異世界イズク (規律式足)
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1話 始まりはグランバハマルへ。

 
 


 

 その日は激動の一日だった。

 朝の通学途中に人気急上昇中の若手実力派ヒーロー シンリンカムイの活躍を本日デビューの新人ヒーローに奪われる光景を見て。

 中学三年に上がり本格的に将来を考える時に担任から雄英高校志望を暴露され、目立ちたがりかつ実力もある幼馴染含むクラスメート達に無個性をネタで弄られ(というか止めない担任の存在意義)。

 放課後にみみっちい箔をつけたがる幼馴染にノート爆破及び自殺教唆をされ。

 帰り道にて無個性と診断された時のトラウマを思い出していた所をヘドロヴィランに取り憑かれかけ。

 憧れのナンバー1ヒーロー 平和の象徴オールマイトに助けられサインを貰い家宝にしようとして。

 どうしても聞きたいことがあったので強引にしがみつき、ビルの屋上にて個性のない自分がヒーローになれるか尋ね、オールマイトの秘密を知ってしまった。

 そして思いしらされた現実。

 命懸けのヒーローの重みは憧れだけでは到底たりないということ。夢の、否定。

 現実に呑まれ、無力を嘆き、目を逸らし生きる。そんな思考を吹き飛ばす事件は自らが原因だった。

 自分のせいだと分かっていても助けてくれる誰かを期待する浅ましさ。だからヒーローに成れないのだと本当の意味で理解したその時。

 ヘドロヴィランに呑まれる彼の顔を見たんだ。

 走り出した僕が何かできたとは言えない。

 助けたのは限界を超えたオールマイトだ。

 そして、

 不仲な幼馴染を無個性なのに助けようとして、ヒーロー達からものすごく怒られた。

 当然のことだと僕は納得した。

 事件解決後に帰路に着いたらタフネス溢れる幼馴染が捨て台詞を叫んで、それを聞いてさあ身の丈に合った将来設計を描こうとしたところで、

 その光景が目に入ってしまった。

 風で飛んだ帽子を追いかけて道路に飛び出す少年と、少年に迫りくるトラック。

 その時僕は再び、考えるより先に体が動いていた。

 僕は走り出し、少年をトラックに当たらないように突き飛ばした。

 その日僕がこの世界で最後に見たのは、呆気に取られた表情で口を開けた少年の顔だった。

 続いてぶつかるトラック。

 その衝撃は思いの外軽かったように感じた。

 きっと痛みを通り越した衝撃が軽いと誤認させたのだろう。

 コマ送りのように静かな世界が途切れ途切れに巡っていく。

 ドシャリと軽く宙を舞った後に僕が道路に落ちた音を、本当に自分の耳がとらえたのかどうかは正確には分からない。

 ここまできてようやく、まぶたを閉じるように薄れゆく意識。

 その最後に誰かが僕を呼ぶ声が聞こえたような気がした。こちらに引き留めようと必死に伸ばした手のようなそんな声が。

 そうして僕はこっちの世界ニホンバハマルで半年の眠りにつき(意識不明の重体)、異世界グランバハマルで半年間過ごすことになった。

 ただそんな日々でセガを何よりも愛する異世界おじさんと出会わなければ、半年で帰還なんて絶対に無理だったんだろうなと思う。

 おじさんは十七年間過ごしたって言ってたし。

 帰還もおじさんに便乗したような形だったし。

 

「架空」は「現実」になる(異世界ファンタジーも)、これは僕が(異世界グランバハマルにて半年間過ごした後)最高のヒーローになるまでの物語だ。

 



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2話 目覚めと絶望?

 

 幼馴染である緑谷出久が道路に飛び出した子供を庇いトラックにはねられて意識不明の昏睡状態になって半年がたった。

 ヘドロヴィランに遭遇直後に起きたその悲劇に、間違いなくその日運勢最悪だったろコイツと思う。

 だが事態はそれだけでは済まなかった。

 なんとか罪を軽くしたいトラック運転手の悪あがきが出久を調べることになり、無個性であることまで辿り着いてしまった。

 しめたと思ったのは向こうだろう。

 今日日無個性の自殺なんて珍しくもない。

 自身の過失ではなく出久の自殺に持っていきたい向こうの思惑もあって、その日の出来事、中学校での日常、ヘドロヴィラン騒動が大々的に暴露されてしまった。

 結果大惨事。

 中学校での俺が主なイジメは事実だったため中学校は世間から大批判、ヘドロヴィランでのヒーロー達の行動は問題ありと大指摘、クラスメートを助けようとした少年をどの面下げて説教してんだと取り上げられた。

 これなら自殺してもおかしくないと世間が認識したところで、助けられた少年であるプロヒーローウォーターホースの息子の洸汰君とその場にいたオールマイトが名乗りでて事態は沈静化した。

 とはいえ事実は事実なため、教育機関とヒーローには監査が入ることになったが。

 学校側から緑谷ご夫妻には謝罪があったが、息子は自殺ではないからとそれを拒否。両親と共に謝罪しに行った俺も同じ理由で断られた。

 ただ出久は俺をヒーローとして憧れていてイジメられてるなんて言ってないという言葉は胸に突き刺さった。

 だから、

 野望は変わらない。

 けど襟は正そうと、そう思ったんだ。

 もう受験に間に合わねえぞと見舞いついでに文句を言おうと心に決めて、すれ違ったウォーターホース一家にすれ違いざまに会釈してから幼馴染の病室に入った。

 

 そこでは、

 幼馴染である緑谷出久が目を覚ましていた。

 

「イレルラーズ『グランバハマル』トナ

 ガルトエバ リレクス」

 

 頭がおかしくなって。

 

「あ、うんあのさ」

 

 いや俺のせいかこれ、来世にワンチャンダイブとか言っちまったし。

 

「日本語。

 ってこれじゃあ、異世界『グランバハマル』に17年いたがようやく帰って来たぞ。になっちゃうね、おじさんじゃないんだから。やっぱり半年じゃ身につかないよね異世界語」

 

 ハハハハハ!!と笑う幼馴染の姿にナースコールすら忘れて打ちひしがれる。

 目を逸らすな、眼の前の人間を壊したのは俺なのだから。自分の罪を受け入れるんだ。

 

「えっとそれでさ、かっちゃん」

 

「なんだ?」

 

 どんな罵倒も受け入れよう。

 それだけのことを俺はしたんだ。

 

「僕が助けようとした子供は大丈夫だった?無事助かって家族と過ごせてる?」

 

 その言葉に、変わらぬコイツらしさにどこか救われる自分がいた。

 

「ついさっきまで見舞いに来てたよ。父親のウォーターホースが連れてな」

 

「マジでっ!タイミング逃したっ!というかウォーターホースの子供だったんだ!サイン貰えるかな?」

 

 ここも変わらねえのかよ。

 まあ安心するがな。

 あとトラックにひかれたショックで頭がおかしくなった状態を見られなかったからむしろタイミングはピッタリだよ。

 

「とりあえずご両親に連絡は病院からいってるだろうから俺は帰るわ。半年ぶりの再会を喜んどけ」

 

「そうだね、異世界グランバハマルでおじさんに助けてもらえなかったら二度と会えなかったしね」

 

 うん、頭のリハビリには付き合ってやろう。

 確かこういった場合は否定が一番やっちゃいけない行為なんだよな。

 

「ところでかっちゃん?」

 

「どうした?出久」

 

「ゲームハード戦争どうなった?」

 

「何言ってんだお前?そもそもヒーローの追っかけに夢中でろくにゲームなんてしなかったろ」

 

「いやそんな昔(半年)のことはどうでも良いから教えてよ」

 

「国内だとソ○ーと任○堂が二強だろ」

 

「SE○Aは?」

 

「やっぱり頭おかしくなってないか?半年だぞ」

 

「SE○Aは?」

 

「何年前の話だ、とっくに撤退してるだろ」

 

 とそこまで言った所でようやく出久は正気に戻ったのかゲームの話を打ち切る。

 

「ごめん、半年間一緒にいたおじさんに影響受けてたせいだ。聞くべきは普通ヒーロービルボードチャートの方だよね」

 

 だからその脳内のおじさんは誰なんだ。

 

「そっちも昏睡状態起きのヤツが聞くことじゃねーよ。そして半年で劇的に変わるか。ウイングヒーローホークスが順位上げたくらいだ」

 

「やっぱりー、あのヒーロー上がると思ってたんだー」

 

 まあ頭おかしくなって異世界云々言い出すよりはマシだよな。

 小走り気味なナースの気配を感じて退室するが、出久は外を見ながらポツリと、

 

「おじさんも目覚めたかな。きっと家族と感動の再会とかしてるよね。十七年だし」

 

 そう呟いていた。

 

 

 

 

 なお件のおじさんの方であるが、昏睡状態のおじさんの処遇をめぐって家族で言ってはいけないことをボロクソ言い合った挙句一家離散。

 さらに伝言を押し付けられた甥っ子からも切り捨てられそうになるも、決死の異世界証明のための魔法によりなんとか首の皮一枚繋がった模様。

 現実は非情である。

 

 その異世界生活並に酷い現実を緑谷出久が知るのは、まだ先のことである。

 

 

 



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3話 変わった世界と投げ出そうとする夢。

 

 半年間の異世界グランバハマルの生活を終えてから数日がたった。

 かっちゃんが(引きつった顔で)病室から去った後に駆け込んできたナースに簡単な検査を受け、母と半年ぶりに再会。

 泣きながら抱きしめる母の胸の中で、ああ帰ってきたんだと実感した。

 あの過酷な異世界生活。このまま死んでしまう、帰れないのではないかと何度絶望しただろうか。

 けどセ○サターンソフト読者レースの最終結果を見るまで死ねない(超どうでもいい)と強く想うおじさんが横にいたから諦めずに生きていけたんだと思う。

 なお件のおじさんはそう遠くない未来で「ガーディアンヒー○ーズ」が1位ではない現実に絶望し異常気象を起こす模様。

 あと数日は検査と、僕がトラックに轢かれたことによって起きた騒動の件で入院するらしい。

 騒動か、ヘドロヴィランのことかな?

 あるいは交通事故の話かもしれない。

 だがそんなレベルではすまない事態が起きていた。

 

 翌日の検査の後に警察から聞かれた質問は交通事故について、僕が自殺目的で道路に飛び出したのでないかという話だった。

 なんでも無個性だから学校で苛められ、ヘドロヴィランの事件でも無個性だからと過剰に責められたことが原因だと世間は思っていたらしい。

 僕としては報道されている事に驚いたけど。

 だが自殺のために道路に飛び込んだなんてそんな事実はない。

 僕はその瞬間何も考えてなんかいなかった。ただ子供を助けようとしたんだ、と告げた。

 その言葉に嘘はなく、誰かに強制されてないと判断されてこの件は終わった。

 口答だけで納得されたのだからきっとその場に嘘発見器みたいな個性の人がいたのではないかと思う。

 警察とのやり取りが終了したら、今度はヘドロヴィランの騒動に参加したヒーロー達が面会しにきた。

 僕の疑惑で評判を下げた話かと思ったけど、来たヒーロー全てがすぐ近くの交通事故を防げなかった不甲斐なさを謝罪してきた。

 面会が終わった後、彼らがヘドロヴィランの件で説教したことを謝られなくて良かったと個人的には思う、謝ってきたらそれは保身のために感じるからだ。少なくとも僕はあの時の彼らからの説教を間違いだと思っていないのだから。

 

「明日から学校か」

 

 警察やらヒーローの反応を見る限り学校でもなんかありそうだなと想像できる。

 塚内という警官がこっそり打ち明けてくれたことだが、ヒーロー公安委員会が僕の件に便乗して差別問題の撲滅に動いているらしい。無個性、異形個性、ヴィランっぽい個性、それらの漠然としたイメージによる迫害がヴィラン発生の根源である(あとは貧困)。さらに人間性を育み、社会性を学ぶ教育機関で受けた仕打ちこそがその後の人生に大きな影響を与える。

 今までは他所の管轄だからと手を出せなかったが、僕の件で強引に介入して改革に動いているらしい。

 うん、正直途中から話が大き過ぎてついていけませんでした。

 学校やクラスメートはどうなっているやら、かっちゃんの変わりぶりを思い出すと恐怖すら感じるよ。

 

 

 

 屋上にて空を見上げる、秋空の下はやや寒い。

 けどなんか今高速で通り過ぎたような?ヒーローかな。

 

「予想してたけど存在が腫れ物扱いだったよ、かっちゃん」

 

「あれから咎められたり罰則こそねえが、半年間毎日倫理教育が追加であったからな」

 

「それはもう洗脳では?」

 

 折寺中学校復帰初日。

 まず校長室にて説明と教師一同からの謝罪、そして身を挺して子供を助けたことを讃えられた。

 その後授業だったけど、うんクラスメートの反応が今までと違う。昔のような嘲る態度を取る者はいなくなっていた。

 反面ずっと意識を向けられていて、こちらの行動全てに注目されてるような感じはしんどかった。 

 別にいじめられたとか騒ぐ気ないのに。  

 

「いや、それはお前が変わりすぎて気になったんだろ。半年間寝たきりだったんだよな?」

 

 そんなに変わったかな?もやしな肉体が寝たきり生活で悪化したと思ってたら、いつの間にかグランバハマルで過ごした肉体になってたけど。

  

「異世界グランバハマルで隠しダンジョン巡り(強制)してたからかな」

 

「あ、うん。それは大変だったな」

 

「本当だよ。突然の帰還イベント発動タイミングに居ないとまずいからとおじさんとずっと一緒だったからね。こっちはレベル1の雑魚なのに」

 

 おじさんは人が良く、こちらを気にかけてはくれたけど容赦もない人だった。

 自分ができたから僕もできるだろ認識だったみたいだし。

 

「すまん、ちょくちょくゲーム用語で語られるから信憑性が薄れるんだ。意味は伝わるから普通に言ってくれ」

 

「おじさんが何事もゲームで語る人だったから影響受けたなあ」

 

「大丈夫かその恩人」

 

「ヒーローじゃなくてセ○に夢中になった僕みたいな人だからね」

 

「ダメ人間じゃねーか」

 

「ん?今おじさんがソファー担いで空飛んでたような」

 

 答、おじさんが送料無料で落札する能力を覚えたからです。

 

「病院には付き合うから辛かったら言えよ」

 

 むしろ性格が豹変してる君が心配だよかっちゃん。

 

「授業にもついていけるし、受験は大丈夫かな」

 

 持ってた鞄ごと転移して良かった。

 

「そこは皆驚いていたぞ」

 

「向こうだと娯楽なんて、食事か、おじさんのエグい過去と、おじさんの修羅場と、おじさんの女性関係のアレコレと勉強くらいだったからね」

 

 おかげでずいぶんと勉強に集中できたよ。

 

「雄英高校を受験するのか?」

 

「今はちょっと悩んでいる」

 

 ヒーローは好きだ。

 でも今は、自分が成ろうとすることに違和感を持ってしまっている。

 おかしい話だよね、半年前より力を得て強くなったのに。

 個性があればこうしようとあれだけ妄想していたのに、いざできるとなると戸惑いが拭えない。

 

「そうか」

 

 ギチリッと音が鳴る程に歯を食いしばったかっちゃんがなにかを堪えるように言う。

 

「俺は成るぞ、オールマイトをも超えるトップヒーローにな」

 

 だから雄英高校に行くのだと。

 

「もう雄英受けるななんて言わねえ。好きな道選んで、成りたきゃヒーローに成っちまえ」

 

 そう言って屋上から出ていった。

 本当に変わったんだね、かっちゃん。

 

 

 

 

 夜中、市営多古場海浜公園。

 海流的なアレで漂流物が多く、そこにつけ込んだ不法投棄だらけのここは人も寄り付かないから身体を動かすにはうってつけだ。

 ましてや、

 

「光剣顕現(キライドルギド リオルラン)」

 

(あ、やっぱり魔法使える。感覚的にイケそうだったし)

 

 異世界転移後の能力確認とか、誰かに観られたくないことをするにはうってつけだ。

 

(身体能力強化も合わせがけしてと、こっちは戦士系のスキルだからおじさんは出来なかったけど)

 

 肉体を動かした瞬間浜辺を埋め尽くす粗大ゴミの山が宙を舞う。そして空中のゴミに光剣を振るい粉微塵になるまで切り刻む。

 

(現代素材も関係ないか、魔法が通じないとかもないようだ)

 

 確認したいことは確認できた。

 今の僕はこっちでも強い。

 でもだからこそ、

 

「ヒーローになるとか、悩むよね」

 

 叶わぬと諦めた夢に追いついた僕は、その入口に一歩踏み出すことを躊躇った。

 平穏の尊さを知った今、それを手放すことがあまりに惜しい。

 戦わなくて済む生活の素晴らしさに目が眩む。

 何よりも、僕がヒーローになることは歓迎なんてされていない。

 魔法とスキルが使えるようになっても僕は無個性のままなのだから。

 今回の件みたいに、そこにはいらぬ騒ぎがついてまわるだろう。

 それはちょっとうんざりだ。

 おじさんならどうするんだろう、今あの人はどう暮らしているんだろう。

 ヒーローに成りたかった。

 けど打算無く、何も考えず、とりあえずで人助けするおじさんを見てしまった。

 何の為にが存在しない、思いつきのような善意の振るい手を。

 おじさんを思い出すとヒーローになるべきかわからなくなる。

 目標を見失いどうしたらいいのか分からない。

 誰か僕に道を示してくれ。

 

「探したよ緑谷少年」

 

 この声は。

 

「私が君に会いに来た!!」

 

 オールマイト。

 僕の憧れた平和の象徴。

 

「言いたいことはいくらでもある、君に提案したいこともある。けど最初にコレを言いたい、あの日君に伝えようとした言葉を」

 

 結局あの日僕は問題を起こしただけなのに。

 

「君はヒーローになれる」

  

 異世界で力を得る前の無力で無個性だったのに。

 

「これはあの日君に言えなかった言葉だ。

 だが今は、私が間に合わなかっただろう命を救った君にはこの言葉を贈りたい」

 

 それでもこの人は。

 

「君はもうヒーローだ」

 

 僕にそう言ってくれたんだ。

 

 



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4話 変わった世界とおじさん。


 この世界は異世界おじさんとクロスオーバーのため、そちらの話題も出たりします(時間とか西暦は適当)
 

 おじさんサイドです。


 

「ヒーローになって稼ぐのはどうです?」

 

 某市アパート。

 そこには中学生の頃に一家離散し異世界ファンタジーに救いを求める心病んだ青年と、セ○に人生を捧げる地上最強の異世界帰りのおじさん(職業は動画投稿者)が生息している。

 そんなある意味、いや普通に危険地帯に出入りしている現役大学生の眼鏡美少女である藤宮さんは、絶賛片思い中の青年と頭おかしいけど基本良い人なおじさんの将来を思って助言する。

 まあそこにはおじさん自立させて、タカフミ青年とルームシェア(同棲)という願望もあったりするが。

 

「「ヒーローかあ」」

 

 その彼女の提案におじさんは興味なさそうに、タカフミ青年は「初期投資が、いやエルフマネー」と少し考えてから返事をした。

 

「でもなー、俺って無個性だぞ?」

 

 人間としては個性的だが、生物としては無個性であるおじさん。

 異世界帰りの現世界最強生命体であるにも関わらず、その戦闘能力で世間に貢献することは一切していなかった。

 

「ご、ごめんなさい。失礼なこと言って」

 

「?」

 

「あ、おじさん。無個性とかって今はかなりデリケートな問題なんだよ」

 

 藤宮さんの謝罪の意味が分からず首を傾げるおじさんに説明する敬文。

 

「確かに無個性は俺の時も希少だったけど、クラスに2〜3人はいただろ?」

 

「昔はそんなにいたんだ」

 

「今じゃ学校に一人いるかどうかだよ」

 

「マジでっ!!随分減ったなあ」

 

 十七年という時間の流れた日本はことあるごとにおじさんを驚かせる。

 

「まあそんなわけだから、ヒーローになるってかなり厳しくない?出久君も頭良いのに諦めてたし」

 

((出久君?))

 

「でもおじさんならオールマイトにも勝てるんじゃないですか?」

 

「間違いなくエンデヴァーには勝てるね。魔炎竜よりは弱いだろうし」

 

 うんうんと敬文が頷くが、おじさんはとあるヒーローの名前に反応する。

 

「オールマイトォッ!!あの人まだヒーローやってたのっ!!俺が子供の頃にはもうヒーローやってただろっ!!」

 

 おじさんの驚きの叫びに、改めて平和の象徴の凄さを実感する。先日二十歳になった二人にとってオールマイトは空気のように居て当たり前の存在だ。生まれた時には既にナンバー1で平和の象徴だったのだから当然の認識ではあるが。

 だが本来そのヒーロー歴の長さだけでも驚愕に値する事実なのだ。

 恐らく彼を超える現役ヒーローなど片手で足りる程度の数だろう。

 

「こ○亀の連載終わったのにまだヒーローやってんだ、あの人」

 

「いやこ○亀と比べなくても」

 

「多分こ○亀の方がまだ長いけどね」

 

 なお、こ○亀の連載は40年である。

 ヒーローを志した学生期間を含めればあるいは超えるかもしれない年数である。

 

「そういえばこ○亀にオールマイト出た回とかもあったなあ」

 

「オールマイトよりキャラ濃いのばっかじゃん」

 

「両○さんに言いくるめられるオールマイトとかリアルっぽかったよね」

 

「って、ヒーロービルボードチャートにでてるこのベストジーニストって雄英体育祭で活躍してた人じゃん」

 

「十七年前とか丁度デビューくらいかな?」

 

「おじさん視点だとあの学生がトップヒーローになってる、って感じなんだろうね」

 

 

 

 

 

 

 結局その日はいつものように雑談で盛り上がりヒーローになるかどうかの話題は流れてしまった。

 おじさんはあまりヒーローに興味はないみたいだ。僕(敬文)としても一家離散を防いでくれなかったヒーローにはあまり良い感情は持っていない(八つ当たり)。

 ただ、出久君はどうしているかな。と心配そうにおじさんが呟いていたのが印象に残った。

 

 

 

 



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5話 その手を引く者(オールマイト)。

 

 ナンバー1ヒーロー オールマイト。

 年齢不詳 個性不明!

 ヒーロー界に颯爽と現れ、その実力で不動の人気を得る。彼の登場以降深刻だった敵発生率は年々低下し、存在そのものが抑止力とされ、名実共に平和の象徴となった男。

 そしてその男が僕に言った。僕はもうヒーローなんだと。

 そうだ何で忘れていた。

 トラックから助けた少年、洸太君だって言ってくれてたじゃないか。兄ちゃんは俺のヒーローだって。

 異世界で得た力にばかり目がいって、それ以前にできたことを忘れていたんだ。

 僕は救えたんだという事実を。

 

 まあトラックに轢かれたと思ったら見知らぬ森の中で、出会った言葉の通じない人達に木魔獣(トレント)の幼生体扱いされて殺されそうになったら大概のことは忘れて当たり前だけどね。

 

「あの緑谷少年、目が死んでいるけどどうしたんだい?やっぱり夢を否定した偽筋野郎の言葉は聞きたくないのかな?」

 

 憧れのヒーローに涙流して震える程に嬉しい言葉を貰っても、ついでに思い出してしまう異世界生活(トラウマ)。半年間で刻みこまれた心の傷はあまりにも深い(なお3割くらいおじさん関連)。

 

「いやちょっと異世界ってクソだなって」

 

「唐突ぅっ!!何で異世界っ?!」

 

「オールマイトからの言葉は嬉しいです、雄英高校をやっぱり受けようと思うくらい」

 

「もしかして私ってかなりタイミングぎりぎりだったのかな?」

 

 血反吐で口周りを汚し冷や汗をかきながらオールマイトは言う。正直ヒーローを目指すことを辞めるつもりではあったのだから。

 

「もういっそ異世界系動画投稿者になろうか真剣に考えてましたよ」

 

「冷静になって緑谷少年」

 

 魔法を使えばイケるかなって。 

 なんかおじさんの生活ヤバくなりそうな予感するけど気の所為だよね。

 オールマイトに勇気をもらったから動画投稿者デビューは諦めますけど。

 

「ところで提案とは?」

 

 言葉を訂正して、礼も言われた。

 けどオールマイトからの提案が分からない。

 指導してくれる、とかかな。

 ちなみにおじさんは、死んで覚える方針だったから傷の治療をしてくれるぐらいでした。魔法も自力で見て覚えた。

 

「そうだ、そうだったね、色々衝撃的で流れてたよ。ではあらためて、君なら私の力を受け継ぐに値する。

 君に私の個性を託したいんだ」

 

 個性って渡せるものなんだ(遠い目)

 まあ個性って十人十色どころじゃないし、そんな個性もあるか。

 

「私の個性は聖火の如く、引き継がれてきたものなんだ。そして次は君の番ということさ」

 

 オールマイトの肉体損傷を考えれば、いやヒーロー歴からしても誰かに託す時期なんだろう。

 むしろ遅すぎる、オールマイトが背負い過ぎなくらいだけど。

 

「個性を譲渡する個性、それが私の受け継いだ個性!冠された名は、ワン・フォー・オール」

 

 一人はみんなのために、みんなは一人のために、という風に訳されてたかな。その力を振るう意味なのか、その力に複数の人が宿っているからなのか。

 

「救いを求める声と義勇の心が紡いできた力の結晶、あの日誰よりもヒーローだった君に渡しても良いと思ったのさ!!」

 

 半年遅れだけどね、と血を吐きながらオールマイトは言う。

 ならばもう、答えは決まっている。 

 後継が必要ならば、それがオールマイトを救うことになるのならば、断る理由なんて無い。

 

「お願いします!!」

 

 こうして僕はオールマイトの後継となり、彼の個性であるワンフォーオールを託されることになった。

 それが僕のヒーローとしての第一歩だ。

 

 

「ところでさっきの光る剣って何なの?あと身体付きも大分変わったよね?」

 

「大したものじゃないですよ、単なる魔法」

 

「そっか魔法って実在したんだね」

 

「しますよ。精霊も普通にいるからやり方知れば誰でも出来ます(多分)」

 

「「アッハッハッハ」」

 

「ねえ緑谷少年?なんか魔王っぽい怪しいおじさんと出会わなかった?」

 

「セ○ユーザーの怪しいおじさんには会いました」

 

「個性貰ったりしてない?」

 

「それだとオールマイトが怪しいおじさんに成りますよ」

 

 魔王っぽくないけど。

 

「頻繁に様子見に行ってたけど、この半年間何があったんだい?昏睡状態だったよね」

 

 む、心配に僅かな疑惑の感情。個性を与える存在に心当たりがあり、それが因縁ある相手なのかな。

 

「異世界に行ってましたよ、恐らく意識だけ。この力はそこで得たものです」

 

「異世界ってあるのかい?いや個性にもぶっ飛んでるのあるから(新秩序とか)完全に否定できないけど。無いって証明も不可能だしね」

 

「ありますというか、行ってきましたというか。もう一度行くのは死んでも嫌ですけど」

 

「そういえばさっきもクソとか言ってたような?」

 

「とりあえず百聞は一見に如かずなんで、見せますね。記憶再生 イキュラス・エルラン」

 

 ブン、と現れたモニター状の映像。最新技術なら立体映像でイケるかな?

 

「うわ~~、何これ何これっ!!もしかして本当に魔法なのっ!!」

 

(オールマイトがお目々キラキラに輝かせてめっちゃはしゃいでる)

 

『醜きオークに裁きをっ!!』

 

『裁きをっ!!』

 

『邪悪なるトレントに浄化をっ!!』

 

『浄化をっ!!』

 

 ヤベ。

 

「ねえ緑谷少年?」

 

 一瞬でスンとした表情になったオールマイトがこちらに尋ねてくる。

 

「なんか焼かれてない?」

 

「そういうトコですから」

 

 映像の中で広場の中央で磔にされて火を焚かれるおじさんと僕。

 人里って入るなり一度制圧しないとこんな扱いだったからな。

 これ以上はオールマイトがキレそうだから魔法を消して説明する。

 マッスルとガイコツを行ったり来たりしながらオールマイトはじっとその説明を聞いてくれた。

 話が終わった後、オールマイトが優しく慈しむように僕を抱き締めてから今日は解散となった。

 ちなみにワンフォーオールは譲渡された、毛を飲むのはしんどいから収納魔法で器を取り出して血を飲ませて貰った。

 身体に宿った膨大な力の塊。

 きちんと扱えるようにならなくちゃ。

 

 さあこれから受験日まで、この場所でオールマイトと特訓だ。

 





 ちなみに洸太君のご両親は死亡してません、
 自分を助けたお兄さんが昏睡状態になっていることで洸太君が塞ぎ込んでしまったので、ヒーロー業を休んで側にいてあげてました。
 その結果マスキュラーとの遭遇がありませんでした。


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6話 焼けた浜辺と焼けた課題(炎鳳殲滅)。


 ちなみに作者はドリームキャストでサクラ大戦を全作品クリアした程度のセガユーザーです。
 なのでセガ知識は異世界おじさん頼りです。



 

 2日後(オールマイトの心労のため)朝6時。

 オールマイトからワンフォーオールを託され、それを使いこなすための訓練の時間だ。

 

「うーん半年前ならワンフォーオールを使いこなせるように肉体作りをしてもらってたけど、緑谷少年には必要なかったね」

 

「グランバハマルだと移動手段は徒歩か、あっても馬車がせいぜいで自然と体が鍛えられてたみたいです」

 

「えー、ルー○とかテ○ポとか魔法に無いの?」

 

「おじさんがロープレを駄目な人でしたからね。あと元の世界に帰るためのダンジョン攻略メインな生活だったから一度行ったトコはあんま行かなかったんですよ(行ったら襲われるし)」

 

「うーん、こういう生異世界トークは正直胸膨らむねえ(なんか緑谷少年達焼かれてたけど)。おじさんも若い頃エルフと冒険とかに憧れたもんだよ」

 

「グランバハマルだとチョロくて病んでて独占欲強くてツンデレなストーカーでしたけどね」

 

「属性てんこ盛り過ぎじゃない?おじさんはディー○リットが良いよ」

 

「尽くす系なのは一緒ですけどね。おじさんからの印象は十七年の付き合いあっても嫌な奴止まりでしたけど」

 

「緑谷少年の恩人のおじさんて、なんか頭おかしいよね?」

 

「何を今更」

 

「「ワーハッハッハッハ」」

 

 10月の早朝から笑い合う二人の男達。

 だがそれにはある理由があった。

 

「ところで緑谷少年、そろそろ現実に目を向けるとしようね」

 

「心から反省しています」

 

「謝るの早っ!!いや良いことだけど」

 

 それは周囲の市営多古場海浜公園の現状が理由。本来、というかつい数分前までは海流的なアレで漂着物が多くそこにつけ込んだ不法投棄に溢れゴミだらけだったこの地は、

 もう焼け焦げた臭いだけをのこして、そこには何もなかった。

 

「これ、人に撃っちゃまずいですよね(おじさん以外)」

 

「どうしよ、この区画一帯の水平線を蘇らせることを課題にしようとしたのに十秒で終わっちゃった」

 

 オールマイトから修行内容はゴミ掃除。ヒーローとしての本質である奉仕活動、心構えと身体作りを兼ねたその修行は、オールマイトによる誰もいないしせっかくだから派手な攻撃魔法見てみたい、の一言で朝露とともに消えた。

 その魔法はおじさんにとって不快な記憶の一つである刺殺獣に使ったもの(若い頃のアリシアさんも綺麗でした)。

 炎凰殲滅(バライブート フォルグバストール)。鳳凰を模した業火は海浜公園一帯を擦るように駆け(一応撃つ前に生命反応は確認した)、そこに在ったモノ全てを焼き尽くすを通り越して蒸発させた。

 

「攻撃魔法全般は人に撃てませんね。向こうの魔物は完全に害獣だから容赦の必要なかったけど、ヴィランを殺しちゃまずいですし」

 

「エンデヴァーみたく威力抑えて使えないの?」

 

「おじさんなら微調整できそうですが(注、したら精霊がキレます)、僕は覚えた魔法を使うことしかできないので」

 

 威力を抑えたらそれはもう別の魔法。だが基本おじさんが使った魔法しか覚えてないため、そんな丁度良い威力の魔法は知らなかった。

 

「まあこの状況は誰も見てないし私が誤魔化しておく(塚内くんに丸投げしよう)から良いとして。私考案の合格アメリカンドリームプランができなくなったね」

 

 渡された用紙に記入されたスケジュール。

 そのきちんと考案、計算されたメニューに、感動の涙が溢れてくる。

 だっておじさん、ダメージ受けても勝つまでやればいいじゃんって主義だったし。エ○リアンソルジャーのスーパーハードに八年賭けたおじさんの根気は異次元のレベルだ。

 

「筋トレは普通に出来るレベルですが、食事内容とかは参考になりますね」

 

「そう言って貰えると嬉しいよ。異世界の食事とかも気になるけど(ウキウキ)またの楽しみにとっておこう」

 

 何気に楽しんでいるなオールマイト。まあ僕も向こうでおじさんの記憶を見るのが楽しみだったから気持ちは分かるけど。

 

「しかし緑谷少年ってワンフォーオールをかなり制御できてるのかい?」

 

「ええ凄いパワーですよね、昔アメリカでオールマイトが倒壊したビルを一人で支えられたのも納得です」

 

「かなり覚える、というか習熟早いね。異世界生活が土台になっているのかな?私も師に託されて直ぐに扱えたけど、それまで訓練とか実戦は積んでたからね」

 

「半年前まではこんな簡単に物を覚えられなかったんですけど」

 

 異世界生活だけではない要因がありそうだけど、イマイチ原因が分からない。

 この身体まだ何かあるのだろうか。

 

「うーん、これだとあと数ヶ月余裕があるね。時間が勿体ないし、プランを組み直すより実戦、というかぶっちゃけ手加減を覚えた方が良さそうだね」

 

 手加減、それは確かに。

 拘束、無力化は(主に村人相手に)慣れているけど、ワンフォーオールを用いてのヴィラン相手ならまた別だろう。

 

「やっべーよな、おっかねーよな、でもグラントリノには連絡して。あとはお詫びしてからナイトアイにもお願いしよう、彼も推してる子いるけど緑谷少年なら大丈夫だろうし」

 

 プランを組み直してくれるオールマイトを見ながら、そういえばと収納魔法から呪符を取り出す。

 

「よし、方針は決まったよ。あちこち頭下げる必要あるけど緑谷少年も顔見せついでに一緒に行こう」

 

「わかりました。それでオールマイト」

 

「どうしたんだい?」

 

「呼吸器官と胃袋などの損傷で血を吐いているんですよね」

 

「それ以外もあるけど、主な要因はそれだね」

 

「ならこの回復の呪符を使えばマシになるのではないでしょうか?」

 

「ありがたいけど、唐突にオーパーツを出さないで欲しいかな(ゲボォッ!!)」

 

「後は完全な治療は傷が塞がってるから回復魔法じゃ厳しいか。なら光剣顕現(キライドルギド リオルラン)」

 

「え?なんで治療に光の剣?しかも構えるの?」

 

「その部分を吹き飛ばして、神聖魔法の人体蘇生をやればイケるかもしれません」

 

 スチャリと光剣を構える。

 大丈夫、痛いだけですから。

 

「怖い怖い怖い、発想が怖いから!!

 いいから緑谷少年っ!!この傷は私の来歴みたいなものだから、巨悪といえど命を奪った戒めなんだ。だから消す必要ないよっ!!」

 

「なら仕方ないですよね」

 

(目がマジでスゲー怖かった緑谷少年)

 

「けどこの呪符も良いのかい?二度と手に入らないモノだよね?」

 

 確かに在庫には限りあるし、オールマイトがそう思っても仕方ないけど、

 

「呪符作成はアリシアさんに習ったからいつでも自前で創れますよ」

 

「緑谷少年のヤバい情報さらに追加されたぁっ!!(ゲボォッ!)」

 

 こうして雄英高校受験までのオールマイトとの日々は過ぎていった。

 紹介されたオールマイトの師匠の一人であるグラントリノと鯛焼きを食べながら組み手したり、オールマイトのサイドキックだったサー・ナイトアイと最初は揉めたけど仲良くなったり(彼の個性と記憶再生の組み合わせがヤバすぎた)、洸太君との関係からワイルドワイルドプッシーキャッツのマンダレイと親しくなれたり(年上のお姉さん最高)、かっちゃんが異世界をマジだと知って卒倒したり、色々なことがあった。

 思い返せば一瞬だったように感じるくらいに時間は早く過ぎたけど、それは今までの無個性の劣等感から俯いて生きた日々とは違う、とても充実した時間だった。

 これもあの半年間があればこそ、あの異世界生活あればこそだなと思ってしまう。

 現在、オールマイトの知り合いの警官である塚内さんに頼んでおじさんを探して貰っている。

 雄英高校に合格したその時に、彼にお礼を言いたいから。貴方が助けてくれたからですと伝えたいから。

 

 さあ気合いを入れよう、明日はいよいよ雄英高校の入試当日だ。

 

 

 





 なんか最終回みたいか終え方ですが、まだまだ続きます。


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7話 恋する乙女と眼鏡ビームとおじさん。

 
 感想からネタを頂戴してます、ありがとうございます。
 おじさんサイドです。


 

「そういえば藤宮さんの個性って何なの?」

 

 某市某アパート。

 ゲーム理論を現実に当てはめる異世界帰りのおじさんとザマア系は良いけどNTR展開はダメな青年が生息する場所。

 買い出しのため不在な甥っ子に会いに来た同級生女性とおじさんは雑談に興じていた。

 

「あー、私はですねえ」

 

「あ、ごめん。コレ今はエチケット違反だった?おじさんその感覚まだ分かんなくて」

 

 言いにくそうな彼女の様子におじさんは慌てて発言を撤回する。軽い雑談のネタ、不快な気持ちにさせたいわけではないのだ。

 

「いえ大丈夫ですよ、最近言われるのは無個性の人をどうこう言うことなので。ただ私の個性もかなり微妙というか、記憶みたら恥ずかしいヤツなので」

 

「無個性を腫れ物扱いなのも差別っぽいけどね。あと微妙な個性?」

 

 おじさん世代において個性とは、いやこんなんあっても、的な微妙な力ばかりだ。だからこそ無個性差別もありはしても現在ほどの騒ぎにはならなかった側面もあるのだが。

 

「願望成長です。

 こう、自分の願望通りに肉体を成長させる個性です。常時発動してるタイプの個性で、いや私も小学生の時の私があんなんだった認識なかったから効果あったと思って無かったんですが」

 

 願望成長、その名の通り自分の成長に自身の願望を反映させる個性である。ただ成長速度に変化はなく、単に成長しただけと自覚症状も持ちにくい微妙な個性だ。なおいくら願っても個性を新たに身につけたりはできない。

 

「あー」

 

 その恥ずかしそうな彼女の様子におじさんは納得したように頷き。

 

「あの日敬文に恋したから、君は女の子らしく可愛くなったんだね」

 

 その彼女の乙女心に優しげに微笑んだ。

 

「んな顔すんならあのエロ媚薬くださいよ」

 

 顔を真っ赤にした藤宮さんは恥ずかしさを振り払うように関係を進展させる便利アイテムを要求した。敬文青年の今までの態度からやらかしたら記憶を消して自害しかねないとも思うが。 

 

「ん、なら弟君の小4らしからぬ成長も?」

 

「あの子って昔から早く大人に成りたいと言ってましたからね」

 

 大人というか見た目が軽薄な若者なのだが、個性はそこまで融通が効かないようだ。

 

「ただいまー」

 

 そんなこんなで敬文青年の帰宅である。

 

「何、今度はどんな異世界の話してたの?」

 

「いや藤宮さんの個性の話。そういえば敬文の個性は?」

 

 おじさんが事故にあったのはまだ彼に個性が発現する前である。

 

「それでさ、今日はマグロが安くて。夕飯は鉄火丼にしようよ」

 

 ピタリと一瞬固まった敬文は何も聞いていないという態度で話を続けた。貼り付けた笑顔のまま。

 

「いや敬文の個性。生活に気をつけるタイプもあるし」

 

 アレルギーのように身体に不調を起こす場合も無いわけではない。

 

「そうだ、今からぷよ○よで対戦しない?今日は負けないよー」

 

「やるーっ!」

 

「いやあっさり流され過ぎでしょ。どんだけ興味ないんだ個性」

 

 藤宮さんもそう溢すが、彼女も敬文の個性に覚えはない。外見に影響はないから発動タイプなのだろう。どちらにせよ嫌がる相手から聞き出すことはマナー違反だ。

 3人でぷよ○よをプレイすることしばし、

 

「眼鏡ビーム」

 

 眼鏡に落ちゲーの画面を反射させた彼は乾いた表情で告げた。

 

「それが僕の個性」

 

「攻撃タイプ?俺の世代だと珍しいなあ、だって大半右指を切り離すだけの個性とかだよ」

 

「全身に力を込めて眼鏡からビームを撃つの」

 

 ケラケラと笑うおじさんとは違い、敬文はトラウマを掘り起こすように語る。

 

「見かけは派手だけど、一発で全力でマラソンしたレベルで疲れるのに軽く突き飛ばす程度の威力しかない。そして眼鏡が毎回壊れる」

 

 うわあ、と藤宮さんは顔を引き攣らせる。

 

「現実はクソだ」

 

 敬文青年、魂の叫びである。

 ヒーローに成る、それがいかに狭き門であるか。彼のような個性も有り触れている現状を考えると実感できてしまう。

 ヒーロー、その候補にすらなれはしない者がどれだけいると言うのか。

 

「でも敬文、昔からファンタジーの方が好きでしょ?ゼ○の使い魔を読んでたし」

 

「まあね、ヒーローはあんまし興味ないよ。だって現実だし」

 

 ケロリとし表情で敬文青年はコントローラーを操っていた。

 

「さっきの件はなんなんだ」

 

 その切り替えに藤宮さんは呆れていた。

 

「藤宮さんはヒーローになりたくないの?」

 

「私の個性でどうなるんですか。あと最近主流のパッツンスーツとか恥ずかしくて無理ですよ」

 

「あー、あのエッチイの。エ○ァのパイロットスーツみたいだよね」

 

「ミッドナイト辺りからの流行りだっけ?あと女ヒーローって美人ばかりだよね」

 

「女ヒーローになるなら整形しろ、は女子の常識ですよ。まあ実力者はだいたい天然の美人ですけど」

 

「やっぱ人気商売だからかねえ」

 

「男は容姿に関係なく強さ基準だけどね」

 

 ピンポーン。

 そんな雑談をしながらゲームを楽しんでいると玄関のチャイムがなった。

 宅配かなと首を傾げてからおじさんが向かう。

 

 これは緑谷出久がおじさんと再会する少し前の出来事である。

 

 



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8話 雄英入試に勇者降臨。


 原作改変在りです。
 具体的にはグループ分けに別のグループの子がいます。

 


 

 雄英高校ヒーロー科!!

 そこはプロに必須の資格取得を目的とする養成校!全国同科中最も人気で最も難しくその倍率は例年300を超える。

 オールマイトを筆頭とした現トップヒーロー達の出身校でもあり、それゆえ偉大なヒーローには雄英卒業が絶対条件とすら言われる。

 

 そんな何度も聞いた説明を思い出しながら入口へと向かう。僕は何回ここを歩くことを夢見ただろうか。最低限の条件である学力を身につけたのはこの道を歩く資格を得るためといっても過言ではない。

 すれ違ったかっちゃんに挨拶をして石畳の道を堪能するかのように歩いた。

 試験に受かれば毎日歩ける、そう思えばやる気も増すものだ。

 数字分けされたゲートをくぐり受験番号通りに席につく。同校のためかかっちゃんと席がとなりだった。

 雄英の講師は皆プロヒーロー、そのため試験の説明もラジオ番組でも有名なボイスヒーロー プレゼント・マイク。出だしにて滑りながらもハイテンションのまま試験内容を伝えてくれる、正直ゲームみたいだなと不謹慎な感想を抱いてしまう。戦闘能力が必要な仕事なのはわかるが、ヒーローの素質を計るのにそれで良いのだろうか?自分が力ではなく、行動でオールマイトに選ばれたから余計にそう思ってしまった。途中で真面目そうな受験生が質問などをしていたが、こんな時に気になったことを尋ねられることもヒーローの素質なんだろうなと思った。

 最後に雄英高校の校訓、プルス・ウルトラをプレゼントされ説明は終わった。

 

 広い敷地内をバスで移動し、街一つを再現した試験会場へとたどり着く。こんな施設が複数あるのだから最高のヒーロー科と呼ばれるのも納得だ。

 試験内容は仮想敵の行動不能。

 試験の規模からして仮想敵役に人を雇うのは現実的ではないから、仮想敵は雄英高校名物のロボット。

 つまり破壊して良し。

 だが他の受験生を巻き込む恐れがあるから広範囲魔法は使用できない、殴っても飛び散る破片が危ないから、光剣でたたっ斬るのが最善。

 加速や機動は精霊魔法よりワンフォーオールの身体能力増強が適切。

 

『ハイスタートー!』

 

 よしやるか。

 

「光剣顕現 キライドルギド リオルラン。

 ワン・フォー・オールフルカウル」

  

 右手には光剣、全身には電流が流れる発動イメージ、合わせて動いてぶった斬る。

 建物をぶち破って現れる仮想敵(ロボット、中に操縦者無し)を両断しながら突き進む。大地走査 バハマリオン スラドラーチの魔法で周囲を把握してから戦う手もあるが十分間しか時間がない以上は無駄手間だ。仮想敵が自分から襲いかかってきてくれるから出会ったそばからたたっ斬れば良い。試験中、闘いに慣れてないのか不意を打たれて怪我をしそうな受験生もいたので余計なお世話を承知で助ける。回復魔法が無いと怪我をしたら治すの大変だと思うし。

 

 もう終わりかな?

 獲得ポイントの計算は最初から投げている、合格基準が不明なのに余裕を持つのは危険だからだ。ましてや会場はここだけではない、全受験生での順位なら自分の会場でポイントが高くても油断できない。

 残り二分、終わりの時間が迫る中現れる脅威。スーパーマリオのドッスンと表現された、倒せない前提の危険ギミック、ビルサイズの巨大ロボットだ。

 実力に自信ある受験生も一目散に逃げる存在、その巨大さは腕の一振りで命が終わると思わせる、さらには倒してもポイントは0。脅威で恐怖で利点無し、ならば逃げることが合理的だ。

 異世界でも逃げるなんて日常茶飯事だったし。

 だから今回もそうしよう、そう思って振り返ればそこには巨大ロボットの進路で瓦礫に足を取られ倒れている少女がいた。

 この場合逃げるのが最善だ。

 この時間は自分のために使うべきだ。

 相手は競争相手だ。

 学校も受験で人死はださないだろう。

 そんな頭に浮かぶいくつもの考えは、助けることを辞める理由に断じてならない。

 彼女の足に乗った瓦礫を光剣で砕き、左手で抱き起こす。そして後方では無くもう目の前に迫る城を思わせる巨大ロボットに突っ込む。

 

「大丈夫?」

 

 片手でその少女を抱きかかえたまま駆ける。

 

「付き合わせて悪いけど、アレを倒すからちょっと我慢して」

 

 おじさんがやったみたいに魔法の鎖で吊るしても良いけどアレは見た目がなあ。いやこっちはこっちで密着感あるからセクハラになるのか?

 

「うん、大丈夫」

 

 だがこっちの考えは杞憂でその女の子はそう言ってくれた。顔色が青く気持ち悪そうだから負担にならぬよう一撃で決める。

 エドガーさん、貴方に教わった技を使います。

 

「テンペストキャリバー!!」

 

 精霊魔法の光剣と剣士の技、それにワン・フォー・オールの身体能力増強の合わせ技は一撃で巨大ロボットを消し飛ばした。

 

「勇者様や」

 

 そんな僕の姿を抱きかかえた少女と、現場の側で神に祈るように手を合わせた少女が熱い眼差しで見ていた。

 

「ヨッと」

 

 着地のコツは両足で。もし荒ぶる村人に追われ逃げるはめになった時、海や湖に飛び込む事態になったらそれを意識しよう。硬い地面でなく水であってもうつ伏せに飛び込んだら衝撃で内臓がパンッと弾けちゃうよ☆(実体験)。

 

『終了〜!!』

 

 そんな事を考えてたら試験は終わってしまった。

 十分間、学校の短い休憩と同じ時間なのにずいぶんと長く感じたな。

 

「あの、ありがとうね」

 

 解放して身なりを正していた少女はモジモジとした仕草でお礼をいってくれた。

 

「こっちも君が助かって良かったよ。それとこれはオマケ。神よ(こっちの世界にもいるのか今更だけど)癒やしの光を」

 

 気分が悪そうな彼女に治癒の魔法。

 なんか精霊魔法とは違う感覚だけどきちんと発動はしてくれる。

 

「うわあ、反動の吐き気がスッキリとした」

 

 物を浮かせてた個性にはそんな反動があったのか。個性って割とそういうトコがあるよね。

 

「じゃあ僕はこれで」

 

 結果はどうなるやら。

 

「あの、ウチの名前は麗「神の奇跡まで、やはりこの御方こそ」」

 

「「んっ?」」

 

 名乗ろうとする彼女の言葉を遮って割り込んできた少女の声。

 

「真の勇者様」

 

 いやそれはアリシアさんですけど。

 建物の間から現れた少女は、空を見上げ祈るように手を合わせながらこちらに寄ってくる。

 

「えっと君は?」

 

 その神聖さを感じつつも威圧感をもった気配は似たような気配を、グランバハマルでめっちゃ覚えがあるので彼女が近寄る分だけ無意識に後退る。

 

「私の名は塩崎茨、これから貴方様の従者として生涯お側にお仕えする者です」

 

「すいません、僕は従者とか募集してないのでお断りします」

 

 勇者でも無いし。

 

「ああ、その奥ゆかしさもまた勇者様」

 

 ヤバい、この娘は話を聞かないタイプだ。

 

「じゃ、じゃあ帰りのバスも来てるから僕はこれで失礼するよ」

 

 逃げるためにバスに乗らないで全力ダッシュしよう、同じ乗り物だと逃げ場ないし。

 

「コラ、出久坊!!暇ならアンタも手伝いな。治癒魔法必要な子はまだまだいるんだよ!!」

 

「わかりました、今行きますリカバリーガール!!」

 

 オールマイトとの付き合いの中、回復の呪符関連で紹介されたリカバリーガール。

 今では孫のように親しい間柄だ(根津校長によると身内としてアピールすることで治療関係の要求をされないための布石らしい)。

 だからこうして気安く接してくれる。

 

「ウチも手伝わせて!」

 

「これは従者の役目」

 

 リカバリーガールの手伝いで怪我人の回復をしたりして本日の試験は終了した。

 流石ヒーロー志望なのか、他の受験生も続々と手伝いに参加してくれてサクサクと終わった(仕事を奪われたロボット達が地面に手を突いて落ち込んでたけど)。中でも足にエンジンがついた眼鏡の生真面目そうな青年がやたらと凄いと言ってくれて照れてしまった。異世界だと自分が一番の格下だから活躍できなかったしね。

 この場にいる皆とクラスメートだったら嬉しいな、と心から思える一日だった。

 

 けど塩崎さん、僕の実家までついてこようとしないで自分の家に帰りなさい。君はどこぞのエルフか。

 

 



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9話 セガユーザーな警官とおじさん。


 キャラ改変というかキャラブレイク有り。
 彼のファンは閲覧注意。
 おじさんアパートの住所は行こうと思えば行ける位置にあるとしてください。

 おじさんサイドです。


 

 某市某アパート。

 そこには異世界帰りのゲームソフト一本に八万円払っちゃうおじさんと、年上の身内を叱るという詰問をするはめになった青年が生息している。

 が、彼らは現在人生何度目か(本気で何度目だろう)の危機に陥っていた。

 藤宮さんか宅配業者くらいしか訪ねる者のいないアパートにチャイムが響いていた。

 鳴らしたのは大衆の味方である警察。

 ヒーロー以上に頼りになる彼らが通報も無しに自宅に訪ねてくる。これ即ち、とてもヤベえ事態であるということだ。

 

「警察って、何か心当たりありますか?」

 

 藤宮さんの当たり前の疑問に心当たりアリアリな二人は冷や汗をかく。

 

「やっぱり解剖かな?」

 

 魔法がバレて、国のなんかが来てしまった。捕まったら解剖されるアレなアレである。

 

「いや魔法での移動がバレたんでしょ」

 

 配送料無料のための飛行、それが個性の無断使用に引っかかったのだろう。

 

「あるのかよお前ら」

 

 愕然とする藤宮さん。

 流石に犯罪はマズいだろうと彼女も思う。

 

「とりあえず藤宮さんをベランダへ、アレな機関だったら二人で逃げて。精霊にお願いしとくから」

 

「個性の使用についてだったら?」

 

「確かどっかに無個性証明書がある筈だからそれで押し切るよ」

 

「魔法は使わなければバレないしね」

 

「かなりグレーだろそれ」

 

 そんなやり取りのち、自分で呼んでいない警察を自宅に招くという恐怖体験がはじまった。

 

「はじめまして、僕は警察官の塚内直正。嶋㟢(シバザキ)陽介さん、訳あって貴方を探していたんだ」

 

「訳ですか(やっぱり敬文達逃がすべきかな)」

 

「だがその前に別件で一つ貴方に尋ねておきたいことがある」

 

(別件、おじさん他に何かしたの)

 

(どうすんだこれ)

 

 その真剣な塚内氏の様子にゴクリと喉を鳴らしベランダから中を窺う。

 

「人を手にかけたね」

 

(え、おじさんやらかしてたの?!)

 

(ヴィランとか絡んだ奴を返り討ちにしてそう)

 

「僕と同じで」

 

(ええ!!ヤバい情報じゃん!!)

 

(現職警官がっ!?)

 

「最愛のあの人」

 

((アレ?))

 

「七瀬 楓を」

 

((ってゲームの話かよっ!!))

 

 七瀬 楓。

 敵首領に殺害され自我を奪われた彼女。

 敵として現れた彼女を手にかけた瞬間自身が何を失ったのか、彼らは思い知らされたのだ。

 

 エイリアン○ルジャーというゲームのステージ3のボスキャラである。

 

「そんな、君もあの悲劇を乗り越えたのか」

 

「ああ、彼女に引導を渡した悲しみが今の僕を形作っているといっても過言じゃない」

 

 震えながら口元を押さえて言うおじさんと、涙を堪えながら答える塚内直正(36歳独身)。二人は今同じ感情を抱いていた。

 二人の男。否、悲しみを超えた漢達が固い握手を交わす。同じ女を愛した友として。

 

「それでセガユーザーな警官さんが何のようですか?」

 

 まさか同好の士と語り合うために来たわけではないだろう。ベランダから移動した敬文青年はコーヒーを入れるためキッチンへと向かう。

 

「敬文、私が持ってきたクッキーをお茶請けにだしても良いよ」

 

「ありがとう藤宮」

 

 なんか解り合っている二人のオッサン。これなら逮捕とかではないだろうとコーヒーとお茶請けをテーブルに並べる。

 

「ありがとうね、うん美味しい。うちの署の泥水みたいなコーヒーとは大違いだ」

 

 一口飲んだコーヒーの味に満足する塚内。

 

「いやあ塚内警部。ここだけの話、泥水ってマジで泥水なんだぜ」

 

(いや何言ってんだおじさん)

 

(確かに何度も飲んでそうだけど)

 

「流石は異世界グランバハマルに17年間行ってただけはあるね」

 

「「「?!」」」

 

 塚内警部の口から出た、異世界という言葉。

 おじさんの重大な秘密を知られていると3人に衝撃が走った。

 

(やるか)

 

 頭を抑えて記憶消去 イキュラス キュオラ。それしかないと右手に力を込めるおじさん。

 

「緑谷出久君が言っていた通りだよ」

 

「なーんだ、出久君の知り合いか。なら異世界を知っててもおかしくないですね」

 

 だが続けられた言葉に込めた力を霧散させる。

 

「えっと緑谷出久君て、一年近く前の無個性騒動の子ですよね」

 

「あの差別問題改革に踏み出すきっかけになった中学生だっけ?」

 

「「なんでおじさんが知っているのっ?!」」

 

「無個性騒動?いや出久君は半年間グランバハマルで一緒だったけど?あと一緒に帰れた筈」

 

「異世界に行ってたんだ、可哀想に」

 

「ヒーロー志望の無個性中学生が生き残れる世界じゃないでしょう」

 

「実際に狩られかけてたしな彼」

 

 緑谷出久とはじめて会った時の事を思い出すおじさん。

 トレントの幼生体扱いされた彼。

 自分と違って問答無用で殺されそうだった。

 

「大変だったよ、最初は魔物討伐や暴力振るうことに反発してたし」

 

「ヒーロー志望だからね」

 

「普通は抵抗ありますよね」

 

 二人の視線はあっさり倫理観を放棄した普通ではないおじさんに向いていた。まあ彼の経験した状況なら仕方ないだろうが。

 

「三日くらいは抵抗あったなあ」

 

 そんな変化をわかりやすく見せるために記憶再生の魔法を発動する。

 

『暴力は駄目だよおじさん!!言葉が通じる僕達はわかりあえるんだ!!』

 

 ↓ 三日後。

 

『命には優先順位がある、先ず自分、続いて親しい身内、赤の他人?それは力と余裕があったらだ』

 

 画風すら別人な劇的ビフォーアフターである。

 

「早いよ」

 

「何があった三日で」

 

「言ってるだけで自分より他人を優先する良い子だけどね出久君」

 

 そんな緑谷出久についての情報共有が終わった所で、豆から違う美味しいコーヒーを堪能した塚内警部は口を開いた。

 

「僕は警察内でオールマイト関連の仕事を担当していてね、その関係で彼と知り合ったんだ。貴方を探していたのは緑谷君に頼まれたからです」

 

「そうですか、出久君はご家族と無事再会できましたか?」

 

(おじさんは一家離散してたけど記憶消去済みだから黙っておこう、鼻血でるし)

 

「ああ君に感謝してた」

 

「良かった」

 

 おじさんは彼の無事を知り心から安堵した。

 

嶋㟢(シバザキ)陽介さん、緑谷出久君は雄英高校を受験しヒーローを目指しています。異世界の技能と託された個性でヒーローになる事を決意しました」

 

 緑谷出久は諦めた夢を目指しだしていた。

 

「そんな彼をどうか応援してあげてください」

 

「勿論ですよ」

 

 半年間面倒を見た少年。あの心優しい少年がどんなヒーローになるかは楽しみだ。

 

「間違いなく合格するでしょうから、その時に再会できるようにしましょう」

 

(異世界を越えた再会かあ、良いなあ)

 

(普通に良い話だ、普通に)

 

「そして嶋㟢(シバザキ)陽介さん、貴方のその力をヒーローとして社会に役立てる気はありませんか?」

 

 警察官、この国の安全を司る立場として緑谷出久から嶋㟢(シバザキ)陽介の存在を知った時から考えていたことだ。異世界にて鍛え抜かれた戦闘能力、記憶再生などの便利な魔法、そんな力を持つ彼をヒーローとして勧誘しようと。現状も動画投稿者という不安定な仕事だから彼にも利点がある。

 

「お断りします」

 

 だがおじさんは断る。いつになく本気で真面目な顔をして。

 

「え?」

 

「どうして?」

 

 困惑する二人の声を聞きながら彼は答える。

 

「ヒーローが素晴らしい職業なのは今更語るまでもありません。けどそれは暴力を振るう職業です、力をひけらかす職業です。大きな力を持つ者は反発される、その事実を嫌という程知る私は自らがその仕事に就くことを選べません」

 

 あの偉大なオールマイトとて嫉妬にやっかみや反発の声は大きい。強大な力を持っていることを知らしめることは持たざる者に忌避されることでもあるのだ。

 

「もし私が一人だけなら飛びついて応じたでしょう、けど今は甥である敬文が、その友人である藤宮さんがいます。大切なこの子達に累が及ぶ可能性がある以上ヒーローになる事はできません」

 

 そして本人に手を出せぬなら狙うは身内。そしてその過去に不幸なネタがありまくりな彼はメディアにとって美味しすぎるご馳走だ。

 ネット知識ばかりに偏った過激な自意識、妄想に等しい想定だが、ありえないわけではないのだ。

 

「なのでお断りします」

 

 テーブルに額が触れる程頭を下げておじさんは塚内警部の申し出を断る。

 単に興味がないからではなく、自分達を大切に思っての行動に甥とその友人はこそばゆいような嬉しさを感じていた。

 

「なるほど良くわかったよ。なら無理強いはできないかな。ヒーロー飽和社会なんて言われるけど、君みたいに考えてなった人はどれだけいるだろう」

 

 ヒーロー飽和社会と呼ばれながら、オールマイトがいないと回らない。そんな矛盾を誰より知る塚内直正は頼りになりそうな存在の拒絶を残念に思うがその考えに納得した。

 

「なら一切表にでないで記憶再生の魔法だけ使いにきてくれるアルバイトはどうかな?勿論それをそのまま証拠には使わないから」

 

 だがその有用性は放置できない。彼個人の勘だがヒーロー公安委員会が動いていると感じた。連中が何かしでかす前にオールマイトや根津校長など後ろ盾に成り得る人格者な存在と彼は関係を持つべきなのだ。

 

「いや、でもな」

 

「やろうよおじさん」

 

「そうですよ、配慮はしてくれてますし」

 

 渋るおじさんに敬文達は後押しする。

 頭がおかしいところがあるが慕うおじさんが認められるのは彼らも嬉しいのだ。

 

「分かりました、契約内容を確認してからお引き受けします」

 

「ああこれからよろしくね、陽介君」

 

 再び二人は握手をして今回の話は終わった。

 

 

 

 こうしておじさんに定収入と友人ができた。

 おじさんが僕達を大事に思ってくれてることが知れて嬉しかった。

 塚内直正さんはこの日から、仕事や、オールマイトやオールマイトとかオールマイトの事で疲れると、ウチに来てコーヒー飲んだり、セガ談義したり、異世界の記憶見たり、おじさんとセガサターンをプレイしにくるようになった。

 かつて出来なかった協力プレイや対戦ができて二人とも感動でむせび泣きながらゲームをしている。

 あと窓の向こうでオールマイトが「塚内君を盗られた」とか言ってハンカチを噛む幻覚が見えたけど多分気の所為だろう。

 

 




 
 塚内直正さんのファンの皆さんごめんなさい。
 


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10話 爆豪は逃げ出した、だが逃げれない。


 爆豪勝己君サイドです。



 

 雄英高校一般入試実技試験から一週間。

 小型投影機なんて贅沢な代物で伝えられた結果は次席合格。推薦入試組はカウントされてねえだろうから、首席は間違いなく出久だろう。

 ヘドロヴィラン事件から誰にも負けねえよう鍛えてきたのにこの結果。納得できずに個性も合わせて爆発しそうなもんだが、そんな気分にはならなかった。

 

(あのクソチート相手なら仕方ねえか)

 

 不正やらズルして強くなったわけではないからチートは正しい呼び名ではないだろうが、実力的にはクソチートとしか言いようが無い。

 異世界グランバハマルとやらで体得した魔法に技術、そして闘う者としての心構え。

 特に心構えに関しては素直に見習うべきだとすら思っている。

 敵はボコってから調べるなんて正にヒーローらしくて良いじゃねえか。 

 オールマイトもまず殴り倒してからだしな。

 

 こんな風にアイツを認められるようになるなんて思いもしなかった。

 昏睡状態から起きてしばらくの間は罪悪感から付き合っていた。異世界がどうとか魔法がどうとかトチ狂ったようにしか見えなかった、それがより俺のせいだと心に重く伸し掛かってきたんだ。

 見方が変わったのは雄英高校に受験するとあらためて宣言してきた時、アイツはもう覚悟を決めて揺らいでなかった。

 だが無個性で大丈夫かと心配になった。また昏睡状態になったらどうしようと思ったんだ。

 だから試すつもりで戦いを挑み、あっさり負けた。

 心配が杞憂だったとアイツは自身の実力で証明したんだ。

 いっちゃんすごい俺が、いっちゃん凄くないあいつを守る、その理屈はもういらなくなった。

 んでその時に記憶再生なんてとんでも魔法で半年間の異世界生活を見せられて気絶したわけだ。

 流石に俺が原因で、幼馴染が火炙りやらドラゴンとの死闘を繰り返すなんて罪悪感で意識が落ちたわ。

 異世界は本気であった、緑谷出久は強くなった、おじさん見たら敵対せずに逃げろ、これはきちんと頭に叩き込んでおくべき情報だ。

 

(体を動かしてくるか)

 

 今まで家にいたのも雄英高校からの通知を待ってたからだ。来た以上あとはあいつを超えてトップに君臨するためにトレーニングだ。

 

 市内を一定のペースで走り回る。本来なら運動場やら公園など障害物がなく人のいない、足に負担のかからない場所で走るべきだが、ヒーローの活動場所は基本的に街中だ。運動しやすさよりも場所に慣れておくべきだろう。

 そうして走っていると、幼馴染である緑谷出久を発見した。親に買い物でも頼まれたのかエコバッグをぶら下げてメモを見ていた。ついでにわかりきった受験結果でも(ここにいる時点で明白だが)聞こうかと声をかけようとして、ピタリと止めた。

 どうしてか。

 それは良く知る幼馴染の横に見慣れぬ少女が付き従うように寄り添っていたからだ。

 緑谷出久に女子との付き合いは皆無。事故に遭うまでのあいつは、その挙動不審な態度やブツブツと語りだす行動から大層気味悪がられて女子から敬遠されていた。

 そんなあいつが女連れとは、これも異世界生活の効果の一つなのだろう。

 あいつはもう(両手を地面につける)

 心配が必要な実力ではないが(腰を上げる)

 念の為見守っておくべきだな(スタート)

 

「縛動拘鎖ー(レグスウルド スタッガ)

 ならなんで逆方向にクラウチングスタートからの全力ダッシュなのかな?かっちゃん」

 

「離しやがれっ!!巻き込むなクソ野郎っ!!」

 

 畜生バレてたか。

 トラブルの臭いしかしねえから逃げようとしたら、魔法の鎖で拘束しやがった。

 

「勇者様、この捕らえた者はもしや魔王の手先なのでしょうか」

 

 なるほどヤバい女なのは分かった。

 

「そうじゃないよ彼は幼馴染、というか親友、どころかもう一人の自分レベル、だからかっちゃんに憑いてくれないかな?塩崎さん」

 

「ワンチャンダイブとまで言った、最悪レベルのいじめっ子だろうがっ!!」

 

「それ自分で言う?」

 

 とりあえずストーカーで押しつけようとしているのは伝わった。

 

「私の場所は勇者様の元です」

 

「それを止めて欲しいかな」

 

「なんだこの天パな電波」

 

 とりあえず近くの公園に移動して説明するそうだ。んなこといいから離しやがれ。

 

 ざっくり説明。

 実技試験受けたら、勇者認定で従者ゲット。

 なるほど意味わからん。

 

「むしろ助けられた奴の立ち位置じゃねえか?」

 

 コイツは見てただけだろ。

 

「あの出会いこそ運命による必然」

 

「らしいぞ諦めろ」

 

 駄目だ通じねえ。

 

「ヒーロー志望でしょ助けてよ」

 

「ヒーローは現行犯が基本で民事不介入。つーかヒーロー志望はお前もだろうが」

 

「そうだった。あと雄英高校受かったよ」

 

「今のお前ならそうだろうよ」

 

「ああ勇者様との素晴らしき研鑽の日々」

 

「コイツもみたいだな」

 

「せめてクラスは違ってくれるといいけど」

 

 こんな風にガヤガヤと気兼ねなく言葉を交わせるのが今の緑谷出久との関係。

 罪悪感は完全に拭えてはいないが前よりは健全な間柄だろう。

 今の緑谷出久の実力に正直どれだけ張り合えるかは分からない。だが気概だけは劣るつもりはねえ。

 俺はオールマイトを超えるナンバー1ヒーローになるのだから。

 

 



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11話 緑谷出久のもう一人の憧れ。

 

 その背中は果てしなく遠かった。

 中肉中背、ヒーロー溢れる個性社会には目立つことのない普通の体型。

 赤いマフラーをはためかせた彼は空の遥か向こう夜空の先を見据えていた。

 求めているのは何か。

 帰りたい場所はどこか。

 十七年、漢字では三文字のその年月があまりにも重い。

 この残酷な異世界で、この世界なりの幸せを追い求めることを一切せず、ぶれることなく故郷を思う。

 それが一体どれだけ大変なことなのだろう。

 あれだけ、おっかなくて恐ろしく怖くてヤバいエルフさんにストーカーされ、優しくて美しくて尊くて素晴らしいアリシアさんと親しく、ダメ人間なメイベルとの関わりがあっても、おじさんは揺るがない。

 おじさん、貴方は今何を思ってますか。

 

(セ○サターンしてえめっちゃしてえ早く帰りたいゲームハード戦争どうなったかなド○ームキャスト買いたいなマジメ○ドライブやりてえエ○リアンソルジャーゴール○ンアックスぷよ○よガーディ○ンヒーローズ)

 

 これは異世界での夜の一幕。

 草陰に潜んでおじさんを見つめるエルフさんの瞳が光ってて超怖かった。

 

 3月。

 僕はなんか色々あった折寺中学校を無事卒業し、雄英高校入学までの準備期間をのんびりと過ごしていた。

 地方や遠方、留学生の人はこの期間に一人暮らしの準備や引っ越しで大忙しなんだけど、通学圏内に住む僕はそれほど忙しくはない。

 オールマイトとの訓練も、雄英高校新任教師としての準備があるため休止中。

 グラントリノは通うには遠いし、サー・ナイトアイも3月は忙しいらしい。

 なので暇潰しに手書きで呪符を作成していたら、おじさんの捜索を頼んでいた塚内さんから連絡が来た。無事おじさんが見つかり接触に成功したとのことだった。

 おじさんの予定に合わせて会う日取りを決めて、その日は電話を切った。

 後日某所にて塚内さんに連れられたおじさんと無事に会うことができた。

 現在、おじさんは病院に来てくれた甥っ子さんと暮らしているらしい。

 その甥っ子である敬文さんに提案された動画投稿で異世界魔法をネタに広告収入を得ているそうだ。

 この個性社会、公共の場にて無許可での個性使用は許されていない(とはいえ人に害が無ければ基本スルーされているが)。つまり私有地、自宅では問題無く使用できるのだ。

 そしてネット内で個性を使用する演出や発表は大人気な動画なのだ。

 無論、物を壊すなど過激なモノは眉をしかめられ、批判されヴィラン扱いされてしまう。

 だがそうで無ければヒーロー活動の野次馬よりお手軽な娯楽として楽しまれている。 

 国の調査でも、この動画投稿が流行ってからヴィラン発生件数はやや減少したそうだ。個性を使えない不満が解消され、お気に入り数で顕示欲が満たされ、広告料で収入を得ることができるからだとか。

 広告収入でセガサターンやメガドライブも買えて満足だよ、と本当に幸せそうだ。

 そういえば異世界でおじさんが言っていた、どうしても知りたいセ○サターンソフト読者レースの結果はどうだったんだろうか?尋ねようかと思ったが嫌な予感がしたから止めた。異世界の教訓の一つ、嫌な予感は素直に従え、だ。

 また収入はそれだけでは無く、塚内さんの提案で警察の捜査協力のアルバイトをしているとのこと。確かに記憶再生の魔法は真実究明にはうってつけだ(僕に提案しなかったのは未成年だからと配慮してくれたからだろう)。塚内さんもおじさんとの友人関係を楽しんでいるらしく、オールマイトの後始末の疲れが吹っ飛ぶよと嬉しそうに言っていた。うん、書類仕事苦手とか言ってましたからね本人。ならサー・ナイトアイとのサイドキック関係を解消するなよと言いたいが。

 そんなおじさんの現状を聞いた所で僕の現状を説明した。僕の事故により起きたこと、オールマイトとの関係、個性を受け継いだこと、オールマイトが戦い続けた巨悪の存在。

 正直巻き込みたくは無いのだが、異世界でのおじさんのトラブルホイホイな体質を考えたら事前に話すべきだと判断した。でなければ下手したら都市ごとヴィランを殲滅しかねないのがおじさんだからだ。

 ある程度説明しておけばこちらに連絡してくれて、トラブルがあっても建物一つの被害に落ち着くとは思う。これは僕の記憶を見せた大人達も納得してくれて、今回の情報開示が許されたのだ。

 けどおじさん、なら倒しに行く?とナイフを構えないで。異世界からの帰還という不可能を成し遂げたおじさんなら、いるか分からないオールフォーワンの残党を突き止めて殲滅くらい普通にできそうで怖い。

 

 こんな感じでおじさんとの再会は終わった。

 別れ際におじさんの住所を教えてくれた。

 敬文さんが僕に会いたがっているらしいし、約束のセ○を一緒にプレイすることもしたいからだそうだ。

 僕としても是非行ってみたい。

 雄英高校に入学してからは忙しくなるのでその前に一度行こうと心に決めた。

 

 おじさん、貴方は望み続けた場所に辿り着くことができましたか?

 

 あの日見た遠かった背中は、今は追いつけそうなくらい身近に感じることができていた。

 

 



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12話 入学初日と霊○。


 かっちゃんをキャラブレイクします(今更)



 

 春。

 それは高校生活の始まり!

 

「出久!超カッコイイよ」

 

「行ってきます!」

 

「流石は勇者様、雄英高校の制服もお似合いです」

 

 そして当たり前のように居る塩崎茨さん。

 県外から雄英高校に受験した彼女は高校生活と共にうちの近所で一人暮らしを始めた。

 この春休みの間でうちの母とも顔なじみになり、側に居るのが当たり前のようになってしまった。

 いやすっかり母が懐柔されてません?

 

「だってオールマイトの筋肉や年齢が二倍の女性に夢中になるより健全だと思うの」

 

 というのが母の意見。

 心配かけているのは申し訳ないが、そこはほっといてほしい。

 食事を共にすることも増えてなんか外堀埋められているみたいで怖いんだけど。

 そんな恐怖体験を経てから雄英高校まで通う。

 その最中キョロキョロと周囲を見て誰かを探す塩崎さん。

 

「どうしたの?」

 

「いえ同じ従者である、戦士 爆豪がいないのでどうしたのかと」

 

 かっちゃん戦士枠でパーティー加入。

 個性が爆破だから魔法使いでもいいけど、気質的には戦士か。いや従者じゃないけどね。

 

「先に行ったんでしょ。僕らも行こう」

 

「はい、勇者様」

 

 まあ彼女と居ることは不快ではない。エルフさんなんかおじさんの気を引こうとつい暴言吐いちゃって普通に嫌われてたし。

 ツンデレは実際にいても理解されないという実例だったなあ。

 おじさんもエルフさんがデレてる時には大抵謎解釈するし。

 

「その勇者呼びじゃなく普通に名前で呼んでほしいのだけど」

 

 雄英高校で女子生徒に勇者様呼びなんて別の意味で勇者だよ。

 

「それは、その、恥ずかしいので」

 

 顔を赤くして俯く塩崎さん。

 顔を赤くするくらい恥ずかしいのか僕の名前。

 あるいはイズクって読みで恥ずかしい意味の方言とか外国語でもあるのかな。

 

「なら仕方ないか」

 

 女性に恥ずかしい思いをさせるのもね。

 そのまま二人で雄英高校まで辿り着き、あらかじめ伝えられていた別々の教室へと移動した。クラスが違うことに彼女はとても残念そうに見えた。

 雄英高校ヒーロー科は一般入試で定員36名、推薦入試で4名。合わせて40名のA組B組の2クラスしかない。バリアフリーなのか巨大なのに重さを感じずスッと開いたドアの向こうには同級生となる全国トップエリート達の姿が、

 

「おうおう、初日から女連れとはずいぶん弾けてんなオイ」

 

「不純異性交遊の罪で死刑に死刑な死刑だコラ」

 

「是非ともお二人の馴れ初めなど?!」

 

「幼馴染?恋人?将来を誓い合った仲?」

 

 無いね。

 

「すいません間違いました」

 

 これは一年A組の扉じゃなくて異世界への扉だ。

 開けるなり、金髪な男子にブドウみたいな頭の男子に肌の色が独特な少女に服が浮いてたから透明な女子がいて絡んできたから間違いない。

 世界の境界線ガバガバだなあ(実際ガバガバの可能性が高くて怖い)。

 

「あ、あの時の」

 

「うん?」

 

「一般入試で一緒だった勇者様」

 

 異世界魔法やワンフォーオールを誤魔化すために表向きは個性を勇者にしてるけど、既に勇者認定されているだと。

 

「君は零ポイント仮想敵の時の娘だよね」

 

 名乗るタイミングで塩崎さんが乱入して流れてしまった、麗らかというより朗らかな感じの。

 

「覚えてくれてたんだ。ウチは麗日お茶子」

 

「緑谷出久、あらためてよろしく」

 

 試験後のリカバリーガールの手伝いも真面目にやってくれた良い子だから彼女が受かって良かった。

 

「それじゃ、早く教室に入ろう?」

 

 駄目だっ!そこは異世界の、

 

「今度は別の女の子だとっ?!」

 

「不純異性交遊の罪で市中引き回しの上に打首だコラ」

 

「ねえねえ、どんな風に出会ったの?」

 

「一目惚れ?不良から庇った?事故から助けた?」

 

 やっぱり異世界の扉だコレ。

 なんで僕は入学初日から同級生に絡まれてるんだろうね。けど、

 

「昔のかっちゃんを思い出して、なんか懐かしい」

 

「俺を引き合いにだすな」

 

 教室の中で席につき幽○白書の7巻(一緒にプレイしたメ○ドライブミニのソフトでハマった)を読みながらかっちゃんは言った。

 だってこっちの世界でこうして誰か(9割かっちゃん)に絡まれるの一年ぶりくらいだからつい。

 

「君、入学初日から漫画を持ち込むとは何のつもりだ!!」

 

「授業中には読まねえよ」

 

 そしてかっちゃんも真面目そうな眼鏡をかけた生徒に絡まれていた。

 

「別の女の子?」

 

 ただ麗日さんが聞き捨てならない言葉を聞いてグリンと向きを変えて僕を見てきた。

 なんかその反応、エルフさんみたいで怖いよ。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 声はすぐ後ろの足元から聞こえた。

 そこには寝袋に包まり、横になる男性の姿が。

 気配には気づいてたけど何してるのこの人。

 

「ここはヒーロー科だぞ」

 

(((なんか!!いるぅぅ!!)))

 

 さらにゼリー食を一飲みしたからわけわからない存在に見えるよね。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 寝袋もゼリー食もこの人なりの合理性を突き詰めた結果なのか。

 

「担任の相澤消太だよろしくね」

 

(((担任!!?)))

 

「早速だが体操服着てグラウンドに出ろ。出席番号順に割り振られた机の中に入っているから。更衣室は案内見て行け」

 

 指示に従い体操服に着替えてグラウンドに出れば、そこで驚きの内容が告げられた。

 

「個性把握テストォ!?」

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

 そういえば入学式なのにお母さんが外出の支度してなかったような?県外の人もいるから保護者には事前通知してたんだろう。

 

「雄英は自由な校風が売り文句。

 そしてそれは先生側もまた然り」

 

 中学までやっていた個性禁止の体力テスト(まあ異形タイプは禁止のしようが無いけど)をこの場で個性を用いてやらせるようだ。

 身体能力強化ならともかく、個性を単に発動するだけじゃなく、どう応用できるかの発想力も試されているね。

 

「首席の緑谷は去年昏睡状態で入院してたから測ってないか。次席の爆豪、ソフトボール投げを個性使ってやってみろ。去年は67mだったな。円を出なきゃ何してもいい早よ」

 

 去年の体力テスト結果は把握してるのか、比較するのにデータは重要だから当たり前か。

 まあ僕の事情でクラスメートの注目集めてしまったけど。

 

「んじゃまぁ、指先に一点集中しソフトボールを爆風で撃ち出すー!!」

 

 右手の親指を突き上げ、人差し指をまっすぐに伸ばし、他の指は握る。左手を右手首に添えたまるで拳銃を放つような、その構えはもしや?!

 

「○丸っ!!」

 

 霊○じゃん。

 上に投げたボールにタイミングを合わせて一点集中した爆発力を撃ち出した。

 ガッツリ影響受けてるのね、かっちゃん。

 

「まず自分の「最大限」を知る。

 それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 記録907.4m。

 うん、漫画の技の再現とは思えない威力だね。

 掌全体の爆破より負担少なくて合理的だし。

 

「なんだこれ!!すげー面白そう!」

 

「個性を思いっきり使えるんだ!!さすがヒーロー科!!」

 

 盛り上がる気持ちは分かるけど、この反応はちょっとどうかと。

 

「面白そう、か。ヒーローになる為の三年間。そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?

 よしトータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

 気配が変わった、不真面目にはしゃぐことが相澤先生の逆鱗に触れたのか。退学ではないのが少し気になるけど。

 

「生徒の如何は先生の自由、ようこそこれが。

 雄英高校ヒーロー科だ」

 

 見かけに反して熱意ある先生。

 これは気を引き締めて、全力で臨もう。

 



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13話 個性把握テストと葡萄ジュース。

 

 最下位除籍という相澤先生の言葉に動揺するクラスメート達。それは当然のことだろう、雄英高校ヒーロー科に入学するために今まで頑張ってきたのにそれが初日で台無しになるのだから。

 だが相澤先生は生徒達のその不満を一蹴する。

 自然災害、大事故、身勝手な敵たち、厄災溢れるこの世界にて人々を守る矢面に立つのがヒーロー。

 苦難を与える、取り返しのつかない理不尽に直面した時に足を止めないために。

 嫌われ役を厭わない相澤先生の態度に誰もが息を呑んだ。

 

 さて個性を用いた体力テストな訳で全力を出すと決めたが問題がある。

 僕には異世界の技術、それだけで精霊魔法に神聖魔法と剣技などのスキルがあり、そこにオールマイトから託されたワンフォーオールまである。

 それら全てを勇者という個性で誤魔化しているわけなのだが、いかに手札が多くとも常に全てを使うわけにはいかない。

 そもそも魔法に関しては精霊と対話(向こうだと笑い話にされてた)できるおじさんと違って細かな微調整なんてできない。

 だから魔法を体力テストで使うことは無駄に周りを壊す可能性が高いからやるべきではない。

 なので使用するのは個性であるワンフォーオールだけに絞る。これとてハイパワーな出力がでる厄介な力なのだが、倒壊したビルを支えるパワーと卵の黄身を箸で掴める繊細さを両立できてはじめて使いこなすといえる。周囲に被害を出さずに最大出力を出すことを目標にテストを行うとしよう。

 さて体力テスト。

 それぞれ個性により得手不得手と分かれるけど、流石最高峰に入学した生徒だけあって誰もが高水準だ。

 50m走で有利なエンジンの個性を持つ飯田君や、レーザーを意外な活かし方で使用した青山君まで様々だ。

 

「緑谷よ」

 

「うん?」

 

 体力テストって半分くらい脚力次第だよね、とぼんやり考えていたら烏のような頭をした生徒に声をかけられた。名前は常闇踏陰で黒影という影のような相棒と協力する個性みたいだ。

 

「実技試験のように魔法は使わないのか?」

 

 彼は入試会場で一緒だったようで僕の魔法を見ていたようだ。だから魔法を使用してない僕に全力をだしてないと文句を言いに来たのかと思ったら、彼のキラキラした眼差しがそうじゃないと告げていた。

 

「えっと、威力的理由とかで使えないんだけど。もしかして見たいの?」

 

 光剣とか体力テストに関係ないし。

 

「使用せずとも好記録だから納得できるが、興味が尽きないのは事実だ」

 

 めっちゃ目がキラキラして超見たいって顔に書いてある。いやどうしよう活かせるとしたら変身魔法だけど、いっそ亜竜にでもなるか?いや動物とかに変身すると意識保つの大変なんだよね、あの思考するのが馬鹿らしくなる感覚の誘惑が酷くて。

 

「そうか」

 

 うん、露骨にガッカリしとる。

 

「闇剣顕現ー(クローシェルギド リオルラン)

 とりあえずこれで勘弁して」

 

 魔法や洗脳に契約とか法則を斬る、不可視世界の闇魔法だけど常闇君的には好きなヤツだよね。

 

「フオオオッ!」

 

 めっちゃツボみたい。

 

「まさに深淵なる剣っ!!」

 

 常闇君喜んでくれてるから良いけど、そういえばコレって個性も斬れるのかな?おじさんの話だとWiFiとか斬れるらしいけど(なんで試したんだあの人?)。

 そして魔法の使用で再び皆の注目を集めてしまったよ。相澤先生なんて目を見開いてこっち見てるし。

 

 その後の体力テストは視線を集めつつも滞りなく進んで終了した。

 活躍した人で言えば、反復横跳びで峰田君がモギモギの弾力を利用したり、ボール投げでは麗日さんが∞を出したり、握力で障子君が素の力に複製した腕を合わせた怪力を見せたりしていた。 

 中でも飛び抜けていたのは、原付に大砲に万力などの最適な道具を創造した八百万さんと冷気を操り素の身体能力も高い轟君、あとは天才マンなかっちゃん。

 最下位勢は、サイズの関係で圧倒的不利な峰田君に個性が反映されない葉隠さん。

 二人とも有用性の高い個性だけど余りにも相性が良くないよね。

 ちなみに僕は1位。ワンフォーオールは体力テストに最適過ぎる。

 最下位だった峰田君が地面に両手を突き、

 

「オイラのイチャイチャエロコメスクールライフがあああっ!!」

 

 と泣き叫んでいるけど、その言葉で色々台無しだと思う。

 最初は同情してた皆も冷たい目を向けてるし。

 ラブならともかくエロは駄目じゃない?

 

「ちなみに除籍はウソな(ちょっと悩んだけど)、君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 ハッと笑う相澤先生に、はーーっ!!と叫びを上げる一部生徒(飯田君は眼鏡割れた)。

 

「だがなこれだけは言っておく」

 

 ウソに決まっていると八百万さんが言いかけた所で相澤先生が続けた。

 

「除籍になるかどうかでお前らは人生終わったような反応したが、ヒーローになったら理不尽に命を失うなんてザラだ。

 俺も此処でお前らくらいの歳に同級生を亡くしている」

 

 相澤先生の過去、同級生の死。

 その言葉にかっちゃんの視線が僕に向く、殆ど同じ経験をしたようなものだからだ。

 

「理不尽が想定で済む内に出来る限りの経験を積んどけ。たった一回の助けられる機会を取りこぼさない為にな」

 

 相澤先生の除籍まで仄めかした指導。

 それは自分のような思いをさせないための教えだったのだと皆が理解した。

 

「あと峰田。痴漢や覗きに盗撮などの犯罪行為をした場合は即退学の上に実刑もあり得るからな、肝に銘じておけ」

 

 そして釘も刺すんですね。

 八百万さんの創造の時ガン見してたからなあ。

 

「(それと緑谷、お前の事情は知っている。その力の使い道を誤るなよ)」

 

 去り際の耳打ちで相澤先生が雄英高校でも重要な立場だと分かった。

 力の使い道か、肝に銘じておこう。

 学ぶべき先達がいる。

 雄英高校を選んで正解だったと僕は思った。

 魔法を見せてとクラスメート達がせがんできたり、中断していた塩崎さんとの関係を聞かれたりしながら雄英高校初日のカリキュラムは終了した。

 下校時間、従者として当然ですと言わんばかりに待っていた塩崎さん(かっちゃんは爆速で逃げた)と帰路についてたら、飯田君と麗日さんと合流した。麗日さんが塩崎さんを見た瞬間エルフさんみたいなエグい無表情になったけど、声をかけた時には麗らかフェイスに戻っていた。塩崎さんも髪が威嚇するように蠢いているし。

 これはいわゆるモテ期なのでは?と思ったけどそれはないなとその考えを掻き消す。

 僕みたいなトレント紛いがモテるなんてありえないことだからね。敬文さんみたく心温まる?エピソードも小学生の時に無かったし。

 僕を挟んで睨み合う二人を見ながら、飯田君と話したりして歩いていた。

 今まで無かった充実した学生生活を。

 




  
 


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14話 ヒーロー基礎学とオールマイト。

 
 原作設定改変あり。
 あと描写してないシーンは原作通りに進行しています。


 

 雄英高校生活二日目。

 もうすっかり定着しつつある塩崎さんとの登校に駅から麗日さんが合流し賑やかになった。

 中学校ではありえなかった学生らしい日常が、間に異世界での半年間があったからより嬉しく感じる。なお飯田君は誰よりも早く登校しているらしく朝は時間が合わなかった(かっちゃんも誘ったけど聞いた瞬間爆速で翔けていった)。

 麗日さんと塩崎さんは僕を挟んで時折張り詰めた空気を出したりもするけど、そこは同じヒーロー志望だからなのかすぐに打ち解けたみたい。二人共良い子だしね。

 

 そんな登校時間が終わって午前中。

 ヒーロー育成機関とはいえそこは高校、通常科目も当然ある。むしろ日本最高峰の偏差値であるから授業のレベルもハイレベルだ。プレゼント・マイク先生の授業は普通だけど。

 昼はクックヒーロー ランチラッシュによる一流料理を安価で頂ける。

 かっちゃん(逃亡失敗)を含めたクラスメート達との学食での食事は楽しい一時だ。

 そして午後の授業!

 いよいよ待ちに待ったヒーロー基礎学!!

 

「わーたーしーがー!!

 普通にドアから来た!!!」

 

 担当はオールマイトなのか。新任教師だけど大丈夫かな?

 ヒーロー基礎学。

 ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目。割と最近できた科目で、数多のトップヒーロー達の心得や信条に警察や救急隊に自衛隊などの育成カリキュラムを組み合わせた総合科目。

 そして今日やるものは戦闘訓練。

 入学前に提出した個性(偽称)と要望に沿って、雄英高校御用達のコスチューム企業のあつらえた戦闘服を纏い行う本格的な授業。

 子供の頃から思い描いていたヒーローの姿。

 それが現実になることに興奮して嬉しそうにコスチュームに飛びつく。

 

「そう、格好から入るってのも大切なことだぜ少年少女!!自覚するのだ!!今日から自分はヒーローなんだと!!」

 

 ちなみに僕のヒーローコスチュームなんだけど、最初は母がヒーローになることを応援して手作りで用意してくれようとしていた。

 だけど半年間の異世界生活のアレコレを知った結果、実用性第一!身の安全を優先して!と意識を変えてしまった。とりあえず防火性!と叫ぶ母の悲鳴を聞きながら僕は要望書を提出したのだ。

 その結果は、

 デザインは異世界での活動着。

 服は異世界でのおじさんと同じデザインで首回りに赤い布を巻いている。腰のベルトには折りたたんだ呪符を革でとめてぶら下げ。

 頭部にはフルフェイスのヘルメット。

 背後からの不意打ちで気絶しないように耐久性に優れた仕様で、色はオールマイトを模した金色で角?を二本走るようにデザインしてある。

 ただ、コスチューム素材は天然素材に限定してもらっている。それなら神聖魔法で直せるしね。

 これがざっくりとした僕のコスチューム。

 荷物を収納魔法にしまえるから基本手ぶらですむのは便利だよね。

 

「良いじゃないか皆、カッコいいぜ!!」

 

 うん実用性に趣味にデザイン重視と様々ですね。

 

「先生、ここは入試の演習場ですがまた市街地演習を行うのでしょうか?」

 

 すぐに質問できるのは飯田君の良いトコだよね。

 

「いいや!もう二歩先に踏み込む!

 屋内での対人戦闘訓練さ!!」

 

 敵退治は主に屋外で見られるが統計で言えば屋内の方が凶悪敵出現率は高い。

 それはそうだろう、多くの騒ぎになる敵は逃亡失敗で破れかぶれになって暴れるか、暴れるために騒ぎを起こす。

 商売という形まで犯罪を確立している存在は拠点を構え発覚しないように立ち回っていてもおかしくない。

 

「君らにはこれから「敵組」と「ヒーロー組」に分かれて2対2の屋内戦を行ってもらう!!」

 

 その説明の後は皆から質問が飛び交う。

 青山君は関係ないことを言ってたけど、まあレーザーを使うならマントは反射性にしたらどうかな?

 

 訓練の設定は、

 敵がアジトに核兵器を隠していてヒーローがそれを対処しようとしている。

 勝敗条件は、

 ヒーローは制限時間内に敵を捕まえるか、核兵器を回収する事。

 敵は制限時間まで核兵器を守るかヒーローを捕まえる事。

   

 映画かな?

 ツッコミどころ満載だけどわかりやすくてぶっ飛んだ設定だった。

 

「コンビ及び対戦相手はクジだ」

 

「適当なのですか!?」

 

 これって昨日相澤先生が体力テストでクラスメートの個性を確認する機会をくれなかったらしんどかったのでは?

 それで一緒のコンビになったのは麗日さん。この二日で親しくなれた人だし、個性も反動まで聞いているからやりやすいね。

 そして相手は、かっちゃんと飯田君か。

 僕達が敵側で、かっちゃんがヒーロー側。

 なるほど手強いね。

 

「敵チームは先に入ってセッティングを!

 5分後にヒーローチームが潜入でスタートする。

 他の皆はモニターで観察するぞ!」

 

 さてどうするか。

 ただ勝つなら単身特攻して光剣を振り回せば勝てるだろうね。

 けどそれは成りたいヒーローの形じゃない。

 おじさんとのダンジョンアタックでは効率優先になってしまうけどヒーローになるからにはそうではいけないんだ。

 なぜオールマイトは平和の象徴になったのか。

 それは人が正しく生きる指標となるため。

 ヒーローとは誰もが憧れる存在で、正しく格好良くあらねばならない。

 それが、演出と言われようともだ。

 誰もがヒーローに成りたいと思う社会なら、敵を志す者は減るのだろうから。

 幸い、僕が個性とした勇者は分かりやすい形。

 僕がなるべき形は、勇者らしくだ。

 

「やろうか麗日さん」

 

「うん」

 

 雄英高校生活は全力で過ごす。

 だがそれは異世界グランバハマルでの、どんな手段を用いても生き延びて殲滅する在り方じゃない。 

 それを意識して授業に臨もう。

 

 




  
 コスチュームデザインがわかりにくくてすいません。
 普段着甚平一択な作者には厳しいのです。
 


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15話 激戦、これ初戦なのに。


 今回は三人称です。


 

 屋内対人戦闘訓練開始。 

 両チーム共、僅かな時間でそれぞれの方針を決めたようだ。

 ビルに潜入するヒーローチーム、先を行くのは爆豪勝己である。

 

「飯田、お前は麗日お茶子には勝てるよな」

 

「ああ彼女の無重力は厄介だが、天井のある屋内ならそこまで脅威ではない」

 

「俺の爆破ならほぼ無意味だしな、なら麗日お茶子撃退のちに核兵器を目指してくれ」

 

「そして君は緑谷君の足止めに専念か、確かに緑谷君は強いが二人がかりなら勝てるのではないか?」

 

「連携訓練もしてねえのにぶっつけ本番でやれるかよ。お互いスピードタイプだからぶつかるのが関の山だ」

 

「むう、確かに」

 

「イズクが能力縛ってて持って3分だがな」

 

「縛り?彼は手を抜く性格じゃないだろ?」

 

「出合い頭に魔法の鎖で拘束されたら終わりだろうが、だからやらねえと思うが」

 

「君が昼に縛られてたアレか」

 

 緑谷出久からしたら勝ち筋などいくらでもある。だからこそ授業として意味が成さなくなる勝ち方は選ばないだろう。

 

「能率優先なやり方だと評判悪くなるのがヒーローだしな」

 

 ゲームで例えるなら緑谷出久のやり方はハメ技に近い勝ち方だ。

 だがハメ技ウラ技は使うことが楽しい反面、見てる側は面白くない。そんな風に勝って楽しいかとすら言われる事だろう。

 勝手な観衆は正攻法による圧倒的な勝利か、苦労した上での勝利を望む。

 魅せる勝ち方、そんな戦い方もヒーローには必要なのだ。強さを至上とする爆豪勝己からしたら劇団に行けと思わなくはないが。

 

「ただ結果より、その先を見据えての行動か。先を行かれてる感じだな」

 

「戦闘能力が過剰だからな、と居たか」

 

 声を潜めながらの雑談は、巡回中の緑谷出久との遭遇により打ち切られる。

 

「ヒーローか。ここに来るとは無謀だな。

 光剣顕現ー(キライドルギド リオルラン)」

 

 右手に光剣を創り出し構える緑谷出久。

 爆豪勝己は自身の爆破液を球形にし人差し指から弾丸のように撃ち出す。

 

「行けっ!!」

 

 緑谷出久が爆風を切り裂く間に爆豪勝己の怒声に押され飯田天哉はエンジンを吹かせ最高速で駆け抜けた。させまいと左手を向け拘束魔法を発動しようとする緑谷出久だが、それは爆ぜる掌が邪魔をする。

 

「お前の魔法はきちんと呪文を唱えねえと使えないんだろ」

 

 緑谷出久が使う魔法、精霊魔法はいわば精霊との契約。無詠唱など礼節をかけば精霊から不興を買い、ささいなことからとんでもないことが起きる(異世界おじさんの甥の敬文氏がやらかし済み)。ゆえに戦いは魔法発動まで距離を取ることがベストなのだが。

 

「させねえよ」

 

 相手は天才爆豪勝己。

 本拠地ビルの通路という過度な破壊もできない、距離を取りにくいこの場所はあまりにも不利が過ぎた。

 

「(ワンフォーオール フルカウル発動)」

 

 もっともそれは、精霊魔法ありきの戦いなればこそだが。個性の発動にはそんな制約がありはしない。

 

「チッ」

 

 稲光する肉体に右手の光剣。

 振るわれる容赦の無い太刀筋はバトルセンスの塊である爆豪勝己をして回避に専念しなければ即座にやられるだろう。

 手甲のギミックを使用して勝負を賭ける誘惑にもかられるが、モニター室で観戦しているオールマイトに止められる可能性があり、また使用するだけの隙は緑谷出久に魔法を使わせる時間を与えてしまう。

 

(飯田を当てにして時間稼ぎに専念が最善か)

 

 悔しさに歯を食いしばる爆豪勝己だが、制限あっての緑谷出久にこの様であるという自覚もある。

 

(強くなってやる)

 

 今は勝てずともいずれは。

 誓いを新たに、頬をかすめる光剣を捌いた。

 

 

 場所は変わって麗日お茶子と飯田天哉。

 最高速で駆ける飯田天哉は核兵器の安置されてない開けた場所にて麗日お茶子による足止めを受けていた。

 麗日お茶子と飯田天哉、共に雄英高校入学者でありながら、事戦闘においては飯田天哉に分がある。

 それは麗日お茶子が一般家庭(経営者ではあるが)出身に対し、飯田天哉が代々ヒーローを輩出してきた一族出身であることが要因の一つである。

 個性は千差万別、その活用方法は自力で生み出すしかないことが前提。だがヒーロー一家であり数少ない個性活用のノウハウを有する飯田家は個性においての理解が頭一つ抜けている。

 また類似した個性による戦闘技術すら伝授されているため、飯田天哉が一年A組において五指に入る実力者であることも納得である。

 そのスピードに長けた個性も相まって本来なら瞬殺できてもおかしくない筈なのだが、彼は思わぬ苦戦を強いられていた。

 

「攻撃が当たらないっ!!」

 

 飯田天哉のエンジンによって加速した襲撃は尽く当たらない。

 否、当てられる位置に麗日お茶子の体はある。だが足が当たる瞬間に先にフワリと吹き飛んでしまうのだ。

 

(緑谷君の言ったとおりや)

 

 麗日お茶子は目論見が上手くいったことに笑みを浮かべる。

 開始までの五分の間、今回の方針を決めた後に緑谷出久が麗日お茶子にした入れ知恵ともいえる助言。

 それは打撃主体な現ヒーロー達相手に彼女が優位に立てるアイデアだった。

 やることは簡単、相手の攻撃モーションに合わせて自分に個性を発動する、ただそれだけのことだ。

 だが重力の重しの無くなった彼女の肉体は相手の攻撃、致命打になる一撃が当たるより先に相手が起こす風圧により吹き飛ぶ。さながら風に舞う木の葉のように。

 自身の肉体に個性発動は負担が大きく、発動し続けることは困難。

 だがエンジンという分かりやすい予兆のある飯田天哉相手なら、その攻撃に合わせて個性を発動できる。

 彼女自身に攻撃力が無いという欠点があるため、戦闘による勝ちは無い。だが制限時間のあるこの訓練であれば麗日お茶子は飯田天哉に勝利できる。

 

(クソ、こんなやり方があるなんて)

 

 だがそれは飯田天哉という少年の性格を考慮していない場合の勝ち筋である。

 

(けど頼まれたんだ、託されたんだ。あのプライド高い爆豪君に足止めまでさせて)

 

 飯田天哉は責任感の塊。

 人の思いは無理をしてでも無下にしない。

 

「トルクオーバー レシプロバーストっ!!」

 

 エンジンのトルクと回転数を無理矢理上げ爆発力を生む加速技。 

 それは本来生まれる風圧も起こさない超加速を生み出す。

 反動でしばらくするとエンストをおこす誤った使用法ではあるが、この場の打開のために彼は使用する。

 その速度は今まで対処できていたがゆえに、麗日お茶子には反応できない。

 

(勝った)

 

 自身の足が麗日お茶子に命中することを確信する飯田天哉。

 核兵器は階段の先だろう、ならばエンストしてもなんとかなると脳内で目算を立てたところで、

 

「捕縛拘鎖ー(レグスウルド スタッガ)」

 

 その声は響いた。

 命中する瞬間、足が麗日お茶子の肉体に当たる寸前で空間に縫い止められるように固定される。

 ズリズリと気絶した爆豪勝己を引きずる音を立てながら現れた緑谷出久は、空間に現れた魔法陣から伸びる鎖で飯田天哉を拘束した。

 

「危うく負けそうだったな。だがこの戦い、こちらの勝ちだ」

 

 同時に鳴るタイムアップの音に今回の訓練は終了した。

 

(結局間に合わなかったのか)

 

 飯田天哉は敗北を噛み締めた。

 

 

 そしてモニター室。

 訓練講評の時間。

 初戦から高水準の激戦にクラスメート達は興奮していた。

 勝ったのは敵チームだが全員がベストを尽くした戦いだった。

 敵チームは巡回と警備の役割を分けきっちり敵になりきり、ヒーローチームは足止めと突破と対応した。どちらが勝ってもおかしくない戦いだった。

 無用な破壊をしなかったのも高評価。いかに敵退治のためとはいえ建物を破壊したら、某巨大化ヒーローのように借金だらけになってしまう。

 ベストが選べない訓練だったよとオールマイトは言った。

 

(強いて言うなら瞬殺できた緑谷少年が皆に合わせて訓練してくれた事を褒めたいけど、傍から見たら接戦だったし舐めプに感じちゃうから言えないね!!)

 

 ただ爆豪勝己はより強くなると誓い、麗日お茶子は今後の課題を見つけ、飯田天哉は敗北を得たので得るものが多い訓練だったと言えよう。

 

 その後気合の入ったクラスメート達により苛烈となったヒーロー基礎学の戦闘訓練は終了した。

 

 放課後、彼らは教室にてクラスメート達とあらためて自己紹介をし訓練の反省会をした。

 緑谷出久は魔法をせがまれ、爆豪勝己は敗北を慰められブチギレ、和気あいあいと楽しい時間を過ごした。

 

 

 そしてその数日後彼らヒーローの卵達は知ることになる!

 オールマイトの言っていた、真に賢しい敵の恐怖を。

 

 もっともその賢しい敵とやらは知らない、この場には異世界から帰還したワンフォーオール継承者というイレギュラー過ぎる存在がいることを。

 



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16話 転移ボーナスとトレントとおじさん。


 おじさんサイドです。


 

「そういえば出久君の転移ボーナスってなんだったんだろうね」

 

 某市某アパート。

 そこには最近警察のアルバイトで事件解決に貢献している異世界帰りのおじさんと、将来のため資格勉強をはじめた青年が生息している。

 

「出久君の?凍神剣みたいなアイテムは持って無かったけど」

 

 自身のボーナスとて異世界から帰還してはじめて気づいたおじさんに思い当たるモノはない。ならば自分同様に能力かも知れない。

 

「本人もわかってないなら記憶再生で見るしかないかな?」

 

「多分それが確実だと思うな。ちょっと呼んでみる?」

 

「うん、害はないだろうけど把握はしといた方が良いだろうし」

 

 それもそうかとおじさんは頷き、取り出したスマホで連絡する。元々は通話もできないガラケーをデザインが気に入ったから使っていたのだが、アルバイトの関係で必要になったので塚内警部が用意してくれたのだ。電話に出た緑谷出久に休日に来ないかと誘えば即座に了承された、ただ一人同級生を連れて行っても良いかと尋ねられたのでおじさんと敬文は頷いた。異世界の件にしても連れてくる相手なら問題はないと判断したのだ。

 

 数日後、休日。

 緑谷出久が塩崎茨を連れて大荷物を抱えながら訪れた。大荷物の中身は緑谷出久の母お手製のお総菜。男性二人暮らしと聞いた彼女は、異世界でのお礼も兼ねて大量に持たせたのだ。

 

「いやーありがたいね敬文」

 

「うん、やっぱり男所帯だとレトルトばかりになっちゃうからね」

 

 思わぬ家庭の味到来に男二人は大喜び。

 特にこの二人は一家離散(おじさんは忘れているが)しているため、そうそうありつけるものではないのだ。

 

「私も今度持ってくるわ」

 

 その事情を知る藤宮さんは顔を引き攣らせながらそう言った。普段は気にしてないように見えるが、時折こういった闇の深さを垣間見せるのだ。

 

「それでおじさん、こちらが雄英高校で同級生の塩崎茨さん」

 

「はじめまして、勇者様の従者である塩崎茨と申します」

 

 出久が連れてきた茨の髪をした少女を紹介すると、おじさんはしっかりとした態度で名乗る。

 

「ドモドモ、チャンネル異世界おじさんのおじさんデース」

 

 それが正式な名乗りなのかと横で聞く藤宮さんは呆れ果てる。動画投稿にプロ意識を見せることは多々あったがここまでとは。

 

「申し訳ありません、存じておりません」

 

 そして塩崎さんは動画サイトを見ないタイプで名乗ってもわからなかったようだ。

 ♪ ゲームオーバー的な音が流れた時のようにショックを受けるおじさんの姿がそこにはあった。

 

「(ところで出久君、勇者様って?)」

 

 そしてその裏でこっそりと話す、出久と敬文。

 

「(入試の時に魔法とか使ったら勇者認定されちゃって、信心深いタイプだから)」

 

「(ああ稀にいるよね、個性を神の導きって捉える人達)」

 

「(常に側に控えようとするからもう異世界の事を隠すのも限界なんで、これを期に伝えようかと)」

 

「(いいの?それがきっかけであんな綺麗な娘と別れることになるかもよ?)」

 

「(付き合ってるわけじゃないですって。一緒に居て不快じゃないですが、それで離れるなら仕方ないかと)」

 

 おじさんが自身の動画を塩崎さんに見せてる中でヒソヒソと話す二人。

 異世界の件を話すにはリスクがある、だがここまで親しくなって隠しておくのも出久の心情的にしんどかったのだ。

 

「ところでどうして今日は呼ばれたんですか?」

 

 おじさんから電話で言われたのは休日にこれないかどうかだった。どんな誘いでも断る気のない出久はそのまま了承し、その目的を聞いてないのだ。

 

「ああ、先日おじさんの転移してすぐにあった事を見てね」

 

「アレかー」

 

 出久も異世界で見せてもらった事のある記憶。オーク扱い、リンチ、タワシ、牢屋、の織り成すエグい出来事だった。それを見たから自分は大分マシだったと思えたのだ。

 

「その時におじさんの転移ボーナスが判明してね、出久君のはなんだろうって?」

 

「転移ボーナス?凍神剣みたいなアレですか?確か煉獄の湯の創業者も持ってたヤツ」

 

 そこまで言い、ヒーローオタクで個性分析が趣味の出久は気づく。

 

「もしかしておじさんの精霊や魔物と会話できたのって個性じゃなかったんですか?」

 

「出久君は個性認識だったんだ」

 

「無個性だって言ったでしょ」

 

「特定条件で発動するタイプだと思ったんだね、こっちには魔獣もいないし精霊は認識できないから」

 

 条件を満たさないと発動しない個性も稀にある。

 病院にて正確な診断ができないあの状況では出久がそう思うのは無理がなかった。また年齢の問題もあった、おじさん世代ではまだ細かく診断できないのではという認識もあったのだ。

 

「けどそんなのありますかね?何か得た感覚とか無いですけど」

 

「だよねー、俺もセガで培われた応用力が開花したのかと思ってたよ」

 

「ないから」

 

「ゲームへの揺るぎない信頼」

 

「あの、先程からお話がよく」

 

 異世界へ転移した直後の出来事を話すと、まだ説明されていない塩崎さんが疑問の声をあげる。

 

「そうだね、じゃあ見せようか僕に何があったのか。僕の力は勇者じゃないことをね」

 

『記憶再生ー(イキュラス エルラン)』

 

 

『来世は個性が宿ると信じて、屋上からのワンチャンダイブ!!』

 

「あ、戻りすぎた」

 

 再生した光景は少々戻りすぎたようだ。とはいえこの後から緑谷出久の人生は激変したのだと本人は少し懐かしい気分になる。そう、思えば爆豪勝己も別人レベルで変わったものだ。

 

「今無個性ってこんな事言われんの?」

 

「これ自殺教唆じゃ」

 

「酷いって」

 

「なんたる暴言」

 

 見ていた四人は憤慨する塩崎さんを除き、ドン引きすらしていたが。

 

「んで、この後ヘドロヴィランに襲われてオールマイトとアレコレあって、かっちゃんが乗っ取られてたのを助けようとしてオールマイトがなんとかしてくれて、ヒーローに説教されてかっちゃんに捨て台詞吐かれて、洸太君を庇ってトラックに轢かれて異世界へと」

 

「ハードスケジュールな一日だな。俺はお年玉でゲーム買いにいくぞーって最高にハッピーな行きがけだったけど」

 

「胸焼けしそうな一日だなオイ」

 

「そしてまだ碌でもない異世界からの出来事が残ってるっていうね」

 

「なんて酷い」

 

 そして異世界へ、おじさんの時のように深い森の中で神聖魔法の人生蘇生に似た肉体の構築をされ目覚める。焚き火をしていた冒険者達に声をかけるも当然通じずその容姿からトレント扱いされ追い掛け回された。

 必死に逃げ惑うも土地勘無き森の中でプロの冒険者から逃げることなど出来ずに散々殴打され、剣を抜かれ始末されそうになる。

 

「アレは痛かったなあ。かっちゃんの苛めとか所詮子供の遊びだったとよく分かったよ。まあ理解したの死ぬ寸前だけど」

 

((改めて重い、こっちの生活もだけど))

 

「えっとおじさんの時はこのタイミングだったけど、神の声」

 

「リージョンコード間違えてる適当なヤツな」

 

 おじさんの時の再生音声はまだ聞こえない、だがこのままだと始末されそうなのだが。

 

「ここで颯爽とおじさんが現れてね」

 

 剣が振り下ろされる瞬間、空から赤い布をはためかせ降り立つおじさん。正にその姿はヒーローだった。

 

「なるほど出久君がおじさんを慕うわけだね」

 

「普通にヒーローだ」

 

「天より降り立った神の使者」

 

 光剣にて冒険者を蹴散らしたおじさんは出久へと顔を向け、

 

『レアなトレントか、狩ればイベント発生するか?』

 

「「なんでだよっ!!」」

 

 その刃を突き立てた。

 

「痛かったなあアレも」

 

「あの時はマジゴメンね」

 

「おじさんも手がかり探すの必死でしたからね」

 

 緑谷出久の額に残る縦一本傷。

 それをつけたのは他ならぬおじさんであった。

 

「それでこの後荷物から異世界人だと判明して、幸い額を斬った程度だから呪符で慌てて治療して事なきを得たんですよね。ショックで気絶してましたけど」

 

「いやー本当にパニクったよあの時は」

 

「こんな事されてよくおじさんについていけたよね」

 

「なんで今慕えてるんだ」

 

「「異世界だと比較的マシな出来事だから」」

 

 と異世界コンビは声を揃えていった。

 

「驚いて流れたけど、このタイミングで流れてたよ神の声」

 

「内容も一緒だね、リージョンコードも間違えたままだし。出久君何を望んだの?」

 

「えっと、確かこんな風に力を振るうヒーローに成りたかった。ですかね?」

 

「あ、翻訳されてる。変身魔法はこの世界にあるので、物事を習得しやすくするから後は自分で頑張んなさい(笑)だって」

 

 翻訳アプリに表示された神の言葉はあんまりな内容だったが。

 

「だから魔法とかスキル覚えやすいのか(あとワンフォーオールも)」

 

「異世界語とかも数日で使えてたしね、てっきり純粋な知力のおかげかと」

 

「いや酷いからコレ」

 

「本当にやる気ないなー」

 

 緑谷出久の転移ボーナスは物事を習得しやすいこと、おじさんという庇護者が居なければ確実に死んでいただろう。

 そんなすっかり慣れた諦感に出久が浸っていると、後ろからギュッと抱きしめられた。

 涙を流す塩崎茨が出久を慈しむように抱きしめていたのだ。

 

「大丈夫だよ、もう。それに辛かったけど得たモノだってココにあるから」

 

 苦しかったし、辛かった。けれど緑谷出久は今ここにあるモノが無くなってまでこの過去を無くしたいとは欠片も思いはしないのだ。

 

「分かったろ塩崎さん、僕は勇者なんかじゃないんだ」

 

 歪な関係を終わらせようと出久は言う。

 だが彼女は首を振り、

 

「勇者様です。こんな経験をしても誰かを救おうとする貴方は、勇者様なんです」

 

 自分の勇者だとそう言った。

 

「そっか、なら勇者でいるのも悪くないかもね」

 

 その重なり合う二人の姿を年上三人はこそばゆいような微笑ましいような気分で見ていた。

 

 

 

 出久君の転移ボーナスを知りたいという思いつきは、思わぬところで若い二人の絆を深めるきっかけとなったようだ。落ち着いた塩崎さんは出久君から離れると藤宮に連れられて隣室で女性だけの話をしたみたいだ。

 おじさんと出久君のファーストコンタクトは、今の関係から信じられないくらい酷かった。これで慕うようになるのだから異世界はどれだけ地獄なのだろう。

 皆が帰ったあとおじさんと二人で食べたお総菜は、もう有りはしない家庭の味を思い出してちょっとしょっぱかった。

 

 



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17話 委員長決めと修羅場とマスコミ乱入。

 

 早朝。

 オールマイト目当てで雄英高校前に張り付くマスコミ達を撒いて塩崎さんと登校する。

 人混みはグランバハマルでのアレコレで苦手になったし、ニホンバハマルに戻ってからの騒動でマスコミにも苦手意識はある。

 人の良い生徒や生真面目な生徒は応対してるようだが、一言でもコメントを求めるのは普通に邪魔だからやめてほしい。

 ヒーローにとってヴィラン以上に厄介な存在と称される彼らは今日も無駄に元気だ。

 

 朝のホームルーム。

 相澤先生が戦闘訓練結果を見事だったと褒めてくれてから本題に入った。

 まだ数日の付き合いなのだが、相澤先生が何か言い出そうとすると不安になってしまう。

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「学校っぽいの来たー!!(ホッ)」

 

 この反応が相澤先生の印象そのものかもしれないなと思う。

 クラスメートの皆が我こそはと手を挙げる中、僕と轟君は手を挙げていない。

 基本雑務扱いの学級委員長だがヒーロー科では集団を導くというトップヒーローの素地を鍛えられる役職ともいえる。

 実際現トップヒーロー、エンデヴァー、ベストジーニスト、などは単独での実力も然ることながら指揮官としても評価が高い。

 僕は正直やる気がない。

 そもそも指導者であるオールマイトが単独行動の代名詞であるし、おじさんがソロプレイ(基本的に僕はデバフ装備扱い)の専門家だったからだ。

 

「多を牽引する責任重大な仕事だぞ。やりたい者がやれるモノではないだろう」

 

 まあ確かにA組の顔、代表になるね。

 腕をまっすぐにそびえ立たせつつも投票で決めることを飯田君が提案。

 中学校生活三年までいじめられっ子だった僕としては、民主主義も投票も良い印象は全くないのだけど妥当な提案ではあると思う。

 蛙吹さんと切島君が誰かを推すほどの付き合いはまだ無いと伝えるけど、だからこそと飯田君は言う。

 そして相澤先生もその提案に(どうでも良さ気に)頷いたため、投票で決めることになった。

 結果、僕と八百万さんが同着二票となった。

 なんで自薦してない僕が二票なんですかね?

 間違いなく投票者は0票の麗日さんと僕が投票して一票な飯田君だね。

 となると八百万さんは轟君か。

 

「んじゃ俺は緑谷に一票で緑谷委員長な、八百万は副委員長だ」

 

 同票でどう決めるかと決めあぐねていたら相澤先生の一言で決着。

 恐らくだが異世界やオールマイトのアレコレ関係で呼び出しやすいようにしたかったのだろう。

 気が進まないがやるしかないだろうね。

 

 そんなこんなで昼ご飯。

 今日はお弁当だが飯田君達と食べるため食堂へとお供した。既に定位置な僕の横には塩崎さんが座っている。

 

「なるほど勇者様が学級委員長とは、納得の結果ですね」

 

「塩崎君もそう思うかい?入試の件といい実技演習での実力もあったから彼が相応しいと思ってね」

 

 飯田君、やはり君かい。

 

「B組は拳藤さんという方で、姉のように引っ張ってくれる気質の方です」

 

 いわゆる姉御肌か、元ヤンかな?

