねぇからな」

 

 

冒険者は一言注意をすると、再びシュワシュワを飲み始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ~っ!こっちこっち!」

 

 

「悪い、待たせたか?」

 

 

クエストボードに集まっていたアスタたちは、カズマを見つけると手を振り、カズマは足早に近づいた。するとめぐみんがカズマに抱き着いたのだった。

 

 

「あの~、めぐみんさん?いきなり抱き着いて一体何を…」

 

 

「私は1日数時間カズマの心臓の音を聞かないと禁断症状が出る体質になってしまったのです。ですのでそのまま心臓の音を聞かせてください」

 

 

めぐみんはカズマの胸に耳を押し当てて心臓の音を聞いていた。

 

 

「因みに、禁断症状ってのは…?」

 

 

「所構わず爆裂魔法を撃ちたくなってしまいます。それこそ狭い部屋の中とかで」

 

 

めぐみんの発言に全員言葉を失った。

 

 

「……それで、何かいいクエストはあったのか?さっき酒場にいた冒険者が言ってたが、高難度のクエストしか残っていなかったとか…」

 

 

「確かに、先程ボードを拝見したら高難度のクエストが殆んどだった」

 

 

カズマはとりあえずめぐみんの頭を撫でながら質問をすると、ダクネスが現状を報告した。

 

 

「"殆んど"?後は?」

 

 

「うむ、アスタが見つけた『湖の浄化』と言うクエストの他は『グリフォンとマンティコアの討伐』に『白狼の群れの討伐』や『一撃熊の討伐』、後は『起動要塞"デストロイヤー"の偵察』くらいだ」

 

 

ダクネスはボードに残っているクエスト用紙を指差しながらカズマに説明する。

 

 

「確かに高難度や低報酬のクエストばかりだな。…それで、そのクエストを受けるのか?」

 

 

「まだよ。勝手にクエストを受注するのは気が引けるし、とりあえずカズマのリハビリも兼ねてみんなに負担が掛からないようなクエストを選んだつもりよ」

 

 

カズマはアスタの気遣いが嬉しかったようで、アスタの頭を撫でたのだった。

 

 

「それじゃ、この『湖の浄化』のクエストを受けようか。さしあたっては、何か必要な物とかあるか?」

 

 

「……今の所無い…あっ」

 

 

カズマはクエストを受けることを決意し、必要な物が無いか確認すると、アスタが何かを閃いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「うぅ…、自分で言っといてなんだけど、これから売られる希少モンスターみたい…」

 

 

カズマ一行は件の湖に到着した。その中には"檻に入ったアクア"の姿もあった。

 

 

何故『アスタがアクアの姿になって檻に入っている』のか、それは"湖の水の浄化を早める"ためである。

 

 

「だったら何でこの作戦を考えたんだ?俺は何度も確認したよな?『それで大丈夫なのか?』って」

 

 

カズマはアクアを責め立てると、アクアは涙目になった。

 

 

「だって…、浄化中にモンスターに襲われたくなかったから…」

 

 

「ちゃんと俺たちが駆除するから安心しろ。それじゃ、降ろすぞ?ダクネス、そっちを支えてくれ!」

 

 

カズマはダクネスに手伝ってもらいながら、アクアが入った檻をゆっくりと湖に降ろした。

 

 

「俺たちは少し離れた所にいるから、危なくなったらちゃんと呼べよ?」

 

 

「分かったわよ。…うぅ、紅茶のティーバッグになった気分…。『ピュリフィケーション』…、『ピュリフィケーション』…、『ピュリフィケーション』…」

 

 

アクアは水に浸かりながら浄化魔法を唱え始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ、少しアクアに厳しくないか?」

 

 

ダクネスは紅茶を飲みながらカズマに質問をする。因みにダクネスがアクアのことを呼び捨てにしているのは理由がある。それはアクア自身が『呼び捨てで構わない』と言ったからである。

 

 

姿は違えど、"アクア=アスタ"なので、姿が変わって言葉遣いを変えられるのは彼女自身が嫌うのである。

 

 

「カズマカズマ。お昼も近いですし、ご飯にしませんか?」

 

 

めぐみんはバスケットを取り出し、カズマに見せた。

 

 

「だな、昼食にするか!」

 

 

カズマはバッグからシートを取り出して地面に広げ、めぐみんは風で飛ばされないようにシートの四隅に石を置いてからバスケットを開けた。

 

 

「おっ、サンドイッチか」

 

 

「クリスと一緒に作りました」

 

 

カズマはめぐみんとクリスを見ると、めぐみんは胸を張り、クリスは少し苦笑いをしていた。

 

 

「めぐみんに朝早くに叩き起こされまして…」

 

 

「その割にはやけにノリノリで作っていたみたいですが?」

 

 

めぐみんにジト目をされたクリスはそっぽを向いた。

 

 

「あはは…、それじゃ早速いただきます!」

 

 

カズマはサンドイッチを一つ取ると、口に運び、咀嚼した。

 

 

「ドキドキ…」

 

 

「ワクワク…」

 

 

「……うん、美味しい」

 

 

カズマの高評価にめぐみんとクリスはハイタッチした。

 

 

「めぐみんとクリスは料理が上手なんだな」

 

 

「私は妹が一人いますから、それで」

 

 

「あたしはお姉…先輩が原因ですね」

 

 

クリスの言葉に何か引っ掛かったのか、カズマはクリスに質問をする。

 

 

「天界にいた時ですが、先輩は自分が食べる用にってクッキーとかをよく作っていたそうなんです。それであたしはまだ新人の頃に先輩が作ったクッキーを一つ、つまみ食いしちゃいまして…」

 

 

クリスは頬を掻きながら説明をする。

 

 

「それからというもの、先輩はお菓子を差し入れてくれるようになり、そのお返しで作ってあげたら…」

 

 

「喜んでくれた訳…ですか」

 

 

めぐみんの言葉にクリスは頷いた。

 

 

「なるほどな…。さて、俺はアクアにコレを持って行くよ」

 

 

カズマはサンドイッチが入ったバスケットを持って、アクアがいる所へと向かった。

 

 

「アクア、調子はどうだ?それと昼飯を持って来たぞ」

 

 

「ありがとうカズマ。この調子なら夕方くらいには終わりそうよ」

 

 

アクアの言う通り、湖の水は大分綺麗になっていた。

 

 

「それは良かった。ところで、さっきクリスから聞いたんだが…」

 

 

「料理のこと?概ねクリスが言った通りよ。あの子がつまみ食いして、美味しいって言ってくれたから、それで…ね。天界にいた頃は後輩の女神や天使たちの楽しみの一つになってたくらいね」

 

 

「……今アクアがこの世界にいたんじゃ、『先輩のお菓子を食べさせろ!』なんて暴動が起きてたりしてな」

 

 

カズマが冗談で言うと、アクアは黙ってそっぽを向いた。

 

 

「……おいまさか」

 

 

「…クリスが上司に言われたの。『次戻って来る時には女神アクアのお菓子を持ってきて欲しい。でないと他の女神や天使たちが"アクア先輩のお菓子を持ってこないとストライキするぞ!"』…って」

 

 

カズマは自分が言った冗談がまさか本当になりつつあったことに驚いた。

 

 

「それでクリスが天界に帰る時にはお菓子を用意するようにしたって訳。カズマたちがウィズに挙げたりしてるクッキーは私が作った物よ」

 

 

「だからやたらと美味しかった訳か、いつも御馳走さま」

 

 

「どういたしまして、ところで…、その…」

 

 

アクアは急にもじもしし始めた。カズマはその行動を察した。

 

 

「アクア、"パワード"をかけてくれ。俺一人ではこの檻を運ぶのは骨だ」

 

 

アクアはカズマに筋力増加の支援魔法をかけ、カズマは檻をゆっくりと湖から出す。そして檻の鍵を開け、アクアを出すとアクアは一目散に茂みの中に入った。その行動を見ていためぐみんはカズマの側に寄った。

 

 

「トイレですか、カズマはアクアの側にいなくていいのですか?」

 

 

「側に行くのは流石に恥ずかしいだろうしな」

 

 

カズマは檻に寄りかかっていると、視線を湖に向けた。

 

 

「めぐみん、"敵感知スキル"に反応があった。数は5、多分クリスも気づいていると思うから、アクアの側にいてくれ」

 

 

「わかりました」

 

 

めぐみんはカズマの指示を聞いて頷いた後、カズマの頬に口付けをした。

 

 

「頑張ってください」

 

 

めぐみんはそそくさとクリスたちの下へと戻った。カズマは数秒呆けていたが、敵感知に反応した"額に角がある(ワニ)"『ブルータルアリゲーター』の姿を見て、思考を切り替えた。

 

 

「"魔力注入"、"音角剣"!」

 

 

カズマはバッグから烈風を取り出し、更に音角を剣の姿に変え、鰐と対峙した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いやぁ、無事浄化できて良かった良かった」

 

 

クエストを無事終えたカズマ一行は街に戻って来た。

 

 

「アクア、何時までその中にいるつもりだよ?」

 

 

馬が引いている荷台に置かれた檻の中にはアクアが体育座りで入っていた。その理由は、無事ワニを倒したカズマたちはアクアに浄化の続きをお願いし、アクアが湖の浄化を続けた矢先、再びワニが襲来し、アクアが危うくワニの餌食になりかけたのだった。

 

 

「ワニ怖い…、ワニ怖い…。ここ天国…」

 

 

「ダメだ…、トラウマになっちまってる」

 

 

カズマはどうにかしてアクアを檻から出そうか考えていると

 

 

「女神様っ!?、やっぱり女神様だ!」

 

 

高そうな鎧を身に纏った剣士が現れた。

 

 

「何故このような檻に入っているのですか!?フンッ!」

 

 

剣士は檻の鉄格子を無理矢理広げ、手を差しのべた。

 

 

「さあ女神様、もう大丈夫ですよ」

 

 

「イヤ~っ!何するのよ!私の世界に入ってこないで!」

 

 

だがアクアは差しのべた手を払い、剣士から離れた。

 

 

「女神様、どうして…。君たち!女神様に何かしたのかっ!?」

 

 

「何かしたっつ~か…、されたっつ~か…。ところで、おたく誰?」

 

 

「僕は御剣響夜(ミツルギキョウヤ)、女神アクア様によってこの"魔剣グラム"を授かった者だ。それより、何故アクア様がこんな檻に入って、あまつさえあんなに怯えているんだ!」

 

 

カズマはキョウヤに先程まで行っていたクエストについて話をした。

 

 

「有り得ない!湖の浄化のためにアクア様を閉じ込めてモンスターの囮にするとは!君にアクア様を任せる訳にはいかない!アクア様は僕のパーティーに入ってもらう!」

 

 

キョウヤはカズマの胸ぐらを掴み、まくし立てた。

 

 

「そこまでにしてください、その案は彼女自身が言ったことで、カズマは寧ろ否定的でしたよ。あなたにそこまで言われる謂れはありません」

 

 

そこにめぐみんがキョウヤの腕を掴んだ。

 

 

「君は…」

 

 

キョウヤは初めてめぐみんたちの存在に気づいた。そしてめぐみんたちはキョウヤに嫌々ながらも自己紹介をする。

 

 

「クルセイダーにアークウィザード、盗賊…。君たちは不遇な扱いをしている彼に文句は無いのか!」

 

 

「先程も言った通り、檻に入るのを決めたのはアクア自身です。そしてカズマは私たちを不遇に扱ってはいません。寧ろ大事にされています」

 

 

「……そうか分かったぞ、君はあの男に何か弱味を握られていて、それで庇っているんだね?」

 

 

キョウヤは急に意味不明なことを言い出した。

 

 

「アクア様共々君たち四人を僕のパーティーに受け入れよう!僕なら苦労はさせないし、豪華な装備も用意できる。それに僕の仲間である戦士と盗賊との相性はピッタリだよ!」

 

 

「……なんか無性に爆裂魔法を撃ち込みたくなりました」

 

 

「あたしも、そのスカした顔をズタズタにしてやりたいよ…」

 

 

「攻められることが好きな私も、この男は生理的に受け付けないな」

 

 

「「「というわけで断固断る!!」」」

 

 

キョウヤはめぐみん、ダクネス、クリス、アクアの四人を引き入れようとするが、めぐみん、ダクネス、クリスの三人に真っ向から否定された。

 

 

「なっ、何故だ!こんな女性の扱いすら知らなそうな男の側にいたって「いい加減にして!」…」

 

 

キョウヤの言葉を遮ったのはアクアだった。

 

 

「さっきから聞いていればいけしゃあしゃあと!あのね、檻に入ったのは私の意思よ!カズマは私のことを気遣って何度も作戦を変えるよう進言してくれてたわよ!それにモンスターに襲われそうになっても必ず助けてくれて、その時の彼の背中はとってもカッコいいんだから!」

 

 

「あの…、アクアさん?」

 

 

「料理だって得意だし、私たちの得意分野を把握して的確な指示も出してくれるし、危険が迫れば我が身を省みず助けてくれるし、私たちはカズマのおかげで冒険者稼業ができてるのよ!私たちはカズマが好きで彼のパーティーに入っているのよ!」

 

 

「確かに私はアンタにその魔剣を渡したわよ?でも、アンタはその魔剣(とくてん)に頼りきりじゃない!それに比べてカズマは自分の特典に極力頼らずに依頼を達成しているのよ?どっちに着くか一目瞭然じゃない!」

 

 

アクアは少々惚気ながらカズマがどんだけ素晴らしいかを述べ、めぐみん、ダクネス、クリスの三人はアクアに同意するかのように頷いていた。

 

 

「…申し訳ありませんがアクア様、僕はどうしてもこの男が許せません。カズマと言ったな?僕と正々堂々勝負だ!」

 

 

「悪いが断る」

 

 

キョウヤはカズマに勝負を持ちかけたが、カズマはきっぱりと断った。

 

 

「なっ…、何故だ!?」

 

 

「だって勝負を受けるメリットが無いし、みんなのこと好きだし、メンバーを賭けての勝負なんてそんな恩を仇で返すようなことしたくないし」

 

 

カズマは腕を組みながら勝負を断る理由を述べる。

 

 

「カズマカズマ、こんなナルシストなんか放っておいて早くギルドに行きましょう」

 

 

めぐみんはカズマの側に寄り、催促をする。

 

 

「そうだな、こんなことしてる暇は無いもんな。みんな、そろそろ移動するぞ」

 

 

カズマはめぐみんの頭を数回撫で、ギルドへと足を向けた。

 

 

「待てっ!僕と勝負を…」

 

 

キョウヤはカズマを引き留めようと魔剣を抜く。

 

 

「っ!?めぐみん、危ない!」

 

 

キョウヤの行動にいち早く気づいたクリスがめぐみんを背中から押し出した。そしてクリスの目の前にはキョウヤの魔剣が写り、クリスは斬られる恐怖で目を瞑る。

 

 

ガキンッ!

 

 

だがキョウヤの魔剣はクリスに届くことは無かった。何故ならカズマが音角剣でキョウヤの魔剣を受け止めていたからだった。

 

 

「おいテメェ、自分の気に食わないことがあれば剣を振り回して無理矢理言うことを聞かせるのがテメェの正々堂々か?|

 

 

「いや…、それは……」

 

 

普段は温厚な性格をしているカズマだが、仲間の窮地に関わることに関しては怒りの沸点が低くなるのだ。

 

 

「勝負したがっていたな、いいぜ?受けて立ってやろうじゃねぇか」

 

 

カズマはキョウヤとの勝負を受けることにした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマはまず、冷静を装ってギルドにクエスト成功を告げるが、ギルドは檻を壊した弁償代を請求、カズマは仕方なく弁償代を払い、キョウヤが待っているギルド前の広場へと向かった。

 

 

「待たせたな」

 

 

カズマがキョウヤの下に戻ると、キョウヤのパーティーメンバーである盗賊のフィオと戦士のクレメアがいた。

 

 

「そんなに待ってはいないさ。さて、勝敗だが『どちらかが気絶、又は降参の意思を示した場合で決する』でいいかい?それてと僕はハンデとしてこの魔剣しか使わない。君は何をしても構わない。僕が勝てばアクア様を僕のパーティーに入れ、君が勝てば僕は何でも言う事を聞こう。それでいいかい?」

 

 

キョウヤはカズマにルールを説明し、カズマはそのルールに賛同した。

 

 

「それでは、行くぞ!」

 

 

キョウヤは魔剣グラムを鞘から抜き、カズマに振りかぶる。だがカズマはキョウヤの攻撃を悠々と避けた。

 

 

「くそっ、ならこれならどうだ!」

 

 

キョウヤはスキルを使い、カズマを追い詰めようとする。が、カズマはまたしても避けてみせた。

 

 

「君は攻撃をする意思はあるのか!?」

 

 

「あるさ、喰らいな!」

 

 

カズマはバッグから烈風を取り出し、空気の弾をキョウヤに向けて撃ち出した。

 

 

「ぐわっ!?」

 

 

空気の弾はキョウヤに当たり、キョウヤは怯んだ。

 

 

「クリス、ちょっと預かっていてくれ」

 

 

カズマは烈火をバッグから取り出し、バッグと烈風をクリスに投げ渡した。

 

 

「行くぞ、"音撃道・打"!」

 

 

《打・ダーン!》

 

 

「ボヨヨンボヨヨン」

 

 

「めぐみん?」

 

 

「何故かやらないといけない気がしまして」

 

 

カズマは音角に音声入力をし、音角から音声が流れると、めぐみんが自分の胸を揺らす動作をした。

 

 

そしてカズマは音角を鳴らし、紫の炎に包まれ、響鬼へと変身したのだった。

 

 

「そっ…、その姿は…!」

 

 

「アクアのことを"女神様"と呼んだり、"魔剣を授かった"って言ってたから、もしかしたらと思ったんだが…、やっぱり俺と同じ『転生者』か。なら、この姿も知ってるよな?」

 

 

カズマはキョウヤの発言を聞いていたので、憶測を立てていたのだ。

 

 

「ああ、『仮面ライダー響鬼』。まさか君の特典がそれだったとは…」

 

 

キョウヤはカズマが変身した響鬼のことを知っているようだった。

 

 

「それでも、僕は負けるわけにはいかない!」

 

 

キョウヤはカズマに襲い掛かるが、カズマは『鬼闘術(きとうじゅつ)鬼爪(おにづめ)』や『鬼幻術(きげんじゅつ)鬼火(おにび)』を駆使し、キョウヤを翻弄した。

 

 

「これで終わりだ、"窃盗"!」

 

 

「なっ…、っ!?」

 

 

カズマは"窃盗"でグラムを奪い、即座に音角剣を作り、キョウヤの首元に刃を当てた。

 

 

「……僕の負けだね、降参だ」

 

 

キョウヤは両手を上げて降参の意思を示した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ひっ、卑怯者っ!卑怯者っ!!そんなオークみたいな格好をして恥ずかしくないの!?男なら正々堂々勝負しなさいよ!」

 

 

勝敗に納得がいかなかったのか、クレメアが異議を申し立てた。

 

 

「あなたは馬鹿ですか?あれはカズマが持つ能力ですよ?それにその男はカズマに"何をしても構わない"と言ったんですよ?カズマはちゃんとルールに従って勝利しました。それとも何ですか?その男が勝つまで勝負を続けるつもりですか?」

 

 

しかしめぐみんが正論を並べることで、クレメアは苦虫を噛み潰したような顔をした。

 

 

「クレメア、もういいよ」

 

 

「キョウヤ…」

 

 

「彼は正々堂々勝負をしてくれた、僕が負けたのは相手の力量すら計れなかったのが原因だ。それに、彼は"必殺技"を使っていなかったしね」

 

 

キョウヤはカズマの前で正座をすると

 

 

「カズマ君、君を馬鹿にした事、並びに君のパーティーに迷惑を掛けた事、謹んでお詫びしたい。本当に申し訳なかった」

 

 

頭を下げて土下座したのだった。

 

 

「……頭を上げてくれ、ミツルギ。もう俺は怒っちゃいないさ」

 

 

カズマは頭だけ変身を解き、キョウヤに頭を上げるよう言った。

 

 

「さて、俺が勝てば"何でも言う事を聞く"って約束だったな。まずはアクアたちに勧誘したことへの謝罪、それから壊した檻の弁償代の請求だ」

 

 

カズマは勝者の特典として仲間への謝罪と檻の弁償代を請求した。キョウヤはめぐみんたちに土下座で謝罪し、カズマには檻の弁償代20万エリスを支払ったのだった。

 

 

「それで、申し訳ないのだが…。虫がいい話だとは分かっているんだが、その魔剣を返してほしいんだ」

 

 

「そんなことか、ほらよ」

 

 

カズマはキョウヤに魔剣を返した。

 

 

「俺が持っていても意味無いからな」

 

 

「……ありがとう」

 

 

カズマはキョウヤに魔剣を返した後、めぐみんたちを連れて屋敷に戻る。その背中をキョウヤはずっと見守っていた。

 

 

 



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第9話

 

 

キョウヤとの勝負を受けた日から数日後、アクセルの街はもうじき冬本番となり、寒さが増していた。

 

 

「さて、これから来る冬に向けて準備をしたい所だが、クエストは相変わらず高難度のクエストしか残っていないのが現状だ」

 

 

ギルドに来たカズマたちはクエストボードを見ながら呟いていた。

 

 

「ねえねえ、これなんてどうかな?」

 

 

クリスが指差したクエストは『雪精の討伐』と書かれたクエストだった。

 

 

「『雪精』?なんだそりゃ」

 

 

「雪精ってのは雪玉に目が付いた精霊の一種よ。人に与える害は無くて、一匹倒す度に春が半日早く来ると言われているわ」

 

 

カズマの疑問にアスタが答えると、カズマは雪精の討伐のクエストを受注することを即決した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちは雪精が出る雪山に到着すると、早速雪精を討伐するために動いた。

 

 

「えいっ!やあ!とお!」

 

 

「それっ!」

 

 

「はあっ!」

 

 

ダクネスは剣、めぐみんは杖、クリスはダガー、アスタは虫取り網、カズマは響鬼(打)に変身して鬼火を使い、順調に雪精を討伐したり捕まえたりした。

 

 

「アスタ、雪精を捕まえてどうするんだ?」

 

 

「この子たちは冷たいから、冷蔵庫の代わりにと思って」

 

 

アスタは網で捕まえた雪精をボックスに入れていた瓶の中に入れた。

 

 

「くっ…、こうなったら」

 

 

「めぐみんストップ」

 

 

めぐみんは雪精を倒せない苛立ちで爆裂魔法を撃とうとした所をカズマに止められた。

 

 

「こんな所で爆裂魔法を撃ったら、最悪雪崩が起きる可能性がある。爆裂散歩には付き合うから我慢してくれ」

 

 

カズマは自分の胸にめぐみんの頭を押し当て、めぐみんを落ち着かせようとする。その行動が吉と出たのか、めぐみんは爆裂魔法を撃たずにカズマに抱きついた。

 

 

すると降雪量が多くなり、吹雪が起き始めた。

 

 

「来たわね。カズマも日本(向こうの世界)にいたなら聞いたことがあると思うわ、この時期になると訪れる冬の風物詩…、殺された同胞の仇を討たんとする雪精の主」

 

 

「冬将軍の到来よ」

 

 

吹雪の中から現れたのは、白い鎧武者だった。しかも兜にはご丁寧に"冬"の文字があった。

 

 

「なんで鎧武者が冬将軍なんだ?」

 

 

「大方、カズマより先に来た転生者が『冬将軍=鎧武者』と洒落で連想したからじゃない?」

 

 

カズマは頭痛がしたのか、頭を押さえた。

 

 

冬将軍は刀の柄を握ると、居合い斬りを繰り出した。

 

 

「危ない!」

 

 

キィン…

 

 

ダクネスがカズマの前に立ち、冬将軍の刀を受け止めようとするが、逆にダクネスの剣が折られてしまった。

 

 

「ダクネス、お前馬鹿か!?刀は剣と違って切れ味が異様に高いんだ!普通の剣じゃ折られるのは当然だ!」

 

 

「カズマ!そんなことより土下座して土下座!冬将軍は寛大な精霊だから武器を捨てて土下座すれば見逃してくれるわ!」

 

 

アスタは虫取り網とボックスを捨て、その場で土下座をし、クリスも握っていたダガーを捨て、土下座をしていた。

 

 

「ダクネス、あなたも武器を捨てて土下座を!」

 

 

「聖騎士である私がモンスターに頭を下げるなど…、いや…しかし下げたくもない頭を無理やり下げさせられるなんて、どんなご褒美か…」

 

 

アスタはダクネスにも土下座をするよう言うが、ダクネスは変態性癖が発動してしまい、棒立ちになっていた。

 

 

「仕方ない…。ダクネス、めぐみんを頼む」

 

 

カズマは自分の腕の中で死んだふりをしているめぐみんをダクネスに預けた。

 

 

「カズマ、どうするつもりなの!?早く土下座しないと…」

 

 

「悪いが、俺は土下座しない。寧ろ、冬将軍と戦ってみたい」

 

 

カズマの発言にアスタとクリスは驚いてしまった。

 

 

「はぁっ!?カズマ変なこと言わないでよ!!」

 

 

「そうだよ!もし死んじゃったらめぐみんやあたしはカズマ君の後を追って自殺する確率絶大だよ!?」

 

 

「大丈夫、お前らを残して死ぬ気は更々無いから」

 

 

仮面で見えないが、カズマはアスタたちを見て笑った。カズマの言葉を聞いたメンバーは全員顔を紅くした。

 

 

「冬将軍!俺と勝負だ!!」

 

 

カズマは烈火を両手に装備し、鬼石の先端から刃を出す『烈火剣』を作り、冬将軍に向かって駆け出した。

 

 

冬将軍は日本刀を鞘に収め、再び居合い斬りを繰り出す。だがカズマは"敢えて"日本刀を烈火剣で受け止め、刃を寝かせることで力を受け流した。

 

 

「幾ら切れ味が鋭い日本刀でも、所詮は雪。熱や高温には耐えられまい」

 

 

カズマが言った通り、冬将軍の刀は受け止められた箇所が"刃こぼれ"してしまっていた。

 

 

これを機と見たカズマは冬将軍に攻撃を仕掛ける。冬将軍は刃こぼれした刀で応戦するが、刃がぶつかる度に冬将軍の刀が刃こぼれしていくという悪循環が起こっていた。

 

 

「そりゃ!!」

 

 

そしてカズマが烈火剣を振り下ろすと、冬将軍の刀が真っ二つに折れてしまった。

 

 

「ハアアァァァ……」

 

 

カズマは気合いを込めると、変身する時と同様に身体が炎に包まれた。だが変身する時とは違い、炎の色は紫では無く"赤色"だった。

 

 

「響鬼・(くれない)

 

 

そして炎が収まると、響鬼の紫色だった体表は真紅に染まっていた。

 

 

「出た!響鬼の強化形態の紅!」

 

 

「これなら勝てるよ!」

 

 

アスタとクリスは響鬼・紅の姿を見た途端、興奮した。

 

 

響鬼・紅になったカズマの気迫に圧されたのか、冬将軍は後退り、尻餅をついてしまった。カズマは直ぐ様冬将軍の腹に乗り、『音撃鼓・爆裂火炎鼓』を押し当てた。

 

 

「音撃打・爆裂真紅(ばくれつしんく)の型!!」

 

 

カズマは大きくなった爆裂火炎鼓を烈火で何度も叩く。そして最後の一撃を叩き込むと、冬将軍は爆散したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「おめでとうございます。雪精の討伐と捕獲合わせて60万エリス、そして冬将軍の討伐300万エリス、合計で360万エリスとなります」

 

 

雪精並びに冬将軍を討伐したカズマたちは、高額の報酬を受け取るのだった。

 

 

そしてカズマとめぐみんは爆裂散歩に赴き、いつもの湖畔で爆裂魔法を撃ち、めぐみんはカズマにおんぶされて屋敷に戻ったのだった。

 

 

 



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第10話

 

 

雪精並びに冬将軍を討伐したカズマは、2~3日屋敷で寛いでいた。

 

 

と言うのも、『響鬼・紅』は体力を大幅に消耗する所謂『諸刃の剣』であることに加え、体力が少ない状態でギルドに報告へ向かい、また休む暇無くめぐみんの爆裂散歩に付き合ったため、屋敷に戻ったと同時に体力切れで倒れてしまったのだった。

 

 

めぐみんはカズマが倒れる前に降ろしてもらっていたため、カズマが倒れた直後にアスタたちに助けを求め、カズマはダクネスに自室まで運ばれたのだった。

 

 

カズマは体力を回復することに専念するようアスタたちに言われ、この日まで屋敷で休んでいたのだった。

 

 

そして体力も全回復し、クエストを受けようとギルドに訪れたのだが…。

 

 

「おい、もういっぺん言ってみろ」

 

 

「何度でも言ってやるよ、お前等"荷物持ち"なんてやってるんだってな?」

 

 

酔っぱらった冒険者に絡まれてしまった。

 

 

「アークウィザードにアークプリースト、クルセイダーに盗賊…。五人の内三人が上級職なのにそんな仕事しかできねぇのかよ」

 

 

「(コイツ…)」

 

 

アスタたちはまだ疲れているであろうカズマを気遣って負担にならないクエストを選ぼうとしてくれていたのだが、この冒険者はあろうことかカズマたちを馬鹿にしたのだった。

 

 

「カズマカズマ、そんな酔っぱらいの言うことなんか無視して行きましょう。"時間は有限"と言いますし」

 

 

「そうだよ!この人はカズマのことを妬んでいるだけだよ!」

 

 

めぐみんとクリスは怒りが沸騰しているカズマを宥めようとする。

 

 

「黙ってないで言い返してみろよ最弱職。ったく情けねぇなぁ、いい女を"三人"引き連れてハーレムとはな。強いヤツらにおんぶに抱っこで楽しみやがって、俺と変わってえぇぇっ!?」

 

 

「これ以上カズマを侮辱するなら、宣戦布告と見なしますよ?」

 

 

「それに、あからさまにあたしを省いたよね?あたしこう見えて女の子なんだけど?」

 

 

カズマより先に我慢の限界を迎えためぐみんとクリスは、冒険者の首に杖とダガーを突きつけた。

 

 

「わっ…、悪かったよ。俺も酔って悪ふざけが過ぎたよ」

 

 

冒険者は酔いが覚めたのか、それとも二人の気迫に圧されたのか、謝った。

 

 

「……ねえ、提案があるんだけど」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「まさか"パーティーメンバーの交代"を言うなんて」

 

 

そう、アスタが言った"提案"とは、『今日1日、お互いのパーティーメンバーを交代する』だった。そしてカズマといちゃもんを着けた冒険者がそれぞれのパーティーに1日だけだが加入したのだった。

 

 

「さっきは"ダスト"が迷惑を掛けて済まなかったな。知ってるとは思うが、一応自己紹介するぞ。俺は『クルセイダー』の"テイラー"、このパーティーではリーダーをしている。宜しくな」

 

 

「あたしは"リーン"、『ウィザード』よ。宜しく」

 

 

「『アーチャー』の"キース"だ」

 

 

テイラー、リーン、キースの三人はカズマに自己紹介をすると

 

 

「テイラーは知ってるけど、他の二人は初対面だな。俺はカズマ、『冒険者』でさっきのパーティーのリーダーをしている。宜しく」

 

 

カズマも自己紹介をするのだった。

 

 

「えっ、カズマがリーダーをしていたの!?ってかテイラーはなんでカズマのこと知ってたの?」

 

 

「以前"両手剣スキル"を教えてほしいと頼まれてな、それで知り合ったんだ」

 

 

そう、以前カズマに両手剣スキルを教えたのは他ならぬテイラーだった。

 

 

「その節は大変お世話になりました、おかげで有効活用させてもらってるよ。それと…キースだっけ?このクエスト終わったら何かスキルを教えてくれると有難いんだけど…」

 

 

「なら"狙撃スキル"はどうかな?このスキルがあれば弓矢が活かせるから」

 

 

「成る程…、そのスキルがあれば烈風を使う時に重宝しそうだな」

 

 

カズマはテイラーのパーティーで和気藹々と話しているのと同時刻、カズマのパーティーに1日だけ加入したダストは他のメンバーの荷物を背負って目的地まで移動していた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「クエストのおさらいだが、今回のクエストは『ゴブリンの討伐』、配置は俺とカズマが前衛、キースとリーンは後方で支援を頼む。ゴブリンはこの道を少し下りた所にいるようだ」

 

 

「もしかしたら、道の脇に住めそうな洞窟があるのかもしれないな」

 

 

カズマとテイラーがクエストの内容や配置の確認をしていると

 

 

「っ!、向こうから何か来る」

 

 

カズマの敵感知スキルに反応があり、カズマはそれをテイラーたちに伝える。

 

 

「カズマ…、敵感知スキルを持っているのか?」

 

 

「ああ、他にも"潜伏スキル"に"バインド"と言った盗賊が使えるスキルを持ってる。反応は一つだからまずゴブリンじゃ無さそうだ、とりあえず潜伏スキルを使って茂みに隠れよう」

 

 

カズマは茂みに隠れてテイラーたちに触れた状態で潜伏スキルを発動させる。すると向こうから黒いサーベルタイガーのようなモンスターが現れた。そのモンスターは周囲の匂いを嗅ぎながらカズマたちが隠れている所を通り過ぎた。

 

 

「こここ…っ、怖かった~っ!」

 

 

「まさかこんな所で"初心者殺し"に出くわすとは…」

 

 

「アイツそんな物騒な名前なのかよ!?ってかアイツ何?」

 

 

カズマは"初心者殺し"に出くわしたことが無いので、テイラーたちに質問をする。

 

 

「カズマ、さっきのは"初心者殺し"って言って比較的弱いモンスターの周りをウロウロしては、モンスターを狩りに来た冒険者を狩る恐ろしいモンスターだ」

 

 

「ゴブリンが街の近くに住み着いた原因は、あの"初心者殺し"が追いやったんだろうな。戻って来る前にずらかろう」

 

 

カズマたちはそそくさとその場を離れるのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマの敵感知スキルを宛にゴブリンがいる集落を発見する。が、その数は優に五十はいた。

 

 

「おいおい…、何だあの数…!」

 

 

「ゴブリンって普通十匹程度だろうに…!」

 

 

「どうする?このまま戻ってもあの"初心者殺し"に出くわすだろうし…」

 

 

テイラーたちがゴブリンの多さに驚いていると、その話し声が聞こえたのか、ゴブリンたちがテイラーたちに気づき、襲い掛かった。

 

 

「くそっ、気付かれた!キース、リーン!援護頼む!カズマ、行くぞ!」

 

 

テイラーは背負っていた両手剣を抜き、カズマはバッグから烈雷を取り出し、ゴブリンの迎撃に向かう。するとゴブリンの数匹がテイラーたちに矢を放った。

 

 

「甘い!」

 

 

だがカズマが矢面に立ち、烈雷をその場で風車のように振り回し、矢を悉く防いだ。

 

 

「サンキューカズマ!」

 

 

「後は任せてっ!"ウインドカーテン"!」

 

 

テイラーはカズマに礼を言い、迫り来る矢をリーンの魔法が吹き払った。

 

 

「流石は本職、やるねぇ。…でも、こういうことはできるかな?"クリエイト・ウォーター"!からの"フリーズ"!」

 

 

カズマは地面に水を撒き、更にその水を氷らせた。すると迫り来るゴブリンたちはその氷に足を取られてしまい、転んでしまった。

 

 

「よし!今の内に殲滅するぞ!」

 

 

カズマは片手に烈雷、もう片方の手に烈風を持ってゴブリンを倒していくのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「今回のクエストはめちゃくちゃ楽だったな!」

 

 

「それもカズマの作戦のおかげだな!」

 

 

「まさか初級魔法があんな形で役に立つなんて思わなかったよ!」

 

 

テイラーたちは今回の戦闘のMVPであるカズマを褒め称えた。

 

 

「ははは…、っ!?前方から何か来る」

 

 

カズマはバッグから烈風を取り出し、警戒する。そして前方からゴブリンに出会う前に出くわした"初心者殺し"がその姿を見せた。

 

 

「来たぞっ!くそっ、街はもうすぐそこだってのに…!」

 

 

「……リーン、ちょっと俺のバッグ預かっといて」

 

 

カズマはリーンにバッグを預け、初心者殺しの前に立った。

 

 

「"クリエイト・アース"からの"ウインドブレス"!」

 

 

カズマは片手に乗った砂を初心者殺しに向かって風の魔法で飛ばした。飛ばした砂は狙ったように初心者殺しの目に入り、視力を一時的ではあるが奪うことに成功した。

 

 

「今の内に、『音撃道・管』!」

 

 

《管・カ・カーン!》

 

 

カズマは音角に音声入力をし、響鬼へと変身する。

 

 

「"オーク"…?」

 

 

「…に、してはやけに細くないか?」

 

 

テイラーたちはカズマが変身した響鬼に驚いていた。

 

 

「喰らえ!」

 

 

カズマは烈風のピストンバルブを操作し、空気弾を"初心者殺し"に向かって撃ち出す。すると吸い込まれるように全弾命中した。

 

 

「アイツ…、"狙撃スキル"を持っているのか?」

 

 

「いや、話を聞いていた限りでは"狙撃スキル"は持っていなかったはずだ」

 

 

キースとテイラーが話している中、カズマは再度ピストンバルブを操作し、今度は鬼石を三連射した。

 

 

鬼石を九発撃ち込んだ後、カズマは鳴風を烈風の銃口に装着させ、烈風に元々装着されているマウスピースを取り付け、烈風を音撃モードに変形させた。

 

 

「『音撃射・疾風一閃』!」

 

 

カズマは烈風を吹き鳴らすと、"初心者殺し"に埋め込まれた鬼石が共鳴し、"初心者殺し"は苦しそうに呻き出した。

 

 

そしてカズマが烈風を鳴らし終わると同時に"初心者殺し"は爆散するのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……ぷっ、あはははっ!何だよありゃ、何やったんだよ!」

 

 

「うひゃひゃ、腹いてぇ!」

 

 

「生きてるよっ!"初心者殺し"に出会ってあたし達生きてるよ!」

 

 

カズマが"初心者殺し"を討伐した後、テイラーたちは急に笑いだした。

 

 

「ねえカズマって凄く強いんじゃ無い?ちょっと冒険者カード見せてよ」

 

 

リーンの催促にカズマはリーンから受け取ったバッグからカードを取り出し、リーンに渡した。

 

 

「……あれ?知力は普通…って何これ!?体力や幸運が超高い!」

 

 

「それにここ見ろ!討伐欄に"ベルディア"や"冬将軍"ってあるぞ!」

 

 

リーンとキースはカズマのカードを見て驚愕した。

 

 

「"ベルディア"って確か魔王軍幹部のデュラハンで、"冬将軍"は雪精の親玉だったよな!?そりゃ強いわけだ。なあカズマ、もし良かったら俺たちをお前のパーティーに加えさせてもらえないか?」

 

 

テイラーはリーンとキースの話を聞いて、カズマにパーティーメンバーに入れさせてもらえないか聞いた。

 

 

「それに関しては仲間と相談しないとな。俺一人の独断で決めて、連携が取れないんじゃ意味無いし」

 

 

「だな。んじゃとっとと街に戻ろうぜ」

 

 

カズマたちは街に向かうため、足を進めるのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「えぐっ…、ぐすっ…。ガズマあああ…」

 

 

「アスタ!?お前何で泣いてんだよ!?」

 

 

カズマたちがギルドに到着すると、意識を失ったダクネスをおんぶしたアスタがカズマに寄って来た。

 

 

「あっ!おい、聞いてくれよ!!」

 

 

するとめぐみんをおんぶしたダストがアスタの横に並んだ。

 

 

「この子がいきなり震えたと思ったら何も無い所で爆裂魔法をぶっぱなして、その轟音を聞いた"初心者殺し"が現れたと思ったらクルセイダーの姉ちゃんは嬉々として突っ込んで一撃でやられて気絶して、盗賊の嬢ちゃんが"バインド"を使って時間稼ぎをしてくれて命からがら逃げて、もう散々だったよ!」

 

 

「あぁ~、めぐみんの禁断症状が裏手に出たんだな。ダスト、めぐみんを預かるよ」

 

 

カズマはダストからめぐみんを受け取り、めぐみんの頭を自分の胸に押し当てた。

 

 

「ところで、テイラーが俺たちのパーティーに加入したいと言ってきたんだが、どうする?」

 

 

「私はカズマの意見に異論はありません」

 

 

「あたしもかな?後衛が増えるけど、ダクネスやあたしが守ればいいだけだし」

 

 

カズマはテイラーたちをパーティーに加えるかどうか質問をすると、めぐみんとクリスはカズマの意見に賛成することを伝えた。

 

 

「私もいいわよ」

 

 

「そんじゃ、賛成多数と言うことで、テイラー、リーン、キース。これからもよろしくな」

 

 

こうして晴れてテイラーたちはカズマのパーティーに加入するのだった。

 

 

「ちょっ、俺は!?」

 

 

『あっ…』

 

 

ダストが空気になっていたことを思い出したカズマたちは、ダストも含めてパーティー加入を祝福するのだった。

 

 

 



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第11話

 

 

《その昔、稀代の天才と呼ばれた男性のアークウィザードがいました。その男の名は"キール"。》

 

 

《彼は色恋になど全く興味を示さず、魔法の研究にばかり打ち混んでいましたが、たまたま街の散歩をしていた貴族の令嬢に一目惚れしてしまいました。》

 

 

《しかし、身分の差からそんな恋は実るはずもなく、その芽生えた恋心を忘れるかの様に、一層魔法の研究に没頭しました。》

 

 

《月日は流れ、いつしか彼はこの国最高のアークウィザードと呼ばれるようになり、持てる魔術を惜しみなく使い国の為に貢献した彼の功績に、「どんな望みでも一つ叶えてやる」と王が伝えると、彼はいいました》

 

 

《「私には叶わない願いが一つあります」》

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「うーん…、まあ…大体この後は想像つくよな…」

 

 

ここはギルドの酒場。カズマはその一角に陣取り、とある本を読んでいた。

 

 

「『魔術師キール』の物語ですか」

 

 

「キールが何を望んで、その後どうなったのか、伝えられていないんだ」

 

 

「えっ、二人ともこの話知ってんの?」

 

 

カズマはめぐみんとダクネスに読んでいた本のことを質問する。

 

 

「まあ、有名なおとぎ話だからな。一説ではその貴族の令嬢をさらって、あるダンジョンに立て籠ったらしいが、流石に国相手に一人頑張っても勝ち目は無いだろうしな…」

 

 

「因みにそのキールが立て籠ったとされるダンジョンは、この街からそう遠くない所にありまして、今では駆け出し冒険者のいい練習場所になっています」

 

 

「ふ~ん、そっか…」

 

 

カズマが考え事をしていると、テイラーたちを引き連れたアスタが現れた。

 

 

「カズマ、もしかしてダンジョンに潜るつもり?ダンジョンは罠やアンデットが多いからプリーストと盗賊がいないと危ないわよ?」

 

 

「プリーストに関してはアスタに頼もうと思っていたから大丈夫だ。それより問題は盗賊だな、今日クリスは急な用事で離れないといけないし…」

 

 

カズマが横に立っているクリスに目を向けると、手を合わせたクリスが苦笑いで立っていた。

 

 

「まぁ、クリスから"罠発見"と"罠解除"のスキルを、キースからは"千里眼スキル"を教えてもらったから、危険な目に会うことは無いだろ」

 

 

「……やはり心配です、私も「めぐみんはだめ」って何故ですか!」

 

 

「今日はリーンと一緒に魔法の組み合わせの練習をする約束だろ?」

 

 

めぐみんが自分もカズマに着いていこうと言おうとした所で、カズマに止められた。

 

 

「あはは…、カズマごめんね?今日はめぐみんを借りちゃって」

 

 

「確か"カズマが使っていた魔法同士の組み合わせを見て、自分が覚えている魔法をどういう感じで組み合わせるのか"を試すのだったな」

 

 

「そうそう、それで知力が高い紅魔族のめぐみんに助言をしてもらおうと思って」

 

 

今日から2日前(テイラーたち四人がカズマのパーティーに加入した翌日)だが、屋敷のリビングでリーンが自分の冒険者カードとにらめっこしている時に、カズマとめぐみんが訪れ、リーンは二人に相談をすると、めぐみんが講師を申し出たため、二人の都合が合うこの日に『めぐみんの魔法講座』をする予定だった。

 

 

「それにしても、めぐみんってカズマのこと好きだね。今でもカズマにべったりじゃん」

 

 

「私は1日数時間カズマの心臓の音を聞かないと禁断症状が出てしまうので、こうしてくっついているのです。確かにカズマのことは(異性として)好きですよ」

 

 

リーンはめぐみんに"仲間として"カズマが好きと言ったつもりだったが、めぐみんはカズマのことを"異性として"好きになっているようだ。

 

 

「ところで、ダストは?」

 

 

「アイツは昨日無銭飲食で…」

 

 

カズマはこの場にダストがいないことに疑問を感じ、質問をすると、テイラーがため息混じりで答えた。

 

 

「そうか…。よし、今日の組み合わせだが、俺とアスタはキールのダンジョン、残りのメンバーはめぐみんの魔法講座…と言うことでいいな?」

 

 

カズマはダストのことを"無かったこと"にして、本日のメンバー決めを確認すると、全員が頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ここがキールのダンジョンか…」

 

 

アクセルの街から徒歩で数時間、カズマとアスタはキールのダンジョンに到着した。

 

 

「一応松明は持って来てるけど、使うか?」

 

 

「大丈夫よ。女神の力って結構便利で、暗闇の中でも周囲を見通すことはできるわ」

 

 

カズマとアスタが話をしていると、カズマの後ろにアンデットが現れた。

 

 

「カズマ危ない!"ターンアンデット"!」

 

 

カズマが襲われそうになったが、アスタが即座に浄化魔法を使用したことによって難を逃れた。

 

 

だが、アスタの魔力を感知したのか、うじゃうじゃとアンデットたちがカズマたちに群がって来た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ダンジョンの中って、こんなにもアンデットが多かったのか…。アスタがいなかったら今頃アンデットの仲間入りしてた所だぜ…」

 

 

「おかしいわね…、通常ならこんなにアンデットが湧いてくるはず無いのに…」

 

 

カズマとアスタはアンデットを浄化しながらダンジョンの奥まで進んだ。

 

 

「あれっ?カズマ、あれ何かしら」

 

 

アスタが指を指した所を見ると、そこには宝箱が鎮座していた。

 

 

「もしかして…、キールのお宝?」

 

 

「いや、敵感知スキルに反応がある。ひょっとして"ミミック"のような擬態型モンスターかもしれない」

 

 

カズマは周辺にある石を拾い、宝箱に向けて投げた。すると床が口のように動き、石を飲み込んだ。

 

 

「あれは"ダンジョンもどき"ね、カズマがいなかったら食べられていたわね」

 

 

「そこに誰かいるのかい?」

 

 

ダンジョンの壁の一部が開き、そこからランプを持ったリッチーが現れた。

 

 

「人に会うのはいつ以来か…、はじめましてだね。ここで立ち話も何だから、こちらへどうぞ」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「自己紹介をしよう、私はキール。このダンジョンを造り、貴族の令嬢を(さら)った悪い魔法使いさ」

 

 

「えっ?キールってあの…」

 

 

「おや?私のこと知ってるのかい?…まあ良くも悪くも有名にはなってるだろうね」

 

 

リッチーのキールは自己紹介をすると、カズマは驚いた。それもそのはず、つい先程まで読んでいた本に登場していた人物が目の前にいるのだから。

 

 

「私はこの人の傍らで静かに朽ち果てるつもりだったのだが、強力かつ神聖な力を感じて目覚めてしまってね」

 

 

「美しいだろ?特に鎖骨のラインが…。どんなに月日が流れてもこの人を想うと熱くならずにはいられないよ」

 

 

キールは隣にあるベッドに横たわっている骸を見ながら干渉深く話す。

 

 

「おとぎ話にあったんだが、あんたが王様に望んだことって…」

 

 

「そんな話があるのかい?…そうさ、私がこの世で唯一叶わなかった望み…。それは」

 

 

『虐げられている愛する人が幸せになってくれる事ー』

 

 

「そう言って私はこの方を攫ったのだよ」

 

 

キールは昔を懐かしむように笑った。

 

 

「そのお嬢様は親の都合で妻として出されたのに、可愛がられずに王様や王室、他の(めかげ)にも虐げられていたからね。要らないならくれって言ってやったのさ」

 

 

「で、そのお嬢様にプロポーズしたら二つ返事でオッケーしてくれた。その後はお嬢様と愛の逃避行をしながら王国軍とドンパチさ、あれは楽しかったなぁ…」

 

 

キールは当時を懐かしむように思い返した。

 

 

「ところで、そこのアークプリーストの君に頼みがある。私を浄化してくれないか?」

 

 

「えっ…?」

 

 

キールはアスタに自分を浄化してほしいと頼んだ。

 

 

「君はリッチーをも浄化するほどの神聖な力を持っているんだろう?」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いや助かったよ、リッチーが自殺なんて洒落にもならないからね。もし良かったら、そこにある私の財産は全て君たちに差し上げよう」

 

 

アスタはキールの願いを受け、キールの足下に浄化の魔方陣を展開した。

 

 

「……お嬢様は不自由な逃亡生活中、一度も文句を言わず、絶えず笑っていた。私は彼女を幸せにできたのだろうか…」

 

 

「……人の理を捨て、自らリッチーと成ったアークウィザード・キール。水の女神アクアの名において、あなたの罪を許します」

 

 

アスタはいつの間にかアクアの姿になっていた。

 

 

「目が覚めると、エリスと言う可愛らしい女神がいるでしょう。…もし、あなたがどのような形であれ、彼女との再会を望むなら、彼女に頼みなさい。きっと叶えてくれますよ」

 

 

「……ありがとう」

 

 

「あなた達に今後の幸せがあらんことを…、"セイクリッド・ターンアンデット"」

 

 

キールはお嬢様の骸と手を繋ぎながら、浄化された。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「なあアスタ、あの人無事にお嬢様と再会できたかな?」

 

 

「私にはわからないけど、あの人の想いは本物だったから、エリスもそれを汲んで願いを叶えているはずよ」

 

 

カズマとアスタに戻ったアクアはキールの部屋から出て、ダンジョンの入り口に向かっていた。

 

 

「あのお嬢様、厳しい逃避行だったのに幸せだったのかねぇ?」

 

 

「それも私はわからないけど、一つ確実なことは言えるわ。あのお嬢様、私達が来る前から何の未練も無く成仏しているわ。きっと嬉しかったのね、"自分だけを見てくれて、自分だけを愛してくれる人と出会えた"ことに」

 

 

「……そっか、よし!めぐみんたちが心配してるだろうから、さっさと帰るか!」

 

 

「…そうね!」

 

 

カズマとアスタは意気揚々にダンジョンから出て、屋敷に帰ったのであった。

 

 

 



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第12話

 

 

リッチーのキールから多額の財産を受け取ったカズマとアスタは、その翌日に換金をし、懐が潤った。

 

 

「…と、言うことで、これから武器を買おうと思う」

 

 

カズマはめぐみんと一緒に街へ繰り出し、武器を調達すると言った。

 

 

「ですがカズマは既に魔剣の勇者に引けを取らないほどの武器を三つも持っているではないですか、これ以上必要ですか?」

 

 

「武器を調達するのは俺じゃ無い、めぐみんだ」

 

 

めぐみんの質問にカズマはあっけらかんと答えた。

 

 

「私の…?」

 

 

「リーンから聞いたんだが、めぐみんはその杖に着けている宝玉で魔法の威力を上げているんだよな?」

 

 

「はい、杖があるのと無いのとでは、爆裂魔法の威力に差が出ます」

 

 

「そこで、めぐみんが使う杖を強くすれば、爆裂魔法の威力も上がると思ってな」

 

 

カズマは自身の考えをめぐみんに話すと、めぐみんは納得したように頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマとめぐみんはテイラーたちに勧められた店に入店する。

 

 

「いらっしゃい、お客さん初めて見る顔だな」

 

 

「テイラーたちの紹介で来たんだ。今日はウィザード用の杖を見たくて…」

 

 

「ウィザードが使う杖なら向こうにある、じっくり選んで来な」

 

 

カズマたちは店長が指差した所へ向かった。

 

 

「へぇ…、杖って言っても色んな種類や大きさがあるんだな」

 

 

「それはそうですよ、威力を重視するなら私が使っている"スタッフ"タイプ、精密性を重視するならこの"ワンド"タイプがお勧めですね」

 

 

カズマは杖の種類に感心していると、めぐみんからの補足が入り、カズマは魔法の奥深さに驚いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はぁ~、この高級マナタイトの色、艶…。たまりません…!」

 

 

「それはそれは、買って良かったと思えるよ」

 

 

めぐみんが選んだ杖は高級マナタイトを使ったその名の通り高級品で、一本100万エリスする代物だった。めぐみんは最初カズマは値段を見て購入を渋ると思っていたが、カズマは値段など気にせずに購入を即決し、めぐみんにプレゼントしたのだった。

 

 

「さて、他にも回らないといけない所もあるから、早く行こうぜ!」

 

 

カズマはめぐみんに手を差し伸べ、めぐみんはカズマの手をしっかりと握った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後カズマとめぐみんは服屋でお互いの服をチョイスしたり、宝石店でアクセサリーを選んだり、露店や喫茶店で飲食をしたりと、さながらデートと呼べる行動をした。

 

 

「めぐみん、最後に一ヶ所寄りたい所があるんだが、いいか?」

 

 

「何を今さら確認をするのですか?良いに決まってます」

 

 

カズマは最後に立ち寄った場所、そこは"教会"だった。カズマは教会の扉を開けると、中には誰もいなかった。

 

 

「カズマ、教会(ここ)に何の用が…」

 

 

めぐみんがカズマに質問をしようとした所で、目の前が光り、光の中からエリスが現れた。

 

 

「お疲れ、エリス」

 

 

「カズマさん、それにめぐみんさんも。今日は礼拝に来られたのですか?」

 

 

カズマはエリスに声を掛け、エリスはカズマに返事をしながら教会に訪れた理由を聞く。

 

 

「いや、今日はめぐみんとエリスの二人に言いたいことがあるんだ」

 

 

カズマは教会に訪れた理由は礼拝では無く、めぐみんとエリスの二人に言いたいことがあると言った。カズマは一回、深く深呼吸をすると

 

 

「めぐみん、エリス。俺はお前たち二人が好きだ。"仲間として"では無く、"一人の女性として"だ」

 

 

何とカズマはめぐみんとエリスの二人に告白をしたのだった。

 

 

「エリスは俺と最初に出会った時から色々手伝ってくれて、この世界でも一緒に冒険稼業を手伝ってくれて、めぐみんは最初の仲間で、ベルディアの時は要らぬ心配をさせて…」

 

 

「それからずっと思ってたんだ、『俺は皆のことをどう思っているのか?』って。アスタはエリス同様、色々世話になっているけど、仲間としての想いが強いし、ダクネスも同様だ。リーンは仲間になったばかりだし」

 

 

「けど、二人は違った。二人のことを考えると、胸が熱くなるのわ、抱き着かれると冷静を保つのに必死だわで、他の皆よりも想いが違ったんだ。それでめぐみんを連れてデートをしてみたんだが、ようやく分かった。『二人に抱いているこの想いは"恋愛"なんだな』って」

 

 

「優柔不断だとは思う、けど俺のこの想いに嘘は付きたくない。だから、めぐみん、エリス。俺と恋人になってください!」

 

 

カズマは二人に手を差し伸べながら頭を下げた。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

めぐみんとエリスは互いの顔を見て、頷いた。

 

 

「カズマ、私はあなたに感謝しています。カズマの仲間になる前は荷物持ちばかりでしたし、戦力外通告もされていました」

 

 

「でも、カズマは私を戦力の一部に入れてくれました。それだけでも嬉しかったのに、そんなこと言われたらますます好きになってしまいますよ」

 

 

「あたしはカズマさんに最初に出会った時から惹かれていました。一緒にいればいるほど、この想いが強くなっていました。でも、めぐみんさんがあたしと同じ想いを抱いていると分かった時は身を引こうと思いました」

 

 

「でも、めぐみんさんに言われたんです。『もしカズマに同時に告白されたら、一緒にカズマを支えましょう』って」

 

 

「「だから、私(あたし)こそ、カズマの恋人にさせてください」」

 

 

めぐみんとエリスは同時にカズマの手を握った。

 

 

「……ありがとう。俺は二人の女神に誓う、"俺はめぐみんとエリスの二人を、この命全てを賭けて愛する"と」

 

 

カズマは二人を抱き寄せる。めぐみんはカズマに口付けをすると、エリスもめぐみん同様カズマに口付けをするのだった。

 

 

 



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第13話

 

 

一世一代の告白が無事に実ったカズマはめぐみんとクリスの姿になってエリスを連れて屋敷へと戻った。

 

 

「ただいま」

 

 

「あっ、お帰りカズマ!めぐみんとクリスもお帰り!ねえねえ聞いて!今日ダクネスがすごい物を持って来てくれたわよ!」

 

 

カズマたちの帰宅に若干興奮気味のアスタが出迎えた。

 

 

「すごい物?」

 

 

「ああ、父が入居祝いと言うことで"霜降り赤蟹"をくれたんだ」

 

 

「霜降り赤蟹ですか!?すごいです!霜降り赤蟹と言えば高級品の蟹ですよ!もし霜降り赤蟹を食べる代わりに爆裂魔法を撃なと言われたら我慢します!そして食べた後に爆裂魔法を撃ちます!」

 

 

カズマはめぐみんの興奮した表情を見て、どれだけ高い物なのかを悟った。

 

 

「今晩は霜降り赤蟹を使った蟹鍋よ!さあ早く手を洗って来て!」

 

 

アスタに急かされ、カズマたちは手を洗いに洗面所へ向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『いただきます!』

 

 

そして夕飯として出された蟹鍋を囲み、舌鼓を打った全員は満足そうな顔をした。

 

 

「ところで…、カズマとめぐみんとクリスの三人に聞きたいことがあるんだけど」

 

 

不意にアスタがカズマたちに視線を向ける。

 

 

「三人共、"何かあった"?」

 

 

「ムグッ!?」

 

 

「フグっ!?」

 

 

「ブホッ!?」

 

 

アスタの質問にめぐみんとクリスは飲んでいた水を器官に詰まらせ、カズマは口に入れた水を吹き出してしまった。

 

 

「ちょっとカズマ汚い!めぐみんとクリスは大丈夫!?」

 

 

アスタはカズマに雑巾を投げ渡し、めぐみんとクリスの背中を擦った。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ…。ありがとうございます」

 

 

「ケホッ…、お姉ちゃん、もう大丈夫」

 

 

「わ…っ、悪い。けど、元はと言えばお前が変なことを言うからだぞ!?」

 

 

めぐみんとクリスはアスタに礼を言い、カズマは受け取った雑巾でテーブルを拭きながら文句を言った。

 

 

「別に変なことじゃ無いわよ?三人、特にめぐみんとクリスから幸せオーラをビンビンと感じるし、めぐみんはいつも以上にカズマにべったりだし、クリスも帰って来た時にカズマの腕に抱きついていたから、『これは何かあるな~』って思ったのよ」

 

 

アスタの観察力に度肝を抜かされた三人は観念したかのように

 

 

「実は…、俺たち三人、恋人関係になったんだ」

 

 

現在の関係を打ち明けたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はぁ…、疲れました」

 

 

夜も深まった時間、めぐみんとクリスはカズマの部屋を訪れていた。

 

 

「まさか根掘り葉掘り答えさせるとは…」

 

 

そう、カズマたちの暴露を聞いた女性陣はめぐみんとクリスに質問攻めをしたのだ。しかも答えないと脇や足の裏を擽って無理やり吐かせたりしたのだ。

 

 

「カズマは何とも無かったですか?」

 

 

「俺もテイラーとキースから質問攻めされたよ。しかも黙秘しようとしたらヘッドロックされて、危うく死にそうだった…」

 

 

「カズマが天界に還らなくて良かったよ…、もし天界に還ったらあたしのあらゆる権限を行使して生き返らせる所だったよ」

 

 

「私もカズマを殺した輩に爆裂魔法を撃ちます」

 

 

何ともカズマへの愛が重い二人だった。

 

 

「あはは…、まああり得ないとは思うが、もしそうなったら頼むな。さて、そろそろ寝ようぜ」

 

 

「何を言ってるのですかカズマ?」

 

 

「そうだよ、夜はこれからだよ。これからは恋人の時間」

 

 

「「たっぷり愛してください(ね)?」」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「太陽が…、太陽が黄色い…」

 

 

めぐみんとクリスの二人を同時に相手していたカズマは、眠気に襲われながらも部屋を出て、キッチンへと向かった。

 

 

「あらカズマ、おはよう。眠そうだけど大丈夫?コーヒー飲む?」

 

 

「おはようアスタ、ブラックで頼む」

 

 

キッチンには既にアスタが朝食を作っている最中だった。カズマはアスタにブラックコーヒーを頼み、アスタはカズマのご希望通りのコーヒーを渡す。

 

 

「ズズッ…、はぁ~」

 

 

「その様子だと、二人に搾られたようね」

 

 

「その通り、全くサキュバス並だったぜ。アスタ、今日は1日自由にするから」

 

 

カズマはコーヒーを啜りながら愚痴り、今日の予定を伝えた。

 

 

「了解、皆には私から伝えておくから、今日はゆっくり休みなさい。それと私から言いたいことがあるわ」

 

 

アスタはカズマの方へ振り向くと

 

 

「絶対にクリスとめぐみんを幸せにしなさいよ?」

 

 

「もちろんだ、絶対に幸せにする」

 

 

アスタの言葉にカズマは感動しながら力強く頷いた。

 

 

「それから避○はしなさいよ?」

 

 

「お前何てこと言うんだ!俺の感動を返せ!」

 

 

最後までアスタにからかわれたカズマだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマおはよう、どこ行ってたの?」

 

 

カズマが部屋に戻ると、クリスが目覚めており、カズマに質問する。

 

 

「キッチンでコーヒー飲んでた。お前らのサキュバス並の○欲で眠いからな」

 

 

「あはは…、ごめんごめん。…で、今日はどうするの?」

 

 

「キッチンでアスタに会ったから、今日1日は自由に過ごすことは伝えてあるから、アスタ経由で伝わるはずだ」

 

 

「そっか…、じゃあ、バッグ貸して?」

 

 

カズマはクリスに言われた通り、バッグをクリスに渡した。そしてクリスはエリスの姿になり、側に置いた服のポケットから四つ折りにされた一枚の紙を取り出した。

 

 

エリスは紙を広げると、紙には魔方陣が描かれており、バッグをその紙の上に置いた。そして顔の前で両手を合わせ、魔方陣に触れた。

 

 

するとバッグが浮かび魔方陣とバッグが光り、数秒後に光が収まり、バッグは魔方陣の上に静かに降りた。

 

 

「ふぅ…、これでおしまい…っと」

 

 

再びクリスの姿となったエリスはカズマにバッグを返した。

 

 

「……何か変わったのか?見た目的には何も変わって無いが…」

 

 

「能力をバージョンアップしたんだよ、『欲しい"食材"を思い浮かべれば出せる』ようにしたんだよ」

 

 

クリス曰く、『天界で"様々な未知なる食材がある世界"から来た人の記憶をフィードバックさせた』そうな。

 

 

「食材って、例えばどんな?」

 

 

「例えば…、"尾びれが烏賊のゲソになってるマグロ"とか、"食べると味が七つに変化する木の実"とか…」

 

 

「ちょっと待て!それってまんまト○コじゃねぇか!」

 

 

食材の特徴を聞いたカズマは思わずツッコミを入れた。

 

 

「でも、美味しそうじゃない?」

 

 

悪びれる様子が無いクリスにカズマは頭痛がしたのか、頭を押さえてしまった。

 

 

 



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第14話

 

 

クリスにバッグのバージョンアップを施されたカズマは早速外へ…出ることは無く、めぐみんとクリスの二人と共に夢の中へと向かった…、その矢先。

 

 

『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!』

 

 

「な…っ、何だぁ!?」

 

 

街に響き渡る警報で引き戻された。

 

 

『機動要塞デストロイヤーがこの街へ接近中です!住人の方は避難、冒険者の皆様は装備を整えてギルドへ集合して下さい!』

 

 

「ギルドからのお呼びだし…か。しゃーない、行きますか!」

 

 

カズマとめぐみんとクリスは互いに頷き、着替えてギルドへと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「君は…!」

 

 

「お前は…、ミツルギ!」

 

 

カズマたちがギルドへ向かう途中、以前勝負した魔剣使いのミツルギキョウヤと彼の仲間のクレメアとフィオがカズマたちと並ぶように走っていた。

 

 

「君もギルドへ?」

 

 

「冒険者全員が呼び出されたんだ、行かなきゃならんだろ。それより、お前何でこの街に?」

 

 

「……僕は君に負けてから、自分を見つめ直すためにこの街でグラムを使わずに修行していたんだ。自分がどれだけグラムに頼っていたのか痛感したよ、同じような両手剣を使っても雲泥の差だったよ」

 

 

キョウヤは悔しそうに今まで何をやっていたのかを話した。

 

 

「それじゃ今は…」

 

 

「あっ、グラムはクレメアたちに預けていたけど、ここに来る前にグラムを返してもらったから、戦力としては期待してほしい」

 

 

「……なら期待するぜ?"魔剣の勇者"様?」

 

 

「……こっちこそ期待するよ、"仮面ライダー"」

 

 

カズマとキョウヤは互いに笑いながらギルドへ向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ!こっちこっち!!」

 

 

ギルドに到着したカズマたちを見つけたアスタはカズマに向かって手を大きく振った。

 

 

「すまん、遅くなった!」

 

 

「別にいいわよ、私たちもついさっき着いたばかりだから。…ところで、何でこの人たちも一緒にいるわけ?」

 

 

アスタはジト目でキョウヤたちを見る。カズマはキョウヤから聞いたことを包み隠さず説明した。

 

 

「ふ~ん、まぁ別にいいんじゃ無い?今は猫の手を借りたい程だろうし」

 

 

「皆さん、お集まり頂き、ありがとうございます!只今より対機動要塞デストロイヤー討伐の緊急クエストを行います!このクエストにはレベルも職業も関係無く、全員参加でお願いします!」

 

 

そこにギルドの受付嬢であるルナが現れ、デストロイヤーの説明を始める。

 

 

「御存じかとは思いますが、今一度説明します。機動要塞デストロイヤーは元は対魔王軍用の兵器として魔導技術大国"ノイズ"で造られた超大型のゴーレムです」

 

 

「ノイズの巨額の国家予算を投じて造られたゴーレムは八本の巨大な脚を持つ蜘蛛のような形状をしており、古城ほどの巨大な体躯に外殻は魔法金属がふんだんに使われ、その巨体に見合わない速度で進撃し続けます」

 

 

「そのため、デストロイヤーの進撃を止めるのは難しく、進路上にあるものは大型のモンスターであろうと挽肉にされてしまいます。更に強力な魔力結界が張られているため、魔法攻撃もほとんど効果がありません」

 

 

「となると…、弓や投石などで攻撃するしかないのですが…、自律型の中型ゴーレムや小型バリスタも備えており、そちらも対処されてしまいます」

 

 

デストロイヤーの底知れぬ強さにカズマは固唾を飲んだ。

 

 

「ところで、ソレ造ったノイズって国はどうなったんだ?弱点くらい知ってんじゃ…」

 

 

「デストロイヤーの暴走で真っ先に滅ぼされました」

 

 

ダストの意見は簡単に論破された。

 

 

「あのさ、進路上に大きな落とし穴を掘るとか駄目なの?」

 

 

「やりましたけど、ジャンプして飛び越えてしまったとか」

 

 

リーンの意見も論破された。冒険者たちはあーでもないこーでもないと話している中、カズマは考えに耽っていた。

 

 

「……アスタ、クリス。二人の"女神の力"で結界を破壊することは出来るか?」

 

 

「頼ってくれるのは嬉しいけど、あたしは無理。職業の性なのか、そう言った魔法が使えないんだよね」

 

 

「…私は出来るかどうか、やってみないと分からない」

 

 

カズマはアスタとクリスに質問をすると、クリスは『出来ない』と、アスタは『分からない』と答えた。

 

 

「破れるんですか!?あのデストロイヤーの結界を!」

 

 

カズマたちの話を聞いていたのか、ルナがアスタに詰め寄った。

 

 

「やってみないことには分からないって言っただけよ。それに、もし結界が破れても、生半可な魔法攻撃は意味を成さないでしょうね。…一人を除いて」

 

 

「確かに。生半可な魔法攻撃は効かないとなると、頼れるのは相当な火力を持つ魔法…。めぐみん」

 

 

アスタとカズマはめぐみんを同時に見る。

 

 

「カズマが私を頼ってくれるのは嬉しい限りですが、申し訳ないです。私でも一撃で仕留めることは…」

 

 

めぐみんは落ち込みながら答えた。すると

 

 

「すいません!遅くなりましたっっ!ウィズ魔法具店の店主ですっ、一応冒険者の資格を持っているのでお手伝いを…」

 

 

ウィズが遅れてギルドに到着した。

 

 

「ウィズさん!丁度良かった!聞きたいことがあるんです、爆裂魔法は使えますか?」

 

 

「えっ?爆裂魔法ですか?使えますけど…?」

 

 

「そうですか…、使え…何ですって?」

 

 

カズマはウィズに爆裂魔法を使えるか質問し、ウィズは『使える』と答えた。カズマは使えないと思っていたのか、落胆しかけたが、ウィズの答えを聞いてもう一度質問をした。

 

 

「爆裂魔法ですよね?使えますよ」

 

 

「……嵌まった、勝利のピースが!!」

 

 

カズマは思わずウィズの手を握った。

 

 

「ウィズさん!あなたの力を貸して下さい!」

 

 

「えっ…?えぇっ!?」

 

 

ウィズは突然のことに何がなんだかさっぱりだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いいかお前ら、これから作戦を伝える」

 

 

両頬に紅葉を作ったカズマは街の正門前に移動し、冒険者たちの前で作戦を伝える。

 

 

「まずアスタがデストロイヤーの結界を破壊、クリスはそのサポートを。めぐみんとウィズさんはデストロイヤーの左右に展開して両脚を破壊してくれ、恐らくデストロイヤーは両脚を破壊されたら地滑りして止まるはずだ」

 

 

「止まったらアーチャーはロープを着けた矢を撃ってくれ。そのロープを登って他の冒険者たちはゴーレムゆ倒しながら内部の占拠を頼む。質問がある者は手を上げてくれ」

 

 

カズマは冒険者たちの顔を見渡す。

 

 

「……カズマ、頬は大丈夫か?」

 

 

するとダクネスが手を上げ、自分の頬を指差しながら質問する。

 

 

「作戦以外の質問は控えてくれ。……他はいないようだな、それじゃ皆、配置に着いてくれ!」

 

 

カズマの号令で冒険者たちは持ち場に向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「来たぞーっ!デストロイヤーが来たぞーっ!」

 

 

冒険者全員が配置に着いた十数分後、千里眼スキルを持つ見張り員がデストロイヤーの接近を知らせた。

 

 

「了解した!アスタ、頼むぞ!この作戦の鍵はお前にかかっているんだからな!?」

 

 

「ちょっと!変にプレッシャーかけないでよね!?」

 

 

アスタはアクアの姿となり、集中する。

 

 

「……いくわよ!『セイクリッド・スペルブレイク』!!」

 

 

アクアの魔法がデストロイヤーに炸裂する…が、結界は破壊できなかった。

 

 

「まだよ!ここで終われない!この街には…、助けなきゃいけない人たちがいるのよ!!」

 

 

アクアは更に力を込める。すると結界に罅が入り、それが大きくなると、結界が破壊された。

 

 

「お姉ちゃん!?」

 

 

「ハァ…、ハァ…、ハァ…。大丈夫、魔力を少し使い過ぎただけ…。クリス、悪いけど肩貸して?」

 

 

アクアはクリスに速度強化の支援魔法を掛け、クリスの肩に捕まりながらデストロイヤーから離れた。

 

 

「アクアとクリスは無事に離れたか…。めぐみん、ウィズさん!」

 

 

「任せて下さい!」

 

 

「は…っ、はい!」

 

 

カズマはアクアとクリスがデストロイヤーから離れたのを確認すると、めぐみんとウィズに合図を送った。

 

 

「「『エクスプロージョン』!!」」

 

 

めぐみんが右脚を、ウィズが左脚を爆裂魔法で破壊すると、支えを失ったデストロイヤーは地面を抉りながら滑り、街の正門十数メートル前で止まった。

 

 

「止まったぞ!アーチャー部隊前へ!」

 

