現代人のお気楽極楽転生ライフ(修正版) (Amber bird)
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幼年期編
第1話から第3話


 この作品は今は無き某サイトにて掲載していた自分の初めての二次創作であり思い入れの作品です。
 其方が閉鎖される時に「〇〇を応援・支持するHP」様に掲載させて頂いてますが一部修正して投稿させて頂きます。
 4年以上も前の作品ですが、当時の情熱というかお馬鹿さ加減を思い知る為に公開させて頂きます。


第1話

 

 それはテンプレと言うには、あまりにもあまりな展開だった。

 不慮の事故死によって神が不手際を無かった事にする為に、転生をさせてくれるという。

 無宗教で敬虔な信者でも無い自分に、そんなサプライズが有る訳が無いだろうと思う、普通なら。

 理解出来ない状況だが着々と事態は進んでいる、殆ど強制的に……

 

 

 

『早く決めろ、時間が惜しい。無ければ輪廻の輪に組み込むだけだ』

 

 

 

 直接頭に響くように聞こえる声の主の無機質で僕に全く興味の無い感じに恐怖を覚える。

 こんな重力を感じない自分の体も見えない真っ白な空間で、テレパシーみたいな一方的な会話をしてるだけでも、もう俺の体も長くないのだろう。

 最後の記憶は建設現場の足場から足を滑らせ地面に落下する直前の映像、6階の高さから下の駐車場に頭から落ちたのだ。

 

 妄想や願望が走馬灯の如く巡っているのだろう。短い一生だったな、脱童貞も出来なかったし。

 いや、童貞30年越えの魔法使いに成らなかっただけ良かったのかな。

 

 

 

『自分の状況が信じられないなら強制的に適当な条件で転生させる』

 

 

 

 おいおい現実逃避もさせてくれないのか、そもそも現実か?夢や妄想の類じゃないのか?

 

 

 

『今までいた世界に近い所で中産階級の長男として能力・容姿は十人並みで記憶を無くしての転生でよいな?では……』

 

 

 

 今の人格を形成している経験や記憶が全く無いなんて、俺が俺でなくなってしまうんじゃないのか?

 

「それはそれで平凡な幸せかも知れないが、今の自分を形成してる記憶が無いなら別人じゃないのかな?」

 

 

 

『そうだ、やり直し人生なら同じ環境で良かろう?』

 

 

 

 これは自分で希望を言わないと本当に事務的に同条件のやり直し人生を迎える事になるぞ、神様転生ってもっと色々と優しくないかな?

 

 

「この読み漁った転生SSのような展開と少し違う事が自分の身に起こっているのは死に掛け傷ついた脳が見せる刹那の幻想なのか。

又は集中治療室で植物人間の様になっている自分が見ている夢かは知らないが、希望を言わせて下さい」

 

 

『良いだろう、早く望みを思うが良い』

 

 

「小説の世界でも可能ですか?出来れば「ゼロの使い魔」の貴族として転生をお願いします。

 出来れば原作組と同じ年齢で国はゲルマニアの伯爵家の長男を希望したいです」

 

 原作に介入する・しないどちらもメリット・デメリットが有るけど、原作の動きを把握した方が動きやすいだろう。少し引いた位置から原作組を見つめ必要ならば接触する。

 

「ああ、後は土と水の系統で努力すればスクエアになれる素質有りで良いでしょうか?」

 

 

 

『ふむ、空想の世界で第二の人生を謳歌したいか……良かろう、5歳の誕生日に記憶が戻るだろう。精々足掻け』

 

 

 

 一方的な会話と最後に嫌な「精々足掻け」ってお言葉を貰ったぞ……

 

 

 果たして神様転生だったのか他の何かなのか分からないが、その何かのの厳しい言葉を最後に意識が薄れていった。

 流行の転生SSの主人公になるのか。それとも集中治療室で見る妄想という夢なのか、僕のセカンドライフが始まった……と思う。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 5歳の誕生日に日付が変更した途端に激しい頭痛に襲われた、転生してからの5年間の記憶が頭の中に流れてくる。

 早送りのビデオを見ている様な、どこか自分なのに自分でない人生を見せられている変な気分。

 時間にすれば5分位か、それとも1時間位だろうか?自分の置かれている状況を理解する事かできた。

 

 僕はゲルマニアの伯爵ハーナウ家の長男、ツアイツ・フォン・ハーナウ。

 

 母親はアデーレ、父親はサムエル、新興貴族として一族の傑物と言われた曽祖父が、商売に成功。

 金で爵位と領地を買い繁栄させ凡庸な祖父が領地を維持、両親の結婚を期に爵位と領地の殆どを譲り隠居した。

 ご意見番みたいな感じで、自身の館に引き篭もっている。

 この祖父も凡庸と言われているが急に拡張した領地を無難に治めていた手腕を考えれば、有能だったのではないのか。

 

 僕はこの祖父には、かなり可愛がられている記憶が有る。

 父親については子供の前では領地経営の話題が上がらないのか5歳までの僕に興味が無かったのか良く分からない、追い追い調べていく事としよう。

 

 母親は良くも悪くも貴族の深窓のお嬢様であり政略結婚だったらしいが夫婦仲は悪くはない、そしてかなりのスレンダー美人である。

 腰とか凄い細いし、まだ20歳前と思われる儚げな人である。

 

 父親は……

 

 少しお腹が出てきた事を気にし始めたが体格のガッシリした美丈夫の中年のロリコンである、だって妻との年齢差が一回り以上は有る感じたし。

 

 勝ち組だな父上。

 

 そして、僕ことツアイツ・フォン・ハーナウであるが……何というか、我侭に育てられた典型的な内弁慶の泣き虫の餓鬼である。

 しかも一人では夜も寝れない。しかし貴族とは親子であっても一緒には寝ないので、現在進行形で一緒に寝ているこの女性は……

 

 乳母の娘のメイド見習いのナディーネ12歳!結構、いやかなり可愛いロリ巨乳の女の子だ。

 

 どうやら僕は、我侭で乳の大きい若い女性としか一緒に寝れないらしい。しかも何人かのお気に入り添い寝部隊がいるらしい。

 

 

 貴族様万歳!もう既に勝ち組!

 

 

 しかし、しっかりと頭を胸の谷間に押さえ込まれているこの状況でも、マイサンは反応してくれない。

 精神はこんなに興奮しているのに、体が無反応とはEDじゃないのかと心配になってしまう。

 しかし巨乳好きとは母親に喧嘩売ってないか?自分ながら恐ろしい子供だ。

 

 などと考えれいたら、ナディーネちゃんが「う〜ん」とか寝返りをしながら布団を蹴って序に拘束も解いてくれた。

 風邪をひかない様に布団を掛けてあげて窓際の椅子に座り外を見る。そこには生前読んだライトノベルの内容通り双子の月が優しく世界を照らしていた。

 

 しかし、これからどうしようか?

 

 記憶が蘇ったとしても現状からいきなり性格が変わったり、賢くなったりすれば怪しいどころじゃない。

 それにもう少しすれば朝になり、他の使用人や両親達とも会わなければならない。 対応を考えておかなければボロが出て直ぐに怪しまれてしまう。

 

 この時僕は子供の体を舐めていた。

 

 しっかり対策を考えるどころか、夜更かしなんかした事も無い子供の体力か性能のせいか……すっかり椅子で寝てしまっていた。

 目が覚めたのはナディーネが叱責されている声でだった。メイド長が僕を起こしにきたら、若様が椅子で寝ていて使用人がベットで寝ている。

 

 たいした事では無いと思うのだが、貴族絶対主義のこのハルゲニアでは大変な失態らしい。

 

「僕の前じゃない処で厳しく処罰するので、お許し下さい」

 

 とか言ってナディーネを連れ出そうとしている。

 

 

 ヤバイヤバイヤバイ……

 

 

 このままでは(僕主観では)無実の女の子が酷い目にあってしまう。しかし昨日の自分と違う対応をしては怪しまれて、最悪両親に報告とかされれば問題だ!

 この危機回避の秘策は……子供らしく恥ずかしい位に泣こう、大声で!

 

「ナディーネを虐めちゃ駄目ー連れていっちゃ駄目ーわーんわーん」

 

 恥ずかしい魂のレベルで恥ずかしい。メイド長も若様に泣かれては何も言えずナディーネに次からは気を付けなさいと、一言いった後で外に待機していた他のメイドを呼び寄せ、洗顔やら着替えやらという羞恥プレイを敢行し退室して行った。

 

 僕の羞恥プレイの最中、ずっと下を向いていたナディーネがいきなり「若様すいませんでした。どの様な処罰も受けますので許して下さい」と、頭を下げて恐怖を滲ませた顔で、僕の言葉を待っている。

 

 

 これが貴族と平民の壁か……

 

 

 いくら幼くても、貴族には絶対服従が刷り込まれているのか。一瞬固まってしまったが、なにか言わなければ収まらないだろう。

 他の使用人にも示しがつかないのだろう。なによりナディーネの気持ちを回復してあげないと可哀想だ。

 

 僕は少しばかり気取った口調で

 

「では罰としてナディーネには、僕の恋人1号になって貰う。これから他の男に言い寄られても若様の売約済み!と断るように」

 

 と無駄に格好良くいってみた。

 

 違うー!失敗ーつい願望が口から駄々漏れだー!激しく後悔をしていると当のナディーネは

 

「了解いたしました。その申し出、謹んでお受けいたします」と5歳児の戯言を真剣な顔で了承した。

 

「ささ、朝食に遅れますので早く食堂に行きましょう」と扉を開けて促してくる。

 

 僕は精通もまだなのにイヤラシイ餓鬼と思われてしまったかと、内心ドキドキしながらナディーネの横顔を盗み見たがその表情の無い顔からは、何の感情も読み取れなかった。

 食堂に向かいながらもう既にグダグダになってきた僕の転生人生に、不安が隠せなくなってきた。

 

「それては失礼します」と一礼して食堂の扉の前でナディーネは下がっていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 

 朝起きてから食堂に辿り着くだけなのに、既に今日一人分の精神力を使ってしまい疲労困憊だ!

 しかし前日の記憶通りにテーブルに着き、両親に朝の挨拶をした。

 

「おはようございます。父上、母上」

 

「おはようツアイツ。良く眠れましたか?」

 

 自分的には今日から母上が儚げな微笑でおはようの返事を返してくれた。

 

「はい母上。夜中に月が見たくなりついナディーネに我侭を言ってしまいましたが、双子の月の明りが母上のように優しく照らしてくれたので安心して眠れました」

 

「おやおやアインツ今朝は詩人だな。5歳ともなれば女性を口説く台詞が自然に出で来る様になるとは、誰に似たのかな?」

 

 父上から、からかい口調で言われたので真っ赤になって俯いてしまう、アレを聞かれていたのか羞恥心で死にそうだ。

 

「あらあら。あなたツアイツを苛めないで食事にしましょう」

 

 母上が助け舟を出してくれた。ちなみに父上には何人かのお妾さん兼メイドがいるが、全員がスレンダー美女である。

 つまりチッパイ派であり、巨乳派の僕とは住み分けが出来ると思う。

 

 因みに今日の朝食のメニューは、サラダにパンにスープである。

 

 スープに野菜や肉等の具材が多く入っているが小説でルイズ達が食べている(自称)ささやかな食事とは随分と違うな。

 しかしマナーを学ぶ場で無い日常的に食べる食事とはこういう物で、毎朝あんなフルコースなんて食べれない。

 勿論、来客等で見栄を張る必要が有る時は侯爵家の格に有った食事が出る。

 

「ツアイツ、今日はお前の5歳の誕生日だ。来客が夕方から集まり夕食のパーティにて、お前の正式なお披露目をする」

 

 父上から急に言われたので思わずスープを零しそうになったが、何とか零さずに堪える事が出来た。

 

「分かりました。今から緊張してます」

 

 出来るだけ子供らしく答えたが、元の記憶と比較すると随分と印象が変わってしまったかもしれない。

 だが貴族のイベントなら何かスピーチをしければならなだろうかと思い考えておく事にした。

 

 朝食後はマナーの勉強と自由時間というお遊びタイムだが、所詮中世なので伯爵家の御曹司とは言え玩具は絵本や積木、それに馬や兵士の人形とか…

 PSPやDSで遊んでいた事を考えると、どうして良いか分からない。

 

 情報収集の為に誰かと話したいと思っても午後のパーティの準備で、使用人の方々は忙しい。

 邪魔は出来ずに両親とは、転生したばかりでボロを出さない様に今は、未だなるべく接触は控えようと思う。

 仕方なく一人で積木遊びをする事にした、せめてレ○ブロックが欲しい。

 

 定期的に様子を見に来てくれるメイドさん達も、大人しく積木をしている僕を微笑ましい?生ぬるい?目で見ているのに気づいた。

 後で聞いたのだがナディーネが他の使用人達に恋人(妾)宣言された事を話しており、流石は貴族のエロ坊ちゃんと様子を見にきたが積木で遊ぶ僕を見ておませさんね。位に思って見ていたのだろう。

 

 この時、僕は軽く考えていたが娯楽の少ない職場で格好の面白い話として爆発的に広がっていき、既に両親の耳にも入っている事を知らなかった。

 

 

第2話

 

 僕の5歳の誕生日会は盛大だった、父上の簡単な紹介の後に簡単なスピーチと言うか挨拶をする事になった。

 来客の貴族達も幾ら主役とは言え子供の挨拶などには期待はしてないであっただろう、しかし僕は前世で建設現場の朝礼で、多くの人の前で話す事に慣れていた。

 これから少しずつでは有るが内政チートに進む予定で有るので、それなりに賢い子供を演出する事にした。

 

「本日は私、ツアイツ・フォン・ハーナウの誕生日にご足労頂き有難う御座います。

まだまだ5歳と若輩ではありますが、これから魔法の勉強と領地経営について学び、良き貴族として皆様の仲間入りをしたい所存であります」

 

 貴族としては正直どうかな?と思う所は有ったが、5歳児としては概ね好評で合格ラインで有ったらしい。

 実は主役である僕の存在は余り重要でなく、我がハーナウ家の隆盛を近隣の領主や派閥貴族に知らしめる事に重点を置いているパーティだ。

 

 しかし思いがけず利発そうな世継ぎに、来客の貴族は一様に感心した様だった。

 先ほどから僕にご機嫌伺いにくる貴族のおべっかに、一々答えてはいるが既に10組目からは、顔も名前もスルーしている。

 但し周りの大人たちからすれば、5歳児が愚図りもせずに大人たちの挨拶に答え続けるのは優秀な子供だと思ったらしい。

 僕に挨拶後に両親と雑談しているがべた褒めである。

 

 正直、元日本人としては褒め殺しの様で落ち着かない。

 

 流石に招待客の殆どと顔見せが終る頃には1時間以上が経過し、既に時刻は9時に近かった。

 

 アデーレが優しく頭を撫でながら「ツアイツお疲れ様」と僕を労ってくれる。

 

「母上、流石に疲れました。もう眠いです」

 

 ギュっとアデーレの細い腰に抱きついて子供らしく甘えてみた、母上はとても柔らかく良い匂いがした。

 ひとしきり母上の匂いと柔らかさを堪能していたら、父上が高い高いをした後にジョリジョリした髭面を押し付けてきた。

 

「父上痛いです」

 

 むさい親父に懐かれるのは精神に多大なダメージを被るのだな、本能が父上を拒絶した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 正直な所、名前と年齢を言えば後はフォローするつもりでいた。しかし実際は少し内容は貴族らしくない部分もあるが、中々に立派な内容だった。

 しかもその後に個別に挨拶にくる者達にも、そつなく対応している。とても昨日までの息子ではない。

 子供特有の我侭さと視野の狭さや飽きっぽさがなく、来客一人々に対応に舌っ足らずなりにも言葉を返している。

 

 直ぐに飽きてしまい泣き出すかと思ったが、最後まで来客に対応した態度に妻が労いの言葉を掛けると素直に抱きついて甘えている。

 こうして見ると普通の5歳児にしか見えないが、普段なら自由時間も使用人の手を煩わしているのに今日に限り、大人しく聞き分け良く一人遊びをしていたらしい。

 

 息子になにが有ったのか分からないが我が髭を引っ張った力は本気だった、少し様子をみた方が良いだろうか。

 

 

 朝食後にメイド長よりの報告が気になった。

 

 何でも粗相をしたメイド見習いを泣きながら庇い、その後そのメイド見習いの娘を励ます様に恋人(妾)宣言をし、主人や他の貴族に迫られたら自分の名前を出して断る様にまで指示したらしい。

 浮気性の主人にでも入れ知恵されたのかとも考えたが、先ほどの来客への対応等は幾ら教わったとしても子供には実行し辛いのではないでょうか。

 

 何故か巨乳好きな子供に育ち母よりもお気に入りの巨乳メイド達と寝る様になってしまったが、それでも可愛い息子。

 だが先ほどの労いの後に抱きついて甘えてくる様子は、年相応の子供にしか見えない。

 

 しかし……時々見せる大人びた表情が気になります、少し注意して見ていましょう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 両人に伴われ自室に戻ってきた。

 

「ツアイツ今日は見違える様に立派だったぞ。他の同世代の貴族の子供に比べても遜色は無いであろう」

 

「泣き虫で甘えん坊のツアイツが、まるで別人のように立派でしたよ。来賓の方々も褒めてました、我がハーナウ家も安泰だろうと」

 

 僕は内心汗がダラダラだった。

 

 記憶が戻ったとは言え、精神が肉体に引かれるのか当初の考えと違い、場当り的な対応をしてしまったり年齢に合わない行動をしてしまった。

 

 これは怪しまれているだろうか?恐る恐る両親を見上げると特に疑がってる様な感じはしない。

 僕は子供らしくしかし真剣な表情でフォローする事にした。

 

「もう僕も5歳ですし、貴族としての責務を果したいと考えています。

出来れば魔法も学びたいと思いますし、父上の仕事の手伝いも始めたいと思います。

まだまだ子供ですから殆どお役には立てないでしょうが、頑張りますのでお願いします」

 

 

「誰かに何か言われたのかい?」

 

 父上が優しい顔で、しかし探る様にと言ってきた。 なる程、子供が一人で辿り着ける答えじゃないよなー。

 

 そうだ!曽祖父をダシに使おう。

 

「実はおじい様から、曾おじい様は幼少の頃から偉大であった。お前も曾おじい様を見習って、立派な貴族になるようにと言われましたので」

 

 そうおじい様に、心の中で謝罪しつつ責任転嫁した。

 

 両親は微妙な顔をしつつも納得したが、慌てる事は無いゆっくり進めばいいと言って寝かしつけてくれた。

 両親が「おやすみツアイツ」と部屋を出ようとした時、本日の添い寝番の巨乳メイドのエーファ嬢が控えていた。

 

 母が物凄く微妙な目を僕に向けてきたので、死にたくなった。

 

「若様、もう何時ものお休みの時間を過ぎています」とメイド服を脱ぎながら、話しかけてきた。

 

 嗚呼……リアルメイド生脱ぎに、心は興奮しているのにマイサンは微動だにしてくれない。

 エーファ嬢はメイド服を綺麗に畳むと、僕を誘ってベットに二人で入った。

 ちらりと彼女の下着姿をみたが流石に中世ですからシャツに半ズボンみたいな下着だった、しかし生地は薄く、滑らかな素材で出来ていた。

 後に添い寝の為の特別な生地と衣装だと説明してくれました。当然?子供らしく彼女の谷間に顔を埋め、胸の感触を楽しみつつ深い眠りについていった。

 

 

 貴族様万歳!僕は勝ち組。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 今日の若様はご立派でした。先ほどのスピーチや来客の貴族様達への対応など、既に御当主の貫禄が御座いました。

 現当主の旦那様は隠していらっしゃいますがロリコンでチィパイ好きの変態でいらっしゃいます。

 それで我々巨乳メイド及び見習い達は地位が低く、奥様を筆頭にスレンダー派が大きな顔をしていらっしゃいます。

 

 職場環境改善の為にも若様には、幼少の頃から巨乳好きになる様に仕向けてきました。

 そして早くも成果が有り、恋人(妾)宣言をされてしまいました。嬉しいです。

 

 これからも他の巨乳派構成員と共に、若様巨乳ハーレムを実現する為に邁進するつもりです。

 今日からはエーファ先輩に若様添い寝用専用下着を着てもらい、添い寝を実行して頂いてます。若様も早く巨乳の良さに篭絡されて下さい。

 

 

 諸悪(巨乳好き化)の根源はここに居た!

 

 

 

第3話

 

 

 僕は精神年齢30歳前に魔法使いになる!

 

 

 おはようございます、ツアイツです。今朝も幸せなぱぷぱぷ状態から気持ちよく目覚め朝の挨拶をしています。

 このエーファ嬢は、覚醒前の僕の一番のお気に入りの娘だったりします。

 黒髪ロングのおっとりお姉さん系が転生前の僕の理想だったので、無意識下で惹かれたのかな?

 

 良くやった覚醒前の僕。

 

 昨日の失敗を繰り返さない為にも、少し早いのだろうが彼女を起こす為に顔をふくよかな双子山に擦りつけた。

 

「あん。あらお早う御座います若様。今朝はお早いですね」

 

 おっとりと朝の挨拶をしてくれた。

 

「おはようエーファ」

 

 子供らしい笑顔で挨拶を返し起き上がる序に彼女の胸に軽くタッチした。

 エーファは僕の無礼にも微笑みを向けるだけで手早く自分のメイド服を着る、メイドの生着替えとは眼福だ。

 

「では洗顔とお着替えの準備をしてきます」

 

 綺麗に一礼して部屋を出て行った。

 

 嗚呼……マイサン!今日も微動だにしてくれないので心に一抹の不安が、若年性EDじゃないとね?

 

 今の目覚めのシチュエーションなど転生前ならご飯3杯は逝けるだろうに所詮は幼児ボディ。

 

 はぁ精通って大体何歳位でくるのかな?

 

 さて今日から魔法使いになる為に修行を開始するぞ。前世あわせて既に29歳、30歳迄には真っ当な手段で魔法使いに、ハルケギニア風にはメイジとならねば!

 このままでは童貞を30年貫いて童帝となり、究極の魔法使いに成ってしまう気がする……

 

 

 結論として僕は、累積年数30年童貞を貫いてしまったが、メイジとしてはギリギリ29歳でドットになれた。

 

 

 父上が誕生日の翌日から僕の為に、契約を結ぶ杖の作成を許可してくれ2ヵ月後には手元に届いた。

 専属の家庭教師がついて先ずは、コモンマジックの習得に励む。

 家庭教師の先生はリッテンさんと言い、水のトライアングルで32歳の学者肌な方です。

 感じとしては、普段のコルベール先生をフサフサにした感じかな。

 

 流石に貴族の子弟の家庭教師をするだけは有り、教え方も丁寧で分かりやすく礼儀正しい人です。

 ふっと思ったが、この時代には家庭教師斡旋組合とか有るのかな?

 

 彼は父が探してきたのだが、他の貴族からの口コミで聞いて家臣に直接交渉に行ったらしい。

 生活に余裕の無い貴族なら両親が教えるらしいので、恵まれているんだろうな。

 それにムキムキマッチョ軍曹の、スパルタ教育よりは全然ましだし。

 

 美しいお姉さまに手取り足取り個人授業も夢みたが、いくら伯爵家の御曹司相手とは言え現実としては有り得んわな。

 

「さて、若様始めまして。今日から貴方の魔法について教える、リッテンです」

 

「先ずは基本であるコモンマジックの中でレビテーションとフライを習得して頂きます」

 

 連載4話目にして始めて魔法が出てきました、ハルゲニアの魔法とはイメージと精神力が最も重要なファクターだ。

 幸い精神力は見た目5歳だが中身は29歳なので、現時点でも問題は無いだろう。

 

 先ずはレビテーション!

 

 3m先の小石に向かって教えてもらったスペルを唱え意識を集中する、因みにイメージは漫画で読んだサイコキネキスの要領で行った。

 

 結果、小石は問題なく地上1.5m位の高さでふよふよと浮いている。

 

「お見事ですぞ若様」

 

 リッテンさんが、拍手をしながら褒めてくれた。

 

「始めてで成功させるなど、若様の年齢を考えても素晴らしいですよ」

 

 父上に用意して頂いたこのタクト型の杖との相性も良いみたいだし、イメージは前世で読んだり見たりした超能力や魔法をテーマにした漫画やアニメが役にたった。

 

 砲撃とかしてみたいですNさんみたいに!

 

 続いてフライを自身に唱えてみる。イメージの元は竜の玉の舞○術だ!

 

 ふわりと体が浮き上がるのを感じる。

 取り敢えず3m位まで浮かび上がってから下を向いたら、急に心臓を鷲掴みされたように苦しくなって精神が乱れフライの制御が乱れてしまい落下してしまった。

 

「若様危ない!」

 

 とっさにリッテンさんがレビテーションを唱え、地面に激突する寸前で助けてくれた。

 

「ありがとうございますリッテン先生。高い所から見下ろしたら急に怖くなっちゃいました」

 

 

 てへ!って感じに舌をだしてあやまってみたが、まだ心臓はバクバクしっぱなしだ。

 多分前世の死亡原因の転落が関係して高所恐怖症……トラウマになってしまったのかもしれない。

 近くで様子を伺っていたのかナディーネとエーファが駆け寄ってきて介抱してくれた、みっともない所を見せてしまったかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 最初にハーナウ家の使者から若様の魔法指導の話を聞いた時は、断ろうかと思いました。

 両親も早く他界し独身で領地も無い名ばかりの子爵、生活に困るほど困窮はしていませんし国から頂く禄だけでも十分生活出来る。

 暇の全てを好きな研究の時間に当てられますから。

 

 何度か貴族の子弟の魔法の手ほどきをした事がありますが、私の様な没落一歩手前の貴族に対しあからさまに蔑む様な態度を取る子供が多い。

 それも親が大貴族になるほど、手の付けられない糞餓鬼達です。

 丁度、話を貰った時にどうしても欲しい魔道書が有り、高くて我慢していたのですが前金の金額で購入出来るのでつい請けてしまいました。

 

 ハーナウ家は新興ながらこの50年位で急に勢力範囲を伸ばしてきた一族。

 急に裕福になり甘やかされた子供だろうと思ってましたが、最初に会った時に随分と大人しいでなく落着いた子供だと感じました。

 

 まだ5歳ながら礼儀正しく、始めての魔法授業だと言うのに冷静に逆にこちらを観察している様な目をする事も有り、違う意味で やり難い子供だとも思いました。

 いざ授業が始まってみれは優秀な生徒でこちらの説明を正しく理解し、逆に次のステップで教えようと思った事を質問してきたりします。

 

 理解力が高いと言うか不思議と、同世代と会話している気持ちになります。

 

 先ずは基礎のコモンマジックのレビテーションを唱えさせてみました。

 初めての魔法を一度目で成功させる事も驚きましたが、魔法自体も安定しています。よほど確かなイメージが有るのでしょう。

 

 実際、両親や家臣達の魔法を直に見ていたのかもしれません。殆ど精神力の消耗も見られませんし続いてフライも実践させてみます。

 小石とは違い自身の体を浮かす訳ですし、重量も桁違いに重いので僅かに浮く位かと思えば一気に3m位まで浮かび、その後直ぐに苦しそうな顔になり制御を失い落下していきました。

 

 咄嗟にレビテーションが間に合いましたが、何故かれはあんな恐怖に歪む顔をしたのか……

 

 確かに子供があれだけの高さに上がれば恐怖するとは思いますが、もっと深い恐怖心が有る様に感じました。

 それより急に駆け寄ってきて介抱している2人のメイドと、何をいちゃついているのか。

 

 しかも両方、巨乳の美女・美少女じゃないですか。

 

 普通、使用人を名前で呼んだりする事は少ないのだが、随分と仲が良さそうなんですけどー。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日から若様が魔法の勉強をなさります、正直に言うと我々平民からすれば魔法は恐怖でしか有りません。

 お優しい若様の事ですから魔法を覚えても私たちに使う事はないと思いますが、やはり恐ろしいものです。

 先生の話を真剣な表情で聞いていらっしゃる若様は、凛々しいですね……えへへ。

 

 しかし突然フライでしょうか?

 

 若様の体が高く飛び上がったと思ったら、急に落下していきました。

 先生が魔法でお助けしたみたいですが、まだ初日だと言うのになんて危ない授業をするのでしょうか。

 この人は良さそうですが、頼りなさそうな方が先生で大丈夫なのでしょうか?心配です。

 

 今後は巨乳同盟のメンバーで授業を監視しないと、いけないかも知れません。

 それとこの先生、何故か我々の胸を凝視してますが……イヤラシイ。

 

 この身は既に若様の物と決まってますのに言い寄ってきたら、はっきりと伝えなくては……若様からも言われてますので。

 

 こうして見ると若様の恋人(妾)宣言は悪い虫が付かない様に、私たちの事を心配して言ってくれたのだと思います。

 次の添い寝の時には、うんとサービスをしないといけませんね。

 



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第4話から第6話

第4話

 

 正直内政チートなんて無理でした。

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 残念ながら今朝は幸せなぱぷぱぷ状態ではありませんが、一応気持ちよく目覚めて朝の挨拶をします。

 

「お早う御座います若様、朝です。起きて下さい」

 

 凛々しいお声で起こしてくれる格好いい系のお姉さん。

 このルーツイア嬢は軍人系の没落貴族の三女であり、去年父上が引き取って僕の護衛兼メイド兼警備の仕事も手伝っている有能な娘さんです。

 没落の理由は教えてもらってませんし聞いていません、金髪を肩上でショートに切り揃えた髪型に鋭い碧眼の持ち主です。

 

 戦闘力はD89……

 

 くっなんて破壊力。我が陣営の最大戦力だ!

 引き取られた時点で既に火のラインで有り、もう直ぐトライアングルになれそうだと言ってました。

 彼女の場合は添い寝と言っても警備を意識しているのか、ベットの脇に椅子を持って来て座り僕が眠るまでは手を繋いでくれるだけです。

 我が家にきた時点で既にご立派な双子山だった為に、父上のお手は付いてないみたいです。

 

 没落してからウチに来る迄に随分苦労したのか、男性不信気味な感じがします。

 多分、妾にとか愛人とかの話が多かったので男を信じられないのかも知れません。

 我が父上はロリコン・チッパイ派なので彼女の様な美人でも巨乳には興味が無いので、交渉に応じたのかな?

 

 その点で言えば、父上と趣味の住み分けが出来たのは素晴らしい、ブリミル様、ありがとうございます。

 さて今日は今後の方針を考えようと思います。カモフラージュで積木をしながら、先ずは自分の置かれている現状を考える。

 

 

 魔法について

 

 やっと修行が始まったばかりで系統呪文はまだ教えて貰えず、専らコモンマジックの練習ばかり。

 しかし年齢を考えれば仕方ないだろう、先ずは魔法の制御に慣れる事。

 

 原作組が15歳前後でトライアングル、その他とモブがドットから精々ラインだから原作組に合わせる様に遅くても15歳迄にはトライアングルになる様に頑張ろう。

 才能は有れども努力が必要だからなぁ……じっくり取り組もう。

 

 

 内政干渉について

 

 現状では殆ど領地経営に参加する事は無理です。ちょっと大人びてきたとは言えまだ5歳だし、今は何を言っても取り合ってはくれないよね普通。

 一般的な貴族は12歳前後で少しずつ参加していくみたい、そしてうちの領地の状態とか経営状況とかまるで分かりません。

 今後の方針としては、これらの事を調べる事から始めなくては……こっそり父上の執務室に潜り込もうか?

 

 

 原作組について

 

 原作開始10年前だけと、現状で原作のストーリーに介入できる事は何も無いな。

 ガリアの粛清とかマチルダやティファニアやアニエスの事など介入自体無理です。

 精々が手紙とかで危機を知らせる位だけど、そんな怪しい手紙なんてそもそも信じないだろうし送ったのが自分だとばれたら大問題だ。

 無理無理そっとしておこう。なにサイト達が活躍して解決してくれるさ。

 

 OH他人任せ!

 

 タルブのゼロ戦はどうしようか。近代のメカニズムの塊だから先に確保して調べつくし、原作で必要な時にさり気なく返せば良いかな?

 幸いゲルマニアだから技術を転用して生かせる職人も探せば居るだろうし、居なくても育てれば我がハーナウ家の為になりそうだし。

 実は原作女性陣のなかではシエスタが一番好きなので早めに会って出来れば我が家のメイドに迎えたい。

 ルイズやタバサはチッパイだし、そもそも背後関係がキナ臭すぎるから遠慮したいしキュルケは巨乳だけどコッパゲとくっ付くし、お淑やかが好みだから除外。

 ティファニアは引っこ抜くとサイトの回復役が居なくなるし、マチルダ辺りが五月蝿いだろうな。

 好みで言えばアンリエッタ姫だが他国の姫君にアタックなどしたらゲルマニア皇帝から何を言われるか。

 確か3世ってこの時期、政略結婚でアンリエッタ姫狙ってたよね。

 モンモンやケティとかも可愛いけど接点は無いし、魔法学園に入学してからの話かな。

 

 

 今後の方針についてまとめ

 

 考えない様にしてたげどこれらの事の他に、最も優先しなければならない事が有るのです。

 

 そう!

 

 それは……ハルケギニア語の読み書きです。

 

 あの神様っぽい何かの温情?で会話には不自由せずに転生できたけど、読み書きは殆ど分かりません。

 5歳児って現代なら幼稚園に通ってる頃ですよね。

 流石に29歳の精神と記憶を持っているとは言え、精々が自分の名前とアルファベット?を覚えている最中です。

 

 やべー!これじゃ調べるとかいっても書類読めないじゃん。

 

 今後の方針は読み書きの勉強と魔法の勉強を頑張る、以上!

 

 

 何とも他のSSの転生や憑依の主人公達と比べると、普通の貴族の子供してるんだろう。

 これじゃ下手に原作に介入すると死亡フラグが満載になっちゃうんじゃないのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 このハーナウ家に仕えるようになり、そろそろ一年が過ぎようとしている。

 我が家が没落する前はそれなりに他家のパーティなどにも参加し、自慢ではないがそれなりに美人だとの自負も有った。

 両親も政略結婚先に売り込む為に、パーティに連れ回したのだろう。

 

 しかし父が汚職で捕まり死罪となり、母はそのショックで後を追うように病死。

 二人の姉は離縁こそされなかったが、嫁ぎ先で肩身の狭い思いをしているだろうから妹とはいえそこに頼る事は出来なかった。

 今まで政略結婚先にと思っていた貴族達は、お悔やみを言いつつ掌を返す様に自分の妾や愛人になれと言ってきた。

 どちらにしてもこの先女性が一人で生きていくには厳しい情勢だし、火のラインメイジとは言え今まで貴族の令嬢として育てられた自分が傭兵などに、なれるものでもないだろう。

 

 何人かの父の知り合いの貴族に働きたいと相談に行っても、話の途中からやはり妾や愛人の誘いばかり。

 そんな中でサムエル様だけが私を他の薄汚い貴族と違い、イヤラシイ目で見ずに真面目に相談に乗ってくれて。

 ならば我が家で息子の護衛と面倒を見てくれ、とおっしゃりその日の内にハーナウ家に招いてくれた。

 私は彼に仄かな思いをよせ、思い切って気持ちを伝えてみた。しかし最悪な言葉でこの気持ちを踏みにじられた。

 

 彼曰く「すまないがデカい胸の女性にはそういう気持ちを持てない……と」

 

 彼は幼女趣味であり、年齢的にはオッケーだが胸が趣味じゃないとかなんとか。

 私は彼を途中から薄汚い物を見る様な目をして見詰め、無言で彼の前から立ち去った。

 そんな失恋の原因であるこの胸を若様は大層気に入ってくれたみたいで、良く胸の谷間に抱きついてきては輝く笑顔で私を癒してくれる。

 

 しかし添い寝は警備上の問題でする訳には行かない。若様の寂しそうな目を見ると胸が締め付けられる。

 今度、非番の日にでもナディーネが手配した添い寝専用下着を着て若様にサービスして差し上げようか。

 

 

第5話

 

 ついに原作キャラと会ってしまった。

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 色々あり8歳になりました、今朝の添い寝担当はナディーネです。この3年で双子山も更なる進化をしています。

 

 恋人宣言の一件以来積極的に、ぱぷぱふしてくれるので幸せ絶頂!

 

 気持ちよく目覚めて朝の挨拶をします。しかしマイサンは相変わらず沈黙の艦隊状態……セガール何とかしてくれ。

 

「お早う御座います若様、朝です。起きて下さい」

 

 ギュっと抱きしめながらおはようの挨拶をしてくれますが、しっかり胸の谷間に挟まれてますので喋れません。

 モゴモゴと喋ると、双子山をかぷかぷしてしまった。

 

「あん。若様朝から激しいです」

 

 真っ赤になりながらナディーネが可愛らしく叱ってくる。

 

「すまない。でもナディーネが放してくれないのがいけないんだよ」

 

 いやらしくない子供らしい純真な笑顔で文句を言ってみた。

 

「では続きは次の添い寝の時に。洗顔と着替えの用意をしてきますね」

 

 最近少し距離が近づいたのか、昔のような敬語でなく少しだけ砕けた口調で話してくれるようになった。

 続きって次の添い寝の時が楽しみた。一体どんな双子山マジックをシテクレルノカ。

 今の表情をみたらナディーネ達も、もしかしたら添い寝を辞めてしまうかも知れないくらい変態ちっくな表情でひとりニタニタして独り言を呟いていた。

 

 記憶が戻ってから3年。

 

 既に魔法はコモンを粗方習得し系統魔法の練習に入っている。なんと最初に発動できた魔法は……水でした。

 

 アレ素養ハ土ノホウガ高インデスヨネ?

 

 これには母上が大喜びし、空き時間には自ら自分の膝の上に僕を乗せて水魔法について講釈してくれた。

 血が繋がっているとはいえ母親という実感は薄いのだが、何といっても美人だし若いし良い匂いだし僕はこの幸せな時間を満喫し、リッテン先生と母上とのダブル授業で気づいたら水のラインになってしまっていた。

 これを見た父上は膝を付いて悔しがり何故なら曽祖父は魔法が使えず政略結婚した曾祖母が土のドット。

 生まれた祖父は土のラインで、父上自身は土のトライアングルであるから僕には土でスクエアを期待したんだろうな。

 

 すいません素養は有るはずなんですが、修行環境がアレだったものですから。

 

 これを切欠にか記憶が戻った当初はボロを出すのが怖くて両親との会話には気を使い少し他人行儀と所も有ったが、それが無くなり打ち解けていった。

 勿論、母上とだけで父上とはそれなりですけどね!その時は軽く考えていました。

 

 8歳児が魔法の習得を始めて3年足らずでラインメイジになる意味を。

 

 トリスティン貴族程は酷くは無いが、見栄っ張りな貴族がこんな自慢できる話題を放っておくなんてことはないよね。

 そして他所で我が子の事を自慢しまくった父上のせいで本日、キュルケの実家にご招待されました。現在は両親と移動中の馬車の中です。

 父上曰く、ツェルプストー辺境伯は我がハーナウ家の曽祖父の代からの大得意様だそうで、今では家族ぐるみの付き合いで宮廷の事なども良く教えてくれる友人だそうです。

 互いの領地も接していて聞けばチッパイ・ツンデレのルイズのご実家との小競り合いにも応援で、何度も兵を差し向けた程の仲良しさんダッタノダー。

 

 地味に家族が死亡フラグを作ってました。

 

 これはトリスティンに留学したらルイズから逆恨みされるのでは?下手したらキュルケの子分扱い?あーもー既に、原作介入する気持ちがなーくーなーるー。

 などと考えているとどうやら、ツェルプストー家の門を潜ったみたいです。馬車で半日って大した距離が離れているわけではないのね。

 

 感覚でいうと30km位かな。

 

 初めて会う原作キャラのキュルケちゃん8歳は、赤髪褐色の肌のロリロリ元気っ娘でした。まだ幼女だしマナイターですね。

 何故か父上がキュルケちゃんを見詰める目が怪しく輝いています。こいつまさかロリコンを突き抜けてペドに進化しつつあるのか?

 

 彼女も何となく居心地が悪そうな……

 

「ご無沙汰しておりますツェルプストー辺境伯さま。

そして始めまして美しいフロイライン。ツアイツ・フォン・ハーナウ です。以後お見知りおきを」

 

 跪き彼女の手を取りキスをする。両家の親たちは「おやおや」とか「まあまあ」とか微笑ましい物を見るような概ね好意的で感触だった。

 だが、当のキュルケちゃんは真っ赤になって聞こえないほどの小さな声で挨拶をしてくれた。

 

「はじめまして……よろしく……」

 

 呟く様に言って俯いてしまった。

 

 アレ?恋愛ヲ楽シムツェルプストーノ一族デスヨネ?微熱チャンデスヨネ?コノ反応ハオカシクナイ?

 

「どうやらツアイツ殿は、ツェルプストーの一族の気質を持っているみたいだね。将来女泣かせになりそうだよ」

 

 ツェルプストー辺境伯がニヤニヤしながら話しかけてきた。

 

「いやいや既に専属メイドに恋人宣言しているのだよ。流石はハーナウ家の次期当主だろう」

 

 父上もニヤニヤしながら爆弾を投下してきた。このペド、いらん事を言いやがって!

 

「ツアイツ?帰ったら少しO・HA・NA・SHIしましょうね」

 

 母上それ違う物語です。

 

「キュルケその程度で取り乱すとは、ツェルプストーの一族の女として失格ですよ。折角ですからその小さなジェントルメンを案内して差し上げなさい」

 

 ツェルプストー夫人がにこやかにしかし笑ってない目で(手を出したら分かってるんだろうなテメー的な)二人を見ながら 声を掛けてきた。

 これ以上此処にいては僕の精神が持たない。

 

「ではお言葉に甘え、キュルケ嬢に案内をして貰います」

 

 僕はキュルケの手を取ると右手と右足が同時に出る歩き方で庭園の方に歩いて行った。

 暫く歩いてから名残惜しいがキュルケちゃんのプクプクで温かい手を離す。

 

「ごめんね。怒られちゃったね」

 

 笑顔を添えて謝罪した、彼女は父上の友人とはいえ上位貴族の令嬢だから粗相は良くない。

 

「ううん。お母様は厳しいけどあれは怒ってないわ。

逆にツアイツを気に入ったみたい。気に入らない相手なら私をエスコートさせないもの」

 

 これは何フラグだろう?

 

 この原作からは想像出来ない将来巨乳になるのが確実な、キュルケちゃんを僕好みに光源氏計画を発動しろって事ですねブリミル様!

 なんて調子こいてましたが母親ズの事を考えると、恐ろしくなり保留しました。二人で池の側のベンチにすわり、取り止めの無い話をする。

 

「そう言えばちゃんとした自己紹介がまだだったね。僕はツアイツ・フォン・ハーナウ。ツアイツと呼んでね」

 

「私はキュルケ・フォン・ツェルプストー。キュルケでいいわ」と花の様な笑顔で言ってくれました。

 

 流石は原作レギュラーキャラ!幼くてもオーラみたいなものが有るね。

 

「ツアイツはもう魔法使えるの?私はまだコモンマジックしか教えて貰ってないの」

 

「僕もまだ早いって言われたけど我が侭言って5歳から教えてもらっている。属性は水だよ」

 

「凄いのね同い年なのにもう系統魔法を使えるなんて。ねぇなにか魔法を見せて」

 

 キラキラした目でお願いされては、断るなんで出来ないよね。では母上にも見せていないオリジナルの水魔法をお見せしよう。

 

 僕のオリジナル魔法……なんて事は無い。

 ただ水面も舞台に見立て水で出来た等身大人形(ゴーレム)の寸劇。

 

 タイトルはロミオとジュリエット!

 

 まんまパクリだが、シェークスピア自身もギリシャ神話の「桑の木」を元ネタにしてるしオマージュって事で。ストーリーはハルケギニア風にアレンジしてみた。

 要約すればツェルプストー家の縁の若者が、恋をした女性は政略結婚ヴァリエール家に嫁ぐ様に言われ悩んでいた。

 気晴らしに街へ出た彼女は偶然(勿論彼がストーカー的に偶然を装った)彼に出会いたちまち恋に落ちる。

 何度も密会をすれば、用心してても何れはバレてしまう。怒った両親はヴァリエール家との婚姻を強引に進めてしまう。

 

 彼は危険を顧みず深夜に彼女の実家に忍び込み……

 

 あの有名なベランダ越しの名台詞のシーンですね。

 

「ねぇ○○○○…貴方はどうして○○○○なの」

 

 ベランダまでフライで飛び上がり臭い口説き文句を羅列する。

 

「君の為なら家名を捨てよう。僕は○○○○それ以外の名前は要らない」と。

 

 二人は駆け落ちし良心的なブリミル教の司祭の元で二人だけの結婚式を行い、ひっそりと暮らし始めるが失踪した事を心配に捜索していた家人達に見つかり、ささやかな幸せの時は引き裂かれてしまう。

 彼女は家に軟禁され強引に結婚をさせられそうになるが、心配した乳兄弟から水の秘薬により仮死状態となり結婚式を中止させその後、乳兄弟の手引きにより脱出し彼の元に向かうと言う計画を実行する。

 

 ここで大切なのは、相手側と連携をしなければならないのだが彼も実家で軟禁されている身。

 そんなに簡単には連絡が取れず、託した手紙も家人に見つかり読まずに捨てられてしまう。

 結果、彼は偽装を知らされず本当に彼女が結婚を苦に自殺したと思い込んでしまう。

 強引に軟禁から脱出した彼はブリミル神殿に安置されている彼女の棺に跪き、最後の別れの口付をして服毒死しようとするが、水の秘薬の効果が切れて目覚めた彼女から真実を聞き抱き合ってハッピーエンド。

 ラストだけ変更したストーリーにした。

 

 僕はゴーレムを操り一人二役で声優もこなしていく。

 最初は物珍しくみていたキュルケちゃんだが、段々に 馴れてきたのか次第に劇にのめり込んでいきベランダ越しのシーンでは自ら彼女役の声優をこなしてしまう。

 

 流石は将来の微熱。しかし良く台詞分かったな。ハルケギニアにも似たような物語が有るのかもしれないね。

 そして劇は盛り上がり最後のシーンでは、感激したキュルケちゃんが抱きついてきた。

 

「凄い。こんなお話、見た事も聞いた事もないわ」

 

 突然でビックリしたが軽く抱き返してから、すっと離れ舞台役者の様に恭しくお辞儀をした。パチパチパチパチと突然の拍手?

 振り向けばツェルプストー夫妻と両親とメイド達がずらりと並んでいた。

 

 母上が物凄い勢いで駆け寄ってきて僕を抱き上げる、儚いイメージが崩れました。

 

「ツアイツにこんな才能が有るなんて聞いてなかったわよ」

 

 キラキラと少女の様に輝いた目で話しかけてきた、深窓の令嬢だった母上はこういう話大好きだったなー。

 

「おやおや初対面のレディに抱き付かせるとはどんなマジックなんだい」

 

 幼女大好きの父上からは嫉妬の籠った目でからかわれる始末。

 

 ツェルプストー夫妻からは宿敵ヴァリエール家に脚本を作って送りたい等と物騒な話が……ボクハキコエナイ!

 

 この時は何も心配してなかった。

 魔法の技術としてはゴーレム操作だけだし、池にある水を使ったから練金もしていないし技術的には十分他のラインメイジでも可能な範囲に収めたはずだ。

 もっとも普通のメイジはゴーレムで劇なんかしないだろうから比べるのもアレだが。

 唯でさえラインになった事を吹聴されたのに、親馬鹿夫婦二組の前では見せちゃいけない事だったのだ。

 そして僕とキュルケちゃんの知らない間に次の公演の日程が決まっていった。

 

 

第6話

 

 

 我が息子の才能について

 

 おはよう、ハーナウ家現当主サムエルだ。今朝は寂しく独り寝をしておる。

 最近妻が息子に掛かりっきりで少し寂しい限りだ。

 何人かいたお気に入りメイド達も、息子の進める牛乳と腕を組んで左右に振る何とか体操?のせいでとある部分の成長が激しく、寵が削がれていく。

 最近の好みだとキュルケ嬢とか……じゅるり。新しい自分に、いや進化した自分に目覚めそうダ……

 

 アーハハハ!ツアイツ父は人間(ノーマル)をヤメルゾー?

 

 いや取り乱してしまったが、相変わらず妻は儚げなチッパイで有るし何人かの新しいメイドも雇い入れた。

 それに、牛乳と体操の効果の無いメイドも居るので問題は無いのだか……何故か彼女等はアデーレの元に集うのだが。

 いっそ領内に善意で孤児院を設立し未来ある美幼女・美少女を保護するか。

 

 夢とマイサンが膨らむのう。

 

 今夜は久しぶりに新しいメイドと戯れるとしようか、貴族様万歳よのう!

 

 さて最近の息子だが……

 同じマイサンでも暴れん棒の方ではないぞ、5歳の誕生日からメキメキと凄い成長を遂げている。

 魔法は言うまでもないが、精神面での成長というか、もう変化といって差し支えないレベルでだ。

 精神面での成長とアンバランスなのが言語の習得なのだ、文字の勉強は年相応のレベルでしかない。

 

 誤魔化している訳でなく、本当に覚えるペースが普通というか……

 

 しかし数学については既に、家庭教師を唸らせる程の習得レベルとか。

 ウチは商家上がりだし、計算に強いのは跡取りとしては喜ばしい限りではあるな。あと男として喜ばしいのが女性の好みに関してだ。

 

 息子は私とは相容れないが巨乳好きである。

 当初はウチのメイド達に対し、変な体操やら食事療法とやらでお気に入りのメイド達の胸が忌々しく成長されてしまい親として一言文句を言おうとした。

 が、その試練を掻い潜り真の永遠のチッパイを選別したという快挙には素直に賞賛しよう。

 何故か選ばれた彼女らは我が妻の元に集い、自分のアプローチにも積極的に乗ってくれるのだ。

 

 結果オーライか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お早う御座います。

 

 ツアイツの母親、アデーレです。

 最近ツアイツに構い過ぎて主人を放っておいたせいか、なにやら企んでいるみたいなのです。

 それに最近になって私付きのメイドでは無い者が慕って集まってきます。

 彼女達には不思議なシンパシーを感じるのですが……何故でしょうか?

 

 答え チッパイ同盟の盟主と構成員だからです!

 

 愛しい息子ツアイツですが、我が子ながらその才能の豊かさには驚かされます。 魔法については私と同じ系統である水のライン。

 未だ8歳でこの才能ですし、将来トライアングルは確実でしょうしスクエアにも届くかも知れません。

 私も自ら指導しましたが、もう教えられる魔法が有りません。

 

 元々攻撃的な魔法の習得は苦手で、治療や秘薬の知識を主に教えましたが、既に教えることは殆ど有りません。

 最近は独自の調合で「ほーきょー薬?」の開発に取り組んでいます。これが完成すれば、世の女性の大多数が幸せになるとか。

 

 私にも使わせて下さいと言ったら「母上が使用するとハーナウ家存亡の危機だ」とか意地悪をいいます。

 

 どんな効果か有るのか分かりませんが、今度こっそり調べてみましょう。母親に隠し事などいけない子ね。

 

 

 

 某巨乳派メイド新人構成員

 

 若様の考案された画期的な体操と食事療法によって、長年のコンプレックスで有った貧乳が改善されました。

 しかし何故か旦那様から寵愛を受ける回数が減ってきてしまいました。

 でも才能豊かで娯楽の少ない私達にも寸劇?なる人形劇を見せて下さるお優しい若様派に鞍替え出来たから、結果的には良かったと思います。

 

 

 

 某将来的にも成長しないと判断されたメイド

 

 若様の実践されている巨乳化プログラムで、完全に効果無しと判断されてしまいました。

 折角条件の良いこのハーナウ家に仕える事が出来たと喜んでいましたが、才能なしと判断されましたし暇を出されてしまうのかと不安な日々を送っていました。

 しかし、先ほど旦那様に呼ばれ君のようなエリート?は私の側付にするから!言われ、高待遇の上にお給金もビックリする位の金額を提示されました。

 

 選考から落ちた私などの為に旦那様自らが両手を握られ、満面の笑顔でエリートエリートとおっしゃって頂いたきましたし、恐れ多いのですがその申し出をお受けしたいと思います。

 勿論この待遇にはお手つきも含まれるのでしょうが、貴族様にここまで好待遇で喜んで頂けるなら問題はありません。

 

 聞く所によるとモット伯様などは、もっと酷い扱いらしいので本当にハーナウ家に採用されて良かったと思います。

 暫くして若様から、「父上の事を宜しく頼む」と真面目な顔でお願いされましたが……

 まさか旦那様から妾か側室にでもと望まれているのでしょうか?それは嬉しいけど困ります。

 

 

 

第1回ツアイツ脳内会議開催

 

 

ツアイツA

 

 微妙に原作から剥離しだしたがどう修正をするんだ?

 

 

ツアイツB

 

 このまま好きにしても良くね?キュルケだけなら喰っちまっても平気だろ。その内飽きられて他の男にいくのでは?

 

 

ツアイツC

 

 そうだね。微熱だし原作時にフリーにしてトリスティンに送り出せばOKだろ。

 

 

ツアイツD

 

 いっそ原作介入なしの方向でいこうぜ。巨乳メイドハーレムの仕込みも順調だし。

 

 

ツアイツE

 

 賛成!わざわざ危険な目に会いたくなんてねーよ。

 

 

ツアイツF

 

 じゃあシエスタは諦めるのか?サイトにくれてやるには勿体無くないか?

 

 

ツアイツA

 

 ティファニアにもこっそり会いに行ってみたいな胸革命だし!

 

 

ツアイツB

 

 OH!バストレヴォリューション。しかしマチルダやばくね?

 

 

ツアイツC

 

 ゴーレムで潰されるな、下手にエッチな事なんでしたら。

 

 

ツアイツD

 

 正妻候補で対応してみるのは?上手くいけばハーフエルフの件はアンリエッタが何とかしないかな?

 

 

ツアイツE

 

 ロマリアの坊主が五月蝿いしデメリットの方が大きいだろ。

 

 

ツアイツF

 

 まだ原作開始まで7年有るし胸が革命まで育つまで保留でよくね?

 

 

ツアイツA

 

 そうすると原作開始1年前位でも間に合うか?

 

 

ツアイツB

 

 その他のモンモンやケティはどうする?

 

 

ツアイツC

 

 別にモブキャラメイド達でも十分可愛いし下手に手を出す必要なくね?

 

 

ツアイツA・B・D・E・F

 

 賛成!

 

 

ツアイツD

 

 ティファニアは原作開始1年前位に接触と言うことで。じゃシエスタは?

 

 

ツアイツE

 

 竜の羽衣?を買い取るのを切欠にしようか。そこでウチのメイドに誘うのはどうかな?断れないだろ平民だし。

 

 

ツアイツF

 

 ゼロ戦の代金500エキューに輸送費は200エキュー位かな?あと他国に出掛ける理由も必要だよね?

 

 

ツアイツA

 

 ではシエスタについては予算と口実が出来次第、行動に移る事にしよう。

 

 

ツアイツB・C・D・E・F

 

 異議なし!

 

 

ツアイツB

 

 それから内政干渉どうするよ?シエスタの件でも資金いるし何かないかな?

 

 

ツアイツC

 

 うちって実は有能だよな。元々商人上がりだから経営は他の貴族と違いしっかりしてるし。

 

 

ツアイツD

 

 土地は全て握って家臣は全員、給料制だし不正に対する監査機関らしき物もあるよね。

 

 

ツアイツE

 

 領地は安定し税率も低く治安も良いしやる事なんてなくね?

 

 

ツアイツF

 

 直には出ないな。んじゃ第2回脳内会議のテーマにして各自草案を考える事。 

 

 

ツアイツA

 

 では一堂解散!

 

 

ツアイツB・C・D・E・F

 

 お疲れ様でした!

 

 

 実りある会議が終了した。日本の国会議員も見習えばいいのに位に、充実した内容だっだ。

 因みに議員は煩悩の数と同数います。

 

 108人かよ、アルファベット足りねーじゃん。

 

 噂のツアイツには両親にも秘密な、脳内会議の才能もあったりした。

 

 



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第7話から第9話

第7話

 

 原作キャラの父親から果たし状?(ファンレター)が来たよ!

 先日キュルケちゃんを喜ばせる為に見せてしまった寸劇が、各方面に波紋を呼んでいます。

 現代人ならば普通に暮らしていれば、テレビドラマや映画の漫画や小説等、少し興味が有れば古典芸能だって見る機会は有る。

 僕だってそれなりに映画やドラマも見た。

 そして製作側の苦労や努力は分からないが、結果としてのストーリーや演出に感動もした。

 

 つまり結果どうすれば面白くなるか、ビックリさせられるかを知っている。

 

 この世界では斬新だったり革新的だったり奇抜だったり……

 勿論、このハルケギニア風にアレンジは、しなければならないから多少の文才は必要だろうが、この世界では比べ物にならないだろう。

 全部前の世界のカンニングをしている訳だから。義務教育も受けているのだから、それなりの作品は作れてしまう。

 

 そして暇有り金有り見栄っ張りな貴族が、ウチの両親やツェルプストー夫妻が自慢しまくる僕らの(主演女優キュルケちゃん)劇を見ていない事が悔しいらしく、パーティへの招待を兼ねてウチの屋敷でも上演してくれないかとのお誘いを受けだした。

 流石に両家より格下クラスの貴族たちは無理強いしないが、同等以上な連中やウチの商売のお得意様には断り辛い。

 てか、母上とツェルプストー夫人がノリノリになってしまい後には引けない状態です。

 そして現在、売れっ子作者の缶詰状態と同様に、何故かツェルプストー辺境伯の屋敷にて新しい脚本を書いています。

 

 おかげで毎回恒例のパフパフからの目覚めと挨拶が出来ません。

 格上の相手に我が家の巨乳専属メイドを連れてくるのは失礼らしく、ナディーネ達はお留守番。

 父上は政務の為に先に帰宅してしまい、僕と母上に割り当てられた無駄に広く豪華な部屋で執筆に励んでいます。

 注意しなければならない事はブリミル教に失礼の無い様にする事、他の貴族のプライドに傷を付けない事。

 ヴァリエール家には既に思いっきり茶化してしまったが、敵対されても既に敵対してるから関係ないかな……

 

 烈風のカリンは恐ろしいけど、子供には酷い事しないよね?よね?

 

 因みにロミオとジュリエットは、此方では実際にヴァリエール家からお嬢様を掻っ攫ったツェルプストー家の若き貴族の名前に変わってしまいましたとさ。

 ヴァリエール家の古傷をモロに抉ってないかこのタイトル?

 

 死亡フラグダヨネガクガクブルブル

 

 この水のゴーレムを使った演目は既に5回程上演し、しかも演出の補助にまさかの水と土のスクエアメイジが二人も付いてくれてます。

 こんなお遊びに付き合わしてしまい本当に申し訳ないと恐縮しあやまったのですが、なんと僕らの劇をみてファンになってくれたらしく態々、僕の拙い?

 魔法制御を補助し、序に近くでこの劇を見たいと言ってくれました。

 

 嬉しいけど後には引けなくなってない?お忙しいのでは?とやんわり断ろうとしたげど金持ち貴族の三男と四男なので平気、しかも給金もいらない。

 実家がツェルプストー家とハーナウ家と繋がりが出来るだけでも十分だそうです。お二方ともそれだけの腕があるなら引く手数多だろうが、政略結婚の駒に使われる前に好きにしたいみたい。

 名前は美形の水メイジがユリウスさんで、ちょっと残念なポッチャリ体型の土メイジがアルミンさん。

 共に実家は子爵家で、後で調べて貰ったら特に政治的思想も立場も経済状況も問題なさそうです。

 嬉しい事に空いた時間で土の魔法のレクチャーをしてくれます。

 

 そして元々素養が有った(ハズの)土の魔法が使える様になり、ゴーレム作成・制御と錬金の多用でラインになれました。

 後でこの話をした時のリッテンさんの落ち込み振りは凄まじく、家庭教師を辞めると言い出し必死でとめました。

 

 考えればコモンマジック以外教わってないや!

 

 数回の公演を無事、終了し最新作「シンデレラ」を書き上げ、ようやくツェルプストー家を後にする事が出来た。

 この間約2ヶ月……長かった。

 

 因みに「ロミオとジュリエット」及び「シンデレラ」は小説化して出版しました。

 この2冊は噂の劇を見れなかった貴族の子女に大人気で特に恋愛色の強い作品であった為、生産が追い付かない程でありハーナウ家にそれなりの富と、僕のお小遣いをもたらしてくれた。

 これでシエスタスカウト計画の下準備が出来たかな。しかしとんでもない弊害が襲ってくるのを僕は気が付かなかった。

 

 発端は何度目かの公演で人手が足りなくなり、メイド3人娘を呼び寄せ手伝って貰った時の事。

 3人とも巨乳で且つ最近導入したバストアップ体操により確実に美乳化しつつある。

 そんな彼女達が人目を集めるのは当たり前であったが、流石に僕の専属メイドに手を出す奴等も居なかった。

 

 裏方繋がりでお呼ばれした貴族のメイド達や、同行しているキュルケちゃんのお世話係のメイドさん達と話す事も当然有る訳で……

 

 彼女達がいかに僕から高待遇を受けている事。

 僕がいかに多様な才能を発揮し、魔法も既に水のトライアングルで土のラインで素晴らしい事。

 彼女達に不貞を働こうとしたら僕の名を出してまで良いと貞操を守ってくれる事。

 そして最悪なのがどんな貧乳でも巨乳・美乳へと導いてくれる事。

 

 彼女達3人を見て説得力の有ったこの事は、ハルケギニアの巨乳の導き手として、噂は爆発的な勢いで広まっていった。

 そして使用人の噂は何時かは主人である貴族達の耳にも入る訳で……耳聡い貴族達からその秘術の伝授もお願いされだした。

 

 しかしウチにはチッパイLOVEな父上がいる訳で、僕に繋ぎを取りにきた貴族をあらゆる手段で悉く断っていった。

 父上からすれば迷惑以外の何物でもなかった事だろう。

 

 暫くして書斎に一人で呼ばれ懇々と説教された、自重しろ……と。

 

 ゲルマニアでは噂は落着いたが、とある恐妻家とツンデレな娘達がいる貴族にまで届いてしまったからさぁ大変!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 某恐妻家のツンデレ娘の父親である時ヴァリエール公爵は怒りそして悩んでいた。

 

 最近ゲルマニアから流れてきたハーナウ家から発行された小説の内容についてで、これは我がヴァリエール家に対し宣戦布告に近い古傷を抉る内容だった。

 しかもこの話は腹立たしい事に劇として、既に多くの貴族達から賞賛されている現状だ。

 確かに配役を置き換えて読めば素晴らしい内容だし、劇も水ゴーレムを使った斬新な演出の物らしい。

 何人かのトリステイン貴族も見ており、野蛮なゲルマニアにしてはまぁまぁだと言っていた。

 

 プライドの高い彼らのまぁまぁと言う事は、素晴らしかったのだろう。

 

 なのでこの作者であり演出家である、ハーナウ家の跡継ぎツアイツについて細かく調べさせた。

 いまだ8歳とは言え既に水のトライアングルで最近土のラインになったそうだ、魔法に関しては一流なのだろう。

 この先順調にいけばスクエアにも届くかもしれん。

 

 憎っくきツェルプストーの小娘とも仲が良いらしい。

 

 是非ともそのまま繋ぎとめて欲しいものだ。此方に略奪愛を仕掛けてこない様に……そしてゲルマニア貴族にしても珍しい変わり者だとか。

 平民に優しく気さくで、自分のメイド達には何か有れば自身の名前を出しても良いと言うお人好し振りだ。

 

 トリステインでは考えられないな、平民に舐められるだろう。

 

 ここまでなら才能は有るが平民上がりの貴族らしく、平民に甘いと低い評価をされるだろう。

 貴族絶対のハルケギニアでは、下手をすれば異端として痛くない腹も探られそうだな。

 だが、奴はそれを劇の中で、二人の仲を取り持つブリミル教の司祭を登場させる事でかわしている。

 

 真実ではそんな事はしてないが、奴が真実の愛を守る善人の司祭として登場させ、実際に自分の領地の司祭に許可を取っているらしい。

 汚職まみれの奴らからすればイメージアップを図れ、損はないし多額の寄付もいっているのだろう。

 

 名声と金をチラつかされたら断れまい。

 

 油断がならないな。本当に子供か?裏に誰か居るかとも思って調べさせたが、なにも出てこなかった。

 そして既に3人の専属巨乳メイドを持つ、自身の考案した体操や食事療法を駆使した巨乳の担い手とか。

 実際にかの家のメイドは巨乳・美乳が多く後天的に巨乳化したのは事実らしい。

 それと僅かながら胸のささやかなメイドも居るが、それらは全て父親付きのメイドになっている。

 彼女らは可愛そうにチッパイLOVEの父親に見初められ、巨乳化の話から外されてしまったのだろう。

 なりふり構わず、息子に接触を図る奴らを葬った事をみても高確率で巨乳化するのであろうな。

 

 愚かなロマリアめ。

 

 奴こそ神の奇跡の担い手。伝説のバストアッパーだろう。なんとしても接触を図りたい。

 そして巨乳好きの、しかし浮気の許されない私の為にカリーヌを巨乳・美乳化して欲しい。

 我が家の構成を見て悟ったのだが、豊かな胸の婦女子は心優しくなり、胸が貧しいものはキツイ性格になる。

 妻と長女と末の愛娘と次女を比較すれば分かるのだ、早急に対応しないと大変な事になると……

 

 しかし敵対しているしかも他国の貴族、とうしたら良いものか。

 

 いっそ巨乳を信奉する一貴族として、腹を割って話すのも手だろうか?あっこらエレオノール、父の手帳を見てしまったのか?

 

 「母上に報告します」とか無表情な顔で出て行かないでー!待ってくれー、アーッ!

 

 

 結果一ファンとして手紙をしたためる事とした。

 

 

 拝啓、貴方の素晴らしい本に感動しました。実は我が妻と二人の娘の為に先生のお力を……

 

 そして何故か手紙は無事に、ツアイツに届きました。

 

 

第8話

 

 ファンサービスに命を掛けるか?

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 今朝は久々に幸せなぱぷぱぷ状態から気持ちよく目覚め朝の挨拶をしています。

 エーファ嬢が添い寝専用下着改でギュッとしてくれています。

 この下着どんどん布の面積が減っていませんか?サービスですか?そうですか。

 

 執筆活動も落ち着き劇の方も魔法関係はアルミンさんとユリウスさんに任せ本職?の声優達も教育し僕の手からやっと離れました。

 暫くはリッテン先生と魔法の訓練に勤しみ地力を付ける事に専念しようと考えていましたがとんでもない手紙を携えた密使が来ました。

 

 

 拝啓

 

 貴方の素晴らしい本に感動しました。我が妻と二人の娘の為に先生のお力をお借りしたく筆を取った次第です。

 聞けば先生は巨乳の担い手として畏敬と尊敬を集めていらっしゃる。

 そこで貧乳で嫉妬深いしかも凶暴な妻とまさに今が婚期なのですが貧乳でキツイ性格の為中々縁談の纏らない長女について先生のお力で胸を豊かに情と思いやりも豊かな女性として教育して欲しく…

 勿論新作の執筆でお忙しいとは思いますがこれもブリミル様と巨乳の神の思し召しと思いなにとぞお力をお借りしたい所存であります。

 私自身も貴族としての雑務に追われ中々時間が取れませんが一度調整をし直接先生のお話を聞きしたいと願います。

 過去に誤解が有ったかも知れませんがここは巨乳を愛する独りの先生のファンとして宜しくお願いします。

 

 

 

 ウチもそれなりの防諜機関を持っているが、それを掻い潜り届けにきた目の前に跪く男に手紙を読み終えてから声を掛けた。

 

「この手紙の内容は知ってるの?」

 

「はい。内容を理解して頂いた上でお返事を貰ってくる様に命令されています」

 

「うちはツェルプストー家と懇意にしてるので政治的にもそちらに手を貸すのは不味いんだけど」

 

「同好の士として過去の事は水に流して協力をお願いしたいと申しておりました。またお礼に関しては最大限努力するとも聞いています」

 

 原作を知る者としては最早手遅れとも思うのだが……あのヴァリエール公爵が巨乳信奉派で有るなら協力はしたい。

 しかし母親と長女と三女には会いたくは無い。さてどうするか?

 

「私としても同好の士であるヴァリエール公爵のお力にはなりたいと思います。

しかし立場が許さない。なので苦肉の策としてどこぞの密偵が我が屋敷に忍び込みこの秘伝の書の写本を盗んでいった。

そういう事にして下さい、貴方に泥を被せてしまいますが……」

 

 

「わが身も巨乳に捧げた身。

ご心配なく。若も烈風の騎士姫などと言う貧乳の小娘に籠絡されて……

幾ら若き時に共に活躍し数々の武功を立てたとは言え当時でさえ男装し男と見間違う胸をしていれば将来性の無い事などわかろうに。

しかも結婚し尻に敷かれねば今頃はトリステイン一の巨乳屋敷になっていたかもしれぬ物を……おいたわしや」

 

 なんか危険な単語がデテキタヨウナ?

 

 ボクハシリマセンヨ……

 

「同士にお伝え下さい。巨乳への道は険しく日々の努力が実を結ぶのです。その奥方とご息女に毎日努力する様に本当に伝えられますか?」

 

 

「あの胸がスカスカでプライドの高い女達では苦労はすると思いますが必ずその様に伝えます」

 

「私見としては手遅れと思いますし胸が豊かになっても性格は変わらないとも思いますが頑張って下さい」

 

「……有難う御座います」

 

「それとこれはまだ世に出してない私の新作ですが私のファンに渡して下さい」

 

 そう言って新しい境地を開くべくハルゲニア風に金持ちの貴族が下級貴族や平民の美しい娘達を引き取り自分好みの淑女に教育していく。

 やがてその中の1人の娘と真実の愛に目覚める「マイフェアレディ」ハルケギニア版を手渡した。

 

 しかし密偵は私もこの作品を早く読みたいが主人の手に渡ればそれは難しいだろうと寂しそうに呟いた。

 なので風のスクエアが知り合いに居るなら本を持って偏在して貰い本物を主人に渡せば良いのでは?と教えた。

 

 「その発想は無かった。流石ですな」と酷く驚いてそして嬉しそうに去っていった。

 

 

 しかしプライドの高そうなあの二人が素直に話を聞くとは思えないのだが……

 原作では貴族の中の貴族みたいな厳しい感じのオッサンだったが実情は恐妻家で浮気も許されないなんで悲惨だな。

 今度18禁本でも書いて送ってあげようと心に決めた。

 

 

 すっかりその事を忘れていて3ヶ月が過ぎた頃に先の密偵が再び現れた。

 所謂結果報告とお礼だがやはり結果的に最初に夫人にお願いしたら半殺しにされ長女にお願いしたら野良犬を見る様な目で見られ暫く口も利いて暮れなかった……と。

 しかし使用人特に若いメイド達には好評で欠かさずに行っていた者達は見事に巨乳化したそうです。

 だかヴァリエール公爵はこれを他に広めて尊敬を集めるのは自分では無いと使用人達には固く口止めしこの写本もお返しすると今日お持ちしたと。

 尚、その実績をみて内緒で励んでいる夫人と長女だがいまだに効果は確認出来ないと。

 

 写本の出所は口が裂けても教えないので此方に迷惑にならない様にする。

 それとお礼の件だが金銭的の物は無粋で有りお互い不要と思うが先生程の人に送るものが思い浮かばずとは言え次女は巨乳でお淑やかに育てたが体が病弱だし長女・三女は(胸的に)失礼に当るのでもしも希望が有れば教えて頂きたいと。

 

 確かに結果で見れば屋敷は巨乳だらけになったが夫人と長女には効果が無いからなぁ……

 

 逆に変に実績を作ってしまったから他に何か方法が無いのかとあの二人に目を付けられたくないな。なので丁重に辞退する旨を伝えてもらいました。

 流石は巨乳の担い手様は謙虚でいらっしゃると職場環境の向上した密偵は喜んでいた。

 

 やはり原作キャラは原作通りなんだな……としみじみと思ってしまった。

 

 

 

 キュルケちゃんも今は素直でお淑やかだが何れ微熱になっちゃうのか……少し残念でならない、無常だ。

 

 やはりと言うか流石は仇敵同士互いに情報を集めていたのだろう。

 久々にツェルプストー家に遊びに行くとツェルプストー辺境伯より最近ヴァリエール家から接触が有っただろうと言ってきた。

 隠す必要も無いので夫人と長女の巨乳化と性格改善の相談を受けたが成功せずしかし試しに使用人が実施したら効果が出過ぎたので秘術は念入りに口止めし渡していた写本を返してきた。

 あれは同好の士だが貧乳の妻と娘に蔑ろにされている寂しい男だと。

 

 

 それを聞いたツェルプストー辺境伯は腹を抱えて自分のライバルの実情を笑い同時に同情した。

 我が一族でもあの長女にちょっかいかける猛者は居ないだろう。序に三女も体型・性格は母親譲りだとも教えておいた。

 しばし沈黙してからツェルプストー辺境伯はヴァリエール公爵に対し少し歩み寄っても良いかな?と言い今度二人で会ってみようか?と提案してきた。

 

 折角領地は隣り合っているのだし一度ちゃんとした協定を結び双方の領地から商人の行き来きを奨励したり関税を撤廃したりしたらお互いの領地が栄えるのではないかと進言してみた。

 

 

 どのSSでも書いてある事だし何の気なしに言ったのだがツェルプストー辺境伯はじっと僕を見詰め考え込んでいた。何か変な事言ったかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 こやつには何時も驚かされる。

 宿敵ヴァリエールから接触が有ると報告が有りどうした事かと聞いてみたらとんでもない事をさらりと言いおった。

 まぁ私は巨乳も貧乳も広く愛せる男だが彼の環境は余りにも悲惨で同情を禁じえない。

 長きに渡り反発していた我等を乳だけで取り持とうとしてると思うと腹の底から笑えるわ。

 ただ油断がならないのが直ぐに協定や貿易の件まで話を振る強かさだ。

 

 両家を取り持ちハーナウ家にも利益が出る方に誘導してないか?本当に8歳児か?

 

 こやつがハーナウ家を継げばさぞ退屈しないだろうな。それより我が娘とくっ付けた方が面白いか?

 キュルケも満更ではないようだしハーナウ家と縁が強くなれば安泰だ。

 

 それだとツェルプストー家を継ぐ跡取りを作らないといかんな。認知している子等から優秀なのを引き取るか新しく作るか。

 

 ふふふ。久しぶりに子作りに励んでみるか。本妻、側室、妾と居るから忙しいな。

 

 ヴァリエールめ羨ましがるだろうな。ははは愉快だ。

 

 

第9話

 

 シエスタスカウト計画発動

 

 おはよう、ツアイツです。

 

 午後からはツェルプストー辺境伯とヴァリエール公爵との面談について打ち合わせです。

 流石に長きに渡る因縁は両当主が直ぐに会おうと言っても周りが許さず調整に調整を重ね今まで掛かってしまった。

 

 

 僕の方は何度か密偵を通じ手紙での遣り取りをしている。

 大貴族なのに実情は妻と娘に虐げられている可愛そうな親父なので最近書き始めた18禁本を既に何冊か贈りその感想と近状報告をまめに送ってくれる文通仲間だ。

 長女は相変わらず婚約者と長続きせず魔法学校を卒業後はアカデミーに進むらしい。

 次女は体調が思わしくなく予断を許さない状態らしい。あの乳は何とかしてあげたいが正直手段が無い。

 

 三女については何故かコメントを避けている。アレか?もう爆発魔状態なのかも知れない。

 

 こう書き連ねると本当にヴァリエール公爵って大変なんだなー。

 どれか一つ位はお手伝いしたいけど……どれもハードル高いよ。

 さてツェルプストー辺境伯との話し合いだがそろそろ我が父上にも参加して貰い具体案に入っていった。

 概要は互いに隣接している土地に新たに商売の基点となる街を作り各自の領地より商人を配置し無関税の商品を取り扱わせる。

 もともと関税の高いトリステインの他の領地を経由にて入って来るより無税で直接入ってきた方が当然安い。

 先ずは小口取引から様子をみて商品が捌けそうなら取引量を増やしていく。

 商人達には関税の無い代わりに販売量に低額の税金を掛ける。

 

 入ってくる前から税金が乗っかり高い商品になって売り辛いよりは安く大量に捌け儲けに比例した税を払った方が良いとわかると出店数も取引量も増えそこに集まる人をターゲットにした二次商売も盛んになる富のスパイラルが出来るはずだ。

 最初はゲルマニア側の方が売りでトリステイン側の方が買いが多いと思うけどね。

 

 生産力とかの関係で……

 

 ゲルマニア・トリステイン両政府には戦争の火種に成りそうなツェルプストーとヴァリエールの仲が少しでも落ち着くなら構わないとお墨付きを貰った。

 実際何度か小競り合いの原因になっていて少なくない戦費が掛かってたので政府としても損な話ではなく上手くいけば売り上げの何割かは税として上納されるのでそれはそれで美味しいのだ。

 序に言えば許可だけ出せばあとは勝手に進むので自分たちの負担も発生しないしウハウハだ。

 両現政府公認は誘致する商人に対しても良い安心材料になるだろう。

 そしてついに具体的な調印を結ぶ為にツェルプストー辺境伯と父上と僕でヴァリエール公爵邸に行く事に。

 僕は行きたくは無かったのだが発案者で有り多分ヴァリエール公爵と一番仲が良いので同行する事となった。

 

 

 そして厄介事をこなす内に精神が一回りも二回りも成長を遂げたせいか土のスクエアになれた、でも回りにはいまだ土のトライアングル・水のラインで通している。

 ほら最年少スクエアメイジだとガリアの無能王とかに目を付けられそうだ色々面倒臭いし……でもバレてるみたいなんだ。

 

 ふと疑問だったのだが自分がこんなに成長するのに何故他の連中はしないのか?

 多分だが転生って普通じゃありえない経験が精神的な成長を促したのか……何にしても予定より少し早く魔法に関しては目標を達成出来た。

 

 

 後は自分の願望のアレの習得だ、まだ原作開始まで3年以上有るから何としても習得しなければ!

 そしてツアイツ13歳の春ついにヴァリエール公爵家に調停の為に訪問した。

 有力貴族同士の調停と言う事でトリスティン政府側から何故か偉そうな立会い人とどこから聞きつけたのがブリミル教の枢機卿が同席していた。

 どうせ己の取り分を明確化したいのだろう、本当に金に汚い奴らだな。

 

 しかも調印場所をトリステイン王宮で行うと言い出した。

 

 これにはツェルプストー辺境伯も父上も反対し(このままでは美味しい所を全て持っていかれてしまう)この話は無かった事としゲルマニア皇帝にも報告すると厳しく言い放った。

 事前根回しも無く当日に言い出して来た事を考えても此方を舐めてるとしか言いようがないな。

 しかし貴族同士プライドが高いのでどちらも引く事はないだろう。

 父上はツェルプストー辺境伯に遠慮が有り自ら折れる事は無いしツェルプストー辺境伯は……そんな気などないな。

 

 ヴァリエール公爵は苦虫をまとめて2〜3匹噛み潰したような顔をしている。

 多分、立ち会いの話は聞いていても場所まで変更されるとは知らなかったのだろう。

 

 王宮の勅使はなんとあのモット伯だった、シエスタはあげないよ。

 

 ここで揉めても何の意味もないので立場的には爵位もなく強行にならない僕が妥協案を提示してみる事にした。

 

「ヴァリエール公爵宜しいですか。今回の件公爵はどこまでご存知だったのですか?」

 

「いや王宮より調停の立会いをするとは聞いていたのだが場所の変更は聞いておらん」

 

 僕はモット伯とブリミル教の枢機卿に対して黒い笑みを浮かべた。

 

「教皇様とマリアンヌ様は当然ご存知なんでしょうね?このままではゲルマニアに戻り皇帝に報告し戦争準備に入りますよ。

ゲルマニアの有力貴族2家に対し他国の王宮に連行するのであればこちらとしてもそれなりの対応をしますので……」

 

 なんだこの餓鬼は?みたいな目で見られたがヴァリエール公爵がフォローしてくれる。

 

「彼はハーナウ家次期当主で今回の件の発案者だ」

 

 流石は我が同士!

 

「教皇様には今回新しく作る街に教会を寄贈する話をしましたが戦争となればその話は白紙撤回という事で、責任は貴方が取って下さい」

 

 僕は更に突っぱねた、ロマリアには我が領地の司祭を通じ多額の献金を行っている、ここで他国に配置されている枢機卿に遠慮も融通する事も無いだろう。

 モット伯というかトリステイン政府に対してはゲルマニア貴族を舐めているとしか考えられない。

 

 じゃ開戦するけど責任はそちらだよ?って態度に出れば利益は欲しいが責任は嫌だって顔で考え込んでしまった。

 

「モット伯も枢機卿も己が責務を果す為に少しだけ意気込んでしまっただけでしょう。

ここは穏便に当初の段取り通りヴァリエール公爵家にて調印で宜しいのではないでしょうか?

幸い公爵家は王家に次ぐ歴史と血筋の尊い名家ですし問題はないですよね?」

 

「このままではモット伯と枢機卿の所為で開戦なんて嫌ですよね?」とニッコリ脅してあげた。

 

 こちとら数年掛けて地道に関係各所に根回しと献金・賄賂を贈ってるんだ。

 仮に開戦しても彼らに働きかけて責任は押し付けられるしツェルプストー家とヴァリエール家はとっくに和解してるから出来レースの小競り合いでお茶を濁せるからね。

 

「勿論、条約が結ばれ事業が軌道に乗ればお二方にも利益提供は出来ると思いますので」と飴もチラつかせた。

 

 戦争責任を押し付けられるかと思ったら利益が貰えると言われ何となく丸め込まれた感はあるが納得して貰えたようだ。

 そして調停は問題なく結ばれ親睦会と言うか関係者だけの晩餐会となった。

 

 

 僕はこの後にヴァリエール公爵に根回ししてもらってタルブ村にワインの取引を持ちかける名目でアポを取って貰っている。

 勿論タルブ伯にも運搬用の竜騎士を派遣する事の内諾も貰っている、運ぶのはワインでなくてゼロ戦だけど!

 

 

 ついにシエスタと対面か……

 

 内心ニヤけながら明日からの予定を考えていたが大事な事をを忘れていた。これから烈風のカリンとヴァリエール三姉妹と会わねばならないじゃんか!

 ヴァリエール公爵とは趣味友として和解出来ている、けど女性陣にはろくでもない奴と思われているよね。

 

 そして遂に対面となりました。

 



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第10話から第11話

第10話

 

 そしてヴァリエール一家とのご対面

 

 食事の前に豪華な応接室に通され紅茶を優雅に頂く。

 給仕のメイド達は例の写本を実施したのか皆平均D85以上の戦闘力を備えている、ちらほらEも居るな。

 そして来客のメンバーの中で一番格下の僕が一番礼を尽くされた丁寧な接待を受けている……何故かな?

 

 ヴァリエール公爵が自慢げに自分の家のメイドを自慢している、厳ついイメージが崩れますよ。

 

「どうだ我が家のメイド達は。君のおかげで皆巨乳だろう?」

 

「教祖さまのおかげで女性としての自信を取り戻せました、有難う御座います」とニッコリ話しかけてくれた。

 

 本来なら貴族間の会話に口を挟むのは不敬だがヴァリエール公爵が鷹揚に頷いている、良いのか?

 

「君の教えと写本を元に励んだ者達は20人を越える。皆君を崇めているよ」と爆弾発言!

 

「是非直接教えを賜りたいと思いますのでお願いします」

 

 メイドさん達に拝む様にと懇願された、こんな事が世間に広まれば異端問題だ!

 

 雇用者のヴァリエール公爵もただでは済まない筈なのに呑気にお茶など飲んでいる。

 

「流石に教祖とかまずいのでやめて下さい」

 

 僕はヴァリエール公爵に文句を言ったがもう一つ爆弾を投下してくれた。

 

「実はカリーヌから彼女達は教祖と共に居るべきだと言われてね。残念だが全員引き取ってくれ、反論はカリーヌに直接頼む」

 

 烈風のカリン、実は根に持ってたのか?しかも教祖認定ですか?異端審問に掛ける気ですか?

 こんな前振りの後に会わねばならんのか彼女らに……

 

「父上体調が優れないので先にタルブ村に向かってよいですか?」

 

 父上の方を向くとそこには貧乳神を崇める修羅がいた。

 

 ヤベー父上我を忘れてる?父上は僕の両肩をガッシリ掴み……鎖骨がギシギシいってます……

 

「貴様異教徒だな。布教はしないと約束したよな。巨乳教を広めたくば乳を……いやこの父を倒してからにしろ。決闘だ!」

 

 父上ガコワレタヨー?

 

 他家で騒いで親子で決闘騒ぎ……穏便に済ます為、スクエアの力を持って父上をゴーレムの腕だけ錬金して握り気絶させた。

 

「すみません。家庭内の問題なので許してあげて下さい」

 

 家庭の問題にして頭を下げた。

 

「ツアイツ……君、スクエアに届いているよね?」

 

 ヴァリエール公爵に聞かれたが隠す必要もないので先日なれたと報告し面倒臭いので御内密にとお願いした。

 

「君は色々面白いな」

 

 としみじみ呟かれてしまった、これ以上目立ちたくはないんですよ。

 

「メイド達の受入れについては了解です。早急に手配しますが彼女らは納得しているのですか?」

 

 彼女達は仕える先が、国も変わるのに既に覚悟完了状態だそうです。

 問題は母上とナディーネ達の説得どうしようか……シエスタも連れて行くのに、結構ヤバクネ?

 

「メイド達は後で紹介させるので家族を紹介していいかな?」

 

 ヴァリエール公爵は既に自分の手を離れた様な感じでのたまった。そして烈風のカリンを筆頭にヴァリエールの女性陣が入ってくる。

 

 まず烈風のカリンことヴァリエール夫人……おっかない人だな、オーラが違うよ。胸は残念デスネ。

 

 次に長女のエレオノール……やり手お局様だね、性格キツそう。胸はこちらも残念デスネ。

 

 そして次女のカトレア……GJ神様、お淑やか天然お姉さん。胸は神様有難うデスネー!。

 

 最後に三女のルイズ……アレ?結構胸が有るよ?平均より大きいよね?原作と違いチッパイじゃないよ?アレレ?

 

 そうか!

 

 彼女は小説でも努力家だった。まさか3年間あのプログラムを実施していたのか?そして各自の自己紹介が始まった。

 

「この度は両家の和解に尽力して頂き感謝します」

 

 流石はカリン様、堂々としてるな。内心怒っているのを出さないのは流石だ。

 

「ようこそヴァリエール家に。貴方の信者達(メイド)は引き取ってね」

 

 エリオノール様は怒りを隠してない、額に井形が浮かんでいる。

 

「始めましてツアイツ様今回の件感謝しています」

 

 ……何についての感謝ナンデスカー?でもカトレア様って癒し系の巨乳だよね。

 

 最後にルイズなんだが……様子がヘンダヨ……

 

「ルイズよ、宜しくね。貴方の考案した体操って凄いのね。ちぃねぇさまと胸がお揃いになれたわ、ありがと」

 

 ズキューン!

 

 ちっこいけどチチ有りデレルイズはなんて破壊力だ、元々超美少女だしそれが巨乳になってるし……思わず見とれてしまった。

 

「ツアイツ殿は最年少で土のスクエアになった程の逸材だ。度胸も機転も有る。仲良くして貰いなさい」

 

「何なら嫁に貰ってくれても構わないよ」

 

 ヴァリエール公爵がニコニコと原作崩壊の言葉を紡いでくれました。ヤバクネ?

 ワルドこの時期何してたっけ?アンリエッタは?なんでこんなルイズになってるの?

 

 これは状況を確認しないと一気に原作崩壊で僕に死亡フラグが沢山降り掛かってくるよヤベーヤベー!

 

「ミナサン大変ウツクシイデスネ……デキレバるいず殿ト色々オハナシサセテホシイノデスガ……」

 

 やばい気が動転してカタコトの変な言葉になってる。

 

「随分積極的だな。親の前で二人きりになりたい等と言い出すとは」

 

 ヴァリエール公爵ニヤニヤしてやがる。

 

「おやおやツアイツ殿は我が娘の時より積極的じゃないのかね?」

 

 ツェルプストー辺境伯何故か不機嫌なような……父上は好みのチッパイがあの二人しか居ないので意気消沈してる、息子にのされた事もショックだったか。

 

「ツアイツ殿、今日はもう遅い。明日にでもルイズに屋敷内でも案内させよう」

 

 心の友、ヴァリエール公爵がその場を纏めてくれた。

 その夜、宛がわれた部屋で休もうとすると信者ズが僕付のメイドとして甲斐甲斐しく世話を焼いてくれた。

 

 でも1人に対し10人て多くね?明日交代でまた10人来るの?そうですか、流石に添い寝とかはさせてませんよ。

 

 そんな不埒な事をこの屋敷で行えば普通に死ねるから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今日あの教典の作者に会えた。(※既に写本は教典になってます!)

 

 彼はゲルマニアの貴族だけど野蛮な感じはしなかった、同い年なのに既に土のスクエアなんてビックリ!

 しかも今回の件も中心的な役割を担い王宮の勅使や枢機卿にも一歩も引いてなかった。

 

 でも私と喋ると恥ずかしがり屋さんみたいにアゥアゥしてた。

 

 ツアイツのお陰でエレオノールねぇ様に苛められても私の方が女性らしいので優越感が有りそんなに落ち込まなかった。

 

 久しぶりにお会いしたワルド様は絶望して両手を床に付けて慟哭していたけど、彼に何が有ったのかしら?

 

「ルイズ……君(の胸)に何があってそんな物が……」

 

 とか凄くショックみたいだったけど何がそんな物なのかな?

 

 魔法が失敗しても周りに同じ信者の皆が励まし支えてくれた、哀れむ様に接してきた他の使用人には彼女らが制裁してくれたし。

 でも皆居なくなっちゃうのよね、私も皆と離れたくないから一緒に行きたいけど……そうだ朝一番でお母様にお願いしてみよう。

 

 

 決定権は父親より母親に有るのか?

 

 公爵家での父親の地位って、そしてツアイツの公開処刑のフラグが立った。

 

 

 朝食後、ヴァリエール夫人……いや現役時代の仮面を付けた烈風のカリンより決闘を申し込まれた!

 

「ツアイツ殿、信者だけでなく娘まで連れて行こうとするならば私を倒してからにしなさい」

 

 はい?初耳ですし誰が誰を連れて行こうとしてるのですか?僕は初耳ですよ?

 聞く耳を持たないとはこの事か……あれよあれよと言う間に練兵場?

 のような場所に連行され現在進行形で烈風のカリンと向き合っています。

 

 ルイズが信者を従えニコニコと応援してくれますが君ですかこの訳ワカメな状況の犯人は?

 

「随分余裕ですね。応援団まで呼ぶとは……では死になさい」

 

 なんだか分からないが、決闘が始まってしまった。生き残る為に本気で……って勝てる訳ねーって!

 

 兎に角、この場を何とかしないと本当に殺されちゃうので僕は特訓の成果を試す事にした。

 

「錬金!」

 

 僕の周りの地面を抉る様に錬金した鋼鉄のインセクトゴーレムこれが修行の成果だ。ゴーレムの操作は劇で嫌と言うほど練習した。

 関節の構造とかお構いなしに動くことが出来る、流石はイメージ重視。

 人型よりは安定も攻撃力も有る全長4mの蟷螂を4匹錬金し四方からカリンに突っ込ませた、そして次の魔法を準備する。

 

 アレだけじゃカリンは止められない、合計8本の鎌が一斉にカリンを襲う。

 しかしカリンは上空に飛ぶ事で交わし一気に此方との距離を詰める気だ。

 

「あまい」

 

 蟷螂は飛べるんだよ!飛び上がりカリンに追撃をさせるがカリンはブレイド一閃ゴーレムをバラバラに切り刻む。

 バラバラとゴーレムの破片の落ちる真ん中に着地したカリンは全然余裕だ、何か言う前に切り刻まれた破片に再び錬金をかけ黒色火薬にし着火する。

 

 周辺に破裂音と黒煙が充満するが、あっさり避けられて後方に飛びのくカリン。

 

「なかなか面白いゴーレムですね、動きも良い。しかし私には通じませんよ」

 

 そう言ってフライで真っ直ぐに突っ込んで来た、赤くもないのにスピードは通常の3倍だ!

 

 僕は足元から花が咲く様に広がる岩の柱を錬金し更に現代のクレイモアを真似て地雷にし自分の周りにセットしタイミングを伺う。

 自慢じゃないが運動神経など良くて平均、接近されたら負けだ。

 

 某合法ロリっ子吸血鬼が言った通り砲台に徹する。しかし魔力が切れたときが敗北の時……勝つイメージが浮かばないんですよ。

 

 あっさりと土の柱をエアハンマーで吹き飛ばすが、地雷原に入ったのを確認すると似非クレイモア発動!

 周囲から指向性をもった鉄の散弾が彼女の周囲に殺到する、流石に避けられないと思ったのか風の防壁?で散弾を防く。

 

 ……やっぱ化け物だな、まだ決闘が始まってから30秒位か?

 

 もう魔力は半分以上使っている、ゴーレムによる正攻法は駄目、カウンターも不意打ちも駄目、あとはどんな手がある?

 

 これだけ攻撃しても彼女はマントに付いた埃ろ払っている程度のダメージ……どこまでも余裕だ。

 しかし決闘を止めてはくれないんだろうな。

 

「今までに見たことも無い魔法ですね。しかし、もうお終いですか?では終わりにしましょう」

 

 背中がゾクゾクするね全く、そして僕は最後の切り札を切った。

 

 

第11話

 

 

 残りの殆どの魔力を注ぎ込み究極の錬金をする。土と水の合体魔法、透明度の高い氷でブーメランを錬金していく。

 もとの世界ではオーストラリアの原住民が狩猟用として使っていたのが有名だが、実は手元に戻ってくる様なタイプは攻撃力が低いし、敵に当っても戻って来るなんて事はまずない。

 直進又はカーブして目標に当てる、回転と遠心力で破壊力を増す射撃用の武器と僕は思っている。

 

 しかし、ここでレビテーションを応用すればエアカッターとかと違い、投擲後に任意で向きを変えられる質量のある武器になるのだ。

 都合30枚長さは60cmの氷の刃があらゆる軌道で一斉にカリンに殺到する。

 更に2陣目を錬金し投擲、そして1陣目でかわされた刃の軌道を変えて襲わせる。

 

 合計60枚。

 

 向かい合っている僕には彼女の死角になる位置に誘導する事が出来るが……馬鹿な、半分近く落とされたよ。

 

 更に3陣目を錬金し投擲、もう制御は一杯一杯なのだが流石は烈風のカリン!

 

 後ろにも目が有る様に当らない、このままでは全て落とされるのも時間の問題だろう。

 僕は一斉に彼女に向けて誘導すると、刃から制御を切って突貫する。

 

 一瞬でも隙が出来れば、彼女にブレイドを突き付けて終わりにする、そして僕は強い衝撃を受けて気を失った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最初は少しお灸を据えようと思った、主人に良くない事を吹き込む変わり者のゲルマニア貴族。

 しかし芸術面での才能は有るみたいで、彼の著書は全て主人から強奪して読んでみた。

 勿論例の写本も隅々までくまなく読んで、理論的の裏付けと実践の方法はアカデミーで働く長女も唸ったほどだ。

 実際に私たち二人以外に効果は覿面だし、ヴァリエールの血統には効果が無いのかと思えばルイズは……巨乳となり、平民のメイドだが心を許せる仲間を得たのだろう。

 

 以前の落ち込んでる様子はなりを潜め性格もカトレアに似てきた、母としては微笑ましいが女としては妬ましい。

 

 あんな脂肪の塊などモギッてしまいたい。

 

 そんな感情を抱いていたら当人が来るとの事、しかも何時の間にかツェルプストーとの橋渡し的な役目も担っている。

 嫁いで来た私にはかの家に特別な感情は無いのだが娘たちは……特に長女は周りからも囁かれたのか良い感情を待ってないみたいだ。

 

 噂通りの変わり者だが、王宮勅使や機軸卿を丸め込めるのを見ると政治的な才能も持っているのだろう。

 あとは魔法だが、ルイズと同い年で既にスクエアとは驚きました。

 しかし実際に戦ってみて分かったが、発想は凄いが、経験や精度・駆け引き等まだまだですね。

 

 貴族は軍属でなければ前線で戦う事などまず無い。

 

 それでも中遠距離の魔法には驚かされたので特にマイナスとは言えないでしょう。

 後に聞いてみたのですが、土のスクエアなら普通風のメイジに対し巨大なゴーレムを仕掛けてくるのが常套手段ではと聞いたら笑って

 

「そんな手垢の付いた戦法が、烈風のカリンに通じる訳ないじゃないですか」と嬉しい事を言ってくれる。

 

 多分、実の父をしばいた精度のゴーレムを単騎制御すればそこそこ戦えたとは思うのですが……

 まぁルイズの婚約者候補となら認めても良いでしょうし、義母になれば例の研究を効果が出るまで続けさせても文句は言わないでしょう。

 そうすると我が家を継ぐのが、ルイズとの子供になるのでしょうか?上の二人は結婚は難しそうですし早く孫を作らせた方がよいのかしら?

 

 それとももう一人位頑張ろうかしら。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お母様にメイド達とツアイツの所に行きたいって言ったら「まだ早いです」と叱られてしまった。

 

 別れたくないから言ってしまったが後から考えれば、ツアイツに嫁ぎたいって言ってるみたい。誤解されたかな?

 朝食後に突然、お母様がツアイツに決闘を申し込んで驚いた。

 

 もしかしてツアイツが勝つと結婚オッケー?

 

 ツアイツと母上の決闘は、なんて言うか凄かった。

 

 最初に錬金したゴーレムは、見た事ない虫みたいでしかもゴーレムが飛んだの!

 

 お母様が切り刻んだあとはいきなり爆発しちゃうし、その後、お母様が接近したら……なんていうのか土のツララ?が沢山生えてお母様の進路を阻んだ後にまた爆発した。

 

 ツアイツは爆発好きなのかな?私の失敗魔法も笑わないかしら?

 

 その後は氷のキラキラした羽みたいなのが、お母様の周りを舞っているみたいで綺麗だったけど父上が一つでも当れば大怪我だと言っていた。

 流石にお母様も真剣な表情で避けていたわ、でも最後に何故ツアイツはお母様に突撃したのかしら?

 

 あっさりエアハンマーで吹き飛ばされていたわ。

 

 あっツアイツの目が覚めたみたい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕は宛がわれた客室で目が覚めた、メイドズとルイズが看病してくれたみたいだ。

 

「お母様が婚約者候補なら認めてくれるって言ってたわ。私の為にあんなに頑張ってくれたんですもの、当然よね」

 

 あっさり負けた事を恥ずかしくて謝ったがルイズが輝く笑顔で抱きついてきた。

 如何してこんな状況になってるんですか?玉砕覚悟で突っ込んでから記憶は無いんだけど……まぁ普通は負けるよね。

 

 あんな伝説の女傑に勝ってしまった方が、色々問題だし。

 しかしルイズと婚約なんて流れは……下手をすればトリスティン王国の崩壊の危機だよ。

 原作通りに進んでくれないと、あんな敵役の矢面に僕が立たされてしまうのは嫌だし無理。

 

 僕はやんわりと彼女の両肩に手を添えて体から離す。

 

「負けちゃったね。どれ位気絶してたのかな?」

 

「大体3時間位よ。皆は客間に居るらしいけど、もう立てるの?無理しないでね」

 

 くっこのデレルイズの破壊力は抜群だ!しかしここで流されたら最悪の結末を迎えるから何とか有耶無耶にしないと……

 

「もう大丈夫だから皆の所に行こうか」

 

 この雰囲気を切り替えないとね、ルイズを伴いメイドさんに父上の所に案内してもらったのだが……応接室?の中から怒鳴り声が聞こえます。

 

「ツアイツはウチのキュルケと一緒にさせるのだから、割り込んでくるなヴァリエール!」

 

「はっ!略奪愛は貴様のお家芸だろうがツェルプストー、真似されて怒ったか?だがアレはルイズに一目惚れだぞ」

 

「あー確かに息子の好みだなあの子は……でもうちの跡継ぎなんだし、どっちにもやらんぞ」

 

「「なんだウチの娘に不満があるのか!」」

 

「どっちも跡継ぎ的に問題有るだろ」

 

「あーうちは平気だ!もう一人こさえるから。側室も増やすし、今度は男子を授かるまで頑張るさ」

 

「くっ色ボケのツェルプストーめ。ウチだってルイズの生んだ子供の一人を貰って、跡を継がせれば問題ないわ」

 

 ちょっとマテや!

 

 僕は可愛いモブッ子ハーレムを目指すから、原作キャラとは一緒にならない予定なんだよ。

 

「お待ちください。僕は未だ結婚などは考えていません」

 

 部屋に入り口喧嘩真っ最中の親父ズに怒鳴った!

 

 だが脇腹に激痛が……ルイズさん、抓ってませんか?

 

「ツアイツは私との婚約は嫌なの?」

 

 表情は可憐ですが態度に原作開始時の面影を感じます。

 

「そうじゃない聞いてくれ。僕にはまだ結婚なんて考えられないし、お互い早いと思うんだ。ルイズも婚約者が既に居るんだろ」

 

「ワルドさまの事?

でも先日お会いしたら、僕のルイズじゃないとショックを受けられて帰ってしまわれたわ。破談でしょ?」

 

 ちっアイツ原作通り真性のチッパイ・ロリコンか……アルビオン編どうやって修正するんだよ?

 

「どちらにしてもせめて魔法学院を卒業してからの話にして下さい」

 

 取り敢えず先送りにしよう、もう何か疲れたよ。

 

「ツアイツ殿はゲルマニアにお戻りになられるなら、ルイズは不利になります。公平にするなら魔法学院はこちらに留学なさい」

 

 カリンさまどこに居たんですか?原作時にはトリスティンには居たくないんですよ色々有るから。

 

「ではキュルケも同時期に留学させよう。これで公平だな」

 

 ツェルプストー辺境伯が止めを刺してくれた、もう留学せねばならぬ流れですよ。

 

「父上、留学の件、大丈夫ですか?」

 

 一縷の望みを託して話し掛けてみる。

 

「ツアイツは既に学業も魔法も水準以上だし留学しても恥は掻かないだろう。構わないがアデーレには許しを貰えよ」

 

「分かりました。トリスティンの魔法学院に留学出来る様に母上を説得します」

 

 こうして強制的に、原作の中心に係わる様になってしまった。あと2年ちょっとでどれ位の準備が出来るのか……

 少なくとも戦闘経験は積まないと、あっさり死にそうだ。

 

 最低でもサイトは召喚してもらい、彼を補佐して原作に沿ってストーリーを進めてもらわないといけないな。

 しかしルイズの性格は既に変わっているしキュルケも微妙だ、ワルドも今更アルビオン探索に同行してくるのか?

 

 既に自業自得でこんなに介入してしまったからには、腹を括るしかないよな。

 こうしてヴァリエール公爵家の訪問で得た物は、半分公認なルイズとの婚約の件と20人のメイド達だった。

 

 流石にKYでシエスタお持ち帰りは控えたが、後日ちゃんと回収しました。

 シエスタはTV版のそばかすの無い可愛い巨乳ちゃんで、勿論色々と好感度をあげてから家に来て頂きました。

 

 原作ヒロインの一人を引き抜いてしまったけど、全然後悔はしていない。

 これからも魔法学院入学までに、出来る限り鍛錬し準備をしよう。

 しかし正妻候補があの二人とは、サイトの奴に恨まれるだろうな……

 

 でもアイツにはティファニアやアンリエッタフラグも有るし何とかなるかもね。

 根はヘタレで流されやすいし、上手く誘導して原作の流れに持っていこう。

 

 その分のフォローはすればギブアンドテイク!

 

 念の為、ルイズとキュルケには手を出さないでおこう、貴族的考えだと既成事実→即結婚だよね!

 

 流石にそれは不味いと思うんだ。

 

 

挿話1

 

 

2人のヒロイン候補の独白

 

 

 初めて彼に会った時はどう対応して良いのか分からずに、小さな声で俯いてしまったわ。

 私の周りには、異性の同い年の友達なんて居なかったから……遊んでくれるのは、年上の使用人達か下級貴族の女性ばかり。

 

 今思えば分かるわね。

 

 当時の同い年の子供など、幾ら言い含めても上位者たる私のご機嫌伺いや安全など考えもしないでしょう。何か有ったら大変だ。

 だから思慮分別の付くまで成長した、格下の相手としか接してなかった。そんな時にツアイツに出逢ったの。

 後でお母様に聞いたら、直接合わせる前に他の貴族の子供達もそうとう調べたらしいわ。

 

 唯一合格したのがツアイツだけだった。

 

 確かに初めて会った時からリードされっぱなしだったけど、さり気なく何時も気遣われていたわ……毎日が新鮮で、あんなに笑ったのも初めてだった。

 彼の話や仕草は全てびっくり箱で、何時もその行動に驚かされたわ。寸劇では斬新さや内容にも感動したり驚かされたり。

 知らない内に2人で色々な貴族の所に呼ばれ劇をしたわ。

 

 劇の後でパーティーは主賓扱いだったけど、挨拶に来る貴族の子弟達と話しても全然楽しくないの。

 普通主演男優は主演女優をエスコートする物なのに、ツアイツったら大人の貴族達に混ざり普通に会話をしていたわ。

 

 そこで知らされた私とツアイツとの差。

 

 何度目かの公演で呼ばれたハーナウ家のメイド達が、彼に向ける忠誠心の凄さ。どれも普通じゃない事を思い知らされた。

 彼と私との差ってなんなのかしら?彼の見る世界を私が見る事が出来るのか……

 暫く我が家に滞在していたけど、その間もお父様とお母様の難しい話にも普通に参加してるし、執筆している新しいお話も途中で読ませて貰ったけど凄く面白いの……

 続きがとっても気になるわ。

 

 そして聞いてしまったの、お父様とツアイツとの会話を……

 

「ツアイツ、ウチのキュルケとは上手くいっているようだね」

 

「ええ、キュルケ嬢は良い子ですよ。頭の回転も機転も良いですし」

 

「そう言う話じゃなくて、男と女としてどうかと聞いているんだよ」

 

「まだ子供に何を言ってるんですか?そんな事考えられないですよ」

 

「ツアイツ……私は君を普通の子供だなんて思ってないよ。君も分かっているだろう?自分は普通とは違うと」

 

「買いかぶり過ぎです、僕はまだまだ子供です。それに結婚相手は自分で決めるつもりでいますから」

 

「もうそこで普通ではないだろう、私の娘を要らないなんて普通言えないぞ」

 

「彼女は将来素晴らしい女性になるでしょう。僕ではとても釣り合わないですよ」

 

「大人を煙に巻くか……まぁ良い、しかし君の父上は何とかしろよ。我が娘を見る目が怪しかったぞ」

 

「すみません。自重させます」

 

 ツアイツのお父様の見るあの怪しい目が、雄が雌を見る目なのね……ツアイツは、お母様が私を見る目と似ている。

 

 保護者の目……慈しむ目……でもけして対等ではない、一線を引かれた関係。

 

 私はツアイツからは大切に思われているけど、1人の女性としては見られてないのね。

 少しショックだけど、ツアイツのお父様の生々しい目よりは全然マシだわ。

 将来性は有るって言ってくれてるし、頑張って自分を磨きましょう。この胸の奥にくすぶる気持ちを貴男に向けるわ。

 

 まだ燃え盛らない私の準備期間の気持ち……そうね。

 

 まだ微熱だけど、もう直ぐ貴男を取り巻く業火になるかも知れないわよ。覚悟なさいねツアイツ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 初めてツアイツの存在を知ったのは……

 

 お父様があの憎っくきツェルプストーと和解する準備をしてると、エレオノールお姉様が話していたから。

 ゲルマニアは野蛮な国で成り上がりだと何時も聞いていたから私もそう思っていた、そんな事より私には大きな悩みと問題が有ったの。

 

 貴族なら皆が使える魔法が私が唱えると全て爆発してしまう、もう何人もの家庭教師に匙を投げられた。

 

 ヴァリエール家の落ちこぼれ……

 

 みんな表面上は心配や同情をしてくれるけど、本心はそう思ってるはずよ。

 そんな中で何か1つでも、何時もチビルイズと苛めるエレオノールお姉様より秀でた物が欲しかったの。

 暫くしてお母様とエレオノールお姉様が、部屋に篭もり何かを内緒でしているの。

 こっそり見たら夢に見たら魘される様な必死な形相で、何か体操の様な事をしていたわ。しかも毎日よ。

 

 これは何か有ると思ったけど、そんな顔をしているお母様達には直接聞ける訳ないもの……ある日、両親が言い争ってるのを聞いてしまったの。

 

 何でもゲルマニアの同志から女性らしくなる体型の写本を入手したお父様が、お母様とエレオノールお姉様に実践させたけど効果が無いって、お父様がお仕置きされていたわ。

 暫くして折檻したお父様を治療する為に、お母様がお父様を引きずって出て行った隙を見て写本?をこっそり持ち出したの。

 

 しかしまだ字が読めなかったので、何時も励ましてくれたメイドに読んで貰ったんだけど……

 彼女が内容を確認していく過程で興奮して他のメイドも呼び集め、知らない内に10人位集まってその体操や食事療法を実践してみる事になったの。

 

 だけど他の皆には内緒で……

 

 だってあんなに必死だったお母様やエレオノールお姉様に知られたら、叱られると思ったし何か見返してやるまでは教えたくなかったの。

 最初は効果はなくて諦めかけてたけど、1ヶ月後から少しづつ実感出来る様になるとどんどんのめり込んでいったわ。

 そして同じプログラムを実践しているメイド達とは、奇妙な連帯感が出来たの。

 苦労を共にする事で、彼女達使用人との間に有った壁が無くなったと言うか。

 兎に角彼女達を名前で呼ぶようになり彼女達も私に対して口調や態度は敬うけれども、その中に親しみを感じる様になったの。

 

 

 そして3ヶ月が過ぎる頃には、お母様とエレオノールお姉様が手に入れる事が出来なかった「ないすばでぃなルイズ」になれたのよ。

 

 

 この達成感と初めて味わう優越感はサイコー!そしてこの写本の作者に最大の愛と感謝を……

 

 魔法は相変わらず爆発してしまうけど、気持ちの通じ合う仲間と女性らしさを手に入れる事が出来たわ。

 周りの態度も私を見る目が直ぐに胸元に来るのは仕方がないと思うけど、レディとして扱う様になったわ。

 

 魔法が失敗でもこの「ないすばでぃ」には男は適わないって事ね。

 

 それにエレオノールお姉様と一緒にお風呂に入った時の優越感ったら……ねぇ。

 

 お母様は……この胸をもぎられそうになったわ。

 

 アレハホンキノメダッタワ。

 

 最近はちぃ姉様と2人で、美人巨乳姉妹とパーティーでは人気なの。そして遂にツアイツが、我が家に来る事になったわ。

 あれから何冊かの彼の執筆の本を読んだり劇も見に行ったして、お父様とのお話の中で出てくる彼の武勇伝は楽しみだったわ。

 彼に直接会えたら何を話そうかしら、先ずはお礼よね。

 

 素晴らしい仲間と体型と自信を付けさせて貰った事に。

 

 

 

 

 完全な遊びで書きました。本編にはあんまり関係しないので、読まなくても問題有りません。

 苦情も出来れば受付ません。変態万歳な作品ですから……

 

 

********************************************

 

 

挿話2

 

 

ちっぱい勇者サムエルの伝説!

 

 

 外伝と言うか巨乳ばかりが乳ではないとご意見を頂きましたので、貧乳・微乳の勇者サムエルのお話を構想と制作共に通勤電車内で計60分です。

 

 今回はツアイツの父である私、サムエルの自慢話に付き合って貰おう。実はツアイツは後妻との間に出来た息子だ。

 小さい頃に我が愛妻アデーレとのにゃんにゃんに邪魔なので、メイドに預けて寝かしつける内に添い寝をしなければ寝れない子になってしまった。

 しかもちっぱいなメイド達は私の寵愛を何時でも受けれる様に待機だったので、必然的に巨乳なメイドに世話をさせてしまったのが失敗だった。

 奴は豊かな乳に挟まれなくては寝れない異教徒に育ってしまった……

 

 まぁそれについては反省しているが、後悔はしていない。

 

 自分の女を息子とはいえ他の男の側には差し向けないし本妻の子供を愛妾がどう思うかなど……考えれば解るだろう。

 息子の安全の為にも、接触させる訳にはいかなかったのだ。

 そんな訳でツアイツの周りには巨乳が集まり、必然的に奴は巨乳派となったのだ。

 そして成長した息子は、その卓越した才能をとんでもない方面に向けやがった。

 

 人類総巨乳化計画……

 

 この計画書を奴の机から発見した時には、父として差し違えてでも阻止しなければならないと心に決めた。

 しかし内容を把握せずに糾弾も出来ないので、仕方無く計画書を読みふけった……

 我が息子ながらこれだけの才能を何故、無駄遣いするのかと思う程の内容だ。

 これではスラリとしたたおやかな女性が居なくなり、凸凹体型の女共が蔓延る世紀末に……

 

 くっ、直ぐにでも奴を問い詰めねば!

 

 息子を探すと、アデーレの膝の上で魔法の練習中だった。

 

 嗚呼……アデーレ、君は僕の宝石だ!

 

 今晩も寝かせないぞ……ハァハァ

 

 あんな事やこんな事を……ハァハァハァ

 

 あまつさえこんな事も……ハァハァハァハァ

 

 はっ?何をしていたんだっけか?あまりのアデーレの美しさに一瞬記憶が……

 そう、アデーレを初めて見たのは、配下の貴族達を呼んだパーティーの時だった。

 ケバい年増の女達の中で、彼女の周りだけが神聖な森の中の泉の如く清らかな空間が出来ていた。

 

 まだ幼さの残る彼女だが、儚げでたおやかでスラリとした容姿のまさに宝石の輝きだった!

 今回が社交界デビューと聞いて、他の誰にも奪われたくなくその日に求婚した!

 

 それからの日々はまさに薔薇色の性活……いや生活だった。いまでも変わらず彼女は素晴らしい。

 

 そんな母親にも危害を加える様な計画など、この私が潰してみせる!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 洒落で書いた人類総巨乳化計画書が、ビリビリに破かれていた……

 

 某新世紀なグラサン髭親父のポーズで「ふっ問題ない!」ってふざけてポーズを決めてみたら……

 

「問題だわボケがー!表に出ろツアイツ。貧乳は微乳にあらず、美乳と言う事を神に変わって叩き込んでくれるわ」

 

 父上が乱入して来た、父上からは漲る闘気が立ち上っているのが見える。そして首根っこを掴まれ窓から外に放り投げられた!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 息子と話し合ってみようと部屋を覗いて見れば、つい破ってしまった計画書を前にしても……問題ないだと!

 

 既に計画は進行しているのだな、良いだろう。言葉で通じぬなら拳で語るまで!

 

 今は我が息子ではなく、異教徒として改心するまで殴るのみ!

 

 

「いざサムエル・フォン・ハーナウ、参る」

 

 

 結果として魔法の才能が豊かかもしれんが、実戦経験の無い息子などチョロいわ!

 

 ゴーレムで押さえつけてお尻をペンペン叩きながら、ちっぱいの素晴らしさを語りツアイツが「人類総巨乳化計画」を断念すると言うまで、お仕置きを続けた。

 

 ふっ……ハルケギニアの平和は、こうして私が守ったのだ。

 

 しかしあやつは、アデーレに告げ口すると言う暴挙にでおった。

 暫くアデーレとのにゃんにゃんを断られてしまったが、後悔はしていない。

 

 これも放置ぷれいと言うやつじゃ。

 

 アデーレは確かに素晴らしい女性だが……ほら、毎日美味しく物ばかり食べてしまっては、いずれ飽きるかも知れん。

 

 なのでこの焦らし効果は抜群なのだ!だから暫くは我慢するつもりだ。

 なに、アデーレも真面目にしていれば一週間も掛からずに許してくれるだろう。

 こうして息子とは何度となく拳で語りあったものだ。

 

 8歳迄は私の全勝だったが、流石に土の魔法を覚えだしてからは苦戦した。

 

 しかし奴の巨乳化プログラムでも体に悪影響を及ぼさない女性が現れてからは、息子の言う住み分けと言う考えを理解した。

 

 彼女らには遺伝子でちっぱいが組み込まれている、永遠の妖精達なのだ!

 

 それを選別出来ただけで良しとしよう。まだまだ息子には家督は譲らない。

 

 

 サムエルちっぱい帝国は永遠なのだ!

 

 

************************************************

 

 

とにかくサムエルさんの変態ぶりが強調された、作品になってしまった。実は作者的には、彼が一番のお気に入りなのです。

 

ちっぱい帝国永遠なれ!



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魔法学院編
第12話から第14話


第12話

 

 トリステイン魔法学院

 

 お早う御座います、ツアイツです。15歳となりヴァリエール公爵夫人の提案通り、今日トリステイン魔法学院に入学しました。

 ヴァリエール公爵家とツェルプストー辺境伯とウチの父上との経済交流は順調に進み、我が家に莫大な富と他の貴族からの嫉妬を買ってます。

 特に僕はトリステインの有力貴族であるヴァリエール公爵家のルイズと、正式ではないが婚約の噂が知れ渡っている為か、廻りからの視線がイタイデスネー!

 多分この学院では、男友達は出来ないかも知れません。

 早く自分の荷物を部屋に運び落ち着きたいので、近くに控えているメイドさんに部屋へ案内してもらいますか。

 

「君、ちょっと良いかな」

 

「はい。貴族様」

 

 金髪で小柄なツインテールのメイドが、小走りで近づいてきた。

 

「部屋に案内して欲しいんだけど」

 

「男子寮にですね。分かりました。お荷物お持ちします」

 

 そう言ってトランクを2つ、うんうん言いながら運ぼうとする。この子大丈夫かな?

 

「トランクは僕が魔法で運ぶから構わないよ」

 

 レビテーションでカバンを地上から10cm程浮かしてから彼女に話しかけたが大分警戒されている?

 

「大丈夫です!」

 

 気丈に言ってくれるが、お構いなくトランクを滑らす様に移動しながら先に歩いていく。

 

「お待ち下さい、ご案内致します」

 

 彼女の先導で部屋まで案内して貰った。

 

「こちらのお部屋になります」

 

 綺麗な所作で一礼して下がろうとしたので、お礼とチップを多めに渡しておく。

 まぁ人気取りと言うかお金を貰って悪い気はしないだろう、掌に押し付ける様に渡した。

 

 触った感じだと結構手が荒れてるな、もう春とは言えまだ水仕事は大変なんだろう。

 恐縮しているメイドさんに「有難う。又、宜しく」と言って、部屋に入る。

 

 結構可愛い娘だったな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 貴族様に笑顔でお礼を言われてしまいました。

 思わず整われた優しい笑顔に見とれてしまいましたが、顔が赤くなるのを隠す為慌ててお辞儀をして部屋を出ました。

 あとで掌を開いて見たら10エキューも頂いてしまいました、私たちの1ヶ月のお給金と、そう変わらない金額です。

 こんなに頂いて宜しいのでしょうか?お礼まで言われてしまいましたし、変わった貴族様ですね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋に入りベッドに転がりながら今後の事を考える、さていよいよ原作開始だ。

 しかし僕の知っている原作とは大分違っているからな……どうしようか?

 

 ヴァリエール夫人と決闘して以来、自分なりに随分鍛錬したつもりだ。

 あの後、何度となく手合せして貰ったが一度も勝てなかった。

 しかし、ヴァリエール夫人から適切なアドバイスと、鬼のような課題をこなしてきた自信は有る。

 あの人は本当に戦闘面では優秀だけど限度を知らないよね、普通他国の有力貴族の息子を半殺しにする?

 

 しかも3ヶ月に1度位しか直接指導をして貰えないので課題を出してくれるのだが、とんでもなくハードルが高い!

 

 最初の課題はゴーレム12体を同時制御出来る様にとか無茶苦茶ですあの人。

 次が、そのゴーレムを3体1組で4チームにして同時制御にレベルアップしてるんだ。

 

 出来なければ課題提出の時に、訓練と言う名の体罰を遠慮なく実施するし……そんな半年でゴーレム制御の達人になんて無理。

 何とかクリアしたら次は制御は4体だけれども、大きさを兎に角大きく15m以上を錬金して制御する事。

 最後は1体をひたすら大きく硬く素早く制御する事。

 

 この間わずか2年……何度も死に掛けました。

 

 そして死の淵から戻ると、精神力が強化され何とか課題をクリア。

 先日の卒業試験の時は、このシゴキの集大成を見せ付ける為に一番イメージし易い国民的アニメのMSを鋼鉄製で錬金し無駄にモノアイも光らせる小技も見せる。

 武器はアックス(ヒートアックスは無理でした)を両手に1本ずつ持たせました、このアックスはブン投げれば質量とスピードの関係で物凄い威力!

 

 調子に乗って彼女に向かい振り回していたら練兵場が崩壊し後で徹夜で直させられました。

 やはり量産MSでは倒せないのか、トリステインの白い悪魔は!

 

 そして、2年間のシゴキを終えてヴァリエール夫人にお礼を言って最後の試験の総評を聞いたのですが……

 今のレベルなら、当時のマンティアコア隊の新人程度の力量だとお墨付きを貰った。

 それとヴァリエール3姉妹の誰でも貰って良いと言われたが、土下座して丁重に辞退しました。

 

 ハルケギニアに土下座文化は無かったのだろうが、何とも申し訳ない気持ちになったらしく「保留」にしてくれた。

 

「貴方の体捌や武術は並みなので極力、接近戦で戦わないで済む技術を教え込みました。

当初見せてくれた昆虫型ゴーレムやブーメランを今使えば、制御も威力も桁違いに成っているでしょう。

アウトレンジで戦えば大抵の敵に遅れを取る事もないでしょうが接近されたら難しい、その事を肝に銘じて精進なさい」

 

 僕は感謝の言葉を述べて帰りましたが「感謝するならエレオノールでも貰ってくれれば良いのに……」と言う呟きを聞こえない振りをした。

 

 先日、何度目かの破談を向かえ、今は実家でリフレッシュ休暇中らしいです。

 

 あの時のエレオノール様は年下趣味では無かったが何度か話した時に「不思議と同年代と話しているみたい」と微笑んでくれましたが当たり前です。

 

 精神年齢は年上なのですから、とは言えず笑って誤魔化したけど。

 

 まさか狙ってる?……ガクガクブルブル。

 

 でもエーファと同世代だから守備範囲だけどね、性格と乳を何とかしたら。

 身近で接してみれば悪い人ではないんだけど、あの緊張感を毎日続けるのは神経が擦り切れて無理だと思う。

 

 でも近くで見ると知的で綺麗な人なんだけどね、勿体無いね。勇者の出現を待ちましょう。

 

 はっ!

 

 走馬灯のような地獄の訓練を思い出していたら時間がたち過ぎて入学式に遅刻しました。

 最後に会場に駆け込んだ僕は目立ってしまったのか、何人かの視線と陰口が聞こえた。

 

「あれが烈風のカリンの後継者か」

 

 違います唯の弟子です。

 

「いやヴァリエール公爵夫人の若いツバメらしいぞ」

 

 うん、こいつ叩きのめす。

 

「わざわざトリステインまで金儲けにきてる貴族らしくない奴だろ」

 

 貴族なら領地経営くらい黒字にしろって。

 

「あの御方が伝説の巨乳の担い手なのですよね、お話を聞きたいわ」

 

 ヴァリエール公爵、口止めしてくれたんですよね?

 

 適当に先生達の話を聞いてる振りをしていたが、まぁ噂話が絶えない事。これからの学園生活が思いやられるわ。

 学院長のボケはスルーしてそのまま講堂を出ると、両方からキュルケとルイズが抱きついてきた。

 

 一瞬で周囲の温度が5℃位下がる。

 

 キュルケは原作ほど色恋に激しくなく露出度も低いが、オリエンタルちっくな色っぽさが有り体型は原作基準のナイスバディの美女に!

 ルイズは、身長は原作通り小さいけどメリハリの有る体型の可憐な美少女になっていた、両極端の美女・美少女に同時に迫られれは嫉妬も凄いよな。

 二人とも大貴族の娘だって事も考えれば、当たり前か。

 

「二人とも、周りが見ているから離れてくれない?」

 

「あら見せ付ければ良いじゃないツアイツ」

 

「周りなんで気にする必要ないわよツアイツ」

 

 何気に、この二人は仲良くなってます。ライバル心は相変わらずだけど、両実家が融和政策中なので原作程酷くはない。

 しかも二人ともこの学院生活中に僕を落とす様に言い含められてるみたいなんだよな。

 勿体無いけど、サイトに惹かれる様に誘導するしかないのかな?もう原作通りには進まないだろう。

 

 ヒーローはサイトで良いが、ヒロインからシエスタ・キュルケ・ルイズを抜かなくてはならない。

 ヒロイン候補はアンリエッタとティファニアにして、どうやってサイトと絡めていくかだよな。

 他国の王女と引き篭もりのハーフエルフなんて接点なんてないし、ルイズもアンリエッタにそこまで傾倒していない。

 

 今晩にでも久しぶりに脳内会議を開催するか……

 

 なんて現実逃避をしている間に、某宇宙人の様に両手を掴まれ教室まで連行されていった。

 今後彼女達とは教室も3人で並んで座り、食事も同様な席順で休み時間も殆ど3人で1組状態になるだろう。

 しかし教室に入って3人で並んで座ると周りの連中から、各々の思惑が有るんだろう何とか接触をしようと思っているのが解るんだよなー。

 チラチラ様子を伺っているの丸解りだしね。

 

 そして先生が入ってくる、コッパゲール先生……いやコルベール先生ですね。

 

 最初の授業は当然、自己紹介となり前の席から準じ右から左へと紹介していった。

 僕らは後ろの方に座っていたので最後に近い順番だ、あー原作キャラが続々紹介してるのをリアルで見るのは感慨深いね。

 

 小太りマルコリヌ?マルッコリヌ? 金髪ロールのお嬢様モンモン。気障と言うか、半露出な位にボタンを開いてるギーシュ。

 

 その他のモブ達だが女子は結構美人さんが多い、流石は貴族様って事か。

 そしてルイズの番だが、公爵家令嬢は伊達じゃないね、見事に男子諸君が喰いついてますが優雅に一礼して席に戻る。

 

 次は僕か……と立ち上ると周りがザワザワしてきた。

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウです、ゲルマニアから留学してきました。宜しく」

 

 味も素っ気なく挨拶し席に戻った、最後にキュルケの番だ。

 

 こちらも堂に行った態度で控えめだが溢れる色気で、ルイズより男子諸君が喰いついてますね。

 確かに原作より落ち着いているが同世代では有り得ないお色気だからね、なんて考えていたら爆弾を投下された。

 

「先に自己紹介したツアイツとは婚約しているの。ヴァリエールも含めて、横取りは許さないからね」

 

 教室内が爆発した、そんな約束をしていたかな?

 

 

第13話

 

 貴族なんだし許婚の一人や二人居ても……ね。

 

 正直この一言は痛かった、これで男子だけでなく女子からも隔意を持たれてしまう。

 真っ赤になってブルブル震えているルイズが何か言う前にフォローしなければ……

 

「友好的な貴族の間で、自分の子供達を結婚させようって話は割りと有るけど。僕らの場合は、お互いをもっと知る為に同じ学院に入学したんだ。

君らの両親も僕以外の相手も視野に入れて検討しろって事で言ったんだよ。だから良く考えて喋らないと、周りが誤解するよ」

 

「「私と結婚は嫌なの?」」

 

 二人が不安そうな顔で見ている、ヤベー何かグッと来る物が有るな女性の不安顔って……

 

「嫌じゃないけど、決めるにはまだ早いって事だよ。良く考えないと後悔するし、周りの皆だって素敵なレディ二人に遠慮してしまうよ」

 

 取りあえず誤魔化した。そしてポツリと同情を誘う呟きを……

 

「僕だって在学中に相手を見つけないと、カリーヌ様からエレオノール様との結婚を進められそうだし……」

 

 呟きが聞こえたのか周りの反応が同情を含んだ物と、キュルケとルイズには未だチャンスが有る事を理解したようだ。

 これで少しは僕らの風当たりも弱くなるだろうし、夜にでも彼女らにも理由を説明しておこう。

 折角の学院生活がつまらなくなるし、彼らはこれからのトリステインを担う世代だから、仲良くしておかないと後々で問題が発生する。

 その辺も二人に言い含めないと……キュルケはともかく、ルイズはその辺の考えが甘いからな。

 

 やはりと言うか早速ギーシュが二人に粉をかけていた。

 

「美しいお嬢さん方、ギーシュ・ド・グラモンです。宜しく」

 

 薔薇を咥えて気障なポーズを決めている、実際に見るとコレハイタイナー……

 モンモンの様子を見ればそんなに嫌がってないけど、まだ付き合ってないのかな?モンモンと目が合ったので、ニコリと微笑んでおいた。

 彼女には秘薬(豊胸薬)のアドバイスが欲しいので、仲良くしたいんだよね。

 

 あっ真っ赤になって目を逸らされた……

 

 やはりゲルマニア貴族は、トリステインでは嫌われているのかな?地味に凹むわ。

 ギーシュ達を見れば二人に、こっ酷く振られている。

 キュルケには趣味じゃないしツアイツの方が素敵といわれ、ルイズにはキモイから近付かないでと怯えられている。

 

 ギーシュ呆然……そして恥をかかされた腹いせか僕に詰め寄って来た。

 

「君の所為でレディ二人が僕の魅力に気が付かない様になってしまった、どうしてくれるんだい?」

 

 凄い言われようだぞ……

 

「どうしろと言われても、彼女らの趣味じゃなかったんだろ?」

 

 事実を教えるしかなかったのだがキュルケとルイズが止めを刺した。

 

「「ツアイツに絡むな変態の露出狂!」」

 

 ギーシュはプライドを傷付けられたと僕に決闘を申し込んだ、これ原作と違う流れだぞ……

 

「君の所為で、二人のレディの美的感覚が狂ってしまった。どうしてくれるんだい?決闘だ!まさか断らないよな」

 

「いや……しかし、貴族間の決闘は禁止されてるんじゃないのか?」

 

 おいおいギーシュ、決闘騒ぎはサイトが来てからだろ。話の流れって奴が……

 

「ふん。逃げるのか。ゲルマニアには貴族のプライドが無いのかい?」

 

 薔薇を咥えてあくまで余裕の咬ませ犬ギーシュ君。

 

「ツアイツやっちゃいなさいよ!お母様から聞いたわよ。戦闘訓練でお墨付きを貰ったって」

 

「そうよ。最年少スクエアメイジなんだし、軽く捻っちゃえ」

 

 こらこら追い討ちをかけるな、ギーシュ真っ青だよ。

 

「ききき君は……ももももしかして……烈風のカリンの弟子って噂の……」

 

「ヴァリエール夫人とは、家族ぐるみの付き合いで何度か魔法の指導を受けているのは本当だよ」

 

「ででではヴァストリの広場にて待ってるからな……ににに逃げるなよ」

 

 正直に言って面倒臭いし目立ちたくないんだけど、断ると臆病者扱いだろうな……全く君の出番はまだなのに。

 

「誰かヴェストリの広場まで案内してくれないか?」

 

 何人かのモブ達がこっちだど案内してくれる、入学式当日に決闘騒ぎとは問題児扱い決定だろうな。

 だが今後も突っかかって来る馬鹿は必ず居るから、ここは完全に力の差を見せ付けないと……とのんびり歩きながら考えていた。

 ヴァストリの広場につくと結構な生徒達が輪になって集まっている、上級生もチラホラ居るな。

 

 何となくギーシュの後ろにギーシュを応援する男達が集まり、僕の後ろにはキュルケ+ルイズ+その他女性陣な配置だ。

 

 あっタバサ発見。でかい杖に眼鏡っ子で本を読んでいるけど、こっちに注意を向けているのはわかる。

 今日始めて会うが原作と同じチッパイのロリっ子だな、原作ではルイズと人気を二分する程のキャラだ。

 

 確かに綺麗だし保護欲をそそりそうな娘だね。

 

 実際はかなりしっかり者で頑張り屋さんなんだが見た目では解らない、それに彼女とは深く係わらないつもりでいる。

 正直ジョゼフなんぞに、目を付けられたくはないので……

 

「よく逃げずに来たな。褒めてやろう」

 

 ん?ギーシュ少し落ち着いたのかな?後ろからは男性陣が応援している。

 

「ギーシュやっちまえー」

 

 こらこら煽るなよ。

 

「お前と違い美女を独り占めしそうだからやっちまえー」

 

 そんな事はないよ。

 

「ルイズたんハァハァ」

 

 いやヤバイの混じってないか?

 

「いや逃げると言う選択肢は無いだろ。お互い貴族ならば」

 

 ニヤリと言ってやる。

 

「よくぞ言った。僕は青銅のギーシュ、このワルキューレ達でお相手するよ」

 

 そう言って薔薇の杖を振り花びらを舞わせて、更に花びらを錬金してワルキューレを作り出す。

 全部で7体、既に剣・槍・盾を各々装備してる最初から本気モードだ。

 では僕も本気を出す為に準備をするか……

 

「あーもっと離れて離れて!」

 

 周囲に声をかけて直径30m位の輪を倍の直径60m以上に広げさせた。

 

「二つ名はまだ無い。ゲルマニアのハーナウ家長子ツアイツ、いざ参る」

 

 そして自身最高のゴーレム(機動な戦士の敵方量産機)を錬金する。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 自分の前方に全長18mのゴーレムにアックス2本装備を錬金し、ギーシュと向かい合う。

 

「お互い正々堂々と勝負しよう、では薙ぎ払え!」

 

 ダブルアックス投擲→吹っ飛ぶギージュ+ワルキューレ7体→序に土砂も吹っ飛ぶ→ギーシュ側の応援団(男達)全滅……

 

「悪は滅びた……戦いは常に虚しいだけだ。何も僕に残さない」

 

 渋く決めたつもりでこの台詞を言い、ゴーレムを戻して抉れた土を元に戻し颯爽と後ろを向いて後を去ろうとしたが……

 後ろには半円に並んだ女子達が居るので、その輪に突入する形となってしまった。

 魔法が絶大な意味を持つトリステインでは、僕のゴーレムは圧倒的だったから其れなりに好感度アップかな?と軽く考えていたが……

 

 ミナサン、ハンターの目をして僕を見詰めている。アノメハキケンナカンジガスル……

 

 金髪ロール、モンモンが突撃してきた。

 

「ツアイツ様は新しい水の秘薬を数多く生み出していると聞きましたが、土のメイジだったんですか?」

 

 あー風邪薬とか頭痛薬とかハンドクリームとか、平民用に安く配合し直した事かな?

 

「土のスクエアですが、水もトライアングルなんですよ。モンモランシ家のお嬢さん」

 

 ニッコリ笑顔を添えてサービスする、今度秘薬作りに協力して下さい。

 

「私の事をご存知なんですか?光栄ですわ」

 

「母からトリステインのモンモランシ家のご令嬢の調合する香水について、聞き及んでいますから」

 

 顔つなぎの意味でお世辞をいった途端に、キュルケとルイズに両耳を引っ張られて説教された……解せぬ。

 

「デレデレしない!」

 

 まだ周りも話したそうだったけど般若な二人に気後れたのかそのまま見送られた、ドナドナドナードナーな気分。

 その後、二人の機嫌を直すのに虚無の日に出掛ける約束をさせられた。

 教室に戻ると、コルベール先生が待っていてギーシュと二人で学園長室に行く様に言われ連行。

 

 ギーシュ何気に回復早くね?廊下を歩いている最中にギーシュから探りが入った、彼はモンモランシが好きだったよな。

 

「モンモランシ嬢と話していたけど仲が良いのかい?」

 

「同じ水メイジとして彼女の香水について聞いていただけだよ」

 

「えっ君は土メイジじゃないのかい?」

 

「土はスクエアで水もトライアングルなんだ。」

 

「水もトライアングル!凄いな!あの烈風のカリンの愛弟子ってのは、本当だったんだ」

 

「弟子入りしたいなら紹介するよ。ただし死ぬか生きるか的な拷問に近い訓練だけど……」

 

 あっなんか思い出したら涙が……それに体が小刻みに震えてきた、おかしいな?寒くもないのに……

 

「すまない。嫌な事を思い出させたかい?」

 

 僕の空ろな眼でガクブルしだしたのをみて、不味い事を言ったのかとフォローしてくれた。

 

「正直あのシゴキを耐えただけで自信が付くよ。但し余り忍耐力を付け過ぎるとエレオノール様の婿として期待されるけど」

 

「あのエレオノール様か……たしか破談記録更新中だったよね」

 

「知ってる?あの人破談する度に僕を呼付けて夜通し自棄酒で愚痴を聞かすんだぜ、堪んないよ実際」

 

「すまない。弟子入りの件は無かった事にしてくれ、そんな拷問と特典はいやだよ」

 

「ルイズだって、あのカリンの血を強く引いているんだぜ。気を付けろよ。

僕は派手だけど怪我をしない様に注意するが、彼女は問答無用で男の子の急所を狙うよ、マジで……」

 

「それは……忠告有難う。改めてすまなかった、言い掛かりみたいな事をして」

 

「いや僕も舐められちゃいけないと派手にやりすぎたよ。こちらこそごめんな」

 

 僕ら二人は学院長室に付く前に和解した、こいつは友達として見れば良い奴だな。

 そんな二人をコルベール先生はため息を付きながら首を振っていた、問題児が生徒になった悲しみか……

 

「兎に角、しっかり謝る事ですよ」

 

 コルベール先生はため息をついて僕らを学院長室に押し込んだ。

 

 

第14話

 

 オールドオスマン?駄目だこりゃ。

 

 先生の前に立たされて叱られるなど、何時くらいからだろう?

 この時期はまだロングビル(マチルダ?フーケ?)さんは秘書として働いてなく、モブな男性秘書がいました。

 

「君たちは伝統あるトリステイン魔法学院の入学日に何故、問題を起こしているのかね?」

 

「いや友人同士の魔法の研鑽だよね。決闘なんてしてないですよ、なぁギーシュ?」

 

「大分差を付けられているけど訓練だよね。決闘なんてしてないですよ。なぁツアイツ?」

 

「「僕ら友達だし、そんな決闘なんてしないですよ」」

 

 いけしゃしゃと、言ってみました。頭を抱えるコルベール先生に、鼻毛を抜いて聞いているオールドオスマン。

 

 こら!鼻毛こちらに飛ばすな!

 

「それに怪我人も出ていないし、広場だって元通りじゃないですか」

 

「当人達もこんなに反省してますし、互いに研鑽する気持ちが溢れ出てしまっただけです」

 

 更に弁解してみたけど駄目かな?どうせ監視していただろうし、ならば奥の手をだすか。

 

「そうそう……オールドオスマンに渡そうと思って、忘れてました。私が書いた小説です」

 

 そっとフルカラー18禁版「マイフェアレディ」挿し絵&サイン入りを差し出す。

 

「こっこれはモット伯が自慢していた、最近人気のマイフェアレディ18禁バージョンではないか!しかもフルカラー挿し絵にサイン入り!」

 

「先日書き上げたばかりの新作です。良ければお納め下さい」

 

 ニヤリとオールドオスマンの眼を見て言う。

 

「オオ…サイン入りとは。これは宝物庫に収めないと。いや今から熟読しなければ……」

 

 貴族的解決法、それは賄賂!

 

「あーコルベール君、二人とも反省しているのでもうしないと思うのじゃ。教室に戻してあげたまえ」

 

 そして賄賂は成功した、原作通りエロくて話の分かる老人だったな。

 

「オールドオスマン、宜しいのですか?てか色ボケジジイ!ちゃんと指導しろや!」

 

 なにか白熱した教育論を話し合っている二人をその場に残して、さっさと教室に戻る事にした。

 

「ツアイツがあの名作の作者なのかい?実家でも父上が偉く感動して読んでいたよ、なんでも男の浪漫だとか何とか」

 

「ギーシュだって可愛い女の子を自分好みに育ててみたいだろ?そんな内容の小説さ」

 

「それは……確かに男の夢と浪漫が詰まっているね、今度貸してくれよ」

 

 ギーシュも好きだねぇ。

 

「趣味で書いているから一般では中々手に入らないからね。今度部屋に来なよ、貸すから」

 

「それは楽しみだ」

 

「でも他の奴には言うなよ。男も女も色んな意味で五月蝿そうだからさ……」

 

「そうだね……じゃ内緒にするよ」

 

 教室に戻ると、担任であるコルベール先生が戻るまでは自習だ……

 次の授業は、風馬鹿ギトー先生か、大人しくしておこうかな。

 

 イチャモン付けられそうな気がするんだけど。

 

 見渡すとキュルケとルイズの間の席が不自然に空いていて、二人がニコニコ手招きしているのでそっとフライで席に着いた。

 ギーシュはヴィリエとマリコルヌの間か、男子には人気あるんだよな。

 

「どうだった?謹慎とか罰とか言われなかった?」

 

「僕もギーシュもお咎め無し。んで、彼とは友達になったから苛めないであげてね」

 

「えー半裸気障男イヤなんですけど」

 

 ルイズ……ツン絶好調!聞こえたギーシュが、落ち込んでるよ。

 

「コルベール先生戻ってこないのね?」

 

 あれモンモン近くに居たんだ。

 

「オールドオスマンと教育方針についてディスカッションしてるから、授業は自習じゃないかな?」

 

「じゃ少し時間有るのね。ちょっと聞きたいんだけど、巷で噂の巨乳の担い手ってミスタツアイツなの?」

 

 近くに座っている女の子達の耳が一瞬でダンボになる。

 

「計算された栄養と効率的な運動で女性らしい体型を得られる事について、研究した事は本当だよ。

でも誰にでも効果がある訳じゃ無かったんだ。ヴァリエール公爵夫人とその長女エレオノール様には効かなくてね。

現在封印中……」

 

「じゃ教えて貰う事は出来ないの?」

 

 モンモン必死で訴える。

 

 トリステインであの二人を知らない者は居ないし、彼女らが駄目だといったら逆らえる人は居ないのかな?

 でもこれをネタにすれば、ルイズをクラスに溶け込ませる事が出来て、少なくてもクラスで孤立する事ななくなるだろう。

 

「僕は口止めされたけど、ルイズはされてないから聞いてみれば?ヴァリエール一族で効果が唯一有ったから」

 

「なっなによ?」

 

 皆が一斉にルイズの胸を見て、納得してから殺到した。

 

「ミスルイズ!是非お友達になりましょう」

 

「今晩お部屋にお邪魔して良いかしら?」

 

「そうですわ!お茶会にご招待します。是非来て下さいな」

 

 失敗魔法の件で貴族の女の子とは余り友達が居なかったルイズは、当然のことにアワアワと僕を見たけど頑張れ!

 

「ルイズ、まだ毎日実践してるんだろ?皆で一緒に仲良くやればいいだろ。教えてあげなよ」

 

「きゃいきゃいと話が弾んでいるわね!ルイズ嬉しそう」

 

 キュルケが優しい目でルイズを見ながら、話しかけてきた。

 

「彼女には失敗魔法というハンデが有るから……このトリステインでは蔑みの対象になっちゃうし。これを切欠に……ね」

 

 僕らは笑い合うと目聡く見つけたルイズが「あー何か良い雰囲気ズルーイ」と騒ぎ出した。

 

 これで原作と違い、クラスで孤立しないで済めば良いんだけどね。

 彼女と共に励んで巨乳になった娘達なら、彼女に恩義を感じ悪くは言わないだろう。

 その辺の結束は凄いから、女の子ってさ。

 

 そんな我々をじっと見詰めるチビッ子が一人……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 また貴族の馬鹿騒ぎかと正直面倒臭かったけど、片方が今年入学した中で唯一のスクエアと聞いて見に行った。

 気障の方の金髪は雑魚だった……ドットとしてはまぁまぁだけど、所詮ドットだし問題なく倒せる。

 しかしゲルマニアの金髪は、正直ゴーレムの練成スピード・精度・操作技術・大きさ全てが凄かった。

 完全鋼鉄製のゴーレムなどあの大きさでは有り得ない事、しかも武器を操っている。

 単体で砦に突っ込んでも砦が粉砕されるだろう、攻城戦級の大型ゴーレム……

 

 接近戦闘能力は解らないけど遠距離で攻められたら勝てない、勝負はあっさりとついた。

 いや勝負と言えない圧倒的な差があった、でも怪我人が出ない様に手加減してた。

 

 一度、戦ってみたい。

 

 烈風のカリンの弟子ならば、戦って得る物もあるだろう。

 ※タバサは純粋に自身の戦闘力向上に興味が有り、巨乳の方には興味が無しです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 モンモランシ家は伯爵家とは言え、事業で失敗し赤貧に喘いでいる。

 私も少しでも家計に貢献しようと、香水作りや秘薬作りを頑張っているけど思わしくはない。

 そんな中で、ヴァリエール公爵家が宿敵ゲルマニアのツェルプストー辺境伯と組んで次々と新規事業を成功させ更に羽振りがよくなっていると聞いた。

 

 正直羨ましい。

 

 聞けば、中心的な役割をしているのは同い年の少年らしく、烈風のカリンのお気に入りだとか。

 あんな伝説の化け物に気に入られるなんでどんな筋肉馬鹿かと思えば、トリステインでは入手困難だけと貴族の見栄として何冊か購入した物語の作者だ。

 一度だけ見せてもらった演劇も手掛けている、多彩な領地持ちの長男だとか。

 

 これを狙わずに、極貧からの脱出は有り得ない。

 今日初めて本人を見たが、美男子だったし魔法の腕は、なんと言うかミスタ・グラモンが可愛そうだった。

 私なんかじゃ、あの高みには登れない。

 

 でも色んな秘薬を改良して、安価で平民に渡しているって聞いたけど系統が違う?

 恐る恐る本人に聞いたら、土がスクエアで水がトライアングルだなんて凄すぎ。

 お話しても紳士だし優しいし、これは打算無く狙っても良い良物件だわ。いやコレを狙わずに、誰を狙うのだ!

 両脇のデッカイのとチッチャイの邪魔だけど頑張ろう。

 

 ギーシュを彼氏に……なんて電波が来たけど、それは有り得ないわね。

 

 無理だわ無理無理。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今年の新入生にはトライアングル2名・スクエア1名それとラインが何人か入学する情報を得ています。

 15歳でスクエアまで登り詰めるとはどんな才有る若者なのだろうと少し調べるだけで……

 

 出るわ出るわ、物語の執筆や演劇の監修。

 

 あの問題だったヴァリエール公爵家とツェルプストー辺境伯家を暫定とは言え、協定を結ばせる政治的才能。

 そこから商売でもかなりの成功を収めている。

 

 どんな完璧人間かと思えば……

 

 許婚だと言う美女・美少女を両方に侍らせ、入学式は遅刻、その後に決闘騒ぎを起こしている。

 しかし相手に怪我を負わさない配慮とその後の復旧作業は完璧ですし、決闘したミスタグラモンとも仲直りしています。

 問題児には代わりが有りませんが、悪い子ではないのでしょう。

 申請書を読めば魔法学院の近くにヴァリエール公爵を通じて屋敷を購入していますね。

 領地経営にも参加している為、学院内以外に執務室が欲しいのが理由でしたが……

 

 確かに機密を扱う事も有るし防諜という面でも、学院外からの侵入は防げても基本的に個人の部屋には友人等が自由に出入り出来てしまいますからね。

 噂ではその屋敷にはヴァリエール公爵家から送られた、巨乳メイドが20人いて自身の領地からも過分な位の人数が来てると言います。

 

 若いのに大したものだ!と褒めるべきか、他国にまで大勢のメイドを連れ込むな!と言うべきか……

 

 注意は必要でしょうね、しかし羨ましいですな。共に大貴族の令嬢で、甲乙付け難い美人ですからね。

 



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第15話から第17話・分岐第18話

第15話

 

 風魔法馬鹿は単純だったYOー

 

「静かにしたまえ諸君、最強の風魔法の授業を担当するギトーだ!」

 

 扉を開けて颯爽と教室に入ってくるギトー先生、うわぁハリポタのアレな魔法薬の先生だな……キャラが濃いわ。

 

「今年の生徒は不作だ……僅か二人のトライアングルに、疑わしいがスクエア一人、そして残りは殆どがドットだ」

 

 いやこれから習う為の学院なんだし、教師よりレベルが高かったら意味無いでしょ?

 

「そこでだミスタツアイツ、君は土のスクエアなんだろう。最強たる風の私と力比べをしようではないか?」

 

 はい、初日から教師に喧嘩売られました。

 

「構いませんがどこでやります?教室では危険ですし、外に出れば大地の上で僕が圧倒的に有利ですよ」

 

 ギトー先生、コメカミをピクピクさせて何とか怒りを我慢している。

 

「凄い自信だな!教室では不利か、では外でも私は構わないぞ」

 

「では教室で構わないです」

 

 ニヤリと笑って懐から杖を抜く。

 

「好きに仕掛けてきたまえ、全ては風で祓って見せよう」

 

 ギトー先生がマントをハラリとなびかせて構えを取る、結構様になって格好良いな。

 

「クリエイトアースファング!」

 

 僕はギトー先生を囲むように土の槍を錬金し、両足をコンクリートで固めて動きを封じた。

 勿論、槍の先は向けるだけで刺してはいないが、100本からの槍が床や壁・天井からギトー先生に牙を向けている。

 寸止めしている槍をギトー先生は風の魔法で薙ぎ払うが、僕は更にゴーレムの腕だけ錬金し掴んだ。

 両足も固めているので、槍を払ってから足の拘束を壊すまでのタイムラグで捕まえられた。

 

「風魔法が強いのは烈風のカリン様との手合せで実感しています。

しかし、四方を囲まれた狭い空間で錬金を得意とする相手では、土魔法が有利ですよ。もっともあの人は、それでも粉砕した化け物でしたが……」

 

 そう言って拘束を解いてゴーレムを消した。

 

「そうか……君はあの生きる伝説を知っているのか」

 

 しみじみと、ギトー先生が何かを思い出すように言った。

 

「ええあの風の化け物をしっているからこそ、風の強さとその対策を磨きました……死にたくなかったので」

 

「烈風のカリンは結婚してからは公の場には出ないが、現役時代を知る身としては良くアレの弟子をやってるな」

 

「強制でしたから……ノルマを達成出来なければ代価は自身の命でしたし、まさに命がけでしたよ」

 

 遠い目で答えた。

 

「そうか……何か問題が有れば相談に来るがいい、力になろう」

 

 同情されちゃったよ。

 

「では、偏在を使った戦闘訓練をお願いします」

 

 ワルド対策に一度風の使い手と戦っておきたいから丁度良いかな。

 

「風の最強たる所以の呪文だな、良いだろう!放課後の空き時間にでも指導しよう」

 

「有難う御座います」

 

 やったワルド対策ゲットだぜ!

 

 ルイズは実の母親がアレや化け物扱いで微妙な顔をしていたが、本当の事なので何も言えなかったし、クラスの皆は生きる伝説の正体の無茶さを改めて心に刻んだ。

 性格はアレだが、授業自体は懇切丁寧で分かり易い内容だった。もっとも彼的には、何も知らない小童共と思っているのだろう。

 でもこの時点でギトー先生が登場してるとなると、ヴィリエとタバサの件てどうなるんだろう?

 初日の授業を終え夕食までゆっくりしようと部屋に向かったが、窓の外で荷物を運んでくれたメイドが、何故か木に登っている。

 

 どうやら洗濯物が飛ばされて、木に引っ掛かってしまったみたいだが……細い枝にノロノロと伝っていくのは、見るからに危ない。

 

 落ちる前に助けた方が良いよな?

 

 窓からフライで飛び出すと、脅かさない様に気を付けて彼女の前に浮かび声をかけた。

 

「あーレディに、木登りは似合わないから降りようよ。君と洗濯物にレビテーションを掛けるから、心配しないで」

 

 さっさと彼女と洗濯物を下ろす、不用意に女性に触るのはタブーだ。

 

「気を付けてね」

 

 一言掛けてから先ほど飛び降りた窓にフライで飛んでいった、金髪ツインテールロリ巨乳メイドとは随分とマニアックな女の子だ。

 でも原作にあんな感じの女の子居たか?しかし随分と手が荒れていたな……

 

 この時代は洗濯機なんてないし、平民は魔法も使えないから全て人の手で行わなければ成らないので、大変だよね。

 ハンドクリームくらい、差し入れしてあげるか。実物のマルトーも見てみたいし、和食とか作ってくれないかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 私はタルブ村の裕福でない家の4女として生まれたので、口減らしの意味も含めてこのトリステイン魔法学院に奉公に来ています。

 見た目はそこそこ可愛いらしく、村の年頃の息子を持つ家の方々からお嫁にとのお誘いも有りましたが、他家に嫁いでは実家に仕送りも出来ないので、思い切ってこの学院で奉公しています。

 貴族様は我々平民に対しては恐ろしい存在ですが、今日お会いした貴族様は気さくで優しいお方でした。

 他の奉公人の方にお聞きしたら、何でもゲルマニアからの留学生で既に色々な分野で成功を収めている方だとか。

 有能でお金持ちでお優しいなんて、凄い人なんですね。

 

 ただ私の手をじっと見てなにか言いたそうでしたが、水仕事で荒れてしまった手を見られるのが恥ずかしかったです。

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 色々有って疲れて部屋に戻ってから直ぐに寝てしまったが、お腹が空いて目が覚めました。

 時計を見れば丁度夕食の時間だな、我ながら素晴らしい腹時計!

 

 身嗜みを軽くチェックして食堂に向かうと、途中でギーシュと合流しギーシュと一緒にいたヴィリエとマリコルヌとも何となく話す様になった。

 彼らは風の系統なので、烈風のカリンの弟子である自分に興味が有るみたいで色々と質問してくる。

 男4人で食堂に入ると、ルイズとキュルケがクラスの女子とテーブルの一角でキャイキャイ話していた。

 

 うまくやっているみたいだ……

 

 軽く手で挨拶してから男子が集まるテーブルの方に移動し、先に座っていたクラスメイトの話の輪に加わる。

 彼らも腐っても貴族な訳で、実家に不利になるような事は極力しないのだろう。

 いくら気に入らないゲルマニア貴族とはいえ、ヴァリエール公爵家と縁が有り、自身も有力貴族である僕に敵対的な行動がとれだけ危険なのかは理解しているのだろう。

 折角なので、ヴァリエール公爵夫妻の親馬鹿ぶりも説明しておく。

 

 睨まれたらどうなるか……と。

 

 しかしどんだけ量が有るんだこの夕食、こんな過剰な栄養摂取は巨乳に悪影響を及ぼすぞ。てか、コース半ばでリタイアでした。

 美味しいけど完食は無理でした、食後に鍛錬しないと直ぐにデブになるな。

 

 後半の料理の殆どをマリコルヌに押し付けて(彼は感謝していた)食後の珈琲を飲んでいると例のメイドさんがケーキを配膳しに廻ってきた。

 ケーキは要らないが、後で厨房の責任者に会いたいけど、何時ごろなら迷惑にならないか?と聞いたら貴族に配慮されたのが恐縮なのか、

 

「責任者はマルトーさんですが、伝えておきますので何時でもいらしてください」

 

 どもりながら答えてくれたが怖かったのかな?

 

 ふむ、料理担当なら全ての料理が出きった後なら明日の仕込み迄の間が良いかな?と思い食後に顔を出すと伝えてもらった。

 そう言えばまだあの子の名前聞いてないや。

 

 夕食後、一旦部屋に戻りハンドクリームを錬金してから厨房に向かう。

 

「今晩は!お邪魔するよ」

 

 一声掛けてから厨房に入ると恰幅の良い中年の男性が例のメイドを庇う様に前に出てきた。

 

「何か問題が有ったでしょうか?貴族様」

 

 恐縮しながら、それでもしっかりと僕の目をみて話掛けてきた。

 

 僕はメイドさんに「はいこれウチの領地で配っているハンドクリームだから、1日に3〜4回塗って」と渡し、きょとんとしている二人に

 

「食事が食べきれず残してしまうので、僕の分は朝昼晩共に減らせないか?」とお願いした。

 

「それはどういう意味ですか?」

 

 マルトーさんが不安がって聞いてきた、不味いとか不興を買ったとか思われたかな?

 

「いや、料理の味は最高だけどアレを食べ続けたら普通に太るし残すと食材が勿体無いから」

 

 表向きな説明する、本当は巨乳を目指す淑女達の栄養のバランスを考えて欲しいから。

 

「貴族様が勿体無いなんて珍しい!」

 

 マルトーさんの驚きは正しい、貴族に勿体無いの考えは無い。選ばれた人間だと思ってるから……

 

「小さな事からコツコツとするのが、成功の元だよ」

 

 実体験を元に言うと笑ってくれ食事の件のお願いはきいてた。

 ただ他の貴族様との取合いが有って、自分独りだけの特別な料理は出来ないので量を少し減らしてくれるそうだ。

 目の分が妙に小さいと、貴族を侮辱しているとか過去に有ったらしい。

 淑女達の栄養バランス案はダメみたいだ。残念だが自分の分だけは何とかなりそうだ。

 

 マルトーさんと話し込んでいる間、ずっと立ちっぱなしだったメイドさんが恐る恐る近づいてきた。

 

「あのこれはどういう意味でしょうか?」

 

 物凄く恐縮してきいてきた、身分制度って恐ろしい。

 

「それは僕が調合した家のメイドさんにも配っているハンドクリームだから使ってね」

 

「こんな高価な物を頂くわけには……」

 

 遠慮しているんだろうな、多少強引に言わないと使ってくれないかも……、

 

「ウチでは使用人の健康の管理も見るのが当たり前だから構わず使う様に。週に1本ずつ渡すから遠慮無く使うように!」

 

 継続支給すると伝えて部屋に戻ったが皆さん変な目をしてた、僕が貴族社会では変な奴って事になるのだろう。

 

 

 

 

その夜の厨房のミーティング

 

 

マルトー

 

「何とも風変わりな貴族様が今年はきたな」

 

 

謎のメイド

 

「でも重たい荷物を変わりに持ってくれたり、風で飛んだ洗濯物を魔法で取ってくれたり優しい方ですよ」

 

 

モブA

 

「それは○○○に、下心が有るんじゃないか?」

 

 

謎のメイド

 

「そんな邪な感じは無いですし……それならそれで嬉しいのですが、いまだ名前も聞いてくれませんし」

 

 

モブBC

 

「○○○ちゃんあの貴族様が好きなのか……ショック」

 

 

マルトー

 

「何にしても今までの糞ったれ貴族様とは違うって事だな。それで良いじゃないか」

 

 

メイドA

 

「それにこのハンドクリーム凄いですよ。痛みやヒビがみるみる治ってるし、水につけても沁みないし」

 

 

メイドB

 

「もしかして凄い高級品なんでしょうか?」

 

 

メイドC

 

「ツアイツ様と言うのですが、相当な資産家であの人気の物語の作者らしいです。他の貴族様が噂してるのを聞きました」

 

 

メイドA

 

「それなら私も聞いた。烈風のカリン様の愛弟子なんですって」

 

 

マルトー

 

「またとんでもない御人が来たもんだな。まぁ平民に優しい方なら問題ないだろう。皆も失礼のないようないな」

 

 

 

第16話

 

 ついに謎のメイドが正体を表す。

 

 初日こそバタバタしてたけど、それなりに平凡な生活を送っているツアイツです。

 食事改善の件ですがマルトーさんが、他の生徒にバレない様に脂身の無い肉とか、サラダもふんわりよそってくれるとか地味に減量に気を使ってくれます。

 無理なのは全く手を付けずに下げた後で、賄い食に組み込んで貰うとか……有り難い事です。

 しかし朝からワインとは、現代日本だったら犯罪な風景だよね。

 

 そうそう!

 

 ルイズ達の、巨乳プログラムだけど段々と効果が出て来た娘が結構居るらしく、友人も何人か出来たみたい。

 魔法の実技もまだ成功しない奴も居るけど、全て爆発ってのは珍しい……てか異端だよね。

 

 本当は虚無だけど、今はまだ秘密だ!

 

 でも失敗しても友人が居るので、変に孤立したり意固地にならないので良かった。

 キュルケは、お洒落仲間でグループを作っている。既にメンバーは、スタイルの大変良い娘さん達で構成されています。

 

 僕は、ギーシュを中心とした微妙にモテナイ君達のグループに入っている、気楽で良いや。

 

 明日は初めての虚無の日なので、学院の近くに購入した屋敷に行こうと思っている。

 久しぶりに、ネディーネやエーファにルーツィアとシエスタ達と会いたいし、それ以上に仲良くしたいです。

 

 しかし確実に、キュルケとルイズは付いて来るとか言いそうだ……

 未婚女性が、保護者不在の未婚男性の家に行くのは問題だよね。変な噂が広まると面倒なんだよなー。

 

 さて、今日も元気に授業に行きますか。

 

 コルベール先生の授業は面白いんだが、カラクリに興味が無い連中にはつまらないだろう。例のへび君シリーズ?の何号君かな。

 原始的だけどエンジンを独学で開発するとは凄いんだけど産業革命なんて、まだまだハルケギニアでは何百年も先の話だろう。

 実はウチも例のゼロ戦を回収してから、色々と調べているけど捗ってないんだ。コルベール先生をスカウトしたいね。

 

 本当は分解して徹底的に調べたいけど復元する事が出来ないかも知れないから、怖くて出来ないのが現状なんだけどね。

 でもガソリンの練成については、何とかなりそうなのが救いだ。

 まだガソリンはハルケギニアでは危険な燃料だが、使い道は色々有る。

 今度、父上とその辺を煮詰めないと問題かも。

 

 火の秘薬は硫黄が一般的だけど、ガソリンを変わりに使用したらどうなるんだろう?

 火炎瓶とかファイアーボール位の威力が有るんじゃないかな?少なくとも現在ハルケギニアで一般的な油よりは強力だ。

 あと銃弾の火薬も何発かサンプルを取って調べさせている。

 こちらもハルケギニアの黒色火薬より強力だし、従来の銃の改良にも役立っている。

 

 現物見本とは何時の時代も有効なんだね。

 

 でもこれらの発明品は世に出すタイミングを誤ると大問題だから、厳重な警戒と緘口令を敷いている。

 どちらも強力な力だけど、このハルケギニアでは劇薬以外の何物でもないな。などと考えていると授業が終了してしまった。

 これでちゃんとした貴族になれる勉強なんだろうか……心配だ。

 休み時間に何人かからお誘いが有ったが全て領地経営について仕事が溜まっているので、明日は一日中執務室に缶詰だからと断った。

 本当は他のも溜まっているんだよ……

 

 主に下半身的な意味で!

 

 キュルケもルイズの仕事的な事を全面に出したら、流石に他家の事情なので納得してくれた。

 まぁ実際には殆ど仕事で、時間の殆どを取られちゃうんだけどね。

 最近になってやっと父上の領地経営に参加させてくれて、色々な情報も教えてくれる様になった。

 うちは商人上がりだから経営に関してはかなり細かいチェック機能が有り、中途半端な現代知識など通用しなかった。

 しかし前世のゼネコン時代に培った建設に関する見積能力や雇用条件・契約書の内容等は十分に有効だった。

 特に法令や契約書の内容がザル法なので、この辺を突いて無理を言う相手が結構いるんだよね。

 雇用条件については随分と揉めたが、高級品を買える裕福層を相手の商売は取引量も少なくライバルも多いから、一番人数の多い平民の労働者層をターゲットにしたい。

 しかし彼らには購買力が無い為、所得を増やし商品を買えるようにする。

 求人もメイジに拘らず、平民も有能な者はどんどん採用する。結果的には治安は安定し税収も人口も増える。

 

 最初は我慢だが、長い目でみた中長期計画だと説明した。

 取り敢えず自分の領地のみで実施し、効果が有ればツェルプストー辺境伯の領地でも実施する。

 ヴァリエール公爵は、良い意味でも悪い意味でもトリステイン貴族だから無理かも。

 後は他のSSでもお馴染みの、衛生面での改良で都市部の糞尿を農地に持っていって肥料化する事と、水洗トイレは無理だったけど肥溜め式にして取り出せる様にした。

 これで街が臭いとかは言わせないぞ。

 

 後はリサイクルについて幾つかアドバイスをしたが、元々物が無い時代なのでこの辺の転用は既に十分でした。

 後は教育についてだが、これは全員は無理だが有能そうな子供達は一堂に集め全寮制で教育している。

 親には幾ばくかのお金を与えてある。家から通わせると家の仕事が忙しいって来ないんだよね、学校に……当たり前だけど。

 

 実は大貴族に奉公に来るメイド達は、身元もしっかりした娘さんが多く彼女らにも計算と読み書きを教え込んだ。

 だから僕の執務室にはメイド服の部下が溢れている。

 彼女らも文字が読める事は今までは演劇を遠くから遠慮して見ていただけだが、物語も読めるようになるので頑張っている。

 待望の虚無の日だが朝から出掛けては日帰りになってしまい、彼女等との時間が余り取れない。

 

 まぁ翌日政務が終らないから……

 

 と連絡を入れておけば授業を休む事で出来るだろうが、それはあまりやりたくないし。

 なのでどうせなら夕食も向こうで食べれば良いかなと、授業が終ったら出掛ける予定だ。

 外出許可は既に貰っているので、乗馬の手配とマルトーさんに夕食は不要と伝えに行かなければ。

 乗馬の手配は簡単だ、世話係に夕方から明日の夜まで使用すると伝えて、サインするだけでその時に馴染みの馬を融通してもらう。

 

 チップに色を付ければ問題なし。

 

 マルトーさんの方は、直接厨房に出向いた方が良いだろう。

 確かに学院の食事は美味いけど、前世が日本人の性か毎回脂っこい物はキツイんですよ。

 たまには賄い食でも良いんだけど流石に貴族様に使用人の賄い食は食べさせられないと断られた。

 

「こんにちは、マルトーさん居る?」

 

 厨房に入り声を掛けると、皆がテーブルに座ったりしゃがみ込んだりして雰囲気が暗い。

 

「何か有ったの?」

 

 心配して声を掛けると、

 

「さっきソフィアが連れて行かれた。相手はモット伯だ」

 

 ソフィアって誰だっけ?モット伯メイド拉致事件って来年じゃなかったっけ?それとも毎年攫ってるのか?

 

「オールドオスマンには言ったの?」

 

 駄目元で聞いてみるが……

 

「あの人も平民には優しいが、王宮勅使の貴族様が相手じゃ無理だよ」

 

 確かに一介のメイドの人事じゃ、文句は言えないよね。

 

「運が良かった。モット伯なら交渉材料が幾つか有るから安心して……それで悪いけど、ソフィアってどの子だったっけ?」

 

「金髪ツインテールでツアイツ様の面倒を良く見てくれる娘だよ。あの子は良い子なんだ。モット伯に何かされたら、壊れちまう」

 

「どうせ家族を盾に取られたかしたんだろ。本当にこの国の貴族は腐ってるよな……まぁ、僕もその貴族の一人なんだけどさ」

 

「いや、あんたは他の貴族とは違うが……」

 

 マルトーさんは気まずそうにしていたが時間が無いな。

 

「何時ごろ連れて行かれたの?」

 

「まだ30分位だ。迎えの馬車がきたのは……」

 

 原作での距離は馬で2時間位?だっけ?フライなら間に合うかな?