 そんな風に僕がその拳藤さんに(勝手な)想像をしていると、

 

「ところで気になったんやけど」

 

 麗日さんが麗らかではない表情で僕と塩崎さんのお弁当を見る。

 

「なんで同じお弁当なん?」

 

 なんか空気張り詰めてません?周囲からも視線を感じるし。

 

「? 私が作ったのだから当たり前ですが。無論今後は勇者様の好みに合わせるつもりですが」

 

 大体味付けが塩のみの異世界にいたからか、こっちの料理はなんでも美味しく感じるけどね。

 

「どういうことなん?緑谷君」

 

 なんか浮気を問い詰められた色男みたい☆

 僕はモテる筈ないから公序良俗の観点からだろうけどね。

 

「塩崎さんがウチの近所で一人暮らししてるから心配した母が食事によく誘うんだ。お弁当はそのお礼」

 

 自宅通いが無理な人は雄英高校進学を機に一人暮らしを始めるから。

 

「そうなん?」

 

「父が単身赴任で食卓が寂しいって母がよくボヤいてたからね」

 

 四人がけテーブルの空いた席って寂しい空気出すよね。特に半年間は僕も居なかったし、母はどれだけ寂しかったんだろうか。塩崎さんを招くのはその反動があるかもしれない。

 

「なるほど、ウチも多忙で家族の揃わない食卓はかなりあったからその気持ちがわかるな」

 

 ウンウンと頷く飯田君。

 代々ヒーロー一家ならそうなってもおかしくないだろうね。特にお兄さんであるターボヒーロー インゲニウムは大勢の相棒を雇う大人気ヒーローだし。

 

「そっか」

 

 そう呟く麗日さんが酷く寂しそうに見えた、確か彼女も親元を離れて一人暮らしだったよね。

 

「麗日さんもウチで夕食をどうかな?一人分も二人分も変わらないし」

 

 異世界生活で焼き魚とか焼肉は得意だから僕も手伝えるしね。

 その僕の発言で周囲で窺ってた人達がなぜか「こいつマジか」って顔をしているけど。

 

「それならたまにはお言葉に甘えようかなー(ウチは押しかけやなく誘われたで)」

 

「それは素晴らしい提案ですね勇者様(善意からでしょう、いい気にならないでください)」

 

「兄もサイドキックの皆と大規模な食事会をよく開くんだよ、僕も参加するが楽しいぞ!」

 

 なんか麗日さんと塩崎さんが空気を張り詰めさせて目で会話してるような?

 あと飯田君は一切気づいてないね。

 そんな食事をしていると突然学校中に警報が鳴り響いた。同時にアナウンスが流れ屋外へと避難を呼びかけられる。

 セキュリティ3の突破、少なくとも三年間は無かった校舎内への侵入者。

 とりあえず指示に従うと思うけど、このままだと人混みが混雑して危ないね。

 全く、いくら滅多にないからといって「おはし」は緊急時の基本だろうに。

 仕方ない、やるか。

 

「神よ! この惑える者らの心の波濤、我と一つに!」

 

 

 神聖魔法の催眠解除魔法だけど、術者と精神を同調して正気に戻すから効果あるでしょ。

 広範囲にできるのは修行の成果。

 できないとダンジョン攻略しんどかったし。

 

「あれ?俺達」

 

「今、光が奔ったような?」

 

 効果ありだね。

 一度落ち着けば後は大丈夫。

 流石は雄英生らしくきちんと避難に専念していた。最初のパニックをどう鎮めるかがやはり大切だな。

 そんな平然としている僕を、塩崎さんは崇めるように麗日さん飯田君は尊敬するように見ていた。

 

 

 後になって敷地内に侵入してきたのはマスコミだと分かった。僕のアレコレでもそうだったけどやはり碌でもない。

 雄英高校の堅固な防壁はどうやら破壊されて突破したらしい。

 まあ驚くことじゃないかな?

 おじさんも結界やら聖域とか頑丈そうなのあったらとりあえず壊してたし。

 

 

 僕のこの認識ズレ。

 異世界生活で身についてしまった常識は、この数日後に起こる事件にて牙を剥くことになる。

 そのことをまだ僕は知らない。

 迫りくる悪意の存在すらも。

 



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18話 襲撃に勇者よ立て。

 

 またオールマイトが教職(本業)サボってヒーロー活動していたみたい。

 本人の性格上仕方ないにしても、ヒーローとしては伝説でも教師としては新米なのに。

 塚内さんもボヤいていたけど、ヒーローとして誰かを救う行為以外は本当にポンコツらしい。まあその抜けた感が親しい人には支えようと思わせる魅力だけど。

 

 本日のヒーロー基礎学はなんでもござれの人命救助訓練。回復させてあとは転がしとけば良い異世界の人達とは違って、救いだしてから病院への搬送まで手順が多い、きっちり身につけないと。

 コスチュームは各自判断、訓練場はバスで移動するくらい距離の離れた場所だ。

 本当に広大な敷地だな、異世界の結界都市くらいはあるんじゃないかな?

 コスチューム着用後にバスに乗り込み。遅れている人がいないかだけ確認して席は自由で良いだろう。

 

「私思ったこと何でも言っちゃうの緑谷ちゃん」

 

「どうしたの蛙吹さん?」

 

「梅雨ちゃんと呼んで。あなたの個性ってどれだけのことが出来るの?」

 

「だよな、光剣に闇剣に回復魔法に身体強化ってなんでもできるよな」

 

「勇者っぽいことできるとか万能過ぎでしょ」

 

 いやまあそんな個性ありませんし。あくまで異世界で体得した複数の技術+ワンフォーオール。

 それに無個性だった僕からしたら誰の個性でも割とそんな感じではと思う。一つの個性に複数の要素含んでるなんてザラだし、訓練だけで成長どころか別物レベルで進化したりするから。

 

「どれだけって、やろうと思えば大概のことは」

 

 ワンフォーオール一つでも今ならビルを持ち上げることも脚力のみで空を飛べるだろうし。

 

「何でもでき子ちゃんかよ」

 

「俺の硬化は対人では強えけどいかんせん地味なんだよなー」

 

「緑谷の実力は個性だけではなく本人の技量もあるだろうがな」

 

「だよな、身のこなしから道場にでも通ってたのか?」

 

 異世界です。

 障子君や尾白君は結構目敏いね、二人とも格闘技に精通してるからかな?

 

「まあね。けどヒーローに重要なのは個性を使うことじゃなくて、人助けすることだから。個性なんてあくまで手札の一つくらいの認識で充分だよ」

 

 最近のヒーローは個性を人助けに活かすじゃなくて、個性をこの現場にどう当てはめるか、に意識がいっている気がする。

 必要ないのに個性使って現場荒らすんだよは、警察のヒーローに対する本音の一つだとか。

 相澤先生に注意されるまで僕たちは雑談を楽しんでいた。

  

 コレは明らかに趣味でしょ。

 辿り着いた訓練場は色々アウトな名称の施設。

 事故や災害の体験は昔から色々な機関で試みられてたけどコレは極めつけだね。

 というかテーマパーク感がすごい。

 担当するスペースヒーロー 13号の説明と好きなヒーローの登場にはしゃぐ麗日さん。あとオールマイトまたやらかしてるし、それで良いのか新任教師。

 

「えー始める前にお小言を一つ二つ三つ四つ、」

 

 多いよ。

 

「皆さんご存知だとは思いますが、僕の個性はブラックホール。どんなものでも吸い込んでチリにしてしまいます」

 

 いや本当に何でもありだよね個性。

 むしろ人助け行為が個性を応用した結果にしか思えない。

 

「人を救い出すことができますが、簡単に人を殺せる力です。皆の中にもそういう個性がいるでしょう」

 

 ワンフォーオールだって制御してるから人死でてないだけなんだよね。そうじゃないと自分すら砕きそうな力だ。

 

「君達の力は人を傷つける為にあるのではない、救ける為にあるのだと心得てから帰ってくださいな」

 

 これが現役ヒーローか、眩い存在だね。

 そんな風にヒーローの格好良さに、いつもの日常に浸れたのはこの時まで。

 黒いモヤから噴水側に現れた者達。

 相澤先生の怒声が響く中、その異形の集団を見た僕は、

 

(ただの雑魚か)

 

 異世界での経験からそれらを脅威だと認識することができなかった。

 悪意には魔獣で慣れてしまった。

 集団にはゴブリン軍団で慣れてしまった。

 強い敵意は、人間で慣れてしまっていた。

 

 ヘラヘラと笑う、力をひけらかすヴィラン。

 それの脅威を僕はわからなくなっていたんだ。

 

 轟君の分析に、現状の確認。

 相澤先生の的確な指示、どうやら一人で迎え撃つようだけど実力からしたら充分だろう。

 そんな風に余裕を持ってしまった。

 黒いモヤの語る目的に思考が止まり、皆が散らされるその瞬間まで。

 

 

「水難エリアだっけ?」

 

 ワープらしき個性に飛ばされた僕は待ち構えてたヴィランを殴り倒し水面の船に上がる。

 同じように飛ばされた梅雨ちゃんは峰田君を助けてくれたようだ。

 

「大変なことになったわね」

 

 そう、大変なことだ。

 充分に対処可能だった、大変なこと。

 平和の象徴 オールマイトの殺害を目的とした、周到な準備したヴィラン集団。

 オールマイトが来ればなんとかなると空元気な峰田君に冷静に現状を告げる梅雨ちゃん。

 オールマイトを殺せる算段があるからオールマイトが来るまで耐えても無意味、そしてオールマイトが来れないことを僕は知っている。

 恐怖に泣き叫ぶ峰田君を見て、僕のクラスメート達が人の良い彼らが命の危険に晒されていることをようやく自覚して、

 

 僕はキレた。

 

「氾蛇咬昇ー(レイローカ ミバルド バグルヒルド)」

 

「へ?」

 

 戸惑う二人に構わず、魔法を発動。

 弱者を嬲ろうと調子にのってた連中を水の蛇が咥えて空へ昇る。

 そのまま噛み砕かせたいのをぐっと堪え、このまま放置だ。

 

「もう一年ぶりくらいだよね、本気でやるの」

 

 怒りは連中ではなく己に向いている。

 平穏に浸って、腑抜けていた。

 力を得たことで驕っていた。

 そう救えるにも関わらず動けないほどに。

 固く握りしめた右拳を自分の顔面に叩きつけ活を入れる。

 意識を切り替えろ。

 傲慢さこそが命を奪うのだと。

 

「二人とも僕は連中をシバキ倒す。君らは対岸に移動した後は巻き込まれないように避難して」

 

「緑谷」

 

「緑谷ちゃん」

 

 心配そうな二人に笑みを向けて言う。

 

「大丈夫。こんなの一服盛られてふん縛られて亜竜達の巣に叩き込まれたのに比べたらピンチでも何でも無いから」

 

「何で生きてんのお前?」

 

「嘘とは思えない気迫があるわ」

 

 可哀想なモノを見るような目で見ないで、涙が溢れてくるから。

 

「光剣顕現ー(キライドルギド リオルラン)

 機動纏身ー(レグスウィッド ザルドーナ)」

 

 とりあえずざっと駆け抜けてヴィラン共蹴散らしてから相澤先生のトコへ。

 かっちゃんや轟君なら自力で撃退できるだろう。

 さあ、ヴィラン共。

 異世界グランバハマル流儀のおじさん式で相手してやる。

 

 縦横無尽にウソの災害や事故ルームを駆ける。ヴィラン共は見つけ次第斬り伏せ殴り倒す。囲まれていた八百万さん達を助けだし地面に潜んでいたヴィランには光剣を突き刺す、途中の凍りついたヴィランは轟君の仕業だろう。呆然と見上げる青山君の無事を確認し、セントラル広場に辿り着けば、背中を自身の個性で抉られた13号と脳みそむき出しの大男に頭を掴まれた相澤先生がいた。

 斬。

 視認するや否や光剣を一閃し、脳みそむき出しの腕を斬り飛ばす。相澤先生を回収して13号と共に麗日さん達に託す。ついでに手男とモヤ男以外のヴィランも一掃する。

 

「コレ、先生達に貼り付けて」

 

 託す際に収納魔法から回復の呪符を一束取り出して渡す。神聖魔法を使って治したいけどそれよりもコイツラが先だ。

 

「お前、ナニ?」

 

 恐らく主犯格だろう手男の問いかけ、それに僕はこう答える。

 

「ただの学生だよ、異世界帰りのね」

 

「ふざけてんのか」

 

 真実なんだけどね。

 脳みそ男の斬った腕が元に戻るので無く、新しく生えている。再生タイプの個性か。

 相澤先生の損傷はパワーだけによるものじゃない、何らかの個性か。13号はワープで自分の個性を当てられたかな。

 それらを考慮してやるべきことは、

 

「ブチのめす」

 

「調子にのるなよ妄想野郎。複数の個性を埋め込んで改造された脳無、対オールマイト用の切り札がガキにどうこうできるかよ」

 

 対オールマイトか。

 再生だけではなく打撃対策もされているな。

 だけど僕には関係がない。

 

「雷槍顕現ー(ルガザスト リオルラン)」

 

 脳無とやらに雷槍を撃ち込み地面に縫い止める、そこにワンフォーオールフルカウルで力を上げ、

 

「修羅徹甲」

 

 ライガさん直伝のスキルを叩き込む。

 

「は?」

 

 その勢いは、脳無を呆けた間抜け面を晒す手男の横を高速で通り過ぎさせ、そのまま外壁に轟音をたててぶち当てた。

 僕のワンフォーオールの出力はオールマイトの全盛期並だと本人から太鼓判を押されている。

 そこに雷槍でダメージを与え、スキルを乗せたんだ。弱体化しているオールマイトになら勝てるという想定の改造人間ごときが相手になるものか。

 

「ゲームはさ、部屋を明るくしてテレビから離れてやりなよ」

 

 発言からゲーム気分な手男に皮肉を言ってやる。

 

「暗いほうが気分がでるんだよ」

 

「撤収です、死柄木弔」

 

「まあ仕方ないか、予定外のクソチート野郎がいたし」

 

「逃がすと思うか?」

 

 拘束魔法はモヤ男の実体が分からないとできない、なら殴り倒して。

 

「このような無粋な手段は避けたかったのですがね」

 

 見ればモヤが皆の上に広がって、そこからパラパラと降り注ぐのは、手榴弾っ?!

 

「ちいっ」

 

「ヒーローならそうするよなあ」

 

 皆を守るために光剣を振るったのと、ヴィラン共の撤収は同時。

 

「今度は殺すぞ、平和の象徴 オールマイト。そして異世界帰りのクソガキ」

 

 この捨て台詞を最後にヴィラン共は姿を消した。脳無を含めた大量のヴィランは確保したが、肝心の首領格を逃してしまった。

 飯田君が先生方を引き連れてきた頃には全員合流し終えていて、僕は重体な先生方に神聖魔法でできる限りの治療を行っていた。

 

 

 ヴィラン連合による雄英高校襲撃。

 この事件は、後に世界を震撼させる大事件の始まりであったと語られることとなる。

 

 

 



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19話 峰田危機いっぱい。


 今回視点が変わったりします。
 あと心操人使君と峰田実君ファンは閲覧注意。




 

 雄英高校襲撃事件。

 オールマイト台頭以降最大規模のヴィラン集団による襲撃事件は、プロヒーローである二人の教師と才気溢れるヒーローの卵達の尽力により幕を下ろした。

 生徒に負傷者は無し、重傷であった教師達も緑谷出久の神聖魔法により無事完治。

 今回の事件、主なヴィランを単独で撃退した緑谷出久の実力に同級生達は感謝と羨望の目を向けていた。

 だが当の本人、緑谷出久は己の至らなさ、油断、慢心を責めていた。

 

「僕が気を配っていれば取り逃がすことも無かったのに」

 

 実力はあっても警戒が足りない。そんな自分を許せないと緑谷出久は言う。

 だが幼馴染である爆豪勝己はその自戒を冷めた目で否定する。

 

「いや異世界であんだけ夜襲されて磔にされてたのに学ばないお前(とおじさん)が警戒とか無理だろ」

 

 半年間、その僅かな期間で村人に狩られた回数は十を超える。あまりにも懲りない、あまりにも学ばない、おじさんに至っては17年間過ごしたにも関わらずだ。根本的に鈍感なのだろう、この異世界コンビは。

 

「だったらどうしたらっ!」

 

 切実に緑谷出久は問う。爆豪勝己としては撃退できたんだから良いだろうという本音があるため、知らねえよという本心が顔に出てしまうが一応は答える。

 

「パーティーでも組めよ(勇者だし)」

 

 勇者とは、力で戦士に及ばず、魔力では魔法使いには及ばない。勇者の武器とは勇気と人の和である。出来ないことは仲間に頼れば良い。

 無論爆豪勝己にそんな考えなど毛頭なく適当に答えただけだが、緑谷出久はそう解釈した。

 

「ありがとう、かっちゃん。流石はウチのパーティーのナンバー2だね」

 

「勝手に組み込むな、ナンバー1ヒーローに成るのは俺だっつの」

 

 緑谷出久が異世界に行かねばありえなかった今の幼馴染関係。だがそれはお互いにとって良い影響となっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 翌日は臨時休校。

 事件概要をざっくりと聞いてパニクる母を塩崎さんと宥めるのが大変でした。塩崎さんは心配はしても大丈夫だと信頼しててくれたみたい。

 そして、

 

「お早う」

 

「相澤先生が無傷で出勤ーっ!!緑谷の魔法とリカバリーガール凄えっ!!」

 

 グランバハマルはアレくらいの傷を治せないと死ぬ世界だったしね。

 

「俺の安否はどうでも良い、何よりまだ戦いは終わってねえ」

 

「戦い?」

 

「中間テスト?」

 

「またヴィランがー!!?」

 

「おい今ヤバい単語言ったの誰だ」

 

「雄英体育祭が迫っている!」

 

「クソ学校っぽいの来たあああっ!!(ホッ)」

 

 学校なのに学校っぽい行事に過剰反応するウチのクラスって何なんだろ?

 けど行事とかは事件後は自粛したりするものだよね、安全面の問題もあるし。

 そこら辺の疑問は相澤先生がサクサク答えてくれた、逆に開催することで危機管理体制が盤石だと示すこと、例年の五倍の警備をしくこと。

 まあそうでなくとも観客にはスカウト目的のヒーローが大勢きている。仮にヴィラン連合が突貫してきても袋のネズミだろう(脳無が百体あれば別だけど)。さらに雄英高校生の地味な特権である雄英体育祭身内用観戦チケットをおじさんに渡してあるから、グランバハマル歴代ボス軍団が襲来しない限り安全だろう。本当なら母に渡すべきだけど、涙で周りに迷惑かけるからテレビ中継を見ると言ってた。

 年に一回、計三回だけのチャンス。ヒーローを志すなら絶対に外せないイベントだ。

 

 実は僕はオールマイト関係からサーナイトアイ事務所に既に内定もらっているんだよね。だからスカウトは正直関係無いというか。

 テンション上がる皆に反して凄く気まずいです。

 

「緑谷君、飯田君、頑張ろうね体育祭」

 

「顔がアレだよ麗日さん」

 

 真剣というか眉間にシワが寄っている。

 周りもいつもと違う様子が気になっているよ。あと峰田君、それはガチで男には分からない苦しみだからネタにしちゃ駄目だって。

 

「皆!!私!!頑張る!」 

 

 気合が入っているというよりかは、気負ってる感じみたい?

 食堂までの移動中、ヒーローを目指す理由を語る麗日さん。究極的に言えばお金のため、本人は立派な理由でないことを恥ずかしがっていた。

 ちなみに飯田君は尊敬する兄のようになりたくてヒーローを目指していて(家業だからというのもありそうだけど)、塩崎さんは、力を持って生まれた者の義務だと思ったからだそうだ。

 

 

「職業に貴賤の無いように、理由に貴賤も無いよ。まあその先に誰かの笑顔があるなら文句なしに尊いと個人的には思うけどね」

 

 お金かあ、そういえばおじさんが収納魔法にしまっていた指輪とか質屋に持っていって50円だったとかぼやいてたな。向こうなら城が建つくらいの額がついたのに。僕の方にしまってある金貨とか宝石類どうしよ?

 つい思考が別方向にいってしまってその時は気づかなかったけど、麗日さんは僕の言葉に凄く喜んでいたと後日飯田君が教えてくれた。

 途中オールマイトが乙女チックにお昼を誘ってきたので(麗日さんが吹き出した)、今日はそちらにすることにした。多分ワンフォーオール関係の用事もあるんだろうし。

 

 

「ところで緑谷少年、君って雄英体育祭参加に乗り気じゃないだろ?」

 

 オールマイトとの食事は正直辛い。だってこの人って胃を全摘してるせいで食べられる物が限られるので、普通に食事してるこちらが気まずくなるのだ。やはりサー・ナイトアイの提案を近いうちに強行しようと心に誓う。そんな中告げられた言葉もまた、酷く答えにくいものだった。

 

「はいそうです。異世界の力がズルに感じますし、スカウトも卒業後はサーの元に行くと決めてますから」

 

 元気とユーモアの無い社会に未来はない、という理念以外は相澤先生レベルに合理的なサー・ナイトアイは学ぶべきことが多い。

 

「いや能力を得られるからといってもあの異世界には私も行きたくないよ」

 

 僕も選択できたなら断ってました。

 

「君が注目されたら、同級生が評価されないかもという懸念も分かる」

 

 麗日さんの話を聞いたら余計にそう思ってしまった。ワンフォーオールによる身体強化も魔法も人目を引く派手な力だからだ。

 

「けれど私としては君に活躍して欲しい。

 君に力を授けたのは、個性ではなく『私』を継いで欲しいからだ!」

 

 オールマイトの気持ち、願い。

 

「体育祭、全国が注目しているビッグイベント!

 君が来た!ってことを世の中に知らしめてほしい!!」

 

 異世界で得た力があっても、ワンフォーオールを引き受けた理由を僕は思いだしていた。

 そうだ、助けたいと思ったんだ。

 誰かのために頑張りつくすこの人を。

 ならその期待に応えよう。

 その先で笑って過ごしてくれるなら。

 

 

 

 

 緑谷出久が雄英体育祭への決意を固めた後も時間は流れ、放課後。

 廊下側から多数の人の気配がしたため、人混みが苦手な彼は窓から(かなり高い)飛び降りて昇降口へと向かった。ヒーローであれば生身でビルジャンプくらい出来て当たり前だが、その突然の行いに口田君が悲鳴を上げかけた。基本マトモで委員長である緑谷出久の奇行にクラスメート達(爆豪勝己は除く)は未だ慣れない。

 

「何事だあ!?」

  

 麗日お茶子の戸惑いの声。

 廊下を埋め尽くす多数の生徒達、スマホを向けるのは礼儀として如何なものだろうか。明らかに野次馬そのものである。

 

「敵情視察だろ、ヴィラン襲撃を切り抜けたとか報道もされちまったし」

 

 実態は違うと本人達は思うだろうが、爆豪勝己、切島鋭児郎、轟焦凍、尾白猿夫といった生徒達はヴィラン集団を実際に撃退している。実績とも言える戦果だ。

 

「いやアレって緑谷が撃退したじゃん」

 

「んなこと報道できるか、ただでさえ悪目立ちしてんだぞアイツ」

 

 ヘドロヴィラン事件をきっかけとした無個性被害者としての報道、さらにその後の個性発現で緑谷出久は世間から注目されている。

 雄英高校襲撃での活躍まで知られたらさらに騒ぎへとなるだろう。

 

「とりあえず意味ねえからどけモブ共」

 

 いかに襟を正そうと相手は選ぶ。

 雄英高校生でありながら野次馬する輩なんぞ、モブ扱いで充分だと爆豪勝己は認識していた。

 

「知らない人をとりあえずモブって言うのはやめたまえ!!」

 

 飯田天哉の注意もどこ吹く風だ。

 

「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだな。ヒーロー科に在籍する奴は皆こんななのかい?こういうの見ちゃうとちょっと幻滅するなあ」

 

(((お前だって野次馬じゃねーか)))

 

 一部のA組はその物言いに反感を持つ。言動があまりにも礼を欠いて喧嘩を売っているからだ。

 普通科生徒 心操人使による丁寧な説明。

 だがそれはヒーロー科生徒は運が良かっただけで、自分の実力は劣っていないと宣言するに等しい。

 

「そういえば噂の強個性の首席様はどうした?ヴィラン襲撃で活躍したらしいけど、どうせデタラメだろ?図に乗っているだろうから宣戦布告しておきたいんだけど」

 

 自身の個性の発動のためもあって、心操人使は本心とは別に挑発を繰り返す。反感を買えば反応も過剰となり個性の発動条件も満たしやすくなるからだ。

 けれど、

 

「貴様、勇者様を愚弄したな?」

 

 廊下に展開された膨大な茨、それが心操人使に巻き付く。沸点が極めて低い者には命取りになり得ることを彼はまだ知らなかった。

 

「その罪万死に値する」

 

 自らの個性を忌避する彼は、実のところ個性発動の経験が不足していた。

 怒りに震える塩崎茨は心操人使を含めた野次馬連中を粛清しようとして、

 

「お前の勇者様なら窓から帰ったぞ」

 

「この場は任せました、戦士 爆豪」

 

 爆豪勝己の言葉で主の後を追って窓(かなり高い)から飛び降りた。彼女に対抗して麗日お茶子も。

 

「ヒイっ!!」

 

 流石に今度は口田君も悲鳴を上げた。

 

「勝手にパーティーに組み込むなよ全く」

 

 ガリガリと頭を掻きながら、爆豪勝己は自分が煽った野次馬共の反発をどうしたものかと思い悩む。正答は教師に連絡だが体育祭前で多忙だろうし、それはあまりにも情けない。

 

「ふざけやがってあの女子共っ!!」

 

 すると怒声を上げる峰田実が目についた。

 

「いやアレがデフォだからアイツら。つか怒鳴ることか?」

 

 共と言ったから麗日お茶子もだろう。窓から飛び降りたのは怒ることか?と疑問に思い首を傾げる。

 

「アイツラ、スカートの下にスパッツ履いてやがったっ!!スカートの中のパンツ見えなかったじゃねえかっ!!」

 

「お前も落とすぞ?」

   

 ヒーロー科から除籍どころか退学で良いだろこのエロ葡萄と思い、窓から投げ落とすかと峰田実の首ねっこを掴んだ所で爆豪勝己は妙案を思いつく。

 

「オイお前ら、見てのとおりヒーロー科なら誰でもこの高さを難なく飛び降りれる」

 

 地力の差を示す発言に、まあいけるか、一緒にすんなと反応が別れはするが大半のヒーロー科ならなんとかなるだろう。

 

「そして足を掬うとか全国に見せつけるとか抜かしているが、お前ら逆に理解しているのか?」

 

「「「「???」」」」

 

「結果ださねえとお前ら、全国中継でこのエロ葡萄以下認定だぞ?」

 

「「「!!!!」」」

 

 爆豪勝己が指さすのは片手にぶら下げる峰田実。多くの生徒達が行為そのものに度肝を抜かれた飛び降りに対し、スパッツを履いていたことでキレて叫んだド助平。

 爆豪勝己の発言を理解した瞬間、その場の生徒達は衝撃を受けて立ってもいられなくなる。

 多くの普通科生徒にとって、正直オマケや引き立て役扱いされる体育祭にやる気はなかった、いくらチャンスがあっても専用のカリキュラムで地力を伸ばすヒーロー科を追い越せるとは思っていなかった。

 だが、コレ以下?このエロ葡萄以下の認識を全国規模でされるのか?

 気がつけば一歩踏み出していた、二歩目には早足になり、三歩目にはもう駆け足だ。

 訓練場、サポート実習室へと全力で走り出した野次馬達には、やる気の無かった生徒達の心には火がついていた。

『打倒 峰田実』という紅蓮の業火が。

 

 

「なんとかなったな」

 

 これでヒーロー科とA組、ついでに緑谷出久へのヘイトは収まったろうと爆豪勝己は息をつく。

 

「だな」

 

 砂藤力道もお疲れ様と肩を叩く。

 連中の態度は不快だったが、雄英高校に合格した時から周囲にああいった視線を向ける者は多々いた。ヒーローになることは周囲の反応を飲み込む度量も必須なのだろう。

 

「ささやかな犠牲で解決して良かったですわ」

 

 ささやかな犠牲(峰田実)だが問題はない、日頃の行いからしてどうせ元からあんな認識だろう。

 

「ふざけんなよっ!オイラが普通科と経営科とサポート科から集中狙いされんだぞっ!」

 

「ケロ、元から蹴落とす相手として狙われていると思うわ」

 

 USJでの痴漢被害者である蛙吹梅雨の発言に容赦はない。

 

「まあまあ第一種目が生き残りバトルロイヤルとかじゃない限り、死にはしないって」

 

「第一種目が生き残りバトルロイヤルだったら集団リンチで死ぬじゃねえかっ!!」

 

 そんな峰田実の絶叫をよそに放課後の騒動は幕を下ろした。

 騒ぎがおさまった頃、B組の鉄哲徹鐵が襲撃事件の話を聞きにきたので、同じヒーロー科で彼らも襲撃された可能性があったため説明した。

 

 体育祭までの二週間、それぞれの思いを抱き、自己鍛錬に励みながら、あっという間に時間は過ぎた。

 

 





 


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20話 職員室にて山田堕つ。


 オリジナル設定及び原作キャラ改変あり、閲覧注意。
 オリジナルカップリングあり。 


  

 雄英高校職員室。

 そこは日本最高峰学府にして日本最高峰ヒーロー育成機関、その育み手の集う場所。各々がヒーローとして名を馳せ栄華を欲しいままにする存在でありながら、後進育成という崇高なる任を選んだヒーローの中のヒーロー達が戦場。

 その武、一騎当千。

 その智、才気煥発。

 その外見、色物集団。

 今日も彼らは未来がため戦い続けるのだ。 

 

 そんな日々、年に一度の雄英体育祭のハードスケジュールに追われる中、一人のヒーローが物憂げに自ら机に座り無駄に色気を振りまいていた。 

 ヒーローの名は十八禁ヒーロー ミッドナイト。彼女は何かを悩んでいるようだった。

 

「どうしたんですかねミッドナイト先生?」

 

「ほっとけ、どうせいつものだ」

 

 その色気に対しロクに反応しない同性の13号と枯れ気味なイレイザーヘッド。とはいえ聖人揃いの雄英教師で彼女の色気に反応するのは、学生時代から懸想しているプレゼント・マイクこと山田ひざしくらいなものだが。

 

「いつものですか?」

 

「ああ、先輩の子供が小学生になったとか、元同僚に子供が生まれたとか、後輩が結婚したとか、世話した事務員が付き合いだしたとか、そんな話を聞いて凹んでるんだろ。近寄るなよ13号、やけ酒に巻き込まれる」

 

「それは嫌ですね。あ、山田先生が声かけた」 

 

「やけ酒の後のアレコレ期待してんだろ?見ろ、あの長く伸びた鼻の下」

 

「普通に最低ですね。あっさり拒否されて落ち込んでますけど」

 

「香山先輩はプライベートだと身持ち固いからな。あの馬鹿も十年以上もよく懲りないもんだ」

 

「学習能力皆無ですか。というかドン引きなくらいめげないですね」

 

「鳥頭だからな、トサカあるし」

 

 そんな容赦無き同僚達と、送り狼に失敗をし落ち込む山田(全戦全敗)。

 遠巻きに見るセメントスとエクトプラズムも呆れ果てている。

 

 

「んでどうしたんです?」

 

 かと言って学生達も訪れる職員室で無駄に色気を振りまかれてもよろしくない。

 そのため教師陣(山田除く)でジャンケンして負けたイレイザーヘッドが話を聞くことになった。

 

「はあ、いい男いないかなあ」

 

「アンタなら選り取り見取りでしょうが」

 

「此処に居るじゃないKA」

 

「「お前は三枚目以下のお笑いキャラだろ」」

 

 彼女の(イレイザーヘッド的に物凄くくだらない)呟きにしゃしゃり出てアピールする山田。即座に想い人と親友に否定されて轟沈する。

 

「ねえ聞いてくれる?相澤君」

 

「合理的じゃないから嫌です(キッパリ)」

 

「別にね、私そんなに理想高くないのよ」

 

「聞けよ。なら山田で良いでしょ」

 

「彼ってギャルゲーの友人エンド枠キャラじゃない。テレビの向こう側以上の距離じゃないと付き合う気にならないわ」

 

「鬼かアンタ」

 

 そしてそのギャルゲーの主人公は相澤か亡き友か。山田ならヒロインを取り合うライバルキャラにはならないだろう。

 

「青春は生徒達で摂取できても、私も相手が欲しいのよね」

 

「アンタならどんな相手でも鞭の一振りで下僕でしょうが」

 

「誰が怪人だ。あと下僕は恋人じゃないわよ」

 

 実のところミッドナイトこと香山 睡はモテる。日本屈指の女ヒーローであり、日本屈指の美女。彼女を欲する男は星の数ほどいるだろう。

 だがいかに自らを求める男が、外見に秀でて、個性に恵まれ、富に溢れ、武力に優れ、社会的立場があろうとも、彼女の心は動かない。

 彼女の求める基準はただ2つだけ。

 だがその2つの基準を満たす男は未だに現れない。

 そう、

 

「私より強い男でぇ」

 

「「「「いねーよ」」」」

 

 ミッドナイトこと香山 睡は強い。

 その実力は、戦闘向けではない個性でありながら雄英高校教師に就任できるほどのトップヒーローであることから明白である。

 外見から周囲、特に男の視線に敏感である彼女は体捌きの練達者。

 自らの身を狙う男(ヴィラン)共を冷たいアスファルトに沈めてきた実績は伊達ではなく、こと純粋な体術ならば雄英高校最強である(オールマイトは体術よりパワー)。

 また苦手な遠距離にしても対処法を熟知しているため遅れをとることは無い。

 日本の女ヒーローでも五指に入る実力者なのだ。

 そんな日本屈指の女傑より強い男など、見聞広い雄英高校教師陣とてビルボードチャートトップ10メンバーくらいしか思いつかなかった(それらにもやり方次第では勝てそうだとも思う)。

 

「私とセガで語り合える人」

 

「「「「いるかそんな珍生物」」」」

 

 無個性(全人口2割)より希少なセガユーザー。というか生産終了しているゲームについて語れるのはコアなゲームオタクかその世代の人間くらいなものだろう。またオールマイト活躍期とも言える彼女の青春時代に実力があれば自然とヒーローになり当たり前のように既婚者だ。

 ミッドナイトより強く、セガユーザー(しかもガチな彼女レベル)、まさに珍生物と言われても仕方ない存在なのだ。

 ちなみにミッドナイトに懸想しているプレゼント・マイクこと山田ひざしは、所詮古いゲームじゃんと彼女の前で言ってしまいシバかれたことがある。

 

「どこかにいないかな?私の運命の人」

 

「妥協しましょうよ、山田で」

 

「アンタが友人エンドで回収なさい」

 

 叶わぬ初恋に泣き叫ぶ友人のうざ絡みに辟易しているイレイザーヘッドは押し付けようとするが一切取り合われずに断られる。

 やはり脈は無いのだろう。

 

「このままだと13号にも先を越されますよ」

 

 煽る言葉も理想がある彼女には響かない。

 

「な、なんだったら先輩が貰ってくれますか?」

 

 その宇宙服のようなコスチュームからは分からないが、マスクの下の素顔を真っ赤にして憧れの先輩に便乗して告白する13号。

 

「ヒーローが結婚とか合理的じゃないだろ」

 

 13号撃沈。

 

(ナケナシノ乙女心ヲ振リ絞ッタダロウニ、哀レナ)

 

 ミッドナイトとは別の意味で難物なのがイレイザーヘッドなのである。

 

「君達っ!なんてこと言っているのさっ!」

 

 そんな混沌とする職員室を切り裂くような声。その声の主はネズミなのか犬なのか熊なのか、かくしてその正体は、校長である。

 

「全く、相手は選り好みするとか、送り狼しようとするとか(後で説教)、合理的じゃないとか、子孫を残さないのは生物として失格なんだよっ!!」

 

 

 個性を発現した人類以外の希少生物。

 その中でもハイスペックという人類以上の知恵をもってしまった唯一無二の個体。

 番う相手の存在しない悲しき固有種のその言葉に、ヒーロー達は頭に冷水をぶっかけられたように冷静になり、

 

「肩もみましょうか?」

 

「ブラッシングデモ」

 

「チーズありますよ」

 

「ヒマワリの種はいけましたっけ?」

 

「回し車をとってくるZe」

 

 なんか優しくなった。

 

(流石は校長、この場を見事収めましたね)

 

 話に一切混じれず、隅で小さくなっていたナンバー1ヒーローにして新任教師は雄英高校責任者の手腕にただ感服していた。

 なお最近できた知り合いにミッドナイトの条件を満たす珍生物がいることは気づいてない模様。

 

 これはミッドナイトが運命の出会いをして死の未来を逃れるきっかけを得る、僅か一週間前の出来事である。

 なおプレゼント・マイクではない。

 

 




 
 これは好き嫌い別れる展開かも?正直不安です。


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21話 勇者決死行。

 

 雄英体育祭本番当日。

 余っていた身内用チケットをおじさん達に送ったら大変喜ばれて必ず行くと約束してくれた。

 日本どころか全世界が注目するこのイベント、ましてや今回は事前情報として、雄英高校襲撃事件やナンバー2ヒーローエンデヴァーの息子の存在、オールマイトの教師就任もあり、チケットの入手は困難だったらしい。 

 これでグランバハマルからエルフさん襲来でもない限り安全だなと胸を撫で下ろし控え室で開始を待っていると、普段付き合いの無い轟君に声をかけられた。

 

「客観的に見て、お前の実力は頭抜けてると思う。それにおまえオールマイトに目ぇかけられているよな。別にそこに詮索するつもりはねえが、おまえには勝つぞ」

 

 轟君もオールマイトファンなのかな?

 オールマイトは世界の6割の人が好きなヒーローとして名を挙げる人だから、そんな彼に目をかけられてるヤツいたら対抗心もでるかな?

 いや、あの仄暗い目はそれだけが理由じゃないか。

 上鳴君がクラス最強に宣戦布告と呟き、クラスの和に気を配る切島君が諌めようとするけど、轟君は取り合わない。

 

「何か勝ちたい理由が君にあるのは分かった。

 けどそれは全ての生徒にも、僕自身にも勝ちたい理由がある。だからこう言わせてもらう」

 

 思い返すのはオールマイトの言葉。

 継いで欲しいと言われたのは、個性ではなくオールマイトという彼の在り方。

 託された平和の象徴というバトンを握り締め宣言する。

 

「かかってこい、受けて立つ」

 

 僕が来た、と世界に示す。

 誰かに託すその日まで、僕は負けるわけにはいかないのだ。

 

「おお」

 

 返された轟君だけではなく、A組皆に気合が入った所で入場の時間がきた。

 暗い廊下の先の輝く出口、魅せつけよう世界に。

 

 ああ注目されてるよ。

 慣れてない視線の波に皆が圧倒されているけど(かっちゃんはアガってた)、僕はグランバハマルでの磔の時に比べたら殺意がないから気にならない。

 ヴィラン襲撃もあってかプレゼント・マイク先生の司会でも持ち上げられてるけど、チンピラレベルとはいえヴィランを撃退したのは事実だしね。実戦経験の有無は行動に差がでるものだし。

 続いてB組、普通科、サポート科、経営科、と凄い人数の生徒がでてくるけど、

 

「ねえ、かっちゃん?」

 

「どうした出久?」

 

 一つ気になることがあったので、頭がよいというより賢いというほうが相応しい幼馴染に尋ねる。

 

「他の生徒から注目されてないこっち?」

 

「襲撃事件で持ち上げられてるからな」

 

「いやクラス単位じゃなくて、峰田君が他科の生徒達に」

 

 そう、ただでさえメイン扱いされてるヒーロー科が睨まれるのは分かる、けど彼らの視線は明らかに一人の生徒に向けられていた。

 いっそ殺意すら感じるレベルの、グランバハマルだとしょっちゅう感じた、こいつが存在したら生きていけないという切実で必死なそんな視線。

 

「モテ期だろ」

 

「ああ、あの緑茶に含まれる」

 

「それはカテキンだ。響きは似てるが字数くらいは揃えろ」

 

 モテ期。まさかあの伝説のモテ期か。

 

「まさか実在したんだ」

 

「そうだ人生に一度あるかないか、いやよく見たら残像だったあのモテ期だ」

 

「残像じゃん」

 

 そのネタ、本当に幽遊○書にドハマリしてるねかっちゃん。

 それにしては殺意マシマシな感じだけど、僕はかっちゃんと違ってモテ期が来たことないし。小中とモテ期を経験してるかっちゃんが言うならそのとおりなんだろうな。

 モテ期には視線に殺意が混じる。覚えておこう、僕には縁が無いだろうけど。

 

『選手宣誓』

 

 おっと出番だ。

 一年主審であるミッドナイト先生に呼ばれている。今年は僕が生徒代表なんだ。

 

「選手宣誓!

 僕達雄英高校一年全生徒は、巣立ち活躍される先達方に誇られるよう、精一杯力の限り戦い抜くことを誓います。

 雄英高校一年代表 緑谷出久」

 

 まあ無難だよね。

 けど目標であっても優勝宣言とか柄じゃないし。

 

『さーてそれじゃあ早速第一種目行きましょう。

 いわゆる予選よ!毎年ここで多くの者が涙を飲むわ!!

 さて運命の第一種目!!今年は、』

 

 ねえ峰田君、バトロワは嫌だバトロワは嫌だバトロワは嫌だ、って呟いてどうしたの君?

 

『コレ!! 障害物競走!!』

 

 計11クラスによる4キロの総当りレース。ヒーロー科が20名ずつだから不参加の生徒を考えても100〜220名という大人数。これだけの人数からどれだけ予選通過できるか分からないと、焦らせられるね。

 そしてコースさえ守れば何をしたって構わないという言葉で、なんか生徒達が一斉に目がギラリと輝いたように見えたけど。

 

『さあ位置について、スタート!!』

 

 感じたのは寒気、迫りくる殺意の波っ?!

 

「光剣顕現ー(キライドルギド リオルラン)

 闇剣顕現ー(クローシェルギド リオルラン)」

 

「「「「落ちろ峰田ァーっ!!!」」」」

 

「ぎゃあああっ!!」

 

 開始同時に峰田君からA組メンバーが一斉に飛び離れそこにあらゆる個性による攻撃が叩き込まれた。

 逃げそこねた僕は峰田君を庇うように二本の魔法剣を振るい厄災の雨を斬り伏せる。

 

「そこどけ生徒代表。そいつ○せない」

 

「認められない、認められないの」

 

「ごめんなさい、本当にごめんなさい」

 

「ああ八つ当たりさ、わかってるよそれぐらい」

 

「「「「けどっ!!」」」」

 

「「「「そいつ以下なんて受け入れられるかあああっ!!」」」」

 

 雄英高校一年の大集団。彼らから向けられるその嵐のような激情を前にして僕は、

 

「何したの峰田君?」

 

「何もかもお前の幼馴染のせいだよ」

 

 後ろの峰田君に問いかけることしかできなかった。ねえコレどんな状況?というか皆知っているなら教えてよ!!

 あっさりと峰田君を見捨てて逃げた(女子は仕方ない)薄情なクラスメートに僕は叫びを上げた。

 

「ちぃ、縛動拘鎖ー(レグスウルド スタッガ)とりあえず切り抜けるっ!!」

 

 理由は不明だが峰田君が狙われている。

 かといって見捨てる訳にはいかない以上、連れて走り抜けるしかない。

 腰の辺りから魔法の鎖を出して峰田君と結びつける、後は全力で駆ける!!

 

「ってコラっ!!緑谷や擦れる擦れる擦れる。地面に顔面擦れて紅葉おろしになるっ!!引っ張るならもっと鎖を短くしろよ?!」

 

 やかましい、モギモギがくっつくんだよ!!

 魔法の3重発動にワンフォーオールフルカウル。第一種目でかなり消耗しちゃうぞ。

 

「「「「待てぇ峰田ぁぁ!!」」」」

 

「ねえ、更衣室にルパンダイブでもしたの君?」

 

「お前はオイラをなんだと思ってやがる」

 

 

 雄英体育祭は、第一種目から波乱の展開で幕を開けたのだった。

 



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22話 勇者決死行と黒幕。


 今回は三人称です。
 あと物間君のアンチ要素あります、閲覧注意。



 

(上手くいったようだね)

 

 混乱極まる雄英体育祭。 

 その中で潜むように狙いどおりとニヤリと笑う一人の少年の姿があった。

 彼の名は、物間寧人。

 一年B組の中心人物が一人にして性格も口も態度も悪い問題児である。

 

(どいつもこいつも単純なことで)

 

 そもそもがおかしな話なのだ、いかに襲撃事件があって注目されようと日本最高学府とも言えるモラル高し雄英高校で、A組の生徒の心配より興味本位の野次馬が集まるなどと。

 そう誰かが裏でA組が驕り高ぶり偉そうにしている、などと生徒達の反感を煽り興味を持つように誘導しない限りは。

 それを為したのがこの少年である。

 元より物間寧人はコンプレックスの権化。

 自らの個性が他人ありきで一人での活躍が不可能、ゆえに一人でなんでもこなす存在に嫌悪を抱いている。そしてA組、そこに選ばれた者達はそれを為せる強個性ならぬ超個性ばかり(B組にも吹出君という最強バグ個性持ちが存在するが見た目から強者扱いしていない)、挙げ句に襲撃事件での活躍で彼のコンプレックスは頂点まで達していた。

 

(丸裸にしてやるよおA組ぃ) 

 

 他科より反感を買い、その手札を曝け出さざるを得ないA組。その晒された相手の手札を自らの力に変えて打ちのめす、それが物間寧人のやり方なのだから。

 

(他科の連中も使える個性なら使ってあげようかな)

 

 半数以上のB組の同意を得た、第一種目は様子見で温存し、第二種目で決める戦略。

 

(注目されるべき存在を教えてやるよ)

 

 ここまでは想定通りとばかりに余裕のある物間寧人。だが彼にとって計算違いが二つある。

 一つは、爆豪勝己によって峰田実に反感が集中し他科が奮起していること。人間、出来そうな目標なら無理してでも頑張れるのだ。

 そしてもう一つそれは、

 

『さあいきなり障害物だ!!まずは手始め第一関門 ロボインフェル「炎鳳殲滅ー(バライブート フォルグバストールゥゥゥ!!)」ノ、っ壊滅!!』

 

 一年代表緑谷出久は存外ピンチにテンパりやすく、その実力も過剰といえるほどに高いという点だ。

 腰から伸びた鎖で峰田実を引っ張りながら凄まじい速度で駆け抜ける彼、その眼前に現れたロボの群れを巨大な魔法陣から呼び出した炎の鳳にて焼き払う。

 

「邪魔だああっ!!」

 

「随分必死だなあ緑谷」

 

「大勢に恐ろしい形相で追いかけられるのが昔を思い出して冷静になれないんだよ、というか余裕あるね峰田君」

 

 鎖を掴み長さを調整する峰田実。

 そこに先程までの恐慌はない。

 

「一周回って冷静になった。楽チンだしな」

 

 モギモギの反発を利用しての高速移動すら出来る峰田実のバランス感覚は凄まじい。この状況に慣れるなど容易いことなのだろう。

 巨大なロボ群をまとめて焼き払う(残ったのは僅かな脚部パーツだけ)魔法を放ってこの余裕ある会話。

 自身の必殺技すら超える火力にナンバー2ヒーローエンデヴァーが、

 父と同じ莫大な炎にA組轟焦凍が、

 その実力にB組物間寧人が、

 そしてロボ達の再利用すら不可能にされたことに雄英高校教師パワーローダーが、

 自身の内側から溢れる激情にギチリと歯を噛み締めた。

 

「なんか牛にしがみついた鼠の気分だな」

 

「それって1位を掠め取る気満々ってこと?」

 

 十二支の悲劇を想起させる峰田の発言。

 ワンフォーオールにて加速し、他科を引き離したので放り捨てようかなと緑谷出久は思いはじめていた。

 

「「「「峰田ァァァァっ!!」」」」

 

 いやまだ峰田君死ぬか。

 怒れるモンスターの群れより必死な人間の群れの方が怖かったなと、緑谷出久は身を震わせていた。

 

「というか何したの峰田君。告白の最中にヴィランが来たとか叫んで台無しにしたの?」

 

「それは中学時代やったが、手を取り合って逃げたからか翌日熱愛カップルが誕生してた、ど畜生が」

 

「畜生は君だよね」

 

 どんだけ余罪あるのやらと思いながら緑谷出久はトップで断崖絶壁のロープ渡りザ・フォールを突破した。高低差に臆さぬ胆力と、如何なる足場も渡れるバランス感覚はヒーローの必須能力なのだ。

 

『そして早くも最終関門!!

 かくしてその実態は、一面地雷原!!怒りのアフガンだ!!ってすいすい進むなあ緑谷!!分かりやすくしすぎたかあ?!』

 

「なんで地雷の位置が分かるんだ?魔法でも使ったのか?」

 

「いやこれは経験。探索魔法を使えない罠だらけのダンジョン攻略を何度もしたから、これぐらいなら見なくても分かるよ」

 

「なんか緑谷ってガチで異世界行ってたみたく語るよな」

 

「まあ事実だしね」

 

 というかもう魔法を使う余裕が無い程に消耗していると緑谷出久は言わなかった。

 おじさんがいない状況での集団に追っかけられることにペース配分を忘れる程に焦ってしまったのだ。

 

「これ、次の種目ヤバいかな?」

 

 冷や汗をかきながら呟く中、

 

「「「「峰田ァァァ(カチッ)」」」」

 

 ちゅどーん。

 軽い擬音で表現したくなるほどに追い縋ってきた他科連合は一斉に地雷を踏み、雄英高校の大地に散っていった。

 

「「コントかよ」」

 

 先頭集団に次いだ順位だった集団だったが、ここで一気に減ったようだ。このままだと大半のヒーロー科は予選落ちしただろうから結果オーライだが。

 そして必死な轟、爆豪の猛追もものともせず緑谷出久は第一種目を1位で突破した。棚ぼたで峰田実は2位。

 

 なお余談だが、今回の普通科を含んだ彼らの活躍は評価(目的はともかく)され希望者は放課後にヒーロー科の講義を受けることが可能となる。無論ヒーロー科ほど充実しているわけではないが、地力をつけ一般人も参加するヒーロー免許試験を受けることはできる。

 また、あれだけの生徒達が必死に潰そうとするヒーロー科A組生徒峰田実にも世間は注目することになる。

   

 そして緑谷出久。

 第一種目 障害物競走を突破した自身を除いた猛者四十一名を相手に魔法を使えぬ状態で挑むことになる。

 

(数時間は休まないと魔法は使えない)

 

 個性は使えるから動けるだろうが、個性を用いた戦闘において魔法剣は有用である。

 

 第二種目 騎馬戦。

 ポイント奪取下剋上サバイバルに1000万ポイントという爆弾を抱え、彼はどう立ち向かうのか。 

 

 



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23話 勇者パーティ結成。


 短めです。



 

 さてどうするべきかな?

 もう収納魔法にハチマキをしまっちゃおうかな?(外道)とも思ってしまう。

 炎鳳殲滅ほどの大技は打てないだけで収納魔法くらいならまだ大丈夫だし。 

 上を行く者には更なる受難を与える雄英高校の方針により起きたこの危機的状況。 

 突破しようにもそもそも組んでくれる相手がいるかどうか。持っていれば突破確定なこの高ポイント、全員から狙われることを承知で組みたがる人はいないよね。

 

「緑谷君、組もう」

  

 その筈なのに組もうと言ってくれる麗日さん。ガン逃げしたら勝てるし、仲良い人とやった方が良いと彼女らしい笑顔で言う。

 この朗らかな笑顔はグランバハマルではまず見なかったなと思いながら、僕は彼女と組むことを決めた。

 騎馬戦は二人でも良いというルール、なら麗日さんの個性で軽くして精霊魔法で空に逃げれば勝てると思うけど(見たところ空中戦ができるのはかっちゃんか、B組の体の切り離しができる娘くらい)、第一種目で消耗しすぎたからそれもできない。この消耗がなければ開始同時に縛動拘鎖で全員縛りつけて終了時間まで逃げ切れたのに。

 うーん、いっそワンフォーオールで全力ダッシュ(麗日さんがヤバいことになる)するかなと考えていると、

 

「遅参して申し訳ありません、勇者様」

 

 ズリズリとナニカを引きずりながら塩崎さんが現れた。というかそれはぐるぐる巻きにされたかっちゃんだった。

 

「人気だったのか、囲まれていた戦士 爆豪の捕獲に手間取りました」

 

 捕獲されてるよかっちゃん。

 

「離せ天パ女、俺はイズクと組む気はねえ」

 

「自ら主に挑む気概は買います、ですが勇者様の危機に馳せ参じることこそ従者の務め」

 

「主じゃねえし、従者でもねえよっ!!」

 

 必死にもがくかっちゃんだけどあそこまで縛られてると個性も使えないしね、というかイバラでズタボロになるよ。

 

「無理強いは良くないから、離してあげてよ塩崎さん」

 

 確かに頼もしいし、敵にならないだけでも有り難い存在だけど、無理矢理はちょっと。

 

「ほれ勇者様もこう言ってんだろうが」

 

「万全の状態の勇者様と戦うことが怖いのですか?」

 

「ああっ?!」

 

「例年通りなら次の第三種目は一対一での戦いとなるでしょう。ヒーローを目指す誰もが焦がれる舞台で勇者様と相対する勇気が無いと?」

 

「だとテメエ」

 

 うん明らかに挑発しているね塩崎さん、かっちゃんの顔がエラいことになっているし。

 

「色欲の悪魔を庇ったせいで勇者様は疲弊されています、そんな状態の勇者様と戦う己を貴方は誇れるのですか?」

 

 プライド高いかっちゃんを上手く煽るなあ。  

 かっちゃんも悩んでいるけど、そのね、

 

「いいだ『はい十五分経ったわ、いよいよ始めるわよ』ろ乗ってやる」

 

 もう時間が終わりそうって、終わってた。

 

「あのババア許さねえ」

 

 恥をかかされてマスクメロンみたいな顔のかっちゃんと、そのタイミングの良さに吹き出す麗日さん。まあ話しかけようと寄ってきてたサポート科の人も四人揃ってることに気づいて慌ててB組の方に行ってたからね。麗日さんが威嚇もしてたけど。

 

「というか作戦とかどうする?」

 

「うるせえボケ勇者、こうなりゃ皆殺しだ」

 

「ああなんという、血に飢えた戦士か」

 

「とりあえず緑谷君を守る感じ?」

 

 かっちゃんという最大の脅威がコチラ側だからなんとかはなるかな?

 

『さあ起きろイレイザー!15分のチーム決め兼作戦タイムを経てフィールドに12組の騎馬が並び立った!!』

 

『なかなか、面白ぇ組が揃ったな。パワーバランスおかしいのが一つあるが』

 

『なんでヒーロー科入試実技試験トップクラスが三人組んでんだよ、麗日ガールも上位だったし』

 

 やっぱりかっちゃんも塩崎さんもトップクラスだったんだ。納得だけど。

 

『推薦組も組んでる奴らいるし、ちょうど良いのかもな』

 

『さァ上げてけ鬨の声!!血を血で洗う雄英の合戦が今!!狼煙を上げる!!!!』

 

 騎馬中央、勇者 緑谷出久。

 騎馬右、僧侶 塩崎茨。

 騎馬左、導師 麗日お茶子。

 騎手、戦士 爆豪勝己。

 

「とりあえず麗日さんの個性で身軽になったかっちゃんが攻めまくり、塩崎さんが守りを固める戦略かな?僕は神聖魔法(精霊魔法とは別枠)で回復と使える精霊魔法(浮かす程度)でサポートをするよ」

 

「ケッ、サポートなんざいるか狩り尽くしたるわ」

 

「良く考えたらとんでもチームやね」

 

「戦士 爆豪、B組の謀士 物間寧人に注意を」

 

 こうして第二種目の騎馬戦は始まった。

 僕の回復を優先されてるみたいだけど、こうなったら第三種目では全力でやれやとかっちゃんキレてたからなあ。

 しかしB組で暗躍してた人がいたのか、順位の偏りもそれが原因か。

 一筋縄ではいかなそうだね。

 

 





 補足として、常闇君は爆豪君のポジ。発目さんはB組になってます。発目さん的には食い下がりそうだけど、緑谷君がサポートアイテムを必要ない存在に見えたことと人数揃ったから引き下がりました。

 戦士とか導師とか書いてると、ファミコンのSD騎士ガンダム列伝がやりたくなる。


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24話 凍りつく世界。

 
 三人称です。
 そして今話でかなり問題発言をさせますが、こんな目で見ている人もいる感じです。
 閲覧注意。


 

 開始される雄英体育祭第二種目。

 1000万ポイントの争奪戦だとばかりに襲いかかる二組。だが、

 

「この地侵すこと許さず」

 

 展開される塩崎茨の個性にしてイバラ、それは騎馬を組んだ彼らを中心に絶対不可侵の聖域となる。

 

(というか神聖な気配するから神とか力を貸してるのかな?ある種の神聖魔法だよ)

   

 この世界唯一の神聖魔法の使い手である緑谷出久は張り巡らされたイバラに帯びる神性に気がついた。

 神聖魔法とは自らの魔力で上位存在である神から力の一部を借りる魔法。だが精霊同様に正式な手順を踏まなくとも力を貸し与える場合もある。信仰心に応えたのか神が適当なのかは判断に困るところであるが、その効果は充分のようだ。

 突っ込んできた2チームはまるで壁に当たったような音をだし、それ以上踏み込むことが出来なかった。

 鉄哲チームに加わったサポート科の発目によるサポートアイテム、葉隠チームの先頭である耳郎のイヤホンジャックも弾かれるばかりで意味をなさない。

 このまま守り続けても勝ち確定な勇者御一行だが、それに納得しない戦士が宙へと飛び出した。

 両掌の爆破による空中機動、麗日お茶子の個性により重量を無くした爆豪勝己はいつもより機敏に宙を舞う。

 

「よこせコラァー!!」

 

 主審の判定もテクニカルでオッケーなため、気兼ねすることなく猛襲する。

 爆豪勝己の目的は皆殺し。

 第三種目がタイマンなら、他チームを狩り尽くせば余計な戦いをする必要がなくなると判断したのだ。

 鉄哲チームの発目とて宙へと飛ぶサポートアイテムを用意していたが、四人で組んだ騎馬を全員浮かし機動させるほどの出力はない。

 もはや唯一となった空中機動のアドバンテージを活かし、爆豪勝己は鉄哲チームからのハチマキ奪取に成功した。彼に気を取られていた葉隠チームは物間チームに漁夫の利をとられたが。

 そしてもう一方の峰田チームも順調に逃げ延びていた、障子の巨体を利用した峰田と蛙吹を担いだ一人騎馬。蛙吹の舌による牽制、峰田のモギモギによる妨害、障子の複製腕によるガードが他者を寄せ付けない。

 個性によっては道具が必須、騎馬を組むことで発動できないモノがあるため、それらが問題にならない者と組むことが優位に繋がる。

 それが如実に結果として出ていた。

 

「思ってたより上手くいかないね、ならそろそろ攻めるか」

 

 温存してからの立ち回りで崩せないA組上位陣。騎馬戦で誰一人問題無く個性を発動できる轟チームと、守護領域と空中機動の爆豪チーム(一人B組)、人間戦車な峰田チーム。

 狩れる相手がB組では不本意な物間寧人は攻め方を変えることにした。

 

「聞きたいんだけどさ爆豪君?自分のせいで自殺させかけた幼馴染とどんな気持ちで一緒にいるんだい?」

 

 即ち口撃。

 精神面から相手をエグり、崩す。

 その言葉に爆豪勝己のみならず、その場の全生徒が足を止める。

 そう最早一年近く前になるその事件、各方面に多大な影響を与えた出来事を知らぬ者など誰もいない。

 だがそれが同じ学年の緑谷出久と爆豪勝己本人のことなどと、弱みにつけ込もうと調べない限りは知ることはできない。

 上鳴による無差別放電から優位にたっていた轟チームですら思わず聞き入ってしまっていた。

 上手くいったことにほくそ笑む物間寧人は言葉を続ける。今度は相手を変え、傷口を抉るため、かつ自身と多くの人間の思う不満をのせて、

 

「それにしても羨ましいよねぇ緑谷君!無個性だったくせにヒーローらしさをアピールするためかトラックに飛び込んで、勇者なんて強力な個性を得られたんだからさあ!!」

 

 それが世間の大多数の人間の本音。

 さながら事件被害者が賠償金を受け取った事に妬むかのような身勝手かつ汚い、人間という生物の本性。

 連中はそんなものでは晴れない被害者の心など一切気にも止めない。

 ただ羨ましく、ただ妬ましいのだ。

 物間寧人という主役になれない個性を持つ者、心操人使のようなヴィラン扱いされる個性を持つ者、他にも多くの不満を抱え生きる者達がぶつけてきた悪感情。

 けれどソレは、その言葉は、

 緑谷出久の人柄をよく知り、己の所業に自責の念を抱える爆豪勝己。

 緑谷出久の立ち振る舞いに憧れ、異世界での彼の出来事を知る塩崎茨。

 緑谷出久にヴィラン襲撃事件で助けられ、同じクラスで友人として親しくしている者達。

 その全員を激昂させるには充分であった。

 

「潰す」

 

 爆豪勝己は一度戻った騎馬にて両掌を爆ぜさせる。

 

「処します」

 

 塩崎茨はさらにイバラを伸ばし編み込み竜を形作りその顎を物間寧人に向ける。

 

「許さねえ」

 

 峰田を筆頭としたA組生徒達が憤る。

 最早体育祭など知るかとばかりに熱を帯びた敵意が物間寧人に集中していた。

 味方であるB組生徒ですら、言い過ぎだと呆れる者、その発言を軽蔑する者、気まずそうに目を逸らす者と反応が別れていた。物間寧人の発言に同意しそうになる自分は確かに存在する、手段を選べない時があることも知っている、だが言っていいことと悪いことはあるのだ。

 

「落ちつけ」

 

 しかし、第二種目を投げ出してまで物間寧人に襲いかかろうとする者達を緑谷出久は頭から抑えつけるような気迫を放って鎮めた。

 

「体育祭を忘れる程に怒ることじゃないだろうに」

 

 緑谷出久にとってはその程度のこと。

 目を覚ましてからの騒動も不快でこそあれ、理屈として納得できたことだからだ。

 

「今、何をしている最中か思い出せ。

 相手の口撃に我を忘れるな」

 

 戦闘において冷静さを保てるかは重要だ。

 怒りなどの感情は力が増す利点もあるが、動きが単調になると言う欠点もあるからだ。

 

「かっちゃん、負い目で友人やられるのはしんどい。だからもう気にするな。

 塩崎さん、君は僕を神聖視しすぎ。

 みんな、僕は気にしてないから」

 

 緑谷出久は物間寧人の冷静さを奪う策を看破し、対応する。打ち倒すのではなくハチマキを奪うだけならそれで充分だからだ。

 しかし、その冷静なままの緑谷出久の態度が物間寧人の癇に障る。

 

「なんで怒らない!なんで冷静だ!

 それだけのことを言われたんだぞ!

 それとも図星をつかれて開き直っているのかなあっ!!」

 

 言われたから何?と言わんばかりの緑谷出久にリスクを背負ってまで挑発した物間寧人は納得がいかない。誰よりも緑谷出久を崩せないことには挑発行為に意味は無く、批判覚悟のやらかしが無為に終わるからだ。

 

「だって君、僕を人間扱いしてるでしょ?」

 

 あっけらかんと答える緑谷出久に、再び世界は凍りつく。自分が当たり前のように言った言葉がどんな意味となるか、この世界で緑谷出久と異世界おじさんだけは理解できない。

 

「だから許せるよ」

 

 そのあまりに自然な笑みを向けられた物間寧人は生涯初めて罪悪感という言葉を実感することとなったのだ。

 

 

 

 場所は変わって観客席。

 緑谷出久の言葉に熱狂にブリザードをぶつけたように静まり返る中、一人のおじさんがしきりに頷いていた。

 

「分かる分かる、そうだよねえ、人間扱いされてるなら許せる許せる。エルフなんか、人を豚だのオークだのとロクに人扱いしないしさあ。ってどうしたの敬文、藤宮さん?」

 

(出久君やらかしやがったあーー)

 

(どうすんだよこの空気)

 

(異世界で人間扱いされなかったから、人間扱いされることで許せるのは、事情知る僕達は分かるけど)

 

(大半の人達は、無個性は人間として扱われるだけで充分に思える環境だと誤解するだろ!いやまあそんな扱いがあるっちゃあるけど)

 

(ああ、あのプレゼント・マイクですらこの場を盛り上げられてない)

 

(また騒動が再燃するだろ)

 

 恐らくこの二人と同じように事情を知る者達は残らず頭を抱えていることだろう。

 おじさんは全く分かっていないが。

 

 

 世界が凍りつこうとも時は進む。

 先程よりぎこちなくはあるが、生徒達は動きハチマキを奪いあった。

 皮肉なことに心操人使の個性により、状況に左右されず普段どおりの動きができてしまう者達が活躍しその順位を押し上げた。

 

 十五分の騎馬戦その結果は、

1位、緑谷チーム。

2位、心操チーム。

3位、轟チーム。

4位、常闇チーム。

 となった。

 轟チームの氷結と無差別放電に対応できたかどうかが結果を左右する形となった。

 心操人使に至ってはヒーロー科生徒ではないことから心理的動揺が少なく、的確に対処できたからこその結果だろう。

 峰田チームは気が逸らずに守りを固めればまだ勝ち残れたかも知れない。

 どこかスッキリしない決着ながら、第二種目騎馬戦は終了した。

 

 

 なお余談ではあるが、体育祭終了後その発言から物間寧人は外部から招かれた講師による指導がされることとなる。

 外部から呼ばれた講師の名は田淵。

 論理破壊者、言語粉砕、の異名を持つ教員組合最強決戦兵器である。

 

 

 





 外部の緑谷君の印象はこんな感じです。
 普通は言わないくらいのモラルはありますがネット上だと酷いことになってます。
 基本的な流れは原作通りですが、個人的にこの騎馬戦は個性を使える者と組めるかどうかが重要だと思いました。というか発動できない人ばかり、A組なら口田君と砂藤君とか、B組なら小大さんやら泡瀬君とか。
 


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25話 それぞれの事情と借りてきたものは?


 前半、独自解釈及びエンデヴァーアンチ有り。
 後半、設定改変及びキャラ崩壊有り。
 閲覧注意です。


 

 第二種目である騎馬戦が終わって昼休憩の時間。

 せっかくだし観客席にいるおじさんと食べようと思い、出口に向かったら轟君に話があると呼び止められた。

 

「それで話って?」

 

 轟君、轟 焦凍との接点は同じクラスなのにあまりない。個人的な会話も今までロクになく、せいぜい個性が強力なクラスメートくらいの認識だ。 

 襲撃事件から注視されているのは分かってたけど敵意があるように感じないから流していた。

 体育祭開始前にも宣戦布告してきたからそれ関係だろうか。

 

「少し長い話になるが、まず聞いてくれ」

 

 そこから話された内容は轟 焦凍という人間の全てだった。

 父であるエンデヴァーの目的と所業。

 自分の生まれた理由。

 母との関係。

 そして、自らの目的。

 

「お前も辛い思いを乗り越えて今の実力があるのは理解した、オールマイトが目をかけるのも納得だ。

 だからこそ俺は、クソ親父の個性を使わずにお前の上に行く。奴を完全否定するためにな」

 

 正直意味がわからないなあ。

 ツッコミどころあるし。

 それが轟君の話を聞いた僕の素直な感想だ。

 まずエンデヴァー、それ上昇思考ってレベルじゃなくない?オールマイトを超えたいのは分かったけど、話がぶっ飛び過ぎ。

 そもそも轟君がプロヒーローになる頃には引退してるでしょオールマイト、年を考えなよ。

 世代的にはエンデヴァーだってオールマイトの後輩だってのに。

 なのに個性婚とか、いつからオールマイトに勝てないと見切りつけたのさ。

 轟君が言う理由だとエンデヴァーが二十代の頃に諦めてないとおかしい。

 けどそれは全盛期どころかヒーローとしては成長期といってもいい年齢だ。

 ランキングだってその当時はまだナンバー2だったとは思えない。 

 だから個性婚は事実としても、オールマイトを超えることだけが理由だとは思えない。他に引けない理由でもあったと思う、轟君は知らない理由が。

 いやまあ子供からしたら屑だろうけどさエンデヴァーって、うんファン辞めようかな。

 これ指摘しても轟君は納得しないだろうし。

 ただなあ、

 

「君の在り方をどうこう言うつもりはないよ。君は悪事を働いているわけじゃないから」

 

 これが見返すためにヴィランになるって言い出したなら止めたけどさ。

 炎を使わないでトップヒーローになるとか止める理由がないよね。

 力の制限なら僕だって人のこと言えないし。

 それでも、

 

「けどさこれだけは言っておく、君はこのままだと後悔することになる。  

 自分より強い相手に全力を出しきれなくてね」

 

 言っておくべきことはあるよね。

 

「なんだと」

 

「君は知らないんだよ、全身全霊を尽くしてまで勝たなきゃいけない戦いを。そしてソレに勝てなかった絶望を」

 

 当たり前ではあるけどさ。

 何せヒーローが全身全霊を尽くしてまで戦う機会なんてまずありえない。

 このヒーロー飽和社会、そこまで強いヴィランなんて滅多にいないし、そもそもヒーローはヴィランを殺せない。

 けど先日のヴィラン襲撃事件にて現れた改造人間脳無。アレは轟君より強かった。いくらでも創れる道具のくせにだ。

 

「君は君を強者だと認識するのは当たり前だ。何せナンバー2ヒーローエンデヴァーのお墨付きだからね。でもさ君は、エンデヴァー以上を知らないんだよ」

 

 だからこそ、エンデヴァーを超えることとトップが同じ扱いなんだろうけどね。

 

「知ったようなことを言うんだな」

 

「君の悲しみと辛さはわかってやれない、けど無力だった後悔は誰よりも知っている。だからこそ第三種目」

 

 越えられない壁として立ちふさがるよ。

 

 そう僕は告げた。

 

「上等だ」

 

 そう言って轟君は去っていった。

 プライドを傷つけられたのか不快そうに。

 彼が立ち去った後に、

 

「お節介が過ぎるかなあ?ねえ、かっちゃん?」

 

 通路の向こうにて立ち尽くす幼馴染に問いかける。

 

「今更だろ、ヒーローなんてそんなもんだ」

 

 そんな僕の在り方を彼は肯定してくれた。

 ならば迷わずやるだけだね。

 幼馴染にすれ違いざまに手を振りながらおじさんを探しに向かった。

 

 おじさんと合流し一緒に昼食を楽しんだら昼休憩が終了した。第三種目の前に体育祭らしい希望者参加のレクリエーション種目もあるらしい。

 けど人目をひいたのはA組女子陣、全員チアコスチュームを着てそのスタイルの良さを晒していた。

 どうやら峰田君達が騙して着せたらしいけど、

 

「似合ってるから良いと思うよ、騙すのはどうかとおもうけど」

 

 運動できるからか体が引き締まっていてへそだしコスチュームが似合う似合う。

 

「緑谷ちゃんは照れすらしないのね」

 

「意外と普通に見て、普通に褒めるのな」

 

 グランバハマルで美人に見慣れたからね。今更照れないよ。

 僕が素直に褒めたからか満更でもないように落ち着いてくれた、麗日さんめっちゃ照れてるけど。

 

「勇者だ」

 

「ああヤツこそ真の勇者」

 

 黙りなさいスケベナンパブラザーズ。

 それ別の意味で勇者でしょう。

 さてそこからはレクリエーション種目前に、トーナメントの組み合わせのくじ引き。

 なんだけど、心操チームだった尾白君と庄田君が辞退を宣言。

 正直体術に秀でた二人と戦えないのは残念だけど、ミッドナイト先生が認めたから仕方ないよね。

 それにより繰り上がり、話し合いの末アピールの凄かったサポート科の発目さんと、B組から推された鉄哲君になった。A組の皆は名乗りでなかったようだ。

 轟君とは一回戦で勝てれば二回戦で戦えるか。万が一に備えておじさんに頼んだから、多分大丈夫だろう。

 

『よーしそれじゃあトーナメントはひとまず置いといてイッツ束の間、楽しく遊ぶぞレクリエーション!』

 

 僕は見学かな、今までテレビで見てたから生で見れるのは正直楽しみだ。途中B組の拳藤さん達が同じクラスの物間が言いすぎてすまなかったと頭を下げにきたけど、本心から気にしてないと伝えるとより辛そうな顔にさせてしまった。いや本当に平気なんだけど。

 盛り上がるレクリエーション、個性使用もありだからこちらもド派手で見応えあるね。

 そんな風に眺めていたら、

 借り物競争に参加した峰田君が叫んでいた。

 

「緑谷ー!!お前の魔法のポケットから背脂をだしてくれえー!!」

 

 あったかな?背脂。

 ゴソゴソ漁って出てきたのは、

 

「(異世界産)オリーブオイル(的なナニカ)ならあるけど」

 

 向こうはコレの方が主流なんだよね、動物の油は使いみち多いから。

 

「「「あるのかよ!!」」」

 

 オリーブオイルだけどね。

 あての外れた峰田君はとりあえず屋台に向けて走っていった。あるかな背脂?ラーメン屋ならありそう。

 

「いるかあっ!!」

 

 と向けてでは芦戸さんがチアコスチュームのまま参加してお題の紙を地面に叩きつけていた。

 伊豆熱海産天然本わさびでも書かれてたかな?いやそれなら、あるかぁ!になるか。

 気を取り直した芦戸さんは観客席に走り大声を上げてこう叫んだ。

 

「お客様の中に、『セガユーザー』は居られませんかあっ!!」

 

「「「「居ねーよ」」」」

 

 何その借り物。

 お客様方もドン引きしてるじゃん。

 あ、けどそっちは確か、

 

「はいは~い、居まーす!セガユーザーのおじさんが此処に居まーす!」

 

 おじさんが元気に手を振ってる。凄く嬉しそうだね。ちなみに塚内さんは仕事で来れなかったとか、残念そうだったみたい。

 

「「「「居るのかよっ!!」」」」

 

 無個性より希少な存在なんだけどね。

 観客のお客様と共にツッコミ終えた芦戸さんはセガ豆知識を語りながら走るおじさんの手を引いて判定役のミッドナイト先生のところへ向かった。

 

「これ牛脂だから駄目ね、豚限定よ」

 

「あるか背脂あああ!!」

 

 そして峰田君は判定で駄目だった。

 牛脂はあったんだ。

 

「先生、セガユーザー連れてきました!!」

 

「にわかだったら許さないわよ、山田(にわか)はシバく。

 じゃあチェックさせて貰うわ」

 

 厳しいよ借り物競争。

 

「ソニ○クとテイ○ズについて、」

 

「テイ○「ス」テイ○「ス」だから、本名はマイ○ス=パウワーだが尻尾が二本だから、あだ名がテ」

 

「本物だよこのおじさん(ドン引き)」

 

「フ、引っ掛け問題に引っかからないとは本物ね」

 

 問題文に引っ掛け仕込むとかガチ過ぎでは?

 

「けどねっ!!」

 

 するとミッドナイト先生が身を翻し全力の蹴りをおじさんに叩き込んだ。

 

「「「「なんでっ?!」」」」

 

「本物のセガユーザーたるもの、ゴールデン○ックスから戦闘力を会得しているものよ」

 

「そもそもゲームタイトルがわかりません」

 

「なるほど、納得できるよ」

 

 そこには当然だけど平然とした姿のおじさん。

 その蹴り、岩盤とかブチ抜けるんだけどなあ。

 

「セガユーザーって何なの?」

 

 芦戸さんが可哀想。

 それと平然としたおじさんを見たミッドナイトの顔がなんかおかしいような?

 

「っと後はゴールだね走るよお嬢さん」

 

「ねえ、おじさんてプロヒーロー?」

 

 当然の疑問だね。

 

「ただのおじさんだよ、セガユーザーのね」

 

 凄い、かつてないくらいのドヤ顔だ。

 芦戸さん、君も感心してないで走りなよ。

 しかし、さっきからミッドナイト俯いて震えているような?

 

「見つけたぜ、背脂ああっ!!」

 

 そしてあったんだ背脂、峰田君も頑張るねえ。

 八百万さんに出してもらえば一発だったけど。

 

「ミ ツ ケ タ」

 

 だが突然顔を上げたミッドナイトが叫びと共に地面に勢いよく鞭を振り下ろして衝撃波が周囲に撒き散らされた。そして峰田君はやっと見つけた背脂共々吹き飛んだ。

 

「逃がさないわ、運命の人」

 

 長らく追い求めた存在を見つけたような恍惚の表情でミッドナイトは笑っていた。

 なんかヤバい気配がするけどおじさんだから大丈夫だよね。

 

 こうしてなんか凄いこともあったけど、それぞれの思いを胸にあっという間に時は来る。

 雄英体育祭、最後の種目。

 そのはじまりの時が。

 



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26話 雄英体育祭最終種目とおじさん。

 
 おじさんサイドの三人称です。
 かなりサラッと流す試合もあります。




 

「なんかこの光景、異世界でイズク君がトレントとしてコロシアムに参加させられた時の事を思い出すなあ」

 

「だからそんな気になる話を今しないでよっ!」

 

「試合より気になるじゃないですか」

  

 雄英体育祭。

 そのイベントにはヤバい女性にロックオンされた異世界帰りのおじさんと、元同級生の眼鏡美人大学生と二人きりで屋台を回ったリア充な甥っ子が観戦に来ていた。

 昼休憩をチケットをくれた緑谷出久と一緒に過ごした異世界おじさん御一行。その時、食事とともに同じクラスの子の事情というヤバいスキャンダルを聞いたり、とある頼まれ事をされたりした。

 

「まあそれはまた今度で」

 

「絶対だよっ!!」

 

「食いつくなあ、気持ち分かるけど」

 

 二人の期待の差は緑谷出久の存在が大きい。おじさんの記憶から見た過去の緑谷出久は、おじさんには及ばないものの紛うことなき強者であり、その実力は荒事に通じてない二人から見てもそこらのプロヒーローより強く見えた。

 

((子供と戦わせてよいのかアレ))

 

 が二人の本音だ。

 第一種目の圧倒的な魔法。

 第二種目のやらかし。

 第三種目では何をしでかすのかと戦々恐々としている、同時に僅かにワクワクもしているが。

 なおこの二人、おじさん借り物競争時には二人で屋台を回り綿菓子に齧り付いていたので(それを見た某巨大化女性ヒーローが舌打ちしたため先輩ヒーローに頭を叩かれた)衝撃シーンを見逃してたりする。

 

 そして(失恋確定した)プレゼント・マイクによる開始の言葉とともにいよいよ始まる雄英体育祭のメインイベント。

 

 一回戦、緑谷出久 対 心操人使。

 

 盛り上がる観客に包まれた舞台で両者の紹介とルールを説明され、高まった熱狂の中始まった一回戦は、

 

「なあ緑谷出」

 

「闇剣顕現ー(クローシェルギド リオルラン)」

 

 心操人使の発動した個性を言葉ごと闇剣が切り裂き、紫電走る右拳の一撃で吹き飛ばした。

 緑谷出久容赦無き瞬殺である。

 

 

「ねえおじさん、出久君ガチ過ぎじゃない」

 

「話しかけられたのを無視とか性格的にらしくないような?」

 

「ん〜、多分対戦相手の子が洗脳タイプの個性だったからかも? 出久君て洗脳調教服従使役支配従属にトラウマあるし」

 

「「どれか一つでもトラウマもんだよ、何があったの出久君」」

 

「いや向こうでトレント扱いだったから」

 

 おじさんによるざっくりした説明。

 トレントは狩られる対象の魔物の一種だが、獲物としても需要が高い。

 木材としての価値、果物の恩恵と様々だ。

 ましてや彼はオークに使役されるトレント認識だったため飼えるトレントと周知されよく人間に狙われたそうだ。捕まって二足歩行のトレントとしてコロシアムに立ったことすらある。

 さらに神聖魔法まで使えることが発覚してから、教会で聖樹認定までされて何度捕まり地面に植えられたか。

 

「見れば人間だと分かるじゃん」

 

「目が腐ってんのか異世界人」

 

「冬虫夏草が発見されてたのが不味かった。ソレの亜種扱いでね」

 

 流石のおじさんすら頭痛に耐えるように表情を歪める。あらゆる手段で攫われ鎖に繋がれ洗脳され植えられる緑谷出久の姿は悲惨そのものだった(その過程で同じくらい吊るされたオーク扱いのおじさん)。

 

「だからつい洗脳とかは条件反射的に闇剣で対処しちゃうんだよ出久君、あと首輪と首枷が絶対に無理だって」

 

「条件反射になるくらいの被害て」

 

「半年間でどんだけ捕まったんだ」

 

 異世界のいつものに二人はげんなりとした。

 

 緑谷出久勝利、二回戦進出。

 心操人使、彼もまたドラマある生徒なのだがひたすら運が無かったと言える。

 経験からの洗脳キラーである緑谷出久、この組み合わせはあまりにも相性が悪すぎだった。

 ワンフォーオールで強化された一撃で気絶した心操人使は普通科の仲間達から祝福と慰めを受けながら搬送ロボによって運ばれていった。

 

 轟焦凍 対 瀬呂範太。

 不快な出来事(父との会話)で苛ついていた轟による大規模氷結で瞬殺。

 

「アレ辛いですよねー」

 

 瀬呂範太の姿に自身も凍り付いた経験のある藤宮さんは指差しながら言う。

 平謝りのおじさんとその後のことを思い出した敬文君は赤面。

 

 塩崎茨 対 上鳴電気。

 

 既にぶっ飛んだ行動がA組でも知られている塩崎茨との戦いに上鳴電気は試合前から土気色の表情だ。

 

「この勝利、勇者様に捧げます」

 

 痛みなく負けたい、という彼の切実な願いは、襲いくる舞台を覆う程のイバラの津波に呑まれて消えた。

 

「やったーっ!茨ちゃんが勝ったーっ!」

 

 親しくなり妹分だと思っている少女の勝利に藤宮さんは飛び跳ねて喜んだ。その残虐シーンに男性二人はドン引きしているが。

 

 飯田天哉 対 発目明。

 発目明によるアイテムの発表会に会場は大興奮。おじさんもゲームのアレコレが再現できるのかなと目をキラキラさせていた。

 

「可哀想」

 

「藤宮、同情が一番彼を傷つけるから」

 

 芦戸三奈 対 青山優雅。

 

「レーザーか、羨ましいねぇ」

 

 敬文君が個人的な理由から暗い眼差しとなる中、芦戸三奈の勝利。

 副作用はあれど、眼鏡ビームに比べたら紛うことなき強個性だからだ。

 

 常闇踏陰 対 八百万百。

 

「黒龍波かな?(ドキドキ)」

 

「違うよおじさん」

 

「火じゃなくて影だって」

 

 黒影が強すぎて、常闇の勝利。

 

 鉄哲徹鐵 対 切島鋭児郎。

 個性ダダ被りの殴り合いに盛り上がりはしたが、こういった生々しい暴力が苦手な藤宮さんは顔を俯かせていた。おじさんの異世界の記憶はより内容が酷いが非現実的だからまだ平気なのだろう。

 両者ノックアウトで決着は持ち越し。

 

 一回戦最終組 爆豪勝己 対 麗日お茶子。

 

「例の子かあ」

 

「出久君の幼馴染らしいけど」

 

 緑谷出久の記憶を見たがゆえに本人は気にしてなくとも印象は悪い。

 だからつい対戦相手の麗日お茶子を応援したくなっているようだ。

 

「麗日、引くなら今の内だぞ」

 

「爆豪君はヒーローを目指すのを痛いのが嫌で引くの?」

 

「そうか、なら」

 

 加減は無しだ。

 爆豪勝己はそう言い、構えを取り指先に集めた爆破液を爆ぜさせる。

 

「〇丸だ!リアル霊○だ!」

 

 はしゃぐおじさん、それにジト目な二人。

 クラスター、爆豪勝己のとある作品を元に生み出した新境地は予め準備する必要があるため短期戦で多用はできないがその威力は充分。

 切島鋭児郎などの防御特化個性でなければ耐えることすらできないだろう。

 

「ヒーロー基礎学の時みてえに軽くして衝撃から逃げようとしてもコイツには意味がねえ」

 

 加えて飯田天哉の蹴撃とは違い、爆破の衝撃と火力は回避より早くその身を焼く。

 

「まだまだぁ!!」

 

 奮い立とうとする彼女の叫びも放たれた追撃が捻じ伏せる。

 

「近づけねえよ」

 

 直撃したダメージで立てなくなる。

 焼けた皮膚よりも衝撃で脳が揺れていた。

 たった2発で満身創痍、それが彼女と爆豪勝己の現時点での差だった。

 

「こんなんじゃ、この程度じゃ緑谷君の横に」

 

 彼女の家族に楽をさせたいという願いと、雄英高校で出会った闇深い少年の横に立ち支えたいという思い。だがそれはこの場では叶わない。

 

「終われ」

 

 3発目直撃。

 彼女の思いと諦めぬ根性を知るがゆえに容赦はない。勝ち方にこだわり万が一を許す余裕は、異世界生活を経験した緑谷出久に挑む彼には存在しなかった。

 

「負けられねえよな、よく分かる」

 

 圧勝。

 一回戦最終試合、爆豪勝己の勝利。

 女の子相手にと批判する間も無くついた決着。

 だが、彼女を弱者と嘲る声はない。

 爆豪勝己のその強さと麗日お茶子の根性は誰の目にも明らかだったからだ。

 

「すっごい試合だったねえ」

 

 感服するようにおじさんが言う。

 

「ちなみに異世界だと彼ら(緑谷と塩崎と爆豪を除いた面々)ってどれくらいの強さなの?」

 

 甥っ子の興味本位のその質問におじさんはしばし悩んでからこたえる。

 

「刺殺獣に殺されるくらい?」

 

「逆にわかりにくい」

 

「プロヒーローでも勝てないですよ」

 

 そもそも試合と害獣駆除を同系列に並べるのは無理があるのだろう、刺殺獣にしてもおじさんだから瞬殺できたが本来なら騎士団出動が必要な生物だ。

 ちなみにもし口田甲司がグランバハマルに行った場合、彼は魔王になれたりする。

 なにはともあれ、一回戦は終わり休憩ののちに二回戦へと続く。

 

「出久君に頼まれたことが起きないと良いけど、間違いなく雄英高校は消し飛ぶし」

 

「ナニをやらかす気だ出久君っ!」

 

「何を頼まれたのおじさんっ!」

 

 おじさんによる不穏な一言を添えて。

 

 





 なんかざっくりですいません。
 三作目となると書き分けガガガ。


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27話 高く熱く大きな壁。

 
 途中視点が切り替わります。
 独自解釈ありです。
 閲覧注意。



 

「負けてしまった」

 

 強がってパアアンと笑う麗日さん。

 辛い時にこそ笑える人が一番強いのだと僕は知っている。その笑みが誰かのために向けられることを。

 頼ってほしい、そう思うのは傲慢かな。

 泣き言を吐いても構わないよ、と言い出せないのは僕が臆病だからか。

 目の前にいるのに越えられない、まるで境界線があるかのようだ。

 放送に流れる切島君の勝利。二回戦目進出者はこれで決まり、僕の出番はもうすぐだ。

 

 

「言えんかったなあ」

 

 自分のせいでロクに準備もできずに会場に向かう緑谷君。名残りおしそうに何か言いたいようにその背中から見て取れた。

 完全な敗北に打ちのめされる自分を慰めようとしてくれる彼。

 あの入試の時に助けてくれた男の子。

 その姿が私には勇者に見えた。

 なんでも出来て誰よりも強い。そんな彼がそれだけでは無いと知ったのはいつだったか。むしろ変人奇人の類だと気づいたのはいつだったか。

 そして、誰よりも重たい闇を背負って苦しんでいると知ったのはいつだったか。

 私の目的はブレない、ヒーローになって家族に楽をさせてあげたい。

 でもね、苦しみながらも誰かを助けようとする君を支えたい、そう思っているの。

 到底足りない実力のくせに不相応に。

 生き急いでいると父ちゃんに言われて納得してしまう、そう私は生き急いでいる。そうじゃないと追いつけないから、ただでさえあの娘に先を行かれているのに。

 

「貴方の抱えてるモノを教えて」

 

 いつ言えるのかな。

 溢れる涙をぬぐって諦めないとだけ心に誓った。

 

 

 

 駄目だなあ僕は。

 おじさんだったらあっけらかんと聞けるだろうに、僕は何も言えず見送られるだけだ。

 見とるね頑張って、その言葉を言うのがどれだけ辛かったか。

 いや、今は切り替えよう。

 何せ僕のこれからやらかすことは気を抜いたらとんでもないことになるからだ。

 そんな風に考えて歩いていたら出口間近で思わぬ人物と遭遇した。

 

「おォいたいた」

  

「エンデヴァーさんですよね、なんでこんな所に」

 

 探していたのか?何のために。

 

「君の活躍見せてもらった、特にあの火の鳳など炎を扱う俺からしても見事なものだ」

 

 いやこっちとしては殺傷力の高い炎で相手を殺さない貴方の方が凄いと思いますが、特にアレは町中で放てば進行方向に空き地が出来ますし。

 

「勇者だったか、オールマイトの正体不明な個性に劣らぬ素晴らしい個性だ」

 

 すいません、そんな個性ないんです。

 

「次の君の対戦相手であるウチの焦凍には、オールマイトを超える義務がある。君との試合はテストベッドとしてとても有益なものとなる。くれぐれもみっともない試合はしないでくれたまえ」

 

 オールマイトを超える、か。

 あの人なら誰だってできるよと笑いながら言うだろうに。いやそんな性格で普通に言っちゃうから周りが拗れるのか?ありえそう、結構やらかしあるよなあの朗らか無自覚天才マン。

 とはいえせっかくのエンデヴァーからの言葉だけどさ、

 

「すいませんが、その言葉には応えられません」

 

 やるべきことは決めている。

 

「なんだと?」

 

「僕は貴方の息子を完膚なきまでに打倒します。彼に越えられない壁を見せます」

 

 いずれ来るだろう悲劇を起こさないために。彼が全力を出さないことで後悔しないように。

 

「轟焦凍は敗北を知るべきだ」

 

「舐めるなよ小僧っ!!焦凍は俺の最高傑作だっ!!あの子の無念を果たす存在だっ!!貴様ごときに負けるものかっ!!」

 

 激昂するナンバー2ヒーロー。

 あの子の無念、なるほどこの人は自身の欲だけで周りを利用していたわけではないか。

 自分の内心を語れない不器用な親父なわけだ(DVはアウトだけど)。

 

「勝てませんよ、貴方の息子は今から壁を知る。

 貴方以上の存在を知るんだ」

 

「その大言で無様を晒せば許さんぞ」

 

 向けられる敵意と怒気にエンデヴァーが強者であると理解させられる。

 このビリビリした気配はまさしくオールマイトに匹敵していた。

 不機嫌そうに去っていく強者を見ながら僕は気合を入れ直した。

 

『今回の体育祭、両者トップクラスの成績!!

 まさしく両雄並び立ち今!!

 緑谷 対 轟!! スタート!!』

 

「おい、お前は俺に壁を見せるって言ったな、見せてみろよ勇者の力をな」

 

 うん、不機嫌だなあ。自身の拠り所を否定されたから当たり前だけどね。

 

「見せるよ壁を。けど君に見せるのは勇者の力なんかじゃない」

 

「何?」

 

 万が一の時はお願いします、おじさん。

 

「竜だ」

 

『形貌変躯ー(ザックトーラ キャトルフ)』

 

 何重もの魔法陣に包まれたと思ったら、そこにはもう緑谷出久の姿は無かった。

 そこに存在したものは強大なる邪竜。

 あらゆる攻撃を無効にする魔炎の鱗をもつ災厄の一匹。

 魔炎竜 ブレイズドラゴン。

 竜でありながら魔炎が本体であり、退治しても魔炎が残っていれば復活できる不死鳥が如き竜だ。

 

 かつて異世界でおじさんが魅せるプレイの為だけに変身して正気に戻すため戦う破目になった、異世界ライフ屈指のトラウマ(結局敵わず殺されかけたところでエルフが秒殺した。最初から見てたろあのストーカー)で正直思い出したくない存在だ。

 

「「「「「「「『ドラゴ○ムだあああ!!』」」」」」」」

 

 うん、観客とプレゼント・マイクが凄く興奮しているね。気持ちは分かるよ、僕も初めて見たときそうだったし(次の瞬間襲いかかられて絶望したけど)。

 

「コレが壁だってのかっ!」

 

「ソウダ、全力デ抗エ」

 

 あー正気を保つのしんどい。変身魔法は完全にその存在に成るから自意識を保つのがきつい。 

 人間ならともかく、動物とか魔物はそっちの方が思考パターンが楽だからか引っ張られる。

 とにかく動かないでなるべくじっとしてないと、飛んだりしたら完全に呑まれる(おじさんもそうだった)。これ徹夜明けで眠い所に退屈な話を聞かされながらひたすらノートを写している感覚なんだよ。

 

「畜生がああっ!!」

 

 瀬呂君にぶつけた規模の冷気でも意味はない。魔炎竜はマグマを飲み干す存在だから当たる側から蒸発する。

 

『おおーっと、あのバカでかい氷塊も当たる側から掻き消えてまるで効果がない!!』

 

(何が知るべきだ!!何が勝てない存在だ!!)

 

 必死だよね轟君。

 今までの自分を否定されたくないよね。

 けど、

 

(こんなに強いお前が、なんで人間扱いだけで喜んでいたんだ。お前に何があったんだ)

 

 失ったと思う絶望はこんなものじゃないから。君は全力を出して強くなるべきなんだ。

 

(俺に何か伝えたがってるお前だって、救われるべき側のヤツだろうが)

 

 あ、もう限界。

 

「よく耐えたね轟君。理解したでしょ勝てない存在」

 

「ああ、強制的に理解させられたよ」

 

 魔炎竜に呑まれる前に元に戻れて良かった。いざという時のためにおじさんにお願いしておいたけど。

 冷気と熱気を感じる、轟君は個性をフルに使っているんだ。

 

「緑谷、お前はあんな絶望を感じてきたのか?あんな存在に向き合ってきたのか?」

 

「うん、結局勝てなかったけどね」

 

「ならなんでヒーローなんて目指せるんだよ、怖くないのかよっ!!」

 

 なんで、か。だってねえ?

 

「僕が立ち向かうことで、ソレが皆に届かないならその方が良いでしょ?」

 

 誰かにこんな思い、してほしくないんだよ。

 

「お前、やっぱり勇者だ」

 

 なんでかそう言われるよね。

 

「けどな、俺もそう成りたい。お前やオールマイトみたいに、ヒーローに成りたい。誰かのために絶望に立ち向かえる存在に成りたい!!」

 

「成れるよ」

 

 その言葉がヒーローの始まり。

 

 その言葉と共に放たれた冷気と熱気を合わせた全力の爆風、それを光剣を顕現しワンフォーオールで強化した身体能力で断ち切る!!

 

「だって此処はヒーローアカデミア。ヒーローを志す仲間達が集う場所」

 

 両断された空気の先、全力を出して崩れ落ちる轟君を支えてそう告げる。

 同じ夢を見る誰かがいることが救いになると、僕はここに来て知ったのだから。

 

「ありがとな」

 

 余計なお節介に過ぎた報酬を貰い、第二回戦は終了した。

 僕としては轟君が勝てない存在を知って全力を出せるようになれればと思っただけなんだけどね。

 まあ結果オーライだ。

 

 





 なんかとっちらかった内容になったような。
 もう少し言いようが。


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28話 雄英高校一年トップ4決定。

 

 すっごい疲れた。

 さっきの轟君との試合、本当に疲れた。

 轟君をリカバリーガールの元に送ったあと、ドラゴ○ムだ、ドラゴ○ムだ、とはしゃぐクラスメート達にもみくちゃにされながら観客席へと座る。

 やっぱり変身魔法はやりすぎたかな?と思うけど轟君に壁を見せるには僕自身でやるよりは正解だと思ったのだ。

 というか、おじさんの影響受けまくった僕は速攻一撃必殺が基本的なスタイル。それでは伝えたいことも伝えられない。ならメイベル(ダメ人間)に変身して氷使いとして格上を見せようと思ったけど、凍神剣ありきの実力だからなあの人。

 

「ケロ、緑谷ちゃん。私気になることはなんでも聞いちゃうの」

 

「正直さは美点だと思うよ」

 

 観客から視線を集める中、A組で固まってるスタンドに座る。すると横にいた梅雨ちゃんが尋ねてきた。

 

「貴方に何があったの?」

 

 現在、舞台はセメントスによって修復中。魔炎竜の姿では暴れてないけど轟君の全力放出で壊れたからね。

 

「いつのこと?」

 

 何があった、だと色々あるからな。

 ぶっちゃけ雄英高校生活も充分に濃いし、それ以前のオールマイトに雄英高校受験を誘われた以降も騒動ばかりだった。

 

「緑谷ちゃんに辛いことがあったのは分かるわ。爆豪ちゃんと何かあったのかも。だからクラス内で爆豪ちゃんをよく思われたりはしてなかったの」

 

 かっちゃんんんん!

 なんか色々飛び火してたんだね。

 村八分寸前だったのかっちゃん。

 

「けどそれだと違和感があるの、貴方が感じた絶望や苦痛って本当にこの社会であったことなのかなって」

 

 一部あったから闇深いよねこの社会。

 いや異世界に比べたら遥かにマシだけど、少なくとも医療機関と公共サービスは問題なく受けれるし。

 

「というかあんな竜はいないわ(断言)。どこで遭遇したの?」

 

 うーん、そろそろ話そうかと思ってたけど先に聞かれるとは。

 僕も日頃から異世界節を隠してないからな。

 八百万さんや耳郎さんの頭キレる組や、尾白君や瀬呂君の感性普通組は違和感あって当たり前か。

 

「近い内に見せるよ、許可がいるんだ」

 

 というかR指定かかりそうなんだよね僕達の記憶、敬文さん達は二十歳だから大丈夫だけど。

 エッチィイベントはおじさんだけが遭遇してたから僕の記憶にはないし(隣の部屋でドッタンバッタンして迷惑だった)。

 

「いいの?」

 

「かっちゃんが誤解されるのもね」

 

 もうすっかり改心?しているのにね。

 いやワンチャンダイブは今でもアウトか、映さないように気をつけよ。

 

「無遠慮に踏み込んでごめんなさい」

 

「気にしなくて良いよ、僕も親しい君達には知ってほしかったから」

 

 見たら泣きそうだから、見せる抵抗も同じくらいあったけど。

 とりあえず気にしてたクラスメート達も納得してくれたようだし。

 第二試合の観戦に移ろう。

 飯田君と塩崎さんの戦いか。

 どうイバラを回避して捌くかがキモだね。

 

 

『レシプロスラッシュッ!!』

 

 回避させないよう逃げ場をなくしたイバラの覆いからの上鳴君を轢き潰したイバラの津波。

 機動力を封じた塩崎さんの波状攻撃を、飯田君の蹴撃が切り裂いた。

 

『緑谷君を参考にさせて貰った、そうヒーローは人を過剰に傷つけてはいけない。だが襲い来る障害を粉砕して進むことは許されるっ!!』

 

 光剣でスパスパ斬ってた影響かな?まさか蹴撃を斬撃まで昇華させてるなんて。

 

『まだですっ!!』

 

 そして、負担のかかるレシプロバーストを片方しか発動していない。

 

『終わりだ』

 

 接近された塩崎さんの苦し紛れの足掻きも吹っ飛ばし飯田君は勝利した。

 走るなら片脚がエンストしたら終わりだが、攻撃だと割り切れば最速の攻撃が2発打てるか。

 かなり厄介だね。

 二回戦、飯田君の勝利。

 この障害物の無い視認できる舞台は飯田君に有利だ。

 

 続いて芦戸さんと常闇君の戦い。

 

『螺旋貫殺黒影波っ!!』

 

 高いフィジカルにバランス感覚そして凶悪な個性を持つ芦戸さんに、常闇君は敢えて接近し至近距離で黒影を叩き込んだ。

 突き出された常闇君の右腕から黒影が勢いよく螺旋の動きで飛び出して場外まで吹き飛ばした。

 なるほど、最小限の守りで黒影を温存しての極め技か。瞬間的に威力を出すのは良い考えだね、カッコいい。っていうか、かっちゃんから借りて読んでた幽遊○書の影響受けてない?熱はないけど黒影の動きが黒○波だったよ。あと貫殺はヒーローとしてアウトな気が。

 二回戦、常闇君勝利。

 

 そしていよいよ二回戦最終戦、切島君とかっちゃんの試合。この勝者で雄英高校一年のベスト4が決定する。

 周りからの評価だとかっちゃんが不利。

 硬化の個性に喧嘩根性殺法の切島君は接近戦なら文句なしの強者。かっちゃんの個性である爆破を耐えきれるなら勝ち目はある。

 そう周囲は思っていた。

 

『グハッ!!』

 

『実戦喧嘩殺法が武術に勝るって思ってたか?そいつは奇を衒って不意をつけたらの話だ』

 

 だけど予想に反してかっちゃんは個性を使わずに殴りかかる切島君の腕を取り投げ飛ばしていた。

 

「柔道、だけじゃないか?」

 

 格闘技に精通している尾白君がかっちゃんの動きが武術によるものだと推測する。

 僕が異世界から帰還してから一度かっちゃんと戦ったことがある。その敗北後にかっちゃんが自分を高める手段として選んだのが武術だったのだ。個性により規格が揃えられなくなった武術は現在廃れている。だが数千年の人類闘争の歴史の中、突き詰められ最適化された戦闘理法は今だ健在。

 だからかっちゃんは生来の天才性で僅かな期間であらゆる流派を体得して回ったとか、うん道場荒らしだよねソレ。

 結果、あらゆる武術を修めた無手の戦闘で並ぶ者無しの実力者に至っていた。何ソノ一人多国籍軍、そこに爆破の火力が加わるからエグいって。

 コンクリートに叩きつけられ衝撃を全身に受ける切島君、生身には危険な行為だけど硬化してる切島君には容赦する必要がない。

 だが全身のダメージもそうだがそれ以上に、攻撃を全ていなされて傷一つ付けれずに投げ飛ばされ続ける事実が心に響く。

 どうしても勝てない現実に心が折れる。

 根性で立ち上がる相手を打ち負かす方法をかっちゃんはしっかり理解してたんだ。

 膝をついた切島君がギブアップするまでそう時間はかからなかった。

 

 二回戦全試合終了、一年ベスト4決定。 

 

 



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29話 やはりセ○は人生の役に立つ。

 
 準決勝は飛ばします。
 あと三人称です。
 


  

『さあいよいよラスト!!

 雄英1年の頂点がここで決まる!!

 瞬速連撃の飯田をそれ以上の速度で斬り伏せた、勇者 緑谷出久!!

 変幻無敵な常闇を的確に弱点を暴き叩き伏せた、天才 爆豪勝己!!

 決勝戦、今!!スタート!!』

 

 かつてテレビ越しに憧れた夢の舞台。

 そこに己が立っていることに緑谷出久は現実感が持てずふわふわした気分だ。

 何もここに立つことがヒーローに必須な訳ではない。けれどここに立てたヒーローが名を馳せていることもまた事実だ。

 

(そういえば飯田君大丈夫かな?)

 

 友人にかかってきた突然の電話。あの焦燥とした表情が気になってしまう。

 集中しなければいけない戦いなのに、魔炎竜変身の影響か緑谷出久の思考はアチラコチラに飛んでいた。

 

 爆豪勝己においてこの戦いは野望の一歩だ。

 トップヒーローになるためには必須な勝利で、何があっても負けられない。

 相手が明確な格上であることが不幸だと思ってはいるが、集中できていない状態を勝機とするしかない。

 いやそんな勝利はゴメンか、と思い直す。

 

「オイ、クソデク!!んな呆けた面でやり合うんじゃねえ!!敵は!脅威は!目の前だろう!」

 

 周囲の気を引くために叫ぶガキみたいだなと自嘲してしまう。だがそれでも、緑谷出久には勝てて当たり前な戦いであっても爆豪勝己には待ち望んだ最高の舞台。ならばそれに相応しい戦いをしてほしかった。

 あのヘドロヴィランの事件からの始まった半年間の後悔、目覚めた出久に敗北してからの鍛錬の日々。雄英高校入学という結果は出した。ならば次は、頂点を争う戦いだ。

 

「たくっ、君は変わらないな」

 

 緑谷出久にとって爆豪勝己は理不尽の権化だ。

 異世界生活で理不尽順位の上位まるっと更新されたのだが、こっちの世界なら文句なしのトップ。

 感情的で、横暴で、気に入らないことには噛み付いて、踏みにじってきて見下す。

 けど、

 目標のために夢のためにブレないその精神は、昔から揺らがないくらい尊敬している、

 きっと彼が叫び続けていたから僕もヒーローを目指し続けていたんだろう。

 決してブレない彼がいたから。

 折れぬ凄さを間近で見てたから。

 まあ理不尽クソ野郎なのは事実だけどね。

 

「ごめんごめん、ちょっとコロシアムでフル武装したゴブリン集団と戦わされたことを思い出していてね」

  

 魔法具で魔法封じられてピンチでした。

 

「どんな半年間なんだ、まじで」

 

 かっちゃんも全部見たわけじゃないからね、途中で気絶してたし。

 

「さあ、かっちゃん。見せつけよう世界に。

 次代のテッペン此処にあり!!ってね」

 

「端からそのつもりだボケェっ!!」

 

 それからの両者の戦いは苛烈を極めた。

 光の軌跡を描く光剣の乱舞、

 打撃とともに炸裂する爆破の個性。

 緑谷出久は距離を取れぬために魔法を追加で放てない。爆豪勝己はリスクを承知で接近戦を挑み続ける。異世界生活で培った無尽蔵のスタミナに、道場巡りで鍛え上げた体力で対抗する。

 一撃必殺の爆破打撃が光剣に逸らされ、一太刀当たれば決まる斬撃が一向に当たらない。

 鍛錬の末に身につけた見切りと、経験の果てに染み付いた反応。触れ合える程の距離での攻防はいつまで立っても決定打が当たらない。

 そう、なんというか。

 

「「無茶苦茶だよお前(君)」」

 

「「「「二人ともだよ!!」」」」

 

 溢した本音に観客から突っ込まれる。

 とんでもない実力、これでまだ伸び代ある十五歳なのだから将来がすえ恐ろしい。

 

「時間の無駄か」

 

 極限まで集中しての接近戦で決着がつかないのであればやる意味はない。

 体温上昇は火力向上につながるが、どこまで効くのか分からない。

 ならば、

 最大火力の最強の一撃で終わらせる。

 爆豪勝己はそう覚悟を決めて距離を取った。

 

 この間合いなら魔法は撃てる。

 爆豪勝己の必殺技に精霊魔法で応じることは可能だろう。だが殺傷力を極めた精霊魔法をこの世界の人間に放つ気は緑谷出久には無い。

 ならば、やるべき技は。

 

 

 この時、試合を眺めていたオールマイトはドキドキしながら期待していた。明らかな爆豪勝己の必殺技モーション、緑谷出久ならそれに応え同じく必殺技を放つと。それは殺傷力マシマシな精霊魔法ではない。きっと自分の後継者らしい必殺技なのだとっ!!(フラグ)

  

 

「ウオオオッ!!」

 

 最大火力で宙に飛び、両掌の爆破を繰り返しながら回転。巻き込んだ熱気が爆豪勝己の肉体と共に一直線に相手に叩き込まれる。さながら自身を爆弾かミサイルにするかのような必殺技。

 

「榴弾砲着弾ー(ハウザーインパクト)」

 

 当たれば異世界にてダメージや苦痛や衝撃になれた緑谷出久とてノックアウトする必殺の一撃。

 だが、

 

(おじさん、貴方から教わった必殺技を今ここでっ!!)

 

 その瞬間、この体育祭を視聴していた全世界のコアなセガユーザー達が一斉に立ち上がる、そして。

 

 緑谷出久は自身に襲い来る人間ミサイルに対しその場で垂直にジャンプして回避、そして回る爆豪勝己を狙い真っ直ぐ落下してその体に光剣を突き刺した(注、光の精霊様が加減してくれたので刺しても死にません)。それはダッシュからの大ジャンプ中に攻撃ボタンで出せるゴールデン○ックスの大ダメージ技。

 

「「「「「『ゴールデン○ックスの下突きだああああああっ!!!!』」」」」」

 

 主審のミッドナイトが叫んだ、観客席でおじさんとセガユーザーの方々が叫んだ、警察署で見てた塚内さんが叫んだ、世界中のコアなセガユーザーの皆さんが叫んだ。そして全員が確信した、やはりセガのゲームは人生の役に立つのだと。

 

 その数倍の人達がナニソレ、と虚無な表情になっていたのは語るまでもないが。あと期待してたオールマイトがガチ凹みした。

 

「決まったね、当てるのが難しい技だけど」

 

 フー、とやり遂げた感溢れる表情の緑谷出久を薄れゆく視界の中で見上げていた爆豪勝己は、

 

「なんだ、このスッキリしない負け方」

 

 そう呟いて意識を落とした。

 

 

『爆豪君気絶!!よって緑谷くんの勝ち!!

 良い物見せてもらったわよ☆』

 

 主審であるミッドナイトの判定。

 

『以上で全ての競技が終了!!

 今年度雄英体育祭1年優勝は、

 A組 緑谷出久!!!!』

 

 そしてプレゼント・マイクの宣言によって、この戦いは幕を閉じた。





 ぶっちゃけ最後のシーンをやりたかっただけの体育祭でした。


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30話 メダル授与と空の旅。

 

「それではこれより!!表彰式に移ります!」

 

 ミッドナイトの声と共に熱狂した雄英体育祭の締めが始まった。

 表彰台の上に立つ、僕とかっちゃんと常闇君。同着3位である飯田君はお兄さんであるプロヒーローのインゲニウムがヴィランに襲撃されて重体なため早退した。飯田君が尊敬する立派なヒーロー、無事でいてほしいと願わずにはいられない。

 

「メダル授与よ!!今年メダルを贈呈するのはもちろんこの人!!」

 

 確か三年なら校長先生で、二年は生徒から要望されたヒーローだっけ?多忙だからと今まで参加しなかったオールマイトに贈呈される僕達は幸運だと思う。

 

「私がメダルを持って来たぁ⤵⤵「我らがヒーローオールマイトォ!!、テンション低め?」」

 

「かぶってごめんなさい、でもなんでテンション低めなの?」

 

「平和の象徴でも凹む時があるからね」

 

「でもごめんなさい。私の胸で慰めるのはもう運命の人だけだからっ!!」

 

「なんか告白してないのに振られたぁっ!!」

 

 お色気ヒーローの代表みたいなミッドナイトに運命の人がいたんだ、どんな人なんだろ?

 

「気を取り直して、常闇少年おめでとう!強いな君は!必殺技もセンスあったぜっ!」

 

「もったいないお言葉」

 

「ただ相性差、苦手な状況を覆せる地力を身につけるんだ!そうすれば君はトップヒーローにだって成れる!!」

 

「御意」

 

 常闇君は超強いからね。

 光剣との相性が悪いから僕も有利に立ち回れるけど無手なら厳しいし。

 

「爆豪少年、おめでとう」

 

 次に意気消沈しているかっちゃんに銀メダルを贈呈するオールマイト。

 

「うん、落ち込む気持ちはよく分かるけどもっと喜んで。2位も凄いし、君の実力はトップ張れるレベルだからね」

 

「理解してるさオールマイト、敗北したのは俺が弱いからだ。ああそうだ、弱いヤツは負け方すら選べねえ」

 

 そんなにイヤだったかな、ゴールデン○ックスの下突き。でも下手にオールマイトリスペクトのワンフォーオールパンチを人に打ったら肉片になりそうで怖いんだよね。向こうと違って魔獣みたいな練習できる存在もいないし。

 

「君は強いんだ、今回は相手が緑谷少年でセガユーザーだったからだよ。その強さを誇ってこれからも進んで行くんだ!」

 

 いやおじさんに教わった技なだけで僕はそこまでセガユーザーじゃないですって。

 かっちゃんも超強いし、何より才能差がなあ。グランバハマルを経験してないのにこの実力とか正直凹みそうになるよ。

 

「さて緑谷少年!!見事だったよ!!」

 

「ありがとうございます」

 

「今回の体育祭(色んな意味で)キミこそが中心だったと言っても過言ではないと思う!!」

 

「恐縮です」

 

 やらかしたからなあ、魔法とか変身とか。

 

「だからこそ問おうっ!!君はどんなヒーローに成りたいっ!!どんな在り方でその力を振るうのか!!」

 

 どんなヒーロー、どんな在り方。

 そんなモノ、もう決まっている。

 

「貴方のような誰かのために苦難に立ち向かえるヒーローに!!当たり前のように困っている誰かに手を差し伸べられるそんな存在に僕は成り、そのためにこの力を振るいます!!」

 

「良い決意だ!!ならば先達として君がヒーローになるその日を楽しみに待っている!!」

 

 首にかけられた金メダル。かかる期待によりさらに重みが増したように感じた。

 

「さァ!!今回は彼らだった!!

 しかし皆さん!

 この場の誰にもここに立つ可能性はあった!!ご覧いただいた通りだ!競い!高め合い!さらに先へと登っていくその姿!!

 次代のヒーローは確実にその芽をのばしている!!てな感じで最後に一言!!せーの」

 

 楽しかった。

 今はその気持ちでいっぱいだ。

 

「プル「お疲れ様でした!!!」ト、えっ?」

 

「そこはプルス・ウルトラでしょオールマイト!!」

 

 なんか締まらない終わりだけどオールマイトらしくて笑えてくるよね。

 普通の学校ならここから生徒総出で後片付けだけど、雄英高校は作業ロボットと職員に業者さんのお仕事だ。僕達生徒は着替えた後に教室で休校と指名について告げられた。

 

 

 その後、異世界についてA組の皆に伝えたいと相澤先生に相談したら少し協議させてくれと言われた。僕からしたら平気だけど普通にショッキング映像だからね。

 いつもは側にいる塩崎さんは観戦しにきていたご家族と一緒に食事してから帰るそうだ、誘われたけど家族水入らずに混じるのはね。

 

「お疲れ様、出久君」

 

 帰路についた所で校門で待っていてくれたおじさんが声をかけてきてくれた。

 

「おじさんも楽しめましたか」

  

「うん、楽しかったよ。ナイス下突き!!」

 

 なら良かった。

 この人はもっと幸せにならないといけない人なんだ。それだけの苦労をしてそれだけの善行を積んできたんだから。だから恩返しも兼ねて僕は喜ばせようとするのかもしれない。

 

「見応えあったよ出久君」

 

「やらかしに肝が冷えたけどね」

 

 敬文さんと藤宮さんも楽しかったと言ってくれる。歳の離れた友人みたいなこの二人との関係も僕には新鮮で嬉しいものだから。

 

「さーて優勝のお祝いにみんなで焼き肉にでも行こうか、奢るよ」

 

「いや、そんな悪いですよ」

 

「大丈ー夫。出久君の活躍でおじさんの動画メッチャ伸びてるし」

 

「関係も疑われてるけどどうすんだ?」

 

 そういえばおじさんて光剣を動画投稿してたっけ?

 

「なんならお母さんも呼んでお祝いしよう」

 

 たまにはいいかなと、おじさんの誘いに応じようとした所で、

 

「イズク坊!!」

 

「リカバリーガール?」

 

 こちらへと走ってきたリカバリーガールに呼びとめられた。

 

「どうしました?」

 

 常に冷静なこの人が急ぐなんてよっぽどな事態だろう。

 

「インゲニウムの治療に力を貸しておくれ、このままだと間に合わない!」

 

「分かりました!すぐに行きます!」

 

 神聖魔法に頼るほどの事態か、なら急がないと。

 

「おじさん、すいません。急な事態なので」

 

「場所はどこ?」

 

「え?」

 

「敬文、藤宮さん」

 

「分かっているよおじさん」

 

「出久君もまた今度ね」

 

 おじさんは敬文さん達にそう告げて、僕とリカバリーガールを右腕と左腕を胴体に回して抱え込んだ。

 

「保須総合病院だよ、超特急でね」

 

「一分ですね。舌を噛まないように気をつけて」

 

「ちょ、まっ、おじさあああああんっ!!」

 

 色々と法にひっかかるし、途中で精霊力が切れると怖いから僕は飛行魔法を使い慣れていないのに。

 地上で手を振る二人に見送られ病院まで超特急で出発した。

 

 着いた保須総合病院でリカバリーガールの指示の元、神聖魔法を唱え無事飯田君のお兄さんは助かった。ヒーローとしての復帰も充分に可能だろう。飯田君が到着するころには意識も取り戻すだろうから僕とおじさんはその前にお暇した。

 激動の一日は最後に一仕事をしてこうして終わったのだった。

 

 



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31話 ハグとヒーローネーム決め。


 原作改変、オリ設定、キャラ改変有りです。
 


 

 これは現実ではないな。

 ふわふわとした不思議な感覚。

 直前まで何をしていたっけ?眠りに落ちる瞬間がわからないように、ここに来るまでの記憶がすっぽりと抜けていた。

 まさかまたグランバハマルかっ!

 焦りながら見渡せば、見飽きた自然だけは豊かな魔境はない。

 部屋?

 何か建造物が見えた。

 宇宙空間を漂うコンクリート製の一室。

 そこには椅子に座った人達が並んでいた。

 近づき音も無く降り立てば、椅子に座っていたまま項垂れていた人影達は僕に気づいて顔を上げた。

 貴方達は一体?