 

カズマの号令でキース含むアーチャーがフック付きのロープを繋いだ矢を放ち、そのロープを使い、冒険者たちが続々とデストロイヤーに乗り込んだ。

 

 

「俺も行く!ダクネス、めぐみんの側にいてくれ!」

 

 

カズマはめぐみんをダクネスに預け、ロープを掴み、デストロイヤーを登る。そのカズマに続くようにアクアとクリス、ウィズが登っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちがデストロイヤーを登り切ると、既に冒険者たちがゴーレムと戦闘を開始していた。

 

 

「囲め囲めーっ!」

 

 

「足を狙えーっ!」

 

 

「天誅!天誅!天誅!」

 

 

カズマたちは冒険者たちの戦闘場面に唖然としていると

 

 

「っ!?カズマ君、危ない!ゴーレムがそっちに行った!」

 

 

キョウヤの声が届いたのか、カズマたちは目の前のゴーレムに気づいた。

 

 

「クリス、預かっといてくれ!『音撃道・管』!」

 

 

《管・カ・カーン!》

 

 

カズマはバッグから烈風を取り出し、バッグをクリスに預ける。そして音角を鳴らし、響鬼に変身した。

 

 

「相手はゴーレム…、機械系だ。部品の一つでも奪っちまえば、動かなくなるだろ!『窃盗』!!」

 

 

「カズマ待って!ゴーレムに『窃盗』は…」

 

 

アクアが止める暇無く、カズマは『窃盗』でゴーレムのパーツを奪い取ろうと試みる。すると『窃盗』が成功したのか、カズマの手にゴーレムの頭部があった。

 

 

カズマは素早く頭部を投げ棄てると、動かなくなったゴーレムを蹴った。

 

 

「よくそんな重い物持てたね…」

 

 

「コツとタイミングがあれば、持たずに奪い取ることが出来る。それに、鍛えてますから。シュッ」

 

 

カズマの側にキョウヤが近づきながらカズマの手際に感心していると、カズマは敬礼のような仕草をした。

 

 

「"大将"、扉が開いたぞっ!」

 

 

「よしっ、総員突撃!それと俺を"大将"って呼んだ奴後で覚えてろよ!?」

 

 

カズマは自分を大将と呼んだ奴を恨みながら内部への突入指示を出し、自身も内部へと入った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「デストロイヤーの内部って結構広いんだな…。でも、相当な年月使われていない感じがする…」

 

 

カズマはデストロイヤーの内部を見ながら奥へと進む。

 

 

「いたぞ!」

 

 

すると、部屋の一角に動力炉のような機械の前に誰かが座っていた。

 

 

「すまない、少し話を…ってこれは!?」

 

 

キョウヤが話をしようと近づくと、座っていた誰かの正体が判明した。座っていたのは骸骨だった。

 

 

「……既に未練の欠片も無く成仏しているわね」

 

 

アクアが骸骨を調べると、既に成仏していることが判明した。

 

 

「"未練が無い"?どう見ても一人寂しく死んでいった感じだが…」

 

 

「そう言われても…あら?これは…、手記…かしら?」

 

 

アクアは骸骨の近くに日記帳があることに気づき、読み始めた。

 

 

「えーと…、『○月×日、国のお偉いさんが無茶言い出した。こんな予算で機動兵器を作れという。無茶だ、抗議しても聞く耳持たれず、泣いて謝ったり、拝み倒してみたがやはりダメだった。バカになったフリをしてパンツ一枚で走り回ってみたが、女研究者に早くそれも脱げよと言われた。この国はもうダメかもしれない』」

 

 

冒険者たちは骸骨を見た。

 

 

「『○月×日、設計図の期限が今日までだ。どうしよう、まだ白紙ですとか今更言えない。だってヤケクソになって報酬の前金全部飲んじゃったもん。白紙の設計図を前に悩んでいると、突然紙の上に俺の嫌いなクモが出た。悲鳴を上げながら手近にあった物で叩き潰した、…用紙の上に。このご時世、こんな上質な紙は大変高価なのに、弁償しろとか言われても金が無い。知るか、もうこのまま出しちまえ』」

 

 

「『○月×日、あの設計図が予想外に好評だ。それクモ叩いた汁ですけどそんな物よく触れますね、なんて絶対言えない。ていうかどんどん計画が進んでる、どうしよう、俺がやった事ってクモを一匹退治しただけ。でもこんな俺が所長ですひゃっほう!』」

 

 

骸骨に向けられている冒険者たちの視線が段々鋭くなっていった。

 

 

「『○月×日、俺何もしてないのにどんどん勝手に出来ていく。これ俺いらなかったじゃん、何なの?もういいや、勝手にしてくれ。なんか動力源をどうこう言われたけど知るか。だったら永遠に燃え続ける伝説の超レア鉱石"コロナタイト"でも持って来いと言ってやった』」

 

 

「『○月×日、本当に持って来ちゃったどうしよう。マジでどうしよう、持ってこれる訳無いと思って適当に言ったのに…。これで動かなかったら俺死刑じゃないの?動いてくださいお願いします!』」

 

 

「『○月×日、明日が機動実験とか言われたが、正直俺何もしてねぇ。やったのはクモ叩いただけ。この椅子にふんぞり返って居られるのも今日までと思うと腹が立ってきたもういい飲もう!今日は誰も残っていないし気兼ねなく最後の晩餐だ!』」

 

 

「『○月×日、目が覚めたら酷い揺れだった。何だろうこれ二日酔いかな?いや、そもそも昨日の記憶が無い。あるのは動力源のある中枢部分に行って、コロナタイトに向かって説教したところまでしか覚えていない。いや待てよ、その後お前に根性焼きしてやるとか言ってコロナタイトに煙草の火を…』」

 

 

冒険者たちの視線が怖いのか、日記を読んでいるアクアが震え出した。

 

 

「『○月×日、現状を把握、そして終わった。現在只今暴走中。どうしよう、これ間違いなく俺がやったと思われてる。今更泣いて謝ったって許してもらえないだろうな。やだな…機動兵器から引きずりだされて死刑だろうか、クソッタレめ!』」

 

 

「『○月×日、やべえ、こんな国滅んじゃえばいいのにとか思ってたら滅んだ。国滅んじゃったよ!国民とかお偉いさんとか人はみんな逃げたみたいだけど、でも俺国滅ぼしちゃった!ヤバイ何かスカっとした!満足だ俺。決めた、もうこの機動兵器から降りずにここで余生を暮らすとしよう。だって降りられないしな、止められないしな。これ作ったやつ絶対バカだろ。おっとこれを作った責任者、俺でした!』…お、終わり」

 

 

『なめんな!!』

 

 

アクアが日記を読み終えると、カズマとキョウヤ、クリスとウィズ以外の冒険者たちが怒りを爆発させた。

 

 

「ひーん!私が悪いみないに言わないでよ~っ!私はただこの手記を一言一句違わず読んだだけなのに~っ!カズマ、わたしわるくないよね?」

 

 

「ああ、アクアは悪くないぞ。悪いのはその骸骨とコイツを造った国だからな」

 

 

「かじゅま~っ!」

 

 

アクアはカズマに泣きながら抱きつき、カズマはそんなアクアを慰めるように頭を優しく撫でた。

 

 

「ぶ~っ」

 

 

「あはは…、クリス、今だけはアスタにカズマを貸してあげようよ」

 

 

二人の様子を見ていたクリスは頬を膨らませブー垂れており、クリスの側にいたリーンはクリスを宥めていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さて…、骸骨の後ろにあるこの球体が手記に記載されていたコロナタイトな訳だが…、こいつを取り出せば暴走は止まる…はずだよな?」

 

 

「だと思うけど…、『窃盗』はやめといた方が良いわよ?手記にも書いてあったけど、"永遠に燃え続ける"ってあったから」

 

 

「それに関しては大丈夫だと思うが…、っ!ミツルギ、ちょっと…」

 

 

カズマは何か秘策を思い付いたのか、キョウヤを呼ぶと、耳打ちをした。

 

 

「……グラムを使えば出来ると思うけど…、よくそんなこと思い付くね」

 

 

「褒めても何も出ないぞ?悪いが早速やってくれ」

 

 

キョウヤは頷いた後、グラムを抜き、天井を丸く切り抜いた。

 

 

「これで準備は整った。ハアアァァァ…!」

 

 

カズマは『響鬼・紅』になると

 

 

「『窃盗』!…からの、どっっっせいっ!!」

 

 

コロナタイトを『窃盗』で動力炉から引き抜くと、開けた天井に向けて思い切り投げた。そして自身も天井から外へ出て、『狙撃』で鬼石をコロナタイトに撃ち込み、烈風を音撃モードに変形させた。

 

 

「『音撃射・疾風怒涛(しっぷうどとう)』!」

 

 

カズマはコロナタイトに向けて音撃を放つ。するとコロナタイトは遥か上空で爆発した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ただいま」

 

 

「カズマっ!!」

 

 

カズマたちが地上に降り立つと、めぐみんがふらふらしながらカズマに抱きついた。

 

 

「カズマ、良く無事に戻ってこれたな」

 

 

「まあ中であったことは追々話すから、今は生き延びたことを喜ぼうぜ!」

 

 

カズマは顔だけ変身を解いて街へ帰ろうとした所で

 

 

「ねぇ、何かヤバくない?」

 

 

クリスがデストロイヤーを指差しながら呟いた。カズマたちはデストロイヤーへ視線を向けると、デストロイヤーに罅は入り始めていた。

 

 

「まさか…、内部に溜まっていた熱が漏れ出そうとしているんじゃ…!このままじゃ亀裂から大爆発を起こしますよ!」

 

 

ウィズの予測を聞いたクリスたちは慌て出した。

 

 

「(どうする!?あれだけの質量を持つ物を跡形も無く消すには爆裂魔法しかない!でも、めぐみんはもう既に爆裂魔法を使用していて魔力が無い!ウィズさんなら『ドレインタッチ』で魔力を吸収すれば爆裂魔法を撃てるかもしれないが、それをやればウィズさんがリッチーであることがバレてしまう!どうすれば…)」

 

 

カズマは思考を巡らせると、ある結論に辿り着いた。

 

 

「クリス、お前魔法やスキルを一度も使ってはいなかったよな?!」

 

 

「えっ?う…うん、そうだけど?」

 

 

カズマの質問にクリスはたじたじになりながらも答えた。

 

 

「ならいける!クリス、めぐみん!今からお前たちの"胸を触る"から我慢してくれよ!」

 

 

「我慢って何ですかカズマ!?それに胸を触るって触るだけですか!?愛する男からの要望であれば触るだけじゃなくて揉んでも何も文句は言いませんよ!」

 

 

「そうだよ!それにそういうことをしたいなら今じゃなくて今晩とか…」

 

 

「何とち狂ったこと言ってんだお前ら!?そうじゃ無くて『ドレインタッチ』で俺をバイパス代わりにして、めぐみんにクリスの魔力を送るんだよ!!」

 

 

カズマの説明にめぐみんとクリスはやや残念そうな表情をした。

 

 

「何だそういうことですか…、がっかりです」

 

 

「あたしも…」

 

 

「お前らこういう非常時に発情するのはやめろください」

 

 

カズマは周りからの痛い視線に冷や汗が止まらなかった。

 

 

「とにかく、『ドレインタッチ』は皮膚が薄い部分で心臓に近い所からドレインするのが効率が良いって、この前ウィズさんから教わったからやるぞ!」

 

 

カズマはクリスとめぐみんの心臓に近い胸に手を当て、ドレインタッチを使う。

 

 

「おぉっ!来てます、来てます!クリスの魔力が流れてます!…んっ、あ…っ、そこ…っ。いい、いいです…。もっと…、もっと…!」

 

 

めぐみんの悶える声にカズマは思わず赤面する。

 

 

「……お待たせしましたっ!私の過去最大の爆裂魔法!行きますっ!『エクスプロージョン』!!」

 

 

めぐみんが放った爆裂魔法は、今にも爆発しそうなデストロイヤーに直撃し、跡形も無く消し飛んだ。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『カンパ~イッ!!』

 

 

デストロイヤーの脅威が去った後、冒険者たちはギルドで勝利の宴をしていた。

 

 

「いや~っ、どうにかなって良かった良かった!」

 

 

着替え終わったカズマはジュースが入ったジョッキを片手に寛いでいた。

 

 

「こんな所にいたのか」

 

 

「ミツルギか…、クエストお疲れ様」

 

 

そこにジョッキを持ったキョウヤが現れ、カズマはキョウヤを労いながら自分のジョッキをキョウヤのジョッキに軽くぶつけた。

 

 

「君こそお疲れ様だよ。カズマ君の指揮があったからこそ、デストロイヤーを破壊できたものだから」

 

 

「それでいつの間にか俺が"大将"なんて呼ばれるからこっ恥ずかしかったんだぜ?しかもそれで俺を弄る奴らもいるもんだから、そいつらにディスクアニマルの"洗礼"を与えてやったがな」

 

 

「……君ほど敵に回すと恐ろしい人はいないだろうね」

 

 

キョウヤは苦笑いしながらジョッキを傾ける。

 

 

「…それで、何しにここに?まさかお前まで俺をイビるつもりか?」

 

 

「そんなことはしないさ、…実は君に相談したいことがあってね」

 

 

カズマはジョッキをテーブルに置いて話を聞く姿勢を取った。

 

 

「僕のパーティーは知っての通り、前衛職しかいなくて、ウィザードとかの後衛職がいないんだ。それでギルドでメンバーを募集しても来るのは女性ばかりで、フィオとクレメアが威嚇してしまう状態なんだ」

 

 

「二人は僕にとって初めての仲間なんだが、もう少し協調性を持って欲しいと思うんだ。そこで、もしカズマ君さえ良かったらなんだが…」

 

 

「話は分かった。つまり、"俺のパーティーに入りたい"ってことだろ?」

 

 

カズマの質問にキョウヤは頷いた。

 

 

「うーん…、今の俺のパーティーメンバーはまずアークウィザードのめぐみん、盗賊のクリス、アークプリーストのアスタにクルセイダーのダクネス、ダクネスと同じクルセイダーのテイラー、アーチャーのキース、ウィザードのリーン、戦士のダスト…。前衛が三人で、後衛が四人、で中堅が俺を含めて二人…」

 

 

「結構な人数だね…」

 

 

「んっ…まあな。……よし、ミツルギ。パーティー加入だが、是非ともお願いしたい」

 

 

カズマはキョウヤたちのパーティー加入を承諾した。

 

 

「自分で頼んでおいて何だけど、良いのかい?」

 

 

「ああ、ミツルギたちを加えれば、前衛が五人になるし、俺やクリスとかが遊撃として動きやすくなるからな」

 

 

「そっか。なら、宜しくお願いするよ"リーダー"」

 

 

キョウヤはカズマに向けて手を差し出す。カズマはキョウヤの手をがっかり掴み、固い握手をした。

 

 

その後、キョウヤはフィオとクレメアにカズマのパーティーに加入したことを伝え、三人は改めてカズマにパーティー加入をお願いし、カズマは同意し、パーティーメンバー全員にキョウヤたちが新たにパーティーへ加入したことを伝えた。

 

 

めぐみんたちはキョウヤたち三人を迎え入れ、総勢十二人となったカズマパーティーは新たなメンバー加入を祝う祝杯を上げたのだった。

 

 

 




『音撃射・疾風怒涛』


響鬼・紅が使用する音撃の一種。音撃モードにした烈風から強烈な音撃を放つ。


射程が無いに等しいので、鬼石を埋め込んだ"もの"の場所に放てば確実に音撃が襲う。


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第15話

 

 

新たに『ソードマスター』のミツルギキョウヤと『戦士』のクレメアと『盗賊』のフィオの三人を加えたカズマ一行は、ギルドを抜け、カズマ一行が拠点にしている屋敷でキョウヤたちのパーティー加入を祝うパーティーを開始した。

 

 

カズマはめぐみんとクリスを連れてキッチンへ移動し、バッグから食材を取り出すと、料理を始めた。

 

 

「おまた~」

 

 

「これまたすごい量ね、運ぶの手伝うわ」

 

 

アスタの姿になっていたアクアはカズマたちを手伝うため、立ち上がった。

 

 

「お姉ちゃんは座ってて。今日のMVPの一人なんだから」

 

 

しかしクリスがやんわりと断ったのだった。

 

 

「MVPって…、私そんな大した活躍してな「してるよ」…カズマ 」

 

 

「アスタはデストロイヤーの結界を破壊したんだぞ?だからデストロイヤーを止めることが出来たし、粉砕することも出来たんだ。誇って良いぞ」

 

 

「そうですよ」

 

 

カズマに続いてキョウヤもアスタを褒めるのだった。

 

 

「…ありがとう」

 

 

アスタもクリスの意図を汲んでか、素直に椅子に座った。そして料理がテーブルに所狭しと並び、全員に飲み物が行き渡った。

 

 

「みんな、今日はお疲れ様!みんなの活躍のおかげで、デストロイヤーの脅威から街を守ることが出来た。そして、ミツルギたち三人が新たにパーティーに加入した。この2つの出来事に感謝して、乾杯しよう!」

 

 

カズマはグラスを持って立ち上がると、全員がグラスを持って立ち上がった。

 

 

「それでは、デストロイヤー完全破壊とミツルギたちのパーティー加入を祝して、乾杯!」

 

 

『カンパ~イ!!』

 

 

カズマの音頭で全員が飲み物を飲み干し、料理に手を着けた。

 

 

「このお肉…、まるで宝石みたいにキラキラしてる…」

 

 

「それな『肉の宝石(ジュエルミート)』って言って、『リーガルマンモス』って言う動物の体内で獲れる肉で、様々な部位を楽しめる希少な肉なんだ」

 

 

「このポップコーン大きい!」

 

 

「それは『(ブルー)(ブラッド)コーン』で作ったポップコーンだ」

 

 

「このポテト美味しい!」

 

 

「『フライドポテトの泉』から汲んだフライドポテトだな、塩気が効いてて美味しいんだ」

 

 

アスタたちはテーブルに並んだ料理を次々に平らげていくと

 

 

「それじゃそろそろデザートと行きますか」

 

 

カズマはめぐみんとクリスを連れてキッチンへ向かい、皿に乗ったゼリーを運んで来た。

 

 

「デザートの『虹の実』ゼリーだ」

 

 

アスタたちはゼリーを一口食べる。

 

 

「んっ、味が変わった!しかも四回も!」

 

 

「喉を通る時にも更に三回味が変わった…、美味しい」

 

 

虹の実ゼリーは好評だったようで、瞬く間にゼリーは完食された。

 

 

「カズマ君、僕たちのためにこんな料理を出してくれて、ありがとう。とても美味しかったよ」

 

 

「満足してくれて何よりだ、作った甲斐があるってもんだ」

 

 

カズマとキョウヤは互いに笑いあった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから翌日、朝食を終えたメンバーは未だにその場を動かずにいた。

 

 

「それでは、今日の予定を発表する。…と言っても、昨日の緊急クエストで皆疲れているだろうから、今日は自由に過ごしてくれ。鍛練するもよし、買い物するもよし」

 

 

全員が動かなかった理由は、カズマからの連絡事項を聞くためだった。

 

 

カズマは昨日の緊急クエストで全員に疲れが残っていることを危惧し、1日休みを設けたのだった。

 

 

「それじゃ僕たちは宿に行って部屋を引き払ったり、荷物を纏めないといけないから」

 

 

キョウヤとフィオとクレメアは宿に残していた荷物を持ってくるために、一度宿へと向かうことをカズマに伝えた。

 

 

「了解、ついでにお金を渡しておくから、日用品を買って来てもいいぞ。特に女性は色々必要だろうからな」

 

 

カズマは自分の財布から30万エリスをキョウヤたちに渡し、キョウヤたちは屋敷を出た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

キョウヤたちの引っ越しが済んだ数日後、フィオとクレメアの二人はメンバーの女性陣と仲良くなり、今日は女性陣だけで買い物に行くと言う中睦まじい行動をしていたため、カズマとキョウヤは二人が馴染んだことに胸を撫で下ろしていると

 

 

「すまない!此方にサトウカズマと言う冒険者はいるか!?」

 

 

屋敷の外から声が上がった。

 

 

「えっと…、サトウカズマは俺ですが…?」

 

 

カズマは庭から姿を現すと、甲冑を身に纏った兵士を連れた女性がいた。実はこの時カズマはキョウヤと一緒に墓を掃除していたのだ。

 

 

「貴様がサトウカズマか、貴様には国家転覆罪の容疑が掛けられている!自分と共に来てもらおうか!」

 

 

「…はい?国家転覆罪って何ですか?それと…あなたは一体どちら様で…?」

 

 

「カズマ君、彼女は"王国検察官"のセナさんで、"国家転覆罪"と言うのは、国家を揺るがす事件などを起こした人が問われる罪なんだ」

 

 

キョウヤはカズマに目の前の女性が誰で、罪状が何なのかを説明した。

 

 

「……つまり、俺はテロリストとして疑われているってこと?」

 

 

「若しくは魔王軍の手の者ではないかと疑われているのだ。とにかく、自分と一緒に来てもらおうか」

 

 

「……分かった、とりあえず着いて行くよ。キョウヤ、悪いが皆が戻って来た時の説明を頼む」

 

 

カズマはキョウヤに頼み事をし、兵士たちと共に警察署へ向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さあ、入れ。ここが貴様の裁判が行われるまでの部屋だ」

 

 

警察署に到着した途端、カズマは地下牢へ入れられた。

 

 

「詳しい話は明日聞く、それまでゆっくり過ごすがいい」

 

 

セナは兵士たちと共に牢屋から離れた。

 

 

「……やれやれ、とんでもないことになったな」

 

 

カズマは壁に寄りかかりながら愚痴を溢した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「おい、サトウカズマはいるか!?」

 

 

カズマが閉じ込められてから数時間後、突如セナがカズマがいる牢屋へやって来た。

 

 

「はいはい、サトウカズマは逃げも隠れもせず、ここにいますよ。ところで、どうしてそんなに慌てているんですか?」

 

 

「どうしたもこうしたもあるか!貴様の仲間と名乗る者たちが署の前に集まっているのだ!自分たちが何を言っても『カズマを返せ』の一点張りで、中には魔法を撃とうとしている奴もいるのだ!貴様の仲間なら、何とかしたらどうだ!?」

 

 

「んな事言われても、俺がその場に行かなきゃどうしようも無いんじゃありませんか?」

 

 

カズマは理不尽なことを言われ、正論で返す。

 

 

「ぐっ…、仕方ない。今だけ釈放する、くれぐれも妙な真似はしないことだな」

 

 

セナは牢屋を開け、カズマを出すと、そのままカズマを連れて署の前まで移動した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマを返せ!」

 

 

『カズマを返せ!』

 

 

「だから何度も言ってるだろう!今はサトウカズマとは面会出来ないと!」

 

 

「ふざけるなっ!カズマがどんな冤罪を受けているのかこっちは知ってるのよっ!とにかくカズマを返せ!」

 

 

警察署の門前ではめぐみんとクリスを筆頭にパーティーメンバー全員が集まっていた。

 

 

「早くカズマを解放しなさい。さもないと、あなたたちの後ろにある建物に爆裂魔法を撃ち込みますよ?」

 

 

「止めなさい!」

 

 

署の正面玄関口から出て来たセナが止めに入るも、めぐみんは有言実行と言わんばかりに魔力を込め始めた。

 

 

「はいはい、めぐみんストップ」

 

 

すると、めぐみんは誰かに抱き締められた。

 

 

「この声…、この温もり…、この心臓の音…。カズマですか?」

 

 

「その通り、めぐみんが愛するカズマですよ」

 

 

めぐみんを抱き締めたのはカズマだった。カズマはセナが正面玄関口から出たと同時に『潜伏』スキルを発動させ、密かにめぐみんの側まで移動したのだった。

 

 

「カズマ…」

 

 

めぐみんはカズマに頭を押し付けると、カズマはめぐみんの頭を優しく撫でた。

 

 

「すまないカズマ君、皆を抑えることが出来なかった」

 

 

すると後ろからキョウヤが現れたが衣服が所々破れたり汚れてしまっている所を見ると、どうやらその身を挺して皆が暴走するのを抑えていたようだ。

 

 

「気にするなキョウヤ、その様子だと相当頑張ったようだな。アスタ、キョウヤにヒールを掛けてやってくれ」

 

 

アスタはカズマに言われた通り、キョウヤにヒールを掛け、キョウヤの体は回復した。

 

 

「セナさん、カズマ君は王国への反逆など企てたりはしません!ましてや魔王軍の手の者などあり得ません!」

 

 

「そうよそうよ!カズマは寧ろ魔王軍と戦っているのよ!カズマがどんな人なのかも知らずに!」

 

 

キョウヤとアスタを筆頭にパーティーメンバー全員が次々に訴える。

 

 

「静かにしないかっ!我々に楯突くなら、貴様らも国家転覆罪で逮捕するぞ!」

 

 

「やってもらいましょうか、私はカズマと一緒なら例え牢屋だろうが地獄だろうが何処でも行きますよ」

 

 

「あたしだってそうよ!」

 

 

セナが脅してもめぐみんとクリスはカズマに抱きつき、頑なに離れようとはしなかった。

 

 

「……はぁ、仕方ない。この暴動を静めるにはサトウカズマが戻らねばならないようだな。サトウカズマ、今日は屋敷へ帰っても良い、明朝改めて聴取するので逃げも隠れもしないように」

 

 

セナはそう言って兵士たちを連れて署内へと入っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマが逮捕された翌日、宣言通りセナが屋敷に訪れ、カズマはリビングに通した。

 

 

「セナさん、遥々お疲れ様です。良ければ紅茶をどうぞ」

 

 

「すまない…、ほぅ?美味しいな。まるでローズティーみたいな香りと味だ」

 

 

セナは出された紅茶を一口啜ると、その旨さに驚いた。

 

 

「『紅茶ンバラ』と呼ばれる薔薇から抽出した紅茶です」

 

 

「聞いたこと無い薔薇の名前だな?」

 

 

「それは企業秘密と言う事で。…それで、聴取は何時から?」

 

 

カズマはセナが来訪した目的を訪ねると

 

 

「そうだな、今やろう」

 

 

セナは鞄からベルと紙と羽根ペンとインク瓶を取り出し、テーブルに置いた。

 

 

「これは"真偽の鐘"と言って、嘘を付くと鳴るようになっている。くれぐれも嘘は吐かないようにな」

 

 

「では…、サトウカズマ16歳、冒険者…、出身地と冒険者になる前は何をしていた?」

 

 

「出身地は"日本"と言う所で、冒険者になる前は学生と言うのをしていました」

 

 

カズマは正直に答えると、ベルは鳴らなかった。

 

 

「出身地、経歴に嘘は無し…。では冒険者になった動機は?」

 

 

「日本からこの"世界"に来る時に女神様から『魔王を倒して欲しい』と頼まれて、それで自分が持つ能力(ちから)を十分に発揮できるのが冒険者だったので」

 

 

ベルは鳴らなかった。

 

 

「動機も嘘は無し…、では次に「ちょっと待ってください」…何だ?」

 

 

「そういう回りくどいことは止めませんか?正直に質問して下さい、『貴様は魔王軍の手の者なのか?』と。もちろん答えは『いいえ』ですが」

 

 

ベルは鳴らなかった。

 

 

「…鳴らない。……どうやら自分が間違っていたようですね…。あなたに関しては良い噂しか聞かなかったので…、申し訳ありませんでした」

 

 

セナは立ち上がると頭を下げた。

 

 

「…頭を上げてください。それで国家転覆罪に関してなのですが…、どういった経緯で?」

 

 

「……この街の"領主"があなたの…、その……、"オークのような姿"を偶然にもデストロイヤー襲撃の時に見られたらしく…」

 

 

カズマはセナに質問をし、セナが答える。セナの答えにベルは反応しなかった。

 

 

「領主が…ですか。因みにどんな風に聞かれたのかお答え頂いても?」

 

 

「構いません。領主が言うには"あれは人では無い!モンスターだ!"と…」

 

 

セナの答えにカズマは頭を抱えた。確かに響鬼は端から見たらモンスターに見えなくもない。実際にキョウヤと戦った時にフィオとクレメアから『オークみたいな姿』と言われたのだ。

 

 

「それで…、つかぬことをお聞きするのだが…、何故そのような姿に?」

 

 

「話せば長くなるのですが…」

 

 

カズマは自身の身に起きたことを包み隠さずセナに話した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……と言う事なんです」

 

 

「何と言うか…、理解が追い付かないです」

 

 

セナは目眩がしたのか、眼鏡を外して目頭を押さえた。

 

 

「まあ無理に理解して頂かなくても結構ですよ?」

 

 

「申し訳ありません、今日の所はこれで…」

 

 

セナは疲れた様子で荷物を纏め、帰っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「サトウ…カズマ、殿…」

 

 

カズマの取り調べが行われた翌日、セナが目の下に隈を作った状態で来訪した。

 

 

「セナさん、どうしたんですか!?」

 

 

この日カズマは庭の掃除をめぐみんとクリスの三人で分担して行っていたため、セナの異変にいち早く気づいたのだった。

 

 

「昨夜、仕事を終えて眠ったら声が聞こえたのです。『これ以上お兄ちゃんをいじめないで。もしまだいじめるなら、許さないから』って…。それから寝付けず…」

 

 

「あ~、クリス?」

 

 

「そう言えば、昨日彼女は見なかったよ」

 

 

カズマはクリスにアンナのことを聞くと、クリスからは意外が答えが返ってきた。

 

 

「アンナって地縛霊のはずですよね?なぜこの屋敷から離れてこの人の所へ?」

 

 

「多分だけど…、カズマはよくアンナのお墓を掃除してくれてるし、果実酒をお供えしたり冒険譚も話してくれているから、カズマがいなくなったらあたしたちもいなくなると思って警告したんじゃないかな?地縛霊が屋敷から離れられた理由は分からないけど」

 

 

めぐみんの疑問にクリスは仮説を立てた。

 

 

「…幽霊にも愛されているあなたが、魔王軍の手の者とは思えませんね。今回の罪状ですが、自分たちの方で取り下げるよう進言します」

 

 

セナはカズマに掛けられている罪を取り下げると言った。

 

 

「でも、それだとあの領主が黙っていないのでは?」

 

 

「確かにあの領主なら何が何でも、あなたを死刑にしたがるでしょう。ですが今後のあなたの活躍次第では、その訴えを退けることも出来ましょう」

 

 

カズマの疑問にセナは肯定しながらも打開策を示した。

 

 

その後、カズマに掛けられた国家転覆罪は取り下げられたことをセナ自身がカズマに伝え、カズマは平穏な日々を手に入れるのだった。

 

 

 




『紅茶ンバラ』


茎が異様に固い薔薇で、その茎を使ったチャンバラ大会が開かれるほど。


葉と花びらは乾燥させると、とても美味しいローズティーになる。


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第16話

 

 

カズマの罪状が取り下げられてから数日後、屋敷に王国検察官のセナがまた訪れた。

 

 

「紅茶をどうぞ、この前のローズティーではありませんが」

 

 

「ありがとうございます」

 

 

セナは出された紅茶を一口啜る。

 

 

「それで…、遥々お越し頂いた理由は?まさかまた…」

 

 

「いえ、国家転覆罪に関してはギルドの方々の協力もあって、もうその罪は無くなりました。伺った要件なのですが…」

 

 

セナが言うには、冬にも関わらず冬眠中だったジャイアントトードが何かに怯えるように地面から這い出しているとのこと。

 

 

「それで報告を聞けば、ここ数日、爆裂魔法を連発している者がいるとか…」

 

 

「あぁ~、確かにここ最近、カエルがいないのを理由に、街の周辺で爆裂散歩に行っていましたね」

 

 

カズマはめぐみんと共に爆裂魔法を撃つ日課のことを伝えた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「くっ…、何か今回は異様に数が多いなっ!」

 

 

カズマは屋敷に残っていためぐみんとアスタ、それとカズマの動向を見たいと言ったセナの四人でカエルの駆除をしていた。

 

 

因みにテイラーたちは武器や防具を新調するために出掛けており、クリスも天界での用事、ダクネスも実家へ、キョウヤたち三人は王都に用事があるらしく、昨日出発していた。

 

 

カズマは音角剣でカエルを倒していたが、数が減る気配は無く、寧ろ増える一方だった。

 

 

「こうなったら我が爆裂魔法で…」

 

 

「止めろっ!今爆裂魔法を撃てば更に数が増える!めぐみんの爆裂魔法は"最後の切り札"なんだから、散らばってる時に撃たないでくれ!」

 

 

「カズマっ!このままじゃ囲まれちゃうよ!どうするの!?」

 

 

めぐみんが爆裂魔法を撃とうとした所をカズマが静止させると、アスタが自分たちの周辺にカエルが集まり出していることを伝える。

 

 

「こうなったら…、めぐみん、バッグを頼む!」

 

 

カズマは音角剣を元の音角に戻し、バッグから烈雷を取り出し、バッグをめぐみんに預けた。

 

 

「『音撃道・弦』!」

 

 

《弦・ゲン・ゲーン!》

 

 

そしてカズマは音角を鳴らし、響鬼(弦)に変身した。

 

 

「あれは…」

 

 

「カズマが変身した姿です。ミツルギが言っていましたが、あの姿は"カメンライダーヒビキ"と言うそうです」

 

 

「カメン…ライダー…、ヒビキ」

 

 

めぐみんの説明にセナは呆然とした。

 

 

響鬼に変身したカズマは烈雷を振り回し、次々にカエルを屠る。

 

 

「きゃあ~っ!!」

 

 

「っ!?めぐみん!アスタ!セナさん!」

 

 

するとアスタの悲鳴が聞こえたと思った途端、めぐみんたちがカエルに囲まれていた。

 

 

「(どうする!?今助けに行っても一人は確実に喰われる!三人を無事に助け出すにはどうしたら…)」

 

 

カズマはどうすればめぐみんたちを無傷で助け出せるか考えていると

 

 

『ライト・オブ・セイバー!』

 

 

光の刃がカエルを一刀両断した。

 

 

『エナジー・イグニッション!』

 

 

更にめぐみんたちの周辺にいたカエルが次々に発火し、絶命する。

 

 

「誰だか知らんが、とにかく助かった!オリャッ!!」

 

 

カズマはめぐみんたちが無事でいることを確認すると、自分の周辺に集まったカエルを悉く切り伏せ

 

 

「これで最後だ!『音撃斬・雷電激震』!」

 

 

烈雷をカエルの腹に突き刺し、音撃モードにした烈雷を鳴らす。そしてカエルは爆散した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「めぐみん!アスタ!セナさん!大丈夫か!?」

 

 

顔だけ変身を解いたカズマがめぐみんたちの下へ駆け寄る。

 

 

「私は大丈夫です、アスタも彼女も無事です」

 

 

めぐみんはカズマに抱きつきながら答えると、カズマは安堵したのか、めぐみんの頭を撫で始めた。

 

 

「ところで、さっきの魔法は誰が?」

 

 

「先程使われたのは"上級魔法"です。それと、その上級魔法を使ったのは彼女のようです」

 

 

セナが視線を向けた先には、紅い瞳の女の子がいた。

 

 

「さっきは助けてくれてありがとう、俺一人じゃ対応し切れなかったから」

 

 

「い…、いえ。助けた訳じゃないですから。ラ…ライバルがカエルなんかにやられたりしたら私の立場がないし…」

 

 

女の子はめぐみんをチラチラ見ながら言い淀む。

 

 

「めぐみん、知り合いか?」

 

 

「知り合いと聞かれればそうですね、彼女は"ゆんゆん"と言って私と同じ紅魔族で友人です。それと彼女の自称ではありますが、私のライバルだとか」

 

 

めぐみんはゆんゆんをカズマたちに紹介した。

 

 

「何やら積もる話もあるでしょうし、自分はこれで失礼します。サトウカズマさん、もしかしたら今回のような事をまた依頼するかもしれませんが、その時はよろしくお願いします」

 

 

セナは空気を読んでか、その場を去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…で、ゆんゆん。あなた性懲りも無くまた勝負を挑むつもりですか?」

 

 

「も…もちろん!あなたに勝つまでは族長の椅子には座らないって決めてるもの!」

 

 

カズマとアスタはゆんゆんが言った"族長の椅子"と言うフレーズを聞いて首を傾げた。

 

 

「そう言えば言ってませんでしたね、ゆんゆんは私たち紅魔族の長の娘なんです。それで紅魔の里にある学園では私が1位でゆんゆんが2位でしたので、事あるごとに勝負を挑まれまして…」

 

 

「よく私のお弁当を巻き上げられました…」

 

 

カズマとアスタはゆんゆんに可哀想な眼差しを送った。

 

 

「私の家は貧乏なので、ゆんゆんのお弁当が生命線だったのです。今となっては良い思い出です」

 

 

「おかげで私はいつもお腹ペコペコだったよ…、ってそんな思い出話をしに来たんじゃないわよ!めぐみん、勝負よ!」

 

 

「勝負は受けますが、場所を変えませんか?寒いですし」

 

 

「そうだな、勝負は場所を変えてやろうか」

 

 

カズマはめぐみんの提案を受け入れ、ゆんゆんを誘う。ゆんゆんもめぐみんの提案を受け入れた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それじゃ、勝負の内容は"コレ"で」

 

 

屋敷に到着したカズマ一行は、ゆんゆんを招き入れ、リビングに入ると、カズマはバッグからボードゲームを取り出した。

 

 

「何ですか?これ」

 

 

「懐かしいな、"リバーシ"か」

 

 

めぐみんがカズマに質問をすると、横からキョウヤが顔を覗かせた。

 

 

「おっ、キョウヤじゃないか。お帰り、フィオとクレメアは?」

 

 

「ただいま、カズマ君。二人はお風呂に向かってるよ。…ところで、彼女は一体?」

 

 

キョウヤはゆんゆんに視線を向けると、ゆんゆんはおどおどしながら縮こまった。

 

 

「彼女はゆんゆんと言って、めぐみんの友達なんだって」

 

 

するとアスタがカズマの横から答えた。

 

 

「なるほど…、僕はミツルギキョウヤ。彼、カズマ君のパーティーのメンバーの一人さ。よろしく」

 

 

「よ…よろしくお願いします……」

 

 

キョウヤはゆんゆんに自己紹介をしながらお辞儀をすると、ゆんゆんは挨拶しながら更に縮こまった。

 

 

「あれ…?」

 

 

「気を悪くしたのであれば、ゆんゆんの代わりに私が謝ります。ゆんゆんは昔から、紅魔族以外の人の前では緊張してそうなってしまうのですよ」

 

 

ゆんゆんの態度を見たキョウヤは首を傾げると、めぐみんがゆんゆんのフォローをした。

 

 

「そうだったのか…。ところで、二人はこれの遊び方知ってる?」

 

 

カズマがめぐみんとゆんゆんに質問すると、二人は首を横に振った。

 

 

「ならお手本を見せようか。キョウヤ、悪いが相手を頼む」

 

 

「いいよ、僕もやりたかったしね」

 

 

キョウヤはカズマと向かい合わせになるようにテーブルを挟む形で座った。

 

 

「リバーシはこの片面が黒、もう片面が白の石を使うんだ。まず最初に、石を二個ずつこうやって配置する」

 

 

カズマは黒、キョウヤは白を表にした手持ちの石を二個ずつ、×の字になるように中央の4マスに配置した。

 

 

「これで準備完了っと。キョウヤ、今回は遊び方の説明だから、俺が先攻でいいか?」

 

 

「構わないよ。あっ、二人とも、先攻は黒、後攻は白ってルールだから、そこは変えちゃ駄目だからね」

 

 

キョウヤはめぐみんとゆんゆんにルールの一つを教え、二人は頷いた。

 

 

「それじゃ俺が先攻だから…、ここ」

 

 

カズマは白の石を挟み込むように黒の石を置き、白の石をひっくり返した。

 

 

「こうやって挟み込むように石を置くと、ひっくり返すことができるんだ。因みに石を置けるのは一回まで、一回置いたら次は相手が石を置く。それを交互に繰り返すんだ」

 

 

今度はキョウヤが白の石を置き、ひっくり返す。そしてカズマが石を置き、ひっくり返す。

 

 

「…あれ?斜めもひっくり返すことができるのですか?」

 

 

カズマが石を斜めに挟んだ状態でひっくり返した時にめぐみんが質問をした。

 

 

「そう、リバーシのルールでは『縦、横、斜め』のどちらかで挟むことができればいいんだ。それと、もしひっくり返すことができない場合は自動的に相手の番となる。そして最終的に自分の石の色が多い方が勝ちとなる」

 

 

めぐみんの質問にカズマが答え、ゲームは進んでいった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…ほい、これで終わり」

 

 

カズマが最後の石を置き、ひっくり返す。

 

 

「……この様子だと、数える必要は無さそうだね」

 

 

キョウヤの言う通り、36マスあるボードの上はほぼ黒一色だった。

 

 

「…白が10、黒が26。カズマの勝利ですね」

 

 

「だな。いや~久々に熱中したな、対戦相手ありがとうキョウヤ。良い勝負だった」

 

 

「次は負けないよ、カズマ君」

 

 

二人は立ち上がって互いの健闘を称えるように握手をした。

 

 

「ではこの勝負は私の勝ちと言う事で」

 

 

「ちょっと待って!なんでめぐみんの勝ちになるの!?」

 

 

「カズマと私はもはや一心同体と言っても過言ではありません。カズマの勝利は私の勝利」

 

 

ゆんゆんの疑問にめぐみんはさも当然と言わんばかりに言った。

 

 

「…えっ?一心同体?どういうこと?」

 

 

「私とカズマは結婚を約束した関係です。恥ずかしいので言わせないでください」

 

 

めぐみんはカズマに抱きつきながら言うと

 

 

「う…嘘よっ!?お子ちゃま体型のめぐみんに恋人なんて~っ!!」

 

 

ゆんゆんは叫びながら屋敷を飛び出して去ったのだった。

 

 

「お子ちゃまって…、私はあなたと同い年ですよ?」

 

 

「同い年って、めぐみんは今何歳だよ?」

 

 

「私が13で、ゆんゆんが14です。ですが来月で14になりますので、私とゆんゆんは同い年になります」

 

 

カズマはめぐみんの誕生日が近いことに驚いた。

 

 

「めぐみんの誕生日って来月なのか!?ならパーティーを開かなくちゃな!」

 

 

「別にいつも通りで良いですよ。でも、少し豪勢なご飯を…」

 

 

めぐみんが言い切る前にカズマはキョウヤを連れてリビングから出ていってしまい、めぐみんのささやかな願いは聞き入れられなかった。

 

 

その後カズマとキョウヤから聞いたのか、アスタとフィオとクレメアの三人がめぐみんに誕生日が何日なのかを聞きに来たので、めぐみんが正直に答えると、三人でこそこそ話し、その場を去った。

 

 

三人の行動が何を示すのか、めぐみんはさっぱり分からず、首を傾げていた。

 

 

 



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第17話

 

 

めぐみんの友人である紅魔族のゆんゆんと出会った翌日、カズマはめぐみんと昨夜帰って来たクリスの二人を連れてデートをしていた。

 

 

「安いよ安いよ~!お姉ちゃん、一本どうだい?」

 

 

この日はちょうどお祭りなのか、屋台が出ており、普段よりも賑わっていた。そしてちょうど串焼きの屋台を通り過ぎようとした所で、屋台を見つめる一人の女の子の姿を見つけた。

 

 

「よう、確か…ゆんゆんだったよな」

 

 

「あ……、えっと…カズマ…さん」

 

 

「そう言えば、ちゃんと自己紹介してなかったな。俺はサトウカズマ、この始まりの街"アクセル"に住む冒険者だ。よろしく」

 

 

カズマはゆんゆんに自己紹介をしていなかったことを思いだし、自己紹介をする。

 

 

「へぇ~、この子が昨日話していたゆんゆんちゃんなんだね。あたしはクリス、見ての通り盗賊だよ。そんでもって、カズマの恋人の一人で~っす!」

 

 

クリスもゆんゆんに自己紹介をすると

 

 

「えっ?恋人…?」

 

 

ゆんゆんはカズマにめぐみん以外の恋人がいることに疑問を持った。

 

 

「ゆんゆん、昨日言い忘れたのですが、カズマは私の他にもう一人、こちらのクリスとも恋人になっているのです。それと、カズマのことを優柔不断とは思わないで下さい、カズマは私とクリスに二人同時に告白していますし、私たちも互いの気持ちを知って、今の関係になっているのですから」

 

 

「えぇっ、そうなの!?」

 

 

「そうなんだよね、あたしとめぐみんは教会でカズマに同時に告白されたんだ~。あの時は嬉しかったな、カズマはめぐみんを選ぶと思っていたのに、まさかあたしにも告白してくれるなんて…えへへ~」

 

 

クリスはカズマの腕に抱きつきながら頬を朱色に染めた。

 

 

「ほえ~、三人とも相思相愛なんですね」

 

 

「それほどでも…あるけどな。ところで、あれ買わないのか?」

 

 

カズマは露店を指差す。

 

 

「カズマ、紅魔の里にはこう言った露店は無いので、恐らくは買い方を知らないのでは?」

 

 

「そういうことか。おっちゃん、串焼きを三本セットで"4つ"くれ!」

 

 

「あいよ!一本1000エリスだから、1万2000エリスね。ところで兄ちゃん冒険者かい?最近、近くのダンジョンに妙なモンスターが出るらしいから気をつけなよ?何でも動く物を見かけると、くっついて自爆するとか何とか」

 

 

カズマは露店の主に串焼きを注文し、金を支払う。主は串焼きを用意しながら最近聞いた噂をカズマに教えて、串焼きを渡した。

 

 

「ありがとう、注意しとくよ。串焼きサンキューな!」

 

 

「毎度!また寄ってくれよ!」

 

 

カズマはめぐみんたちを連れて、主に手を振りながらその場を離れた。

 

 

「ほい、これはめぐみんの分で、こっちはクリス。んでもって…これはゆんゆんの分」

 

 

「えっ…?良いんですか?」

 

 

「昨日今日と会えたのも、何かの縁。俺としてはめぐみんの友達と仲良くしたいからな」

 

 

カズマはめぐみんとクリス、そしてゆんゆんに串焼きを配ると、ゆんゆんは戸惑うが、カズマは笑いながら串焼きを差し出した。

 

 

「ゆんゆん、早く受け取って下さい。因みにお金は不要です、それはカズマの好意であり、あなたがそれの対価としてお金を渡すと、カズマの好意を無下にすることになりますから」

 

 

めぐみんに言われ、ゆんゆんは取り出そうとした財布を引っ込め、串焼きを受け取った。

 

 

「……美味しい」

 

 

ゆんゆんは受け取った串焼きを一つ頬張ると、その美味しさに感動した。

 

 

「いつもカズマの料理で舌が肥えていると思ったのですが、こういった料理も捨て難いですね」

 

 

「俺の料理を褒めてくれてありがとよ。でも本職にはまだまだ敵わないぜ」

 

 

カズマたちが串焼きを食べ歩きをしていると、ちょうど目の前に射的の屋台があった。そしてゆんゆんは棚に並んでいる景品の一つを見つめていた。

 

 

「……おっちゃん、一回頼む。"狙撃"スキルは使っちゃダメ?」

 

 

「ダメダメ!"狙撃"スキルと職業が『アーチャー』はお断りだよ!(あん)ちゃん、職業は『アーチャー』じゃねえよな?」

 

 

「ああ、俺の職業は『冒険者』だ。ほら、証拠のカード」

 

 

カズマは冒険者カードを主に見せた。

 

 

「……確かに、『アーチャー』じゃねえな。んじゃ一回500エリスだ、それと、"狙撃"スキルは使うなよ?」

 

 

カードを返してもらったカズマは、狙いを定め、矢を放つ。すると矢は寸分の狂いも無く、ゆんゆんが見つめていた冬将軍の人形に当たり、台から落ちた。

 

 

「やるねぇ兄ちゃん、!ほら、景品だ」

 

 

「ありがとう。ほらゆんゆん、これ欲しかったんだろ?」

 

 

カズマは受け取った人形をゆんゆんに渡した。

 

 

「あの、ありがとうございますっ」

 

 

ゆんゆんは男性なら見惚れる笑顔をカズマに向けた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、ゆんゆんばかりは不公平と言わんばかりにめぐみんとクリスが射的の景品をおねだりしたので、カズマは景品を取り、その場を去ったのだった。

 

 

「ありがとうございます、カズマ」

 

 

「烈風とは使い勝手が違うのに、よく当てれたね」

 

 

「キースから弓矢の使い方を教わっていたからな」

 

 

めぐみんはカズマに感謝の言葉を送り、クリスはカズマが弓矢を使えることに感心していると、カズマはパーティーメンバーの一人に教わったことを話した。

 

 

「おりゃあ!!」

 

 

ガンッ!!

 

 

「ぬあ、いででっ…」

 

 

『ハイ!このお兄さんも無理でしたー!さあ、次の挑戦者はいませんか!?伝説の鉱石"アダマンタイト"!見事"一撃"で破壊できたら高額賞金ゲット!参加費は一万エリス!魔法を使っても構いません!お客さん一人失敗するごとに五千エリスが賞金に上乗せされます!』

 

 

すると人だかりが見えたので覗いて見ると、屈強そうな男がハンマーで鉱石を破壊しようとしたが、鉱石の方が固かったのか傷一つつかなかった。

 

 

「ほう…、アダマンタイト砕きですか」

 

 

「アダマンタイトって、結構レアな鉱物だから、見るだけでも価値はあるよ」

 

 

めぐみんたちは人混みを掻き分けて見物することにした。

 

 

『あー残念!このお客さんも無理でしたか!この街の冒険者の方々には荷が重かったでしょうか!?機動要塞デストロイヤーをも倒したと聞き、わざわざやって来たのですが!!』

 

 

「…めぐみん、行けるか?」

 

 

「我が爆裂魔法なら破壊することは可能ですが、もし街中で撃てばこの辺り一帯が大惨事となってしまうでしょうね」

 

 

カズマはめぐみんに質問をすると、めぐみんは可能と言うが、周囲への被害も考えて発言した。

 

 

「確かにめぐみんの爆裂魔法は周囲にも影響を及ぼす…、クリスも一撃であの固い鉱物を破壊する力は無い…、ゆんゆんの上級魔法なら行けると思うが…」

 

 

「そんなっ、無理ですよっアダマンタイトなんて!爆裂魔法とまではいかなくても、爆発魔法とか、炸裂魔法と言った爆発系魔法じゃないと…」

 

 

ゆんゆんは自分では無理と言った。

 

 

「…と、なると」

 

 

「残るは…」

 

 

クリスとめぐみんは同時に一人の男の顔を見る。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『さあ次の挑戦者はこのお兄さんだ!』

 

 

「あはは…、どもども」

 

 

カズマは音撃棒・烈火を持ってアダマンタイトの前に立っていた。

 

 

「やれやれ…、行くぜ。『音撃道・打』!」

 

 

《打・ダーン!》

 

 

「「ボヨヨンボヨヨン」」

 

 

「えっ…めぐみん?今の何?」

 

 

「気にしないで下さい」

 

 

「そうそう、気にしたら負けだよ」

 

 

カズマが音角に音声入力をし、音角がモード音声を流す。するとめぐみんとクリスは胸を揺らす動作をしたので、ゆんゆんが質問をすると、めぐみんとクリスは気にしないように言った。

 

 

その間、カズマは響鬼に変身しており、音撃鼓・爆炎火炎鼓をアダマンタイトにセットしていた。

 

 

「音撃打・一気火勢(いっきかせい)!」

 

 

カズマは力を溜めた烈火をその名の通り、一気に振り下ろし、爆裂火炎鼓を叩いた。するとアダマンタイトは音撃に耐えられなかったのか、爆散した。

 

 

『きっ…、決まった~~っ!!誰もが壊せなかったアダマンタイトを壊したのはこの人だ~~っ!!』

 

 

ワアアァァァ~~ッ!!

 

 

「やりやがったぜカズ坊!」

 

 

「流石魔王軍の幹部やデストロイヤーを倒した英雄なだけはあるぜ!」

 

 

観客はカズマがアダマンタイトを破壊したことに大いに湧いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「流石だねカズマ」

 

 

「力を溜めるのがネックだが、威力は十分だからなあの技は」

 

 

相当な人数ご挑戦していたのか、カズマが受け取った金額は数十万エリスになっていた。

 

 

「そう言えば、ゆんゆんってめぐみん以外に友達っているのか?」

 

 

カズマの質問にゆんゆんは言葉を詰まらせた。

 

 

「カズマ、ゆんゆんは私以外に友達と呼べる人はいません」

 

 

「なっ…、ちゃんといるもん!"ふにふら"さんとか、"どどんこ"さんとか…」

 

 

「それはあなたが"ご飯を奢るから"と言って、着いていっただけです。それは厳密には友達とは言えません」

 

 

めぐみんとゆんゆんのやり取りを見ていたカズマとクリスは困惑した表情をした。

 

 

「つまり、ゆんゆんは紅魔の里では唯一の"常識人"なので、里では浮いてしまっていたのです。まあ、私もどっちかと言えば里の皆寄りですが」

 

 

めぐみんはもじもじしながら顔を背けた。

 

 

「そ…、そうだったんだ。……ねえカズマ」

 

 

「クリス、そこなら先は言わなくても良い。多分同じ事を思ったはずだ」

 

 

クリスはカズマの顔を見ながら何かを言おうとしたが、カズマに止められた。

 

 

「なあゆんゆん、もし君さえ良かったらなんだが…。俺たちと"友達"にならないか?」

 

 

「……えっ?」

 

 

「そうそう!あたしたちと友達になって、一緒のパーティーに入れば、寂しい思いはしなくて済むよ!」

 

 

カズマとクリスはゆんゆんをパーティーに勧誘した。

 

 

「……めぐみん」

 

 

「そこから先はあなたが決めることです、私はその事に関して一切口出しはしません。…まあ、あなたが入ってくれれば、私としても大助かりですが」

 

 

ゆんゆんはめぐみんに助けを求めたが、めぐみんはきっぱりと断った。

 

 

「……こんな私で良ければ、よろしくお願いします」

 

 

ゆんゆんが出した答えは"YES"だった。

 

 

「こちらこそよろしくお願いするよ、ようこそゆんゆん。我がパーティーへ」

 

 

カズマとめぐみんもクリスはゆんゆんに手を差し出した。ゆんゆんはその3つの手を見ながら

 

 

「…はいっ!不束者(ふつつかもの)ですが、よろしくお願いしますっ!」

 

 

カズマたちの手を握った。

 

 

「その言葉はお嫁に行く時の言葉ですよ、ゆんゆん」

 

 

「そうだよ!いくらパーティーに加わったとは言え、カズマはあたしとめぐみんの旦那様なんだから!」

 

 

「ふええっ!?」

 

 

言葉を間違えたゆんゆんにめぐみんが訂正を促し、クリスはゆんゆんを威嚇し、ゆんゆんはオロオロしてしまい、カズマはそんな様子を笑いながら見ていたのだった。

 

 

 



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第18話

 

 

ゆんゆんがカズマパーティーの仲間入りを果たしたその日の夕方、カズマはゆんゆんを紹介するべく屋敷に招待し、ダクネスを除く全員にゆんゆんを紹介した。

 

 

ゆんゆんは見た目の通り可愛らしいので、カズマとキョウヤを除く男性全員がゆんゆんに一目惚れした。が、男性陣の視線が怖かったのか、カズマの後ろに隠れてしまい、カズマは男性陣の嫉妬の視線を受ける羽目になってしまった。

 

 

無論、めぐみんとクリスがそれを許すはずも無く、クリスが『拘束(バインド)』で拘束し、屋敷からある程度離れた所で、めぐみんの『爆裂魔法(エクスプロージョン)』の餌食にしたのは言うまでもない。

 

 

「さて、俺は料理に向かうけど、めぐみん手伝ってくれるか?」

 

 

「いいですよ」

 

 

「私も手伝うわよ」

 

 

「私も」

 

 

カズマはクリスにおんぶされて戻って来ためぐみんにドレインタッチをしならが料理の手伝いをお願いすると、めぐみんは了承し、更にはアスタとフィオの二人も手伝いを申し出た。

 

 

「了解、それじゃクリスはクレメアとリーンゆ連れてゆんゆんに屋敷を案内してやってくれないか?」

 

 

「了解!ゆんゆん、行こう?」

 

 

クリスはゆんゆんに手を差し伸べるが、ゆんゆんはその手を取ろうとはしなかった。

 

 

「カズマ、もう大丈夫です。それと、ゆんゆんの案内は私がしましょう」

 

 

「…あっ、そうか。それじゃクリスは俺たちを手伝ってくれるか?」

 

 

「あっ、うん」

 

 

カズマはゆんゆんがめぐみん以外にはコミュ障だったのを思い出し、ゆんゆんの案内をめぐみんにお願いし、代わりにクリスを自分の手伝いをするようお願いした。

 

 

「ではゆんゆん、まずは宿にあるあなたの荷物を取りに行きましょう。カズマの提案でパーティーメンバーは全員、この屋敷に住んでいますので、ゆんゆんもこれからこの屋敷に住んでもらいます。屋敷の案内はその後と言うことで」

 

 

めぐみんはリーンとクレメアを連れてゆんゆんが借りている宿へと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さあ出来たぞ!召し上がれ!」

 

 

『いただきます!』

 

 

カズマたちが作った料理がテーブルに所狭しと並び、めぐみんたちは手を合わせて合掌した。

 

 

「今日の料理は『骨無しサンマの姿焼き』に、『ストライプサーモンとアーモンドキャベツのホイル蒸し』、『白雪鮎(しらゆきあゆ)の塩焼き』だ!」

 

 

カズマが料理の説明をするが、ゆんゆん以外全員が説明そっちのけで料理を食べていた。

 

 

「それはさておき、カズマ、女性陣以外のメンバーには何か仕事を?」

 

 

「ダストとキースは先に風呂に入ってもらったよ。汚い格好のままじゃ、飯が不味くなるからな。テイラーとキョウヤにはアンナのお墓を掃除したり、果実酒と人形のお供え、冒険譚を話してもらったよ」

 

 

めぐみんがカズマに男性陣について質問をすると、カズマは淡々と答え、その話を聞いていたゆんゆんは食事の手を止めて首を傾げる。

 

 

「あぁゆんゆんにはまだ説明していませんでしたね、実はこの屋敷には"幽霊"が住んでいるのですよ」

 

 

めぐみんの"幽霊"発言にゆんゆんは顔を青ざめた。

 

 

「別に怖がらなくても良いですよ、彼女はいたずら好きのおませな女の子ですが、果実酒や人形、冒険譚が好きで、それらをお供えしたり、話をすれば満足していたずらはしませんから」

 

 

「それでも怖いものは怖いよ!」

 

 

めぐみんがアンナについて説明をするが、ゆんゆんは涙目になって抗議した。

 

 

「ところで、ダクネスはまだ帰って来ていないのか?」

 

 

「そう言えば、ここ最近見てないわね…」

 

 

カズマはふと、今はいないメンバーのことを口にすると、アスタもまた思い出したかのように口にした。

 

 

「とりあえず、もし明日も帰って来なかったら、何処に行ったのか探りを入れるか」

 

 

カズマは明日の行動を決めると、食事を再開した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマが行動を決めてから2日、ダクネスは昨日も帰っては来なかった。

 

 

「た…、大変だ!カズマ大変なんだ!」

 

 

カズマが全員をリビングに呼び出し、今後の予定を言おうとしたその時、豪華なドレスを身に纏ったダクネスが、リビングに駆け込んで来た。

 

 

「……もしかして、ダクネス?」

 

 

リビングにいた全員が最初、『誰だこいつ?』と言った表情をしていたが、クリスだけが乱入者を見破った。

 

 

『えぇっ!?』

 

 

「うむ…、みんな、少しの間離れてしまって申し訳なかった」

 

 

クリスの言葉にゆんゆん以外全員が驚き、ダクネスは謝罪しながら頭を下げた。

 

 

「ねえダクネス、何でそんな高そうなドレスを着ているの?」

 

 

「これには理由があって…、と…、とにかくまずはこれを見てくれ」

 

 

ダクネスが差し出した物を全員が見る。そこにはイケメンが写っていた。

 

 

「誰だこのイケメンのお兄さんは?」

 

 

「…何かムカつくな、カズマ、その写真破っていいか?」

 

 

「駄目に決まってんだろ。なあダクネス、この写真の人は一体誰なんだ?着ている服を見る限り、貴族っぽいけど…」

 

 

キースとダストは写真を破ろうとするが、カズマに止められ、カズマはダクネスに写真の人物は誰なのか質問した。

 

 

「うむ…、そいつはこの街の領主"アルダープ"の息子なのだ」

 

 

『はあ?!』

 

 

ダクネスが写真の人物について話すと、カズマとゆんゆん以外全員が驚いた。

 

 

「あの豚領主の息子?!こいつが!?」

 

 

「全然似てねぇじゃん!」

 

 

「えっと…、アルダープって領主は確か俺を死刑にしたがっていた…」

 

 

「うむ、その領主で間違い無い」

 

 

カズマは記憶の片隅にあった記憶を掘り起こしながらダクネスに質問すると、ダクネスは肯定した。

 

 

「でも、何でその領主はダクネスにこの見合い写真を送って来たんだ?」

 

 

「実は…、カズマの罪を取り下げてもらう時に、私の実家もお願いしに伺ったんだ。その時にアルダープは『私の言う事を聞けば、取り下げてやろう』って言われて…、そしてその要求を飲んだらこの見合い写真を…」

 

 

ダクネスは自身に起きたことをカズマに伝えた。

 

 

「だから何でダクネスの実家がそのアルダープって奴の所に行ってんだよ?さっきから全然わかんねーぞ」

 

 

「あ…ああ、そうか…。しかし…、何から話せばよいものか…。実は…、"ダクネス"と言う名前は偽名で、本名は『ダスティネス・フォード・ララティーナ』と言って…、そこそこ大きな貴族の娘なのだ…」

 

 

『えぇっ!?』

 

 

ダクネスが本名を明かすと、今度はゆんゆんも知っていたのか、カズマ以外全員が驚いた。

 

 

「"ダスティネス"ってこの国の懐刀とまで言われているメチャクチャ大きな貴族の名前ですよ!?そこそこ所ではありませんよ!?」

 

 

「ウェッ!?マジかよ!」

 

 

「しかし…、"ララティーナ"って…プッ(笑)」

 

 

めぐみんがダクネスの実家の大きさを説明すると、カズマは驚いた。そしてダストがダクネスの本名を聞いて笑い出した。

 

 

「笑うなダスト!だから名を明かしたくなかったのだ!とにかく、アルダープは自分の息子と私を結婚させようとしているんだ!」

 

 

「益々わかんねーな、ダクネスが貴族の娘であること、その貴族はかなり有名であることはわかった。でも、何でダクネスを嫁として欲しがるんだ?」

 

 

カズマはダクネスの性癖を知っているので、アルダープがダクネスを欲しがる理由が分からなかった。

 

 

「その…、アルダープは私が幼少の頃から何度も婚姻を申し込んでいて…」

 

 

「幼少の頃から…って、カズマと同じロリコンかよ」

 

 

「……おいダスト、何故俺がロリコン認定されているのか、その辺りハッキリ話し合おうじゃないか(怒)」

 

 

ダストの一言がカズマの逆鱗に触れたのか、カズマは指を鳴らしながら立ち上がった。

 

 

「……逃げるが勝ち!!」

 

 

「逃がすかっ!!」

 

 

カズマの怒りに触れたダストは脱兎の如くその場から逃げる。そしてカズマはダストを追いかけるようにリビングから去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「すまない、話の腰を折ってしまって」

 

 

カズマはロープで簀巻き状態になったダストを引き摺って戻って来た。

 

 

「それは構わんが…、ダストは大丈夫なのか?」

 

 

「コイツ意外に頑丈だったから、ついやり過ぎちまった。アスタ、後でヒールやっといてくれ」

 

 

「り…、了解…」

 

 

アスタは震えながらカズマに敬礼した。

 

 

「さて…、何処まで話したかな…?あぁそうそう、アルダープがダクネスの幼少の頃から婚姻を迫っていた辺りだったな」

 

 

「うむ…、その頃は歳の差を理由に断っていたのだが、やり口を変えたのか、自分の息子と結婚させようとしていて…」

 

 

「恐らくですが、『自分が幾ら婚姻を迫っても断られるのがオチなら、息子と結婚させてしまおう』と企んだのでしょう。もしかしたらですが、ダクネスの両親はこの写真の男を高く評価しているのでは?」

 

 

カズマたちがアルダープがダクネスを欲しがる理由を考えていると、めぐみんが一説を説いた。

 

 

「……その通りだ、父はアルダープの息子"だけ"は高く評価していて、今回の見合い話も乗り気なのだ。しかも、ここ数日頑張って見合いを阻止しようと頑張ったのだが、どうにもならず、今日の昼に見合いをする事になってしまったのだ」

 

 

ダクネスはめぐみんの仮説わー肯定し、見合いの日時を口にした。

 

 

「またえらく急ですね…、カズマ?」

 

 

めぐみんは見合いの日時を聞き、カズマの方を見ると、カズマは顎に指を添えて考えていた。

 

 

「……ダクネス、その見合い、受けたらどうだ?」

 

 

「なっ…、カズマ!私に嫁げと言うのか!?」

 

 

カズマは何かを閃いたのか、ダクネスに見合いをするよう言った。

 

 

「落ち着けダクネス、俺は"見合いを受けろ"とは言ったが、"結婚しろ"とは言ってない。まず事の発端はアルダープが婚姻を持ち掛けたこと、『自分が婚姻を迫っても無理なら、息子の相手にして自分のものにしよう』と考えているはず。だからダクネスの実家の人が"何でも言う事を聞けば"と持ち掛けたんだ」

 

 

「もし見合い事態を断れば、ダスティネス家の面目が丸つぶれだ。だが、今のアルダープの狙いは"結婚"では無くあくまで"見合い"だ。」

 

 

「カズマが何を言いたいか分かりました。カズマは『見合いを受けて、そしてやんわりと断ればダスティネス家の面目を守れる上に、アルダープの願いも叶わない』…と」

 

 

めぐみんはカズマの狙いが何なのか分かり、代弁した。それを聞いたダクネスは目から鱗が落ちたような驚いた顔をした。

 

 

「めぐみんその通り!どうだダクネス、これでも文句はあるか?」

 

 

「いや、有る処か文句の付け所が無い!」

 

 

ダクネスはカズマの狙いに興奮していた。

 

 

「ならカズマ、お願いしたい事があるんだが…」

 

 

ダクネスはカズマに"とあるお願い"を申し出た。

 

 

 



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第19話

 

 

「本当か?ララティーナ!見合いを前向きに考えてくれるとは…」

 

 

「本当です、お父様。ララティーナは此度、このお見合いを受けようかと思いますわ」

 

 

此処はダクネスの実家であるダスティネス家、その一室でダクネスは自身の父である『ダスティネス・フォード・イグニス』に見合いを受けることを話した。

 

 

「それは良かった。…ところで、その四人は?」

 

 

「お初に御目にかかります、私はララティーナお嬢様と一緒に冒険稼業をしております『サトウカズマ』と申します。そして横におりますのは私と同じ仲間で、アークプリーストの『アスタ』、お嬢様のご友人で盗賊の『クリス』、アークウィザードで紅魔族の『めぐみん』です」

 

 

カズマを筆頭にアスタ、クリス、めぐみんの三人は頭を下げた。

 

 

「わたくしの要望で、臨時の執事とメイドとして、同伴をお願いしたのですわ」

 

 

そう、ダクネスがカズマにお願いした事とは、見合いの同伴だった。ダクネスから頼まれたカズマは少し考えると、めぐみんとクリス、そしてアスタの三人を連れて行くことを条件にダクネスのお願いを承諾したのだった。

 

 

「そうか…、君が街で噂になっているカズマ君か。何でも魔王軍幹部のデュラハンを倒したり、デストロイヤー破壊作戦では積極的に指示を出していたりとか…」

 

 

「お恥ずかしい限りです」

 

 

「…うむ、君たちなら娘を任せられそうだ。頼むぞ」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちは一旦着替えるために更衣室へと通された。

 

 

「カズマ様、サイズは大丈夫でしょうか」

 

 

「…はい、大丈夫です。わざわざありがとうございます」

 

 

カズマは執事風の服を身に纏い、更衣室から出てきた。

 

 

「あっ、カズマ!結構似合ってるじゃない」

 

 

どうやら女性陣の方が早かったのか、廊下でアスタたちが待っていた。

 

 

「………」

 

 

「カズマ、どうしたのですか?」

 

 

めぐみんたちのメイド姿を見たカズマはその場で硬直してしまった。

 

 

「多分だけど、めぐみんとクリスのメイド姿を見て見惚れているんだわ。カズマ、そろそろ起きなさい!起きないとこれから"ロリマ"って呼ぶわよ?」

 

 

「それだけはやめろくださいっ!」

 

 

アスタが口走った"ロリマ"と言う言葉にカズマは謝りながら反応した。

 

 

「戻って来て良かったわ。それよりも…、何か言う事は無いかしら?」

 

 

「凄く綺麗だよ、めぐみん、クリス」

 

 

アスタの質問にカズマはめぐみんとクリスの二人に対して答えた。

 

 

「とても嬉しいです、カズマもカッコいいですよ」

 

 

「あたしも。ありがとう、カズマ!」

 

 

「ぶーっ!何で私だけ何も言ってくれないの?」

 

 

めぐみんとクリスは照れながらカズマに感謝し、アスタはぶー垂れていた。

 

 

「いや、アスタのその格好は以前ギルドで似たような格好を見ていたからな。でも、似合ってるぜアスタ」

 

 

「そっ…、そんな直球で言われると…、照れちゃうじゃない…」

 

 

カズマの返答にアスタはもじもじした。

 

 

「それじゃ、そろそろダクネスと合流しようか」

 

 

カズマはめぐみんとクリスとアスタの三人を引き連れてダクネスと合流しようとした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「間もなく相手の殿方が到着する、皆粗相の無い様に。しかし…、お前がお見合いを受けてくれるなんて、本当に嬉しいよ…。アルダープから話を持ちかけられた時は、何事かと思ったが…」

 

 

「嫌ですわお父様、見合いを前向きに考えると言っただけですよ…」

 

 

「ん?そ…それはどういう…」

 

 

ダスティネス家の正面玄関口の絨毯の両横にメイドがズラリと並び、中央にダクネスとイグニスが並ぶ。そしてダクネスの後ろにカズマ、めぐみん、クリス、アスタの順番で控えていると、イグニスがダクネスが見合いを受けることに涙を流していたが、ダクネスの一言で流れていた涙が止まった。

 

 

「そして考えた結果、やはり嫁入りにはまだ早いとの結論に達しました。もう今更遅い!!見合いを受けはしたが、結婚するとは言ってない!ぶち壊してやる、見合いなんてぶち壊してやるぞ!!お父様…、残念でしょうが諦めて下さい」

 

 

「お嬢様、その冒険者の時の口調は謹んで頂きますようお願い致します」

 

 

ダクネスが自身の狙いを暴露した途端、側にいるカズマに嗜まれた。

 

 

「んなっ!?カズマ、裏切るのか!?」

 

 

「裏切るつもりは毛頭御座いません、口調を慎むようお願いしたのです。今は『冒険者のダクネス』では無く、『ダスティネス家のご令嬢、ララティーナ様』であることをお忘れ無く」

 

 

「うぐっ…」

 

 

カズマの言い分にダクネスは言葉を詰まらせた。

 

 

「旦那様、お見えになられましたが…」

 

 

そこにメイドの一人が相手の到着を知らせた。

 

 

「本日はお招き頂きまして有難うございます。アレクセイ・バーネス・バルターと申し…「貴様が見合いの相手か!我が名はダスティネス・フォード・ララティーナ!私の事はダスティネス様と」『ゴインッ!』…は?」

 

 

「申し訳ありません、お嬢様の頭に害虫がおりましたもので…」

 

 

ダクネスが早速見合いをぶち壊そうとした所で、クリスが何故か持っていたトレイでダクネスの後頭部を殴った。

 

 

「……先程は失礼致しました、お嬢様も大変緊張されておりまして…」

 

 

「いえ、構いませんよ。僕もここに来るまでは緊張しっぱなしでしたから」

 

 

ダクネスの変わりにカズマが移動しながらバルターに謝罪すると、バルターも自分も同じだからと許したのだった。

 

 

「あっ」

 

 

「どうされました?ララティーナ様っ」

 

 

「いえ…、ヒールの踵が折れてしまった様で…。バルター殿、お手を借りてもよろしいですか?」

 

 

するとダクネスが急に躓いた。バルターがダクネスに近づき尋ねると、どうやらヒールの踵が折れてしまった様で、ダクネスはバルターに起き上がらせてもらおうと手を差し伸べる。

 

 

だがカズマたちは見てしまった。ダクネスの"何かを企む顔"を。

 

 

「ララティーナ様、大丈夫でしたか?今お助けします」

 

 

カズマはめぐみんにアイコンタクトを送り、めぐみんがダクネスを起き上がらせた。ダクネスも計画が外れてしまったのか、それとも助けてくれたのが同性のめぐみんだったからなのか、何もしなかった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「では改めまして、アレクセイ・バーネス・バルターです。アレクセイ家の長男で、父の領地経営を手伝っております」

 

 

「わたくしはダスティネス・フォード・ララティーナ、当家の細かい詳細は省きますわ。成り上がりの領主息子でも知ってて当然なんでっ!?