 

「心配しないで!何とかするから……それと今日の夕飯要らないよ。屋敷の方で食べるから」

 

 僕は一旦部屋に戻りまだ世に出てない18禁バージョンを何冊か持って、モット伯の屋敷に先回りすべくフライで飛んでいった。

 

 

 

 結果から言えば、モット伯との交渉はすんなりいった。

 

 お土産の新作3冊と今後の新作の優先販売権を言うと上機嫌で了承し

 

「いやいや、貴殿もあの娘にご執心だったとは……横から攫う様な真似をしてすまなかったですな」

 

 なんか勘違いしてるけど、話が拗れるからこのままでいいかな。少しして、何も知らないソフィアが客間に案内されてきた。

 顔が真っ青で俯いている。きっと家族の為にと無理をして、我慢しているのだろう。

 

 声を掛けて安心させようと……

 

「娘、良かったな。

ちょっと前にお前がウチに来ると知ったツアイツ殿が、どうしてもお前を譲って欲しいと秘宝3冊と引き換えにと過分な条件をつけてくれた。

もう用は無いから帰ると良い」

 

 なんか誤解受けそうな、てかモノ扱いかよコイツ!一瞬ポカンとして顔を上げて、僕を見付けると泣きそうな顔でまた下を向いてしまった。

 

「ではモット伯、我々はこれで失礼します」

 

 もう早く連れて帰ろう。

 

「早速お楽しみですかな?では新作をお待ちしておりますぞ」

 

 何も言わず、彼女の手を取ると歩き出した。

 途中学院まで送ると言う使用人に断りを入れてソフィアを抱え、フライで近くの森の泉の近くまで飛んでいった。

 先ずは状況を説明して落ち着かせてから、送り帰さないとね。

 

「もう心配はいらないよ。全て丸く収まったから明日からね。学院で働きたければ、オールドオスマンに口利きもするから」

 

 にっこり笑ってそう話しながら、魔法でガラスのコップと真水を錬金し彼女に渡した。

 両手でしっかり受け取りながら一口飲むと、彼女はとんでもない事を言い出した。

 

「ツアイツ様が私をモット伯様から買い戻して頂いたのに、学院に戻るなど出来ません。秘宝を3冊なんて、働いても返し切れません。

もうこの身を捧げても返しきれない大恩を受けてしまったので、せめてお側にお仕えさせて下さい」

 

 とてつもなく真剣な顔でお願いされてしまった。

 

 コレナンテ、エロゲフラグダ?

 

 

************************************************

 

 

多分何人かの個人ルートを書いてから、ハーレムエンドにします。

 

取り敢えず一人分は粗方書いたので、この後に何話か進めてから分岐しようと思います。

 

 

第17話

 

 藪をツツイたら蛇が出たのか?それとも棚からボタモチか?

 

 

 絶望だった。

 

 使用人の中では、気に入った女性を強引に攫っては手篭めにし、飽きたら捨てる最悪の噂のモット伯様。

 今までも実際に何人かの女性がメイドにと強引に攫われて行ったが、その後の話では働き続けている人は殆ど居ないらしい。

 自分には家族に仕送りをしなければならないし、逃げたり逆らったりしたら家族に迷惑が掛かってしまう。

 どんな仕打ちを受けても我慢する覚悟で新しいご主人様のもとに向かえば、何故かツアイツ様が笑って居た。

 何も考えられずにいると、私の為に秘宝を渡してまで助けに来てくれた、と。

 しかも私の事を気に入っていてくれて、取り戻しに態々本人が掛け付けてくれるなんて……嬉しい。

 

 ツアイツ様の良い噂は色々聞いていますし、実際に学院の貴族様の中では異常な位に平民に優しい貴族様です。

 ゲルマニアでは普通だとお薬を無料でくれたり、怪我をした使用人が居れば無料で治癒をしてくれる不思議な人。

 

 多分、憧れていた初恋の人。でもどんなに優しくても身分が許さない。そんな雲の上のお方。

 

 でも今回は、私をモット伯様から買い戻してくれた。

 つまりこの身はツアイツ様の物であり、これから生涯お仕えしなければならないお方。

 もう魔法学院で働く理由はないけど、学院には専属メイドを置くことは許されていません。

 近くにお屋敷を構えたとおっしゃってましたから、そちらに住み込みで働くとなると、ツアイツ様に会えるのが殆どなくなります。

 やはり学院にて専属メイドとして働かせて貰えるように、学院長さまにお願いしましょう。

 私は既に身請された体ですから、ご主人様から離れるわけにはいきませんので。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヤベーもうこれ以上メイドを増やすのは、色んな方面の方々からお叱りをうけそうです。

 

 特にヴァリエール夫人やエレオノール様など「「まだ増やすのですか汚らわしい……」」とまで言われましたし。

 

 シエスタを迎えた時の苦労も凄かった……後悔はしてないけど。

 

 しかしソフィアは一旦、マルトー達に合わせて安心させないと、明日とかに連れて行ったら間に合わなかったのかとか誤解しそうだし。

 

 

「取り敢えず学院に一旦戻って、マルトー達を安心させよう。心配していたよ」

 

 

「解りましたご主人様、マルトーさん達には心配をかけて申し訳ないです」

 

 良かった納得してくれた。でもご主人様は……良いかも!

 まだ学院までは距離があるので、再び彼女をお姫様抱っこしてフライで飛んでいく。

 ソフィアは両手を僕の首にまわし落ちない様にしているが、オッパイが胸の辺りに強く押し付けられているし首筋や髪の良い匂いがしますYO-!

 

 ヤバイ……

 

 理性が段々無くなっていく。唯でさえ溜まってるんですよ。そうだ、素数を数えるんだ……今度は魔法制御がおざなりに……

 

 しっかりしろツアイツ!

 

 でも何かを考えてないと、無意識にソフィアを意識してヤバイ形状に暴れん棒が…… そうだ、カリン様&エレオノール様の冷笑を思い浮かべるんだ!

 暴れん棒が萎えて気持ちも冷静にはなったけど……悲しい気持ちで一杯にになってきた。

 学院の正面門少し手前で降りて、あとは歩いて取り敢えず厨房に顔を出しに行く。

 

 もう精神力は底を尽きそうだ……普通フライでは、こんな長距離は飛ばないから……2大ドS女王様の想像も。

 

 もう嫌だ!心底疲れ果てた。

 

 今日は屋敷に行くのは諦めて、明日一番で向かおう。厨房に無事にソフィアを送り届けてからは、凄い歓待を受けた。

 それもそうだろう。一度貴族に攫われた平民が、無事で戻るなんて有り得ない国だから。

 

 このトリステインは……

 

 ただメイド仲間からの抱擁を受けていたソフィアが、爆弾発言をしちゃったりしてくれました。

 

「ご主人様はモット伯様から私を取り戻すのに、秘宝を3つもお渡ししてくれました。

どれほどの価値かも想像もつきませんが、このご恩を少しでもお返しする為に、これからはツアイツ様の専属メイドになる事になりました」

 

 なにそれ決定ナノー?

 

「秘宝って……俺達が頼んだからって、そんな物までモット伯に渡してしまったのか……」

 

 いや元手無料だからね。

 

「あんた凄いよ、どれだけ俺たちの事を大切に思ってくれているんだー!」

 

 マルトー抱きつくなー!マルトーを引き離そうとしたら、ソフィアが黒化した。

 

「マルトーさん駄目ですよ?許可無くご主人様に抱きついては……メキョ」

 

 ソフィアが般若の笑顔で、マルトーの肩を握りつぶして引き剥がしてくれました。 女性でも肉体労働に従事していると、逞しくなるのね。

 

「僕は事の顛末をオールドオスマンに報告してくるから……」

 

 取り敢えず逃げよう。

 

「あっご主人様、私も専属メイドの件で、お願いが有りますので同行します」

 

 何か吹っ切れた笑顔で、ソフィアも付いて来るって。肩を抑えて蹲るマルトーさんに今晩夕食、食べるから宜しく!と言って学院長室に向かった。

 

 

 マルトー哀れなり……

 

 

 

 

 

「失礼します。学院長」

 

 学院長室に入ると……アレ女性秘書が居ますよ?あの緑の髪は、土くれのフーケだよね?アレアレレ?

 

「どうしたミスタ・ツアイツ。それにメイドも同行しているが、何じゃな?」

 

 ヤベェ一!

 

 一瞬固まってしまったよ。

 

「いえ……ご存知かとは思いますが、モット伯の所に勧誘されたソフィアです。

ごく平和的な話し合いで取り止めて貰いましたので、ご報告と再度この学院で雇って貰えないかな……と」

 

「ほぅ!あの色狂いめをどうやって説得したかが気になるが、再雇用は問題ないぞ。明日からでも働いてもらおうかのう」

 

「お待ち下さい。学院長様、既に私はツアイツ様……ご主人様に買い取られた身ですので、ご主人様専属メイドでお願いします」

 

「ソフィア、その事は気にしなくて良いと言っただろう」

 

 まだ気にしているのか、律義な娘さんだなぁ。

 

「それでは身請けとしてモット伯様にお渡しした秘宝のお返しが出来ません。もうご主人様以外に、お仕えする気も有りません」

 

「なんじゃ?ミスタツアイツは、その子を取り戻す為に相当無茶したんじゃな」

 

 ニヤニヤするな、お前が何とかしないから僕がしたんだよ!

 

「いえ……例の新刊を何冊か渡しただけですよ」

 

 ムカムカ。

 

「なんじゃと!あの秘宝をむざむざモット伯に渡したじゃと……なんでワシに言わんのじゃ!1冊500エキューででも引き取ったのに」

 

「アレだから、あのモット伯もゴネずにソフィアを渡したんですよ。他の物だと後日改めてだとか言われて、間に合わなくなってしまうから」

 

「しかし……惜しいのう……アレが奴に渡ってしまうとはのぅ……」

 

 メソメソ。

 

 ソフィアは自身の純潔の為に、学院長がアレだけ悔しがる物をあっさりモット伯に渡したツアイツの度量に感動して腰砕け状態だ。

 

「ではソフィアは今日は休ませますので、待遇はまた明日にでも話しましょう。今日は色々疲れたので……これで失礼します」

 

 ソフィアを連れて部屋を出る。その時、一瞬だけロングビルと目が合うが、軽く会釈して問題事を先送りした。

 

「ソフィア、夕食前に起こしにきてくれ。それまでは君も休んでいて良いから」と自室に入り、ベットにダイブした。

 

 兎に角、ソフィアの純潔は守れたから良しとしよう……どうしようもなく眠かったzzz

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 この学院に潜入したのは、気に入らない貴族のボンボンの集まる所から「破壊の杖」って宝物を盗んで奴らに一泡吹かせたかった事。

 もう一つは全長18m級の鋼鉄のゴーレムを操るメイジが居ると聞いて、同じゴーレム使いとして興味が有ったからだよ。

 

 直ぐに色んな噂が入ってきたね。

 

 信じられない物も多かったけど、平民に優しく芸術性に優れ魔法もスクエアの優等生。

 学生と領地経営の二足の草鞋を履いて、あの生きる伝説の烈風のカリンの愛弟子とか……一体どんな完璧超人かと思えば、底抜けなお人好しだねこりゃ。

 

 たかがメイド一人の為に、どんだけ散財してるんだか……しかもそれを気にしてないばかりか、逆にメイドに気を使う始末だ。

 

 貴族らしくない貴族……か。でも嫌いじゃないね。それだけの力を持っているんだから……ティファニアの事も守ってくれないかねぇ?

 

 でもどんなに善人でも、ハーフエルフやエルフにまでその優しさを向けてもらえるとは限らない。

 その辺の意識調査もしたいけど、接点がないから難しいねぇ。

 ただ気になるのは、最初に部屋に入ってきた時に、私を見て一瞬だけど驚いた様な表情をしたね。

 

 普通なら、前任の秘書と違うから驚いた……と思うだろうが、私の勘がなにか怪しいと告げるんだ。

 些細な事だが、盗賊家業を始めてこの勘に助けられた事が何度もあったしねぇ…… 危険とか危機とかじゃないと思うんだけど……どうにも気になる。

 

 やはり早期に偶然を装って、接触し調べるべきだ。

 善人だけど、それじゃこのトリステインやゲルマニアでは勢力を伸ばせない。

 何かを隠しているか、私程度じゃ読みきれない実力が有るのか。危険と判断したら、この学院も去る位の覚悟が必要だね。

 

 もし味方か最悪でも敵対の意思は無いならその時は、ティファニアの事を相談しても良いか……いやそれは危険だ。

 

 こちらは盗賊!

 

 本性がバレたら、通報や拘束はされないと思うけど、味方にはなってくれないだろう。

 雇って貰うのも一つの考えだが、孤児も含めて生活する給金は貰えないだろうね。

 全く……何でこんなに気になるんだろうねぇ。

 とっとと、彼が居ない時にでも破壊の杖を盗んでトンズラすれば、関係ないのにね。

 

 

 

 

 

 

 その頃、これだけロングビルを悩ませているツアイツは無用心にも鍵を掛けず、大鼾で熟睡中。涎も出てます。

 そして部屋の隅には、専属メイドとなったソフィアが(内緒で進入し)控えていた。

 彼女にはツアイツのだらしない姿も、自分の為に苦労してくれたんだと思うと、それは感激すれども幻滅にはならなかった。

 添い寝癖が有る事を知ったら、彼女は迷う事なくベットに潜りこんだだろう。

 ツアイツはこの後、色々な女性陣に報告と言う苦労をしなければならないのだが、今はゆっくりと休ませてあげよう。

 

 

 

分岐第18話

 

※この話の後でルート別END話が続きます。その後に本編18話が続きます。

 

 

腎虚で死んでしまえ主人公!

 

 

「起きて下さいご主人様、もう直に夕食のお時間です」

 

 ゆさゆさと優しく身体を揺すって、ソフィアが約束通り僕を起こしてくれる。

 

「おはよう?かな夕方だけど……有難う」

 

 僕はある程度、精神力が回復し疲労も取れた事を体感で確認しながら起き上がった。

 屋敷に行くのは、明日の朝一で馬で行こうかと考えていたら

 

「先ほど厩舎に行き、明日の朝一で馬車の手配をしておきました」

 

 ソフィアから報告が有ったが……馬車?乗馬でなくて?

 

「僭越ながら私は御者も出来ますので、大丈夫です。一応朝食後直ぐに出発と思ってますが、宜しいでしょうか?」

 

 ソフィアにっこり。同行する気満々ですね。

 てか、早い時期にナディーネ達には顔合わせしておいた方が良い気がする。

 

「有難う。それで良いよ。あーお腹空いたね。今日の献立は何だろうね?」

 

 などと話しながら、扉に歩いていくと部屋の隅に椅子が?

 

「アレ?こんな所に椅子なんて置いたかな?」

 

 ソフィアが申し訳無さそうに報告してくれる。

 

「実は直立で、お部屋の隅に控えているつもりでしたが。起こすまで休んで良いとのお言葉でしたので……」

 

「えっ?この部屋に居たの?何時から?」

 

 おぃおぃ……恥ずかしいぞそれは!ルーツィアの時みたいだな。

 彼女も小さい頃は眠るまで手を繋いでくれていたが、今では夜伽して貰ってるんだぜ。良いだろ!

 

「馬車の手配後、直ぐにお部屋に伺いましたので……もしかしてご迷惑でしたか?」

 

 めっさ不安そうな顔で見上げてくる。金髪ロリ巨乳ツインテールメイドの不安で見上げるお願いポーズは……破壊力抜群だ!

 ツアイツはあっさり折れた。

 

「いや構わないよ。向こうにいるナディーネ達にも紹介するから」

 

 シエスタの時の苦労は、すっかり忘れてお気楽に言ってしまった。ソフィアの先導で、アルヴィーズの食堂に向かう。

 基本他の貴族が居る時に彼女からは話し掛けてこない。後姿を見ながら黙って歩いていると……こうお姫様抱っこの時の感触が蘇ってくる……

 

 でへへ!

 

 ちっちゃいけど出る所は出てるし、可愛いし金髪ツインテールだ。もしかしなくても、ウチで引き取れたのは当りかな。

 でも手を出すのは控えないとな。流石にモット伯から守ったけど、自分がご馳走様しました!じゃ不味すぎるだろう。

 

 ソフィアの感動丸潰しの思考をしながら、彼女のお尻を凝視して思いに耽っていた。

 

 妄想中…妄想中…妄想中…

 

 はっ!

 

 気が付けば、既に自分の席についていた。

 見回せば休日前の為か、のんびりした雰囲気が漂っていて結構な数の生徒が、既にワインを傾けながら思い思いに談笑したり、黙々と食事をしたりしている。

 

 今日も豪華だな……

 

 でも元日本人としては、和食が食べたくなる時が有る。味噌や醤油の製作は難しい。

 このハルケギニアには同じ発酵食品のチーズは有れども、流石に麹菌などの製法は確立されておらず、自分も錬金に挑戦したが上手くはいかなかった……

 タルブ村に和風ベースの料理は有っても、調味料は流石になくこればかりは再現が難しい。

 僕にも製法の知識なんて全く無いから、多分無理だろうな……残念。

 遠い魂の故郷に思いを馳せていると、微妙にモテナイーズがギーシュを先頭に食堂に入ってきた。

 軽く手を上げて挨拶すると、僕の周りに集まってくる。

 

「あれツアイツ?今日は夕食は食べずに、屋敷に行くとかいってなかったっけ?」

 

「ああギーシュ。ちょっと問題があって、明日の朝食後に行く事に変更したんだ」

 

「なんだ……残念だよ。折角夕食は二人分食べれると思って、楽しみだったのにさ」

 

 現在、マリコルヌを餌付け中です。飼わないけど……食べ切れず手を付けてない魚料理の皿をマルコリヌの方に押しやる。

 何気に、こいつ僕の隣が定位置になっている。

 

「君の屋敷には綺麗どころのメイドが20人以上居るんだろ。羨ましいな。他国にまで屋敷を構えるなよ」

 

 ヴィリエ君絡みますね。あれは僕の夢の城だから、招待はしないよ。

 

「確かに屋敷の規模以上にメイドが居るけど……殆どがヴァリエール公爵夫人からの派遣?だから断れないんだ」

 

「えっ?なんでヴァリエール公爵夫人が、君にメイドを派遣するのさ?」

 

 本当の事は言えない(まさか巨乳プログラム成功の女性陣を全員押し付けられたとは言えないから)

 

「多分気を使ってくれたんだろ。自国から大量の人員を派遣する事は国防上、許可が難しい。

現地雇用だと今度は、我が家の方が機密を扱う為の屋敷だから……防諜上の身元確認とか大変だし」

 

 

「ヴァリエール公爵家にそこまで気を使わせるとは……凄いんだね」

 

 ヴィリエが、うんうん感心している。

 

「だって在学中に婚約者を見付けないと、エレオノール様と婚約を強行されそうなんだ」

 

「うわぁ……それ絶対、監視目的も入ってるんじゃないかい?」

 

 それはないけどね。皆信者だから僕の味方なんだからさ。

 

「考えたくはないけどね……」

 

 カモフラージュには良い言い訳かな?

 

「エレオノール様……はぁはぁ……罵って下さい。嗚呼、僕を飼って下さい女王様」

 

 マリコルヌ、自重しろよ。しかしあの女王様振りは、M素養が有る奴には堪らないのかな?

 最近はギーシュ・マリコリヌ・ヴィリエそして僕と言うメンバーでの行動が多い気がするんだ。気楽だけどね。

 

 

 こいつ等について考える……

 

 

 先ずはギーシュ

 

 グラモン家の四男で土のドットメイジ。相変わらずの気障男だけど、原作との違いはモンモンと上手く行ってない。

 と言うかモンモンにアプローチしているが、相手にされてないと言うか……原作開始迄になんとか口説くのかな?

 他の女子にもアタックし続けているが、成功例を僕は知らない。

 

 

 次にマリコルヌ

 

 グランドプレ?家だっけ。風のドットメイジ。毎食事時に餌付けしているせいか、丸っこく懐いている……

 原作だと良くルイズに突っ掛かっていく描写が有るが、そんな事はないんだよな。

 可哀想だが、女性陣からは恋愛対象には見られてない感じがする。

 

 

 最後にヴィリエ

 

 風の名門ロレーヌ家の長男。プライドが高いが、原作ほど酷い性格じゃない……と思う。

 こちらは原作通り、タバサの事を意識している感じがする。

 実はこのメンバーの中では、いかにもトリステイン貴族らしい性格だが、腐っても名門の一角。

 一目置いている女子は意外に多いのに、本人があまり意識していないのが勿体無い。

 原作では女子と共謀してタバサやキュルケにチョッカイ掛けるのだが、その辺の女子への折衝力は有るのか?

 尊大だが、面倒見の良い性格で、常識を持っている奴だった……びっくりだ。

 

 

 僕自身には……

 

 余りに女性の影が多い為か、ルイズ・キュルケに遠慮してか?

 会話は普通にしてくれるが、アプローチはモンモンが割りと話し掛けてくれる位かな……寂しくなんかないぞ。

 

 

 食事後は直ぐに休みたかったのだが、オールドオスマンが居れば早めにソフィアの待遇を決めておかないと問題になりそうなので学院長室にむかった。

 

 ノックをしようとすると「使い魔に私のスカートの中を覗かせようとしないで下さい!」あの有名なやり取りが聞こえた。

 

「そうかそうか白か。もう清楚で逝ける年でもなし、黒でセクシーさを押出した方がよいのではないかね?」

 

「このエロジジィが……死ね死ね死ね!」

 

 気を取り直してノックする。

 

「あー学院長、宜しいでしょうか?」

 

 ガタガタと慌てた音がして静かになり暫く待たされてから声が掛かる。

 

「入りたまえミスタ・ツアイツ」

 

「失礼します……」

 

 何時もの片付けられた室内だ……先程の狂態の跡は見受けられない……ロングビルさんも澄ましている。

 

「どうかしたのかね?こんな時間に?」

 

「夜分すいません。明日朝から出掛けてしまうので、ソフィアの待遇だけでも決めておきたいと思いまして」

 

「君が身請けしたんじゃろ?だが此方にも負目があるしの……

学院の使用人室にそのまま居て貰うが、基本的にお主の世話を専属でして貰おうかの。なに給金はお主持ちじゃが、部屋代は取らぬよ」

 

「有難う御座います。あまり周りに言わない様にお願いします。その分、手すきの時間には学院の仕事も手伝う様にします」

 

「それだけなら急ぐ話ではないじゃろ?」

 

 不思議そうに聞いてくる。そうそれだけなら問題はないのだが……

 

「モット伯の件も有りますし、ハーナウ家に仕えると言う事は、我が家の使用人の待遇になりますから」

 

「それがどうしたのかな?」

 

「今回の様にチョッカイかけてくるなら覚悟しろよって意味です。例えそれがトリステインの有力貴族だったとしても……我が家の雇用条件には、使用人の保護も入っていますから」

 

 ニッコリと念を押しておく。

 

「つまりは今後同じ様な事が有れば、ハーナウ家が動くという事じゃな。どうしてそこまで平民に入れ込むんじゃ?」

 

「普通ですよウチでは、父上も納得してます。雇用者が被雇用者を守るのは当たり前でしょ」

 

「その当たり前が通用しないのが貴族と平民の壁なのだが、あっさりと言ってくれるよのぅ……」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 驚いたねぇ……この若様だけでなく、現当主まで納得済みの対応とは……有りえないねこりゃ!

 ここまで厚遇されたら、使用人の忠誠と結束は凄いもんだろうね。

 平民を人として扱う貴族なんて、このハルケギニアにはいやしないと思っていたよ。

 私だって没落してから感じて、学んだ事だからね。

 これはトリステイン魔法学院に潜り込むより、ハーナウ家に就職した方が良いかもしれないね。

 

 

 

 

 

 その晩の事。

 

 ツアイツから自室に来る様に言われたソフィアは、期待に胸を膨らませて向かった。

 

 が、雇用契約書やら生命保険やらなんやらにサインをさせられ、一抱えも有る雇用条件書を渡され目を通しておく様に言われ半泣きになっていた。

 字が読めない事を伝えたら、今度読み聞かせるからと二人の時間が持てた事を喜んだ。

 この書類にサインと判を押した事で、どれだけ自分が守られる事になるかなど思いもせずに……

 




明日以降でルート別ENDになります。 次はエレオノール&ソフィアルート編となります。


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エレオノール&ソフィアルート第1話から第3話

エレオノール&ソフィアルート第1話

 

 

 おはようございます。

 

 学院生活という事で、独り寝が寂しい今日この頃のツアイツです。

 今日こそ……今日こそはメイド隊とニャンニャンすると誓いを立てて、先ずは腹ごしらえでも……

 

「失礼します。お早う御座います。ご主人様」

 

 扉がノックされ僕の返事とメイド服を着たソフィアが入ってくる。

 

「おはよう。ソフィアよく寝れたかい?」

 

 時間ピッタリに来たソフィアに声を掛ける。まさか起きるまで外に居てタイミングを計ってなかったよね?

 

「はい。前と同じお部屋を使わせて頂けたので……ただ、こちらのお部屋とは遠いので少し不便ですが」

 

 ちらりと上目使いで見る。いや流石にこの部屋に配置は無理ですよ……一応貴族の割り当ての建物だから。

 

「そうか、仕方が無いねそれは」

 

 …無理だよソフィア。

 

「でも昼間は隅に控えてますから問題は、「いや問題有るから」……どうしてでしょうか?」

 

 凄く不本意そうに聞いてくる。

 

「流石にそんなに用がある訳ではないからずっと待機しなくて平気だよ。休憩とかその辺の事は追い追い雇用条件書の就業規則欄に書いて有るので説明するから」

 

「それではご主人様への恩返しになりません」

 

「いや君が無事だっただけで十分だから、気にしないで。じゃ準備するからお願い」

 

 

 洗顔の準備とタオル、それに着替えだけど……着替えは勿論、独りで出来ますよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やはりご主人様は素晴らしい御方です。

 

 こんなにも大切にされた事なんて今までに一度も、両親にでさえも有りませんでした。

 貴族に身請けをされるとは妾と同じだと聞いてますし、昨夜もご主人様のお部屋に呼ばれたと同室のアリスに言ったら……

 キャーキャー言われて着替えやら体を清めるやらさせられて、今晩ついに男女のゴニョゴニョ…なのね!と覚悟を決めて向かったのにまさかの契約書やら何やらで……

 

 そして直ぐにお部屋を出されて自室に戻ったら、アリスが、じっと私を観察して……

 

 

「あらツアイツ様って淡白なの?それとも早漏なのかしら?」

 

 なんて失礼な事を言ってたので思わず頂いた雇用条件書でぶん殴ったわ。

 凄い分厚い紙の束で殴ったから涙目で文句を言ってきたから「ご主人様はそんなに早漏でもガッツいてもないんです!」と思わず大声で怒鳴ってしまった。

 

 そうしたら両隣の部屋から他の子達が部屋にきて大騒ぎ。実家が商家で読み書きの出来る子が、その雇用条件書を読んだのだけど……驚いてた!

 

 そこには終身雇用であり年々お給金が上がる事、働かないのに休日にお金を貰える有休制度、残業代や残業食、病気の時にお医者様に払うお金の殆どをハーナウ家が負担してくれる事、一番驚いたのが、他の貴族になにか無理を言われたり問題を起こしてもハーナウ家が守ってくれる事。

 兎に角、このトリステインでは考えられない待遇が書かれていた……これ本当なの?

 

 他の皆も、読み上げられる内容に驚いて黙り込んでしまった。

 

「ソフィア、ツアイツ様から離れちゃ駄目よ。この事が本当なら貴方の幸せは保障されてるの」

 

「信じられないけど、でもツアイツ様なら本当なのね。おめでとう。凄く羨ましいわ」

 

 皆、確かにツアイツ様はお優しいけど、貴族とは気紛れだから何時か変わってしまうかも?

 とどこか心の奥で思っていたけど、ここまで契約と言う形で保障してくれるなら……と感じてくれたのかしら。

 

 

 などと回想に耽っていたらツアイツ様の準備が終わったわ。流石にお着替えのお手伝いは断られたけど、結構細身なのに筋肉質なのね。

 洗濯物を受け取り一旦、退出し2時間後に正門脇にて持ち合せと伺いました。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 朝の早い時間だと流石に空席も目立つ……たまの休みぐらい寝坊したいからね。

 僕が食堂に顔を出すと、直ぐに朝食が用意される。確かこの子は良くソフィアと一緒にいる子だな……名前は知らないけど、猫みたいな感じの子だ。

 

 胸は……要努力?かな。

 

 食事が終ると「紅茶のお代わりをお持ちしますか?」と聞いてきたので、折角なのでもう一杯貰おうかな?

 お代わりを頼むと直ぐに食べ終わった食器が下げられる……何だろう?今日は一段と待遇が良いな。

 

 気になるので後で厨房に顔を出すかな……

 

 ここでは基本的に彼女等は私用では話し掛けて来ないから、まぁソフィア関係だろうし。

 

「おはよう。マルトーさん、肩平気かい?治癒しようか?」

 

「ああ大丈夫、大丈夫、そんなにヤワじゃねぇから平気だよ」

 

 肩をグルグル廻し無事をアピールしてる。

 

「今日はまた一段とサービスが良かったけど、あまり良すぎると周りから色々言われるから程々にして欲しいんだけど」

 

「お前ら、聞いたか?あからさまなサービスはするなよ。それはソフィアの役目だからな」

 

「「「はーい!」」」

 

「ほんと宜しく頼むね。最近、上級生に変な目で見られ始めてるから面倒なんだ。それと皆も注意してね。とばっちりが有るかもしれないから……悪いけど」

 

 最近僕の周りを伺っているのが、原作のキュルケに夜這い?を掛けていた、ペリッソンとスティックスの2人だ。

 原作同様のキュルケ狙いだろうけど、今のキュルケは色気は凄いが色男なら誰でもチョッカイを掛ける性格ではなくなっているので、彼らのアプローチは今の所、不発に終っている。

 原因が自分の魅力でなく僕をどうにかすれば、キュルケを手に入れられると思っている節が有るんだ。

 上級生が女の取合いで下級生にチョッカイ掛けて来るなんて……

 

 本当は咬ませ犬のモブだったのだが2人ともラインクラスだしスクエアが無敵なんて事は思ってないから条件次第では、負ける可能性も有る。

 

 

 相手も馬鹿じゃないから格上に対して何かしらの手立てを考えている筈だ。少なくとも僕ならそうする。

 基本的にトリステイン貴族は傲慢が多くプライドが無駄に高いから、下級生のしかもゲルマニアの貴族の僕ががちやほやされてるのは我慢出来ないだろうな。

 正面から来れば粉砕する自信は有るけど……何にしても注意だけはしておこう。

 さてそろそろ支度をしに部屋にもどるかな、女性を待たせる訳にはいかないし。

 

 

 

 部屋に戻ると扉の前に、眼鏡君……レイナールがウロウロしていた。

 

 最近だが、モテナイーズ君たち以外にも話をする連中が出来てきたんだが、彼もその内の一人だ。

 ギーシュ経由で例の「男の浪漫本」の噂を聞きつけ、眼鏡君の他に筋肉君のギムリとも交流が出来た。

 男の友情は女で簡単に壊れるが、下ネタで繋がった悪友とは壊れにくいのだよ。

 

 

「どうした?レイナール、用が有るなら食堂の時にでも話してくれれば良かったのに?アレか何か見たい本が有るのか?」

 

「いや本は見たいんだが…気になる事が有ってね。上級生数人が君を狙っている噂が有るんだ」

 

「また物騒だな……でもどうして知ったんだい?」

 

「偶然食堂で、席の近い上級生の話が聞こえたんだ。最もそいつらは実行犯でなく近々あいつ思い知らされるぜ、ザマァ……とか言っていたんだ。どうする?」

 

 レイナールは不安顔で聞いてくる。

 

「上級生の中にそういう動きが有るって事だな。有難う。事前に分かれば対応も出来るよ」

 

 こいつ、いい奴だな地味だけど。さてどうするかな。

 主犯はあの2人で間違いないと思うけど、他にも共犯が居ると思っておいた方が良いだろう。

 

「有難うレイナール。また何か聞いたら教えてくれよ。これから出掛けなきゃならないから御礼は後で」

 

「お礼なんていいさ。いつも本を読ませてくれるだけで十分さ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 不思議な奴だった。

 

 最初僕の事を地味眼鏡君とか呼んだ時は、固まったね。仮にも貴族がフレンドリー過ぎるだろ。

 初めて見た時はギーシュとの決闘騒ぎの時だったが、ギーシュも大貴族の息子で気障だし、こちらも気に入らない奴と思いどちらの応援の輪にも入らず少し離れて見ていたのが……正解だった。

 まさか一瞬で観客諸共吹っ飛ばすなんて思わなかったし、力の差は歴然だった。

 仲良くなった切欠はクラスの男子だけに出回っている通称「男の浪漫本」を見せてくれた事だ。

 挿絵の女の子も、こうグッと胸を締め付けられる感じで……高価な美術品の絵画なんかより断然心に響いた。

 

 彼流に言うならば……

 

 

 萌え……だそうだ。

 

 

 うんそんな感じだ。なんと、彼の著書だとか……女性陣にバレたら白い目で見られる事確定なのに、全然気にせず続編を執筆する奴だ。

 友達同士でもプライド第一、見栄重視のトリステインに全く居ない新しいタイプの貴族だが、こんなに肩肘張らずに騒げる友人は居なかった。

 今ではギーシュ・マルコリヌ・ヴィリエ・ギムリと合わせて新モテナイーズとか勝手にグループ名を決めちゃってる変な奴だけど、大切な友人なんだ。

 この件は他の奴らにも声を掛けて調べてみるか。

 なに「男の浪漫本」は、一年生の男子の中では殆ど出回っているベストセラーだ。

 

 

 これが休載の危機と言えば、皆労力を厭わないだろう……

 

 僕的には「トゥ○ート」の古代ゴーレム製の可愛いメイドさん姉妹の話が……ううマルチィ。

 

 レイナールの趣味はドジっ子ロリコンタイプだと発覚した。

 ツアイツは巨乳派だが色んなジャンルを網羅出来る一流の変態だったので、ファン層に偏りは無かったのだ。

 

 

 

 エレオノール&ソフィアルート第2話

 

 

 まさかのデレオノール爆誕!

 

 

 待ち合せ場所に行くと既にソフィアが待っていた。

 

「ごめん遅れちゃったかな?」

 

 まだ15分位前の筈だけと、男は女を待たせたらこう言わなければならないのだ。

 

「いえ今来たところですから」

 

 ソフィアにっこり……初々しいデートみたいだね。

 

「では出発しましょう」

 

 御者台にソフィアが乗り込もうとしたので手綱は僕が持ち隣にソフィアを座らせた。折角だから話しながら行こう。

 ソフィアが嬉しそうに、しかし申し訳無さそうに「せめて手綱は私が……」とか恐縮しているが、そこは無理を押し通した。

 だって運転手が女性で助手席に男が座っているって、現代感覚が残っているのか恥ずかしいし……

 折角なので昨日の雇用条件について話す事1時間、草案は僕が作ったので内容は全て頭の中に入っているから説明に問題はない。

 結構大事な話なのにソフィアはニコニコしながら頷くだけ……ちゃんと内容聞いてるのかな?

 

「大丈夫です。ご主人様の説明の内容で不服はありません」

 

 ひと段落着いてソフィアに聞いてみたが、ちゃんと聞いていたみたいだ。

 実はこの時ソフィアは話の半分も聞いていなかったが、ツアイツと並んで馬車に乗っているだけで満足だった。

 

 嗚呼……ご主人様の凛々しいお顔サイコー!

 

 何か難しい事を言われているけど、ご主人様に任せておけば幸せになれるって昨日教えて貰ったから平気。でもご恩返しはどうしましょうか?

 そうだ!今日お会いする他のメイドさん達に相談してみよう。

 その後、のんびりと馬車に揺られツアイツの執務用の屋敷に到着し……見慣れた家紋の馬車が……あれ?

 

 あの家紋はヴァリエール公爵のだけど、なにか用事が有ったかな?事前連絡は無かった筈だけど。

 僕の馬車を視認した使用人達が、出迎えの準備を整然としている。

 ヴァリエール家から来たメイドズが正面入口前に2列で並び、扉付近にはナディーネ達が控えている。

 

 その脇には……

 

 ヴァリエール夫人とエレオノール様がイマスネ!ミマチガイデハナイデスヨネ?

 目上の人達に馬上から挨拶は不敬なので、少し前で馬車を降り歩いて屋敷に向かう。

 

 

「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」」」」」」

 

 一斉に礼をするメイドズ。

 

「ただいま、皆変わりはないかい?」

 

 メイドのアーチを潜りながら玄関へと向かう。くーっ前世ではこの感動を味わう事は出来ないだろう至福の時!

 玄関前に行くと、ナディーネ・エーファ・ルーツィア・シエスタが笑顔で迎えてくれた。

 彼女達の位置付は上級メイドになっており、信者メイド達は一般メイドだ……但し待遇に差は無い。

 

 夜のお相手までしてくれる娘達が上級と言う括りらしい。因みにこのネーミングは僕が決めていない。

 彼女達が自主的にきめたのだ。

 

 そしてヴァリエール夫人とエレオノール様に貴族的礼節に則った挨拶をする。

 

「お待たせしてしまいました。本日はどの様なご用件ですか?」

 

「同行しているそのメイドは何ですか?婿殿?またですか?またなんですか?」

 

 流石は烈風のカリン。こんな質問でもプレッシャーが半端でない。

 てか隣のエレオノール様と後ろのナディーネ達の視線も突き刺さる……息苦しいっす。

 

「彼女はモット伯に不当に妾にされそうだったので、成り行きですが当家で世話をする事にしました」

 

「聞いています。我が家にも防諜機関が有りますから。相変わらず平民に甘いですね」

 

 ふっとプレッシャーを緩めて微笑してくれた。この人の偶に見せる笑顔は好きなんだよね。多分ルイズの将来の姿だ。

 烈風の騎士姫はまんまルイズだったし。

 

「調べではモット伯は貴方に隔意はないみたいですね。上手く例の本で篭絡したのですか?我が夫と同じく」

 

 この辺の配慮がこの人の凄い所だ。多分モット伯が僕に何かしようとするか調べたんだな僕のために……

 

「男は単純ですからね。まぁ実害の無い本ですしヴァリエール公爵にも程々にしてあげて下さい。そして有難う御座います」

 

「お礼はエレオノールに言いなさい。最近貴方の周りに不穏な空気が有るからと調べさせていましたよ」

 

 はっとエレオノール様を見る。あっ目を逸らされた。

 

「貴方は……まぁ割と、本当にアレですが……その話すと其れなりに……楽しいから……失脚して欲しくは無いのです」

 

 まさかのデレオノール!

 

 えっ本当にエレオノール様ですか?

 

「改めて有難う御座います。僕はその辺の貴族の機微に疎いので、知らない内に敵を作ってそうですから……」

 

「まぁ良いわ。暇潰し程度に気を配ってあげるわ。どうせ来週から臨時講師で学院に呼ばれているし。あくまでついでよ」

 

 

「立ち話も何ですから屋敷に入りませんか?」

 

 ヴァリエール夫人らを促す、貴婦人に立ち話を強要してはダメだから。

 

「エーファ、彼女はソフィア、今日から正式にうちの従業員になるので面倒を見てくれ」と引き渡した。

 

 応接室に、ヴァリエール夫人とエレオノール様を案内しお茶の手配をさせる。

 一寸気になる発言の確認をしたいんだけど、いきなり切り出すのは無粋かな?

 

「婿殿どうかしましたか?」

 

「あの……婿殿とは一体?」

 

 確かに口約束では婚約してるけど公の話では無い筈だけど……

 

「いえモット伯は貴方がどうにかしましたが、このトリステイン貴族の中にはやはり貴方を良く思わない者がいます。学院の上級生とその実家の者達が動いています」

 

「ペリッソンとスティックスの実家とかですか?」

 

「流石ですね。他にも幾つかの貴族達が動いています。彼らは今の貴方に手を出す事の危なさを考えられない連中です。だからこそ短慮に直接危害を加えそうな連中なのです」

 

「つまり政治的な動きをせずに、武力行使というか……馬鹿ですかね?でもそれと婿殿と何の関係が?」

 

「簡単です。ヴァリエール公爵家と婚姻予定と広まれば早々、行動には出れませんし私が動ける口実になります」

 

「つまり、ウチの身内にチョッカイかけたらどうなるか分かっているんだろうな?ですか。」

 

「貴方は既にゲルマニアでもそれなりの地位に居るのです。もし危害を加えられたらそれを理由に色々騒ぐ連中がでます」

 

「随分と買い被りを……仮に婚約と言っても既にルイズと……ですよね?」

 

「そうですね、ですがまだ強制力が弱いのです。エレオノール誰が適任ですか?」

 

「えっ?あ……その……いやそのカトレアは既に分家して領地持ちですが体が弱く政界とは無縁ですし……

ルイズではまだ子供だから親の威光でしか対応できないし……

私ならアカデミーの実績も有りますし、名前も売れてますから……今回は仕方が無いから……その……」

 

「だそうです。婿殿、公表はしますが口約束の延長ですから事が落ち着いたら解消も出来ます。貴方の実家には私の方から話を通しておきます」

 

「後で破談など、エレオノール様に傷がつきますし……」

 

「もう何度も婚約を解消しているのです。逆にルイズやカトレアでは破談など無理な方法ですからね」

 

「エレオノール様は僕なんかと婚約など平気なのですか?」

 

 珍しく大人しい彼女に声を掛ける。

 

「仕方ないわね。本当に仕方ないからなんですからね……良いわ。受けてあげるわ」

 

 

「僕の一存では決められないので、父上とツェルプストー辺境伯とも相談してお返事をさせて下さい」

 

 ここまで気を使われているのは嬉しいけど、一人では決められない問題だから。

 その後、幾つかの案件をお互い確認しあいヴァリエール夫人とエレオノール様は帰っていった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「エレオノール、これは最後のチャンスです。形振り構わず逝きなさい」

 

「お母様……私は、彼の事は別に……これは彼に危害が加わるとこのトリステインの為にならないからの処置です」

 

「それで良いのですか?確かに彼は年下で変わり者ですが、今までの婚約者共と比べたら破格の相手です。

それに男ばかりが若い相手と結婚出来るなんて事は無いのです、分かりますね?」

 

 確かに彼との会話は楽しい。研究者としての討論も、たわいない世間話にしてもこれ程気の合う相手は居なかった。

 家格も外見も将来性も文句は無い。でもまだ彼は学生だ。

 卒業を待っていたら30歳になってしまうしそれから子供を作るとなると……ブツブツと悩んでいる娘に母親がダメ押しの一撃を加えた。

 

「学生結婚でも構わないのです。

学院や王宮への圧力なら何とでもするから問題はないわ。もう貴女には彼と結婚するか、仕事と結婚するかしかないのよ」

 

 エレオノールは決心した。

 

 逝かず後家より、有能な若いツバメを侍らせたほうが100倍マシだ!それにルイズに先を越される事は女として我慢がならなかった。

 しかし正攻法では無理だし、こちらから寵愛を授かるように接する事は今更ながら恥ずかしい。

 

「お母様なにか良い手立てはないですか?」

 

「任せておきなさい。彼は基本的に女性に対して不思議な位優しいのです。

仮にとはいえ婚約者として接していけば、突き放す事は出来ません。反面生涯妻1人では我慢が出来ないでしょうから、その点は我慢しなさい」

 

「なる程、確かに彼なら一度懐に入れてしまった女性に酷い事は出来ないわね。

つまり既成事実を作れば……この胸でも愛してくれる訳ね」

 

 才女2人の悪巧みは続いていく。

 

 

 

エレオノール&ソフィアルート第3話

 

 

 査問会議

 

 ピンチです。ご主人様助けて下さい。

 現在進行形で20人以上のメイドさん達に囲まれて、友好的でない雰囲気を醸し出されています。

 

「こんにちは。ソフィアさん私はルーツィアと申します。この屋敷の警備主任をしています」

 

 口調は優しいのですが、凄いプレッシャーを感じます。

 

「始めまして、ソフィアです。宜しくお願いします」

 

 取り敢えず挨拶は出来ましたが……もう持ちそうにありません。主に精神的な意味で。

 

「さてツアイツ様からは詳細を伺っていませんが、ここに来る様になった経緯を教えて下さい」

 

 この金髪を短く切り揃えた方はルーツィアさんで、ご主人様の護衛も引き受けていた方だそうです。

 私はポツポツとモット伯様に妾として召し出されそうになった所をご主人様が、態々モット伯様のお屋敷に単身乗り込んで来て引き取って下さった事を話し、お屋敷の他のメイドの方に紹介する為に同行したと伝えた。

 

「流石ツアイツ様」とか「ツアイツ様は相変わらずお優しい」とか聞こえます。

 

 やはりご主人様はお優しい素晴らしいお方なのですね。

 

「ソフィアちゃん久しぶり。それでツアイツ様にはどれ位迄、仕えているの?」

 

 あっシエスタちゃんだ。タルブの村に居る時には随分遊んだのだが、見違える様に綺麗になっていた。

 

「どれ位って……助けて頂いたのは昨夜で、お仕えしているのはご主人様が学院に来られてからです」

 

「それでツアイツ様に身請けされたのなら、お手は付かれたのかな?」

 

 お手付きって……えーっそれって男女のごにょごにょですよね?

 

「いえ昨夜もお部屋に呼ばれましたが、雇用条件とか契約書とかのお話が終ったら直ぐにお部屋に戻されましたし……

ご主人様はお優しいので、無理にそういう事はしないと思います」

 

 あっなんか張り詰めた空気が和んだ気がします。

 

「そうね、ツアイツ様はお優しいから、改めてようこそソフィアちゃん」

 

 その後、他の方々とも自己紹介をしつつ和やかな雰囲気になりました。もしかして皆さんご主人様がお好きなのかしら?

 もし寵愛を受けてしまっていたら……粛清された?そして私はエーファさんに雇用条件の説明を受ける為に別室に向かった。

 

 そこで色々な雇用条件の説明や不足の契約書のサインと捺印やら支給されるメイド服の採寸をおこなった。

 なんとメイド服には、略式ですがハーナウ家の家紋が入っています。

 これは私の身分の証明と保証をするもので、たとえ他の貴族様から無理を言われたら、この家紋も見せて雇用主はハーナウ家なのでそちらに話を通す様に伝える様に……と。

 これなら問答無用で理不尽を受ける事がなくなります。

 そして下着類も支給されたのですが、一寸付け方とか分からずにエーファさんに実践して貰いました。凄い肌触りと着やすさです。

 

 ぶらじゃとぱんてぃと言うらしいのですが、一般には出回ってないそうです。

 既に支給品だけで鞄に入り切らないのですが、まだ夏服とか出してきてますが……メイド服って季節で変えるものだったんですか?

 

 でも夏服は半袖でスカートも短く生地も違う見たいです。色も白が基調で水色のアクセントで爽やかな感じです。

 

 えっ?これはもしも夜伽に呼ばれた時に着る下着ですか!何種類も有りますけど?必要な時に開けて確認するのですか。

 

 そこまで支給されるなんて……どこまでも凄いんでしょう、ご主人様って。

 

 因みにエーファさんから、既に4人ほどご主人様から寵愛を受けている事を知らされました。

 もしお手が付いたら報告する様にも言われましたが……また待遇とかが変わるそうです。

 それとご主人様には内緒ですが、エレオノール様の学院滞在のお世話をする為にこちらの屋敷からローテーションで複数人のメイドを派遣するそうです。

 

 私も組み込まれますので、学院でずっと一緒は不可能になってしまいましたが仕方ないです。

 他の方もご主人様の近くに居たいのはわかりますから。

 この申請書類はご主人様の執務室の重要度の低い方に積んであるらしく、ご主人様自らが決済されるか……時間が無ければエーファさんが代理承認するそうです。

 

 それって計画的犯行?

 

 勿論凄い笑顔で口止めされましたよ……頷くしか出来ませんでした……ご主人様すみません。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ここまで来るのに相当な時間が掛かった気がする。感覚的に3〜4話位かな……執務室には、綺麗に重要度別に揃えられた書類が積んであります。

 そして側には政務の補助に特化教育をしたメイドが4人。軽くチェックするだけで午前中が終りそうです。

 昼食後、直ぐに始めても夕飯までに終るか終らないかだな……今日はハイパーメイドタイムは無しかも、トホホ……気を取り直し「さぁ頑張ろう。」と皆に声を掛ける。

 

「分かりましたツアイツ様。」と返事を返してくれたので、先ずは重要度の高い案件から確認する。

 

 新しい取引希望先の身辺調査、これから買付予定商品のリスト、売り商品のリスト、それぞれの収支報告それとゼロ戦の解析と転用可能な技術の報告書……

 武装面に目が行きそうたが、装甲の超々ジェラルミンの調査も進めさせていたがついに安定的な錬金に成功したそうだ。

 これで強度が有りしかも軽い金属の使用が可能となった。

 

 他にもゴム……

 

 これはパッキンに流用しビン詰め等の保存食に効果が有るしコルクに変わる蓋に使える。

 車輪やサスペンションは輸出用の高級馬車に転用し乗り心地の改善に貢献しかなりの売り上げで予約が殺到している。

 VIP用の総超々ジェラルミン貼りの装甲馬車は各国王室からも打診が有るそうだ。

 

 逆に電装系は手付かずだ……

 

 これは分解したら戻せないと言う実情が有るから無理はさせなかった。

 ゼロ戦の技術転用はこれ位で終らせて、直ぐに使える様に整備させておく……と。

 

 次は、アルビオンの内乱に合わせて軍需物資の食糧や医薬品の増産と購入、各種秘薬も同じ。

 有能な平民の引き抜きは順調だ……トリステインやロマリアから逃げてくる知識階級の平民は結構いるし、彼らは帰る所がないから必死で働いてくれる。

 それに報いる報酬と安全の確保をすれば離反は少ない。

 平民といえども結構な割合でメイジが居るんだな。没落だけじゃなくてお手付きが多いって事だ。

 彼らは主に錬金部門で働いてもらう。人手は幾ら有っても足りない程だ。

 しかし色々な所から間者が入ってきて、それの対応する部署の人材確保が急務になってしまった。

 これは例のヴァリエール公爵との連絡係の男が何人か融通してくれ、後の人材教育にも手を貸してくれている。

 ウチのは情報収集には強いが、荒事にはイマイチだったので正直助かる。持つべきは趣味友達か。

 

 さてこの辺でお昼にしよう。

 

「みんなひと段落したら食事にしよう」

 

「「「「はーい!」」」」

 

 さて昼食はなんだろう?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そろそろ昼食の支度だわ。ツアイツ様は手の空いている使用人全てと同じ物を摂られます。

 普通ではありえないですね。だから私達の食事も当然グレードが上がります。とても嬉しいです。

 

 ツアイツ様は同じ釜の飯を食べた仲間だとか仰ってますが、貴族様と仲間と言うのは……これは外にはバレない様に口止めしています。

 

 ツアイツ様の不利になる様な情報は極力押さえなければかりませんから。まったく手の掛かる弟のような感じがしますね。

 その苦労が嬉しいのですが。

 

 さてお昼の献立は、サラダ・鴨肉とキャベツのパスタ・コーンスープに各種パンです。デザートには林檎のヨーグルト和えです。

 

 ふふふっ、乳製品の摂取は今でも欠かさず行っていますよ。

 

 さぁ準備が出来たのでツアイツ様を呼びに行きましょう!昼食は皆がワイワイとお喋りしながら、楽しく食べました。

 初めて参加したソフィアさんは吃驚していましたね。普通の貴族様では考えられない状況ですし…… あとで念の為、口止めしておきましょう。

 

 周りに広まり問題となり、この食事会が中止になってしまっては残念ですからね。

 



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エレオノール&ソフィアルート第4話から第5話

エレオノール&ソフィアルート第4話

 

 謀略…しかし味方が豪華すぎるのが困る

 

 こんにちは。ツアイツです。久々にメイドに囲まれて仕事をしています。

 

 それはそれで嬉しいのですが、学院に戻るタイムリミットが刻々と近付いてきています。

 ソフィアも同行させる為あまり遅くまでこちらにいると暗くなり道中が危険になるから…

 首都に近いのに盗賊が出るってどんだけ治安悪いのよ?

 この屋敷の警備兵の補充申請も作っておいたし今でも常時武装兵20人メイジ6人が居るから安心だ。

 最悪、逃走用の武装装甲馬車の完備もしているし銃器もそれなりに配備している。

 

 

 カリカリカリ…

 

 カリカリカリ…

 

 カリカリカリ…

 

 ふぅ、重要度中まで何とか終わったぞ。重要度低はエーファに代理承認をして貰おう。※既に彼女の罠に嵌りました(笑)

 

「さぁ皆、そろそろ終りにしよう。エーファとソフィアを呼んで来てくれるかな。」

 

 

「「「「はーい!」」」」

 

 ふぅ…結局、仕事で終ってしまったけど仕方ないか…スーパーメイドニャンニャンタイムは次回に繰越しか。

 

 コンコン「失礼します」おっ2人がきたな。

 

「エーファそろそろ学院に戻るが、ソフィアへの説明は終ったかい?」

 

「はい、全て完了しております。支給品も全て馬車に積み込み終了です」

 

「ソフィアはなにか分からない事は有るかい?大丈夫かな?」

 

「はい。有難う御座います、問題無いです」

 

「では学院に戻ろうか…あっ一寸待って。今屋敷に伝書用の動物は何匹居るかな?」

 

「長距離用の鷲と梟、それに近距離用の鳩が数匹居ますが……お手紙をお送りですか?」

 

「うん実家とツェルプストー辺境伯にこの手紙を送っておいて欲しいんだ。返事は学院の僕まで直接送り返して欲しいって」

 

「了解いたしました。では鷹を使い高速で送っておきます」

 

「有難う。頼むね、ではソフィア帰ろうか」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 行きと同じ様にご主人様の手綱捌きで帰路に付いています。

 

「どうだいソフィア疲れたかい?」

 

 相変わらずご主人様は私などに気を使ってくださいます。僅か半日足らずの訪問でしたが内容は凄く濃かったです。

 ご主人様に秘密を作ってしまいましたが何れバレると思いますしエーファさんからも口止めされていますので……その時はその時で……

 

 ご主人様ごめんなさい。でも明日以降屋敷の皆さんもツアイツ様のお世話に来る様になります。

 チャンスは少ないですから……

 

 ここは私から攻めに行かないと駄目でしょうか……丁度色々な夜伽セットも頂きましたから。 ソフィアが黒化した!

 

 

 

 そして馬車は無事に学院に付いた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 凄い荷物なのでレビテーションを掛けて鞄?もう既に箪笥?を浮かせソフィアの部屋に運ぶ。

 ソフィアは申し訳無さそうに後から付いてくる、てかこんなに支給品て有るんだ。知らなかったよ。

 

 使用人達は貴族が平民の宿舎に来た事に驚いたが、僕と分かるとお辞儀をして皆、仕事に戻る。随分馴染んでしまったものだ。

 結局、荷物は2人部屋には入りきらず新たにソフィア用の部屋を手配して貰った。

 

 ソフィアの部屋の件はちゃんと考えないといけないな。明日にでもオールドオスマンに相談するか。

 ついでに厨房にも顔を出しておくか…

 

 

「今晩は、マルトーさん、今戻ったよ」

 

「おぅ。お帰り。どうだい久々のお屋敷は?」

 

「あー仕事が山積みでね…疲れに行ったようなもんだよ」

 

「はっ貴族様はそれがお仕事だろうに、俺たちゃ旨いメシを作るのが仕事さ!」

 

「じゃ旨い物を頼むよ」

 

 そう行って厨房を後にし食堂に向かった。

 

 

 

アルヴィーズの食堂にて

 

 

 

 食堂に入ると、レイナールが手を振っていた。

 何時もの男子メンバーとルイズ・キュルケ・モンモンが食堂の一角に集まっている。

 テーブルに向かうと、賑やかな様子ではなく皆が、結構真剣な表情をしている。

 

 ギーシュが代表で、「ツアイツ、君の周りに不穏な空気が有るのを知ってるそうだが、僕らも少し調べてみた」 ギーシュとモンモンの実家とは最近取引を始めたばかりだ。

 当面はウチの安い品を買って貰うのが殆どだが…

 

「ああ…僕も朝にレイナールから教えて貰ったよ」

 

 なんだ皆心配してくれたのかな。

 

「それで1年生の中だけで調べてみたけどどうやら主犯はペリッソンとスティックスって2年生よ。口説かれた他の1年の女子から聞いたわ。

しつこいからミスタツアイツの方が素敵だからって断ったら、アイツは直ぐに失脚するぞって息巻いていたそうよ」

 

 モンモンがギーシュの言葉を遮って報告してくれる……ギーシュ哀れ。

 

「つまり近々、何か仕掛けてくるって事だ。失脚って事は何か政治的な動きが有るのかもしれん」

 

 ギムリ……筋肉馬鹿じゃ無かったんだな。

 

「「どうするの?実家に応援を頼みましょうか?」」

 

 ルイズ&キュルケ……

 

 落ち着け、君らの実家から応援を願ったら即、戦争というか一大事だ。

 てかルイズの実家と言うか母親と姉は積極的に介入したがってるんだが……

 

「ツアイツが居なくなるとお腹一杯食べれなくなるよ」

 

 マルコリヌ…君…僕は餌係じゃないんだよ。

 

「その件は今日、ヴァリエール夫人からも提案を受けたんだ。僕も実家の意見を聞かないとまだ内容は教えられないんだけど」

 

「お母様が?」

 

 ルイズが不審な顔をしている。

 

「僕も何故あの厳しい2人がここまでしてくれるのか解らないんだけどね」

 

「へー凄いな、烈風のカリンから心配されるとは!流石我がライバルだな」

 

 ヴィリエ、何時の間にライバル認定?

 

「他に分かった事は、新入生歓迎イベントの「スレイプニイルの舞踊会」の時が怪しいと思うんだ」

 

 確かに全学年が集まるイベントで恥を掻かせられれば僕の立場は悪くなるだろう……でもそれで失脚は大げさでは?

 しかも「真実の鏡」で変装する訳だしむしろ、僕と特定できずに仕掛ける事になるのでは?

 原作ではキュルケのドレスを破いたり、タバサの本を燃やしたりと陰険なイベントも有ったが、当の本人がここで一緒に考えているんだから有りえない…

 僕にじっと見られていた事に気付いたヴィリエが、怪訝な顔をしたので思考を切り替える。

 

「ツアイツ、僕は君をライバルとは認めたが、お付き合いはお断りd…ボギャ!」

 

 

 ルイズに後頭部をぶん殴られて黙らされた……哀れヴィリエ(泣)

 

「男色とか薔薇とかホモとか阿部さんとか噂にされた方が失脚してしまうでしょ!」

 

 ルイズ……阿部さんって……どこからその情報を得ているんだい?

 

 実は君もパソコンを待っていてまさかネットが繋がるとか?僕は驚愕したが、周りはスルーだった……

 

 アレボクダケオカシイノカナ?

 

 しかし主犯が分かり時期も大体特定でき味方も複数いる。対策としては向こうのアクションを待つか先制攻撃をするか……どちらが効果的かな。

 

 しかしトリステインの最大戦力が積極的に動いていてくれる……ピンチなのは実は彼らなんじゃないか?

 

「有難う。皆が心配してくれるなら心強いよ。

まだ時間があるし少し考えてみるから相手に気付かれない様に行動は控えてくれ。さぁ夕食を食べよう」

 

 

結構話し込んでしまったのか、他の生徒も集まりだしてきたからこの話はここまで。僕が手を上げると、直ぐに夕食が運ばれてきた……このVIP待遇にも報いないといけないね。

 

 

 

 

 自室にて

 

 

 

 

 友人達との夕食を楽しみ、風呂に入ってサッパリした後で、自室で1人思考に耽る……独りで……1人?……

 

「ソフィアさん自室に戻って休んで下さい。もう遅い時間ですよ」

 

「分かりましたご主人様、では…また参ります」

 

 ペコリとお辞儀して退室していくソフィア……気が付かなかったYOー!

 

 最近、彼女が部屋の隅で控えていても違和感がないような……流石はリアルメイド!メイド喫茶なんて目じゃないね。

 

 

 でも……また?

 

 気を取り直し思考に耽る……双子の月が綺麗だ……結構な時間ボーっとしていた、もう深夜だ……月に小さな影が……僕に向かってくる。

 

 1つ…2つ…3つ…4つ…梟のメール便だった。

 

 

 1通目

 

 ツェルプストー辺境伯より…「ツアイツ殿へ」と書いてある。

 

 

 2通目

 

 父上からだ…「ようこそチッパイ帝国へ」と書いてある。

 

 

 3通目

 

 エレオノール様からだ…「旦那様へ」と書いてある。

 

 

 4通目

 

 ヴァリエール夫人からだ…「婿殿へ」と書いてある。

 

 ツアイツは額に脂汗を滲ませながらどれから読もうか悩んでいた。

 

 

 

エレオノール&ソフィアルート完結編

 

 

 今回で一応の一段落です。

 

 良くもまぁ素人の妄想爆発小説もどきが取り敢えず完結出来た物だと自分でも驚いています。

 ソフィアは単に金髪ツインテールなロリ巨乳メイドって良くね?だけで妄想爆発しました。

 エレオノールは原作では不遇な扱いですが何となく厳しい母娘がデレデレに壊れたらどんな感じになっちゃうの?

 と言う他の人から見ればナンダカナーこのご都合主義は……と思われてもこうなっちゃいました。

 

 自分でも思う。烈風のカリンがこれはヤバくね?

 

 

********************************************

 

 

 

 お手紙有難う御座います。夜分お疲れ様です、ツアイツです。

 

 いまだ一睡も出来ずに机に置いてある手紙達を眺めています。

 返事を待っている梟達が僕の両肩と膝と頭の上にとまってモフモフしてくれますが……有難う、お前ら僕の苦悩が分かるんだな?

 

 あっフンされた(泣)

 

 先ずは無難な宛名のツェルプストー辺境伯の手紙を手に取る。

 

 

 ツアイツ君君らしくない弱気な態度だね。

 たかが見栄と歴史しかない貴族の餓鬼共に対応するだけで、ヴァリエールを頼るとは……

 ヴァリエール夫人からの手紙も読んだが、あれは罠だな。

 あとで破談OKと書いてあるが君は基本的に、どんな体型の女性にも甘い所が有る。

 そして年上から年下まで喰える私に近しい者である事も理解している。

 つまり君ならあのエレオノールとも上手く行ってしまうという事だ。

 

 私は君と縁が出来れば、順番などは気にしない。別に第一夫人が第二夫人より寵を受けるなんて決まりは無い。

 但しキュルケが気に入らないと言っても、私にはまだ2人の娘が居るしそれでも気に入らないといったら気に入るタイプを養子にしてでも君に嫁がせるつもりだ。

 それと君が献上した装甲馬車や軍用レーションについて、アルブレヒト3世が、君を調べ始めている。

 

 中央に顔を売る良い機会だ。

 

 私も同行するので、一度謁見しよう。なに、君の真面目な部分の功績だけでも大した物だ、問題は何も無いな。

 では、エレオノールとの婚約の件は了解したが、終生側室や妾は持たないとかは約束するなよ。

 

 そうそう妻の妊娠が発覚してね。今度遊びに来たときにでもあれに顔を見せてやってくれ。水メイジによると男子らしい。

 

 世継ぎの件も解決したのでキュルケの事は宜しく頼むよ。

 

 ツエルプストー辺境伯……流石に大貴族の余裕だ。

 

 この人が実は一番まともなんじゃないか僕の周りの大人の中では?

 そろそろ中央に働きかけようかと思っていた時に的確にフォローを入れてくれる辺り流石としか言いようがない。次は父上からの手紙だ…

 

 

 ようこそ、チッパイの世界へ

 

 幼少の頃から叩き込んでいたチッパイの良さについて漸く理解したという事だな。

 ただしチッパイはロリとセットが初心者なのだ。

 チッパイお姉様は中級から上級者のお相手なのだが、貴様は先走りをしすぎるぞ。

 

 

 この父でさえアデーレ以外の相手ではチッパイ&ロリータGOGO!なのだがな。

 あっさりと父を飛び越すとは、昔「人類総巨乳化計画」等を考えていt…グシャグシャ

 

 

 父上……何故普段は有能なのに最近壊れ気味なのですか?もう良いや……次はヴァリエール夫人の手紙を読もう。

 

 

 婿殿へ

 

 貴方のお父上とツエルプストー辺境伯には手紙を認めました。

 貴方のお父上にははぐらかされましたが、拒絶はされなかったので反対ではないと思います。

 ツエルプストー辺境伯にですが、融和政策の中で両家からハーナウ家に嫁を出すなら賛成との事です。

 仕方ありませんがこの条件は飲みましょう。近々ですがエレオノールを学院の臨時講師に押し込みます。

 それと、娘と婿殿の世話をさせる為に、何人かメイドの手配をしています。

 エレオノールは、意地っ張りで照れ屋ですが、貴方への愛情は本物です。母として宜しくお願いします。

 ルイズの件ですが、元々貴方以外には嫁に行かないつもりらしいので、姉妹で寵を競わせても構いません。

 上手く誘導し操縦する様に……得意ですよね貴方は?

 

 この婚約を発表した後で、不穏分子達は私が対処しておきます。

 なに義理の息子の為です久々に本気で潰しに逝きますので全て義母に任せておきなさい。

 逝かず後家かと哀れんでいたエレオノールに女の幸せを与えてくれるのですからそれ位はお安い御用ですよ。

 

 ルイズには同送の手紙を渡して下さい。これを読めば文句は言えないはずです。

 

 では、次の休日には此方に顔を出す様に…

 

 

 あ……相変わらずなゴーイングでマイウェイで人の話を聞かない人ですね。しかもこれだけ周到な根回しをしてくるとは、もう貴族的にこの婚約は避けられないだろう……腹を括るか。

 

 最後にエレオノール様からの手紙だ。

 

 

 ツアイツ殿…いえ旦那様。

 

 しっかりなさい。この程度の相手など何時もの貴方なら片手で処理出来る程度の問題でしょう。

 お母様が物凄いご機嫌な笑顔で各所に根回ししているので、申し訳ないけどこの手紙を見ている頃には解決をしているわ。

 

 ごめんなさいね。

 

 本当なら貴方だけでも解決出来るのにお母様を止められなかった私を許して下さい。

 近々、学院に臨時講師に呼ばれていますので、久しぶりに会えると思います。しかし教師と生徒なので、周りの目が有る所では余りその…

 無茶な行為は駄目ですよ、それではお会いするのを楽しみに。

 

 

 …誰これ?別人?代筆かなにか?

 

 でもこの筆跡は間違いなくエレオノール様だし、てか公表と共に対処するが既に解決しているになってますよ?

 ツアイツは手紙を持ったまま固まりソフィアが来たのが分からなかった、幸いソフィアは字が読めないので問題にはならなかったが。

 

 ソフィアの服装と言動と仕草が大問題だった!

 

 色んな感情が交わり気がついたらソフィアが疲れ果ててていたので休ませて食堂に向かった。

 不穏な動きをしていた上級生が全て何者かに処分された噂で持ち切りだった。

 なんでも彼らの実家の屋敷が、竜巻で吹き飛ばされた上で、不正の証拠が王宮に送られていたらしい。

 当然僕は疑われたが、学院に居た事は確認がとれているし僕の系統では、偏在も竜巻も使えないので疑いは直ぐに晴れた。

 

 と言うか、婚約発表後に行動を起こすはずでしたよね義母上……手紙送る前に処理しましたね。

 

 そして翌日、我が家のメイド達を従えたエレオノール様が、朝礼で臨時講師となる事の発表があり同時に僕らの婚約も発表された。

 しかしソフィアは勝ち誇った顔をしていた。

 

 ツアイツ15歳(精神年齢39歳)エレオノール26歳の年の差カップルの誕生の瞬間だった。

 

 

 

 エピローグ

 

 結婚してみて分かったがエレオノールはとても可愛い性格の女性だった。

 年上故に外ではしっかり者の年上女房然として僕を良く支えてくれる。

 政務についても有能な秘書で有りエーファ達のまとめ役としても完璧だった。

 周りは年上過ぎるだろうと言うが精神年齢アラフォーの僕としては逆に年下のお嬢様だ。

 つい年下として扱ってしまう事がありその時の彼女の嬉し恥かしの表情はもぅ堪りません。何度、執務室で襲おうと思った事か……

 

 彼女もちゃんと察して人払いをしてくれて環境を整えてくれるから……

 

 

 1位寝室

 

 2位執務室

 

 3位衣装室

 

 4位応接室

 

 5位以下色々という謎の集計結果が出た。

 

 にゃんにゃんの時のエレオノールは完全に受身で羞恥心を堪えている姿が可愛くて何回もお代わりしています。

 はたから見れば馬鹿っプル丸出しだが新婚気分もあと少しで再来月にはキュルケとの挙式を控えているのだ。

 この件は意外にもエレオノールから早くキュルケと婚姻しろと提案してきた。

 

 ハルケギニアを取り巻く不穏な空気を感じて早く3家を結束させないといけないからと、だから今日も後僅かな2人の時間を楽しんでいる。

 

「エレオノール今度はこれを着てくれる?」

 

 差し出す服は巫女服だ!因みに今着てる服はOLさんの良く着る様なタイトなスーツだ。

 

「あなたまた東方から仕入れた衣装ですか?あら不思議な衣装ですね。どう着るのかしら?」

 

「さあさあ着せるからこれはヌギヌギしましょうね?」

 

「あっこら引っ張らないで、落ち着いて、あっ……ばかぁ!」

 

 

 

 

 

 まさかのデレオノールルートの完結で御座います。しっかり者のお姉さんタイプもまた良いものですよね?

 巨乳小説の筈が二番目のヒロインは年上ちっぱいのエレオノールでした。

 

 

 

 

 書いてたらどんどん原作から離れて可愛くなってしまったキャラですが後悔はしていません。

 元婚約者を夢に見るなんて事も仕出かすお方ですからキツいだけでなくきっと可愛い部分も有った筈です。

 普通大貴族の美人の跡取り娘との婚姻なんて断られないだろうに……どんな凄い理由が有るか知りたいですよね(笑)

 

 

 

エレオノールルートEND

 

 

************************************************

 

 

 

挿話3

 

 

○年○月○日晴れ

 

 今日初めて父上から聞かされていたゲルマニアの怪しい写本の作者に会った、まだ子供だ。

 ルイズをあんな体型にした憎っくき相手、あんな恥ずかしい体操をさせられて……

 私には効果がなくてチビルイズが増長してしまった責任をどうするのよ?

 

 あとメイド!

 

 あの私を見る憐れみを含んだ瞳は……全部お前の責任だ、全員引き取れ!

 

 

○年○月○日曇り

 

 お母様が奴の訓練をつけている、訓練と言う名の制裁か?

 

 お母様グッジョブ!

 

 あー吹き飛ばされて空を舞っているわ、気分がスッキリするわね(笑)

 あっまた起き上がってお母様に向かって行って、また吹き飛ばされた。

 

 随分頑張るわね、直ぐに逃げ帰ると思ったのに。

 あっまた吹き飛ばされたわ、今度は気絶したわね、ルイズがたまらすに看病にいったわ。

 

 

○年○月○日晴れ

 

 連日頑張るわね、大分お母様に吹き飛ばされる回数も減ったわ。

 

 あっ複数のゴーレムでお母様を取り囲んだ!

 

 しかも金属製かしらお母様の風の魔法に耐えきったわ……でも詰めが甘かったわね。

 お母様の高速移動+ウインドブレイクのコンボを決められて気絶ね。

 

 あっカトレアが治療を……駄目よ貴女は魔法を使っては体が……仕方ないから私が治癒してあげるわ。

 

 まったくこんなにボロボロになって……男の子でしょ、しっかりしなさい!

 

 

○年○月○日晴れ

 

 今日もお母様からシゴキを受けている、でもお母様は彼の素質と発想や応用力は見るものが有るって言っていたわ。

 知る人ぞ知る烈風のカリンが認めているって事かしらね?

 

 あっまた吹き飛ばされたわ、でもお母様が彼を吹き飛ばす時の笑顔って輝いているわね。

 絶対この訓練は私情が入っている、私に魔法を教えてくれて上達した時だってあんな良い笑顔は見せてくれなかったもの。

 

 あっお母様にゴーレムで一撃入れたわ!

 

 凄いわ…ね……だっ駄目よお母様!そんな城攻戦に使う竜巻みたいなカッタートルネードは駄目よー!

 

 威力が桁違いだからー!

 

 彼…生きてるかしら?仕方ないわね、蘇生の準備をしましょう。

 

 しかし年の割に随分鍛えた体をしてるのね、お腹の筋肉とか割れて……いやいやいや何を考えているのエレオノール!

 

 しっかりしなさい。

 

 彼が言うには……こう言う時は素数を数えるんだっけ?

 まったくこの子は変な事ばかり知ってるわね。

 

 

○年○月○日心の中は嵐

 

 昨日何度目かの婚約者から破談のお願いがお父様宛に来た。

 

 なによそれ?直接私に言えないの?

 

 最初は嫁に貰ってやる的な高飛車に接して来たのでどちらが上なのか態度と実力で示しただけなのに、根性ないわねこれぐらいで。

 ツアイツなんかこの10倍以上をお母様から受けても平気でいるわよ。

 

 あら?彼じゃなくてツアイツ……か、まぁ良いか呼び名くらいなら。

 

 

○年○月○日心の中は台風

 

 今度こそ大丈夫だとタフさ溢れる相手を探してくれた……

 

 お父様違うわ、こんな脳筋の馬鹿はお断り。

 

 もっと知的な会話をしたいので有ってお仕置きを喜んで催促するようなタフさでは無いのよ。

 もっと何度でも立ち上がる不屈の闘志が欲しいのよ、コイツはお断りよ。

 お仕置きもご褒美みたいだからしないわよ。

 

 しかし……ムシャクシャするわね。誰かにこの熱い思い(苛立ち)をぶつけたいわ!

 

 そこで修行で滞在中のツアイツに模擬戦をしかけたわ、お母様に散々やられて可哀想だけど私の発散にも協力してもらおう。

 

 しかし結果的には余裕で避けられたわ。

 

 悔しくて精神力の続く限り仕掛けたのに掠りもせずにへばったわ。

 ツアイツったら私をお姫様抱っこで寝室迄運ぶからてっきり勝者の権利で頂かれてしまうのかと期待して……

 

 いえ、その……抵抗しようとしたらそのまま寝かせて去っていくし。

 

 これはこれで私に魅力が無いって事?女として凹むわね。

 

 

○年○月○日晴れ

 

 朝食には行かなかった。昨日の件も有り恥ずかしくて顔を合わせたくなかったから……

 少し遅れてから食堂に行くと珍しくお母様とツアイツが2人で何かを話していたわ。

 どうやら彼の切り札であるブーメランの威力向上についてね。

 

 ツアイツは素材を火薬で固めた物にして信管を付けて衝撃で爆発させるとか表面を鏡の様に仕上げてライトの魔法と組合せて乱反射させて視認性を悪くするとか……

 

 凶悪ね。

 

 お母様は逆にブーメランの羽の角度を変えてランダムな軌道にしたら良いとか提案していた。

 こういう知的なディスカッションは私がしたいの!私がツアイツと話したいの!

 後でその凶悪な改良魔法を迷う事なくお母様に向けて使っていたわ。

 

 流石に色んな意味で危ないからと注意したら「あのトリステインの白い悪魔に一発当てるまでは止めない!」って中々男らしく言ったわ。

 

 良くあのお母様の事をそんな風に言えるわね、結婚しているお父様でも無理よそれは……

 

 

○年○月○日雨

 

 もう何度目かしら、両親が連れてくる縁談の相手を断ったり断わられたりしたのは……

 

 どうしてもツアイツと比較すると見劣りするわ、今回は断られたわ。

 

 私の振る話題に全然ついて来れない自分の自慢ばかりする奴。

 でもその自慢の成果すらツアイツの片手間の発案にさえ劣るわ……つまらないわね。

 

 そうだ!

 

 ツアイツを呼んで愚痴を聞かせよう。望みが高くなったのもアイツの責任だし文句を言っても構わないわよね。

 そしてガンガン酒を注いで先に潰して今度は私がレビテーションでベッドに運んであげようかと思えば……

 先に酔いつぶれて同じ様にベッドに運ばれ寝かされたわ。

 

 屈辱ね、どれだけお酒が強いのよ。

 

 翌朝二日酔いで伏せていたらアルコール中和剤を持ってきてくれた、自作だとか言ってたが効果はかなりあった。

 さり気ない優しさが嬉しいわね、でも今度はお母様の力を借りても酔い潰すわ。

 

 酒の上の過ちって、責任取らせても仕方ないわよね。

 

 

○年○月○日曇り

 

 彼が修行の為に我が家に定期的に滞在する様になり二年近くたったわ。

 それに合わせる様に私も実家に帰る様になったのは何時からかしらね。

 最初は私と身長もさして変わらなかったのに今では見上げる程だわ。

 

 恒例?の私が先に酔いつぶれてベッドまでお姫様抱っこで運んで貰うのも2回や3回じゃきかないわね。

 

 毎回運ぶだけって男的にどうなのよ?小一時間問い詰めたいわね全く。

 

 

○年○月○日晴れ

 

 今日お母様とツアイツとの話しを盗み聞きしてしまったわ。

 

 お母様が毎回お姫様抱っこで私を運んでいるのに何もしないのは何故かって聞いていたら大切な人だからですよって言ってくれたわ。

 お母様は逆に大切ならガンガン逝けって言ってくれたけどと、アイツは穏やかな顔で家族みたいに姉みたいに思ってますからと余裕の表情で言っていたわね。

 

 時々どちらが年上かと思う時が有るわ、それともルイズと結婚すれば私は義姉って事?

 

 結婚相手はコイツ以上と思ったけどコイツなら合格ラインて事よね。

 なんだかんだと2年も私に付き合えてお母様に気に入られてる人なんて他に探しても無理かな。

 

 

○年○月○日曇り

 

 今日お母様からツアイツとの婚約を言われたわ、お母様的には義理の息子になるなら3姉妹誰でも良いみたいだけど。

 

 病弱なカトレアや魔法が苦手なルイズでは血筋的にも跡継ぎ的にも無理が有るわね。

 跡継ぎが魔法が使えないとか病弱なのは我がヴァリエール家が途絶えてしまうから。

 

 ルイズには悪いけどツアイツは私が貰ってあげます。

 お母様が全て任せなさいって言ったけどやはり女としては自分で何とかしたいわ。

 

 さて覚悟しなさい旦那様。大丈夫、精一杯可愛い奥様になってあげるわ!

 

 全く貴族も大変よね、家を存続させる為だから仕方なしによ。

 

 

 

挿話4

 

ソフィアが逝く!

 

 こんばんは、ソフィアです。

 

 先程ツアイツ様にも申しましたが「また、参ります。」と申したので深夜ですがお部屋に伺います。

 

 自分の気持ちを冷静に考えましたが、このまま他の方と結婚するなり妾になるなりしてもとても満足な幸せにはなりそうも有りません。

 なにより自分の気持ちに嘘をつく事になります。

 

 お屋敷の他のメイドの方々にも色んなお話を聞きました、雇用条件も説明を受けました。

 

 つまり今のままでも、毎月20エキューが頂けて年々この基本給は増えるそうです。

 終身雇用なのでこのまま働いていても家族に仕送りは出来ますし衣食住は面倒を見て貰えるので生活にも困りません。

 家庭に入ってしまえば退職金も貰えるそうですが、もうこんな高待遇はありません。

 

 他の男の方を旦那様と言う自分も想像できませんし。

 なにより他の方と違い私は、ご主人様に身請けして頂いてますから当然ご奉仕をするのは当たり前です。

 

 そう、当たり前なのです。

 

 手を出さないご主人様がいけないのです、いけないのですから僭越ながら私が修正して差し上げようと思います。

 

 先ずは支給されたお肌手入れセットと無駄毛処理セットを使用しお肌に磨きをかけます。

 

 ツアイツ様はサムエル様と違い「無毛」は好みではないそうなので、えーと形を整えるんでしたか……難しいです。

 

 それと乳液?と化粧水?どちらが先でしょう?こっちが先かな?凄いです。

 お肌かすべすべのつるつるです…えへへ!

 

 次は夜伽用の下着各種ですが、どれが良いのかしら?

 

 箱書きには清楚系・小悪魔系・大胆系・そしてマニア系……マニア?マニアとは何でしょう、気になりますから開けて……

 

 こっこれは……ゴクリ……私にはまだ早いですね……残念ですが……しかし、いえ無理でしょう。

 

 すみません、ご主人様。覚悟が足りないようでした。何時かこれを着れる様に頑張りますから!

 

 残りの選択肢は3つ。

 

 大胆系……惹かれますが私の年齢には合わない様な、布の面積が少ないしレースも透けすぎでは?

 

 清楚系……やはりコレでしょうか無難ですし、白一色で細かな刺繍とレースが素敵。

 

 小悪魔系……キュートな感じですね、でも最初の3つと比べると幼い感じもします。

 

 くっ…悩みます。

 

 記念すべき最初の衣装ですから……えへへ……妄想中……妄想中……妄想中、はっ?もうこんな時間です、急がねば……

 

 んーでもどれに、ここは覚悟を決めてコレにします!

 

 あら?

 

 箱の下に取扱説明書が……ふんふん、なるほどコレを着たらこういうポーズと口調なんですね。

 

 奥が深いですねぇ、ではコレを着て上着はこの夏用のメイド服を合わせましょう。

 アクセサリーも入って居るんですね、わぁ可愛いです。

 

 では、逝ってまいります!

 

 

 

「ご主人様、ソフィアです夜分すみません。お話が……失礼します」

 

 

 ノックをしても反応が無かったのでそっと部屋に入ると、ご主人様が複数の手紙を前にうんうんと悩まれていました。

 こんな遅くまでお仕事なんでしょうか、昼間も休日を潰して働いていたのにこれでは体を壊してしまわれます。

 

「ご主人様…ご主人様?」

 

 あれ寝てしまっているのでしょうか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 手紙の事で固まってしまっていると、なんとソフィアから声を掛けられた事に気付いた。

 

 うぉソフィアその衣装は!

 

 ナディーネが良く着てくれる、ネコ耳&シッポ付き夏バージョン白ネコさんちよっとオシャマさんタイプBではないか!

 

「ご主人様、似合いますかにゃん?」

 

 とかくるっと廻ってオテテが招き猫ポーズ!

 

 こらベットにのって、にゃんこ伸びーのポーズだと!

 

 あっ、コロンと転がった服従お腹見せポーズだと……

 

「ふふっふふふっあーっはっはっはー!」

 

 サイレント&ロック×3&カーテン閉まれー&ライト!

 

「いけない子猫ちゃんにお仕置きだー!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 恥かしいですが取扱説明書の通りに挨拶してみます。

 

 あれ?反応が鈍いですね?

 

 ではポーズの方も……こうかしら?更にこう?そしてこう?

 

 あらスカートが肌蹴て、あっご主人様が再起動されました……

 えっ凄い厳重に魔法をかけてますが、せめて灯りは消して下さ…きゃ!

 

 あっそんな激し過ぎます…………

 

 そんなことまで無理………

 

 えっこうですか……

 

 もうだめ……

 

 

 

 ふふふっ、でも計画通りです!

 

 

 

 誤算は足腰が立たなくなって朝のお世話が出来ない事でしたが、ご主人様は痛み止めの魔法をかけて下さりお昼までここで休むように仰って下さいました。

 これが女の幸せなのですね、ご主人様を旦那様と呼ぶ権利はエレオノール様に譲りますが寵愛を受ける戦いは負けません。

 

 私の方が、若くてピチピチですから長くご主人様に可愛がって頂けますからね。

 

 悔しくはありませんよ。

 

 

 ソフィアルートEND



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マチルダ&ティファニアルート第1話から第3話

マチルダ&ティファニアルート第1話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 ん〜目が覚めてしまったけど早朝と言うかまだ2時間位は寝れるかな、段々と原作の出来事が前倒しになっていく気がする。

 物語の中心が自分になっていく感覚も有る……まさかね。

 

 僕はあくまで脇役で物語の中心はルイズとサイトに……と考えていた。

 

 しかし現実はシエスタをフライングゲットした事でモット伯のイベントが一年繰り上がり僕に関係のあるソフィアが拉致の対象になってしまったり…

 良く聞くバタフライ効果とか世界の修正力とかか?今はまだレコンキスタは台頭していない。

 

 アルビオンも表向きは平穏だ。逆に原作知識を生かしこちらが買占めや備蓄などを進めているぐらいだ。

 ヴァリエール公爵にもツェルプストー辺境伯にも父上にもこれからのアルビオンの内乱の件は話していない。

 結果を知っているから今はそれを説明・説得する為の証拠集めの最中だ。

 

 ラグドリアン湖の増水イベントが発生すれば経過状況は掴めると思いモンモランシ家に商売の交渉を始めた。

 交渉が成功すればかの地に確認に行く事が出来る。

 水の精霊との接触は危険だ、転生の秘密がバレれは異端扱いだろうし自身の人格が持つ自信が無い。

 僕は心を覗かれても平穏で居られるほど超人でもなんでもないから。

 

 下手をすれば廃人か……駄目だデメリットだけが大きすぎる。

 

 ワルド子爵……こいつが一番の難解と言うか、難敵と言うか、ワルドの奴ヴァリエール公爵経由でウチの父上に接触をして来た!

 

 しかも趣味友として父上と懇意にしている、これの原因も僕に有る。

 

 父上が余りに五月蝿いので何冊か渡した前世の物語のパクリでチッパイロリ系やチッパイ妹系のを……だ。

 

 例えば「はやてのごとく」などまさに貴族のチッパイロリヒロインとその従者の物語になるし「こどものじかん」の舞台を魔法学院に変えればアラ不思議!

 

 年上貴族教師とロリっ子生徒のオンパレードだ。

 

 これを他の人には見せないと約束させ何冊か執筆して渡して有ったのだが、同好の士の結束とは息子との約束などすっ飛ばして互いのコレクションを自慢しあった結果!

 

 終にワルドの懇願に負けて屋敷内でのみ閲覧を許可したうえで著者が僕と教えたんだあの糞親父(怒)

 

 彼の行動は早かった、父上を通じて正式に面会を求めてきたのだ。

 

 これは断れないと言うか断る理由が無い、まさか正式な会見で暗殺などの心配はないだろう。

 

 しかしヴァリエール公爵らにバレると色々問題が出そうなので今日の午後に僕の屋敷に招待している。

 王宮勤めで忙しい筈だが偏在を使って偽者をよこせば問題ないと言う訳だ。

 腐っても原作の中ボスクラスだし固定砲台の僕と機動戦の彼とでは戦闘面での相性は悪いだろう。

 

 だけど会見場所が僕のテリトリーなので対策は練ってあるから簡単にはヤラれないさ。

 彼の本当の目的が分からない限り油断は出来ないから……

 

 

 

 

 ドアがノックされソフィアが入ってきた。

 

「失礼します。お早う御座います、ご主人様」

 

 ソフィアが起こしに来てくれたので思考から引き戻される。

 

「おはようソフィア、良く寝れたかい?」

 

 時間ピッタリに来たソフィアに声を掛ける。

 

 

「はい、前と同じ部屋を使わせて貰えましたので……では準備しますね」

 

 

 ソフィアとは2人の時は敬語はなるべく控えて貰うようにお願いをしてある。

 手際よく洗顔の準備や着替えを用意してくれる、その手際や甲斐甲斐しさも含めて専属メイドにして正解だったと思う。

 

「今日は予定通り屋敷の方に仕事に向かうよ」

 

「わかりました、御者は私が出来ますからそれで良いですか?」

 

 使用済みのタオルや着替えをテキパキとまとめて聞いてきた。

 

「折角だから馬車の中で話しながら行こう。だから御者の手配も一緒にお願い」

 

「はい。楽しみです」

 

 嬉しそうに返事をしてくれた。

 

 行きの時間である程度の雇用条件を説明し後はエーファに引き継げば問題ないだろう、さてそろそろ食堂に行こうかな。

 

 

 

アルヴィーズの食堂にて

 

 

 まだ朝も早い為か席もそんなに埋まっていない。見回すと……ルイズが両手を振って全身でアピールしている。

 

 キュルケとモンモンが一緒か、今日は女性陣と一緒に食べよう。

 

 席に着くと直ぐに料理が運ばれてくる、この辺の待遇の良さは日々の努力で厨房の皆と仲良くしてるからかな。

 好感度の上昇とは日々の努力が必須なのですよ。

 

「「「おはようツアイツ」」」

 

「おはよう。折角の休みなのに早いね」

 

「今日は皆でトリスタニアに遊びに行くのよ」

 

ルイズ初めての友達とお出掛けか?

 

「私は新作の服が欲しくてね、ツアイツのお好みの服が有ればリクエストしてね」

 

 流石はキュルケこの辺は原作に近いね。

 

「私は作り貯めた秘薬を売って秘薬の材料を調達しにいくの」

 

 モンモンは良い嫁になるよね。

 

「僕は屋敷に仕事をしに行って来るよ。夕食迄には戻るけどね」

 

 ふぅと溜息と共に言う。

 

「早くから領地経営に参加するのも大変ね」

 

 お金の苦労を知らないルイズとキュルケはただ大変なのねって感じだが既に家計の手助けをするモンモンはその真の大変さを理解していた。

 ぶっちゃけ金が無いのは首が無いのだ。

 当然、成功をし続けるハーナウ家と赤貧に喘ぐモンモランシ家との違いは有るが……

 

「ツアイツには領地経営のレクチャーをして欲しいわ切実に……」

 

 モンモン真剣です。

 

「実は先日モンモランシ家には商売の交渉に行ってるんだ。

ヴァリエール家経由だけではこちらの生産力に余裕があるから新たな販売ルートを探していてね。良ければ実家に助言して欲しいな」

 

「それはウチだけじゃ駄目なの?」

 

 ルイズは独り占めとかでなく純粋に疑問で聞いてくる。

 

「ゲルマニアから関税無しでトリステイン国内に物資を流通させるって事は大変なんだよ。

一見、ヴァリエール公爵はウチから安い商品を転売してるだけで大儲けって思うけど実際はこの国のギルドの既得権の調整やらなんやら結構大変な筈だ。

 

 まぁ商品リストは多いので駄目な物はパスして折り合いの付く商品を探せるだけの交渉力と多少の無理を押し切れる力のある大貴族に限るけどね」

 

 モンモンは真剣に考えている。

 

「分かったわ。実家に手紙を送っておくわ。出来れば一度お父様に会って話して欲しいわね」

 

「僕だけでなく担当者も連れて行くよ。商品サンプルとかも有ったほうが分かりやすいから」

 

「それもだけど領地経営のレクチャーの方もお願い。お父様にも私にも他国の考えややり方は参考になる筈だし。そちらの方が大切な気がするわ」

 

 モンモン中々考えているね、基本的にこのトリステイン貴族の領地経営はザルが多い気がする。

 

 下手すれば家臣任せで一定額の納税が有れば納得してしまう程に……

 

 収支のバランスも考えない無茶な浪費をしては増税とか簡単にするからね。

 はたしてモンモランシ伯爵がどれだけの人物なのか想像がつかないけど見極める意味で一度会うのもよいだろう。

 

「じゃ今度モンモランシ伯爵に日程の調整をして貰えるかな?その時に見せられるレベルの資料でも良いから集めておいて」

 

「資料って?」

 

「収支報告書とか人口分布・特産品・出入りの有力商人リストなんか有ると説明しやすいかな」

 

「分かったわ、集める様に行っておくわ」

 

 あれ?結構まともな経営してるのかな?

 

「ではお出掛け楽しんでね。僕は仕事に行ってくるよ。」

 

 さてソフィアを待たせる訳にもいかないからそろそろ支度しようかな、久しぶりにナディーネ達の顔を見るのが楽しみだ!

 

 

 

マチルダ&ティファニアルート第2話

 

 

 待ち合せ場所に行くと既にソフィアが待っていた。

 

「ごめん遅れちゃったかな?」

 

 まだ15分位前の筈だけと、男は女を待たせたならこう言わなければならないのだ。

 

「いえ今来たところですから」

 

 ソフィアがにっこりと言ってくれた。

 

「何かデートみたいな会話だね」

 

「えっ……そんな私となんて……」

 

 からかい過ぎたのか真っ赤になって下を向いてしまった。

 

「そろそろ乗って下さい」

 

 手綱を握るのは……あれ?ロングビルさん!ナンデがくいんひしょガイルノカナ?

 

「えっと、まだお名前は伺ってませんが学院長室に居た秘書の方ですよね?」

 

「はい、ロングビルと申します。一寸お金が必要なので御者のお手伝いもしています」

 

 たしかにロングビルはフーケ討伐の時に御者をしていたがなにか怪しい、いや僕が怪しいと思って調べにきたか?

 

「それは態々大変ですね、では今日はお願いします。夕方には戻る予定ですが待ち時間は当家に滞在しますか?」

 

「出来れはお願いします、では出発しましょう」

 

 ニッコリと微笑んでくれる、凄い猫被りっぷりだ。悩んでも仕方ないので取り敢えず出発する。

 

 

 

 馬車の中では貴族用の馬車に乗った事がないのかソフィアが落ち着かない様子だ。

 

「そんなに緊張しないで楽にしてよ」

 

「いえその初めてこんな立派な馬車に乗るので落ち着かなくて……」

 

 うーん初々しいのう。

 

「じゃ着くまでに雇用条件書の説明をするから隣に座って」

 

「えっ?あの……おおお、お邪魔します」

 

「さぁさぁもっと近くに寄って!」

 

「は……い」

 

※ツアイツ悪代官気分満喫中です。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何をやってるのかねぇ?

 

 最初の遣り取りだけ聞いていると完全にスケベ貴族と見初められた村娘みたいなシュチュだね。

 メイドも嫌がってないしもしかしてこいつら最初からデキていたから助けに行ったんじゃないのかい?

 

 あっ大人しくなったけど、もしかして始めちゃってないよねぇ……ナニを?

 

 そこから零れてくる言葉は……驚愕だったよ、嬌声では無かったよ残念ながら……ゲフンゲフン。

 ハーナウ家の雇用条件とは破格の内容だったね。

 

 終身雇用って60歳まで雇ってくれて毎年、お給金が上がり年に2回の特別支給金が有るんだって。

 福利厚生って病気の時の医療費の殆どを負担してくれてお給金の貰える休みや時間外手当てって所定の時間以上に働くとその分のお給金が別に貰えるんだ。

 

 衣食住完備で支給品には制服やらなんやら色々無料で貰えるんだ、すごいの一言だね。

 

 しかもこれ妾じゃなくて一般の使用人にだよ、特に驚いたのは被雇用者の保護の件。

 

 専用のメイド服にはハーナウ家の家紋が刺繍されていて、他家の貴族から理不尽な無理難題を言われた場合その全ての責任をハーナウ家が持つ。

 つまり今までは問答無用だったのが家名をかけて保護してくれる。

 

 これは異常だ……

 

 普通なら他家と揉める位ならその使用人を手打ちにして終わりだ。平民を守るより自家の存続の方が重要だろう。

 

 あのメイドもこれには吃驚して聞き返していたがあの坊ちゃんはアッサリと「下の者を守るのは上に立つ者の最低限の義務だ」とか言っていたよ。

 

 貴族が平民の為に体を張る、そんな事は天地がひっくり返ったって有る訳がないのがこのハルケギニアの常識だ。

 この言葉を聞いてあのメイドは腰砕けだったね。

 

 私だって面と向かって言われたら……嬉しいかも……ね。

 

 しかしこの坊ちゃんは危険だ、テファは守って欲しいけどあの世間知らずな優しい娘に会わせたら……クォーターエルフが生まれてしまうわ!

 

 絶対にあの子には会わせない!

 

 なんて事を考えていたらもうお屋敷に到着か、しかしこの屋敷もぱっと見ただけでも……要塞だね、付け入る隙が無いよ。

 

 一見して見通しの良い丘の上に建ってるだけだけだ、けどメイド達がお出迎えの準備を始めているのは既にこっちの存在を確認してるからだ。

 

 偽装された物見台に此方を確認する銃窓、武装兵も常駐してそうだねぇ。

 

 早期に発見出来て狙撃に最適な外壁と幅がやや狭いが水の張った堀まで有る。

 こりゃ土と水のメイジにとって本領が発揮できる布陣、防衛戦を想定しているのかね。

 あの坊ちゃんは18m級のゴーレムに投擲武装を持たせられるから篭ればそうそう負けないね。

 

 近付く事も出来ずに一方的に蹂躙されるよこりゃ……どこがお人好しの貴族様だ!

 

 他国にこんな防衛拠点を構えるなんて只者じゃないね、これは相当なお宝がしまって有る可能性が有るよ。

 

 盗賊の勘がビンビンさ。

 

 

※正解…大切な巨乳メイド隊が20人以上守られてます(笑)

 

 

 僕の馬車を視認した使用人達が出迎えの準備を整然としている。

 ヴァリエール家から来たメイドズが正面入口前に2列で並び、扉付近にはナディーネ達が控えている。

 メイドアーチの前で馬車を降り赤い絨毯ロードを歩いていく。

 

「「「「「「「「「「お帰りなさいませ、ご主人様」」」」」」」」」」

 

 一斉に礼をするメイドズ。

 

「ただいま、皆変わりはないかい?」

 

 メイドのアーチを潜りながら玄関へとむかう、くーっ前世ではこの感動を味わう事は出来ないだろう至福の時!

 

 玄関前に行くと、ナディーネ・エーファ・ルーツィア・シエスタが笑顔で迎えてくれた。

 

「ただいま。彼女が連絡をしておいたソフィアだよ」

 

「皆さん宜しくお願いします」

 

「んでこっちがロングビルさん、本来は学院の秘書さんだけど人手不足の為に御者をしてくれたんだ」

 

「ようこそお二方、私はメイド達の取り纏めをしているエーファです。

ソフィアさんは私と一緒にロングビルさんはルーツィアと一緒に来てください。ツアイツ様は少し休まれますか?」

 

「いや、そんなにのんびり出来ないので仕事するよ。あとエーファ…ごにょごにょ!」

 

「まぁ…分かりましたわ。その様に対応します」

 

 エーファにロングビルさんには注意と監視をする様に伝えた、彼女は何か理由が有って僕に接触してきた筈だ。

 

 必ず行動を起こすと思う……

 

 エーファはルーツィアに一言二言話してからソフィアを伴い別室へ、ルーツィアはロングビルさんと警備詰所に向かった。

 執務室には綺麗に重要度別に揃えられた書類が積んであります、そして側には政務の補助に特化教育をしたメイドが4人。

 軽くチェックするだけで午前中が終りそうです。

 

 今から直ぐに始めても夕飯までに終るか終らないかだな、気を取り直し「さぁ頑張ろう」と皆に声を掛ける。

 

「分かりましたツアイツ様」

 

 一斉に返事を返してくれたので先ずは重要度の高い案件から確認する。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 この案内してくれるルーツィアと言ったか、メイド姿の割りに隙が無い只者じゃないね。

 それにトンでもない凶器を隠し持って、いや隠し切れずにぶら下げやがって。

 

 テファで見慣れているとは言えどんだけデカイんだよ!

 

 ここのメイドは全員が…デカイね。なんて考えていたら警備員詰所に連行された?えっ本性バレてるのかい不味いねこりゃ。

 こちらで休んで下さいって両隣の部屋から監視されている気配がするよ、まぁ宛がわれた部屋はそれなりに広く快適だね。

 

 これは取り敢えず信用出来ない相手を監視する部屋かね?直ぐにどうこうって訳じゃなさそうだ。

 今は大人しくしてようかね。えっ?この本棚の物語は読んで良いのかい?

 

 これはシンデレラにロミオとジュリエット、オペラ座の怪人に……これ新作の風と共に去りぬ、凄いじゃないか!

 

 こっちの飲み物やお菓子も食べて良いの?お酒は?駄目?そうよね飲酒運転になるものね。

 こんなに高待遇なら半日でも一日でも待てるねぇ……

 はぁ、何だって?昼食は坊ちゃんも含めて従業員全員で食べるのかい?なんだか驚かされっぱなしで悔しいねぇ。

 

 

 

マチルダ&ティファニアルート第3話

 

 

 こんにちは、ツアイツです。

 

 久々にメイドに囲まれメイド成分を補給しながら仕事をしています。

 流石に鍛え上げた内政メイド4人衆、僕が決済する必要が有る書類もチェックだけで済むレベルに仕上てます。

 

 右からエーナ・ビーナ・シーナ・デーナ、某ベアトリスさんの取り巻きみたいな名前ですね。

 

 これならお昼までには一段落つくかな、モンモランシ家との交渉はモンモンの助力で上手く行くかもしれない。

 

 グラモン家の方は微妙だ、やはり軍人系の貴族はゲルマニアの貴族に対して隔意が有るな。

 

 まぁこちらはモンモランシ家と違いどうしても接触したい訳ではないのでゆっくり様子を見よう。

 場合によってはギーシュの力を借りてもいいかな。

 

 ゼロ戦の解析と転用可能な技術の報告書……

 

 武装面に目が行きそうだが装甲の超々ジェラルミンの調査も進めさせていたがついに安定的な錬金に成功したそうだ。

 これで強度が有りしかも軽い金属の使用が可能となった。

 それに防弾構造とかを解析したり断熱材のハニカム構造とかも盛り込んだ耐熱・耐衝撃性能を併せ持つ装甲が出来た。

 これはファイヤーボールやウィンドブレイク程度ではビクともしな…くはないが現状の華美な木製馬車より断然マシだ。

 車輪やサスペンションも転用し乗り心地の改善に貢献しかなりの高性能馬車が出来上がった。

 昔の戦争では装甲化した列車を簡易要塞として使って居た事も有るし馬が逃げてもある程度の防衛が可能だ。

 これを完全装甲馬車として改造し完成した1台をアルブレヒト3世に献上する。

 

 今後の顔つなぎ程度にはなるだろう。

 

 グレードを少しダウンしてVIP用馬車として有力貴族向けに販売しようかな。

 アルブレヒト3世閣下が乗ってくれれば右にならえの連中なら多少高くても買ってくれるだろう。

 車輪とサスペンションを改良した乗り心地重視の馬車も同時販売を開始しよう。

 

 これならそれなりに裕福な商人クラスでも買えるだろう。

 

 それに荷台が揺れないという事は商品が壊れにくい痛みにくいと言う利点がある。

 運搬用として余分な物を取り除いたシンプルな荷駄タイプも需要があると思う。

 

 生産計画を父上に打診しよう。

 

 さてそろそろお腹が空いてきたな、今日の昼食は何だろう?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そろそろ昼食の支度だわ、ツアイツ様は手の空いている使用人全てと同じ物を摂られます。

 但し警備の兵隊さん達は巡回や監視が有るからと断られて一度も一緒に食べた事はないわね。

 でもツアイツ様を慕ってない訳ではなくプロとして仕事に責任が有るかららしいわ。

 装備の面も待遇も他と比べ物にならないから失敗は許されないんですって、流石ですね。

 

 今度お菓子でも差し入れしましょう、さてお昼の献立は、サラダ・鴨肉とキャベツのパスタ・コーンスープに各種パンです。

 デザートには林檎のヨーグルト和えです。

 

 ふふふっ、乳製品の摂取は今でも欠かさず行っていますよ。

 

 さぁ準備が出来たのでツアイツ様を呼びに行きましょう!

 

 昼食は皆がワイワイとお喋りしながら楽しく食べました、初めて参加したソフィアさんとロングビルさんは吃驚していましたね。

 マナーの厳しい普通の貴族様では考えられない状況ですし、後で念の為、口止めしておきましょう。

 周りに広まり問題となりこの食事会が中止になってしまっては残念ですからね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 本当に昼食は……これ貴族用の食堂じゃないか?…で皆と一緒に頂いたよ。

 食器も何もかも坊ちゃんと一緒だね、料理自体は学院で出される貴族用の食事に比べればグレードは落ちるが素材は同等だよ。

 

 私にはこれ位が丁度良いね、聞けば坊ちゃんはあまり贅沢はしないらしい。

 ケチって訳じゃないね、それなら最初に使用人の待遇を下げる方が合理的だ。

 

 それとなく聞いたら「栄養を計算するとこれ位の量が体に一番良い」んだと。

 

 あと乳製品は必ず摂らせるらしい。

 

 はっ!そういえば画期的な運動と食事療法で巨乳化する方法を確立したって噂が……

 

 周りを見渡すと……くっ、其れなりに自信が有ったのにこの面子だと下から数えた方が早い。

 

 悔しいねぇ。

 

 確かナディーネって娘が料理責任者らしいからレシピでも貰えないかな?それに画期的な運動ってのも知りたい。

 外見の堅牢さに吃驚だったが実際はこっちのオッパイ屋敷の秘密の方がきになるわ。

 しかし監視されてる身としては何も出来ないのが……見せつけられるだけなんて。

 

 午後から少しでも情報収集をするよ!

 

 

 

執務室にて

 

 

 

 午後からの仕事は捗った。

 流石に学院入学前に必要な仕事の引継ぎや手配関係等を終らせていたから然程たまってもなかったからね。

 心配だったロングビルの件も監視の報告によれば午前中は本を読み漁りお菓子を貪っていたそうだ。

 

 何しに来たんだ?本当に小金を稼ぐ為の副業だったのか!

 

 午後からはメイド達に積極的に質問攻めにしたらしいが、胸に関する事ばかりだそうだ。

 特にルーツィアには監視も頼んだので一緒に居る時間が多かったから大変だったそうだ。

 

 これは写本(経典)狙いだな、流石はフーケ!

 

 あの本は好事家にはたまらない逸品だろう。

 下手すれば禁書扱いか。でも残念ながら問題にしかならないと思って燃しちゃったんだ……内緒で。

 それにルイズやメイドズは内容は熟知してるから今更見直す事も無いだろうし。

 

 残念だったなフーケ!下見しても盗むものは無いのだよ。

 

「失礼します。ツアイツ様、ワルド様がいらっしゃいました」

 

「了解したよ。では中庭に設えたテーブルに案内しておいて」

 

 さてと……フーケを監視してる間にワルド子爵と会うか、何が目的なんだか。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふん、中々の屋敷だな。防犯面も悪くないが、メイドが全て醜い肉の塊をぶら下げておって気に入らないな。

 

 会見場所は外か、一見風のメイジに有利に見えるが池のほとりで廻りが芝だと相手のフィールドでも有るな。

 距離を取られれば攻めあぐねる、喰えない小僧だな。

 

 む?また乳のデカいメイドを従えてきたか……

 

 アレ程の傑作が書けるのにサムエル殿の言う通りどこか捻じくれているのかもしれん。

 まぁ交渉次第でなんとか此方の方に有利な条件を引き出したいのだがな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「お待たせしました、ワルド子爵。それで本日のご用件は?」

 

「その前に人払いを頼む、そんな肉の塊など見続けたくはないわ」

 

「分かりました。二人とも下がって、用が有れば呼ぶから」

 

 信者メイドを下がらせる。

 

「さて人払いもしましたがそろそろ用件をお伺いしても宜しいですか?」

 

「先ずはルイズの事だ、なぜあんな醜い体型にした?あれは王家と母親の血を一番に継いでいた筈だ」

 

「はぁ?」

 

 言ってるんだ?王家の血……虚無の事か?母親の血?

 

 夫人は一代の傑物だが王家の血はむしろ公爵の方が……

 

「まだ分からないのかね?なんで烈風殿のご息女があんな肉の塊を胸にぶら下げているのかと聞いているのだが」

 

「いやアレはルイズの努力の賜物ですよ、素質が有るから努力で開花したんです。母親似なのはエレオノール様では?」

 

「素質……僕のルイズは巨乳の素質が有っただと?危なかった、もし知らずに結婚していたら成長と共に……恐ろしい」

 

「ワルド子爵はルイズとの婚約は破棄されたんですよね?」

 

「もともと傘下の格下貴族への口約束だ、気にもしていない」

 

「いやアンタ僕のルイズとか思いっきり気にしてたよな!」

 

「ふっ若いな君は……僕にとって女性とは慎ましやかな胸と儚げさを併せ持った母上の○▲×」

 

※18禁の為自主規制します。

 

「うちの父上と同じですね、理解も納得も出来ませんが父上を見てますので分かりたくはないけど分かりますそう言う人種だと」

 

「サムエル殿のチッパイ帝国構想には賛同している、もう既に同志達の集会も予定されているのだ!」

 

「あっアンタは……」

 

 この時期レコンキスタに接触し聖地奪還へと動いている最中じゃなかったっけ?

 

「我らが聖地、チッパイ帝国設立の重要人物である君が何故こんな悪の帝国におさまっているんだ?」

 

「人の夢の屋敷を悪の帝国とか言わないでいただこう!」

 

「僕は君の住み分け理論には賛同出来ない、だが敢て言おう。僕には君が必要だ、君の能力が力が!」

 

 ちょっと待てぇー、その台詞はアルビオンでルイズに向かって言う台詞だろー!

 

「僕の生い立ちを話そう、ぼくの母親は聖地の事を調べ……そして消された。

僕は母上が好きだった、母上が挑んだ聖地の謎を調べようと今まで人一倍努力をしてグリフォン隊の隊長まで登り詰めた。

だが小国の隊長位ではたいした事は分からない、その内に母上の調べていた聖地を必要としていたのか母上を必要としていたのか分からなくなってしまった。

そんな時にサムエル殿と出会ったのだ、彼の唱える帝国はまさに僕の理想……母上のような帝国だった」

 

 父上……僕は貴方を斃してでも家督を奪わないとならないかもしれません。

 

 割と切実にマジで……

 

「聞いているかいツアイツ殿?」

 

「ええ、父上とは一度じっくり話さないといけない事が分かりました、まさか身内に敵がいたとは」

 

「そうではない、息子が父親の為に努力をするのは当然ではないかね?だから……」

 

「だから早く「こどものじかん」の続編を書いてくれたまえ!出来れば新人教師に風使いの子爵先生で!」

 

「ワルド殿……トリステイン魔法学院に来る事が有れば僕の部屋を訪ねて下さい、学院内でのみ回している新作が有ります」

 

「そうですか!

たしか今年の2年生達の使い魔のお披露目に同行する予定が有ったのでその時に……

しかしツアイツ殿も人が悪い、何故新刊を執筆されたのに父上に送らないのですか?」

 

「まぁ色々有りまして…しかし全ての女性を貴方の望み通りにする世界には賛同しませんよ」

 

「それは世界と歴史が勝者を判断するだろう、我らが帝国を世に広めればそんな事は些細な事だ」

 

「どうでも良い話ですが、ワルド子爵はこれからどうするので?」

 

「うむ、まだ秘密だが教えてあげよう。

きりの良い時期に退役してハーナウ家に厄介になるつもりだ、出来れば直ぐにでもサムエル殿の下に集い布教したいのだが流石に無理だ。

暫くはこの国に仕えているさ」

 

「そうですか、もうお話は以上でよいですか?」

 

「うむ、では近々学院による時にお邪魔するよ」

 

 なんどワルドは偏在ではなく本体だった、しかも原作なんてすっ飛ばす位に立ち位置を変えている。

 まさか親父殿のせいで聖地と母親への確執をサムエル帝国にすり替えているなんて信じたくもないわ。

 父親とは何時の時代も乗り越えねばならぬ壁だけどこんなハードルが高いのは理不尽じゃないですか、涙が止まらないぞ。

 

 嗚呼、もうもうタイムリミットだ。そろそろ執務室に戻ろう、スーパーメイドニャンニャンディは次回に繰越しか。

 

 

 

「失礼します」

 

 定刻通りに2人が迎えに来たな。

 

「エーファそろそろ学院に戻るが、ソフィアへの説明は終ったかい?」

 

「はい全て完了しております、支給品も全て馬車に積み込みも終了です」

 

「ソフィアはなにか分からない事は有るかい?大丈夫かな?」

 

「はい、有難う御座います。問題無いです」

 

「では学院に戻ろうか……それじゃロングビルさんの所に行ってみようか」

 

 

 ロングビルさんが待機してもらっている部屋に行くと、ルーツィアが絡まれていた。

 どうやらその胸の秘密が知りたくて相当しつこく絡んでるみたいだな。

 

 あっこっちに気付いた……ばつが悪そうに顔を逸らされた。

 

 帰りの馬車は僕が手綱を取りロングビルさんに周囲の警戒をしてもらう、首都に近いのに盗賊が出るなんて治安悪いんだよなー。

 貴族用の馬車で御者が女性だけじゃ狙ってくれ同然だから唯一の男の僕が手綱を握るのは仕方なし。

 どうせ盗賊が来ても、ロングビルさんと2人がかりなら負けないだろう。

 

 ソフィアには気の毒だが馬車の中に1人で居てもらうしかないが、疲れていたのかスヤスヤと寝息が聞こえる。

 とは言えロングビルさんというかフーケと並んで座ってるのも何か変な感じだな。



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マチルダ&ティファニアルート第4話から第6話

マチルダ&ティファニアルート第4話

 

 これは願っても無いチャンスだね、早々に坊ちゃんと2人きりになれるなんて。

 ここで意識調査をさせて貰おうか、しかしまだまだ甘いねぇ。

 

 私の事を怪しいと踏んで監視まで付けていた割には態々両手の塞がる御者を買って出るなんて。

 それじゃもしもの時に直ぐに対応出来ないんじゃないかい?

 それとも自信が有るのかね?何にしても猫を被って質問してみようか。

 

 

「ツアイツ様はゲルマニアからこのトリステインに来られてどう感じましたか?」

 

「ん?いきなりだね。そう、先ず最初に感じたのは活気が無い事と……」

 

「活気が無い事と?」

 

「街が臭い事ですね、衛生面の管理が甘いのと公共に使うお金が少ないって事かな」

 

「公共とは?聞き慣れない言葉ですが」

 

「公共とは税を納めて貰ったらそれで領地を良くする為に使う仕事の事だよ」

 

「税は貴族様の生活やなにかに使うもので平民に還元などしませんよ普通は」

 

「そうだね、この国はギリギリまで税を搾り取る。

だからそんな余裕は無い……でも領主とは領民の安全と生活の保障と向上が義務だと思ってる。

勿論善意だけじゃないよ、生活が向上すれば当然税収も上がるよ」

 

「平民の生活が良くなってもまたその分を搾り取られるのでは?」

 

「同じ税率なら総所得の多いほうがより比率で高い税を納める事になるが同時に彼らも生活に余裕が出来ると購買力も上がるから生活品以外の商品も売れる。

そうすれば商人は儲かる、子供も増えるだろう。

働き口が増えれば盗賊や物取りも減って治安も良くなる。ね?良い事だらけだろ?」

 

「そんな考えを持つ貴族様はこの国には居ませんよ」

 

「これは経営の基本だと思っている、独り占めじゃ何時までたっても成長は見込めない。だから……」

 

「だから?」

 

「そう遅くない時期に限界が来ると思うよこの国はさ」

 

「他国の貴族である僕にはこの国を救う義務も力も無いけど、せめて自分の周りだけは守るつもりだ」

 

「そうですね、あのお屋敷のメイド達を見れば分かります。あんなに幸せそうなメイドなんて居ませんよ」

 

「それは彼女らの努力の賜物さ、みな自分に出来て必要な事を進んでしてくれる。

普通内政の事まで勉強してくれるメイドさんなんて居ないだろ?」

 

「普通はメイドにそんな事をさせませんよ!」

 

「逆に聞くけどロングビルさんはなぜ学院の秘書になったの?」

 

「没落貴族に職業選択の幅は殆ど無いんですよ。前職は酒場で給仕をしていてオールドオスマンに声を掛けられたんです」

 

「酒場でスカウトも普通は無いんじゃない?」

 

「ふふふ、そうですね、まさか読み書きが出来るか?って聞かれて即採用なんて変ですよね」

 

「お尻を触られながら?」

 

「良く知ってますね、その場であのジジィはシバいたんですけどしつこく頼まれて……結局雇われましたけど」

 

「あの爺さん本当に……何と言うかしょうがないな」

 

「話は変わりますけど、亜人とかどう思います?」

 

「僕も其れなりに使い手ですから亜人討伐には参加してますよ、でも言葉の通じる相手には先ずは交渉から入りますが」

 

「言葉の通じる……ですか?」

 

「前に領地の隅の山林伐採の際に翼人と領民が揉めましてね」

 

「へぇ!でも彼らは先住魔法を使う危ない相手では?」

 

「原因はうやむやだった境界線を越えて伐採を始めた領民の方に有ったから……

価値観の違う相手でも言葉が通じれば妥協点が必ず有るから交渉がゼロじゃないんだよ」

 

「で?どうしたんですか?」

 

「結局、新たに正式な境界を決めて伐採は中止、その代わり定期的な交流と商品の売買と知識の交流を頼んだんだ」

 

「それはこちらが不利な取引では?」

 

「まさか!情報がないから恐れられるんで定期的に交流が有れば理解はしあえなくても利害は調整できる。

それに彼らの知識は素晴らしい物も有ったよ、採算はおつりがくる位だ。」

 

「エ…エルフとかハーフエルフとかはどうなんですか?恐ろしい相手ですよ?」

 

「どこが?確かに長きに渡り戦い続けてこちらは全敗、先住魔法の使い手で戦力比は10倍以上と言われているけど……」

 

「いるけど?」

 

「まだ会った事もないしブリミル教徒的には悪なんだろうけね、坊主は嫌いだけどね。あいつ等強欲過ぎるよ」

 

「ふふふっ、そんな事を言ったら異端審問に掛けられてしまいますよ」

 

「聖職者は清貧であれ!と思うけどね。傲慢 嫉妬 暴食 色欲 怠惰 強欲 憤怒 七つの大罪の殆どを犯している」

 

「七つの大罪…聞き慣れない言葉ですね?それは東方の諺か何かですか?」

 

「いや、僕の思っている人の罪の種類かな……結局亜人なんかより人間と宗教の方が僕は怖いよ」

 

「もし、もしもですけどエルフが仲良くしたいって……言ってきたらどうします?」

 

「国と国としてなら現実では有り得ないだろうね、宗教絡みだしどちらかが上位に立たないと交渉なんてないと思う」

 

「先程は話が通じる相手なら交渉すると言いましたよね?」

 

「たとえば個人が亡命とかなら話し合いで保護とか支援とかバレないように出来るかもしれない、でも公の立場でそれを言うのは僕がもっと出世するか…

そう皇帝位になれれば可能かもしれないけど今の立場で言ったら僕だけの処分ではすまない、最悪実家は取り潰し一族郎党粛清されるよ」

 

「そうですか、では貴方を頼って保護を求めて来たらどうします?」

 

 

 

「エルフを保護する場合って事?例えば噂ではアルビオンのモード大公はエルフを妾として囲い粛清されたと聞くけど」

 

「そっそんな噂が有るなんて……」

 

「うちもそれなりに諜報機関が有るからね、ジェームズ一世が弟を粛清するなんて普通でも怪しむだろ?」

 

「仮に本当にエルフを囲っていたならモード大公は大馬鹿者だったね」

 

「エルフを妾にした事がですか?」

 

「違うよ、恋愛は個人の自由だしそういう関係になれるって事は先の話の様に十分交渉出来る相手なんだろうね。

でもリスクを抱えたのに何も対処をしていなかったし対応も不味かった」

 

「それはどんな?」

 

「調べたところではエルフを囲っている事が発覚しても頑なに引渡しを拒否したらしい、もう既にダメダメだ。

幾ら秘密にしても人一人を囲うって事は罪人みたく牢に閉じ込めでもしない限りいずれバレる。

その時の対応として直ぐに逃がせる体制を整えておくか偽装でも殺してしまう位の対処が出来た筈だ。

ただ頑なに引渡しを拒否するのではなく既に存在がバレているなら引渡しに応じた振りをして館ごと燃してしまうとか逃げられたと言って違う方向に追っ手を差し向けるとか。

僕なら偽装死だね、スキルニルを使ってもいいし同じ年恰好の死体を用意するなりして館ごと燃してしまう。

後は現王の弟って立場ならどうとでも言えるはずだ、反省して引き渡そうとしたら軟禁してる館ごと火を付けて自殺したんだと」

 

「確かにモード大公ほどの人に追及出来るのは兄であるジェームズ一世くらい……

それも引き渡しに応じていたのだから自殺されても文句は言えても処罰までは無いな」

 

「王族なんだし疑わしきは罰せず……だよ、完璧を求めるなら相手側の目撃者を作るね」

 

「そんな……防げたなんて……どうして……」

 

「あとは囲っている時もマジックアイテムのフェイスチェンジとかを使い、出来れば重ねがけで……

耳を隠しある程度外と交流させていれば良かった。情報は公開していれば普通はそれを信じるから深くは追求されないものだよ。

しかも王族とは言え妾だからある程度情報を隠しても疑われない、余り外聞の良いものでもないから隠すのは当たり前だと周りも思う。

精々が身分違いの娘を囲ったな、このエロ爺くらいじゃない?」

 

「でもモード大公ってうちの父上みたいな趣味だったんだね」

 

「へ?どういう事?」

 

「エルフってスラっとした儚げな種族なんでしょ?ウチの母上みたいな。父上だったら確実に保護出来たかもね」

 

※ハーフは兎も角、ツアイツは現代ファンタジーのエルフをイメージしていた、ディードリットとか。

 

「ツアイツ様では不可能なのですか?」

 

「ほら!僕は大きい乳の娘が好きだから……小さい乳の娘にはそこまで全てを賭けてまでは保護出来るか分からないから」

 

「巨乳なら全てを賭けてでも守る、あの子の胸なら……でもまだクォーターエルフは早いし……しかし対応は早めに……」

 

 その後、ロングビルは学院に帰っても悩み続けた、テファに会わせれば保護は確実……でも直ぐクォーターエルフが生まれてしまう。

 下手したら複数……でも安全には変えられない。

 あの子には自由な恋愛をして欲しいけど現実的に守れもしない相手を好きになっても不幸なだけ……

 でもエルフでも守れると言う変人は今のところツアイツだけ。

 

 「あーもうすっきりしないねぇ。胸の奥もモヤモヤするし……」

 

 何でだろうね。

 

 

 

マチルダ&ティファニアルート第5話

 

 

 ロングビルは悩んでいた、テファの保護について……

 

 ツアイツに会わせれば確実だが間違いなく喰われてしまう、有能で巨乳好きの善人なのは理解したが男女間の事については大変宜しくない……

 とは言え自分の周りも大切にしているから彼の懐まで入らないと手厚い保護は受けられない。

 ただ引き合わせて手出しはするな保護はしろ、は幾らなんでも無理だろう。

 

 とは言え代替の物を提供するにしてもお金は向こうの方が持ってるわね。

 

 欲しい物を盗んでくる……駄目だ大抵のものは金で買えるし盗品などリスクが高く受け取らないだろう。第一、物欲は低そうだし逆に彼の著書の方が欲しい位だ……

 金も物も駄目……あとは権力・名誉……は私じゃ無理だ。

 

 フーケとして捕まって名誉を与える?それじゃ意味は無いし盗賊の身内じゃテファを引き取れないだろう。

 

 し、仕方ないから私を身請けさせるか?

 

 でもあんな巨乳メイドズを見せられた後で戦力値が低いこの胸で迫っても無理だ、逆に鼻で笑われそうだ。

 

 ハーナウ家に就職して役立つ所をみせるか。

 諜報関係なら自信が有るよ。でもこれだと一時的に盗賊家業はお休みだからあの子達の仕送りが心許無いね。

 最初はそんなにお給金も貰えないだろうし、当座の資金を確保してからハーナウ家に就職するのが地道だけど確実かね。

 

 それじゃ今夜から盗賊土くれのフーケの華麗な活躍を見せるかね。

 

 

 

 こんにちは、ツアイツです。

 

 久しぶりに授業を受けています、赤土ことシュヴルーズ先生です。

 確か2年の最初の方の授業で顔見せの筈ですが既に1年の最初の授業に来ています。

 それとも錬金はしないで他の事を教えるのかな?

 

「始めまして皆さん、私はシュヴルーズと申します。二つ名は赤土、二つ名の表す通り土のトライアングルです。

このクラスには私以上の土のスクエアメイジが居ますからやり難いのですが先ずは基本から教えていきます」

 

 スクエアの所で意味深に見られましたが、教師間では既に問題児として認定済みですか?そうですか。

 

「土の魔法の基本は錬金です。皆さんは既に錬金に挑戦した方は居ますか?」

 

「はい。ギーシュ・ド・グラモンです。二つ名は青銅です」

 

「まぁグラモン家と言えば軍人として有名な家系ですね、貴方のお父上や兄上殿達はみな優秀な土のメイジでしたよ」

 

 そんなシュヴルーズ先生とギーシュとの遣り取りをボーっと聞いていた。

 

 ギーシュ頑張れ!ここで良い所をモンモンに見せ付けるんだ!

 

 教卓の上に石ころを置いてそれを錬金させる、ギーシュは勿論青銅を錬金するんだろうな……

 

 

 やっぱり青銅だったが精度やスピードが上がっている、随分練習したな。

 

「命を惜しむな名を惜しめ」って家系だからギーシュも軍人になるんだろうな。

 

 どうなんだろう、現代の感覚だと軍隊って厳しく規律正しくそして女っ気が無いから危険な……

 

「……ツアイツ……ミスタ・ツアイツ」

 

 はっ?しまった、阿部さん的な妄想をする所だった。

 

「はい、すいません。考え事をしていました」

 

「貴方にとってはつまらない授業かも知れませんがちゃんと聞いていなければ駄目ですよ、罰としてこの青銅をさらに錬金してみなさい」

 

 怒られてしまったか……

 

「分かりました。では……」

 

 そうだ最近理解できた超々ジェラルミンに錬金だ!

 

「まぁこれは?随分軽い金属ですわね……ディクトマジックで調べても宜しいですか?」

 

「どうぞ、我が家でこれから売り出す馬車の素材として開発した軽量・強固な金属で超々ジェラルミンと言います」

 

「これは、凄いですね。私も見た事の無い金属です。流石はスクエアと言う所ですね」

 

 ギーシュもマジマジとジェラルミンを見ている。良かった、君の活躍の場を奪ってしまったけと気にしてないようだ。

 

「では、次は……ミスルイズ!この石を錬金してみなさい」

 

 シュヴルーズ先生無茶振りです。ちょ、おま、ヤバいですって……

 

「どうしました?ミスルイズ次は貴女の番ですよ」

 

「シュヴルーズ先生すみません、私は錬金は苦手で……対象物が壊れてしまうのです…だから」

 

 原作のルイズでは考えられない謙虚さだ……謙虚な虚無?語呂が良いのか?

 

「授業とは生徒は失敗を恐れず挑み教師とはそれを正しく導く事なのです、恐れずやってみなさい」

 

「先生。素晴らしいお考えですが僕もルイズの……その魔力量の多さと破壊力は身に染みて知ってます。

僕のアースウォールやアイアンシールドを容易くブチ抜く程の威力をまだ制御出来ないので教室ではなくせめて外で……」

 

「スクエアの守りを抜くって……どれだけの威力なんでしょう?

分かりました、まだ制御面で不得手なら実際に見てみましょう、皆さん外に移動して下さい」

 

 ルイズがギュっと僕の袖を握る、今まで散々味わった失敗・失望・哀れみを思い出しているのだろう。

 

「大丈夫、全力で魔法をかけるんだ。被害は僕が抑える、君は爆発力に特化したメイジという事でいこう」

 

「分かったわ、でも全力で平気?貴方のゴーレムも粉砕してしまったのよ」

 

「むしろOK!スクエアをも粉砕するルイズを馬鹿に出来る奴なんて居ないさ、では外に行こう」

 

 ルイズをお姫様だっこをして外に飛び出る、ここからが本番だ。ルイズの立場が悪くならない様にやってみせるさ。

 

「シュヴルーズ先生。ルイズの特性を調べる為に最大威力で魔法をかけさせるので皆は少し離れさせて対象は僕の全力のゴーレムで良いですか?」

 

「其処までの威力なのですか?分かりました。

皆さんは下がって万が一の為に防御魔法の準備をミスタツアイツは私と近くに、ディクトマジックは私がかけますから防御をお願いします」

 

「分かりました。では……クリエイトゴーレム!」

 

 周辺の大地を巻き込み練成されていく全長18mの鋼鉄の巨人に周りの皆も息を呑む。

 禍々しい一つ目が「ビコーン」と光り放熱口から排気する、全く意味は無いが拘りだけの機能。

 

「こっこれは?私でも同程度の大きさのゴーレムなど土で何とか形を整えるだけですのに……」

 

 シュヴルーズ先生の呟きに皆がどれだけ凄いゴーレムか理解する、てかルイズもカリン様もコレを粉砕するんですけどね……凹むわ。

 

「ではルイズ、錬金を…皆は耐ショック耐閃光防御を……」

 

 ルイズ、君の威力を見せ付けろ!

 

「分かったわ、波動砲はっし……じゃなくて錬金……錬金……錬金!」

 

 トリガーハッピーの如く錬金を連発するルイズ、激しい炸裂音が周りに響き渡る。

 僕のゴーレムは左肩…右腕…脇腹と砕けていく。

 

「レーンーキーンー!」

 

 最後の駄目押しとばかりにルイズが大声で錬金をかける、左足が粉砕し膝を付くゴーレム……

 そしてモノアイを一際強く光らせた後に明かりを消す。

 

 ルイズ……実は失敗と言いつつこの威力に酔ってますね、廻りを見ると皆が呆然としている。

 スクエアのゴーレムを一方的に粉砕する魔法、そして威力。

 さらに嬉々として魔法をかけ続け終わった後の恍惚とした表情のルイズ……

 

 皆が理解した、コイツを馬鹿にすると粉砕されるんだな。ヴァリエールの女性陣はどこか皆異常なんだな……と。

 

「先生……シュヴルーズ先生どうですか?何か分かりましたか?」

 

 呆然とするシュヴルーズ先生……

 

「いえ、大丈夫です。ミスルイズの魔法……

錬金はスペル・制御共に素晴らしかったのですが最後に対象に効果を与える所で違う作用になりましたが、威力と言う点では理解の範疇外でした。少し調べてみます」

 

 ルイズは……大丈夫かと思ったら、男子生徒に囲まれていた。

 

 薄っすらと汗をかき恍惚とした表情で目を潤ませている今の彼女は美しい。

 厳格な貞淑感覚を持つ女性の多いトリステインでは彼女の魅せたこの幼いながらの艶美さに喰いついてしまったんだろう。

 おまえら盛りの付いた犬じゃないんだから落ち着け……ってギーシュまで行っちゃ駄目だろお前モンモン狙い。

 

 結局ルイズが魔法を苦手な事は有耶無耶と言うか寧ろ毎週ゴーレム粉砕をして欲しい位の盛況だった。

 シュヴルーズ先生には疑問を男子生徒には煩悩を女生徒には畏怖を植えつけてだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「破壊の妖精」と言う二つ名がついた、本人はご機嫌でその二つ名を名乗っている。

 好評だったゴーレム粉砕の件は今後は男子生徒抜きで定期的に実験する事に女生徒主体の話し合いで決まった。

 

 ルイズもストレス発散が出来ると喜んでいるし結果オーライか?

 

 

 

 

マチルダ&ティファニアルート第6話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 最近土くれのフーケが精力的にトリステイン国内を荒らしまわっているそうです。

 彼女、まさか原作通り学院の「破壊の杖」も狙うつもりなのか?そうすると誰が宝物庫の壁にヒビを入れるのかな?

 原作知識が役に立たなくなっているから想像がつかない。

 

 まさか僕がキュルケとルイズの勝負の商品として吊るされるのか?いやサイトと違い魔法で逃げ出せるからそれは無い。

 それともゴーレム決戦で殴り合いをするのかな。

 

 学院の宝物庫、一度見学に行ったが確かにロケットランチャーの様な物が有ったのだが……場違いな工芸品?

 マジカルミンキーモモのミンキーステッキも置いて有りました。

 

 元祖魔法少女アニメの玩具がこんなところにも、厳重に固定化が掛かってたのに苦笑した。

 でも材質のプラスチックって錬金出来ないかな?一緒に廻ったキュルケとルイズには趣味悪いとか言われていたが……

 

 お前らリアル魔法少女だけど現代日本ではこういうステッキを振り回して変身するのが正しい魔法少女だったんだよ。

 因みに名前は「飴細工の杖」だった。誰が仮称を付けるのかね?

 

 そして忘れていた頃にロングビルさんから接触が有った。

 廊下でバッタリ有った時に相談事が有るのでお時間を頂けないか?と聞かれたので了承したんだが会見場所を指定してきた。

 

 現在そこに向かう途中「魅惑の妖精亭」にだ。

 

 原作でお馴染みのウェイトレスが全てビスチェ姿と言う現代のランパブレストラン?だ。

 何故この店を指定してくるかが分からなかった、どうやら先に来てしまったらしく席に通される。

 

 個室までとはいかないが他から余り干渉されない位置の席だ。

 案内してくれた女の子は中々の美人さんだったが彼女が原作のジェシカかは分からなかった。

 取り敢えずワインを頼み料理はお勧めを適当に見繕って貰う。

 

 先にワインが来たのでチビリチビリと飲んでいると「お待たせしました。」ブッー!ゲホゲホッ…

 

 なんとトレイに料理を載せて持って来たロングビルさんの白いビスチェの胸元に思いっきり赤ワインを吹きかけてしまった。

 

「なっななななな…」

 

 意表を突かれた、指を刺し言葉にならない呻き声をあげてしまった。

 

「ふふふ。こんなに一杯私にかけて…どうしました?何時もの冷静さが有りませんよ」

 

 チクショウ、やられた!相談と言う名の戦場で主導権を奪われた。

 

「すいません、驚きましたよ。でもそういう扇情的な衣装は将来の旦那さんに見せるべきですよ」

 

 マントを錬金してさっと羽織らせてから嫌味をチクリと言ってみた。

 

「あら?ではツアイツ様が娶ってくれるのですか?」

 

 艶然と切り替えされた、手ごわいぞ。

 

「先ずは風邪でもひいたら大変ですので着替えて下さい。話はそれからで、勿論衣装は弁償させて貰いますよ」

 

 兎に角このままなし崩しでは不味いので気持ちを切り替える時間を稼ごう。

 

「分かりましたわ。暫くおまちを……」

 

 態々マントを脱ぎ捨ててモンローウォークの如くお尻を強調して歩いていく……あっ他の客のオッサンに撫でられて……ぶん殴ったぞ。

 

 近くに居たウェイトレスさんを呼び寄せてチップを握らせロングビルさんの情報を聞く。

 就職してるわけではなくオーナーの知り合いで今日は僕を驚かせる為にこんな格好をしているそうだ。

 てっきり彼氏でも連れて来るかと思ったがどう見ても年下の僕がきてビックリして調理場で噂になってるらしい。

 などと話しているとロングビルさんが戻ってきたので情報を教えてくれたウェイトレスさんは席を離れて行った。

 

 すれ違い様にロングビルさんに頑張ってって声を掛けながら……

 

 着替えてきたロングビルさんは今度は淡いグリーンのビスチェにタイトなスカートを合わせた所謂ビスチェドレス姿だ。

 髪の色に合わせたのか良く似合っている、胸元も際どく開いているし、隣に座ってくるし、色仕掛けで何を要求するつもりだ?

 

「実は今の学院を辞めようと思いますの、セクハラに耐えられないので……」

 

「そうですか、オールドオスマンも年甲斐も無く若い秘書にはしゃぎ過ぎましたか?」

 

「最近は直接触ってくるしその内押し倒されそうで…よよよ……」

 

 よよよ……って棒読みですよ。どうする話に乗ってみるか直球で聞いてみるかな。

 

「それで、僕に何を求めているんですか?」

 

 直球で行こう、早めに終らせないと従業員達の好奇の目が痛いんです。

 扉に半分隠れてハンカチをかみ締める筋肉オカマが怖いんですよ、早く逃げたい。

 

 ロングビルさんはここぞとばかりに胸を押し付ける様にしな垂れかかってくる。

 

「実はハーナウ家に雇って頂きたいのです」

 

 おぅ(精神年齢は)オジサンOKしちゃいそうですよ、上目使いのお願いは断り辛い気持ちになります。

 

「メイドとして?それとも経営に絡んだ何かで?それともメイジとして?あとは……」

 

 顔を近づけて囁くように喋る。

 

「フーケとしてかな?」

 

 キャーキャー外野大盛り上がり!

 

 ロングビルさんは外野に先に騒がれたので一寸引き気味だが十分驚いていた。

 

「なっなんで何時から…」

 

 相当動揺してますね分かりますこれだけ猫被っていたのにバレバレだから。

 

「前に御者としてウチの屋敷の写本を盗む下見に来たでしょ?その時から色々調べてたんだ、ウチの諜報部も凄いでしょ」

 

「ちっ違うよ。写本を盗みに行ったんじゃなく坊ちゃんの人柄を調べにいったんだ」

 

 口調が素にもどってますね。

 

「口調が素に戻ってますよ、なんで身辺調査なんてしたんですか?」

 

「ハーナウ家で働きたいってのは本当さ。あそこ程良い待遇と環境の職場は無いから…しかし……」

 

「一緒に養って欲しい子がいるんだ……何人か……」

 

「えっロングビルさんって子供居たの?で沢山居るの?」

 

 知ってるけどからかう、この世界は早婚が多いから20代前半で子持ちが普通だ。

 

「マチルダで良いよ、マチルダ・オブ・サウスゴーダ……本名さ、調べは付いているんだろ?

そして保護して欲しいのはウェストウッドに居る孤児達と……妹だよ」

 

「妹?サウスゴーダ家には姉妹は居ない筈ですよ」

 

「モード大公の忘れ形見さ、分かるだろ?」

 

「つまりはハーフエルフか……」

 

「ティファニアってんだテファは良い子なんだよ。だから……その為なら私はどうなっても……」

 

「良いですよ、引き受けましょう」

 

 まぁそれしかお願い事は無いよね、帰り道で話した時も不自然に話題を振っていたし。

 

「ちょ良く考えて返事したのかい?エルフだよハーフエルフなんだよ?」

 

「マチルダさんが体を投げ出してでも守りたい人なんでしょ?その分働いてくれるんでしょ?」

 

「妾の件なら了解だよ、それ位しか出来ないからね」

 

「違うよ、諜報機関で働いて欲しいんだ。今はヴァリエール公爵から密偵を派遣して貰ってる状況だから独自の部隊が欲しいんだ」

 

「なんだい、私の体より技術が欲しいってかい?男としてどうなんだいその提案は?」

 

「彼女を守りたい気持ちを利用されて妾にされたと知った彼女はどう思うかな?守るって事は体だけじゃなくて心までだよ。

大丈夫、前に話した通りに姿を誤魔化しある程度外とも接触をさせながら暮らせる様には出来る、他の孤児達も独り立ちするまでは面倒をみるよ。

なに仕事は幾らでも有るし働き手は此方が欲しい位さ」

 

 ワイングラスを上げて乾杯する、キャーキャー外野の五月蝿さはピークだ!

 

 はっ?筋肉オカマが両手を広げて近付いてく「話はまとまったのねぇ」奇声を上げて近寄るな、変態!

 

 マチルダさんは他のウェイトレスさんに捕まって祝福されている、何故か年の離れた僕らが駆け落ちする事が決まったらしい。

 そんな馬鹿な勘違いをするなっての、多分ジェシカ?胸元のネームプレートもジェシカだ、が話し掛けてきた。

 

「覚えています?タルブでシエスタちゃんをスカウトした時近くに居たんですよ、ジェシカです」

 

「ごめん気が付かなかったよ」

 

 あの時はシエスタしか眼中に無かったな。

 

「近くのお屋敷に引っ越したからって手紙の遣り取りをしているんです。ツアイツ様の事ばかり手紙に書いてますよ」

 

「ああシエスタには良くして貰ってるよ」※セーラー服とかスク水とか体操着とか。

 

「だからロングビルさんの相談の相手がツアイツ様と聞いてビックリしました」

 

 

「世の中って狭いんだね。でも安心して彼女の保護はちゃんとするから」

 

「有難う御座います、この店もご贔屓にしてくださいね」

 

「そうだね、今度皆を連れて来るよ。ビスチェウェイトレスさんVSメイド軍団!貸切でお願いね」

 

「なんかイヤラシイ表現ですよ、でも約束ですからね」

 

「ツアイツ様何を楽しそうにお話してるのですか?」

 

「はぁ?ツアイツ様?」

 

「ええお仕えする訳ですから此れからはツアイツ様とお呼びします。早速ですが一度ウェストウッドの件で……」

 

楽しい夜は更けていく……

 



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マチルダ&ティファニアルート第7話から第8話

マチルダ&ティファニアルート第7話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 ウエストウッドのティファニアと孤児達の脱出経路について悩んでいます。この時代の出入国ってどんな制限が有るのでしょう?

 現代感覚では越境?亡命?って結構大変って感じがするのですが?

 

 特に空に浮く大陸からとなると空路、船が必要になりますが簡単に乗せてくれるのでしょうか?

 原作ではラ・ロシュエールの港からアルビオンに向かう時はワルドが交渉してましたが身元の確りとした自国の貴族でしたし他国の貴族が子供を多数出国って…

 普通に問題にならないかな?そもそも何人居るんだ孤児って?20人位か?

 

 レーダーなど無い有人視界の警戒網だし夜間に船をチャーターして強行出国するか、一度マチルダさんとその辺を相談しよう。

 

 

 

 

 

 

 結論から言えば戦時中でも出国を防ぐような手配中の重犯罪者が居る訳でもないので普通に出国出来るそうです。

 但し全員を一度に出国させるのは流石に目立つと思うので数人に分けて何日かで出国した方が目立たないとの事。

 出来れば夫婦者で子連れにした方が目立たないだろうと……

 そこはフーケとして培った人脈で人を雇い何組かに分けて親子連れにして出国させる事で問題は無くなった。

 

 直接的な脱出には足が着いたら拙いウチの諜報は使わない、全てマチルダさんの伝手を頼る。

 子供達の説得には随分と掛かったみたいだが最終的にはティファニアの安全の為にと納得してくれた。

 

 しかしティファニアは最後まで残しておかないと残された孤児達が不安になる為、仕方なく一番最後にマチルダと共に出国する。

 自分も同行したかったが目立つし余計危険だからと断られた、その分当家の諜報からも何人か間接的な手伝いとして送る事にした。

 

 当然資金は此方持ちだが今更なので気にしない。それに僕は……秘密だが高い所が怖いんだ……

 

 前世のトラウマか小さい頃にフライで恐怖心を覚えてしまいカリン様のシゴキで克服したが精々が高度30m位までだ。

 普通ならそれでも十分だろう。しかしそれ以上だといまだに魔法制御が怪しくなる。

 アルビオンってどれ位の高度にあるか分からないが船から外を見てしまったら……どうなるか。

 

 なんとかしないと駄目かな。

 

 そして保護した子供達はハーナウ家の有るゲルマニアに直ぐに送られる、早く自国に連れて行った方が何とでもなるし調べられても只の子供だから。

 そして暫くしてミッションは完了し、何も問題無く孤児とティファニアの保護は完了した。

 

 あとは最後のティファニアがゲルマニアの我がハーナウ領に移動するだけでミッションクリアだ。

 そう、一度も僕は彼女らと接触を出来ずにだ、これは納得が出来ないのでこれから例の「魅惑の妖精亭」でマチルダさんと待ち合せだ。

 

 

 

「魅惑の妖精亭」

 

 

 

 この店に来るのは2度目だ、ジェシカとの約束でシエスタ達を連れて来たいんだが今日は1人での訪問だ。

 店に入ると、スカロン店長が迎えてくれた。

 

 何時もの気持ち悪い格好を更に気持ち悪くした格好だ、衣装の所々がミチミチと引っ張っている筋肉が……

 

「うっぷ、もう帰る」

 

 クルッと回れ右をして帰ろうとするが「ダメよぉーん!」とガシっと腕を捕まれて店内に連行された。

 

「助けてー犯されるー嫌だー!」

 

 僕の魂の叫びも道行く人たちは目を逸らして早足で逃げていった、チクショウ薄情者め!

 店内に入るとジェシカが笑いながら迎えてくれた。

 

「噂では凄いお強いって聞いてるのに何を泣き叫んでいるの?」

 

「いやオカマは苦手なんだ……ほら見て、何時もより鳥肌になってる」

 

「ヤダ…本当ね」

 

「まぁ酷いわイケズだわ」

 

 クネクネとオカマが嫌がっている、生理的に受け付けない、何故だ?何時もは我慢出来るのに?

 

「僕の方が嫌なんだよ」

 

 ブチッっと音がして肩紐が切れた、そして頑張って耐えていた布がハラリと……

 

「あらイヤーン!」

 

 スカロンのストリップを正面から見詰めてしまった、想像以上の破壊力だ。

 嗚呼、まさかこんな事で意識が遠くなるとは何故だ?何時もはそれ程酷くは感じないのに今日はナンテオヤクソクナンダ。

 

 

 

 

 

「うぅーん」

 

 何か頭の下が柔らかいし良い匂いがする、何だろう?

 小さい頃にエーファに膝枕して貰っているみたいだ……ジェシカかな?まさかマチルダさんじゃないだろう。

 

 最近避けられているし……

 

 ボンヤリとした視界が開けて……

 

 いや未だ目の前が真っ暗だ……

 

 なにか影が差している?

 

 デカイ山だなぁ……山?

 

 本当に山なのか?

 

 いやまさかコレは……

 

 ガバっと起き上がると「ムニュリ」と頭が肉の壁に埋まった。

 

「きゃ……」

 

「何やってんだい!」

 

 直ぐにマチルダさんに引き剥がされたが予定通りティファニアの双子山に埋まる事が出来た、やわらけー!

 

「はっ?すみません。何か魘されていたみたいで」

 

 改めて正面を見ると頬を膨らませて怒っているマチルダさんと、魅惑の妖精ビスチェを纏ったティファニアが居た!

 スゲェ人類の限界を超えている双子活火山がイラッシャイマシタ。

 

 コレハスゴイネ!

 

 マジマジと穴が開くほど見詰める。

 

「あまり見ないで下さい。こんな(胸)の普通じゃないですよね。

折角お礼を言いたくてマチルダ姉さんに無理をいって一緒に来たんですがお店の人がお礼ならこのウェイトレスさんの衣装を着たら喜ぶよって……

でもこの胸に合うサイズの服が無くて……それならこの魔法のビスチェならどんな体型にも合うからって……似合いませんか?」

 

 ヤベェモジモジしてると尚更胸が強調されて凄いアースシェイクになってる。

 たしかこのビスチェって魅了の魔法が掛かるんじゃなかったっけ?

 

「この度は私達の、私なんかの為に本当に有難う御座いました。

なんとお礼を言って良いか……その、出来る事なら何でもしますから」

 

 ヤベェ……ティファニアが何か言っているけど頭がクラクラして何も考えられない。

 なにか返事をしてあげないと……スカロンみたいな化け物を普通に受け入れられた程の魅了の魔法だ。

 

 極上の乳が着るともう……何がなんだか……うがぁー!

 

 僕はティファニアの両手をガッシリ掴んで「もう辛抱堪らーん、結婚して下さーい!」と言っていた。

 

「アホかぁー!クォーターエルフはまだ早いわー!」

 

 マチルダさんが練成したゴーレムの腕だけでぶん殴られて吹き飛ばされた。

 

 嗚呼この感覚……懐かしい……カリン様との訓練の……グシャっていう耳障りな音を聞きながら、受身無しで壁に埋まり僕は気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

「知らない天井だ……」

 

 お約束をポツリと零す、目が覚めたのは学院のベッドではなく屋敷のベッドだった。

 あの時、逆上したマチルダさんは瞬間的にスクエアクラスのゴーレムで本気で手加減の一切を無くぶん殴ったので僕は結構な大怪我だったらしく断片的な記憶では緊急治療とか結構な水の秘薬を使われている記憶がある。

 いまだ首は固定され動かず右手には感覚が無いが水のメイジとしての感覚が後2〜3日で起き上がれると教えてくれる。

 そして僕の前には目を真っ赤にしてずっと泣いていたと思われるティファニアと延々と彼女に謝り慰めてグッタリしただろう目の下に隈を作ったマチルダさんが居る。

 

 

 

 ハーフエルフを受け入れてくれた恩人にいきなりプロポーズされしかもその直後に義理の姉が殺人未遂をしたのだ。

 彼女の混乱は大変なものだっただろう、いくら魅了の呪文に掛かっていたとは言え物凄く悪い事をしてしまった。

 

 目を開けている事に気が付いたティファニアが感極まって全身で抱きついてくれて……僕は何も伝えられずに再び痛みで気を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 再び目が覚めたのは更に丸一日たった後だったらしい、流石に2人は別室で休んでいて目が覚めた時はエーファが看病をしてくれていた。

 エーファも涙目で縋り付いてくれたが流石に傷に響く抱き付き方はしなかった、落ち着いた所で2人を呼んでもらおう。

 

 でもその前に僕が気が付いたのを知ったナディーネやルーツィア達が次々と部屋に来てくれた、愛されているのが分かる。

 僕には、まだ帰れる所が有るんだ……こんなに嬉しい事は無い。

 

 

 

 

マチルダ&ティファニアルート完結編

 

 控えめなノックの後に、エーファを先頭に2人が部屋に入ってくる。

 マチルダさんは目の下に真っ黒な隈が消えずティファニアはいまだ両目が真っ赤だ。

 気がついたらエーファが小さく頭を下げて部屋から出て行くところだった、相変わらず気が利くお姉さんだ。

 

 僕は取り敢えず「えーと御免なさい。そしてようこそハーナウ家へ、かな?」と笑って言った。

 

「あんたまだ懲りずにテファを狙っているのかい?」

 

 ガルルって感じでマチルダさんが警戒している。

 

 テファニアは「マチルダ姉さん平気だから…」とか真っ赤になって取り成してくれている。

 

 アレ?言い方が変だったのかな?

 

「怪我をさせたのは謝るけどね、テファはお嫁にはやらないよ!」

 

 あーその事ですか……

 

 あれは彼女が着ていたビスチェが魅了の呪文が掛かるマジックアイテムで彼女の可愛さと相乗効果が有り言ってしまったので気にしないでくれと説明した。

 

 マチルダはいまだ疑いの目でティファニアは「そんな可愛いなんて」といやいやをしている。

 

 相変わらず見事な胸だ、2人にこれからどうしたいかを聞く。

 事前の打合せではゲルマニアのハーナウ領に行きマジックアイテムで耳を隠し普通に生活して貰うつもりだ。

 トリステインとアルビオンはこれから動乱を迎えるから出来れはゲルマニアに行って欲しい。

 

 

 

「私は約束通りにツアイツ様の下で諜報として働くよ、これからが恩返しだからね。テファは予定通りゲルマニアにお行き」

 

 おおマチルダさん無駄に格好良い。

 

「えっ?式は向こうで挙げるのですか?」

 

 この天然さんは何を言っているのか。

 

 

「アンタは……ま・だ・結・婚・し・な・い!いいね、分かったわね?」

 

「でもお礼なんて何もしてないし自分だけ安全な場所に行くなんて出来ないわ、マチルダ姉さん」

 

「だーかーらーあのプロポーズは魔法のせいだから無効なんだよ!分かったかい?」

 

「まぁまぁ言い争わないで、ティファニアは今まで森の中で世間から隔離されていたから一旦我が家にいって色々学んだ方が良いよ」

 

「花嫁修業ですね?」

 

「ち・が・う・わー!一般常識を学んできなさい、世の中の男は皆その胸が目的のエロエロなんだからね」

 

 ちょっと傷付きました……心が……その通りだから65%位……残りは愛情ですよ。

 

「ツアイツ様には私が付いてるから安心して向うに行きなさい、直ぐに会いに行けるし安心なさい」

 

 マチルダさん嬉しそうだな、先ずは彼女の安全と天然さんで疑う事が無い純真さが危ういので警戒心を学ばせよう。

 あの素晴らしい胸は僕の全てをもってしても守らねばならない。

 

 そう……時間は沢山あるしゆっくりゆっくりと口説けばいいさ。

 

 あの胸を手に入れないなんて何が教祖だ!なにより最初の好感度は何故か高い。

 何の問題は何もないな……ふふふっ……あーっはっはっはー!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふぅ何とか坊ちゃんに重傷を負わせた責任は有耶無耶で回避できそうだ。

 テファはすっかり坊ちゃんの所に嫁ぐつもりになってるね、責任感の強い優しい娘だから仕方が無いねぇ!

 でも実は結婚とか言ってるけど良く分かってないねアレは(汗)

 ただ恩返しがしたい一心と初めての同世代の異性に対して対応が分からないんだ。その辺を悪い男に利用されない様に学んで欲しいんだよ。

 

 坊ちゃん、いやツアイツ様はお姉ちゃんがしっかり面倒を見るから安心しておくれ。

 

 当然テファや他の孤児達の面倒も見て貰うけどね、なに近くに居れば巨乳の秘密も分かるしね。

 

 見てなさいテファ!お姉ちゃんも立派な胸を手に入れてみせるから。

 

 何の問題もないわね!うふふふっ……ふふふっ……あーはっはぁー!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 2人とも違う方向を向きながら高笑いをし始めたけど……

 

 ハーフエルフなんて迫害されるから一生隠れて生きて行かなくては駄目だと思っていたわ。

 同世代のお友達なんて出来ないと思っていた。一生あの森で姉さんに迷惑をかけながら生きていかなければならないと諦めていた…

 でもツアイツ様がお友達をすっ飛ばしてプロポーズしてくれた事はビックリしたわ。

 魔法の所為だと言っていたけど私だって女の子だから言われれば嬉しい。

 少ししかお話してないけど危険を犯してまでハーフエルフの私を守ってくれたり、怪我を負わせた姉さんを責めないなんて絶対良い人なんだわ。

 

 結婚……良くわからないけど確か順番が有るって。

 

 最初は手を繋ぐ事からって。

 

 でもプロポーズの時に握られたし私も看病の時に苦しい表情で手を差し伸べて来た時に握ってしまったわ。

 

 次はボディタッチって聞いたけど……

 

 もっもう抱きしめ(られ)てしまったわ…キャ!

 

 次……次は……キキキキスだけど……それはまだ早いと思うしいくらなんでも恥ずかしいわ。

 お姉ちゃんが中々会わせてくれなかったから、もっとお話したいわ。

 

 ツアイツ様は私達を守ってくれる大切な人、絶対に恩返しをするわ。

 

 それに此処の人達は皆さん胸が大きいからこのコンプレックスだった胸でも不思議と気にならないの。

 

 

 えーっと、2人ともまだ高笑いが終らないわ。どうしたら良いの?

 

 

 

 

エピローグ

 

 

 

 ティファニアはあれからハーナウ家に十分な護衛とマチルダに連れられて行った、僕もなるべく実家に帰る様にしよう。

 今度の夏休みまではまめに手紙と贈り物をしよう、楽しみだ。

 

 しかし……

 

 父上とワルド子爵から手紙が来た、ワルド子爵は年内にも退役し我が家に来るそうだ。

 父上がお金を出し同じ子爵位を買って与えると言っていた。

 

 

父上からの手紙

 

 ツアイツ、我が息子よ。

 同志ワルドから「ワルま!第一巻風使いの新人子爵先生現る」を自慢げに読まされた。

 

 確かに中々の出来だがなんだこの主人公は!

 

 羨ましくはないが……ないぞ……しかし実の父親を差し置いてワルド殿が主役とはいかがなものか?

 父親の登場する作品が有っても良いのではないか?検討するように。

 それと貴様が訳は今度帰省する時に話すから厳重に保護しておいてくれと寄越したあの女だが……言わずとも分かるぞ。

 

 お前の理想を具現化した娘だな、よくぞ探したと誉めてやる。

 忌々しいが配下の貴族と養子縁組をしておいた、ワルド殿の爵位を用意するついでだ。

 これに関してはワルド殿が嫌々ながらも強く押してきた……貴様アレか?第二巻で釣ったな?

 

 まぁ良い。

 

 あの女は正妻は無理だが如何しても信を強めておきたい部下の養子とし我が家に嫁がせる事にする。

 これでハーナウ家は安泰だろう、本人も花嫁修業とかなんとか言って我が天使アデーレと毎日楽しそうにしておる。

 

 二人揃えばまるで姉妹のようだ、最も片方は天使で片方は堕天使だがな。

 

 嗚呼アデーレ……僕だけの天使……

 

 あの胸のせいで他の貴族からの問い合わせが殺到したが、息子が身分の低いデカ乳の女を如何しても自分の妻にしたいとローリングだだをコネたのでの処置だ。

 

 絶対に手を出すなよ!と言ってある。

 

 ヴァリエール公爵やツェルプストー辺境伯には貴様から説明しろ、そこまでの面倒は見ないぞ。

 それと先に書いた父親の主人公の物語は良く考えろよ、貴様の思い人は我が手の内に有るのだ。

 

 全く対極の妻を親子で娶るとは……幾ら住み分けとは言え頭が痛いぞ。

 それと最近美乳派なる乳の大小に拘らぬ宗派が出来たと噂に聞く、こちらも調べるがお前も気を付けておけ。

 

 では新作と新刊の件は宜しく!

 

 

 父上……まだハーフエルフって説明してないのですが……それにまだ口説き落としてもいません。

 

 ワルド子爵からは……我ミッションクリア、報酬ノ用意ヲ願ウ。

 

 短か!てか陰ながら護衛しろって言ったのに養子縁組とは、お前面倒臭くなったから父上に全て押し付けたな。

 

 まぁ良い、先ずはティファニアの手紙よりこのオッサン2人の報酬から書かないといけないな。

次にティファニアに会えるのが楽しみだ、その前にマチルダさんにどう説明しようかな。

 

 あれだけ結婚させるの嫌がってたから(汗)

 

 まぁなんとでもするさ、なんたって巨乳派として最高の天使を手に入れたんだ。

 

 必ず守ってみせるさ!

 

 それと美乳派……一体どんな奴らなんだ。取り込めるのか敵対するのか、調査が必要だね。

 

 マチルダさんと相談しよう。

 

 

 

 マチルダ&ティファニアルートは一応の完結とします。

 

 中途半端ですが流石に現人神に手を出す表現は巨乳信者としては出来ませんでした。

 

 

 

 Hなのはいけないと思います(笑)

 

 但し次話からまた本編第18話に戻り本編を開始しますがこのルートのマチルダとティファニアは本編に絡めていきます。

 本当に結ばれるにはまだまだ感情の盛り上がりが足りないですからね、勿論このワルドさんも引き続き登場しますよ。

 



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レコンキスタ対決・謀略編
本編18話・第19話から第20話


本編第18話

 

 おはようございます、ツアイツです……

 

 疲れている割には目が覚めてしまったのでぼんやりとこれからの事を考える。

 段々と原作の出来事が前倒しになっていく気がする。物語の中心が自分になっていく感覚も有る……まさかね。

 

 僕はあくまで脇役で物語の中心はルイズとサイトにと考えていた。

 しかし現実はシエスタをフライングゲットした事でモット伯のイベントが一年繰り上がり僕に関係のあるソフィアが拉致の対象になってしまった……

 良く聞くバタフライ効果とか世界の修正力か?原作開始まで一年を切ったけどアルビオンも表向きは平穏だ。

 

 ガリアの粛正も起こりジョセフが王位を継いだ。僕の廻り以外は原作の流れに沿っている。

 しかし僕の廻りにはもうロングビルさんが学院秘書となり関係する登場人物が早めに接触して来る。

 ラグドリアン湖の増水イベントが発生すれば経過状況は掴めると思いモンモランシ家に商売の交渉を始めた。

 交渉が成功すればかの地に確認に行ける事が出来る。

 

 水の精霊との接触は危険だが……多分このイベントも僕が絡む予感がするんだ。

 

 僕の秘密がバレれは異端扱いだ、細心の注意が必要だろう。

 

 ワルド子爵!

 

 こいつが一番の難解と言うか……難敵と言うか……良く解らない行動をしている……何故かウチの父上と懇意にし始めた。

 趣味友?厄介だ。趣味を共有する仲間とは独特の連帯感が発生するから……これは取り込めたと思うべきか獅子身中の虫か?

 彼好みの作品を仕上げて贈ってみるか。

 

 彼を主人公として!

 

 

 

 

 

「失礼します。お早う御座います、ご主人様」

 

 ソフィアが起こしに来てくれたので思考から引き戻される。

 

「おはよう、ソフィアよく寝れたかい?」

 

 時間ピッタリに来たソフィアに声を掛ける。

 

「はい、前と同じ部屋を使わせて貰えましたので……では準備しますね」

 

 ソフィアとは2人の時は敬語はなるべく控えて貰うようにお願いをしてある。

 手際よく洗顔の準備や着替えを用意してくれる、その手際や甲斐甲斐しさも含めて専属メイドにして正解だったと思う。

 

「今日は屋敷の方に仕事に向かうので馬車の準備をして欲しい。それとソフィアも向こうの皆に紹介するから同行してね、出発は2時間後に」

 

「わかりました、御者は私が出来ますからそれで良いですか?」

 

 タオルや着替えをテキパキとまとめて聞いてきた。

 

「それで構わないよ」

 

「はい、ではその様に準備します」

 

 雇用条件の細かい説明はエーファに任せよう、さてそろそろ食堂に行こうかな。

 

 

 

アルヴィーズの食堂にて

 

 

 

 まだ朝も早い為か席もそんなに埋まっていない。見回すと……ルイズが両手を振って全身でアピールしている。

 

 

 

 彼女のこんな行動は本当に愛おしいと思う。

 

 キュルケとモンモンが一緒か……今日は女性陣と一緒に食べよう。

 席に着くと直ぐに料理が運ばれてくる、この辺の待遇の良さは日々の努力で厨房の皆と仲良くしてるからかな。

 

 好感度の上昇とは日々の努力が必須なのですよ。

 

「「「おはようツアイツ」」」

 

「おはよう、折角の休みなのに早いね」

 

「貴族は規則正しくよ」

 

 ルイズは毎朝の豊胸体操の為非常に健康的だ!

 

「私は……変な体操の後にルイズが部屋に乱入して来てね、無理矢理起こされたわ」

 

 彼女達はたまに一緒に寝てるらしい、いやガチレズって訳じゃなくてパジャマパーティーみたいな?

 

 是非ともご一緒したいです、理性が保たず3P濃厚ですけどね。

 

 キュルケとルイズは仲が良い。原作のタバサとの…みたいな関係だ。

 

「私は最近ルイズの体操に参加してるの。ツアイツは胸の大きな娘が好きなんでしょ?」

 

 モンモンは今でも十分脱いだら凄ごそうです、良い嫁になるよね。

 

「僕は屋敷に仕事をしに行って来るよ、夕食迄には戻るけどね」

 

 ふぅと溜息と共に言う。

 

「新しいお屋敷を購入したのよね?凄いわね」

 

 モンモンが羨ましそうに言う。現在進行形で成功をし続けるハーナウ家と赤貧に喘ぐモンモランシ家との違い……

 だからそのハンターの目は怖いから止しなさい。

 

「ツアイツには領地経営のレクチャーをして欲しいわ切実に……手取り足取りでも良いわよ」

 

 モンモン真剣です。

 

「「駄目よ。ツアイツは私のだから!」」

 

「チッ!」

 

 モンモンの貴族の令嬢らしからぬ舌打ちが聞こえたよ、ガクガクブルブルだ。

 

「そっそれじゃそろそろ支度をするかな」

 

「ツアイツのお屋敷に行ってみたいわ」

 

 女性陣ズがお願いして来た!

 

「いや仕事に行くだけだしそんなに構えないから……」

 

「久しぶりに彼女達に会いたいの……駄目?」

 

 信者メイド達か、思えばルイズから奪う形でウチに来たからな。

 

「彼女達って?」

 

 モンモンが不思議そうに聞いてくる。

 

「私の仲間よ!」

 

 胸を張るルイズ!ぷるんと揺れる双子山!でもまだキュルケと違い芯に硬さを残している感じた。

 キュルケはどこまでも柔らかい感じ……でへへ!

 

 それは兎も角本当に彼女達と気持ちが通じてるんだな。

 

「そうだね、久々に会いに来なよ」

 

「「私達も行きたい!」」

 

 うん。そうだね……仲間外れは駄目だよね。

 

「では一時間後に正門前に馬車を用意するから」

 

 僕は部屋に戻り連絡用の鷹で屋敷の皆に僕ら以外にルイズ達も行く事を伝えた。

 そう言えば屋敷にルイズ以外のお客様を招くのは初めてだな。

 ルイズも屋敷の購入と改装の時に来た以来か、世話好きなシエスタ辺りが張り切りそうだ!

 

 などと考えていたりしたら直ぐに待ち合わせの時間だ、レディを待たせる訳にはいかないので少し早めに向かう。

 ソフィアは既に馬車を準備し前で直立で待機していた。

 

 労いの言葉を掛けようとしたら……

 

「お待たせー!」

 

 ルイズが凄い笑顔で走って来る。

 

「一番乗りぃー!」

 

 が、フライで追い抜いたキュルケが先だった。

 

「キュルケずるーぃ!」

 

「あんたは体力が半端ないんだから飛ばないと追い付かないわよ」

 

「そうよ、貴族たるもの慎みを持ちなさい」

 

 モンモンが優雅に歩いて来た、流石は大貴族のご令嬢達だけに華が有ります。

 ルイズは何故かシエスタとのプレイの為に揃えたセーラー服を着ている。

 

「ルイズ、それを何時手に入れたの?」

 

「えっコレ似合う?シエスタがツアイツはこれが好きだからって言ってたので貰っておいたのよ」

 

 クルリと回って可愛さをアピール!うん好きですよ。

 昔出来なかった学生時代のキャハハウフフな気分が味わえるから、でも僕は学生服は着ませんけどね。

 

 

「そうだね。似合っているよ、可愛いね」

 

「「あら私達はどうなの?」」

 

 キュルケは紫から青のグラデーションのシンプル且つボディラインを強調したドレス。

 モンモンは薄緑のベースにフレアーなスカートのふわっとしたドレス。

 

 共にマントを羽織っているが、ハルケギニアのファッションって中世ヨーロッパ準拠ですよね?

 時々突き抜けたファッション有りますよね、例えば烈風の騎士姫だとあのカリン様がへそ出しホットパンツなんですけど!

 

 アリエネー

 

「2人とも良く似合ってるよ。自分の特性を理解しているよね」

 

 兎に角誉めろ誉めチギレ!

 

「では出発しよう。皆馬車に乗って、ソフィアじゃお願いするね」

 

「分かりました、では出発致します」

 

 

 

 

 ゴトゴトと馬車で揺られる事約二時間程で屋敷が見えてきた。

 

「凄いわね、物見の塔に石塀を巡らし水掘迄有るなんて……」

 

「貴族の邸宅と言うよりは出城か要塞みたい」

 

 女性陣鋭い、僕はトリステインと言う国の治安を信用していない。

 盗賊もそうだが近隣貴族だって怪しいくらいだ。

 

 あの屋敷は敵の早期発見と籠城を可能にしているし脱出には何通りも地下通路を設けている。

 ダミーの気球も用意してある、気球はこの時代でも可能な飛行船だ。

 風任せにしか飛ばないけど囮には使えるだろう。

 実際に空を飛んで逃げてもフライや使い魔などにより撃墜される確率が高い。

 屋敷なんか失ってもエーファ達が生き残る手立てを幾つも用意している。

 本当はこんな人目の無い郊外に建てたくはなかった、周りに察知されずに攻められるから。

 だから過剰な迄に防衛力を高めた。

 

 流石にヴァリエール公爵を通しても他国の貴族に利便の良い土地は売ってくれなかったんだ……

 屋敷の前には信者メイドさんがズラリと列んでいる。

 

 それを見たモンモンが呆然と呟いた……

 

「なにアレあんなに一杯居るの?みな乳がデカいわね……特に奥の4人は別格にデカいわ。

ツアイツは本当に大きいオッパイが好きなのね……」

 

 ルイズとキュルケは吹き出し僕は言い様の無い居心地の悪さを味わった、どうせ僕は巨乳が大好きなオッパイ魔神ですよ!

 

 

 

第19話

 

「さて屋敷に着いた、僕はホストをしたいけど仕事があるので出来ないからルーツィアにお願いするから宜しく。

ソフィアはエーファに色々と教えて貰ってくれ、では昼食の時に会おう」

 

「あら手伝うわよ」

 

「いや幾ら君達でも我が家の機密に触れる問題も有るから悪いけど……」

 

「あら残念……折角ツアイツの働いてる姿が見られると思ったのに」

 

 クスクスと笑いながらレディ達はテラスの方に行った。お茶でも飲んでいて下さい、僕は仕事をするよ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「このお屋敷って華美ではないけど洗練されているわね、機能美っていうのかしら?」

 

「はい、ツアイツ様は建築に造形が深くハーナウ家関連の建物の殆どを監修しています」

 

 このメイドの胸凄いわ。

 

「稼げる男って色んな意味で凄いのね、羨ましいわ」

 

「ツアイツはね子供の頃から色々な事を知っていたわ。演劇、執筆そして既に8歳で普通に大人達に混じって領地経営に参加していたわ」

 

 キュルケが自慢げに教えてくれた、この中では一番古い付き合いだからね。

 

「しかし8歳でって凄いわね、私の8歳の頃って何をしていたかしら?」

 

「「「ルイズ様お帰りなさいませ」」」

 

 はっ?何あの乳軍団?それにお帰りなさいませってどういう意味?