 言葉にしようと音にならない。

 僕の口元は黒いモヤのようになっていた。

 すると彼らは椅子から立ち上がると、

 

「頑張ったな」

 

 と一人ずつ慰めながら抱きしめてくれた。

 

 

 

「オッサンばかりなんですけどっ!!」

 

 雄英体育祭が終わり休日明けの登校日。

 爽やかな朝は夢の世界の筋肉質なお姉さん(多分)とオッサンズのハグからはじまった。

 なんだあの夢。

 何か重要な事の気がするけど、ハグのインパクトが強くて思い出したくない。

 とりあえず気にせず学校に行くとしよう。

 一応お姉さんもいたから役得だったんだろう、きっと多分メイビー。

 今日の天気は雨、結局爽やかでもなんでもなかったなと思いながら僕は準備を始めた。

 

 雄英高校。

 今日は早めな時間に登校。

 それはA組にはグランバハマルの事を伝えようと決めたからだ。

 僕の過去やら発言でこれ以上誤解が積み重なるのも避けたいし、いい加減この力を個性で誤魔化すのも限界なのだ。

 だから手っ取り早く記憶再生でグランバハマルライフを見せても良いかと休日前に尋ねたのだけど、

 

「やめとけ、事情は話して良いから」

 

 記憶再生は駄目でした。

 僕は慣れてるけど、知った顔が火炙りやらリンチに拷問される映像は一生モンのトラウマなのだ。

 なのでまだ早いらしい。

 なんでまだなのかと言うと、この手の映像は3年の最初のヒーロー基礎学でヒーロー科全生徒に視聴させるからだそうだ。

 組織的なヴィラン活動がほぼ壊滅している日本では滅多にないが、海外ではヴィランに敗北し捕まったヒーローはほぼ確実にこのような目に合う。

 それをまだ進路の変更可能な3年の開始時に見せるそうだ(年齢的にもギリ可能なため)。

 だからまだ映像はやめとけ、という判断を相澤先生と校長先生にリカバリーガールは下したのだ。

 とはいえ言葉だけでは納得と説明できない、という問題に関しては僕じゃなくて、おじさんの記憶ならと許可は出た。ただうまくいったエピソードにしろと念は押されたが。

 おじさんの記憶か、誰かに見せることは既に許可を得ているから見せる分には大丈夫だ。

 グランバハマルで何度も見たから本人がいなくても、おじさんの記憶を見ていた記憶を映せば再生できる。

 とりあえず、見せるなら職場体験の後かな?異世界の説明はしても。

 皆のヒーローになる上で大事な行事である職場体験をショッキング映像のインパクトで台無しにしたくはないし。

 

「大丈夫ですよ、皆さん受け入れてくれますから」

 

 相澤先生のやり取りの時も当たり前のように隣にいた塩崎さんに支えるようにそう言われた。

 そっか、怖くもあったんだ。

 おじさんも僕も人殺しこそしてないけど、魔獣やら亜人種のゴブリンは散々討伐してきたから、皆にそれを知られて怯えられるのが怖いんだ。

 言う機会はあっても梅雨ちゃんに問われるまで黙っていた理由はそれだったのかと納得した。

 

「私は変わらず側に居ますので」

 

 最初はかなり怖かったけど(本音)、今では彼女が横にいるのが当たり前だ。何があっても側にいてくれる人がいるとなんとかなると思えるね。

 勇気つけられた僕は塩崎さんからお弁当を受け取りA組教室へと入った。

 

 なお余談だが、ミッドナイトが自分の席でどこからか手に入れたおじさん(どんな接点?)の写真を見てニヤニヤしていて、それを見たプレゼント・マイクが両手を床についてこの世の終わりかのように嘆いていた。

 何してんだあの人達?

 他の先生方はスルーしてたけど。

 

 

「天誅ーっ!!」

 

 いつの間にか恒例になった峰田君のドロップキックから始まる雄英高校の朝。

 女子から手作り弁当を貰うヤツは(モテない)男子の敵だと彼は元気に襲撃してくるのだ。

 とりあえず面倒だからと彼渾身のドロップキックを片手で床に撃ち落とすのも毎度のことで、最早だれも反応しない。

 ラブコメ(そんなんじゃないのに)に飢えていた芦戸さんに葉隠さんも、前に一通り塩崎さんを弄ったら後は優しい眼差し(葉隠さんは多分)で見守っている。まあ麗日さんは未だにこっちを見て麗らかではない顔になってしまうけど、確かに不真面目に見えるからなあ。

 その一連の流れを除けば、クラス内は雄英体育祭後の周囲の反応に湧いていた。

 瀬呂君と上鳴君(もしかしたら心操君も)は小学生からドンマイコールされたそうだ。

 テレビ効果は半端ないことを実感するよね。

 

「あ、飯田君」

 

「緑谷君か」

 

 登校してきた飯田君に声をかける。

 お兄さんは万全に治したが大丈夫だろうか。

 

「兄の件なら心配無用だ。リカバリーガールを親切な一般の方が連れてきてくれたから重体だった兄は無事完治していたよ」

 

 神聖魔法の治癒はどこまで出来るかを周囲に知られるわけにはいかない。擦り傷程度ならまだ平気だが死ぬ一歩手前、或いは死者蘇生すら条件次第で可能な事実は絶対秘匿事項だ。

 だから実績あるリカバリーガールが治癒してくれた扱いで誤魔化しているのだ。

 

「しかしスピードヒーローを志す身としては考えさせられたよ。最速で事件解決もそうだが、必要な人員を最速で連れてくることも目指すべき道なのかも知れない」

 

 彼が兄の襲撃で復讐心を抱くことを懸念していた、けどこの調子なら大丈夫そうだ。

 

「緑谷君も回復の呪符を分けてくれたらしいな、ありがとう。あとどんな人がリカバリーガールを連れてきてくれたか知らないかな、是非お礼をしたい」

 

「ヒーローだよ、僕が知る限り最高のお人好し」

 

 お礼をされることなんて考えもしてないお人好しなおじさんを思い浮かべて僕は笑った。

 

 そんな会話をしてたらチャイムと同時に相澤先生が現れた。

 ピタッと行儀良く席につくトコが教育の成果みたいに感じる。

 相澤先生から告げられた授業内容は、コードネーム即ちヒーロー名の考案だ。

 

「「「胸ふくらむヤツきたああああ!!」」」

 

 沸き立つクラスメート達。

 まあこれしたくてヒーロー科に入学したようなものだからね。

 

「というのも先日話したプロからのドラフト指名に関係してくる、指名の本格化は即戦力として判断される2、3年から。つまり今回来た指名は将来性に期待した興味に近い。卒業までにその興味が削がれたら一方的にキャンセルなんてことはよくある」

 

 受け入れ先も生活かかっているから当然だよね、ヒーロー自体が慈善事業の親戚みたいなノリもあるけど。

 つまり一年で貰った指名数が、二年三年で下がったらその程度だったと周囲にがっかりされてしまったことになるのか。

 心エグる話だなあ。

 

「で、その指名の集計結果がこうだ。

 例年はもっとバラけるんだが、三人に注目が偏った」

 

 緑谷 6249

 爆豪 4216

 轟  3514

 常闇 465

 飯田 374

 上鳴 272

 八百万 108

 切島 68

 麗日 20

 瀬呂 14

 

 うん、僕とかっちゃんと轟君が凄いね。

 特に轟君はベスト4じゃないのにトップ3に入ってるよ。麗日さんは指名入ってて良かった。第三種目参加したのに指名入らないのは意外だけど、芦戸さんとか。

 

「これを踏まえ指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってのに行ってもらう」

 

 コスチューム着て、公の場で活動するからヒーロー名が必要なのか。

 

「俄然楽しみになってきたァ!」

 

 そして相澤先生の言葉を引き継いで現れたミッドナイト。迂闊なヒーロー名をつけたら地獄を見る、なるほどかっちゃんが心配だ。

 名は体を表すを意識して決めろと告げ、相澤先生は残りをミッドナイトに丸投げして寝袋に潜り込んだ。

 

「(ところで緑谷君、貴方この人と空の旅をしたんでしょ?詳しい話を聞かせて)」

 

 仕事してミッドナイト。

 大事なヒーロー名を考えてるのにおじさんのことを聞き出そうとミッドナイトが迫ってくるんですが。

 あの人はこっちでも難儀な女性を惹きつけるのか。借り物競争での遭遇がおじさんに面倒事を呼び寄せたようだ。どうしよ、このままだと非合法に調べそうだから第三者挟む前に直接伝えた方がマシかな?おじさんも女性と縁あってもよいだろうし。

 とりあえずまずは塚内さんに相談してからにしようと決めた。

 そして十五分後。

 発表形式で大喜利展開からマトモなのと十人十色なヒーロー名が出た。

 一部手直しがある中、不安なかっちゃんの番。

 

「爆拳ヒーロー ダイナックル」

 

 意外とマトモだ。

 というか武闘家っぽい。

 勇者パーティで転職し過ぎだよ君は。

 

「どうしたのかっちゃん、頭でも打ったの?」

 

 てっきり爆殺王とか爆殺神になるかと。

 

「道場の師範達にな。こないだ聞かれたから答えたら元から決めてたヤツだともう指導しないと脅されてな。爆殺王の何が駄目なんだよ畜生」

 

 そんなヒーロー名の門下生がいたら問題だからじゃないかな?

 武術は基本的に活人だし。

 飯田君は名前と足の速さをもじって「ブーステン」にして、最後に僕の番。

 

「異世界ヒーロー トレンドール」

 

 名前の由来は皆には明かせないかな?

 異世界でのトレント、こっちでのデク人形、両方背負って僕はヒーローに成る。

 

 

「ねぇねぇ異世界ってことは、やっぱり異世界おじさんと関係あるのよね?私の運命の人とどんな関係なのかしら?ねぇねぇ?」

 

 異世界つけたのは失敗だったね。

 うん、後で直そう。

 なんかおじさんを運命の人にロックオンしてるミッドナイトに再び迫られながら、ヒーロー情報学の授業は終わった。

 

 




 オリヒーロー名。
 緑谷出久 トレンドール。
 とある方考案。
 爆豪勝己 ダイナックル。
 ポケモンかな?ダイナマイト+拳から。
 飯田天哉 ブーステン。
 お兄さん引退しないので、名前から。
  


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32話 職場体験とビッグ3?


 キャラの独自解釈有りです。



  

 ヒーローネーム決めが終わり、職場体験先のリストを配られて授業が終わった後、塚内さんにミッドナイトの件を相談したら問題ないよと返された。

 塚内さんによると警察としての付き合いでも、彼女はヒーローとして真っ当で人間として信用できる。異世界の話をしても悪用などのトラブルはありえないだろうとのことだ。

 また、こういった時の女性の行動はどうにも出来ないからスルーしとけと助言も貰った。

 なんでも塚内さんも、実の妹さんが恋人のいる青年を公私共にサポートするために現在アメリカで活動しているらしい。色々な騒動の末になった現状だけど、その時の妹さんの行動力は尋常じゃなかったとか。

 だからか下手にミッドナイトを止めたりはやめといた方がいいそうだ。

 塚内さんも大変なんだなと思いながらその助言に従いおじさんとの関係性をミッドナイトに教えた。その時色々反応されたけど、結果としてよりおじさんに夢中になったみたい。

 まあそもそもおじさんに惚れた理由が、自分より強いセガユーザーという理想そのまんまな男性だかららしい。やはりおじさんには女性を惹きつける何かがあるのかなと思えてしまう。

 体育祭で藤宮さんと接触済らしいから今後アプローチしていくんだろうけど、エルフさんの二の舞いにだけはならないといいけど。

 

 そんな面倒事があった翌日。

 

「オイラはマウントレディ!!」

 

「峰田ちゃんやらしいこと考えてるわね」

 

「違うし!」

 

 指名を貰った生徒は指名の中から、無かった生徒は雄英高校からオファーした全国の受け入れ可の事務所四十件から選ぶ。

 B組にどれだけ指名が来てるか分からないが下手したら取り合いかな?好きなヒーローとか個性やしたい活動で選ぶわけだし。

 

「しかしマウントレディかあ、デビューしてまだ一年と少しなのに職場体験の受け入れ先になるとか凄いね」

 

「そういえば出久は、マウントレディのデビューした初事件の場に居たんだっけか?」

 

「うん、懐かしいなあ。その日にかっちゃんにノート爆破されたり、ヘドロヴィランに襲われたり、トラックに轢かれたり、半年間昏睡状態になったんだよね」

 

(((クソ重たいんだけどお!!)))

 

「お、おう」

 

(((爆豪も顔引き攣っているし)))

 

 そう考えたら彼女のヘドロヴィランの対応も仕方ないよね、まだ初日だったし。

 僕にしても呪われてんのかってくらいイベント盛りだくさんな一日だったな。

 

「それでかっちゃんは何処に?」

 

「ラビットヒーロー ミルコ。オイ、なんだエロ葡萄その同類を見る目は?爆破すんぞ」

 

「超現場主義な彼女ならかっちゃんに合ってそう。あと選んだ理由はランキング順位から?」

 

「この国の現女性ヒーロートップだしな。足技主体な戦闘スタイルなのも良い。オイエロ葡萄、お前は足派かとかいう表情向けるな、爆破すんぞ」

 

「かっちゃんはうなじ派だからね」

 

「黙れ二の腕派」

 

 良くない女性の二の腕?柔らかそうで。

 かっちゃんとしては、戦闘中に移動で両手が塞がるから足技に磨きをかけたいのかな?確かに彼女以上の足技使いはそうはいないし。

 

「事務所のかったるい書類仕事を見なくて良いのも魅力だしな」

 

「いやむしろ職場体験はそういった実務を学びに行くのが目的じゃないかな?」

 

 ヒーローの実際の仕事ぶりを知るとか。

 

「そういうお前は?」

 

「サー・ナイトアイ事務所」

 

「オールマイトの元サイドキックだったか。それより即決しないで一度くらい指名リストに目を通してやれ」

 

 でも卒業後も独り立ちするまではサー・ナイトアイ事務所に所属するつもりだしなあ。

 指名をたくさん貰えたのはありがたいけど同時に申し訳ないよ。リストを印刷してくれた先生にもだけど。

 

 場所が変わって食堂。

 放課後だけど軽食やらデザートが食べれるから雑談にもうってつけなんだよね此処。

 

「飯田君は?」

 

 話題になるのはやはり職場体験先についてだ。一年のこのイベントが進路に影響するから皆必死に考えて決めている。

 

「兄のインゲニウム事務所だな。他所のところで学ぼうとも思ったが僕の理想は兄のようなヒーローだからな」

 

 ヒーロー殺しの怪我も問題ないらしい。まああれくらいの怪我なら何度も治したからね。

 麗日さんは武闘派のガンヘッド事務所、かっちゃんの影響かうちのクラスは格闘技に興味を持つ人が増えているみたいだ。

 

「私はシンリンカムイの所にしようかと思います。勇者様と同じサー・ナイトアイ事務所が良いのですが、指名されませんでしたので」

 

 面識あったら別だっただろうけど、その時はついてこなかったからなあ。

 

「後、先日の物間なのですが勇者様に謝罪する意思はあるようですがどんな顔して会えば良いか分からないようで」

 

「謝罪って気にしなくて良いのに」

 

 あのくらいならネットで散々やられたって。

 

「ふんぎりがつかねえんだろ、気持ちは分かる」

 

 でもねかっちゃん、僕は気にしてないのに。

 

「ベストジーニストの事務所で職場体験するので踏ん切る何かを得られたら良いのですが」

 

 何気に大手事務所から指名来たんだね。最終種目残ってないのに凄いな。

 

「あー、いたいた緑谷君。放課後なのに食堂にいるとか不思議」

 

「待ってっ!!ねじれさーんっ!!」

 

 ん、この声は?

 

「ねぇねぇ緑谷君だよね、勇者で竜になった緑谷君だよね?勇者とか変身とか不思議」

 

「また濃いのきたな」

 

 食堂に入るなりこちらに来て話し始めたふんわりした女性。確かこの独特感は聞いたことあるような。

 

「あのねあのね聞いてほしいの!ほしいの!職場体験をリューキュウ事務所にしてほしいの」

 

「駄目だからね!緑谷君はサーのトコだから誘わないでってばねじれさん!!」

 

「でもねリューキュウも是非うちにって。知ってた!知らなかったでしょ!?だって竜だよ凄いよね」

 

「あ、ミリオさんお久しぶりです」

 

「うん久しぶりだね緑谷君」

 

 となるとこちらの女性がビッグ3の紅一点である波動ねじれ先輩か。成程独特な人だ。

 

「知り合いかイズク?」

 

「うん、ちょっと縁があってね」

 

 流石にオールマイトから経由した知り合いだとは言えないけど。

 

「職場体験でサーとグラントリノも待っているから」

 

「なんで決定してるの、不思議。リューキュウも同じ竜だからと期待してるのに」

 

 インターン先のリューキュウに頼まれたのか、けどなら余計に無理だよね。

 

「すいません、変身魔法はそう頻繁に使えない禁忌の魔法だから職場体験などでは活かせないので」

 

 正確には魔炎竜とか動物になるのは危険で人間ならある程度融通は効くけどね。

 

「そうなんだ、知らなかった。どんな魔法なのかな聞いていい」

 

「変身した生物そのものになるので自分の意識が保てず成り切るどころか、その存在に成り代わってしまうヤバい魔法です」

 

「んなもん体育祭で使用すんな」

 

 おじさんいるから平気かなって。

 

「そっかリューキュウが旦那候補とか期待してたけど、それなら無理ね、残念」

 

「女ヒーローって結婚願望強いのか?」

 

 特にミッドナイト見た後だと余計にそう思うよね、かっちゃん。

 

「ならね緑谷君のこと、もっと聞かせて知りたいことばかりなの。不思議」

 

 ミリオさんがごめん付き合ってと手を合わせてお願いしてくるので、その日は下校時間までねじれ先輩の質問攻めにあった。

 かっちゃんは雄英高校トップのビッグ3に興味津々みたいでミリオ先輩も睨みつけているし、他のみんなも三年生の体験話なども聞けたので満足そうだった。

 ちなみに入口付近で混じれずにポツンとこちらを見ていたビッグ3最後の一人もいたが、自己紹介もできずに終わってしまった。

 

 

 





 グラントリノは現在相談役としてサー・ナイトアイ事務所に所属している形です。


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33話 猛るサー・ナイトアイ。


 ステイン編はかなり原作改変します。
 閲覧注意。



 

 職場体験当日。

 僕はコスチュームをもって電車で一時間のサー・ナイトアイ事務所まで来ていた。

 去年、オールマイトの育成プランを台無し(炎鳳殲滅)にしてからの付き合いであるオールマイトの元(本人はいつでも復帰する気満々)サイドキックであるサー・ナイトアイ。

 出会った当初はかなり嫌われていたけど僕の実力と記憶再生もあって、今では良好な関係だ(オールマイトの教師姿画像を要求されるのは辟易しているが)。

 それもあって雄英高校卒業後にはサイドキックとして働く予定だし、時折遊びに来たりもする。

 とりあえず事務所に入る前にネタを仕込む。見た目に反してユーモアを尊重するサー・ナイトアイ、彼を笑わせるために事前準備は必須なのだから。

 

「アヒャヒャヒャヒャ」

 

 いつものようにユーモアの足りなかったバブルガールがお仕置きを受けている。学習能力が無いのかマゾなのか判断に困るけど、飛び込みのお客様が来たらどうする気なんだろうか。

 ギロリと目力の凄い、銀縁眼鏡に七三分けのスーツ姿の男性。日本人のサラリーマンらしい彼こそが、ストイックな仕事ぶりで有名なサー・ナイトアイだ。

 

「職場体験に参りました、雄英高校一年の緑谷出久です。よろしくおねがいします!!」

 

 頭を下げてまずは挨拶。

 

「元気とユーモアのない社会に未来はないと私は思っている。元気は伝わった、ならば後は分かるな?」

 

 ギロリと睨みつけならがら言うセリフじゃないですよねソレ。外見と言動の合わない感こそが、サー・ナイトアイだ。

 ミリオ先輩ことルミリオンもいる中で(バブルガールはお仕置き中)、僕は困ったように右手で頭をかきながら、

 

「そんなお笑い芸人じゃないんだから、いきなり笑わせるなんて」

 

 そのまま髪を掴んで引っ剥がした。

 

「できないです(キリッ)」

 

 カツラの下からでてきた輝く頭頂部にファサリと艷やかな髪が波のように真横に乗る。そうそれは見るも鮮やかなバーコード禿だった。

 

「「「ブフウッ」」」

 

 お笑いの秘訣はこちらの表情。

 行動と表情の不一致、ギャップ、ボケる側が真顔だからこそ笑いを誘うのだ。

 

「ふ、流石はオールマイトの認めた後継者。ナイスユーモア」

 

「いやソレ基準おかしくないですか、サー」

 

 オールマイトはお笑いも極めているのかとミリオ先輩が突っ込む。

 

「良い事務所だけどこれだけは馴染めませんよ」

 

 バーコード禿カツラを取りながら僕も呟く。その時カツラの下からピョコンとちょんまげが飛び出して、再びバブルガールが吹き出した。

 

「と言いつつしっかり順応してるよねっ?!バーコード禿カツラの下にちょんまげカツラ仕込むくらい馴染んでるよねっ?!」

 

 二段仕込みは全ての基本ですから。

 

「よろしい歓迎しよう緑谷出久、いやトレンドール。ヒーロー名はブラックユーモアだがね」

 

 ほっといてください。

 イソイソとちょんまげカツラも取りながら(きちんと髪はあります)僕はそう思った。

 するとサー・ナイトアイは一連の流れからあっさりと切り替えて、雄英高校みたく突然本題を告げてきた。

 

「至急対処しなければならない問題がある。詳細は会議室にて説明しよう。サー・ナイトアイ事務所総員でユーモア無き未来を打倒するぞ」

 

 サー・ナイトアイは踵を返し会議室へと向かう、その足取りは強く、その背中は頼りがいのあるヒーローそのものだった。

 

「緑谷君ごめん、治癒魔法お願いできる?」

 

「?」

 

「バブルガールが笑い過ぎて意識がない」

 

 そういえばさっきから静かでしたね。

 

「ちょんまげがトドメだったみたい」

 

 美人台無しだなあ。

 バブルガール(21)は白目を剝いて大きく口を開け顔中からあらゆる汁を出しながら意識を失っていた。

 

 場所は変わり会議室。

 蘇生魔法でギリ復活(笑い死にしてた?)したバブルガールを連れて席につく。

 そこには、もう一人のサイドキックであるセンチピーダーと相談役であるグラントリノがいた。

 

「久しぶりだな小僧、俊典はきちんと教師をやっているか?」

 

「お久しぶりですグラントリノ、オールマイトはまだ新任だからかカンペを手放せませんね」

 

「よし説教」

 

「そこも良い」

 

 僕の暴露にグラントリノは叱ることを決め、ナイトアイは萌えていた。

 

「では全員揃ったところで、これから我が事務所で即刻解決しなければならない問題を説明する」

 

 モニターに映された文字は、ヒーロー殺し。

 先日飯田君の兄であるインゲニウムを襲撃した、ヒーローを標的としたヴィラン。

 

「知っての通り、有名かつ危険なヴィランであるヒーロー殺しステイン。コイツを捕らえることが今回の目的だ」

 

「まぁた大物だな」

 

「犠牲者も多いヴィランですよね」

 

「だが既に多くのヒーローが追跡しているのでは?噂では、かのナンバー2エンデヴァーすらも」

 

「今までウチは別件に当たってましたよね?違法薬物組織を中心に」

 

 そう、ヒーロー殺しが対処すべき危険なヴィランであることは周知の事実。だがサー・ナイトアイ事務所が緊急であたる理由が分からない(というか職場体験なのにガッツリ頭数に入ってません?)。

 

「理由はある」

 

 顔の前で両手を組みながらサー・ナイトアイは告げる。

 

「先日捕らえたヴィランの未来を見た時に視界に入った映像が問題だ。トレンドール記憶再生を頼む」

 

「はい、記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 コマ送りされるヴィランの未来、ヴィラン視点の限られた情報の中でとある新聞が目についた。

 

「コレを拡大できるか?」

 

 えっと拡大と、

 

「英雄回帰思想によりヴィラン活性化?」

 

 新聞に大きく記載されていたのはそんな見出しだった。

 

「そうだ、先日捕らえたヴィランは初犯のひったくり。すぐに保釈されるだろう。ならばこれはすぐに起こり得る未来というわけだ。他にも何人かのヴィランで確認したから間違いないだろう」

 

 しかも保須市にてか。

 飯田君のお兄さんが襲われた場所も保須市。

 

「大物ヴィランの捕え方をしくじったわけだな」

 

 現役ヒーローとしてはトップレベルのヒーロー歴を誇るグラントリノが苦々しい顔で呟いた。

 

「どういうことですか?」

 

「大物ヴィランや思想犯などは、捕らえられた事実や死亡の仕方により影響を増す場合がある。宗教などの神格化や革命などの象徴化だな」

 

「そうだ、ましてやステインならば後を継ぐなどと後継者気取りの模倣犯とて出るだろう。ヒーローを襲うという行動のみに偏ったな」

 

「だから大物ヴィランは大々的に捕らえては逆に不味いってことですか?」

 

「人々の安心のためには捕らえた事実の周知は必要だからヴィランにもよるかな?ムーンフィッシュなんかは模倣犯もそうでなかったし」

 

 捕縛した事実を伏せることが必要なヴィランもいるのか。確かに奪還のために大規模に集結する例もあるし。

 

「少なくともヒーロー殺しステインは象徴化してしまうヴィランであったというわけだ」

 

 記憶再生を消して、サー・ナイトアイの話を聞く。

 

「ゆえに我々はステインを秘密裏に捕らえ監獄へと叩き込む、それが大至急あたらねばならぬ仕事だ」

 

 銀縁眼鏡を上げながら威圧を込めて宣言する

 

「随分気合が入っているな」

 

「嫌いなんですよ、ステインが」

 

 トンと印鑑を会議室の長机に置かれる。武器としても扱う超質量押印を。

 

「ヤツの事は調べました。その過去、思想もこの数日で把握した。その理念に共感がないとは言わない。だが、」

 

 ドスンッとサー・ナイトアイの怒りを表すかのように印鑑は長机にめり込み亀裂を走らせる。

 

「ヤツは破壊した、オールマイトが築き上げた平和を。夜の闇を恐れて息を潜めなくてもいいような社会を、ヤツの血塗れの凶刃が汚したんだ」

 

 真っ二つに長机を割りながら言う。

 

「ゆえに許さない、だから捕らえる。

 ヤツに思想を撒き散らさせずに監獄に叩き込む」

 

「捕らえた後の引き渡しで警察に広まりませんか?」

 

「他にヒーローや周囲の目があるってのに、厳しい仕事になるぞ」

 

「誰かを予知しますか?捕縛ならルミリオンですか」

 

「ナイトアイの予知は確定してしまえば変えられないという問題もありますが」

 

「探査魔法は場所を限定すれば潜んでいても分かりますね」

 

 会議室にて意見が飛び出る。

 ステインの行動から保須市に現れることは確定している。ならばあとはどう詰めるかだ。

 

「一つずつ答えましょう。

 捕縛後の取り扱いはヒーロー公安委員会が動いてくれる、ヒーローや周囲の目も公安子飼いのヒーローがやってくれるそうだ。予知はステインに使うつもりだ、監獄から先がどうなるか気になるからな。予知については変えられる、恐らくトレンドールの異世界や神の力という要因がきっかけだろう。探査魔法は現地で場所を絞ってからだな」

 

 対策は完全でなくとも、万全。

 それほどにサー・ナイトアイはこの状況を重く見ているんだ。

 

「諸君、此処が未来に大きく影響する分岐点だ。心して当たってくれ。行動は明日、準備し身体を休めておいてくれ」

 

「オウ!」

 

「「「「了解!!」」」」

 

 未来において語られることのない戦い。

 だが歴史において重要な戦いはこうして幕をあけたのだった。

 

 

 





 ステインVSサー・ナイトアイ、ルミリオン、グラントリノ、センチピーダー、バブルガール、トレンドール、ホークス(秘密裏にサポート)

 超容赦無い。
 現場にはさらにエンデヴァーとかもいるし。


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34話 最速の苦労人。


 ステインアンチ、独自解釈あり。閲覧注意。



 

「マジですか?」

 

 その命令は日頃から無理難題ばかりの公安の仕事の中でもより一層困難なものだった。

 

「ステインは放置しておくのが公安の方針だったと聞いてましたが」

 

『状況が変わったということよ』

 

 上司であるヒーロー公安委員長の言葉に、携帯の電波が届くぎりぎりの高度に飛んでいたホークスは頭を抱えた。

 ヒーロー殺しステイン、元スタンダール、本名赤黒血染。実のところヒーロー公安委員会はその存在を正確に認識し、あえて放置していた。

 無論捕らえることに多大なリスクが伴うことも理由の一つだ。レディナガンが居たならばともかく、いかに最高戦力としてホークスを擁していようともステイン相手では分が悪い(痕跡を残さず始末する場合に限るが)。その思想から公安の子飼いにスカウトするという案もあったが、国家の利益のために己の信条を曲げられぬ者など公安には不要なのだ。

 そもそもステインの信条から取引材料が無いという致命的な問題もあるが。

 

「だからサー・ナイトアイの提案にのり、秘密裏の捕縛に踏み切ると」

 

『サー・ナイトアイの見た未来はなんとしても防がねばいけないのよ』

 

 公安の暗躍はそのためにあると言って良い。ヒーローというブランドを守り、強力な個性を持つ者が自分の意思でヒーローを志す社会を維持しなければならないのだ。そういずれくるオールマイトの引退という世界規模の混乱に対処するために。

 ヒーローの権威の失墜はそれを妨げる恐れがあるのだから。

 

「理解も納得もしますが難しいですよ、あのエンデヴァーさんだって保須市に来るというのに」

 

『最悪貴方の存在がサー・ナイトアイに知られても構わないわ。彼はオールマイトのためなら清濁併せ呑むことができるのだから』

 

 それはそれでどうなんだとホークスは思った。自分も似たような感情がエンデヴァーにあるが、サー・ナイトアイのソレは自分以上だ。

 

『重要なことは、ステインを秘密裏に捕縛すること、その思想が蔓延しないこと。それだけに気を配ってちょうだい』

 

「了解しました」

 

 その言葉を最後にヒーロー公安委員長との会話は終わった。

 

「ステインねえ、迷惑な存在だよ全く」

 

 ホークスにとってヒーロー殺しとはそのような存在だった。ヒーロー飽和社会の裏側を知り、汚れ役を担う彼にとってあれほど迷惑な存在はいない。

 別に悪行を働くヒーローを殺すことは納得できる、その悪行が表沙汰にならないよう後処理くらいはしてやろう。だが、

 

「ヒーローに相応しくないとか、単なる好みだろコイツの」

 

 インゲニウムを筆頭とした善良なヒーローの殺傷、これは認められない。というか、そもそもステインにヒーローの悪行を調べる情報源などない。スタンダール時代ですらヒーローが取り逃がしたヴィランや事務所を構えるヤクザを標的にしてきたのだ。その戦闘能力と潜伏能力こそ並外れてはいるが、動画投稿をしているヴィランであるジェントルクリミナルの相方であるラブラバのような神憑り的なハッキング能力を持ち合わせてはいないのだ。

 つまり標的となるヒーローはネットのみの情報で決めて、後は襲った時の印象で生かすか決めているのだろう。それを好みと言わずなんというのか。また戦闘能力をヒーローの基準に定めているが、ステインの襲撃は単独であるタイミングを狙った奇襲、そしてその個性ゆえ初手を許せばまず勝てない。そんな理不尽な判定など他にないだろう。硬化個性とて常時展開している者などいないし(そもそも個性使用違反)、斬鉄すら出来るステインの技量を防げる異形タイプも滅多にいない。

 どう対処すれば良いというのか。さらに最近のヒーローコスチュームは機動性重視で装甲よりも軽さを優先されているというのにだ。

 

「ふう」

 

 ひとしきりステインに対する不満を脳内にぶちまけた所でホークスは息をつく。

 どんなに不満があろうと彼のやるべきことは変わらない。ステインの行動から裏路地に羽を展開し、その場所をサー・ナイトアイに伝えれば良い。

 エンデヴァーを含んだヒーロー達は最悪別件のヴィランへ誘導すればよいだろう。

 ステインの捕縛は公にはできない。

 ステインの凶行で落ち着いた治安はしばらくそのままでいてもらわなければならない。もとより正体不明のヴィラン、突然姿が消えても違和感などないのだから。捕らえられた情報すら無ければ、ステイン本人を恐れて模倣犯も出ないだろう。

 

「はー、ヒーローが暇を持て余す社会。早く実現したいもんだ」

 

 というか切実に休みが欲しい、とホークスは上空でぼやくのだった。

 

 



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35話 ヒーロー殺しを捕縛せよ。


 アンチあり閲覧注意。



 

「さて今回の作戦を確認する。

 標的はヒーロー殺しステイン。

 目的は秘密裏な捕縛。

 現在大まかな位置の特定を急いでいるため、確定次第トレンドールが詳細位置を捜査だ」

 

 サー・ナイトアイによる最終確認。

 ヒーロー犇めく保須にて行われる秘密作戦。

 表沙汰にはできないこの仕事に僕だって緊張を隠せない。

 バブルガールとセンチピーダーは待機とサポート。強襲はルミリオン、僕、サー・ナイトアイ、グラントリノで行う。

 個人には過剰戦力だが、それをせねばならない相手なんだ。

 

「急ぐぞ、嫌な予感がする」

 

 確かにこの首の裏がチリチリする感覚には覚えがあった、まるでおじさんの過失で伝説の百頭竜が復活する前触れの時のような張り詰めた空気。

 ステイン捕縛のために集まったヒーロー達の意思だけではない、凶悪な意思を感じる。

 

「サー、グラントリノには待機してもらった方が良いかと思います」

 

 その予感に従ってサーに進言する。

 

「うむ、確かにグラントリノにはトドメをお願いしているがステイン相手ならば直接の打撃は避けるべきだな。嫌な予感は私もしている。分かったそうしよう」

 

 首に手を当てて思考したサー・ナイトアイだが、僕の提案に頷いてくれた。

 グラントリノも同じなのか反論することなく、乗ってきたサー・ナイトアイ事務所用カスタムワゴン車にて待機してくれるようだ。

 

『見つけましたよ』

 

 あらかじめ公安から渡された通信機から連絡が入る、ステインは裏路地にてパトロール時のヒーローを強襲する気のようだ。

 市民安全のためのパトロール。

 これは実績あるヒーローが役所から任命される仕事で定収入が確定するおいしい仕事だ。

 だが反面、調べればヒーローのスケジュールが簡単に把握されてしまう。

 ステインが狙ったのも大半がこのパターンで、ヤツとしては拝金主義のような仕事なのだろう。

 そのヒーローが見て回るから犯罪を侵さない、その意識を持たせる大事な役割にも関わらずにだ。

 

『それともう一つ、雄英高校を襲撃したヴィランに酷似した連中も暴れまわってます。突然現れたことから例の黒モヤで転移するヴィランの仕業かと』

 

 ヴィラン連合。

 あの手男も絡んでいるのか。

 

「すいません、手だらけの男がいたら決して手に触れてはならないと伝えてください。あと脳みそ剥き出しはまず身体能力が桁違いです」

 

『了解、直接は動けないけど伝える。エンデヴァーさんがいるからそちらになるべく情報を流すよ』

 

 公安からの協力者はかなり有能なようだ。

 音声こそ分かりやすいボイスチェンジャー声だがアテにはできそうだ。

 

「千載一遇の機だな。

 私達はヒーロー殺しに集中する。

 グラントリノにはそちらをお願いします。バブルガールとセンチピーダーはサポートに回れ」

 

「おう!」

 

「「了解!」」

 

「いくぞ、これ以上ユーモアある社会を台無しにされないためにな」

 

 宙に舞う一枚の羽に誘導され、僕とサー・ナイトアイとルミリオンはヒーロー殺しへと向かった。

 

 

 

「ハア、このルートだな」

 

 ヒーロー殺しステインは獲物を待ち構える。

 奇襲による一手から裁定。

 彼の基準からしたらここを通るヒーローは失格だが、自らの攻撃を凌げるなら生かしてやっても良い、

 オールマイトに頼り切り、作業のようなルーチンワークに甘んじて収入を得る輩は粛清対象なのだ。

 正しき社会、正しき英雄。

 その定義に気づき、その在り方の満ちた社会にならない限り、彼が血に染まる日々は終わらない。

 そう、今日までは。

 一瞬大地を魔法が走る、それがヒーロー殺しの位置を確定させる。

 その予兆に気づかなかった時点で彼の行末は確定したのだった。

 

「必殺、ファントム・メナス!!」

 

 ルミリオンによる透過を駆使した強襲、屋内、路地、遮蔽物の有る場は彼の狩場。透過という複数の手順のいる難解極まる個性を彼は使いこなし必殺の一手へと為す。だがそこは近接戦闘を極めたヒーロー殺しステイン、不意の一撃に反応し、一撃もらうも迎撃に刃こぼれ激しい凶刃を振るう。しかし、その一手を引き出すことこそサー・ナイトアイの狙いだ。

 

「縛動拘鎖ー(レグスウルド スタッガ)」

 

 ルミリオンの強襲にて吹き飛ばされ右手を振りかぶった所で魔法の鎖がその身を拘束する。常態であれば回避できたであろう捕縛も強襲と迎撃時には不可能。

 

「なに、が」

 

 ズドンッとサー・ナイトアイの戦闘用サポートアイテム超質量押印がステインの身体にのめり込む。

 正確に打ち出す投擲技術にパワー、非戦闘向き個性にも関わらず、否だからこそサー・ナイトアイの戦闘技術はヒーロー屈指、彼はイレイザーヘッド、ミッドナイトに並ぶ近接戦闘最強格の実力者なのだ。

 

「語りあう言葉などない。それを拒んだのは他ならぬ貴様だ」

 

 ヒーロー殺しステイン、彼が娑婆にて最後に見た光景は、オールマイトの後継者たる異世界帰りの勇者の振り下ろす光剣と、プロを含めてナンバー1にもっとも近いと謳われた若き俊英の固く握られた右拳だった。

 

 ここに長く続いたヒーロー殺しステイン 赤黒血染による凶行は途絶えることとなる。

 秘密裏に公安に引き渡された彼はそのまま裁判もされることなくタルタロスへの収監が確定した。

 彼の罪状に関してはトレンドールによる記憶再生の映像を記録しそれを元に調査することとなる。

 だがこの後すぐ、サー・ナイトアイによるステインの予知にて最悪の未来を公安、ヒーロー達は知ることになった。

 即ち、鉄壁の監獄タルタロス崩壊、受刑者の脱獄という未来を。

 一段落ついたと思った彼らはその対策に忙殺されることとなる。

 

 しかし、

 

「アーッハハッハハハ!」

 

 一方で楽しくて仕方ないと笑い転げるヴィランが一人。この保須における脳無の大暴れ振り、新聞での取り上げぶり、何より自分に刃を向けた大先輩の無様ぶりに死柄木弔は大満足だった。

 エンデヴァー、グラントリノの尽力にて人命に被害はなくとも街は壊れ、対応に当ったヒーロー達は重傷者ばかり。

 ヴィラン連合の恐ろしさは世に喧伝された。

 

「アンタは静かに表舞台から消えちまったよなあ先輩。

ブハハハハっ!!草の根運動台無しかよっ!!」

 

 とあるバー、ヴィラン連合の隠れ家にて彼だけは楽しそうに笑い転げていた。

 もっとも、宣伝効果を期待していた黒幕はこの結果に潰された顔をさらに歪めることになるが。

 

「厄介だな、ヒーロー共」

 

 この事件の顛末。

 それが未来にいかなる影響を及ぼすのか、それはまだ誰もしらない。

 

 

 





 全世界のステインファンの皆さんすいませんでした(土下座)



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36話 ミッドナイトとおじさん。


 久々おじさんサイドです。



 

 職場体験三日目、現在サー・ナイトアイ事務所は修羅場と化していた。

 保須市ヴィラン暴走事件の後始末もそうだが、問題なのはステインの記憶。限られた人員にしか知らせられない関係上その記憶を調書としてまとめる者が必要でありそれがサー・ナイトアイ事務所に回ってきたのだ。そこには警察内部に少なからずアンチヒーロー思想のステイン信者がいるという裏事情もあるが。

 そのため流血沙汰に慣れている緑谷出久がステインの起こした凶行の詳細をまとめているのだった、最初は手伝っていたルミリオンもそのスプラッタ映画どころではない記憶にダウンし、休み休み手伝う形となっている。ヒーロー殺しの殺人シーンを見返しその情報を文書へとおこす過酷な仕事ではある、だが警察とて違法ポ○ノ摘発時にはその膨大な映像全てを確認してまとめているのだから、どんな苦行も誰かがしなければならない役割なのだろう。

 

(これ職場体験なんだよね?)

 

 そんな疑問が脳裏をよぎるが緑谷出久は無心で作業に没頭した。

 だが、彼が仕事に忙殺される中で彼の身近な所へ忍び寄る魔の手があった。

 その事実を緑谷出久はまだ知らない。

 

 

 

 某市某アパート、そこにはそろそろドリーム○ャストに手を出すかと悩む異世界帰りのおじさんと雄英体育祭のネビルレーザーに触発され個性を使って眼鏡を買い直すハメになった青年が生息している。

 ピンポーン。

 そんな穏やかな日常に新たな変化がチャイムの音と共に現れようとしていた。

 

「あ、俺出るよ。なんか通販で頼んだ?」

 

「いや今日はない筈だけど」

 

 いつもの宅配かと思って応対しようとするおじさんだが、敬文にその心当たりはない。勧誘やら押し売りならやだなーと思いながら扉を開けたら、そこには黒い長髪のスタイル良い美女がいた。

 

「お隣に越してきた香山睡と申します、これからよろしくおねがいします」

 

 誰もが見惚れる笑顔と共に引っ越し蕎麦(手打ち)を渡される。

 

「あ、ご丁寧にどうも。私は甥っ子の所で厄介になっている嶋ザキ陽介です今後良いお付き合いを」

 

「ハイ♡もう生涯を共にするする感じで♡」

 

「(オーバーな表現だなあ、最近の人はこんな感じなのかな?)。ところで気になったのですが」

 

 するとおじさんは香山睡(ミッドナイト)をまじまじと見る。彼女はヒーローコスチュームのような過激な格好はしてはいない、だがその上半身はソ○ックをプリントされた薄手のシャツだ。彼女の抜群のスタイルによりプリントが歪み、その可愛らしい青いハリネズミが可哀想なことになっていた。

 

「お好きなんですか?セガ」

 

「ハイ勿論です♡もしかして陽介さんもですか(名前呼びして大丈夫か確認しないと)?」

 

「人生そのものと言っても過言ではありません」

 

 異世界からの帰還という不可能。それを成し遂げた最大の理由である以上、誰も否定できない事実だろう。

 

「(名前呼びは問題無し、よっしゃあ!!)私もなんです。ただ身近に一緒にやってくれる人がいなくて複数プレイができないことが悩みでして」

 

 男ならそのまま飛びかかりそうな色気ある上目遣いで誘うように香山睡(ミッドナイト)は言う。彼女は明らかに何かを狙っている。

 

「でしたら今度一緒にプレイします?私も最近友人ができて、足で二人プレイをする必要なくなったんですが、彼はどうにも多忙でして」

 

 その匂い立つ色香に欠片も反応せず、ましてや女性を連れこむ下心一切なしに彼女を誘う。敬文氏がいるので大丈夫だろうという意識はあるのかも知れない。

 

「(約束ゲットオオオッ!!友人も男ならライバルで無し!!)是非ともご一緒させて頂きます♡」

 

「楽しみですね。私は基本的に自宅にいますので気軽にお尋ねください」

 

「ハイ♡(嫌われない程度に通いつめる!!)」

 

 そう言って香山睡ことミッドナイト(31)は自室へと戻ろうとする、初日から乗り込むのは流石に悪印象だろうと計算してのことだ。

 

「あ、そういえば」

 

 すると何かに気づいたおじさんが背を向けた彼女を呼び止めた。

 

「雄英体育祭でお会いしたヒーローの方ですよね?そのお姿もお似合いですよ」

 

 と藤宮さんによる教育の成果を見せた。

 敬文攻略の前段階としてのおじさんに女性の扱いについての教育を彼女は行っていたのだ。

 

「ありがとうございます。結構私服だと気づかれないのですが一目でわかってもらえて嬉しいです」

 

 彼女の場合は如何に個性を活かすためとはいえその過激なコスチュームに目が行くのは仕方ないことだろう。内心の小躍りしたいほどの歓喜をおくびにも出さないで彼女は答えた。

 

「? 見れば分かると思いますが」

 

 そのごく自然な呆気にとられたおじさんの素の表情が香山睡(ミッドナイト)にはどストライクだった。

 

「(さらに天然とか最高かよ)それではこれで」

 

 楚々と自室に戻る彼女だが、その脳内はどうおじさんとの関係を進めるかで占められていたのだった。

 

 

 職場体験に疲れ切った緑谷出久が、ミッドナイトの行動に恐怖とおじさんのいつものに呆れを感じるのはこの暫く後のこととなる。

 

 





 起伏あるスタイルの人がキャラのプリントされたシャツ着るとか最高ですよね?崩れるキャラの姿が超良い。


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37話 叶わぬ夢と倒れ伏す者達。


 前半小話。
 後半オリカップリング有り、閲覧注意。



 

「眼鏡ビームっ!!」

 

 雄英体育祭。

 オリンピックに代わると銘打たれるだけあって入手困難なその観戦チケットを緑谷出久によりもらいテレビではなく生で見ることができた。

 日本トップエリート達がしのぎを削り、幾多の磨き抜かれた個性がぶつかり合う中で敬文は一人の少年が目についた。

 ネビルレーザー 青山優雅。

 へそからレーザーを放つその個性はリスクこそあれ自身の上位互換。ゆえに彼の活躍するその姿に敬文はかつて忘れた夢を思い出してしまった。

 そう、封印した個性を使用する程に。

 屋上の自由スペースに干された布団、それは敬文の個性眼鏡ビームを食らったことで物干し台ごと二十センチほど後ろに動いた。

 同時に眼鏡(2万円)はフレームを残して粉砕し、立っていられない程の疲労が全身を襲った。

 

(ああ)

 

 膝を付き項垂れる敬文。

 己の個性の残念ぶりを再確認し、その身を絶望が包みこんだ。

 

(やっぱり駄目か)

 

 自分の夢、叶わぬ願い。

 力を、個性を、己を知るごとに現実に不可能だと突きつけられる。

 望みが絶たれる。

 ゆえに絶望。

 だが、それでも諦めずにはいられない。

 何度でも夢を見てしまうのだ。

 

「ティファニアの使い魔に、成りたいなあ」

 

 天然巨乳ハーフエルフの使い魔に成るという、子供の頃からずっと見続けてきた夢を。

 

「やっぱり胸か、テメェーッ!!」

 

 そんな敬文の魂からの呟きに反応した恋する乙女である藤宮さんは力尽き項垂れる彼を怒りと嫉妬により蹴り飛ばす。

 

「敬文ーっ!!」

 

 そんな甥っ子を心配するおじさん。

 

「ざけんなコラ、そこはヒーロー目指すトコだろうがファンタジーかファンタジーがそんなに良いのか!つーかアレは巨乳どころじゃないだろうが!」

 

 胸ぐら掴んで叫ぶ藤宮さん。

 個性の反動でぐったりする彼をぶんぶんと振る。

 

「私だってきちんとあるんだぞ!あんな化け物乳と比べんな馬鹿ー!!」

 

「ああ落ち着いて藤宮さん。とにかく落ち着いて。な、なあ、今回は流石に敬文が悪い事くらいは俺にもわかるから。敬文もしっかり謝って」

 

「エルフに巨乳、エルフはスレンダーという常識をぶち壊した新境地」

 

 反動と振動により、最早ロクに意識の無い敬文はうわ言のように言葉を零すだけだった。

 

「そんなお前を叩き直してやるっ!!」

 

 涙目となり怒りのまま想い人に拳を振り上げる恋する乙女。

 

「やめなさい、暴力は駄目だからっ!!暴力系ヒロインの時代は終わってアンチ対象筆頭だと言ったのは藤宮さんでしょうっ!!」

 

 これは緑谷出久がヒーロー殺しを捕縛し、その後始末に追われている間の彼らの日常の一コマである。

 

 

 

 

 場面は変わり雄英高校。

 職場体験、ヒーローという夢を抱く彼らが踏み出す第一歩。憧れを地に足つけた職業であると学ぶ機会。一週間のその期間にて彼らは多くのことを学んだのであった。

 耳郎は敵退治の現場を体験し、蛙吹は密航者の捕縛、麗日は目的どおり格闘技を体感することができた。だが反面残念な目に合う者も少なからずいる、CMデビューしてしまった八百万と女性の私生活という深淵を覗き込んでしまった峰田などだ。

 雑談する彼らだが、それでもあえて目を逸らしていた彼らに触れることにした。

 自身の机にて突っ伏しピクリとも動かない二人、緑谷出久と爆豪勝己の両者は顔に生気無く、屍臭すら漂うのか小蝿が上を舞っていた。

 

「小さき者達よ彼らは死体ではありませんすぐに去るのですっ!!」

 

 小蝿は口田君が自身の個性生き物ボイスで追い払ってくれたようだ。

 

「一年トップ2がなんで死んでんだ?」

 

「轟みたいに保須の事件に参加してないよな」

  

 保須ヴィラン暴走事件、轟焦凍は父であるエンデヴァーと共に暴れる脳無達の撃退に貢献していた。

 

「なんでか警戒されてたヒーロー殺しはでなかったしな」

 

「インゲニウム襲撃以降はパッタリ出てないらしいぜ。まだ数日だけどよ。って悪い飯田」

 

 軽口を言う上鳴だが、実の兄を襲われた飯田に気付き謝罪する。

 

「大丈夫だ、兄は無事復帰したからな。ヒーロー殺しに関してはヒーロー達の中でも気になる話題らしい」

 

 公にされていないヒーロー殺し捕縛。

 ゆえに突然姿を消した扱いのヒーロー殺しのことを多くの者達が気にしていたのだった。

 

「っで何があったよ緑谷?」

 

 とりあえず動かない緑谷に尋ねて見れば、息も絶え絶えに彼は言う。

 

「睡眠時間ロクにとれないくらいフルで一週間働いて、ついでにおじさんのトコでトドメ食らった」

 

 サー・ナイトアイ事務所フル稼働な一週間。酷使された緑谷は極限疲労にあった。実際三年教室にてタフなミリオもまた突っ伏していた、ねじれちゃんに質問されまくりながら。そんな精神と肉体ともにボロボロだった所に、ミッドナイトのぶっ飛んだ行動を見たのだ、倒れるのも無理はないだろう。

 

「それ職業体験じゃなくね?」

 

「緑谷が倒れるってどれくらいだよサー・ナイトアイ事務所」

 

 急を要する事態とはいえあまりに過酷な一週間であった。

 

「じゃあ爆豪はなんで?」

 

「コイツならフル稼働で敵退治とかむしろご褒美だろ?」

 

 爆豪勝己がどんな目で見られているのかよくわかるものだが、無論彼が突っ伏しているのは職業体験の活動が理由ではない。

 

「ミルコが、あの兎女が、家に居着いてやがる(ガクリッ)」

 

 その興味引く言葉に、喋るのも億劫そうな爆豪を強引に問い詰めれば、もの凄く嫌そうに彼は語る。愚痴は言いたかったのかも知れない。

 ラビットヒーロー ミルコの超現場主義かつ、彼女の快活豪胆な気性は爆豪勝己にとって不快ではなく、ついて来いと言わんばかりなその姿勢も闘争心を煽られるものだった。ブチのめした敵の後始末を現地のヒーローと警察に押し付けアチラコチラを巡ったのだが、たまたま爆豪自宅付近に辿り着いたため両親の誘いもあって泊まる事となった。だが、問題はそこで起きた。

 元より気っ風の良い爆豪母がミルコと意気投合してしまい、爆豪父と爆豪が近所に頭を下げるレベルで大騒ぎしてしまったのだ。ミルコも爆豪母を気に入ったのか、仕事後は爆豪家に必ず寄るようになり爆豪の心労が積み重なるようになったのだ。

 力尽くでなんとかしようともしたが、爆豪勝己が才能あれどそこは世界を代表する肉弾戦系女ヒーローミルコ、良いようにあしらわれ返り討ちにあった。

 爆豪勝己自身もその負けん気がミルコにすっかり気に入られてしまい、玩具みたく遊ばれるようになったとか。

 

「朝起きたらミルコが横にいる日々だぞ、死ぬわ」

 

 女嫌いとは言わずともそこまで関心の無い彼は、妙齢肉体派兎美女の色気に惑うことなくひたすら不快に感じストレスを溜めていた。

 

「まあ人生そんなもんだよ、おじさんもそうだったし」

 

 慰めるように緑谷出久が言う。

 彼自身は異世界にてそんな目にあっていないが、おじさんは大体そんな感じだった。

 

「親父みたいなこと言うな。優しく諦めに満ちた目で諭してくんだぞ」

 

 経験者である爆豪父はそんな息子にかつての自分を重ね合わせて抵抗は無意味だと諭していた。爆豪母はミルコなら良いじゃんと言っているが。

 

「ところでかっちゃん?」

 

「どした?」

 

 怒鳴る気力すらない彼に緑谷出久は気になったことを尋ねる。

 

「首の後ろのミルコって字は自分で書いたの?」

 

「誰が書くか、つーかなんじゃこりゃああっ!!」

 

 耳郎が渡した手鏡で確認すればそこにはマジックでミルコと書かれていた。当然覚えのない爆豪がミルコに電話で確認すれば、

 

『? 自分のモノには名前書くだろ』

 

 と小学校で習わなかったのかとミルコは不思議そうに答えた。

 

「誰がテメェのモノだァ!!俺は頭の先から足の先まで余すことなくオレ自身のモノだコラァっ!!」

 

『つまり私のモノだな。お、ヴィラン!切るぞ』

 

「待てやこら、ウサギィーっ!!」

 

 疲労した身体を死力を振り絞って動かし叫ぶも一切の効果なく、一部男子の嫉妬の眼差しにさらされながら爆豪勝己は力尽きた。

 彼の苦難はまだ始まったばかりである。

 

 こうして職業体験終了初日の朝は終わった。

 彼らの一日はこれから始まる。

 

 



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38話 語られる過去(グランバハマル)。

 

 幼馴染ともども疲労で死に体な状態で一日を過ごす、ヒーロー基礎学の密集工業地帯を模した運動場による救難実技をこなしついには放課後になった。

 

 教室の前に立ち、クラスの皆に語りかける。

 

「え、とそれじゃあ僕の過去について語るわけだけどかなりヤバい情報だから秘密にして貰えると助かるかな?」

 

 体育祭中に梅雨ちゃんと約束したこと。

 皆が疑問抱く、僕の過去についてだ。

 

「ケロ、時々緑谷ちゃんからでる異世界という言葉についてね」

 

「あと調べられる範囲での緑谷さんの過去と緑谷さんが語る話の違和感ですわ」

 

「おう、爆豪とマジなダチになりてえけど、緑谷を自殺に追い込んだとかの過去はスッキリさせたいからな」

 

(自殺教唆はしているんだよなあ)

 

 まあ僕の語りから事実の6割増しくらい印象悪化しているだろうけど。

 とりあえず聞きたがっているのは青山君を除いたA組全員プラスミッドナイト先生だ。

 なんでも青山君としては無個性時代の辛い過去とかノーセンキューらしい。

 ミッドナイト先生は、

 

「陽介さんの過去なら是非見ないと、あと誰か教員は知っておくべきと校長にも言われたわ」

 

 らしい。

 まあおじさんの過去を見せると言ってあるからね、やり方はどうあれおじさんの理解者が増えるのは望ましいし。

 

「そもそも過去を見せるってなんだ?」

 

「それからだね、峰田君ちょっと良い?」

 

 ちょいちょいと手招きし峰田君を呼ぶ。

 

「どした」

 

「まあ朝なら平気だよね?記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 記憶の精霊が気を遣ってくれたのか黒板サイズの大きさで画面が出現する。

 その中には峰田君が今流行の服を着て姿見の前でポーズを決めていた。

 

『フッ、キマっているな今日のオイラ』

 

 同じデザインだけどサイズが色々あるのが個性社会の良いとこだよね。

 救急車とかもかなり構造に気を遣われているし。

 映っている峰田君をスルーして画面を消す。

 なんか笑うに笑えないからだ。

 

「ってオイラの毎日の習慣じゃねえかあっ!!何映してくれとんじゃ緑谷ァ?!」

 

 ごめん毎日の習慣は君の暴露。

 

「とまあこのように僕は触れた相手の記憶を再生できる魔法が使えるから、それで僕に何があったかを見せることができるんだ」

 

「無視か、テメェー!!」

 

「メンゴ!!」

 

 峰田君には手を挙げて謝罪。

 

「便利な魔法だな」

 

「色々使えそう」

 

「悪用もな」

 

「まああくまで記憶の精霊にお願いしてるから、公序良俗に反したことは映せないけどね。勝手に処理してくれるし」

 

 そこら辺が精霊魔法の厄介でありがたいトコだよね。おじさんなら微調整できるけど僕には無理だし。

 

「さて、とはいえ今から流すのは僕じゃなくておじさんの過去だけど、その前に事前知識を。

 僕はヘドロヴィラン騒動と呼ばれるあの日、トラックに轢かれそうな少年を助けようと飛び出して半年間の昏睡状態になった。

 その間だけど魂は異世界グランバハマルで過ごしていたんだ」

 

「異世界転生?」

 

「いや転移か?」

 

「にわかには信じ難い話ですわ」

 

「あ、因みにこれ証拠の魔剣。こっちだと再現できないテクノロジーでできてるよ」

 

 収納空間からニュッと一振りの魔剣を取り出す。見た目はシンプルなロングソードだが斬った相手の血を吸って持ち手の体力を回復するヤバい逸品だ、持ち手と同じ種族にしか効果が無いと言う所が特に。

 

「つまり緑谷ちゃんの個性は、勇者という個性じゃなくて異世界で身につけた技術なの?」

 

「大体そんな感じ、まあ神とかアレコレあるけどね」

 

 転移ボーナスまで語ると時間が足りないし。

 

「ならなんで緑谷の過去じゃなく、おじさんという人の過去なんだ?というか誰だよ」

 

「身近な友人のエグい姿を見せるのはまだ早いって、知ってる人達からのアドバイスがあったからね。あとおじさんは僕の恩人、こっちの世界に戻れたのはおじさんの17年間の頑張りがあったらだよ」

 

「という事はこっちだと17年ぶりに目を覚ましたのか、家族と感動の再会だな!!」

 

 切島君、僕もそう思ってたんだけどね。

 

「おじさんの処遇を巡って家族で言ってはいけないことを言い合って一家離散したそうだよ。おじさんはその記憶消してるから黙っててね」

 

「「「あ、うん」」」

 

 現実の酷さに皆が項垂れる。

 クラスの皆は善良な性格だから特にね。

 

「ケロ、既にお腹いっぱいになりそうよ」

 

 これは酷かったからね。

 

「まあ比較的マシなエピソードだから、えっとおじさんにあの記憶を見せてもらった時期はと、記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 

『おおトレントよ、村に恵みを!!』

 

 そこには小さな村の中央で下半身を地面に埋められて水をかけられる僕の姿があった。

 確かこの後だったよね。

 

「「「いやちょっとおおおっ!!」」」

 

 記憶再生はまだ続く。

 

 

 



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39話 異世界での出来事。


 


 

「確かこの三日後くらいだから早送り、早送り」

 

 時間は有限、完全下校時間を考えると急がねば。

 記憶再生のモニターに手をのばすと、その手を駆け寄ってきた皆に止められる。

 

「どうしたの?」

 

「なんで何事も無く飛ばそうとすんだよっ!!」

 

「そうだよっ!!どうしてこうなったか知りたいよっ!!」

 

「この後どうなったかもなっ!!」

 

「今ご無事だから助かるのは分かりますけど」

 

「それでも気になるから」

 

 どうやら駆け寄ってきた皆はこの続きと経緯が気になるらしい。けどそうすると時間が、あと相澤先生に僕の記憶は止められているし。ちらりとミッドナイト先生に視線で確認すれば、収まりつかなそうだから流しなさいと言われた。

 大丈夫かな?この後酷い事起きるのに。

 

「分かった分かった、じゃあこうなる前から流すね。この山に来た所から。えっと巻き戻し巻き戻し、じゃなくて早戻し早戻しと、おじさんの移ったな」

 

 モニターを操作して僕がこうなる前へと場面を移動させる。

 

「どうでも良いが、なんで魔法がBlu-rayプレイヤーやパソコンモニターみたいな操作なんだ?視点も記憶なら緑谷視点の筈だろうに」

 

 記憶の精霊の気遣いにはいつも助かってます。

 

 

『よし、じゃあ二手に別れようか』

 

『ええ、どちらが見つけるか競争ですね』

 

「えっと、僕とおじさんは元の世界に帰るために神の力が宿る遺跡や祠を破か、調べて回っていてね。この山にもそれ目的できたんだ」

 

「今破壊って言わなかった?」

 

「それで危険な魔獣がいないみたいだから、二手に別れたんだよ」

 

 ある程度戦闘能力得て調子に乗ってたしね。

 

「それで別れて探してたら」

 

『うわああっ!!』

 

「魔獣捕獲用罠にあっさり嵌った」

 

「「駄目じゃねーか」」

 

「それで目を覚ましたらあんな感じ、どうやらトレントと共生しようとしてるみたいでね」

 

「共生?」

 

 そう植えられはしたが酷い目にあってない、あくまで村人の目的はトレントと共生だからだ。

 

「幼生体を上手く手懐ければ、トレントの恵みと村の守護の両方期待できるからね。冒険者の来ない辺鄙な地域だと結構ある風習だよ」

 

「異世界ファンタジーらしくて面白い話だな、対象が友人でなければ」

 

「そもそも緑谷ちゃんはトレントじゃないわ」

 

 いや見た目がねえ。

 

「異世界は美形ばかりだからね。八百万さんレベルが普通なんだよ。だからそうじゃないとゴブリンとオークみたいな魔獣扱いになってね」

 

「基準が厳し過ぎるわ」

 

 こっちの大半の人間駄目じゃねーか。個性で異形も多いしと誰かが呟く。

 

「まあ容姿が整っていても、基本余所者は警戒対象だけどね。冒険者にしてもその村出身じゃないと隔離されて監視されるのが普通だよ」

 

「それだけ危険な世界なのか」

 

「街道とか整備できないレベルの治安だからね」

 

 魔獣も危ないのばかりだし。

 

「だから植えられて丁重な扱いなのか、ところでおじさんはどうしたんだ?緑谷ピンチだろ?」

 

「オイオイ轟、緑谷が尊敬してる人だぞ。これから颯爽と格好良く助けるに決まっているじゃねえか」

 

「「ネタバレすんなよ切島ー!」」

 

 ああいや、うん。

 

『村長、供物を捕らえましたっ!!』

 

『おお良かった、トレントとの付き合いは最初の供物が大事だからな。鹿か?猪か?』

 

『オークです!!痺れ茸の群生地に顔を突っ込んでノびてましたっ!!』

 

『ここいらにはあまり居ないのに珍しいな。トレントへの供物には最適だ』

 

「トレントは雑食なのか?」

 

「水と日差しだけで生きていけるけど、家庭ゴミやら生物の死骸も食べるね。繁殖期なんか戦争跡地に集団で移動してそこに森ができたりするよ」

 

『ええ、やや小振りですが身なりは良いから上物ですよ』

 

 質問に答えつつモニターに目を向ければ、そこには口に痺れ茸を咥えて四肢を丸太に縛られて運ばれるおじさんの姿があった。

 

「陽介さーーんっ?!」

 

「体育祭にいたセガおじさーーんっ?!」

 

 そしてソレを見たミッドナイトと体育祭で会った芦戸さんの悲鳴が響く。

 

「どうしたんだあの人?」

 

「後で聞いた話だけど、苔に足を取られて痺れ茸の群生地に顔面ダイブしたんだって」

 

「ドジ二人が別行動すんじゃねえよ」

 

「完っっっ全に裏目にでてるだろ」

 

「いや今回はイケるかなって」

 

 なんかかっちゃんがお前ら学習能力零だろと言いたげな目をむけている。

 

『さあトレントよ!!供物を喰らい、これから村の一員として共に過ごそうではないかっ!!』

 

「どうでも良いがなんであんな邪教徒みたいな格好してんだ村人連中?」

 

「普通の村人なんだよね?」

 

 老若男女とわず村人総出で怪しげ黒いローブに骨やら羽やらでゴテゴテしく装飾して身に纏っているからね。さらに埋められた僕を円陣組んで取り囲んでいるし。

 

「ぶっちゃけ邪教徒だし。正式な教会がなくて駐在司祭いないと大体こんな感じになるよ」

 

 神聖魔法ないと病気一つで苦労するからか、力を求めて魔獣信仰やら邪神信仰やらに走るんだよね。信仰心強い流れ司祭や冒険者を引退した司祭が運良く居着けば別だけど、そんな幸運滅多にないし。

 

「というか、緑谷君はこのまま美味しく陽介さんを頂いてしまったの?!」

 

「鼻息荒いですよ、先生。地面に体温取られて意識朦朧としてたから、なんとか気力で神聖魔法を発動しようとしてましたよ」

 

 地面て冷たいんだよね、キャンプでも山に直寝は凍死(場所にもよるが)するからしないようにね。

 

「けど酷いことってこれか?」

 

「ああ、もっとエグいのかと」

 

 何人かは肩透かしみたいだよね。

 

「いや酷いだろ」

 

「大真面目にやってる分だけ救えませんわ」

 

「緑谷もおじさんも大変じゃん」

 

「大丈夫なん?助かったん?」

 

 正直心配の声が嬉しいかな。

 

「これくらいならいつものことだから平気だよ。問題はこの後でね」

 

 いつものこと発言に突っ込みたそうだけど必死に我慢してるよね。

 

『オーク顔が供物?オーク顔を食らう?』

 

 ガサガサと森を掻き分けて現れる存在。

 その膨大な魔力と溢れる殺意は画面越しにも伝わってくる。

 

『ト レ ン ト も ど き ー!!』

 

 人型なのが信じられない気配、輝く眼はドラゴンの心臓とて止めるだろう。

 

「「「ナニアレ?」」」

 

「ストーカー、あとエルフもやってる」

 

「「エルフがオマケかよっ?!」」

 

「なんやかんやでおじさんのストーカーしてるナマモノで大変危険。実力は控え目にいっても化け物で収集した古代兵器を使いこなす。人刈りの習慣があり、寒い時は動物の内臓に身を包んで暖を取る」

 

「悪意溢れる紹介だな、恨み骨髄か」

 

「あと一ヶ月風呂に入らなくて平気」

 

「それはもののたとえだろ」

 

「僕を邪魔な存在認識しててことあるごとに狩ろうとするからね」

 

 ま、それも大好きなおじさんに帰って欲しくなくて必死だったと思えば、仕方ないなと許せは、許せは、

 許せねえよ、トラウマじゃい。

 

『エルフがトレントを狩ろうとしているぞやらせるな!!村の衆、トレントを、村の財産を、守れえー!!』

 

『『『うおおおっ!!』』』

 

「村の財産て」

 

「鋤とか鍬を持って集団で女の人一人に襲いかかっているよ!!」

 

「あー平気平気」

 

 見た感じ誤解するけど、逆だから。

 

『邪魔』

 

『『『ぎゃあああ!!』』』

 

「「「そして返り討ちっ?!」」」

 

 エルフ(ストーカー)だしなあ。

 

『やはりトレントの本性を出したわね、オーク顔を食らわせたりはしないわ!!オーク顔を食うのは、食うのは私よっ!!』

 

『ィズク君、助けぇてぇ、食ぅわれるぅ』

 

 おじさんガッツリ痺れてたからなあ。

 

「ね?ヤバいストーカーでしょ?」

 

「照れ隠しなのは表情で分かるが、言葉のチョイス最悪かよ」

 

 僕は同情しないけど。

 

「それでこの後村人が撃退されてる間に神聖魔法で回復しておじさんを丸太ごと担いで脱出。まる二日間必死に逃げ回ったの(祠はエルフの巨大剣で破壊された)、いやー怖かったすげー怖かった」

 

 と、ここまででモニターを消す。

 そろそろ完全下校時刻だしね。

 

 クラスの皆を見たら、うんとても辛そうな表情だ。

 

「緑谷、辛かったんだな」

 

 絞り出すような言葉がきっと皆の本音だ。

 辛いことを辛いと認識できない僕の姿が皆の目に痛ましく映るのは理解している。

 

「ま、でもより辛かったおじさんが横に居て助けてくれたから平気だったよ。僕は半年間で済んだからね」

 

 それもおじさんの頑張りのおかげだ。

 

「それにあの半年間があったから皆の友人に成れたと思えば、ならいいかなって思えるから」

 

 強がりもあるけど、それは緑谷出久の紛うことなき本音であり、だからこそニカリと笑えた。

 

「「「緑谷ーっ!!」」」

 

 直情的な子達に抱きつかれて揉みくちゃにされる。こんな感じに関わりを持てたのもあの期間のおかげなんだ。

 無論、二度とごめんだが。

 

 こうして一回目の記憶再生は終わった。

 見るのがしんどい内容だけど、やっぱり異世界ファンタジーを生で見るのは楽しいみたい。

 敬文さんや藤宮さんもそんな理由から見ているのだろう。普通に面白いしね。

 後日の約束をして、今日は解散したのだった。

 

 





 思ったよりしんみり書けなくてすいません。
 けど皆心から心配はしていますので。


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40話 語られる過去とおじさん。


 おじさんサイドです。



 

 某市某アパート。

 そこには隣に越してきた現役ヒーローにして雄英高校教師である妙齢美女から毎日のように差し入れされる異世界帰りのおじさんと、幼馴染に誤解されて手酷く問い詰められたフリーターの青年が生息している。

 そんな彼らだがおじさんと縁ある現役雄英高校生である緑谷出久の登場する記憶が見てみたくなり、おじさんにお願いしたのだった。

 

「って感じだったんだよ、怖いよなエルフ。付き合いあるのに食料として見てたんだぜ」

 

「うん、そうだね(エルフさんの言葉通りに受け取ってるよおじさん)」

 

「確かに怖いですね(性的にだとしてもこれはねーだろエルフさん)」

 

 いつもの如く同じ部屋なのに別世界のように温度差のある彼ら、おじさんだけは軽く笑いながら過去を思い出していた。

 

「そういえばこの後からだよ、オーク喰いのエルフが居るとか、トレント連れたオークが居るって広まったの。襲撃増えて大変だったなあ」

 

「まああれだけ騒げばね」

 

「山なんて崩壊してるじゃないですか」

 

 丸太に手足を縛りつけられたおじさんを担いだ緑谷出久の逃亡劇、エルフが剣を展開し追いかけるものだから山の一部が見事に禿げてしまっていた。

 

「「ていうかおじさん役に立ってないし」」

 

「いやーあの時は痺れたからロクに動けなくてねえ。出久君が頑張ってくれなかったら食われてたよ」

 

(意味が違う)

 

(意味が違うって)

 

 既にツンデレどうこうではない程におじさんに誤解されているエルフだった。

 とエルフに関連してか藤宮さんが気になったことをおじさんに尋ねた。

 

「そういえばいつもみたく出久君にも指輪とか渡しているんですか?」

 

 おじさんはエルフ、メイベル、商会主と記念トロフィー扱いでもある指輪を換金アイテムとしてよく配っていた。

 

「いくらおじさんだって同郷の男の子にそんなことしないよ藤宮」

 

 流石にソレはないだろうと敬文が否定したが。

 

「渡したけど?呪い避け効果のあるやつ。死霊ばっかりでるダンジョン行った時危なくてね」

 

 ソレをやるのが異世界おじさんなのだ。

 

(マジか)

 

(え、マジで)

 

「指に付けた瞬間なぜか出久君が「お巡りさーんっ!!ヒーローっ!!」て悲鳴あげたけどね」

 

(多分事前に説明してないんだろうな)

 

(いつものようにおじさんに突然指輪を付けられたんだろうな)

 

 知り合ってから一週間足らずの時期、未だ信頼が充分ではない頃にダンジョンらしき洞窟に連れ込まれ突然手を掴まれて有無を言わさず指輪を付けられた。その瞬間の怖気と恐怖は中学三年生の少年である緑谷出久にとってどれほどのものだったか。あとになって誤解だとは知ったものの、この出来事は緑谷出久が異世界生活で唯一記憶を消した程のトラウマである。

 記憶再生の魔法で緑谷出久の一番の恐怖体験と指定すれば恐らくこのシーンが再生されるだろう。

 なお、その光景をエルフがストーキング中にガッツリと目撃していたことも彼女の緑谷出久への当たりの強さの理由の一つである。

 

「まあこっちだと死霊ってあんまり見ないけどね。出久君の中に似たようなのが何人かいるくらいだよ」

 

「へーそうなんだ」

 

「居るんですね死霊って」

 

 と普通に流してしまった二人だが、一拍おいて冷静になり気付く。

 

「「居るのかよ!!」」

 

 それがワンフォーオールという個性の特異性ゆえであることはまだ緑谷出久とて知らない事実である。またそれらは鏡に映らないため緑谷出久が気付くことも無かった。

 

「ま、害がないみたいだから平気だよ」

 

「心配だなあ」

 

「本人に伝えた方が良いかな?」

 

 実際は違うのであるが、前任者であるオールマイトすら知らないため憶測しかできないのであった。

 

「あ、おじさん。出久君にお願いしたいことあるんですけど大丈夫ですか?」

 

「藤宮さんが?珍しいね」

 

「弟が雄英高校を見学したいって煩いんですよ。多分動画投稿もしたがるだろうけど、どうですかね?」

 

 藤宮さんの弟である千秋君は外見がちょっとアレな動画投稿者志望の小学四年生である。

 

「うん、聞いてみるね。あっ、でも見学なら睡さんに聞いた方が良いかな?」

 

「(おい敬文?おじさんがナチュラルにミッドナイトを名前呼びしてんだけど)」

 

「(ミッドナイトから言い出してきて抵抗無く呼ぶんだよおじさん)」

 

 ミッドナイトという有名ヒーローを知るがゆえに本名で呼ぶことに抵抗ある二人。たとえスッピンであってもミッドナイトが先にでてしまうのだ。

 ちなみにだが、彼氏がオフ時にヒーロー名で呼んでしまったこと、が理由で別れる女ヒーローは結構いるらしい。コスチュームを着ているかどうかはヒーローにおいて重要な意味を持つのだ。

 

「すいませんお願いします。ただ無理にではないので、あまり煩いなら叱りますから」

 

「いいっていいって、こっちは聞くだけだから」

 

 頼みを断らないおじさんの人の良さである。

 

「雄英高校かあ、夏休みもそろそろだし合宿とかあるのかな?」

 

「入学式参加も担任が自由にできる学校が長期休暇を認めるとは思えないしな」

 

「皆で温泉に行きたいよねえ」

 

 今日もまたおじさん宅での一日は平穏に過ぎていくのであった。

 

「ただいまー!」

 

「「自宅は隣でしょ、ミッドナイト」」

 

「おかえり睡さん」

 

「「おじさんが返事するから繰り返すんだって」」

 



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41話 期末テストへ備えよ。


 今話は、繋ぎ回です。
 正直書いてて微妙でした。
 閲覧注意。



 

 僕の異世界転移について語ってからしばらく。

 クラスの皆が優しくなったり、異世界について聞かれたりが日常に加わった。

 ただ記憶再生の魔法の話を聞いてから青山君があまり僕に近寄らなくなったのは気の所為かな?まあ便利だけど自分には使われたくないよね。

 そんな朝のホームルーム。

 

「えー、そろそろ夏休みも近いがもちろん君らが30日間一ヶ月休める道理はない」

 

 うん知ってた。

 

「まさか」

 

「夏休み林間合宿やるぞ」

 

「知ってたよ、やったー!!」

 

 行事予定にも書かれてる一年の夏の大イベントだからね。

 

「肝試そー!!」

 

 人間が一番怖いけどね、いやエルフだった。

 

「風呂!!」

 

 温泉もいいなー、夏はまた。

 

「花火」

 

 皆と行きたいよね。

 

「風呂!!」

 

 2回目だよ。

 

「カレーだな」

 

 飯田君は毎日食べてるよね?

 

「行水!!」

 

 滝壺にかな?

 

「自然環境ですとまた活動条件が変わって来ますわね」

 

 こっちに戻ってきた時に、舗装された道の素晴らしさに泣きそうになったなあ。

 

「いかなる環境でも正しい選択を、か面白い」

 

 ヒーローの活動圏は広いからね。

 

「湯浴み!!」

 

 いいかげんにしなさい。

 

「寝食皆と!!ワクワクしてきたあ!!」

 

 うん、楽しみだよね。

 

「ただし、その前の期末テストで合格点に満たなかった奴は学校で補習地獄だ」

 

「みんな頑張ろーぜ!!」

 

 期末テスト。

 範囲も広いけど演習試験がどうなるかだよね。

 この学校って入試の救助ポイントなど隠し要素を組み込むから油断できないよね。

 

 

 

「んで、どういった集まりだあコレは?」

 

 放課後、かっちゃんと一緒に学校の訓練場に呼び出された。まさか闇討ちかとも思うも、呼び出したのはクラスの皆だ。

 

「ワリーな、二人共。けどよ」

 

「私達はもっと強くなりたいんですの」

 

「緑谷の記憶見たらよ、なんかしたくてな」

 

 皆が望んでいるのは強くなるための特訓らしい。だから体育祭のトップ二人に頼むのは分かるけど。

 

「くだらねえ、自分でやれ」

 

 あっさり拒否するかっちゃんに今回ばかりは同意するかな。

 

「はっきり言って僕達は教えられるような実力はないよ?」

 

「「「「嘘だっ!!」」」」

 

「「えーー」」

 

 皆からの否定にかっちゃんと二人でげんなりする。

 

「その、それは余りに過小評価なのでは?」

 

「「「うんうん」」」

 

 八百万さんが過小評価だと言うけど。

 

「俺が強い俺が強者?はっ幼馴染の異世界転移野郎にゲームの技であっさり敗北した俺が?しかもなんだあの下突きって必殺技どころかコマンド技じゃねえかというか将来俺がヒーローになったらゴールデン○ックスの動画と並べられてコレに負けたヤツとか叩かれるんだろ。さらに職場体験終わったにも関わらず兎女は頻繁に家に来るしその度玩具にしてくるし抵抗しても一度も勝てなくて同じ布団に引きずり込まれるし女に負ける俺のどこが強者なんだチクショウ」

 

「かっちゃんソレ僕の持ち芸」

 

 かっちゃんが精神的にヤバいから今。

 今の彼は周囲に当たり散らさないけど、その分内面に溜め込んでるよね。

 

「僕にしても実戦経験あるから強いだけで、教えられる技能なんてないからなあ」

 

 そもそも魔法は教えられるのか分からないし。

 

「さらに強さにも色々あるだろ。入試の救助ポイントの例もあるしな」

 

「ヒーローはヴィランを倒せば解決って訳じゃないからね」

 

 そこら辺まで踏まえて教えるなんて本職じゃないと無理だって。

 

「そう言われれば、そうですが」

 

「けどなんかはしないと、って気が逸るんだよ」

 

「ケロ、同世代で抜きん出た存在がいるもの」

 

 皆の焦り、強くなりたい、何かしたいという思い。敵の襲撃事件もあってそれが強いのだろうね。

 

「組み手だな」

 

「かっちゃん?」

 

「んなにこっちを強者扱いするなら、お望み通りボコッてやる」

 

 どんな難関なステージも敗北を糧にクリアするものだからね。

 

「光剣顕現ー(トライドルギド リオルラン)。じゃあやろうか」

 

 一理あるかっちゃんの意見に従って、僕達は戦うことにした。

 とにかく戦いに慣れること、ヒーローには当たり前のソレがこっちの世界では一番難しいからね。

 

 期末テストか、どうなるやら。

 





 


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42話 継承と自主練。

 

 これは現実ではないな。

 まるで空を漂うようなふわふわした感覚。

 地に足つかない、そんな落ち着かない感覚。

 というか、二回目。

 

「気づいたかい?九代目」

 

「出たなハグ魔め!!」

 

 声に反応して光剣を顕現し斬りかかる。

 だがその攻撃は顔に縦二本線のある男性にあっさりと回避されてしまった。

 

「やはり私が声をかけて正解だった。その光の精霊の剣で斬られたら私達もどうなるか分からないからな」

 

 私達、ハグ魔集団か。

 

「何も伝えなかった私達も悪いが、ナニカ誤解されているね。だが君に宿る、というか適当にブチ込まれた神の力により、君は私達との対話まで可能になったんだ」

 

「僕に宿る力、ってまさか適当にブチ込まれた転移ボーナス?それが解る人達ってまさか、貴方達は、」

 

 この時点で先日の7連ハグをした彼らの正体にきがついた。しかし彼らの感覚でも適当だと分かるのか転移ボーナス。あの神はどこまでやる気ないんだ。

 

「そう、ワンフォーオールに宿る歴代継承者達。私はその一人で四代目、名を四ノ森避影という。ちなみにさっきの一太刀、私の個性である危機回避がなかったら避けれなかった」

 

「すいませんでした」

 

 突然現れたハグ魔としか印象なくてつい。

 

「いや、此処で上映されてた君の異世界ライフを見る限り仕方ないよ。酷い時代を生きた私達もドン引きな半年間だった。あとエルフ怖い」

 

 地獄だったとか言われる個性黎明期よりヤバいのかグランバハマル。

 あとエルフ怖い(挨拶)。

 

「では皆さんが現れたのは何か伝えたいことでもあるのでしょうか?」

 

 宙に浮いた罅割れた部屋の一角、そこには8つの席があり四ノ森さん以外の歴代達が座っていた。

 

「ああ、君に伝えなきゃいけないことがある」

 

 初代、オールフォーワンの実弟である彼が口を開く。

 

「先日の脳無で理解した。兄が、オールフォーワンが再び表舞台で活動を始めたのだと」

 

「ゆえに俺達は備えなければならない」

 

 二代目、レジスタンスのリーダーにして始まりのヒーローが続ける。

 

「来たるべき決戦の時へ」

 

 三代目、発勁を放つ託された男は言う。

 

「そのため今のうちに出来ることをしようってんだあっ!!」

 

 四代目を飛ばして、五代目ことヒーローラリアット万縄大悟郎が吠える。

 

「オールマイト、八代目が出来なかった俺達の個性使用と鍛錬をね」

 

 オールフォーワンと戦い散った六代目煙は呟く。

 

「まあ君には不要かも知れない。けど手札が増えるくらいの感覚で体得しときな」

 

 七代目オールマイトの師匠にして平和の象徴の産みの親である志村菜奈は笑う。

 

「「「「「「「どうせアイツもエルフよりは怖くないから」」」」」」」

 

「貴方達どんだけ僕の記憶みたんです?」

 

 エルフさんに対して追体験でもしたのかってくらい怯えてますよね?

 

「あと、どうやらワンフォーオールを無個性以外には託せないみたいだから気をつけてね」

 

 オールマイト達が調べた情報にもあったな、四代目の死因からして間違いないだろうって。

 サー・ナイトアイなんかは推薦してたミリオ先輩のこともあってホッとしてたけど。

 となると、万が一を考えて、

 

「もし僕が敗北する事態になったらワンフォーオールは、十代目はおじさんに託しますね」

 

「「「「「「「それだけはやめてくださいお願いします」」」」」」」

 

 なんでも僕の何倍も異世界生活してるおじさんの記憶とか恐ろしいそうだ(あとおじさん独特の感性と価値観も)。

 

 こうして僕は歴代継承者の個性を使用できるようになった。今後も話し合い託された力を磨き上げていこうと思いました。あと皆さんのグランバハマルダメージは想像以上だった、でも気になるから見るのを止められないのがまた辛いそうです。さらに次来るときはメガドライブを持って来て欲しいと要望も出されました、強くイメージしたらいけるそうです。

 うん、なんだろこの空間。

 

 

 そんな衝撃的なことが起きて翌日。

 覚えている限りの情報(まあ忘れても記憶再生すれば良いのだけど)を文章に纏めてオールマイト、グラントリノ、サー・ナイトアイに提出した。根津校長や塚内さんにはオールマイトから伝えるそうだ。

 今後この個性六種の鍛錬をしないといけないからやることが多いね。なぜか歴代達から危機回避を最優先だと念押しされた事が気になるけど。

 学校では期末テストに備えるよう言われたけど、まだ勉強に力を入れてる人は少ない。時間あるからまだ範囲増えるだろうからね。

 ただ放課後の自主練というか、かっちゃんのストレス発散は全員ではないけど参加している。

 最近では轟君も熱心だ。

 

「緑谷、黒い炎を出すにはどうしたら良い」

 

 炎殺黒龍波でも体得したいのかな?

 君の個性は物理法則に則ってるから無理だと思うよ青や白はいけそうだけど。できるとしたら、

 

「炎色反応とか?」

 

「サポートアイテムか?!」

 

 いやそんなカッと稲光だしながら反応しなくても、天然かな?天然だったね。

 色はついても威力変わらないよ?

 

「うらあイズクゥ!!俺と戦えぇ!!」

 

 かっちゃんも必死だね。

 朝、女の人(あと人参)の匂いがするとか葉隠さんに言われてから必死だね。

 

「誰がわからせ系男子だコラァ!!」

 

 君は戦うのだね、守りたい何かのために。

 必死に自力を上げようとするかっちゃんと、自分の方向性を定めたい八百万さん、他にも苦手を埋めたかったり、攻撃方法、様々な向上について皆で話し合い議論しながら、僕は全員と組み手をして打ちのめした。複数人との戦闘は危機回避の訓練にもなるからね。  

 期末テストまでまだ二週間、まだまだ実力がのびそうだ。筆記は大丈夫かな?なんか不安な子達がちらほらいるけど。

 



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43話 期末テストまであと少し。

 

 時は流れ、6月最終週。

 期末テストまであと一週間を切っていた。 

 

「全く勉強してねー!!

 体育祭やら職場体験やら行事いっぱいで全く勉強してねー!!」

 

「あっはっはっは」

 

「確かに」

 

 うーん、あれだけ言われたけどやっぱりか。でも上鳴君は休日にナンパしに出かけてたよね?

 なんか皆に成績のクラス順位が表示されているけど、どうやら精霊の仕業らしい。遊び心かな?

 峰田君の順位の高さに芦戸さんと上鳴君がキャラじゃねえよとツッコむけど、峰田君無駄にハイスペックなんだよね。それを覗きやらセクハラに用いるからたち悪いけど。

 

「普通に授業受けてりゃ赤点はでねえだろ?」

 

「学年トップ狙ってねえのにわざわざ勉強する必要あるか?」

 

 轟君とかっちゃんは厳しいね。

 かっちゃんは1位目指しているから座学にも力を入れている。だから赤点にならないくらい出来て当たり前なんだよね。

 

「お二人とも座学なら、私お力添え出来るかもしれません。演習はまだまだ緑谷さんに学ぶべきことがありますが」

 

 八百万さんが何気に一番やる気あるからなあ。最近なぜか塩崎さんと麗日さんの目が怖いけど。

 

「お二人じゃないけどウチもいいかな?」

 

「わりィ俺も!」

 

「良いデストモ!!(わーい)」

 

 瀬呂君はギリギリで耳郎さんと尾白君は向上心あるなあ。しかし、

 

「八百万さんの、ああいう頼られて喜ぶトコとかカワイイよね」

 

「なんでこの状況で素でそういうこと言えんだ緑谷、命惜しくねえのか」

 

 君こそ僕の何気ない呟きになんで驚愕の表情なの峰田君、もの凄い何言ってんだコイツ顔だよ。

 なぜか八百万さんも耳が赤くなっているような。

 

 

 

 場所は変わって食堂。

 

「普通科目は授業範囲内からでまだなんとかなるけど、演習試験が内容不透明で怖いね」

 

「突飛なことはしないと思うがなぁ」

 

「普通科目はまだなんとかなるんやな」

 

「流石勇者様です」

 

 勇者関係ないよね?

 演習試験は相澤先生も一学期でやった総合的内容とぐらいしか教えてくれないからなあ。

 身体を動かすなら徹夜勉強とか避けて体力も万全にしとかないとね。

 

「久しぶりだね、緑谷君」

 

 試験について話しながら昼食(塩崎さん弁当)を食べていると、B組の物間君に話しかけられた。

 体育祭以降関わることなかったから確かに久しぶりだよね。

 

「うん久しぶり」

 

 というか彼は昼に何を食べているんだ。ステーキにワインだけ?パンかライス、あとサラダも食べなさい。

 

「少し、いいかな?」

 

 他の皆は警戒しだして、それを察したのか窺うように聞いてきた。

 

「別に良いけど、食堂だよ」

 

 注目されるけど良いのかな。

 

「いいんだ、僕の都合であまり君の時間を取らせたくないからね」

 

 それに注目には慣れたよと物間君は笑う。

 

「体育祭では悪かった、アレは明らかに言い過ぎだった。すぐに謝罪するには合わす顔も無かったし、きっちり反省したかったんだ」

 

 まだ気にしてたのかが僕の本音。

 だけどあれから一月少し、彼が自分を責めていたとは塩崎さん以外のB組の子達からも聞いてたからね。

 

「気にしてないから良いと言いたいけど、それでは君が前に進めないよね?

 許すよ君を。

 どうでも良いからじゃない、君が真剣に悩んで後悔していると分かったから、赦したいと思う」

 

 言葉にして伝えることも大事。

 多分これはそういうことなんだろう。

 

「ありがとう緑谷君」

 

 そう言う物間君の表情はさっきまでより晴れやかに見えた。

 また先日の記憶再生から僕の騎馬戦での発言がグランバハマルの影響だと気づいたクラスメート達は気の毒そうに物間君を見ていた。

 

「うん、きちんと謝れたみたいだね。よかった、いつまでもクラスでウジウジされて皆困ってたからね」

 

「拳藤」

 

「拳藤さん」

 

 はっきり言うなあ、良いことだけど。

 

「ま、これで蟠りなく付き合ってくれると嬉しいよ。おなじ雄英生だしね」

 

「塩崎さんが入り浸っとる時点で誰も気にしてへんよ」

 

 と麗日さんはジト目で塩崎さんを向き、塩崎さんはフフンと胸をはって頷いた。なぜ自慢げ?

 

「そういえばさっき、期末の演習試験不透明とか言ってたね?どうやら入試ん時みたいな対ロボットの演習らしいよ」

 

「それ個人試験だと僕が詰むのだけど」

 

「私も厳しーよー」

 

 物間君は他の人が居たら個性を借りれるけど、葉隠さんは大丈夫かな?入試だと救助ポイントがあったけど。

 

「ケロ、よく知ってるわね」

 

「私、先輩に知り合いいるからさ聞いた。少しズルだけど」

 

「それは羨ましいな、職場体験とか別のヒーローの話しも聞けそうだし」

 

「色んな事務所を知りたいよね」

 

 ズルと言うけど、チームアップを考えると人脈を作れる性格は誇るべき所だよ。

 

「最悪筆記でなんとか」

 

 と物間君が覚悟を決めた顔になるけど。

 

「いや物間はどっちみち一学期中は放課後補習と倫理指導だろ?」

 

「ビンタはもう嫌だー!!」

 

 ビンタ?

 そういえば顔に湿布つけてるし。

 ブラドキング先生って古いタイプの教師なのかな?

 そんな感じで物間君と拳藤さんも加えて食事の時間は過ぎていった。

 

「しかし緑谷君が大量破壊したのにロボットを使うかな?お金いくらあっても足りないだろうに」

 

 首を傾げながら悩む物間君の言葉に何やら嫌な予感がするのだった。

 

 

「んだよロボならラクチンだぜ!!」

 

 やったあと笑うA組ワーストペア。

 A組だと最下位だけど学年全体ならどれくらいなのかなこの二人?あ、精霊さん表示は結構です、うっすらと現れないで怖い順位。願いが通じたのかヤバい数字はそのまま消えていった。

 しかしラクチンねえ、そういった上を目指さない姿勢とか相澤先生嫌ってるけど大丈夫かな?

 

「あの緑谷さん、放課後の自主練の件なのですけど」

 

「うん、八百万さんの戦闘スタイルについてだったよね?」

 

 八百万さんの方向性。

 あらゆる武器を生み出して戦う戦士か。

 罠を生み出して相手を嵌める罠師か。

 遠距離武器、弓や銃などに絞った狙撃手か。

 前衛に必要な物を渡して指示する指揮官か。

 などいくつか考えられるからね。

 どれもある程度できるけど、だからこそ現場で悩んでしまうんだよね。それが一番やっちゃいけないことなのに。

 

「いっそ変身ヒーローみたいに今はこのモードと切り替えるとか?」

 

 コスチュームが変化しなくても、例えばカードとかで今の自分はこれだと決めるとか。

 行動を絞らないとなんでもできる八百万さんは混乱するしね。

 

「自分の切り替えですか」

 

「僕も色んな手札があるけど、結局使うのは一番見ていた光剣ばかりだしね」

 

 それが最適なのもあるけど、これが通じなかったり効きにくいなら別のにって決めてるんだよね。

 

「創造には正確なイメージが必要だからそのやり方は有効だと思いますわ!!」

 

 迷いが無ければ彼女はより強くなるからね。

 他にもアドバイスに乗っていると、

 

「なあ緑谷?」

 

「どうしたの轟君」

 

「メド○ーアが出来ない」

 

 君も最近毒されてるよね?

 

「アレは熱気と冷気じゃなくて、炎の魔法力と氷の魔法力でしょう」

 

 君の個性じゃ無理だって。

 

「緑谷よ」

 

「常闇君も?」

 

 今度は君かい。

 

「精霊魔法、闇の魔法が使いたい」

 

 おじさんなら精霊に頼めるけど僕には無理だから。

 

「どうにかできないか?」

 

「精霊に気に入られたら出来るらしいけど、どうすれば良いんだろ?」

 

 そういえばこないだ、おじさんと敬文さんが映画代をケチろうとして。

 

「女性に変身して鉄の自制心で胸を揉まなければ、精霊に気に入られるのか?」

 

「「「何言ってんだお前」」」

 

 いや事実なんだって。

 敬文さんそれで変身魔法を自由に使えるようになったから。

 

「そんなこと人類にできる訳ないだろぉ!!」

 

「峰田君の人類の定義って何なの?」 

 

 揉むか揉まないか?

 

「そうか残念だ」

 

 常闇君は一番魔法を使いたがっているからね。

 そもそもおじさんができるから、真似したら出来たのであって。僕のやり方も普通の魔法習得じゃないんだよね。属性とか血統とか必要らしいし。

 常闇君は黒影の制御以外に攻撃手段があればと思うよね。かといって魔剣は危ないし。

 

 試験まであと少し、それぞれの方針を決めながら僕達は最後の追い込みに入ったのだった。

 ちなみにかっちゃんは、切島君や障子君と砂藤君と飯田君とフルで戦ったり、塩崎さんの茨を回避する訓練をひたすら積んでいた。

 トップを目指しているのもあるだろうけど、すごく必死だよね。

 



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44話 期末テスト本番。

 
 主人公強化あり、不快な方は閲覧注意。



 

 そして期末テスト当日。

 日頃から勉強してたから筆記試験は問題無く終わった、学年トップかは分からないけど赤点は間違いなく無いだろうね。

 僕も参加した八百万さんの勉強会のおかげか心配だった芦戸さんと上鳴君もなんとかなった実感はあるみたいだ。

 そして演習試験。

 ズラリと並んだ先生方、雄英高校が誇るプロヒーロー達の姿に壮観だなと思っていると、相澤先生の説明が始まった。

 事前に情報を仕入れることはあらかじめ想定されているみたいだね。

 

「入試みてえなロボ無双だろ!!」

 

「花火!カレー!肝試しー!!」

 

 と既に終わった気分の二人の浮かれた姿にフラグみたいだなあと心配になってしまう。

 

「残念!!諸事情あって今回から内容を変更しちゃうのさ!」

 

 案の定かわいい顔した校長先生により絶望の一言は告げられた。

 先日の雄英高校襲撃に、保須でのヴィラン暴走事件、現状以上にヴィラン戦闘が悪化する恐れが教師の間で議論されていた。

 だからロボとの戦闘訓練以上のより実戦的な対人戦闘・活動を見据えることに方針を決めたそうだ。

 なので、演習試験は二人一組で教師であるプロヒーローと戦闘になったのだ。

 相性しだいじゃ厳しくないかな?

 ペアも対戦相手もあらかじめ決めてある。

 これは明らかに超えなければならない基準を設けられた、乗り超えなければならない壁だ。

 

「だけどね、生徒の中で二人だけ別ルールでやらせてもらうよ。上を行く者には更なる受難を、それが雄英の方針だからね」

 

 生徒の中で二人か、となると。

 

「爆豪、お前は」

 

「相手は、私がする」

 

 かっちゃんの相手はオールマイトか。

 怖じ気づくどころか、やる気満々で楽しそうに笑っているね。

 

「そして緑谷、お前は」

 

 やはり僕か。

 

「俺達が相手だ」

 

 イレイザーヘッド、プレゼント・マイク、ミッドナイト、13号、セメントス、スナイプ、パワーローダー、ブラドキング、エクトプラズム、ハウンドドッグ、計10名のプロヒーローとの戦いか。

 

「ちょ、それはあんまりにも」

 

「そうですよいくら緑谷が強くても」

 

「不公平過ぎです!!」

 

 いやかっちゃんの方も大概だから。

 流石に厳し過ぎだと皆が反発するけれど、

 

「本当ならビルボードチャートのトップヒーロー達を招集したいくらいだ。これは緑谷のためというより、現場から長らく離れている俺達の鍛え直しの意味もある」

 

 オールマイトみたく通勤途中にヒーロー活動は出来ませんしね。

 

「お前なら分かるな緑谷。これから先お前が立ち向かうモノはこんなもんじゃねえぞ」

 

 なるほど、オールフォーワンの復活は彼らにも知らされていてソレに備える意味もあるのか。先生方同士の連携のためにも必要な戦いだ。

 

「ええ理解しています。襲いかかる不条理を打ち砕いてこそヒーローですから」

 

 この演習試験、たとえ赤点でも構わない。

 全力でぶつかり、乗り越える。

 

「あ、けど炎凰殲滅とか魔炎竜に変身は無しね。先生方死ぬから。あくまでヒーローとしての戦いを忘れないように」

 

 と、校長先生にあらかじめ釘を刺された。

 精霊魔法は殺傷能力高くて困る。

 

 

 

 そして始まった演習試験、三十分間の制限時間内で超圧縮おもりをつけた先生方にハンドカフスをつけるか、どちらか片方がステージから脱出するかというルール。倒してハンドカフスをつけるのは現実的ではないから、脱出がメインになるかな?でもヴィランを逃さないヒーロー相手に逃亡を選ぶ方が悪手だ。

 勝ち方をどうするか二人の意思統一を素早く行い、その最善手に徹しきれるかどうか、それが一番重要だね。なにせこの試験、先生方がわざわざ立ち向かう必要もないのだから。

 とりあえず終わるまで待機か、リカバリーガールの出張保険室でリカバリーガール、ブラドキング、ハウンドドッグと皆を見ていよう。

 

「緑谷、お前の事情は雄英高校教師達は共有している」

 

 しばらくしてブラドキングが話しかけてきた。

 

「俺達プロヒーロー、いや大人は、子供である異世界生活で傷ついたお前にさらに重荷に背負わせている」

 

「安心おし、教師全員あんたの知り合いに記憶を調べてもらった。オールフォーワンの部下は教師にはいないよ」

 

 そっちまで伝えたのか。

 だからこそ今回の試験を。

 

「ガウガウバウ」

 

 すいませんハウンドドッグ、何を言っているかわかりません。

 

「だからこそ俺達教師陣もこれからに全力で備え、立ち向かう所存だ」

 

 これは全力でやらないとね、先生方も試験気分ではないようだ。

 

「遠慮はいらないよ存分におやり、次代の平和の象徴になるためにね」

 

「ハイッ!!」

 

 

 それから皆の試験結果だけど、

 イレイザーヘッド対轟君八百万さんのペアは、個性を打ち消す体術の練達者である相澤先生に、八百万さんの指示で冷静に切り抜けて勝利。

 エクトプラズム対常闇君と蛙吹さんペアは、地力の向上した常闇君と黒影のパワーを蛙吹さんが上手くサポートして勝利。

 プレゼント・マイク対口田君と耳郎さんペアは、大音量なヴォイスを耳郎さんが相殺してる間に口田君が虫を操って勝利。

 パワーローダー対尾白君と飯田君ペアは、パワーローダーの攻撃を飯田君が防ぎ尾白君が穴だらけなステージを突破して勝利。

 スナイプ対葉隠さん障子君ペアは、姿を隠し弾丸を放つスナイプを柱で弾丸を防ぎながら索敵し葉隠さんが捕えて勝利。

 13号対麗日さんと青山君ペアは、あと少しで脱出という所で捕まりそうになるも、麗日さんがあえて懐に飛び込んで組み伏せて勝利。咄嗟に個性を止めてしまう13号の反応に気づいたんだね。

 残るは4組、峰田君が男気を見せて突破したけど、砂藤君と切島君、芦戸さんと上鳴君は相性もあって厳しそうだ。

 かっちゃんに至っては、

 

『叩き潰すぞNO1コラァッ!!』

 

『やるねえ爆豪少年ッ!!』

 

 超圧縮おもりつけてるとはいえオールマイトと真正面から戦闘。活動限界を考えるとオールマイトはそろそろ引かざるを得ない、日頃からの体術訓練と才能は見事に結果をだしているね。

 

「そろそろか」

 

 プレゼント・マイクも叩き起こされたしいよいよ僕の番だ。

 

 

 

 十名のプロヒーローと仮免すら持たない学生の戦い。決して許されることのない埒外な試験。

 だがそれは緑谷出久が、オールマイトの後継即ちワンフォーオールの継承者であるならばやりすぎと言うほどではない。

 なにせ、彼が戦うべき宿敵は伝説のヴィラン、闇の帝王オールフォーワン。これだけのヒーロー達総掛かりであろうとも一蹴されかねない存在なのだから。

 ゆえに緑谷出久は勝てなければならない、その義務がワンフォーオールを託された時からあるのだ。

 スナイプのホーミングによる必中の銃撃から開始した試験、光剣にて銃弾を斬り落とすも足場そのものが揺らぎだす。セメントスによるコンクリートの操作、応用か柔らかく飲み込まれそうになるも宙へと逃げるがそこへプレゼント・マイクのヴォイスが叩き込まれた。全身をぶち抜ける音波と衝撃、さらに接近したブラドキングの操血による増強した筋力のヘビー級ブローが緑谷出久を吹き飛ばし道路向こうの建物へと叩きつける。

 

「ガハッ」

 

 腹部と背、両方からの痛みに息を吐くが追撃の手は緩まない。鉄爪の個性にて地中を掘り進むパワーローダーが足を掴み、そこへハウンドドッグ、イレイザーヘッド、ミッドナイトが襲いかかる。

 

「全く」

 

 ブチリと皮膚の削げる音がした。

 地中掘り進む握力による拘束を肉が削げることを躊躇わずに強引に突破し、詰みの一撃を回避する。

 

「流石プロヒーロー達だ。光剣とワンフォーオールの身体強化だけじゃ勝てないや」

 

 接近戦に長けたヒーロー達と相対し、エクトプラズムの分身達に囲まれながら緑谷出久は言う。

 

「けど丁度良い。託された個性を今ここでものにする」

 

 足の傷を神聖魔法で癒やしながら、光剣を握りしめ構えた。

 

「油断するなお前ら、数の有利があっても緑谷出久は強いぞ」

 

 イレイザーヘッドの引き締める言葉からさらに戦いは激化した。

 

 

 

 コンクリートが波のように揺らめく地面は浮遊の個性にて対処、単なる落下なら重心移動で体勢を立て直せる。銃撃とヴォイスは光剣で切り裂き、複数がかりの近接戦闘は危機回避による反応で捌く。どうやらイレイザーヘッドの抹消はワンフォーオールの内の一つだけしか消せないようだ。現状使わないセカンドの変速が発動できない。ならば制限にならず強化した身体能力で近接組を一人ずつ撃退。

 体術に長けた彼らでも、ミッドナイトの範囲攻撃のせいで距離をおいての連携しかできない。一斉攻撃も危機回避ならば躱すことができる。

 足止めであるエクトプラズムの分身を斬り払いながら手頃なコンクリート片を遠距離攻撃組に投げつけたら、それは13号がブラックホールで吸い込み無効化する。

 舞台、遠距離、近接、防御、と完璧な配置。

 ここにオールマイトが居たら負けていたね。

 

「煙幕」

 

 位置は把握した。

 

「機動纏身ー(レグスウィッド ザルドーナ)」

 

 視界を奪い高速で斬り伏せる。

 

「セメントス」

 

「エクトプラズム」

 

 二人のヒーローが目配せしあい、同時に個性を発動した。

 

「強制収容ジャイアントバイツ」

 

「コンクリートジャイアント」

 

 巨大分身とコンクリートの人型。

 巨人二体による同時攻撃。

 だが予想していたが故に対処できる。

 

「黒鞭からの発勁」

 

 溜めておいたパワーの放出。

 それは黒鞭で固定した巨人二体を消し飛ばすには充分だ。

 

「これで終わりだ」

 

 残ったスナイプ、プレゼント・マイク、13号を打ち倒し僕は勝利した。

 うん、しんどかったね。

 

 

 雄英高校一年期末テスト、終了。

 結果は後日の発表となる。

 





 強くしすぎたかな?
 でも半年間グランバハマル生き抜くにはこれぐらいできないと。転移ボーナスのおかげと思ってください。
 またヒーロー達が打ち倒すより、捕縛が主流になっているのも倒すありきの緑谷君に有利になったと考えてください。


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45話 ミッドナイトとおかえりとおじさん。


 少し時間が戻ります。
 ミッドナイトです。 
 独自設定、キャラ改変のため閲覧注意。 



 

「お疲れ様ー」

 

 コスチュームを脱いで雄英高校から出る。

 そうすれば私は十八禁ヒーロー ミッドナイトから香山睡に切り替わる。

 プライベートもお構いなしの煩わしいマスコミを撒くのもあしらうのもすっかり手慣れたもので、愛車に乗ってから自宅に着くまでの時間こそが真に自由な時間かも知れない。

 ヒーローという職。

 誰かを救いたい、助けたい、という思いと自分の個性と性格が向いているから成った職業は存外に制約が多く自由がない。趣味のゲームをプレイする時間の確保も大変だし、女としての幸せつまり恋愛なんて夢のまた夢だった。

 職場に男はいっぱいいるが、山田はありえないし、相澤はこ汚い、何よりあの二人は手のかかる後輩だ。恋愛対象になんてみることができない。他の教師陣にしても紳士か変わり者かヘタレか鼠。私の好みのタイプではない。

 そして一番重要なことであるセガに全員が興味がない。

 そんな相手と同じ時間を過ごすなんて考えただけで絶対に無理だった。

 年齢的にもそろそろマズイから、見合いの話しでも受けるかと悩んでいたところで、私は運命の人と出会った。私と同じコアなセガユーザーで私よりも強い男性。私の理想を体現したかのような人だ。

 その後の行動はまあ、勢いと衝動のまま。

 少しでも関わりを持ちたくて無理して引っ越しまでしてしまった。

 その運命の人である彼が、異世界おじさんというセガのプレイ動画を投稿していた人物であった事も大きい。動画を見つけてから会ってみたいと思っていた人物だったからだ。

 思考しているうちに着いたようだ。

 そういえば夕飯を買い忘れたけど冷蔵庫の中にはナニカあっただろうか。家事は得意で苦ではないが、今から作るのはいささか面倒臭い。

 そんなことを考えながらエレベーターの無いアパートの最上階である四階まで登り、ドアを開ける。

 

「ただいまー」

 

 どうせ答えてくれる人なんていないけどね。

 雄英高校に進学するため一人暮らしをはじめてからずっと、答える人のいない自室にただいまを言うのは虚しくて仕方ない。それでも言ってしまうのは、これも気分を切り替えるための行動なのか、それともありもしない返事を期待しているのか。

 

(って今、カギを開けたっけ?)

 

 流れるまま扉を開けてしまったけどカギを取り出して差し込んでいないような?

 

「おかえりなさい、睡さん」

 

 そんな自分の行動を思い返そうとしていたが、返ってきた言葉と彼の姿に思考そのものが胸から溢れる満足に似た多幸感に押し出されて吹き飛んだ。

 自分の理想の男性像の条件を満たしていたから惹かれていた彼。

 そんな人物がおかえりと言ってくれた。

 ずっと抱えていた一人の虚しさはそれだけで満たされてしまった。

 エプロンを着てお玉片手の姿をついガン見してしまう。

 漂う香りはカレー、しかもここ数年ご無沙汰でもう懐かしくすらある手作りカレーだった。

 ク~。

 その匂いに食欲が刺激されたのかお腹が鳴ってしまった。私は思わず恥ずかしくなって顔を俯けててしまう、こんなうぶな反応を人前でするなんて何年ぶりだか。

 私はエロくて格好良い十八禁ヒーローミッドナイトだというのに。

 クスッと、嘲りではなく微笑ましげに彼は笑い。

 

「敬文ー!夕飯は睡さんも一緒で平気ー?」

 

「大丈ー夫だよ。カレーは皆で食べたほうが美味しいしね」

 

 ああ敬文君にまで気を遣わせてしまった。

 

「というかおじさん作り過ぎだから、藤宮いるからといって」

 

「えー、だってルウの分量通り作ったら野菜余るじゃない」

 

「男二人暮らしでカレーを食べきるのがどれだけ大変だと思っているのさ」

 

 そんなやり取りを聞きながらも、色々と熱くなった顔は陽介さんのエプロン姿を記憶に焼き付けようと固定してしまう。

 

「ホラ、ミッドナイトじゃなくて睡さんも早く早く。私お腹ペコペコですって。今日はおじさん手造りカレーですよ」

 

 藤宮さんのその言葉にハッとして、私は慌てて着替えやらをするために自室へと向かった。

 

 

「サラダも無いんですか、これだから男所帯は」

 

「えー、カレーは野菜たっぷりじゃない」

 

「そうそう足りなければカレーに追加すれば良いわけだし」

 

「私が作ってくる?大した手間じゃないし」

 

「ファン発狂案件じゃないですかソレ。というか家事も万能なのかこの女ヒーロー」

 

「敬文ー、福神漬けは?」

 

「使い切れないから買ってない。カレーに小さじ一杯くらいしか使わないのに売ってるの分量多いし、他の料理だと食べないし使わないから」

 

「でもカレーにはやっぱり福神漬けだよ」

 

 ただの食事風景。

 懐かしい家庭の時間。

 メニューも男性手造りの具も不揃いなカレーライスが一つだけ。

 それでも私は、私の心は。

 誘われた高級レストランのフルコースよりもずっと満たされていた。

 

「そんな風に笑うんですね」

 

 こっそりと藤宮さんが聞いてくる。

 

「ミッドナイトの時とは違う柔らかくて優しい顔でしたよ」

 

 それだけ素を出せるくらいこの場所だと気が抜けていたのだろう。

 ミッドナイトでいる時は武装して戦場にいる時なのだから。

 こんな時間をずっと過ごしていたい。

 過酷なヒーロー業で忘れそうになる大切な日常を私は改めて見つけたのだった。

 

 なお食事の後に、陽介さんと並んでセガ○ターンをプレイした、まさに最高の時間。また肩が触れただけで気恥ずかしくなるなんて、どこの生娘なんだか。

 

 

 

「なんか思ってたより普通の人だよねミッドナイト」

 

「女なんてあんなモンだって。特に一人で強がっているような人は」

 

「そうなの?」

 

「ま、婚期に焦って形振り構わないのかと思ってたけど、この様子なら大丈夫みたい。というか初心過ぎて見てて恥ずかしい」

 

「最初はもっとグイグイ来てたのにね」

 

「気が緩んで素がでたんだよ」

 

 

 僕とおじさんの日常に十八禁ヒーローミッドナイトが加わった。てっきりエルフさんみたいな行動するかと思ってたら、存外彼女は初心でおじさんの前だと借りてきた猫だ。とはいえあれだけ露骨な好意を向けられても気づかないおじさんには心配になる。藤宮が茨ちゃんも誘って女子会開くかと呟いていたのが少し気になった。

 

 

 





 えっと、こんな感じで良いですか?


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46話 期末テスト結果。


 繋ぎ回です。




 

「見事な絶望顔だねえ」

 

 期末テスト翌日。

 先生方を纏めて撃退した僕を尊敬するクラスメート達と演習試験で目標達成ならずな四人組。

 

「セメントス相手は心底同情するがな。正直都市では相手したくねえよ」

 

 かっちゃんの言葉に僕は頷く。あのヒーローの相手はそもそもコンクリートを砕けるパワーないと何もできないからね、というかハンデの超圧縮おもりが意味をなしてなかった気が。

 

「爆豪もよく勝てたよな」

 

「ハンドカフスを付けただけだ、勝ちじゃねえ。オールマイトが途中から焦らなきゃ不意もうてんかったわ」

 

 オールマイトの超パワーを爆破と格闘技でいなしていたかっちゃん。活動限界(しかもまたヒーロー活動してギリギリだったみたい)もあって焦ったオールマイトの弱目な威力のパンチを見極め、その一撃をあえて受け止めてハンドカフスをはめたんだ。かっちゃんは納得してないけど。

 

「皆、土産話っひぐ、楽しみに、ううしてるっがら!」

 

 明るくてイベント好きな芦戸さんにはより辛いよね。

 

「試験で赤点取ったら林間合宿に行けずに補習地獄!そして俺らは実技試験クリアならず!これでまだわからんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!キエエエ!!」

 

 皆のフォローに逆ギレな上鳴君。

 八つ当たりはやめてください。

 君は舐めてかかった自業自得感あるから。

 瀬呂君がそんな彼らをフォローするけど、彼も危ういからね。

 明らかに成長してるクラスメートに比べて一段劣って見えたのは事実だし。

 

「予鈴が鳴ったら席につけ」

 

 そんな中、カァンと現れる相澤先生。

 

「おはよう今回の期末テストだが残念ながら赤点が出た、したがって。

 林間合宿は全員行きます」

 

「「「「どんでんがえしだあ!」」」」

 

 まあ補習地獄担当で先生割り振るのも大変だろうしね。一年以外だって、二年は学校で仮免資格取得のための集中講義で、三年はインターンと仮免試験再受験者は二年と講義。さらに普通科は部活動の大会、サポート科は文化祭での発表のため学校研究する人もいるらしい、経営科も希望者は簿記などの資格試験勉強とか。ましてやヴィラン襲撃されたからプロヒーローである先生方をバラけて配置はできないだろうし。

 

「筆記はゼロ、実技で切島、上鳴、芦戸、砂藤、あと瀬呂が赤点だ」

 

「行っていいんスか俺らあ!!」

 

「確かにクリアしたら合格とは言ってなかったもんな、恥ずい」

 

 いやでも最初に瀬呂君が峰田君を逃したからなんとかなったんだけど、そこまで評価されなかったのかな?

 

「今回の試験我々敵側は、緑谷と爆豪を除いて生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るように動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」

 

 セメントスに対してはとにかく殴る以外のアプローチが必要だったのか。確かに二人とも殴って捕えるとか言って突っ込んでいったしね。

 校長先生には勝ち目ないような?でも二人は何をすればいいのかの判断も出来ないというやらかしをしでかしてたからね。

 

「本気で叩き潰すと仰っていたのは?」

 

「緑谷はな、爆豪も加減はされてたろ?

 他の連中は追い込む為さ、そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取ったヤツらこそここで力をつけてもらわなきゃならん。ま、合理的虚偽ってやつ」

 

「「「「ゴーリテキキョギィー!!」」」」

 

 いや相澤先生なら期末テストで本当に駄目判定されてたら除籍だったのではないかと。

 途中で真面目な飯田君が水を差したりしたけど、相澤先生は全て嘘ってわけではないと告げる。

 

「赤点は赤点だ。お前らはB組の物間と共に合宿中に別途補習時間を設けている。ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツいからな。

 あと上鳴と芦戸、テスト前に随分と余裕な態度で浮かれていたが今後もその姿勢だったら、タブチ先生に指導して貰うから覚悟しておけ」

 

 タブチ先生?

 もしやあの最強生物が雄英高校にいるのだろうか?おじさんの中学生の頃担任だったらしいからもう定年されていると思うけど。

 

 

「まぁ何はともあれ全員で行けてよかったね」

 

「中学三年のイベントは異世界転移で行けなかったから楽しみだよ」

 

 当時のクラスメートと一緒では楽しめたか微妙だけどね。仲の良い人居なかったし。

 

「クソ重たいの唐突にぶち込まないで?」

 

「一週間の強化合宿か!」

 

「けっこうな大荷物になるね」

 

「いや緑谷は手ぶらで大丈夫じゃん」

 

 収納できるからね。

 

「醤油とカレールウ粉末は常備してるよ」

 

「どんだけ恋しかったんだその味」

 

「暗視ゴーグル」

 

「水着とか持ってねーや、色々買わねえとな」

 

 上鳴君は水辺で個性暴走したら大惨事だから今まで避けてたのかな?

 

「あ、じゃあさ!明日休みだしテスト明けだし、ってことでA組みんなで買い物行こうよ!」

 

 葉隠さんの提案に場が盛り上がる。

 うん、楽しそうだ。中学時代はヒーローグッズ集めばかりで同世代の誰かと買い物なんてしたこと無かったし。

 

「おお良い、何気にそういうの初じゃね?」

 

「おい爆豪、お前も来いよ!」

 

「キャンプ用品は大概持ってるから買うもんねえよ。あと兎女がついて来そうだから嫌だ」

 

 かっちゃん登山が趣味だからなあ。好きな理由が人としてアレだけど。そしてミルコとは会ってみたいなあ。

 

「轟君もいかない?」

 

 せっかくなんだし、どうだろう?