 

 

ダクネスが暴走しかけた所をアスタが首をつねった。

 

 

「どうされました?」

 

 

「いっいえ…、何でもありませんわ…」

 

 

バルターがダクネスに質問をすると、ダクネスは何事も無かったよう気丈に振る舞うと、アスタのつねっていた手が離れた。

 

 

「さて、私は席を外させてもらうよ。後は若い者だけで楽しむといい」

 

 

イグニスはそう言って退席し、ダクネスたちは中庭を散歩することになった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

中庭を散歩しているダクネスとバルター。その後ろをカズマたちが付き添うように歩いていた。その途中、アスタが池にいる鯉を調教されたイルカの如く操っていた。

 

 

「ララティーナ様、ご趣味は?」

 

 

「あ…、え…えーと。ゴブリン狩りを小しょうぐふっ!!

 

 

バルターがダクネスに趣味について質問をし、ダクネスが答えると、カズマがダクネスに近寄り、ダクネスの脇腹に肘打ちを喰らわした。

 

 

「……随分と仲がよろしいんですね」

 

 

「そ…そうですのよ?このカズマという執事とは一緒におりますの。食事もお風呂も…、勿論夜寝る時も…」

 

 

バルターがダクネスとカズマのやり取りを見て、仲良さげな事を言うと、ダクネスは何かを思い付いたのか、カズマの手を握り、有ること無いこと話し出した。

 

 

「ご冗談はご遠慮願います。ララティーナお嬢様は人をからかうのが好きでして…」

 

 

カズマは咄嗟にダクネスの手を振り払い、バルターに冗談であることを伝える。

 

 

「……本当に仲がよろしいですね、妬いてしまいますよ」

 

 

「…もう止めだ!こんな事やってられるか!」

 

 

バルターの言葉を聞いたダクネスは、何を思ったのか、着ているドレスの裾を破った。めぐみんとクリスはダクネスがドレスを破る直前でカズマに抱き着き、手で目隠しをした。

 

 

「貴様バルターと言ったな!私と剣で勝負しろ!お前の素質を見定めてやる!!」

 

 

ダクネスはバルターに模擬戦を挑んだのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「勝負はどちらかが音を上げるまで!"こんなのもう無理、お願いこれ以上は許して"と言わせてみろ!そうしたら嫁でも何でも行ってやる!」

 

 

場所を修練場に移動したカズマたち。そしてダクネスはバルターに木剣を渡しながらルールの説明をする。

 

 

「……ララティーナ様、僕は騎士です。訓練とはいえ、女性に剣を向ける事などできません」

 

 

しかしバルターはダクネスの模擬戦を断ろうとした。

 

 

「ふんっ、女性だからと甘く見るのも大概にしてもらおうか!」

 

 

「……分かりました。正直言って僕は、あの父に押しつけられた今回の見合いを断るために来たんです。…でも、あなたを見て気が変わった。どこにでもいる貴族の令嬢とは訳が違う。流石は王国の懐刀の一人娘だ、僕はあなたに興味が湧いた。行きますよララティーナ様!」

 

 

バルターは木剣を構えると、ダクネスに切りかかった。ダクネスも応戦しようとするが、バルターの動きが早かったのか、持っていた木剣が弾かれてしまい、木剣は回転しながら音を立てて落ちた。

 

 

「勝負あり…ですね」

 

 

「(すごいな、あのバルターって人…。剣の腕は一流か…、俺でも今のを防げるかどうか、分からないな)」

 

 

「なるほど…、そこらの軟弱な貴族の御曹司ではないということか。だが、これで終わりではなかろう!女と思って遠慮するなっかまわず打ち込んでこい!!」

 

 

ダクネスはバルターの実力を認めるが、木剣を拾って勝負の続行を臨んだ。

 

 

「流石ですララティーナ様っ、では遠慮なく!」

 

 

先程と同じようにバルターから仕掛けるが、ダクネスは確りと受け止め、つばぜり合いとなる。だが、バルターは素早く移動し、ダクネスの左肩に一撃を与える。

 

 

「ぐっ…!なんのっ、まだまだ!」

 

 

ダクネスは一旦膝を着くが、再び立ち上がってバルターに攻撃を仕掛けた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ダクネスとバルターの模擬戦は続き、ダクネスの体には幾つもの青痣ができていた。

 

 

「……どうした?もう終いか?」

 

 

「な…、も…もういいでしょうっ!勝負は見えている!なぜ諦めないんですか、あなたは!!」

 

 

ダクネスは息が上がっているが、尚も立ち上がろうとする。その姿を見たバルターは何故立ち上がろうとするのか質問する。

 

 

「…私はクルセイダーだ、その私が膝を折り…目の前の脅威に屈してしまったら、誰がか弱き者を守るのだ…!たとえどんなに打ちのめされようと、私は折れない!絶対にだ!!さあ、どうした!?殺す気でかかってこい!!」

 

 

ダクネスは顔を紅潮させながら言い放った。その顔を見たカズマたちは『オイ、顔が緩んでるぞ』と心の言葉が一致した。

 

 

「…参りました、僕の負けです」

 

 

ダクネスの言葉を聞いたバルターは、木剣を足元に落とし、両手を上げた。

 

 

「剣の技量では勝っても、心の強さには敵わなかった…。あなたはとても強い人だ」

 

 

「…何だ終わりか…、つまらん。修行して出直してこい」

 

 

バルターの降参で勝負に決着が着いたため、ダクネスも木剣を下ろし、悪態を突く。

 

 

「…ぷっ、あはははっ。完敗ですララティーナ様、本当に惚れてしまった」

 

 

「だが、このままでは収まりがつかんな…。ならば…」

 

 

ダクネスはバルターが落とした木剣を拾い上げると

 

 

「来いカズマ!お前の強さをバルターに見せてやれ!」

 

 

カズマに向かって放り投げた。

 

 

「はあっ!?誰がやるかそんな「僕も見たいな」こと…って、バルター様?」

 

 

カズマは木剣を受け取るが、断ろうとした。が、その前にバルターが口を挟んだ。

 

 

「ララティーナ様が信頼を寄せる者が、どんな戦い方をするのかを」

 

 

バルターは壁に背を預けながら腕を組み、静観の姿勢を見せていた。

 

 

「はぁ…、わかったよ。どうせ見合いはご破談だろうしな。それに、あんたはお嬢様の悪い噂なんて流さないだろうし。俺か本当の執事じゃないのだって、とっくに感づいてんだろ?」

 

 

カズマの質問にバルターは何も言わなかった。

 

 

「さあ全力で来いカズマ!お前とは一度やり合いたかったのだ!」

 

 

「しょうがない…、負けても文句を言うなよダクネス!!」

 

 

カズマは木剣を振りかぶり、ダクネスに向かって走り出した。

 

 

「なあダクネス、アイツのどこがいけないんだよ!?顔良し、器量良し、剣の腕前は一級品!非の打ち所が無い好青年じゃないか!?」

 

 

「ふんっ、あんな奴私の好みのタイプでは無い!私のタイプはひょろい体型か小太りで、私が一途に想っているのにすぐに他の女に鼻の下を伸ばす、年中発情しているスケベそうなのは必須条件だ!」

 

 

「借金があり、楽に人生送りたいと舐めてるダメな奴がいい!働きもせず、酒を飲んだくれ、世間の悪口を言いながら私にこう言うのだ。『おいダクネス、そのいやらしい体を使ってちょっと金を稼いで来い!』…と…っ!~~~~~っ!!」

 

 

カズマはダクネスと打ち合いながらバルターのどこが悪いのか質問をする。ダクネスは自分の好みのタイプを口にし、自ら口にした状況を妄想したのか、絶頂に達してしまい、床に倒れてしまった。

 

 

「俺、何もしてないのに勝っちまった…」

 

 

「やっとるかね?修練場にいると聞いたので、飲み物の差し入れを…」

 

 

カズマがぼやいていると、幸か不幸か、イグニスが飲み物を乗せたカートを押してるメイドを引き連れて修練場に入って来た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「娘は昔から人付き合いが苦手でなあ…、毎日毎日"冒険仲間が出来ますように"とエリス様にお祈りしていたのだよ。盗賊の女の子の仲間が出来た時はそれはもう喜んで…」

 

 

娘が倒れている所を見たイグニスは取り乱し、カズマとバルターを処刑しようとするが、めぐみんたちに止められ、状況を必死に説明し、落ち着いてもらった。そしてダクネスを彼女の自室にあるベッドに寝かせ、隣の部屋でイグニスはダクネスについて話し始めた。

 

 

因みに"盗賊の女の子の仲間"であるクリスはちょっと照れくさそうにしていた。

 

 

「妻を早くに亡くし、男手一つで自由に育ててきたのがいけなかったのかな、ああなってしまって…」

 

 

ダクネスの性癖のことを言っているのだろうか、イグニスは涙を流した。

 

 

「ララティーナ様は素晴らしい女性ですよ。カズマ君がいなかったら、僕が妻にもらいたいと思ってます」

 

 

「ははは、そうか。それなら仕方がないな、カズマ君、娘の事よろしく頼む」

 

 

バルターの口からカズマの名が出たので、イグニスもダクネスのことをカズマにお願いした。

 

 

「ちょっと待ってください!一体何を…」

 

 

「…何だ、私が寝ている間に何があった?」

 

 

するとダクネスが起き、部屋に入って来た。

 

 

「おお、目が覚めたかララティーナ」

 

 

「……何でもねーよ」

 

 

カズマはダクネスから視線を外す。

 

 

「……はっ!お父様…、バルター様…。今回の見合いはなかった事にして下さい。実は、私のお腹にはカズマの子が…」

 

 

ダクネスは何を思ったのか、自分のお腹を押さえ、顔を紅くしながら言った。

 

 

「………(ガシッ)」

 

 

「………(ガシッ)」

 

 

「待てめぐみんにクリス、ダクネスが言ってることは嘘だ。お前たちならいざ知らず、ダクネスとは一度たりとも無い。だからその肩に置いた手の力を抜いてくれ頼む」

 

 

めぐみんとクリスはカズマの肩に手を置き、力を込める。カズマは弁解しながら力を緩めるよう頼んでいた。

 

 

「……そうだよね、カズマはあたしやめぐみんとしか寝てないもんね。ダクネス、冗談を言うのも大概にね?」

 

 

クリスはダクネスに微笑む。だが顔は笑っていても、目が笑っていないので、ダクネスは顔を青ざめながらコクコクと壊れた人形みたいに頷いた。

 

 

「…では僕はこれで失礼します。父には僕の方からお断りをしたと言っておきます、その方が双方に都合がいいでしょう」

 

 

バルターはソファーから立ち上がり、帰宅すること、更に自分から見合いを断ることを伝えた。

 

 

 



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第20話

 

 

ダクネスのお見合い騒動から2日、肉体的、精神的に疲労していたカズマはこの日まで屋敷で休養していた。そして久しぶりにクエストを受けようとギルドに足を運んでいた。

 

 

「あっ、カズマさん!」

 

 

するとギルドの受付嬢のルナがカウンター越しにカズマを呼び寄せた。

 

 

「ルナさん…とセナさん?」

 

 

カズマがカウンターに到着すると、そこには以前世話になった王国検察官のセナが先客として来ていた。

 

 

「カズマ殿、お久しぶりです」

 

 

「久しぶりですセナさん。ところで、何故王国検察官のあなたがギルドに?」

 

 

「実は…」

 

 

セナが言うには、近頃『キールのダンジョン』に謎のモンスターが大量発生しているとの事。

 

 

「それで最後にダンジョンに入った人を調べようとここに…」

 

 

「そう言えば…、確かこの前屋台のおっちゃんから聞いたな。『妙なモンスターがダンジョンから出ている』って…」

 

 

「セナさん、『キールのダンジョン』に最後に入ったのは、カズマさんとアスタさんの二人だと、記録に残っています」

 

 

ルナは手元にある資料に目を通しながらセナに報告をする。どうやらカズマたちが潜ってからは誰も潜ってはいなかったようだ。

 

 

「そうですか…。カズマ殿、何か心当たりはありますか?」

 

 

「そうですね…」

 

 

カズマはキールのダンジョンであったことを説明する。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…以上です」

 

 

「まさかあのキールがリッチーになっていたとは…」

 

 

「その事に関しましては確かに報告がされてまして、調書にも記載されています」

 

 

ルナはセナに当時の報告書を見せる。セナは素早く報告書を黙読する。

 

 

「……確かに、カズマ殿の言ってることは事実のようですね」

 

 

「あの…、もし良かったら俺たちが調査しましょうか?」

 

 

カズマはキールのダンジョンの調査を名乗り出た。

 

 

「それはこちらとしては願ったり叶ったりですが…、よろしいのですか?」

 

 

「構いませんよ、丁度体を動かしたかったので」

 

 

セナはカズマに確認をすると、カズマは頷いた。そしてセナはカズマにダンジョンの調査を依頼するのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマはセナを連れて一旦屋敷に戻り、メンバー全員にギルドであったことを報告、調査に乗り出すことを伝えた。そして全員が身支度を整え、キールのダンジョンの入り口に向かった。

 

 

移動してから数時間、カズマパーティーとセナはキールのダンジョンに到着した。

 

 

「ねえカズマ、あれ」

 

 

クリスが指を指した所を見ると、入り口から貴族が着ているような服を着ており、半分が白、もう半分が黒の仮面を着けた人形がわらわらと出てくる光景だった。

 

 

「何故かしら?あの人形を見ていると怒りが湧いてくるんだけど…」

 

 

「お姉ちゃんも?」

 

 

アスタとクリスは人形を見て、何故か苛立っていた。

 

 

「あれが件のモンスターです。こちらから近づかなければ害は無いのですが…」

 

 

「へっ、あんな雑魚モンスターは一撃で仕留めてやるぜ!」

 

 

セナが説明している最中にダストが剣を抜いて人形を倒そうとする。だが人形はダストにしがみつくと、"自爆"した。そして爆発した後のクレーターの中央には、"ヤム○ャ"のようなポーズをしたダストが横たわっていた。

 

 

「…あの様に近づいたり、刺激を与えると自爆攻撃を仕掛けてくるのです。なので遠距離から一体ずつ倒していくしかない状況でして…」

 

 

「ぷはっ、それを先に言ってくれよ!!」

 

 

起き上がったダストはセナに向けて文句を言った。

 

 

「彼女の説明を全部聞いていなかったお前が悪い。みんな、チームの編成を伝える。今回は遠距離戦が主体だ、この中で遠距離戦が出来るのはアーチャーのキース、ウィザードのリーン、アークウィザードのゆんゆん、そして俺。この四人でダンジョンに潜る、アスタは全員に支援魔法を、めぐみんは漏れ出した人形を片付けるために待機、クリスはそのサポートを。他のみんなはめぐみんとクリスのフォローを『ドンッ』頼むってまたダストか?」

 

 

カズマはメンバー編成を伝え終わろうとした所で、再び爆発音が響き渡る。カズマはダストがまた何かやらかしたと思い、振り返ると、そこには所々煤で汚れた鎧を着ているダクネスがいた。

 

 

「…うむ、これならいける、問題ないな。カズマ!私ならこの攻撃に耐えられる!私が露払いのために前に出よう!後ろからついてこい!」

 

 

「…ったくあいつは。メンバーの再編成だ、さっき言ったメンバーに加え、ダクネスを加える。それと、中は薄暗いから松明が必要になる。フィオとクレメアの二人もこっちに来てくれ」

 

 

カズマの指示に二人は頷いた。

 

 

「…カズマ殿、こちらを」

 

 

セナはカズマに札を差し出した。

 

 

「強力な封印の魔法が込められた札です。それを張りつければどんなに強力な魔方陣でも、効果を失います」

 

 

カズマはセナから受け取った札をバッグにしまった。

 

 

「…よし、それじゃ行くぞ!」

 

 

カズマたち潜入メンバーはダンジョンに潜った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

潜入メンバーがダンジョンに潜って少し時間が経過した頃、潜入メンバーの目の前に先程の人形が姿を見せた。

 

 

ダクネスは早速斬りかかり、人形を破壊する。すると斬られた人形は次々に爆発した。

 

 

そして人形はダクネスに群がるが、ダクネスは悉く斬り伏せていった。

 

 

「は…はははっ、当たるっ、当たるぞカズマっ!こいつらは私の剣でもちゃんと当たる!!」

 

 

ダクネスは自分の剣が当たることに喜び、やたらめったらに剣を振り回す。

 

 

「…ダクネスの奴、初めて真面(まとも)に攻撃が当たる相手だからって調子に乗りやがって」

 

 

「カズマさん、それどういう意味ですか?」

 

 

「そっか、ゆんゆんはパーティーに入って日が浅かったわね。ダクネスはクルセイダーが必ず持ってる"両手剣スキル"を持っていないのよ。持っているスキルは殆んどが防御系、だから攻撃はからっきしダメ、空振りばかり」

 

 

クレメアの説明にゆんゆんは目が点になってしまった。

 

 

「……ねえカズマ、このダンジョンだけど、あの人形以外の反応が全く無いよ」

 

 

"敵感知スキル"を使っていたフィオは、"反応の異常さ"を感じ、カズマに報告する。

 

 

「何かありそうだな…、全員周囲の警戒を怠るなよ?ダクネスを先頭に俺が前、俺の後ろにリーン、キース、ゆんゆん。フィオが殿を、スキルに反応があったら教えてくれ」

 

 

カズマは列の編成を決め、周囲を警戒しながら進む。そしてダンジョンの最深部に到着すると、そこには自分と瓜二つの人形を作っている男がいた。

 

 

「ん?」

 

 

「貴様、そこで何をしている?その人形は…」

 

 

「ほう、これはこれは。我がダンジョンにようこそ、勇敢な冒険者たちよっ!我輩は魔王軍の幹部にして、悪魔たちを率いる地獄の公爵!この世の全てを見通す大悪魔バニルである!」

 

 

ダクネスが男に質問をすると、男は立ち上がり、自己紹介をした。

 

 

「なっ、魔王軍の幹部だと!?気を付けろカズマ!」

 

 

「まあ待て娘、ちょっと落ち着いてくれ。我輩はお前達と争う気はない、それに幹部と言っても城の結界の維持をしているだけの"なんちゃって幹部"なのだ。直接危害を加えたりはしない」

 

 

「ならその人形は何なんだよ?ダンジョンからぽこぽこ出てきて街の人が迷惑してるんだが?」

 

 

ダクネスはバニルが魔王軍の幹部であることを知ると、剣を構えるが、バニルは戦う気はないと言った。そしてカズマはバニルが製作している人形のことをバニルに質問する。

 

 

「我輩はこやつらでダンジョン内のモンスターを駆除していたのだが、外に溢れていたのならもうモンスターはおらぬようだな」

 

 

バニルは手を叩くと、人形は土塊になり、崩壊した。

 

 

「…あんた一体何を企んでるんだ?」

 

 

「うむ、我輩は悪魔として大きな"野望"があるのだ。我輩達悪魔は人の"イヤだな"と思う悪感情糧とする、とびきりの悪感情を食した後、華々しく滅び去りたいのだ」

 

 

「そして我輩は考えた!まずはダンジョンを手に入れる!そして各部屋には我輩の部下の悪魔や苛烈な罠を仕掛ける。そこに挑むは歴戦の冒険者!いつかは最奥に辿り着く者が現れよう、待ち受けるのはもちろん我輩。激戦の末、打倒された我輩のあとに現れる宝箱。苦難を乗り越えた冒険者はそれを開け…」

 

 

バニルの話を聞いていたカズマたちは、その先はどうなるのか固唾を飲む。

 

 

「中には"スカ"と書かれた紙一枚のみ!そして呆然とする冒険者たちを見ながら我輩は滅びたい」

 

 

カズマたちはその光景が頭に浮かんだのか、呆然としてしまった。

 

 

「フハハハハッ、これはこれは極上の悪感情だ!ゴチである!」

 

 

「…てか、そんな野望があるなら、何でこのダンジョンにいるんだ?」

 

 

「うむ、本当は街に住んでいる『働けば働くほど貧乏になるポンコツ店主』の所で働き、貯めた金を使ってダンジョンを造ろうとしていたのだが、丁度この主が居ないダンジョンを見つけてな…」

 

 

バニルはダンジョンにいる理由を話す。

 

 

「ねえカズマ、この悪魔害は無さそうだからもう放っておいて帰りましょう?」

 

 

「そう言うな最近そこの男を見て、魔剣の勇者に想いを伝えようか迷っている娘よ」

 

 

バニルに心を見透かされたフィオは顔を紅くし、狼狽えた。

 

 

「フィオ?」

 

 

「そ…それは…、その…」

 

 

クレメアがジト目でフィオを見ると、フィオはしどろもどろになった。

 

 

「そう娘を責めるな、最近魔剣の勇者と買い出しに行って内心デートと洒落込んだ娘よ」

 

 

バニルの標的がフィオからクレメアに変わり、今度はクレメアが顔を紅くした。

 

 

「ク~レ~メ~ア~?」

 

 

「(何だコイツ…、まるで"見ていた"かのように…んっ?)」

 

 

フィオのジト目にクレメアがしどろもどろし、カズマはバニルがまるで見ていたかのような物言いをしていたことに違和感を感じた。

 

 

「(まるで見ていた…?確かこの悪魔は全てを見通すって言ってた…、まさか!?)全てを見通すって、『相手の心をも見通す』ってことか!?」

 

 

「ご明察だそこの男よ」

 

 

カズマの推察にバニルは拍手をしながら肯定した。

 

 

「ちょっと待って!?それってこっちの考えが読めるってこと!?」

 

 

「それじゃこっちの作戦とか戦略が筒抜けってことじゃねえか!?」

 

 

リーンとキースが狼狽える。

 

 

「仕方ない、一旦ここは引くぞ!こんな狭い所じゃ同士討ちを狙われる!」

 

 

「何を言っているカズマ!?こんな悪魔、今ここで倒せば良いだけの話だ!」

 

 

「ダクネス、よせ!」

 

 

カズマの静止を聞かず、ダクネスはバニルに向かって剣を振り下ろした。

 

 

「ぐあっ…」

 

 

ダクネスの剣はバニルの体を一刀両断した。

 

 

「やったの…?」

 

 

「…と、思わせて。この体は我が魔力によって作り出したかりそめの物、いくら攻撃を当てようと我輩は滅びぬ!」

 

 

呆気なくやられたと思わせたバニルは仮面を取り、ダクネスに向かって投げた。

 

 

「ダクネス!?」

 

 

「フ…、フハハ…。聞くがいい!この娘の体は我輩が乗っ取った!この娘に攻撃できるものなら『一向に構わん!遠慮なくやってくれ!』…は?」

 

 

ダクネスの顔にバニルの仮面が張りついたと思うと、ダクネスはバニルの口調で話す。そしてバニルが脅しを掛けようとした時に、ダクネスの声がしたのだった。

 

 

『さあ!何をしてるカズマ!』

 

 

「何をしてるは貴様だ!バカな!なんだこの『麗しい』娘は!?ええい余計な口を挟むな!!」

 

 

「な…なんて事だ。わ…我が支配に耐えるとは、この娘『まるでクルセイダーの鑑のような奴だな!』やかましいわ!『いやあ…それほどでも』褒めとらんわ!!」

 

 

バニルはダクネスとの漫才をしている中、カズマは潜伏スキルを使ってダクネス(バニル)にそっと近づいた。

 

 

「だ…だが…我慢は得策ではない!我が支配に耐えるほど、その身に激痛が…!」

 

 

『なんだと!?』

 

 

「フハハ、どこまで耐えられるか見もの…『そ…そんなにすごい激痛が…』…はて?これは…我輩にとってはあまり好ましくない喜びの感情が…『私は…、この痛みなんかに、負けたりはしないっ…!』ちょっと待て、貴様ひょっとして楽しんではいまいか?」

 

 

ダクネスが痛みに喜んでいる中、バニルは悪寒を感じていた。

 

 

「くっ…、この体は失敗だった様だ『おい!人の体に失敗だとか失礼ではないのか!』これ以上付き合ってられん、貴様から出て行く!『なんだと!?やめろっ、いかないでくれ!』断る!」

 

 

バニルは仮面を剥がそうと手を仮面に持っていった。

 

 

「今だ!」

 

 

その瞬間、カズマはセナから受け取っていた札をバニルの仮面に貼りつけた。

 

 

「…おい、何だこの札は…?っ!触れん!指が弾かれる…!?」

 

 

「流石のお前でも、封印の札には触れない様だな。さあどうする?このまま封印された状態で浄化されるか、俺たちの言うことを聞くか」

 

 

「ぐぬぬ…、いい気になりおって!我輩とて公爵としての誇りがある!…が、今のままではどうすることも出来ん」

 

 

カズマはバニルに交渉を持ちかけ、バニルは両手を上げ降参の意思を示した。

 

 

「降参…か。なら…」

 

 

「…油断したな?フンッ!」

 

 

カズマが札を外した瞬間、バニルは仮面をダクネスからカズマに張り替えた。

 

 

「カズマっ!!」

 

 

「ダクネス!カズマは札を剥がす前に俺たちに"サイン"を送っていた!今はこの場を撤退するんだ!」

 

 

ダクネスはカズマに近づこうとするが、キースがダクネスの腕を掴んで止めた。カズマは札を剥がす前にキースたちにハンドサインを送っていたのだ。

 

 

『俺が時間を稼ぐから、ダクネスを連れて撤退し、アスタたちに救援を』

 

 

カズマからのサインを読み取ったキースはカズマの指示通りにダクネスを連れてダンジョンの入り口まで戻った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……っ!ダクネスたちが戻って来た!」

 

 

ダンジョンの入り口近くを見張っていたクリスが声を上げる。その証拠に、松明であろう灯りがだんだん近づいて来るのが分かる。

 

 

「皆、大変!ダンジョンの奥には悪魔がいて、カズマが体を乗っ取られた!」

 

 

リーンがダンジョンの中で起きたことを説明する。

 

 

『何だって!?』

 

 

「っ!?皆警戒して!何か邪悪な気配が近づいて来る!」

 

 

アスタの警告にセナ以外全員が臨戦態勢を取る。そして潜入メンバーを追うようにバニルの仮面を着けたカズマが姿を現した。

 

 

「…っ!来たわよ!『セイクリッド・エクソシズム』!」

 

 

「甘いわ!」

 

 

アスタは先手必勝とばかりに浄化魔法を放つ。が、カズマ(バニル)は身を屈め、アスタの浄化魔法を避けた。

 

 

「避けられた!?」

 

 

「お姉ちゃん!あの仮面…、もしかしてバニル!?」

 

 

「バニルって…、あの予知と予言の強力な力を持つ大悪魔!?」

 

 

仮面を見たクリスはカズマに取り憑いている悪魔を見破ると、セナがどんな悪魔かを説明した。

 

 

「フッ…、その通り。我が名はバニル!この小僧の体は我輩がもらった!」

 

 

「ふざけたこと言わないで、カズマの体を返しなさい!」

 

 

クリスは腰からダガーを引き抜き、突撃しようとする。

 

 

「待て待て、この体に攻撃しても良いのか?そこの姉に咎められながもこの小僧との子を甘えながら望んだ盗賊の娘よ」

 

 

「んなっ!?なんてことを暴露するのよここで!?」

 

 

カズマ(バニル)の暴露攻撃にクリスは顔を紅くし、アスタはジト目でクリスを見る。

 

 

「フハハハハッ、これまた美味な悪感情である!…むっ?小僧、意識が残っていたか!?」

 

 

バニルは何やら慌て出すと、仮面に手を添えた。

 

 

『悪いな、これ以上好き勝手させる訳にはいかないんでな!!めぐみん、コイツの正体はこの仮面だ!お前の魔法をぶちかましてやれ!』

 

 

カズマは無理やり仮面を引き剥がし、上空へ放り投げた。

 

 

「カズマ…、感謝します!『エクスプロージョン』!!」

 

 

バニルの仮面はめぐみんの爆裂魔法を受けて跡形も無く吹き飛んだのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日、カズマはバニルを討伐したということで、一億エリスを受け取っていた。

 

 

「まさかあの悪魔が会おうとしていたのが、ウィズだったなんて…。カズマ、何で言ってくれなかったの?」

 

 

「言う暇が無かったからな」

 

 

表彰から翌日、カズマたちパーティー一行はウィズ魔法具店へ向かっていた。

 

 

「こんにちは」

 

 

「へい、いらっしゃい!」

 

 

カズマが店の扉を開けると、ウィズの他にバニルがいた。

 

 

「ええっ!?何でここにいるの!?」

 

 

「ハハハッ、そこの小僧とダンジョンで話し合ってな。契約はしてはおらぬが、ビジネスパートナーとして協力してくれることになったのだ」

 

 

そう、カズマはダンジョンでバニルに憑依された後、バニルはカズマに商談を持ちかけたのだった。そして自身が倒されることを条件に、カズマはバニルの商談を受けることにしたのだった。

 

 

「それに、いくら我輩とて爆裂魔法には敵わん。だからホレ」

 

 

バニルは自身の本体とも言える仮面を指差すと、額の所に"Ⅱ"と書かれていた。

 

 

「残機が一人減ったので、今の我輩は"二代目バニル"様なのだ!それと、一度は倒されたのでもう魔王軍の幹部では無くなったのだが、元から人間には危害を加えるつもりは毛頭無い。だから安心してくれて結構」

 

 

「と、言うわけで。バニルは無事ウィズ魔法具店の店員になった訳だ」

 

 

バニルとカズマの説明に全員が呆気に取られたのは言うまでもない。

 

 

 



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第21話

 

 

魔王軍のなんちゃって幹部の一人であるバニルを倒してから数日後、カズマはバニルに呼ばれてウィズ魔法具店に来ていた。

 

 

「よく来てくれた小僧」

 

 

「小僧は止めてくれ、俺にはカズマって名前があるし」

 

 

「ふむ…、ならそう呼ばせてもらうとしよう。そして呼んだ理由だが、我輩の全てを見通す眼で見たんだが、カズマはこの世界の住人ではなかろう?」

 

 

バニルはカズマがこの世界の住人では無いことを見破った。

 

 

「……そうだ。そしてお前のことだから、俺をこの世界に送った人が誰なのかも知ってるんだろ?」

 

 

「うむ。まさかカズマの仲間であるアークプリーストと盗賊の娘の二人がこの世界で有名な女神だったとはな…」

 

 

カズマはバニルが言ったことを肯定した。

 

 

「それで?俺がこの世界の住人では無いことを見破った悪魔は俺に何を要求する?」

 

 

「なにそんな難しい事では無い。我輩はカズマが元いた世界の"文明の高さ"に興味がある、そこでお主の世界にある便利な物を作って、この店で売りたいのだ」

 

 

「お主は偶然にも『鍛治』スキルを習得している為、武具の修繕はおろか、金属加工や物作り全般が器用にこなせる。悪くはなかろう?」

 

 

バニルの提案にカズマは思考を巡らせる。

 

 

「……構造や作り方が分かる物なら出来ると思うが、あんまり期待するなよ?」

 

 

カズマはバニルの提案に乗ることにした。そしてカズマは屋敷の一階と中庭の一部分を使って工房を造り、自分の世界に存在する道具を製作するのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…よし、こんなもんか」

 

 

バニルの提案を受けてから二週間、カズマは工房で道具を製作していた。そしてある程度目処が立ったので休憩していると

 

 

コンコンコンコンッ

 

 

『カズマ、いますか?』

 

 

工房の扉がノックされ、扉の向こう側からめぐみんの声がした。

 

 

「いるぞ~、どうした?」

 

 

『セナがカズマにお願いしたい事があるそうなので、屋敷に来てます』

 

 

「了解した!リビングに通してくれ!」

 

 

めぐみんはセナが来訪したことを伝えると、カズマはリビングに通してもらうよう伝えた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「突然の訪問、お許し下さってありがとうございます」

 

 

「別に構いませんよ。それで、本日はどの様なご用件で?」

 

 

カズマはリビングでセナが訪問した理由を聞く。

 

 

「はい。実はここ最近、"リザードランナー"と呼ばれるモンスターが大量発生しまして…」

 

 

「"リザードランナー"?」

 

 

「カズマ、リザードランナーとは大型のトカゲの様な見た目のモンスターです」

 

 

カズマの疑問にめぐみんが即座に答える。

 

 

「めぐみんさんの仰る通りで、付け加えるなら二足歩行で、草食系です。ですが…、繁殖期になると"姫様ランナー"と呼ばれる特徴的な姿で、他の個体よりひと回り大きいメスの個体が生まれ、オスはその姫様ランナーを手に入れるためにとある勝負をします。…その勝負方法が独特で、何というか…、"走る"んです」

 

 

「…は?」

 

 

「リザードランナーのオスは他種族に競争と言った勝負を挑み、相手を抜き去った数が一番多いオスが姫様ランナーの(つがい)となり、"王様ランナー"となります。そして勝負の為なら相手が馬だろうがドラゴンだろうが、物怖じせず蹴って挑発するので。しかもその蹴りの威力も凄まじく、既に他の冒険者たちに被害が…」

 

 

セナの説明にカズマは頭を抱えた。

 

 

「大体分かりました。セナさんはそのリザードランナーを俺たちに何とかしてほしい…と」

 

 

カズマの予想にセナは頷いた。

 

 

「聞けばカズマさんはバニルの他にデュラハンや冬将軍、更には初心者殺しをも討伐なされたとか…」

 

 

「デストロイヤーの時は率先して指揮を出していましたもんね、今のカズマのレベルなら楽勝だと思いますよ」

 

 

「えっ…?今のカズマさんのレベルは…」

 

 

めぐみんの発言を聞いたセナはカズマに現在のレベルを聞く。

 

 

「軽く30は越えていますね。でも他のメンバーに比べたら平均的ですよ?キョウヤなんて40は越えていますし、ダストも20はいってますから」

 

 

カズマの発言はセナを処理落ちさせるのに十分過ぎるものだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマは屋敷に戻って来たメンバー全員にセナからの依頼の内容を説明し、パーティーを選抜、準備を整えてリザードランナーが集まっている所へと向かった。

 

 

「よし、作戦のおさらいだ。まず俺とキースが狙撃で王様と姫様を倒す。もし失敗してもダクネスとキョウヤとテイラーの三人で食い止めてくれ、めぐみんはいつでも撃てるように準備を、アスタは俺たち全員にフル支援を頼む」

 

 

カズマが選抜したメンバーは、キース、ダクネス、キョウヤ、テイラー、めぐみん、アスタの6人である。

 

 

カズマとキースは千里眼スキルで群れを見る。視界にはエリマキトカゲのような姿をしたモンスターが映り、その中の一体だけ、色合いが違っていた。

 

 

「……どう見る?」

 

 

「姫様ランナーは一目で分かるが、王様ランナーは正直言ってわからん。…いや、姫様ランナーの側に寄り添っている個体がいるから、そいつが王様ランナーの可能性が高い」

 

 

キースはカズマに質問をし、カズマは状況を口にする。

 

 

「多分それで正解だろうな。カズマは姫様を頼む、俺は王様を」

 

 

「了解した」

 

 

キースは弓に矢をつがえ、引き絞る。カズマも烈風を取り出し、いつでも撃てるように狙いを定める。

 

 

「3…、2…、1…撃てっ!」

 

 

カズマの合図で二人同時に撃つ。キースが放った矢は王様を、カズマが撃った空気弾は姫様の頭部を撃ち抜いた。

 

 

「よしっ!」

 

 

「無事討伐成功…だな」

 

 

「……俺たち、必要あったのかな…?」

 

 

カズマとキースはハイタッチを交わし、出番が無かったテイラーたちは呆然としていた。

 

 

因みに出番が無かっためぐみんは、鬱憤を晴らすために残ったリザードランナーたちに爆裂魔法をお見舞いしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

姫様ランナーと王様ランナーを無事討伐した数日後…。

 

 

「目利きにおいては定評のある見通す悪魔、我輩が商談に来たぞ!」

 

 

「いらっしゃいバニル、今作った物を持って来るからリビングで待っててくれ」

 

 

バニルが屋敷に訪れ、カズマはバニルをリビングに案内し、製作した物を持って来た。

 

 

「お待たせ、色々作ってみたんだが…」

 

 

「…ねえカズマ、これって……」

 

 

クリスが手に取ったのは"風船のような物(コン○ーム)"だった。

 

 

「そ…、それは…」

 

 

「……カズマのスケベ」

 

 

クリスの一言はカズマの心にクリティカルヒットしたのか、カズマは胸を押さえて項垂れた。

 

 

「カ~ズ~マ~さ~ん~?」

 

 

そこにアスタが近寄ると

 

 

「こんな物作れるなら早々に作りなさい!」

 

 

カズマに梅干し(両手の拳で相手の眉間の横をグリグリする攻撃)をした。

 

 

「うぎゃあああァァァっ!痛い、痛いってアスタ!だってしょうがないじゃないか!バニルに教えてもらうまで『鍛治』スキルがこんなにも器用に作れるなんて知らなかったんだから!」

 

 

「言い訳無用!次からはこれをちゃんと着けてしなさい!いいわね!?」

 

 

「アスタは何でカズマにあんなに言い寄っているのですか?」

 

 

めぐみんはクリスにアスタのお仕置きの説明を要求すると、クリスは顔を紅くしながらめぐみんに耳打ちをする。そしてクリスの説明を聞いためぐみんは顔を紅くした。

 

 

「…フム、カズマへの見立ては正しかったようだな。見事だ、これなら売れる」

 

 

「そ…、そうか…」

 

 

バニルはカズマが作った品物を見て、売れることを確信した。

 

 

「では商談といこうか。以前の取り決めでは毎月商品が売れた分の"一割"を払うという事だったが…、どうだカズマ?これらの商品の知的財産権自体を売る気はないか?全て引っくるめ三億エリスで買おう」

 

 

『さんおくっ!?』

 

 

カズマたちはバニルが提示した金額に驚いた。

 

 

「もちろん当初の月々の利益還元でもどちらでも良いぞ?これだけの物ならば、月々百万エリス以上の収入があると思っていい。…まあどちらが良いかは、商品の販売開始まで決めてくれればいい。では、待ってるぞ」

 

 

「……ちょっと待ってくれ」

 

 

バニルはカズマが作った品物を持って帰ろうとした所を、カズマが引き留めた。

 

 

「悪いが知的財産権を売るつもりは無い…が、月々の利益還元の割合を二割に増やしてくれるか?」

 

 

「…フム、その理由を聞いても?」

 

 

「物によっては材料費とかのコスパが掛かる物もあるんだ。だから…」

 

 

カズマはコスパなどを理由に、利益還元の割合を一割から二割に上げてもらう様条件を出した。

 

 

「…良かろう。商談成立だ」

 

 

バニルはカズマの条件を飲み、屋敷を去った。

 

 

 



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第22話

 

 

バニルとの商談が成立してから数日後…。

 

 

「カズマカズマ、モンスターの討伐に行きませんか?」

 

 

めぐみんがカズマをクエストに誘った。

 

 

「あ~…、行くのは構わないが…。少し寄り道をしてからで良いか?」

 

 

カズマはこの日、用事があるのでめぐみんに了承を得ようとした。めぐみんは少々疑問に思いながらも承諾し、カズマとめぐみんは屋敷を出た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ、寄り道とは言いましたが、何処へ?」

 

 

「武器屋だよ。以前からお願いしていた武器が完成したらしいから、それを見に…な」

 

 

めぐみんはカズマに寄り道の理由を聞き、カズマは頬を掻きながら答えた。

 

 

「ここだよ。おっちゃん!頼んでた物は出来ましたか?」

 

 

「んっ?おおカズ坊か!一応言われた通りの形状にはしてみたんだが…」

 

 

カズマは武器屋に入り、店長に声を掛ける。店長もカズマを見て挨拶し、頼まれた物をカズマに差し出した。

 

 

「……うん、それっぽくできてる」

 

 

「カズ坊が言ってた"焼き入れ"とか何とかは調べてもサッパリだったが、それなりに楽しかったぜ!それと、ソイツはちょいと特殊な鉄を使っていてな。何でも『一年中太陽の光が降り注ぐ山』から採掘された鉱石と砂鉄を使っているんだ」

 

 

カズマが店長から受け取ったのは『小太刀』だった。カズマは小太刀を鞘から引き抜き、形状を確認する。

 

 

「カズマ、カズマにはもう既に幾つかの武器を持っているではありませんか。更に武器を増やしてどうするのですか?」

 

 

「……これは俺が持つんじゃ無いんだ」

 

 

めぐみんはカズマに質問をする。そしてカズマは小太刀は自分が使う物では無いと答えた。

 

 

「では誰に?」

 

 

「…めぐみん、お前だよ」

 

 

「……えっ?」

 

 

めぐみんは誰に小太刀を渡すのか質問をすると、カズマから帰って来た答えに呆然とした。

 

 

「いくら前衛職が複数いるとは言え、全てを護りきれるとは限らない。キースは身軽だし、リーンは魔法で牽制できる。ゆんゆんも同じだ。だけどめぐみんは違う、使える魔法は最強の爆裂魔法だけど、自衛の手段が無い。だから万が一の為にめぐみんの自衛手段用で作ってもらったんだ」

 

 

カズマの説明にめぐみんは目に涙を浮かべた。

 

 

「カズマ…、私のために……」

 

 

「固定用のベルトを作成したから、今から取り付けるからな」

 

 

カズマはバッグからベルトを取り出し、めぐみんの腰に巻き付け、そこに小太刀を差した。

 

 

「うん、似合ってるよ」

 

 

カズマが製作したベルトは、めぐみんに合わせた『紅色のベルト』だった為、めぐみんの服とも良く似合っていた。

 

 

「カズマ…、ありがとうございます!」

 

 

「いいって、それじゃ早速ソイツの切れ味の確認も兼ねて、クエストを受けに行こうか!」

 

 

カズマとめぐみんは意気揚々とギルドに向かった。その間、めぐみんはカズマにべったりだったのは言うまでもない。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

めぐみんがカズマから小太刀『銘刀・悪鬼滅殺』を受け取った翌日、めぐみんはカズマの前に一匹の黒猫を抱えてやって来た。

 

 

「…つまり、その猫を屋敷で飼いたい…と?」

 

 

カズマの質問にめぐみんは頷いた。

 

 

「おとなしい子なので、迷惑は掛けないと思いますが…、ダメでしょうか?」

 

 

「別にいいんじゃないか?動物アレルギーを持ってる人はメンバーの中にはいないだろうし。…でも、ソイツ何処で拾ったんだ?」

 

 

カズマはあっさりと承諾し、何処で見つけたのかを質問する。

 

 

「カズマに出会った頃からいましたけど、すぐにどこかへ隠れてしまうので、気付かなかったと思います」

 

 

「なるほどな…。……へえ、案外人懐っこいじゃないか」

 

 

カズマは黒猫に手を差し向けると、黒猫はカズマの手で遊び始めた。

 

 

「あら?何かしら」

 

 

アスタがカズマたちの側に寄ると、黒猫はアスタの顔を見ると、めぐみんの手から逃げ出し、アスタに飛び移った。

 

 

「あら、結構人懐っこいわね」

 

 

アスタが黒猫を撫でると、黒猫は気持ち良さそうにあくびを持ってるした。

 

 

「そういやめぐみん、あの黒猫の名前は?」

 

 

「"ちょむすけ"です」

 

 

紅魔族特有のセンスの無さにカズマたちは呆然とした。

 

 

「あっ、そうそう。さっき噂で聞いたんだけど…」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「おぉ~っ、カッコいいです…。馬のような体躯に青白い肌、白い(たてがみ)に肌と同じ色の立派な角…」

 

 

「なあアスタ…」

 

 

「うん…、私も思った」

 

 

「「何でモ○スターハン○ーのキリンがここにいるんだ()よ」」

 

 

カズマたちはアスタが聞いた噂を確かめる為にギルドに向かうと、建物の前にキリンが入った檻が鎮座していた。

 

 

「とても珍しいモンスターがいる…と何処かで聞いた別の街の領主が熟練の冒険者を何十人も雇って捕獲したようです」

 

 

カズマの隣にいるルナが説明をしていると、めぐみんは檻にしがみつく勢いでキリンを見ていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、めぐみんはちょむすけに可愛らしい服とリボンを着けていた。

 

 

「めぐみん、ちょむすけをおめかしさせて何をする気だ?」

 

 

「お見合いです、ちょむすけとあの子をお見合いさせて、ちょむすけにカッコいい子を産んでほしいのです!」

 

 

ちょむすけのおめかしを終えたであろうめぐみんは、ちょむすけを連れてキリンがいる所へと向かった。

 

 

「あれ?」

 

 

めぐみんとカズマがキリンがいる檻に到着すると、キリンは寝そべったまま、動かなかった。

 

 

「どうしたのでしょうか、元気がありませんね…」

 

 

「恐らくだけど、長い間この檻に閉じ込められていたせいで、弱っているんじゃ…」

 

 

カズマとめぐみんがキリンを心配していると、ちょむすけがめぐみんの手から逃げ出し、檻の中へと入っていった。

 

 

キリンは頭だけ持ち上げ、ちょむすけを一瞥する。そしてキリンは頭を降ろした。

 

 

「…お見合いは失敗のようですね」

 

 

「貴様らどかんかっ!!」

 

 

カズマたちの後ろから怒声が聞こえたと思いきや、無理やり檻から離された。

 

 

「こちらです、アクドー様」

 

 

「うむ。…ほう、コイツが噂のモンスターか…って何だ!死んでいるのではないか!?珍しいモンスターだと言うからわざわざ買いつけに来てやったのに!責任者は誰だ!?」

 

 

アクドーと呼ばれた豚貴族は動かないキリンを一瞥すると、死んでいると勘違いをし、責任者を探しだそうとした。

 

 

「…死んではいませんよ、耳が動いているでしょう?」

 

 

「平民は黙っておれっ!…まあいい、とりあえず持って帰るぞ。このまま檻ごと運び出せ」

 

 

アクドーは馬車に繋いだ荷台に檻ごと乗せるよう指示を出す。そして馬車はアクセルの街の正門を抜けた。その様子をカズマとめぐみんは黙って見ていた。

 

 

「うーむ…、ピクリとも動かんな…。これは俺の街まで保たないかもしれん…。仕方ない、ロープを括り付けて外に出せ。檻はいらん。それだけ弱っていれば問題なかろう、死んだら剥製にでもすればよい」

 

 

アクドーの指示で部下たちがキリンの首にロープを括り付け、檻から引っ張り出そうとする。するとキリンは即座に起き上がり、アクドーを踏みつけた。

 

 

「ヒッ…、ヒイイイ!よっ…弱ってなどいないじゃないか!たっ、助けてくれ!!おっ、おい!そこの娘っ、お前紅魔族だろっ!?紅魔族なら上級魔法を使えるはずだ!たっ頼む!コイツを殺してくれ!」

 

 

「お断りします。散々私たちを馬鹿にしてきた報いです」

 

 

アクドーはめぐみんに助けを求めるが、めぐみんはそっぽを向きながら断った。

 

 

「まずいな…、"怒り状態"になっていやがる。自分を殺そうとしていたのを理解したのか…」

 

 

キリンは自分を殺そうとしたのを理解したのか、全身に紫電が走り、口から出ている息が白くなっていた。

 

 

 

「おいそこの平民っ!冒険者ならぼんやりと見ていないで、コイツを殺して俺を助けろっ!!金ならいくらでも払う!だから…」

 

 

「カズマ、あんな男の言うことなんか聞かなくていいですよ」

 

 

「いや、そういう訳にも行かないだろ…。仕方ないな…、おいオッサン!何が起きても一切関与するなよ!?」

 

 

カズマはアクドーに向かって声を上げた。カズマはアクドーが首を何度も縦に降ったのを確認すると

 

 

「ちょっ、カズマ!?何をしてるんですか!?」

 

 

着ていた服を脱ぎ、上半身裸になった。

 

 

「キリン、こっちを向いてくれ」

 

 

カズマの声に反応したのか、キリンはカズマの方へ視線を向ける。

 

 

「俺はお前の敵じゃ無い。だから大人しくなってくれないか?」

 

 

カズマは両手を横に広げ、無防備の状態でキリンに一歩ずつ近づく。めぐみんはいつでも魔法を撃てるよう魔力を溜め、キリンはそんなカズマの様子をジッと見つめ、アクドーから足を離していた。

 

 

そしてカズマがキリンに触れる距離まで近づくと

 

 

「もう大丈夫だ、お前を殺そうとする奴は俺が追い払ってやる。だから、落ち着いてくれないか?」

 

 

カズマはキリンの首を優しく撫でた。キリンは身動き一つしなかったが、カズマの撫で心地が良かったのか、目を細め、カズマにされるがままとなった。

 

 

「よ…、良くやった平民よっ!さあ何をしているっ、早くコイツを殺せっ!!」

 

 

アクドーは安心したのか、部下にキリンを殺すよう命令する。だが…

 

 

「おい、コイツを殺そうとするなら…、容赦しないからな?」

 

 

カズマは怒りを含めた視線をアクドーたちに向ける。それと同時にキリンの角からは紫電が走り、めぐみんからは魔力が洩れ出していた。

 

 

「ヒッ…、ヒイイイッ!」

 

 

「ア…、アクドー様っ!お待ち下さい!」

 

 

カズマたちの威圧感に押されたのか、アクドーは腰を抜かした状態で逃げ出し、その後ろを部下たちが追いかけたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…それで、そのモンスターの世話を任されたわけね」

 

 

その後、騒ぎを聞きつけたルナたちにカズマは事の顛末を説明、ルナたちはキリンがカズマに懐いている様子を見て、キリンの世話をカズマに頼んだのだった。

 

 

そしてカズマはキリンを屋敷に連れて行き、キリン専用の小屋を作っている所にアスタたちがやって来て、めぐみんがあらましを説明したのだった。

 

 

「あの時のカズマは本当にカッコ良かったです、あの逞しい筋肉…」

 

 

「いいなぁ…、あたしも見たかった…」

 

 

めぐみんはその時を思い出したのか、顔を紅くし、クリスはそんなめぐみんを羨ましがった。

 

 

「これでよし…っと!それじゃ"ジラフ"、ちょっと寝そべってくれるか?」

 

 

「ジラフ?」

 

 

「あのモンスターの名前だそうです。私が名前を付けようと言ったのですが、既にカズマが決めていたので…」

 

 

ジラフと呼ばれたキリンはカズマが建てた小屋に入り、寝そべった。

 

 

「どうだ?居心地は」

 

 

カズマが質問すると、キリンは満足そうに嘶いた。

 

 

「大丈夫そうだな。ジラフ、これからもよろしくな」

 

 

カズマがキリンの首を撫でると、キリンは嬉しそうに首をカズマに擦り付けたのだった。

 

 

 



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第23話

今回も原作の話を前後させて、『紅魔の里編』から始まります。


 

 

カズマパーティーにキリンの『ジラフ』が加わって、更に賑やかになってから数日後…。

 

 

「カズマさん、私…カズマさんの子供が欲しい!」

 

 

『……はい?』

 

 

ゆんゆんの爆弾発言にリビングにいたパーティーメンバー全員が思考停止した。

 

 

「ゆんゆん…、カズマの子供が欲しいとは…。私たちを差し置いて、よくそんな事言えますね…」

 

 

「これは由々しき事態だよ…」

 

 

ただ、めぐみんとクリスを除いては。

 

 

「だって…、私とカズマさんが子供を作らないと世界が…」

 

 

「ちょっと待ってくれ、とりあえず説明をプリーズ」

 

 

カズマが説明を要求すると、ゆんゆんは二枚の手紙を差し出した。そこには紅魔の里が魔王軍に進撃されていること、もう一枚には何やら小説染みた言葉の羅列が記されていた。

 

 

「……あの、手紙の最後に『紅魔族英雄伝 第一章 著者:あるえ』とあります。それと追伸で『郵便代が高いので、族長に頼んで同封させてもらいました。二章ができたらまた送ります』…と」

 

 

めぐみんの言葉にゆんゆんを除く全員が納得した。

 

 

「な~んだ、ただの物語か。びっくりした」

 

 

「びっくりしたのは私ですよっ!さっきのクリスさんは本当に怖かったんですから!」

 

 

涙目で訴えるゆんゆんをクリスは笑いながら慰めた。

 

 

「ですが、族長からの手紙は事実です。我々紅魔族は、魔王軍から目の敵にされていますからね。ですが、知ってるとは思いますが我々紅魔族はほぼ全員がアークウィザードですので、余程の事が無ければ負けたりはしません」

 

 

「…でも、放ってはおけないな。なあゆんゆん、『テレポート』は使えるか?」

 

 

カズマの質問にゆんゆんは首を横に振った。

 

 

「里へ行くなら、この街からまず『アルカンレティア』を経由して、そこから徒歩で2日ほどの距離があります」

 

 

めぐみんは里までの距離をカズマに伝えると

 

 

「『アルカンレティア』!?」

 

 

アスタがめぐみんの言葉に反応した。

 

 

「アスタ、アルカンレティアがどうした?」

 

 

「カズマ君、アルカンレティアは別名『水と温泉の都』と言われていて、様々な効能がある温泉が有名なんだ」

 

 

「しかも、水の女神アクアを御神体とする『アクシズ教』の総本山なのよ!!」

 

 

カズマの質問にキョウヤとアスタが答えた。

 

 

「あぁ~、お姉ちゃんはアクシズ教徒だから、アルカンレティアに行ってみたいんだったね…」

 

 

ゆんゆんを慰めていたクリスは苦笑いを浮かべながらアスタが興奮している理由を話す。

 

 

「なるほどね…。アスタ、興奮している所悪いんだが…」

 

 

「分かってるわよ、アルカンレティアは後回しでしょ?私だって時と場合を読むわよ。先ずは紅魔の里へ行って、アルカンレティアは帰りの時とかで良いわよ」

 

 

カズマはアスタに注意をしようとするが、アスタはちゃんと理解している様だった。

 

 

「分かってるなら良い。それじゃ皆、紅魔の里に向けて準備を整えようか」

 

 

カズマの一言でメンバーは各々準備を始めるのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちが準備を整え始めて2日、カズマたちはアルカンレティア行きのキャラバンに紛れていた。

 

 

「しかしカズマ、よくこんな物拵えたな」

 

 

ダストが見ていたのは、ジラフに繋がれた荷台だった。

 

 

「ジラフが仲間になってから作っていたんだ。連結部を作るのに苦労したがな」

 

 

カズマが製作した荷台は二輌編成で、荷台の間には列車などで見られる連結部があった。

 

 

「そういやダクネス、お前その鎧はどうしたんだ?」

 

 

「む?これか。この前カズマがアダマンタイトを手に入れて、私が譲り受けたことがあっただろう?この鎧はそのアダマンタイトを含んだ鎧なのだ!軽くて丈夫、まさに私にとって理想の鎧なのだよ!」

 

 

ダクネスは意気揚々と鎧について語った。

 

 

「カズマ~っ!そろそろ出発するって!」

 

 

そこにアスタがキャラバンの前からやって来て、出発する旨を伝えた。

 

 

「了解だ!それじゃ皆、乗ってくれ!」

 

 

カズマが乗車を促すと、ダストたちはそれぞれ馬車の客席に座った。そして程なくして、キャラバンとカズマたちはアルカンレティアに向けて出発したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……平和だな~」

 

 

キャラバンが出発してから数時間、何の異常も無く、キャラバンは進んでいた。

 

 

「…んっ?」

 

 

すると、ジラフの手綱を握っていたカズマの目に、土煙が向かって来ているのが見えた。

 

 

「どうしましたカズマ?」

 

 

「いや…、向こうから土煙が見えて…」

 

 

カズマの横に座っていためぐみんがカズマに質問をすると、カズマは見えた光景を口にした。

 

 

「ふむ…、ここらで土煙を出す程の速さを持つ生物と言ったら、この前倒したリザードランナーの群れか『走り鷹鳶(たかとび)』ぐらいですね」

 

 

「走り高跳び…?」

 

 

「カズマ、『走り鷹鳶』って言うのは鳥類界の王者で、タカとトンビのハイブリッドなんだよ。飛べない代わりにとんでもない脚力を持っている危険なモンスターなんだよ。見た目はカズマの世界にいる"駝鳥(ダチョウ)"と同じかな」

 

 

めぐみんは土煙を立てている主を考察すると、カズマは聞き慣れない単語に戸惑い、めぐみんの反対側に座っていたクリスが補足をした。

 

 

「なるほどな…。って、ちょっと待て。アイツらこっちに向かって来てないか?」

 

 

カズマに言われてめぐみんとクリスもカズマが見ている方へ視線を向ける。

 

 

「…確かに、こちらへ近づいて来ているような?」

 

 

「ねえカズマ、荷台とかにアダマンタイトのような硬い鉱石とか積んでいないよね…?」

 

 

クリスの質問にカズマは首を横に振ろうとしたが、思い止まった。カズマには心当たりがあった。

 

 

「カッカズマ!もの凄く速い生き物が、真っ直ぐこちらへ来ているぞ!…と言うか、連中が私を凝視している気がするぞ!!」

 

 

そう、カズマは出発前にダクネスがアダマンタイトを使った鎧を着ていることに。

 

 

「くそっ、狙いはダクネス(の鎧)か!?総員第一種戦闘配置!商隊を守るぞ!キース、リーン、ゆんゆんの三人は魔法や狙撃による遠距離攻撃を!アスタはキースに運強化支援(ブレッシング)筋力強化支援(パワード)を!他の皆は商隊の護衛を頼む!」

 

 

『了解!』

 

 

カズマはメンバー全員に指示を出し、ジラフに取り付けていた荷台との連結具を外し、(あぶみ)が付いた(あん)を取り付けた。

 

 

「カズマ、そんなの取り付けてどうするの!?」

 

 

「俺も出るから取り付けたんだよ!行ってくる!」

 

 

カズマはジラフに乗り、バッグから烈風を取り出して走り鷹鳶の群れに突っ込んで行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「くそっ、速くて狙いが定まらない!」

 

 

キースは狙撃で走り鷹鳶を狙い撃ちするが、相手の足が速いせいで、中々仕留められずにいた。

 

 

「私が足止めをします!『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 

ゆんゆんが走り鷹鳶の進路上に泥沼魔法を仕掛けると、走り鷹鳶の勢いが削がれた。

 

 

「おおっ!上級魔法の一つの泥沼魔法!ゆんゆん、いつの間に覚えたの?」

 

 

「この前の買い出しの時にウィズさんから教わりました!ですがこれでも勢いは止まりませんね」

 

 

「だったらコレね!『クリエイト・ウォーター』!からの『フリーズ』!」

 

 

リーンが泥沼の周りに水を撒いたと同時に氷らせると、走り鷹鳶はその氷に足を取られ、次々に転んでしまった。

 

 

「えぇっ!?初級魔法にこんな使い方が!?」

 

 

「ハハハッ!ゴブリン狩りの時にカズマが使った戦法か!」

 

 

「そっ!あれを見て私も初級魔法を覚えたんだから!」

 

 

ゆんゆんはリーンの魔法の使い方に驚き、キースはゴブリン狩りの時の事を思い出し、笑った。

 

 

「だったらゆんゆんが泥沼魔法を使った後、リーンが氷らせれば更に足止めできるんじゃないか?」

 

 

「それいいわね!今度やってみようよ!」

 

 

「ええ!」

 

 

三人は笑いながら連携し、走り鷹鳶の足止めをした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いやはやあなた方のおかげで助かりました!ささっ、こちらを召し上がって下さい!」

 

 

走り鷹鳶の襲撃を退けた日の夜、カズマは商隊の代表からお礼として走り鷹鳶の肉を使った料理がもてなされた。

 

 

「しかしお見事でした!泥沼魔法を使うアークウィザードに、初級魔法を駆使して更なる足止めをされたウィザード、あの数の走り鷹鳶を次々に倒されたアーチャー!そして珍妙な馬に跨がりながらアーチャーの方と一緒に倒したあなた様の手腕!お礼といっては何ですが…、街に着き次第、護衛としての報酬を…」

 

 

「それは結構です。走り鷹鳶の群れを引き寄せてしまったのは我々の不手際ですし、その尻拭いをしただけですから」

 

 

代表はカズマに報酬を渡そうとしていたが、カズマはそれを断った。カズマとしては自分たちが引き寄せた不手際というマッチポンプな状況での報酬の受け取りはしたくなかったのだ。

 

 

「な…、何という方だ!この世知辛い世にまだあなた方のような本物の冒険者がいたとは…!」

 

 

代表はカズマの心意気に深く感銘し、涙を流した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

走り鷹鳶の襲撃から凡そ2日、カズマたちはアルカンレティアの門の前までやって来た。

 

 

「色々と助けていただいてありがとうございます。是非とも報酬を受け取って頂きたいのですが…」

 

 

「報酬の件はお断りしたはずですが…」

 

 

「はい、ですから我々が経営する宿の宿泊券をお渡しします。もしアルカンレティアへお寄りになった際には、どうぞご贔屓に」

 

 

「そういう事でしたら…」

 

 

カズマは渋々ではあるが、人数分の宿泊券を受け取り、キャラバンはアルカンレティアの門を潜ったのだった。

 

 

「さて…、ここからは俺たちだけで進まないとな。めぐみん、ゆんゆん。案内を頼むぞ。さしあたっては危険なモンスターとかを教えてくれると助かる」

 

 

カズマのお願いに二人は頷いた。

 

 

「そうですね…、まずこの辺りで危険なモンスターと言えば、『安楽少女』でしょうか」

 

 

「安楽少女?」

 

 

「聞いたことがある。確か保護欲を抱かせる容姿や行動を取る植物型のモンスターで、物理的な危害を加える事は無いが、一度でも情が移ってしまえば死ぬまで囚われてしまい、その死体を養分にするとか」

 

 

めぐみんが危険なモンスターの名を挙げるとキョウヤが詳細を口にした。

 

 

「今ミツルギが話した通りです。付け加えるなら、少人数の前に現れるため、今の私たちのような大人数の前には、姿を現さないので、そこまで危険ではありません」

 

 

「そっか。よし、皆客車と荷台に乗ってくれ。キースは荷台の屋根の上に乗って周辺の警戒を、クリスは客車、フィオは荷台に乗って敵感知スキルでキースのフォローを。キョウヤとクレメア、ダストは荷台に、残りのメンバーは客車に乗ってくれ」

 

 

カズマが指示を出し、メンバーがそれぞれ客車と荷台に乗ったのを確認すると、ジラフは馬車を引いて走り出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

道中何事も無く、カズマたちは平原の手前で野宿をすることにした。

 

 

「ねえカズマ、この前から使っている"ソレ"はなに?」

 

 

カズマが何かを建てている所に、フィオが話しかけた。

 

 

「これは"天幕"って言って、簡易的な家みたいな物さ。…っと、設営終わり、これは女子用だから先に入って休んでていいからな」

 

 

カズマは天幕を設営し終えると、荷台の方へと歩いて行った。

 

 

「カズマ、何か手伝えることはありますか?」

 

 

「めぐみん。丁度これから飯を作る所だったから、下ごしらえを手伝ってくれるか?」

 

 

カズマはこれから調理をしようとしていたらしく、手伝えることがあるか聞いてきためぐみんに手伝いをお願いした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「よし、今日も元気に出発しようか!」

 

 

野営の道具を片付けたカズマ一行は意気揚々と平原を横断するため、出発した。道中モンスターをキースとカズマが千里眼スキルで発見し、体力の無駄使いを防ぐために時々遠回りをしていた。

 

 

「…んっ?あれは」

 

 

その途中、カズマがモンスターの影を見つけた。

 

 

「カズマ、どうしました?」

 

 

「いや、向こうにモンスターの影を見つけてな」

 

 

「今はこの辺りなので、この付近にいるモンスター…は……」

 

 

地図とにらめっこしていためぐみんが段々顔を青ざめていった。

 

 

「カズマ、逃げましょう!」

 

 

「ど…、どうした急に?」

 

 

めぐみんの逃走希望にカズマはびっくりした。

 

 

「この付近にいるモンスターは"オーク"です!恐らくカズマが見たモンスターの影はオークに間違いありません!気付かれる前に逃げましょう!」

 

 

「オーク…?確かに女性ならオークを恐れるのは分かるが、そんなに危険なのか?」

 

 

「いいですかカズマ、カズマが思い描いているのは"オスのオーク"で、しかも絶滅していますので、今いるオークは全てメスなのです」

 

 

めぐみんの説明にカズマは目が点になっていた。すると

 

 

「あら、いい男じゃない。ねえ、あたしといい事しましょう?」

 

 

めぐみんの説得空しく、カズマたちはオークに見つかってしまった。

 

 

「に…逃げるぞ!!ジラフ、全速力だ!振り切れ!!」

 

 

カズマの命令でジラフは嘶くと、全速力で走り出した。

 

 

「ちょっとカズマ!?どうしたの!?」

 

 

「オークに見つかった!足止めを頼む!!」

 

 

客車からアスタが顔を覗かせ、状況の説明を要求すると、カズマは早口で状況を説明した。

 

 

「なっ!?オークって男の天敵じゃない!リーン!ゆんゆん!足止めを!」

 

 

「わかりました!『ボトムレス・スワンプ』!」

 

 

「了解!『フリーズ』!!」

 

 

アスタの指示でゆんゆんが泥沼魔法を使い、オークが泥沼に嵌まった所をリーンが凍結させて身動きを取れなくさせた。

 

 

だが、騒ぎを聞きつけたのか、仲間のオークが次々に現れた。

 

 

「これじゃキリがありません!振り切る前にこちらの魔力が尽きてしまいます!」

 

 

ゆんゆんは泥沼魔法を連発して足止めをするが、オークたちは泥沼を迂回したりして避けていた。

 

 

「ねえカズマ、『ドレインタッチ』でゆんゆんに魔力を渡すことできない!?デストロイヤーの時のめぐみんとクリスみたいに!」

 

 

「リーン…、それはカズマにゆんゆんをセクハラさせようと言う事でしょうか?」

 

 

「そういう事なら流石に見逃せないけど…?」

 

 

めぐみんとクリスはハイライトを消した目でリーンを睨む。リーンは二人の目を見て涙目で震え出した。

 

 

「いや、『ドレインタッチ』は難しいが、リーンは良い事を言った!ゆんゆん、『ボトムレス・スワンプ』をオークたちの周りに仕掛けてくれ!」

 

 

カズマは何かを閃いたのか、ゆんゆんに指示を出す。そしてゆんゆんはカズマに言われた通り、泥沼をオークたちの周りに仕掛け、オークたちは足を止めた。

 

 

「めぐみん!」

 

 

「感謝しますカズマ、これなら一網打尽にできます!『エクスプロージョン』!!」

 

 

カズマの指示でハイライトが戻っためぐみんがオークたちに爆裂魔法をブチかまし、何とか振り切ることに成功したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「な…何とか逃げ切ったな…」

 

 

無事オークたちから逃げ切ったカズマたちは、森の中で休憩を取っていた。

 

 

「もうしませんもうしません…。セクハラ発言はもうしません…」

 

 

「リーンの奴、すっかりトラウマになっちまってるな…」

 

 

めぐみんとクリスのハイライトが無くなった目を見たリーンは未だに震えており、譫言(うわごと)のようにぶつぶつと呟いており、その姿を見たカズマは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「リーンさん、大丈夫ですか?」

 

 

「ピィーッ!!ガクガクブルブルガクガクブルブル…」

 

 

ゆんゆんはリーンを心配し声を掛けるが、逆効果となり、リーンは大声を上げて更に怯えてしまった。

 

 

「おいこっちだ!こっちから声がしたぞ!」

 

 

するとリーンの声を聞きつけたのか、茂みから何者かがカズマたちの前に現れた。

 

 

「へへへ、いたぜ。紅魔族の子ども二人と、冒険者風の人間だ。やっと見つけたぜ、散々煮え湯を飲まされている紅魔族だ。絶対に逃がさねえ、八つ裂きにしてやる!」

 

 

茂みから現れたのは、紅魔の里を襲っている魔王軍の戦闘兵だった。

 

 

「くそっ!キョウヤ、クレメア、ダスト!戦闘準備!消耗しているゆんゆんとリーンは馬車の中へ!テイラーとダクネスは馬車を守れ!フィオとクリスはテイラーとダクネスの援護を!アスタは俺を含む前衛職全員にフル支援を!『音撃道・斬』!」

 

 

《斬・ザン・ザーン!》

 

 

カズマはバッグから烈雷を取り出しながら全員に指示を出し、バッグをクリスに預け、響鬼に変身した。

 

 

「ジラフ、疲れている所申し訳ないけど、カズマたちを助けてあげて!」

 

 

クリスはジラフを繋いでいたベルトを外すと、ジラフは角と体に紫電を走らせた。

 

 

「へぇ…、俺たちとやるってか?野郎共、殺っちまえ!!」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちと魔王軍との戦いが始まって数十分後…。

 

 

「ハァ…、ハァ…、ハァ…」

 

 

カズマたち前衛組は肩を大きく上下させながら息を整えていた。

 

 

「こんな奴らに半数近くまでやられるとはな…。だが、お前たちも限界の筈だぜ?」

 

 

カズマたちは頑張って魔王軍を相手にしていたが、やはり数の暴力には勝てず、体力が減る一方だった。

 

 

「それじゃあな、くたばれ!!」

 

 

魔王軍の一体が武器を振りかぶると、何処からともなく光の刃が飛んできて、魔王軍を蹴散らした。

 

 

「肉片も残らずに消え去るがいい、我が心の深淵より生まれる闇の炎によって!」

 

 

「もうダメだ我慢ができない!この俺の破壊衝動を鎮めるための贄となれ…!」

 

 

「さあ、永久(とこしえ)に眠るがいい…。我が氷の(かいな)に抱かれて…!」

 

 

「お逝きなさい。あなた達の事は忘れないわ。そう、永遠に刻まれるの…、この私の魂の記憶の中に…!」

 

 

そして四人の紅魔族が現れ、それぞれ決め台詞を述べると

 

 

『ライト・オブ・セイバー!』

 

 

『ライト・オブ・セイバー!』

 

 

『セイバーッ!』

 

 

『セイバーッッッ!』

 

 

四人同時に"同じ魔法"を放ち、魔王軍を次々に倒していった。

 

 

「…すげぇぜ!俺も負けられないぜ!!」

 

 

カズマは烈雷を音撃モードに変形させると

 

 

「『音撃斬・雷電激震』!!」

 

 

その場で烈雷を弾き鳴らす。そしてある程度烈雷を弾き鳴らした後、烈雷を頭上で回し、足元の地面に烈雷を突き刺した。

 

 

すると音撃がカズマを中心に波紋の様に広がり、魔王軍の兵士たち"だけ"を爆散させたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「またまた近くを警戒して来てみれば…、めぐみんとゆんゆんじゃないか。久しぶりだな」

 

 

「ぶっころりーじゃないですか!お久しぶりです、助かりました」

 

 

魔王軍の兵士たちを迎撃した紅魔族の一人がカズマたちに声を掛けると、めぐみんがその人の名を言いながら感謝の言葉を送った。

 

 

「いやいや、ところで…なんでこんな所にいるんだい?それとその後ろの人たちは…?」

 

 

「族長からの手紙を受け取りまして、それで里帰りがてら顔を見せに…。それと、後ろの人たちは私たちの冒険仲間です」

 

 

めぐみんがぶっころりーに仲間を紹介すると

 

 

「ならば聞け!我が名はぶっころりー!紅魔族随一の靴屋のせがれ。魔王軍遊撃部隊員筆頭アークウィザードにして上級魔法を操る者…!」

 

 

紅魔族特有の挨拶をした。めぐみんは拍手し、ゆんゆんは後ろで恥ずかしがっていると

 

 

《ギュイーン!》

 

 

「我が名はカズマ!始まりの街アクセルを拠点にする冒険者で、悪しき魔物を打ち倒す音色を奏でし者!我が名はカズマ!又の名を仮面ライダー響鬼!」

 

 

今度はカズマが烈雷を弾き鳴らし、自己紹介をした。

 

 

「おぉ…!普通なら俺達の名乗りを受けると引かれるのに、俺達の名乗りに答える処か上を行く名乗りを返してくれるとは…!」

 