 

「ただいま!皆元気にしてた?私は2cm程また大きくなったわよ」

 

「流石です!私達も努力して成果は上がってます」

 

「ルイズ、その乳軍団と凄く仲が良いみたいだけど彼女達はツアイツの家の者じゃないの?」

 

「ううん。違うわ。お母様がウチからツアイツの所に送り込んだのよ」

 

「はぁ?それって……」

 

 ルイズのお母様ってあの有名な烈風のカリン様よね、それが大量の巨乳メイドをあてがうって……

 ヴァリエール家ってそこまでしてツアイツを取り込みたいの?やはり私が見込んだ以上に有能な婿なんだわ。

 もしかしたら他にも秘密が有るのかも……これは絶対に狙うしかないわね。

 

 あら?2人共急に黙り込んでしまった私を不審な目で見てるわ。

 

「何かアヤシい事考えている目だったけど?」

 

「女の勘がイケナい事を考えているって告げてるんですけど?」

 

「「何か企んでいるなら潰すわよ!」」

 

「いっいやぁねぇ……ただルイズのお母様って有名な烈風のカリン様ですわよね?なんでメイドをそんなに送るのかなーって?」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 こっ、この女やはりツアイツを狙ってるわ。

 

 いくら実家が貧乏だからって一人娘がゲルマニアに嫁げる訳がないでしょ、ここは諭してあげるのが友人として大切な事ね。

 ついでに私と貴女の絶対的な差を思い知り絶望しなさい。

 

「おほん……お母様がツアイツにメイド達を送り込んだのは私が嫁ぐ準備の為よ。

ツアイツはお母様に私をお嫁に貰う許可を得る為に戦いを挑んだわ。

結果負けてしまったけど認められて学院卒業後に挙式になったのよ。

彼女達は先発隊としてツアイツのお世話をしているの、ついでにツアイツはお母様の一番のお気に入りでも有るわ。

もう二年間もウチに泊まりがけで遊び(しごきと言う訓練)に来る家族ぐるみの付き合いよ」

 

 ふふん!

 

 どう?ぐうの音も出ないでしょ?貴女は諦めて指を加えて残念がりなさい。ツアイツは私が貰ったわ。

 

「ルイズ嘘をおっしゃい!」

 

「なっなな何よキュルケ?嘘なんて言ってないわよ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ここは退けないわ、周りがそうだと認めてしまっては不利よ。

 

「何言ってるのルイズ!

メイド達はツアイツの豊胸技術(写本のお陰で)の結果で皆豊かな胸を手に入れ彼を慕って(教祖と崇めて)率先的に彼の元に行ったんでしょ」

 

「ちっ違うわよ!」

 

「それにヴァリエール夫人がツアイツを気に入ってるのは事実だけどエレオノール様もバレバレで気にしているし、貴女が最優先ではないし結婚の許可も降りてないわ」

 

「エレオノール姉様が?そう言えばやたらと話したがるし呑みたがるし絡みたがるし……

ふっ、でもあの未来無き胸では無理ね」

 

「それにね、貴女達は他国の貴族の娘でしょ。ツアイツにはゲルマニア貴族の私が一番お似合いなのよ、貴女達は自分の国の男を探しなさい」

 

「ルイズだってモンモランシだってクラスの男子から言い寄られてるんでしょ?知ってるわよ、それらで妥協しなさいな」

 

「特にモンモランシは、ギーシュから熱いアプローチを受けているのは皆知ってるわよ」

 

「はぁ?ギーシュ?冗談でしょ。人は良さそうだけど嫌よ薔薇男なんて。どう見ても見栄っ張りの浪費家で金銭的感覚は親譲りで見込み無く商才無しじゃないの!」

 

 

「男はね……金よ金なの!

金を稼げない男なんて嫁を貰う資格なんかないの!それだけの才能が有って若くてハンサムで優しくて次期領主なのよ。

他国の貴族がなによ。

このままじゃ国内の金持ち貴族の年の離れたオヤジかジジィの後妻に収まるなんてまっぴらお断り!

まして若い相手を見つけても有能でなければ駄目だし、そんな相手周りには彼しか居ないじゃない。

破産して没落かお家取り潰しになるよりよっぽどマシよ!はぁはぁはぁ……」

 

 うわぁ……凄い本音をぶちまけたわ!でも確かにそうね。

 

 没落中のモンモランシ家の一人娘の婿に同等以上の家格の同世代の貴族はこない。

 立て直す自信と能力の有る男もそうは居ないだろう。

 プライドや世間体を考え国内の格下貴族で有能な者を探しても精々年上か下手したら後妻かもね。

 

 それが分からずに馬鹿にしたりする貴族も沢山いるのがこのトリステインだから。

 

 ツアイツ位有能な者を持ってきて実績を見せつけて立て直せば、元々の有力貴族のモンモランシ家を悪くは言えない。

 更にツアイツはヴァリエール家とも親しい、一人娘でも子供に家督を継がせれば……考えたわね。

 

 あとは乙女心ね。

 

 私だって有能でもオジサマは勘弁だし、ただこの子のツアイツに向ける気持ちは動機が不純だけど本物ね。

 こういうミーハーでなく実を求めるタイプはしつこいのよね……厄介だわ。

 

「お嬢様方お茶とケーキの用意が出来ました」

 

「「「…一旦休戦にしましょう」」」

 

 

 執務室にて

 

 

 メイドに囲まれながら仕事をするのも久々だなぁ、もう十分稼いだから現代感覚だったら引き籠もりニートでもOKなのに。

 しかし前なら可愛い女の子の部下なんか出来なかったけどね。

 

 内政特化メイド4人衆。

 

 右からエーナ・ビーナ・シーナ・デーナ……某ベアトリスさんの取り巻きみたいな名前ですね。

 他の子と違い彼女達は下級貴族の次女以下の子達で本来は上級貴族のヴァリエール家に居たのだがなんの因果か今はウチに居る。

 いくらカリン様の命令とは言え彼女達の実家との調整は大変だったよ。

 でも苦労以上に有能な子達なので満足しています。

 

 

 

 

 

 モンモランシ家との交渉はモンモンの強力な後押しで上手く行くだろう。

 

 グラモン家の方は微妙だ……やはり軍人系の貴族はゲルマニアの貴族に対して隔意が有るな。

 まぁこちらはモンモランシ家と違いどうしても接触したい訳ではないのでゆっくり様子を見よう。

 場合によってはギーシュの力を借りてもいいかな。

 ゼロ戦の解析と転用可能な技術の報告書……

 

 装甲の超々ジェラルミンの安定的な錬金に成功した。

 

 これで強度が有りしかも軽い金属の使用が可能となり断熱材のハニカム構造とかも盛り込んだ耐熱・耐衝撃性能を併せ持つ装甲が出来た。

 車輪やサスペンションも転用し乗り心地の改善に貢献しかなりの高性能馬車が出来上がった。

 これを完全装甲馬車として改造し完成した1台をアルブレヒト3世に献上する。

 今後の顔つなぎと中央への進出の足掛かり程度にはなるだろう。

 これらは色々なグレードを用意し貴族から平民まで需要に合わせた性能の商品化を目指す。

 

「失礼します」

 

 控えめなノックの後に、ナディーネが入ってきた。

 

「昼食の用意が出来ました。今日は来客がいらっしゃいますので4人分を中庭のテラス席に設けています」

 

 普段は皆と一緒に食べるのだが今日はモンモンも居るし仕方ないだろう。

 

「ありがとう。では休憩にしよう」

 

 

 

 

 

 僕は女の戦いが繰り広げられている事も知らずにテラスへと向かった……

 

 

 

第20話

 

 眺めの良いテラスで円卓を4人で囲む、風が適度に吹いて過ごしやすい長閑な昼……

 

「おまたせ、では昼食にしよう。メニューは馴染みが無いのも有るけど東方の料理をアレンジしたものだよ」

 

 サラダは胡麻が有ったので胡麻ドレッシングにして米は品種が違うのかパサパサしてたので魚介と一緒にパエリア風にしてみた。

 主菜はヘルシーにチキンをコンソメで煮込み風にした物でパンにはチーズを乗せた一口サイズの物を用意した。

 飲み物はヨーグルトドリンク、デザートはルイズお勧めのクックベリーパイだ!

 

「あっ私の好物ばかり!でも今日は皆で食べないのね?」

 

「皆って全員居るわよ?他にお客様が居るの?」

 

 モンモンが不思議そうに聞いてくる。

 

「ウチはね、少し変わっているけど手の空いた使用人も全員で集まって食べるんだよ。今日はミスモンモランシが居るから別だけど」

 

「それは……変わっているわね。変わり過ぎているかも……でも何故一緒に食べるの?」

 

「んー?何時からだったかは忘れたしきっと深い意味も無いけどね。

僕はパーティとかは別だけど普段は何時も同じものを皆と一緒に食べてるよ」

 

「ツアイツは良く同じ釜の飯を食べた仲って言うわね。東方の諺か何かなの?」

 

「意味が無いなんて嘘よ、お父様が言っていたわ。

貴方の恐ろしい所はそうやって同じものを食べる事で共通意識を植え付け、また同等に扱ってくれているという連帯感と安心感が芽生え、その忠誠心が強固になるって」

 

「考え過ぎだよ、でも仲間だから自分だけ違う物を用意させるのも大変だし独りで食べるのも寂しいだけだからね」

 

「お父様も最近同じ事をしてるわよ、とは言え亜人退治や盗賊討伐などの野外の時は配下の貴族達と火を囲んで話しながら同じ物を食べるって。

戦場で上の者が下の者と同じ待遇まで降りてくれるのは凄い激励になるって言っていたわ、命の危険を同レベルで捉えてくれてると思うから」

 

「ツェルプストー辺境伯がかい?てかあの人まだ自分で討伐に行くの?駄目じゃん立場考えろよ!」

 

「そうやってお父様に駄目だし出来るのも貴方だけよ、普通言えないわよ?だからお父様は自分の息子の様な貴方を年の離れた友人と皆に言うわ」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 凄いわね、同じ食事をするだけでそんな効果があるなんて信じられないし理解できないわ。

 

 私がメイドと同じ物を食べる……

 

 その発想も無かったしそれで忠誠心が上がるのかしら?でもうちでは実践不可能よ。

 貴族が使用人と同じ扱いを受けるなんて恥としか思えないし……

 これが型に嵌った歴史を重んじるトリステイン貴族と新興だからこそ自由なゲルマニア貴族との差なのね。

 ツアイツの屋敷に行って少しでも学ぼうと思ったけど土台が違うわ。

 これが8歳でヴァリエール公爵やツェルプストー辺境伯と渡り合える事が出来るツアイツの秘密か……

 

 今迄の貴族の考えなんて当てにならない自由な発想と行動力……

 

 これよ!

 

 これ位の能力がないとウチの建て直しなんて夢のまた夢よ、しかしまともに考えて私はトリステイン貴族の一人娘……

 ツアイツはゲルマニアの領地持ちの跡取り息子、普通なら無理な婚姻ね。

 でもこのままではお金持ちのオッサンがそれこそジジイの後妻になってしまうわ。

 同世代で有能な貴族なんて居ないし有力貴族の次男以降を婿に取り実家からの援助を貰う……

 

 どこにそんな実家が金持ちの大貴族がいるのよ。

 

 グラモン家……無理ね援助どころか共倒れよ。

 

「ミスモンモランシ?どうしたの黙り込んで?もしかして使用人と一緒の食事は嫌だった?」

 

 はっ、考え事をしていたらツアイツに心配されてしまったわ。

 

「ううん、それとモンモランシで良いわ。同じ物でも全然平気よ、ただウチと随分違う発想なのでビックリしたの」

 

「そうだ!お願いなんだけど一度ウチの領地に来て様子を見て欲しいの。

ウチは開拓に失敗してから色々問題を抱えてるからツアイツの自由な発想で意見を聞きたいの……お願い!」

 

 両手を組んで涙目で見上げる必殺乙女のお願いポーズをする、駄目押しに胸も肘で寄せて強調するわ。

 

「お願い、ツアイツ」

 

「「駄目よ!泥棒猫が……それは私達が認めないから」」

 

「なっなによ!良いじゃない減るものでもなし……一寸貸してよ」

 

「減るわよ、それに貧乏が染るでしょ?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 こっこれはラグドリアン湖に行く良い口実なのでは?

 でも原作では開始2年前位でアンドバリの指輪は盗まれているはずだが行ってみる価値は有るかな。

 

「提案だけど他国の貴族が領地経営云々に口を出すのは問題だけど、そうモンモランシの領地には有名なラグドリアン湖が有るよね。

 一度行って見たかったんだけど案内して貰いその時にモンモランシと話す分には問題無いよね?」

 

「それで問題ないわ、有難う」

 

「「問題が有るわね、とても大きい問題だわ」」

 

「なっなによ?本人が良いって言ってるのよ、良いじゃない」

 

「「お友達ですもんね、私達も行くわよ。貴女の実家に……文句は無いわよね?」」

 

「なっ……良いわ、ご招待しますわ」

 

「じっじゃ今度の夏休み予定しよう、最初の方は実家に戻るから中旬辺りで調整しようか?」

 

「「「勿論それで良いわ」」」

 

 怖ぇ何をそんなに牽制し合ってるんだか?

 

「さて僕は午後の仕事に行くからもう少し待っていてね。悪いね、招待したのに放っておいて」

 

「「「仕方ないわよ、将来の旦那様の仕事の邪魔はしないわ」」」

 

「そっそれじゃ……ルーツィア後をお願い」

 

「畏まりましたツアイツ様」

 

 殆ど食べ物の味が分からなかった気がする、それにいけないフラグが乱立した気が……しかしモンモンは無理じゃないか?

 勿体無いけど立場的にも跡継ぎ的にも?でも実家思いで経済観念のしっかりした良い娘だし。なによりあの縦ロールは素晴らしい物だ。

 実家の経営の立て直しには助力しよう、さて午後の仕事も頑張ろうかな……

 

 

 

 

 テラスにて

 

「さて……と、午後はどうする?」

 

「お嬢様方、ツアイツ様の今迄に執筆した本が全て書斎に有りますがお読みになりますか?」

 

「あら……良いわね、ルーツィアと言ったわね。ツアイツは男の浪漫本なる本も執筆してるけどそれも有るの?」

 

「禁則事項です……その質問にはツアイツ様の許可が必要です」

 

「つまりは……有るのね?」

 

「禁則事項です……その質問には答えられません」

 

「わかったわ、もう良いわ」

 

「なにキュルケ?その男の浪漫本って?」

 

「最近こそこそと男子共に廻っている怪しげな本の事よ、こんな物は学院中を探してもツアイツ以外に書けないわ。つまりはそう言う事よ……」

 

「ツアイツって本当に多才よね、でも叱っちゃ駄目よ。多分それもツアイツが学院一年男子に君臨する為の布石よ」

 

「それって巷で噂の「メイドの午後」とか「バタフライ伯爵夫人の優雅な一日」みたいなものかな?」

 

「多分それ以上かも、ウチの密偵を根こそぎ裏切らせる程の本よ。

ウチの諜報を何人かツアイツの所に派遣する時にあの本の作者の手助けをしたいって立候補が凄かったって……

頭領自ら行くとか言い出してお母様が呆れて再教育をしていたもの……」

 

「ごくり……ねぇルイズ?」

 

「ええキュルケ……モンモランシも……」

 

「うふふ……もちろんよね……」

 

「「「探すわよ。草の根別けてでも……レッツゴー!」」」

 

 

 

 ……無駄です。

 

 ツアイツ様の男の浪漫本シリーズは全て私達メイド専用の夜伽資料として研究の為に確保しています。

 

 

 

 セーラー服やスク水・体操着(ブルマ)等の特殊衣装や亜人をモチーフとした猫耳やシッポなど数々の装備品を作り上げ絶大な効果を出していますから。

 装着時のツアイツ様の眼はそれこそ……ルーツィアは真っ赤になりながらイヤイヤをしている。

 

 何を思い出しているのかな?

 

 しかしいくら政治的駆け引きの為とは言え貧乳や幼女を扱う本の需要が有るとは本当にツアイツ様以外の男共は度し難い変態です。

 先日秘密裏に会見にきたワルド子爵など最低の部類です。

 

 

 さてダミーをお好きなだけ捜して下さい。

 それなりの写本(全年齢〜15禁)は有りますが原典(18禁)までは辿り着けないでしょうけど……

 

 くすくすくす!

 

 



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第21話から第23話

第22話

 

 現在麗しき巨乳のお嬢様方が書斎を荒らし回っています……

 

「無いわね?キュルケ、モンモランシ、ディテクトマジックはかけているの?」

 

「片っ端からかけているけど反応は無いわ……ねぇ直接聞いたほうが早くない?」

 

「駄目よ!そんな本を欲しがっているなんて知られて良いの?」

 

「お嬢様方、そろそろお帰りの時間になりました、ツアイツ様がロビーでお持ちです」

 

「チッ……タイムアップね……仕方ないから次回また頑張りましょう」

 

「ルーツィア……本当に此処に有るの?」

 

「禁則事項です……その質問にはツアイツ様の許可が必要です」

 

「はいはい、では帰りましょう」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おまたせ」

 

「ん?皆何か疲れてない?」

 

「「「問題ないわ」」」

 

「そっそうかい、それでエーファ学院に戻るがソフィアへの説明は終ったかい?」

 

「はい、全て完了しております。支給品も全て馬車に積み込み終了です」

 

「ソフィアはなにか分からない事は有るかい?大丈夫かな?」

 

「はい、有難う御座います。問題無いです」

 

「では学院に戻ろうか……それじゃ御者をお願いね」

 

「はい、畏まりました」

 

「ツアイツ様、そろそろ暗くなる時間帯ですので護衛を付けさせて頂きます」

 

 見れば馬車の周辺に騎馬武装兵が6騎待機していた。

 

「気が利くな……有難う。確かに御者がソフィアだけだと危険だったね……では出発しよう」

 

「凄いわね、あの屋敷って武装兵までいるのね」

 

「うん、常時20人は詰めているよ。他国の貴族で成功しているからね。恨みや嫌がらせ対策さ。エーファが気を利かせたんだよ。

御者が女性一人の貴族用の馬車なんて襲ってくれって言ってる様なものでしょ。実際襲われても返り討ちできるメンバーだけどね」

 

「確かにスクエアにトライアングルのメイジが1人づつで爆発特化型のメイジまで居るもんね」

 

「それと忘れちゃいけないけど治療の得意な水メイジも居るでしょ?」

 

 モンモンに向かってウィンクをする。

 

「えっ……うん、その……ありがと」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

某ゴールド

 

 このさり気無い優しさがグッとくるのよ、やはり良いわ如何しても欲しいわ。

 

某ピンク

 

 全くタラシじゃないの、このメンバーでドットメイジを持ち上げるなんて……あの縦ロールもウルウルしてるわ。

 

某レッド

 

 女性の扱いが上手いわね、取り返しが付かなくなる前に強引に既成事実に持っていこうかな。

 

金・桃・赤

 

 さっさと喰われて(喰って)おきましょう。そろそろ危ないわ……早い者勝ちを狙うわ。

 

 

「その……なんて言うか……そのハンターの目は止めて貰えるかな?凄く怖いんだけど……」

 

 

 

某ゴールド

 

「ふふふっ……安心して痛くしないから……」

 

某ピンク

 

「そうよ最初だけよ怖いのは……」

 

某レッド

 

「いやよいやよも好きのうち……よね?」

 

金・桃・赤

 

「大丈夫、天井のシミを数える内に終るから……」

 

 

「何言ってんの女の子がー!」

 

「くすくすくす……勿論冗談よね?ルイズ?」

 

「くすくすくす……当然冗談よ。ねぇキュルケ?」

 

「くすくすくす……勿論安心して。私達ツアイツ以外にはそんな事はしないから……」

 

「……戻ったら皆で一度O・HA・NA・SHIしましょう。誰が一番目かを……」

 

「そうね……貴女達にどれだけの耐熱性能が有るか試してあげるわ」

 

「あら?爆発の衝撃も結構キツイわよ」

 

「それなら口に入れるもの全てを警戒しないと私には勝てなくてよ」

 

 

 会話さえ聞かなければ美少女達の微笑ましい会話風景なんだが……怖い。

 

「その……僕も警戒の為に御者席に行くよ……賊が攻めてきたら大変だからね……じっじゃあ外に居るね」

 

「「「くすくすくす、大丈夫よ。そんなに警戒しなくても……今は未だ襲わないから……」」」

 

「いっいや賊を警戒してるんだよ……大丈夫!賊には指一本触れさせないから……ね?」

 

「「「指一本じゃなくて両手で一杯触れても構わないのに……ねぇ?」」」

 

 

 ツアイツは外に飛び出して御者席に座り周囲の賊と馬車の中を両方警戒しなければならず学院に戻った時は疲労がピークになった!

 ソフィアと護衛の者達は主人が何をそこまで警戒しているのか不思議がっていたが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だろう今日の彼女達は、狼の前の兎の気分だった。今夜は部屋に居ては危険な気がする、そうだ他の部屋に泊まろう。

 

 しかし誰の部屋が……ギーシュ・マリコヌル・ヴィリエ……レイナール・ギムリ……

 

 駄目だ!誰も危険な気がする。まさか男子寮に押しかけては来ないと思うが?

 いや彼女達を甘く見るのは危険というか愚かな行為だ。ふっと机を見るとゼロ戦の技術解析報告書が目に入った……

 

 これだ!

 

 そんなに接点がないから彼女達も盲点だろう。コルベール先生自体はこの技術書と研究の感想などを話せば喰いつくハズ。

 

 よし!

 

 夕飯の後に研究室にお邪魔しよう、ソフィアは早めに部屋に戻そう。巻き込まれたら可哀想だしね。

 そして深夜に男子寮が謎の火災と爆発音と異臭騒ぎが有ったがコルベールの研究室のソファーで眠っていたツアイツは知らなかった。

 

 

 

 アルヴィーズの食堂にて

 

 

 

「あれ?どうしたの?皆傷だらけじゃない?」

 

 新モテナイーズのメンバーは負傷している。

 

「「「金桃赤の悪魔が…「おはようツアイツ」……ナッナンデモナインダ……キニシナイデクレ?」」」

 

 そのままバラバラと席を離れて行った、あのマリコヌルが朝食を残すだって!

 

「「「ねぇツアイツ?昨晩は何処に居たの?」」」

 

 左右と正面の席を陣取られ花の様な笑顔で女性陣が話しかけてきた。

 

「外面如菩薩内面如夜叉」

 

 昔の人は良く言ったものだ、だが嘘を付くときは平常心を保つ事が大事なんだ。

 

「昨夜は気になっていた技術報告書についてコルベール先生に相談したんだけど話が盛り上がっちゃって気付いたら研究室のソファーで寝てたんだ。お陰で体中が痛いよ」

 

「「「そうなんだ。でも無茶はしないでね、今日は早めに自室で寝た方が良いわよ」」」

 

「……そうだね、有難う、早めに休むよ。」

 

 駄目だ諦めてない、今夜はギトー先生を煽てて部屋に潜り込もう……

 その次はオールドオスマンに18禁本で……

 そうして暫くツアイツは教師陣や学院関係者の部屋を泊まり歩き友好関係を深めていった。

 

 

 

 SIDE女性陣

 

 

 

某ゴールド

 

「駄目ね、完全に疑われているわ」

 

某ビンク

 

「まったく往生際が悪いわよね……でもリスク回避能力が高いって事よね」

 

某レッド

 

「無駄に性能が高いのも考えものね、全然此方の思うように逝かないわ」

 

某ゴールド

 

「暫くは今まで通りに接しましょう……油断したら襲い掛かる……良いわね」

 

某ピンク

 

「そうね、仕方ないけどそうしましょう。しかしいつの間にか3人で分け分けになっているわね」

 

某レッド

 

「仕方ないわ、ツアイツは1人の女性で満足出来ないでしょうし知らない女と浮気されるよりはマシよ。

大切なのは順番よ!それに3人で警戒した方が確実に他の女を弾けるわ!」

 

某ゴールド

 

「男の甲斐性は有り余ってるしそろそろ他の女狐が動き出しそうよね」

 

某ピンク

 

「あんたは良く私達2人が居るのに積極的にアプローチしてきたわよね?」

 

某レッド

 

「本当に見栄とプライドのトリステイン貴族なのに、ゲルマニアのツアイツに目を付けるなんて……」

 

某ゴールド

 

「まぁ……ね。正直最初は結構打算的な部分が有ったけどね」

 

桃&赤

 

「「で、どの辺に惚れたの?」」

 

某ゴールド

 

「無意識の優しさとか年齢に合わない大人っぽさとか……キャ!」

 

 

美少女達の恋バナは続いていく……

 

 頑張れツアイツ君!でも皆巨乳美人だから問題ないだろ!

 

 

 

第22話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 本当に久し振りに自分のベッドで目が覚めました。二週間に渡る放浪の日々……やっと諦めてくれたみたいだ。

 男性教師陣の後はマルトーさんや宝物庫の当直室にまで推し掛けて難を逃れたが…… 流石に露骨に避けていたのを理解したのか諦めてくれた。

 

 ゲルマニアvsトリステイン!

 

 ドキドキ2国間4P!は色んな意味で不味いだろう。どうみても1vs3の変則マッチだ。

 それに最終的には頂くにしても最初はもっと普通に経験させたい、いきなり複数プレイは教育上宜しくない。

 物事には段階を踏む楽しさも有る筈だ。それに受身では今後の夫婦生活にも影響が出てしまう。

 

 尻に敷かれる結婚生活ではティファニアの件も有るから BAD END だよね。

 

 しかし女生徒が男子寮に堂々と侵入出来る警備体制って実際どうなのよ?

 貴族の子女を預かる学院として大問題だろう……危うく出来ちゃった学生結婚になる所だった。

 

 警備体制についてオールドオスマンに進言したら逆パターンの警備は万全だそうだ……

 それだけこの国の貴族の男は信用されてないって事だよね?

 

 

 この二週間は本当に忙しかった、まさかロングビルさんからあんな相談をされるとは……

 でも対策の目処はたったからティファニアの保護は問題無い。

 

 

 もう何日かすれば全員ウエストウッドより脱出が完了するだろう。

 そしてワルド子爵の方も何度か会見して取り込みに成功した。

 とは言え仕える相手はハーナウ家で有り父上の下になるがこちらも問題無いだろう。

 

 詳細はダブるから省くが概ね「マチルダ&ティファニアルート」を参考にして欲しい。

 みんな大好きワルドさんも挿話の通りの内容になっている……

 

 ※流石に自作とは言えコピペは不味いのでリンクしてるのだと納得して下さい。

 

 

 

 そして今日は上級生の使い魔のお披露目としてワルド子爵が学院にくる予定になっている。

 これはワルド本人から事前に連絡が有った。要は男の浪漫本を用意しておけ……そう言う事だね。

 

 そして原作でも?

 

 当日に知らされた様に今回も事前に学院には連絡が行ってない様だ、警備上の問題で当日にルートを知らせると言う事かな?

 やはりと言うかギトー先生の授業中にコルベール先生がカツラを被り乱入してきた。

 

 お約束の如くズレるズラ!

 

 タバサさんの毒舌でクラスが笑いで沸いた後、正装して迎える準備をしている。

 今回の主役たる二年生が先頭に立ち我々一年生は後ろに並んでいる。

 

 タバサさんはやはりと言うか大きい杖を持ち本を読んでいる。

 

 僕とキュルケのゲルマニア組も後ろの方でのんびりと世間話中……

 ルイズは仲良くなったトリステイン貴族の女子達と神妙な表情で姫様ご一行を待っているね。

 

「ねぇツアイツ、アンリエッタ王女ってどう思う?」

 

「ん?そうだね……国民受けする操り人形だね、立場と心構えがアンバランスだと思うよ」

 

「辛辣ね、貴方好みの胸を持つ王女様らしいわよ?」

 

「うーん?どうだろう……何故か食指が動かないと言うか、自分でも不思議だけど余り関わりたくない気がするんだ。」

 

「ご自慢のリスク回避能力なの?」

 

「何それ?」

 

「ううん。良いわ気にしないで……」

 

 何だろう?第六感?シックスセンスの事か?ブルースウィルスって事?

 

 などと駄弁って居るとペリッソンとスティックスが凄い目で睨んできた。

 そう言えばこいつ等の対応も考えないといけないんだっけ……問題は山積みだ……

 

 ふぅ。

 

 先頭の白馬に跨ったワルド子爵にキャーキャーと黄色い声が飛ぶ。

 確かにこうして見ればイケメンのエリート貴族だし魔法衛士隊は貴族男子の憧れの職業で彼はその隊長だ。

 続いてアンエリッタ王女を乗せたユニコーンに引かれた馬車が来てそこらか降りた王女には主に男性側から歓声があがる。

 なる程人気は高いみたいだ。

 

 確かに可憐な美少女だが……

 

 ピキューン!

 

 僕のバストスカウターが反応した、あの胸は微妙にパットで底上げしている。

 

 これか!

 

 貧でも巨でもない中途半端な胸の持ち主アンリエッタ王女……なっなんて微妙なんだ。

 それともあと一年で急激に大きくなるのか?

 ツアイツ巨乳帝国の巨乳判定はEカップ以上でトップとアンダーの差は20cm以上と厳しく取り決めている。

 この中途半端さは頂けない、ルイズ経由で写本を流してみるか?

 

 しかしパット装備とは本人も巨乳を求めて……

 

「ツアイツ、ツアイツったら……」

 

「ん?すまない考え事をしていたんだ。ごめん。で、何かな?」

 

「なによアンリエッタ王女の事を酷評したと思ったら本人をみたらジッと胸を凝視して心ここに有らずって感じだったわよ」

 

「ん……いや微妙な違和感を感じただけで問題は無いよ……」

 

 まさか僕のバストスカウターが偽乳を捕らえたなんて騒ぎ出したら不敬罪になってしまうよ。

 などと話していたらアンリエッタ王女はオールドオスマンに案内され学院の中に入っていった。

 そして警備を学院側に引渡したワルド子爵が近付いてきた。

 

「本日はご苦労様ですワルド子爵」

 

 思わぬ有名人との会話に周辺の注意が集まる。

 

「ツアイツ先生こそお疲れ様です、どうですか例(新作&新刊の執筆)の件は?」

 

「問題無く(執筆は)進んでますよ」

 

 ザワザワと周りが騒がしくなってきたぞ。

 

「先生?グリフォン隊の隊長に先生呼ばわりだと……」

 

 ザワザワ……

 

「なんで他国の貴族がトリステインの魔法衛士隊隊長と仲が良いんだ?」

 

「そうですか、それは良かった。では後程、部屋の方にお邪魔させて貰いますので……失礼します」

 

 ザワザワ……

 

「敬語?しかも部屋に遊びに行くって?」

 

 ザワザワ……

 

「一体どんな関係なんだ、どう見ても子爵の方が腰が低かったぞ」

 

「ツアイツ……もしかしてトリステインの乗っ取りとか計画していない?」

 

「ばっ馬鹿言ってないでよ、ワルド子爵は僕の作品のファンなだけで深い意味は……」

 

「そう……で、どっちのかな?」

 

「どっちって?」

 

「「「ペンは杖よりも強し……貴方が学院一年に君臨する為の布石の本を流したのね?」」」

 

 気が付けば三人娘に取り囲まれていた……

 

「そっそんな訳ないよ。じゃ僕は部屋を片付けておくかな……じゃじゃね?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「おい、どうする?なんかヤバイ展開だぞ?」

 

「そうだな……早めに潰さないと不味いかも知れないな」

 

「他の奴らにも声を掛けよう」

 

「しかし魔法衛士隊隊長がバックについている相手に行動を起こせるのか?」

 

「でもこのままでは……ジリ貧だ」

 

「一年生は完全に奴の支配化だし教師陣とも個人的に仲が良いらしい。弟が一年生にいる一部の奴らも取り込まれ始めているぞ」

 

「もはや一刻の猶予も無いな……パーティーまでは待てない、例のプランでいこう」

 

 

 

 微妙な二人の微妙な悪巧みが発動する……

 

 

 

第23話

 

 

 みんな大好きタバサさん活躍する?

 

 タバサは自室のベッドに小さな体を投げ出して天井を見詰めながら悩んでいた。

 少し前にイザベラからゲルマニア貴族のハーナウ家次期当主について調べる様に指令が来た。

 私と違い大勢の仲間に囲まれている男……

 

 烈風のカリンの愛弟子、長きに渡るツェルプストーとヴァリエールの仲を取り持った中心人物、数々の物語を執筆する作者。

 私も彼の作品は全て読んだし何冊かはイザベラにも送った、もっと寄越せと言われた。

 

 実際改めて調べてみると学生にしてはかなりの功績だ!

 

 寝返りをして俯せになり足をブラブラさせながら更に考える。

 

 しかし……

 

 求められたのは裏の功績を調べ可能ならサンプルも持ち出す事だった。

 これはジョセフからも強く言われたらしくイザベラの機嫌も悪かった。

 そして漸く手掛かりを掴んだ、曰く洗脳本を執筆出来るらしい。

 

 書物で人の心を操れるらしい……どう言う事なのか?

 

 お母様の病も治せる事が出来るのか知りたい。

 しかしその洗脳本とは一年生男子にしか廻ってなく口下手な私では情報収集も満足に出来なかった。

 漸く話し掛けても異常な位に皆が警戒し口が固いのだ、この手の情報収集の場合、直接本人に問い質すのは下策。

 十分に情報を集めて最後に接触する、しかし情報はゼロに近い。

 

 

 

 僅かに「マルチ……はぁはぁ」とか「モエ?燃え?」とか専門用語が飛び交うだけで意味が分からない。

 

 そしてそう言う情報を漏らす男達の表情は……一様に気持ち悪い、これが洗脳効果なのだろうか?

 更に悩み続けていた時に先方から接触が有った……手紙には余人を交えず話がしたいと書いてある。

 

 これは此方が調べているのを察知されて先手を打たれたのか?しかし恋文とも思える内容だ。

 思わずベッドの上で立ち上がる、これはチャンスだ!

 

 上手く交渉すれば情報を引き出せるかもしれないしお母様の治療の手伝いをしてくれるかもしれない。

 だが交渉するにしろ何か相手の欲しがる物が必要だろう、そして下を向いて見る……

 

 ストンとしてつま先まで見える起伏の無い平らな胸……心に絶望が広がる。

 

 彼は巨乳好きを公言するオッパイ魔神、そして自分は対極の存在。

 協力を取り付けるのは無理だ、しかし接触してきたなら何らかのアクションが有る筈。

 取り合えず指定の時間に待ち合わせ場所に行ってみよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ワルド子爵が来るという事で男子寮は大騒ぎになっていた、現役の衛士隊隊長が来るのだ。

 女性は流石に立入り禁止だがモテナイーズ達は部屋に押し掛けてきて五月蝿い。

 どう言っても部屋から出て行かないので諦めた……そしてワルド子爵が尋ねてきた。

 

「ツアイツ殿失礼するぞ」

 

 ワルド殿は部屋に居たギーシュ達に驚いたが流石は隊長迄登り詰めた人物!

 

 彼らの質問にも模範解答で対応し逆に貴族とは男とは何たるかを説きそして彼らは感動して部屋から去っていった、流石としか言えない対応だ。

 

「さてツアイツ殿、邪魔者は追いやった、早速例のブツをみせてくれ」

 

 目を血走しらせ迫ってくるこの変態と先程の貴族の見本という様な人物が同一人物なのか?

 

「えーと……貴方は一文字を変えれば本当に有能ですよね、残念です」

 

「貧と巨かい?それはお互い様だろう、君こそ一文字違えば仕えても良いと思う相手だぞ」

 

「それは……有難う御座います。ではこれらが学院で廻している作品です」

 

「でっでは失礼して……ごくり……これは!」

 

「ツ……ツアイツ先生この「はなまる幼稚園」の幼稚園とはどういう学び舎なのですか?」

 

「ああ……それはワルまで書いた学院に入る前の段階で学ぶ場所ですよ」

 

「そっそうですか……こっこの「TO HEART」に出てくるメイドロボとは?」

 

「ああ……それは可愛い女性版のゴーレムですよ。ボケが基本装備の……」

 

「アオイちゃん72cmとリオちゃんの70cmとHMX-12マルチちゃんは68cmだと……ごくりこの挿絵は……ブハッ!」

 

「あっすいません。それ18禁本だった……ワルド殿、平気ですか?」

 

「ハッハッハ全然ダイジョウブダヨ……ソノ18禁本トハホカニモアルノカナ?」

 

「そうですね……後はそれの続編とか有りますよ……はいコレ」

 

「コノミちゃん74cmにサンゴちゃん76cmにミソラちゃん79cmだと……この子達も挿絵が……プッハー!」

 

「ワルド殿……はいテッシュです。」

 

「すっすまない。これは随分と柔らかい紙だね。どうするんだい?」

 

「取り敢えず丸めて鼻に詰めて止血して下さい。後はですね……」

 

「ちょちょっと待ってくれ刺激が強すぎだ。それに一度に全ては頭がパンクする」

 

「そうですか?まだまだ有りますけど……」

 

「えっ……あっあとどれ位有るんだい?」

 

「この棚のココからココ迄ですね」

 

「ツアイツ先生……これ程の貴重な作品をこんな気軽に置いておくなんて問題ですぞ」

 

「そうですか?でも他の生徒達も見に来ますから貸し出ししている分も合わせればもう少し有りますよ。

こちらの2冊は差し上げますが残りは他にも見せていますので……」

 

「そうですな。全てを独り占めだと闇討ちされますね……しかし……残念だ」

 

 指をくわえて物欲しそうに本棚を見つめるワルド殿。

 

「もし良ければ全部持って偏在してみてはでどうです?偏在が消えれば無くなりますがまた借りに来れば良いでしょう?」

 

「たっ確かにそれならこの本全てが我が手に……」

 

 ワルド殿は偏在を2体だし計2冊ずつのコピーを作ると閲覧用と保存用として先にフライで帰らせた。

 

「ツアイツ先生!凄い有意義な時間でした。暫くはいえ当分の間はこの作品群で生きて逝けます。では何か有れば何なりと申し付けて下さい」

 

 ワルド殿は一礼して満足そうに帰って行った、しかし……まだまだウブよのう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふぅ凄い収穫だ、「ワルま」は僕が主人公そして「TO HEART1・2」は18禁本……そして偏在に持たせた多種多様な作品群!

 

 嗚呼…本の海に溺れたいが公務をしなければ……面倒臭ぇな。

 

「アンリエッタ姫そろそろ時間です、会場の方にいらして下さい」

 

「あらワルド隊長、どうでしたか久し振りに許婚とお話出来ましたか?」

 

「はぁ?許婚ですか?違います友人の所に行っておりました」

 

「まぁ!ルイズが悲しみますわよ。許嫁を友人などと呼んでは……」

 

「誤解が有るようですが私とミスルイズの婚約は口約束でしたしとうに解消しております」

 

「そうなのですか!ルイズとは幼少の頃以来会っていませんでしたので……すみませんでしたワルド隊長」

 

「いえ……お気になさらずに。さぁ会場の方に、皆がアンリエッタ姫をお待ちです」

 

「わかりました、でも気になります。ワルド隊長程の人物が尋ねる相手とは?」

 

「ツアイツ先生ですよ」

 

「は?先生ですか?生徒の部屋に伺ったと聞いてますが?」

 

「さぁ時間が有りません。急いで下さい」

 

 

 全くこの中途半端な胸の姫は立場もオツムも中途半端だな、しっかりして欲しいものだ。

 貴女が必死で底上げして隠している胸の秘密は我がバストスカウターで既に感知してますよ。

 

 微妙胸のアンリエッタ姫……

 



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第24話から第26話

第24話

 

 使い魔の品評会

 

 つまらん、碌な使い魔は居ないな。まぁ学生だしこの国のボンボン貴族などこの程度だろうな。

 しかし流石は王家の血筋か……こんな退屈な物をさも嬉しそうに見ているわ。

 

 全く早く城に送り返して本の海に溺れたいものだ……

 

「ワルド隊長」

 

「はっ!何でしょうかアンリエッタ姫」

 

「ワルド隊長から見てどのお方が優秀でしたか?」

 

「そうですね……4番目の……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先程ワルド隊長の言ったツアイツ先生……ツアイツ・フォン・ハーナウ!ゲルマニアからの留学生。

 

 噂のバストアッパー・巨乳の担い手・そして献上された数々の物語の作者の事では? これはチャンスよ。

 今夜ルイズの部屋に伺い彼との橋渡しをして貰いましょう。

 この中途半端な胸を改善し愛しのウェールズ様のお心をガッチリキャッチしたいのです。

 

 ラグドリアン湖で受けた屈辱……わざと水浴び姿を見せて襲わせようと仕向けたのにもう少し胸が有れば良かったのになどと……

 何としてもツアイツ殿には協力を仰ぎたいのですが彼はゲルマニアの貴族、そして私はトリステインの王女。

 

 この胸はトリステインの最重要機密。

 

 へたに密会などと疑いを賭けられてはウェールズ様に合わせる顔が無くなります。

 これは慎重な対応と高度な政治的駆け引きが必要なのです。

 

「……の3組が最も優れていたと思いますが。姫?アンリエッタ姫?」

 

「アンリエッタ姫、どうかされましたか?」

 

「いえ、ワルド隊長流石ですね。私もそう考えていました。彼らを前に……褒美を取らせたいと思います」

 

 選ばれた者の中にはペリッソンとスティックスも入っていた、彼らも其れなりに優秀なのだ。

 

 

 

 応接室にて

 

 

 

「アンリエッタ姫、お疲れ様でした。暫し休まれてから王宮に戻りましょう」

 

「それが……ワルド隊長、私少し気分が優れませんの、今夜はこの学院に滞在したいのですが」

 

「駄目です」

 

「多分疲れもあると思うのですが……」

 

「駄目です」

 

「ワルド隊長お願いします」

 

「駄目です」

 

「まぁまぁワルド殿。アンリエッタ姫もこう仰っている訳ですし今夜はこの学院に滞在なされてはどうじゃな?」

 

「しかし王宮には……」

 

「王宮には使いを出せば大丈夫じゃろ。それにアンリエッタ姫が夕食会に参加してくれると生徒も喜ぶはずじゃ」

 

「くっ仕方が無い……しかし警備の方は我々に主導権を頂きますぞ」

 

「構いませんぞ。しかし噂に違わずの忠誠心ですな、アンリエッタ姫も鼻が高いでしょうぞ」

 

「ワルド隊長すみません。我が侭を言ってしまって……」

 

「いえ、これも仕事ですから……では学院の警備隊長と打合せをしたいので失礼します」

 

「真面目ですな。なにこの学院には大勢の魔法使いが詰めているのじゃ。賊など入らんよ」

 

「……失礼します」

 

「怒らせてしまったのでしょうかオールドオスマン?」

 

「いや……彼は任務に忠実なのでしょう。ぐふふ白……か、それもまた良しじゃ」

 

「あら?可愛いネズミですね」

 

「さて……どこから入ってきたのじゃ?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 全く我が侭な姫め。何を企んでいるのだ……おや?あそこに座って本を読んでいる美少女は……

 

「失礼!お嬢さんも本がお好きなのですか?」

 

「……」

 

「何を読んでいるのですか?」

 

「……ん」

 

「こっこれは「恋愛の方程式 男の子に好かれるためには」だと!」

 

「……そう」

 

「失礼、リトルレディには意中の人が居るのですね?」

 

「違う……彼は……」

 

「でも貴女は好きなのですね?」

 

「……分からない」

 

「何故です?」

 

「……手紙を貰った……会いたいと……でも……」

 

「でも?」

 

「……私は彼の好みではない……と思う」

 

「そんな事は無い、貴女は凡百な華より美しい」

 

「……ありがと」

 

「貴女に其処まで思われる相手が羨ましい。何時会うので?」

 

「……今夜外で」

 

「なっ女性との密会に夜で外だと……駄目です罠ですよ」

 

「……罠?何故?」

 

「男は狼なのです危険ですよ!」

 

「……貴方も?」

 

「そうです……いや……いえ違いますよ」

 

「……そう」

 

「私も同行します。貴女1人では危険だ」

 

「……だめ」

 

「何故です?」

 

「……彼の真意を知りたい」

 

「しかし襲われたら危険だ!」

 

「……大丈夫」

 

「しかし……」

 

「……ありがと、心配してくれて。でも平気」

 

 かっ可憐だ……しかもクーデレ?情報を集めよう……アンリエッタの警備?知らんわそんなもん。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 と、いう訳なのだツアイツ殿。彼女の情報が知りたい。

 

「いや貴方のロマンスを語られても全く分かりません。せめて特徴を教えて下さい」

 

「クーデレでチッパイでロリ……あと蒼い髪の眼鏡っ子だ!」

 

「えっ?ミスタバサかな?大きい杖を持っていた?」

 

「そうだ持っていた!そうかタバサと言うのか……してファミリーネームは?」

 

「いえ……訳ありかタバサのみしか名乗らずそれも多分偽名だと思います」

 

「うん!決めた嫁にするぞ」

 

「いや問題が……」

 

「有るだろうね。蒼い髪……ガリアの王家の関係者だろう。あからさまな偽名に名乗れぬ家名とあの年齢を総合し考えれば……」

 

「「シャルロット姫殿下……だね(な)」」

 

「何だ。知っていたのか?流石だな。

私は王家に仕える身なので他国の王族の情報も叩き込まれているのだが……君にしては全く趣味じゃない相手だろう?」

 

「いや……果たし状を貰ってね……本人から」

 

「何時?何処で?」

 

「今夜、場所はヴェストリの広場で……ほら手紙」

 

「彼女は君から手紙を貰ったと言っていた……キナ臭いな。本当に罠だったとは」

 

「本当にとは?」

 

「決まっているだろう。もし邪な気持ちで彼女を呼び出した輩なら……相手が君でも抹殺するつもりだった」

 

「ヤベェ!本気と書いてマジな目だ……」

 

 

 

 

第24話

 

 ヴェストリの広場の近くに隠れる、ペリッソン&スティックス。

 

「結局僕らだけだな」

 

「ああ……軟弱者達め!」

 

「しかし……来るかな?奴ら?」

 

「わからん?しかし上手く行けば大失態だろう……あのタバサって子の髪の色は蒼……つまりはガリア王家の縁者」

 

「そして両人が来た時に僕達が発見し騒ぎ出す」

 

「トリステイン国内でゲルマニアの貴族とガリアの王族の縁者と深夜に密会……これはスキャンダルだ」

 

「女の方は恋文風に男の方は果たし状……くくくっ最初の台詞は何だろうな?」

 

 

「「多分だが命乞いだと思うぞ……」」

 

「「えっ?」」

 

 

 振り返ると既に杖を構えたワルドとツアイツが居た!何故バレたんだ?

 

「風使いは気配を探るのは簡単なんだよ」

 

「大地に立っている限り土メイジなら察知出来るんですよ」

 

「「さて、お前達2人だけか?ブリミル様にお祈りは済ませたかな?ションベンは平気かい?命乞いの言葉は考えたかな……」」

 

「「準備?ちょっと待って……」」

 

「聞く気は無いな……では死ね、屑が!」

 

「ちょ……駄目ですってワルド殿!そのライトニングクラウドでは本当に死んでしまいます」

 

「離せ……ツアイツ殿離してくれ……僕のタバサ殿を罠に嵌めた奴を殺す……今直ぐここで……僕が彼女を守ってみせる」

 

「ちっ……逃げろお前ら!本当に殺されるぞ」

 

「……エアハンマー」

 

 振り返ると何故かおめかしして杖を構えていたタバサが居た、ほんのりと頬を赤く染めている。

 

「ミスタバサ……どうして?」

 

「話は風が教えてくれた……罠に嵌められるところだった」

 

「ダバサ殿……すみません。内々に処理をする心算が……」

 

「……いい」

 

「こいつ等2人の処罰は僕が必ずしておきますから安心して下さい」

 

「……何故?助けたの?」

 

「ワルド殿はミスタバサの事が好きなんだって!だからこいつ等が許せなかったんだ。

 僕の所に君からの偽の果たし状が来てね、罠だと分からなかったらそれこそ君に助太刀していた筈だよ」

 

「ちっ違わないけど違います!ツアイツ殿なにを……」

 

「……そう……あっありがと……じゃ」

 

 ミスタバサは真っ赤になってフライで闇の空の中に飛んで行った……

 

「追わないので?ワルド殿……ワルド殿?」

 

「ツアイツ先生……アレがクーデレのデレなのですね……良い……萌える……萌えるゾー!」

 

「さっさと追わんかボケー!」

 

 ワルドのケツを蹴っ飛ばしタバサを追わせる。ワルド×タバサって……今までに無いよね?

 

 

 このカップリングは……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 まだ心臓がバクバクいってる!

 

 僕のタバサ……守ってみせる……下心を持って心配した様に接してくる貴族はいた。

 

 ジョセフを倒す旗頭として必要だと、でも彼の言葉には純粋な気遣いだけだ。

 お父様が殺されてお母様の心が壊されてから……初めて聞いた……優しい言葉。

 でもあの人はトリステインの魔法衛士隊の隊長……私は汚れ役の北花壇騎士団の7号……

 そしてあの2人を裏切らなくてはならない……これ以上関わると裏切れなくなってしまう……

 

 でも任務だから……せめて任務中は……思わず逃げてしまったけど一度ちゃんと話し合おう。

 

 

 

 男子寮ツアイツの部屋

 

「それで?捕まえられなかった……と?」

 

「面目ない……」

 

「しかし……実際どうします?彼女はガリアの王族……しかも不名誉印を刻まれた家」

 

「そして秘密を抱えているな。彼女の雰囲気には……殺伐として生きるか死ぬかの経験のある目をしていた」

 

「そこまで分かるのですか?」

 

「そうだ。しかも復讐者の目だ!一時期の……サムエル殿に会うまでの僕と同じ復讐を誓った者の目だ」

 

「つまり……ジョセフ王に対して復讐を?」

 

「そうだろう。父親を毒殺され母親が軟禁されている筈だ」

 

「どうします?ハーナウ家次期当主としてはガリアに喧嘩を売るのは避けたいんですが……」

 

「そうだな。大国ガリアに歯向かうのは愚か者のする事だ……だが……しかし……僕は……どうしても彼女を助けたい!」

 

 密談中にノックだと、ドアの外には居ないが誰だったんだ?

 

「はっ誰だ!……ミスタバサ?」

 

 窓の外にはタバサがフライで浮いていた!

 

「……部屋に入れて欲しい」

 

 僕らはタバサを部屋に招いた。

 

「ツアイツ殿魔法をかけさせてくれ……大事な話になる」

 

 頷くと、ワルド殿はディテクトマジックにロックを丁寧に重ねがけし念の為遍在を作りドアと窓の近くに立たせる念の入れようだ。

 

「聞こえた。私の正体も知られている」

 

「そうだね。多かれ少なかれ王家の情報は流れる……そしてガリア王家の特徴的な髪の色の持ち主も限られた人数しか居ない。後は消去法だ」

 

「想像の通り私の本名はシャルロット・エレーヌ・オルレアン……」

 

「やはり……でもどうしてこの学院に?」

 

「仕事……ジョセフから北花壇騎士団に任命されている。その7号が私。今回の任務は……ハーナウ家の次期当主の素性を調べ裏の功績を調べる事」

 

「裏の功績?」

 

「聞けば洗脳効果のある書籍を執筆出来ると」

 

「凄いなツアイツ殿!そんな物騒なマジックアイテムまで作れるのかい?」

 

「いや全く?」

 

「嘘……一年男子に出回っている本だと思う。読んだ者は貴方に好意的になる不思議な本……」

 

 

アイコンタクト発動

 

 

「ワルド殿 TO HEART は今どこに?」

 

「すまん僕の胸に……有る」

 

「不味いぞ誤魔化さないと女性に見せる本じゃない」

 

「しかし今更何処かにしまう訳にもいかないぞ」

 

「僕はバレても知らないぞ!其れはもうワルド殿の本だ」

 

「きっ汚いぞ一人だけ助かるつもりか?」

 

「うん。ワルま第2巻読みたいよね?」

 

「キッキッタネーそれは汚いぞ!」

 

 

この間約2秒

 

 

「どうしたの?」

 

 

「いや何でもないよ。その本とは……」

 

「ツアイツ殿遍在が此方に近付く人物を確認した……ルイズと黒いマントの人物だ」

 

「なっ?取り敢えずワルド殿とミスタバサは窓から外へ逃げてくれ……話はまた後で!」

 

「分かった……とぅ!」

 

 ワルド殿はミスタバサをお姫様抱っこして窓から飛び出した。

 

 方や復讐を諦めて貧乳に走った男……

 

 方や今だ両親の復讐に燃える少女……

 

 どうなるのか?僕はこれからの2人の前途多難な……

 

「いや……離して……エッチ……バカー!」

 

 えっ?まさか劣情を抑えられずタバサに襲いかかったのか?

 急いで窓の下を見るとワルド殿がお姫様抱っこしたまま立っていてミスタバサの手には「TO HEART」が握られていた。

 そしてワルド殿のほっぺたには真っ赤なモミジが……あれ程隠せと言ったのに見られてしまったのか……

 

 哀れな。

 

 あっミスタバサが真っ赤になって逃げ出した!しかし両手にTO HEARTを2冊共持っている。

 

 そうか……

 

 彼女はミッションをクリアしワルド殿は振られた。と言う事だな。

 僕はそっと窓を閉め鍵を掛けカーテンを閉めた。

 

 これから来るだろうルイズと黒マント(多分アンリエッタ姫)を迎える為に……

 外からは男の号泣が聞こえるがそれはサイレントを掛けて頭の隅に追いやった。

 惚れてから僅か一日で振られたワルド殿に心の中で合掌しながら。

 

 美少女にエロ本見せれば普通に振られるわな……

 

 変態のレッテルを貼られるかもしれないがミスタバサは言い触らしたりはしないだろう。

 まぁバレても僕らは本当に変態だし覚悟完了だから仕方ないか……

 それに今更本名で著書だしてるから知る人ぞ知るってか!

 

 

 

第26話

 

 

 少し前のルイズの部屋

 

 パジャマ姿のルイズとキュルケがベットに寝っ転がりながら駄弁っている。

 

「ねぇルイズ。貴方アンリエッタ姫と面識が有るの?随分真剣に見ていたじゃない?」

 

「んー小さい頃に遊び相手として何度か王宮に行った事が有るのよ」

 

「それにしては随分真剣な表情であのお姫様を見ていたじゃない」

 

「んー何か昔会った姫様と違和感を感じたのよ……こう。小骨が喉の奥に引っ掛かっているというか何というかそんな感じの?」

 

「何で最後が疑問系なのよ?」

 

「気になるけど其処まで気にしない……みたいな」

 

「自国の姫様に向かって酷いわね。でもツアイツも昼間アンリエッタ姫を見て違和感がどうとか言っていたわよ」

 

「ツアイツが?変ね接点なんて無い筈よ」

 

「そうなの?彼にしては珍しく女性に対して酷評してたのよ。でも何か疑っているような目だったわ」

 

 扉を賢慮なくノックされたが、モンモランシかしら?

 

「ルイズーいるー?」

 

「モンモランシ?開いてるわよ」

 

「お邪魔するわ。差し入れのワインよ……キュルケも居たのね、グラス足りるかしら?」

 

「あら良いワインね、良いわグラスを取りに行く序になにか摘む物を探してくるわね」

 

「有難うキュルケお願いね、でも何か羽織りなさい。スケスケよ」

 

「ふふふ……良いじゃない女の園なんだから。男は誰も見てないわ、じゃ待っててね」

 

「キュルケってツアイツの前では控えめだけど女同士だと大胆よね」

 

「まぁアレくらい自信が有るワガママバディなら……ね。全く見ているこっちが恥ずかしいわよ」

 

「ルイズだって負けないくらいスケスケのネグリジェじゃない」

 

「えへへ。お揃いなのよキュルケと……ツアイツにねだって買ってもらったのよ。良いでしょ?」

 

「男に下着を買わせるなんて……意味深ね……やるわね今度私もねだろうかしら」

 

「ツアイツにしか見せないから買って……とか?」

 

「それ良いわね」

 

「誰かー不審者が女子寮に入り込んだわー!逃がさないでー」

 

 廊下から大声が聞こえた、女子寮に不審者ですって?

 

「「キュルケの声だわ……」」

 

 激しいノックの音、誰?

 

「ルイズ私ですアンリエッタです。開けてください……急いで!」

 

「姫様?お待ちください。今開けます」

 

 慌てて部屋の中に入り込む黒いフードを被ったアンリエッタ姫。

 

「ルイズ!今不審者が……居たわって……あら、アンリエッタ姫?」

 

「こ……こほん。皆様今晩は、夜分すいません。ルイズとお話が有ったので内緒でお邪魔しました」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 折角抜け出してきたのにまさか見付かってしまい不審者扱いされるとは……

 しかしこの目のやり場に困る赤髪の女性が上手く廻りも誤魔化してくれたわ。

 私を見つけて騒ぎを起こしたのもこの女性ですけどね……

 

 しかし恋人が夜這いに来ただけだったって説明だけで平気なの?

 誰の所に誰が来たって説明が無かったけど良く有る事なのかしら?

 最近の学院は進んでいるの?それとも私が遅れているの?

 

 まさかルイズも既にお付合いをしている殿方が居るのかしら?

 

「ルイズ、私達はお暇するわね。積もる話も有るでしょうから?では姫様……失礼します」

 

 気を使って貰ったのでルイズと二人きりになれました。さてどうやって話を切り出しましょうか……

 

「ルイズ、お久し振りです……その一部が随分とご立派になりましたね」

 

 貴女もスケスケで目のやり場に困りますよ!

 

「はぁ?お久し振りで御座います姫様。今夜はどの様なご用件でいらしたのですか?」

 

「なんと水臭い……昔のようにアンリエッタとは呼んでくれないのですね」

 

「姫様……昔から呼び方は姫様でしたがお忘れですか?」

 

「嗚呼……王宮の籠の鳥の私では貴女の真のお友達にはなれないのですね?」

 

「姫様はお立場と心構えがアンバランスだ!と私の思い人が言っておりました。

あの人も幼き頃から一線級の貴族達と渡り合っていましたが立場が人の心を強くする……だそうです。

姫様は一国の王女としての強さが有りますか?権力ではない自身の強さですよ」

 

 

 くっ貴女はその思い人に散々揉まれたからそのような立派な胸と強き心があるのですね。

 私はその胸が妬ましい……なぜ幼少の頃は共にペッタンコだった胸にこの差がでたのですか?

 

 男ですか?そうですか。

 

 私もその男を手に入れる為に貴女に協力して欲しいのです。

 

「ワルド子爵とは婚約を解消したと聞きいて落ち込んでいると思いましたがルイズが立派になったのはその殿方のお陰なのですね……」

 

「そうです。私に自信とこの「ないすばでぃ」を与えてくれた相手ですから」

 

 惚気?惚気なのね。一国の王女相手に惚気なんてどんな自信を付けられたのですか?

 

「だから私もその自信を付ける為に……ツアイツ殿を紹介して欲しいのです」

 

 ……あら?なぜでしょう?室温がどんどん下がってる?

 

 ダンダン!ダンダン!ルイズ、何故両方の壁を叩くの?

 

「「話は聞く気は無いけど聞いていたわ……泥棒猫が女子寮に侵入したのね?で、殺るの?」」

 

 扉の外に金色と赤色の鬼が……ヒッ、部屋の中にも桃色の悪鬼が……

 

「「「姫様はツアイツを狙っているのね?それで良いわね?言い訳は聞かないわ?」」」

 

 そして私は正座をさせられ3匹の鬼の前で全てを話したわ。

 ウェールズ様狙いと言った所で怒気がこの胸に対する哀れみに変わったけど……

 

 

 一国の王女に対する仕打ちとしては酷すぎるわ。

 

 何時か必ず仕返しするわよ……この屈辱は忘れない。

 そしてルイズの先導でやっと目的のツアイツ殿の部屋に向かっている……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 本当にビックリしたわ。

 

 最初はツアイツ狙いだと思って思わずキュルケとモンモランシと協力して抹殺しようかと思ったわ。

 でもアルビオンの皇太子狙いなら問題ないわね。トリステインとしても両国の結びつきは良い事だと思う。

 

 そしてこれはトリステインの問題……

 

 つまりキュルケは悪いけど巻き込めないわ。そしてモンモランシにも悪いけど姫様は先にヴァリエール家を頼ってきたの。

 だから今回は2人ともツアイツの部屋に行くのは遠慮して貰ったわ。

 しかし姫様に感じた違和感が乳力不足の微妙胸だったとは……

 内容は全て頭の中に有るけど写本は返してしまったから仕方なく深夜に殿方の部屋に行くの。

 夜這い騒ぎになっても責任をツアイツに取らせれば問題無いし何か有れば姫様が居るから平気ね。

 

 しかし……ドキドキするわ。

 

 今回は正当な理由があっての訪問だからツアイツもお部屋に入れてくれるわよね。

 部屋を間違える事はないわよ、何度も3人で襲撃したからね。

 

「ルイズ……何故か男子寮に侵入する手順に慣れを感じるのですが?」

 

「ええ姫様、ツアイツの部屋には何度も夜に訪ねていますから」

 

「ルイズ……もう大人になってしまったのね」

 

「さてこの部屋です。姫様は暫く大人しくして下さい」

 

「ツアイツいる?ルイズよ、大切なお話が有るのでお部屋に入れて下さい」

 

 ふふふっ思い人の部屋に深夜に尋ねるのはドキドキするわ。これは役得だから仕方ないわよね。

 

「ルイズ?どうしたの?こんな夜遅くに男子寮にきちゃ駄目だろ。今開けるから待っててね」

 

 ツアイツが扉を開けてくれたわ。

 

「今晩はツアイツ。1人お客様がいるけど一緒に良い?」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 待ち構えていたらルイズ達が来た、取り敢えず廊下に居ても問題が有るので部屋に入れる。

 誰にも見られてないな、特にギーシュは居ないな。

 

「夜分に男の部屋を訪ねるとは感心しないよ。ルイズ……そしてアンリエッタ姫ですよね?」

 

「何故?って顔だね……先程ワルド子爵の遍在が教えてくれた。そして引き続き周囲の警戒に当ってくれている」

 

「ワルド隊長が?」

 

「そうです、なにか悩みが有りそうだと部屋を抜け出したのは見逃し警備を続けていたそうです。

ですが流石に男子寮のこの部屋に向かったので不審に思い僕に一報を入れてくれました、彼は今部屋の外で警備をしています」

 

「流石はワルド隊長。浅はかな私の行動などお見通しなのですね」

 

 

 いえ違います。本当はタバサに振られて外で号泣してます。

 

 

「それで時間も有りませんのでご用件をお願いします」

 

「そのきょきょきょ「巨乳化したいんだって姫様は」るるるルイズ何を言ってしまってるの、もっと配慮を……」

 

「ルイズ……教えてあげなよ。既に僕より内容は完璧だろ?」

 

「うん。良いわよツアイツが教えて良いって言うなら」

 

 

 あれ?アンリエッタは固まった……

 

 

「ルイズ?先程のお話ではツアイツ殿しか知らない……と?」

 

「えへ!ツアイツのお部屋に行けるチャンスだったから!」

 

「貴女は一国の王女を夜這いのダシにしたのですか?」

 

「一応お断りしないと駄目ですから。」

 

「……私が同行し私の胸の秘密をバラす必要は?」

 

「なかった……でしょうね」

 

 

 睨み合う2人……

 

 カーン!

 

 どこかでゴングが鳴った気がした!

 ルイズとアンリエッタは幼き日々に遊んだ様に僕の部屋で取っ組み合いの喧嘩を始めた。

 

 あっ!

 

 ルイズのボディーブローが決まってアンリエッタ姫が膝を付いた……

 高々と右手を天に突き出すルイズ!

 

 ルイズWIN

 

 開始から僅か36秒のKOにての勝利だった……

 



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第27話から第29話

第27話

 

 色気は全く無かったリアルキャットファイトが見れた!が、内容はルイズの圧勝に終わった……

 気を失った姫様はルイズに担がせワルド殿の遍在を呼び追い出した後でもう流石に居ないだろうと思い窓の外を見る。

 

 まだ居ました……膝を着き両手を天に突き出した体勢で号泣するワルド殿が。

 

 どうしようか?あまりにも哀れだ……

 

 今日は色々疲れたがこのまま朝まで泣かせておく訳にもいかないし元気付けてやるか。

 僕は着替えるとワルド殿を誘って「魅惑の妖精亭」に向かった。

 

 

 

 魅惑の妖精亭

 

 

 

「あらいらっしゃいませツアイツ様、そろそろ閉店ですよ」

 

 ジェシカが小走りで近寄って来てくれる。この子の胸も揺れて凄いよなー!

 

「まだほかのお客さんは居るのかな?」

 

「ううん。もう最後のお客さんが帰ったのでそろそろ閉めようかと思ったの」

 

「本当かい?なら1時間くらい貸切にさせて欲しい。それとゴニョゴニョ……」

 

「まぁ珍しい。良いわ直ぐに集めるから待っていて下さいね」

 

「さぁさぁワルド殿、失恋にはお酒ですよ。ガンガン逝きましょう!」

 

「くっツアイツ先生……よし今夜は飲むぞ……しかし先生。この店は?」

 

「あら?素敵な髭のお兄さんね」

 

「出てくるな、化け物が!」

 

 魅惑のビスチェを纏った筋肉ムキムキの人外は拒絶する。

 

「さぁワルド殿飲みましょう、なにミスタバサも本気で嫌ってはいませんよ。

あの年頃の婦女子にありがちな潔癖症なだけです、まだまだ回復出来る失態でも何でもないですよ。

逆にあの本は男女の関係を感じさせる良い資料かもしれません」

 

「まだチャンスは有ると?」

 

「そうです、余裕です。もしかしたらこの次会う時は逆にワルド殿の事を男として意識してる可能性があります」

 

「ツアイツ様お待たせしました」

 

 ジェシカに連れられてきたのは「魅惑の妖精亭」のスレンダー美人部隊です。

 

「つつつツアイツ殿、彼女達は?」

 

「彼女達はこのお店で働いているレディ達です、さぁさぁワルド殿を元気付けた娘にはチップ20エキューなので頑張って!」

 

「キャーキャー凄いわ。始めましてーミーナでーす……」

 

 4人の年若いスレンダー美人に囲まれてワタワタしているワルド殿を見て微笑みながらワインを飲む。

 

「今夜はあの方を元気付ける為にいらしたんですか?」

 

 ジェシカが新しいワインボトルとグラスを2つ持って話しかけてきた、多分タルブ産のワインかな。

 

「うん、ちょっと哀れ過ぎたので。彼は少し女慣れしないとウブ過ぎるから……」

 

「女慣れって……ツアイツ様ってお幾つなんですか?とても十代の台詞ではないですよ」

 

「ん?そうだね、幾つにみえる?」

 

「質問を質問で返してはいけませんよ。そうですね……お父さんみたいな感じがします」

 

「ふふっそれで良いよ我が娘よ!もうもう一杯注いでおくれ」

 

 ワインを注いでもらいジェシカのグラスにもなみなみと注ぐ。

 

「あら?酔わせて襲うつもりですか?」

 

「今夜の貸切は1時間だろ。無理さ」

 

 本当はもう40歳になるんだけどさ……肉体は若くても精神は老成して行くのが自分でも分かる。

 この世界に転生し11歳からエーファ達と爛れた性活を送ったせいか極上の美少女を相手にしても冷静な部分が必ずあるんだ。

 昔の様な全てを包む高揚感がなくなったな。

 

 

 贅沢過ぎる悩み事だね全くさ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 シエスタは手紙で良くツアイツ様の事を書いてくれる……優しくお茶目で子供っぽいツアイツ様を。

 でもたまに見せるこのツアイツ様は知らないと思う。

 まるで年若い部下を励ます為に連れてくる老練な上司のような余裕、私の誘いをかわす冷静沈着さ。

 

 色んな酔客を見てきた私には分かる。

 

 ツアイツ様は私達みたいな酔客の相手をする女達を蔑んでない、いえ貴族様なのに誰に対しても対等に接してくれる。

 他の旨い事を言って寄って来る男達は大抵体が目当てのスケベばかり……どこかお金を積めば体を開くだろうと思っているのがわかる。

 

 ツアイツ様は違うわ……

 

 不思議と一緒に居ると楽しいの。 んー残念。シエスタちゃんに先を越されなければ本気でアタックしても良いと思うけど……

 彼女あれで結構嫉妬深いし黒化するし怒らすと怖いのよね。ソフィアちゃんが教えてくれたけど……

 

 タイヘンダッタラシイワ

 

「さてそろそろ帰るよ、学院に内緒できてるんだ。バレる前に戻らないと……ワルド殿?」

 

「あらあらこちらの貴族様はすっかり出来上がっているわね?どうします?馬車の手配をしますか?」

 

「うん。お願い……ワルド殿どうでした?誰が気に入りましたか?」

 

「ああツアイツ先生……こんな天使が沢山居るお店が有ったのですね。感動しました。だけどどの天使が一番などと…」

 

「はいはい皆さん気に入ったのですね、ではチップはこれで好きに別けて下さい」

 

 机の上に1個20エキュー相当のルビーを4つ置く、チップは宝石でも喜ばれる。女性なら特にそうだろう。

 

「ツアイツさまー馬車が捕まったわー」

 

「ではまた来るね」

 

 ジェシカにはエキュー金貨で飲み代を少し多めに払いながらワルド殿をレビテーションで運ぶ。

 

「約束ですよ。ビスチェウェイトレスVSメイド軍団の実現をお持ちしています」

 

 

 

 馬車の中にて

 

 

 

「ワルド殿楽しめましたか?」

 

「全くけしからんお店でしたな……若い女性が肌も露な服で接客など……いやしかし……いやいやけしからん」

 

「十分楽しんだみたいですね、たまには店に顔を出して下さいね。そのポケットの名刺を出せば今日の娘達を指名出来ますよ」

 

「ツアイツ先生、僕はタバサ殿にこの身を捧げた「はいはいキスマーク消して服を整えて下さい」……はい」

 

「しかしこんなに楽しい酒は久し振りでした……サムエル殿と呑み語り合った夜も楽しかったのですが……」

 

「綺麗な女の子のいる店で飲むもの良いでしょ?」

 

「そうですね……また行きましょう」

 

「ええ、それとたまにはグリフォン隊の隊員達も誘ってみたらどうですか?喜びますよ」

 

「部下達と……」

 

「そうです。部下との親睦を深めるのも大切でしょ?隊長殿……でもスマートな遊び方をして下さい」

 

「ふふ……そう言えば上を見るばかりで一度も部下とは飲んだ事が無かったな……復讐に全てを賭けるとこんな事も出来ないのですな」

 

 そうか……だからミスタバサもクラスには溶け込まないのかな?

 

「貴方を慕っている部下達ですよ、気遣いなさい。僕だって上に立つ者としてエーファ達には色々しています」

 

「ははは、まるで父上に諭されているみたいですよ。不思議なお方ですな……未だ15歳なのに」

 

「どうせジジ臭いですから」

 

 それから暫くは他愛無い話をした。

 ワルド殿は真性のロリコンである事が確認できたが今夜の彼女達も気に入ったと言う事は概ね12歳〜18歳が守備範囲か?

 しかしレイナール用の「はなまる幼稚園」にも喰いついていたし……やはりライトなペドかな?

 そうすると4歳〜いやいやいやそれは流石に無いだろう……

 

 ミスタバサ……

 

 どうするか?ここまで接触してハイサヨウナラ!では余りに可哀想だけど。

 彼女を幸せにするには母親を救わなければならない。

 

それにはエルフとの接触が必要か……ラグドリアン湖の精霊に聞くか……ティファニアの水の指輪か……

 

 なんだ、手段は色々有るぞ。

 

 この優秀だか変態なんだけど何だか分からないワルド殿をけしかければもしかしたらもしかするかも?

 

「ワルド殿、そろそろ学院に着きます。隠密に進入しましょう」

 

「それは大丈夫ですよ、今の時間は正面に僕の遍在と部下がいますので……近付いたら部下を下がらせます、そのまま中に入りましょう」

 

「流石は酔っていても隊長という事ですね」

 

 タバサ攻略の方法を幾つか考え出せたのでよしとするか、僕は手を出さないけどね。

 

 後は明日考えよう。

 

 上手くすればルイズ・キュルケ・モンモンと仲良くしてくれるかも……

 あっとその前に今日貰った女の子達の名刺とかは記憶して処分しておこう。

 浮気がバレるのを心配する夫みたいだけど結構大切だよこういうのって。

 

 

 

第28話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 今朝のアルヴィーズの食堂は一寸した騒ぎになっています。なんといってもトリステイン王国の華……アンリエッタ姫が同席していますから。

 彼女はオールドオスマンと教師陣に囲まれた席で優雅に食事をとっています、流石に王族だけ有り見事な作法と笑顔です。

 昨夜の訪問の後でルイズとどの様な話になったかは分からないが取り敢えず写本は燃してしまったからルイズの知識頼みだ。

 僕も記憶してるが他国の貴族が並居るトリステイン貴族を飛び越えてアンリエッタ姫と何度も会見するのは宜しくない。

 

 特に僕はこの国で成功している嫌われ者、敵も味方も多いから。

 

 それに内容を隠さなければならないので余計に怪しまれる。

 ルイズなら国内きっての大貴族で幼少の頃からの遊び相手だし何の疑いもされないだろう。

 ただ原作と違いルイズは余りアンリエッタ姫に傾倒していないし扱いもぞんざいな感じがするんだが。

 このアンリエッタ姫もウェールズ皇太子狙いは変わらないが性格が少し違うし胸は微妙だ……

 だがあと1年あれば少しは大きくなって原作通りになるのかな?

 それとも微妙乳のお陰で原作と違う展開になるのか……

 

 まったくデカイかチッチャイかハッキリしてくれれば展開が読みやすいのに中途半端な乳め。

 

 でもウェールズ皇太子は巨乳派なのが分かったのは僥倖だ、モード大公はチッパイ派だよな。

 ティファニアは別として母親はスレンダーだったらしいし……まさか兄弟で巨と貧に分かれて争ってないよな?

 巨乳派のジェームズ一世がチッパイ派のモード大公をエルフ共々粛清した?

 

 ティファニアの存在は知られて無いだろう、もしバレていたら拉致るぐらいする。

 

 あの神胸だ!種族の違いなど関係ない。

 

 その辺を含めて早い時期に実家に行く必要が有るな、ティファニアの警備と防諜の強化……どれだけ父上に献上すれば対応してくれるか?

 

 そうだ!母上を巻き込もう。

 

 母上から父上にお願いしてもらえば確実のはずだ。

 

 幸い仲が良いと報告を受けているのでトリステインのしつこい貴族から守る為にウチで保護したが相手がまだ探しているからとか言えば問題はない。

 母上に援護してもらい新作を何冊か渡す……これで問題は無いだろう。

 残念ながら次期領主の僕では父上を飛び越して命令する権限が無いのが悔しい。

 同じ巨乳派だがアルビオンとは仲良く出来ないかも知れない。

 同じ乳を信奉する者としてもその為に血を流してはいけない……乳は平和的に世界を救うのだ!

 早速巨乳のマチルダさんにその辺の所を調べて貰おう。

 

 周りを見渡すとタバサが居ないな。

 

 多分、例の「TO HEART1・2巻」を持ってガリアに戻ったのだろう。

 

 ふふふっ……

 

 イザベラ王女があの18禁本を見たらどんな反応をするかが見物だなぁ。

 

「なんだいこの人形はこんなイヤラシイ本を目的の本だと言うのかい?」とか言葉攻めしそうだよね。

 

 うわっ!聞いてみてぇ。

 

 きっと真っ赤になって俯くタバサと真っ赤になりながらも攻めるイザベラかぁ……うん。

 創作意欲が湧き上がるネ!そしてあの本はイザベラからジョセフへ渡される。

 

 あの無表情・無感動王が……

 

「イザベラ、我が娘よ。父にこのような本を差し出してどうしろというのだ?」

 

 イザベラは……

 

「いえその本はあの人形が盗んできた物で……」とか言っちゃって?

 

 あれ?アレレ?ボクハスデニジョセフニメヲツケラレテイル?

 

 うわっヤベェ……どうする?このジョセフは原作通りの性格なのか?登場人物は皆微妙に変わっているが、変わり過ぎている人も居るが……

 

 タバサが戻ってきたらワルド殿を交えて3人で一度相談しよう。

 

「ツアイツーその料理はもう食べないの?」

 

 マリコルヌが涎を垂らしそうな顔で聞いてきた。

 

「ああ……食べるかい?」

 

 食欲が無くなったので残りの料理をマリコルヌの方に差し出す。

 

「なぁツアイツ?今朝はミスタバサが居ないな?」

 

 ヴィリエが聞いてきた、そういえばコイツはタバサに興味があるみたいだよな。

 

「本当だね。どうしたんだろう……ツアイツは知ってる?」

 

 レイナールまで聞いてくるとは!

 

「何故僕に聞くのかな?」

 

「「いや取り敢えずツアイツに聞いておけば何かわかるかと……」」

 

「いや……知らない?」

 

 本当は知り過ぎるほど知っていますが言えません。

 

「疑問系?そうだよねツアイツの好みの娘じゃないからね」

 

「お前達の好みなのか?」

 

「なっなにをいっているのだね……僕は同じ風の使い手としてライバルの動向がきになるだけだ!」

 

「ぼっ僕だって幼い女の子が欠席なんて何か有ったかが心配なだけで!」

 

 はっとお互いを見詰め合う2人……

 

「ヴィリエ?少しお話しようか」

 

「レイナール……眼鏡の替えは持っているかな?」

 

「2人ともアンリエッタ姫の御前だよ。抑えて抑えて……ほらワルド隊長も睨んで……ひっ!」

 

 ワルド殿は聞こえていたのかタバサをあからさまに気にするこの2人に対して殺気の篭った眼を向けている……何時でも殺せる位に。

 

「ほっほらワルド隊長も注意しているよ」

 

「「そうだね(な)気をつけます」」

 

 現役魔法衛士隊隊長の放つ本気の殺気に当てられてか騒がしかった食堂の雰囲気を大人しくなった。

 

「ワルド殿……生徒達の無礼は許してくだされ。なにトリステインの華を前に浮かれてしまっただけじゃよ」

 

「分かりました……」

 

「ヴィリエ、レイナール……食事が終ったら逃げろ。僕は助けられないから」

 

 男の嫉妬とはかくも凄まじいのか……それとも元々ワルド殿の持っていた狂気の表れか?

 僕はタバサには指一本触れない事を改めて心に誓った。

 

 あの殺気は訓練の時にうっかりカリン様の胸を触ってしまい「えっ胸?うそ?板?」などとほざいた時の眼に似ていた。

 

 自分の右腕が千切られたのは初めてだったあの夏の日の午後に……

 そして痛みでのたうち回る僕に中々治療をしてくれなかったエレオノール様の能面のような……

 

 久し振りにトラウマを思い出した朝だった。

 

 朝食後にアンリエッタ王女は学生全員に見送られて帰っていった。

 その時またワルド殿が僕に会釈した事で廻りがざわついたがもう気にしない。

 因みにヴィリエとレイナールは午後になって保健室に居る事が判明した。

 

 心配になりお見舞いに行った時に聞いたのだが……

 

 2人で決闘→殴り合いの喧嘩→若い青春の仲直り→遍在ワルド乱入そして一方的な殲滅&説教タイムだったらしい。

 ただ2人の情熱に負けて普段学院に居られないワルド殿の為にタバサを見守りいざとなったら身を挺して守る事で話が付いたらしい。

 親衛隊隊長と隊員1号2号の誕生の瞬間だった、ますますタバサには手を出さないと心に誓う。

 

 全くポッと出てきたら原作キャラを3人も虜にするなんて……タバサ恐ろしい子。

 

 ヴィリエとレイナールはロリコンでペドのチッパイ教徒。

 ギムリはお姉様大好き系巨乳愛好家。

 マリコルヌは女王様苛めて下さいのM男。

 僕は乳を愛する巨乳教の教祖!

 

 ギーシュ?ギーシュが一番マトモなのか?あーでもあいつケティだからなーロリコンか?

 

 いや全ての女性のうんたら薔薇だからみんな好き好きハーレム願望派か……うん。

 流石僕が選んだこのメンバーはバランスが取れているね!こいつらとならハルケギニアの風俗界で新風を巻き起こせる!

 ここに新モテナイーズ改めハルケギニア統一変態同盟……いやいやこれじゃ女性から怪しまれるな。

 何か格好良くて主旨の分かり易い名前を考えてみよう。

 

 

 

第29話

 

 ある日の長閑な午後に僕はオールドオスマンに学院長室まで来る様に言われた。

 約束の時間に尋ね今はオールドオスマンと向かい合って座っているが彼は眼を瞑り一言も喋らない……

 

「ツアイツ様……紅茶です、どうぞ」

 

「カーッ!それじゃミスタツアイツ!どうしてミスロングビルは君に対して敬語でワシにはぞんざいな対応なのじゃ?」

 

「……さぁ?」

 

「何故ワシにはお茶が無く君には来客用の紅茶が出とるのじゃ?」

 

「何故でしょう?」

 

「何故立ち位置がワシではなく君の後ろに控えているのじゃ?」

 

「どうしてでしょう?」

 

「何故彼女は長期休暇をするのじゃ?」

 

「実家に帰ると聞いていますが?」

 

「学院長すいません、お暇を頂きたいと思います」

 

「何故彼女はワシの秘書を辞めるのじゃ?」

 

「ここより条件の良い職場に転職しようと思いまして」

 

「何故今日のミスロングビルは黒の下着なのじゃ?」

 

「いえツアイツ様にセクシーさで迫って……このエロジジイまた覗いたな!」

 

「学院長……何故僕は呼ばれたのですか?」

 

「ツアイツ様暫くお待ちを……今このエロジジイをブッ飛ばしますので!」

 

 ロングビルさんが凄い笑顔でストンピングしている……学院長は恍惚として……カオスだ!

 ロングビルさんは確実にSの女王様で学院長は老いたM爺か……

 帰りたい。3分程SMプレイをしてから2人は息と衣装を整え何事も無いように元の位置に戻った。

 

「息が合ってますね、良くプレイなさるので?」

 

「そうじゃ!一日に一度は踏んで……カーッ!そんな事はどうでも良いのじゃ!」

 

「ミスルイズにアカデミーから召喚状が来ておる。

差出人はエレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエールでアンリエッタ王女の直筆の署名が添えられている。

そしてミスタツアイツにも同行して欲しいと……何をしたのじゃ?」

 

「その召喚状には他に何か書かれていますか?」

 

「断る事も可能じゃ断るとお主の立場が微妙になるぞ」

 

「僕は全く気にしないけど……トリステイン王国に義理も借りも無いから」

 

「見も蓋も無い奴じゃな……確かにゲルマニアの有力貴族のお前さんをどうこうする力は今のトリステインにはないな……

だから断るならこれを渡してくれと同送されているのじゃが」

 

「手紙?この封印はエレオノール様の紋章……」

 

「失礼します……」

 

 丁寧に封印をとき手紙を読む、後ろからさり気無くロングビルさんが覗いていますが。

 

 

 ツアイツ殿

 

 昔貴方がウチのメイド達を豊胸化した情報をアンリエッタ姫が掴んでいます。

 先日の学院訪問時にルイズに直接確認した念の入れようです、どうにも妖しい雰囲気で私に豊胸の研究を押し付けてきます。

 お願いですが実際に私に断る事は出来ません。

 

 しかし他国の研究成果など。

 

 アンリエッタ姫自身は豊かな胸を持っているのに何故いまさら豊胸化の手段を調べさせるのが疑問なのです。

 せめて王宮でなくアカデミーの方に呼ぶ様にお願いしました、こちらなら私の影響下なので無体な事は出来ない筈です。

 私からもお願いします、一度こちらに顔を出して下さい。

 

 

 

 ……アンリエッタ姫は焦っているのか?貴女の立場で召喚など他の貴族から色々詮索されてしまうのに。

 その偽乳の秘密がバレる事は考えなかったのですか?馬鹿なのですか?

 

 それとも他に思惑が有るのか……

 

 他の貴族に入れ知恵でもされている可能性は?これは最悪の自体を想定しておこう。

 もし何か難癖をつけられでもすれば屋敷の皆にも迷惑が掛かるし……

 

「学院長、ミスルイズを呼んで下さい。事情を説明しこれからアカデミーに向かいます」

 

「ロングビルさんは魔法衛士隊隊長のワルド殿に連絡しアンリエッタ王女と取り巻きの貴族の動向を探らせて。

それと屋敷の方にも警戒レベルを上げる様に連絡……実家とヴァリエール公爵とツェルプストー辺境伯にも同様の連絡を。

終わりしだいキュルケとソフィアを連れて屋敷に向かって待機」

 

「はい、直ちに手配します。アカデミーに私は同行しなくて宜しいので?」

 

「うん。屋敷の方を防衛して欲しいんだ。最悪屋敷は爆破・放棄しても構わない」

 

「ではその様に……」

 

 一礼して退室するロングビルさん。

 

「あの……ワシの秘書なのじゃが……それに戦争じゃないのだし少し大げさじゃないかのぅ?」

 

「他国の貴族を王女が名指しで召喚するなら此方も最悪の事態を想定しますよ。

特にアンリエッタ王女は(胸も)立場が微妙なお方ですし本人にその気が無くても周りの王宮付貴族がどう出るかなど分からないでしょう?」

 

「何も無ければそれで良し。有れば其れなりの対応をするだけです」

 

「失礼します。学院長」

 

 緊張気味のルイズが部屋に入ってくる。

 

「ツアイツどうしたの?」

 

 不安そうに近付いてくる。

 

「ルイズ……僕らをアンリエッタ王女が名指しで呼び出した。エレオノール様のお陰で王宮でなくアカデミーにだが……これから向かうよ」

 

「あの……ワシが説明しなくても良いのかのぅ?」

 

「結構です、ならば同行しますか?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 こやつなんなの?ワシの秘書がなんで平然としてお主を主人として扱っているの?しかも完全に戦闘態勢になっているし……

 理由はどうあれ秘密裏にしたとしても他国の貴族を呼び出すなんて愚行をあの白パンツはやりおって……どうなるかなど分かり切っているじゃろうに。

 

 しかし2人は学院の……ワシの生徒じゃ、ワシが出張らんでどうする。わしも頑張るぞ!

 

「モチのロンじゃ。ワシが行かずに誰がお主ら学院の生徒を守るのじゃ!」

 

「なにあの白パンツなどワシに掛かればちょろいわ?」

 

「「白パンツ?また覗いたのですか?」」

 

「カーッ!グズグズするな出発じゃ!」

 

 

 

 馬車の中

 

 

 

 アカデミーに向かう、ルイズは隣に座り頭を僕の肩に預けている。不安なのだろう。

 向かいには羨ましそうに指を咥えて見ているオールドオスマン……

 右足の下にはルイズのスカートの中を潜り込んで覗こうとしたモートソグニル?

 

 全くあの微妙な姫様は何を考えているんだ。

 

 巨乳化を焦る気持ちは分かるが元々僕の研究を自国のアカデミーで研究させる時点でウチの技術を盗んだと判断されても言い訳出来ないんだよ。

 馬鹿な貴族が嗅ぎ付けて騒ぎ出す前に納めたいんだが……それはワルド殿任せになってしまうか。

 

 ルイズは?寝てる?寝てるよこの子……無邪気だねぇ。

 

 僕がスレまくってしまったのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 全くミスエレオノールも心配性ですね。

 

 私の豊胸化にはこのトリステインの未来とウェールズ様との薔薇色の結婚生活がかかってるの!

 なんとしても国益の為にも成功させなければならない国家プロジェクトなのよ。 それに一寸呼んでお話するだけじゃない?

 私が頻繁に学院に行けないなら呼べば良いのよ、私は王女なんですからね。

 

 其処の所を良くルイズに理解させないと!

 

 あのときの哀れみの目とこの私を男子寮まで侵入させて無駄足だった事の恨みは忘れてないのよ。

 

「アンリエッタ姫、ただいまオールドオスマン様及びルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール様とツアイツ・フォン・ハーナウ様がいらっしゃいました」

 

「分かりました。お通しして下さい」

 

 ふふふっ!これからマジカルトリステインプリンセスアンリエッタ様の躍進の始まりよー!

 

 

 

 

 



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第30話から第32話

第30話

 

 アカデミー応接室にて

 

 現在テーブルを挟みエレオノール様・アンリエッタ王女と向かい合って座っている。

 僕の右側にはルイズ、左側にはオールドオスマンだ。

 

「アンリエッタ姫、何故学院の生徒を名指しで召喚などしたのじゃ?しかもミスタツイアツはゲルマニアの貴族……問題ですぞ?」

 

「あら?私はただお友達とそのお付合いをしている殿方をお呼びしただけですよ?」

 

「私の研究の成果をミスルイズ経由でお教えするのは構わないと申しましたが正式にアカデミーで研究なされるというのは我がハーナウ家の功績をトリステイン王国が奪う……と認識して宜しいのですね?」

 

「えっ?そのような大袈裟なお話ではなく幼少の頃よりのお友達のルイズが暫く見ない間に……

その胸が大きくなったので出来れば我が国でも悩んでいる女性達の為に代表してミスエレオノールに研究して貰おうと……」

 

「アンリエッタ姫はエレオノール様に正式に豊胸化の研究をしろ!と仰るのですね?」

 

「ええ……彼女も悩める……」

 

「姫様……そのような浅はかなお考えでこの様な暴挙にでられたと?」

 

「アンリエッタ姫よ……彼女にその様な研究を表立ってさせるのは……その、配慮が足りないのぅ」

 

「彼女も貧乳だ「オールドオスマンは黙って下さい」……しかしのう」

 

「お主の浅慮の所為でヴァリエール公爵家にゲルマニアのツェルプストーとハーナウの両家が動いておるぞ」

 

「ヴァリエール家は2人の娘が巻き込まれた事にゲルマニア側は自国の研究成果を奪われたと思っておる」

 

「私はその様な考えは……」

 

「私はこの豊胸化技術を世に出すつもりは(今の所)ありません。なので姫様の要望もルイズ経由で個人的にならと認めました。

しかしアンリエッタ姫はそれを裏切りトリステインの国益としてこの研究を盗もうとしている……と解釈しましたが?」

 

「ミスタツアイツそのような考えは有りませんでした……私は……」

 

「姫様は実は偽ちち……」

 

「ちょーっとまったールイズそれはいっちゃダメダー!」

 

「姫様にその気は無くても廻りはそうは思わないのが貴族社会です……しかし困りました。こう表立って行動されては」

 

「ツアイツ殿……少しご相談が有るので別室にてお話したいのですが?」

 

 エレオノール様がそう持ちかけてきた、流石だな。落とし所を模索する相談だな。

 

「ではルイズも一緒に……オールドオスマンはアンリエッタ姫のお相手をしてもらって宜しいでしょうか?」

 

「ワシ……要らない子かのう?」

 

「いえその様な事は……姫様暫く時間を下さい」

 

「わかりました。では暫し休憩としましょう」

 

「ではツアイツ殿とチビルイズは私の研究室に来てちょうだい」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「オールドオスマン……私はこの様な大事になるとは思ってませんでした」

 

「アンリエッタ姫よ、お主の立場を考えるんじゃ。お主のお願いはトリステイン王国の命令と同じ重さがあるのじゃよ」

 

「私にはお友達にお願いすることもできないのですか?」

 

「お主のお願いには強制力が付く……それを受けた側の事も考えるんじゃ?今回の件は他国の研究をアカデミーにさせようとしたのじゃよ。

ミスタツアイツは立場上ゲルマニアの国益を損なう事は出来ん。

じゃが理由はどうあれ断ればトリステインの馬鹿者貴族達はアンリエッタ王女に無礼を働いたと思い彼を非難し自分の良い様に動き出す可能性が有るのじゃ」

 

「その様な事は……」

 

「残念ながら無い……とは言えぬな、彼はこの国でも成功しているから敵も多いのじゃよ。

それに身内を大切にするタイプじゃ。今回は自国の研究成果を奪う役目にエレオノール殿を選んだ。

そしてミスルイズを交渉の場に同席させた、何か有れば彼女等も当事者になってしまう」

 

「そんな……どうすれば?」

 

「それは……多分エレオノール殿が落とし所を探してくれるはずじゃ。

しかしミスタツアイツは最悪の状況も想定し動いている、つまりこの交渉が決裂しても周りを守れる準備と覚悟が有るのじゃ」

 

「準備と覚悟ですか?」

 

「アンリエッタ王女に足りないものじゃよ、上に立つ者ほど重責が掛かる。それを受け入れる覚悟が必要じゃな」

 

「ああ……前にルイズが私に言った言葉……『姫様はお立場と心構えがアンバランスだ、立場が人の心を強くする……

一国の王女としての強さが有りますか?権力ではない自身の強さですよ』……と言われました」

 

「ほぅ!それをあのミスルイズが?中々の言葉ではないですかの」

 

「思い人の受け売りだと言ってましたが……それがミスタツアイツの覚悟なのですね」

 

 ぐふふ……ワシ教育者として活躍してるのう!

 

 

 

エレオノールラボ

 

 

 

「ツアイツ殿どう言う事ですか?」

 

「エレオノール様……実はアンリエッタ王女の胸にはパットが入っていてその本来は微妙な大きさなのです」

 

「うん、先日学院に来た時に確認したわ。微妙な大きさなのよ」

 

「しかしお目当てのウェールズ皇太子は大きい胸が好き……だから豊胸技術は確実に欲しい」

 

「そんなどうしようもない理由でこの騒ぎなの?」

 

「仕方ありませんよ。エレオノール様はアンリエッタ姫の胸の秘密を知らなかったのですから。

何か有ると思いますよね?僕だって最悪の事態を想定して手を打ちましたし」

 

「最悪とは戦争って事?」

 

「いえ断った場合に王女に対し不敬だと先走った貴族が居た場合の迎撃措置ですよ」

 

「貴方は……本当に用意周到ね、しかし今回は裏目に出たわね」

 

「ええ、まさかこんなおバカとは思わず話を大きくしてしまいました」

 

「困ったわね……アンリエッタ姫の胸の件は秘密でしょうし……あとは貴方の成果を正当な金額で購入するかね」

 

「成る程、それなら多少強引ですが納得出来る理由ですね」

 

「でも豊胸技術は不味いわね……私だってそんな研究は嫌だしアンリエッタ姫だってそんな研究を推し進めたなんて……」

 

「普通に考えて無理ですね。アンリエッタ姫の肝いりの研究が豊胸?駄目でしょ?対外的にも」

 

「他に何か無い?トリステインに渡しても良い技術系の物って?」

 

「んーいきなり言われても……」

 

「どれも利益に絡むものだし……超々ジェラルミンはこれからの主力商品だし……」

 

「なにそのジェラルミンって?」

 

「最近安定した生産が出来る様になった鉄より軽くて丈夫な金属です」

 

「それ教えてもらってないわよ?」

 

「すいません。来月から売り出す馬車の外装に使う金属でアルブレヒト3世にも献上する品なので」

 

「他にはなにか無いの?」

 

「ねぇ?ツアイツってトリステインでも凄いファンが居る脚本家でしょ、だから姫様が新作を希望してお願いしたってのはどう?

アカデミーには演出の技術的な相談が有って私が同行したのは直接他国の貴族と接触しない為の紹介者って事で……」

 

「「凄いこじ付けだけどそれしかないか(わね)」」

 

「それで行きましょう。ルイズはアンリエッタ姫の豊胸指導をツアイツは私と新作の演劇について打合せを」

 

「むー私のアイデアなのに私が損してない?」

 

「ではウチの劇団を誘致して下さい、それとトリステインの劇団と会わせて2つの劇を競演させましょう」

 

「そうね。そちらの劇団だけでは角が立つからウチの国の劇団も同時に公演させるのね」

 

「新作を競演し出来る事なら定期的に興行したいな」

 

「貴方は……本当に強かね。既に継続的な興行まで話を進めるなんて」

 

「だって面倒臭い既得権を持つトリステインの劇場や劇団には姫様というか王宮が対処してくれるんでしょ?」

 

「まぁそうなるわね。アンリエッタ姫も胸の秘密は知られたくないから必死になるわね」

 

「なら最大限に利用させて貰わないと……大丈夫、ヴァリェール家も一枚咬んでよ!」

 

「本当に……貴方は何と言うか本当にルイズと同い年なのかしらね?」

 

「どうです?エレオノール様も役者デビューしてみませんか?沢山のファンが付くと思いますよ」

 

「それは無理ね。私にも立場が有るし子供時代の貴方とミスキュルケとは状況が違うわよ」

 

「そうですか残念だなぁ……それだけ美人なら人気が出るのは確実なのに」

 

「そ、そそそそんなに言うなら考えてあげても……」

 

「駄目でしょ大貴族の跡継ぎが役者なんて!如何してもっていうなら私が出演するわよ」

 

「なによチビルイズは姫様の胸の心配だけしてなさい!」

 

 エレオノール様とルイズが2人してほっぺの引っ張り合いを始めた……本当に仲の良い姉妹だよね。

 そういえばカトレア様にも久しく会ってないな……この新作の脚本を書いたら物語にして贈ろう!

 

 君の意味深な台詞で長女と三女が姉妹喧嘩を始めたのに次女の攻略を考えちゃ駄目でしょ?

 2国間であわや戦争開始かも知れなかった問題でオールドオスマン&アンリエッタ姫組は深刻に悩んでいたがこちらの当事者達は呑気だった。

 

 

第31話

 

 

 応接室にて

 

「オールドオスマン、ルイズ達の話合いが長すぎませんか?」

 

「そうですな?難航しておるのかの?」

 

「私の浅慮の所為で……どう謝ってよいのか」

 

「してしまった事は仕方有るまい。これからの対応ですな」

 

 ぐふふ……ワシ教育者としての株が鰻登りのハズじゃ……これをミス・ロングビルに見せる事が出来ればのう……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 女王としての覚悟……

 

 こうしてオールドオスマンに諭されるとはやはり教育者なのですね。

 ミス・エレオノールとルイズ……ミスタ・ツアイツには素直に謝りましょう、もうこの様な浅慮はしないと。

 

 そしてこの件で学びました、どの様な事をしても豊胸化する決意と必ずウェールズ様と添い遂げる覚悟が完了しました。

 私の影響を考え周りに角が立たない様にウェールズ様を篭絡する事が大事な訳です、先ずは豊胸化が肝心です。

 

 そして豊胸出来なくても結婚まで持ち込む手段を準備しましょう、それには私の影響力を高めねばなりません。

 

 しかし……

 

 王宮に跋扈する魑魅魍魎の様な貴族達と対等に渡り合うには力が足りません。

 今の私に出来る事は新しい世代の協力者を作る事と民意の掌握くらいですね……

 

 やはり学院には頻繁に行かねばならないでしょう、在学するこれからのトリステインを支える貴族の子弟達を取り込まねば。

 そして元々が国民の人気取りと言われてましたがこれからは更に強化し確固たる人気を掴みましょう。

 あとは私の直接の手足となる者が必要です、ワルド隊長は今回の一連の対応をみても信用できる数少ない貴族。大切に扱わなければ。

 

 他に平民から女性のみで構成する親衛隊を募りましょう。

 

 出来れば剣士隊か銃士隊を結成し自らの直轄部隊として動かしたいのです。あとはマザリーニ枢機卿をどう説得するかですね……

 彼は私の胸の秘密は知らない……知らせる必要も有りません。

 

 しかし今回は王女の権限をもってゴリ押ししましょう。

 

 成る程これが覚悟なのですね、勉強させて頂いたので学院でのルイズの無礼はチャラにしましょう。

 しかしルイズとミスタ・ツアイツにも協力して欲しいけど……こちらのゴリ押しは無理ね、先ずは信用を回復しましょう。

 

 さてと……彼らが戻って来たわね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「アンリエッタ姫、お待たせしました」

 

「いえ、構いません。元はと言えば私の浅慮故の事、幾らでもお待ちしますわ」

 

 あれ?先程と雰囲気が違うな?何か有ったのかな?それにオールドオスマンがいやに得意げに此方を見ているんだけど?

 

「エレオノール様とも協議しましたが結論から言っても豊胸技術の公な研究は避けたいと思います。

今回の召喚については私が執筆し公開している演劇についてアンリエッタ姫が興味を持ち、トリステインの劇場にて公演を希望された。

そして私の演劇にはいつも魔法的な演出が有り、その辺の技術的な事をアカデミーのエレオノール様を交えて協議したと」

 

「まぁそれは魅力的な提案ですね」

 

「ルイズはアンリエッタ姫に私が学院に在学している事を報告し、そして紹介者として同行した」

 

「成る程、筋は通りますね」

 

「勿論例の(豊胸指導は)件はルイズが直接行います」

 

「それで其処までして頂く私に求める物はなんでしょうか?」

 

 ん?何だろうこの物分りの良さは?それとご自分に求められている事を理解しているのか?

 

「そうですね。

1つ目はトリステインの劇場及びギルドにゲルマニアの私の劇団の公演を認めさせて頂きたい。

2つ目はトリステインの王宮に馴染みのある劇団を紹介して下さい、両国の劇団による競演にしたいと思います」

 

「それが両国に配慮すると言う事なのですね、わかりました。

劇場及び劇団の選出と既得権を持つギルドとの調整はトリステイン王宮が責任を持って行います」

 

「勿論この提案で保留又は却下になっても問題は無いと思います。アンリエッタ王女が劇場や劇団の既得権を守ったとすれば断っても問題にはならないでしょう」

 

「大丈夫です。勿論一度王宮に持ち帰りマザリーニ枢機卿にも相談してみますわ。それと……」

 

「それと?」

 

「何故ミス・エレオノールとルイズは頬が真っ赤になっているのですか?」

 

「ああ……麗しの姉妹愛ですよ、僕は兄弟が居ないので羨ましいですね」

 

「あら?ルイズと結婚すればミス・エレオノールは義姉になりますよね」

 

「うふふ……アンリエッタ姫?ルイズが義妹かもしれませんわよ」

 

「まぁミス・エレオノールもツアイツ殿をお好きなのですか?」

 

「いいいいいえその様な事では有りませんが……ヴァリエール家の存続を考えてのもしもの時です」

 

「ふふふっミス・エレオノールの婚約破談の原因の一部はツアイツ殿かも知れませんね?」

 

 当初は緊迫していたのに終ってみればほのぼのした雰囲気での解散となった……

 

 

 

帰りの馬車の中

 

 

 

「オールドオスマン、アンリエッタ姫は途中から随分雰囲気が変わりましたが何かありましたか?」

 

「ん?ワシが教育的指導をしたのじゃよ……ふふふ見直したかの?」

 

「ええ、正直見直しました、あの甘ったれ姫様を短時間で変えたのですから」

 

「これでミス・ロングビルもワシを見捨てないかのう?」

 

「それは……その……セクハラを止めて給金を上げてみれば或いは……」

 

「なんでそんなに歯切れが悪いのじゃ?」

 

「いえ別に……」

 

 言えない……僕が引き抜いて僕の家に仕える事になったなんて。

 

「兎に角帰ったら関係各所に今日の詳細を報告しないといけませんね」

 

「そうじゃトリステイン側の報告はワシが対応するがヴァリエール家とゲルマニアの両家にはミスタ・ツアイツが報告してくれ」

 

「そうですね。でも今回のアンリエッタ姫の対応は試金石になりますね。どこまで既得権の有る者達を説得出来るのか?」

 

「お主も人が悪いのう……どちらになっても問題ないのじゃろ?」

 

「そうです。僕が断ったのではなくアンリエッタ姫、又はトリステイン王家が断ったなら何も問題は有りません」

 

「断られてもアンリエッタ姫には貸しが出来るし上手く行っても僕には利益が入るだけですからね」

 

「実際に戦争になってもゲルマニアは負けませんよ、負ける理由が無い。

ただ戦後にこの疲弊したトリステインと言う国の建て直しが面倒なだけです」

 

「そこまで読んでいたのかの?」

 

「ええ……僕の屋敷に攻め入ったら即ツェルプストー辺境伯と我がハーナウ家が侵攻します。

ウチの常備軍は400、ツェルプストー辺境泊は600、そして融和政策の緩衝都市の警備兵は200……

しかも緩衝都市には戦略物資が溢れてます、これが即戦力です。ヴァリエール家は色々な関係で動きが鈍いはずです」

 

 僕は疲れて肩に寄り添い眠っているルイズを優しく眺めてその色々が何かを諭させる。

 

「確かにご息女を人質に取られては行動も鈍るわな」

 

「まさか人質などと……しかし尊き王家の血は此処にも有りますよね、いざ攻め込めば王宮までは一直線です。

王宮を抑えれば押っ取り刀で攻めてきたトリステイン軍など……

わが国の常備軍ですらトリステインの正規軍に勝る数ですから、増援を考えても時間が経つ程こちらが有利。

そしてアルブレヒト閣下は始祖の血を欲している、アンリエッタ姫の身柄を抑えていると言えば開戦もやむなしと思いますよ。

むしろ積極的に動くでしょう、属国化するなり占領するなりは別として」

 

 それに魔法衛士隊隊長のワルド子爵はこちらの味方なんですよ。

 

「それがお主の最悪のストーリー……開戦しても勝つ自信が有ると言う事か」

 

「自分もこの国に個人的な友人や守りたい物も有りますから其処までの無茶はしたくないです……

全てが思い通りにとも行かないでしょうが、そう説明して思い止まる人も居るでしょ?」

 

「ワシ本当に同行して良かった、アンリエッタ姫を改心させたワシの功績って大きくない?」

 

「そうですね、オールドオスマンには感謝しています。流石ですね教育者の鑑です」

 

「ふぉふぉふぉ、そうかそうか!ワシ最高か!」

 

 学院に到着するまでオールドオスマンはご機嫌だった。

 しかし学院長室の机の上には少し早いですがお暇を頂きます!と言うロングビルの辞表が置いてあったりした。

 

 

 

第32話

 

 

 タバサさんの受難1

 

 人目の付かない森の中で迎えの風竜を待つ。今回の任務の成果品は2冊……しかしコレをイザベラに渡すのは気が引ける。

 昨夜の事を思い出す、父親以外に始めて年頃の男性に抱かれた(お姫様抱っこ)しかも彼は私を好きだと言った。

 

「守ってみせる、僕のタバサ」が頭の中でリフレインする。

 

 自然と頬が熱くなり口元が緩んでしまう、しかし上着のポケットにコンナ赤面スル本を持っているなんて……しかも2冊も。

 

 いいいイヤラシイ……Hなのはいけないと思う。

 

 試しに2冊とも読んだ、読んでから気付いた。洗脳はされてない。ミスタツアイツには初めからある種の尊敬と憧れが有った。

 本の好きな私は彼の作品を読むのが好きだ。

 

 しかし……この本は……イケナイトオモウ!

 

 洗脳はされないが混乱はする、はっコレは混乱する本なのでは?既に彼の術中に嵌ってる!

 

 なんて恐ろしい相手!

 

 では何故ワルド様はこの本を懐に忍ばせていたのか?彼もミスタツアイツに敬意を持って接していたハズ……そうか!

 男女か年齢か他の条件が有るのかこの本には複数の効果が有るのだ。ならばイザベラにはどの様な効果が?

 ジョセフには?お母様にはどうなのだろう……

 

 試してみる価値は有る……

 

 イザベラには1巻だけ渡し2巻はお母様に見せて見よう、しかしお母様にこの様な本を見せたらイヤラシイ娘だと思われる。

 でも心が壊れたお母様に僅かでも回復する見込みが……

 

「7号……7号殿?待たせたな」

 

 迎えが来てしまった。

 

「どうした?真っ赤だぞ?風邪か?夜間飛行は冷え込むが大丈夫か?」

 

「……平気」

 

「なら良いが……これでも羽織っとけ」

 

「……ん」

 

 彼が外套を放ってくれた、着込んで彼の後ろに乗り腰を掴む。

 

「では出発する」

 

 ふわりと浮き上がる風竜……私も欲しい。移動に楽だ。

 

 

 

竜騎士心の中の葛藤……

 

 

 

 ヒャッハー役得ダゼー!ロリっ子と合法夜のランデブー!それも最近流行のクーデレでチッパイだぜ。

 

 最近読んだゲルマニアからの密輸本の「エヴァさん-TV版-」のアヤナミーに似てるぜ!

 あのゴーレム対ゴーレムの肉弾戦の描写も凄いが操縦者のクーデレのアヤナミーとツンデレのアスカーに萌えるのよ!

 しかもこの7号も人形とあだ名されているし挿絵の髪型や体型もアヤナミーに似ているし……

 

 帰ったらほかの連中にも自慢しよう。しかし続きが見てーなー!

 

 作者のツアイツってホントに神だぜ……ブリミルなんかよりよっぽど良いぜ!

 何冊か読んだけどどれもヒャッハーでクールな内容だしサイコーにハイって奴だぜー!

 しかし密輸本だからって足元見やがって1冊5エキューはボリ過ぎじゃね?

 一度皆で金を出し合ってゲルマニアまで買いに行かせるか……いや行く奴の好みの本だけ購入しそうで駄目だ。

 

 やっぱり貧乳が時代の先端だよな。でも揺れる巨乳も捨て難いんだが……駄目だ本格的にこの案件は竜騎士会議にかけてみよう。

 でも団長殿がチッパイLOVEとか言ってるからなー。

 

 そう言えばさっきの7号って赤くなって可愛かったよなー!

 

 まるであの作品の……大空をタバサと操縦者の妄想を積んで力強く羽ばたく風竜!ようやく彼の妄想が尽きた頃にガリアの国境近くまで到着した。

 

「さてここで俺の風竜は限界だぜ。悪いな7号乗換えだ……気をつけてな」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だろうこの竜騎士は学院でミスタツアイツの本を読んで恍惚とした顔の連中と似ている?試しに「TO HEART」を見せて見よう。

 

「ありがと……この本を少し見て」

 

「ん?なんだいこの本は……」

 

「こっこの本はゴッドツアイツのイカス著書じゃねーか!どうしたんだよコレ?うわっスゲーヘブンな内容だぜ!」

 

 ゴッド?神?ブリミル教信者を裏切らせる程の本なの?やはり女性には効かず男性にだけなんだ。

 

「……何でもない返して」

 

「ちょちょっと待ってくれ何でもするからその本を見せてくれよ」

 

「駄目……イザベラが欲しがっている。早く渡さないと」

 

「そっそんなぁ……」

 

 凄い!やはり男性のみ読ませればその所有者に忠誠を誓う本。

 

「しかしイザベラ様が欲しがるなんてイザベラ様って……そんな趣味なんだ」

 

「……?」

 

 その後何回か乗り継ぎ漸くプチトロワに到着した。全ての迎えの竜騎士に「TO HEART」を見せたが同様の反応だった。

 これはイザベラに渡すのは惜しい……しかし1冊は渡せねばなるまい。

 もしコレを私が直接ジョセフに見せたら彼はどういう反応を示すのか?素直にお母様の解毒薬を渡すだろうか?

 

 「TO HEART2」を隠しイザベラの元に向かう。

 

 竜舎から向かう途中で会う竜騎士たちがリアルアヤナミーモエーとかヒソヒソと話しているが何だろう?

 

「7号……7号殿。少し宜しいか?」

 

 この男はたしか竜騎士団の団長。

 

「その、何だ……部下から報告を受けてな……そのゲルマニアのツアイツ殿の著書を持っているとか?」

 

「……ん」

 

「その……少しだけ貸していただけぬか?」

 

「……ん」

 

「こほん……では風の奥儀をお見せしよう……これが風の最強たる所以……ユビキタスだ!」

 

 団長は「TO HEART」を持ったまま遍在を4体出現させた。

 

「「「「「ヒャッハーサイコーにクールだぜダンチョー」」」」」

 

 どこからか先程送ってくれた竜騎士が集まり団長を囲んで騒ぎ出した。

 

「7号殿お手間を取らせたな。では本書はお返しする。てめぇら逝くぞー!」

 

「「「「「ウォー」」」」」

 

 なに?なんなの?タバサはプチトロワの廊下で暫し呆然としてしまった……

 



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第33話から第35話

第33話

 

 

 タバサさんの受難2

 

 

 麗らかな午後の日差しを浴びながら1人廊下に立ち尽くす……そして再起動に20分を要した。

 この本は危険……何故ガリアの防空の要の連中が既に毒されているの?しかも微妙に人格が壊れている。

 あの団長はもっと厳格だったはずだし竜騎士団は風のメイジの最高峰の連中だ。

 

 ヒャッハーとかモエーとかアヤナミーとか何語なの?

 

 ここはガリアの王宮ではないの?それに何故ジョセフ派の皆が私に普通に話しかけてくるの?

 

 駄目だ……理解不能……兎に角イザベラに会おう。

 

 

 

イザベラ執務室にて

 

 

 

「遅いよガーゴイル!プチトロワに到着したと報告を受けてから1時間以上たってるよ。相変わらず愚図だね!」

 

「……」

 

 相変わらず私には反応なしかい……仕方ないけど遣り切れないね。

 

「それで?成果は有ったのかい?」

 

「……ん」

 

「ふーん……これが噂の著書かい?見た目は普通だね……読んだのかい?」

 

「……いえ」

 

 アレ?何だ?私の前では無表情を貫くこの子にしては分かり易い動揺だね。

 

 さては……読んだのか。

 

「読んだんだね?どうだったんだい?」

 

 意地悪な質問だがこの子の反応を見たい。エレーヌ……もう私達が笑い合う事は無いだろうけど……

 

「読むのは……危険……動揺した……」

 

 おや?会話になるなんてね。なんだろう?秘密はこの本か。

 

「そうかい……アンタが読んで私が読めない訳がないね……こっこれは……エレーヌあんた!」

 

 なっななななんて本を持ってきたんだいアンタ!これはヤバイ……

 婆やから花嫁修業の一環で見せられた春画なんてこれに比べたら……

 

「……?」

 

「……」

 

「……?」

 

「その……何だ。これは本物かい?」

 

「……ん。読むと女性は動揺し男性は服従する……実験した」

 

「実験ってアンタまさかコレを男に読ませたのかい?」

 

「……ん。迎えの竜騎士に」

 

 ばっ馬鹿これはただのエロ本だよ。アンタにコレを見せられた相手がアンタをどう思うのか分かってるのかい?

 

「そいつ等だけかい?」

 

「……ん。竜騎士団団長にも見せた」

 

「なんだって!それでどうしたんだい?」

 

「……遍在でコピーしてた。多分他の竜騎士が欲しいと言ったのをイザベラが欲しいからと断ったから」

 

「ばっ馬鹿じゃないのそれは……って私が?ばっバカー」

 

「……?」

 

 なんだい、この私がエロ本を集めてるって言い触らしたのかい?どんな意趣返しなんだい!

 

「じょ冗談じゃないよ、私はこんな本要らないよ。アンタがお父様に渡しな」

 

「……?」

 

「それと私がこんな本を欲しがってなかったって今迄に言い触らした奴全員にそう言っておいで……これは命令だよ」

 

「……いや、彼らは気持ち悪い」

 

「アンタが言った相手は私をそう思ってるんだよ……とっととお行き……そして全員に言い終わったら報告に来な!早くいけ!」

 

 あの子は……大丈夫なのかい?こんな本を掴まされて騙されたんだよ、それと私の信用を早く回復しとくれ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やはり女性は動揺した、それに直接この本をジョセフに渡せるチャンスも得た……

 でも……エレーヌなんてもう呼んでくれないと思ったのに……

 

 この本の威力なの?私の従妹姫……友達だったけどあの日以来関係は変わってしまったのに……あんなに嫌がっていた……

 

 仕方ないから竜騎士団にはその様に訂正しに行こう。竜騎士団の詰所は……何だろう?

 

 詰所の扉の内側から凄い怒鳴り声が聞こえる。

 

「バカヤロウ時代は貧乳クーデレの時代だ!アヤナミーイコールシャルロット様だろーが!」

 

「ふん。目先の新しさに走るな!何時の時代もツンデレ最高、つまりアスカーイコールイザベラ様だ!」

 

「あんなの常にツンだけじゃないか?今日のシャルロット様を見せたかったぜ、デレが有ったんだぜ」

 

「はっ!ツンツンツンツンの後のデレが良いんじゃねぇか!」

 

「あの意地悪姫にデレなんてこねーよ」

 

「何だとー!」

 

「やるかー!」

 

 ……しまった。所有者をイザベラと教えたから私の物と思っている者達と対立してしまった……

 

 これは……いける。

 

 この洗脳本は効果が有る!ジョセフに直接見せる!ついにお母様を治す事が出来る……

 

「おおー噂のクーデレアヤナミーが居たぞー!」

 

「……あの」

 

「OHクールガールキター!イェーイKO・RE・GA・クーデレーだー!」

 

「……いや……その……さっきの本だけど……」

 

「「「「「まぁまぁまぁ入って下さい。ムサイ男所帯ですが……さぁさぁさぁ!」」」」」

 

 なに……既に私を支配者として扱うのね。そうなの?でも……でも……

 

「いやっキモイから……怖い……やー」

 

 全速力で逃げる……元来た道を……全速で……全速で……

 

「はぁはぁはぁ……」

 

 目の前の扉を開けると驚いた顔の……イザベラ?

 

「嫌……気持ち悪い……無理……」

 

 思わずイザベラに抱きついてしまった。

 

「なっなななななんだい?この人形はいきなり抱きついて……なんだい?震えてるのかい」

 

「竜騎士……怖い……部屋に連れ込まれる……」

 

「はぁ?ちゃんと説明しな?ほらお放しったら……誰かこの人形にお茶を入れてやりな」

 

「ほらもう平気だから……ね……落ち着きな……」

 

「……ん」

 

 何だろう、イザベラが優しく背中を撫でてくれる……不思議と落ち着く。

 

「ほらお茶を飲んで……で?どうしたって?」

 

 優しい……イザベラも洗脳してしまったのかな?

 

「竜騎士……目が怖い……部屋に連れ込まれる……いや」

 

「はぁ?アンタを部屋に連れ込むだって……それはどういう意味だい?」

 

 イザベラ執務室の外

 

「ふふん……どうだい!あれがツンデレのデレだ……いつも苛めてる様だが実際は甘々なんだぜ!」

 

「美少女2人……良いな、萌えるぜ!」

 

「このシュチュでゴッドツアイツ先生に作品を書いて欲しいよな……」

 

「タイトルは2人はマジカルプリンセス!……とか?」

 

「サブタイに禁断の従妹姫なんてどーよ!」

 

「「「「「異議なーし」」」」」

 

 駄目だこいつ等(作者も含めて)早く何とかしないと……

 

 

 

第34話

 

 

 無能王ジョセフ

 

 つまらんな、つまらん……この世界には余を楽しませる物が無いのか。

 各国に放った諜報の報告でもどの国にもこれといった人物も出来事も無い。

 僅かに引っ掛かったのがゲルマニアのハーナウ家が親子で乳の大小を争っている位だが……

 余は色事には興味が薄い、なので2つの策を弄した……

 

 1つは我が娘にトリステインにいるハーナウ家次期当主の調査をさせる事。

 もう1つはいけ好かないエロ坊主集団ロマリアの糞坊主を嗾け乳の大小に拘らぬ美乳派を作らせアルビオンから広めさせる手筈だ。

 

 クロムウェルと言ったか……乳の大きさや形などは所詮は女の美醜を競う位の物ではないか。見物よの、己が理想を賭けて争うがよいわ。

 

 ……しかし余はアレか?彼らの括りで行けばミューズしかりモリエールしかり巨乳だな。

 

 ふはははは!そうか余は巨乳派か。ならば巨乳派にも支援をしてやろう。

 

 そうだな……

 

「ミューズ!ミューズよ」

 

「ジョセフ様なんで御座いましょうか」

 

「おおミューズよ!そちはハーナウ家次期当主に接触し力を貸してやれ」

 

「それは……ジョセフ様の操り人形に仕立てよ……と言う事でしょうか?」

 

「そうだな……いや純粋に力を貸してやれ。そして良い時期に裏切ってみろ」

 

「時期とは?クロムウェルを追い詰めた辺りで、宜しいでしょうか?」

 

「それで良い。それと出来るだけ奴の著書を送ってくれ……あれはあれで余の退屈を紛らわす物だ」

 

「お任せ下さい。では今から向かいます」

 

「うむ。そなたの乳ならば奴も喰い付くであろう……なにせ巨乳教の教祖らしいぞ」

 

「お戯れを……我が主以外にこの体を好きにはさせません」

 

「ふふふ……そうか吉報を待つぞ」

 

「ジョセフ様、イザベラ様及び北花壇騎士団7号殿がお見えです」

 

 ふむ?あの2人が一緒にだと……

 

「よし入れ」

 

 なんだ……何時もとは雰囲気が違うな?何だか2人の距離が近い気がするな。

 

「どうした我が娘よ。父に何か報告か?」

 

「はい。お父様……いえジョセフ王、お求めの書籍を手に入れたのですが……」

 

「なんだ歯切れが悪いな?それでどうしたのだ」

 

「ほらエレーヌ、渡すんだろ?」

 

「……ん」

 

「ほぅ?お前が余に直接渡すのか……どれ……なっ!」

 

 こっこれは……得意げに渡されたがエロ本ではないのか……我が娘の前で我が姪がコレを渡すだと……なにか意味か秘密が有るのかこの本は?

 

 ほぅ……ただのエロかと思えばストーリー仕立てなのか……随所に挿絵が入っているが従来の印象派や写実派とも違うタッチだ。

 

 何だかこう?ライトなタッチの絵柄だな……だがこれはこれで中々に劣情を催す図柄だな。

 ふむ……本人は巨乳派と公言しているが貧乳も抑えておるのか……舞台は学園か……なに?

 人外のゴーレムまでが攻略対象だと!なんと節操の無い主人公なのだ。

 

 このセリオとマルチいうゴーレムは中々余の琴線に触れるの……エルフの技術を流用しミューズに作らせてみるか。

 

 なんと!

 

 ここまで心を通わせたマルチを保存の為に取り上げるだと!フザケるな。滅ぼすぞ貴様等……

 

 なんと言うラスト!

 

 しかし読後に心と下半身に残るモヤモヤはなんだろうか……初めてだな。この様な下賎の本に気を奪われあまつさえ続編が気になるとは……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねぇ?お父様ったら一心不乱に読み耽ってるけどそんなに面白いのあの本?」

 

「それがあの本の効果……直ぐに驚く事になる」

 

「でも娘と姪の前でエロ本を熱読してる父親ってどうなのさ?」

 

「……?エロ本って?」

 

「あんた騙されているんだよ。あれは唯の E・RO・HO・N なんだよ」

 

「しかし……他の皆には効果が有った」

 

「そいつ等は全員変態なんだよ!」

 

「竜騎士団長まで?」

 

「アッチャー……うちの連中は皆ダメダメかも知れないね」

 

「「あっ読み終わった」」

 

「その……なんだ。ご苦労だったな2人共……引き続き任務を続けてくれ」

 

「続編を手に入れたら……お母様の病気の解毒剤が欲しい」

 

「なっ……エレーヌあんた何を言ってるんだい?」

 

「ほう、オルレアン公夫人の病は毒と申すか……」

 

「貴方が飲ませた……」

 

「ふむ……そうか……まぁ良い。ならばこの著書の作者が余に協力をするなら考えても良い」

 

「彼は関係ない……」

 

「どうかな?これからアルビオンで面白い花火が上がるぞ、奴はそれに巻き込まれる」

 

「その動乱を見事押さえ余の元に来るのなら考えてやろう」

 

「イザベラよ。そちも手伝ってやれ」

 

「お父様……エロ本に毒されましたか?」

 

「なっ!その様な事実は無い……が。これは預かる」

 

「もう良い下がれ……」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふむ、余らしくない対応だったな。

 

 しかし……ツアイツと言ったか。

 

 今迄にこのハルケギニアには無かったあらゆるエロを紡ぎだす男だな、全てが斬新且つ洗練されている。

 これだけの妄想を1人で紡ぎだすとは……変態度ではシャルルよりも上かもな。

 あ奴も危うい程の変態だった……ガリア王宮を巻き込んでの女装趣味などと……

 

 キモイわ……

 

 賛同した貴族どもは全て粛清したが今でも思い出すと怖気が走る……

 

「ジョセフお兄様!大好き(ハート)」などと呼びおって……

 

 なまじ女顔だったので一見美女に見える為に始末が悪かった、男も女も虜にする魔性のオカマ!

 この秘密はシャルロットには教えていない、母親も真実を知り壊れてしまったのだ……

 余が薬を盛った所為と思い余を恨むが良い、余が色事に疎くなったのもその所為だ……

 

 ツアイツよ、期待しておるぞ。全ての敵を下し余の性的興奮を呼び覚ますのだ!

 

 さすれば余の全てを賭けて貴様をハルケギニア一の性の伝道者として末代まで称えよう。

 ブリミルなどとカビの生えた偉人など駆逐してくれるわ!

 

 新たなる偉人……性の伝道者ツアイツ!

 

 楽しみよの、ロマリアのエロ坊主も或いはエロ故に取り込めるかも知れぬな。

 

 

 

第35話

 

 

 イザベラ執務室

 

 

 すっかり毒気の抜けた二人は応接セットに体を預けて溜息をついていた、まさかこんな展開になるとは思ってもいなかった。

 

「で?どうするんだい?アンタにそのエロ本を渡したのは誰なんだい?」

 

「トリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵……」

 

「それは…大物だね。でも何でアンタがそんな人物と知り合えたんだい?」

 

「……その……抱かれた(お姫様抱っこ)時に……」

 

 真っ赤になって俯きボソボソとトンでもない事を言いやがったよこの子は!

 

「ちょちょちょちょっと何だって!アンタ抱かれたって……どうなっているんだい。アンタまさかそれを手に入れる為に体を……」

 

「ちょっと落ち着く」

 

「落ち着けるかー!アンタねぇ女の操をそんな事で奪われたんだよ。どうするんだい?責任取れる相手なのかい?」

 

「責任?(私が)逃げちゃったし……」

 

「相手はどういうつもりなんだい……しかし偽名を使っているアンタじゃ文句も……どうするかね?」

 

「戻ったら相談してみる……」

 

「相談!甘いよ、王族相手にヤリ逃げなんて許さないからね」

 

「ヤリ逃げ?」

 

「アンタはどうなんだい?そいつが好きなのかい?」

 

 あーまた真っ赤になって俯いたよ……どうやら両想いか少なくともエレーヌは悪くは思ってないのか。

 

「取り敢えず学院に戻りな。暫くは北花壇騎士団としての任務は除外してやるよ」

 

「では私は何をすれば良い?」

 

「その子爵をしっかり捕まえてな!あとその本の作者について調べを進めておいておくれよ」

 

「ミスタ・ツアイツの事は大体調べた……」

 

「いやそいつ相当の変態だよ。あんな本を書ける相手だ……まだまだ秘密を持っている筈さ」

 

「分かった……」

 

「その任務は急がないから……あれだ、母親に顔を見せてやりな」

 

「……ありがと」

 

「さぁさぁ早くお行き!」

 

 ……ワルド子爵か……あんなに幼いエレーヌに手を出しやがって……タダじゃおかないよ!

 

「誰か……元素の兄弟を呼びな」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イザベラが優しい……口は相変わらず悪いが思いやりを感じる。

 ……久し振りにお母様に会える、この本は見せたらどうなるのだろうか?

 

 イザベラには効果が有った……お母様はどうだろうか……

 

「ベルスラン……久し振り……」

 

「おおっ!お久し振りで御座います。どうなさいました?突然お帰りになられて」

 

「イザベラが久し振りにお母様の顔を見て来いと許可をくれた……」

 

「イザベラ様が?」

 

「……ん。お母様は何処?」

 

「今日は容態も良くテラスでお茶を楽しんでおられます」

 

「……そう。暫らく2人だけにして欲しい」

 

「分かりました……ではのち程、お茶のお代わりをお持ちします」

 

 2階のベランダに急ぐ……つい足が速くなる……今日こそお母様の病気を……治す。

 

「……お母様」

 

「シャルロット、良い天気ですね。今日は何をしましょうか?」

 

 お母様は穏やかな表情で人形を抱き話しかけている……

 

「あら何方かしら?」

 

「見せたい本を持ってきた……」

 

「あら?絵本かしら?シャルロットに読み聞かせましょう……」

 

 お母様に本を渡す……これでやっと病が治るかもしれない……

 

「さぁシャルロット……読みましょうね……」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 奥様は穏やかな澄んだ声で本を読み上げていく……

 緑豊かな庭に面するベランダで妙齢の女性が椅子に座り人形を抱き側には美少女が不安げな表情で立つ……

 非現実的なそれでいて美しい午後の情景……しかし読み上げている内容が問題だ!

 

 実の母親に不安げな表情でエロ本を音読させる娘……ベルスランは扉の影で立ち尽くしてしまった……

 まさかシャルロット様もシャルル様と同じく特殊な変態道を突き進んでいるとは……

 

 彼が墓場まで持っていく心算の秘密……シャルル様は女装を愛しあまつさえ実の兄に恋心を抱く変態だった。

 しかも男女共に逝ける変態でも有り多くのシャルル派貴族の男女がその毒牙にかかった。

 

 奥様もジョセフ王が毒を盛ったと思われているが、実は先にその事実を知らされ気の触れそうだった奥様に記憶を弄る薬をジョセフ王が飲ました、と私は思っている。

 正直言ってアレに言い寄られたジョセフ王には同情するし感染された変態を粛清した事には同意する。

 あのまま彼らを放置すればガリアと言う国はエライ事になっていた筈だ。

 しかし薬の副作用か奥様は人形とシャルロット様を取り違えてしまう様になってしまった……

 あのまま発狂されるよりはマシなのだがどうにも後味の悪い結果だった。どうやら朗読も終った様だ……お茶をお持ちしよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 何故……お母様には変化が見られない?精神作用は既に精神が病に犯されているお母様には無効なの?

 読み終わったお母様が本を差し出した。

 

「有難う。シャルロットも喜んでいたわ」

 

「そう……良かった」

 

 そう言うのが限界だ……やっと治ると思っていたのに効果が無いなんて……失意の内にベランダを離れようとしたらベルスランがお茶を持ってきた。

 しかしお茶を楽しめる気分ではなく辞退して屋敷を去る。

 

 まだ……まだこの洗脳本には可能性は有る筈だ……新作を手に入れよう。

 帰りにベルスランから呼び止められた……言い難そうな顔をしている?

 

「その……その本は何処で手に入れられたのですか?」

 

「……聞こえていたの?」

 

「はい、少しだけですが……」

 

「安心して、次はもっと効果の有る本を探してくるから」

 

「そうではなく……」

 

「これは駄目だった……ジョセフに渡す……新しい本を探してくるのが任務だから」

 

「ジョセフ王がその様な任務を……」

 

「ではベルスラン……お母様を宜しく。また来る」

 

激しく方向性が違ってしまったがタバサの母親を救う為の努力は続く……

 



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第36話から第38話

第36話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 トリステイン王宮から正式名な回答が来ました。

 僕の提案した(事になっている)ゲルマニアとトリステインの競演による演劇について。

 前向きに検討したがトリスタニアの劇場では既得権が複雑でありゲルマニアの劇団を誘致する事は難しい。

 しかし脚本としてアンリエッタ王女に献上した物をトリステインの劇団が上演する事は問題ない、要約するとそういう事だ。

 

 利権が絡むからよその劇団は公演させないが無償で献上した脚本なら此方が好きに公演しても良いよ。

 

 なんとも向うに都合が良い内容だ、やはりアンリエッタ姫にはまだまだ利権の絡む折衝は難しいという事か……

 しかしこれで断るとまた騒ぎ出す連中が居るんだよな……これが。だから無料で1本脚本を書かなければならないだろう。

 

 しかしアンリエッタ姫個人には大きい貸しが出来る、ルイズの豊胸技術指導と会わせて二つの貸しが……ね。

 

 最近エロばかり書いているから真面目な恋愛物でも書くか……

 それに脚本家として名前が出るから僕の名声は上がるので全くの損ではない。

 むしろ脚本を物語として売り出す際の良い宣伝にしかならないだろう、見に来れない平民には本は売れる。

 そして人気の高いアンリエッタ姫が絶賛してくれれば尚更だろう。

 アンリエッタ姫が気に入った脚本を演劇し失敗したり不振だったりしても責任は向うだから安心だ。

 

 作品名は「真夏の夜の夢」シェークスピアの初期の作品でロマンティックで奔放な作風の名作だ。

 

 妖精のオベロン王やティターニア王女が登場し惚れ薬が作品のキーアイテムとなるこの作品はハルケギニアでも受け入れられるだろう。

 勿論、妖精は精霊に惚れ薬も水の精霊の秘薬に替える、内容はとある国の王女と別の国の王子の結婚話が進んでいる。

 

 王女の国の家臣が自分の娘が気に入らぬ若者と恋仲になりそれを引き離なし自分の勧める相手と結婚させたいと王女に相談する。

 王女は悩むが自分の結婚式までに娘に親の言う事を聞くか聞かないかの猶予を与える。

 娘は友人に相談するがその友人は親が勧める娘の相手に片思いをしていた、4人は各々の思惑を秘めて魔法の森に向かう。

 

 その森にリアル夫婦喧嘩をしている精霊王と王女が居た。

 

 精霊魔法を駆使して戦う迷惑夫婦は森の半分を破壊しティターニア王女が留めの一撃をオベロン王に見舞い逃走!

 

 ティターニア王女は泉の辺で不貞寝してしまう、九死に一生を得たオベロン王!

 

 しかしこれでは身が持たぬと部下にティターニア王女に惚れ薬を(この惚れ薬は瞼に塗るタイプ)塗らせ自分に再度惚れさせて有耶無耶にしようと企むが、この部下はおバカで森に侵入した人間達4人共にも塗ってしまう。

 人間の男2人は相談を持ちかけられた娘の方に一目惚れをしてしまう。

 

 しかもティターニア王女は部下の悪戯で顔をロバにされた男を好きになってしまい大混戦、トンでもない三角関係のコメディを演じてしまうのだ!

 この混乱を納める為にオベロン王は奮闘し目出度くティターニア王女と復縁し人間の男女4人は2組のカップルとなり一件落着。この話にシェークスピアが込めたメッセージとは……

 

「真実の恋と言う物はどんなに権力の有る者でも決して好都合にいった試しは無い!」という事だ。

 

 そして僕が込めたメッセージは……散々振り回してくれたアンリエッタ姫の恋愛にチクリと嫌味を込めた作品だ。

 

 この作品は先ずアンリエッタ姫に献上する、その際に物語としての版権は此方に有ると言質を取り書面にて確認・サインしてもらう。

 あとはトリステインの劇団の腕の見せ所と言う事で……

 

 これは300Pを超える大作になってしまった為に2週間を要した、この間にミスタバサは学院に戻って来なかった。

 ガリアは広くここからグランドトロワまでは大体1000km有るんだっけ?風竜を使っても時間が掛かるよね。

 

 ワルド殿にはミスタバサが戻ったら連絡を入れる事になっている。

 それと先のアンリエッタの軽率な行動に便乗しそうな貴族の調査を頼んだがそれらしい動きをする貴族は居なかったらしい。

 行動がいきなりすぎて手を出す事が出来なかったか?

 

 そして困った事が1つ……学院秘書を電撃退職したロングビルさんだが執筆中は編集者の如く僕の部屋で待機・監視している。

 とても有能で困ります、そして先輩専属メイドのソフィアとは仲良くやっています。

 

 書き上げた原稿をロングビルさんに渡すと手際よくページ数を確認し「では校正に廻します」と出て行った。

 

 ロングビルさんを部屋から送り出してふと思い出す、アカデミーから馬車で学院に戻った時の事を。

 ロングビルさんはキュルケとソフィアを屋敷に送る時に序に辞表をオールドオスマンの机に置いて行ったらしい。

 僕の部屋に辞表を握り締めて怒鳴り込んできた時には何事かと思った……

 

 ジジイの泣き顔など見たくも無かったのにアップで散々愚痴を聞かされ挙げ句の果てに部屋の本棚にあった男の浪漫本を全て没収して行った。

 別に一般閲覧用だからまだストックも有り問題は無かったのだが周りの同級生達はそうではなかったらしく学院長室に直訴に行った。

 

 さて作品を投稿し終わった作家さんの行動とは1つ……呑みに繰り出す事ですよね。

 

 今夜は「魅惑の妖精亭」に繰り出しますか!飲み友達を誘って……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イザベラから下された指令、1つはトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵を調べ不誠実な性格なら……

 

 イザベラ様の言葉をそのまま言えば「モギレ……」だそうだ、何処とは言わなかったけど多分アソコだろう。

 

 もう1つはゲルマニアのハーナウ家の次期当主の身辺調査とその秘密を探る事。

 

「面倒臭ぇよジャネット……人気の無い所で襲っちまおうぜ!」

 

「そうだなドゥドゥーの言う通りにしようぜ、俺は同じ土メイジとして次期当主を襲うぜー」

 

「馬鹿……あんた達は黙ってな。で兄さんどうするの?」

 

「そうだね、ジャックやドゥドゥーの言う通り一回襲ってみるか?」

 

「「そうこなくっちゃ!」」

 

「失敗しても私は知らないよ……」

 

「奴らは「魅惑の妖精亭」に入ってから2時間位経つし、丁度襲撃には良い時間になる。帰り道で襲うぞ」

 

「あんな店に入る時点で不誠実が確認出来たからね、モギろうぜ」

 

「ジャネットとジャックは次期当主を僕とドゥドゥーは子爵を襲おう」

 

 

 

「魅惑の妖精亭」店内

 

 

 

 店内にはツアイツとワルド子爵がジェシカとスレンダー4人娘を囲んで盛り上がっていた。

 

「ツアイツ先生、新作を書き上げたそうですね」

 

「うん、アンリエッタ姫に献上したら暫らくすればトリスタニアの劇場で上演される筈だよ」

 

「すごーい!でも私達平民には見せてもらえないから……」

 

「んー上演したら直ぐ出版されるから平気だよ。一般用だと55スゥで売り出すし貴族用の豪華ハードカバー本で2エキューかな」

 

「ワルドさまー欲しー買ってー」

 

「分かった分かった……任せなさい」

 

「あらあらまぁまぁ、すっかり彼女等と打ち解けてますね」

 

「んーここに原作者が居るんですけどね?」

 

「でも先日もグリフォン隊の隊員達を全員引き連れて来てくれたんです、その時に偶々徴税官のチェレンヌ様がいらして無理を言われたのですがワルド様が解決して下さいました」

 

「あーチェレンヌ子爵もゴロツキを引き連れてるけど現役魔法衛士隊に適う訳ないね……」

 

 んーここでも原作イベントを1つ拾ったんだね。

 

「じゃワルド殿達の人気は凄いんだね」

 

「妬けますか?」

 

「くす……まさか!ジェシカが無事なら文句は無いさ」

 

「まぁお上手ですね」

 

 これから襲撃される2人は何処までも呑気に呑んでいた!しかも完全にキャバクラで女性を口説くオヤジと女性にたかられるオヤジとして……

 しかしジェシカは口説かれ喰われたら最後、黒化シエスタの襲撃を理解していた為に及び腰だ!

 

 誰も夜中に枕元で包丁を研がれたり包丁二刀流で追い回されたくは無いだろう。

 

 

 

第37話

 

 

 「魅惑の妖精亭」でワルド殿と別れ正門脇の乗馬の預かり所までのんびりと歩く、このほろ酔い感はお酒を飲める大人だけの特権だ!

 このSSを読んでいる二十歳未満の人はお父さんに聞いてみてね。

 ハルケギニアでは明確な飲酒の年齢制限は分からないけど多分自己責任でお願いします!かな?

 

 季節は春の終わり、頬に当る夜風が酔いを醒ましてくれる……

 

「貴族様……貴族様ちょっと待って下さい」

 

 ん?若い女性の声?後ろを振り返る。随分と白黒の派手な衣装の美少女と厳つい男が道の真ん中に突っ立っている……

 

 一気に酔いが醒める、落ち着けよツアイツ。

 

 ビンビンと危険を感じる、美少女はそうでもないが男の方は分かり易い殺気を向けているから友好的じゃないのは分かる。

 

「こんな時間にお供を連れていても外出は危ないですよ、美しいお嬢さん」

 

「お供じゃねぇ!ジャネットやっちまおうぜ?」

 

「待ってジャック黙ってて……嬉しいお言葉ですが女性には全員言っているのでは?」

 

 ジャック?ジャネット?派手な衣装の美少女に筋肉馬鹿……元素の兄弟か!

 

「いえ……僕の選美眼に適った美女・美少女だけですよ、元素のお嬢さん」

 

 はっと息を飲む気配を感じる……

 

「流石は巷で噂のハーナウ家のツアイツ様って事ですか?7号経由で情報を知りました?」

 

「いや……君達を送ったのはイザベラ様かな?エロ本を読ませた報復に君達はやり過ぎだど思うんだけど?」

 

「あのデコ姫そんな事で俺らを呼んだのかよ?」

 

「ガリアに何をしたかってそれ位しか思いつかないんだけどね?」

 

「流石はイザベラ様にトンでもない変態と言われるだけ有りますね?もっと貴方の秘密を伺いたいわ」

 

「嬉しい提案だね?昼間のカフェで差し向かいなら話しても良いけど?君なら廻りも羨ましがるだろうし」

 

「あら?この状況で口説くのですか?」

 

「メンドクセェ!力ずくで話させてやるぜぇ」

 

 ジャネットとの会話に強引に割り込んだジャックが、自分の後ろに土のゴーレムを練成していく……

 30m近く有るんだが……こいつ馬鹿だろ?この狭い通りでそんなモン自分の後ろに作ってどうやってこっちに向かわせるんだよ。

 

 先に似非クレイモアを自分の周りに練成してから自慢のゴーレムを召喚する。

 

「クリエイトゴーレム」

 

 僕もアレな感じのゴーレムをアックス装備で練成する、勿論自分の前に!

 

「ほぅ?おもしれぇ!やるってか?」

 

「鋼鉄製よ……あんたのゴーレムより格好良いわ」

 

 ビコーン!モノアイを光らせて威圧する……

 

「それに不思議な機能も有るみたい……」

 

 こいつ等は見た目はアレだが汚れ役専門の北花壇騎士団……実力は僕よりも上だ、しかも2人、勝てないよな普通なら。

 口上も無くゴーレムのドテッ腹にアックスを二本投擲する。

 

「ウォ?ゴーレムが飛び道具かよ?でも直ぐに直るんだぜ」

 

 当った衝撃と飛び散る土塊を器用に避けながらジャックが嘲る様に挑発してくる……

 

「百も承知!」

 

 そのままゴーレムにタックルさせ相手のゴーレムに抱き付く様に転がり再生の邪魔をする、空洞とは言え鋼鉄製15tは下らない。

 土のゴーレムと言えど起き上がるのには苦労するし諦めて作り直すのにも時間が掛かる。

 ゴーレムの制御を切り自身の周りに黒色火薬で固めたブーメランを練成する。

 

「ひゅーやるねー!ゴーレムで押し負けたのは初めt……」

 

 相手の台詞もお構いなく2人にブーメランを投擲する……2人?ジャネットが居ない?

 取り敢えずジャックに30枚のブーメランを投擲、着弾の衝撃で爆発炎上する。

 

「凄いわね……でも甘いわ」

 

「甘いのはそっちだよ!」

 

 死角から接近するジャネットに向けて360度でクレイモアを爆発散布し直上にフライで上昇!

 様子を確認する前に路地に飛び込む、煙幕代わりに黒色火薬ブーメランをもう10枚練成し周辺に投擲し序でに眼くらましの濃霧を散布する。

 

「ちっ最初っからマトモに戦う気は無ぇのか……」

 

「凄い逃げっぷりだったね……どうする?追う?」

 

「当たり前だろ?狩は得意なんだぜ」

 

 2人は土埃が収まるのを待たずにツアイツが逃げた方向に正確に追跡を開始する。

 

「きゃ?なにコレ目がシミるんだけど!」

 

「うぉ……目が……目がぁ……」

 

 オリジナル魔法、濃霧には催涙効果が有った!

 

 

 

 同時刻ワルド子爵

 

 

 

 ふぅ、毎回ツアイツ殿の知識には驚かされる。どれだけの煩悩と妄想を修めていらっしゃるのか?

 サムエル殿にも手紙で報告しておこう、きっと有効活用される内容の筈だ。

 しかしこの年で毎回奢られるのはどうかと思うのだが、何時も知らない内に会計が済んでいるし……

 

 ツアイツ殿は誘った方が払うのだ!

 

 とか言われても学生に奢られる魔法衛士隊隊長も情けない……

 

「誰だい?つけてるのは?」

 

「何時から気付いていたの?」

 

 パチパチと拍手をしながら路地の暗闇から子供が2人出て来る。異様な雰囲気だ、まともではないな。

 

「で?何か用かな?」

 

「変態でロリコンな隊長殿に制裁を加える様に頼まれていてね、アソコをモギらせて貰うよ!」

 

「ほぅ未使用美品のマイサンを狙うとは、貴様らは巨乳派か?美乳派か?」

 

「いや何それ?知らないよ?」

 

「何だ。我が教義の敵ではないのか……では尋問の必要も無いな、向かって来るなら……殺すよ」

 

「いやもう少し違う話も有るのでは?誰から頼まれた?とか……」

 

「お前7号を喰っちまったんだろ?」

 

「7号?タバサ殿の事か……貴様らはガリアの手の物か?」

 

「さぁ……ね。しかし命令は命令なんでね……行くよ!」

 

 早い……剣杖で捌くが凄いスピート、だが閃光と言われた僕には……遅いわ!

 

 剣杖で男の足を貫く……何だと!僕の剣杖の突きが通らないだと?

 

「 驚いただろ?一寸特殊な体なんでね」

 

 彼らから少し距離を置く、もう1人は全く手出しはしないつもりなのか?

 

「ふっ、体の硬い相手でも衝撃ならどうかな?エアハンマー!」

 

「ひょー凄い凄い……でも当らないよ……なっ?」

 

 エアハンマーで牽制し一気に距離を詰める!

 

「ライトニングクラウド」

 

 紫電を纏いし一撃が男の左腕を直撃する。

 

「ウギャー……腕がぁ……」

 

 このままトドメを……

 

「待ってくれ。今日は引くよ」

 

「このまま逃がすと思うのかい?」

 

「お友達のほうが気にならないの?こっちは目的を果したよ……童貞さん?」

 

「なっ?」

 

「ドゥドゥー今日は引き上げるよ……彼は7号に手を出していない」

 

「待て貴様ら!ツアイツ殿に何を……爆音?向うは正門の方向」

 

「さぁ?でも向うも交渉決裂かもね?」

 

「くっ……今日は見逃すが次は無いぞ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 薄汚い路地を滅茶苦茶に走ったので方向感覚がもう分からない。

 これだけの爆音を出せば廻りが騒ぎ出すし衛士達が動く筈だ、あとはいかに逃げ切るかだが?

 もう門も非常事態で閉まって外には出れないだろう……

 

 不味いな、トリステイン王宮関係に逃げ込んでも痛くも無い腹を探られそうだ。

 

「貴族様……貴族様……お困りですか?」

 

 なっ?何時の間に背後に……

 

「君は……」

 

 其処には黒ずくめのローブを纏い額にルーンを刻んだ妙齢の美女が佇んでいた…… アレ?見覚えが有るんだけどコノヒト……シェフィールドさんだよね?

 

「さぁ早く此方へ……見付かってしまいますよ」

 

 イザベラからは元素の兄弟、ジョゼフからは神の頭脳ミョズニトニルンを追っ手に差し向けられるってどんだけ恨まれているんだ?

 

「さぁさぁ此方です、急いで下さい」

 

 僕は彼女に手を引かれるまま暗がりに連れ込まれた、罠かもしれないがどの道彼女からは逃げ切れないと本能が警鐘を鳴らしていたから……

 

 

 

第38話

 

 

 ワルドは爆発音の聞こえた付近へと急いで向かった、そして正門近くの市街地の一角で戦闘が有ったであろう場所を見つけた。

 2体のゴーレムが絡み合って倒れているがどちらも制御を失いグズグズになっている。

 

 特徴的なフォルム……確かツアイツ殿のゴーレムか。

 

 王宮貴族にバレると面倒なので破壊しておく、既に崩壊が始まっているので簡単だった。

 これはゴーレム戦に持ち込み例の爆発ブーメランで煙幕をはり逃走したか?

 

 周辺の破壊状況から推測し遍在を3体出して捜索させる、死体は無い。血痕なども見当たらない、上手く逃げていると良いが……

 衛士にはツアイツ殿の話は伏せて僕が襲われたという内容の方が問題を起こしたくない彼に配慮出来るか……

 

 しかしこの騒ぎだ。

 

 グリフォン隊にも要請が有るかも知れないので王宮に向かわねば……ツアイツ殿、ご無事で!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 深夜の薄暗い路地を美女に手を引かれて走っている、妙齢の美女では有るが相手が大問題だと思う。

 

 しかしどうする?

 

 厩舎には僕の使った馬が僕の名前で預けられている、このままでは僕が戻らないと連絡が行ってしまう……不味いな。

 

「お姉さん、正門近くの厩舎まで向かいたいんだけど……何処に向かってるの?」

 

「シェフィールドで良いわ、そうね馬を何とかしないと駄目ね……ちょっとこっちにきて」

 

 そう言うとシェフィールドさんは路地脇の窪地の様な空間に僕を引っ張りこむとニッコリと笑った。

 

「これは短距離だけど転移出来るマジックアイテムよ、使うには貴方のイメージが必要だけど平気?」

 

「いやいきなりそんな高価なマジックアイテムを出されても……」

 

「ほら追っ手が近付いているわ……急いで!イメージして」

 

 僕は小さい木箱を握らされ厩舎の近くをイメージする、突然の浮遊感の後、周りを見渡せば見慣れた厩舎が有る。

 見渡すと彼女は居ない、イザベラの手下が僕を襲いジョゼフ王の腹心が僕を助ける?

 ガリアの内部で僕の評価は如何なっているんだ?

 

 取り敢えず厩舎に馬を取りに行く……

 

 顔見知りの為か貴族だからかチップの額の所為か特に疑われずに馬を受け取り正門から出られた、急いで学院に戻ろうと馬を走らせる。

 すると並走するもう一匹の馬が……シェフィールドさんが見事な手綱捌きで馬を寄せてくる。

 

「有難う御座います。何かお礼と先程のマジックアイテムの代金を払いたいのですが」

 

 取り敢えず友好的に話しかける。

 

「良いのです。主から貴方を手伝う様に言われてますから」

 

 え?ジョゼフ王が僕の手助け?なんの冗談だろう?

 

「貴方の主は何を考えているのですか?」

 

 思わず馬の足を緩めて聞き返してしまった、シェフィールドさんは嫣然と微笑むと「知りたいですか?」と聞いてきた。

 

「ジョゼフ王にそこまでして貰う理由が分かりませんから?」

 

 僕は直球で聞いてみた、彼女は少しだけ眼を見開いて驚いた。少し可愛く思えた。

 

「噂通りの有能さね、何時から気付いていたの?」

 

「黒髪・美女・額のルーン・ローブを着用・名前・マジックアイテムの扱い。そして北花壇騎士団に襲われた事を総合的に考えて……」

 

「私の情報ってそこまで流れているの?」

 

「まぁ色々と僕にも伝手が有りますから……」

 

「ふふふっ楽しいわね貴方……また会いましょう」

 

 そう言うとシェフィールドさんは馬首を廻らせ別の方向にと走っていった…… 

 娘に命を狙われ父親からは助けられる?本当にどういう状況なんだコレ?この時期にあんな大物が出て来るなんて想像すらしてないぞ。

 

 部屋に戻り梟便にてワルド殿に今夜の詳細を送る。

 

 北花壇騎士団に襲われたが本気で殺しにきた訳でも無い事、それとジョゼフ王の手と思われる者に助けられた事。

 タバサは未だ学院には戻ってない事と、僕が無事に学院まで帰り着いた事等だ。

 

 多分残りの2人にワルド殿も襲われたと思う……元素の兄弟は作中では4人。

 

 しかし彼なら襲われても撃退又は逃走に成功したと考えるのが普通だな。僕と違い荒事の本職だし、最初から逃げを打っていた僕とは全然違うだろう。

 これは少し鍛え直して貰わないと不味いかもしれない……即死亡フラグだったな今夜の襲撃は。

 

 シェフィールドさん……

 

 原作では敵方で厳しい相手だったが最後はジョゼフ王を殺し無理心中を謀ったヤンデレさんだ。

 

 ヤンデレ……今までに居なかったジャンルだな。ヤンデレで作品を書いてみようかな、でも受け入れられるかな?

 普通に考えれば病的に押しかける頭のネジが緩んだ女性だしなぁ、まだハルケギニアでは受け入れられる土壌は無いな、無理かヤンデレは?

 

「何なんですかそのヤンデレって?」

 

 え?振り返ると僕のベッドに嫣然と座るシェフィールドさんがいた……

 

「……えっと夜這い?」

 

「違います」

 

 ちょっと怒らせたかもしれません。

 

「取り敢えず何故ここに居るのか聞いて良いでしょうか?」

 

「して欲しいお礼を考え付いたから……かしら」

 

 悪戯の方法を見つけた子供のような目で楽しそうに此方を見るシェフィールドさん。

 えーと童女のように愛らしいのですがコレがヤンデレの素養ですか?

 

「伺いましょう、最大限努力します」

 

「あら?聞き分けが良いのですね……簡単ですよ。貴方の秘書になりたいのです」

 

「えーと貴方の忠誠度を考えると二君に仕える訳がないので理由を聞いて良いでしょうか?」

 

「どこまで情報を握っているのかしら?まだ学生なのに他国の情報を正確に把握しているなんて異常よ」

 

 病んでる貴女に異常扱いはされたくないんですが……

 

「それなりに有能だとは思ってます、それで先程の質問に答えてもらえますか?」

 

「そうね……我が主がこれから大変になる貴方の力になる様に私を遣わせた、が最も正しいかしら」

 

「僕がこれから大変になる?」

 

「そうよ、このハルケギニア全土を巻き込む騒乱の渦の中心は貴方と主だわ」

 

 騒乱?レコンギスタの件か?アルビオンでの内乱は未だだがもう準備期間に入ってる筈だ……

 でもゲルマニアの僕がアルビオンとトリステインの問題に係る意味が分からない。

 

「もう少しヒントが欲しいな」

 

「あら?ではもう1つ……オリヴァークロムウェル」

 

「なっ?レコンキスタか!」

 

「貴方って本当に有能ね、それだけでまだ暗躍中の組織まで辿り着くなんて……流石は我が主が認めた方ね」

 

「しかし、ゲルマニア貴族の僕がアルビオンの内乱に巻き込まれる意味が……」

 

「もう驚かないけど、仕込んでいる最中の場所まで特定出来るのね」

 

「最初の質問に戻るけど、僕に何を望むのかな?」

 

「貴方には巨乳派の教祖として美乳派のクロムウェルと戦って欲しいの。そして全ての敵に打ち勝って我が主の元に……」

 

「オッパイでクーデターが出来るかー!乳とは争いを唆す物では無い!」

 

「でもあの変態坊主はそれで既に幾つかの貴族を取り込みつつ有るわよ」

 

「因みにジョゼフ王は巨乳派なんですね?」

 

「そうかもね?でも我が主は色事には興味が薄いの、だから争い最後に残った勇者との対面を望んでるわ」

 

「何故?」

 

「己が春を取り戻す為に……」

 

「ジョゼフ王ってEDなの?」

 

「EDとは?」

 

「いや男性としての機能が弱いとか淡白とか男女の秘め事に興味が薄いとか?」

 

「ええ。その……私にもまだ手を出してないわ」

 

「それは……勿体無い。色々と有るんだけど良いのが」

 

「えっ……どんなの?」

 

「例えばマイサンの基本サイズを大きく成長させたり……」

 

「まぁ!」

 

「これは局部の感度を高める物です」

 

「えっと……どっちの?」

 

「男女共です」

 

「他には?」

 

「そうですね。コレなんかは……」

 

 シェフィールドは大人の玩具に興味津々ノリノリだった!



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第39話から第41話

第39話

 

 

 深夜の私室で妙齢の美女との向い合い酒を飲む、あの後折角だからとワインを勧めたのだが出るわ出るわ愚痴が……

 どれだけ主を敬愛しているのかから始まり、どんなに立派で凄いのかを延々と話した後は、常に側に控えて居るのに夜のお呼びが掛からない。

 呼ばれても添い寝だけで他にモリエール夫人と言う年増が居るのだが彼女にも手を出してないが自分が呼ばれるより回数が多いとか、兎に角色々だった。

 

 このマシンガントークの如くの愚痴はエレオノール様に通じる物がある。

 

 しかし断片的だがこの世界のジョセフ王の事が分かってきた、原作同様に満たされぬ思いを抱えているがその殆どが退屈嫌いとED改善だ。

 しかし此処で問題は単なるED改善では無理だと思う。もっと深いところでトラウマ的な何かを抱えている感じだ……これは難しい。

 

 秘薬で強制発情など無意味だろう、もっと自身の深い所から込み上げる性欲を目覚めさせないと無理だ!

 

 散々愚痴った彼女は机に突っ伏して寝てしまった、この辺はエレオノール様で培った、愚痴を聞きつつお酒を勧めて早めに酔い潰すテクで簡単だった。

 

 レビテーションでベッドに寝かせて考える、先ずはジョセフ王のトラウマの原因を知りたい。それが攻略の鍵だ……

 

 それに正直レコンキスタやアルビオン王国なんぞに係りたくは無い、乳とはそんな血に塗れた手で掴むものでは無い。

 

 しかし……美乳派などでどうやって反乱を起こすんだ?

 

 ぶっちゃけ趣味と戦争はそれはソレこれはコレって別次元の問題の筈だ、戦争とは国家が一団となって行う物だし誰が付いて来るんだ?

 

 軍隊の維持費は?傭兵の報酬は?まさか美乳認定以外の女性を宛がうつもりなのか?

 

 そんな危険思考の輩に乳を語る資格は無い!

 

 急な話で考えが纏らない、先ずは情報を集めるしかないな。

 

 彼女……シェフィールドさんの扱いもどうするかが悩み所だ。絶対に普通に手伝うだけじゃ無いだろう、原作ではクロムウェルは操り人形で最後は捨てられたんだ。

 

 眠っている彼女をジッと見る……E89か……まずまずの戦力値だな。窓辺に立って外を見上げる……双子の月が綺麗だ。

 

 誰にでも平等に照らすこの月明りのような世界はこのハルケギニアでは無理……か。

 

 日本と比べ物にならない危険な世界……文明の未発達な国々……貴族・平民・差別と貧困……

 

 長い時間見ていたのがいけないのか昔の事を思い出していたからか涙が一筋流れた……

 

「何が悲しいのですか?」

 

 シェフィールドさんがベッドから起き上がりながら聞いてきた。

 

「いえ……酔いは醒めましたか?そろそろ帰らないと朝の早い使用人達は起き出す時間ですよ」

 

「そう……でも貴方の秘書なのよ?」

 

「受け入れる準備をしますから次の虚無の日にもう一度訪ねて下さい」

 

「わかったわ、貴方オッパイ好きなのに紳士なのね」

 

「大国の王の寵妃に手を出す愚か者は居ないのでは?」

 

「ふふふっ……では次の虚無の日に」

 

 そう言うと例のマジックアイテムで瞬間移動していった。さて……僕にはやる事が有る、それはこのシーツの処分だ。

 こんな良い匂いをしたシーツをソフィアが発見したら最悪だ!

 最近はロングビルさんとタッグを組んでいる気がするんだ、リネン室の場所は確認済みだ。

 新しいシーツを盗んでベットメイクしコレは処分する、まさか貴族がそんな証拠隠滅をするとは思うまい。

 

ではミッションスタート……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 主に言われて渋々だったが中々どうして有能な若者だ、我が主は天才だが何故か自身の身の守りに疎い。

 そして周りに信用の出来る部下は私以外は居ない、彼が主の野望の協力者になればその問題も解決する。

 まだ学生で学院で生徒として過ごしているのに世界の情勢を正確に掴み物事を洞察する力。

 

 それに紳士だし有能だし主の回春の協力者としては最適なのでは?

 

 ガリアでは主も私も腫れ物扱いで私など素性の知れない情婦扱いなのに随分と丁寧に扱われた、これは正直嬉しい。

 彼の情報か判断の中では私は主の寵妃らしい、私が本当の寵を賜るには彼の協力が必要だ。

 主には適当な所で裏切れと言われたが本気で協力をしよう、そして主に認めて貰い私の野望の協力者となって貰う。

 

 先ずはレコンキスタを本格的に潰しましょう。

 

 表情は花びらがこぼれる様な微笑みを浮かべているが彼女の考えるプランはクロムウェルの暗殺だった。やはりヤンデレとは恐ろしい者なのだ……

 

 

 

学院廊下にて

 

 

 

「お早う御座います。ツアイツ様」

 

 出会うメイドさんの全員に挨拶をされる……

 全員顔見知りだし嬉しいのだがゴール地点のリネン室には複数のメイドさん達が朝のベッドメイクの準備で急がしそうに出入りをしている。

 僕の完璧な作戦が……

 

「ツアイツ様お早う御座います、どうなされましたか?」

 

 振り向くとソフィアがシーツや洗顔具などの入った籠を持って立っていた。

 

「おっおはよう……いや少し早く起きてしまってね。ソフィアもまだ早いんじゃないかな?」

 

「手隙の時は学院の仕事も手伝ってますので、それで何故このような場所に?」

 

「……香水を調合してみようとチャレンジしたんだが失敗してシーツを駄目にしてしまってね……ソフィアに叱られる前に自分で交換しようかと」

 

「まぁ!言って下されば直ぐにでも交換致します。では今から伺いますので」

 

「……うん。お願い」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 全くご主人様は使用人に気を使い過ぎです、汚したから態々御自分で交換しようとするなんて普通考えませんよ。

 しかも申し訳無さそうな顔で私に付いて歩いてくるなんて、全く不思議な方ですね。

 

「あら?ツアイツ様、汚したシーツはどちらでしょうか?」

 

「ん……その変色してしまったので処分したんだ、学院の方には弁償しておくから……」

 

「大丈夫です。消耗品ですので処分した事にしておきますから……あら残り香ですが良い匂い、これで失敗なので?」

 

「……匂いは良くても色が真っ黒だったんだ、流石に思いつきで錬金しても駄目だね」

 

「そうですか、でもどこかで嗅いだ事の有る匂いです」

 

「……僕も何処かで嗅いで気に入ったから作ってみようと思ったんだよ」

 

 何故かご主人様は汗をかいてます、不自然ではないのですが不自然な感じがするのは何故でしょう?

 女の感が怪しいと伝えています……じっとご主人様を見詰めます……あっ目を逸らしました。

 

「ご主人様?何か隠してはいませんか?」

 

「……いや実は」

 

 ご主人様は私達にプレゼントする為にこっそりと香水の錬金を練習なさっていたそうです。

 全くこんな使用人思いのご主人様を疑うなんて、勿論他のメイド達には話しません。

 

 楽しみです!

 

 誤魔化す為に嘘の上塗りをしてしまったツアイツ君、バレたら大変ですよ!

 

 

 

第40話

 

 

 元素の兄弟、王都トリステインの裏通りチクトンネ街の安宿に潜んでいる4人。

 

「どうするの?両方共に逃げられるなんて完全に警戒されてるわよ?」

 

「しかしよージャネット、端から逃げを打つなんて思わなかったしよー」

 

「向うは此方の素性を知っていたわよ、私らを初見で見破るなんてどんだけ情報持ってるか分からないわよ」

 

「ジャネットの言う通り油断は出来ないが……2つの任務の内の1つは解決済みだよ」

 

「へーどっちが?僕らも子爵には逃げられたけど?」

 

「モギらなかったけどモギる必要が無かったって事さ」

 

「どうして?あんな店に行くような奴だろ、不誠実なんじゃないか?」

 

「いや……子爵殿は清清しい位に自分は童貞だと言っていたよ、だから彼は白だね」

 

「うわぁ……次期当主と良いどっちも相当の変態だね」

 

「だからジャネットを残して僕らは引き上げるよ」

 

「ちょちょっとなんでよ?」

 

「元々がアホらしい依頼だったし、それに次期当主の方はジャネットとはマトモな会話が出来たんだろ?」

 

「確かに紳士だったけど……」

 

「「「じゃ宜しく!」」」

 

「ちょっとあんた等……」

 

「戦えないなら嫌だよ」

 

「面倒臭いから」

 

「逃げるような奴に興味は無い」

 

 言いたい事を言って早々と部屋を出て行く男達を見送りながらジャネットは途方にくれた……どうしろって言うのよ。

 ジャネットは考えた末に、本人が昼間のカフェなら会っても良いと言ったのを思い出し、それならと連絡を取る事にした。

 

 

 

アルヴィーズの食堂

 

 

 

 豪華な料理の並ぶ食卓、昼真っからワインを傾けながらのフルコース、ここにはメタボとその予備軍の養成所ではないかと思う今日この頃です。

 

「ツアイツ、朝から眠そうだったけどどうしたの?」

 

 ルイズ達が心配そうな顔で聞いてくる、最近はマリコヌルが追い出されルイズ・キュルケ・モンモンに囲まれて食事をする事が多い。

 マリコヌルは1つ先の席をちゃんと確保し僕の食べ切れない料理を狙っている。

 

「いや、姫様に頼まれた脚本を書き上げる為に最近寝不足なんだ」

 

「どんなお話なの?」

 

「真夏の夜の夢……コメディタッチの恋愛物だよ」

 

「「「読みたい!」」」

 

「ちゃんと製本されたら見せてあげるよ」

 

「トリステインの劇場でも公演する予定なんだよね」

 

 ルイズが自分だけの情報を自慢げに話す。

 

「それが先日アカデミーまで呼ばれた理由なの?」

 

「そうだよ、僕の劇には舞台効果に魔法を多用するからね。技術的な事もアカデミーで協議しないといけないから」

 

「しかし他国の貴族を自分の趣味で呼びつけるなんて……アンリエッタ姫も考えなしね」

 

 キュルケは一時的に僕の屋敷に避難させた事で裏が有ると気付いている、豊胸の件は秘密にしても有る程度の真実は話さないと駄目かな。

 

「事前説明無しの召喚だったからね、エレオノール様の配慮で事無きを得たけど対応を間違えたら外交問題だよね」

 

 僕は困った困ったって感じで溜息を付く。

 

「ウチの姫様って人気は有るけど実は困ったチャンなの?」

 

 モンモンが見も蓋も無く聞いてくる……貴女の国のお姫様ですよ!

 

「蝶よ花よと育てられてきたからね、もう少し政治を学ばないと危ないよこの国は」

 

 あっ……つい本音が!皆が黙り込んでしまった。

 

「まっまぁ廻りがしっかりしているから平気だと思うよ」

 

「ツアイツーその料理食べないなら頂戴!」

 

 KYな発言だがこれは場の空気を変えるには良いタイミングだ!GJマリコヌル!有耶無耶にこの話を打ち切る。

 

「さて、午後の授業はサボるよ。本当に眠いから自室で寝てるね」

 

 昨夜は色々有りすぎたので本当に眠いや……おやすみなさい……

 

 

 

 夢を見た……

 

 

 

 大勢の観衆の前で僕が祭壇の前に立っている、隣には着飾ったティファニアがその後ろにはルイズ・キュルケ・モンモンが並んでいる。

 更に後ろには扇状に巨乳メイドズが並んでいる……群集は2万人とも3万人とも思える一面の人・人・人の海だ!

 

 僕は一歩一歩群集の方へと歩き出す……

 

 群集の視線が僕に……

 

 僕独りに集中する……

 

 

 そして演説する

 

 

 人は、平等ではない、生まれつきの乳に差は無い。

 

 しかし成長が早い者、母親が巨乳な者、母親が貧弱な胸を持つ者。

 

 生まれも、育ちも、才能も、乳とは千差万別なのだ。

 

 そうっ!胸は差別される為にある!

 

 だからこそ、人は努力し、競い合い、そこに進化が生まれる。

 

 不平等は悪ではない、平等こそが悪なのだ!

 

 乳を貧にしたチッパイはどうだ?最近の流行と人気取りのロリコンからペドに堕落しておる。

 

 乳を美にした美乳はどうだ?どんな大きさでも魅力有りと平等に安心した、怠け者ばかり。

 

 だが、我が巨乳派はそうではない。努力し、競い、常にサイズアップを続けておる!

 

 巨乳だけが前へ、未来へと進んでいるのだ!

 

 貧乳などサイズダウンに限界が有り美乳などその定義すらままならない、しかし我が巨乳派は他の流派を敢えて撲滅も淘汰もしない!

 勝敗とは時代が、世界が決めるからだ!

 

 努力するのだ!

 

 仲間と競い、技術を磨き、成果を獲得し、その果てに未来がある!

 

 オールオパーイ!

 

 

 

 群集が爆発した!

 

 

 

 ウォー!

 

 

 ハイルオパーイ!

 

 

 ハイルオパーイ!

 

 

 ハイルオパーイ!

 

 

 

 純粋な目で見詰める群集に手を振る……

 

 そして清楚だが胸を強調したドレス姿のティファニアが近寄ってきて共に手を振る、更に群集は爆発する!

 

 ウォー

 

 

 女神サマー

 

 

 女神サマー

 

 

 女神サマー

 

 

 うわっ……目が覚めた……ナンテ夢を見るんだ。

 どこぞの皇帝バリの演説をしてしまう夢を見るなんて……しかもテファが女神だと?