 

「休日は見舞いだ」

 

「ノリが悪いよ空気読めやKY男共ォ!!あと爆豪は呪われろお!!」

 

 そんな感じで明日の予定は決まった。

 楽しみだなあ。

 





 流石に芦戸さんと上鳴君のテスト前の姿勢には注意入るかなと、次回もやったらビンタです。
 雄英高校って多分、他の学年やら他科もやることだらけですよね。
 一時期流行ったKYって言葉もなんか懐かしい感じがしました。


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47話  死柄木弔は愉快に笑う。

 
 原作改変あり、閲覧注意。



 

「クハハハ」

 

 裏路地にある看板すら出さぬバー。

 そこに在ると知らなければ誰も立ち寄らないそんな場所に一人の青年がいた。

 彼の名は死柄木弔。

 世界を牛耳った闇の帝王が見出し育てた、とある計画の最重要存在。 

 世界のためにその命散らしたとあるヒーローの切ない願いの悲しき結末。 

 自身を救わなかった世界を、平和の象徴オールマイトを心の底より嫌悪し、台無しにしてやりたいと誓う破綻者。

 計画、戦力、切り札、内通者、の揃った万全の計画である雄英高校襲撃にしてオールマイト抹殺計画が失敗に終わって以来、不機嫌な日々を過ごしていた彼は現在上機嫌で笑っていた。

 先日勧誘し、その際自身を傷付け御高説たれた悪党の先輩であるヒーロー殺しステイン。その本当は逮捕されたのに行方不明扱いな末路が腹の底から愉快な気持ちをこみ上げさせてとまらない。さらに保須に嫌がらせ目的でばら撒いた脳無の活躍もある。雄英高校襲撃時の対オールマイト用の特別製ではないにも関わらずその性能は破格。最強火力を誇るNO2ヒーローエンデヴァーと闇の帝王と交戦経験すらある伝説級古豪のグラントリノの二人が対処するまでは、たった三体でヒーロー集団を造作もなく撃退していたのだ。

 アレが作り物でいくらでも増やせるという事実、ヒーローと同数用意できればこちらの勝利は確定だ。テレビや新聞メディアで流れる被害状況という活躍ぶりが彼の罅割れた心を満たすのであった。

 

「それで、さっき大物ブローカーに紹介されたヤツはなんだったか」

 

「渡我被身子ですね。連続失血死事件の容疑者にして女子高生、ウチに入りたい理由はお友達が欲しいからだとか」

 

 死柄木弔がバーテンダーのように控えるモヤ顔の存在に尋ねれば、即座に返事が返ってきた。

 

「意味がわからん。お友達ならネットで募集すれば良いだろうに」

 

「雄英高校襲撃が魅力的なんでしょうね、襲撃の時にヒーロー科の子達と友達になるつもりなんでしょう」

 

「可哀想にな雄英生、だがコイツの個性は有用だ。生きやすい世の中になってほしいのは俺も同感だしな」

 

 餓鬼は大嫌いだ、特に頭のおかしい餓鬼は。だが組織拡大は必須だし今は気分が良いから受け入れてやろうと死柄木弔は思うのであった。

 

「他には殺人犯であるマグネ、快楽殺人のマスキュラー、脱獄死刑囚のムーンフィッシュ、強盗犯のトゥワイスと怪盗のコンプレス、あとはガス使いのマスタードですね」

 

「宣伝効果は抜群だな。雄英高校襲撃のチンピラとは違う選りすぐり共だ」

 

「彼らと脳無による林間合宿襲撃。用心のため今までの合宿場所は使われないようですが内通者のおかげで筒抜けですね」

 

「雄英高校の敷地内ですらお前はゲートを開けるんだ、御用達の合宿所なんか使用できねえよ」

 

 転移個性は基本的に使用者の知らない場所には使用できない。ゆえに合宿所はヴィランが訪れない場所、即ちヒーローの私有地は最適解である。だがそれもあらかじめ場所を知っていれば話は別、行動や活躍が広く拡散されるヒーローの不在時を狙い事前に下準備するなど容易いことだった。

 

「ま、林間合宿を襲撃しただけで雄英高校の信頼は失墜するからこちらの勝ち。おまけに犠牲者を出せばそれで大勝利だ」

 

「確か先生からはラグドールのサーチが欲しいと言われてますね」

 

「ソレと生徒も適当なのを拉致るか。というかUSJの勇者気取りはいらねえのか、魔王が勇者の力を振るうとか良い感じだろ?」

 

 USJ襲撃時での活躍はムカつくものがあるが、それがきっかけで闇の帝王に目をつけられたなら溜飲も下がるというものだ。興味はあった筈だがどうしたのかと死柄木弔は疑問に思った。

 

「ソチラはやめておくそうですよ」

 

「なんでだ?便利な個性だろ」

 

 すると黒霧は、件の勇者個性を持つ学生緑谷出久の情報をまとめた調査結果を死柄木弔に差し出す。

 

「へー、無個性だったヒーロー志望のいじめられっ子か愉快な人生歩んでいたんだな」

 

 その愉快は当人ではなく見ている側の感想であるが、人の不幸は蜜の味を地で行くヴィランならば当然の感想である。愉しげに緑谷出久の来歴を読んでいると、中学三年になってからの例の日の辺りで目が止まった。

 

「この日のコイツ、運勢最悪だろ」

 

 登校前に巨大ヴィランを目撃、進路の件でクラス内での苛めで机の上爆破。ヘドロヴィランとの遭遇、幼馴染を助けようとして失敗、ヒーローから説教、子供を助けてトラックに轢かれて意識不明の重体。所々抜けてはいるがイベント盛りだくさんな一日だ。

 

「ええ、さらに苛めは当たり前に行われており実家以外に居場所は無かったとか」

 

「悲惨だなあ無個性は。つーか先生のいつもの悪趣味じゃねえのかコレ?」

 

 ヴィランにとって無個性に差別意識はない、単にやりやすい獲物というだけだ。

 だが闇の帝王なら特に意味も無く遊びで他者の不幸を演出したりするだろう。そんな性格だと彼は認識されていた。

 

「個性のストックに余裕ないのでいくら先生でもそこまでしませんよ、手駒は足りてますしね」

 

 件の内通者がまさにそれである。

 

「それで半年後に起きたら個性が生えてたんだろ?発現条件が珍しかっただけじゃねえか」

 

 収奪しない理由にはなると思えないのが正直な感想であった。

 

「先生のお言葉ですが、こんな境遇でヒーローを目指すなんてありえないそうです。力を得たならまずは報復するものだろうと。ましてや世間に苛めが発覚して公的に復讐が可能でしたしね」

 

「トラック運ちゃんの悪足掻きだっけか、あったなそんなこと」

 

 差別問題撲滅まで及んだ騒動。緑谷出久がクラスメートに報復したとしても大衆は当然の権利だと咎めることはないだろう。

 

「そうしなかった理由が勇者という個性になるのだと推測しているのです」

 

「勇者という個性が人格に影響与えている、ってことか?」

 

「ええ、でなくば得た力で報復しないわけがないですからね。恐らく緑谷出久は勇者らしい性格に個性発現後に個性によって元の性格を塗りつぶされたのでしょう」

 

 個性が本人の人格に影響を与えることは証明されている。それこそ趣味や嗜好は個性に関連することばかりになるのが普通だ。

 

「奪ってそうなったら終わりだし、与えても敵が増えるだけ。いらねえな確かに」

 

 無論その推測は彼らの完全な誤解であるが、起こり得る致命的な被害予測にオールフォーワンは勇者という個性を標的から外したのだ。

 

「まあいいさ、異世界帰りとか名乗ったイカレ野郎もお友達に被害がでたら悔しがるだろうしな」

 

 林間合宿イベントの肝試し、そこにマスタードの毒ガスと精鋭ヴィランに脳無。

 とても愉快なことになるだろう。

 

「ああ愉しみだなあ」

 

 死柄木弔は遠足前のようなウキウキ気分を存分に味わっていた。

 これは学生達がショッピングモールにて年相応の楽しい一時を過ごしていた日の出来事である。

 

 





 木椰区ショッピングモールではA組の子達は楽しい時間を過ごしました。
 弔君はステインに話題を独占されないので愉快に引き篭もりです。
 ヴィラン連合未加入者達は追々触れます。


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48話 二人の英雄 前日譚


 独自設定ありです。



 

「うーん」

 

「どうした緑谷、悩み事か?」

 

 期末テスト終了後の夏休み開始までの緩やかな学校生活。悩む僕に尾白君が何事かと尋ねてきた。

 悩み事の内容は夏休みの予定。

 夏休み中に一週間の林間合宿はあるものの長期休暇であることに変わりはない。学校の施設を借りて自主練なども可能だが、あの生真面目な飯田君ですら兄とバーベキューだと楽しそうに予定を話していたくらいだ。

 今までの中学二年生の頃までの僕なら、夏休みの宿題を早々に終わらせて夏休み中にいかに効率良くヒーローイベントを巡るか予算を含めて計画を立てていただろうが、今年はどうしたものか。

 去年の今頃はまだグランバハマルだったから確かおじさんと海で海竜の群れからバタフライ(おじさんは犬かき)で逃げていたりしたんだっけ?孤島の遺跡に渡ろうとして船を壊されたんだよね。

 

「フフフ」

 

「またトラウマか?大丈夫かよ本当に」

 

 おっと辛い記憶を思い出してしまったよ。とりあえず海水浴は無しだね。

 

「予定でちょっとね。体育祭優勝特典のI・エキスポ参加について」

 

「流石の緑谷も誰を誘うか悩むか」

 

 ウンウンとようやく理解したかといった感じで尾白君が頷くけど、

 

「? いや誰に譲ろうかと」

 

「なんでだよっ!!塩崎と行かないのかっ!!麗日誘わないのかっ!!八百万でも大丈夫だろっ!!」

 

「何を言ってんの君?」

 

 まあ誰かと行く選択肢もあったけど何で彼女達なんだろ?

 

「本気で言ってる緑谷が怖い」

 

 なんか慄かれているし。

 

「オールマイトから元サイドキックで友人であるデヴィットシールド博士を紹介したいと言われてね。せっかくだからI・エキスポの時期に行くことにしたんだよ」

 

 土日で行ける場所じゃないから夏休みまで待ってたんだよね。トップヒーローであるオールマイトの出国許可が許されないのもあったみたい。特に元サイドキックの頼みでアメリカに移られるのではと心配というか警戒されていたようだ。

 

「オールマイトから直々とは凄いな。まあ意外と距離感近いというかポンコツ臭する人だよな」

 

 見抜かれてますよオールマイト。

 カンペがやっぱり駄目だったんだな。

 

「デヴィット博士の娘さん、オールマイトにとっても姪みたいな娘が無個性だからってのもあるみたいでね。是非とも話がしたいそうなんだ」

 

 当然それだけが理由じゃない。

 オールフォーワンの生存と暗躍が確認された以上、巻き込まないようにとワンフォーオールについて秘密にしていたデヴィット博士達にも累が及ぶ可能性が高い。

 僕を後継に定め、引退を視野に入れつつある今だからこそきちんと打ち明けておきたいのだそうだ。

 まあ元サイドキックのサー・ナイトアイには教えたのに、アメリカ時代の相棒には伝えてないとバレたらものすごくブチ切れるだろうと怯えていたのもあるだろうけどね。

 

「それであのトラウマ映像見せるのか?やめといた方が良いと思うが」

 

 不謹慎に面白いと思ってしまうが、それでも辛い映像というのが尾白君の本音。

 

「個人的には異世界の物品の解析とかして欲しいと思っているけど」 

 

 異世界の道具もいくつか持っているんだ、殺傷能力高いから使わないだけで。

 

「どんなのがあるんだ?」

 

「1日7回定刻で色が変わる七色珊瑚を埋め込んだ時計みたいなのとか」

 

 あと魔鎧獣モータルアゴニーも持っているけどこれは見せたらヤバいよね。鎧の形した罠魔獣で開放したら凄まじい力を発揮するけど回復し続けないと三分くらいで死ぬし。

 

「そういったのはワクワクするよな、不謹慎だけど」

 

 話すたびにシリアスに捉えられても困るけどね。

 

「まあ話がそれたけど、それでチケットが余るから誰かに譲りたいんだ。けど体育祭の特典だから一般の人には渡せなくてね。クラスの誰かにしたいけどどうしたものかなと」

 

「麗日達じゃないなら、順位的に爆豪か?」

 

「それもそっか、おーいかっちゃん!!」

 

 幽遊白書を読んでたかっちゃんに声をかけて事情を話せば、

 

「俺はいらねえ、チケットならミルコから貰ったしな」

 

 そっかヒーロービルボードチャート上位ランカーにも贈られるんだっけ?となるとかっちゃんはあの美人ヒーローと二人でI・アイランド宿泊か。

 

「随分と遠い所に行ってしまったんだね、我が幼馴染は」

 

 男として完全敗北した気分だよ。

 

「異世界行ったヤツが言うと笑えねえからな。あとミルコは行けねえよ。オールマイトが抜けた状態で日本からトップヒーローの出国は許されねえ」

 

 そういえばそんな規制があったね。

 余程の事態じゃないと国防力(ヒーロー)の流出は認められないんだ。

 トップヒーローが外国に行く場合はその人の評価によって変わるけど、何があっても対応できる戦力は確保されるんだよね。

 トップヒーロー間のプライベートな付き合いがあまり無いのってこれのせいなんじゃ?ベストジーニストとエッジショットが親しいのは雄英高校の先輩後輩だかららしいし。

 

「轟や飯田も身内からチケット貰えるみたいだし、行きたいヤツは高いが自費でなんとかできるだろ」

 

 となると八百万さんもスポンサー枠で行けるかも?なら先生方に相談してこのチケットを誰に譲るか決めた方が良いか。

 ヒーロー飽和社会の最先端技術の集まるI・アイランド。できれば皆で見て回りたいよね。

 

 



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49話 二人の英雄 1


 


 

「ここがI・アイランドですか」

 

 研究者達の楽園。

 海上漂う人工島。

 科学者達がその研究と技術の研鑽を存分に打ち込むために作られた、研究者達のための都市。

 日々更新される警備システム警備ロボットに守られる海上の要塞。

 その鉄壁さは、暮らしやすいタルタロスと謳われる程である。

 飛行機と船以外に入る手段の無いその場所に僕はオールマイトと共に訪れていた。

 I・アイランドの一大イベントであるI・エキスポに参加するため、そしてオールマイトのアメリカ時代のサイドキックにして研究者として名高いデヴィット・シールド博士に会うために。

 オールマイトと共にヴィラン犯罪大国であるアメリカに光を照らした彼だが、その本分はサポートアイテム技師。オールマイトのコスチュームを設計し、数多のサポートアイテムを開発した。その発明に用いられた技術による数え切れないほどの特許を得ていた。その功績はノーベル個性賞を受賞する程だ。

 そんな現代の偉人である彼と会う。

 オールマイトが自身の秘密を打ち明け、僕という後継者を紹介するために。

 

「いやーデイブに会うのは久しぶりだから楽しみだよ」

 

 一大イベントを前にして人に溢れる空港を抜けて、オールマイトは呑気にそんな事を言っていた。

 ちなみに今の格好はヒーローコスチューム。異世界でのおじさんの服を緑に染めて、マフラーはグラントリノと同じ黄色だ。フルフェイスのヘルメットは邪魔だから空間魔法で収納している。

 

「じゃあちょっと離れますね」

 

「えっ?」

 

 周囲の、一般人なのにI・エキスポに訪れるほどにヒーローファンな人達にオールマイトが気づかれた。そうなればこれから起こることは明白なため僕はオールマイトを置いてその場から飛び退いた。

 取り囲もうとする集団から逃げるのは異世界生活で慣れているのだから。

 

「いやー、えらい目にあったよ」

 

 有名人だからこそやらざるをえないファンサービス。取り囲まれ抱きつかれ話しかけられサインを強請られほおにキスまでされている。日本でもよく見る光景だがキスマークをつける程の接触はI・アイランドが使用言語は日本語だが価値観はアメリカだからなのかも知れない。その手の接触は個性の発動条件ではないかと内心警戒もしていたが、どうやらその心配は無さそうだ。

 

「流石はオールマイトですね」

 

 他にも有名ヒーローは居たのだがオールマイトが一番騒がれていた、そのトップヒーロー自身もオールマイトに駆け寄っていたくらいだ。功績もそうだが、ヒーローとしての圧倒的キャリアにより彼を見てヒーローを志しトップヒーローになった者も少なくないのだから。

 落ち着いた川辺、約束した人物との待ち合わせの場所で僕はオールマイトと共に一息ついていた。

 

「なーにヒーローとしての嗜みだよ」

 

 フキフキとキスマークを拭いながら言う。

 ヒーローによってファンの反応は異なるが、オールマイトは親しみやすいタイプのおおらかなヒーロー。エンデヴァーではこうはならないだろう。

 

「それで約束の相手とは?」

 

「メリッサ・シールド。君より一個上の歳で、我が友デヴィット・シールドの一人娘にしてI・アイランドで研究室を構えている才女だよ。私にとっても姪っ子みたいな存在かな」

 

「とんでもない人ですね」

 

 この海上都市は研究者達の街。

 彼らの家族も住んでいるから全員が才人というわけではないが、その歳で研究室をもてるとは尋常ではない。

 

「父のようなサポートアイテム技師になると頑張っている娘だよ。うん緑谷少年も作ってもらったら良い」

 

「サポートアイテ厶ですか」

 

 サポートアイテムの用途は様々だ。

 出力増大、反動の軽減、攻撃手段や手数の増加、身を守る防具。例外を除き一つきりの個性しかないヒーローにおいて戦術、活動の幅を広げることのできる物だが。

 

「必要ですかね?僕に」

 

 死ななければなんとかなる、怪我しても治せば良いのだから。

 

「そういった所をなんとかして欲しいのだけどね、いや私が言うなって話しだけどさ」

 

 内臓を摘出してなお現役やってますからねオールマイトは。実はサー・ナイトアイからオールマイトの治療のためにもデヴィット博士との繋ぎはとってくれと秘密裏に頼まれている。オールマイトの再生治療には、彼の協力もあれば万全だろうとサー・ナイトアイは言っていたからだ。

 

(内臓を古傷ごと吹き飛ばして神聖魔法で再創造するだけだから大丈夫だろう)

 

 もの凄く痛いけどそれだけだ。

 

「なんか寒気するけど、どうしたんだろ?」

 

 嫌な予感にオールマイトが身を震わせていると、ピョーンピョーンと軽妙な音が近づいてきた。

 

「魔獣かな?」

 

「とりあえず光剣だすの止めて緑谷少年」

 

 初手必殺な魔獣もいたから違和感には過剰に反応してしまうのです。

 音のした方向にはホッピングを巧みに操り乗りこなす金髪の少女がいた。

 

「おじさまー!」

 

 なるほど彼女が。オールマイトにとって姪っ子のような存在らしいけど、彼女にとってもオールマイトは叔父のような存在なのだろう。

 胸に飛び込みハグというアメリカンなコミュニケーションに文化の差を感じる。中世ヨーロッパみたいなグランバハマルもそんな感じだったけど、僕に向けられたのは武器か網か鎖か薬だったなあ。

 久しぶりの再会に成長を喜ぶ二人を見ながら、グランバハマルを思い出して鬱な気分へとなる。

 

「ああ、緑谷少年。彼女がさっき言った、ってまた目が死んでいるよ少年?!」

 

「いつものことなのでお気になさらず」

 

「気になるよっ?!」

 

「メリッサ・シールドですはじめまして」

 

「はじめまして、雄英高校ヒーロー科一年、緑谷出久といいます」

 

 にこりと人懐っこい笑みを浮かべて手を差し出す彼女に僕も笑顔で返した。

 

「君があの、」

 

 僕の名前に思い当たるものがあるのか、口に手を当ててメリッサさんは驚いていた。

 どんだけ広まってんだあの事件、いや体育祭の方かな?やはりゴールデンアッ○スの下突きは有名だったか。

 

「さあ、そろそろ行こうじゃないか」

 

 僕を見て固まる彼女を促すようにオールマイトは声をかけた。

 

「ファンなんです、サイン下さい!!」

 

 硬直からとけた彼女は、どこからか取り出した色紙とペンを突き出してそう叫ぶのだった。

 

 どうやら彼女は、体育祭での活躍から僕に興味を持ち色々と調べたとか。それでヘドロヴィランの件やら無個性のことまで熟知してるそうだ。

 さらにオールマイトも僕について彼女に熱く語ったらしく、一度会って見たかったとのこと。

 初見ではまさかと思い、名前を聞いて反応してしまったそうだ。

 突き刺さるような彼女の熱い視線にさらされながら博士の研究室へと向かった。

 

「姪っ子を取られた気分だよ」

 

 その後ろでオールマイトが寂しさを滲ませながら呟いていたそうな。

 

 

 



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50話 二人の英雄2

 

 僕のファンだというメリッサさんに腕を引かれながら目的地であるデヴィット博士の研究室へと向かう。

 その反対の手には宝物のように僕の拙いサインの書かれた色紙が握られていた。

 ゴールデンアッ○スのファンではなく、ヒーローを目指す僕のファンだと言う彼女。

 オールマイトから聞いたヘドロヴィランの時の行動と体育祭での活躍からファンになったのだとか。

 移動中に、でっち上げである勇者という個性は他に何ができるのかとキラキラした眼差しで尋ねてきたりしたのでボロが出ないよう適当に誤魔化す必要があった。

 そして到着した研究室。

 どこか憂いのある表情で携帯を眺めるデヴィット博士の姿、そんな彼を驚かせるようにオールマイトを招待したのだとメリッサさんは告げた。

 前々から話しはしたがっていたようだが今日招かれたのはデヴィット博士の研究が一段落したお祝いだったようだ。

 友人との再会にテンション高く接するオールマイト。エンデヴァーなどの同郷のヒーローとはどこか壁というか距離があることを気にして寂しそうにしていたから余計に嬉しいのだろう(エンデヴァーは敵愾心、他のヒーローは基本的に偉人扱いのため、例外として相澤先生は自分を棚に上げてダメ人間扱いしている)。

 

「緑谷少年、紹介しよう。私の親友、デヴィット・シールドだ」

 

「はじめまして緑谷出久です。オールマイトを支えた稀代の発明家にお会いできて光栄です」

 

 オールマイトのファンとして基本的な知識は身につけている。平和の象徴と謳われる以前、若きオールマイトの活躍に彼のサポートは欠かせないものだった。

 

「紹介の必要はないようだね」

 

 好意的に笑ってくれる彼は流石オールマイトの相棒なのだろう。

 

「コホ、コホ」  

 

 些かわざとらしいオールマイトの咳。回復の呪符により根本的ではなくとも負担は軽減されているが、デヴィット博士と内密な話しをするための人払いの意図があるのだろう。

 

「オールマイトとは久しぶりの再会だ。すまないが積もる話をさせてくれないか」

 

 回復の呪符の存在を知らなくとも流石は元相棒なのかデヴィット博士はオールマイトの意図を正確に察したようだ。

 

「メリッサ、ミドリヤ君にI・エキスポを案内してあげなさい。憧れの彼とデートできる機会だしね」

 

「もうパパったら」

 

 うん、アメリカン(偏見)なやり取りだね。

 

「サム、君ももう休んでくれ」

 

 人払いが済んだ後に彼らは話すのだろう、オールマイトの秘密とこれからの事を。できれば僕も同席したかったが親友同士だけの方が伝えやすいか。

 ふとサー・ナイトアイがこの場にいたらどんな反応するか気になった。自分こそがオールマイトの相棒であるといって憚らない彼はかつての相棒と接するオールマイトを見てどんな風になるのかを。

 軽く想像してみたら大○越前裁きのようにオッサン二人に両手を引っ張られて泣き叫ぶオールマイトの姿が目に浮かんだ。うん、修羅場だ。

 脳内でオールマイトが真っ二つになったところで、エキスポ会場に辿り着いた。

 とても人工の島とは思えない光景。

 おじさんとグランバハマルで巨大亀の甲羅を冒険したことを思い出す。

 

「凄いね」

 

 自然に出来たものは凄い、けど自ら作り上げる技術と熱意もそれに劣らないくらい凄い。

 

「大都市にある施設はひととおり揃ってるわ。できないのは旅行くらいね」

 

 情報漏洩を防ぐため家族ごと囲い込む。莫大な利益と危険を生む最新技術とそれを生み出す科学者の身を守るためにはこれ程の対応が必要なのだろう。ましてや優れたサポートアイテムは凡百の個性を超える攻撃力があるのだから。

 周囲を見渡せば普段お目にかかれない各国のヒーロー達がいる。中には熱心にファンサービスをする人物もいるほどだ。

 

「最新アイテムの実演会とか、サイン会、いろいろ催しがあるみたい」

 

「ヒーロー科学生は一度は参加すべきと言われるだけあるね。体育祭優勝者にチケットが贈られるわけだよ」

 

 ヒーロー社会の最先端に触れる良い機会なのは間違いないからだろう。

 ちなみに僕の招待チケットは巡り巡って体育祭ベスト8に残った塩崎さんに渡り、仲の良い麗日さんとともに来るそうだ。A組の皆もそれぞれの手段で参加するのだとか。なおB組の生徒達は体育祭上位がほぼA組に占められたため林間合宿とは別にブラドキングによる特別訓練をしているらしい。

 

「あ、イズク。あそこのパビリオンもおすすめよ」

 

 当たり前のように腕を絡ませ、いつの間にか名前呼び。これが外国の人との文化の差か。

 ガラス張りのサッカーのスタジアムのようなパビリオンに入ると、広い建物内にさまざまなヒーローアイテムが展示されている。

 

「最新のヒーローアイテムがこんなに」

 

「イズク見て見て!この多目的ゴーグル、飛行能力はもとより、水中行動も可能なの!」

 

 高速移動が基本な僕にとってゴーグルは必須アイテム。ヘルメットに同様な機能がついてはいるが勉強になるな。

 流石はI・アイランドのアカデミーに通う才女。自分の父であるデヴィット博士の特許が元で作られているからという理由もあるだろうが、わかりやすく詳しく解説してくれる。

 

「本当に技術を生み出す人は凄い。目の前の敵を斬り伏せることしかできない僕と違って、生み出した物で世界中の人々を助けられる」

 

 役割が違うのは理解できる。

 だが、こうも輝かしい成果を見てしまうと自らの小ささを思い知らされてしまうものだ。

 

「確かにそうかも知れないけど、それだって立ち向かってくれるヒーローがいてくれるからこそだよ」

 

 歩む道は違うが自分の夢にまっすぐ進んでいることに変わりない、だからこそお互いを尊重しあえるのだろう。

 

「楽しそうやね、イズク君」

 

「ええ普段とは違う勇者様です」

 

 そんな風に話していると横から聞き慣れた声がした。

 そこにいたのは麗日さんと塩崎さんだった。

 なぜか麗日さんは笑顔でありつつもどこか平坦な様子で、塩崎さんは彫像のような無表情だった。

 

「楽しそうやね」

 

「ええ私と話す時より会話が弾んでいました」

 

 なんだろう、この気まずさ。別に何も悪いことをしていない筈なのに、今すぐ二人に土下座して詫びろと僕に刻まれた日本人の大和魂が叫んでいるっ!!

 理解不能な衝動に固まっていると「コホン」と咳払いが聞こえた。振り返った先には、どこか悲しげな八百万さんがいた。

 

「とっても楽しそうでしたわ」

 

(僕が悪いの!? 教えておじさん!!)

 

 一番頼りにならない人物に助けを求めた気がするが、この状況はひどく落ち着かない。こんな時こそシリアスブレイカーな我が幼馴染かっちゃんの出番なのだが、肝心な時には決まって不在なのだあのボンバーマンは。

 

「緑谷、聞いちゃった」

 

 八百万さんの横でただ一人面白そうにニヤニヤしている耳郎さんが個性であるイヤホンジャックをユラユラと操りながら言う。

 

「お友達?」

 

「学校のクラスメイトと」

 

「従者です」

 

 メリッサさんに説明しようとすればすかさず塩崎さんが答えた。

 

「あー、僕はメリッサさんに会場の案内をしてもらっているだけで」

 

「オールマイトのお供だったのでは?」

 

 ズイと塩崎さんが身を乗り出して聞いてくる。

 

「いや、だからね」

 

「なぜオールマイトとこのような奇麗な方が入れ替わるのですか?」

 

 いつも以上に押しが強いよお。

 泣きそうになりながら彼女達の威圧感に何も言えなくなっていると、

 

「よかったらカフェでお茶しません?」

 

 メリッサさんの取りなしでその場は仕切りなおしとなった。

 誰か助けてー、敬文さーん。

 

「(緑谷君、リアルは、現実はバッドで陰鬱なものだよ)」

 

 助けを求めるように見上げた人工島の空に、爽やかに闇深いことを言う敬文さんの姿が見えた気がしたのだった。

 

 



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51話 二人の英雄3 とおじさん

 

「なるほどかの有名なデヴィット・シールド博士にお会いしに来て、今は友人二人だけで話されていると」

 

 カフェに移動し問い詰められることしばし、なんとか二人で見て回っていた理由を説明することができた。どこかホッとしている三人の様子が不思議だけど納得してくれたのが幸いだ。

 

「ま、初対面の美少女と腕を組んでデートしていたのは事実だけどね」

 

 ニヤニヤと楽しそうに笑う耳郎さん。いやでもこれが外国で普通なのだから問題ないでしょうに。

 とりあえず落ちついたので話題は雄英高校の日々に変わる、その中でも最近のイベントである職場体験が特にメリッサさんの興味を引いたようだ。

 

「へー!お茶子さん達、プロヒーローと一緒にヒーロー活動したことあるんだ!」

 

「訓練やパトロールくらいですけど」

 

「同系統なので親身になって頂きました」

 

 ガンヘッドの所で訓練した麗日さんに、シンリンカムイの所で個性操作を学んだ塩崎さん。プロとして活躍する彼らの教えは参考になるものだ。

 

「ウチは事件に関わったけど、避難誘導くらいで」

 

「私はなぜかテレビCMに出演するハメに」

 

「現場ならではの活動なんて素敵!」

 

 僕はヒーロー殺しステインを秘密裏に捕縛し、その殺人記憶を書面に纏めてましたとは言えないよね。

 

「僕はサー・ナイトアイの事務所でお笑い修行を」

 

「「「なんでっ!!」」」

 

 実際にやったんだよなあ。

 元気とユーモアが超大事な人だから。

 

「マイトおじさまのサイドキックだった方ね、凄いわ!!」

 

 メリッサさんの明るくフランクな態度が壁を作らないで親しく接することができるみたいだ。

 

「明日、アカデミーの作品展示してるパビリオンにも行く予定なんです」

 

「同世代の方の作品は気になりますから」

 

「すごい楽しみ!」

 

「メリッサの作品も?」

 

「ええ、もちろん」

 

(とりあえずデートやらの誤解はとけたみたいだ。女性と腕を組むなんて、おじさんも当たり前にやってたんだから特別なことではないだろうに)

 

 そんな特別ではないことに今まで縁が無かったことを棚に上げて僕は脱力した。

 

「お待たせしました」

 

 スッと注文したオールマイトサイダー(レモンサイダー)を置いたのは聞き覚えのある声だった。

 

「上鳴君に、峰田君?」

 

 ウェイになる上鳴君がウエイターとはぴったりかもしれない(サー・ナイトアイの影響)。

 

「あんたら何してんの?」

 

 耳郎さんの疑問に二人は、エキスポの間だけの臨時バイトだと答える。他の皆と違ってナンパと趣味でお金が足りなかったそうだ。

 

「しかし緑谷よお、また新しい女かアアン?随分楽しい時間を過ごしてたのかよおお」

 

 と峰田君がメリッサさん(新顔)に目ざとく気づいて額に青筋を浮かべ血涙を流しながら僕を問い詰めてくる。

 

「両手に華どころか、全身に花畑だな。耳郎は別だけど」

 

 上鳴君は羨ましそうだけどどちらかといえば呆れている感じだ。

 

「耳郎さんも素敵な人だって、体育祭でもチア衣装凄く似合っていたじゃん。あと皆と過ごす時間は(安全だし)いつだって凄く楽しいよ」

 

「「このセリフを下心無しに素で言うとか本当に勇者かよ」」

 

「?」

 

 なぜか衝撃を受けたように後ずさる二人、そこに追撃するように「労働に励みたまえー!!」と叫びながらこちらに走ってくる飯田君がいた。

 なお僕の言葉で女性陣が顔を赤らめていたことを僕が気づくことはなかった。

 I・エキスポはヒーロー業界の一大イベント。だからこそ飯田君のようなヒーロー一家や八百万さんのようなスポンサー関連にも招待状が贈られるそうだ。

 他のクラスメイト達はアルバイトの上鳴君と峰田君を除いて一般公開で参加するとのことだ。だから明日に備え今頃はホテルでのんびり寛いでいるようだ。

 

「良ければ、私が案内しましょうか?」

 

「いいんですか?」

 

「うん!」

 

「やったー!」

 

 I・アイランドをよく知る彼女の申し出に女子達が喜び、上鳴君と峰田君もバイトそっちのけで便乗しようとするが雄英高校の信用にも関わるので認められないとのことだった(休憩時間に回ることは可能)。

 飯田君と合流し、まだ招待客のみでお客もまばらなカフェを後にする。

 さて次はどうするかと悩んでいると、近くの会場からズンと大きな破壊音がした。そこは体験型アトラクションのコーナーだとメリッサさんが教えてくれたので皆と向かうことにした。

 

 敵を模したロボットを次々と倒していくアトラクション、「ヴィラン・アタック」。

 その会場にて15秒というトップタイムを叩き出して立っていたのは我が幼馴染である爆豪勝己だった。どこか物足りなそうな様子の彼はスタート地点に戻ると観客席の僕達に気づいた。

 ボムッと最小限の予備動作で飛び上がり、こちらと合流するかっちゃん。

 

「来るのは聞いてたがプレオープン組は全員で回ってんのか?」

 

「かっちゃんは一人?」

 

「ミルコがくれたのは一人分だからな」

 

 かっちゃんは今までずっと一人で体験型アトラクションを制覇していたそうだ。こちらに連絡しなかったのは予定あったら悪いだろと気を遣ってとか。メリッサさんにかっちゃんを紹介しつつ今までのいきさつを説明した。「また増えたのかやべえなコイツ」となぜか僕がドン引かれたけど。

 

「せっかくだしテメェもやったらどうだあのアトラクション。ミルコとの敵捕縛に比べたら退屈だがな」

 

 とかっちゃんが提案してきた。

 

「リアルヴィランアタック体験者」

 

「職場体験なのにヴィラン捕縛しまくっとたよね」

 

 そんなかっちゃんに女子達はこんなコメント、職場体験だとかっちゃん、轟君、八百万さんと拳藤さんが有名になったからね。そしてヴィラン・アタックかあ。面白そうだけど、

 

「殺気を出さないロボットとかの存在相手だと反応が鈍るんだよねえ」

 

 入試のロボットもそこが面倒だった。

 

「こっちはこっちでおかしなことを言ってるし」

 

『これは凄い!トップ記録を大幅更新、クリアタイム3秒です!!』

 

「キャー!陽介さーん!!」

 

「「「「ん?」」」」

 

 そんな中、3秒というとんでもタイムと聞き慣れた女性の聞いたことのない弾んだ声が聞こえてきた。

 

「3秒か、まだいけるな」

 

 そこには会場にて光剣を握るいつもと違い風格ある態度のおじさんと、私服姿で観客席からおじさんに声援をあげるミッドナイトがいた。

 

 なんで?

 

 おじさんをよく知る僕が、ミッドナイトというヒーローの生徒である皆が頭に疑問符を浮かべながら首をかしげるのだった。

 なお、こちらに気づいて近寄るもおじさんとミッドナイトの衝撃で反応されなかった轟君が寂しそうにこちらを見ていたのだった。

 

 

 



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52話 二人の英雄4 とおじさん

 

「「「ミッドナイト先生っ?!」」」

 

 おじさんの活躍に叫ぶヒーローにして教師である彼女に同性である生徒達が驚きの声を上げる。

 その声に気づいた彼女はギギギと錆びたブリキの人形のようにゆっくりと首をこちらに向ける。

 

「ど、どなたのことかしら?そんなヒーロー界一の美女と間違われるのは光栄だけど、私はただの休暇で訪れただけの美人女教師よ」

 

 この人自分を二重で美女って言ってる。

 

「アレ?出久君、こんなトコで奇遇だね」

 

「おじさんっ!!」

 

 生徒達に問い詰められるもしらばっくれるミッドナイト先生。そして僕に気づいて駆け寄るおじさん。

 

「この子達は友達かい?」

 

「はい、塩崎さんはお会いしたことありますが他の皆とははじめてですね(皆は記憶再生でおじさんを見たけど)」

 

(この人が緑谷より強い存在)

 

(緑谷君の命の恩人か)

 

(とてもそうは見えないけど)

 

(やべえどうにかして逃げねえと)

 

 と様々な感想を抱いている中でおじさんは一度ゴホンと息を吐いて、

 

「ドモドモ、チャンネル異世界おじさんのおじさんデース」

 

「初対面の方には毎回やるのですかオジサマ」

 

「何気に動画投稿者であることにプロ意識と誇りを持っているみたいだから」

 

「陽介さん素敵♡」

 

 いつものおじさんの挨拶に、かつて自分もされた塩崎さんが呟き僕もそれに返す。

 

「「「「知らない」」」」

 

 ガガガガンっ!!とそんな効果音がするように皆の素直な反応に衝撃を受けるおじさん。耳郎さんなら音楽関係の動画は見るだろうけど、轟君飯田君麗日さん相手なら仕方ない反応だと思うよ。

 

「あ、私知ってます!!どんな個性ならあの動画を出来るのかって考えながら見てます!!」

 

 されど捨てる神あれば拾う神あり、ここにメリッサ・シールドという神はいたのです。ちなみに僕はエルフさんの姿が出るのでおじさんのチャンネルを見ない。偽物だと分かっていても怖いもんは怖いのだ。

 

「特にパン○ァードラグーンツヴァイ劇中の創作言語を翻訳してみたっ!! なんて他の回と個性がどう関連しているのかまるで分からなくて」

 

 ああ敬文さんから聞いたワイルドトーカーの検証を兼ねた動画だっけ?おじさんが目隠ししてゲームを日本語訳する回。けどさメリッサさん、ソレ個性でも能力でもなくただの暗誦だから。

 いつぞやのように自分のチャンネルを皆に紹介しだすおじさんの姿を見ながら、僕もミッドナイト改め香山睡さんに声をかける(プライベート時のヒーローネーム呼びは失礼)。

 

「それでどうしてI・アイランドに?確かに雄英高校教師ほどのヒーローなら招待されてもおかしくないですが」

 

「流石にプロでもビルボードチャート上位じゃない個人ヒーローにまでは贈られないわよ、陽介さんが商店街の福引の特賞を引き当てたのよ」

 

 なんでも近所の商店街の会長がかつてヒーロー関係者だったため毎年招待状が贈られていたのだが、今年は腰が痛くてこれなかったそうだ。身内も多忙で転売もできないから福引の景品として提供したらしい。

 

「それは大当たりでしたね」

 

 当てようとして当たるものではないでしょうし。

 

「いやー、それがそうでもなくてね」

 

 と香山さんが気まずそうに目元に触れながら言えば。

 

「8等の、8等の、メ○ドライブ周辺機器フルセット(中古品)が欲しかったよ、欲しかったんだ!!」

 

 話を聞いていたおじさんがその時のショックを思い出して地面に右手を叩きつけて叫んでいた。あ、おじさん的にはハズレだったんですね特賞。ちなみにどうでもいい話だがその福引の1等は近海マグロ丸々一匹だったらしい、どんな商店街だ。

 

「ねえ緑谷、これが尊敬する人なの?」

 

「失礼やけど変なおじさんにしか見えんよ」

 

「本当に強いのか?」

 

 皆の疑問は当然だ、おじさんの凄さは実際に見ないと分からないからなあ。

 

「まあおじさんが変なおじさんなのは揺るぎない事実だけど、凄い時は凄いんだ」

 

 凄い時は大抵ピンチの時だからあんまり凄くなって欲しくないけどね。

 すっかり皆のおじさんの印象が変なおじさんで固定しそうなのは複雑な気分になるけど、それは今度記憶再生してなんとかしよう。

 ひととおり話が終わったら、女性陣が香山さんとおじさんの関係を聞きたくて仕方ないとばかりにウズウズしていたのでそちらには興味が無い男子勢と一旦別れることとなった。

 

「関係って、お隣さんのセガ友達だよ?」

 

 とおじさんが不思議そうに真顔で言ったのだけど、緑谷のお世話になった人だから鈍感だよねと失礼な反応をされた。グランバハマルであの三人の気持ちにまるで気づかないおじさんと一緒にしないで欲しいものだ。

 

 

 

「それで何が聞きたいのよアンタ達」

 

 あーあこんなタイミングで会うなんてとガックリとした気分になる。敬文君達が気を利かせてくれた二人きりの旅行、別に他の男と経験がないわけではないがここまで胸が高鳴るのははじめてのことだった。そのせいで手すら握れないくらい緊張してたので、一旦離れられてホッとしている自分も居るが。

 

「ズバリあの方との関係は?」

 

 芦戸ちゃんと葉隠ちゃんが居ないのが幸いね。事情を知っている塩崎ちゃんに、スタイルに反して経験の無い八百万ちゃん、照れ屋な耳郎ちゃんと初心な麗日ちゃんならそこまで追求されないでしょ(メリッサちゃんは向こう)。

 

「片思いの相手」

 

「「「キャー!!」」」

 

 ふん、この程度陽介さんさえいなければいくらでも言えるわ。

 

「どんな所がお好きに?」

 

「二人の出会いは?」

 

「ぶっちゃけ趣味悪いですね」

 

「今度パンケーキの作り方を教えて下さい」

 

「理想の相手の条件を満たしていて関わりをもったら夢中になってたわ、強いて言うなら包容力ね。体育祭で見つけたわ、動画でも知ってはいたけど。おだまり、アンタも恋すれば分かるわ。良いわ今度藤宮さん誘って一緒に作りましょう」

 

 追求といってもマスコミに比べたらかわいいもの、特に不快にもならずに答えることができる。まあこの娘達の行動が生の恋愛に憧れを抱いているからってのもあるのよね。

 

「しかし意外でしたミッドナイト先生ならもっとこう積極的なものとばかり」

 

「どちらかといえば一歩引いとったね」

 

「おじさんの一挙一動に注目してたみたいだけど」

 

「普段からこんな感じですよ睡さんは」

 

 好き放題吐かす小娘共に私はアドバイスするように告げる。

 

「本当に好きになると嫌われたくないという気持ちが前面にでて過激なことなんてできなくなるわよ。特に三十路を超えるとね」

 

 陽介さんの異世界での生活を知れば知るほどそう思ってしまう。あんなに奇麗な人達に好かれても相手にしてなかったのに自分で大丈夫なのかと不安になるのだ。

 

「「「ミッドナイト先生が駄目とかどんだけなんだろう」」」

 

 今の立ち位置でも良い関係なのよね。

 

「ところで気になっていたのですが」

 

「どうしたの塩崎ちゃん?」

 

「泊まるホテルは同じ部屋ですか?」

 

「そ、それはまだ早いかなーって」

 

 私は人差し指どうしツンツンと合わせながら頬を赤らめて顔を逸らすのだった。

 

「「「せっかくのチャンスだというのに途端にヘタレたあっ!!」」」

 

 うっさいわね、心の準備ってのがあるのよ。

 

 

 

 ミッドナイトの追求を終えた女性陣とも合流して閉園時間までI・エキスポを堪能した。

 レセプションパーティーにも参加するため一旦ホテルで正装に着替える必要があるのだがその前に労働に勤しんでいた上鳴君と峰田君にメリッサさんが用意してくれた招待状を渡す。I・エキスポでのバイト期間は多忙になること間違いなしなのでその前にせめて今日くらいはということだ。

 

「「俺達の労働は報われたあ!!」」

 

 と抱き合う二人だが、まだまだこれからだということは忘れないでほしい。

 飯田君がテキパキと委員長らしく仕切り、その場は解散された。

 

「イズク、ちょっと私につき合ってもらえないかな?」

 

 

 

「ここが私の通うアカデミーの校舎。そしてここが私が使っている研究室。散らかっててごめんね」

 

 たくさんの資料と本格的な実験機械、テーブルの上には実験器具やノートが散乱している。それだけではなく資料棚には彼女の功績を示すたくさんのトロフィーや盾まで置かれていた。彼女がガサゴソと何かを探す間に僕はそれらを眺めていた。

 

「実はね、私、そんなに成績良くなかったの。だから一生懸命勉強したわ。どうしてもヒーローになりたかったから」

 

 彼女の語る自身の過去。それはどこかかつての自分に似ていた。

 

「プロヒーローに?」

 

「ううん、それはすぐにあきらめた。だって私、無個性だし」

 

「そっか」

 

 彼女は僕と同じだった。

 だが違うのは彼女は別の目標を見つけることができ、たった一年しか違わないのにここまで出来た。それに比べて僕はほんの一年前、命が関わる事態になってはじめて本気で力を求めたのだ。

 

「凄いなあ」

 

 父という目標があったとしても、オールマイトというヒーローが伯父のように親しくともここまで至れた彼女には感嘆しかない。

 

「そうでもないよ、パパみたくヒーローを助ける存在になって平和のために何かしたいと思っただけだから。けどね」

 

 彼女は見つけてきた箱をテーブルの上に置き、蓋を開ける。そこに入っていたのは、上部にボタンのついた細いベルトのようなものだった。

 

「同じ無個性なのに、誰よりもヒーローだった貴方がいた。ニュースで取り上げられて知ったわ、盛り上がってたのは差別とかそっちの方だったけど無個性の話だから無関心ではいられなかった」

 

 I・アイランドに知られるくらいの大騒動だったのか、あの事件。

 

「オジサマなら何か知っているのではないかと連絡したら貴方がどれくらいヒーローだったのか教えてくれた。だから私は貴方のファンなの」

 

 そんな経緯が。

 

「そんな貴方だからこそ使ってほしい、光の剣を振るう貴方には必要のない物かも知れないけど。今の私の技術の結晶であるフルガントレットを」

 

 伝えられる性能、それは奥の手であるセカンドの個性である変速を活かすにはピッタリであった。

 

「あの日のように、困っている人達を助けられる素敵なヒーローになってね」

 

 笑みとともに伝わってくる彼女のエール。

 その思いに応えなければと身が引き締まる気持ちとなった。

 

 

 

「サム、例の計画は中止にしてくれ。もう必要なくなった」

 

 オールマイトと二人になった時に語られた個性の真実。なるほどそれなら個性数値が急激に下がるわけだ。今まで秘密にされていたことはショックではあるが、オールマイトやサー・ナイトアイとは違い家族のいる私を巻き込みたくないと思われても仕方のないことだった。

 

「後継者、新たな光か」

 

 親友の見出した次代。

 その実力は体育祭で知ってはいる。だけどオールマイトの代わりになるとは正直思えない。

 ましてや全盛期の頃よりも強いかもしれないと、笑いながら言われてもあの黄金期を駆け抜けた私が信じられるわけがなかった。

 さらに日本にはそれ以上の存在が一般人に居るだなんて。

 緑谷出久の経歴は知っていた、愛娘がファンになったから調べたのだ。だが彼が受け継ぐくらいならメリッサか、それこそスターアンドストライプでいいじゃないかと正直思うのだ。彼の強さが半年間での異世界生活という眉唾な話だから余計に。

 

「けど君が決めたことだしね」

 

 不満はある。

 けど否定するような浅い付き合いではない。

 緑谷出久についてはこれから知っていけば良い、なにせ彼はオールマイトと出会った時よりも若いのだから。

 それに異世界については信じ難いが証明してくれる手段はあるらしいし、そちらを見てから判断しよう。

 個性増幅装置、オールマイトの光を取り戻すための発明。だがオールマイトが使わないのであれば画期的であっても危険な発明だ。

 立案に準備までさせてしまったサムには申し訳ないがなんとか償わないといけないな。

 まあ色々とやることは出来たが親友と腹を割って話せたのは良かった、これもサプライズでトシを呼んでくれたメリッサの優しさのおかげだなと思う。

 

「さてレセプションパーティーの準備と、礼服は何処だったか」

 

 研究者である自分には何度着ても着慣れないが、美しく着飾る愛娘に恥ずかしくない格好でいないとね。

 

 

 デヴィット・シールドは親友との語り合いにより企んでいた計画を中止にした。

 あくまで親友のための装置だからこそ、親友が必要ないのなら止めることが出来たのだ。

 だが彼は知らない。

 それで止まれない程に助手は追い詰められていたことと、最初から利用する気でしかなかったヴィランの思惑を。

 

 尤もそんな彼らも知ることはない。

 そんな理不尽な欲望を容易く跳ね除ける最強のイレギュラーがこの島に降臨しているその不条理な事実を。

 



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53話 二人の英雄5 とおじさん

 
 今回、緑谷君の態度に不快な方がいるかも知れません。閲覧注意。



 

 レセプションパーティーに参加するために正装に着替えて約束の場所に行ったらそこには男性陣が到着していた、女性陣はドレスだから時間がかかっているのだろう。あと招待状を持っているからおじさんと香山さんも参加できるのだけど、そこまでヒーローに関心は無いので来ないそうだ。せっかくだし二人で夜景とか楽しんでいたら良いけど、おじさんの性格と香山さんのヘタレ具合からして望み薄だろう。

 

「ごめん、遅刻してもーたぁ」

 

 時間厳守と飯田君が唸っていると、可愛らしくも大胆なドレスを着た麗日さんが到着した。

 

「遅れて申し訳ありません」

 

 塩崎さんも落ち着いた大人びたデザインのドレスに身を包んでいる。

 さらに八百万さんと耳郎さんと美少女のドレス姿に素直に「眼福だねえ」と僕は呟く。耳郎さんを馬子にも衣装だなんてとんでもない、良く似合っているではないか。

 

「やっぱホテルで寝てれば良かったか」

 

 そんな華やいだ空気が性に合わないのかかっちゃんはどこか面倒そうに呟いた。

 

「皆まだここにいたの?パーティー始まってるわよ」

 

 自動ドアが開き現れたのはメリッサさん。メガネを外し華やかで大胆なドレス姿は綺麗どころ揃いの中で一際目立っていた。

 女性陣はドレス姿に盛り上がり、上鳴君、峰田君は大興奮。飯田君は時間を気にして、轟君は無反応で、かっちゃんはうんざり気味と皆それぞれの反応だった。

 

 だが穏やかな時間はそこまでとなる。

 鳴り響く警報、発動する警備システム。

 セントラルタワーにて閉じ込められた僕達は、I・アイランドをよく知るメリッサさんの存在もあり現状に疑問を抱いていた。

 

「携帯も圏外だ、ミッドナイトにも繋がらねえ」

 

「エレベーターも反応ないよ」

 

「マジかよ~」

 

 出来ることは試してみるがその反応は思わしくない。グランバハマルの魔法では機械の対処ができないからやれることはない。

 

「パーティー会場に行くべきかな?」

 

 とりあえずそこには各国のトップヒーローにオールマイト、そしてI・アイランド屈指の頭脳であるデヴィット博士がいる。ならまずは合流すべきだろう。

 

「だったら非常階段から会場近くに行ける筈よ」

 

 隅にある重そうなドアを指差しながら彼女は言う。ならば行動あるのみだ。

 

 行った先、パーティー会場を覗き込めばそこはヒーロー達が拘束されヴィラン達により銃を向けられていた。とりあえず殲滅しようとしたらかっちゃんに羽交い締めにされて止められた。人質がいてもこの範囲ならまとめて縛動拘鎖できるのだけど。とりあえず情報収集としてオールマイトに携帯の光で気づいてもらい、耳郎さんのイヤホンジャックで聴こえるように小声で話してもらった(これくらいの距離なら僕も聴こえるけど)。

 

「とりあえずパーティー会場から殲滅?」

 

「黙れ力押し野郎。こっちの動きに感づかれたら警備ロボットによる虐殺が始まるだろ」

 

 ヒーローが多く来ていても全員がヒーローではないからね。

 

「となると警備システムの無力化が必須だね。ここから魔法で吹き飛ばす?」

 

「ヴィランだけならともかく、ふん縛られた警備員がいるだろうからやめとけ」

 

 魔法の威力的に巻き込んで皆殺しにしかねないから駄目だね。

 

「じゃあ警備システムまで行って、システムを元に戻すのが最善かな?」

 

「だな。ついでに遭遇したヴィランも殺れば良いしな」

 

 とかっちゃんとサクサク方針を決める。

 パーティー会場の救出は容易い。だがそれで警備システムを動かされることが問題なのだ。

 だったら警備システムを解放してから殲滅すればそれで問題は解決だ。

 

「あとは連れてかれたデヴィット博士と助手が厄介だな」

 

「目の前に居たらなんとかできるよ、対面して人質をとるなんて行為は武器をこちらに向けられないから対処は可能」

 

「って何を動こうとしているのかね!オールマイトは逃げろと言っていたではないか!?」

 

「飯田さんの言うとおりですわ。私達はまだ学生、ヒーロー免許も無いのに敵と戦うわけには」

 

「どこに逃げんだ、島だぞ此処」

 

「資格とか罰とかは助けた後で考えるよ」

 

 規律やルール、さらに自分らの実力を加味した飯田君と八百万さんの判断は正しい。けどそれで助けられるモノを取りこぼすことを僕は許容できないんだ。

 巻き込むつもりは無い、これは僕の勝手な行動なのだから。

 

「じゃあ後は僕がやるから皆は避難してて」

 

 フルで身体強化をすれば警備システムのある最上階までもそう時間はかからないだろう。辿り着いたらヴィランを撃破して神聖魔法で職員達を治療すればなんとかなる。

 

「足手まといか俺らは」

 

「純粋に機動力の問題だよ」

  

 ケッと吐き捨てながらもかっちゃんも否定しない。オールマイトがNO1ヒーローである所以はその究極の肉体による誰も追いつけない機動性にある。だからこそあれだけの規模のエンデヴァー事務所に比肩するほどにヴィランを捕らえているのだから。掌握された警備システムによる警備ロボットや降ろされた隔壁も僕なら対処できるしね。

 

「だったら戦力として当てに出来る異世界おじさんには連絡しといたらどうだ?携帯以外の連絡手段とかあるんだろ?」

 

 確かに魔法を用いれば可能だけど、

 

「それだけはしない」

 

 たとえ最善であってもおじさんは頼らない。

 

「はあ?」

 

「あの人は17年間もグランバハマルに居たんだ。これ以上の戦いなんてあっちゃいけないんだ」

 

 僕のように自らの意思で鉄火場に身を置くのではない。力があるのに使わずに一般人として生きることを選んだのだからその生活を邪魔してはいけないのだ。

 

「なら仕方ねえか」

 

 不承不承かっちゃんは頷く。

 

「待ってっ!!」

 

 電子機器は電波障害とかで使えなくなるからアナログな地図は必須だよね。と空間魔法からセントラルタワーの見取り図を取り出していると、メリッサさんの必死な声がした。

 

「イズクがなんとかするの?イズク一人でなんとかする気なの?」

 

「それが最善だからね」

 

 全員の心が決まっている訳ではない、まだどうするか揺れている状態だ。ならば協力を仰ぐべきではないと思う、迷いを抱えて戦いの場にでるべきではないのだから。

 

「勇者様、何か私にできることはないのですか?」

 

 塩崎さんの共に戦いたいという言葉、しかし目指す場所が最上階、200階となると集団で動くメリットは無い。

 

「同感だ、俺も出来ることはしたい」

 

「ウチだって」

 

 轟君と耳郎さんも同じ気持ちだ。いやヒーローを志す皆がなんとかしたいと思わないわけがないのだ。

 

「どうしようかっちゃん?」

 

 僕が単独で突貫するのは確定だ。あまりに移動速度に差があるからだ。けど皆の気持ちを無下にしたくない。

 

「囮だな」

 

「「「オトリ?」」」

 

「連中も予備戦力を警戒して対処できる配下ぐらいいるだろう?そういった腕自慢のヴィランを引き付ける役がいたほうがいいだろ。そもそもそうやって動いてる連中とは別に本命がいるとは思わないだろうしな」

 

 つまり本命は僕で皆が囮になるわけか。

 

「つーか確かイズクは飛べたよな?空から侵入は出来ないのか?」

 

「それは出来るけど」

 

 精霊魔法に浮遊の個性でいけるかな。

 

「あ、外部からの侵入は止めた方が良いわ。警備用のドローンがある筈よ」

 

 隙がないなあ、流石I・アイランド。

 

「えっとなんでも昔の警備主任がキャプテンセレブリティに恋人を奪われたことがあって、それで彼を撃ち落とせるレベルの空中対策をしたらしいわ」

 

 何してんだアメリカのメジャーヒーローと当時の警備主任。

 

「なら目立つ囮はより必要だな」

 

 突破できても隠密行動のための外部侵入だからね。発見される可能性があるならやめた方が良い。

 

「よし、そんじゃイズクは爆走して警備システムの奪還。もう一組は非常出口から隠密行動と見せかけた囮役どっかでわざとらしく警報鳴らすぞ。あとの残りはパーティー会場近くで待機だ、警備システムが奪還されたらヒーロー達の援護をすりゃいい」

 

 やっぱりこういった時の仕切りはかっちゃんがいると助かるよね。

 

「緑谷君に負担が大きいが仕方ないか」

 

「機動性の問題ばかりはどうしようもありませんわ」

 

「無重力で軽くなって引っ付いていくとかならどうやろ?」 

 

 皆もどうやらそれで納得してくれたみたい、怖い気持ちがあった峰田君もそれならばと了承してくれた。

 

「待って、私もイズクについていくわ」

 

「まあ警備システムの設定変更できるヤツは必要だし、妥当だな。場所にしても携帯のナビが使えねえから案内してもらった方が確実だ」

 

 確かに一人くらいなら背負えば大丈夫だけど(あと峰田君ならぶら下げて連れてける)。

 

「お願い」

 

 彼女もヒーローを志した誰かを助けたいと思う人、引き下がりはしないか。

 

「分かった、一緒に行こう。君は必ず僕が守ってみせるから」

 

 危険があることはわかっている、それでも出来ることはしたいという彼女の思いを無下にはしたくない。

 

「決まりだな」

 

 飢えた肉食獣のような獰猛な笑みを浮かべたかっちゃんは宣言する。

 

「三方別れての襲撃犯撃退、テメェらしくじるんじゃねえぞ」

 

「「「ああっ!!」」」

 

 その場の全員が力強く頷いた。

 





 200階までの移動が問題過ぎになりました。
 皆で行動解決はやりたい手法でしたが、戦闘力以上に機動力が問題になりまして。
 皆に合わせてゆっくり移動できる状況でも無いので、緑谷君が単独行動することを強調されてチート主人公らしい傲慢な態度に見えてしまいました。
 不快に感じたらすいません。


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54話 二人の英雄6 とおじさん


 オリ設定有ります。 
 かなり誰得な人の掘り下げです。



 

「なんのつもりだいサム?」

 

 保管室にてカタカタとキーボードを叩く音だけが響く。この場所に保管という形の実質封印されてしまった研究成果を取り出すためだ。

 つい先程までは待ち望んでいた展開。

 必要なくなった計画は、予定通りに順調に進行してしまった。

 だからこそデヴィット・シールドは数年間共に過ごした信頼する助手に問う。各国政府による圧力により中止に追いやられた研究、未来を閉ざされたラボの最後の一人となった彼に。

 いつもにこやかに笑っていた温和な彼は、今は無表情でプロテクト解除に集中していた。

 

「なんでこの研究なんですか?」

 

「サム」

 

「尊敬する貴方と共に研究し、ようやく形になった成果。それをなんで取り上げられないといけないんですか?」

 

 うわ言のように彼は呟いていた。

 

「再び社会が混沌と化す?こんな隔離空間を用意しなければ研究者がまともに研究すら出来ない世界が平和なわけがない。現在の権力者共が、自分の任期中の穏やかな時勢を維持したいだけだろうに」

 

 無表情なまま、声に怨嗟を込めて呟く。

 サムは知っていた。

 デヴィット・シールドという偉人の助手だからこそ知っていた。

 デヴィット・シールド程に世界の未来を憂う存在ですら他者の利権のせいで思い通りに生きられないことを。この世界の平穏がハリボテで覆われた見せかけだけに過ぎないことを。そう、オールマイトという一個人が引退するだけで崩れてしまう脆い社会だと。

 

「博士のこの研究をヴィランに渡します。そしてヴィランの下で私がコレを広めます」

 

 だからこそ壊す、今の世界を。

 権力者が懸念する混沌にしてみせる。

 壊した先には彼が、デヴィット・シールドが求められる世界があるのだから。助手であったサムの創る半端な模造品よりも素晴らしい完成品が彼の手によって必ず創り出され、ヒーロー達の手に届けられるだろう。

 その時になってようやく、サムがデヴィット・シールドの助手をしていた時間に意味が生まれる。

 

「サム、君は」

 

「無かったことにされたくなかったんです。意味がなくなるのが嫌だったんです」

 

 尊敬する人と共に研究していた、あの夢のような時間。ソレを否定されることだけはサムはどうしても受け入れることができなかったのだ。

 プロテクトが解除された音が空虚な空間に響いた。壁から迫り出してきたボックス、サムはそこからアタッシュケースを取り出し抱えこむ。

 

「これは私がヴィランに渡します、博士はどうかこのままお逃げください。被害者として保護されてください」

 

 首謀者であるヴィランのウォルフラムは強欲にして冷酷、その上で計算高い男である。

 僅かな接触でソレを悟っていたサムは此処で尊敬する人と別れることにした、これから二度と会うことが叶わなくなるだろうと理解していても。

 

「下で騒動が起きてヴィラン共が動きだしています、警備システムを掌握していられる内に側近を引き連れてウォルフラムはI・アイランドを脱出するでしょう」

 

 下の階の部下を捨て駒にすることをウォルフラムは躊躇わない。その非情さがあったからこそこれまでヴィランとして活動できてきたのだ。

 

「博士、どうかこれからも光輝く道を歩んでいってください」

 

 別れとなる言葉を口にしたサムはどこか清々しくありながらも泣いているようにも見えた。

 

「いいや、そいつはこれからヴィランの闇に落ちていくのさ」

 

 パンッパンッと銃声が鳴り響く。

 

「必要なのはテメェじゃなくて博士の方でな」

 

 カツンカツンと音をたてて首謀者であるウォルフラムはデヴィット博士に迫りくる。

 

「は、博士、お、お逃げを」

 

 銃弾を受けたサムは腹部から血を流し床に崩れ落ちながらも呟く。

 

「俺らを良いように使う気たあ、そいつはいけねえな。ヴィランは舐めちゃいけないってパパかママに教わらなかったか?」

 

「う、うるさい。力をより良く使おうとも思えない低能な犯罪者風情が」

 

「挑発して自分に意識を集中させ博士を逃がそうってか?大した忠臣ぶりだな。けどよ頭でっかちな研究者はいつだって力ある者の食い物なんだよ」

 

 ウォルフラムは助手であるサムが撃たれた衝撃から硬直していたデヴィット博士の首の後ろを銃のグリップで殴り気絶させる。 

 

「惨めに死んでいけ、それが俺達を利用しようとした罰だ」

 

 複数の銃弾により即死こそしてないが致命傷の重体。流れる血の量からしてそう長くは生きられない。

 

「博士、すいません」

 

 口から溢れる血を吐きながらサムはウォルフラムに抱えられた博士に謝罪する。こんなつもりではなかったと後悔の念に呑まれながら。

 

 これはメリッサを背負った緑谷出久が到着する僅か数分前の出来事である。

 

 

 

 時間は暫し遡る。

 爆豪勝己の指示により役割分担をした雄英高校生達はその役目を果たしていた。

 爆豪勝己を筆頭とした囮チームは非常階段を駆け上り途中でフロアに続く非常用のドアを開いた。隔壁によりこれ以上直進ができなくなった以上、ここで目立ちヴィランを引き付ける。

 

「行け」

 

「うん」

 

 かつては色々と語り尽くせないアレコレがあった幼馴染二人。だがこういった時に誰よりも頼りになる存在であるとお互いに理解していた。だから言葉は少なくとも充分だった。

 そんな二人の間柄を羨ましいと思い、戦友でありたい轟と飯田は、未だ力足りぬ自分に奮起するのであった。

 女性陣と峰田と上鳴は動きにくい格好とスタミナの理由でパーティー会場近くに身を潜めている。耳郎が周囲を知覚していればすぐに動き出すことが可能だろう。

 恐らくそう時間が掛からないうちにヴィランがこの場に来る。雄英高校一年トップクラスの戦闘力を誇る三人は近づいてくる決戦に戦意を滾らせるのであった。

 

 

 

「この道で大丈夫だよね?」

 

「うん、あと少し」

 

 同世代の女性を背負っていても緑谷出久は乗用車に劣らぬ速度で走っている。ワンフォーオールの身体能力強化と精霊による二重の強化の前にこの程度の重みは負荷とならない。そして何より、おじさんを背負ってエルフから逃げまくったグランバハマルの日々による経験により緑谷出久はこういった状態に慣れきっていた。

 

「ねえ、イズク。さっき話題にでた魔法って、貴方の個性の力なの?」

 

 向かう先で起こるであろう戦闘、その不安を紛らわせるためなのかメリッサは問いかける。会話からしたらどうにも妙に感じたからだ。

 その問いかけに緑谷出久はどう答えたものかと暫し悩むもまあいいかと正直に真実を告げる。

 

「いいや、僕の力は全てが個性じゃない。僕が使う魔法は異世界グランバハマルで身につけた力だよ」

 

 どちらにせよ、オールマイトの盟友デヴィット・シールドには全て明かすつもりなのだ、ならばメリッサに教えるのも遅かれ早かれだろう。

 

「異世界?そんなフィクションみたいな話」

 

 いやこの島そのものだって傍から見たらそんな感じなんだけどと緑谷出久は思った。

 架空と現実との境など、隣り合わせと思うほどにごく近しいのもだと彼は誰よりも実感していた。

 

「見せた方が早いか、記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 ブンと立体映像のような画面が現れそこには、

 

『あのね、イズク君。君にお願』

 

(ヤベ)

 

 映し出されたのは月下に映える女神の如く美しい女性。その記憶は夜空の下憧れの人と二人きりで話したあの日の出来事だった。軽い気持ちで適当に再生した記憶はよりによって緑谷出久のグランバハマル生活最大のトラウマだったため慌てて消した。あと少しでも再生したら間違い無く血を吐いて崩れ落ちていただろう。

 緑谷出久がホッと一息ついたら、肩に顔を乗せているメリッサが心胆が凍るような冷たい声をだしていた。

 

「ダレ?イマノヒト」

 

 その表情は能面が如し。

 

「異世界でお世話になった勇者様です」

 

 メリッサ・シールドは父の関係から富裕層とも顔を合わせることが多い。その付き合いの中にはトップモデルなどの絶世の美女もいたが、彼女らすら足元にも及ばない美女と緑谷出久が個人的な付き合いがあった事実が未だかつて無い激情をメリッサの心に抱かせていた。

 

「まあ、また今度ね」

 

 彼にとってあまり思い出したくない事なのだがこのままでは収まらないだろうから約束をしておく。彼女の緊張をほぐすためのことで行動不能になるわけにはいかないのだ。

 

「あ、ごめんなさい私ったら」

 

 そのことを彼女も思い出し、とりあえず二人とも落ち着いたようだ。

 

「けど約束よ。今の人のこと必ず教えてね」

 

 ドレス姿の可愛らしい上目遣い、男なら誰でも魅了されるであろう破壊力があるのだが、その目の奥の絶対に揺るがない感情に緑谷出久は息をのむのであった。

 

 そうして駆け抜けた先、制御ルーム前の開け放たれた保管室にて彼らは血にまみれ床に倒れ伏すサムを発見することになる。

 

 





 凄い今更ですが、休日の投稿は時間がランダムなります。書けたら上げる感じですね。
 現状、平日は前の日の夜書いた続きを仕事前に書き上げて投稿しています。


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55話 二人の英雄7 とおじさん

 

「サムさんっ!!」

 

 腹部から血を流し倒れ伏す彼にメリッサさんが慌てて駆け寄る。

 

「うう、博士を助け」

 

 僕も即座に彼を救うために回復魔法を発動する。血を多量に流してる場合は傷口を塞いでも輸血しなければ失血死する恐れがあるが、治療というより物質の創造に近い神聖魔法ならば問題はない。一応罠かと警戒もしていたが、傷の具合と彼の様子から大丈夫なようだ。

 

「サム、しっかりしてっ?!」

 

「お嬢様、ご無事でしたか。私はいいから博士を。デヴィット博士をお助けください」

 

 ヴィランに人質として連れていかれた二人。その知識と技術から博士の方を優先されたのか。

 

「でも、サムを放ってはおけないわ?!」

 

「いいのです、この事件は私のせいなのですから。私のようなヴィランはこのまま死なせてください」

 

 タルタロスと同等とされる堅固さを誇るI・アイランドへの侵入。それは内部から手引きした者がいたから可能だったのか。

 

「なんでそんなことを」

 

 罪の告白にショックを受けるメリッサさん。

 

「私は、あの偉大な研究が封印されることに耐えられなかったのです。博士との日々が無くなることにたえきれなかったのです」

 

 だから罪人として死なせてくれとサムは告げる。そしてサムのこの発言から僕は、今回の襲撃事件がデヴィット博士も関与しているのだと理解してしまった。だから彼は全ての罪を背負って死のうとしているのだと。

 

「貴方達に何があったかは分かりません。それでも僕は人として貴方を救います」

 

 それでも僕のやることは変わらない。

 

「何が真実であろうと、貴方はデヴィット博士ともう一度話さないといけないんだ」 

 

 分かり合えないまま終わるということが、どれだけ悲しいのか僕は知っているのだから。

 

「すいません、すいません、博士、お嬢様、すいません。私は、私は」

 

「サム」

 

「行こう、メリッサさん」

 

 傷は完全に治した、もう彼が死ぬことはない。

 本当なら拘束しなければならないだろうけど、泣きじゃくりながら謝り続ける彼をどうこうする気にもならず、必要も感じなかった。

 

「サム、私もパパを支えてくれた貴方を大好きだったよ。パパもきっとそう思っている」

 

 そう告げてすぐそばにある制御ルームに向かった。そこには暴行され傷つき拘束された警備員の方たちが無造作に転がされて、ヴィランは誰もいなかった。

 

「逃げたか、となると」

 

 メリッサさんが警備システムを再変更している間に警備員さん達の解放と治療を済ませる。

 博士達を連れてまで欲した研究、世界を変えるであろう技術を用いられたサポートアイテム、それを得た後の脱出路は空からだろう。

 

「ヴィラン連合の黒モヤがいなかったのがせめての幸いかな?」

 

 もっともそれがいたらここまで大々的な騒動を起こす必要はないだろうが。

 

「終わったわイズクっ!!」

 

「流石っ!!」

 

 何をやっているかチンプンカンプンな操作、僕一人だったら壊すしかなかったけど彼女は無事やりとげてくれたようだ。

 

「じゃあメリッサさんはここで待っていて」

 

「行くのね」

 

「ああ、それに。

 下から最高のヒーローが飛んでくるしね」

 

 パーティー会場は拘束の解除されたヒーロー達がいるから平気だ。

 ならば僕は博士を助けにいくだけだ。

 

 

 

「フン、まあいくつか手駒を失ったが成果は充分だな」

 

 損得で言えば圧倒的に得だと、アタッシュケースを撫でながらウォルフラムは言う。

 

「私を、殺せ」

 

「生きるだ死ぬだは力があるヤツだけが言えんだよ。お前みたいな頭でっかちにそれを決める権利はない」

 

 拘束され転がる博士、世界最高峰の頭脳を持つ商品を値踏みするように見る。

 

(とはいえ、相手はご都合主義みたいなクソッタレなヒーロー。保険はあるが備えはしておくか)

 

 商品に手を付けるのは彼の流儀に反するが、ヴィランの天敵オールマイトを舐めてかかって全てを台無しにするよりはマシだと判断した。

 

「博士を返してもらうっ!!」

 

 ホラ来たと、ウォルフラムが外を見ればそこには上空のヘリに飛びつこうとする緑谷出久の姿があった。

 

(餓鬼?いや雄英生とかいうヒーローの卵か)

 

 プロヒーローすら返り討ちにしてきたウォルフラムにとって子供など相手にならない。だがそれに手間取ってオールマイトが到着されては面倒だと、ヘリのドアを開け座席に控えていた使えない方の部下を掴み上げそこから放り捨てた。

 

「「「なっ!!」」」

 

「助けるよな?ヒーローだもんな?」

 

 咄嗟に抱きかかえて屋上に着地してしまう緑谷出久。ヴィランであれど助けられなければ批難されるのがヒーロー、ヒーロー自身の善性とヒーローとしての社会的立場ゆえの行動を、世界を股にかけるヴィランであるウォルフラムは熟知していた。

 

「外道が?!」

 

「不自由なもんだなヒーローは」

 

 馬鹿にするように鼻で笑い、ウォルフラムはヘリのドアを閉めた。

 だが、

 

「大丈夫だ緑谷少年!! 何故って!? 私が来た!!」

 

 世界で一番頼もしい声とすら称されるオールマイトの声が響き渡り、タワーの中から弾丸のように飛び出したヒーローがヘリに向かって突進する。

 同時に振りかぶられた右拳がヘリの装甲を貫通し、内部に侵入したオールマイトは親友を抱えて爆発するヘリから無事脱出した。

 

「親友は返してもらったぞ、ヴィラン!!」

 

 勝利宣言をするオールマイトを見ながらウォルフラムは憎々しげに呟いた。

 

「ち、大損だ」

 

 そして入手したサポートアイテムを装着するのであった。

 

 

 

「オールマイト!!」

 

「緑谷少年、そしてメリッサ、二人共良くやってくれた!!」

 

 親友を助けだしたオールマイトに駆け寄り二人の安全を確認する。

 

「ミドリヤ君、メリッサ、サムを見なかったかい?」

 

 辛そうな表情で博士は聞いてくる。

 恐らく博士はサムの遺体を僕達が見たのではないかと思ってしまったのだろう。撃たれたその時に居たのなら彼が助かるとは思えないからだ。

 

「治療したので無事です。だから安心してください」

 

 だからこそ僕はニッコリと笑う。すこしでも彼の心の暗雲が晴れるようにと。

 

「そうか、良かった。本当に良かった」

 

 助手が無事だという情報にホッとして力が抜けてしまい博士はその場に座りこんだ。

 

「パパ!!」

 

 屋上まで上がってきたメリッサさんがそんな博士を支えるように寄り添った。

 

「これにて解決。だね」

 

 と活動限界の迫るオールマイトが場を収めるような発言をしたが、

 ザンッ

 

「どうやらまだみたいですよ」

 

 突き上がった鉄柱、地面を破るように伸びてきた鉄のコードを顕現した光剣で切り裂きながら僕は言う。

 

「オールマイトの個性が減退してるから創り上げた研究だとほざいていたが、充分にトップレベルじゃねえか」

 

 周囲の鉄がまるで筋肉組織のように蠢き、ヴィランを中心に一つの形と成していた。

 

「まあいい、オールマイトをぶち殺せばそれだけで釣りがでる。その功績だけで世界中のヴィランが俺を歓迎するだろうよ!!」

 

 鉄を操る個性、その柔軟さと多様性と殺傷能力はセメントスすら凌駕する。

 セントラルタワーを構築するあらゆる鉄がヴィランを中心に集まり巨大な異形の塔へとなっていく。

 ヴィランの肉体そのもののように操れる武器であり防具であり砦だ。

 

「これがデイブの」

 

「パパの作った装置の力」

 

 絶句するオールマイトに、呆然と呟くメリッサさん。巨大なものの存在感はそれだけで人を圧倒する。

 

「行きます」

 

 だからこそ僕は足を踏み出した。

 

「「「?!」」」

 

 いつだってその一歩があるから前を見られるのだと、希望を信じられるのだと知っているから。

 闇の帝王が統べるヴィランの繁栄を我が身を削って終わらせた英雄を知っているから。

 絶望の世界で歩みを止めなかった人の、その背中を見てきたから。

 

「緑谷少年、私も」

 

「オールマイト、見ていてください。貴方の次代、ワンフォーオールの九代目、未来の平和の象徴の姿を」

 

「光剣顕現ー(キライドルギドリオルラン) 闇剣顕現ー(クローシェルギドリオルラン)」

 

 光と闇の二振りの魔法剣を両手に持ち、

 

「ワンフォーオール全開」

  

 託された個性をフルに発動し、僕は憧れの英雄達のように光を示す。

 

「異世界ヒーロー トレンドール。参る!!」

 

 

 紫電を纏ったヒーローの出撃。

 二振りの魔法剣が軌跡を描き襲い来る鉄柱と触手が如き鉄パイプを切り裂く。

 山すら断つ光剣、力の流れを切り離す闇剣、それは物量にて押し潰さんとする絶え間ない猛攻を容易く突破する。この状況において緑谷出久の助けとなったのは四代目の危機回避、その個性が魔法剣を振るうべき場所を教えてくれ、七代目の浮遊が足場なき道を踏み出させる。複数の個性の発動による戦闘は雄英高校の期末テストの経験が可能としていた。

 

(この一歩に、僕の歩んできた全てがある)

 

 二代目の個性、変速。

 反動のあるその個性を発動し、雨のように降り注ぐ鉄の槍の中をまるで時間が止まったかのような加速で走り抜け、中央の舞台が如き足場に君臨するヴィランを斬り伏せた。

 

「終わった、かな?」

 

 すっかり白みだす空を見上げ、緑谷出久は一拍遅れてやってきた個性の反動である激痛を感じていた。

 だが、

 

「保険をかけといて正解だったなあ」

 

 地獄の底から湧き出るような声が倒した筈のヴィランから聞こえてきた。

 

「?!」

 

「あの御方にすら教えてない俺の切り札。『肩代わり』の個性を持つマゾ豚野郎。はじめてだぜえ、ダメージを押し付けてもこれだけ衝撃がきたのはよお!!」

 

 叫びながら首筋に注射を刺し自身に薬品を注入する。

 

「あの御方から譲り受けた個性、デヴィット博士から奪ったサポートアイテム、最高品質の個性ブースト薬、これだけやって負けるわけがあるかあ!!」

 

 蒸気すら吹き出し膨れ上がるヴィランの肉体。その性能は脳無にすら劣らないだろう。

 

(不味い、反動で身体が)

 

 決着を急いでしまったがゆえの失策。神聖魔法を発動する時間は迫りくる拳の前に残っていなかった。

 

(即死でさえなければっ!!)

 

 たとえ半身が千切れても命が一滴でもあればそこから治療し戦える。鉄を巨大なスパイクと化して纏った異形の巨拳を、緑谷出久は意識を途切れさせずに受ける覚悟を決めた。

 

「ピンチはチャンス」

 

 その声は当たる筈だった一撃より緑谷出久に衝撃を与えた。

 

「最後の最後まで諦めない、悪足掻きをやめないその姿勢は嫌いじゃないよ」

 

 顕現した光剣を精霊魔法で加速した身体で振るってヴィランを吹き飛ばす。地面を何度もバウンドして転がるヴィラン。

 

「でもまあ、それは正道を歩んでこそであって」

 

 警備システムの解放により繋がるようになった電話。それによりパーティー会場で待機していたクラスメイトが呼んだ最強の切り札。

 

「お前はひたすらに見苦しい」

 

 異世界おじさんは其処にいた。

 

「何だ、何者だ貴様嗚呼ああ!!」

 

 叩きつけるように触れた屋上から先程より速度と量が増大した鉄柱群が押し寄せてくる。それを更に顕現した闇剣を光剣と交差させ、発生した対消滅のエネルギーにより打ち砕く。

 

「ただのおじさんだよ。異世界帰りのな」

 

 その信じがたい光景にその場の全員が呑まれる中、異世界おじさんは動けるまで回復した緑谷出久に目配せする。

 

「これで」

 

「終わりだあっ!!」

 

 二人の異世界帰りの魔法剣がウォルフラムを同時に切り裂き、この騒動は長い夜はようやく明けたのだった。

 

 オールマイトは頼りになる後継者のその輝ける可能性に微笑み。

 デヴィット・シールドはオールマイト以来のヒーローの輝きを見つけたのだった。

 世界に希望は、闇を切り裂く光はあったのだと。

 

 

 

 そんな騒動を終えて翌日。

 I・アイランドのなかにある湖のそばのテラスで、美味しそうな肉や野菜が鉄板グリルの上でジュージューと良い音を上げて焼かれていた。

 

「さぁ食べなさい!」

 

「いっただきま~す!!」

 

 オールマイトの奢りでバーベキュー。サー・ナイトアイが知ったら嫉妬で狂いそうである。

 集まったA組の食いしん坊達が競うように飛びかかる中で、緑谷出久は一歩離れて見守っていた。

 昨夜の騒動、雄英生達ととある一般人により解決した事件は様々な要因の結果、真実を隠して発表されることになった。

 そして、彼らの活躍を労うためと延期したI・エキスポの代わりにI・アイランドに滞在している雄英高校生達のためオールマイトがバーベキューをご馳走することにしたのだ。

 

「私も出しましょうか?」

 

 焼けるそばから消えていく肉に、大人である異世界おじさんが費用について申し出る。流石に一人で出すにはあまりにも高額だ。

 

「いや、貴方にはお世話になったからね今回は私に出させてください。何せ私は、ナンバー1ヒーローで!! 緑谷少年の師匠で!! 塚内君の一番の親友!! ですから!!」

 

 もっともオールマイトは事実上初対面(ストーキングはノーカン)のおじさんにやたらと張り合っているようだが。

 昨夜ヴィランと戦い無事撃退した爆豪と轟と飯田は消耗もあってか肉にがっつき、それをみて男子達は負けるかと肉に食い付く。

 ひとしきり食べた女子達は食い気よりも興味が勝り同席したミッドナイトを囲みしきりとおじさんとの関係を尋ねたりしていた。

 

「緑谷は食わねえの?」

 

 あまり食が進んでいない緑谷に上鳴が聞けば。

 

「生肉は苦手だから、火が完全に通るのを待っているだけだよ」

 

「あー、牛肉とか皆赤くても食うからな」

 

 ならペースがゆっくりでも仕方ないかと納得する。

 

「つーかなんで駄目なんだ?珍しい」

 

 と続けて砂藤も聞く。

 緑谷はトラウマの一つを思い出して暗い笑みを浮かべながら答える。

 

「グランバハマルでおじさんがさ、食べ物にいた寄生魔獣に体内から食い破られたことあってね。以来生肉というか完全に火が通ってない食べ物は無理なんだ」

 

 お刺身も食べられないよと煤けた表情で言う。

 

「「異世界ネタの逆飯テロ止めろお前、聞いたこっちが悪いけど」」

 

 なお複数経験している当の本人は欠片も気にしないでまだ赤い牛肉をぱくついてたりする。

 ただでさえA組生徒達から興味深そうに見られておじさんはさらに注目を集めるのであった。

 

 宴もたけなわ、盛り上がるバーベキュー会場から離れ、昨夜の激戦地であるセントラルタワーを見る。青空の下、崩れた上部が目立っていた。

 

「イズク」

 

 そしてそんな緑谷出久にデヴィット博士とメリッサが声をかけた。回復魔法で彼らにできた傷は全て治してある。

 

「サムが全ての罪を背負ったよ」

 

 デヴィット博士が告げたのは事の顛末。昨夜の個性増幅装置の奪取を目的としたI・アイランド襲撃事件は彼を主犯として決着してしまったのだ。あまりにも早いその決定には他にも理由があった。

 

「そして私もI・アイランドから追放だ」

 

 ヴィランのリーダーであったウォルフラム。ヤツは闇の帝王と繋がりがあり、闇の帝王はデヴィット・シールド博士の個性増幅装置の存在を知っている。

 その事実はI・アイランドを治める上層部を怯えさせ、狙われる要因である博士の追放に踏み切ったのだ。

 

「まあ多少の猶予はあるから近いうちにだね」

 

 だがサムの叫びを聞いた博士はどこか納得したような気分で受け入れていた。

 

「そうだね、せっかくだし日本の雄英高校で働くのも悪くないな、彼処なら警備も万全だしね」

 

 ハハハと笑う博士。

 その知能故に狙われることに彼は慣れているのかも知れない。

 

「ありがとうミドリヤ君、僕は新しい輝きを見つけたよ」

 

 そう言ってデヴィット博士はオールマイトの方に向かっていった。

 そんな彼に僕はなんと言ったら良いのかまるで分からなかった。

 

「ねえイズク、気にしているの?」

 

「結局おじさんに助けられてしまったし。サムさんのこともあるからね」

 

 サムは悪人では無かった。

 ただままならない現実に出来ることをしようともがいていたのだ。

 

「マイトおじさまもそうだった。いつも哀しみを抱えて前へと進んでいた」

 

「だから眩しくて憧れるんだよね」

 

 遠いその背中を。

 

「イズクはマイトおじさまの後継者なんだよね?」

 

「うん、あの人から個性と平和の象徴を託されたんだ」

 

「だったら私も、私もね」

 

 メリッサ・シールドはここに来るまで何度も頭の中で練習していたその言葉を口にする。

 

「いつかパパとマイトおじさまの関係のように貴方を支えるパートナーになってみせるから」

 

 決意を込めてそう宣言した。

 

「うん、期待している」

 

 

 

 儘ならぬ現実が人を闇に落とす。

 だが歩き続ける限り、足を踏み出し続ける限り、人は何度でも光を見つけることができるのだろう。

 

 

 





 オリヴィラン紹介及び補足。

 ヴィラン名『マゾヒス豚』
 個性『肩代わり』
 一日一回一人を対象に、その対象の細胞を食べることで対象者のダメージを自身に移すことができる。
 外見は全身ラバースーツを着用した太った男性。
 極めて本人にメリットの無い個性を本人の性癖のおかげで強力なサポート能力と化していた。
 オールフォーワンに奪われて複製されたら厄介な個性だったが、当人が気持ち悪いから触れないかもしれない。
 なお距離が関係無い個性のため作品内ではウォルフラムのアジトにて痛みに悶えていた。
 元ネタはリモンスターという小説にいたりする。
 
 


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56話 二人の英雄 その後。

 
 独自設定ありです。



 

 嫉妬。

 他人を羨ましく思い妬むこと。

 他人が自らより優れ、自分より良い状況にあることを許容できない、そんな気持ち。

 それは時にひどく攻撃的になり、的外れな行動をとる場合がある。

 それは、自分は門前払いされたのに別の女の子は自室に招いた男を氷結封印させたり、自分は借金してまで買い戻した指輪を別の男性にあっさりと渡されて自らの魔力で大地を砕いたり、或いは別の女性と混浴露天風呂に入っているからと結界を打ち抜く遠距離狙撃をくり返したり、など多岐に渡る。

 そしてそんな感情とは無縁でいられない一人の女性がいた。

 彼女の名は十八禁ヒーロー ミッドナイト。本名 香山 睡。

 ヒーローにして教師である彼女とて意中の相手、想い人の前では一人の女であり恋する乙女、ゆえに嫉妬という感情とは無縁ではいられなかった。

 いつも想い人の心を占有する女性を許せない程に羨ましくて妬んでしまう、その感情がやがて憎悪から殺意に至ってしまうほどに。結果溢れんばかりの思いが実際の行動に移るまでそう時間はかからず、想いが深いがゆえに遂には殺害まで決意させてしまった。

 そう、だからこそ彼女は、香山睡は今日もまた激情のままコントローラーを握りしめ、

 

「七瀬楓ーっ!!」

 

 憎き恋敵を討ち滅ぼす、愛のエイリアンソルジャーとなるのだ。

 

「うん、何をやってるの睡さん」

 

「間違ってはいませんよね、ゲームのキャラクターではありますが」

 

「しかも殺意は歴戦の戦士レベルで本物だよ」

 

 それを呆れながらも見守る三人。

 だがそのゲームのキャラクターが、彼女の想い人が涙を流しながら語る最愛の存在であることも揺るぎない事実なのである。

 

「昔の女がいつまでも、いつまでも、いつまでも陽介さんの心に居座ってーっ!!」

 

「昔の女って、いや確かに色々な意味で事実その通りですけど」

 

「グラフィックがでしょうか?」

 

「ハードじゃない?」

 

 どちらにせよ想い人である男性にとっては現役の好きな人である。

 

「今日こそは貴女を最短記録で打ち倒してみせるわっ!!」

 

「「「普通にゲームしてるだけだこの人」」」

 

 

 I・アイランドの騒動が終わってから数日。

 一人の恋する乙女の殺意と嫉妬のたっぷり籠もった叫びが蝉の鳴き声を掻き消す程に夏の日差しの下で響き渡る。今日もニホンバハマルは平和です。

 

 

 

「「「楓ーっ!!」」」

 

 場所は移って隣室。

 僕、緑谷出久は藤宮さんと塩崎さんをミッドナイトこと香山睡さんの部屋に置いたままおじさん宅、正確には敬文さんの家に移動していた。

 そこには知り合いが一人加わっているからだ。いや知り合いと言ってもつい先日知り合ったばかりの人物であるのだが。

 彼の名はデヴィット・シールド。

 ノーベル個性賞を受賞し、個性研究のトップランナーであり、先日の騒動でI・アイランドから追放されてしまった天才発明家だ。

 先日のI・アイランドの騒動による追放に当たりちょうど取り組んでいた研究が各国政府により禁じられ、ラボを封鎖されていた彼は引っ越し準備にそれほど手間取りはしなかった。しかし娘であるメリッサ・シールドは研究室の片付けと転入手続きに大忙しとなったので、手の空いた彼は一足早くこれから住む場所の下見に来たのだ。無論I・アイランドに残っている娘の警備は万全だ、追放を決定したとはいえ上層部とて苦渋の末であり、これ以上のヴィランの狼藉など許せないのだから。

 そんなデヴィット博士(お義父さんでも良いよと何故か言われた)を護衛を兼ねて僕が案内することになり、本人の希望もありI・アイランドで助けてくれたおじさんに会いに来たのだ。

 最初は丁寧な挨拶から異世界についての話しと珍しく真面目モードで接していたのだが、博士がおじさんの部屋にあるメガドライブを見て目の色を変えてしまったのだ。どうやら博士も重度のセガユーザーであったようで、おじさんと二人で異世界話そっちのけでメガドライブの電源をいれてしまったのだ。

 

「ヒーローに興味のない僕も知っている人なんだけどねデヴィット博士」

 

「ここ数年は特に忙しくてゲームとか出来なかったようですから。オールマイトは日本だしゲームしない人ですから」

 

 どちらかというと外で体を動かそうってタイプだからなあオールマイト。

 異世界の方が好きな敬文さんとしては不満気味だが、新しいセガ友に喜ぶおじさんの姿に何も言わない。

 しばらくしてから疲れ切った顔でコーヒーを飲みにきた塚内さんも加わり、オッサン三人並んでメガドライブをプレイしていた。

 

「ああ楓、せめて俺の手で」

 

「今日もまた僕は最愛の人を手に掛けるのか」

 

「その哀しみが僕らの糧なのさ」

 

 ガチ泣きしながら哀のエイリアンソルジャーと化すオッサン達。

 異世界おじさん、エリート警官、天才発明家の心は今一つになっていた。

 

「というか博士の場合は平気なの?奥さん亡くなっているよね」

 

「メリッサ(呼び捨てにしてと頼まれた)に見せて貰った写真だと亡くなった奥さん、七瀬楓にそっくりでしたよ」

 

「うん、業が深いなあ」

 

 流石にゲームのキャラと重ねて接していたわけでは無いようですけどね。

 博士は今後、根津校長と同様に雄英高校に自宅を用意して住むらしい、一度突破されたがアレは例外中の例外で雄英高校が日本最高峰の警備であることは事実だからだ。あと此処に来たければプロヒーローである香山さんが送り迎えしてくれるようだし。

 

 夏休みの一日はこうして過ぎていった。

 デヴィット博士の新しい日常はそう悪くない形でスタートした。 

 ちなみに僕も敬文さんと一緒におじさんにエイリアンソルジャーをプレイさせてもらったけど、えんえんと大ムカデに殺されて辛かったです。

 というか武器選びからクリアできる可能性がゼロになるとかエグ過ぎです。

 もうしばらくしたらメリッサも此処に加わることになると思うと今から楽しみになってきます。

 あと、おじさんがクーラー代わりの冷気魔法で世界を滅ぼしかけたのでしっかり叱っておきました。

 

 窓の外で泣きながらハンカチを食いちぎっているオールマイトも中に入ったら良いのにと思いました、暑いでしょベランダ。

 



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57話 雄英高校見学、までいかない。

 
 独自設定ありです。



 

「ケロ、お茶子ちゃんも学校で自主練かしら?」

 

 夏休み中、雄英高校へと向かう道の途中で蛙吹梅雨は同じクラスの麗日お茶子と遭遇した。

 

「うん、梅雨ちゃんも?」

 

 雄英高校は夏休み中でも基本的に開放されている。自主練に施設を使用する生徒、部活動に参加する生徒、早くも文化祭に備えて発明品を作成する生徒など多くの者が利用するからだ。また三年のインターンなどもある、急なトラブルがあっても対応できるよう、プロヒーローにして教員である彼ら彼女らは学校に待機しているのだ。

 

「ケロ、水中の訓練は学校の施設でしなさいと連絡されてるの」

 

 蛙吹梅雨のような水辺での活動を得手とする者は自主練としてプールや川や沼で行う者が居る。だがいかにヒーロー科生徒とはいえ危険であるため、学校の施設を使用するよう通達されているのだ。

 

「うちはそれだけじゃないかな。夏はアパートにいてもクーラーで電気代かかるから学校に居た方がお得やねん」

 

 そして夏場は彼女のような理由で雄英高校に集まる生徒も少なくない。遠方からの入学で実家を離れ一人暮らしする生徒は多い。彼ら彼女らにおいて長期休みとは楽しみであると同時に苦労が増える期間なのだ。特にまだ一年目である者は実家ほど快適ではない借家で一人過ごすのは苦痛にも感じてしまうのだ。

 

「バイトでもしたらええけど、ヒーロー科で普段は出来んし親のサインもいるからね」

 

 濃密なスケジュールを組まれている雄英高校ヒーロー科生にバイトをする余裕のある者はいない。例外としてI・アイランドの件があるがアレとて数日足らずだ。勉学面の予習復習に個性を伸ばすための自主練で平日は不可能であるし、土日とてそれは同じである。

 

「憧れもするけど大変ね一人暮らしも」

 

「いや梅雨ちゃんは弟妹の面倒を見とるやん」

 

 とはいえ蛙吹梅雨のように実家暮らしで多忙な者も居る。事情は人それぞれなのだろう。

 

「そういえば緑谷ちゃんが今日学校案内をするとか言っていたわね」

 

「ああ、最近こっちに引っ越してきたメリッサさんに腕を組まれて鼻の下を伸ばしているイズク君」

 

「ケロ、私思ったことなんでも言っちゃうの。緑谷ちゃんの鼻の下は一ミリも伸びて無いし反応もまるで無いからむしろメリッサさんがかわいそうになっているわ」

 

「はは、なんやろなあの十六歳らしからぬ悟り開いたような人間性」

 

「間違いなく異世界おじさんの影響ね」

 

 緑谷出久の女性に対する無反応ぶりには、他者の心情を察することに長けているお姉ちゃん気質の蛙吹梅雨にはなんだかなーと言う気分になる。

 まるでラブコメのような騒動は見ていて愉しいが、知り合いの娘達が振り回されているのはよろしくない。

 

(そろそろガツンと言うべきかしら)

 

 素行を注意しようかと思う蛙吹梅雨だが、それをしたらそれをしたで明後日の方向にやらかすのではないかという危惧と心配もあるのだ。

 

「塩崎さんなんか近所やし、メリッサさんも頻繁に会っとるし、夏を満喫しすぎやん。ウチもなんかしたらええけど思いつかんねんどないしよ」

 

(でもこのままだとお茶子ちゃんが病みそうなのよね)

 

 二人とは異世界おじさんの自宅に行っているという明確な差が出来てしまい麗日お茶子は焦り気味なのだ。だがクラスメイトの知り合いである(変な)おじさん宅に一緒に行くのは割と普通な日本人である麗日お茶子にはあまりにもハードルが高いのだ。

 

(どうしたらいいものかしら?)

 

 塩崎茨ともメリッサ・シールドとも良き友人であると思っているので麗日お茶子に過度に肩入れをしたくない蛙吹梅雨だが、周回遅れ気味で病みそうな友人を放っておくのも抵抗があるというものだ。 

 

「ねぇねぇお姉ちゃん達、雄英高校の人?ちょっとそこまで案内してよ」

 

 そんな(ヤバめな)ラブコメに思考を割かれていた二人に話しかけてきた人物がいた。

 どこぞの対化物対吸血鬼機関本部を襲撃した片割れのような声をした柄の悪い風貌の赤毛の男。彼はズケズケと二人に近付き、逃さないとばかりに進行方向を塞ぎながら馴れ馴れしく話しかけてきた。

 

「え?」

 

「ケロ?」

 

 悪質なナンパにしか見えないこの状況。本物のヴィランとも遭遇、戦闘を経験したことのあるヒーロー科生の二人であるが、未だに十六歳の少女でしかないがゆえに微かな怯えを抱いて硬直してしまうのであった。

 

 実際は約束した待ち合わせの場所まで一人で大丈夫だと一緒に行こうとする姉の手を振り払った小学四年生の男の子が道に迷ってしまい、泣きそうなのを堪えていた所なんとか見つけた雄英高校の制服を着た知らないお姉さん達に勇気を振り絞って声をかけた状況なのだが。それを藤宮千秋君の外見から察するのはあまりに困難なのであった。

 心配した姉から連絡を受けた待ちあわせ相手である緑谷出久が見つけて駆けつけるまでこの噛み合わない状況は続くことになる。

 

 





 今話このオチがやりたかっただけかも。


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58話 (見た目アレな)小学生の雄英高校見学

 

「うえーん、怖かったよーイズク兄ちゃん」

 

「もう、だからお姉さんと一緒に来なさいと言ったでしょ」

 

(見た目がアレ過ぎて異様な光景や)

 

(緑谷ちゃんがDQNに絡まれているようにしか見えないわ)

 

 以前藤宮さんから頼まれた弟である千秋君の雄英高校の見学と動画撮影。待ちあわせの場所に来ないなと心配していたら駅から一人で飛び出したと藤宮さんから連絡がきた。彼の外見からトラブルに巻き込まれる心配があったので慌てて探していたら、自主練のために校舎に向かっていた梅雨ちゃんと麗日さんと一緒に居たのだ。

 正直この二人で良かったと心から思う。

 千秋君は精神年齢は年相応だけど見た目のせいで誤解されやすい子で、僕が知る中でも面倒見の良いこの二人ですらタチの悪いナンパだと思ってしまったようだ。

 だがもしこれが別の雄英高校生だったら下手したら暴力沙汰になっていた可能性もある。というかさっきの状況にしても正義感の強い雄英高校生なら二人を助けようと割って入りかねない。それぐらい千秋君の外見と狙ったかのような発言は誤解されやすいのだ。

 

「ほら男の子だから泣き止むの、お姉ちゃん達にもお礼と自己紹介をするんだよ」

 

「うん!!はじめまして藤宮千秋、小学四年生です。迷子の僕の話を聞いてくれてありがとうございました」

 

「え、ええよ何もしてへんし(見た目の印象と違って良い子やん)」

 

「そうよ、ちゃんと自己紹介できて偉いわね(弟の五月雨と同い年なのね)」

 

 誤解がとけて良かった。

 

「じゃああと少しだから行こうか。

 ところで千秋君、梅雨ちゃんも麗日さんも雄英体育祭で活躍してたんだけど覚えているかな?」

 

 大した距離じゃないから手を引いてあげながら歩く。傍から見たら連行してるように見えるかもと不安になるが、それ以上に千秋君が心細いだろうし。

 

「ごめんなさい、体育祭は見てないの」

 

「そうなの?アニメとかと時間がかぶってたのかな」

 

「そうじゃなくて、殴るとか壊すのを見るの怖くて。血も流れてて、お兄ちゃんお姉ちゃん達も痛そうだし」

 

(優しい子や、でも見た目)

 

(ギャップが凄いわ、本当に)

 

「そっか、それは見るの怖いよね」

 

 実際こういった考えの人は少なくない。この国でヒーロー達の武装が控え目なのも武器が暴力の象徴であるからだ。ベストジーニストを筆頭とした拘束タイプ個性のヒーローが支持されているのもこれが理由の一つかもしれない。 

 

「そういった理由なら緑谷ちゃんはアウトね」

 

「怪我に関しては自分だろうとヴィランだろうとお構い無しやもんね」

 

「生きてさえいれば治せるんだからよくない?」

 

 死ななきゃいいじゃんという考えが刻みつけられているのは否定できないけど。

 

「ケロ、だったらどうして雄英高校の見学をしたいの?」

 

 梅雨ちゃんがそう尋ねると、

 

「皆が知りたがっている雄英高校の事を僕が教えて上げるんだ!!まだ50人だけど登録してくれてる人もいるんだよ」

 

「(学校から許可は得ているの緑谷ちゃん?)」

 

「(通路は侵入に利用される恐れがあるから駄目だけど施設は大丈夫だって。チェックは必要だけど)」

 

「それは凄いなー」

 

「おじさんに比べたら全然だよ。ホラこのメスなんて良くない?」

 

「(この顔でメスとか誤解されるわあ)ええカブトムシやね」

 

 そんな雑談をしながら校門を通る。

 雄英バリア、校門の封鎖を試しに起動させてみると千秋君は男の子らしく目をキラキラさせていた。

 予め用意してある許可証を千秋君の首にかけてやり、施設見学は始まった。

 

「ここはグラウンドβだよ」

 

「うわあ、街だ!!学校の中に街があるよ!!」

 

「ビルの中に潜入したり、中にいるヴィランを対処する訓練をするね」

 

「スッゲー!!」

 

「そういえば雄英高校は凄いんやね」

 

「ケロ、私達はすっかり慣れてもう驚けないわね。初日のインパクトも強過ぎだったもの」

 

 千秋君の素直な反応に自分もそうだったという懐かしさと慣れてしまったんだなと自分が変わったことを自覚した。あと雄英高校がぶっ飛んでいることも。

 

 

「そしてここが、ウソの災害や事故ルーム。略称は色々怖いから言わないよ」

 

(ネットはまずいよね)

 

(来るわね権利団体)

 

「うわあー、(ピーピーピー)みたい!!」

 

 だから略称はまずいって。

 

「プロヒーローの13号が考案した場所で、あらゆる事故や災害が想定されて体感できるよ。僕達はここでヒーローにおいて大切な救助訓練を学ぶんだ」

 

「得手不得手は人によってあるけど、皆真剣にやっているのよ」

 

「専門のヒーローもおるけど、ヴィラン退治よりこっちが重要っていう人もいるんや」

 

「スッゲー!!ヒーローって戦士でありながら救助隊なんだ!!」

 

 まあ本職が到着するまでの繋ぎだと割り切っているヒーローも少なからずいるけどね。

 

 他の施設にはバスで移動するが、敷地内にバスだとこれまた千秋君ははしゃいでいた。こういうのを見ると改めて雄英高校の異常さが分かるよね。

 

「ここは、トレーニングの台所ランド。略称は雄英高校が潰れかねないからマジで止めてね」

 

「そうだね、(ピーピーピー)ランドと略称が同じだもんね」

 

(狙ってるとしか思えへんけど)

 

(私達の方が心配になるわ)

 

「雄英高校の教師であるプロヒーローのセメントスが考案した施設で、彼の個性であるセメントをフルに使えるんだ。それで生徒一人一人に合わせた地形や物を用意してくれるよ」

 

「必殺技の訓練とかは皆ここを利用しとるよね」

 

「うちのクラスの男子達は最近入り浸っているわね」

 

 

「魔闘凍霊拳!!」

 

「霊丸!!」

 

「「百パーセントだあ!!」」

 

 声の方を向けば、轟君、かっちゃん、切島君、砂藤君が必殺技練習に励んでいた。

 

「打撃と同時に冷気を打ち込むのは悪くないと思うけどどうだ爆豪?」

 

「ああ氷塊を叩き込むより回避しにくいから悪くねえ。テメェの身体能力は高いから格闘技術の伸びしろはまだまだあるしな。周囲に被害が出ねえのも良い」

 

「くっそー、戸愚呂弟の見た目しか再現できねえ!!」

 

「俺は反動あってサイズぐらいだ、やっぱり下地の格闘術を学ぶべきか」

 

 

「スッゲー!!お兄ちゃん達が必殺技を生み出しているんだね」

 

(いや生み出すというか、パクリだけど)

 

(嵌っている漫画の必殺技を再現しているだけなんよ)

 

(強力かつ実用性もあるからタチが悪いわ)

 

 何してんだろうね彼らは。

 いや普通の学生もリスペクトするヒーローの技を参考にする場合が多いけどね。

 凄い凄いとはしゃぐ千秋君に水を差すわけにはいかず練習に励む彼らからソッと目をそらして、トレーニングの台所ランドを後にした。

 

 

「ねえ、イズク兄ちゃん僕お腹空いたあ」

 

「そろそろお昼時だし、ご飯にしようか。ランチラッシュの料理はなんでも美味しいよ」

 

「塩崎さんの手作り弁当ばかりのイズク君が言うてもなあ⤴」

 

「お茶子ちゃん、千秋君が怯えるから瘴気を放つのは駄目よ」

 

 学校見学の楽しみである学食体験。

 確かに僕はあんまり利用してなかったね。

 

「お茶子お姉ちゃんどうしたの?」

 

「さ、さあね?」

 

 まるで嫉妬してるみたいだけど僕が対象なんてありえないからね。黒い波動みたいなオーラが吹き出ているけど気の所為だよね。

 ちなみに夏休み中も利用者は多い、長期休みを利用した施設修繕の業者の方も来るので問題なく空いている。だが食券を買う段階で問題が起きてしまった。

 

「ねぇねぇイズク兄ちゃん。僕ね、お子様ランチ食べたい」

 

 食券を買う段階で千秋君が駄々をこねてしまったのだ。小学四年生でお子様ランチはどうだろうと思うが、まあ気持ちはわかるけど。

 

「ワガママは駄目よ。ここにあるメニューで我慢なさい」

 

「せやで、せっかくだから雄英高校のものを食べよう」

 

「でもお子様ランチ」

 

 二人が宥めてくれようとするけど、それでも納得してくれないようだ。

 藤宮さんからワガママ言ったらガツンと叱ってくれと言われているけど、楽しい思い出に叱られた記憶を残すのはなあ。

 

「はい、ランチラッシュ特製お子様ランチだよ」

 

 と右往左往していたら、ランチラッシュ直々に料理を運んできてくれた。

 

「「「ランチラッシュ!!」」」

 

「お客様の要望に応えるのは料理人の矜持、子供の笑顔を守るのはヒーローの誇りだよ」

 

 グッと親指を立てる料理人にしてヒーローの姿を見て僕達は、

 

(((ランチラッシュ、カッケー)))

 

 と感動してしまった。

 近くの席にお子様ランチを置くと千秋君は飛びつくように席についた。

 

「おっと、これは忘れちゃ駄目だよね」

 

 するとランチラッシュは懐から雄英高校のマークの入った旗をプスリとプリン型に盛られたチキンライスに突き立てた。

 確かに旗があってのお子様ランチだよね。

 

 なおこの一連の流れをネットに投稿したところ、ランチラッシュのお子様ランチは全世界の子供達の憧れとなり、さらにランチラッシュのビルボードチャートの順位もグンと上がるのだが、それはまだ先の話。

 僕達三人もランチラッシュが用意してくれたお子様ランチを堪能して、お昼ごはんは終わるのだった。

 

 

 

「今日はありがとうね。お兄ちゃんお姉ちゃん」

 

「本当にありがとうね。ウチの弟の面倒みてくれて」

 

 雄英高校見学も終わり、駅まで迎えにきた藤宮さんと合流する。

 

(似てない姉弟や)

 

(ウチはそっくりだから余計に違和感あるわ)

 

(藤宮さんの小学生時代を思い出せば違和感ないけどね)

 

 表情から伝わる二人の本心。けど流石に藤宮さんの昔の姿を見せる訳にはいかないからな。

 

「お兄ちゃんお姉ちゃん、立派なヒーローになってね!!」

 

 大きく手を振る千秋君の応援の言葉に僕達はさらにやる気が増すように感じたのだった。

 

「いやでも見た目が」

 

「ケロ、駅で目立っていたわ私達」

 

「きっと中学生になったら美少年に進化するから、お姉さんみたいに」

 

 





 ちなみにこの日は、塩崎さんとメリッサさんはミッドナイトのところで男心を知るためサ○ラ大戦をプレイしてました。


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59話 緑谷出久の絶望


 もう少し引っ張ろうかなと思ってたネタです。



 

 藤宮千秋君(信じがたいが小四)を雄英高校案内してから数日。千秋君の動画は登録者数を数万倍に跳ね上げ日本というか世界規模で空前絶後のお子様ランチブームが到来してしまった。

 今まで子供に大人気ヒーローといえば洗濯ヒーロー ウォッシュであったが、それに匹敵するレベルでクックヒーロー ランチラッシュの名前が上がりつつある。お腹を減らした誰かに食べ物をあげる、その生物として根源的でわかり易い善意は誰の心にも響くのだろう。

 ちなみにお子様ランチにロマンと憧れを抱くのは中高年の方達もらしく、闇の帝王全盛ヴィラン最盛期ゆえに憧れても手を伸ばせなかったお子様ランチを誰もがこぞって注文しているらしい。

 中にはお子様ランチをツマミにして郷愁に浸りながらお酒を楽しむ猛者もいるとか。 

 ともあれ、発案者である千秋君、軽い気持ちで引き受けた僕、子供のやることだしと許可した雄英高校の三者の予想してなかった大反響が起こったのであった。

 

 そんな日々の夏休み、ヒーローイベントに参加したらむしろお客が僕に群がってしまうのでそれとなく雄英高校経由で出禁をくらった僕は設備の揃っている学校の訓練場で鍛錬に励んでいた。

 週の半分はおじさんの所でゲーム、それ以外は雄英高校で自主練、中々充実した夏休みだ。

 そんな中、なんか避けられ気味な青山君を除いて一年A組プラス塩崎さんとメリッサが教室に集まっていた。自主練参加者は自主練後にこうやって集まるのは珍しくない。けどそれぞれ予定のある身でこんなに揃うのは結構珍しかった。

 持ち寄ったお菓子やジュースを摘みながら自主練の疲労を癒やしていると峰田君がせっかくだからとある提案をしてきた。

 

「僕の記憶上映?」

 

「おう、異世界ライフはハードでデンジャラスでバイオレンスでスプラッタでスプラッタなスプラッタだけどなんだかんだで面白いからな」

 

 スプラッタを3回繰り返した、確かに否定できないけどね。

 

「あー、じゃあおじさんのマイルドなヤツから逝っとく?」

 

 おじさんのグランバハマルに転移してから一週間の記憶とか。

 

「いや、ここはあえて一番ハードなヤツを頼む。緑谷の一番辛い記憶を見ておけばあとはそれ以下。そうすればじっくりと異世界美女美少女の容姿と抜群なスタイルを楽しめるってもんだ」

 

「理屈はわかるけど、後半のセリフはキメ顔で言うことじゃないよね」

 

 キランって感じで言われても。

 

「まあいいじゃねえか、皆異世界には興味津々なんだぜ?青山は拒否ったけど」

 

 後ろでウンウンと皆が頷いている。

 

「まあ僕もおじさんの記憶を楽しんでいたから気持ちは分かるけど、一番ハード、辛い記憶かあ」

 

 色々心当たりはあるけど、神聖魔法覚えてから肉体の負傷は気にならなくなったんだよね。

 

「えっと、砂漠の地下迷宮で遭難した時かな、ジャングルの部族全てと敵対した時かな、トレントクイーンに求婚された時か、どれだろ?」

 

「そのうち全部見せてくれよ」

 

 一番の恐怖体験(おじさんに指輪をはめられた記憶)の記憶を消したみたいだけど、辛いとなるとどうなるやら。うーん、記憶の精霊に任せた方が良いか。

 

「記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 

『その日は月の綺麗な夜でした』

 

「なんかナレーションはじまってんぞ、どうした緑谷?って立ったまま白目剥いて吐血っ!!」

 

『今日は珍しく穏やかな一日。勇者パーティーであるエドガーさんライガさんそして憧れのアリシアさんにアーツや呪符作成を習い、奇跡的に命の危険も負傷もなく一日を過ごせたのです』

 

「半年間でどんだけ命の危険にさらされてたんだコイツ」

 

『そんな良い気分で眠りにつける幸せに浸っていると、コンコンと宿屋のドアを叩かれたのです。既に一度制圧したこの村で夜襲は無い筈ですが一体誰でしょうか』

 

「さり気ない一言が酷いから、制圧とか夜襲って」

 

『ちなみに昼間アリシアさんとToLOVEるで抱き合ったアンチクショウもといおじさんは現在ナマハゲより怖いエルフとそのまんま鬼ごっこのまっ最中です、ザマア』

 

「実はおじさんのこと嫌いだろ」

 

『ドアの向こうにいたのはアリシアさん、内密な話があるから外にでないかと言われました。その言葉にオールマイトにサインを貰った時以上の多幸感に僕は包まれたのです』

 

「緑谷少年んんんん!!」

 

「「「しゃーない」」」

 

『母とかっちゃんのお母さん以外人生で初めて優しくしてくれた美人のお姉さんであるアリシアさん。そんな彼女に僕は心奪われていたのですから』

 

(バキリ)

 

「机を壊さないのアンタら、つーかマジなの爆豪?」

 

「無個性差し置いてもガキの頃から気持ち悪めなヒーローオタクだったしな、目ン玉おっ開いて血走らせてブツブツ語り出すしよ。いじめられっ子だったのもあって女子は敬遠してたよ」

 

『月の輝く夜空の下で、照れくさそうに頬を染めるアリシアさん。つい視線のいってしまう整った唇からどんな言葉が紡がれるのか、僕の心臓は期待で張り裂けそうでした』

 

「わからんでもないな」

 

「男の子だもんなあ」

 

『豊かな胸に手を当てて深呼吸してから彼女はその言葉を言うのです、僕にとって絶望の一言を』

 

「?」

 

『ねえイズク君、君にお願いしたいことがあるの?クロキが私をどう思っているのか聞いてくれないかな?』

 

「ガハっ」

 

「懐かしいな、中学時代のラブレター」

 

「つーか誰だよクロキ?新キャラ?」

 

「おじさんの偽名らしいぞ、初対面の時は偽名しか名乗らんかったらしい」

 

『もうね十年以上の付き合いでね、確かに私の方が少しだけ年上だけど尊敬してるとかそんな感じだったけど、大分前から恋愛対象とかそんな感じに思ってて、そうそう初めて会った時もクロキったら凄くてね』

 

「エグい」

 

「鬼か」

 

「よかった(ホッ)」

 

『憧れの初恋の人が宝物のようにおじさんとの思い出を語るのです。両手のひらで慈しむように自ら想いを口にするのです。思い出はギロチンとなって首をはね、恋心は破城鎚となって体を穿ちます。彼女の語るおじさんとの日々は僕へと響くレクイエムでした。

 アリシアさん幸せそうで綺麗だな。

 血涙流しながら僕は叶わず終わった初恋に弔いの鐘を鳴らしその光景を見続けるのでした』

 

 沈黙。

 その場を支配したのはあまりにも重いそれだった。ブツんと切れた記憶再生の画面、立ったまま意識の無い緑谷出久を見てその場の者たちは微動だに出来ずにいた。一呼吸して比較的冷静な障子目蔵がポツリと呟く。

 

「確かに辛い記憶だが、求めたジャンルとは違うな」

 

「「「ほんそれ」」」

 

 やらかし気味な記憶の精霊の蛮行の被害にあった緑谷出久にA組のクラスメイト達と塩崎、メリッサ、あと途中参加のオールマイトはひたすら同情するのであった。そして同時に納得した、異世界に欠片も未練が無い訳だと。

 メリッサ・シールドなどはI・アイランドの時から気になっていた記憶なので、緑谷出久の初恋にして失恋を知れたことを前向きに考えようとしていた。過去の想いを癒やして支えてあげようと。

 そして、その場全員が緑谷出久の女性からのアプローチへのスルー具合にも納得した。

 そらこんな目にあったら異性からの好意を期待しなくなるわと。

 かくして雄英高校一年目の夏休みに新たな思い出がまた1ページ刻まれたのであった。

 

 後に轟焦凍がネタで始めた絵日記を見てお姉さんがドン引くのはまだ先の話である。

 

 





 緑谷君の初恋ネタはこんな感じです。
 ご期待に沿えたか不安ですが。
 ちなみに記憶を消さないのは、この時のアリシアさんが一番綺麗だったからです。


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60話 レッツナンパ?