 

カズマの名乗りにぶっころりーたちは感激していた。

 

 

「それでぶっころりー、私たちを紅魔の里までテレポートしてくれますか?」

 

 

「お安い御用さ。ささっ、皆集まって!…『テレポート』」

 

 

めぐみんはぶっころりーに里までテレポートしてもらう様お願いすると、ぶっころりーは2つ返事で了承し、ジラフを繋げた馬車に集まったのを確認した後、テレポートを使ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さあ着いたよ、ようこそ紅魔の里へ!」

 

 

カズマたちが到着したのは、魔王軍に進撃されているとは到底思えない程、のどかな里だった。

 

 

「へぇ~、ここがめぐみんたちの故郷か…」

 

 

「懐かしいですね、里は以前のままです」

 

 

めぐみんは久しぶりの故郷に懐かしんでいた。

 

 

「それじゃ俺達は哨戒任務に戻るから。ゆっくりしていってくれ、旅の方々」

 

 

ぶっころりーはそう言って指を鳴らすと、姿を消した。

 

 

「き…、消えた…?」

 

 

「いえ違います。今のは光の屈折させる魔法を使って、姿を消した様に見せているだけです。きっと今も近くで見ていると思いますよ」

 

 

アスタがぶっころりーたちが消えたことにびっくりしていると、ゆんゆんが消えた理由を話した。

 

 

「………」

 

 

カズマは"とある一点"を凝視すると、烈風を取り出し、その一点に銃口を向けた。

 

 

「カズマ、流石に烈風で撃ち抜かれるのは洒落にならないので止めて下さい」

 

 

するとめぐみんがさりげなく烈風の銃口を下に向けさせたが、銃口が地面に向いた瞬間、カズマは引き金を引いて空気弾を撃った。

 

 

着弾地点から煙が立つと、その場から離れるように土煙が上がった。

 

 

「カズマ…、鬼ですね」

 

 

めぐみんはカズマの行動に若干引いていた。

 

 

 



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第24話

 

 

「そう言えば、めぐみんはあのぶっころりーとか言う人と知り合いなのか?」

 

 

ぶっころりーたちのテレポートによって無事紅魔の里に到着したカズマ一行は、ゆんゆん案内の下、族長の家へと向かっていた。

 

 

「はい。私たちと彼等はこの里にある学院の同期、つまり同級生なのですが、彼等は普段から働きもしないニート集団なので。家の手伝いはしないわ、街へ働きに出ようともしないわで、勝手に『魔王軍遊撃部隊』などと名乗っている始末です」

 

 

めぐみんの説明にカズマの目が点になってしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はははっ、何を言ってる我が娘よ!あの手紙はお前に宛てたただの近状報告だよ」

 

 

ゆんゆんの家に到着したカズマ一行だが、流石に全員は入れないとの事で、カズマを含む初期メンバーが族長と対談することになった。そしていざ手紙の内容について質問すると、意外な返答が返って来たのだった。

 

 

「いやいや、手紙を書いている間に乗ってしまってついついあんな内容にな。紅魔族の血がどうしても、普通の手紙を書かせてくれなくて!」

 

 

豪快に笑う族長をカズマは"殴りたい"と思った。

 

 

「それじゃあ、『魔王軍の軍事基地を破壊する事もできない状況』って…」

 

 

「あれは連中が随分立派な基地を造ってなあ…、破壊するか、このまま新しい観光名所にするかで、意見が割れているのだよ」

 

 

「族長殿、軍事基地が存在すると言う事は、魔王軍の幹部が来ていると言う内容は…」

 

 

「ええ、手紙の通り。魔法に強いのが派遣されているようです」

 

 

『魔王軍警報!魔王軍警報!手の空いている者は里の入り口グリフォン像前に集合!敵の数は千匹程度と見られます!』

 

 

そこに魔王軍が襲来したことを告げる警報は鳴り響いた。

 

 

「どうやら、言った側からおいでなすったようだな。よかったら見ていくかいお客人?最強の魔法使い達が奏でる葬送曲(レクイエム)で敵が灰塵に帰していく様を…!」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちが見た光景は圧巻としか言い様がなかった。魔王軍の連中は紅魔族の魔法に為す術無くやられていたからであった。

 

 

「いや~、圧巻だったな」

 

 

「紅魔族は大人になると全員が上級魔法を覚えるんです。言うなれば紅魔の里はアークウィザードの里…」

 

 

「あたしはミツルギたちが迎撃に参加していた事にびっくりしたけどね」

 

 

「いや…、警報を聞いたらいてもたっても居られなくて…」

 

 

「でも、そのおかげでいつもより早く撤退させられたので、里の皆は感謝していましたよ」

 

 

カズマたちは紅魔族VS魔王軍の戦いを見た後、感想を述べながらとある家へと向かっていた。

 

 

「ここがめぐみんの実家か?」

 

 

「そうです、連絡をしていなかったので、誰かいると良いのですが…」

 

 

めぐみんは家の扉をノックすると、中からめぐみんを幼くした様な女の子が出てきた。

 

 

「"こめっこ"、ただいまです。いい子にしていましたか?」

 

 

「……お父さーん!お姉ちゃんが男ひっかけて帰って来たー!」

 

 

こめっこと呼ばれた女の子はカズマを見た瞬間、とんでもない事を口走りながら家の中へと戻って行った。

 

 

「カズマ、何も言い返さないんだね…」

 

 

「ある意味その通りだからな…」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……あ~、ゴホン!日頃から娘のめぐみんが世話になっているようだね、それについては心から感謝する」

 

 

めぐみんに促され、家の居間に通されたカズマの目の前には、めぐみんの父の"ひょいざぶろー"と母の"ゆいゆい"がいた。そしてゆんゆんの家同様、流石に全員は入れないので、家の前で初期メンバー以外のメンバーはゆんゆん案内の下、紅魔の里の観光をすることになった。因みにめぐみんは旅の疲れが出たのか、居間に着くと同時に眠ってしまった。

 

 

「…で、もう一度聞くが。君は娘とどのような関係なんだね?」

 

 

「…もう一度ハッキリ言います。俺はめぐみんと結婚を前提とした恋人関係に…」

 

 

「なあああああああああー!!」

 

 

「やめてあなたあああー!今月は特にお金が無いの!ちゃぶ台壊さないで!」

 

 

ひょいざぶろーがカズマにめぐみんとの関係を聞き、カズマがハッキリと答えると、ひょいざぶろーはちゃぶ台返しをしようとし、ゆいゆいに止められていた。

 

 

「…でしたらこれを」

 

 

カズマはバッグから自身が製作したちゃぶ台を出す。

 

 

「俺が作ったちゃぶ台です。脚は折り畳み式になっていて、しまう時にスペースを取らない構造にしています。更に台の間には鉄板を挟んでいますので、余程の事が無ければ壊れません」

 

 

カズマは折り畳み式のちゃぶ台をゆいゆいに渡した。

 

 

「あらあら、こんな良い物をくださるなんて。カズマさんは優しいですね」

 

 

「いえいえ。それと、これはつまらない物ですが…」

 

 

カズマはバッグから菓子折りを差し出す。と、ひょいざぶろーとゆいゆいは菓子折りを同時に掴む。

 

 

「…母さん、手を退けなさい。これはカズマさんがワシにくれた物だろう」

 

 

「あらあらやだわあなたったら。さっきまでカズマさんの事をキミなんて、よそよそしい呼び方をしておいて。これは今日の晩御飯にするんです、酒のつまみになんてさせませんよ」

 

 

ひょいざぶろーとゆいゆいの間には火花が散っていた。

 

 

「ねえねえ、それ食べ物!?いつも食べてるしゃばしゃばしたお粥じゃなくてちゃんとお腹に溜まる物?」

 

 

二人のにらみ合いを他所に、こめっこが菓子折りを見て興奮していた。

 

 

「こめっこ…、君と言う子は…!ゆいゆいさん、今日の夕飯は俺に作らせて下さい!」

 

 

「えっ?…えっと、どうぞ?」

 

 

こめっこの言葉を聞いたカズマは涙を流し、ゆいゆいに夕飯を作らせてほしいと頼む。ゆいゆいは驚きながらもカズマのお願いを聞き入れた。

 

 

「よし、それでは早速取り掛からせてもらいます!アスタ、クリス。手伝いを頼む!ダクネスはこめっこの遊び相手になってやってくれ」

 

 

カズマは次々に指示を出し、全員が頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『いただきます!』

 

 

その夜、カズマお手製の夕飯をめぐみん以外のメンバー全員に加え、めぐみんの家族全員が食べることになった。

 

 

「今日の夕飯は『にんにく鳥の親子丼』にしました。全員分あるのでゆっくり味わって下さい」

 

 

「おいしぃ~」

 

 

こめっこは自分の親子丼をスプーンで頬張りながら食べていた。

 

 

「ところでカズマさん、冒険者は収入が不安定と聞きますが、貯蓄はいかほど?」

 

 

「そうですね…、まあ最低でも10億以上はあるかと…」

 

 

「「じゅうおく!?」」

 

 

ひょいざぶろーとゆいゆいはカズマの貯蓄の額に驚いた。

 

 

「で…、でもそれだけでは…」

 

 

「まあ遊んでいても毎月200万、多くても300万以上は入りますが…」

 

 

「「………」」

 

 

カズマの収入に二人は呆然としてしまった。

 

 

「あの…、因みに住まいは…?」

 

 

「アクセルの街に屋敷を」

 

 

「「…!?…!?…!?」」

 

 

二人は最早言葉に出来ない程驚いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はあ~、貯蓄の事とか言わない方が良かったかな…?」

 

 

食事も終わり、初期メンバー以外のメンバーはゆんゆんの家や宿に泊まる為に一旦別れ、残ったメンバーはめぐみんの家に泊まることになり、カズマは湯船に浸かっていた。

 

 

「あらカズマさん、湯加減は如何でしたか?」

 

 

風呂から上がり、居間に着いたカズマが見た光景は、ゆいゆいがダクネスをスリープで寝かせる所だった。そしてゆいゆいは何食わぬ顔でカズマに声を掛けた。

 

 

「アッハイ、トテモヨカッタデス」

 

 

カズマはカタコトになりながらも答えた。

 

 

「それは良かったです。それで…、申し訳ないのですが、ダクネスさんをアスタさんとクリスさんが寝ている部屋まで運んでもらえませんか?私はこめっこと夫の三人でこの居間で寝ますので」

 

 

ゆいゆいに頼まれ、カズマはダクネスをアスタとクリスが寝ている部屋へと運んだ。

 

 

「それで…、俺はどこで寝れば…?」

 

 

「家が非常に手狭で…、申し訳ないのですが、めぐみんの部屋で寝てもらえますか?」

 

 

ゆいゆいはダクネスを運んだカズマをめぐみんの部屋に押し込んだ。

 

 

「ではお休みなさい。『ロック』」

 

 

ゆいゆいは扉を閉めると、扉にロックの魔法を掛けてカズマが逃げられないようにした。

 

 

「やれやれ…、めぐみんの母親は間違いを起こさないと思っているのか?」

 

 

「思わないですね、むしろ良くやったと言うでしょう」

 

 

カズマが扉の前で佇んでいると、めぐみんが起き上がった。

 

 

「おそよう、めぐみん」

 

 

「何ですかその挨拶は?」

 

 

「昼や夜に起きた人にする挨拶さ。それより、いつ目を覚ましたんだ?」

 

 

めぐみんはカズマの変わった挨拶について質問し、カズマはそれに答えた。そしていつ目覚めたのかを質問する。

 

 

「ついさっきです。それより、いくら春が近いからとは言え、夜はまだ寒いですから、早く布団に入ってはどうですか?」

 

 

「それもそうだな、それじゃお邪魔します」

 

 

めぐみんは布団の端に寄り、カズマが入れるスペースを作ると、カズマはそこへ入った。

 

 

「……めぐみんさん、なぜ俺に引っ付くのですか?しかもカズマさんのカズマさんを撫でて」

 

 

「ここしばらくはご無沙汰でしたから。それに我慢は毒ですよ?」

 

 

めぐみんの誘いにカズマの理性の糸はプッツンと切れ、二人は愛しあったのであった。

 

 

 



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第25話

 

 

昨夜めぐみんと肌を重ねたカズマは家に居る者全員分の朝食をめぐみんと一緒に作っていた。因みにどうやってめぐみんの部屋から抜け出たかというと、窓から外へ出て、玄関から入った。それだけである。

 

 

「あらカズマさん、おはようございます」

 

 

「おはようございます、ゆいゆいさん」

 

 

カズマは台所に来たゆいゆいと挨拶を交わす。余談だが、ゆいゆいは二人の行動を先読みしていたのか、玄関の前でしかも笑顔で立っていたのだった。

 

 

「朝食の準備ですか?ありがとうございます」

 

 

「いえ、向こうでもやっていた事なんで。もう少しで出来上がりますので、他の人達を起こしてもらえますか?」

 

 

カズマはゆいゆいに他の人達を起こしてもらう様お願いすると、ゆいゆいは笑顔で承諾し、台所から去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

朝食の後、カズマとアスタ、クリスの三人はめぐみんの案内で紅魔の里を観光するのだった。因みにダクネスはと言うと、一泊世話になったからと言って、ゆいゆいの手伝いを申し出た為、観光には行かないことを伝えていた。

 

 

「……何これ?」

 

 

めぐみんは最初に里にある神社へと三人を案内した。

 

 

「この里の"ご神体"です。その昔、モンスターに襲われていた旅人をご先祖様が助けた時にくれた物らしく、『これは俺にとって命よりも大切なご神体なんだ』と言っていたそうで、何の神様か知らされていないのですが、何かのご利益があるかもと言う事で、こうして大切に祀られているのです。この神社と言う施設もその旅人が教えてくれた物らしいですよ」

 

 

「どう見ても『猫耳スク水少女』のフィギュアなんだが…、その旅人、絶対俺とキョウヤの同郷の人だろ…」

 

 

カズマはご神体と建物に突っ込みを入れた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「これは抜いた者には強大な力が備わると言われている聖剣です」

 

 

「おお!如何にもそれっぽい!なあ、ちょっと抜いてみてもいいか?」

 

 

カズマは剣の柄を掴んで抜いてもいいかめぐみんに相談する。

 

 

「構いませんが…、それは観光客寄せとして鍛冶屋のおじさんが作った物で、丁度一万人目の時に抜ける魔法がかけられています。抜くには挑戦料もかかりますし…、作ってまだ四年くらいしか経っていないので、百人程度しか挑戦していないはずですから、もっと後に挑戦した方が良いですよ?」

 

 

「随分と歴史が浅い聖剣だね…」

 

 

めぐみんの説明にクリスが苦笑いした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「これは『願いの泉』と呼ばれる泉です。斧やコインを捧げると金銀を司る女神を召喚することができるとか…」

 

 

めぐみんは次に里にある泉へと案内した。

 

 

「へぇ~、俺が知ってるおとぎ話に似てるな」

 

 

「それって『金の斧銀の斧』って話?」

 

 

カズマの呟きにクリスが反応した。

 

 

「それってどんな話なのですか?」

 

 

「確か…、泉の畔で木を切っていた木こりが誤って斧を泉に落としてしまったんだ。すると泉から女神が現れて『あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?』と質問するんだ。木こりは『いいえ、私が落としたのは普通の鉄の斧です』って正直に言ったんだ。すると女神は『あなたは正直者ですね、でしたらこの金の斧と銀の斧を差し上げましょう』と言って、鉄の斧と一緒に金と銀の斧を木こりに渡したんだ」

 

 

「それを見ていた別の木こりが、後日同じ場所で木を切っている時に"わざと"斧を泉に投げ落としたんだ。すると女神が現れて『あなたが落としたのはこの金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?』と同じ質問をしたんだ。その木こりは欲張りで嘘つきだったから『そうです!』と答えてしまったんだ。すると女神は『あなたは嘘つきです、そんなあなたにこの斧は渡せません』と言って泉に帰ってしまったと言うお話なんだ」

 

 

カズマのうろ覚えの説明にめぐみんは

 

 

「確かにこの泉の逸話と似てますね」

 

 

と納得した。

 

 

「因みにですが、親切な鍛冶屋のおじさんが定期的に泉に投げ込まれた斧を回収しては武具等にリサイクルしているのですよ。そうしなければ今頃この泉は錆びた鉄の山になっていたでしょう」

 

 

「なんか…、泉の噂を流した人物が容易に想像できるんだけど…」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ここは『世界を滅ぼしかねない兵器』が封印されている地下施設です」

 

 

「いきなり物騒な所に来たな」

 

 

めぐみんは今度は謎の兵器が封印されている場所へと案内した。

 

 

「一体いつ頃からここにあるのかわからないのですが…、謎の施設と共に作られたと言われていて」

 

 

「謎の施設?」

 

 

「あれです」

 

 

めぐみんは丘の上に建っている工場のような施設を指差した。

 

 

「あれが謎施設です。その名の通り用途も謎ですし、いつ誰が何の目的で作ったのか…。中を探索してもサッパリわからないので、謎施設と呼んで何となく残しているのです」

 

 

「(何であんなコンクリート製の施設が…)」

 

 

カズマは施設の外壁に用いられている材質を見抜いていた。

 

 

「ねえめぐみん、ここ以外に何か封印されている所とか無いの?」

 

 

「あるにはあります。『邪神が封印された墓』や『名も無き女神が封印された土地』とかありますが、色々あって両方とも封印が解けてしまいました」

 

 

「この里の封印ザル並にスカスカだな!!」

 

 

カズマは思わず突っ込みを入れてしまった。

 

 

「なあこの施設の封印は大丈夫なんだろうな?」

 

 

「大丈夫ですよ、この施設には誰も読めない古代文字で書かれた謎かけを解読しないと解けませんから」

 

 

カズマは千里眼を使って封印の扉を見ると、確かに扉の横には操作パネルが設置されていた。

 

 

「(パネルの上に何か書いてあるな…、"小並"…?ってまさか『Kコナミコマンド』かよ!?)」

 

 

説明しよう!『コナミコマンド』とは、コナミが販売したゲームに使われている"隠しコマンド"である!

 

 

「カズマ、どうしたの?」

 

 

「いや何でもない。それよりめぐみん、次はどこに案内してくれるんだ?」

 

 

クリスはカズマにどうしたのか質問をするが、カズマははぐらかし、めぐみんに次に案内してくれる場所を質問する。

 

 

「実は…、行きたい所があるのですが…」

 

 

めぐみんはもじもじしながらカズマたちを見る。

 

 

「遠慮する事は無いから、案内を頼む」

 

 

カズマは笑いながらめぐみんに案内を促し、めぐみんは満面の笑顔でカズマたちを案内した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「おや!めぐみんいらっしゃい!」

 

 

めぐみんが案内したのは里にある服屋だった。

 

 

「んん?そこの人達は里の外から来た人かね?」

 

 

「はい、私の冒険者仲間と恋人です」

 

 

めぐみんがカズマたちを紹介すると

 

 

「我が名はちぇけら!アークウィザードにして上級魔法を操る者!紅魔族随一の服屋の店長!」

 

 

紅魔族特有の自己紹介をした。

 

 

「いや、すまないね。里の外の人間なんて久しぶりだから、名乗りを上げられてスッキリしたよ!」

 

 

「(この里の人達は"これ"やらないと名乗れないのか?)どうも、俺はカズマと言います。しかし、紅魔族随一の服屋とは凄いですね」

 

 

カズマは里の中では随一であることを褒めると

 

 

「ああ、里の服屋はウチ一軒"のみ"だからね」

 

 

「バカにしてんのか」

 

 

ちぇけらはあっさりと随一である理由を話し、カズマは突っ込みを入れた。

 

 

「この里は店自体が少ないからね、他の店も一軒ずつでライバル店なんか無いんだよ!」

 

 

「そう言えば、あのぶっころりーって人も紅魔族随一の靴屋のせがれって言ってたような…」

 

 

クリスは顎に指を添え、首を傾けながら思い出していた。

 

 

「で、何か入り用かい?」

 

 

「ええ、今着ているローブの替えが欲しくてですね。このローブは昔、ゆんゆんから譲って貰った物なのですが、これ一着だと何かと不便でして。これと同じ物はありますか?」

 

 

「ああ、そのタイプのローブなら丁度染色が終わったヤツがあるよ」

 

 

ちぇけらはめぐみんたちを店の裏側に案内すると、物干し竿にかけられているローブが数着あった。

 

 

「とりあえずそこにある物全部ください」

 

 

「ほお!あのめぐみんが随分とブルジョアに…、冒険者として成功したんだね?」

 

 

めぐみんは物干し竿にかかっているローブを全て購入すると言って、ちぇけらはローブを全て物干し竿から取った。

 

 

「いえ、全てカズマのおかげですので。カズマ、お会計を…カズマ?」

 

 

「なあアスタ、クリス…。これ…」

 

 

「うん…」

 

 

「間違い無いよ…」

 

 

めぐみんの問いかけにカズマたちは聞く耳持たず、物干し竿を見ていた。

 

 

「「「どう見てもライフルなんだけど」」」

 

 

そう、ちぇけらが物干し竿にしていたのは紛れもないライフル銃だった。

 

 

「おやお客さん、それが何なのか知ってるんですか?ソレはウチに代々伝わる由緒正しい物干し竿でしてね、錆びないから重宝しているんですよ」

 

 

「それよりもカズマ、お会計を…」

 

 

めぐみんに促され、お会計をしようとカズマは財布を取り出そうとしたが、寸前で止まった。

 

 

「カズマ?」

 

 

「ああいや、俺も服が欲しかったから、お会計は一緒でいいか?」

 

 

「もちろんです!なら私がカズマを今よりかっこ良くしてみせましょう!」

 

 

めぐみんは鼻息を荒くしながらカズマに似合う服をコーディネートするのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふう…、あらかた名所は回りましたね」

 

 

めぐみんが連れて来た所は、里が一望できる丘だった。

 

 

「見晴らしの良い場所ねーっ!風が気持ちいいわ!」

 

 

「だね、お弁当作れば良かったかな?」

 

 

アスタとクリスは丘に吹く風を受けて気持ちよさそうにしていた。

 

 

「だろうと思って、サンドイッチ作っといたから食べようぜ?」

 

 

カズマはバッグからサンドイッチが入った弁当箱を人数分取り出し、全員に配った。因みに今のカズマの服は、めぐみんがコーディネートした紅魔族風の格好で、ご丁寧にローブまで着用しているのである。

 

 

「流石カズマ、気が利くわね」

 

 

「ありがとうカズマ!」

 

 

「ありがとうございます。それと、もっと遠くの景色を見たいなら、山の頂上に展望台がありますよ。超強力な遠見の魔道具が置かれていますから、魔王の城とか覗き見し放題です。オススメの監視スポットは魔王の娘の部屋らしいですよ」

 

 

「魔王の城ですら商売にしてるのね…。それとめぐみん、私ムーディーな場所に連れてってってお願いした筈だけど…」

 

 

めぐみんのオススメにアスタは若干引いており、めぐみんに案内された場所に少し不満があるようだった。

 

 

「ムーディーな場所ですよ?ここ。この丘は『魔神の丘』と言って、丘の上で告白して結ばれたカップルは魔神の呪いにより、永遠に離れる事ができないと…」

 

 

「重たいし怖いわよ!!」

 

 

めぐみんの説明にアスタは突っ込みを入れた。

 

 

「めぐみん、クリス。俺と結婚してくれ!」

 

 

「「喜んで!」」

 

 

「カズマは真に受けて告白しないで!めぐみんとクリスも返事をしない抱き着かない!」

 

 

カズマはめぐみんとクリスに告白をし、二人は即座に答える。その様子にアスタは突っ込みを入れ、疲弊してしまった。

 

 

「…ん?あれは…」

 

 

「どうしたのよ…、また何か突っ込みを入れられるわけ…?」

 

 

めぐみんとクリスを抱擁していたカズマが千里眼で何かを見つけ、アスタがまた突っ込みを入れないといけないのか質問をする。

 

 

「いや違う、魔王軍の連中がめぐみんの実家の近くに入り込んでいる!」

 

 

「本当ですか!?あれほどこっぴどくやられたのに、また襲撃に来たのですか?」

 

 

カズマは見えた状況を説明すると、めぐみんが驚いた。

 

 

「警報がまだ鳴ってない所を見ると、里の人達は気づいていないみたいだね」

 

 

「だな。アスタ、俺たちに速度強化支援魔法(スピードアゲイン)を。俺とめぐみんとクリスは奴らに一太刀浴びせるぞ、アスタは里の人達に応援の要請を頼む」

 

 

カズマの指示を聞いたアスタは即座に支援魔法を全員に使い、カズマ、めぐみん、クリスの三人はめぐみんの実家へ、アスタは里にいる人達に連絡をする為、走り出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「なっ…、なんだこの女は!一体どこから出てきたんだ!?」

 

 

「魔王軍め!私の目の黒い内はここは通さぬ!どうしても通りたければ私を倒して行くんだな!」

 

 

カズマたちが丘から走っている最中、魔王軍の連中はダクネス一人によって進軍を止められている状態だった。

 

 

「なんて邪魔な女だ!攻撃はスカなクセに硬いとか!というか一体何がしたいんだ!?」

 

 

「どうしたのかしら?敵一体相手に何を手間取ってるの」

 

 

「"シルビア"様っ!あの女、助けを呼びに行く訳でもなく攻撃を受け続けて…!何かの罠かもしれません、お下がりを!」

 

 

そこにシルビアと呼ばれた女が現れ、手下が状況を説明する。

 

 

「へえ…、中々やるじゃない。これだけの軍勢を相手に下がりもしないなんて…。じゃあ今度は私が相手をしようかしら?この魔王軍が幹部の一人、シルビア様がね」

 

 

ダクネスの前に魔王軍幹部の一人であるシルビアが立ちはだかった。

 

 

「ダクネス!」

 

 

そこにカズマたち三人が到着した。

 

 

「カズマ!めぐみん!クリス!この女は魔王軍の幹部だそうだ、気をつけろ!」

 

 

「分かった。ダクネス、良く耐えてくれた!今アスタに応援を呼んでもらっている最中だから、それまで耐えるぞ!」

 

 

カズマは音角を剣に変化させ、クリスはダガーを、めぐみんは悪鬼滅殺を構えた。

 

 

「まさか仲間が到着するまでの時間稼ぎだったとはね…。でも、あんたたち四人でこの軍勢を応援が来るまで、持ち堪えられるかしら?」

 

 

「そいつはやってみないと分からないぜ?」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「みんな、こっちこっち!」

 

 

アスタがぶっころりーやキョウヤたちを連れて魔王軍が襲撃している所へと到着する。

 

 

「これは…」

 

 

キョウヤたちが到着すると、そこは地獄絵図だった。

 

 

「行くよー、『バインド』!…からの、そーれ!」

 

 

クリスは空を飛んでいる兵士にバインドを使って拘束し、地面に叩きつけた。

 

 

「そりゃ!」

 

 

カズマはダクネスが受け止めた兵士を次々に倒す。

 

 

「えい!やあ!とお!」

 

 

めぐみんもまた、悪鬼滅殺を振るい、兵士を倒していた。

 

 

「おぉ…、めぐみんがネタ魔法では無く、剣術を使って敵を倒しているとは…」

 

 

「何なんだい、こいつら尋常じゃない強さじゃないか!」

 

 

シルビアはカズマたちの強さに驚いていた。

 

 

「カズマ!助っ人を連れて来たわよ!」

 

 

「アスタ!助かるぜ!ダクネスにヒールを頼む、今まで敵の攻撃を受けていたから疲弊しているはずだ」

 

 

アスタは頷いて、ダクネスにヒールをかける。するとダクネスが負っていた傷が塞がっていった。

 

 

「あんたたち、一体何者なんだい!?」

 

 

「俺たちはお前達魔王軍を倒す冒険者だ!そこにいる豪華な装備をしている男は王都でその名を知らない人はいない"魔剣の勇者"ミツルギキョウヤ!そこのクルセイダーはバニルの支配に耐え切った猛者、そしてそこの剣を振るっている紅魔族はバニルやデストロイヤーをも倒した素晴らしき魔法の使い手!」

 

 

カズマの説明にシルビアは愚か、ぶっころりー達も驚いた。

 

 

「そして「そして彼は魔王軍幹部の一人であるベルディアを一人で倒し、バニルの本体を見破り、更にはデストロイヤーを破壊する作戦を立てた最強の冒険者で私の最愛なる男で、我等の誇りあるリーダーです!」ってめぐみん!そんな紹介恥ずかしいんだけど!?」

 

 

「めぐみん!"私の"じゃなくて"私達の"って言ってくれないと!」

 

 

「そうでしたね、幾ら母の策略とは言え、昨日カズマの求愛を私の身体一つで受け止めていたので勘違いしてしまいました」

 

 

「なにそれズルい!」

 

 

やんややんややんややんや………。

 

 

「おーいお二人さん、奴ら逃げようとしているけど…いいのか?」

 

 

ぶっころりーが指差した先には、シルビア達が背を向けて逃げようとしていた所だった。

 

 

「逃がさないわよ!『バインド』!!」

 

 

「『エクスプロージョン』!!」

 

 

クリスがすかさず魔王軍をバインドで縛り付け、めぐみんが爆裂魔法を叩き込んだ。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いやいや凄かったな!あの魔王軍の連中を一網打尽にするとは!」

 

 

魔王軍を退けたその数時間後、カズマたちは里にある食堂で夕飯を食べていた。

 

 

「それほどでもありませんよ、あの時はクリスがバインドで大勢の敵を捕縛してくれたから、爆裂魔法が決まっただけです」

 

 

「…にしては、何か威力が上がってたみたいだったけど?」

 

 

クリスのジト目にめぐみんは口笛を吹きながら視線を反らした。

 

 

「俺としては、めぐみんが剣を扱えることに驚いたがな。めぐみん、いつの間にジョブチェンジしたんだ?」

 

 

「ジョブチェンジなんてしていませんよ?私は紅魔族随一の爆裂魔法の使い手で、爆裂魔法をこよなく愛する者。爆裂魔法関係以外のスキルは例え教えられても覚える気はありません。まあ、何故戦えたのかと言えば、カズマがここ最近で、寝る間を惜しんで私に剣の振り方や動きを教えてくれたからですね」

 

 

ぶっころりーがめぐみんに質問をすると、めぐみんはあっさり答えた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…で、結局こうなるのね」

 

 

「仕方ないですよ、私の母なんですから」

 

 

夕飯を終えたカズマたちは、めぐみんの実家に戻るなりゆいゆいから寝室の部屋割りを言い渡された。そしてもちろん、めぐみんとカズマは同じ部屋になったのだが、めぐみんがゆいゆいに

 

 

「今日からはクリスも私の部屋で寝てもらいます。向こうの屋敷でも三人一緒に寝ていましたから、問題ありません」

 

 

と言った為、めぐみんの部屋にはカズマとクリスの三人で寝ることになった。余談ではあるが、めぐみんの実家に帰る前に『混浴温泉』なる所で男女全員で風呂に入って行ったのは言うまでもない。

 

 

「しかし…、"これ"では俺が身動き取れないんだが…」

 

 

めぐみんの布団の中では、カズマを中心に右にめぐみん、左にクリスが、カズマの両腕を枕代わりにしていた。

 

 

「大丈夫だよ、すぐ(腰が)動けるようになるから」

 

 

「今何か不穏な言葉を発しなかったか?」

 

 

カズマの質問にクリスはそっぽを向いた。

 

 

「クリスがいて助かります。昨日はカズマの求愛が激しすぎて気を失いそうになりましたから」

 

 

「めぐみんはもう少し自重しようか、それと俺の股間をまさぐるのは止めろ。止めないともう二度と腕枕してやらんぞ?」

 

 

めぐみんはカズマの股間をまさぐると、カズマは止めるように言った。

 

 

『魔王軍襲来!魔王軍襲来!既に魔王軍の一部が里の内部に侵入した模様!』

 

 

そしてクリスがカズマの上に乗ろうとしたその時、里に警報が鳴り響いたのだった。

 

 

 



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第26話

 

 

『魔王軍襲来!魔王軍襲来!既に一部が里の内部に侵入した模様!』

 

 

クリスがカズマの求愛を受けようとしたその矢先、魔王軍の襲来を告げる警報が鳴り響いた。

 

 

「もうっ!これからって時に!!」

 

 

「悔やんでいる暇はありませんよクリス、とにかく今は魔王軍を何とかするのが得策です」

 

 

「めぐみんの言うとおりだな、クリスはバッグを預かっててくれ。迎撃に参加するぞ!」

 

 

カズマはめぐみんに悪鬼滅殺を、クリスにバッグを渡し、窓から出ようとした。

 

 

「三人とも早く出なさい!全く…、既成事実を作らなきゃいけない大事な時に…。空気を読めない方々ですね」

 

 

そこにゆいゆいが扉から入って来て、部屋から出るよう促した。

 

 

「あ…、ごめんカズマ、あたし…」

 

 

するとクリスが何やらもじもじし始めた。

 

 

「あ~、クリスは"用事"が済んだら参加してくれ。俺とめぐみんは先に行ってるぞ?」

 

 

カズマはクリスの様子を見て、何かを察し、先に迎撃に参加することを伝え、めぐみんと一緒に部屋を出たのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

《クリスside》

 

 

「ハア…、ハア…、ハア…。…も、もう少し…、もう少しで…!」

 

 

あたしが"用事"を済ませてめぐみんの実家から出ると、そこには満身創痍のシルビアがいた。

 

 

「あら確かアンタは…、カズマとか言う冒険者の仲間…だっけ?」

 

 

シルビアはあたしが誰なのかを思い出したようだ。

 

 

「…そうよ、出会って早々悪いけど、アンタを倒させてもらうわ!」

 

 

あたしは腰からダガーを抜いて構える。

 

 

「悪いけど、アンタの相手をしている暇は無いんだよ!」

 

 

シルビアはそう言ってあたしに肉薄した。

 

 

「(…っ!速い!けど、これくらい…)」

 

 

対処できると思ったあたしの意識はここで途切れてしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…ねえ、ちょっと。いい加減起きなさい」

 

 

あれ…?あたし…。…そうだ、あたしシルビアと対峙して、それから首に何か衝撃が走って…。…って、身動きが取れない!?

 

 

「やっと起きたわね、悪いけどアンタを拘束させてもらったわよ。それより、ここは何処だか分かるかしら?」

 

 

シルビアに言われてあたしは周囲を見渡す。確かここは昨日めぐみんに案内された『世界を滅ぼしかねない兵器』が眠っている所…だったはず。

 

 

「どうやら察しが着いたようね。そうよ、ここは『世界を滅ぼしかねない兵器』が眠っている紅魔の里の地下格納庫よ。そんでアタシはこの格納庫に眠っている兵器を頂きに来たって訳」

 

 

…成る程ね。だから昨日連中はこそこそ隠れながら里に侵入していたって訳ね。…でも確か…。

 

 

「生憎だけど、それは無理なんじゃない?だってその格納庫は封印されているらしいから」

 

 

「そうね、でもぬかりはないわよ。"これ"をご覧なさい」

 

 

そう言ってシルビアは胸の谷間からカードのような物を取り出した。一体何処に何を入れてるのよ…、なんか見てるとイライラしてきた…。

 

 

「何か視線が痛いんだけど…、ま…まあいいわ。これは『結界殺し』と言って、アタシ達魔族が持つ魔道具の一つで、結界を破壊する事に特化した物よ。これがあれば、例え神々が封じた物だって…」

 

 

シルビアが結界殺しをかざすけど、何の反応もしなかった。そしてようやく夜目が効いてきたのか、扉の周りが見えるようになったよ。それであたしは気づいた、扉の横にパネルがあって、そこに『小並コマンド』って書かれていた事に。

 

 

どうやらこの扉を開けるには『小並コマンド』を入力しないといけないみたいだね。…あっ、だからカズマは昨日ここに来た時に少し動揺してたんだ。多分千里眼であの文字を読んだに違いない。

 

 

「くそ…、何なんだい!?何でうんともすんとも言わないんだい!」

 

 

シルビアは魔道具が反応しない事に苛立っているみたいだね…。カズマ…、あたしがいない事に気づいているかな…?ってあれはまさかディスクアニマルの鈍色蛇(ニビイロヘビ)!この子を起動させる事ができるのはカズマかお姉ちゃんしかいない!

 

 

あたしは鈍色蛇に向かって頷くと、鈍色蛇はこの場から去った。きっとカズマたちに知らせに行ったんだ。

 

 

「くっ…、まあいいわ。こう言った事の為にアンタを攫ったんだからね」

 

 

扉や壁を叩いていたシルビアがあたしの方へ来た。きっとあたしなら開けられると思ったんだろうね。

 

 

「ねえアンタ、この扉の封印、解けるんじゃない?」

 

 

「おあいにく様、あたしは解けないわよ」

 

 

本当は解き方を知ってるけど、あえて知らないフリをする。少しでも、カズマたちが来る時間を稼がないと。

 

 

「あら、アンタに選択肢は無いわよ?」

 

 

シルビアはそう言って、スカートの裾を持って上に上げた。…って、ええっ!?

 

 

「な…っ、ななっ…!」

 

 

「"コイツ"でアンタをヒィヒィ言わせる事だってできるのよ?アタシは"グロウキメラ"、半分は"女"で…」

 

 

「もう半分は"男"ですもの」

 

 

シルビアはあたしに股間に着いている"モノ"を近づけて来た。って止めてよ!そんな汚らわしいモノ、見せつけないでよ!

 

 

「ほら、"コイツ"を何とかしてほしかったら封印ヴォ!?」

 

 

シルビアがジリジリとあたしに近づくと、誰かがあたしの後ろから現れてシルビアの腹に飛び蹴りを喰らわせた。その後ろ姿は見間違えるはずは無かった。

 

 

「テメェ…、俺の女に何汚ねぇモン見せてんだ…?」

 

 

あたしの最愛の男性(ひと)にして最高のヒーロー…。

 

 

「カズマぁ…」

 

 

仮面ライダー響鬼に変身したカズマだった。

 

 

《クリスside end》

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「テメェ…、俺の女に何汚ねぇモン見せてんだ…?」

 

 

カズマの下に鈍色蛇が現れ、カズマは鈍色蛇が手に入れた情報を読む。するとクリスがシルビアに捕縛されている事を知り、急いでクリスの下へ駆けつけると、シルビアがクリスに自分の股間を見せていた為、カズマはシルビアに飛び蹴りを喰らわせたのだった。

 

 

「クリス!」

 

 

「お姉…ぢゃん……。あだじ…、怖がっだ…、怖がっだよぉ…」

 

 

カズマの後を追いかけていたアスタがクリスに駆け寄ると、余程怖かったのか、大泣きしてしまった。その様子をめぐみん達が見ていた。

 

 

「クリス…、相当怖い思いをしたんだな…。おいシルビアと言ったか、俺の逆鱗に軽々しく触れた事、後悔させてやる」

 

 

カズマは拳を鳴らしながらシルビアに近づく。

 

 

「くっ…、こうなったら!」

 

 

シルビアはパネルに近づきボタンを操作する。そして操作したボタンは偶然にも『上上下下左右左右BA』と小並コマンドだった。

 

 

ゴゴゴゴゴ………。

 

 

そして扉が開いた。

 

 

「扉が!」

 

 

「まさか封印が解かれるとは!」

 

 

「アハハ、ラッキーだわ!これで『魔術師殺し』を手に入れられるわ!!」

 

 

シルビアは喜びながら格納庫の中へと入る。

 

 

「っ!?今なら…」

 

 

自身を拘束していた鞭をアスタに切断してもらったクリスは、パネルを操作し、扉を閉めたのだった。

 

 

「クリス…、よく封印の仕方が分かりましたね…」

 

 

「丁度シルビアが押した所を見ていたからね」

 

 

めぐみんが扉の操作をしたクリスに感心していると、クリスはネタばらしをした。

 

 

その時、格納庫全体が"揺れ出した"。

 

 

「この揺れ…、道が塞がれてしまう!皆、早くここから離れて外へ!!」

 

 

カズマの指示で全員が外へ出る。そしてカズマが格納庫に通じる入り口から離れたその時、格納庫の扉が吹っ飛び、そこから下半身が鋼鉄の蛇のような姿になったシルビアが現れた。

 

 

「アハハハハハハッ!!残念だったわね!アタシがただ兵器を持ち出すと思った?アタシはグロウキメラ、兵器だろうが何だろうが、身体に取り込んで一体化する力を持つ!我が名はシルビア!強化モンスター開発局局長にして自らの身体に合成と改造を繰り返してきた者!!」

 

 

シルビアは名乗りを上げると、口から炎を吐き出し、里を燃やそうとした。

 

 

「くっ…、火が燃え広がるのが速い!皆、テレポートで高い所へ脱出を!急いで!」

 

 

カズマの指示によって全員がテレポートで近くの丘まで避難したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ああ…、里が…燃えていく…」

 

 

「…もはや、この里は捨てるしかないな。魔王軍の思い通りにされるのは癪だが、生きてさえいればまたやり直せる…」

 

 

族長を始めとした紅魔族全員、カズマパーティー全員は丘の上から里が燃えていく光景を眺めていた。

 

 

「…許せねぇ」

 

 

「カズマ?」

 

 

カズマがぼそりと呟き、その言葉を隣にいるめぐみんが聞き取り、カズマに視線を向ける。

 

 

「めぐみんやゆんゆんが生まれ育った思い出深い故郷を…、何も考えずに破壊するなんて…!」

 

 

カズマは怒りを表すかのように拳を握る。

 

 

「カズマ…、こうして私達の為に怒ってくれるのはとても嬉しいです。確かにこの里には嬉しい事や楽しい事、たくさんの思い出があります。でも、さっき族長が言った通り、生きてさえいれば、やり直せるのです。だから…」

 

 

めぐみんはカズマの手を握りながら微笑む。だがカズマは見てしまった。めぐみんの目から涙が流れる所を。

 

 

「カズマ…?カズマッ!!」

 

 

カズマは自分の手を握っているめぐみんの手を優しく振りほどき、シルビアに向けて駆け出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「アハハハハッ!!燃えなさい!何もかも燃え尽きちゃいなさい!!」

 

 

シルビアは吐いた炎を見ながら高笑いをする。すると炎の中からカズマが現れた。

 

 

「何だいアンタ?アタシと戦う気かい?」

 

 

シルビアはカズマを発見し、声を掛ける。だが、カズマはシルビアの問いかけを無視し、シルビアに詰め寄る。

 

 

そしてカズマはシルビアの腹に強烈なパンチを繰り出した。

 

 

「グハァ!?」

 

 

シルビアはくの字になりながら後ろへ吹っ飛んだ。

 

 

「グゥ…、この強烈な一撃…。まさか、さっきの…」

 

 

「言ったはずだ、後悔させてやるってな」

 

 

カズマは周囲の炎を巻き込みながら自身の身体が燃え上がる。そしてカズマは響鬼・紅に変身した。

 

 

「紫だった身体が紅に…、アンタは一体何者なんだい!?」

 

 

「我が名はカズマ!始まりの街アクセル随一の最強の冒険者にして貴様達魔王軍を滅ぼす者!!我が名はカズマ、またの名を仮面ライダー響鬼なり!!」

 

 

カズマは名乗りを上げた。

 

 

「カズマ…?まさか昨日あの紅魔族の小娘が言っていたベルディアを倒したってのは…」

 

 

「ああ本当だ。"俺が倒した"」

 

 

カズマの肯定にシルビアは身震いした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一方、めぐみん達はと言うと…。

 

 

「カズマのバカ!幾ら自分が強いからと言って、たった一人でシルビアと戦いに行くなんて!」

 

 

カズマの行動にアスタは悪態を突いていた。

 

 

「アスタ、カズマは勝ちますよね…?」

 

 

「……今の状態じゃ厳しいわね。もし紅になっても、力は五分五分。最悪、同士討ちって事も…」

 

 

アスタの予想に、めぐみんは顔を青ざめた。

 

 

「…めぐみん、カズマの後を追わないで。もし今めぐみんがカズマの後を追いかけたら、カズマが一人で戦いに行った意味が無いから」

 

 

めぐみんが走り出そうとした所をアスタは身を挺して止めた。

 

 

「アスタ、行かせて下さい。でないと…撃ちますよ?」

 

 

めぐみんは爆裂魔法を撃てるように魔力を込める。

 

 

「めぐみん落ち着きなさい、私は"今の状態"と言ったのよ?勝てる方法が一つだけあるわ。クリス、"アレ"を出して」

 

 

「"アレ"って…、まさか装甲声刃(アームドセイバー)!?ダメだよお姉ちゃん!アレはまだカズマには扱えないよ!」

 

 

クリスはアスタが何を出させたいのかを悟ると、アスタの作戦を否定し始めた。

 

 

「クリス、今この状況を打破するにはそれしか無いの」

 

 

「でも、もし"適合"しなかったら、カズマはもう二度と変身できなくなっちゃうんだよ?!」

 

 

「大丈夫よ、カズマなら適合する。カズマを愛するあなたが信じなくちゃ、めぐみんしかカズマを信じないわよ?そんなんじゃ、カズマの婚約者失格よ?」

 

 

アスタに論されたクリスは、渋々ではあるが、バッグから装甲声刃を取り出した。

 

 

「あの…、そのダガーのような剣は何ですか?それと、先程から不安な言葉が聞こえていたのですが…」

 

 

「これは『音擊増幅剣(おんげきぞうふくけん)・装甲声刃』、カズマが変身する響鬼の"最強の姿"になる為に必要な武器よ」

 

 

アスタはクリスから装甲声刃を受け取りながら説明をする。

 

 

「なら早くそれを「だけど、これが出す波長に適合しなければ、二度と変身できなくなっちゃうの」…え?」

 

 

めぐみんの言葉を遮るように言ったアスタの言葉が、めぐみんを動揺させた。

 

 

「まあカズマの波長に合わせて作ってあるから大丈夫だと思うけど、念には念を入れて、私はクリスとミツルギの三人でもう一度あの格納庫へ行ってみるわ。もしかしたら、『魔術師殺し』に対抗し得るヒントがあるかもしれないしね」

 

 

「でしたら私がテレポートで送ります!」

 

 

そこにゆんゆんが同行を申し出た為、アスタはクリスとキョウヤ、ゆんゆんの三人を連れて行く事にした。

 

 

「めぐみん、とりあえず"コレ"を持っていて」

 

 

アスタはクリスが持っていたカズマのバッグと装甲声刃、そして音角を渡した。

 

 

「その音角はディスクアニマルを起動させるのと、情報を読み取る為だけに作った物で、変身はできないから。それじゃゆんゆん、テレポートお願い」

 

 

アスタはゆんゆんにテレポートをお願いし、ゆんゆんはテレポートを発動させた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さて…と、ゆんゆんは魔力回復に集中する為に外で待機していて。ミツルギはゆんゆんの護衛を、中は私とクリスの二人で探すわ」

 

 

格納庫に到着したアスタは、ゆんゆんとキョウヤに指示を出し、クリスと一緒に中を探索するのだった。

 

 

「さて…何かめぼしい物は…っと何コレ?」

 

 

アスタは足下にある物を拾い上げた。

 

 

「これって…、どう見ても"ゲーム○ーイ"じゃない…」

 

 

アスタが見つけた物はこの世界には無い(カズマ達の世界の)ゲーム機だった。そしてアスタは周りを見渡すと、"ファ○コン"や"6○"等のゲーム機ばかりだった。

 

 

「お姉ちゃん、こっち来て!」

 

 

クリスがアスタを呼んだ為、アスタはゲーム機を放り投げ、クリスの下へと向かった。

 

 

「お姉ちゃん、これ…」

 

 

「手記…みたいね。どれどれ…?あら、日本語で書かれているわ。え~っと…」

 

 

『○月×日、ヤバい、この施設の事がバレた。でも幸いな事に俺の作った物が何なのかまでは分からなかったらしい。国の研究資金でゲームやオモチャ作ってた事が知られたらどんな目に遭わされるやら…』

 

 

『○月×日、俺の楽園に踏み込んできたお偉いさんがゲームの用途を聞いてきた。オモチャですよなんて素直に言える訳がない、これらは世界を滅ぼしかねない兵器ですと真面目な顔でぶっこいとした。同僚の女研究者が「こ、これが…」とおののいていた。スイッチを勝手に入れてピコーンって起動音にビクッとしてた。普段気が強いクセになにゲーム相手にビビってんスか?』

 

 

「…ねえお姉ちゃん、あたしこの手記書いた人に心当たりがあるんだけど…」

 

 

「…偶然ね、私もよ。とりあえず続きを読むわね」

 

 

『○月×日、俺の研究所に多くの予算をつけてやると言われた、その代わり魔王に対抗できる兵器を作れとの事。いやもう俺のチート能力で十分国に貢献したじゃん。 「争いは何も生み出さない…」と真面目ぶって言ってみたら引っ叩かれた。仕方ないので何か作ろうかと思ったけど、何作ろう』

 

 

『○月×日、巨大人型ロボを作ろうと思う、変身合体できるヤツ。そうしたら舐めんなって怒られたが、魔法に強くてデカいの作っとけばいいんじゃないっスかねと鼻ほじりながら言ってみたらあっさり通った。何をモデルにしようかと思っていた所にちょうど野良犬が。コイツでいいや、犬型兵器「魔術師殺し」と名付けてやろう』

 

 

『○月×日、設計図を提出したら、「なるほど蛇か、脚を付けるよりも楽そうだし、考えたな」いやそれ犬なんですが、絵心ないのはわかっているけどちゃんと見ろ、胴体が長い犬だろうが。…あらためて見ると蛇だわこれ』

 

 

『○月×日、実験開始。うん、ちゃんと動いた。…でもバッテリーが全然持たないわこれ。魔族相手にけしかけてみたらビビってたので、これは我々人間の手に余るとか言ってここにしまっておこう。バッテリーがないから動かないけど、その内キメラの材料にして生体兵器にできないかな。それならバッテリー要らずだし格好良さそうなのに』

 

 

『○月×日、対魔王用の新兵器できた。と言っても要は改造人間なんですがね。改造手術受けたいヤツを募集したら抽選になるほどの人気だった。皆どれだけ改造人間に憧れ抱いているんだ、手術後には記憶がなくなるんだけど、いいのか。魔法使い適性を最大レベルに上げるだけの簡単な手術と説明したのに、連中がワガママ言い出した。ついでに紅目(あかめ)にしてほしいだの、一人一人の体に機体番号とか付かないのかだのと、この国はこんな連中ばっかなのか』

 

 

『○月×日、手術がようやく終わった。「マスター、我々に新しい名を」とか言ってきた。マスターって誰だよ。面倒臭いから適当なあだ名を付けてやった。何か喜んでたが、コイツらの感性どうなってんだろ。でもコイツらすげえ強い。何かお偉いさんに褒められたし、せっかくだから種族名でも付けてやろう。目の色に合わせて「紅魔族」』

 

 

「「ええっ!!」」Σ(Д゚;/)/

 

 

手記を途中まで読んでいたアスタとクリスは、めぐみん達のご先祖様誕生の秘密を知ってしまった。

 

 

「まさかめぐみん達のご先祖様が改造人間だったなんて…」

 

 

「あぁ…、だからめぐみんのうなじにバーコードみたいな刺青があったんだ…」

 

 

「クリス、何で知ってるの?」

 

 

「一緒にカズマの求愛を受けている時に」

 

 

「……とりあえず続きを読むわね…」

 

 

『○月×日、紅魔族の連中が彼らの天敵である「魔術師殺し」に対抗可能な兵器が欲しいとごねだした。いやアレ動きませんよ?大体お前らの天敵として作った訳じゃないし、そもそもバッテリー切れてますから。いくら説明しても誰一人聞かないから適当な武器を作ってやった。…適当に作るつもりが何だか懲りすぎて凄い代物になった。電磁加速要素なんてないけど、便宜上「レールガン(仮名)」とでも名付けとこう』

 

 

『レールガン(仮名)凄え、マジ凄え。これこそ世界を滅ぼしかねない兵器じゃね?魔力を圧縮して撃ち出すだけのお手軽兵器だったはずなのに、連中に一発撃たせてみたらあまりの威力にビックリした。とは言えこんな威力を誇るのも今だけだろう。あり合わせの部品で作ったものだし、数発撃ったらぶっ壊れそう。悪用されても怖いからしまっとこう。というか長さが長さだし、物干し竿代わりにちょうどいいな』

 

 

『しかしまいったな。紅魔族計画が上手くいった事で、気を良くしたお偉いさん達が莫大な国家予算をかけて超大型の機動兵器を作る計画を立てている。そんなもん簡単にできると思ってんのかね。ほんとバカじゃねーの?』

 

 

『まあ、俺には関係ない話ですがね!』

 

 

「「………」」

 

 

アスタとクリスは手記を読み終えると同時に項垂れた。

 

 

「まさかデストロイヤーを造った人とこの人が同一人物だったなんて…」

 

 

「と…とにかく、このレールガンって物を探そうよ!」

 

 

「そうね、でも物干し竿くらいの長さがあるならすぐに見つかるはずだけど…んっ?"物干し竿くらいの長さ"?」

 

 

アスタは自分が言った言葉に違和感を覚えた。そして

 

 

「あ~っ!分かったレールガンの在り処が!」

 

 

レールガンが何処にあるのか"思い出した"のだった。

 

 

「お姉ちゃん本当!?」

 

 

「ええ!ってかクリス、アンタも見ているはずよ!次の目的地は"あそこ"よ!」

 

 

アスタは一目散に駆け出し、クリスもアスタの後を追った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「まさかあのシルビアと互角とは…」

 

 

「………」

 

 

丘の上で見ていた皆は、カズマとシルビアの戦いは互角の勝負に驚いていた。

 

 

「皆、持ってきたわよ!『魔術師殺し』の対抗策を!」

 

 

そこにアスタとクリス、キョウヤとゆんゆんがレールガンを持って到着した。

 

 

「アスタ、ミツルギとゆんゆんが持っているそれが対抗策なのですか?」

 

 

「そうよ、これは魔力を圧縮して撃ち出すと書かれていたから、ここにいる紅魔族全員の魔力を込めれば撃てるはずよ!」

 

 

「分かりました。皆さん、魔力を!」

 

 

めぐみんの指示で紅魔族全員が魔力を放出する。するとレールガンのマガジンに当たる部分が魔力を吸収し始めた。

 

 

「まだなのか?」

 

 

「多分だけど撃てるだけの魔力がまだ溜まっていないんだわ」

 

 

丘にいる人達の中で唯一狙撃ができるキースが撃てる状態なのか質問すると、アスタがまだ溜まっていないことを伝える。

 

 

「……溜まったわ!キース、そこの引き金に指を添えて狙いを!」

 

 

魔力が十分に溜まったのを確認したアスタは、キースに使い方を教える。

 

 

「狙いを定めたら引き金を引いて」

 

 

「了解。…狙い撃つ!」

 

 

キースはシルビアに狙いを定め、引き金を引いた。するとレールガンから魔力の銃弾が撃ち出された。そしてシルビアに直撃する…と思いきや、当たる直前でシルビアが気づき、弾道から離れ直撃を免れた。

 

 

「避けられた!?」

 

 

「そんな…、狙撃を使ったのに!?」

 

 

クリスとキースはシルビアが避けた事に驚いた。

 

 

「もう一度魔力を!」

 

 

「ダメ、今の一発で発射口が破竹のように壊れてる!もう使い物にならないよ!」

 

 

めぐみんがもう一度魔力を込めようとするが、クリスがレールガンの状態を口にした。

 

 

「……こうなったら、最後の手段ね。めぐみん、カズマに装甲声刃を。それから、バッグをクリスに」

 

 

「…分かりました」

 

 

めぐみんはバッグをクリスに渡し、ぶっころりーに頼んでカズマの下へテレポートしてもらった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「何だったんだい、今の?」

 

 

シルビアが自分に迫っていたものに気を取られていると

 

 

「カズマ」

 

 

めぐみんがぶっころりーと共にカズマの横に現れた。

 

 

「めぐみん、それにぶっころりーか」

 

 

「アスタからこれを渡すよう言われました」

 

 

「これは…、装甲声刃か」

 

 

めぐみんはカズマに装甲声刃を渡した。

 

 

「カズマ…、必ず勝ってくださいね。…んっ」

 

 

めぐみんはカズマの口(があるであろう所)にキスをした。そしてぶっころりーに頼んでテレポートした。

 

 

「サンキュー、めぐみん。いくぜ、"響鬼・装甲"!」

 

 

カズマは装甲声刃にあるメガホンマイクに向かって声を発する。すると何処からともなくディスクアニマルが集まり、変型しながらカズマの体に纏わりつき、鎧の一部となる。そして金色の茜鷹が胸に装着され、額に"甲"の字型の装甲が装着された。

 

 

「なっ…、何だい!何なんだいその姿は!?」

 

 

「仮面ライダー響鬼最強の姿…、その名も…」

 

 

装甲響鬼(アームドヒビキ)

 

 

「アームド…ヒビキ」

 

 

カズマが放つ威圧にシルビアは臆してしまった。

 

 

「シルビア、俺はお前を許さない。地獄で閻魔様に懺悔するんだな、"音擊刃(おんげきは)鬼神覚声(きしんかくせい)"!!」

 

 

カズマは装甲声刃のメガホンマイクに声を発すると、その声を音擊として増幅させ、装甲声刃の刃がカズマの身長以上に伸びると、カズマは一気に装甲声刃を縦に振り下ろし、シルビアを一刀両断した。

 

 

 



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第27話

 

 

装甲響鬼(カズマ)がシルビアを倒してから3日、カズマはめぐみんの実家にある彼女の部屋で眠ったままでいた。

 

 

何故カズマが眠っているのか、それはシルビアと戦っている間、カズマは響鬼・紅の状態を維持していたからだ。

 

 

ただでさえ体への負担が大きい強化形態に加え、短い時間ではあるが、最強形態になった事での負担が戦闘終了後に一気に襲い掛かり、カズマは燃え盛る炎の中で倒れ、変身が強制解除されたのだった。

 

 

運良くぶっころりーの仲間がカズマを素早く救助した為、カズマの外傷は軽い火傷を負うだけだったが、蓄積された疲労のせいで今も眠っている状態だった。因みに火傷はリーンがフリーズを使って体を冷やし、アスタがヒールを使い完治していた。

 

 

トントントン…。

 

 

『めぐみん、入るね』

 

 

襖の外からゆんゆんの声がして、当人が襖を開けた。めぐみんの部屋には布団で寝ているカズマの横にめぐみんが座っていた。

 

 

めぐみんはカズマが倒れてからずっと、カズマの側でカズマの介護をしていた。それも日課にしている爆裂散歩にも行かずに。

 

 

「めぐみん、ご飯持ってきたから食べて。食べ終わったら外に置いといて」

 

 

ゆんゆんはそう言って部屋から出る。めぐみんは食事すら取らず、じっとカズマを見続けていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「んぁっ…、ここは…」

 

 

カズマが倒れてから4日目の昼、カズマは意識が戻り、目を覚ました。

 

 

「すぅ…、すぅ…」

 

 

「めぐみん?…って事は、ここはめぐみんの部屋か?」

 

 

カズマは隣で眠っているめぐみんを見ると、今自分がどこにいるのかを把握した。

 

 

「ん…、…あっいけません。眠ってしまいまし…た……」

 

 

「おはよう、めぐみん」

 

 

「カズマ…、カズマッ!」

 

 

めぐみんは寝惚け眼を擦りながら目を開けると、目を覚ましたカズマが挨拶をした。するとめぐみんはカズマに詰め寄った。

 

 

「カズマ…、目を覚まして良かったです…」

 

 

「また心配掛けさせたな…、でも、魔神の丘の呪いのおかげだな。こうしてめぐみんの所に戻ってこれたんだから」

 

 

カズマは布団から腕を伸ばし、めぐみんの頭を優しく撫でた。

 

 

「カズマ…」

 

 

めぐみんはカズマとの距離を縮める。そして後数センチまで距離を縮めると

 

 

「めぐみん、カズマの具合はどう?」

 

 

アスタがノックをせずに入室した。

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

「………あはは、ごゆっくり~」

 

 

気まずい空気に耐えられなくなったアスタは退室した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後アスタからカズマが目を覚ました事を聞いたメンバー一行は続々とめぐみんの部屋へ雪崩れ込んで来たが、全員は入れない為、人数制限を掛け、少数での面会となった。因みにジラフはと言うと、めぐみんの部屋には入れないので、部屋の外から窓越しで面会しており、他のメンバーよりも長い時間、カズマと会っていた。

 

 

それからカズマはめぐみんとクリスの介護のおかげで回復し、ジラフの背に乗りながらではあるが、里を散歩していた。

 

 

「凄いな、里がもう復興している」

 

 

「里の皆が悪魔やゴーレムを召喚して復興しましたので。他所の復興速度を知らないので、どれくらいなのか知りませんがこの里では大体3日もあれば復興します」

 

 

カズマは里の復興具合に驚き、めぐみんが補足をする。

 

 

「そう言えば…、里が燃えていく所を見ていためぐみんと同い年くらいの女の子がいたんだけど…」

 

 

「その人の特徴はわかりますか?」

 

 

「確か…、めぐみんが着けていたのと同じ眼帯をしていて、後頭部にコウモリの羽根のような髪飾りを…」

 

 

カズマが特徴を言っていると

 

 

「やあめぐみん、探したよ」

 

 

カズマが言っていた特徴と同じ特徴を持つ女の子が現れた。

 

 

「そうそう、この子だよ」

 

 

「カズマが見たのはあるえでしたか」

 

 

「何の話だい?」

 

 

あるえは頭にハテナマークを浮かべていると、めぐみんが説明をする。

 

 

「…ああ確かに私が言っていた事だね。それよりも、ついさっき『紅魔族英雄伝』の第二章が書き上がってね。私的には紅魔の里が燃えるシーンが秀逸な傑作だと思うんだよ!」

 

 

「やれやれ…、それを聞いてか知りませんが、あるえの発言でカズマが4日も目を覚まさない状態になったのですから、気をつけて下さいね」

 

 

めぐみんはあるえに注意をして、カズマとジラフと一緒にその場を去った。

 

 

「あっ、めぐみん!カズマさん!」

 

 

「ゆんゆんではありませんか。カズマが寝ている間、ご飯を持ってきてくれて助かりました。ありがとうございます」

 

 

散歩の途中でゆんゆんに出会ったカズマたちは、挨拶をする。

 

 

「あっ、めぐみんにゆんゆんだ!」

 

 

「本当だ!久しぶり!」

 

 

そこに二人と同い年くらいの女の子二人が現れた。

 

 

「"ふにふら"に"どどんこ"ではありませんか、お久しぶりです」

 

 

「ふにふらさん!どどんこさん!」

 

 

めぐみんとゆんゆんは二人に挨拶をする。

 

 

「あっ、カズマは知りませんでしたね。二人は私達の同級生で、ふにふらとどどんこです」

 

 

「「はじめまして!」」

 

 

「はじめまして。我が名はカズマ!始まりの街アクセルの最強冒険者にしてめぐみんとゆんゆんが加入しているパーティーのリーダーである者!そして魔王軍を倒す音色を奏でし者!」

 

 

「「おお~っ!」」

 

 

カズマがビシッと名乗りを上げると、ふにふらとどどんこは目を輝かせた。

 

 

「あの!カズマさんって戦いの時に悪魔みたいな姿になっていましたよね!?」

 

 

「あの姿、とっても格好良かったです!私達、その姿に一目惚れしてしまったんです!それで…、その…。付き合っている人って…、いますか?」

 

 

二人はカズマに恋人がいないか質問をする。それを聞いていためぐみんは不服そうに頬を膨らませていた。

 

 

「付き合っている人…か。いるぞ、それも二人。魔神の丘でプロポーズもしたしな」

 

 

「「…えっ?」」

 

 

「カズマが言っていることは本当ですよ。二人の内一人は私です」

 

 

めぐみんはカズマに寄り添う形でカズマに近づいた。

 

 

「ま…、まさかあのネタ魔法にしか関心がなかっためぐみんに男が…」

 

 

「カズマは優しいです。爆裂魔法しか使えない私をパーティーメンバーに加えてくれたり、クエストの時は私を切り札として活躍させてくれる作戦を考えてくれたり、夜はその逞しい腕で私を逃がさないように…」

 

 

「「わああああ!お子ちゃまめぐみんに負けたああ!!」」

 

 

ふにふらとどどんこの二人は泣きながら走り去った。

 

 

「ねえめぐみん、さっき魔神の丘でプロポーズされたって…」

 

 

「はい、クリスと共にカズマからプロポーズされました。もちろん返事はOKですが」

 

 

「そうなんだ…。めぐみん、おめでとう」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

ゆんゆんは満面の笑みでめぐみんを祝福し、めぐみんも満面の笑みで返事をしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ふにふらとどどんことの騒動から一夜明け、カズマたちは紅魔族全員に見送られながら紅魔の里を後にした。

 

 

「さて…、これからどうするかな?」

 

 

「カズマはここ最近戦いっぱなしなので、何処かでゆっくりしたい所ですね」

 

 

「ならカズマ、『水と温泉の都』アルカンレティアに行きましょうよ!」

 

 

カズマはどうするか悩み、最早定位置となっているカズマの右側に座っていためぐみんが今までの騒動を思い返しながら考えていると、後ろの客席からアスタが頭を出し、アルカンレティアに行きたいと言った。

 

 

「『水と温泉の都』か…、そう言や紅魔の里の帰りに寄りたいって言ってたもんな。よし、アルカンレティアへ行こう!」

 

 

「そうだね、ついでにカズマの湯治や慰安も兼ねて…ね」

 

 

カズマがアルカンレティアに行く事を決めると、めぐみんと同じく定位置であるカズマの左側に座っていたクリスが賛成し、一行はアルカンレティアへと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

紅魔の里を発ってから2日、一行はアルカンレティアへ到着した。

 

 

「へぇ~、ここがアルカンレティアか」

 

 

カズマたちは当初紅魔の里へ向かう為、アルカンレティアへと続く門の前までしか来た事が無かったので、アルカンレティアの中までは見た事が無かった。その為まずはアルカンレティアを観光することにした。すると

 

 

「ようこそいらっしゃいましたアルカンレティアへ!」

 

 

「観光ですか?洗礼ですか?入信ですか?」

 

 

「仕事を探しに来たならぜひアクシズ教団へ!」

 

 

街の人々がカズマたちに声を掛けて来た。

 

 

「今なら他の街でアクシズ教の素晴らしさを説くだけで、お金がもらえる仕事がありますよ!」

 

 

「その仕事に就きますと、もれなくアクシズ教徒を名乗れる特典が付いてきます!さあ!」

 

 

街の人々はカズマたちをアクシズ教へ入信させようとする。

 

 

「なあアスタ、もしかしてこの街って…」

 

 

「あれ?言ってなかった?アルカンレティアは"アクシズ教の総本山"って」

 

 

カズマはまた騒動に巻き込まれる予感がして項垂れたのだった。

 

 

 



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第28話

 

 

アルカンレティア…。

 

 

澄んだ湖と温泉が湧き出す山に隣接したこの街は美しく、誰もが活気に満ち溢れている。魔王軍の侵攻が活発にも拘わらずここは平穏であるが、曰くこの街は水の女神アクア様の加護に守られているとか…。

 

 

「ようこそアルカンレティアにいらっしゃいました!」

 

 

「一同皆さんを歓迎いたします!」

 

 

「こちらへは観光で来たのですか?それとも入信ですか?」

 

 

ぐいぐい来るアクシズ教徒にカズマはたじたしになっていると

 

 

「もしかして仕事ですか?ならとってもいい話がありますよ!他の街でアクシズ教団の素晴らしさを説くだけ!とても簡単です!特典でなんとアクシズ教徒を名乗れてしまうんです!凄いでしょ?」

 

 

「他にも病気が治ったとか、宝くじに当たったとか、いい事が起こると評判でして!今を逃すともう二度とチャンスは来ないかもしれませんよ?アクシズ教!アクシズ教をお願いします!」

 

 

教徒達は更にぐいぐい勧誘し始めた。

 

 

「ちょっと!そんな所で勧誘なんかしないでよ!後ろが詰まっちゃうじゃない!」

 

 

するとアスタが客車の窓から身を乗り出し、教徒達を叱った。教徒達はと言うと…

 

 

「あらそこのお姉さん、あなたも是非アクシズ教へ入信を!」

 

 

今度はアスタを歓迎し始めた。

 

 

「おあいにく様、私は既にアクシズ教徒よ?それよりも早く道を開けなさい!さもないと、轢かれても知らないわよ?」

 

 

アスタのハイライトが無くなった目を見たアクシズ教徒達は、引き下がるように道を開けた。そしてカズマたちはその場から逃げる様に去った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちは以前商隊の主人から貰った宿泊券を手に、紹介された宿へ向かう。そして全員分の宿泊券をフロントで渡すと、受付の人は慌てた様子でフロントを抜け出した。そして受付の人の代わりに支配人が現れ、カズマたちは支配人に案内される。

 

 

支配人が案内した場所は、宿の中でも値段が一番高いスイートルームだった。カズマたちはもちろん驚き、支配人に理由を聞くと

 

 

「私達のオーナーから『この宿泊券を持った方々が来られたらこの部屋にご案内しなさい』と仰せつかりまして。それとルームサービス等は全て"無料"でご提供させて頂きますので、どうぞご遠慮なくご利用下さいませ」

 

 

と言った。カズマたちは最初断ろうとしたが、折角の厚意を無下にする事も出来ず、用意されたスイートルーム人間を使う事を決めたのだった。

 

 

「皆、話があるの」

 

 

スイートルームに通された後、アスタが全員に声をかける。

 

 

「ごめんなさい!まさかアクシズ教徒がこんなにもしつこく勧誘してくるなんて知らなかったから…」

 

 

アスタは全員の前で土下座をした。どうやら自分と同じアクシズ教徒が無理やり勧誘してきた事を謝っているようだ。

 

 

「別にアスタが謝る必要はねぇよ。悪いのはアスタじゃなくて無理やり勧誘してくる教徒なんだから」

 

 

カズマの言葉にアスタ以外全員が頷いた。

 

 

「皆…、ありがとう」

 

 

頭を上げたアスタは涙目になりながらも笑顔を見せた。

 

 

コンコンッ「すみません、少々よろしいでしょうか?」

 

 

すると扉がノックされ、そこから先程の支配人が顔を覗かせた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「"調査"…ですか?」

 

 

「はい、是非ともあなた様方にお願いしたく…」

 

 

支配人の後ろからオーナーこと商隊の主人が現れ、カズマたちにお願いをする為に部屋へ訪れたのだった。

 

 

そしてその"お願い"とは、『温泉の質が悪くなっている原因の調査』だった。

 

 

「事が起きたのは数日前…。そう、ちょうど皆様とアルカンレティアの門前で別れた後です。その日を境に街の温泉に浸かった方々に異変が表れたのです」

 

 

「"異変"…ですか」

 

 

「はい。内容は『肌がかぶれた』だの、『体調が悪くなった』だの様々なのです。最初はアクシズ教が運営する温泉だけだったのですが、日に日に被害規模が広がり、遂には我々エリス教が運営する温泉にまで…」

 

 

オーナーは困ったように頭を抱える。

 

 

「アクシズ教徒は『エリス教徒が仕組んだ!』なんて言っておりますが、我々エリス教徒は断じてそんな事は致しません!その事をいくらアクシズ教徒の方々に説明しても聞く耳持たずで…、どうしようか悩んでいた所に皆様がご来店されたと聞き…」

 

 

「僕達に原因の究明をお願いしたい…と」

 

 

「その通りでございます。既にギルドには依頼を出しておりますので、どうか何卒…」

 

 

オーナーはカズマたちに頭を下げる。

 

 

「…分かりました。その依頼、お引き受けしましょう」

 

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

 

カズマは依頼を受ける事をオーナーに伝えると、オーナーはカズマの手を握った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「では我々はこれで失礼します。アルカンレティア滞在中はこの部屋を自由に使って頂いて結構ですので」

 

 

オーナーはそう言って、支配人と一緒に退室した。

 

 

「…さて、とんだ慰安旅行になっちまったが、一度依頼を引き受けたからにはしっかりやるぞ。まず手始めに街の調査だ、リーダーは偶然にもパーティーリーダーをやった事がある者が三人いる」

 

 

「まずテイラー、キースとリーン、ダストの四名でチームを組んでくれ。次にキョウヤ、フィオとクレメア、それからダクネスを連れて行ってくれ。残りのメンバーは俺と一緒のチームだ」

 

 

カズマの決めたチーム分けは

 

 

テイラーチーム→テイラー、キース、リーン、ダスト

 

 

キョウヤチーム→キョウヤ、フィオ、クレメア、ダクネス

 

 