 これからレコンキスタの事を考えないといけないのにこんな夢を見るなんて……

 

 

 

 まさか正夢じゃないよね?

 

 

 

第41話

 

 

 ツアイツ執務室完成す!

 

 午後の授業を終えて部屋に帰る、オールドオスマンに男の浪漫本を大量に渡したせいかロングビルさんの交渉の賜物か。

 我が部屋は両隣の二部屋をぶち抜いて広さ三倍に拡張されていた、空き部屋ではなかった筈なのだが……

 

 勿論予算申請はソフィア経由で(僕の知らない内に僕の代理で)エーファの承認をしているので問題無いそうだ……

 学院との交渉も僕は知らなかったが全て済んでいた、執筆室に専属メイド&秘書の控室や簡単な応接セットまで有る。

 僕の寝室には何故かダブルベッドに変更され知らない箪笥が有るのだがこれには怖くて触れていない……

 

 寝室の窓及び扉には厳重な鍵が掛かるように追加変更した。

 

 ソフィアとロングビルさんはそんな無駄な事をとクスクス笑っていたのだが聞こえないったら聞こえない!

 

 しかし良いのかこんなに改造して?後でオールドオスマンに確認したが随分とヤバいネタを握れていて断れなかったそうだ、爺さん何をしたんだ?

 

 因みに部屋のプレートには「ツアイツ・フォン・ハーナウ執務室トリステイン出張所」となっていた。

 

 誰?何?このセンス?今夜から厳重に戸締まりして寝ると心に決めた!

 そしてドキドキワクワクしながら眠りについたが特に何も無かったし誰も来なかった……

 

 

 

 アルヴィーズの食堂にて

 

 

 

 やっとミス・タバサが学院に復帰したのか今朝は朝食を採りに食堂に顔を出している。

 あのチッコイ体の何処に食べ物が入るのか不思議な位モリモリ食べているんだが、ホッペをパンパンに膨らませモグモグ食べる姿は小動物を連想させますね。

 僕など朝食でさえオーバー気味なのに、女体(胃袋)の神秘!

 

 さて彼女とは接触を取りたいのだが、今まで何の接点も無かったのにいきなり話し掛けるのもそれは不自然だ。

 そんな僕の悩みも考えずにこのクーデレさんはトコトコと近づいて来て皆の前で言ってくれました……

 

 「……今夜また部屋にお邪魔してよい?」

 

 三人娘の前で、固まる食堂!そして膨れ上がる殺気。

 

「ツアイツ?この貧相な女の子を部屋に連れ込んで何をしたのかしら?」

 

「オッパイが大好きな筈よね?まさか趣旨替えかしら?」

 

「何かの間違いよね?そうでないと私……私達……」

 

 と各々がティーカップの取手を粉砕しながら詰問しだした、周りを見渡すと周囲10mには誰も居ない!何その用意周到さ?

 ギーシュなどは机を倒し盾にしてこちらを伺っている始末……

 

 あっ、ヴィリエとレイナールがコソコソと話し合った後に扉からダッシュで出て行ったぞ。ワルド殿にチクる気か?

 

「待って誤解が……」

 

「貴女達には関係無い」

 

 ちょーっと待ってー!貴女はコミュニケーションを学んでー!

 

「「「私達には関係有るのよ?」」」

 

「……そう?だから?」

 

「「「ツアイツにペッタンコな貴女は必要ないのよ」」」

 

 一触即発とはこの事なんだろう!

 

「待って!誤解だから。これから部屋で説明するから全く浮気の心配なんて無いから」

 

 そう言って端から見れば四又のバレた浮気男の様な台詞しか言えずに食堂を後にした……皆が見送る目が痛かった……

 

 

 

 ツアイツ執務室トリステイン出張所

 

 

 

「お帰りなさいませご主人様……あらお客様ですか、今お茶をご用意致します」

 

 ソフィアが一礼し備え付けのキッチンに向かう。

 

「あら?拡張したの?でも凄い設備ね」

 

「お帰りなさいませ。ツアイツ様。あら皆さんどうしました?」

 

「えーと……皆も知ってるかもしれないけど秘書のロングビルさんです」

 

「宜しくお願いします、ツアイツ様の専属秘書になりました」

 

 嫣然且つ挑発的に優雅に一礼する。

 

「ロングビルさんは生活面で色々大変なのと……その、優秀さを買って我が家に引き抜きました」

 

「「「それで?」」」

 

「皆様宜しくお願いしますわ」

 

「えーと……ミス・タバサについては……本人からで良いかな?」

 

「……ん」

 

 タバサの了承と共に皆の視線が集中する。

 

「ミスタ・ツアイツの事を色々知りたい」

 

「「「それだけ?」」」

 

 タバサさん……本格的にコミュニケーションを学んで欲しい。

 

「あー彼女は訳有りのガリアの王族なんだ、学院の二年生と揉めた時に助けてくれた。

そしてワルド殿と仲が良いんだけど……ちょーっと行き違いが有ってね、それの相談だよね?」

 

 キュルケが真剣な顔で僕を見て話し出した。

 

「ツアイツ……ガリアには構わないで欲しいの。

あのジョゼフ王は無能と言われているけど大多数の反対派貴族を粛正する程危険な人物よ、そうですよね?シャルロット姫殿下?」

 

「キュルケ?彼女の事を知っていたの?」

 

 ルイズとモンモンも興味深そうにキュルケを……その先の言葉を待つ。

 

「昔……遊園会でお見かけしたんですよ、当時の面影を強く残してますわ」

 

「ミスタ・ツアイツにもワルド子爵にも直ぐにバレた……そう私はジョゼフ王の命令を受けている、そして彼はミスタ・ツアイツに強い関心が有る」

 

「だからか……既にガリアからの手の者と接触したよ」

 

「「「何時?何処で?」」」

 

 皆が僕に駆け寄って抱き付いてきた、僕は安心させる様にポンポンと背中を叩く……

 

「イザベラ王女からは刺客を何故かジョゼフ王からは腹心を護衛にと付けられたよ」

 

「イザベラが刺客?」

 

「まぁ本気じゃなかったけど元素の兄弟が……ね」

 

「「ツアイツ……お父様に応援を要請するわ」」

 

「大丈夫、この件はワルド子爵も絡んでるからそんなに心配は無いよ」

 

「それに……いやもう少し内容が纏まったら必ず報告するよ」

 

 そういって三人娘の頬に軽くキスをすると体を放した。

 

「さぁ授業には遅れてしまったけど行こうか」

 

 雰囲気を変える為に明るく言ったのだが……

 

「……ここで本を読んでいる」

 

 人の本棚を漁り応接セットの机に山積みにして読書を始めたミス・タバサをレビテーションで持ち上げながら教室に向かう。それでも黙々と読書をするタバサ……

 

「ねぇ……悪いんだけどミス・タバサに社交性とか一般常識とか人付き合いの何たるかを教えてあげて欲しいんだ」

 

「ツアイツがミス・タバサ狙いじゃないのなら……仕方ないから教えてあげるわ」

 

 姉御肌で面倒見の良いキュルケが言ってくれた、ミス・タバサ自身は我関せず黙々と本を読んでいる。

 貴女の為に苦労しているのですが何を呑気に読書に集中してるのですか?

 僕はミス・タバサをその辺のベンチに置いて行きたい気持ちを懸命に抑えて教室に向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

某赤「ツアイツはああ言ったけど、私達も動くわよ」

 

某桃「それは賛成だけどどうやって?」

 

某金「あのツルペタを締め上げて情報を吐かせましょう」

 

某赤「そうね。先ずは情報を……行動はそれからね!」

 

桃&金「「了解」」

 

某赤「これが内助の功!よね。ツアイツは極力私達を危険から遠ざけるけど知らない事が一番辛い事も知って欲しいわ」

 



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第42話から第44話

第42話

 

 

「レコンキスタ対策本部トリステイン支部」

 

 このネーミングセンスは毎回どうかと思う、しかも毛筆で書いてあります。

 

 おはようございます。今朝は何故かソフィアが隣に寝ていました、メイド服姿のままで!

 思わずその双子山をパフパフしてしまった僕は巨乳教教祖としては悪くない筈。

 

 「あん!」とか鳴かれてしまい思わずハッスルしてしまいました!

 

 しかし厳重に鍵を掛けていた筈なのですが……

 

 本人曰く『専属メイドですから合鍵を持ってます。起こしに来たのですがまだ時間も有り、ツアイツ様があまりに気持ち良さそうに寝ていたので起こすのも忍びなく。

隣で私も寝てしまいました……テヘ(ウィンク+舌出し付き)』だそうです。

 

 いや別に良いけどね、休日だし久々にオッパイ成分を補給出来てスッキリ目が覚めたから。

 

「ソフィア、今日は来客が有るので準備をして欲しい。メンバーはワルド子爵にミス・タバサとロングビルさんに……」

 

「……?まだ何方かいらっしゃいますか?」

 

「うん、ガリア王からの使者が来るんだ。内密で」

 

「まぁ!それは凄いメンバーですね。分かりました、その様に致します」

 

 さて今後の方針だが……

 

 先ずはレコンキスタの動きをロングビルさんに調べて貰おうと思う、原作で言えば殆どのアルビオン貴族は敵側に廻った。

 普通は有り得ない事態だが「アンドバリの指輪」の効果と虚無神話のなせる業……

 

 序に利権だろう。

 

 こじ付けだが指輪による虚無の証明と聖地奪還と言う大義名分を携え利権をチラつかせて勢力拡大を図ったと思う。

 

 だが今回は違う……

 

 「美乳派」と言う何とも定義の定まらない微妙な教義を広めている、これと指輪がどうリンクし勢力拡大するんだろう?

 まさかブリミルは美乳派だったのだ!聖地に行けば全て解決だ!皆の者我に続け……とか?

 その辺の内情と指輪の有無はシェフィールドさんに聞けばいいや。

 

 次はイザベラさんの動きの意味と牽制……

 

 これはミス・タバサに任せよう、あのデコ姫ちゃんがジョゼフ王の意向に逆らってまで僕らにチョッカイ出す意味が知りたい。

 ワルド子爵は出来れば遍在でロングビルさんの護衛とトリステイン王国がアルビオンの異変に気付いているか対処をどうするかを調べて欲しいんだけど……

 この国の貴族達じゃ重い腰を上げない気がする、つまり取り返しの付かない局面まで動かない。

 

 そして自分の役割だが現アルビオン王及びウェールズ殿下は巨乳派、レコンキスタは美乳派。

 

 普通なら巨乳側に協力だが、敢えてしない。

 ロングビルさんにクロムウェルが取り込み予定の貴族の趣味を調べさせ貧だろうが巨だろうが構わずその趣味本を贈る。

 そして少しでもレコンキスタの勢力拡大を遅らせる。

 出来れば今まではゲルマニアと一部トリステインでしか流通させてない男の浪漫本をアルビオンでも流したいな……

 その辺の方法を今日の議題にしよう、自慢じゃないが乳を語らせて僕と比肩する相手が居るなら連れて来いって感じだ!

 美乳派など中途半端な教義は父上とも連携し潰してしまえば良い、女性達には常に現状でも大丈夫、美乳は全てのサイズでも美しく成れる!

 などと言わずに是非サイズアップに励んで欲しい。

 

 そこから巨乳の中に貧乳の中に更に形を美しく保つという部分を盛り込めば良いのだから……

 オッパイで戦乱を起こそうというならその理由の根本を潰してしまえば良い、そうして建前を無くし本音は唯の利権争いをして滅べば良い。

 

 良し!方針は決まった。

 

「ソフィアーお腹空いた。ゴハンまだー!」

 

「はい、今日はサンドイッチにしてみました」

 

 最近、僕の部屋を執務室化された為に簡単なキッチンが備え付けられたのでこんな事も出来る。

 

「お早う御座います、ツアイツ様」

 

 申し合わせたタイミングでロングビルさんが現れ三人で応接セットで朝食を食べる。

 この部屋では皆同じ物を一緒に食べる様にしている、さて今日は忙しくなるぞ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツ殿からの梟便を読み驚いてしまった。

 

 流石は先生、まさかガリアのジョゼフ王までが作品の完成度を高める為に自分の腹心まで寄越すとは!

 その意に反し刺客を送るとは噂通りジョゼフ王とイザベラ王女の仲は良くないか連携が取れていないのだな。

 タバサ殿と会うセッティングまでしてくれるとはどれだけ恩を返せば良いのやら……

 

 しかもタバサ殿に没収された「TO HEART」の代わりにと「ワルま第二巻嬉し恥ずかし初めての同棲生活」が入っていた。

 

 これは今すぐ読みたいのだが、今日はタバサ殿と会う為にツアイツ殿の部屋を訪ねる予定だ。

 先の失敗も踏まえ所持せず部屋に隠して行こう。

 

 ※尚、ワルま2巻については挿話9にて公開予定です。

 

 そうだ……

 

 前回はカフェという公共の場で読んでしまい思わず騒ぎになってしまったので新たな場所を探そう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツ執務室監視中……

 

 ふーん、使用人と一緒に食事するんだ。あのメイド、目をうるうるさせながらツアイツ様に紅茶を注いで貰ってるわね。

 敬愛する主人にそんな事をされれば忠誠心は凄い事になるわね……

 

 私もジョゼフ様に……妄想中……妄想中……

 

 さっ、さて効果的なタイミングで転移しましょうか、シェフィールドはツアイツをストーキングしながら出待ちしていた。

 

 これがヤンデレクオリティ!

 

 

 

 ツアイツ執務室レコンキスタ対策本部……

 

 

 

 ワルド殿も到着し少し、遅れてミス・タバサも何故か窓から訪ねてきた。

 曰くこの方が目立たず楽だそうだ、その際にワルド殿と無言で見詰めあっていたのだが……ご馳走様でしたもう満腹です。

 その辺のすれ違いというか誤解の部分は後で話せば良いか、皆にソファを勧め、お茶の用意をさせる。

 

 神出鬼没なあの人の事だ、多分タイミングを計っている筈……

 

「シェフィールドさんそろそろお願いします」

 

 僕が誰もいない空間に向かって叫ぶと……

 

「ツアイツ様もお人が悪い、知っていらしたのですか?」

 

 頬を赤く染めて転移してきたシェフィールドさんが居ました。

 

「いえ……お約束ですから」

 

「……?」

 

「えーと紹介します。ガリア王ジョゼフ様から直々に手伝いというか協力してくれる様に派遣されたシェフィールドさんです」

 

「おほほほ、よろしくね」

 

「こちらはご存知だと思いますがシャルロット姫殿下、そしてトリステイン王国魔法衛士隊グリフォン隊隊長ワルド子爵、それと僕の秘書のロングビルさん、の合計5人が今回のメンバーです」

 

「まぁ!錚々(そうそう)たるメンバーですわね」

 

 僕は先程考えたプランを皆に話した。

 

「アルビオンに潜入捜査ですね。分かりました」

 

「彼女の護衛と王宮の調査は了解だが……美乳派か、僕の情報網ではまだ引っ掛からなかったのだが」

 

「……イザベラの件は了解。直ぐに止めさせる」

 

 三人の了承を得た所で本日の本題に入る。

 

「シェフィールドさんに色々聞きたいのですが……」

 

「ええ……良いわよ」

 

「先ずレコンキスタ……クロムウェルの援助ってどれ位してるのかな?」

 

「主に金銭面ですね。大体30万エキュー位かしら最初に用意したのは」

 

 30万エキューか……1エキュー2万として60億円か。多数の貴族の取り込みとしては少なくないかな?

 

「えーと、それだけ?」

 

「……?何か気になる事でも有りますか?」

 

「その……言い難いんだけど……アンドバリの指輪とか?」

 

「ああ……これの存在もご存知でしたか。流石ですね」

 

 シェフィールドさんはニッコリと左手の人差し指に嵌った指輪を見せてくれた。

 

「はぁ?本物?」

 

 なんで騒乱のキーアイテムをそんな簡単に見せちゃうかなぁ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

某金「あのツルペタ部屋に居ないわよ」

 

某桃「まさかツアイツの部屋に行ってるのでは?」

 

某赤「可能性は有るわね、しかしどうしましょう」

 

某金「私達が動いてるのをツアイツに知られては駄目よね」

 

某桃「じゃこのまま部屋で待ちましょう」

 

某赤&某金「「そうね、じっくりお話しなくちゃね」」

 

 

 

第43話

 

 こんにちは、ツアイツです。

 

 ちょっとショックな現実を突き付けられ逃避中です、今回の会議のメンバーを見る。

 

 ロングビルさん……土くれのフーケ、破壊の杖を盗みルイズ達を苦しめた怪盗且つ女傑。

 

 ワルド殿……原作ではトリステインを裏切りレコンキスタに参加してルイズやサイトを苦しめた中ボスたる人物。

 

 シェフィールドさん……伝説の使い魔でジョゼフ王の為に暗躍し最後はジョゼフと無理心中をしたヤンデレな女傑。

 

 どうみても原作の悪役一堂集まりましたヨロシク状態だ、しかも僕は彼らを率いてレコンキスタに挑まなくてはならない。

 原作の正義側のメンバー皆無だよー!

 

 さしずめ僕は悪の教団の教祖でラスボス?

 

 さ・て・と・現実逃避はコレまでにして本題に戻ろう。

 

「シェフィールドさんその指輪本物なの?」

 

 にっこりと微笑みを僕に向ける、この人は原作を知らなければ普通に良い女ですよね。

 

「この指輪の存在までご存知だったんですね。どこまでも底の知れないお方……ええ本物です」

 

「えーと、クロムウェルに渡すんですよね?その指輪は?」

 

「いえ。何故です?」

 

「いや……いくらレコンキスタでも資金だけじゃクーデターは無理じゃないかな?って思って」

 

「もう何を聞いても驚かない心算でしたが貴方は本当にビックリ箱ですね……当初は確かにその予定も有りました。

しかし私には此方に勝って貰わねばならない事情が有りますので回収してきました」

 

「その指輪譲って欲しいんですが……ラグドリアン湖の精霊の説得材料として必要になるので……駄目?」

 

「これを精霊に返すのですか?凄い力を秘めてますのよ?」

 

「そうですね。此方が使えば有利でしょうが相手に渡らないだけでも十分です。

それにラグドリアン湖の件ではミス・モンモランシが悲しい思いをしますので防ぎたいのです」

 

「無くてもレコンキスタに勝てるの?」

 

「ええ……このメンバーなら必ず勝ちますよ」

 

「なら良いわ……ハイ」

 

 あっさりとシェフィールドさんは指輪を外し渡してくれた。

 

「対価に何を望みますか?」

 

「我が主の回春を!」

 

「分かりました。必ずジョゼフ王が貴女を襲うようにしてみせます」

 

「まぁ……」

 

 シェフィールドさんはクネクネと妄想を開始した。

 

「他に何か有りますか?」

 

 ミス・タバサがシェフィールドさんの奇行から目を逸らしすっと手を上げる。

 

「はい、ミス・タバサ」

 

「……ジョゼフ王から貴方の著書を集める様に言われている」

 

「著書?そこの本棚に有る奴じゃ駄目なの?」

 

「……男の浪漫本が一冊も無い」

 

「あー先日、オールドオスマンが全て没収していったんだけど……今は学院長室に有るよ」

 

「……そう、回収する」

 

「ジョゼフ王って「TO HEART」を読んだのかな?反応はどうだった?」

 

「……イザベラと2人で謁見した時に私達の前で熟読してた……マルチとセリオが気に入ったらしい」

 

「ジョゼフ王って、ソッチ系なんだ。マルチとセリオじゃ貧も巨も逝ける口か……それとも人外派かな?」

 

「シェフィールドさん、ジョゼフ王のトラウマと言うか例の件の原因って何なんだろう?」

 

 シェフィールドさんが妄想の海から帰ってこない、肩を揺すって呼びかけたら漸く現世に復帰してくれた。

 

「こほん、それは我が主及びガリアと言う国の問題だから……皆の前では言えないわ」

 

「そうなんだ……それが分かれば進展するんだけど……」

 

「……では後で教えるわ。でも絶対に他言無用よ」

 

「僕は父上……と言うかハーナウ家に掛け合ってアルビオンに流通の伝があるか聞いてくる。それと直接今回の件を報告しないといけないから一度ゲルマニアに帰るよ」

 

「それは危険だ。イザベラを抑える迄は単独行動は控えた方が良い。それと確認だが本当にアルビオン王家には接触しないのかい?」

 

「うん。これはアルビオンの内戦だから……僕はレコンキスタを弱体化はさせるけど決戦はアルビオン王家にして貰う。

このチャンスにアンリエッタ姫が、婚姻と言う形でトリステイン王国を巻き込む様に唆す事はしてもこのメンバーを死地には送らないよ。

彼らには乳とは他の件で争い結果を見せて貰う」

 

「何と言うか、乳を争いに巻き込もうとする相手には厳しいですな」

 

「僕がする事は貧と巨の信者をアルビオンと言う新天地に広めるだけさ。美乳という建前を無くしたクロムウェルが、アルビオン王家に牙を向けてもそれは乳とは別問題だよね?」

 

「アンリエッタ姫を唆す意味は?」

 

「トリステイン王国って実際ヤバイじゃない、王位を継がないマリアンヌ様にアーパーアンリエッタ姫で王位は長らく空位でしょ?

そろそろちゃんとしたトップを据えないと空中分解しても可笑しくない国ですよ。

アンリエッタ姫をアルビオンに嫁がせマリアンヌ様が女王となり、アルビオンと連携してトリステインを導いていく……

後は生まれた子供が継げば問題ないと思いますよ」

 

「他国の貴族にまで心配されるとは、本当にどうしようもないですな」

 

「ワルド子爵もウチに来ちゃうし碌な貴族が残らないよ王宮には……

ヴァリエール家とド・モンモランシ家とは長い付合いになるから、少しでも改善しておかないと僕にも被害が出るからね」

 

 全くの慈善事業じゃないよ!と締めくくった。

 

「だから早めに実家に帰りたいんだけど……」

 

「では私が同行します、なに風使いには遍在が居ますから本体が居なくても仕事は進みます。それにどちらが重要など分かり切った事」

 

「貧乳教の教祖サムエル殿ですか、興味が有りますので私も同行しますわ」

 

「えっと……過剰戦力じゃないかな?」

 

「貴方は自身が思っている以上に重要なお立場なのです。コレぐらい普通ですわ」

 

 皆がうんうんと頷いている、そんなに大した者じゃないんだけど……

 

「では皆さんお願いします」

 

 第1回レコンキスタ対策委員会はお開きとなった。

 

 さて……

 

「ワルド殿、ミス・タバサと共にオールドオスマンの所に行って下さい。女性一人では持ち切れぬ量ですよ」

 

「なっ……ツアイツ殿」

 

「ミス・タバサもそれで良いよね?」

 

「……行こう。時間が無い」

 

 先に部屋を出て行くミス・タバサを慌てて追いかけるワルド殿、一瞬振り向いてこちらを見た時に親指を突き出して見せた。

 

「頑張れ隊長!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「タバサ殿……先日の本は……」

 

「……良い。効果は有ったから」

 

「効果?それはどんな?」

 

「……イザベラと和解出来た」

 

 エロ本で和解できたイザベラ様とは?

 

「……?それは良かったですね」

 

「……イザベラが言ってた。ヤリ逃げは駄目、責任取らせろって」

 

「誰ですか?タバサ殿をヤリ逃げした相手とは?」

 

「……ん」

 

 可愛くワルドに向かって指を指す!

 

「……僕が?」

 

「……ん。しっかり捕まえていて責任取らせろって」

 

 ワルドは直立したまま90度後ろに倒れた。

 

 彼の頭の中にはウェデングドレスを纏ったタバサが「責任とってね?」と可愛く話しかける姿を捏造しリフレインしていた。

 

「……サムエル殿、立会人をお願いします。ツアイツ殿、是非ドレスのデザインを……グリフォン隊の皆、式には出てくr……」

 

 鼻血を噴出し痙攣するワルドを見て軽くパニックになり慌ててツアイツの部屋に駆け込んで来たのはまた別のお話。

 そして余りの奇態に竜騎士達の事を思い出し少しワルド殿の事が苦手になってしまったタバサであった。

 

 

 ワルド殿……ドンマイ!

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

赤&桃&金「「「お待ちしてましたわ。ミス・タバサ」」」

 

「……なっ何か用?」

 

某赤「そうね……私達、ツアイツより貴女とお友達になる様に頼まれたの」

 

「……そっそう」

 

某桃「だからね、お互い秘密は良くないと思うの……ミス・タバサもそう思いません?」

 

「……わっ私は」

 

某金「私達、ガリアがツアイツに何をしようとしてるのか知りたいの?貴女……知ってるでしょ?」

 

「……それは言えない」

 

某赤「女の子はね、好きな男の為なら夜叉にもなれるの。やっておしまい!」

 

某桃&金「「アラホラサッサー」」

 

 三人娘にベッドに押し倒されクスグリ攻撃を受けるタバサ……

 

「くっ……いやぁ……あっそこは……」

 

某桃「ふふっ可愛いわね、ここが良いのね?」

 

「きゃははははは……お願い……もぅ」

 

某金「んー?聞こえないわよ?」

 

「話す……話すから……許してぇ…あははは」

 

某赤「ふっ体は正直ね。良いわ、止めてあげて……さぁ全てを話すのよ?」

 

 父親を殺され母親が壊され笑う事を忘れた少女は手段はアレだが再び笑顔を取り戻した。

 服を乱して体を抱えて笑い転げる姿は年相応の可愛らしさが溢れている、彼女はこれから自分でも驚く位に友達?と話し合う事になる。

 端からみれば尋問とも言えるかもしれないが、しかし終生の友達を得た瞬間でも有った!

 

 

第44話

 

 学院に入学してまだ2ヶ月余りだが久々の里帰りに心が弾みます、何といってもロングビルさん抜きでテファニアに会う事が出来る!

 しかも立場的には僕の婚約者だ、つまり夫婦になるんですよねー!

 

 さて僕は今レンタルグリフォンに乗っています。勿論颯爽と操るのは……シェフィールドさんです。

 

 僕は彼女の腰にしがみ付いて目を瞑って妄想してる最中です、いや30m以上の高度だと駄目なんですトラウマ的な何かで。

 たまに恐怖で彼女のE89の巨乳を握ってしまうのですがシェフィールドさんは大人の女の余裕か笑って許してくれました……

 でもヤンデレを甘く見ていない僕は本気で謝りましたよ。

 

 幸いにして僕は彼女の中では仲間度の優先順位がかなり高いらしく原作のような怖い事はされていません。

 そして盗聴の心配の無い空中という事で例のジョゼフ王のトラウマの秘密を聞きましたが……

 長年のコンプレックスの相手であったシャルル殿下がまさか女装趣味でバイセクシャルの近親相姦希望者だと聞かされ呆然としてしまった……

 

 うぁ……これは酷い。

 

 原作では王位を巡って裏で色々と動いていた人物だった、だがこの世界では僕とは方向の違う突き抜けた変態だったとは。これは難しい。

 

 近親相姦・両刀使い・女装……このキーワードでEDになった相手をハッスルさせる方法か……

 

 本当は直接会って色々と相談した方が効率的なのだがジョゼフ王は試練を越えないと会わないって事なんだな。

 それと視界の隅にドンヨリとして落ち込むワルド殿が見える。

 折角ミス・タバサと2人きりにしたのだが、何が有ったか興奮しすぎて相手にドン引きされてしまったらしい。

 彼女はどうも成人男性の奇態にトラウマが有りそうな感じだ……

 

 まさか父親の奇態を薄々感じていた?と思ったが怯えながら竜騎士団がブツブツと言っていた?彼女もトラウマ持ちなのか……

 

 ※原因は貴方と男の浪漫本です。

 

 前方に我がハーナウ領が見えてきた、僅か2ヶ月だが懐かしい気持ちで一杯になってきた……

 

 ホームシック?まさかこの年で?

 

「シェフィールドさん、あれが我が屋敷です。中庭に着陸して下さい」

 

「ワルド殿ー着きましたよー着陸しますよー」

 

 フラフラとしながらも着陸態勢にはいるワルド殿……貴方は僕の護衛ですよね?

 中庭には父上と母上がそれと少し後ろにティファニアが出迎えてくれました。

 相変わらず見事な胸が母上の教育でより磨きが掛かって偉い事になっています。

 

 

 

「ただ今戻りました。父上、母上。そしてティファニア久し振りだね」

 

「ツアイツ、元気そうだな。ワルド殿経由で色々と聞いているがまた大変な事に巻き込まれたものだ」

 

「ツアイツ、テファさんを放ったらかしでしょうがない子ね。ちゃんと構ってあげるのよ……それと後ろの方は?」

 

「紹介します。彼女はシェフィールドさんでガリアのジョゼフ王の寵妃です」

 

「まぁ!」

 

「お前そんな人に手綱を取らせてたのか?」

 

「お気になさらず、我が主からもツアイツ様に仕えよと言われてますので」

 

「「……?」」

 

「まぁ立ち話もなんですから中に入って下さい。あら?ワルド様の様子が……」

 

「ちょっと意中の姫に距離を置かれまして……父上お願いします。再度教義を叩き込んで下さい」

 

「ほぅ?そのような相手が居たとは聞いてないぞ。よし分かった!暫らく待っておれ」

 

 父上はワルド殿の首根っこを掴みズルズルと「サムエル愛の資料館」に連行していった。もう大丈夫だろう。

 

「ティファニアも元気だったかい?」

 

「はい。旦那様……それと私の事はテファって呼んで下さい。その……貴方のお嫁さんになるんですし、キャ!」

 

 破壊力の有る台詞を最終兵器並みの胸の揺れと共に言ってくれました!

 

「ありがとう、テファ!では、母上中に入りましょう」

 

「ツアイツ……お父様とワルド様は良いのですか?」

 

「平気!2時間も有れば再教育出来るし……シェフィールドさんもどうぞ此方へ」

 

 珍しくビックリしているシェフィールドさんを眺めつつ応接間に案内する。

 

「ツアイツ様は何時もあの様な感じでご家族と接していられるのですか?」

 

「ジョゼフ王も調べたって言ってたけど親子で貧と巨で争っているけど、元をただせば同じ乳の派生教義だから仲は良いですよ」

 

「住み分け……でしたっけ?それでも何と言うか……その」

 

「さぁさぁ入って入って……母上、オヤツ有りますかね?お腹空きました」

 

「まぁこの子は食いしん坊ね。テファさんが焼いたケーキが有りますよ」

 

息子と女性陣は和気あいあいとお茶をしに応接室に向かった。

 

 

 

 応接室にて

 

 

 

 テファ謹製のケーキは母上の指導か元々の才能か中々美味しかった。

 

「美味しかったよ、テファは料理が上手なんだね」

 

「「大分練習しました(させました)から……」」

 

「そうですか、今度また何か食べさせて下さい」

 

「テファさん、また特訓よ!」

 

「はい。お母様」

 

 2人から変なオーラを感じます。しかし幼い感じで華奢な母上とおっぱいドーンなテファが並ぶと対極姉妹みたいだ。

 

「話は変わりますが母上。どうやらテファを諦め切れないアルビオン貴族が居るのです。防諜と警備を強化したいのですが父上に助言して欲しいのです」

 

「まぁそんな方が居るのですか、分かりました。それと心配なら早くテファさんをお嫁に貰ってあげなさい」

 

 はっ!とテファと目が合いお互い真っ赤になって俯いてしまった。

 

「あらあら……ツアイツ様の本命は彼女なのですね?確かに……ご立派ですね」

 

 テファのとある部分を凝視し自身の胸に目を落とし溜息を付きながらそう話すシェフィールドさんは……ヤバイ、ヤンデレの目だ!

 

「ツアイツ様、我が主ももっと大きい方が良いのでしょうか?その手の育成資料も有るのですよね?そうですよね?」

 

 凄い勢いで掴みかかってきた……

 

「落ち着いてください。ジョゼフ王が巨乳好きと決まった訳では有りませんから早まらないで下さい。だから……」

 

 掴み掛っている手を叩きながら……

 

「……その手を離して下さい」

 

「あら?すみません」

 

 やはり彼女は恐ろしい。首に両手の跡がクッキリと……

 

「旦那様、大丈夫ですか?いま治療を……」

 

 彼女が水のルビーを使い治療を始めようとしたので「大丈夫。それは大切な物だから無闇に使っては駄目だよ」と、彼女の手を握ってやんわりと拒否する。

 

「大丈夫、僕だって水のトライアングルなんだよ。直ぐに治せるさ」

 

「メイドさんの持ってきた秘薬を使い首の痣を治す」

 

 あの水の指輪……カトレア様かオルレアン公夫人を治せないかな?

 

 そうだ!

 

 ワルド殿に遍在でコピーして貰いテファに治療して貰えば上手く行くかも……

 

 興味深そうに見ていたシェフィールドさんが「その指輪見せて貰えませんか?」と聞いてきた。

 

 そうだよ!マジックアイテムの利用なら本家本元「神の頭脳・ミョズニトニルン」が居るじゃないか!

 

「テファ、彼女にその指輪を見せてあげてくれるかな?」

 

 テファから指輪を受け取った彼女は目を瞑り指輪の機能をサーチしているみたいだ……

 

「どう?その指輪の効力ならオルレアン公夫人の精神異常が直るかな?」

 

「可能ね、私なら秘薬の誤作用を正し不要な部分の記憶を消せるわ」

 

「ヴァリエール公爵の次女の不治の病も治せるかな?」

 

「どんな病か知らないけど……これなら先天的に欠陥が有っても再生して治療は可能だから殆どの難病でも完治可能ね。

でもどちらも強い力を必要とするから1回が限度よ」

 

「遍在でコピーしたらどうかな?」

 

「そうね、それなら可能かもしれないわ」

 

「あの……記憶を消す魔法なら私も使えますけど?」

 

 テファが何故か申し訳無さそうに言ってきた。そうか!でも細かい記憶操作や修正は出来るのかな?

 

 記憶操作?アンドバリの指輪の力を合わせれば?同時制御出来れば?

 不要な記憶を消して新しい記憶に置き換えれば完全に直るな……

 

「シェフィールドさん!これとアンドバリの指輪でジョゼフ王のトラウマを消せるかな?」

 

「我が主の?」

 

「そう。トラウマの部分をシェフィールドさんの都合の良い記憶に置き換えるとか、例えば早く王妃にすると約束したのに何だかんだとはぐらかす……とか?」

 

「あら?私は主に忠誠を誓っている使い魔なのですよ?」

 

「そしてジョゼフ王は僕にED治療を託した。その僕がこの方法が一番良いと言ったら?」

 

「この指輪単体でなくアンドバリの指輪も使えば或いは……いえ私が制御すれば成功率は高いわ」

 

「……もう待てません。クロムウェルは私が直ぐに暗殺しますから主の記憶を正しに向かいましょう」

 

「待ってください、ジョゼフ王の試練は正当にクリアしましょう。それからでないと彼も僕に会ってくれないでしょうし」

 

「私はもう待てません!」

 

「我慢です、そして最高の記憶操作のストーリーを練りましょう。ヒーローはジョゼフ王でヒロインは貴女で……」

 

「ふふふ……思った通り貴方は素晴らしいわ、私の最高の協力者ね」

 

「その分先程の2人の治療を頼みます」

 

「ふっふっふ……あーっはっはっは!私に任せてぇー!」

 

 実の母親と婚約者の目の前で最大勢力のガリア王をどうにかする相談をしている2人に対し、アデーレもテファも我関せずとツアイツとの結婚式の話を進めていた。

 天然さんを二乗すると大抵の事は気にならないらしい。

 

 

 

 

 

……補足……

 

 

 今回の治療法について。

 

 結構前からこのアイデアは考えてました、原作の登場人物とアイテムだけで可能かと?

 ツアイツは医療などの専門知識も無いので独自な治療法は無理、ならば他人任せにするしかない。

 そこで指輪の持ち主2人を攻略した結果と思って下さい。

 テファルートからこのアイデアは考えつき結ばれずに本編まで引っ張ったのもこの為です。

 シェフィールドをヤンデレ化したのも目的達成の協力者として認めさせる為。

 結構長い話数を使って持ってきたんですが、強引でしたかね……

 



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第45話から第47話

第45話

 

 おはよう!私はワルド、トリステインで魔法衛士隊の隊長をしている。今回の私の台詞の中に現実世界では不適切な物が有る。

 これはこの変態妄想小説の中でしか通用しない。だから真似せず本気にしない事だ!

 この約束を守れない場合はこの回の話は飛ばした方が良いだろう。

 

 宜しく頼む……では本編を始めるぞ!

 

 

 ジャネットの憂鬱

 

 

 私は北花壇騎士団所属の元素の兄弟の一員、現在はアルビオン王国の小汚い宿屋の一室に潜伏中。

 他の兄弟達と来たのだが、何故か今は独り……他の奴らは捨て台詞を吐いて帰っていった。

 任務を達成して帰ったら制裁する予定、任務はハーナウ家次期当主の素性を調べる事だが初日にジャックの馬鹿が暴走して襲ったが逃げられた。

 僅かの会話の中で彼の握っている情報の正確さと紳士然とした態度なのにエグイ魔法を使う相手と理解した。

 

 まさか爆風に刺激物を混ぜるなんて……

 

 追いかけようとして爆風に突っ込み目と喉をヤラレて偉い目にあった、アレは確信犯だと思う。

 本人は私の容姿を気に入ったらしい。カフェでお茶でもと誘われたから実現したら滅茶苦茶奢らせようと思う。

 

 しかし連絡を取ろうにも彼は魔法学院の中。

 

 襲撃後にもうノコノコと外出はしないし、しても護衛が付くだろう。仕方なく魔法学院に忍び込む事にした。

 たしか潜入捜査で7号が居る筈だし彼女に接触して繋ぎを頼もう。

 いくら私でも夜に殿方の部屋に忍び込むのは色々と意味深で夜這いと勘違いされたら嫌だから……

 

 

 

タバサ私室にて

 

 

 

「今晩は7号さん。ちょっと宜しいかしら?」

 

 上手く女子寮に忍び込み目的の部屋に侵入出来た。

 

「……何?」

 

 7号は大量の本の荷造りに奮闘していた、凄い数だ!

 

「いや。同じ北花壇騎士団として任務に協力して欲しいんだけど……」

 

「……無理。これからガリアに戻る」

 

 コイツこっちを見ずに拒否しやがった。

 

「時間は取らせないから。ハーナウ家の次期当主に会いたいので繋ぎを取って欲しいんだけど?」

 

「……無駄。彼はゲルマニアに帰った」

 

「……え?」

 

「……はいコレ」

 

 7号から本の束を二つ渡された。

 

「何これ?」

 

「男の浪漫本シリーズ。ミスタ・ツイアツが竜騎士団にお土産用にと、こっちはジョゼフ用」

 

「……なんで?」

 

「彼が竜騎士団に渡せば私の力になってくれる筈だからって」

 

「そうじゃなくて何で私が持つのよ?」

 

「貴女の任務はおしまい、イザベラにもそう伝える」

 

「訳が分からないんだけど?」

 

「彼にはシェフィールドが護衛に付いた。つまりジョゼフは彼に危害をくわえる相手を許さない……だから任務終了」

 

「へー凄い!益々興味が沸くわね。彼に……」

 

「……時間が惜しい」

 

「はいはい、運ぶの手伝うから道中で彼の事を教えてよ」

 

「……ん」

 

 大量のエロ本を抱えた美少女2人が深夜のトリステインを疾走する……

 

 

 ハーナウ家 サムエル愛の資料館

 

 

「ワルド殿……いやワルドよ。最近堕落してはいないか?」

 

「サムエル殿そのような事は……」

 

「我らがチッパイ道を極める為に妻を娶る事は何も問題は無いがその相手とは、相手の乳はどうなのだ?」

 

「はい。見事な位に上から下までストンです。今後の成長も見込めないと……さらにチビッ子でクーデレです」

 

「ならばワルドよ……何故もっとガツガツ逝かんのだ?」

 

「……それは」

 

「我らの教義を叫んでみろ、ワルドよ」

 

「はっ!イエス・ロリータ・ゴー・タッチ!です」

 

「声が小さいぞ。もっとだ!」

 

「イエス・ロリータ・ゴー・タッチ!」

 

「まだだ!」

 

「イエス・ロリータ・ゴー・タッチ!」

 

「もう一度!」

 

「イエス・ロリータ・ゴー・タッチ!」

 

「そうだワルドよ!この世界ではロリっ子とニャンニャンしても合法なのだ!」

 

「にゃ……ニャンニャンですか?」

 

「そうだ!貴様もゲルマニア貴族になるのだ!甲斐性さえ有れば実力さえ有れば貴様もロリっ子ハーレムが可能だ!」

 

「ハーレムを……僕がロリっ子ハーレムを持てる……と」

 

「そうだ!我が息子を見ろ!婚約者3人・予定1人・専属メイド5人、信者メイドも多数だ!全て一流の巨乳だぞ」

 

「しかし……ツアイツ殿は巨乳教の教祖、自分などとは格が違うのでは?」

 

 

「ばかもーん!」

 

 

「良く考えろ、貧と巨……違う属性の貴様を優遇する奴の気持ちを」

 

「ツアイツ殿の?」

 

「そうだ!息子は貴様の事を認めているのだ。ワシとて息子とは貧乳教の教祖として幾度となく衝突し拳を交わしたものだ……」

 

「ツアイツ殿にもそんな熱い時期が……」

 

「そうだ、そして偉大なる乳の元に相反する2人の教祖が手を組んだのだ」

 

「……おおっ」

 

「その2人に認められている貴様がその体たらくとは何事だ!」

 

「僕が……2人に……」

 

「そうだ!今の貴様の気持ちをBU・CHI・MA・KE・RO!」

 

「僕は……僕は……タバサ殿とニャンニャンしてー!」

 

 

 

 ハーナウ家応接室

 

 

 

『僕は……僕は……タバサ殿とニャンニャンしてー!』

 

「ツアイツ?変な雄叫びが聞こえましたが……」

 

「あれ?違う方向性に導かれてしまったかな?」

 

「そちらの妄想の海に突入している女性もそうですが……もう少し友達を選びなさい、母は心配です」

 

「普段はとても有能なのですが……」

 

「小さい頃から他の子供とは違うと思ってましたが、廻りのお友達まで変わり者を集めなくても良いでしょう?

今日と言う今日は少しお話をしなければいけませんわね。そこにお座りなさい」

 

「……はい」

 

「違いますよ。正座しなさい」

 

「大体貴方は小さい頃から……」

 

「もう良い年なのですからオッパイオッパイと……」

 

「有能なのですからもっと違う方面に……」

 

「早く落ち着いて孫の顔を……」

 

 その後覚醒したワルド殿を伴ってきたサムエルもアデーレの前に正座させられ小1時間説教をされた。

 幼い容姿のアデーレさんだが腰に両手を当てて私怒ってます!

 的な雰囲気を醸し出しているが当のサムエルがチッパイ言葉責め萌えー!と全然堪えず寧ろご褒美状態。

 ツアイツの方もずっと話を聞いていたテファに此方は、同じく両手を腰に当ててプンプンな感じで可愛らしく

 

「Hなのはいけないと思います」と再度説教を喰らっている。

 

 当然ツアイツもテファのそんな可愛い仕草と表情と揺れるおっぱいに釘付けだ!此方もご褒美状態!

 

 シェフィールドさんとワルドさんは今後の自分達のバラ色の展開を妄想しながら2人でソファーに並んで座りニヤニヤしている。

 扉の外では執事とメイドさん達が久し振りの親子団欒を微笑ましそうに眺めていた。

 男性陣が正座させられ恍惚とし女性陣は何とも可愛らしく怒っている。

 

 ハーナウ家は今日も平和だった……

 

 

************************************************

 

 

 この作品は性犯罪を助長する目的で書かれていません。作中の台詞はあくまでもお馬鹿な変態小説の中だけでありフィクションです。

 真に受けて行動しない様にお願いします。

 

 

第46話

 

 ハーナウ家食卓

 

 昨夜は久しぶりの実家でゆっくりと休めた。やっぱ実家はいーなー!

 今朝は両親とワルド殿、そしてシェフィールドさんとテファで食卓を囲んでいる。

 

 流石にメイドさんと全員で朝食!とはいかない。

 

「おはようございます」

 

「「「おはよう(ございます)」」」

 

 皆がそれぞれ朝の挨拶を返してくれた。

 

「ツアイツ、久しぶりの実家とは言えお客様を待たせてはいけませんよ」

 

「すいません。学院に行ってから2ヶ月ちょっとですが色々有りまして……熟睡してしまいました」

 

 そう言えば毎週の様にイベントが有ったな、有り過ぎじゃね?

 

「それでだ!今後の対策は食後に我が書斎で行うぞ」

 

「はい。父親、お願いします」

 

「なに、乳の為だ」

 

「アナタ?お食事中ですよ。それとツアイツも少しはテファさんと何処かに遊びに行きなさい」

 

「うむ……しかしアデーレこれはだな」

 

「でっでは午後にでもテファを連れて出掛けるから午前中は打合せと言う事で!」

 

「まぁ良いわ、2人共いい加減おっぱいから卒業して下さい。ねぇテファさん」

 

「そうですね……その……Hなのはいけないと思います」

 

「まぁまぁアデーレ様、今回の件はそれを抜きにしても重要なのでそれ位にしては?」

 

「そうですか……ツアイツ、危ない事だけはしては駄目よ」

 

「……はい。母上」

 

 済みません、母上。今回はかなりヤバいかも知れません。国家間紛争におっぱいのみで介入予定なので……

 

「テファは行きたい所が有るかい?」

 

「そうですね……綺麗な景色を見れる所に行きたいです」

 

「それなら……近くの森に泉が有るから行ってみようか」

 

「はい。嬉しいです」

 

 ヨッシャー!テファとのデートゲットだぜ!などと何処にでも有る家族の食事風景を演じながら朝食を楽しむ!

 

 

 

サムエル執務室

 

 

 メンバーは父上、ワルド殿にシェフィールドさんと僕の4人だ。

 

「さて……大体はワルド殿から報告を受けているがもう一度説明してくれ」

 

「はい、父上。事の発端は父上からも注意しろと言われた美乳派ですが……ブリミル教のクロムウェル司教がアルビオン王国にて広めています。

しかし彼は大国ガリアのジョゼフ王の傀儡でしかありません。目的はアルビオン王国の転覆、クーデターの手段としておっぱいを使おうとしているのです」

 

「なんと!乳を愛でる者がそんな血生臭い事に乳を利用しているだと?」

 

「そうです!しかしクロムウェルなど所詮は乳の上辺だけを説く程度の小物。問題はジョゼフ王の目的です」

 

「ジョゼフ王は何を考えているのだ?まさかアルビオンを弱体化させ属国化ないし占領する気か……」

 

「……その、言いにくいのですが。我等を巻き込んだジョゼフ王の目的とは……」

 

「何なんだ?我が祖国ゲルマニアも狙っているのか?」

 

「いえ……とある理由でナニが機能不全になったので。つまりED治療の為に性戦に勝った者の治療を望んでいます」

 

「はぁ?己の粗チンの不始末の為なのか……」

 

「父上ストーッブ!それ以上は駄目です!」

 

 シェフィールドさんの方を恐る恐る見る。ヤバい!目がグルグルだ!ヤンデレ化マックスだ!

 

「シェフィールドさん落ち着いて下さい。その両拳に握り締めた風石を父上に向けて解放しないでー」

 

「ツアイツ様……やはり貧乳教祖など我等の目的には不要。ここで禍根を絶ちましょう」

 

「いえ駄目です!父上は目的達成に必要なのです。だから……」

 

「くすくす。ツアイツ様だけ居れば私は平気よ。やはりクロムウェルは私が殺すから……貴方のお父上に制裁したら直ぐに……だから、ね?その手を放して」

 

 子供を諭す慈母の微笑みで僕を説得しようとする……

 

「駄目です!父上を殺めたら僕は手伝いません!」

 

「……分かりました。貴方は大切な私の協力者、今回は我慢しましょう」

 

「ほら父上も謝って!」

 

「うむ、済まない。配慮が足りなかったようだ」

 

「いくらツアイツ様のお父上でも次は無いですよ」

 

 こちらも慈母の様な微笑みだか威圧感はカリン様並み、僕の胃に多大なダメージが溜まる。

 

「ワルド殿も止めて下さい……ワルド殿?」

 

「ふっふっふ……私のちびっ子ハーレム!どうするか……やはり制服は統一して例のはなまる幼稚園風に……」

 

「ワルド殿?」

 

「何でしょう?ツアイツ殿、大丈夫です。貴方の期待に必ず応えてみせます!僕はチッパイちびっ子のハーレムマスターに必ず!」

 

「いえ……せめて今はレコンキスタに集中して下さい」

 

「……?もとより承知ですが?」

 

 ちっ父上、再教育に失敗してませんか?

 

「こほん!では続けますのでちゃんと聞いて下さい」

 

「クロムウェル司教はレコンキスタを名乗りアルビオンの乗っ取りを考えています。しかし大義名分は、非道な巨乳派に対し美乳で対抗すると言う何とも微妙なもの……

当然、金と利権と乗っ取り後の空手形が有るのでしょうが表の理由に乳を名乗るのは我慢出来ない……しかも我等程、真剣に乳について考えてはいない」

 

「成る程……ことクーデターが成功した場合、おっぱい革命とか名乗られては堪らんな……」

 

「そうです!だから上辺の理由を潰しましょう」「つまり美乳派の布教を潰し乳による戦力拡大を妨害するのだな」

 

「そうです。父上と手を組み貧と巨、ダブルでアルビオンで布教する……我等が手を組めば美乳派の入り込む余地など」

 

「そうだな。乳による取り込みが難しくなれば他の手段に頼る様になる。つまり……」

 

「「乳は戦争の理由ではなくなる!」」

 

「ジョゼフ王はクロムウェルには潤沢な資金援助をしてるので奴は金の力でしか取り込みが出来ないでしょう」

 

「しかしアルビオン王家にも出血を強いるぞ」

 

「其処までは我等が心配する必要は無いでしょう。戦力的にはアンリエッタ姫をけしかけトリステイン王国を巻き込みますから負ける事はないかと」

 

「何故だ?」

 

「アンリエッタ姫はウェールズ皇太子狙いなのです。これを機にトリステイン王国の内部強化をしたいな……と」

 

「そうか……ヴァリエール公爵への配慮か」

 

「それと言いにくいのですが……ド・モンモランシ家のモンモランシ嬢とも…… 」

 

「それがお前の言っていた婚約者予定の娘か?」

 

「はい。金銭感覚のしっかりした娘です」

 

「ツアイツ……同時期に婚約者4人は父として、また1人の男としてどうかと思うぞ」

 

「母上に内緒で領内の身寄りの無い不幸な子供達を集め世話をしつつハーレム予備軍を育成しているのに?」

 

「なっ?何故それを?」

 

「流石ですなサムエル殿!光源氏計画ですね」

 

「ワルド殿も会議に参加せずそこに喰い付くのは……はぁ……午前中の会議は終了にしましょう。シェフィールドさん退屈でしたか?」

 

「大筋は理解したけど具体的にはどうするの?」

 

「それは夕食後にまた……」

 

「午後はどうしますか?」

 

「そうね?豊胸資料を見せて欲しいわ」

 

「でしたら実践経験者を付けますので……」

 

 疲れた、なんか現状把握で終わってしまったな。さて午後からはテファとデートだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

某赤「まさかそんな事の為にツアイツを巻き込むなんて!」

 

某桃「本当に役立たず中年オヤジって哀れね……」

 

某金「立たずって……それオヤジギャグ?」

 

某桃「ちっ違うわよ。言葉のあやよ」

 

某赤「はいはい!冗談は其処までよ。私は実家に……お父様に報告して援助をして貰うわ」

 

某桃「私もお父様とお母様と、序でにエレオノールお姉様にも報告ね」

 

某金「ごめんなさい、私は実家の応援は無理。ラグドリアン湖が増水して対応に大変だって連絡も有ったし……」

 

某赤「気にしないで!貴女の実家にもツアイツの素晴らしさを叩き込まなければ駄目ね」

 

某桃「そうよ!夏休みに入って直ぐに貴女の実家に皆で行きましょう。ツアイツも実家に帰ったから用事も済ませてる筈だし行けるわ」

 

某金「ありがとう。でも迷惑じゃないかしら?」

 

某赤&桃「今まで私達が困ってて解決出来なかった事は無いから平気よ!」

 

 ツアイツは知らない所で信頼とド・モンモランシ家再生のハードルを上げられていた!

 

 

第47話

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 午後は、各自のんびりと過ごす予定です。父上は母上を伴い寝室へ昼寝?に向かいました。そろそろ弟か妹が出来ても可笑しくない様な。

 シェフィールドさんは、我が家の巨乳メイドさんとお話中。そして護衛にと小さな牙の連なった腕輪をくれました。

 引きちぎってバラまくと、巨大化して亜人型のゴーレムになるそうです。

 

 このヤンデレさんは扱いさえ間違わなければ情の深い女性です。

 

 なのに護衛と言って付いて来たワルド殿はそうそうに「サムエル愛の資料館」に引き籠もりました……

 さて、僕ですが一頭の馬でテファと遠出をしています。

 普段スカート姿が多い彼女ですが、乗馬服をキリリと着込んで髪をポニーテールにした姿は中々に気品が有ります。

 

 マリコルヌならその鞭でシバいて下さい!な、感じです。

 

 彼女を前に座らせ馬をゆっくりと歩かせる。馬が揺れる度に彼女の髪から良い匂いが……しっかりしろ!

 ツアイツ、只でさえこれから人気の無い泉に2人っきりで行くのだ。初体験を野外で済ます様な暴挙は自重するんだ!

 彼女と彼女のファンに失礼だぞ。

 

 僕の内面の葛藤を知る由もないテファが、申し訳なさそうに「すみません。私、馬に乗れないのでご迷惑を……」と言ってきたので気にしない様にと言った。

 

 我が屋敷からトコトコと街道を進みながらテファと色々な事を話す……学校の事、マチルダさんの事、家での過ごし方や花嫁修行等……

 やはりテファは人との触れ合いを求めている、来年には学院に行かせてあげたい。

 

 一時間程で目的地の泉に着いた。

 

 テファが恥ずかしそうにバスケットを出してくれたので、即席の机と椅子を錬金しようとしたが、情緒が無いからと言われ倒木に並んで座っている。

 

「急いで作ったのでお口に合うか……」

 

 焼き菓子を真っ赤になりながら差し出してくれた。

 

 うーん……美味!

 

 のんびりと2人で泉を眺めてお菓子を食べる……マイナスイオンに溢れて癒やされるよね!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 私の未来の旦那様、私に外の世界を見せてくれた人。ハーフエルフなのに偏見も迫害もしない変な人。

 貴族なのに平民と同じ目線で行動出来る優しい人。少しエッチで胸ばかり見てて、それでいて誰よりも頼りがいの有る人……

 何故、私を助けてくれたのか聞いたら笑って、君のお姉さんに頼まれたからって……何でも無い様に言ってくれた。

 

 ハーフエルフを匿うなんて、凄い事をしてくれたのに自分じゃなくてマチルダ姉さんにお礼を言えなんて……

 この少しエッチな優しい人とならずっと一緒にやっていけると思う。

 

 でっでも、エッチなのは結婚するまでいけないと思います。でも迫られたら断る理由も気持ちも無いから……

 

「どうしたの?寒いの?」

 

「へっ平気です」

 

「でも顔が赤いよ……どれどれ」

 

 額と額をくっ付けて熱を計られました!こんなに顔が近くに。思わず目を閉じて……

 

「んー熱っぽいかな?少し冷えたのかもね。さぁ、我が家に帰ろうか」

 

「……はい」

 

 今度は私が後ろから抱き付く様に馬に乗る。温かい……彼の温もりを感じる。もぅ……

 いくらエッチは駄目でも、さっきの雰囲気ならキス位してくれても良いのに……このニブチンさん!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 応接室のソファーに並んで座り水晶球を眺めている、水晶球にはツアイツとテファが映っている。

 

「覗き見は趣味が良く無いのでは?」

 

「ツアイツ様の安全を確保する為よ。そして参考になるわ。私も主と、この様な甘酸っぱさ満点の逢い引きがしたいわ……」

 

「あー記憶操作の参考か……僕も帰ったらタバサ殿を誘って、何処かに出掛けるかな」

 

「貴方のは参考にしないわ。何故かしら、背徳感を感じるの」

 

「余計なお世話だ!」

 

「しかし、何であの無表情のお子様が良いの?」

 

「何を言うか!クーデレでチッパイでロリッ子なんだぞ」

 

「やはり貴方は参考にはならないわ」

 

 ツアイツとテファの初デートは、どうしようも無い2人に監視されていた。それでも劣情に流されず押し倒さなくて良かったですね、ツアイツ君。

 

 

 

サムエル執務室にて……

 

 

 

 夜の部の会議の参加者を見渡す、何故かお疲れ様気味の父上。

 微妙にワルド殿を見下すシェフィールドさん、無駄に積極的になったワルド殿。僕の居ない間に何が有ったのだろう?

 

「では具体的な対策の相談に移りたいのですが……宜しいですか?」

 

「うむ。始めてくれ」

 

「……では、レコンキスタはアルビオン大陸の北方より布教を始めています。父上はアルビオンには販路は有りますか?」

 

「うむ。幾つかのルートを持っているぞ」

 

「僕の手の者がクロムウェルの攻略中の貴族と趣味を調べてますから引き込まれる前に……」

 

「我らが教義を叩き込むのだな……」

 

「それと並行して付近の貴族にも布教しましょう」

 

「むしろそちらがメインだな……信者の数が物を言うからな、この場合は」

 

「流石は父上ですね」

 

「ツアイツよ。経典の制作はどうなのだ?」

 

「まずまずです。それと何故かガリア王宮内にも父上の信者が居ますよ」

 

「ほう!やはり時代の先端はチッパイなのだな」

 

「竜騎士団ですが……仕込みで男の浪漫本を大量に送っておきました」

 

「はぁ……ウチの竜騎士団は何をしてるんだか」

 

「レコンキスタとはいえ、仕込みの期間は半年から一年位は掛かるでしょう」

 

「では暫くは布教活動に専念だな」

 

「そうです!勝利の鍵はアルビオン全土に貧と巨のおっぱい教を広める事です!」

 

「素晴らしい!二大教祖の夢の共演ですな」

 

「……アホらしいのに。でも、何とかなりそうな気がするのが不思議で情けないわね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 某赤の父上

 

 ふむ、また随分と大物に見込まれたなツアイツ殿、そして今はハーナウ家に戻っているのか。では直接会わねばなるまい。

 

「誰か!風竜を用意しろ。ハーナウ家に向かうぞ」

 

 

 某桃の両親

 

「また随分と大物に見込まれましたね婿殿は」

 

「しかし……回春か、気持ちは分かるが、それで国家間紛争をする程の狂王だとは……」

 

「男とは本当に仕方のない生き物ですわね」

 

「カリーヌ、落ち着いてくれ。彼も被害者なのだから」

 

「直接話を聞かねばなりませんね。ゲルマニアから戻ったら学院に押し掛けましょう」

 

「それは問題が……」

 

「呼んでも逃げるかもしれません。ツアイツ殿はリスク回避能力が有りますから」

 

「それは……彼が危険と認識する事をするのか?」

 

「いえ……しかし早めに我が家に括らねば問題を起こすばかり。そして解決の度に女の影がチラつきます。最早、卒業と同時に婿入りさせます」

 

「いや……それは後継ぎ的に無理だ。素直にルイズを嫁に貰ってもらおう」

 

「アナタはお黙りなさい!」

 

 

 某桃のデレ姉

 

「トリステインとの揉め事が終わったかと思えば次々と……やはりしっかり尻に敷かねば駄目かしら?しっ仕方がないから私が……」

 

 

 ヴァリエール一族それぞれの思惑が渦巻くトリステイン、周到に包囲網が形成されていく!

 

 ツアイツの安息の日は遠い!



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第48話から第50話

第48話

 

 帰省三日目

 

 こんにちは、ツアイツです。

 

 自室のベッドでゴロゴロしながら今までの事を考える……レコンキスタ対策も方針が決まり、明日にでも学院に戻れる。

 当初は夏休みにテファの件を両親に話すつもりだったが、この機会に両親に話しました。

 

 父上は一瞬だけ顔を顰めましたが「お前が惚れた女なら守ってみせろ」だけしか言いませんでした。

 

 母上は、「だから?」だけで、何を言っているの?と全然問題にしていませんでした。

 

 逆に僕のほうが黙っていて悪かったけど本当にそれで良いのか?と心配になる位です。

 ただ、父上は防諜の強化、母上はテファの養子縁組先との立場について対応を進めるとの事です。

 実際に配下の貴族と養子縁組をしましたが、先方とは顔合わせ程度しかしていないそうなのです。

 この辺は流石は僕の両親と言うべきか……なので心配事は全て片付いたので、スッキリとして学院に戻れm

 

「ツアイツ様、ツェルプストー辺境伯がおみえです」

 

 しまった!キュルケとルイズの実家はノーフォローだった……テファの事は当然バレている筈だが、僕の帰省は知らないのにこのタイミングで来るとは。

 

「直ぐに行くと伝えておいて!」

 

 さて、どこまで掴んでいるかが、心配だね。

 

 

 応接室にて……

 

 

「お待たせしました。ツェルプストー辺境伯、今日はどの様なご用件ですか?」

 

 ツェルプストー辺境伯はソファーに座り出された紅茶にも手を付けず、目を閉じたまま黙っている。

 

「アンリエッタ姫に召喚された件では大変心配を掛けましたが、その後の交渉で問題なく処理出来そうです」

 

「……そうだね。君の素早い対応で我が娘に危害は無かった……」

 

「それともうご存知だと思いますが、故有って僕が保護した女性を父上が配下の貴族と養子縁組した件ですが……」

 

「別に本妻にしなければ問題はない、それは君の家の問題だから私はどうこう言わないよ」

 

 あーこれはどのルートか知らないけれどガリアの件がバレているな……どの情報網で引っ掛かったのかな?

 

「…………」

 

「…………」

 

 ツェルプストー辺境伯は一口、冷めた紅茶を飲むと静かに話し出した。

 

「ずばり聞こう!ジョゼフ王から挑戦されたらしいね?」

 

「ええ、これは挑戦と言うよりは彼の目的達成の為の候補に上がったと言うのでしょうか」

 

「で?対抗馬は?勝算は有るのかい?」

 

「対抗馬はアルビオン転覆を狙うクロムウェル司教率いるレコンキスタ。現在かの地の北方にて勢力を拡大中です」

 

「なっ……そんな大物相手に何故、君が指名されたのだ?」

 

「僕が指名されたのは、ジョゼフ王の悲願に一番近い位置に居たからでしょう……」

 

「大国の王でも達成出来ぬ悲願に君が一番近い……そう、言うのかい?」

 

「そうです、しかしその手段は既に確保しています。そしてレコンキスタへの対応ですが、其方も手は打ちました」

 

「正直に言おう、この件は我が娘から聞いたのだ。ガリアが君を戦乱に巻き込むつもりだ……と。半信半疑だったが本当なんだね」

 

「此方にはジョゼフ王の腹心を既に協力者として迎えています。彼女は僕を裏切らない。

僕達の目的が一緒の内は、それにトリステイン王国には魔法衛士隊隊長のワルド子爵も協力してくれます」

 

「だが、ソレだけでは反乱軍に立ち向かえる訳が無いだろう?」

 

「僕は、アルビオン王国の為にレコンキスタ……反乱軍を斃す心算は有りません。影ながら協力はしますが、実際に戦うのは王党派とレコンキスタです」

 

「レコンキスタをどうにかする様に、ジョゼフ王に求められているのではないのかい?」

 

「オリヴァークロムウェル司教は美乳派として布教を始めています。僕は巨乳派教祖として、父上の貧乳派と共闘し彼の布教を潰す事が今後の方針です」

 

「君は……アレか?私とヴァリエールを和解させた方法で、又この難局を乗り切る心算なのかい?」

 

「そうです。おっぱいです」

 

 

 ガン!

 

 

 ツェルプストー辺境伯は机に突っ伏しながら唸った……

 

「君は……何時も何時も私の想像の斜め上を行くよね。その勝算を聞こうか、おっぱいの」

 

「そう、おっぱいです。クロムウェル司教はジョゼフ王より我が親子に対抗し、美乳教を広めるとの約束で多大な援助を受けています。

僕らは乳を戦乱に利用する彼を許さない、だから彼の布教を潰します」

 

「君達親子のおっぱいへの拘りは分かった。が、それが戦局を変えられるのかい?」

 

「彼らは不当なる巨乳派として王党派を斃すと大義名分を掲げています。誰よりも平等な美乳派として……

ではその大儀に賛同する貴族が取り込めないとすれば?」

 

「反乱貴族の取り込みは難しいだろうね」

 

「そうです。思想で駄目なら金と利権で勧誘するしかないでしょう?

ならば唯の大儀なき反乱です。民衆も付いてこない、王党派でも鎮圧可能でしょう」

 

「だが油断は出来ないのではないか?資金が潤沢なら傭兵とか金に飽かせた戦力増強は可能だよ」

 

「それには増援としてアンリエッタ姫とウェールズ皇太子の婚姻を進め、トリステイン王国も巻き込みます」

 

「うまくトリステイン王国が動くかい?あの国は末期だから余程の事が無いと動かないぞ」

 

「個人的にアンリエッタ姫と伝が出来まして……彼女はウェールズ皇太子に並々ならぬ執着をお持ちです。

そして今までの甘ったれな箱入り姫でなく、積極的に動こうと努力を始めました……近くにはワルド殿とミス・ルイズが居ますから」

 

「廻りの王宮貴族が抑えているアルビオン王国の危機がリアルタイムで耳に入る訳か……」

 

「色に狂った女性は怖い……

そして国民に人気のあるアンリエッタ姫が、聖なるブリミルの血を受け継ぐアルビオンの危機を訴えて、自ら立ち上がり増援を送ろうとしたら……

止められますか?」

 

「君は……一連の話を聞くとジョゼフ王が接触する前から、レコンキスタは詰みの状態に聞こえるね」

 

「トリステイン王国にも利益は有りますよ。アルビオン王家との婚姻が纏れば2国間の絆は強固になります。

マリアンヌ様が女王となり、アンリエッタ姫に子供が生まれる迄はしっかりとトリステイン王国を治めてくれれば……なお良し」

 

「駄目ならヴァリエール公爵家でも立てるかい?」

 

「まさか、そんな面倒は御免ですよ」

 

「しかしトリステイン王国参戦に、アンリエッタ姫と魔法衛士隊隊長だけでは……他の貴族を動かすのには弱くないか?」

 

「ヴァリエール公爵家及びド・モンモランシ伯爵家も後押しをしてくれる予定です。あとは上手くすればグラモン元帥かな」

 

「魔法学院繋がりか……しかしド・モンモランシ家は近年の事業失敗とラグドリアン湖の精霊との仲違いの件が有り、力が弱いのではないのかい?」

 

「ラグドリアン湖の精霊については、交渉材料を確保したので問題ないです。これからド・モンモランシ家には、ウチがテコ入れしますから力を取り戻すのも早いですよ」

 

「ミス・モンモランシを落としたのも計画の内かい?」

 

「いえ、彼女は……口説き落とされたのは僕の方だと思います。ただ、惚れた女の実家の危機位は何とかするのが男ですよね」

 

「で?私とキュルケが協力出来る事は?まさか蚊帳の外って訳はないよね?」

 

「出来ればアルビオンに、ある物を流通させる手伝い、それとド・モンモランシ家との貿易をお願いします。キュルケには僕から説明します」

 

「娘は君に内緒にされる事を酷く悲しんでいる。宜しく頼むよ。それと、この件が解決したら学生でも直ぐに娘と結婚して貰う。コレは決定事項だ!」

 

「……はい」

 

「それで、ジョゼフ王は君に何を求めたんだい?」

 

「トラウマを排除し男の機能を回復する事です」

 

 

 ガン!

 

 

 ツェルプストー辺境伯は再度、机に突っ伏しながら唸った……

 

「大国の王がそんな己の粗チン「ストーップ駄目ですそれ以上言っては駄目ー」……何故だい?」

 

「ジョゼフ王の腹心とは彼の寵妃なのです。だからその手の言葉を言うと僕でも止められない女傑になります。

多分、烈風のカリンと正面切って戦っても勝てるかも知れないレベルです」

 

「そっそんな危険人物を君は御しているのかい?」

 

「彼女は一途で可愛い女性なのです。僕は彼女の悲願達成の為に全力を尽くすのです。だから……だから……」

 

 ツェルプストー辺境伯の背後からユラリと、禍々しいナイフを彼の首に当てたシェフィールドさんが現れた。

 

「……命拾いしましたわね、ツェルプストー辺境伯。ツアイツ様が居なければ殺す所ですよ。次は命が無いと思いなさい」

 

 そして僕にニッコリと微笑んでからユラリと闇に同化して消えていった、ヘナヘナと2人ともソファーに座り込んだ。

 

「すまない。命拾いしたよ……あれがジョゼフ王の腹心か。確かに凄い女性だね。私が全く反応出来ないなんて……自信を無くすよ」

 

 ヤンデレ……胃がキリキリと痛い。

 

 何時か僕の胃は味方に壊されるかも知れない、今はまだ良い。恋愛要素を抜いて僕に対してこの威力だ。

 ジョゼフ王は愛を上乗せした状態でシェフィールドさんに尽くされるんだぞ。退屈なんて言っていられない筈だ!

 

 しかも僕らの計画では彼女を王妃にする……良かったですね、ジョゼフ王!

 貴方の望み通り、退屈が懐かしく思う程のバラ色の世界が待ってますよ。

 

 

第49話

 

 帰省三日目

 

 こんにちは、ツアイツです、僕は今、ツェルプストー辺境伯所属の竜騎士の操る風竜に乗り、首府ヴィンドボナに向かっています。

 アルブレヒト3世に謁見する為です。

 これからの僕の行動は、ゲルマニア一貴族の範疇では済まなくなる場合を考えて、詳細は伏せて取り敢えずこの国に有用な貴族で有る事を皇帝に思わせる為だそうです。

 いくらゲルマニアの皇帝とは言え、一面識も無い貴族が他国で問題を起したら…… 切り捨てますよね?

 だが、人となりを知っていれば、皇帝に必要と思われる売込みに成功すれば、保険としては最良だとツェルプストー辺境伯に説かれて、現在移動中です。

 彼の配慮なのか、この竜騎士さんは女性でキリリとした美人さんです。

 しかし髪の毛が燃える様な赤で有り、目元がどうにもキュルケ似な感じがするのが何とも……

 

「ツアイツ様、まだ到着まで時間が掛かりますが平気ですか?」

 

「はい。大丈夫です……貴女は、一族の方ですか?」

 

 彼女はクスクスと笑いながら「特徴有る一族ですから分かり易いでしょ?」と肯定してくれた。

 

 彼女は側室の娘さんだが、ツェルプストー辺境伯が一族で有能な者を集めて諸侯軍を再編成してる最中に、自らを売り込んだそうです。

 このまま政略結婚を待つばかりなんてお断り、らしい……

 この再編成は跡継ぎのキュルケがウチに嫁ぐ事が決まってからなされた事で、その辺については感謝された。

 他にも自由を求めた一族の若き女性達が居るそうです。

 

 今度紹介しましょうか?と言われたが、これ以上問題を増やしたくないので丁重にお断りしました。

 

 前にキュルケから部下とのコミュニケーションも良好だと聞いた事が有ったが、確実に僕からのアイデアを形として取り込んで成果を出している彼は、傑物なんだろう。

 僕の周辺の大人の中で、一番まともなんだよなぁ……彼女とそんな世間話をしながら目的地に向かっています。

 

 そうそう。今回の謁見には、ワルド殿もシェフィールドさんも我が家でお留守番です。

 

 名の知れた二人が同行するのは、色々と各所に刺激を与え過ぎるので自粛して貰いました。

 シェフィールドさんは僕に対し過保護になって来ているのか、3つのマジックアイテムを渡してくれました。

 

 一つ目は、前回のテファとのデートの時に貸してくれたゴーレムを生み出す牙の腕輪。

 

 二つ目は、自らの魔力を少し高めてくれる魔石の指輪。

 

 三つ目は、本当に困った時にコレに向かって助けて!と、念じろと木の札の様な物をくれました。

 

 最後の札が気になるのですが、聞いても笑って答えてくれません。しかし絶対に肌身離さず持っている様に念を押されました。

 多分凄い威力の有るマジックアイテムなんでしょう……そう信じて持っています。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 前回同様、ワルドとシェフィールドはソファーに並んで座りながら水晶球で、ツアイツの監視をしている。

 

「流石に今回は距離が有り過ぎるのではないか?」

 

「平気よ、あの渡した指輪は、こちらに映像を送る増幅装置の役割も有るの。それに中継用の鳥型ゴーレムも出しているから」

 

「彼を騙したのかい?」

 

「くすくす。まさか、装備者の魔力もちゃんと増幅するわよ。だから騙してはないわ」

 

「君は……ツアイツ殿には過剰なまでにテコ入れするね。確かに有り難いのだが……」

 

「そうよ!ツアイツ様だけが私と主の幸せの協力者なの。大切な私の協力者……なにかしたら皇帝でも殺すわ」

 

 嗚呼……彼女の目が危険域に入りそうだ……

 

「きっ君が居れば問題なんて無いだろう……彼の胃以外は……」

 

「嗚呼……ツアイツ様が止めなければ、クロムウェルなど今すぐ殺して我が主の記憶を正しますのに……」

 

 クネクネと身悶えだした妙齢の美女を見詰めてワルドは空恐ろしい思いに駆られた……今すぐ離れたい、と。

 

「ツアイツ殿……貴方の偉大さがこんな事でも理解できます。僕にはこんな女性を御せる自身が有りません……」

 

「それで、最後の札は何なんだい?ツアイツ殿には内緒にしていたが?」

 

「アレはね、簡易転移札よ。勿論、ツアイツ様に危害を加える輩を殺す為に私が転移するの」

 

 まっ魔神召喚……

 

 ツアイツ殿、貴方には魔神が魅入られてしまいました。僕にはどうにも出来ない……

 しっしかし安全は確実に保障されますので許して下さい。ワルドは胃を抑えて応接室から音も無く立ち去った。

 

 シェフィールドの隣に嫌がる遍在を座らせて……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハーナウ領から丸一日余りで首府、ヴィンドボナに到着した。

 伝令は先に飛ばしているが即、謁見が適う訳もなく今夜はツェルプストー辺境伯の所有する屋敷に滞在する。

 明日以降で許可が取れたら連絡が入る筈だ。

 

 ツェルプストー辺境伯のヴィンドボナ屋敷に到着した。流石は辺境伯と言う所か……豪奢な屋敷だ。

 そして連絡は行き届いていたのだろう、持て成しの夕食は素晴らしい物だった。

 食後の紅茶を楽しみながら暫し雑談をする……

 

「疲れたかな?ツアイツ殿、明日には謁見は叶う筈だ」

 

「流石はツェルプストー辺境伯と言う事ですね。しかし強行軍でしたね。体が痛いです」

 

「ふむ。君には風竜の扱いの上手い綺麗どころを宛がった心算だが?」

 

「ええ、彼女の風竜の扱いは素晴らしかったです。それに興味深い話も聞けましたし……」

 

 ツェルプストー辺境伯は目を細めながら紅茶を飲んでいる……機嫌は良さそうだ。

 

「ついに君もアルブレヒト閣下と謁見だ。これまでの成果だけでも十分だし、例の超々ジェラルミンの装甲馬車も好評で良く利用しているとの事だ」

 

「そうですか……でも今回の謁見では表の顔、真面目な部分だけでいきましょう」

 

「そうだな……閣下も英雄色を好むで、数多の女性を囲っている。が、いきなりおっぱいは無理だろう」

 

「そうですよね……搦め手は色々有りますが、先ずは信を得る事ですね」

 

「搦め手?気になるけど今は聞くのはよそう……」

 

「それと側室に生ませた我が娘達はどうだ?流石にキュルケの手前、側室にはやれんが輿入れの際には同行させるからな」

 

「随分と強力な家臣団ですが……宜しいので?」

 

「君のお陰で待望の男子にも恵まれた。キュルケには領地も爵位もやれん。ならば家臣団位は付けてやるのは親心だよ」

 

「僕の監視ではないですよね?」

 

「くっくっく……どうかな?ヴァリエールの小娘には負けないつもりなのでね」

 

「しかし本当に宜しいのですか?貴方の血を受け継ぐ者達が僕の手の内に来るんですよ?」

 

「君は基本的に有能だが貴族としての欲が薄い、そして身内には甘過ぎる。それに私にも敵は多いので安心出来る所に集めておきたいのだよ」

 

「僕が彼女らに手を出したら?」

 

「別に我が家とハーナウ家の結束が高まるだけで問題あるまい?君が苦労するだけだし」

 

「苦労ですか?」

 

「そうだ!身内に甘い君だ。身内が増えれば増える程、君は努力する。それに私も君の言う身内なのだろ?」

 

 負けた……そこまで信頼され身内とまで言われれば、何としてもキュルケと彼女達を守るしかない。

 

「所詮は僕もまだまだ若造なのですね……参りました」

 

「ふふふ……幼い頃から君らは婚約者なのだ。最早、身内と言うか家族も同然!

ヴァリエールの小娘も加えてやるが、三家が集えば……ああ、ド・モンモランシ家もか。

四家が集えば大抵の事は可能だろう。今はまだ其々の当主が居るが何れは君がその中心となるのだよ。

宮廷には海千山千の魑魅魍魎の如き貴族連中が沢山居る……まだまだ学ぶ事は多いよ」

 

「はぁ……本当にまだまだですね。僕は」

 

「15歳やそこらで一人前になられては僕ら父親の立つ瀬が無いだろう。まぁ頑張れ。応援はしてやるよ」

 

 謁見の前にこの人と話が出来て本当に良かった。これなら落ち着いてアルブレヒト閣下と謁見出来るだろう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふん。殺し損ねた相手だけど、ツアイツ様には必要な相手なのね……

 まぁ謁見が失敗しても、最悪ツアイツ様がゲルマニアを追われても、ガリアで引き取るから問題は無いわね。

 

 うん。彼に危害を加えるようなら殺しても問題は無いわ。

 

 寧ろその場合は、殺して彼をガリアに連れ込みましょう。

 あと少しです我が主……あと少しで我が悲願は達成され、私達の薔薇色の生活が始まるのです。

 シェフィールドのヤンデレ節は最高潮に達していた、そしてワルドの遍在は任務を放棄し、逃走した。

 

 遍在なのに胃を抑えながら……

 

 

 

第50話

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 流石はゲルマニア有力貴族、ツェルプストー辺境伯と言う事でしょうか?

 早朝から勅使が屋敷まで来て、謁見の準備は午後一番に整うとの報告が有った。

 アルブレヒト3世と言う人は、己の政敵を全て幽閉する程の激しい面を持つ人物なので楽観は出来ない。

 そう言えば、僕は前世では天皇陛下や皇族の方々にも、会った事が無いので緊張してます。

 

 アンリエッタ姫?んー微妙?

 

 彼女は確かに王族としての気品や美貌は有ったのだが……威厳とかが……その、無かった様な?

 まぁ、深夜に僕の部屋でキャットファイトする様な人物を敬えと言われても難しいよね。

 しかし僕の為にも、彼女はウェールズ皇太子と結ばれてもらう。それは僕にも彼女にも益が有る話だ。

 などと、つらつら考えながら僕は馬車に揺られています。

 

 この超々ジェラルミン装甲馬車は、意匠こそアルブレヒト3世に献上した物には劣るが、性能は同等以上の逸品!寧ろ防御力的には此方が上だ。

 

 献上品は内外共に装飾が華美な為、重量的な問題で一部、装甲を削っている。

 それでも従来の馬車よりは耐久性は高いし、高性能サスペンションを装備しているので乗り心地は比べるまでもない。

 

「ツアイツ、そろそろ着くぞ。緊張するなよ」

 

 随分長い間、考え事に没頭してしまったようだ……ツェルプストー辺境伯の声で現実に引き戻される。

 

「はい。有難う御座います。大丈夫です」

 

 いよいよアルブレヒト3世とご対面だ。

 

 

 

 謁見の間にて……

 

 

 

 僕らは既に謁見の間に入り、閣下が来るのを跪いて待っている。

 

「アルブレヒト3世閣下の御成りです……」

 

 衛士の声が響き、カツカツカツと玉座に進む足音が聞こえる。座る気配と共に声が掛かる。

 

「久しいな、ツェルプストー辺境伯よ。そして彼が、君の話に良く出てくるツアイツか?」

 

「はっ!アルブレヒト閣下に、名前を覚えれているとは感激の極みで有ります」

 

 より、頭を下げて答える。

 

「堅苦しい物言いは止めよ。調べでは数々の革新的な事業を行っているな。我がゲルマニアの益になるなら喜ばしい事だ」

 

 調べただと?何処まで調べられたかな?

 

「はっ!勿論、我が閣下の為に誠心誠意、尽力するつもりで有ります」

 

「ふっ……国でなく俺にときたか。成る程、有能だな。俺には敵が多い……ソレも見込んでの発言か?」

 

「国に仕えるのは、貴族として最低限の事。僕は微力ですが、閣下御自身に仕える所存です」

 

「ふん。ツェルプストーとの婚姻も認めてやる。普通なら大貴族同士の結び付きは喜ばしくはないがな」

 

「はっ!有り難き幸せ」

 

「よい。貴様の提案し献上した、超々ジェラルミンや戦闘レーション・携帯医療キット等も有効なのは理解した。これらはツェルプストーとハーナウ両家に独占発注しよう」

 

「それは……色々と問題が有ると考え、閣下自らの管理に置かれる事を具申致します」

 

「その程度の利益など手放してでも、他貴族との軋轢を避けるか。欲が無いのか、他に思惑が有るか……」

 

「近衛や常備軍は閣下の直轄部隊です。我らが絡む事は、害にしかなりませんので」

 

「くっくっく……普通は是が非でもと言う所だがな」

 

「我がハーナウ家にも閣下の危機には、駈け付けられる準備が有ります」

 

「貰える物は貰っておけ。俺に必要な家臣には其れなりの待遇をする必要が有るのだ。遠慮も度が過ぎれば不敬よ」

 

「はっ。有り難きお言葉、痛み入ります」

 

「よい。俺はツェルプストー辺境伯と話が有る。先に退出しろ」

 

「はっ。では失礼致します」

 

 一礼して謁見の間を退出する……扉の外には侍従が控えており、次の間というか待機の部屋に通された。

 今の会話を振り返る……問題は無かった筈だ。

 閣下も僕を少しは必要と思ってくれたみたいだし、利権もくれた。

 あとで、ツェルプストー辺境伯にも相談して今後の対応を考えよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 謁見の間

 

 閣下の機嫌は良さそうだが……

 

「どうですか?彼は、見込みが有りそうですか?」

 

「そうだな……目先の利権をスッパリ切って、己が立場を保てる程は周りが見えているな」

 

「もともと自身の欲は少ないタイプですね。争い事も避けるタイプですが……身内の危機には容赦ないですよ」

 

「確かに功績の割には、自分の利益欲が少ないな」

 

「しかし、あの年でこの功績は少々異常です。閣下に謁見し中央デビューもしたからには、廻りの連中からも……」

 

「言うな。有能とは言え、まだまだ子供だ。しかし俺には必要かもしれん。役に立つ様に成る迄は、周りにどうこうはさせんよ」

 

 良し。第一印象は悪く無かった……これならガリアと揉めても、いきなり切り捨てられる可能性は少なくなった。

 

 謁見は成功だ。あとは……

 

「それと、アレだ……数々の著書が有るみたいだが、何故それらは寄越さんのだ?」

 

 ツェルプストー辺境伯は固まった……このタイミングでこの質問とは?

 

「そうですな。しかし脚本なれば、演劇の方を観られた方が宜しいかと……」

 

「ふん。色を語るには、まだまだ子供と思いきや、あ奴の作品は奥も幅も広いぞ……」

 

「閣下……お読みになられているので?」

 

「当然だろう。流通している本は全て押さえているのだが……」

 

「わかりました。市販されてない物も数多く有りますので、献上させる様にします」

 

「そうか!よろしく頼むぞ。2部ずつだぞ」

 

 ここにも色に狂った男が居たか……

 

 彼の著書は……彼以外では紡ぎ切れないオンリーワン的な魅力と、麻薬のような常用性が有る。

 彼の言う、おっぱいだけでも世界は動かせるのかも知れん。

 続きの気になるファン心理、そして顧客は世界を動かせる人物達……彼しか書けない、金では買えない希少本。

 模倣品の追従を許さないジャンルの広さ。

 従来のハルケギニアでは有り得ない革新的な手法・表現方法・独創的なストーリー……

 彼の頭の中には、どんな世界が有るのだろう?それと、私の知らぬ作品が有るのが気に入らん。

 

 献上品は2部ずつ……当然、私も1部貰うから3部だな。

 

 

 

タバサ&ジャネットの旅……

 

 

 

「ふーん。アンタ、急いでるのはツアイツ殿の情婦に襲われたんで逃げるんだ……」

 

「……違う、友達。でも少し怖い」

 

「しかし、3人とも大貴族の令嬢じゃないか?どうやって3股を認めさせたんだろうね?普通は刺されるよ、ソレ」

 

「……好きな男の為なら夜叉になる。本当に容赦がなかった。クスグリは拷問」

 

「ふーん。惚れさせて認めさせたか。これはカフェでお茶は無理かね?バレたら粛清されそうな気がする」

 

「……同意、あれは、アイツ等は危険」

 

「残念だけど諦めるわ。それで何処までこの本を持って行くの?結構走ったわよ?」

 

「……もう直ぐ。あの先の森で、迎えの竜騎士と合流する」

 

 流石は北花壇騎士団!彼女らのスピードは衰える事も無く、目的の場所に着いた。

 

「……着いた。ここで迎えを待つ」

 

 森の中心辺りの開けた空間で、迎えを待つ……夜風がまだ冷たいが、走った体には丁度良い。

 

「ねえ……アンタはツアイツ殿を狙ってるの?」

 

「……狙う?もう任務の標的では無い。……彼は仲間」

 

「ふーん。やっぱりイザベラ様の言う通りにワルド子爵狙いなの?」

 

 何だろう?少し怯えた表情だけど……何か有ったのかな?

 

「ねえ?もしかして、子爵と何か有ったの?」

 

「ヒャッハー!お待たせしたぜ、7号殿……アレ?美少女が増えた?」

 

 タバサの迎え……竜騎士内での激しい競争を勝ち抜いたのは、奇しくも前回迎えに来てくれた彼だった!

 



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第51話から第53話

第51話

 

 人気の無い森の中……2人の美少女と1人の竜騎士が、向かい合っていた。美少女達は、大量の男の浪漫本を抱えている。

 

「7号殿、連絡では1人の筈ですが?こちらの女性は?」

 

「ヒャッハーさん。私は北花壇騎士団所属、元素の兄弟の一員ですわ」

 

「……置いて行って良いですか?別の迎えを寄越しますk……そっその手に持っている著書は?」

 

「……ミスタ・ツアイツとは友達。貴方達の事を話したら、遠い異国の兄弟達に、ささやかな贈り物だってコレを……」

 

 竜騎士は、その場で跪くと両手を組んで祈りだした!

 

「オゥ!ゴッド・ツアイツ殿……我々をブラザーと呼んでくれるのか……感激だ、涙で前が見えねぇ」

 

 暫し落涙と共に祈りを捧げた彼は、全身から漲る何かを発散させながら立ち上がった。

 

「2人共、そのブラザーの魂の著書を相棒に乗せな!力の限り飛んでやるぜ!」

 

 主と使い魔は一心同体!

 

 元々がエリート集団の竜騎士の中でも、このお迎え権利を勝ち取った程の力のある彼の気迫に大地は揺れ、風竜はその力を最大限に誇示した。

 見事な風竜は人間3人と、その荷物を載せて尚、余裕の表情だ!

 そこでタバサがドーピングをする。なんと彼の腰を掴んで後ろに座ったのだ!

 恐ろしい程の精神の高ぶりを覚えた彼は、しかし積荷を損なわない様に慎重に風竜を操り天空に飛び立つ!

 

「ヒャッハー!ゴッド・ツアイツ、いやソウルブラザー!貴方の魂の本は必ず我が仲間に届けます!」

 

 雄叫びを上げて羽ばたく風竜……しかし乗り心地は信じられない程、穏やかだった!

 

「ねぇ?彼、ヤバくない?」

 

「……彼はミスタ・ツアイツに洗脳されたの。だから私達にも危害は加えない……気持ち悪いケド」

 

「確かに狂信的な何かを感じるわね……やっぱり諦めるのは惜しいかな?凄く楽しいわね彼!絶対退屈しないわよ」

 

「……命知らず」

 

 そして迷いなく羽ばたく風竜は、予定より少し早く中継地点に到達した。

 

「7号殿とオマケさん。そろそろ乗り継ぎだ!降りるぜ」

 

「なっ!オマケって言うなー」

 

「ヒャッハー!舌咬むぜぇー!大人しくしてなー」

 

 理想的なフォームで着陸体勢に入る風竜!彼は私達で無く、男の浪漫本を丁寧に持つと、レビテーションで降ろし廻りの同僚達に叫んだ!

 

「みんな聞け!我らがゴッド・ツアイツ殿が……我らをブラザーと呼び大量の著書を……くっ感動で声がでねぇ」

 

 我先にと集まりだす竜騎士達……皆の目が期待と希望に満ちている。

 

「どうした?ゴッド・ツアイツが何故、我らをブラザーと?」

 

「7号殿が我らの事をブラザーに話してくれたんだ!見ろ、この最新巻を含む大量の著書を……異国の兄弟の為に贈る……と」

 

「こっこれは「エヴァさんTV版」が全巻、それにはなまる幼稚園だと……」

 

「こっちは「TO HEART」の続編……なんだ、我らが知らないタイトルが……」

 

 その時、最初に送ってくれた竜騎士が叫んだ!

 

「この中継地点に、直ぐ飛び立てる風竜は何騎だ!」

 

 皆の意識は1つとなった!竜騎士達の行動は早い。

 

「3騎だ。警備と偵察で最低、2騎は残さねばならないが……」

 

「俺と俺の風竜が残る。だから2騎で送ってくれ」

 

「護衛はどうする?こんなブツだ!バレれば襲撃が考えられるぞ」

 

「大丈夫だ。俺の使い魔が次の駐屯地に居る。リンクして情報を伝えた。団長自らが応援に来るそうだ」

 

「ナイスだ!しかし独り占めは駄目だぞ。我らが戻る迄は先に読むなよ」

 

「当たり前だ!ソウルブラザーに贈られた本だぜ。皆で読むのが礼儀だろ」

 

 狂信とも思える純粋な目をして話を進める竜騎士達……もう、彼らを止められる者は居ないだろう。

 タバサとジャネットは当然、蚊帳の外……呆然と進められていく話を聞くだけだ。

 

「えーと、ヤバくね?」

 

「……ミスタ・ツアイツは嘘を付いた……彼らは私の力にはなってくれn」

 

「感謝する。7号殿とオマケ殿……我らとゴッド・ツアイツを結びつけてくれた恩は忘れない……

さぁ、乗ってくれ!超特急でプチトロワまで送るぜ!」

 

「オマケって言うなー」

 

 その後、過剰なまでの護衛団を率いてプチトロワまで搬送された「男の浪漫本」とタバサとジャネット……

 タバサは彼らの、竜騎士団の大恩人となり、その後の行動に影ながらの援助を受ける様になる。

 しかしジャネットは、終始オマケ扱いだったが……美少女なのに何故?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だろう……知らない内に同志が増えた気がしたんだが?

 

「どうした?ツアイツ、浮かない顔だな。謁見は大成功だったぞ」

 

「いえ……魂の兄弟が、遠い地で生まれたような?」

 

「……?」

 

 そう、謁見は成功だった。アルブレヒト閣下も僕の男の浪漫本シリーズを読んでくれていたらしく、直ぐに献上する手配をした。

 今はささやか?な、規模でない打ち上げをツェルプストー辺境伯が催してくれたので堪能中です。

 出席者は、ツェルプストー辺境伯と僕、それに送ってくれた女性騎士のヘルミーネさんと同僚のイルマさんとリーケさん。

 燃える赤髪の一族に囲まれての宴会の真っ最中ですね……彼女らの参加の目的は、僕の品定め……だな。

 

「どうだ?我が娘達は……魔法と武芸は一通り仕込んであるぞ」

 

 多分、彼女たちはキュルケの輿入れと共に付いて来る。選りすぐりの家臣団の中核メンバーなんだろうな。

 全員が全員ともトライアングルクラスの腕前で有り、親父さんそっくりの性格を受け継いでいる。

 

「そうですね。皆さん美しく、また力強さを感じます」

 

「そうだろう。キュルケの嫁入りの時には、側近として同行させるよ。存分に使ってやってくれ」

 

 3人共、既に聞いているのだろう……特に反対も意見も無いようだ。

 

「君の試練の手助けもさせたいと思ったが、まだまだ力不足だからね」

 

「ありがとうございます。しかし僕には既に力強い仲間達が居ます。非常に心強い腹心も居ますので……その」

 

「あー彼女か……そうか、そうだな。我が娘達では……まだ危険かな?」

 

「これ以上メンバーが増えると僕の胃が……」

 

 黙り込む2人……黙って聞いていた彼女達だが思う所が有ったのだろう。控え目だが意見をしてきた。

 

「失礼ながら、そのお年でアルブレヒト閣下に謁見出来る貴方ならば、我ら3人位の面倒はみれるのでは?」

 

 ヘルミーネさんです、彼女が3人の中でリーダーなのだろう。挑発的とも思える口調です。

 

「姉さん、ツアイツ様にも事情がお有りなのでしょうから」

 

 彼女はイルマさん。会話からは一番内政と言うか、参謀向きな感じがします。

 

「……無理なら仕方ない」

 

 リーケさんは……タバサ似の不思議ちゃんですかね。

 

「まぁ待て、娘達……彼の元で働くのはまだ時期尚早だよ。もう少しタフネスに成らねば、あの空気には耐えられまい」

 

「「「……?」」」

 

「ツアイツの元で働く事は、色々な面で勉強になるだろう……しかし今は駄目だ。彼女をジョゼフ王に返すまでは……」

 

「すみません。僕の胃の為に配慮して頂いて……」

 

「君を失う訳にはいかないからな……そう言う訳だ娘達。時期を待て」

 

「「「わかりました」」」

 

 良かった。彼女達も渋々だが納得してくれたみたいだ……彼女達は詳細を知らないのだろう。

 これからの一連の事件を……しかし知らない方がお互いの為だ。と、言うか僕の為?

 

 真面目そうだからなぁ……おっぱい戦争なんて知ったら白い眼で見られそうだし。

 

 

第52話

 

 イザベラ執務室にて……

 

 プチトロアの執務室から窓の外を見る、良い天気だね。あれから、元素の兄弟の報告を貰ったが……何をやっているのか、頭が痛いね。

 

 モギレと言った子爵は、童貞だから放置した。次期当主は、ジャネットがナンパされたから任せた。

 

 こんな報告で納得出来るかー!

 

 しかしあいつ等はそれから呼び出しに応じないし……私も少し働き過ぎかね?

 良い天気だね……こんな日は私だって遊びに行きたいんだけどね、空が蒼いのが目に沁みるったらありゃしないよ。

 

 ……ん?なんだい?あの点は……いや違うね。アレは風竜の編隊だよ!

 

 なんて数だい!

 

 10……11……12……15騎は居るね、まさか敵襲?シャルル派が私を倒しに来たか?いや?アレは、竜騎士団長の騎乗竜のブリュンヒルデ……

 演習なんて報告されて無いんだけど……何だろうね?気になるね……ちょっと行ってみるか。

 

 

 

 竜騎士団プチトロワ駐屯地

 

 

 

「団長が戻られたぞー!ヒャッハー!ソウルブラザーの贈り物が届いたぞー!」

 

「ちくしょう!待ちわびたぜ」

 

 騒がしい……しかし整然と迎えの連中が集合している……何時になく竜騎士達の威勢が良いね……

 イザベラは廻りの連中の迫力に押されながらも、近くの竜騎士を捕まえて詰問した。

 

「何なんだい?この騒ぎは?」

 

「はっ!これは、ツンデレさま……いえ、イザベラ様!」

 

 誰がツンデレだい誰が!イラッとしながら聞き返す!

 

「だ・か・ら・何なんだい?この騒ぎは?」

 

「はっ!ゲルマニアのソウルブラザーから希少本が贈られた為に、団長自らが受け取りに向かいました!」

 

「ソウルブラザー?ゲルマニア?……想像がついて聞きたくないけど、誰だい?」

 

「はっ!ゴッド・ツアイツ殿です。我らのソウル・ブラザー!偉大な兄弟です」

 

「何で一面識も無いお前等が兄弟なんだい?可笑しいだろ?」

 

「ゴッド・ツアイツ殿は言われました……遠い異国の兄弟達にこの本を贈る、と……なれば我らも期待に応えねばならないのです!」

 

「お前等が期待に応える相手は私だろーがー!」

 

「…………はっ!団長が戻られました!失礼します!」

 

 そう言うなり奴は私に見惚れるような敬礼をして、団長の元に走り出した……

 

「ヒャッハー!待ってましたゼー!」……と。

 

 目線の先にはガリアの防空の要、エリート集団の筈の竜騎士の連中が、謎の雄叫びを上げながら狂喜乱舞している。

 その中に、困惑気味のシャルロットとジャネットの姿を見付けたが、もう話しかける気力が無い……

 私はとトボトボと自分の執務室に戻ると、待機していた侍従に今日はもう休むから……と、言い残して自室に戻る事にした。

 ガリアは既にゲルマニアから謀略を仕掛けられているのか?それとも本当に趣味友達が共鳴したのか?

 メイドに持って来させたワインをがぶ飲みしながら考える……いや、忘れる為に酒を飲む。

 お父様も彼らと近い目であのエロ本を読んでいた。まさかエロ本だけでこんな状況を作り出すとは……

 これは一度、会って話さないと駄目かもしれないね。彼の真意を確かめる必要が有るから。

 

「イザベラ様。北花壇騎士団7号殿とジャネット殿が報告に来ています」

 

「今日はもう、誰とも会わないよ!明日また来なって伝えとくれ!」

 

 もう、やる気をなくし怒鳴り返す!

 

 すっかりヤサグレたイザベラは、王族故の美貌が損なう位に、ワインを痛飲し翌日も二日酔いで政務を放棄する。

 真面目な彼女には、馬鹿らしくてやってられないのが本音だった!

 キングサイズのベッドに潜り込み、二日酔いの頭痛と戦いながらもイザベラは吼えた!

 

「バカヤロー!覚えてろよツアイツー!何時かギャフンと言わせてやるー」

 

 すっかり敵と認定されていた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 はっ?今度は美少女に敵対された気がする……誰だろう?ゲルマニアでの用事は全て済んだ。

 そろそろトリステインに帰ろうと思うのだが……最大の難所を先に済まそうと思う。

 

 キュルケにバレた……

 

 それは、ルイズとモンモンにもバレていると思って間違いは無い。すなわちヴァリエール公爵家にも連絡は行っているのだ!

 

 そう……カリーヌ様の耳にも入っている……唯で済むとは思わない。普通に考えれば、まだ婚約しかしてない他国の貴族の問題だ。

 しかし、そんな事は通用しないのが彼女だ。何故か、先に学院に戻ると危険な感じがする……最早、ヴァリエール家を訪問するしか無いだろう。

 それも連絡もせず突然行く事にする。

 

「と、いう訳で、ヴァリエール公爵家に向かいます」

 

 僕はすっかり我が家の如く寛いでいるワルド殿、シェフィールドさん、そしてロングビルさんに言った。

 皆、ゴロゴロと人の部屋でだらけ切っている……これは和室の癒し効果!畳マジックの所為だ!

 

「そろそろ動き出しましょうか……ではアルビオンに潜入しに言ってきます。ほら行くよ!遍在出しな」

 

「これだからデカチチは……ユビキダス・デル・ウィンデ!風は遍在する」

 

 ワルド殿は遍在を1体出して、ロングビルさんの言う事を聞くように指示する。

 ツアイツは知らないが、この遍在はヤンデレ化したシェフィールドさんと一緒に監視していた!お疲れ様な遍在だ!

 遍在使いが悪い本体に一言、物申したい感じだ。

 

「では、トリステインに帰りましょう。ツアイツ様」

 

 今日は穏やかな微笑のシェフィールドさんが最後の言葉で締めて、皆が散って行った……

 両親とテファに別れを言い、彼女の水の指輪を預かり帰路に着く。

 行きと同じ様に、レンタルグリフォンに乗り込みヴァリエール公爵領に向かう。

 アンドバリの指輪と水の指輪は、シェフィールドさんに預けている。多分、世界で一番安全な場所だ。

 彼女もジョゼフ王治療の切り札だから丁重に扱ってくれるし、僕では守りきれないだろうし……

 

「ツアイツ様……そろそろヴァリエール公爵邸に着きますわ」

 

「シェフィールドさん、打合せ通りにお願いします。無用な争いは避ける方向で」

 

「貴方に危害が加えられなければ、大人しくしていますわ」

 

「……いや、多分危害が加わるけど、大人しくして下さい。お願いします」

 

「程度によります。我慢が出来なければ手を出します」

 

 神の頭脳ミョズニトニルンVS烈風のカリン!こんなヤバい対戦カードだけは避けたい。

 

 嗚呼……また胃が痛くなってきた。

 

 無常にもグリフォンはヴァリエール公爵邸の屋敷前に降り立った……しかし内緒の訪問だったが、バレて居たのだろう。

 正門前にヴァリエール公爵とカリーヌ様が既に立っていた。カリーヌさまは凄い笑顔だ……

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ殿、本日はどの様なご用件での来訪でしょうか?」

 

 慇懃無礼に、しかし完璧な礼で言われた言葉の迫力は、基本的にヘタレの僕にはキツかった。

 

「とっ突然の来訪の無礼を許して下さい。今日訪ねたのは、大切な話が有るからです」

 

 殺気に反応し、既にヤンデレ化しつつあるシェフィールドさんの前に出てカリーヌ様を見詰めてそう言った。

 

「娘から聞いてる事ですか?それなら弁明は不要です。私に内緒でガリアと事を構えると言う事ですね」

 

 本能が彼女が怒っている事が分かる……その怒りは僕の為でも有る筈だが、僕へのダメージがキツい。

 

 ヴァリエール公爵も廻りの家臣達も一歩も動けないプレッシャー!

 

「聞いて下さい。その件について報告が遅れた事は謝ります。しかし、これでカトレア様の治療に目処がつきました」

 

 ヴァリエール公爵夫妻は信じられないのか、素っ頓狂な声でハモった!

 

「「何だって(ですって)?」」

 

 

第53話

 

 先程の衝撃の告白から皆が固まり少したった、もう諦めていた愛娘の治療に希望が持てたからか?

  少しプレッシャーを抑えたカリーヌ様が再起動した。

 

「この場逃れの嘘ではないのでしょう。 貴方ならば……中でゆっくり説明して下さい」

 

 カリーヌ様は少しお怒りが緩まったみたいで、屋敷内に招いてくれた。

 しかし……正面のプレッシャーは弱まったが、背後のプレッシャーは上昇中だ! 僕は、恐る恐る振り返る。

 

 良かった。シェフィールドさんは穏やかな笑みを浮かべt……

 

「ツアイツ様が、わざわざ治療法を見つけ出してくれたのに……くすくす。この無礼な年増は何なんでしょう?」

 

 うわっ!僕の為に怒ってくれてるのに、全然嬉しくない。

 

「シェフィールドさん、落ち着いて。これは何時ものコミュニケーションみたいな物だから……ね?」

 

「ツアイツ殿?こちらの黒ずくめは誰でしょう?」

 

 あらゆる意味で規格外な美女2人……ルイズとアンリエッタの喧嘩なんかじゃ済まないレベルの睨み合いだ!

 

「シェフィールドさん、落ち着いて下さい。カリーヌ様……彼女がカトレア様の治療の可能性を見出してくれた……ガリアのジョゼフ王の寵妃です」

 

 驚いた顔で、しかし僕が嘘を言ってるとは思わなかったのだろう。

 

「……分かりました。 無礼をお許し下さい。では此方に……」

 

 カリーヌ様が能面の様な表情で、しかし素直に謝罪してくれた……くっ!胃が、胃が凄く痛い。アレ?何だろう?

 

  目の前が真っ暗に……

 

 僕はそのまま、シェフィールドさんに寄り掛かる様に倒れ込んだ。

 

 

「「ツアイツ様(殿)?」」

 

 

 ヴァリエール公爵邸内、客室にて

 

 

 あれから、あの女との睨み合いを止めて直ぐにツアイツ様を客室に運ばせ、治療させた。

 治療を行った水のメイジによれば、胃に多大なダメージを負っていたそうだ。私は魔法は使えない。

 水の指輪もアンドバリの指輪もツアイツ様から、他人に見せないで!と、頼まれていたので治療は任せてしまったが……

 治療後に又、あの女と睨み合っていたらツアイツ殿が魘されだした。

 その時、あの女の旦那があの女を叱りつけ部屋から連れ出していった……出る時に、此方に頭を下げて。

 つまり、ツアイツ様が倒れたのは私達の所為だ、この年若い協力者を見る。

 

 この一回りも年下の彼に、甘え過ぎていたのか……

 

 最初は、我が野望の為に必要な男と思っていた。彼も私が試練を越える為に必要だったし、ギブアンドテイクな関係だと。

 元々、我が主に使い魔として召喚されてから、周りは私を得体の知れない女。貴族でもない、平民の妾程度の扱いをされた。

 

 我が主を慕う者は私だけ……

 

 しかし、主は私を必要としてくれているのか?愛していてくれているのかも分からない。周りから孤立していた2人の主従。

 そんな私に、彼は仲間として接してくれた。

 そして彼の周りに集まる変態達やその他の連中も、基本的にいがみ合っても、仲間として受け入れてくれた。

 

 此処には私の居場所が有った。

 

 私は主の事を考えると、思考がグルグル回ってしまい、主を侮辱する者は殺してしまう。

 今迄は止められなかった感情も、彼だけは止めてくれる。やはり私達に、ツアイツ様は必要だ!

 あの女の娘など治さずに、ツアイツ様を治した方が有効なのだが、それだと確実に悲しまれてしまう。

 人間ならもっと、自分の欲望に忠実に行動する筈なのに、彼は人の為ばかりに……

 

 まぁ良いわ。

 

 私が主の寵愛を受けて王妃になったら、彼をガリアに呼んで礼を尽くせば良いでしょう。私達と彼に逆らう者は、始末すれば良いのだから……

 

 くすくすくす。楽しみだわ。主と私、それと彼で新しい国を興すのね。

 

 あら?また苦しそうに、魘されだしたわ。

 

「誰か?水メイジを呼んで!また魘されだしたわ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夢を見た……ジョゼフ王とシェフィールドさんが玉座に座り、僕が横に控えている。宰相の様な感じだ……

 ジョゼフ王はゲッソリと痩せている。対してシェフィールドさんはツヤツヤだ……何なんだろう?

 この回避しなければならない、新たな試練の様な情景は……地位や名誉は有りそうだけど、こんな未来を僕は望んでいない。

 

「いっいやだー!」

 

 あれ?

 

「知らない天井だ……」

 

 取り敢えず、お約束の台詞を言おう。

 

「目が覚めましたか? 魘されていましたよ。 今、水メイジを呼びましたから……」

 

 シェフィールドさんが、慈母の様な微笑みで僕を見ている。

 

「看病してくれてたんですか?」

 

「いきなりお腹を押さえて倒れたので驚きました。水メイジの言うには重度のストレスが原因だと……」

 

「僕も、まだまだですね」

 

 自虐的に笑ってしまう。

 

「ツアイツ様のストレスの原因は私ですか?」

 

 えっ?と、彼女を見る。確かにその通りなんだが、自覚が有るのか?シェフィールドさんは申し訳なさそうにしている。

 

「いえ……違います。やはり一介の学生が、国家間紛争に関わるのですから。自分では分からない内に、ストレスが凄かったんですね」

 

 彼女の所為だが、男として彼女の所為とは言わない。

 

「良いのです。自分でも理解しています。今は……もう少し、お休みなさい」

 

 彼女は、そのヒンヤリとした手のひらを僕の額に当てて寝かしつける。

 

「冷たくて気持ち良いです……」

 

 言ってしまった後、彼女は一度ビクッとしたけど、そのまま頭を撫でてくれた……ヤンデレさんに撫でられて落ち着くとはね。

 今はもう少し寝よう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 ツアイツ達の様子をそっと伺う。また魘されたと聞かされ様子を見に来れば、何やら良い雰囲気だし……

 

「貴方が私を連れ出すから……見なさい!妖しい雰囲気です」

 

「いや、愛情よりも友愛な雰囲気ではないのか?」

 

「しかし……あんなに安心して寝てしまうとはツアイツ殿は年上狙い?」

 

「落ち着けカリーヌよ。大国の寵妃と姉弟の様に仲良くなるとは……俄には信じられないが」

 

「仕方が有りません。暫くは、休ませてあげましょう」

 

「そうだな。話を聞くのは、明日でも良いだろう」

 

 

 ヴァリエール公爵邸内食堂にて……

 

 

 ヴァリエール公爵夫妻とシェフィールドさんと4人で食卓を囲む。

 何故か昨日とは変わり、カリーヌ様もシェフィールドさんも表面上は穏やかだ。

 食事も終わり、食後の紅茶を飲み終わってから話を切り出す。

 

「では、昨日の話の続きをして宜しいですか?」

 

 ヴァリエール公爵夫妻が頷いたのを確認して、話し出す……此までの経緯、此からの対策、そして協力して欲しい事。

 2人は黙って聞いていた……

 

「つまり、ジョゼフ王の試練を越えれば、カトレアの治療は可能だと言うのね?」

 

「そして、その試練を越える為には、トリステインを戦禍に巻き込むのか……」

 

 2人共、自国を巻き込んでの作戦に難しい顔をしている。

 

「お二人が悩まれるのも当然です。しかし……自らの手を汚さず、アルビオンを見殺しにしても次のターゲットは、トリステインです。ならば……」

 

「他人の庭で火遊びをしている内に終わらせろ、と?」

 

「言い辛いですが、この末期の国は荒療治をしないと崩壊します」

 

「ああ……それは我々の責任でも有る」

 

「言い難いのですが、既にこの国にもレコンキスタの魔の手が伸びています。それは……」

 

「まさか、彼が?」

 

「そうです、彼はトリステインの参戦を拒否し続けるでしょう」

 

 ヴァリエール公爵は押し黙ってしまった、カリーヌ様は一点を見詰めたまま動かない。やがて、覚悟を決めたのか答えてくれた。

 

「この国を巻き込もうとも、君の話に乗ろう」

 

「ええ、この国と私達の娘の為に……」

 

「有難う御座います」

 

 これで、残すはド・モンモランシ家の再生のみだ……よし、勝機が見えてきた。しかし、今回はシリアスだったな。

 オッパイ話をすると、カリーヌ様が怒り出すから。

 

「「そうだ(でした)!ツアイツ殿?」」

 

「はい?」

 

「そのジョゼフ王が、君に求めた事とは何なのだ?」

 

「それは……僕にしか出来ない治療法で治したい事が有るのです」

 

「そうか……彼も、色者関係者なんだな」

 

「三度目なので、詳しくは……」

 

「……………」

 

「それとツアイツ殿。大切な話が有るのだが……」

 

 あれ?何だろう?ヴァリエール公爵夫妻が満面の笑みで近づいてくるんだけど……?



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第54話から第56話

第54話

 

 トリステイン魔法学院アルヴィーズの食堂

 

 

 今朝も貴族的には、ささやかな糧の……無駄に豪華な朝食が並んでいる。

 

「ねぇキュルケ?今朝は嬉しそうね」

 

 礼儀作法に則り優雅に食事をするルイズが、この2〜3日の間浮かない顔だった親友が、凄く嬉しそうなので疑問に思い聞いてみた。

 

「お父様から梟便で、手紙が届いたわ。ツアイツは例の件の対策が概ね終わり、アルブレヒト閣下にも謁見したそうよ」

 

「それじゃ、学院に直ぐに戻るのね?」

 

 最近、人気上昇中のモンモランシーが詰め寄る。

 

「それが……先にルイズの実家に寄るって、書いて有ったわ」

 

「ウチに?両親に説明に行ったのかしら?」

 

「それと、モンモランシーの実家の援助はウチも参加する事になったって」

 

「ツアイツ……私の家の為に、既にそこまで……嗚呼」

 

「何か水の精霊対策も手に入れたって、書いて有ったわ」

 

「凄いわ!それなら両親も、ツアイツとの私の結婚を……ツアイツ駄目よ、まだ早いわ。せめて卒業まで待って……」

 

「「あー駄目だ……妄想モードに入ったわ」」

 

「でもキュルケ?アレは放っておいて……何故、謁見なんてしたのかしら?」

 

「んーゲルマニア皇帝の後ろ盾を得たかった……かな」

 

「私達、余計な事しちゃったかな?」

 

「大丈夫。ツアイツは、私達に感謝していたって。帰ったら、直接説明してくれるって」

 

「そう……なら安心ね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ふふふっ!手紙にはね……お父様がツアイツに、私達の結婚を承諾させたって書いて有ったわ!

 つまり学院に帰ったら、先ず私にプロポーズしてくれるのよ。

 ヴァリエール公爵家にも向かったって事は、ルイズとの婚姻も進むって事だろうけど……私が先ね!

 だって学生結婚でも構わないって。貞淑を重んじる、トリステイン子女には無理な事よ。

 つまり第一夫人は、わ・た・し!貴女達より一足先に、人妻になるの……

 

 えへへへ!

 

 キュルケは珍しく、人前で妄想モードに突入した!

 普段は大人らしく落ち着いている彼女が、乙女の妄想モードに突入している……流石はナイスバディ!

 くねくね具合も、お色気抜群だ。廻りは珍しい物が見れると、注目し集まってくる。

 男子諸君はヨダレを垂らしそうな表情。

 これで複数の男子を手玉に取っていたら、原作同様に大変宜しくないのだが、ツアイツ一筋なので他の女子も問題にはしていなかった。

 逆恨みで手を出しても、返り討ちは確実だし……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「キュルケ……怪しくないかしら?」

 

「オラッ!戻って来い」

 

「はっ……!ごめんなさい。そうね、何か隠している感じよ」

 

「「後で尋問ね!」」

 

「それと……何を勝手にツアイツの分まで朝食食べてるのよ?」

 

「ふぉ?ふぉふぉふむ?」

 

 マリコルヌはツアイツの分まで食べれて、ご機嫌だった!

 

「ツアイツー!君の分は無駄にしないよー!だから、暫く出掛けていていーよー!」

 

 

 

 場面は変わり、ヴァリエール公爵家にて……

 

 

 

「それとツアイツ殿?」

 

 あれ?何だろう?カリーヌ様のこの笑顔は?

 

「娘達の事です。貴方はこれで我が娘達全てに、何らかの手助けをしてくれた訳です」

 

「はい。カトレア様は、条件を満たしていませんが」

 

「それで……誰が良いのですか?」

 

「……はぁ?」

 

「鈍いですね、エレオノールなら我が家に婿入り。爵位も領地もお譲りしましょう。

カトレアはラ・フォンテーヌ領と子爵位を持ってます。そのまま継ぐか、爵位を王家に返上させ我が家に婿入り。同様に爵位と領地をお譲りします。

ルイズなら……嫁にあげましょう。そして子供を養子に迎え入れます」

 

 えっと……確か僕は、ルイズの婚約者だったよね?

 

「……では、婚約者であるルイズ嬢を」

 

 カリーヌ様の目を見て答える。何故か、心の中で本編ルートはルイズールイズー!と訴えている……誰が?

 

「そうですか。しかし……年上の女房は金の草鞋を履いても探せ!と、東方の諺も有りますよ?」

 

 何故?カリーヌ様は此処で、僕に選択肢を出すのかな?

 

「いえ……ルイズ嬢で、お願いします」

 

「チッ、分かりました。では、卒業と同時に結婚して貰います。それまでにジョゼフ王の件は、処理出来るのですよね?」

 

「大丈夫です」

 

 何故に舌打ち?

 

「ツアイツ殿……魔法が不得意な我が娘だが宜しく頼む。それと、生まれた第二子以降の男子は、我が家に養子に欲しい。

エレオノールが、その……アレだし、カトレアも適齢期を過ぎている。我が家を継げる相手を探すにも、残念ながらこの国には……」

 

 今まで一言も話さなかったヴァリエール公爵が、僕の手を握り締めてまとめに入った。

 

「ツアイツ殿、子供はルイズとバンバン作りなさい。あの子は安産型です」

 

「はぁ……頑張ります」

 

 これは上の2人には、政略的な婿取りは無理、と思ってるのかな?

 トリステインは二十歳前後が適齢期な、潜在的ロリコン国家だからなぁ……2人共凄い美人で公爵位が付いてくるのに、何が不満なんだよ!

 この国の男共は……しかし、カトレア様は完治しても既に子爵だから、相手は次男以降の貴族かな?

 

 エレオノール様は……タフな男を探すしかないのか?又はM男?後は親心で、身分は関係なく好きな相手と結ばせるつもりかな?

 この話題は、今後避けた方が良いかも。僕は、卒業後にルイズと結婚する約束をしてヴァリエール家を辞した。やっと学院に戻れる。

 

「さぁシェフィールドさん。学院に戻りましょう」

 

 シェフィールドさんは、申し訳なさそうに、そして慈母の笑みを浮かべ

 

「ツアイツ様。私も主に中間報告の為に、戻らなければなりません。くれぐれも危険な場所には、近づいてはいけませんよ」

 

 って過保護だなぁ……

 

「分かってます。まるで心配性なお姉さんみたいですよ?シェフィールドさん」

 

「まぁ!ツアイツ様の望みがそれならば、追加しておきますね。では、2日後までには戻りますので」

 

 優雅に一礼し転移していった。ちっちょっと待ってー!誰もそんな望みは、してないからー!ガリアの王妃の義理の弟ってどんな立場なのー?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 そうだったのね。ツアイツ様も、もっと早く言って下されば良いのに。

 私に親切だったのは、姉になって欲しかったのね。なら私がジョゼフ王と結ばれたら、正式にガリアにお迎え出来るわね。

 

 王弟?王義弟?そうだわ!

 

 トラウマのシャルルの記憶を消して、ツアイツ様が義弟になる記憶を植え付ければ良いわ!

 全く弟の存在を無くすより、すり替えた方が辻褄を合わせ易いわね。

 私がお姉さん、か……大切な旦那様と義弟が一度に出来るのね。

 

 うふふふふ!

 

 さて、我が主よ。虚偽の報告をする事をお許し下さい。最終的に、あなた様の為になるのですから。では、報告に向かいましょう!

 

 

 

 ガリア王宮謁見の間にて……

 

 

 

 ジョゼフは退屈そうに玉座に座っている。

 

「ミューズよ。ご苦労だったな。して、彼らの様子を教えてくれ」

 

「はい。彼らは親子で、貧と巨の教祖が手を組みました。先ずはアルビオン全土にて、布教合戦になるかと思います」

 

「ふむ……では、クロムウェルは不利か?」

 

「そうですね。しかし彼らはゲルマニアの貴族……アルビオンに伝手は無く、布教活動にも苦労しています」

 

「くっくっく……ブリミルの血をひかぬ蛮族扱いの国だからか?」

 

「しかし、商売としての販路は有るので、色々と考えてはいる様ですが……」

 

「そうか。出だしは、クロムウェルが有利か」

 

「はい」

 

「楽しみよの。胸だけで、何処まで出来る事が有るのか……見物よの」

 

「はい。余りにクロムウェルが有利に成らない様に、手配・調整します」

 

「そうだな……なるだけ長引かせて楽しませろ。どちらが予の大望を叶えてくれるか、楽しみよの」

 

「全ては主の、思いのままに……」

 

 シェフィールドは深々と頭を下げた。これで良いわ。今はツアイツ様が若干不利、と思わせておきましょう。

 我が主の幸せの為に、今は虚偽の報告をお許し下さい。クロムウェルなど、とっくに詰みの状態なのです。

 貴方様には、新しい妻と弟がもう直ぐ出来ますので……私達は、家族になるのです!

 

 ツアイツは、花嫁を2人ゲットした!

 

 しかし、知らない所で年の離れた狂った義兄と、ヤンデレで危険な義姉が出来そうなフラグが進行していた!

 誰も自重する様な奴は、居なかったから……

 

 

 

第55話

 

 ベルスランの悩み……

 

 お早う御座います。私はオルレアン家にお仕えする、執事で御座います。

 昨夜遅く、私の主の忘れ形見であるシャルロット様がお戻りになりました。

 イザベラ様とは、最近仲直りしたのか……

 以前よりも任務も軽く、此方に顔を出せる様に配慮して頂いているそうです。

 奥様は相変わらずシャルロット様の事を人形と思い、膝の上に乗せて幸せそうに髪を撫でております。

 

 先程まで……つい先程まで、また大量のエロ本を屋敷に持ち込み、奥様に朗読させていたシャルロット様。

 

 前回は1冊だけだったが、今回はその続編から新しいタイトルを含め20冊以上……作品の内容自体は、男として、コホン!

 その、私めも青春時代や亡き妻とのアレコレを思い出させる逸品!

 

 なる程、ジョゼフ王が求めるだけの本でした。あの内容を奥様のお声で聞かさせるとは……何とも、こう……モヤモヤした物が!

 奥様の体力的な事も考えて、朗読は2冊で終わりにして頂きました。

 今夜は久し振りに、花街にでも繰り出したいと思ったのですが……

 残念ながらシャルロット様が、イザベラ様に報告が終り次第、また夜にお戻りになられるとの事。我慢致しましょう。

 しかし、シャルロット様もあの本を毎回持ち帰られるとは!せめて私めにお預けになれば、荷物にならないのですが……残念です。

 

 

 

 エロ本担いだタバサさん

 

 

 プチトロアの回廊を独り歩いて行く。イザベラに報告したいのだが……珍しく自室に籠もり、酒浸りだそうだ。

 あの真面目な彼女が?魔法の才能は少なくても、政務は私では適わない程の優れた面が有る彼女が……心配だ。

 

 彼女とは(洗脳により?)和解出来たのだから、昔の様にとは言わないが仲良くしたい。学院の友達は、少し怖いから……

 

「アレ?7号殿、どうされました?」

 

 ……竜騎士団員達だ。彼らも少し怖い。

 

「イザベラに会いに行く」

 

「ツンデレさま……いえ、イザベラ様にですか」

 

「……そう。じっじゃあ」

 

 やはり彼らは苦手。早足で立ち去る。

 

 

 イザベラの執務室の前に着いた。護衛の兵士に取次を頼む。

 

「北花壇騎士団7号、イザベラに謁見したい」

 

 年若い兵士は申し訳なさそうに……

 

「イザベラ様は体調不良の為に、本日の政務はお休みで有ります」と、教えてくれた。

 

 体調不良?

 

「……何処が具合が悪いの?」と訪ねたが

 

「私には、分かりかねます」と言われてしまった。

 

 仕方なく、イザベラの私室に会いに行く。此方の部屋の前にはメイドが待機していた。

 同じ様に面会を求めるが、返事は今日は誰にも会わないとの事。

 部屋の中からは、ミスタ・ツアイツを罵倒する声が聞こえるのだが……

 あの洗脳本を読んだのなら、この反応は可笑しい。

 

「メイドー!酒持ってこーい!」

 

 イザベラが中で騒いでいる。慌ててメイドがワインを何本が運び込む時に、一緒に部屋へ入る。

 

「……イザベラ、どうしたの?」

 

 イザベラはキングサイズのベッドの中央で胡座をかいて、それでもワインはグラスに注いで飲んでいた。私を見て、バツの悪そうな顔をしたが

 

「何だい?笑いに来たのかい?」と、自虐的に笑った。

 

 これでは、アル中だ!

 

「……イザベラらしくない。心配」

 

「アンタに心配して貰える日がくるとはね……」

 

 何やら深刻な顔だ。

 

「ねぇ?ツアイツってさ……どういう奴なんだい?普通じゃないのは分かるんだよ。タカが本だけで、ウチの精鋭が骨抜きなんて可笑しいんだよ」

 

「……あの本は、洗脳効果が有るから」

 

「最早、ただのエロ本だとは言わないよ。アレを読む男達を目の当たりにしたら、さ。鬼才、それでもいいさ。しかし彼は、ガリアをどうしたいんだい?」

 

「ミスタ・ツアイツは、ジョゼフに試練を与えられた。今はアルビオンに対して、布教合戦になる。ガリアには、何もしてない。竜騎士団が、彼の本を読み傾倒してるだけ」

 

「本当に、それだけかい?」

 

「……うん」

 

「一度、その……彼に会って話してみたいんだよ。段取りをしてくれるかい?」

 

「しかし……危険」

 

「どうしても直接文句と、真意を知りたいんだよ」

 

 普段は勝ち気なイザベラが、両手を組んでお願いしている。

 

「……国境近く迄なら」

 

「それで良いよ、すまないね。どうしても確認しないと不安なんだ!ありがとう……エレーヌ」

 

 イザベラに抱きつかれてしまった……そっと抱きしめる。

 彼女は無能王の娘として、色々言われているが、国を思う気持ちは本物なんだ。

 

 少しお酒臭いけど……

 

「それで、護衛は誰を」

 

 バタン!

 

「「「「お話は聞きました!護衛は我らにお任せ下さい」」」」

 

 そこには、複数の竜騎士団員が……

 

「おっお前ら……淑女の部屋を覗き見して、只で済むとは思ってないだろうね?」

 

 下を向いてブツブツと文句を言い始めた。イザベラは魔法は苦手だ。だから制裁は……

 

「オラァ死になー!」

 

 ブンッ……ガゴン!

 

 そう。ワインの瓶を彼らに投げつけた!

 

「そこに列んで座れ!大体、お前らがそうだから、私が悩んでるんだろーがー!」

 

 竜騎士団員達に説教を始めたイザベラ!何故か、恍惚とした表情でお叱りを受ける男達。やはり彼らは気持ち悪い。

 

 

 

 覗き見な竜騎士団員達

 

 

 

「やはりクーデレ殿とツンデレ様が集まると、萌が発生するな」

 

「しかし、イザベラ様はオヤジ臭いな」

 

「馬鹿やろう!ほんのり赤くなったイザベラ様は、可愛いだろうが」

 

「あーお前は、イザベラ様派だもんな」

 

「僕もだ!嗚呼……罵られたい」

 

「お前ら、少し黙れ!何やらソウルブラザーに、会いに行く相談をしてるぞ」

 

「「「何だってー」」」

 

「落ち着け!って、おい!抱き合ってるぞ!まさか本当に、禁断の従姉妹姫な関係なのか?」

 

「ばっ馬鹿押すな!」

 

「俺にも見せろ!」

 

「ちょ扉が開いてしまうだろうg」

 

「あっ……ヤバい開いた……」

 

 ガチャン!

 

「「「「お話は聞きました!護衛は我らにお任せ下さい」」」」

 

 王女の護衛だ!他意は全く無いが、ソウルブラザーに会ってしまっても、問題はないからな!

 この任務は譲れない……力ずくでも成し遂げてみせるぜぇー!

 

 

 

第56話

 

 竜騎士団駐屯地

 

 緊急対策会議開催中だ!竜騎士団団長が、徐(おもむろ)に話し出した。

 

「最初に良くやったと誉めておこう。我らは、ガリア王家に仕える軍人だ!王女からの要請には、応えねばならん」

 

「そうです!我らイザベラ派に任せて下さい。必ず任務を遂行します」

 

 イザベラ派と呼ばれた、所謂ツンデレ愛好家は色めき立った!

 

「まて!我らが恩人7号殿も、関係しているんだぞ!我らこそ、この作戦に参加する」

 

 チビッ子大好きクーデレ派たる、チッパイ予備軍も負けてはいない!軍団を真っ二つに割った会議は紛糾した!

 誰もが、ソウルブラザーに会いたい。7号殿の情報では、ガリア王ジョゼフから試練を言い渡されているそうだ!

 つまり彼は、ゲルマニア貴族だがガリアの為に、手を貸していると考えられる。

 ならば、我らが接触し手伝える事が有るなら協力するのは……

 魂の兄弟と認めてくれた彼に対し、力を貸してこそ誇り有る貴族なのだ!

 

「待てお前ら!会合自体の護衛は、俺自ら指揮をとる!人員は半数を参加させる大作戦、そして極秘任務。分かるな、お前ら?」

 

「「「勿論っす」」」

 

「ならば力を示せ!軟弱者は、この作戦には要らぬ」

 

「ヒャッハー模擬戦だー!外へ出ろー!」

 

「「「うぉー!」」」

 

 竜騎士団員は我先にと、外へダッシュして行った……

 

「さて、イザベラ様と……シャルロット様。宜しいか?」

 

 呆然と会議を見ていた2人は我に返った!

 

「あっああ、すまないね。お父様に、ジョゼフ王に内緒にして欲しいなんて、無理を言って」

 

「……私の正体を知って、手を貸す。何故?」

 

「貴女の両親の事は、聞いています。しかし、一言だけ言わせて頂けるなら……ジョゼフ王もまた、被害者でした。それだけです」

 

「アンタは知ってるのかい?本当の理由を……」

 

「ジョゼフも被害者?」

 

 2人は思わず団長に詰め寄ってしまった。

 

「「教えな(て欲しい)」」

 

「それは……今は言えません。」

 

「…………」

 

「…………」

 

「何時か教えな!良いね」

 

 竜騎士団団長は、無言で頭を下げた。

 

「それで、何でアンタは竜騎士団を上げて協力してくれるのさ?お父様に睨まれるよ」

 

「我らはガリア王家に仕える軍人です。それに男には、やらねばならぬ事が有ります。奴らも、それを理解している。ただ……それだけです」

 

「アンタ……男だね」

 

 イザベラは感動した!ガリア貴族も捨てたもんじゃないね!しかし、シャルロットは毒を吐いた!

 

「ミスタ・ツアイツに会いたいだけ?」

 

「……コホン。して、シャルロット様。我らがソウルブラザーは、どの様な人物なのですかな?」

 

「お前らは……私の感動を返しなー」

 

 作戦は3日後!

 

 先発として、タバサが学院に戻りミスタ・ツアイツを説得し、国境近くの森に案内する。

 後発の部隊がイザベラ様を護衛し、会見の場を設ける。参加人員と風竜は50組。

 後に、イザベラ様の婿候補調べ大作戦!とも、竜騎士団丸ごと調略大作戦!とも、ジョゼフ王本人が面白可笑しく語る事になる。

 

 当然、シェフィールドさんの調教……いやいや、記憶操作後のジョゼフ王であるが。

 

 こうして、ガリアでは3人の……シェフィールドさん、イザベラ姫、そしてタバサの思惑を含んだ作戦が進行していた!

 

 

 

 その頃のツアイツ君

 

 

 

 漸く学院に戻ってきた、もう時刻は夕食が終わってしまった時間だ。

 しかし、執務室を改造したお陰で簡易キッチンが有り、ソフィアが簡単な夜食を作ってくれた。

 スープパスタにライ麦パン、それにフルーツが少し。二人前用意されたとなると、ソフィアも食べるのかな?

 

「ツアイツ様がお出掛けの間は、厨房で賄いを頂いてましたが、ご一緒に食べた方が何倍も美味しいです」

 

「それは、嬉しいな。今回の件は、流石に疲れたよ」「それで、シェフィールドさんとロングビルさんは、どうなさいましたか?」

 

「シェフィールドさんは明後日には帰ってくるよ。ロングビルさんは、暫く調べ物で帰らないかな」

 

「そうですか……1人で寂しかったです」

 

「ごめんね。そうだ!今度、屋敷の皆も誘ってジェシカの店を貸し切って遊びに行こうか?」

 

「はい。お願いします」

 

「明日は、一番でオールドオスマンに会いに行くので、朝食は一緒にこの部屋で食べよう。時間は何時も通りで」

 

「分かりました。では、お休みなさいませ」

 

 ソフィアが退室する。とは言っても、隣の部屋なんだが。

 

 さてと……オールドオスマンには、何処まで説明するか。アンリエッタ姫の件で分かったが、ああ見えて生徒の為には動く人だ。

 普段はエロ爺だが……

 そしてギトー先生やコッパゲール?先生も、トリステイン王国を巻き込んでの作戦を知ってしまったら。

 2人とも性格はアレだが、戦闘力は本物だから。上手く説明しないと、駒の少ないアンリエッタ姫が巻き込みそうだ。

 それにアンリエッタ姫を引き込む手立ても、考えなくちゃ。タイミングが大切だから、直ぐにどうこうじゃないけど仕込みは必要だ!

 

 窓辺に立って外を見る。

 

 オッパイの為に突き進んでいるが、オッパイを抜いたら国家間抗争の中心になってしまったな。何処で間違えたんだろう?

 唯、可愛いくて巨乳の女の子と、キャハハウフフしたいだけだったのに。今では、絶世の美女、美少女を侍らせるリア厨だ!

 現代だったら、某巨大掲示板に連日アンチスレが乱立するリア厨振りだ。しかし、一度手にした幸せは失いたくない。

 例え、反乱で何万人が傷付こうが、頑張って生き残ってみせるさ!

 

 僕は双子の月に吠えた!

 

「そうさ!何としても、勝ち残ってみせるぞー」

 

「そうですよ。安心して、お姉ちゃんに任せて下さい」

 

「……シェフィールドさん。何時も心臓に悪いです」

 

 僕は怒ってるのだが、彼女は微笑んでいるだけだ。

 

「我が主には、現状こちらが不利!と、伝えました」

 

「僕は怒ってるんですけど?」

 

「はいはい。今夜は疲れているのですから、早めに寝るのですよ」

 

 全く悪びれず、隣の部屋に入っていった。ソフィアが驚いて話し合っていたが、合意したみたいだ……

 そう言えば、立場は秘書だった!忘れてた、だって護衛兼問題児だったから。それと、ナチュラルにお姉ちゃん発言は何故?

 

 とほほ……また胃にダメージが溜まりそうだよ。

 

 でも深刻に悩み、落ち込みそうだったのに、気持ちの切り替えは出来た。

 

 では、明日に備えて寝よう。明日は、久しぶりにキュルケやルイズにモンモランシーに会えるな!

 



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第57話から第59話

第57話

 

 長閑な朝の風景?ソフィアとシェフィールドさんは、一晩で打ち解けたみたいだ。

 黒化とヤンデレ……素養は同じなのか?今朝は三人で、朝食を食べる事にする。

 

 因みにシェフィールドさんはローブを脱いで、普通のOLさんスタイルだ!

 毎回思うが、ハルケギニアって一部に、突出した文化形態が有るよね?

 僕が用意した物とは違うから、これは彼女の私物のはずだ。

 

「今日は、珍しいスープを用意してみました」

 

 今朝はシェフィールドさんの手料理らしい。

 

「ん?この匂いは味噌?」

 

「ツアイツ様はご存知でしたか。これは、ロバ・アル・カリイエでも珍しいのですが、豆の発酵調味料ですよ」

 

「ああ……たまにゲルマニアにも行商で流れてくるね」

 

 日本の味、懐かしい味だ。パンに味噌を使い野菜を煮込んだ、具沢山スープ。

 ちょっと取り合わせが不思議だけど、久し振りの日本の味を思い出した。

 

「ツアイツ様は色々ご存知ですね。これは、ガリアに戻った時に持ってきた物ですが……結構好き嫌いの有る食材ですのに」

 

「バターと合わせると、美味しいかな」

 

「明日は私が作ります。シェフィールドさん、その調味料を使わせて下さい」

 

 ソフィアが対抗意識?で、明日の朝食を作るそうだ。どんな創作味噌料理になるのかな?

 

「ご馳走さま!では、学院長室に行ってくるね」

 

 僕は、学院長室に向かうのだが、当然の様にシェフィールドさんも同行している。廊下ですれ違う連中が、胡乱な目で僕を見る。

 

 はいはい!

 

 また美女を連れてますけど、何か?お前ら、彼女の本性を知ったら驚くぞ!

 

「オールドオスマン、いらっしゃいますか?」

 

「いるぞ!なんじゃ急ぎのようかな?まだ朝も早いのに」

 

「失礼します」

 

 部屋に入ると、モブな男性秘書が居ました。

 

「なんじゃ?その美女をワシの秘書にして欲しいのかの?」

 

「ご冗談を……老人」

 

「シェフィールドさん、落ち着いて下さい。いえ、オールドオスマンに相談と報告が有りまして」

 

「ふむ。わまわんよ」

 

「では、人払いをお願いします」

 

「なんじゃ?また問題事か……分かった。そう言う訳じゃ。すまんが席を外してくれんか」

 

 モブな男性秘書が、一礼して退室する。僕は念の為、ディテクトマジックとロックをかける。

 さて、話し始めようと思ったら何を考えたのか……まぁ、シェフィールドさんの尻を撫でようとしたんだろう。

 オールドオスマンが、腕を押さえて唸っていた。

 

「オールドオスマン、彼女はガリアのジョゼフ王の寵妃です。故有って、私に協力して貰ってますが問題をおこすと……僕では抑えられないので」

 

「カーッ!王家が怖くて尻が撫でられるかー!」

 

「でも国が無くなっては、尻も撫でられませんよ」

 

「……真面目に話を聞くかの」

 

「これが、この国の教育機関のトップなのですか?」

 

 シェフィールドさんの疑問に、僕ら2人は下を向いてしまった。僕も、オッパイ・オッパイって言ってるからなぁ……

 

「こほん。実は……」

 

 僕は、オールドオスマンに今回の一連の件を説明した。

 

「なんとも、大変じゃの……そしてトリステインも巻き込む戦争か」

 

「そうですね。心配なのは、アンリエッタ姫がどう動くかです」

 

「ご執心のウェールズ皇太子の危機。婚姻同盟か……最近の積極的な彼女が、黙ってはいないの」

 

「無駄に前向きになってますから。どの道、アルビオンが自力で何とか出来るのも疑わしいですし、かの国が堕ちれば……」

 

「戦渦は逃れられんな」

 

「ならば……」

 

「分かった。お主の話はこの国に出血をもたらすが、どちらにしても戦は避けられん。少しでも被害を少なくする努力をするかのぅ」

 

「有難う御座います」

 

「お主の謝る問題じゃないじゃろ。しかし……男として、ジョゼフ王には同情するのぅ。して、ワシにもその方法で回春可能か?」

 

「……トラウマが原因なら、或いは」

 

「そうか……残念じゃな。話は変わるが、お主が出掛けている間に、アンリエッタ姫から連絡が有ったぞ。

また表敬訪問に来るそうじゃ。それと使者は最近編成された女性のみの銃士隊で、アニエスとか言っておったの」

 

 アニエス隊長か……設立が原作よりも早いな。あの人は、復讐鬼……コルベール先生との絡みはどうなるのかな。

 原作通り、新教徒狩りは有った。これは、学院も巻き込まれる可能性は高い……か?

 

「アンリエッタ姫にしては、強引で素早い行動ですね」

 

「そうじゃな。そして、お主の事をアンリエッタ姫から聞いておるんじゃな。会いたがっていたぞ」

 

 あれ?何で僕に?アンリエッタ姫に不敬過ぎるってか?

 

「それで……どんな感じの人でした」

 

 オールドオスマンは、嫌な事を思い出した様に顔を顰めた。

 

「少々、性格はキツいが美女じゃな。しかも、青パンツじゃった。しかし、心に闇を抱いているのぅ」

 

 心の闇……やはり復讐か。

 

「流石は教育者の鑑!何時も思いますが、何故分かるのですか?」

 

「……さての。年の功かのぅ」

 

「ツアイツ様、そろそろ授業のお時間です」

 

「ああ……では、失礼します」

 

 僕らは、学院長室から出て教室に向かい歩き出す。

 

「どう?学院長は?」

 

「ガリアにもオールドオスマンの情報は有りました。得体の知れない長寿のエロ爺……そのままですね」

 

「否定出来ない」

 

「ツアイツ様は、今日は授業を受けられますよね?私は……少し、この国の腐敗貴族を調べてみます。特に彼を」

 

「うん。無理はしないでね」

 

「くすくす。私よりご自分の方が大変ですよ。後ろを見てくださいな」

 

 シェフィールドさんは笑って転移していった?

 

「「「ツアイツ?また新しい女なの?」」」

 

 振り向けば、キュルケ達が居ました。ああ……そうか。朝から何人かの級友とすれ違ったからな。彼女達の耳にも入るか。

 

「……先ずは、おはよう!そして違うよ」

 

 さて、どうやって説明しようかな。

 

「説明は長くなるから、昼食時にね。先ずは授業に行こう」

 

 不満顔の彼女達だが、ちゃんと説明すると言ったら渋々だが、納得してくれた。さぁ久し振りの授業だ!

 

 

 

 場所は変わり教室にて……

 

 

 

 まだ先生が来るには少し早く、僕はクラスメートに囲まれた。主に男子に……

 

「ツアイツ、君の部屋が立ち入り禁止になり、学院長室から男の浪漫本が消えたんだ!」

 

「ツアイツ、朝の美女は誰だ!またか?またなのか?」

 

「我がライバルは年上好みだな。それで、ミス・タバサがまた居ないのだが知ってるかい?」

 

「ツアイツ、君の部屋にミス・タバサが出入りしてるのは何故だ?」

 

「ツアイツー!君のご飯は、僕が無駄にしなかったよ」

 

 ギーシュ、ギムリ、ヴィリェ、レイナールそして、マリコルヌのモテナイーズ達が矢継ぎ早に質問する!

 マリコルヌは質問でも、何でもないが……

 

「男の浪漫本は、学院長に没収された後は知らない。彼女は、新しい秘書だよ。

ミス・タバサはガリアに戻ってるし、本を借りに来るだけだ。そして食べ物を無駄にせず、有難う!」

 

 全ての質問に答える。

 

「じゃもう、男の浪漫本は読めないのかい?」

 

 ……その捨て猫の様な目はやめろ。

 

「私室には無理。彼女達が居るからさ。学院長室に補充しとくよ」

 

 男達は、安心した顔で離れていった……そう言えば、男の浪漫本は、ミス・タバサが強奪したんだっけ。補充しとかないとな。

 そして居ないって事は、ガリアでまだ滞在中か……早く母親の件を教えてあげたいのだけど。

 ミス・タバサは確かにまだガリアに居る。しかし、数日でイザベラを伴い戻ってくるのだ!

 

 アンリエッタ姫よりも余程、手強い相手が!美少女王女が、ソウルブラザー竜騎士団を従えて!

 

 

 

第58話

 

 

 久し振りにギトー先生の、風はサイコー授業を聞く……うん。平和だ。だけど仮初めの……

 原作では、学徒動員が有った。状況こそ酷くならない様にするが、戦争になれば学生として居られないかも知れない。

 武門派貴族は、学生だろうと志願するだろう。だから、少しでもレコンキスタの勢力は抑えるべきだ。

 こうして聞いていると、実はギトー先生は懇切丁寧なんだよねな。4割は風自慢だし、2割は何も知らないだろう的なんだが。

 

 キュルケ達を見る、うん!真面目に聞いてるね。

 

 しかし、改めて見ても美女と美少女だな。キュルケには、結婚の事を話さないといけないんだけど……

 

 僕は、説明の件をどうやって説明……

 

「ミスタ・ツアイツ!野外で風メイジと対戦するならどうする?」

 

 えっ?僕?

 

「はい。相手のランクは別として、自分の属性に合った距離を保つか……障害物の多い地形に誘導します」

 

「そうだ!実戦では、自分の間合いが一番大切だ。なら周りが、開けた場所だったらどうだ?」

 

「自分で障害物を作るか、視界を塞ぐ煙や霧を発生させます」

 

「それは、土と水の君だからこその意見だ。皆も聞け!本来戦闘とは泥臭い物だ。英雄譚など、まさにお話の中の出来事だ!くれぐれも……」

 

 うん。実際僕はチートオリ主の筈だけど、原作一流連中には模擬戦でさえ勝てないし。

 戦いは得意な人に任せた方が、良いかもしれないね。

 皆は風マンセーなギトー先生が、地味で泥臭く生き抜く戦術を教えているのに驚いていたが、真面目に聞いていた。

 

 さて、そろそろ昼食だ!

 

 

 

 アルヴィーズの食堂にて……

 

 

 無関係な連中に聞かれない為に、隅の方に陣取る。マリコルヌには悪いが、今回は特別だ。先に何皿か渡し、離れてもらう。

 

「食べながらだと、行儀が悪いけど……早く知りたいだろうから、このまま話すね」

 

 3人が頷いたのを確認して、概要だけ話す。ガリア王ジョゼフのアレな件は秘密だが、トリステインを巻き込む事は説明した。

 そして,ド・モンモランシ家の復興の必要性も……皆、真面目に聞いてくれたが反応が悪い。

 

「えーと……何か質問は?」

 

 既にメインデッシュの肉料理を食べつつ聞いてみた。

 

「実はお父様からの手紙で、大まかな事は知ってるの」

 

「モンモランシーの実家に私達が、手を貸すのもね」

 

「それじゃ?」

 

「「「大切な事を忘れてないかしら?」」」

 

「……黙っていて、ごめんね。事が事だけに、名指しで挑まれたから、巻き込みたくなかったんだ」

 

「そうね。貴方の判断は間違いではないわ。ても、知らない事は悲しいの……」

 

「うん」

 

「「後、卒業と同時に結婚ね」」

 

 2人は、見惚れる様な笑顔で宣言してくれました!

 

「「キュルケは?」」

 

 1人ハモらなかったキュルケを訝しんで詰問する。

 

「私?……私はね。まだツアイツからのプロポーズを聞いてないから」

 

「「そうよ!プロポーズよね……ツアイツ……何時なの?」」

 

 せっかく周りから離れていても、こんな話をすれば注目を集めてしまう!

 

「えっと……折を見ていずれ」

 

 周りは、プロポーズ!あそれ、プロポーズ!と、コールが凄いのだが、僕は黙殺した!

 キュルケ達は主に女子連中に囲まれている。男共は、シット団だ!あの目は危険だ……明日はこの噂で持ち切りだろうな。

 下手したら、ド・モンモランシ家にも伝わるかも知れない。

 

 早めに先方に会いに行った方が良い。変な虫が付いてる!ド・モンモランシ家の乗っ取りを計画してる!とか大抵の場合、噂話は良くない方向に伝わるから……

 アルヴィーズの食堂は、魔法学院始まって以来の大騒ぎとなり、先生方からコッテリと叱られた。

 

 学院創立以来の問題児!

 

 グラモン一門も色事で問題を起こしたが、流石に大貴族三股進行はなかった。こんなに気を使う事もなかったそうだ……

 結構、女性を取り合って決闘騒ぎとかやってるのに何故、僕の方が悪いんだろう?

 

 

 

 そして久し振りの、只の学生としての日常が過ぎていく……

 

 

 

 数日ほど、何事もなく過ぎていった。そして今日は、アンリエッタ姫の表敬訪問の日だ。

 今回は事前に知らされていたので、学院側も余裕を持って対応している。

 アンリエッタ姫の目的は、これからのトリステインを担う若き貴族達との交流と言っている。

 なので、トリステインの貴族達は如何にアンリエッタ姫の心証を良くしようかと、躍起になっていた。

 僕的には、アルビオンの問題が表面化してきてから接触したいのだが……

 まぁ、一国の姫が僕なんかに用が有る訳もないと、タカを括ってました。

 

 アンリエッタ姫御一行は、ワルド殿のグリフォン隊と最近になって設立された、アニエス隊長率いる銃士隊が護衛に当たってます。

 

 アニエス隊長は……軽装鎧を着込んでますから、巨なのか貧なのか、はたまた微妙なのかは分かりません。

 

 アンリエッタ姫の乗る、ユニコーン馬車をキュルケ達とボーっと見てる。グリフォン隊の連中は飲み友達が多く、目が合えば会釈位はしてくれた。

 あまり親しくすると、周りがまた五月蝿いから……ワルド殿には前回とは違い、普通に接して欲しいと伝えてある。

 因みに、アニエス隊長は面識無いはずだが、思い切り睨まれてます。

 

 僕もアニメ絵でしか知らない人だけど、ピンポイントで視線が動かない……目が合って、漸く視線を逸らしてくれた。

 

 うん。きっとアンリエッタ姫に、要らん事を吹き込まれたんじゃないかな?これは、近付かない事にしよう!

 

 今回は、何人かのグループと対談形式にて行われるが、家の格によっては呼ばれない者も居る。流石はトリステイン!

 当然、僕もキュルケもタバサもメンバーでは無い。もっとも、タバサは未だ帰ってきてないけど。

 

 メンバーに入ってないと思っていたが、新生アンリエッタは一味違がった!

 マザリーニ枢機卿辺りが、苦労して考えたであろうメンバー表などすっ飛ばして勝手に対談を始めた。

 これには、下級貴族や家督を継げない次男以降の連中も、姫様に顔を売れると喜んだ!

 

 特にギーシュなどは……

 

「素晴らしきトリステインの華、アンリエッタ姫バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」

 

 とか、キャラが変わっている気がする。彼女の進めている、これからの若き貴族達を取り込む事は成功しつつある。

 

 それと、銃士隊も……

 

 皆さん、年若く美人揃いだが、微妙胸を気にするアンリエッタ姫らしく?選考で、巨乳を省いた感が漂う、美貧乳美女・美少女部隊だ!

 ワルド殿他、グリフォン隊のチッパイーズのデレデレ振りは凄いな。平民とは言え、彼らには等しく乳を愛する様に教えたからかな。

 

 普通ならエリート貴族と平民部隊。連携など期待は出来ないのだが、彼らは上手くやれそうだ!

 

 何となくカップルっぽいのも、見受けられるし……交わす目線とか、微妙な距離感とか、本当にもうご馳走様状態だね。

 さて、ワルド殿に挨拶をして自室に戻ろうかな。アンリエッタ姫も他国の貴族と仲良くしたら、折角の取り込み工作が失敗してしまうだろうし。

 

 しかし……

 

 アニエス隊長の視線は、最後迄キツいままだった。まぁシェフィールドさんやカリーヌ様のプレッシャーに比べたら……全然温いけど。

 さて自室に帰ろう!何か有るなら接触してくるだろう……ワルド殿は、言われなくても遊びに来るだろうけどね。

 ミス・タバサの母親、オルレアン公夫人の治療法も見つかったからな。

 

 その辺をワルド殿のお陰にすれば、仲直りも出来るんじゃないかな……ワルド殿も、妻を娶れば落ち着くと思うんだ。

 絶対尻に敷かれるタイプだから……

 

 

 

第59話

 

 

 厄災とは、まとめてやって来るモノなのだろうか?アンリエッタ姫の表敬訪問会場を辞して、自室に向かう。

 殆どの人達は、アンリエッタ姫の居るアルヴィーズの食堂に集まっている為に、それ以外の場所は静かだ。

 勝手に居なくなって不敬だったかな?まぁアレだけの人々に囲まれていては、そうそう分かるまい。

 

 僕は、自室……「ツアイツ君の執務室」と書かれた扉を開けた。

 

 毎回看板の変わるコレは、誰が用意しているのか?そして、ソフィアと談笑するワルド殿を発見した。

 巨乳のソフィアさんと、和やかに話すワルド殿に違和感をバリバリに感じたが……

 元々有能なのだし、いらん自信もついて女性にも慣れてきたのかな。

 

「こんにちは!ツアイツ殿」

 

「お疲れ様です。ワルド隊長、まさか本体ですか?」

 

「ええ。本体ですよ。別に遍在が居れば問題ないでしょう?」

 

「……そうですね。貴方がそれなら構いません」

 

「ソフィア、僕にもお茶を淹れてくれる?」

 

 紅茶を飲んで、一息いれて、情報の交換をする。僕が聞きたいのは主に、銃士隊の事だ。アニエス隊長の視線が気になるんだよね。

 

「最近設立された銃士隊についてなんですが、どうですか?」

 

「彼女達は、チッパイで編成された女性達ですね。素晴らしいですな」

 

「……個人的趣味ではなく能力的な、又は立場的な事です」

 

「はっはっは。アンリエッタ姫の肝入り部隊ですね。

しかし我らグリフォン隊以外の連中とは上手く行ってはいないです。所詮、平民と言う思いが強い。

ウチはツアイツ殿の影響で、素晴らしき乳に対して敬意を持ってますから」

 

「確かに王族直属部隊が勝手に増えては、面白くも無いでしょうね」

 

「そして、銃と剣では魔法に対抗出来ないだろうと言うのが、大半の評価です。しかし女性ならではの護衛場所もあり、それなりに王宮内では認められています」

 

「成る程……寝室や浴室など、男性では躊躇する場所も有りますね」

 

「あとは平民出が殆どとは言え、美女・美少女で構成されてますから、男としては嬉しいでしょう」

 

「グリフォン隊の隊員の中にも、仲が非常に宜しいのも居ますか?」

 

「我らも何故か、アンリエッタ姫からの指名が多いですからね。今日のような共同作戦も多いですから。

但し、恋愛迄にはいってませんよ。規律は有りますから」

 

「それでも共同戦線が張れて、日常会話が出来る位に仲が良いのですね」

 

 なんだろう?原作よりも良い関係を築いているな。良い事だけど。

 

「それと……アニエス隊長が、僕を見る目に敵意を感じるのは何故だか分かりますか?」

 

「……申し訳有りませんが、銃士隊はツアイツ殿を敵と見なしています」

 

「…………なんでですかー?」

 

「彼女等は、皆チッパイですよ。巨乳信奉派の尊敬を一身に集める巨乳教祖の貴方に好意を持て、と?」

 

「悲しいけど、現実的に納得です」

 

 そうだよなー。普通に胸の豊かで無い人達には、僕は敵で変態か……。

 

「でもアニエス隊長の目線は、特に痛いのですが……」

 

「我らは、バストスカウターを持ってます。すなわちアンリエッタ姫のスリーサイズは把握してます。

アニエス隊長は護衛として浴室内まで、つまり姫のスッポンポンを見てる訳でして……」

 

「バストスカウター……ワルド殿も標準装備なのですね?」

 

「当然でしょう。まだハルケギニア全土でも数人のレアなスキルですが、サムエル殿も持ってますし」

 

「僕らって、ハルケギニアの常識から外れてるのかな?」

 

「…………」

 

「…………」

 

「そうですね。選ばれた紳士達ですから……我が隊の何人かは、目覚めつつある者もいます」

 

 お前ら、そんな所までエリートなのかい!

 

「それで、アニエス隊長の敵対心とは?」

 

「アニエス隊長は、自分を引上げてくれたアンリエッタ姫が巨乳になりたくて、貴方に接触してる事が気に入らないのが一つ。

それと、どうにもアノ女は……我らと近くて異なる趣味の持ち主です」

 

「近くて異なる趣味?」

 

「おにゃの子大好きな感じがします。つまり同性愛好者ですね」

 

「えっと……恩人のアンリエッタ姫が大好きで、巨乳に成るのは反対だし、なってウェールズ皇太子と結ばれるのも嫌だし、原因の僕はもっと嫌いだ?」

 

「大筋そんな感じですね。私も最初に詰問されましたが、心に決めたチッパイ女性がいると言ったら、大人しくなりました」

 

「……有難う御座います。どう考えても関係修復は無理だ!」

 

 ワルド殿は、紅茶を口に含み、一息入れてから急に真面目な顔をして

 

「それと、どうしてもツアイツ殿に確認したい事が有るのですが……」と、言ってきた。

 

 ミス・タバサの事だな、と思いきや「このワルまに出てくるキティのモデルとは、誰なのですか?気になって夜も眠れません」そっちかー!

 

「ワルド殿はミス・タバサを諦める?で宜しいですか?」

 

「違います。しかしこの女性が実在するなら、どうしても会ってみたいのです」

 

 んー性格と名前は、ネギま!から借用したけど、ロリっ子吸血鬼なのは……外伝のエルザだ!

 

 今なら、ガリア南東のサビエラ村の村長宅に潜り込んだ時期かな?

 

「ワルド殿は、亜人をどう思いますか?オーク鬼とかでなく、エルフや翼人それに吸血鬼など、人の姿に近く自己を持ってる相手を」

 

「それが、関係すると?」

 

「そうです。その回答によっては教えられません」

 

 ワルド殿は、フッと渋い笑みを浮かべる。

 

「ツアイツ殿。僕は復讐に凝り固まった頭をあなた方親子に、解してもらいました。

今では貴族、平民などの身分にも囚われない大いなる思想の(イエス・ロリータ・ゴータッチ!)元に歩んでいます。

意思の疎通が出来るなら、種族など小さな問題でしょう」

 

 このワルド、無駄に格好良い!

 

 一瞬そこに痺れそうになったし、憧れそうになりかけた……けど。

しかし直訳すれば、美しいロリっ子なら何でも喰える男なんだよ僕は!と、宣言しやがったんだよ。

 話を聞いていたソフィアが、尊敬の眼差しで見詰めている。それは、間違った評価だぞ!

 

「分かりました、教えましょう。ソフィアは席を外してくれ。内容が危険だ」

 

 ソフィアを下らせ念の為、デティクトマジックとサイレントとロックを掛ける。そこまでの内容なのかと、ワルド殿も真剣な表情だ。

 

「良いですか。彼女はエルザ。エターナルロリータである、5歳の外見を持つ美しい吸血鬼です」

 

「なんと!永遠のロリっ子が実在するのですか?」

 

 僕は黙って頷く……

 

「して、会えるのですか?居場所は?」

 

 興奮し矢継ぎ早に質問をしてくる。

 

「それを聞く前に、ワルド殿はどうしたいのですか?吸血鬼ですから成長はしないけど、実年齢は年上かも知れませんよ」

 

「合法ロリっ子ですね。素晴らしい……そして永遠のチッパイ少女!」

 

 駄目だコイツ、早く何とかしないと。

 

「つまりは、ハルケギニア的には敵対種族なのですよ?」

 

「愛に種族は関係ないのです。巨乳派のツアイツ殿には慎重に対処する問題でしょうが、我らチッパイ派には微々たる問題です」

 

 駄目だコイツ、自分の影響力を考えろよ。既に会いに行くのが決定な顔だが、現状はガリアに不法入国とか刺激したくない。

 

「ツアイツ殿、是非そのエターナルロリータに会わせて下さい」

 

 内容はアレだが、真剣な眼差しで語り合う2人。

 

 窓の外ではミス・タバサがガリアから帰ってきて、イザベラの件を相談しようとフライで浮いていた。

 会話はサイレントの影響で全く聞こえないが、真剣な表情で話し合う男達を見て、きっとこれからの事を話し合っているのだと思ってしまった。

 

 邪魔してはイケナイ。

 

 タバサは時間を潰してから再度、訪れようと思い自室に向かった。実際は、エターナルロリータに早く会わせろ、口説きたい!

 いや少し待て、今は未だ時期じゃない!と、とても内容を教えられない攻防戦を繰り広げているのだが、表情だけ見れば真剣その物だったから……

 

 



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第60話から第62話

第60話

 

 自室に戻り、タバサは思考に耽る。ベッドにうつ伏せに寝っ転がりながら、先ほどのシーンを思い出す。

 二人とも真剣な顔で、話し合っていた。きっと、これからの件なんだろう。

 ジョゼフの試練について、対応の詳細迄は聞いてないが、状況は厳しいのかも知れない。私に、彼らを手伝う事が出来るのだろうか?

 

 仰向けになって、天井を見詰める……

 

 ミスタ・ツアイツのお陰で、イザベラとは仲直り出来た。竜騎士団という、余計な変態連中の助力も得られた。

 しかしお母様については、洗脳本でも効果が出ない。やはり一度薬で壊された心は、治らないのだろうか?

 

「タバサ居るぅ?帰ってるんでしょ?」

 

 ビクッとしたが、ルイズの声と分かり、鍵を開けようと扉に近づいたが「アンロック!」と、キュルケの声が聞こえて扉が開き、部屋の中に入ってきた。

 

 キュルケ・ルイズそしてモンモランシー、最近出来た私の友達……何故か、手にお酒やら、お摘み類を持っている。

 

「……何?」

 

「「「何って?パジャマパーティーに決まっているでしょ」」」

 

 それからは、カオスだった。

 彼女達は……様は、ミスタ・ツアイツとの婚姻が決まった事や、モンモランシーの実家の復興に目処がついた事。

 それらを何時もとは違うメンバーに、自慢したかったのだ。

 

 ……正直ウザイ。

 

 キュルケは私を膝の上に乗せて、頭をグリグリしたり、抱き付いて巨大な肉の間に埋めてみたり。

 嫌なのだが嫌でなく、何故かお母様の匂いがした。散々飲み食いして、部屋を汚した後、彼女らは私のベッドを占領して寝てしまった。

 私はキュルケに両腕で腰を抱えられており、どうにも脱出不可能だ。イザベラが来るのは明日の夜だから、今日はこのまま寝てしまおう。

 

 ……何時からだろう?独りで寝始めたのは。

 

 ……何時以来だろう?人肌を身近に感じたのは。

 

 頭の後ろの、二つ山の肉マクラが鬱陶しいと感じながらも、気持ちよい睡魔が襲ってきた。

 

 久しぶりにこの言葉を紡ぐ。「……おやすみなさい」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結局、ワルド殿のド・ゲ・ザに根負けして情報を教える事になった。

 しかし、会いに行くのはジョゼフの試練を乗り越えてからと約束させて……

 近衛の隊長が、一介の学生に土下座なんて見られたら大問題なのに、全然気にしてない素振りだ。

 

 父上の再教育は失敗だったんだろう。

 

 あとの確認事項はアルビオンに潜入しているロングビルさんだが、護衛の遍在は無事だそうだ。

 まだ時間も経ってないのでそれほどの成果はないのだが、無事を確認できて良かった。

 サイレントを解いて、ソフィアにお茶のお代わりを頼んで一息付く。最近は、紅茶ばかりだ。

 

 昔は炭酸系が好きだったのだが、この世界に来てからはワインか紅茶ばかり。しかし、エルザをどうやって引き合わせるかな?

 そろそろ村長に引き取られている時期だけど、一面識もないのに吸血鬼だよね?とか話すのは……無理だ。

 

 保護を全面に出す?この辺は要検討だね。

 

 ワルド殿はご機嫌で帰っていった。気付けば、そろそろ就寝時間だ。

 今夜は、シェフィールドさんの転移襲撃も無かったしゆっくり寝よう。

 

 色々有ったが、静に夜が更けていく……

 

 

 

 アンリエッタ姫滞在用の貴賓室にて

 

 

 

 其処にはナイトガウンに着替えたアンリエッタ姫と、相変わらずの軽装鎧をきっちりと着込み帯剣しているアニエス隊長が直立している。

 

「アニエス隊長、私はそろそろ寝ますので、貴女もお休みなさい」

 

「はっ!有難う御座います。しかし魔法学院とは言え、注意が必要です。特に此処には、ゲルマニアの悪の教祖がいますから」

 

「ミスタ・ツアイツは、私に危害を加えません。落ち着きなさい」

 

「しかし……想像を超えた変態です。安心も油断も出来ません」

 

「ふう。兎に角、明後日までは滞在するのです。初日に気張っては最後まで持ちませんよ」

 

「大丈夫です」

 

「ワルド隊長以下、グリフォン隊も護衛に当ってます、何か有った時の為に今はお休みなさい」

 

「……はい」

 

 全く融通が利かないのですが、真面目で忠誠心も有りますから良い隊長なのですけど。

 こうもツアイツ殿に敵愾心を剥き出しにするのは、何故なのかしら?彼は私の協力者なのに……

 

 まぁ良いわ。

 

 今日はミスタ・グラモンやミスタ・ロレーヌなどの男子生徒ばかりの有力貴族の子弟等とお話が出来ました。

 明日はルイズやミス・モンモランシーなどの女生徒達とお話しましょう。

 ミスタ・ツアイツともお話したいのですが、無理に接触してトリステイン貴族達から不満を持たれても仕方が無いわね。

 

 さて、寝る前に日課をこなしましょう。

 

 入念にディテクトマジックとロックを掛ける。ルイズに習った豊胸体操を始める……

 一国の王女が、両手を振り回したり胸を持ち上げたり……30分ほど実施して終らせ、サイドテープルに置いてあるミルクを飲んで一息つく。

 この体操のお陰か、まだ数週間ですけど、バストサイズが0.5cm程大きくなりました。そしてウェストが引き締まった気がします。

 これだけの効果を発揮する画期的な体操なのに何故、出し惜しみするのかしら?

 

 いえ……効果が有るからこそ、例えトリステインと戦争になっても守ったのね。

 

 成る程、確かにアカデミーで研究させたら多くの貴族婦人から問い合わせが殺到するし、お金に糸目をつけない方も居るわね。

 これを無断で研究と言うのは、確かに不味かったわ。

 ルイズは他にも食事療法も教えてくれたけど、こちらの実践は無理でした。王宮料理人にもメニューの問題や、プライドが有るのでしょう。

 

 但し、欠かさず乳製品は飲んでいます。

 

 これで巨乳化の見通しは立った!あとは努力次第だが、必ず数ヶ月で一端の巨乳になってみせるわ!

 

 でも、これで安心しては駄目ね。ウェールズ様を射止める為には、更なる一手が欲しいのだけれども……

 こればかりは、直ぐには思い浮かばないわね。ルイズに相談してみようかしら?

 既に大人になってしまった彼女なら、良い知恵を考えてくれるかもしれないわ。

 それに恋愛については、やはり年頃の女性達に意見を聞きたいし。

 恋バナとは、どんなに身分に違いが有れど、基本は一緒ですから。

 

 明日は楽しくなりそうね。さて、お肌に悪いからそろそろ寝ましょう。

 

 

 

第62話

 

 オリヴァークロムウェル暗躍中!

 

 アルビオン北部のブリミル教会の一室で、クロムウェルは一人ニヤけていた。

 周りには金貨の詰まった皮袋が幾つも置いてある、シェフィールドが宛がったものだ。

 

 30万エキュー!

 

 強欲なブリミル教の司教で有る彼でさえ、見たことも無い大金だ。

 平民出身の彼は魔法が使えないが、魔法絶対主義のハルケギニアにおいても、ブリミル教の権威は絶大だ。

 弱小貴族などは問題も無く、ある程度の力有る貴族でも異端をチラつかせれば黙り込む。

 

 まさに、ブリミル様々だ。

 

 欲しい物が有れば、それと無く言えば寄進してくれる。しかし大半の善意の金は、私が上に登る為に消えていく……

 上には上の悪党が居るのが、ブリミル教で有りロマリアなのだ。

 自分自身、司教まで登り詰めたがそれ以上となると、更に莫大な金を使わなければならないだろう。

 そんな、向上心が衰えた時に、あの女が自分の前に現われた。

 

 隠してはいたが、無類の女好きの自分は戒律では宜しくない淫行を秘密裏に楽しんでいた。

 

 ブリミル信者の女性を強引に口説いていたのがバレたのだろう。

 シェフィールドと言う女は、お金は幾らでも用意するのからと、アルビオン転覆の話を持ちかけてきた。ブリミル教の権威と、潤沢な資金。

 それと、美乳派という最近流行の貧乳や巨乳に対抗すべく教義も考えた!

 

 諦めるな、全ての乳は美しくなる可能性がある!大きさに囚われない美しさを磨こう!

 

 などと、根拠も無いけど、語呂が良い事を優先して。

 現アルビオンのジェームズ王は、自他共に認める巨乳派で有り、その他の乳を認めない!

 そのような、不条理な王家など打倒して、自由な乳を楽しめる世界を作ろう。

 スローガンは、それなりに掲げるが、実際は金と利権、アルビオン征服後の、役職の空手形で釣った貴族達だ。彼らには、存分に働いてもらう。

 私が、神聖アルビオン王国の盟主となる為に、美乳派教祖となり貧から巨の美しい娘達を侍らすのだ!

 アルビオン全土の美女・美少女は全て私の物だ。

 

 あーっはっはっはー!

 

 笑いが止まらぬとは、この事よ。既に北部の伯爵に狙いを定めている。

 彼は、中央に疎まれて僻地の飛ばされた、言わば無能と出世レースに敗れた負け犬だ。

 

 甘い言葉と、金……あとは、美人信者を宛がう。

 

 そして宮廷貴族に返り咲く事を約束すれば、ホイホイと付いてくるだろう。

 コイツの取り込みに成功すれば、これからの取り込みにも見通しがたち、楽になるだろう。

 アルビオンを征服したら、次はトリステインだ!