 原作漫画が夏休みを一コマで終えたのもあってできるイベントはしたい感じです。ラブコメなら外せないイベント盛り沢山なのに。



 

 夏休み、せっかくの長期休みをおじさんと自主練と百足に殺され続ける(エイリ○ンソルジャー一面)ばかりなのも何なので、今日は私服で峰田君と遊びにでかけていた。転移ボーナスの学習も役に立たないエイリ○ンソルジャーの難易度は置いとくとして、こんな休日もありだろう。ちなみに誘おうとしたかっちゃんはミルコに首根っこ掴まれて空へと飛んでいった。年上美女とデートとは幼馴染はいつだって僕の先を行くんだね。

 

「なあ緑谷よ」

 

「どうしたの峰田君、エロいこと?」

  

 薄着だけど外は暑いね、まあおじさんが毎日魚の頭を精霊に捧げ続けないと世界が凍りつくと思えばこの暑さも尊く感じるけど。

 

「オイオイ、まるでオイラが常にエロいこと言ってるみてーじゃねーか。あってるけどよ」

 

「あってるじゃん」

 

「緑谷ってさ、あの異世界おじさんの記憶を見てんだよな」

 

「まあね、グランバハマル生活でおじさんの記憶と勉強と食事くらいしか娯楽なかったし」

 

 多分ボードゲームやトランプみたいのは向こうにもあったんだろうけど縁がなかったからなあ。魔法やアーツの習得も楽しかったけど命がかかってたから必死だったし。

 

「んでよ、異世界おじさんは17年もグランバハマルにいたからラブコメでToLOVEるな美味しいイベントにも遭遇してたんだろ?」

 

「あー、エルフの服を剥いたり、メイベルに膝枕されたり、二人と同じ布団で寝たり、アリシアさんと温泉で混浴したり、商会主さん(男)をお姫様だっこして空を飛んだりしてたね」

 

「最後は違うが、そんだけラブコメしててなんで帰ってきたんだあの人?」

 

「セガハードが無いからじゃない?容姿の問題もあったけど一つの場所に何日も滞在なんてしなかったし」

 

 というか商会主は当然だがあの三人ですら恋愛対象と認識してなかったからなあの人。

  

「だからよ、そんな素敵桃源郷な記憶映像をお前は脳内に刻みこんでるよなあ?」

 

 あ、峰田君が求めているのはそういうこと。でもいつだって現実は残酷なのよね。

 

「モザイク」

 

「へ?」

 

「記憶の精霊による最適化かなんかで素肌とか晒されたシーンは全部モザイクだよ。ぶっちゃけおじさん以外は全部モザイクだったとこもある、温泉とか」

 

「記憶の精霊様は青少年のささやかな願いと少しばかりの劣情とお前に厳し過ぎねえかっ?!」

 

 さらに僕自身は美味しいイベントとは無縁だからね、トレントクイーンのアレコレは自分の中に取り込もうとしてきただけだし。

 

「そんなんだから、おじさんの入浴シーンという一部の女性しか喜ばない映像くらいしか見れないよ」

 

「もはや苛めだよソレ」

 

 なんだよねえ。

 会話は聞こえてたからイチャついてる感じは伝わるけど姿形はまるで分からないし。

 

「それはそうと今日は何しに遊びに行くの?ヒーローグッズ購入?ヒーロー活動の野次馬?」

 

「いや男子高校生全員がヒーローオタクじゃねえからな?カラオケとかの発想が何故でない?」

 

「そういえば同い年の同性の友人と遊びに行くの小学生ぶりかも?」

 

「異性なら出かけたことがあることに嫉妬すれば良いのか、幼馴染とは本当に幼馴染なのかツッコめば良いのか分からねえよ」

 

 かっちゃんは中学時代は取り巻き的な子達と遊んでたからね、イジメを除いて内申下がることを避けながら。

 

「それだって雄英高校の入試を受けてからだよ。それ以降は塩崎さんが側にいたから」

 

「いつもピタリと付き従ってるよな、つーか入試からなのかよ」

 

「最近はB組の友人との付き合いも増えてきてるよ、僕も誘われるし」

 

「むしろそっちに混ぜてくださいお願いします」

 

「そのうちねー」

 

 と内容がズレてきたので改めて目的を聞いたら。

 

「ナンパだよナンパ」

 

「?」

 

「ひと夏の出会いを求めて弾けようぜ?」

 

 グッと良い笑顔で親指たてる峰田君だけど、はっきりいってさ。

 

「トレントモドキとブドウまがいがナンパに成功する筈ないから」

 

「テメェの自虐にオイラを巻き込むな。つーか誰がブドウまがいじゃい」

 

「えー、でもね」

 

「安心しろよ無策じゃねえ。きちんと専門家も呼んでるからよ」

 

「ナンパの専門家の時点でアウトじゃない?」

 

 それ女衒とか結婚詐欺師だよ。

 

「おーい、お前らー!!」

 

「大丈夫だって、上鳴だから」

 

「よりによってA組の三枚目代表じゃん。麗日さんにも声かけてスルーされてたよ」

 

「三枚目でもナンパ歴9年のベテランだぞ」

 

「小中とナンパ三昧なのかい」

 

 ま、友人と遊びにでるのも楽しいから良いかと手を振る上鳴君と合流したのだった。

 

 ちなみにその日の結果だが当たり前だがひと夏の出会いなんてあるわけが無く、マックでガチ凹みする二人を慰めることになった。上鳴君というベテラン(笑)のナンパ術はお姉さん方に鼻で笑われ、峰田君は一瞥もされずに素通りされた。

 僕も挑戦してみたけど、声をかけた女性が良い感じにカフェに誘えそうな段階になったら突然僕の背後を見て顔を青褪めさせて逃げていった。僕って向こうで仕留めたモンスターの怨霊でも背負っているのかな?

 

「やっぱりオイラ達に出会いなんてなかったのさ」

 

「なんでだ、なんでだよ、ハウツー本に書いてあった通りにやったのに」

 

「まあこれも高校生らしい青春だよ」

 

「「しょっぱいわあっ!!」」

 

 そんな二人と泣いたり笑ったりしながら今日を楽しんだ。雄英高校に入学したからこそ出来るようになったこんな日常を。

 

「「(それはそれとして途中から憑いてきた女子達に殺されないよな俺ら)」」

 





 本編進まなくてすいません。
 でもまだこんな日常をやります。


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61話 デート? とおじさん。


 注、ヒロイン追加ではないです。



 

 峰田君上鳴君とナンパしに行ってから数日。

 夏休み中だけど雄英高校で自主練に励もうとしたらドタドタと誰かが駆け寄ってきた。

 

「緑谷いたあーっ!!」

 

「よし、これで九死に一生を得たぜ!!」

 

「どうしたの二人共?」

 

 その人物達は峰田君と上鳴君。なぜかボロボロな二人は僕を見つけると安心したように息をはいた。

 

「何があったかは大体お前のせいだが」

 

「今はそれはいい」

 

「とりあえず何も言わずに」

 

「この映画のチケットを受け取ってくれ」

 

 とやたらと必死な二人はグイグイと僕に恐竜の映画のしかも4DXのチケットを渡してきた。

 

「映画か、なんか久し振り」

 

「そうかそうかそれは良かった」

 

「だからそれでもう一人だれか、女子とか麗日とか塩崎とかメリッサとか八百万を誘うんだ。俺達の命のために」

 

「あ、2枚ある。ならせっかくだしお金出すから三人でいかない?」

 

 ナンパの時もなんだかんだで楽しかったし。

 

「「それじゃあ意味ないから!!」」

 

「?」

 

「どうするよ上鳴、緑谷とのデートでなんとか繋いだ命が切れそうだぞ」

 

「まだだ、試合終了まで勝負はわからない。まだ俺達は終わってねえ」

 

 コソコソと話す二人の様子に、このチケットは男女のペアじゃないといけないのだと理解した。

 一緒に行きたい気持ちはあるけどそんな事情なら仕方ないよね。

 ガララ、と誰かが教室に入ってきた。

 入ってきた人は女子だ、なら彼女を誘おう。

 

「芦戸さーん、映画見に行かない?恐竜のヤツ」

 

「え、マジ?行く行くー!!」

 

「「なんでそうなるよお前ー!!」」

 

「「?」」

 

「ヤベえよ、試合終了したよ。緑谷から映画デートに誘われる状況にするからと繋いだ命が今切れたよ」

 

「まだだ、まだ囮作戦と生贄作戦とシャトル切り離し作戦が残っている」

 

「逃がすか、死ぬ時は一緒だ」

 

 顔を突き合わせとヒソヒソと話す峰田君と上鳴君。言われたとおり女子誘ったけど駄目だった?

 

「どうしたのあの二人?」

 

「いや僕も何が何だか」

 

 さっきから内緒話ばかりだし。

 

「しかしせっかく出かける機会なのに、親しい女子を選ばないとか緑谷どうなってんだ?」

 

「全く異性として意識してなくて全員友人として同じ立ち位置なんじゃねえか?」

 

「上鳴お前結局死ぬからってヤケクソになってね?」

 

「ふっ、でも一緒に死んでくれるんだろ峰田?」

 

「上鳴(キュンッ)」

 

 そしてなんかドラマやってるし。

 

「上鳴×峰田か、BLもたまにはゲテモノもありよね。美形ばかりだと飽きるし」

 

 そして腐った目を向けてる女子の存在に気づいて二人共。

 

「じゃあ映画に行こうか緑谷?」

 

 しばし見つめ合う二人を眺めていた芦戸さんだがすぐに飽きて僕の手を引く。

 

「何も今日じゃなくても」

 

「どうせ自主練だからいいじゃん、というかチケットが今日のヤツ」

 

「なんでそんなの渡したの二人共」 

 

「「死にたくなかったんです、死ぬけど」」

 

 まだ午前中だから今から行けば間に合うよね。

 

「えっと、じゃあ映画に行くけど。二人は本当に良いの?」

 

「「いいのいいの楽しんで来なさい、そして少しでも女心学んできて(必死)」」

 

 何かを受け入れた二人は快く僕達を送りだしてくれたのであった。

 

「んで何で緑谷と芦戸が映画デートすんのか教えてくれねえか漢らしくよお」

 

 ポンッと二人の肩に手を置いたのは怒れる硬い漢だったとか。

 

 

 

「芦戸さんエルフ居るから帰って良い?」

 

「それ個性社会だと差別になるから駄目だよ」

 

 一旦私服に着替えてから(僕の場合は魔法で直ぐだけど)辿り着いた映画館、そこには敬文さんと恐怖の象徴がいた。

 あのストーカーならおじさんおっかけて次元を越えてもおかしくないが、あまりにも早過ぎる。というか美醜感覚でモンスターの巣窟認識になる筈だけど大丈夫なのか?

 

「やっぱり男の俺がレディースデー使うのは違うかなーって。これよくない」

 

「あ、おじさんだ。ヨカッター」

 

 危うく他国まで逃げるトコだったよ。

 

「何で変身してるのセガおじさん」

 

「600円安くしたかったんだね」

 

「いやそれ普通に犯罪」

 

 思い留まって差額払いに行ったからギリなんとか大丈夫だよね?

 

「ねえ、なんか一緒に居た人がこの間見たアリシアさんみたいになってるんだけど」

 

「彼は甥っ子の敬文さん、多分精霊魔法を解除したからだね。変身魔法は強い魔法だから効果が消えるまで対象を移す形にしたんだと思う」

 

 おじさんの話だと精霊ってかなり手間をかけて魔法って形にしてるみたいなんだよね。結構面倒臭がるし。

 そしてまだ自分が女性になったと気づかない敬文さんに女性が話しかけていた。確かあの人は藤宮さんの友人かな?

 

「いや初恋の相手に無反応だね緑谷。てっきりまた血を吐くのかと」

 

「僕が出会った時はもっと年を取ってたから」

 

 それでも本人とはっきり分かるくらい見た目変わらないけどね。

 

「なんか揉むとかどうとか言ってるよあの人」

 

「女性化したからかな?だったら藤宮さんのを揉めば良いのにね」

 

「えーそれどんなラブコメ?」

 

「女性から向けられる好意を、本人トラウマのせいで気づかないラブコメ」 

 

「緑谷もそうだからね」

 

 鏡見ろやと芦戸さんは言うけど、なんのことだろうか?

 そして敬文さんは葛藤の末(アリシアさんの)胸を揉まない決断をしたみたいだ。良かった、知り合いを斬らずにすんだよ。

 戻ってきたおじさんに縋りついた敬文さんは早く戻して欲しいとお願いするけど、対話できるおじさんからしたら色々大変らしい。

 

「もう行く緑谷?なんか解決したみたいだし」

 

「そうしよっか」

 

 うん、というか前にも同じことやって貌の精霊に気に入られたとか言ってたような?

 まあついやっちゃうんだろうね、アリシアさん美人だし。

 あと僕達と同じように敬文さん達を見張っていた女性が心霊写真だとか騒いでいた。

 

「アレは?」

 

「阻害魔法の効果だね、心霊写真風になるのは知らなかったけど」

 

 そんな風におじさん絡みの騒動はあったけど、恐竜の映画は演出もあってとても楽しかった。

 今度は皆で来たいなと思いました。

 

 なお後日、切島君に芦戸さんとは何もなかったよなと焦った顔で問い詰められた。これは切島君が芦戸さんを気になっているなと気づきニヤニヤしながら何も無かったと教えてあげた。

 そして峰田君と上鳴君は何故かメイド服を着て自主練に参加していた、何があったんだろ?

 

 




 補足。
 峰田上鳴の二人は女子達に問い詰められて、映画チケットを緑谷に渡すからと許しをこいました。二人きりで映画に行けることにつられた女子達は開放しますが、緑谷が芦戸さんを誘ったため女子達+切島君にキレられました。その後切島君と組み手をして、メイド服で過ごすことで許されました。まあ彼女じゃないのにあまり騒ぐのもどうかと冷静になったので。
 映画の下りは、一度会話でやってしまいましたがもう一度やらかした感じでお願いします。


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62話 燃け尽きた先。

 
 すいませんシリアスです。
 これはこのタイミングでやらないと間に合わないので。
 原作改変、オリ設定あり、閲覧注意。



 

「出久君っ!!直ぐに来てくれっ!!」

 

 その連絡は突然だった。

 夏休み中のある日、学校での自主練を終えて自室でのんびりしていたらおじさんが切羽詰まった声で電話してきたのだ。同時に送られた場所は敬文さんのアパートではない別の所で、その様子から緊急事態だと判断して認識阻害の魔法をかけて飛空魔法で現地まで向かった。

 辿り着いた目的地はどこにでもあるような寂れたアパートで、鍵の開いたままのドアから入れば畳のうちに布団が敷かれ、そこに見たことのない男性が寝かされていた。

 酷い火傷、それが第一印象だった。その男性は焼け爛れた皮膚をパッチワークのように縫い付けた外見をしており、本人の意識が無いようでグッタリと布団に寝ていた。

 

「こちらの方は?」

 

「買い物の帰り道に具合が悪そうに道端で俯いていたから声をかけたんだ」

 

 おじさんらしい行動ですね(納得)。

 

「それで何でもないと言われたけど、顔を見たら火傷が酷くて心配だから病院に行こうと手を引いたら、個性なのか青い炎をぶち当てられそうになって反射的に打ちのめしちゃったんだ」

 

 おじさんらしい行動ですね(白目)。

 

「なるほど、だから神聖魔法を使って欲しいと」

 

「うん、とりあえず自首させようと塚内君に連絡したら、この人身分証もサイフも持ってないしヴィランかも知れないから此処でとりあえず様子みててくれって」

 

 このアパートは警察というか塚内さんの所持するセーフハウスの一つらしい。毎回ヒーロー達が警察署に集まるとヴィランに調査していると教えるようなものだから、秘密裏な捜査にはこんな目立たない拠点が必須なんだとか。また青い炎という高火力に対応できる施設が周囲に無かったことも理由の一つだそうだ、おじさん居たら鎮圧は容易だしね。

 

「事情は理解しました。ならどこまで治せるか分かりませんがやりますね」

  

 気絶に関しては問題無いけどこの火傷は酷い。個性の反動かな?自分の生み出す炎の熱で身体が焼けている、轟君が言ってたエンデヴァーの限界状態みたいな感じだろうね。

 僕が到着する前に訪れた塚内さんは血液とか指紋やらを採取して署で調べているみたい。少なくともオールマイトのサポートとしてヴィランに詳しい塚内さんでも覚えのない人なんだって。初犯の可能性もあるかな?でも一般人だったら炎タイプ個性でもこんな身体が焼けるまで個性を使用したりはしない筈だけど(公共施設を利用したら職員が止める)。

 

「頼むよ、刑に服す覚悟はできてるから」

 

 と穏やかな顔でおじさんは笑った。

 いや普通に正当防衛では?

 というかヒーロー何してたんだか。おじさんより先に動くべきだろうに。

 神聖魔法を正体不明の男性に使いながら僕はそんな風に思うのだった。

 

 

「おお、来てくれていたのか緑谷君」

 

「お疲れ様です塚内さん」

 

 身体の火傷もほとんど治り、黒く染めてあった白く変色していた髪も生来の色に戻っていた。継ぎ接ぎのように移植されていた皮膚も神聖魔法の効果で継ぎ目なく身体に溶け込んだ。再び個性を使っても皮膚の違いで火傷が目立つことはもう無いだろう。

 調査を終えた塚内さんがセーフハウスに戻ってきたのはそんな時だった。

 

「ご家族に連絡はついたかい?」

 

 そうおじさんが聞けば、塚内さんは首を横に振った。誰か判明しなかったのかな?

 

「誰だかはわかったよ、ヴィランでも無かった。けど詳しく調べてからでないと彼の存在はご家族に伝えられないな」

 

「家族まで分かったのにですか?」

 

 身分証まで持って無いなんて、ヴィランじゃないなら犯罪の被害者だと思ったのだけど。

 

「彼の名は、轟燈矢。数年前に山火事で焼死したナンバー2ヒーローエンデヴァーの長男さ」

 

 死んだ筈の人物がこうして生きている。その事実に僕とおじさんはある考えに行き着いた。

 

「「グランバハマルに行ってたのか?!」」

 

「なんでもグランバハマルのせいにしないの。普通にヴィラン犯罪に巻き込まれたと考えなよ」

 

 呆れた眼差しで言う塚内さんに、その可能性もありましたねと僕とおじさんは揃ってポンッと手を叩きました。

 

「ナンバー2ヒーローの身内絡みとなると社会に影響がでるからね。ヒーロー公安委員会が出張る前にある程度調べておかないと」

 

 もうエンデヴァーに連絡して丸く収まる問題じゃないのか。どんな経緯で数年間行方不明だったか知らないと

後で問題が起こりそうだからか。塚内さんによるとヴィランの繋がりなどを内々に調べていたヒーローが不審死したり行方不明になる事例はかなりあるそうだ。警視庁としてはヒーロー公安委員会の関与を疑っているけど、政治家からの圧力で有耶無耶にされるとか。

 次期ナンバー1ヒーローの最有力候補であるエンデヴァーをどうこうしたりはしないだろうけど、この燈矢という人を秘密裏に処分とかはあり得るのか。

 案外真っ黒なんだなあヒーロー業界。オールマイトは突っぱねられる実力と外国との繋がりがあるから無縁らしいけど(塚内さんにはオールマイトを制御するよう指示はされるとか)。

 

「けど、調べるって身元は判明したんだよね?」

 

 これ以上何を調べるのかというおじさんの疑問に、今まで何をしていたのかを記憶再生して欲しいと伝えた。

 

「明らかに治療されたのに関わらずエンデヴァーに連絡がいってないのはおかしいからね」

 

 轟君から個性婚までしでかしたクズと言われたエンデヴァーだけど、山火事の時に息子を助けようとして燃え盛る山に飛び込もうとしたのは事実だ。

 身元不明な大火傷の人物がいるなんて情報を聞き逃したりはしないと思う。ただでさえ常日頃から炎の個性だからと皮膚関連の病院関係者とは懇意にしているのだから。

 

「しかし善意ではないなら、エンデヴァーの息子をヴィランが治療しますか?」

 

「やりそうな人物にアテがあってね」

 

 何か心当たりがあるのか、塚内さんは考え込みながらそう呟いた。

 

「よし、記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 

 そこから判明したのは、轟家の家庭のアレコレというかエンデヴァーヤベえとか家族のすれ違いとかのレベルじゃねえぞとかオールマイトが元凶じゃねとかそんな感じの轟燈矢さんの人生。とりあえず後で見た記憶は消そうと心に決めた。抱え込むにはあまりにも他所様のご家庭の事情過ぎる。

 自らが焼かれても父親に見て貰いたい息子、受け継がせてしまった個性で焼かれる息子にヒーローになって欲しくない父親、個性婚という弱みから息子に強く出れない母親、そんな彼らの思いが複雑に絡みあった悲劇だったということは理解できた。

 そして、彼の生存にオールフォーワンとその部下である医者らしき存在が絡んでいた事実も。

 

「エンデヴァーについては置いとくとして、オールフォーワンが医療関係者を抱き込んでいる情報はありがたいね、脳無を生み出すにしても医療関係者ならあらゆる手段がとれる」

 

「エンデヴァーについては置いといて、大規模な病院そのものが研究施設の隠れ蓑になってそうですね。なら調べる手段はありそうです」

 

「とりあえず、燈矢君はご家族と再会だね。目が覚めてから施設を焼いた以外の犯罪もしてないみたいだし」

 

 塚内さんと僕が置いといたエンデヴァーの件をおじさんはあっさりと言う。

 だってこの拗れた家庭を赤の他人がどうこうできると思えないから。

 

「必要ねえよ」

 

 その言葉は布団に横になる彼の口から聞こえた。

 

「あいつは焦凍を選んで俺を無かったことにした。母親は金目当てで愛情なんかねえ。だからもうどうでもいい」

 

 轟燈矢、彼は投げやりになってそう言った。何か行動の指針があれば、父親を否定するわかりやすい思想があれば別だったかも知れない、立ち上がり何かできたかも知れない。けど自分の位牌を見て、昔と変わらない末っ子しか見ない父親を見て、自分はもう何者ではないと、何者にもなれないと諦めてしまったのだ。

 

「結局俺はただの失敗作だったんだよ」

 

 僕はその言葉にただ黙ってしまう。

 無個性という要らないモノ扱いされる存在に生まれたにも関わらず母親から無償の愛を受けて育った僕には彼の境遇に何も言えない。

 そして塚内さんは、民事不介入が原則の警官であるがゆえに何も言えない。立場がある彼はこれ以上の深入りが出来ないのだ。

 だけどそんなことお構い無しにこの人は言う。

 

「いや確認しないと分からないじゃん」

 

「は?」

 

「ご両親の本音を聞こう。胸襟開いて腹を割って話そう。まずはそうすべきだ、まだ何も分かってないから」

 

「状況から分かるだろ、俺のことなんて覚えてもいないだろう」

 

「仏壇には埃一つない、線香があげてあった、花もお盆じゃないのに生花だ。誰かが君を想ってきちんと手入れをしている」

 

「?!」

 

「君は居なかったことになんかされていない」

 

「だがっ」

 

「記憶を再生しよう、抵抗するなら拘束もする。結果が君の言うとおりならその記憶を消そう。だからもう一度だけ、君は家族と話すべきなんだ」

 

 畳み掛けるような言葉。いつもらしくないと思うほどに強引なおじさん。だがその強引さが、頑なに内に籠ろうとする燈矢さんに届いた。 

 

「一度だけだ。当時のアイツがどう思っていたのかも知りたいからな。だが結果が、俺が単なる失敗作だった場合は、轟家とあんたら全員の俺に関する全ての記憶を消してもらう」

 

「いや、それは」

 

 塚内さんが静止しようとするも。

 

「ああ分かった」

 

 おじさんはしっかりと彼の言うとおりにすると頷いていた。

 

「塚内君、エンデヴァーとの繋ぎはお願いします」

 

「いや、ことはことだしマスコミにバレたらヤバい案件だってのにもう。分かったよ、根津校長経由でなんとか場を用意しよう」

 

 一歩も引かない様子のおじさんに根負けして、塚内さんは了承した。

 

「緑谷君も協力してくれるよね?」

 

 僕を巻き込んで。

 まあエンデヴァークラスの実力者を拘束と記憶再生を同時にやるのは大変ですしね。

 友人の身内なら無関係でもないし。

 ここまで関わって知らんぷりとかできないよね。

 後日の面談を思って僕は頭を抱えるのであった。

 

「どんなに大変でも、向き合えるなら向き合った方が良いんだよ」

 

 ひどく寂しそうなおじさんの呟きを、塚内さん燈矢さんと共に聞きながら。

 

 





 時系列は不安ですしズレがあるかも知れませんが今作では荼毘さんは、意識取り戻して施設焼いて脱走→自宅にて位牌と訓練中の末っ子発見→要らない子だったんだと落ち込んでた→おじさん遭遇、という流れです。
 末っ子発見の後に、ステインインパクトがあればエンデヴァーを否定してやるぜヒャッハー荼毘ダンスになってました。


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63話 炎の先へ1。


 すいません、何話かに分けます。
 途中エンデヴァーに不快になるかもしれませんが、アンチではなく現状の精神状態と知っている情報からの発言になります。
 原作改変のオリ設定ありなので閲覧注意です。


 

 ナンバー2ヒーロー エンデヴァー、轟炎司の人生はただひたすらに己の努力を積み重ねる人生であった。自身に一を聞いて十を知るような天才性が無いことを誰よりも自覚していた彼は努力を積み重ねることで己を高めることにした。ゆえに発動系個性であるにも関わらずに鍛え抜かれた肉体であり、ゆえに日本最大規模のヒーロー事務所だ。

 オールマイトのように全てを笑ってこなすことが出来ないという自覚がエンデヴァーというヒーローの形を創り上げたのだ。

 まだ二十代のことだ。縁談が持ち掛けられたのは。出資者から勧められたその縁談は以前自分が零してしまった弱点、個性を使う度に籠もる熱を次代にて解消するという利点があった。いわゆる個性婚に眉をしかめる気持ちはあったものの、相手側が金に困っているという事情と出資者からの勧めであるがゆえに断りきれなかった。そこには自身の目標であるオールマイトが未婚であるという理由も少なからずあったかも知れない、優れた後継者というオールマイトを上回る要素が出来るのだから。

 断れない事情と自身の利点を理由にその縁談を承諾したのだった。

 それだけではなく氷のような美しい女性を笑わせてやりたいという気持ちも確かにあったのだが。

 

 

「普通に良いヒーローじゃない?」

 

「我が校の誇る卒業生だからね☆」

 

 雄英高校の炎対策された一室。

 そこには魔法の鎖で磔のように固定されたエンデヴァーと彼を囲うように座る轟さん一家がいた。

 固定されたエンデヴァーは記憶再生の魔法にて過去の心情を込みでその記憶を一家全員と巻き込まれた一部の面々に鑑賞されていた。

 根津校長に呼んで貰い、どうせ意地張って突っぱねるだけだろうからと一撃打ち込んでから強制的に行う形へと持っていったのだ。

 

「き、貴様らこんなことしてただで済むと」

 

 必死にもがいたり炎を出そうとするエンデヴァーだが龍種すら縛りつける魔法の鎖は破れることはなく、彼の周りに貼り付けた耐火の呪符が周囲に炎を広げさせない。

 

「まぁまぁ君には悪いと思うけどね、これは必要なことなんだよエンデヴァー君」

 

 椅子に座り長机の上で腕(前足?)を組みながら根津校長は言う。なぜかこんな黒幕的なポーズが似合う齧歯類である。まだ隣室の死んだことになっている長男については伏せたまま、彼の記憶をダイジェスト風に再生していた。

 

「でも、どうしてこんなことを」

 

 長女である冬美さんが手を上げながら尋ねる、次男の夏雄さんはひたすら不快そうに顔を背けているが。

 

「必要なことだからさ。あと拗れに拗れた君達の家庭は一度本音で語り合った方が良いと判断したのさ」

 

「そもそもなんだよこの記憶、個性かなんかかよ」

 

「それはまた別問題だから言えないさ☆」

 

「緑谷?」

 

「ゴメン轟君、まだ説明できないんだ」

 

 記憶再生の魔法と捕縛の魔法、さらにおじさんについて知る轟君が僕に問いかけるけど今は話せない。ありのままのエンデヴァーじゃないと燈矢さんは納得できないのだから。

 

「貴様ァ!!緑谷出久ゥ!!」

 

 ギシギシと魔法の鎖を揺らして噛みつかんばかりにこちらを睨むエンデヴァー。

 体育祭の一件で余程嫌われているみたいだ。

 

「何したの?」

 

「ホラ体育祭の魔炎竜の」

 

「ああ下手したら雄英高校消し飛んでたアレ」

 

「?おじさんならなんとか出来ると思ったけど」

 

「うん、鎮圧する余波で雄英高校ぐらいの範囲なら消し飛ぶね」

 

「え、もしかしてかなり不味かったですか?」

 

「うん」

 

「「アッハッハハッハッハ」」

 

「緑谷君、あとでオールマイトと一緒に説教。田淵先生も呼ぶからね」

 

「すいませんでしたっ!!」

 

 エンデヴァーとのアレコレをおじさんに説明したらヤバい事実が明らかになって根津校長がガチギレしてしまった(オールマイトは監督責任)。

 

「うちのことは、体育祭をきっかけに緩やかに変わってきていました。それでも急ぐ必要があるのですか?」

 

 今まで黙っていた母親である冷さんが言う。

 

「そうさ、今じゃないと救えない人がいるからね」

 

 代わりに説明してくれる根津校長には感謝だな、おじさんはどもるだろうし、子供の僕が言えることじゃないから。

 

「貴様は焦凍が変わるきっかけになったから感謝し評価はしている。だが貴様に俺の思いが理解できると思うな緑谷出久」

 

 それはそうだろう。

 傍から見たら半年間昏睡状態になったら目覚めた個性を使う自分は、長い月日を個性と向き合い苦しんできた人達とは違うのだから。

 

「貴様は、オールマイトと同じ持っている人間だからな」

 

 それは違うと言いたいけど、僕の力が(適当かつやる気のない神による)転移ボーナスとワンフォーオールによるものだから否定できない。

 努力してるから強い、そんな風に自分を誇ることは出来ないのだと自覚したのだった。

 

 





 


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64話 炎の先へ2。


 オリ解釈ありです、閲覧注意。



 

「轟炎司君」

 

 エンデヴァーの言葉に僕が項垂れていると、根津校長がヒーローに対するものではなく教え子に接するような声で語りかける。

 

「理解の及ばぬモノを自身の常識に当てはめるのは納得できる。けど君なら分かるだろう?緑谷出久という少年が如何なる存在か」

 

「いつまで教師面をしている、卒業してからどれ程の時間が流れていると」

 

「いつまでも、だよ。いつまでも僕は君の教師であり君が悩むなら道を指し示す存在でありたいと思っている。人生の先達としてね」

 

 人生て、校長先生はネズミですよね。

 と突っ込むトコかな?

 

「ホラここ笑うトコ」

 

 狙ったのか。

 

「親父」

 

 根津校長の言葉で、激昂して怒鳴ろうとしていた轟君も冷静になって告げる。

 

「緑谷は持っている人間でも力があるから好き放題言っているヤツでもねえ。トレント扱いされたり埋められたり水をかけられたりエルフに追いかけ回されたりと苦労してんだ」

 

「焦凍」

 

「「「「何言って(るの)んだお前?」」」」

 

「口下手な俺じゃ伝わらない」

 

 エンデヴァーのみならず、母、姉、兄にも突っ込まれて唇をだして拗ねたように轟君は呟いた。

 とはいえエンデヴァーとて反発して言ったはいいけど僕のことを悪く思っているわけではなさそう。

 

「まあ、とりあえず続きをいっとく?」

 

 脱線しかけた話をおじさんが軌道修正してくれる。そうだ重要なのはエンデヴァーが父親として燈矢さんをどう想っているかだったね(駄目だったら全員の記憶消去だし)。

 

「というか、さっきから誰だ貴様ァー!!」

 

 うん、根津校長や僕はともかくおじさんは知らないよね。エンデヴァーからしたら動けない自分の頭を鷲掴みにしてる人だし。

 

「あ、嶋㟢(シバザキ)陽介と申します。動画投稿で生計を立てている一般人です」

 

「こんな便利個性(記憶再生)あるならウチで働けえー!!俺が推薦するからヒーロー免許は実技免除できるぞ!!」

 

 あ、なるほど事務職のヒーローはこうやって資格を取ってたのか。戦闘に向いてないけど事務所運営に有用な個性ってあるもんね。

 

「いやーこれでも動画再生数200万超えてますからねえ、誘われてすぐに応じるのはファンに申し訳ないですから」

 

 そしてなんですかおじさんのそのプロ意識。

 せっかくの業界最大手からの勧誘を断るほどなんですか。というか流石国内最大のヒーロー事務所経営者、記憶再生の有用さを理解して即座にヘッドハンティングしているよ。

 

「まあそれは置いといて記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

 

 嬉しかったんだ燈矢が生まれてきてくれたことに。俺が成れと言わずにヒーローに成ると言ってくれたことが。その俺を超える火力にオールマイトを超える可能性を見たんだ。生んでくれた冷に感謝して、追いかけられる背中であろうと奮起したんだ。冬美という妹もできてより張り切る燈矢に眩しいものを見ていたんだ。

 その身が俺以上に炎に耐えれないと知るまでは。

 この体質を現代医療でどうにかできないのは俺が一番知っている。個性発動時間を短縮するくらいしか対応手段がないのは分かりきっている。だがそれではオールマイトを超えられないことを俺自身が証明してしまっている。テレビの先でいつものように笑うあの男、短時間の戦闘しか出来ない身でアレを超えることはできない。

 焼けた身体を見たくなかった、父のように死んで欲しくなかった。生きていてくれるだけで嬉しい存在がこの手から零れ落ちることに耐えきれなかった。どれだけ言葉を尽くしてもやめてくれない訓練、分かってしまうのだその気持ちは、叶わぬ目標を諦めない気持ちは誰よりも理解できてしまうから、

 諦めさせる手段はもうこれしかない。

 より自分よりも優れた存在がいることで、諦めることに納得してもらうしかないんだ。

 生きていてほしいから、ただそれだけなんだ。

 夏雄では駄目だった、しでかした人として最悪の所業は失敗に終わり、燈矢に見限られたと誤解されてしまっている。超えなければオールマイトを超えなければ、そうすれば燈矢は諦められるから。俺が今オールマイトを超えさえすれば。如何に燃え盛ろうとマッチの火では太陽は超えられぬのだと、ヤツのオールマイトの平和の象徴の笑顔が告げているように見えた。

 焦凍が生まれてくれて嬉しかった。

 これで諦めてくれると思ったんだ。家族に、あの燈矢が生まれてきてくれた時に戻れると思ったんだ。

 だが燈矢がその炎を焦凍に向けた時、それが不可能だと悟ってしまった。

 ならばもう止まれない。

 家族に戻れないなら『目的』を『オールマイトを超える次代』を育てあげるしかない。

 冷に全て押し付けて、ヒーローに徹する。父親である資格はもう無いのだから。

 

「俺をつくって良かったって思うから!」

 

 訓練を止めないで火傷を続ける燈矢の叫び。

 違うんだと叫びたかった、そうじゃないのだと言いたかった。

 お前が生きてくれることを望んでいるのだと言いたかった。やらかしてしまった所業でもう言うことのできないその叫びを身勝手に。

 結局その叫びを向けたのは笑顔にしたいと思った人だった、唯一自分の気持ちを理解できると勝手な気持ちで感情を叩きつけた。

 冷が追い詰められ焦凍に煮え湯をぶちまけたのはそれからすぐのことだった。俺はまた分けることで傷つかないようにするしか無かった。

 

 

「それで俺が馬鹿をやらかしたんだな親父」

 

 ガチャリと扉を開けて現れた燈矢さん。

 この後の記憶はエンデヴァーが後に引けなくなった瀬古杜岳のことだろう。

 現れた彼に轟家一同は絶句する。

 

「てか本音を伝えろとか思ってたけど。そういえばずっと言ってくれてたんだな。炎を使うなって、焼けてくれるなって」

 

「燈矢、なのか」

 

「燈矢?」

 

「お兄ちゃん」

 

「兄貴」

 

「燈矢兄さん」

 

 魔法の鎖を僕が解除するとエンデヴァーは他に目もくれずに彼を抱き締めた。強く、生きていることを確認するように此処にいるのだと実感するために。

 

「捜したんだ当時の俺は、おまえが生きてると信じて」

 

「悪いな親父、その時はもう確保されてたんだ。意識も殆ど無かったしな」

 

 全員もみくちゃになるように彼に抱きつく、そこに今まであったわだかまりは完全ではなくても無くなったように見えた。

 

「なあ親父、お袋、俺はいてもいいのかな?ヒーローにならなくてもオールマイトを超えなくても。あんたたちの子供でいて、見ててくれるかな」

 

 彼のその言葉にエンデヴァーは、冷さんは、

 

「俺の方が先に死ぬ、親だからな。でも命ある限りお前達を見ていたい、幸せに生きるお前達を見ていたいのだ」

 

「資格がないと思い知らされてその目を直視できなかった。でももう逸らさない、貴方がいなくなって見ることが出来なくなる辛さを思い知らされたから」

 

「父さん、母さん」

 

 

 エンデヴァーの過去、その心情を知り、轟家はようやく家族に戻れたのだった。

 

 

 

「ところで緑谷君、記憶再生なのにエンデヴァーの思考ダダ漏れなのは可笑しくない?その時あったことを映像として再生するんだよね?」

 

「そういえば俺の時と仕様が違うような?」

 

「記憶の精霊のサービスでは?よくありますし」

 

「またお礼に祀ってお供物あげる必要あるかも?聞いとくね」

 

「お願いします」

 

 





 冬美さん、夏雄君にはほとんど触れられませんでした。いやこの二人は本当に巻き込まれた感じなので。でも燈矢君が焦凍君に炎向けるまで、良い家族で入られたのではと思いました。
 まあオールマイト頑張り過ぎですが、いくらオールフォーワンがまだ活動していても。


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65話 炎の先へ3。


 感想返信滞ってすいません。きちんと目を通していて創作の励みになっています。



 

 轟さん一家のわだかまりがとけて家族に戻れてからしばし、

 

「さて、落ち着いた所で説明と今後の話をしても良いかな?(パンッパンッ)」

 

 椅子に腰掛け机の上で腕を組んだ根津校長が話を始めた。

 

「勿論です根津校長(パンッパンッ)」

 

 死んだ筈の息子、その再会の裏にある不可解な点は親としてヒーローとして確認しないわけにはいかないからだ。

 

「では、息子さんとの再会だけどそれは彼陽介君(現在田淵先生モード)が関わっているね。道端に項垂れる燈矢君に声をかけたことが今回の件の始まりなんだ(パンッパンッ)」

 

「感謝いたします、息子を助けてくれてありがとう(パンッパンッ)」

 

 すると異世界おじさんは田淵先生の姿のままビンタ中のオールマイトから手を離し、グッと親指を突き立てた。それが返事のつもりらしい。

 

「そして今後の事についてだけど、ヒーローの身内については護衛や警備を見直した方が良いだろうね(パンッパンッ)」

 

「警備ですか、しかしヒーローが警備とは本末転倒のような(パンッパンッ)」

 

「燈矢君を拉致したヴィランの手際の良さ、おそらく転移系個性まで用いたことを考えるとその日たまたまではなく何日も監視されていたと見るべきだろうね(パンッパンッ)」

 

「そこまでするヴィランや裏組織が現在この国に存在すると(パンッパンッ)」

 

「そうだね、本来ならあり得ることではない。なにせヤクザやマフィアといった裏社会の組織は個性発現により二度滅んでいる。既存の組織に個性という暴力が加わることによる内部崩壊、そしてヒーロー台頭による外部の圧力による崩壊でね(パンッパンッ)」

 

 多くの裏組織は暴力が物を言っていた。だが拳銃などを容易く上回る個性によって旧体制の維持が不可能になってしまったのだ。ゆえに現存している裏社会の組織は全て個性発現期以降に改めて再構築されたものばかりなのだ。そういった意味では日本のヤクザは奇跡的に組織を移行できた稀有な事例といえる。

 諸外国のマフィアなどは攻撃性凶暴性こそ増したものの純粋な組織力では個性発現期以前とは比べものにならないほどに低下したのだ。

 

「都市伝説にある異能解放軍の残党でしょうか?(パンッパンッ)」

 

 個性発現期にて国家やヒーロー、オールフォーワン以外で個性持ちを思想にて一つの集団としてまとめあげた異能解放軍。首謀者の獄死にて崩壊したその組織だが闇に潜っているのではないかという説もあるのだ。

 

「いや、そちらではなく個性黎明期より暗躍していたヴィランであるオールフォーワンだね(パンッパンッ)」

 

「大規模なヴィラン犯罪の裏にいるとされる超大物ヴィランですか?私は未だに遭遇したことがありませんが(パンッパンッ)」

 

「数年前にオールマイトが討伐した筈なんだが、雄英高校襲撃を考えると仕損じたと判断すべきだね。おそらく保須市の騒動の裏にもヤツは関与していると思われるね。さて田淵先生と陽介君もそろそろ止めてもらって良いよ、お疲れ様」

 

 その言葉で今までずっとオールマイトと緑谷出久の頬をビンタしていたダブル田淵先生はその手を止めた。体育祭でのやらかしの説教前に田淵先生による指導を行っていたのだ。

 

「あの、なんかシバザキさんが変身もしていたような?」

 

 夏雄君による当然の疑問。記憶再生が個性だと思ったら他者に変身したのだからそう思うだろう。

 

「それについても説明するさ、では田淵先生ありがとうございました」

 

 根津校長がお礼の言葉とともに退室を促すが、田淵先生はかつかつとエンデヴァーの前に歩き、

 

「○△□〜➗☆☀Aっ!!」

 

 といつもの言葉にならない言葉を叫びながら固く握った右拳を振るいエンデヴァーを殴り倒した。

 

(た)

 

(田淵先生が殴っただと)

 

 突然の行いに驚愕する一同だが、当の殴られたエンデヴァーは立ち上げると深く頭を下げて、

 

「ご指導感謝致しますっ!!」

 

 と告げた。

 その言葉に田淵先生は満足気に笑い、ポンッポンッとエンデヴァーの肩を叩き親指を突き立ててから部屋をでていった。

 

「何アレ?」

 

 一部の者は理解できたが、あまりにも意味不明な行動であった。それが田淵先生で旧世代の教師なのかも知れない。

 

「さて気を取り直してオールマイト、君とオールフォーワンの関係を説明して貰えないかな?」

 

「あのそれはエンデヴァーのご家族の方にもよろしいのですか?」

 

 長時間のビンタにより両頬を河豚のようにぷっくりと膨らませたままオールマイトは尋ねる。

 

「もはや無関係ではないからね。君達がヤツを警戒して秘密主義を貫いたことが別の箇所に問題をおこしているのではないかと僕は思うのさ」

 

「それもそうですね、分かりました」

 

 そうして語られる個性黎明期から生き続ける一人の魔王の物語。ヤツに抗うために戦い散ったヒーロー達の敗北の歴史。オールマイトの代にて終止符を打った筈の語られることの無かった史実。

 

「そんなことが」

 

「ヤツは強大だった、下手に協力者を募れない程に。またどんなに強いヒーローでもヤツが個性を奪える以上無力化は容易く、こちらの損失は大きかったんだ」

 

 それがオールマイトがトップヒーローに協力を要請しなかった理由だ。確かにオールフォーワンが最優先で倒すべき悪ではあったが、治安維持の要であるトップヒーロー達をその戦いで失うわけにはいかなかったのだ。いや、

 

「エンデヴァー、君がいたから私は安心してオールフォーワンとの戦いに身を投じていたんだと思う」

  

 たとえこの命を散らそうと他に頼れるヒーローがいるからこの国は大丈夫だとそう思っていたのだろう。

 

「その事情はもっと早く聞きたかったものだな」

 

 勝てぬわけだとエンデヴァーは納得した。おそらく自分以上に事態を把握していたであろうヒーロー公安委員会、彼らの定めるランキングにオールマイトによるオールフォーワン討伐の功績が加点されていたのなら如何に成果をあげようと上回れるわけがなかったのだ。

 そしてオールマイト。

 平和の象徴であり単独で犯罪率を下げる彼に、本心では頼られていたという事実をもっと早く知っていればここまでエンデヴァーは拗れなかっただろう。

 

「エンデヴァー、私は遠からず引退する。私の後継者はいるが彼がヒーローとして表舞台に立つのはまだ先のことなんだ。だから私の後にナンバー1ヒーローになるのは君しかいないと思っている」

 

「その座を貴様から奪えなかったことに屈辱を感じているがな」

 

 目標であるヒーローに後を託されるのは誇らしい、だが超えたのではなく譲られたのではこの敗北感を拭うことは出来ないだろう。

 けれどヒーローとして自らが背負うものの重みを改めて自覚して決意を新たに歩むことを決めたのだった。

 

「それでシバザキさんの事情とは?異世界とかどうとか言っていたが」

 

「それは見せた方が早いね」

 

 そして流された異世界おじさんの17年。

 かなり端折られたものの緑谷出久との関係も明らかになり、その壮絶な人生を知ることとなった。

 一同その地獄ともラブコメともエルフヤバいとも言える日々を自身の目で見て、これからの彼の人生に幸あれと祈るようになっていた。

 そしてこちらの世界での最大のオチ(目覚めたら一家離散)まで見た所でこの日は解散となった。

 最後のオチで轟家はよりいっそう家族としてしっかりやり直そうと決めたようだった。

 なお異世界おじさんは再生途中から警告である鼻血をだしていたがオチを見た後に再び記憶を消していた。

 

 こうして轟家の問題は解決したのだった。

 勿論この後に緑谷出久とオールマイトは根津校長から体育祭の件の説教を受け、おじさん宅には新たにVHSプレイヤーとカセットテープを捧げた記憶の精霊の祭壇が出来たとか。

 

 




 
 こんな形で終わりです。
 冬美さんとの絡みも考えましたが、なんかしっくりこなくて。
 とりあえず轟家は家族としてやり直せて、エンデヴァーは次期ナンバー1ヒーローとしての覚悟を決めた感じです。また緑谷君の事情もワンフォーオールを含めて知ったので帰り際にきっちり謝罪しました。


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66話 日常と凍りつく世界。


 ギャグ回です。
 オリ設定ありです。
 


 

 おじさんの善意から始まった轟さん家の騒動が無事に終わって数日がたった。

 僕は田淵先生に指導された後に根津校長からも数時間もの説教を受け、報連相を欠いた勝手な行動をしないよう強く反省をした。ここは頼れる相手がいない状況じゃない、助けを呼べば応えてくれる、手を差し伸べてくれる人がいる世界なのだとしっかりと理解するべきなんだろう。

 さてこの数日間にあったことだが、まず燈矢さんの自らの炎に耐えきれない体質についてだ。一番の対処法は個性を使わないことで本人ももう納得しているのだが、エンデヴァーというヒーローの身内である以上は自衛手段がないといざという時に困る。だから対策として耐熱の呪符を彼に渡した。これは溶岩煮え滾る火山の火口でも過ごせるようになる代物で、個性を使用する時に身体に貼り付ければ自身を焼かれずに炎を放てるだろう。一度貼れば破けない限り丸一日は効果が持続するから安心だ。グランバハマルのアイテムではあるが僕が作れるから在庫の心配もない。後日エンデヴァーから大量に発注されて、対価として支払われた金額に驚くのはまだ先の話だ。

 あとサー・ナイトアイからも連絡があった。なんでも個性を発動したら以前見た未来とは違い、また未来が変わったから何か知らないかという話だった。僕は可能性が高そうな今回の燈矢さん絡みの騒動を説明した。

 サー・ナイトアイは電話越しでもわかるくらい悩んでいる様子となった。

 

「何してんだ燃え野郎ぅ」

 

 と呪詛のように呟きだしてすらいた。

 どうやらサー・ナイトアイは未来視で調べた際に知った、社会に大きな影響を与えるヴィラン達を探していたらしい。そしてその中でも青炎使いの荼毘という人物を特に危険視していたのだが、未来視による断片的な情報では正体不明だった存在がまさかエンデヴァーの息子だったとはと嘆いていた。

 とりあえず今回は良い方向に未来が変わったが、念の為他のトップヒーローの身内にオールフォーワンの手が及んでないか一度調べるそうだ。場合によっては公安に協力を要請する必要があるかもしれない、とも言っていた。ステインの件で貸しもあるから交渉は可能なのだろう。まあエンデヴァーとヨロイムシャ以外は独身ばかりだから直ぐに済みそうだけど。

 なおこの連絡によりホークスの母へのヴィランの接触を防げることになることを緑谷出久もサー・ナイトアイも知ることはないのであった。

 

 そんな感じにアレコレ過ごしていた翌日。

 今日もまた自主練のために雄英高校に行き荷物を置こうと教室に入ったら、

 

「おじプペポ〜ン!おじ参上!」

 

 と轟君が無表情のまま両掌を耳の横で広げ片脚を上げてポーズを決めていた、無表情のまま(二度目)。

 

「神よ!この惑えるものの心の波濤、我とひとつに!」

 

 とりあえず異常事態だと判断し、轟君に神聖魔法をかける。なにせ彼のこの行動に個性の半燃半冷を使われてないのに教室にいる皆が凍りついて震えていたからね。

 

「どうした緑谷?」

 

 こてりと首を傾げるけどこちらのセリフなんだけどソレは。

 

「馬鹿な正気だとっ?!」

 

 てっきりヴィランによる精神支配か肉体操作によるものとばかり。

 

「何をしているの轟君、そのポーズとか?」

 

「異世界おじさんが動画でしてたポーズだが?面白いだろ?」

 

 だったらせめて笑ってくれませんか。眉一つ動かない無表情でしたよね?

 

「まあ面白かったから真似したり皆に見せたい気持ちは分かるけどよ、どうした突然?」

 

 状況を理解してようやく動けるようになったかっちゃんがそう尋ねた。うん、そのネタを轟君がやると無表情なのもあって面白いとか以前に意味不明感が強過ぎて場が凍るからね。

 

「なんで親父が、エンデヴァーが、ナンバー1ヒーローになれないのかずっと考えていた」

 

 まあ色々理由はあるけど、他国からの引き抜き対策も理由の一つだよね。犯罪率を個人で低下させたオールマイトはどの国でも欲しい、仮にナンバー1から下ろしてしまえばその途端あらゆる国家がオールマイトをナンバー1ヒーローとして迎え入れようとするだろう。特に留学している間に結果を叩き出していたアメリカとかはどこよりも強く。

 

「俺はそれが親父がクズだからだと思っていた、その真の姿が周りに知れ渡っていたから万年ナンバー2だと思っていたんだ」

 

 何気に言いたい放題だよ息子。

 いや轟君からしたらそうだろうけどクラスの皆もドン引きしてるからね。

 

「けどそうじゃない、他に理由があると気づいたんだ」

 

「天然の気づいたことって大抵明後日の方向に迷走してんだよな」

 

「ケロ、事実でも言っちゃ駄目よ爆豪ちゃん。私はさっき冬眠しそうになったけど」

 

 オチに予想がついた二人がコメントするけど僕もそんな気持ちだ。

 轟君はグッと拳を握り言う。

 

「エンデヴァーには笑いがない、だからウケないんだと」

 

(((いやあの厳ついのが笑いを取ろうとしたらソレはソレで怖いよ)))

 

 下手にファンサービスとかしたらガチファンとか血涙流してキレそう。

 

「だから俺は、ナンバー1ヒーローを目指す俺は、ヒーロー活動に笑いを取り入れるために異世界おじさんを参考にしようと決めたんだ」

 

(((やっぱり迷走しやがった天然)))

 

 轟君だしなあ。

 まあ以前より家族仲が良くなった結果かもしれないけれど。

 

「ブラボーッ!!なるほど、そんな考えもあるとは、参考になる考えだね轟君っ!!そうだヒーローに必要なのは皆を笑顔にする力なんだっ!!」

 

(((生真面目馬鹿が感銘受けてしまっただとおおおっ!!)))

 

 生真面目馬鹿(飯田君)が拍手とともに轟君の考えを称賛していた。

 

「フッ、そうだろ?」

 

(((天然がドヤ顔で満足気だよ)))

 

 ドヤ顔の轟君と感銘を受けた飯田君は二人で思いつくままの笑いのネタを言い合いだした。たまたま彼らの近くに居たクラスメイト達はその古いというか化石レベルのネタ(布団が吹っ飛んだレベル)に「暖房つけてくれえー!!」と悲鳴をあげた。なお梅雨ちゃんは冬眠しだしたので八百万さんの創造した毛布にくるまれて退室した。

 

「なあイズクよ?」

 

「どうしたのかっちゃん」

 

「ヒーローとしてのプロデュースや売り出し方は経営科に丸投げして、俺達ヒーロー科は自力上げに専念すべきだな」

 

「そうだね」

 

 何でも自分でやろうとするから無理がでる。

 個人で解決しようと動きがちな自分の行動を彼らを見て深く反省するのであった。

 色々な出来事があった夏休み。

 林間合宿はもうまもなくだ。

 





 そろそろ本編を進めようかなと、まだ夏休み中にやったほうが良いイベントあるかな?


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67話 おじさんの記憶へ、辿り着かない。


 書けました、まだこんな緩いイベントを続けようかなと(寮生活始まったら制限されるので)。
 もう夏休みの日数越えてそうですが。



 

「色々あって見逃したおじさんの記憶を見たい」

  

 夏休みとは本来、夏の暑さにより生徒の心身が参ってしまうから行われる長期休暇であるが、クーラーが学校に普及した現在はたして必要なのだろうか。お盆などの行事が被るのも理由の一つだろうけど、夏休みの大半を雄英高校で自主練に励んでいるとよりそう思うよね。まあそこには自由過ぎて命の危険まで自由な異世界生活を経験したからもあるけど、そんな事をランチラッシュ自慢のお子様ランチを食べながら思っていたら峰田君からおじさんの記憶が見たいという要望があった。本心はエロいのみたいだけど、どうせ記憶の精霊による規制で無理だからと断念したようだ。

 

「別に良いよ、午後に見よっか」

 

 敬文さんと藤宮さんもそうだったけど異世界ライフを見るのは楽しいからね。

 

「上手くいった話だったみたいだからクラスの皆の分もおやつを買っておかねえとな」 

 

 と、売店でおやつとジュースを買い込む峰田君。覗きと猥談を愛する助平ではあるのだが何気に気遣いの男なのだ。

 

「そういうのを日頃から女子の前でしてたらモテるのにねえ」

 

 なぜこういった見えない場所や緊急時しか男気を見せないのだろうか。

 

「ふ、それがオイラだからさ」

 

「自分を曲げることも大切だと思うよ」

 

 特に目的がある場合はね。

 

「けどよー、緑谷お前って女の知り合い多いんだろ?誰か紹介してくれよ」

 

 助平であることを置いといたら人柄的に峰田君を知り合いに紹介することに抵抗はないのだが、実はヒーローやヒーロー志望者を恋人にすることに抵抗を覚える一般人は男女問わずかなり多い。一昔前ならヒーローという存在に特別感があったけど、ヒーロー飽和社会と言われるようになった昨今では、家庭を省みない、夫婦喧嘩したら逆らえない、ランキングに載らないと生活が厳しい、個性で選ばれたとか疑う、とかのマイナスイメージも強いんだよね。

 

「そういえば心当たりが一人いるから聞いてみるよ」

 

「おいおい、それは美人か?美人なんだな?」

 

「下乳見せ系青肌美人ヒーローだよ」

 

 確かあの人って恋人いない筈。

 

『もしもしバブルガールさん、今お電話大丈夫ですか?』

 

『どうしたのイズク君?休憩時間だから大丈夫だけど』

 

『では質問がありまして、年下の男って恋人としてどうですか?』

 

『ブッフォッ!!ど、どうしたの急に、イズク君にはメリッサさんとか茨ちゃんがいるじゃない?!』

 

『? いえ彼女達ではなく貴方の気持ちが知りたいのですが。将来有望な雄英高校一年生とか、恋人ととしてどうでしょう?』

 

『いや、いやね。確かに将来的に私達は先輩と後輩になる間柄だけどそんな関係になるのはまだ早いというか、嫌じゃないんだけど、私もまだ新米ヒーローだし』

 

『そんなの関係ないですよ、アリか無しか、問題はソレだけです』

 

『そ、それはイズク君は将来性あるしそんなに強く求められたら女として嬉しいなあとか思うから全然アリなん『中々ユーモアある話だな』え、サー?『サイドキックのプライバシーに過度に干渉すべきではないが流石に問題だな』ちょ、ま、サー?!(ガシッ、ズルズル、ガチャンッ)アヒャヒャヒャヒャッ?!』

 

 ツーツーツー。

 

「ゴメン峰田君、なんか切れちゃった」

 

 バブルガールは年下雄英高校生と付き合うのは問題無いと判明したから悪くない結果だけど。 

 

「頼んだオイラが言うのもなんだけど、なんでいらんトラブルを自分で作り出すんだお前」

 

 刺されたいの?と僕を見上げる峰田君のつぶらな瞳は語っていた。いや意味が分からないけど。

 

「とにかく行くか、皆待っているしな」

 

 そう言って僕らは教室へと向かった。

 

 

 やっぱり青山君いないな。

 ワクワクした気持ちを隠しきれていない様子のクラスメイト達。けどやはり当たり前のように彼は参加していない。自分の意思だろうけどハブいているようでかなり気になるよね。

 

「じゃあ流すね、記憶再生ー(イキュラス エルラン)」

 

『アヒャヒャヒャヒャッ?!』

 

『元気とユーモアの無い社会に未来はないと私は考えている』

 

 そこには身体を固定され脇の下を猫じゃらしで擽られて白目を剥いて笑うバブルガールと冷徹な表情でそれを見るスーツ姿の男性、サー・ナイトアイが映っていた。

 

「あ、間違えた」

 

 さっきバブルガールと電話したからだね。

 

「「「コレはコレで突っ込みどころ満載だよっ!!!」」」

 

「やはり俺は正しかった」

 

「うむ、オールマイトのサイドキックだったヒーローが言うのだから間違いないな」

 

「ケロ、轟ちゃんと飯田ちゃんがまた明後日の方向に行っているわ」

 

「つうか、画面の端でちょんまげカツラした緑谷と鼻割り箸してるミリオ先輩が居るんだが?」

 

「ヒーロー事務所か、此処?」

 

「なんで実力あるヒーローって変人しかいないんだよ」

 

 うっかりで流れた記憶に盛り上がりながらも、おじさんのグランバハマル最初の出来事へと続く。

 

「とりあえず今の映像を言い値で買おう」

 

「そういうトコだよ峰田君」

 

 



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68話 うまくいった話(自己申告)

 
 転職したり、ファイナルファンタジーのリマスターやったり、部屋の片付けしたり、ナノブロック作品を分解して収納したり、積みプラを消費してり、草むしりしたりしてたらいつのまにか時間が立ってました。
 ゴールデンウィークはずっと自宅です。



 

 峰田君の許容範囲の広さにドン引きしながら改めて記憶再生を実行する。

 そういえばおじさんが親しくないからグランバハマルの映像見せてもまだマシという判断だったけど、顔見知りになり一部では尊敬すらされている現状ではまずくないだろうか?

 もはや今更過ぎる考え、だけどワクワクしてる皆を前に再生をやめるわけにはいかない。 

 

(まあ人死なないから大丈夫だよね)

 

 そう思い直して再生を始めた。

 

 

 

「異世界人、酷すぎじゃね?」

 

 神に肉体を再構築された十七歳のおじさんが冒険者にボコられる映像が続いている。

 高校生のおじさんの姿にスマホを激写していたミッドナイト先生も、イケメン冒険者三人組に盛り上がっていた女性陣も青い顔になっている。

 グランバハマルでは(容姿がアレな存在には)当たり前なことだけど慣れてないと辛い光景だよね。敬文さん達はこのシーンを転移ボーナス検証のために再生したらしいけど、僕たちは目的じゃないからサクサク流そう。丸太に手足を括りつけられ運ばれるおじさんのインパクトのせいで、おじさんが会話できていたことにツッコミを入れられることなく見世物小屋まで場面は移り変わった。

 

『銅貨三枚だな』

 

 無情な査定結果は、金欠で古本を古本屋に売り払った時のことを思い出すね。いくら思い入れあった逸品でも一冊十円だったなあ。多分おじさんがかけていた眼鏡の方が高値だったよね。

 

「ちなみに緑谷の値段は?」

 

 と、拾ったたわしとおじさんの値段の差に皆がドン引きする中(ミッドナイト先生は自分の人生と引き換えにおじさんを買いますと叫んでた)で気になったのか轟君が聞いてきた。

 

「「「売られたことある前提で聞くなよっ!!そんな酷い経験無いかも知れないだろっ!!」」」

 

「金貨三十枚(時価)だったよ」

 

「「「やっぱりあったよ、そして値段の差があり過ぎだろっ!!」」」

 

 いやトレントの幼生体は瀕死の生オークと違って希少で需要もあるから。

 飼って良し、加工して良し、煎じて良しの魔獣なんだよね。

 

「で、おじさん(十七歳)は見世物小屋の地下にある檻にぶち込まれて」 

 

「意外と魔獣って割には大人しそうな兎とか鳥ばかりだな」

 

「可哀そう」

 

 兎を飼っているらしい口田君が辛そうに見てるけど、魔獣って武装した人間を殺せるかどうかが判断基準なんだよね。

 

「店主に忘れられて一週間経過と」

 

 そこからのリアル監禁映像にクラス内が再び静まりかえり、画面の中のおじさん(十七歳)の独り言だけが空気を震わせていた。座りこみながら正気を保つために月明かりに話しかけるおじさんの姿がなんか懐かしい。僕の場合もそうだったけどこれくらいなら全然正気だからだ。それでもおじさんは僕とは違って助けてくれる人がいない中でよく切り抜けれたなーと思うけど。

 光剣で檻と魔法陣を斬り裂いたおじさんの脱走劇、ついでに囚われた小型の魔物を逃す姿はまさにおじさんらしい行動だよね。

 

『ガヂィィン!!』

 

『ホアッ!?』

 

 その流れで窮地に陥る所も含めて。

 

「「「害獣かよっ!!」」」

 

 グランバハマルでは見た目良いとかカワイイとかは安全とか優しいとかとイコールじゃないから。

 助けられた恩など関係ないとばかりに喰らいつく魔獣達。戦闘に長けたA組でもこの状況になったら口田君以外だとどうしようもないよね。

 

『悪鼠獣!死狼獣!狂牙鳥!』

 

「名前からして凶暴な魔獣じゃねえーか」

 

 巨大ハリネズミが刺殺獣だったからなあ。ヒヒヒという鳴き声といい魔獣って獲物を嬲る生態があるんだろうね。

 おじさん(十七歳)の絶体絶命の状況に堪えきれずに画面に突っ込もうとする面々を魔法で拘束する。だから過去の記憶だって、十七歳の少年が一週間檻に入れられて四日間水しか飲んでない状況だから心配するのも仕方ないけど。

 

『君の役は』

 

「このフレーズは!?」

 

『ひたすら逃げまどう一般民衆か?』

 

 おじさん(十七歳)の呟きにミッドナイト先生だけが何かに気づいたみたいだ。

 

『それとも!?』

 

 覚醒。

 命の危機である時に思い浮かぶ光景。それが一歩踏み越えるきっかけになる。

 僕が拳を振り上げるオールマイトや、駆け抜けるおじさんの背中を思い浮かべるように、誰にでもある事なんだろうね。

 光剣を顕現し高速機動しながら斬り伏せる。おじさんの基本スタイルはこの時に生まれたんだ。

 見世物小屋の店主を助け(どこ飛ばしたんだろ?)一晩中おじさんは戦い続けた。

 戦いが終わり、日の出とともに食べた焼き肉は人生で一番美味しかったそうです(空腹は最高の調味料理論)。

 

 

「とまあこんな感じかな?」

 

「「「「「どこが比較的マシな話だあああっ!!」」」」」

 

 A組+αのツッコミが夏休み中の雄英高校校舎を揺らした。

 おじさんと僕の感覚的にはマシな話なんだよなあ。おじさんもかなりいいスタート切れたって照れながら言ってたし。

 

「いやでもこの後はろくでもないことしかないから、よりマシに感じるんだって」 

 

「ケロ、これより酷いことがある現実に絶望するわ」

 

「ヒーローってのはこんなモンを直視しなきゃいけねえのか」

 

「言っとくけど、流石にプロヒーローでもこんな状況に頻繁に遭遇したりはしないわ。でも事件でも事故でも災害でも同じくらい酷い状況があるのは事実よ」

 

 ワンフォーオールの中の歴代からしてもマシな話だったからね。

 

「それで何があったんだ?」

 

「「「聞くな轟ィー!?」」」

 

「普通に気になるだろ」

 

「そうだけどキリがねえんだよ!!」

 

 おじさんの記憶って止め時が難しいよね。グランバハマルでも夢中になって背後からの奇襲に気づけなかったこともあるし。

 

「そう、ろくでもないことでとても恐ろしい出来事だったんだ(ガクブル)」

 

「緑谷が震えるってどんだけだよ」

 

「おじさんがエルフさんを竜から助ける話で、二人のファーストコンタクトだからね」

 

「「「そっちが見たかったわ!!」」」

 

 いや後半に問題があって、記憶の精霊さんの検閲がちょっと。

 皆が続きを熱望したけど、時間が迫っていたので今日はお開きとなった。

 精神的なダメージになるけどやめられない中毒性が異世界生活、おじさんの記憶にはあるのだ。

 





 今後も投稿は不定期になりそうです。
 


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69話 林間合宿開始。

 
 すいません、本編進めます。
 というか69話でまだ原作9巻。



 

 なんやかんやあって林間合宿当日。

 ヴィラン連合の襲撃もあり今年の合宿先は例年とは違う場所で僕達も到着までその場所は秘密だ。

 移動はバス、高さのせいか揺れやすく車酔いしやすいから酔止めの薬をきちんと飲んだ。まあグランバハマルで乗ったおじさんが操る馬車よりは大分マシだろう。おじさんてなぜか動物にも嫌われてたからな、僕の場合は髪の毛を食われるけど。

 

「え、A組補習いるの?つまり赤点取った人がいるってこと!?ええ!?おかしくない!?おかしくない!?A組はB組よりずっと優秀なハズなのにぃ!?あれれれえ!?」

 

 物間君、僕に謝罪したけど煽りは止めないんだね。いや彼の場合は試験を合格しても補習確定だから余計に煽るのかも。

 拳藤さんにトッされて回収される物間君の姿。もはや彼の煽りは不快より寸劇を見てる気持ちに僕らはなっていた。

 

「物間怖」

 

「体育祭じゃなんやかんやあったけど、まァよろしくねA組」

 

「ん」

 

 そしてその気持ちはB組も同じらしく、物間組を見ながらB組女性陣が声をかけてくれた。

 

「よりどりみどりかよ、ハアハア」

 

「おまえダメだぞそろそろ」

 

 ヨダレを垂らす峰田君。

 綺麗な娘ばかりで気持ちは分かるけど、目が(性)犯罪者だよ。

 

「障子君、お願い」

 

「了解した」

 

 しかし林間合宿で問題を起こされるわけにはいかないので対処しないと。

 

「なにすんだ、障子ィー!!」

 

 障子君は峰田君の両足を掴んで逆さにするとカバンの中身をぶちまけるようにそのまま縦にブンブンと揺らす。その下に空間魔法の裂け目を開いて落ちた物の回収だ。小型カメラ、ビデオカメラ、集音機、盗聴器、望遠鏡、双眼鏡、小型ドリル、ピッキングツール、薄い夏服にどんだけ仕込んでいるのさ、峰田君は暗器術の達人かい。

 

「スパイかなんかかコイツ?」

 

 落ちてくる林間合宿に不必要な品の数々にかっちゃんが呆れ果てながら呟いた。

 

「とりあえず相澤先生に渡すべきだね」

 

「強制送還されね?」

 

 まだ未遂だからなんとかギリギリ。

 

「A組のバスはこっちだ、席順に並びたまえ!」

 

 ああクラス委員長は僕なのにまた飯田君に仕事を押し付けてしまった。

 相澤先生に回収した物品を渡してからバスは目的地まで出発した。

 

「一時間に一回止まる、その後しばらく」

 

「音楽流そうぜ、夏っぽいの!」

 

「ポッキーちょうだい」

 

「しりとりのり!」

 

「バス移動かあ、このまま異世界転移しないよね?あるいは事故にあって皆で転生」

 

「なろう展開だな、少し憧れるよな。グランバハマル以外なら」

 

「出久テメエ、洒落にならないことほざくな!?いやお前が言うとマジで洒落にならないんだよ!?」

 

「実はその展開て永○豪先生が、なろうブームになる前からマ○ンガーで書いてたんだよね」

 

「あの世代の巨匠達は時代を先取りしすぎなんだよ!?」

 

 おじさんの影響からか、A組では古い漫画作品が流行っています。

 

(まァいいか、わいわいできるのも今のうちだけだ)

 

 相澤先生がそんな思考であることも知らずに、僕達はわいわいと旅行気分で楽しんでいた。

 




 
 短いです。
 けど切りが良いので。
 あと峰田君のシーンで、アンパンマンのラーメンの具みたいな人達がバイキンマンに似たような目に合わされたシーンを思い出してました。


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70話 林間合宿 魔獣の森を攻略せよ。

 

 楽しい時間は過ぎるのが早い。

 バスに乗ること一時間、相澤先生が言ったとおり止まった先は森を見下ろせる景色の良いところだった。停車したにも関わらずパーキングエリアでは無いことが不思議なのだが。

 

「休憩だ」

 

「おしっこ、おしっこ」

 

「峰田君だから水分摂りすぎちゃダメだって言われたのに」

 

「つか何ここパーキングじゃなくね?」

 

「ねえアレ?B組は?」

 

「おしっこ」

 

 うん、ここまでくると皆も嫌な予感しかしないよね。具体的に言うと雄英高校の何時もの感じ。

 

「何の目的もなくでは意味が薄いからな」

 

「よーう、イレイザー!!」

 

「ご無沙汰してます」

 

 む?この声は。

 

「煌めく眼でロックオン!」

 

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!」」

 

 ポーズを決めて現れた美人二人は、とある一件から関わりの出来た人達だった。あ、洸汰君もいる。

 

「今回お世話になるプロヒーロー「プッシーキャッツ」の皆さんだ」

 

「詳しく語れ、ヒーロー解説機」

 

「誰がヒーロー解説機だ。

 連名事務所を構える4名一チームのヒーロー集団で、山岳救助等を得意とするベテランチーム。横にいる少年はマンダレイのいとこの夫婦でヒーローをしているウォーターホースの息子の洸汰君で、その横にいるのはトップヒーローの一人にして現日本最強の女性ヒーローと名高いラビットヒーロー ミルコ」

 

「「「ヒーロー解説機じゃん」」」

 

「ってミルコまでいやがるのかよ!!」

 

「脱兎の如く参上した、ブイ!」

 

「あと一部の強すぎる生徒が原因で助っ人として参加して頂いたプロヒーローのミルコさんだ」

 

「つまりかっちゃんのせいだね」

 

「お前だろ」

 

 だってミルコがVサインを向けているのはかっちゃんにだし。

 しかし林間合宿でプッシーキャッツにお世話になるなら合宿先はマタタビ荘か。去年泊めて貰ったけど、廃校になった学校の宿泊施設を買い取っただけあって広いんだよね、温泉もあるし。

 

「出久兄ちゃんっ!!」

 

「久しぶりだね、洸汰君」

 

 こちらに気づいて飛びついてくる洸汰君。弟がいたらこんな感じかな?

 

「今日はプッシーキャッツの所でお世話になっているんだね?」

 

 洸汰君の頭を帽子ごしに撫でながらそう尋ねる。ニホンバハマルに戻ってきて、洸汰君にトラックに轢かれるところから助けたお礼を言われた時に付き添いとして彼女達も居たのだ。

 

「ウォーターホースは水辺での活動が中心だからね、夏は特に忙しいのよ出久君」

 

「マンダレイ」

 

 彼女は洸汰君がパパとママは仕事だからと言った後で補足するように教えてくれた。

 

「洸汰の恩人なんだし、信乃でいいわよ」

 

 その優しい笑顔に、アリシアさんを思い出してついときめいてしまう。やっぱり年上の女性は良いなあと思っていたら洸汰君が必死にシャツを引っ張りながら真剣な顔で告げてくる。

 

「気をつけろ出久兄ちゃん、ヤツラ(結婚適齢期ヤバいの)は兄ちゃん(将来有望な若い男)を狙っている。ってパパが言ってた」

 

「「おだまり洸汰」」

 

「ギュフ」

 

 マンダレイが頭を、ピクシーボブが首を掴んで洸汰君を回収されてしまった。苦しそうだけど肉球ついてるから大丈夫だよね?

 

「仲が良さそうやねえ」

 

「ですわねえ」

 

(((麗日とヤオモモがエルフ顔になっていることに気付いて緑谷!!)))

 

「離しやがれミルコォ」

 

「照れるな照れるな」

 

「クラスメイトのツンツン爆発野郎がウサ耳美人ヒーローにヌイグルミみたいに抱きしめられている件について」

 

「判決、死刑」

 

「「「異議なし」」」

 

「壮大な景色で爽快な立ちションだったぜ」

 

 とバスが停車してからグダグダなやり取りを続けていると仕切り直すように相澤先生がゴホンと咳をしてから説明を開始する(すぐに注意しなかったのは洸汰君と僕の関係からの気遣いだったようです)。

 

「ここら一帯は私らの所有地なんだけどね」

 

 猫の手グローブで指差すマンダレイってなんかカワイイ。

 

「あんたらの宿泊施設はあの山の麓ね」

 

「「「遠っ!!」」」

 

「視認できるか出久?」

 

「ちょっと無理な距離。A組に視覚強化できる個性の子はいたっけ?」

 

「障子はいけるか?」

 

「すまん、眼球を増やしても視界を広げることしかできない」

 

「「「冷静っ!?」」」

 

 いやだってこの先の展開は予測できるし。

 

「じゃあ何でこんな半端なとこに」

 

「いやいや」

 

「バス戻ろうか、な?早く」

 

 うん、皆も気づくよね。

 

「今はAM9:30。早ければぁ、12時前後かしらん」

 

「ダメだおい」

 

「戻ろう!」

 

「バスに戻れ!!早く!!」

 

「12時半まで辿り着けなかったキティはお昼抜きね」

 

 エグい。

 

「悪いね諸君、合宿はもう」

 

 地面に手をついたピクシーボブによる個性発動。土の津波が必死に逃げる皆を押し流す。

 

「始まっている」

 

「光剣顕現(キライドルギド リオルラン)」

 

 けれど咄嗟に光剣で土流を斬り割る。これで僕の後ろにいた人達は助かったと思ったら、

 

「落ちろっ!!」

 

 と結局ミルコに蹴り飛ばされて森まで落とされてしまった。抵抗しないであのまま土流に呑まれた方がラクだったね。

 

「私有地につき個性の使用は自由だよ!今から三時間!自分の足で施設までおいでませ!この魔獣の森を抜けて!!」

 

 マンダレイの言葉を聞きながら僕達は森へと落ちるのであった。

 

 

「とりあえず人数と怪我の確認だね。捻挫とか打ち身の人いるー?」

 

「土まみれだが怪我人はいねえよ」

 

「しかしドラクエめいた名称だな」

 

「グランバハマルにもあったかそんなの」

 

「むしろ魔獣の森じゃない森なんてなかったよ」

 

 以前泊まった時も森の探検とかしなかったからなあ。当時は探検とか絶対に嫌な気分だったから。

 

「雄英こういうの多すぎだろ」

 

「文句言ってもしゃあねえよ、行くっきゃねえ」

 

「おい、なんかいんぞ!」

 

 峰田君が物音に気付いて指差せば、そこには土と木と石で構成された魔獣がいた。

 

「マジュウだー!」

 

「静まりなさい獣よ下がるのです」

 

「口田!!」

 

「いやアレは生物じゃないね」

 

「とんでもねえ個性だなオイ」

 

 僕の光剣、かっちゃんの爆破、轟君の氷結、飯田君の蹴撃でピクシーボブの個性で操作された魔獣は粉砕された。

 

「主に土で構成、補強に木材、爪や牙などの攻撃部位は石だね」

 

「壊せるには壊せるが素手だと厳しいか」

 

「個性でやるにしても最低三時間の長丁場」

 

「人員配備、役割分担が必須だな」

 

 僕とかっちゃん、轟君、飯田君で方針を固める。

 障子君と尾白君と砂藤君でも破壊はできるが負担は大きいだろうし、切島君は防げても身体が土に埋まるだろうね。

 

「出久、目的地までの道は知らねえか?」

 

「建物の外観はわかるけど場所は不明」

 

「なら、口田に鳥を使ってナビゲーションしてもらう必要があるな」

 

「? 真っ直ぐ行けゃいいんじゃねえの」

 

「乱戦で方向なんてすぐ分からなくなるわ。森だと目印ねえし見通し悪くて変化もねえ」

 

「下手したら逆方向だよ」

 

「口田もパワーあるから戦力になったがナビに専念してもらわねえとな」

 

「うむ、適材適所だ!!」

 

「とりあえず口田君にマタタビ荘見つけてもらうまで周囲に警戒しながら役割分担を決めよう。がむしゃらに動いて無駄に体力消耗できないし」

 

「出久、人数分の食いもんあるか?間違いなく昼まで辿り着くのは無理だ」

 

「ペットボトルの水と相澤先生愛用のゼリー食が大量にあるよ。あとはカップ麺と缶詰」

 

「異世界転移対策バッチリだな」

 

 かっちゃんの昼が絶望的だと聞いて落ち込んだ皆だけど僕の収納魔法という希望があった。流石に生食材は入れてないけど。

 そこから円陣を組んでから役割分担。

 前衛に僕とかっちゃん、後衛に飯田君と轟君。中心には最重要な口田をおいて索敵に向いた耳郎さんと指揮役の八百万さんを配置、その周りを護衛役として土魔獣相手に向かないメンバーで固める。機動力のある梅雨ちゃん、尾白君、瀬呂君は全体のサポートだ。

 

「ロボやら人ならまとめて撃退できる上鳴が使えねえのが痛いな」

 

「そこら中にカメラ設置してあるから、それらを壊してもらう?」

 

 この距離で土魔獣を操作できる仕組みはそれだろう。ピクシーボブはバインダーと繋がるカメラの情報から土魔獣を操っているのだ。

 

「壊したら誰が弁償すんだそんなもん。過度な破壊は厳禁だ」

 

「緑谷はグランバハマルで森とか慣れてんだろ?おじさんとかこんな時はどうしたんだ?」

 

「森を切り開いて突き進んだ」

 

「自然に優しくねえ連中だな」

 

 土魔獣対策として八百万さんに武器を創造してもらう案も出たけど、荷物の増加は機動力に関わるから却下された。ハンマーや斧って意外と振るだけで疲れるし、持ちながら走るなんてキツイからね。銃の類は簡単に持ち運べるサイズだと土魔獣には効かないし、弾丸なんか消耗品だしね。古代魔法具なんかいくらか持っているけどこれは使っちゃ駄目だよね。

 

「チチチ」

 

「建物を見つけたって」

 

「よし、行動開始だな。喉が乾いたらすぐに出久に言って水分補給。一時間ごとに休憩しながら進むぞ」

 

 喉の渇きは動きに直結するからね。消耗した分は後で払うとかっちゃんは言って、僕達は動きだした。

 

「ねえ、これならB組と合流した方が良くない?」

 

「戦力的にはそうした方が良いけど、同じ時間にスタートした保証がないんだよね」

 

 バスで一回りして時間をずらすとかできるし。

 

「行軍途中に見つけたらだな」

 

 こうして僕達は魔獣の森を攻略するのだった。

 





 改めて考えるととんでもない課題ですよね。というか休憩地点無いと無理じゃないですかコレ?


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71話 マタタビ荘の騒乱。

 

 PM 3:40。

 

「予想より早く来たにゃん」

 

 ピクシーボブのあんまりな言葉に今の課題が無理難題だったのだと実感する。

 僕の収納魔法で水と食料はなんとかなったからよいものの、もし無ければ轟君の創りだした氷に齧りつく破目になっていたことだろう。

 

「つっても爆豪の言うとおり昼飯には間に合わなかったけどな」

 

「ゼリー食に旨えと叫んだのは初めてだよ」

 

「空腹は最高の調味料」

 

 疲労困憊の皆の様子。

 グランバハマル生活でサバイバルに慣れている僕と趣味が登山で道場の山籠りの経験あるかっちゃん以外は疲労困憊でボロボロだ。というか制服の夏服と山籠り向きではない靴を履いた状態でやっていい課題じゃないと思う。

 

「まあ、まだマシだったけどな」

 

 かっちゃんの呟きに皆がこれより上の段階があるのかと信じがたい表情で振り返った。

 

「だね。狩猟用の罠もなかったし、侵入者対策のブービートラップも設置されてなかったからね」

 

 この規模の森に野生動物が生息してないなんてありえないし、畑を荒らす大型野生動物対策は土地所有者の義務だ。普段ならいくつか設置されていることだろう。

 猟期やら罠の管理責任など色々な問題もあるが、山岳救助においては注意すべき要素である。特にヒーローは個性対策に力を入れ過ぎてこういった罠などを見落とす傾向にあるとか。

 

「大型野生動物と遭遇しねえのも不自然だ、あらかじめ追っ払ったんだろ」

 

 今回は口田君がいたから遭遇してもどうとでもなったけど、大型野生動物は普通に脅威だからね。

 

「ウソの災害や事故ルームじゃ体験できないことだったなあ」

 

 なんでも体験できる施設だけどどうしても事例の再現になってしまうからね。長時間の森林行軍は現地で体験するしかないよ。

 

「しかし何が3時間ですか」

 

 うん、飛空魔法を自在に操れるおじさんと違って3時間は僕でも無理。

 

「悪いね私たちならって意味アレ」

 

「実力差自慢の為か、やらしいな」

 

「ねこねこねこ、でも正直もっとかかると思ってた。私の土魔獣が思ったより簡単に攻略されちゃった」

  

 ピクシーボブは舌をだしながら、僕、轟君、飯田、あとかっちゃんに指を向けたけど、かっちゃんはミルコに奪うように回収された。

 

「いいよ君ら特に、そこ四人っていつのまにか一人いないっ?!」

 

 恐ろしく早い回収、僕じゃなかったら見逃してたね。

 

「残った三人だけでも三年後が楽しみ!ツバつけとこー!!(プップップッ)」

 

「峰田バリアー!!」

 

 洸汰君の助言もあって対策を実行する。いくら年上美人でもツバは嫌です。

 持ち上げられてピクシーボブとの間の壁になった峰田君は、

 

「ご褒美の雫じゃー!!」

 

 なんか喜んでいた。レベルの高い変態だなあ。

 

「マンダレイ、ピクシーボブってあんな人でしたっけ?」

 

「彼女焦っているの適齢期的なアレで。この間のヒーロー女子会でミッドナイトが意中の相手のことで惚気倒していたのを見たから余計に(私もだけど)」

 

「先輩がすみません。よろしければウチのプレゼント・マイクなんてどうですか?独身ですよ」

 

「ううん、彼は結構よ(ブンブン)。あとMs.ジョークが」

 

「その気ないです(ブンブン)」

 

 なんかヒーロー達のやり取りも気になるけど、この後はどうするんだろ?色々済ませたら自由時間かな。

 

「とりあえずお前らバスから荷物降ろせ。部屋に荷物を運んだら食堂で夕食予定だったんだが、お前らが予想より優秀でかなり早く到着したからまだ夕食の用意ができてない」

 

 相澤先生に褒められると照れると同時になんか嫌な予感がするんですけど。

 そんな僕らの反応に相澤先生は合理的な件でのいつものニヤリとした表情になり、

 

「だから夕食までの時間、肉弾戦でオールマイトに次ぐと評価されているラビットヒーロー ミルコとタイマン組手だ」

 

 疲労困憊な僕達に追い打ちをかけた。

 

「「「「鬼かアンタァっ!!」」」」

 

「「「「嫌だァーーッ!!」」」」

 

「組手後に食堂で夕食、その後入浴で就寝だ。本格的なスタートは明日からだ、さァ早くしろ」

 

 6時間の森林行軍後に最強女ヒーローとの組手以上とされる本格的な訓練とは?

 

「あ、補習組は補習もあるから」

 

「「「「いっそ殺せぇっ!!」」」」 

 

 やる気満々で楽しげな様子のミルコを前に、真夏の空に僕達の悲鳴が響き渡るのであった。

 

 

 夕食。

 ミルコに蹴り飛ばされて地面を転がりまくってもお腹は空く。とりあえず細かな擦り傷切り傷は僕が神聖魔法で治したから跡も残らないだろう。

 見たかんじ他に職員やスタッフは居ないようなので、目の前に並べられたご馳走の山はピクシーボブとマンダレイ(ラグドールと虎はB組担当なのか居ない)の手作りなんだろうけど、女性ヒーローの女子力の高さに驚くよね。

 もっとも、かっちゃんの前の山盛り生人参という事例もあるから人によるのだろうけど。かっちゃんは自分の荷物から取り出してきたマイデスソースをたっぷりと生人参の山にかけてから無表情でボリボリと食べていた。その男気溢れる姿に男子一同はひたすら尊敬の眼差しを向けるのであった(同じことをやろうとは絶対に思わないけど)。

 

 

 入浴時間。

 マンダレイに頼まれて洸汰君も一緒だ。冗談なのか一緒に入浴するかと誘われたが(目が怖かった)、クラスメイトと温泉を楽しみにしていた僕は普通に断った。

 広いお風呂にテンション上がる僕達だったけど、当然そこには別の意味でテンション上げる問題児(ド助平)がいた。

 

「まァまァ、飯とかはねぶっちゃけどうでもいいんスよ」

 

 そうかな?美人ヒーローお手製ご飯とか貴重だと思うけど(洸汰君は日常的に堪能している)。

 

「求められてんのってそこじゃないんスよ。その辺わかってんスよオイラぁ」

 

 あ、洸汰君。先に身体を洗おうか。

 

「求められてるのはこの壁の向こうなんスよ」

 

 壁に向かって一人語る峰田君。

 入浴時間をズラさないのは雄英高校のミスなのか、それとも下着盗難を警戒してなのかどっちなんだろ?

 

「アイツを凍らせとくか?」

 

 割と物騒な提案をする轟君。

 かなり妥当な対処だと僕も思う。

 覗き事件なんておきたらこのまま林間合宿が中止になりかねないしね。

 

「峰田君やめたまえ!(わっ)」

 

「やかましいスよ」

 

 飯田君の注意もド助平にはどこ吹く風だ。

 

「壁とは超えるためにある!!プルス・ウルトラ!!」

 

 もぎもぎで叫びながら壁を登る峰田君。

 速いし、校訓を汚しているなあ。

 というかこれだけ騒いでいるのだから女湯にも聞こえているだろうに。避難しているよね彼女達?

 

「縛動拘鎖(レグスウルド スタッガ)」

 

 まあだからといって僕が何もしない訳にはいかないけど。

 とりあえず拘束しようと魔法を放つ僕だけど、ここで予想外のことが起こり、そして思わぬ悲劇が発生するのだった。

 

「ハッーハッハ、甘えぜ緑谷ァ?!その魔法は何度も見た!!」

 

 と予想していた峰田君が一瞬飛ぶことで魔法の鎖を回避して、

 グチュリ。

 峰田君の身体を外れた魔法の鎖の側面が、興奮したことでいつもとサイズの違うリトル峰田をえぐり擦ったのであった。

 

「▲○■ーー!?!?」

 

 言葉にならぬ叫びを上げた峰田君が意識を失って落ちてくるのであった。

 

「かっちゃん、明日からウチのクラスに女子が一人増えるかもね」

 

「あんな女子は嫌だな」

 

 ちなみに峰田君は飯田君が峰田のお尻を顔面キャッチ(二次被害)することで頭を打つことはありませんでした。

 治療行為として回復の呪符をリトル峰田に貼り付けたから多分大丈夫でしょう。

 

「こんなのにはなりたくないなあ」

 

 洸汰君の呆れ果てた呟きが一番心にキマした。

 

 こうして林間合宿初日は終了したのでした。

 





 ちなみに飯田君による峰田君のお尻顔面キャッチは原作そのまんまです。読み返したらこんな悲劇あったんですね。


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72話 番外編 昼まで生テレビ


 全世界のマウントレディファンの皆さんすいません。オリ設定ありです。



 

『「昼まで生テレビ!」今日のテーマは「ヒーロー活動にセクシーさは必要か?」というわけでゲストはこのお二方!』

 

 お茶の間に流れる番組。

 ヒーロー業界屈指の美女、ミッドナイトとマウントレディが同じテーブルにて各々の意見とコメントを発していた。

 

『現在教鞭も執っているミッドナイトさん、デビュー当時あまりに過激なコスチュームで話題を呼び、遂には「コスチュームの露出における規定法案」が提出されたという国をも動かした大ベテランです』

 

 平和の象徴 オールマイトの活躍により闇の帝王オールフォーワン信者組織を筆頭とした裏社会は衰退。それにともない国内においての銃など武器類の密造密輸は困難となった。そのためヒーロー達の軽装化は加速していき今では重装は具足ヒーロー ヨロイムシャやターボヒーロー インゲニウムなどの限られたヒーローのみである。

 またエンデヴァーのヘルフレイムのような高火力の個性の前には重装は意味をなさず、回避機動力重視の軽装コスチュームが主流となっていった。

 そこにはサポートアイテム業界の企業努力による品質向上と、軽装コスチュームの方が安価であるという新人ヒーロー達の切実な懐事情も大きく影響していた。

 そんな中で問題となっていったのが増加していく女性ヒーロー達だ。男性ヒーローならパンツ一丁にマスクだけ、鍛えぬかれた肉体に赤ふんどしだけでも受け入れられた(極一部の例)モノだが女性となるとそうはいかない。

 それを性差別とするかはまた別の議論となってしまうのだが、ヒーローのメディア露出がソレを問題としてしまったのだ。

 

「今も過激でヤバいコスチュームですけどね」

 

「極薄タイツですよ今は」

 

 ビヨとタイツを伸ばしながらミッドナイトは言う。かつてデビュー当時は個性である眠り香を散布しやすくするため極薄タイツすら着ていなかったのだ。

 余談だが、ミッドナイトは現雄英高校サポート科の某生徒に鎮圧用の催眠弾開発のため眠り香を採取させて欲しいと追いかけまわされていたりする(そして身長を気にしているサポート科教諭が胃痛で倒れた)。

 

「個性の性質上衣服が活動の妨げになってしまう、そういった方は多いのです。セクシーさが必要かどうかではなく必要を求めた結果セクシーという評価につながっているだけで」

 

 硬質化、獣化、生成、放射、肉体変化や肉体からナニカを生み出す個性は多くそれゆえ衣服は邪魔になってしまうのだ。

 

「ぶっちゃけ趣味ですよね?手錠とムチとかのデザインといい、そっち系意識してますよね?」

 

 とミッドナイトの発言を遮るようにマウントレディはボソリと呟く。

 

「あなた何?ケンカ腰だね」

 

 同期にあたるプッシーキャッツの面々ですらしないその態度にどちらかというと姉御気質のミッドナイトとてムッとする。先輩を立てる十三号の可愛らしさを見習って欲しいものだとすら思っていた。

 

「いえ、何というかすごいと思ってますよ。いい歳して」

 

 その発言に今までの彼女ならブチリと脳の血管が切れて掴み掛かっていたことだろう。だが、

 

「まあ私もいい歳で、意中の相手がいる身としてはコスチュームの改良も考えてはいるんです(発目考案の全身鎧に散布用ホースがついたデザインは微妙だが)」

 

 意中の相手(某異世界おじさん)がいる彼女は年下独身の挑発に激昂すること無く恋する乙女のように口元に手を当てて頬を赤らめてもじもじとしだす。

 

『ほう、まさか女性ヒーロー人気随一のミッドナイトさんにそんな人が?!』

 

 驚きの話題とミッドナイトの反応から議題以上に盛り上がるコメンテーターと会場。そして感情を無くし能面のような表情となるマウントレディがいた。ちなみに田舎出身の彼女だが、昔から個性のせいか見た目に反して怪力であり、握力のみでリンゴの生搾りジュースを作れるほどあったため学生時代のあだ名がマウンテン○リラだったとか。そのため彼氏いない歴を絶賛更新中である。さらに余談だが故郷にて旧友がその時の写真(黒歴史)をパッケージに使用したリンゴジュースを販売しており巨万の富を築いていたりする。

 

「はい、その彼なんですが訳あって美人とか過激な格好とかに慣れている人ですけど、彼の甥っ子が私のヒーロー活動映像を見せると恥ずかしそうに目を逸らすんですよ。そんな反応を見ちゃうと今のコスチュームを改良した方がいいのかなって」

 

「惚気かクソが」

 

『(今のマウントレディの発言は後で編集して)』

 

『(生放送ですよコレ)』

 

「でも、同時に私の格好に照れてくれるそんなあの人の反応をもっと見ていたいかなって思う自分も居るので、どうしようかなと悩んでます」

 

『まあ一ファンとしてはコスチュームは替えて欲しくないですねえ』

 

 なおこのコメンテーター、今の発言からオープンスケベと認知されることになる。

 

「自慢ですか?良かったですねえ男いて」

 

 ヤサグレ気味なマウントレディにミッドナイトは菩薩のように優しく笑い、

 

「大丈夫よ貴方、まだ若いんだし」

 

 先程の仕返しも兼ねて勝者の如く上から目線で言うのだった。

 

 その後キレたマウントレディが個性を発動して会場を破壊してしまい放送は半ばで強制的に終了となってしまうのであった。

 

 





 ちなみにミッドナイトのヒーロー活動映像を見ていた敬文君に藤宮さんが目潰し水平チョップをかましてしまったとか。


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73話 限界突破


 オリ設定有り閲覧注意。



 

「ああ神はなぜこのような試練を与えるのです。勇者様が魔獣の森を越える、その場に従者たる私がなぜ付き従えなかったのですか?」

 

「クラス違うからだろ」

 

「相澤先生発案のとんでも試練らしいね」

 

「担任がブラキン先生で本当に良かったわ」

 

 ド助平の化身峰田実が性転換しかけようともこの偉大な母なる星は揺らぐことなく明日を運んでくれる。

 勇者 緑谷出久の従者を自称する僧侶 塩崎茨は己の身に降りかかった苦難を神に問いかけていた。

 魔獣の森を越えるという、塩崎茨において非常においしいイベント。しかしてかなり方針及び性格がぶっ飛んでるイレイザーヘッドこと相澤消太とは異なりマトモな常識人であるB組担任ブラドキングは、林間合宿一日目を基礎体力訓練を兼ねたヒーロー三人監督下での森林行軍としたのだ。

 山岳救助に長けたヒーローであるラグドールと虎に森林活動時においての注意事項を指導されつつ丸一日かけB組一同はマタタビ荘へと辿り着いたのであった。

 その道のりがA組とB組のどちらが大変であったかは言うまでもない。

 だが担任であるイレイザーヘッドとブラドキングの方針の違いがそのまま反映されたのだ。最低限の安全の保障はして苦難を与えるイレイザーヘッドと基礎能力向上のため万全な指導を行うブラドキング。そこにはブラドキングが一年生担任をするのが今年度が初であったことも要因の一つである。また通常なら肉体の成長に合わせる限界突破訓練を前倒しして行うため初日で負荷を与えすぎたくなかったのだ。

 A組は森林行軍後にミルコとタイマン組手までしていたのだが。

 

「さて、林間合宿の目的は個性伸ばしだ。個性を酷使させ肉体を壊すことを第一とするため、傍から見たら旧世代のシゴキや非人道的な行為や体罰にも見えてしまう。だから人目のある雄英高校敷地内ではなくわざわざ泊まり込みで林間合宿するんだ」

 

 ヒーローになる、そのために苦難を与える方針である雄英高校であろうとも完全に外部の意見を無視できるわけではない。

 だが訓練で九割九分九厘死にかけようと、実戦で完全に死んでしまうよりは遥かにマシであることをヒーローを兼業する教師陣はよく理解していた。

 だからこそ人目につかない合宿地にて過酷な訓練を課すのである。

 そう、行う者たちの悲鳴が絶えない、生徒達から地獄絵図と称されてしまう訓練を。ちなみに轟さん家の焦凍君はつい最近までコレが日常で、とある異世界転移者は死んで覚える方針の某おじさんに手を引かれて一戦ごとに限界突破する破目になったこともあるとかないとか。

 許容上限のある発動型は上限の底上げ、異形型・その他複合型は個性による器官・部位の更なる鍛錬。どちらも負傷を前提とした流血・悲鳴を撒き散らしながら行うのだ。

 

「しかし私たち入ると40人だよ。そんな人数の個性をたった7人で管理出来るの?」

 

 とはいえ分類が明確にし難いのも個性の問題な所、統一規格での訓練が成り立たない。

 疑問を持てるくらい思慮深い拳藤の言葉に、イレイザーヘッドはだから彼女らだと答える。

 

「そうなのあちきら四位一体!」

 

「煌めく眼でロックオン!!」

 

「猫の手、手助けやって来る!!」

 

「どこからともなくやって来る」

 

「キュートにキャットにスティンガー!!」

 

「「「「ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ!!!(フルバージョン)」」」」

 

 山岳救助等を得意としチームでお互いサポートし合う彼女達であるが、その個性は指導にも向いていた。

 ラグドールが個性の情報を的確に見定め、ピクシーボブが各々に見合う場と撃破目標を形成、マンダレイが担任のヒーロー達による指示とアドバイスを鍛錬中にも遠隔から伝え、虎が殴る蹴るの暴行を行う。

 

「あとラビットヒーロー ミルコが唐突に襲いかかるから気は抜くなよ。集中しつつも警戒は欠かさないための訓練だ。安心しろ多少死んでも緑谷の神聖魔法なら蘇生できるから」

 

「「「多少死ぬって何っ?!」」」

 

「プルス・ウルトラだ」

 

 そう腕を組みながら無慈悲に告げるイレイザーヘッドの姿が、生徒一同には死神が大鎌を振り上げてるように見えたのであった。

 

「つーか緑谷はどうすんだ?スゲー強いんだろ?」

 

「期末の演習で先生そうがかりだったらしいし」

 

「魔法で治療担当かな?ぶっちゃけそっちの方が需要あるし」

 

「なるほど、治療練習用の怪我人が山程量産されるからな。俺たちだけど」

 

 指導方法を聞き、彼らが気になってしまうのは雄英入学試験からトップを走る勇者のことだ。戦闘能力が突き抜けている彼を教師達はどう指導するのだろうか。

 

「人を気にするより自分のことに集中しろと思うが、伝えておくか」

 

 ヤレヤレとした態度でイレイザーヘッドは言う。

 

「光剣と闇剣を一定の挙動で振りながら、不意打ちを察知して、黒鞭で攻撃を弾きながら、煙幕を撒き散らして、一定の高さで宙へ浮く。肉体強化を維持したままな」

 

「「「全部のせっ?!」」」

 

 なお二代目の個性は単体で負担が大き過ぎるので併用は断念せざるを得なかった。

 

「つーか勇者ってそんなこと出来るのかよ」

 

「統一性の無い能力ばかりだな」

 

 その返答に疑問を持ったりもしたが、教師達に促されB組も地獄絵図に加わることになった。

 

 

 

 PM4:00。

 

「さあ昨日言ったね、「世話焼くのは今日だけ」って!!」

 

「己の食う飯くらい己でつくれ!!カレー!!」

 

 自分達も疲れているにも関わらずハイテンションなピクシーボブとラグドール。流石にプロヒーローのスタミナは伊達ではないようだ。

 

「「「イエッサ⤵⤵」」」

 

「アハハハハ、全員全身ブッチブチ!!だからって雑なネコマンマは作っちゃダメね!!」

 

「あー、作るのしんどいならカップ麺ならあるけど」

 

 グタっとした皆を見てられないのか緑谷出久が収納魔法に備蓄してあるカップ麺を取り出す。

 

「それは凄く甘えたくなる提案だが、材料が用意されてるし」

 

「でも合宿先でカップ麺とかなんか良い感じだから夜食用に一個くれ」

 

 緑谷出久が希望者にカップ麺を配る中、ハッと救助の一環だと気づいた飯田天哉の指揮の元、世界一旨いカレー作りに取り掛かった。

 

「とりあえず爆豪を拘束しといてくれ緑谷」

 

「了解」

 

「なんでだクソがっ?!」

 

「疲れた身体に、丸ごと人参の激辛カレー煮なんて食いたくねえんだよ」

 

 生人参のデスソースかけをボリボリと食べていた彼を調理の場に立たせるような愚を侵す者はA組には居なかったそうだ。

 

 





 とりあえずオリ設定として、雄英高校敷地内でも出来そうな訓練を外部でやる理由を書きました。マスコミが張り付いていて、他科の目もある状況であの訓練は厳しいかなと。
 またミルコがランダムに襲撃する以外は緑谷君以外は原作そのまんまな訓練です。 
 そしてプッシーキャッツも洸汰君関連からの付き合いからなのもあって本人達の同意の元スパイか記憶を確認した上でワンフォーオールについて明かしています。
 あと峰田君は治療もあって男のままです。


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74話 合宿の夜。


 爆豪君視点です。なおギャグ回。



 

「何してんだお前ら?」

 

 三日目の晩飯は肉じゃが。

 カレーの次の日に肉じゃがは嫌だなあと思いながらも大鍋調理が可能で二十人もの腹を満たす学生が出来る料理などそう多くない。イズクのように食いもんを持ち込めば良かったと後悔していたら、マンダレイから肉じゃがに使う肉を牛肉と豚肉か選ぶように告げられた。ぶっちゃけどうでも良いのだが、対抗心の強いB組の物間のせいでどちらにするのかその場で決まらなかったのだ。このままだとまた面倒な勝負になりそうだと察したA組一同はジャンケンで負けた俺に話し合いを押し付け部屋へと戻ってしまった。物間に慣れた結果スルーが一番効果的だと学んだのだろう。反応も相手にもされず寂しそうな物間の後ろ姿があったとか。

 そんな経緯で決まった肉じゃがの話し合いだが、発端の物間が拗ねて部屋の隅で体育座りしだしたので、特に揉め事にならずもう肉を両方打ち込もうと両クラスの肉じゃがを協力して作ることになった。つーか物間が煽らないと敵対しないのなコイツラ。

 牛豚ダブルの肉じゃがが確定して割り当てられた部屋に戻ったら、

 

「顔真似やります。オールマイトからの異世界おじさんっ!!」

 

「もう個性だろソレっ?!」

 

「一発芸、ラベンダー」

 

「グロっ?!」

 

「ザ・魔雲天」

 

「ブフーッ?!」

 

 オールマイトの濃い顔から異世界おじさん顔に自分の顔を真似というか変形させる出久。

 伸ばした一つの腕から突き上げるように掌を生やして遠目にはラベンダーに見えるが半端なくグロいことになっている障子。

 後頭部に顔と柔道着を書き、某悪魔超人を表現している口田。

 その様々な芸に寡黙なキャラ作りをしている常闇が黒影共々畳をパンパン叩く程爆笑していた。

 

「俺達ヒーロー候補生に遊んでる時間などない」

 

「いや遊んでるだろ」

 

 パーティグッズのクルンとカールした付け髭を装着した轟は腕を組みながらそう言った。

 

「ヒーローにユーモアは欠かせない。ゆえに僕達は日々研鑽を続けなくてはならないんだっ!!」

 

「言っていることは理解できるが、迷走していることも自覚しろ」

 

 星型サングラスをつけた飯田の真面目な言い草に突っ込む。やはりお前らの暴走かよ。

 

「「さあ次はお前(君)の番だ」」

 

 A組男子一発芸大会と紙に書いて張り出されているからこの天然と生真面目があらかじめ用意していたのだろう、何してんだコイツラ。

 しかしこの場で披露できる持ち芸なんぞそう無い。全くあらかじめ言っとけよ段取り下手め。

 内心で悪態を付きながら荷物から徳用ボトルのタバスコを取り出す。

 

「タバスコ一気飲み」

 

 蓋を外すのが面倒なので瓶の上部を手刀で切り飛ばし飲み干す。

 

「「おおー」」

 

「いや拍手してないで瓶を手刀で切れることに誰か突っ込めよ」

 

「プハーッ。旨い、もう一本っ!!」

 

 とりあえず俺の番は終了だな。

 

「そろそろ補習の時間だから次で最後だな」

 

 補習組は一発芸大会の後に補習をやるのか、エゲツねえ。

 

「よーし俺の番だな」

 

 そしてこれから夜中に4時間座学補習なのに元気だな上鳴。

 

「峰田っ!!」

 

 おそらく峰田のモノマネのつもりなんだろうが頭部にもぎもぎを大量に貼り付けて上鳴は勢い良く飛び出してきた。

 

「「「うわあ」」」

 

「え?」

 

 だがそれを見た男子一同は上鳴の期待した抱腹絶倒爆笑大ウケではなく、コイツやっちゃったよというドン引きな目だった。

 

「え、どうして?面白いだろ?」

 

 その反応に上鳴だけが理解出来ずに聞いてくるのだが、マジでやらかしに気付いてないらしい。

 

「なあ上鳴よ」

 

「ウェイ?」

 

 皆の反応にもはや涙目の上鳴にこれから起こる悲劇を教えてやる。

 

「どうやってそのもぎもぎを取るんだ?」

 

「いや普通に引っ張って、あ」

 

 ようやくやらかしたことに気付いた馬鹿(上鳴)。そう吸着力抜群の峰田のもぎもぎ、そんなモンを頭に付けたら峰田そっくりになれるだろうが剥がす時地獄に決まってんだろ。

 

「しまったーっ!!」

 

「ハゲ確定だな」

 

「皆で上鳴をハゲまそう(ドヤ顔)」

 

「まさにハゲ増しだな(ドヤ顔)」

 

「障子、この天然と生真面目を座布団で張り倒せ」

 

「ああ分かった」

 

 頭を抱え叫ぶ上鳴にドヤ顔の二人。

 処置を障子に頼んだが、これもユーモアかとそれすらも満足げだ。

 そしてブチリブチリと上鳴の頭からもぎもぎを取る音と上鳴の悲鳴がマタタビ荘の夜に響いていった。

 

 こうして合宿二日目の夜は過ぎていった。

 なおこの上鳴の自爆は、後に『峰田の刑』としてA組のお仕置きとして恐怖と共に定着するようになる。まあ峰田本人と口田にはあまり意味は無いが。

 




 補足説明。

 障子君の一発芸、ラベンダー。
 自分の個性で誰かを笑わせようと彼が苦心の末に生み出した一発芸。だが意図に反して半端なくグロいため子供は泣く。
 元ネタと見た目は魔人探偵脳噛ネウロのイビルラベンダー。
 攻撃技としての威力はかなりのモノ。
 


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75話 肝試し


 DSポケモンのデータ整理してました(土下座)。久しぶりにやろうと引っ張りだしたら伝説ポケモンやらいてデータを消せなかったのです、あと中古ソフトには限定ポケモンもいたし。



 

 一発芸大会も終わり翌日。

 上鳴君が補習あるからと慌ててもぎもぎを髪ごと頭から峰田君にもいでもらってたけど、よく考えたら時間経過で取れたよねアレ。嗤いながらブチブチしてた峰田君は多分気づいてたと思う。

 流石に合宿も三日目となると環境への慣れもあって疲労が顔を出すようになってくる。そんな僕らに諌めるように相澤先生が注意し、自らの原点を意識するように告げる。

 原点、オールマイトの誰かを救う姿、異世界おじさんの先を征く背中。そうなりたいという願望が僕の始まりなんだろう。

 あと他の先生方、オールマイトは来ないのかと聞いてみたけど敵に動向を悟られないように人員の追加はないそうだ。特にオールマイト良くも悪くも目立つしね。

 

「ねこねこねこ、それより皆!今日はねえ」

 

 そんな疲れ気味な僕らのやる気をだすようにピクシーボブが肝試しの決行を告げた。そういえばしおりに書いてあったね。

 しかしアメとムチというけど、耳郎さんみたく怖いのが無理な娘にはむしろムチだよね。

 

「まあ本当に怖いのはお化けやら魔物よりエルフだけどね」

 

 お化けやら魔物なら光剣で斬れば倒せるけど、エルフは倒せねえ。

 

「いやお前だけだから」

 

「次に怖いのは人間だよね」

 

「含蓄のある言葉のように聞こえるが、ただの経験談だろソレ」

 

 怪談とか日本昔話も教訓として語られてた説もあるでしょうに。向こうでもドラゴン埋めババアみたく語り継がれているのかな、オーク食いエルフ。

 

「それでも合宿中に遊ぶのは気が引けるな。プッシーキャッツとミルコという実力あるヒーロー達の時間を頂いている身としては」

 

 遊ぶのは気が引けるって飯田君、昨晩の一発芸大会も充分遊んでいるから。真面目な彼らしいけど。

 

「ま、肝試しだから遊びってだけじゃないがな」

 

 だよね、かっちゃん。

 

「どういうことだい爆豪君」

 

「夏場とか長期間の休みに行楽のため出かける人は多い。だから夏場はレスキューヒーローは大忙しだ」

 

「そしてその中には困った人達もいる、夜の山とか立入禁止区域とかに遊び半分で侵入する人とかね」

 

「んでそんな連中がおこしたトラブルに対処するのは大概ヒーローだ」

 

「最近だとヒーローを呼ぶためにやっている人達もいるらしいよね」

 

「動画投稿企画でやってたな、ヒーローがどれくらいで駆けつけた、とかで」

 

「だから僕達も経験しておいた方が良いんだよ、夜の山での肝試し」

 

 雄英高校生ははっちゃけてるようでその実は優等生ばかり、特に中学生時代は雄英高校入学のため机に張り付いていただろうし。

 

「というかこの中で肝試しとかやったことある人っているの?」

 

 性格的にも廃墟やら墓地やら山に侵入する人っていないよね、意外だけど真面目な子ばかりだし。

 

「オイラあるぜ」

 

「峰田君!!」

 

 まあ峰田君はコミュニケーション力高いしね。

 

「中学時代に女の子にキャー怖ーい、と抱きつかれるために企画したんだがな」

 

 既にオチが見えて泣きそうです。

 

「結局は野郎しか集まらなくて、キャー怖ーいと蒸し暑い夜中に野郎二人に両側から抱きしめられちったよ」

 

「「「別の意味で怖いわ」」」

 

 峰田君はその時の事を思い出して顔を青褪めて震えている。やっぱり怖いのは人間だよね。

 あと女子的に峰田君は抱きしめて頼る存在じゃなくて投げつけて囮にする存在だよね、サイズ的に。

 

「むう、確かに夜中に出歩くことすら僕は経験がないな。中学時代もそんな遊びもしたことがない」

 

「俺もないな、訓練ばっかだった」

 

 何気に灰色な中学時代の子ばっかりなんだよな雄英高校生。イジメとヒーロー追っかけと異世界ライフな僕も充分灰色だけど。

 

「なるほど!!だから遊びだけではなく真剣に学ぶための企画なんだな、まさに一石二鳥だ!!」

 

(((なんか生徒達が盛り上がっているけど夏だから適当に肝試しにしたなんて言えないなあ)))

 

「というわけで今は全力で励むのだあ!!」

 

 なんか誤魔化しているようなピクシーボブの声を聞いて僕達は訓練に集中するのであった。

 

 

 夜、肉てんこ盛りの肉じゃがを食べて後片付けも終了した。となると、

 

「「肝を試す時間だー!!」」

 

「不健康ですね、もう少し食生活に気を遣ってください」

 

 酒も煙草もしてないけどゼリー食ばっかだからねイレイザーヘッド。

 

「食事に拘るとか合理的じゃないだろ」

 

「そこもコントしだすな」

 

 肝試しの言葉でついイレイザーヘッドの肝を魔法で検診してしまったよ。多分サー・ナイトアイの影響。

 

「その前に大変心苦しいが補習連中は、これから俺と補習授業だ」

 

「ウソだろ?!」

 

 涙を流しながら抵抗する補習組を捕縛布で拘束してズルズル引きずっていく相澤先生、超容赦無い。うん、学校で補習授業よりキツイよコレは。

 そんな可哀想な面々をスルーしてルール説明。脅かす側先攻はB組で既にスタンバイ済み。A組は二人一組で3分置きに出発、ルートの真ん中に名前を書いた御札があるからそれを証拠として持ってくること。所要時間は十五分くらいかかるらしい。

 しかしどういった意図の道なんだろここ?迷う恐れがあるから別れ道はないだろうし、遊歩道かな?お堂や社があるなら分かるけどまさかこのためにわざと作ったとか。

 

「創意工夫でより多くの人数を失禁させたクラスが勝者だ!」

 

「やめて下さい汚い」

 

 失禁より僕は光剣がでそうで心配です。

 そして組分け、くじ引きだったため僕は一人になりました。というか芦戸さん抜いた女子5人のうち4人が二組になるとか肝試しの醍醐味無くない?

 

 

 始まった肝試し。

 コレが歴史に残るあの決戦の前哨戦であったと、僕達はまだ知ることは無かった。

 この時この瞬間は当たり前のようにいつもと変わらない明日が来るのだと、無邪気に信じていたのだ。異世界転移なんてしといて信じていたんだ。

 

 



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76話 開闢行動隊


 原作と変わらないシーンは省きますので閲覧注意。



 

 それに気づけたのは異世界生活のおかげだった。グランバハマルでの生活は都市や村より野宿が中心、そしておじさんが一度寝たら朝まで起きないということを知ってからは寝ながらも周囲を警戒する癖がついてしまっていた。それをすり抜けておじさんの布団に潜り込んでいたあのエルフはなんなんだと思うけど、エルフだから仕方ない(諦め)。

 だから僕は、茂みをかき分けながら振るわれた巨大な筋肉の拳からピクシーボブを庇うことができたんだ。

 

「一応尋ねますけど、この山に在住のオーガの亜種ですか?」

 

 ピクシーボブを抱きしめながら空いた片手に顕現した光剣で巨拳と鍔迫り合う。束ねられた筋肉は硬さこそ切島君や鉄哲君に劣るものの柔軟性を加味したら間違いなく二人よりも厄介。現雄英高校一年の肉体強化、質量変化個性持ち達の上位互換である存在だ。

 

「あらま失礼しちゃうわ、この子。こんな美女を前にしてオーガなんて目が腐ってるんじゃないかしら」

 

「明らかに俺に言っているだろコイツはよぉ」

 

 加えてもう一人、長物を持つ巨漢。

 

「リーダーの命令だから名乗っておくわね!!私達は敵連合開闢行動隊!!そして私は敵連合に咲く麗しき一輪の華、マグネ!!」

 

「あーこのオカマが華かどうか置いとくが、俺はマスキュラー。やりたいことをサポートしてくれるご機嫌な集団に所属するヴィランだ」

 

「マグネにマスキュラーだと、どちらもヒーローを撃退したことすらある凶悪なヴィランか!!」

 

 虎の言葉に緊張が広がる。

 ヒーローから逃げきれるヴィランはいる、だがヒーローを撃退できるヴィランは限られる。だからこそヒーローショー気分で一般民衆は事件現場に集まってしまうのだ。

 ヒーローはヴィランよりも強い。

 それはこのヒーロー飽和社会において、いわば前提に等しい認識なのだから。

 そして、

 

「プッシーキャッツより、このマスキュラーは間違いなく強いか」

 

 マスキュラーを弾き飛ばしピクシーボブをそっと地面に降ろす。筋繊維を増殖させ身体能力を増幅させつつも防具として身に纏う。合宿に参加しているヒーローでもミルコとイレイザーヘッド以外は厳しい難敵。この場においては殺さないというハンデを負った僕しか勝てない存在だ。

 

「皆下がって、僕がやります」

 

 光剣を構えて一歩踏み出す。

 個性使用許可も戦闘許可も出して貰っている余裕はない、このマスキュラーはこの場の全員を殺せる存在だからだ。

 

「くっ」

 

「けどっ」

 

「あらやだ素敵♡」

 

 実力というより相性の悪さを理解したプッシーキャッツは皆の安全を優先せざるを得ない。

 大人としてヒーローとして前にでたくとも経験と理性がそれを押し止める。彼女らの主な活動である災害救助、それに長けるということは優先順位の見極めが的確であるということなのだから。

 

「ハハハ良いねえ、お前良い感じだ!!やりたいことはやらなきゃ駄目だよなあ!!殺したい俺と守りたいお前はお互いやりたいことをやりあって!!」

 

 溢れ出る筋肉繊維がマスキュラーを覆う。

 

「勝ったほうが好きに我を通そうぜ!!」

 

 相手は脳無に匹敵する身体能力の戦闘、殺人狂のI・アイランドの鉄仮面レベルの強敵。最速で決めようにも相手が敵連合である以上は黒モヤに戦力を追加されかねないので反動のあるセカンドは使用できない。

 

(死なないでくれ皆)

 

 僕は襲いかかる暴力を迎え撃ちながら皆の無事を祈るのであった。

 

 

 

「虎!!ラグドールからの応答、襲いかかってきた脳無はミルコが撃退!!山火事だけで無く毒ガスも確認、現在は合流した生徒達とマタタビ荘へ向かっている!!」

 

「脳無までもかっ?!」

 

「ピクシーボブは土魔獣で迎撃!!私達はマグネを押さえる!!」

 

「良い判断ね、けど土魔獣程度で脳無と私達に勝てるかしら?」

 

「飯田君、貴方は引率!イレイザーヘッドとブラドキングとマタタビ荘で合流!!」

 

「緑谷君っ」

 

 緑谷出久とマスキュラーによる激しい激突音が響き渡る中、マンダレイの指示が奔る。

 

「さらにイレイザーヘッドからの指示!!A組B組総員の戦闘を許可する!!」

  

 イレイザーヘッドの決断は早かった。オールマイトによる敵連合の背後に居る存在の説明は自らの処分を躊躇わせない。

 

 

 

「ショットガン!!からの霊丸!!」

 

「肉、グホウ」

 

「魔闘凍霊拳!!」

 

 枝分かれし迫りくるエナメル質の刃を爆破と拳撃の連打で撃ち落とし、中心となる顔面に的確に爆破球を命中させる。顔面にて爆ぜた衝撃と熱に怯みふらついたヴィランに接近した轟による冷気を込めた一撃で肉体内部から凍りつかせる。

 

「雄英お約束のサプライズ、じゃねえよな」

 

「いくら雄英でもヴィランを用いた訓練なんてしないだろ」

 

 マンダレイによるテレパスによって事態は把握したがその時はもう戦闘は開始していた。道に転がされていた切り離された腕に一瞬動揺したが、生きているならイズクが治せる。だから襲いかかるヴィランを撃退したのだが。

 

「常闇にこんな欠点があるとはな」

 

「そういや寝る時に布団の中にライトを点けてたなアイツ」

 

 イズクの記憶にある竜のような巨体と化した黒影。闇が深いなら制御効かないと肝試し前に伝えとけよ。

 

「とりあえず俺の爆破とお前の火で鎮めてから回収すんぞ」

 

「皆が心配だ、道なりに居れば良いけどな」

 

 イズクは何してやがる。

 いやアイツの手が空かねえ強敵がいるってことか?B組はミルコとラグドールがなんとかするだろう。

 

「なあ爆豪」

 

「どうした?」

 

「今回の一件だがもしかして」

 

「ああ、プッシーキャッツと教師だけならともかくミルコまで居る状況で襲撃なんて普通はしねえ。あの兎女なら感知しながら撃退くらいできるからな」

 

 既に脳無数体に毒ガスヴィランは蹴り飛ばしたと連絡が来ている。

 襲撃された時点で雄英高校は負けたが、敵連合とて完勝にはならない。

 秘匿された合宿地は知られていたが、戦力は正確ではないという、あまりにも不自然な情報の流出。

 

「まだ誰にも言うな、クラスメイトに敵連合の内通者が居るなんてよ」

 

 誰かは想像がつく。

 ソイツはイズクや俺達の実力すら正確には把握できないくらいクラスメイトから距離をおいている人物だからだ。

 

「ソイツは、俺達の事が嫌いなのかな?」

 

 黒影を鎮めた常闇に手を貸し、B組生徒達を背負う障子と合流しながら寂しそうに轟は呟く。

 

「さあな、事情はそれぞれだろ」

 

 この場には居ない、イマイチ感情の読みきれないクラスメイトの顔を思い浮かべながら俺はそう返した。悪人ではない、だが人質でも取られたら善人とて悪行をやるものだ。

 

 

 

(まいったね。余裕あったら生徒を拉致れって命令だったけど無理だこりゃ)

 

 木の上にて状況を把握していた敵連合開闢行動隊の一人コンプレスはそっとため息をついた。

 襲撃成功の時点で勝ちは勝ちだが、追加ボーナスは見込めないと判断を下す。

 そもそも戦力的には脳無とマスキュラーにムーンフィッシュだけで皆殺しは可能な見立てだった。だが初手による厄介なピクシーボブの無力化とラグドールの拉致が失敗した以上、後は後手後手だ。

 知能の無い脳無達は土魔獣に足止めをくらい、毒ガスで動けない生徒達はラグドールに回収された。マタタビ荘に増やした脳無をけしかけることでイレイザーヘッドの足止めは成功しているがそれも時間の問題だろう。

 

(たく、内通者君にはペナルティかな?)