カズマチーム→カズマ、めぐみん、クリス、アスタ、ゆんゆん

 

 

である。キョウヤたちはカズマが決めたチーム分けに文句は無いらしく、寧ろフィオとクレメアから感謝される程だった。

 

 

「それじゃ夕方にはこの部屋に集まって情報交換と行こうか。解散」

 

 

カズマの号令で一斉に部屋を出て、情報を集めることになった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマチームは噴水広場にやって来ていた。

 

 

「あっ!リンゴが…」

 

 

そこにリンゴを入れた籠を持った少女が躓き、リンゴを地面にばら蒔いてしまった。

 

 

「大丈夫ですか?」

 

 

カズマたちは落ちたリンゴをかき集めた。

 

 

「あの、ありがとうございます。できればお礼をしたいのですが…、実は私占いが得意でして。お礼の代わりに占わせて下さい」

 

 

「いえ結構です」

 

 

「今占いの結果が出ました!このままではあなたに不幸が!!でもアクシズ教に入信すれば回避できます!入りましょう!ここは入っておきましょう!」

 

 

カズマが断ったにも関わらず、少女は占い始め、カズマの身に不幸が訪れる事を伝え、更にアクシズ教への勧誘を始めた。

 

 

「いやもう不幸遭遇してるから…!離せっ…つーの!!」

 

 

カズマは無理やり少女を引き剥がし、逃げるようにその場を去り、めぐみんたちもカズマを追いかけるように去った。

 

 

 

「きゃあああ!助けて下さいそこの方々!あの凶悪そうなエリス教徒とおぼしき男が私を無理矢理暗がりへ引きずり込もうと…」

 

 

しかし逃げた先に女性がアフロヘアの褐色肌の男性に追われている所に出会してしまい、助けを求められた。

 

 

「おいそこの兄ちゃんたち、あんたらはアクシズ教徒じゃねえな?ハッ!強くて格好いいアクシズ教徒なら逃げ出した所だが、そうじゃないなら遠慮はいらねえ!暗黒神エリスの加護を受けた俺様の邪魔をするってのなら容赦はしねえぜ!」

 

 

「ああ何て事!今私の手元にあるのはアクシズ教団への入信書!これに誰かが名前を書いてくれさえすれば、あの邪悪なエリス教徒は逃げていくのにっっ!!」

 

 

だがこれもアクシズ教徒の勧誘であり、あろうことか当人がいる前でエリス教を邪悪な教団と罵った。

 

 

「あんた達…、いい加減にしなさい!」

 

 

妹分として可愛がっているエリスを馬鹿にされたアスタは遂に堪忍袋の緒が切れ、勧誘してくるアクシズ教徒に"とある物"を見せた。

 

 

「そ…、それはっ!」

 

 

「アクシズ教徒の中でも、有能な人にしか持つ事を許されないペンダント…!」

 

 

「あんた達、今すぐそこに正座!」

 

 

アスタはアクシズ教徒に正座をさせ、その場でガミガミ説教をするのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はぁ…、疲れた…」

 

 

時間的にもお昼時だったので、カズマたちはカフェに入り、昼食を取ることにした。カフェに来る前には『百万人目の大通りを通られた方』や『学校の同級生』などを語り、アクシズ教団への入信書を書かせようとする教徒たちに出会うが、その教徒たちもまた、アスタの説教を受ける羽目になった。

 

 

「お待たせしました。ご注文の品をお持ちしました」

 

 

そこに注文した料理が並ぶ。

 

 

「ほらクリス、料理を食べて元気出せよ」

 

 

「……うん」

 

 

クリスはカフェに入るまで無言で俯いていた。流石に"自身"が悪者呼ばわりされるのが嫌だったようだ。席に座るなり目に涙が溜まり始めたので、カズマはクリスを自分の膝の上に乗せ、慌てて注文をお願いし、料理が運ばれたのだった。

 

 

因みにクリスはカズマに『あ~ん』をお願いし、カズマは終始クリスに餌付けをしたのは言うまでもない。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

昼食を終え、カズマたちは調査をする為に街中を歩いていると

 

 

「あっ」

 

 

目の前で女の子が躓き、倒れてしまった。

 

 

「おい、大丈夫か?」

 

 

カズマたちは慌てて女の子の側に駆け寄り、抱き起こす。

 

 

「…かすり傷のようだな。アスタ、俺が傷口を拭うから『ヒール』を頼む」

 

 

「任せて」

 

 

カズマは女の子の膝から流れている血をハンカチで拭い、アスタがヒールを使い、女の子の傷は無くなった。

 

 

「ありがとう、お兄ちゃん達にお姉ちゃん達。お名前教えてっ」

 

 

「俺はカズマ、こっちの"お姉ちゃん"はクリス、それからそっちのお姉ちゃん達はめぐみんにゆんゆん。傷を治したお姉ちゃんはアスタだ」

 

 

女の子はカズマたちの名前を知りたいと言うと、カズマは自分とクリスたちの名前を言った。

 

 

「カズマってどんな字を書くの?この紙に書いてみて!」

 

 

「ああ、いい…ぞ……」

 

 

カズマは女の子から紙を受け取り、名前を書こうとした所で止まった。何故なら女の子が渡した紙は"アクシズ教の入信書"だったからだ。

 

 

「………」

 

 

カズマは無言で入信書を細かく破り捨て、走り去ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それじゃ皆、報告を頼む」

 

 

夕方になり、宿に戻ったカズマたちは、既に戻っていたテイラーたちやキョウヤたちとの情報交換をする事にした。

 

 

「俺の方は散々だったよ。何を聞こうにも"アクシズ教団へ入信を"の一点張りだったから」

 

 

「僕の方も似たようなものだよ。違う点としては、ダクネスさんがエリス教の証であるペンダントを見せると、アクシズ教徒は地面に唾を吐いてたね。それとカフェで食事をする時なんて、犬用の器に骨だけ入れた物をダクネスさんの側の地面に置いたり…」

 

 

「ああ…、だから帰って来た時にダクネスは優越そうな顔をしていた訳か…。それと俺の方だが、残念ながら情報を聞く暇すら無かった。歩く度に勧誘され続けられてな、クリスは泣きそうになるわ、アスタは説教しまくるわで、なしのつぶてだったよ」

 

 

「「「はぁ…」」」

 

 

チームリーダー三人は同時にため息をついた。

 

 

「ため息着くと幸せが逃げるわよ?…って、ため息もつきたくなるか」

 

 

そこにアスタが呆れ口調で近寄った。

 

 

「アスタ、クリスは?」

 

 

「肉体的より精神的に参ってたみたい、ベッドに横になった途端に眠っちゃった。今はめぐみんが側に付いていてくれてるわ」

 

 

「そっか…」

 

 

クリスの容態を気にしていたカズマはアスタに質問すると、アスタは困った感じで答えた。

 

 

「とりあえず、三人はお風呂入っちゃえば?温泉は無理でも、部屋の湯船に水を張って沸かせば大丈夫でしょうし」

 

 

 

「分かった。それじゃ先に風呂に入ることにするよ」

 

 

カズマはテイラーとキョウヤを連れて風呂場に向かい、湯船にクリエイト・ウォーターで水を張り、事前にリーンから教わったファイヤーボールで水を沸かし、交代で湯船に浸かることにした。

 

 

 



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第29話

 

 

アルカンレティアの調査が失敗した翌日…。カズマたちは朝食を終え、カズマとクリスとめぐみんの三人は散歩のため、街中を歩いていた。すると

 

 

「あれ?あの人ウィズさんじゃありませんか?」

 

 

「「えっ?」」

 

 

めぐみんが指を差した所にいたのは、ウィズとバニルだった。

 

 

「ホントだ、ウィズさんがいる」

 

 

「その横にいるのはバニルだな」

 

 

「あら?カズマさんにめぐみんさんにクリスさん」

 

 

「こんな所で会うとは奇遇であるな!」

 

 

ウィズとバニルもカズマたちに気づき、声を掛けた。

 

 

「久しぶりだなウィズさんにバニル。しかし何でまたここに?」

 

 

「実はバニルさんが"紅魔の里"に用があるそうで…」

 

 

「我輩一人でも良かったのだが、我輩がいないとこの貧乏店主は次々に売れない商品を仕入れるので、仕方なく店を休みにして交渉に引っ張って来たのだ」

 

 

バニルはアルカンレティアに立ち寄った理由をカズマたちに話す。

 

 

「成る程…、なら紅魔の里に着いたら俺の名前を出すといい。里の連中とは知り合いだから、俺の名前を聞けば2つ返事で了承してくれる筈だ」

 

 

「ほう…、それはありがたい事だ。…だが、それを口にすると言う事は、我輩たちの手を貸して欲しい事があるみたいだな?」

 

 

「バレたか、流石全てを見通す悪魔。実は…」

 

 

カズマはアルカンレティアで起きている出来事をバニルに話す。

 

 

「…ふむ、温泉の質が悪くなっている原因の調査であるか…。その原因は恐らく"毒"であろう。確か我輩の記憶の中に魔王軍の幹部に"毒を扱う者"がいるな」

 

 

「あっ、それって『ハンス』さんの事ですか?『デットリーポイズンスライム』の」

 

 

「"デットリーポイズンスライム"?」

 

 

聞き慣れない言葉にカズマは首を傾げた。

 

 

「聞いた事があります。スライムの中でも特に毒性が強く、触れただけでも死に至らしめる…と」

 

 

「マジかよ…。とりあえずこの情報を皆に共有しないと、ウィズさんとバニルも一緒に来てくれ」

 

 

カズマのお願いにウィズとバニルは頷き、カズマと共に宿へ向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマたちが宿に戻ると、フロントに支配人とオーナーがおり、ウィズとバニルについてカズマが説明すると、快く通され、カズマたちは借りているスイートルームに戻った。

 

 

「カズマ、めぐみん、クリス。お帰りなさい…ってウィズとバニルもいるじゃない、久しぶり」

 

 

「お久しぶりです、アスタさん」

 

 

「邪魔するである」

 

 

「それで、何であなた達はカズマと一緒に?」

 

 

アスタはウィズとバニルがいる事をカズマに質問し、カズマは二人がアルカンレティアに立ち寄った理由と、調査の協力及び容疑者の情報をアスタに伝えた。

 

 

「"毒を扱う魔王軍の幹部"、『デットリーポイズンスライムのハンス』…ね。ねえウィズ、そのハンスって人の特徴とか分かるかしら?」

 

 

「ハンスさんはデットリーポイズンスライムの"変異種"で、擬態能力を持っています。なので、私が知らない人に擬態されたら、まず見分けが着きません。普段の容姿なら、『浅黒い肌で茶色い短髪の男性』で、背が高く、筋肉質ですね」

 

 

「……ちょっと待って」

 

 

アスタはウィズからハンスの容姿を聞くと、手に持っていた用紙に目を通した。

 

 

「…なあアスタ、その紙はなんだ?」

 

 

「これはアルカンレティアの温泉宿に配ったアンケート用紙よ。犯人は何かしらの細工をする為に、何度も客として温泉に入っていると思ったのよ。それで昨夜の内に温泉宿全てにこの用紙を配って、何度も来た人の特徴を記入してもらって、ついさっき回収し終えた所だったの。……やっぱり」

 

 

アスタはアンケート用紙に目を通しながらカズマへの説明をする。そして全ての用紙を見終えた後、確信を得たように呟いた。

 

 

「何か分かったのか?」

 

 

「ええ、アンケート用紙にはさっきウィズが言った容姿の男が何度も出入りしている事が分かったわ。全ての用紙に書いてあるの」

 

 

カズマたちがアンケート用紙を見ると、アスタが言った通りウィズが言った容姿が記載されていた。

 

 

「確かに…。これで犯人は魔王軍の幹部、デットリーポイズンスライムのハンスである事は確実だが、何故コイツはこんな事しているんだ?」

 

 

カズマはアルカンレティアの温泉に毒を入れているのがハンスである事を確信するが、何故こんな事をしているのか、疑問に思った。

 

 

「失礼します!カズマさんはおられますか!?」

 

 

そこにオーナーが慌てた様子で駆け込んで来た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「皆さん落ち着いて下さい!まずは話し合いましょう!」

 

 

「うるせぇ!お前達エリス教徒が仕組んだ事だってのは分かってんだ!」

 

 

「ですから、私達ではありません!」

 

 

カズマたちが利用している宿の外では、アクシズ教徒達が集団で押し寄せて来ており、何やら言い合っていた。

 

 

「一体何事だ!?」

 

 

そこにカズマたちが宿の中から現れた。

 

 

「おい兄ちゃん達、気をつけな!このエリス教の奴等は俺達の営業を妨害する為に温泉に毒を入れやがったんだ!しかも自分達が疑われないように自分達の温泉にも毒を入れてな!」

 

 

「ですから、私達も被害者なんですよ!温泉に毒を入れたなんて、身に覚えがありません!」

 

 

「ハンッ、そうやって被害者ぶって同情を誘おうだなんて、流石エリス教徒様だな!俺達は騙されねぇぞ!」

 

 

アクシズ教徒達はヒートアップし、罵詈雑言をエリス教徒達に与える。

 

 

「あなた達、いい加減にしなさい!!」

 

 

そこにアスタがペンダントを見せながら現れた。

 

 

「おお…、あのペンダントは!」

 

 

「アクシズ教徒の中でも、有能な人しか持つ事を許されない証…!あの方がいればエリス教団の悪事を暴けるぞ!」

 

 

アクシズ教徒達はアスタのペンダントを見て騒ぎ出し、エリス教団を追い出そうと考えていた。

 

 

「アクシズ教団所属アークプリーストとして発言します、今回の騒動はエリス教団が行った事ではありません!」

 

 

しかしアクシズ教徒達の思惑とは違い、アスタはエリス教団の味方をした。

 

 

「今回の騒動の犯人を、私達は見つけました!これから、その者に天罰を与えます!その間、エリス教団への弾圧はこの私が許しません!この街はここにいる皆さんが協力して繁栄した街です!謂わば皆さんは苦楽を共にする仲間の筈!それなのに仲間同士で罪を擦り付けるなんて言語道断!」

 

 

アスタの言葉にアクシズ教徒達は黙ってしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ありがとうございます!何とお礼を申し上げれば良いのやら…」

 

 

「気にしないで下さい。元はと言えば私達アクシズ教徒が悪いので…」

 

 

スイートルームに戻ったカズマたちは、オーナーにお礼を言われ、アスタは気まずそうに答えた。

 

 

「しかし…、犯人を見つけたって仰っておりましたが、一体誰が…?」

 

 

「犯人は魔王軍の幹部、デットリーポイズンスライムの変異種です。回収した用紙と仲間が持つ情報と照らし合わせた結果、判明しました。それと、この情報は他言無用でお願いします。もしこの情報が知れたら、先程よりも大勢のアクシズ教徒達が来てしまうでしょうから」

 

 

アスタの注意にオーナーは頷いた。そしてオーナーはスイートルームを後にした。

 

 

「街中の温泉から毒…か。幾ら短期間とは言え、全ての温泉に毒を混入させる事って出来るか?」

 

 

「恐らくは無理かと…。一つ一つの温泉に毒を入れても、時間が足りないと思います」

 

 

「となると…、源泉が怪しいな」

 

 

カズマはアルカンレティアの地図を広げ、源泉を示した所に石を置いた。

 

 

「確かに源泉に毒を入れれば、時間差はあるとはいえ、全ての温泉から毒が出ます」

 

 

「…決まりだな、総員第一種戦闘用意!万全の態勢で挑め!それからダクネス、もしかしたらダクネスの家名を使う事があるかもしれないから、その時は頼む」

 

 

『了解!!』

 

 

「分かった。本当ならあまり家名を持ち出したくは無かったのだが、四の五の言ってる場合では無いからな」

 

 

メンバー全員はカズマに向かって敬礼をし、各々装備を整えるのだった。

 

 

 



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第30話

 

 

アルカンレティアの源泉に向かうことになったカズマ一行+ウィズ&バニルは、源泉がある封鎖区画に来ていた。封鎖区画の門では、『管理人以外立入禁止』と門番に言われたが、ダクネスが家紋入りのペンダントを見せると、すんなり通された。

 

 

「悪かったなダクネス、こんな事の為に家名を使わせて…」

 

 

「気にするな。私とて家名が必要な時に渋る程馬鹿では無い」

 

 

「……ありがとう。しかし、門番が言っていた事が気になるな」

 

 

「管理人が『誰が来てもここを通すな』…か」

 

 

カズマとダクネスは門の前で合った事を気に掛けていた。

 

 

「ちょっとカズマ、こっち来て!」

 

 

アスタがカズマを呼び、カズマとダクネスは急いでアスタがいる所に向かう。

 

 

「アスタ、どうした?」

 

 

「"あれ"…、なんだけど…」

 

 

アスタが指を差した所を見ると、そこには動物の死骸が転がっていた。その死骸をキョウヤは観察していると

 

 

「……間違いない、これは初心者殺しの死骸だよ。それも、まだ新しい死骸だ」

 

 

キョウヤは死骸が初心者殺しである事を確信した。

 

 

「……なあキョウヤ、この死骸…"妙じゃない"か?」

 

 

「カズマ君も気づいたかい?この死骸、剣や魔法で倒された形跡が無いんだ。まるで"強力な酸で溶かされた"ような…」

 

 

「まさか……」

 

 

キョウヤとカズマの頭の中に"一つの可能性"が浮かんだ。

 

 

「このままじゃ管理人が危ない!皆、急ぐぞ!」

 

 

カズマは森の中を走り、アスタたちもカズマを追いかけるように走った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

森を抜けたカズマたちが見た光景は、幾つもある源泉が毒々しい色をしている光景だった。

 

 

「不味いわ!こんな毒々しいものが街に流れたら今以上の被害が出るわよ!"ピュリフィケーション"!!」

 

 

アスタは直ぐ様源泉の一つに浄化魔法を使うが、源泉は中々浄化されなかった。

 

 

「中々浄化できないわね、こうなったら!」

 

 

アスタは女神の姿となり、源泉に手を突っ込んだ。

 

 

「アスタ…じゃなかった、アクア!何考えてんだ!ウィズ、フリーズを!」

 

 

「わ、分かりました!"フリーズ"!!」

 

 

カズマはアクアの腕が大火傷しない様にウィズに頼み、ウィズはアクアの腕を冷やした。

 

 

「あ…、ありがとうウィズ」

 

 

ウィズの魔法で腕を冷やしながらアクアは源泉を浄化し終えた。

 

 

「…よし、これでいいわ。でも、パイプの中までは浄化できなかったから、毒が抜け切るまで相当時間が掛かると思う」

 

 

アクアは源泉の一つを浄化し終えたが、パイプの中までは浄化することはできず、悔しがっていた。

 

 

「っ!カズマ、あそこに…」

 

 

めぐみんが源泉の側に誰かいるのを発見し、カズマに知らせた。

 

 

「…アンケート用紙に書いてあったのと、ウィズが言ってた容姿の男だな。もしかして…、アイツがハンスか?声を掛けてみよう」

 

 

カズマは源泉の側にいる男に声を掛ける為に近づいた。

 

 

「あの…すみません」

 

 

「おや、何か御用ですか?確かここは管理人以外立入禁止の筈ですが…」

 

 

カズマは男に声を掛けると、男は意外そうな表情をして振り返った。

 

 

「それは"お互い様"ではありませんか?あなたは管理人ではありませんよね?」

 

 

「いえ私は管理人ですよ?何なら門番に確認していただいても…っ!?」

 

 

男はカズマの後ろにいるウィズとバニルの姿を見つけ、驚いていた。

 

 

「なっ…、何でお前達が…!?」

 

 

「その反応…、ウィズとバニルを"知っている"ようだな。もう言い逃れはできないぜ?"魔王軍幹部のハンス"さん?」

 

 

「……ちっ、いつから気づいていやがった?」

 

 

ハンスはこれ以上隠す必要が無いと分かったのか、態度を改めた。

 

 

「最初からさ。俺の仲間が街中にアンケートを配ったら、そこにアンタの容姿が書かれていてね。そして二人の記憶と照らし合わせた結果、アンタに辿り着いたって訳さ」

 

 

「成る程…、そんな方法で俺に行き着くとはな…。せっかく管理人の爺さんを"喰って"まで計画したんだがな」

 

 

「"喰った"…?」

 

 

ハンスの呟きにカズマが反応した。

 

 

「ああ、俺達スライムは"喰う"事で擬態できる。だが一つ難点があってな、喰った人間にしか擬態できないんだ『カースド・クリスタルプリズン!』が!?」

 

 

カズマの後ろにいたウィズが凍結魔法を使ってハンスを凍らせた。

 

 

「…ウィズ?」

 

 

「…確か私が中立でいる条件は『戦闘に携わらない人間は殺さない』と言う事でした。冒険者が戦闘で命を落とすのは仕方ない事です、彼等だって日夜モンスターの命を奪い、それで生計を立てていますから。…でも、でも!管理人のおじいさんには何の罪もないじゃないですか!!」

 

 

ウィズは何の罪もない管理人がハンスによって殺された事に怒っていた。

 

 

「…なあバニル、ずっと疑問に思っていたんだが…。お前やハンスの事を知ってるって事は、ウィズさんって…」

 

 

「おや、知らなかったのか?カズマの想像通り、あの貧乏店主は初代の我輩と同じ"魔王軍の幹部"の一人である。しかも初代の我輩と同じで、魔王城の結界を維持させるだけの"なんちゃって幹部"なのだ」

 

 

カズマは以前から感じていた疑問をバニルに打ち明けると、バニルはウィズの正体を口にした。その間もウィズはハンスを凍り付けにしようと凍結魔法を連発し、ハンスの足を凍らせた。

 

 

「相変わらず詰めが甘いなウィズ!」

 

 

するとハンスはスライム状になった自分の腕を切り落とし

 

 

「俺にはこういう手もあるんだぜ!」

 

 

源泉に向かって投げた。

 

 

「させないよ!『ウインドブレス』!」

 

 

しかしリーンが風の魔法を使って腕の軌道を反らし、腕は源泉に落ちずに済んだ。

 

 

「へぇやるじゃねえか、だが…、これはどうだ!?」

 

 

ハンスは再生しかけている腕を掴むと、次々に源泉に向かって投げ出した。

 

 

「『ウインドブレス』!『ウインドブレス』!…くっ、魔力が…持たない…っ!」

 

 

リーンはハンスの一部を悉く源泉に落ちないように軌道を変えているが、数が多く、彼女の魔力が先に尽きるのが目に見えていた。

 

 

そして遂にリーンの魔力が底を尽き、ハンスの一部が源泉に落ちようとしていた。

 

 

「『ウインドブレス』!」

 

 

だがカズマがハンスの一部を源泉から遠ざけ、事なきを得た。

 

 

「カズマナイス!後でハグしてあげるわ!」

 

 

「そいつは嬉しいが、謹んでご遠慮させてもらうぜ。俺の花嫁達が嫉妬で狂いそうになるからな」

 

 

アクアはカズマにハグをする約束をするが、カズマは丁重に断った。

 

 

「……どいつもこいつも、俺をコケにしやがって…!ウオオオオオオ!!」

 

 

ハンスが雄叫びを上げた途端、ハンスの体が膨張し、下半身を凍らせていた氷を砕き、ハンスは本来の姿に戻ったのだった。

 

 

「……でけぇ」

 

 

本来の姿となったハンスを見て、ダストは思わず呟いた。

 

 

「あんなデカいの、どうやって倒すんだよ!?」

 

 

「そんな事私が知る訳無いでしょ!?」

 

 

キースはメンバーにどうやって倒すのか質問するが、帰って来たのはリーンの言葉のみだった。

 

 

「っておい!今言い合っている場合じゃねえぞ!」

 

 

ダストがハンスを指差すと、ハンスは触手を伸ばして周りにある樹木や岩を補食していた。

 

 

「あの野郎…、見境無しに喰い始めやがった!」

 

 

「どうするの!?このままじゃ、私達も奴に喰われちゃうわよ!?」

 

 

「打つ手はある!」

 

 

メンバーが慌てていると、カズマがいつの間にか響鬼(打)に変身していた。

 

 

「カズマ!」

 

 

「まずはウィズ、『ドレインタッチ』を使ってキースやダストの魔力をリーンに渡してほしい。それとテイラーはクルセイダーだから『デコイ』か『フォルスファイア』とか使えるよな?」

 

 

カズマがテイラーに質問すると、テイラーは頷いた。

 

 

「ああ、『デコイ』はダクネスから、『フォルスファイア』はアスタから教わったが…?っ!そう言う事か」

 

 

「察しが良くて助かる。悪いが早速頼む」

 

 

「了解した!『デコイ』!『フォルスファイア』!」

 

 

テイラーは早速モンスターを引き寄せる魔法を使い、ハンスの気を引いた。すると事前にカズマから聞いていたのか、ダクネスとアクアもハンスの気を引く為に魔法を使っていた。

 

 

「ではダストさん、失礼します!『ドレインタッチ』!」

 

 

ウィズは離れた所でダストから命を落とさない程度の魔力を吸収し、その魔力をリーンに渡した。

 

 

「リーン、ゆんゆん!炎系の魔法をハンスに浴びせるんだ!」

 

 

「了解!『ファイヤーボール』!」

 

 

「分かりました!『インフェルノ』!」

 

 

リーンとゆんゆんはハンスに向かって炎系の魔法を使った。

 

 

「俺も、ハァ!」

 

 

カズマも『鬼幻術・鬼火』を使い、ハンスの体を燃やす。

 

 

「カズマ達、一体何を…?」

 

 

「そうか!スライムの体の9割は水分!カズマ君達はハンスの体を燃やす事で、体内の水分を蒸発させて弱体化を狙っているんだ!」

 

 

そう、ハンスの正体はデットリーポイズンスライム。毒があるとは言え、所詮はスライム。毒もまた水分を含んでいる為、体を燃やせば水分が蒸発し、弱体化するとカズマは睨んだのだった。

 

 

そして水分を補給させない為に、ダクネス、テイラー、アクアの三人にそれぞれ『デコイ』や『フォルスファイア』を使って源泉から遠ざけたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマ達が作戦を開始してから数十分、カズマの鬼火、リーンのファイヤーボール、ゆんゆんのインフェルノ、そしてバニルの"7"を冠する光の巨人が出す光線を模した『殺人光線』を駆使した結果、ハンスの体は当初に比べ、大分小さくなっていた。

 

 

「今なら凍結させられます!『カースド・クリスタルプリズン』!!」

 

 

ウィズの渾身の凍結魔法を受けたハンスは、凍り付けにされ、身動きが取れなくなった。

 

 

「アクアさんっ!!」

 

 

「ウィズ…、感謝するわ。滅びなさい!『ゴッド・レクイエム』!!」

 

 

「ぐああああっ!!こっ、この力はまさか…!アクシズ教団が崇拝する忌々しい女神とは…、お前の事かァァァァー!!」

 

 

アクアは渾身の浄化魔法をハンスに喰らわせ、ハンスはアクアの正体を知ったと同時に消滅した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、アクアは源泉の毒を全て浄化する事に成功するが、全ての源泉がお湯に変わってしまい、アルカンレティアの産業の一つを潰してしまったカズマ達はギルドにハンスの懸賞金全てを復興に回す約束を取り付け、アルカンレティアから逃げるように去った。

 

 

「……以上が今回の騒動のまとめとなります」

 

 

「ー何と、猛毒を持つハンスを倒しただけでなく、汚染された源泉全てを浄化してしまうとは…!ハンスの猛毒は腕のいいアークプリーストが大勢、しかも数ヶ月と言う時間を要してできるかどうかなのに…」

 

 

アクシズ教団の教会の一室、そこで教祖とおぼしき人物が騒動の顛末を聞いていた。

 

 

「…源泉の方は?」

 

 

「はい、温泉は出なくなりましたが、そのお湯に浸かると傷が癒えたり、アンデットに掛けると聖水の効果があったりで……。ハッキリ申し上げますと、温泉を経営するよりも遥かに利益が上がるようになったと……」

 

 

そう、アクアが浄化した源泉は、彼女の女神の力を吸収し、温泉の時以上の力を得たのだった。

 

 

「それで浄化をされた方ですが、多額の賠償を背負わされたそうで、その方の仲間の冒険者が、ハンスの懸賞金を全て差し出すと言ってそれで手打ちとはなりましたが…」

 

 

「むう…、それはいかん。本来なら我々が街を救って下さったお礼をしないといけないのに…、その冒険者の方々が向かった先を調べなさい。そして教団の者を使者として向かわせ、謝罪とお礼を」

 

 

「了解致しました、ゼスタ様」

 

 

報告をしていた女性は頭を下げて退室した。

 

 

「ああ…、まさかお姿を変えてまでこの街の危機を救って下さったとは…!アクシズ教団有能アークプリーストアスタ、否我らが崇拝する水の女神アクア様!アクシズ教団の代表として、心より感謝致します!」

 

 

ゼスタと呼ばれた男性は椅子から立ち上がると、歓喜な表情でアクアに感謝の言葉を送ったのだった。

 

 

 



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第31話

 

 

アルカンレティアから少し離れた場所で、ウィズとバニルはゆんゆんと一緒に紅魔の里へとテレポートした。

 

 

そしてカズマ達がアクセルの街の外れにある屋敷に到着した数日後、ゆんゆん達三人が屋敷を訪れ、結果報告をした。

 

 

結果は上々で、カズマの名を出した途端、紅魔族は歓喜に震え、叫び出したそうな。そして紅魔族随一の魔道具の製作者であるめぐみんの父"ひょいざぶろー"が製作に当たる事になった。

 

 

ウィズとバニルはホクホク顔で、めぐみんもまた、実家に纏まった金が入り、父や母、妹に美味しい物を食べさせられる事に喜んでいた。

 

 

それから数日後…。

 

 

「ごめん下さい、どなたかいらっしゃいませんか?」

 

 

カズマの屋敷に執事風の男性が訪れた。

 

 

「はい…、どなたですか?」

 

 

「私、ダスティネス家の執事をしておりますハーゲンと申します。ララティーナお嬢様はおられますでしょうか?」

 

 

「いますよ、とりあえず立ち話もなんですから、どうぞ」

 

 

玄関から出てきたのはクリスであり、ハーゲンをリビングに案内した。そこではカズマとキョウヤがカードゲームをしており、カズマの周りにはめぐみんとゆんゆん、ダクネスが。キョウヤの周りにはフィオとクレメアがいた。

 

 

「僕のターン、ドロー!僕は『マッド・デーモン』を攻撃表示で召喚!バトル!『マッド・デーモン』で「メインフェイズ終了時に(トラップ)カード『威嚇する咆哮』を発動!相手はバトルを宣言できない!」くっ…、カードを2枚伏せてターンエンド!」

 

 

「俺のターン、ドロー!俺は魔法カード『古のルール』を発動!手札のLv(レベル)5以上の通常モンスターを特殊召喚する!来い!『青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)』!この召喚にチェーンはあるか?」

 

 

「……いや、無いよ」

 

 

「なら、俺は伏せ(リバース)カードオープン!『巨竜の羽ばたき』!俺のフィールド上に存在するLv5以上のドラゴン族モンスター1体を手札に戻す事で、互いのフィールド上に存在する魔法・罠カードを全て破壊する!俺のフィールドには魔法・罠カードは無いから、実質キョウヤの伏せカードだけを破壊だな」

 

 

「なっ!?」

 

 

キョウヤは伏せていたカード『次元幽閉』と『万能地雷グレイモヤ』を墓地へ送った。

 

 

「まだまだ行くぜ!手札から魔法カード『カオス・フォーム』発動!手札に戻した『青眼の白龍』を墓地に送り、『ブルーアイズ・カオスMAXドラゴン』を儀式召喚!バトル!『ブルーアイズ・カオスMAXドラゴン』で『マッド・デーモン』に攻撃!」

 

 

「…『マッド・デーモン』の効果で、このモンスターを守備表示に変更する」

 

 

「『ブルーアイズ・カオスMAXドラゴン』の効果!このモンスターが相手の守備表示モンスターを攻撃し、攻撃力が守備力を上回っていた場合、その差の"2倍"のダメージを相手に与える!」

 

 

「……僕の負けだね」

 

 

カズマのモンスターの攻撃によってキョウヤのLP(ライフポイント)は0になった。

 

 

「いや~、途中からヤバかったな。このターンで『青眼の白龍』を引けたのは幸いだった」

 

 

「そうだったんだ。次は負けないよ」

 

 

カズマとキョウヤはカードを束ねながら反省会をしていた。

 

 

「カズマ~、ダクネスにお客さんだよ」

 

 

「む?ハーゲンではないか。ここには緊急の用事以外顔を出さない様に言っていたはずだが…」

 

 

「ただいま~。あれ?お客さん?」

 

 

カードを片付け終えたのを合図にクリスがカズマに声を掛けると、ダクネスが反応し、ハーゲンが屋敷にいる事に疑問を持った。そこに外で特訓をしていたダスト、リーン、テイラー、キースが戻って来た。

 

 

「はい、その緊急の用事でございます。このままでは、お嬢様の唯一の取り柄が失われてしまいます!」

 

 

『唯一の取り柄?』

 

 

「…胸か」

 

 

「胸ね」

 

 

「胸だな」

 

 

「胸だろ」

 

 

「…胸」

 

 

「胸?」

 

 

「あ~…、打たれ強い所…かな?」

 

 

「「いじめられるのが好き」」

 

 

「え~っと…」

 

 

ダクネスの取り柄と聞いて、ダスト、リーン、テイラー、キース、めぐみん、クリス、キョウヤ、フィオとクレメア、ゆんゆんの順番で口にした。

 

 

「いやいや、他にあるだろ!?ってかクリスにめぐみんは知ってるだろう!」

 

 

「ダクネスの取り柄ってダスティネス家のご令嬢だろ?」

 

 

ダクネスが突っ込みを入れると、カズマがサラッと答えを口にした。

 

 

「そうだ、流石はカズマ!それに比べ…、お前達は!」

 

 

「まあ一番マシな答えはキョウヤだったな」

 

 

「そんな和気藹々としないで下さい!このままでは当家が持つ貴族の資格を剥奪され、お嬢様が一般人になる可能性が!そうなっては世間知らずなお嬢様の事、そのいやらしい身体を使って生きていくしか…」

 

 

ハーゲンも他の皆と同じ考えだったようで、ダクネスの容姿を口にした。

 

 

「………」ギリギリ

 

 

「お嬢様…、この老体にこれはご無体でございますっ…!何卒…、何卒…!」

 

 

ダクネスは無言でハーゲンの首を絞め始めた。

 

 

「おいダクネス、お前をここまで育ててくれた執事さんへの恩をそんな仇で返すなよ」

 

 

そこにカズマがダクネスの腕を取り、止めさせたのだった。

 

 

「それで執事さん、家督が奪われる程の緊急の用事って何なんだ?」

 

 

「ゴホッ…、ゴホッ…。はい…、実は…」

 

 

ハーゲンは懐に入れていた手紙をテーブルに置いた。

 

 

「おや…?この封蝋…、王家の物だね」

 

 

「知ってるのかキョウヤ?」

 

 

「うん、僕がこの街を拠点にする前は王都を拠点にしていたからね。時々王家から勅命を受ける事があったんだ、こんな風に封蝋をした手紙をもらったりね」

 

 

キョウヤは手紙を持ち上げて、封をしていた蝋を指差した。

 

 

「ふーん…、なあ、手紙読ませてもらってもいいか?」

 

 

「はい、寧ろサトウ様が当事者と申しますか…」

 

 

ハーゲンはしどろもどろになるが、カズマはお構い無しに手紙を広げた。

 

 

「何々…『数多の魔王軍幹部を倒し、この国に多大なる貢献を為した偉大なる冒険者、サトウカズマ殿。貴殿の華々しいご活躍を耳にし、是非お話を伺いたく。つきましてはお食事などをご一緒出来ればと思います。ベルゼルグ・スタイリッシュ・ソード・アイリス』」

 

 

「アイリスと言えば知らない人はいないと言う国の第一王女の名前ですね」

 

 

「すごいじゃないかカズマ君!王女様からお食事の誘いを受けるなんて!」

 

 

キョウヤは興奮しながらカズマに詰め寄った。

 

 

「まあ、名誉な事には違いなさそうだから、この誘いを受けるか」

 

 

カズマは王女からの誘いを受ける事にしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、カズマ、クリス、めぐみん、ダクネス、そしてアスタとキョウヤはダクネスの実家であるダスティネス家に来ていた。因みにダスト達はと言うと、絶対に緊張して粗相をしかねないとの事で、カズマとダクネスの二人から留守番を言い渡されたのだった。

 

 

「いいなお前達、何度も言うようだが相手は一国の姫君だ。くれぐれも粗相の無いようにな」

 

 

「分かってるわ、ダクネスの家の名に泥を塗るような真似はしないから」

 

 

水色のドレスを身に纏ったアスタはうんざりした様子で答えた。

 

 

「大丈夫ですよ、私とて自分の言動がどう転ぶのか弁えています。紅魔族流の派手な演出をしようとあれこれ仕込んでいましたが、カズマにドレスを捲られて没収されましたから」

 

 

黒のドレスを身に纏っためぐみんもアスタに同意するかのように答えた。

 

 

「あはは…、流石にそれはカズマに没収されるよ…」

 

 

白いドレスを身に纏ったクリスは、苦笑いしながら頬を掻いていた。

 

 

「しかし…、僕まで出席しても良かったのかい?」

 

 

ワインレッドのスーツを着たキョウヤがカズマに質問する。

 

 

「ダクネスだけじゃ重荷になるからな、多少なりとも王族に顔が利くお前がいれば、ダクネスも不安が無くなるだろ」

 

 

カズマは以前厄介になった時に頂戴した執事風のスーツを着て、キョウヤの質問に答えた。

 

 

「では参ろうか。良いな?くどいようだが、くれぐれも粗相はしないようにな」

 

 

ダクネスも普段の格好では無く、ドレス風の服を着て、王女がいる部屋へと皆を連れていった。

 

 

「ここだ、失礼します」

 

 

そして扉の前に立ったダクネスが扉を開けると、豪華な食事が並んでいるテーブルの上座に少女が座っており、騎士風とウィザード風の側近らしき女性二人が両脇を硬め、更に部屋の端にはメイドが並んでいた。

 

 

「お待たせしました、アイリス様。この者が我が友であり、パーティーのリーダーであるサトウカズマと仲間のアークプリーストのアスタ、盗賊のクリス、紅魔族でアークウィザードのめぐみん、そして魔剣の勇者ミツルギです」

 

 

ダクネスはカズマ達を紹介し、紹介されたカズマ達はその場で膝を付き、頭を下げた。

 

 

「お初にお目にかかります、私がララティーナお嬢様からご紹介いただきましたサトウカズマと申します。以後お見知りおきを」

 

 

カズマは頭を下げながら挨拶をし、頭を上げて微笑んだ。

 

 

「………」

 

 

「…?あの…」

 

 

アイリスはカズマの微笑みを見て呆然としてしまい、カズマはアイリスの側近に視線を向けて首を傾げた。

 

 

「…失礼」

 

 

騎士風の側近がカズマの視線に気付き、一言断りを入れてアイリスに近寄った。するとアイリスはまるで正気に戻ったかの様に体を震わせると、近寄った騎士風の側近の一人に耳打ちをした。

 

 

「『呆けてしまって申し訳ない、感銘な紹介ありがとうございます。さあ、席に着いて冒険譚を』と仰せだ」

 

 

騎士風の側近はアイリスが耳打ちした事を話し、カズマ達は着席した後、カズマの冒険譚を拝聴するのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……と、まあこんな具合で、俺達は仲間達の協力もあって、ハンスの討伐に成功した訳です」

 

 

「『凄いわ!あなたの様にハラハラした戦い方をする人を初めて知りました!他の冒険者の方はお話は確かに凄いのですが、絶対に負けない勇者が一方的にモンスターを退治するお話ばかりでしたので…!』と、仰せだ」

 

 

カズマはベルディアとの戦いから最近戦ったハンスの事を途中に嘘を交えながら話すと、アイリスは目をキラキラさせながら聞いていた。

 

 

「『カズマ様は冒険者になる前はどんな仕事をなさっていたのですか?』と、仰せだ」

 

 

「そうですね…、この国に来る前は"学校"と言う所に通って勉学を学んでいました。この国の流儀で言えば"学院"や"学園"と言った方が分かりやすいかと…」

 

 

「『なるほど…、そこで魔法等を学ばれたと言うのですね』と、仰せだ。…しかし、そんな貴殿がミツルギ殿に勝った事があるとは…。カズマ殿、無礼とは思いますが貴殿の冒険者カードを拝見させてはもらえないでしょうか」

 

 

カズマは何の躊躇も無くカードを側近の一人に渡した。

 

 

「ありがとうございます。…職業は『冒険者』、最弱職ですか。……あの、ここに『ドレインタッチ』があるのですが、このスキルは確かリッチーが持つスキルでは?」

 

 

「確かに『ドレインタッチ』はリッチーが持つスキルの一つです。それはとあるダンジョンに住んでいた心優しいリッチーに教わりました。信じられないかもしれませんが、そのリッチーの名誉の為に言います。事実ですので」

 

 

カズマはドレインタッチを覚えた経緯を言う。

 

 

「そうでしたか…。ふむ、やはり貴殿がミツルギ殿に勝ったと言う事は信じられません。ミツルギ殿、彼の話に嘘偽りは?」

 

 

「彼の為に言いますが、全て事実です。僕は彼に勝負を挑み、そして負けました。それからは彼が言った通りです」

 

 

「しかし、彼が覚えているのは『ドレインタッチ』の他には『窃盗』と初級魔法が幾つか。これで貴殿に勝ったと思う方が無理だと「失礼ですが」な…、何か」

 

 

「僕は事の真偽の前に言いました、『彼の為に』と。今あなたが言っている事は、彼を侮辱している事と同義です」

 

 

キョウヤは騎士風の側近が言った事に異議を唱えた。そこにアイリスが騎士風の側近の袖を引っ張り、耳打ちをした。

 

 

「アイリス様はこう仰せだ。『ミツルギ様が仰るのであれば、事実でしょう。ですが、実際に見てみなければ分かりません。なので、今この場で勝負の再現を』と」

 

 

側近の代弁にカズマ達全員が絶句した。

 

 

「申し訳ございません、流石にそれは…」

 

 

「できないと言うのか?ならカズマや貴殿が言った事は嘘と言う事になるが」

 

 

「できない訳ではありませんが…」

 

 

キョウヤは言い淀む。その理由はカズマにあるのだが、キョウヤはそれを口にしなかった。

 

 

「もういいよキョウヤ、ありがとう」

 

 

「カズマ君…」

 

 

「彼が言い淀んだ理由ですが、俺が持つ"固有スキル"の性です。その固有スキルの名は『響鬼』と言いまして、姿形が雄のオークに似ている為、皆さんが刃を向け、再現を邪魔されないか心配だったからです」

 

 

カズマはキョウヤが言い淀んだ理由を察し、自分の口から再現できない事を話した。すると

 

 

「アイリス様は『理由は分かりました、ですが嘘を吐かれた事で気分を害しました。その最弱職の嘘付き男には冒険譚の褒美をとらせますので、それを持って早々に立ち去りなさい』と、仰せだ」

 

 

アイリスの代弁に全員がまた絶句した。

 

 

「お待ち下さいアイリス様!彼は嘘なんか言ってはいません!」

 

 

「そうです。なので先程の言葉を訂正し、彼に謝罪をしては頂けます様お願い致します」

 

 

キョウヤは思わず席から立ち上がり、ダクネスは落ち着いた表情でアイリスにカズマへ謝罪する様お願いした。

 

 

「何を言われるダスティネス卿!アイリス様に一庶民に謝罪せよなどと…!」

 

 

「…謝りません、謝りません!!嘘ではないと言うのなら、そこの男にどうやってミツルギ様に勝ったのかを説明させなさい!それができないと言うのなら、その男は弱くて口だけの嘘吐き…」

 

 

パンッ…

 

 

アイリスが言い終わる前に、ダクネスがアイリスの頬を叩いた。

 

 

「…な、何をするかダスティネス卿っ!!」

 

 

「あっ!ダ…、ダメ…!」

 

 

騎士風の側近が剣を抜いた瞬間

 

 

ドスッ…

 

 

剣が"カズマの腕"を貫いた。

 

 

「なっ…!?」

 

 

「~痛っつう…」

 

 

「カズマっ!」

 

 

カズマの腕を剣が貫いた事で全員が驚いた。

 

 

「カズマ!アスタ、早くヒールを!」

 

 

「駄目よ、先に剣を抜かないと二度手間になるわ」

 

 

「あ…、あぁ…」

 

 

剣を持った側近は弱々しい言葉を発しながらカズマの腕から剣を抜いた。

 

 

「だ…、大丈夫ですか?」

 

 

アイリスは誰よりもいち早くカズマの下へ走り、ドレスに着いていたリボンを外し、カズマの服を捲り、リボンを腕に巻いた。

 

 

「大丈夫ですよこれくらい」

 

 

カズマは痛みはあるが、アイリスを心配させまいと気丈に振る舞った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「本当に、申し訳なかった!」

 

 

「いやもういいですよ!何回謝罪するつもりですか…」

 

 

あれから、カズマはアスタのヒールを受け、傷も痛みもさっぱり無くなり、事なきを得た…のだが、カズマを刺した騎士風の側近は何度も頭を下げ、謝罪していた。

 

 

「カズマもこう言っていますので、これで良かったではないですか」

 

 

「…そうですね」

 

 

騎士風の側近はダクネスに言われ、頭を上げて微笑んだ。

 

 

「アイリス様、それはご自分の口でおっしゃった方が良いですよ?それに、きっと大丈夫です。カズマ様は気にしてらっしゃらない様ですので」

 

 

アイリスはウィザード風の側近に耳打ちすると、側近はクスクスと笑いながらカズマを見ていた。

 

 

「……っ、あの、嘘吐きだなんて言って、ごめんなさい。それで…あの、また…冒険話を聞かせてくれますか?」

 

 

アイリスは意を決してカズマに謝罪し、上目遣いで冒険話をおねだりした。

 

 

「……もちろんですよ」

 

 

カズマは屈んでアイリスと目線を合わせると、微笑みながら了承した。

 

 

「ーさて、我々はこれで城に帰るとします。皆様方、大変ご迷惑をおかけしました。それでは行きますよ、アイリス様」

 

 

ウィザード風の側近が杖で床を突き、魔方陣を展開した。

 

 

「王女様、またいつか冒険話をお聞かせしに参りますので」

 

 

「……何を言っているの?」

 

 

「えっ?」

 

 

ウィザード風の側近がテレポートを発動する寸前、アイリスがカズマの腕を引っ張り、魔方陣に巻き込んだ。そしてカズマはアイリスと側近二人と一緒に王城までテレポートしてしまった。

 

 

「あの…、ここってもしかして…」

 

 

「また私に冒険話をしてくれるって言ったじゃない?」

 

 

アイリスはにっこり微笑むが、カズマは心底疲れた顔をした。

 

 

 



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第32話

 

 

「え~…、サトウカズマ様。ようこそ当城へ。客人としてお招きしたのですから、色々な気遣いは無用です。ちなみに当面はここがあなたの部屋となりますので、どうぞお寛ぎ下さい。では冒険話の続きを!…との事です」

 

 

「いやいやちょっと待って下さい魔法使いのお姉さん!色々急過ぎて考えが追い付かないんですが!?」

 

 

アイリスはカズマを城へ招待(らち)した後、用意させた部屋に招くと、冒険話の続きを催促したが、カズマは余りにも急な展開で思考が追い付いていなかった。

 

 

「何でしょう?ああ…、私の事はレインで結構です。一応は貴族の端くれですが、ダスティネス家とは比べるまでもない小さな家ですし…」

 

 

「ではレインさんと呼ばせていただきます。あの…、これって誘拐では…?」

 

 

「呼び捨てで結構ですのに…。後、アイリス様がお招きしましたので、誘拐ではありませんよ」

 

 

「いや当人の了承を得る前に連れて行ったら誘拐になるから!そもそも…、冒険話の続きと言っても、先程の話で全部終わってしまったのですが…」

 

 

カズマは申し訳なさそうに話すと、レインはその事をアイリスに伝える。

 

 

「カズマ様、あなたを連れてきてしまったのは、私を叩いたララティーナへの軽い仕返しを兼ねたイタズラと…。突然こんなワガママを言ってごめんなさい。少しだけでもいいので、私と遊んでもらえませんか?…との事です」

 

 

「えっ…?遊んでって…」

 

 

「カズマ様、アイリス様は常に厳格な王族である事を強いられ、普段から聞き分けが良かったのですが、初めてこのような行いに出たのです。…私からもお願いします。アイリス様の初めてのワガママに免じてしばらく遊び相手を務めて頂けないかと…」

 

 

レインの耳打ちにカズマは暫く考えると

 

 

「分かりました、俺なんかで良ければ」

 

 

レイン…いや、アイリスのお願いを承諾したのだった。

 

 

「ありがとうございます。ダスティネス卿にはこちらからご連絡致しますので」

 

 

レインはそう言って退室した。

 

 

「カズマ様…、私のお父様は将軍やお兄様と共に魔王軍との最前線となる街へ遠征に行っておりますので、多少の事なら誰も咎める者はおりません。なので二人きりの時等は普段ララティーナと話している時の言葉遣いで結構です。教えて下さい、城の外の事を色々と!」

 

 

「分かり…いや、分かった」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「アイリス様は?」

 

 

「はっ、客人と中に」

 

 

レインが退室してから暫くして、騎士風の側近が扉の前まで来ると、護衛にアイリスの事を尋ねる。護衛はカズマと一緒に中にいる事を伝えると、騎士風の側近は扉を開け、入室した。

 

 

「私のターンです、ドロー。私は『ゴブリンドバーグ』を攻撃表示で召喚します。この召喚に何かしますか?」

 

 

「いや、しないよ」

 

 

「では召喚成功と言う事で、『ゴブリンドバーグ』の効果を発動します。手札からLv(レベル)4以下のモンスターを一体特殊召喚します。私は『ゴゴゴゴーレム』を攻撃表示で特殊召喚します」

 

 

「その特殊召喚にチェーンして(トラップ)カード『奈落の落とし穴』を発動。相手が攻撃力1500以上のモンスターをフィールドに出した時に、そのモンスターを破壊してゲームから除外するよ」

 

 

「はぅ…。『ゴブリンドバーグ』の効果によって、このモンスターは守備表示になります。…他に出せるカードがありませんので、このままターンエンドです」

 

 

「なら俺のターンだな、ドロー。俺は儀式魔法『カオス・フォーム』を発動。手札の『青眼の白龍』を墓地に送って『ブルーアイズ・カオスMAXドラゴン』を儀式召喚。バトルフェイズに移行して、『ブルーアイズ・カオスMAXドラゴン』で守備表示の『ゴブリンドバーグ』に攻撃。この時に『ブルーアイズ・カオスMAXドラゴン』の効果で、2倍の貫通ダメージを与えるよ」

 

 

「……負けました」

 

 

「……何をやっておられるのですか?」

 

 

決闘(デュエル)が終わったのと同時に騎士風の側近が二人に声を掛けた。

 

 

「あっ、クレア!」

 

 

「騎士のお姉さん、今アイリス"様"とやっていたのは、俺とキョウヤの故郷で流行しているゲームですよ」

 

 

「騎士のお姉さん…。あっ、失礼。まだ自己紹介をしていませんでしたね、私はダスティネス家と並ぶ貴族"シンフォニア家"の長女で"クレア"と言います。……それと、なぜアイリス様は不服そうな顔を?」

 

 

カズマがアイリスに"様"を付けて呼んでいる時に、アイリスは頬を風船のように膨らませていた。

 

 

「信じられないかもしれませんが、彼女から"呼び捨て"で呼んで欲しいと…」

 

 

「カズマ様が仰っている事は本当です、私が呼び捨てで呼んで欲しいと頼みました。でもカズマ様、何で急に様付けなんて…」

 

 

「事情を知らない人、特にクレアさんが聞いたら不敬罪とか言って、剣を突き付けられるかもしれませんからね」

 

 

カズマの説明にクレアは喉を鳴らした。

 

 

「ぐっ…、確かに私ならやりかねんな…」

 

 

クレアはテーブルに広げたままの状態になったカードの束をチラ見する。

 

 

「あ~、もし良ければルールを教えましょうか?それでその後俺と一局…」

 

 

「是非」

 

 

クレアは椅子に座り、カズマはクスリと笑いながらアイリスにも読ませたこの世界の文字に翻訳したルールブックを広げながら、クレアにルールを教えた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「私はLv4の『ゴゴゴゴーレム』と『ガガガマジシャン』でオーバーレイ!2体のモンスターでオーバーレイネットワークを構築!エクシーズ召喚!現れろ!No.(ナンバーズ)39、『希望皇ホープ』!」

 

 

「その召喚にチェーンはありません」

 

 

「ならバトル!『希望皇ホープ』でダイレクトアタック!」

 

 

「その攻撃にもチェーンはありません」

 

 

「ならこの瞬間、『希望皇ホープ』の効果発動!オーバーレイユニットを1つ使い、攻撃を無効にする!」

 

 

「ええっ!?折角の攻撃を無効に!?」

 

 

「ご安心下さいアイリス様、私はこの瞬間に速攻魔法『ダブルアップ・チャンス』を手札から発動!攻撃を無効にされたモンスターの攻撃力を2倍にして、もう一度攻撃!」

 

 

「凄いですクレア!これならカズマ様に「残念だけど」えっ?」

 

 

「俺は罠カード『魔法の筒(マジック・シリンダー)』を発動。相手モンスターの攻撃を無効にして、その攻撃力分のダメージを相手に与えるよ」

 

 

「なっ…!?…負けた」

 

 

決闘が終わると、クレアはガックリと項垂れた。

 

 

「惜しかったですクレア。あの攻撃が決まればクレアの勝ちだったのに…」

 

 

「クレアさんは顔に出やすいですからね、さっきのドローで良いカードを引いたのを確信したので、警戒していたんですよ」

 

 

「そうだったのか…。いや、とても面白かったです。またお相手願えますか?」

 

 

「こちらこそ」

 

 

カズマとクレアはがっちりと握手をした。

 

 

『魔王軍襲撃警報!魔王軍襲撃警報!騎士団はすぐさま出撃してください』

 

 

すると魔王軍が襲撃してきた事を告げる警報は鳴り響いた。

 

 

「何だ!?襲撃?」

 

 

「やれやれ、また来たのか。アイリス様はこの部屋にいて下さい、失礼します」

 

 

クレアは迎撃の指揮を取る為に退室しようとする。

 

 

「ちょっと待ってくれ、俺も手伝うよ」

 

 

しかし、カズマがクレアを引き留めた。

 

 

「何を仰るのですか!貴殿はアイリス様のお客人、そんな貴殿を戦線に出させる訳には…」

 

 

「俺だって冒険者の端くれだ、他人(ひと)の幸せを脅かす存在を無視できない。それに…、見てみたくないか?俺の固有スキル『響鬼』を」

 

 

カズマはニヤリと笑う。

 

 

「……分かった。助太刀、感謝する」

 

 

クレアはカズマの申し出を受ける事にした。

 

 

「…クレア、カズマ様。どうかお気をつけて」

 

 

「…招致しました。ではカズマ殿、こちらへ」

 

 

クレアはカズマを連れて騎士団が集まっている所へと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「クレア様!」

 

 

クレアとカズマが集合場所に到着すると、既に甲冑を着た騎士団が並んでいた。

 

 

「遅れてしまってすまない。皆に伝える事がある、こちらのカズマ殿が今回の迎撃に当たって助太刀を申し出てくれた」

 

 

クレアの説明に騎士団はざわついた。

 

 

「心配するのも無理はない。だが、彼は幾度も魔王軍の幹部と戦い、勝利を納めている猛者だ。きっと心強い味方となる」

 

 

クレアの更なる説明に騎士団のざわつきは収まった。

 

 

「う~ん…、これくらいなら俺一人でも迎撃できそうだな」

 

 

カズマは千里眼スキルを使い、魔王軍の数を確認すると、とんでもない事を言い放った。

 

 

「正気かカズマ殿!貴殿の身に何かあってはアイリス様や貴殿の仲間が心配されますよ!?」

 

 

クレアはカズマに考え直す事を提案する。

 

 

「大丈夫ですよ、俺達冒険者にとって、これくらい日常茶飯事ですから。あっ、これ預かっといて下さい」

 

 

カズマはバッグから烈火を取り出し、バッグをクレアに預けた。

 

 

「本当に行かれるおつもりなのですね…。分かりました。カズマ殿、ご武運を。総員現状維持のまま待機!」

 

 

「…行ってきます、シュッ!」

 

 

カズマは敬礼のようなジェスチャーをして、一人魔王軍の前まで歩いて行った。

 

 

「何だぁ?向こうから一人だけやって来たな」

 

 

「降伏でもするってか?」

 

 

魔王軍の兵士達はカズマを視認すると、ゲラゲラ笑いだした。

 

 

「行くぞ、『音撃道・打』!」

 

 

《打・ダーン!》

 

 

カズマは音角に音声入力をし、響鬼に変身した。

 

 

「んなっ!?何だあの姿は!?」

 

 

魔王軍の兵士達は変身したカズマの姿を見て驚き、その隙を突いたカズマが最前線の兵士に向かって飛び蹴りを喰らわせた。

 

 

「野郎…、やってくれるじゃねぇか!お前ら、やっちまえ!」

 

 

魔王軍の兵士達は次々にカズマへ襲い掛かるが、カズマは器用に攻撃を避けたり、カウンターを喰らわせたりと、たった一人で奮闘していた。

 

 

「チィッ、囲め囲め!囲んじまえばこっちのもんだ!」

 

 

魔王軍の兵士達はカズマを包囲するように動く。

 

 

「ありがとうよ、俺の"思惑通り"に動いてくれて」

 

 

カズマはそう言うと、ベルトに装着されている『爆裂火炎鼓』を地面に張り付けた。すると爆裂火炎鼓は大きくなり、通常の倍くらいある大きさになった。

 

 

「『音撃打・爆裂連打の型』!」

 

 

そしてカズマは烈火を両手で持つと、爆裂火炎鼓を叩き始めた。

 

 

「な…、何だ…?体が…動かねぇ…!」

 

 

魔王軍の兵士達は次々に動かなくなり、飛んでいる兵士達もまた、空から落ち、地面にへばり着いた。

 

 

「ハアアァァァ…、ハアッ!!」

 

 

カズマが最後の一撃を叩き込むと、爆裂火炎鼓を中心に音撃が波紋のように広がり、音撃をその身に受けた魔王軍の兵士達は次々に爆発したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ただいま戻りました」

 

 

カズマは頭だけ変身を解き、クレアの下へと戻った。

 

 

「カズマ殿…、その姿は…」

 

 

「ああ、これが話していた『響鬼』です。言っときますけど、俺は魔王軍の手先ではありませんよ?もし疑うのであれば、セナさんに話を聞いて頂いても結構です。何なら『真偽の鐘』を使って頂いても結構ですよ?」

 

 

「…いや、彼女の名を口にするなら貴殿の言った事は本当だろう。とにかく、貴殿に怪我が無くて良かった」

 

 

クレアはゆっくりと、そして確かに微笑んだのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ様、ご無事で何よりです!」

 

 

部屋に戻ったカズマは、入室した途端アイリスに抱き着かれた。因みにクレアは、戦闘の事後処理の為、カズマと別れた。

 

 

「ただいま戻りました、アイリス様」

 

 

「もぅ…、呼び捨てで良いと言いましたのに…。…でも、本当に無事で良かったです」

 

 

アイリスはカズマの腹に顔を埋めると、カズマはアイリスの頭を撫でた。

 

 

「……何だかカズマ様って、昔の頃のお兄様みたいです」

 

 

「ははっ、なら今だけは俺に甘えても良いんだぞ?」

 

 

「…ありがとうです、"お兄ちゃん"」

 

 

アイリスは満面の笑みを浮かべた。

 

 

「……えっ?」

 

 

カズマはアイリスの"お兄ちゃん"と言う言葉を聞いて、衝撃が走ったのだった。

 

 

 



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第33話

 

 

カズマがアイリスの城へ招待(らち)された翌朝…。

 

 

「ん…、朝か…。ふああぁぁぁ~~っ」

 

 

カズマはベッドの上で大きなあくびをする。

 

 

「ってあれ?知らない天井…ってそうか、ここはアイリスの城の一室だったっけ」

 

 

カズマは一瞬自分が今何処にいるのか分からなかったが、昨日の事が鮮明に思い出されていた。

 

 

「さて…、そろそろ起きてトレーニングを…んん?」

 

 

カズマは伸びをしようとするが、何かがカズマの腕に乗っかって動かなかった。カズマは恐る恐る自分の右腕に視線を向けると

 

 

「すぅー…、すぅー…」

 

 

カズマの腕を枕にして寝ていたアイリスの顔が間近にあった。

 

 

「んみゅぅ…」

 

 

しかも寝惚けているのか、カズマが着ているパジャマを掴み、顔がカズマに近づいて来た。しかもその時に肩が露出してしまい、アイリスは"パジャマを着ていない"事が判明した。

 

 

「~~~っ!」

 

 

カズマは近づくアイリスの顔を起こさない様に押し退け、パジャマを脱いでベッドから降りた。

 

 

コンコンコンコンッ、コンコンコンコンッ

 

 

ガチャ「どうかされましたか?」

 

 

そして素早くパジャマから普段の冒険者風の服へ着替え、扉を軽くノックした。すると護衛の一人が扉から顔を覗かせた。

 

 

「はぁ~」

 

 

カズマは素早く部屋から出ると、大きなため息を吐いた。

 

 

「カズマ様、一体どうかされましたでしょうか?」

 

 

「いや、どうも何も…「カズマ殿、どうかされたのか?」…あっ、クレアさん」

 

 

護衛の一人がカズマを心配していると、クレアが部屋の前まで来た。

 

 

「クレア様」

 

 

「ご苦労、そのままで。カズマ殿、アイリス様が何処におられるかご存知ではないか?先程部屋を訪れた時にはもぬけの殻だったのだが…」

 

 

クレアはカズマにアイリスが何処にいるのか質問をすると、何故か護衛の人達が冷や汗を流し始めた。

 

 

「…んっ?どうした、お前達?」

 

 

「アイリス様なら部屋の中にいるよ、しかも"何も着ていない"状態で寝てる」

 

 

「何だと?」

 

 

カズマの言葉を聞いたクレアの表情が一瞬で優しい表情(かお)から怖い表情(かお)になった。

 

 

「確か貴殿は"潜伏"スキルをお持ちでしたな…。まさかそのスキルを使って部屋で寝ていらしたアイリス様を…」

 

 

「誤解しないで下さい、幾ら潜伏スキルを使っても扉の開閉だけはどうしようもありませんよ。扉が開いたり閉じたりしたら、護衛のお姉さん達が気づくはずですよ?」

 

 

「むっ…、そうか」

 

 

カズマの説得にクレアの表情が戻った。

 

 

「それに…、クレアさんがアイリス様の事を聞いた途端、何故か冷や汗を流している様子ですし」

 

 

「何?お前達、何か知っているのか?」

 

 

「じ…、実は…」

 

 

護衛の人達は怯えながら顛末を話した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「なるほど…、寝惚けたアイリス様が間違えてカズマ殿の部屋に…」

 

 

「私達はお止めしようとしましたが…」

 

 

「制止も聞かずに中に入ってしまった…と言う訳ですか」

 

 

カズマの言葉に護衛の人達は頷いた。

 

 

「クレア様、申し訳ございませんでした!」

 

 

「此度の事は我々の失態!どうかカズマ様を責めないで下さい!」

 

 

「…ふぅ、事情は分かった。今回の事は不問にする」

 

 

クレアの言葉に護衛の人達は胸を撫で下ろした。

 

 

「ところで…、何故アイリス様は何も着ていなかったんですか?」

 

 

「そう言えば、貴殿はそんな事を言っていたな」

 

 

「あの…」

 

 

カズマとクレアが首を傾げていると、扉からアイリスが顔を覗かせていた。

 

 

「アイリス様」

 

 

「何かあったのですか?先程から何か騒がしかったので…」

 

 

アイリスが質問をすると、カズマとクレアは先程の事を説明する。

 

 

「そうでしたか…、あの…お兄様、申し訳ありませんでした」

 

 

「いや気にして無いから別にいいよ。それより、何故俺の部屋に?」

 

 

「お兄様と一緒に寝たくて…、ダメ…でしたでしょうか?」

 

 

アイリスは上目遣いでカズマを見つめる。

 

 

「ダメでは無いが、せめて事前に一声掛けてもらえると助かる。目が覚めたらいきなり顔が近くにあったらびっくりするからね」

 

 

「分かりました。では、これからはそうしますね」

 

 

アイリスは満面の笑みを浮かべると、クレア達は頭を抱えるのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それで、俺はこれからどうすればいいのかな?アイリス様の教育係とか?」

 

 

トレーニングと朝食を終えたカズマは、中庭でアイリスとクレアに質問をする。

 

 

「いや、アイリス様の教育係は私ともう一人で担っている。貴殿にはアイリス様の習い事が無い日の遊び相手になって頂ければ」

 

 

「そう言う事ね、了解」

 

 

「ではお兄様、今日は習い事がお休みなので、早速遊び相手になってくれますか?」

 

 

アイリスは上目遣いでカズマを見つめる。

 

 

「もちろん。それじゃ、今日はこれで遊ぼうか」

 

 

カズマはバッグからオセロのボードを取り出した。

 

 

「カズマ殿、これは?」

 

 

「これは"オセロ"って言うボードゲームの一種です。…そうだ。クレアさん、もし時間が良ければ一緒にやりませんか?」

 

 

「誘ってくれるのか?是非とも」

 

 

「では、あちらにテーブルがありますから、そこでやりましょう!」

 

 

アイリスはカズマとクレアの手を握り、東屋へと二人を引っ張ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ殿、もう一局!もう一局!」

 

 

「クレアさん、一体何回するおつもりですか…」

 

 

カズマ達がオセロを始めてから数時間後、クレアはカズマに再戦を要求していた。

 

 

「そうですよクレア!私なんてまだ数回しかしていないのに…」

 

 

「クレア!やっと見つけました!」

 

 

そこにレインが慌てた様子で走って来た。

 

 

「レインではないか、どうしたのだ?」

 

 

「どうしたもこうしたも、今何時だと思っているのですか!?」

 

 

「もうだいぶ日が傾いて来ていますね…」

 

 

「そろそろ夕食の時間帯か?」

 

 

クレアは仕事があるにも関わらず、カズマとの勝負に熱中してしまい、仕事をすっぽかしてしまったのだ。

 

 

「今日は寝られると思わないで下さいね!?」

 

 

「なぁ!?痛い痛い!レイン、耳を引っ張るな!カズマ殿、もう一局、もう一局だけ~っ!」

 

 

クレアはレインに耳を引っ張られながら、東屋を去った。

 

 

「……後でレインさんにお詫びの品でも持っていこう」

 

 

「その方が良さそうですね。…それで、お兄様。今日も一緒に寝ても、いい…ですか?」

 

 

アイリスはまた上目遣いでカズマを見つめる。

 

 

「もちろん。護衛のお姉さん達やレインさんには、俺から伝えとくよ」

 

 

「ありがとうございますっ!」

 

 

この後、カズマとアイリスは同じテーブルで夕食を食べ、別々に入浴した後、同じベッドで眠った。因みにこの後判明した事だが、アイリスは寝惚けている時に服を脱ぐ事がよくあるようで、翌朝カズマが起きた時に、昨日と同じ状況になっていたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ーと、この様な理由から、代々王族の方々は一般人よりも多くの才を持ってお生まれになり、魔王を倒した勇者を婿に迎える事は、単に勇者への褒美というだけでなく…」

 

 

この日はアイリスの勉強の日であり、アイリスの遊び相手であるカズマは暇を持て余していた…訳では無く。

 

 

「おぉ…!カズマ殿がクレア様と互角に戦っている…!」

 

 

「クレア様は昨日徹夜だと伺ったのだが、それに劣らない剣技だ…!」

 

 

午前中はクレアに頼み、騎士団の稽古に飛び入りで参加したり。

 

 

「ごめんなさいね、カズマ様。私の買い物の手伝いをさせてしまって…」

 

 

「構いませんよ。それに、こちらから王都の案内をお願いしたんですから、荷物持ちくらい余裕ですよ」

 

 

「カズマ様って律儀ですね、昨日だって熱中したクレアが悪いのに、カズマ様がお詫びの品として甘い食べ物を持って来てくれたじゃないですか」

 

 

午後はレインと一緒に街へ買い出し(と言う名の観光)。

 

 

「お兄ちゃん、今日は昨日教えてくれたカードゲームをやりたいです!」

 

 

「よしきた!負けないぞ!」

 

 

夜はアイリスとゲーム。

 

 

そんなこんなで、あっという間に一週間が過ぎた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「俺がこの城に来て、もう一週間か…」

 

 

この日カズマは部屋のベッドで寝転がっていた。と言うのも、アイリスはクレアと勉強、レインは実家に用事がある為、昨日の夜に帰省しており、トレーニングを終えたカズマは手持ちぶさたになっていたのだ。

 

 

「アイリスは表情が豊かになってきたな、最初の頃はあんまり感情を表に出さなかったのに…。それに釣られたのか、クレア"姉さん"やレイン"姉さん"も、よく笑う様になったな…」

 

 

この一週間、クレアとレインはカズマとよく話す様になり、アイリスがカズマの事を"お兄様"と呼んでいるからなのか、二人はカズマの事を弟の様に接していた。

 

 

カズマも二人の事を姉の様に思っていたのか、名前の後ろに姉さんを付けて呼んだら、二人に『これからはそう呼んでほしい!』と言われたのだ。

 

 

コンコンコンコンコンコンコンコンッ

 

 

すると扉が"八回"ノックされた。

 

 

「(誰だ?もしかしていつもベッドメイクをしてくれているメアリーさんかな?でも、ノックの音が八回鳴ったって事は…)めぐみんとクリスか?」

 

 

ガチャ「正解~っ!」

 

 

「カズマっ!」

 

 

扉が開かれると、そこからお洒落したクリスが顔を覗かせ、更にめぐみんが扉を開き、カズマめがけてダイブした。

 

 

「あら随分と豪華な部屋にいるわね」

 

 

「失礼するぞ」

 

 

「アスタにダクネス、それにキョウヤも。随分と遅いお迎えだな」

 

 

カズマはめぐみんの頭を撫でながらアスタ達に視線を向けた。

 

 

「クレアから聞いたぞ、何でもアイリス様の遊び相手になってくれているそうだな」

 

 

「彼女からのお願いでね、カードゲームやオセロとかで遊んだよ。最も、熱中したのはクレア姉さんとレイン姉さんだけどね」

 

 

カズマは苦笑しながら反対の手でクリスの頭を撫でる。

 

 

「それで?城に残るの?それともアクセルに帰るの?」

 

 

「流石に帰らないとまずいからな、めぐみんの禁断症状で屋敷が大変な事になってるだろうし」

 

 

「屋敷なら無事ですよ、流石の私も住む所が無くなるのは嫌ですし。禁断症状は出てはいましたが、クリスやアスタ達に手伝ってもらって、爆裂散歩を行っていましたから」

 

 

カズマはアクセルに帰る事と決めると、そこにアイリスとクレアが入室した。

 

 

「ララティーナ、お兄様と帰るのですか?」

 

 

「アイリス様、申し訳ございません。アクセルには屋敷もあり、この者を心配する者もいます。かく言う私達も、カズマを心配する者の一角なのです。どうかご理解の程を…」

 

 

ダクネスはカズマと一緒に帰る事を伝えると、クレアはアイリスに耳打ちをする。

 

 

「…でしたら、せめて私の遊び相手になってくれたお礼と言う事で、晩餐会を開きたいのですが…」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「へぇ~、生ハムメロンなんて初めて」

 

 

「この料理も美味しいです」

 

 

アイリスが晩餐会を提案した後、トントン拍子で開催が決まり、貴族を招いて晩餐会が開かれた。

 

 

「いや何でウニの軍艦巻き…てか寿司があるんだよ?俺、教えた覚え無いぞ?」

 

 

「あはは…」

 

 

アスタ達は以前着ていたドレスに身を包み、カズマは新調したスーツを着て晩餐会に出席していた。

 

 

「ダスティネス卿、パーティー嫌いのあなたがこうした催しに参加されるとは珍しいですね!いや、今宵は参加して良かった!こうしてお美しいあなたの姿を拝見できたのですから!」

 

 

「おっとヴィルヘルド卿、抜け駆けは許しませんよ。ダスティネス卿、お父上のイグニス様はお元気ですか?わたくし、イグニス様にお仕えしていた事がありまして…」

 

 

「ああ!今宵あなたに会えた事を、女神エリスに感謝します!」

 

 

「このパーティーが終わったら、ぜひわたしと…」

 

 

「あなたの美に比べれば百年に一度咲くと言われる月光華草ですら霞んでしまう!」

 

 

カズマは視線を横に向けると、そこにはイケメンの若い男性貴族がダクネスを取り囲んでいた。

 

 

「ミツルギ様、今宵はあなた様にお会いできた事を感謝します!」

 

 

「ミツルギ様、ぜひ私と一曲…」

 

 

「ああ、私も!」

 

 

カズマはダクネスとは反対側に視線を向けると、そこではキョウヤが若い女性貴族達に囲まれていた。

 

 

「こんな所にいましたか、カズマ殿」

 

 

「セナさん、お久しぶりです。元気そうでなによりです」

 

 

そこに王国検察官のセナがグラスを持って現れた。

 

 

「お久しぶりです、そちらもお元気そうで。あなたの名は王国にも広まっておりますよ、何でも魔王軍の幹部を次々と倒した上に、王都を襲撃した魔王軍を壊滅状態にしたとか」

 

 

「自分は出来る事をしたまでですよ、自慢する程ではありません」

 

 

「ご謙遜を、今ではカズマ殿は『音撃の勇者』と言われる程ですよ?」

 

 

セナが口にした二つ名にカズマは飲んでいた飲み物を吹き出しそうになった。

 

 

「……その二つ名、一体誰が?」

 

 

「アイリス様にクレア様とレイン様が」

 

 

「あの三人ですか…」

 

 

カズマは突如付けられた二つ名に恥ずかしさの余り頭を抱えてしゃがんでいると

 

 

「カズマ、どうしたのだ?こんな所で頭を抱えてしゃがみこんで」

 

 

「カズマ君、大丈夫かい?」

 

 

ダクネスとキョウヤがカズマの下にやって来た。

 

 

「ダスティネス卿、ミツルギ殿。お久しぶりです」

 

 

「セナ殿、お久しぶりです。いつぞやの時はお世話になりました」

 

 

「セナさん、お久しぶりです。あの…、カズマ君は何故しゃがみこんでいるのですか?」

 

 

キョウヤがカズマの事について質問をする。

 

 

「カズマ殿ですか?私が彼の二つ名の出所を口にした途端…」

 

 

「こうなった…と言うわけですか」

 

 

ダクネスとキョウヤはカズマの心境を察した。

 

 

「それより、お二人は何故ここへ?」

 

 

「いえ、飲み物を頂こうと思い、辺りを見渡していると、ちょうどお二人を見掛けたので…」

 

 

「僕も彼女と同じで…」

 

 

セナはダクネスとキョウヤが同時に現れた理由を聞くと、二人は飲み物を探していたらしく、そこにカズマとセナが話している所を見つけ、近寄ったらしい。

 

 

「…なら、そこに俺が提供した飲み物があるから、持っていくといい」

 

 

ある程度立ち直ったカズマは側にあるテーブルを指差した。そのテーブルにはグラスに入った飲み物が並んでいた。

 

 

「そうか、ではありがたく頂こう。…んっ、美味しい」

 

 

「…確かに。ワインの風味はあるのに、飲みやすい。カズマ君、この飲み物は一体…?」

 

 

「ダクネスが飲んだのは『ワインメロン』、キョウヤが飲んだのは『ワインスイカ』だ。アルコールが全く入っていないから、酒が苦手な人や子供でも飲めるワインなんだ」

 

 

カズマが飲み物について説明をすると、セナが興味を持ったのか、ワインスイカを一口飲んだ。

 

 

「んっ…、確かにワインの風味があるのに飲みやすいですね。これなら王都で売れば大人気になりますよ」

 

 

「まあそれは追々「お兄様」…って、アイリス様」

 

 

そこにアイリスが近寄って来た。

 

 

「お兄様がご提供して下さった飲食物が、大変人気になりまして。厨房の方々が嬉しい悲鳴を上げているとクレアから聞きまして」

 

 

「そうですか、後で厨房の方々にお礼を言わないと。…ところで、そのネックレスは?」

 

 

「これですか?これは今遠征に赴いている私の本当のお兄様が下さったネックレスです」

 

 

「…ちょっと拝見させてもらっても?」

 

 

「ええ、…どうぞ」

 

 

アイリスはネックレスを外し、カズマに手渡した。そしてカズマはネックレスをまじまじと見る。

 

 

「あの…、お兄様?」

 

 

「……アイリス、これは恐らく"神器"だ。しかも他者との肉体と魂を入れ換える…」

 

 

「ええ!?」

 

 

カズマの真面目な発言にアイリスは驚いた。

 

 

「こういった神器に詳しい人物を俺は知ってる。…クリス!」

 

 

「ん、なぁに?」

 

 

カズマは近くで食事をしていたクリスを呼び、クリスはカズマに近寄った。

 

 

「クリス、これなんだが…」

 

 

「ちょっと見せてもらうね。……カズマ、これ神器だよ。しかも入れ替わりの魔法の類いの」

 

 

クリスはネックレスを見た途端、表情を固くした。

 

 

「何でそんな物をお兄様は…」

 

 

「アイリス様、これは裏に書かれている呪文を唱えると発動する神器です。……もし宜しければこちらで厳重に封印しますが」

 

 

「はい…、よろしくお願いします…」

 

 

アイリスは覇気の無い返事をするので精一杯な感じだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日…

 

 

「クレア姉さん、レイン姉さん。この一週間、お世話になりました」

 

 

めぐみん、クリス、アスタ、キョウヤを連れたカズマは、二人に頭を下げていた。

 

 

「いや、こちらこそ有意義な一週間だった。…カズマ殿、もし次に城へ訪れた際には、ゲームの決着を着けましょう」

 

 

「もちろんです!」

 

 

クレアとカズマはがっちりと硬い握手をした。

 

 

「カズマ様、私達はあなたの事を可愛い弟と思っています。…もし寂しくなったら、いつでも来て下さって構いませんからね?」

 

 

レインはカズマを抱きしめ、頭を撫でた。

 

 

「ありがとうございます。その…、アイリス様は…」

 

 

「……あの後、まるで塞ぎ込むように部屋からお出にならない」

 

 

「余程ショックだったのでしょうね…」

 

 

そう、アイリスはカズマ達の見送りの場に来ていなかった。

 

 

「でしたら、『一緒に過ごした一週間は、とても楽しかった』と伝えて下さい」

 

 

「分かりました。アイリス様も、きっと同じ気持ちですよ」

 

 

「カズマー!荷物、入れ終わったわよーっ!」

 

 

アスタはカズマに荷物を入れ終わった事を伝える。実はアイリス、クレア、レイン三人の計らいで、カズマに服や食糧などをお礼の品として贈呈していたのだ。そしてアスタとクリスの二人がバッグにしまっていたのである。

 

 

「分かった!…では、俺はこれでアクセルに帰ります。ありがとうございました」

 

 

カズマはアスタ達がいる所へと駆け寄る。

 

 

「…では、皆さんをダスティネス家までテレポートします。これからのご活躍をお祈りします」

 

 

レインはテレポートを発動させる為の詠唱に入る。

 

 

「クレア姉さん!レイン姉さん!元気で!!」

 

 

「……テレポート!」

 

 

カズマは二人に別れの挨拶をし、アクセルへと帰ったのだった。

 

 

「……行ってしまったな」

 

 

「そうね…。でも、何か近い内にまた会えそうな気がするわ」

 

 

二人はカズマが去った後を見て、感傷深くなっていた。

 

 

「…さて、私はアイリス様にご報告に行ってくるよ」

 

 

「私も付き合うわ」

 

 

クレアとレインは二人揃ってアイリスの部屋へと向かった。

 

 

コンコンコンコンッ

 

 

「アイリス様、クレアとレインです。…アイリス様?」

 

 

クレアはノックをするが、中から返事が返って来なかった。

 

 

「アイリス様…、失礼します」

 

 

クレアは意を決して扉を開けると、そこにはアイリスの姿が無かった。

 

 

「アイリス様…?アイリス様!?」

 

 

「アイリス様、何処におられるのですか!?」

 

 

クレアとレインは必死になってアイリスを探す。

 

 

「一体何処に…、んっ?」

 

 

クレアはテーブルの上にある紙に気づき、持ち上げた。

 

 

「これは…、レイン!」

 

 

「クレア、どうしたの?何か見つかった?」

 

 

「これを…」

 

 

クレアはレインに先程の紙を渡す。

 

 

「……これは!?」

 

 

二人が見た紙とは…?