 

 彼の心の中で、黒い妄想が広がっていく……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 おはようございます。ツアイツです。

 

 今朝のアルヴィーズの食堂も、盛り上がっています。

 何と言ってもトリステインの華である、アンリエッタ姫と食事を共にしている訳ですし、昨日の会合で話す事の出来た者。

 

 今日こそは!と、決意を燃やす者など、色々な連中の思惑が渦巻いています。

 

 そして、今日は珍しくミス・タバサが僕たちのテーブルについています。

 マリコルヌと競うように、朝食をほお張る姿は小動物の様に可愛らしいのですが、何故か僕の料理にも手を出してきます。

 僕のオムレツに二人でフォークを突きつけ様とし、お互い火花を散らしています。

 マリコルヌも男なんだから、ミス・タバサに譲ってあげれば好感度が上がるのに……

 

「二人して僕の食事を宛てにしないてくれ!」

 

 そう言いつつも、二人の皿に料理を分けてよそってあげる。

 見かねたメイドさんがマルトーさんに連絡したのか、新しいオムレツとベーコンが追加されました。

 メイドさんが、「お父さんみたいですよ」と笑いながら新しいお皿を置いてくれた。

 こんな大食いが、子供達だったら我が家のエンゲル係数はどうなるんだ?

 

 因みにワルド殿は、ハムハムタバサ殿の愛らしい姿に釘付けになってますが、マリコルヌに対しては、敵愾心は無さそう。

 アレの本質を見抜き、Sじゃなければ安心と理解しているのか?

 食事が終わり、アンリエッタ姫も退出したせいか、食堂に残っている人数は少なくなってきた……

 散々、食べ散らかした後で、この子は爆弾を投下してくれました。

 

「ミスタ・ツアイツ。今晩、国境近くの森でイザベラが会いたがっている」

 

「……はぁ?何故?」

 

 一国の王女が、夜中に他国の貴族と会いたいなんて……彼女もアンリエッタ級の困ったチャンなの?

 

「……文句と、真意が知りたいって」

 

「えーと、それって拒否権は?」

 

「……お願い」

 

 気が付けなかったのだが、お願いするミス・タバサの後ろにお願いと言う脅迫の篭った目をした、ワルド殿が立っていた。何時の間に?

 

「ツアイツ殿、良いではないですか。私とシェフィールドが護衛に付きますから、お願いします」

 

「……分かりました。同行しましょう」

 

 了解すると、ミス・タバサは安心した様に、小さく息を吐くと

 

「……では、今晩部屋に迎えに行く」と、言って離れて行った。

 

 ルイズ達は、アンリエッタ姫の会合に呼ばれていた為に、聞かれなかった。

 モテナイーズ連中も、アンリエッタ姫の取り巻きの様に行動を共にしていたので問題ないだろう。

 

 しかし、文句とは……

 

 アニエス隊長に続き、イザベラ王女にまで嫌われているのかな?

 心当たりが有り過ぎて正直凹んだが、自業自得な当たり前なので諦めた。なるようになるさ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アンリエッタ姫、恋バナが炸裂す!

 

 こちらは、場所をテラス席に移し、食後のお茶とお話を楽しむべく女生徒を集めたお茶会が始まっていた。

 ルイズにモンモランシーや、名の知れぬモブな女生徒達がアンリエッタと恋について語り合っている。

 

「私は、例え話ですが……良いですか!例え話ですよ。天空に住まう、高貴なお方に恋をしている地上の姫が居ます。

しかし、そのお方には……大きい(オッパイが良い)望みが有りました。

その彼の望んだ事(巨乳化)を実践し、漸く成果も出てきた地上の姫は、それだけでは駄目だと気付いたのです。

更なる高みへの一手が欲しいのです。皆さんなら、その場合どうしますか?」

 

 アンリエッタは真剣な表情で、周りの女生徒に問いかけた。

 

「ルイズ、ヤバくね?これってウェールズ皇太子とアンリエッタ姫の事だよね?」

 

 モンモランシーがルイズに、周りに聞こえないように小さな声で話し掛けた。

 

「てか、巨乳化に成功しつつあるから、ダメ押しが欲しいって事ね」

 

 ルイズもコソコソと答える。

 

「「国家的な婚姻を恋バナで暴露しやがったよ、この女!」」

 

 このバレバレな恋バナで、アンリエッタ姫がウェールズ皇太子狙いと言う事が、トリステイン全土に広がるのは時間の問題だ!

 そして、アンリエッタ姫は着々と既成事実と外堀を埋める作戦を進行していった。

 

 

第62話

 

 

 アンリエッタ姫のお茶会!

 

 参加した貴族の女生徒達はアンリエッタ姫が、ウェールズ皇太子狙いだと理解した。

 現状、トリステインはトップが空位だ。マリアンヌ様は、喪に服すと政治は放り投げっぱなしだ。

 なので、嫌われ者のマザリーニ枢機卿が取り仕切っている!それがトリステイン貴族の共通認識……

 

 哀れ、マザリーニ枢機卿。

 

 そして、現状一番王女に近いのはアンリエッタ姫。

 その国のトップに一番近い彼女が、アルビオン王国と婚姻を望んでいる。

 

 例えとは言え、バレバレな話をしてだ!

 

 これは、実家に報告しなければ……この情報は、アンリエッタ姫に取り入るには最高のネタだ!

 実家を有利にする情報を掴んだ為、女生徒達はソワソワしだした。

 

「それで、先程の質問に対して皆様はどう考えますか?」

 

 これはナイスアイデアを答えれば、アンリエッタ姫の心証が良くなる。皆、真剣に考える。

 しかし……悲しいかな、貞淑を重んじるトリステイン貴族の子女達に、殿方を篭絡する手立ては考えつかない。

 しかし、何かを言わなければ……勇気の有る1人のモブ女生徒が、おずおずと発言する。

 

「何か、その殿方に贈り物をしてみては?」

 

「贈り物ですか?具体的にはどの様な物を?」

 

 女生徒は黙り込んでしまった。アルビオンの皇太子が喜ぶ贈り物など、想像もつかない……

 

「てっ手紙で気持ちを伝えてみては?」

 

「手紙ですか?」

 

「そうです!愛を込めた手紙を書いては?」

 

 それは……愛を……誓う?私が……私達が……誰に……誰が良い?始祖ブリミル様なら?いける!

 

 対外的に、その様な手紙が有ると広まれば……王家故に、始祖ブリミルは絶対だ。

 一方的だろうと、呑まねばららぬ状況に、追い込めるのではないでしょうか?後は、その手紙が何処に流れるかですね。

 

 ロマリア?ブリミル教の高位聖者?はたまた他国の王家。

 

「くっくっくっくっく……良いアイデアですね。貴女のお名前は?」

 

 苦し紛れなアイデアだったが、アンリエッタ姫はいたく気に入ったみたいだ。

 黒化したアンリエッタ姫に怯えながらも、女生徒は慌てて名乗った!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「アンリエッタ姫……絶対、良くない事を考えているわよ」

 

「でもルイズ。手紙だけでしょ?どうにもならないんじゃないの?」

 

 2人は考え込んだ。只の手紙で、どうやってウェールズ皇太子の心を射止めるのか?

 そんな文面が有るなら、こっちがダメ押しに欲しいくらいだ!

 

 2人が考え込んでいる間も、アンリエッタ姫と他の女生徒との話は進んでいる。そしてお茶会も一段落し、意見も出尽くした頃に

 

「少し疲れましたので、一旦休憩にしましょう」と、アンリエッタの一声で一旦お開きとなり、休憩に入る。

 

 アンリエッタ姫は、あてがわれた部屋へ。他の女生徒達は、それぞれの実家に連絡する為に別れていった。

 

 

 部屋に入り「考え事が有るから!暫く1人にさせて下さい」と、人払いする。

 

 アンリエッタは、先程考えついた謀略を考え直す。

 

 先ずはウェールズ皇太子に、信用の出来る人物が手紙(恋文)を届ける!

 そしてアンリエッタ姫の内緒のプランとは……用心の為にと、幾つかのルートで手紙を届けさせる事。

 しかし、本命以外は全て他へと流れてしまう。

 

 ゲルマニア皇帝の手に渡れば、かの国との婚姻外交などブチ折れる!

 ロマリアの聖職者関連なら、欲望深い糞坊主が礼金欲しさに結婚式を仕切りに乗り出す!

 

 アルビオン王国のジェームズ現王なら……息子のロマンスを応援する筈だ!

 又は醜聞にならない様に、まとめに入るだろう。

 

 トリステイン国内に流れたら……別に困らないわね。私が、ウェールズ皇太子狙いだと知られるだけ。

 

 内容の方も考えましょう。そうです!

 ラグドリアン湖の遊園会で、私が水浴びをしているのをウェールズ様が目撃して……そしてウェールズ様が、男のケジメとして責任を取ると言ってくれた。

 私は、その男らしさに打たれ始祖に2人で永遠の愛を誓う……と、センセーショナルな内容にしましょう。

 実際は水浴びを盗み見した上に、もう少し乳が大きければ……などと、暴言を吐いたのだが、恋する乙女の寛容さで許して差し上げますわ。

 

 嗚呼、ウェールズ様!

 

 貴方の望み通りの胸を手に入れます。なので、貴方を頂きます!

 そこから暫くは妄想タイムとなり、姫はベッドで1人クネクネと悶えていた。

 漸く、ウェールズ皇太子成分を補給する為の妄想を完了した。

 

 さてと、それで……アルビオンへの使者達は、誰にしましょうか?

 

 そうだ!

 

 私のお友達のルイズに、本命を託しましょう。

 こちらの方が大切なのですが、他に流れてしまう手紙は銃士隊のみんなね!

 

 くっくっくっくっく……

 

 ツアイツ殿に教えて貰った、覚悟と決意!素晴らしいわ!彼にも、手紙が流れてしまう様に手配しましょう。

 ヴァリエール公爵や、ツェルプストー辺境伯辺りに、情報が流れたら楽しいわね。

 

 ウェールズ様……

 

 後3ヶ月以内には、巨乳化してみせます!ですから、作戦実行は3ヶ月後ですわ。

 

 アンリエッタ姫は黒姫と化した!

 

 しかも今回は慎重に事を運ぶ為に、自分の考えたプランを他の誰かに検討して貰うつもりだ。

 自分の考えだけでは、穴が有るかもしれない。けど、謀略を共に考えられる相手など……誰か居ないだろうか?

 

 ルイズは、お馬鹿そうだから無理。

 

 ワルド隊長は厳しい人だし、国に忠誠が篤いから逆に止められてしまうわ。

 

 有象無象の宮廷貴族は論外。

 

 マザリーニ枢機卿……も、無理ね。

 

 残りはアニエス隊長か……そうね!銃士隊には手紙を横流しさせる役目が有るから、全てを話して協力をしてもらいましょう。

 

「誰か!アニエス隊長を呼んで下さい」

 

 悪巧みは、佳境に入る……暫くして、アニエス隊長が部屋にやって来た。

 

「アニエス隊長。貴女にしか相談出来ない事が有るのです」

 

 ソファーを勧め、向かい合って座ったら直ぐに話を切り出す……

 

「私は、アンリエッタ姫直属の部下です。何なりと申し付け下さい」

 

 真剣な表情で、アニエス隊長は答えてくれた。掴みはオーケーね!

 

「嗚呼……この愚かな女を見捨てないで下さいね」

 

 俯き加減で、小声で話す。

 

「見捨てるなどと!その様な事はありません。私の全てを賭けてアンリエッタ姫にお仕えしますので……」

 

 くっくっくっ……これなら信用しても大丈夫ね。アニエス隊長の両手を握って、上目使いで見上げる……

 

「アニエス隊長……貴女にしか、頼れる相手はいないの。実は……」

 

 考え付いた作戦を話す。そして、何処か不備が有るかもしれないと、問題点を考えてもらった……

 アニエス隊長は終始難しい顔をしていたが、私が彼女の膝の上に泣き崩れる様に倒れ込んだら……

 

 一瞬ビクッとしたけど、背中を撫でてくれて「分かりました。微力ですが全面協力をします!」 と、言ってくれた。

 

 作戦の内容については、まだ時間も有るので良く考えます。と、持ち帰りとなってしまったが。

 

 何故か真っ赤になっているアニエス隊長ですが、こんな秘密の謀略話を持ち掛けられたので動揺してるのでしょう。

 

 これで、協力者も確保したわ!この願い、必ず成功させてみせるわ!

 

 完全にアンリエッタは色ボケしていた。しかし、内容はアレだが決意を新たにキリリとした表情だ!

 そんな彼女をヨダレが出そうな顔でアニエスは眺めていた。

 

 姫さま、柔らかくて良い匂いだったなー、と。



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第63話から第65話

第63話

 

 アニエス隊長の憂鬱

 

 アンリエッタ姫の部屋の前で、立哨しながら考える……

 先程、アンリエッタ様のお部屋に呼ばれたが、あの様な謀略話を聞かせられるとは!

 

 結局、色仕掛け?で、協力する約束をしてしまった。

 

 しかし……良く考えれば、あれ程嫌なウェールズ皇太子との婚姻の手伝いだ。

 あの時、姫様の柔らかさと良い匂いに惑わされなければ……あの様な謀略など、お止めしたのだが。

 でも、断れば秘密を打ち明けてくれたアンリエッタ姫の信頼を裏切る事に……難しい。

 どちらにしても、協力する事は確定なのだ。

 

 しかしだな……この作戦は失敗しても、罪には問われまい。失敗とは、重要書類を正確に正しい相手に届けるのだから。

 全てウェールズ皇太子に届ければ良いだけだ!

 私は平民なので、本当に手紙がバラまかれて内容が広まると、ウェールズ皇太子と結婚出来る!と言う作戦が、成功するとは思えないのだが……

 

 貴族のプライドや面子を考えると可能なのか?んー悩む……この様な謀(はかりごと)は苦手分野なのだ。

 好きなら、押し倒せば確実だろうに。

 現に私は、好みのおにゃの子を言葉巧みに部屋に連れ込み、酔わせて押し倒すのだが……成功率は高いぞ。

 

 勿論、私が攻めだ!

 

 しかし、あのお優しいアンリエッタ姫には無理な作戦かな。姫の期待に応えるのならば、作戦の修正案を出せば良いのだが……

 そんな謀略に長けた人物など、知り合いに居ない。

 元々私は、ダングルテールの虐殺を画策した相手を探す為に、王宮に近づく為に、銃士隊に志願したのだ。

 しかし、そちらの調査は捗らない。やはり、謀略の得意な腹黒い協力者を探した方が良いのだろうか?

 

 思い当たる相手は居る。

 

 あの忌々しい、ゲルマニアのおっぱい教祖だ!

 奴の腹黒さは格別だろうし、姫様の考えなど足元にも及ばぬ悪知恵を働かせる筈だ!

 しかし、助力を乞おうなどお断りだ!隊の連中も基本的に肉体派ばかりだな。

 

 くっ……奴に助力して貰うしかないのか。あんな変態に頭を下げるなど、お断りなのだが……

 

「隊長?アニエス隊長?交代のお時間ですが……」

 

 呼ばれて、思考の海から脱出する!

 

「あっ……嗚呼、すまないな。交代だな。宜しく頼む」

 

 いかんいかん!任務に集中しなければ……変態の件は保留にしよう。元々の脳筋アニエスは、問題事を先送りにした!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イザベラ王女と会う為に、自室でミス・タバサを待つ。

 既に本体ワルド殿と、少し不機嫌なシェフィールドさんが待機中。紅茶を飲みながら雑談をしている。

 シェフィールドさんはワルド殿から聞いたアニエス隊長について、良く思ってないみたいだ。

 

 さらりと「失礼な女ね。では、処理しておきましょうか?」とか、怖い事を笑顔で言われてしまった……

 

 此方からは、手を出さない様に厳重に注意しておく。普通にヤバい処理をしそうなので……

 実際の所、手を出されても、この強力な守護神を擁する僕にどうこう出来ないだろうけど……

 しかし、シェフィールドさん無双で、周りに物理的な被害が出るから大変だ。

 

 最近、彼女の過保護振りも更に酷くなる一方だし。

 

 ただヤンデレ化については、ヴァリエール公爵家の訪問以来、大人しくなっている。一度倒れたからかな?

 彼女を眺めならが考えていると目が合った、慈母の微笑みを浮かべてくれる。

 

 ヤンデレがなければ、理想の姉なんだが……

 

「遅いですわね人形……何をノロノロしているのかしら?」

 

 優先度の低い相手には、ナチュラルに毒を吐くけど。

 

 ムッとしたワルド殿が「タバサ殿も大変なのだよ」と、弁護しているが、この位の遣り取りならヤンデレ化はしなくなった。

 

 笑って済ませられるレベルだ!これは、彼らのコミュニケーションみたいな物だし。

 そして何時も通りに、窓からミス・タバサが現れた!

 

 シェフィールドさんとワルド殿を見てビックリしていたが、僕が「2人は護衛で同行してもらうから」と、言うと少し考えたが了解してくれた。

 

「……時間が無い。急ぐ」

 

 そう言って、フライで外に飛び出して「待ちなさい」ムンズと、シェフィールドさんがミス・タバサの首を掴むと、猫の様にぶら下がっている彼女に

 

「今は、アンリエッタ姫の護衛が沢山居るのよ。見付かると面倒だわ。私が外まで転移させるから」と、言って例のマジックアイテムを取り出した。

 

 流石だ!確かに夜遅く、こんなメンバーで外に飛んでいったら、大問題だよね。

 

「流石です!シェフィールドさん」

 

 素直に誉めて、しまいました。彼女は後ろから僕を抱きしめると、残りの2人にローブの端を持たせ転移した……

 一瞬の浮遊感の後に、景色が変わり学院の外に転移する。便利だよね。

 

 ミス・タバサは暫く周りを見回して……星の位置か、周りの景色で現在位置を確認出来たのか

 

「……こっち、急ぐ」と、フライで飛んでいった!

 

「ツアイツ殿、追いましょう」

 

 ワルド殿が慌てて、ミス・タバサを追いかける。ワルド殿は、ミス・タバサに話し掛ける切欠を探しているみたいだ。

 まだギクシャクしているのかな?そう言えば、再教育後にまともに彼女と話すのは初めてだっけ……

 母親の治療の件で、何とか仲直りさせよう。

 

「さて、我々も行きましょうか!」

 

 今だに後ろから抱きついてる、シェフィールドさんに声を掛ける。

 

「そうですね」

 

 彼女は、魔法が使えない……しかし、懐から馬の彫刻を取り出し、何か呪文を言いながら放り投げた!

 すると、ムクムクと大きくなり、全金属製の立派な馬が出来上がった!

 

「かっ格好良いですね」

 

 素直に驚き、誉めた!まるで、ドラゴンボールのホイポイカプセルだよ。便利だよね。

 ガリアのマジックアイテムってオーバーテクノロジーじゃない?

 

「さぁ乗って下さい。ツアイツ様!」

 

 彼女は僕を前に乗せると、颯爽と馬ゴーレム?を走らせる……制御は彼女任せとは言え、少し恥ずかしい。

 暫く走ると、前方に開けた場所が見えてきた!

 どうやらアレが、イザベラ王女との会見場所みたいだな……

 

 さて、気を引き締めて行きますか!

 

 

第64話

 

 ガリア王国、国境周辺の森の中……

 

 周囲には夜間飛行だが、警戒の風竜が旋回し、地上でもガリアの精鋭騎士団が周囲を巡回している。全員がトライアングル以上の使い手達だ!

 一際大きな風竜……ブリュンヒルデを従えた、竜騎士団長は警戒態勢に不備が無いか確認している。

 隠密行動では有るが、ここにはガリアの王位継承第一位のイザベラ王女が……凄く不機嫌な、そして不安げな顔で隣に急造させた椅子に座っている。

 

 まだ、我らがソウルブラザーは来ない。

 

 待ち合わせの時間迄は残り僅かだ……この美貌の王女を見ながら考える。

 周りからは、無能王の娘と陰口を叩かれ自身の魔法についての能力も低い。

 あのジョゼフ王は、好き勝手しているが国政は順調に動いている。

 

 しかし……細かいしわ寄せは、全て彼女に覆い被さってくる。この皮肉屋で口の悪い、美しい少女。

 しかし、ガリアと言う国の中では一番国を思っているのも彼女だ。

 

 私は過去に、シャルル派として東花壇騎士団に所属していた。既に、風のスクエアだった私にシャルル様は近づいてきた。

 最初は自分が王位を継ぎたい為の、取り込みだと思った……

 当時は、魔法の苦手なジョゼフ殿よりも、稀代の天才と言われたシャルル殿の方がガリアにとって有益かと思っていたのも事実だ。

 しかし、毎夜繰り広げられる悪夢の宴の秘密を知ってしまった。

 

 私は当時、たまに王宮で見掛ける美しい女性に心奪われていた。

 何処となく、シャルル殿の面影を感じさせる美しさは、彼の親戚筋の貴族令嬢だと思い、身分違いの片思いに身を焦がしていたのだ。

 

 それが……この男の純情が……あの腐れ変態野郎の女装だったとは!

 

 私は、シャルル派閥から抜け出す為に東花壇騎士団を辞した。

 暫くして、ジョゼフ王が即位し腐れ変態野郎を抹殺し、彼の変態仲間達が粛正されたと聞いた。

 

 思わず、拍手喝采したものだ。

 

 しかし、抜け出したとは言え一時はシャルル派に身を置いた私だ。

 追跡の手は、免れられなかった……ジョゼフ王の前に引き出され、彼に問われた!

 

「貴様もあ奴と同類か?と……」

 

 思わず、相手はガリア王なのだが「ふざけるな!あんな変態野郎と、同列視するんじゃねぇ」と言ってしまったが、スッキリとしたのも事実だ!

 どうせ粛正されるにしても、変態野郎の仲間としてでなく、王に反逆した男として散るつもりだ!

 

 しかし……ジョゼフ王は、大笑いをして私を許し風のスクエアならこれ位は御してみよ!と、竜騎士団長を任命した。

 

 その時理解した。嗚呼……彼もアレの被害に遭ったのだな、と。

 

 一介の下級貴族だった私が、エリート集団で有る竜騎士団のトップになるなど、大変だった。

 しかし何とか団員に認めて貰い、仕事も軌道に乗ってきた。

 人間とは不思議な物で、忙しい時は忘れていたが余裕が出来ると、色々考えてえしまう。

 初恋が、あの様な悲惨な体験で終わってしまった為に、自分にはマトモな恋愛など出来ないだろう……

 一騎士団を率いる自分の悩みは、こんな下らない物だった。

 

 その時だ!ミスタ・ツアイツの著書に出会ったのは。

 

 彼の紡ぎ出す恋愛の世界は、あの変態野郎の性癖など忘れる位に素晴らしい突き抜け方だった。

 

 これだよ!真の漢とは、これ位の恋愛観が必要なのだ!

 

 そして、彼の著書を貪る様に読んだ。シャルルの女装と正反対の儚いロリッ子趣味に目覚めてしまったのは……まぁ、必然だったのだろう!

 新しく生まれ変わった、この俺の活躍は、これから始まるのだ!ソウルブラザーとの会合は、私に新しい世界は……

 

「……団長?宜しいですか団長?」

 

 部下の呼び掛けに、現実世界に引き戻される……

 

「どうした?」

 

「はい。前方に、フライで移動中の7号殿を確認しました」

 

「他には?」

 

「少し後ろに、同じくフライで近づいてくる男が1人……それと馬ゴーレムに乗り移動する男女が居ます」

 

 ふむ……先導するシャルロット様と後ろに3人か?

 

「よし!分かった」

 

 隣のイザベラ様を見る。

 

「いよいよですな。準備は宜しいですか?」

 

 イザベラ様は私をじっと見詰めて……もう少し幼い感じならドストライクなのだが、私の魅力に気付かれたのだろうか?

 

「アンタ、さっきの妄想顔は気持ち悪かったよ。しっかりしな」

 

「……顔に出てましたか?」

 

 思わず聞いてしまった!

 

「あのニヤケ顔は……どうせエロい事を考えてえいたんだろ?今日こそアンタ等とツアイツを矯正させるからね。ガリアの為に!」

 

 ……イザベラ様もソウルブラザーの素晴らしさを叩き込んだ方が、ガリアの為だろうか?

 

「ダンチョー!警戒範囲内に入りやしたぜー」

 

 私は周りを見渡し号令をかける!

 

「よし!お前ら、失礼の無い様にお迎えするぞー!」

 

「「「ヒャッハー!了解っすー!みんなー整列するぞー」」」

 

「「「ウォー!」」」

 

 団員達の天を衝く覇気は素晴らしい!整然と整列をする、我が騎士団達よ。これぞ我がガリアの精鋭達だ!

 

「ちがーう!お迎えじゃなくて警戒しろーバカー!」

 

 竜騎士団員達は皆、思った……今夜はツンデレ様のツンが絶好調だなぁ……と。

 何だかんだと、団員の半数はイザベラ様派で有り、彼女のツンはご褒美なのだ!

 彼女は、王族故の美貌もカリスマも備えている。

 若干、対象がアレな男達だが……彼女の為なら体を張る事の出来る、本物の漢達を信者として従えていた!

 

 その数は今回作戦参加の50人中、35人がイザベラ様派だ!つまりは、ツンデレ好きですね。

 

 残りはロリッ子、クーデレ、巨乳派の混成軍団だ!一流の変態達です。

 

 そして遂に、この変態と言う紳士達と、現代知識を備えた究極変態が出会ってしまった……

 整然と整列する漢達の前に、先ずはミス・タバサが着陸する。

 彼女を見詰める熱い視線に恐怖を覚えたタバサは、一直線にイザベラに駆け寄り抱き付く!

 最近になり、人肌の暖かさが落ち着く事を覚えたからだ。

 

 周りの騎士団員が「「「ウォー!モエー」」」と盛り上がり、イザベラが真っ赤になって引き剥がそうとする。

 

 既にグダグダなカオス……

 

 そして、ワルドを従え美女と一緒に馬ゴーレムに乗ったツアイツが現れた!

 彼らは有能故に、ワルドの実力及び性癖も理解出来た。そして、流石はソウルブラザー!

 大国の王女に会うのに、この一流の変態を従え、美女に後ろから抱き付かれながら来るとは!

 

 そこに痺れるし、憧れてしまった……やはり、真の漢は一味も二味も違うのだな。

 

 ソウルブラザーは、馬ゴーレムを降りてゆっくりと近づいてくる。こちらは、ダンチョー自らが、進み出る。

 

 視線を交わす2人。

 

 見守る団員達……

 

「初めまして、ソウルブラザー!私は、バッソ・カステルモール!竜騎士団を率いています」

 

 

 

第65話

 

 

「初めまして、ソウルブラザー!私は、バッソ・カステルモール!竜騎士団を率いています」と、握手を求めてきた。

 

 この美丈夫は……原作での東花壇騎士団長でシャルル派であり、サイトに最高の使い手と言われた男だよね?

 

 何だかなー。もう、シャルル派って主要なキャラ居ないの?

 

 出された手を強く握り返す。

 

「此方こそ、宜しくお願いします。我が駄作が、遠くガリア迄浸透している事に驚いています」

 

 カステルモール団長は、驚いた顔をして……しかし、手を強く握り返してきた。

 

「私は、いえ我が軍団は、貴方の著書で人生観を変えて頂きました。言わば恩人!駄作などと、言わないで頂きたい」

 

 真剣だ。真剣だよ、この人!

 

「そうですね……すみません、遠い異国の兄弟達よ。これでまた、創作意欲が沸き上がりました!まだまだ新作を書き上げますよ」

 

「「「ウォー!ソウルブラザー!ガリアへようこそー!」」」

 

 暗き森の中で、漢達の雄叫びが響き渡る……ここに、ガリアとゲルマニアと言う国を隔てた漢達の絆が生まれた。

 

「ちがーう!お前ら、勝手に話を進めて、まとめるなー!」

 

 ブン……ガゴン!と言う音と共に、カステルモール団長は頭をおさえてうずくまった。

 倒れる団長に転がるワインの瓶……

 雄叫びを上げていた漢達が一斉に振り返ると、左腕にミス・タバサがしがみついているイザベラ姫が、肩で息をしながら仁王立ちしていた……

 

 はぁはぁと、息を整えてから近づいてくる。

 

 これがイザベラ姫か……なる程、ガリア王家の蒼い髪に美貌の少女。スタイルも中々だな。

 

 C82いや3か……

 

 綺麗な顔を赤く染めて、右手にワインの瓶を左腕にはミス・タバサをしがみ付かせて。

 一瞬、アル中のズーレーかと思ってしまったのは、僕だけの秘密だ!

 

「イザベラ様、何をするのですか?」

 

 流石は団長!直ぐに復活して文句を言うが……イザベラ姫が、右手を持ち上げたのを見て、脇に引き下がった。

 そして、僕の前に歩いて来る……僕は、取り敢えず跪いて挨拶をする。

 

「お初にお目の掛かります。私はゲルマニアのサムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです」

 

「あー、堅苦しい挨拶は要らないよ。面を上げな」

 

 これは……王女の割に、随分と砕けた方だな。

 

「……はい」

 

 僕が顔を上げると、イザベラ姫の顔が直ぐ目の前に有った……思わず、目が合う!

 

「ふーん。結構な色男じゃないか!アンタ、モテるんだろ?色々聞いてるよ、三股進行中とかさ。恵まれているのに、何であんなエロ本描いてるのさ?」

 

 こっこんな事を直球で言われるとは!想定外だ……

 

「……男には、いえ漢には遣らねばならぬ事が有ります。例えそれが、下らないと思われても……それを必要としている漢達が居る限り」

 

 イザベラ姫に盛大にため息をつかれた。

 

「言ってる事は分かりたくないが、分かるよ。アンタの信者を見てるからね。

それが、コイツ等だ……ウチの防空の要がボロボロだよ。どうしてくれるんだい?」

 

 綺麗な顔をニヤニヤさせて聞いてきた!これが、意地悪姫と言われる所以かな?しかし、言われた内容は結構重大だ……

 

「何を言われるかと思えば……貴女の率いてきた彼らを見れば分かります。

皆、有能で忠誠心が篤い男達ではないですか?しかも、一部の者たちの目は……貴女の為なら死をも厭わぬ気概を感じますよ」

 

「ふん。私をツンデレ様とか言う連中の事かい?」

 

「アレは、王家でなく貴女個人に向けられる忠誠ですよ。素晴らしいでは有りませんか?」

 

「個人の忠誠ねぇ?性癖じゃないのかい?まぁ良いけどさ。個人の忠誠と言えば、アンタの方が凄いじゃないか!

お父様の腹心、逆らう者を容赦なく殺す黒衣の魔女と、トリステイン王国の魔法衛士隊隊長だろ?

普通有り得ないだろ?他国の貴族が従っているなんてさ?」

 

「彼らは、友であり仲間であり同志であり……家族ですから」

 

 イザベラ姫は、ふと暗い顔をして考え込んだ。

 

「アンタにはさ、謝らないと駄目なんだよね。すまないね、お父様から無理難題を言われてるんだろ?」

 

 王族が謝る?僕に?

 

「……なんか、久しぶりにマトモな王族に会った気がしました。最近は、某トリステインの華ばかり見てましたから……」

 

「向こうの方が、よっぽど王女らしいだろ?なにせ美人でお淑やかで上品で、魔法の腕もトライアングルときてるしさ」

 

「王族とは、国を最低でも維持、出来れば発展させる義務が有ります。その気概が有る王族など、本当に少ないです。

まあ、ウチの閣下もまともな部類ですが……僕はトップに立つ人間には、魔法など必要無いと思いますね。それに、イザベラ様は十分美しいですよ」

 

「美しいか……こんなアバズレが!お世辞かい?」

 

「いえいえ、ガリア王族特有の蒼い髪も含めての美貌……それにスタイルも抜群ですよ。

そうですね……バストのサイズはCの83……」

 

「ちょっと待ちなー!なんでアンタが、私の体の事を知っているんだい?可笑しいだろ?」

 

「……何故でしょう?」

 

「ふふふ……アンタやっぱり凄い変態だよ。少しでも良い男と思ったのが、間違いだね」

 

「そうですか?美しい女性を前にしたら、普通だとおもいますよ」

 

「そうやって、ジャネットの他に、私も口説くのかい?残念だけど、無理だよ私は……相手など、自分で決められないし国に有益な相手しか駄目さ」

 

 この言葉、そのままアンリエッタ姫に聞かせてやりたい!この少女、凄くマトモだぞ、ビックリだ!

 

「……私の事は良いんだよ。まぁアンタが、ウチをどうこうするつもりの無い事は分かったから良いさ。

こんな変態共でも、ウチには必要なんでね。引き取れとは言わないよ」

 

 引き取れとか言われると、カリーヌ様に言われた、ヴァリエール公爵家のメイド達を思い出すな……

 

「なんだい。ヘンな顔して?」

 

「いえ……昔そう言われて、自分の所為で巨乳化したメイド達を20人程、ヴァリエール公爵から引き取った事が有りまして……」

 

「アンタって、本当に変態巨乳教祖なんだね……近づかないでおくれ。妊娠してしまうだろ?」

 

 両腕で自分自身を抱きしめ後ろに下がりながら、しみじみと言われてしまいました。

 性犯罪者扱いにガックシと跪いてしまう……

 

「くっくっく、思い知ったかい?仕返しだよ。さて、ここからが本題だよ。

アンタ、お父様から……ジョゼフ王からどんな無理難題を言われたんだい?」

 

 



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第66話から第68話

第66話

 

 ガリアの国境線を少し越えた深い森の中。2人のガリア王族と、ブラザー達に取り囲まれています。

 

 こんばんは!ツアイツです。

 

 現在、イザベラ王女と対談しています。彼女はアンリエッタ姫が、霞む程の芯の通った姫様だ!

 しかも、ジョゼフ王の試練について、問い質してくる……何処まで話して良いのだろうか?

 

 僕は、シェフィールドさんを見る。

 

 彼女は……僕の考えている事が分かったのか、隣に並んで頷いた。

 

「少し長くなりますが、宜しいですか?」

 

 イザベラ王女が頷いくのを確認して、今までの事を話す。勿論、最終的な洗脳の件は秘密だけど。

 彼女は、おっぱい戦争の件で怖い顔になったが、スローガンを潰し有象無象の軍事クーデターにする事。

 アルビオン全土に布教活動をする事。トリステイン王国を巻き込む事。等を聞いて、深くため息をついた……

 

「おっぱいだけ差し替えれば、アンタ英雄になれるよ。それで、アンリエッタ姫をあの歴史とプライドだけの国をどう巻き込むんだい?」

 

 ヴァリエールと、ド・モンモランシ両家を巻き込む事と、既にアンリエッタ姫に豊胸指導中でウェールズ皇太子狙いの彼女を焚き付ける事を話した。

 

「アンタって、宮廷貴族よりエゲツナイよ。他国の姫の恋路を利用するなんてさ。

女の恋心を利用するとは……外道だね。まぁ、そんな考えも嫌いじゃないけどさ」

 

 勿論、トリステイン王国に利の有る事だとも話したが「いや、アンタの評価は変わらないね」と、笑われてしまった。

 

 イザベラ姫と話している間、終始彼女の腕にしがみ付いているミス・タバサが気になったのだが、スルーした……かったけど、聞いてみる。

 

「イザベラ様は、ミス・タバサ……シャルロット様と仲が宜しいのですね。美しき従姉妹姫の友愛ですか?」

 

 イザベラ姫は、シャルロットの名前が出た時点でギョっとしたが、何と無く納得した様な顔をした。

 

「別に嫌っていた訳でもないし、コイツが最近ベタベタする様になっただけだよ」

 

 薄っすらと赤くなり目線を逸らしながら、それでも嬉しそうな感じだ。仲直りは成功したのだろう……

 蒼い髪の美少女2人が寄り添っているのは、見応えが有る。

 

「ご馳走様でした。許可が下りるなら、「2人は従姉妹姫」で一作品書けそうです」と、割と本気で、言ってみたのだが……

 

「フザケルナー!今でさえ、コイツ等は王族の私の私室を覗いたりするんだよ。炊き付けられたら、貞操が危ないわー!」

 

 本気で嫌がってました……

 

 周りを見渡せば、ツンデレ派と思われる竜騎士団員が、妖しい表情で「「「赤くなったイザベラ様モエー!最近はツン自体も、可愛くなったよなー」」」とか、凄い盛り上がってます。

 

「正直スマンかったです。反省してます」

 

 僕は、イザベラ様に土下座した。まさか、此処まで凄い事になってるとは、思いもよらなかったので……

 

「ふん。やっと自分の起こした重大な問題を認めたね。幾ら私だって、気持ち悪い物は気持ち悪いんだよ」

 

 本当に、心底嫌そうな顔でした。

 

「それで、アンタに力を貸してやりたいんだが……」

 

「いえ……それではイザベラ様の立場が悪くなります。応援は大丈夫ですから」

 

 イザベラ様は、じっと考えていたが、ニヤニヤと笑い出してから爆弾を投下してくれた。

 

「北花壇騎士団7号、命令だよ。このゲルマニア一の変態の手助けをしてやりな。それと、元素の兄弟のジャネットを付けてやるよ!口説いてたんだろ?」

 

 この姫様もぶっ飛んでるのか、何か考えが有るのか……有能なのは分かったから、考え無しとは思えないのが怖いんだよな。

 

「いえ……美少女2人も要りませんので、ご辞退します」

 

 イザベラ様のニヤニヤは止まらない……

 

「まぁ上手くやんな。コッチで掴んだ情報は、ジャネット経由で教えてやるよ。ちょうど良かったじゃないか。カフェでお茶しながら、さ」

 

 成る程、元素の兄弟を嗾(けしか)けた本人だ。報告も行ってるのか……

 

「……分かりました。お願いします」

 

 ここは折れる事にしよう。そして、会合で必要な事は、全て話し終わった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 少し時間は遡る……

 

 イザベラ姫とツアイツが、話し合っている頃と同時期に2人の(風のスクエアで変態)紳士も又、己の信念を賭けて対峙した。

 どちらが、よりツアイツに近しい者で有るかを示す為に!

 

「始めまして閃光殿。何故、我らがソウルブラザーと行動を共にするのですかな?貴殿は、トリステイン貴族であろう?」

 

 ふっ、とワルドは笑みを浮かべる。

 

「はっはっは!ツアイツ殿とは、求める物(大きい乳と小さい乳)は違えど、志を同じくした同志!

いや、心の師でも有るのだ。トリステイン王国など、どうでもよい些細な事だ!」

 

「ほぅ……心の師とな。所属する国がどうでもよいとは、大言をほざいたな。

我らこそ、ゴッド・ツアイツ殿に、遠い異国の兄弟と言われし、ソウルブラザーよ!」

 

 2人の風のスクエアは、互いの信念を賭けて睨み合った。

 

「ふん。貴様はどれだけ、ツアイツ殿の著書を待っておるのだ?我らには、ブラザーから送られたこの大量の著書が有るのだぞ!」

 

 カステルモールの後ろには、男の浪漫本の最新刊が並んでいる。

 

「くっ……暫く、ツアイツ殿の部屋に行かなかった為に最新刊の入手が遅れたか……」

 

 その著書を見て、がっくり項垂れるワルド……

 

「くっくっくっ……どうだ!我らが絆の深さを思い知ったか」

 

 しかしこのワルド、既に再教育を受けた新生ワルドだった。項垂れながらも、さり気なく懐からある本をわざとらしく落とす。

 

「おおっと。ツアイツ殿から贈られた本が、汚れてしまう」

 

 例のアレ!

 

 彼だけの、彼の為のオンリーワン本。その遍在コピーを利用した閲覧用の「ワルま1」だ!

 わざとらしく「ワルま1」を拾い上げて、埃を叩く。

 

「貴様、何だ?その本は?」

 

 マニア(変態)としての、コレクション合戦は佳境を迎えていた……

 

 

第67話

 

「貴様、何だ?その本は?」

 

 変態と言う紳士達の……ツアイツとイザベラの会合とは、別の話が進んでいる。

 男の浪漫本の最新刊を全て揃えているカステルモール団長!一歩出遅れたワルド。

 

 しかし、ワルドには死期回生の二冊の切り札が有った……自慢げに埃を払った「ワルま1」を見せる。

 

「これは、私とツアイツ殿との絆の証!ハルケギニアで、これだけしか無い。

オンリーワンな逸品!私と……とある場所に実在する、エターナルロリータとの物語だ!」

 

 立場は逆転した!驚愕の顔で、しかし速攻「ワルま1」を奪い取り読み出すカステルモール……本を持つ手が震える。

 

「なっなんて事だ……伝説の人物や過去の英雄以外で、この様な……この様な、素晴らしい作品の登場人物になれるとは」

 

 「ワルま1」を群がる竜騎士団員達に渡すと、カステルモール団長は膝をついた。

 

「くっ……不本意だが、本当に不本意だが……負けを認めよう。

こんな国王でさえ、英雄と呼ばれなければ無理な、自分の登場する作品を持ってるなど……」

 

 跪いて慟哭する、カステルモール団長の肩に手を置いてワルドが、悪魔の囁きをする。

 

「ツアイツ殿は身内には寛大だ。寛大過ぎる位に……私もかつて、巨乳教祖たる彼に貧乳信奉者として反発した事が有った。若気の至りだな」

 

「なっなんと!敵対していたのか君らは?」

 

「そうだ。しかし、ツアイツ殿は相反する思想を持つ私に……いや相反する所か、彼の懐の深さに心酔してしまったのだ。

彼の深遠は、そのジャンルの深さだけでなく、全ての乳の元に集え同志達!と言う、漢達の永遠の夢の具現者なのだ」

 

「なっなんと壮大な理想を掲げるのだ……ロリっ子大好きなど、ほざいていた矮小な自分が恥ずかしい」

 

 ワルドはカステルモールの手を取り立ち上がらせる。

 

「国は違えど理想は同じ!どうですか?貴殿もツアイツ殿の下に馳せ参じては。さすれば……カステルモール殿のロリータハーレム物語も間違いなく」

 

 悪魔の囁き……変態として、これ以上の誘惑はないだろう。

 

「うぐぐぐぐ……私にはガリアと言う国に愛着が……しかし、漢としての夢を失う事は死ぬ事と同じ……」

 

 カステルモールは真剣だ。

 

 こんなに悩んだのは、変体野郎の魔の手から逃れる為に、東花壇騎士団の地位を手放した時以上に……

 

「カステルモール殿……実は、もう一冊有りまして、これです」

 

 ワルドはダメ押しに「ワルま2」を懐から出して彼に見せる。

 

「なっ!何だと、2冊もだと……しかも、連載小説風等と言われれば、まだ作品は続くのか」

 

 己の理想が、作品として、自分の活躍が続けて作品になる。漢として、これほどの幸せは少ないだろう。

 しかし、カステルモールも芯の通った漢だった……

 

「すまない。ワルド殿……いや、貴殿もソウルブラザーと呼ばせて欲しい。

しかし、私はこのガリアと言う国が好きなのだ。それに残念だが、私がゲルマニアに降ればガリアも黙ってはいまい」

 

「そうですな。私と違い、ガリアに所属する貴殿では、影響力が違いますな。

しかし、所属する国は違えど、理想は同じ。我らは理想を同じくする同志では有りませんか!カステルモール殿」

 

 ワルドは、カステルモールと握り合った手に力を入れる。

 

「国は違えど、我らはツアイツ殿の元に集う仲間ではないですか!」

 

「おお……ワルド殿、いや同志ワルドよ」

 

 硬く手を握り合う2人。ここに、風の魔法を極めたスクエア戦闘系メイジの信者コンビが生まれた瞬間だった。

 

「……して、ワルド殿。私も陰ながら、ツアイツ殿の手伝いをしたいのだが……」

 

「我らは風を極めし者、つまり……遍在ですよ、カステルモール殿」

 

 カステルモールは、そのような遍在の使い方が思い浮かばなかった為に、目からウロコの状態だ。

 

「成る程、遍在をツアイツ殿の手伝いとして派遣するのですな?」

 

「そうです。まぁ私の場合は、遍在が政務をこなし、本体が手伝いますが……」

 

 ニヤリと不敬な事を暴露するワルド。

 

「それは、流石と言うか何と言うか……」

 

 カステルモールも、流石に其処までは割切れなかった。

 イザベラとシャルロット、それにツアイツとシェフィールドの注意が、他に向いている間に2人の変態と言う紳士の会合も又、終ったのだった。

 ツアイツは強力無比なヤンデレと、風のスクエア変態コンビを傘下に加え、レコンキスタに挑む事となる。

 

 しかし、竜騎士団員達は、全ての話を聞いていた。

 

 具体的には、エターナルロリータと、自分が主人公なエロい本を書いて貰える事。

 しかし、団長が自重した為に、彼らもあと一歩を踏み出す事は止めていた。

 そして、2人の際立った変態が、手を取合った事に対して喝采を浴びせるのだった。

 

「「「「「ウォーダンチョー!我らもお手伝いしやすぜー!」」」」」

 

 決意を新たに、竜騎士団員達の雄叫びが、深い森に響き渡った……

 

 

 

 さて、そろそろお開きの時間だ……ツアイツもタバサも学院の生徒だ。授業をサボる訳にはいかないし、今学院にはアンリエッタ姫も居る。

 余計な騒ぎは起こしたくない。

 ツアイツは群がる竜騎士団員達と握手を交わし、終始歓迎ムードの中、イザベラ姫との初会合を終えた。

 竜騎士団員達は、更なるソウルブラザーへの憧憬を高めたが、一番はワルドとカステルモールの義兄弟イベントだろう。

 

 イザベラ姫は、この会談でツアイツの真意を確認出来た。

 満足な会合で、ツアイツにシャルロットとジャネットを押し付ける事で意趣返しも出来た。

 しかし蓋を開けてみれば、よりツンデレなイザベラ派の結束が高まった事。

 彼らがパワーアップした変態紳士と化し、彼女をツンデレを信奉する漢達の結束が固まったのだ!

 

 そして二大変態が、意気投合し問題の種が増えた事。

 竜騎士団全体が、より一層の漢達と言う変態紳士にレベルが押し上がった事を考えると……早まったのかもしれない。

 何時までも、手を振りながらソウルブラザーを見送る竜騎士団員達を見ながら、イザベラ姫は一人ため息をついた。

 

「やっぱり、こいつ等を連れてきたのは間違いだったかねぇ……」

 

 彼女の苦労は、減る事は決して無いだろう。イザベラ、ファイト!

 

 

 

第68話

 

 

 暗き森の中を馬ゴーレムにより疾走しながら……自分の背中に当たるシェフィールドさんの双子山から、意識を反らせながら思考に耽る。

 

 先程までの、イザベラ姫との会合……

 

あのジョゼフ王の娘であり、原作ではタバサを苛め、且つ自身の立場を悲観し周りに八つ当たりしていた彼女が!王族として一流だった。

 しかも、中々の巨乳美少女だし、からかい甲斐の有る生真面目な性格だ。ミス・タバサの懐き振りと、アルコール依存症と見受けられる事が心配だ。

 もしや、悩みやストレスを酒で紛らわせてないだろうか?

 僕は、自分の趣味で動き、ストレスとて理不尽カリーヌ様とヤンデレなシェフィールドさんが主な原因だが……彼女は国の為に動いているので、根本的に違うのだ。

 

 そうだ!

 

 胃薬と最新のマトモな著書を贈ろう、ジャネット連絡員が来た時にでも渡そう。

 前方をミス・タバサと併走して飛ぶワルド殿を見て考える……彼は、カステルモール団長と竜騎士団員に囲まれて、何やらやっていた。

 カステルモール団長が膝を付いていたり、竜騎士団員達の歓声を考えると……同じ趣味人として、分かり合えたのかな?

 

 2人共、風のスクエアだし……

 

 ワルド殿と意気投合するとなると、彼もロリっ子大好きか……彼を主人公にした作品を一冊贈って、イザベラ姫の力になる様にお願いしようかな?

 

 ロリっ子大好き貧乳派なら、タイトルは……「リリカルカステル」とか?魔法少女大好きっ子なら、喜ぶよね。

 

 お姉さん大好き巨乳派なら「真・カステル無双」とか、喜ぶかな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 周辺の片付けを撤収準備をしながら今日の出来事を語り合う。

 

「流石は、ゴッド・ツアイツ殿だな。あのローブの美女って、ジョゼフ王の側近の怖いネーちゃんだろ?」

 

「ああ……ジョゼフ王のシャルル派粛清の時に、暗躍した黒衣の魔女だよな?」

 

「あの危険人物が……あんなに穏やかな笑みを浮かべるとは、最初は別人かと思ったぜ」

 

「やっぱ、ソウルブラザーは違うな!」

 

「しかし、ゴッド・ツアイツが巨乳派教祖だとは知らなかったぜ」

 

「いや、違うだろ。団長と閃光殿の話では、大いなる乳の元に集え!だから、全ての乳を網羅していると見るべきだ」

 

「「「「「スゲーぜ!ソウルブラザー!」」」」」

 

「我らも、手伝わなくて良いのか?」

 

 悩み混む団員達……

 

「先ずは、撤収してから考えよう」

 

「そうだな……次の竜騎士団会議の議題は決まりだ!」

 

「「「「「意義無し!」」」」」

 

 そして、真夜中の饗宴は何事も無かった様に終わった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 帰りの竜籠の中で思考に耽る……

 

 全くエレーヌの奴、何でまた抱き付き癖なんか出来たんだい?思わず、昔の事を思い出すじゃないか。

 あんな関係には戻れないかと思ったが、案外壁を作ってたのは私だったかね?まぁ良いよ。

 

 ツアイツか……

 

 見てくれは、色男だし得体の知れない情報収集能力を持ってる。それに、自分の思想の為に関係無い他人を巻き込む容赦の無さ。

 それでいて、相手に損だけじゃないのが始末に負えない。バッサリ悪と割り切れない、何処か憎めない奴だったよ。

 

 それに、シェフィールドの態度……

 

 あんな表情は見たことないね。ツアイツに懐柔されたのかい?まさか、ね……

 それと何故、私まであんな我が子を見る様な目で見るんだい?益々、分からないよ。

 

 ※義理(になる予定)の娘を見る眼差しです。

 

 兎に角、注意は必要だ!予感だが、本当に嫌な予感は当るのだが……アイツに係ってしまったら最後、苦労が舞い込む予感がする。

 頬に当る夜風を感じながら、これからの事に不安が一杯のイザベラだった。

 彼女の予感は直ぐに当る事となるのだが……

 

 全く、これでまたアルコール消費量が多くなるじゃないか!独り酒も、そろそろツマラナイんだけど、誰か飲み仲間が欲しいね。

 特に、黙って愚痴を聞いてくれるような奴がさ。

 

 

 

 トリステイン魔法学院

 

 

 深夜、いや既に早朝に近い時間にやっと部屋に戻れた。既に、早番の使用人達の働き出した気配を感じる。

 アンリエッタ姫が滞在しているので、彼らも大変だろう。

 

「んー2時間位は寝れるかな?」

 

 ツアイツは自室に戻り、シェフィールドさんは隣の部屋に

 

「では、おやすみなさいませツアイツ様」と引上げて行ったので、少し仮眠を取る事にする。

 

 流石に強行軍だったので疲れた……たしか、今日がアンリエッタ姫の滞在の最後の日だ。何事も無い事を祈りながら眠りについた……

 

…………

 

………

 

……

 

 二時間程仮眠を取り、少し回復したのでアルヴィーズの食堂に向かう。

 まだ眠い……これは、授業中に居眠りをしそうだ。

 授業といっても、アンリエッタ姫の若手貴族対談で無いも同然なのだが……一昨日、昨日で粗方の貴族の子弟とは話してたから。

 

「ねえ聞いた?アンリエッタ姫って、ウェールズ皇太子狙いなんだって」

 

「聞いた聞いた!例え話でも、天空の高貴なる殿方と地上の姫って話してたから……」

 

「随分と情熱的な恋文を書くらしいわ!」

 

 おいおいおいおい……もしかして、コレかよ?原作の恋文奪還話って……アンリエッタ姫から熱烈なアレを送るのかよ。

 

 はぁ……さっきまで、イザベラ姫と話していた為に王族のギャップに驚きも大きいぞ。

 原作では、両思いだったが今回は一方通行だ。しかし、見つかると同盟やらなんやらが、ご破算になる内容なんだよな……

 

 アレか?

 

 ラグドリアン湖の園遊会で、水浴び姿を見られた……ウェールズ皇太子に責任でも追求するのか?

 それとも、イタい女の様な一方的な内容で迫るのか?この大事な時期に、この手紙イベントは僕の計画に齟齬をきたすかな?

 

 手紙か……

 

 悩むな。早めにアンリエッタ姫を取り込んだ方が良さそうだ。全く、このアンリエッタ姫は、どうにも困ったチャンだな。

 惚れた女だったら、何とかしたいと保護欲を掻き立てるのかも知れないが……

 

 とっとと、ウェールズ皇太子に引き取って貰わないと大変だぞ。

 



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ワルま第1話から第3話

ワルま第1話

 

 ワルド…ハーナウ家の軍門に下る!

 

 ふっ皆さん始めまして、僕はワルド。

 

 トリステインと言う小国で魔法衛士隊グリフォン隊隊長と言う肩書きを持つ子爵だ。

 人はエリートと呼ぶが王宮では政治的な背景が強くない為にそれ程の力は無く領地もこれといって豊かでもない。

 この地位に上り詰める為に全てを投げうって努力した為に親しい友人も居ない……

 

 振り返れば寂しい人生だった。

 

 これでも利用価値は有るだろうと隣接地のヴァリエール公爵が口約束だが末娘の婚約者として扱ってくれた。

 年齢的に言えば長女か次女の筈だが彼女等だと僕が結果を出すまで……

 つまり実力を付けるか出世する前に婚期を迎えて結婚しなければならなくなる。

 又は何かの原因で家の断絶の可能性を考えまだ幼いルイズを指名したのだろう。

 

 しかし僕的には幼い女の子は大好きだったので好都合だった。

 

 とある人気投票では次女は人気が高く長女も一部の特殊な性癖を持つ者には堪らないらしいが……

 やはり母上の様な儚いツルペタはルイズでしか有り得ないだろう。

 次女の性格に長女の容姿で三女の年齢なら文句なく最高だったのだが……

 

 しかし頻繁に会える訳でもなくその話が出てから暫く振りに彼女に会った時の驚愕と言ったら。

 聞けばゲルマニアの宿敵の筈のツエルプストーとの融和政策の一環で友好を持った人物より医学書を貰い実践した結果……ああなったらしい。

 

 僕のルイズが?なんと言う事を仕出かしてくれたんだ。

 

 僕は失意の内に公爵邸を後にした……

 

 この恨みを晴らすべくヴァリエール公爵にそれとなく探りを入れたらゲルマニアのハーナウ家が噛んでいるらしい。

 調べれば新興貴族だが、いや新興貴族だからこそ強かで有能な当主なのだろう。惰性で生きているこの国の貴族には無い実力を感じる。

 

 どうしても一度直接会いたくてヴァリエール公爵に随分と無理を言って何年か待たされたが紹介状を書いて貰った。

 既にヴァリエール公爵の中ではルイズはハーナウ家との縁を強める為に向こうに嫁がせたい、その詫びも含めての対応だったのだろう。

 

 話は代わるが僕は母上の求めた聖地を求めて行動していたが最近になり聖地ではなく儚く散った母上を求めていたのではないか……

 

 と悩んでいた。そんな時に趣味友であるモット伯より凄い本が手に入ったと自慢され是非とも見たいとこちらも秘蔵のコレクションを持参し見せて貰いに行ったが…

 我がコレクションがゴミと思える程の三冊だった。

 無理を承知でモット伯に聞けば妾にと思った少女を取り返しに来た少年から貰い受けたそうだ。

 モット伯は僕と違い幼ければツルペタじゃなくても逝ける変態だからな。

 

 そして彼はハーナウ家の者と言う、またハーナウ家だ。

 

 もう一刻の猶予も無くハーナウ家当主に会いに行った。そして通じ合う信念(ロリコンで)と決意(チッパイ好き)!

 

 なんと言う事だ!国外にこれ程の人物が居たとは……彼とは一目見て通じ合い夜を徹して話し合った。

 

 そのコレクションの質の高さと量は圧巻だ!

 

 特に新刊の、新刊と言う事は場違いな工芸品や東方から流れてくる物でなくちゃんと管理生産されていると言う事だ!

 

 「こどものじかん」これは魂のレベルで屈伏した。

 

 この本を手に入れる為なら人で有る事を辞めても悔いは無いだろう。

 またコレクションだけでなくサムエル殿の思想にも感化された、ツルペタでなくより高尚にチッパイ。

 

 なる程確かに言葉一つが凡人の僕と違い奥が深い、そして彼の夢見るチッパイ帝国!

 

 意気投合したサムエル殿は奥方を紹介してくれた、まるで僕の母上の様な理想の女性アデーレ様!

 

 30歳を過ぎて尚その妖精の様な儚く可憐な……僕の自尊心は粉々だ。

 理想で負け思想で負けコレクションで負け更に妻でさえ……もはやトリステインなどでなく僕の仕えるべき方はサムエル殿なのでは。

 

 聞けば数々の名作は息子で有るツアイツ殿が執筆しており最近新刊が滞っているらしい。

 しかも父の理想を認めず住み分けと言い自身は巨乳教の教祖だとか、断じて認められん!

 

 サムエル殿に紹介状を認めて貰い直接会いに行ってみる、この数々の名作の続編を何としても書いて貰わねば!

 

 そして直接会ってその真意を確かめてくれるわ!

 

 しかし……サムエル殿も凄いがツアイツ殿も凄いお方だ。

 

 最初に郊外に有る屋敷を訪ねた時は……屋敷?悪の巨乳神殿の間違いではないのか?

 これはサムエル殿のチッパイ帝国に対抗する為にわざわざ他国に建設した秘密結社ではないのか?

 この様な組織を15〜6歳の子供が作れるものだろうか。

 

 しかも既に構成員と思われる巨乳メイドも多数確認した。

 

 実際に会ってみれば醜い肉の塊を付けたメイドを左右に侍らせてくる始末だ。

 話してみれば父親の理想郷の建設に手を貸すつもりは無いらしい。が、反対もするつもりも無いらしい。

 

 これが住み分けと言う事か……互いに干渉せず、しかしチッパイ帝国は必ず勝つだろう。

 

 時代がそれを求めているのだから……

 

 みよ、読者の殆どはサムエル派だろう!

 

 まぁ良い。書籍の執筆については前向きな回答が得られたし既に新作も制作されておりそれは学院内で普及しているとの事。

 次回の学院訪問の際に入手出来よう。

 そして新作の中に私を風使い子爵の新人先生として登場させてくれとお願いしたら届いたのが!

 

 

「ワルま!第一巻風使いの新人子爵先生現る。」

 

 

 こっこれはお髭と帽子がトレードマークの通称ワル先生が幼等部のとあるクラスの担任となり幼い女の子達と仲良くなる時代の先端を逝くハートフルなストーリーだ。

 ハーナウ家とは化け物、親子揃ってこの鬼才に奥方様は現人神だ!

 

 もう……萌え尽きてしまいそうだ。

 

 聖地?レコンキスタ?ナニソレオイシイノ?

 

 

 

ワルま第2話

 

 

「ワルま!第一巻風使いの新人子爵先生現る。」

 

 

 ごくり……なんと言う心踊るタイトルだ。まさかこの僕が物語の登場人物になるなんて!

 

 幾ら固定化の魔法を掛けていても、先ずは手を洗わねば大切な本が汚れてしまうではないか。

 

 いかんいかん!

 

 では早速……ガチャ「隊長今度の合同訓練の件で相談がぁウボラァー?」

 

 大切な時間を邪魔しおって……吹き飛べ。そして暫く大人しくしていろ。しかし興が削がれてしまったな。

 

 よし場所を変えよう。

 

 大切な本とは読む場所も大切なのだ。しかし……宮仕え故に自分の部屋以外と言うと後は……

 

 そうだ!

 

 お洒落なカッフェで知的な午後の一時を堪能しようではないか。では最近トリスタニアに出来たと言う噂の店に行くとするか。

 

 

 

 給仕め混んでるからと30分も待たせおって!

 

 

 さてカッフェで紅茶も来た事だし、いざ読むぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕は今新しく出来たトリステイン学園都市に向かっている。

 

 昨夜は母上が泣きついて大変だったなぁ……いい加減子離れをしてもらわないと何時まで経っても子供みたいに可愛い人だから心配だ。

 しかし彼女はアカデミーで働く才女だ。僕の教師を目指したのも母上の影響が大きい。

 父親は家督を僕に譲ってから悠々自適に暮らしている。

 

 

 くっ物語の中では両親は生きているのか……そうだな。生きていたらこんな感じだったかも知れないな。

 

 くっ母上……僕は……

 

 

 

他のお客

 

 

 あらあのお髭の素敵なお方。本を読んで涙ぐむとは巷で流行りのあの本でも呼んでるのかしら?

 知的で立派な方ですね。

 

 絵になるわぁ……

 

 

 

 

 

 さて続きを読もう。

 

 この学園都市は新規で造られた城塞都市なので東西南北の門までしか外からの交通機関は入れない様になっている。

 中には専用の交通機関が有りそこから先は迎えが来ているそうだ。

 

 さて降りてはみたが迎えとは……

 

「貴様がワル先生か?迎えに来てやったぞ」

 

「「きてやったですー!」」

 

 ムッハッハー!

 

 なにこのツンデレロリと双子ロリは?挿し絵を見ながらワルドは興奮しまくりだ!

 

 

 

 さて続きだ……

 

 

 

「ほらこの私が迎えに来てやったのだ。もっと感激して欲しい物だな」

 

「「そうだそうだー!」」

 

「失礼リトルレディ達。お名前をお聞かせ願えるかな。」

 

「ふん。私の事はキティと呼ぶが良い。」

 

「僕が姉のフタゴノー・イチゴーだよ」

 

「僕が妹のフタゴノー・ニゴーだよ」

 

「僕はジャン…ジャン・ジャック・ワル・ドー!ワルと呼んでくれ」

 

「ふん。ワル先生か……良いだろう呼んでやろう」

 

「「呼ぶですー!」」

 

 

 ナイスだ!ツアイツ殿、これではまるで僕その物ではないか!

 

 

 

 さて続きだ…

 

 

「では案内するがここは人が多い。迷子なならないように……てっ手を繋いでやる」

 

「僕はかたぐるまー!」

 

「あーずるーい!じゃ腕にぶらさがるー!」

 

 挿し絵は彼女達パンチラがこれでもかと……グハッ!ガタガタ……思わず机に突っ伏す。

 こっこれは萌え尽きてしまう……

 このキツめなチッパイロリ少女と双子のぽやぽやロリ少女の挿し絵は、前にモット伯が自慢していた絵柄と一緒だ!

 この絵師は本当に良い仕事をしている。

 

 誰なんだ?

 

 ん?右下隅にサインが有るが……なんだと!こっこの絵もツアイツ殿が描いているだと?何て鬼才なのだ。

 

 

 

他のお客

 

 

 

 何か机に突っ伏してから痙攣してるけど平気なのかしら?お医者様を呼んだ方が良いかしら?

 

 

 

 

 さっさて落ち着いて続きを読むぞ。紅茶を飲んで落ち着くぞ。

 

 

 

 僕らは歩きながら学院長室に向かっている。

 キティの手は少し汗ばんでいるようだ……ふふっ緊張してるのかな?

 僕達はたわいない話をしながら学院長室の前迄到着した。

 

 途中すれ違う女の子達も極上のロリっ子達!

 

 当たり前だ。この学院は従来の魔法学院に入る前の子供達が通う言わば幼等部とも言える学院だから…

 

 僕の理性が保つか心配だ。

 

「「じゃー僕達はこれでーばいばーい!」」

 

 双子は賑やかに去っていった。君達のこの首と腕に残る温もりは忘れないよ!

 

 

「ワル先生。ここが学院長室だが……驚かないでくれ。中の生き物は歴とした人間かと……思うのだ」

 

 キティが複雑な顔で歯切れの悪い説明をすると

 

「じじぃ邪魔するぞ。新任の先生を連れてきてやったぞ。」

 

 ノックも無しに扉を開けて中に入ってしまった。コラコラ淑女がそんな礼儀知らずで……

 

「失礼します。新任のワル……シネ亜人め、どこから侵入した?」

 

 キティを脇に抱えエアハンマーを唱える。

 

「ふぉふぉふぉいきなりじゃのうワル先生」

 

 亜人はそう言うと僕の魔法をかき消しただと?

 

「ワル先生……認めたくはないのは分かるがアレが学院長だ。それと恥ずかしいから下ろしてくれ!」

 

 キティが僕の腕の中で真っ赤になりながらもがいている。

 

 キター!

 

 これでキティのハートはガッツンなんだなツアイツ殿!はぁはぁ……萌死にそうだ……さて続きを……続きを読む前に深呼吸だ。

 

 すぅーはぁーすぅーはぁー。よし!落ち着いた。

 

 

 

「いきなり魔法を使うとは失礼じゃな。儂はこの学院の学院長のヌラリー・ヒョーンじゃよ。歴とした人間じゃ」

 

 この後頭部がカボチャ三連みたいな妖怪変化が学院長だと?

 

 驚きの余り手をワキワキしてしまっ「あん!いい加減に離せ。何処を揉んでいるんだ!」

 

「キティ……すまないが本当にこの物体が学院長で間違い無いのか?」

 

「やん!もう離して……」

 

「すっすまない今降ろすから」

 

「もう……人前で恥ずかしいだろうが!この爺が本当に学院長で間違い無い」

 

「そっそれは失礼しました。今日から赴任しましたジャン・ジャック・ワル・ドーです」

 

「ふむ。教師たる者常に冷静であれじゃ。着任を認めようワル先生」

 

「はっ!」

 

「ワル先生にはひとクラスの担任になってもらう。それとじゃ……」

 

「それと?」

 

「この学院都市は狭くてな。手違いで君の住居を確保出来なかったのじゃ。それで暫くはキティの部屋で暮らして欲しいのじゃ」

 

「「ナンダッテー!」」

 

「いやそれは……」

 

「ワル先生は私と暮らすのは嫌なのか?」

 

 不安そうに見上げるキティの挿し絵が……

 

 そして「次回嬉し恥ずかし初めての同棲生活!そして初夜を迎えるワル先生の運命は……二巻に続く」と書かれていた。

 

 

 

 どっ同棲?ロリと同棲だと!しかもしっ初夜だとー!

 

 ツアイツ先生……童帝(わらべのみかど)の僕にはハードルが高すぎます……

 

 うっ鼻血が……吹き上がって止まらない。

 

 

 

他のお客

 

 

 

 いきなり悶えた後に鼻血を吹き出したわ……

 

「てっ店員さーん!きてー大変よー!鼻血を吹いて悶え死にそうな人がいるわよー!誰かーお医者様を呼んでー!」

 

 ワルドは一命を取り留めた。

 

 そしてヨロけながらも、この本をサムエルに見せるべくハーナウ領に向かった。

 余程この間のコレクション自慢が悔しかったのだろう。

 

 ツアイツの渡した「ワルま第一巻」は20Pだが挿し絵が数枚程入っている絵本形式の本だった。

 

 

 

ワルま第3話

 

 

「ワルま第2巻」嬉し恥ずかし初めての同棲生活!

 

 学園長を名乗る未確認生物との会合を終えて、僕はキティに案内されこの魔法学院都市内を歩いている。

 勿論迷子になるからと手は繋いだままだ。

 

 彼女の手は……ひんやりして、サラサラでスベスベだ!

 

 今なら手フェチの気持ちも分からんでもないな。人目が無ければ、ペロペロしてしまいそうだ!

 

 しかし学院長……

 

 ヌラリー・ヒョーンと言ったか……そもそも人間か?人の範疇を外れてはいないだろうか……

 しかも僕の魔法をかき消すなど?

 

「ワル先生?聞いてるか?」

 

「うん。聞いてるよ。キティの説明は食べ物屋ばかりだね」

 

「なっ!ちっ違うぞ。此処がレストラン街だから……ワル先生はお腹が空かないのか?」

 

「そうだね。空いた……キティのお勧めの店は有るかい?」

 

「うむ。私のお勧めと言えば……東方からの料理で肉マンという不思議なパンが有るぞ」

 

「パン?肉の?」

 

「そうだ!面白いだろう」

 

 そう言ってキティは僕の手を引きながら走り出した。

 

「おいおい!急に走り出したら危ないだろう」

 

 彼女の短いスカートから覗く、病的なまでの白い生足は素晴らしい!

 

 

 

……その挿絵を見ながらワルドはローリング悶えた……

 

 

 

 前回の衆人環視での失態を犯さない為にも、今回は本を読む場所を考えていた。

 その場所とは、ブルドンネ街の安宿だが店主には金を握らせ、部屋にはロック・サイレント・ディテクトマジックを念入りにかけている。

 そうそう外にこの痴態が漏れる事は無い。やはりロリっ子は華奢でなくては!

 

 そしてチッパイが理想的だ。

 

 

 

……ワルドは本に集中した……

 

 

 

 

「ワル先生!此処だ。東方の言葉で屋台式中華屋と言うのだが、中々の物を出すんだ!」

 

「ほぅ!中華屋とは珍しいな」

 

「おぃ店主、肉マン6個くれ……あっ誤解するなよワル先生。私が2つでワル先生が4つだぞ」

 

 キティは、自分が大食いだと勘違いされない様にと、頬を染めながら説明してきた。

 

「アイヤー!キティのコレか?サービスするアルヨ」

 

 店主はまだ10代半ばと思われる褐色の少女。

 親指を立てて、ニヒヒとからかう様な笑顔とキティの真っ赤に照れた顔が見開きの挿絵に……

 

 

 

……流石はツアイツ殿……

 

 

 

 萌えのツボを抑えている。

 

 18禁の直球の様な挿絵も素晴らしいが、対比的な美少女の表情を抑えたカットも溜まらん。

 

 おっと鼻血が……テッシュテッシュ。

 

 しかし……この店主は少し育ち過ぎだな。褐色の肌に金髪も良いがもう少しこう……控え目でささやかな乳の方が……

 

 性格も少し好みから外れるが、これはこれで良いな。

 

 

 ワルドは新ジャンル「褐色の美少女」属性を得た……

 

 

 変態度が10上がった。

 

 ロリコン度が8上がった。

 

 理性が3下がった。

 

 世間体が3下がった。

 

 

 称号「髭の幼女愛好家」を得た!

 

 

 

……さて続きだ……

 

 

 

 2人は公園のベンチに並んで座っている……麗らかな日差しを浴びて美少女とランチ!肉マンはキティに奢られてしまった。

 

「そうだ!飲み物を買ってこよう。何が良いかな?」

 

「ん?飲み物か……しかし、ここには変わった飲み物しか無いぞ」

 

「変わった?どんな?」

 

「そこの自動の販売機に有るだろ。今日はハシバミ茶か……どうする?」

 

「それにしようか……それで、どうやって買うんだい?」

 

「ああ、そこのコイン投入口に……」

 

 

 

……自動の販売機……

 

 

 

 つまりは無人販売所と言う訳か。相変わらずツアイツ殿の発想は凄いな……

 きっと商売でも政界でも成功すると言うのは、こんな発想が必要なのだろう。

 コレだけの能力を持ちながら魔法戦闘の指導もして欲しいとは……欲張りすぎですぞ。

 

 

 

……さて続きだ……

 

 

 

 先ずは肉マンにカブりつく。成る程、中に挽肉を味付けして、包み込む様に蒸したパンか……旨い!

 一つ目を三口で食べてしまう。

 

 じっと僕の様子を伺っていたキティが、下から覗き込むように顔を近づけて「旨いだろ?」ニコッと、笑顔で問いかけてきた。

 

 くっ……このチシャ猫の様な笑顔のアップは堪らないです、ツアイツ先生。

 

「そうだね。最初は紳士淑女が手掴みで外で食べるなんて!と、思ったがこれはこれで新鮮だし旨い」

 

「そうか」

 

 と嬉しそうに言いながらキティも、足をブラブラさせながら両手で肉マンを持ち、一生懸命はむはむとパクついている。

 

 

 

……嗚呼、癒される……

 

 

 

 この小動物の様な彼女をお持ち帰りしたい。そう言えばツアイツ殿は、この少女にはモデルがいると言っていたな。

 今度、紹介して欲しいのだが……

 

 

 

……さて続きを読むぞ……

 

 

 

 二つ目を食べ終えて、喉が渇いたのでハシバミ茶を飲んでみた。

 

「独特の苦味が有るが後味は悪くない……生でしか食べた事が無かったけどイケるね」

 

 キティも二つ目を食べ終え、恐る恐ると言った感じでハシバミ茶に口を付ける。

 

「実は学院の飲み物は当り外れが有るので、ワル先生が飲むまで待ってたんだ」

 

 ペロリと舌を出しながら白状するキティは、本当に小悪魔の様な魅力に溢れている。 そして視線が、僕の手の3つ目の肉マンを凝視する。

 

「食べる?」

 

 何も言わず、僕の食べた部分をパクりと齧り「エヘヘ」と嬉しそうに微笑む笑顔が……

 

 

 

「ヒィヒィヒィ……」

 

 本日何回目か分からない、ローリング悶えを敢行したワルドは呼吸が妖しくなっている……

 5分ほど深呼吸をして、何とか平常心を取り戻す……

 

 

 

……さっさて続きだ……

 

 

 

 

「さて、そろそろ私の部屋に行くぞ……」

 

 美少女の部屋に訪ねる……この胸のトキメキとは、どう表現したら良いのだろうか?

 またキティと手を繋ぎながら歩いていく……結構な時間を歩いているがキティは疲れないのだろうか?

 

「キティ……疲れないかい?」

 

「ん?大丈夫だぞ」

 

 そうは言っても貴族の令嬢が、そんなに体力が有る訳がない。キティを持ち上げて左腕を胸の前に持っていき其処に座らせる。

 

「こっコラ……ワル先生」

 

 安定が悪いのか僕の首に両手で抱え込むように抱きついたキティが文句を言う。

 

「はいはい、お姫様。どちらに向かえば宜しいですか?」

 

「ん……もぅ、ではあの森の中に向かってくれ」

 

 キティを抱っこしながら歩く事10分……人気の無い森の一本道を進んで行く。

 

「本当にこんな山奥に部屋が有るのかい?」

 

「もう直ぐだよ……ほら見えてきた」

 

 道の先に目をやるとログハウスが見えてきた……結構大きい!

 

 

 入口の扉の前でバッと飛び降りると「いらっしゃいませ。ワル先生」とスカートの両端を掴み優雅に一礼してくれた。

 

 

「お招き有難う。リトルレディ」

 

 此方も帽子を脱ぎ、胸の前に持っていき一礼する。

 

「さぁ入ってくれ。なに私しか居ないから気を使わなくてよいぞ」

 

 何気ない台詞の中から、極上のロリっ子と森の中の一軒屋で2人きりだと意識してしまった。

 今夜は2人きりで、このログハウスで過ごすのか……僕の理性は持つだろうか?

 

「ワル先生疲れたか?先にお風呂に入ってくれ。準備は出来ている」

 

「えっ?いや僕は寝る前で平気だ……キティこそ疲れただろ?」

 

「いや私は後で良い。ワル先生に覗かれそうだから……」

 

 言ってしまってから気付いたのだろう。真っ赤になって俯いてしまった。

 

「いや僕は、絶対覗かないったら覗かない!」

 

「そうか……では先に入る」

 

 心なしか残念そうな響きを残して、キティはバスルームに向かっていった。

 

 こっこここここの先のバスルームで美少女がにゅにゅにゅ入浴を……

 

 

 

……バックショットで体を洗うキティの挿絵!……

 

 

 

 ソレを見たワルドが鼻血を噴出し卒倒した!

 

 ドクドクと鼻血を出しながら横たわり、ブツブツと何かを呟いているワルド……

 

 危うい程に危険な状態……彼の命の灯火は確実に少なくなっている。

 

 しかし、ここには医者を呼んでくれる人も居ない。

 

 頑張れワルド!

 

 立ち上がれワルド!

 

 出血死まであと1.2リットルだ!

 

 



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第69話から第71話

第69話

 

 

 アルヴィーズの食堂。

 

 まだ何時ものメンバーは来ていない、1人食卓で考える。何か見落としや、考え違いは無いだろうか?

 アンリエッタ姫とウェールズ皇太子の婚姻は、トリステイン参戦の鍵だ!

 しかし、既に女生徒に広まっているからには、学院の外に……彼女達の家族たる貴族連中に広がったと思って、間違いない。

 すなわち、マザリーニやリッシュモンも何れはアンリエッタ姫の気持ちが伝わる……

 

 善悪を別にして、彼らがノーアクションの訳は無いだろう。

 

 リッシュモンは売国奴だから同然反対だろうし。レコンキスタとしては、アルビオンとトリステインは、各個撃破が理想だ。

 

 マザリーニは……

 

 あの苦労人の考えは分からない。アルビオンの反乱が始まれば、加勢するか見限ってゲルマニアと繋がりを持とうとするか……

 それは、アルビオンの頑張り次第だな。優勢なら、勝てる見込み有りと思えば加勢する。

 敗戦濃厚なら、ゲルマニアにアンリエッタ姫を差し出す位はするな。

 彼はトリステインの為を思ってるから、王族個人の感情など考慮しない。

 

 元々、王族の婚姻なんで政略的な行事だ!自由恋愛など無い。それが、王族の義務だろう……

 

 その辺の覚悟が、イザベラ姫は凄かった!

 

 見習って欲しいものだ。今朝は生徒達に囲まれず、オールドオスマンや教師陣と談笑するアンリエッタ姫を見る。

 呑気だよな、この姫は。兎に角、ワルド殿と相談が必要だ。手紙を届けるのは誰なのか?時期や内容も確認したい。

 

 しかし……

 

 真摯な気持ちで綴った手紙だったとしたら?本当に、そこまで外道な事をしなければならないのかな?

 現代と違い、ポストに投函すればハイ終わり!って訳にいかないから、それなりの人物が届けなければならない。

 

 多分、銃士隊かワルド殿か……

 

 学院の生徒をけしかけるしか、彼女の駒は居ないのだから。罪悪感を覚えながら、しかし今更何をと思い気を引き締める。

 最初に決めた方針が、一番被害が少ないのだから……

 何でもかんでも、助けられるなんて傲慢な考えは、平和呆けした現代人の感覚が残ってるのかな?

 すっかり冷えてしまった朝食を食べると、一旦私室に戻る。

 

 

 私室にて………

 

 

 ワルド殿、ソフィアそしてシェフィールドさんが、食後の紅茶を飲んで寛いでいる。

 ワルド殿は、ナチュラルに本体が入り浸ってる事は……もう諦めた。

 そして毒を吐くシェフィールドさんと、拗ねるワルド殿。間に挟まれてワタワタするソフィア…… 

 僕には、現実に大切にしなければならない仲間が居るじゃないか。どちらが優先なんて分かり切った事だ!

 

 ソフィアは、僕を見つけると、今朝は彼女の手料理を食べなかった事を残念そうにしていた。

 しかし、週2は学院で用意された食事をする。周りが色々五月蠅いし、今日の様な情報も入るから……

 

「いきなりですが、相談です……」

 

「これは、ツアイツ殿。夕べはお疲れ様でした。あのカステルモールと言う人物は中々の漢!きっとツアイツ殿のお役に立ちますよ」

 

「ツアイツ様。イザベラ姫も、まぁガリアの事を考えてますし許容しましょう義理の娘として……あら?彼女はツアイツ様の姪になるのかしら?」

 

「貴方達は……何を話し合っていたのですか?」

 

「「昨夜の会合の反省点とかですわ(よ)」」

 

「こほん……それは、コッチに置いておいて。アンリエッタ姫が、アルビオンのウェールズ皇太子宛てに手紙を出すそうです。

しかし恋文だが、内容が怪しい。僕達の計画に支障をきたすかも知れません……」

 

 ワルド殿が、神妙な顔で考えている。良かった。この顔の時は、有能な時だ。

 

「それは、何故知ったのですか?」

 

「いや、今アルヴィーズの食堂はその話題で持ち切りですから……」

 

 僕は朝に盗み聞きした、女生徒達の会話の内容を思い出しながら話す。

 

「なる程、アンリエッタ姫に取り入りたい連中が煩くなりますな。しかし、今そんな手紙を出すとなると問題ですね」

 

「我らのプランでも、アンリエッタ姫をアルビオンに嫁がせる予定だったけど……反乱が始まる前だと、レコンキスタの動きがどうなるか?」

 

 ワルド殿は、難しい顔をして……

 

「アルビオンは今は平穏です。この時期に婚姻話が出るとなると……

2人は王位継承権のトップですから、下手をするとトリステインがアルビオンに併合されると思われますな」

 

「我らがプランでは、アンリエッタ姫はアルビオンの危機を救う聖女だが……今の段階では、トリステイン王国を売るって事と思われる」

 

「始祖の血を引く3王家の中でトリステインは最弱ですから、力関係を考えても妥当です。だから、アルビオンの危機迄は待たないとタイミングが悪いですな」

 

 同じ行動でも、アルビオンが危機にならないと対等以上の婚姻にはならないよね。

 

「アンリエッタ姫が、先走った行動を取るとマズいですね……」

 

 ワルド殿と2人、頭を抱えて打開策を考える。

 隣では、すっかり仲良くなったシェフィールドさんとソフィアが、僕のマトモな著書を見ながら、ジョゼフとシェフィールドの愛の記憶操作の内容を煮詰めている……

 2人共、恋する乙女の表情だし邪魔をすると怖いので、放っておく。

 

 ワルド殿も、そんなシェフィールドさんにヤレヤレな感じだが、見守っている。意外と我々って良いチームかもしれない。

 さて、もう少しワルド殿と話を詰めようかな!

 

「ワルド殿、それでどうしますか?……ワルド殿?」

 

「ツアイツ殿、実は最近タバサ殿がそよそよしいのです……昨夜も余り話も出来ず、折角学院に来ていても接点を取れていない」

 

 ……ワルド殿。さっきまでの有能な顔でなく、情け無い顔になってますよ。

 

「なので、彼女を誘いたいのですが……次の虚無の日に。そしてコレが手紙です。渡して下さい」

 

「……ワルド殿。多分、僕がコレをミス・タバサに渡すと、色んな意味で誤解を生じる筈。

いえ、生じます間違いなく。これは、ソフィアに渡して貰って下さい」

 

「なる程、確かに……手紙とは、恋文とは大変な物なのですね。どうしました?ツアイツ殿、しゃがみこんで?」

 

僕らは今、アンリエッタ姫の恋文で悩んでたのに、何でワルド殿の恋文でも悩まなければならないのでしょうか?

 

「……いえ。何処も春だなぁ、と」

 

「……?もう初夏ですよツアイツ殿。平気ですか?」

 

 最近、シリアスが続かない気がする。

 

「では、ワルド殿の手紙はソフィアがミス・タバサに渡す。アンリエッタ姫の手紙はワルド殿が探す。これで、良いですね?」

 

「ええ……構いません。ツアイツ殿、お疲れなら今日は休まれた方が良いですよ」

 

「……暫くは大人しくしてますから」

 

 ワルド殿は、居住まいを正して……

 

「さて、そろそろアンリエッタ姫のお守りに戻ります。手紙の件は、それとなく探りをいれましょう。では!」

 

 そう言ってワルド殿は部屋を出て行った。そして、気がつけば既に遅刻……今日は、体調不良で自主休講にしよう。

 

 

第70話

 

 

 アルビオン王国

 

 王都ロンディニウムで、まことしやかに言われている噂話が有る。

 アルビオン北方から、美乳派なる教義を広めようと貴族に接触を始めた司教。

 アルビオンは現王及び皇太子が巨乳派であり、強硬派で有る事から衝突は免れないだろう……

 

 しかし、最近になり「全ての乳の元に集え!」と言うハンパない思想を持った2人の教祖を擁する第三の教義、貧巨乳派連合が現れた。

 

 三つ巴の性乱かと思われた。しかし、アルビオントップが推し進めている、半強制な巨乳派。

 どうにも曖昧で、美乳派と謳っても金と宗教色の絶えない2派閥に対しあらゆるジャンルの教典を多数提供する貧巨乳派連合の賛同者は増えていた。

 

 その理由の一つは、個人の性癖をクリティカルに攻める「男の浪漫本」のジャンルの広さ。

 伝え聞く、二大教祖の押し付けがましく無い人柄。何よりも、乳に対する熱意の違いが明らかだ!

 

 今までトップが巨乳派で有り、貧乳愛好家達は上辺はそれに習い貧乳趣味本など皆無だったし、大きさを別にシュチュエーションで攻める恋愛感など驚愕物語だ!

 この「男の浪漫本」は、1人の教祖が全てを書いているらしい……

 自らの性癖を押し付ける訳でもなく、全ての変態と言う紳士達に、これら男の夢と浪漫を提供し続ける人物……

 この人物の噂こそが、王都ロンディニウムで今一番の話題だ!

 

 多種多様に、しかも一定量が確実に出回る「男の浪漫本」だが、トリステインとゲルマニアからの販路が有り、著者を追求すると入荷ストップの為に、この噂が広まり続けている。

 

 もう一つの黒い噂……

 

 主に北方の貴族達の間で噂される。美乳派に接触を持たれると、何故か正確に己が性癖のジャンルの「男の浪漫本」が一冊贈られるらしい。

 しかも手紙が同封されていて「乳を愛する漢達よ!乳で争うべからず。大いなる乳の元に集え!」ただ、それだけなのだが、贈られた相手は贈り主の度量に心酔してしまう。

 

 しかも、定期的にこの贈り物は届くらしい。

 

 アルビオンの貴族で、おのれが性癖に自負を持つ漢達にとって……

 いや、貴族以外の全ての乳愛好家にとっても、この「男の浪漫本」を手に入れられる者ならば。

 著者に対して、どの様な人物なのか興味が尽きなかった。

 

 可能ならば、彼の元に集いたい。

 

 その教義を直接、教えて欲しい。

 

 お互いに夢を語り合いたい。そんな、都市伝説の様な噂話だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ブリミル教会の一室で、金と酒に浸りながら思いを巡らす。彼は、言いようの無い不安を感じていた。

 

 美乳派への貴族の取り込み……

 

 最初の食い付きは、まずまずなのだが、暫くするとイマイチな反応をされる。

 取り込めたのは余り有能で無く、乳に対する拘りよりも金に執着する連中ばかりだ。

 

 それなりに有能で、性癖も乳大好きな奴らは、何故か打倒王家を匂わすと「乳を争いの道具に使うな!大いなる乳の元に集え!」と、同じ台詞を言って去ってしまう。

 

 何故だ?

 

 何故なんだ?

 

 貴族など、精力と虚栄心の塊のゲスな人種なくせに、乳を語る時の純粋な目は……あの目は危険だ。

 ブリミル教でも敬虔な、そして盲信している信者の目だ……

 

 「大いなる乳の元に集え」

 

 誰かが、我々以外に乳で信仰を集めようとしている奴らが居る。これは、早急に対策を練らねば……私が、このオリヴァークロムウェルが!

 偉大な美乳派教祖たる、私の野望に障害が出るだろう。

 

 彼はワインを瓶から直接煽って飲み干すと「誰か?誰か居ないのか?早急に調べたい事が有るのだ!」と、金で繋ぎ止めている信者達に調査をさせる為に騒ぎ出した!

 

 レコンキスタの野望は、おっぱいを争いの道具にしようとした事で、僅かだが確実にヒビが入ってきた……

 

 

 

 アルビオン王国

 

 

 ハヴィランド宮殿

 

 ウェールズ皇太子は、私室にて机の上に有る、二冊の本を前に悩んでいた。最近噂の「男の浪漫本」の二冊だ。

 噂は聞いていた。しかし、実在するとは思ってなかった。調べさせたら、直ぐに手元に届いたこの二冊の本。

 

 彼は、この本を読んでから悩んでいた……

 

「おっぱいジョッキー」そして「はなまる幼稚園」著者は共に同じ人物だ。

 

 普通なら、一冊は王家の献上品としては中々の逸品だ。美しい巨乳を持つレディが、乗馬技術を競い合う。

 少し変わってはいるが、面白かった。

 

 しかし……この作品を書きながら、何故この様な幼女趣味な発禁指定間違い無い本まで書けるのだ。

 これを父上に渡すのは……同時に渡す事は危険だ!しかし片方づつ渡すとなると、悩む。

 

 何故だ!

 

 何故、巨乳物語だけ書いてはくれぬのだ。

 

 これでは、父上に報告出来ないではないか……ウェールズ皇太子は、この本の著者を調べ、出来れば接触したいと考えた。

 

「誰か居るか?早急に調べたい事が有るんだ!」

 

 時を同じくして、敵対する各々のトップはツアイツを探る様に指示を出す!

 

 真面目に本名で名前を出したツアイツは……アホだったのだろうか?三つ巴の戦いどころか、直ぐに双方からロックオンされた!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アルビオン王国潜伏中の彼女だが、任務は順調だった。元々、土くれのフーケとして活躍していた彼女だ。

 盗むお宝を調査する替わりに性癖を調べワルドに報告。彼がそのジャンルに会う本を選び贈るだけ。

 

 贈られた相手のその後もチェックし、クロムウェルの美乳派に行きそうなら……根こそぎ財貨を強奪する。

 

 どうせ、クロムウェルからの資金だろう。

 しかし工作資金が何度も貰える訳もなく、金に目が眩み美乳派に入っても貧乏になってしまう。

 強奪した財貨は、ロングビルの物になる。

 

 ツアイツに折半でと申し出たが断られた「危ない橋を渡らせているのに、上前をハネるなんて出来ない」と……

 

 今日も彼女は、貴族の屋敷を荒らし回る!後ろに遍在ワルドを従えて。

 

「あーっはっはー!笑いが止まらないね」

 

 彼女は終始ご満悦だった。

 

 遍在ワルドは、シェフィールドといいロングビルといい何故、同行する女性がアレなのだ!と、悩んでいた。

 

 

第71話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 久し振りにこの挨拶で、話がスタートしました。

 現在、ギトー先生の風サイコーな授業を受けながら考え事をしています。

 昨夜、父上から届いた梟便の手紙について……アルビオン王国で展開している作戦について、初めての経過報告が来ました。

 こちらも、イザベラ姫との会合の結果を報告。彼女は協力的で有り、情報は流してくれる事。

 竜騎士団長は、貧乳派なので父上と話が合いそうだし、騎士団員達も協力的な事。

 

 そして父上からの手紙には……

 

 先ず、良い報告です。アルビオンに流している「男の浪漫本」ですが、順調です。

 そして、順調故に間者が何人か、ウチとツェルプストー辺境伯の所で発見、捕縛したとの事。

 悪い報告ですが……間者ですが、レコンキスタだけでなく、アルビオン王家の関係者も居ました。

 そう言えば、本名で書いてるし調べれば直ぐに分かるから当たり前でしたね。

 何れこの学院に居ても、接触は有るな。なので、トリステインに構えた屋敷は引き払う事にしました。

 

 巨乳メイドズは、ハーナウ領に引き上げ。

 

 管理はヴァリエール公爵にお願いし、傭兵さんのみ駐屯して貰ってます。

 彼らも不要と言えば不要ですが、少しでも敵の注意が向けば儲けもの。

 人質としての価値は無いし、最悪攻められても適当に相手をして逃げろ!と、言い含めてます。

 

 アルビオン王家に目を付けられた……

 

 それは、「男の浪漫本」の中で、貧乳部門が発禁コードに引っ掛かったか、単純に巨乳部門に食い付いたか?

 どちらも、一波乱有りますね。しかし、著書が流れただけなので、どうこうされる問題ではないかな。

 でも、貧乳部門について発禁処分となり著書に責任を追求する……なんて、可能性は低いけれども、この世界の男達は性癖に対して厳しいから。

 ジェームズ一世や、ウェールズ皇太子の考え次第だと思う。

 これは、アンリエッタ姫経由で接触を図った方が良いかもしれません。

 

 アンリエッタ姫に接触するには……

 

 ルイズか、エレオノール様が良いかな。巨乳関係でルイズ。先の演劇関係でエレオノール様……

 

 学院か?アカデミーか?エレオノール様の方が、安全かつ確実だね。

 

 よし!エレオノール様に手紙を送って段取りをして貰おうかな……等と考えていたら、既にお昼です!

 ちゃんと授業を聞いていないので、卒業出来るか不安になります。

 

 

 

 アルヴィーズの食堂にて……

 

 

 

 今回の食卓は、モテナイーズに囲まれています。

 彼らの目的は、女生徒達から漏れ聞いた、アンリエッタ姫がウェールズ皇太子狙いは本当か?ですね。僕に聞かれても答え辛いんですが……

 最近、シャツの露出とフリルが激しくなったギーシュがしつこいです!

 

「なぁツアイツ?女生徒達の噂のアレ……君は聞いてるかい?」

 

「トリステイン貴族を差し置いて、アルビオンの皇太子狙いってこの国の立場はどうなるのかな?」

 

 ギーシュの問に、レイナールが疑問をぶつけてきた。確かに、トリステインの次期王女が、アルビオンに輿入れしたいなんて……

 じゃあトリステインはアルビオンの属国化?とも思われるわな。流石は眼鏡君だ!

 

「確かに、アンリエッタ姫はウェールズ皇太子にお熱みたいだね。でも婚姻は今の立場では無理でしょ?」

 

「でも、アンリエッタ姫本人が言ってるぜ?」

 

 ギムリ……脳筋の癖に、騙されないか。

 

「正直に言えば、アンリエッタ姫が暴走してると思う。ただ、ウェールズ皇太子と結ばれたいだけで、他の影響を考えていない。

でも、君らが知ってるなら当然マザリーニ枢機卿も知っている筈だから……」

 

「彼らがとめる……か」

 

「……うん」

 

 アンリエッタ姫、早く状況を知らせてこちらに引き込まないと駄目だ……非常に嫌だけど、このまま独走させると先が読めないから。

 男ばかりの昼食会は、重たい雰囲気で終わった。

 楽しんでいたのは、食欲の減った周りから料理を貰ったマリコルヌ位か……癒やしが、マリコルヌは嫌です。

 

 そして、トリステイン国内が妖しい噂で持ち切りになった頃に、エレオノール様から連絡が有り、遂にアンリエッタ姫との会合がセッティング出来ました。

 場所はアカデミーにて、メンバーは、僕とエレオノール様。シェフィールドさんはお留守番。

 

 本人は、マジックアイテムで会合の様子は見れるし、僕が危険になれば乱入するから安心して欲しい、と。全然安心出来ません。

 先方は、アンリエッタ姫にワルド殿、そしてアニエス隊長率いる銃士隊のメンバーです。

 

 グリフォン隊の連中はお忍びの為に参加はしないそうです。

 ワルド殿の情報では、アニエス隊長が並々ならぬ情熱で会合の参加を希望したが、アンリエッタ姫に止められたそうだ……

 ただの会合では、絶対すまなそうです。それぞれの思惑の入り乱れた会合が幕を開ける!

 

 

 

 トリステイン王国アカデミー内、エレオノールラボ!

 

 

 王族を待たせる訳にはいかないので、結構前に僕がアカデミーに向かう。出迎えてくれたエレオノール様は凄く不機嫌だ!

 

「お久し振りです、エレオノール様……あの、不機嫌そうなんですが?」

 

 黙って応接室に通され、向かい合って座ったのだが……沈黙が痛いです。

 

「ツアイツ殿……お母様から聞きました。ルイズとの婚約を希望したとか?お似合いね……若・い・し・ね!」

 

 えーと、自分より先に妹が結婚って嫌なのかな?嫌なんだろうな……

 

「はい。その、ルイズとは幼少の頃に、既に婚約者でしたから……それに、カリーヌ様から嫁にやるのは、ルイズだけと言われましたし」

 

 エレオノール様は、クワッと目を見開いて「私では、不満だと?」って低い声で言われた。

 

「いえ、でもエレオノール様と結ばれるには、僕がハーナウ家と縁を切らねばなりませんから」

 

「…………」

 

「…………そうね。私は、ヴァリエール家を継がねばならないわね。ごめんなさいね」

 

「いえ、僕の方こそ姉と慕う貴女に気を使わせてすみません」

 

「…………姉、なのね」

 

「…………はい」

 

「私は、家の為なら貴方に嫁いでも良かったわよ。こんないき遅れじゃ嫌かもしれないけどね」

 

 そう寂しそうに笑い掛けられた……その儚い微笑みは僕の心を随分と抉ったけど。

 それから僕らは、アンリエッタ姫がアカデミーに到着するまで無言だった。

 この別れ話を切り出している男女の様な、重たい雰囲気は……正直辛かったです。

 自惚れでなければ、エレオノール様は僕と結婚しても良いと考えていたのかな?

 

 まさかね。手の掛かる弟みたいな僕が、いきなり妹と婚約した事が気に入らなかったんだろうな。

 表情の無い彼女の顔からは、何も読み取れなかった……

 



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第72話から第74話

第72話

 

 トリステイン王宮の廊下にて……

 

 ワルドに喰って掛かるアニエスがいた。

 

「ワルド殿、危険だ!アンリエッタ姫をあの男と引き合わせるのは!」

 

 アニエスは真剣だ。愛しのアンリエッタ姫に、あの様な変態を合わせるなんて……

 

「しつこいですな。アニエス隊長、これはアンリエッタ姫が望まれた事。我らは、姫の安全を確保する事が任務ですぞ」

 

「しかし……あの男は危険なのです!」

 

 ワルドはため息をつきながら「では、姫の意向を無視して取り止めるのですな?貴殿が、アンリエッタ姫に説明出来るのか?」アニエスは黙り込んだ。

 

 何故か、アンリエッタ姫はあの変態に絶大な信頼を寄せている。覚悟と決意を教えてくれたと……

 

「……何か有れば、責任を取れるのですか?」

 

 投げやりに言ってしまった言葉に「何も無い様にするのが、我々の仕事では有りませんか?」そう言われては、何も言い返せない。

 アンリエッタ姫もそうだが、ワルド殿も彼に甘い気がする……アニエスは言いようの無い不安を抱えていた。

 

 そして当日!

 

 ユニコーンに引かれた王家専用の馬車は、周りを銃士隊に囲まれてアカデミーまでやって来た。

 馬車の両脇には、アニエス隊長とワルド隊長。今日の表向きな理由は、ツアイツから贈られた演劇の脚本について。技術的に上演が可能か?の検討だ。

 

「真夏の夜の夢」は、精霊王の夫婦喧嘩など大掛かりな魔法効果が必要な場面が多い。上演するなら、色々と準備が必要だった。

 

「久し振りのアカデミー訪問ですわ。前回は私が至らない事が多く、皆さんに迷惑を掛けてしまいましたから……」

 

 アンリエッタは、誰に言うで無く前回の感想を吐露しながら応接室へ歩いて行く。後ろに従うのは、両隊長だ!

 

「ワルド隊長は共に中へ、アニエス隊長は外で警備をお願いします」

 

 何故か、アンリエッタ姫はワルドに対して過剰な信頼を寄せていた……

 

「アンリエッタ姫、危険では?」

 

 最後まで、ツアイツ危険論を唱えるが、聞き入れられなかった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 別れ話を切り出した後の様な沈黙も、やっと来たアンリエッタ姫によって終わりを告げた!

 こんなに、貴女を待ち望んだのは初めてですよ!取り敢えずは、演劇の話を進める。

 一段落付いて、出されたお茶を入れ替えて貰ってから話を切り出す。

 

「アンリエッタ姫。恋文は書き上がりましたか?」

 

 突然の質問に、一瞬ビクッとしたが既に想定内なのか落ち着いている。

 

「やはりツアイツ殿は、私の師ですわ!もう私の恋文の件をご存知なんて」

 

 アンリエッタ姫が、なにやら感動と尊敬の目を向けている……正直、貴女と関わり合いになりなくないし、貴女の師でもありません!

 

「学院の女生徒達が騒いでますよ。内容は詳しく分からないみたいですが……」

 

 アンリエッタ姫は、王家の血を引く優雅でカリスマを含んだ笑顔を僕に向ける。しかし、先日逢ったイザベラ姫より王族としては見劣りするね。

 

「素敵な内容にするつもりですわ」

 

 嗚呼……花を背負った笑顔だ!普通なら感激だろう……原作と同じかカマを掛けてみようかな。

 

「アンリエッタ姫……ウェールズ皇太子と始祖に愛を誓う内容でしょうか?」

 

 アンリエッタ姫が、息を呑む……図星か。厄介だな……

 

「流石ですね。私の考えでは、既成事実を全面に出して周りを埋めようと思いました」

 

「アンリエッタ姫……なんて腹黒い。そして参考になるわ」

 

 黙って聞いていたエレオノール様が、ブツブツと危険な方向に……何故その様な狩人の眼差しを僕に向けるのですか?

 先程、解決しましたよね?僕達の関係は……

 

 気を取り直して、アンリエッタ姫を説得する。

 

「アンリエッタ姫……敢えて言わせて下さい。ダメダメです!

恋愛とは、高度な駆け引きも重要です。しかし相手からの愛が一番大切なのです!」

 

 アンリエッタ姫は、僕の話に食い付いて来た!ここは、エレオノール様も合わせて一気に行く。

 

「アンリエッタ姫の努力は認めます。既にバストサイズは1センチは大きくなりましたね。

これなら、巨乳大好きウェールズ皇太子の気持ちの殆どは頂きでしょう。しかし……今の時期に、その内容の手紙は駄目です」

 

 アンリエッタ姫とエレオノール様が、僕のでっち上げな恋愛観に聞き入る。

 

「好意的な相手が、その様な腹黒い一面を匂わせては駄目です。喰われた後なら、どうにでもなりますが未だ駄目です」

 

「しかし……座して待つより行動では有りませんか?」

 

 僕は、出された紅茶を飲んで一息入れて、違う話題を振る。

 

「時に、アルビオン国内で不穏な空気が漂っています。ご存知ですか?」

 

 2人は無言で首を振る。

 

「まだ、公では有りませんが……レコンキスタと言う反乱分子です」

 

 彼女達は、一様に驚いて僕が何故その情報を掴んだかを問い質す。

 

「僕は、いえ僕の教団で、このハルケギニアで起こっているオッパイの情報で知らない事はないのです。

 彼らは、折角アンリエッタ姫が努力し巨乳化してウェールズ皇太子と結ばれる事を邪魔する教義を推し進めています……」

 

 アンリエッタ姫は、ウェールズ皇太子とラブラブする為の謀略の相談が、まさかアルビオン内乱の危険を!

 自分の努力が無になる可能性が有る事に、言葉が出ない。

 

「彼らレコンキスタは、巨乳派たる王家を打倒し、自分達の都合の良い国を作ろうとしています……」

 

「そう!美乳派なる彼らは、折角巨乳化したアンリエッタ姫の努力を無にし、ウェールズ皇太子の性癖を変える可能性が有るのです」

 

「なっなんて卑劣な……」

 

 彼女は、自分の未来予想図を壊そうとしているレコンキスタに悪意を抱いた!

 

 良し!掴みはオッケーだ。

 

「しかし、貴女の好きになったウェールズ皇太子も中々の人物。簡単には洗脳……そう!洗脳されないでしょう」

 

「ウェールズ様……」

 

 アンリエッタ姫は、己が思い人が誉められて満更でも無い表情だ!

 

「此処で、話を戻します。レコンキスタは、まだ勢力は小さい。これを報告しウェールズ皇太子への愛を表す行動も良いでしょう。

しかし、彼らは巧妙だ!直ぐに潜伏し次に行動を起こす時は、手に負えないかもしれない……」

 

「しかし、危険を知って黙っているのは裏切りでは?」

 

 アンリエッタ姫は、すっかり恋する乙女の顔だ。反対に、エレオノール様は……ちょっと怖い顔です!

 アレは、私は聞いてないわよ?って拗ねる手前かな。

 

「良いですか?反乱は防ぎ切れないでしょう。ならば、なるべくコントロール出来る状況で起こさせるべきです」

 

「「……………」」

 

 最早、聞くだけの2人。

 

「そこで、貴女の愛が問われます。アンリエッタ姫……貴女は、ウェールズ皇太子の為にトリステインを巻き込む覚悟が有りますか?」

 

 アンリエッタ姫は、目を瞑りじっと考え込んでいた。

 

 そして、静かに目を開くと決意の籠もった目で僕を見て「元より覚悟は出来ています。この国を巻き込んでも、私はウェールズ様と添い遂げたい」国をも犠牲にしてまで、愛欲に走る女……

 

 一番輝き、一番手に負えない女が此処に居た!

 

「良い覚悟です。僕も巨乳派教祖として、彼らを許せない。アンリエッタ姫、手を組みましょう」

 

 僕は、ソファーから立ち上がり彼女を握手を求めた!アンリエッタ姫は、迷う事なく僕の手を握り返した!

 

 ここに、トリステイン側からは「稀代の謀略王女」アルビオン側からは「防国の聖女」と言われるアンリエッタ姫が誕生した瞬間だった!

 

 

 

第73話

 

 

 アカデミーの応接室!

 

 ここで、これからのハルケギニアの未来を決める悪巧みが進行していた。

 アンリエッタ姫は、怒涛の展開にイマイチ理解が怪しかったが、ツアイツの話に乗ればウェールズ皇太子と結ばれる事を本能で理解していた。

 エレオノールは、ツアイツの悪巧みを聞いて一時は怒りを感じた。

 しかし、彼が悪意が有ってアンリエッタ姫を……このトリステイン王国を巻き込むつもりが無い事は、信じていた。

 

 後でしっかりO・HA・NA・SHIするつもりだが、今はこの話の内容を把握する事に努める。

 何だかんだと、ツアイツの事を信頼し、自分が何か手伝えるかを探す為に……

 

「話を進めますね」

 

 あれから、紅茶を入れ替えて貰い一旦休憩してから謀を再開する。

 

「アルビオンの内乱は決定事項です。そして、これは我々だけの秘密……良いですね」

 

 アンリエッタ姫は頷いて先を促す。

 

「多分、アルビオン北部から反乱の狼煙は上がります。そして国を二分する戦いは熾烈を極めるでしょう。しかし、アルビオンの腐敗貴族はこれでハッキリとしますね」

 

「つまり、国の膿は全て敵になるのですね?」

 

 僕は頷いて肯定する。

 

「そして、状況は拮抗するでしょう。この辺は、僕らも協力しますから……」

 

「そして、この拮抗した状況を打破するのが……アンリエッタ姫の愛です!」

 

「私の愛が、アルビオンをウェールズ様を救うのですか?」

 

「そう!この状況でこそ、貴女の愛が唯一正当にアルビオンとトリステインに伝わります。今、貴女がウェールズ皇太子に愛を囁けば……」

 

「囁けば?」

 

「トリステイン貴族達は、アンリエッタ姫が国を差し出して愛を手に入れようと思いますね。つまり属国化です」

 

「そんな……」

 

「残念ながら、始祖の血を引く王家の最弱はトリステインです。しかもトップは空位。

そんな状況で、王位継承権一位の貴女がアルビオンに輿入れ。この国は割れ、貴女は売国の姫の烙印を押される」

 

 アンリエッタ姫は、この結末は想像してなかったのだろう……真っ青な顔になりソファーに深く座り込んでしまった。

 

「アンリエッタ姫……状況が違えば、貴女は防国の聖女にもなれて、ウェールズ皇太子の愛も手に入りますよ……」

 

 ここで、突き落とした後に悪魔の囁きをする。

 

 売国の姫から防国の聖女……ウェールズ皇太子の愛。ツアイツの謀は最高潮に達した!

 

「レコンキスタとアルビオンの戦いが拮抗した時に、貴女が無償の愛を持ってアルビオンに協力を申し出るのです」

 

「……それと恋文が関係するのですか?」

 

 アンリエッタ姫は、イマイチ理解が追い付かない。それはエレオノール様も同じようだけど……

 

「事実等はどうでも良く、このタイミングで貴女とウェールズ皇太子が始祖に愛を誓った(と、貴女が捏造した)手紙の存在が広まる。

アルビオンにとって、トリステインの助力が欲しい。しかし、面子等が邪魔して言い出し辛い。そこで、覚えは無いけどその様な手紙の存在を知れ渡れば……」

 

「これを信じ(ようとし)たジェームス一世は、ウェールズ皇太子との婚姻を進めようとしますね。向こうから、お願いしてでも……つまり立場は此方が上で」

 

 エレオノール様が、正解に近い回答をする。実際は、滅亡か婚姻か!まで、追い込んでからこの話を持って行くつもりだけど。

 

「そうです!アンリエッタ姫が、自らがウェールズ皇太子の愛の為に、アルビオンの国民の為に、高貴な始祖の血を引く王家を救う為に、愛する人を助ける為に、アルビオンに援軍を自ら指揮して送るのです!」

 

「それは……私が、愛を掴む為に!」

 

 良し!駄目押しをもう一つ!

 

「この国にも、レコンキスタに取り込まれた裏切り者が居ます。彼らは反対するでしょう!しかし、反対する連中(リッシュモン達)こそ裏切り者なのです。

そして賛同する貴族は貴女の味方(ヴァリエール、ド・モンモランシ、多分グラモン)です。

貴女が彼らを処罰し、この国をトリステインを正し、そしてアルビオンをも救う……どうです?」

 

「私、やります!両国を救ってみせますわ!」

 

 アンリエッタ姫は、僕の両手を握り締めて騒ぎ出した。そのはしゃぎっぷりは、外まで聞こえてしまった。

 

 バタンっと扉が力強く開けられアニエス隊長が飛び出してきた。

 

「姫様、ご無事ですか?きっ貴様ぁー姫様から離れろ!変態が移るわー!」

 

 アニエス隊長が、応接室に乱入し抜刀して僕に切りかかって来た……

 が、ワルド殿が剣杖で彼女の剣を払い、速攻転移してきたシェフィールドさんがアニエス隊長の首を掴んで取り押さえた。

 本来は、所属する姫の方を守らねばならぬワルド殿。王族の会話を盗み聞きして、魔法で乱入したシェフィールドさん。

 逆上して、アンリエッタ姫を危険に晒したアニエス隊長。

 

 そして、咄嗟に反応出来なかった僕とエレオノール様……

 

 この緊張感を壊したのは、いえ更に緊張感を引き上げたのはシェフィールドさんだった。

 

「女、ツアイツ様に剣を向けたな……言い訳も理由も今は聞かないわ。だって、これから拷問して聞き出してから殺す」

 

 壮絶な笑み……これが、黒衣の魔女たる彼女の本来の姿。こんなシェフィールドさんは嫌だ!

 

 そして僕の方を振り向き、一転して穏やかな笑みを浮かべ「怪我は有りませんね?すみませんでした。驚かせてしまって……この女は処理しておきますから安心して下さい」そう言うと、アニエス隊長を引き摺って転移しようと……

 

「ちょちょっと待ってー!凄く助かったけど、彼女は単にアンリエッタ姫を守りたいだけだっから、ね?」

 

 シェフィールドさんの手を握り、彼女の目を見て懇願する。人が苦労しているのに、当のアニエス隊長は恍惚の表情をしている。

 

 何か「お姉様、素敵……」とか聞こえているのは、気のせいと思いたい。

 

 シェフィールドさんは、ヤレヤレ的な表情でアニエス隊長を離すと「女、次は無いわよ。私もツアイツ様と出会ってから随分丸くなったわね……」と呟くと、颯爽と転移していった。

 

 まるで台風の様な、そして良いトコ取りな彼女……何故、恍惚の表情なんだアンタ?ワルド殿が、アニエス隊長の腕を掴み、取り敢えず外へ出した。

 

「「……ツアイツ殿。今の女性は?」」

 

 アンリエッタ姫とエレオノール様が、再起動して聞いてきたが……

 

「……僕の護衛です。とある人から派遣して貰ってます。そして、派遣してくれた人の寵妃(予定)です」

 

 それしか言えなかった。流石に、ガリア王の腹心で彼を填めようと共に暗躍してます!は、言えませんし。

 

 こうして、最後はグダグダだったが、アンリエッタ姫と足並みを揃える事は出来た。

 そして報告では、アニエス隊長はガチレズだが、お姉様属性のSの筈が、M要素も有りと分かった。

 なんで、トリステイン関係の女性達は面倒臭いのだろうか……

 

 僕も疲れて帰りたいのだが、アンリエッタ姫を送り出した後で、エレオノール様に捕まった。

 アンリエッタ姫みたいには騙せないって事だ。そして一連の事件を彼女にだけは、直接話してなかったのを思い出した。

 

 そう、カトレア様の件も含めて……

 

 

 

第74話

 

 

 アンリエッタ姫を見送る。

 

 怒涛の展開で、最後は腹心の筈の銃士隊の隊長が乱入するなど、普通では考えられない展開だったが……

 何事も無かった様に、アンリエッタ姫の馬車を両脇から護衛している隊長ズ……

 それと、何か企んでいてそれが成功した時の顔のツアイツ。

 

 絶対何か企んでいる……危険と分かれば、関係者にも黙って処理する。極力巻き込まない。この子は、そういう子だ。

 

 多分、先日知らされたガリア絡みなのだろう……お母様からの手紙では、カトレアの治療の目処もたったらしい。勿論ツアイツが、だ。

 今まで私達が散々苦労して探し回っても駄目だった事を何の対価もなく、ポンと提示したらしい。

 

 条件は有ったが、無いに等しい物だ。ルイズと婚約してしまったが、危なかった。

 カトレアの病気が治れば、次女だし他国の貴族に送り込む事は可能だ。

 

 少々年は食ってるが、カトレアの怖さはあのホワホワしてるけど、押しが強く勘が良い事だ。

 ヴァリエール家の血筋を顔しか受け継いでない、性格と乳は誰に似たのか分からない三姉妹最強の乳を持つ女……

 しかも、今まで男性との接点も少なく超箱入り娘だし、自分を救ってくれた男に尽くせと言われても断らないだろう。

 ルイズよりも、手強いのがカトレアだ。

 

 知らない内に「あらあら、まあまあ」とか言って、関係を結んでしまうかも知れない……

 

 それはさて置き「ツアイツ殿……ちゃんとお話をして貰いますよ?」彼の首根っこを掴んで、再度ラボに入る。

 

 納得する迄、話し合わないといけないわね。今夜は帰さないから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 豪華な馬車の中、アンリエッタはソファーに埋もれながら先程の話を吟味する……流石は我が心の師。

 まだ二回しかお話していませんが、会う度に人生を変えさせられる……

 

 前回は、決意と覚悟を!

 

 今回は、我が婚姻について……しかも両国の膿を出す事まで視野に入れている。

 

 凄いわ!そこに痺れるし、憧れてしまう。謀略では、ウチの王宮雀など足元にも及ばないのではないでしょうか。

 しかし、私の考えの甘さには本当に嫌になるわ。

 同じ事をするにしても、時期を誤るだけで、こんなに差がでるなんて……

 ミスタ・ツアイツには、どんなお礼をすれば良いのかしら?

 

 それと、彼に剣を向けたアニエス隊長……少し、お仕置きが必要ね。

 

 何となく、ワルド隊長も私よりミスタ・ツアイツを優先した様な……それは考え過ぎね。彼の忠誠心を疑ってはいけないわ。

 

 そうだ!恋文の内容も、ミスタ・ツアイツにチェックして貰いましょう。その方が、安心だわ。

 

 ふふふっ!

 

 ウェールズ様以外の殿方の事を考えて楽しくなるなんて初めてね。

 ルイズと結ばれるらしいし……私達と合同結婚式なんてどうかしら?

 これなら、トリステイン、アルビオンそしてゲルマニアの友好に貢献出来ないかしら?

 

 うん。ミスタ・ツアイツには内緒のサプライズになるわね。

 

 これ位しかお礼が出来ないのが、今の私の立場……やはり、もっと発言力を高める事を探さなくては。

 ツアイツが抑えたと思った、アンリエッタ姫の独走癖はパワーアップして彼にリターンされていく……

 

 

 

 

 その脇を馬に乗り護衛しているアニエス隊長は、馬に揺られながら思考に耽る……感情的に、あの変態に切り掛かってしまった。

 あの間合いで止めたワルド隊長の力量も凄いのだが、この私を良い様にしてくれた……あの、黒衣のお姉様は何方なのだろう?

 

 あの怜悧な瞳に、全身から漲る殺気。嗚呼……どうにかなって、しまいそうだ。

 

 あのお方のお名前は何というのかしら?あの変態との関係は?部下?まさか恋人?いやいや、そんな事は無いだろう。てか、それは嫌だ。

 

 

 

 アカデミー見送り組

 

 

 王宮組が帰る中、ツアイツの首根っこを掴んで引き摺っていく。

 今度は私専用のラボに通して、先程よりも小さめの応接セットのソファーに座らせる。

 

「ツアイツ殿……貴方の事ですからアンリエッタ姫に話した事が全てでは無い事は分かってます。さぁキリキリと話しなさい」

 

 誤魔化されないように、真剣な表情で問う。貴方は、私達を裏切らない……それは信じている。

 ツェルプストー辺境伯やお父様に話した事と同じ内容で有ろう事を話してくれた。

 まさかガリアのジョゼフ王のナニが、アレでこの事件を引き起こしたなんて……流石に、淑女だから粗チン云々と罵らなかったけど。

 彼もその件では、何故か周囲を警戒していたわ。

 

 シェフィールドとか言う女が乱入するとか何とか……彼女は、絶対何処かで聞いてるらしい。彼のプライバシーって……深く、本当に深く溜め息をついた。

 

「貴方という人は……確かにそれなら上手く行く確率は高いわ。ド・モンモランシとグラモンの取り込みの目処も有るのね。」

 

 彼は、黙って頷く。

 

「ド・モンモランシの娘を誑かして、実家を建て直して嫁にするのね?」

 

 ルイズ以外に既に女を作ってるなんて、何で私にコナを掛けないのよ?何かムカムカするわ……

 

「えーと……怒ってます?」

 

「ええ、かなり怒ってます!」

 

「しかし、かの家の協力は必要ですかr」

 

「お黙り!今夜は飲むわよ。付き合いなさい」

 

 さて、部屋で呑むか外に繰り出すか……どうしましょう?先ずは、トリスタニアのレストランで豪華に2人きりで夕食。

 その後、アカデミーに送って貰い、私の部屋で飲み明かしましょう。彼の計画には、全面的に協力するわ。

 

 でもね。アンリエッタ姫の恩人となり、トリステインに貢献するって事は、アルビオンの危機を救うって事も合わせるとね……

 

 貴方は、トリステインとアルビオンを救った英雄になるのよ。しかも、計画が成功した時の、アンリエッタ姫の影響力は絶大になっている。

 彼女が、イエスと言えばね……言わせるけどね。始祖の血を引く私達を娶ろうとも文句は出ないのよ?

 

 何処からも、文句は言わせないわ。今回の件で、貴方の見返りが殆どないのは、余りにも可哀想だから……仕方ないから、私もご褒美に付けてあげる。

 家督は元気になった、カトレアにあげるから平気ね。

 

 さてと、今夜は美味しいお酒が呑めるかしら!

 



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第75話から第77話

第75話

 

 ここに、風を極めし2人の変態紳士が、心の主たるツアイツの役に立つ事は何かと悩んでいた。

 先日、知り合ったトリステイン王国の魔法衛士隊グリフォン隊隊長と言う、要職に就きながらもゲルマニア貴族のソウルブラザーと懇意にしている彼。

 

 正直羨ましい!

 

 彼の自由さと思い切りの良さが。その同志ワルドから、連絡が有った。

 アルビオンの糞野郎共が、ソウルブラザーにちょっかいを掛けてきているとの事だ。

 話に聞く、レコンキスタとアルビオン王家の間者か……流石にアルビオン王家側を処理する事は問題が有る。

 しかし、レコンキスタ側は容赦はしない。ソウルブラザーには、この様な汚れ仕事を教える必要は無い。

 彼の創作意欲に影響が出ては、全ての乳愛好家達から責められてしまうし、何より自分を許せないだろう。

 だから、我ら風の紳士がその任にあたる。人知れず、処理をする為に……

 

 そして、我が遍在を同志ワルドの元に送り込んだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 トリステイン魔法学院の外壁周り。

 

 何だ?何なんだ、この学院は?今回の任務は、正直舐めていた。たかが、小国の学生を拉致るか殺すかするだけの簡単な任務。

 最初は順調だった。トリステイン王国に潜入する事も、何も問題は無かった。

 

 そして、魔法学院の塀を飛び越えた瞬間に……鋭い殺気を感じ、身を捩らねばそれだけで死んでしまう威力の風の魔法が俺を襲った。

 たまらず塀の外側に転げ落ちる、受け身も出来ず呻いてしまう。

 腐っても、貴族の子弟が集まる魔法学院。それなりの人員が配置されていたのか。

 しかし、逃走には自信が有ったのだが、その隙さえも与えてくれなかった。

 

 相手は1人。それも塀の内側に居るのかと思った。転げ落ちた後に体勢を立て直して逃走を図ろうとする。

 しかし、突然の衝撃に四肢が痺れ、そのまま崩れ大地に顔を付けた……視界の隅に杖を構えた男が映る。

 

 嗚呼……トドメを刺されるのか。ゆっくりと意識が遠退いていく。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何処の誰だか知らないけれど、双子の月だけが知っている黒マントのダンディー2人が、たった今捕縛した間者を見下ろしている。

 

「今回はどっちかな?」

 

「さぁ?どちらにしても、只ではすまないけどね」

 

「彼女の尋問に、耐える事が出来れば助かるかもな」

 

「アルビオン王家側なら、素っ裸で王宮に届けるそうだぞ」

 

「レコンキスタ側なら、そのまま何処かに消えるらしいな……」

 

「全く、我らがソウルブラザーも恐ろしい女を御しているものだ」

 

「……全くな」

 

「さぁ学院の連中に気付かれる前に処理しよう」

 

「ツアイツ殿には、こんな闇は見せてはならんからな」

 

「全く、あの女と良いお主と良い過保護だぞ」

 

「貴様もな」

 

「ふふふっ!まあな」

 

「さぁ運ぶか」

 

 

 何事も無かった様に静けさを取り戻したトリステイン魔法学院。

 ツアイツをどうにかしようとした連中は、彼を慕う有志達の手で闇に葬り去られた。

 片や、送り込んでも音信不通。片や、真っ裸で王宮の前に放置される。

 

 処理された間者の数が20人を超える頃には、どちらも送る余裕は無くなった。

 

 こうして、ツアイツの知らない内に間者騒動は収まった。

 生き延びた間者の報告では、全て黒衣の男2人と女1人の手練れにヤラれたと報告された。

 巨乳教祖には、黒衣の守護者達が居る。手を出すと、確実に痛い目を見る!そんな噂が、アルビオン全土に広がった。

 

 噂をする者達の中には、アレだけの著者なんだし優れた護衛が居るのも当たり前だと認識されていた。

 実際は、ガリアとトリステインの実力トップな連中が自主的に集まったトンデモな集団なのだが……

 

 世界には知らない方が幸せな場合も有る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 日に日に状況は悪くなる。既に、間者として使える者は居ない。

 トリステイン魔法学院に送り込んだ連中は、全て音信不通だ。アルビオン貴族の取り込みは、全体の二割と少しだ。

 既に、美乳派など唱っていたのは遠い昔。金と女と、成功後の要職の空手形で取り込むしか方法は無くなった。

 幸い、あの女からは追加の資金を貰えた。

 

 20万エキュー、これなら金に物を言わせて三割は取り込めるだろう。

 

 傭兵を雇う事も始める。なりふり構わず、聖地の奪還もスローガンに入れた。

 

 私はブリミル教の司教だ。聖地奪還を唱えれば、敬虔な信者を巻き込めるだろう。

 始祖の血を引く王家と言えども、聖職者たる私を殺す事が出来るかな?教皇に問いたださねばならないだろう。

 

 その間に、攻め取ってみせるわ!

 

 私の名前も出してしまったし、後には引けぬのだ。見ていろよ!ハーナウ家の小倅め。

 アルビオンを平らげたら、次は貴様の番だ!

 

 

 

 アルビオン王国ハヴィランド宮殿

 

 

 時を同じくして、ウェールズ皇太子も上がってきた報告書を読んで、深い溜め息をついた。

 国家の諜報機関が手玉に取られた。しかも、殺さずに真っ裸で王宮前に放置とは。

 

 此方の所為だと分かってるんだぞ!と、言われたも同じだ。

 

 しかも、二度とは任務に就けない程の精神的ダメージを与えて……そして彼がやったと言う証拠も残さずに。

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ。

 

 何者なんだ?この私が、プリンス・オブ・ウェールズと呼ばれる私が!何の手立ても打てぬとは。

 仕方ない。彼は今、トリステイン魔法学院に居る。ならば、アンリエッタ姫を頼ろう。

 彼女が私を見る目が、猛禽類の様で余り会いたくない微妙な胸の女性だが……裏で駄目なら表で接触を図るしかない……か。

 

 ウェールズ皇太子は、執務室で溜め息をつきながら、アンリエッタ姫にどう頼むか考えた。

 他国の王女を介し、更に他国の貴族を呼んで問題無く会える方法を……やはり、園遊会等に招待しさり気なく接触する。

 しかし、ゲルマニアのハーナウ家とは、直接の伝手は無い。

 

 共通の知り合いを介するしかないか……

 

 それとも、魔法学院に生徒として適当な部下を送り込む?いやそれはそれで、問題が有るだろう。

 ぐだぐだ悩んでいるが、要はアンリエッタ姫に会いたくないだけだった。

 

 ウェールズ……情けない顔をしてるぞ。

 

 

 

第76話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 今日は久し振りの虚無の日です、日本人的な感覚だと日曜日ですね。

 日頃の感謝を込めて、シェフィールドさんをトリスタニアに誘ってみました。

 

 何故か仲の良くなったソフィアは夕方に合流して、他にもルイズ達も一緒に「魅惑の妖精亭」で夏季休暇前の打ち上げの予定です。

 

 本当なら、ビスチェウェイトレスVSメイド軍団だったのだが、例の件で僕の周りがきな臭くなったので、ハーナウ家に帰しました。

 エーファ達を危険に晒す訳には行かないからね。

 さて、今回の移動方法ですが、マジックアイテムで移転ではなく、前に使った馬ゴーレムに二人乗り。今回は、僕が後ろに座ってます。

 やはり手綱はシェフィールドさんですが、長閑な初夏の日差しを浴びながら、パカパカと走ってます。

 

 この馬ゴーレム、結構乗り心地が良いんです。

 

 シェフィールドさんとの会話は普通に時事ネタが通用します、驚きです!流行の食べ物とか、衣服とか……

 こうしてると、本当に頼りになるお姉ちゃんです。転生前も姉は居なかったので、新鮮な感情です。

 

 神の頭脳!

 

 ミョズニトニルンな彼女の気を引くために、うっかりインテリジェンスソードが有ると言ってしまった……すまん!まだ見ぬ、デルフリンガーよ。

 彼女にプレゼントする予定だし、使い手じゃないけどマジックアイテムの君ならミョズニトニルンの方が、お似合いだよ。

 トリスタニアについて、先ずは気の利いた喫茶店?で喉を潤す。

 

 今日の彼女は、長い黒髪に合わせて、黒のロングドレスを纏っている。

 黒曜石から削りだした様な艶の有る黒髪に、白磁の様な滑らかな白い肌。最近良く見せてくれる、穏やかな微笑み。

 体のラインを強調するドレスは、スタイルに自信がなければお笑いレベルの逸品なのだが……完璧に着こなしている。

 

 ぶっちゃけ、客の視線を独り占めです!

 

 髪の色が違うけど、どう見ても恋人同士ではなく姉弟にしか見えない雰囲気な2人……

 周りの貴族共が、そわそわしだした……馬鹿な貴族に絡まれない内に目的の武器屋へ行く。

 原作を思い出しながら歩いていくと、良くゲームで有る板に剣と盾が描かれた看板を見つけた!

 

 迷わず入る。

 

「いらっしゃい!……貴族様?ウチは真っ当な商いをしておりやす。何かご用ですかい?」

 

 警戒心バリバリな親父が、怪しい敬語?で話し掛けてくる。

 

「ああ……問題を起こすつもりは無いんだ。こちらのレディがマジックアイテムを収集していてね。

ここに、口の悪いインテリジェンスソードが有ると聞いたんだ。見せてくれないかな?」

 

 フレンドリーに話し掛ける。親父は、改めてシェフィールドさんを見て……彼女に微笑みかけられて親父はデレデレだ。

 

「へい!ありやす。しかし、小汚く口の悪い駄剣ですから、お美しい若奥様のお気に召すか……」

 

 言葉は遠慮がちだが、ガサガサと樽の中を漁って、見せる気満々なんだが……

 

「けっ!いい年こいてデレデレするなよ親父!気持ち悪りーんだよ」

 

「五月蝿えな!大人しく行儀よくするんだぞ……若奥様、コレでやす」

 

 そう言って、恭しくシェフィールドさんに、抜き身のデルフリンガーを差し出す。

 

「あら、有難う」

 

 にっこりと微笑んで、親父からデルフリンガーを受け取る。彼女の額のルーンが、僅かに輝き出す。

 

「ネーチャン……神の頭脳か?すると隣の糞餓鬼が虚無の……」

 

 ゴギャ!っと凄い音がしてデルフリンガーの柄の部分を踏みにじるシェフィールドさん。

 

「貴方……ツアイツ様に対して口が悪いわよ。次に生意気な口をきいたら……分かるわよね、始祖の剣なら?」

 

 一転して、しっとりとした美女が凶悪な女王様に豹変した事で、親父がカウンターから飛び出して土下座した!

 

「すいやせん。許して下せえ。ほら、お前も謝れ!」

 

「おっおう!すまねぇ。もう言わないったら言わないぜ」

 

 平謝りな2人?1人と1本?

 

「シェフィールドさんどう?面白そうな剣でしょ?」

 

 シェフィールドさんはデルフリンガーを踏みつける。

 

「ええ、擬態してるけど、面白そうな剣よ。ツアイツ様、コレの本来の姿も知ってるのね?」

 

 グリグリとデルフリンガーを苛めながら、にこやかに質問してくる。

 

「多分だけど、ね。確信が無かったから見て欲しかったんだ。親父、頭を上げてよ。この剣は貰うから……」

 

 そう言って、親父を立たせ200エキューの入った皮袋をカウンターに置く。

 

「おい親父!オレを売るなよな、後生だからよー売らないでー」

 

 親父は金貨を数え終わると「毎度あり!この鞘に入れれば大人しくなりやすから」あっさりデルフリンガーは売られた。

 

「ツアイツ様行きましょう。ほら、さっさと元の姿にお戻り」

 

 デルフリンガーは、刀身を輝かせると見事な剣に変身した。

 

「おどれーた!あの小汚い剣が……」

 

 驚く親父をそのままに、僕らは店を出る。

 

「やはり本物かな?」

 

「そうですね。6000年の重みを感じます。多分ですが、初代ガンダールヴの使用した剣かも知れませんね」

 

「シェフィールドさんの役にたつかな?」

 

 彼女は首を傾げて考えて……

 

「どうかしら?私は剣を振り回す接近戦より、マジックアイテムで広範囲な殲滅戦が本来の戦闘スタイルだから……」

 

 サラッと、ヤバい発言来ました。シェフィールドさん、マジで無双出来るんだ……

 

「そうか……役立たずか、残念だ」

 

 落ち込み気味に言ってしまったら凄い勢いで抱きつかれた。

 

「いえいえ、嬉しいですわ。価値は有る物ですし。何よりツアイツ様からの贈り物ですから大切にしますわ」

 

 にっこりと微笑む抜き身の剣を持つ美女。周りが遠巻きに眺めて、何やらボソボソ話している。

 

 衛士に通報される前に、「魅惑の妖精亭」に行こう!

 

 

 

第77話

 

 

「魅惑の妖精亭」

 

 此処に来るのも久し振りだ。シェフィールドさんを伴い店に入る。

 

「すいませーん。今日は貸切なんで……あら、ツアイツ様いらっしゃいませ。少し早いですよ?」

 

 ジェシカが、笑顔で出迎えてくれる。

 

「まだ、こんにちは!かな?少し早いけど良いかな?」

 

「どうぞ!入って下さい。……あの、貴女はシェフィールドさんですか?ソフィアから聞いてます」

 

 シェフィールドさんは、最近仲の良いソフィアの知り合いで有り、多分僕に対して好意的な彼女が気に入ったのだろう。

 

「宜しくね。ソフィアの友達なのね?お名前は?」

 

 にっこりと微笑みながら手を差し出す。ジェシカはワタワタして、自分の掌をビスチェで拭いてから握手をした。

 

 真っ赤になりながら「じぇジェシカです!ソフィアとは、出身が同じ村で……タルブって言う葡萄の産地の……」んーしっかり者の彼女が、慌てているのは微笑ましいのかな?

 

「ちょっと話が有るので先に奥のテーブルに行って良いかな?」

 

 ジェシカに断って奥のテーブルに座る。シェフィールドさんに確認したい事が有った。

 

「シェフィールドさん。確認したいんだけど……」

 

「何ですか?改まって」

 

「その……虚む……」

 

「どうぞ!まだお酒は早いので、果汁水ですが」

 

 ジェシカが気を利かせてくれて、飲み物と簡単な料理を出してくれた。

 

「……うん。有難う」

 

 ジェシカは、シェフィールドさんを気にしながら……チラチラと盗み見ながら配膳すると、お辞儀してから下がっていった。

 

「シェフィールドさん人気者ですね」

 

「…………?」

 

「気を取り直して……シェフィールドさんは、神の頭脳ミョズニトニルンですよね。だから主のジョゼフ王は、虚無の使い手」

 

 シェフィールドさんは、にこやかに頷く。

 

「王家の血を引く者で魔法が苦手な者は……虚無の可能性が有る。ならば、魔法が失敗で爆発してしまうルイズは……」

 

「トリステインの虚無使いだと?」

 

 言葉を引き継いでくれた、シェフィールドさんに頷く。

 

「ほら、駄剣もお聞き」

 

 デルフリンガーを鞘から少しだけ抜いて話し掛ける。アレ?汚い剣に戻ってる?

 

「デルフリンガー、刀身が汚くなったよ?」

 

「ふん。俺様はガンダールヴが本来の使い手。

さっきはこのネーチャンに脅されて戻っちまったけど、本来は心の震えを感じて真の力を発揮するのよ!あと、長げーからデルフで良いぜ!」

 

 デルフはやはりガンダールヴにしか使えないのか?心の震えが強いと、誰でも使えるのかな……

 

「そんで、この時代の虚無は目覚めてるんだな?」

 

 僕は、シェフィールドさんを見る、黙って彼女は頷いた。

 

「我が主は、ガリアの虚無として目覚めてるわ。あと、トリステインにそう思われる娘が居るわ」

 

「虚無の覚醒と言うか、使える様になるのってどうするのかな?」

 

「さぁ?私が召喚された時は、主は虚無を使いこなしていたから……駄剣、知ってる?」

 

「駄剣はヒデェよネーチャン……いや姉さん」

 

 シェフィールドに一睨みされて大人しくなる。

 

「それで、覚醒の切欠って知ってる?」

 

「んー、何せ6000年も前の記憶だからなー?何だっけかなー?」

 

 本当は知ってるけど、教えてもらった事実が欲しいんだけどな。剣が、うんうんと唸りながら考えている。シュールだ!

 

「話は変わるけど、ブリミルや初代のガンダールヴってどんな人?」

 

「んーもう記憶も擦り切れる昔だからなー。でも使い手の娘っ子は……アイツは、アイツ等は良く喧嘩してたなー確か名前が……」

 

「ああ、先に来てましたか、ツアイツ殿」

 

「お久し振りです。ソウルブラザー!」

 

 肝心な事を聞けそうな時に風の変態コンビが来た……

 

「お久し振りです、カステルモール殿。えーと、本体ですか?」

 

「ええ、本体です。同志ワルドより、無事学業を納め夏期休暇に入られたとお聞きしましたのでお祝いと、明日以降学園外に行かれるそうなので護衛を兼ねて来ました」

 

「しかし、本来の仕事が?」

 

「大丈夫です。私も休暇をイザベラ様より頂きましたので。それに遍在も置いてきました。これが、イザベラ様よりの報告書です。

なにより、この場にジャネットが来て夏期休暇中付きまとう方が良ければ代わりますが……」

 

「イザベラ様の意地悪。分かりました。歓迎します、カステルモール殿」

 

「ツアイツ殿、折角なので、私も同行します。それにタバサ殿にも声を掛けておきました」

 

 何故か、何故だろう?得意気に報告するワルド殿を憎らしいと思うのは……

 

「トリステインの大貴族、ド・モンモランシ領に行くメンバーがコレか……先方に失礼の無い様にして下さい。くれぐれも失礼の無い様に!」

 

「「はっはっは!元より承知していますぞ」」

 

 暫く胃薬とは縁が無かったけど、明日からは必要かもしれない……がっくりと机に突っ伏した!

 シェフィールドさんが、優しく頭を撫でてくれる。お姉ちゃん、僕はへこたれそうです。

 

「安心して下さい。私も同行しますし、我々ならば大抵の貴族が攻めてきても余裕ですわ」

 

「「おう!まさにシェフィールド殿の言う通り。トリステインやアルビオンを敵に廻しても余裕ですな」」

 

 にこやかに笑い合う三人の豪傑達。この時、僕は知らなかった……彼等が既に同盟を組んで、僕を護衛してくれていた事を。

 でも、トリステインとアルビオンは滅ぼすんじゃなくて助けるからー!

 

「おでれーた!兄さん凄いお人なんだな。あんな連中を従えてるなんて!兄さん、実は使い手なんじゃないか?俺を持ってみろよ」

 

 デルフに慰められて、あの有名な「おでれーた!」が聞けるなんて……嬉しくないけど。

 

 試しにデルフを持ってみました「んー不思議な感覚だけど、ちげーな」ダメ出しされました。

 

「おや、何ですか?その汚い剣は……」

 

 ワルド殿が、何気なくデルフを持つ。すると、刀身が鈍く輝き始めた。

 

「なっ何でぃ?この心の震えは……

こっこれは、これから来るロリっ子に今夜こそ勝負を賭ける心の高ぶりと、ヒデー妄想の渦だ!ちくしょう離せ、この変態がぁ!オレをオレ様を汚すんじゃねぇ」

 

 デルフが、微妙に本来っぽい輝きを見せている。一定以上の感情なら、誰でも可能性が有るのか?

 

「てってめぇ!妄想を強化するな。誰だよエターナルロリータって?知らねえよ。そんな情報を送り込むな!やめてー、ペドはイヤー!」

 

 ワルド殿は、すっきり満足したような漢の顔で、デルフをカステルモール殿に渡した。

 

「どうやらこのインテリジェンスソードは、我ら紳士の漢度を測るマジックアイテムらしい。次はカステルモール殿の番だ!見せ付けようぞ!我らが思いを」

 

 デルフは、身の危険を感じて大騒ぎだ!

 

「やめてー!犯されるー!兄さん助けてくれー!」

 

 ごめん。興味が有るからやらせてみたいんだ。それに、妄想なら平成のサブカルチャーを修めた僕も、もう一回最後に試したいから。

 哀れ、伝説の剣も真の変態と言う漢達にとっては、己の漢度を測る道具でしかなかった。

 

「本当に、助けてー!」



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第78話から第80話

第78話

 

 こんばんは、ツアイツです。

 

 現在、魅惑の妖精亭に居ます。夏期休暇を前に、関係者で打ち上げをする為に。

 既に当初メンバーに入っていない、ワルド殿やカステルモール殿も居ます。

 後から、ルイズ、キュルケにモンモランシーとワルド殿に呼ばれたミス・タバサが来る予定。

 皆が集まる迄の暇つぶしで、我らの漢度を図る為にデルフで遊んでいます。

 

 そして次は、カステルモール殿の番です!

 

「いざ、逝かん!」

 

 漢カステルモールが、むんずとデルフを掴む。こちらも、刀身が微妙に光りだした。

 

「おでれーた!コイツも、さっきの変態と同じだ。幼女に劣情してやがる!誰だよエルザって?どう見ても五歳児だしー!いやー、ペドは犯罪だろー」

 

 てか、ちょっと待ってー!エルザって、あのエルザなのか?

 

「ふはははは!エルザ殿は、少し前に任務で出会ったサビエラ村の妖精よ!エルザ殿、お兄ちゃんは頑張るぞー!」

 

 デルフの刀身に妖しい光りが増していく……そして、あのエルザらしかった。

 

 流石だ!カステルモール殿、何時の間に、エターナルロリータに接触したのか?まさか、咬まれてないですよね?

 

「いやー!さっきの変態より、もっとヤバい!妄想が更にヒデーよ」

 

「ふはははは!これが、エルザ殿との未来予想図よ!」

 

 デルフを握り締める手に力をいれて、最後の妄想を叩き込むカステルモール殿。

 

「もう……もう無理。オレっちは汚されちまったよ……えぐえぐ、もう殺してくれ……」

 

 己が妄想を叩き込み終えたカステルモール殿は満足気だ!

 

「どうだ、デルフよ!ワルド殿と、どちらが上なのだ?」

 

「そうだぞ、デルフよ!カステルモール殿と、どちらが上なのだ?」

 

 妄想を終えた、賢者タイムの2人に詰め寄られ、剣なのに涙が見える程、落ち込んだデルフに追い討ちをする。

 

「「勝負がつかねば、第2ラウンドに逝くのみ!」」

 

「イヤー!危険度は後の奴だからー!もうやめてー」

 

 デルフ堕つ……カステルモール殿は勝ち誇った顔で「これで勝負は1勝1負の五分ですな」とワルド殿の肩をバンバン叩いている。

 ワルド殿も「流石はカステルモール殿だ!」と、彼を讃えている。

 

 己がライバルの力量を確認しあえたからか、熱い握手を交わしている。何て迷惑な2人だ……

 

「えぐえぐ……汚された……もう綺麗な体には戻れない……オレっちは汚されちまったよ」

 

 咽び泣くデルフを優しく持ち上げる。

 

「デルフ……ご苦労様。次は僕だよ」

 

 デルフを握り直すと、正眼に構える。見よ!平成のサブカルチャーを納めし我が妄想を……先程はダメだったが、今回はじんわりと刀身が輝きだした!

 

「おでれーた!兄さん、さっきよりも心が震えてるぜ!こっこれは……この性癖は普通だ!普通におっぱい大好きな波動を感じて……

いや、普通じゃねー!何だ、このおっぱいに対するスゲー思い入れは」

 

 僕の握り締めたデルフから、先程の2人よりも明らかに強い光りを刀身が放つ!

 

「おでれーた!おでれーたよ!何なんだ、この妄想は!ロリやペドじゃない。

普通の範囲に収まらないが、心の底から安心して湧き上がる激情は!俺はノーマルで正しい!正しかったんだー!」

 

 更に、妄想を込める!

 

「嫌じゃないけどイヤー!こんな感覚を覚えちまったら、男になんて触られたくねー!ビバおっぱい!」

 

 完全に本来の姿を表したデルフ。しかも、乳の素晴らしさに感じ入ったのか、ご機嫌な様子。

 

「流石は兄さんだ!あの変態野郎共の薄汚い妄想を吹き飛ばす、素晴らしさたぜ。今なら声を大にして言えるぜ。ビバおっぱい!」

 

 僕は、デルフを右手に持ち替え天に突き上げる!

 

「「流石ですな!ツアイツ殿は、一味も二味も違いますな!」」

 

 拍手をしてくれる2人。ここに、3人の漢達の妄想が終わりデルフに安息が戻った!勝者はツアイツ!

 先の2人の時代の先端を走り過ぎた妄想より、古来より男性諸君に安らぎを与える大いなるおっぱいが勝ったのだ!

 

「お前らもう俺に触るな!兄さんか、女性にしか触られたくねーぞ」

 

 そして、後に性剣デルフリンガーと讃えられたツアイツの愛剣が生まれ……あれ?

 

「デルフ……正当な使い手を探さなくて良いの?」

 

「兄さん、もう兄さん以外の男に触られるなんてゴメンっすよ。そして出来れば、巨乳な剣士に使われてーっす。激しい体捌きで、揺れるおっぱいを眺めたい!」

 

 ……サイトすまん。ヒロインどころか、相棒まで奪ってしまったよ。しかも、すっかりインテリジェンスエロソードだ!

 

「あら、女性なら良いのね?」

 

 ずっと見守っていた、シェフィールドさんが最後にデルフを掴む。

 

「嗚呼……姉さん、立派な双子山ですね!……姉さん?その妄想は何なんですかい?いや、相手はそんな青髭と?すげー甘酸っぱいっすね。

えっ、兄さんが混じってますけど?3P?うわぁ……おでれーた!でもこれは、これで有りですぜ!いやぁ……ご馳走様でした、姉さん!」

 

 不吉な台詞も聞こえだが、にっこりと鞘に入れてデルフを返してくれたシェフィールドさんには、何も言えなかった。

 貴女の中で、僕は義弟ではなかったのですか?その慈愛に満ちた微笑みに邪な物は無いですよね?

 

「どうしました?ツアイツ様、私をじっと見つめて?」

 

「……いえ。信じてます、信じてますからシェフィールドさん」

 

「…………?ええ、私は貴方を裏切りませんわよ」

 

 シェフィールドさんの表情には、邪なエロさは無い。良かった。僕の勘違いか……そうだよね。

 ジョゼフ王狙いなんだから、僕の事は弟みたいな物だよね。

 

 デルフめ!

 

 疑わしい台詞を吐きやがって、後でワルド殿とカステルモール殿に持たせてやるからな。

 アルビオンより高く反省しろ!さて、そろそろ他の連中も来る筈だ。

 女性陣が集まるから、シモネタ騒ぎはこれでお終いにしないとね!

 

 

 

第79話

 

 chaos カオス かおす?

 

 こんばんは、ツアイツです。

 

 今は「魅惑の妖精亭」にて大宴会中です。これほど無礼講って宴会も珍しい位に盛り上がってます!

 

 参加メンバーは……

 

 まず貴族組がゲルマニア組は、僕とキュルケ。トリステイン組は、ルイズとモンモランシーにワルド殿。

 ガリア組が、カステルモール殿とシェフィールドさん?にミス・タバサ

 

 平民組がタルブ村から、ソフィアにジェシカに筋肉オカマ……それとビスチェウェイトレスさん達で、お送りしてます。

 それぞれが、少人数で纏まり話に華を咲かせております。

 

 見渡して……

 

 先ずは珍しい、シェフィールドさんとソフィア、ジェシカです。

 今夜のシェフィールドさんはグラマラスなスレンダーラインの黒のドレス姿!

 ジェシカは淡いブルーのビスチェでソフィアは白を基調としたセーラー服。

 全く纏まりの無いメンバーですが、シェフィールドさんを左右から挟む様にタルブチームが攻めてます。

 シェフィールドさんも満更では無さそう。

 

 会話の内容は……

 

「シェフィールドさんは、そのジョゼフさんと結ばれる為にツアイツ様と頑張られているのですねー!」

 

「だぁーいじょーぶ!ツアイツ様なら、何とでもしれくれまーす!」

 

 珍しい絡み酒、美少女2人に曖昧な笑みで答えているシェフィールドさん。

 てかジェシカが、接客業の彼女が、あんなに絡むなんて初めて見た。

 

「「シェフィールドさん聞いてますか?」」

 

「はいはい。聞いてますよ」

 

「「それでですねー」」

 

 2人とも、しっかり者だしお姉ちゃん的な存在が嬉しいのかもね。……少し放っておいてあげよう。

 

 次はミス・タバサ。

 

 淡い黄緑のショートラインのキュート系ドレスだ!

 髪の毛の色とマッチして、清楚な美少女なんだが……凄い勢いで料理を食べていると言うか、呑み込んでいる。

 食べ物の容積と胃袋の容積に差が有りすぎるんだけど……魔法か?魔法なのか?

 ワルド殿とカステルモール殿が、脇で競う様に取り皿に料理をよそっては渡すと言う、ある意味凄い不思議な空間だ!

 2人とも、ロリコンだし貧乳的な美少女の存在が嬉しいのだろう。

 こちらも少し放っておく。

 

 そして、さっきまで僕を囲んでいたルイズとモンモランシーだが……

 

 ルイズも同じくビンクのショートラインのドレス。こちらはマーメードタイプだ!

 モンモランシーは薄い紫のロングトルソーのドレス。2人とも胸を強調するデザイン!

 そして今は、他のビスチェウェイトレスさん達に囲まれて巨乳化指導をしている。

 実際に体験し成功した彼女達のお話は、大変貴重なんだろうね。

 

 巨乳化を望んでいる女性達の邪魔をする事は出来ない。気の済む迄、話を聞かせてあげて下さい。

 

 キュルケ!そう、キュルケどこー?

 

 彼女は……居た!スカロン店長と、しっとりと大人の会話をしている。

 途中途切れ途切れに「トレビアーン!」とか雄叫びが聞こえたり、お姉言葉が炸裂したりと……

 視覚的にはキツい物が有るが、話だけ聞けば大変大人な恋愛についての会話です。

 

 んー割り込み辛い。

 

 因みに、スカロン店長は何時もの魔法のビスチェをピチピチに着込んでいる。

 キュルケは、燃えるような真紅をベースに黒のアクセントを入れたタイトなドレスだ!

 

 そして僕の周りには……「「「「「ソウルブラザー!お招き有難う御座います!」」」」」何故か、ガリアの精鋭竜騎士団員が10名程居ます。

 

 しかも貴族的普段着で、ちょっと見には、ガリア出身とは分からない格好で!

 

「呼んでないからー!貴方達、国や仕事は平気なんですか?」

 

「はい!我ら7名は元から休暇申請をしておりました」

 

「我らは、風の魔法を極めし者!つまり遍在がお留守番です」

 

「「「それに我が竜騎士団は総勢100名いますから、常に一割は交代で休んでますし、簡単にはバレませんぜ!」」」

 

 バレたら国際問題だろー!

 

「イザベラ様に許可は貰いましたか?」

 

「ツンデレ様は喜んで送り出してくれました!」

 

「ソウルブラザーに宜しくと!」

 

「なんなら帰ってくるな!ってツンツンでしたよ」

 

 イザベラ様……普通に応援を送り出してくれたのか、面白いから押し付けたのか。判断に困りますよ。

 僕の中の貴女の評価は……急降下中ですよ。

 

「「「それに竜騎士団会議で決めましたから!我らもソウルブラザーの手伝いをすると!」」」

 

 そうか……イザベラ様との会合の時に、詳細を聞いていたのか。何だろう……嬉しい筈なのに、嬉しくないのは?

 

「まさか、貴方達もド・モンモランシ領に?」

 

 皆、気持ちの良い笑顔で胸を叩きながら……

 

「「「お供しますぜ!相棒も連れてきてますから送迎は任せて下さい!」」」

 

「戦争しに行くんじゃないんですよ!分かってますか?復興の手伝いですからね」

 

「はっはっは!ソウルブラザーは心配性ですな」

 

「我らとて、ガリアのエリートですぜ!」

 

「当然理解してやす!水の精霊をぶっ飛ばすんですよね?」

 

「流石は、ゴッドツアイツ!スケールが違うぜー!」

 

バンバンバン!机を思いっきり叩く!

 

「ちがーう!水の精霊と交渉するんだよ。てか、何でそんな事まで知ってるのさ?」

 

 机を叩いて吠えたよ僕は!

 

「大体の事は、同志ワルドから隊長が聞いて、それを我らが教えて貰いました」

 

 情報がだだ漏れだ……身内にユダが居やがる!

 

「話は変わりますが……やはり、「二人は従姉妹姫」の執筆は駄目なんでしょうか?」

 

「最近、イザベラ様と七号殿を見ると……妙にベタベタと抱きついてますぜ!」

 

「妖しいと思うんですよ」

 

 お前ら、ツンデレ派か?それともクーデレ派か?

 

「それは正式にイザベラ様に申し込んだが、断られました。

貴方達が、今でも普通に彼女の私室をナチュラルに覗くのに、そんな本を読まれたら貞操の危機だから、と……」

 

「「「……誰ですかね?そんな不敬を働く奴らは?」」」

 

 何故、目を逸らすかな?君らだね?

 

「まぁイザベラ様をモデルにツンデレ少女の物語は考えています!」

 

「「「おおっ!」」」

 

 まぁド・モンモランシー領の復興には、父上の許可を得て家臣団を送り込む予定だから……彼らが増えても問題無いかな。

 実際に復興は家臣団に丸投げだし、僕がするのは水の精霊との交渉と、ド・モンモランシ伯爵の丸め込めだから……

 こうして、モンモランシーの実家に向かう第一陣は、そうそうたるメンバーになりそうだ……

 

 バタンっと扉が開いて男達が雪崩れ込んできた。

 

「「「ツアイツ殿!お待たせしました。我らグリフォン隊の有志隊もお供します」」」

 

「ってお前らもかー!あんた等の隊長達は可笑しいんじゃないのかー?」

 

 がっくしと膝を付く。もしかして、既に僕の手を離れてるんじゃないのか?この作戦は……

 

「兄さん……辛い時は泣いていいんだぜ?」

 

 デルフに慰められるなんて……確か僕って、チートな能力を得た転生主人公じゃなかったかな?

 

 

 

第80話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 昨夜はかなり盛り上がりました。

 シェフィールドさんに絡んでいたソフィアとジェシカは、適当な所でマジックアイテムで寝かせたらしく、帰りに起こしました。

 ガリアの竜騎士団とトリステインのグリフォン隊の連中は意気投合して、二次会にとグリフォン隊の宿舎に繰り出して行きました。

 隊長ズは、何やら揉めだしていましたが、シェフィールドさんが拳骨で黙らせました……

 

 あの後、ワルド殿が気が付いたのです!エルザが、エターナルロリータである事を……

 

 そして、会わせろ嫌だに発展し、僕に詰め寄りシェフィールドさんに叱られた。しかし、彼女がモデルで有る事は正直に話しました。

 本人の秘密を(吸血鬼)知っているが、直接面識も無いしどうこうするつもりも無いと……

 

 後は彼等の物語!どうする?隊長ズ!

 

 彼女を口説き落とすのは、色んな意味で大変だよ。

 そして、他の女の話題で盛り上がるワルド殿を見てミス・タバサが気を悪くしてないか探して見れば……

 お腹をパンパンに膨らませてソファーに寝っ転がるオヤジ臭いミス・タバサ……全然周りを気にしていません。

 

 多分だけど「お腹いっぱいだからもう寝る」とか言って寝てしまったんだろう。

 

 大人2人掛かりで、沢山食べさせたからね。しかし、出会った当初より随分警戒心が緩んでないかな?

 ルイズ、キュルケそしてモンモランシーは、結局スカロン店長とビスチェウェイトレス達を巻き込んでの大恋バナ話を展開。

 意外とウェイトレスの皆さんが、恋愛下手だと判明。中々意中のお客さんと進展しないとか。

 

 1人だけ、裕福な商人の跡継ぎを落とした娘さんがいましたが、現在は付き合い始めたばかりの初々しさが……正直、惚気話を御馳走様でした!

 

 僕は、結局ファンと作家の集いで終わり。

 多分ハルケギニアでは初めてだろう色紙に、サインと簡単なスケッチで好みのキャラを書いて全員に渡しました!

 貰った端から、厳重な固定化をかけ捲ってたのが、魔法の世界なんだと実感したり……こうしてカオスな宴会は幕を閉じた。

 

 明日の朝に、町外れで合流する約束をして解散しました。

 僕は、眠りこけた学院組の皆を馬車に乗せ、のんびり隣をシェフィールドさん謹製の馬ゴーレムに二人乗りをして、護衛しながらついて行く……

 2人共、殆どお酒は呑んでいない。

 

「どうでした?随分とソフィアとジェシカに懐かれていましたね」

 

 シェフィールドさんは、珍しい苦笑いの表情だ。

 

「とても楽しかったですわ。ガリアでは、私と親しくしたい人なんて居ませんでしたから……」

 

 そして寂しそうな表情をして「こんな、普通の幸せも良いものですね」と言ってくれた。

 

「僕達はもう仲間じゃないですか。ずっと普通に、この関係は続きますよ」

 

「そうですね……でも私の本性を知れば、皆離れて行きます」

 

 顔は見れないのだが、悲しそうな声……

 

「そんな事は無いです!そんな事を気にするのは、仲間とは言わないです。僕等は貴女を裏切らない。そして貴女も僕等を裏切らない。

それで良いじゃないですか……お姉ちゃん」

 

 思わず言ってしまってから、クサい台詞に赤面して真っ赤になってしまった。

 

「ふふふっ!そうですね。出来の良い弟を持つお姉ちゃんは、幸せ者ね……」

 

 シェフィールドさんは、そう言って後ろから抱きしめてくれた。双子の月が、僕らを照らす。

 

 小さな声で、シェフィールドさんが「……ありがとう」と、言ってくれた。

 

 また、守る者が増えてしまったと感じた……守るなんておこがましい位に、戦闘力では差が開いているのにどうにも守りたい。

 しっかり者で強力な伝説の使い魔だけど、脆い一面が有るのを知ってしまったから……あの狂った髭親父には、勿体無いお姉ちゃんだよね。

 しかし、早くジョゼフ王とラブラブとなり、家族と言う物を教えてあげたい。

 

 トラウマが解消したら、序に超強力媚薬も打ち込んでやる。とっとと、赤ちゃんを仕込ませよう。

 

 旦那が出来て、子供も授かればシェフィールドさんももっと幸せになれる!

 先ずは、邪魔するレコンキスタをどうにかするぞ。決意も新たに、これからの作戦を進める事にする。

 しかし、この時は僕も、少し酔っていたのかも知れません。

 

 僕の決意表明が、多分「また守る……」の辺りから独り言の様に言ってしまったらしい……

 

 暫く後に、シェフィールドさんから「まだ、我が主との子供は早いと思います……」とか、真っ赤になって言われた時には、こっちも真っ赤になってしまった。

 空気が読める?デルフは空気の様に静かだったな。

 

 

 

 

 気を取り直して、今日からは夏期休暇です。そう言えば、学院の舞踊会には二回共に出れなかったなぁ……

 まぁ華やかに社交ダンスとか苦手だけどね。

 当初の予定通りにルイズ達と、モンモランシーの実家に訪ねる事になっています。

 予定以外の強力な灰汁の有るメンバーが増えて大所帯での訪問になるけどね。

 

 流石に他国の貴族が、しかも娘の友達とは言え男性も混じって居る為に、事前に連絡はして有りましたが……

 こんなに増えて平気かな?とも、思いますが今更帰れ!と言って、言う事を聞くような連中でもないので諦めました。

 モンモランシーも参加メンバーを聞いて驚いてました。

 

 当たり前ですよね。ガリアの竜騎士団長以下竜騎士団10人、トリステインのグリフォン隊隊長以下隊員6人僕に、シェフィールドさん。

 

 このメンバーなら、ド・モンモランシ家と真っ向勝負しても余裕で勝てるメンバーでは?警戒されなければ、良いんだけどね?

 いきなり娘が、男を連れて帰ってくる。

 しかも、エライ連中を引き連れて……父親なら悶死しますよ?僕が父親だったら……何としてでも叩き出すかな、無理だけど。

 

 朝飯を終えて部屋で寛いでいるのですが、視界の隅で荷造りをしている女性陣が気になってます。

 

「ソフィア……僕の荷物にしては、多くないかな?シェフィールドさんの分を足しても多くない?それとも里帰りでもするの?」

 

「「えっ?今日出発ですよね?大丈夫ですか、ツアイツ様?」」

 

 ナチュラルにソフィアも同行させるつもりだよ、この2人。

 

「えーと、聞き返しますが、ド・モンモランシ領に行くのですか?」

 

「ええ。ツアイツ様のお世話を他の方に任せる事なんて出来ませんから」

 

 凄い笑顔です。あの変態連中の同行を許したのに、この穢れない笑顔のソフィアに駄目とは言えない。

 

 僕の夏休みは、波乱含みのスタートとなった。

 



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第81話から第83話

第81話

 

 

 ド・モンモランシ伯爵領

 

 ラグドリアン湖の一角と領地が接しており、ハルケギニア一の景勝地として有名で有り、過去に何回も他国の王族も招いた遊園会が催された土地で有る。

 今でこそ開拓事業に失敗し、水の精霊との交渉役も辞した形になってしまったが、伯爵本人も家臣団もそれなりに有能な人物だ。

 

 ド・モンモランシ伯爵は怒り狂っていた!

 

 娘に害虫が付いた、苦労して育て、トリステイン魔法学院に送った娘から……会わせたい男性が居る。と、手紙が来たのだ。

 何でも相手は、ゲルマニアからの留学生で有り、あのヴァリエール公爵家と懇意にしてるらしい。

 かの家と、ゲルマニアのツェルプストー辺境伯家との経緯は聞いている、暫定だが融和政策を実施し貿易で黒字を出しているらしい。

 

 そして三姉妹の1人を嫁がせるようだ。

 

 その相手と、中心的役割を果たしたのがハーナウ家の次期当主。つまりツアイツ・フォン・ハーナウ本人だ!

 

 忌々しい……

 

 儂は、ヴァリエールの阿保たれの様には騙されないぞ。向こうの娘達は、いき遅れの長女、病弱な次女。そして魔法が使えない三女と、どれも問題児だ。

 押し付けるのと訳が違うのだよ、ウチの娘は!

 

 何処に出しても恥ずかしくない、出来の良い子なのだ。むざむざと嫁にはやらん!

 腐っても伯爵家、この日の為に領内から選りすぐりの使い手を集めた。のこのこと来てみろ!叩き出してやる。

 

「旦那様、配置は完了です。あと奥様がお呼びです」

 

 古参の家臣から声を掛けられ我にかえる……

 

「すまんな。興奮してしまった。妻が呼んでいるとは……アイツは娘に甘いからな。モンモランシーの味方をしそうで危ないぞ」

 

 呆れた顔で家臣から「この日の為に、領内中から腕の立つ家臣団をお呼びになった旦那様よりですか?」苦笑しながら諌められた……

 

 子供の頃から仕えている彼には頭が上がらない。見渡せば、この日の為に選りすぐりの強者達が苦笑いして列んでいる。

 

 総勢10名の全てトライアングルの使い手達だ!

 

 皆、領地にて盗賊や亜人討伐担当の武闘派連中。武門ではないが、我が家の中では最強の連中よ!

 

「さぁ来いツアイツ!このワシが、このワシの家臣団が叩き出してやるわー!」

 

 高笑いを始めた、ド・モンモランシ伯爵!

 

「旦那様……そろそろ奥様の元へ行きましょう。大分待たせてますよ」

 

「……そうだな。行くか」

 

 威勢の良い、ド・モンモランシ伯爵も妻には頭が上がらなかった……

 

 妻の待つ庭に設えたテーブルセットに向かう、彼女は優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「何だ?ワシは忙しいのだぞ!」

 

 妻は落ち着いている。

 

「あなた、落ち着いて下さい。自分の娘が選んだ相手が信じられないのですか?」

 

 何を呑気に言っているのだ!

 

「ああ、信じられん。眉唾な誇大妄想に近い調査報告だそ!」

 

「私も、女としての情報網で調べてみました。実際に学院に通っている娘を持つ親達に……調書は全て本当みたいですよ」

 

「あんな報告書がか?学院の一年生に君臨しているとか、我が国の魔法衛士隊隊長と仲が良いとか……

演劇の名作を何本も書く傍らに、男の浪漫本なる怪しい本を手掛ける文豪。

女性の悩みを解決するバストアッパー!学院の二年生を粉砕したとか……出るわ出るわ、怪しい物ばかりが!」

 

 はぁはぁと、肩で息をしながら妻に詰め寄る。

 

「しかし、事実として受け止めなければ……

あの子には私達が不甲斐ない所為で、物心ついた頃から金銭面で苦労をかけています。だからこそ相手は、見てくれ等では選ばない、完全能力主義な子なのですのよ」

 

 何を呑気な……

 

「あの子は優しい子だ!騙されているんだ!」

 

 深いため息をつかれたぞ。

 

「兎に角、失礼が有っては我が家など、お家断絶の危機なのですよ。それに我が家の復興のお手伝いを申し出てくれたとか……落ち着いて下さい」

 

「しかしだな……」

 

「旦那様、お取り込み中すみません。先ふれと称してグリフォン隊隊員の方が到着しました。直接の面会を求めていますが……」

 

「グリフォン隊だと?王族の方が来られるのか?まさかアンリエッタ姫か?ちっ!この忙しい時に……仕方ない、お通ししてくれ!」

 

 この大事な時に王家絡みとは……あのアホ母娘が、もっと国の為に動かないからこんな事になるのだ!全く面倒臭いな。

 

 颯爽と1人の青年貴族が現れた。

 

「お初にお目に掛かります。ド・モンモランシ伯爵!ゲルマニアのツアイツ・フォン・ハーナウ殿がこれからみえられます。準備は宜しいか?」

 

「貴殿は先ふれと伺ったが……トリステイン王家の関係ではないのか?」

 

「ああ……私達は休暇中です。ツアイツ殿がこちらの領地の立て直しをすると聞き及び、微力ながら手伝いを申し出たのです」

 

「はぁ?私達?貴殿は伝統有るトリステインの魔法衛士隊員であろう。何故、他国のゲルマニアの貴族の手伝いなど?」

 

 魔法衛士隊の若者は、爽やかに笑っている。

 

「友情に国の違いなどありませんな。最初に言っておきます。今回のメンバーは、みなツアイツ殿の人望故に自然と集まった構成員ですよ。

ド・モンモランシ伯爵も驚かれるが良い!そろそろ見える頃ですな……」

 

 はぁ?何をとち狂ってるんだ!この若者は……そんな訳が有るか!

 

「あなた!グリフォンと風竜の一団が向かってきますわ!」

 

 空を見上げる……なんだ?数が多い。10……11……12……15騎は居るぞ。

 

「皆の者、警戒態勢を……お前とメイド達は屋敷の中へ」

 

「落ち着いて下さい。ド・モンモランシ伯爵!あれは、ツアイツ殿の一行です」

 

 苦笑を噛み殺す様な……してやったりの表情で、魔法衛士隊員は言いやがった。

 

 遠目でも分かる、巨大なグリフォンと風竜。あんなものを連れ回す奴とは……

 

「さて、そろそろ着陸態勢ですな」

 

 呑気に手を振るコイツを絞め殺したくなる。気が付けば、我が家臣団がワシの周りに集まっている……

 

 初手は負けを認めよう。だが、これからが勝負だ!

 

 

第82話

 

 

 ド・モンモランシ伯爵邸……

 

 この日、我が娘を誑かしたゲルマニアの小僧を懲らしめる為に選りすぐりの家臣を集めた。

 全員が盗賊や亜人の討伐をこなしている、心強い実践慣れした連中だ!どんな奴が来ても叩き潰すつもりだった……

 しかし、今彼らはワシの周りに集まり密集した防御陣形を組んでいる。

 つまり、まともに向かっても勝てず、守りを固めるしか手段がないと理解しているからだ……

 

 最初に現れたのが、現グリフォン隊隊長ワルド子爵を先頭に逆V字編隊を組んだグリフォン隊の連中だ!

 

 国を売りおってコイツ等め……買収されたのか?

 

 次に現れたのが……デカい!デカいぞ、この風竜は!

 

 何とも立派な風竜を後列に配しV字で着陸態勢に入って来た。

 

 この統率された一団は……ただ者ではないな。

 

 見慣れぬ連中だが、正規の訓練を受けているのは動きを見ればワシでも分かる。奴め、自国から援軍を呼びやがったな!

 するとゲルマニアの風竜部隊か。そして、その巨大な風竜から降り立った若者が……

 

 ヤツなのだろう。

 

 風竜を操っていた隊長格の男を従え、先に降り立った隊員達が左右を固めながら此方に向かってくる。

 

 何と?ワルド子爵まで、ヤツの脇を固めていやがる。しかも自然な感じで……ゴクリと生唾を飲む。

 どうみても普通じゃない連中を20人近くも従えて来るなんて。ワシの家臣達が杖を握り締めている。

 マズいぞ。暴走されては、一方的にやられかねん。

 

「待て、待つんだ!動くなよ……様子をみよう。今、仕掛けては此方が不利だ」

 

 最後に竜籠が降りて、遠目でも分かる我が愛娘と……赤・蒼・桃・黒・金色の女性陣が現れた!

 

 赤は、ツェルプストー!

 

 蒼は、ガリア絡みか?

 

 桃は、ヴァリエールだな。

 

 黒は、東方か?

 

 金は、メイド服だからメイドだな。

 

 娘が、モンモランシーがフライでワシの胸に飛び込んでこようとしておる!

 

 はっはっは!両手を広げて向かい入れてやらねば。やはり父親の愛は分かるのだ?

 

「ツアイツー!これが私の両親よ」

 

 モンモランシーが、ワシじゃなくアヤツの腕を抱き締めながら紹介しくさりやがった!

 

「ただいま!お父様、お母様。彼が手紙に書いたツアイツ・フォン・ハーナウ殿よ!私の旦那様なの」

 

 嗚呼……輝く笑顔で、なんて事を宣言するんだ。父は……父はな……

 

「お初にお目に掛かります!ゲルマニアのサムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです」

 

 くっ……爽やかに挨拶などしおって!