 

 ミルコというこの状況で最悪なヒーローの存在と、緑谷出久、爆豪勝己、轟焦凍、というマスキュラーとムーンフィッシュを撃退できる金の卵の実力を報告していないという利敵行為。ケジメが必要なレベルだ。

 

「さーてミルコに見つからない内に帰るとしますか」

 

 最悪、渡我ちゃんとトゥワイスの回収さえできれば良い。そこはマーキングしてる黒霧の仕事だしな。本音を言えば何もしないのはエンターテイナーとしては業腹だが無様な姿を晒すのもよろしくない。

 

「またなヒーロー諸君、良い夜を」

 

 ゲートに入りながらコンプレスは負け惜しみ気分で手を振った。

 

 

 

 雄英高校林間合宿襲撃事件。

 林間合宿三日目の晩の敵連合による襲撃。

 その事件による被害は無し。

 事件において被害を受けた重・軽傷者は緑谷出久による神聖魔法により全員完治。念の為病院にて検査は行う予定。

 一方敵側は、3名の現行犯逮捕と複数の脳無の確保。プッシーキャッツと交戦していたマグネは黒霧によって回収された。

 少年少女が楽しみにしていた林間合宿は最悪の結果で幕を閉じた。

 

 だが、

 

「緑谷少年、やって欲しいことがある」

 

 それは最強のヒーローに覚悟を決めさせるきっかけとなった。

 

「良いですよ、けど言っておきます。

 内臓が吹き飛ぶくらい痛いですからね」

 

 決戦の時は迫る。

 

 





 すいません期待されていた敵連合の追加戦力はありませんでした(土下座)
 なお描写を省いたシーンですが、
 マスキュラー、緑谷君と激戦の上敗北。
 マスタード、ミルコにより蹴り飛ばされる。
 トガちゃん、梅雨ちゃん、お茶子ちゃんとナイフを混じえた女子話。
 トゥワイス、脳無を消されるたびに複製。
 ヤオモモ、泡瀬君に頼んで発信機溶接。
 ミルコ無双。
 となります。
 コンプレスはミルコを確認次第ずっと気配を消してました。
 なお洸汰君はマタタビ荘にいたので無事です。
 正直、原作でもマスキュラーの早期撃退が無ければ全滅もあり得たと思うのでこんな感じです。
 オールフォーワンにしても事前情報では追加戦力を出す必要がなかったので(なお緑谷君達学生の実力を正確に把握してたらギガントマキアをけしかけてました)、内通者君のお手柄ですね。


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77話 復活


 残業を無くす個性が欲しいです(吐血)。
 オリ設定有り閲覧注意。
 いやこの展開は無理な人は本当に無理かも。



 

 ピクリピクリと意識を失ったまま身体を痙攣させるオールマイトを手術台の上に放置して、僕は完全防音された手術室から出る。

 治療(?)は無事成功。

 個性の発生により急速に発展した医療技術でも治すことの出来なかったオールマイトの古傷は、神聖魔法という神の御業により癒やされたのだ。

 

「無事に終わったようだな。尤も私の目にはこの未来は見えていたが」

 

 まあ手術台の上で痙攣してる姿では判断することが難しかったがなと、まるでサラリーマンのような見た目のヒーローであるサー・ナイトアイは言う。

 彼の個性で成功する姿が見えたら実行する。それはこの治療法を試みる前に決めていたルールだった。

 

「検査した結果だけど譲渡による個性因子の低下こそあるが、それでも以前よりはエネルギーの巡りが良くなっている。やはり負傷部位にかなりワンフォーオールの比重が割かれていたようだ」

 

 僕達より遅れて手術室から出たデヴィッド・シールド博士が検査データを見ながらそう告げた。それならば活動時間は今までより改善しただろう、こればかりはオールマイト本人に確認しなければならないけど。

 

「しかし麻酔も無しにやるのはどうかと思ったけどね。トシなら腹に穴の一つや二つ空いたところでまるで揺るがないのは間違いないが」

 

「デヴィッド博士に同意するな。確かにオールマイトならたとえ首だけになろうと笑顔を絶やさないだろうがな」

 

 流石は元サイドキックの二人。オールマイトへの信頼が半端ないです。

 

「グランバハマルだと麻酔無しだったのでつい。それに治療ならともかく再生魔法で麻酔効いてたら思わぬ副作用とかありそうなので」

 

 腹部そのものを吹き飛ばしてからの再生魔法、グランバハマルで何度もやったがその時に麻酔の類は使用していない。大丈夫か試して見ればよかったのだが、麻酔を投与してから腹部を吹き飛ばして再生魔法の治験なんて言うまでも無く違法だ。こっちの世界ではまだそこまで自分自身が重傷にもなってないので自分でも試してないし。

 

「神様の力ならなんとかなるんじゃないかな?」

 

「ああ偉大な英雄に奇跡は与えられるだろう」

 

「同一である確証はないですが、あんな異世界転移と転移ボーナスを与える神様ですよ。信頼できませんよ」

 

 再生音声でリージョンコードすら適当な神様なんですから。

 

「敬意は払っても妄信するな。自分に都合良く力が働くと思っちゃ駄目だよとおじさんも言ってました」

 

「ヨウスケらしい言葉だな」

 

「異世界おじさんか、この件が終わったら私も挨拶に行くとしよう」

 

 おじさんらしい深い言葉だけど、実はメガドライブのエイリアンソルジャーの経験かららしいです。取説にフェイク入っている点かららしいけど(あくまでおじさんの意見です)。

 おじさんらしいなぁ(遠い目)。

 

「しかしこれでオールマイトは復活した、経験を積んだ分だけ強化されてると言っても良い。個人的には彼が食事を楽しめることが喜ばしいがな」

 

「そうだね、ヴィラン連合に対する反撃作戦があるから直ぐにとは言えないが昔馴染みを集めてパーティを開きたいね。弱体化がバレないよう人付き合いも避けがちだったしね、トシは誤魔化し下手な嘘をつけない性格だし」

 

「その件なんですが」

 

 オールマイトは健康体になることで全盛期とは言わないまでも力を取り戻した。それはこれから控えているヴィラン連合との決戦にて大きな力となるだろう。だけど僕は、ここで彼らに一つの提案をした。

 

「トシは反対するよ」

 

「お前は何を言っているか理解しているのか」

 

 提案を聞いた二人も渋い顔をする。

 これはそれだけのことだからだ。

 

「歴代からの許可は得ています。そして初代からも今まで前例は無いが恐らくは可能だとも」

 

「しかしトシの気持ちがだね」

 

「いやオールフォーワンが現れる可能性が高い以上そうすべきではあるが」

 

 提案内容に悩む二人。

 この二人の思想はオールマイトが最優先、だからこそあの人の意に沿わぬことはしたくないのだ。

 だがこれは僕にしても退けないことなのだ。

 

「とりあえずトシに話してからだね」

 

「ああ全てはオールマイトが決めることだ」

 

 結論はそうなる。

 そう本人に無理強い出来ないことだから。

 僕は収納魔法で異空間から盃を取り出してオールマイトが目を覚ますのを待つのだった。

 

 

 

「うん爽快な気分だね。まるで生まれ変わったような感じだよ」

 

 ヨロヨロと手術室から出てくるオールマイト。その姿は痩せこけた骸骨のようではなく、マッスルフォーム時程ではないが筋肉質な男性の姿でデヴィッド博士とサー・ナイトアイは懐かしそうに見ている。これが6年前のオールマイトのトゥルーフォーム、八木俊典なんだろう。

 

「ありがとう緑谷少年。これで私は全力で最後の戦いに臨めるよ!!」

 

 拳を握りしめてオールマイトは言う。そこに決意を込めているかのように。けど、

 

「本当ですか?」

 

 僕はその言葉に頷けない。

 

「本当に全力なんですか?」

 

 だからオールマイトに問いかけるのだ。

 

「ああ、ワンフォーオールの残り火を燃やし尽くしつもりの今の全力だね!!」

 

「それは貴方の全力じゃない!!」

 

 これを最後と決めたヒーローの言葉を僕は否定する。今の状態ですら出来ることを全てやりきっているわけではないのだから。

 

「緑谷少年?」

 

 叫ぶような僕の言葉に呆気に取られるオールマイト。

 そんな彼に僕は告げる。

 

「ワンフォーオールを受け取ってくださいオールマイト。ワンフォーオールを宿した貴方こそが全力のオールマイトなんだ」

 

 僕は自らの血を溜めた盃をオールマイトに突き出す。

 自らの一部を飲ませ意思を込めることが、ワンフォーオールの譲渡の方法なんだ。

 

「待ってくれ、緑谷少年っ!!私はもう君に託したんだっ!!いくら勝つためでもその力を再び受け取ることなんて出来ないっ!!」

 

 叫びながら拒否するオールマイト。

 その意思は分かる、残り火の力でなんとかしてみせるという彼の決意は分かる。

 でも、

 

「ヴィラン連合の制圧に僕とおじさんは参加できません。治療のために後方に控えることはできても貴方と共に戦うことは出来ないんだ」

 

 かつてオールフォーワンを討った決戦、そこにはグラントリノだけが援護としていたらしい。

 トップヒーローが集結する今回の戦いにここまでする必要はないかもしれない。たとえ窮地に陥ってもオールマイトならその意思で逆境を打ち破ることができるかも知れない。

 

「貴方の最後の戦いに悔いなんてあってはいけない。ワンフォーオールがあればこうはならなかったと後悔して欲しくない。だから再びこのバトンを受け取って最後まで走り抜けて欲しいんだ」

 

「緑谷少年」

 

「僕に再びこのバトンを渡すために必ず生きて勝って戻ると約束して欲しいんだ」

 

 頭を下に向けて泣きだしそうな顔を隠す。

 保証が欲しいんだオールマイトが勝つことの。

 約束が欲しいんだ戻ってきてくれることの。

 僕はただ不安なんだ、戦いの結果を恐れている。オールマイトの死を恐れている。

 平和の象徴とすら謳われたヒーローを信じきれてない自分が情けなくてみっともない。

 世界は何が起こるか分からない。それを実感して知るがゆえに不安が拭えない。

 

 軽くなった手。

 顔を上げればグイと盃を傾け血を飲み干すオールマイトがいた。同時に自分の中から力と歴代達の意識が抜け出ることを感じた。

 

「約束しよう緑谷少年。私はヴィラン連合に、オールフォーワンに勝ち、君に再びこの力を託すと」

 

 輝かんばかりに気迫溢れる姿。

 今ここに平和の象徴は完全に復活したのだった。

 

「私が完全復活して来たっ!!」

 

 





 正直この展開は受け付けられないかもと考えて投稿を悩んでました。
 でも出来ることは全部しないと全力ではないと思うのでやりました。なお先代の生存がオールマイトしかいないため、再び継承できるかはオリ設定です。ご意見感想お待ちしております。


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78話 扉の先。


 時間は前後します。
 とあるキャラの人格面などオリ設定なので閲覧注意です。解釈違いならすいません。



 

 雄英高校林間合宿襲撃事件から翌日。

 雄英高校の会議室にてイレイザーヘッド、ブラドキングを除いた教師陣が集まり情報共有からの対策会議を行っていた。

 私、ミッドナイトは席につきながらもかつてのヴィジランテ達の騒動を思い出しながら皆と意見を交わしていた。

 治に居て乱を忘れず、帝国華撃団の父であるあの偉大な米田中将の言葉を胸に刻んでいなかったことによるヒーローの、雄英高校の、現政府の、私の、失態。

 夢を叶えるために汗を流す学生達の青春の一時は、情けない大人達と悪意あるヴィランの手によって辛い記憶へとなってしまった。

 認識が誤っていたのだ。

 ことはもう敵活性化の恐れ、という時点では無かったのだ。

 連中の目的はヒーロー社会を壊すこと。

 己の衝動の発露に留まらない、より大きな思想。それはかつて存在した異能解放軍を想起させる。

 ただ幸いだったのは爆豪君がプッシーキャッツのマタタビ荘に泊まることを聞きつけて強引に参加してきたミルコの存在。

 彼女が夜の山を縦横無尽に駆け回りヴィランを撃退してくれたから被害はでないですんだ。なんでもプッシーキャッツのメンバーであるラグドールは脳無に執拗に狙われていたらしく、ミルコは助けたラグドールを背負って彼女のサーチのサポートを受けながら生徒の救助とヴィランの撃退をしてくれたのだ。けどその脚力で飛ぶように駆けるミルコの乗り心地は内臓がシェイクされたように感じるくらい最悪だったと顔を青くしたラグドール本人は言っていたらしいわね、乙女として吐くような失態はなんとか防いだみたいよ。

 あと怪我人やガスを吸った生徒については緑谷君が治療してくれたから後遺症の心配もない。だからといって無かったことになんてならないけどあの子達の未来に影響しなくて良かったわ。

 

「生徒の拉致も狙われていたようだけど、防げたのは不幸中の幸いなのさ。脳無なんてシロモノを拵える連中に捕まったら子供達がどんな目にあったことか」

 

「ですね、ただでさえ雄英高校に在学する生徒は強力な個性の子ばかり。改造人間の素材として用いられてもおかしくない」

 

 それが脳無という存在が発覚してから一番恐れている点ね。今までの事件で回収した複数の脳無、信頼できる医療関係者に調べてはもらっているが現代の技術で元に戻すことは不可能。いや改造された人間を治すことは医療技術の領分であるが、動く死体を元の存在に戻すのは死者蘇生という奇跡の領域なのだから。

 仮に私達は脳無にされてしまった生徒達に攻撃をすることが出来るのだろうか。それは仮定すらしたくない出来事なのだ。

 

「メディアにも非難をくらってはいるが」

 

「擁護の声も少なからずありますね」

 

「転移個性前提の襲撃を防ぐ方が無理があるって意見がでてるな」

 

「むしろ個性診断による個性管理の重要性を指摘する識者もいるな」

 

「ただでさえ転移個性の人はスカウトって形で管理拘束されてるのに」

 

 犠牲者がでてないがゆえのメディアと世間の評価、事実として同じことをされて防げる組織が存在しないからだろう。

 

「信頼云々ってことでこの際言わせてもらうがよ、今回で決定的になったぜ。いるだろ内通者」

 

「それは」

 

 プレゼント・マイクの言葉に思い当たる節があり押し黙る一同。

 今回の件、転移個性を警戒して例年の合宿先から変更した上での襲撃。それが何よりの証明になってしまったのだから。

 そして、

 

「連中はミルコを想定してなかった。けど飛び入り参加とはいえ俺達教師一同はそれを知っていた。なら内通者は生徒ってことになるぜ」

 

 ミルコの林間合宿の参加。

 それが私達を容疑者から外してしまったのだ。

 

「まあ先日の異世界おじさんのおかげで俺達がシロなのは確定している。けど内通者探しは焦って行うべきではないだろ」

 

 疑心暗鬼を恐れているからだけじゃない。

 生徒が内通者であるならば、下手な介入は最悪の事態を招きかねないからだ。

 ヴィラン連合、オールフォーワンの協力者や崇拝者の類ならまだ良い。けど人質などが取られているパターンなら調べることそのものが惨劇の引き金になりかねないのだ。

 

「内通者に関してはもっともだけど、学校として行わなければならないのは生徒の安全保証さ。今回の件は外部のミルコと生徒の緑谷君のおかげだしね。内通者の件もふまえ、かねてより考えていた事があるんだ」

 

『でーんーわーが来た!』

 

「すみません電話が」

 

「会議中っスよ!電源切っときましょーよ!」

 

(着信音ダサ)

 

(自分の声だ)

 

(携帯電話会社が企画してたなそういえば)

 

 一旦退室したオールマイトが戻ってきた後、知り合いの刑事からの情報が伝えられた。

 その情報を元に知恵者である根津校長を中心とした作戦が練られ、私達の行動方針と対策が決まり会議は終了することになったのだ。解散時のオールマイトの覚悟を決めた表情が何故か印象的だった。

 

 

 

 帰宅。

 つい先日引っ越しばかりのアパート、その扉の前で私は立ち竦んでいた。

 いつもなら当たり前のように開けられるソレが、そこにあるのに触れることの出来ないゲームの背景のように感じてしまう。

 自宅ではない。

 ここは隣の想い人が住む場所だ。

 疲れた時、癒やしが欲しい時、最近ではセガをプレイするより此処にきてしまう。此処に来て彼に会いたくなる。

 けど、

 メディアに報道された今回の事件。

 その被害には彼が面倒をみていた緑谷君も親しくなった塩崎さんもいる。彼らの学校生活を守れなかったというヒーローとして教師としての失態を私は晒してしまったのだ。

 怖い。

 会いたいけど、会いたくない。

 会いたいけど軽蔑されたくない。

 会いたいけど嫌われたくない。

 ヒーローをやっている上で、失態を晒した後の非難の目を向けられることはある。それが原因で、それに耐えられなくてヒーローを辞める人がいるくらい当たり前のごく普通のことなのだから。

 けどもし彼にまでそんな目を向けられたら?

 そんな想像をしただけで血の気が引くような感覚に囚われてしまう。

 

 やっぱり止めよう。

 ドアノブに伸ばした手を引っ込めて踵を返す。

 辛い気持ちはある、無力感に蝕まれてもいる。けどそれはいつものことで何度だって経験したことだ。今日もまた一人で抱えて、一人ぼっちの部屋で乗り切ろう。そう決めたそんな時に、ガチャリと音がした。

 触れてない扉が向こう側から開いた。

 そこから出てきた彼は、室内の明かりのせいで表情が分からない。

 ヒュっと喉が鳴る。

 それは恐怖からでた怯えた末の声にもならない音だった。

 

「睡さん」

 

「ハ、ハイ」

 

 ガチガチに固まる私に彼は、

 

「おかえりなさい、大変だったね」

 

 人によっては怖く見えるらしい、私にとっては何よりも優しく見える表情でその言葉を告げてくれた。

 そして私は気がつけば彼に抱きついて、泣きながらただいまと言っていたのだ。

 辛い気持ちを受け止めてくれる彼に縋りついて。

 今だけはヒーローのミッドナイトでは無く、ただの香山睡として。

 





 いやヒーローだって人間ですし、女性ですから。泣きたい時もあるかなと。
 被害者の手前、ヒーローは辛い顔なんて許されないだろうし。
 ミッドナイトはもっと強い人だと思う方はすいませんでした。


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79話 ワンフォーオール。


 すいません、かなりギャグです。
 独自設定もあるので閲覧注意です。



 

「目覚めなさい、目覚めるのですオールマイト。いや八木俊典よ」

 

(なんだ?)

 

 誰が呼ぶ声がする。

 私を呼ぶ声がする。

 それが助けを求める人々の声でないことにホッとしつつ妙な違和感を感じながら私は瞼を開く。

 身体に痛みなく寝れるのはいつ以来だろうかと思いながら床についた昨日の夜。どれくらい睡眠は取れただろうか緊急連絡以外で人に起こされるのは久しぶりだ。だが眠りについた筈なのに寝た感覚がしないことに私は気がついた。

 

(いや、まさかここは)

 

 心当たりはある。

 そう緑谷少年が歴代継承者達からハグされた(師匠にもとか超羨ましい)、ワンフォーオールの精神空間だ。

 

「起きましたねウィリス」

 

「ぎぃぃぃやぁぁぁっ!!」

 

 が、そこには触れそうなくらいドアップな見たことのないおじさんの顔があり、私はグラントリノのSIGOKI以来出したことの無い悲鳴を上げた。

 というか、誰?

 ジーパンにシャツ、さらにガンベルトを付けたフヨフヨと浮いたバーコード頭のおじさん。歴代にこんな方は居なかったよね?

 

「私はお前のコスチュームに宿る精霊!!そして此処は私の空間、ウィリス空間でウィリス(本当は勝手に間借りしてんだけど)」

 

「コ、コスチュームの精霊ですか。そんな存在も居るんですね」

 

 緑谷少年と異世界おじさんの使う精霊魔法があるのだから居てもおかしくはないが、なんでこんな見た目なんだろう?

 

「まあ特にこの国は八百万の神とかいうなんでも神様がいる国だから余計に発現しやすいんでウィリス。メイド服とか木刀とかギャルのパンティーにも精霊はいるでウィリス」

 

「そ、そうなんですか(個性関係無く、ファンタジーなんだな現実って)」

 

「お前が志が高いだけのクソザコナメクジな無個性だった時からお前のすぐ側にコスチュームの精霊は存在したんでウィリス」

 

 クルンと横回転してからこちらを指差してコスチュームの精霊は言う。

 

「だがそれももう終わり、別れの時はもう間近なのでウィリス」

 

 そうかわかった。

 なんでこのタイミングで彼がコスチュームの精霊が会いに来てくれたのか。

 塚内君達、警察の皆さんが突き止めてくれたヴィラン連合の拠点。その地の制圧、ヴィランの捕縛、そして居るであろうオールフォーワンとの戦いこそが私のヒーローとしての最後の務め。

 だからこそ彼は共に戦い抜いた戦友として私に別れを告げにきたんだ、と。

 てっきり緑谷少年に継承したことでワンフォーオールがバグったのかと思ったよ。

 お疲れ様はまだ早い。

 けど今までありがとう、ヒーローコスチューム。君という存在があったからこそ私はヒーローに成れて、ヒーローで在れたんだ。

 

「そう、最後の、最後の機会だから」

 

 涙を堪えるかのように俯いた精霊(自称)。

 ポツリポツリと何かを呟くと、飛び跳ねるようにいきなり顔を上げる、そこに狂笑を浮かべながら。

 

「積年の怨みを此処で晴らしたらあーっ!!」

 

 右手にチャカ、左手に長ドスを握りしめて襲いかかってきた!!

 

「えええーー!!」

 

 ナンデ?! ドウシテ?! 

 

「個性に耐えきれないからとコスチュームを破きすぎだテメェーーッ!!」

 

 どうしよう、心当たりしかない。

 

「「「「「「「「オールスターインパクト!!!!」」」」」」」」

 

「ひでぶ?!」

 

 だが、ヴィランにも劣らない激情と狂気と殺意をもって襲いかかってきた精霊は7人のヒーロー達が一斉に放った必殺技に呑まれ消えていった(初代は何故か椅子を投げてた)。

 

「危なかったな八代目」

 

「まさかここまで怨まれるほどコスチュームを壊したヒーローがいるとは」

 

「まあ大概のヒーローは怨まれる前に引退か死ぬからな」

 

「危機を察知できなかったな」

 

「仕方ねえだろ、コイツは現役長い上に激戦絶えなかったんだからよお」

 

「物は大事にな」

 

 一言ずつ呟きながらいつの間にかあった椅子に腰掛ける歴代の継承者の皆さん。そして、

 

「久しぶりだな俊典」

 

 あの日私に未来を託して散ったヒーローがいた。

 

「お師匠」

 

 誰よりも長くワンフォーオールという個性を身に宿した。けど今まで一度としてこんなことはならなかった。緑谷少年の言っていた歴代の皆さんと対話など正直いって眉唾な話だったのだ。

 だがその奇跡は、こうして今、私の目の前に存在したのだ。

 

「ありがとう、お前は私の誇りだよ」

 

 それは一度とはいえヤツを撃退したことの礼だろう。でもそれは貴女が繋いでくれたからなんだ。皆さんの覚悟が今を形つくったのだ。

 

「ああそうだ八代目」

 

「確かにまだやり残しはある」

 

「でも、それでもだ」

 

「ヤツを倒したのは君で」

 

「お前が倒してくれたから今があり」

 

「俺達が伸ばした手は希望へ届いたんだ」

 

「「「「「ありがとうオールマイト」」」」」

 

 心からのお礼の言葉。

 これがあるからヒーローは立てる。

 悪意に欲望に、立ち向かえるのだ。

 私は胸からこみあげるナニカを堪えきれず涙を流すのであった。

 ヒーローとして、平和の象徴として、オールマイトとしてのいつもの笑顔で。

 

 そこからは彼らとひたすら話した。

 起こるべき最悪の事態の予測、オールフォーワンの目的、歴代の個性の使用はどうするか、死柄木弔について、資料にも殆ど残っていないヤツの過去、緑谷少年の印象、私は十代目にもなったけど八代目のままであること、異世界おじさんには継承しないで、エルフ怖い。

 多くのことを語り合い、恐らく最初で最後となる彼らとの一時、それらを未来へと活かすと私は改めて誓った。

 

「またな」

 

 手を振る憧れの人。

 あの日とは違う、二度目の生涯の別れ。

 

「私は師匠が!!貴女が好きでした!!」

 

 だから言えなかった想いを叫んだ。

 初恋のあの人へ。

 子持ちの人妻に何を言ってんだと、困ったような笑みを浮かべた彼女の表情が新たに手に入れた私の宝物だ。

 消えるというより薄れて離れていくという感覚で私は目を覚ますのであった。

 

 

 

 

 しかし、部屋の隅のモニターとこんもりと積まれたゲームソフトの山は何だったんだろうか?

 





 シリアスな決戦前に何してんだとも思いましたが、このタイミングでしかやれない話しだったので。 
 オールマイトの初恋云々は捏造設定です。  
 なお歴代個性は使用せずパワー全振りです。
 どんな会話だったかは今後でるかも?


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80話 決戦開始。

 

「どうだ勝己、惚れ直したか?」

 

 雄英高校ヒーロー科林間合宿のイベントである肝試しで起きたヴィラン連合による襲撃。誰よりも迅速に動き生徒どころかヒーローまでも救ったラビットヒーロー ミルコは最近お気に入りの爆豪勝己ことかっちゃんにそう言った。個性 兎の筈なのにその姿はまるで狩りをした雌ライオンが夫である雄ライオンに獲物を自慢しながら差し出しているようであった。

 

「直す必要なんて、あるわけねえだろ」

 

「ふえっ」

 

 だがかっちゃんはそんな彼女の言葉に顔を逸らしながら吐き捨てるように本心を吐露する。そこには同級生を助けてくれた感謝だけではなく確かな彼の本心が含まれていたように見えた。

 だがむしろ戸惑ったのは言い出したミルコの方であった。男性との付き合い自体は無いがその容姿と肉体美から言い寄る男のあしらいには慣れている彼女は、自ら積極的に絡むもののどこか未だに玩具認識だった少年のその言葉に不意を打たれて普段あげないような乙女成分マシマシな変な声を上げたのだった。

 

((((こいつツンデレ極めてやがる))))

 

 保護され治療されはしたが気だるくてぐったりしている生徒達と負傷者を必死に神聖魔法で治療していた僕は年の差ラブコメに癒やされ元気を貰いつつそんな風に思ったのであった。

 なお事件では無傷だった筈の峰田君はその光景を見たせいで吹き出した血涙を流し過ぎて出血多量で生死の境を彷徨っていたとか。

 

 

 そんな一幕もあった林間合宿後、検査入院する同級生達のお見舞いをして、オールマイトの治療と託された個性を一時返却し完全復活を終えた。

 そして暫し時は経ち、場所を変えた先に、日本が誇るトップヒーロー達は集結した。

 何故か呼ばれた僕が集合前にオールマイトの休んでいる部屋を訪ねたら、そこにはコスチュームやらサポートアイテムを前に何度も土下座を繰り返して謝罪している姿があり僕は頭に?マークを浮かべることになった。

 

「どうしたんですオールマイト?」

 

「いやね、日頃の行いを悔い改めるべきだと思い知らされてね」

 

「引退(予定)直前に何を言ってんですか、あと塚内さんが聞いたら物凄く頷きそうですよ」

 

「ごめんなさいコスチュームにサポートアイテムの皆さん、狙って壊したんじゃないです。必死だったりウッカリだったりウッカリだったり勢いよくだったりなんです。わざとじゃないんですごめんなさい」

 

「?」

 

 どこからか『だが許さん』という幻聴が聞こえた気がしけど、塚内さんから連れてくるように頼まれていたのを思い出して僕は謝り続けるオールマイトを引き摺るように連れていくのであった。

 

 

「そうそうたる顔ぶれが集まってくれた。さァ作戦会議を始めよう」

 

 オールマイトの担当であることからヒーロー達にもっとも顔の利く警察官である塚内さんの一言からヒーロー達の反撃は幕を開ける。

 敵は前代未聞の所業を繰り返す頭のネジの外れたイカれた集団であるヴィラン連合。

 その黒幕と予想される存在のせいもあり、集められる限りのトップヒーロー達が集結した。何故かヒーロー免許の無い一学生に過ぎない僕もその場に居るけど。実際に中学生時代の事件と雄英高校体育祭の活躍があるから顔を知らない人は居ないようだけど、大半のヒーロー達はなんでいるんだろ?と疑問符を浮かべていた。

 だがごく一部のトップ陣、エンデヴァーとベストジーニストとエッジショットは独自の情報網から公的には伏せられたI・アイランドでの活躍を把握しており理解を示していて、エンデヴァーに至っては神聖魔法による回復魔法も知っているため納得もしているようだった。

 

「雄英高校からヒーローは呼べないか、市街地であるがゆえにセメントスの助力がないのは惜しいな」

 

「林間合宿に参加したことからミルコも無理だな。彼女が動けば作戦行動していると告げるようなものだからな」

 

「襲撃事件から雄英高校は監視されていると見て間違い無い。向こうに転移個性がある以上、こちらの初動は知られてはならない」

 

 そう、監視や密偵の存在が推察されているため精鋭たる雄英高校教師陣とさらに今回の事件に関わったミルコとプッシーキャッツは動けない。

 また現在遠方にいるホークス、クラスト、ヨロイムシャ、リューキュウ、などのトップヒーロー達も無理だったのだ。

 とはいえギャングオルカとシンリンカムイにマウントレディに加え、グラントリノとサー・ナイトアイという強力な戦力も参加しているので戦力が足りないということはないのだが。

 オールマイト台頭以来、いやヒーロー飽和社会と言われてから初とも言えるトップヒーロー集団による制圧作戦。それはこれがそれだけの事だからだ。

 

「今回の事件はヒーロー社会崩壊の切っ掛けにもなり得る。総力をもって解決にあたらねば」

 

 社会の崩壊。

 それによる群衆の暴走はグランバハマルで何度か経験したことがあり、下手したらこの場の誰よりもその恐ろしさは理解できるかもかもしれない。

 あんなことがニホンバハマルでも起こる、それはなんとしても阻止しなければならない。

 

「生徒の一人が仕掛けた発信機ではアジトは複数存在すると考えられる。我々の調べでヴィラン連合メンバーのいるであろう場所はわかっている。主戦力をそちらに投入し主犯たる死柄木弔の捕縛を最優先とする」

 

 USJや保須市での行動から主導なのは間違い存在である手だらけ男の死柄木弔。黒幕が後ろに控えているとはいえヤツがヴィラン連合のリーダーだ。

 

「同時にアジト、恐らく脳無保管施設と考えられる場所を制圧し完全に退路を断ち一網打尽にする」

 

 いかに悪趣味ばかりとされるヴィランと言えど、改造人間である脳無、生命活動こそしているがもはや生きた死体のような存在と日常生活することは不快だろう。そのため八百万さんと泡瀬君の活躍でつけられた発信機の示す場所は調整や改良も必要な脳無の保管庫であると予測されていた。現在確認されているヴィラン連合メンバーに科学者がいないこともその理由の一つだ。

 

「今回はスピード勝負だ!敵に何もさせるな!現在報道されている雄英高校側からの会見で敵を欺くように難航中であるかの様に装ってもらっている!」

 

 被害者である雄英高校の教師達の謝罪会見。一個人としてはその悪者扱いには納得できないが、それこそが社会でそのしがらみに向き合うことが職業として存在する現代ヒーローの宿命だ。

 だが、それすらも反撃の一手としてヒーロー達は流れを覆す。

 

 リカバリーガールに代わる治療担当として後方に控えながら、僕は作戦に臨む。

 光差す明日のために。





 原作読み返すとタイムスケジュールがエグいです。ズレがあったらすいません。
 というか多分ヒーロー達は警察署ロビーに集められて作戦説明されて即実行の可能性が。対応力あり過ぎ流石ヒーロー。
 なお当作品オールマイトは、事件発生から、会議、内臓ぶち撒け、再生、個性再譲渡、就寝からウィリスイベント後に作戦と、スーパーハードスケジュール。
 ちなみに雄英高校生は緑谷君を除いて検査入院か自宅待機で、誰も攫われてないので出張る生徒とかいません。そして緑谷君は回復魔法のため超特例で参加しています。リカバリーガールが現場来れないので。


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81話 神野決戦。


 原作改変有り、閲覧注意。
 


 

 オールマイトの拳とエッジショットのピザ配達から突入は開始した。

 存在感のあるオールマイトに中のヴィラン達の意識を集中させ叩き割った壁から捕縛に定評あるシンリンカムイが拘束をする。

 そして小回りが利き速度が速いグラントリノとエッジショットが転移個性を持つヴィランの意識を断てば後は完了だ。

 内部にいるヴィランの素性は把握されている、中には林間合宿襲撃では表に出てない者もいたがこの建物を調べる過程で判明したのだ。

 都市内各所と各店舗に設置された監視カメラ、持たない者がいないのではないかと言うほど必須になった高性能通信録画機器であるスマホ、そこに職務熱心な警察官の努力があれば大概のことは調べ尽くせるのだ。もっともそれでも素性の分からない死柄木弔と黒霧という存在がいたが、その事実が黒幕であるオールフォーワンにとって重要な存在であると推察することができた。

 作戦成功と雄英高校の謝罪会見でご機嫌で仲間達と騒いでいたヴィラン連合はここで一気に天国から地獄に突き落とされたのである。

 死柄木弔が苦しまぎれに脳無を呼びださせようとするが捕縛された黒霧は出来ないと告げる。それは向こうの制圧が成功していることを示していた。

 

「これで終わりだ死柄木弔!!」

 

 力強いオールマイトの宣言、それだけで萎縮し怯み降参し投降するヴィランとて少なくはない。溢れる存在感とパワーはヒーローとしての威厳と生物としての格の違いを相手に理解させるからだ。

 だが、

 

「お前が!!嫌いだ!!」

 

 死柄木弔は激昂する。

 オールマイトに怯みすらしないで、内面にある鬱鬱とした感情を爆発させるように。

 そして同時に液体のようなものが何も無い空間から溢れるように吹き出し脳無が大量に出現した。

 咄嗟に飛び出して切り伏せようとするが、そんな僕の行動を高速で弾丸の如く飛ぶ押印が遮った。

 転移という便利な個性を一つだけで我慢する筈がない、その予測から控えていたサー・ナイトアイは脳無の頭部を的確に打ち抜き同じく控えていたプロヒーローと武装警察官とともに鎮圧していった。

 苦し紛れ、それは最悪の未来を誰よりも知るサー・ナイトアイが居る限り通用しない。

 

 

 場所は変わりヴィラン連合のアジトの一つ八百万百による発信機で判明した脳無格納庫。

 未だルーキー扱いされることすらありながら周囲の被害に目を瞑ればヒーロー随一の制圧力を誇るマウントレディによる一撃から制圧は開始した。

 最前線にて指揮をとるのはナンバー4ヒーローでありシンリンカムイ以上の捕縛力を持つベストジーニスト。そして最悪の事態に備えてオールマイトに並ぶ戦力であるナンバー2ヒーローのエンデヴァーだ。

 人質などがいない現状、施設ごと焼き払うという容赦の無い作戦をヒーロー側は視野に入れていた。

 

「脳無による抵抗も無し、命令が無ければただの人形のようですね」

 

「ギャングオルカは向こうで正解だったようだな」

 

 施設破壊のマウントレディ、脳無捕縛のベストジーニスト、制圧戦闘のギャングオルカ、という予定だったがエンデヴァーが居るため向こうに回されたのだ。

 

「だが人形ならば整備をする専門の知識を持つものが必要だ」

 

「設備を見てもあくまで保管庫、製造する施設は別にあると見て間違い無いですね」

 

 ならばあとは情報収集をするかと両ヒーローが歩きだそうとしたところで、ソレは現れた。

 

「予定とは少し違う展開だ」

 

 響く声は不吉さをはらんでいた。

 百戦錬磨のヒーロー二人はすぐさま臨戦態勢をとる。

 

「だがまあ、逆転なんて僕一人で事足りる」

 

 敵には何もさせるな。

 その思想が躊躇い無く拘束に動いたベストジーニストだが巨悪の一手を防ぐには余りにも足りない。

 放たれた衝撃は眼前のヒーローと警察官と脳無格納庫、そして周囲のビル群すらもまとめて吹き飛ばす。

 

 筈だった。

 

「赫灼熱拳ジェットバーン」

 

 身体能力ではなくその火力で最強の一角と称されるフレイムヒーローがいなければ。

 異世界グランバハマルの恩恵、耐火の呪符という自身の個性の欠点を完全に無くすアイテムを得たエンデヴァーの火力は、闇の帝王の一撃すら相殺しきった。

 

「驚いたね」

 

「貴様がオールフォーワンか」

 

 取るに足らないと見下していた存在の思わぬ反撃に巨悪は驚き、次のナンバー1ヒーローであるエンデヴァーは平和の象徴が戦い続けた巨悪と相対した。

 

「ベストジーニスト、皆を下がらせろ」

 

 いつ以来かとエンデヴァーは思った。

 ナンバー2と呼ばれるようになってからは遭遇すらしなくなった、勝てないかもしれない存在と戦うことになるのは。

 

「確かに今のデニムでは拘束しきれないか。頼むぞエンデヴァー」

 

「周辺一帯の避難も頼む。こうなればもはや秘密作戦どころではない、人員を掻き集めて市民を救ってくれ」

 

 コイツは俺がやる。

 エンデヴァーはそう宣言し、猛る戦意を表すかのように全身から炎を吹き出す。

 

「ランキングなどあるから誤解が生まれる」

 

 それをオールフォーワンは眼なき顔で呆れたように見る。

 

「ナンバー1とナンバー2、オールマイトとキミ、同じ領域に居ないにも関わらず頑張れば勝てるように見えてしまう」

 

 自身の影響力がオールマイトのせいで低下してきた頃に出来たヒーロービルボードチャート。実力あるヒーローを示すソレは巨悪にとって脅威でも何でもない。むしろどれから消せば人々は絶望するか示すリストに過ぎなかった。

 オールマイトとその他。

 区分などそれだけで充分なのだから。

 

「全くもってカワイソウだねえ、キミは」

 

 しかし見下されたエンデヴァーは挫けない。

 そんなことに、そんな事実を聞き飽きてないトップヒーローなど誰一人としていないのだから。

 それでも上を目指したのが己なのだ。

 

「戦う前に一つだけ言っておく」

 

 ゆえにこの機会でしか言えないことをエンデヴァーは伝える。

 彼にとってのケジメを。

 

「目的はどうあれ、俺の息子である燈矢の命を救ってくれて感謝する」

 

 ヴィランに礼を言うのはもっとも苛烈なヒーローであるエンデヴァーにしては屈辱の極み。

 だが生きて再会できたのは目の前のヴィランが回収し非合法とはいえ最新の治療を施してくれたからだ。本心からの感謝を戦いにしこりを残さぬために告げる。

 

「ああ、あの失敗作の出来損ないか」

 

 しかしソレは巨悪にとってはどうでも良いことで、当然のように思いを踏みにじる。

 

「なんだ、社会を引っ掻き回すことくらいは出来ると思っていたのに家族とお涙頂戴の再会して満足したのか」

 

 つまらない、期待外れ。

 そんな態度を隠しもしないで言う。

 

「せっかくわざわざ感情を誘導してやったのに、あれだけ手をかけてやったのにこうも使えないとは。

 エンデヴァー、君の見立ては正しかったよ。アレは完膚なきまでに使い物にならない失敗作さ」

 

 オールフォーワンを取り込むには強い感情が必要。ゆえに長き時をかけて死柄木弔という次の肉体を創り上げている。しかしそのスペアとして目をつけて、精神誘導の個性をかけて劣等感と焦燥意識を増大させた素体は肉体に欠陥あるだけではなく、肝心要の精神まで足りてなかったようだ。

 元より趣味8割のサブプラン。失敗に落胆こそ無いがガチャで外れを引いた気分くらいにはなる。

 

「ケジメとして礼は言ったぞ。貴様は塵も残さず焼き尽くしてくれる」

 

 その言葉にブチ切れるエンデヴァー。

 もはや語る言葉無しと激情のままヘルフレイムを解き放つ。

 なぜあの甘くすらあるオールマイトがこうも嫌悪を顕にするのか、その理由を悟った。

 コレはあってはならぬ、人の世に居てはならない存在なのだと。

 ヒーローが打ち倒さねばならない悪だと。

 フレイムヒーローエンデヴァーは激情と義憤と使命感に燃え上がり巨悪へとその炎を向けた。

 

 その激戦は時間にして五分足らずだろうか、空まで届きそうな火柱が夜を照らしていた。

 赫灼熱拳、エンデヴァーを象徴する必殺技を駆使しオールフォーワンの複数の個性を重ねた破壊の風を相殺し都市を人々をヒーローは守っていた。

 途中でヴィラン連合のメンバーが泥のような個性で転移されたので纏めて焼き払おうとするも、再び別の箇所へと転移された。

 ぶつかり合うたびに傷つくのはエンデヴァーばかり。個性による肉体強化の無いただ鍛えているだけの身では、他者から奪いさらにドクターによる調整まで施されているオールフォーワンに勝てる筈も無いのだ。

 平和の象徴は未だに来ない。

 それは彼が脳無に手間取っているからではない。あの馬鹿げた身体能力で人々を避難させろとエンデヴァーがそう頼んだのだ。

 

(勝てぬ訳だ)

 

 エンデヴァーの胸にある感情は納得。

 異世界からの恩恵、棚からぼた餅のようなチートアイテムである耐火の呪符で個性の副作用を打ち消そうとも目の前の弱った巨悪すら倒せない。

 コレの全盛期を打倒したオールマイトとの差は明白に過ぎるというもの。

 自らの努力は届かない。

 超えられぬ崖の先にオールマイトの背中はあるのだと改めて実感した。

 時間稼ぎにしかならない悪あがきのような激戦。その事実に絶望しつつも今は誇ろう、これは誰かの命を救う悪あがきなのだから。

 

「おのれ、取るに足らない端役風情が」

 

 その粘りにオールフォーワンが苦々しく呟いた頃に、一条の光が空から降り立った。

 

「私が来たっ!!」

 

 彼を象徴する言葉とともに。

 

「遅いぞ」

 

 負け惜しみの言葉を吐いてからエンデヴァーは膝をつく。命を掛けた戦い、放ち続けた炎に彼の肉体は限界だった。

 

「ありがとうエンデヴァー、人々は全員避難し脳無は全て打倒し捕縛した。後はオールフォーワンを倒すだけだ!!」

 

「フン、後は任せたぞ。ナンバー1」

 

 次へ繋ぐこと。

 それが自分の役割なのだと、自身の宿命なのだとエンデヴァーは朧気ながらに理解した。

 

 

「随分と遅かったね。おかげで弔達は逃がすことができたよ。衰えたんじゃないかオールマイト」

 

「ヴィラン連合を取り逃がしたのはこちらの失態。だが人々を救う判断を誤りだとは思わないし悔いは無い」

 

 ぶつかり合う拳と拳。

 エンデヴァーの炎にて焼かれようと伝説の巨悪は未だに揺るがない。オールフォーワンの肉体強度は脳無を上回る程に常軌を逸していた。

 

「しかしオカシイなあその力、とっくに譲渡したと思っていたが未だに未練がましく抱えているのか私のワンフォーオールを」

 

「貴様のモノではない!!コレは貴様を倒すために受け継がれてきたヒーロー達の力だ!!」

 

「いやはや予定外が過ぎるよ。ヒーローへの信頼は思ったより崩せないし、取るに足らない小物は存外粘り、お前も譲渡してないから醜態を晒すのも困難だ」

 

 どこで予定が崩れているのか、複数のプランを時に思いつきのまま趣味を混じえて同時に進行させるオールフォーワンだがここまで上手くいかないのはその長い生涯でも初めてのことだった。

 ナニカを見落としている。

 自身の思考から外れたナニカが予定を崩しているのだと薄々と察してはいた。

 一体ナニが、いかなる因子が。

 そんな風に戦いつつもオールフォーワンは考えていた。もっともいくら考えようと、異世界転移などというあまりにも有り得ないものが自らの予定を崩しているなどとは思いつきもしないだろうが。

 魔王気取りの巨悪は、一人の使い捨てライターの勇気ある行動により未だにグランバハマルを知らない。

 

「揺るがないか、腹に空いた大穴による影響が無いのは気になるがまあいい。なら次だ」

 

 戦いでは崩れないなら次は心。

 

「死柄木弔は志村菜奈の孫だよ」

 

 オールマイトの心の拠り所が守りたかった存在を台無しにしてやったとオールフォーワンは告げた。

 悪意をもって、笑顔を奪ってやろうと、その矜持に泥を塗ってやろうと。

 憎たらしいオールマイトに嫌がることをしてやった。

 

『なあ俊典』

 

 その認めがたい事実。

 先程捕らえようとしたヴィランの素性。

 打ちひしがれるような後悔は、しかし昨夜の内に済ませていた。

 

『私は母親なのに、あの子に何もしてやれなかったんだなあ。ヒーローであろうと母親であることを捨てたのに、それでもあの子の未来を守れなかったんだなあ』

 

 緑谷出久の中から死柄木弔が自らの孫だと気付いた、想い人の涙を流しながらの告白で。

 先代である志村菜奈は孫がオールフォーワンに利用されている事実から愛息子の末路を察していた。一緒に過ごすことが出来ないならせめて幸せに生きて欲しいと願った息子の最期を。

 

「黙れ」

 

 その言葉は衝撃の後に響いた。

 

「キサマはもう、何もしゃべるな」

 

 この一撃は使命以上に私怨をのせて、初恋の人を泣かせたクズを叩き潰すために振るった。

 その拳は周囲で見守る人々からも殴られたオールフォーワンからもこう感じていた。

 音を置き去りにしていたと。

 

 これが決着。

 想定外の続いたオールフォーワンは、最後に思わぬ逆鱗を踏み抜き、今の自身の全力を出すことなく敗北した。

 否、元より勝ち目などはなかった。

 弱りきった巨悪が全盛期と同等の状態でかつてよりブチ切れたオールマイトに勝てる道理はないのだから。

 

(少しは貴女の心は晴れましたか、師匠)

 

 胸に手を当てて自身の中に居る想い人に問いかける。ヒーローとしてではない拳でヴィランを打倒した己に苦いものを感じても、それでも振るわずには居られなかったのだから。

 

 夜が明ける。

 破壊された都市に朝日が差した。

 地球が新しい朝を運んできてくれた。

 このまま晴れてしまえば良いのにと思う。

 この光で人々の心から闇が失くなればと。

 ヒーローを、平和の象徴を志したあの日からずっと八木俊典はそう願っていた。

 聞こえてくるヘリコプターの音、報道陣が来たのだろう。ならば見てくれ人々よ。

 私のこの姿で心の闇を照らし、希望をもって生きてくれ。

 ヒーローとして最後のスタンディング。

 私はここまでで、

 

「次は君だ」

  

 

 




 補足説明。
 エンデヴァーは脳無格納庫、人質がいないため最悪その場所全て焼き尽くす予定だった。
 エンデヴァーによる善戦のため、その場のヒーローと警官は離脱し避難誘導に専念。また向こうにもそれを伝えられる。同時にオールフォーワンによる転移でヴィラン連合は回収、誘拐被害者がいない上エンデヴァーに余裕がないためこちらもすぐに離脱。
 オールマイトはオールフォーワンより避難優先、これはエンデヴァーの頼みとサー・ナイトアイからの進言が大きな理由。これによりエンデヴァーの実力は広く認められ、またヒーローの信頼も原作より大分マシに。  
 オールマイトVSオールフォーワン。
 そもそも勝ち目がないのであっさり。
 なのに逆鱗ぶち抜くラスボス。
 なお緑谷君は無傷とはいかなかったヒーローと警察官の治療に専念。コイツがでたらあっさり終わったが仮免すら無いので無理だった。
 オールマイトの引退は、元からの予定より最後の一撃が大きな理由。あの一撃は漢であってもヒーローではないので。

 ヴィラン連合のシーン全カットかつ、ヒーローらしからぬオールマイトなので、かなり好き嫌い別れる展開だと思います。
 ちなみにおじさんはミッドナイトにしばらく外出を控えて欲しいと言われたので素直に守ってました(その時にミッドナイトの送り迎えをしようかと提案してミッドナイトを悶えさせた)。
 おじさんの登場をご期待の方はすいません。
 彼の立ち位置として全てに絡ませられないので。
 
 二作目の神野編終了。
 ヒロアカ二次創作では個人的にここは大きな区切りだと思ってます(ここで完結する名作も多いので)。
 これからもどうかよろしくお願いいたします。感想が日々のモチベーションです(感想返信とまっててすいません全て読んでます)。


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82話 次へ。


 繋ぎ回です。



 

 後に神野決戦と呼ばれる戦いが終わり、治療が終わった僕はマスコミから隠されるようにそっと帰宅した。

 事情を説明してある母は優しく僕を迎えてくれて、気が抜けた精神は押し寄せてきた疲労に流されて自室のベッドで眠りについた。

 終わったんだ。

 眠りにつくまでに思っていたことはそれだけ。

 それが先程までこなしていた今回の仕事のことだけでないのは明白だ。

 オールマイトが、

 平和の象徴が、

 今の時代が、

 日常にあった当たり前の終わり。

 その寂しさとも怖さとも言える感覚が終わったという言葉とともに僕を満たしていた。

 

 

 翌日、本来なら林間合宿中だった夏休みの朝。僕は母手製の朝食に舌鼓をうちながらテレビを見ていた。

 朝一番に流れるのは神野区で行われた事件の(一部ぼかした)全貌とオールマイトの引退会見だ。

 雄英高校の林間合宿を襲撃したヴィラン連合の拠点への即座の対応と黒幕の捕縛に、雄英高校とヒーローと警察を批判していた者達は手のひらを返すように褒め称え、続いたオールマイトの引退宣言は世界を揺るがした。

 予想されていたことだが悲鳴のような引き止める声が止まない会場。僅かとはいえ放送されてしまったオールフォーワンとの戦いは傍から見たら圧勝であったし、数日前の骸骨のようなトゥルーフォームも世間にさらして無いため年齢や衰えを理由に引退は納得されることではない。実際、このあと僕にワンフォーオールを再譲渡したとしても世界最強(おじさんは除く)であることに揺るぎはないし、リカバリーガールとグラントリノとヨロイムシャという現役ロートルヒーローの存在もあるからだ。

 だがオールマイトの続投に危機感を抱く者もいないわけではない。今回は大丈夫だった、しかし決戦の最中でもしオールマイトが崩れていたら社会はどうなっていただろうか?ならば健在のうちに引退し、希望を残しつつ新たなる希望を求めるべきだと政府各機関は決断したのだ。

 その決断の末にだされた引退理由だが、長らく秘されていたオールマイトの過去とオールフォーワンの因縁についてだ。

 オールフォーワンの個性詳細を伏せて、オールマイトが師を殺害されたこと、オールフォーワン打倒のため渡米し研鑽を積んだこと、平和の象徴へと至った裏にはオールフォーワン配下との戦いがあったことを告げた。

 まさに歴史の裏側とも言える事実は世界に知れ渡り、数十年に渡る因縁が決着したことが引退理由だとオールマイトは告げた。

 完全無欠のヒーローの悲しき苦難の日々を知った人々は誰もがお疲れ様という思いを抱いた。

 そして続けて今後はヒーローは引退し、ヒーロービルボードチャートJPからもその名を外すが雄英高校教師として後進育成に務めると発表。

 まだカンペを手放せぬ新米だが精一杯頑張りますという発言には沈んだ会場に笑みを戻していた。

 オールマイトの引退、サー・ナイトアイと共に望んでいた願いはこうして達成されたのだった。

 

 

「緑谷出久君、学生である君に今回多大な苦労を強いてしまって心から謝罪させて欲しいのさ」

 

 ヒーロー科生徒達が自宅待機している中、僕は雄英高校校長室に呼び出されていた。

 ネズミなのか犬なのか熊なのかかくしてその正体は校長な根津校長は、そのプリティーな外見を申し訳なさそうに縮め僕に謝罪していた。

 今回の件、特に僕は特例という言い訳あれどかなり法に触れる行いをすることになった。自分から許可を得ずに飛び出していたなら罰則(逮捕レベル)で済むが、ヒーロー公安委員会と雄英高校からの要請であったのでこうして謝罪しているのだろう。

 持っている力を理由に無理を強いられる。それは今の社会で希少で有用な個性を持つ者の宿命だが、その特異性ゆえに過酷な日々を生きた根津校長としては納得できないことなんだろう。

 

「謝罪は受け取ります。ですが僕は大丈夫です、心から身を案じてくれていることは伝わりましたから」

 

 ここには誰かのために力を使って当たり前だと上から目線で強要してくる者はいない。だから納得して力を振るうことができる。

 

「ありがとう緑谷君」

 

 グランバハマルでの生活で感覚がズレて大概のことに寛容になれている自覚はある。けれどこれこそが僕の歩くべき道なんだ。

 

 雄英高校から帰宅したらオールマイトが相澤先生と共に全寮制の説明を兼ねた家庭訪問に来た。

 僕はすっかり馴れたけど、母は誰もが知る世界的有名人の来訪にドキドキとしていた。

  

(反対なんだろうな)

 

 先生方とテーブルを挟んで向かい合う母を見ながらそう思う。

 僕は母と全寮制についての話し合いはしていない。グランバハマルに居た半年間、こちらでは病院で意識不明の状態だった半年間を過ごした。

 実の息子のそんな体験を見る羽目になった母に、どの面下げて家から出ることを相談できるのか。また傷跡こそ一部を除いて残してないが、それが魔法により治しているからであることは母も知っている。

 そんな状況で母に何を言えるのか。

 一連の騒乱は雄英高校の責によるものではない、今まで積もり積もった個性社会の歪みと淀みによるものだ。けどそんな風に言うことは出来ない。

 子供の将来を心配して守ろうとしてくれる母の想いを無下には出来ない。

 おじさんとは違って、僕は目覚めたあの日に抱きしめてもらえたのだから。

 

「よろしくお願いします」

 

 予想に反して母はそう言って頭を下げた。

 

「この子の事情はあまりにも特殊です。誰にも、ヒーローにだってなんとか出来ない経験をしてしまいました。そんなこの子の事情を理解して支えてくれようとするのも、出来るのも雄英高校だけなんです」

 

 それはあるんだよね。

 個性を誤魔化してヒーロー活動するには政府に顔の利く雄英高校でないと出来ないし、僕の能力を私欲のために利用しないモラルを持つ人物達なんてそうそう居るものではない。

 預けるに値する存在であること。

 それを雄英高校は示していたんだ。

 まあ僕のグランバハマル生活全てを見てしまった母はこれくらいの出来事ならまだ平気だと認識があるかもしれないけど、いや心配してくれてるけど。

 

「その信頼に応えられるよう全力を尽くします」

 

「この命に代えましても」

 

 先生方もまた頭を下げて予想外な形で家庭訪問は終わった。

 

「オールマイト先生」

 

「はい?」

 

 家を出るオールマイトを母は呼び止めて言う。

 

「命になんて代えないでください。師を失う辛さを知る貴方は生きて子供達を育てあげてください」

 

「お約束します」

 

 強いなあ、お母さんは。

 本当に強くて優しい人なのだと、僕はあらためて知るのだった。

 

 

「ここに来るのも随分と久しぶりだね緑谷少年」

 

 夜、オールマイトに呼びだされた僕はあの浜辺へと足を運んでいた。

 

「ええ魔法で焼き払って以来ですからね」

 

 まあそれほど頻繁になんて来てはいないのだけど、予定していた修行は浜辺に溢れていたゴミと共に焼却してしまったのだから。

 けど、此処は思い入れのある場所だ。

 ヒーローに成ることを止めようとしていた僕が再起した場所で、オールマイトからワンフォーオールを託された場所だから。

 

「緑谷少年ありがとう。君の決断で私はまた師匠と話が出来た。そしてまだ終わってはいないけど、私の中で一応の区切りはついたんだ」

 

 ワンフォーオールの再譲渡、戦闘のため以上に先代達と対話して欲しいという意図が実はあった。

 さらにそれだけでなく二代目からの提案で次代の継承者をオールフォーワンから隠蔽するという狙いもあったのだ。ラグドールの個性を得てない以上、オールマイトからどこにいったのか探すのは困難だろう。

 ワンフォーオールを付け狙うオールフォーワン、その意を汲むヴィラン連合残党が残っている以上、主犯たるオールフォーワンがタルタロスに収監されようと油断は出来ない。

 

「私は走り抜けた、だから君にバトンを託すよ」

 

 プチリと髪を抜きながら拳を突きだす。

 

「飲め」

 

「せめて血にしてくださいよ」

 

 いつかと同じ行動、いつかと同じやり取り、それになぜかホッとして胸がわきたって心から込み上げるモノがあって、僕とオールマイトは泣きながら笑った。

 

 優しく月の光照らすこの場所で。

 





 シリアス続きでギャグが書きたいです。
 けどここにギャグはぶち込めませんでした。
 書いてない原作シーン(家庭訪問)は大体原作どおりです。まあ被害が少ないので原作よりマシですが。


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83話 新生活

 

 世界が震撼し、偉大な庇護者のいなくなった世界で人々は新たな形を模索する。

 変わりゆく世界、誰よりもそうあるべきだと動いた雄英高校は全寮制を導入した。

 そう、これから僕は家を出て、雄英での新たな生活が始まる。

 新たな始まりの前に大恩ある異世界おじさんにも連絡した、ミッドナイト先生から話を聞いていたおじさんは「ガチな高校球児みたい」とズレたコメントをして、僕はなんだか笑ってしまった。

 日常感というのかな、この世の誰よりもぶっ飛んでる存在なあの人はそんな日向の空気を纏っている。続いた心配の言葉もまた心に染み渡る。

 おじさんがセガをプレイして敬文さん達とズレたやり取りを続けてる、そんな日々を守りたいとヒーローを志す身として強く思うのだ。

 いってきます。

 母に、生まれ育った家に、おじさんに。

 呟いて僕は変わりゆく世界へと踏み出した。

 

 雄英敷地内、校舎から徒歩五分の築三日。

 ハイツアライアンス、ここが新たな僕の、いや僕らの家だ。

 これから僕達は生活のためのヒーロー活動から、ヒーロー活動のための生活にシフトする。

 

「しねーよ、内弟子じゃねえんだぞ」

 

 二十四時間ヒーロー尽くめだ。

 

「ただでさえ全寮制でも叩かれてんのに過酷なカリキュラムまで強いたら雄英高校終わるからな?」

 

 僕の軽口にツッコむ幼馴染のかっちゃん。

 なぜか顔が引っかき傷だらけだ。

 

「どうしたのそれ?痴話喧嘩?」

 

「ミルコのヤツも住むとか駄々こねてな。オールマイトとイレイザーヘッドと三人がかりで説得(物理)するのに骨が折れたわ。ババアは煽るしな」

 

「何それ超見たい」

 

 その説得(物理)は近接戦闘の極みのような超バトルに違いない。いやミルコの存在は安全面からしたらありがたいけどね、林間合宿での実績もあるし。

 

「掌を広げてにじり寄るな。挙げ句に先生方から節度ある健全なお付き合いしろと説教だぞ、俺が、この俺が」

 

 まあこの場合は男が悪くなるのは世の常というか、男の甲斐性の範疇だよね。かっちゃんはまだ未成年だけどさ。

 

「というかなんで当たり前のように爆豪家にミルコが居るのかツッコんで良い?」

 

 家庭訪問に同席とかそれもう身内。

 

「どこで狂った俺の人生設計」

 

 どこか煤けたように見える幼馴染の姿がそこにあった。

 変わりゆく世界。ここにまたその波に呑まれる一人の男がいたのだ。

 

「とりあえず褐色兎美女に好かれている爆豪勝己は死刑」

 

「「「「異議なし」」」」

 

 君達は変わった方が良いけどね。

 

 

「とりあえず1年A組、無事にまた集まれて何よりだ」

 

 ハイツアライアンスの前に集合した雄英高校ヒーロー科A組一同は担任である相澤先生からの話を聞く。

 

「まずはすまなかった、謝罪させて欲しい。雄英高校の不手際でお前達生徒とご家族の方には苦痛と負担をかけて、さらには無理まで強いている」

 

 生徒の安全の確保のため。

 そのための全寮制だが、実家暮らしの者たちだって引っ越しの準備はあるし、雄英高校に通うためにアパートを借りた者たちは解約手続きを含めて手間がかかる。年単位で暮らしその場所に思い入れがあるだろう先輩方などはどれだけ悩んだことだろうか。

 

「ヒーロー科では居なかったが何人かの生徒は雄英高校を去る決断をした。それが間違いだとは思わないが、お前達がこうして揃ってくれていることは個人的に嬉しく思うよ、あの日の除籍をしなかったことは間違いではないとな」

 

 辞める人もいたか、面識ない人達で仕方ないと思うけどなんだか寂しい気持ちだね。そしてこの場の皆もそうなってもおかしくなかったんだ。

 沈みかける気持ちも相澤先生の嬉しいという言葉で持ち直して前を向く。

 

「さて、これから寮の説明をするがその前に一つ。当面では合宿で取る予定だった仮免取得に向けて動いていく。凄くキツイがまあ、お前達なら平気だろう」

 

 フッと笑った相澤先生はそう言ってハイツアライアンスへと足を運んだ。

 

「「「デレたーーーっ!!」」」

 

 そして僕達生徒一同は相澤先生のデレに盛り上がり叫ぶのだった。

 

「デレが流行っているのかな」

 

「こっちを見るな、爆殺すんぞ」

 

 それからは寮の説明となった。

 一棟一クラス。

 ハ○ターハン○ーの幻影○団のコル○ピによってコピーされたかのような建物は全て雄英高校生の寮だ。男女で分かれた棟は一階の共同スペースで繋がっており、食堂や風呂・洗濯は共有だ。

 その整った設備にフラッとしている麗日さんがいたけど気持ちはわかる。

 自室エリアは二階からで一人一部屋、エアコントイレ冷蔵庫にクローゼット、さらに備え付けの机に椅子と棚とベッドまで付いた贅沢空間だ。

 

「寮生活だからてっきりズラリと並んだ二段ベッド生活かと思っていたなあ」

 

 ベッドの限られたスペースだけが自分の空間的な暮らし。

 

「あ、ちょっとそれは俺も思った」 

 

 何人かは僕の言葉に頷いていた。

 小中学校での宿泊学習で泊まったことのある施設とかを想像していたけど。

 

「スポーツ選手や自衛隊など集団単位で動くことが求められる存在ならそうだったろうが、ヒーローはあくまで個人が基本だからな。これからはさらに個人ごとに動く機会も増えるしな」

 

 学校が全寮制にしたからという理由もあるだろうけど、今後は全員でまとまって動くことが減るんだろうね。

 部屋割は学校側から決められたけど、エレベーター無いのに5階の子は大変だろうな。おじさんの部屋に米15キロ担いでいった宅配業者の方も殺意抱くレベルで大変だったみたいだし。

 

「とりあえず今日は部屋作ってろ。明日また今後の動きを説明する、以上解散!」

 

「「「ハイ先生!!!」」」

 

 こうして皆は自室のコーディネート作業へと向かった。

 

 僕の場合は収納魔法から出すだけだから一瞬で終わった。いや荷物とかは大体全部持ち歩いているから。

 



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84話 お部屋お披露目会、までいかない。

 

 部屋作りがすぐに終わった僕は暇だから一階のくつろぎスペースでダラダラとしていた。

 終われば今日一日は自由時間だが休日ナニソレな生活をしていたためやることが思いつかず鍛錬のために体育館まで足を運ぶ気分にもならなかった。

 手持ち無沙汰と手持ち豚さんてなんか似てるなと思いながら収納魔法に貯めてある見たらつい買っちゃう新製品のカップ麺を並べて整理してると、

 

「どこいったぁーっ!!」

 

 と泣きながら駆け出す峰田君がいた。

 

「何かあったの?」

 

 何事かと思い聞いて見たら、

 

「ナニもねえんだよっ!!」

 

 と叫び返された。

 

「?」

 

 生徒の安全のための全寮制で初日からトラブルとかヤバくないかなと思いつつ理由を聞いてみれば、峰田君の準備した荷物の九割程が届いてなかったらしい。

 

「配送ミスかな?相澤先生に確認しようか。それで届いてたのは何があったの?」

 

 生活必需品が無いと困るから先に聞いておかないとね、今の時間なら買いに行けるし。

 配送に関しては、夏休み中であるがゆえにまだヒーロー科生徒以外の寮生活は始まっていない。けれどその量は膨大だからミスくらいあるだろうし誤配送なら確認しないと。

 

「ああ、勉強道具と着替えとスマホ充電器と家族と友人の写真しか無かったよ」

 

「大型家電が共有な寮生活なら充分じゃない?いやゲームとかの私物無いのは辛いけど」

 

 それでも送った荷物の一割とか比率がおかしいような。残りがどれだけあるんだ。

 

「ああんっ?!オイラのお宝が全て無いんだぞ!!不充分この上無しだコラァ!!」

 

「いやお宝って、もしかして峰田君は寮生活の説明を読んでないの?」

 

 これ誤配送じゃないのでは?

 全寮制について書かれた書類、そこに記載されていた一文を思い出して峰田君の現状の要因に思い当たる。

 

「なんの騒ぎだあ」

 

「君たち!共有スペースは公共の場と変わらないぞ!あまり騒ぐものじゃない!」

 

「夕飯はどうしよっか?」

 

「初日からご馳走を頼むのもねえ」

 

 どう伝えるものかと悩んでいると一段落した皆がガヤガヤと現れた。

 夕飯か、ランチラッシュにお願いするならもう頼まないと。

 

「お、カップ麺」

 

「なあなあ夕飯はこれにしようぜ」

 

「共同生活初日に皆でカップ麺とかありじゃね?」

 

「私、あまり食べたことがないので気になりますわ」

 

「ケロ、けど一人暮らしの子は食べ飽きたりしてないかしら?」

 

「梅雨ちゃん。カップ麺はな、貴族の食べ物なんやで」

 

「「「どんな貴族?!」」」

 

 夕飯はカップ麺パーティーかありだな。

 見たら買っちゃう新作カップ麺とかかなり貯まりがちだから消費に丁度良いしね。

 

「そんなことよりオイラのお宝だあっ!!」

 

 と、流されかけた峰田君が再び叫びを上げたので、驚いた皆に事情を説明してから、収納空間から取り出した書類を見せる。

 

「ホラここ、寮に送る荷物は安全面に万全を期すために家族と同性の教員に確認されてから寮に運ばれます。だから送る私物に関してはよく考えて下さい、って書かれているでしょ」

 

「うむ、それが当然だろう」

 

「わざわざ記載することか?」

 

「だから同人とか持ってこれなかったよ」

 

 まあ転移個性対策だよね、マーキングはサインを刻むと自分の身体、小物一つとかでいける例もあるから。

 

「「「「いーーやぁーーー!!!」」」」

 

 それに気付かずに精神的ダメージを受けてる人達もいっぱいいるけど。書類は最後まで読もうよ、契約の精霊とか介入してたらヤバいよ。

 

「だから空のダンボールに『悔いて改めなさい』と書かれた紙が入っていたのか。なんてことしやがる母ちゃん、オイラの部屋がまるで締め切り直前の真っ白な原稿じゃねえか」

 

 真っ白な部屋に新しい夢を描くんだね。編集さんキレそうだけど。

 

「じゃ、一応の解決はしたから皆でご飯にしよっか。続きはその後で」

 

「カップ麺代は出すぜ緑谷」

 

「そのうちで良いよー」

 

 後乗せ、お湯切り、増量、と八百万さんがカップ麺一つ一つをはしゃぎながら選ぶ姿を皆でほっこりしながら見ていると、かっちゃんが大きな荷物を持って玄関に歩いていた。

 

「どうしたの?」

 

「荷物を送り返そうと思ってな」

 

 こっちはキチンと誤配送かなと持っていた物を見たら、それはミルコがプリントされた抱き枕だった。

 

「かっちゃん」

 

 キチンと男の子なんだね君も。

 

「なんだその目は。自分で買ってねえよこんなん、ババアが『忘れ物だぞ♡』と入れてないモンまで送ってきやがったんだよ」

 

 流石に抱き枕はスルーしたのか相澤先生。いやひっかかる峰田君のお宝がヤバ過ぎだったのかもしれないけど。

 

「わざわざ新しく買ってまで送りやがってあのババア」

 

 怒りと恥ずかしさに顔を歪めてギチリと歯を噛み締めながらかっちゃんは言う。うんおばさんならやりそうなイタズラだなあ。純粋にミルコと離れ離れになるから気遣いで送った可能性も高いけどね。

 

「オイオイ爆豪よお、送り返すくらいならオイラにソイツを譲らないかい?」

 

 あ、峰田君。

 

「キチンと愛すからさ♡」

 

「死ね」

 

 そこからはまさに打撃と爆撃のコラボレーション。ブチ切れかっちゃんによる最強コンボは峰田君を峰田君だったナニかにするまで続いた。

 

 コレ治すの僕だよねやっぱり。

 かっちゃんの反応に盛り上がる女性陣を見ながら僕は峰田君だったナニかに神聖魔法をかけるのだった。

 

 



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85話 部屋王、ベストセンス決定戦。

 

「部屋王ベストセンス決定戦、それは限られたスペースである自室をいかに自分らしくかつ快適に過ごせるようにコーディネートするかを競う祭典である。雄英高校に代々伝わるこの戦いは後の学校生活、即ちクラスカーストに大きな影響のある厳しくも恐ろしい弱肉強食の血を血で洗う戦いなのだ」

 

「変なモノローグ入れんなよ」

 

「ケロ、そもそも寮が出来たのはつい最近よ」

 

「せっかくだから定着させようかと」

 

「後輩が迷惑だろ」

 

「負の遺産になるのが確定ね」

 

 そんなわけで芦戸さんの提案である部屋お披露目会から部屋王ベストセンス決定戦へと変更。汚部屋化してたら嫌だけど引っ越し初日でそれはないでしょ。

 そんなわけで男子二階から開始、女子は人数的に少ないし三階からだしね。一番最初は僕の部屋だ。

 

「と言っても見せるものなんてないよ、息の荒い麗日さんと八百万さんは落ち着いて」

 

 以前ならオールマイトグッズをズラリと並べていたオタク部屋だけど今は最低限のものしか置いてない。

 

「うん、いくつかの写真が飾ってあって本棚に本が並んでるくらいだね」

 

「もっと個性だせよお前」

 

 だってねえ。

 

「いつ異世界に転移するか分からないのにモノなんて置けないよ。身の回りの物は常に整理しておかないと迷惑がかかるし」

 

「「「理由が酷いっ?!」」」

 

「異世界トラウマが抜けねえヤツだな」

 

「本棚のラインナップも酷いよ、『伝わるボディランゲージ』『野生動物の解体指南』『もし異世界に行ったら必要な物百選』『ガチサバイバル、オリツエタイシ編』とか」

 

「心の傷は深いなあ」

 

 なぜか皆から同情されてお披露目は終了。採点結果は低そうだね。

 その後二階は常闇君と青山君と続き、峰田君の部屋も見たけどお宝が何も無いからかデフォ内装そのまんまだった。

 続いて三階だけど、普通な尾白君と本と眼鏡だらけの飯田君、眼鏡棚だけでも面白いのに付け髭メガネとか星型サングラスも一緒に並べてあって吹き出した。上鳴君はチャラくて手当たり次第感半端ない、バスケットボールにスケボーに音楽プレイヤーにダーツとか統一感無いし。あとエロ本所持組の一人で峰田君が見つけ出してた。次の口田君の部屋はペットの兎がいた。カワイイと麗日さん達が触る中、僕はグランバハマルでよく食料にしてたなと思い出しながら見てたからか途中から兎が必死な様子で逃げていた。

 そして四階、まずはかっちゃんの部屋だけど。

 

「ニヤニヤするな女子共、期待するようなモンはねえぞ」

 

 ハート型の写真立てに入ったミルコとのツーショット写真とか無いかな?

 期待して入れば上鳴君の「抱き枕を送り返したらミルコ来んじゃね?」発言で返送を止めた抱き枕ぐらいしか面白いものはなかった。あと強いて特徴と言えば、

 

「幽遊白書とハンターハンターの漫画とアニメBlu-rayが全巻揃っているくらい?」

 

「良いだろ面白いし、バトルの参考になる」

 

「アニメか、見たことねえから興味ある」

 

 気になるのか轟君がジッと見てた。

 

「そのうち休日に一階で流すか」

 

「楽しみだ(パァァァ)」

 

 うん、轟君の今日一番の笑顔だね。結果もっとミルコとラブコメしてろよと女性陣がブーブーと文句を言う形で終わった。

 その次の切島君部屋だけど、女子に分からないと本人が言ったけどこれはなあ。とにかく自室でサンドバッグは近所迷惑だから止めようね。あと漢臭さの中からエロ本の臭いを嗅ぎつけた峰田君が見つけだして取ったどーとポーズを決めていた、エロ本の臭いとは一体。

 次の障子君の部屋は何も無かった、備え付けのつくえとベッドも撤去してあるし、物欲無いレベルじゃないよね。

 そして最上階の五階へ。

 瀬呂君の部屋は統一感のあるエイジアン、セロテープと関連あるのかな?そして再度峰田君がエロ本を発見、もう止めてあげてよ。

 次のイケメンかつクールな轟君の部屋に女子達は興味津々。中は和室に大リフォームされていた、フローリングは落ち着かないらしい。旅館を思い出してダラダラしたくなる部屋だね、部屋の隅のお笑いグッズの山が無ければだけど。

 男子最後は砂藤君。僕や尾白君とかっちゃんみたくあまり弄らない感じ、布団の模様にインパクトあるけどね。あと時間が余ったからシフォンケーキを焼いていたみたい、皆うまうまと食べて女子棟とつながる一階へと戻った。

 女子最初は耳郎さん、本人は恥ずかしがるけど楽器がいっぱいあって面白い。あともしかしてこの寮って防音凄いのかな?なら切島君のサンドバッグも平気だね。部屋より恥ずかしがって照れる耳郎さんが見所だと思いました。

 次の葉隠さんだけど、フツーに女子っぽくて皆ドキドキしてた。けどこの娘BL同人誌を持ち込もうとしたんだよね。

 

「女の子は皆、信長✕光秀の愛憎関係にワクワクしながら歴史を覚えるんだよ」

 

 さいですか。

 じゃあ芦戸さんの部屋へ、色合いにセンスある感じ柄が派手なのが好みなのかな?あと荷物のチェックに反応してたから同人誌を所持してる疑惑有り。

 麗日さんは一人暮らししてたからか物干しや蚊取り線香などリアルな生活感がある感じだった。

 上の階に上がっての梅雨ちゃんの部屋は、実家の自室そのままの落ち着いた感じの部屋、散りばめられたカエルグッズが彼女らしかった。

 そして最後の八百万さんだけどゴージャスな感じだけど、とにかくベッドのインパクトが強いね。うん、荷物をチェックしてるならベッドのサイズとか注意してあげてよと思いました。

 さて、全員の部屋を見終わりそれぞれ性格や個性と特徴が出て面白かったなと思いました。

 投票方式で決めた部屋王、なんと砂藤君。

 理由はケーキが美味しかった、からだそうです。部屋のコーディネートが関係無かったけど、まあ楽しかったから良しとしよう。

 

 

 綺麗な星空だ。

 ハイツアライアンスの中庭から空を見る。

 グランバハマルで良く見上げていた空を。

 

「なんだセンチメンタルな気分か?」

 

 かっちゃんがドカリと横に座ってきた。

 センチメンタルか、そうかも。

 

「皆との共同生活が楽しみだと思ってね。あと夏休み中だからちょっとキャンプ気分?」

 

「まだ初日だからな、慣れるまでそんな気分だろ」

 

 なら今の感じている気分は今だけの貴重な感覚なんだろうね。

 

「林間合宿がさ、」

 

「あん?」

 

「途中で中止にならなければ、皆とも夜空を楽しめたのかなって思うとさ。ちょっと切なくなるよね」

 

 予定したプログラムにはそんなお楽しみもあったからね。来年はもう無いかも知れないイベント、皆と作れなかった思い出。きっと楽しいだろう思い出と巡り会えなかった今が、ただただ悲しい。

 

「なら今やれば良いだろ」

 

「夜空が良く見えるー!」

 

「天体観測にうってつけな日だな」

 

「織姫と彦星が川を挟んだシマ争い!!」

 

「そんな物語だっけか?」

 

「静まれ黒影よ」

 

「無理するな常闇」

 

 ガヤガヤと中庭に現れるA組の皆。

 どうやら心配させてたみたいだね。

 

「思い出なんざ、生きてりゃこうして作れんだろ」

 

 ああそうだね。

 林間合宿の襲撃からヴィラン連合・オールフォーワン撃退、オールマイト引退までの張り詰めていた気分がようやく解けた気分だよ。

 

「こんな星空の夜には聞きたくなる歌があるんだ。記憶再生(イキュラス エルラン)」

 

 そうグランバハマルで出会った数少ない知り合い、容姿で差別こそしないが常にマウントを取ろうとする、歌は上手かったあの人。

 

「綺麗な人」

 

「氷の精霊みたい」

 

 伝説の守り手にして振るい手、凍神の眠り姫(僕が出会った時はもう姫って年齢じゃなかったけど)、メイベル・レイベール。

 

「可憐だ」

 

「轟ィ?!」

 

 見た目は美人だけど、実際は僕と会った時ですらニート志望の駄目人間だったのは黙っておこう。

 

「ところで聞きたい歌って?」

 

「そら異世界の記憶再生したんだから、異世界の歌じゃねえの」

 

「いや、これは昔おじさんが教えたヤツで、多分だけど皆も知っている歌というか曲だよ。かなり有名なミュージシャンの曲らしいし」

 

『パー♪♫ポー♬ペー 』

 

「え?」

 

「いやコレ」

 

「ショッピングモール?」

 

「旅行?」

 

「クレーンゲームか?」

 

 メイベルの唄う「ソ●ック・ザ・ヘッジホッグ」のBGM。懐かしいな、当時はこの曲で日本を思い出しては涙を流したものだよ。おじさんは嬉しさのあまりヤバい顔で気絶しては毎回膝枕されてたけど。

 

「「「て、やっぱりセ○かいっ!?」」」

 

「まあ日常ではあるわな」

 

「日本人なら「○郷」じゃないかしら?」

 

「いや梅雨ちゃん。僕は兎追ったのも、小鮒釣ったのも、グランバハマルで体験したから」

 

「現代っ子には懐かしくないっ?!」

 

「俺の故郷はそんな感じだったな」

 

「田舎っ?!」

 

「可憐だ」

 

 こうして星空を見上げながら記憶再生したりしてクラスの皆で盛り上がりながら夜を過ごした。

 いつもの日常に戻るために。

 そう、いつものヒーローを目指して切磋琢磨する日常へと。

 

 

 

「なあ緑谷、あの可憐な人のことを詳しく教えてくれないか?」

 

「轟君っ?!」

 

 



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86話 必殺技を作ろう。


 オリ設定あります。


 

 朝、世界中の人々が轟君にソレは止めとけと突っ込んだような気がしたけど僕も全面的に同意する。確かにグランバハマルでは僕に優しく接してくれた数少ない人で嫌いではないのだが、残念な人なんだよねメイベル。

 とりあえず諦めさせようとアレコレとエピソードを伝えたが、

 

「誰だって駄目なとこあるだろ?俺だってそうだし」

 

 心もイケメンかっ!!

 いや天然か。

 うーん、やっぱりあの残念さは直に会わないと理解できないか。ガワは良いしあの人、ガワは。

 悪人じゃないし、嫌悪は無いけど、残念で駄目な人なんだよね、いや本当に。

 そして知ってることを簡単に一通り教えたら、

 

「俺は必ず異世界おじさんに勝つ」

 

 という考えに至ってしまった。メイベルがおじさんに惚れてると伝えてしまったからだけど。でもね轟君、その人って魔炎竜を凍神剣無しで単独で倒せる人(しかもかなり若い時に)だから自殺はやめなさい。

 そもそも異世界転移の手段が不明なんだけど、問い詰められたくない話題だから放置しよう。

 しかし、轟君は強いなあ。僕はアリシアさんがおじさんに惚れてると知った時点で心へし折れた(吐血)のに諦めないなんて。

 これがイケメンとトレントモドキの差なのかな。と、思い朝から色々と疲れながら朝食へと向かった。

 

 

「なんで居るん?」

 

 ゴゴゴと吹出君が個性を使用してるのかと疑ってしまうような威圧を麗らかな気性の麗日さんが麗らかでは無い表情で放っていた。

 その原因は僕の両隣に居る人達。

 右に塩崎さん、左にメリッサが座り、ランチラッシュがデリバリーしてくれた和朝食を食べていた。

 

「勇者様ある所に従者である私有りです」

 

「えへへ、せっかく同じ敷地内に住んでいるのだから朝ご飯を一緒にしたくて」

 

 そういえば博士が雄英高校に雇用されたからセキュリティも考えて雄英高校敷地内に居を構えてるんだよね。博士は今日は一人ご飯かな?

 

「だからといってイズクさんの両隣に座る必要は無いですよね(出遅れましたわ)」

 

「「?」」

 

「素で何を言ってんだろ?って表情なんが腹立つわ、二人とも美人やから余計に」

 

 どうしよう、穏やかな朝食の時間がよくわからないけどなんか大変だ。

 

「「ごっつぁんです」」

 

「まだ朝飯を食い途中なのに何を言ってんだよ、芦戸に葉隠?」

 

「男女の修羅場でしか摂取できない栄養素がある」

 

「朝からエネルギーが漲るー!!」

 

 シュラバミン、糖分の数倍のエネルギー能率を誇るため摂取のしすぎは太るので注意。

 

「おい、注意しろよ爆豪。尾白と口田なんか場の空気に耐えきれずトイレ行ったじゃねえか」

 

「ザマア、超ザマア!!」

 

「こっちも栄養素を摂取してる。まあ普段は弄られる側だしなコイツ」

 

 ザマアニウム、脳の多幸感を増幅させる作用がある、習慣性があるので注意。

 こうして賑やかな朝食の時間が過ぎていった。ある意味で共同生活らしい朝の始まりだ。

 

 

 教室。

 それぞれ席につき相澤先生の言葉を待つ。

 夏休み中での残りの日程を簡単に説明した後、本題である仮免取得についてだ。

 

「ヒーロー免許ってのは人命に直接係わる責任重大な資格だ。当然取得の為の試験はとても厳しい、仮免とはいえどその合格率は例年5割を切る」

 

「仮免でそんなにキツイのかよ」

 

 毎年決まった人数を合格させるのではなく、基準を満たした者を合格させる方式かな?例年の合格割合はアテにならなそうだね。

 

「そこで今日から君らには一人最低でも一つ二つ、必殺技を作ってもらう!!」

 

 クイッと相澤先生が指を動かせば、ミッドナイトとエクトプラズムとセメントスの3人の先生がいた。

 

「学校っぽくてそれでいて、ヒーローっぽいのキタァア!!」

 

 沸き立ち叫ぶクラスメイト達。皆こんな時にテンション上がるよね。

 

「必殺!コレスナワチ必勝ノ型・技ノコトナリ!」

 

「その身に染みつかせた技・型は他の追随を許さない。戦闘とはいかに自分の得意を押し付けるか!」

 

「技は己を象徴する!今日日、必殺技を持たないプロヒーローなど絶滅危惧種よ!」

 

「詳しい話は実演を交え合理的に行いたい。コスチュームに着替え体育館γへ集合だ」

 

 通称のヤバい体育館γに集合。

 セメントスの個性を最大限に活かせるかつ様々な器具を用意してある、生徒一人一人に合わせた地形と物を用意できる場所だ。

 飯田君の仮免試験に必殺技はなぜ必要なのかという質問に相澤先生が答えてくれる。

 どうしても僕達は必殺技とはオールマイトやエンデヴァーの攻撃技の印象が強い世代だからね。

 説明によれば仮免取得試験は、あらゆるトラブルから人々を救い出す仕事であるヒーローに必要な様々な適性を試す試験。だが先のヴィラン連合の件もあるがやはり最重要視されるのは戦闘能力であり、必殺技は備えあれば憂いなしの意味もあって必要なのだ。

 いかな状況でも放てる必殺技、安定行動が取れることが様々なトラブルに対処できる証明なのだ。飯田君は既にレシプロバーストとレシプロスラッシュ、一時的な超速移動と高速斬撃というあらゆる局面に対応できる技があるんだよね。

 なのでこれから後期始業まで残り十日余りの夏休みは個性を伸ばしつつ必殺技を編みだす圧縮訓練になるわけだ。セメントスが場を整えて、対戦相手としてエクトプラズム、ミッドナイトとイレイザーヘッドが万が一の事故対策とアドバイス、必殺技は名前も重要だからこそのミッドナイトだね。

 コスチュームの変更・改良も含めた訓練期間。やることだらけだ。

 全員とワクワクしつつも気合を入れながら訓練は開始した。

 

「緑谷、緑谷(ちょいちょい)」

 

 イレイザーヘッドが何やらこっそりと僕に話しかけてきた。

 

「どうしました?」

 

 うーん必殺技だと殺傷力が高過ぎて困る。

 

「ヒーロー公安委員会からお前にある打診があってな」

 

「ヒーロー公安委員会からですか?」

 

 ヒーロー資格とかランキングを管理してる組織だよね。いや国の治安もだけど主な役割はヒーローの規約や規定だ。なお面倒臭いことに個性使用や教育については国の別組織だったりする。

 

「前置きは抜きに、専職ヒーローに成らないかという提案だ」

 

「専職ヒーローって確か、一定の業務に従事するヒーローですよね?」

 

「ああ、希少な個性や戦闘に向かない個性持ちの中でさらに優秀な者に与えられる資格だ」

 

 希少なら転移や治癒や収納、戦闘に向かないのは超演算や交渉や嘘発見などが例に上がる。

 

「なんでもやる一般的なヒーローとは異なり要請に応じて個性を使うタイプのヒーローだが利点もかなりあってな。支援やら仲介やら保障も他のヒーローの比じゃないんだ、仕事の選り好みが出来ない欠点もあるが」

 

 ちなみにおじさんがエンデヴァーに誘われたのもコレだったりする。国民支持率やら人々との触れ合いは少ないけど仕事としては良い待遇なんだよね。

 

「神聖魔法ですか」

 

「神野で活躍したからな」

 

 国としてリカバリーガールに代わる治療特化のヒーローとして確保しておきたいだろうね。ちなみにリカバリーガールは専職ヒーローではない、その分類ができる以前からヒーローだからだ。

 

「了承すれば仮免試験は免除になり学生期間は仮免扱いで卒業後に正式に資格取得となるわけだが、どうする?」

 

 将来や進路に関わる打診だけど僕の心は決まっている。

 

「お断りします。僕はオールマイトの次の平和の象徴になりたいですし、皆と同じ試験に参加したいですから」

 

「ま、俺としてもお前には不要な事だとは思っていたからな。お前の意志は先方に伝えておくよ、ただ神聖魔法についてで要請はされると認識しておけ」

 

「はい」

 

 元より治療の依頼なら断る気はないしね。

 

 と、こんな出来事もありながらヒーロー仮免許取得試験までの日々は過ぎていくのであった。

 



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87話 仮免試験まで。


 オリ設定あり、閲覧注意。



 

 圧縮訓練がはじまってしばらく。

 必殺技、ということでいくつか技を出してみたもののどれも威力が高過ぎてヴィラン相手には使えないという結論に達した。グランバハマルで巨人やらドラゴンやら魔獣の群れやらを仕留めるために覚えた技の数々はヒーローが扱うには過剰過ぎる威力なのだ。

 

「そもそも必殺技が成り立つのも、戦う相手が強い場合に限るしね」

 

 通常攻撃で充分なら必殺技は不要。

 これはあまりにも当たり前過ぎる事実であり、必殺技が有名なオールマイトやエンデヴァーも相応の実力ある相手にしか使用していないのだ。

 なんだか圧縮訓練そのものを否定しているような気分になるが事実だから仕方ない。

 

「どうするかな」

 

 戦闘力に不足が無いのであれば救助訓練をしようかとも思うが、その場合は神聖魔法による治療役に専念すべきだ。

 いくつかの魔法は捜索にも向いているが、それは個性やサポートアイテムでも可能なこと。生まれ持った個性によって得手不得手どころか出来る出来ないが分かれるのだから、集団行動での役割分担では自分しか出来ないことに専念することが重要なのだ。となれば希少な治療こそが僕の役目だろう。

 とにかく、手加減を身につけるか。

 エクトプラズムを斬り伏せながら僕はとりあえずやることを決めた。

 

 

「サポートアイテムの補助が必要だよなー」

 

 昼飯。

 訓練すれば腹は減る。けどわざわざ食べにいくのも手間なので予め売店で買っておいた大量のパンを皆に配る。こういった時に収納魔法はやはり便利だ。

 

「流石は委員長、気が利くな」

 

 ことあるごとに飯田君が仕切ってくれるから、もはや名ばかりの委員長だけどこんな時くらいはやらないとね。

 

「いいや騙されるなお前ら。コイツが昼飯のことに気づいたのは自分の力でじゃねえ。麗日とヤオモモがエルフ顔で睨みつけてる緑谷の手にある同級生女子の手作り弁当のおかげだ」

 

 峰田君はたまに鋭くなるよね。

 塩崎さんがいつものように、いや夏休みになってからは久しぶりにお弁当をくれたからお昼ご飯の存在に気がつけたんだよね。

 

「そういえば緑谷は料理とか得意なの?合宿では家庭科でやったレベルくらいに見えたけど、異世界行ってたから慣れてたりしないの?」

 

 耳郎さんがそんな風に聞いてくるけど、

 

「適当に切って塩で煮るのが精々だよ。魚とかなら焼けるけどそれも正直美味しくなかったな」

 

 塩焼きでも焼き方一つで味が違う。ましてや山野に魔獣溢れるあの世界で外で煮炊きとか危険でしかないのだ。だから野外活動中は食べる物とかは干し果物と干し肉にパンが精々で、運が良ければ野生の果物を取るくらい。

 おじさんも料理チートの類はしてなかったなと思う、まあゲーム好きな高校生男子だからそこまで料理に詳しくないし、当時は異世界転移ネタとか少数だったしね。ちなみに異世界定番の料理チートであるマヨネーズ作りは止めときましょう。アレに必要な生卵を安全に食べれるくらい清潔なのは現代社会くらいなもので、その中でも世界的に異常なレベルで生卵を愛する日本くらいなのだ。

 

「話は戻すけど上鳴君はサポート科の開発工房に行ったら?メリッサも居るから力になってくれると思うよ」

 

 上鳴君の欠点、電気を周囲に放出しか出来ないためすぐにウェイになってしまうことだ。指向性を持たせようと試みたけど指先に集中とか霊丸みたく打ち出すことができないみたい。放出できても操れない、個性って融通が利かないのは利かないよね。

 

「そっか、なら行きやすいな。他にも工房に行く奴いるかー?」

 

 知り合いがいると判れば敷居も下がる。

 試験までの日数を考えたらすぐに行った方が良いし。いや今日行って明日できるものではないよね?それから習熟訓練するとして時間が足りるかな?

 

「あとなるべく要望は決めておいた方が良いかも。じゃないと個性がいらないレベルでガチガチにサポートアイテムを装備させられそうだよね」

 

「発目君を思い出せばありえるな」

 

 そんな飯田君の実感籠もった言葉に雄英体育祭でサポートアイテム発表会を為したサポート科の生徒を思い浮かべて皆ウンウンと頷いた。

 あと僕もついてきてと頼まれたので一緒に行くことにした。そういえば工房とか行ったこと無かったね。

 

 手作り弁当を睨まれながらの昼飯を終えてサポート科の工房へと行く。やたらと重厚な扉に嫌な予感を感じて一緒に来た皆を下がらせたら、なんか吹き飛んだ。

 

「もうー、だからもう少し考えてから組もうって言ったのに」

 

「すいませんマイドーター。フフフ失敗は成功の母で私は貴方の新たな母ですよメリッサ」

 

「頼むから話を聞いてくれ二人とも。あと博士に言い寄るのは色々アウトだからマジで止めろ発目」  

 

「愛に年齢は関係ないのです」

 

「明らかに研究目的だろお前」

 

 先客にかっちゃんが来ていたのかなと思っていたら、どうやら発目さんのやらかしらしい。あととてもヤバい情報を得たけどヤバいからスルーしよう。

 

「突然の爆発失礼しました!!お久しぶりですね、ヒーロー科の将来の義息子と、えーと他は忘れました」

 

 覚えられ方がちょっと。

 

「だから、まだそんな関係じゃないから?!」

 

「流石にマイドーターからあれだけ話されたら興味無くとも覚えますよ」

 

 スルーしておこうスルーを。

 麗日さんの圧がヤバいことになっているし、突っ込んだら終わる気がしてならない。

 あと色々察して全力ダッシュした皆は逃さないよ。いつかのかっちゃんみたく拘束するよ。

 

「「「放せーっ!!」」」

 

 さ、一緒に逝こうか。サポート科工房という名の魔窟へ。

 

 そこからは言わば発目さん劇場だった。

 パワードスーツにはじまり電動ブースターなど試される。そのアイデアと技術はかなりのもので一つ一つ見たら良い点もあるのだけど、何かしらはやらかすので怪我が絶えません。

 

「イズクにはガントレットみたいな打撃の負担を減らす防具とかかなと思ったけど」

 

「攻撃が当たらないように立ち回る癖がついてるし、怪我しても神聖魔法で治しちゃうからね」

 

「なら邪魔にならないけど丈夫なスーツとかね。いくら治るからといっても傷ついて欲しくないわ」

 

「心配してくれてありがとうメリッサ」

 

「パートナーだからね」

 

 身体を採寸しながらのメリッサとの会話。正直サポートアイテムは必要無いと感じているけど、それでも彼女は出来ることをしようとしてくれる。パートナーか、オールマイトとデヴィッド博士みたいな関係に僕達もなれるかな。

 

(((そこ代われ、緑谷ァっ!!)))

 

 密着しながらのメリッサとのそんなやり取りを発目さんのベイビー達によってズタボロになっている一部男子達が恨みがましい目で見てたそうな。ちなみに麗日さんの方は何故か怖くて向けません。

 

 そんな圧縮訓練の日々は続き、コスチュームの改良など行ったり、潰し合いを避けるために試験会場の違うB組の皆(発目さん被害者はこちらにも多数)と情報交換を兼ねた交流などをしていたらあっという間に試験当日となった。

 





 緑谷✕発目のカップリングが好きな方はすいません。あとデヴィッド博士はきっちりと断ってますが、発目さんなので引きません。
 メリッサをヒロインにすると発目さんの扱いに悩みますね。


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88話 ヒーロー仮免許取得試験開始。


「女子高校生に告白されるんです」

「デイブは格好良いしね」

「とりあえず署までご同行を」

(引退したのに混ぜてって言えない)

 とあるアパートでの一幕。
 


 

 バス移動して辿り着いた先は国立多古場競技場。仮免許が取れるかで緊張してる皆だけどこれこそがヒーローの第一歩。タマゴはヒヨッ子へ、セミプロへ孵化できる。相澤先生らしい激励にテンション上げていつもの一発決めたら、

 

「「「『ウルトラ!!』」」」

 

 なんか交じってた。

 テンションと帽子が特徴的な交じってきた彼は同校の人に注意されて勢いある謝罪。地面に叩きつけられたおでこから血がでてたのでとりあえず神聖魔法で治す。

 

「ありがとうございまっス!!」

 

 雄英高校に並び称される有名難関校、西の士傑こと士傑高校。その一員にして何やら雄英高校と縁があったらしい彼は元気ある挨拶をした。

 

「あとそこの轟君にちょっといいですか?」

 

「推薦入試の時以来だな」

 

 轟君が他人覚えているとか珍しいなと、失礼なことを考えていたら。

 

「覚えていてくれましたか!!先日授業でエンデヴァーさんに指導される機会ありまして、凄い熱く学ぶことが出来ました!!神野での活躍も熱くて格好良かったので応援してると伝えてください!!」

 

 トップヒーローを招いて指導してもらう授業は割とどこの学校でもある。それでも多忙なトップヒーローが応じるのは基本的に出身校のみで、エンデヴァーを招けたのは士傑高校だからこそだ。

 

「分かった伝えておく」

 

 推薦入試のトップだったのに雄英高校入学を辞退して士傑高校に入学するという異色の経歴ある彼はそう叫んで仲間の元へ戻っていった。

 エンデヴァーと轟君との事でナニかあったのかな?今は敵意とか感じないけど。まあ体育祭や行方不明だった燈矢さんのことで二人とも別人レベルで変わっているから再び会えば印象変わるよね。

  

「しかし、アチラコチラから雄英高校への敵意を感じるね。一年が仮免参加ということで人目を引いているのかな?」

 

「ま、三年からしたら生意気だとか思うわな」

 

「普通は二年かららしいしね」

 

 向けられる視線は興味も強いけど、やはり大半は悪意や嫌悪だ。そんな視線を集団から向けられると。

 

「反射的に制圧しそうになる(スチャリ)」

 

 やられる前にやらないと。

 

「誰かこの異世界ボケしてる転移者をふん縛れ」

 

「むしろ拘束した方が悪化するのでは?」

 

「面倒くせえなコイツ」

 

 面倒でごめんなさい。

 

「イレイザー!?イレイザーじゃないか!!テレビや体育祭で姿は見てたけどこうして直で会うのは久し振りだな!!」

 

 先生がこんなに露骨に嫌そうな顔するのもなんか久し振りだなあ。

 

「結婚しようぜ」

 

「しない」

 

「ミルコといい、プッシーキャッツといい、女ヒーローこんなんばっかか」

 

「美人だらけなのになんでだろうな?」

 

「業界の闇」

 

 突然のプロポーズだけど僕達A組は驚きもしない。慣れてるんだよねこういうの。

 

「しないのかよ!!ウケる!」

 

「相変わらず絡み辛いなジョーク」

 

 スマイルヒーロー Msジョーク。狂気に満ちた敵退治で有名な彼女はイレイザーヘッドとの馴れ初めとか自己アピールを繰り返す。

 でも僕は13号先生推しだから正直複雑な気持ちになるけどね。

 どうやらMsジョークも現在は教職についているらしく、受け持ちの生徒達である傑物学園二年生を紹介してくれた。

 そしてその中でも真堂という人が親しげに接して来ようとするけど、

 

「表情と感情が合ってない人だなあ」

 

 仲良くしようとこちらを讃えて握手してくるけど、彼から隠しきれない反発心や敵意を感じて光剣出しそうになる。友好的に接してきて罠に嵌めてきた教会の司祭とかこんな態度だったんだよね。

 

「ドストレートな爽やかイケメンにドストレートな印象を言うなよ」

 

「イケメンも美女も襲いかかる時はエグい顔だし」

 

 容姿なんてガワだよガワ。

 人間は一皮向けば皆魔獣。

 

「すいませんウチの勇者が無礼で。トラウマとか心の傷だらけなんでコイツ」

 

 否定できないのが辛い。

 しかし真堂って人とは別にサイン求めてくる人はまんまミーハーみたいだね。

 

「おいコスチュームに着替えてから説明会だぞ。時間を無駄にするな」

 

「はい!!」

 

「なんか外部と接すると改めて思うけど」

 

「やっぱけっこうな有名人なんだな雄英生って」

 

 耳郎さんと上鳴君はそう言って笑うけど、それはあんまり良く作用してなさそうだと僕は感じていた。

 

「ひょっとして、言ってないの?イレイザー」

 

 はい確定。

 同じく察したかっちゃんと並んでげんなりした気持ちで説明会へと向かった。 

 

 

 疲れ果てている様子のヒーロー公安委員会の職員さんからの試験内容の説明。

 人手不足はどの業界も深刻というけど、飽和してるらしいヒーローを雇ってはどうだろう。

 試験内容はザックリと勝ち抜け演習。

 現代ヒーローに優先されるべき要素である迅速さのため、先着300名が通過となる。

 例年合格者5割なのに、5分の1にするのはオールマイト引退により精鋭が求められているのと、秘密裏に捕縛したステインの影響かな。

 はっきり言ってヴィランに負けるヒーローが居ては困るというのが、ヒーロー公安委員会の本音なんだろうね。

 続いて試験の道具であるターゲットとボールの説明、脱落と勝ち抜けの条件は分かった。

 単にロボットを倒す雄英高校入試よりも難易度は高いだろうね。

 

「じゃ。展開後ターゲットとボールを配るんで、全員に行き渡ってから一分後にスタートとします」

 

「展開?」

 

「各々、苦手な地形好きな地形あると思います。自分を活かして頑張ってください」

 

 ムダに大掛かりだな!!

 部屋だと思った説明会会場は箱で、その周囲はあらゆる地形がジオラマのように再現されていた。

 こんなのを準備してたら睡眠時間なんて無くなるよねと、そんな感想を僕は思った。

 

 さて試験。

 皆で協力するか各々で切り抜けるか。

 決まっているのは、向かってくるヤツは一人残さず返り討ち。

 久方ぶりの集団戦、テンション上がるね。

 

「誰か適当に二人捕まえてこい、無駄な被害が出る前に一抜けさせるべきだ」

 

「いっそ誰か一人ずつターゲットを押させるか」

 

「まあ、一個くらいなら」

 

 クラスメイト達の認識と扱いが酷いです。

 





 補足説明。
 イナサ君のエンデヴァー印象は変わってます。なので無駄に敵意は向けてないです。
 真堂君はイケメンだから警戒されてます、というか基本的に初対面のイケメンと美人はこんな扱いです。
 ステインインパクトは無いですが、ヴィラン連合の脅威と脳無の存在があるので人数は絞ってます。ぶっちゃけ脳無に勝てるヤツだけヒーローにしたいのがヒーロー公安委員会の本音です(事実上不可能)
 イズクがやらかす前に一抜けさせたい、そんなクラスメイト達の本音。


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89話 温度差。

 
 独自設定、キャラ解釈あり、閲覧注意。
 今回のイズク君は駄目な人は駄目かも、評価と感想が怖いです。



 

「あの馬鹿がやらかさないと良いがな」

 

「いやナニを言ってんだお前」

 

 ヒーロー仮免許取得一次試験の開始直前、イレイザーヘッドこと相澤消太は観客席から受験者集団の動きを見て、もはや慣習に等しいいつものことが起きることを確信する。

 雄英高校体育祭にて個性に弱点や戦闘スタイルまで知れ渡っている雄英高校生、それを狙い有利に立ち回ろうと言う戦略。そのためか体育祭の視聴者は三年は企業、二年は学生、一年はヒーローと注目する層がおおまかに分かれているそうだ。

 正直雄英高校としては面白いことではない。中には雄英高校生を落とすことのみに力を入れる者、雄英潰しを成功したと誇る者などもいるからだ。

 だが抗議などは一切しない。雄英潰し?集中狙い?いいだろう、プロになれば個性バレ・戦闘バレは前提でしかない。教職として為すべきことは抗議などでなくどんな対策をされようと乗り越えられる実力をつけさせること、体育祭とは別次元に鍛え上げることだ。戦略は自力で真正面から打ち破る、それがヒーローなのだから。

 それはそれとしてあの異世界ボケがやらかさないと良いが、アイツは自分も相手も治せるから良いやという認識が根付いているから、手足の二・三本くらい吹き飛んでも気にしないんだよな。

 このルールなら接敵すれば二秒で突破できるだろうし本当に余計なやらかしはしないと良いのだが。

 知り合いの女ヒーローの軽口を聞き流しながら、実力という面で一欠片も心配してない教え子達を見る。自慢の生徒達、不確定要素(身内)が無ければ試験の突破を確信している。

 

「無視は酷いぞ、イレイザー」

 

 

『スタート!!』

 

 やはり囲まれた。

 集まる気配から分かっていたけど、クラスメイト達は僕をどうするか話し合っていて全員揃ったまま何の対策もしていない、いや何してんの君達?!

 

「杭が出ればそりゃ打つさ!!」

 

 他校生とも結託したのか同時に投げられる大量のボール。これだけの数ならどこかには当たってしまう。勝ち誇って言ったのが例のイケメン、やっぱりか。

 試験前に近づいたのも標的の確認が目的か、握手も発信機やらマーキングの可能性もあったから警戒して正解だったね。

 けど、

 

「殺られる覚悟はしてるよね?」

 

 ちなみに仮免許試験願書には怪我などは自己責任という項目がある、死にさえしなければセーフ。

 

「炎鳳(バライブード)」

 

「オイラに任せな」

 

 ボールごと襲撃者をまとめて焼き払おう(おじさんに頼んで全身火傷程度に調整済み、献上品は焼き芋)としたら後ろから飛んできた声がそれを遮った。

 

「峰田流・回天千本ノック!!」

 

 峰田君は新たに装備したサポートアイテムを握り、空中で自身を回転させ飛んできたボール全てを相手に向けて打ち返した。

 けれどそれだけではない。

 

「ク、もぎもぎも飛んできやがった!!」

 

 ボールだけで無くもぎもぎも混ぜて打ち返し何人かの者達はその餌食となる。

 

「アレが峰田の新装備、もぎもぎ対応バット『暴れん棒』!!」

 

「投げるだけでは飛距離も威力も伸びない欠点を改善するためのサポートアイテムで、峰田の細胞を使われているからもぎもぎもくっつかない!!」

 

「さらには圧縮訓練で自分の周囲360度全てに高速ピッチングマシーンを設置した状態でバッティング練習。ボールで全身滅多打ちにされたからか今ではどんなボールも対応できる!!」

 

「後半はドローンで空中、さらにパワーローダー先生が地中にも設置してくれてたぞ!!」

 

「ヤツこそ雄英の4番バッターだ!!」

 

「説明センキューッ!!」

 

 さらに付け加えるならバット自体も頑丈で武器として使えて、もぎもぎ以外にも煙幕玉、電撃玉、催涙玉と見た目の変わらない武装もあるけどこれは秘密だね。

 

「玉と棒捌きでオイラに勝てると思うなよ」

 

 バットを構えて襲撃者達に啖呵を切る峰田君はなんか普通に格好良かった。

 ちなみにメリッサの技術でリング形態になるから持ち運びも便利。なお自分で購入しようとしたら新車買えるくらいの値段らしいので、雄英生で良かったと思う。

 皆もまあこれくらいやるよなと余裕の態度。

 同級生の頑張りと実力は自分達が一番よく知っているからね。

 

「生意気っ?!」

 

 不快そうに顔を歪める連中。

 ならばさらに言わせてもらう。

 

「出る杭は打とうと下向く連中が、さらに向こうへ行く僕達に追いつける訳がないだろう」

 

 クラスメイト全員で人差しを上へと向ける。

 

「プルス・ウルトラ。雄英を舐めるな。ん?」

 

 なんだろ、あの気配。

 周囲の連中とは異なり、野生の獣のように身を潜めて存在を逸らしつつこちらを窺っている。

 気になるね。

 

「ごめん皆」

 

 殺気立つ周囲の連中よりも優先した方が良さそう、なんかそんな気がする。

 

「先に抜けるね」

 

 渡されたボールを全て落とす。落とされたボールは裂けた空間に一度飲まれ、近くの受験者のターゲットの側に開いた穴からこぼれ落ちる。

 

「しまっ」

 

 反応しても間に合わないよ。

 

「アイテムボックスは勇者の基本装備だよ」

 

 ま、本当の勇者ならこんな使い方はしないだろうけどね。周囲の目がある時は個性・勇者であるとアピールしとかないと。

 

『1名通過!』

 

 厄介そうなシンドウって人を狙えば良かったけど、彼はかなり警戒してたからね。

 

「どうしたイズク?」

 

「気になることがあってね」

 

 僕が通過し二人が脱落。

 峰田君の活躍もあって周囲の連中は警戒して距離を置き出した中、僕の様子を察したかっちゃんが問いかけてきた。

 

「人手はいるか?」

 

「試験を優先して、皆をお願い」

 

 相澤先生に連絡はまだ早いか。

 

「さて鬼が出るか蛇が出るか」

 

 こちらを窺っているのならカメラの死角に移動すれば接触してくるだろう。

 気配を絶つ練達者か。

 こっちだとあまり見ないタイプだな。

 

 

 

「あなたの事がもっと知りたいの。

 あなたはなんでヒーローを志してる?

 名誉?誇り?誰の為?」

 

 移動したら案の定現れた。

 士傑の制帽を被った女性。

 峰田君や上鳴君ならナンパされたとか盛り上がるのかね?けどさ、

 軽口のような質問にどこか切実さが透けて見えた。

 

「求められたから、望まれたから。

 応えたい、そう思ったことが僕がヒーローになる理由だよ」

 

 そうだ、グランバハマルから帰還した僕はどちらの世界の人間にも嫌悪感を抱いていた。あの時オールマイトが声をかけてくれなければ僕はヒーローになろうとしてなかっただろう。

 

「それは個性がそうさせてるからじゃないの?個性・勇者は勇者にさせる個性なんでしょ?」

 

 妙だな?

 ネットで考察されているのは知っているが、なんでそんなことにこだわる。

 

「ソレは本当にやりたいことなの?」

 

 個性が大元で人格やら趣味嗜好が形成される場合は多い。行動一つに個性は影響している。

 ぶっちゃけ戦闘向け個性だからヒーローを目指すという人ばかりだし。

 

「君は思うがままに生きてる?」

 

 思うがままに、か。

 確かに治癒能力が知られてから周囲から求められて窮屈には感じる。

 

「知りたいの、貴方のこと。綺麗に見えて血の香り漂う貴方のこと。もっともっと知って、チウチウしたいの」

 

 チウチウ?

 確かどこかで。

 

「お茶子ちゃんみたいに貴方に恋したい」

 

 そうか、林間合宿で麗日さんと梅雨ちゃんに襲いかかったヴィラン。

 

「渡我被身子か」

 

「そうだよ、知ってくれてるの?私も貴方を知っているよ緑谷出久君。弔君は興味ないみたいだけど、私は貴方のことを知って知って調べてもっと知りたい」

 

 今の姿は個性によるものか、変身されている人は無事なのか。

 

「貴方のボロボロな姿が見たいの」

 

「それぐらいならいつでも良いけど?」

 

 どうせ治せるし。

 

「え?」

 

 なんで呆気に取られたような反応をするかな?自分で言ったのに。

 

「あ、手早くね。さっきからターゲットが控室に行けと鳴ってるから」

 

 ヴィラン連合の一員である彼女は捕らえるべきだ。けど捕縛する権利が無い今の状態でやるべきことじゃない。誰かに連絡しようにもそこは警戒されてるしね。

 

「気持ち悪くないの?」 

 

「何が?」

 

「怖くないの?」

 

「切り刻まれる程度のことが?」

 

「私を化け物とか思わないの?」

 

「君は人間でしょ?」

 

 化け物って本当に化け物だからなあ。名状しがたいナニカとしか言えないんだよ。

 切り刻まれるにしても、自分以外の誰かに襲いかかるなら止めるけど、自分対象なら別に。

 

「イズク君は、私を拒絶しない。そっか拒絶しないんだあ、フフフ、フフフ。当たり前みたく受け入れてくれるんだあ」

 

「?」

 

「どうやらトガは、イズクのことを好きになりそうです」

 

「男女交際は今ちょっと余裕ないから無理かな」

 

 雄英高校のカリキュラムはマジで時間の余裕が無いんです。オールフォーワン捕えられても残党いるし、しかも目の前に。

 

「断る理由も、なんか普通で良いなあ」

 

 良いのか?

 

「今日は帰るねイズク君。黒霧さんに頼んでいるから追いかけられたりしたら、残りの脳無がでちゃうから」

 

 報告するにしても仮免許試験の後だな。

 

「あとこのケミィって人は大丈夫よ。安心して」

 

 それは良い情報だ。

 

「ねえ。トガさん?」

 

「なあに?」

 

「そんなにもこの社会で生きることは辛い?」

 

 その言葉に彼女は悲しげに顔を歪めて、

 

「肯定されないのは辛いよ。私はずっと否定しかされてないの。あの人達はマトモになりなさいとしか言わなかった。私は私でいたいのに」

 

「辛いねそれは」

 

 今の僕には去ってゆく彼女を止める気にはならなかった。

 グランバハマルに行かなければ僕は彼女をどう思ったんだろう。自分の抱く当たり前を押し付けて彼女を遠ざけたのかな?

 ヴィランになるのにも事情はある。

 それを全て肯定したら社会は成り立たない。

 今の社会から爪弾きにされたのが彼女で、僕は親と出会いに恵まれただけだ。

 

「ままならないね全く」

 

 今はまだ悩める。

 ヒーローになったら割り切らないといけない苦々しい葛藤を今は噛み締めるとしよう。

 

 





 トガちゃんイベントです。
 緑谷君は彼女の犯罪や麗日ちゃん達を傷つけたことには納得してませんが、自分が傷つくこと、人を傷つけたい趣味嗜好、同じになりたい願望は気にしてません。
 ヒーロー資格を得たら問答無用で捕まえますが、衝動から社会に馴染めなかった事情には同情しています。
 無個性であった時に見た社会の歪さ。
 グランバハマルでの価値観。
 おじさんの日常感。
 戻ってきた時の周囲。
 などからかなり歪な人格です。
 基本は善人で法は守るが、変な意味で許容範囲が広いと思ってください。
 これは合わない人がいるだろうなと思いつつも外せないイベントなので。
 最後にイズク君は、他人を救うけど人のことは基本嫌いです。
 


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90話 救助演習、仮免許試験終了。


 ゴゥッ
 その一振りで竹についていた葉は全て散った。
 
「竹を振り続けその葉が全て落ちきった時、居合斬りが如き究極のスイングスピードを会得する。これぞ剛の秘打法・覇竹」

「し、師匠」

「君も来るんだ、この高みへ」

「はい!!師匠!!」

(((なんで根津校長が指導してんだろ?)))



 

 想定外の出来事に遭遇したけど、個性のみならず技術的にも隠密を得意とする渡我被身子が試験会場から去ったのは良い結果だったと思うことにする。

 軽食が並んだ控室にてモニターを眺めながら皆が突破するのを待つ。

 試験に落ちる心配はしていない。ぶっちゃけると触れたら終わりなもぎもぎを扱う峰田君と常日頃から鍛錬している僕達にこの試験は余裕だ。そもそもバカスカとボールを投げていたけど、射撃武器や投擲武器に長けた人でもない限り、動く的にボールが当たる訳が無い。さらにはここにいるのはヒーロー候補生、銃弾を想定している者達にはメジャーリーガーの剛速球でも遅く感じるだろう。

 ボールを持って殴りつけるか、捕縛し無力化してからボールを当てるか。その最適解に気付けるかどうかが試験突破のカギだね。

 そんな風に考えていたら、予想通りあっさりと雄英高校A組は全員突破した。

 かっちゃんが指揮をとり、轟君が場を整え、口田君と葉隠さんが襲撃者達を掻き乱し、峰田君と瀬呂君と八百万さんが拘束し、芦戸さんと青山君と耳郎さんが遠距離攻撃を迎撃しているのだから当然の結果だ。

 個人で切り抜けられる実力者達が的確な指揮の下に乱れなくコンビネーションを発揮したら勝てる者などいない。

 

『300人!!今埋まり!!終了!です!これより残念ながら脱落してしまった皆さんの撤収に移ります』

 

 1200人以上、怪我人を考えたら時間がかかりそうだね。

 

「オウ、トップ一抜け野郎。気になることは済んだかよ」

 

「ま、なんとかなったよ」

  

 渡我被身子の発言を信じればだけどね。

 黒霧、あの転移個性持ちがこの会場に転移できる事実を知れただけでも良かったかな。

 何があったかはあえて聞かないでいてくれるかっちゃん。変身個性持ちヴィランが転移個性持ちヴィランによって潜入してきたなんて普通に大事だからね。

 彼女との会話を思い出してすこし落ち込んだような気分になっていると、場を明るくしようと皆がさっきの試験での武勇伝を語ってくれた。こんな風に優しくしてくれる皆がいるから僕はここに居ようと思うのだろうね。

 合流した皆としばし会話を楽しんでいると。

 

『えー300人の皆さん、これご覧下さい』

 

 モニターに映ったのは先ほどまで居たフィールド。そしてそこが、

 BOOM!! BOOM!!