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「う~ん…、久しぶりのダクネスの家だぜ」

 

 

時を戻して、カズマ達はダクネスの実家にいた。

 

 

「それでカズマ、クレア達から受け取った品だが、どうするのだ?」

 

 

「流石に量が多すぎるから、ダクネスの実家に幾つか迷惑を掛けたお詫びとして渡そうと思う」

 

 

カズマはバッグに入れた荷物を全て取り出すと、ダクネスの実家に渡す物だけを選別しようと荷物の蓋を開ける。

 

 

そして箱の一つの蓋を開けた瞬間、カズマはゆっくりと蓋を閉めた。

 

 

「ははは…、疲れているのかな…?」

 

 

「カズマ、どうしたのだ?」

 

 

カズマの様子を見ていたダクネスは、カズマに近寄る。

 

 

「いや、この箱の中を見たんだが…、"あり得ない"光景だったから…」

 

 

カズマは箱の中身をダクネスに伝え、ダクネスは箱の蓋を開けた。そしてダクネスはカズマと同じ行動をした。

 

 

「カズマ…、これは一体…」

 

 

「もうっ、ララティーナもお兄様もひどいですわ!」

 

 

「「アイリス(様)!!?」」

 

 

蓋を押し退けたのは、城の部屋にいる筈のアイリスだった。

 

 

「アイリス、何で荷物に紛れてこっちに来たんだ?」

 

 

「お兄様と少しでも一緒に居たかったからです!それに、部屋に書き置きを残してあるので、心配ありません♪」

 

 

満面の笑みで言い放ったアイリスに、カズマとダクネスは頭を抱えたのだった。

 

 

 





ワインスイカ 捕獲レベル1以下

ワインメロン 捕獲レベル1以下


畑で採れるワインボトルの様な形のスイカとメロン。

ワインの様な味を香りだが、アルコール度数は0.00%と、アルコールが全く入っていない。

だが熟成させると、アルコールが生成される為、熟成されたワインスイカとワインメロンは高値で取り引きされている。


果肉は無く、中は果汁と種のみだが、種には微量の"毒"があり、そのまま飲むと種を飲み込んでしまうので、注意が必要。


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第34話

 

 

ここは王都にある貴族の屋敷。その屋敷の地下に通じる階段を一人の男性がランタンを片手に降りていた。

 

 

そして階段を降りた先にある部屋に、眼鏡を掛けた一人の男性が『ヒュー…』、『ヒュー…』と音を立てながら寝そべっていた。

 

 

「おい"マスク"、起きろマスク!」

 

 

貴族は寝転がっていた男性を"マスク"と呼びながら蹴り起こした。

 

 

「ヒュー…、ん…あ…。やあ"アルダープ"、僕に何か用なのかい?」

 

 

起きたマスクは貴族を"アルダープ"と呼んだ。そう、マスクを蹴り起こしたのは、アクセル領主のアルダープだった。

 

 

「用が無ければ貴様なんぞの元に来るか!」

 

 

アルダープは苛立ちながらマスクを何度も足蹴にする。

 

 

「いいい、痛いよアルダープ~。ヒュー…、でも今日も心地良い感情を発しているね」

 

 

「(バカにしおって、この"悪魔"め!)いいから仕事だ!ワシの神器がどこかの盗賊に盗まれた上に、封印を施されたらしい。それを取り返し、封印を解くのだ!分かったか?」

 

 

「アルダープアルダープ!それは無理だよ!だって…、神器の場所がまず分からないし…、本当に封印がなされたのなら僕にはどうしようも…」

 

 

「そんな事もできないのか役立たずめが!貴様は一体いつになったらワシの願いを叶えるのだ!!」

 

 

苛立ったアルダープはマスクを何度も足蹴にする。

 

 

「ええい物覚えの悪いヤツめ、命令を下してもすぐに忘れおって!いいか?ララティーナだ!貴様はララティーナを連れて来ればいいのだ!!」

 

 

「…くそ、うまくいってると思って油断したわ。あの神器だけは何としても取り返せさなくては…!(やはり焦って王子の体など狙うものではなかったな…。ララティーナと婚約を結んだ王子の体を乗っ取り、望むものを手にする…。そんな一度で全てが叶うチャンスを…!王子の手に神器が渡ってしまえば、後は呪文を唱えてこの体を壊すだけで全てが手に入ったのに。悔やんでも悔やみきれないが、今は神器を探す事が先決…)」

 

 

アルダープは自分の手を見つめていると、マスクがニヤニヤしながらアルダープを見ていた。

 

 

「くそが!(こんな事なら、いつまでももったいぶらず、息子のバルターと体を入れ替えておけば良かった!このまま神器が戻らなければ、わざわざアイツを拾って来た(・・・・・・・・・)意味がない。見栄えが良く優秀な子供を探してくるのにも苦労したというのに!くそ!くそ!そもそもバルターがララティーナとの見合いを成功させていればこんな事には…!)…ララティーナ、ララティーナ!ララティーナ!!お前はワシの物だララティーナ!このワシが一体どれほど昔から目を付けていたか分かるかララティーナ!!」

 

 

「ヒュー…、素晴らしい、素晴らしいよアルダープ!欲望に忠実で残虐で…。そんな、きみが好きだよアルダープ!早く…早くきみの願いを叶え、報酬が欲しいよアルダープ!さあ、僕に仕事をおくれよアルダープッ、アルダープ!!」

 

 

アルダープはマスクを足蹴にし、欲望を露にする。それを見ていたマスクは興奮した。そのマスクには本来あるべき"後頭部が無かった"。

 

 

「(全く…、本当にコイツは何なのだ。何度ワシの願いを叶えても、叶えた事自体忘れる能無しめ!)」

 

 

アルダープはポケットに手を突っ込む。

 

 

「(…簡単に報酬を踏み倒せるのでなければ、とっとと別のモンスター(・・・・・・・)喚び出す(・・・・)ところだ)」

 

 

ポケットから手を出したアルダープの手には、一つの宝石みたいな物が握られていた。

 

 

「まあいい、ワシの願いはたった一つだ!ララティーナを連れてこい!アレはワシの物だ!」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「え~っと…、御存じとは思いますが…、ベルセルク・スタイリッシュ・ソード・アイリスです」

 

 

「皆、しばらくの間だが俺達のパーティーに入る事になったから、よろしく頼む」

 

 

『なったから…じゃねぇ(ないわ)よ!!』

 

 

カズマは留守番メンバーにアイリスを紹介したのだが、留守番メンバーは口を揃えて叫んだ。

 

 

「お前が王女様に誘われてダクネスの家に行ったと思ったら城まで連れて行かれて、そして一週間も帰って来なかったと思ったら今度は王女様を連れて来やがって!何だよ?俺達の頭を沸騰させたいのかよ!?情報が多過ぎて頭が混乱しそうだぞコラ!」

 

 

ダストの言い分に留守番メンバー全員が頷いた。

 

 

「だってしょうがないだろ?アイリスにとって冒険話は厳格な城の中での唯一の楽しみだったんだから。それにアイリス自身から頼まれたんだよ、『遊び相手になってほしい』って」

 

 

「で…でもよ、こんな所に王女様が来ちまったら流石に向こうも慌てるんじゃ…」

 

 

「それは俺も予想できたから、ダクネスとキョウヤの二人に、もう一度王都に向かって来れたから大丈夫だ」

 

 

そう、カズマはダクネスの家から戻る前にダクネスとキョウヤにお願いし、王城にいるクレアとレインの元へアイリスの事を伝えに向かったのだった。

 

 

「とりあえず、今日はもう遅いから早速飯を作るな?ダスト達男性陣は掃除を、女性陣はアイリスと一緒に風呂に入ってくれ」

 

 

カズマはテキパキと指示を出すと、ダスト達は久しぶりのカズマの飯を堪能する為に張り切ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さあ飯が完成したぞ!今日は豪勢にフルコース料理だ!」

 

 

カズマはテーブルに人数分の料理を並べた。

 

 

「あれ…?これって、BBコーン…」

 

 

「ああ、前菜(オードブル)は『BBコーンのポップコーン』だ。添え物に『ニワトラとザリガニフィッシュと五ツ尾オオワシのキッシュ』を添えてある」

 

 

「美味しそうです~!お兄ちゃん、このキラキラした物は何ですか?」

 

 

アイリスはBBコーンに振りかけられた金色の粉についてカズマに質問した。

 

 

「それは『メルクの星屑』と言って、"食べられる砥石"なんだ。その粉だけでも、凄い旨いんだ」

 

 

「そうなのですか~、いただきます」

 

 

アイリスはナイフでポップコーンを一口大に切り、口に運ぶ。

 

 

「あむ…、んっ!飲み込んでしまいました…。美味しいです!」

 

 

アイリスはポップコーンを噛まずに飲み込んでしまうと、笑顔になった。それを皮切りに全員がBBコーンを完食した。

 

 

「スープは"百年に一度しか採れない幻のスープ"、『センチュリースープ』。バケットの替わりに『薬膳餅のエコのり巻き』を」

 

 

カズマが出した皿には、無色透明のスープだった。

 

 

「このスープ…、凄く澄んでいる。しかも湯気がオーロラになってて綺麗…」

 

 

アスタは湯気(オーロラ)に見惚れていた。そしてスープを一口"噛んだ"。

 

 

「スープなのに味が濃厚!しかも顔がニヤけちゃう!」

 

 

アスタは顔がニヤけてしまい、手で顔を覆ってしまった。女性陣もアスタと同じように顔を隠していた。

 

 

「魚料理は『オウガイー(いにしえ)の海の記憶のグリル、王酢のソース逢え』。周りには『サンサングラミー』、『フグ鯨』、『マダムフィッシュ』、『アナザ』を添えたよ」

 

 

「高級な食材ばっかりね」

 

 

アスタ達は出てきた高級魚に驚いた。

 

 

「肉料理はその昔、数多の狩人がその肉を食べた事で、仕事を引退したと言われる『完像エンドマンモスのステーキ』。上には空の上にある宇宙から飛来したニンニク、『メテオガーリック』のスライスを乗せたよ。周りには『宝石の肉(ジュエルミート)』と『ガララワニ』の肉を」

 

 

「ふあぁ~、食べた瞬間に体がキラキラ光りました!」

 

 

アイリスは自身の体が光だした事に驚いた。

 

 

「さあいよいよメインディッシュの登場だ!その名に相応しい"食材の王様"、『GOD(ゴッド)』!」

 

 

テーブルに並べられた皿の上には、惑星(ほし)がそのまま輪切りにされた物が乗っていた。そしてアイリス達は一口食べた瞬間、その美味しさに涙を流した。

 

 

「サラダは食宝『エア』、その下に敷いているのは"天空の野菜畑"と呼ばれる"ベジタブルスカイ"でしか育たない"野菜の王様"『オゾン草』だよ」

 

 

「"宝"とか"王様"とか、ものすごい名前が着いているわね…」

 

 

リーンは驚きつつも、エアの食感を楽しんだ。

 

 

「デザートは『虹の実ゼリー』、中には『ビックリアップル』に『シャボンフルーツ』、そして臭いを極限まで抑えた"臭いの爆弾"と呼ばれる『ドドリアンボム』を入れたよ」

 

 

「うぅ…、くちゃい」

 

 

クリスは鼻を摘まみながら食べていた。

 

 

「最後のドリンクは、『ビリオンバードの卵』に『メロウコーラ』を混ぜた『ビリオンバードのメロウドリンク』だ」

 

 

「とってもシュワシュワしていて、美味しいです~!」

 

 

一口飲んだアイリスは満面の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「お兄ちゃん、とても美味しいフルコースでした!私の為にわざわざありがとうございます!」

 

 

「ははは、喜んでくれて何よりだよ。でも、アイリスの為に作った訳じゃあ無いんだ。ここ最近、メンバーの皆には迷惑を掛けっぱなしだったから、そのお詫びも兼ねて…ね」

 

 

カズマはアイリスの頭を撫でながら、メンバーを見渡す。そしてメンバーはニッコリと微笑んだ。

 

 

「さあ皆、明日から冒険稼業頑張るぞ!!」

 

 

『おぉ~っ!!』

 

 

カズマが拳を上に突き上げると、メンバー全員が拳を上に突き上げた。その中にはアイリスの姿もあった。

 

 

 



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第35話

 

 

カズマ達の荷物にアイリスが紛れ込んでアクセルの街に来た翌日、カズマはアイリスに街を案内していた。

 

 

と言うのも、カズマはアイリスの冒険者カードを見て愕然とした。何故なら"スキルを一つも覚えていなかった"からだった。

 

 

幾ら一国の姫とは言え、自衛の術を持っていないのは流石にまずいので、カズマは自分が覚えているスキルの中で"片手剣スキル"をアイリスに覚えさせた。片手剣スキルを選んだ理由だが、城の滞在中にアイリスがクレアと模擬戦をしていたのを思い出したからだった。

 

 

そしてアイリスの為に武器や動きやすい服を調達する為に服屋や武具店を訪れていた。

 

 

「お兄ちゃん、私の為にわざわざありがとうございます」

 

 

今のアイリスの格好は動きやすさ重視のピンクのパーカーに同じピンクのハーフパンツのルックスで、腰にはめぐみんと同じ小太刀が備えられていた。

 

 

「別にこれくらいいいって。それじゃ、軽いクエストでも受けるか」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それからカズマとアイリスはギルドでジャイアントトードの狩猟を受注し、街の外へと出た。

 

 

「わあぁ~っ!お兄ちゃん、カエルです!カエルがいます!」

 

 

「あれが今回倒すジャイアントトードだ。俺は援護に回るからまずはアイリスが戦ってみてくれ、危なくなったら必ず助けるから」

 

 

「はいっ!」

 

 

アイリスは小太刀を抜いてカエルに挑み掛かった。

 

 

「やあっ!」

 

 

アイリスの攻撃はカエルの腹を斬り、絶命した。

 

 

「これならいけます!」

 

 

「アイリスっ!待て!」

 

 

アイリスは調子に乗ったのか、カズマの声も聞かずカエルの群れに突っ込んで行ってしまった。だが…。

 

 

「ふええぇぇ~っ!多すぎます~っ!お兄ちゃん、助けて~っ!」

 

 

アイリスはカエルに取り囲まれてしまい、カズマに助けを求めた。

 

 

「言わんこっちゃない…、ハアッ!」

 

 

カズマは烈風をバッグから取り出し、カエルを次々に撃ち抜いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「はい、ジャイアントトード五体の討伐、確認しました。それも持ち込みなので、一体5千エリスで、合計2万5千エリスににります」

 

 

ギルドの受付でクエストの報酬を受け取ったカズマとアイリスは帰路に着いた。

 

 

「ごめんなさいお兄ちゃん…」

 

 

「まあ最初は失敗するもんさ、次から気をつければいいだけの話さ」

 

 

カズマはしょんぼりするアイリスの頭を撫でた。

 

 

「……はい!」

 

 

アイリスは笑顔を見せて、カズマの手を握った。

 

 

「…ところで、その"卵"…どうするのですか?」

 

 

カズマの背中には、"巨大な卵"が背負われていた。

 

 

カズマとアイリスがカエルを倒した後、群れから離れた場所にポツンと置かれている卵をカズマが見つけた。そしてカズマがその卵に触れた瞬間、カズマはこの卵を持って帰る事を決めたのだった。

 

 

「この卵に触れた瞬間、感じたんだ。『産まれたい』って。だから俺達の手で孵してやりたいんだ」

 

 

「流石ですお兄ちゃん!」

 

 

アイリスはカズマの考えを気に入ったのか、カズマを褒め称えた。そして二人が屋敷に到着すると、そこにはダクネスとキョウヤ、クレアとレインの四人が待ち構えていた。

 

 

無論、アイリスを心配したクレアとレインに、アイリスが叱られたのは言うまでもない。

 

 

そしてカズマはクレアとレインを屋敷に招き入れ、アイリス当人の希望により、しばらくカズマの屋敷で厄介になる事となった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

《ここからはモンスターが喋りますが、他の人には何を言っているのか分かりません。》

 

 

カズマは拾った卵をジラフに預けていた。

 

 

『卵…か。このような卵を見るのは何時ぶりだろうか…』

 

 

時間は深夜、ジラフは卵を守るように寝そべりながら、卵を見守っていた。

 

 

『大きい卵だね』

 

 

そこに屋敷の地縛霊であるアンナが近づいた。

 

 

『アンナか…、今日は主達の冒険話を聞かなくて良いのか?』

 

 

『うん、だってこの子が気になるから』

 

 

アンナは卵をじっと見つめる。

 

 

『……この子、このままじゃ死んじゃう』

 

 

『…何?死ぬだと?』

 

 

アンナが言った事にジラフは思わず聞き返してしまった。

 

 

『うん。この子の魂が消えかかってる、このままじゃ産まれる前に死んじゃう…』

 

 

『……どうすればこの子を助けられる?』

 

 

ジラフは思わず卵の子を助ける方法をアンナに聞いてしまった。

 

 

『…多分だけど、私がこの子と"一つ"になれば、助かると思う』

 

 

『"一つ"に…だと!?そんな事をすれば…!』

 

 

『うん…、私は消える。でも…私はこの子を助けたい、この子にいろんな世界を見て欲しい』

 

 

アンナは自分が見る事が出来なかった世界を、卵の子に見て欲しいと思っていた。

 

 

『……分かった。お前の好きにすれば良い』

 

 

『…ありがとう』

 

 

アンナはそう言って、卵に触れる。するとアンナは吸い込まれるように卵の中に入っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

《ここから元に戻ります。》

 

 

「ううぅぅぅ~~~ん……、はぁ~」

 

 

早朝、カズマは庭で背伸びをしていた。

 

 

「さて…、トレーニングを始める前に卵の様子を見てくるか」

 

 

カズマはジラフがいる小屋へと足を向けた。

 

 

「おはよう、ジラフ。卵の様子はどうだい?」

 

 

カズマがジラフに声を掛けると、ジラフも返事をするかの様に鼻を鳴らした。すると

 

 

ピシッ

 

 

「…えっ?」

 

 

ピシッ…、ピシッ…

 

 

「う…産まれる」

 

 

ピシッ…、バガンッ

 

 

「ぎゃあ!」

 

 

卵から産まれたのは、"金色の角"、"青色の甲殻"、"白い体毛"の狼の様な生物。そう、『雷狼竜(らいろうりゅう)"ジンオウガ"』だった。

 

 

「産まれた…、産まれたぞ!」

 

 

カズマは産まれたばかりのジンオウガを抱き上げた。

 

 

「ぎゃう!ぎゃう!」

 

 

ジンオウガは嬉しそうに鳴く。

 

 

「んっ…?お前…"女の子"か。まあ、何はともあれ、産まれて来ておめでとう!」

 

 

「ぎゃう!」

 

 

カズマは抱き上げたジンオウガがメスだと判明した後、屋敷にいる全員を叩き起こした。

 

 

「何だよカズマ…、こんな朝っぱらから起こしやがって…」

 

 

「んみゅう…、眠いです…」

 

 

ダストは叩き起こされた事に悪態を言い、アイリスはまだ眠いのか、眼を擦っていた。

 

 

「悪かったな。実は、昨日手に入れた卵が孵ったんだ!」

 

 

カズマは夕食の時に卵の事を話しており、その卵が孵った事を伝えた。

 

 

『ええ~~っ!!』

 

 

「本当ですかお兄ちゃん!?」

 

 

カズマの発言に全員が驚き、眠たげだったアイリスも覚醒した。

 

 

「本当さ、今俺の足元にいるコイツがそうさ」

 

 

カズマはジンオウガを抱き上げると、ジンオウガはカズマの顔を舐め回した。

 

 

「わぷっ、こら、擽ったいぞ!」

 

 

「ぎゃう!ぎゃう!」

 

 

「何かカズマに懐いてるね」

 

 

「あれじゃない?"刷り込み"ってやつ。鳥類の雛が最初に見たものを親と認識する…」

 

 

クリスはジンオウガがカズマに懐いているのを疑問に感じていると、アスタが懐いている理由の仮説を唱えた。それを聞いた全員が『あぁ~』と納得していた。

 

 

「カズマ、その子の名前はもう決めました?もしまだ決まっていないのであれば、私が格好いい名前を…」

 

 

「格好いいって…、コイツはメスだぞ?せめて可愛い名前にしてくれよな?」

 

 

「…ねぇカズマ、その子から"アンナの気配"を感じるんだけど…」

 

 

『……えっ?』

 

 

アスタの言葉に、全員がアスタに視線を向けた。

 

 

「本当かアスタ?」

 

 

「うん。昨日の深夜にアンナへお供え物と冒険話をしようと思っていたんだけど、全然来ないからそのまま寝ちゃったんだけどね。そしたら今朝になってアンナの気配がしないと思ったら…」

 

 

「コイツからアンナの気配を感じた…って訳か」

 

 

カズマの言葉にアスタは頷いた。

 

 

「……めぐみん、悪い。コイツの名前が決まった」

 

 

「奇遇ですね、私も今しがた名前が決まりました。せーので言いましょう、せーの…」

 

 

「「『アンナ』」」

 

 

「ぎゃう!」

 

 

カズマとめぐみんが同時に同じ名前を言うと、ジンオウガは嬉しそうに鳴いた。

 

 

「…決まりだな、今日からお前の名前は『アンナ』だ。これからもよろしくな、アンナ」

 

 

「ぎゃう!(これからもよろしくね、"パパ")」

 

 

こうして地縛霊の少女だったアンナは新しく生まれ変わり、愛するパパと、その仲間達から祝福されたのだった。

 

 

 



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第36話

 

 

カズマに『アンナ』と言うメスのジンオウガの子供が産まれてから数日後、カズマアスタとダクネスを引き連れて『ウィズ魔法具店』を訪れていた。

 

 

「よく来たなカズマ、商品生産の報酬は用意してある。持って来るから少し待っておれ」

 

 

「待つのはいいが、ウィズはどうしたんだ?姿か見えないが…」

 

 

「あのポンコツ店主なら、奥で死んだ様に眠っているよ」

 

 

バニルが言うには、店の赤字を黒字に変えるにはどうしたら良いか、それを考えると、一つの結論に辿り着いた。それは『店主が余計な事を考える暇が無い程働けば良い』だった。

 

 

バニルは早速ウィズを食事をする暇も無い程に二十四時間、延々と働かせた。

 

 

その甲斐あってか、商品は飛ぶ様に売れたのだが、ウィズが急に笑い出したり泣き出したりし出したので、やむ無く休ませる事にしたのだった。

 

 

「いや…、ブラック過ぎるだろ…」

 

 

流石のカズマも、バニルのウィズの扱いに引いた。

 

 

「ところで、そこのクルセイダーの娘よ。お主に"破滅の相"が出ている、よかったら報酬を渡した後で我輩が占ってやろう」

 

 

バニルはそう言って店の奥に引っ込んだ。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「待たせたな、まずはカズマへの報酬だ」

 

 

バニルはエリス金貨が入った大袋をカズマに渡した。

 

 

「それから娘よ、まずこの水晶玉に触れるのだ。本来なら結果が出るまで恥ずかしい思いをする質問をするのだが、事が事だけに今回は何も質問はせん」

 

 

ダクネスはバニルに言われた通り、水晶玉に手を置いた。

 

 

「…ふむ、やはり破滅の相が出ているな。貴様の家、そして父親がこれから大変な目に遭うだろう。…ふむ、良い回避方法は……おや、貴様の力"だけ"ではどうにもならんと出たな」

 

 

バニルは水晶玉に写った結果をダクネスに告げた。

 

 

「…バニル、占いには感謝する。だが、どんな事態に陥っても逃げる事は出来ない」

 

 

ダクネスはそれだけ言って、店から出たのだった。

 

 

「…なあバニル、俺達にできる事は無いのか?」

 

 

占いの結果にカズマが物申した。

 

 

「うむ…、更なる売れ筋商品を沢山作れば、どうにかなるかもしれんぞ?」

 

 

バニルはカズマに意味深な言葉を投げ掛けた。

 

 

「…そうか。サンキュー、バニル」

 

 

「お主とはビジネスを共にする仲間だ、お主がいなければ我輩の野望がいつまで経っても叶えられん。それだけだ」

 

 

バニルは照れくさそうにそっぽを向く。

 

 

「それでも、感謝をしたいのさ。困った事があれば、相談くらいはするから」

 

 

「……なら、一つ買ってもらいたいがある」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「バニルに押し付けられる形で買っちまったけど…、"本物"なのか?これ」

 

 

カズマが手にしている物は、ウィズの店でバニルに無理やり買わされた"箱"だった。

 

 

「バニルが言ってたけど、"この箱の蓋を開ければ『異世界』に行ける"って。…何か眉唾物の匂いがぷんぷんするんだが」

 

 

「ぎゃう」

 

 

カズマは屋敷の庭で、日向ぼっこをしながら芝生に寝転がっており、その側にアンナとジラフが寝そべっていた。

 

 

「ぎゃう、ぎゃう」

 

 

「何だアンナ、興味あるのか?」

 

 

「ぎゃう!」

 

 

カズマはアンナに箱を渡すと、アンナは前足で器用に箱を転がして遊び始めた。

 

 

「ははは、アンナは手先が器用だな…。ん?」

 

 

カズマはアンナが遊んでいる箱の蓋が開きかけている事に気づいた。

 

 

「アンナ、ちょっとまっ…」

 

 

カズマが言い切る前にアンナが蓋を開けてしまった。

 

 

「なっ!?」

 

 

「ぎゃう!?」

 

 

「ブルルッ!?」

 

 

すると箱が強く光り始め、カズマとアンナとジラフは光に包まれてしまった。

 

 

「カズマーっ!今日のご飯だけど…あれ?」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「んっ…、ここは…?」

 

 

カズマは瞑っていた目を開く。そして目に入った光景に目を疑った。

 

 

「ここは…、草原?しかも向こうに見えるのはアクセルの街の外壁…」

 

 

カズマはいつの間に街の外に出てしまったのか、分からなかった。

 

 

「ぎゃう!ぎゃう!」

 

 

「ブルルッ!」

 

 

「アンナ!ジラフ!」

 

 

するとカズマの元にアンナとジラフが駆け寄って来た。

 

 

「お前ら、無事だったんだな!」

 

 

「ぎゃう!」

 

 

「ブルルッ!」

 

 

カズマの問いかけにアンナとジラフは肯定するように鳴いた。

 

 

「…とりあえず、いつまでもこんな所にいる訳にもいかないな。アクセルの街が向こうに見えるのなら、ひとまず街に向かうか」

 

 

カズマはアンナを抱っこしてからジラフに跨がると、ジラフはアクセルの街に向けて歩きだした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…ひとまず街には入れたけど、何で門番さんが不思議そうな顔をしたのだろうか?」

 

 

カズマは街の門まで来ると、ジラフから降り、そのまま街へ入ろうとした。だが、門番はカズマに冒険者カードの提示を促した。

 

 

カズマは仕方なくカードを門番に見せると、門番は驚いた表情をした後、カズマ達を通したのだった。

 

 

「…とりあえず、ギルドに向かうか」

 

 

カズマはまず腹ごしらえをする為にギルドへ向かう事にした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマ達は奇異な視線を浴びながら、ギルドの前まで到着した。すると…

 

 

「この駄女神!一体いつになったら覚えるんだ!」

 

 

「なによ!引きこもりニートの癖に!」

 

 

自分と瓜二つな青年がアクアと瓜二つな女性と言い合っていた。

 

 

「ちょっと…、カズマもアクアも落ち着いて下さい…」

 

 

「そうだぞ?こんな所で騒いだら迷惑になるだろう」

 

 

更にはめぐみんに瓜二つな少女とダクネスに瓜二つな女性が二人を宥めていた。

 

 

「「だってコイツが!」」

 

 

「なんだよ!」

 

 

「なによ!」

 

 

仲間が宥める甲斐無く、二人の喧嘩はヒートアップしていった。

 

 

「大体お前…が……」

 

 

すると、青年がカズマに気づいたのか、視線をカズマに向けると、顔を真っ青にした。

 

 

「カズマ?どうしたの?」

 

 

「あ…、あ…お…」

 

 

「「「青?」」」

 

 

「俺が……、"二人いる"!!?」

 

 

青年はカズマがいる方を指差した。そして三人が指を指された所を見た。

 

 

「プークスクス!カズマの物真似をしている人がいるなんて!」

 

 

「カズマが…二人?」

 

 

「もしや、"ドッペルゲンガー"か?」

 

 

アクアと瓜二つな女性がカズマを見た瞬間笑いだし、めぐみんと瓜二つな少女はカズマと青年を見比べ、ダクネスと瓜二つな女性はカズマがドッペルゲンガーではないかと思案する。

 

 

「えーっと…、とりあえず落ち着いて話し合いません?」

 

 

カズマは青年達にそう切り出したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

《ここからは本作品のキャラ以外のセリフの前に名前を入れます。例:○○「」》

 

 

「え~、まずは自己紹介を。俺はサトウカズマ、"この世界"とは違う世界で冒険者をしています。それとこの子はジンオウガの『アンナ』で、コイツはキリンの『ジラフ』」

 

 

「ぎゃう!」

 

 

「ブルルッ!」

 

 

ギルドの外でカズマは別世界の自分達に自己紹介をした。

 

 

アクア「じゃあ次は私ね!私は水の女神アクア様よ!」

 

 

めぐみん「我が名はめぐみん!アークウィザードにして紅魔族随一の爆裂魔法の使い手!」

 

 

ダクネス「私はダクネス、クルセイダーを生業としている」

 

 

カズマ「最後に俺はサトウカズマ、冒険者だ」

 

 

別世界のカズマ達も自己紹介をした。

 

 

アクア「ねえねえ!あなたの世界の私ってどんな感じなの?」

 

 

「えーと…、アクアは後輩の女神や天使に慕われていて、料理が上手で「うんうん」、仲間の事を第一に考えていて「うんうん」、仕事熱心で四六時中休まず仕事していて、後輩の女神や天使が心配したり「え"っ?」、上司の神様に仕事を休む様頭を下げられたり…」

 

 

アクア「お願いだからもうやめてぇ!」

 

 

カズマがアスタの事を話しているとギャップを感じたのか、別世界のアクアが止めた。

 

 

カズマ「ギャハハハハッ!こっちのアクアとは全くの別人だな!」

 

 

ダクネス「そちらのアクアは仕事が好きなのだな、ところで私はそちらと比べて何か違いはあるか?」

 

 

「ダクネスは俺の世界のダクネスと変わらないな」

 

 

ダクネス「そ…、そうか…」

 

 

別世界のカズマはアクアの慌てぶりを見て笑いだし、ダクネスは別の世界と変わらない事に若干落ち込んでいた。

 

 

めぐみん「では、私はどうなのでしょうか?」

 

 

「めぐみんは俺の世界とは変わりは…、いや俺の世界のめぐみんの方が少しだけ"胸が大きい"な」

 

 

めぐみん「そうなのですか!?」

 

 

別世界のめぐみんはカズマの世界の自分が少しだけ胸が大きい事に驚いた。

 

 

「まあ…、"ほぼ毎日揉んでいる"から…かな?」

 

 

カズマ・アクア・ダクネス・めぐみん「「「「なんだって!?」」」」

 

 

カズマ「揉んでるって…、あのお子ちゃま体型のめぐみんの胸を!?」

 

 

めぐみん「おい私の何処がお子ちゃまなのか聞こうじゃないか!」

 

 

カズマの発言で全員が驚き、別世界のめぐみんは別世界のカズマに喧嘩をしようとしていた。

 

 

「落ち着けってめぐみん」

 

 

めぐみん「えっ…」

 

 

カズマ・アクア・ダクネス「「「なっ!?」」」

 

 

カズマは別世界のめぐみんを抱き寄せ、彼女の頭を自分の胸に押し当てた。その様子を見ていた別世界のカズマ達は絶句した。

 

 

めぐみん「あああ…、あの…!」

 

 

「へっ?ああ申し訳ない。彼女にしている事をつい無意識に…」

 

 

カズマは別世界のめぐみんに謝罪しながら解放した。

 

 

カズマ「彼女にしているって…、つまりお前は…!」

 

 

「ああ、俺はめぐみんと"恋人関係"だ。それに紅魔の里にある"魔神の丘"でプロポーズもしているぞ」

 

 

カズマ達「「「「えええ~~~っ!!?」」」」

 

 

別世界のカズマ達は心底驚いた。

 

 

ダスト「おいおい、一体何の騒ぎ…だよ……」

 

 

キョウヤ「サトウカズマ!僕と勝負…を……」

 

 

ゆんゆん「めぐみん!私と決着…を……」

 

 

そこにギルドから別世界のダスト達が、建物の右側からキョウヤが、建物の左側からゆんゆんが現れ、言葉を言い切る前に言葉を失った。

 

 

ダスト達『(サトウ)カズマ(さん)が二人いる~~~っ!!?』

 

 

カズマ「わかるぞ、その気持ち」

 

 

アクア「私達も同じリアクションをしたからね」

 

 

ダクネス「うむ、あの時はモンスターかと思ったからな」

 

 

別世界のダスト達は驚愕し、別世界のカズマ達はそのリアクションを見て頷いていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……と、言う訳なんだ」

 

 

カズマはあの後別世界のカズマの計らいによって、ギルドで食事を取る事となり、どうせならと別世界のダスト達も一緒に食事をする事となった。

 

 

キョウヤ「まさか"並行世界"から来たとは…」

 

 

ダスト「なあ、その"変貌世界"って何だ?」

 

 

「"並行世界"ね。そこの俺とキョウヤは同郷だから知ってると思うけど、世界は一つじゃ無いんだ。似たような世界に、自分とそっくりな人間が暮らしている。けど、世界が違えばその人が歩んで来た人生も違う」

 

 

ダスト「う~ん…、分かったような、分からなかったような…」

 

 

カズマの説明にダストは首を傾げた。

 

 

カズマ「つまり、別の世界に別の自分がいるって事だ」

 

 

ダスト「なるほど」

 

 

別世界のカズマが分かりやすく説明すると、別世界のダストはやっと納得した。

 

 

「しかし、変わっている人がいれば、変わっていない人もいるな」

 

 

カズマ「誰が変わっているんだ?」

 

 

「まず、今この場にいる全員だが…、実は俺の世界じゃ全員パーティーメンバーなんだ。しかも俺がリーダー」

 

 

全員『ええ!?』

 

 

カズマの発言に全員がまたしても驚いた。

 

 

キョウヤ「僕達が…、君のパーティーに?」

 

 

「ああ。ダスト達はパーティー入れ替えの後に、キョウヤ達はデストロイヤーの後に、ゆんゆんは屋台巡りをしていた時に加入したんだ」

 

 

カズマの説明に全員が呆然としていた。

 

 

クリス「あれ?皆集まってどうしたの?」

 

 

そこに別世界のクリスが現れた。

 

 

「あれ、クリス?」

 

 

クリス「えっ?カズマ君が二人?どういうこと?」

 

 

カズマは頭に『?』を浮かべている別世界のクリスに現状を説明した。

 

 

クリス「なるほどね…。しかし驚いたなあ、まさかあたしがもう一人のカズマ君の恋人だなんて…」

 

 

カズマ「別世界とは言え、俺に恋人が二人も…」

 

 

アクア「それもプロポーズして一発オッケー」

 

 

別世界のカズマが落ち込んでいる所に別世界のアクアが追い討ちを掛け、更に落ち込んでしまった。

 

 

『緊急連絡!緊急連絡!冒険者の皆様は直ちにギルドまでお越し下さい!繰り返します…』

 

 

そこにギルドからの緊急招集連絡が入った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ルナ「冒険者の皆さん、お集まりいただきありがとうございます!」

 

 

ダスト「なあ、なんで急に招集を?」

 

 

別世界のダストは招集理由を質問した。

 

 

ルナ「実は、モンスターの大群がこのアクセルの街に向かって来ているのです!」

 

 

『なんだって!?』

 

 

別世界のルナが招集理由を伝えると、集まった冒険者全員が驚いた。

 

 

ルナ「現在確認できたモンスターは"リザードランナー"を筆頭に"走り鷹鳶"に"ジャイアントトード"、更に"グリフォン"や"マンティコア"が確認されています」

 

 

ダクネス「"リザードランナー"に"走り鷹鳶"、"ジャイアントトード"ならこの街の冒険者でも対応できると思うが…」

 

 

キョウヤ「問題は"グリフォン"に"マンティコア"だね。奴らの強さは上級の冒険者でないと…」

 

 

別世界のダクネスとキョウヤが考えていると

 

 

「なら、俺が指揮をしようか?」

 

 

カズマが手を上げながら申し出た。

 

 

ルナ「あの…、カズマさんの実力では…」

 

 

「心配ありませんよ、ほら」

 

 

別世界のルナはカズマの申し出を断ろうとしたが、カズマは冒険者カードを別世界のルナに見せた。

 

 

ルナ「失礼します…、こ…これは!?冒険者レベルがミツルギさんと同等のレベルです!」

 

 

『なんだって!?』

 

 

カズマ「アイツと同等のレベルって…、どれだけ高いんだよ!?」

 

 

「自分では自覚が無いけど…」

 

 

別世界のルナはカズマのレベルが高い事に驚いたが、カズマはその自覚が無かった。

 

 

ルナ「これなら指揮を任せられますよ!よろしくお願いします!」

 

 

「分かりました。皆!皆の命、俺に預けてくれ!俺達でこの街を守るぞ!」

 

 

『おおっ!!』

 

 

「ぎゃう!」

 

 

「ブルルッ!」

 

 

カズマの意気込みに全員が気合いを入れたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いよいよか…」

 

 

カズマ達冒険者は、街の正門の前に陣取っていた。

 

 

「作戦を説明する。まずクルセイダー部隊、お前達は全員大楯を装備して最前線で待機。敵影が見えたと同時に囮スキルを使って注意を引いてくれ」

 

 

「それからプリースト部隊はクルセイダー部隊に筋力増加の支援魔法を頼む。その後は最後方に下がって怪我人が出た時の治療を」

 

 

『おう!』

 

 

ダクネス「了解した!」

 

 

アクア「任せて!」

 

 

別世界のダクネス率いるクルセイダー部隊は、自身を隠せる程の大楯を持っていた。因みにこの大楯は街にある武具屋でカズマが購入した代物である。

 

 

そして別世界のアクア率いるプリースト部隊は、クルセイダー部隊に支援魔法を使用した後、正門まで下がった。

 

 

「次に盗賊部隊、クルセイダー部隊が受け止めたモンスター達をバインドを使って動きを止めて欲しい」

 

 

クリス「了解したよ!」

 

 

別世界のクリス率いる盗賊部隊は、大量のロープを持ってクルセイダー部隊の後方に待機した。

 

 

冒険者「敵影確認!先陣は"リザードランナー"と"走り鷹鳶"!数はおおよそで"リザードランナー"が40!"走り鷹鳶"が10の、計50!後1分弱で会敵します!」

 

 

すると高台から千里眼スキルを使って索敵していた冒険者から、連絡が入った。

 

 

「了解した!総員戦闘配置!クルセイダー部隊、前へ!俺の合図でスキルを発動せよ!」

 

 

『了解!』

 

 

カズマの合図で大楯を装備したクルセイダー部隊が前に出る。

 

 

「………今だ!」

 

 

『フォルスファイア!』

 

 

『デコイ!』

 

 

カズマの合図でクルセイダー部隊全員が囮スキルを発動させた。するとリザードランナーと走り鷹鳶は一直線にクルセイダー部隊に突撃して行った。そしてクルセイダー部隊はモンスターの突撃を大楯で受け止める事に成功した。

 

 

「今だ!盗賊部隊、捕獲開始!」

 

 

『バインド!』

 

 

クルセイダー部隊の後ろで待機していた盗賊部隊が、一斉にバインドを発動させ、モンスターを次々に簀巻き状態にしていった。

 

 

「よっしゃ!近接部隊、捕獲したモンスターを一網打尽にしてこい!突撃!クルセイダー部隊は近接部隊と入れ替わりで後退!」

 

 

カズマ「行くぞ!」

 

 

ダスト「動けなくなっちまえば、こっちのもんだ!」

 

 

そして別世界のカズマとダストが率いる近接部隊が次々にモンスターを倒していった。

 

 

キース「敵影確認!次に来るのは"グリフォン"と"マンティコア"!数はそれぞれ5体!真っ直ぐこっちに突っ込んで来るぞ!」

 

 

高台から別世界のキースがグリフォンとマンティコアが襲来して来た事をカズマに伝えた。

 

 

「分かった!ウィザード部隊とアーチャー部隊は連携して撃ち落とせ!」

 

 

リーン「了解!」

 

 

ゆんゆん「分かりました!」

 

 

キース「腕が鳴るぜ!」

 

 

別世界のリーンとゆんゆん率いるウィザード部隊と、別世界のキース率いるアーチャー部隊が交互に攻撃を繰り出し、グリフォンとマンティコアを倒していった。

 

 

冒険者「ジャイアントトードの姿が見えたぞ!数は…なっ!?」

 

 

「どうした!?」

 

 

冒険者「数は…、百を越えてます!」

 

 

『ひゃく!?』

 

 

冒険者からの情報にカズマを除く全員が驚いた。

 

 

カズマ「どうすんだよ!?いくらカエルとは言っても数が多すぎる!」

 

 

キョウヤ「僕達が頑張っても、倒し切れるかどうか…」

 

 

めぐみん「こうなれば我が爆裂魔法で…」

 

 

ゆんゆん「ダメだよ!タイミングを計らないと…」

 

 

別世界のカズマ達が対策を考えていると

 

 

「ふ~ん、百匹か。思ったより少ないな」

 

 

ダクネス「別の世界のカズマよ、何呑気な事を言っているのだ!あれだけの数が街に押し寄せているのだぞ!ああ…あの中に私を補食するカエルがいると思うと…」

 

 

「ダクネス、歓喜に震えている所悪いが、ジャイアントトードは鉄を嫌うから、鎧を着用している間は補食されないぞ?それに…『俺が全部何とかする』から」

 

 

カズマはバッグを取り外すと、ジャイアントトードに向かって歩き始めた。

 

 

カズマ「別の世界の俺、何をする気だ!戻れ!」

 

 

「大丈夫、鍛えてますから。シュッ」

 

 

カズマは敬礼のようなジェスチャーをした後、音角を取り出した。

 

 

「行くぜ、『音撃道・打』!」

 

 

《打・ダーン!》

 

 

カズマは音声入力をした後、音角を展開させ、左指で弾いた。すると音角から波紋が広がり、カズマは音角を自分の額に近づけた。

 

 

ボワッ

 

 

アクア「ちょっと!体が燃えているんですけど!?」

 

 

リーン「早く消さないと!」

 

 

カズマ「いやちょっと待て!あれは…」

 

 

別世界のアクアとリーンが火を消そうとした所を、別世界のカズマが止めた。

 

 

「ハアアアァァァ…、ハアッ!!」

 

 

そしてカズマが右腕を振り払うと、カズマは響鬼に変身していた。

 

 

『へ…、変身したぁ!?』

 

 

アクア「何あれ何あれ!?私知らないんですけど!?」

 

 

めぐみん「おお…、紅魔族の琴線にビンビン触れますね!」

 

 

カズマ「やっぱり…、仮面ライダー響鬼だったか」

 

 

カズマの変身に全員が驚く中、別世界のカズマだけが冷静でいた。

 

 

「行くぞ!」

 

 

「ヒヒーン!」

 

 

カズマが走り出したと同時にジラフがカズマと並走し、カズマはジラフの背中に飛び乗った。

 

 

「ハアッ!」

 

 

カズマは音撃棒・烈火を持つと、先端から炎の刃を生成し、カエルをすれ違い様に切り裂いた。

 

 

キョウヤ「すごい…」

 

 

カズマ「ああ…」

 

 

カズマの戦い方に全員が見惚れていた。

 

 

「まだまだ行くぜ!"烈火迅雷剣"!」

 

 

カズマは烈火剣を頭上に掲げると、ジラフが雷を烈火剣に落とし、烈火剣の刃に紫電が走った。

 

 

「ソイヤッ!」

 

 

そしてカズマは烈火迅雷剣でカエルを一回斬ると、カエルの体に無数の切り傷ができ、絶命した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマが戦い始めてから数十分後、カエルの数は三十まで減っていた。

 

 

「そんじゃ、そろそろやりますか」

 

 

カズマとジラフはまるでカエルを挑発するかのように動き回り、カエルを一ヶ所に集めた。

 

 

カズマ「アイツ、一体何を…?っ!そうか!めぐみんっ!!」

 

 

めぐみん「なっ、何でしょうかカズマ?」

 

 

カズマ「爆裂魔法を何時でも撃てるようにしておいてくれ!最大の見せ場だぞ?」

 

 

めぐみん「分かりました!」

 

 

別世界のカズマは響鬼がやろうとしている事に気づき、めぐみんに爆裂魔法を撃たせる準備を始めさせた。

 

 

そして…

 

 

めぐみん「カズマ、何時でも撃てます!」

 

 

カズマ「まだ撃つなよ!?もう少し…、もう少し…。…今だっ、めぐみん撃て!」

 

 

別世界のカズマはカエルが一ヶ所に密集した時を見計らい、別世界のめぐみんに指示を出した。

 

 

めぐみん「分かりました!…さあモンスター達よ、我が魔法を喰らって灰塵に帰すがいい!」

 

 

『エクスプロージョン!!』

 

 

別世界のめぐみんは爆裂魔法を放った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『かんぱ~い!!』

 

 

その夜、モンスターの大群を退けた冒険者一同はギルドで祝杯を上げていた。

 

 

カズマ「ゴクッ…、ゴクッ…、ゴクッ…。ぷはーっ!一仕事終えた後のシュワシュワは旨い!」

 

 

別世界のカズマはシュワシュワをイッキ飲みしていた。

 

 

キョウヤ「今日のMVPは誰が何と言っても"彼"だろうね」

 

 

別世界のキョウヤが見る先には、ジラフとアンナと戯れるカズマがいた。

 

 

ゆんゆん「あの…、その子…撫でても良い…ですか?」

 

 

「その子って…、ジラフ?それともアンナ?」

 

 

ゆんゆん「えっと…アンナ…さんです」

 

 

別世界のゆんゆんはカズマにアンナを撫でさせてほしいとお願いした途端、アンナが別世界のゆんゆんに飛び付いた。

 

 

ゆんゆん「きゃあ!?」

 

 

「ハハハ、アンナもゆんゆんに撫でてほしいってさ」

 

 

別世界のゆんゆんは恐る恐るアンナを撫でる。

 

 

ゆんゆん「あっ…、ふわふわ~」

 

 

「だろ?俺が毎日ブラッシングしているからな。女の子にとって、毛並みは命だからね」

 

 

カズマの説明を余所に、別世界のゆんゆんはアンナの毛触りを楽しんでおり、アンナも撫で心地が良いのか、目を細めていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さてと…、今日の寝床どうしようかな?」

 

 

夜も遅くなった時間帯、カズマは寝床をどうしようか悩んでいた。

 

 

「宿の部屋が空いていれば良いけど、ジラフがいるから馬小屋、最悪野宿でも…」

 

 

カズマ「おーい!」

 

 

そこに別世界のカズマ達が寄って来た。

 

 

カズマ「今日泊まる所探しているんなら、俺の屋敷に泊まらないか?」

 

 

「良いのか?こちらとしては願ったり叶ったりなんだが…」

 

 

ダクネス「構わんさ、こちらも助けられた事だし、その恩返しをしたいんだ」

 

 

アクア「それに、あなたの冒険話をあの子に聞かせたいしね」

 

 

別世界のアクアが言う"あの子"とは、地縛霊のアンナの事である。

 

 

「…分かった。お言葉に甘えて…」

 

 

カズマが厄介になる事を言おうとすると、突如カズマの体が光り始めた。

 

 

カズマ「な…っ、何だ!?」

 

 

別世界のカズマ達が驚く中、光は段々強くなり、目を開けられない程になった。

 

 

そして光が収まると、カズマとアンナとジラフの姿は無かった。

 

 

めぐみん「い…いなくなっちゃいました!?」

 

 

カズマ「さっきまでそこにいたわよね!?」

 

 

ダクネス「ま…まさか……」

 

 

カズマ「…幽霊?」

 

 

別世界のカズマが口走った言葉に、別世界のアクア達が恐怖に震え上がった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ここは…、元の世界に戻ったのか?」

 

 

カズマは屋敷の庭に立っていた。その隣にはアンナとジラフもいた。

 

 

「カズマ!やっと見つけた!もうっ、今まで何処に行ってたのよ!」

 

 

そこにアスタが息を切らして走って来た。

 

 

「悪い悪い、ちょっとな…。ところで、そんなに慌ててどうしたんだ?」

 

 

「そうだった!大変なのよ!ダクネスが"クーロンヒュドラ"のクエストを一人で受けちゃったのよ!」

 

 

「……はい?」

 

 

カズマは自分の耳を疑った。そしてこの後起こる出来事を知る由も無かったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ピカ?」

 

 

 



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第37話

 

 

「なあ…、"クーロンヒュドラ"って、何だ?」

 

 

カズマが屋敷に戻ってから開口一番、質問をした。

 

 

『だあっ!?』

 

 

カズマの質問にキョウヤ以外全員がずっこけた。因みに今カズマ達がいるのは屋敷のリビングであり、リビングにはダクネス以外全員と、窓からジラフが頭を屋敷の中に入れていた。

 

 

「クーロンヒュドラを知らないのですか!?」

 

 

「あはは…、カズマ君の反応は僕もした事があるから分かるよ…」

 

 

カズマの反応にキョウヤは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「あっ、そっか。カズマは"違う国"から来たんだからクーロンヒュドラの事は知らないんだっけ?これはクーロンヒュドラよ」

 

 

アスタはカズマにクーロンヒュドラの手配書を見せた。

 

 

「これは…、まるで"ヤマタノオロチ"みたいだな」

 

 

「ヤマタノオロチって、確かカズマとキョウヤの国の神話に出てくるモンスターだっけ?」

 

 

ヤマタノオロチ

 

 

日本の神話に登場する胴体が一つで、首と尻尾が八つある超巨大な蛇である。

 

 

その昔、スサノオノミコトが酒をがぶ飲みさせ、退治したとされる。

 

 

そして尻尾の四つ目か五つ目を斬ると剣が埋め込まれており、その剣が後にゲーム等に出てくるクサナギノツルギであるとされる。

 

 

(※諸説あり)

 

 

「クーロンヒュドラは汚い湖等に生息するモンスターで、体内に蓄積している魔力を使い果たすと、湖の底に潜って周囲の魔力を吸い上げちゃうのよ。それで魔力を吸収し終えるまで十年は掛かるんだけど、最後に目撃されたのが今から十年前で…」

 

 

「なるほど、時期的にクーロンヒュドラが目覚めるって事か。それで、何でダクネスは一人でコイツを受けたんだ?」

 

 

「それが分からないのよ、私達がいくら理由を聞いてもはぐらかすから」

 

 

カズマはダクネスがこの依頼を受けた理由を質問するが、誰一人知らなかった。

 

 

「とりあえずコイツの情報が欲しい、アスタとクリスはギルドに行ってコイツの情報を出来るだけ集めてくれ。他の皆は自由に行動してくれて構わないから」

 

 

「でしたらカズマ殿、私達は一度王都に戻り、騎士団を派遣する手筈を整えようと思うのだが」

 

 

「…確かに、戦力は多いに越した事は無いな。クレア姉さん、頼みます」

 

 

カズマはクレアの申し出を受ける事にした。

 

 

「分かった。今日はもう遅いから明日、出立しよう。アイリス様、それでよろしいですか?」

 

 

「構いません。こんな時に駄々をこねる訳にはいきませんから」

 

 

「ありがとうございます、アイリス様」

 

 

カズマの計らいでアイリスとクレアとレインの三人は王都へ戻る事になった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから2日、アスタとクリスの二人はギルドで手に入れたクーロンヒュドラの情報を持って屋敷に帰って来ていた。

 

 

「これがクーロンヒュドラの情報よ」

 

 

「助かる。…なるほど、コイツは蓄積させた魔力を使って再生したり、攻撃をしてくる様だな」

 

 

「どうするカズマ君?アイリス様達が派遣して下さる騎士団は早くても後3日は掛かるみたいだが…」

 

 

「残念だが時間的猶予は無さそうだ。キョウヤ、今からギルドに行って協力者の募集をしてきてくれ。内容は…」

 

 

カズマはキョウヤにクーロンヒュドラ討伐の協力をお願いする広告を出してもらう様お願いをした。キョウヤは頷き、早速ギルドへ向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

翌日、カズマとめぐみんはクーロンヒュドラがいる湖がある森へ来ていた。

 

 

「カズマ、この森を抜ければクーロンヒュドラがいる湖に着きます」

 

 

めぐみんがカズマを案内していると、ガサガサと茂みが動いた。

 

 

「っ!?めぐみん、俺の後ろに」

 

 

カズマはめぐみんの前に立つ。そして茂みの揺れが大きくなると

 

 

「ピカ?」

 

 

そこから黄色いモンスターが現れた。

 

 

「おや、可愛いモンスターですね」

 

 

「待てめぐみん!ソイツに…」

 

 

めぐみんがモンスターに触れようとした瞬間

 

 

「ピ~カ~…、ヂュウ~ッ!!」

 

 

「アババババババ…!」

 

 

モンスターは電撃を放ち、めぐみんはその電撃を浴びてしまった。

 

 

「めぐみん、大丈夫か!?」

 

 

「し…、シビレビレ~」

 

 

カズマはめぐみんに駆け寄り、抱き起こすが、めぐみんは体が麻痺してしまったのか、体を動かせずにいた。

 

 

「ピカ~…」

 

 

「悪かった、悪かったよ!もうお前の縄張りには近づかないから!」

 

 

カズマはめぐみんをおんぶすると、来た道を戻って行った。その後、屋敷に戻ったカズマはキョウヤから話を聞き、作戦を決行するのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

 

その翌日、ダクネスは一人クーロンヒュドラがいる湖に向かっていた。

 

 

「遅えぞ、ダクネス」

 

 

「なっ…カズマ」

 

 

ダクネスの目の前には大勢の冒険者を引き連れたカズマがいた。

 

 

「…何をしに来た?」

 

 

「何を…ってそれはこっちのセリフだバカネス!たった一人で討伐できる程コイツは甘くねえ!少しは仲間を頼れ!」

 

 

カズマはダクネスの頭を小突く。

 

 

「…すまなかった」

 

 

ダクネスは自分の事を心配してくれるカズマ達に謝った。

 

 

「ったく…。よし、それじゃ作戦を説明するぞ!まず盗賊部隊は鋼鉄製のワイヤーを持って待機!リーダーはクリスだ!」

 

 

「了解!」

 

 

「次にアーチャー部隊!フック付きの矢を用意して待機!リーダーはキース!」

 

 

「任せろ!」

 

 

「クルセイダー部隊は後衛を守る為、その場で待機!リーダーはテイラー!ダストにキョウヤ達は臨機応変に動いてくれ!」

 

 

「仲間は絶対守るから安心しな!」

 

 

「了解した!」

 

 

「ウィザード部隊は魔法を撃てるよう後方待機!リーダーはリーンとゆんゆん!めぐみんは最後の切り札として全体の指揮を!」

 

 

「「了解!」」

 

 

「分かりました!」

 

 

「ダクネスはヒュドラの正面で囮スキルを使用!奴の気を引き付けてくれ!」

 

 

「分かった!」

 

 

カズマは次々に指示を出していった。

 

 

「カズマ、私は?」

 

 

「アスタは女神の姿になって湖を浄化してくれ。綺麗な水を嫌うヒュドラならすぐに現れるだろうから、合図を送り次第戻ってプリースト部隊の指揮を頼む。プリースト部隊はヒュドラが現れたら全員にフル支援と、怪我人の治療を」

 

 

「分かったわ!」

 

 

アスタは早速女神(アクア)の姿になり、湖に入った。すると段々水が浄化されていき、湖の中心に巨大な影が現れた。

 

 

「アクア!ヒュドラが現れた!急いで戻れ!!」

 

 

カズマはアクアに指示を出し、アクアは急いで湖から上がり、後方へ下がった。そして湖から毒々しい色合いをしたヒュドラが現れた。

 

 

「お前の相手はこの私だ!"デコイ"!」

 

 

ダクネスは囮スキルでヒュドラの気を引く。そしてヒュドラはダクネスに噛みつこうとしたが、ダクネスはヒュドラの牙をがっちりと掴み、離さなかった。

 

 

「今だよ!"バインド"!!」

 

 

その隙を突いたクリスが指示を出し、盗賊部隊全員がワイヤーを投げながらバインドを発動させた。するとワイヤーはヒュドラの八つの首全てを一纏めに縛り上げた。

 

 

「今だ!矢を放て!」

 

 

キースの号令でアーチャー部隊全員が矢を放ち、フックがワイヤーに引っ掛かった。

 

 

「よし今だ!思い切り引けー!!」

 

 

テイラーの号令でクルセイダー部隊全員がヒュドラを湖から引き上げようとロープを引っ張った。

 

 

「……駄目だ!逆に引っ張られる!」

 

 

しかし、ヒュドラの力が強いのか、逆にヒュドラがクルセイダー部隊を引っ張った。

 

 

「ウィザード部隊、攻撃開始です!」

 

 

だがめぐみんの指揮により、ウィザード部隊の攻撃が始まり、ヒュドラは傷を負ったり、首を斬られたりされた。

 

 

「…よし、いけるか!?」

 

 

カズマは作戦が成功した事で安心したのも束の間、ヒュドラは首を大きく動かし、カズマを森まで吹っ飛ばしてしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いてて…」

 

 

ヒュドラに吹っ飛ばされたカズマは、木に体を打ち付けてしまい、動けなくなっていた。

 

 

「ピカチュ~ウ」

 

 

そこに先日の黄色いモンスターが赤い頬から電気を出しながら現れた。

 

 

「…お前か。すまないな、縄張りには近づかないって言ったのに近づいちまって…」

 

 

カズマは痛む体を起こしながらモンスターに謝った。

 

 

「ピカ…」

 

 

モンスターはカズマを睨みながら警戒していた。

 

 

「…すぐにここから立ち去るから、待っていてくれ。それと…、今は湖に近づくんじゃねえぞ?危ないからな」

 

 

カズマは痛みを堪えながら立ち上がり、湖に向かった。モンスターはそんなカズマの姿を見送った後、カズマの後を追うように走り出した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマっ!大丈夫なの!?」

 

 

カズマが湖に到着した途端、アクアが近づき、ヒールを使って傷を治療した。

 

 

「何とかな…。…状況は?」

 

 

「…最悪の一歩手前ね。カズマが吹っ飛ばされた後、ヒュドラはワイヤーを外そうともがいているわ」

 

 

アクアが視線を向けた先では、ヒュドラが首を左右に大きく振り、ワイヤーを外そうとしていた。ロープを持っているクルセイダー部隊が何とか持ちこたえているが、時間の問題だった。

 

 

「早く何とかしないと…うぐっ!」

 

 

カズマはヒュドラに近づこうとするが、まだ治療は終わっておらず、痛みがカズマの体を走った。

 

 

「カズマっ、無理しないで!」

 

 

「でも…」

 

 

カズマはアクアの制止を振り切ろうとした矢先

 

 

「チュ~、ピッカ!」

 

 

"何か"がヒュドラの体に攻撃をした。

 

 

「一体なに!?」

 

 

「あれは…!」

 

 

カズマはヒュドラに攻撃をしたのが誰か、しっかりと見た。そしてヒュドラに攻撃をしたものがカズマの目の前で着地した。

 

 

「ピッカ!」

 

 

「お前…」

 

 

そう、カズマを追い掛けたあの黄色いモンスターだった。

 

 

「…助けてくれる…のか?」

 

 

「ピカ!」

 

 

カズマはモンスターに話しかけると、モンスターはカズマを見て頷いた。

 

 

「…ありがとう。よし、"ピカチュウ"!君に決めた!!」

 

 

「ピカチュウ!!」

 

 

カズマは黄色いモンスターこと『ピカチュウ』と共に戦う事を決めた。

 

 

「ピカチュウ、『でんこうせっか』!」

 

 

「ピカ!」

 

 

カズマはピカチュウに指示を出すと、ピカチュウは電光石火の名の通り素早い動きでヒュドラに近づき、ヒュドラの胴体にダメージを与えた。

 

 

「ピカチュウ、ヒュドラの首に『アイアンテール』!」

 

 

「ピッカ!チュ~、ピッカ!」

 

 

「ギャアアアッ!!」

 

 

ピカチュウはカズマの指示通り、ヒュドラの首に鋼鉄化した尻尾を叩きつけた。するとヒュドラはピカチュウの攻撃によって怯んだ。

 

 

「今だっ!ピカチュウ『10まんボルト』!!」

 

 

「ピッカ!ピ~カ~チュウ~ッ!!」

 

 

カズマはヒュドラが怯んだ隙を狙い、ピカチュウに指示を出す。そしてピカチュウは強力な電撃をヒュドラに浴びせた。

 

 

「ギャアアアッ!!ア…、ガ…」

 

 

10まんボルトの効果なのか、ヒュドラは麻痺してしまった。

 

 

「お兄ちゃん、お待たせしました!!」

 

 

「王国騎士団、ただいま到着だ!」

 

 

そこにアイリス達が騎士団を引き連れて現れた。

 

 

「アイリス!クレア姉さんにレイン姉さんも!こんなにも早く到着するなんて…」

 

 

「早くお兄ちゃんに会いたくて、急いで来ました!」

 

 

「まさか移動の大半を強行軍するとは思いませんでした…」

 

 

クレアの言う通り、騎士団全員が疲弊しており、アクア達プリースト部隊が騎士団を回復させていた。

 

 

「ピカッ、ピカチュウ!」

 

 

「ああ、これだけいれば倒せる!皆、もう一踏ん張りだ!」

 

 

カズマの号令でクルセイダー部隊と回復した騎士団がヒュドラを湖から引き上げようとロープを引っ張った。

 

 

「…まだ、まだ足りない…!」

 

 

だがヒュドラは残っている力を振り絞り、湖に潜ろうとしていた。

 

 

「…ピカッ!」

 

 

「ピカチュウ?」

 

 

ピカチュウはカズマを力強く見つめる。

 

 

「…もしかして、"アレ"を使えるのか?」

 

 

カズマの質問にピカチュウは頷いた。

 

 

「…分かった。ピカチュウ、お前に託す!ピカチュウ、『ボルテッカー』!!」

 

 

「ピッカ!ピカピカピカピカピカピカ…、ピッカ!!」

 

 

カズマは"ピチュー"、"ピカチュウ"、"ライチュウ"しか使えない技『ボルテッカー』をピカチュウに指示する。ピカチュウは電撃をその身に纏いながらヒュドラに突撃する。そしてピカチュウはヒュドラの腹に突撃し、ヒュドラは湖から吹っ飛ばされた。

 

 

「めぐみん!!今だっ!!」

 

 

「了解です!いきますよ!」

 

 

『エクスプロージョンッッッ!!!』

 

 

カズマはめぐみんに指示を出し、めぐみんは渾身の爆裂魔法をヒュドラに喰らわせた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「いや~、何とかなったな!」

 

 

「ですね。騎士団も長年眠らせるのが精一杯だったのに、よもや倒す事ができるなんて…」

 

 

ダストの言葉にクレアが頷いた。

 

 

「それも、こんな小さな協力者のおかげですものね」

 

 

レインが見つめる先には、カズマとピカチュウがいた。

 

 

「ピカチュウ、お前のおかげでヒュドラを倒せたよ。ありがとう」

 

 

「ピカピカチュウ」

 

 

カズマはピカチュウにお礼を言うと、ピカチュウは首を横に振った。

 

 

「ピカ、ピカピ、ピカチュウ」

 

 

「『倒せたのはあなたのおかげ』だって?…それでも、お前が協力してくれたからさ。だから、ありがとう」

 

 

「ピ…、ピカ~」

 

 

カズマはピカチュウの頭を撫でると、ピカチュウは気持ち良さそうに目を細めた。

 

 

「…さて、俺達はそろそろ帰るよ。ピカチュウ、またどこかで会おうな」

 

 

カズマはピカチュウを置いて湖から去ろうとした。

 

 

「…ピカ!」

 

 

だが、ピカチュウはカズマの背中に飛び乗ったのだった。

 

 

「ピカチュウ…、お前…俺達と一緒にいたいのか?」

 

 

「ピッカ!」

 

 