 

「あら、想像よりずっとハンサムね。娘から色々聞いているわ!」

 

 何を和やかに、握手などしておるのだ!ワシは広げた腕を所在無げにブラブラさせてから、ヤツを睨み付ける。

 

「娘から、色々聞いておるが……素直にハイそうですか!などと、娘を貰えると思うなよ。何処の馬の骨とも分からん若造が!叩き出してやる」

 

 啖呵を切った瞬間、周囲の温度が下がる……我が家臣達が、ワシを守る様に前方に密集した!皆、もう杖を構えている。

 

 正面を見れば……デカい風竜の使い手が遍在を展開し、風竜部隊の連中も臨戦態勢だ!

 

 ワルド子爵は、杖剣に利き腕を乗せている。

 

 他のグリフォン隊員も、立場を考えてか、あからさまな敵対行動は取らぬが、同様に何時でも動ける態勢を取っている……

 そして、ヤツの真後ろの黒髪の女!殺気が半端じゃない。何て連中なんだ……誰かが動いたら、一触即発だ。

 

「みんな、落ち着いて!昨夜も話したけど、僕等は戦争に来たんじゃないんだからね。杖を納めて!ほらカステルモール殿も落ち着いて」

 

「しかし……この無礼者は気に入りません。我等がソウルブラザーに、あの様な暴言を」

 

 周りの竜騎士団員も頷く。

 

「良いんだ。いきなり娘が、男を連れてくれば普通の反応だから……ド・モンモランシ伯爵、ここは一つ休戦と言うか、話をさせてくれませんか?」

 

「……分かった。取り敢えず歓迎しよう。ツアイツ殿、ド・モンモランシ領へようこそ」

 

 仕方なく、本当に仕方なく握手をして屋敷に招き入れる。

 圧倒的な戦力差に引き下がった訳ではないが、あのまま意地を張れば、容赦なくヤラレテイタ……特にあの男女の目はヤバかった。

 まるで、立場など考えない、ただ目の前の敵を処理する目だ。

 

 一体何者なんだ。

 

 くっ……第2戦は引き分けだ!ワシが譲歩したのだからな。次が勝負だ。って、何和気あいあいと屋敷の中に、ワシを残して行くの?

 

「旦那様、どうしますか?我等では、傷一つ付けられるか?ですな……」

 

「暫くは様子を見よう。警戒を怠るなよ」

 

 家臣にそう言い含めて、急いで追い掛ける。あれだけワシが、険悪な態度だったのに、和やかに談笑しながら歩いていかないでくれ!

 

 ワシが虚しくなる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 移動の時に、誰の使い魔に乗るかで揉めましたが、能力的にもカステルモール殿のブリュンヒルデが一番大きかったので乗せて貰いました。

 辛かった……地上30mを越えると、トラウマ的な何かが発病してしまうのですが。

 空の上には、同乗者のカステルモール殿しか居らず、抱きついたら大変な事になるから我慢しました。

 これなら、女性陣の竜籠にすれば気が紛れたかも。気を落ち着けて見渡せば、見事な技量で飛行する変態達!

 

 変態が編隊を組む……

 

 ヤバい。これじゃオヤジじゃないか。自重しよう。

 

 そして、遠目に見えるあれがラグドリアン湖か……確かに綺麗だな。さて、そろそろ目的地が見えてきた。

 思いもよらず、こんな大袈裟なメンバーで押し掛けちゃうから、気を悪くしないように気を付けないいとね。

 どうも、カステルモール殿もシェフィールドさんも、僕等がトリステインと揉めても構わないと考えている節が有るんだよな……

 それでも、ねじ伏せられる位に思ってそうで怖い。

 娘の恋人がいきなり押し掛けてくる状況で、如何に両親と平和的に話を進めるか……

 モンモランシーに聞いた所、父親の娘ラブ振りは病的レベルだ!

 

 しかし、恐妻家でも有るらしい……突破口は、母親だね。

 

 さて、我々の未来の為に頑張るかな。

 

 

第83話

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 現在、カステルモール殿の相棒で有るブリュンヒルデの背に乗せて貰いド・モンモランシ伯爵邸に降りようとしています。

 先ふれで、グリフォン隊の方に先行して伝えて貰ってますから、この非常識な一団でも警戒されないと思います。

 そして、トリステインでは信用ある魔法衛士隊隊長であるワルド殿以下、隊員達に先行してもらい最後にこの風竜騎士団が降りる……

 

 完璧な順番だ!

 

 もう既に屋敷に人影が見えるし、先ふれの彼も手を振ってくれてるから……上手く説明してくれたんだね。

 

「では、我々も降りましょう!カステルモール殿」

 

「了解です!ソウルブラザー。野郎共、降下するぞ!」

 

「「「ヒャッハー!了解だぜ、ダンチョー!」」」

 

 掛け声はアレだが、見事な操竜技術で降下していく……振動など殆ど無く大地に降り立った。

 僕は、感謝の気持ちを込めてブリュンヒルデの背中をポンポンと叩くとフライで地上に降りる。

 

 因みに、ブリュンヒルデは牝、レディだ!風竜的には美人さんらしい。

 

 良く他の風竜から言い寄られているが、全て力でねじ伏せて振るらしい……

 話はそれたが、正面の壮年の男性が、ド・モンモランシ伯爵なのだろう彼に近いていく。

 何故か周りを竜騎士団とグリフォン隊の皆が固めてくれて、ワルド殿とカステルモール殿が左右に居る。

 シェフィールドさんは真後ろだ……

 

 何この威嚇行動?

 

 ド・モンモランシ伯爵の家臣の方達が警戒して、防御陣形になってしまった。

 やれやれ……ここは、にこやかに挨拶をするかな。

 

 アレ?急にド・モンモランシ伯爵が笑顔で両手を広げたけど……まさか僕をハグするつもりか?

 

「ただいま!お父様、お母様。彼が手紙に書いたツアイツ・フォン・ハーナウ殿よ!私の旦那様なの」

 

 モンモランシーが、僕の腕に抱き付きながら爆弾発言をカマした!

 ド・モンモランシ伯爵は、一瞬悲しそうに、そして明らかな敵意の籠もった目で睨み付けてくる。

 

 あっ当たり前なんだけど辛い……気を取り直して、笑顔で爽やかに挨拶をする。

 

「お初にお目に掛かります!ゲルマニアのサムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです」

 

 父親には無視されたが、母親は好意的に接してくれる。やはり攻略の鍵は母親だ!

 

「あら、想像よりずっとハンサムね。娘から色々聞いているわ!」

 

「いえ、そんな事は……それより申し訳有りません。この様な大人数で押し掛けてしまって」

 

 彼女の手を握り、先ずは非礼を詫びる。その時、ド・モンモランシ伯爵が吠えた!

 

「娘から、色々聞いておるが……素直にハイそうですか!などと、娘を貰えると思うなよ。何処の馬の骨とも分からん若造が!叩き出してやる」

 

 嗚呼……やはり怒るよね。ここは、平謝りで誠意を見せて……

 

 ちょちょっと、何戦闘態勢を取ってるの?向こうの家臣の人達が、スッゴい警戒してるー!

てかカステルモール殿、何その今から襲うぞゴラァ!的な、殺気と陣形は!端っから友好的じゃないよねー?

 

「みんな、落ち着いて!昨夜も話したけど、僕等は戦争に来たんじゃないんだからね。杖を納めて!ほらカステルモール殿も落ち着いて」

 

 僕の為なのは嬉しいけど、これ位で怒ってたら大変だから!

 

「しかし……この無礼者は気に入りません。我等がソウルブラザーに、あの様な暴言を」

 

 周りの竜騎士団員も頷くな!止めてくれ!

 

「良いんだ。いきなり娘が、男を連れてくれば普通の反応だから……ド・モンモランシ伯爵、ここは一つ休戦と言うか、話をさせてくれませんか?」

 

 ド・モンモランシ伯爵は、本当に嫌そうな顔で「……分かった。取り敢えず歓迎しよう。ツアイツ殿、ド・モンモランシ領へようこそ」と、手を差し出してくれた。

 

 良かった!しかし、風竜騎士団とシェフィールドさんは……僕が、トリステインと揉めても全く問題無いと思ってない?

 まさか、ガリアに引っ張るから平気だぜ、ヒャッハー?

 

 ……落ち着け。先ずは、ド・モンモランシ夫人と友好的になってこの難局を乗り切るぞ!

 手伝いに着てくれてる筈なんだけど、苦労が増えてるよ。まぁ良いや。ルイズ以下、女性陣を引き連れて行こう。

 

 

 

 応接間に向かう廊下にて……

 

 

「モンモランシー、この髪の色がバラエティーな方々はお友達かしら?」

 

 ド・モンモランシ夫人が娘に聞いている。そう言えば、自己紹介まだだった……

 

「初めまして、おば様!私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー。キュルケと呼んで下さい」

 

 優雅に一礼する。流石は大貴族の令嬢!

 

「私は、ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールです。ルイズと呼んで下さい」

 

 こちらも、負けず劣らず優雅な挨拶だ。ド・モンモランシ夫人も目を細めて娘の友人を見る。

 そして、視線でミス・タバサを促すのだが……

 

「……タバサ」しか言わぬ彼女にビックリだ!

 

「かっ彼女は人見知りが酷いので、お許しを」

 

 思わずフォローしてしまう。そして、シェフィールドさんとソフィアを見る。

 

「彼女達は僕の身内です。黒髪の美しい人が、シェフィールドさんで僕の護衛兼秘書。此方はソフィア。専属のメイドをしてもらってます」

 

 ソフィアはワタワタとお辞儀をし、シェフィールドさんは優雅に一礼をする……シェフィールドさん。

 宮廷の礼儀作法とか、何で知ってるのかな?

 

「まぁまぁ、ツアイツ殿の周りは華やかなのね?モンモランシー、頑張りなさいね」

 

 この面子を見て、笑えるこの夫人も只者じゃないな……

 

「「私達もツアイツとは、正式に婚約してますから。私が先ですよ!」」

 

 ルイズとキュルケの告白に、一瞬キツい目線を送るド・モンモランシ夫人。

 

「あらあら、それは大変なのね?ねぇツアイツ殿?」

 

 言葉は丁寧だが、含まれる感情は……大変宜しく無いです。嗚呼……胃薬の日々よ。

 

 また、こんにちは!

 



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第84話から第86話

第84話

 

 ド・モンモランシ伯爵邸豪華な応接室にて……

 

 流石は歴代の水の精霊との交渉役をしてきた家柄。

 多少、財政的に厳しくなっても受け継がれた屋敷や装飾品には目を奪われます!

 そして現実逃避はこの辺で終わりにしましょう。

 

 現在、応接室で向かい合って座っているメンバーは……

 

 ド・モンモランシ伯爵と夫人に挟まれる様にモンモランシーが座り、向かい側にキュルケとルイズに挟まれる様に僕が座ってます。

 その他のメンバーは別室にて歓待を受けています。

 キュルケとルイズは、共に実家を代表して援助の件を相談する為に……建て前ですが。

 

 ド・モンモランシ夫人も、当初は凄く友好的でしたが、ルイズ&キュルケの爆弾発言の後は……

 

 それとなく娘に聞いたが「良いのよ。後から割り込んだのは私だから納得してるの」何で結婚する前から、そんな話になってるの?と、少々気を悪くしているみたいです。

 

 確かに跡継ぎの一人娘が見つけた相手は、既に婚約者多数で本人が納得してるが、その中の一人。じゃあ親としては、納得出来ないかな。

 

 さて、そろそろ本題に入ろうと思います。

 

「ミス・モンモランシーから大体の事情はお聞きしていると思います。彼女とは、許して頂ければ結婚したいと思います。

それは別としても、実家が困っていると聞きつけ何かお手伝いは出来ないかとお邪魔した訳です」

 

「それは……もし私達が、手伝いはしてくれても娘はやれない!と、言ったらどうしますか?」

 

 夫人が警戒しながら質問してくる、援助をタテに結婚を承諾させるつもり?って事だよね。

 

「別に僕の気持ちは変わりません。惚れた女性の危機位、何とかするのは当たり前であり、見返りは求めません」

 

「「まぁ!」」

 

 夫人とモンモランシーは、感激して両手を胸の前で組んで拝んでいる様なポーズだ。

 

「そう簡単には行かぬのだよ。ツアイツ殿」

 

 ド・モンモランシ伯爵は、苦虫を噛み潰した様な表情だ。

 

「ラグドリアン湖の増水が、一番の問題ですね?失礼ながら調べさせて頂きました。

言葉は悪いですが、典型的な丼勘定の丸投げ経営かと思いましたが、随分まともな領地経営をしておられる……

干拓に失敗した件と、増水の対応に予算が掛かってしまい、結果的に領地経営が厳しくなっている。違いますか?」

 

「流石は10歳にも満たぬ時から、大人顔負けの政務をこなすだけは有るな。それで間違いは無い。

しかし、日に日に増えていく水を何とかしなければ、いずれ破綻する。貴殿にどうにか出来るのか?」

 

 うーん。他国の貴族に此処まで言われても、あっさり肯定したぞ。

 それに、食い潰している予算は、被害に有ってる領民の救済なんだよね。この人は、良い人達なんだ!

 

「ラグドリアン湖の増水を止めるには……水の精霊と交渉しなくてはならないでしょう。

力でねじ伏せるのは下策。だから、水の精霊が何をしたいのかを知る必要が有ります」

 

「水の精霊と交渉か……貴殿がか?笑わせるわ。代々交渉役を仰せつかっているワシでさえ、決裂したんだぞ!」

 

 全く当たり前の心配だ!交渉役としてのプライドも有るだろうし……

 

「僕には、別件ですが……ガリアのジョゼフ王から、挑まれている事が有り現在対応してます。

その中に、ラグドリアン湖の件が報告されており、それが今回の増水に絡んでいると思ってます」

 

「ガリアだと?大嘘ではないのか?」

 

「信じる信じないは別として、一度ラグドリアン湖の水の精霊と会わせては貰えませんか?」

 

 黙って考え込む、ド・モンモランシ伯爵……

 

「既にワシは、交渉役を辞した。どうしても、と言うならモンモランシー、お前がやるのだ!」

 

 いきなり大役を仰せつかったモンモランシーはビックリだ!

 

「少し早いけど、貴女にもその資格が有るわ。それに、まだ交渉役として交流が有った時に貴女も水の精霊と会っている。彼らは覚えている筈よ」

 

 夫人からもそう言われ、モンモランシーはやる気になった。

 

「しかし、今日はもう遅い。ツアイツ殿、我が家の夕食に招こう!ミス・ルイズとミス・キュルケも共に……他の方々は丁重にもてなすので宜しいか?」

 

「分かりました。一度彼等と話させて下さい」

 

「良かろう。部屋を用意するので、夕食の準備が整い次第、迎えをやる」

 

 そう言うと、ド・モンモランシ伯爵と夫人はモンモランシーを伴い退席した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 夫婦の寝室に入り、先程の若者について考える。

 

「どう思いますか?見込みが有りそうな、若者ではないですか?」

 

「どうかな?アレだけの連中を纏められるヤツだからな。それなりの勝算を持っているのだろう」

 

「アナタは彼を認めているのですか?」

 

「モンモランシーはやらん。彼もそれで良いと言っただろう。結婚なぞ、卒業してからよ。あの子は、モンモランシーは誰にもやらんぞ!」

 

「しかし、あの子の気持ちも考えてあげないと……」

 

「まだ時間は有る。そもそも、水の精霊との交渉とて、成功するとは限らんのだ」

 

「そうですわね……でも、私は気に入りました!すっぱりと見返りの無い、無償の愛でも構わないと言い切ったのです。

そこらの小金持ちに娘を嫁がせるよりマシだわ。それにモンモランシーがあれだけ信頼している相手なのですよ」

 

「分かっている………しかしモンモランシーは、まだ15歳なのだぞ。まだ結婚など早い!ワシは嫌だ」

 

「あらあら……早く子離れしてくださいね。アナタ」

 

 どうにも親バカだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 家臣の方に待機組の所に案内して貰う。彼は、先程の訪問の際にド・モンモランシ伯爵の前に守る様に居た人だ!

 きっと信頼されているのだろう。

 

「先程は失礼しました。つい殺気に反応してしまい杖を向けてしまいまして」

 

「いえ、此方も疑われそうな態度でしたし……」

 

「あれから、彼等と話をさせて貰いました。貴方に向ける友情と尊敬……いえ崇拝と言っても間違いではない!

ただ者ではない彼等を其処まで惹き付ける事が出来る貴方なら。どうかお嬢様を宜しくお願いします」

 

 彼はその場で、深々と頭を下げた。

 

「頭を上げて下さい。元々、駄目だと言われても何とかするつもりですから。勿論、彼女に振られてもこの気持ちは変わらない」

 

「有難う御座います。それと、旦那様は筋金入りの親バカでいらっしゃいますので、そちらも宜しくお願いします」

 

 そして彼は「皆さん此方のお部屋にいらっしゃいます。」と、言って去っていった。

 

 僕に親バカを押し付けて……

 

 

 

第85話

 

 

 ラグドリアン湖……

 

 トリステインの、いやハルケギニア随一の景勝地で有り、対岸はガリア王国。そして、珍しく精霊との接点を持てる場所。

 代々ド・モンモランシ伯爵は、このラグドリアン湖に棲む水の精霊との交渉役を担ってきた……

 そして今、僕等の目の前にはその水の精霊が、透明な体をモンモランシーに似せて向かい合ってる。

 

 しかし、僕は言いたい。

 

 今のモンモランシーのオッパイは、トップがあと4センチは大きいぞ!造形は正しくして欲しい。

 

「水の精霊よ!彼女の姿を借りるのは良いのだが……バストサイズが違う。トップをあと4センチ大きくして欲しい。彼女の正確なサイズは84だ」

 

 そう指摘して、水の精霊は固まり、そしてオッパイサイズを直して……呆れた口調で問いかけてきた。

 

「これで良いのか?単なる者よ……

天空の双子の月を湖面が写した回数が三千回を越える程の年月を経て、問い掛けた最初の言葉が……オッパイか?」

 

「ええ、それは譲れない!」

 

 モンモランシーに本気で二の腕を抓られた。

 

「何で、見せても触らせても無いのに、正確な寸法を指摘出来るのよ?」

 

 顔を真っ赤にして、本気で怒っている。

 

「……いや、男って好きな女の子のサイズを正確に計るスキルが有るんだよ。ねぇワルド殿?」

 

 ワルド殿は大きく頷く。

 

「我ら紳士は、スカウターを標準装備してますぞ。ミス・モンモランシー!普通なのです」

 

 僕とワルド殿は、何言ってるの?的な態度を取ったが……カステルモール殿は、何故かショックを受けてしゃがみ込んでいた。

 

「私はマダマダ彼等の域に達していないのか……」

 

 風竜騎士団及びグリフォン隊員は、尊敬の眼差しだ!

 

「噂のバストスカウターは実在のスキルだったのか!」

 

「流石はソウルブラザー!そこに痺れる、憧れるー!」

 

 因みに、ド・モンモランシ伯爵と夫人は、呆れた様な表情で固まってた!湖面を冷たい風が流れた……僕はポツリとワルド殿に話し掛ける。

 

「ワルド殿、やはり僕等はハルケギニアでは規格外なのでしょうか?」

 

 ワルド殿も、ばつが悪そうな顔をして「それは、今は置いて起きましょう!」水の精霊との交渉の先制攻撃は「オッパイ」だった。

 

「ギャハハー!兄さんスゲーよ。水の精霊に、ダメ出しするなんてよ。流石だぜ!6000年の記憶を持つ俺でも聞いた事ねーよ」

 

 デルフは、凄いご機嫌で僕をヨイショしてくれた!

 

 

 

 何故こうなったのか?時間は少し遡る。

 

 

 ド・モンモランシ伯爵一家の夕食に呼ばれた初日。呼ばれたのは、僕とキュルケとルイズのみ。

 他の連中は、別の部屋でお持て成しを受けている。僕等は、復興と援助に直接関係の有る家の代表だから……

 

「ツアイツ殿、貴殿の事は色々と耳にしている……勿論調べもした。眉唾の様な調査結果も有ったがな」

 

「はははっ……耳が痛いですね。それで、どのような?」

 

 ド・モンモランシ伯爵は笑いながら「本人に聞くなど無粋だろう?それは、良いのだ」と言われた。

 

「そうですわね。確認をするのが、怖い物ばかりですからね」

 

 夫人も優雅に笑っている、そんなに怖い事したかな?両隣のルイズとキュルケに聞いてみる。

 

「ねぇ?そんな怖い事したかな……ギーシュとお遊びの決闘した位じゃない?」

 

「…………うーん」

 

「本人に自覚が無いって怖いわ……」

 

 否定の言葉を言われ、黙り込まれた……

 

「それで、ガリアのジョゼフ王には何を言われているのだ?あの無能王の事だ。どうせ娯楽絡みだろう?」

 

 結構、本質を突いた質問が来た!ほぼ正解です。まだ教えられないケド……

 

「色々と複雑な話ですので……今は説明出来ません。水の精霊の件も絡んできますので。そうですね。水の精霊との交渉が上手くいけば、お話したいと思います」

 

 ド・モンモランシ伯爵は考え込んでいる。

 

「その言い回しは、ワシにも関係が有る事なのだな……良かろう。今は聞かないでおこう」

 

 流石は、人外との交渉役を務めた程の人物だ。言葉尻だけで、正解に推測してきたぞ。これは、簡単には丸め込めないかな?

 

「有難う御座います」

 

「難しいお話はそれ位にして、何かツアイツに質問とか無いの?お母様は?ツアイツも、私の両親に何か聞きたい事は無いの?」

 

 モンモランシーが、場の空気を変える為に明るく質問タイムにしてくれた。お陰で夕食は、それなりに友好的だったかな……

 

 最後に、ド・モンモランシ伯爵が言葉をかけて纏める。

 

「明日の朝食後に、ラグドリアン湖に案内しよう。モンモランシー、水の精霊への呼び掛けの方法は分かるな?」

 

「はい!お父様」

 

「お前が最後に水の精霊と会ってから八年は経つが……彼等なら覚えているだろう。頑張りなさい」

 

 そう言って、夕食はお開きとなった……

 

 

 

 そして

 

 

 

 モンモランシーの指先の血を一滴垂らして、彼女の姿を真似た水の精霊にダメ出しをして現在に至る。

 

「これ迄とは毛色の違う単なる者よ。何故、我に呼び掛けたのだ?」

 

 たまらず、モンモランシーがお願いする。

 

「水の精霊様。ラグドリアン湖の増水で、民が困っております。お願いします。増水を止めて下さい」

 

 水の精霊は、自身を構成する水を揺らしながら「それは出来ぬ。我にも必要な事なのだ。単なる者よ」否定した。

 

「そんな……」

 

 モンモランシーは、ガックリと膝を付く。僕は彼女の肩をポンポンと軽く叩いてから、水の精霊に話し掛ける。

 

「水の精霊よ。その理由を教えて下さい。僕等に解決出来るかもしれませんよ」

 

 モンモランシーの姿を借りた水の精霊は、同じ様に水面を揺らす。

 

「毛色の違う単なる者よ……そなたには関係の無い事だ」

 

 うーん。毛色の違うって……そう言う個別認識は嫌だな。

 

「ズバリ聞きます。アンドバリの指輪の件ですね?」

 

 水の精霊は、今度は体を赤く発光点滅させた!ヨシ!食い付いたな。

 

「毛色の違う単なる者よ。何故、そなたがアンドバリの指輪の件を知っているのだ?」

 

 これからが、交渉の本番だ!

 

 

 

第86話

 

 

 ラグドリアン湖に棲まう、水の精霊……彼?彼女?は、モンモランシーの姿を借りて僕と対峙している。

 水の精霊は、赤く発光をしている……やはりアンドバリの指輪が問題なんだ!

 

 交渉は続く……

 

「毛色の違う単なる者よ。何故、そなたがアンドバリの指輪の件を知っているのだ?」

 

「それは、有る事件を追っている時に得た情報です。しかし……指輪とラグドリアン湖の増水と何の関係が有るのですか?」

 

「毛色の違う単なる者よ。我はこの湖より移動する事が出来ず、指輪を探せない。ならば、我が通る道を作るだけの事」

 

 よし!増水の理由が聞けた……

 

「それで増水ですか!しかし途方もない時間が掛かりますね」

 

「毛色の違う単なる者よ。我には時間と言う縛りは無い。何時かは、水が指輪に届くだろう」

 

 幾ら時間を掛けても無理なんだけどね。

 

「水の精霊よ。それでは……何時まで経っても指輪迄たどり着けませんよ」

 

 水の精霊は、発光を繰り返している。疑問に思ってくれたかな?

 

「毛色の違う単なる者よ……何故そう言い切れる?」

 

 ヨシ、これで後は言いくるめるだけだ!

 

「オリヴァー・クロムウェル……この名前に聞き覚えは有りますか?」

 

「その名前は覚えてる……我が祭壇を荒らした、単なる者がそう呼ばれていた」

 

「そうです!アンドバリの指輪を盗んだ張本人です。彼は、天空のアルビオンで己が野望の為に自分の王国を作ろうとクーデターを企んでいます」

 

「………?単なる者よ。それが我とどう関係するのだ?」

 

 良い質問だ!

 

「オリヴァー・クロムウェルは、アンドバリの指輪を使い勢力を伸ばしているかもしれない。

指輪は貴重なマジックアイテムだ。どちらにしても、アルビオン大陸からは持ち出さないでしょう……

貴方が幾ら増水しても、天空のアルビオン迄は届かないのではありませんか?」

 

「確かに我では、空に浮かぶ国に行く手立ては無い。しかし、それを証明する事は出来るのかな?」

 

「物理的な証拠は無いです。しかし僕は、オリヴァー・クロムウェルと敵対しています。

勝てば証拠として、アンドバリの指輪をお返し出来ます。負ければ……僕はこの世に居ないので、証明は出来ませんね」

 

「………毛色の違う単なる者よ。それはどれ位で、証明してみせるのだ?」

 

「戦いは最大でも一年と少し掛かると思います」

 

「良かろう。期間は、毛色の違う単なる者の命が尽きる迄……水は元に戻そう」

 

「出来れば、干拓も手伝って下さい。指輪奪還に失敗して僕が死んでしまったら……契約は無効となり水で押し流して構わないので」

 

 水の精霊は……激しく発光を繰り返している。何だろう?欲張り過ぎたかな?

 

「毛色の違う単なる者よ……良いだろう、我が力を貸そう。腕を向けよ」

 

 やべっ!この流れはもしかして、水の精霊の一部を寄越すって事か?水の精霊と接触されると、心を読まれる危険が有るんだよな。

 

「いえ結構です。独力で成し遂げてみせます!」

 

「我が力は要らぬと申すか?」

 

「正直に言えば、貴方の力が欲しい。しかし、本当に必要としている……一番貴方の力を必要としているのは、僕ではないので……」

 

「毛色の違う単なる者よ……意味が解らぬな」

 

「もし力を貸して下さるなら……彼女に、モンモランシーにお願いします。交渉役として彼女を認め、干拓に力を貸して下さい」

 

「「「ツアイツ(殿)!」」」

 

 ド・モンモランシ伯爵達は、感極まった声を上げた!

 

 それはそうだろう。彼等の悲願は、交渉役の復帰と干拓だ!水の精霊の強力な力を放棄して、モンモランシーに譲るとは思わなかっただろう。

 しかし、嘘八百で丸め込もうとしている僕からすれば、水の精霊との接触など避けなければならない。

 

「姿を借りた単なる者に、力を貸して良いのか?」

 

「構いません。彼女の力になる事は、僕にとっても大切だから」

 

「良かろう。単なる者よ、腕を向けよ」

 

 モンモランシーが、モンモランシーの姿をした水の精霊に腕を向けると……

 一瞬だけ、指が触れ合ってモンモランシーの指に綺麗な水の指輪が有った。

 

「それが、我との交渉役の証明となるだろう。我を呼ぶ時は指輪をラグドリアン湖に浸せば良い」

 

 そう言うと、パシャっとモンモランシーの形をした水が湖面に崩れ落ちた。

 

「交渉は成功だね。良かった、モンモランシーが正式な交渉役になれて。直ぐに王室に報告だね」

 

 惚けているモンモランシーにそう笑い掛ける。彼女も、実家の復興が具体的に動き出した事を感じたのか、ハラハラと泣き出した。

 本当なら抱き締めてあげるべきだろう……しかし、指輪をしている彼女は僕にとっては大変危険だ。

 

 そっと両肩を掴み、母親に押し出す。ド・モンモランシ夫人はモンモランシーを抱き締めて、共に泣き笑いの表情だ!

 

 周りの観客な変態達も拍手で彼女を称えている!そっと、ド・モンモランシ伯爵が近づいてきた。

 

「先程の精霊との会話……本当なのだな。何故、命を賭けた戦いに水の精霊の助力を乞わぬ?一番必要なのは君じゃないのかね?」

 

 いや、要らないんです。本当に水の精霊の力は!アンドバリの指輪……今はシェフィールドさんが持ってますから、その気になれば即解決なので!

 本当の悪役はこの場合は僕ですよね。だって黙って持ってて、コピーを使わせて貰ってから返すんだし。

 

 僕は周りを見渡して、ド・モンモランシ伯爵に告げる。

 

「僕には、勝利を約束してくれる仲間が居ます。彼等の力が有れば……奇跡だって起こしてみせますよ」

 

「「うぉー!ソウルブラザー!任せて下さい」」

 

 竜騎士団員とグリフォン隊員達は感極まって男泣きだ!ワルド殿とカステルモール殿も肩を抱き合って涙ぐんでいる……

 いや、2人には内情を話してるのに、何感激してるのかな?

 

 シェフィールドさん!貴女まで何を涙ぐんでいるんですかー?

 

 非常に居心地の悪い気持ちになってしまった。信頼してるのは本当だけど、僕も随分と恥ずかしい台詞だったな。思い出したら赤面してきた。

 

 イヤーハズカシー!

 



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第87話から第89話

第87話

 

 

 水の精霊を騙くらかした今日この頃…、皆さんどうこの夏休みを過ごしていますか?

 

 僕は、ド・モンモランシ領にてバカンスの最中。

 

 ラグドリアン湖の水の精霊と再び交渉役になれた、ド・モンモランシ伯爵夫妻の手厚い持て成しを受けています。

 

 しかし……幾ら嬉しいからと言われても、僕は水の精霊とは接触したくない。

 最悪、バレたら……この作戦はご破算です。

 

 しかし、毎日ラグドリアン湖に来なくても良いのに。毎日が、ドキドキです!

 

 

 

 さて今でこそ友好的に接してくれてますが……

 

 ラグドリアン湖の、水の精霊と交渉が成功した夜にモンモランシーの両親と話し合いをした。

 あの後、直ぐに王室に水の精霊との再交渉が成功した事を伝え、正式にモンモランシーが交渉役になれた事を証拠の指輪と共に公表。

 ラグドリアン湖の増水も治まった事も合わせ、王室は了承した。これで、ド・モンモランシ家が力を取り戻すのも遠くないだろう……

 しかし、ド・モンモランシ夫妻は、僕の言葉を覚えていた。

 

 僕の言った「色々と複雑な話ですので……今は説明出来ません。水の精霊の件も絡んできますので。そうですね。水の精霊との交渉が上手くいけば、お話出来ると思います」と、言う言葉にド・モンモランシ伯爵は

 

「その言い回しは、ワシにも関係が有る事なのだな……良かろう。今は聞かないでおこう」と応えた。

 

 つまり、水の精霊との交渉が成功した今、全てを話してくれって事だ。

 そして、賑やかな宴会を終えて皆が宛てがわれた部屋に帰った後、ド・モンモランシ夫妻は僕を私室に招いた。

 ソファーに座り向かい合う。酔い醒ましに、夫人が自ら紅茶を用意してくれる。

 

「ツアイツ殿。先ずはお礼を言わせて欲しい。再び交渉役になれた事を……感謝する」

 

「いえ、僕はまだ何もしていません。失敗すれば、交渉も何も無くなりますから……」

 

 ド・モンモランシ夫妻は考え込んでいる。

 

「何故、命を賭ける程の事をジョゼフ王から挑まれたのだ?それに、オリヴァー・クロムウェル……反乱の首魁なのだろう?

君の周りには、普通じゃない連中が集まっているのは分かる。しかし……国をアルビオンを巻き込む反乱に対抗出来るのか?」

 

 最もな疑問だ。国家間の陰謀に巻き込まれるにしても、家督も継いでない僕が何故?って事だよね。

 ド・モンモランシ夫妻に一連の流れを話す。ジョゼフ王の回春から始まった一連の事件の……

 

 ド・モンモランシ夫妻は、大国の王の身勝手さに呆れ、そして僕の根回しにも……溜め息をついてくれたよ?

 

「ツアイツ殿。お話を聞けば、これからの事には希望が持てます。しかし……なればこそ、水の精霊の助力は貴方が受けなければ駄目だったのでは有りませんか?」

 

 アンドバリの指輪の件は伏せている。だから、当事者たる僕の少しでも力になる事は、譲っては駄目だと言っているのだろう。

 

「既に僕には、アルビオン王家とレコンキスタ……オリヴァー・クロムウェルの組織ですが、彼等から間者を送られています。

いずれ、僕の周りの人達にも被害が及ぶかもしれない。ルイズ、キュルケ、そしてモンモランシー!僕に近い者達が狙われる可能性は捨てきれない」

 

 ド・モンモランシ夫妻は、自分の愛娘が危険に晒される可能性を知って息を飲んだ……

 

「キュルケは、あれでも火のトライアングルです。実家の方針で戦闘訓練も受けています。ルイズは、魔法が不得意と思われてますが、爆発に特化した……

それこそスクエアの僕のゴーレムを粉砕する程の使い手です。それに、実家からの護衛も影となく付いている」

 

 僕は、紅茶を一口飲んで夫妻を見る。大貴族たる2人の防御力に驚いたようだ。

 

「しかし、モンモランシーは水のラインだが、戦闘系のメイジじゃない。だから、少しでも身を守れる手立てを持って欲しかったんです。

彼女は、正式な水の精霊の交渉役として知れ渡る。精霊の加護と合わせても、トリステインの重要な役割を持った訳だから……」

 

「ヤツらも、簡単には害せない……と?」

 

 ド・モンモランシ伯爵が、僕の言葉を繋ぐ。

 

「そうです。守ってみせると、大言をほざくのは簡単です。しかし実が無ければ意味は無いのです」

 

 本当は、水の精霊と関わり合いになりたく無いのですがね。

 

「すまない。娘の為に其処まで考えていてくれた貴殿を馬の骨などと……今なら分かる。君を罵倒された時の彼等の怒りが……」

 

「いえ、気にしないで下さい。惚れた女性の為に動く事は当たり前ではないですか。

僕の方こそ、彼女を危険な立場にしてしまった……謝らなければならないのは、むしろ僕の方で」

 

 ド・モンモランシ夫人は涙をハンカチで拭っている。

 親バカなド・モンモランシ伯爵の方は感激してか、僕の両手を握って振り回す程の握手をしてくれている。

 

「あなた!我々も何かお手伝いする事が有る筈ですわ」

 

「そうだ!ツアイツ殿、我らに出来る事は無いのか?結婚はまだお断りだが、婚約者として正式に扱おう。

しかし、婚前交渉は手を繋ぐ迄だし、結婚は学院を卒業後になら考慮しよう」

 

「はぁ……それでは、お願いが有ります」

 

 凄い親バカ振りを見てしまった……婚前交渉って、何言ってるのさ!それに、卒業後に結婚を考慮って……考えてやっても良いって事ですよね?

 

「何でも言ってくれ!娘以外の事なら出来る限りの事をしよう」

 

「そうですわ!未来の息子の為ですから……協力は惜しみませんわ」

 

 夫婦共に微妙に食い違いはあるけど、協力を申し出てくれた!そして僕は、どうでも良いけど、どうでも良くない家の取り込みの協力を申し出た。

 

「実は、レコンキスタは既にトリステインにもその魔の手を延ばしています。その勢力に対抗する為に……」

 

「何と!我が国にも、既に彼等の魔の手が延びてると言われるか」

 

「そうです!そこで……」

 

 

 ツアイツの謀略は続く……

 

 

第88話

 

 

 こんばんは!ツアイツです。

 

 深夜のド・モンモランシ伯爵邸にて、密談の最中です。相手は、ド・モンモランシ夫妻。

 内容は、これからのトリステインについて……既に、レコンキスタの魔の手はこの国にも及んでいると教えました。

 そして、どうでも良いけどどうでも良くない家……ギーシュ君の実家の取り込みを協力して欲しい。

 

 グラモン家は、武門故なのか、貿易を持ち掛けても色好い返事が貰えず、どうするか保留していたんです。

 元帥ですから、いざアルビオンに増援!の時には、役にたってくれる筈ですが、ゲルマニア貴族たる僕の印象が悪い様な……

 しかも、ヴァリエール公爵サイドからの交渉にも乗り気じゃないんですよね。

 

 プライドなのか、愛国心なのか……はたまた只の脳筋なのか?

 

 きっと女性絡みで攻めれば食い付いてくると思うけど、其処まで出来ないのは何故かな?

 なので、比較的友好なド・モンモランシ伯爵にお願いをしようと思う。

 

「時にド・モンモランシ伯爵は、アンリエッタ姫の動向をどう思いますか?」

 

 ド・モンモランシ伯爵は深く深く溜め息をついた。

 

「最近の姫様は、積極的に色々動かれている。自身の周りを固める様に若い貴族との交流や、銃士隊の設立。それと……」

 

 何だろう?僕を見て黙り込んで。

 

「……それと?」

 

「アンリエッタ姫は、君に対して並々ならぬ感謝を常に周りに言い触らしている……人生観を変えてくれた恩人だと」

 

 あの、アホタレ姫がぁー!余計な事を言い周りやがって……

 

「それは、光栄なのか迷惑なのか……」

 

「そうだな。迷惑以外の何物でもないだろうな、君からすれば」

 

 僕も深い溜め息をつく。

 

「だからですか?僕に対するトリステイン貴族の反応の悪さは……」

 

「そうだな。だから最初は驚いたよ。グリフォン隊の、彼等の態度が……今は理解しているがね」

 

 穏やかな笑みを向けてくれるオッサン。なに、俺には分かってるんだ的ですか?

 

「……困りますね。アンリエッタ姫には。しかし、彼女の思いは危険だったのです。

今のトリステインが不安定な時期に、ウェールズ皇太子に始祖に愛を誓った手紙を送ろうとしたんです」

 

「なっ!本当なんですな。今、貴族で話題になっている、天空の高貴なる方と地上の姫の例え話は……」

 

「ご存知でしたか。しかし、一方的に愛を向けているのはアンリエッタ姫ですね。ウェールズ皇太子の気持ちは微妙だ……だから捏造した恋文を公表して結ばれ様とした」

 

 ド・モンモランシ伯爵は、ふと思ったのか「何故、ツアイツ殿はアンリエッタ姫に其処まで信頼されているのだ?」当然の疑問ですよね。

 

「簡単な事です。秘密ですが、ウェールズ皇太子は大きいオッパイが大好きです。しかしアンリエッタ姫は底上げの偽物の乳。

僕は、巨乳教の教祖として数多の女性の豊胸化の実績を持つ……アンリエッタ姫は、内密で僕を頼ってきたんです」

 

「伝説のバストアッパー……報告書は本当だったのですね」

 

 ド・モンモランシ夫人の目が輝いた!

 

「因みにモンモランシーも実践中です。既に半年も経たずして4センチアップ……中々の素質をお持ちで」

 

「「…………」」

 

 夫妻は黙り込んでしまった。

 

「ツアイツ殿……義母たる私にも指導をお願いします」

 

 ド・モンモランシー夫人がかなりマジな目で頼み込んで来た!

 

「ええ、構いませんが。既にモンモランシーに全てを教えて有りますので、聞かれれば良いかと……」

 

 ド・モンモランシ夫人はご機嫌だ!

 

「コホン!して、アンリエッタ姫は恋文は思いとどまったのですな?」

 

「ええ、止めました。今その暴挙に出れば、トリステインを国を売って恋を掴んだ姫になるから、と」

 

「良かった。まさしく、そう言う疑念を持つ貴族も出るだろう」

 

「しかし……僕は、レコンキスタが蜂起して戦局が膠着した時期を見計らい、アンリエッタ姫に行動に出ては?と教えました」

 

「なんと!我が国の姫を唆したのか?」

 

 僕は、紅茶を飲んで一息ついた。そして、僕の考えをド・モンモランシ夫妻に伝える。

 

「レコンキスタ……アルビオンを攻め落とせば次はトリステインです。その後は、聖地に向かうか、ゲルマニアを攻めるか……兎に角、トリステインは既に安全では無いのです」

 

 ド・モンモランシ夫妻は黙って頷く。これは、想定内だったのだろう。

 

「なれば、各個撃破を狙うレコンキスタの思い通りなどせずに、アルビオンに協力して勝つべきでしょ?」

 

「戦火を自国に持ち込まず他国でヤレって事だな」

 

「身も蓋もないけど、その通りです。そして、アンリエッタ姫には自ら援軍を率いてアルビオンに、ウェールズ皇太子の為に参戦しろと教えました」

 

「そこで、グラモン家の取り込みに繋がるのだな」

 

 ド・モンモランシ伯爵はニヤリと笑った。

 

「反対するのは、レコンキスタから賄賂を貰っている売国奴ですよ。彼等を一掃にして、膿みを全て吐き出すべきでしょうね」

 

「ヴァリエールとウチとグラモン。援軍に参加を唱えれば、王宮を動かせる。

そして反乱鎮圧に成功すれば、アルビオン救国の中心人物である、アンリエッタ姫は対等以上の立場で婚姻を進められる訳か……」

 

「どうです?トリステインのメリットは大きいですよね?」

 

「ふぅ……貴殿は本当に、アンリエッタ姫の恩人ですな。しかし、これは君の計画の一部だね?」

 

 ニヤリと笑う。

 

「そうです。戦力が無ければ、有る所から引っ張れば良い。そして、引っ張った相手にもメリットは大きい。違いますか?」

 

「何ともアレだが、この国の腐敗もあの母娘の責任は大きい。なれば、好いた相手に嫁がせてやるから、国の事もちゃんとヤレ!ですな。

腐敗した貴族を一掃出来るなら……あの頭の弱い姫を操るのも、国の為ですし仕方がない訳だ」

 

 僕に負けず劣らず、ニヤリと悪代官の笑みをたたえる。

 

「これは、アルビオンとトリステインの腐敗貴族を一掃し、両国の友好の為の婚姻なのです。立場はこちら、トリステイン側が上でですがね」

 

 悪役2人の密談に、ド・モンモランシ夫人は引き気味だが、良く考えなくてもトリステインの為だから、アンリエッタ姫を唆す事は賛成だ!

 これは、相当良い物件を娘が引き当てた!と、我が子ながら誉めてあげなければと思う。

 

 家の復興を無償の愛で手伝い、水の精霊の加護を譲り交渉役と干拓の手伝いを約束させた。しかも、トリステイン王国の行く末まで考えている。

 これを当たりと言わず、何を当たりと言うのだ!

 

 夫は、親バカで結婚をズルズル伸ばす気らしいが、ヴァリエールやツェルプストーの娘達も中々の美人で性格も良さそうだ。

 愛はね、有限なのよ。誰よりも多く寵愛を受けるには、早く結ばれないと駄目だわ!

 どうしましょう?今夜にでも、モンモランシーと相談しなくては!

 

 ここにも、暴走する母親が居た!

 

 

第89話

 

 お早う御座います、モンモランシーの母で御座います。

 

 屋敷から見渡す領地は、少し前では考えられない程、活気に満ちています。

 水の精霊との交渉役と言う大役も無事娘が継ぎ、新たな家宝となる指輪も水の精霊から託されました。

 ゲルマニアのハーナウ・ツェルプストー両家、そしてヴァリエール家からの支援も貰い、かつてない程に盛況を極めています。

 これも、モンモランシーが捕まえた義理の息子のおかげです。

 

 残念と言えば、婿入りは出来無い事と複数の婚約者を同時に抱えている事でしょうか……

 

 しかし、殿方の愛情とは有限なのです。広く浅くでは、愛娘の幸せに関わりますから。

 如何に、ツアイツ殿の寵愛を最大限に受けるか。それが、問題ですわ。

 

 幸いにして、我が家は水の秘薬の大家!惚れ薬関係の薬なら、6000年の歴史の研鑽を見せ付ける程に種類が有るのですが……

 しかし、娘にキッパリと断られてしまいました。

 

 何か……挿話?で、そんな物に頼らなくても平気な事を知っているからとか何とか。母親に向かって惚気をカマすとは、娘の方がベタ惚れなのが分かりました。

 それに、2人の間には確かな絆が有るのでしょう。心配事は、まだ若いツアイツ殿が色んな女に手を出さないかです!

 

 あれだけの甲斐性と能力を持つ身ですから、周りの女性陣が放っておかないような。

 その辺は、キュルケさんとルイズさんと共同して言い寄る女を防いでいるから平気らしいのですが。

 

 母の勘では……居ますよ!特大の恋敵が、必ず居ます。

 

 ビビっと来ましたよ!

 

 ブリミル様の御告げが……しかし、娘を信じて待ちましょう!早く孫の顔が見れる様に……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ド・モンモランシ領の復興について、目処がたちました!

 詳細は復興資金を貸し付けて、そのお金で復興資材を買って貰う。後は、相互貿易とかですね。

 本当はもっと細かい内容なのですが……その辺は、両家の家臣達の実務レベルのお話です。

 元々、水の精霊とド・モンモランシ伯爵を言いくるめるのが僕の仕事。その任は、果たした訳ですから。

 

 後は、専門家に丸投げしました!

 

 序でにグリフォン隊員&竜騎士団員達は、領地の盗賊や亜人達の討伐のお手伝いですね。無駄飯喰ってないで、キリキリ働けや!

 そして、彼等の素姓ですが、ド・モンモランシ伯爵にはバレているみたいです。

 

「国を超えた友情とは素晴らしい物ですな!」とか、したり顔で言われたから……

 

 心配事は、討伐を共にしたド・モンモランシ伯爵の家臣団の方と交流が出来たのですが……

 その際に、男の浪漫本が話題になる事が多く、比較的年上が多い家臣団の方は、正統派オッパイ好き……

 つまり巨乳派で有り、ロリじゃないお姉さんが好きな方が殆どでした。

 

 お別れの挨拶の際に「良ければ、領地から巨乳お姉さん本をまとめて送りますから」と、言ったら凄い食付いた。

 

「有難う御座います。流石は、若旦那様ですな。早く、お嬢様と結婚なされてこの地にも巨乳神殿を建立しましょう!」

 

 とか、脇で聞いていたド・モンモランシ伯爵のコメカミがピクピク動いていましたが……特に若旦那様の辺りで。

 夫人はニコニコと聞いていました。

 

 多分、豊胸指導の他にお肌ケアやヒップの弛みを無くす方法など、現代美容術を提供したおかげかな?

 彼女も、水のトライアングルで有り、水の秘薬の大家。成分表を提供したら、早速研究するそうです。

 結果は、ウチにも教えてくれるし公表はしないそうです。

 

 美に賭ける女の執念なのですね。

 

 彼女は、モンモランシーに良く似た美人さんです。もしかして、ド・モンモランシ伯爵は養子なのでしょうか?

 完全に尻に敷かれていると言うか……それは、それとして。そろそろお暇しようと思います。

 

 こちらに滞在して、既に10日以上経ちました。

 

 復興は順調ですし、既に僕のする事も無く毎日モンモランシー達と遊んでばかり……

 竜騎士団とグリフォン隊の皆さんもそろそろ休暇が終わる筈ですから、彼等にも、あるオマケのついた、男の浪漫本の最新刊を渡します。

 エキュー金貨でお礼をしようとしても、頑なに断られたので……

 

 この後は、ヴァリエール家にルイズを送りがてらお邪魔して、ゲルマニアに帰る予定です。 

 カリーヌ様から、直々の手紙を貰いまして、恐いけど、行かなければならないのです!

 

 カステルモール殿とワルド殿は……

 

 エルザにアタックをする気だな。口ではミス・タバサをガリア迄送るとか言っているが、ガリアに行って会わずに帰るとは思えない。

 2人には、彼女は吸血鬼だと教えてある。後は、とっても優秀なのに酷い変態な君達の努力次第だと思う。

 グールにされない様に注意だけ口を酸っぱくなるまで言っておいた!

 

 正直、この時点では彼等の漢度を甘く見ていた。コイツ等は、僕の心配も想像も超越してた……ただ、それだけだ。

 

 彼等は、1+1=無限大 の変態だったから……

 

 シェフィールドさんは、僕をゲルマニア迄護衛してから、ジョゼフ王に報告に行くそうです。

 

 流石はお姉ちゃん!僕の護衛の筈の、風の変態組とは大違いだ。

 

 そして出発の日、ド・モンモランシ夫妻とモンモランシー、そして家臣団の皆さん総出で、送り出してくれました。

 モンモランシーとはこれでお別れですが、夏休みの後半にはトリステイン魔法学院で落ち合う約束をしました。

 

「ツアイツ殿、ヴァリエールの阿保たれに宜しく伝えて下され!復興の件は感謝すると……それとグラモンの色ぼけの取り込みは任せて欲しい」

 

 そう言って握手をする。

 

「有難う御座います」

 

「ツアイツ殿、早く試練を解決しモンモランシーを貰って下さいね」

 

 こちらは、軽くハグしてくれました。もう義理の息子扱いですね。

 

 最後はモンモランシーですが……抱きつかれて、フレンチなキスをされてしまいました!

 

 周りから野次が飛び、ド・モンモランシ伯爵が怒り狂ってますが……

 

「ツアイツ、またね!浮気は許さないからね」と、釘を刺されながらド・モンモランシ領を発ちました!

 

「次は私の番だからー!」

 

 

ルイズ、ご機嫌です。

 

 



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第90話から第92話

第90話

 

 

 風の変態紳士兄弟現る!

 

 おはよう諸君。「男の浪漫本ファンクラブ・変態と言う名の紳士の集い」上級カリスマ会員の、ワルド&カステルモールだ!

 

 ここでポージング!そして効果音が、ドーン!

 

 爆炎が上がり2人のマントがはためき、チラリと内側の模様が見える。

 

 2人共、風を極めし変態紳士。最近、トリステイン魔法学院のギトーなる者が、風は最強の変態紳士!とか、騒いで我らに弟子入りをしてきた。

 素養は有るが情熱の何割かが、風魔法に向いている為にイマイチだ。精進せいや!

 彼は巨乳派だが、我らは大いなる乳の元に集う仲間ゆえ、弟子入りを許可した。

 昔なら、異教徒呼ばわりしたのだが……ツアイツ殿に感化、いや彼の思想に共鳴した為に、乳の大小については不問!

 

 我らもひと皮剥けた変態紳士に進化したのだ!

 

 さて我ら2人、ミス・タバサをガリアに送る為に現在同行中だ!

 どちらの相棒に乗せるかで、熾烈な争いをしたがタバサ殿が風竜に興味が有ると言う事で、我が相棒ブリュンヒルデに乗る事になった。

 しかし、余りのワルド殿の落ち込みように帰りはグリフォンに乗る事で解決。そろそろ、プチトロアに到着の予定だ。

 

 今回のド・モンモランシ領復興の手伝いの報酬として、新作男の浪漫本(フィギュア付)を貰った我ら……第1弾で有り、一般にはまだ普及してないブツだ。

 しかも、ツアイツ殿の計らいで我らグリフォン隊員及び竜騎士団員には、初級会員の権利を得ている。

 このカタログを見せて、特典のマントを選ばせるのだが……エラい事になるだろう。

 

 イザベラ様にとっては!

 

 このカタログには、ツンデレプリンセスとして表記しているが……どう見てもイザベラ様だ!

 彼女の意趣返しで、ツアイツ殿に送り込んだ竜騎士団員達は……更なる進化を遂げて帰ってきた!

 そう、名もないモブの隊員でもあの台詞が言える位に……

 

「ふははははー!プチトロアよ、私は帰ってきたー!」

 

 お留守番の隊員達にもみくちゃにされながら、カタログを渡し今迄の事を報告する彼らは……まるで、凱旋してきた英雄の様だ。

 

「タバサ殿、ワルド殿。イザベラ様に報告に行きましょう」

 

 カステルモールの呼び掛けにより、竜騎士団員達を生暖かい目で見ていたタバサと、暖かい目で見ていたワルド殿が動き出す。

 

「そうですな。私が会うのは問題が有るが……例の件の許可を貰わねばならないからな」

 

 チラリと意味有り気に、カステルモールを見る。彼も黙って頷く。何かを企んでいるみたいだ。

 

「…………?」

 

「何でも有りませんよ。タバサ殿、急ぎましょう。イザベラ様がお待ちです」

 

 阿吽の呼吸で、タバサの疑問をかわす2人。頭の中はエターナルロリータで一杯だ!

 しかし、顔には出さずにタバサ殿を中心に左右に分かれて歩いていく。まるで、タバサ殿が2人を従えている様にも見える。

 

 豪華なドアを軽やかな気持ちでノックする。

 

「イザベラ様。カステルモール隊長及び北花壇騎士団7号殿。それに、トリステイン王国魔法衛士隊隊長ワルド子爵がおいでです」

 

「中に入れな!」

 

 ぞんざいな口調で返事が有り、豪華な執務室の扉が開いた……三人は中に入る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 執務室に入ってきた面々を見て少し驚いた!

 

「これはこれは……今をときめくアンリエッタ姫一番のお気に入り。ワルド隊長では有りませんか!ガリアへようこそ。ロリコンのドーテー!」

 

 エラい表現が来た。

 

「お初にお目に掛かります。トリステイン王国魔法衛士隊隊長ワルドです。ツアイツ殿から聞いた通り砕けた御方ですな」

 

 しかし、この変態は気にも止めてない様子……

 

「エレーヌに手を出した怖い物知らずの隊長さん。私に何か用かい?」

 

 更に、棘を含んだ言葉を投げかけるが躱された。

 

「実は、カステルモール殿より応援の依頼を受けましてな。共に国は違えど理想は同じ!ならば、お手伝いをと思いまして……一応許可を頂きたいのです」

 

 全く堪えた様子は無い。イザベラは、考え込んだが……

 

「ド・モンモランシ領復興も手伝ったのに、今度はウチかい?ツアイツ絡みはお人好しが多いねぇ……良いだろう。問題をおこすなよ。

く・れ・ぐ・れ・も、だぞ!」

 

「「ははっ!有り難き幸せ」」

 

 頭を垂れながらニヤリと笑う2人……この時私は気が付かなかった。

 普段からそう言う態度なら良いのに、と思って……何だかんだと、この2人を甘く見ていた。

 

 このとんでもない変態達を……

 

「それで、報告は?エレーヌどうだったんだい。アイツのド・モンモランシ領の復興は?」

 

 タバサは、考え込みながらポツポツと喋る。

 

「……復興は成功。水の精霊の件、彼は既に原因まで突き止めていた。水の精霊は、彼に力を貸すとまで言ったが……

ミス・モンモランシーに譲った。彼女が交渉役だと認めさせ水の指輪を貰った。序でに、干拓の助力まで約束させた」

 

 驚いた!何だって?水の精霊相手に、そこ迄の援助を引き出すなんて……どれだけの対価を払ったのか?

 

「それは、あの縦ロールも感謝感激したんだろうね?何たって家の悲願の全てを叶えて貰った訳だ!一体どれだけの対価を提示したんだい?」

 

「……何も渡してない。ただ無くした物を取り返す約束をしただけ」

 

 思わず黙り込んでしまった……何だって?そんな口約束で、そんな条件で、先に働かせるなんて?

 

 嘘だろ……相手は精霊なんだよ!

 

「おい!エレーヌの言ってる事……本当なのかい?」

 

 ワルドとカステルモールに問う。2人は頷く。

 

「そうです。水の精霊の秘宝の情報をいち早く掴み、そしてそれを取り戻すと約束した事で信頼を得たのです。己の命を賭けて……」

 

「指輪はレコンキスタの首魁、オリヴァー・クロムウェルが持ってます。彼に勝てば指輪はお返しし、負ければ自身が死ぬ……条件はそれだけです」

 

 なっ何だって……己の命を賭けて、恋人の為に動く。しかも、悲願の実家の復興……

 失っていた交渉役を取り戻し、家宝となる水の指輪を貰い干拓の助力まで漕ぎ着けた、か。

 

 これは、ド・モンモランシ伯爵も落ちたね。

 

 でも、水の精霊の加護まで譲るとは何て気前が良いんだろうね。水さえ引けば、ハーナウ家の財力なら復興は簡単だ。

 逆に財力では叶わないのが、水の精霊の加護のはず……

 

「ツアイツ殿は、水の精霊に個別認識されましたな」

 

「そうそう!我らは全て、単なる者扱いでしたが」

 

「「流石としか言えませんな」」

 

 個別認識?水の精霊が気に入った?んー何とも不思議な男だねぇ……

 

「……イザベラ。これが最新版の男の浪漫本とオマケとカタログ」

 

 エレーヌから渡された、彼の著書は全て集めろとお父様からも言われているアレ……オマケ?

 

 うわっ!精巧な人形だね……こりゃ欲しがるアホが多いよ。

 

 カタログ?ペラペラと捲る……ふーん。

 

 会員になるとランクに応じてマントが貰えて、この人形も買えるのかい。マントのページで捲っていた手が止まる。

 ツンデレプリンセス?なっなっなっ何だいこりゃ?どー見ても私じゃないか!

 

 はっと三人を見る。

 

 エレーヌ……目を逸らしたね。

 

「ばかー!こんな物が広まったら、お嫁に行けないわー!責任者を呼べー」

 

 ツアイツのガリア訪問は、この夏かも知れない。

 

 

第91話

 

 ド・モンモランシ領を出発しレンタルグリフォンにて、ヴァリエール領へと向かっています。

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 今、ガリア方面から美少女の雄叫びが聞こえた様な……気のせいかな?

 ド・モンモランシ領復興に目処がたち、これよりカリーヌ様から、直々の手紙で招待されたヴァリエール領に向かっています。

 送迎用員のグリフォン隊と竜騎士団員達は、休暇が終わるので、各々帰りました。

 両隊長は、ミス・タバサを送るとガリアへ!とっとと送り狼となり、逆襲されてしまえ!

 

 レンタルグリフォン……

 

 実家に帰る時に使いましたが、最近シェフィールドさんと二人乗りが当たり前になってる様な気がします。

 そして、何時も僕が前で後ろから抱き締める様にシェフィールドさんが手綱を握る……男としては、どうなのかな?

 お姉ちゃんの過保護にも、加速がかってきたし。

 

 はっ!まさか、ジョゼフ王の使い魔だけに虚無魔法の加速に掛けてるのか?

 

 などと、アホな事を考えて高所恐怖症を押さえていたら……ヴァリエール公爵邸が見えてきました。

 前回は、シェフィールドさんと2人きりの訪問だったが、今回はキュルケとソフィアが増えている。

 特にカリーヌ様を怒らせる事はしてないから、平気だと思うけど……手紙の件が気になります。

 

 先に僕達が降りてから、竜籠が到着した。今回も何処で察知したか分からないけど、ヴァリエール公爵とカリーヌ様。

 えーと、エレオノール様にカトレア様迄……ヴァリエール一家総出でお出迎えです。

 

 ルイズが「ちい姉さまー!お久しぶりです!」と、抱き付きに走って行ったが……

 

 エレオノール様が、インターセプトして両手でホッペタを引っ張っている。

 僕は、背中が何故かチリチリする感覚を抑えてヴァリエール夫妻の前に行く。何だろう?この危険信号は……

 

「お久しぶりです。ヴァリエール公爵、カリーヌ様。それとカトレア様も……」

 

「おじ様、おば様。お久しぶりです」

 

 キュルケも優雅に挨拶をする。ヴァリエール夫妻は上機嫌だ。

 

「良く来たな2人共。歓迎しよう!立ち話も何だ。まぁ入りたまえ」

 

「そうですよ。それとお義母様で良いですよ。ド・モンモランシ伯爵も貴方を正式に婚約者と発表しました。なれば、我が家も遠慮する必要性も無いのです」

 

 ヴァリエール夫妻に両脇を固められ、屋敷に入る。意味も無く逃げ出したくなるのだが……少し拗ね気味のキュルケも後に続く。

 

「シェフィールド様には別室をご用意致しました。其方でお寛ぎ下さい」と、丁寧にカトレア様自らが案内を申し出た……

 

 シェフィールドさんは目線で僕に伺いをたてるが僕は頷いて了承する。

 

「ツアイツ様、札はお持ちですね?」と、結構前に貰った、三点セットの有無を確認しカトレア様の後に付いて行く。

 

「「さぁさぁ此方へ」」

 

 ヴァリエール夫妻に連行される様に応接室に入る。シェフィールドさん平気かな?

 カトレア様もヤンデレ素質が有りそうだし、まさか私室の動物達を紹介しなければ良いけど……不安一杯でソファーに座る。

 何時の間にか、両脇にルイズとキュルケが自然な感じで座っている。

 

「さて、先ずはド・モンモランシ領の件を教えてくれるか?」

 

 僕は一連の話をする。ラグドリアン湖の水の精霊との交渉は成功。新しい交渉役にモンモランシーがなり、水の指輪を貰えた。

 干拓事業の協力も請け負ってくれたので心配は無い事を……それと、ド・モンモランシ伯爵から宜しく言ってくれと伝言された事を。

 

「流石は私達の義理の息子です。考えられる内では、最高の結果ですね」

 

 カリーヌ様のべた褒めは、嬉しいのだが……何時も、良くないオマケが付くんだよな。

 

「これで、グラモンのエロ呆けの攻略も目処がたったな」

 

「その……お三方は、交流が有ったのですか?」

 

 ヴァリエール公爵は笑っている、思い出し笑いか?

 

「昔の話だ。1人では説得出来なかったが、アヤツも一緒なら話を聞くだろう……」

 

「大変でしたね。暫くは我が家と思い寛ぎなさい。明日にでも手ほどきをしてあげます。これからの事も考えて、鍛え直してあげますから!」

 

 凄い笑顔だ!昔の特訓と言う名のシゴキを思い出した……

 

 キュルケとルイズが僕の手に抱き付きながら「「なら私達が、手当てをしてあげるわ」」と綺麗な笑顔でニッコリと言ってくれた。

 

「ありがとう。カリーヌ様も程ほどにお願いします」

 

 そして、そっと2人を引き離す。

 

「時にツアイツ殿?最近、アンリエッタ姫から貴方の事を良く聞きます。随分と信頼関係を築いたのですね?」

 

 嗚呼……アンリエッタ姫には苦労しか貰ってないな。

 

「少し不味いと思うのですが……何とかなりませんか?」

 

 カリーヌ様に一縷の望みを掛ける。

 

「無理ですね。でも、利用し易くなるから良いでしょう。それにアンリエッタ姫には……これからの計画の為にも、立場を強くして貰わねば駄目でしょう?」

 

「はぁ……」

 

「今日はゆっくり休むと良い。ルイズ、久々にミス・キュルケと共にツアイツ殿に甘えて来なさい。

それと折角、ミス・キュルケと一緒なのだ。久しぶりに、水の人形劇を見せて欲しい」

 

 そう言って、僕とルイズとキュルケを応接室から押し出した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 三人を追い出した後、何やら難しい顔をして話だした……ヴァリエール公爵が、話を切り出した。

 

「ツアイツ殿の作戦は順調だな。これでグラモンも取り込めて、宮廷での発言も強くなるだろう」

 

「あなた!この調子なら、アンリエッタ姫のツアイツ殿に対する依存度は……高まるばかりですわね。

防国の聖女、国力の落ちたアルビオンに嫁ぐ、か。両国の膿みを出し切った後なら、トリステイン軍を率いてきたアンリエッタ姫の発言力は馬鹿にならないわ。

私も現役時代の烈風のカリンとして参戦しますから」

 

 カリーヌは極悪人の笑みだ!

 

「ツアイツ殿は、影から操り自分は一切表舞台に顔を出さずに、全てを終わらせるつもりだろう。

しかし、混乱後の疲弊した2つの国をあの母娘が治められる訳がないのだ……正直言って力不足。トリステインの為に、もう一手欲しい」

 

 ヴァリエール公爵は、何かを悩んでいる様に両手を握り締めている。

 

「ツアイツ殿には、正当な評価と報酬を受ける権利が有るわ。

他国の貴族、始祖の血を引かぬ蛮族と見下したヤツらに甘い汁を吸わせる必要は無いわね。でも、彼が嫌がる事をするのは私も嫌よ」

 

 どこまでも、ツアイツに甘いエレオノール。

 

「ですが、このままアンリエッタ姫が聖女となり、アルビオンに嫁いだ後のトリステインは……

マリアンヌ王妃では上手く治められず、また逆戻りよ。この国には、強力なカリスマが必要なのよ。ツアイツ殿には本当に悪いのですが、ね」

 

「なれば……誰っ?」

 

 突然カリーヌが杖を抜いた!その瞬間に、暗闇から滲み出るように……黒衣の魔女が転移していた。

 

「面白そうなお話をしてるのね。私にも聞かせてくれないかしら?」

 

 壮絶な笑みを浮かべたシェフィールドが話し掛ける。

 

 

第92話

 

 善意の悪企み……とでも言うのだろうか?

 ヴァリエール夫妻と長女エレオノールが、良からぬ話をしている最中にヤンデレ魔女が乱入する。

 

「面白そうなお話をしてるのね。私にも聞かせてくれないかしら?」

 

 この一家は、ツアイツ様に身内とまで言われているのに、彼に良からぬ事をしようとしているのか?あの年増が、杖を収めて話し掛けてくる。

 

「シェフィールド殿ですか?驚きましたよ。突然の転移魔法は……我々は、ツアイツ殿に悪意は有りません。話を聞いて下さい」

 

 前回訪問時よりも、丁寧な対応でソファーを勧められる。年増の、これも年増な娘が、難しい顔で紅茶を用意してくれた。

 残念だけど、私には毒は効かないわよ……

 

「では、先程のお話を聞かせて貰おうかしら」

 

 殺気で威圧して問い掛ける。嘘なら、ツアイツ様を害するなら、消えて貰うつもりだ……私の家族に手を出すなら、レコンキスタより先に潰すわ!

 年増の夫が話し出す。

 

「シェフィールド殿も、ツアイツ殿が今回の件で苦労しているのは知ってるだろう?

しかし、成し得る事の重大さに反比例する彼への報酬は……余りにも少ないとは思わないか?」

 

 …………?嗚呼、そうか!彼等には、事が終わった後でツアイツ様が、我が主の義弟になる事を教えてないわね。

 彼等なりに、ツアイツ殿への見返りを考えているのか……話を進めさせる為に頷く。

 

「2つの国家を救い、ハルケギニアの争乱を抑えた真の英雄は彼なのだ!

しかし、その功績の殆どが、アンリエッタ姫の物となりトリステインの利益になる……可笑しいとは、思われぬか?」

 

 こんなブリミル時代に哀愁を感じる様な連中の巣喰う、カビの生えた小国など要らないのだけど……

 

「それで?どうするのかしら?」

 

「私達も考えました。アンリエッタ姫は、アルビオンに嫁ぐ。向こうで、それなりの勢力を保てるでしょう。民と軍部の支持が有る。

この戦乱での戦費と報酬は、レコンキスタに組したアルビオンの貴族連中の領地を要求させるつもりです。

アルビオン内にトリステインの治める土地が出来ます。だから嫁いだ後も、アルビオンでのアンリエッタ姫の影響力は強い」

 

 なる程、戦後のパワーバランスはそうね。あの、色ボケ姫でも地盤は作れるわけね。

 

「しかし、トリステインを裏切った貴族の領地の大半は国の直轄地になるでしょう。

我ら協力した貴族に与えても余る位に、この国の貴族は腐っている者が多い……これを機に一掃すれば、三割強は減りますから」

 

 はぁ……何処の国も、役に立たない強欲貴族ばかりなのね。

 

「失礼ながらマリアンヌ様が、アンリエッタ姫が嫁がれた後のこの国を正常に治める等と夢をみる程、私達は楽観してないわ」

 

 なる程ね……大体分かってきたわ。

 

「……それで?どうしたいのかしら?」

 

「折角ツアイツ殿が、膿みを出してくれたこの国は、直ぐに元に戻ってしまう。それでは、彼の努力が水の泡だ!」

 

 ヴァリエール公爵が、最後に気持ちを吐露した!

 

「それで、アナタ達はツアイツ様をどうしたいの?」

 

「我がヴァリエール公爵家は、準王家。始祖の血も濃い。

その我が家の正当跡取りが、ツアイツ殿と婚姻関係を結べばどうかな?しかも、真の英雄としての働きを公表したら……」

 

 まさか、トリステイン貴族が王家乗っ取りを企むか?

 

「ツアイツ様をトリステインの要職に据える気なのね?」

 

 年増が、言葉を繋げる。

 

「まさか、彼はそんな事は望まないでしょう。欲が薄いと言うか……オッパイの探求には際限無いのですが。

しかし、この国を思えば何もせずに安穏としているマリアンヌ様では未来が無いのです。

なれば、地盤作りを我らがやらねばならない。国の為なら、ヴァリエールは立つ!」

 

「ふーん。でも、ルイズとモンモランシーもゲルマニアに嫁ぐのでしょう?トリステインと外戚になるけど国政に口を出す程の力は無いわよ」

 

 ずっと黙っていたエレオノールが宣言した!

 

「私が、ヴァリエール公爵家を継ぐわ!ド・モンモランシ伯爵家とグラモン家。レコンキスタ騒動を治めた私達が結束すれば、この国を動かせるわ!」

 

 なる程ね。彼に救って貰ったこの国をより良くする為に、今回のツアイツ様の関係者が立ち上がる訳ね。

 アンリエッタ姫はアルビオンに押し付けて、マリアンヌ王妃が動かないなら立ち上がるのか……

 

「分かったわ。折角の努力の結果を関係無いヤツらに良い様にされては堪らないわね。でも、ツアイツ様は私と主とガリアで暮らすから……

その心配は杞憂よ。ツアイツ様が身内と言ったアナタ達にも悪い様にはしないから。

ツアイツ様はね、私の義弟……そして、私がガリアの王妃となるからには、こちらでそれなりの待遇を考えているから心配しないで。

でもそれは……まだ秘密よ、お互い彼に知られたくないでしょ?」

 

 くすくすくす……だからこの国はアナタ達にあげるわ。

 

「「「はぁ?それはどういう意味なの(なんだ)?」」」

 

「我が主の希望を叶えたなら、アナタ達が心配する以上の地位も名誉も財もツアイツ様には与えられるわ!

だから心配は無用よ。彼が、立て直したこの国はアナタ達にあげるわ!だから、好きにしなさい。力は貸してあげるから安心して良いわ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 なっ?何を言っているんだ、この女は……ツアイツ殿が、ガリア王の義弟になるのが報酬だと?しかも内緒とは、彼は知らないのか?

 我らもいずれはトリステインの要職に迎え、彼をこの国に繋ぎ止めようと思ったが、この女はそれをも上回る考えを持っていた。

 まさか、始祖の血を引く我が娘達を嫁がせ、この国との関係を高めさせる我らが考えをスッ飛ばして、一気に王族に迎え入れるだと……

 ガリア王ジョゼフに嫁ぐこの女の義弟として、ジョゼフ王の義弟にしてしまうだと!

 

 何を考えて……

 

 ジョゼフ王は、噂の無能とはかけ離れた異常者だ。やるなら強引に推し進めるだろう。

 しかも、ツアイツ殿はガリアの一部勢力には既にソウルブラザー扱い。イザベラ姫との関係も良好だ。

 何よりツアイツ殿なら、それでも何とかしそうで怖い。ガリアでも、十分やっていけるだろう!

 

 この女……

 

 我々よりエグいぞ!しかし、ガリア王の義弟となれば、始祖の血を引く我が娘達が嫁いでも文句は言えないな。

 ガリアとの関係強化……アルビオンとの関係が悪化しても、問題無いか?

 悪化しても、真の英雄が此方に居るのを公表すれば、どうとでもなるか……それはそれで、有りだな。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 はぁ?このイカレ女、カマしてくれるわね……しかし、ガリア王の義弟なら報酬としては、良いのかしら?

 確かにツアイツ殿は、小国トリステインでは収まり切れない可能性が有る。

 でも私達は身内だし、彼の立場が変わっても問題無いわね……しかし、ゲルマニアは黙ってはいまい。

 

 どうするつもり?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なっ?折角私が、トリステイン王国を奪ってでも彼と結婚しようと頑張っているのに……

 しかし、国内の五月蝿い貴族連中を静かにさせるには、ガリア王の義弟の方が良いかしら?

 最終的に私自身が、今回の報酬として彼に嫁ぐ事が目的だから……

 それに、年上の私はあの女達より強い立場で嫁ぐ必要が有る。

 

 彼の寵を得る為に……

 

 それにこの女、基本的にツアイツを恋愛対象外に見ているから、味方に引き込めば有利ね。

 

「その話乗ったわ!」

 

 エレオノールも勝負に出る。トリステイン王国よりも、自分の未来の可能性に賭けて!

 



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第93話から第95話

第93話

 

 アンリエッタ姫、今回も暴走する。

 

 トリステイン王宮のベランダから、城下町を見下ろしながら思う。愛するウェールズ様の事を……

 嗚呼、あの雲は私に笑いかけるウェールズ様の様だわ!

 そして、他国の貴族ながら一番信頼しているミスタ・ツアイツの事を。

 何時でも私に的確なアドバイスをしてくれる、大恩ある他国の貴族。

 そして、明らかに今迄より一回りは確実に大きくなった我が乳!

 まだ、ウェールズ様を落とすには心許ないが、巨乳の階段を登り始めたわ。これで、ウェールズ様は私の虜に……

 

 

※妄想が終わる迄、暫くお待ち下さい。

 

 

 ……はっ?最近時間の経つのが、早くないかしら?

 

 

 今朝の報告書では、ド・モンモランシ伯爵から、水の精霊との交渉役を娘が成し遂げた、と。

 ラグドリアン湖は、私とウェールズ様の馴れ初めの場所。最近増水騒ぎで、その大切な場所が酷い事になっていると聞き心を痛めてましたが……

 これで又、園遊会をかの地で行う事が出来ますわね。園遊会……

 

 そうだわ!

 

 新しく交渉役になったと言う、彼女の御披露目を合わせて大々的に園遊会を催してもらいましょう!

 他国の王族や、彼女はトリステイン魔法学院の生徒……なら学生のお友達も呼んでも不自然じゃないわ。

 

 久し振りに……いえ、初めてウェールズ様から私信を頂いたわ。

 

 何でも、最近ゲルマニアの演劇に大変興味が有り一度その作者……トリステイン魔法学院に留学中のミスタ・ツアイツに会って話がしたいと。

 これは、ウェールズ様に会えるチャンス!しかも、愛している御方と信頼している御方に挟まれて演劇とか見れたりして……

 

 嫌だわ!アンリエッタ、困っちゃうわ。

 

 

 城下町を見下ろせるバルコニーで、一国の姫がイヤイヤと身を悶えている。

 見下ろせる=見上げる事も出来るのだが、幸い彼女の痴態を見ていたのはアニエス隊長だけだった。

 彼女が、脳内疑似両手に花デートの妄想を堪能中、アニエス隊長も色ボケしていたりする。

 

 こちらは、一度だけお会いした黒衣のお姉様。シェフィールド様の事を……

 

 因みに彼女のお仕置きは、減給とある工作を行う時に銃士隊をあげて全面協力をする事。

 工作とは、恋文の搬送役として銃士隊を使う約束をさせた事だ!

そんな色ボケた2人の思いは、思い人に会える機会はド・モンモランシ伯爵よりもたらされた。

 

「アニエス隊長!お母様の所に行きます。ド・モンモランシ伯爵のご息女が水の精霊との交渉役になれたとか。

これはトリステイン王国の力を各国に知らしめる事が出来るわ。

大々的にラグドリアン湖にて遊園会を行い、その場にて公表する必要が有ります。これから忙しくなるわよ」

 

「ははっ!して、遊園会にはあの変態もお呼びになるので」

 

 アンリエッタ姫は、自分の信頼するミスタ・ツアイツを未だに変態と呼ぶアニエス隊長に眉をしかめたが……他国の貴族を警戒する。

 これも隊長の仕事だと割り切った。

 

「勿論ですわ。ウェールズ様からもミスタ・ツアイツとの会談の機会を与えて欲しいと……私に、直々にお手紙を頂きましたから。国賓としてお呼びしますわ」

 

 アニエス隊長は渋い顔だ!

 

「流石にそれは……あの変態でも、立場が有りましょう。姫様、自重して下さい」

 

 ミスタ・ツアイツの立場?また失敗してしまったのかしら……

 

「…………?そうなのかしら?では、普通に招待状を送りますね。さぁお母様に報告しなければ」

 

 いそいそと、マリアンヌ王妃の部屋に向かうアンリエッタ姫の後を慌てて追いながらアニエス隊長は溜め息をついた。

 いくら気に入らぬ変態でも、最近のアンリエッタ姫の口から出るのはあの男の誉め言葉ばかり……

 流石に他国の貴族を誉めちぎるのは、姫様にも変態にも良くない事だ。

 

 何とかしないと……お姉様にも被害が及ぶかも知れないし。まさか私が、あの変態を気遣う事になるとは。

 苦笑しながら、アンリエッタ姫と共にマリアンヌ王妃の部屋に向かった。

 

 

 

 ヴァリエール公爵邸に有る巨大な池?

 

 

 

 中心に島も有り、橋も架かっている一寸小さい湖みたいな池の前に、沢山の人が集まっている。

 これから久し振りに、キュルケと水のゴーレムの演劇を披露する為に。

 思えば、ロミオとジュリエットが初めての演劇だったな……

 うっかり両親やツェルプストー夫妻に見せてしまったから、周りに言い触らし廻られて大変だった。

 

 そして、二作目の演目はシンデレラだった!しかもツェルプストー辺境伯邸に軟禁されて仕上げた作品だ。

 

「レディース&ジェントルメン!今日の演目はシンデレラ。これは私の二作目にして、一番小説が売れたお話です!では、お楽しみ下さい!」

 

 目線でキュルケに合図を送り演技を開始する。原作との違いは、スタート時に虐げられていたシンデレラ……

 キュルケが演じると、ゴージャスボデーにこの美貌。全然悲壮感が無いです。

 

 しかし、キュルケの演技は素晴らしく灰被りの少女からダンスパーティーで注目を浴びるレディへの変身は見事!

 ヴァリエール家のメイドさん達から、溜め息が漏れていました。僕の魔法制御も、それなりに上達したので中々の盛況でした。

 思えば、最近は暗躍する事が多かったから良い気分転換になりました。シェフィールドさんには初めて見せたのだが、随分と魅入ってくれましたし。

 それだけでも演劇をして良かったかな。

 

 それと……

 

 久し振りに、カトレア様も気分が良かったと庭に出て鑑賞してくれました。

 

 エレオノール様は……

 

 心此処に有らず?何やら悩み事が、有りそうなので聞いてみよう。

 こうして考えると、ヴァリエール公爵家の皆さんには、随分世話になってるよね。

 この一件が片付いたら、何か恩返しをしないといけないね。等とツアイツが考えていた頃……

 

 この一家は、ツアイツを何とかトリステイン王国と縁を強めようと行動していた。

 全て、シェフィールドさんの掌の上で……

 

 エレオノール頑張れ!

 

 

第94話

 

 おはよう、私は、大国ガリアの王位継承権第一位。

 普通なら何不自由なく、皆に蝶よ花よ!と扱われる筈の、プリンセス・イザベラさ。

 

 最近、自分でも飲酒の量が増えてヤバいと思っている。しかし、飲まないとやってられない事が多過ぎなんだよ!

 それに、ツアイツが贈ってきたタルブ産ワインと水の秘薬「そるまっく」がね……

 

 二日酔いに効くもんだから、つい痛飲してしまう。このままじゃイケないね。

 

 お父様は無能王と呼ばれ娘がアル中姫じゃ情け無いよ……

 ツアイツに意趣返しを含めて、カステルモール以下の極めて変態度の高い連中をレコンキスタ関係の報告書を添えて送り付けてやったんだ。

 あいつ等の相手をしなければならない私の苦労を少しは思い知れ!って意味でね。

 

 しかし、ヤツは凹む所か、コイツ等をより強力な変態にして送り返してきやがった!

 

 しかも、どう見ても私をイメージした……ふぃぎゅあ?それと、会員特典マント?の裏地に私の色々なバージョンの豪華刺繍を施したマントを配布してやがる。

 

 この特典効果が強力だ!信じられるかい?今まで無能王の娘として、親子揃って魔法が苦手な連中と陰口を叩かれていた私にさ……

 

 公式ファンクラブの申込みが3団体も有ったんだよ。

 

 それに、竜騎士団や北花壇騎士団以外の、私から距離を置いていた連中も、何かと私に接触に来やがる。

 そして、色々なパーティーへの出席の依頼。こんな事は初めてさ。

 

 正直言って私だって年頃の娘さね。

 

 嬉しいのは、嬉しいんだけどさ。呼ばれたパーティー会場の護衛に必ず……断っても断っても同行したがる、黒いマントの一団。

 アイツ等が、マントを翻す度に周りが盛り上がる。コレって何か違うんじゃないかい?

 

 今では、ガリアのツンデレプリンセスとして「大きなお友達」からの忠誠が凄い事になってるんだ。

 

 会員数も既に1600人を突破したよ、会報も毎週出ていて私にも届くんだよ。中心は、ツアイツに送り付けた連中だ!

 ツアイツに報告書の中で、文句を書いておいたが……

 アイツ、私の人気は私の魅力による物だから、これを機会にガリアの次期女王としての地盤を固めろって言いやがった!

 確かに、人気の無かった腫れ物扱いの私がさ……こんな人気者になれるなんてさ。

 

 お父様ですら驚かれて、しかも嬉しそうに誉めてくれたんだよ。今では、エレーヌよりも人気者だし旧シャルル派の連中からも接触が有る。

 

 しかし……しかしだよ……

 

 私が斜に構えたり、毒舌を吐く度に今日はツンツンですねモエー!とか、周りが盛り上がるのはどうかと思うんだ。

 

 ツアイツ……

 

 アンタが作り上げた、このガリア産の変態共を引き連れて会いに行ってやるよ!

 報告書に書いて有った、ド・モンモランシ領の復興と水の精霊との交渉の件、見事だね。

 アンリエッタ姫から、ラグドリアン湖で遊園会を催すと招待状が来たからさ。

 

 必ず私が行くよ。

 

 やっぱりアンタはぶん殴るよ!周りは、今日のツンツンはバイオレンスだー!とか、盛り上がるんだろうねぇ?

 まだ、レコンキスタも潜伏してるし忙しくなる前に、アンタとはキッチリと拳で話を付ける必要が有る!

 このままだと、歴史に刻まれる女王になる事すら難しく無いと思うよ。歴代ガリア王族の中で、一番皆に愛された女!

 

 ツンデレプリンセス・イザベラ、とかさ……

 

 

 

「失礼します。イザベラ様、今週の会報です。それと、イザベラファンクラブの集いが、今夜プチトロア中庭で催されます。

ソウルブラザーから、フィギュアで着せた衣装と同じ物が贈られて来ましたので参加時にお着替え下さい。それと、これが今週分のファンレターとプレゼントです。

全てディティクトマジックにて確認しましたが、異常は有りません。来週ですが、東花壇騎士団への慰問について……」

 

 ジャーマネみたいな竜騎士団員が、トップアイドルさながらの予定を読み上げて行く。

 

「来週は、トリステインに行くよ。お前らの大好きなソウルブラザーも来るラグドリアン湖の遊園会に呼ばれてね。スケジュールはコレが最優先だ!調整しな」

 

 ジャーマネは、メモ帳に予定を書きながら……

 

「来週ですか?んー難しいですが政務を優先しなければなりませんね……了解しました。

それとイザベラ様の護衛の件ですが、カステルモール団長が不在の為に、副長とイザベラ隊が行います」

 

 ん?なんか、今変な単語が聞こえたけど……

 

「一寸待ちな!カステルモールのヤツが不在って……私は任務を与えてないよ?それにイザベラ隊って何さ?」

 

 ジャーマネは眼鏡をくぃと持ち上げながらほざいた。

 

「団長は、ワルド殿とサビエラ村に向かわれました。クーデレ様のトリステインに向かう日迄には戻られるそうです。

イザベラ隊とは、ソウルブラザーより中級会員以上のツンデレプリンセスマントを贈られた連中の集まりです!

皆、魔法と武術に長けた所属を超えて集まった漢の一団です」

 

 なっななななな……

 

「ばかー!所属を超えるなー!問題有るだろー」

 

 嗚呼……罵倒すると恍惚としやがって、この変態共がー!

 

「今日のツンは困った感が出ていて可愛らしい……はぁはぁ!はっ!しかし、イザベラ隊設立の要望書を正式にジョゼフ王に提出・承認を承けておりますれば……」

 

 お父様が?何を考えているのですかー?

 

「ジョゼフ王は、イザベラ様の護衛は貴様等に任せた。と、笑顔で言われました」

 

 ツアイツ……やっぱりアンタは、グーで殴るよ。アンタが、謝るまで殴るのを止めないからね!

 

「まぁ良い。楽しみだねぇ……ツアイツに会えるのが、さ」

 

 思わず拳を握っちまうよ。殿方の事をこんなに思うなんて初めてさ。殺意が湧く程にね……

 

「はっ!ソウルブラザーには、ご指導願いたい事がマダマダ沢山有りますので」

 

 ……これ以上、アンタ達の変態度を上げたら私の血液は飲み過ぎでワインになっちまう。

 

「それと、ソウルブラザーよりイザベラ様に今週の贈り物です。何でも、アイスワインと言って一度材料の葡萄を氷結させ絞る事で甘みの強いワインだそうです。それと……」

 

 律儀に毎回贈り物をしてくるけどさ。そんな事で許されるレベルは既に超えているんだよ。しかし、アイスワインか……ちょっと美味しそうじゃないか。

 

 

 

 イザベラが、大国ガリアのアイドルとして君臨する日は近い!

 

 アンリエッタ姫とはまた違う、比較にならない人気と熱狂的な信者を集めている!

 

 シャルロット……タバサは、まだその存在を知る者が少ない為、知る人ぞ知るアイドルとして少しづつ人気が上がっている。

 

 彼女達の人気を不動の物とする男の浪漫本……「2人はマジカルプリンセス・第1章 禁断の従姉妹姫」は完成しているが、まだ世に出回っていない。

 

 

第95話

 

 

 おはようございます、ツアイツです!

 

 寝不足で有ります。今朝は、ヴァリエール公爵家より御挨拶です。

 昨夜遅く、ド・モンモランシ伯爵の家臣の方から駆け込みで報告が有り、明け方近くまでヴァリエール公爵と話し合いをしていたので……

 あの姫様、あろう事かモンモランシーの交渉役就任をラグドリアン湖にて盛大な園遊会を兼ねて発表したいのです!と宣った事を、王宮勅使のモット伯が伝えに来たそうです。

 

 モット伯も、我が「男の浪漫本ファンクラブ・変態と言う名の紳士の集い」の上級会員。

 

 昇格時に、かなり厳しく性癖を改めて女性に対して優しくする様に指導した!

 最近では、紳士によるオッパイ嗜好対談で僕を唸らせる提案をする位に……

 そして、彼も随分と王宮と言うかアンリエッタ姫に対して妥協案を提示してくれたらしい。

 

 主に、予算と人員だ!

 

 普通は、各国王室を招待するなんて何ヶ月も段取りにかける物だし、招待状も来週催します!って、こちらの常識を疑われる日程だぞ……

 準備に当たり、僕で手配出来る分とヴァリエール公爵より予算と人員を追加で送る。

 それでも間に合うか?微妙なラインだ……ハーナウ本家にも、要請をする。

 

「ツアイツ殿、折角の休暇なのにすまんな」

 

 ヴァリエール公爵は、自国の姫の奇態振りに申し訳なさそうに苦笑しながら謝ってくれた。

 

「いえ……一寸急ですが、御披露目は早い方が良いですから。僕は呼ばれないと思いますが……その辺はド・モンモランシ伯爵も察してくれていますから」

 

「そうだな。しかし、アヤツの事だ!娘に悪い虫が付かない様に婚約発表をするかもしれんぞ?」

 

「まさか、それは無いですよ」

 

 笑い合う僕とヴァリエール公爵!只でさえ、トリステイン貴族から妬まれているのに、公式の場でそんな事を言わないだろう。

 と、思っていたから……しかし、暴走特急アンリエッタ号は甘くはなかった。

 僅かな睡眠の後、ヴァリエール夫人&愛娘ズとキュルケとシェフィールドさんで朝食後の紅茶を楽しんでいた。

 

「ヴァリエール公爵も大変ですね」などと、カリーヌ様に話したり「ツアイツ殿、どうですか?午後に手合わせなどは?」とか、一部危険な単語も有ったが概ねノンビリムードだ……

 

 因みにヴァリエール公爵は自ら、ド・モンモランシ伯爵領に家臣を率いて手伝いに向かった。

 何だかんだで、共に陣頭指揮を執るみたいだ!ド・モンモランシ伯爵とは仲が良いんだな。

 夏の日差しをテラスで浴びながら寛いでいると、見知った顔の……

 

 アニエス隊長自らが、ヴァリエール公爵及び僕に(僕はハーナウ家としてではなく、モンモランシーの級友と言う事で)招待状を持って来た……

 

 アニエス隊長は、シェフィールドさんに熱く艶めかしい視線を送っている。邪魔したくないが、仕方が無いので声を掛ける……

 

「アニエス隊長、申し訳無いが国に戻るので園遊会には欠席で……」

 

「へんた……いや、ツアイツ殿。それは無理だ。アンリエッタ姫は、園遊会で貴殿とウェールズ皇太子を引き合わせる約束をしたらしい。

最初はアンリエッタ姫直々に国賓として招待したいと言うのを私が止めた」

 

「貴女が?何故?」

 

 アニエス隊長は、なにやら照れてモジモジしている。

 

「シェフィールドお姉様にも被害が及びそうだし、何よりアンリエッタ姫の立場も悪くなる」

 

 話の前半はスルーして、後半のアンリエッタ姫の立場も悪くなる……に、アニエス隊長が普通の判断も出来る事に安心した。

 

「そうですね……僕もですが、アンリエッタ姫も自身の立場を良く考えて頂きたいのです。このままでは……」

 

 アニエス隊長は憮然とした顔だ。

 

「言うな!承知しているのだが……最近の姫様は浮かれ過ぎている。足元を掬われなければ良いのだが」

 

 このガチレズネーちゃんも、隊長迄上り詰めるだけの事は有る訳か……

 

「アンリエッタ姫に伝言をお願いします。何故、ウェールズ皇太子が僕に会いたいのか?他国の貴族に関心を向けすぎるのは危険な事。

例の手紙の件、下書き等はまだ駄目です。もし有るなら全て焼却処分をする事。以上三点をお願いします。

それと、園遊会はあくまでも級友として参加します。余計なサプライズは要りませんから」

 

 アニエス隊長も、言われた事を「すまん。覚えられんから、手紙にしてくれ」と、脳筋振りを発揮した!

 

「僕が、アンリエッタ姫に手紙をおくる事が周りに知られたら、危険な事は分かりますよね?」

 

 頼むよ、隊長殿。

 

 アニエス隊長は、恥ずかしそうに「いや……大切な話だから忘れては駄目だと思ってな」とか言ってる。

 

「私が姫様にお手紙を認める(したため)わ。お友達の私なら問題無いでしょ?」と、助け舟を出してくれた。

 

 アンリエッタ姫……

 

 早くアルビオンに、ウェールズ皇太子に押し付けないと大変かもしれないぞ。アニエス隊長は、ルイズの書いた手紙を持って王宮に帰っていった。

 カリーヌ様とエレオノール様は、難しそうな顔をしていた。しかし、あの顔は何かを企んでいる時の顔なんだよなー。

 しかも、大抵被害は僕が被る種類の顔だ……

 

 見詰めているとカリーヌ様は目を逸らし、エレオノール様はニッコリと微笑んでくれた。益々怪しい。

 

 あのカリーヌ様が目を逸らしたなんて……

 

「カリーヌ様何か?」

 

「そうだわ!ツアイツ様、今日はこれから私のお友達達をキュルケさんとシェフィールドさんに紹介したいのですが……」

 

 あの、ハルケギニア版ムツゴロウ王国に連れて行くだとー?ぐいぐいと2人の腕を掴んで自室に連れて行こうとするカトレア様。

 

「ちょおま、待って……」

 

 慌てて追い掛ける。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「カトレアの機転で疑いが有耶無耶になったわね。ツアイツ殿のリスク回避スキル……本当にやっかいね」

 

「でもお母様。やはり、アンリエッタ姫にこの国を治める事は無理かしら?」

 

「しかし……ツアイツ殿は、ガリアに行かれる可能性が高い。この国の要職にも就く可能性も低いし……何より本人が辞退するわね」

 

「「何か良い方法は無いかしら?」」

 

 こちらの母娘は悩んでいたが、王宮の母娘は呑気な物だった……

 



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第96話から第98話

第96話

 

 こんばんは!ツアイツです。

 

 現在、ヴァリエール公爵家に滞在中で寝室にて夢の世界に旅立とうとしてます。

 昨夜は、急な園遊会の件で睡眠時間が少なかった。

 昼間は、カトレア様のハルケギニア版ムツゴロウ王国に連行されたキュルケとシェフィールドさんを救出したりと忙しかった。

 やっと皆から解放され、宛てがわれた部屋で寝る所でした!

 

 思えばこの部屋もヴァリエール家に訓練に来た時から同じだなー!カリーヌ様も僕に気を使ってくれてるんだなー!と、現実逃避中。

 目の前に居る筈のない人が居ますから……

 

「ツアイツ様?ツアイツ様、どうしたんですか?独り言をブツブツと……」

 

 そう!アルビオン大陸にて工作中のロングビルさんと遍在ワルド殿が目の前に居ます。

 

「ロングビルさん。何故此処に居るのですか?」

 

 ロングビルさんはニヤリと笑い「元土くれのフーケですからね。貴族の屋敷に忍び込むなんて簡単ですよ」クスクスと笑ってくれた!

 

 因みに遍在ワルド殿は、気まずそうに頭を下げてくれた。本体より余程空気の読める遍在だ!

 

「それで?わざわざ出向いてくれた用件は何でしょう?」

 

 そろそろ本格的に眠いのですが……

 

「アルビオンでの工作ですが、一段落です。既に己の性癖に自負の有る者達にとって、美乳派に入るなど考えられない事でしょう。

レコンキスタに組した者は、金の亡者と信念無き色狂いばかり……

それにクロムウェルは、そろそろ勧誘に見切りを付けています。傭兵団に接触し始め、物資の調達・備蓄を始めました」

 

「ロングビルさん。取り込み妨害工作はこれで止めましょう。潮時ですね」

 

 ロングビルさんは何故か不機嫌そうにしている。

 

「誇り有る変態達の殆どが、ツアイツ様の例の会員になってますから……

最近は攻略の妨害は殆どせず、奴らから財宝を巻き上げる事ばかりしてましたから。確かに潮時ですわね。

それにもう、アルビオンの貴族で己の性癖に自負が有る連中は、レコンキスタに組する事は無いでしょうし……」

 

 どうやら会員制度は成功したみたいだな。

 

「でも、何でロングビルさんは不機嫌なの?」

 

 彼女は、鞄から特典第一弾のフィギュア

 

「完全版ティファニア・プリンセスバージョン」をテーブルにドンっと置いた。

 

「で、そいつ等が必ずこの人形を持ってるんですよね?ツアイツ様は、テファを保護すると約束した!しかし、この人形が出回っては危険では無いのですか?」

 

 ロングビルさん、本気で怒ってる。ヤバいなぁ……

 

「静かに……この人形がテファを守ってくれる布石なんですよ。この人形……フィギュアと呼んでますが、凄い人気です。既に売れ行きも上々です」

 

 彼女は、まだ不信顔だ……

 

「このフィギュアは、プリンセスバージョン……モード大公の血を引いている王国に連なる正当な立場のテファです」

 

 ロングビルさんは、声は潜めているが口調はキツい。

 

「それは秘密にしたいって言っているではないですか!」

 

 もしバレて、追われる様になるかも?って不安なんだろう。

 

「秘密は何時かはバレます。隠し通せればそれでも良いですが、幾つか手を打っておこうかと……

彼女の姿を模したフィギュアは人気絶大だ!まだモデルが居るとは発表してないけど、隠してもいないからその内知れ渡るでしょう。

僕の婚約者として。ゲルマニア貴族の娘として。それが真実と周りは受け止めるでしょう」

 

 ロングビルさんは黙って僕を見詰める。

 

「テファの過去の偽造も、粗方工作済みです。孤児で修道院に居る所を僕が見初めて、配下の貴族の養子とし嫁がせる。

ある程度調べれば辿り着く情報。巨乳派教祖の僕ならば、随分我が儘だが納得はするでしょう。そしてその話は、ハーナウ家ではタブーな感じにしています」

 

「……なる程。どうせバレるかも知れないなら過去を偽造し、それを真実と思わせるんだね。

なら何でプリンセス何だい?巫女とかシスターじゃないのかい?その流れなら……」

 

 大分落ち着いてくれたかな?

 

「一つ目は人気を得る為に、彼女の高貴さは隠しきれない。

二つ目は、最悪アルビオンにバレた時……ジェームズ一世やウェールズ皇太子と戦う事になっても、此方にも正当な血筋は流れている。

アルビオンの歴史は続く事を知らしめる為に。

三つ目は……」

 

「ちっ一寸待ちなよ!あんた、テファの為ならアルビオンと戦争する事も考えているのかい?」

 

 ロングビルさんは最悪僕がテファの為に、アルビオンと事を構える覚悟が有る事を知って逆に驚いた様だ!

 

「当然ですよ。どっちが大切なんて分かり切っているでしょ?それに最悪の場合であって、その手前に幾つか対抗策も有りますよ」

 

「アンタって……いや、ツアイツ様を頼って本当に良かったよ。本当に……だって、国と戦って迄守ってくれる気だったなんて……」

 

 彼女は俯いて泣き出してしまった。

 

 ポンポン!と、肩を叩いてハンカチを差し出す遍在ワルド殿……この遍在ワルド殿、本体より女の扱いが上手いんだけど?何が有ったんだろう。

 

「有難うよ……アンタもハンカチ、助かったよ。ツアイツ様、本当に有難う御座います」

 

 深々と頭を下げるロングビルさん……

 

「僕達は家族じゃないですか!大丈夫、守り切ってみせますから。アルビオンでの工作は終わりにしましょう。

先にハーナウ家に向かい、暫くテファの相手をしてあげて下さい。

僕は予定が変わり、ラグドリアン湖での園遊会に出てから帰ります。遍在ワルド殿は、どうしますか?」

 

 遍在ワルド殿は、一言「本体の元に戻る」と、言ったが彼はガリアでエターナルロリータの捜索中の筈だが……

 

「本体ワルド殿は、ガリアで私用で出掛けてますから……良ければ、ロングビルさんを送りながら我が家で遊んでいて下さい。

サムエル愛の資料館や、僕の書斎を自由にして良いですから」

 

 遍在ワルド殿は、頭を下げて了承の意を表した。

 

「そうだ!ツアイツ様、言い忘れましたが、クロムウェルの接触している傭兵の中に厄介な奴が居ます。

白炎のメンヌヴィルと呼ばれている凄腕の火のトライアングルメイジです!」

 

 

 

第97話

 

 白炎のメンヌヴィル……かつてトリステインのアカデミーに所属していた、元魔法研究所実験小隊の副隊長。

 炎蛇のコルベール隊長に復讐を誓った盲目の狂人か。確か、原作でもトリステイン魔法学院を襲撃した賊のリーダーだったな。

 本来なら戦争が始まってからの襲撃だが、此処まで原作ブレイクしちゃってるから、明日にでも暗殺しに来てもおかしくない。

 

 しかし、コルベール先生との絡みは……

 

 キュルケも頂いちゃってるし、蛇君シリーズも余り誉めてない。つまり全くの生徒と先生の関係だ!

 三人娘襲撃の時にはお世話になったから、少しは仲が良いと思っても良いかな?確実に奴は、僕の所に襲撃に来るだろう。

 

 クロムウェルの恨みは、僕と父上……

 

 ハーナウ一族に向いている筈だから。

 

 

 

 

 おはようございます!ツアイツです。

 

 ロングビルさんから、衝撃の報告を貰ってから一夜明けました!園遊会迄は、ヴァリエール領に居候決定な今日この頃です。

 

 今日の予定は……「ツアイツー!そろそろ出掛けるわよー」これから、カトレア様の領地に出掛けてきます。

 

 ラ・フォンティーヌ領は、体の弱いカトレア様の為にヴァリエール公爵が用意した景色の良い領地。

 今年23歳になる彼女は、このラ・フォンティーヌ領主な訳です。

 

 領地に向かう馬車の中で、一寸した騒ぎが有りましたが……

 

 兎に角、動物大好きムツゴロウさん的な彼女の馬車は移動する動物園!

 

 乗せて貰っている僕の頭と肩には小鳥が、膝には猫が乗っています。彼女の人徳なのか、動物達は仲良くしていますね。

 普通、猫に捕食される小鳥とか騒ぎますよ。元々前世が鳥好きだったので気にしないのですが、フンはしないでね…… 

 僕の向かいには、カトレア様にルイズと小熊。僕の両脇には、キュルケとシェフィールドさん。

 

 ん?小熊?何故小熊?

 

「あらあら、大人しくしてなくてはダメよ」

 

 結構な重さの小熊を抱き上げて膝にのせ、ナデナデするカトレア様……どんだけ力持ちなの?

 

 ルイズ!羨ましそうに見ない。

 

 キュルケは僕の肩に頭を乗せて現実逃避の居眠り。

 シェフィールドさんは若干のヤンデレオーラを放出する事で、動物達を近付けない様にしています。凄い応用力!

 

「あの……カトレア様、重くないですか?」

 

 ニコニコと優しい笑みを浮かべながら「ん?」とか首を傾げて返事をする彼女は、可愛いです。年上とは思えない程に……

 

 しかし、今迄は意図的と思える程に接触が少なかったのに、今回のヴァリエール家の訪問中は良く接してくるんだろう?

 この、優しいけど押しの強い彼女は少し苦手だ。あの目でみられると、全てを見透かされてる様な錯覚に陥る。

 

 原作でも、ホームシックに陥ったサイトに「お姉ちゃんになってあげる!」宣言をしてるし、サイトが異世界の住人で有る事を見破ったのも彼女。

 

 ヴァリエール公爵家の中で有る意味一番警戒しているのが彼女だから。

 

「お姉ちゃん、でしょ?ルイズと一緒になるなら、私はお姉ちゃんよね?」

 

 はっ恥ずかしい台詞を言われたぞ。

 

「カトレア様……」

 

「お姉ちゃん、でしょ」

 

「いえ……はい。お姉ちゃん」

 

 カトレア様は、僕にお姉ちゃんと呼ばれたからかご機嫌だ。春の日差しみたいな笑顔です。

 

「良かったですね?お姉ちゃんが増えて」

 

 シェフィールドさん?アレ?普通だ……ヤンデレ化もしてないし、黒いオーラも無い。此方も慈愛溢れる微笑みだ。

 

 だけど……カトレア様の膝に乗っていた小熊が、ルイズの方にワタワタと避難しているし、何故か此方はキュルケが魘されている。

 

「えーと、シェフィールドさn」

 

「ツアイツ、お姉ちゃんでしょ?私達はもう家族なんだし」

 

「お姉ちゃんが増えて嬉しいなぁ……」

 

「ふふふふふっ!そうよねツアイツ……」

 

「そうですね。ツアイツ君、うふふっ……」

 

 嗚呼……共に20代の方や天然お姉ちゃん。方やしっかり者のお姉ちゃん。普通なら、嬉しくて堪らない筈だけど……

 やはり、ヤンデレは混ぜちゃいけなかったんだ!

 

 しかし、この破壊力は凄い物が有る。これは、創作意欲が湧いたぞ!書く、書くぞ!

 

 ヤンデレ作品を。そして造るぞ!フィギュアのヤンデレお姉ちゃんズを!

 

 などと現実逃避をした……

 

 脳内でプロットが固まった頃に漸くラ・フォンティーヌ領に到着。不思議な空間から解放された……動物って敏感なんだね。

 今までジッとして動かなかったのに、馬車の扉が開いたら凄い勢いで飛び出して行きました……ちゃんと戻ってくるか心配ですが。

 

「あらあら。元気に遊びに行ってしまったわね」

 

 アレをあの逃げっぷりを遊びと言い切ったぞ!

 

「飼い主に似ずに元気なのねぇ?」

 

 ナチュラルに毒を吐いたよね?

 

「ラ・フォンティーヌ領へようこそ!新しい家族達。歓迎するわ。さぁ入って下さい」

 

 シェフィールドさんの口撃をスルーして屋敷に入っていくカトレア様……

 

「ちいねえさま待ってー」と走って腕を絡めているルイズ。

 

 僕は、妙に疲労困憊なキュルケの手を引きながら後に続いた。

 

 キュルケが小声で「ヴァリエール一族の女性陣は短気でプライドが高いのが多いのに、あの人は違うわね……やり難いわ」と、僕も思っていた事を零していた。

 

 天然系お姉ちゃん。周りに居なかったタイプだ!エーファも近いけど、似て非なる物だ。

 

「シェフィールドさ……お姉ちゃん、大人しくして下さいね」

 

 名前で呼ぼうとしたら、悲しそうな目で見られてしまったので、思わず言い直す。

 

「ツアイツ、大丈夫よ。敵対しなければ大人しくしているから……さぁあの偽物を追いましょうね」

 

 僕の手を繋いで歩き出した。カリーヌ様ともそうだったけど、カトレア様も混ぜるな危険だ……

 どうか無事に園遊会まで保ってくれ。僕の胃と神経よ……

 

 この日、初めてブリミル様に祈った!しかし、浮かんだのは巨乳巫女テファだった。

 

「早く帰ってこないからですよ?もう知りません!」

 

 と、プンプンと両手を腰に当てて怒っているテファに、横を向きながら言われてしまった電波が返ってきました……

 

 

第98話

 

 夢の中でテファに叱られたツアイツです。

 

 あの後、ラ・フォンティーヌ領の庭園やらお花畑やらメルヘン&アニマルを堪能し疲れ果てて屋敷に帰ってきました。

 そしてマナーは余り関係無い砕けた夕食を頂いている訳です。今回はシェフィールドさんとソフィアも同じテーブルです。

 ソフィアは恐縮しまくりですが、シェフィールドさんは流暢な仕草で食事をしています。

 聞けば、王妃となる為にジョゼフ王に恥をかかせない為に訓練しているそうです。

 

 流石はお姉ちゃん!努力を怠りませんね。

 

 昼の疲れか、食後は皆さん宛がわれた寝室に向かいました。

 僕は眠れずに、テラスに設けられたテーブルセットに座り双子の月を眺めてます……シェフィールドさんのくれた牙の腕輪を弄ぶ。

 指には、これも貰った指輪……ポケットには、木の札。随分と大切にされていると思う。

 

 此方の世界に来てから、この双子の月を眺めながら考えに浸る事も多くなったし……でもお月見って雰囲気は無いんだよね。

 ただ眺めならがボーっと考える。

 

「あら?ツアイツ君、眠れないの?」

 

 なにやらカップを2つ持ってカトレア様が後ろに立っている。カップを2つ持っている時点で、僕に話が有るんだろうね……

 

「双子の月が綺麗でしたから……何か僕に話が有るのですね?」

 

「あら?何故分かったのかしら?」

 

 僕は、カトレア様の持っている2つのカップを指差す。

 

「ホットミルクに少しお酒を垂らしたのよ」

 

 カップの1つを僕の前に置きながら向かいの椅子に座る。

 

「…………頂きます」

 

 カトレア様は、ニコニコと僕を見ているだけ。2人して、無言でホットミルクを飲む。

 半分程飲み終えた所で、沈黙が辛くなった僕の方から話し掛けた……

 

「それで、お話とは?」

 

「随分と怖い腕輪ですね?何の牙かしら?」

 

 シェフィールドさんから貰った牙の腕輪を指差して聞いてくる。

 

「マジックアイテムです。バラまけば、ゴーレム兵士となり守ってくれます」

 

「その指輪も?」

 

「ええ……自身の魔力を底上げしてくれます」

 

 カトレア様は、何やら考え込んでます。普段は、直感で話を進める彼女がまるで考えながら言葉を選んでいる様な……

 

「昔はマジックアイテムなど身に付けてませんでしたわ。最近なのかしら?」

 

「そうですね……ひと月位、前でしょうか?」

 

「…………ツアイツ君。私の病気を治す手立てって危ない事をするのね?」

 

 アレ?ヴァリエール夫妻には説明してあるけど……

 

「カリーヌ様からは聞いてないのですか?」

 

「…………ツアイツ君。初めて会った時から既に、貴方は私を警戒してた。違うかしら?」

 

 ……やはり何かを気付いている。

 

「昔の事ですから、よく覚えてません……ただ、ヴァリエールの一族の方としては優しい人だと感じてましたが」

 

「そうかしら?常に警戒されていたと感じたわよ。とても子供とは思えなかったわ」

 

 疑われてるのかな?

 

「自分でも早熟だとは感じてましたけど……警戒してるなんて酷いですよ。逆に僕が避けられていたと思ってましたよ」

 

 カトレア様は僕を見ていない……ずっと月を見上げている。

 

「公爵家の娘に生まれながら体の弱かった私。公爵家の義務も果たせず、若くして死ぬ事を理解していたわ……

それを私を警戒している貴方が治すのは……何故かしら?」

 

 不信感なのかな?分からない……この人の考えは、何を知りたいのか?

 

「カトレア様は……僕が怪しいと思ってるのですか?」

 

 初めて目を合わせて「お姉ちゃんでしょ?」と、宣った!

 

「僕は、ヴァリエール家の人達は家族と思ってます。ならば……お、お姉ちゃんの病が治る手立てを見付けたら実行するのが普通ですよね?」

 

 目を逸らさないカトレア様を逆に見詰める。何時ものフワフワした彼女じゃない心の底を見透かす様な危険な目……

 

「何故かしら?君は、君からは年上のイメージしか流れてこないわ。それにハルケギニアには存在する筈が無い……東方でもエルフでもない不思議な人」

 

 やはり……覚悟をしていたから、動揺はしなかった筈だけど。理屈じゃなくて感覚でバレたって事かな。

 

「結構酷いです。確かに僕は、ブリミル至上主義の世界では異端なのは理解してます。

オッパイ教祖ですから……しかしこの世界での自分を全否定された気持ちです」

 

 そう言って下を向く。これ以上、目を見るのは危険だから……

 

「ツアイツ君の見詰める先には、何が見えるのかしら?」

 

 おどけて誤魔化すか。

 

「そうですね。巨乳で綺麗な奥さんを沢山貰って自堕落に暮らしたいです。苦労と努力は今回でおしまいにしたいから……」

 

「ふふふっ。やっぱりエッチで優しい子なのね。私ね、小さい頃から決めていた事が有るのよ」

 

 えーと、女性なら嫌に感じるニートでハーレム願望を伝えたんだけど?

 

「何ですか?」

 

「私を助け出してくれた、白馬の王子様が現れたら……その人のお嫁さんになろうって!

良かったわ。ルイズ以外要らないとか言われなくて。宜しくお願いしますわ」

 

 そう言って、本気とも冗談とも思えない顔で頭を下げると去って行った……何?何なの?考えが纏まらない?

 この人騒がせな巨乳天然美人は、翌朝会った時はそんな素振りも見せなかったので冗談と思う事にした。

 流石に、ルイズを嫁に貰うのにカトレア様も……は、貴族の立場的に双方の家が不味い事になるし。

 何より、カトレア様にヤンデレの素養を見出したから。アレはシェフィールドさんと同じレベルだ。

 

 後からデルフで刺されるかもしれない。そんな未来予想図を感じさせる視線だった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 先程迄の事を考える。

 

 ツアイツ君……修行の為にと、何年か我が家で家族同然に過ごしてきた不思議な子。

 常に周りに気遣い、大人顔負けの能力と行動力を持っている。このハルケギニアでは異端だと思う思想を持った……

 だけど、悪い子ではなく寧ろ底抜けに善人なのに抜け目のない子。

 

 この子と関わった事で、ヴァリエール家の繁栄と存続に影響がでている。病弱だった私には、勘が人一倍強い。

 彼が、ヴァリエール家の未来を握っているのが分かるわ。しかし、逆に彼の存在が危険とも感じている。

 

 悪い子ではないの……

 

 しかし私を危険視している事も分かるの。そして彼に私も嫁ぐ事になるとも感じている。

 現在の状況では、準王家の私達が他国の……それも始祖の血を引かないゲルマニアに嫁ぐ事は有り得ない。

 ルイズの場合は、三女で有り魔法が苦手な事も有るから。

 ヴァリエール家とツェルプストー家の融和政策の立役者としてゴリ押しした感じだけど……2人となれば無理だわ。

 それが可能になるのは、今のヴァリエール家に二つの未来が有ると思うの。

 

 つまり王家に近い権力を握るのか……

 

 全く逆に落ちぶれて彼を頼るのか……

 

 どちらかは、今の私では分からないわ。でも、諦めていた未来が、とてもワクワクした事になるのは間違いないわ。

 しかし、エレオノール姉さんの未来が不確定に感じるのは何故なのかしら?

 



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第99話から第101話

第99話

 

 天空のアルビオン!

 

 王都ロンディニウムの一室にて、王と皇太子が顔を突き合わせては何かを手に取り見せ合っていた。

 

「ウェールズよ。このティファニアと言う女神が実在している噂を知っておるか?」

 

「何ですと!このハルケギニアの美を体現したフィギュアに実在のモデルがいるのですか?」

 

「そうだ!あの巨乳教祖であるツアイツ殿が在野の女神を見いだし自分の妻に迎えるそうだが……まぁ惹かれ合うのも自然の成り行きだな」

 

「そうですね。彼ならハルケギニア一番の巨乳女神を娶るのは当然でしょう」

 

「しかし、出自は平民らしくツアイツ殿も隠しているらしい……まぁ妾や遊びなら問題無いが側室ならば貴族が普通だからな。

配下の貴族の養子にして輿入れだな。この件は、ハーナウ家ではタブー扱いだ。これは仕方ないだろう」

 

 完全版ティファニアプリンセスバージョンの胸を押しながら話す父親。ひっくり返してスカートの中を調べる息子。

 

「父上!なんと、ぱっパンティを穿いてますよ」

 

「でかした!ウェールズよ、どれどれ……ほぅ、白か……やはり清楚なら白よの。流石はツアイツ殿、分かっておる」

 

 親子2人、フィギュアの下着のチェックに余念が無い……

 

「父上!明日のラグドリアン湖の園遊会にて、ツアイツ殿と会える手筈になっているのです」

 

「何だと!何故黙っていたのだ。これは国際的な問題だぞ!我が国にも、フィギュアを扱う商会を誘致したいのだ。

しかしギルド経由での申し込みは渋い返事ばかり。ここは、礼を尽くしワシが出向くべきだろう」

 

 既にフィギュアは服を着ていない。フィギュアの大切な部分には自主規制と書かれた封印シールが施されている。

 

 カリカリと爪で剥がそうとする2人。

 

「落ち着いて下さい。会場はトリステイン国内ですから、父上が出張るには問題が有ります。

私はアンリエッタ姫に伝手を頼んだのです。偶然を装い接触します。ここはお任せを……おっ!剥がれたぞ」

 

 ペリペリと胸の札を剥がしたウェールズ。

 

「なっハズレだと……」

 

 そこには、神秘のサクランボは無くハズレと書かれていた。

 

「ツアイツ殿、これは酷いのではないか?」

 

 ガックリと膝を付く2人。まだ、レコンキスタの存在には気付いていたが問題にはしていない親子だった……

 

「ウェールズよ。次はコレにしよう。ツンデレプリンセスじゃ!どう見てもガリアのイザベラ姫だな!好みの胸だが、ちと若すぎる」

 

「父上、次は猫耳メイドのソフィアたん!を外す訳にはいかないのです」

 

「「むむむむ………」」

 

「しかしガリアのイザベラ姫そっくりだが、ツアイツ殿は交流があるそうだ。トリステインとガリアの王族と懇意にしてるなら、何故アルビオンに来ぬのか……」

 

「我々もゲルマニアとは交流が少ないですからね。最近でしょう。ギルドや商人達の交流が始まったのは」

 

 2人は各々好きなフィギュアを取り出して、舐める様に鑑賞する。

 

「ゲルマニア貴族を見下していた部分が確かに我々に有りましたから……おお、耳と尻尾は脱着可能か!」

 

「しかし、ツアイツ殿の作品は凄いな。元気の無かったワシがビンビンじゃ!

こちらは、残念。流石にイザベラ姫を模した故か、服は脱げても下には彩色してるの。

スク水だったか……胸のネームは、東方の文字か?読めぬわ」

 

 哀れイザベラフィギュアは、ドレスを脱がされてスク水姿だ。胸には日本語で「いざべら」と書いてある。

 

「父上、ゲルマニアと正式に国交を結びませんか?」

 

 ウェールズ皇太子はジェームズ一世に割と本気で提案する。

 

「タイミングは今じゃな。国内には、男の浪漫本とフィギュアの話題で溢れておる。ハーナウ家を擁したゲルマニアとの国交に反対を唱える貴族は少ない」

 

「しかし、北方の連中の動きがおかしいです。使える間者が居ないので情報量が少なく詳細は不明ですが……」

 

「ツアイツ殿を調べようと送った彼らだな。尊い犠牲よ。しかしクロムウェル司教か……

ツアイツ殿と比べると何とも小物臭が有るな。美乳派か……笑わせるわ」

 

「父上!この着替セットとは、好みの衣装をチョイス出来ます。しかし……下着は上級会員のみ販売です」

 

「何だと!テファたんに黒の下着を着せられるのか?しかし審査が通らないのは何故だ!」

 

 ソフィアたんフィギュアに、付属のホワイトセーラー服を着せながら答える。

 

「乳を争いの道具にするな……我らは、エルフと通じたモード大公を処罰した。

それは、貧乳に染まった彼に罰を与える為に。エルフよりも、乳の嗜好に重きをおいて……」

 

 初めて2人の手が止まる。

 

「ワシも巨乳一筋として、乳の素晴らしさの一面しか見ておらなんだ。今なら住み分けを唱え、貧乳教祖のサムエル殿と共闘しているツアイツ殿の理想を理解出来る」

 

「サウスゴーダ家に、逃げ延びた娘が居る噂が有りましたね。探し出して復興させますか?それ位しないと、我ら親子をツアイツ殿は認めてはくれないでしょう」

 

 ジェームズ一世は、目を閉じて何も言わない。

 

「…………父上?」

 

「彼の、ツアイツ殿の教えをあの時に請えれば、また違う未来も有っただろう。しかし、一国の王が下した決断を翻す事は国の威信に関わる事なのだ。

仮にマチルダ・オブ・サウスゴーダを探し出せたとしよう。彼女は素直に謝罪と復興の用意が有る事を認めるか?」

 

「無理ですね。私の知っているミス・マチルダはその様な女性では有りませんね」

 

 深い溜め息をつく……

 

「国やプライド、しがらみに捕らわれる我らと違い、国を身分を越えて分かり合えるツアイツ殿は……

ワシには眩し過ぎるよ。ウェールズよ。彼と会えるならば、彼の人間としての本質を学べ。

アレはハルケギニアの在り方の根本を壊す男よ。出来れば、アルビオンに招きたい者だ。

ゲルマニアとの、国交準備は正式に許可をする。ウェールズよ。お前が担当し、推し進めよ!」

 

「はっ!」

 

 アルビオンの国家方針は、オッパイにより決まった!しかし、レコンキスタの動向は怪しく何時でも暴発する勢いだ。

 

 果たして改心した「謎のプリンスさん&そのオヤジキングさん」の思いは、ツアイツに届くのか?

 

 アンリエッタ姫の暴走による悪意無き妨害をかわせるのか?ウェールズ皇太子の漢度が試されるミッションは此処に発動した!

 

 

第100話

 

 ラグドリアン湖!

 

 何度も書くけど、ハルケギニア一番の景勝地で有り、モンモランシーの実家の近くの湖です。

 暴走特急アンリエッタ号の思い付き園遊会により、関係各所に思いっ切り迷惑をかけまくって何とか開催に漕ぎ着けました。

 ド・モンモランシ伯爵とヴァリエール公爵は疲労困憊なご様子……応接室に座り込み、疲労回復に努めている。

 

 2人の中で、元々僅かだったアンリエッタ姫の評価は急降下中です。

 

「あのアホ姫め……せめて一月は準備期間をよこさんか」

 

「全くだな。もし間に合わなければ……

お前やハーナウ家からの援助が無ければ、折角の水の精霊との交渉役を得た我が家の面子は丸潰れだ。何を考えているんだ?」

 

 お疲れ様な親父ズは、ソファーに深々と座りながら自国の姫に届かない愚痴を零している。

 

「お疲れ様でした。少し早いですが、招待客を待たせる訳にもいかないのでお邪魔しました。

それと、今回のアンリエッタ姫の思い付きはウェールズ皇太子からの手紙によるもの……早く会いたい乙女心の成せる迷惑でしょうか」

 

「「やっぱり色ボケか!道理で、馴れ初めの場所の湖の畔は念入りに整備しろとか怪しいと思ったわ」」

 

「ああ……ウェールズ皇太子が、アンリエッタ姫の沐浴を覗き見した場所ですね」

 

 ド・モンモランシ伯爵はいきなり立ち上がり

 

「ウチの領地を覗き見スポットにするなー!」

 

 吠えた……当たり前だね。

 

「これで、2人が結ばれて後世に記録が残った場合、周りを警戒せず真っ裸で沐浴を始める姫と、遠慮無く覗く皇太子のラブストーリー発祥の地になるからですか?

しかし、ちゃんと事実を隠した創作捏造になるから平気だと思いますよ」

 

「気持ちの問題だよツアイツ殿。仮に王宮のお抱え作家が捏造しても、我が家の記録には真実を残すつもりだ」

 

 ド・モンモランシー伯爵は、相当イラついてますね。

 

「ツアイツ殿もすまぬな。アンリエッタ姫のお願いなど聞く必要も無いのに。それに招待客を待たせるとは?君もその招待客だろう」

 

 僕は先日届いた手紙の件を話す。

 

「いえ、イザベラ姫からも自ら園遊会行くので逃げずに待っていろ!って言われまして。

それと、ウェールズ皇太子……どうせ、アンリエッタ姫をそっちのけで僕に接触してくる筈です。

まぁ偶然を装うとは思いますが……それにウチの閣下も参りますから」

 

「「自業自得だな!ウチの娘のフィギュアは造るなよ、分かってるよな?」」

 

「人気でますよ?イザベラ姫など、ガリアのトップアイドルですし」

 

「「大きなお友達の人気など要らんわー!」」

 

 子を持つ親の気持ちが身に染みたツアイツでした……

 

 

 場所は変わり、ガリア王国グラントロア執務室にて

 

 

 ジョゼフ王に報告をする、シェフィールドさん!

 

「我が主、これが上級会員の特製マントで御座います」

 

「うむ。しかし、蒼髭のジェイと偽名を使っておるのに何故ワシと分かったのだ?」

 

「恐れながら、お届け先がグラントロワ気付ジョゼフ王執務室なれば……」

 

「はっはっは!わざとだよ。それでもツアイツはマントを寄越したか……どれどれ」

 

 バサッとマントを広げ固まるジョゼフ王……

 

「こっこれは……謀ったな!このワシを騙したなツアイツ」

 

「まぁ!お似合いですわ。さぁさぁお召しになって下さい」

 

 いそいそとジョゼフ王のマントを脱がし始めるシェフィールドさん。

 

「いや……ワシは、マルチ&セリオのスク水を……こっこら脱がすな……ちょ、おま落ち着け……ワシは王様だぞ、ちょー」

 

 ガリア王家歴代のマントを脱がされ、特典マントを着させられる。んーと首を上に向け、しっかり金具まで留めてもらう……

 

「我が主、良くお似合いですわ。ほら皆さんもお褒めになって……さぁさぁ」

 

 黒衣の魔女が、周りに控える近衛と侍従にジョゼフ王を称えよ!と、笑顔で促す。

 

 しかし、ジョゼフ王のマントの内側の刺繍は……

 

 花咲き乱れるシェフィールドさんのウェディングバージョンであり、お姉ちゃんの為にツアイツが丹誠込めて制作した逸品だ!

 

 これを誉める=困惑しているジョゼフ王の意思は無視

 

 これを誉めない=ヤンデレ全開中の黒衣の魔女に喧嘩を売る

 

 この女が、ジョゼフ王にお熱なのは皆が知っているし、ジョゼフ王も困っているが嫌がってはない。つまり男女のアレだと割り切る事にする。

 

 パチパチと誰かが拍手をした途端に、皆が一斉に拍手喝采を贈る!

 

 パチパチパチパチ!

 

 かなり広い執務室内に響き渡る拍手にシェフィールドさんはご満悦だ。

 目がグルグル状態のヤンデレMAXシェフィールドに逆らえる者など、ジョゼフかツアイツ位しか居ないのだから、皆さん保身に走ったのは仕方ないのか?

 

「嗚呼……これが女の幸せなのね」

 

 シェフィールドはジョゼフ王の傍らに立ち報告そっちのけで悦に入っている。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ミューズがワシを好いている事は気付いていたが、此処まで直接的に感情をぶつけてくるのは初めてだ!

 しかしツアイツ……ガリア王にこの仕打ちか?人の事は言えぬが、貴様封建制度を舐めてないか?

 

 面白い奴め。

 

 貴様が、シェフィールドを取り込んでしまった事は既に調べが付いている。ワシを侮るなよ。

 男の浪漫本から始まり会員制にフィギュア、それらの関連グッズを見ても既に貴様しか、ワシの積年の悲願を叶えられる者など……

 ハルケギニア中を探しても居ないだろう……

 レコンキスタなど、もう飽きたわ。さっさと終わらせて我が前に来るが良い。

 

 それと……ミューズを何とかせい!

 

 無能王と陰口を叩かれ、粛正の悪魔と畏れられているこのワシが……まるで、らぶこめ?か。

 貴様の作品の……それの主人公が如く周りの目線が生暖かいのだ!

 

「こっこら、ミューズ!少し離れんか」

 

 そこっ!何をほのぼの目線を送ってるのだ?

 

 無能王と陰口を叩かれていたジョゼフは、王宮内で微妙な評価を受け始めた……

 そして無能王の娘と罵られ魔法の苦手なイザベラは、ツンデレアイドルとして確実に勢力を延ばしている。

 

 新生ガリア王国の建国は直ぐそこだ!

 

 

 

第101話

 

 

 ガリアのツンデレアイドル現る!

 

 イザベラ姫が、ラグドリアン湖に両用艦隊所属の大型船で到着する。今回は正式訪問の為、王族専用の戦闘大型船だ。

 タラップが降りると、黒いマントの一団がフライで周囲に降り立ち警戒する。勿論、彼等はガリアが誇る精鋭イザベラ隊だ。

 マントの内側の刺繍もツンデレプリンセスバージョンが施されている。

 

 タラップに蒼い髪の美少女が現れる。

 

 今日は白を基準としたショートライン。裾はふくらはぎ迄の丈の短いドレスだ。

 大き目のコサージュをあしらいどちらかと言えば小悪魔的魅力を演出している。

 実はこのドレスは、フィギュアが着ていた物を原寸に仕立て直しツアイツから贈られた一着だ。

 ツアイツは、婚約者達よりイザベラに数多くの贈り物をしていた。それも毎週だ!

 

 ツアイツ的には、ジョゼフ王よりイザベラ姫にガリアでの地位を高めようと画策していたのだが……

 周りはすっかりソウルブラザーは、ツンデレ姫の魅力を高めるアイテムを沢山届けていると思っている。

 彼女も悪い気はせず、出来も良いので多用しているが、今日はマズかったかもしれない……

 

 周りから歓声が上がる!

 

「おい!アレって男の浪漫フィギュアのツンデレプリンセスの小悪魔バージョンだろ?」

 

「噂通りモデルはイザベラ姫なのか……嗚呼、罵られたい踏まれたい」

 

「お前、性癖だけは上級会員並だな……まさかテファたんも実在のモデルが居るのか?」

 

「知らないのか!我らが教祖が在野の女神を探し出したらしい。孤児で平民らしく、この話はタブーなんだが実在しているぞ」

 

「流石はツアイツ殿!巨乳女神もゲット済みかよ……羨ましいな」

 

 モブな貴族達が、イザベラの元に殺到する!

 

 しかし、強力な公式ファンクラブ「イザベラ隊」がそれらを寄せ付けない。

 

 公式ファンクラブ会員と一般ファンの攻防が始まる。

 

 増援として、こちらも公式ファンクラブ「ツンデレプリンセス隊」「蒼い髪の乙女隊」が参戦し一般ファンは周りに押しやられた。

 

「お前ら、ここは他国だ!程々にしな。周りの連中も今日の主役は私じゃないんだ。空気を読みな!」

 

「「「うぉー!ISABELLAイ・ザ・ベ・ラさまー!」」」

 

 投げ遣り気味にイザベラが手を振る。既に会場はイザベラコール一色、コンサート会場に来たみたいだ!

 

 アウェーなにそれ?美味しいの?

 

 

 続いて、アルビオンが誇る大型戦艦ロイヤル・ソヴリンが着水。

 プリンス・オブ・ウェールズこと、ウェールズ皇太子が小船に乗り移り岸辺に向かう。

 こちらは、アンリエッタ姫がいそいそと迎えに飛び出そうとするのをアニエス隊長が押さえていた。

 

「姫様、自重して下さい。落ち着いて!」

 

 ウェールズ皇太子を歓迎するのはアンリエッタ姫のみだ……哀れウェールズ。

 次に、ゲルマニアから、アルブレヒト三世の名代のモブ貴族が地味に現れた!残りのめぼしい招待客は……

 

 クルデンホルフ大公国からベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフとお供の三人衆と空中装甲騎士団が竜籠にて到着。

 

 このベアトリス姫殿下……

 

 膝まで有る金髪ロングを白い髪留めでツインテールにしたペッタンコちゃんだ!

 原作ではテファに色々意地悪をしたが、最後は和解した我が儘で自尊心の強い小柄な少女だ。

 

 彼女の目的は1つ。

 

 嫌われ者だったガリアのイザベラ姫を一躍トップアイドルに押し上げた秘密を探る事。

 美少女振りなら負けない自負が有るが、登場時点で敗北感が溢れてしまった。あの強力なファンクラブを私も欲しい。

 必ず彼女のブレインを探し出す!彼女は心に誓った。

 

 そして一番怪しいのが、ゲルマニアの貴族。ツアイツ・フォン・ハーナウ!

 

 自他共に認める巨乳派教祖で有りハルケギニアに巣くう変態の親玉!なるべくなら近寄りたくないと思っている。触られたら妊娠しそうだ!

 

 彼女の中では、まだ見ぬ彼は、チビで小太りな油ギッシュな眼鏡だった。彼女のイメージは貧困と言うしかない。

 まぁ空中装甲騎士団は、ツアイツを知っているのだが……当然初級会員でも会報を読むから情報は主の少女より詳しかった。

 しかし、ベアトリスが毛嫌いしているので言い出せない。

 

 

 最後はロマリアだが……

 

 急な催しで有り国内の地盤固めの方を優先した教皇ヴィットーリオは、腹心であるバリベリニ助祭枢機卿を送った。

 彼は原作でもシャルロット即位に伴いガリアの宰相になった程の人物。特に問題は無かった。

 それに、今回の話では何も活躍しないから……取り敢えずモブとして園遊会に参加した。

 

 園遊会自体は、滞りなく進んでいる。

 

 本来の主役たるモンモランシーには、ド・モンモランシー伯爵家の代々伝わる家宝で身を包んでいるし、ドレスは最新の物をプレゼントした。

 水の精霊を実際に呼び出した時のどよめきも凄かったので、ド・モンモランシ家としての面子は保たれただろう。

 

 問題は、その後の宴会だ。

 

 ガリアのトップアイドルと、数々の名作を世に送り出している巷で噂の巨乳派教祖!

 ゲルマニア貴族のツアイツ・フォン・ハーナウが参加するとなれば騒動が起きない方が可笑しい。

 

「男の浪漫本ファンクラブ・変態と言う名の紳士の集い」の会員も多数参加するこの園遊会で、2人に接触を持ちたい人々は多数居る。

 

 ツアイツも自分が居ては騒ぎの元だと、モンモランシーのお披露目の時は席を外していた。

 当然、水の精霊との接触を避ける為だが、廻りの警備は安心し彼の配慮に感謝した。

 

 しかし、その後の宴会には出無い訳には行かない。

 

 今回は、最強の守護者シェフィールドさんはガリアのジョゼフ王の下に報告に行っておりワルド&カステルモールの変態コンビはサビエラ村に向かっている。

 

 彼の直属の護衛は居ない……有るのは、牙の腕輪と魔力の指輪、それと魔人召喚用の木札だけだ。

 

 しかし、イザベラの護衛をしている公式ファンクラブ「イザベラ隊・ツンデレプリンセス隊・蒼い髪の乙女隊」の皆は、ツアイツと懇意にしているので平気だろう。

 

 この遊園会で一番の護衛を侍らせているのは間違いなくイザベラだ!

 その彼女が寛ぐテーブルに一番にやってきたのは、ベアトリス姫殿下。

 護衛のファンクラブ会員も、ツンデレの素養を持つ美少女には、当然道を空けた!

 

 しかし、護衛の空中装甲騎士団は二の足を踏んでいる……

 

「イザベラ隊」三隊ある公式ファンクラブの中で、彼女の名を冠するこの部隊は、ガリア中の武闘派の中から選りすぐった所属を超えた連中だ!

 

 この威圧感に適う者は一流だろう……その時、空中装甲騎士団を威圧している連中にイザベラが声を掛ける。

 

「お前ら誰彼構わず威圧するな!」

 

 ザッと左右に分かれるイザベラ隊。見事な統率力だ。

 

「掛けなよ。何か話が有るんだろ?ベアトリス姫殿下」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 くっ……駄目だわ。最初から呑まれてしまったわ。大国の姫って割には、言葉使いが悪いけど……勝てる気がしない。

 

「しっ失礼しますわ。噂のアイドル、イザベラ姫とお話したいと思いまして……」

 

「アイドルかい?好きでなった訳じゃないよ。

アンタもアイドルになりたきゃツアイツに部下を派遣するんだね。後は勝手にやってくれるよ」

 

「ツアイツ殿?ツアイツ・フォン・ハーナウ殿ですか?」

 

 イザベラ姫は、意地の悪い笑みを浮かべ「そうさ!あの変態に感化されちまったのさ」何処までが本気なんだろう?

 

 周りの護衛騎士団、イザベラファンクラブ会員を見る……彼等は一様に頷いている。

 

「そっそうですか?あの悪い噂の絶えない、怪しい彼にです……か……」

 

 ソウルブラザーを悪く言われた彼等の無意識に漏れた殺気に反応し、ベアトリスが固まる。

 

「オラッ!小さな女の子を威圧するんじゃないよ!」

 

 何処からか取り出したワイン瓶を投げつける。

 

「今日のツンはワイン瓶か……上手いことやりやがって」

 

「アイツ、ワザとだな。俺にもブツけて欲しい」

 

 危険な単語を聞いたベアトリスが、違う意味で固まった。これが、ツアイツ殿の洗脳効果……絶対の忠誠を誓わせるのね?

 

「どうした?これ位、御せないとアイドルにはなれないよ」

 

「………失礼しました」

 

 無理、無理よ……お父様から預かっている空中装甲騎士団をあんな変態にする訳にはいかないわ。

 しかし、クルデンホルフのアイドル・ベアトリスになりたい……未来のアイドルベアトリス姫殿下、悩みながら退場!

 

 現トップアイドルイザベラの圧勝だった。

 



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ワルド&カステルモールの変態紳士エターナルロリータへの旅第1話から第4話

「ワルド&カステルモールの変態紳士エターナルロリータへの旅・第一部」

 

 

 私は、カステルモール!大国ガリアで、竜騎士団を率いているエリートだ。

 

 だがしかし「男の浪漫本ファンクラブ・変態と言う紳士の集い!」カリスマ上級会員のカステルモール!と敢えて言わせてもらおう!

 

 此方の方が、超エリートなのだ!万を超える会員のトップ3、同志ワルドと双璧を成す紳士だ!

 勿論ナンバー1は、ソウルブラザーであるツアイツ殿である。何時か、彼と肩を並べるだけの漢になるつもりだ!

 今は、我が妖精エルザ殿に会いに行く途中。取り敢えず仕えているイザベラ様を騙くらかし、何とか彼女をモノに……

 

 ゲフンゲフン。

 

 彼女は吸血鬼だそうだ。ツアイツ殿の情報だが、何時も正確にハルケギニア中の事を把握している。

 オッパイで知らぬ事は無い!と、言われたが本当だ。

 きっと、私と彼女の馴れ初めもご存知なのだろう。だが、知らぬ方々の為に我が妖精エルザとの出会いを語ろう。

 

 

 そう、あれは……

 

 

 ガリア南東の片田舎。サビエラ村の近くにて、亜人討伐に向かった時だった。討伐自体は、大した事は無かった。

 空中戦が主体の我が隊に任務が来たのは、イザベラ様は早期解決を望んだ為に私が名乗り出たからだ。

 

 イザベラ様は……

 

 口は悪いし大酒飲みのアル中っぽい困った方だが、国を思う気持ちは評価している。この国の政務に携わる者の中では悪くない方だ。

 残念ながら胸がかなり育っているが、ソウルブラザー好みなので仕方ない。

 イザベラ様もツアイツ殿の事を口では悪く言っているが、皆ツンデレのツンだと理解している。

 

 ツンデレとは、面倒臭いものだ……

 

 その彼女が、早期解決を望んだので機動力の有る我が隊が向かった。我らは風の精鋭。地上とて、戦力は変わらない。

 ただ、相棒の風竜が暇なだけで何の問題も無く解決した。

 しかし日帰りで達成出来る距離でも無く、サビエラ村の近くで野営をしたのだ!

 食料等を手に入れる為にサビエラ村の村長宅に行った所、団長たる私だけでもと泊まる様に勧められた。

 

 イザベラ様は、平民からの無用な搾取を許さない。だから平民は比較的協力的だ。

 

 今回の討伐も、亜人の目撃者が増えたにも係わらず、領主が放置し犠牲者が出てしまった。

 その事を聞いて怒り狂ったイザベラ様が、北花壇騎士団を向かわせようとした所を私が引き受けた。

 

 その事を村長は聞いて感激し……しかも既に我らが解決済みだ!村を上げての歓迎になった訳だ。

 任務中にて酒は辞退したが、たらふく食べて団員達は野営のテントに向かった。

 私も、皆と同じテントで寝るつもりだったが……そこで見てしまったのだ。

 

 私の妖精を……

 

 彼女は孤児らしい。両親はメイジに殺されて、彼女一人が助かったそうだ。

 彼女は最初、両親を殺したメイジと同じ私を警戒していた。

 しかし、私はツアイツ殿の著書を熟読している為に、あらゆるシュチュに対応出来る男!

 当然ツアイツ殿も、傷心の女の子への対応も物語で書かれている……つまりは誠意と優しさだ!

 

 私は彼女の為に、ノーマルバージョンのシンデレラを思い出しながら話した。彼女は、こんな片田舎では物語など無縁だったのだろう。

 最初こそ距離が有ったが、暫くすると同じテーブルに向かい合って座り目を輝かせ話を聞いてくれた。

 高い椅子に座り、足をブラブラさせながら聞き入る姿は何とも愛らしい。

 ここで、ツアイツ殿の著書を参考にして常に持ち歩いている焼き菓子と飴玉をさり気なく勧める。

 

 彼女は私を「お兄ちゃん!」と呼び、わざわざお茶を入れ直してくれて一緒に食べたのだ。

 

 余りに遅くなりすぎて、村長が心配して見に来た時には私のベッドで寝かせた後だった。

 恐縮しエルザを起こそうとした村長を止めてベッドをエルザに譲り、自分のテントで寝る事にした。

 村長とは言え、客室など複数ないのだから……

 

 それに、エルザの寝顔は心のキャンパスに描き写したので問題は無い。

 翌朝、我らが日の出る前に野営地を引き払う準備をしていると、エルザが挨拶に来てくれた。

 

 赤くなりながらお礼を言う彼女は、まさに妖精!

 

 周りの団員はツンデレイザベラ派の為にエルザには興味が薄くて良かった。

 クーデレ派を連れてきていれば、大変だっただろう。シャルロット様好きなあいつ等は、ロリ成分が強い。

 

 最後に「お兄ちゃん有難う!また遊びに来てね」と、言ってくれた。

 

 これが、聞きたかったのだ!

 

 ツアイツ殿の著書によれば「ふらぐ?」が立ったので、後は回収をすれば良い。

 

 少し時間をおいてから再び会いに行けば、15禁な展開も望めるとの事。

 

 

 これが、ダイジェスト版のエルザ殿との出会いだ!

 そして、どうしても一目見たいと駄々をこねるワルド殿を伴い、サビエラ村に向かっている。

 

「何だ、カステルモール殿?ニヤニヤが止まらないが?」

 

「ああ……ワルド殿。我が妖精との出会いのダイジェスト版を皆様にお教えしたのだ!」

 

「…………?」

 

「ツアイツ殿に話したら物語として纏めて貰えるだろうか?タイトルは、我が妖精エルザとカステルモール・愛の日記!とかで……」

 

「ツアイツ殿なら可能だと思うが……素直に全て任せた方が名作になると思うぞ」

 

 

 この変態2人。

 

 高速で移動する互いの相棒。風竜とグリフォンに乗って併走しながら、会話している。

 普通なら無理な事も、風を極めし彼らなら可能なのだ!

 多分、詳細は分からないが空気の振動とかに魔法で干渉してると思う。

 ガリアの空を舞う変態2人のエターナルロリータを求める旅は始まったばかり。

 2人の仕えている姫の護衛の仕事が発生するのだが……

 

 そんな事は、二の次だった!

 

 

 

「ワルド&カステルモールの変態紳士エターナルロリータへの旅・第二部」

 

 

 ガリア上空を己の欲望のままに疾駆するカリスマ上級会員の2人!

 

「ワルド殿、見えてきたぞ!あれがサビエラ村だ!」

 

「了解だ!村人を刺激しない様に手前で降りよう」

 

 立派な相棒!風竜とグリフォンを操り手前の平地に下ろす。

 

「「お前達は暫く此処に居てくれ」」

 

 大切な相棒に言い聞かせて徒歩でサビエラ村に向かう……

 

 

 

 サビエラ村

 

 

 

「村長さん、前に亜人を退治して下さった騎士様の大きな風竜を見ただ」

 

「んだ。隣にも大きな鳥が居ただよ」

 

 村人A&Bから報告を受ける。先日、領主様に訴えていた亜人退治をしてくれた騎士様の隊長様が?

 貴族なのに、孫のエルザにお話を聞かせてくれたりベッドを譲ってくれたお優しい方だった。

 

「皆に伝えるんだ!粗相の無いようにな。村の恩人様だ」

 

「「分かっただ。来られたら村長ん所へ案内するだ」」

 

 さて……何のご用だろう?

 

「お爺ちゃん!どうしたの?」

 

 振り向けば、シーツを巻いた孫娘が居た。

 

「エルザや。お前は皮膚が弱い。日に当たるんじゃないぞ。先日お世話になった貴族様が近くに来られたらしい……」

 

「お兄ちゃんが!」

 

「これこれ。貴族様にお兄ちゃんは駄目だぞ」

 

「はーい」

 

 小走りに部屋に戻っていった。ワシが引き取ってからも、余り笑わなかったあの子が、騎士様には懐いている。

 あの子の幸せの為にも、騎士様にお願いした方が良いかのぅ……

 

※村長、その判断は間違っていないが間違っている!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 前に来た、あの騎士。

 

 周りから団長と呼ばれていた。凄い使い手なのは分かっている。

 

 しかし……貴族の癖に、見た目は平民の小娘の私に随分と優しかった。

 

 あんなに優しくされたのは、お爺ちゃん以外には居なかった。

 まるで我が子の様に、甘やかしてくれて……もしかして最近流行の幼女趣味かと思い、眠った振りをして隙を見せた。

 これで襲って来たら死ぬまで血を吸って、グールにするつもりだったのに……自分のベッドに寝かせて、髪を梳いてくれた。

 

 しかもお爺ちゃんが、起こそうとするのを止めて私を寝かせてくれた。こう見えても、人間で言えば既に大人と同じ年月を経ている。

 幼い子に欲情する変態は、掃いて捨てる程見てきた。特に貴族なんて変態性犯罪者ばかりだ。

 

 でも、カルテルモールと名乗った男は、誠実で優しかった。彼なら真実を話しても、私を受け入れてくれるだろうか……

 

 無理かな。私は人の血を啜る化け物と忌み嫌われている、孤独な吸血鬼だから。

 

 

 

 こちらは村の入り口に辿り着いた変態ズ!

 

 

「ワルド殿、ここがサビエラ村です。ああ、村長は元気かな?」

 

 

 ワルド殿と、近くに居た村人に話し掛ける。

 

 

 村人A「ここはガリアの南東サビエラ村です」

 

 

 村人B「村長の家はこの道を真っ直ぐです」

 

 

「いや、村長とエルザは元気かな?」

 

 

 村人A「ここはガリアの南東サビエラ村です」

 

 

 村人B「村長の家はこの道を真っ直ぐです」

 

 同じ言葉を繰り返す村人A&B

 

「……来た来たぁ!電波がビビっと来たー……RPG仕様だそうだ?カステルモール殿、先に進もう!」

 

 不思議な言葉を紡ぐワルド殿を不信な目で見たが、彼はスタスタと村の中に入っていく。

 

 村人A「ここはガリアの南東サビエラ村です」

 

「もう分かったから……」

 

 ワルド殿の後を慌てて追いかける。村のほぼ中心に村長の家は有る。

 

「村長、居るか?近くに来たので寄ったのだが……」

 

「お兄ちゃーん!」

 

 エルザが駆け寄って来て、飛び付いてくれた。幼女は温かいな……それにプニプニだ!

 

「エルザ!久し振りだね。でもレディがはしたないぞ……」

 

 彼女を抱き止め、背中をポンポンと軽く叩く。序でに彼女の首筋の匂いをくんかくんか嗅ぐ。

 

 んーデリシャス!

 

「エルザ、寂しかったんだもん。お兄ちゃん、此方の方は誰かなぁ?」

 

 指をくわえんばかりに凝視するワルド殿。

 

「私は、ジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルドと申します。ワルドで良いですよ。リトルレディ」

 

 いきなり正式な作法で挨拶をしやがった!エルザもビックリして、私から飛び降りる。嗚呼……幼女の温かい体温が離れてしまった。

 

「ワルドお兄ちゃん?」

 

「お兄ちゃん……それで構わないよ。私には年の離れた……いや、もう居ないんだ彼女は(巨乳となりツアイツ殿と婚約中だし、要らないし)……」

 

「そうなの?なら私がお兄ちゃんて呼んであげるー」

 

 こらワルド殿!それは、ミス・ルイズの事だろ?

 

「ああ騎士様、お久し振りで御座います。エルザや、粗相をしては駄目だぞ。こちらの貴族様は?」

 

 ワルド殿を見て驚いている。

 

「彼は私の友人です。近くに用が有って済ませて来たところだ」

 

「何もない所ですが、中に入って下さい。エルザ、お茶を煎れておくれ」

 

「はーい」

 

 トテトテと台所に走って行く幼女を見守る2人!ここで、上級の変態スキル、アイコンタクト発動!

 

 

「カステルモール殿、エルザ殿にエロい事ばかりしてますぞ!」

 

「良いんだ!お兄ちゃんだから……ワルド殿こそ自重したまえ!何が既に居ない、だ!ミス・ルイズの事だろ?」

 

「失ったのは確かだ!」

 

「嘘つけ!要らないって聞こえたぞ」

 

「お兄ちゃん達早くー!」

 

「「直ぐ行くから」」

 

「兎に角、ワルド殿は自重してくれ!シャルロット様の事を応援する約束だろ?」

 

「嗚呼……タバサ殿には無い魅力なんだが……お兄ちゃん、か。羨ましい」

 

「分かっているよな?ワ・ル・ド・殿?」

 

 2人は協定を結んでいた。互いの妖精には、手を出さない事。互いに協力する事。

 そして、カステルモールの思いは本物だ!チッパイ・ロリ好き・妹属性の三連発だ。

 

 しかし、実年齢はカステルモールよりお姉ちゃんなのだが……見た目重視の合法ロリなので気にもしなかった。

 

 そもそも人間じゃないから……

 

 

 

「ワルド&カステルモールの変態紳士エターナルロリータへの旅・第三部」

 

 

 まったりと村長宅でお茶を飲む。お茶請けは砂糖漬けのフルーツ。これも私が用意した。

 何時の時代もスィーツとは女心を鷲掴みする物だ!

 

「カステルモールお兄ちゃん!この果物、凄い甘いよ」

 

 両手に柑橘系のフルーツを持ち、口と手をベタベタにしたエルザが嬉しそうに食べている。

 

「エルザ、口の周りを拭きなさい。ほら、んーして」

 

 布で口の周りを拭いてやる……この布は、独りになった時に別の用途が有る。具体的には、しゃぶる……

 ふと、エルザから視線を逸らすと、目を細めている村長と血涙を流すワルド殿が居た。

 

「騎士様……エルザは、実は私の本当の孫娘ではないのです。孤児でして、身寄りの無い可哀想な子供……」

 

「村長。エルザは、可哀想ではないですぞ。あなたの愛情を一身に受けている。彼女は幸せですよ。そうだろエルザ?」

 

「カステルモールお兄ちゃん……うん。エルザ幸せだよ」

 

「騎士様……なんて方なんだ」

 

 ふっ……男の浪漫本応用編!身内は誉めろ。同情じゃない優しさを見せ付けろ!そして、身内は味方に付けろ!

 これが、ソウルブラザーから学んだテクニック!

 

「村長は、私にエルザの後見人になって欲しい。違いますかな?」

 

 村長とエルザは真剣だ。この流れなら、マイ・フェア・レディ18禁バージョンを実践出来るぞ!

 

「私も年ですし、長くはありません。エルザには、信頼のおける方に引き取って欲しいのです」

 

「カステルモールお兄ちゃん……」

 

 ヨッシャー!駄目押しだー!決定はエルザにさせる。これが、極意ですよね?ツアイツ殿。

 

「エルザ、君が決めるんだ。私と共に歩むと望むなら、希望に応えよう!」

 

 エルザの目を見て問いかける。ここで、子供扱いはタブーだ。対等な相手として接するのだ!

 

「エルザ、お兄ちゃんの所に行きたい!」

 

 よっしゃー!エターナルロリータ、ゲットだぜー!見渡せば、村長は涙ぐみワルド殿は居なかった。外で破壊音が聞こえる……アヤツ、良く我慢出来たものだ。

 

 膝の上に飛び乗ったエルザの頭を撫でながら……思わずマイサンが力強い息吹きを始めてしまったので、慌てて精神力で平静を保つ。

 一瞬、ナニに触れたエルザが妖しい目をした!これは、気付かれたか?彼女は吸血鬼……演技でない彼女とも、話さなければならないだろう。

 今は、幼女の重みと温かさを堪能しようか……

 

「あの……騎士様、お連れの騎士様を止めて下さい。村の地形が変わります」

 

 破壊活動に勤しむワルド殿を見て、連れてこなければ良かったと思う。何しに来たんだ同志よ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あのワルドとか言う男……何なの?あの纏わり付く視線や言動、意味不明な行動。普通じゃないんだけど。

 最後はカステルモールお兄ちゃんが実力で黙らせたけど、双方の実力を垣間見た。

 

 私では敵わない……それにカステルモールお兄ちゃん。一瞬だけど私に欲情してた……

 

 精神力で抑え付けたけど、○○○(ピー!)が力強くなったのが私には分かった。

 でも、幼子の様に思われるよりは女性として想われたくもある……実際、私だって実年齢で言えば大人だ。

 そろそろ番(つがい)が欲しいのだけど……

 

「エルザ……女性が、こんな夜分に出歩いては駄目だよ」

 

 気配が分からなかったわ!

 

「カステルモールお兄ちゃん!私、お日様を浴びると皮膚が痛くなるから……月明かりが好きなの」

 

 カステルモールお兄ちゃんが黙って隣に腰を下ろす。私達は、昼間の破壊活動の跡地に出来た小山に寄りかかる様に並んで座る。

 

「エルザ……私は君の正体をある人から教えて貰った」

 

「…………やっぱりね」

 

 ああ……この平穏も此処までなの。

 

「それで?ガリアの騎士様は、私をどうするの?」

 

 最悪攻撃される事を想定し、体を直ぐに動かせる様に身構える。

 

「出来れば妻になって欲しいのだ」

 

「無傷で倒せると思わないでよね……はぁ?」

 

 つま?ツマ?妻?

 

「……あの、私吸血鬼だよ?」

 

 何言ってるの?

 

「そうだ!君の成長は緩慢だろう……私が老いるのは早い。でも君は……私が死ぬまでそのままだろう。それが良いのだ!」

 

 こっコイツは……人間としての本質がロリなのね!死ぬまでって、其処まで幼女好きなの?

 

「そっ其処まで幼女が好きなの?」

 

「…………」

 

 何よ黙り込んで。やっぱりコイツも幼女趣味の変態か……

 

「エルザ……私は君を1人の女性として接してきた。子供扱いもせずに」

 

「うん」

 

「私は幼女が好きなのでは無い!ちっちゃい容姿の女の子が大好きなのだ」

 

「はぁ?何ソレ?エルザ分かんないよ?」

 

「聞いてくれ。昔、私は恋をした……たまに見掛けるダケの妙齢の美女だった」

 

「幼女好きじゃないの?」

 

「しかし……彼女は、彼だったのだ!何と上司が女装してたのだ!あのホモの女装癖の腐れ外道め。男の純情を粉々にしゃがって」

 

「えっと……ご愁傷様なのかな?」

 

「それからだ!私は女性そのものが恐ろしくなったのだ……」

 

 えっと、好きな人は上司の女装のホモだった……そして女性不信になった?どうしよう……黙り込んでしまったけど。

 

「その時、私に、私の将来に光を……夢と希望を与えてくれた恩人が現れたのだ!

彼の紡ぎ出す価値観は、私の悩みを押し流し、幼い容姿の女の子の素晴らしさを教えてくれた。

私が求めるのは幼女の様に本当に子供ではない。あくまでも見た目だ!」

 

「その人って……筋金入りのペドね?」

 

 呆れた!そんな酷い変態に感化されたなんて……

 

「いや、ソウルブラザーは巨乳派教祖のオッパイ大好きなお方だよ」

 

「…………いや、それは可笑しいよ?何で巨乳好きがちっちゃい容姿の女の子の素晴らしさを語れるの?」

 

「彼は……ツアイツ殿は、このハルケギニアに君臨する性の伝道師!我らの導き手なのだよ。今度紹介しよう。君に会いたがっていたよ」

 

 そんな優しい目で見られても……ハルケギニア一番の変態性欲者には、会いたくないよ私。

 

「エルザ!私と結婚してくれ!」

 

「キャっ……」

 

 そんな、しっかり抱き締めないで。

 

「駄目だって!ちょっと待ってくれなきゃ。お兄ちゃん駄目だって……あん!そこは、まだ駄目だって……」

 

 

 カステルモールは、エルザを抱き締めて首筋の匂いを嗅ぎながら背中と……脇腹を撫でていた!

 端から見れば、どう見ても幼女にイタズラする変態だ……

 

 

 

 

 次話、完結編に続く!

 

 

 

 

「中途半端で終わらすなー!責任者を呼べー!」

 

 

 

「ワルド&カステルモールの変態紳士エターナルロリータへの旅・第四部完結編!」

 

 

 

 星降る様な満天の星空の下、カステルモールとエルザは現在……抱き合っている!

 しかし体格の差故に、カステルモールの膝の上にエルザが跨い乗り、首に手を回すダッコチャンみたいな感じだ!

 

「カステルモールお兄ちゃん……強引だよ!私、見た目通りの華奢な女の子なのに、酷いよ」

 

 艶々なエルザが甘える!

 

「いや……大分吸われたぞ。その分の元は取れたが……」

 

 こちらはゲッソリだ!そして、良い子には理解出来ない不思議な空間と会話が続いている。

 

「それで、そのソウルブラザーには何時会いに行くの?」

 

「そうだな……一度イザベラ様の様子を見てからだな。彼は今、祖国ゲルマニアに向かっている頃だろう」

 

「ふーん。イザベラ様ってこの国の王女様でしょ?カステルモールお兄ちゃんって偉いんだね。それにゲルマニアかぁ……エルザ、行った事ないよ」

 

「うむ……しかし副長以下の団員もイザベラ隊を結成し育ってきたからな。そろそろ、お役御免でも良い時期かな。それにこれからは、一カ所に留まる生活は出来ないからな……」

 

「ごめんね。私のせいで……」

 

 エルザは下を向いてしまった。小さな肩が震えているので、そっと抱き寄せる。

 

「良いんだ。ゲルマニアのソウルブラザーの下に身を寄せるのも有りだな……彼なら良いアイデアを授けてくれるだろう」

 

 パッと見上げるエルザの顔には希望が伺える。

 

「ふーん。凄い信頼してるんだね。そのソウルブラザーさんを……」

 

「そうだね。ちょっと前は、ガリアと言う国にも仕事にも愛着が有ったが……後任が育ったなら、職を辞して自由に生きるのも良いかな」

 

「うん!死ぬまで離さないから……勿論、死んでも離さないけどね」

 

 ギュッとカステルモールに抱き付く!

 

「ははは……お手柔らかに頼むよ」

 

 人と比べれば永い寿命を持つ彼女にとって、吸血鬼と言う種の違いと見た目を乗り越えてくれたカステルモールは、もう既に大切な番(つがい)だった。

 見た目の成長しない自分の為に、大国の騎士団長の地位まで捨ててくれると言っているのだ。彼を信じ、ついて行こう!

 

 もしも、裏切られたら……その時は彼の血を死ぬまで啜り、グールにして一緒に暮らそう。

 やっと安らぎを手にいれられたから、この安らぎを奪う者は許さない……

 

 

 

 

 翌朝、食卓にて……

 

 質素ながらも、村長が出来うる限りのお持て成しの料理がならんでいる。既に、ワルド殿は凄い勢いで食べ始めている。

 昨夜の件を報告してから、彼はヤサグレている。少し大人気ないぞ、同志よ……

 

「お爺ちゃん、私カステルモールお兄ちゃんと一緒にリュティスへ行くよ!」

 

 突然のエルザの宣言に、村長は思わず食器を落としてしまう。木製の皿がカラカラと音を立てている。まるで村長の心の動揺の様に……

 

「騎士様……本当に宜しいのですか?」

 

 なるべく落ち着いて威厳の有る様に話す。まさか、妻に迎える等と正直には言えないから……

 

「構わない。引き取るなら、早い方が良いだろう。子供故に順応も早いだろうし、外の世界を見るのも良い経験になるだろう」

 

 村長は、何か寂しそうな嬉しそうな顔になり

 

「分かりました。エルザ、騎士様に迷惑をかけない様にするんだよ」

 

「うん!でもエルザ、子供じゃないもん」

 

「そうだな。でもリュティスに行ったら、レディとしての教育もしなければ駄目だぞ!」

 

「エルザ、立派なレディになれるもん」

 

 何とも、ほのぼのしている空間にワルド殿の呟きが虚しく響く……

 

「同志カステルモール……自分だけハッピーエンドを迎えおって。何がレディの教育だ!

マイフェアレディを実践する気だな。私も帰ったら、男の浪漫本を読んで勉強だ!

今の私に足りない物……何が足りないのですか?ツアイツ殿、教えて下さい……」

 

 ここに、見た目歳の差カップルが元保護者に内緒で生まれた!

 

 エターナルロリータ。

 

チッパイ帝国に、サムエルの元に行けば……幸せと安全は保証されるだろう。

 しかし、付随する義務にはチッパイ巫女としてツアイツにプロデュースされるかも知れないが……

 

 妹萌え!

 

 お兄ちゃんっ子!

 

 実はまだ公開出来ないが、妹キャラの候補は2人居る。どちらの人気がより高まるかは、誰も知らない……

 サビエラ村を跡にする風竜に乗っている時に、一つの騒動が有った。エルザは日の光に弱い。

 だからカステルモールは彼女をマントで包んだ!

 

 そう!

 

 例の男の浪漫本ファンクラブの特典マント!上級会員のみに与えられる、大きなお友達の垂涎の逸品だが……

 エルザは見てしまった!そこに自分の刺繍が施されている事を。

 まだ身も知らぬ自分を正確に刺繍出来るソウルブラザーとは……本当に信用出来る人物なのか?

 

 しかも、ボンテージなプリンセスバージョンだよ?何かな?

 

 もしかして、カステルモールお兄ちゃんって……ソッチ系の性癖なのかな?

 夕べは優しいけど力強いノーマルプレイだったのに……お兄ちゃんに喜んで貰う為に頑張って勉強しなきゃ!

 

 激しく勘違いした、ロリッ子バンパイア爆誕!

 

 カステルモールの調教の日々は近いのか?

 マイフェアレディに憧れた彼が、彼女を好みの女性に育てるのでは無く、彼女にM男として調教される事になるとは……

 後ろから抱き締めて悦に入ってるカステルモールは、気が付かなかったとしても……まぁ仕方ないだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 指をくわえながら、併走するブリュンヒルデにのるカステルモールとエルザを見る。

 

 何で羨ましい、妬ましい!

 

 今回は、良い所が一つも無かった……理想のエターナルロリータを目の前にして、何にも無かったなんて。

 

 しかし!

 

 今回、手伝った?からには同志カステルモールには、私とタバサ殿の仲を取り持って貰うぞ!

 



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第102話から第104話

第102話

 

 ベアトリス姫殿下が退場した頃、アンリエッタ姫は念願叶ってウェールズ皇太子と同じテーブルに座っていた。

 

「ウェールズ様、お久し振りで御座います。今日は私の国の為に有難う御座いますわ」

 

「いや、水の精霊には興味が有ってね。素晴らしい物だったよ。これでトリステインも安泰だね」

 

 向かいに座っていたアンリエッタ姫が、一気に隣の椅子に移動し、にじり寄った。

 

「トリステインの安泰は、アルビオンとの連携が必要不可欠ですわ!両国の絆をもっともっと深める為には……」

 

「あーっと、そう言えばツアイツ殿は何処かな?」

 

 身を乗り出してにじり寄るアンリエッタ姫を言葉で牽制するウェールズ皇太子は真剣だ。

 

「ツアイツ殿ですか?参加はしてますが……それでウェールズ様、演劇に興味がお有りとか?実は私、ツアイツ殿に脚本を書いて貰いまして……」

 

 しっかりとウェールズの手を握り締める。

 

「アンリエッタ姫!近付き過ぎですよ。周りを見て見て」

 

 アンリエッタ姫とウェールズ皇太子の攻防は続く!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何人目だろうか?男の浪漫本にサインして渡したのは……

 調子に乗って増刷し捲った為か、何冊もの本を持った男達に挨拶をされ、握手しサインをする。

 未だに料理にありつけない……目線の先にのし掛かる様な体勢のアンリエッタ姫が見えた。

 

「あれは……アンリエッタ姫と、あのイケメンがウェールズ皇太子かな?」

 

 目が合ったイケメンが、物凄いお願い顔で僕を見ている。

 アンリエッタ姫に何かを言われたアニエス隊長がダッシュで、近づいて来て僕の手を握り強制連行する。

 

「ちょ、いきなり何ですか?」

 

「頼む!姫様が暴走する前に来てくれ。私ではお止め出来ん!」

 

 アニエス隊長に手を引かれ問題のテーブルに案内された!遂に、ウェールズ皇太子とご対面だ!

 

「これは、ミスタ・ツアイツ!さぁさぁ、どうぞ私の隣にお座り下さい。ウェールズ様。彼が、ツアイツ・フォン・ハーナウ殿ですわ」

 

 仮にも彼等は王族だ!此方から名乗る事にする。

 

「アンリエッタ姫、お招き有難う御座います。これはこれは!アルビオンのウェールズ皇太子ですね。お初にお目に掛かります。

ゲルマニアのサムエル・フォン・ハーナウが長子。ツアイツ・フォン・ハーナウです。お見知りおきを……」

 

 貴族的作法で挨拶をする。

 

「アンリエッタ姫と積もる話も有りましょう。野暮な私は気を利かせますので……お二人の時間をお楽しみ下さい」

 

 一礼して去ろうとするが……

 

「まぁ!嫌ですわツアイツ殿。まだ早いですわ」

 

「ちょ一寸待ってくれ!2人にしないで……」

 

「まっ待ってくれ!これ以上は、お止め出来ないのだ。頼む……」

 

 真っ赤になってイヤイヤをするアンリエッタ姫。しかし、他の2人に引き止められた。

 

 チッ……脱出失敗か。大人しくテーブルに戻る。

 

「ミスタ・ツアイツに書いて頂いた脚本。真夏の夜の夢ですが、先ほど正式に我が国の劇団に依頼しましたわ。芸術の季節、秋には観たいですわ」

 

 オイオイ……夏期休暇も半ばだぞ。秋って、もう日にちが無いぞ。哀れ、トリステイン王立劇場……

 

「そうですか……時間も厳しいと思いますが、歴史有るトリステイン王立劇場ですから平気ですね」

 

「是非、ウェールズ様とミスタ・ツアイツもご招待しますわ。そうだわ!公開初日にお二人共ご一緒に観ませんか?」

 

 益々哀れな……ふとウェールズ皇太子を見れば、真剣な表情で僕らを見ている。

 

「ウェールズ様?アンリエッタ姫の顔を真剣に見詰めてますが……愛されているのですね。

やはりお邪魔でしたか?すみません。空気が読めなくて……」

 

「まぁ!ウェールズ様ったら。さっきは周りを見て気を使えと仰られたのに……もう、はっ恥ずかしいですわ」

 

 アンリエッタ姫は、感極まって恥ずかしそうに両手で顔を隠して走り去って行った。

 

「アンリエッタ姫!」

 

 慌てて、アニエス隊長が追いかける。僕は、ウェールズ皇太子に向き合って話掛ける。

 

「ウェールズ様は、僕に何かお話が有るのですか?この園遊会にてアンリエッタ姫から引き合わせたいと依頼が有りましたが……」

 

「漸く君と2人で話が出来るね。僕は君に、このハルケギニアをどうしたいのか……

教えて欲しいんだ。勿論、一貴族として又巨乳派の教祖として」

 

 近くの使用人を呼び、飲み物を用意させる。当然お酒だ!

 

「どうにも抽象的な質問ですね?どうしたい……僕の大切な人達と幸せに暮らしたいですかね」

 

 ウェールズ皇太子は、グラスを一気に空けると代わりを頼む。

 

「他の人達は?自分の周りだけが幸せなら良いのかい?」

 

「アルビオンの次代を担うウェールズ皇太子なら、国民全てを幸せにする考えでなければならないでしょうね?」

 

「…………それは、理想論だが確かに努力はするよ」

 

「僕は、ウェールズ様より権力も財力も無いですが……自分を慕ってくれる人達の為なら他に犠牲を強いても守るつもりです。

全てを幸せにとか、理想を唱えるより今大切な人達の事を考えるので……手段、選びませんよ。それで罵られようが、敵対されようが覚悟は出来てますから……」

 

 ウェールズ皇太子は黙り込んでしまった。大切な人達の為なら、悪い事でも何でもやる!そう聞こえただろう……

 

「悪役になれる覚悟か……建て前とプライドを尊重する我々には、言えない言葉だね。だから君の周りの人達は、幸せ者ばかりなのか……」

 

「言うだけなら簡単です。実が無ければ、力が無ければ、ただの戯れ言ですよ」

 

「有難う。覚悟と言う意味を考えさせられたよ……僕はまだまだ甘かった。アンリエッタ姫も手紙に書いていた。

決意と覚悟……君は、アンリエッタ姫も守るべき者なんだね」

 

 そう言って穏やかに笑いかけるイケメン!ばっ馬鹿言うな!アレは僕と僕の周りの幸せの為に、アンタに押し付けるんだよ。

 

 変な誤解するなー!