 BADOOOOM!!

 大爆発。

 

(((何故ーーー!!ハッ?!)))

 

「オイ一斉にこっちを見るな。俺じゃねえよ」

  

 てっきりかっちゃんの新技かと。

 

『次の試験でラストになります!皆さんはこれからこの被災現場で、バイスタンダーとして救助演習を行ってもらいます』

 

「現場にいたという想定で救助演習するってことか」

 

「13号先生が教えてくれる科目だよな」

 

『ここでは一般市民としてではなく仮免許を取得した者として、どれだけ適切な救助を行えるか試させて頂きます』

 

 あー、現場でヒーローが消防隊員や救助隊と揉めるヤツか。神野だとトップヒーローばかりだからすんなりと行えたけど、しょっちゅう手柄争いとか起きてるらしいよね。

 さらによく見れば救助者役の人達までいる。雄英高校の授業だと人形か生徒が交代でやっているけど、要救助者役専門とか色んな仕事があるんだね。

 採点ポイント形式か、どう動くべきかな。

 

「とりあえず緑谷は神聖魔法担当だな」

 

「耳郎さんと障子さんが索敵ですわね」

 

「八百万は現場指揮か?」

 

「轟君の冷気と炎は要救助者には駄目だよねー」

 

「アタシの酸は瓦礫撤去かな、危ない?」

 

「アレ?電気の使いみちは無くね?」

 

「電気ポットでお湯を沸かすとか」

 

「大規模破壊だから救助を手伝いつつヴィランに警戒だろ。俺もそうする」

 

「もう緑谷増やそうぜ」

 

「変身魔法でイケるけど」

 

「「「出来るのかよっ?!」」」

 

「やめろ、コイツなら怪我を治して記憶消すという処置をやりかねねえ」

 

「やるけど」

 

「「「やるなよ!!」」」

 

「とりあえず他校との連携だな、雄英だからと反発しねえと良いが」

 

「ヒーローの足の引っ張り合いは社会問題になりつつあるんだよな」

 

 歩合制の早い者勝ち方式だからどうしてもね。

 

『敵による大規模破壊が発生!規模は○○市全域建物倒壊により傷病者多数!』

 

『道路の損壊が激しく救急先着隊の到着に著しい遅れ!到着する迄の救助活動はその場にいるヒーロー達が指揮をとり行う。一人でも多くの命を救い出すこと!!!』

 

「やんぞテメエら、一人でも多く一刻も早く救い殺すぞ」

 

「いや殺しちゃ駄目だろ」

 

 でもまあ、かっちゃんが檄を飛ばすと不思議と気合が入るよね。

 

 そこからの演習だけど、あらかじめ役割を決めていたためかスムーズに事が運んだ。周りの受験者達も僕達の話し合いを見ていて方針に賛同してくれたようだ。

 受験者全員が控え室を避難場所として定め、僕は次から次へと運ばれてくる要救助者達を神聖魔法で治療していた。中には血糊ではなくガチで怪我してる人達もいてそのプロ意識は尊敬以上にドン引きした。

 神聖魔法にトリアージは関係なく死んでなければどんな傷でも治る。だからか要救助者役の皆さんも受験者達も驚愕の眼差しを僕に向けていた。

 途中で避難場所近くにギャングオルカ率いるヴィラン役の集団が襲いかかってきたので、伸ばした光剣(威力調整済み)で横一閃。半数を撃退したところでかっちゃんと轟君と士傑の夜嵐君が参戦してくれたので再び治療に専念。

 シャチのパワーと超音波攻撃を操る熟練の強者であるギャングオルカとその部下であるサイドキック達の連携に苦戦するも、かっちゃんが最大爆撃でギャングオルカを吹き飛ばして、そこに轟君と夜嵐君の氷と風の即興合体技『エターナルフォースブリザード』が決まりヴィラン集団を撃破した。生きてるよね?(震え声)。

 そして追加戦力を警戒しつつ治療を続けたら全てのHUCが危険区域から救助されて、仮免許試験全行程の終了が宣言された。

 なおこの後に僕はそのままギャングオルカ達を含めた怪我人の治療をすることになった、受験者も救助活動中と真堂さんみたくヴィラン役からの攻撃で何人か怪我をしたからね。その時にギャングオルカから海洋生物の治療も可能なのかと聞かれて治癒能力がどれだけ貴重なのか実感した。

 それから動き回って全員の治療(轟君と夜嵐君はやりすぎだよ)が終わった時にはもう合否発表直前になっていた。

 舞台上のモニターに映し出された自分の名前を確認して、夢にまた一つ近付いたのだと達成感が心と身体を満たした。

 そこにはこの場にいるクラスメイト達皆とここまでこれたことによる嬉しさもあったけどね。

 

『続きましてプリントをお配りします。採点内容が詳しく記載されてますのでしっかり目を通しておいて下さい』

 

 えっと、僕は。

 

『専職ヒーローになって(血文字)』

 

 嫌です(ビリビリ)。

 治癒能力が希少だからといって採点くらいしっかりしてよ。

 その後は、盤上の役員さんがヒーロー仮免許の説明と社会情勢についての話と二次試験で落ちた人達の講習案内をしてから終了した。

 

 手に入れた免許証。

 たった一枚の紙。

 けどそれが今までの積み重ねた結果で、これからも続く夢の一つだ。

 さあ、お母さんとオールマイトとおじさんに見せよう、皆が手を引いてくれた夢を。

 

 

 あと、渡我被身子について相澤先生に報告した。的確な対処だったと告げられた。そこからは公安と話し合って対策するそうだ。

 ヴィランの脅威は未だに健在。

 闇に潜む彼らは今どこへ歩いているのだろう?

 

 





 補足。
 二次試験はザックリと終了。
 原作よりステインがやらかしてないので甘い採点となってます。
 肉倉先輩、夜嵐君も普通に合格してます。 
 なお緑谷君は回復も戦闘もできるヤバいヤツという認識が定着しました。

 この後、かなり原作イベントが飛びます。ちなみに死穢八斎會編はあの人ががっつり絡む予定です。


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91話 始業式。


 繋ぎ回です。



 

「てっきり始業式なんて合理的じゃないとまたブッチするもんだと思ってた」

 

「その手の実績ある担任だからな」

 

「相澤先生やもんね」

 

「まー4月とはあまりに事情が違うしね」

 

 そんな軽口を叩きながらグラウンドに向かう僕達一年A組。

 委員長なら仕切りたまえと飯田君に言われるけど、グラウンドに行くだけだしね。

 

「流石だねA組」

 

 あ、この声は。

 

「僕達B組も全員合格、その結果見事と讃えさせてもらおうか!!」

 

「なんかキャラが迷走してるよね物間君」

 

「嫌味を言いながら絡もうにもお前へのやらかしで罪悪感あるからなアイツ」

 

「そして嫌味を言うネタもないしな」

 

 なんかもう無理矢理絡むライバルキャラみたいになっているよね。

 

「ブラドティーチャーによるゥと、後期ィはクラストゥゲザージュギョーあるデスみミタイ、楽シミしテマス!」

 

 クラス合同授業か、対戦方式でもやるのかな?仮免試験前にやって欲しかったなあ。

 あとブラド先生は伝えてるのに相澤先生は何も無しなんですけど。

 

「へぇ!そりゃ腕が鳴るぜ!」

 

 他のクラスと競い合うのは体育祭ぐらいだったから確かに楽しみだ。

 

「つか外人さんなのね」

 

 個性が広まってから見た目で人種の判断できなくなったとかはよく言われたなあ。

 

「オーイ後ろ詰まってんだけど」

 

「あ、すいません」

 

 とっさに謝るとそこには普通科の生徒達がいた。

 

「かっこ悪ィとこ見せてくれるなよ」

 

「心操だったか」

 

「体育祭で緑谷にドンマイされた人」

 

「「人の古傷えぐるのやめてくれ!!」」 

 

 体育祭で瀬呂君と上鳴君と心操君でドンマイ三人衆とか言われてたからね。

 しかし彼、合宿やら登校日の無い普通科なのに体育祭の時から大分鍛えられているみたいだ。

 

 ズラっと雄英高校全生徒が並ぶとまさに壮観。

 台の上に立つ皆大好き小型ほ乳類の校長。自慢の毛質の低下から生活習慣の乱れを憂いていた。

 というか上鳴君がまた尾白君の尻尾を弄ってる、教室でも手が空いたらワサワサと触っているからそろそろセクハラで訴えられるレベルだ。

 

「生活習慣が乱れたのはご存知の通り、この夏休みで起きた事件に起因しているのさ」

 

 オールマイトの引退、その意味。

 サー・ナイトアイがかつて見た未来よりマシだとはいえこれからの社会には大きな困難が待ち受けている。ヒーローが立ち向かわねばならない苦難が。

 そしてミリオ先輩がサー・ナイトアイの事務所で取り組んでいる校外活動も安全面の対策をする必要があるそうだ。

 科を問わず社会の後継者である。

 根津校長の言葉をしっかりと胸に刻んでおこう。

 その後、生活指導のハウンドドッグ先生からのお話もあったけど何故か興奮して人語を忘れて雄叫びを上げていた。

 オチがつかないと駄目なのか雄英高校。

 

 

 そして教室、圧縮訓練などの夏休みスケジュールから通常通りの授業へと切り替わる。

 始業式の後だけど今日は座学のみだ。

 そんな説明中に芦戸さんが先生に注意された、どうやら校長先生の話に出たヒーローインターンが気になるようだ。

 皆は職場体験の時にヒーロー事務所にインターン生がいなかったのかな?僕はミリオ先輩から詳しく聞いていたから知っているけど。

 尋ねられた相澤先生はどうやら後日説明する気だったようだけど答えてくれた。

 校外でのヒーロー活動であり、以前行った職場体験の本格版。ちなみに給料もきちんとでる。

 そこで麗日さんが思考の末に体育祭の頑張りは何だったのかと叫ぶ。特に彼女は必死だったからそうなるよね。飯田君もその理屈に頷いている。

 けど雄英高校から授業だから受け入れて欲しいと依頼する職場体験とは違い、ヒーローインターンは生徒が自らのコネクションで行う活動。身内や知り合いにヒーローが居なければ体育祭で知名度を得てないと活動自体できないだろう。

 さらに授業の一環ではないので、出席してない授業は補習という形で行う必要もある。

 あと仮免許が必須だから一年では基本的に行わない活動(例年なら雄英高校でも二年時に取得)で、夏休みの一件による敵活性化から参加そのものが慎重に検討されているそうだ。

 と、そこまで話した所で一限。

 久しぶりのプレゼント・マイク先生の英語の授業からだ。

 ヒーローインターンか。

 そう言えばサー・ナイトアイが近いうちにでかいヤマがあるから覚悟しておけと連絡してきてたな。

 かっちゃんもミルコと敵退治行脚をするだろうし、他の皆も参加できたら良いけど。

 

 新学期そうそうに話題に上がったヒーローインターン。参加できるか分からないその活動でまさかあんな出来事が起こるとは、この時の僕には想像すらしていなかった。

 けどあえて言おう、どうしてそうなった。

 





 トゥワイスさんシーンとかっちゃんとの喧嘩を全カット。ワンフォーオールについても知っている生徒は基本いません。


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92話 登場ビッグ3。


 改変設定及び自己解釈あります。



 

 久しぶりの座学がしんどかった翌日。

 

「じゃ早速、本格的にインターンの話をしていこう。入っておいで」

 

 相澤先生のそんな一言から本日のヒーロー基礎学は開始した。

 

「ん?」

 

「?」

 

 何か覚えのある気配が外からするね。

 

「職場体験とはどういう違いがあるのか、直に経験している人間から話してもらう。多忙な中、都合を合わせてくれたんだ心して聞くように。現雄英生の中でもトップに君臨する3年生3名、通称ビッグ3の皆だ」

 

 やっぱりミリオ先輩達か。

 天喰先輩は会話したこと無いな、学校でミリオ先輩と会う時は一人だけいつも扉の向こうにいたし。

 しかし、こう見ると貫禄あるから不思議だ。

 

「あの人達が、的な人がいるとは聞いてたけど」

 

 四天王的なヤツだね。

 

「めっちゃキレーな人いるし、そんな感じには見えねーな?」

 

「びっぐすりー」

 

 普通なら首席とかがなりそうなものだけど、本人曰く成績は普通らしいんだよね。去年の体育祭でもねじれ先輩も天喰先輩も含めて上位じゃなかったらしい(当時グランバハマル)、だから成績と体育祭の結果以外の成果が彼らをビッグ3にしたのか。

 

「じゃ手短に自己紹介よろしいか?天喰から」

 

 ギン、

 うん目力がなんか凄い。

 けどコレ。

 

「駄目だミリオ、波動さん(カタカタ)。ジャガイモだと思って臨んでも頭部以外が人間のままで依然人間にしか見えない(カタカタ)どうしたらいい、言葉が出てこない(カタカタ)」

 

 陰キャラが気合入れてただけだね。

 

「頭が真っ白だ、辛いっ!帰りたい!」

 

 だからいつも扉の外に居たのかこの人。

 回れ右して黒板向いちゃった。

 

「雄英、ヒーロー科のトップですよね?」

 

 尾白君が疑問に思う通り珍しいタイプだ。

 なにせ雄英高校は全国トップ校、しかもヒーローになろうとするのだから一部例外(ヤンキーなかっちゃん、ドスケベな峰田君、異世界帰りの僕)を除いて生粋の陽キャラばかりだからだ。

 多分大抵の生徒が委員長とか生徒会長経験者じゃないかな(ド偏見)。

 

「あ、聞いて天喰くん!そういうのノミの心臓って言うんだって!ね!人間なのにね!不思議!」

 

 そして次はねじれ先輩ですか。

 

「彼はノミの「天喰 環」、それで私が「波動ねじれ」。今日は校外活動について皆にお話してほしいと頼まれて来ました」

 

 と、ここまではまだマトモだったねじれ先輩だけど気になることを尋ねてしまう性格のため再びクラスは本来の目的そっちのけの空気に。

 

「合理性に欠くね?」

 

 いや実力はともかくこの人達が説明とか向いてないですって。

 

「イレイザーヘッド安心して下さい!!大トリは俺なんだよね!」

 

 慌てるミリオ先輩だけど桃がなっている人に言われても。

 

「前途ーー!!?」

 

(((ゼント?)))

 

「多難ー! っつってね!よォしツカミは大失敗だ、ハッハッハ」

 

「なるほど参考になる(メモメモ)」

 

 そろそろ殴ってでも轟君を正気に戻すべきかもしれない。

 

「滑ってもめげない精神力、これが最高峰」

 

 飯田君が感心してるけど、ミリオ先輩の精神力はガチで最高峰だから否定できない。

 

「3人とも変だよな、ビッグ3という割にはなんかさ」

 

「風格が感じられん」

 

「むしろ木の葉の三忍じゃね?」

 

 オカママッドサイエンティスト、伝説のカモ、エロ仙人と一緒にするのはちょっと。

 

「まァ何が何やらって顔をしてるよね。必修てわけでもない校外活動の説明に突如現れた3年生だ、そりゃわけもないよね」

 

 いやそこではなく貴方達のキャラが独特というか、濃いというか。

 

「そうだねぇ、何やらスベリ倒してしまったようだし。君たちまとめて俺と戦ってみようよ!!あ、緑谷君は除外して」

 

「「「え、ええー!?」」」

 

 ミリオ先輩はそう言って相澤先生にも許可をとる。まあその方がわかりやすくあるか。

 

「で、強いのかあの人?」

 

 そう、かっちゃんが聞いてくる。

 スベリ倒しているからつい侮ってしまうよね、それもまた有効に働く手札だけど。

 

「強いよ。僕は相性良いから完勝できるけど。今の皆なら総掛かり(自分を除いて)でも厳しいと思う」

 

「そいつは楽しみだなぁ」

 

 ああかっちゃんがバトルジャンキーモードに、子供には見せてはいけない顔をしてる。

 

 

 体育館γ。

 瀬呂君が正気か尋ねるけどミリオ先輩はやる気の様子だ。そしてミリオ先輩の実力を知るがゆえに天喰先輩とねじれ先輩は否定的だ。まあやらかした人がいたならそうもなるよね。

 だがそれは、自分達の実力に自信を持ちつつある皆には挑発にしか聞こえない。

 仮免許取得という実績、プロヒーローにヴィランとの戦いの経験。

 特に常闇君と切島君は気に入らないみたいだ。

 

「つーか緑谷はなんで除外されてんだよ?」

 

「戦えば分かるよ」

 

 実力的にクラスメイト達に勝ち目は無い。けどかっちゃんと轟君と峰田君がいるからもしかしたら本気くらい引き出せるかも。

 相澤先生と並んで見学、いよいよ開始だ。 

 そしてまずかっちゃんが爆速で襲いかかる。爆破を纏った掌底は直撃したらただではすまないが、息を止めたミリオ先輩の服がハラっと落ちる。

 いそいそズボンを着るミリオ先輩だけどそこで情けをかけるかっちゃんではない(そして悲鳴を上げる耳郎さんは初心でカワイイ)、がその一撃は個性ですり抜ける。そのまま個性応用のワープで全裸のまま遠距離攻撃組に襲いかかる。

 

「剛の秘打法 覇竹」

 

 そんな中で最近朝晩に全力で竹を振り続けてる峰田君が反撃に転じていた。

 

「ちょっとかすったね」

 

「攻撃する瞬間はすり抜けれねえみてえだな。ならオイラのスイング速度なら当てられる」

 

「緑谷君以外にもやる子はいるみたいだね」

  

「俺もいる」

 

 轟君の氷炎もまた襲いかかる。

 だが当たってもすり抜けるばかりでミリオ先輩にダメージはない。

 

「どんな個性だ?」

 

「基本はすり抜け。けど地面に潜った後からの出現速度が半端ねぇ」

 

「攻撃の当たる瞬間はすり抜けてねえならカウンターは当たる」

 

「服着てねえから周りが炎だらけなら火傷くらいはしそうだな」

 

 遠距離組で残った二人が近距離組と合流。そのまま残りに二人組で背を合わせて警戒するよう告げる。背後からの不意打ちには簡単に反応できないからね。  

 

「手はある。一つは出現したらダメージが入るレベルの広範囲攻撃を発動し続けること、もう一つはすり抜けるより早いカウンターだ」

 

「地中から飛び出る距離しだいで空中で待機して迎撃する手もありだな」

 

「「「なら後はやるだけだ」」」

 

「暴れん棒、キャストオフ」

 

 暴れん棒、峰田君のもぎもぎ対応バットの外装が外れ一回り細くなる。重量はそれほど変わらないが空気抵抗が減る分よりスイングスピードが増す。

 

「その立派な玉をホームランしてやるぜ」

 

「「「どこ打つ気っ!!」」」

 

 その言葉に男子一同(ミリオ先輩と相澤先生も)つい急所を押さえてしまったよ。あの速度で打たれたら死ぬって。

 

「皆がいるから範囲攻撃は無理か、なら全身に炎を纏うだけだ」

 

 攻撃する瞬間はダメージを負う、なら拳が焼ける温度でいれば殴ったミリオ先輩とて傷つくだろう。

 

「モグラ叩きだ」

 

 かっちゃんは爆破で空中へ。

 今の彼の滞空時間はかなりのもの、僕の知っているミリオ先輩の地中に居られる時間以上だからどこから出るか分かれば先手は取れる。ミリオ先輩の必殺である先手からの一撃で仕留めるという手段を封じた攻略法だ。

 サー・ナイトアイ事務所での付き合いからミリオ先輩の個性の詳細を知っている僕ですら的確だと思う対処法。それを初見でできる彼らは凄い、勝てないと確信してた天喰先輩とねじれ先輩も目を見開いて驚いていた。

 

「通形ミリオは俺の知る限り緑谷という例外を除いてプロも含めて最もNO.1に近い男。だがコイツラもまた晩成する大器だ」

 

 あと必要なのは経験だけ、そう相澤先生は言う。なんかいつの間にか峰田君もクラストップ陣に組み込まれているけどもぎもぎにあの戦法加わったら超強いからね。

 

 そこからは激戦。接近戦組を撃退しながら、必死に喰らい付く3人をミリオ先輩が経験からの巧みさでボコリ倒した。タフネスさもかなりなかっちゃんを動けなくするのはかなり時間がかかってた感じ、打撃はミルコとのイチャつきで慣れてるみたいだしね。ちなみにゴールデンボールを狙う峰田君がマジで怖かったと後日ミリオ先輩が言ってました。まあミリオ先輩のはリトル峰田よりかなり立派なネオアームストロング砲だったから仕方ないかな。

 

「とまァーこんな感じなんだよね!」

 

「一部を除いてわけもわからず腹パンされただけなんですが」

 

「その一部が居ることにビッグ3もビック(ス)リー、なんちゃって」

 

「なるほど参考になる(メモメモ)」

 

 ギャグが滑り適度に場が冷えた(梅雨ちゃんがヤバい)ところでミリオ先輩の個性の説明。無敵の強個性と思われる彼の力がどれだけの努力の結果なのかを僕らは知る。

 一度ドンケツまで落ちた彼がいかにして上り詰めたのかそれに何が必要だったのか。

 ソレを支えたのが底知れない程の精神力であるが、そこに至らしめたのは予測と経験則。そこにはサー・ナイトアイという名伯楽の技量もあるだろうけど、まず挑戦した彼の決断あってこそだ。

 

「俺はインターンで得た経験を力に変えてトップを掴んだ!ので!怖くてもやるべきだと思うよ1年生!!」

 

 職場体験はお客様、インターンは同僚、その差は大きいからね。

 あれ?僕はお客様扱いなんて一ミリもされてなかったような?アレ?

 

「「「ありがとうございました!」」」

 

 皆でお礼を言ってビッグ3からのヒーローインターンの説明は終了した。ミリオ先輩以外はロクに何もしてないけど。

 

「ところでなんで緑谷は除いたんですか?いやバグみてえに強いのは知ってるけど」

 

「彼の精霊魔法は透過できないんだよ」

 

 悪霊とか物理無効な存在にも効くからかな?

 

「(それと緑谷君、先生から許可がおり次第すぐに来てくれってサーが言ってた。未来の懸念の一つを撃退するそうだよ)」

 

 こっそりと伝言を告げるミリオ先輩。

 そうか、いよいよか。

 ステイン、神野、荼毘に並ぶ大きな分岐点。サー・ナイトアイ事務所が全力で改変しようとする未来の一つ。

 その始まりに、僕は武者震いした。

 





 なんか峰田君が一年A組四天王の一角みたいに。他の皆も強化して活躍させないと。


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93話 ヒーローインターンについて。


「覇竹が、当たらない」

「アンダースロー・スワロー、砂燕。砂塵に隠れた燕は何人にも捉えられないのさ」

「オイラはまだ届かないのか」

「フ、この球を打てるようになったその時、君はミリオ君すら打ち抜けるだろう」

「師匠ー!!」

(((投球も出来るのか、あのハイスペックネズミ校長)))


 

「1年生の校外活動ですが昨日協議した結果、校長をはじめ多くの先生が「やめとけ」という意見でした」

 

 まあ元々2年、3年からやることだしね。

 

「えー、あんな説明会までして!!」

 

「でも全寮制になった経緯から考えたらそうなるか」

 

 出来ると思ったことが出来ないとなると不満に思うよね。なら最初から説明しないで欲しいって思ってしまう。

 

「が、今の保護方針では強いヒーローは育たないという意見もあり、方針として「インターン受け入れの実績が多い事務所に限り1年生の実施を許可する」という結論に至りました」

 

 となるとまだ新人扱いのマウントレディとかは駄目かな?いやまだ数年なのに雄英高校の職場体験先になるのは凄いことなんだけどさ。

 

「あと許可できるのは成績優秀者のみだ。インターン活動は一週間単位で授業に出れない場合もある。補習でなんとか出来るヤツだけが行けると思え」

 

「「終わった」」

 

 上鳴君、芦戸さん、A組ドベ二人が撃沈。

 しかし言われて見ればその理屈には納得してしまう。いくら学校側で補習をしてもらえても普通に授業するよりは短い時間になってしまう。だから補習しただけで結果を出せるという実績が必要なんだ。まあ雄英高校で一クラスの学力ドベは充分エリートであるから決して二人とも馬鹿ではないんだけど、インターンにかまけて学力低下しましたなんで親御さんに言えないんだよね。全寮制になったことで先生方は保護者への定期的な報告も必要になったから。

 

「雄英高校において成績は貯金だ。貯めておけば出来ることが増えると思え」

 

「「ハイ(ズーン)」」

 

 そして貯金してないと制限がかかる訳ですね、厳しい話だ。

 そしてこれに関しては生徒全員他人事じゃない、学生の本分は勉強。ヒーロー関連と個性修行ばかりに集中して学業を疎かにしないよう心掛けないと。

 

 

「しかしあれだけ言われたのに、参加出来ないかもなんて」

 

 場所は変わって食堂。

 放課後に集まってダラダラトークタイム。

 

「まずはヒーローに個人的に連絡する伝手、それから了承して貰う交渉に自分の実績、さらにその事務所が雄英高校から許可が出る場所か確認、挙げ句に自分の成績が大丈夫かどうか。やることだらけだな」

 

 その全てを満たしてようやくヒーローインターンが許可される。そして何を得るかは自分次第、ヒーローにしてもあくまでサイドキック候補として雇用するだけで指導義務は無いからだ。

 

「まあヒーローにしてもオールマイト引退で仕事が増えてるらしいしな。ヒーロー科1年の受け入れなんてする余裕はないだろ」

 

 ヒーロー飽和社会も今は昔とかになるのかな。きっかけがオールマイト引退とか、オールマイトが飽和させてたみたいに聞こえるけど。 

 

「爆豪はどうすんだ?ミルコのトコか?」

 

「いやミルコはインターンの受け入れ実績がないから無理じゃねえのか?職場体験も俺が初めてらしい」

 

 ヒーローとしての実力は文句無しなんだけど、雄英高校OGじゃないから依頼しにくかったみたい。本人も気分屋(かっちゃん情報)だから頼まれても気に入らないなら断ってたとか。

 

「ミルコの初めての相手(ポッ)」

 

「お熱いですなあ(ニヤニヤ)」

 

 そんなかっちゃんをからかう二人。確かに言葉の一つ一つがミルコとの親しい距離感を示しているように感じた。

 

「黙れインターン不可能ダブルドベ」

 

 まあ弄られるだけのかっちゃんじゃないけど。

 

「「グフッ(バタリ)」」

 

 自身の痛い所を突かれたショックで崩れ落ちる二人。まあやったらやりかえされるよ。

 

「雉も鳴かずば撃たれまいに」

 

「打たれ弱過ぎだろこの二人」

 

「あの後に相澤先生から名指しで成績というか学力テストの点数が理由でヒーローインターンは無理って言われたからね」

 

「期末テストの結果じゃなくて良かったぜ。そうしたら俺と砂藤も無理だった」

 

「B組の物間もな」

 

 そう、相澤先生はヒーローインターンの説明後に学力面の理由から許可されない生徒名を告げたんだ。そこには期末テストで補習になった全員があげられた訳ではない。あくまでヒーローインターンの有無は学力試験の結果だけで演習試験は別なのだ。

 

「つっても、職場体験でも雄英からの紹介してもらったトコは無理っぽいけどな」

 

「マウントレディとか無理だからな」

 

「やっぱ体育祭で結果だすのは大事なんだな」

 

「それで緑谷は?」

 

 と、そこで僕に話題が移る、体育祭で優勝したからヒーロー側からインターン希望があると予想したみたいだ。確かにそのとおりなんだけど、ただ。

 

「神聖魔法目当てでヒーロー達からの要請が山のようです」

 

 目当てが露骨過ぎなんだよなあ。

 

「「これが格差」」

 

 誰もが欲しがる能力だからね。グランバハマルでも持て囃された力だ、だから教会は権力を持っていた訳だからね。

 

「治癒能力は貴重な癖に需要あるからな」

 

「でもソレだけ目当てとかなんか嫌な感じ」

 

 どうしても注目される能力だから仕方ないよね、ヒーロー達にしても病院に行く手間と時間と費用が浮くから是非来て欲しいらしい。

 個人事業者であるヒーローは休むと収入が無いからなあ、いや一応実績によっては国から保障は出るけどそれも最低限らしい。何かの番組でヒーローの収入を時給換算したらいくらになるとかを調べたけど、知名度によって一時間☆万円からアルバイト以下まで差が激しかったからね(そこに多額の装備費を入れたらヤバい)。

 あと別の治癒手段である回復の呪符はリカバリーガールを通じて信頼出来るヒーローと病院関係者に卸しているけど、アレも手作業で作るから手間がかかって数は作れないし万が一悪用されたら問題になる。

 

「どちらにしてもサー・ナイトアイの事務所に行くと決めてるから問題はないよ」

 

 仮免許試験にヒーローが見学してるのは聞いていたけどここまで注目されるのは想定外だった。

 でも雄英高校卒業後にサイドキックとして入社予定のサー・ナイトアイ事務所から要請を受けたなら断る筈もない。

 

「サー・ナイトアイ。オールマイトの元サイドキックか」

 

「いーなー」

 

「他のヤツも受け入れられないか聞いてくれないか?」

 

「俺も行きてえ、ユーモアを学びたい」

 

「轟はエンデヴァーのトコにしとけよ、まだ赫灼熱拳を体得しきれてねえだろ」

 

「紹介ならビッグ3の二人にも聞いてみたら?」

 

 そんな感じに僕達は話しこんだ。

 インターン先が決まっていることに羨ましがられるのは納得する、サー・ナイトアイ程のヒーローなんだからさらにだ。けど今回の件は、場合によっては命がけになってしまうほどの大事。だからサー・ナイトアイからならともかく僕からは誘えない。

 あと轟君は本当に一度冷静になってお願いだから、強さだけでも君は伸びしろがあるんだからそこから伸ばそうよ。  

 さあ学校から許可は下りたからヒーローインターンは明日からだ、予定だと朝からコスチュームを持って事務所に集合。  

 ことは急を要する程の事、だから後手になる前に動く必要がある。

 気合を入れて臨むとしよう。

 





 補足。
 初動が早いのでまだヴィラン連合と死穢八斎會は接触してません。
 学力によるヒーローインターンの許可は独自設定ですが、教育機関だからありえるかなと。
 上鳴君と芦戸さんは、超常開放戦線との決戦前には出来ますが現状だと無理です。

 映画二作目はどうしようか悩んでいます。時期的にそろそろですが、ネタが思いつかなくて。
 


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94話 未来を変えろ!!

 
 原作改変ありです。



 

 電車で一時間。

 そこがサー・ナイトアイの事務所だ。

 

「おはようございます、ミリオ先輩。いやルミリオンが正解ですよね」

 

「コスチュームを着るまでは名前で良いよ。ヒーローは切り替えが大事だからね」

 

 雄英高校から一緒に来ていたミリオ先輩に事務所前で改めて挨拶する。これから仕事前だからか気合を入れるためである。

 僕とミリオ先輩の仲は良い。それは彼自身の人柄が良いとう理由もあるが、職場体験の時にヒーロー殺し・ステインの殺人記憶を書類に起こすという苦行に等しい仕事を共にやりきった事が大きいと思う。苦楽を分かち合った戦友、一年に満たない付き合いながら彼ミリオ先輩とはそんな間柄だ。

 

「遅刻しちゃまずいですし、入りましょうか」

 

「そうだね、サーが待っている」

 

 そうして二人で事務所に入ったらちょうどサー・ナイトアイのサイドキックの一人であるバブルガールと出くわした。

 

「おはようございます、バブルガール。パトロールですか?」

 

「お疲れ様です」

 

 まだ早い時間だがヒーローのパトロールの有無は犯罪発生に直結するから大事な仕事だ。

 

「おはよう、私はこれからセンチピーダーと合流して見張りの継続に、ってイズク君?!」

 

 見張り?張り込みかな。

 予定を話してくれたけど、僕の存在に気付いて挙動不審になった。今日からヒーローインターンなのは知っていると思ったけど。

 

「イ、イズク君」

 

 キョロキョロと落ち着かない様子であちこち見ていたバブルガールだけど、しばらくして何やら覚悟を決めた表情でこちらを向いて、

 

「き、君の気持ちは嬉しいけどまだ学生なんだからそういった事は雄英高校を卒業してから改めてお願いします!!気持ちは嬉しいけど!!」

 

「?」

 

「そんな訳で私これから仕事だからーー!!」

 

 と、叫ぶように一気に言ってから外へ走り出していってしまった。

 

「何か約束でもしたの?」

 

「そういえば、友人を紹介しようと電話した覚えがありますね」

 

「そっか、ならその子は脈があるみたいで良かったね」

 

「紹介相手の説明する前に電話切れた筈だけど、なんで知っているんだろう?」

 

「なんでだろうね」

 

「「?」」

 

 不思議に思ってミリオ先輩と共に首を傾げるが答えがでることは無かった。

 

 

 

「よく来てくれた、異世界ヒーロー トレンドール。君を歓迎しよう」

 

 七三分けのスーツ姿。

 まるでサラリーマンのような見た目をしたヒーロー、それがサー・ナイトアイだ。

 個性は戦闘向けでこそないものの、経験による予測と鍛え抜いた肉体によりその実力は高い。

 オールマイトの元サイドキックということと、その実直な仕事ぶりから他のヒーローからの評価も高い人物だ。

 

「早速で悪いがあらかじめ言っておく、私は君を学生として見る気はない」

 

 机に座り顔の前で指を組みながらサー・ナイトアイはそう告げる。

 

「君の実力はプロに劣らない、ゆえに一人のプロヒーローとして今回の件に参加して貰う」

 

「ハイッ!」

 

「良い返事だ。では続けよう、今回の件について私が見た未来についてだ」

 

 サー・ナイトアイが自身の個性である予知で知った未来。その中でもこれからの日本に大きな影響を与える存在と出来事についてだ。

 一つは、ヒーロー殺しステイン。サー・ナイトアイ事務所総員で捕えたヤツはその思想と狂気によりヴィラン活性化を促す。

 一つは、正体不明のヴィラン荼毘。ひょんなことから異世界おじさんが対処してしまった彼は、自身の過去によりエンデヴァー、牽いてはヒーローそのものの信頼を台無しにする。

 一つは、神野決戦。雄英高校林間合宿のヴィラン襲撃からヒーロー達による反撃でヴィラン連合拠点にて全ての元凶であるオールフォーワンと平和の象徴オールマイトが激突。勝利を得るも平和の象徴オールマイトの引退は世界を震撼させた。

 どれ一つとっても社会を混乱に陥れ人々から平穏を奪い去る出来事であるが、事前に備え対処のために動いた事と完全なイレギュラーな出来事のおかげで事件を未然に防ぐ・被害を軽減することに成功した。

 本来ならこんなことは出来はしない。サー・ナイトアイの個性である予知は一度見た未来はどう動こうと足掻こうとも防ぐことも回避すること阻止することも出来ない確定した未来だった。

 それはその個性と生まれた時からの付き合いであるサー・ナイトアイ張本人が、敬愛するオールマイトの無残な死を受け入れてしまう程にどうしようもないことだった。

 だがここに一つの変化が訪れる。

 去年オールマイトが連れてきた少年、異世界帰りという信じがたい経験をした少年との出会いが有益ではあるが絶望をもたらす個性に光を示したのだ。

 未来を変えることが出来るという光を。

 それが異世界帰りだからというイレギュラーな要素のせいなのか、彼に宿る神から与えられた転移ボーナスのおかげなのかは定かではない。

 だが未来は、予知は変えられる。

 より良い未来へと到れる。

 それがどれほどのことであるのか、変えられぬ予知に膝をつき続けてきたサー・ナイトアイにしか分からないだろう。

 そして今回の件、指定敵団体『死穢八斎會』についてだ。この件もまた世界において大きな意味を持つ。

 まず死穢八斎會だが、かつては個性の発現と闇の帝王により荒れる社会の中で近隣住民を守る仁義を重んじる侠客集団だった。

 だがオールマイトがアメリカから帰国し、闇の帝王の配下共を日本から駆逐しその影響力を低下させ治安を改善した辺りから侠客集団から変化が始まった。

 いや、力を取り戻した警察機関、ヒーロー公安委員会から取り締まられることにより変化が必要となってしまったのだ。ミカジメ料が主な収入だった彼らは生活のため非合法な商売に手を染め、しかし規模を小さくしていったのだ。

 それが現状だったのだが、当代組長が伏せることにより組に変化が訪れた。

 若頭・治崎廻、ヴィラン名オーバーホールが組の実権を握り、自身の実力と集めた戦力、そして切り札をもって極道の復権を企んだのだ。

 

「その結果が」

 

「ああ、私は命を落とし、ミリオ、ルミリオンは個性を失う事態となる」

 

 死穢八斎會、既にその戦力はトップヒーローが複数名で当たらぬば勝てぬ程に強大だ。

 そしてその決戦の果てに失うモノが余りに多く、そしてそれ以上に散逸して広まってしまう死穢八斎會の切り札『個性破壊弾』が未来に大きな、致命的な影響を与えるのだ。

 

「ゆえに阻止せねばならない。変えねばならない。予知を変え、より良い未来を私は見なければならないのだ」

 

 予知を見たその日からサー・ナイトアイは多忙な中で既に動いていた。

 近隣のヒーロー達にも呼びかけ死穢八斎會を警戒することにより連中の動きを抑制し続けた。

 結果、死穢八斎會は動きが取れず本来ならチンピラレベルのヴィランにすら入手できた個性破壊弾は広まらず、未だに敵連合との協定関係にすら到れていない。

 

「だからこそここで一気に叩く。事件が起きていないためヒーロー達に呼びかけることは出来ないが、代わる戦力として君、異世界ヒーロー・トレンドールと譲渡による残り火となったがワンフォーオールを使えるオールマイトが協力を申し出てくれた」

 

 公的には引退したオールマイトまでも参加してくれるとは。しかしオールマイトの引退を誰よりも喜んでいたサー・ナイトアイが伝えるとは思えないのだが。

 

「グラントリノ経由だ、彼が敵連合の黒霧を塚内さんと追っているため参加出来ないからと呼びかけてくれたそうだ」

 

 ならば、

 

「そうだ、本当ならすぐに動いて個性破壊弾の材料とされている少女『エリちゃん』を救いたかった。だが大局のため彼女の犠牲を私は許容した。だがもうそれも終わりだ、死穢八斎會本部を強襲し、彼女を救いだすぞ」

 

 冷静な判断を下せるサー・ナイトアイは断じて冷酷ではない。少女に襲いかかる理不尽を大局がために呑み込んでも腹にグツグツと激情を滾らせている。

 

「「ハイッ!!」」

 

 だから僕とミリオ先輩はそんな彼の想いに応えようと全力で戦うことを誓うのだ。

 敵が強大な戦力を誇る極道集団であろうとも。

 

『サー・ナイトアイ、死穢八斎會に動きがありましたっ!!』

 

 そして監視をしていたサイドキックであるセンチピーダーからの急報。

 

『何やら玄関口で怪しげな風体の男と物品の取引をしています』

 

「舐められたものだな!」

 

 ギリと歯を噛み締めるサー・ナイトアイ。その気持ちはよく分かる。

 まさか監視されておいて堂々とそんなやり取りをするとはこちらを舐めているとしか思えない。

 

『今、映像を送ります』

 

 さてどんな相手だとその姿を確認したらそこには、そこに映っていたのは、

 

『へへへ』

 

 ヤクザもドン引くニヤケな表情をして紙袋の中身を確認する、異世界おじさん・嶋㟢陽介さんがいた。

 

「なんでだよおっ?!」

 

 敬文さんみたいな顔で叫んだ僕の声はサー・ナイトアイ事務所を揺らすのであった。

 

 

 





 バブルガールの件に関しては67話。
 予知改変のため動きだした原作より死穢八斎會は動きが取れません。コンビニ強盗ズは結局ヒーローに捕まり持病のリウマチ、虫歯はそのままです。
 エリちゃんも機材の関係から原作よりはマシです、マシなだけですが。
 次回、おじさん降臨。
 なにを死穢八斎會とトリヒキシタンダローナ(目逸らし)。

 すいません残業が増えてるので、明日の投稿は出来ないかもしれないです。書き溜めとか一切無くて。


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95話 彼女の選択。


 おじさんを疑う人が居なくてなんか嬉しかったです。まあおじさんですしね(笑)
 スーパー異世界おじさんタイムスタート。



 

 死穢八斎會本部、そこに現れた怪しい男。

 敷地内から現れた組員二人から受け取った紙袋に入ったナニカを息を荒くしながら確認して、サイフから(敬文さんが知ったらブチ切れる)万円を取り出して渡す。つまりこの光景が意味することは、

 

「おじさんがプレミアついたセガゲームをネットオークションで競り落としてブツを受け取りに来たんですね」

 

 ということだろう。

 

「いや知り合いだからって、どこの世界にヤクザからゲームソフトを競り落として受け取りにくるおじさんがいるのさ」

 

 画面の向こうの場所、死穢八斎會本部玄関前にですね。

 

「それによく考えなよ、そんな古いゲームに普通(敬文さんが憤怒の化身になる)万円も払うわけないじゃないか」

 

 おじさんが普通じゃないのは前提だけど、オタクにそんな理屈は通用しませんから。

 

「ミリオ、オタクという存在はな。もう手に入らないかも知れないものが手に入るとなると金なんて些細なことに頓着なんてしないものだ」

 

「ソウデスネー」

 

 諭すようにミリオ先輩に語りかけるサー・ナイトアイと、そんなサー・ナイトアイのオールマイトコレクションを見て理解し虚無顔になるミリオ先輩。

 うん、サー・ナイトアイはどちらかというとそっち側の住人ですからね、普通に納得しておじさんの行動に理解を示しますよね。

 

「でも(敬文さんが修羅化する)万円あったら新作ゲームをハード本体ごと買えちゃいますよ?」

 

 なのになんでわざわざ古いゲームに大枚はたくのか彼は理解できないようだ。だがミリオ先輩はやはりゲームをプレイするタイプではないようだ。ゲームとは最新機種が必ずしも遊びたいゲームではないのだから。

 

「古い、新しいじゃない。それがそれである、ただそれだけの事実こそが重要なんだ。」

 

 コレクターの性を語るサー・ナイトアイ。ミリオ先輩はもうそれに関して考えるのを止めたようだ。

 

「だがトレンドール、君の予測でそうだったとしても、もし異世界おじさんが死穢八斎會と犯罪に手を染めていた場合はどう対処する?」

 

 兆に一つもありえないことだけど、想定することは大切だ。だがその場合は、

 

「取るべき手段はただ二つだけ、特攻か自決か、まさにデッドオアアライブ」

 

「両方死ぬよね?どれだけ勝ち目無いんだい」

 

 普通に魔炎竜より強い人になんか勝てるか。

 一撃必殺の攻撃をホークス以上の高速機動で繰り出して、エンデヴァー以上の広範囲攻撃を放つ、相手の的確な攻略法を導きだす、勝つまでゾンビアタックする人なんですよ。

 敵認定=死、ですから。

 

「まあ、おじさんの疑惑は甥っ子の敬文さんにネットオークションの購入履歴を調べて貰えば一発だと思いますよ」

 

 調べたら間違いなく怒りで敬文さんが覚醒しそうだけど。

 

「そこに死穢八斎會の住所が載っていれば確定か」

 

「ですね」

 

「けどネットオークションなら普通は郵送じゃないの?なんでわざわざ取りに行ったんだろう?」 

 

「送料無料のためにですね」

 

「交通費の方がかかるよねっ?!」

 

 空を飛ぶおじさんは手間以外かからないんですよ、それでも普通はやりませんが。

 

「ネットオークションは違法ではない。正規の手順なら極道が利用しても問題は無いからな。少々驚いたが私達はオールマイトと合流しだい死穢八斎會に襲撃をかけてエリちゃんを救うぞ」

 

 そう、おじさんが居ようと僕らのやるべきことは変わらないのだ。いくら強くとも一般人であるおじさんを巻き込む気なんてサラサラないし、トラブルメーカーな不幸ホイホイのおじさんとはいえ極道と揉める事態になることはありえないのだから。そう、いくらトラブルメーカーで不幸ホイホイなおじさんといえどね、と思いながらセンチピーダーがまだ繋いでくれていた画面を見ればそこには、

 額に角の生えた少女を片手で抱き上げながら光剣構えて極道と対峙するおじさんの姿があった。

 

「なんでだよおっ?!」

 

 さっきと違い性格的には納得するしおじさんらしいと思うが、それでも僕はその光景を見て叫ばずにはいられなかった(本日二度目)。

 

 

 時間は少々遡る。

 死穢八斎會邸宅庭にて一人の少女がオーバーホール部下の監視の下、陽の光を浴びていた。

 それは彼女の意思ではない。

 切り札の素材である彼女の身体を健康に保つための処置の一つだ。そもそもオーバーホールの個性で最適な状態に再構築することは可能だ、だがそれはオーバーホールが把握する状態に作り変えるのであって成長させることは出来ない。肉体をより成長させれば個性も成長するだろうと期待もあり、こうして定期的な日光浴を彼女は強いられていた。

 

(助けて)

 

 彼女は常にそう考えていた。

 怖い顔で強く言われることも痛いことをされる事も彼女はもう耐えきれなくなっていた。

 けれど年不相応に精神が成長してしまった彼女は、ここが助けてくれる人が誰もいない場所であることを理解している。逃げればより酷い目に合うことも。

 

(誰か助けて)

 

 それでも願わずにはいられなかった。痛いことをする人、オーバーホールが嫌う存在であるヒーローに。

 そんな時だ、彼女の視界に一人の人物が映った。その人は今まで見たことのない人でナニカを組員から受け取っていた。

 この時、この瞬間、彼女に一つの選択が生まれたのだった。

   助けを求める。

   助けを求めない。

 その人物は決してヒーローのようではない。でもその姿には彼女の焦がれていたモノがあるように感じた。そう穏やかな日常という彼女とは無縁なものを。

  →助けを求める。

   助けを求めない。

 だから彼女は選び、走り出す。

 裸足のまま走り慣れていない身体で精一杯。

 ここで幸運だったことが一つあった。

 それは周りの組員全てが治崎廻派ではなかったこと、強引な動きをすれば治崎廻派の者は古参の組員に見咎められ叱責されること。

 ゆえに彼らは動きが遅れ、彼女は辿り着いた。

 

「助けてっ!!」

 

 その見慣れないおじさんの足に縋り付いて涙を浮かべながら必死な声で叫んだ。

 

「ああ分かった、だからもう大丈夫だよ」

 

 そして彼は、ネットオークションでプレミアムのついたセガソフトを購入してウハウハな気分だった異世界おじさんは一瞬で意識を切り替え、飛びついてきた少女を抱き締めながらそう言った。震える少女を元気つけるように優しく頭を撫でながら。

 

「困りますねお客人。アンタがウチのヘマやらかして居なくなった組員のゲームを高値で買い取ってくれた有り難い人とはいえ、余計なことされちゃあ」

 

「いい年こいたゲーオタ親父はソレ置いて回れ右してサッサと帰んな」

 

 曲がりなりにも友好的に接してきた組員達もまさかの事態に態度を豹変させる。

 若頭である治崎からの命令で居なくなった組員の私物の片付けを行い、小遣い稼ぎのつもりで遺品をネットオークションで売り捌くだけが面倒な事態になりそうなのだ。焦りもありこんな態度にもなるだろう。

 

「帰りますよ、この子を連れて。それで警察に調べてもらい何もなかったらきちんと謝罪と賠償をするつもりです」

 

 だがおじさんは毅然とした態度を崩さない。迷うこと揺らぐこと、それが腕の中の少女がどれだけ不安になるのかを彼は本能で理解していたから。

 

「だからそういうの困るんだって」

 

 焦れた組員が手を伸ばそうとすると、

 

「なにをしている」

 

 その声は響いた。

 組員達は錆びたブリキ人形のようにギギギと後ろを振り向きその人物、ペストマスクをした男性を見る。

 

「わ、若頭これは」

 

「まあいい、お前らの処分は後だ」

 

 冷酷な判断を下し、治崎廻・オーバーホールは言う。

 

「さあエリ、日光浴の時間は終わりだ。サッサとお部屋に戻りなさい」

 

 その言葉に今までの恐怖を思い出し、抱き締めてくれてる人が巻き込まれることを察して彼女は動けなくなる。

 けど、

 

「痛いのも怖いのも、もう嫌、もう嫌なの!!」

 

 日常の空気を漂わす男性の腕の中に居ることで、彼女の心は耐えきれず決壊してしまった。

 それは本来の未来とは違い、サー・ナイトアイの妨害により教育がそこまで進んでなかったせいも、あるいはあるのかも知れない。

 

「困った子だ。ああそこの人も放してくれませんか。コレはウチの問題なんで」

 

 交渉相手を変える治崎。だが、

 

「そんな訳にはいかないでしょう。この子は然るべき所できちんと保護します」

 

 少女の叫びを聞いた異世界おじさんもまた引くことはない。

 

「うっとうしいな、正義感をひけらかすつもりか、ヒーロー気取りのつもりか、全く英雄症候群の病人が」

 

 不快気な言葉に苛立ちと殺意を乗せて言う。

 

「正義感なんて高尚なものを出したつもりはない、ヒーロー、英雄、そんな大それた存在を気取る気もない」

 

 だが彼は少女を悪意から守りながら言い放つ。

 

「子どもが泣いて助けを求めたら、手を取って抱き締めて助けるのが、

 大人ってもんだろうがっ!!」

 

 その言葉に治崎廻はかつて見たナニカを思い出し苛立ちを増し、

 その光景を画面越しに見た緑谷出久はおじさんらしいなと笑う。

 

 エリの選択の結果。

 今日この日、彼女はヒーローではなく大人を知る。頼れる大人という存在を。

 

 





 頑張ったら書けました。
 死穢八斎會編終わるまで止まらないかも。


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96話 死穢八斎會決戦。


 毎日残業で書けませんでした。
 しかし一日4時間残業させて体調管理をきちんとしろというのは最早ギャグでは?

 オリジナル設定かつ、ご都合主義あり閲覧注意です。分かりにくいので内容は後書きでザックリとまとめます。


 

『目の前に困っている人が現れたら貴方はどうしますか?』

 

 とあるテレビ番組の企画である街頭での質問、この問いかけに大半の人はこう答える。

 

『ヒーローを呼びます』

 

 と、自分でなんとかしようとせずにヒーローを呼ぶ。それが世間一般の考えであり一番正しいとされる回答だ。

 これを見た、異世界おじさん嶋嵜陽介は、

 

「いやすぐに助けるでしょ普通っ?!間に合わなかったらどうするのっ?!」

 

 と叫んだ。

 だが、同意を求められた甥っ子である敬文とその友人である藤宮さんは「「?」」と首を傾げて不思議そうに答える。

 

「余計なことしちゃ駄目でしょ」

 

「でしゃばりとか言われますし、その時に個性使ったら犯罪ですから」

 

 別にこの二人が薄情な気質という訳ではない。

 彼らの世代が生まれてきた頃にはこの価値観が常識であり、これが普通の価値観なのだ。

 

「ええーー」

 

 ヒーロー以外が人助けをしてはいけない。人助けしたら批難される。だからヒーロー以外は助けようとも思わないし、助けない。

 ヒーロー飽和社会とはそんな時代。

 

 

 

 だからだろうか、その場の誰もが信じがたいモノを見るような目を彼に向けたのは。

 子供に助けを求められたからといって、その子供を助けようとするなんてこの社会において普通の行動ではない。

 ましてや見るからにヤの付く自由業そのものなガラの悪い男達に囲まれて、さらに刃物と銃火器と個性を向けられている状況。こんな状況では武闘派ヒーローでも怖気づいて引き下がるだろう。もっとも、彼らヒーローは明確な証拠が無ければ民事不介入の原則の下引き下がらざるを得ない。

 人助けはヒーローにしか許されない。

 けれど免許が必要な職業であるがゆえに法に縛られ行動が制限され、為すべきことが出来ない状況も多々ある。

 そして『エリ』、死穢八斎會の切り札である少女はヒーローには助けられない存在。

 まず法律を悪用できる程に頭が切れてさらに大抵のヒーローを返り討ちに出来る個人武力を持つ極道に囲いこまれていて、意識不明とはいえトップである組長の血縁者であり、過去に個性暴走で身内を殺めてしまった、使い方次第では有用な希少個性を持つ存在。

 助けるために戦う相手が強大で、助けた後もその危険な個性の制御は困難であり、ヴィラン以外の組織からも国からも狙われる可能性が高い。

 如何にヒーローとて、この場ではなんとか助けることは、現状を変えることくらいはできたとしても、その先の彼女の人生を救いきることはできない。

 ヒーローが助けた後に国に保護されたとしても、ヒーロー公安委員会の為していることを考えれば、彼女の人生に日向のような暖かな日常は望めないだろう。

 

「コイツ」

 

 もっともそれは助けた者がヒーローであればのもしもの話、仮定の未来。

 人助けのためなら極道どころか国家にも平然と喧嘩を売るであろう、考え無しのお人好しである異世界おじさんはそうではない。

 死穢八斎會若頭・治崎廻の研ぎ澄まされた個性操作による分解と修復で生み出された石槍を容易く躱す。

 トップヒーロー達がチームアップしてようやく渡り合える死穢八斎會の武力も、当然のことだが彼には通じない。

 

「この子を助ける。それ以外のことは、まあ後で考えるよ」

 

 国家権力の恐ろしさは知っている。だが緑谷出久を通じて知り合ったヒーロー達と警察官の友人の人柄を知るがゆえになんとか出来ると信じている。

 それに国家権力とは個人武力で捻じ伏せられるものであるのだと彼はよく知っていた。事実グランバハマルで捻じ伏せてきたからだ。

 

「なんでやす、この強さ」

 

 だから躊躇わずに助ける。 

 何もしなければ助けられないし救えない。

 動き続けること、歩き続けることが望んだ先に辿り着くことに必要だと彼は実体験を経て誰よりも知っているのだから。

 その果てに不可能を可能にしたのだから。

 

「俺達は極道だぞ。こんな時代を生き抜いてきた、ヴィランなんてチンピラじゃねえ本物だぞ」

 

 ちなみに極道でヤクザだからと彼が怯むことはない。セガで何度も倒している存在だし平気でしょ、と現実とゲームの区別を付けてない頭のおかしな所が彼にはある。なお犯罪者をヴィランと呼ぶようになってから長い月日がたった結果、最近の子供は極道やヤクザの名称すら知らなかったりする。知っている者はヒーローを目指して勉強している者か、ドラマ・小説・ゲームやらの娯楽から知っている者くらいらしい。

 

「なのになんで、ゴミみてえに呆気なく吹き飛ばされてんだあっ?!」

 

 左手で少女を抱きかかえ、右手で光剣振るうアラサー(四捨五入したらアラフォー)を極道達は捕らえることすら出来ずに一方的に撃退される。

 勝てる道理が無い。

 異世界おじさんを知る者は全員口を揃えてそう言うだろう。

 グランバハマル生活十七年、その経験は伊達ではない。この世界でそれだけの実戦経験を積むことは不可能だろう。

 そして嶋嵜陽介本人のぶっ飛んだ思考も侮れない。その独特な思考により転移一週間にして飢えた凶悪な魔獣達を殲滅し、弱っていたとしてもあのエルフが敗北しかけた魔毒竜ヴェノムドラゴンを討伐したのだから。

 

「フザケるな!!なんでこんな事で俺の計画が台無しになろうとしている!!」

 

 治崎廻は吠える。

 冷静な彼らしからぬ叫びを上げる。

 彼の計画、彼の目的。

 極道の、死穢八斎會の復権。

 準備はしていた、来たるべき日のために。

 機が熟した。

 神野決戦が起きたことにより闇の帝王という重しが無くなり、平和の象徴という蓋が消えた。

 それを逃がす訳にはいかない。

 戦力は充分、切り札はまだ安定こそしていないが、それはより良い機材と施設があればなんとか出来るだろうと目処はついている。

 机上の空論は達成可能な計画へと至っていた。

 野望は叶う。

 恩返しは果たせる。

 あの人の苦難の日々は終わる。

 あの日あの人に与えてもらった居場所を守ることが出来るのだ。

 それを邪魔する存在、なんとしても排除すべき外敵。

 

「なのになんで」

 

 治崎廻の目にはエリを守り戦う男の姿が、かつて自分の手を引いた恩人の姿と重なって見えた。

 

「俺はこんな事を思い出してやがる」

 

 それは、異世界おじさんと死穢八斎會組長の理由が同じだからだろう。

 打算ではない、職務だからではない、ただ救いたいから救う。

 泣いてる子供を放ってはおけない、大人のワガママ。

 

「大切なことだからだよ」

 

 鉄砲玉八斎衆すら一蹴し、異世界おじさんは治崎廻の吐き捨てるような呟きに言葉を返す。

 なお『窃盗』窃野と『結晶』宝生と『食』多部は纏めて光剣で一閃され、『強肩』乱波と『結界』天蓋と『吸活』活瓶は放たれた炎魔法を防ごうとしたり耐えようとしたがあえなく撃沈、『本音』音本は「なんで助ける」という問いかけに「泣いてたから」と返され絶句した所で一撃をくらい気絶、唯一異世界おじさんを打倒出来たであろう『泥酔』酒木は本部長である入中と共に不在である。

 

「苦しい時に思い出すのは大切なことなんだ」

 

 治崎廻にとって大切なこと。

 彼自身のオリジン。

 それは何も無かった自分の手を引いてくれた恩人の姿。

 

「俺にとってセガがそうであるようにね」

 

「「「「?」」」」

 

 幸いなことに続けられた異世界おじさんの本音はその場に居る全員に理解されず幻聴として処理された。

 

「参ったな」

 

 どう足掻いても勝てない。

 本来なら受け入れられないその事実に治崎廻は納得してしまった。納得できてしまった。

 

「ヒーローならともかく、親父と同じなら勝てるわけがない」

 

 ヒーローの英雄症候群は体質的に受け付けない。しかし、あの差し出してくれた手を拒むことは彼にはできないのだから。

 

 

 治崎廻が袈裟斬りに振るわれた光剣を受け入れたのと同時に見張っていたサイドキックから連絡を受けていたサー・ナイトアイ達が現場に到着。

 死穢八斎會の騒動はこれにて幕引きとなった。

 治崎廻は光剣によるダメージを自身の個性にて修復し、その場で児童虐待の罪を認め警察に出頭するとヒーロー達に宣言。

 それは法により行動が制限されるヒーローにとっては最悪の手段。

 事実としてそれ以上の死穢八斎會への関与が不可能になってしまったのだから。

 またサー・ナイトアイの個性にて死穢八斎會対策、行動を抑制してしまったのが悪い方向に働いた。現状判明している具体的な罪状が、『エリ』への個性を用いた虐待と異世界おじさんへの暴行(しかも彼自身は無傷)なのだ。他の組員にしても個性使用は私有地で押し通せるので銃刀法違反で引っ張れるかどうかだろう。

 準備があると言って館内に戻った治崎廻はやるべきことを済ますとそのまま抵抗すること無く警察署まで連行された。その姿はどこか憑き物が落ちたように、張り詰めたナニカが解けたように見えた。やるべきこと、親父である組長の修復の後でそうなるナニカがあったのだろう。真実は親子である二人のみ知る。

 

「お疲れさまおじさん」

 

 トレンドール・緑谷出久の言葉で異世界おじさんはホッと一息つくのであった。

 

「もう痛いことされないの?」

 

 異世界おじさんに必死にしがみつきながら顔だけ向けてエリは言う。

 

「ああ、もう大丈夫だよ」

 

 そんなエリに嶋嵜陽介は異世界おじさんオリジナル笑顔を返す。グランバハマルだけではなく、こっちの世界でも見た人がヒッ?!となる例の笑顔で。

 

「フフ、変な顔」

 

 それを見て怯えることなくエリは笑う。年相応の自然な朗らかな笑みを。

 

 まだやるべきことはある。

 これからしなければいけないことはある。

 それでも笑い合う二人の姿こそが、望まれた救いの形なんだろうと緑谷出久は思った。

 

 

 

 なお完全な余談であるが、事後処理を全て終わらせた後サー・ナイトアイは一週間ほど自室に引き篭もり延々とオールマイトの活躍シーンの動画を見続けることになる。

 世界の未来、自身の死、ルミリオンの将来、起こるべき悲劇を打倒せんと決意し用意した万全の対策と準備が全て流れ弾のような要因で無駄に終わったのだから仕方ないことだろう。

 




  
 補足。
 原作よりヒーロー以外の人助けは問題となる風潮。
 エリちゃんの境遇について。
 おじさん無双。
 おじさんと親父を重ねる治崎さん。原作だと改心の類がないのはヒーローが打倒したからだと思ってます。
 治崎廻自首で逮捕、死穢八斎會存続。
 組員も逮捕だが一部だけ。
 親父再生、治崎の盃は割りませんでした。
 ヴィラン連合、死穢八斎會と接触せず終了。個性破壊弾は原作水準で完成してません。
 おじさんは帰宅後敬文から説教。
 エリちゃんは次話にて。
 サー・ナイトアイ、精神ダメージにてオールマイト治療へ。
 こんな感じです。
 エリちゃんを救ったのがヒーローではないおじさんだから治崎廻は納得できた、多分それだけの話です。


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97話 新たな関係とおじさん。


 書けました。
 エリちゃんの今後と日常回です。
 少々長いですが、こんな感じです。
 次話投稿は出来たらになります。
 色々とオリジナル設定有りなので閲覧注意。



 

「何かあったのかしら?」

 

 雄英高校教師にしてプロヒーローである十八禁ヒーロー・ミッドナイトこと香山睡は多忙である。

 教師とヒーローを兼任しているのだから多忙で当然なのだが、さらに雄英高校にて新学期と全寮制が始まりその仕事量は跳ね上がる。またそれだけではなく、例年通りなら早くとも二年生から実施されるヒーローインターンを一年生が前倒しして行っているためその分の仕事が追加されているのだ。

 仕事そのものは苦ではない。

 教師とヒーロー、どちらの職にも誇りとやりがいがある。全寮制とヒーローインターンに関しても確かに仕事は増えたがそうなった原因は自分達の不甲斐なさが原因であるし生徒のためだから不満はない。

 それに本来なら自分も雄英高校敷地内に住む筈だったのだが、根津校長の配慮により自宅通勤が認められているのだ。仕事が増える程度のことで文句などはない。そこには異世界おじさんとの付き合いを途切れさせたくないという根津校長の思惑もあるのだが、万が一を想定する責任者としては当然の判断だろう。

 もっともここ数日はあまりにも仕事が多くて雄英高校に泊まる必要があった。雄英高校は宿泊設備が整っており、食事はランチラッシュが用意してくれて、セガはデヴィッド博士の自宅でプレイ出来るので泊まり込むことに不満はない。けれど想い人に一日でも会えないことは辛いもので仕事が一段落した時はホッとしたものだ。

 数日ぶりの帰宅でようやく会えると心が弾んでいると、ヒーローインターンに泊まり込みで参加していた緑谷出久君から至急陽介さんの家に来て欲しいと連絡がきたのだ。

 

「トラブルかしらね?」

 

 どうせ顔を出すのだからこちらとしては構わないのだが、あの異世界ヒーローが助けを呼ぶのはよっぽどの事だ。自分になんとか出来ることであれば良いのだけどと思う。ベテランヒーローとしてしっかりと人脈を作っているから自分でなんとか出来ずとも大概の事は解決できると思うが、緑谷出久の手に負えない相手との戦闘だとすれば流石に難しい。

 

「まあ行けば分かるわね」

 

 仕事は足で探す、それがヒーローの基本なのだから。

 

 

「ただいまー! なんてね」

 

 想い人のおかえりと、敬文君と藤宮さんのツッコミが活力の源だと思いながら扉を開ければ、

 

「おかえりなさい。だよね?」

 

「そうだよエリちゃん!!」

 

「初めてのおかえりなさい、達成だ!!」

 

 知らない少女がおかえりなさいを言ってくれた(そして藤宮さんとスマホを構えた敬文君がいた)。

 

「えっとこの娘は?」

 

 嫌な予感が全身を走り、聞いたら駄目だと本能が訴えるがそうはいかない。

 どのような真実も知るまでは可能性だ。

 

「どうも香山先生、この娘は」

 

「お父さーん。お客さんだよー!」

 

 説明しようとする緑谷君を遮りながら少女は陽介さんを呼ぶ。

 OTOUSANN??

 

「確かグランバハマル語で素敵な男性って意味よね。焦っちゃったわよもう」

 

 いけないいけない、一瞬勘違いするとこだったわ(テヘペロッ☆)。

 

「焦るどころか顔がオールマイトみたいな画風になってましたよ」

 

「そしてグランバハマル語でそんな意味じゃないですから」

 

「あとそれだと少女が「素敵な男性、お客さんだよ」と言っていることになりますけど」

 

 お黙り、事は私の未来に関わることよ。ツッコミ入れてないで至急説明してお願いだから出来れば耐えきれる真実で。

 

「あー、この娘はエリちゃんといいまして」

 

「お父さんの娘の嶋嵜エリです。はじめまして」

 

 フ、フフフ。

 そう、そうだったの。

 気がついたら手遅れってわけね。

 私は勝負する前から負けていたのね。

 私は敗北者で、私は負け犬で、私はエルフ(超失礼)なのね。

 アハ、アハハハ。

 

「陽介さん、お幸せにーーっ!!オノレ、七瀬楓ええええええっ!!」

 

 私は走りだした。

 目の前の現実に耐えきれなくて。

 私が居ない間に陽介さんと子作りをした憎き怨敵の名を叫びながら。

 

「もう睡さんの反応のどこからツッコメば良いのか分からないんだけど」

 

「エリちゃんの歳とか色々あるけど、おじさんの嫁の最有力候補が七瀬楓なのか」

 

「ゲームのキャラなんですけど、どうやって子作りしたと思ったんでしょう?」

 

「個性とか魔法でなんとか出来る認識とか」

 

「信じられないような事が出来る個性ってあるしね」

 

「まあとりあえず用事があるので縛動拘鎖(レグスウルドスタッガ)っと。なんか敵より知り合いに使ってるなこの魔法」

 

「離してっ!!私はもうこんな現実に耐えられないのっ!!」

 

「「「落ち着け」」」

 

 あまりの出来事に半狂乱になっていると、緑谷君が拘束した後で私に神聖魔法をかけて強制的に落ち着かせてくれた。

 

「本題は別にありますが、とにかくエリちゃんの説明からですね」

 

 緑谷君から伝えられたエリちゃんの事情。

 それはあまりにも過酷で辛い彼女の歩み。

 苦痛と恐怖に塗れた悪夢のような日々。

 架空を現実にする力『個性』、その果てにある絶望の形の一つが彼女の境遇なんだろう。

 けれど、そんな彼女にも救いはあった。

 自身の選択が掴んだ、たった一つの救いが。

 

「なんでネットオークションでヤクザの出品を競り落として配送料をケチるために飛んでいったら少女を助けるためにヤクザを壊滅させることになるんですか」

 

「おじさんだからね」

 

「思考放棄すんなよ」

  

 気持ちはわからないでもないけど、陽介さんだからとしか言えないのは事実よ。

 

「それで事後処理としておじさんの戦闘に関してはサー・ナイトアイが公安にある借りを持ち出して誤魔化して、エリちゃんは祖父である死穢八斎會組長からの意向と本人の希望もあっておじさんが引き取ることになったんです(一部の組員はエリちゃんの個性の詳細に関しての記憶を消したけど)」

 

 エリちゃんの祖父、死穢八斎會の組長は人格者というわけね。やらかした治崎廻に預けたのは失敗だったけどそれも似たような境遇と個性の息子を信頼してのことでしょうし。

 

「組長さんに養育費を渡されて土下座までされたら断れないからね。エリもあの館に怯えているし」

 

 話の途中からエリちゃんとぷよぷよをプレイしてる陽介さんがそう言った。責任を取るために自分で面倒をみようとしたみたいだけど、娘さんの件もあって育てる自信が無いとのことらしい。怯えるエリちゃんの目に堪えたのもあるようだけど。

 

「エリちゃんも住むとなるとスペース的に厳しいけど、しばらくはおじさんと同じ部屋だからなんとかなるね」

 

「なあに、どうしても厳しくなったら俺はベランダで寝るから大丈夫だよ」

 

「世間的に僕が死ぬからおじさんっ!!」

 

「え、そう?」

 

 野宿慣れしてるからかベランダでも平気なのね陽介さん。

 

「それで陽介さんが引き取ったのね。けどエリちゃんの個性に関しては大丈夫なのかしら?発動型の個性なら相澤君なら対処できるのだけど」

 

 個性暴走は周囲だけでなく本人の心も傷つける、エリちゃんの為にもきちんと対策しないと。事情説明して相澤君もこのアパートに住ませるべきかしら、寝袋とゼリー食があれば彼は大丈夫だし。

 

「それに関してはなんとか出来ました。かなり外法気味な解決策でしたが」

 

 緑谷君が取り出したのは闇の盟約呪符、精霊の名のもとに血判し盟約を結び双方に遵守させるという物だ。

 

「おじさんがエリちゃんの保護者であるうちは個性を許可無く使用できない。個性は身体能力の延長だから暴走も精霊が強制的に止めてくれます」

 

 あのエルフすら縛りつける強制力なら個性暴走すら抑えきれるのね、そして陽介さんから指輪をはめて貰ったあの商会主が羨ましい妬ましい。

 

「あ、おじさんが精霊に直にお願いしたからエリちゃんに痛みとかはないですよ。精霊もエリちゃんなら仕方ないよねと要求も無かったらしいです」

 

 エリちゃんなら仕方ないわね。

 

「というかその盟約呪符って個性暴走を抑えたり、ヴィランを無力化したり出来そうじゃない?量産はしないの」

 

 軽く考えただけでこれだけ出来そうなのだからあれば便利なのだけど。

 

「回復の呪符の比じゃないくらい作るのに手間がかかりますし、本人の意思が重要で、かつ盟約を破った時のリスクが半端無いですよ」

 

「闇の精霊は気位が高いから平伏してお願いするならともかく、コレお願いしまーす、みたいに軽い気持ちで仕事頼み続けるとブチ切れて世界を永遠に闇に包みかねないしね」

 

「精霊ヤバ過ぎでしょ」

 

「絶対に盟約を悪用したり、裏をかこうとする輩はいるだろうしね」

 

「というか今回も悪用の2歩手前くらいですから。おじさんが必死に五体投地したのとエリちゃんだからまあいいかと許してくれただけみたいですし」

 

 厳しいわね精霊。

 

「でもそれだけならエリちゃんに蓄積されたエネルギーはどう発散するの?」

 

 額の角のサイズがそのバロメーターなのよね?発動しなくとも溜まり過ぎたら身体によくないでしょうし。

 

「そこは許可をだして発散してもらってます。このドラゴンの骨に」

 

 緑谷君が指さしたのはケースに収められて飾られた一欠片の骨。それはグランバハマルで陽介さんが討伐した魔骨竜・ボーンドラゴンの一部、生きた骨ともいえるソレで巻き戻しを発散しているとのことだけど。

 

「人間と竜が生命力と寿命に差が有り過ぎですからね。元の竜の姿にまで戻るには三十年くらい巻き戻しし続けないと無理ですよ」

 

 発散対象としては最高なわけね。

 

「なら問題はないわね。けどならなんで私は呼ばれたのかしら?」

 

 エリちゃんの紹介が目的ではないわよね?問題らしい問題はないと思うのだけど、男性所帯だから女の子に必要なことをやって欲しいとかかしら?

 

「ええこれはなんとしても解決して欲しい、僕にはなんともできない問題でして」

 

 緑谷君達に解決できないこと、ハッもしかして?!

 

「私にエリちゃんの母親役をやって欲しいのねっ?!」

 

 これは好機!!これは勝機!!私は役とはいえ陽介さんのパートナーになれる!!私はエルフではなくなるのね!!(超失礼)。

 

「いやまあだいたい合ってるけど、微妙に違うというか」

 

 どうしたの緑谷君、その形容し難いような苦虫を噛み潰したような表情は。

 

「エリにお母さんは居るよ?」

 

「❖○⊃???」

 

「睡さん、反応がバグってますよ」

 

「多分驚いて、え?とか言ってるんだよね」

 

 ぷよぷよプレイ中の画面からこちらに向いてエリちゃんは衝撃の事実を言う。

 駄目よ、これはきちんと大人として説明しないと。

 

「あのね、エリちゃん。確かに七瀬楓は魅力的な人だけど彼女は敵首領に殺害されて生体コンピューターの頭脳に改造蘇生され救世兵器セブ」

 

「「もう七瀬楓はいいから」」

 

「ゲームのキャラなんですよね?なんかガチで存在してる気分になってきたんですけど」

 

「彼女は居るよ。僕達の心の中に」

 

 止めないで、早く真実を伝えておかないといけないのよ?!エリちゃんが悲しい勘違いをする前に!!

 

「お母さんはお父さんだよ?」

 

 母親をしてる陽介さん、有りね。一粒で二度美味しいとはまさにこのこと。

 

「いいんだソレで」

 

「もう恋する乙女なんてレベルじゃない気が」

 

「忍た○乱太郎の山○伝子を連想して吐きそうな僕は失礼なんでしょうか?」

 

 なんでよ、普通に有りじゃない。

 

「お父さーん、お母さんになってっ!」

 

「もう仕方ないなエリは、少しだけだよ。形貌変躯(ザックトーラキャトルフ)」

 

 あら変身してお母さんになるのね。

 ならエリちゃんの生みの親かしら、ちょっと複雑な気分だわ。

 そしてカッ、となって現れた姿を見た瞬間再度私は叫んだ。

 

「○△□←☚∂?!!!」

 

「だからまたバグってるよ」

 

「なんでエルフ?!かな今回は」

 

 そこに現れた変身した姿がよりによってあのエルフだったからだ。

 

「説明して緑谷君」

 

「何もかも敬文さんのせいです」

 

 口の端から血をたらしながら緑谷君は言う。

 

「いや元々おじさんがゲームソフトにお金を使い込んだせいじゃんっ?!」

 

「でもエリちゃんを助けたからそこはチャラになるでしょ」

 

 つまり事の経緯は、

 敬文君が陽介さんの使い込んだ額の回収のためエルフマネーを得ようと動画撮影。

 変身した陽介さんを見たエリちゃんが誤解。

 エリちゃんが動画に加わって超バズる。

 目が$になった敬文君がそのネタを継続。

 エルフ姿を見た緑谷君がストレスで吐血して瀕死、私に助けを求める。

 陽介さんは最高。

 ってことね。

 

「なんか変なの混じってません?」

 

「お願いします、このままだとストレスで死ぬ。ヤツから、あのエルフ(恐怖と絶望の権化)から母親役の奪還を」

 

「待つんだ、バズってるんだよこのネタ」

 

「お前はその$になった目を元に戻せ」

 

 ふ、良いでしょう。

 立ちふさがるなら受けて立つ。

 エルフよ、その座(エリちゃんの母親役)は私が奪ってみせるわ!!

 

 

 

 こうして僕達の日常に新たな住人が加わった。

 不思議な巡り合わせで僕達の家族になったエリちゃん。

 まだ距離感は多少あるけど、それも時間の問題だろうなと思う。今はおじさんの後ろをトテトテとついてまわり、サターンをやったり、メガドライブやったり、ぷよぷよやったり、動画に参加したりしてくれている。

 そして睡さんがエルフ姿のおじさんに張り合ってエリちゃんの面倒みたり、藤宮がエリちゃんを可愛がったり、千秋君がエリちゃんにお兄ちゃん風吹かせたり、緑谷君が吐血して倒れたりと、色々あるけどこれからもっと楽しく賑やかになりそうだなと僕は思った。

 

 あと、エルフとエリちゃんのコラボ動画の再生数がヤバいです。

 





 エリちゃんは原作より大人びてなく、笑顔を忘れたりまではしてません。サー・ナイトアイは落ち込んでましたが、彼の対策はしっかりとエリちゃんを救っていました。
 エルフ姿も問題ですが、エリちゃんがおじさんのお嫁さんになると言う前に母親になれるかどうかはミッドナイトの頑張り次第ですね。
 まだ暫くは藤宮さんと同じ優しいお姉さんポジになりそうです(ちなみに緑谷君はなんか血を吐いてる人認識です)。


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98話 けだもの。


 仕事多いのと熱中症とコロナで職場が壊滅して残業三昧でした。
 オリ回でギャグ回です。
 峰田君ファンは閲覧注意。


 

 サー・ナイトアイによる未来改変計画がセガによって明後日の方向に旅立って数日、必死に用意した準備がパーになったショックで引き篭もりたいと叫ぶサー・ナイトアイをミリオ先輩と一緒にしばき倒して無理矢理働かせてなんとか死穢八斎會のアレコレは終わらせた。

 死穢八斎會の中心人物であるオーバーホールこと治崎廻の逮捕。

 死穢八斎會の他の逮捕者の選定と今後の彼らの処遇について。

 エリちゃんの個性関連の対処とおじさんの元で暮らすための法的な手続きを一通り。

 異世界おじさんの情報の秘匿、など。

 これ学生のやる事じゃなくね?と思いながらもなんとかやり遂げた。 

 サー・ナイトアイが引き篭もりはじめたのもあり、長かったインターンを一旦切り上げて僕は雄英高校へと帰還した。なお流石のミリオ先輩も疲れ切っていたので帰りたがっていたけど強制的に残されてしまったようだ、南無。

 不思議と懐かしく感じるハイツアライアンスの玄関を横に建てられた犬小屋に鎖で繋がれた峰田君にただいまと挨拶しながらくぐり、さて遅れている分の授業に思い馳せる。先生方の補習にも限界はある、インターンに参加すると自分で決めたのだからきちんと勉強しなければ。

 ん?

 今僕はなんかとんでもないモノをスルーしたような気がするんだけど?

 出来たばかり学生寮、出来たばかりの僕らの新居、その玄関脇になる犬小屋と鎖に繋がれた峰田君。

 峰田君っ?!

 

「どうしたのさ峰田君っ?!」

 

 慌てて引き返し絵面も教育機関としてもアウトな状況の友人に声をかける。当の本人はロボットの持ってきた夕飯、メザシがのった味噌汁ぶっかけご飯を掻っ込んでいた。

 食事内容までヤバいけどっ?!いや味噌汁ぶっかけご飯は美味しいけどっ?!冷や汁冷やご飯でやったら究極のメニューになるくらい。

 

「おう、これには深いわけがあってな」

 

 食事を終え顔にご飯粒を付けたままで峰田君は、まあとりあえず座れと犬小屋から座布団を取り出して僕に渡す。この気遣いを普段からやったらモテるのにと思いながら僕は彼のマイホーム近くに座布団を敷いて座る。

 

「こないだお前に借りたけだものローブで」

 

「帰るね」

 

 うん、何があったかもう予測できるよ。そういえば貸したねそんなアイテム、つーかこれ僕も説教される案件だよ。ただでさえおじさんの件で胃が荒れてるのに止めて欲しいよ全く。

 

「まあ聞けよ、男子達も避けるから寂しいんだ。話し相手になってくれ」

 

「座布団にモギモギ仕込んどいて何を言うかっ!!というか男子達も避けるとか何したのさ!!」

 

 渡された座布団にはモギモギが張り付けてあってしっかりとズボンが座布団とハイツアライアンス玄関階段にくっついてしまった。時間帯のせいで微妙に暗いのと座布団の柄で気づけなかったなんて迂闊、これでは女子も居る寮でパンイチになる覚悟が無ければ抜け出せない。

 しかし妙だな?性犯罪ぎりぎりの行為をしたからといってクラスメイトを避ける皆じゃないのに。

 

「それは、オイラがお前にけだもののローブを借りて女子達に可愛がられ抱きしめられておっぱいを堪能しようと画策した日のことだった」

 

「あのさ、バットを振り続けてマトモになったんじゃないの峰田君?あとどっかの子泣きじじいかなんかか君は」

 

 そういえばグランバハマルでアリシアさんも同じ事をしてたな、気づいてないおじさんが羨まし過ぎるわ!!(血涙)。

 

「俺は甘くみていたんだ、雄英高校ヒーロー科の男子達を。我がクラスメイト達を」

 

 

 けだもののローブ。

 緑谷出久がグランバハマル生活にて襲いかかる冒険者達を返り討ちにしてドロップしたアイテムの一つで、魔法の品であるに関わらず普通に服屋で購入できる代物。大して荷物にもならないことから野営の多い冒険者は大抵所持していたりする。

 ニホンバハマルにおいては再現不可能な魔法の品なのだが、寮の一室が埋まる程に所持していること(一部返り血がべっとり付着)、監視カメラやロボットなど機械は誤魔化せないなどの理由もあり、渡我被身子のような相手対策という峰田実の言葉にのせられつい貸してしまったのだ。

 

(上手くいったぜ)

 

 インターンにて緑谷出久が長期間不在となることと、けだもののローブの事は記憶再生の魔法で知っていても緑谷出久が所持していることを他のクラスメイトは知らない。その事実から峰田実は自身の計画が上手くいったことを確信したのだ。

 だが、それでも峰田実は安易に覗きに走ったりはしない。雄英高校の警備システムは侮れない、さらに自らことに及んでしまえば罰則(下手したら実刑)は免れない。

 ゆえに取るべき手段は一つ。

 あくまで女子達が自分で抱きしめること、そうなればうっかりけだもののローブを着ていただけの自分を罪に問うことは出来ないのだから。

 

(あくまで事故っスよ、事故。フヘヘ)

 

 一階の共有スペースのソファ。そこで犬に見えるようにけだもののローブを身に纏い、至福の一時が訪れる瞬間を涎をたらしながら待っていた。

 

「ん、なんか居るな?」

 

 だが彼、峰田実は失念していた。

 別に男子だからといってカワイイ生き物が嫌いだとは限らないと。

 むしろ、誰もいない格好つけたり見栄を張る必要がない時に男達はどれだけべっとりとペットを可愛がるのか(注、個人差有り)、女子とのネタ作りのため以外には動物に興味の無い峰田実は知らなかったのだ。

 

「犬か、誰が連れてきたんだ?しかしここまで近付いても逃げないとか人に慣れてるのか」

 

 最初に現れたのは切島鋭児郎だった。

 高校デビューマンは実は犬を飼って抱きしめたりモフモフしたかった。だが日頃から硬派を気取る手前、そんな軟弱な姿は見せられない。誰もいない状況、逃げない犬を前に彼はつい、

 

「カワイイなぁー、モフモフだぁー」

 

 その犬(峰田実)を抱き上げてモフモフ(幻覚)その身体に頬擦りをしだしたのだ。

 

(ぎぃぃぃやぁぁぁっ!!)

 

 心の中で悲鳴を上げる峰田実。

 なぜしっとりと保湿性高そうな芦戸三奈の肌を堪能したいのに、個性を発動していないにも関わらず硬めな皮膚でさらに運動後なのか汗臭い切島鋭児郎に抱きしめられなければならないのか。

 正直ぶち○したいくらいの苦行(自業自得)だが、来たるべきパライソがため、ここでバレたら御破算になってしまうためただひたすらに耐えるしかなかった。

 

「誰の犬かな?まァここに居るなら許可は取っているよな」

 

 既に口田甲司が飼っている兎という例もあり、切島鋭児郎は教師に連絡すること無くその場を去っていった。モフモフに未練があるから、という理由もそこにはあったかも知れない。

 一瞬なのか百年なのか分からない苦行の一時は過ぎ、峰田実は犬の姿のままぐったりとしていた。

 

(まだだ、まだ一人目だ)

 

 辛い時間だった、だがそれを帳消しにする楽園がそこになるなら耐えられる。萎える気持ち振るい立たせ、峰田実は共有スペースに女子が訪れるその瞬間をひたすら待ち続けた。

 八百万百の部屋、その大半を占領するベッドに乗りながら爆豪勝己から借りた幽遊○書のアニメを視聴している来ることの無い女子達を。

 

 通りかかる男子生徒達に撫でられ触られ頬擦りされること数時間、もはやインターンで不在の緑谷出久を除き一年A組男子コンプリートは間近だ。

 そのラスト二人のうち一人、爆豪勝己が現れた。

 

「犬?」

 

 起爆性ある汗は擦りつけられたくねえよ、と冷や汁をかく犬(峰田実)。

 

「たくっ、ペットを放置しておくなよ可哀想だろ」

 

 ガリガリと頭を搔きながら呆れたように爆豪勝己は言う。だが流石は爆豪勝己、先程まで撫でくりまわした男子達とは違って触れようともしない。

 

(なんとかなったか)

 

 もう男子とべったり触れあいたくない峰田実がホッと一息ついた所で、

 

「内緒だぜ」

 

 爆豪勝己は口元に人差し指を当てながらそっと犬(峰田実)の前にポケットから取り出した乾燥唐辛子を置いたのだった。

 

「なんでだよっ?!」

 

 それには峰田実は堪えきれずにツッコミを入れてしまった。爆豪勝己はヤンキーが捨て猫に優しく接するようなシチュエーションで見事なまでの動物虐待をかましたのだ。本人としては善意のつもりで。

 

「あ?」

 

「あ」

 

 

 

「こうしてオイラは幻影がバレて罰として犬小屋に入れられたのさ、苦行の果てにコレだぜ?もう笑うしかねえよ」

 

「欠片も深いワケなんてないんだけど」

 

 そして笑えない。

 そら男子達が避けるワケだよ。

 

「まあ慣れたら快適だけどな」

 

 ずっと犬小屋ではないだろうけど、すっかり順応しているなあ。

 話としては面白かったけどインターンで疲れた身体に止めを刺された気分になった。

 あと数日はこのままだと言う峰田君に別れを告げ(モギモギは収納魔法の早着替えで対処した)、僕は自室の前に相澤先生の元へ行くことを決めた。

 

「ニャンニャン」

 

 そこにけだもののローブを着て猫になりきる担任という地獄があることを知らずに。

 

 



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99話 出し物を決めろ。


「これはだな緑谷、お前が峰田に貸したけだもののローブの検証を行っていただけだ。どうやら鏡には幻影の姿で映るようで普段見れない猫ちゃんの色んなポーズが見ることが出来る。いや見たいポーズをしてくれない猫ちゃんの奔放さも愛らしさの一つなんだがそれでも色んなポーズを見たいというのは当然の欲求でどうしょうもない衝動なんだ。それがけだもののローブを着ただけで叶えられるならやってしまうのが人間という生き物のサガなんだろう。サイズこそ不満だが鑑賞だけなら問題無い。さらに自分の意思で様々な猫ちゃんになれるのも良い、駅前の猫ちゃんカフェには居ない猫ちゃんを見ることが出来るのだからな。録画できないことが残念としか言いようがないな、まあ生で見るのと記録で見るのではやはり大きな差があることは」

「相澤先生がけだもののローブを着て猫になりきっていた、っと(書き書き)。そして記憶消去(イキュラス・キュオラ)」



 

 久しぶりの雄英高校、久しぶりの登校。

 インターンによる欠席でヤバいくらい授業が遅れている事実に焦りながら席へとつく。

 そういえば青山君には避けられがちだなと改めて思う、グランバハマルでの記憶再生の時は必ず席を外すんだよね彼。嫌われてるのかな?そんな風にも思ってしまうけど小中学校の時も大抵の同級生とはこんな感じだったから気にする必要はないか。当時の僕に話しかけてきたのはイジメをしていたかっちゃんくらいだし。

 教室の後ろでダンスを披露する芦戸さんを見ながら僕は過去に思い馳せていた。しかしダンスか、グランバハマルで山深くの村祭りの踊りをおじさんと一緒に見様見真似で踊ってみたら恐ろしい気配のナニカを次元の向こう側から呼び寄せかけてしまったんだよね。エルフ(何故か居た)と三人がかりで必死に追い払ったけど下手したらグランバハマルを滅ぼしかねないヤバそうな存在だったなあ。 

 ヒーロー科随一のフィジカルを持つ芦戸さんの動きの良さは趣味のダンスがあってこそ。かっちゃんの登山といい耳郎さんの音楽関係といい、好きなことがヒーロー活動に活きるのは良いよね。上鳴君に言われて恥ずかしがっている耳郎さんもなんか良いね。

 

 

「文化祭があります」

 

 朝のホームルームにてのっけから相澤先生がドアップでそう言いました。クラスメイト達はそれを学校っぽいとワッと反応します。

 雄英高校文化祭、テレビ中継され多くのヒーロー達が訪れる体育祭ほどではないけどかなり有名なイベント。経営科の出店、普通科の出し物、サポート科の発表は学生によるものとは思えないと世間で評価されている。ヴィラン連合の襲撃とオールマイトの引退で時期的にはよろしくないけど、だからこそ明るいニュースとして開催するようだ(警備は増すけど)。

 そして主役ではないとはいえ、決まりとして一クラス一つ出し物をしなければいけない。今日はそれを決める話し合いだ。

 珍しく僕が委員長として司会進行を務めるけど、うんどうしようコレ?

 

「とりあえず意見を出してもらったけど意味不明なのがチラホラあるね」

 

 暗黒学徒の宴ってなんぞや?青山君のキラメキショウは個人参加でやるべきでは?峰田君のオッパブはセクハラで犬小屋延長だね。かっちゃんのバトルロイヤルは体育祭で似たようなことをやったから駄目でしょ。

 

「緑谷はなんかねーの?」

 

 文化祭かあ、小中学校で良い思い出ないからなあ。こういったイベントの時は息を潜めてじっとやり過ごしていたし。

 

「ヒーロー基礎学の授業映像を流すとか?」

 

 録画してあるしアレ。

 

「あー面白そうだなソレ」

 

「けど文化祭の時にあんまりやることないのはちょっとな」

 

「だな、もっとワイワイ参加したい」

 

 流石は国内トップ高校、生徒達はがやる気に満ち溢れた陽キャラしかいない。

 

「うーん、あと他科と内容が被るのも駄目だよね。食べ物系は経営科と運動部が毎年やってるみたいだし、お化け屋敷なんか普通科がやるみたいなんだよね」

 

「そういえば去年もサッカー部自慢の焼きそばとかやってたな。相撲部伝統のちゃんこ鍋とかも」

 

「他科が主役なだけあって早いトコは夏休みから準備しているみたいだよ」

 

 サポート科なんかは特に。

 

「まずは他クラスの出し物を調べることからかな?雄英高校は生徒会とかあったっけ?」

 

 大抵の高校では文化祭とかは生徒会で仕切っていた筈だよね、まあ実態は教師達のパシリみたいなモノらしいけど。

 

「雄英高校に生徒会はねえよ」

 

「成績と実力上位者ほど学外で活動するから時間がとれないみたいだからな」

 

「かつて時間のある実力の低いヤツにやらせてみたらしいけど誰も従わんかったらしい」

 

 なんだかんだでヒーローは腕っぷし至上主義なトコあるからなあ。

 かといって、当代の実力トップ陣ビッグ3に仕切らせようにも。

 

「天然不思議ちゃんとノミの心臓陰キャラとマッスル脱げ男じゃねえ」

 

「「「無理だろ絶対」」」

 

 ヒーローとして実力はあるんだけど。ヒーローとしての実力は。

 

 キーンコーンカーンコーン。

 

「決まりきらなかったな。明日までに決めておけ」

 

 時間が無さ過ぎじゃないですかソレ?

 

「決まらなかった場合、公開座学にする」

 

「「「「公開座学!!」」」」

 

「それで良くない?インターンで授業遅れまくっててそろそろヤバいから僕」

 

「ミルコと文化祭を回らずにすみそうだから有りだな」

 

「「「「自分の都合かよヒーロー科トップワン・ツー共っ!!」」」」

 

 いやね文化祭準備期間で授業無いのが追い打ちになるからね。

 

「自分の将来に関わるんだよ悪いか」

 

 一般のお客がたくさん居る中で文化祭デートなんかしたらもうカップル認定だしね(いやこれ体育祭で顔が売れてる生徒は全員起こりうる問題なのでは?)。

 とりあえず他科の出し物を調べてからかな?多分だけど相澤先生はかなりぎりぎりに僕達に伝えてきたと思うから(出し物を決める時間が一日だけとかありえないって)。

 

 

 場所は変わってハイツアライアンス。

  

「ヒントはないか」

 

 飯田君も協力してくれてパソコンで動画などを調べてくれている。僕も他科の出し物を調べて見たけど食べ物系は部活動が抑えていて(クレープ屋とかもう決まっていた)、さらにランチラッシュの食堂が一般開放されている。毎年恒例のミスコンは経営科の有志達により仕切られている感じ。

 となると、

 

「コントだな」

 

「うむ、今こそ僕達の研鑽を見せる時だ」

 

「ごめん、ウチが提案してなんだけどやっぱ無しでお願い」

 

「素人芸ほどストレス与えるもんはねーしな」

 

 やる気満々のド天然コンビを見て一周回って受けそうな気がしないでも無いけど、やっぱり無いよね。絶対滑る、梅雨ちゃん冬眠しちゃう。

 

「じゃあダンスかな?この動画みたく演奏に合わせて踊れば盛り上がりそう。雄英高校敷地内なら事前に確認すれば個性による演出も許されるだろうし」

 

「お、それ良いかも」

 

「青山のレーザーに、轟の氷とか、やれることいっぱいあるしな」

 

「緑谷の魔法はどうだ?」

 

「既存の魔法ならなんとか」

 

 おじさんみたく今までやったことの無いことを精霊に頼むと世界の危機になるけどね。

 

「ダンスなら私が教えられるよ!!」

 

 青山君の動きを見る限り芦戸さんの指導力は確かなようだね。素人芸が問題なのは、きちんとしているかの判定が出来ない点にあるし。

 

「さらに音楽には専門家レベルがいる!!」

 

「耳郎ちゃんなら生演奏できるよ!!だって音楽してる時がとっても楽しそうだもん!!」

 

 注目されて戸惑う耳郎さん。

 彼女自身は只の趣味で自慢出来るものではないと自信無さげだ。

 

「あんなに楽器できるとかめっちゃカッケーじゃん!!」

 

「別にヒーローに根ざす=戦闘に活かせるかどうかではないでしょ?」

 

「人を笑顔にできるかもしれない技なら十分ヒーロー活動に根ざしていると思うよ」 

 

 音楽自体は曲を選んで流すだけでもできるだろうけど生演奏とは迫力が違うと思うしね。

 耳郎さんに無理強いしているような感じになりかけたので八百万さんが軽く止めるけど、

 

「ここまで言われてやらないのも、ロックじゃないよね」

 

 耳郎さんもやる気になってくれたみたいだ。

 

「じゃあA組の出し物は」

 

「生演奏とダンスでパリピ空間の提供だ!!」

 

 良かった、皆が盛り上がって楽しめそうなモノが決まって。けど、

 

「「公開座学」」

 

「「コント」」

 

「なんでウチのクラスの男子トップ陣は揃って残念系なんだ?」

 

「欠点も実力の内なんだろ多分」

 

 ほっといてください。

 

 盛り上がるハイツアライアンス共有スペース、どんな風にしようかと皆でワイワイしてる中、起動したままのパソコンに新たな動画が映し出されていた。

 

 

『ジェントル・クリミナル最後の戦い!! ジェントルVS異世界おじさん』

 

 





 全世界の相澤先生ファンの皆さんすいませんでした(今更)。
 雄英高校生徒会に関しては原作では普通科とかでやっていてあるかも知れないけどこんな感じです。ヒーロー科は時間的に無理ですよね(汗)。
 食べ物系は各部活動が恒例でやってる感じです、魔法先生ネ○まの麻帆良祭みたいなイメージですね。
 ヒロインというワケじゃないけどつい耳郎ちゃんを推してしまう、だって照れ顔カワイイし。
 さて、ジェントル・クリミナルは果たしてどうなるのか。どうしようマジで。


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100話 ジェントルVS異世界おじさん。


 書けました。100話目がまさかコレになるとは思ってませんでした。



 

『私はジェントル・クリミナル、いわゆる犯罪行為と言われる動画をサイトにアップする男』

 

 

「何を再生してんだ出久?」

 

 文化祭の出し物も無事に決まりくつろぎだしていたら、飯田君が参考にと流していた動画の中に気になるタイトルがあった。とりあえずパソコンを繋いで一階のモニターで見れるようにしたけど、なんだコレ?

 

「気になる動画があってね、なんかおじさんが迷惑系動画投稿ヴィランと戦うみたい」

 

「戦う?処刑だろソレ。つーかなんだその珍妙なヴィラン。それに迷惑系動画投稿者のヴィラン認定は国会で議論中だろうが」

 

「個性を使用したら一発でヴィランなんだけど、そもそも個性使用規定そのものが緩いとこあるしね。まあ身体能力の一つを完全に使用しないで生活するのは無理あるよね(世代的に現在の国の上層部は割と無個性ばかりなので感覚が実感出来づらくて規定が難しいらしい)」

 

「くしゃみ感覚で発動するしな個性」

 

「クシュッ(コロンッ)」

 

「ヤオモモがくしゃみしたら身体からマトリョーシカが飛び出たぁ?!」

 

「意識しないでマトリョーシカ生成出来るのか」

 

「俺もゲーム中に熱くなって個性発動したこととかあるなあ」

 

「いや上鳴だとゲーム機オシャカになるだろ」

 

「それ以来そのダチと家で遊んでねえわ」

 

「ゲーム機本体を殺られたらそうなるわな」

 

「僕のお父さんも火を吹く個性だからお酒とか駄目だしね」

 

「発動系個性あるあるだな」

 

 一般的に動物のような特徴持つ異形系や身体の一部が変質し独自の器官を持つ異形系よりも、肉体的な特徴が無く個性を発動できるタイプの個性が一番制御が難しいといわれている。個性暴走事件の大半がこのタイプなことから明らかだろう。

 

『だが待っていただきたい、何も無作為に罪を犯すわけではない。例えば前のコンビニ強盗Jス「早送り早送りっと」』

 

 動画を再生したけどなんか独白な格好の人が自分語りしてるだけなので、おじさんが出るシーンまで早送りしよう。コンビニ強盗したとか言ってるからヴィランみたいだし。

 

「動画見てやれよ」

 

 かっちゃんはそう言うけど。

 

「犯罪者の独白とか興味ないし」

 

 グランバハマルでも襲いかかってくる連中とかと言葉が通じた試しがないしね。敵対者の事情やら心情はスルーが基本だ。

 

「鬼かテメエ」

 

 自分でもこんな割り切っている所がヒーローらしくないとか思ってたりする。けどね、

 

「いや皆も興味なさそうじゃん「ウノッ!」ウノしてるし」

 

 最初は見てた皆もおじさんが出ないからか、すぐにモニターから目を離してウノをはじめていた。

 

「待てやコラ、誘えよオイ」

 

 かっちゃんはきちんと画面を見ていたから誘われなかったね。

 

『〜ろう。そう私は紳士的ではない者に制裁を与える現代の義賊なのだ』

 

「いやヴィランだろ」

 

「ヴィランだよね」

 

「おじさんまだー?」

 

 義賊とか言われてもなあ、それで誰かが救われたり喜んでるわけじゃないし。こういうのを見てスカッとするとかそういうのかな?

 

『だが今日もまた紳士的に制裁を与え帰路につこうとした所、その人物は現れたのだ』

 

 犯罪を犯しておいて堂々と歩くジェントル、けれどその前に立ちふさがる一人の男がいた。

 

『何者かね?』

 

 パーカーを着た男性は眼鏡に光を反射しながら真剣な表情で言う。

 

『ただのおじさんだよ、動画投稿者のね』

 

「「「「ソレガチでただのおじさんじゃねーかっ!!」」」」

 

 皆のツッコミが響き渡る。うん、異世界帰りって言わないんだねおじさん。

 

『同業者かね?なんだいもしやコラボ企画のお誘いかい?』

 

 コラボ企画て。

 

『そんなんじゃないよ。ただ言いたいことがあるだけさ』

 

 あ、おじさんがシリアス顔だ。

 

『ほう?』

 

『犯罪行為の動画投稿なんてやめるんだっ!!そんなことしたら動画投稿そのものが悪く思われちゃうだろっ!!』

 

 普通に注意だ。

 実際にそれで規制とか厳しくなってるらしいしね。おじさんはバイトもあるけど収入に響くだろうし。

 

「言ってることは尤もだが、こんなキャラだったかこの人?」

 

「注意より先に手が出る人だよな?」

 

 クラスの皆のおじさんの印象が気になるけど確かにらしくないなあ。注意するくらいならヒーロー呼ぶだろうし、知らない人に注意するなら話す時にどもるよね。もしかしてこの動画って編集されてる?

 

『ふ、それに関しては申し訳無いと思うよ。ゴメンナサイ』

 

「「「普通に謝っとる」」」

 

 しかも九十度で頭下げた。

 

『謝るくらいなら止めるんだ!!』

 

 だよね。

 

『だがっ!!それでも退けぬ、止めぬっ!!何故なら私は救世たる義賊の紳士、ジェントル・クリミナル!!』

 

『俺はウルフガンブラッド!!お前を止める者だ!!』

 

「「「嘘つけーっ!!」」」

 

「「「名前負けすげーっ!!」」」

 

「「「なぜ偽名?」」」

 

「知らない人に本名を言わないでしょ、普通」

 

 グランバハマルだといつもそうしていたなあ。こっちだと警察やヒーローに聞かれたら健康保険証やら無個性証明カードとか見せてるよ。

 

『フ、雄々しくも猛々しい良き名だ。だがその名に恥じぬ実力が果たして君にあるかな?』

 

『確かめてみるか?』

 

 その言葉とともにおじさんは右手に光剣を顕現してから振る。普通に格好良いなアレ。

 あ、画面にテロップだ。何々、異世界おじさんは使用許可を得てから個性を使用しています?

 やっぱり編集されてるよコレ。

 

『始めよう戦いを。そう、相反する意思のぶつかり合いっ!!光と闇の決戦をっ!!』

 

 いや注意された迷惑系動画投稿者が逆上して襲いかかってるだけだから。

 光、一般の動画投稿者。

 闇、迷惑系動画投稿者。

 ってことなのかな?

 

「結果見えてるだろ?」

 

「たこ焼きの中にたこが入ってるくらい明白だな」

 

「アップルパイの中にはりんごが入ってるけど、ペチャパイの中には何が入ってんだろうな?」

 

「可能性という名の獣でしょ」

 

「ミネタコロス」

 

「緑谷ちゃんも何を言っているのかしら」

 

 峰田君がとある女子(本人の名誉のため誰かは伏せる)に処されている中、画面は進む。

 戦闘ははじまり、光剣を構えて突っ込むおじさんをジェントル・クリミナルは空気に弾性を付与することで迎撃。加速しながら突っ込んだおじさんはグイイと空気の膜を勢いよく押し込み弾性によって逆方向に吹き飛ぶ。

 

『ジェントリーバウンド。見かけによらず凄まじいスピードだね』

 

「妙じゃねえか出久?」

 

「うん、空気の膜くらいなら弾性が付与されても光剣で斬れる筈なんだけど」

 

 あの個性なら何人ものヒーローを返り討ちにしてきたのは納得だけどね。徒手空拳を相手取るには有利な個性だと思う。特にこの国のヒーローは基本武装をしない、それはトップヒーローだったオールマイトが無手だったのもあるけど、刃物類はそういった個性でもない限り装備すら避ける傾向にあるから。

 

「かなり動けるし、やるねこの人」

 

「なんでヒーローじゃないんだろ?」

 

 動画の中で繰り広げられる戦い。

 空気だけで無く道路や壁にも弾性を付与し、弾んだ勢いで高速機動しステッキにて殴りかかるジェントル・クリミナル。予測困難な機動とそれを活かせる体捌きは大したもの。弾性は付与しても重量が変わらないなら厄介だしね。でも、

 

『ジェントリートランポリン』

 

『光剣よ、切り裂け!!』

 

 おじさんは襲いかかるジェントルに対して光剣を振るも空振り続けている。

 

「おじさんが苦戦するには実力が足りてない、筈なんだけどね」

 

 弱くはないけどアレならウチのクラスメイトでも勝てるくらいだろうに。やっぱりコレって演出かな。おじさんを知らなければ激戦に見えるだろうけど。

 

『諦めたまえ、その刃が私に届くことはありえないよ』

 

『諦めない、諦めるものか。それがセガユーザーなんだ!!』

 

 セガユーザー関係無いよね、いやあの難易度のソフトをクリアできるのは諦めないからだろうけど。

 

『セガユーザーか、フ。よもや過去がこうして追いかけてくるとはね』

 

『お前、まさか』

 

『何、昔のことさ。そう、ヒーローになって教科書に載るくらい偉大な人になるという夢と共に捨ててしまったモノだ』

 

『そんな、なんで』

 

『抱えていては生きられぬのだよ。挫折し大人になってしまうとね』

 

『そんなことは無いっ!!いつだって、いくつになっても夢(セガ)は輝いているだろう!!』

 

『その輝きが己を焼くのだっ!!我が身を打ちのめしてくる現実と共にっ!!』

 

『お前は人に言われてやるハードを決める一般大衆だというのかっ!!』

 

「あのさ」

 

「うん」

 

「熱い想いをぶつけあってるみたいだけど、セガを挟むからなんか冷静になるんだけど」

 

「おじさんだからね」

 

 このシュール感こそおじさんだよね。

 しかし聞いてるとこのジェントルという人も色々あったんだろうと伝わってくるね。挫折かあ、ヒーローになれなかったのかな?

 激戦は続く、しかし一方的に押されていた筈のおじさんは徐々にジェントルの動きに対応出来るようになっていった。これがおじさんの一番厄介な所なんだよね。駄目だったら次のやり方を試す、ゾンビアタックを躊躇わないその精神性が。勝ち目が無いと思うような存在を前にしても必ず攻略法はあるのだと勝つまで挑み続ける。

 

『クッ!!』

 

 だからこうして、必ず勝つ。

 

『光剣よ、今こそ断ち切れ!!』

 

 一閃。

 おじさんは届かないと言われたその刃をジェントル・クリミナルへと到達させたのだ。

 いや普通に当てられる筈なんだけどなあ。

 

『負けた、か』

 

『なんでこんなコトをしていたんだ?』

 

 仰向けに倒れるジェントルと横に立つおじさん。どこか納得したようなジェントルと悲しげなおじさん。

 

『この世に何も残せずに消えることが堪えられなかった。有象無象として埋もれて死ぬことが嫌だったのだ』

 

『理解できないよ。好きなコトをやれたらそれだけで幸せだろうに』

 

『君だって動画投稿をするなら分かるだろう、あの誰かに知られているという喜びは』

 

『それは、分かるかな』

 

 おじさんてかなりプロ意識ある人だからね。

 

『しかし強いな君は』

 

『諦めないで何度も頑張って工夫したからな』

 

『私に足りなかったものはそれかな?だから最後までエイリアンソルジャーをクリア出来なかったんだろうね』

 

『6年だ』

 

『?』

 

『青春を賭けたから俺はエイリアンソルジャーのスーパーハードをクリア出来たんだよ』

 

 改めて聞くと凄い話だよな。見ている皆もドン引きしてるし。

 

『それが君の強さか』

 

 ジェントル・クリミナルはそう言って満足そうに笑うのだった。

 

『この世に何も残せずに、と言ったよな。残ったよ俺の中に、道は間違えたけど足掻いた一人の同胞の存在がいたってさ』

 

『ありがとう。義賊の紳士ジェントル・クリミナルは今日をもって終わりとしよう、罪を償ってから再び夢を追いかけたくなった。そしてコントローラーを握りたくなったよ』

 

『帰ってくる日を待っているよ』

 

『こうして五年という長き時を動画界のヴィランとして活躍してきた私はその活動に幕を閉じるのであった。だがいつの日か私は帰ってくる、かつての夢を果たすために』

 

 夕日を背景に流れる音楽、涙を流して見送るおじさんと手錠をかけられパトカーに乗りこむジェントル・クリミナル(そして連行するのは塚内さん)。

 いやこれ動画として流して良いのかな?

 

「うん」

 

「いやなんというか」

 

「なんだったんだろうなコレ」

 

 まあ面白いっちゃ面白いけど。

 

「ヴィランの引退表明みたいなもんか?」

 

「そんな感じかな」

 

 相棒であるラブラバという人が居ないのは気になるな、こんな動画を流したから自首してヴィランを辞めたのは間違いないだろうけど。ナニカあるかもね、多分おじさん絡みの。詳しくは後で塚内さんとかに聞いて見ようか。

 

「じゃあ時間も時間だし、もう解散しよう」

 

「そうだな」

 

「意外と面白かったしな」

 

 こうしてその日は終わった、無駄にインパクトを残して。

 色々気になることはあったけど、それを楽しめる日常が尊いのだと僕は思う。

 だから今は決まった文化祭の出し物をきちんとした完成させることに集中しよう。

 しかし、僕達は後日意外な所でおじさんとジェントル・クリミナルが本当はどんな形で関わったのか知ることになる。

 

 





 補足(ネタバレ)
 この動画はかなり編集されていて実際にあったこととは異なります。
 ラブラバは諸事情(司法取引)もありカットされました。 
 おじさんとジェントルとの遭遇はかなり違う形です(大差ないですが)。
 ジェントル・クリミナルはセガ挫折ユーザーです。というかゲームってクリア出来るだけで凄いと作者は思ってます(ロープレの周回要素があったからクリア出来るようになりました)。
 何があったかは後日明らかにします。とりあえず文化祭ではジェントル・クリミナルが襲撃してこないとだけ。


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101話 役割分担。


 お久しぶりです。
 残業とかバンパイアサバイバーSwitch版(時間泥棒)にハマったりとかで書けませんでした。
 さらに先日の台風で家に帰れず車中泊する羽目になりました。皆さんはご無事でしょうか。
 そんなわけで投稿です。



 

 通常授業も終わり帰路(というには敷地内だから超短い)につく皆、インターン組(僕以外にも何人かいる)は補習があるのでここで一旦お別れだ。

 そんな中、普通科の生徒達がこちらを見ながら何かを言っていた。

 

「ヒーロー科A組、ライブやるんだって。超凄くね?」

 

「見たいよね、何時にやるんだろ?早めに時間を聞いておかないとね」

 

「だな、クラスの出し物の当番だったら見に行けないしな」

 

 そっか時間の告知は早めにしないとね。

 文化祭中に何回も出来るわけじゃないだろうし、その辺も気にしておこう。

 寮生をはじめとしたヒーロー科主体の動きにストレスを感じている者もいるらしいけど、楽しみにしてくれる人もいるなら頑張って良いモノにしないとね。

 そうして僕達は音楽演奏に詳しい耳郎さんに話し合いをお願いして補習へと向かった。

 

 

 補習も終わり一階共有スペースにて話し合い中の皆との合流。

 決まったことはニューレイブ系のクラブロック(すいませんこの時点で分かりません)、演奏に関してはそもそも経験者が耳郎さんしかいない中でバンドの骨子であるドラムをどうするかとなったが才能マンであるかっちゃんがあっさりとこなした。

 あと教養の一環でピアノを習っていた八百万さんはキーボード担当になって、ベースは耳郎さん。残りはギターとボーカル決めてそれ以外の人はダンスか演出となった。

 

「良かった、楽器演奏の経験者が耳郎さん以外いない感じだったから変身魔法で演奏担当を全員耳郎さんにする必要があるのかと思ってたよ」

 

「そんなことも出来るのか魔法」

 

「体育祭でドラゴンになってたしな」

 

「耳郎五人のバンド隊ってそれはそれで盛り上がりそうだな」

 

「爆豪のドラムを除いて演奏の技術としてはその方が上だしな」

 

「つーか長時間変身してたら完全に本人に成り代わるヤバい魔法だと自分で言ってただろうが」

 

 演出で考えていた案は、麗日さんが轟君と切島君を浮かして空中で轟君の氷を切島君の体でゴリゴリ削り青山君をミラーボールにしてクルクルと回して宙に舞う細かい氷でスターダストのように光をキラキラと舞い落ちさせるというものだった。

 チームスノーマンズ!!と芦戸さん的に自信のある案のようだ。ミラーボールになる青山君もかなり乗り気みたいだ、自室にミラーボールを置いてあるだけあるね。

 発表だけではなく参加型なら空間づくりに演出は欠かせない要素だから役割として必要だね。

 

「ところで緑谷は演奏とかボーカルかダンスは出来ないの?割となんでも出来るイメージがあるんだけど」

 

 そう評価されるのはなんかこそばゆい気分になる。でも僕は基本的にグランバハマルで経験したことしか出来ないって、演劇とかの死体役だったらこなせる自信があるよ。

 

「緑谷なら魔法で演出も捨てがたいよな」

 

「チームスノーマンがやることとか一人で出来そうだしな」

 

 演出に関しては既存の魔法以外だと出来ない、クーラー魔法なんてグランバハマルに無かった新しい魔法は精霊と対話できるおじさんだからできたことだ、ちょっとうっかり人類を滅ぼしかけたのは置いとくとして。

 

「演奏にボーカルにダンスか、それならグランバハマルでやったことあるけど」

 

「どれくらいできる?」

 

 えっと、

 

「おじさんと二人で歌って、空を飛んでた魔獣の群れを感動のあまり墜落させたり」

 

「どんな歌っ?!」

 

「ジャ○アンかよ」

 

「おじさんと二人で踊ってあまりの上手さに恐ろしいナニカを次元の向こう側から呼び出したことがあるね」

 

「何をしてんだお前ら」

 

「珍しく真っ当に現地民から討伐されても仕方ないことしてんな」

 

「だからけっこう歌と踊りには自信あるよ」

 

 これだけ出来るのだからどちらも大丈夫だよねと、へへっと笑いながら皆に告げたらなぜか全員にマジかコイツという目を向けられ、

 

「「「「「緑谷は演出で」」」」」

 

 満場一致で僕は演出担当に決まった。

 

「何故にっ?!」

 

「観客を失神させたり世界滅ぼしかねんヤツにやらせるワケねーだろ」

 

 だよね。

 

「まあ黒鞭で引っ張ったり煙を操ったり浮遊も出来るから演出の方が良いよね」

 

 ワン・フォー・オールの歴代個性もかなり演出向きだよね。それだけでは戦闘において決定打に欠けるけど応用できることが多い。

 

「それに歌なら耳郎ちゃんでしょ?」

 

「麗日さん。耳郎さんて歌も上手いの?」

 

 音楽関係の技能も半端ないんだな、ヒーロー科としても索敵やら戦闘技術も高いのに。

 

「いや、まだ全然」

 

「ボーカルならオイラやる!モテる!」

 

「ミラーボール兼ボーカルはそうこの僕☆」

 

「オウ!楽器は出来ねーけど歌なら自信あんぜ!」

 

 峰田君と青山君と切島君という意外な面子が立候補してきた。でもロック系の歌になりそうなのに大丈夫かな?

 

「△△△△ッ!!」

 

「〜〜〜〜!!」

 

「ハーーー!!」

 

 実際に歌ってもらったら結果はまあアレだったね。頑張りは認めるって感じで。

 そして葉隠さんの推薦もあって耳郎さんに実際に歌ってもらったら、立候補した面子(峰田君と青山君)が撃沈するくらいの上手さでした。

 こうしてボーカルも満場一致で決定、僕とは意味が違う形だけどね。

 

「じゃあそれはそれで、ギター!!これは二本ほしい!!」

 

 照れるのを誤魔化しながら耳郎さんがそう言えば、

 

「やりてー!!楽器ひけるとかカッケー!!」

 

「やらせろ!!」

 

 とウェェェイしながら上鳴君と目立ってモテたい峰田君が立候補。

 やる気あるから練習次第で上鳴君は大丈夫だけど、峰田君はウン、サイズがね、ウン。首から下とギター本体が同じなら大きさなら仕方ないよね。

 

「サポート科に頼んで特注品を作ってもらう?」

 

「個性で外見が様々になったから対応してくれる業者もあるって」

 

「3本腕用のバイオリンとかあるしな」

 

「子供用のヤツとかなら大丈夫じゃねーか?」

 

「優しくすんなっ!!泣くぞコラアア!!」

 

 峰田君に皆でフォローしたけど駄目でした。

 後はそれぞれダンスか演出か自分の希望を言って、やり手のいなくなったギターは常闇君が引き受けてくれた。経験はあったけど一度手放したから希望者優先にしていてくれたみたい。

 そして目立ってモテるという目的が駄目になったと感じてすっかりネガティブになった峰田君を芦戸さんがフォローして隊分けは終了。

 とはいえ青山君は演出とダンスを兼任だし、芦戸さんと耳郎さんには未経験者の指導をお願いすることになるけどね。

 役割の比重が偏ってるのが問題だけどこればっかりは仕方ない、か。

 経験者にしか出来ないことだし本人達も楽しそうだけど負担になるようならサポートしないと。

 

「参加する人達に楽しんでもらえるようなモノにしたいね」

 

「緑谷?」

 

「エリちゃんも喜んでくれるように」

 

 セガと動画以外にも楽しいことはあるのだと知ってもらうために、外の世界には輝くモノがあるのだと見せてあげるためにおじさん達がエリちゃんを連れて文化祭に来るそうなのだ。

 あんな日々を過ごしていたエリちゃんが思い切り笑えるような、そんな舞台にしたいよね。

 けど、

 

「「 ダ レ ? 」」

 

「エリだから女の人だよね!!」

 

「他校の娘のために頑張るとか青春みたくて盛り上がるー!!」

 

「また新しい女かよ」

 

「知っている名前か爆豪?」

 

「いや中学までの同級生にはいないな」

 

「エリちゃん、だから年下じゃないかしら?小学生とかそれより下くらいの」

 

 そんな僕の呟きがその場の空気を一変させたのです。麗日さんと八百万さんはグリンとこちらを向くし、芦戸さん達はキャーキャー言うし、かっちゃん達は呆れてるし。

 

「緑谷」

 

 ポンッと僕に心配するように触れる峰田君。

 

「刺されんなよ」

 

「どんな心配っ?!」

 

 なんでそうなるのっ?!