カズマがピカチュウに質問すると、ピカチュウは笑顔で鳴いた。

 

 

「そっか…。ならこれからもよろしくな!ピカチュウ、ゲットだぜ!」

 

 

「ピッピカチュウッ!」

 

 

こうして、不思議な生き物『ポケットモンスター(縮めてポケモン)』ピカチュウが仲間になった。これからも彼らの冒険は続く。

 

 

続くったら続く。

 

 

 



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第38話

 

 

クーロンヒュドラを倒し、ピカチュウが新たに仲間になった2日後。

 

 

「カズマカズマ、何を作っているのですか?」

 

 

カズマの工房にめぐみんが入室して来た。

 

 

「これか?これは"ダイナマイト"って言って、爆発魔法を再現できる代物のレプリカだよ」

 

 

カズマがダイナマイトについて説明すると、突然めぐみんが泣き出した。

 

 

「かじゅま~、私はお払い箱ですか!?私はいらない子ですか!?ポイされちゃうんですか!?」

 

 

「んな訳ねえだろ!それに、コイツは爆裂魔法並の威力を出すには、百個単位で用意しないといけないんだよ。めぐみんが愛する爆裂魔法をそうほいほい再現できる事なんかできないから」

 

 

カズマはめぐみんの頭を撫でながらダイナマイトの威力について説明した。

 

 

「…本当ですか?」

 

 

「ああ。それにコイツの本来の用途は岩を砕いたり、山に穴を貫通させる為に使う物だからな」

 

 

「…なら安心しました」

 

 

めぐみんはアイデンティティが失われる心配が無くなったようだ。

 

 

「それで、何か用があるのか?」

 

 

「そうでした、ダクネスの部屋に行ったらこんな物が…」

 

 

めぐみんはカズマに一枚の手紙を渡した。カズマはその手紙をこの場で読み始めた。

 

 

『突然こんな事を言い出して本当にすまない。お前達には言えない込み入った事情が出来た、貴族としてやむを得ない事情だ』

 

 

『お前達とはもう会えない、本当に勝手な事だがパーティーから抜けさせて欲しい。…どうか私の代わりの前衛職をパーティーに入れてくれ。お前達には感謝している、それほどどれだけ感謝しても足りないほどに…』

 

 

『お前達との冒険は楽しかった、私のこれまでの人生の中で一番楽しい一時だった。私は今後、お前達との日々を絶対に忘れる事はないだろう』

 

 

『今までどうもありがとう。ダスティネス・フォード・ララティーナより、愛する仲間達へ深い感謝をー』

 

 

手紙を読んだカズマの頭に言い知れぬ不安がよぎった。まるで"ダクネスが何処か遠くへ行ってしまう"予感が。

 

 

「カズマっ!」

 

 

そこにリーンとフィオとクレメアの三人が慌てた様子で駆け込んで来た。

 

 

「うおっ!?お前らどうしたんだ?確か今日は新しい服を買う為に街へ…」

 

 

「その街で大変な噂が流れているのよ!」

 

 

「ダクネスが…、ダクネスがあの"アルダープと結婚する"って!!」

 

 

「なっ…!?」

 

 

フィオが口走った言葉に、めぐみんは驚愕し、カズマは工房が出ようとしていた。

 

 

「カズマ、どこに行くつもり?」

 

 

「バニルの所に。全てを見通すアイツなら、何か知ってるはずだ」

 

 

工房は庭にある為、カズマは工房から庭に出る。

 

 

「おやこんな所で会うなんて奇遇ではないか」

 

 

すると会いたがっていたバニル当人が目の前にいた。

 

 

「バニル…!」

 

 

「…ふむ、何か込み入った話がある様だな」

 

 

「…話がしたい、来てくれ」

 

 

カズマはバニルを屋敷に入れたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「茶だ、飲んでくれ」

 

 

「頂こう。…おおっ!これは極上の悪感情に等しい味!」

 

 

悪熊(アクマ)の爪を天日干しした物を粉末状にして、お湯に溶かした『ダークマティー』だ」

 

 

カズマはバニルに茶を出し、バニルは出された茶で一息着いた。

 

 

「…さて、今お主が知りたいのは、あの鎧娘の事だろう?この茶の礼だ、話してやろう」

 

 

バニルは事の顛末を話し始めた。

 

 

事の発端はデストロイヤーによる被害だった。アクセルの街はカズマ達冒険者がデストロイヤーを破壊した事で危機を免れたが、道中にある農家は例外だった。

 

 

デストロイヤーに畑を破壊され、財産を失ったも同然の農家は領主であるアルダープに助けを求めた。が、アルダープは知らぬ存ぜぬの一点張りで話を聞こうともしなかった。

 

 

そして農家は最後の頼みの綱として、ダクネスの実家であるダスティネス家に泣きついたのだった。

 

 

ダクネスの父であるイグニスは何とか農家の人を助けたかったが、工面できる金額では無く、イグニスはダクネスと一緒にアルダープの元へ行き、金を借りる事にしたのだった。

 

 

それからもダクネスはクエストで手に入れた報酬を借金返済に回していたが、イグニスが最近になって突如体調不良になり、アルダープへの返済が出来なくなってしまった。

 

 

ダクネスはクーロンヒュドラの報酬を借金返済に当てたが、当然足りる訳無く、アルダープは『ワシの嫁になるなら、残りの借金を帳消しにしてやるぞ?』とダクネスに言ったのだった。

 

 

「……以上が鎧娘に起こった事だ」

 

 

バニルが語り終えると同時に、カズマは机を思い切り叩いた。

 

 

「ダクネスの奴…、俺達に黙ってそんな事を…!」

 

 

カズマは怒り心頭だった。

 

 

「どうしましょう…、このままではダクネスが…」

 

 

めぐみんはダクネスがパーティーを抜ける事になるのか心配になっていた。

 

 

「…バニル、ダクネスの借金の残りはいくらなんだ?」

 

 

「…カズマ?」

 

 

「…お客様の全財産とこの鞄の中身を合わせると、ちょうど借金の残りと同額になります。では商談に入ろうか!…もっとも、お主の中ではもう決まっておる様だがな」

 

 

バニルの視界には、覚悟を決めたカズマの顔が映っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから数日後、街の教会でダクネスとアルダープの結婚式が執り行われる日となった。

 

 

「こら!お前達はここまでだっ!」

 

 

「式が終わるまで中に入る事は許さん!」

 

 

教会の入口にはダクネスの花嫁姿を見ようと、多くの冒険者達が集まっていたが、黒服連中に止められていた。

 

 

「何だよ、中に入れるのは貴族だけかよ。あのダクネスの花嫁姿を拝めると思ったのに」

 

 

冒険者の一人が残念そうに呟く中、教会ではダクネスとアルダープの結婚式が執り行われていた。音楽が鳴り響く中、父親のイグニスでは無く、執事のハーゲンに引率された花嫁姿のダクネスが、ヴァージンロードを歩いていた。

 

 

そしてダクネスが聖職者の前まで辿り着くと

 

 

「汝、ダクネスは望まない婚姻をこの"クソを下水で煮込んだような性格のクソ野郎"と結ぼうとしています。貴女はそれで幸せになりますか?」

 

 

聖職者はマントを脱ぎ捨てながらダクネスに質問をした。

 

 

「あなたは…、"エリス"様!?」

 

 

そう、ダクネスの前にいるのは本来(エリス)の姿になったクリスだった。

 

 

「コイツが女神エリス様だと!?肖像画と全然似ておらんではないか!誰か!この偽物の聖職者を摘まみ出せ!」

 

 

「悪いがそうは行かないぜ?オッサン!」

 

 

するとエリスの横にいたダストがマントを脱ぎ捨てた。

 

 

「カズマから聞いてるぜ、ダクネスはアンタに借金をしてるってな。…なら、コイツを受け取りな!!」

 

 

ダストは持っていた鞄のロックを外した状態でアルダープに投げつけた。すると鞄からエリス魔銀貨が一面に散らばった。

 

 

「エリス魔銀貨で全額を今支払ったぜ!これでダクネスは自由の身だ!花嫁は頂いて行くぜ?」

 

 

「か…金、ワシの金。こ…この金はワシのモノだ!ひ…拾って…拾ってくれ…!!」

 

 

ダストの言葉が聞こえていないのか、アルダープは必死になって金を拾い集めていた。

 

 

「聞いちゃいないな…、よしっ!ダクネス、このままずらかるぜ!?エリス様!」

 

 

ダストはダクネスをお姫様抱っこして、エリスと一緒に入口まで走った。

 

 

「しかし…、ダクネス。お前思ったより軽いな?ちゃんと飯食ってたか?」

 

 

「いや…、ここ最近食事が喉を通らなくてな…」

 

 

「ったく…、全てが終わったらカズマが飯を用意してくれるから、それ食って元気出せよな」

 

 

ダストは笑いながらダクネスに話すと、ダクネスは顔を赤くしながら頷いた。

 

 

「いかん、ララティーナを逃がすな!何としても捕まえろっ!!」

 

 

だが金を集めていたアルダープが、ダクネスの逃走を阻止しようと黒服連中に指示を出した。

 

 

すると、入口が丸く斬られ、入口が吹き飛び、黒服連中は吹っ飛ばされた。

 

 

「悪い魔法使いが来ましたよ。悪い魔法使いの本能に従い、花嫁を攫いに来ました」

 

 

「めぐみん、ゆんゆん!ナイスタイミングだぜ!」

 

 

入口からめぐみんとゆんゆんが現れ、ダストは喜んだ。

 

 

「ねえめぐみん!花嫁を攫うなんて…」

 

 

「花嫁を攫う?違いますよゆんゆん。私達は"親友を助けに来た"。それだけです」

 

 

事の大きさに尻込みするゆんゆんを、めぐみんは正統性を口にした。

 

 

「そ…、そうだよね!ダクネスだって自分が好きな人と結婚したいはずだよね!正義は私達にあるんだよね!」

 

 

ゆんゆんは自信を取り戻したのか、丸くなっていた背中を真っ直ぐに伸ばした。

 

 

「めぐみん、ゆんゆん!助かった!さあ急いでずらかるぞ!!」

 

 

「待てえええーーーい!!紅魔族の小娘達までも邪魔しおって!!ララティーナ以外は殺しても構わん!何としても取り戻せー!」

 

 

アルダープは教会の外にいる黒服連中に指示を出した。…が、黒服連中は誰一人も現れなかった。

 

 

「悪いなクソダップン、黒服連中は俺達が黙らせたぜ」

 

 

アルダープが教会の外に出ると、そこには装甲響鬼に変身しているカズマと、紫電を体に走らせているジラフ、黒服の一人を齧っているアンナ、そして頬から電気を発生させているピカチュウがいた。

 

 

「なっ…!?くっ、おい!貴様らは冒険者だろう!そこにおるのはワシの花嫁を攫った犯罪者だ!花嫁を取り返した者は多額の報酬を払う!ララティーナを取り返せ!!」

 

 

アルダープは冒険者達にダクネスを取り返すよう言うが、冒険者達は誰一人動かなかった。

 

 

「…どうやら、アンタの味方はいない様だぜ?」

 

 

「みたいだな。ピカチュウ、あのクソダップンに『10まんボルト』!!」

 

 

「ピカ!ピ~カ~…、チュウ~!!」

 

 

カズマはピカチュウに『10まんボルト』を指示し、ピカチュウはアルダープに『10まんボルト』を浴びせた。

 

 

ピカチュウの『10まんボルト』を喰らったアルダープは体が痺れてしまい、身動き一つ取れなかった。その隙を突いたダスト達はその場を去ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふう…、ここまで来れば大丈夫だろう」

 

 

ダクネスをお姫様抱っこしていたダストは、ゆっくりとダクネスを地面に下ろした。

 

 

「皆…、本当にありがとう。私は今、人生で一番幸せだ」

 

 

ダクネスの笑顔に、全員が笑った。

 

 

「お~いっ!」

 

 

そこにイグニスを引き連れたアクアが現れた。

 

 

「アスタ、お父様!」

 

 

「アクア、どうだった?」

 

 

「バニルが予想した通りだったわ。ダクネスのお父さんは悪魔に呪いを掛けられていたの。でも、解呪が間に合ったから命に別状は無くなったわ」

 

 

カズマはアクアに首尾を聞くと、アクアはサムズアップしながら答えた。

 

 

「呪い…だと!?ではお父様が最近になって体調を崩されたのは…」

 

 

「ええ、その呪いのせいだったってわけ。でも呪いは解呪しても、体力とかは回復できないから、しばらくは療養しないといけないわね」

 

 

「ララティーナ…、心配掛けさせてすまなかった」

 

 

イグニスはダクネスに向かって頭を下げた。

 

 

「お父様、頭を上げて下さい!それに悪いのはお父様に呪いを掛けた悪魔です!」

 

 

「……ダクネス、恐らくだが、悪魔に呪いを掛けるよう指示した人物がいると思う。それに関してはバニルが調べてくれるそうだから、バニルの連絡を待とう」

 

 

カズマはダクネスにそう言うと、ダクネスは頷いた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「くそがっ、くそっ、くそっ、くそっ、くそおっ!!」

 

 

ここはアルダープの屋敷の地下。アルダープはそこにいるマスクを何度も足蹴にしていた。

 

 

「お前がっ!お前がもう少し使える悪魔だったなら!あそこで、ワシのララティーナを奪われる事はなかったのだ!!この役立たずめ!!お前の"つじつま合わせの強制力"はそんなにちっぽけな物なのかっ!!」

 

 

「ヒュー…。教会では悪魔の力が弱くなるからね。そんな事より…、何者かに呪いが解かれたようだよアルダープ」

 

 

マスクはイグニスに掛けていた呪いが解けた事をアルダープに伝えた。

 

 

「呪いが解けただと!?お前は満足に人間一人呪い殺す事も出来ないのかっ!マスク!今回の参列者及びワシの言葉を聞いた者達の記憶を明朝までに全て都合の良いように捻じ曲げ、つじつまを合わせておけ!」

 

 

「無理だよアルダープ。…そう無理、僕にそれ程の力はないよ」

 

 

アルダープはマスクに記憶を改ざんさせようとするが、マスクは無理だと伝えた。

 

 

「無理だと…?記憶の捻じ曲げは貴様の得意技だろうが!貴様に拒否権はない、さっさとやれ!」

 

 

「無理、光が…。呪いを解いた強い光が邪魔をするからそれは無理」

 

 

アルダープはマスクに命令をするが、マスクは無理と言い続けた。

 

 

「……もういい!貴様なぞ契約解除して、他の力ある悪魔を呼び出してやる!最後の命令だ!ワシの前にララティーナを…!お前の強制力で今すぐここにララティーナを連れてこい!そうしたら貴様に今までの代価を払ってやる!」

 

 

「…代価?代価を払ってもらえる?」

 

 

「ああ本当だとも。お前はバカだからワシが何度も代価を払っている事を忘れているだけだ、今回もちゃんと払ってやるからララティーナを連れてくるんだ」

 

 

アルダープは代価を払うからダクネスを連れてこいと命令する。

 

 

「領主殿はいるか?私だ、今日の事で謝罪に来た」

 

 

するとそこにダクネスが現れた。

 

 

「よ…よし!よくやった、マスクッ褒めてやる!!約束通り代価を払ってやろう、契約も解除だ、貴様を自由にしてやろう!」

 

 

「代価を払ってくれる?契約を、解除?まだ何もしていないのに?」

 

 

マスクはまだ何もしていない事をアルダープに言うが、アルダープは目の前のダクネスに夢中になっていた。

 

 

「申し訳ありません領主殿…、式での事は謝ります。…なのでどうか我が身と引き換えに仲間の助命を…!」

 

 

「い、いいだろう!仲間は見逃してやる!だからララティーナ!お前はワシが…」

 

 

アルダープはダクネスに迫る。が、突如ダクネスの体が"揺らいだ"。

 

 

「フ…、フハハ…、フハハハ。フハハハハハ!ララティーナだと思ったよりか?残念、我輩でした!」

 

 

実はアルダープの目の前にいたダクネスは、バニルが幻影の魔法を使って変装した姿だったのだ。

 

 

「な…何だ貴様はっ何者だ!?」

 

 

「おっと、これまた凄まじく強烈な悪感情!美味である!」

 

 

「…このゾクゾクする感じ…!そうか、貴様、マスクと同じ悪魔だなっ!?」

 

 

アルダープはバニルが悪魔である事を見破った。

 

 

「ほう貴様のような人間にしては察しがいいな」

 

 

「くそっ悪魔風情がバカにしおって!マスク!この汚らわしい悪魔を殺せ!」

 

 

「……?なぜ僕が同胞を殺さないといけないの?」

 

 

アルダープはマスクにバニルを殺すよう命令するが、マスクはアルダープの命令に逆らった。

 

 

「…あれ、君はどこかで会ったのかもしれないな?」

 

 

「貴公に自己紹介をするのは何百回目か何千回目か。では今回も初めまして、だ"マスクウェル"。つじつま合わせのマスクウェル、真実を捻じ曲げる者マスクウェル。我輩は見通す悪魔バニルである」

 

 

アルダープはマスクの名前がマスクウェルである事を初めて知った。

 

 

「バニル…、バニル!なぜだろう、とても懐かしい気がするよ!以前どこかで会ったような…」

 

 

「フハハハ貴公は会う度に同じ事を言うな。貴公の名前はマスクウェル!こことは違う別の世界から記憶を失ったままやって来た我が同胞である!我輩は貴公が在るべき場所へ連れていくため、迎えに来たのだ。真理を捻じ曲げる悪魔マスクウェルよ、地獄へ帰ろう!」

 

 

「ま…待て待て!そいつはワシの下僕だっ、勝手に連れていくな!!」

 

 

バニルはマスクウェルを地獄へ帰そうとした所をアルダープが止めようとした。

 

 

「下僕?我輩と同じく地獄の公爵の一人であるマスクウェルが?悪運のみが強い傲慢で矮小な男よ、貴様は運が良かっただけだ。たまたま最初に呼び出した悪魔がマスクウェルだったから助かったのだ。他の悪魔を呼んでいたなら、代価を持たない貴様は瞬時に引き裂かれていた事だろう!」

 

 

「だが、力はあるが頭が赤子のマスクウェル!彼のおかげでその地位まで上る事が出来たのだ!深く深く感謝するがいい!そして貴様はマスクウェルにこう言ったな、『約束通り代価を払ってやろう、契約も解除だ、貴様を自由にしてやろう!』と」

 

 

アルダープはマスクウェルが地獄の公爵の一人である事に驚き、更にバニルが言った事を思い出したのだった。

 

 

「さて、領主殿。我輩はもう貴様に用はない。後はマスクウェルを地獄に帰し、我輩はあのへっぽこ店主の下であくせくと働くのみだ」

 

 

「バニル!バニル!帰る前にアルダープから代価を貰わないと!さっき言ってくれたんだ、代価を払ってくれるって!」

 

 

マスクウェルは笑いながらアルダープに近づくと、アルダープの腕を"握り潰した"。

 

 

「マスクウェルの代価は彼が好む味の悪感情を決まった年月分放ち続ける事。…フムフム、貴様、随分とこやつを酷使したものだな。残りの寿命では到底、払いきれるものではないぞ?マスクウェル、続きは地獄に帰ってからやればよい」

 

 

「そうだね!地獄に連れて帰ったら僕が側にいてあげるよアルダープ。ずっとずっと君の絶望を味あわせてよアルダープ!」

 

 

マスクウェルは笑いながらアルダープと一緒に地獄へ帰り、その様子を見ていたバニルは、ゆっくりと帰路に着いたのだった。

 

 

 



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第39話

 

 

「領主が失踪?」

 

 

マスクことマスクウェルがアルダープを地獄へ連れて帰った翌日、ダクネスの口から思いもよらない言葉が聞こえた。

 

 

「ああ、使用人達が探しても姿が見当たらないそうだ」

 

 

ダクネスは昨夜、呪いが解けた父と久しぶりの団欒を取る為、カズマ達とは一旦離れ、翌朝に屋敷へ戻る前にアルダープの使用人の一人からアルダープがいなくなった事を聞いたのだった。

 

 

そしてカズマの屋敷に着いたと同時にアンナとピカチュウを連れたカズマと鉢合わせし、件の話をしていたのだった。

 

 

「俺は仮面越しで初対面したけど、ララティーナララティーナって、ダクネスの本名を連呼していたから相当執念深そうだったのは見て分かったが、何でいきなり…」

 

 

カズマは庭のベンチに座りながら庭先で追いかけっこをしながら遊んでいるアンナとピカチュウを見ていた。カズマは庭でアンナとピカチュウを遊ばせる為に出た時に、ダクネスと鉢合わせしたのだった。

 

 

「それは私にも分からないが、アルダープがいなくなってから突然あちこちで不正や悪事の証拠が見つかってな。もしかしたら不正の発覚を恐れたアルダープは夜逃げしたのではて言われているのだが…」

 

 

「いやそれはあり得ないだろ。さっきも言ったが、あのクソダップンはダクネスに御執心だったから、簡単にダクネスを諦めるとは思えない」

 

 

カズマはダクネスの考えを否定した。

 

 

「…確かに。では…」

 

 

「そこにおったかカズマよ」

 

 

ダクネスがアルダープがいなくなった理由を考えようとした所に、バニルが現れた。

 

 

「バニル」

 

 

「鎧娘も一緒だったか、なら好都合と言うものだ。領主の事で話がある、上がらせてもらうぞ」

 

 

バニルはそう言って屋敷に上がり、カズマとダクネスは慌ててバニルの後を追った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「それでバニル、クソダップンの事についてだが…」

 

 

カズマはバニルに単刀直入に質問した。

 

 

「うむ。まずあの領主は悪魔を使役しておった、それも我輩と同じ"地獄の公爵"の一人である悪魔、マスクウェルを」

 

 

「マスクウェルって…、まさか"つじつま合わせのマスクウェル"!?」

 

 

「だったらダクネスのお父さんに掛けられた呪いも納得いくわね」

 

 

バニルの話を聞いていたアスタとクリスは驚いた。

 

 

「知ってるのか?」

 

 

「"つじつま合わせのマスクウェル"…、悪魔の中でも上位に有する魔力量と上級魔法を使う悪魔で、実力は魔王軍の幹部と同等の持ち主よ」

 

 

「しかも厄介なのは、契約者に都合が良いようにつじつまを合わせる力を持っているんだよ。恐らくだけど、アルダープはマスクウェルのつじつま合わせの力で不正の証拠を捻じ曲げていたんじゃないかな?」

 

 

カズマの疑問にアスタとクリスはマスクウェルの説明を交えながら答えた。

 

 

「ほう…?流石は女神と言った所か。では、マスクウェルが好む悪感情は分かるか?」

 

 

「確か…"痛み"や"絶望"が好みだったはず、…まさか!?」

 

 

「その通りだ、領主はマスクウェルに連れて行かれたよ。…地獄に」

 

 

バニルの言葉にカズマ以外全員が青ざめた。

 

 

「奴は長年に渡り、マスクウェルを行使していた。本来、悪魔と契約すればその代価として、悪魔が好む悪感情を支払わなければならない。だが奴は代価を支払わず、マスクウェルの力を使用し続けていた為、代価が途方もない状態になっていたのだ」

 

 

「それでマスクウェルと言う悪魔はクソダップンを地獄に連れて行って、代価を…」

 

 

カズマの言葉にバニルは頷いた。

 

 

「まあ、因果応報ってやつじゃないか?悪い噂しか聞かなかったから、いなくなって精々した奴もいるだろうしな」

 

 

「そうだぜ。それにダクネスもこうやって戻って来たしな!」

 

 

ダストがダクネスの肩を叩くと、ダクネスは顔を赤くした。

 

 

「…だな。お帰り、ダクネス」

 

 

「…ああ、ただいま!」

 

 

ダクネスは笑顔になって、帰宅の言葉を言った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「そう言えば、この国の入籍ってどうやるんだ?」

 

 

ふと疑問を感じたカズマは、アスタ達に質問をした。

 

 

「多分カズマの国と変わらないと思うわよ?まず挙式の朝に役所へ書類を提出して、昼から式を執り行うって感じよ」

 

 

カズマの疑問に答えたアスタの言葉に、ダクネスは顔面蒼白になった。

 

 

「どうした、ダクネス?」

 

 

「ああ、もしかして"結婚したのに旦那がいなくなった"って思ってない?でも大丈夫よ!だって"書類は受理されていない"から」

 

 

アスタの言葉にダクネスの顔色が戻って来た。

 

 

「フィオとクレメアと一緒に役所へ協力をお願いしといたの。それでもし婚姻の書類が来たら受理する"フリ"をしてもらって、こっそり盗んでもらったのよ」

 

 

ダクネスはフィオとクレメアに視線を向けると、フィオは自身の手元に書類をダクネスに見せた。

 

 

そしてフィオは書類をくしゃくしゃに丸め、火が灯っている暖炉の中へ放り投げた。

 

 

「これで、ダクネスは"結婚をした"証拠は無くなったわよ」

 

 

「…皆、本当にありがとう」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ダクネスがカズマの屋敷に戻ってから数日後。

 

 

「なあカズマ、アイリス様達は何処へ行かれたのだ?」

 

 

「アイリス達なら王都に戻ってるぜ、何でもダクネス奪還の為にあれこれしたいんだとよ」

 

 

アンナとピカチュウを庭で遊ばせている時に、ベンチに座っていたダクネスがアイリス達の事を同じベンチに座っているカズマに質問すると、カズマはアイリス達は王都へ戻っている事を伝えた。

 

 

「すまない、カズマ殿」

 

 

そこにクレアが一人でカズマの所にやって来た。

 

 

「クレア姉さん、一人で来て大丈夫なのか?」

 

 

「大丈夫でなければ一人では来んさ。それよりも、カズマ殿達全員に王都への招集が掛かった。すまないが身支度を整えて王都まで来てほしいのだ」

 

 

クレアは早口で要件を伝えると、カズマは頷き、屋敷に戻って全員にクレアからの伝言を伝え、身支度を整えた後、テレポート屋にお願いし、王都に向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ベルセルク・スタイリッシュ・ソード・アイリス様のおな~り~!」

 

 

王都に到着したカズマ達はクレア案内の元、王城の玉座の間に通され、そこにアイリスが豪華なドレスを身に纏った姿で現れた。

 

 

「皆さん、よくお集まり頂きました事、深く感謝します」

 

 

玉座に座ったアイリスはカズマ達に礼を言った。

 

 

「集まって下さった件ですが、失踪したアクセルの領主であるアルダープについてです。私達が入手した情報によれば、アルダープはマスクウェルと言う悪魔を使役していたとの事。そしてアルダープが失踪した事で、彼が隠蔽し続けていた不正の証拠が出て来て、彼に協力していた貴族を芋づる式に捕まえる事が出来ました」

 

 

「アイリス様は今回の件で、多大な功績を残したカズマ殿に報奨を与えると申しておられる。して、その報奨なのだが…」

 

 

クレアは珍しく歯切れが悪かった。

 

 

「お兄様には、アルダープが納めていた領地を全て、報奨として差し上げます。更にララティーナを救う為に支払ったお金四十億エリスをお返しします」

 

 

アイリスが放った言葉に全員が呆然となってしまった。

 

 

「…ゴホンッ。本来であれば、他の貴族の中から選ぶのが定石なのだが、調べた貴族の殆んどが、私腹を肥やす輩ばかりだったのでな。そこでダスティネス卿のお父上であるイグニス殿にご相談した結果、カズマ殿なら任せられる…との結論に至った訳だ」

 

 

「お兄様…、お引き受け…して下さいませんか?」

 

 

アイリスはすがる様な目でカズマを見る。

 

 

「…招致しました。領地の件、謹んでお引き受け致しましょう」

 

 

カズマは領地を受け取る事を承諾したのだった。

 

 

「ありがとうございます、お兄様!」

 

 

「感謝します、カズマ殿。それと、最初は分からない事だらけだと思いますので、当面はイグニス殿やバルター殿から教わるのが良いでしょう」

 

 

「では、細やかながらお食事の用意をしましたので、移動しましょうか」

 

 

アイリス達の計らいにより、カズマの領主就任パーティーが仲間内で行われた。

 

 

 



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第40話

 

 

カズマが貴族となり、領地を納めてから1ヶ月後。

 

 

「まさかこんなにも奴早く飲み込むとは…」

 

 

「驚きですね…」

 

 

カズマの貴族としての教育係となっていたイグニスとバルターは、カズマの驚異的な知識の飲み込みの早さに驚いていた。

 

 

「いえ、これもお二人の教え方が上手だったからですよ。すんなりと覚える事が出来ました」

 

 

「いや、普通なら一年二年で覚える事をたった1ヶ月で覚える君の方が凄いよ」

 

 

そう、普通領主の仕事を覚えるには、年単位で覚えるのが普通なのだが、カズマはたった1ヶ月で基本的な仕事を覚えてしまったのだ。

 

 

「まあ、前いた国の学園では、上位の成績ではありましたが…」

 

 

カズマは"上位の成績"と言っているが、カズマの成績は上位では無く、"1位"だったのだ。

 

 

「…もう、教える事は何も無いよ」

 

 

「…ですね」

 

 

イグニスとバルターは苦笑いしながら両手を上げた。

 

 

「これで君も貴族の仲間入りだ。これからもよろしく頼むよ」

 

 

「こちらこそ、今までご指導して頂き、ありがとうございました」

 

 

イグニスはカズマに手を差し出すと、カズマはイグニスの手を掴み、握手をしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ばっくれつばっくれつ、らんらんらん♪」

 

 

「今日は随分とご機嫌だな、めぐみん」

 

 

翌日、カズマはめぐみんに誘われて爆裂散歩に赴いていた。

 

 

「だって、久しぶりのカズマとの爆裂散歩ですから、気分が上がるのは仕方ありません!」

 

 

めぐみんはこの1ヶ月、キョウヤ達と爆裂散歩に行っていたが、納得いく爆裂を撃つ事ができなかった。

 

 

「今日はカズマと一緒ですから、いつもより凄い爆裂魔法が撃てる気がします!」

 

 

「ほどほどにな…、んっ?」

 

 

カズマはめぐみんに注意をした後、その場に立ち止まった。

 

 

「カズマ、どうしたのですか?」

 

 

「…敵感知に反応がある。こっちだ!」

 

 

カズマはめぐみんを連れて反応があった場所を目指した。

 

 

そして反応があった場所に辿り着くと、そこには一台の馬車を取り囲むゴブリンの群れがいた。

 

 

「くっ…、数が多い!」

 

 

「どうしましょう、ボクの魔力も限界が近いですよ…」

 

 

「街まであと少しだっていうのに!」

 

 

馬車の近くでは、槍を持った女性と、剣を持った女の子、ロッドを持った女の子の三人がゴブリンと戦っており、馬や行商人は近くにはいなかった。

 

 

「あ~もう!行商人は馬にしがみついたままいなくなるし、護衛の冒険者達はゴブリンの数を知った途端に逃げるし、最悪よ!」

 

 

どうやら、護衛として冒険者を雇っていた様だが、ゴブリンの多さにビビって逃げ出した様だ。

 

 

「……しょうかない。めぐみん、悪いけど」

 

 

「皆まで言わなくても分かりますよ」

 

 

「…サンキュー、めぐみん。カウント3で仕掛ける。3…、2…、1…。Go!」

 

 

カズマの号令でめぐみんとカズマは森から躍り出た。

 

 

「喰らえっ!」

 

 

カズマは烈風をバッグから取り出し、ゴブリン目掛けて連射した。

 

 

「はあっ!」

 

 

めぐみんも悪鬼滅殺を抜刀し、次々と一太刀で倒していった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ゴブリン達はある程度倒されると不利と感じたのか、森へ引き下がっていった。

 

 

「…ふぅ」

 

 

「半分以上は倒しましたが、逃げられましたね。追いかけますか?」

 

 

「いや、無闇に追いかけたら相手の思う壺だ」

 

 

カズマは道筋にある大木に音角剣で×の字に切り込みを入れ、その上に烈風で一発穴を開けた。

 

 

「この目印を"魔導カメラ"で撮って…っと、よし。後はこの写真をルナさんに現像を頼んで、討伐依頼を出せば冒険者達が何とかしてくれるだろう」

 

 

カズマはカメラで大木に付けた目印を撮り、バッグにしまった。

 

 

「さて…、大丈夫でしたか?」

 

 

カズマは三人の女性がいる方へ振り向きながら質問した。

 

 

「あ…はい、大丈夫です。危ない所を助けていただき、ありがとうございます」

 

 

三人のリーダーだろうか、黒髪の女性がしどろもどろに答えた。

 

 

「街までは距離がありますので、俺達が護衛として同行しましょう」

 

 

カズマは馬車から飛び散った荷物をバッグに閉まって、歩きだしたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ここが『始まりの街』アクセルです」

 

 

カズマは門番に挨拶しながら女性達を街まで案内した。

 

 

「随分と賑やかな街ですね、活気に溢れて《クゥ~》あぅ…」

 

 

「ははは、まずはギルドに行って腹ごしらえでもしましょうか」

 

 

女性の腹の虫の音を聞いたカズマは、ギルドに案内する為足を向けた。

 

 

「ここがギルドです。めぐみん、席を確保しておいてくれ」

 

 

「注文は?」

 

 

「五人分で頼むな」

 

 

めぐみんは嬉しそうに敬礼しながら三人を連れて酒場へと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「すまない、待たせた」

 

 

「大丈夫ですよカズマ、ちょうど注文を終えた所でしたから」

 

 

めぐみんが注文を終えた所に、カズマが戻って来た。

 

 

「そうか。では改めて自己紹介をしよう。俺はカズマ、このアクセルの街の新しい領主だ。冒険者からの成り上がりだから、言葉遣いに関してどうこう言うつもりはないから、普通に接してくれ」

 

 

「私は紅魔族のめぐみんと言います。カズマのパーティーメンバーの一人で、アークウィザードを生業としています」

 

 

「カズマ…」

 

 

黒髪の女性はカズマの名前を聞いた途端、目を見開いた。

 

 

「…俺の名前に何か?」

 

 

「ああ、いや。何か懐かしい名前だったのでな、…それより、紅魔族と言えば独特な名乗りをすると聞いたのだが…?」

 

 

「私だってその独特の名乗りをしたい所でしたが、雰囲気的にしない方が良いと判断しまして」

 

 

めぐみんは空気を読んでか、紅魔族特有の名乗りをしなかった。

 

 

「そうでしたか…。ああ、まだこちらの自己紹介がまだでしたね。私はリア、この三人の中でリーダーを勤めています。職業はランサーです」

 

 

「私は可愛い担当のエーリカちゃんだよ!こう見えてもレンジャーなんだよ!」

 

 

「ボクはアークプリーストのシエロと言います」

 

 

リア達三人はカズマとめぐみんに自己紹介をした。

 

 

「お待たせしました」

 

 

そこに注文した料理が並んだ。

 

 

「ありがとうございます。…さて、腹が減っては何とやら。まずは腹ごしらえといきましょうか」

 

 

カズマは手を合わせて合掌すると、めぐみん達も合掌して食事を始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ありがとうございました、街まで護衛してくれた上に食事までご馳走になってしまって…」

 

 

食事を終え、一息着いた所でリアが改めてお礼を言った。

 

 

「別に構いませんよ、…それで何で護衛を雇ってまで移動を?」

 

 

「実は…、言っても分からないとは思いますが、私達は"アイドルグループ"と言うのを組んでいまして」

 

 

「"アイドルグループ"?」

 

 

「歌ったり踊ったりする人達の事だ」

 

 

リアが言った"アイドルグループ"と言う言葉に疑問を感じためぐみんに、カズマが説明をした。

 

 

「はい。それで私達の故郷では結構人気だったので、他の街に行けばもっと人気が出ると思って…」

 

 

「それでどの街で活動しようか悩んでいた所に、『最近領主が替わった街がある』と噂を耳にしまして…」

 

 

「その街で一旗上げようと思って、わざわざ故郷の近くの街で護衛を雇って出発したんだけど…、まさか私達を置いて逃げるなんて!」

 

 

エーリカはその様子を思い出したのか、テーブルを叩いた。

 

 

「まあまあ、…ところでその行きたい街と言うのはどこでしょうか?」

 

 

「それはこの街、アクセルよ!」

 

 

エーリカは両手を広げて言った。

 

 

「エーリカちゃんが言ってるのは本当です。なので、この街に連れてきてくれて、本当に助かりました」

 

 

シエロは深々と頭を下げる。

 

 

「そっか…、なら俺達は君達を歓迎するよ」

 

 

「ありがとうございます!」

 

 

エーリカとシエロは嬉しそうにするが、リアだけはまるで何かを考えているかの様に黙っていた。

 

 

「…リアちゃん?」

 

 

「ああすまない、ちょっと考え事をしていてな。…ちょっと聞きたい事があるんだが」

 

 

「何だ?」

 

 

「幼い頃に誰かと約束…とか、しなかった?」

 

 

リアはカズマに質問をした。

 

 

「何ですかそれ?カズマが幼い頃の事を覚えているわけ「覚えているぞ?」あるのですか!?」

 

 

「ああ。確か…五歳の頃だったかな?幼なじみの女の子に、『大きくなったら結婚しよう!』って約束された事があった。…けど、もうそんな約束覚えていないと思っていたけど…。…なあ、何であんたが俺の幼い頃の約束を知ってるんだ?」

 

 

カズマはリアを睨む様に見る。

 

 

「やっぱり…、やっぱりそうだ!覚えていてくれたんだ、"カズ君"!」

 

 

「なんで俺の昔のあだ名を…、いや、その顔…。まさか、里亜!佐倉(さくら) 里亜(りあ)か!」

 

 

「そうだよカズ君!思い出してくれたんだね!」

 

 

リアは思わずカズマに抱きついてしまった。

 

 

「里亜、なんでこの世界に…」

 

 

「話せば長くなるんだけど…」

 

 

「…おほんっ!長くなるのでしたら、そろそろ席を譲って屋敷に戻りませんか?」

 

 

めぐみんの咳払いでリアはカズマから離れ、カズマはめぐみんの提案を受け入れる事にし、リア達を連れて屋敷に戻ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「えっと…、紹介するよ。俺の幼なじみの…」

 

 

「リアです、よろしくお願いします」

 

 

屋敷に戻ったカズマとめぐみんは偶然にもパーティーメンバー全員がリビングに集まっていた為、リア達三人を紹介する事にした。

 

 

しかもリビングにはアイリス、クレア、レインの三人もおり、現在リビングにはカズマ、めぐみん、クリス、アスタ、ダクネス、ダスト、リーン、テイラー、キース、キョウヤ、フィオ、クレメア、ゆんゆん、アイリス、クレア、レイン、リア、エーリカ、シエロ。そしてアンナとピカチュウの総勢19名と二匹がいた。

 

 

「クリス達初期メンバーには既に話したと思うけど…」

 

 

カズマは自分の今までの人生を語り始めた。

 

 

この世界に来る前は何の変哲も無い普通の学生であった事。

 

 

トラックと言う車に轢かれて死んでしまった事。

 

 

アクアとエリスと言う女神に"響鬼"と言う特典を貰って転生した事。

 

 

「…後は皆が知ってる通りだ」

 

 

カズマが語った話に、全員が黙っていた。

 

 

「まさかお兄ちゃんが異世界の人だったなんて…」

 

 

「カズマの強さはその特典譲りってわけだったのか」

 

 

「ああ、それは違うぞダスト。響鬼と言った鬼は身体や精神が未熟だと、"牛鬼"って言うモンスターになってしまうんだ。しかも、一度牛鬼になってしまったらもう二度と人間に戻る事はできない」

 

 

カズマの言葉に全員がまた黙ってしまった。

 

 

「それと、もう気づいていると思うが、リアの他にキョウヤも俺と同じ転生者なんだ」

 

 

カズマの言葉に全員がキョウヤに視線を向けた。

 

 

「カズマ君の言う通り、僕もアクア様に転生してもらったんだ。特典は僕が持ってるこの『魔剣グラム』さ」

 

 

キョウヤはグラムを掲げながらカズマの言葉を肯定した。

 

 

「それでリア、何でこの世界に転生したんだ?」

 

 

カズマの質問にリアはぽつりぽつりと話し始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

里亜の家族と和真の家族は、家が隣同士だった為、二人が生まれる前から付き合いがあり、二人が生まれても付き合いは無くならず、和真と里亜は幼なじみと言う関係だった。

 

 

お互いが五歳の時に、里亜が和真に『大きくなったら結婚しよう!』と約束し、里亜はその約束を守る為に家事や料理を勉強した。

 

 

だが、お互いが十六歳の時に、和真が事故で死んだ事を全校集会で知り、里亜は目の前が真っ暗となり、その場で倒れてしまった。そして里亜は気が付くと保健室のベッドで横になっており、体調不良と言う事でその日は学校を早退した。

 

 

その日から彼女の生活が一変した。

 

 

和真がいなくなった事でやる気を全て失い、部屋に引きこもる様になり、食事も満足に喉を通らなくなった。

 

 

そして和真が死んでから十ヶ月が経過したある日、ちょうどこの日は和真の月命日であった。里亜はその日、部屋の一番高い所にパジャマを輪っか状に結び、その輪っかに首を引っかけ、ベッドから飛び降り、首吊り自殺をした。

 

 

里亜は気が付くと、目の前に天使がおり、その天使に『記憶を全て消した状態で人生をやり直す』か『天国で日向ぼっこをしながら延々とおしゃべりをする』か『記憶と肉体を持った状態で異世界へ転生する』かの三択を言い渡された。

 

 

里亜は和真を好きな気持ちを消したくなく、延々とおしゃべりする気もなく、異世界転生を選んだのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…と、これが私がこの世界に来た理由なんだ。そして降り立った街で、エーリカとシエロの二人と出会い、元々夢だったアイドルグループを結成したんだ」

 

 

「そうだったのか…。悪かったなリア、お前を置いて死んじまって。また会えて嬉しいよ」

 

 

「カズ君…」

 

 

「…皆、ちょっと…って、何で泣いてんの!?」

 

 

カズマが皆の方へ振り向くと、全員が涙を流していた。

 

 

「だっで、ごんな(がな)じい(ごど)()いで、泣がない(ぼう)がおがじいわよ~!」

 

 

アスタは涙の他にも鼻水を垂れ流していた。

 

 

「リアちゃん!」

 

 

そしてエーリカとシエロはリアに抱きついた。

 

 

「リアちゃん、ずっと苦しかったんだよね…、寂しかったんだよね…。でも、もう大丈夫だよ!だって私達がいるもん!」

 

 

「エーリカちゃんの言う通りだよ!私達、仲間だもん!」

 

 

「エーリカ…、シエロ…。ありがとう」

 

 

リアは二人を抱きしめ、自分はもう一人じゃない事に涙を流した。

 

 

「……ところでカズマ、さっき何か言おうとしていたけど、何だったの?」

 

 

「ああ、里亜達の活動を支援したいって皆に相談したかったんだけど…」

 

 

「そんなのOKに決まってんじゃん!彼女達の為なら、難易度の高いクエストだって挑戦してやらぁ!」

 

 

カズマの提案にダストはOKし、他のメンバーもダストに同意するかの様に頷いた。

 

 

「クレア、レイン。アルダープの息が掛かった貴族から押収した宝物を売って、彼女達の資金源にする様手配を」

 

 

「畏まりました、もし換金所の貯金が少なくなったらオークションに出品します」

 

 

「その辺りは私が請け負います」

 

 

「よしなに」

 

 

アイリスはクレアとレインに悪徳貴族から押収した宝を売り払う様指示をし、クレアとレインは換金やオークションへの出品を決めた。

 

 

「それはそうと、グループ名はもう決まってるの?」

 

 

「いえ…まだ…ですが?」

 

 

リーンはシエロにグループ名を訪ねるが、シエロはまだ決まっていないと答えた。

 

 

「……なら、『アクセルハーツ』はどうかな?」

 

 

そこにアスタがグループ名の候補を上げた。

 

 

「『アクセルハーツ』…か。良いんじゃないか?」

 

 

「うむ、馴染みやすそうな名前だ」

 

 

アスタが上げた候補にカズマやダクネス、更にパーティーメンバー全員が好感を持った。

 

 

「…では、今から私達のグループ名は『アクセルハーツ』にします!皆さん、よろしくお願いします!」

 

 

リアとエーリカとシエロはカズマ達に頭を下げ、カズマ達は歓迎の拍手を三人に送ったのだった。

 

 

 



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第41話

 

 

「……ふう、やっと一息着けるな」

 

 

自宅でもある屋敷の一角に増設した執務室で書類仕事をしていたカズマは、仕事を中断し背伸びをした。

 

 

コンコンッ『ご主人様、お茶をお持ちしました』

 

 

「ありがとう、入ってくれ」

 

 

ガチャ「失礼します」

 

 

扉の向こう側から声がしたので、カズマは入室を促すと、扉を開けて入って来たのはメイド服を着たリアだった。

 

 

「あの…、リアさん?何故その格好でここにいるのですか?」

 

 

「カズ君と少しでも一緒にいたくて…。ダメ…だった?」

 

 

リアはテーブルに紅茶が入ったティーカップを置いた後、腕で胸を挟んで強調させながら上目遣いでカズマを見る。その仕草にカズマはタジタジになっていると

 

 

「おい、私達の夫を誘惑するのは止めてもらおうか」

 

 

「そうだよ!それに、リアさんは確かエーリカちゃんとシエロさんと一緒に稽古していたはずだよね?」

 

 

そこにミニスカメイド姿のめぐみんとクリスが現れた。

 

 

「稽古はもう既に終わっているわ、私はカズ君にご奉仕する為にここにいるの」

 

 

めぐみんとクリスとリアは互いを睨み、その間にバチバチと火花が散ってるように見えた。

 

 

「まあまあ。…めぐみんとクリスが来たって事は、"祭り"の会議の時間か?」

 

 

「はい、他の皆さんは既に全員集まっています」

 

 

「分かった。リア、紅茶ありがとうな」

 

 

カズマはリアが持って来た紅茶を飲み干すと、めぐみんとクリスの二人と一緒に退室した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「皆さん、お待たせして申し訳ありません」

 

 

「いえ、そちらもお忙しい中来て下さり、ありがとうございます」

 

 

祭りの実行委員が集まっている部屋に開口一番に謝罪しながらカズマが入室すると、実行委員長が立ち上がりながらカズマに来てくれた事を労いながら手を差し出し、カズマはその手を握り、握手をした。

 

 

「…さて、今年の"女神エリス感謝祭"の概要についてだが…」

 

 

カズマは席に置かれているプリントを見ながら話を促した。

 

 

「はい。今年も熱中症対策としまして、打ち水を…」

 

 

「ですが、例年の如く女性陣が渋っておりまして…」

 

 

「……女性陣が渋る理由は、"下着が見えてしまう"と言った所…か」

 

 

カズマは問題点を上げると、委員長は頷いた。

 

 

「その通りです。…ですが、毎年この季節になると日中の気温が一気に上がりまして、少しでも冷やさないと…」

 

 

「……その問題点ならダスティネス卿から聞いている。そこで俺に打開策がある、まずはこれを見てくれ」

 

 

カズマは魔導カメラで撮った写真を全員に配った。

 

 

「これは…?」

 

 

「俺のパーティーメンバーのフィオとクレメアだ。二人には事情を説明して、魔導カメラでの撮影と写真を見せる事への了承を貰っている。そしてこの二人の格好は打ち水をする女性陣の格好だ」

 

 

写真には水着の上にTシャツを着たフィオとクレメアの姿があった。

 

 

「服が透けて下着が見えてしまうのが嫌なら、下着の代わりに水着を着用。そして水に濡れても透けないような色合いの服を着れば恥ずかしさも半減するだろう」

 

 

「なるほど…」

 

 

「それと、打ち水に使う道具として、こんな物を作ってみた」

 

 

カズマはバッグから竹で出来た筒状の物を取り出した。

 

 

「こちらは…?」

 

 

「これは"水鉄砲"と言って、この穴が空いている所を水に着け、この取手を引くと水を吸い上げるんだ。そして水から引き上げてから取手を押し込むと…」

 

 

カズマはその場で実演すると、委員長に向かって取手を押し込んだ。すると空気が委員長に向かって流れた。

 

 

「おお…」

 

 

「今は水が無いから空気で実演してみせたが、こうして水を飛ばす事が出来る。そしてこの水鉄砲は女性陣にのみ配布する」

 

 

「それは何故?」

 

 

「男性陣に配布すると、女性を意図的に狙って水を発射させかねないからだ。そうなったら女性陣からのクレームが殺到してしまう、その点女性陣同士であれば、ただ水を掛け合って戯れている様に見えると言う訳だ」

 

 

カズマの説明に委員会は納得した様に相づちを打った。

 

 

「…さて、何か質問がある人はいるか?」

 

 

カズマが質問を促すと、委員会の一人であるアスタが挙手した。

 

 

「あの…、さっきの事とは違うのですが、今年の祭りにはアクシズ教も出店したいと申請が来ていて…」

 

 

アスタはアクシズ教の出店に関する概要書をカズマに渡した。

 

 

「……アスタ、この要望だが認める訳にはいかない」

 

 

カズマが見た概要書には、『金魚釣り』や『クラーケン焼き』や『人形射的』等書かれていた。

 

 

「まず生き物関係の屋台は出店禁止、飼育放棄に繋がるからだ。それからこの『クラーケン焼き』と書かれているが、どう考えても『イカ焼き』の屋台にしか思えない。そして極め付きに『人形射的』の的が女神エリスを象っている事、こんなのはエリス教徒を怒らせるだけだ」

 

 

「……ですよね~。分かってはいたんですよ」

 

 

アスタはアクシズ教がエリス教を毛嫌いしている事を知ってはいたが、アクシズ教徒達に『是非アクシズ教も祭りに出店を!』と言われて仕方なく概要書を作成したのだった。

 

 

「…だが、このまま放置すれば祭りに対して嫌がらせをするのは目に見えている。どうしたもんか…」

 

 

結局この日は打開策が浮かばないまま、会議は終了となった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ただいま…」

 

 

「あっ、お兄様。お帰りなさい」

 

 

カズマ達が屋敷のリビングに着くと、そこにはアイリスとクレアがいた。

 

 

「カズマ殿、祭りの会議ご苦労だった。…して、何か問題が?」

 

 

「クレア姉さん…、実は…」

 

 

カズマは二人に会議で話した問題点を打ち明けた。

 

 

「アクシズ教徒の出店ですか…」

 

 

「確かに、アクシズ教はエリス教を毛嫌いしている節がありますし、出店を拒めば嫌がらせを起こし、最悪祭り事態を中止せざるを…」

 

 

「そうなんですよ…、折角街の皆が楽しめるイベントを台無しにするのは…」

 

 

三人は頭を抱えながら悩んでいた。

 

 

「カズマさん、ちょっと良いですか?」

 

 

そこにゆんゆんが手紙を持って現れた。

 

 

「ゆんゆんじゃないか。…んっ?その手紙は?」

 

 

「これは父からの手紙です。…相変わらず紅魔族特有の書き方ですけど…」

 

 

ゆんゆんは苦笑いを浮かべていた。

 

 

「そうか…、んで何か用か?」

 

 

「あっ、そうでした。実は父がこの街のお祭りに興味を示しまして…、それで父を含む数人でお祭りを楽しみたい…と」

 

 

「なるほど…んっ?」

 

 

ゆんゆんが族長からの手紙の内容をカズマに伝えると、カズマは何かを閃いた。

 

 

「はまったぜ、パズルのピースが」

 

 

「お兄様?」

 

 

「説明しましょう!カズマがこのセリフを口にした時は、何か妙案が浮かんだ時です!それでカズマ、妙案が浮かんだのですよね?」

 

 

「ああ。ゆんゆん、紅魔の里から来るメンバーは決まっているのか?」

 

 

カズマはゆんゆんに質問をする。

 

 

「えっ?あっ…はい。まだ決まっていないと思いますが…」

 

 

「なら、今から言うメンバーを連れて来て欲しいんだ」

 

 

カズマはゆんゆんに連れて来たいメンバーの名前を伝えた。

 

 

「…分かりました。今から"転送屋"に行って里に向かいます」

 

 

転送屋とは、テレポートが使えるウィザードが運営する店で、行きたい場所を指定すると、そこを登録しているウィザードが転送をしてくれる店である。だが、登録している場所以外を指定しても、転送する事は出来ないので要注意である。

 

 

「ゆんゆん待って下さい、私も一緒に行きましょう」

 

 

ゆんゆんが転送屋に向かおうとした矢先、めぐみんが同行する事を伝えた。

 

 

「ならめぐみんとゆんゆんに任せるよ」

 

 

「分かりました。では着替えてから行ってきます」

 

 

めぐみんはゆんゆんを連れてリビングから出ていった。

 

 

「カズマ殿?」

 

 

「ああすみません。妙案と言うのは、紅魔族にアクシズ教徒を見張ってもらうんですよ。彼等ならきっと役に立ちますよ」

 

 

カズマの説明に一抹の不安を持ちながらも、クレアは無理やり納得させた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから、カズマは西へ東へ走りまくった。

 

 

ある時は鍛治屋でとある物を作る為に。

 

 

ある時は服屋で自分がデザインした服を縫ってもらう為に。

 

 

ある時はウィズとバニルにとある物を発注する為に。

 

 

ある時は屋敷でダクネスとクレアと一緒にあーだこーだと会議したり。

 

 

そして全ての準備が終わり、いよいよ『女神エリス感謝祭』が開かれる日となった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「《皆さん、お待たせしました。いよいよ本日、『女神エリス感謝祭』が開かれる日となりました。そして今、新たにこの街の領主となりましたサトウカズマ様より、開催のお言葉を頂戴したいと思います》」

 

 

「《あ~、皆さん知ってるとは思いますが、新しく領主となりましたサトウカズマです。…さて、俺は長話は嫌いです。そして皆さんも、早くお祭りをしたくてウズウズしてると思います。そして俺から言える事はただ一つ》」

 

 

エリス教徒から魔導メガホンを受け取ったカズマは大きく息を吸い込むと

 

 

「《大いに騒ぎ、大いに楽しめ!それがエリス様の御力(みちから)となる!この言葉を開催の言葉とする!》」

 

 

カズマの言葉に全員が沸き上がった。そして今ここに『女神エリス感謝祭』が開始されたのだった。

 

 

 



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第42話

 

 

「とても良い宣言だったよ、カズマ」

 

 

『女神エリス感謝祭』開催の宣言を終えたカズマは、クリスに労われた。

 

 

「ありがとうクリス、これならエリス様も喜ぶだろ?」

 

 

「…うんっ!」

 

 

クリスは満面の笑みを浮かべてカズマに抱きついた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「やあカズマ君!久しぶりだね」

 

 

カズマはクリスと一緒に祭りの見回り(と言う名のデート)をしていると、ゆんゆんの父親である"ひろぽん"に声を掛けられた。

 

 

「族長、お久しぶりです」

 

 

「ああ、此度は我等の申し出を受けてくれてありがとう」

 

 

カズマとひろぽんはお互いに握手をした。

 

 

「あっ、お兄様!」

 

 

そこにクレアとレインを引き連れたアイリスが現れたのだった。

 

 

「アイリス!それにクレア姉さんとレイン姉さんも」

 

 

「お久しぶりです、カズマさん」

 

 

「カズマ殿、本日の『女神エリス感謝祭』の開催、誠におめでとう。…ところで、そちらの方は?」

 

 

クレアはひろぽんの事を知らなかったので、カズマに誰なのかを質問した。

 

 

「我が名は"ひろぽん"!紅魔族の族長にして上級魔法を操る者!」

 

 

ひろぽんは紅魔族特有の名乗りを上げた。

 

 

「…とまあ、名乗りの通り、彼はひろぽんさん。紅魔族の族長でゆんゆんの父親でもあるんだ」

 

 

「よろしく頼むぞ!」

 

 

「これはこれはご丁寧にありがとうございます。私はベルセルク・スタイリッシュ・ソード・アイリスと申します」

 

 

アイリスもひろぽんに自己紹介をした。

 

 

「娘のゆんゆんから聞いております、何でも王都に住む姫君(ひめぎみ)とか。これからもよろしくお願いいたしますぞ」

 

 

「こちらこそ」

 

 

「ところで族長、出店(でみせ)や頼んでいたの方は?」

 

 

「頼まれた方は滞りなく。出店は始まったばかりですが、物珍しさから見物人がちらほらと」

 

 

カズマの質問にひろぽんは指を差しながら答えた。カズマ達はひろぽんが指を差した方を見てみると、そこにはアクシズ教徒が出している屋台で客寄せをしている"ぶっころりー"や"あるえ"の姿があった。

 

 

「あらカズマさん、お久しぶりです」

 

 

「お義母さん、お久しぶりです。中々顔を見せられず、申し訳ありません」

 

 

そこに巫女装束を着たゆいゆいが姿を見せ、カズマは挨拶をした。

 

 

「別に気にしなくて良いですよ、領主になってお忙しい事を、娘から手紙で聞いていますので」

 

 

「…ありがとうございます。では、お義父さんへの顔合わせついでに"おみくじ"を引かせてもらいますよ」

 

 

「あら、わざわざありがとうございます。では、こちらへどうぞ」

 

 

カズマ達はゆいゆいに案内されて、紅魔族の出店に向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あなた、ただいま戻りましたよ」

 

 

「おお、戻ったか。おや、誰かと思えば我が義息のカズマさんではないか」

 

 

「お義父さん、お久しぶりです。今日はおみくじを引きに来ました」

 

 

カズマ達が出店に到着すると、神主の格好をしたひょいざぶろーと会い、カズマは頭を下げる。

 

 

「そうか。…では皆さん、まずはこちらに五エリスお納め下さい」

 

 

ひょいざぶろーは賽銭箱を差し、カズマ達は言われるまま五エリスを奉納した。

 

 

「では皆さん、こちらの箱から棒を一本だけ、お取り下さいな」

 

 

今度はゆいゆいが天面に穴が空いた箱を取り出し、カズマ達はその箱から棒を一本ずつ抜いた。

 

 

「七…か」

 

 

「あたしは…十」

 

 

「二十五…と書かれています」

 

 

「私は…十四」

 

 

「二十です」

 

 

カズマ達は棒に書かれている番号を読むと

 

 

「分かりました。まずカズマさんのは…こちらですね。それからクリスさんは…これ。残りの皆さんのは…これと、これと、これですね」

 

 

ゆいゆいは棚に書かれた番号にある物を渡した。

 

 

「ありがとう、お義母さん」

 

 

「はい、またのお越しを」

 

 

「…あのカズマ殿?これは一体…?」

 

 

クレアはゆいゆいから受け取った物、『四つ葉のクッキー』をまじまじと見ていた。

 

 

「これは"フォーチュンクッキー"と言って、こうする…と」

 

 

カズマはクッキーを2つに割った。

 

 

「クッキーの中に…紙?」

 

 

「これがおみくじです。…おっ、大吉」

 

 

カズマはクッキーからおみくじを抜き取り、広げた。するとおみくじには『大吉』と書かれていた。

 

 

「何々…?『恋愛運・想いが成就』、『金運・思いがけない収入有り』、『仕事運・企画が成功』、『健康運・長年の成果が現れる』…だって」

 

 

カズマのおみくじを覗き見たクリスは、カズマのおみくじを読み上げた。そしてクリス達は自分のクッキーを割り、中のおみくじを広げた。

 

 

「あたしは…『小吉』」

 

 

「私は…『凶』?」

 

 

「私は…『末吉』と書かれています」

 

 

「私は…『中吉』ですね」

 

 

クリス達は自分のおみくじを読み上げていると

 

 

「クレア姉さん以外はそこそこな運勢だな…、じゃあクレア姉さん、ちょっとこっちに」

 

 

カズマはクレアを連れて出店の一角にある所へ来た。

 

 

「クレア姉さん、さっきのおみくじを細長く折ってこの紐に結ぶんだ」

 

 

「こ…こうか?」

 

 

クレアはカズマに言われた通りにおみくじを細長く折り、紐に結んだ。

 

 

「これでクレア姉さんの運勢は『凶』から『吉』に変わったよ」

 

 

「そ、そう…なのか?」

 

 

「うん」

 

 

カズマはにっこり微笑んだ。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

その後、巫女装束を着たゆんゆんとふにふらとどどんこ、更にめぐみんとこめっこが現れ、カズマはクリスとめぐみんを連れて祭りの見回りに繰り出した。

 

 

因みにアイリス達三人はめぐみん達と出会った後別れた。

 

 

そして休憩しながら祭りを回り、気が付けば夜になっていた。

 

 

「ちょっと!許可も無くこんな物売られては困ります!」

 

 

すると、アクシズ教徒のブースから大声が聞こえた。

 

 

「何かあったのか?」

 

 

「あっ、領主様!ちょっとこれ見て下さいよ!」

 

 

カズマが大声がした所に着くと、祭りの実行委員会の者が出店を指差した。そこには生け簀の中に巨大なおたまじゃくしが泳いでいた。

 

 

「生き物関係の出店は禁止になっているのに、ジャイアントトードの子供を売っているのですよ!」

 

 

「よし、今すぐ店を差し押さえろ!それからこの出店(でみせ)出店(しゅってん)を無期限の参加禁止を言い渡す!連れて行け!」

 

 

「ちょっと!そんな横暴は…、いや、ちょっと!めぐみんちゃ~ん、助けて~っ!」

 

 

祭りの実行委員会によって店番をしていたプリーストは連行されて行った。

 

 

「…なあめぐみん、あのプリーストは知り合いか?」

 

 

「私がこの街に着くまでに知り合ったプリーストで、名前は"セシリー"と言います。小さい女の子が好きで、よく私に『お姉さんと呼んで!』と言い寄っていました」

 

 

カズマはめぐみんの説明に頭を抱える。

 

 

そしてアクシズ教徒のブースは瞬く間に契約違反な商売をしていた罪で全員捕まってしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『女神エリス感謝祭』2日目、この日の朝からカズマはアクシズ教徒が起こした騒動の後始末を片付けていた為、祭りを見回るのが夜になってしまった。

 

 

「まったく…、アクシズ教徒は好き勝手やる奴ばかりだな!少しはアスタを見習えってんだ!」

 

 

「ごめんなさいカズマ…、ちゃんと言い聞かせたんだけど…」

 

 

「アスタが悪いんじゃねぇ、悪いのは約束を破ったアクシズ教徒(あいつら)なんだから」

 

 

そう、アスタはアクシズ教徒全員に誓約書を見せ、サインをさせた。だがアクシズ教徒達はその誓約書を"全て読まず"にサインをした為、誓約違反と言う事でカズマはアクシズ教徒達に街からの退去を命じたのだった。

 

 

当然アクシズ教徒達は文句を言っていたのだが、サインをした誓約書を見せた為、アクシズ教徒達はぶつぶつ言いながらアクセルから去った。

 

 

「……そう言えば、アクシズ教徒のブースはどうなるの?」

 

 

「今は紅魔族のブースになっているはずだ。元々そう言う契約を族長達としていたからな」

 

 

カズマはアスタと一緒にアクシズ教徒(現紅魔族)ブースに到着した。

 

 

「さあいらっしゃいいらっしゃい!紅魔の里限定、領主様が考えたYA()KI()SO()BA()はいかがですか!?」

 

 

「さあさあ、こちらにあるのは領主様が考案されたかき氷ですよ!冷たくて美味しいかき氷!食べなきゃ損ですよ!」

 

 

「野生のタコ焼き、出来立てだよ!外はカリカリ、中はふっくら!食べれるのはこのお祭りだけだよ!」

 

 

そこにはカズマが考案した食べ物を売る紅魔族の姿があった。

 

 

「焼きそばにかき氷、たこ焼きまで…。…ってカズマ、あれ…」

 

 

「んっ?…なんでわたあめの屋台があるんだ?」

 

 

アスタは屋台の一つを指差すと、そこにはわたあめの屋台があり、そこではクリスが店を切り盛りしていた。

 

 

「あっ、カズマにお姉ちゃん」

 

 

「クリス、なんで紅魔族のブースで屋台やってんだ?それにその機械って…」

 

 

「実は里にある例の地下格納庫を調べた時に、埃を被っていたこの魔導具がありまして。それでクリスに調べてもらった所、"わたあめ"なるお菓子を作る道具だと判明しまして」

 

 

カズマが何故わたあめを作る機械があるのか疑問に思っていると、そこにめぐみんが現れ、事情を説明したのだった。

 

 

「めぐみん。…でも、良く動かせたなコレ。俺なら怖くて動かそうとは思わんぞ」

 

 

「それは私も同意なのですが、クリスが…」

 

 

めぐみんはクリスを一瞥すると、クリスは下手な口笛を吹きながら視線を反らした。

 

 

「ク~リ~ス~?」

 

 

「だって…、わたあめ食べたかったんだもん…」

 

 

「可愛く言ったってダメ!今回は上手く動いたけど、下手すれば爆発する危険だってあるのよ!?ちゃんと反省しなさい!」

 

 

「はぁい…」

 

 

アスタに怒られたクリスはしょんぼりしてしまった。

 

 

「あはは…。それはそうと、ザラメなんてあったかな?」

 

 

「ああ、それならカズマの世界から持って来たらしいわよ?今カズマの世界じゃいろんな色のザラメを売ってるから、天界じゃちょっとしたわたあめブームらしいのよ。後輩の女神や天使達が、『誰が一番大きいわたあめを作る』とか『誰が一番カラフルなわたあめを作る』とか競っているって。この前クリスから聞いたのよ」

 

 

アスタの説明にカズマは呆然となってしまった。

 

 

「カズマ、こんな所にいたのか?もうすぐ"時間"だぞ?」

 

 

そこにダストが現れ、カズマを呼んだ。

 

 

「ダスト、もうそんな時間なのか。悪い皆、俺はこれから用事があるから、ちょっと抜けるぞ」

 

 

カズマはそう言って、ダストと一緒に走り去っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ、一体何処に行っちゃったんだろう…」

 

 

カズマがダストと走り去った後、アスタはめぐみんとクリスを連れて祭りを回っていた。因みにわたあめ屋は偶然にも出店(でみせ)が暇になったゆいゆいとひょいざぶろーが行っていたりする。

 

 

「何やらダストと一緒に慌てた様子で走り去って行きましたけど…?」

 

 

アスタとめぐみんとクリスはカズマがダストと一緒に走り去った理由を考えていると

 

 

「《皆さん、大変長らくお待たせしました!今宵、この街から生まれた踊り子集団『アクセルハーツ』の歌と、領主様達による演奏を執り行わせていただきます!!》」

 

 

魔導メガホンから聞こえた言葉に三人が反応した。

 

 

「今、『アクセルハーツ』って…」

 

 

「それに、『領主様達』とも言っていましたね。見に行きましょう!」

 

 

アスタ達は人混みを押し退けて前に進む。途中はぐれそうになるも、がっちりと手を繋いで人混みの最前列に到着した。

 

 

そこには、ステージ衣装を身に纏ったアクセルハーツのメンバーと、体だけ鬼の姿になっているカズマとダストとキョウヤの姿があった。

 

 

しかもカズマは音撃棒・烈火を、キョウヤは音撃モードになっている烈雷を、ダストは笛を持っていた。

 

 

「《では、お願いします!》」

 

 

司会の言葉にカズマ達は頷き合うと、演奏と歌を披露した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「《とても素晴らしい演奏と歌でした!皆さん、彼等に拍手を!》」

 

 

演奏と歌が終わると同時に観客が盛大な拍手をカズマ達に送った。

 

 

「皆、とても良かったよ」

 

 

「練習した甲斐があったってもんだな」

 

 

観客に見送られ、カズマ達は控え室で私服に着替え、疲れを癒していた。

 

 

「僕としてはダストが笛を吹ける事に驚いたよ。何時から吹けるようになっていたんだい?」

 

 

「小さい時から草笛とかを吹いていたからな、昔通った道すがらってやつさ」

 

 

「やっほ~カズマ!お疲れさま!」

 

 

そこにアスタとめぐみんとクリスの三人が控え室にやって来た。

 

 

「アスタ、めぐみん、クリス」

 

 

「カズマ、演奏凄い良かったよ!アクセルハーツの皆も歌声が凄い綺麗だったし!もう最高だよ!」

 

 

アスタは興奮気味にカズマに近寄った。

 

 

「アスタ、近いって!…でも、そんなに喜んでくれて良かった。やった甲斐があるもんだ」

 

 

「でもカズマ、カズマならともかく、ダストとミツルギの二人は何故鬼の姿になっていたの?音角はカズマしか持っていないのに…」

 

 

「その理由は"あれ"さ」

 

 

カズマが指差した所には、『鬼の着ぐるみ』があった。

 

 

「俺達はあれを着ていたって訳さ」

 

 

クリス達は『成る程…』と納得したのだった。

 

 

 



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第43話

 

 

『女神エリス感謝祭』最終日、カズマは一人で屋台を見回っていた。すると

 

 

「さあいらっしゃいいらっしゃい!領主様が考案したTA()MA()SE()N()!食べられるのは今だけだよ!」

 

 

見知った顔が屋台を開いていた。

 

 

「おい、"ベルディア"、"ハンス"、"シルビア"」

 

 

「いらっしゃい!…って坊やかい」

 

 

「おおっ!誰かと思えばカメンライダーヒビキではないか!」

 

 

「んげっ!?あん時のガキかよ…!」

 

 

そう、見知った顔とは以前倒した魔王軍の幹部であるベルディアとハンスとシルビアだった。しかも三人共ご丁寧に頭部には捻り鉢巻をしており、祭り用の法被(はっぴ)も着ていた。

 

 

ぶっちゃけ、鎧の亡霊(デュラハン)であるベルディアは浮いた存在だった。

 

 

「何でこの街で屋台を開いているんだ?確かお前達は俺達が倒したはずだが…」

 

 

「確かに私達は坊や達に倒され、地獄に堕ちたさ。それで地獄で過ごしてしたらエリスって言う女神が『アクセルの街でお祭りを行いますから、良かったら来ませんか?』って誘われてね、んでお言葉に甘えて今日限りだけどこの世界に甦ったって訳さ。その証拠に、頭の上に輪っかがあるだろ?」

 

 

シルビアは自分の頭の上を指差す。そこには某『七つ集めると願いを叶えるボール』がある世界の死者に付いている輪っかがあった。そしてよく見ると、ベルディアとハンスの頭上にも、シルビアと同じ輪っかがあった。

 

 

「そうだったのか…」

 

 

「そう言う事。…あっ、そうだ。確かそのエリスって女神から調べてほしいって頼まれていた事があったんだけど…、それってアンタ達が調べていなかったかい?」

 

 

「んあ?…ああ、あのアルダープって奴の事か」

 

 

「それなら俺が調べといたぞ。アルダープはあの地獄の公爵の一人であるマスクウェルと一緒にいたな、それも"生きたまま"」

 

 

ベルディアは地獄にアルダープが生きたまま存在している事を言った。

 

 

「あ~、マスクウェルに捕まっていたのかい」

 

 

「うむ、しかも既に心が崩壊して廃人状態になっていたぞ。あれはマスクウェルが好む悪感情を出し続けたせいだろうな」

 

 

「うへぇ~、そうはなりたくねぇな」

 

 

シルビア達はカズマそっちのけで盛り上がっていた。

 

 

「ま…まあ楽しんでいるならそれで良いさ。今日は敵対関係云々は無しで、楽しんでいってくれ。それと、たません一つ」

 

 

「まいど!三百エリスね」

 

 

カズマはベルディアに三百エリス支払い、たませんを受け取った後、屋台から離れた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「《さあさあ!領主様ご考案『コスプレ決闘(デュエル)大会』開催中!ルールは簡単、こちらが用意した衣装に着替え、これまたこちらで用意したカードを使って戦うだけ!更に十連勝された方には景品を贈呈致します!遊び方が分からない方はご安心を!隣で『遊び方教室』を行っております!大会の参加費用は五百エリスですが、教室の参加は無料ですので、是非ご参加下さい!》」

 

 

屋台ブースから少し離れた所では、これまたカズマが考案したゲームブースが賑わっていた。

 

 

「『遊び方教室』の参加者はこちらからお入り下さい!」

 

 

「いいかい、ここはね…」

 

 

『遊び方教室』では、ルールを知ってるリアやキョウヤが参加者にルールや遊び方を教えており

 

 

「《さあ今七連勝目を賭けた決闘が始まりました!実況は私、シンフォニア家長女のクレア。解説にはアクセル新領主筆頭メイドの一人であるクリス殿でお送りします》」

 

 

大会では実況席が設けられており、そこにクレアとクリスの二人が座っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そしてこの日の太陽が地平線に沈み、辺りが暗くなった頃。

 

 

「やっとのんびり回れますね」

 

 

「だね~。あ~、喉がカラカラ」

 

 

決闘大会が滞りなく終わった為、クリスは偶然にもめぐみんと回っていたカズマと一緒に祭りを堪能していた。

 