 

「…………違います。彼女の望みを叶える為に、(一方的な)協力関係に有りますが……彼女を守るのは適任者が居ますから」

 

 そう言ってから、ウェールズ皇太子を見詰める。

 

「僕かい?いや僕は……ほら、アレだよ?その立場が何だから、難しいかなーって……」

 

 笑顔でトドメを刺す。

 

「僕は、手段を選ぶつもりは有りませんから……アンリエッタ姫を宜しくお願いします。彼女は一途な女性ですよ。それと、巨乳派教祖としてお約束しましょう。

彼女の豊胸……お望みでしたね?確実に希望通りに仕上げてみせます。では、失礼します」

 

 席を立ち貴族的作法に則り、一礼してテーブルを離れる。

 

 ウェールズ皇太子よ……変な誤解をせずに安心して暴走特急アンリエッタ号の尻に敷かれるが良い!

 

 

 

第103話

 

 ウェールズ皇太子とアンリエッタ姫。

 

 両国のネクストキング&クィーンが集まるテーブルは、周りから注目を浴びていた。そこへ呼ばれたツアイツ、周りは色々と考え始める。

 一部のトリステイン貴族は、常日頃アンリエッタ姫が誉め千切るゲルマニアのいけ好かない貴族と。

 ロマリアから来たバリベリニ助祭枢機卿は、ツアイツの事を教皇に報告しようと考えていた。

 

 遂にロマリアに目を付けられたツアイツ!その他、男の浪漫本を読んでいる連中は……

 

「流石はツアイツ殿!両国の正当後継者に呼ばれるとは!我々では、あのテーブルには近づき難い」等と、注目を集めているが概ね好評価だ。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ねえ?あの金髪のイケメンは誰なのかしら?あのテーブルに呼ばれるなんて……」

 

 護衛の空中装甲騎士団に尋ねる。

 

「ベアトリス様、彼がツアイツ・フォン・ハーナウ殿です」

 

 はぁ?ウチにも居るあの妖しい本のファンと違うわよ?

 

「あの、小太りな油ギッシュじゃないわよ?」

 

「会報でも見ましたし、先程挨拶しに伺いサインも貰いました。彼は間違い無くツアイツ殿です」

 

 何時挨拶に行ったのよ?

 

「アンタ?私の護衛を放って挨拶なんて何時行ったのよ?」

 

「…………」

 

「何故黙ってるの?」

 

「いえ、その交替しながら行ってました」

 

「あなた達ねぇ?」

 

「姫様、ほら何を話しているか気になりませんか?」

 

 言われてテーブルに意識を向ける。

 

「僕は、手段を選ぶつもりは有りませんから……アンリエッタ姫を宜しくお願いします。

彼女は一途な女性ですよ。それと、巨乳派教祖としてお約束しましょう。

彼女の豊胸……お望みでしたね?確実に希望通りに仕上げてみせます。では、失礼します」

 

 何?何なの、今の会話?ウェールズ皇太子の望みってアンリエッタ姫の豊胸なの?それに仕上げるって……

 

 都市伝説みたいな噂!伝説のバストアッパーって実在したのね?

 

 それにアンリエッタ姫をお願いしますって……それ程、彼はトリステインと関係が深いのかしら?

 帰ったらお父様に報告しなければ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 思わず嬉しくて走り出してしまったわ。ミスタ・ツアイツ、援護射撃グッジョブですわ!流石は私の師です。

 

「アニエス隊長戻りましょう」

 

 恥ずかしいけど、ミスタ・ツアイツと連携して……いえ、ツアイツ様と連携してウェールズ皇太子を今日墜としますわ!

 

 決めました!

 

 あら?何を話してるのかしら?

 

「僕は、手段を選ぶつもりは有りませんから……アンリエッタ姫を宜しくお願いします。

彼女は一途な女性ですよ。それと、巨乳派教祖としてお約束しましょう。

彼女の豊胸……お望みでしたね?確実に希望通りに仕上げてみせます。では、失礼します」

 

 思わず聞こえた台詞に、近くの椅子に座り込んでしまう……

 

 ツアイツ様!

 

 そこまで、そこまで私とウェールズ様の為に、手段を選ばずに動いてくれるなんて……

 嗚呼、こんなに殿方から大切にして頂いた事なんてないわ。駄目よアンリエッタ!ツアイツ様の気持ちを裏切っては。

 ウェールズ様一筋!彼も一途と言ってくれたのですから。

 

 揺れる乙女心……2人の殿方に挟まれて揺れているわ。

 

「ひっ姫様。アンリエッタ姫、正気に戻って下さい」

 

 アニエス隊長が何か言っているけど、何を騒いでいるの?今、女の幸せに浸っているのに……五月蠅いわね!

  身悶えるアンリエッタ姫に周囲は目を逸らした。アンリエッタ姫の評価に、妄想姫が追加された。

 

 しかし、トリステイン貴族の中では姫様ちょー可愛い!なんて思う若手貴族が数多く居た。

 

 見目麗しいレディが、真っ赤になってイヤイヤしてるから、まぁ可愛いのか?

 

 そして、本日の最大のイベント!イザベラ姫との会談が始まる。

 

 

 

 ウェールズ皇太子に啖呵を切って退席した後、直ぐ近くに待機していたイザベラ隊員に気が付いた。

 少し離れた場所でイザベラ様が待っているので案内すると……

 周りを護衛騎士団に囲まれ、人目の少ない場所にイザベラ姫御一行は陣取っていた。

 ニヤニヤしたイザベラ様が手招きしている。

 

 仕方なく近付いていく……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やっと終わったかい?女を待たせるなんて、紳士を気取る割にはなってないよツアイツ。

 少しからかってやるかね。仕返ししないと気が済まないからねぇ…… 

 全くウチの護衛もアイツには警戒心0だよ。

 

 何で敬礼するわ道を空けるわ……

 

「イザベラ様、ご無沙汰しております」

 

 くっくっく……呑気にしてられるのも今のウチだよツアイツ?

 

「本当に、お久しぶりですわね。毎週贈り物を下さるのに手紙の一つも寄越なさいなんて……冷たいお方ですわ。私など、もう飽きてしまわれましたか?」

 

 ほーら?鳩が豆喰った顔だね。その顔が見たかったんだよ!

 

 ザマァ!

 

 私だって王族だから、これ位の演技は出来るんだ。さぁ仕上げだよ。

 

「イザベラ様……何を言ってらっしゃ?」

 

 ツアイツに駆け寄って、その胸に飛び込む!周りから歓声が上がったね……

 

「「「うぉー!イザベラ様、デレデレだー!」」」

 

 ヨシ!今だよ。

 

「酷い人……えぃ!」

 

 強烈な右をツアイツの腹にぶち込む!

 

「うっ……」

 

 私に溜まらず寄り掛かって来た所を受け止めて……

 

「寂しかったんだから。えぃえぃえぃ!」

 

 右を三発連打!トドメだよ!

 

「もう知らないから!ツアイツのばかー」

 

 フルスイングで鳩尾に一撃を入れる。溜まらず私にしがみ付きながら、崩れ落ちるツアイツ!

 

「「「うぉー!今日はデレデレだー!バイオレンスデレー!そしてナイスボディーブロー」」」

 

「あーっはっはっは!思い知ったかいツアイツ?

私を勝手に商品化した罰だからね。安心しな、別にアンタにお嫁に貰って欲しいとか思ってないからさ。

さぁもう起きな!ほらほら手を貸してやるから。でも次は許さないからね。アレ?ツアイツ平気かい?」

 

 ヤバイ、やり過ぎたかね?何か泡をふいて痙攣してるけど……

 

「イザベラ様。ツアイツ殿を此方へ。治療いたしますから……」

 

「そっそうだね。ツアイツ悪かったね?大丈夫かい?今治療させるからね?」

 

 お腹を擦りながら謝るが、ツアイツは唸っているだけだ。ガリアのツンデレプリンセスの新しい伝説が、ここに生まれた!

 

 バイオレンスデレ!

 

 普段勝気な彼女が、甘えながら暴力を振るう様を見たファンの忠誠心は天を突くばかり……

 

 

 

第104話

 

 イザベラ姫に抱きつかれた!

 

 まさか、そんな感情を抱かれていたのか?と、一瞬思考が止まった後に腹に来た暴力的な衝撃……

 イザベラ姫に縋り付きながらズルズルと膝を付く。その時に、彼女の巨乳に顔を擦り付けながら倒れ込んだのは僕だけの秘密。

 

 ロイヤルおっぱい御馳走様でした!

 

 結構なお手前で……意識を失い目覚めたのは、暫く経ってからだった。誰かが頭の上で話し合っているみたいだ。

 

 目を開けずに、会話に集中する……

 

 

「イザベラ姫は、この変態と良い仲なのですか?」

 

「良い仲?男女のかい?まさか違うよ。それに王族には恋愛に自由など無いよ。私らの旦那は国の為に選ばれるんだ」

 

「でも、とても嬉しそうな顔でしたわ」

 

「こいつは……ツアイツは、最初から私を無能姫と嫌われ者と見下してなかったよ。

何時も何時も困らせられるけど、悪い事ばかりじゃないし嫌じゃない。

最初はね……

私はコイツに刺客を差し向けたんだよ。そんな私にも普通に接してくれたね。命を狙った私にだよ」

 

「それは……随分と変わってますわね」

 

 サワサワと頭がくすぐったい……多分、イザベラ姫が髪を梳いてくれてるのだろう。

 暖かい掌の感触だ……唸って目覚め様としているみたいに演技する。

 

「気付いたみたいですわ!」

 

 目を覚ますとイザベラ姫とベアトリス姫が、僕を見下ろしている……

 ニヤリと笑うイザベラ姫の笑顔は、悪戯っ子の顔だし、ベアトリス姫は何故か半信半疑と言うか疑いの眼差しだ……

 

「漸く目覚めたかい?可愛い彼女のコブシ位、平然と受け止めな」

 

「彼女って……イザベラ様、お戯れを言わないで下さい。他に聞かれたら問題有りですよ?」

 

 イザベラ姫の、ニヤニヤが止まらない。周りを見渡して……

 

「アンタの作り込んだ、この変態包囲網をかいくぐってかい?私を勝手に商品化してプロデュースまでしといて、その言い草とは……ヤレヤレだね」

 

「凄い人気出ましたよね?これでイザベラ姫の人気と地位は安泰ですよ」

 

 彼女は、少しだけ困った顔をした。

 

「それは……微妙に嬉しいし感謝はしてるよ。それに、毎週の贈り物も嬉しかった。

でもアンタだって、私にガリアでの立場を固めて欲しかったんだろ。アンタの為にさ……違うかい?」

 

 流石は、知り合いの王族の中でも一番マトモ。ちゃんと、気付いてるのかな?

 

「ええ、ジョゼフ王と揉めたら力になってくれると嬉しいなー!って思いまして」

 

 うわっ!鼻で笑われたぞ。

 

「やっぱりアンタって面白い男だね!しかし、フィギュアや男の浪漫本……私関連はもう少し自重しな!

それと、裏切り者のエレーヌをもっと商品化しな。序でに、そこのベアトリス姫殿下がアイドルになりたいってさ」

 

 凄い威厳有るニヤニヤなんだが……これが王族の血か。アンリエッタ姫も見習って欲しい。

 これ位、自分の置かれた立場を把握出来れば僕らの被害が少ないのに……

 

「イザベラ姫、私は無理です。考えさせて下さい。

お父様から預かっている空中装甲騎士団をあの様な変態集団にするのはチョット……申し訳ありませんが、嫌です!」

 

 初めて見た!凄い長い金髪のツインテール……我が儘で勝ち気そうな少女だけど?

 

 これがベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ姫殿下か。

 原作ルイズの変わりにロリでチッパイなツンデレとして人気が出そうだぞ。

 エレオノール様もチッパイでツンデレだけどロリじゃない。この違いは大きい。

 それにツンデレプリンセスでは、イザベラ様ともキャラが被る。

 プロデュースするならロリでチッパイだけでは弱い。妹属性を強調すれば、或いは……でも何故イザベラ様と?

 

「ほら?何を値踏みしてんだい?この娘なら、アンタが力を貸せば人気は直ぐに上がるんだろ?」

 

「これは、不躾な視線を……申し訳有りません。私はゲルマニアの貴族。

サムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツ・フォン・ハーナウです。以後、お見知りおきを」

 

 貴族的礼儀を以て一礼をする。

 

「アンタね……私の時と扱いが違くないかい?」

 

 ベアトリス姫殿下は……何故だか分からないけど、距離を置かれている感じです。分かります。

 潔癖症っぽいし、変態巨乳教祖を目の前にして嫌な思いをさせているのかな?

 

「わっ私は、ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフですわ」

 

 少し慌てたが、優雅にスカートを裾を持って一礼してくれた。

 

「イザベラ様とは、仲が良ろしいのですね」

 

 イザベラ様は珍しく自然に笑っている。

 

「お前が洗脳した会員達にガン付けられててね……助けたら、ね」

 

「ええ、怖い程の忠誠心でしたわ」

 

「そうですか……それは済みません」

 

「で、この娘売れそうかい?」

 

「ツンデレプリンセスではイザベラ様とキャラが被りますし。

寧ろ妹キャラを強調し、チッパイでロリっ子でお兄ちゃん子にすれば或いは……一大ブームになりえる素材をお持ちかと」

 

「いっいえ、私の事は良いですわ。嫌です。困りますわ」

 

 やはり、遠慮された……何だか凄く警戒されてるし、距離を取られたぞ。

 

「では、その気になりましたらその時に……イザベラ様、僕はこれで失礼します」

 

 ベアトリスちゃんか……中々の素質を持った娘だね。

 

「お兄ちゃん!」とか、言わせればあの容姿でチッパイロリだ。必ず人気は出ると思う。でも無理かな。

 随分警戒されてるし、クルデンホルフも商業に力を入れる国。フィギュアとか売ったら版権問題とかになりそうだよね。

 

 しかし、シェフィールドさんが居なくて良かった。彼女が居たら、イザベラ姫が大変な事になっていたかもしれない。

 

 僕を殴って気絶させた!なんて知られては問題が有ると思う。

 

 

 

 その頃のジョゼフ王!

 

 

 

「まぁまぁジョゼフ様、お似合いですわ!ほら、近衛や侍従の皆さんもそう思ってますわ!ねぇ皆さん?」

 

 近衛や侍従は曖昧な笑みや困惑を浮かべておる。ミューズの迫力に押されて拍手してしまったから、何とも言えないか……

 

「ふぅ……ミューズよ。ツアイツに取り込まれたのか?」

 

 情報では、姉弟の様に仲が良いそうだ。

 

「ミスタ・ツアイツにですか?彼は我が主に必要不可欠な御方。

取り込まれてなどいませんが、協力体制を円滑にする為に友誼を結んでおりますわ」

 

 ミューズは余の使い魔だ。ルーンの影響下では余に逆らえない。故に余の不利になる行動も取らない。

 ならば、アヤツの変態の影響で積極的にアタックを始めたと言う事か?

 兎に角、ナニが起たねばミューズの気持ちにも応えられん。話にならぬのだ!

 

 ツアイツよ。早く、レコンキスタを叩きのめして余の前に来るのだ!

 



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第105話から第107話

第105話

 

 ラグドリアン湖の園遊会を終えてヴァリエール公爵家に戻った。

 あれからバタバタして、モンモランシーに少しだけ会ってから帰ってきた。

 実りは少なくはなかったが、問題は有った。

 ウェールズ皇太子やアンリエッタ姫のテーブルに同席してた所をロマリアの助祭枢機卿がガン見してた。

 

 これは、教皇に報告が行く筈だ、これからアルビオンでブリミル教の司教が起こす反乱。

 その国の皇太子と救援の国の姫君、それと同席していたとなれば、あの腹黒い教皇は必ず関係有りと考えるだろう。

 そして大国ガリアのイザベラ姫による、新しい宗教的なアイドルファンクラブの存在……

 

 調べれば、ブリミル教など霞む程の内容だから。必ず、ロマリアは手を出してくる。

 

 僕が先か、イザベラ姫が先か……

 

 正直に言えば、ブリミル教などに関わりたくは無い。

 大隆起だか知らないが、何時起こるかもしれないし防ぐ手立てが聖地奪還ってのも納得いかない。こちらには、テファも居るから。

 何か手を打たないと、危険かもしれないな。イザベラ姫には苦労だけかけるけど、僕の考えを手紙で送っておこう。

 

 宗教には気をつけなければ、民衆を敵に回す可能性が有るから……

 

 最近、すっかり僕の思考場所になった感の有るベランダ。前回はカトレア様だったが、今回はルイズか……

 さっきからピンクの髪が扉から覗いている、何か遠慮する雰囲気でも有ったのかな?

 

「ルイズ、どうしたの?さっきから顔を覗かせて」

 

 ガタガタっと分かり易い音を立ててから、ルイズが出て来る。

 

「何時から?」

 

 真っ赤になって、手を前に組みながら聞いてくる。

 

「少し前から……ルイズの綺麗な桃色の髪は、暗がりでも映えるからね」

 

 とことことテーブルに近付いてくる。

 

「座る?」

 

「うん!」

 

 わざわざ椅子を隣に移動して、並んで座る。彼女の横顔しか見れないが、月明かりに浮かぶルイズは極上の美少女だ。

 シンプルなナイトガウン姿だが、シルク生地は薄く体のラインを強調している。

 

「難しい顔してた……普段私達には見せない、何か思い悩んでいる顔」

 

 真っ直ぐ前を向いている為に表情は掴めないが、真剣なのは分かる。

 

「うん……いよいよレコンキスタは動き出す。手は全て打ったよ。後は、細かい調整だね……」

 

 ルイズの膝の上にギュッと握っている手に、自分の手を重ねる。

 

「全ては順調だよ、自信も有る。だから心配しないで……」

 

「昔からツアイツは、どんな事でも出来た……落ちこぼれの私と違う。皆の期待を裏切らない、私は違う。

期待に何も応えられなかった……私、ツアイツの傍に居て良いのかな?」

 

 ルイズ……魔法が使えない事を気にしているのか。君が、虚無の使い手だと言う事は教えられない。

 僕が、悉く君の虚無覚醒のイベントを潰してるし。出来れば、虚無として覚醒せずに僕が幸せにするのは傲慢か?

 

「ルイズ……僕だって独りでは何も出来ないよ。でも必要としてくれる人達が居て、補い合っている。僕には君が必要だ!君も僕を必要としてくれれば嬉しい」

 

 ルイズは下を向いている。ピンクブロンドの髪が顔を隠す。

 

「ツアイツに本当に私は必要?今の私が有るのは、全てツアイツのお陰よ。仲間も自信もこの胸も……

全て貴方が私に与えてくれた物。私が、貴方にあげれる物は何かないの?」

 

 ルイズ……原作と違う、僕だけのルイズ。

 

「僕が、頑張れるのは大切な人達と幸せになりたいから……その為に、周りにしわ寄せが行っても僕は行動するよ。

傲慢で自分勝手で我が儘で欲張りな上に凄くエロい。しかもハーレムを作りつつ有るし、周りの仲間は変態か普通とは違う連中ばかり……

それが、僕さ!こうして言えば、最低だよね……」

 

「…………ツアイツ」

 

「僕は、僕だけの幸せの為に君が欲しいんだ!救い様の無い男だろ?」

 

「私で良いのかな?私、貴族なのに魔法が使えないのよ?貴方の邪魔にならないかな……」

 

 僕は、ルイズの手を取って立たせるとベランダの手摺まで移動する。

 

 天空には双子の月。

 

 下に見える大きな池にも、双子の月が映っている。

 

 幻想的な上下に有る月の世界に2人きり……

 

「ルイズ……結婚しよう。君となら、僕は幸せになる自信が有る!」

 

「くすっ……普通は、私を幸せにする自信が有るでしょ?」

 

 突然のプロポーズにも、ルイズは動じない。彼女は、ほんのりと赤くなった顔で僕を真っ直ぐに見詰める。

 

「ルイズの幸せは、僕の幸せでしょ?だから良いんだ。それで、返事を聞かせてくれないかな」

 

「良いわ。お嫁さんになってあげる。絶対貴方を幸せにしてみせるから……」

 

「ルイズ……」

 

「ツアイツ……」

 

 自然と顔が重なり合う。

 

 月をバックに初めてのキスは、モンモランシーにされたのと同じフレンチな感じのキスだった!

 少しだけ、ルイズのオッパイを揉んだのは僕達だけの秘密だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今夜、勝負を賭けるわ!

 

 ツアイツは明日、キュルケと共にゲルマニアに帰ってしまう。チャンスは今夜しか無い!

 お部屋には居なかった、でも直ぐに見付ける事が出来たわ。

 ベランダの椅子に座り、何か真剣な顔で考え事をしているみたい。

 

 邪魔はしたくないけど、お話はしたいのに……暫く様子を伺っていたけどバレてたみたい。

 

 2人きりで話しをするなんて久し振り、だから聞いてみたの。

 魔法の使えない私なんて、本当にツアイツに必要なのか?

 

 でも彼は……私の為じゃなくて、自分の為に必要だと言ってくれたの。

 

 私が、彼を幸せに出来る!こんな嬉しい事はないわ。

 

 もしもの為にと、下着も新品を用意したのだけど……どうやらキスだけみたい。

 自分で凄くエロいとか言ってるのに……だから、モンモランシーみたくフレンチなのをお見舞いしたわ。

 

 これで、ツアイツは私の物。私もツアイツの物。

 

 お姉様達が、何か企んでいても平気ね。昔、彼の書斎から黙って借りたこの男の浪漫本。

 

 本当に頼りになるわ。

 

 男って、弱みを見せる女の子には優しくなるって。半信半疑で実践してみたけど……

 お父様とお母様とちい姉さまとエレオノール姉さまに明日の朝、報告しないと。

 

 もう早い者勝ちだわ!

 

 ヴァリエール家から、ハーナウ家に嫁ぐのは私だけ。早く卒業してツアイツのお嫁さんになりたいわ!

 

 

 

第106話

 

 

 おはよう!キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。

 

 キュルケで良いわ。

 

 先程、部屋に乱入してきたルイズが……抜け駆けして、ツアイツと夜中に逢い引きして、プロポーズされたと惚気られたわ!

 

 幾ら貴女の実家でも抜け駆けは万死に値するわ。

 

 よって今までくすぐりの刑に処したのだけど……この幸せそうな顔で寝てるのがムカつくわね。

 次は私の実家に行くから、最後を飾るのは私よ。キッチリとツアイツから、プロポーズして貰うから……

 

 

 

 ヴァリエール公爵邸食堂にて……

 

 

 

 今朝の食卓は……不思議な雰囲気だ。ヴァリエール夫妻とルイズはご機嫌だ。

 ルイズは分かるんだけど、カリーヌ様もって事は昨日のプロポーズは報告済みなのかな?

 しかし、カトレア様は普通だ。エレオノール様は、寝室から出て来ない。

 

 キュルケも不機嫌だから、みんな知ってるんだろう……

 

 色恋沙汰を知られるのは、恥ずかしいんだけどね。等と考えていたら、執事さんが驚きの報告をしてくれた!

 

「大変です!レコンキスタが遂に、武装蜂起しました。アルビオンの北方、ダータルネスを占拠し声明をだしました!」

 

 遂に動き出したか!オリヴァー・クロムウェル率いるレコンキスタ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 オリヴァー・クロムウェルは焦っていた。

 

 資金は潤沢に有る。最初こそ資金をばら撒き、わが教義で有る美乳派を広めようと頑張り賛同者も多かった。

 自慢では無いが演説には自信が有った。

 平民出身の司教と軽く見られる場合も有ったが、ブリミル教の権威とは素晴らしく些細な事でしかなかった。

 勿論、金の無い平民などに美乳教は広めてない。そんな奴らを相手にしても時間の無駄だし、何もメリットが無いからだ。

 金が有り複数の女を囲える裕福層じゃなければ、そんな乳の好みでどうこう出来る者などいない。

 最終的には買収し、唆した貴族を王家にぶつけてこの国を牛耳る予定だ。

 美乳などは貴族に取り入る手段に過ぎず、話す切欠さえ出来れば金と利権と女を宛がって自分の思うように操るつもりだ。

 

 そう!性欲の強い、取り込み予定の貴族に会うまでが難しいのだ。

 

 普通のブリミル教の司教としてでは、美乳の話は出来ない。

 最初こそ我が話術で美乳の良さを説き、巨乳派を強要する王家との軋轢を誘う方法は上手く行っていた。

 

 しかし最近になり「男の浪漫本」なる妖しげな物が出回り始め、買収が難しくなってきた。

 美乳の良さを語っても所詮は言葉でしか無く、物語や挿絵を伴った「男の浪漫本」には適わず段々と話に喰い付く貴族が、少なくなってきている。

 我が陣営でもこの様な本を製作・出版しようと思ったが難しい。

 私の話を纏めて本にしてみたが、元々我が話術とは相手の対応をみて臨機応変に説得をするものだ。

 

 人気など出る物ではない。

 

 それに最初こそジョゼフ王を使いとして、頻繁に顔を出していたシェフィールドと言う女も最近では来なくなった。

 資金は潤沢に寄越すのだが……もはや新規の信者の開拓は不可能だ。

 当初予定の半分以下しか貴族を抱き込めなかったが、挙兵する事にする。補填として、金に飽かせて傭兵を雇い入れる。

 奴らは乳などは関係なく、ただ金の亡者だが仕方ない。

 兎に角、捨て駒として大量に雇い入れる。戦力は整った。

 

 だが、大義名分が弱い……

 

 本来の予定では民の事など考えず、あまつさえ趣味の違いから王弟さえも抹殺する非道な巨乳教妄信者。

 アルビオン王家を全ての女性が平等に持つ乳の美しさ……すなわち美乳派が成敗する!的な流れで進めようと思ったのだが、既にその内容では説得力が無い。

 

 この国の貴族や平民の間で流れてしまっている、男の浪漫本には住み分け理論が展開されてしまった。

 

「争うべからず、偉大なる乳の下に集え!」

 

 このスローガンの下に各種多用な経典が出来て、誰でも気軽に購読出来る様になってしまった。

 

 しかも「男の浪漫本ファンクラブ・変態と言う紳士の集い」などと言う、怪しさ爆発の団体に入信する貴族が大勢いる。

 

 彼らは、敵対しなくとも我々に非協力的だ!

 

 しかし事が起これば、敵に回る可能性が高いだろう。最早ただの軍事クーデターでしか無く、金で動く輩しか廻りにはいない。

 しかし盟主として顔を出してしまった以上、後には引けぬ。

 申し訳程度にブリミル教の司教としての最後の意地で、聖地奪還も掲げておいた。

 少しは敬虔なブリミル教徒を巻き込めるかもしれない。戦力は3:7と劣勢だが、一転突破で押し切るしかないだろう。

 

 まさか貧と巨の2大教祖が手を組む等と……

 

 忌々しいハーナウ家よ、ツアイツ・フォン・ハーナウよ!

 

 覚えていろ。アルビオンの次はトリステインだが、貴様等は許さない!特別な刺客を送ってくれるわ。

 

 

 

 アルビオン王宮

 

 

 

 ウェールズ皇太子は、王宮の廊下を走っている。

 普段の落ち着きは全く無く、王座の間の扉を荒々しく開けると、父王に向かい報告した!

 

「父上、レコンキスタが北方のダータルネスにて反乱を起こしました!」

 

「落ち着け、ウェールズよ。ワシにも報告が来ている。厄介なのは、奴は美乳派などとほざいていた。

小物と思い侮ったが、聖地奪還を表明した!これは問題になるだろう。分かるな、ウェールズよ?」

 

 はっと、異端と言う言葉に思い当たる。ヤツはブリミル司教だ!

 

「父上!直ぐにロマリアに行きます。あの男が、殉教者などと言われては我々が異端扱いになります」

 

「良かろう。直ぐにロマリアに飛べ。幸い、美乳派などと戯れ言のお陰で取り込まれた貴族は少ない。

これも、ツアイツ殿の男の浪漫本のお陰か……しかし、我らは再び乳を戦乱に用いてしまった」

 

「もはや、我らの上級会員昇格は夢と潰えた……許すまじオリヴァー・クロムウェルめ!」

 

「ウェールズよ。急ぐが良い!ワシが防衛線を構築し時間を稼ぐ」

 

「分かりました、父上。必ずオリヴァー・クロムウェルの処罰が可能な様に話をつけてきます!」

 

 後手を踏んだ、アルビオン王国。

 

 しかし原作より、取り込まれた貴族は少ないが、その分傭兵は多い。

 戦力比は3:7と有利だが、一カ所に集中して運用出来るレコンキスタに対して、こちらはこれから召集をかける。

 

 即戦力は、常備軍のみ。

 

 ウェールズ皇太子が、ロマリアと話をつけないと戦局はひっくり返る可能性は高かった!

 しかし、アルビオンの親子の一番の怒りは上級会員昇格が、ほぼ不可能となった事だった!

 オッパイが戦の大義名分になる事は防いだが、当事者にとってはオッパイの方が重要だった。

 

 乳の恨みは恐ろしい……

 

 

第107話

 

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 実家に帰る前に、キュルケを送る為にツェルプストー辺境伯の屋敷に向かっています。

 シェフィールドさんがガリアに帰っているので、レンタルグリフォンでなく、キュルケと2人で竜籠に乗っています。

 ソフィアは先にハーナウ本家にロングビルさんと遍在ワルド殿と共に行かせました。

 

 流石に連れ回すのも気を使わせますし……

 

 貴族なら他家に行ってもお客様ですが、彼女はメイドさんですから待遇もマチマチですし……さて長い夏期休暇ですが、漸くゲルマニアの地に入りました。

 先にキュルケから連絡が行っていたのでしょう。

 

 ヘルミーネさん達の風竜が、国境付近から護衛に付いてくれました!

 

 昔なら国境付近で風竜とか展開したら、軍事行動と言われかねない関係だったのに、融和政策は上手く機能してるみたいで一安心。

 

 等と考えていたら「ツアイツ……ルイズから聞いたわよ。プロポーズしたのね?」逃げ場の無い空の上でこの質問は辛い……

 

 しかも2人きりだし。

 

「えっと……うん」

 

「そう。次は私よ。楽しみにしてるわね」

 

 嗚呼……なんて笑顔で言ってくれるんだ!そして後ろから抱き締めてくるし……こんなに積極的なキュルケは初めてだからドキドキしてしまう。

 しかしこれは、実家でプロポーズを受けてその場で両親に報告パターンか?遂にツェルプストー辺境伯を義父さん!と、呼ぶ日が来るとは……

 

 不思議な気持ちだ!

 

 ヘルミーネさん達のニヤニヤも止まらないし……等と考えていたら、ツェルプストー辺境伯の屋敷に付きました。

 わざわざ夫妻がお出迎えの為に玄関まで出て来てくれるとは……

 

「ツアイツ殿……いや義息子よ、良く来たね。暫く滞在してくれ!」

 

「ツアイツ殿、ご無沙汰してましたわ」

 

 ツェルプストー夫妻から挨拶を先に貰ってしまった!しかも夫人のお腹は大きいぞ……

 

「此方こそご無沙汰しておりました。今日は、わざわざ出迎えまでして頂いて感謝の言葉もありません」

 

「良いのです。新しい家族になるのですから……このお腹の子も、貴方の義弟になるのですよ」

 

 ポンポンと幸せ一杯な笑顔で自分のお腹を叩く。

 

「立ち話もなんだ。さぁ入ってくれたまえ。お前も身重なのだから安静にな……」

 

「お母様、私に掴まって……」

 

 キュルケを伴い入っていく母娘をツェルプストー辺境伯と見送る。

 

「ツェルプストー辺境泊……」

 

「義父上でも義父さんでも構わないぞ、義息子!」

 

 どうにもこの人には適わない気がする。

 

「義母上ですが、今回の件は詳細までご存知なのでしょうか?」

 

「いや、アレには教えていないよ……」

 

「そうですね。母体に不安は禁物でしょうから……そのつもりでいます」

 

 2人並んで玄関を見詰める変な格好だ。しかし、漸く世継ぎの男子を授かった夫人に心配事は無用でなければ。

 

「義息子よ……キュルケはもう抱いたか?これから死地に向かうのならゲンを担ぐ意味でも一発やっておけ!迷信では無くお守り変わりだよ」

 

「なっなななな何を……」

 

「君は、有能だ。周りに頼りになる者も居るし慎重で用意も周到だ。しかし、無謀な事も仕出かすからな。

何処か抜けている所が有る……人は守るべき者を持つと強くなる。沢山居れば、より強くなるだろう」

 

「しかし……死地に向かう身なれば」

 

「それだ!最初は工作だけの筈。しかし、君は既に前線に立つ気でいるのかい?」

 

「……………」

 

「自分だけの家族を持て。人はそれで強くなれる。さぁ妻達の所へいこうか!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツ……

 

 君は、自分が思ってるより周りの人達の愛情を受けているんだよ。君にしか収められない此度の騒動でも分かった。

 君は、何処か無謀な時が有る。

 今回の件でも、ガリア王ジョゼフから難題を押し付けられたが……その寵妃と一人娘を籠絡するのは危険じゃないか?

 下手をすればガリアと開戦の危機だったが、オッパイと変態で何とかしてしまうんだろうね、君は……

 

 そして私の情報では、黒衣の魔女と義姉弟になるそうじゃないか!

 

 分かっているのかい?あの女の義弟とは、ガリア王族の一翼を担うのだよ。しかも君は、既にイザベラ姫と竜騎士団と縁を結んでしまった。

 もうゲルマニアとて静観は出来ないだろう。既に君は、ゲルマニアの一貴族では無い。この国に縛るのは不可能だろう。

 

 だから、この滞在でキュルケとは本当に結ばれて貰うよ。既に、ハーナウ夫妻にも使いを出した!

 明後日には、身内だけで略式だが結婚式を行う。君は、君の弱点と言うか強みはね……

 底抜けのお人好しで有り、身内と認めれば無条件で信じてしまう事さ!

 

 時として、魑魅魍魎の跋扈する貴族社会では……直ぐに付け入れられるだろう。

 しかし、我が娘と結ばれれば介入は容易だし理由もたつからな。君の不足分は、我々大人が補おう!

 

「義父上?皆がまってますが……」

 

 思わず、玄関先で思考に耽ってしまったか。

 

「ああ、すまないな。それでは、行こうか」

 

 これからのハルケギニアは、誰も予測がつかぬな。しかし……フィギュアか。我が一族の若い娘達をシリーズで売り出してはどうだろうか?

 

 第一段は、色気が足りぬ。第二段は、ちとマニア受けを狙いすぎ。第三段は、ファンを選ぶだろう。

 

 大多数の、エロい大きなお友達を取り込むには……やはり我が一族の、赤髪の妖艶さが必要だ!

 これは早速、義息子と協議せねばなるまい。

 

 第四段は、ツェルプストー辺境伯の赤い髪の女性騎士団!早速ヘルミーネ・イルマ・リーケを呼び出そう。

 

 キュルケは……ピンで売り出して人気を集めさせよう。

 アイドルか……ツアイツ殿も、わざわざガリアなどで探さずとも、周りに素質ある美女・美少女は沢山居るだろうに。

 まぁこれも、義息子の人身掌握術だな。地盤の弱かったガリアとアルビオンはもう……オッパイ一色だからな。

 全く敵に回すと、常識が通じない手段にでるから厄介だろう。

 

 レコンキスタか……何時まで持つやら?

 

「あの……義父上、途中から喋ってますが?第四段は、ツェルプストー辺境伯の赤い髪の女性騎士団!シリーズ化が希望ですか?」

 

 あれ?私とした事が……まぁ丁度良いか!

 

「そうだ!我らゲルマニアにも、テファ殿以外のアイドルが必要だろ?彼女は、そうそう表には出れない理由が有るのだから?」

 



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第108話から第110話

第108話

 

 男の浪漫フィギュア!

 

 巷で人気のこの人形ですが、生産地は本拠地ゲルマニアのハーナウ領と、トリステインのド・モンモランシ領にて絶賛増産中!

 格付で、ハーナウ領産の方がより高級かつ高精度で有り、主に中級会員以上のカタログ注文品。

 ド・モンモランシ領産は、初級会員のカタログ注文を扱っている。

 

 原型師は全てツアイツが行っているが……大変かと言えば、そうでも無かった。

 

 元々、錬金で色々なゴーレムを作れる腕をもつツアイツ。

 妄想力を総動員すれば、幾らでも小さな女の子ゴーレムを作れるから……困ったのは、一部着せ替え可能な可動関節を持つ高級品だ。

 他のフィギュアは、服を着た状態にてカタを取り、彩色する。此方は主にド・モンモランシ領で増産に次ぐ増産を行っている。

 プラスチックが錬金出来ないので、カタを取ったら鉄を流し込み彩色する。

 

 金属製が一般的だ。少数の物は素材を変えて試行錯誤中……まだまだ時間が掛かるだろう。

 

 現代のフィギュアとは違うが、手工業がメインのハルケギニアの技術ではこれでも頑張って量産している方だろう。

 魔法の使えない平民でも生産が可能なのだから。

 そして着替え用の衣装についても、領内の女性を中心に雇用し生産に励んで貰っている……職が増えれば景気も向上する。

 一時的とは言え、領地の立て直しを図るド・モンモランシ伯爵は随分助かっている!

 これなら、トリステイン貴族の中で力を取り戻すのも早いだろう。

 

 さて、ツェルプストー辺境伯の独り言の様な提案でも、義父上になるならば叶えねばなるまい。

 それに、気になる一言が有った。

 

「……彼女は、そうそう表には出れない理由が有るのだから?」

 

 これは何を意味しているのか?義父上が、テファが元平民で配下の貴族と養子縁組したとの偽情報に騙されるとも考え辛い……

 まさか、ハーフエルフだとはバレてないと思うのだが……

 ツェルプストー家に滞在して直ぐに始めた事が、ヘルミーネ・イルマ・リーケさん達のフィギュア制作だ。

 彼女達を屋敷に呼び寄せてフィギュアの原型を制作し、彩色して見本を作る。

 これは、キュルケやツェルプストー夫妻も大変興味が有るらしく、実際に目の前で行う事にした!

 

 場所は、応接室だ。

 

「ツアイツ殿には、毎回新しい事を始めるので驚かされますわ!」

 

「義息子よ。我が娘達を人気の出る様に頼むぞ」

 

「えっと、私もフィギュアになるのかしら?」

 

 見学者側の三人が、ソファーに座り紅茶を楽しみながら会話している。

 僕の方はモデルさんに着替えて貰い、それを見て妄想爆発させて錬金する。最初は、ヘルミーネさん。

 活動的な美人な彼女は、どんなポーズが似合うだろうか?

 ライトメイルを着込んだ彼女を凝視して考える……うん、決めた!

 

 凛々しい彼女は、ギャップ萌えにする。

 

 両手を後ろに組んで、俯き加減に少し下を向いたポーズだ。腕を後ろにまわす事により胸が強調される。当然ミニスカでロングブーツ!

 絶対領域は生太ももだ!これならお姉様好き受けするだろう。

 

 妄想開始!

 

 キタキタキター!30cm程度のミニゴーレムが完成する。幾つかポーズを変えて更に錬金する。

 

「ふぅ……まだ色を付けてないので、イマイチかもしれませんが、一応完成です」

 

 先ずはヘルミーネさんが手に取り、じっくりと見る。

 

「私とイメージが違う気がしますが……本当にツアイツ殿の中の私はこんな感じなの?」

 

 ギャップ萌えを強調した表情と仕草に自信が無さそうだ。

 

「ええ。ヘルミーネさんの内面の優しさと女らしさを表してみたのですが……気に入りませんか?」

 

「ツアイツ殿……それは、もしかして口説いてます?」

 

 悪戯っ子の表情だ。これが、トリステインから多淫と言われる由縁かな?

 

「まさか!と言えば魅力が無いの?と返されそうですが、貴女を美しいと思っても立場が許さないですよ……お互いにね」

 

 キュルケの立場も有るから、やんわり断る。ふと見れば、キュルケと夫人は安心した様な表情をしている。

 そんなに信用ないのかな?それにヘルミーネさんは、全くの悪戯心だな。

 

 ニヤニヤしているし……

 

「では次は……イルマさん」

 

「私の番?緊張するわね」

 

 彼女は、落ち着いた感じの知的美人だ。服装はゆったりとした上着にロングスカート。露出は少ない。

 んーどうするかな?やはり知的美人と言えばメガネだ!

 そして胸元の開いたシャツにタイトスカート。

 

 それにマントを羽織らせる……ポーズは脚を組んで椅子に座らせてみた。脚の組み方を幾つか変えて錬金する。

 

 妄想開始!

 

 キタキタキター!女教師キター!ヘルミーネさんと同様に錬金が完了。

 イルマさんは、出来上がったミニゴーレムをマジマジと見詰めて

 

「ツアイツ君、エッチね。私こんな体の線を露出する衣装もポーズもしないわよ」

 

 頬を染めて言われてしまいました。

 

「イルマさんの知的さを全面に押し出すにはこれが良いかと。

この衣装は東方での女性教師や第一線で知的労働を行う女性の服装らしいです。イルマさんにピッタリですよ!」

 

「ツアイツ君……何の臆面も無く女性を誉めては、誤解されますよ。私も誤解しようかしら?」

 

 イルマさんは……にこやかで表情がよめないな。この笑顔、カトレア様に似ている感じだ……

 

 ヤバい、ヤンデレか?

 

「ハハハハハ。ソレは勘違いですカラ……」

 

「ツアイツ君、何か言葉使いがヘンよ?」

 

「兎に角、彩色してから又見せますので。次は……」

 

 ツェルプストー一族の女性は、皆さん一筋縄ではいかないですね。

 

 

 

 その頃のアンリエッタ姫!

 

 トリステイン王立劇場。歴史有る荘厳な建築物で有り、専属の劇団を抱える。

 支配人はアンリエッタ姫直々の訪問を最初こそ歓迎したが、今は何て厄介なんだと感じていた。

 

 

「……ですから、この脚本で秋に公演をしたいのです。これには、アルビオンのウェールズ皇太子もお呼びしますわ。先の園遊会にで、お話しましたの」

 

 にこやかに話すアンリエッタ姫に、殺意に近い感情を覚えた。他国の王族を呼ぶ演劇を1から初めて、僅か60日にも満たない期間で完成させろ……と。

 しかも、この脚本はゲルマニアで流行っている魔法を演出に使う、我々には未知のものだ。

 

 今から間に合う訳が無い。

 

「ウェールズ様とツアイツ様と貴賓室にて3人で観れるなんて、今から楽しみですわ!

支配人、これはトリステイン王立劇場の後世に残る名演劇にして下さい。では、失礼しますわ」

 

 言いたい事だけ言って、帰って行ったアンリエッタ姫を呆然と見送る……扉を出る時に、お付きの銃士隊の女隊長が申し訳無さそうに頭を下げてくれた。

 しかし、悪いと思うならアンリエッタ姫を止めてくれ!途方に暮れたが、王族の命令に逆らえる訳が無い。

 

 スタッフ全員に召集をかける。

 

 プライドが邪魔をするのだが、最悪の場合は脚本を書いたゲルマニアの貴族に助力を頼むしかないかもしれない。

 ソイツが、脚本をアンリエッタ姫に贈るから大変なんだ!脚本の表紙に書いてある名前を読む。

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ……

 

 ん?確か、アンリエッタ姫がウェールズ様とツアイツ様と3人で……と、言っていた。どういう事なんだ?

 

 

 

第109話

 

 

 レコンキスタ本部

 

「圧倒的ではないか!我が神の軍団は……」

 

 オリヴァー・クロムウェルは悦に浸りながらワインを飲む。初戦は完勝だ!

 ダータルネスの制圧は完了し繋留中の軍船も幾つか拿捕出来た。此処を拠点とし、次はロサイスを目指す。

 しかし敵も軍港としての機能の有るロサイスに軍を展開し始めている。

 

 なんと、ジェームズ一世が直接の指揮を執りに出張っている。

 息子は、ロマリアに私の処遇について言質を取りにいったのだろう。しかし、甘いな。

 取り込みは何もアルビオン貴族だけではないのだよ。ロマリア本国の反教皇派の何人かにも取り入っているのだ。

 

 しかも聖地奪還を唱えている殉教者なのだ!

 

 簡単にはいかないぞ!

 

 ロサイスを落とせば、サウスゴーダを経てロンディニウムまで一直線だ。果たして間に合うのかな?

 

「アーッハッハー!ブリミルの司教たる私を簡単に害せる訳がないだろう。ブリミル様々、万歳だ」

 

 初戦はレコンキスタの完勝であり、アルビオン王党派は苦戦を強いられていた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 僕は今、苦境に立たされている……

 

 ツェルプストー三人娘のうち、ヘルミーネとイルマさんのフィギュアの原型は出来た。

 

 しかし……この天然娘リーケ嬢に苦戦している。

 

「何故、リーケさんはそのホワイトセーラー服を着ているのですか?」

 

 そう!彼女は、男の浪漫本シリーズのフィギュア。

 

 ソフィアの着せ替え用のホワイトセーラー服と全く同じものを着ている。

 しかも手には、ネコミミと尻尾のオプションを持ってますけど?

 

「前に貴方に会った時に興味を覚えた。

色々調べたら、男の浪漫本ファンクラブまで辿り着いたので入会した。まだ初級会員だけど……この服は自作よ」

 

 なんと!女性の入会を禁止する事はしてないと言うか……もとより想定外だった!だって、エロい大きなお友達の集いだから……

 

「そっそうですか……」

 

「色々勉強した。この装備の時の仕草や言葉使いとか……クスクス、実践する?」

 

 2人の会話に付いていけるのは、ツェルプストー辺境伯のみ。しかし彼もニヤニヤだ!

 

「ほう?義息子よ……何故、義理の父たる私にはその会員になれるのだろうね?」

 

 ツェルプストー辺境伯のニヤニヤが止まらない。しかも、トンでもない事を言い出した。貴方も既に中級会員ですよね?

 

「すみませんが……確か、紅い髪のパパさん……でしたよね?一族幽閉のエーさんと張り合っていた?」

 

 女性陣は、不信な顔だ。見た目、可愛い服なのに何をコソコソ言い合っているのか?

 

「なっ?知らんぞ、私は無関係だ」

 

「お父様……そのエーさんとは閣下ですか?」

 

 リーケさんが呆れた顔で見ている。でもそれは、一寸周りに知られてはいけない情報ですよね。

 

「リーケさん……そのオプションを着けて台詞とポーズをお願いします」

 

「そっそうだな。今はフィギュア作成が大切なのだよ」

 

 2人して話題を変えようと必死になる……

 

「お父様とツアイツ君のエッチ」

 

 彼女は、ハニカミながら爆弾投下!この後、ツェルプストー女性陣に囲まれて尋問を受ける羽目になった……

 そしてリーケさんは、コスプレ不思議ちゃんで売り出す事にする。

 このツェルプストー三人娘シリーズは結構な人気が出て、彼女等に求婚する若手貴族が増えたそうだ。

 国外の貴族も居たが全て玉砕しているらしいが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロマリア連合皇国、宗教庁にて……

 

 教皇に謁見を申し出て、既に2日が経っている。しかし、宗教庁の豪華な一室に軟禁状態だ。

 

 待遇は良い。

 

 これでも一国の皇太子だから当たり前だ。対応する神官達の慇懃無礼な態度と待遇も我慢出来た。

 しかし中々に教皇との取り次ぎの許可が下りない。

 これでは、アルビオン王党派は、レコンキスタに積極的に攻められない。

 守勢に回らずにはいられないし、敬虔な信者は反乱軍に志願してしまうかもしれない。

 

 焦りだけが増えていく……

 

 このままでは駄目だ。ツアイツ殿の話の様に大切な者を守る為には手段を選んでは駄目だ!

 しかし私に何が、アルビオンの皇太子として何が出来るのか?今こそ、私の漢度が問われる時だ!

 ツアイツ殿の言われた通り大切な者を守る為に手段は選ばんぞ!

 

 軟禁された応接室の扉を開けて、大声をあげながら進んで行く。

 

 扉の外で待機していた神官達が慌てて進行を止めようとするが構わない。

 

「私は、アルビオン王国の皇太子、ウェールズ・デューダー。何時まで私を待たせば気が済むのだ!

今は我が国が、ブリミル教司教を名乗る男に侵略されている。なのに足止めをするならば、奴の武装蜂起はロマリア公認と認めるが構わないのだな?」

 

 抑えようとしている神官達に告げる。彼らも責任を取れるのか?と言われれば、上に確認するしか無く道を空けた!

 

「これはこれはウェールズ皇太子。ブリミル様の神殿でご無体な事は関心できませんな」妙に金ピカな枢機卿が出てきた。

 

 実は彼はレコンキスタに買収されていた。なるべく教皇との謁見を延ばす様にと……

 

「貴方は一番最初に対応した枢機卿ですね?王族たる私が、アルビオンの危機を訴えても尚、足止めをすると考えて良いのですな?」

 

 覚悟……国を護る為に、立ち止まる訳にはいかない。例えそれが、強迫と思われても……

 

「そっそれは……教皇も多忙を極めているので、中々調整がつかないのです。ですから……」

 

「時間は取らせない。質問にイエスかノーで答えてくれれば良い。返答次第では、我が国と敵対する事になるが、な。

さぁ教皇の所まで案内をしてもらおう。まさか、貴殿まで多忙だから無理とは言わないですよね?」

 

 覚悟を決めたウェールズは、最早ブリミル教とて遠慮する気は無くなった。

 ノーならば、レコンキスタを倒した後にロマリアにも責任を取らせるだけ。

 イエスでも、あの様な凶人を育てたロマリアに抗議する。

 

 ああ……なる程、覚悟が決まれば道は幾らでも開けるのか。

 

 これが、父上が仰ったツアイツ殿の本質を見極めろ!と、言う事か……

 

 この先を歩くギラギラと着飾り太っている枢機卿を見て考える。父上、待っていて下さい。

 ツアイツ殿から学んだ覚悟を持って教皇と謁見してまいりますから!

 

 

 

第110話

 

 男、ウェールズ頑張る!

 

 宗教庁の廊下を神官をかき分けて進んで行く。何度か教皇には会っているので、大体の居場所は分かる……

 

「お待ち下さい。ウェールズ皇太子!教皇はお忙しいので……」

 

 名の知らぬ枢機卿が制止するが、もう遠慮はしない。

 

「貴殿は、我がアルビオンにて武装蜂起したオリヴァー・クロムウェルの仲間と思って良いのだな!私を止めるとは、そう理解するが宜しいか?」

 

 この手の輩は責任を追求すると怯む筈だ!

 

「いえ、私は……その様な考えは有りませんので……」

 

 実際この枢機卿はワイロを貰っているからドキリとする。しかし2日は足止めしたから、義理は果たしたと思う事にした。

 

「ならサッサと教皇に取り次いで頂こう!一刻を争うのだよ」

 

「分かりました……此方へ」

 

 仕方無く、頭を下げて教皇の間に向かう……

 昔は、ブリミル教の枢機卿ともなれば、それなりに気を使われた物だが今回は強行された!

 まぁ国が滅ぶかの瀬戸際だし、呑気に構えてはいられないのだろう……

 

 

 

 教皇政務室にて

 

 

 

「ジュリオ、何やら廊下が騒がしいですね?」

 

 無駄に豪華な部屋で無駄にデカい机に座り、何やら書類を読んでいたヴィットーリオが側近で有り自身の使い魔でも有る少女?に問い掛ける。

 

「ヴィットーリオさま。様子を見て参ります!」

 

 ちょこんと頭を下げて出て行く少女?の尻の辺りを凝視する。やはり「男の娘」は良いなぁ……今夜も張り切るか!

 それに新しい聖歌隊のメンバーも交えて……

 

「ふっふっふ。夕食は何か精の付く物を頼もうかな」

 

 邪なオーラを発する聖職者のトップ。この世界の教皇ヴィットーリオは、「男の娘」が大好きだった。

 あれは女性?穢らわしい!何を言うのか……僕の使い魔がこんなに可愛い訳が無い!

 

 あの笑顔の可愛いジュリオが女の子の訳が無いじゃないか!

 我がロマリアは、ハルケギニアで先立って「男の娘」文化を広めるのだ!始祖ブリミルもきっとそうだった筈だ。

 

 私は神の代弁者たる神官のトップ!

 

 私の性癖が、世界スタンダードな電波をビビッと感じたのだ!

 女性など、我が国の秘宝を奪い新教徒になったヴィットーリアと同じ異教徒!「男の娘」を産む為に存在を許している奴らよ。

 

 「ロマリアは男の娘文化発祥の地として、私と共に栄えるのだ!」

 

 ヴィットーリオの魂の叫びが室内にこだまする……

 

 

 

 ジュリオは騒がしい方向へ歩いて行くと、神官と揉めているウェールズ皇太子を発見した!

 

「ここは、教皇ヴィットーリオ様の居られる宗教庁ですよ。何を騒いでいるのですか?」

 

「男の娘」姿のジュリオを見てウェールズが顔をしかめる。

 

「ジュリオ殿か……久し振りですね。相変わらず……その、ヴィットーリオ殿の趣味は……アレですね」

 

 真っ赤になり騒ぐジュリオ!

 

「五月蝿い!仕方無いじゃないですか」

 

「それで、もう謁見を求めて2日も待たされているのだが……ヴィットーリオ殿はいらっしゃらないのか?」

 

「えっ?その様な報告は受けていませんが」

 

 その時、例の枢機卿がそっと離れようとするが……

 

「彼が、教皇は忙しいので取り次ぎに時間が掛かると言いましてね。

我が国でブリミル教の司教が武装蜂起をしました。ロマリアが裏で手を引いているのか確認したいのですが!」

 

「ちっ一寸お待ちを!其処の貴方も一緒に来て貰いますよ」

 

 逃げ出しそうな枢機卿の首を掴みズルズルと引っ張って行く……ちっ!やはり妨害か……現教皇は美少年を女装させて侍らす変態だからな。

 反教皇派が絡んでるとなると、一筋縄ではいかないか……ウェールズは、この交渉が難航すると思い溜め息をついた。

 

「ウェールズ皇太子!教皇様の下へ行きましょう!」

 

 大の大人を引き摺るジュリオを見て、見た目は美少女でも男は男か……と、思いながらついて行く。

 

 確か「男の娘」と呼ぶのだろうか……

 

 聖歌隊も全て幼い美少年を集めて女装させているヴィットーリオとは、絶対意気投合はしないな!

 巨乳派だったが、最近ツアイツの影響で視野の広がったウェールズでも、無理な物は無理だった。

 歴代の女好きな教皇とその神官達の中で、突然生まれた「男の娘」好きな教皇ヴィットーリオ!

 彼と他の神官達との溝は広がる一方で埋まることは無いだろう。この教皇の代で、ロマリアはどうなってしまうのか?

 既にブリミル教に思い入れが少ないウェールズは早く話をまとめて、この神殿から出たいと思っていた。

 

 

 

 教皇の間にて!

 

 

 

「ヴィットーリオ様!アルビオンのウェールズ皇太子が謁見を求めてます。宜しいでしょうか?」

 

 いきなり扉を開けながら、1人の反教皇派の枢機卿を引き摺りながら、ジュリオが入ってくる。その後ろから、ウェールズ皇太子も顔を覗かせる。

 

「ヴィットーリオ殿!久し振りです」

 

「これは、どんな騒ぎなのでしょうか?」

 

 流石に冷静沈着な謀略教皇でも、いきなりウェールズ皇太子が現れては驚きを隠せない!

 

「急ぎますので、単刀直入に聞きます。オリヴァー・クロムウェル司教がアルビオンにて、武装蜂起しました。

既に国土の一部を制圧され現在も侵攻中です。これは、ロマリアの差し金と思って宜しいか?

実際、貴方に会うのにも2日も足止めされてますから……」

 

 密偵団より報告は受けている。美乳派なる教義を広め、聖地奪還を目指す司教が居ると……

 しかし、バックに協力者が居て資金援助をしている事も分かっているのだが。

 トリステインには、そんな余裕は無い。ガリアかゲルマニアか?

 

 しかし、ゲルマニアなら攻略はトリステインが先だろう。アルビオンはその後だ……本当に侵略を考えているならばだが。

 しかし、国内の安定を進めるかの国にも余裕は無い。なれば、黒幕はガリアのジョゼフ王だ!

 

 そこまでは、読めているのだが……

 

 まさか、あの優等生的なウェールズ皇太子が此処まで強行するとは思わなかった。

 何か心情の変化が有ったのか?詳しい話を聞こう。

 

「まぁ落ち着いて、お座りになって下さい。詳しい話をお聞きしますから……」

 

 巨乳大好きウェールズ皇太子と男の娘大好きのヴィットーリオの会談が始まった!

 



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第111話から第113話

第111話

 

 無駄に豪華で金ピカな部屋……

 

 歴代の教皇の権威の象徴のつもりか、何度来ても呆れる成金趣味丸出しだ!

 本人は質素と言うか、「男の娘」関係以外は無駄を省く性格なのに……

 

 いや、「男の娘」に全てをかけるから他には予算を回せないのか?

 

 確かロマリアの聖歌隊って200人から居るぞ。ハーレム200人なら費用は莫大だよな……

 

 どんだけ、エロに金使ってんだ!

 

 私だって男の浪漫本購入の予算捻出には苦労しているんだが、これだから生臭さ坊主は嫌なんだよ!

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なんだ?その批判的な眼差しは……貴様も巨乳とかほざいてるから国が割れるんだぞ!

 

 貴様に「男の娘」の良さを叩き込んでやろうか?

 

「それで、ウェールズ皇太子のご用件を伺いましょう」

 

 不穏な空気が漂う室内で感情の籠もらない声で訊ねる……

 

「ブリミル教の司教……オリヴァー・クロムウェルをご存知ですか?」

 

 ジュリオに拘束された枢機卿を見て答える。

 

「そこの枢機卿の派閥の一員ですね。一応、知っていますよ」

 

「そうですか……その男が、美乳派なる教祖となりアルビオンにて武装蜂起。ダータルネスを占領しロンディニウムに侵攻しています。

これはロマリアがアルビオンに対して宣戦布告した!と、理解して宜しいか?」

 

「なっ……口が過ぎますよ、ウェールズ殿!教皇に対してなんと不敬な」

 

 嗚呼……ジュリオ!真っ赤になって私の為に怒ってくれるんだね!今夜の相手は君だけだ。

 聖歌隊のメンバーは呼ばないし今夜も君を寝かさないよ。ハァハァ……たまらんなぁ!

 

「ジュリオ、良いのだ。ウェールズ殿、何故オリヴァー・クロムウェル司教がロマリアの尖兵と思われるのか?」

 

「聖地奪還……そう唱えてアルビオン国内から有志を募っています。殆どは傭兵とアルビオン王家に隔意有る一部の貴族ですが……」

 

 なる程、殉教者として認められては困る訳だな。

 

「聖地奪還……か。殉教者では無いのですか?」

 

「何ですと!」

 

 さて、殉教者で無いと認めてあげるのに、どれだけの譲歩を引き出しますかね?寄付を募るか、アルビオン国内にブリミル教会を新築させるか……

 

「つまり……教皇は、美乳派がブリミル教の教えと公式に認められるのですな」

 

「なっ何故そうなるのですか?」

 

「男の娘……でしたか?教皇のお気に入りの聖歌隊やジュリオ助祭枢機卿も、偽りの寵愛ですか?

美乳派か……所詮は教皇も女性のオッパイ好きなのですね」

 

 なっななな、何を言い出すんだ!私が、私の「男の娘」への気持ちが偽りだと!

 

「いえ、公式にアルビオンで美乳派を押し進めるなら、オッパイ好きな教皇として国内外に伝える迄です。

我らアルビオンは巨乳派で有り、ゲルマニアは貧乳と巨乳の住み分けの地。トリステインは貧乳派が台頭しています。

ガリアは……聞けばジョゼフ王は巨乳派だそうです。

我ら始祖の子らに、始祖の弟子たる貴方達が美乳派を力ずくで押し付けるのですから……」

 

 何を言い出すのだ?ロマリアが、ロマリア全土が美乳派だと……フザケルナ!

 

「もうお話する事はないでしょう。美乳派の頭領ヴィットーリオ殿……」

 

「お待ちなさい。それは間違った認識ですよ!私は美乳派など認めてません」

 

「では、アルビオンに滞在する連中は、オリヴァー・クロムウェルは、ロマリアのヴィットーリオ殿とは趣味が異なりブリミル教とも無関係の連中として扱って良いのですね?」

 

 くっ……私の大切な「男の娘」をタテに取られては何も言えないではないか。

 

「そうです。そして美乳派なる悪の集いは、そこの彼の派閥の独断で有り処罰もこちらで行います」

 

「なっ……何故だ!私は無関係だぞ」

 

話の流れに乗れずボーっと聞いていた枢機卿は、いきなり処罰されると言われ混乱した!

 

「黙りなさい!

貴方のお陰で、アルビオンとロマリアが開戦の危機だったのです。当たり前でしょう。

しかも、アルビオンの皇太子に対して引き留め工作までしている。もはや言い逃れはできませんよ……

ジュリオ、彼を異端として拘束し彼の派閥全員を捕らえなさい」

 

「はっ!こちらに来るのだ、異端者め」

 

 小柄な体格で、小太りの枢機卿を引き摺って行くジュリオ……アルビオンから毟り取れない分は、反教皇派の貴方達から貰いますよ。

 私は無駄と損は嫌いなのです。

 

「見事な対処ですね。無意味に足止めされた件は、無かった事にします。

では、オリヴァー・クロムウェルは、ブリミル教と無関係の異端者として扱いますが宜しいですね」

 

「良いでしょう。正式に書類にして渡します」

 

 全く、今までのウェールズ皇太子ならプライドや建て前論しか言えず、ブリミル教に対しても遠慮が有った筈だ。

 

 今回は何だ?王族が言い掛かりか恐喝紛いの方法で、良いように話を進めてきた。

 

 しかも私の性癖をタテに取り、周りの国々と連携して噂を広めるだと……このボンボン皇太子を変えた要因はなんだ?

 一礼し出て行くウェールズ皇太子を見ながら考える……これは、レコンキスタも長くはないですね。

 つまりブリミル教の元司教の反乱軍は負けると言う事です。

 

 疲弊したアルビオンでのブリミル教の威信は地に落ちるか……全く問題ばかり起こしてからに。

 

 トリステインの園遊会に出たバリベリニ助祭枢機卿からも、気になる報告が有りましたし……

 私の「トリステイン全土「男の娘」普及計画」の障害となるか?

 

 巨乳教祖ツアイツ・フォン・ハーナウよ!我が道を阻むなら、貴様は敵だぞ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 思わず、怖気が走り身震いする……

 

 折角、ツェルプストー3人娘フィギュアの色付をしていたのに失敗してしまった……しかし、さっきの怖気は何だろうか?凄く嫌な気分だ。

 

 考え込んでいると、ドアをコンコンと叩く音が聞こえた。

 

「ツアイツ、お茶にしない?」

 

 もう3時か……キュルケがお茶に誘ってくれた。

 

「ああ……有難う、今行くよ」

 

 気のせいと思い、気晴らしにお茶でも飲もう。そろそろシェフィールドさんとも合流出来るし、此処はツェルプストー辺境伯領だ。

 そうそう危険は無いだろう。ヴィットーリオに目を付けられたが、流石にそれは分からなかった……

 

 

 

第112話

 

 世界はエロに優しくないのか……

 

こんにちは!ツアイツです。

 

 2日ほど掛けてツェルプストー3人娘フィギュアの彩色が終わり御披露目をしています。

 今回の紅い髪の乙女シリーズは次回の会報及びカタログにて発表する予定ですが……

 

「ツアイツ君、私はもっと胸が大きいと思うの?」

 

「私のは、少し足が太くないか?」

 

「……お腹引っ込めて」

 

 やはり自分がモデルとなると、客観的に物事を判断出来ないのかな?しかし、反論は許されない雰囲気だ!

 

 粛々と修正をさせて頂きます。

 

 

 

 午後からずっとフィギュアの手直しをしていたから、体が固くなってる……コキコキと肩を鳴らしながら凝りを解していく。

 

 ん〜気晴らしに外気に当たろうかな?

 

 部屋を出て夜の屋敷内を適当にうろつく。

 二階の廊下を歩いていると雲が晴れたのか、月光が廊下を差し込み2つの色で僕の視界を照らす……独り静かに月光を浴びながら歩いていく。

 ふと、ベランダに出るドアを見付けた。見れば4メートル四方の小さなベランダだ。

 

 外に出て軽く柔軟体操をする。

 

 ん〜体がバキバキと鳴るなー!ラジオ体操第一を終えて手摺にもたれ掛かる。

 最近、すっかり夜のベランダで考え込むのが多くなったよな……てか、夜更かしばかりしてないかな?

 

 

 思考をこれからの事に戻す……

 

 

 男の浪漫フィギュアは順調だ。しかし、これからの普及には女性のファンを獲得するべきか?

 

「女性の夢フィギュア」とか言ってイケメンフィギュアも作ってみようか……執事とか騎士とか、人気でないかな?

 購買層が有閑マダムだと、ちょい露出とか……駄目だな。

 

 どのみち雛型は僕が作らなければならないのに、半裸の男など妄想爆発で作れる訳が無い!

 

 しかし……諜報が探ってきた教皇ヴィットーリオ。

 

 何とこの世界の教皇は、美少年好きな上に彼らに女装をさせて聖歌隊を作り上げたとか……総勢200人の男の娘のハーレムか。溜め息が出る規模だな。

 

 流石はロマリア!

 

 自身の欲望にまっしぐらかよ……これは、僕とは敵対したと同義だ!

 我らオッパイ大好きな変態連中が、美少年と仲良くなれだと。

 

 無理な物は無理だ……そして無理だ!どう考えても無理だよ。大切だから複数回言いました。

 

 しかし……先に謀略を仕掛けられる前に何か手を打つ必要が有るかな。

 

「ツアイツ殿、不思議な体操でしたね……でも端から見ても合理的に感じましたよ」

 

 振り向くと、ツェルプストー夫人がにこやかに立っていた。何故だか、夜のベランダは原作キャラとのお話の場所なのか?

 

「義母上、お腹の子供に障りますから……夜風に当たらぬ様に中へ」

 

「大丈夫よ。もう夏なんですもの……少しは夜風に当たっても。貴方も心配性ね。主人と同じ位に」

 

 やんわりと室内に入るのを断られた。仕方無く錬金で椅子を用意する。

 

「せめて座って下さい。それで、何かお話が有るのですか?」

 

「ふふふっ貴方は何時も冷静ね。初めてキュルケの遊び相手として招いた時も、幼子なのに大人と話していると錯覚する位に……」

 

 自分は手摺にもたれ掛かりながら話をする。

 

「自分でも早熟だと思います。周りに比較対象も居なかったのも有るのですが……少々異常でしたね」

 

 自虐的に笑ってみせる。

 

「稀に生まれる時代を動かす英雄とは、そういう者だそうです。主人も内緒にしてるつもりでもね……女には女のネットワークが有るのよ」

 

 あーバレてるのか……

 

「身重の女性に話す内容では無いですから。それに既に手は打ちました」

 

「それよ!普通はね、そんな大問題をおいそれと対処出来ないわ……本当に不思議な子ね。

あの主人が、息子程の貴方に頼り切りなのも分かるわ。

でも、本当に義息子になるのよね。主人の喜びようは凄かったわよ。この子も貴方の様に育てるんだって」

 

 お腹をさすりながら、愛おしそうに生まれて来るだろう我が子に話し掛けている。

 いや、僕は特殊な変態だから真似しちゃ駄目だと思うのだが……でも、本当に義理の息子になるんだなぁ。

 

「ええ……明日、キュルケにプロポーズする予定です」

 

 夫人はヨッコラショと立ち上がると近付いて来た。

 

「キュルケを宜しくね。あの子は貴方しか見ていないの……言い寄る他の殿方など、鼻で笑う位に」

 

 そう言って軽く抱き締めてくれた。

 

「必ず幸せにしてみせます!」

 

 それしか言えなかったのだが……

 

「それと……女性関係は、もう少し抑えて下さいね」

 

 そう釘を刺して行かれました。いや、確かに女性関係は自重してないけどさ。貴女の旦那さんも30人位居ますよね?

 

 僕は……

 

 ナディーネ・エーファ・ルーツィア・シエスタ・ソフィアのメイド5人。テファ・ルイズ・モンモランシーそしてキュルケで9人か……

 まだ15歳の小僧が9人も囲うなら釘も刺すか。

 

 暫くは自重しよう!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ジェームズ陛下、防衛拠点の構築が粗方完了しました。多数の偵察隊を送ったので状況確認も順次可能です」

 

 急拵えだが、中々に豪華な作戦本部でジェームズ一世は配下からの報告を聞いている。

 

「うむ。ご苦労様だった。それと増援の方はどうだ?」

 

「多数の兵を動かす故、まだ暫くは時間が掛かるかと……先発で少数を率いて参戦しているのが殆どです」

 

「そうか……彼らの忠誠心には応えねばならぬな」

 

「陛下……言い難いのですが……」

 

 伝令が言い辛そうにしている。

 

「何だ?言う事があるなら構わぬぞ」

 

「参戦した貴族からチラホラ話が出ていますが……此度の戦、乳を用いての反乱では有りませんか?例の男の浪漫本思考が、蔓延しています」

 

 思わず溜息がでる。

 

「大いなる乳の下へ集え……確かにその考えに反する行為だな」

 

 まさか敵対はしないが、協力が消極的になろうとは。

 

「一度、皆に話された方が宜しいかと……表立って騒いではいませんが、何れ士気に関わるかと具申します」

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ殿か。

 

 彼の理想は共感するし、奴らの勢力も大きく削いでくれた事には感謝している。

 あとは、我ら王党派がしっかりすれば問題は無いのだろうが、最悪の事も考えねばなるまい。

 

「誰か、ゲルマニアに使者を送るぞ。親書を書くので準備してくれ」

 

 

 

 ジェームズ一世は正式にゲルマニアに国交と、ツアイツとの面会を希望する。

 彼の頭の中には、男の浪漫本思想がこの戦の鍵を握ると思えてならなかった……

 

 

 

第113話

 

 

 トリスティン王立劇場

 

 無駄に豪華で格式有るこの劇場は既に戦争の様な状態だ……

 

「だから、無理でもやるんだ!アンリエッタ姫が、アルビオンのウェールズ皇太子を正式に招待したんだ!

もう変更は効かないし、駄目なら皆打ち首だ……」

 

 舞台セットや設備の担当者が口々に騒ぐ!

 

「無茶苦茶だ!この脚本の舞台効果は、魔法で行うと有るが……詳細が不明だし、ノウハウも無いんだぞ」

 

「こんな精密な挿し絵で舞台効果を書かれたら、観客はお粗末な物では納得しないぞ!この本は既に売れ捲ってるんだろ」

 

「これは劇場内では無理なんじゃないか?野外で自然の池や森を利用しないと……」

 

 役者陣も黙っていない!

 

「こんな奔放な役作りは、今までの伝統や格式を重んじた演技では……それに台詞回しも従来と違う。

書き直しは出来ないのか?せめて著者にも演出家として協力して貰わないと……」

 

 大勢の関係者に詰め寄られる支配人。

 

「それは無理だ……その著者のツアイツ・フォン・ハーナウ殿はゲルマニア貴族であり、まだ学生だ。

トリスティン魔法学院に留学中だが、今は夏期休暇で自国に帰省中だ」

 

 皆の間から溜め息が漏れる……

 

「何とかならないのか?彼は数々の演劇の脚本を書き、自らも役者として主演男優を演じたんだろ」

 

「そうだ!無責任だろう。脚本だけ寄越して知らんぷりは……」

 

「そうだ!呼び出そう、でなければ終わらないぞ」

 

 口々に支配人に詰め寄る劇団員達。しかし、支配人からの言葉で絶望に突き落とされる事になる……

 

「私も最初はそう思ったよ……でも、脚本を貰った時に技術指導や共演等の話も有ったのだ。利権に絡むし、此方のプライドも有った。

ゲルマニアの貴族の書いた演劇など、教わらなくても出来る!そう断ったのだ。

しかも王宮貴族達は、脚本自体も無償でアンリエッタ姫に献上した物として扱った……今更、頭を下げてお願いに行っても無理だろうな」

 

「そんな……なんで、そんな扱いをしたんだよ!

彼の素性を聞いて学生とは驚いたが、脚本は素晴らしいし、ゲルマニアの劇場で公演しているのも参考の為に皆で見に行っただろう」

 

「確かに新し過ぎるとは思ったが、面白かった」

 

「そうだな、参考になった。学ぶ物も多かったのに……」

 

「全ては旧体制然としている我らのせいか……」

 

「しかし、せめて打診だけはしてみては?背に腹は代えられないぞ」

 

 一縷の望みに賭けるか?

 

「じゃあ誰が頭を下げに行くんだよ……」

 

 歴史有る故にプライドが邪魔をしてしまった。しかし、頼まれてもイエスとは言わないツアイツだと思う。

 アンリエッタ姫フラグは、立てちゃ駄目だから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 教皇ヴィットーリオとの会談で、何とか理想の結果を勝ち取れた!

 

 これで、レコンキスタは犯罪者の集まりだ。大義名分を失った軍事クーデターなど成功するものか!意気揚々とアルビオン行きの空中船に乗っていた。

 

「ウェールズ様、ジェームズ陛下より緊急の手紙が鷹便で来ました」

 

 配下から手紙を受け取る。何だろう。

 

 いくら何でも私の抜けた一週間やそこらで、危機的状況に陥る事は無いだろう。

 まさか、既にレコンキスタを殲滅したのか?などと考えながら、手紙を読み進める。

 

「なっ何だと!船長、急いでゲルマニアのハーナウ領に向かってくれ。出力最大、風石の消耗など気にするな」

 

 大声で指示を出すウェールズに周りの者達が慌ただしく動き出す。

 

「どうなされました?ロマリアとの交渉は望みうる最高の物でしたのに」

 

 船長と側近が集まり、訳を聞く。

 

「ツアイツ殿に影響されて、レコンキスタに組する貴族は少なかった。しかし、武装蜂起した彼らも未だに美乳派等とほざいているのだ……」

 

「はぁ……既に欠片も有りませんな。美乳派なんて意義は」

 

 彼も男の浪漫本愛好者で有り、巨乳派だ!

 

「そうだ!誰も美乳派など気にもしていないだろう。しかし、敵は既に有りもしない美乳派だが……乳を戦乱の道具としていると思う奴も居るんだ」

 

 周りは急に大人しくなった。レコンキスタは、美乳派。

 なら、これを討伐するのは、ツアイツ殿の唱える教義に反するのでは?上級会員になれない?

 

「ウェールズ様、一大事ですよ!それはお断りだ」

 

「私だってそうだ!永遠の中級では、テファたんのお着替え下着が買えないんだよ」

 

「…………ウェールズ様もテファたんがお気に入りなんですね。私もです……これはマズい状況ですね」

 

「幸い父上が、ゲルマニア皇帝に親書を送っている最中だそうだ。

領内侵入の許可が下り次第、連絡が有るから直ぐに先方に向かえるように近くで待機だ。後はツアイツ殿と交渉なのだが……」

 

 側近達が期待に満ちた目をウェールズ1人に向ける……もしかしたら、巨乳派教祖に直接会えるかもしれない。

 彼の婚約者たるテファたんも、この目で見ることが出来るかもしれないと。

 

 他国の貴族を戦争中の自国に招く事は難しい。

 

 しかも彼はまだ学生。でも、巨乳派教祖の彼が、この戦争は乳を巻き込んでないと唱えねば、士気に関わる問題だ。

 せめて、書状か会報でコメントを頂かないと皆は納得しないだろう……

 

「難問だよ、これは……私達は教祖をオッパイ戦争へ関われと言うのだ!他の会員達が黙ってはいないだろう」

 

 変態教皇の会談などより、よっぽど気の重いウェールズだった……最悪、私が土下座をしてでも頼み込むしかない!

 船は晴天の大空をみるみるハーナウ領に向かっているが、ウェールズの気持ちは晴れなかった。

 

 

 

 少し前のヴィットーリオさん!

 

 

 

 ウェールズ皇太子には良い様にやられてしまったが、反教皇派閥の一つを潰せただけでも良しとするか。これから、ジュリオとムハムハタイムなのだ!

 

「ヴィットーリオ様、これは何の服なのでしょうか?サイズが合わずキツいのですが……」

 

 ヴィットーリオの寝室に現れたジュリオは、ハーナウ領から密輸した

 

「男の浪漫本原寸衣装シリーズ・体操服ブルマ仕様」を着ていたが、丈と腰周りが短くイマイチ似合っていない。

 

「ふむ……男の娘のジュリオでも小さいか?仕方ない。破らない様に丁寧に脱いでこちらを着てごらん?」

 

 ヴィットーリオが差し出した服は、ブレザーだ!

 

「これは、学生の制服でしょうか?結構可愛いですね」

 

 「男の娘」のジュリオに高○生の制服……ヴィットーリオの興奮は最高潮だ!

 

「じゅじゅじゅジュリオー、好きだー!」

 

「あん!教皇様落ち着いて……」

 

 折角着せたブレザーを脱がしつつ、ヴィットーリオは考えていた。

 この「男の娘」に似合う衣装を201セット、ハーナウ家に発注しよう。金を払う気は無い事をちらつかせて……

 

 この要求の対応によって、彼がブリミル教をどう思っているのかが、分かるだろう。

 思考は腹黒い事を考えていたが、手はジュリオを悪戯する事に余念がない。

 

「ヴィットーリオさま……だめぇ、だめです」

 

 桃色空間?お盛んなヴィットーリオだった……

 

 ツアイツは、ウェールズとヴィットーリオから難題を押し付けられようとしていた!

 

 



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第114話から第116話

第114話

 

 ツェルプストー辺境伯領に滞在し3日目になりました。

 

 おはようございます。ツアイツです!

 

 今朝はキュルケと2人、ツェルプストー辺境伯の屋敷を散策しています。無駄にデカい!

 久し振りに、キュルケとのんびりと歩きながら出会った頃の事を話し合っています。

 まだ幼女だったキュルケと初めて会った時も、こうして屋敷を案内して貰ったなぁ……

 

「ツアイツ、覚えている?この池の辺(ほとり)を……」

 

 懐かしいな。初めて魔法を使った演劇を披露した場所だ。でも、少し変わってしまったかな……

 

「初めて君と出会った時に2人で演劇を披露した場所だね。でも、少し変わってしまったかな?」

 

「そうね……この薔薇なんて、当時は苗木だったのに今では立派な枝振りだわ」

 

 ちょうど、キュルケの腰位まで成長した薔薇の木に真っ赤な花が咲いている。薔薇って今が時期だったっけ?

 

「あの頃より君は変わってしまったね……まだ蕾だったのに、艶やかな大輪の花になるとは」

 

 キュルケは、花に例えれば薔薇だろう。艶やかに存在感を主張する大輪の花……僕の知りうる女性の中で、最大の豪華な花だ!

 

「くすくすくす……珍しいわね。ツアイツが、そんなにストレートな褒め言葉を言うなんて」

 

 自分の家なのに、シンプルだけど体の線を強調するタイトなドレスを着込み、髪をアップさせているキュルケはゴージャス美人だ!

 彼女にプロポーズをするのが、本日最大のイベントなのだ!

 

柄にも無く緊張する。

 

「キュルケ……聞いて欲しい」

 

 彼女と並んで歩いていたが立ち止まって話し掛ける。キュルケは三歩先に進んでいたが、振り返る……

 

「僕はこれから、レコンキスタと戦う。前線に出る気はないが、向こうは明確に敵対の意志が有る。

もう裏から暗躍は不可能かも知れない。本来ならば、全て解決してから話す事なんだが……」

 

 彼女は真面目な顔をしている。大体の予測は付いている筈だが、言葉にしなければ駄目なんだ!

 

「それで……僕は……」

 

 いきなりキュルケが、僕の胸に飛び込んできた!思わず受け止めたが、そのまま唇を奪われる。

 

「ツアイツ!ツェルプストー家の娘はね、情熱的なのよ!散々待たされて、三人の中で一番最後なんて許さないわ」

 

「御免ね……でも気持ちは一緒……」

 

「黙って聞いて……だから私から言うわ!貴方が好きなの、愛しているわ!だから、結婚してあげる。

貴方にだけしか言わないわ……愛してるわ、ツアイツ」

 

 そう言って、再度フレンチなキスをされた!原作の二つ名は微熱だったが、今は情熱なんじゃないだろうか……

 しっかり彼女を抱き留めて愛に応える。暫く抱き合ったてから、お互いの体を離す……

 

「そのプロポーズお受けしよう!初めてだよ、プロポーズされたのは」

 

「そうね。私がツアイツにプロポーズした初めての女……ね」

 

 三番煎じは嫌だから、プロポーズを待たずに逆に自分からするか……流石はツェルプストー家の娘だね。

 

 その後は手を繋ながら庭を散策に屋敷に戻った!

 

 玄関でツェルプストー夫妻が待ち構えていたのは……見られてたのかな?

 

「キュルケ、おめでとう!流石はツェルプストーの血を引く娘だ。ツアイツ、キュルケを宜しく頼む」

 

「そうですわ。貴女はもう、ハーナウ家の娘として行動しなさい。向こうを優先するの……分かるわね?」

 

「お父様、お母様……」

 

「必ずキュルケは幸せにしてみせます」

 

 周りから拍手が沸き起こる!見渡せば、殆どの使用人の方々が居るんだけど?代表して執事の方が祝辞をしてくれた。

 

「ツアイツ様。幼少の頃よりお屋敷に遊びに来られ、私達使用人にも貴方は分け隔てなく接して下さいました。

自ら治療を施して頂いたメイドも多数居ると聞いています。そんなツアイツ様を若様と呼べる日が来るとは……感激で有ります」

 

 ああ……彼らとも10年近い付き合いだもんな。

 

「有難う。キュルケはウチの家にお嫁に来るけど、こちらにも顔を出すから……」

 

 初老の執事に男泣きなどされては、テレるよ。

 

「勿体無いお言葉を……」

 

 しかし、周りをガチガチに固められた感が有るな。別に婚約破棄とかしないけど、男的にキツい物が有るのも確かだ……これが、マリッジブルーってヤツか?

 これで婚約者で残すはテファだけだ!実家に帰ったら直ぐに気持ちを伝えよう……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 俺っちは、竜籠に入れられっぱなしで忘れられている……兄さん、幾ら何でもこの扱いはヒデーぜ。

 しかも縛られて固定されてるから、喋れもしないんだよ。折角、何人か近くに来た使用人にも話せねー!

 

 俺っちヤサグレちまうぜー!

 

「すまないデルフ!すっかり忘れてた……」

 

 やっと兄さんが気付いてくれて、紐を解いてくれたぜ!

 

「兄さんヒデーぜ!幾ら6000年も生きてるったって寂しいと死んじまうんだぜ!本当にヒデーっすよ。

こんなに剣扱いのヒデー相棒は久し振りだー!

こう見えても、このデルフ様は……昔の相棒は単騎で敵軍の中に……俺っちが敵の魔法を吸収してやって……

ソイツが、命尽きたのはルーンのせいで……最初の娘っ子はなんとエルフだった……だから兄さんも、もっと剣の相棒を大切に……

兄さん、聞いていますかい?」

 

 一生懸命話しているのに、兄さんは何処か心此処に有らずって感じだ。

 

「ん?ちゃんと聞いてるよ」

 

「……そうですかい?おでれーた!ああ、おでれーた!おでれーた!ビバおっぱい!兄さん、本当にちゃんと聞いてますかい?」

 

「ん?ちゃんと聞いてるよ」

 

「テキトー言ったのに、同じ言葉が返ってキター!嘘だー適当だーもう知らねーっす!」

 

「いや聞いていたよ。てか、デルフやばい情報が有ったよ」

 

「何ですかい?」

 

「初代ガンダールブはエルフだった!しかも女性だ。彼女はルーンの影響で命が削られた。そしてデルフは魔法を吸収出来る……どんだけヤバいか分かる?」

 

 信じてくれないんすか?これでも必死で思い出してるんすよ!

 

「兄さん、嘘じゃないっすよ!」

 

「デルフ……これは、2人だけの秘密だよ。これが本当なら、ブリミル教に知られたら、デルフ溶かされるよ!

だってエルフを倒して聖地奪還とか言ってるのに、根本的な部分で問題になるから……」

 

「いけ好かねえフォルサテの野郎の国ですかい?分かりやした!もう言わねーっす」

 

「明日は2人で馬に乗ってハーナウ領に帰るよ!」

 

「兄さん、竜籠の方が早いっすよ?」

 

「……良いんだ。僕は高いところが苦手なんだよ」

 

「おでれーた!兄さんにも苦手が有るんすね」

 

 女性同伴なら我慢出来るが、インテリジェンスソードだけなら無理だから……陸路で帰るのが決定した瞬間だった!

 

 

 

第115話

 

 今晩は!ツアイツです。

 

 目の前に両親が居ます……そして夕食に呼ばれた筈が、身内だけの結婚式会場になってますが?

 ツェルプストー辺境伯を見付けたので、此だけは言っておこうと思う!

 

「義父上、騙したな!この僕を謀ったな!」

 

 某宇宙世紀の独裁国家の三男坊ばりに叫ぶ!相手もちょうど赤いし……

 

「ツアイツ、我が義息子よ……身内だけの、ささやかな宴だよ!勿論、初夜を邪魔する様な無粋な事はしないから安心したまえ」

 

 ツェルプストー辺境伯に詰め寄ったが、サラリとかわされてしまった。そして、見渡せば母上が既にキュルケと和やかに会話している。

 

「アデーレ様……義母様とお呼びするより義姉様の方がしっくりきますかしら?」

 

「あらあら、キュルケちゃんもお世辞が上手ねぇ。こんなオバサン相手に」

 

 いえ、母上!端から見れば、キュルケがお姉ちゃんに見えます!何故?若作りとかじゃなく、本当に若々しいのですか?

 こちらは男同士で会話が弾んでますし……

 

「サムエル殿、まさか親戚になるとは思わなかったよ!」

 

「はははっ!全くですな。ウチのアレは変態だが、宜しく頼みます」

 

 父上……我らは同等の変態でしょう?何を言い出すのですか、今更……

 

「それと、ツアイツよ。

貴様、モンモランシー嬢・ルイズ嬢そしてキュルケ嬢と、この夏期休暇で婚約者を立て続けに喰いながら旅を続けてきたそうだな……

敢えてこの言葉を贈ろう。リ・ア・充・シ・ネ!」

 

 謎の言葉を叫びながら、殴りかかる父上……ヒラリとかわす僕!

 

「何故避ける?貴様を一発殴らないと読者が納得しないリア充ぶりなのだぞ!大人しくボコボコにされ……フギャー!」

 

 後ろから母上が、ウォーターウィップで父上をシバいています!凄い笑顔で……

 

「あらあらサムエルさん?おめでたい席で、どんなお戯れなのかしら?ほらほら……お口が有るなら言わないと、どんどんお仕置きがレベルアップしますよ?」

 

 母上……何時からなんですか?そんなSな性癖をお学びになったのは……

 

「イタいイタい……すまん、アデーレ!許してくれ。本気で痛いから……

悪気は無かったし、読者が納得しないと思い、我が鉄拳で制裁を……許してくれ、イタいから。本当にごめんなさい」

 

 そっと母上を後ろから取り押さえる。

 

「母上……その辺で許してあげて下さい。父上も反省してますから」

 

 息一つ乱してない母上は、ニッコリと微笑み

 

「キュルケさん。ウチの父子は、普通と違うから普通の折檻では効かないわよ。覚えておいてね。妻になるのなら……」

 

 キュルケは、あまりの事態に呆然としている。

 

「アデーレ、嗚呼……僕の可愛い小悪魔ちゃん!さぁ会場に行こうか?」

 

 あれだけシバかれていたのに、既に復活している父上……母上の中では、僕は父上と同等なのですか?僕の評価って……

 母上の手を取り、何事も無かった様に会場に向かう両親を見て、まだまだ自分は甘かったのだと思う。

 

「ツアイツ……私、貴方のご両親と上手くやっていけるか、心配になってきたわ」

 

 キュルケが僕の腕を取りながら呟いた。

 

「安心して、僕もだよ。あの両親の息子で有る事に自信が無くなったよ」

 

 改めてハーナウと言う血の宿痾(しゅくあ)を肌で感じた瞬間だった……

 

 

 

 結婚式会場にて

 

 

 

 身内だけの結婚式とは言え、ゲルマニアの有力貴族同士だから会場も料理も待遇も素晴らしい物だ!

 キュルケは最初こそ、純白のウェディングドレスを纏っていたが、お色直しでは艶やかな紅色のドレスに着替えていた。

 参加人数は僕とキュルケの新郎新婦に互いの両親の6人なのだが……

 これは、あくまでも仮の結婚式で、レコンキスタ騒動が片付いたら正式に執り行うそうだ!

 

 

 式を終えて、僕らは2人だけでキュルケの寝室に来ている。初夜ってヤツだが、緊張する……こんな時、世のイケメンは気の利いた台詞の一つも言うのだろうが

 

「まさか内緒で結婚式の準備を進めていたなんて……キュルケ、疲れたかい?」

 

 ナイトドレス姿で、酔い醒ましの紅茶を煎れてくれているキュルケに話掛ける。

 

「アナタは疲れましたか?ふふふっ!私が一番最初に嫁いだのよね。幸せだわ」

 

 テーブルに2つ、カップを置いてキュルケが隣に座る。

 

「どうぞ……でも夢のようだわ。学生のウチにツアイツと結婚出来るとは思わなかったもの。これから、死ぬまで離さないから……

宜しくお願いしますわ。だ・ん・な・さ・ま!」

 

「此方こそ宜しく!もう離さないからね」

 

 2人は、ロックとディテクトマジックをかけまくって周囲を確認してから同じベッドに入った。

 明け方まで何かをしていたが、エーファ達で鍛えたツアイツのテクニックにキュルケは翻弄されるばかり……

 最近ご無沙汰だったツアイツが、極上の美女を目の前に自重出来なくても誰も責められない……と、思います!

 

 

 

 翌朝……

 

 

 

「おはようございます。夕べはお楽しみでしたね」

 

 某竜のクエストばりな台詞で起こされて食堂に向かう。キュルケはお疲れ様の為、まだ寝かせている。

 本来なら甘い言葉で起こしてあげるべきだ!

 

 しかし、夕べは彼女の「もう無理……少し休ませて!」のお願いを聞かずに無茶をしたので……ゆっくり体力の回復に努めてもらう。

 後で、何か軽い食事を持っていこうかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「兄さん、俺っちの存在を忘れていやせんか?同じ部屋に居たんですけど?いや、オッパイ成分は物凄く補充したっす!

ボリューム的にも、金色や桃色の娘っ子じゃ到底適わない姉さんですが……

あれだけの妄想を備えている兄さんの思いの丈をぶつけるには、1人では辛いと思うっす!

兄さんも、普段の優しさがなりを潜めてやしたよ。流石は、妄想だけで使い手と同じ心の震えを起こさせる人だけの事はありやすね。

こんなご褒美を貰っちゃあ、一生付いていきやすぜ!」

 

 

 ツアイツとキュルケの桃色空間に思わず同席してしまったデルフリンガーは、ツアイツへの忠誠心をかなり上方修正した!

 

「ビバおっぱい!」

 

 

 

第116話

 

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 キュルケとの結婚式と初夜を終えてから、漸くハーナウ領へ向かっています。

 両親は竜籠で帰りましたが、僕は高所にトラウマが有るので最後は陸路にしました。

 元々ウチとツェルプストー辺境伯領とは隣同士。距離も大体馬なら半日で着くから、夕飯までには帰れるかな?

 

 道も整備されているし……

 

 のんびりとデルフと2人で帰っています。それと、デルフには聞いておきたい事も有ったから……

 

「兄さん!久し振りですね。俺っちに活躍の場が有るかも知れないっす」

 

 カタカタと鍔を鳴らしながら話す剣と話していると、端から見れば独り言を言う帯剣した貴族?って変人扱いだ!

 しかし街道とはいえ人は疎らだから、そんなには気にならない。

 

「デルフさ!前に話した虚無の使い手だけど……やはり普通の魔法は使えないのかな?」

 

「兄さん、気になるんすか?その桃色髪の娘っ子が、虚無かも知れねーって?」

 

 デルフ、ちゃんと覚えているんだ。君の記憶媒体って何なんだろう?

 

「そうなんだ。魔法を使えば全て爆発するんだ……でもディテクトマジックで調べると魔力の流れは途中までは正常だし。

確認出来ているジョゼフ王も無能と呼ばれる程、普通の魔法は苦手だろ?」

 

「三王家には虚無が生まれる事は0じゃないっすね……」

 

「でも覚醒の方法が分からないんだよね。デルフは覚えてない?」

 

 カタカタと鍔は鳴らすが、考え込んでいるデルフ……

 

「兄さんには恩が有りやすから……死ぬ気で思い出すっすよ!」

 

 インテリジェンスソードがウンウンと考え込み始めた……邪魔をしない様に静かに馬を歩かせる。

 カッポカッポと街道に長閑な馬の足音が響く……

 

「兄さん、やっぱり思い出せないっすよ。俺っちは使い手の相棒だから、その主人の記憶は曖昧でさぁ……」

 

「そうか。ブリミルブリミルって6000年も騒いでる癖に、詳細は謎が多いんだよな。

今に伝わる物なんて、始祖の名を冠した祈祷書かオルゴール位か……もっとも国宝だから、僕らじゃ確かめる術も無いけどさ!」

 

 デルフのカタカタが止まる……

 

「祈祷書にオルゴール……確かあいつ等は、必要な時に読めるだか聞こえるだか言ってやした。本と楽器……関係が有るかも知れやせんね?」

 

 ヨッシャー!不自然でなく、始祖の祈祷書とオルゴールとの関連を聞けた。

 

 あとは指輪だな……しかし、火はコルベール先生。土はジョゼフ王。水はアンリエッタ姫。風はウェールズ皇太子か……

 

 アンリエッタ姫とウェールズ皇太子なら何とかなりそうだ。コルベール先生は所持を確認してないし、ジョゼフ王は……回春のお礼に頼むか?

 

 無理だ!あの男にトリステインと言うか「僕の奥様は虚無です!」なんて言ったらどうなる事か、分からない。

 

 あとは、ロマリアの2人も虚無使いと使い魔だろうし……アレ?僕の平穏って、果てしなく遠くないかな。

 

「兄さん?黙っちまってどうしたんですかい?」

 

「いや……平穏って言葉が、えらく遠いと思ってさ」

 

「良く分かんねーっすけど、兄さん程の人物は波乱万丈が当たり前っすよ!」

 

 ……デルフ。あとでカステルモール殿かワルド殿に持たせて、第2回妄想大会を開催するぞ!

 

「兄さん?何かヒデー事考えてませんか?」

 

 もう遅いよデルフ。

 

「いや、久し振りに自分の漢度を計ろうかな!」

 

「兄さん、まさかあの変態2人は呼ばないっすよね?」

 

「…………」

 

「ヒデー!事実を言っただけでー!」

 

 ある意味、真実は人を傷つけるんだよ。ガリアは、シェフィールドさんとイザベラ姫である程度は押さえ込める。

 トリステインは、アンリエッタ姫さえ上手く動かせば平気だ。アルビオンは、これから恩を着せる。

 

 問題はロマリア……

 

 教皇ヴィットーリオとヴィンダールヴのジュリオの謀略腹黒2人組だ!あのイケメン組は、魂から敵だと思うんだ。

 

「兄さん、敵襲だ!アブネー、避けろー!」

 

 デルフの叫びに我に返る!咄嗟に馬から飛び降りると同時に、僕の居た辺りに火球が通過する!馬が驚いて走り出した……

 

「しまった!馬が……デルフ、力を貸してくれ!」

 

「任せろ!あの程度の火なら食い尽くすぜ」

 

 頼もしい相棒を抜いて周りを確認する。

 

 脇の茂みから、傭兵らしき一団と……筋肉ムキムキのメイジ?が、現れた。

 

「これはこれは……貴族の小僧1人殺すなんて退屈だと思ったら、中々しぶといな」

 

 このムキムキ馬鹿は……

 

「白炎のメンヴィヌルか……盲目の脱走兵が殺し屋まで身を落としますか?なぁ元アカデミー実験小隊の副隊長さん」

 

 言葉で牽制し、状況を確認する。迂闊だった……久し振りの祖国とキュルケの件で浮かれ過ぎたか。

 傭兵は目視で確認出来ているので12人か……僕の死角へ回ろうと、広範囲に散らばっている。

 

 魔法で纏めて攻撃は無理かな……

 

「……そんな胸糞ワリィ昔話は聞きたくないんでね!んじゃ死んでくれよ。

俺に、貴様の焦げた臭いを嗅がせてくれよぉ!ヒヒヒヒヒ……巨乳派教祖様はどんな臭いだぁ?」

 

 やはり臭いフェチかよ!

 

「殺し屋の癖に良く喋るよね?教えてくれないか?誰が僕を殺そうと頼んだのかを?心当たりが多くてね」

 

 僕は肩を竦めて質問をする。周りの傭兵達は弓をつがえ始めたか……時間はそんなに無い。しかし、これだけは言質を取らないと駄目だから……

 

「はっはははっ!余裕だな、小僧。教えると思うのかぁ?馬鹿がぁ、死ねよぉ」

 

 この脳筋、やはり駆け引きは分かり易く言わないと駄目かよ!

 

「炎蛇……居場所知りたくない?」

 

「何故、その名を知ってるんだ小僧?」

 

 ヨシ!固まったぞ。脳筋馬鹿でも話に乗ってくるかな?杖を向けたままで聞いてくる。

 

「お前、何処まで知ってるんだ?言えよ……そしたらこっちも話すぜ!まぁどうせ殺すがな」

 

 やっぱり顧客より復讐か……

 

 原作では、手強い相手として扱われていたが、カリーヌ様やシェフィールドさんの威圧感に比べれば……どうって事は無い。

 

 それだけ、あの2人が恐ろしいって事だけどね。義母と義姉になるんだよ。あの2人と、さ……

 でも、今はビビらない胆力を鍛えてくれた2人に感謝しなければ。

 

「先に教えてよ。こんなに包囲してるのに、それ位のサービス精神は無いの?」

 

「あーっはっはぁ!大したタマだな坊主。良いだろう。お前を殺す様に頼んだのは、オリヴァー・クロムウェル司教だ!

なんと1万エキューだとよ。どんだけ恨まれてるんだよ小僧?何したんだよ?」

 

「有難う!これで、コルベール先生に恩返しが出来るよ。何たって、本来彼とくっ付くレディを昨日食べてしまってね……

気まずかったんだ。では、お相手するよ!」

 

 ツアイツ+デルフVSメンヴィヌル+傭兵の戦いの火蓋は切って落とされた!

 



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第117話から第119話

第117話

 

 ツアイツ+デルフVSメンヌヴィル+傭兵!戦いの火蓋は落とされた!

 

「有難う!これで、コルベール先生に恩返しが出来るよ。何たって、本来彼とくっ付くレディを昨日食べてしまってね……

気まずかったんだ。では、お相手するよ!」

 

 この台詞を言った後に、牙の腕輪を引き千切り周囲にバラまく!

 

「ゴーレム達よ!傭兵を倒してくれ」

 

 ゴーレムが言う事を聞いてくるか分からないが、そう指示をしてからオリジナル魔法の濃霧を唱える!

 一瞬、周りはマジックアイテムのゴーレムがムクムクと大きくなるのに釘付け!

 

 見てくれは骸骨剣士そのものだ……

 

 どうやらゴーレムは言う事を聞いてくるらしく、バラバラと傭兵に向かって行く。傭兵達は浮き足立った。

 折角つがえた弓も、骸骨剣士に向けて射るが効果は無いだろう。霧の中から迫ってくる骸骨剣士に恐怖し陣形を乱してしまった!

 

 しかし、メンヌヴィルの特殊能力は……サーモグラフ、熱感知だ!濃霧で視界を塞いでも、熱で位置がバレる。

 

「坊ちゃん、位置はバレバレだぜぇ!燃えちまいなぁ」

 

 迫って行った骸骨剣士を凪払い僕に詰め寄ろうとする。複数のファイアーボールが正確に僕の位置に向かってきた!

 しかし避けられないスピードではない。体捌きとデルフの力でかわしていく!熱で位置が分かっても、数で攻めるこの魔法ならどうだ!

 

「錬金!黒色火薬ブーメラン」

 

 別に目の見える相手として接すれば良いだけの事!30枚のブーメランを錬成する。

 

「投擲!」

 

 メンヌヴィル目掛けて、あらゆる角度から黒い刃が唸りを上げて襲いかかっていく。

 

「錬金!黒色火薬ブーメラン」

 

 第二段を錬成し、更に投擲する!

 

 メンヌヴィルは、威力を抑え連射性を持たせたファイアーボールで撃ち落とすも、合計60枚のブーメランの猛攻に晒されては無傷では居られなかった……

 盛大な爆発音の後で、煙が晴れるのを待つ。一面ボコボコの地面に横たわるメンヌヴィル。

 

 致命傷は無いが、あちこち黒コゲで衣服も破れている……

 

「なんだよ、結局力業かよ坊ちゃんよぉ……見くびり過ぎた俺の負けかよ。さぁ殺しな!」

 

 周りを見渡せば、傭兵は全員倒されて骸骨剣士が僕の周りを囲んでいる。メンヌヴィルはうつ伏せのままだ。

 

「幾らお前が凄腕でも、不正規戦に持ち込まないのは可笑しくないか?

奇襲は奇襲だけど相手を舐め過ぎだろう……仮にもスクエアの僕を相手に、無謀だとは思わなかったのかい?」

 

「ふん!見てくれの良い女のオッパイばかり追う男なんて皆、屑野郎さ。そんなヤツはそれで十分だろ……」

 

 ゴロンと仰向けに寝転び悪態をつく……狂った傭兵白炎のメンヌヴィルもこれでお終いか?

 

「おっお前……オッパイがデカいぞ!てか、女性だったのか?」

 

 焼け焦げ、敗れた服の間から白い肌が見える。

 

「女性?この見てくれでは、女なんて名乗れないさ!アカデミーの奴らの薬でこうなっちまってよ……早くころ……せ……よ……」

 

 気を失ったようだ。

 

「デルフ……これどうしたら良いんだ?」

 

「こうして見ても、ゴッツい女っすね!どうと言われても、俺っちを使ってトドメを刺すかい?」

 

「いや……甘いと言われても女性を殺すのは躊躇するね。兎に角、人を呼ぼう。傭兵達の件も有るから……」

 

 暫くして馬のみが、家に到着したのを不審に思った父上が捜索隊を派遣してくれたので、無事に襲撃者を拘束出来た。

 

 メンヌヴィル……まさかのTS、しかし外見変わらずコンプレックス有りか。

 

 それにトリステインのアカデミーの実験の被害者っぽいんだけど……

 カトレア様と同様に目も体も治せるけど、其処までする気は無い……かな。しかし、生き方を変える程のコンプレックスを持っていたな。

 

 彼女も被害者なのか……などと考えながら、迎えの馬車に乗り実家に向かった。

 

 今度は護衛団に守られながら……

 

 

 

 あの後、襲撃者は纏めて治療し身柄を確保している。メンヌヴィルは治療して別室にて軟禁中。後で少し話したい事が有るから。

 そして全ての処理を終えてから、休む間もなく父上の書斎に呼ばれた……

 

「ツアイツ……今回の襲撃は、お前の慢心だよ。私達と一緒に帰れば、こんな事にはならなかった」

 

 今日は真面目で有能な父上だ!

 

「すみません。確かにゲルマニアに来て安心していました」

 

「今後気を付けろ。それと、もう1つ厄介な話がロマリアの教皇から来た……お前宛の親書だ。悪いが確認させて貰った。読んでみろ」

 

 父上から、教皇ヴィットーリオからの親書を受け取り読み始める……なっ何だこれは?

 

「ちっ父上……ロマリアの教皇が、男の浪漫本シリーズの実物大衣装を大量発注?でも寄付しろって文面から読み取れるのですが!」

 

 父上は深い溜め息をついた。

 

「そう読み取れるな。これはロマリアと言うか教皇に対しての、我らの姿勢を問うているのか……」

 

「201着、具体的なサイズも書いて有りますね。今の我らなら金銭的には痛くも痒くも無いですが……問題は納期ですね」

 

 こちらも溜め息をつく。

 

「どうするのだ?ブリミル教と事を構えるのは、正直面倒臭いぞ。しかし、奴らの欲は際限ない……強請りたかり国家だ」

 

「多分、園遊会でウェールズ皇太子とアンリエッタ姫のテーブルに同席した所を招待された枢機卿にガン見されたので、報告がいったんですね。すみません、迂闊でした……」

 

 今迄は普通に距離を置いた付き合いだったのに、いきなり名指しで親書とはそう言う意味だろう。

 

「それにしても、レコンキスタよりたちが悪いな。男の娘か……我らが教義に真っ向敵対しておるわ。教皇ヴィットーリオか。今は大人しく従おう」

 

「分かりました。急ぎ手配をします」

 

「それとだな……」

 

 父上が、不真面目な顔になったぞ。

 

「ガリアのカステルモール殿が、エターナルロリータを娶ったとワルド殿より報告が有ったが……聞いてないぞ、息子よ」

 

「えっと……何処までの内容ですか?彼女は……」

 

「吸血鬼……結構じゃないか!永遠のロリータ!理想だぞ、男なら求めるだろう!違うか?」

 

「……其処までご存知ならもう良いです」

 

「それと、近々ハーナウ家に来るそうだ!」

 

 ロマリアより、エルザの方が重要な問題だった!

 

 

 

第118話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 寝不足の為、朝食を食べるのもボーッとしています……メニューは、ベーコンエッグにクラムチャウダーに各種パン、それに牛乳だ。

 先に屋敷に帰したエーファ達が、給仕をしてくれている。久し振りの実家の朝の風景……

 

 昨夜は父上とロマリア対策で話し合い、全てのオーダーの発注手配書を書き終えたら既に部屋の窓から朝日が差してきました。

 

 完徹です!

 

 しかし、テファやロングビルさんと久し振りに一緒の朝食だから頑張って起きてます。テファが、隣で甲斐甲斐しく世話を焼いてくれるのが嬉しいです!

 ロングビルさんもテファの反対側に居て挟まれる様に座っていますが、少し不機嫌そうだ……

 昨日、キュルケと結婚式を挙げたばかりだし、当然2人共知っているだろう。

 

 しかし、今日はテファとイチャイチャ……この幸せを守る為にも頑張らねば!

 

「父上、そう言えばワルド殿の遍在が来ている筈ですが?」

 

 すっかり忘れてたけど、ソフィア達と帰したんだ。

 

「ああ、彼ならサムエル愛の資料館に籠もっているぞ」

 

 遍在って食事しなくて平気なのかな?謎の多い魔法だよね!後で顔を出してこよう。

 

「ツアイツ、今回の休暇は何時まで居られるのかしら?」

 

 母上かのんびりと聞いてくる。

 

「そうですね……二週間位滞在出来るかな。学院には始業式の10日前位には戻る予定です」

 

「それなら、ゆっくり出来ますね。久し振りに実家を満喫しなさい。それと、テファさんに構ってあげなければ駄目よ」

 

 テファを見れば、目が輝いている。しかし襲撃の件も有るし遠出は危険かな……

 

「そうですね。テファとロングビルさんは何がしたいの?」

 

 急に話を振られたロングビルさんはビックリして「私かい?私よりテファを優先してやってくれよ。テファは何かないのかい?」自分より義妹を優先するロングビルさん。

 

「わっ私ですか?…………では、練習した手料理を食べて貰いたいです」

 

 彼女は前の休暇の時に、料理のレパートリーを増やすと約束したっけ。今度は何を作ってくれるのかな?

 

「それは楽しみだな。父上、皆で近くの街まで買い物にでも行きませんか?ウチの街も大分賑やかになった筈ですし……」

 

 母上に「あーん!」して貰っていた父上に許可を貰う。

 

「ん?そうだな……十分な護衛を付ければ良いが……ツアイツ、シェフィールド殿はどうしたんだ?彼女が居れば問題無いのだが?」

 

 ヤンデレ無双を知っている父上が聞いてくる。確かにお姉ちゃんは最強の護衛だ!

 

「シェフィールドさんは旦那さんの所に里帰り中なんですよ」

 

 父上が、微妙な顔?

 

「そうか……ジョゼフ王も大変だな。あの想いを一身に受け止めているのか」

 

「「…………?」」

 

 余りシェフィールドさんを知らない母上とテファは不思議そうだ!

 

「まぁ今日位はのんびりしろ!街に繰り出すのは明日でも構わんだろ?」

 

 父上の提案で、今日は一日中ニートする事になった……んーお昼寝したいです!

 

 

 食後に、遍在ワルド殿に会いに「サムエル愛の資料館」に、顔を出す!

 

 

「おはよう!遍在ワルド殿、居ますか?」

 

 部屋に入ると、ワルド殿が2人居る。2人共、一心不乱に男の浪漫本を読み耽っている。片方は、鬼気迫る物が有るのだが……

 2人がこちらに気付いた。軽く頭を下げるワルドA?

 

「お邪魔しております。ツアイツ殿」

 

 この落ち着きは、あの遍在さんかな?では、こっちの目を血走らしてる方は……まさか本体か?

 

「ツアえもーん!カステルモールに幼女を取られちゃったよー」

 

 縋り付いてくる本体?

 

「誰が、ツアえもーん!ですか!てか、どっからそんな単語を調べてくるのですか?まさか本体ですか?」

 

 強引に引き離して問い質す!

 

「ああ……すみません。取り乱してしまいまして。私は本体です。

ガリアでカステルモール殿と別れた後に、直ぐサムエル殿に手紙を出しまして……自棄酒を何日か飲んでから、此方に来ました」

 

「そうなの?でもトリステイン王国に居る遍在達は平気なの?」

 

 ワルド殿、仕事はどうしたの?

 

「今は遍在は2体です。彼と政務をこなしている奴だけですから」

 

「男の浪漫本をコピーした2人は?」

 

「私もカリスマ上級会員ですから、全て買い揃えました。この2体の遍在は、自ら男の浪漫本を読む事により漢力を回復出来るので、本体との距離が有っても平気です」

 

 何言ってんの?遍在って、そんな魔法じゃないよね?僕は恐る恐る遍在ワルド殿の方に顔を向けると……彼が頷くのを見てしまった。

 

 こいつ、軽く虚無ってないか?

 

 原作では中ボスだったのに、変態紳士化したらバグキャラになりやがった……

 

「それで、エルザ殿とカステルモール殿はどうなったのですか?」

 

 ワルド殿が血の涙を流して語るカステルモールとエルザの恋物語に、僕は思わず拍手してしまった!

 グッジョブ、魂の兄弟よ!多分、理想的な終わり方だろう。誰も死なず、彼女も幸せになれた。

 

 まさか正妻に!とは思わなかったけど。

 

 しかし成長しない幼女を妻にしたのだ。此方でもフォローしないと駄目だな。

 

「それで、いつ頃こちらに来ると言ってましたか?」

 

「一度、イザベラ殿と話してから此方に向かうと言ってましたな。ブリュンヒルデなら一週間位で此方に来れるのでは?」

 

 彼の逞しい相棒を思い出す。確かにあの風竜なら、さほど時間は掛からないだろう。

 

「ツアイツ殿、本題です!カステルモール殿に有り、私に足りない物は何なのですか?

何故、私にはロリッ子を娶れないのですか?何故、私はタバサ殿に振られなければ……」

 

 両手を地に付いて慟哭している。床に彼の涙で水溜まりが出来始めた。

 

「何故、タバサ殿に振られたのですか?」

 

 タバサ殿との雰囲気は悪くなかった筈なのに……

 

「タバサ殿は、成人男性の痴態にトラウマが出来たらしく……竜騎士団の連中や私には、その様な感情は持てないと言われてしまいました……」

 

 おいおい。知らない内にとんでも無い話になってるぞ!

 

 どうしようか……余りにも哀れ過ぎるぞ。しかし、原作キャラでワルド殿の好みのロリッ子なんて他には……

 

 居た!とびっきりの美少女が居たよ。

 

「ワルド殿……僕も面識は無いのですが、1人とびっきりのロリッ子美少女を知ってますよ」

 

 ワルド殿が顔を上げたが、涙と鼻水でエラい事になっていた……

 

 

 

第119話

 

 

「自分が楽しいと思った事は嘘ではない!」

 

 かつて篭の鳥の少女は言った。ロマリアに良いように扱われた少女の言葉だ!

 この世界では、まだ物語に登場していない……シャルロットの双子の妹。ジョゼット!

 

 今ならガリアの孤島、セント・マルガリタ修道院に居るはずだ。彼女の心の支えだったジュリオは「男の娘」になっている。

 だから、竜のお兄さんフラグは潰れている。じゃ竜のお姉さん?

 

 しかし!

 

 このハルケギニアに納まり切らない変態紳士ワルドなら何とか口説き落とせるかもしれない。

 このワルド、女性には尽くすタイプだし能力だけ見ればトップクラスだ!

 

 最初だけ大人しくしてくれれば、モテるはず。原作のジョゼットは、ちょっと世間知らずな頑固者だけど……

 これからの事を考えると、此方で押さえておきたい。

 

 しかし……

 

 シャルル派の粛清の嵐に良く生き残れたよね。普通なら、シャルルの血を引いてる彼女は反乱の御輿として最適だ。

 ジョゼフが見逃すとも思えない。

 それに、セント・マルガリタ修道院はガリアの孤島とは言え、飛べる手段が有れば誰でも行ける場所。

 しかも、ロマリアや花壇騎士団にも情報が漏れてるんだけど……罠かな?

 

「ツアイツ殿、黙り込んでどうしたのですか?その極上のロリッ子は何処に居るのですか?」

 

 目を血走らせて、言い寄る本体を遍在ワルド殿が取り押さえてくれた!こっちの方が有能じゃね?

 

「すみません。かなり問題の有る子なんですが……それでも宜しいですか?」

 

 キリリと表情を引き締め、マントをバサッと払いながら立ち上がる!

 

「ツアイツ殿に美少女と言わせる逸材なら、私の覚悟は完了です!」

 

 無駄に格好良いんだけど……何故だ!何故こんな態度が出来るのにモテないんだ?哀れ過ぎて涙が出てきた。

 

「分かりました。教えましょう……彼女は今、ガリアの孤島に居ます。

セント・マルガリタ修道院のシスターですが……双子を吉凶とするガリアで捨てられたシャルロット姫の妹君です」

 

 流石に目を見開いて驚いた表情をする。

 

「毎回ツアイツ殿の情報網には驚かされますが……タバサ殿の妹君、か」

 

「気を悪くしましたか?振られた相手の妹など紹介しては……」

 

 ワルド殿は、じっと目を閉じている。やはり振られた相手の妹では嫌だよね。

 

「すみませんでした。この話は無しに……」

 

「素晴らしい!タバサ殿より更に幼い妹君ですか!是非、是非とも紹介して頂きたい。さぁさぁさぁ……」

 

 思わず脱力する。それで良いのかワルド殿?

 

「彼女は、ジョゼフ王のシャルル派粛清の難は逃れましたが、マダマダ危険な立場なのです。それにロマリアが嗅ぎ付ける前に確保したい!」

 

 普通なら躊躇するだろう、問題の大きさだけど……この男の余裕はなんだ?

 

「ツアイツ殿。ミス・ジョゼットとの出会いは入念にシミュレーションしてから望みたいのです。私に無かったのは、臨機応変さ!

そして、カステルモール殿の様にこの教典たる男の浪漫本を熟読しあらゆる状況に対応出来る男として成長してから、ミス・ジョゼットの下へいきます!」

 

 決意表明をした本体ワルド殿に拍手する遍在ワルド殿……これが本当の自画自賛?

 

「そうですね。ロマリアが彼女に接触するまで、まだまだ時間が有ります。ゆっくり対応を練りましょう!

それと、本体ワルド殿には食事と休憩が必要かと……さぁ、此方にいらして下さい」

 

「ツアイツ殿……何時も何時も気遣って貰って……」

 

 泣き出してしまった。駄目だ、このワルドは能力は高いがマダオだ。これは、僕も同行するかしないと又、悲惨な結果になりそうだ……

 なんて手の掛かる友人なんだろう。兎に角、手段を問わず応援するしかないな。

 

 所在無げに佇む遍在ワルド殿に「僕も手伝いますから、貴方も協力して下さい」と頼み込む。力強く頷く遍在ワルド殿を見て思う。

 この不思議に有能な遍在殿と二人がかりで手伝えば何とかなるかな?取り敢えず、シエスタに何か食べ物を作って貰おう。

 

 食堂に案内しながら、そんな事を考えていた。

 

 

 

 その頃のアルブレヒト3世

 

 

 

 執務室で1人、アルビオン王国のジェームズ1世からの親書を読む。一通り目を通してから、目頭を揉む……

 我がゲルマニアの貴族。ツアイツ・フォン・ハーナウの紡ぎ出す世界が、遂に此処まで影響を及ぼすとは……

 

 確かに、あやつの唱える教義にレコンキスタ討伐は違反している。

 しかし、あの石頭でプライドの高いジェームズ1世が、此処までゲルマニアに譲歩するなら……悪くはない提案だ。

 

 ウェールズ皇太子の子供の1人との婚姻も打診してきた。

 それに、疲弊が激しいトリステイン王国よりも空軍の抜きん出たアルビオン王国の方が軍事同盟の旨味も有る。

 未だにくすぶる、俺に服従しない連中の牽制にもなるだろう。

 

 一貴族との面会許可だけなら、破格の条件だ……しかし、あやつを国外に出して本当に平気か?

 ツェルプストーとの娘と結ばれたと聞くし、我が国との楔は有るか……良いだろう。この条件を呑もう!

 

「誰か!ハーナウ家とツェルプストー家、それとアルビオンのジェームズ1世に親書を送るぞ。準備しろ!」

 

 レコンキスタか……美乳派などと、下らん戯言をほざきおって。そうそうに、このハルケギニアから退場するが良い!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ゲルマニア皇帝アルブレヒト3世から、ハーナウ領への入国と、ツアイツ殿への面会の許可がおりた。

 これで何とか、レコンキスタに対抗する我が軍を纏める為の交渉が出来る。

 

 しかし……何て説明すれば良いのだ?

 

 教皇ヴィットーリオは、オリヴァー・クロムウェルを破門し美乳派を否定した。だが、ツアイツ殿は己の教義に信念が有る筈だ。

 やはり土下座しかないのか……

 

 この東方の謝罪方法は、やる方も屈辱的だが、やられる方も居たたまれない気持ちになるからな。兎に角、誠意を見せるしか無い。

 

 

 



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第120話から第122話

第120話

 

 

 ガリア王国プチトロア内イザベラ執務室。

 

 何故か不機嫌なイザベラと向かい側に座るタバサが居た……

 

「エレーヌ、最近ここに入り浸っているけど?」

 

 タバサは、ん?と何を言ってるの、的な表情でイザベラを見ると視線を持っている本に戻した……

 

「ここは本が沢山有るから……それに実家に入り浸りは色々不味い」

 

 下を向いたままボソッと呟く!

 

「あんた?あの変態魔法衛士隊隊長を振ったんだって……まぁ正解だけど、あの男泣きは哀れだった」

 

 ツアえもーん!とか騒ぎながら飛んで行ったから、絶対ツアイツに泣きついた筈だ。

 あの身内にとんでもなく甘い奴の事だから、想像も付かない対応をして来るんだよ……そして、しわ寄せは絶対私と決まってる。

 今回の贈り物だって、初めて手紙を付けてきた。

 

 これは園遊会での私の台詞に対しての対応かも知れないが……内容が、ね。

 

 

『親愛なる我がアイドル!イザベラ様。

先のご要望により、今回より手紙を添付させて頂きます。

先ずはシャルロット姫のデビューですが、フィギュアと男の浪漫本にて進めて行きたいと存じます。

必ずヒットさせてみせますのでご安心して下さい。

今回はシャルロット姫も帰省中との事ですので、衣装についてはお二方分贈らせて頂きます。

関係各所に慰問を行っていると聞いています。ご一緒に廻られては如何でしょうか?

きっと人気は爆発的に上がると思いますよ。是非、僕も最前列で見たいと思います。

 

それと珍しいお酒を手に入れたので……

 

これはライスワインと言って果物でなく、穀物を発酵させこした物です。

燗してよし、冷やしてよし、とお酒では珍しい味わい方が出来るのです。勿論、常温でも楽しめます。

今回は吟醸酒と言うランクですが、気に入られましたら純米酒・本醸造酒と種類が有ります。

現在ハーナウ領にて試験的に制作しております。感想等を頂けると大変嬉しく思います。

それとご希望の「そるまっく」ですが、多目に入れておきますが、深酒は美貌と健康の大敵!

イザベラ様の美しさが損なわれない様に程々が宜しいかと……

 

お酒、控えて下さいね。

 

次回は、東方より伝わったスィーツを贈らさせて頂きます。楽しみにしていて下さい。

それと、またご迷惑をかけると思いますが、宜しくお願いします』

 

 

 これだけ読むと、ツアイツは私の事を敬いつつも友達感覚なんじゃないか?

 それはそれで、同年代の異性と話す事など無い私としても嬉しいし、贈り物は常に私好みを押さえている。健康に配慮までしているんだけど……

 

 最後の一行で台無しだ!

 

 またってなんだよ、またって!ツアイツめ、また私に厄介事を押し付ける気だね……

 

「イザベラ……笑ったり、悩んだり、怒ったり……その手紙、そんなに感情を高ぶらせるの?」

 

 目の前にエレーヌが居た!

 

「なっななな何でもない手紙だよ!きっ近状報告だね。それより、今回はツアイツからエレーヌにも贈り物が来てるよ」

 

「…………?」

 

「お前も私と慰問に行くんだよ!さっさと着替えるよ!おい、メイド。着替えるから準備しな」

 

 イザベラが声を掛けると、控えていたメイドズが現れて二人を隣の部屋に連れて行き着替えを始めた。

 

「イザベラ……ミスタ・ツアイツと結婚するの?」

 

 思わず振り返ってしまう。相変わらず、上から下までストンな体型だね……

 

「何でそんな話なんだい?可笑しいだろ?」

 

 メイドにその胸で必要か?なコルセットを着けられているエレーヌに問い質す。

 

「イザベラ隊の皆が、ソウルブラザー以外認めないって……それに公式の場で抱き付いたって騒いでる……」

 

 しまった!園遊会の時か……他国の連中は、奴らに警戒させたから見られてないけど奴らは見ていた。

 

「あっあれは、ちょっとした悪戯だよ」

 

「それにイザベラ隊はジョゼフ王が承認した部隊。当然、ジョゼフにも報告が行っている……」

 

「なっ何だってー?」

 

「ジョゼフは、それは良いではないか!って手を叩いて笑ってたそう……」

 

 着替えの途中だけどしゃがみこんでしまった。ヤバい……周りを固められた?これが狙いかツアイツ?

 抱き付いたのは私だし、それは無いか……でも、周りはそうは思ってない。

 

 考えてもみなよ!無理だろ、私達は……

 

 確かにアイツはハンサムだし有能だ。友人としてなら、好きと認めてもいい。

 ウチの連中とも仲良くしてるし、ガリア全土に広がる男の浪漫本ファンクラブも浸透してるから、私の婿になっても反対派は少ないだろう。

 どちらかと言えば、賛成する連中の方が多い気がするよ。反対する奴らは、公式ファンクラブの連中が何とかしそうだ……

 お父様はツアイツを気に入っているし、あの黒衣の女など姉弟みたいな関係らしい。

 あいつの実家も商売としてウチのギルド関係に食い込んできている。演劇や脚本・物語の売れ行きも良く、国民にも人気が高い。

 

 あれれ?悪くないどころか、他の候補って居るの?

 

 でも、ツアイツがガリア王になったらハルケギニアは変態で埋め尽くされる……思考の海に沈んでいたが、エレーヌの一言で呼び戻された!

 

「でも無理……ミスタ・ツアイツはこの夏期休暇を利用して、婚約者達の実家巡りしてる。彼女等も、この機会に喰われる?って言ってた。三人とも……」

 

 なっ何だってー!

 

「この私が!大国ガリアの王位継承権第一位の私が、四番目だって!貴族ってのは序列が有るんだよ!第一夫人は私だろうがー」

 

 きょとんとした顔で、私を見ているエレーヌに言われてしまった。

 

「イザベラ、ミスタ・ツイアツと結婚するつもりなの?」

 

 しまった……ついカッとなって言ってしまった。

 

 ドアの外から、「「「ウォー!デレデレキター!」」」とか聞こえた。

 

 信じられない事だが、王族の私達の着替え姿を覗いている奴らが居るとは……

 素早く上着を羽織り、既に着替え終わったエレーヌと2人で無礼者に教育を施す事にする。

 

「エレーヌ、行くよ……外に居る不埒者に天罰をくわえにね!」

 

 無言で杖を構えて頷くエレーヌと扉に向かう。私の手には一升瓶と言う、ツアイツからの贈り物の鈍器を持って……

 

 

 

第121話

 

 レコンキスタ本部

 

 盟主となったオリヴァー・クロムウェルは、集まった自称将軍達と今後の作戦について話し合っていた。

 作戦と言っても、ひたすら王都を目指すしかないのだが……

 

「それで……兵の様子と補給はどうなのか?」

 

「はっ!兵達は休息を終え準備万端であります。補給も周辺の集落からかき集めた物で倉庫は溢れておりますれば……」

 

「順調だな。我が神の軍団は!」

 

「少し気になる事が……」

 

 末席に座る男が、おずおずと発言してきた。彼は物資調達係として、実際に周辺集落に赴いた男だ。

 

「なんだ?」

 

 平民からの略奪時には強気の癖に、この集まりには何時もおどおどしている……使えない男よ!

 

「それが、廻った村々に平民が居ないのです。どうも周辺の領主が保護をしてるらしく……

今までにない対応です。運びきれない物資は置いてあるので問題は無いのですが……」

 

「問題無いなら、それで良いではないか!いらん報告だぞ」

 

 周りの自称将軍達からも責められている。大方、女性を攫おうとして居なかったのが気に食わないんだろう……

 

「皆の者、落ち着きたまえ!我が神の軍団は、次の行動に移る。ダータルネスを攻略するぞ!準備にかかれ」

 

 私の号令により、皆が散っていく。周辺の集落に人が居ないのは、情報は早く回っているんだろう……

 

 しかし、問題は無い!

 

 ダータルネスを落としたら次はサウスゴータだ。ふふふっ!もう直ぐアルビオン全土は我が手の内に……

 

「あーっはっはっはー!男の娘などと、ほざく狂った教皇め。正しき道を叩き込んでやるわー!私が、私こそが教皇に相応しいのだー!」

 

 

 

 

 名も無きモブ平民の方々……

 

 

 

 またブリミル教の神官さまと貴族さまの無理強いが始まった。

 ただ、今回は「男の浪漫本何たらの集い」の方々が、色々と便宜をはかってくれている……今までに無い事だ!

 貴族さまが、我々平民を助けてくれるなんて。

 

 何でも、大いなる何とかの下に集まれ!とか、素晴らしい教えを守るために、全ての女性に優しくなければ、会員剥奪だか何とか……

 

 こんな素晴らしい教義を考えたのは、ゲルマニアのツアイツさまって言う偉い人だそうだ。

 今まで酷い事をしてきた貴族さまを改心させるなんて、何て凄いお方だ!今日だって、教えを守る為に私達を領主さまが匿ってくれた。

 

 有難や有難や……

 

 ツアイツの勧めるオッパイ教義は、全ての女性が対象だ。故に信者は貴族・平民を問わず、程度はマチマチだが救いの手を差し伸べる事になる。

 特にトリステインのモット伯など、別人の様に平民の女性に優しくなった。勿論、全ての貴族がではない。

 しかし、今までに10の理不尽が8の理不尽と2の優しさになれば……その変化は大きい。

 

 ツアイツは裕福層しかオッパイ教義を普及出来ないと思っていたが、思わぬ効果を平民に対してあげていた。

 彼らは、己が上級会員を目指す為に必然的に平民の女性にも優しく対応する。

 けして善意からでは無いが、平民達にはツアイツはブリミル教よりも、確実に幸せを与えてくれくれる教祖になっていった!

 

 

 

 その頃のオッパイ教祖様……

 

 

 

 書斎にて、本体ワルド及びワルドA。そしてテファとロングビルを交えたワルド改造計画を実行していた。

 

「ワルドさま、それでは女性は引いてしまいます。そこの対応は……」

 

「アンタ、本当にマダオだね!ヤレヤレだよ」

 

 テファとロングビルのダメ出しの後に、自分の偏在から肩をポンポンと叩かれる本体ワルド殿……

 

「くっ……何故だ!何故私の選んだ選択肢は駄目なのだ!」

 

 酷い落ち込み様だ。

 

「ワルド殿……ミス・ジョゼットは生まれて直ぐに孤児院に預けられたのです。周りは断崖絶壁の海の孤島……そんな彼女の心を開くのは、何ですか?」

 

「はい、ツアイツ先生!サクッと攫って、自宅に連れて帰ります。それから色々話をして……」

 

 何を自信あり気に、攫ってとか言うかな!

 

「ブー!それでは、ただの人攫いです。正解は、自然に出会いを演出するのです!出来れば、ミス・ジョゼットが助けるシュチュが理想的ですね」

 

 ベタな出会いを演出させる……この手の頑固な女性は、自分が感じた事を優先する。だから、自分が助けた相手には強い思いを残す。

 

「一番大切なのは、出会いのインパクトです!そして次はお礼として再度訪ねて、外の世界の話をするのです!

二度目は自分から訪ねて改めてお礼をする。彼女の外へ出る渇望を煽り、ならば私がお礼にと誘う……」

 

 パチパチパチとテファとロングビルさんが拍手をする。

 

「それなら、ジョゼットさんも気を許すと思います!」

 

「ツアイツのタラシ振りが分かるね。悪くないアプローチだよ!」

 

 女性陣は気に入ってくれたみたいだ。ベタベタなベタだけど……

 

「なるほど、良くは分かりませんが、言う通りにすれば上手く行く事は理解しました。それで、決行は何時?」

 

 そのアンリエッタ姫みたいな理解力はやめて下さい。そう言えば、アンリエッタ姫を放置してるけど平気かな?

 まさか一週間程度で問題を起こさないよね……

 

「作戦は来週にでも決行しましょう。僕も偏在殿も同行し、陰ながらフォローします。てか、フォローしないと成功する気がしないから……」

 

「「…………」」

 

「ツアイツは行っちゃ駄目だよ。私が、替わりに同行するよ。大丈夫だよ、その偏在とは暫くコンビを組んでたし安心しとくれ」

 

 ロングビルさんが、胸を叩いて同行を申し出てくれた。

 

「しかし……もはや普通の手段では」

 

 それでも不安が残る。ロングビルさんに恋愛問題を解決出来るのか?失礼な思いがよぎる……

 

「ツアイツが行くと、ジョゼットを口説き落としてしまいそうだからね。任せな!お姉ちゃんにさ」

 

 バンバンと肩を叩かれた!別にミス・ジョゼットは好みではないから安心して欲しいんだけどな……

 

「ほら支度しな!来週とかじゃなくて、とっとと行くよ」

 

 本体の首根っこを掴んでズルズルと引っ張って行く!そして、ぺこりと頭を下げて付いて行く遍在殿。

 

 物凄く不安だ……

 

 ジョゼットは原作でも重要な役割を担っていた。しかし、ロングビルさんを止めるのは不可能か……

 テファを見れば、目を輝かせて僕を見ている。何だろう?

 

「心配なら、私達も後をつけませんか?」と、とんでもない提案をしてきたー!

 

 

 

第122話

 

 

 幸せワルド計画……

 

 この難問に立ち向かうのは、本体ワルド+遍在殿+ロングビルさん。そして見守る、僕とテファ……

 しかし、テファの提案は不可能になった。あれから、暫くして閣下から至急の鷹便が来た。

 

 内容は、レコンキスタ討伐に関して……

 

 アルビオンのウェールズ皇太子が向かっているので、可能な限り協力する事。閣下からの直筆の親書だ……

 んージェームズ一世ってもっと石頭じゃなかったかな?

 アルブレヒト閣下に、こんな柔軟な対応を仕掛けてこれる行動力が有ったなんて……ちょっと驚いた!

 そして、親書の到着から暫くして、アルビオン国旗を靡かせた軍船がハーナウ領に入り、先ふれの竜騎士が到着した!

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ殿、近くまでアルビオン王国ウェールズ皇太子が来られています。会見を求めているが、宜しいか?」

 

 素早い行動だ!きっと近くまで来て待機していたのだろう。この世界のアルビオン王国は有能なのかも知れない。

 

「我が閣下からも連絡を頂いています。会見、受け賜りました」

 

 型に嵌った挨拶の後に、竜騎士殿はにこやかに握手を求めてきた。

 

「ツアイツ先生にお会い出来るとは光栄です。出来ればこちらの著書にサインを頂きたいのですが……」

 

 男の浪漫本「おっぱいジョッキー」を差し出す。流石はウェールズ皇太子の直属!彼は巨乳派なのか……

 サラサラと園遊会以来、慣れてしまったサインとイラストを書く。

 

「有難う御座います。アルビオンで最初に直筆サインを貰えました!」

 

 あれ?園遊会では、ガリアとクルデンホルフ関係者だけだったかな?

 暫くして、イーグル号?らしい船が見えたが残念ながらウチには空中船を繋留する場所も適当な湖も無いので、ウェールズ皇太子御一行は竜籠にて降りてきた……

 物凄い笑顔でイケメンが近付いてくる。

 

「ツアイツ殿、今回は無理を言って申し訳ない。かなり複雑な問題が発生して、至急相談をしたいんだ!」

 

 フレンドリーに接してきますね……

 

「いえ、こちらこそご足労願いまして申し訳ないです。急な連絡故、満足なお持て成しも出来ないとは思いますが、どうぞ此方へ……お付きの方々もいらして下さい」

 

 先ずは応接室に案内する。

 

「では失礼する」

 

 妙に丁寧な態度だ……レコンキスタに対して、僕が関係する程の事態にはなってないよね。

 まだ戦力は拮抗してるし、報告ではジェームズ一世が最前線にて指揮を執っている。兵の士気も高いだろう。

 

 応接室に通して、最上級の紅茶でもてなす。両親の紹介&挨拶と礼儀的な行事を一式こなしてから本題に入る。

 両親は席を外して貰った。此には驚いたが、ウェールズ皇太子が頭を下げて頼んだのだ!

 

 他国とは言え王族……此処までされては、否とは言えず両親は席を外してくれた。

 

「ウェールズ様。お国が大変な事になっていますが、それに関係した事でしょうか?」

 

 優雅に紅茶を飲む彼に質問してみる。

 

「多分知っていると思うが、順序だてて話そう。レコンキスタ……元ブリミル司教オリヴァー・クロムウェルを首魁とした軍事クーデターだ。

お恥ずかしいが、既に北方とロサイスは墜ちた。今はダータルネスを防衛線として小競り合いの最中だね」

 

 今、大事な事をサラッと言ったよね?

 

「元と言われましたが……オリヴァー・クロムウェルはブリミル教より破門されたと思って宜しいのですか?」

 

 ウェールズ皇太子は、ニヤリとして「ロマリアのヴットーリオ殿とは話をつけた。彼は異端として扱われる」優秀だし、行動も早いな。

 

 これは介入しなくても、大丈夫かな?

 

「それは……問題は解決したも同然ですよね。何故、私に相談など?」

 

 ウェールズ皇太子は目を瞑って黙ったままだ……

 

「オリヴァー・クロムウェルは美乳派閥として我らを取り込もうとした。しかし男の浪漫本による、乳を争いに使うな!

大いなる乳の下へ集え。この思想に影響を受け、殆ど裏切り者は出なかった。これは凄い事だよ!

オリヴァー・クロムウェルも焦っただろうね。誰も彼の言う事を聞かなかった。

ヤツの周りには金目当ての連中と傭兵ばかりだ。しかし傭兵は戦闘のプロ、油断は出来ない。しかも二万に届く数を用意してきた」

 

 原作は七万だったけど、今回は二万か……これなら、アンリエッタ姫が率いるトリステインは五千位か?で、勝てるな。

 

「二万ですか……しかし烏合の衆が幾ら集まっても正規軍なら」

 

「その正規軍だが……この度の戦争が、美乳派絡み……つまり、乳を争いに用いてしまったと動揺しているんだ。

この通りだ!ツアイツ殿の志を曲げてもレコンキスタはオッパイ戦争では無いと言っていただきたい……」

 

 言うやいなやウェールズ皇太子が土下座した!

 

「ちょ、何をしているのですか?部下の方々も見てい……」

 

 応接室に入っていた護衛の2人も見事な土下座をしている。この居たたまれない気持ちを何と表現したら良いのだろうか……

 

「頭を上げて下さい。王族たる者、軽々しく頭を下げてはいけません」

 

「私の謝罪一つで、ツアイツ殿の信念を曲げさせる事は出来ないかもしれない。しかし、国の為、国民の為に何卒お願いしたい」

 

 ウェールズ皇太子の覚悟……原作では、誇り高く死ぬ事に酔っていた感じがしたのに。此処までされては、何も言えないか……

 

「頭を上げて下さい。ウェールズ様の覚悟は分かりました。微力ながら、全面協力させて頂きます。お付きの方々も……」

 

 しかし、ハルケギニアに土下座文化が有ったのか?

 

「有難う。ツアイツ殿……これで、レコンキスタなど粉砕してみせます!」

 

 しかし、僕の広めたオッパイが予想を超えた影響力を持ってしまった。

 

「ウェールズ様、それでは詳細をもう一度教えて下さい。王党派は、常備軍が居る筈です。彼らはどうなのですか?」

 

「竜騎士団は風竜・火竜合わせて百人は居る。歩兵隊は王都及び周辺警護で三千人だ。

彼らの忠誠は確かだが、全てを戦いに投じられない……問題は諸侯軍なんだ。参戦すれども士気が低い」

 

 王族直轄部隊は思想も忠誠心で抑え付けられるが、諸侯軍……つまりロングビルさんがレコンキスタの取込工作を邪魔した連中の事か。

 すると原因は、どうみても僕だね……

 

「実は昨日、レコンキスタから刺客が来まして撃退したばかりなのです」

 

 当初の計画をそのまま進める事は不可能となった。ならば、修正するのみ!ツアイツの謀は覚醒したウェールズに通用するのか?

 

 

 

 

 



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第123話から第125話

第123話

 

 

 土下座をしてまで、国の為に動くウェールズ皇太子……

 

 流石のツアイツもアンリエッタ姫を押し付けるから平気とは言えなかった。

 しかも、自分がレコンキスタに取り込まれない様に、オッパイ思想を植え付けた連中が参戦に消極的だ。

 

 これは……乳を争いの道具にするな!大いなる乳の下に集え!と教えた事を忠実に守っている彼らに落ち度は無い……

 

「実は昨日、レコンキスタから刺客が来まして撃退したばかりなのです」

 

 唐突に話題を振る。

 

「何と!既に奴らの魔の手がツアイツ殿にまで……」

 

「彼らから言質は取っています。僕の首には賞金一万エキューだそうです。主犯は白炎のメンヌヴィル……それと傭兵12人程。

メンヌヴィルは手加減出来ず倒してしまいしたが、傭兵は全員治療し確保してあるので、お渡しします」

 

 ウェールズ皇太子は、何故か僕を尊敬の眼差しで見てるけど?

 

「白炎のメンヌヴィルは私も聞き及ぶ程の狂人傭兵じゃないですか!それを撃退出来るとは、ツアイツ殿は武力も一流なのですな!」

 

 周りが規格外な連中ばかりだから、イマイチ武力が一流とか言われても……

 

「我が師、烈風のカリン様に比べたら……大した事では有りませんよ」

 

 余計に驚いてる?

 

「あの伝説の環境破壊騎士の弟子ですと?噂では、ブレイドで軍艦をブッタ切るとか、城塞をカッタートルネードで粉砕するとか……」

 

 もう何でも有りだ、あの人……

 

「若い時の武勇伝は聞いていましたが……嘘じゃないのですね」

 

「「「……………」」」

 

「それで、彼らを引き渡すので、其方で公表して下さい。そして僕は重傷を負ったと……」

 

「それは、どういう意味が有るのかな?無事なツアイツ殿を見せた方が、士気が高まるのではないかな?」

 

「僕はレコンキスタからの刺客で傷を負った。会報には、その様に書きます。つまりは、休載のお知らせですね」

 

 ウェールズ皇太子のお付きの2人が、机を叩いて騒ぎ出した!

 

「男の浪漫本ファンクラブの会報は皆が楽しみにしてるのですよ!それを休載などと……」

 

「嬉しいですね。そこまで言われると。そして、その怒りの感情はレコンキスタに向かいますね。

これが伏線のその1」

 

 大人しく座るお付きの2人……

 

「時を同じくして、傭兵達を捉えた王党派から発表が有る。僕を襲撃した連中を捕らえたと……

証拠は此方で揃えます。オリヴァー・クロムウェルからの指示書等を」

 

 これらはメンヌヴィルさんと交渉すれば、本物が手に入る筈だ。条件は、目の治療とアカデミーで受けた薬の治療……

 シェフィールドさんに、カトレア様達の治療の実験台と偽って治して貰おう。

 

「確かな証拠を押さえて、王党派がこれを裁くのが伏線その2」

 

 ウェールズ皇太子が膝を叩いて納得顔で頷いた。

 

「なる程!巨乳派教祖のツアイツ殿を襲ったのはレコンキスタ。お陰で会報は休載。

その犯人は王党派が捕まえて裁いた……一連の流れを見れば、恨みは全てレコンキスタ。

そして実行犯を裁いたのは王党派。しかも指示したクロムウェルと敵対してるのも王党派……」

 

「敵討ち……とまでは行きませんが、悪者は全て向こう」

 

 うんうんと頷いている。

 

「暫くして、傷の癒えた僕が、待ち望んだ会報を再開し、そこで……

今回のレコンキスタの襲撃について、彼らは乳に信念を持っておらず武力のみで自分の欲望を満たそうと動いている。

彼らに乳のチの字も言わせる事は許さない。僕は、レコンキスタの存在を許さない!

同志達よ、立ち上がり偽りの美乳派と戦おう!と、コメントしたら……」

 

 黙り込む三人……

 

「レコンキスタに同情しますね……我々の士気は高まるでしょう。大義名分が全て此方に有る訳ですから。しかし、何故暫く空けるのですか?」

 

 ごめんなさい。ウェールズ様……この空白の期間で、アンリエッタ姫を焚き付けるから時間が欲しいのです。

 

「……情報が広まるには、時間が掛かります。

皆が与えられた情報を理解して行動に移るには、それなりの時間が必要だと思いますよ。作戦を確実に遂行する為にも……

それに、こちらからも僅かですが、増援(アンリエッタ姫御一行)を送れるかもしれません。

最悪、私がウェールズ様の下に赴き、レコンキスタに対して皆さんに話をしても構いませんから」

 

 ウェールズ皇太子は、僕の両手をがっちり掴んで振り回すと

 

「これで、これなら我がアルビオンは平和を取り戻せます!此処まで協力して貰ったからには、どんなお礼でも言ってくれれば何とかしますよ」

 

 お付きの2人も男泣きしだしたし……

 

「全てはウェールズ様の覚悟に心酔しただけです。国民の為に王族が土下座迄できるなど、未だに信じられません。貴方は王族として素晴らしいお方です!

レコンキスタを倒した暁には、アルビオン全土の乳を守った英雄として是非、男の浪漫本ファンクラブの上級会員として、ご希望のマントを贈らせて頂きたいのです」

 

 拍手をするお付きの2人……ウェールズ皇太子は固まってしまった。

 

「私……私が……もう無理と……諦めていた、上級会員になれる……そんな事が、現実となる……こんなに嬉しい事は無い……」

 

 涙を一筋流しながら、呆然と佇むウェールズ皇太子。物凄い罪悪感を感じた!

 アンリエッタ姫を押し付けるので、せめて上級会員にして、好みのマントを贈ろうと思ったのだけど……

 

「ツアイツ殿……いえ、心の友と呼ばせて欲しい!

レコンキスタを倒し、アルビオンを安定させたら国賓として新生アルビオンに招待したい。

有難う、心の友よ。これでアルビオンの未来は明るい!必ずお礼はする、必ずだ!」

 

「ははははは……楽しみにしています。

では、今夜はささやかですが宴を用意させてますので楽しんでいって下さい。ウェールズ様に会わせたい女性が居ますので……」

 

「まっ、まさか、女神殿ですか?」

 

 テファの情報は、計画通りに流れている。ここで、ウェールズ皇太子に会わせ何事もなかった実績を作れれば、後々有利になる筈だ。

 

「ご存知でしたか……私の婚約者ですが、少し訳ありなんです。しかし、ウェールズ様の購買リストではダントツ一位ですから是非、紹介したいのです」

 

 微笑みながら、貴方達の購買リストは把握済み。どんな性癖や好みか等は全て知っているんですよ!と裏に含ませたつもりだったのだが……

 

「嗚呼……まさか上級会員だけでなく、テファたんの実物に会えるなんて……父上に自慢できるぞ!ついにテファたんの下着の着替えシリーズも……」

 

 慌てて、お付きの方がウェールズ皇太子の口を押さえて、トリップしている彼を正気に戻そうと肩を掴み揺すっている。

 

 そうか……このイケメン皇太子も、ちゃんと我々と同じ変態だったか!安心した、それなら友人になれるだろう。

 

 なる程、心の友……ソウル・フレンド?ガリア関連は、ソウル・ブラザー。

 

 僕の兄弟と友達は何処まで広がって行くのだろう……友達百人できるかな?は超えた筈だね!

 

 

 

第124話

 

 ウェールズ皇太子……

 

 原作とは随分違う、国を守る為なら泥を被れる覚悟を持った男だった。まさか、土下座をするとは!

 他の誰かに見られたら、問答無用で僕の首が飛んだよね?

 でもアレは、そんな脅しを含んでいない純粋な物だった……だから僕もできるだけの事をする。

 

 最悪、アルビオン王党派の前に出て話をするのも仕方ないだろう。

 あの覚悟に応えねばならないし、謝罪の意味も有る。

 アンリエッタ姫には勿体ない人物だが、逆を言えばあれ位の人物でなければアンリエッタ姫の暴走を受け止められないだろう。

 原作みたいに、ウチの閣下との婚姻同盟が、まかり間違って成立したら……彼女の対応は、僕が担当になりそうだから怖い。

 今、ウェールズ皇太子御一行は、宴までの少しの間休んで貰っている。

 

 僕にはやる事が出来た……

 

 幸せワルド計画の準備をしている、ロングビルさん達の部屋に向かう。

 

「ワルド殿、申し訳ないが出発は少し待って下さい。シェフィールドさんと合流する迄……少しやる事ができました」

 

 荷造りをしている彼らに声を掛ける。

 

「ツアイツ、どうしたんだい?アレかい、ウェールズが無理難題を言ってきたのかい?」

 

 ロングビルさんはアルビオン王家に隔意が有るから、言葉に棘が有るよね。

 

「計画を微調整します。王党派の動きに、予想を上回る手際の良さが有り我々も対応を変えます」

 

 皆、真剣な顔で集まってきたので、備え付けのテーブルについて話を始める。

 

「ウェールズ皇太子が、僕に協力を要請しにきた。ジェームズ一世が、ウチの閣下に親書を送り許可も出ているから……僕に拒否権は無い」

 

 ロングビルさんは、まだムッとしている……

 

「あのジジイ、搦め手できやがったか」

 

「手順を踏んだだけだよ。それにウェールズ皇太子は国の為、国民の為にと、僕に土下座までして頼み込んだんだ。僕も彼の覚悟に敬意を表して全面協力するつもり」

 

 皆、驚いたようだ!

 

「それは……凄い事ですな。しかし、周りが黙っていないでしょう。王族にそんな事をさせては!」

 

「お付きの2人も土下座してくれてね。焦ったよ、本当に……」

 

 あの時の事を思い出して、苦笑いをする。ロングビルさんは……鳩が豆をくらったような顔だ……

 

「ふっふん!まぁまぁな対応じゃないか……あのボンボンがねぇ」

 

 少しだけ、ウェールズ皇太子の評価を上方修正したのかな?

 

「それで、修正の作戦は……」

 

 先程、ウェールズ皇太子達と話した内容を伝える。

 

「私、聞いてませんよ!襲撃を受けて犯人を軟禁中だなんて!」

 

「そうです。そんな不埒者は処分しましょう」

 

 口々に傭兵の始末を申し出るが……

 

「彼らは王党派に裁いてもらうよ。まぁ、公開処刑だね。可哀想とは思うけど、返り討ちも覚悟の暗殺だろうし……」

 

 なっ、何だ!室温が急に氷点下に感じるのは……思わず身震いすると、首に柔らかな腕が回され、良い匂いが鼻腔をくすぐる。

 

 シェフィールドさん?

 

「ツアイツ、ただいま。大変だったのね?それで、大切な弟を襲った奴らは何処かしら?お姉ちゃんに教えて、ね?」

 

 声は優しい……でも背筋を伝う冷たい汗は何なのだろう?シェフィールドさんの腕を掴んで、そっと拘束を解く。

 

「お帰りなさい。お姉ちゃん。でもあいつ等は生贄として王党派に引き渡すから、駄目ですよ」

 

 凄い慈愛の籠もった目で僕を見てからギュッとその豊満な胸に僕をかき抱く。

 

「あらあら……ツアイツの悪巧みを教えて貰おうかしら?

じゃないと、お姉ちゃん、レコンキスタを潰しに逝きたくてしょうがないのよ。こ・れ・か・ら・す・ぐ・に……」

 

 ふがふがとオッパイを堪能できたから嬉しいんだけど、シェフィールドさんには二万程度の傭兵って無双できる範囲なんだ……

 

 なんてバグキャラ!

 

「お姉ちゃん、実は……」

 

 先程修正した案をシェフィールドさんに説明する。周りを見れば、ワルド殿とロングビルさんは居なかった……

 遍在殿だけが、大人しく座って居るなんて。僕を置いて逃げるなんて、酷くない?

 

「ちょっと、お願いしたい事が有るんだ。メンヌヴィルさん……

トリステインのアカデミーで新薬だか何かの実験台にされたらしく、容姿が酷く変わってしまってね。

できれば、カトレアさん達を治す前に、彼女で治療の練習をして欲しいんだけど……」

 

 騙されないかな?安っぽい偽善だけど……じっと僕を見詰める。

 

「ツアイツ……甘いわよ。メンヌヴィルは私でも知っている狂人。

助けたとしても、貴方に敵対しないとは限らないわ……でも、どうしても治したいなら、お姉ちゃんに任せて」

 

「うん。どうしても何とかしたいんだ……」

 

 完全な我が儘だけどね。

 

「ワルドは居るの?指輪のコピーを作らせましょう」

 

 逃げていたワルドを捕獲し遍在で指輪のコピーを作らせる。完全なコピーは、軽く虚無ったワルド殿でも大変だったらしい。

 蓄えた漢力の殆どを注ぎ込んで漸く遍在を作る!これで準備は整った。

 

 後は軟禁中のメンヌヴィルさんとの交渉だ!

 

 建前でなく、この実験で指輪を使用する問題を先に調べる事ができるだろう。

 シェフィールドさんとワルドズに僕で地下に軟禁しているメンヌヴィルさんの所に向かう……ウチにもこんな地下に牢屋なんて有ったのか!

 薄暗い石の階段を降りていく……地下に降り立ち、一番手前の部屋を覗く。簀巻きにされた傭兵が転がされている。

 隣を覗いても同じだ。4人づつ放り込んである。静かなのは、治療の後にスリープの魔法をかけているからだ。

 

 一番奥の部屋を覗くと、メンヌヴィルさんが拘束されながらもベッドに腰掛けていた。彼女にも、同様の処置がしてある筈だけど……

 

「その熱は貴族の坊ちゃんか?何だ、俺を生かしておくとは……それとも公開処刑かぁ?」

 

 随分と楽しそうだ!

 

「ドア越しで話すのも何だから、入っていいかな?」

 

「おいおい。俺は拘束されてるんだぜ!襲ったりはしないぜぇ」

 

 ガチャガチャと両手両足を拘束している金具を揺らしながらアピールする。

 

「いや、女性の部屋に入るからには許可を貰わないと」

 

 あっ……固まった!悪戯は成功かな?

 

 

 

第125話

 

 

 薄暗い地下の牢屋でメンヌヴィルさんと向かい合う。彼女は拘束されベッドに座っている。

 僕は両側にワルド殿とシェフィールドさんを配して対峙している。

 

「坊ちゃんの両脇の奴らは護衛かい?随分臆病じゃないか?」

 

 ムキムキの女性が、顔を赤らめながら悪態をつくのは可愛いものだ。

 

「護衛?違うよ、家族だよ。それとメンヌヴィルさんで実験したいんだ」

 

 実験って言葉を聞いて雰囲気が変わる。

 

「また俺の体で良いように遊ぶのか?畜生がぁ!」

 

 やはりトラウマなんだ……

 

「そう、実験だ。貴女の症状は水の秘薬の副作用……どんな薬か知らないけれど?

僕は義姉の病気を治したい。だから貴女で治療の実験をするんだ。恨んでくれても構わない」

 

「…………?治すだぁ?何を言ってやがる。俺だって散々やってみたが無理だったんだぞ!そんな簡単に……」

 

 メンヌヴィルさんの言葉を遮ってシェフィールドさんに話し掛ける。

 

「お姉ちゃん。お願い……」

 

「あらあら甘いわねぇ……女、動くとどうなってもしらないわよ?」

 

 抵抗しようとした、メンヌヴィルさんもシェフィールドさんの迫力に負けてか大人しくなった。

 いよいよ神の頭脳ミョズニトニルンたるシェフィールドさんの真骨頂が見れる……

 コピーしたアンドバリの指輪と水の指輪を左右の人差し指に嵌める。

 深呼吸して、メンヌヴィルさんの頭を挟み込むように掌を当てて目を閉じる。

 集中力を高めているのか、うっすらと額に汗が浮いてきた。

 

 メンヌヴィルさんは……苦痛なのか、歯を食いしばっている。

 

 長い……五分位か?その時、シェフィールドさんの填めている2つの指輪が鈍い光を発し始めた……

 

「ぐっぐががががっ……」

 

 小刻みに揺れながら苦痛に耐えている。余りに激痛だと、オルレアン夫人やカトレア様の治療は無理か?一際光が強くなり、コピー指輪が砕け散った!

 

「ふぅ……成功ね。アカデミーの秘薬とは、筋肉強化等の肉体のポテンシャルを高める薬みたい。

でも素の肉体が、そんな強化に耐えられないから……耐えられる肉体に変化したのね……」

 

「お姉ちゃん、有難う。でも随分痛がってた」

 

 ベッドに倒れ込んだメンヌヴィルさんを見る。そこには、普通の30代の女性が居た。若い頃は綺麗だったろう面影が伺える。

 多分、下級貴族のお嬢さんだったのだろうか……

 

「お姉ちゃんは大丈夫?」

 

 肩で息をしているシェフィールドさんを見て心配になり声を掛ける。

 

「平気よ……でもコツは掴んだかしら。次は痛みも少しは抑えられるわ。彼女は肉体的変化が大きかったから痛みも強かったのよ」

 

「メンヌヴィルさん。気分はどう?」

 

 だいぶ落ち着いた彼女に声を掛ける。

 

「何だって、あんな拷問をするんだぁ?やっぱり貴族の坊ちゃんだな。そんなに若い癖になん…で…?目が、目が見えるぞ?」

 

 はっとして、自分の両手を見ている。さっき迄のムキムキの手ではない、華奢な手を……両手で顔や肩、足等を触りまくり確認している。

 

「かっ鏡、鏡はないか?」

 

 どうしても確認したい事。それは顔なんだね。僕は鏡を錬金して彼女に渡した……

 

「これが、俺……見る影も無く中年のくたびれた顔だ……でも、記憶にしか残っていない本当の私の顔の面影が有るんだ……これが本当の私か」

 

 薬で失われた年数は戻らない。でも、仮初めの体よりはマシな筈だと思いたい。

 

「貴女で実験した事は謝りませんよ。それと傭兵、白炎のメンヌヴィルはレコンキスタに雇われて僕を襲い……そして返り討ちにあった。そうさせて貰います」

 

「くっくっく……あーっはっはー!甘いぜ小僧。だが、俺の過去を消してくれて何をさせたいんだよ」

 

 少し吹っ切れたのか、言葉は粗いが口調は少しだけ優しい?

 

「仮初めの姿の貴女が受けた暗殺の証拠が欲しい。後は、ご自由に……」

 

 メンヌヴィルさんはポカンとした顔をした、多分だがレアだろう。

 

「それだけかよ?野に放てば、アンタを付け狙うかもしれないぜ!」

 

 んー精一杯の強がり?TSメンヌヴィルさんも結構可愛いね。年上だのに失礼な事を考えてしまった。

 

「僕に必要なのはそれだけです。証拠と引き換えに金銭を要求するなら応じます」

 

 開いた口が塞がってない……

 

「狂人メンヌヴィルに随分な台詞じゃないかい?」

 

「傭兵メンヌヴィルは僕が殺したんです。貴女は……何と呼べば良いんですか?」

 

「……好意に甘えるぜ。証拠はアジトを教えるから捜索しな。そこに全てが有る……」

 

 そう言ってベッドに横になってしまった。

 

「体を休めて下さい。回復したら解放します」

 

 それだけを言って、シェフィールドさんを促し外に出る。

 

「坊ちゃん、俺に名前付けてくれよ。そうしたら雇われてやっても良い。回復したら、復讐したい奴も居るから……それが果たせたらだけどよ」

 

「アカデミー評議会議長ゴンドランですか?」

 

「そうか……今はそんなお偉いさんかよ。有難うよ、坊ちゃん」

 

 そのまま布団を被ってしまった。拘束具も縮んだメンヌヴィルさんでは、すっぽ抜けたようだ……もう逃げもしないだろう。

 

「良い名前を考えておきますよ。後で食事を運ばせますから」

 

 そう言って部屋から出る事にした。外に出ると、何やら手帳にメモをしているワルド殿が……随分大人しかったけど、何をメモしてるのかな?

 

「ワルド殿、何を?」

 

「流石はツアイツ殿!あの狂人をも口説くとは、参考になります!これが、私に足りない物なのですね。

難しい……これを本当にマスターしなければ、ジョゼット殿との薔薇色のニャンニャンは……」

 

 薄暗い廊下で妄想タイムに突入したワルド殿を置いて、シェフィールドさんと自室に戻る事にする。

 

「これから、アルビオンのウェールズ皇太子を招いた宴が有るのですが、シェフィールドさんって彼と面識有るのかな?」

 

「…………?アルビオンでは、流石に私も知られてないと思いますけど……何故ですか?」

 

 なら大丈夫かな?

 

「では、シェフィールドさんも宴に参加して下さい。テファも出ますし、折角ですから楽しみましょう!」

 

 これから大変だから、今夜位は良いよね!

 



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第126話から第128話

第126話

 

 

 ハーナウ家の使用人達は大忙しだ!仮にも一国の皇太子が、非公式とは言え急に訪問しているのだから……

 そして歓迎の宴を催すともなれば、総出で掛かりっきりです。

 

 バタバタと支度をする使用人達を申し訳なさそうに見送る……

 

 トリステインのアカデミー評議会議長ゴンドラン……原作でも元素の兄弟を雇いサイトを暗殺しようとした奴だ。

 やはり若い頃から、悪どい事をしてたのか?エレオノール様をこんな奴の近くに置いておいて平気か?

 

 心配だな。

 

 しかもこの世界では、レコンキスタから金を貰っている。何故分かったのか?

 それは、買収リストをシェフィールドさんが貰ってきたから……証拠も一緒に。

 

 しかし、このリスト……

 

 リッシュモンやゴンドランなど、トリステイン王国の要職に居る連中の多い事。あっチェレンヌも居た。

 レコンキスタが台頭すれば、何れ国が滅ぶのを理解出来ないのかな彼らは?

 これはヴァリエール公爵辺りが国政に参加しないと、本気でヤバいかも……

 あの夫の喪に服すだけの気力の無いマリアンヌ様と、色に走る暴走特急アンリエッタ姫だと、ロマリア辺りにコロッと騙されかねないぞ。

 アンリエッタ姫をウェールズ皇太子に押し付けてアルビオンに嫁がせたらトリステインの安定に力を入れないと駄目かな?

 これは、ヴァリエール公爵とド・モンモランシ伯爵と相談する必要が有るね。

 

 先に、このリストと証拠は渡しておこう。

 

 奥様の実家とその国が、どうにかなっちゃったら嫌だからな……等と思考に耽っていたら、ドアを叩く音で現実に引き戻された。

 

「ツアイツ様……ティファニア様とシェフィールド様のお召し替えが終わりました。お二方がお待ちしております」

 

 ルーツィアが、呼びに来てくれた。

 

「有難う。今行くよ」

 

 トリステインの行く末は、義父さん達に任せれば良いや。必要な資料は渡すから、後はお願いしますね。

 ルーツィアに伴われて、ウェイティングルームへ向かう。ドアの外にエーファが控えていて直ぐに部屋の中へ通された。

 

「失礼するよ。着替えを終えたと聞いたから……」

 

 其処には、純白をベースに金糸で刺繍を施したプリンセスバージョンのドレスを着たテファ。

 漆黒をベースに紅の糸で刺繍とレースをふんだんに使い、ボディラインを強調したタイトなドレスを着こなすシェフィールドさんが居た。

 装飾品はテファはダイヤモンド、シェフィールドさんはルビーを基本としている。

 

「2人とも見違えたよ!元が美人だけど更に美しい貴婦人姿だね」

 

 テファは真っ赤になって俯いてしまったが、シェフィールドさんは妖艶に微笑んだ。一瞬、クラッときた……

 

 着替えを手伝ったソフィアとシエスタも、呆然と見詰めている……流石は王妃として自己鍛錬してるだけの事は有る。

 そこら辺の貴婦人では、束になっても太刀打ち出来ないだろう。ジョゼフ王も彼女はヤンデレさんだけど、お買い得だよね!

 今回の宴に出席する前に、最初にテファに言っておく事が有った。

 

「テファ、落ち着いて聞いて欲しい。今日のお客様はウェールズ皇太子だよ。

色々含む物も有ると思うけど、我慢して欲しいんだ。彼はテファの事を知らないから……」

 

 彼女はあっさりと「旦那様が、おもてなしする方なら私は大丈夫ですよ」そう可憐に笑ってくれた!

 

 その後は、2人を誉め捲った……

 

「ツアイツ様、宴の準備が整いました」

 

 ナディーネが呼びに来てくれたので、先に会場入りをする。本日の主役を待たせる訳にはいかないから……

 宴の最初は、貴族的礼節に則った堅苦しい挨拶だ。しかし、ウェールズ皇太子御一行は驚いただろう。

 テファとシェフィールドさんを紹介した時も凄かったが……ゴスロリファッションをキメた母上の時が一番驚いていた!

 

「母上?失礼ながら後妻ですか?えっ実母?はははっ……

ハーナウ領は人外魔境ですね。女神様が三人も居るとは……是非、我が国に招待させて頂きたい」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 宴の間の休憩として、宛がわれた部屋で寛ぐ。巨乳派教祖ツアイツ殿か……気持ちの良い若者だった。

 私の誠意を受け止めて、信念を曲げて迄……いや、謀略で曲げずにか。

 

 レコンキスタに引導を渡すとは、中々の策士だ。

 

 しかも王党派の士気を高める為なら、戦時中の我が国に来ても構わないとまで言ってくれた。まだ僕よりも若いのに、なんて胆力だ!

 これが、オッパイ最大教派を率いる漢と言う訳だな。なる程、勉強になる。彼が最大限協力してくれれば、我らの勝利は確実。

 

 後は……

 

 大変気になる事が有る。ツアイツ殿はアンリエッタ姫と交友が有る。彼女からの手紙でも分かる依存度だ!

 

 その……

 

 ツアイツ殿は、アンリエッタ姫から僕達の事を頼まれている気がしてならないんだ。

 有る事無い事、吹き込まれて勘違いをしていたら一大事だよ。

 

 レコンキスタを倒せたら……

 

 アルビオン貴族の取り込み防止、兵の激励、私の上級会員昇格と恩は計り知れない。

 その彼に仲を取り持たれたら、私はアンリエッタ姫を拒絶出来るのか?

 

 無理だ……

 

 でも、彼女の雰囲気は危険な香りがする。覚醒した漢の本能が、アレは地雷だニゲロと言っている。

 しかし、ツアイツ殿の顔を潰す事など出来ないのだ。そんな負のスパイラル思考を止めてくれたのは、1人のメイドだった。

 

「ウェールズ様、宴の準備が整いました。皆様、会場でお待ちしております」

 

「有難う。では、会場に行こうk」

 

 思わず、案内の彼女を見詰めてしまう。なっナディーネたんじゃないか!

 

「ナディーネたん……か?」

 

「はい。私はナディーネですが……何故、私などの名前を?」

 

 何てこったい!テファたんだけでなく、メイドシリーズの彼女に会えるなんて……

 

「嗚呼……ツアイツ殿に知り合えてなんて幸せなんだ。レコンキスタ……今なら大いなる慈悲の心で、この言葉を贈る。

有難う、そしてサヨウナラ!」

 

「あっあの?何か不手際でも……」

 

 しまった!ナディーネたんが怯えているではないか。

 

「いや、何でもないんだ。さぁ会場まで案内して欲しい」

 

「…………こちらへ」

 

 ここは、パラダイスか!この後、テファたんに会ってしまったら……萌え!そう、萌え死んでしまうかも知れない。

 ウェールズの頭の中では、既にレコンキスタは亡き者となり、ツアイツのフィギュアシリーズのモデル達の事しか考えてなかった……

 

 素晴らしきかな、オッパイ屋敷なり!

 

 

 

第127話

 

 

 最初はロマリアの教皇ヴィットーリオ殿に対して、不退転の気持ちでレコンキスタについて問い質す覚悟でいた。

 次は巨乳派教祖ツアイツ殿に、信念を曲げてでもレコンキスタを倒す為に協力を願いでた。

 

 そして……

 

 今、ハーナウ家の宴に呼ばれ女神様と対峙している。彼女は、私の理想。

 そして心の友であるツアイツ殿の婚約者……だが、敢えて聞かねばならない事が有る。

 例え討ち死にしてでも確認しなければ、漢が廃るし生涯後悔せねばなるまい。

 

「てっテファたん、いえテファ殿のバストはご立派ですね。流石は巨乳派教祖ツアイツ殿の婚約者。して、さっサイズは幾つですかな?」

 

 先に断っておくが、私は壊れた訳では無い。一国の皇太子が、婚約者の居るレディのバストサイズを聞くなんて!

 と、思うかもしれないが、この疑問を解決しないと夜も眠れないから……彼女は胸をかき抱いて真っ赤になり、下を向いてしまった。

 

「教えられません!」

 

 何て可憐な女神様だ!しかし、ツアイツ殿が近くまで来て耳打ちしてくれた!

 

「ウェールズ様、それは秘密です。でも今回は、特別にお教えしましょう!ゴニョゴニョ(Iカップの99ですよ)」

 

「何だってー!」

 

 人類の至宝が居た……

 

「有り難や、有り難や」

 

 思わず、双子山ご本尊を拝んでしまう。私も、お淑やかで巨乳美人を娶りたいのだ!

 

 アンリエッタ姫ではないのだよ、ツアイツ殿。

 

 彼の専属メイド達。ナディーネたん。ルーツァアたん。エーファたん。シエスタたん。そしてソフィアたん……

 

 私はこの屋敷から帰りたくないのが本心だった。しかし国には、私の帰りを待つ年老いた父と家臣達が居る。

 

 断腸の想いで、夢の屋敷を後にした!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 やっとウェールズ皇太子御一行が、アルビオンに向けて旅立った!

 彼も一流の変態になれる素質を持っている。これから精進有るのみですよ、心の友よ!

 

 隣で見送るテファは……

 

「旦那様、まだ見せても触らせてもいませんのに……何で正確な数値を知っているの?何でウェールズ様に教えてしまったの?」

 

 と呟いていましたが、これもハーフエルフで有る彼女の素性がバレても、ウェールズ皇太子は味方してくれるだろう……

 さて、僕はこれから重傷を負って絶対安静だ!会報により、ハルケギニア全土に知れ渡るだろう……

 どれだけの影響が出るか分からない。蓋を開ければ大した事も無いかもしれない。しかし、内緒にしておくと大変な人達が居る。

 出来るだけ情報を漏らしたく無いけど……彼女らが、暴走すると怖いから手紙を送ります。

 

 勿論それは……

 

 1位ヴァリエール一家

 

 2位ツェルプストー一家

 

 3位ド・モンモランシ一家

 

 4位アルブレヒト閣下

 

 5位アンアン……しかし、アンアンは情報が漏れそうだから教えない。

 教えない事で、大変な事になりそうな予感がビンビンだけど……作戦その物が、失敗する確率が高いから教えない。

 この判断が間違っていない事を祈る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ダータルネス特設指揮所……

 

「陛下、参戦した貴族達が周辺住民を避難させる様に嘆願してきたそうですが……」

 

 参謀の1人が、申し訳無さそうに聞いてきた。

 

「そうだな……今までからは、考えられない事だ。

貴族とは戦いにおいて、花形たる攻撃部隊の配属を願うものだ。まさか平民の避難誘導と護衛をしたがるとは、な」

 

「陛下が許可なされた事により、参戦した貴族の三割近くが其方に割かれます。これはダータルネスの防衛に穴があきますれば……」

 

 今、王党派に向ける平民の支持は絶大になりつつある……戦火に巻き込まれた筈の彼らを、今までは何も救済しなかった彼らを……

 王党派は、率先して守っているのだ。

 

 民意とは、国を動かすには大切なファクターだ!