 そういえば事情が事情だからエリちゃんのことは伝えてなかったなと僕は思い出すのであった。

 けど、

 セガのソフトを受け取りに行った先で酷い目にあってそうな女の子に助けを求められたからプロヒーローがチームアップしないと勝てないようなヤクザ組織を個人で撃退してその子を養子として引き取ったおじさんと、肉体を個性で分解されて実験させられていた6歳児の話なんていつすればいいのさ。

 特に僕は助け出そうとしていたけど結局何も出来ないで事後処理しただけだったし。

 

 深夜一時、ようやく終わった話し合いの後もハイツアライアンスの共有スペースの明かりは消えることはなかったのでした。





 おじさん宅に出入りしてる茨さんとメリッサさんは知っていましたが、話すきっかけが無くてA組の皆はエリちゃんを知りませんでした。
 インターン組は原作どうりです。


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102話 文化祭準備。


 お久しぶりです。
 ギャグ回でちょい役のオリキャラでます。苦手な方は閲覧注意。



 

 その後、記憶再生の魔法を使いなんとかエリちゃんについての誤解を解くことに成功。

 だけど皆が再生された記憶に別の意味で衝撃を受けてしまった。

 個性社会の闇。そんなどん底にいた彼女と純粋な善意と偶然から救い出したおじさん。

 エリちゃんの境遇も、おじさんの行動も、どちらもヒーローを志す僕達には深く考えさせられる事だった。辛い現実を知り、重苦しく気分が沈みそうになったりしたけど、そんな境遇だったエリちゃんを僕達が楽しませることのできる機会があるのだと来たるべき文化祭にいっそう奮起したのだった。

 

「なんか学生らしい感じでテンション上がるよな」

 

「だね。体育祭は生徒(特にヒーロー科)は参加するだけだから余計にそう思うよね」

 

 そんな日からしばし時はたち、午後の練習が一段落した僕は峰田君と一緒に文化祭準備でガヤガヤしてる雄英高校を見て回っていた。

 意外とハイスペックなことに定評ある峰田と存在を忘れがちな転移ボーナスで物事を習得しやすい僕は余裕があるので皆から他クラスがどんなことをしているか見てきてと頼まれたのだ。

 

「しかし色々やってんな、文化祭を回るときのためにしっかり覚えておかねえとな」

 

「自分達の発表と片付けと後で時間が限られるから目的地を事前に調べて厳選しないとね」

 

「おいおいそれだけじゃねえぜ」

 

「?」

 

「文化祭まであと一月、その間に他クラスやら他学年の女子に「一緒に回りませんか?」と誘われるかもしれねえだろ?だからその時に華麗にエスコートするためデートコースのリサーチと構築は必須なのさ」

 

 と峰田君はキラリ☆とキメ顔で言った。

 

「他クラス他学年ってとこでウチのクラスの女子達からの誘いは無いって理解してるのかい」

 

 峰田君てば女子(この間の変身で男子にも)にセクハラしたのに関わらず嫌われてはいないけど、恋愛対象としては間違いなく見られてないからなあ。

 

「可能性ある限り準備は怠らねえ、それが男ってもんだろう?」

 

「その可能性を信じて〜♫

 先生に追い出されるまで居座った〜♪

 バレンタインの放課後〜♫」

 

「なんで知っているオイラの過去。そしてなんで歌いだすお前」

 

「いやなんか演出班になったんでつい」

 

 突然歌いだしたくなる、それが若さ。

 そして可能性はゼロじゃなくても、ありえないってことはあると思うの。

 

「緑谷だって小中とそうだったろ?」

 

「いや僕はオールマイトバレンタイン特番を見るためにソッコー帰ってたから」

 

 平和の象徴にして世界的有名人なオールマイトはバレンタインともなると世界中から贈り物が来る。チョコの数だけでもネタになるほどだし、中には宝石やら不動産まであるとか。現アメリカナンバーワンヒーローのスターアンドストライプなんて等身大自分チョコとかとんでもないの贈ってたなあ。

 

「それはそれで悲しいバレンタインのような気がするがな」

 

「なおかっちゃんは毎年十個は貰ってたよ」

 

 当時から性格アレなヤンキーだったけど人気者だったんだよね。

 

「ミルコにチクろうぜ(憤怒)」

 

 峰田君の嫉妬の言葉でかっちゃんの来年のバレンタインはチョコ人参確定だね(笑)。

 そんな雑談に興じながら組み立てられてる出店を見ているとクレープ屋さんを発見。

 

「年季ある屋台だなあ、砂藤君の案は取り下げて正解だったかも」

 

 砂藤君なら美味しいクレープを作れるだろうけど、皆で分担すると出来栄えにムラがでてたよね。

 

「そうだ緑谷、クレープにまつわるこんな話を知っているか?」

 

「どんな話?」

 

「あるところに人気のクレープ屋さんがありました、そこはミックスベリー味が評判なお店です」

 

「良いよねミックスベリー味、ふんわりしたクレープ生地にクリームやらチョコの甘さ以外にさわやかな酸味という刺激と食感が加わってさ」

 

「クレープ好きなのかお前?

 けどいざお店に行くと、ミックスベリー味はメニューに無いと断られます」

 

「訴えよう」

 

「落ち着け。

 けどそのクレープ屋さんのメニューにはベリー系が豊富で周囲にはカップルだらけです」

 

「事前情報に騙された被害者がいっぱい。せっかくのデートが台無しだよ」

 

「違うからな。

 なんと彼らは二人で違う味を頼んで、お互い食べさせあうことでミックスベリー味を堪能していたのです(血涙)」

 

「口中調味の妙だね。そしてカップル達による惚気だったのか。藤宮さんにも教えてあげよう」

 

 でも敬文さんだからなんかやらかしそう。

 

「お前も麗日と八百万と塩崎とメリッサとミックスベリーをするんだぞ」

 

「なんで?」

 

「しばくぞ」

 

 峰田君の提案に首を傾げたら、バットを構えて怒られた。

 

「まぁまぁお二人さん、ケンカしないでこれでも食べて落ち着きなよ」

 

 殺気立ってバットを振りかぶる峰田君に光剣を出して向かい合ったらクレープ屋の中から大柄な女性がクレープを両手に持ちながら現れた。

 

「あ、すいません」

 

 準備中に迷惑だよね。

 

「いいっていいって、良いアイデアも貰ったし。これも試作だからさ」

 

「先輩(キュン)」

 

「峰田君ってチョロいの?」

 

 僕より身長の高いスタイル良い金髪美人からクレープを手渡されて峰田君は乙女の顔してトキメイていた。

 

「先輩、オイラとミックスベリーしませんか?」

 

 そして彼は即座に口説きだした。

 僕は美人とか知り合いじゃないと身構えちゃうけど峰田君は違うみたいだ。

 

「ゴメンねー」

 

 そして初対面の相手だから当たり前だけど断られている。だが彼女の断った理由は峰田君な外見ではなく。

 

「私はさ、君達二人がミックスベリーするのをじっくりと見たいなーって思うの」

 

 彼女の性癖が理由でした。

 晴れやかな笑顔でナニを言ってんだろこの人。

 

「さあ、ハリー!ハリー!男子二人のミックスベリー!」

 

 鼻息荒くして急かす腐女子な先輩に虚無の表情と化す峰田君。うん振られる理由の中でもこれは酷い。

 

「腐ってやがる、早すぎたんだ」

 

「クレープありがとうございました、巨神兵先輩」

 

 落ち込む峰田君の背を押しながら僕達はその場から去るであった。

 

「巨神兵先輩っ?!

 待ってピチピチ一年生男子達っ!!せめて一口だけでもっ!!次回作のネタにー!!」

 

 雄英高校って濃い人ばかりだよね。

 

「大丈夫だってきっと出会いはあるから」

 

「女子にクレープを手渡されたのは人生初なんだ、オイラに気があると思うだろ」

 

「僕も渡されてたよねっ?!」

 

 異性に話しかけられだけで恋をする。それが男子高校生。

 

「どうした?A組の緑谷と峰田」

 

 そんな僕達に話しかけてくるドラゴンらしきモノを運搬中のB組メンズ。

 

「クレープ屋で腐女子にミックスベリーを求められました」

 

「「「何してんだお前ら?!」」」

 

 雄英高校は魔境だから。

 

「アレアレアレー!?こんなところで油売ってるなんて余裕ですかあァア!?」

 

「黙れ金髪イケメンコピー野郎。お前なんかクレープ屋で男子全員と掛け算されてきやがれ」

 

 峰田君の彼らしからぬエグい返答に圧倒される物間君だけど、気を取り直していつもの敵対心を見せる。

 

「ライブ的なことをするんだってね!?いいのかなぁ!?今回ハッキリ言って君たちより僕らB組の方がすごいんだが!?」

 

 物間君によるとなんかごたまぜなタイトルのB組完全オリジナル脚本超スペクタルファンタジー演劇をやるらしい。

 しかし、

 

「ファンタジー世界はね、そんな良いもんじゃないよフフフ」

 

「脚本にしてもオリジナルだと面白いかわからんから集客厳しいだろ」

 

「ヒットした原作を元にした演劇とか多いしね」

 

「皆知ってる作品の方が良くねえか」

 

「ドラゴン埋めババアとかね」

 

「それはグランバハマルのヤツだろ」

 

「言いたい放題だね君たちィー!!」

 

「「つい」」

 

「フフフ、だがそんな余裕もいつまで続くかなあ。準備しておくんだね僕らに敗北して涙するその時のためのハンカチをね!!」

 

 流石に言い過ぎだと感じたのか単に邪魔になったのか泡瀬君が騒ぐ物間君に角材を振り下ろして物理的に黙らせる。いつも止めてた拳藤さんはいないみたいだ。

 

「拳藤はミスコン出るからいねーのよ」

 

「物間じゃねーけどお互い気張っていこーぜ!じゃあな!!」

 

「ホラ、峰田君!!ミスコンだってミスコン。ビッグ3のねじれ先輩のトコなら訪ねて平気だろうから行こうよ!!」

 

「ミスコンかあ、でもヤオモモもメリッサも発目も参加しねえんだよな」 

 

「やる意味あるのソレ」

 

 優勝候補になりそうな娘達が不参加過ぎる。

 

 

 

「やあやあ緑谷君と峰田君、わざわざこんなとこにどうしたの?」

 

 迎えてくれたのはルミリオンこと通形先輩。仲の良いビッグ3はこういったイベントも協力しあうようだ。

 

「ちょっとクレープ屋で色々あって峰田君が凹んでしまって」

 

「大口さんにでも会ったのかな?!彼女は三年で有名な残念美人なんだよね!!」

 

 有名なんだ巨神兵先輩。

 個性でフワリと宙に浮かぶねじれ先輩を前に通形先輩とそんな話をする。

 

「衣装はセクシーだが表情にもっと色気が欲しいな。なんだかんだで観客が見るのは身体より顔だ、衣装とパフォーマンスに合わせた表情をすることで評価は劇的に上がることだろう」

 

 峰田君はなんか監督気取りでアドバイスしてるよ。いや本人が元気になったから良いか。

 

「ミスコンの覇者である三年G組の絢爛崎美々美さんも厄介だけど、今年は飛び入り一般参加も有りだからどうなるか分からないんだよね!!」

 

「飛び入り参加は準備時間が無いから不利そうだなあ」

 

「オイラ、マウントレディが参加して会場粉砕する未来が見えたわ」

 

「かっちゃんにアピールするためにミルコも出たりして」

 

「ミッドナイトとか出ねえかな」

 

「おじさんが頼めばイケるかも」

 

「「ねじれさんの雄英高校最後の大イベントを混沌にしないでくれるかな君達!!」」

 

「すいません」

 

「ま、まあプロヒーローは参加しないでしょ多分」 

 

 でもプロヒーローって目立ちたがりが多いイメージがあるんだよなあ。

 ミスコン練習中のビッグ3の見学を終えた後はサポート科で技術展示会の準備を覗く。真剣に集中してるメリッサにはあえて声をかけずに頑張れと呟いてからその場を後にした、ちなみに峰田君はメイドロボとか美人アンドロイドとかねーのかなとキョロキョロしていた。

 

「あっすいません」

 

「いやこちらこそ」

 

 一通り見て回ったのでそろそろ帰ろうかとしたら前方不注意で誰かとぶつかってしまった。

 慌てて謝れば向こうも頭を下げてきた、見れば用務員の格好をした男性で見慣れない人物だった。

 

「ケガはないかね?」

 

 だが上げられて見えたその人物は、つい先日見たばかりの顔だった。

 

「確保、と」

 

「捕まったんじゃねーのかこのヴィラン」

 

「何をするんだ君達ィー!!」

 

 峰田君と共に手早く拘束して肩に担ぐ。

 全く文化祭が中止になったらどうするんだい。

 

 捕縛したこの人物の名はジェントル・クリミナル。おじさんに破れ逮捕された筈のヴィランだった。

 とりあえず先生に突きだすべきかな。

 





 オリジナルキャラ設定。

 巨神兵先輩(仮)。
 本名 大口 礼砂。
 個性 レーザー。
 口から破壊力抜群の光線を放つ。
 180センチ以上の身長の肉つきの良いスタイルの金髪美人。髪は肩にかかる程度。
 実力はビッグ3に次ぐほどで、ヒーロー科の有望株だったが本人はヒーローになる気が無い。
 ヒーロー科を選んだのは周囲の声と熱い男子達の絡み合いを見たかったため。
 サンイーター×ルミリオンを全国レベルで広めた元凶。
 峰田君達と遭遇後にクレープを持ってビッグ3の元へと全力ダッシュしたとか。
 


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103話 かつてジェントルと(一部で)呼ばれた男


 ちなみに巨神兵先輩は雄英高校内で同人誌販売イベントを何度か行っています。
 一年に7回不定期に行われるそのイベントを『腐の7日間』とファンと被害者は呼んでいます。
 なお、芦戸ちゃんは夏休み中に偶然そのイベントに遭遇して同じクラスの硬い漢と隣のクラスの鋼の漢のぶつかり合いという新境地を知りました。
 躯舎那先生(ファンからは何故か殿下呼び)の次回作にご期待ください。
 


 

 峰田君と文化祭の準備している学校を巡ったその帰り道、僕達は作業服姿の一人の男性と遭遇した。

 その男の名は『ジェントル・クリミナル』、不正を行った者達を制裁してはその動画をネットに流すいわゆる迷惑系動画投稿者タイプのヴィランだ。

 迷惑系動画投稿者については色々な問題があるのだがとりあえずそれらは置いておいて、ジェントル・クリミナルがヴィランとして認定され警察からマークされていたことには理由がある。

 一つは彼が複数のヒーローを返り討ちにしたという戦闘技術、もう一つは何度削除しようとも規制をかけようともハッキングして動画を復活させるパソコン技能。くだらない犯行とは不釣り合いなその能力の高さゆえに警察は警戒していたのだ。

 

 と、ここまで詳しく調べたのは異世界おじさんとの動画を見てからだ。捕まったヴィランによるヒーローへの報復はよくあることなのでおじさんの安全を考えて念の為にと。

 そして捕まった筈のその人物が雄英高校敷地内に居るとなると、発見しだいとっ捕まえるのも仕方ないのではないでしょうか。

 だから罰として正座してる足の上に麗日さんを座らせるの止めてくれませんか?

 

「むしろご褒美だろうがぁっ!!オイラなんか砂藤だぞっ!!代わってくださいお願いします!!」

 

「なんであの時にチョキだしたんだろうな俺」

 

「グーをグーだしたばかりに麗日さんに負けてしまいましたわ」

 

「エヘヘ」

 

 ハイツアライアンス一階共有スペース。ジェントル・クリミナルを捕まえて運搬していた僕と峰田君は通りすがりのかっちゃんにシバかれて罰を受けていた。

 多分日本独自のこの拷問、石の板でないことは温情と言えるのだろうか。

 

「むしろお前が動かないようにするためだがな、女子を振り払ってまで動こうとはしないだろ?峰田はついでだ」

 

 いやそうだけど軽装な麗日さんの体温やら感触やら香りやらで照れくさいというか恥ずかしい気分になって頭がクラクラしてくるんですが。

 というか誰が座るかはジャンケンで決めたのか、峰田君に座っている砂藤君は罰ゲームを受けている表情で僕に座れなかった八百万さんは落ち込んでいるのだけど。麗日さんは嬉しそうに笑っている、まさかこの麗らかな娘にS属性があったとは(注、勘違い)。

 

「しかし緑谷のやらかしとはいえ相手はヴィランなんだろ?」

 

「友人が簀巻きにした男性をエイホエイホと運んでいる姿を見たら反射的に張り倒してしまうのは仕方ないと思うがな」

 

「なんで僅かな休憩時間でトラブルを引き寄せんだコイツは」

 

 いやーでもね。

 

「仮に更生のための奉仕活動だとしてもあまりにも早過ぎでしょ、逃げ出して次の活動をしたと思ったんだよ」

 

「その理屈も分かるがまずは確認しろよ」

 

 かっちゃんの言うことも分かるけど、

 

「おじさんてさ、少し目を離すとすぐ遺跡とかぶっ壊してたから。それでつい」

 

 だから即座に倒すくせが。

 

「しっかり影響受けているからなお前」

 

 お前も大差ねえよと冷たい目でかっちゃんに見られるのでした。

 

「なんか、砂藤って甘い匂いがするのな(スンスン)」

 

「キショイこと言うな峰田、ゾワッてしたわ」

 

 

 

「パ、パンツがいつも新品になってる。ハッ?!」

 

 どんな寝言ですか。

 縛られたまま床に転がされていたジェントルが目を覚ました。

 

「体が動かない、これはもしや愛美君の」

 

 相方なんですよね?なんで彼女の仕業だと疑うのだろうか。

 

「あー、大丈夫かアンタ」

 

「ハハハ、この程度で驚いていてはラブラバの相棒は務まらんよ。そしてここはどこで、君達は誰だい?」

 

「ここは雄英高校敷地内の寮で、俺達は雄英高校一年ヒーロー科の学生だ。アンタはジェントル・クリミナルだよな?」

 

「ふふふ、捨てたその名を再び呼ばれる日がこようとは。そう、私こそかつて現代の義賊ジェントル・クリミナルと呼ばれた男っ!!サインいるかい?」

 

「イラネ。んでその元ヴィランがなんで雄英高校にいんだよ。うちのボケが気絶させて回収しちまったじゃねえか」

 

「その子の判断即決過ぎじゃないかねっ?!」

 

「異世界おじさんの舎弟だぞ」

 

「納得しかない理由だね!!」

 

「いや舎弟じゃないから」

 

 しかしジェントルのこの反応、おじさんについてよく知っている感じかな。

 

「ということは君が陽介君の言っていた緑谷出久クンかねっ!!」

 

「あ、ハイそうです」

 

「抱え込みがちな子だから気にかけてくれと頼まれていてね。何かあったらすぐに言うんだよ」

 

 おじさん。

 気にかけてくれるのは嬉しいけど、簀巻きで床に転がされているヒゲのおじさんに何を相談すれば良いのさ。

 動けないのに顔を向けて優しげな眼差しでこちらを見るけど、ちょっとうん。

 

「この様子ならヴィランじゃねえみたいだな。とっとと解放するか」

 

「すいませんこの子グランバハマル呆けしてまして」

 

「なに、気にすることはない。むしろ君達がかつての私を知っていてくれことが嬉しいよ。これがプライベート時に私服で気づかれた俳優の気持ちなのだね」

 

 どちらかというと変装がバレた指名手配犯の方だけど黙っておこう。

 そして異世界おじさんが出たから知っているということも黙っておこう。

 

「しかし釈放されるにしても早くねえか?何があったんだ」

 

「ん、それはだね」

 

「アンタ達ィー!!私のジェントルに何をしてんのよっ!!」

 

 かっちゃんが元ジェントル・クリミナルを拘束している縄を解こうとしたら、その場にミニマムなツインテールの女性が飛び込んできた。

 

「そんな?!拘束プレイなんて言ってくれたら私がしたのに?!」

 

 そして雷に打たれたような衝撃を受けていた。

 というか子供の前で何を言っているんですか、峰田君が反応してハァハァと息を荒げてますよ(足に砂藤君を乗せたまま)。

 

「えっと」

 

「私は相場愛美、かつてラブラバと呼ばれた女。ジェントルとプレイするのはこの私よっ!!」

 

「やめてくれ愛美君、周りの子供達から軽蔑の眼差しが集中するぅ。違うんだ愛美君はきちんと成人しているし、私は彼女に手なんてだしてないのだよっ!!」

 

「変態紳士や」

 

「合法ロリ巨乳とは良い趣味してるぜ、友達になれそうだ」

 

「それを女子の前でも言うからモテないのよ上鳴ちゃん」

 

「何言ってんのケツの青い子供達が。私達はお互い合意の上だから問題ないわ」

 

「私のほうがしてないのだよっ!!」

 

「なんか混沌としてきたなあ。練習で忙しいのに」

 

「いやお前のせいだからな緑谷」

 

 こうして僕達は文化祭準備中に愉快な人達と知り合ったのだ。

 ところで彼女はどうして元ジェントルの居場所がわかったんだろ?雄英高校ってかなり広いのに。

 





 あまり話しが進まなくてすいません。
 新作もよろしければどうぞ。


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104話 ジェントルとラブラバ


「なあ鉄哲?」

「どうした切島」

「最近芦戸からよく見られてんだけどよ、これってもしかして」

「アン?俺も見られてるぜ。残念だったな」

「いや俺の方だから中学からの知り合いだし」 
 
「むしろそれが悪印象だろ、高校デビューマン」

「「ヤンのかコラァ!!」」

「太くて硬くて熱い漢達の火花散らすぶつかりあい(ジュルリ)」

「なんだこの勘違い三角関係」

 ということがあったとか無かったとか。



 

 麗日さんがいい匂いで柔らかくてドキドキしてる中でも状況は動く。

 愛する男の危機を救いにきた女性・元ラブラバさんは縛られたままの元ジェントルをあらゆる角度から激写してから解放した。

 その行動がどこぞのエルフ(ヤンデレストーカー)を思い出させるので僕は彼女のことが早くも苦手になりそうだった。

 

「けどどうしてジェントルの場所が分かったんだろうな?」

 

 すると尾白君が僕と同じ疑問を口にする。

 

「簀巻きにした大人を担いできたんだから目立ってたんだろ?」

 

 だがそれを轟君が見た人に聞けば分かるだろうと考えを述べた。

 確かにそうだろうけど、納得するがなぜかしっくりこないというか腑に落ちない気持ちになる。

 

「寝袋に入って廊下で寝てる教師、突然壁から現れる黒豆目の筋肉全裸、窓から飛び降りる勇者、なんてのが溢れる雄英で簀巻きにされた大人を担いで運ぶくらいのことが目立つ訳ねーだろ」

 

 今更だけどもしかして雄英高校って変人の坩堝だったのかな?すっかり慣れてしまったけど。

 

「それもそーか」

 

「文化祭準備中だから余計に目立たねーよな」

 

「気絶して運ばれるのはB組の物間がしょっちゅうやられているしな」

 

「アイツも懲りねえよな」

 

「物間君ってドMなのかも」

 

「拳藤に構って欲しいとかじゃね」

 

「「気持ちは分かる」」

 

「だからモテないのよ峰田ちゃん上鳴ちゃん」

 

 話が脱線しているよ皆。

 相場さんが元ジェントルを見つけた方法が物間君がドMかどうかになってるよ。

 

「全く、居場所なんて愛の力で分かるに決まっているじゃない」

 

 そんな僕達に相場さんはやれやれと呆れながら言った、エルフみたいで怖いなと僕は思った。

 

「そう、文明の利器という愛の力よ」

 

 彼女が懐からだした機械、そこにはピコンピコンと丸い点が表示されていた。

 

「フ、軽蔑の眼差しが哀れな者を見る眼差しに変わったのだよ。加害者から被害者だと子供達に認識を改められた気がするのだよ」

 

 いやだってGPSで監視されてる人はねえ、いや今時のスマホにもついてるけど。異世界帰りのおじさんは未来の機械じゃんっ!!て驚いてたなあ。

 

「って貴方は緑谷出久君じゃない」

 

 すると相場さんは今度は僕を見てきた。まあ元ジェントルがおじさんを知っているなら知っていてもおかしくないか。

 

「メリッサちゃんが貴方の話ばかりするから覚えちゃったわよ。将来のパートナーなのよね?」

 

 ゾクゥッ。

 あ、足の上の麗日さんの気配が何やらヤバめに変化した。このままだと殺られる。

 

「発目ちゃんも未来の義息子をどう改造するか今から楽しみにしてたわよ」

 

「それは意味が分かりません」

 

 発目さんがメリッサの父であるデヴィット・シールド博士の後妻の座を狙っているのは知っているけどそれがなんで僕が義息子になる話になるんだろ。

 

「相場君は現在デヴィット博士の助手をしているのだよ。ハッキングとプログラム構築の技能を買われてね」

 

「あーそれがアンタらの保釈された理由か?」

 

「陽介君経由で知り合ってね。起こした事件もほぼ全部が示談で済んだのだよ。店に至っては集客効果もあったようでね」

 

 犯罪・火災現場に人が集まる理屈かな。

 人死でてないし、元ジェントルの個性でオブジェみたいになった建物もあるから人目を引くんだろうね。

 

「そう、今の私は天才デヴィット・シールド博士の助手として七瀬楓を完全再現したアンドロイドの制作ってこれ言っちゃ駄目なヤツだったわ。未だヒーロー業界で弱い分野であるネット回線の防衛プログラム開発を行ってジェントルを養っているのよっ!!」

 

「再び子供達から軽蔑の眼差しがぁっ!!いや私も用務員として働きつつヒーロー資格取得のため勉強しているからぁっ!!ヒモでは、年下女性に養われるヒモではないのだよっ!!」

 

 なお給料額の差はエゲツないので秘密らしい、デヴィット博士の個人的な研究の報酬があるのと、相場さんの仕事の規模が半端ないからだとか。

 

「なるほどきちんと更生はしているのか」

 

「ヒーロー志望としては恥ずかしい話だけど更生したヴィランを見るのは初めてだ」

 

「あー言われて見ればそうだよな。ヒーローって警察に引き渡して終わりみたいな認識だけど捕まえたヴィランにもその後の人生があるんだよな」

 

「名探偵だって捕まえた犯人と面会するヤツなんてほとんどいねえだろ」

 

「純粋に危ないから推奨されてないみたいだぞ。未成年のヴィランを気にかけるヒーローは少なくねえらしいがな」

 

「大半のヴィランが、個性で暴れたいヤツと金目当てらしいからわざわざ会うヒーローも居ないんだろう」

 

「人を救うじゃなくて、襲いかかる理不尽を倒すのがヒーローの役目なのかな」

 

「ただでさえヒーローって兼任し過ぎとか言われてる職業だから規制されてるだけじゃない?」

 

 ヒーローってどこまでやって良いかが曖昧な仕事だからなあ。現職のヒーロー達も得意分野で売り出すために他の職業と被る業務に手を出したりしてるし。○○ヒーローなんて名称もそれがきっかけだったとか。オールマイトが最強過ぎたから、戦闘以外の分野で活躍しようとしたんだよね確か。

 

「ヒーローか。

 私からすれば異世界おじさんであるヨウスケ君こそヒーローなんだろうね」

 

 僕達の話に元ジェントルは感慨深そうに呟いた。

 

「まあ気に入らないトコ(ジェントルとセガで語り合うトコ)もあるけど私達の恩人なのよね」

 

 相場さんは少々不満気だが。

 

「思い出すよ彼との出会いを。私達の運命が変わった日の出来事を」

 

「私とジェントルとの運命の出会いの足元にも及ばない出来事だけど、人生の転機にはなったのよね」

 

「愛美君は動画投稿元をハッキングして住所を割り出して訪ねてきたんじゃないかい。最初は恐れすぎて粗相した程だったよ。今じゃ良い思い出だけどね」

 

 ストーカー被害者なのか変態紳士なのか、判断できない人だなあ。

 

「聞いてくれるかい子供達。編集されてない私達と異世界おじさんの話を」

 

 そうして元ジェントルは椅子に座り幻の紅茶ゴールドティップスインペリアル(八百万さんの私物)の注がれたカップを掲げた。

 あの運命の日を語るために。

 だから僕は、

 

「記憶再生(イキュラス・エルラン)」

 

「「「「いや、ちょっとおおお!!」」」」

 

「この方がわかりやすいじゃん」

 

 元ジェントルの額に手を乗せて魔法を発動するのであった。

 

「語らせてください(涙目)」

 

「意気消沈してるジェントルも素敵!!」

 

 





 次回、あの日の真実。


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105話 あの日の真実


 オリ設定及びキャラ改変あり、閲覧注意。



 

『私はジェントル・クリミナル。いわゆる犯罪行為と言われる動画をサイトにアップする男』

 

 記憶再生の画面に映る姿。

 異世界おじさんとの対決と同じシーンだからここは編集されてないのかな。

 

『だが待っていただきたい何も無作為に罪を犯すわけではない例えば前のコンビニ強盗Jスト「早送り早送りっと」

 

「ってオイッ!!緑谷さすがに本人が居るのに前みたく早送りはかわいそうだろうがっ!!」

 

「バカヤロウ上鳴っ!!余計なことを言うんじゃねえっ!!」

 

「ウェイ??」

 

「動画を視聴してくれてて嬉しいなと思ってたら早送りされていた件について(ズーン)」

 

「あーあへこんじゃったよ」

 

「かわいそう」

 

「上鳴が言わねば知らずに済んだというのに」

 

「俺が悪いのかっ?!」

 

「動画投稿者には一番つらい所業だろうしね」

 

「アンタ達、あまりジェントルをイジメるんじゃないわよっ!!ジェントルはいい歳のくせに打たれ弱いのよっ!!」

 

「お姉さんって本当にあの人を愛してるの?」

 

 かなり辛辣なことを言ってるよねこの人。

 

『本日の仕事をやり終えた私は充足感に包まれ帰路についていた。義賊たる私に休息は欠かせない、ホームで羽を休めるために自然と早足となる。仕事前の紅茶は良い、だが仕事後の紅茶もまた格別なのだ』

 

「もうちょっと先かな?」

 

「これ以上早送りするのはやめてやれ」

 

『だが、そう上手くいかないのが世の常。耳に入ったその音に私は足を止めるのであった』

 

「つーかこれ編集されてない思考だよな?」

 

「誰目線を意識してんだろこの人」

 

『いいトコロに連れていってあげるよー』

 

『どんなトコロなの?』

 

『甘いのがいっぱいあってー、弾けるようなのもあってー、色んなおもちゃがあってワクワクして楽しいトコロー』

 

『楽しみ、行ってみたい!!』

 

「ん?」

 

「あれ、この声」

 

「ケロ、聞き覚えがあるわね」

 

『それは青年と少女の声。内容からして甘い言葉で誘い連れ去る気なのだろう。だが義賊にして紳士たるこの私ジェントル・クリミナルはそのような悪行を許しはしない』

 

「合法ロリ巨乳なツインテール女性と熱烈な関係な人に言われてもなあ」

 

「鏡見ろや」

 

「おまいう案件」

 

「辛辣かね君達っ!!」

 

 成人してても年の差はあるよね。

 

『待ちたまえ、そこの者よ!!』

 

『ああん?』

 

 颯爽と飛び出すジェントル。

 そしてそこに映っていた者達は。

 

「千秋君にエリちゃんんんん?!」

 

「聞き覚えのあるわけや」

 

「千秋君だったのね」

 

 歳不相応な外見、ぶっちゃけDQNなチンピラにしか見えない小学四年生のピュアボーイである藤宮千秋君と、最近とある事件により異世界おじさんに引き取られ現在セガと動画投稿の英才教育を受けている幼女嶋嵜エリちゃんだった。

 

「こいつが例の異世界おじさんの甥っ子の元クラスメイトの眼鏡美人女子大生の弟で雄英高校紹介動画でブレイクしたってヤツか」

 

「個性の影響で大人びているとかってヤツだな」

 

「大人っつうか見た目完全にチンピラだろ」

 

「いや本当にそうか?会話内容を思い出してみなよ、おかしいだろ」

 

「多分だけど千秋君は近くにある昔ながらの駄菓子屋さんに案内しようとしているのだと思う」

 

「言い回しが紛らわしいわっ!!」

 

「つまり目の前の映像は小学四年生の少年がお世話になっているおじさんの娘さんに自分のお小遣いで楽しませようとする微笑ましい光景なのか」

 

「そんな風に見えないよ」

 

「かわいそうだけど見えないから」

 

「外見がなあ」

 

 ちなみに千秋君の動画投稿の収入はご両親が貯金しているらしいです。一切手を付けずに独立したらそのまま渡す方針なんだとか(税金とかの手続きはしてくれてるらしい)。

 

『なあに⤴おじさんだあれ?⤴』

 

 話しかけてきたジェントル・クリミナルに対して下から見上げるように顔をグイと上げながら問いかける千秋君。うん、ガンくれているようにしか見えないなあ。

 

「自然なこの仕草、その道のプロかコイツ」

 

「どの道だよ」

 

「決まってんだろ、チンピラのプロ」

 

「凄いのか凄くないのかわかんねえなソレ」

 

 あまりにもどうに入った千秋君の仕草にチンピラのプロ認定、ヒーロー資格仮免試験に雇われたHUCの皆さんという例があるから本当にいるかもしれないのがなあ。

 

『え、いや、誰と、ていうか、その、』

 

「「「どもってるーー!!」」」

 

「いやビビってねえかコレ」

 

「まさか、ジェントルはヒーローを返り討ちにしたこともあるヴィランだろ。こんな子供(見えないけど)にビビるかよ」

 

『そそそその子供を離してここここちらに渡たたたすんだ』

 

 画面の向こうのジェントル・クリミナルの顔が真っ青だよ。マッサージ機みたく震えているし、本当に怯えているみたい。

 

「ビビってるな」

 

「ビビってるね」

 

「そのだね、ヒーローやヴィランってコスチュームのせいか逆に怖くないのだよ。でも彼みたいなガチめなチンピラとか黒服スーツの人は普通に怖くて」

 

 弁明するかのように元ジェントルは言う。けどその理屈は分かるんだよなあ。

 

「ちょっと分かるかも」

 

「ケロ、覚えがあるわね」

 

「あー、コスチュームのせいで現実味が無くなってるってアレか」

 

「実用品なんだが物によっちゃデザインがコスプレ感あるからな」

 

「ヴィラン捕縛時に野次馬が絶えない原因の一つとも言われてますわね」

 

「ヒーローショーの認識があるんだよ危ねえのに」

 

「オイラも警官の格好した人とか超怖いし」

 

「「「それは別の原因だろ」」」

 

『ああん⤴エリちゃんを渡すわけないじゃあん⤴おじさんこそ回れ右して帰りなよお⤴』

 

 画面の向こうの千秋君はエリちゃんをギュっと抱きしめてからそんなジェントル・クリミナルに対して強気に言い返していた。でもこれって、

 

「マジでチンピラみてえだなコイツ。本当に小四かよ」

 

「君は人のことを言えないからね、当時の自分を思い出してかっちゃん。あと千秋君だけど知らない大人に話しかけられて自分だって怖いのに、エリちゃんを守るために必死に頑張って立ち向かっているだけだからね」

 

「マジ?」

 

「状況と聞いた性格からしたらそうであってもおかしくはないが」

 

「ホラ、ここ」

 

 画面を指差すと千秋君の目元は涙がこぼれそうだった。記憶の精霊がわざわざ拡大してくれてようやく分かることだけどね。

 

「うわあ」

 

「まあ怖いわな」

 

「横にラブラバもいるしな」

 

「ジェントル最低」

 

「否定は出来ないが、この時は本当に誤解していただけなのだよ」

 

 こんな外見の勘違いがあるから見た目十人十色な個性社会は怖いんだよ。それでもグランバハマルよりはマシだけど。

 

『ブブー!!ブブー!!』

 

「あ、これ」

 

「防犯ブザーか?」

 

『その音に気づいて私はホッとした。青年の外見に怯えて硬直していた私だが、少女は自らブザーを鳴らして助けを求めることができたのだ。ならば私がすべきことは一つ。ヒーローが来るまでなんとか足止めをしよう』

 

「逆だけどね」

 

「不審者はお前だ」

 

 その喜劇状態の画面の向こうでストンと軽い音がした。そう高い所から着地したようなそんな音が。

 

『その子達に、』

 

『ん?』

 

 そしてジェントル・クリミナルが振り返れば。

 

『うちの子達に何をしている!!』

 

 かつてないほどブチギレた異世界おじさんが光剣構えてそこにいた。

 

「「「「うわあ」」」」

 

 眼鏡が光に反射して輝いてるとこ怖いよね。

 僕には画面の向こうの千秋君とエリちゃんと同じく凄く頼もしく見えるけど。

 

 プツン。

 記憶再生はそのシーンを最後に消えるのだった。

 

「? 消えたけど」

 

「後で聞いた話によると瞬時に切り伏せられて気絶したらしい。驚いたよ目を覚ましたら知らない天井だったからね」

 

「自業自得だけど藤宮さんと敬文君が怒ってて凄く怖かったわ。そして警察官である塚内さんのお世話になったのよ」

 

 そしておじさん経由でシールド博士と知り合ってスカウトされたのかな?セガとかのこともあったのだろうし。

 

「結局、外見から勘違いしてガキ共に絡んだら現れた保護者に撃退されて改心したってことか」

 

「そのとおりだけど簡潔にまとめすぎだよかっちゃん」

 

 色々とあったじゃん。

 

「その後にヴィラン活動の一区切りとして動画の編集をしたね」

 

「前見たアレか」

 

「力作だったわ、セガの件とか私にはよく分からないトコロもあったけれど」

 

「分からない人には分からないなりに伝わるモノはありましたから」

 

 真剣だったんだ、という叫びが伝わってくる動画だったなあ。

 

「さて、長いこと過ごしてしまったが仕事に戻らねばいけない。失礼させてもらうよ子供達よ」

 

「もうジェントルをヴィラン扱いして捕まえたりしないようにね」

 

「すいませんでした」

 

「お仕事中にご迷惑をおかけしました」

 

「よいのだよ、君達も頑張ってくれたまえ」

 

「雄英高校職員の一人として楽しみにしているわ」

 

 僕の勘違いから始まった彼らとの対話はこうして終わった。ヴィランだからと警戒していた皆も彼らの人柄に触れて、もう大丈夫だと思ったようだ。ただ帰る時すれ違いざまに「後で少し話したいことがある」と元ジェントルから告げられた。

 まだ何かあるのだろうか。

 

 

 

 

「すまないね緑谷出久君。どうしても君と話したかったんだ」

 

 夕焼け映える雄英高校校舎の屋上、遮る建物がないせいかまるで夕焼けの中にいるかのようだ。

 

「話したいことって何ですか?」

 

 詫びを入れろとかそんなことでないのなら、僕だけと話したいことがなにか想像もできない。

 

「異世界おじさん、についてかな。先程はあまり彼には触れてなかったからね」

 

「それは、確かに」

 

 同好の士だから親しくなるのは理解できる、けど尊敬するには些か足りないように思える。

 

「私はね、後世に名を残すことを夢見ていた。教科書に載るくらい偉大な男になりたかった」

 

 夕焼けの光の中に表情を隠しながら今までの人生を彼は語る。

 

「けれど無理だった。遊び半分じゃなく真剣にやって私は何もかもが足りない落伍者だった」

 

 語る彼がどんな顔をしているのか。多分それは知っている顔だ、昔の僕と同じ顔。

 中学のあの事件まで、身の丈に合わない夢をみていただけの自分と同じ顔なんだ。

 

「そんなある日事件を犯した、できもしないことをやろうとして失敗したんだ」

 

 そこも同じ、結局僕はヘドロヴィランからかっちゃんを助けられたわけじゃない。助けたのはオールマイトだった。

 

「私は落ちる所まで堕ちて、名を残せれば良いとヴィランになった」

 

 そこからきっかけがありジェントル・クリミナルとなったのか。

 あるいは僕もそうなっていたのかも知れない。そんな風に思えてしまった。

 

「陽介君に打ち倒された後、私は反省などしていなかった。またあの無為な時間を過ごすだけの日々に戻るのかと絶望したんだ」

 

 倒されただけで改心するヴィランなど存在しない。なにせ彼らは救われてない、負けたとしてもより下に落ちるに過ぎないと理解しているのだ。

 

「けどね、私の過去を見た陽介君はね。

 怒ってくれたんだ、憤ってくれたんだ。罪は罪だから罰則は受けるべきだ、でも助けようとした私の想いの否定は間違っているとね。それを理由に迫害するなんて間違っていると」

 

 らしいな、全く。

 

「彼の価値観がズレていることは理解している、17年前のこちらの常識を今に当てはめているだけだとね。でもね、それでも」

 

 ジェントル・クリミナルは胸に右掌を当てながら言う。

 

「私は救われたんだ。あの日の愚行は過ちだった、けど人を救おうとした想いは尊いのだと、そう彼に肯定されてね」

 

 僕もそうだった。

 堕ちた想いは、その絶望は、たった一つの言葉で救われる。そのことを僕も事実として知っている。

 

「だから再び光の下で歩きたいと思った、それが私 飛田・弾柔郎の再起なんだ」

 

 彼はそう言って右手を差し出して。

 

「君も私も陽介君に救われた、だからこれから同じ人に救われた者同士、友として親しくして欲しい。よろしく緑谷出久君」

 

「こちらこそよろしくおねがいします、飛田弾柔郎さん」

 

 僕はその手を掴んだ。

 新しい友の手を。

 





 補足説明、設定。
 藤宮千秋君。
 ランドセルを背負うだけでギャグになる小学四年生。エリちゃんの事情を深くは知らないが、楽しいことを教えたくて駄菓子屋に誘う。末っ子だから兄みたいなことができて嬉しい。
 
 エリちゃん。
 巻き戻しというか逆行化というか、触れた相手を成長を戻すというチートレベルの個性待ち。
 さらに最近、怒れる異世界おじさんの召喚というバグレベルの個性も会得した。最近は駄菓子が大のお気に入り。
 
 防犯ブザー。
 紐を引っ張れば音で助けを呼べる。さらに精霊経由で異世界おじさんにも伝わる仕組み。

 飛田弾柔郎。
 ヒーロー落伍者にしてセガ挫折者であり迷走したフリーターにして傍迷惑な動画投稿者。
 あの日の肯定が救いとなった。

 相場愛美。
 ストーカー。

 異世界おじさん。
 基本やらかす人だが、意図せず誰かを救うことも多い。飛田家への落書きは普通に不快だった。

 


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106話 閑話 駄菓子屋


 会話だらけです。
 本編とはあまり関係がありません。
 


 

「駄菓子屋か、行ったことねえな」

 

「近所に無かったよね。お菓子を買うのもコンビニだったし」

 

「コンビニでお菓子買う人はブルジョワなんよ」

 

「確かに高いわよね、少し遠くてもスーパーまで足を運んだわ」

 

 飛田さんとの話からA組では駄菓子屋について盛り上がっていた。

 

「俺も行ったことねえな、そもそも菓子自体あんまり食わなかった。貰いもんのケーキとか和菓子とか果物があったらだされるくらいだったな」

 

「私もその駄菓子というものは食べたことがありませんわ、カルメ焼きとかでしょうか?紅茶を飲む時には頂くのですが」

 

「間食はよくないぞ君達!!」

 

「轟は家庭の事情って感じで、ヤオモモはブルジョワだなと実感するな、飯田は真面目過ぎ」

 

「学校帰りの買い食いとか楽しいじゃんかよ」

 

「そーだそーだ」

 

 そもそもお菓子の買い食い経験の無いの子達もチラホラいるよね。

 

「俺は自分で作ってたな。その方が安いし、作るのも楽しいしよ」

 

「いやそれは同じ量を食う場合の比較したらだからな。普通はケーキまるごと一つなんて食わねえよ」

 

「楽しいのは分かるけどな」

 

「百円以下のお菓子をな、どの組み合わせで買えば最大限に満足するか計算して買うんよ。コスパや、最高のコスパを探るんや」

 

「買わなきゃタダだろ?」

 

「「「それ言っちゃ駄目なヤツ」」」

 

「台無しだよ轟」

 

「ま、菓子が必要かどうかは別の話だから」

 

「味とか空腹だからで食うもんじゃねえしな」

 

「甘味を求めるのは生物の本能らしいがな」

 

「駄菓子屋なら菓子の他におもちゃとかクジとかやってるみてえだ。縁日みてえだな」

 

「駄菓子屋さん、ぜひ行ってみたいですわ!」

 

「ヤオモモってそういうトコあるよね」

 

「近所には、ねえか」

 

「ちょっと遠出するくらいの場所にあるみたい」

 

「じゃあ皆で行こうよ駄菓子屋さん!!」

 

「この人数だと迷惑だろうから数人ごとに分かれてだな。店舗もそう広くはないだろう」

 

「小学生の子達の迷惑になっちゃ駄目だしな」

 

「ふふふ、長年の研鑽の末に至った黄金の組み合わせを披露したるわ!!」

 

「インターンの給金やら全寮制で家賃が浮いて金に困ってないだろうに」

 

「庶民系だからじゃね?」

 

「厳選することもそれはそれで楽しいのよ」

 

 ハイツアライアンスで盛り上がる駄菓子屋の話。特に麗日さんが熱く語り、八百万さんが興味津々みたいだ。  

 お菓子かあ、僕は僕でヒーロー関連のオマケがあるかどうかが買う基準だったからなあ。

 皆との出かける予定に僕はワクワクしていた。

 

 なお後日、麗日さん、八百万さん、かっちゃんと駄菓子屋さんに行ってみた。駄菓子ソムリエを自称する麗日さんがコスパ抜群な組み合わせを披露してくれたり、八百万さんが駄菓子とかスーパーボールとかおもちゃのピストルとかに目をキラキラさせてはしゃいだり、かっちゃんがにんじん(ボン菓子)を幾つか買ったりと楽しい時間を過ごしたんだ。

 

 

 

 

「駄菓子かあ、エリちゃんも喜んでいるねおじさん」

 

「うん、千秋君には感謝だね」

 

 市内某アパート。

 そこにはやらかし(精霊のアレコレ)一つで人類を滅ぼせる異世界帰りのおじさんとその甥っ子にして闇の精霊もドン引く程に心に闇を抱えた青年が棲息していた。

 なお新たな同居人であるエリちゃんはセガ界に君臨した小さな天使である、異論は認める。

 

「あんまりエリちゃんが喜ぶから微笑ましくて、その姿とその時食べてる駄菓子の説明を加えてネットにアップしたら。

 メッッッチャバズってるっ!!やっっったああああ!!」

 

「あーこれ、異世界おじさん負けそうなくらいの人気だよ、一年以上も頑張ってるのになあ」

 

「エルフ動画では勝ってるから大丈夫、大丈夫」 

 

「全然大丈夫じゃないよっ!!プロとしてのプライドがこっちには」

 

「プライドで人気がとれるかあっ!!

 動画視聴数が伸びるのかあっ!!

 視聴者の求めているものに応えないで、それでもプロを名乗る気かあっ!!」

 

「た、敬文。

 

 なんか都合良く言いくるめようとしてない?」

 

「そんなことないよ。うん全然」

 

「そーお?」

 

「そういえばさおじさん。

 おじさんは駄菓子屋に行ったことってあるの?僕が小学生の時にはもうやってなくて」

 

「俺が高校の時から17年だからなあ、さすがに閉店しちゃうか。小学生の時の通学路に2、3軒はあったんだけどなあ。あと俺はほとんど行かなかったぞ」

 

「え、どうして?友達とか行ってたんでしょ?」

 

「敬文。

 SE●Aハードを選んだ人間がそういった人生を歩めると思うなよ?」

 

「(この人はなんでゲーム機にそこまで人生を引っ張られてるのだろう)」

 

「それにな、駄菓子屋って子供達の社交場みたいなもんでさ」

 

「だったら尚の事」

 

「社交場って社交的じゃない人間はお呼びじゃないんだよ」

 

「いや、あのおじさん」

 

「何気なく立ち寄った時に同級生達から向けられた、なんでコイツ居るの?っていう態度と視線が辛くてなあ」

 

「だからおじさん!!」

 

「避けてるうちにこんな年になってた」  

【注、このエピソードはフィクションであり作者の実話でも過去でも心の傷でもトラウマでもありません。繰り返しますこのエピソードはフィクションであり】

 

「なんでこの人は至るところに地雷があるんだろう」

 

「あとけっこう近所の子供達は縄張りみたいな扱いしてたぞ。お気に入りの遊び場だから」

 

「ソウデスカ」

 

「エリの事も心配してたけど千秋君のおかげで大丈夫みたいだったし良かった良かった」

 

「なんか一見さんお断りな老舗とか、紹介者いないと入店できない高級店みたいだね」

 

「実際そんな空気あったぞ、存外敷居が高かった」

 

「地元密着だからこそだね」

 

『シバザキさーん、お届けものデース。シバザキさーん』

 

「ん?何か注文したのおじさん」

 

「いや最近は特に。ソフトなら睡さんとか塚内君とかデイブが貸してくれるから」

 

「皆さん、保存用とプレイ用と貸出用の最低3本は所持してるからね」

 

「敬文もエリが来てから自重してたよな、気にしなくて良いのに」

 

「色々と物入りだし、エリちゃんのことを優先してあげたいじゃん」

 

『シバザキさーん!!』

 

「「あ、はーい」」

 

 

 玄関に受け取りに行ったら山のようなダンボール箱が積まれていた。

 送り元は死穢八斎會。

 ダンボールの中身は全て、駄菓子だった。

 どうやら会長さんもエリちゃんの動画を見てくれたらしい。孫のために、孫が喜ぶように大量の駄菓子を送ってくれたみたい。極道はテキ屋の元締めでもある、だから駄菓子問屋との付き合いもあるのだろう。

 

「どうしよっかコレ」

 

「駄菓子屋を開けそうな量だな」

 

 少量の駄菓子だから間食を許しているけど、こんなに食べさせるわけにはいかない。

 かといって孫を想う祖父の気持ちを無下には出来ず、僕とおじさんは頭を抱えることになった。

 

 




 
 補足説明、設定。
 
 A組のお菓子事情。
 ほとんど食べない→轟、八百万、飯田、青山、尾白。
 友達と買い食いしてた→芦戸、切島、瀬呂、葉隠、上鳴、耳郎。
 自分で作ってた→砂藤。
 親御さんの手作り→口田。
 むしろオマケメイン→緑谷、爆豪、常闇。
 弟妹を優先→蛙吹。
 エロス優先→峰田。
 入店拒否→障子。
 駄菓子のプロ→麗日。
 となります、障子君の事情が暗黒ですが色々考えると面白いネタです。障子君は暗黒ですが。

 駄菓子ソムリエ。
 その日の予算、体調、気分から最適かつ高コスパな組み合わせを構築する駄菓子のプロ。
 麗日お茶子レベルとなれば他の人の分まで可能。

 エリちゃんと駄菓子。
 ネット上にアップされた動画。エリちゃんの純粋で素直な反応と可愛らしさ、さらに駄菓子自体の懐かしさから大ブレイク。
 
 おじさんと駄菓子屋。
【このエピソードはフィクションであり作者の実(以下略)】
 縄張りみたいな空気はけっこうありました。それを含めて楽しい場所だったから減少していることが残念だと思ってます。

 死穢八斎會会長。
 孫のために駄菓子の大量発注した祖父。
 駄菓子は5000種類あるとかないとか。



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107話 文化祭前 異世界おじさん宅。


 投稿遅れてすいません、ドラゴンクエストモンスターズ3をやってました。システムの具合がとても良い感じです、タマゴがかなり手間なのが苦労しましたが。

 文化祭が終らないですね。


 

「お疲れ様ー」

 

 雄英高校職員室、全寮制もあって教職員も雄英高校敷地内に暮らす中で私は特例として自宅通いが認められている。それは内通者疑惑が完全に晴れているという事実と本人の意思の尊重という理由、さらに有事に備え異世界おじさんと強固な繋がりをもっておきたいという校長の計算のためだ。もっとも表情の分かりにくい齧歯類フェイスでありながらもニヤニヤとしている態度から、その計算もあくまで建前で単にかつての教え子の恋愛状況を愉しんでいるだけかもしれない。

 まあよいか、今日は陽介さんの所で夕食。それだけで大抵の事は許容できるというものだ。

 

 

「ただいま~」

 

 自室にて着替えと化粧落としを済ませてからあらためて挨拶。もう私はこっちでこれを言わないと帰ってきた気にならない。

 

「おかえりなさい」

 

 それは返事をしてくれる想い人がいるからだろうな、と自分の発想に恥ずかしくなってしまう。

 

「あーいい匂い。今日は餃子だっけ?」

 

 漂う香ばしい匂いに空腹もあって食欲が煽られる。帰宅前に送られてきたメールで伝えられていてとても楽しみにしていたのだ。

 

「うん、エリが手伝いたいって言うから藤宮さんの案でね。餃子の時は子供が包む担当なんだって」

 

 つまり自家製餃子か。

 本当に何年ぶりだろ?下手したら実家を出てから食べてないから(ピー)年振りかしら。

 そもそも餃子自体、人に見られる立場になってからあまり食べてない。年頃の女として口臭が気になる食べ物だし、女ヒーローはイメージ商売だから人目に付く場所だと食べるもの一つにも気にしてしまうものだ。

 

「もうエリったら初めてなのに凄いよ!あんなに綺麗に沢山包めて、餃子作りの天才かもしれない!」

 

 それはそうとエリちゃんの事で我が事のように喜ぶ陽介さんが可愛くて尊いわ(注、恋する乙女フィルターごしの視点。実際は異世界おじさんのアレな笑顔)。

 

「ほらー二人とも席について、もう焼きあがりますよー」

 

 焼き担当は藤宮ちゃんなのね。エプロン姿の彼女とテーブルをセッティングする敬文君とエリちゃんで若夫婦に見えるわね、羨ましい光景だわ。

 

「「「「「頂きまーす」」」」」

 

 皆揃って食事をはじめる、あの日強引に押しかけてからできるようになった心温まる当たり前。まあ一人暮らしの私だけじゃなくて、異世界生活をしていた陽介さんと実家がアレなアレである敬文君と辛い境遇だったエリちゃんもそう感じてるみたい。

 一家団欒って本当に尊いのね。

 

「今日もお疲れ様でした睡さん」

 

「ありがとう陽介さん」

 

 グラスに注がれたビールを餃子と共にあおる。

 

「プハーッ、熱々っ餃子にキンッキンに冷えたビールの組み合わせはサイッコー!!」

 

「もうオッサンみたいですよ睡さん」

 

 女としてどうなんだと呆れ気味に藤宮ちゃんは言うけど仕方ないのよ。だってビールを注がれた時に夫婦みたいって思っちゃったから顔が熱いんだもん。

 

「独身女ヒーローなんてプライベートはオッサンみたいな生活よ。仕事終わったら自室で楽な格好してワンカップ片手にコンビニおでんを摘んでいるわ」

 

「聞きたくなかったそんな現実」

 

「いやまあプライベートだからどうこう言わないけど、もっとこうキラキラしてるものだとばかり」

 

「お父さんコンビニおでんってなーに?」

 

「そういえば久しく食べてないな、今度一緒に買いにいこうか。はんぺんとか白滝とか竹輪麩とか美味しいぞお」

 

「コンビニおでんにコラーゲンを入れることで美容に気を遣ってる気分に浸るのよ」

 

「睡さんの実体験だこれ」

 

 そんな女ヒーローでもイレイザーヘッドよりはマシな生活してるのよね。アイツは食事はゼリー食で済ますし、どこでも寝袋で寝るし、給料は装備か募金か猫カフェに費やすってめちゃくちゃな生活してるから。早く13号でもミスジョークでもくっつきなさいよ。

 

「睡さん、ビールの泡がヒゲになってますよ」

 

「まっしろなおヒゲだ」

 

「あうう」

 

 口元をハンカチで拭うなんて不意打ち気味なことは止めて陽介さん。こっちは恥ずかしいのよ。

 

「睡さんってオッサンと乙女が行ったり来たりしてる人だよな」

 

「おじさんが絡まないと姉御気質なのにね」

 

「そういえば冷蔵庫に沢山ビールがあったけどどうしたの?おじさんは飲まないし敬文も苦手だったよね?」

 

「塚内さんが持ってきたんだよ。最近疲れてるのかセガをする時に飲んでる」

 

「あの人もすっかり馴染んでいるなあ」

 

「駄菓子のイカを消費してくれるから有り難いよ。今日も誘ったけど仕事が忙しくて無理だったみたい」

 

「それは残念だったね」

 

「うん、電話の向こうで『オノレェヴィランガァ』って怨嗟の声を上げてた」

 

「そんな苦労する人達がいてくれるから今の平和があるんだな」

 

「だねえ」

 

「ちなみにシールド博士は七瀬楓を再現したアンドロイドの件が娘さんにバレて折檻されたみたい」

 

「現役女子高生とアンドロイド、どっちがマシなんだろうな」

 

 

 そんな食事の時間も過ぎて後は藤宮ちゃんを送るまで雑談して過ごす。いつもは陽介さんの異世界話になるのだけど今日は別の話題になった。

 

「雄英高校文化祭かあ、楽しみだなあ」

 

「生徒達が頑張っているからどの出し物も期待に応えられるわよ」

 

「イズク君のクラスのライブは絶対に行かないとね。そうだ、せっかくだから敬文は藤宮さんと二人で見て回ったら?エリは俺が面倒みとくから」

 

 その言葉を聞いた二人は衝撃を受けたようなリアクションをして、

 

「そんな、おじさん」

 

「なんでですか、おじさん」

 

「「ボク(私)もエリちゃんと見て回りたいよ(です)っ!!」」

 

 揃ってそう叫んだ。

 

「あなた達、年頃の男女がそれで良いの?」

 

 今のって陽介さんが二人がくっつくようにと気を遣ったのよ。

 

「じゃあ皆で見て回ろうか、睡さんはお仕事になっちゃいますよね」

 

 ああ陽介さん、そんな寂しそうに言われてしまうと私はもう参ってしまいます。

 

「なんとかなりますよ、ヒーローですから」

 

 そらもうスケジュールをなんとかするしかない。そうどんな無理を通してでも。

 

「ヒーロー関係ないような?」

 

「これは教師としての仕事だよね」

 

 お黙りそこの若夫婦。

 陽介さん達との文化祭を見て回る時間の捻出、これはプルス・ウルトラしかないわね。

 

 

 

 エリちゃんの加わった新しい僕達の日常。藤宮発案の餃子作りはとても楽しく団欒って感じがした。僕の家族がこんな風だったのはいつ頃までだったっけ。

 睡さんのおじさんへの反応は見ていて飽きない。このまま上手くいったら良いなと甥として思う。

 イズク君も準備を頑張っている雄英高校文化祭、今から楽しみだなあ。

 

 あとエリちゃんが自分が包んだ餃子をお祖父ちゃんにも食べさせてあげたいと呟いていたから、おじさんと相談して焼く前の餃子を死穢八斎會へと送った。組長自ら焼いた餃子はとても美味しかったそうです、ただ付けすぎたタレがしょっぱくて目に染みたとか。

 



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108話  文化祭直前。


 なんとか書けました。
 けど話は全然すすんでません。



 

 長かった準備期間も終わり、いよいよ迎えた雄英高校文化祭当日。

 はじめて挑戦することだらけの出し物はしっかりと形になり、後は来場してくれる人達に自分達の成果を見てもらうだけだ。

 楽しんで貰えるかなと不安に思う、瀬呂君の言うように素人芸なんて見るに堪えないかもしれない。

 けど見てほしい、楽しんでほしい。

 だって僕はこの一ヶ月が楽しかったのだから。

 

「そんな気分に僕が浸っているわけだけど、どうしたの峰田君?」

 

 ハイツアライアンス共有スペースのソファにて、峰田君はそれはもう見事なまでに、

 某ボクシング漫画のワンシーンの如く真っ白に燃え尽きていた。

 

「これから文化祭が始まるんだけど」

 

 なんで始まる前に終わってるの?

 

「一ヶ月」

 

「?」

 

「30日だ」

 

 うわ言のように呟かれる言葉というか時間?

 

「720時間で43200分」

 

 あーこれってもしかして。

 

「つまり2592000秒だ」

 

 峰田君の言葉の意味に薄っすらと気づいて僕は心配して損した気分になってきた。

 

「それだけの時間があって、なんで女の子から一度も誘われないんだチクショウーー!!」

 

 漢 峰田実、魂の叫びである。

 

「全世界の男子高校生の九割九分九厘は女子から文化祭を一緒に回ろうと誘われないから」

 

 悲しいけどコレ現実なのよね。 

 

「雄英高校を合格したオイラがその一厘に入ってないわけがないだろうが!!」

 

 うーんなんたる自信、なんたる過大評価。

 そして微妙に否定しにくいなあ。前に聞いた話だと女子生徒の中にはヒーローになるためやヒーロー関連の仕事に就くためでなく、将来を考えてハイスペック男子とお近づきになるために雄英高校に入学する人もいるらしい。そんな目的の人は雄英高校に相応しくないと思われそうだけど学校側もハニトラ対応練習や、ヒーローの生涯独身率改善になるとかで放置してるようだ。だからヒーロー科で将来有望でチョロそうな峰田君は彼女達には狙い目な筈だけど。

 

「スペック高い男子達ばかりならイケメンを選ぶのが世の常だよね」

 

 普通科と経営科の生徒も雄英高校生、戦闘能力以外は劣りはしない。なら容姿や安全性や日頃の行いや付き合いで選ぶって。さらに雄英高校生なら有名大学進学は確定で大手企業に就職できるだろうから将来性抜群だし。

 

「おかしいっ!!これはありえないっ!!こんな現実間違っているっ!!」

 

「人の話を聞いて」

 

 但しイケメンに限る、という当たり前過ぎる現実をなんとか伝えようと試みるも聞きたくないとばかりに峰田君は叫ぶ。

 

「そうだこれは誰かの個性のせいだ!!誰かがオイラが誘われないように個性を使用してるに違いない!!」

 

「そんな個性は流石に無いでしょ」

 

 特定の個人を女子から誘われないようにするなんて、そんなギャグみたいな個性が有るわけ、

 

「前に緑谷がオールマイトから聞いたって言ってたアメリカNo.1ヒーロー スターアンドストライプの『新秩序』が発動しているんだっ!!そうに決まってるっ!!」

 

 あったよ、そんな個性。

 使い道を間違っているけど。

 

「『峰田実は女子生徒から誘われない』って新たな秩序が設定されているんだっ!!」

 

「『世界でもっとも無意味かつ無駄に使用されたバグ個性』でギネス認定されそうなことをしないと思うよ」

 

 個性関連のギネスブックは見てて飽きないよね。ギャグみたいな事を全力でやっているし、ヒーローの偉業とかも記載されているから。ただ更新頻度が高いのが難点だけど。

 

「ああそうさ、そうでもないと俺達が誘われないのはあまりにもおかしい」

 

「君もかい」

 

 ビシッとポーズを決めて登場する上鳴電気君。

 

「俺なんて休憩時間のたびにわざわざ雄英高校敷地内の女子のいる所へ足を運んで、障子や口田と談笑しながら『ライブの後は暇なんだぜ☆』ってさり気なくアピールしまくったのに誘われてない。これは何らかの力が働いているに違いない」

 

「そんな不審者に声をかける存在は教師か警備員かヒーローくらいだよ。巻き込まれた障子君と口田君はお疲れ様です」

 

「気にしてはいない」

 

「上鳴君が必死だったから」

 

 そんなことをしながらバンド演奏をあのレベルでできるようになったのは素で凄いと思うけど。

 

「「なのになんで誘われないんだー!!」」

 

「ほら、誘われない理由として雄英高校の男女比率とかもあるから、ヒーロー科以外も男子が多いじゃん」

 

 そんな非モテを嘆く二人を宥めようと思いつく限りの理由を言ってみる。

 

「それに雄英高校文化祭は一般のお客様がたくさん来られるからお店をやるクラスは容姿の優れた女子を自由にできないんじゃないかな」

 

「まあ配膳を女子がやってくれるだけで食い物は万倍旨くなるしな」

 

「同じ店なら女子かどうかで買う店を決めるな」

 

 欲望に忠実すぎだよ二人共。

 

「ヒーロー科とサポート科は基本的に忙しくて無理だから君達が誘われないのも仕方ないって」

 

「そうだよな」

 

「ああ、俺らがモテないからじゃないんだな」

 

 いやそれは十割君達がモテないからだと思うけど黙っておこう。

 

「おーいなんの騒ぎだお前ら」

 

「朝から元気過ぎだよ」

 

 ようやく二人が落ち着いたのところで切島君と尾白君が現れた。なんかテンション低めだけど。

 

「バンド発表の後に出し物を見て回ろうって話しててね。盛り上がっちゃった」

 

「物は言いようだな緑谷」

 

 いやほら女子と(誘われなかったけど)見て回ろうって話だから。

 

「そうか(ズーン)」

 

「そうなんだ(ズーン)」

 

 なんでこの話題で君達まで落ち込むのさ。

 

「切島は芦戸を誘うとか言ってなかったか?」

 

「尾白君は葉隠さんとホラーハウスに行こうとか言ってたよね」

 

 それが理由じゃないかな。

 障子君と口田君の言葉で二人が落ち込んでいる訳の察しがついた。

 けどあの二人が断るとか想像できないな。こういったイベント大好きで友達感覚のまま異性とか意識しないで見て回りそうなのに。

 

「声をかけたんだけどよ」

 

「駆舎那先生の即売会に行くって断られた」

 

「「「「(哀れな)」」」」

 

「むしろ即売会に一緒に行かないかって」

 

「息を荒げながら誘われた」

 

「「「「(どんな罰ゲームだ)」」」」

 

「青春って」

 

「なんだろうな」

 

 煤けた表情の二人に僕達はかける言葉が見つからなかった。

 

「記憶、消しとく?」

 

「それは解決にはならないだろ」

 

「同じことの繰り返しになりそう」

 

 どうやら僕が二人に出来ることは何もないようだった。

 

「爆豪なんて他のクラスの女子に誘われたのによう」

 

「その場で断ってたけどね」

 

 いやその情報はまずいって。

 

「あああん?!フザケンナよ爆豪!!」

 

「これは浮気だよな、浮気の現行犯だよなあ」

 

 鎮火した焔にガソリンがあ。

 

「オイラ達がフリーなのになんでアイツは誘われてんだよ!!」

 

「つーか緑谷の話と違うじゃねえか?!」

 

「いや但しイケメンは別だから」

 

 かっちゃんはモテるからなあ。

 

「ミルコにチクろうぜ」

 

「連絡先なんて知らねえよ」

 

「思い出せミルコの個性を」

 

「ウサギっぽいことは大抵できる」

 

「「なら」」

 

「「屋上から叫べば聴こえるよなあ!!」」

 

 この二人は文化祭当日に何をやらかす気なんだろうか。かっちゃん共々伝説になるよ。あ、

 

「随分ゆかいなことをしようとしてるなテメエら」

 

 額に青筋を浮かべたかっちゃんが嫉妬で騒ぐ二人の肩を優しく叩いていた。

 

「ちょいとこっちこいや」

 

 BOOM!!BOOM!!

 

 

「おい演出班」

 

「うす」

 

「おお」

 

「確か予定だと開始と共に花火を二発打ち上げるんだよなあ」

 

 かっちゃんは焦げた二人の首根っこを掴んで持ち上げている。

 

「いえそんな演出ないです」

 

「そうっす。緑谷が煙幕で竜を形作って走らす予定ッス」

 

「(コクッコクッ)」

 

「そうか、アドリブで花火が欲しければ言えよ?いつでも打上げてやるから」

 

「「「わかりました」」」

 

 かっちゃんの目はかなりマジだった。

 というか文化祭開始までにこの二人を僕が治すんだろうな。

 

「ところでかっちゃんはなんで誘いを断ったの?ミスコンを見にいかないからフリーだよね」

 

「ミルコ以外の女と二人で出歩く気なんかねえよ」

 

 かっちゃんって普通にミルコのことが好きだよね。実に漢らしい言葉だ。

 

「皆そろそろ会場に移動しよう!!」

 

「峰田と上鳴は爆破オチか、アリだな」

 

 飯田君達も降りてきたし移動しないとね。そして轟君、ライブで爆破オチはしないからね。

 色々あった一ヶ月。

 いよいよ本番だ。

 





 文化祭開始前の早朝の出来事で一話を使う作者がいるらしい。
 ヒロアカ世界のギネス記録はかなり楽しそうなネタですが、犯罪ネタとかヤバそうですね。


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109話 想い


 なお藤宮千秋君は雄英高校関連の動画投稿者として有名になってしまったのでエクトプラズム先生に付き添われながら文化祭を回っています。ファーストコンタクト時に二人とも顔怖い(エクトプラズムも素顔)と思ったそうです。お客からはスタッフか生徒だと勘違いされてます。



 

『ねえ緑谷。雄英に入ること、ヒーローを目指すことを悩んだりした?』

 

 なんでだろうね。

 この会話を思い出すのは。

 トラブル無く雄英高校文化祭が開始して少々時間がたち、いよいよ僕達一年A組の出し物の時間。

 今回の出し物の中心人物であった耳郎響香さんとの文化祭準備期間中の一幕。普段はあまり話さない、というか無自覚女たらし(?)と普段は敬遠している彼女とクラス委員長であったからか、演出班のまとめ役だったからか、文化祭準備期間中に会話する機会が多かったのだ。

 確か僕はあの時になんて答えたかな?

 照明の置き場である観客も皆も良く見える場所で、観客よりも良く見えるこの場所でなぜかそんなことを思い出していた。

 あ、おじさんがエリちゃんとミッドナイト先生を連れて来ている。

 おじさんはエリちゃんがよく見えるようにと抱っこしていて、ミッドナイト先生はそんなおじさんを支えるように寄り添っていた。まるで夫婦みたいに見えるから早くくっつけば良いのにと思う。まあでもグランバハマルであのアリシアさんですら堕とせなかったおじさんは女ヒーローの中でもトップクラスの美人であるミッドナイト先生でもそう簡単には堕とせないのだろう、おじさんの鈍感さは普通ではないからね。

 最初の頃はミッドナイト先生をエルフ再びだと心配してたけどプライベート時の姿を知った今ではお似合いの二人だと思っている。

 あ、敬文さんと藤宮さんの姿は見えない、おそらく藤宮さんにとっては妹分認識の茨さんが所属するB組の出し物に行ったのだろう。まあどちらかが見ていれば後で記憶再生の魔法で見れるからね、僕も興味あるから後で見せてもらおう。

 ちなみに担任として見に来た相澤先生も見つけた、その横でパトロールの時間である筈なのに何故か居てさらにOTLとなっているプレゼント・マイク先生も。

 まあプレゼント・マイクは置いといて、辛い経験をしたおじさんとエリちゃんにはその記憶を吹き飛ばすくらい楽しんで貰いたいなと思う。 

 

 そして始まる舞台。

 かっちゃんの爆破による音から奏でられる演奏とダンス班の揃った動き。合わせて僕は煙で形作った竜を飛び立たせる。同時にメインである耳郎さんが叫ぶ。

 

 

『ウチさ、文化祭とはいえ諦めた方の夢をこうして活かせるなんて思いもしなかった』

 

 演出の役割をこなしながらも脳裏をよぎり続ける耳郎さんとの会話。

 彼女は耳郎さんは進路で悩んで迷ったそうだ、なにせ彼女の好きなモノはヒーローだけではなかったから。ご両親が教えてくれた音楽も好きで、人の為に体を張って戦うヒーローがかっこよくて憧れていても、それでも迷っていたそうだ。

 僕は、どうだったかな。

 始まりは、なんだったかな。

 今は、どうなんだろ。

 僕は無個性だった。だからこそ皆とは違い屈折した形で夢を見ていた、歪でズレた視点で将来を考えていたんだ。

 進路希望からのかっちゃんのワンチャンダイブ発言、ヘドロヴィランの遭遇からのオールマイトとの出会い、そして交通事故からのグランバハマル行き。

 何もかもおかしくなったあの日。

 僕は何を思ったのかな。

 

『だから今この時が楽しくて嬉しい』

 

 楽しい、か。

 皆の楽しいという想いが、舞台で弾ける。

 弾けて広がって、来てくれた人達にも伝わる。

 少し前まで羨んで焦れていた個性が輝きを生み出している。

 一体となる体育館でエリちゃんもおじさん(ちょっとアレな感じに)もミッドナイト先生も衝動のままに叫んでいる。

 そんな中で僕は。

 この学校に入学できて良かった、と思ったんだ。

 

 無個性であることから夢は叶わないと知った。

 衝動のまま飛び出したことで救えた命があった。

 グランバハマルでの生活で、生きることの厳しさと襲いかかってくる理不尽の存在を実感した。

 グランバハマルで出会ったおじさんに揺らぐことの無い人としての在り方を学んだ。

 戻ってきたニホンバハマルでグランバハマルとは異なる人というモノの醜さを見た。

 そして、オールマイトが僕の進むべき道を導いて指し示してくれた。

 

 あの日までの僕はヒーローに成ると言ってはいても言っているだけの存在だった。夢を見てはいても、本心では身の丈にあった将来とやらになるんだろうなと冷めた目をして生きてきた。

 でも、身の丈にあった将来を選んでいたら今の、この光景を見ることは出来なかっただろうな。

 雄英高校に入学しなければ一年A組の皆と出会わなければ、こんなこの場の全ての人と一体となれる舞台を創りあげることが出来なかったんだろうな。

 ああこれはオールマイトのおかげなんだ。

 あの人が肯定してくれたから僕は此処にいる。

 あの人が僕に託してくれたから僕は皆と青春を過ごせるんだ。

 今しか無い、人生の輝かしい一時を。

 

『僕もさ、耳郎さんがヒーローの道を選んでくれて嬉しい。君(ヒーロー科の仲間達)とこうして出会えたことが何よりも嬉しいよ』

 

 そう笑いながら返したんだっけ。

 

『〜〜〜〜無自覚女誑しが。いつか刺されるよ、いや本当に』

 

『何故にっ?!』

 

『つーかウチが刺す』

 

『突然どうしたのさっ?!』

 

 その後に顔を真っ赤にした耳郎さんによくわからない反応をされたけどね。

 

「「「アンコール、アンコール!!」」」

 

 おっと予想通りの展開だね。

 観客からアンコールされることは織り込み済み、それを込みで時間と予定は組んである。

 

「氷嵐創映ー(レイベリオ ユールエルラン)」

 

 再び始まる二度目の舞台に合わせて氷の幻像を作り出す。グランバハマルでメイベルが得意としてロクに役に立たなかった魔法。同じ人物が二人に増えた舞台は先程よりも熱狂を増す。

 演出班として練習する皆をじっくりと観察したからこそ出来る荒業だね。

 しかしこんな使い方を出来るなんて思いもしなかったな。発案者の轟君にはプロデューサーの才能があるのかもしれない(実際は轟焦凍がメイベル見たさに緑谷出久に記憶再生を強請り続けた結果思いついたとか)。

 アンコールに応え、皆が再び力の限り盤上で飛び跳ねる。

 上からエリちゃんが両手を上げてはしゃぐ姿を見て胸に込み上げてくるものを感じ、抱っこしてるおじさんがテンション上がっていつものクリーチャーみたいな笑顔になっていたことから目を逸らし、そんなおじさんに目をハートにしながら見惚れてるミッドナイトにドン引きした。相澤先生はやるじゃねえかとニヒルに笑い、プレゼント・マイク先生はミッドナイト先生を見て絶望顔しながらもプロらしく場に合わせ、さらに見に来てくれた飛田さんが満足そうに笑っていて横にはストーカー疑惑の相場さんがカメラを激写中、家族で来てくれた洸汰君は僕を探しているのかキョロキョロしていて、プッシーキャッツの皆さんまで私服姿で参加していた。

 そして、僕に此処をくれたオールマイトが入口から僕を見つけてやったなと言わんばかりにグッと親指を突き上げてくれた。

 上がり下がりする感情がまるでジェットコースターみたいだ。

 でも、楽しくて嬉しいそんな時間だった。

 身の丈にあった将来ではあり得ない、ヒーローの道を選ばなかったら辿り着けなかった未来。

 そこに僕は居たんだ。

 

「やったね」

 

 終わった後に耳郎さんでパンと掌を叩き合わせる。

 これもまた青春らしい。

 後片付けをしながら僕は満足感に包まれていた。

 

 さて後は文化祭を回ろうか、男子達にクレープ屋は要注意と再度伝えて、峰田君に誘われたミスコンを見に行こう。

 

 

 しかし僕はこの判断を後悔することになる。

 僕は周囲をよく見ておくべきだった。

 そこにイソイソと走り去ったおじさんの姿があったことを。

 僕が自らの血反吐に沈むまで後○時間。

 




 
 あけましておめでとうございます。
 正月飾りもお節も餅も断固として用意しない作者でございます。
 現在原作では一話に満たないシーンで数話使っております。
 ライブシーンにイズク君のアレな内面と耳郎ちゃんとのシーンをぶちこみました。
 やはり文化祭の主役は彼女ですからね。
 ヒロアカ一話を見て思うのです、緑谷出久君は身の丈にあった将来を選んで幸せになれるのだろうかと(緑谷出久不在の雄英高校って犠牲が増えね?という点は置いとく)。雄英高校に入学できる学力のある無個性として悪目立ち(日頃のアレな姿も)して屈折した未来を歩むのだと予想してしまいました。
 だからこそ、この文化祭こそ学生らしい楽しい一時にして見ました。次話で地獄に突き落としますが(ボソリ)。
 雄英高校に通えてもっと良かったこと、クラスの皆と出会えたことをこれからも取り上げていきたいと思います。
 不定期ですが今年もよろしくおねがいします。


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110話 ミスコン


 全世界五百兆万人居るねじれちゃんファンの皆さん、ごめんなさい。



 

 さてミスコン。

 ヒーロー科一年の綺麗所がB組の拳藤一佳さん以外参加せず、さらにサポート科のメリッサと発目さんが参加しないので、いかにねじれ先輩と拳藤さんが参加しても正直物足りないなと思ってしまう(さらに参加しない三年の巨神兵先輩もガワは美人)。

 だが雄英高校文化祭でのミスコンは女ヒーローにとって将来に大きな影響をもたらすイベント。上位陣ともなればデビューしたてであってもヒーローランキングにすら影響をもたらすらしい。あとミッドナイト先生も在学中三年連続女王の座に君臨していたとか。

 そして今年度であるが、なんと一名のみだが一般参加も可能になったとか。本日来場された希望者から主催メンバーが選考するそうだ。峰田君情報ではプロヒーローであるマウントレディやピクシーボブも立候補したらしい。

 

「これは荒れるね」

 

 個人的にはこの面子なら付き合いのあるねじれ先輩推しだ。だが一般参加枠の存在によってこの伝統あるミスコンでかつて母校でリンゴを連続百個握り潰した記録を持つマウントレディが暴れまわるのかもしれない。

 しかしなんでだろう、さっきからワン・フォー・オールのフォースの個性がずっと警鐘を鳴らしている。なんかひたすらヤバいヤバいって。まあおじさんも来るっていってたから巨大隕石落下かグランバハマルからエルフ襲来でもない限り大丈夫の筈なんだけど。

 選ばれた一般参加枠の?のパネルに何故か不穏な気配を感じながらテンションがヒートアップし過ぎてヤバい峰田君とミスコンの開始を待っていた。

 

 

『シュッシュッと一吹きケンドー!!』

 

「ハッ!!」

 

『華麗なドレスを裂いての演舞!!

 強さと美しさの共存、素晴らしいパフォーマンスです!!』

 

 これは中々、彼女らしさを引き出したアピールだね。しかしあんな板を叩き割る手刀を何度もくらっている物間君はよく平気だなあ。

 

『3年サポート科ミスコン女王!!高い技術力で顔面力をアピール!圧巻のパフォーマンス!』

 

 顔面を全面に押し出した舞台のような変形する戦車に乗って現れる絢爛崎美々美先輩。

 これはミスコンのパフォーマンスなのかな?確かに盛り上がっているけどジャンル違いな気がするよ。でもごめんなさい、こんなの出てたら綺麗とか可愛いだけでは投票しないかな。僕もインパクトであの人に投票しちゃうと思うなあ。

 ミスコンの趣旨から外れている気がするけど。

 そしていよいよ昨年準グランプリである波動ねじれ先輩の出番。ミリオ先輩によると去年はアノ絢爛崎先輩に派手さで挑んでしまったらしい。だから今年のコンセプトは彼女の、ねじれ先輩の良さを引き出したパフォーマンス。

 どこか子供らしい彼女が個性を用いて空を舞う、その様は純真無垢な妖精のようだ。

 妖精、という言葉はグランバハマル帰りの僕には胃が疼いてしまうけどそれでも思わず目を奪われてしまった。

 

『幻想的な宙の舞!引き込まれました!』

 

 これはねじれ先輩の優勝かな?

 僕はそう思っていたんだ。

 次の言葉を聞くまでは、

 

『そしてーっ!!今年度から初の試み!!一般参加枠の番だぁっ!!プロヒーローや現役アイドルすら立候補した中、我々ミスコン実行委員達が選んだのはこの御方!!』

 

 アレ?てっきりマウントレディかピクシーボブ、或いはおじさんにアピールするためにミッドナイト先生がでると思ったのに。

 

『ス・ザ・イルギラーゼ・ガ・ルネルブ・ゼ・ギルレア・グラン・ゼ・ルガ=エルガさんだぁーーっ!!』

 

「はいっ?」

 

 その姿、緑の衣纏いし麗しきエルフの姫君。

 容姿でいえば美形しかいないグランバハマルでも文句なしでトップの長命種。

 おじさんを追い続けたツンデレストーカー。

 古代魔導具を振りかざす、僕にとって異世界最大のトラウマ。

 

「(何やってんのおじさーん!!)」

 

 に変身した異世界おじさんがミスコンに参加していた。というかヒーローやアイドル押しのけて本戦に出ていた。

 叫びというかツッコミが声にならなかったのはビチャビチャと口から血が溢れて止まらなかったからだったりする。

 

「た、敬文さん」

 

 先程見かけた異世界おじさんの甥っ子である敬文さんに口元を血に染めたまま問い詰める。

 

「あ、ああ緑谷君。これには深い訳が」

 

「また動画再生数を稼ぐためにやらせているんじゃないんですかっ?」

 

 ぶっちゃけエルフに変身と言ったら大体敬文さんが元凶なのだ。

 

「今回は違うんだよ。今回は」

 

 気まずそうに顔を逸らしながら敬文さんが言う、自分がやらかす側であるという自覚はあるようだ。

 

「というか三十過ぎたおじさんが高校の文化祭のミスコンに変身して参加するなんてどんな深い訳があれば」

 

「ーーーエリちゃんが見たいって、そう言ったんだ。お母さんが舞台に上がる姿が見たいって」

 

 あ、あーーー。

 

「なら仕方ないですね」

 

 エリちゃんが望むことは出来る限りしてあげたくなる。その気持ちは僕だって理解できるのだ。

 藤宮さんに抱っこされ舞台上のエルフ(おじさん)をキラキラした眼差しで見つめるエリちゃん。あんな姿を見たら仕方ないね。

 

「(あの人また血を吐いてる)」

 

 なおエリちゃんから僕はこんな目を向けられていたとか。

 

「どうした緑谷?」

 

「つーか、色々大丈夫?」

 

 皆のところに戻ったらかなり心配されてしまった(注、口元が血塗れ)、なんか申し訳ない気分だね。

 

「いやちょっとエルフがおじさんでお母さんでミスコンだから、うん」

 

「「「やっぱりか」」」

 

 なんか舞台上でガヤガヤしててエルフ(おじさん)の出番がまだみたいだ。

 

「どうしたんだろ?」

 

「アレだ、マウントレディとアイドルが自分が落ちたことに納得しなくて抗議してるらしい」

 

 極めて正当な抗議だ頑張れ。

 

「しかしスゲー長い名前なんだなエルフ。なんか意味あんのか?」

 

「王族だからね、勿論あるよえっと、

 ス=讃えよ

 ザ=奉れ

 イルギラーゼ=恐ろしいほど強靭に民衆を従える

 ガ=敵対者の

 ルネルブ=村を焼く

 ゼ=極めて

 ギルレア=祝福されしもの

 グラン=万象に

 ゼ=ことさら

 ルガ=雷に

 エル=細切れにする

 ガ=敵対者を と、こんな感じ」

 

「「蛮族かよ」」

 

「やっぱり長い名前だな」

 

「画家のピカソの方が長いけどね」

 

 気になった人は調べてみよう。なお世界一長い名前のギネス記録はアルファベットで1000字を超えるよ。

 

「あと個性の煙幕を応用して宙に字を書くとか応用力が凄まじいな緑谷」

 

 要は使い方次第だからね。

 言葉だと分かりにくいので皆に見やすくやってみました。

 

『さあ少々トラブルがありましたが、パフォーマンス開始ですっ!!』

 

 あ、結局抗議は無駄だったのか正直残念だ。

 エルフ(おじさん)は昔エルフから貰いいつだか藤宮さんが着たというドレスを身に纏いゆっくりと歩き出す。ヤバいこの時点でねじれ先輩の妖精らしさを超えてやがる流石本家本元、オノレ見た目だけは良いエルフが(いや僕に当たりが厳しいだけで良い人なのは知っているけどね)。

 そこへ用意されたお邪魔ギミックのロボット達が一斉にエルフ(おじさん)に襲いかかる。だが収納魔法を開き取り出した剣の古代魔導具(エルフ未回収品)を振るい、剣舞が如き動きで斬り捨てる。

 おじさんめ、明らかに魅せるプレイを意識しての立ち振る舞いだぞ。

 そして今回のミスコンで評価の高かった人達を上回ろうと対策している。

 状況に合わせてすぐさま攻略法を見つける、これがセガで培われた力だというのか。

 だが、まだ甘い。

 それでは派手さという点で絢爛崎美々美先輩を超えてないよ。

 

「なあ緑谷、なんでお前が審査員みたいに採点してんだ?」

 

「あ、口に出てた?」

 

「うん」

 

『氷嵐創映ー(レイベリオ ユールエルラン)』

 

 だがそんな僕の想定を異世界おじさんは容易く超えていく。さっき僕がやったように魔法で巨大な魔炎竜の幻像を雄英高校上空に生み出し、

 

『雷鎚殲滅ー(ルガルドス ゴレット バストール)』

 

 一度放てば都市に甚大な被害を齎す雷鎚、それを古代魔導具のエネルギーとする。そして、

 

『超長星破断』

 

 展開した鞘から天まで届きそうな程に伸びたエネルギーブレードが上空の魔炎竜の幻像を両断した。

 ヤベえよあの人ガチでグランプリ狙ってるよ、こんな光景見たら誰もが投票するじゃん。

 なおこの時の光景は外部からも見えていて後日ニュースになったりする。

 

「なあ緑谷、アレって実は威力の無い見た目だけの必殺技だよな?」

 

 その場の全員が呆気に取られる中、峰田君が僕にそう尋ねてきた。

 

「いんや、魔炎竜に変身した僕も同じように両断できるガチ必殺技」

 

「なんでんなもん撃つんだよあの人」

 

「勢いの人だし、エリちゃんを喜ばせようとしたんじゃない?」

 

 エリちゃんがいる場所を見たらキャッキャッとはしゃいでいるから大成功だね。

 

「ところで峰田君」

 

「どうした?」

 

「もう、限界」

 

 エルフを見てるだけでもしんどいのに必殺技を放つトコまで見たらトラウマがね、ヤバいのよ。

 精神的な限界の来た僕は自らが吐き出した血潮の中にドチャリと倒れ伏したのだった。

 

『投票はコチラへ!!結果発表は夕方5時!!シメのイベントです!』

 

「B組拳藤!拳藤B組に清き複数票を!!」

 

「誰に入れようかな」

 

「とりあえず緑谷はねじれ先輩で、と。ほれ他にもニャンニャンダンスなんて素敵な名前の出し物があるからサッサと行くぞ」

 

 峰田君は以前渡した治癒の呪符を僕の身体へとペタペタと張りつけ、ズリズリと引きずっていった。

 

「緑谷の対処に慣れたな峰田のヤツ」

 

 誰にも誘われなかったら一緒に見て回る約束だったからね。友人と回る文化祭も人生初の経験で楽しいものだね。

 

 

 ちなみにニャンニャンダンスという出し物は相澤先生によるモノで、体育館の舞台の上で人間サイズで二足歩行の猫三匹が尻尾振りながら踊るというものだった。

 踊りの最後でバッとけだもののローブを脱ぎ放ち、そこから相澤先生と根津校長それに心操人使君が現れた時、踊っていた人物のあまりのギャップに世界が凍りついたように感じたよ。あと綺麗な女の子によるダンスを期待していた峰田君がブチ切れていた。

 その後は野球部主催のストラックアウトを峰田君がノーミスでクリアして男子野球部員にキャーキャー言われたり、かっちゃんとアスレチックに参加してタイムを競ったり、軽食を食べたりしてるうちにミスコン結果発表の夕方5時になってしまった。

 

 けれどそこで一つの出来事が。

 予想通り優勝したのはエルフ(おじさん)だけどエルフ(おじさん)はその王冠を準グランプリだったねじれ先輩に被せた。

 自分は娘に良いトコ見せたかっただけだから、パフォーマンスも後出しジャンケンで有利だったのもあるしね、と屈託のない笑顔でねじれ先輩こそが真の優勝者だと言ったんだ。

 人の流した汗を否定したくない、そんなおじさんらしい言葉だった。

 最初は拒もうとしたねじれ先輩も本気で引かないおじさん(見た目エルフ)に顔を真っ赤にして恥ずかしそうに受け入れたんだ。

 万雷の拍手に包まれたミスコン会場。参加者も観客も投票者も誰もが涙を流しその感動的な一幕を祝福した。

 

 

 

 ここで終われば良かったのに。

 

 後日談というか本日のオチ。

 その後ねじれ先輩が「お姉様と知り合いになりたい」と言って周囲の反対を押し切って更衣室へと全力ダッシュ。一般参加枠であるエルフ(おじさん)は個人用の仮設更衣室でミスコン衣装着替えてから結果発表の舞台に上がった。だからねじれ先輩が向かったんだろうけど、

 

「いけないっ!!」

 

 同性でも問題になる着替えの場に乱入。その上で正体がおじさんだからヤバい問題になると僕はねじれ先輩を全力で追いかけた。

 だが結局間に合うことが出来ず、

 

「不思議、不思議、お姉様がおじさんで不思議、お姉様がおじさんに変身しだすなんて不思議、不思議」

 

「ああ緑谷君ちょうど良かった!着替えようとしていた俺を見たこの娘がなんかおかしくなっちゃって。悪いけど神聖魔法をお願い」

 

「いいからおじさんはまずドレスから着替て」

 

 そして必要なのは神聖魔法ではなく記憶消去魔法だから。

 乱入したねじれ先輩はエルフからおじさんへのトランスフォームを見てしまい、そのあまりにショッキングな光景による精神的ダメージで体育座りで不思議不思議とうわ言のように呟いていた。かつて藤宮さんも同じ経験して悲鳴を上げたとか。

 そしておじさんは、エルフから貰った透けるようなドレス姿のままねじれ先輩をなんとかしようとオロオロとしていた。エルフの姿ではなくおじさんの姿で。

 込み上げる血ではない吐き気を感じながら僕は場を収めるのであった。

 なおその場に居たミッドナイトはおじさん+ドレスの姿に興奮し鼻血を出してぶっ倒れていた。恋する乙女って美的感覚も狂うのだろうか。

 

 こうして締まらない終わり方で、あるいは異世界おじさんらしい終わり方で、雄英高校文化祭は幕を閉じるであった。

 





 補足説明。
 
 ミスコン。
 一般参加枠にて変身したおじさんが優勝(譲ったけど)するというトンデモ事態に、真実を知る者はその秘密を墓場まで持っていくことに。なおミスコンなのにおじさんの出番後半はアニメ異世界おじさんの最終話のシーンだったりする。
 
 ねじれ先輩。
 精神的ダメージを受けた天然で美人な先輩。後日記憶消去せずに持ち直し緑谷出久に異世界おじさんのことを尋ねて回るようになる。なおヤバい気配を感じたミッドナイトが全力ガード。

 異世界おじさん。
 愛娘のためなら変身してミスコンにすら参加する男の中の男にして父親の鏡。更衣室が個室仕様で無ければ参加しなかったそうです。

 ミッドナイト。
 一生の思い出が今日だけでたくさん出来て満足。エリちゃんを中央に三人で手を繋いだこと、たこ焼きをおじさん達と分け合ったことなど色々やれた。
 後日恋愛関連で取材されたとか(おじさんが一般人だから断った)。
 なおドレス姿のおじさんは色気がヤバかったらしい(恋する乙女フィルター)。

 相澤先生。
 教員による出し物でけだもののローブを着てニャンニャンダンスを踊った真の漢。猫になって踊ることに恥ずかしさなどない。

 根津校長。
 相澤先生に誘われて快諾。ネズミが猫になって踊る、これ即ち下剋上と謎なテンションだったとか。

 心操人使。
 文化祭の真の被害者。授業外で個別指導してくれる先生の要請を断ることが出来なかったらしい。弟子入りしたことをガチで後悔した。なお後日ニャンニャンダンスを見たプッシーキャッツに誘われてインターン活動に参加するもニャンニャンダンスもする羽目になる。
 
 プレゼント・マイク。
 ミッドナイトの恋する乙女な姿に撃沈。


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111話 プッシーキャッツ再び。

 
 すいませんプレステ2接続変換器を購入してしまい懐かしゲームをプレイしまくってました。
 作者はプレステ2ならシャイニングフォースイクサが一番好きですが皆さんはどのプレステ2ソフトが好きですか?



 

 雄英高校文化祭が終わり、僕達の生活も通常のモノへと戻る。

 けれどあのワチャワチャした時間は少なくない影響を僕達へと齎していた。

 耳郎さんは出し物で発表したオリジナル曲を音楽関係者に評価され、峰田君は野球部のキャッチャー(♂)に夫婦になって欲しいと告白され、相澤先生のニャンニャンダンスが雄英高校内で意外なブレイクをして(心操君の目が死んでた)、かっちゃんはミルコへのデレ発言が本人にバレてデートする羽目になり、おじさんは異世界おじさんのチャンネルでエルフ動画の視聴数が爆上がりし、巨神兵先輩が雄英高校倫理委員会(別名カップリング被害者の会)と戦争し、ランチラッシュが出店の売り上げトップとなった、あと上鳴君が彼女が出来なくて凹んでいた。

 僕個人にしてもあれから耳郎さんとたびたび音楽関連のショップへと出かけるようになった、好きなことを語る彼女と過ごす時間は楽しいしね。

 オールマイト引退から大きな事件は今の所無い(死穢八斎會の時になりかけたけど)。

 気になることは雄英高校を襲撃し現在後ろ盾をなくして逃亡中のヴィラン連合。宿敵と呼ぶ程に因縁を感じることは無いけど(連中にしても僕らにこだわっているわけではないだろう)、どうなっているのだろうか。

 仮免を取得してもあくまで一学生にすぎない僕達に現在捜査中の彼らの情報を得る術はないのだ。

 

 ハイツアライアンス談話スペース。

 A組の皆は自室よりもここで過ごすことの方が多い。アニメみたりゲームしたり本読んだりと一人で自室で出来ることもここでしてたりする。

 僕も自室では呪符作製と勉強か睡眠くらいしかしていない、一人より皆と居る時間がリラックスできる。一人で部屋に居るとどうしてもグランバハマルでの牢屋暮らしとか思い出すからね。

 そんなマッタリ時間を堪能している中、今日は来賓がある。

 

「来たぞ皆!お出迎えだ!!」

 

 と飯田君が言えば、ポーズを取りながら彼女達は現れる。

 

『煌めく眼でロックオン!』

 

『猫の手 手助けやって来る!』

 

『どこからともなくやってくる』

 

『キュートにキャットにスティンガー!』

 

『『『『ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ(オフバージョン)』』』』

 

 コスチュームでなく私服姿のヒーロー達。

 身内以外は中々見れないその姿、うん。

 

「峰田君、ヒーローの普段着ってヤバいよね」

 

「お前の着ているキャミソールって書かれたシャツよりはヤバくねえよ」

 

 グランバハマルでの戦闘服や冒険者姿では無いアリシアさんも素朴な魅力が引き立って良かったけど、プッシーキャッツの皆さんもかなり萌える(虎は除く)。

 私服萌えなのかな僕。

 そして同調してくれると思った峰田君のまさかの反応。結構気に入っているデザインなんだけど、この単語シャツ。いや麗日さん達と出かける時に着てたら寮を出る前に毎回芦戸さんに捕まって強制的に着替えさせられてたな、彼女ってお母さんみたいだ。

 

「プッシーキャッツ!お久しぶりです!」

 

「文化祭では軽く会うくらいだったからね、元気そうねキティたち!」 

 

「合宿時はこちらの不手際で」

 

「あれは仕方ねえだろ」

 

「マスキュラーから庇って抱きしめてくれた緑谷君は格好良かったわ、トキメイたから婿に来ない?」

 

「あの時はお米様抱っこだったような?」

 

「雄英高校を卒業してから検討させてください」

 

「コレ断り文句じゃね?」

 

「だからエルフ化するな一部女子」

 

「ケロ、エルフ化で通じてしまうのがなんか不思議で悲しいわ」

 

「なんで緑谷ばっかりーーっ」

 

「羨む状況か?」

 

「刺されそうで不安になるよな」

 

「出久兄ちゃん、結婚相手なら後援者の娘さんを紹介するってパパが」

 

「「「お黙り洸汰」」」

 

「ギュフ」

 

 夏の合宿での出来事からかプッシーキャッツの皆さんはヒーローの中でも距離感が近い感じがする(結婚迫る件はからかわれてるだけだろうからスルー)。襲撃での負い目があるみたいだけど気にしないで欲しいと皆思っているのだ。

 

「しかしまたなんで雄英に?」

 

 虎から手渡されたにくきゅーまんじゅー(相澤先生も好きなヤツ)を受け取り、お茶の用意とテーブルのセットもしたところで砂藤君が尋ねると復帰の挨拶に来たと告げられる。

 合宿での責任を取り彼女達はヒーロー活動を自粛していた。やむを得ずとは言えヒーローとしての責任と襲撃されたマタタビ荘の警備の見直しや山の整備もあったからだ。

 それも一段落し、さらにヒーロービルボードチャートJP下半期もあって復帰すると決めたそうだ。

 

「私たち順位下がったけどまだ百位圏内でね」

 

「失態を犯して、全く活動してなかったにも拘らずこの順位!」

 

「支持率の項目で我々突出していたんだ」

 

「待ってくれてる人がいるの思いしらされたの」

 

「なら立ち止まってなんかいられにゃい!!」

  

 やっぱりプロは凄いな、周りの声を力にかえて立ち上がるのだから。

 マスキュラーと脳無、いくらヒーローでもあんな存在に襲われて辛くない筈ないのに。

 

「あとマタタビ荘の被害額をヴィラン連合から取り立てないとねえ」

 

「警備システムでの見直しと設備投資で資金繰りが、資金繰りが」

 

「写真集で取り返せる?グッズ販売はいくら見積れる?」

 

「雄英高校から援助されたのだがなあ」

 

 そしてかなり切実な理由もある模様。保険はきいたそうだしマウントレディよりはマシらしいけど、それでもかなり損害があったみたいだ。

 お金かぁ、収納空間にある金塊とか出せば解決するかな?

 

「それしたらガチで入籍されかねんから止めとけ」

 

「山田のお兄さんみたいな例もあるしね」

 

 かっちゃんに指摘されてやろうとしたことをひっこめる。メンヘラ彼女に入籍させられた親戚の太ましいお兄さんの姿を思い出す、女性に行動力があったらそんな事もあり得るのだから。

 

「ビルボードかァ」

 

「そういえば下半期まだ発表されてなかったもんね」

 

「色々あったからな」

 

「オールマイトのいないビルボードチャートかァ」

 

「どうなっているんだろう楽しみだな」

 

 オールマイトのいないビルボードチャート。

 僕達の知らない新たなヒーロー業界。

 その時はもう目の前に迫っていた。

 





 補足説明。
 最後のプッシーキャッツの資金繰り云々は独自設定かつオフザケが多大に含まれています。不快になりました方が居られましたら深く謝罪いたします。
 最後にでた山田という人物は最近読んで面白かったメメメメメメメメメメンヘラぁ…という作品の主人公でそのうちクロスオーバーネタをしたいで触れました。緑谷君の親戚のお兄さんという設定です。


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112話 ヒーロービルボードチャート?


 メメメメメメメメメメンヘラぁ…。ネタです。
 最近はまってしまってつい。



 

 ビルボードチャート発表日。

 僕達はその放送が流れる時を談話室で皆揃って待っていた。多くのそれこそ日本中の人々が注目する大きな節目、雄英生としてヒーロー仮免取得者として見逃すわけにはいかないのだ。

 期待と不安が入り交じりどこか緊張した空気が普段は明るいこの場を包んでいた。

 そんな時にとあるメールが届いた。

 送ってきたのは僕にとって兄同然の人。

 懐かしい気持ちになりながらメールを読めばその内容についフッと笑ってしまった。

 

「なんだ?面白いことでも書かれていたか?」

 

 僕の様子に気付いたかっちゃんがそう尋ねてきた、まあ面白いといえば面白い内容ではある。

 

「も し や ま た 女 か?」

 

 野球部キャッチャーに迫られている峰田君が目を血走らせて言う。同時に麗日さん達がグリンとこちらを向いてきた。

 

「そんなんじゃないよ、親戚のお兄さんから。かっちゃん覚えている?山田純一さん」

 

「山田のあんちゃんか、懐かしいな」

 

 僕達が小学生低学年の頃に引っ越してしまったお兄さん。ヒーローに欠片も興味の無い人だったけど当時から気性の荒いかっちゃんすらも年下の子供としてきちんと面倒みてくれていた。

 

「俺達がカードが欲しくて買ったヒーロースナックを代わりに食ってくれる優しいあんちゃんだったな」

 

「そんなこともあったね」

 

 かっちゃんは意外と純一さんに懐いてたね、個性にも怯えずにズカズカと言う人だったからかな。

 

「んで何があったんだ?発表までまだ時間あるし言える内容なら暇つぶしに話せよ」

 

 そうだねまだ時間あるし、緊張しながら待っているのもしんどいからね。

 

「『今 付き合ってる彼女がいる人に質問!』」

 

「ブチ○すぞ豚野郎っ!」

 

 メールの一文を読み上げたら即座に反応した峰田君がキレて叫んだ。

 

「はえーよ」

 

「教えてないのになんで外見が分かるんだろ?」

 

「『君の彼女はアイドルのポスターを部屋に張るのを許してくれる派?それとも許してくれない派?』」

 

「うーん、ウチのクラスだとかっちゃん以外は答えられない質問だね僕達って忙しくて彼女作る暇なんてないし。で、どうなの?」

 

「あー?ミルコはポスター見ても自分の方が美人だと鼻で笑ってたぜ。貰いもんのカレンダーにそんな反応してた。って誰が彼女持ちだ」

 

「語るに落ちてるよー。

 しかし女子としてはどう思うの?」

 

 せっかくだからA組女子達に尋ねてみる。

 

「ウチはあんま気にしないかな。好きなミュージシャンのポスターを張る気持ち分かるし(まあスタイル良い子とかだと面白くはないけど)」

 

 耳郎さんは気にしない派と。

 

「うーん、ヒーローのポスターならともなく、アイドルはなー。けど大事なら日に焼けないようしまっておいたらと思うわ、勿体無いし」

 

 麗日さんはヒーローなら良し派。

 

「ケロ、あまり良い気分じゃないけど剥がすかどうかで喧嘩はしたくないわ」

 

 蛙吹さんは嫌だけど我慢できる派だね。

 

「溶かすよ」

 

 はい?

 

「壁ごと溶かす。だって彼女だよ、世界一可愛いのは付き合っている彼女なのに他の娘を見る必要なんてないじゃん」

 

 芦戸さんはヤンデレ気味な溶かす派。なんか彼女と付き合う人は大変そうだね頑張れ切島君。

 

「私は悲しくなるかなー。やっぱり顔の見える娘が良いんだってそう思っちゃうなー」

 

 この話題は葉隠さんには地雷だったようだ。いつも明るい彼女がかつて無いくらいテンション下がっているよ。とりあえずダメ派と。

 

「私は実際そうならないとよく分からないですわ。そのアイドルポスターにも詳しくありませんし」

 

 調度品として部屋に絵画は飾ってもアイドルポスターは張らないだろうしね、よく分からなくて当然か。あえて言うならブルジョワ派?

 

「不貞の証、焼き払います」

 

「張るのだったらマイトオジサマのポスターにするべきよね」

 

 塩崎さんは焼却派でメリッサは張り替え派、と。

 

「それよりここにこの二人がいることに突っ込むべきだろう」

 

 いやもういつものことだし。

 

「「したいよ、そんなやりとりを自分の彼女としてみたいよっ!!彼女にアイドルポスターに嫉妬するくらい愛されたいよっ!!」」

 

 女子達の返答に峰田君と上鳴君が泣きながら床をバンバンと叩いて叫んでいた。気持ちは分かるけど壁ごと溶かされるのはちょっと。

 

「それで純一さんは『僕の彼女はね、剥がしたりはしないんだけど、なぜか顔の部分だけめっちゃくちゃに黒く塗りつぶす派』」

 

「「惚気と自慢か豚野郎っ!!」」

 

「そうかなあ?」

 

「やぶくより恐怖があるわ」

 

「俺には助けを求めているようにも感じたが」

 

「いったい山田のあんちゃんはどんな女と付き合ってんだよ?」

 

「本人曰く、『見た目は美少女、中身はミザ○ー』らしいよ」

 

「まあストーカーなんてどこにでもいるからな」

 

 かっちゃんの一言に納得しかない。

 身近にも心当たりが有り過ぎるからね。

 

「そもそもそんなメンヘラな人とどこで知り合ったんだよその人」

 

 毎朝通学時バス停留所で数分間一緒になる名前も知らない女子高校生に告白したとは言えないなあ。付き合えたから良かったものの普通は通報されるし。

 あと峰田君とかは真似しかねないからなあ(そして警察のお世話に)。

 

 

 そんな良い具合に緩くなった楽しい雑談も終え、いよいよビルボードチャートの発表。時代の節目きちんと見ないとね。

 





 補足説明。
 
 ヒーロービルボードチャートのシーンが好きな方はすいません(土下座)。原作との差異はサーナイトアイが生存していることとベストジーニストが参加していることくらいなので飛ばします。

 山田純一。
 緑谷君の親戚で近所に住んでいる時はよく遊んでくれた人。かっちゃんも慕っていた。
 個性は『治癒力向上』
 人より怪我の治りが早いが、脳無のような再生力は当然ない。
 ヒーローになれる個性だが本人が痛いの無理なタイプなのでなろうと思ったことはない。
 メンヘラな彼女持ち(入籍済み)でさらに同級生にストーカーされ、バイト先の先輩とその母に肉体関係を迫られたりする。
 緑谷君の現状は知っていて心配していたが、自分がそれどころではなかった。

 佐々木唯
 山田純一に告白されたメンヘラ美少女。
 ストーカーであり個人情報を調べて盗聴盗撮脅迫をするヤバい人。
 ラブラバと知り合いで、お互いの彼氏自慢とストーカー用品の情報交換をしている。


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113話 エンデヴァーとホークス?


 全世界のハイエンドとみろや君ファンの皆さんごめんなさい。



 

「食ってくれ親父からの九州土産だ」

 

 ヒーロービルボードチャートが発表されてから数日たったある日、轟君がこんなに食いきれねえよと呟きながら実家から送られてきた大量のお土産をクラスの皆に配っていた。

 

「エンデヴァーが遠征でもしたのか?」

 

 かっちゃんの疑問も当然のこと。

 機動力と戦闘力を合わせ持つヒーローなど業界全体でも極稀な例。確かにオールマイト、ミルコ、ホークスという例外はあるが通常ヒーローは自分の事務所から離れた場所まで仕事をしに行くことは様々な面でコストがかかるため滅多にない。

 それは事件解決数が最多であるエンデヴァーとて同じこと、事務所の規模とサイドキックの数から大抵のヒーローとは比べ物にならないくらいの行動範囲を誇るが、九州ともなるとそれこそ国からの要請かヒーロー殺しステインやヴィラン連合などのネームドヴィランの捕縛という目的がなければ行わないだろう。

 

「なんでもホークスとチームアップするんだと。その話し合いのために行ったそうだ」

 

「新ナンバー2ヒーローのっ?!」

 

「あの速すぎる男とっ?!」

 

「トップヒーローワン・ツーがチーム組むとかまじかよ」

 

「オールマイトの時にはありえなかった話だな」

 

 そらだってナンバー2(エンデヴァー)がナンバー1(オールマイト)を毛嫌いしてたから。

 ヒーロービルボードチャート早々の大ニュースに談話室は沸き立つ。チームアップは以前からあったけどあくまで事件の時にその都度合流する程度、けどトップヒーロー達が率先して行うことで全国規模で広めようとしているのだろうか。

 

「しかしなんでだろうね?」

 

「ぶっちゃけ必要ないだろ。新ナンバーワン・ツーヒーローでなんて戦力が過剰過ぎねえか」

 

「うむ、エンデヴァーとホークスに勝てる存在など先日のオールフォーワンくらいしか想像できんが」

 

「オイオイ、エルフを忘れんなよ」

 

「それは加えちゃ駄目なヤツでしょ。百歩譲ってそこは異世界おじさんの方だって」

 

「あの人がヒーローと戦うなんてないから」

 

「だね」

 

 いくらあのエルフだってこっちのトップヒーロー達とやりあったらそう簡単に勝てないと思うけど。負ける姿も想像できないけどね。

 おじさんはホラ、最強のセガユーザーだから(セガゲームの腕前が一番上手いではなく、セガユーザーの中で戦闘能力が一番高いという意味で)。

 

「チームアップ推奨のため以外だとすれば、脳無対策とかか?バカみてえな身体能力とアホみてえな火力ないと厳しいからな」

 

「なるほどつまりミルコカップルなら余裕と」

 

「バカみてえな身体能力のミルコとアホみてえな火力の爆豪なら勝てるわな」

 

「それを一人でこなす緑谷は?」

 

「バカでアホで鈍感」

 

「なんで僕に飛び火するの」

 

 そして僕のどこが鈍感だ。

 

「何体かとっ捕まえたが、雄英襲撃の個体レベルのはいなかったって話だ」

 

「だが人造物である以上一体だけとは思えない。より強化されるか同レベルのヤツを量産されることを視野にいれてのことかもな」

 

「あの時は緑谷が瞬殺してたけど、実際どれくらい強かったんだアレ?」

 

「事前情報が無いと、よほど相性が良くないと勝てないレベルだよ」

 

 そう、あの個体はオールマイトに勝てると豪語するだけの存在ではあったのだ。

 オールマイト並のパワーに再生能力、ましてや初見だと再生能力があるなんて分からないから仕留めたと思ったその時に手痛い奇襲を食らうことになる。

 僕が勝てたのはワンフォーオールによる身体能力と粉々になろうと再生する敵にグランバハマルで慣れていたからに過ぎないのだ。

 

「だからこそ脳無に勝てるように組むのか」

 

「それでエンデヴァーの火力とホークスの速さのコンボか。エゲツないが参考になるな」

 

「ウチのクラスでコンボとなると、硬化した切島を瀬呂がテープに付けて振り回すとか?」

 

「それは瓦礫で良いだろ」

 

「私と青山君ならお互いの個性を活かせるね」

 

「ウィ☆」

 

「なら魔炎竜に変身した僕を口田君が操るコンボもありだね。完全に人としての意識が無い状態だと出来ると思う」

 

「口田すげー」

 

「最強じゃん」

 

「(照れ)」

 

「おい待て馬鹿、完全に人としての意識が無くなると元に戻れなくなるんだよな?やるなよ絶対、フリじゃねえからな」

 

「(汗)」

 

 そこに気づくとは流石かっちゃん。危うく試すところだったよ。

 

「話は変わるけどよ、夏兄が言うには、九州に行った親父だが帰ってきた時に悩んでたらしいんだ」

 

 エンデヴァーの悩みか。

 それを実家で表に出せるくらい家族仲が落ち着いたみたいでなんかホッとするよ。トウヤさんの時にかなり強引にやったからなあ。

 

「悩んでるのに家族に九州土産を爆買いしたのか新ナンバー1ヒーロー」

 

「ネットでも話題になってるよー。ナンバー1らしい豪快な家族サービスって」

 

 芦戸さんのスマホに映る大量の箱を抱えたエンデヴァーの姿。目立つからコスチュームは脱ごうよ。

 

「そんなことする人だったんだな意外だぜ」

 

「いや今回がはじめてだ」

 

「「「はじめてって、ソレはソレでどうなんだ一家の大黒柱」」」

 

「ケロ、家庭は人それぞれなのね」

 

 現在轟家では家族関係のやり直し中だから仕方ないって。

 

「それで悩みってのは?」

 

「なんでも街中でホークスと歩いてた時に人集りが出来たそうでな」

 

「ホークスは飛んでないとすぐにファンに囲まれるからな」

 

 ホークスの所で職場体験をした常闇君の言葉には実感がこもっているね。

 

「友人と一緒だった子供にファンサービスしようとしたら、その子が血涙流すくらいショックを受けたらしい」

 

「なんで?」

 

「血涙て」

 

「ファンサービスをしない媚びない姿勢がカッコイイのに変わってしまった、って叫ばれたそうだ」

 

「「ガチファン怖え」」

 

「士傑の夜嵐君はファンサービスをしない姿に悪印象を抱いてたって言ってたよね?」

 

「大衆ってのは勝手なもんだ」

 

 今までのエンデヴァーにも根強いファンがいたのは事実。エンデヴァー本人が変えようとしている姿も人によっては受け付けないのか、難しい問題だ。

 

「そういえば今じゃ考えられないけど、オールマイトの笑顔も悪く言われてた時もあったみたいだね」

 

 オールマイトがアメリカから帰国して日本で活動しだしたばかりの頃らしいけど。

 

「緊急時にヘラヘラ笑っていて真剣味にかけるとか、緊張感が無いとか、そんな感じに言われたんだって」

 

「俺達にとっては安心できる笑顔なのにな」

 

「難しい問題だよなヒーローとしてのイメージってヤツは」

 

 ただ救えばいいわけではない。人々を守る象徴として人目を意識しなければならない。

 轟君から聞いたエンデヴァーの悩みはこれからのヒーローである僕達にも深く考えさせられるものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 時はしばし遡る。

 人通りのない裏路地の廃墟、そこに新ナンバー2ヒーローである速すぎる男ホークスは居た。

 決して表沙汰に出来ない、名誉名声に頓着しない長期目標を見据えて動く彼にしかできない役割。

 

「ようこそホークスきゅん」

 

 今度こそ完全に闇組織を根絶する為、より多くの情報を得るために敵連合に取り入る。

 そのためにヴィラン連合構成員の一人であるヴィラン名マグネこと引石健磁に接触したのだが。

 

「私のハーレム♡もとい敵連合へ」

 

 彼は現在、敵連合との顔合わせの場で肉体は男性で心は女性なヴィランにねちっこく絡みつかれていた。

 

「まあアレだ。しばらくはマグ姐と(俺達の為に)行動してくれ」

 

「悪いな、金欠で歓迎会すら開いてやれない。簡単なショーならやってやろうか?」

 

「代わりにマグ姐がサービスしてくれるってよ!!頑張れ!!」

 

「ヒーローならイズク君のこと知ってます?あと私はマグ姐と恋バナ友達です、「ねーー」」

 

 ヴィランらしからぬ和気あいあいとしたユルイ空気。後ろ盾であるオールフォーワンが逮捕されてからどうしていたのかと疑問だったが、裏社会の仲介屋とネームドヴィランであるコンプレス、マグネが先導して表にでないヴィラン集団を潰して資金調達と腕を磨いているようだ。

 

(オールフォーワンの部下からの接触はないのか?今の時点でそうなら動くとしたら、現在グラントリノが追っている黒霧が捕縛された時になるか)

 

 ホークスはそう思考をまとめ、ケツに触れようとしているマグネの手をさり気なく遠ざけた。

 

(そうだヒーローが暇を持て余す社会、必ず手に入れてやる俺の出せる最高速度で)

 

 自身の抱く夢のため、速すぎる男は今日も闇の中すらも全速で駆け抜ける。

 

 セクハラに耐えながら。

 





 補足。
 荼毘が敵連合未加入のためエンデヴァーとホークスのハイエンド戦はありませんでした。
 代わりにホークスが接触した相手はマグネです。
 マグネのキャラが解釈違いの方はすいませんでした(土下座)。
 マグネは極道との接触が無く生存してますが、本作ではこんなキャラクターです。 
 ホークスの受け入れに関しては戦力不足とマグネ生存のためアッサリでした。決して死柄木弔がセクハラ被害を押し付けたかったからではありません、多分。
 なお下手したらギガントマキア及び異能解放軍との戦いにもホークスは参戦せざる得ないかもしれません、マグネにセクハラされながら。
 ホークスよ強く生きて(合掌)。


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