 

ヒュルルルル…ド~ン

 

 

すると夜空に大きな火の花が咲いた。

 

 

「おお~っ!」

 

 

「花火大会が始まったようですね、ではカズマ!"参戦"しましょう!」

 

 

「はいっ!?Σ(Д゚;/)/」

 

 

めぐみんの言葉にカズマは目玉が飛び出るほど驚いた。

 

 

「あっ、カズマは知らないんだっけ?この時期はかがり火を炊いているでしょ?それに虫型のモンスターが寄って来るんだけど、そのモンスターは街の上空を旋回しながら襲撃のチャンスを狙っているんだよ。そこで、花火を打ち上げてモンスター達への"宣戦布告"をするんだよ」

 

 

クリスの説明にカズマは目が点になってしまった。そしてよく見ると、カズマ達を横切るウィザード職の人達が走っていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「くそっ、相変わらず硬いな!」

 

 

鎧を着たダクネスは襲撃してきた虫を倒そうと剣を振るっているが、相変わらず当たる気配が無かった。

 

 

「っ!?しまっ…」

 

 

ダクネスの横から虫が現れ、ダクネスに当たろうとした瞬間、突如"剣が横から現れ、虫を貫いた"。

 

 

「ダクネス、大丈夫か!?」

 

 

そこに剣を棒に括り着けた即席の槍を持ったダストが現れた。どうやら、先程の剣はダストの攻撃だったようだ。

 

 

「ダストか!助かった!」

 

 

「良いって事よ!それに、まだまだ虫はたくさんいるから油断すんじゃねぇぞ!?」

 

 

「無論だ!」

 

 

ダクネスとダストは背中合わせになって虫を迎撃する。だが、虫の数が多いのか、二人の息が上がり始めた。

 

 

「ハァ…、ハァ…、ハァ…。ダスト、まだいけるか?」

 

 

「もちろん!…って言いたいが、こんだけ数が多いと、ちとヤバいな」

 

 

ダストが少し弱気になった所を好機と見たのか、虫達が一斉に二人に襲い掛かった。

 

 

「リザーッ!!」

 

 

するとそこに炎が二人の頭上に上がり、虫達を一掃した。

 

 

「な…何だ!?」

 

 

「分からねぇ、一体何が…」

 

 

二人が困惑していると、二人の目の前にオレンジの皮膚のドラゴンが降り立った。

 

 

「リザーッ!!」

 

 

「何だコイツは!?」

 

 

「知らねぇよ!新手のモンスターか?」

 

 

二人は警戒しているが、ドラゴンは二人を襲う気配はしなかった。

 

 

「何なんだコイツ…?…んっ?その目…、もしかしてお前か?」

 

 

「リザ」

 

 

ダストはドラゴンの目を見て問いかけると、ドラゴンは頷いた。

 

 

「知ってるのか?」

 

 

「ああ、あれはダクネス達と出会う前なんだが…」

 

 

ダストは当時の事を思い出しながら語った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ダストがカズマ達と出会う前、売れる物を探す為ゴミ捨て場に来ていた。だがそこには先客がいた。

 

 

ダストは尻尾の先端に火が灯っているから、火竜(サラマンダー)の子供と思っていた。

 

 

すると街に雨が降り注ぎ、ダストは火竜を濡れないように抱え、ゴミ捨て場から走り出した。

 

 

近くの軒下で雨宿りをすると、ダストは持っていたタオルで火竜の体を拭いた。すると火竜から腹の虫が鳴った為、ダストは持っていたパンの欠片を火竜に差し出した。

 

 

火竜はダストとパンを交互に見つめ、そしてパンを受け取り、食べ始めた。

 

 

ダストはその様子を見つめていると、視界に光が差した。そして空を見上げると、雨雲は既に通り過ぎており、雲の切れ間から陽光が差していた。

 

 

ダストはその場で火竜と別れ、翌日にもう一度ゴミ捨て場に行くと、なんとあの火竜がその場にいた。

 

 

それから数日、ダストは火竜に食べ物を与え、ダストと火竜は仲良くなっていた。

 

 

ところがある日、ダストはいつものように食べ物を持ってゴミ捨て場に行くと、火竜の姿は無かった。

 

 

ダストは『警察に見つかって処分された』か、『仲間の元に戻った』と思った。そしてダストは空を見上げながらこう思った。

 

 

『願わくは、仲間の元に戻れた事を…』

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…これが、俺と火竜の出会い話さ」

 

 

「そんな事が…。何とも美しい友情だな」

 

 

ダストの話を聞いていたダクネスは目に涙を浮かべていると

 

 

「ダスト、ダクネス!無事か!?」

 

 

ピカチュウとジラフとアンナを連れたカズマとめぐみんとクリスが現れた。

 

 

「カズマ!めぐみん!クリス!俺達は大丈夫だぜ、コイツが助けてくれたからな」

 

 

「リザーッ!!」

 

 

ダストはドラゴンを撫でると、ドラゴンは嬉しそうに炎を上空に吐いた。

 

 

「って"リザードン"じゃねぇか!?ピカチュウといい、リザードンといい、何でこの世界に"ポケモン"がいるんだよ!?」

 

 

「"リザードン"?"ポケモン"?」

 

 

「それは後で説明するから、今はあの虫を何とかしようぜ?」

 

 

カズマはバッグから烈風を取り出し、銃口を上空に向けた。

 

 

「そうしたいのは山々なんだが、こう…空を飛んでいると」

 

 

ダストは上空に視線を向ける。するとリザードンが爪でダストの肩をつついた。

 

 

「リザ」

 

 

「…"乗れ"って事か?」

 

 

ダストがリザードンに視線を向けると、リザードンはダストに背中を見せていた。ダストはリザードンに質問をすると、リザードンは頷いた。

 

 

「…よしっ、やってやるか!」

 

 

「リザ!」

 

 

ダストはリザードンの背中にしがみつく。

 

 

「ならダスト、これを使ってくれ」

 

 

そこにカズマがバッグから取り出した物をダストに手渡した。

 

 

「…何だこりゃ?」

 

 

「そいつは"薙刀"って言って、敵を薙ぎ払う事に特化した槍みたいな武器さ。リーチに気を付ければ、リザードンに刃が当たらなくて済むぞ」

 

 

「…サンキュー、カズマ。んじゃ行くぜ、"相棒"!」

 

 

「リザーッ!!」

 

 

ダストを背中に乗せたリザードンは大きく羽ばたき、空を飛んだ。

 

 

「おりゃ!」

 

 

「リザッ、リーザーッ!」

 

 

ダストは薙刀を振るい、リザードンは"緑色のエネルギー"を纏った爪で攻撃する。

 

 

「へへっ、俺達良いコンビだな!」

 

 

「リザ!」

 

 

ダストとリザードンは次々に虫を倒していく。時には炎を吐き、時には翼から起こした"風の刃"で。すると虫達はダストとリザードンを脅威と見たのか、攻撃をダスト達に集中するようになった。

 

 

「おっと!…どうやら俺達に集中してきたようだな。相棒、やるぜ!」

 

 

「リザーッ!」

 

 

リザードンは"かえんほうしゃ"や"ドラゴンクロー"、"エアスラッシュ"を駆使しながら虫を倒し、ダストも薙刀を振るって虫を両断していった。

 

 

「…まだまだ、俺達の力はこんなもんじゃねえ!」

 

 

ダストが左手を握り締めると、左手から光が溢れ出した。

 

 

「なっ…、何だ?」

 

 

ダストは恐る恐る左手を開くと、手のひらに"虹色に光る玉"があった。

 

 

「何だこれ…?コレから相棒の心が伝わってくる…。相棒、いっちょやるぞ!」

 

 

ダストは玉を握り締め、リザードンの背中でジャンプした。

 

 

「……これが、俺達の…絆だーっ!!」

 

 

「リーーッ、ザーーッ!!」

 

 

ダストは左手を空に向けて突き出すと、リザードンを光の繭が包んだ。そして光の繭が破裂すると、リザードンの姿が変貌していた。

 

 

体は通常よりも一回り大きくなり、頭の角は二本から三本に、両手首には小さい翼のような物が生え、尻尾の炎は青く、体の色がオレンジから黒になっていた。

 

 

「よっと…、行くぜ相棒!」

 

 

「リザーッ!!」

 

 

ダストはリザードンの背中に再び乗ると、リザードンは物凄い速さで虫達に向かって飛んだ。

 

 

「そらよっ!」

 

 

「リザッ!」

 

 

ダストとリザードンは虫とすれ違い様に薙刀とドラゴンクローで虫を切り裂いた。

 

 

「そんじゃ、止めと行こうぜ!」

 

 

「リザッ!リーーッザーッ!!」

 

 

リザードンは特大のかえんほうしゃで次々と虫達を焼き払っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふぅ…、ようやく片付いたな」

 

 

「リザ」

 

 

ダストはリザードンと一緒にカズマ達がいる所に降り立った。リザードンの姿は既に元の姿に戻っていた。

 

 

「凄いです、ダストさん!」

 

 

「おわっ!?アイリス様?」

 

 

そこにクレアとレインを連れたアイリスが目を輝かせながらダストに詰め寄った。

 

 

「ドラゴンに乗って戦っている時のダストさんは、まるであの噂のドラゴンナイトみたいでした!」

 

 

「……そんな大層な男じゃねえよ俺は」

 

 

「えっ?」

 

 

「……何でもない」

 

 

「……?」

 

 

ダストは自分が言った言葉を否定するかのように首を振った。

 

 

「…まあ、何はともあれ皆が無事で良かった」

 

 

「…だな!」

 

 

「それでダスト、提案なんだが、…もし良かったらソイツの世話…してみないか?」

 

 

カズマはリザードンの世話をダストに任せる事を提案した。

 

 

「いいのか、俺で?」

 

 

「良いも何も、ソイツはお前に懐いているからな。他に頼める人はいないさ」

 

 

「……分かった。んじゃこれからもよろしく頼むぜ、相棒!」

 

 

「リザーッ!」

 

 

リザードンは嬉しそうにダストに抱きつき、ダストはリザードンの頭を優しく撫でるのだった。

 

 

 



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第44話

 

 

「……と言う事があったのさ」

 

 

『女神エリス感謝祭』が終わった翌日、ダストは自身に起きた過去を話した。

 

 

「まさかダストが貴族の生まれだったなんて…」

 

 

「長く一緒のパーティーを組んでいた俺でも、知らなかったぞ…」

 

 

ダストと一緒のパーティーメンバーであるリーンとテイラーは意外そうな顔をしていた。

 

 

「…ダスト殿、ドラゴンはその後……」

 

 

「…殺されたよ、俺の目の前で。"見せしめ"だとよ」

 

 

「そんな…」

 

 

クレアの質問に答えたダストの言葉に、アイリスは口を手で隠しながら涙を流した。

 

 

「…だからかな、コイツの目を見た瞬間、コイツを助けようと思ったのは」

 

 

ダストはリザードンの頭を撫でながら感傷に浸っていた。

 

 

「……さて、俺は洗いざらい話した。次はカズマの番だぜ、"コイツらが何者なのか"、カズマは知ってるんだろ?」

 

 

「…ああ」

 

 

カズマはリザードン達の事を話した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

『ポケットモンスター』、縮めて『ポケモン』。カズマとリアがいた世界、今いる世界とは違う世界に存在する摩訶不思議な生き物。

 

 

その数は二百、四百、六百。それ以上存在する。

 

 

生息地域は様々で、山や森、洞窟。川や海。街にまで。

 

 

そして人々はポケモンと共存し、時には戦わせ、時には一緒に仕事をしたり。人とポケモンはお互いに協力し合いながら生きている。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……これが俺が知ってるポケモンの全てだ」

 

 

カズマがポケモンについての説明を終えると、全員が呆気に取られていた。

 

 

「因みに、ポケモンは"ある条件"をクリアすると、姿形が変化すたりする。それを"進化"と言っているんだ、ピカチュウやリザードンもその進化したポケモンの一体なんだ」

 

 

「では、ピカチュウやリザードンも、また進化をするのですか?」

 

 

「ピカチュウは進化するけど、リザードンは最終進化体…つまり、もう進化しないんだ。…例外を除いてね」

 

 

「…例外?」

 

 

カズマの意味深な物言いにダストが首を傾げた。

 

 

「ダストは経験あるだろ?リザードンの姿が変わったのを」

 

 

「…ああ、あの時か」

 

 

「あれは一部のポケモンがなれる"メガ進化"と呼ばれる進化で、メガ進化をするには"2つの道具"が必要なんだ」

 

 

カズマはダストから預かっていた宝玉を見せた。

 

 

「これがメガ進化する時に必要な道具の一つ、"キーストーン"だ」

 

 

「これが…」

 

 

クレアはキーストーンを持ち上げ、まじまじと見た。

 

 

「お兄様、先程"必要な道具の一つ"と仰いましたが、他にも何か必要なのですか?」

 

 

「良い所に気が付いたなアイリス、メガ進化を行うにはキーストーンの他にポケモンに持たせる"メガストーン"が必要なんだ。これがそのメガストーンさ」

 

 

カズマはリザードンが持っていたメガストーンをテーブルに置いた。

 

 

「だけどこのメガストーンとキーストーンがあってもメガ進化できない。メガ進化をするには、キーストーンとメガストーン、そして"人とポケモンとの絆"が必要なんだ。その3つが揃って、初めてメガ進化ができる様になる…んだが、どうにも腑に落ちないんだよな」

 

 

「どう言う事だカズマ?」

 

 

「リザードンのメガ進化は二種類確認されているんだが…、ダストのリザードンがなった姿は、その二種類の特徴と混合しているんだよ。通常ならメガ進化できるポケモンの姿は一種類なんだが、一部のポケモンは二種類存在していて、メガストーンによって姿形が違ってくるんだ」

 

 

「…そうか!ダストのリザードンは"メガリザードン"のXとYの二種類の特徴を持っていた!」

 

 

カズマの説明にリア以外頭に『?』を浮かべていたが、リアはカズマが言っていた事を理解した。

 

 

「その通りだリア。"メガリザードンX"の特徴は"一回り大きい黒色の体躯と青い炎"で、"メガリザードンY"の特徴は"飛ぶ事に特化したシャープな体躯と赤い炎"なんだ。それでダストのリザードンは、"メガリザードンX"と"メガリザードンY"の特徴の一部を持っているんだ」

 

 

「普通ならメガストーン一つにつき、どちらか一方しかなれないのよね。…でも、ダストのリザードンは一つのメガストーンで二つの特徴を持つメガ進化をした」

 

 

リアの疑問にカズマは頷いた。

 

 

「…まあ、ポケモンと同じようにメガ進化も全て解明された訳じゃ無いから、全く別の姿になっても不思議じゃないからな」

 

 

「…では、今後リザードンがメガ進化したら、どう呼べば良いのでしょうか?」

 

 

「そうだな…、安直だけど『メガリザードン(ダブル)』なんてどうだ?」

 

 

「『メガリザードンW』か…、良いんじゃないか?」

 

 

カズマの案は概ね好評だった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「カズマ殿、以前話していた件ですが、王都にあるアルダープの屋敷はカズマ殿達のパーティーが王都へ来られた際に使用する事で落ち着きました。それに伴って、屋敷に保管されている宝はクリス殿が鑑定をし、神器若しくは神器級に値する物以外は全て売り払い、七割を我々、残りをカズマ殿が納める…と言う事で」

 

 

「クレア姉さん、申し訳ないんだけど、今回の徴収は全て俺にくれないか?リザードンの寝床やピカチュウ達の食費に、アクセルハーツの運営費で、色々入り用だから」

 

 

「そうか、ならそう手配しよう」

 

 

一週間後、カズマは王都からの使者と言う事で、クレアと一緒に領主としての仕事をしていた。

 

 

「カズマカズマ、街の近くにあるアルダープの屋敷はどうするのですか?」

 

 

「屋敷は解体して更地にして、アスレチックパークを作ろうと思っている」

 

 

「解体して更地…ですか。…うずうず」

 

 

カズマの補佐として、ミニスカメイド姿のめぐみんが街の近くにあるアルダープの屋敷について質問をし、カズマが答えると、めぐみんは何かを期待するかのような眼差しをカズマに向けた。

 

 

「はははっ、屋敷を解体する方法はめぐみんの爆裂魔法と決めているから、その時はよろしく頼むよ」

 

 

「はいっ!我が爆裂魔法で悪徳貴族(アルダープ)の屋敷を木っ端微塵にしてみせましょう!」

 

 

カズマはめぐみんの期待に答えるかのように頭を撫でながら言うと、めぐみんは嬉々とした表情で答えた。

 

 

「…と言っても、今はまだ親方と見積りの途中だから、めぐみんの出番はまだ先かな?」

 

 

カズマの言葉にめぐみんはガックリと項垂れた。

 

 

「カズマ殿、アスレチックパーク…とは、どのようなものなのでしょうか?」

 

 

「一応図面はありますけど…、あった。これです」

 

 

カズマは図面を広げ、クレアに見せた。

 

 

「ほうほう…。中央に野外ステージを設けて、それを囲むようにベンチを配置。そして外側に…これは?」

 

 

「これがアスレチック、つまり"障害物"です」

 

 

「……カズマ、この"ターザンロープ"と言うのは?」

 

 

「それは俺がいた世界に『ターザン』と言うジャングルと呼ばれる密林地帯で育った青年の物語があって、蔦を使って木から木へ移動する手段を模したアスレチックだ」

 

 

クレアふ図面を見て感心し、めぐみんはアスレチックの一つを指差してカズマに質問し、カズマはどういう物なのかを説明した。

 

 

「…カズマ殿、その"ターザンロープ"の所にあるこの丸い物は?」

 

 

「これはロープを繋いだ滑車を巻き戻す為に使う取っ手です。それを回して滑車を自分の所へ戻して、滑車が戻りきるとロックが掛かります。そしてロープにしがみつくとロックが外れ、向こう側へ行けるようになります」

 

 

「なるほど…。しかし、この高さではもし落ちた時に大怪我をするのでは?」

 

 

クレアは万が一に起きるであろう事を指摘する。

 

 

「その辺りは各所にジャイアントトードの皮を使ったマットレスを敷きます。それと高さがある所にはマットレスの上に網を張って落ちても怪我をしないように考慮していますので」

 

 

「そうか、もし網が破れたとしても、そのマットレスが衝撃を吸収して…」

 

 

「その通り、それに使うのは使い古したベッド用のマットレスなので、コストも大幅に削減できます」

 

 

カズマの考慮にクレアは頷いた。

 

 

「でも、これだとモンスターとかに襲われたりしないでしょうか?」

 

 

「その辺はアスタにモンスター避けの結界を張ってもらうから大丈夫。問題は雨や雪が降った時は使えないって所だな」

 

 

「…確かに。滑りやすくなる上に、風邪でも引かれたら…」

 

 

「その時は使用禁止を言い渡すしかないのでは?」

 

 

「……当面、その処置でやるしかない…か」

 

 

三人はアスレチックパークの問題点を並べては、頭を抱えるのだった。

 

 

 



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第45話

 

 

「リザードン、『ドラゴンクロー』だ!」

 

 

「ピカチュウ、『アイアンテール』で受け流せ!」

 

 

「リザッ!リーザーッ!」

 

 

「ピカ!チュ~…、ピッカ!」

 

 

 

ここはカズマ達が暮らしている屋敷の庭。そこでカズマとダストはポケモンバトルをしていた。

 

 

リザードンは緑色のエネルギーを纏った爪を繰り出し、それをピカチュウは鋼鉄化した尻尾で受け流した。

 

 

「まだまだ!リザードン、『かえんほうしゃ』!」

 

 

「ピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

 

ダストの指示でリザードンは口から炎を吐き、ピカチュウは頬から電撃を放つ。二体の技は中央でぶつかり、爆発が起こる。

 

 

「…流石だなダスト。ここまでリザードンの力を引き出しているとは」

 

 

「褒めてもこれくらいしか出ないぜ?リザードン、『かえんほうしゃ』!」

 

 

「っ!ピカチュウ、『でんこうせっか』で撹乱させるんだ!」

 

 

カズマの指示でピカチュウは『でんこうせっか』を使い、リザードンの周りを動き回る。リザードンはピカチュウの動きに目が追い付いておらず、狙いを付けられないでいた。

 

 

「くそっ、すばしっこくて狙いが付けられねぇ!」

 

 

「今だピカチュウ、『10まんボルト』!」

 

 

カズマの指示でピカチュウはリザードンに『10まんボルト』を浴びせる。ひこうタイプを持つリザードンにとってでんきタイプの技である『10まんボルト』は効果バツグンであり、『10まんボルト』を浴びたリザードンは地面に膝を着いた。

 

 

「リザードン!!」

 

 

「勝負あったな」

 

 

カズマの言う通り、リザードンのダメージは大きく、リザードンは戦える程の体力は残っていなかった。

 

 

「…ちっ、俺の負けだ」

 

 

ダストが負けを認めると、カズマとピカチュウは力を抜いたのだった。

 

 

「良いバトルだったぜ、また機会があればやろうぜ」

 

 

「…そうだな」

 

 

ダストとカズマは握手をして、次のバトルの約束をするのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふぅ~」

 

 

「ピカ~」

 

 

「お疲れですね、カズマ。ピカチュウ」

 

 

『リザードンと一緒に訓練をする』と言ったダストと別れ、屋敷のリビングにあるソファーに座ったカズマとピカチュウに飲み物と新聞を持ってきためぐみんが声を掛けた。

 

 

「サンキュー、めぐみん。…いや~、まさかダストの訓練に何時間も拘束されるとは思っても見なかったよ」

 

 

カズマはめぐみんから飲み物と新聞を受け取り、愚痴を溢した。

 

 

「ダストも何か思う事があるのでしょう、今現在ダストに付き合えるのはカズマだけなのですし」

 

 

「とは言ってもなぁ…んっ?」

 

 

カズマは新聞を広げ、読み始めると、とある記事に目が止まった。

 

 

「『魔王軍幹部が最前線に参戦し、戦況一変。王都の危機』…おいおい、アイリス達大丈夫なのかよ…?」

 

 

「…カズマ、その記事詳しく」

 

 

「…『王都近くの最前線にある砦が魔王軍幹部の攻撃を受けている…。砦はなんとか持ちこたえているようだが、時間の問題』…とも書かれているな。しかもその幹部は『恐るべき魔法を操る"邪神"だ』と書かれている」

 

 

めぐみんにお願いされ、カズマは記事を読み上げる。

 

 

「…カズマ、その新聞私にも見せて下さい」

 

 

カズマは新聞を横にずらし、めぐみんはカズマの隣に座り、記事を黙読する。

 

 

「…『戦況を一変させた魔王軍幹部は…、"邪神ウォルバク"』との事…」

 

 

「「なんですって!?」」

 

 

めぐみんが幹部の名を読み上げた瞬間、リビングに来たアスタとクリスが同時に声を上げた。

 

 

「アスタにクリスじゃないか、宝の鑑定は終わったのか?」

 

 

「ある程度は。あたし一人じゃどうしても回らなかったから、お姉ちゃんに手伝ってもらったんだ」

 

 

「そう言う事。…って今はそんな話をしている場合じゃ無いわよ!今"ウォルバク"って…」

 

 

アスタはめぐみんに詰め寄った。

 

 

「お…落ち着いて下さいアスタ!」

 

 

「ただいま~」

 

 

そこにゆんゆんがリビングに現れた。

 

 

「ゆんゆん!良い所に来ました!お願いですから、アスタを引き剥がすのを手伝って下さい!」

 

 

めぐみんに急かされ、ゆんゆんはアスタを引き剥がすのを手伝った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「やっと離れたか…」

 

 

「つ…疲れました~」

 

 

十数分に及ぶ格闘の末、アスタを引き剥がす事に成功したカズマ達だが、余計な体力を消耗してしまった為、疲労困憊となっていた。

 

 

「ごめんなさい…」

 

 

めぐみんから引き剥がされたアスタは、カズマとクリスの二人による『バインド』でロープをぐるぐる巻きにされ、芋虫状態になっていた。

 

 

「それでめぐみん、何でアスタさんはめぐみんに突っかかっていたの?」

 

 

「それは…、私が新聞の記事に書かれている邪神の名前を口にしたら… 」

 

 

「邪神?」

 

 

「確か名前は"ウォルバク"って書かれていたな」

 

 

カズマの発言にゆんゆんは驚いた。

 

 

「めぐみんっ!"ウォルバク"って確か紅魔の里に封印されていた…」

 

 

「はい、偶然かどうかは知りませんが…」

 

 

「…どうやら、二人は何か事情を知ってるみたいだな」

 

 

カズマの質問にめぐみんは話し始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

邪神ウォルバクは『怠惰と暴虐を司る邪神』であり、めぐみん達のご先祖様と激戦を繰り広げていた。そして遂に邪神を封印する事ができたのだが、ご先祖様の数人が『邪神が封印されている地ってなんか格好いいよな』と言う事で封印を解き、里の隅っこに再封印し、観光名所にした。

 

 

それから時は経ち、めぐみんが今のこめっこよりも幼い時に偶然にもウォルバクの封印を解いてしまい、そこから現れた"漆黒の猛獣"に襲われそうになるが、何処からともなく現れた"巨乳の女性"が爆裂魔法を使って倒し、再封印をした。因みにこの出来事がめぐみんが爆裂魔法を覚えようとした切欠である。

 

 

そして更に時が経ち、今度はこめっこが封印を解いてしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…それで現れたのがこのちょむすけなのです」

 

 

めぐみんは自分の足元にいるちょむすけを撫でた。

 

 

「……分からないな」

 

 

「カズマ?」

 

 

「もしちょむすけの正体が邪神ウォルバクだったとしよう。なら、最前線の砦を攻撃している邪神ウォルバクは何者なんだ?」

 

 

カズマの疑問にその場にいるめぐみんとゆんゆんとアスタとクリスはハッとした。

 

 

「確かに…、紅魔(わたしたち)の里に封印されていたちょむすけがウォルバクだとすると、今砦を攻めている幹部は何者なの?」

 

 

「……考えても仕方ない。クリス、庭で訓練しているダストと一緒にギルドに向かってテイラー達を連れ戻してくれ。確かクエストを受注するって言ってたから、リザードンに乗って飛べば追い付くだろう。めぐみんはゆんゆんと一緒にリア達を連れて来てくれ、長丁場になるだろうから、食材の買い出しも頼む」

 

 

「カズマ、私は?」

 

 

「アスタはバインドが解けるまで留守番、バインドが解けたらめぐみん達の手伝いをしてくれ」

 

 

カズマはめぐみん達に指示を出す。

 

 

「カズマはどうするのですか?」

 

 

「今ダクネスが実家に帰っているから、ダクネスにも遠征の協力をお願いする。それと、領地を離れるからイグニスさんとバルターに領主代行をお願いするつもりだ」

 

 

「分かりました。…では皆さん、カズマの指示に従って行動を開始!迅速且つ的確に!」

 

 

めぐみんの言葉でカズマとアスタ以外全員が行動を開始した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ねえカズマ、それは何?」

 

 

翌日、カズマが持っている瓶に興味を持ったアスタがカズマに質問をした。

 

 

「これは以前ウィズからドレインタッチを教わった時に買った『衝撃を与えると爆発するポーション』だよ。今まで使い方が分からなかったんだが、これは点火しても爆発する事が分かったんだ。つまり、これは俺の世界にある"ニトログリセリン"と言う少しの衝撃でも爆発する物と同類なんだよ」

 

 

「ほう…、カズマの世界にはそんな危険な代物があるのか…」

 

 

カズマの横にいるダクネスが感心…と言うか少し怖じ気づいた表情をした。

 

 

「まあ扱うにはそれなりの知識と資格が必要だからな、俺のような一般人には程遠い代物さ。…それで、こいつを使った物が"コレ"だ」

 

 

カズマはダイナマイトの試作品をダクネスに見せた。

 

 

「これがダイナマイト。この導火線を着火させて…」

 

 

「なるほど…」

 

 

カズマの説明にダクネスは目の色を変えて聞いていた。

 

 

「カズマ、準備の殆んどが完了しました。テイラー達ももう少しで消耗品の買い出しから戻って来ると思います」

 

 

そこにめぐみんが準備の報告にやって来た。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「『エクスプロージョン』ッ!!」

 

 

「全てを燃え上がらせる様な深紅の炎に初夏を思わせる様な心地良い風…だが、伝わる爆音や衝撃がイマイチ。72点」

 

 

「辛口ですね…」

 

 

めぐみんの日課である爆裂散歩に付き合う為、カズマ達は途中でテイラー達と合流し、街から離れた山岳地帯に来ていた。そしてめぐみんは爆裂魔法を撃ち、カズマは辛口の評価を出した。

 

 

「しばらく一緒に散歩できていなかったからな、その喜びの余り魔力の収集が若干疎かになっていたみたいだな」

 

 

「流石はカズマです。次は辛口で百点を取ってみせます!」

 

 

カズマから魔力を分けてもらっためぐみんは、立ち上がると次の目標を決めたのだった。

 

 

「う~ん…」

 

 

「ダスト、どうしたのだ?」

 

 

「いや…、今の爆裂魔法なんだが、相棒のリザードンもできるんだよ」

 

 

『えぇっ!!Σ(Д゚;/)/』

 

 

ダストの発言にカズマ以外全員が驚いた。

 

 

「今から見せてやっから。リザードン、行け!」

 

 

「リザ!リザーッ!!」

 

 

リザードンは拳を地面に叩きつけると、少し離れた岩から炎の柱が現れ、岩を跡形も無く吹き飛ばした。

 

 

「爆裂魔法…に似てなくもない…が」

 

 

「やはり『ブラストバーン』だったか」

 

 

「知ってるのかカズマ?」

 

 

「ああ、リザードンのような一部のほのおタイプのポケモンが覚える技でな、高い威力を持っているんだが、使える回数が少ない上に、使った後少しの間反動で動けなくなるんだ」

 

 

カズマはブラストバーンの説明をすると

 

 

「何か…めぐみんの爆裂魔法に似てるな…」

 

 

そう感想が帰って来た。

 

 

「確かに爆裂魔法に似てはいるが、威力は爆裂魔法の方が上さ。…それじゃ今度はコイツの威力を見てもらおうか」

 

 

カズマは岩の隙間にダイナマイトを差し込んだ。

 

 

「『ティンダー』。…これで良し、皆もう少し離れて」

 

 

カズマに言われ、全員が更に距離を離した。するとダイナマイトは破裂し、岩を粉々にしてしまった。

 

 

「凄いじゃないか!これがダイナマイトか!」

 

 

「確かに凄いですが…、私の爆裂魔法の方が上ですね!」

 

 

「めぐみんには以前説明したと思うが、爆裂魔法並の威力を出すには百本単位で使わないといけないから、そうほいほい使えないんだよ」

 

 

カズマは苦笑いしながら他のメンバーに説明したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…よし、準備万端!」

 

 

遠征の準備を整えたカズマ達は、テレポート屋に来ていた。

 

 

「カズマ、テレポートならゆんゆんが王都を登録しているのに、何故テレポート屋に頼むのですか?」

 

 

「今回は人数が人数だからな、ゆんゆん一人に負担を掛けさせるわけにもいかないさ」

 

 

カズマの後ろにはアスタを始め、ダスト、テイラー、キース、リーン、ゆんゆん、リア、エーリカ、シエロ。そして馬車に繋がれたジラフがいた。

 

 

「ダスト、リザードンはどうした?」

 

 

「相棒なら、この中さ」

 

 

ダストは手のひら大のボールをテイラーに見せた。

 

 

「そいつは"モンスターボール"って言って、ポケモンを捕獲したり、連れて行く時なんかに使われる道具なんだ」

 

 

「…じゃあ、何でピカチュウはカズマの肩に乗っているんだ?」

 

 

キースの指摘通り、カズマの肩にはピカチュウが乗っていた。因みにカズマの両隣にはめぐみんとクリスがいる。

 

 

「コイツはボールの中とか狭い所が嫌いでさ、一応ボールには入ってもらえたが、結局俺の肩が居心地が良いみたいなんだ」

 

 

「ピカ」

 

 

カズマの言葉を肯定するかのようにピカチュウが頷いた。

 

 

「さて、そろそろ出発するぞ。最終確認だが、備え忘れた物は無いよな?」

 

 

カズマが質問すると、全員が頷いた。

 

 

「大丈夫みたいだな。…よし、ではいざ王都へ!」

 

 

カズマはテレポート屋の人に事前に説明していたのか、すんなり了承され、ジラフを中心に転送用の魔方陣が展開し、カズマ達は王都へテレポートしたのだった。

 

 

 



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第46話

 

 

「さて…、久しぶりに王都に来た訳だが、まずは情報収集からだな」

 

 

カズマは門の前にいる兵士に近づいた。

 

 

「どうも、お仕事お疲れ様です」

 

 

「ん…?おぉ!誰かと思えば、以前クレア様と一緒に鍛練していたカズマさんではないか!」

 

 

兵士の一人はカズマの顔を見て驚いた。どうやらカズマが王都を訪れていた時にカズマの存在を知った兵士の様だった。

 

 

「君も知ってるとは思うが、今王都は魔王軍の襲撃の警戒中なんだ。王女様やクレア様にご用があるなら、早めに門を通ると良い」

 

 

「そうしたいのは山々なんですが、今回は王都では無く、襲撃を受けている砦に援軍として行きたいんですよ」

 

 

「そうだったのか!いや早とちりしてすまない。目的の砦はここから歩いて二日程掛かるが、途中には宿泊施設もあるからぜひ利用してくれ。これは砦までの地図と、モンスターの分布図だ。活用してくれ」

 

 

兵士はカズマに道案内と地図、モンスター分布図を渡し、カズマは兵士にお礼を言いながら離れた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ねえカズマカズマ、これは何かしら?」

 

 

「それは『ケサランパサラン』って言う綿毛の精霊みたいだな。雪精と同じで無害な精霊らしい」

 

 

「因みにケサランパサランは雪精の亜種と言われていますから、危害を加えたりしたら冬将軍のような大精霊が襲い掛かって来るので」

 

 

ジラフが引いている馬車から身を乗り出したアスタはカズマに質問し、カズマはモンスター分布図と照らし合わせながら答え、それにめぐみんが補足をした。

 

 

「待ちな!ここを通りたければ金と荷物を全部置いていきな!」

 

 

そこに武装した男集団が茂みから現れた。

 

 

「さ…「山賊よ!」って、俺のセリフが…」

 

 

「カズマカズマ!カモネギよりもレアだと言われる人型モンスター、山賊が現れましたよ!これは是非魔導カメラで写真を撮らなくては!」

 

 

「山賊か…、一体どんな辱しめを受けるのか…」

 

 

アスタ達の騒ぎを聞き付けたのか、荷台に乗っていたメンバーも山賊の物珍しさに騒いでいた。

 

 

「テメェら…、舐めてると痛い目を見るぞ!?大人しく金と荷物を置いて失せやがれ!」

 

 

「痛い目を見るのは…、どっちかな?リザードン!」

 

 

「リザーッ!!」

 

 

ダストはモンスターボールを頭上に投げると、中からリザードンが出て来て、威嚇で炎を頭上に向けて吐いた。

 

 

「な…、何だこの火竜(サラマンダー)は!?に…逃げろ!」

 

 

リザードンを見た山賊は一目散に森へ逃げ帰ってしまった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「やれやれ…、ダクネスが山賊を追い駆けるから、野宿する羽目になっちまったじゃねえか」

 

 

「うぐっ…、だが私は騎士として民に害を与える存在を野放しには…」

 

 

「変態としての矜持(きょうじ)の間違いだろ」

 

 

キースの言葉にダクネスは顔を赤くして俯いてしまった。

 

 

「ところでカズマ、紹介された宿泊施設は後どれくらいなんだ?」

 

 

「徒歩で半日もしない所にあるみたいだな。何事も無ければ日暮れ前には着けたんだ、何事も無ければ…な」

 

 

カズマの言葉にダクネスは更に萎縮してしまった。

 

 

「そうか…、なら見張りは俺がやろう。カズマ達は休んでいてくれ」

 

 

「いや、見張りは俺がやる。敵感知や暗視のスキルを持っているのは俺とクリスだが、クリスは昼間にやってもらったから、休ませたいんだ」

 

 

カズマの言葉にクリスは胸をキュンキュンさせながらカズマを見ていた。

 

 

「はいはいご馳走さま。んじゃ俺は一足先に休ませてもらうぜ」

 

 

ダストは手を振りながら荷台に向かって歩いて行った。休むと言いながら荷台の見張りをするつもりのようで、リザードンがダストの後を追いかけるように歩いて行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

そして日時が変わり、草木が眠る丑三つ時…。カズマは暖めたコーヒーを一口啜りながら見張りをしていると、敵感知に反応があった。

 

 

「モンスターの気配…、やはり現れたか。数は一つだが、焚き火は消しているから潜伏スキルを使えば何とか…」

 

 

やり過ごそうと考えたカズマはアスタの姿を思い浮かべ、考え直した。

 

 

「ひょっとして…、近づいているのはアンデットなのか?なら潜伏スキルは通用しない、けど皆を起こせば他のモンスターをも呼び寄せてしまう…。ゾンビやスケルトン程度なら、響鬼にならなくても…」

 

 

カズマの目の前に現れたのは、アンデットではあるがゾンビやスケルトンでは無く、"ドラゴンゾンビ"だった。

 

 

「すぅ~…、総員起床!ドラゴンゾンビ襲来!各員迎撃に当たれ!

 

 

カズマは息を大きく吸い込み、大声で号令を掛けたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「何とかなったわね」

 

 

「はい!」

 

 

アスタとシエロはハイタッチを交わす。

 

 

「俺達は良かったけど…」

 

 

「うん…」

 

 

カズマとクリスの視線の先には、倒れているダクネスとキースがいた。

 

 

「ダクネスはシエロ達を庇う為にドラゴンゾンビの攻撃を受けてこうなったのは仕方ないけど…」

 

 

「まさかキースがシエロを起こす為に近づいただけで、殴られて気絶しちゃうなんて…」

 

 

そう、ダクネスはドラゴンゾンビの攻撃で気絶しているのだが、キースはシエロ達を起こす為に近づき、揺さぶって起こしたのだが、シエロは力一杯キースをぶん殴ってしまったのだ。

 

 

「すまない、先に言っておくべきだった」

 

 

シエロの失態をリアが代わりに謝った。

 

 

「過ぎた事は仕方ないけど、何だってシエロは男を拒絶するんだ?焚き火の時だって、俺達と距離を取っていたし…」

 

 

「その事なんだが、実はシエロは貴族の出身で、跡継ぎが生まれるまで、男として育てられたんだ。それで跡継ぎが生まれた後、自分を偽る事はしなくて良くなったのだが、貴族の闇を見てしまったのか"男性恐怖症"になってしまったんだ」

 

 

「そうだったのか…、あれ?じゃあ、あのキースをぶっ飛ばしたアレは?」

 

 

「それは護身術の一環で武術を嗜んでいたそうなんだ」

 

 

リアの答えにカズマは呆気に取られてしまった。

 

 

「カズマー!荷物の収用、終わったよーっ!」

 

 

そこにクリスが荷物を全てしまい終わった事を伝えた。

 

 

「分かった!それじゃ全員馬車に乗り込んでくれ!さっきの戦闘騒ぎで他のモンスターが集まりだしている、早くこの場所から離れるぞ!」

 

 

カズマは指示を出して野営場から離れたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

出発してから十数分後、カズマ達は宿泊施設に到着した。

 

 

「カズマ、この施設には温泉があるみたいですよ」

 

 

めぐみんが指差した所には、温泉を意味する地図記号があった。

 

 

「みたいだな。…よし、今日1日ここで休息を取って明日出発しよう」

 

 

カズマが予定を決め、全員は宿泊施設に入ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

明け方、カズマは疲れを癒す為にダストとキースの二人を連れて温泉に入っていた。

 

 

「はぁ~、癒される…」

 

 

「同感だ」

 

 

カズマとキースは湯船の縁に体を預け、寛いでいた。一方ダストは…

 

 

「こいつを絞って…っと。よし、んじゃ相棒。体を拭くからじっとしていろよ」

 

 

「リザ…」

 

 

濡らしたタオルを硬く絞り、リザードンの体を拭き始めた。リザードンはおっかなびっくりな様子でダストを見ていた。

 

 

「大丈夫だ、尻尾の火を消さないように注意するからよ」

 

 

ダストは慣れた手つきでリザードンの体を拭く。リザードンは最初不安な表情だったが、ダストの手つきに骨抜きになり、気持ち良さそうな顔をした。

 

 

「よし、これで終わり…っと!どうだ相棒?」

 

 

「リザーッ!」

 

 

ダストがリザードンに質問すると、リザードンは笑顔でダストの顔にすり寄った。

 

 

「ダスト、随分と慣れた手つきだったな?」

 

 

「んっ?ああ、小さい時にドラゴンの世話をしていたからな。それにカズマから聞いていたんだが、ほのおタイプのポケモンは水が苦手って言っていたんだが、体が汚いと気持ち悪いだろ?」

 

 

キースはダストの手つきを見て質問をすると、ダストはすんなりと答えた。

 

 

「ポケモンも俺達と同じで生きてるからな、体が汚れていると気持ち悪いと思うのは一緒…か」

 

 

「そういうこった」

 

 

ダストも体を洗い、湯船に体を浸け疲れを癒した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

宿泊施設で疲れを癒したカズマ一行は、施設の管理人にお礼を言って出発。そして約半日で目的の砦に到着した。

 

 

「うはぁ~、でっけぇ砦だな…」

 

 

「この砦は千人ほどが暮らしていけるくらいの規模があると聞いている」

 

 

ダストは壁を見上げながら呟くと、ダクネスがその呟きに答えた。

 

 

「そこの冒険者!ここは魔王軍を食い止めるための砦だ、一体この地に何用で来た?」

 

 

そこに数人の騎士が現れ、質問を投げ掛けた。

 

 

「俺達は援軍に来た冒険者です」

 

 

「上級職が多いので、役に立つと思いますよ」

 

 

「何…?上級職が多いのならこちらとしても助かる…のだが、念のために身分を証明できる物を拝見したい」

 

 

騎士の一人が身分証明の提示を要求してきた為、カズマ達は冒険者カードを騎士に見せた。カードを拝見していた騎士はめぐみんとゆんゆんの名前に若干引いていた。

 

 

「では次にサトウカズマ…、サトウカズマ!?あの始まりの街アクセルの新しい領主にして、アイリス様達のお眼鏡に掛かったと言われる『音撃の勇者』サトウカズマ様ですか!?」

 

 

「知ってるのか?」

 

 

「隊長は知らないのですか!?この御方は王都に侵攻してきた八万の魔王軍をたった一人で壊滅状態にした勇者で、アイリス様にクレア様、レイン様から有望視されている方なのですよ!サトウ様、先程はご無礼な態度を取り、失礼しました!遥々援軍に駆けつけて下さった事、心より感謝申し上げます!」

 

 

騎士の一人がカズマ達に敬礼すると、隊長を含む全員が敬礼した。

 

 

「…で、俺達は砦に入っていいの?」

 

 

「もちろんでございます!自分がご案内致します!」

 

 

騎士に促され、カズマ達は砦の中へと入っていった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「まさかこんな良い部屋に案内されるとはな…」

 

 

カズマ達はそれぞれ個室を与えられ、カズマは案内された部屋を見るなり、驚いていた。

 

 

コンコンッ「カズマカズマ、砦の中を探索しましょう!」

 

 

「探索って…、遊びで来ているんじゃ無いんだが…。まあ良いか」

 

 

そこにめぐみんがクリスとアスタの二人を連れてカズマの部屋に訪れ、カズマを砦内の探索に誘った。カズマは少々苦笑いしながらだが、めぐみんに付き合うのだった。

 

 

「カズマ、すれ違う人達ですが、何か暗い表情をしていますね」

 

 

「そうなるほど戦況がよくないって事か…」

 

 

「あっ、カズマ!この扉『制御室』って書いてあるわよ」

 

 

めぐみんはすれ違った人達の表情が暗い事に気づき、カズマはそれだけヤバい状況になっている事を察する。そしてアスタは頑丈そうな扉に『制御室』と書かれているのを発見した。

 

 

「本当だな、…よし。何か差し入れでも持って行こうか」

 

 

「何か良い物あるかな?」

 

 

「ドーナツなんてどうだ?コーヒーとも相性が良いし、片手で食べられるし、作り方なら俺が知ってるから」

 

 

「なら食堂に行って厨房を借りられるか聞いてみましょう」

 

 

カズマ達は差し入れのドーナツを作る為、食堂に行こうとした。

 

 

「あれ…?カズマ君じゃないか!」

 

 

「キョウヤ!」

 

 

そこに鎧を着たキョウヤが現れた。

 

 

「何時此処に来たんだい?僕はまだ手紙を出していないのに…」

 

 

「手紙?俺達は新聞の記事を読んで此処に援軍として来たんだ」

 

 

「そうだったんだ…、来てくれて助かるよ」

 

 

キョウヤはカズマに感謝しながら頭を下げる。

 

 

「…ミツルギ、フィオとクレメアは何処ですか?」

 

 

「二人なら王都にいるよ。此処は何かと危険だから…」

 

 

めぐみんがキョウヤといつも一緒にいる二人の姿が見えないので質問すると、キョウヤは王都にいると答えた。

 

 

「…なあキョウヤ、すれ違った人達は何か暗い表情だったんだが、何か理由があるのか?」

 

 

「ああ…、それなんだが、あの女は"とんでもない魔法"を使っていてね…。その様子だと、"アレ"をまだ見ていないんだね。僕に付いてきてくれ」

 

 

キョウヤはカズマ達を砦の外壁へ連れて行った。そしてカズマ達が見た光景は、外壁に幾つものクレーターが存在し、今にも崩れ落ちそうな外壁だった。

 

 

「おいおい…、これって…」

 

 

「そう、魔王軍幹部ウォルバクは『爆裂魔法』を使うんだ」

 

 

 



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第47話

 

 

「全員集合したな?…では作戦会議を始めたいと思う」

 

 

カズマの部屋にはめぐみんとゆんゆん、アスタにクリス、ダクネスにダスト、リーンにテイラー、そしてキョウヤがいた。

 

 

「あの…リア達は?」

 

 

「リア達アクセルハーツには騎士達の慰安と言う事で簡易的なライブを開いてもらっている」

 

 

めぐみんの質問にカズマが答える。その証拠に耳を澄ませると、確かに軽快な音楽が流れていた。

 

 

「カズマ、先程ここの司令官と会ってな。魔王軍幹部を何度も撃退していると話したら、私達に指揮権を預けたいと言われたのだが…」

 

 

「…予想していた範疇だな。実は俺達も報告がある。先程キョウヤと一緒に砦の外壁を見たんだが、爆裂魔法を撃たれてクレーターだらけになっていたんだ」

 

 

『な…っ!?』

 

 

カズマの報告に現場を見ていないメンバーが驚き、キョウヤを見ると、キョウヤは肯定するかのように頷いた。

 

 

「カズマ君の言ってる事は間違い無いよ」

 

 

「……なあカズマ、ダクネスの防御力なら耐えられるんじゃねえのか?」

 

 

「それは私達も思ったわよ?ダクネスの防御力に私とシエロの支援魔法の重ね掛けを検討したけど、無理だと判明したわ。あのクレーターの具合を見る限り、威力や魔力の練り方はめぐみんよりも上よ」

 

 

「それにダクネスの鎧はドラゴンゾンビ襲撃の時に壊されているからな」

 

 

ダストの提案はカズマ達も考えてはいたが、ウォルバクの爆裂魔法の方が上と判断され、却下となった。

 

 

ズドオオン……

 

 

そこに爆音が響き渡った。

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

「敵襲だーっ!ウォルバクが攻めて来たぞーっ!」

 

 

「何だって!?俺達も行くぞ!」

 

 

カズマは全員を引き連れて襲撃があった場所へと向かった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「こりゃひでえ…、崩壊寸前じゃねえか…」

 

 

カズマは爆裂魔法の跡を見て愕然としていた。

 

 

「カズマ君」

 

 

「キョウヤ、どうだった?」

 

 

「…ダメだったよ、ウォルバクはもう逃げた後だった。ウォルバクは爆裂魔法を放った後、テレポートで引くから捕まえる事ができない。かと言って魔王軍は精鋭部隊を送りこんでいる上に陣地は森の中。相手が得意な地形にモンスターが蔓延っている。…僕達が苦戦している理由がそれさ」

 

 

キョウヤは近くにいた騎士の一人に状況を聞いた後、カズマに報告した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

カズマが部屋に戻り、作戦を考えている中…。

 

 

「カズマ、私にチャンスをもらえませんか?」

 

 

めぐみんがカズマに声を掛けた。

 

 

「私がウォルバクに爆裂魔法を撃ち込む事ができれば…」

 

 

「…その作戦は一人じゃできない。敵感知と千里眼、潜伏スキルを持ってる俺が同行する。それで良いな?」

 

 

「……はい!」

 

 

カズマが作戦を練り上げた翌日、カズマはめぐみんと索敵補佐にクリス、テレポート要因のゆんゆん、支援担当のアスタを連れて偵察に出た。

 

 

「(あんな近くにまで魔王軍が接近しているのか…。モンスターの影は見えないが、数が多いのは分かる)」

 

 

「カズマ~、どうでしたか?」

 

 

「よ…っと。キョウヤの言うとおり、魔王軍の陣地があった。それも予想より数が多かった」

 

 

木の上から千里眼を使って監視していたカズマは、下にいるめぐみんに呼ばれ木から飛び降り、見た光景を話した。

 

 

「とりあえず、俺はめぐみんと一緒に潜伏スキルを使って隠れる。クリスは近くで敵感知を使って反応があったら教えてくれ。アスタはゆんゆんと一緒に行動を。もし戦闘になったら俺とクリスとゆんゆんの三人で時間を稼ぐ、それでいきたいんだが良いか?」

 

 

カズマの作戦に全員が頷いたのを確認したカズマは、めぐみんとクリスを連れて砦近くの茂みに隠れ、スキルを発動させた。

 

 

「さあ…、どこからでも来るがいい…」

 

 

カズマが一言呟いたその時、マントで身を隠し、フードを目深まで被った人物が現れた。

 

 

「あいつか…。…さあ、爆裂魔法を撃つ準備をするがいい。その間にめぐみんの爆裂魔法が火を吹く事になるぜ…」

 

 

その人物は砦に近づく中、急に立ち止まると、カズマ達の方へ視線を向けた。

 

 

「なんだ…?まるでこっちを見ているかのような…?…まさか、気づかれた!?」

 

 

カズマは気づかれた事に気づき、めぐみん達と一緒に茂みから出た。

 

 

「………」

 

 

フードを被った人物はカズマ達…特にめぐみんを凝視していた。

 

 

「なんだ…?こっちを…特にめぐみんをずっと見ている感じだが…?」

 

 

「……まさか、こんな所で会うなんてね」

 

 

フードを被った人物は、目深に被ったフードを取り払うと、頭から生えた立派な角が見え、マントからは女性特有の豊満なボディが見えた。

 

 

「私はウォルバク、魔王軍幹部の一人にして怠惰と暴虐を司る女神、ウォルバクよ」

 

 

ウォルバクは自己紹介をするが、それをちゃんと聞いていたのはカズマだけだった。めぐみんとゆんゆんはウォルバクを見て呆然としており、アスタとクリスは震えていた。

 

 

「…おね「「ウォルバク"せんぱ~い"!!」」…ってええ!?」

 

 

めぐみんが何かを口にしようとした瞬間、アスタとクリスはウォルバクを"先輩"と言いながら詰め寄った。

 

 

「な…っ!?何だいアンタ達は!?」

 

 

「先輩、私です!あなたの後輩のアクアです!」

 

 

「同じく、エリスです!」

 

 

「アクア…?エリス…?…って、まさかあのアクアとエリス!?うそ、久しぶりじゃない!元気そうね!」

 

 

ウォルバクは詰め寄ったアスタとクリスに戸惑っていたが、アスタとクリスが自分の正体を口にすると、ウォルバクは目を輝かせながらアスタとクリスの手を握った。

 

 

「……えっと?」

 

 

「ああ、ごめんなさい。先輩との再会に嬉しくてつい…」

 

 

「紹介するね、あたしとお姉ちゃんの先輩のウォルバク先輩」

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「改めて私はウォルバク、魔王軍幹部の一人にして、怠惰と暴虐を司る女神、かつてアクアとエリスに女神の仕事を教えていた者よ」

 

 

「これはご丁寧にありがとうございます。俺はサトウカズマ、別の世界から来た転生者の一人です」

 

 

「サトウ…?」

 

 

カズマの名前を聞いたウォルバクは何やら聞き覚えがありそうな表情をした。

 

 

「あの…俺の名前がどうかしましたか?」

 

 

「いえ…お伽話に出てくる勇者の名前が『サトウ』だったからつい…」

 

 

「先輩、カズマがいた世界では『佐藤』って名前は一番多い名前なんですよ。多分同じ『佐藤』でも別人だと思いますよ。それはそうと先輩、何でこの世界で"邪神"なんて名乗っているのですか?」

 

 

「そうね…、どこから話せば良いかしら…?」

 

 

アスタの疑問にウォルバクは考えながら答え始めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

ウォルバク含む"神"の殆んどは"ご神体"として崇められ、そのご神体を中心に"宗教"が生まれ、その宗教に入信した信者の数によって"神格"を持つそうだ。

 

 

そしてウォルバクはアクアとエリスの二人に女神としての仕事を教える最中に自分の信者が一人もいなくなった事を知った。

 

 

ウォルバクはアクアとエリスにバレないようにエリスが管理する世界に降り立ったまでは良かった。だが不運な事に偶然そこにいたアクシズ教徒がウォルバクの事を『邪神』と言い出した。

 

 

ウォルバクの目の前は悪魔そっくりだった為、ウォルバクは誤解を解こうとしていたが、アクシズ教徒達は聞く耳持たず、石や魔法を放ち、ウォルバクを討とうとした。

 

 

そして命からがら逃げ延びたウォルバクの目の前に魔王が現れ、『我が軍の幹部になるのなら、我が部下を貴女の信者にしよう』と言われたそうだ。

 

 

背に腹は変えられないウォルバクはやむを得ず魔王の誘いに乗ったのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……これが私が邪神を、ひいては魔王軍幹部を名乗る理由よ」

 

 

ウォルバクの過去を聞いたカズマ達は誰しも言葉を発する事が出来なかった。

 

 

「……先輩」

 

 

「なに?」

 

 

「私の過去の信者達が先輩を苦しめた事、今更謝っても許されるとは思っていません。…ですが、謝らせて下さい。先輩、本当に申し訳ありませんでした」

 

 

アスタはウォルバクに土下座をしたのだった。

 

 

「……もういいわよ、貴女が悪いんじゃないんだから」

 

 

ウォルバクは哀しそうな表情をしながらアスタの頭を優しく撫でた。

 

 

「先輩…、先輩~っ!」

 

 

アスタはウォルバクに抱きつき、その胸の中で涙を流した。ウォルバクはアスタの頭をずっと優しく撫で続けるのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「落ち着いたかしら?」

 

 

「グスッ…先輩、ずびばぜん…」

 

 

数分後、ウォルバクから離れたアスタは目を充血させていた。

 

 

「…それでウォルバク先輩、これからどうするのですか?」

 

 

「そうね…、魔王軍幹部になるのと引き換えに信者を手に入れたけど、色々と疲れてしまったわ。いっそのこと誰かが私を滅ぼしてくれないかしら…?」

 

 

「……ちょっと良いですか?提案があるのですが…」

 

 

ウォルバクは空を見上げながら破滅願望を口にすると、カズマが挙手しながら全員の視線を集めた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「……と言う感じ何ですが、どうでしょう?」

 

 

「…アンタ、よくそんな事を思い付くわね。……でも、試してみる価値は有りそうね」

 

 

カズマの提案にウォルバクは呆気に取られながらも、その提案に乗り気だった。

 

 

「……いいわ、あなたの提案に乗りましょう!どうせこのまま待っても来るのは破滅だけ。ならば残りの人生を有意義に過ごさないと」

 

 

「ありがとうございます。…それで決行は何時に?」

 

 

「そうね…"準備"が整ったら"合図"を送るから、その時に」

 

 

カズマとウォルバクは提案の詳細を決め、お互い何もせずに帰って行った。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

一週間後…

 

 

ドゴオオオン…

 

 

「クソッ、一週間攻めて来ないと思った矢先に!」

 

 

「クリエイトアースとゴーレム生成できる奴連れて来い!」

 

 

砦の外壁に爆裂魔法が撃たれ、騎士達はてんやわんやになっていた。その中

 

 

「…来たな」

 

 

「…来たね」

 

 

「…来たわ」

 

 

カズマとクリスとアスタの三人だけは落ち着いていた。

 

 

「それじゃカズマ、私は外壁の補修に向かうわね」

 

 

「頼む」

 

 

アスタは外壁補修をする為、部屋を退室した。

 

 

「……さて、めぐみん、ゆんゆん。そろそろ出番だぜ?」

 

 

「はい!任せてください!」

 

 

「これもあの人の為…、やりましょう!」

 

 

カズマの言葉にめぐみんとゆんゆんはやる気を見せていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「あそこか、魔王軍の連中ウォルバクの魔法で勝利を確信しているのか、すっかり宴会ムードだな。めぐみん、どデカいのを一発喰らわせてやれ」

 

 

「分かりました。『エクスプロージョン』!」

 

 

《vib:1》ドオオオオ《/vib:1》

 

 

「なっ、何だああああ!?」

 

 

「敵襲だああーっ!!」

 

 

「っ!見ろあそこっ!あいつらだ、あいつらが魔法を…!」

 

 

「『テレポート』!」

 

 

カズマ達は魔王軍に見つかると同時にテレポートでその場を離脱、無論襲撃された魔王軍は仕返しとばかりに砦へ進撃をするが、そこは"魔剣"と"音撃"、二人の勇者候補が率いる腕利きの冒険者の軍。魔王軍に勝ち目は無かった。

 

 

それからというもの、カズマ、めぐみん、ゆんゆんの三人は毎日魔王軍の陣地に爆裂魔法を撃ってはテレポートで離脱すると言う事を繰り返し、

 

 

時には夜に、時には食糧庫が被害にあったり、

 

 

時にはリザードンに乗ったダストが導火線に火が着いたダイナマイトをばら蒔いたり。

 

 

途中からはめぐみんのレベルが面白い様に上がり、狂気に狂ったような笑いをしたりと、魔王軍の心を完膚なきまでへし折った。

 

 

そして…

 

 

『降参します!命だけは助けてください!!』

 

 

魔王軍はカズマ達の姿を見るや土下座をし命乞いをした。

 

 

だが…

 

 

「……『エクスプロージョン』!!」

 

 

めぐみんは躊躇無く爆裂魔法を撃ったのだった。

 

 

その後もめぐみんの容赦ない爆撃は続き、何時しか魔王軍の陣地はクレーターだらけになっていた。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「さて…、打ち合わせ通りだとそろそろのはずだけど…」

 

 

「おい、ウォルバクだ!ウォルバクが来たぞ!」

 

 

冒険者の一人が窓の外を見ていると、ウォルバクが近づいているのを見つけた。

 

 

「来たか!めぐみん、準備はいいな?」

 

 

「はい!」

 

 

カズマはめぐみんに質問すると、めぐみんは力強く返事をした。そしてお互い頷き合うと、ウォルバクの元へと向かった。

 

 

「ようウォルバク、随分と遅い報復だな?」

 

 

 

「………」

 

 

カズマとめぐみんがウォルバクの前に現れ、カズマがウォルバクを挑発する。が、ウォルバクは何も言わなかった。

 

 

「黙りか…(…どうやら、必要以上の発言をさせないようにしているみたいだな)」

 

 

カズマはウォルバクを監視していると、ウォルバクは爆裂魔法を撃つ姿勢を取った。

 

 

「…無駄です、既にあなたの敗北は決まっています。『エクスプロージョン』!!」

 

 

めぐみんは"無詠唱"で爆裂魔法を放ち、ウォルバクを消滅させたのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

魔王軍幹部ウォルバクを討伐した事で、砦は飲めや歌えやの宴会騒ぎとなった。リア達アクセルハーツのライブも相まって冒険者達は日々の疲れを発散するかのように騒いだ。

 

 

そして一夜明け、カズマはめぐみん達を引き連れて砦を後にし、以前利用した宿泊施設に泊まっていた。

 

 

「ふう~」

 

 

カズマは一人湯船に浸かっていた。

 

 

「失礼するわね」

 

 

するとそこに"見知った顔"の女性がタオル一枚の姿で湯船に入り、カズマの横に座った。

 

 

「どうでしたか?」

 

 

「…流石としか言い様が無いわね。おかげで気分が楽になったわ」

 

 

「それは良かったですよ…"ウォルバク"さん」

 

 

そう、湯船に入って来たのは他ならぬウォルバクだった。

 

 

何故彼女が爆裂魔法を喰らっても平気だったのか?その理由はカズマ達がウォルバクと初めて会った時まで遡る。

 

 

カズマがウォルバクに提案したのは『ウォルバクの身代わり』だった。

 

 

ウォルバクの"魔王軍幹部"と言った肩書き等を身代わりに移す事で、ウォルバクを討伐したように見せ掛けたのだった。

 

 

ウォルバクはその提案を受け入れた後、一度魔王城に戻り、城の宝物庫から『魔力人形』と呼ばれる物を持ち出した。

 

 

『魔力人形』は、身代わり人形の一種で、身代わりにしたい人物の血や髪の毛等を媒体にして、魔力を注入し術式を構成する事で動く人形である。

 

 

ウォルバクはその人形に術式を施し、魔王軍幹部の肩書きを移し、自分の変わりに消滅させたのだった。

 

 

「近くで見させてもらったけど、あの子随分と爆裂魔法の扱いが上手くなったわね」

 

 

「昔救われた貴女に、自分の爆裂魔法を見せたいと言っていましたからね」

 

 

「ふふっ…」

 

 

ウォルバクはお湯を手で掬い、顔に掛けた。

 

 

「…それで、私はこれからどうすれば良いのかしら?」

 

 

「紅魔族の里にある神社でご神体になって欲しいんです。紅魔族の連中は働いている者はいますが、大体がニートですし、戦いになれば容赦無く魔法をぶっ放しますから」

 

 

「"怠惰"と"暴虐"を司る私にとってうってつけって訳ね…。良いわよ」

 

 

ウォルバクは紅魔族のご神体になる事を承諾したのだった。

 

 

「それで…、あなたにお礼がしたいのだけど」

 

 

「お礼なんて結構ですよ。俺はあいつらの想いに答えただけですから」

 

 

「それじゃ私の気が済まないのよ。…ねえ、ちょっとこっちを向いて?」

 

 

「えっ?一体何を…むぐっ」

 

 

ウォルバクは体に巻いたタオルを取りながらカズマとキスをした。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「ふふっ、凄かったわ」

 

 

「そ…そりゃどうも…」

 

 

カズマはウォルバクと一線を越えた後、ぐったりとしていた。

 

 

「あの…何でこんな事を?」

 

 

「言ったでしょ?"お礼"だって。それに…私があなたとしたかったから…かしらね?」

 

 

ウォルバクはカズマにウインクをした。

 

 

「私を救ってくれてありがとう。…大好きよ、チュッ」

 

 

ウォルバクは最後にカズマに口づけをして脱衣所に向かった。カズマはその後起こり得る出来事に悩みながら湯船に身を沈めたのだった。

 

 



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第48話

 

 

「え〜、紹介します。新しく仲間になった…」

 

 

「怠惰と暴虐を司る女神、ウォルバクよ。よろしく」

 

 

カズマがウォルバクと肌を重ねた翌日の朝食後、カズマはウォルバクをメンバー全員に紹介した。その中にはキョウヤもいた。

 

 

「…ねえカズマさん、私…頭の整理が追いついてないんですけど…」

 

 

「だよな…。俺も皆と会う前、唐突に言われたから…」

 

 

事の発端は数十分前、皆の朝食を準備していたカズマにウォルバクが『私、あなたの仲間になるから』と言われたのが原因である。

 

 

「とりあえず、今日の予定を伝える。めぐみんとゆんゆん、ピカチュウは俺とウォルバクさんと一緒に"紅魔の里"に向かって"用事"を済ませる。その後はテレポートでアクセルに帰る。残りは一度王都に向かい、フィオとクレメアを回収。その後商隊と一緒にアクセルへ帰還。…これで良いか?」

 

 

カズマの予定に異議を唱える者はいなかった。

 

 

「それじゃ、この予定で行動するぞ」

 

 

この日の予定が決まったカズマ達は、食器を片す為に動くのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「…よし、到着したな」

 

 

予定を決めてから数分後、カズマとピカチュウ、めぐみんとゆんゆん、そしてウォルバクはゆんゆんのテレポートで紅魔の里に到着していた。

 

 

「それでカズマ、ウォルバクさんを私達紅魔族の神にすると言っていましたが、どうするのですか?」

 

 

「まずは里にある"神社"に行こう」

 

 

「でしたらこっちですね!」

 

 

カズマ達はゆんゆんの案内の元、紅魔の里にある神社に向かった。

 

 

「…ねえカズマ、"これ"がご神体?」

 

 

「疑う気持ちは分かりますが、その通りです」

 

 

ウォルバクはご神体である"ネコミミスク水少女"のフィギュアを見て茫然としていた。

 

 

「ウォルバクさん、お願いします」

 

 

ウォルバクはご神体であるフィギュアに手を翳し、自身の力を少しだけ注ぐ。するとフィギュアが淡い光を放ったと思いきや、その光はすぐに消えた。

 

 

「これでいいわ」

 

 

「ありがとうござい…ます……」

 

 

「…?どうしたの?」

 

 

カズマは自分の頭を指差す。そしてウォルバクは自分の手を頭に持っていくと

 

 

「…え?」

 

 

触れた感触に違和感を感じた。まるで"猫の耳がそこにある"かのような。

 

 

「ねえ2人共、私の頭…どうなってるか、分かる?」

 

 

「えっと…、ネコミミみたいな物が…」

 

 

「はい、"生えています"」

 

 

ウォルバクは自分の頭がどうなってるかをめぐみんとゆんゆんの2人に質問すると、2人ははっきりと答えた。期待していた答えでは無かった事にウォルバクは膝を折り、地面に手を着いた。

 

 

「…ま、まあ悪魔みたいな角よりかは可愛らしくて良いんじゃないですか?」

 

 

「そ…そうよね!」

 

 

カズマの言葉にウォルバクはガバッと起き上がった。

 

 

「それでカズマ、これからどうしますか?里の皆にウォルバクさんを紹介しますか?」

 

 

「…そうだな、一度顔合わせをしておくか」

 

 

めぐみんの提案でウォルバクを紅魔族全員に紹介する事になった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「族長、皆を呼び寄せて一体何をするんですか?」

 

 

カズマ達はウォルバクを紅魔族全員に紹介するべく、一度ゆんゆんの父親であるひろぽんに話を通し、族長命令で全員を広場に集めてもらったのである。

 

 

「うむ…。実は我々紅魔族に新たな神が降臨されたのだ」

 

 

ひろぽんの説明に全員がざわつき始めた。

 

 

「静粛に!…ではお願いします」

 

 

「…我が名はウォルバク!"元"魔王軍幹部の一人にして怠惰と暴虐を司る女神である者!紅魔族を見守る神となった者!」

 

 

ひろぽんの後ろに控えていたウォルバクは一歩前に踏み出すと、マントを翻しながら紅魔族特有の名乗りを上げた。

 

 

「ウォルバクって、確か里に封印されていた邪神…!」

 

 

「皆が心配する気持ちは分かる。…だが、彼女は邪神では無い。その証拠にめぐみんのカードにある討伐欄にウォルバクの名があった」

 

 

ひろぽんの説明にまたもや全員がざわついた。

 

 

「あなた達が不安がるのは仕方ないわ、この里に封印されていた邪神と同じ名前なんですもの。…でも、私は皆に誓うわ。私はあなた達を導くと!その証拠を今見せましょう!」

 

 

ウォルバクはそう言うと、めぐみんに向けて手を翳した。するとめぐみんの体が淡く光り始めた。

 

 

「今彼女に私の力の一部を与えたわ。彼女は私から爆裂魔法を教わり、"ネタ魔法"と罵られながらもその魔法を極め、遂には私をも超える爆裂魔法使いとなった!この恩恵は我が愛弟子への褒美であり、爆裂魔法使いの免許皆伝とする!」

 

 

ウォルバクはめぐみんにウィンクをすると、めぐみんは微笑みを返したのだった。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

それから、カズマ達はめぐみんの実家で一夜を明かし、ゆんゆんのテレポートでアクセルへと戻ったのだった。

 

 

「いや〜、上手く行って良かった良かった」

 

 

「ですね。もし受け入れてもらえなかったら、里の皆に爆裂魔法を喰らわせていましたよ」

 

 

「不吉な事言わないでよめぐみん!」

 

 

「不吉も何も私の"師匠"を馬鹿にする者は誰であろうと許しはしません」

 

 

「めぐみん…」

 

 

めぐみんの言葉が嬉しかったのか、ウォルバクは1筋の涙を流していた。

 

 

「それでカズマ、師匠はこれからどうするのですか?」

 

 

「そうだな…、紅魔の里で冒険者登録は済ませているし…」

 

 

そう、ウォルバクは紅魔の里にある学校『レッドプリズン』で冒険者登録をし、その多大な魔力から職業をアークウィザードにしていた。

 

 

「……そうだ!あそこなら!」

 

 

カズマは妙案が思いついたのか、ウォルバク達を連れて"ある場所"へ向かった。

 

 

「ここだ」

 

 

「ここって…」

 

 

「そう、『ウィズ魔法具店』だ。こんちは〜」

 

 

カズマはウォルバク達をウィズ魔法具店に連れて来ると、その扉を開けたのだった。

 

 

「いらっしゃいませ!」

 

 

「へいらっしゃい!…なんだここ最近恋人との一夜を明かせずに悶々としている爆裂娘に爆裂娘以外友がいない紅魔の娘に他の女と肌を重ねたカズマではないか」

 

 

「おいバニル!悪感情を得る為とは言え、秘密を暴露するんじゃねえ!!」

 

 

カズマは顔を紅くしながらバニルに詰寄ろうとしたが、彼の手を掴む者がいた。

 

 

「カズマ…、バニルが言っていた事は本当ですか?…いえ、バニルが言うのなら本当なのでしょう。誰なのですか肌を重ねた相手というのは?」

 

 

カズマが振り向いたその先には、ハイライトが消え、今以上に紅い光を宿した目をしためぐみんがいた。

 

 

「フハハッ!憎しみによる悪感情は美味であるが、羞恥心による悪感情もこれまた美味である!」

 

 

「相変わらずゲスいわねバニル」

 

 

「おお、誰かと思えばカズマと肌を重ね、カズマの子を孕もうと企んでいるウォルバクではないか!久しいな」

 

 

バニルがウォルバクの恥ずかしい過去を口にした瞬間、ウォルバクの顔が紅くなった。

 

 

「そうですか…、肌を重ねたのは師匠でしたか。…これはクリスと一緒にO☆HA☆NA☆SHIしないといけませんね…」

 

 

「めぐみん…、顔…怖いよ…」

 

 

めぐみんの能面のような表情にゆんゆんは涙を流しながら震えていた。

 

 

「ふむ…、悪感情を得るのはここまでにして、我輩の全てを見通す眼で既に知っているが敢えて聞こう。この店に来た理由は何だ?」

 

 

「最初から聞いてくれよ…。実はウォルバクさんをこの店で働かせて欲しいんだ」

 

 

バニルの質問にカズマは答え、その理由を順を追って説明した。

 

 

 

 

……

 

 

………

 

 

「なるほど…。うむ、なら我輩が認めよう」

 

 

「こっちからお願いしといてなんだが、良いのか?」

 

 

「構わん。それにポンコツ店主も乗り気の様だしな」

 

 

バニルが向けた視線の先には、ウィズとウォルバク、めぐみんとゆんゆんの4人による女子会が開かれていた。

 

 

「……まあ、ウィズが良いならそれで良いけどな。…それと済まないが、もしウォルバクさんの力が必要な時には一声掛けるから、その時には…」

 

 

「うむ、遠慮なく連れて行くが良い。我輩が許可する」

 

 

こうしてウォルバクはウィズ魔法具店の売り子として働く事になった。因みにウォルバクが売り子になってから『スタイル抜群のネコミミエプロン姿のお姉さん』と言う口コミが発端となり、ウォルバクの姿を一目見ようと冒険者達が押し寄せ、これを好機と見たバニルが次々に商品を売り捌き、ウィズの店の売り上げが大幅に上がった。

 

 

 



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