 

 折角あがった人気を落とす事はないだろう。

 しかし兵員を割くのは、このダータルネスが攻められた時に守り切れず、思わぬ痛手を受けるかもしれない。

 

「参謀長……ダータルネスを放棄して、サウスゴータに最終防衛線を敷くぞ。平民の誘導を優先してやってくれ」

 

「陛下……宜しいのですか?」

 

「構わん。ウェールズが、ツアイツ殿と交渉している。その結果を待とうではないか。

それに、民意は圧倒的に我らに向いている。今更、それを放棄するのは下策よ」

 

「畏まりました。では、最低限の防衛部隊を選出します。彼らは時間稼ぎをして貰い時期を見て撤退させます。

それと、レコンキスタに使用されぬ様に軍事・港湾施設の破壊許可を頂きたい。防衛部隊には私が残ります」

 

 参謀長は何か吹っ切れた様な感じだ。

 

「すまぬ……レコンキスタに良い様にやられてしまうな」

 

「陛下……この戦は歴史に残ります。極力国民を戦火に晒されぬ戦いをしている我ら王党派とは……ハルケギニアの常識を覆しています。

この戦に勝てれば、新しい試みをした参謀長として私の名前は残ります。だから、気になさらないで下さい」

 

 こやつに気を使われるとは、ワシもまだまだか!

 

「よかろう!参謀長に、防衛部隊の全権を与える。撤退用の空中船を残す。無理をするなよ?反抗作戦の参謀長もそなたなのだ!」

 

 見事な敬礼をする参謀長……

 

「残りの皆は、撤退準備だ!急げよ、敵は待ってはくれないぞ」

 

 ふっ……これで負ければ、ワシは最後まで弱腰の王と嘲られるだろう。ウェールズよ。早く吉報を届けぬか……

 

 

 しかし、その頃のウェールズ皇太子は、テファたんの胸のサイズを知ろうとして、己と戦っていた。

 

 親の心、子知らず……

 

 しかし後に彼のもたらした有る女神のバストサイズは、アルビオン王家の公的文書として後世に残したそうだ。

 そして待望のウェールズ皇太子が前線基地に到着する。早速、ジェームズ一世に報告。

 ジェームズ一世は、ツアイツに協力を取り付けた件を喜んだ。

 

 しかし、テファのバストサイズの報告と、フィギュアメイドズに会った!と、息子から聞いた時は悔し涙を流したそうだ。

 

 しかも、レコンキスタ殲滅の暁にはウェールズが、上級会員になれると聞き及んだ時点で……ジェームズ一世は、ブチキレタ!

 

「そこまで貴様が優遇されるなら、ワシはもう要らんだろう!」

 

 レコンキスタ討伐の全権をウェールズに譲り王都ロンディニウムのハヴィランド宮殿に帰って行った。

 

 後に侍従のバリーがジェームズ王の様子を伝えた。

 

「王は、それまで精力的に行動なされてましたが、一気に10歳はお年を召された感じがしました。立ち去るその背中は、煤けて見えました」

 

 ジェームズ一世、レコンキスタとの戦いをここでリタイアする。

 

 

 

第128話

 

 

 男の浪漫本・ファンクラブ 会報休載のお知らせ!

 

 

 作者急病の為、今回号より無期限の休載となります。平素より、会報をご愛読有難う御座います。

 作者である、ツアイツ・フォン・ハーナウ氏が、レコンキスタを名乗る傭兵団に襲撃されました。

 賊の主犯たる、白炎のメンヌヴィルは撃退したものの、傭兵12人は未だ逃亡中で有ります。

 ツアイツ氏は重体で有り現在、帝政ゲルマニア・ハーナウ領の実家にて治療を行っておりますが、予断を許さぬ状況で有ります。

 誠に遺憾では有りますが、ツアイツ氏の回復まで会報は無期限休載とさせて頂きます。

 尚、未確認ですがレコンキスタはツアイツ氏の暗殺成功に一万エキューを支払うと言う、情報も有ります。

 男の浪漫本ファンクラブとしても、レコンキスタ首魁オリバー・クロムウェル氏に対して抗議の書簡を送っております。

 この襲撃事件に関連する、諸兄らの情報をお待ちしております。

 

 追伸……

 

 ロマリア連合皇国の教皇ヴィットーリオ様より、男の浪漫本シリーズ・実物大衣装の大量発注が有り、敬虔なブリミル教徒として優先生産を余儀無くされた為、皆様のオーダー品に対して納期の遅れが生じています。

 ご理解・ご協力をお願い致します。

 

 尚、教皇ヴィットーリオ様は「男の娘」なる美少年達201人に対して、衣装をオーダーしております。

 ブリミル教徒の我らとしましても、寄付と言う形で納品を望まれており、ご希望に応える所存で有ります。

 

 

 

 この、最新号の男の浪漫本ファンクラブ会報により、関係各所に波紋が広がっていった!

 

 

 特にツアイツに交流の有る、二人の王女は……

 

 

 

 ガリア王国プチトロア イザベラ執務室。

 

 

 エルザを伴ったカステルモールは、イザベラ姫に面会を求めた。エルザは吸血鬼。日の光に弱い為、面会は日が落ちた夕刻以降だ……

 カステルモールは、イザベラ姫に会う前に楽しみにしていた会報を読んでいた。

 

「なっ何だと!先に帰したワルド殿は、何をしていたんだ」

 

 この情報を知り、直ぐにでもハーナウ領に向かいたいが……先ずはイザベラ姫に面会し、報告しなければならない事が有った。

 

「イザベラ様……お暇を頂きましたが、目的を果たした為にご報告とお願いに参りました!」

 

 イザベラ姫は両目を真っ赤にしている……

 

「カステルモール団長か……先ずは報告を聞こうか」

 

 心此処に在らず……そんな表情だ。

 

「はっ!我が伴侶を見つけ出したので、ご報告に上がりました。彼女は、エルザ。さぁエルザ、ご挨拶しなさい」

 

 カステルモールの隣に控えていたエルザが、ちょこんとお辞儀をする。

 

「エルザだよ。イザベラ姫様、宜しくお願いします。カステルモールお兄ちゃんとは夫婦になったんだ!」

 

 年相応?の可愛らしい挨拶をするエルザ……イザベラ姫は溜め息を付く。

 

「ついに部下から、犯罪者を出してしまったか……お前、ツアイツにどう報告するんだい?」

 

「その件ですが……男の浪漫本ファンクラブの会報をお読みになりましたか?」

 

「ああ……読んだよ」

 

「ならば……」

 

 イザベラ姫は、両手を膝の上で握り締め何かに耐える様にしている。

 

「ツアイツが心配だよ……アイツは、初めて出来た、私の大切な友達なんだ。

アイツだけが、無能王の娘、魔法の苦手な無能姫ってフィルターを通さずに、私を対等に見てくれたんだ。

アイツのお陰で、今の私が有るんだよ。

出来れば直ぐにでも会いに行きたい……容態を確認したいんだよ!……でも、私の立場がそれを許さない」

 

 握り締めた拳に、彼女の涙が落ちる……

 

「イザベラ様……」

 

「カステルモール……この幼女愛好家の性犯罪者め!暫く謹慎を申し付ける。原因で有るツアイツの下に向かい、共に反省してろ」

 

「はっ!不肖カステルモール、ツアイツ殿の下へ向かい共に反省をするつもりで有ります」

 

イザベラ様が、何枚かの書類を投げてよこした!

 

「私の命令書だよ。

サインはしてある……それを持って財務と兵站の担当者に必要な物を請求しな。

それとイザベラ隊を全員付けてやる。あいつ等は、ツアイツに誑かされて私の着替えを覗きやがった!

みんな纏めて謹慎だ。何処に行こうが私は知らないよ」

 

 手に取った書類を見れば、イザベラ姫のサイン入りの命令書だ。

 項目が無記入だが、必要な物を書けば直ぐにでも支給される様になっている。

 

「イザベラ様……」

 

「流石に軍用船は貸せないよ。金を貰って民間船をチャーターしな」

 

 此処まで配慮してくれるなんて……イザベラ姫に深く頭を下げる。

 

「もう行きな……カステルモール、覚えときな。私はレコンキスタが嫌いだよ、分かるな?」

 

 そう言って、執務室から出ていかれた。

 

 あの我が儘で意地悪で、その癖ガリアと言う国を思う気持ちは、誰にも負けない意地っ張りな姫が……こんなに小さく見えるなんて。

 ツアイツ殿、知っていますか?貴方をこんなに心配している女性が、此処に居るのですよ……

 

「カステルモールお兄ちゃん……」

 

 エルザがギュッと手を握り、心配そうに見上げている。

 

「ああ……大丈夫だよ、では行こうかツアイツ殿の下へ」

 

 レコンキスタ首魁、オリバー・クロムウェルか……殺す、貴様は必ず殺すぞ!

 先ずはツアイツ殿の容態を確認し、イザベラ姫に報告をするが……その後で、殺してやる!

 

 気がつけば、イザベラ隊30人が周りを囲んでいた。

 

「「「カステルモール団長!お供しますぜ」」」

 

 彼らは皆、重装備。正に戦争に行く装備だ!

 

「先ずは、ツアイツ殿の容態の確認だ。その後は……俺は、感情のままに行動するぞ!」

 

「「「我らも同じ気持ちですぜ!」」」

 

 ガリアの精鋭達がハーナウ領に向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あの後、自室に向かいベッドに潜り込む。知らない感情だよ。涙が止まらないなんて……

 こんな絶望感と喪失感を味わうなんて……ツアイツ、また迷惑を掛けますがって。こんな迷惑なんて、心が壊れそうだよ。

 

 どう責任を取ってくれるんだよ?もう、アンタの事だけで思考がパンクしそうだ!

 この私に、こんな感情を抱かせるなんて……お願いだから無事でいておくれよ。

 

 レコンキスタ……直接の介入は、お父様に止められているけど……もしツアイツに何か有れば許さない。

 

 アルビオン大陸を壊してでも、お前に責任を取らせてやる!

 

 私からアイツを奪おうとするのなら、覚悟するがいい。

 

 

 

 

 



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第129話から第131話

第129話

 

 トリステイン王国

 

 トリスタニア王宮……ここにも、ツアイツに交友の有る姫が居る。

 

 暴走特急アンリエッタ姫……

 

 イザベラ姫とは真逆の評価を受けている、トリステインの花。

 そして彼女の周りに居るのは、女性ばかりの銃士隊と遍在ワルド隊長。当然、遍在ワルド隊長は何も教えない。

 グリフォン隊の隊員とも、そこまで親しく言葉を交わす事は少ない。

 まして女性が男の浪漫本ファンクラブ会報を読むなど有り得なかった。

 故に、ツアイツのデマな重傷情報は中々伝わらない。

 

 しかし思いもよならい相手から、その情報はもたらされた……トリステインで色を語るならグラモン!

 最も、その後ろに「ボケ」が付く程に色ボケな一族だが、それ故に初級会員が多くいた。

 財政厳しい連中が多く、なかなか中級になれないのだが……

 ちょっとした会談の中で、グラモン元帥が零した一言をアンリエッタ姫は聞き逃さなかった。

 

「アンリエッタ姫が、大変興味をお持ちの演劇ですが、脚本家のツアイツ殿が急病らしいですな……」

 

 ただアンリエッタ姫の興味対象の情報を何気なく言っただけだったのだが……アンリエッタ姫の反応は過剰だった!

 

「なんですって!グラモン元帥、どう言う事なんですか?何故、ミスタ・ツアイツがご病気なのですか?」

 

 多少興味が引ければ良いと思った一言に、過剰に反応されグラモン元帥は困ってしまった。

 しかし会話を振ったのは自分なので続けるしかない……

 

「はぁ……配下の話では、賊に襲われたらしいですな」

 

「賊!その不埒者達は捕まったのですか!誰なんですか?」

 

 矢継ぎ早の質問に思わず及び腰になる。

 

「詳細は不明ですが……今アルビオンで軍事クーデターを起こしている、レコンキスタ関係らしいですな。しかし、主犯格はツアイツ殿が倒したとの事です」

 

 アンリエッタ姫は、呆然と黙り込んでしまった……

 

「そうなんですか……その情報を詳しく集めて下さい。宜しくお願い致しますわ」

 

 そう言って、自室に引き上げてしまわれた。

 

 残された貴族達の憶測は酷い物だったが……純粋にファンクラブ会員は、姫様が懇意にしているツアイツ殿の事を心配している。

 なんとお優しい、姫様なんだ!と思っていた。

 

 しかしレコンキスタに買収されている連中は、アンリエッタ姫がレコンキスタに敵意を持ってしまった!

 

 拙い状況だ!

 

 そして、それを誤魔化す為に、ツアイツの悪い噂を有る事無い事言い触らしてまわった……中には、アンリエッタ姫の興味を引く為の仮病だ!

 ゲルマニアは治安が悪いし賊は虐げている自国民だ!等と色々だ。

 

 まぁこの噂を言っている連中は、ヴァリエール公爵らにチェックされ、反攻作戦の時に粛正されるのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何という事でしょう。ツアイツ様が大変な時に、のほほんとしてしまいましたわ……

 

 許せません!許せませんわ、レコンキスタ……

 

 私の師で有り、恩人たるツアイツ様に手を掛けるなど……もう待てませんわ。

 私の愛の軍団を率いて、アルビオンに乗り込みますわ!ウェールズ様と手に手を取って、敵討ちをします。

 

 思いたったら即行動!

 

 無駄に、決意と覚悟を固めてしまった。

 

「アニエス隊長を呼んで下さい。それと緊急会議を開催しますわ。有力貴族を全て王宮に集めなさい」

 

 見ていて下さい。ツアイツ様の敵は私が必ず取りますから……

 

 

 悪意なき善意の塊……しかしツアイツの作戦を乱すのは、何時もアンリエッタ姫だった。

 

 

 

 

 その頃のオッパイ教祖ツアイツ……

 

 

 

 会報に負傷と発表した後、直ぐに想わぬ数のお見舞い客や見舞品が殺到してしまった。

 本来なら、この空き時間で「幸せワルド計画」を自ら同行して進めるつもりだったが、ひっきりなしに来る見舞い客の対応が大変だ!

 直接会えばバレる可能性も有るので、面会謝絶にしてしまったから更にいけなかった。

 

 ツアイツの症状は相当に悪い!そう周りに思わせる状況を作り出してしまった。ベッドの上で胡座をかいて座りながら頭を抱える。

 

 こんな大騒動になるなんて……

 

 ちょっと騒ぐけど、直ぐに収まると思っていた。嬉しいけど、予想を超えてしまった。

 

 見舞い品も山積み。水の秘薬も山積み。

 

 面会を求める客も列をなしている……これは、直ぐに元気になった!じゃ問題だろうか?

 折角の休みも、厳重に警戒した屋敷の自室に籠もりっきり……唯一の楽しみは、テファや久々にメイドズと居られる時間が多い事だ。

 テファには、良く学院の話や外の世界の事を聞かせている。

 

 メイドズとは、色々だ!

 

 勿論、添い寝も……と、思ったがシェフィールドさんが監視している気がして自粛中だ。

 でも、こんなにノンビリしたのは久し振り……学院に入学する前以来かも知れない。

 

 そうそう!

 

 ワルドズ&ロングビルさんはセント・マルガリタ修道院に向かった。女性とは何たるか!を相当勉強させたので、多分大丈夫だと思いたい……

 ジョゼットが駄目なら、後はケティしか居ないぞ。しかし、ケティはギーシュの為に残してあげたい。

 

 しかし、彼女は……

 

 彼女なら、ワルド殿の地位や容姿で迫れば口説けそうな気も、しないでもない。それは最後の手段だ!頑張れワルド殿!

 などと考えていたら誰か来たようだ……

 

「旦那さま、お昼をお持ちしましたわ」

 

 ワゴンを押しながらテファが部屋に入ってくる。僕のお世話をする事をエーファにお願いしたらしい。

 しかし健康体なのに、食事の世話や体を拭いたりと介護までしてくれる。寝たきり老人扱いだが……

 

「もし誰かに見られたらどうするのですか?怪我人らしく普段からしていないと駄目ですよ」と、ウィンクしながら言われてしまった……

 

 ならばと、着替えや清布で体を拭いてくれる時に、上半身を見せ付けるのは忘れない!

 

「恥ずかしいです、旦那様……」と、萌尽きそうな表情で言われると……ヤバいかもしれません!

 

 などと、病人ライフを満喫していたら、アルビオンで戦況に動きが有ったと報告が来た!

 

 

 レコンキスタにより、ダータルネス墜ちる。王党派は、最終防衛線をサウスゴータに移したそうだ。

 しかし、周辺住民の全てを移動させ、ダータルネス守備隊も死傷者は居なかったし施設も破壊したので、レコンキスタは暫くはダータルネスの復旧に時間が掛かるだろう。

 

 ジェームズ一世が指揮する今回の戦……ハルケギニアの常識を破り捲りだ。

 あの頭の固い老王が、こんな戦い方が出来るなんて……各国が、多数の間者を放ち情報を集めている。

 

 負ければ弱腰の老王……勝てば、国民を最も大切にしながら戦った英雄になれるだろう。

 大多数の男の浪漫本ファンクラブ会員貴族にとっては、そう理解していた。

 しかし従来の貴族にしたら、平民を守りながら戦うなど負けたらどうするんだ!と、思われていたが……

 

 想わぬ所で評価が分かれてしまったジェームズ一世だが、ハルケギニア中の平民からの支持は高い!

 勿論、男の浪漫本思想を広めた教祖としてのツアイツの人気も鰻登りなのだ。

 

 

第130話

 

 

 ヴァリエール公爵家

 

 トリステイン王国最大級の権力と邸宅を持つツアイツの嫁(予定)の実家で有り、女性陣の強いお宅でも有ります。

 久々に来たツアイツからの手紙を前に、夫妻が悩んでいた……

 

「あなた……義息子に刺客を差し向けるなどと。私、ちょっと行って話を付けてくるわね」

 

 真面目な顔でカリーヌが、烈風のカリンとして、ちょっくらレコンキスタ潰してくるわ!的な事をサラッとのたまった。

 

「待て待て待てぇ!お前が1人で片付けたら、今までのツアイツ殿の努力が水の泡だ」

 

 落ち着け、我が妻よ!ヴァリエール公爵は自身も有能なのだが、妻はバグキャラだからとても気を使う。

 

「レコンキスタは、当初の計画通りアルビオン・トリステインの連合軍で潰す。問題は、このリスト……売国奴の処理だ」

 

 ツアイツから貰った、レコンキスタから賄賂を貰っている貴族の一覧と証拠。我が国の腐敗貴族が、こんなに居るとは……

 しかし、ツアイツ殿も良くこれだけ詳細な証拠を集められる物だな。

 

「それと、義息子はエレオノールの事をとても心配しています。僕のエレオノールをゴンドランの様なキチガイの近くには置いておけないから早く引き取りたいと……」

 

 アレ?そんな文面だったか?

 

「これは、義息子に貰ってもらいましょう。これで娘達の内、2人が片付きました。カトレアは……」

 

「カリーヌ、落ち着け!そんな内容の手紙ではないぞ。なにやら、タングルテールの虐殺の真相や実験小隊を使った非合法な行い。それに人体実験等を行っている、か」

 

「チッ!あの娘の気持ちも考えて下さい」

 

 舌打ちされたぞ。妻は出逢った頃から規格外だったが、こんなに変な性格だったか?これもツアイツ殿の影響なのだろうか……

 

「これだけの裏付けが有れば、こやつらを失脚させるのも問題無いだろう。後はタイミングだな。

王党派は、ダータルネスまで失った。端から見ればピンチだ。反攻作戦の折に、増援を打診するべきか……」

 

「確かに、実情を知らねば一方的にレコンキスタが侵攻してますわね」

 

 まさか、周りの連中もツアイツ殿がオッパイだけで操っているとは思うまい。考えれば危険な男だな……

 人間の欲望を突いて人を動かすのは、悪魔の所業だ。しかし、彼の話に人は進んでそれに乗る。

 何故ならば、性癖の話には悲壮感もなければ罪悪感も無い。

 性癖など皆が持っている普通の感情だし、バレても仲間意識が生まれるだけ。しかも非合法でも犯罪でもないからな。

 躊躇するのは、ホ〇の疑いが掛かるし……味方で良かった。

 

 彼に敵対する=僕は女性は好きじゃないんだよ!的な疑いをかけられそうだ……

 

 違うと言うなら証拠を見せろ!しかし、彼の幅広いジャンル以外の女性好きなタイプを証明しろなど……他にどんなプレイが有ると言うのだ?

 

「どうしたの、あなた?」

 

「ああ、何でもないんだ。これはド・モンモランシ伯爵とグラモン元帥とも話し合わねばなるまい」

 

 見通しはたっているので、さほど心配はしていない。

 

「ご主人様、王室より書状が届きました」

 

 メイドが、アンリエッタ姫の印の有る書状を持ってきた。嫌な予感がする。兎に角、書状に目を通す……誰だ?

 アンリエッタ姫に、ツアイツ殿の怪我を教えた奴は?全く余計な事を……

 

「あなた、どうしましたか?」

 

 無言で妻に書状を渡す。黙って読み出す妻を見ながら、手を打たねばならぬと実感した。

 

「あなた……この緊急召集は?」

 

「誰かが、ツアイツ殿の怪我の件を教えたらしい。アンリエッタ姫は、敵討ち宜しく立ち上がるつもりだ。

しかも、有力貴族全てを集めるとなると……この資料を早速使う羽目になるやもな」

 

 溜め息をつきながら、ド・モンモランシ伯爵に会い下話をしてから王宮に向かうつもりだ。

 

「さて、これはツアイツ殿には出来ない我々の仕事だ!これを機に、腐敗貴族を断罪する……」

 

「そうですわね。私達に出来る事をしましょう……私も元マンティコア隊の隊長として、王宮に行きます」

 

 烈風のカリンが二十余年振りに王宮に行く、か。妻の全盛時を知る奴らには、良い歯止めになるだろう……しかし、これは言っておかねばなるまい。

 

「カリーヌよ、破壊活動は程々にな。王宮を壊すと色々大変なのだよ……」

 

 無言で向ける笑顔は……共に冒険した時の、懐かしい悪戯っ子の笑みだ。

 

 それはそれ、これはこれ!の顔だ……ヤレヤレ。

 

 こんな妻の笑顔を再び見る事が出来るとはな。悪くは無いぞ、ツアイツ殿よ。久々に血が滾る思いだ……

 

「竜を用意しろ!ド・モンモランシ伯爵家に向かうぞ」

 

 兎に角、グラモンも交えて腐敗貴族に当たらねば、もしもの事も有る。ツアイツ殿に、大人の仕事を見せるとしようか。

 

 

 

 アルビオン王党派

 

 

 サウスゴータに最終防衛線を構築し、レコンキスタに備える準備でごった返している。サウスゴータは城塞都市。

 時には籠城も検討しなければならない。これには、かなりの手間が掛かる。

 しかし、平民を味方に付けた為か諸侯軍と平民達とが協力して効率良く作業を行っている。皆の意気は高ぶっていた!

 

 先程のウェールズ皇太子の演説……

 

「私はツアイツ・フォン・ハーナウと会見をした。

彼は気持ちの良い青年で有り、君らファンクラブ会員の行動を誇りに思うと言ってくれた!

そしてレコンキスタに対して、彼らの教義は嘘で塗り固めた方便で有り、これは我らの教義に反しない戦いだと言ってくれた!

レコンキスタはそんなツアイツ殿に刺客を送り込み、彼は主犯を倒すも重体。そして、共犯者の傭兵共は逃げ出した。

 

しかし、我ら王党派は傭兵共を捕まえ、レコンキスタが!

 

オリヴァー・クロムウェルが!

 

この暗殺を指示した確かな証拠を掴んだ!それが、この指示書で有り捕まえた彼らだ。

私はツアイツ殿の傷が癒えれば、レコンキスタを倒した新生アルビオン王国に……彼を心の友として。また国賓として迎えたい!

その為には、君達の力が必要だ。

 

共に戦い、レコンキスタを我らが敵を倒そうではないか!」

 

 

 この演説を聞いたファンクラブ会員達は、自分の信念に間違いが無い事を涙し、平民は素晴らしい教義を広めている御方を害した(元)ブリミル教司教に対して、敵意を抱いた。

 

しかし当然演説には、避難しているブリミル教関係者も居る訳だから……

 

 

それはそれ、これはこれ!

 

の顔だ……ヤレヤレ。

 

こんな妻の笑顔を再び見る事が出来るとはな。

 

悪くは無いぞ、ツアイツ殿よ。

 

久々に血が滾る思いだ……

 

「竜を用意しろ!

ド・モンモランシ伯爵家に向かうぞ」

 

兎に角、グラモンも交えて腐敗貴族に当たらねば、もしもの事も有る。

 

ツアイツ殿に、大人の仕事を見せるとしようか。

 

 

 

 

SIDEアルビオン王党派

 

サウスゴータに最終防衛線を構築し、レコンキスタに備える準備でごった返している。

 

サウスゴータは城塞都市。

 

 

これには、かなりの手間が掛かる。

 

しかし、平民を味方に付けた為か諸侯軍と平民達とが協力して効率良く作業を行っている。

 

皆の意気は高ぶっていた!

 

先程のウェールズ皇太子の演説……

 

「私はツアイツ・フォン・ハーナウと会見をした。

 

彼は気持ちの良い青年で有り、君らファンクラブ会員の行動を誇りに思うと言ってくれた!

 

そしてレコンキスタに対して、彼らの教義は嘘で塗り固めた方便で有り、これは我らの教義に反しない戦いだと言ってくれた!

 

レコンキスタはそんなツアイツ殿に刺客を送り込み、彼は主犯を倒すも重体。

 

そして、共犯者の傭兵共は逃げ出した。

 

しかし、我ら王党派は傭兵共を捕まえ、レコンキスタが!

 

オリヴァー・クロムウェルが!

 

この暗殺を指示した確かな証拠を掴んだ!

 

それが、この指示書で有り捕まえた彼らだ。

 

私はツアイツ殿の傷が癒えれば、レコンキスタを倒した新生アルビオン王国に……

 

彼を心の友として。

 

また国賓として迎えたい!

 

その為には、君達の力が必要だ。

 

共に戦い、レコンキスタを我らが敵を倒そうではないか!」

 

この演説を聞いたファンクラブ会員達は、自分の信念に間違いが無い事を涙し、平民は素晴らしい教義を広めている御方を害した(元)ブリミル教司教に対して、敵意を抱いた。

 

しかし当然演説には、避難しているブリミル教関係者も居る訳だから……

 

 

 

第131話

 

 

 サウスゴータに集まって居る諸侯軍と平民の前で演説を終えた!感触としては、悪くはなかった。

 しかし、万単位の人々の前での演説とは疲れるものだ……一息入れる為に、あてがわれた室内に戻どる。

 応接室のソファーに座ると、バリーが熱い紅茶を用意してくれた。

 

「どうだったかなバリー?私の演説は」

 

 長年仕えてくれた侍従のバリーに問う。自分としては、高得点なのだが……

 

「素晴らしい演説でしたぞ!流石はウェールズ様。あの言い回しなら、ファンクラブ会員はオッパイと言われずとも理解出来たでしょう。

逆にファンクラブでない平民達は、オッパイを知らなくともツアイツ殿は素晴らしい教義を広めていると思うでしょう」

 

 流石はバリー!良く理解してくれる。流石に平民の前で、オッパイは不味いからな……ボカシて話したのだが、ちゃんと伝わっているだろう。

 

「そうだね。ツアイツ殿は、素晴らしき乳の探求者……しかし平民にそれを説いても理解し辛い」

 

「これで、我が軍の士気は高まりましたぞ。いつ反攻作戦を始めますかな?」

 

 最近まで意気消沈していたバリー達も、攻撃が解禁になった為に生き生きとしている。しかし、良い事ばかりでは無かった。

 ロサイスとダータルネスを抑えられた。それは、アルビオン大陸からハルケギニアへの足をレコンキスタが持っていると言う事だ。

 

 端から見れば、王党派は連戦連敗……既にサウスゴータまで攻め込まれている。

 

 被害が軽微など関係無く、レコンキスタ有利と思われているだろう……

 つまり、勝ち馬に乗りたい傭兵達が、続々とレコンキスタの元へと集結している。

 当初は2万だったが、物見の報告では少なく見積もって4万弱だ。約半月で倍になった。

 

 

 我ら王党派の攻撃に向けられる戦力は

 

 竜騎士団、風竜・火竜合わせて百騎。

 近衛騎士団3百人

 近衛歩兵隊4千人

 諸侯軍1万5千人

 それに戦列艦20隻。

 

 これでも敵の半数だ!しかし、航空戦力は此方が有利。士気も高いし、平民の協力も有る。

 

 しかし、近隣の村々に護衛の手を広げる為に、移動力の高い戦列艦を割かねばならず、常駐する歩兵も配置しなければならない。数的にも、やや不利か?

 

「しかし……それ以上に心配事が有ります。先程の演説で、ウェールズ様は我らが教義を言われました。ブリミル教のブの字も有りませんでしたな」

 

「……ブリミル教?ああ、有ったな。そんな教えが。どうでも良いだろホ〇の教えなど!と、言いたいのだが、すまん。正直忘れた!」

 

 素直に頭を下げる。

 

「ウェールズ様……すっかりツアイツ殿に感化されましたな。確かに、ブリミル教には手を焼いてますが……

今回の演説をブリミル教の関係者も聞いて居ましたな。厄介事にならねば、良いですが……」

 

「全ては、レコンキスタを倒した後の話だ。それに元とは言え、始祖の血を引く我らに弓を引いたのだよ、彼らブリミル教徒は。交渉の余地など幾らでも有るさ!」

 

「ウェールズ様……すっかり逞しくおなりになられて……」

 

 バリーが、ハンカチで目頭を押さえている。大袈裟だなぁ……

 

「私は、ツアイツ殿に覚悟を教わった。覚悟を決めれば、道は幾らでも開けるのだ」

 

 覚醒した漢ウェールズ皇太子は、ひと味もふた味も違っていた!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 刻々と入ってくる情報には、アルビオン王党派の良くない情報ばかり……

 ツアイツ様を傷付け、今もウェールズ様に刃を向け続けているレコンキスタ。

 この私達の輝かしい未来を壊す不敬者は、全て私の手で何とかしなければ……秋には、両手に花で演劇を観るのですわ。

 私達のロマンスを妨害する事は、万死に値します。時間は限られているのです!

 

「アンリエッタ姫、関係者に召集をかけました。しかし、全員が集まるのには一週間程掛かるかと」

 

 アニエス隊長が、報告にきましたわ。

 

「一週間ですか……それは時間が掛かるのですわね。でも、その時間で出来る事をしましょう!

アニエス隊長。アルビオンに向かって下さい。この親書をジェームズ一世陛下とウェールズ様へ、届けて下さい」

 

 それは、あの変態から止められていた捏造ラブストーリーな手紙……まだツアイツに監修して貰ってない、アンリエッタ姫の妄想逞しい逸品だ!

 

「ひっ姫さま?これは、この手紙はまさか……まだ早いです。あの男も、タイミングが大切だと言っていたではありませんか!」

 

「そうですわ。しかし、ツアイツ様は卑劣なレコンキスタの凶刃に倒れ療養中です……

なれば、その志を継いで、私が私の野望の為に進しかないのです。アニエス隊長、お願いします」

 

 ギュッと彼女の手を握り締め、目を見詰める……5秒……10秒……

 

「分かりました。銃士隊を何人かに分けて、アルビオン大陸に侵入させ王党派に届けます」

 

 やはり、アニエス隊長は頼りになりますわ。

 

「有難う御座います。アニエス隊長、お願いしますわ」

 

 一礼して退出するアニエス隊長を見送りながら考える。これで、当初の予定とは少し違いますが手紙を送る事が出来ましたわ。

 次の手は、ツアイツ様の言われたトリステイン貴族の膿みを出す事。それには迅速に腐敗貴族を取り押さえなければ……

 残る私の手足は、ワルド隊長とグリフォン隊ね。

 彼らをこれから集まる主要貴族達との会議の前に展開させて、その場で取り押さえる様にしなければ駄目だわ。

 

「誰か! 魔法衛士隊隊長ワルド子爵を呼んで下さい。 大切なお話が有ります」

 

 次々と手を打つアンリエッタ姫……大筋は間違ってなく、大した物なのだが。連携せずに独断専行が不味かったかもしれない。

 

「これでウェールズ様のピンチを救い、ツアイツ様の敵討ちが出来ますわ!上手くいけば、2人の殿方から感謝と求婚を……」

 

 先程までの凛々しい姫君は何処にも居なかった。ワルド隊長が部屋を訪れるまで、ソファーに座り顔を惚けさせながらイヤイヤを繰り返していた。

 暴走特急アンリエッタ号の妄想は、ウェールズとツアイツがアンリエッタを巡り、決闘にまで及び引き分けて友情を育んだ後で、共にアンリエッタに襲い掛かる迄に及んでいた……

 

「2人同時なんて……お待ちになって。でもどちらか1人を選ぶなど、私には出来ませんわ。嗚呼、この体が2つ有れば2人の気持ちに応えられるのに……」

 

 彼女は非常に豊かな感性の持ち主だった。しかし、全く有り得ない未来予想図だったが。

 




明日から8/29(土)まで夏休み特集として1日に2話投稿します。
これからも宜しくお願いします。


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幸せワルド計画第1話から第3話

幸せワルド計画 第一部

 

「幸せワルド計画」

 

 この壮大な計画を実行するのは、たった三人の……いや1人は遍在だから、正確には2人+αだ!

 

 難問だよ、これは……

 

 あの後、仮病で引き篭もりなツアイツを残して旅立っていった。何通りものシミュレーションをこなした。

 

 多分大丈夫だと思いたい……

 

 ワルドの相棒のグリフォンと、レンタルグリフォンの二匹にてガリアの孤島、セント・マルガリタ修道院に居るミス・ジョゼットに会いに……

 騙くらかしてワルドとくっ付ける為だけに。

 

「ねぇワルド!もう1人のワルドを何て呼べば良いんだい?」

 

「「ワルド・ダッシュで頼む!」」

 

「……何でユニゾン?」

 

 本体に迷惑を掛けられ続けても遍在は本体に忠実だった。

 

「しかし、ツアイツ殿が大変な時に出掛けてよかったのかね?」

 

「「大丈夫だ!直ぐに解決して戻ろう」」

 

 アンタ(本体)が不安だから言っているんだよ。ロングビルは既に、このミッションを引き受けた事を後悔していた……

 大体、私だってツアイツ様に手を出して貰ってないし……テファの後にと我慢してるんだよ。何でマダオが先に恋愛成就するんだよ。

 

 何だか、ムカムカしてきたよ……

 

「ツアイツ様のバッキャロー!何で適齢期の美女に手を出さないんだよー!ワルドのアホタレー!ロリコンのペドヤロー!」

 

 レンタルグリフォンの上で暴れ出したロングビルを宥め賺して、何とか飛行を続けた……幸先が悪い一団だった。

 ゲルマニアからセント・マルガリタ修道院までは、グリフォンに乗っても2〜3日は掛かる。

 途中で、中規模な街を見繕い宿屋に泊まりながら漸く目前にセント・マルガリタ修道院が見えた時には感動したものだ!

 

「んじゃ先ずは調査から開始だね。アンタらは見つかると作戦自体が失敗するから……私だけで行くよ。大人しくしてなよ」

 

 そう言って、慣れない手綱捌きでグリフォンを操って島に向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 マシな遍在とマダオを置いて偵察にでる。先ずは情報だ!この作戦の成功率は、情報とマダオの扱い方が鍵だ。

 面倒臭くなったら、遍在を替え玉にと思ったが、それはツアイツ殿に止められている。

 レンタルグリフォンを何とか操って島に上陸。そのまま修道院まで気配を消して接近。

 

 ガリア貴族の問題有る子らを集めているにしては……警備なんて無いねぇ。

 

 確かマジックアイテムでフェイスチェンジしてるけど、名前はジョゼットのままなんだっけ……何たる中途半端!

 蒼い髪を銀髪に変えて……誰か出てきたね。

 

「ジョゼット、水くみを頼みます」

 

 桶を持った少女が出てきた。銀髪に名前がジョゼット……彼女に間違いないかね?

 念の為、距離を置いて尾行する。全然、気付かないのか?普通の小娘だねぇ……

 

 あっ?水の入った桶ごと転んだよ……ドジっ子ってヤツかな?ツアイツ様の男の浪漫本で有ったね。

 

 確か、マルチ……か。

 

 あの子の攻略は近くで見守り支えてやる、か。マダオには難易度が高いかな?

 

 あれ?桶を蹴って文句を言ってるよ……桶を指差して。これは何てタイプだい?ツンデレ?

 

 いや違うね……

 

 一旦帰って遍在と相談しよう。その前に、修道院の間取りや中に居る連中も調べとくか……全く世話が焼けるねぇ。

 再度ジョゼットを見れば、慎重に水の入った桶を運んでいた。

 

 修道院には5人のシスターと22人の子供達が居た。シスター2人はメイジだね。しかも、所作に鍛えていた感じがするよ。

 しかし、使い手かと言われればそうでは無いね。まぁこんな辺鄙な場所に居る位だから。でも彼女らが監視役だね。

 再度、夜に調査に来よう。

 

 そっと修道院を離れた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 焚き火をして、昼食の準備をする。風のスクエアたる我らの着火方法は…「ライトニングクラウド!」紫電纏いし無駄に高威力な魔法を枯れ木にぶち込む。

 

 ヨシ!火がついたぞ……手早くダッシュが、細かい枝を足し火を強めていく。何故か手慣れている。

 途中で仕入れた干し肉を炙り、パンをかざして温める……既に空腹を覚え始めた。

 

「手慣れてないか、ダッシュよ」

 

「アルビオンに潜伏中の家事は全て私がやった。ミス・ロングビルは食べるだけだ」

 

「あの女、私には色々言うのに自分は家事が出来ないのかよ。嫁に行くつもりはないのかね?」

 

 溜め息をつく……適齢期ギリギリで花嫁修行なしか。私の後はあの女だな。

 焚き火を囲み座りながら、ヤレヤレだぜ!と言っておく。

 

「ただいま!良い匂いだね、私は牛肉が好きだよ」

 

「駄目だ、この亭主関白振りは……」

 

 ダッシュと共に掌を上に向けて首を左右に振る。

 

「何故私を可哀想な娘を見る目で見るんだよ?それに何だい、そのポーズはさ?」

 

 ダッシュが、沸かしたお湯で紅茶をいれ始めた。辺りに紅茶の芳醇な香りが漂う……

 

「ダッシュは良い嫁さんになるよねぇ。本体はマダオなのに」

 

 ダッシュのいれた紅茶のカップを受け取りながら、溜め息をつかれたぞ。

 

「ダッシュよ……お前が甘やかしたせいで、この女が亭主関白になったのだぞ。少しは自重しろ」

 

 ダッシュから紅茶を受け取り、この主婦みたいな遍在を窘める。

 

「まぁ良いや……それで、ジョゼットは確認出来たよ。ツアイツ様の言う通り、銀髪だったね。フェイスチェンジか……でも少し変な娘だよ。桶に説教してたし」

 

「「桶に?なんでさ?」」

 

 見事にハモってしまった。

 

「いや、自分で転んで水を零したのを桶のせいにして叱ってたのかな?」

 

「「…………?」」

 

「ツアイツ様の男の浪漫本によれば、あのタイプはなんだろうね?ツンデレとも違う気がしてるんだよ」

 

「「それは想定外だ!ツアイツ殿、どうしたら良いのですか?」」

 

 あれだけシミュレーションしたのがだ、ジョゼットはどのタイプにも当てはまらない。

 

 既に作戦は破綻傾向に有った……

 

 

 

 幸せワルド計画挿話17・第二部

 

 

 焚き火を囲み、これからの事を相談する。すっかり世話役になっているダッシュ……食器を片付け、食後のお茶を用意しお茶請けまで並べている。

 

「「ダッシュ、コイツを甘やかすんじゃないよ!」」

 

 本体ワルドとロングビルが、互いを指差しながらわめいた。

 

「お茶のお代わり有るが……」

 

 無言でカップを差し出す2人。因みにダッシュはお金持ちで有る。アルビオン貴族工作時に、ロングビルが盗んだ金の三割を貰っているから。

 流石の彼女もただ働きはさせられなかった。

 本来ツアイツに半分渡すつもりが、要らないと言われたので独り占めでも良かったのだが……

 

 独身適齢期ギリギリの彼女には持参金がついてます!トリステイン郊外に庭付きの屋敷が買えるくらい。

 

「それで、今夜も忍び込むのか?いつ、私はミス・ジョゼットに会えるのだ」

 

 落ち着きなく、お茶請けの乾燥果実を食べるワルド……

 

「落ち着きな。もう少し、彼女の性格なりを調べないと……実際、桶と会話する不思議ちゃんなど対応が難しくないかい?」

 

 黙り込むワルドズ……

 

「今度は私が行こう」

 

 ダッシュが提案する。

 

「まぁアンタは、散々アルビオン貴族の屋敷に潜入したから慣れてるか……んじゃ頼もうかね」

 

 本体より信頼している、アルビオン以来の相棒に頼むロングビル。本体は無言だ……

 

「では、暫く休憩しようかね」

 

 各々体を休ませる為に楽な体勢を取る。

 

「全く、妙齢の美女が野郎2人と野宿なのにさ。貞操の心配をしなくて良いってのも納得出来ないね……」

 

 ブツブツ言っているロングビルを訝しい目で見るワルドズ。

 

「「育ち過ぎだよ。乳も年齢も!」」

 

 良く出来たダッシュも性癖は本体基準だった。

 

 

 

 

 夕暮れ時に、ダッシュは起き出した。音もなくグリフォンを操り修道院に向かう。狙いは夕食後の彼女の行動だ。

 腹も満ちて寝るまでの自由時間こそ、最も人間の本性が出ると睨んだ。

 昼間、ロングビルが修道院の間取りを調査していた為、狙いを付けた場所を目指す。

 運良く?修道院の子供達は、夕食を終えて沐浴の時間だった。

 

「ふっ……計算通り」

 

 ニヒルな表情をしているが、やってる事は覗きだ!彼の視界では、ショタにはモザイクがかかり、ロリは輝いていた!

 何故、修道院に男の子が居るのかは分からないが、子供だから小さいうちなら良いのかとスルーした。

 

「中々の眺めだな……あの銀髪のロングの娘がジョゼットか?なる程、本体の好みだが、アレはフェイスチェンジの力によるもの。

つまり紛い物で仮初めの姿!故に私が見ても問題はないだろう。それに見事にストンな体型だな。フムフム……お尻に黒子が有るのか」

 

 無駄に性能の高い変態を本体を持つ遍在も、やはり無駄に変態だった。

 

「しかし、ボディチェックは済んだが問題は性格だな……おっ!彼方のレディも中々の逸材だぞ」

 

 ダッシュの覗きは続く……

 

 

 

 

「いかん、いかん。ロリボディを堪能してしまったか……では寝室に向かうか」

 

 風を読み、気配を風と同化出来る彼にとって、女子供しかいない修道院内を彷徨く事は無人の野を行くが如し。さくさくと、子供らの寝室へ向かう。

 

「ふっふっふ……此方から美少女の匂いがするな。ふむ、ここか」

 

 ダッシュ、的確にターゲットを追い詰めていく。ドア越しに中の様子を伺う。どうやら四人部屋みたいだ。

 

「ねぇジョゼット。最近あの格好良い人来ないね?」

 

「ジュリオ兄様の事?」

 

「そう。竜に乗って颯爽と来る人!格好良いよね」

 

「…………」

 

「どうしたの、変な顔してるよ?」

 

「私達の知っているジュリオ兄様は死んだわ。兄様は……教皇様を受け入れたの。だから、もう」

 

「教皇様って?ロマリアのヴィットーリオ様の事?」

 

「そうよ。あんなヒラヒラした服を着せるなんて……もう兄様は居ないの。姉様?」

 

「そっか……残念だね」

 

「良いの。諦めたわ、どうせ私達は外の世界には出れないのだから……それに変態なんて死んじまえ!」

 

 そっとドアから離れて修道院を後にする。どう言う事だ?ミス・ジョゼットは、ジュリオが「男の娘」化した事を理解している……

 

 何故だ?

 

 ロマリアの魔の手が既に、この修道院に及んでいるのか?そして、彼女はジュリオを「男の娘」にした教皇に隔意を持っている……

 しかし、特殊な性癖に対して嫌悪感が有るのか。これはカリスマな変態で有る我らには、荷が重いやもしれん。

 

 どうする、本体?

 

 どうしたら良いのですか、ツアイツ殿。でも得られた情報は多い。

 我ら3人で良い知恵が出なければ、遍在を増やして協議すれば良いか……2人の待つアジトまで帰るとしよう。

 

 この世界のジョゼットは、慕っていたジュリオを特殊な性癖に巻き込んだロマリアが嫌いだ!

 

 しかも変態として、一括りに嫌っていた。これは、変態と言う紳士の頂点に居る我らは……不倶戴天の敵ではなかろうか。

 ジュリオはジョゼットに男の娘の姿で会いに来たのだろうか?

 

 謎は深まるばかり……

 

 

 

 

 さほど時間も掛からずに、本体と合流する。

 

「お帰りダッシュ。どうだったんだい?」

 

「ダッシュ、彼女の情報を掴んだか?」

 

 矢継ぎ早に質問する2人に先程の件と、自分の推測を話す。

 

「…………………」

 

「ツアイツ様の情報では、ロマリアの介入には時間が掛かるって話だったけど?」

 

「彼女は教皇と確かに言った。それに姉様とも」

 

「駄目じゃん!頭の天辺からつま先まで変態なアンタらじゃ無理だよ」

 

「「失礼な女だな!我らは変態ではない、ツアイツ殿に認められし紳士なのだ。勘違いも甚だしいぞ」」

 

 ユニゾンして、己の正当性を主張するが……

 

「じゃあ、どうするんだよ?紳士さん達ならさ」

 

 考え込むワルドズ……

 

「本体よ。出せるだけ遍在を出せ!知恵が無ければ、皆で考えれば良い。3人で駄目なら5人。5人で駄目なら10人だ」

 

「任せろ、ダッシュ!ユビキダス・デル・ウインデ……風は遍在する」

 

「いや、本体基準だから1人脳内会議と同じ……」

 

 本体、ダッシュ……そしてワルドA・B・Cが現れた!

 

「我らワルダー5人衆」

 

 ポージングをキメた瞬間、後ろの地面が爆発し、5色の煙が舞い上がる!

 

「ツアイツ様、帰りたいです……」

 

 ロングビル、涙目だ!

 

 

 

 幸せワルド計画 第三部

 

 

 昔、ツアイツが行った、脳内会議。それをグレードアップし、遍在として5人の紳士が降臨した。

 

 議長ワルド。ダッシュ、そしてワルドA・B・C。そして監査役のロングビル……

 

 ガリアの僻地で、史上初のカリスマ上級会員ズ?の会談が始まる。

 

 

 議長ワルド

 

「皆に集まって貰ったのは他でもない。ミス・ジョゼットとニャンニャンしたいのだ。力を貸して欲しい」

 

 初っ端から、煩悩全開だが皆自分だから遠慮無い。

 

 

 ダッシュ

 

「しかし彼女は、紳士(変態)に対して隔意が有る。だが確認したロリボディは極上だ!それを踏まえた意見を頼む」

 

 

 ワルドA

 

「ならば、紳士たる事を隠せば問題無いのでは?」

 

 

ワルドB

 

「貴様には、ツアイツ殿に認められし絆を隠して口説けと?やり捨てなら構わないが、そうではないのだろ?」

 

 

ワルドC

 

「まてまて諸兄よ。ツアイツ殿は全てのオッパイを愛でよ!と言われてるのだ。

鬼畜路線は捨てろ。……そうだな。ここは唯一の女性の意見を参考にするか」

 

 そう言って、全員が彼女を見詰める。いきなり意見を聞かれて、動揺を隠せないロングビル……

 

 

「わっ私かい?やはり自然な出会いを演出した方が良くないかい?ちょっと変な娘だから、どう接したら良いか悩むんだけどさ」

 

 

 ダッシュ

 

「確認した彼女は水くみで転んだ際に、照れ隠しで桶を指差して説教をする不思議ちゃん……と補足させてもらう」

 

 

 ワルドA

 

「なんとも可愛いではないか!ならば水くみ時に接触しよう。

その時は、彼女は1人になるのだろう?他の連中には、なるべく会わない様にするべきだ」

 

 

 ワルドB

 

「なる程……出会いのタイミングは、それで良いだろう。次は、どうアプローチするかだな」

 

 割と淡々と進む会議に、ロングビルは不思議な物を見ている錯覚に陥る。コイツらって、本当に人間なのか?

 

 嗚呼……テファとツアイツ様と3Pでも良いから、早く女の幸せを掴んでコイツらとオサラバしたい。

 

 彼女は会議を放棄し、自分の妄想の海へと旅立った。ロングビル、ここでリタイア。

 

 

 ワルドC

 

「定番なら口にパンを加えて、遅刻だー!かな」

 

 

 ダッシュ

 

「それは、都市部での話だ。こんな秘境みたいな島だったら……遭難者を演じるか?」

 

 

 ワルドA

 

「しかし海岸部分なら分かるが、内部の泉までふらついて歩くのは……」

 

 

 ワルドB

 

「てか、遭難者って格好悪くないか?」

 

 

 ワルドC

 

「ならばどうする?彼女の前で、襲撃に合ってやられてみるか?」

 

 

 本体ワルド

 

「何故やられる前提?暴漢に扮したオマエ等を私が格好良く倒しても良いのではないか?」

 

 

 ダッシュ

 

「女性は弱みを見せた方が良い。ナイチンゲール症候群と言って男の浪漫本に……」

 

 

 ワルドA

 

「それは記憶の引き継ぎに有るな。確かに看病とか内緒で匿われてとか、されたいな」

 

 

 ワルドB

 

「それは良いな!しかし、わざわざこの島で襲われる理由がないぞ」

 

 

ワルドC

 

「不遇な扱いを受ける我らが、本体をシバくでは駄目か?」

 

 

本体ワルド

 

「ちょっと待て!てか、ミス・ジョゼットの前で私が襲われているのを見せて、彼女に助けて貰う流れは分かったが……襲撃の理由は問題だ!」

 

 

 ダッシュ

 

「皆、本音は自重しろ。本体の前だぞ」

 

 

 ワルドABC

 

「「「了解だ!」」」

 

 

 本体ワルド

 

「了解だ!じゃねーよ。もっと本体を敬え」

 

 

 ダッシュ

 

「敬っているから、離反しないのだよ本体!理解してくれ」

 

 

 本体ワルド

 

「……会議を進めよう」

 

 

 ダッシュ

 

「本体が、駄目っぷりを理解した所で話を進めるが……折角だし、ロマリアに泥をかぶせよう」

 

 

 ワルドA

 

「賛成だ。腐れ坊主達など滅んでヨシ!」

 

 

 ワルドB

 

「するとアレか?

ミス・ジョゼットを拉致る所を(仕方ないから)本体が助けるが、我らが(腹いせに)返り討ちにして、彼女を守るが負傷する……どうだ?」

 

 

 ワルドC

 

「返り討ち(楽しいな)は仕方ないが良いだろう。それで、本体がこの島に居る理由はどうする?偶然居合わせる場所じゃないだろ」

 

 

 ダッシュ

 

「我ら襲撃犯を追ってきたで良いだろう?応援を頼むが間に合わずで(我らのストレス発散で)返り討ち。迎えは、ミス・ロングビルにしてもらおうか」

 

 

 ワルドABC

 

「「「異議なし!」」」

 

 

 本体ワルド

 

「なぁ……返り討ちの部分に、力入ってないか?」

 

 黙り込む遍在ズ……

 

 

 ダッシュ

 

「作戦の決行は明日だ。各々、ロマリア密偵団に扮する準備を頼む。では解散!」

 

 フライで四方に飛んでいく遍在達を見て思わず零す……

 

「ツアイツ殿……本気で我が遍在達に重傷を負わされそうです。最悪の事を考えて治療準備をお願いします」

 

 本体ワルドは、ツアイツに手紙を送る事にする。あの遍在ズ……まさか、本体を亡き者に?したら自分らも消えるから、それは無いか。

 昔、ツアイツ殿もミス・ロングビルに怪我を負わされたと聞く。しかし、それでも女性を責めてはいけないと説かれた。

 では、自分の遍在達に怪我を負わされたら?あの様子では、遍在達は止まらないだろう……勿論止める気も無い。

 要は、私がミス・ジョゼットを掴まえれば、怪我をしてもお釣りがくるのだ!

 

 見ていろカステルモールよ。貴様より可愛いロリっ子を掴まえてみせるわ!遂に私の時代がくるのだよ。

 

「アーッハッハッハー!ツアイツ殿、待っていて下さい。貴方の期待に必ず応えてみせますからー!

サムエル殿、私の妻を紹介出来るのも直ぐですからー!イエス・ロリータ・ゴー・タァーッチ!ゴフッ……」

 

「ドアホー!人気が無いとは言え、潜伏中だろーが。大人しくしてろ」

 

 ミス・ロングビル……幾らスクエアとは言え、ゴーレムで殴られれば怪我をするのだぞ……

 

 ツアイツ殿は、これを耐えたのか。何て凄いのだ……グフッ。

 

 ヤバい、意識が遠のいていくぞ……

 



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幸せワルド計画第4話から第6話

幸せワルド計画 第四部

 

 遂に実行に移す「幸せワルド計画」……参加者は全て自分と自分の遍在。ある意味、セルフでお得な作戦だ!人件費は0だし。

 

 

 ワルドABC

 

「どうだ?怪しい奴に見えるか?」

 

 三人共、顔をマスクで隠している。が、蝶を象ったコスプレな感じのアレだ!

 それに口元は、マフラーを巻いている。服装は、何処からかパクった僧衣を着ている。何処かの教会を襲ったのか?

 

「怪しいと言うか……怪しい奴その物だな。我ながら妖し過ぎるわ」

 

「全くだ!変装のなんたるかを理解してないな」

 

 ダッシュが、苦情を言いながら近づいてきた……上から下までピッチリな黒タイツを着込み、やはり蝶の仮面で顔を隠している。

 ダッシュ、それは仮装だよ。本体ワルドを襲うロマリアの密偵団は、仮装の変態集団となってしまった。

 しかし、変態を嫌うジョゼットに対してならば丁度良いだろう。

 

「では、行こう!セント・マルガリタ修道院へ」

 

 ロングビルは手を振っている。

 

「ちゃんと、様子をみているのだぞ!危なくなったら助けを頼むぞ。本当に宜しく頼むぞ……」

 

ワルドズはフライで飛んでいった、残されたグリフォン二匹の顎を撫でながら。

 

「まぁ失敗しても、私は困らないからね。ぜいぜい頑張んな」

 

 全く他人事だった。出発前には、ツアイツに自分に任せろ!と、張り切っていたのに……

 

「あー動物って癒されるねぇ……私も使い魔召喚しようかな」

 

「「グルグルル(もっと撫でれ!)」」

 

 お留守番組は呑気だ。

 

 

 

 

 その頃の変態の一団……

 

「では作戦通り、上手くやってくれ……手加減しろよ」

 

「「「「……了解だ?」」」」

 

 不安顔な本体を残して配置につく。ここに史上初の本当の意味で自作自演なミッションがスタートした。

 

 

 

 定刻通り桶を持って水を汲みに来るジョゼット。鼻歌などを歌っている。

 

「では、作戦通りに……」

 

 ダッシュの指示で、三方から飛び出しジョゼットを囲むワルドABC!

 

「ひぃ……誰なんですか?」

 

 尻餅を付いて驚く。

 

「ミス・ジョゼットだな?一緒に来て貰おうか」

 

 

 ノリノリのワルドA

 

 ズリズリと、少しでも変態ズから離れようとするが「どちらに行かれるのかね?尻を擦っては、黒子が傷付くぞ」彼女の真後ろから、ダッシュが話し掛ける。

 

「お尻……黒子……なっなんで知ってるの?」

 

 余りの台詞に一瞬思考が止まるが、ハッと思い出して真っ赤になる。

 

「我ら、教皇直属の密偵団を舐めるなよ。小娘の秘密など全てお見通しよ」

 

「「「はっはっは!可愛い尻らしいな?ジュリオ殿から報告を受けているぞ」」」

 

 思わぬ名前に、固まってしまう。

 

「あの、女装して教皇の愛人になった変態のせいなの?」

 

「男の娘か……我らには理解出来ぬ変態だな。しかし、お前がガリア王家の血を引いてると調べはついている。ヤツのお陰だ」

 

 ダッシュ、相変わらずノリノリ!しかも、股間を強調したポージングでにじりよる。

 

「ひぃ!たっ助けて下さい。私は、生まれてからこの修道院しか知らないの?外の世界なんて知らない……」

 

 余りのダッシュの痴態に、貞操の危機を感じてしまった。

 

「では、同行願おうか……ロマリアまで!」

 

 強引にジョゼットの腕を掴み立ち上がらせる。

 

「引き上げろ……誰だ!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なっなんてノリノリなんだダッシュよ。ミス・ジョゼットが涙目じゃないか。あっパンツ見えた!

 

 ふっふっふ……でかした、我が遍在よ。しかし、ズロースかな。野暮ったいぞ。あれでは、彼女の魅力が台無しだ!

 ツアイツ殿から、ぱんてぃとぶらじゃを貰ってプレゼントするか……しかし、お前のポージングは素晴らしいな!

 私も、あの衣装を着たい……いかんいかん。

 

 では、颯爽と助けに行くか!

 

 

「待てぇ!そこのイカした……いや、イカれた4人組よ」

 

「「「「なに奴?」」」」

 

「何だ……我らを追っていたトリステインの隊長さんか。4対1だが?何時もの応援は呼ばないのか?」

 

 クネクネとナイスなポージングじゃないか!私も後でやりたいぞ。

 

「黙れ、紳士達よ!その幼気な美少女から離れろ」

 

 ヨシ!ポージングばっちり。ダッシュを真似て、ポージングを披露する。

 

「そうか……では痛い目をみな!全員で袋叩きだぁ!」

 

「「「うぉー!恨みは無いが痛い目みなぁ!」」」

 

 ちょ痛い、痛いから!「ゲフゥ!」誰だ、本気で蹴るのは?「ちょ待って……グハァ」鳩尾に入ったぞ!

 

 ダッシュ、仮面で顔を隠しているのに笑顔なのが分かるのは何故だ。

 

「ゲフッ、お前ら……ひっ髭を引っ張るな、オウッ!」

 

 4人掛かりのストンピングでボロボロの本体ワルド……

 

「…………お前ら、後で覚えていろよ、ガクッ」

 

 やり過ぎたかと、視線で会話するワルドズ。だが、芝居は続くなければならない。

 

「ぐっ、しまった!トリステインの隊長で遊んでいたら、我ら紳士の変態活動時間が……今日は退くぞ!

小娘よ、良かったな。このボロ切れのお蔭で命拾いをしたな。では何れ会おう」

 

 颯爽と、ストレス解消をしたダッシュとワルドABCは、フライで飛んでいった。その姿は爽やかだったらしい……

 

「何?何なの?それに、この人をどうしたら良いの?」

 

 ジョゼットは途方にくれた……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なっ何の?私、狙われているの?でも、助かったの?このボロボロの人が助けてくれたの?

 それに、お兄様……私をロマリアに売ったのね。

 

「……ううん」

 

 いけない。助けてくれた人を放っておいては……

 

「大丈夫ですか?しっかりして下さい。今、人を呼びますから……」

 

 ぼろ雑巾の様な人を揺すってみる。

 

「人は呼ばないでくれ。トリステインの魔法衛士隊隊長が、ガリア国内で負傷は……外交的…に……不味いんだ……」

 

 ちょー、いきなり国家間問題を私に押し付けて気を失わないでー!

 

「私、どうしたら良いのー?」

 

 静かな森にジョゼットの雄叫びが響いた……誰も応えてはくれなかったが。

 

 

 

 幸せワルド計画 第五部

 

 

 まるで暴風の様な出来事だった……突然の変態の襲撃。 信じて、裏切られた人がまた裏切った事。

 そして、助けてくれた筈のボロボロの人……

 

 この人は、トリステインの魔法衛士隊の隊長と言っていた。 何故、トリステインの貴族がこのガリアの孤島にいるのかしら?

 あのロマリア密偵団の変態集団とも、因縁が有りそうだったわ。そして秘密にして欲しいって……

 国に捨てられた私が、国に配慮しないといけないの?

 

  駄目だわ。 思考が纏まらない……でも、この人は恩人だと思う。

 

 あの変態集団もそう言っていたし……あれ?なんで、あの恥ずかしい格好の変態は、わざわざこの人が恩人だなんて言ったのかしら?

 それに、あの連中と同じ臭いがするの。 実際に嗅いだ訳ではなくて、存在感が……あの気色悪いポージングとか。

 

 ジョゼットは思考に耽る余り、ワルドを放置プレー中だ!

 

「うぐっ……はぁはぁ」

 

 ワルドの呻き声で我に返る。いけない、またやっちゃった!この考え込むと周りが見えなくなる癖は治さないと駄目ね。

  取り敢えず、隊長さんを寝かせて顔の腫れを冷やせば良いのかな?

 当然膝枕などせずに、ワルドのマントを畳んで枕に……そして内側の刺繍を見てしまう。

 

「これは、私? 違うわ。 今もガリアで、のうのうと生きている姉さん?では、この人は……」

 

 肌身放さず着けているマントの内側には、振られたにも関わらずミス・タバサのウェディングドレスバージョンの刺繍入り。

 上級会員の嗜みとして、常に身に着けている癖が災いした。

 

「やはりこの人も、私の秘密を知っているの?」

 

 折角、現実に引き戻されても思考の海へと沈んでいった……ワルド、放置プレー続行決定。

 

「はぁはぁ……イテテテテ……あいつ等無理しやがって……」

 

 ワルドは自力で覚醒した!看病フラグは、たたなかった。ワルドが、まだ朦朧として周りを確認出来ない内にマントをそっと返す。

 

「えーと、有難う御座います。 助かりました。それで、貴方は?」

 

 先ずは情報を集めよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何やら体中が、バキバキと痛い……あいつ等、手加減を知らないのか?僅かだが、気を失っていたらしい……

 気が付けば、私を見下ろすミス・ジョゼットが居た。

 

「えーと、有難う御座います。 助かりました。それで、貴方は?」

 

 彼女は私の隣に座り、見下ろしたまま質問してくる。銀色の髪が重力に負けて垂れ下がるのを左手で、かき上げながら……

 

「可憐だ……」

 

「はぁ?」

 

「いや、すまない迷惑をかけたね……イテテテテ」

 

 起き上がろうとするが、全身の痛みに思わず呻いてしまう。

 

「大丈夫ですか?」

 

 ミス・ジョゼットが手を貸してくれて、何とか起き上がり向かい合って座っている形になる。

 

「有難う。いや恥ずかしい所をみられたね。もう大丈夫だ」

 

 にっこりと微笑むが、彼女は赤くなってくれない。私には、ニコポ・ナデポのスキルは無いのか……

 

「あの……隊長様は……」

 

「ワルドで良い。私はジャン・ジャック・フランシス・ド・ワルド。トリステイン王国で、魔法衛士隊の隊長をしている」

 

「ワルド様ですか……何故、その様な方がガリアの孤島に居るのですか?」

 

 美少女にワルド様と呼ばれると……ゾクゾクっとくるな。しかし、どう言えば良いのだ?この質問への回答はシミュレーションしてないぞ。

 

「ああ……その、何だ……つまり」

 

「ワルド様は、私の素性をご存知なのですよね?あのロマリアの変態集団とも……因縁が有りそうでした。何故なんですか?」

 

 真剣な表現で、問い詰めてくる。嗚呼……美少女に詰問されるのに、快感を覚えるとは。

 

 はっ!

 

 私が、サードステージに進化したのか?しかし、どう誤魔化したら良いのだ……

 

「……何故、教えてくれないの?」

 

 ヤバい、ミス・ジョゼットが泣きそうだ!

 

「話は長くなるが良いかな?」

 

 彼女は無言で頷く。

 

「ミス・ジョゼット。私が君を、君の存在を知ったのは……大恩有る年下の友人からだ。

彼はゲルマニアの貴族だが、有る事件を切欠にガリア王家と関わる事になった。

彼はそこで、ジョゼフ王に趣味(オッパイ・回春)の遊戯(性癖戦争)で競う事となり……

その関係で、イザベラ王女、タバサ……ミス・シャルロットと懇意にされている」

 

 突然の話に、ポカンしていたが、シャルロットの名前に激しく反応した!

 

「シャルロット……私の姉さん、そして捨てられた私と違い、のうのうと生きている女」

 

 その目に、暗い感情が見えた……あの目は、絶望と怨念の入り混じった危険な目だ。

 

「辛い話になるが、聞いて欲しい。君の父上は、ジョゼフ王に隔意を抱き(本当は、近親相姦&同性愛の相手として好意を抱き)粛正された。

君の母上は幽閉され、家は不名誉の烙印を押され……君の姉である、ミス・シャルロットは偽名を名乗り北花壇騎士団として働かされている」

 

「私を捨てた人達は、没落したの?私には、本当に帰る家はないんだ。あはは……捨てられた家の事なのに、悲しいなんてヘンね」

 

 私は彼女を抱き締めた……彼女は抵抗せずに泣いている。柔らかいし、良い匂いがするし……

 

 はふぅ、幸せだ!

 

「我が友人は、君の家の再興に尽力している。そこで、君の存在を知ったらしい……

ロマリアは、ホ〇国家となり、始祖の子らの国々に男の娘思想を広め始めた。

君の身に危険が迫っているのもその為だ。王家の血を引く君を抑えるには意味が有る」

 

 余り、セクハラ紛いの抱擁はマイナスと思い、彼女を解放する。

 

「それで……ワルド様は、私をどうしたいの?」

 

「勿論、妻に……いや、ツマり保護と言うか、私と共にゲルマニアに来て欲しい。そして友人と会って欲しいんだ。

彼なら、君を悪い様にはしない。力になってくれる筈だ!それと……君に色々と教え込んだのは、ジュリオだね?」

 

 ミス・ジョゼットは黙って頷き、そして考え込んでしまった……済みません、ツアイツ殿。

 

 私には、説得は無理です。丸投げする様ですが、彼女の説得をお願いします。

 ワルドは、ジョゼットの説得を諦め、全てをツアえもんに託す事にした。

 

 の〇太の様に……

 

 

 

 幸せワルド計画 第六部

 

 嵐の様な、襲撃事件。そして突然の告白……しかも、私が知らない内に国家間紛争に巻き込まれている。

 私は、何を信じたら良いのかしら?誰かに相談……は、出来ないわ。巻き込んでしまうから。

 でも、このまま残れば又あの変態に拉致られてロマリア行き……兄様には、二回も裏切られた。

 

 もう信用出来ないわ。

 

 だからと言って、この隊長さんを信じて良いのかしら?ガリア王国の問題に、ゲルマニア貴族が尽力……

 それを教えてくれたのは、トリステイン王国の魔法衛士隊隊長。

 

 話だけ聞けば、スッゴいヘンよ……

 

 でも、あのロマリア密偵団の変態よりマシ!決めたわ。

 

「あのー隊長様?」

 

 長い間、思考の海に沈んでいたせいか?隊長様は、座りながら寝ていた……

 

「隊長様、起きて下さい。起きて」

 

 揺すって起こす。

 

「うーん、ムニャムニャ。ツアえもーん、後はお願いします」

 

 寝言?誰ですか、つあえもーんって?

 

「違います。お願いします、じゃなくてお願いだから起きて下さい」

 

「あっ?ああ、おはよう。突然考え込んだまま、無反応だから心配したよ」

 

 ははは、と笑っているけど熟睡してましたよね?

 

「私、貴方と共に行きます。どうしたら良いの?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「私、貴方と共に行きます。どうしたら良いの?」

 

 ヨッシャー!ロリゲットだぜー!

 

「そうか、有難う。では……君にも準備が有るだろう。双子の月が頭上にくる時間にこの場で。応援と共に迎えに来るよ」

 

「分かりました。それと、何故隊長様はマントの内側に私?か姉?の刺繍を施しているのですか?」

 

「こっこれは……ちっ巷で人気のマントなのですよ!可愛いなぁ、と思い貰ってしまいましたが」

 

「貰って?」

 

「さっさぁ水汲みにしては、随分時間が経ってしまったようだよ。早く戻った方が良い!では今晩ここで」

 

 ボロが出る前に立ち去ろう。フライでアジトまで帰る事にする。

 

 

 

 アジトに戻ると、グリフォンを撫で捲るロングビルが出迎えてくれた。相棒よ……撫でられ過ぎで、抜け羽毛が凄い事になってるぞ!

 

「お帰り。で、どうだったの首尾は?ダッシュ達はスッキリしたって帰って来たけど」

 

「勿論、成功だ。今晩迎えに行き、そのままツアイツ殿の下へ連れて行く。後はツアイツ殿に任せるつもりだ!」

 

「つもりじゃないだろ、マダオがぁ!それ本当に成功したの?ちょっと説明しろ!正座でだよ」

 

 いきなり拳骨で殴られ、訳も分からず説教をうけた……しかも、先程の話もさせられるし。

 全てを話終わったら、溜め息をつかれるし……

 

「ダッシュに説明して、先にツアイツ様に報告させな。それと共犯者共の遍在ABCは消しときな。

いつバレるか分からないからね。変装に使った衣装や仮面も燃すんだよ。女のカンを舐めるとバレるんだからね」

 

 結局、何もしなかったこの女に仕切られて後片付けをする。

 

「それじゃ夜の迎えは私も同行するよ。このグリフォンに乗ってね」

 

 すっかり懐いてる、二匹のグリフォンの顎を撫でながら恍惚とするこの女……私が幸せになったら、仕方ないが相手を見繕ってやるか。

 動物相手に興奮しては、先が思いやられるからな。

 

 ヤレヤレ!私も丸くなったものだ。

 

 

 

 その時のジョゼット……

 

 随分長い間、水汲みに行っていたのに、周りはまた妄想してたの?で、納得されてしまった。

 今夜で、この修道院ともお別れとなるのか……でも、私が居たらみんなに迷惑がかかるから。

 

 皆が寝静まった頃にそっと起き上がる。同室の子らを起こさない様に、そっと部屋を出る。

 荷物は僅かな着替えと一冊の本しかない……私の唯一の私物の本。

 いつかこのシンデレラの様に、私も社交界にデビュー出来るかしら?このサクセスストーリーを書いた作者に会ってみたいわ。

 こんな素敵なお話を書ける方だもの……きっと素敵なおじ様よ。

 

 この本は、大切に袋に詰めて持って行く。全財産を片手で持てるなんてね……布団の上にそっと書き置きを残した。

 

「心配しないで下さい。皆の迷惑にならない様に出て行きます。今まで有難う御座いました。それと、本を一冊貰っていきます!」

 

 簡単な書き置きだが、覚悟の家出と思うだろう!この判断が、正しいか分からない。

 けど、ここに居ても何も変わらない日常を繰り返し、誰も知らない内に死んでいくだけだ。

 

 あのワルド様……

 

 何かを隠しているみたいだけど、悪い感じはしなかった。最悪、逃げ出そう。

 待ち合わせの場所に行き暫く待つと、夜空にグリフォンが二匹現れた。ワルド様と緑色の髪の女性が降りてくる。

 

「あんたがジョゼットかい?この阿呆が迷惑かけたらしいね。それで、本当に私達と一緒に来てくれるのかい?」

 

「なんだ、阿呆とは失礼だな。きちんと説明したし、承諾を得たんだぞ」

 

 何か、夫婦漫才みたいな掛け合いをしながら近付いてくる。ワルド様……ちゃんと、良い人が居たのね。

 あの掛け合いは、夫婦の阿吽の呼吸なのかしら?

 

「じゃ、行こうか!こっちに乗りなよ」

 

 何か言いたそうなワルド様を黙らせて、私を自分のグリフォンに乗せる。尻に敷いているのね。そう言われ、人生初体験となるフライトを経験した。

 

「お姉様は……」

 

「ん?ああ、名乗ってなかったね。私はロングビルさ」

 

 何か、鋭利な雰囲気の綺麗な人だな……

 

「えっと、ロングビルさん……」

 

「なんだい?」

 

「ロングビルさんは、ワルド様の奥様なのですか?」

 

 うわっ……飛行姿勢の乱れたグリフォンにしがみ付いて、落下を防ぐ。

 

「危ないです!」

 

「危ないのは、アンタの頭ん中だよ!何で私がアレの嫁なんだよ?」

 

 違ったのかしら?

 

「いえ、息の合った掛け合いに、尻に敷いている様な言動でつい……」

 

 本気で怒ってる?

 

「私には、好きな人も居るの!どっちかって言えば、アイツの好みはアンタだよ」

 

 私?この仮初めの?それとも本当の私?

 

「今回だって、アンタを不遇な環境から救う為に此処まで来たんだ。最後はツアイツ様任せにする気らしいけどね」

 

「私を助ける?」

 

「そうさ!ツアイツ様が、アンタがロマリアに利用されそうだ!

って言ったから、わざわざ此処まで来たんだ。一応、善意のつもりだから安心しな。悪くはしないさ」

 

 ツアイツ様って?ワルド様の年下の恩人の方なのかしら?

 

「ツアイツ様って、ワルド様のご友人の?」

 

「そうだよ!アイツには勿体無い程の、素晴らしいお方だよ。私が仕えているのも、その人さ」

 

 何故か……ラヴ臭?惚気?でも、ワルド様の年下って、ロングビルさんからも年下よね?ロングビルさんってショタなのね!

 

「ロングビルさんの好きな方がツアイツ様なのね?」

 

「………いや、そんな事は……私は年上だし……でも求められたら……」

 

 グリフォンの手綱捌きが、怪しくなる。

 

「ひぃー落ちます、落ちますから!ロングビルさん落ち着いてー!」

 

 恋バナは、危ない環境でしたら危ない!ジョゼットは、その話題を振った事を後悔した……

 

「お願いだから、正気に戻ってー!」

 

 ワルドの幸せは、ツアえもんの手腕にかかってしまった!ジョゼットをセント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功!

 ロマリアに悪感情を持たせられたし、ジュリオとの仲違いもさせられた。しかし、ワルドとの仲を進展させる事は一つも出来ていない。

 そして、愛読書の作者がツアイツだとも気付いていない。

 

 大丈夫なのか?幸せワルド計画は?

 

 

 ※本編に続きます!



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第132話から第134話

第132話

 

 トリステイン王国 トリスタニア王宮

 

 その一部屋……グリフォン隊隊長室で遍在ワルドは、本体に代わり政務をこなしている。

 本体は、ジョゼット攻略の真っ最中だ!

 

「ワルド隊長、アンリエッタ姫がお呼びです」

 

 宛てがわれた部屋で、グリフォン隊の訓練メニューや備品申請書と格闘していた遍在ワルドは、呼びに来た銃士隊員を見上げた。

 確か最近……銃士隊の副隊長になったミシェルだったか?

 

「ああ、ミシェル殿か。分かった、有難う」

 

 軽くお辞儀をして退出していくミシェルを見送る。うむ、美形だが微妙な乳だな。

 それに年齢も守備範囲外だ……アニエス隊長のネコと噂も有るが、ロリじゃねーから私には関係ないな。

 しかし、ロマリアが薔薇ならトリステインは百合か?確かに国の紋章も金色の百合だけどな。

 

「くっくっく……」

 

 我ながら上手い事言った的に笑ってみる。さて、アンリエッタ姫の呼び出しか……どうせ、碌な事では有るまい。

 待たせる訳にもいかず、早足に彼女の下へ向かう。

 

「全く本体め。面倒臭い事ばかり、押し付けやがって……」

 

 愚痴の一つも零れ出た!

 

 

 

 

 アンリエッタ姫政務室前……

 

 アンリエッタ姫の部屋の前に居る銃士隊員に取次を願うが、直ぐに許可がでた。

 

「アンリエッタ姫、魔法衛士隊長ワルド。お呼びにより参上いたしました」

 

 貴族的礼節に則り挨拶をする。アンリエッタ姫は……何だ、また妄想中かよ。

 ソファーに座り、真っ赤になってクネクネしている。ハッキリ言って、我らと違うベクトルの変態だな。

 

「嗚呼、ツアイツ様……私には心に決めた御方が……

いやですわ、そんな強引に、そこは違います……ウェールズ様まで一緒になって攻められては、体が持ちませんわ……」

 

「コホン!アンリエッタ姫、お呼びでしょうか?姫、アンリエッタ姫?」

 

 ハッとなり、現実世界に戻ってきた様だ……

 

「あら?ワルド隊長……こほん。ご苦労様です。お呼び立てして申し訳ありませんわ」

 

 ワタワタと真っ赤になって取り繕うが、知らない振りをするのが大人の優しさだ。

 

「いえ、これも職務ですから」

 

 2人の間に沈黙が流れる……

 

「コホン!実は、一週間後に有力貴族を集めた会議を行います。

内容は……ワルド隊長なら教えても良いでしょう。アルビオン王党派への援軍を送る為の会議です。

しかし、レコンキスタに取り込まれた貴族も居るとの情報が有ります。ワルド隊長には、彼らを押さえて頂きたいのです」

 

 オイオイオイオイ……ちょっと待てよ。何で、そんな話になってるんだ?

 

「つまり、裏切り者をその場で捕らえよ、と?」

 

「そうです。しかも複数の有力貴族が関与しています……」

 

 真剣な顔で、トンでもない事を言い出したな。

 

「我らグリフォン隊だけでは、不足ですな。他に応援は居ないのですか?」

 

「銃士隊が居ます。しかし、彼女らは別の任務で半数が割かれてしまいますの」

 

「別の任務ですか?」

 

 アンリエッタ姫は、悪戯っ子の様な笑顔で「秘密ですわ!」と宣った。

 

 ああ……多分、ツアイツ殿の注意してくれと言っていた手紙の件か。これは、本体とツアイツ殿に報告しないと危険だな。

 

「了解しました。では、準備に取り掛かります」

 

 一礼して部屋を出る。廊下を歩きながら考える……またアンリエッタ姫は暴走を始めた。

 腐敗貴族の炙り出しは立派だが、手順も証拠も手段すら彼女は持って無い。

 騒がれて逃げられるのがオチだ。無謀過ぎる……

 

 自室に戻り、ディテクトマジック・ロック・サイレントを念入りにかけて椅子に座る。

 

 

「本体及び分身……本体及び分身、聞こえるか?アンリエッタ姫が、また暴走を始めたぞ。どうする?彼女は有力貴族を集めて……」

 

 ラインが繋がっている本体とダッシュに思念を飛ばす……長い間、本体達と交信した為か軽い疲労を感じた。

 ふぅ……本体と分身が、丁度ツアイツ殿に会いに向かっている途中で良かった。

 これで対策を考えてくれるだろう。さて、私に出来る事を進めるか。本棚にズラリと並ぶ男の浪漫本の背表紙を眺める。

 

 漢力を回復しないと、体の維持に支障をきたす。

 

「ふう……子供の時間でも読むか」

 

 これから遍在の至福の時間が始まる。

 

「これが有るから、働けるのだよ……」

 

 本体に判断を委ね、ゆっくりとロリっ子本をニヤニヤしながら熟読する遍在。彼の漢力は急激に回復していった。

 

「そうだ!ヴァリエール公爵とド・モンモランシ伯爵にも手紙で報告しとくか」

 

 寡黙なダッシュと違い少し口の悪い政務担当遍在だが、ちゃんと優秀だった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 グリフォンにてハーナウ領に向かう途中、トリステインに居る遍在より思念を受け取った。

 

「あの暴走姫め……下準備もせずに何を考えているのだ。これは、ツアイツ殿と相談しなければ拙いぞ」

 

 そう思い、隣を飛んでいるロングビル&ジョゼットに話し掛ける。

 

「すまない!トリステインで問題が発生したので、先にツアイツ殿の下へ向かう。後からゆっくり来てくれ!

ミス・ジョゼット。最後まで護衛出来ずにすなまい。

我が国(ツアイツ&サムエルのオッパイ帝国)の危機なのだ!また後で会おう」

 

 そう言って、己の相棒に全てを託す!ワルドの相棒グリフォンは牝だ。

 ハルケギニアでも有数の変態紳士の使い魔で有るので、性能は彼女らの乗るレンタルグリフォンの比ではない。

 一声高く嘶くと、猛烈にスピードを上げた!瞬く間に、視界から消える。

 

 それを呆然と見詰めるロングビルとジョゼット。

 

「ワルド様……飛行中なのに、何故トリステインの問題を知れたのかな?」

 

「ああ……アイツも変た……変人だからね。使い魔とでも交信したか、魔法衛士隊独自の連絡方法が有るのかも知れないね」

 

 しどろもどろなロングビル。

 

「でも、お国の為にあんなに真剣に……格好良いですよね。働く男性って!」

 

「はぁ?アレがかい?アンタ、目は平気かい?」

 

「とても凛々しいお顔でしたよ。使命に燃える男の顔でした」

 

「アイツも黙ってれば、エリート様だしモテるんだろうけど……ねぇ?」

 

「…………?」

 

 ワルド、知らない所で株を上げていた!アンリエッタ姫様々か?

 

 

 

第133話

 

 

 ド・モンモランシ伯爵家

 

 最近一人娘がラグドリアン湖の精霊との交渉役に認められ、領地が活気付いている。

 そして、知る人ぞ知る男の浪漫フィギュアの一大生産地でもある。ド・モンモランシ伯爵は、思いもよらぬ手紙と来客を迎えていた。

 

「まさか、烈風のカリンとして来られるとは!久々に驚いたよ。それで、用件はこのアンリエッタ姫からの手紙か?」

 

 応接室のソファーに向かい合って座っている、ヴァリエール公爵にアンリエッタ姫からの手紙を渡す。

 

「そうだ!アンリエッタ姫は……ただツアイツ殿の情報で腐敗貴族が居る事は知っているが。しかし、彼らを追い詰め捕縛する手段は無いだろう」

 

 ド・モンモランシ伯爵は溜め息をつきながら「そうだな……その辺が甘いのだ。そして、これが彼女の浅はかな考えの報告だ」そっと、遍在ワルド隊長からの手紙を渡す。

 

「さっき届いた。お前のウチにも行ってるだろうが、入れ違いになってるだろう。読んでみろ……」

 

 ヴァリエール公爵は手紙を読み終わると、妻に渡し彼女が読み終わるのを待つ。

 

「どうする?」

 

「どうにもこうにも、アンリエッタ姫が腐敗貴族を弾劾した時点で、我らがこの証拠を突き付け……」

 

「ワルド殿のグリフォン隊と連携して、奴らを捕らえるしかない、か」

 

 仕える国の姫をフォローするのだから、仕方ないのだが何故か釈然としない……

 

「全く、ツアイツ殿がべた褒めのイザベラ姫の半分位の能力が有れば苦労はしないのだが……」

 

「アレは父親がアレだから、娘がしっかり者なのだが。ウチは母親がアレだが、娘もアレだからな……」

 

 2人して溜め息をつく。

 

「しかし、ツアイツ殿はイザベラ姫に入れ込んでいるが大丈夫か?アイドルプロデュースに毎週の贈り物。

園遊会の時には、彼女のテーブルに呼ばれていたぞ。遠目だが、抱きつかれていた様な……」

 

「幾らツアイツ殿でも、大国ガリアの姫をどうこうしないだろう?」

 

「ははははは……」

 

 渇いた笑いをする。

 

 

「アナタ……私がマンティコア隊のド・ゼッサール隊長に話を通します。グリフォン隊だけでは、数が足りませんから」

 

「ああ、ド・ゼッサール隊長とは面識が有ったのだな。元隊長の言う事なら聞いてくれるか……何せ鋼鉄の規律を考えたのはお前だからな」

 

 哀れド・ゼッサール隊長……男2人は、心の中で黙祷した。

 

「しかし魔法衛士隊を2つ動かしても、このリストの人数を押さえるのは厳しいな。我らの家臣団も連れて行くか?」

 

 ド・モンモランシ伯爵が自慢の家臣団を動かすか聞いてくる。

 

「いや、私兵を動かすのは問題有りだ。要はこの大物2人を押さえれば、後はどうにでもなる雑魚だな」

 

 ヴァリエール公爵の指すリストには……リッシュモン高等法院長とゴンドラン評議会議長の名前が連なっていた。

 

「国の要職の2人が、国を売るか……奴らの取り巻きも、軒並み続いてるな」

 

「全員押さえるさ。これでこの国も風通しが良くなるな」

 

 男2人が頷き合っている所で、カリーヌが一言釘を刺す。

 

「トップの2人も何とかしなければ同じ事を繰り返すわ。マリアンヌ様には、久し振りにお話しなければならないかしら……じっくりと、ね」

 

 こうして、アンリエッタ姫の知らない所で強力な援護射撃が決まった。

 結果を端から見れば、アンリエッタ姫が売国奴を一掃し、アルビオンに善意の増援を送る事となる。

 

 事実を知らないトリステインの連中からは、稀代の謀略女王!

 

 アルビオン側からは、防国の聖女!と呼ばれる下地が出来た瞬間であった。

 

 

 

 その頃のツアイツ。

 

 仮病の振りも大分慣れてきた。相変わらず、見舞いの品や見舞い客は多いがエーファ達が効率良く捌いていく。

 彼が何をしているか?それは、新作の執筆である。

 

 男の浪漫本ファンクラブ会報の復帰第一段には、新作小冊子を無料配布するつもりだ。せめてものお詫びと、次への伏線だが……

 

「旦那様、お茶を煎れましたから休んで下さい」

 

 テファが、紅茶セットと手作りのお菓子を差し入れてくれる。今日はフルーツタルトだ。

 

「有難う。頂くよ!」

 

 応接セットに移動し、向かい合ってお茶にする。

 カップを差し出しながら「ワルド様と姉さん、上手くいってるのかしら?」テファが、幸せワルド計画を心配して聞いてくる。

 

「どうかな?遍在さんとロングビルさんが付いてるからね。余程の事が無い限りは、普通に知り合える迄は……」

 

 心に何かが引っ掛かるが、取り敢えず成功を祈る。

 

「でもジョゼットさんも可哀想です。ずっと篭の鳥なんて……」

 

 テファは、少し前の自分とジョゼットを重ねているのかも知れない。共に世間から隔絶されて生きる事を強要された2人の美少女……ボインとナインだが。

 

「どちらにしても、ミス・ジョゼットはウチに来て貰うから……テファには、彼女と友達になって欲しいんだ。お願い」

 

 この悪意0の天然娘を嫌う子は少ないだろう。ワルド殿が失敗しても、ジョゼットの心を開くのは彼女なら安心だ。

 

「勿論です!新しいお友達、楽しみです。それと……やはり旦那様はお優しいですね。身寄りの無いジョゼットさんにも気を使ってくれるんですから」

 

 嗚呼……眩しい笑顔に、腹黒い事ばかり考えている僕のハートが耐えられない。

 

「ははは……兎に角、お願いね」

 

「はい!喜んで」

 

 更に笑顔で返されてしまった……僕の偽善ライフは既に0です。

 

「さて、もう少し執筆を頑張るよ。テファ、御馳走様」

 

「お粗末様でした。では旦那様、無理はしないで下さいね」

 

 この軟禁生活中に、出来るだけ執筆を進めておこう。回復して、会報を出したら怒涛の展開になるからな。

 そんな事をノンビリ考えていた僕の所に遍在殿が来たのは、その晩の事だった……

 夕食を終えて、そろそろ寝ようか?と、思っていた所に音もなく入り込む遍在殿……

 

「ツアイツ殿、問題が発生しました」

 

 アルビオンで散々貴族の屋敷に侵入し馴れた彼は、一流の怪盗にもなれるだろう。

 

「脅かさないでよ。遍在殿だよね?それで、どうしたのかな」

 

「私の事はダッシュとお呼び下さい。実は……」

 

 彼のもたらした情報は、僕の予想を超えて……

 

 いや、あの姫様を甘く見ていた訳ではないが、やはりと言う思いだった。僕程度では、アンリエッタ姫を御せないと痛感したのだが。

 

 

 

第134話

 

 

 深夜の私室で、ダッシュと向き合う。驚くべき事だが、ワルド謹製の遍在達は本体と思念を交信出来るらしい。

 何て規格外にも程が有るぞ!彼にソファーを薦め、自分も向かい側に座る。

 

「では、問題を聞きましょうか。ミス・ジョゼットの件ですか?」

 

 ダッシュは言い辛そうに話し出した。

 

「ミス・ジョゼットについては、本体とラブラブにはならなかったが、セント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功した。既に此方に向かっている」

 

 問題って、それは取り敢えず成功だよね?

 

「それなら問題では無いのでは?」

 

 それとも、連れ出すのがバレてしまったか?それなら厄介だが……

 

「違う。トリステインに居る遍在から連絡が有った。アンリエッタ姫が、ツアイツ殿の襲撃事件を聞きつけ……キレて暴走した!」

 

 あっあの問題児め!気持ちは嬉しいのだが、たった半月程度も大人しく出来ないのかよ。

 

「それで詳細は?」

 

「先ず、例の捏造手紙だが……既に銃士隊の手により、アルビオン王党派へ向かった。

彼女らの人数が極端に減っている事を考えて複数班で行動してると考えられる。今から回収は不可能だな」

 

 よりにもよって、今の覚醒ウェールズに相談無しで向かっても難しいぞ。

 

「それは……以前よりもアルビオン側の状況が変わってますし、僕もウェールズ皇太子と面識が出来た。

今の彼なら、手紙一つではアンリエッタ姫の思惑に乗らない可能性が高い。でも先ずはって?他にも有るの?」

 

 ダッシュは、言い辛そうに次の問題を教えてくれた。

 

「アンリエッタ姫は、王宮に主要な有力貴族の召集をかけた……つまり腐敗貴族の炙り出しと、アルビオンへの増援の派兵案を一気に決めるつもりだ」

 

「ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵と連携して?」

 

「いや、単独だ。ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵には、政務担当の遍在から手紙を送ったが……

召集には大体一週間は掛かると思う。しかし、対応の時間が足りるか疑問だな」

 

 仕掛ける側の謀略とは、段取りが八割以上重要なんだよ!

 

 アンリエッタ姫には、腐敗貴族の話はした。しかし、証拠はヴァリエール公爵の手の内だ。

 会議でいきなりアンリエッタ姫が、腐敗貴族に詰め寄っても証拠が無ければリッシュモン等は言い逃れるだろう……

 証拠をその場で突きつけても、屋敷や関連施設を同時に抑えなければ。

 時間を置いては、老練な彼らなら巻き返しは可能かもしれないし、下手に暴走する可能性が有る。

 どうせ捕まるならと、レコンキスタと合流されても厄介だ……

 

「何てパッピーな思考してるんだよ姫様は……不味いですね。詰めが甘すぎて取り逃がす可能性が高い」

 

「此方の手勢はグリフォン隊と銃士隊の半数……ヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵の手勢を今の段階で動かす事は不味い。

王都に兵を向けるなど、何を言われるか分からない」

 

「全く正論だね……そして完全に人手が足りない。時間も無いし、僕が行っても打てる手が無い」

 

 2人共黙り込んでしまう。

 

「ここは、義父上を信じましょう。幸いにして証拠は有るし、召集前に情報も渡せた。大丈夫だと思う、思いたい」

 

「全く問題ばかり起こしますね」

 

 深夜に男2人が向かって溜め息をつく。

 

 アンリエッタ姫……行動は立派なんだが、準備がまるで無いって、どんな教育をされてきたの?

 マザリーニ枢機卿の苦労が身にしみて分かった。悪意が無いだけ手に負えない。いや邪なエロ思考故の暴走かな?

 

 ※彼女の脳内では、既に三角関係にまで発展しています、いや3Pか……

 

「ダッシュ殿、会議は義父上達に任せるとして、我々も最悪の事態を考えて行動しましょう」

 

「なる程、流石はツアイツ殿ですね。して、打つ手とは?」

 

 まだまだ手は有る。アンリエッタ姫とウェールズ皇太子が結ばれなくても構わないならね。

 

「我が閣下に謁見します。アルビオンと軍事同盟を結ぶらしいですから。

ゲルマニアからの増援も視野に入れましょう。そして王党派にテコ入れましょう。僕は謁見後にアルビオンに向かいます」

 

 トリステインの増援が見込めず、レコンキスタに腐敗貴族が合流するのが、最悪のパターンだ。

 ならば、王党派の強化か別からの増援を考えれば良いだけの事。

 しかし、未だ治療中の僕が屋敷から出ると言う事は……無傷で彷徨く訳にはいかないだろう。

 

 嘘をつき通す為には、真実を織り交ぜなければダメだ。

 

「重傷の僕が動かざるを得ない。その為には無傷じゃ何かの拍子にバレるかもしれない……ダッシュ殿、僕に魔法で怪我を負わせて下さい」

 

「嫌です!」

 

 即答されたー!

 

「お願いします。今、こんな事を頼めるのはダッシュ殿しかいないのです。貴方が、ダッシュと言う名前を貰ったのを聞いた時は嬉しかった。

僕は貴方をワルド殿の遍在としてでは無く、一個人として見ています。重ねてお願いします」

 

 そう言って頭を下げる。

 

「ツアイツ殿……私を1人の男として見てくれているのですね。有難う御座います。分かりました。では、覚悟は宜しいか?」

 

 ニコリとして承諾してくれた。

 

「勿論です。しかし、仮にもメンヌヴィルさんを倒した事にしていますから……正面側でお願いします。

出来れば左半身から左腕までで。移動や書き物に不便は困りますから」

 

「メンヌヴィルは白炎、つまりは火のメイジ。傷は火傷ですね。では……紫電纏いし我が一撃を受けて下さい。それと治療の準備は平気ですか?」

 

 ライトニングクラウドか?ちょうどサイトが受けた傷と同じか……

 

「僕も水のトライアングルですから大丈夫。水の秘薬も、見舞いの品で山積みですから」

 

 チラリと部屋の隅に積んである見舞い品を見る。

 

「分かりました!では行きますよ。手加減はしますが、覚悟して下さい。紫電纏いし我が一撃を……ライトニングクラウド!」

 

 ダッシュ殿の杖剣から紫色の稲妻が僕に伸びてくる……衝撃に耐える様に目を瞑り身構え……るが、一向に衝撃が来ないのだが?

 

「アレ?ってアレー?しっシェフィールドさん!」

 

 目の前には、デルフを避雷針の様に構えて仁王立ちのシェフィールドさんの後ろ姿が……ヤバい、ダッシュが殺される!

 

「ちょシェフィールドさん違いますからね!ダッシュ殿には僕が頼んだ事ですから!」

 

ダッシュ、逃げろ!

 

 

 

第134話分岐ルート(ヤンデレなBAD END編)

 

 

 完全なお遊び要素満載のネタ話です。この話は本編に何ら関係が無いので読まなくても平気です。

 エロゲ的なヤンデレエンドだとこうなるの?と、脳内に閃いた物を書いただけのお話です。

 

 

 

 大きな嘘を吐く為に、小さな真実を混ぜる必要が有った……だから僕は、本当に怪我を負うつもりだった。

 しかし、目の前には……デルフを避雷針の様に構えて仁王立ちのシェフィールドさんの後ろ姿が有った。

 

「ツアイツ様に怪我を負わせようとしたわね?」

 

「ちっちが、違うぞ……グハッ」

 

 バチバチと紫電を纏わり付かせているデルフで、袈裟懸けにダッシュ殿を切ってしまった……ボンっと音を立てて消滅するダッシュ殿。

 

「何をやってるんだよ!ダッシュ殿は、僕が頼んだのに。シェフィールドさんは!」

 

 彼女は震えているが、此方を向いてくれない。デルフを一振りすると、無造作に放り投げる。

 

「ねっ姉さん、ヒデェよ!何するんでぃ?」

 

 地面に落ちたデルフが文句を言うが……「お黙り、駄剣」感情の籠もらない一声で黙殺された。

 

「ツアイツ様……」

 

「なっ何だよ?どうしちゃったんだよ?」

 

 危険だ……今の彼女から立ち上るオーラは、禍々しい。

 

「お姉ちゃんでしょ?そんな呼び方は駄目よ……ねぇツアイツ」

 

 振り返った彼女の表情は、恍惚としていた。まるで、心の底から喜びが湧き上がってくる様な……こんな状況でなければ、美しいと見惚れてしまう様な。

 

「くすくすくす……何で、自ら傷を負う様な事をしたのかしら?お姉ちゃん、心配で遍在を殺しちゃった。だってツアイツに魔法を放とうとしたの……」

 

 一歩一歩近付いてくる。顔には笑みが張り付いているけど……目が、目がグルグルで黒目になっている。

 

「ちょちょっと落ち着いて……少し説明させてね?」

 

 両手でしっかり抱き付かれ、唇を奪われる。

 

「んっんーん、っはぁ!何をするの?」

 

 今すぐ彼女を突き飛ばし、逃げなければならない。本能が警鐘を鳴らすが、体が動かない。

 まるで、パラライズの魔法にかかった様に、首から上しか動かない。シェフィールドさんは、僕を抱き締めたままだ……

 

「ツアイツ……お姉ちゃんね、嬉しいの。ツアイツも我が主や私と同じ様に何処か狂ってるのね……

ジョゼフ様も、自分の体を顧みない。傷付くのが当たり前と思っているの!

知っていた?ジョゼフ様はね……私に鞭で叩いてくれ!って命令するのよ。

主の使い魔の私には、彼を傷付ける事は拷問なのに……彼は、何時もそれを望むの……

あの守らなければならない物を自ら傷付ける快感……ツアイツには、まだ早いと思ったの!でも平気なのね?」

 

 ジョゼフ王が、M男だと?そして、シェフィールドさんに女王様プレイを強要だって!

 ルーンの影響を受けている彼女に鞭を振るわせるなんて……それを主の喜びと認めたって事だ!

 

 畜生、ジョゼフめ!M男だとは聞いてないぞ!只のEDじゃなかったのかよ?

 

 再び唇を奪われる。

 

「んーんんんー、はぁ!お姉ちゃん、落ち着いて。僕は違うから」

 

 何だ?眠い……駄目だ……此処で寝たら、二度と目を覚まさない気が……

 

「で、デルフ……助けを……呼んで……」

 

 僕は意識を手放した。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 意識を失ったツアイツを見下ろす。

 

「嗚呼……ついにツアイツを手にいれたわ。もう誰にも渡さない。私だけの可愛い弟……」

 

「姉さん、駄目だって!正気になれって」

 

 五月蝿い駄剣ね……

 

「お前、私からツアイツを奪うの?」

 

「ちっチゲーすよ。しかし、それはやっちゃ駄目っすよ!」

 

 そうね。お前は要らないわ。でも残しておくと五月蝿いから、火竜山脈にでも捨てておこうかしら……

 

「さぁツアイツ。お姉ちゃんとお家にかえりましょうね」

 

 彼を抱き上げ、駄剣も掴んで転移する。ガリアへ、主の下へ帰りましょう。

 その前に、レコンキスタ……ツアイツに刺客を差し向けた、許せない組織。みんな火石で吹き飛ばしてあげるわ。

 

「くすくすくす。やっと殺せるわ……オリヴァー・クロムウェル。

邪魔だから、他の連中共々燃やしてあげるわ!新しい私達の門出に相応しい花火にしてあげる。有り難く思いなさい」

 

 

 その晩、ダータルネスと言う港町が物理的に地図から消えた……幾つものクレーターを穿ち数万とも言われた傭兵達と共に。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「ツアイツ。ツアイツ、起きなさい。朝ですよ」

 

 優しい声と共に、サワサワと髪を梳いてくれる感触がする。目を開けると、見覚えのない部屋だ。

 しかし明るく清潔な感じだし、寝ていたベッドはフカフカだ……夢だったのかな?

 

「お姉ちゃん、変な夢をみたんだ。ジョゼフ王ってM男じゃないよね?はははっ、働き過ぎたのかな?」

 

「早くこっちに来なさーい。朝食が冷めるわよ?」

 

 ベッドから起き上がり、声のする方へ歩いて……?此処は何処なのかな?僕は、自分の部屋でダッシュ殿と話を……ダッシュ殿?

 

 誰だっけ?

 

「ツアイツ、遅いわよ。早くいらっしゃい。お兄様もお待ちよ」

 

 お兄様?僕に兄弟が居たっけ……ソウルブラザー?駄目だ、頭がボーっとして思考が纏まらない。

 

「ほらほら、早くなさい。全く兄弟で朝が弱いなんて、どうしましょう。朝は何かと忙しいのに……」

 

 お姉ちゃんに手を引かれ、食堂に行く。食堂には、蒼い髭の中年が座ってるが?誰だっけ……

 

「ツアイツ、おはよう。我がミューズの手を煩わせるなよ。早く座れ!」

 

「兄さん……兄さん?そうだ!僕は、ガリアのジョゼフ王の弟。お姉ちゃんは、僕と兄さんのお嫁さんだ……何だろう、忘れていたのかな?」

 

 手前の椅子に座る。良い匂いがする温かい料理が列んでいる。早く食べなくちゃ……

 

「ほらほら、旦那様方。食後に三人で張り切る為に、朝から精力の付く物ばかり用意したわ。これを食べて、頑張りましょう!」

 

「いただきます!あれ?何で僕達、裸で首輪だけしてるのかな?」

 

「ツアイツ……難しい事を考えちゃ駄目でしょう?私達、ずっと一緒なんだから」

 

 そう魅力的に微笑む彼女は、過激なボンデージにエプロンをしていた。食後は、三人で地下のプレイルームに行く予定だ……

 

 

 

 

 ヤンデレなシェフィールドさんに洗脳されて、ジョゼフ王と3Pハーレム?

 2人を自分の旦那様として、三人でグラントロワに籠もり末永く幸せに暮らしました。

 

 

 

 

 ヤンデレさんルートBAD END

 

 

 実際に洗脳出来る手立てを持ったら、ヤンデレさんならやりそうだと思いまして。

 次話からは第135話として本編に戻ります。

 

 シェフィールドさんには別にハッピーエンドも用意しております。

 

 

 



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第135話から第137話

第135話

 

 

 小さな事から嘘から綻ぶ事を回避する為に、本当に怪我を負う事にした。

 しかし頼んだダッシュ殿のライトニングクラウドは、シェフィールドさんにより防がれた。

 

 これは危険だ!

 

 主にダッシュ殿が……超過保護なシェフィールドさんが、僕に攻撃魔法を放ったダッシュ殿を許すとは思えない!

 

「ちょシェフィールドさん違いますからね!ダッシュ殿には僕が頼んだ事ですから!」

 

 シェフィールドさんは、ライトニングクラウドを吸収し紫電をパリパリと纏っているデルフを無造作に放り投げる。

 

「姉さんヒデーっすよ!」

 

 デルフが文句を言っているが、彼女は動かない。ダッシュ殿も固まっている。早く逃げろダッシュ殿!

 

「あの、シェフィールドさん?」

 

 ゆっくりと此方を振り返った彼女の顔は、恍惚としている……何故?

 

「嗚呼……ツアイツ様……貴方も普通では無かったのね。謀略の為とは言え、躊躇無く自分に怪我を負わせる事が出来るなんて……」

 

 彼女はゆっくりと近付いてくる。普段と態度が違う。目がグルグルのヤンデレMAXだ!

 

「嬉しい。貴方も私と同じ様に、何処か狂ってるのね」

 

 そう言って僕を抱き締める……

 

「私は不安でした。己の生に無頓着で、世界に不満を募らせる主。そして、その手を血にまみれさせ狂った主に仕える私……

どんなに良くしてくれていても、ツアイツ様は私達とは根本的に何処かが違うと思っていたわ」

 

 抱き締める力が強くなる。乳圧で苦しくなる……

 

「でも貴方もこちら側の人間だったのね。嬉しいわツアイツ」

 

 力を込めてシェフィールドさんの拘束を解く。

 

「シェフィールドさん、何を?」

 

 嗚呼……あれは、危険域を突破した目だ!

 

「愛するツアイツを傷付ける者は、誰だろうと許さないわ。貴方は私が守ってあげる。でも貴方を傷付けるのも、私以外は許さない」

 

「な、何を言ってるの?」

 

「大丈夫……貴方に火傷が必要なら、私が貴方を傷付けるわ。それに駄目よ。稲妻の火傷は、特徴が有るから火のメイジには付けられないの」

 

 嬉しそうに、僕を抱き締めて頭を撫でながら……囁く様に、危険な台詞を言う。

 

「だから私の手で、ツアイツを燃してあげる」

 

 ちょ、コレってヤンデレさんに殺されるパターン?

 

「この火石を操れば、火のメイジと同じ事が出来るわ。大丈夫よ。このまま私も一緒に燃えてあげるから……さぁ準備は良いかしら」

 

 そう言って、抱き締められて密着した体と体の間に火石を挟んだ!

 

「ツアイツ、お姉ちゃんと共に燃えましょう……」

 

 そう言って火石の力を解放しようとしたので、火石を掴んで彼女を突き飛ばす!

 

 激しい熱、暴力的な爆風を受けて僕の左半身から激痛を……

 

「ぐっ……ぐあぁ……」

 

 掴んで火石を放り投げようとしたが間に合わず、左腕を付け根まで火球に包まれ、爆風で左半身に火傷を負ってしまった。

 

「くっ……ダッシュ、水の秘薬を……早く!」

 

 有りったけの水の秘薬を使い治療をする。ヤバい、激痛で意識が朦朧とする。

 しかし、子供の頃からカリーヌ様に受けた拷問と言う名の訓練が、僕に苦痛に対するタフネスさを齎(もたら)してくれたのか……

 

「シェフィールドさん」

 

「ツアイツ様、何故?」

 

 彼女は涙ぐんでいる。しかし、目はまだヤンデレだ。ここで対応を間違えれば、僕は死ぬだろう。

 

「シェフィールドさんを傷付ける奴は僕も許せないんだ……自分を含めて……だから、落ち付いて、ね。僕とシェフィールドさんは家族だから……」

 

 ヤバい、流石に意識が……

 

「ダッシュ殿、後は頼みます。僕は元々重傷だから……分かりますよね?身内に被害を及ぼさない様に、騒ぎを……抑えて…下さい……」

 

 そう言って意識を手放す。

 

 出来る事なら「シェフィールドさんヤンデレEND」なんて終わり方で無い様に……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 つっツアイツどのー!

 

 この状況で、何を私にさせようとするのですか?くっ足が、足に力が入らない……シェフィールドを見れば、呆然としている。

 私には、遠慮も無く死を与えるかも知れないが……

 

 私を一個人として見てくれたツアイツ殿の為に「しっかりしろ!」このヤンデレ女をひっぱたく!

 

 目の焦点が合って、睨まれてしまった……

 

「何をするの?」

 

 あっ足に力が入らない……

 

「つっツアイツ殿が私に託した事……それは、我々の誰にも被害が及ばない様に、この事態を纏める事……ここは、私が何とかするので、直ぐに立ち去れ!」

 

 言うやいなや、爆発音を聞いた使用人達が騒ぎ出している気配がする。

 

「しっしかし、ツアイツ様が……」

 

 ダンダンダン!

 

「ツアイツ様、今此方から凄い音がしましたが!大丈夫ですか?」

 

「早く行け!」

 

 シェフィールドは、後ろ髪を引かれる様な表情で転移して行った。さて、私はこの場をどう取り繕ったら良いのだ?

 急ぎドアに向かい、扉を開けながら考える。

 

「ワルド様!一体何が有ったのですか?きゃ?ツアイツ様!どうなさったのですか?」

 

 エーファと言ったか?メイド長が、ツアイツ殿の下に駆け寄って行く。

 

「大変なのだ!見舞い品の中に火石の罠が仕込まれていた。

私が来た時には、既にツアイツ殿が自分で治療を……しかし、応急処置だ!早く水メイジを呼んでくれ。

そしてツアイツ殿は、動揺を抑える為に内密に処理をしろ!と、言われた。サムエル殿と相談を……」

 

 ツアイツ殿専属のメイド達が、慌ただしく処理をしていく。流石に手際が良い。

 専属の水メイジが治療に当たるが、既に応急処置がなされいる為に殆どする事がないそうだ。

 

 ツアイツ殿を着替えさせ、綺麗な包帯で処置を終えると「命に別状は有りません。しかし絶対安静にして下さい。何か有れば別室に控えてますのでお呼び下さい」そう言って退出してしまった。

 

 皆の視線が、私に集中している……詳しい事情を説明しないと、許さない!そんな視線だ……

 

 

 ツアイツ殿!

 

 どうか、私の嘘がバレる前に意識を回復して下さい!もう、いっぱいいっぱいですから……

 

 

 

第136話

 

 

 ああ、ツアイツ!死んでしまうとは、何事だ!

 

 僕の切断した首を抱き締めて、座り込むシェフィールドさん。愛おしそうに髪を梳いている……

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ、享年15歳。

 

 ハルケギニアをオッパイで駆け抜けた、若き教祖の早すぎる死だった……

 

 

 

「ヤンデレなシェフィールドさんBAD END2」

 

 

 

「って違うわー!まだまだこれから僕のサクセスえろストーリーは始まるんだー!」

 

 あれ?生きてる……思わず首が付いてるかを確かめて、左腕の痛みで我に帰る。

 

「知ってる天井だ……それと、知ってるダッシュ殿……」

 

 目の前には、隈を作ったダッシュ殿が憔悴しきって座り込んでいた。

 

「良かった、ツアイツ殿……もう少し遅ければ、私はストレスで消滅してました」

 

 どんだけ苦労したの?

 

「それで、どれ位かな?意識が無かったのは?」

 

「まだ翌日の昼過ぎです。まる12時間は意識を失ってましたよ……」

 

 そう言って、僕が気付いた事を知らせる為に出て行った。痛みの有る左半身を確認する……酷い状態だが、指も全部有るし動く。

 顔には怪我は無いし、左上半身と左腕が中程度の火傷で済んだ。時間は掛かるが、完治する程度の怪我だ。

 

 暫くは見た目は酷いけど、結果オーライか……

 

 などと考えていたら両親とメイドズ、それとテファと本体ワルド殿が駆け込んで来た。

 

「ツアイツ、見舞い品が爆発したとは本当か?」

 

「ツアイツ、痛くない?痛いなら主治医を呼ぶわ」

 

 両親が同時に話し掛けてくる。見舞い品が爆発?ダッシュ殿を見れば……僕を拝んでいる。ああ、そう言う設定なのか……

 

「ええ……確証は有りませんが、箱の一つから煙が出てまして。 外に放り投げ様としたが間に合いませんでした……

後は、山積みの水の秘薬を有りっ丈使い応急処置を頼み、ちょうど来てくれたダッシュ殿に後を任せたのです」

 

「ほら、私は嘘は言ってませんよ!」

 

 すかさずダッシュ殿が、自己弁護し始めた。疑われていたのかな?

 

「旦那様、お身体は平気ですか?痛くはないですか?」

 

 テファが泣きそうな顔で、訊ねてくる。前にロングビルさんに重傷を負わされた時みたく、抱き付いてはこなかったが……

 

「僕も水のトライアングルですから分かります。酷い火傷ですが、完治します。時間は掛かるけど、傷も残らないですよ」

 

 それを聞いて皆が安心したようだ。

 

「少し休みますね。その前に父上とダッシュ殿とワルド殿は、お話が……残って貰えますか?」

 

 これからの対策だけは、話しておかなければ……

 

「良いだろう。皆は先に休んでくれ。テファ殿は、先程まで徹夜で看病していたのだ。後で礼を言っておけよ」

 

 今は有能な父上だ!テキパキと皆を下がらせ、ベッドの脇に椅子を3つ用意し並んで座る。

 

「さぁ話せ……」

 

 気付いてるのかな?

 

「この怪我……ちょうど良いから利用しましょう」

 

「ダッシュ殿の報告に有った、アンリエッタ姫の暴走が原因か?」

 

 ダッシュ殿を見れば、頷いている。

 

「私が大筋を話しました。しかし、アルブレヒト閣下への謁見はその怪我では無理でしょう。

なので、ツェルプストー辺境伯に使いを出して貰いました。彼に来て貰い、そして閣下に報告をして貰う」

 

 流石だ、ダッシュ殿!

 

「流石です、ダッシュ殿。父上、アンリエッタ姫は、我らでは既に制御不能……そもそも彼女を制御など、近くに張り付いて居なければ不可能でした。

不正の資料・リストを渡し、全ては義父上達に託しました。しかし、最悪の事態を考えてゲルマニアも増援を送ろうかと考えたのです」

 

 父上は、目を閉じて考えている。

 

「貴様から見て、王党派はどうだ?我が祖国を巻き込む必要が有るのか?そもそもアンリエッタ姫の恋愛成就など、もう協力する必要も無かろう!」

 

 んー父上は、アンリエッタ姫を見限るつもりかな?

 

「ウェールズ皇太子。実際お会いしましたが、有能ですし我らと同等の変態ですね。

アレは、僕達との連携の取れないアンリエッタ姫ではどうこう出来ません。

現戦力では、王党派は少し不利ですから。あと一手をトリステインに打たせ、花を持たせる予定でしたが……」

 

「あの暴走姫のせいで、精々が国内の腐敗貴族の処理で終わる……か?」

 

「増援まで、話を纏められるかが疑問です。でも増援が無いと王党派が危険だ。だから戦意高揚を含めて、僕はアルビオンに向かいます」

 

「お前が、其処までする必要は無いだろう。ゲルマニアの参戦許可がおりれば、ウチとツェルプストー辺境伯の常備軍で事足りる」

 

 親として、至極真っ当な意見だ。

 

「閣下へのお願いは、義父上が来てから話し合いをしましょう。我らゲルマニアには悪くない話ですから。

アルビオンとの軍事同盟と婚姻同盟……閣下の悲願の始祖の血を帝室に入れる事も可能ですから」

 

 アルブレヒト閣下は、ゲルマニアが始祖の血が入ってない事だけで、国力の格下連中に軽く見られるのが我慢出来ずにいる。

 アルビオン王国はハルケギニア最大の空戦力を持っているから、軍事同盟にも旨味が有る。

 それに、ジェームズ一世もウェールズ皇太子も王族としてマトモだ。彼らは、話し合いで手を組む事が出来るだろう。

 

 この国際交流は、お互いの利益が有るから問題は無い……

 

「今は少し休め……それと、先程ワルド殿から聞いたが。極上のロリっ子が、此方に向かっているそうだ。それが、ミス・ジョゼットか?」

 

 ああ、忘れてた。

 

「ワルド殿、首尾はどうだったのですか?」

 

 ワルドズの方を見ると……ダッシュ殿が目を逸らしたぞ?

 

「ツアイツ殿、取り敢えずミス・ジョゼットを彼女の意志で、セント・マルガリタ修道院から連れ出す事には成功しました。

序でに、ロマリアとジュリオに隔意を持たせる事も上手く行きました。彼女はホ〇国家と、それに情報を売ったジュリオを恨んでます……」

 

 それは……ロマリアがガリアにちょっかい掛ける芽の一つを摘めたって事かな。落ち着いたら、イザベラ姫に相談しよう。

 彼女なら、悪い様にはしないだろうし。また迷惑を掛けてしまうな……お詫びに何を贈ろうかな?

 

 などと彼女の好きそうな物を考えていたら、エーファから報告が有った。

 

「ツアイツ様、済みません。

ガリア王国竜騎士団団長カステルモール様とご内儀様以下イザベラ隊の皆様が、面会を求めていますが……どうしたら良いでしょうか?」

 

 まさかの、ガリア精鋭部隊の来訪の知らせだった!

 

 

 

第137話

 

 

 イザベラ姫の命を受けて、民間船にてハーナウ領へやって来たカステルモール様御一行……

 レコンキスタを潰す前に、ツアイツの安否をイザベラ姫に伝える。ただ其れだけの為に、やって来た一団だった。

 

「それで、彼らは何処に居るんだい?」

 

「それが、総勢32名もいらっしゃいましたので、大広間にてお待ちです」

 

 32名だって?そんなに押し掛ける程の事が有ったのかな?

 

「分かりました。では大広間に行きま……イテテテテ……」

 

「ツアイツ殿、無理はしないで下さい。代表で、カステルモール殿だけを先に通して貰えませんか?」

 

 ダッシュ、ナイスフォロー!エーファが、カステルモール殿を呼びに行った。

 

「ご内儀……奥さんだよね?エルザの紹介だけなら、大袈裟な……」

 

「ツアイツ殿、ご無事ですかー?」

 

 カステルモール殿が、物凄い勢いで室内に入ってくる。

 

「カステルモール殿、お久し振りです。どうなされたのですか?」

 

 カステルモール殿は、僕を上から下までじっと見詰めている……左腕から左半身に向けている視線が厳しい。

 

「ああ、これはレコンキスタからの刺客にやられてしまいましたが……大分良くなりました」

 

 本当は昨夜のシェフィールドさんヤンデレ化事件の傷なんだけど、ガリア組には仮病って伝えてなかったから……

 

「その傷……まだ塞がり切ってないではないですか!そんなに血が滲んで……

でも意識はハッキリしているので良かった。回復の見込みは、どうなのですか?」

 

 まさか心配して来てくれたのかな?

 

「先程、意識が戻ったんですが……僕も水のメイジ。後は完治まで、そう掛からないですよ。あの、カステルモール殿……聞いてますか?」

 

 もんの凄い殺気をたぎらせてマスケド?嘘がバレたのかな?

 

「あの……カステルモール殿?」

 

「ツアイツ殿……」

 

「はっハイ!なっ……何ですか?」

 

 この真剣な顔は……何が有ったんだ?

 

「お願いが有ります。動ける様になったら、一度イザベラ姫に会ってあげて下さい。

彼女は、ツアイツ殿の怪我を会報で知ってから塞ぎ込んでいます。せめて手紙でも構いません。無事を知らせてあげて下さい」

 

 そう言って頭を下げた。

 

「あっ頭を上げて下さい。ちょうどイザベラ様には、何か贈り物をしようと考えていたところでしたから……」

 

 カステルモール殿は、それでも頭を上げてくれない。

 

「私は、あの意地っ張りで我が儘で意地悪な姫を気に入っています。

見た目よりも、ずっと強く気高い姫を……しかし、ツアイツ殿の怪我を知ってから……

彼女が、泣きそうな小さな少女に見えてしまうのです。出来れば、直接会って無事を知らせて頂きたいのです」

 

 えーと……イザベラ様が、僕の事を心配して塞ぎ込んでいる。イザベラ様と僕は……友達で共犯で戦友?そしてアイドルとしてのプロデューサー?

 

 どちらにしても、彼女が僕を心配してくれているのは嬉しいかな。

 

「勿論です!ちょうどお会いして話したいと思ってましたから」

 

「そうですか!良かった、それなら我らが護衛の任に付きます」

 

 やっと頭を上げてくれた。

 

「折角、我が家に来てくれたのですから暫く滞在していって下さい。イザベラ様には、直ぐに手紙を認(したた)めますので……」

 

 ワルドズの方を見て「カステルモール殿達の世話をお願いしますね」そう言って、部屋から出て行って貰った。

 

 ……ヤバかった。あの勢いで心配してくれて来たのに、実は謀略で仮病でした、テヘッ!何て言える訳無い。

 カステルモール殿に頭まで下げさせてしまったからには、何としてでもガリアには行かねばならない。

 

 イザベラ様……

 

 僕の事もちゃんと心配してくれたんだ。でも立地的にアルビオンより先にガリアには行けないよな……どうしようかな?

 うんうんと考えてみるが、時間と距離の関係で難しい。

 

 そうだ!もう1人、フォローしないといけない女性が居たんだった。僕は天井に向けて話し掛ける。

 

「お姉ちゃん。居たら出て来て欲しいな」

 

 シェフィールドさんは、音もなく部屋の隅に転移してきた。

 

「ツアイツ様……」

 

 彼女の目は、まだ微ヤンデレな感じがする。

 

「お姉ちゃん。気持ちは嬉しかったよ。でも、家族が互いに傷を付けちゃダメだよ。お姉ちゃんは、ジョゼフ王のお嫁さんになるんだから、花嫁に傷が有っちゃダメでしょ?」

 

 ジョゼフ王よ。ヤンデレパワーは、全て貴方に向けさせて貰います。

 

「ツアイツ様……私の事を嫌ってないの?」

 

「何で?僕はお姉ちゃんを傷付けたかもしれない、僕の事が許せないんだ。お姉ちゃんに怪我は無かった?」

 

 よし、黒目が減ってきた。もう少しだ。

 

「私は平気。ツアイツが庇ってくれたから……」

 

「良かった、安心した……じゃあ、少し寝るね。寝るまで側に居てくれる?」

 

 シェフィールドさんの目は、慈愛に満ちた何時もの目だ……ヤンデレエンドは回避出来たぞ!

 

「ツアイツは、お姉ちゃんが居ないと寝れないのね?しょうがない甘えん坊さんね……」

 

 ベッドの脇の椅子に座り、頭を撫でてくれる。良かった……元に戻ったよね?

 何か地雷を踏んだ気がビンビンするが、ジョゼフ王に押し付けるから平気だ。

 それに普段は優しいお姉ちゃんだから……彼女を泣かせるのは嫌なんだ……でも今は、少し寝よう……

 

 体が休息を欲しがって……る…から……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 良かった……ツアイツ様が、他の連中みたいに私を化け物として見たら……どうしようかと、思ってしまったから。

 彼は、他の奴らと違う。私を恐れていたら、こんな無防備な姿は晒さないわ……

 優しくて、思いやりが有って、有能で、何処か壊れて狂っている大切な私の弟……

 

 今だって無理して私をフォローしてくれたんだわ。

 

 嗚呼……彼を、ツアイツを独占したい!私だけのツアイツにしたいわ……でも駄目よ。

 ツアイツは、私をジョゼフ様の花嫁として傷が付かない様に体を張って守ってくれたの……その気持ちを大切にしなければ。

 早くジョゼフ様と結ばれて、ツアイツをガリアに呼んで3人で暮らしたい。

 

 それには、レコンキスタはもう要らないわ。早く壊したいけど、ツアイツの頑張りを無駄には出来ないわ……

 

「あら?ツアイツが魘されているわね。大丈夫よ。お姉ちゃんがずっと側に居てあげるから……」

 

 ヤンデレエンドフラグは、まだ折れていなかった!

 



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第138話から第140話

第138話

 

 今晩は!ツアイツです。

 

 夕飯は大食堂にて大勢で食べています!

 僕の為にわざわざ来てくれた、カステルモール殿以下イザベラ隊員30人&エルザ殿とワルドズ他と……しかし、流石は魔法!

 金に糸目を付けない高価な水の秘薬をふんだんに使用した為、一晩で随分回復しました。

 

 でも、左腕は細かい動きなど出来ない訳ですから……

 

「旦那様、あーん!」まぁテファに食べさせて貰ってます。

 

 向かい側でも「お兄ちゃん、あーん!」此方は、エルザ殿が食べさせて貰ってますが……微笑ましい光景です。

 イザベラ隊員は、ツンデレに特化した性癖軍団。巨乳やロリっ子とイチャついても不平は出ません。

 

 しかし、早く回復して共にガリアへ行こう!

 

 的なオーラをヒシヒシと感じます。

 

「エルザ殿、幸せですか?」

 

 ベタベタな口元をカステルモール殿にハンカチで拭いて貰っているエルザ殿に話し掛ける。

 

「うん!幸せだよ。でもお兄ちゃんが元気無いから、早く何とかして欲しいかも」

 

 ああ……幼女にまで笑顔で、早くガリアへ行けって言われてしまったよ。

 

「ちょっと用事を済ませたらね。でないと、大変だから……」

 

「レコンキスタですか!我らが潰すつもりですからご安心を」

 

 見渡せば、イザベラ隊員の皆さんも頷いている。

 

「いや、あくまでも対決は王党派でないと駄目です。しかし、応援の段取りをしていますから……」

 

「我らはイザベラ様より謹慎を言われてますから……つまり自由行動可ですね。よって参戦希望です」

 

 キラリと歯を輝かせ、爽やかに言う漢達。フリーダム過ぎる連中だ!

 

「それはイザベラ姫の立場も有りますから……我らゲルマニアも参戦を考えています。

ツェルプストー辺境伯にお願いして閣下に提案を……はい、旦那様。あーん!ってテファ、今は大切な話の途中……はい、あーん!」

 

 テファのあーん攻撃に膝を屈する。

 

「今は食べて回復するのが、一番の仕事です!それに怪我人をお出掛けさせません」

 

 久し振りに、腰に手を当ててプンプンって怒られてしまった……

 

「いや、大切な事だから……それに体は大丈夫だから」

 

「駄目です!」

 

 カステルモール殿も観念したのか「……今は食事に専念しましょう」「はい、旦那様あーん!」と、黙々と食事を続けた。

 

 食事を終え、イザベラ隊の皆さんは書斎に案内して全巻揃った男の浪漫本を読んで貰っています。

 

 それと……販売出来ない一点物のアレ……「2人はマジカルプリンセス!禁断の従姉妹姫・第一章」を秘密で見せてます。

 

 物凄い盛り上がりですね!またイザベラ様に叱られそうだ……

 

 そしてカステルモール殿とエルザ殿には、別室でワルドズを交えた相談に参加して貰います。

 自室に招待し、紅茶を用意……は、ダッシュ殿が煎れてくれました。何故か手際が良いのですが?素早く、人数分のカップに紅茶を注いでいく。

 

「改めて、初めまして!エルザ殿。ツアイツ・フォン・ハーナウです。カステルモール殿の友人ですよ」

 

 ソファーの向かいでカステルモール殿の膝の上に座っているエルザ殿に、改めて自己紹介する。

 

「初めまして!エルザだよ。そして、何故私の秘密を知ってるのかな?それに、私に何をさせたいのかな?」

 

 最初の挨拶は、微笑ましい幼女のソレだったが、後半の質問は……実年齢相応の感じだ。

 

「貴女が吸血鬼だと知ったのは偶然ですよ。しかも、カステルモール殿から聞く迄は居場所は知らなかったし……

何をさせたいか?それは、カステルモール殿と幸せになって欲しい」

 

 きょとんとした顔のエルザ殿……

 

「分からないわ。貴方に何の得が有るの?」

 

 アレ?疑われてるのかな?

 

「カステルモール殿は特殊な性癖ですし、彼は友達ですからね。貴女となら幸せになれると思ったからです。勿論、年を取り難い貴女のフォローもする予定です」

 

 彼女は、両手でホッペタを広げてキバを見せた!

 

「私は吸血鬼!ハルケギニアでは最悪の妖魔扱いの化け物なのよ」

 

「はぁ……随分と可愛い化け物ですね!ねぇワルド殿、ダッシュ殿?」

 

 別に敵対しなければ構わないし、彼らが幸せなら他の連中が騒いでも知らない。

 

「「カステルモール殿!双子の月の隠れる夜には注意しろよ!未亡人のエルザ殿は幸せにするから、私が!」」

 

 2人で闇討ちする気ですか?

 

「ね!僕達は、吸血鬼とか種族なんて気にしないよ。そんなのは些細な事だから……ただ、ワルドズはカステルモール殿を闇討ちする気満々かな?」

 

 エルザ殿はガックリとうずくまった……

 

「カステルモールお兄ちゃんも普通じゃないと思ったけど、ツアイツ様も大概だね。エルザ、話してて疲れたよ」

 

 取り敢えず警戒は解いてくれたかな?

 

「僕らは普通とは……ハルケギニアの中では一般人とは、感性が違うのかも知れない。でも仲間を思いやる気持ちは同じだよ。

エルザ殿が、我々に危害を加えなければ守ってみせるよ。だって僕達は、もう仲間だよね」

 

 ニカっと笑いかける。

 

「ツアイツ殿、有難う御座います。彼女をエルザを受け入れてくれて……そして、ワルドズ!エルザに手を出したら承知しないぞ!」

 

「「はははははっ!勿論冗談さ。しかし、事故は防げないかもしれないな」」

 

 エルザ殿は呆れ顔で3人を見つめる。

 

「こんなに軽く扱われたの初めてよ!全く吸血鬼なのに怖くないのかな?」

 

「こんなに可愛い妖魔なら大歓迎さ!僕らは本当の怪物を知っているから……」

 

 アレな烈風な人とか、ヤンがデレてる人とか。

 

「「「彼女らに比べたら可愛い物だよね!」」」

 

「何と比較されたのか、気になるー!」

 

 ほのぼのと時間が過ぎていく……

 

「さて、これからの事ですが……」

 

 ここからは真面目モードだ。

 

「明日にはツェルプストー辺境伯が我が家に来る筈です。

閣下の件を相談したら、僕はガリアに行きます。その後はアルビオンの王党派と合流したいのですが……」

 

「有難う御座います。ツアイツ殿が来てくれればイザベラ姫も一発で元気になりますよ!」

 

 確かに一度会って色々相談したい。それは、ミス・ジョゼットの事も含めて。

 

「此方で足の速い船を用意しますから。それで、今回はブリュンヒルデはどうしたのです?」

 

 彼の逞しく美しい使い魔を思い出す。

 

「今回は国境近くで留守番させてますよ」

 

 このガリア王国行きは、僕の未来設計に大きな影響を及ぼす事となる……

 

 

 

第139話

 

 

 カステルモール殿達の来訪を受け、怪我を負った状態で会う事になった……しかし、これが正解!

 連絡を怠ったガリア勢は、本気で心配してくれたのは嬉しかった。

 

 でも、仮病だったんだ。テヘッ!何て事は許されない状況だった。

 

 何と言っても、ガリア王国の姫を泣かせてしまったのだから……これは、彼らの希望通りに会いに行くしかないだろう。

 カステルモール殿とエルザ殿は、父上と話が有ると言って「サムエル愛の資料館」に籠もってしまった。

 

 まぁ父上はアレでも有能なので、上手く話をつけると思います。

 そして、会報の再開に付録として付ける作品が仕上がった頃に、エーファが部屋に報告に来た。

 

 遂にミス・ジョゼットが我が家に到着したのだ。

 

 出来れば、今日は休んで貰い明日話をしようと思ったが……どうしても、確認したい事が有ると面会を求めてきた。

 呼びに来たエーファに案内されながら、客間に通される。

 

 そこには、ミス・ジョゼットとロングビルさんが……遅い夕飯を食べていました。

 

「あっ?ツアイツ様、すみません。休憩無しの強行軍だったので……」

 

 慌てて、ナプキンで口を拭くロングビルさん。

 

「お構いなく。ゆっくり食べて下さい。食材に感謝して良く味わって下さいね。エーファ、僕にも紅茶を」

 

 口をパンパンにして、ローストビーフを食べていたミス・ジョゼットは……胸を叩いているけど、何か喉に詰まらせてないか?

 

「ミス・ジョゼット?水、水を飲んで、水を!」

 

 慌てて彼女の手に、コップを持たせる。

 

「ングングング、はぁ……すみません。お肉の塊とか久し振りだったんです」

 

 何だろう……食いしん坊なのは、オルレアンの血筋か?

 

「気に入って貰って良かったよ。慌てないで沢山食べてね」

 

「はい!」

 

 元気よくモリモリ食べるその姿は、確かに愛らしい物だったが……何故か彼女も、原作からは剥離した存在だと感じた。

 

「ツアイツ様、ワルドズはどうしましたか?先に帰したんですけど?」

 

「ああ、例の件だよね。報告を受けたし、対応も考えたから平気だよ。それより、お疲れ様!ロングビルさん」

 

「あっ有難う御座います。ツアイツ様」

 

 何故か2人の間にほのぼのした空間が出来る。

 

「ロングビルさんの好きな人って、この方なの?」

 

 まだ、ローストビーフと格闘しているミス・ジョゼットが聞いてくる。口に物を入れた状態で話すのははしたないよ。

 

「レディが、口に物を入れた状態で話し掛けたら駄目だよ。ミス・ジョゼット」

 

 慌てて水で口の中の食べ物を流し込んでいる。忙しい娘だな……そして表情が、クルクル変わるし。今度は真面目な顔だし?

 

「えっと、ツアイツ様は何故、私を助けてくれたのですか?」

 

 まぁ当然の質問だ。ちゃんと回答も考えている。

 

 ロングビルさんを見ながら「大筋は、ロングビルさんから聞いたよね?」彼女は無言で頷く。

 

 ナイフとフォークを構えたままで……

 

「えっと……足りたかな?デザート食べる?」

 

「はい!食べれます」

 

 目が輝いている!シエスタに、御馳走様と言って食器を下げさせる。新しいカップに紅茶を煎れて貰い、デザートのエッグタルトを用意して貰う。

 

「では、改めて話を……」

 

 視線が僕の手元のタルトをロックオンしてる?彼女の分のタルトは、もう無い。見れば口をモグモグしている……無言で、タルトを彼女に渡す。

 

「わぁ!良いんですか?」

 

「…………シエスタ。悪いけど、タルトまだ余ってるかな?」

 

「まだ、3〜4個でしたら残ってますが」

 

 ミス・ジョゼットを見る。

 

「まだ食べれる?……全部持ってきてくれる」

 

 もう渡したタルトも完食している。

 

「食べ終わるまで待つから、ゆっくり食べてね」

 

 そう言えば、ミス・タバサもハシバミ草をサラダボールごと、抱えて食べてたっけ……女性の胃袋は驚異的だ。

 

「すみません。お待たせしました」

 

 ああ……あのお腹パンパンの姿は、間違い無くミス・タバサの妹だね。

 

「平気かい?話なら明日でも構わないけど?」

 

 どう見てもオネムだ……

 

「色々聞きたい事が有ったんです。騙されているのか?利用されようとしてるのか?

何故、私を助けようと思ったのか?でも、どうでも良くなっちゃいました!」

 

「えっと、何故かな?」

 

 ミス・ジョゼットは徐(おもむろ)にリングを外した。魔法の力で変えられていた姿が……ミス・ジョゼット本来の姿に戻る。

 

「これが、本当の私です。ツアイツ様は、私の姉の姿もご存知なんですよね?似てますか?」

 

 そこには、ミス・タバサとそっくりの美少女が居た。髪の毛がショートでなくロングだが……

 

「ああ、髪型は違えど瓜二つだね。でも何故、教えてくれたのかな?」

 

 ミス・ジョゼットはニッコリ笑った。

 

「ツアイツ様、優しいから……とても私を騙す人には見えないし。話に聞く貴族と全然違いますし。

きっと貴方なら、私を悪くはしない筈と信じたの。これから宜しくお願いします」

 

 そう言って可愛くお辞儀をする。餌付けか?知らない内に、餌付けが成功したのか?

 

「えっと、それは有難う。取り敢えず聞いておくけど、君はどうしたいの?アレ?ジョゼットさん?」

 

 隣に座っていたロングビルさんが彼女を覗き込む。

 

「寝てますね?ツアイツ様、すっかり信用されて懐かれてませんか?」

 

 いや、そんな目で睨まないで下さい。

 

「えっと……子犬の様な娘でしたね?人を呼びますから客室で寝かせましょうか」

 

「こりゃワルドの奴、振られたかねぇ?」

 

 確かに姉妹揃って、色事には疎い感じだね。

 

「兎に角、彼女はこのままではロマリアに利用されるだけだったから。ウチに来てくれただけで、良しとしましょう」

 

「全く、ツアイツ様は甘過ぎですよ?でもテファが居るんですから、彼女に手を出さないで下さいね」

 

「まさか!それより久し振りに軽く飲みませんか?テファにも、彼女の事を教えてあげて下さい。友達になって貰おうと……」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 寝た振りをしたけど、上手くいったみたいね。ツアイツ様といったかな。悪い人じゃないわ。

 それにとっても優しくて、ハンサムだし……でも、ロングビルさんの良い人なのかな?

 

 あの寂れた孤島で一生を終えるのかと絶望してたけど、私の魔法使いが現れた。

 

 このシンデレラの様に、私を幸せにしてくれるのかしら?

 

 

 

第140話

 

 

 おはようございます。ツアイツです。

 

 昨日は、怒涛の展開で疲れが取れてません。

 

 朝食は部屋でテファの介護を受けて食べていますが「はい、旦那様あーん!」この羞恥プレイをどうすれば良いのだろうか?

 

「何で、ロングビルさんやワルド殿。ミス・ジョゼット迄が見てるんですか?」

 

「「「いえ、何となく(です)」」」

 

 連中のニヤニヤが止まらない。

 

「「普段、飄々として頼りになるツアイツ殿が、あーん……クククッ!」」

 

「おモテになるんですねぇ……」

 

「テファ、お姉ちゃんもやってみたいよ」

 

 こいつ等、完全に遊んでやがる。

 

「あのですね!「ご主人様あーん!」いやテファ、今は大事な話が……」

 

「んぐっ!それで、僕は家から出られませんから、皆で街にでも遊びに行ってきなさい。

ワルド殿、い・い・で・す・ね?ちゃんとミス・ジョゼットをエスコートして下さい!」

 

「しかし、ツアイツ殿の護衛が……」

 

「ウチには、カステルモール殿とイザベラ隊。それにシェフィールドさんが戻って来てますから。この守りを抜くのは無理でしょう。

ワルド殿とダッシュ殿が居れば、ミス・ジョゼットも安心です。ロングビルさんもテファと久し振りに、買い物に行ってきて下さい」

 

 兎に角、皆で出掛けて下さい。

 

「分かりました」

 

 皆で部屋を出て行こうとする。

 

「ミス・ジョゼット!」

 

 彼女を呼び止める。

 

「テファと友達になってあげてね。それとウチの街は安全だから、楽しんで下さいね」

 

 そう言って送り出す。先ずは、ウチに馴染んで下さい。

 

「さてと、シェフィールドさん居る?」

 

 僕の呼び掛けに、直ぐに転移して現れる。

 

「おはよう、ツアイツ。どうしたのかしら?」

 

 今日は普段の様子の彼女だ。

 

「メンヌヴィルさんに会いに行こうかと思ってね。一緒にお願い」

 

「あら?まだ居たの、あの女」

 

 やはり、興味の薄い相手には冷たいなぁ……

 

「一応体力が回復する迄と思って。副作用とかも考えられるし……それに復讐。トリステインの動向が怪しいから、手元に居て貰ってる」

 

 これから、アンアン+義父上ズVS売国奴だ。この微妙な時期に、ゴンドラン暗殺とかヤバい。

 でも、積年の怨みを知らないウチに相手が縛り首じゃやるせないだろう。だから説明はする。

 

 シェフィールドさんと一緒に地下室に向かう。

 

「おはようございます。変わりは有りませんか?」

 

「ああ、坊ちゃんか……久し振りだね」

 

 彼女はベッドの上でストレッチをしていた。流石は元軍属か。

 

「ちょっとバタバタしてまして」

 

「てか、坊ちゃん!何だよ、その怪我は……この匂い。火傷だね」

 

 あれ?熱感知と匂いフェチって、薬の影響じゃないの?

 

「ああ、僕も敵が多いんですよ。でもご心配無く。直ぐに治りますから」

 

「治るって……その傷だと、火のトライアングル以上かい。俺が一方的にやられた坊ちゃんを傷付けるなんて。

相当の手練れだったんだね。それで、相手はどうしたんだい?」

 

 そんなに心配されると、僕もシェフィールドさんも何となく居心地が悪いです。

 

「ええ、問題無く処理しましたよ」

 

 ヤンデレENDは回避しましたから……

 

「もう体も平気ですから、解放しますね。それと、トリステインで問題が発生してるので説明をしておきます」

 

 そう言って、立ち話もアレだから僕とシェフィールドさんは椅子に座る。彼女はベッドに腰掛けている。

 

「レコンキスタが、アルビオン王国の次にトリステイン王国を狙っているのは知ってますか?」

 

 黙って頷いた。やはり、間違い無いのか。

 

「貴女の敵のゴンドランですが、レコンキスタに買収されてます。今、アンリエッタ姫が腐敗貴族を一掃する為に動いてるので……多分、一週間も経たずに彼はコレですよ」

 

 首をスパッと切るジェスチャーをする。

 

「はははっ。坊ちゃんは、やはり普通じゃないんだな。クロムウェルが躍起になって暗殺したがるのが分かったぜ。

その口振りだと、トリステイン王国と坊ちゃんは繋がってるんだろ?」

 

 うん、優秀だ。只の狂人じゃないとは思ってたけど……

 

「トリステイン王国のヴァリエール公爵の三女(他)と婚約してまして。だから、あの国にはマトモになって欲しいんです」

 

「ふん。それだけで、か?まぁ坊ちゃんは恩人だから詮索はしないが……そもそも、この戦争自体が坊ちゃんの手の上で進んでないかい?」

 

「何故、そう思うので?」

 

「アルビオン王国での、坊ちゃんの人気は絶大だ。王党派にもコネが有り、トリステインの大貴族と婚姻関係か。

そして、クロムウェルが一番恨んでる。これで関係無いなんて、普通じゃ笑うぜ?」

 

 パチパチバチ……シェフィールドさんが、絶賛してる?

 

「ツアイツ、この女は危険かしら?殺っときましょう?」

 

 だーっ、微ヤンデレだ!

 

「待って、お姉ちゃん。貴女は僕と敵対しますか?それとも仲間になるか、不干渉か……どれかをこの場で選んで下さい」

 

「だから、俺を雇えって言ってるだろ!仲間……は、殺そうとした相手に言うなよ。周りが納得しないぜ。だから、雇用されてやるよ」

 

 即答されたよ。

 

「有難う御座います。では、僕からプレゼントを……」

 

 書類一式を差し出す。

 

「何だよ。結局、俺が傘下に入るのだって予測済みかよ」

 

 文句を言いつつ、書類に目を通す……

 

「坊ちゃん、これは?」

 

「貴女の新しい身分証みたいな物です。」

 

「ラウラ……これが、俺の新しい名前かい?」

 

「ええ、トリステイン出身の貴女にゲルマニアの名前は悪いと思いますが……出身の村は飢饉でバラバラになってますから、調べられても分からないでしょう」

 

 パラパラと書類を捲りながら質問してくる。

 

「何で詳細に造り込んでるんだよ。俺が覚えられん!でも有難うよ。これで、俺がメンヌヴィルだとは思われないな」

 

 がはははっと笑っているが……長年の癖なのか、見た目が変わっても豪快なのは戻らないのですか?

 

「ではラウラさんは、僕に雇われる事で良いですね?」

 

「ああ、宜しく頼むよ」

 

 後一つ、大事な確認が有る……

 

「それと復讐ですが、今トリステインに乗り込んでも警備が厳重ですし……」

 

「いいよ。どうせアイツが死ぬなら、それで良い。それに俺が復讐に行くと色々と坊ちゃんの都合が悪いんだろ?」

 

 やはり有能だ彼女は……これはお買い得だったかな。

 

「ではコレ、ウチの雇用契約書ですから。全て目を通して、サインして下さいね」

 

 厚み15センチ程の書類の束をラウラさんに渡す。

 

「では、後でエーファを寄越しますから、良く説明を聞いて下さい」

 

 そう言って、泣きそうなラウラさんを残して部屋を出る。

 

「ツアイツ様、良いのですか?あの狂人を雇うなど」

 

 シェフィールドさん、心配性だなぁ……

 

「良いんだ。彼女が入れば、ウチの諜報部も戦力が高まるよ。何たって、荒事が少し苦手だからね」

 

 ちゃっかりしてるツアイツだった。

 

 

 

 何時もこの妄想小説にお付き合い下さいまして有難う御座います。

 

 いよいよレコンキスタと対決……なんですが、160話迄はガリアのイザベラ姫に会いに行ったりアンリエッタ姫が色々やらかしたりと其処まで辿り着きませんでした。

 

 それで160話を分岐点として

 

①トリステイン王国エンド。アンリエッタ姫編

 

②ガリア王国エンド。シェフィールド編。イザベラ姫編

 

③三人娘ノーマルエンド編。

 

 を考えていています。

 

 



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第141話から第143話

第141話

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 昼食後に、ツェルプストー辺境伯が到着しました。

 

「義息子よ!不用心だぞ、怪我を負うとは。君は今回の件の要なんだぞ」

 

 会うなり、挨拶もそこそこに叱られました。

 

「すみません。油断しているつもりは無かったのですが……」

 

 取り敢えず、応接室に通してお茶を出す。ソフィアが、紅茶を入れて皆に配るのを待つ。

 メンバーは、父上とツェルプストー辺境伯と僕だけ……これは、ゲルマニアの問題だから。

 

「義父上、お呼び出ししてすみません。この有り様で動けないもので……」

 

 左腕を上げてみせる。

 

「大体の話は、手紙で読んだが……アレか?トリステインの姫とは、オツムが足りないのか?」

 

 頭に人差し指を当てて、クルクル廻すジェスチャーするが……

 

「はぁ、何とも……」

 

「息子に言われても、何ともならんな。しかし、当初の計画通りにウェールズ皇太子に押し付けるのは無理かもしれん」

 

 父上がフォローしてくれる。

 

「ウェールズ皇太子にジェームズ一世が、想定より大分出来が良いですね。

彼らは愛すべき変態です。あの紳士達に、アンリエッタ姫1人で立ち向かっても無理でしょう……」

 

 溜め息と共に言う。

 

「我らの助力を待たずに暴走したのだ。これからは、我らの利益にも関わるからな。まぁ残念だったな、アンリエッタ姫は……」

 

 無言で頷き合う父上ズ。既に、アンリエッタ姫を見限ったか。

 

「しかし、実情はアルビオン王国の王党派の損失は軽微ですし、民意の殆どを得ている。レコンキスタに加勢するは、時勢を読めぬ愚か者よ」

 

「僕は、当初アルビオン王家を甘く見ていました。彼らは我らゲルマニアの同盟国として申し分ないですね。

だから、出来るだけ力になりたいのです。僕は、ガリアでイザベラ姫にお会いした後にアルビオン王国に行きます!」

 

 イザベラ姫に誠意を見せて、ジョゼットの件も相談する。時期的にガリアに着くのは、トリステインの売国奴が捕まった頃だろう。

 失敗すれば、レコンキスタは勢いづく。アンリエッタ姫が増援を送らなければ、ゲルマニアを頼るしかないが……

 此方も閣下を説得した後に動員だから、時間が掛かる。ならば、戦意高揚の為にも僕が顔を出す方が早い。

 僕が前線に居れば、シェフィールドさんも当然居る。カステルモール殿もイザベラ隊も力を貸してくれる。ワルド殿もダッシュ殿もだ。

 

 そして、ゲルマニア貴族たる僕がアルビオン王国に助力する事は、同盟国だから文句は出ない。

 

 もし文句を言われたら……後から来た、ゲルマニア正規軍に手柄でも何でも譲れば良いだけだ。

 

 僕達は何もしていない。だから文句を言われる筋合いは無い。王族の紳士2人が僕の実績を知っていてくれれば、褒美などくれてやる。

 

「馬鹿者!戦地に息子を送れるか!」

 

「そうだぞ。義息子よ、危険過ぎる」

 

 うん。反対された。

 

「危険は承知してます。しかし、作戦は詰めの段階まで来ています。サウスゴータは決戦の地。

流石に墜ちれば、王党派も負けるでしょう。勝つには増援が欲しい。

しかし、トリステインはアンリエッタ姫の暴走により不確定だ。ゲルマニアだって、義父上のこれからの交渉次第。

此方の成功は疑ってませんが、正直時間が掛かる。最速で効果の有るのは、僕が乗り込む事により、付いて来てくれる面々……」

 

「ああ、あの女か……確かに五千人程度の増援より確実か」

 

「それとガリアから、竜騎士団長とイザベラ隊なる名前はアレだが、どうみても精鋭中の精鋭が30人も来ている。

ワルド殿も遍在をトリステインに配置しているが、頼めば本体が同行してくれるだろう……そう言う事だな?」

 

 流石に僕の切り札の事もバレてら……

 

「そうです。遊撃隊として、レコンキスタの横っ腹に食らいつく戦力としては申し分ないはずですよ。

何たって、トライアングル以上のメイジが34人も居るんですから」

 

「確かに、一撃離脱の破壊力としては申し分ないか……しかし、何故ガリアに寄るのだ?」

 

「今回カステルモール殿がウチに来たのは……例の仮病、今はちゃんと怪我してますが。それを聞いたイザベラ様を泣かせてしまいまして……

それで一度顔を見せて欲しいと、彼等が頼みに来たのです。まさかイザベラ様にまで心配して貰えるとは、嬉しいですよね」

 

 ははは、と笑って頭を掻く……義父上ズに溜め息をつかれたぞ?あれ?もしかして王族を泣かせたのマズかったかな?

 

「ツアイツよ、そろそろ治療の時間だ。処置して、また戻ってこい。てか、少し外せ」

 

「そうだな。義息子よ、少しサムエル殿と話が有るから外してくれないか」

 

 やっぱり、大国ガリアの姫様を泣かしたのは不味かったのか……彼女に会ったら土下座するしかないかな?

 

「……はい、分かりました。では失礼します」

 

 父上ズに言われては仕方ないか。一礼して、退出する。

 

 

 

 

 残された父親ズ……

 

 

「おい?」

 

「ええ……困りましたな、アンリエッタ姫には」

 

「違う。困ったのは、お前の息子だ!誰が、ガリアの姫を口説けって言ったんだ?なんで態々、使いを寄越してまで会いに来いとか有り得んだろうが!」

 

「知らんわ、それにお前の義息子でもあるんだろ。ああん?どうするんだ?

アレで傷付きながら逢いに行って、これからレコンキスタを潰す為に戦場に行くとか言ったら……」

 

「「すがって止める様な姫じゃないぞ!絶対違う対応をしてくる」」

 

 2人して、ソファーに深く座り込む。

 

「あの姫は、ツアイツ殿が手助けする前はガリアで腫れ物扱いだったんだろ?

それを一躍トップアイドルまで押し上げたんだよな。今では国民的アイドルだ、しかも有能だぞ」

 

「ああ、一度は刺客まで送られたんだが……何だかんだで、今では個人的な贈り物や手紙の遣り取りまでしてる様だ。

フィギュアのモデルを引き受けた時点で、もう普通の関係じゃなかったかもしれん」

 

 父親ズは立ち上がりながら文句を言い合う。

 

「何で、この世界の姫君達は何かしら問題が有るんだ……で、どうするんだ?」

 

「どうするとは?」

 

 ツェルプストー辺境伯は、机を両手でバンバン叩く。

 

「ツアイツが認める位、有能な姫だ。きっとゴリ押しじゃない手立ての一つや二つは使ってくるだろう。

お前の息子は女に甘い。ガリアの狂王を義父上と呼ぶかも知れないんだぞ!サムエル殿も彼と親戚になるんだよな?

ゲルマニアでの立場とか微妙だし、ウチの娘の旦那でも有るんだ!影響がどう出るかなんて分からないぞ」

 

「お前の娘が、もっとツアイツを繋ぎ止めていれば良かったんだろーが!」

 

 立ち上がり、無言で睨み合う……

 

「「外へ出やがれ!」」

 

 オッサン2人の拳を使った、漢言語の話し合いがもたらされた……

 

 その時のツアイツは「エーファ、もう少し優しく秘薬を塗って下さい。しみますよ」

 

「駄目です。最近はテファ様とばかり遊んでいる罰です」と、巨乳メイドと宜しくやっていた!

 

 

 

第142話

 

 

 久し振りに、エーファ達とイチャイチャして戻ってみれば……庭で殴り合いの喧嘩をしている父上ズを発見した。

 ウチの父上と義父上は、年も近く若い頃から良くつるんでいたとは聞いていたが……

 

「良い大人が、殴り合いの喧嘩とは何をしているんですか?」

 

 全く、親がアレだから子供は苦労するぜ。ヤレヤレだぜ。な、ポーズを決める!

 

「「お前のせいだろーが!ガリアの姫を口説き落とすなど、聞いてないわー!」」

 

 あれ?イザベラ様が僕と?

 

「何を言っているのですか?それは無いですよ。本人も笑って否定してましたし……

彼女の旦那さんは、ガリアに有益な者がなるんだと。きっと有能な奴なんでしょうね、羨ましい」

 

「「お前なぁ、あんなにイザベラ姫と仲良くしておいて、それは無いだぁ?よし、お前も外に出ろ。世間の常識を教えてやる!」」

 

 失礼な人達だなぁ……

 

「はいはい。でも僕は怪我人ですし、騒ぐとシェフィールドさんが現われますよ?それで、今日の内にガリアに出発しますけど宜しいですか?」

 

 キョロキョロと周囲を見回す父上ズ。

 

「「いいかツアイツ!くれぐれもイザベラ姫と、変な約束はするなよ。分かってるよな?」」

 

 変なって……

 

「無事を知らせて、ちょっと相談するだけです」

 

 幾ら僕でも、イザベラ姫は無理だと思うぞ。大国の姫と他国の貴族の嫡子……物語の中だけの出来事ですよ。そんなラブストーリーは!

 そして、ツェルプストー辺境伯は閣下の下へと旅立っていった。男の浪漫本の新刊を3部づつ持っていったが……一族幽閉のエーさんは、健在のようでした。

 

 

 

 お買い物軍団ズ

 

 

 名も無き我が領地の街を歩いている。トリステイン王国のブルドンネ街よりは、よっぽど賑やかだ。

 この辺は、ハーナウ一族が商人出身なのも関係が有るだろうか……

 

 街に繰り出したメンバーはワルド殿・ダッシュ殿・ロングビルさんの大人の護衛チームにテファとジョゼットだ。

 最も、テファは既に街中の人が知っているツアイツの大切な人だから……

 

「若奥様、今日は何かお求めですか?」

 

「ティファニア様、ツアイツ様が喜びそうな物が入荷しましたよ」

 

「新作が入りましたので、後で寄って下さい」

 

 などと、歩く端から声が掛かる。既に、ツアイツの婚約者だと知れ渡ってるし、特に威張っている訳でもない。

 見目麗しく物腰の柔らかな彼女を嫌う者はいないだろう……

 

「テファさん、すごーい!街の人達の人気者なのね」

 

「テファ……お姉ちゃんより先に若奥様かい。ツアイツ様、早く私も貰ってもらわないと……マダオより後なんて我慢できないからさ」

 

 残りの女性陣の反応はマチマチだ。

 

「いえ……街の皆さんには、良くして貰ってますから」

 

 真っ赤になって弁解する彼女を見て、市民達の好感度は上がっていく。

 

「そっそれよりジョゼットさんの衣服を揃えましょう。本当なら屋敷に商人さんをお呼びするのですが……あっこの店です」

 

 衣服を扱う商店を指差す。それなりの店構えの小綺麗な店だ。

 

「こっこんな店?私、無理です無理。お金無いですから……」

 

ワタワタと慌てるジョゼットに「旦那様から、これ位使って良いと言われてますよ」と片手を広げて見せる。

 

「5エキュー?」

 

「いいえ。暫く滞在するのだからと500エキューです。この店ですと、一着安くても30エキューはしますし……あっ倒れた?」

 

 ジョゼットは、後ろに倒れ込みそうになりダッシュが支えた。

 

「そっそんな……服で500エキューとか無理ですぅ」

 

 倒れたジョゼットを見ながらしみじみと話し出す。

 

「ツアイツってさ……こんな所が、やっぱり貴族様だよね。軽く買い物に行けって、平民の三年分近い予算を出すし……

アルビオンの不正貴族から巻き上げたお金は要らないって言うし。やっぱりハンサムで有能でお金持ちって良いわぁ……」

 

 ロングビルが、遠い目をしている。

 

「お姉ちゃん!それがツアイツ様の優しさなの。私の時は、全てご自分のデザインをオーダーで作らせたから。金額を聞いて驚いたわ!

だって、お屋敷が買える位ですもの……笑って余り使う事が無いからって、言ってくれたけど」

 

 テファの時は、きっと0が1つ多かったのだろう……

 

「どちらにしても、これ以上の買い物は彼女には無理だろう。明日にでも屋敷に呼んで見立てて貰おうか。

店主に話をしてくる。皆はジョゼットを連れて先にお茶でも飲んでいてくれ」

 

 良い所を見せたいワルドが、そう言い出した。

 

「そうだね。じゃ頼むよ。ジョゼット、ほら驚いてないで起きな。お茶を飲みに行くよ」

 

 庶民派のジョゼットには、女性陣に優しくお金持ちのツアイツの親切は……メンタル的に辛かったみたいだ……

 喫茶室と言う、貴族だけでなく平民も利用出来る価格帯のお茶を出す店に行く。

 

「うー落ち着きません。どう見ても周りの方が気になってしまって……」

 

 確かにこのメンバーは人目を集めるだろう。美女・美少女が三人に、双子みたいな(黙っていれば)美丈夫が居るし……

 

「大丈夫です。私も未だに馴れませんが、周りの人達は皆さん親切ですし、ね?」

 

 天然さんは強かった!

 

「ミス・ジョゼット。ツアイツ殿に悪気はないのだ。少し驚くかも知れないが、素でああ言う態度だからな。

慣れる事だね。これから、お世話になるのだろう?」

 

 ロングビルが、誰こいつ?みたいな顔で見る。

 

「ワルド様、今日は格好良いですね!」

 

「はははっ!そうかい?照れるな」

 

 テファのお世辞にも、爽やかに応えている。概ね好印象を与えられただろう。

 

 頑張れ、ワルド!

 

「でも、本当にお世話になりっぱなしで良いのでしょうか?私、何も持ってないし何も出来ません……」

 

 俯いてしまうジョゼット。

 

「ツアイツ殿が言っていたよ。

ミス・ジョゼットは、このままでは国の都合で扱いが酷くなるだろう。ならば、利害が一致している我々の所にいるのが、私にとっても都合が良い。

だから気を使う必要なんてない……ってね。だから、君は此処に居て良いんだよ。居なくなる方が大変なんだ」

 

「ワルドさま……やっぱりツアイツ様って素敵!こんな私にまで、気を使ってくれてるんですよね?

テファさんいーなー!あんな旦那様なら私も欲しいです」

 

 ダッシュが、ワルドの裾を掴んで囁く。

 

「本体、ツアイツ殿を持ち上げるのは良いが、すっかりツアイツ殿の方を気にしてるぞ?自分をアピールしなくて、どうするんだ?」

 

「嗚呼……しまった、つい……」

 

 本末転倒か?恋心より忠誠心が勝ったのか?ジョゼットの中で、ツアイツの株は急上昇!

 しかし、大人の対応のワルドの株も上がっていた。このまま、変態紳士がバレなければ上手くいくかも知れない。

 

 

 

第143話

 

 

「私の名前は、アンリエッタ・ド・トリステイン。偉大なる始祖ブリミル様の血を引く王女ですわ。でも今は1人の恋に悩む哀れな女……

私は、天空の高貴なる人に恋をした地上の姫でしたわ。彼のハートを鷲掴みする為に努力してきました。

しかし、私の成長を見守り強力な援護をしてくれている殿方の存在を認めてしまった……

あのお方は何故、私の為に無償の協力をしてくれるのかしら?もしかしたら、私の事を好きでいてくれてるの?

彼の気持ちに応えなくてはならないのでは?でも、私のお友達の婚約者でもあるわ。

嗚呼……友情を取るか?恋を取るか?私は、その事を考えると夜も眠れませんわ。

始祖ブリミル様!私はどうしたら良いのですか?」

 

 トリスタニアの王宮のベランダで、毎夜行われる幸せな姫様の一人芝居。銃士隊の連中は、この姫の痴態を隠す為に苦労を強いられていた。

 

「ねぇねぇ?今夜の姫様は、ツアイツ様よりな気持ちなのね」

 

「昨夜はウェールズ様との結婚を決意して、ツアイツ様に決別の思いを伝える迄行ったものね」

 

 キャイキャイと、うら若き銃士隊員達はアンリエッタ姫の一人芝居の感想で盛り上がる。

 

「でもウェールズ様って、お国が大変じゃない。噂では連戦連敗だそうよ……

それに比べて、ツアイツ様は著書の人気も凄いわ。やはりボンボンより社会に出て稼いでる殿方の方が私は良いかも」

 

「えー、でもツアイツ様ってエロい本も書いていて、そっちにはファンクラブまで有るそうよ。

ちょっと気持ち悪いわよ。私なら、サラブレッドの王子様を狙うわ!」

 

 それぞれに支持者が居るようだが、基本的にはアンリエッタ姫の妄想話だ!

 

「おい!無駄話せずに周りを警戒しろ」

 

 アニエス隊長とミシェル副隊長が、若い隊員を窘める……

 

「しかし、アンリエッタ姫のお相手ってどちらが良いのかしら?隊長なら、ウェールズ様とツアイツ様のどちらと結婚したいですか?」

 

「ああ?どっちもお断りだ!しかし能力的には、あの変態の方だな。ボンボンじゃこの国も危ういぞ」

 

 ガチレズねーちゃんだから、男全般を敵視しているが、どちらがこの国の為かと聞かれれば……

 自国も纏められず、内乱を押さえるのに四苦八苦してるボンボンより、どんな手でも使ってくるツアイツの方が頼もしいと思っている。

 

 実際に園遊会で会ったウェールズ皇太子は……アンリエッタ姫から逃げるだけの、情けない男だったし。

 

「意外ですね。アニエス隊長が、ツアイツ殿を選ぶとは……やはり園遊会で、手を繋がれていたと聞きましたが。お好きなのですね?」

 

「はぁ?手を繋ぐ?ばっバカもの!あれは逃げるアイツを姫様の下に連れて行く為に仕方なくだな……」

 

「アニエス隊長が、殿方の手を触れるだけでも大変なのは、皆が知ってますよ。それをしっかり握り締めて走るなどと……」

 

「ちっ違うぞー!」

 

「お静かに!アンリエッタ姫が、室内にお戻りになりました。

今夜は、ツアイツ様への気持ちを確認したが、国の為にウェールズ様に嫁ぐ!で終わりましたね」

 

「周囲を確認して、撤収するぞ!」

 

「「「「了解しました」」」」

 

 綺麗な敬礼をして散らばって行く隊員を見て、溜め息をつく……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「全く、他人の恋愛は面白い……か……しかし、あの変態め。姫様の心を乱しおってからに」

 

 アンリエッタ姫が、ウェールズ皇太子に向ける気持ち……それは憧れだ!今は恋心も本物だろう。

 しかし、他に魅力的な対象が現れたら?その思いが続くのかが不明だ。

 

 では、あの変態に向ける思いは?それは依存だと思う。

 

 何時も、的確な方向性を示し、彼女のお願いや悩み事を全て解決する。

 しかも、あの園遊会の時にアルビオン王国の皇太子に対して、一介の貴族の嫡子が……アンリエッタ姫の為なら、手段を選ばす彼女の思いを添い遂げさせる!

 

 なんて啖呵を切ったんだ。王族にだぞ。

 

 それが、どんなに重い事なのか知っているのか?あの変態は、実はアンリエッタ姫をとても大切にしている。

 あっ愛しているのではないのか?ならば、あの行動も理解出来る。自分の書いた脚本だって、タダで献上したと聞いたぞ。

 

「アニエス隊長、赤くなってどうしました?噂では、ツアイツ殿は刺客と戦い怪我を負ったとか……心配なのですね?」

 

 ミシェルめ。何を言い出すかと思えば……

 

「別に心配などしていない。怪我を負ったのは事実だろうが、あの変態が死ぬ訳がなかろう」

 

 あの腹黒い、用意周到な変態が只でやられるか!主犯は倒したそうだし。どうせ、軽症なのを周りが騒いでいるだけ。

 シェフィールドお姉様が、付いていらっしゃるのに……嗚呼、あの鋭利な眼差しで又見詰められたい。

 

 お姉様は、今何をしてらっしゃるのかしら?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「アニエス隊長?どうしました、トリップしてませんか?」

 

 目の前で、掌をヒラヒラと翳すが反応が無い。どう見ても、目をウルウルとさせて上気した表情を浮かべているのだが?

 これは、本当にゲルマニアの少年に惚れているのかもしれない。

 

 しかし、女性隊員を片っ端から部屋に呼ぶ変態だと思っていたが……男女共に喰える変態か!

 

 しかも相手は15歳の少年と聞くが……アレか?巷で噂のショタコンか?この間は、私を押し倒そうとしたのに。

 あんなに真剣に私を口説いてくれたのに……本気なのかと思えば、遊びだったのだな。

 

 もう知らないから……

 

 妄想姫の腹心は、やはり妄想娘だった。しかも、ミシェルは隊長なら体を許しても良いかな?とまで思っていた。

 しかしこの痴態を見て、それは幻想だったのだ!と、理解しアニエス隊長を放って任務に戻る事にした。

 

 残念、アニエス隊長!

 

 君のレズハーレムは、当分無理だろう。周りも、君がショタコンのツアイツ狙いと思い始めている。

 まぁガチレズよりショタコンの方が、ほんの少しだけマシかも知れないぞ。

 

 

 

 マチルダルート完結

 

 このお話は139話からの分岐で有り、ロングビルことマチルダさんのツアイツ様ゲットだぜ!のIF物語です。本編とはリンクしていません。

 

 

 IFルート・逆襲のマチルダ「行き遅れはお断りだよ編」

 

 

 お腹がパンパンのジョゼットを客間に運んで貰い、ロングビルさんを誘ってベランダでお酒を飲む。

 見上げれば、赤と青の双子の月。お月見な風情は全く無い。何処か作り物めいた景色……

 現代日本から転生した僕としては、中々馴染めない眺めだ。

 

「ロングビルさん、お疲れ様でした。ワルド殿とミス・ジョゼットの距離は微妙ですが……

彼女がロマリアに利用されるのは防げた。同時にガリアへの工作の芽も詰めたかな?」

 

 彼女に労いの言葉を掛ける。正直、原作の流れは既に無い。ガリア王家とは、仲良くやっていける筈だ。

 あのイザベラ様をフォローして、シェフィールドさんと連携すれば怖くない。

 ジョゼフの狂王イベントもシェフィールドさんの無理心中事件も無い。

 

「ツアイツ様?マダオの彼女を探しながら、そんな策略を……もしワルドが失敗したら?どうするつもりだったのですか?」

 

「いや、ロングビルさんが付いて行ってくれたから、心配してませんでしたよ」

 

 ニッコリと笑う。

 

「そうですか……しかし、最近ツアイツ様の近くで仕事をしてませんよ。

アルビオン王国の工作の後に、直ぐマダオの為にガリア王国の孤島に行きましたし……人使いが荒くないですか?」

 

 いや、ガリア行きは自分から志願しましたよね?

 

「そうですね……暫くは、ハーナウ家で寛いで下さい。特に仕事もないですから」

 

 そう言って、ロングビルさんのグラスにワインを注ぐ。これはタルブ産の赤ワインだ。

 ワインの味など良く分からないのだが、飲みやすいと思う。だから量を飲んでしまうのだが……

 

「そうだ!もう偽名も要らないんですから、マチルダって呼んで下さい」

 

 体を僕に預けながら、そう言ってくる。

 

「マチルダさん……飲み過ぎましたか?」

 

 下を向いて黙ってしまった。

 

「あの……大丈夫ですか?」

 

 飲ませ過ぎたかな?

 

「ヅアイズざま……ぎもぢ悪いでず、うっぷ……」

 

 吐くの?リバースしちゃうの?

 

「ちょ、ちょーっと待ってー!まだ駄目だからー」

 

 慌てて彼女にレビテーションをかけて、ご婦人用トイレに連れ込む。個室に押し込み暫く外で待つ……そんなに飲ませたかな?

 

 暫く待つ……

 

 待つ……

 

「あの?マチルダさん?」

 

 返事が無い。ただの屍のようだ?じゃなくて。

 

「マチルダさん?入りますよ……」

 

 恐る恐る中に入ると、洗面台にもたれ掛かって眠っていた。こうして見ると、綺麗なお姉さんだよね。

 没落しなければ、領地持ちのお嬢様だし。スヤスヤと呼吸も楽そうだが、軽く治療魔法をかけておく。

 

 レビテーションで……と思ったが、折角なのでお姫様だっこで客間まで運ぶ。

 

 彼女はメリハリの有るボディなので結構重い。お尻は安産型だな……などと失礼な事を考えながら部屋へ運ぶ。

 どの部屋か知らないから、一番手前の部屋……は、灯りが点いていたからその先の部屋へ。

 ベッドに寝かせて、帰ろうとした所で手を掴まれた!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今回の作戦……ツアイツ様の中ではマダオの為だけで無く、もっと壮大な計画の一部だったらしい。

 ガリアとの関係が有るみたい?この子の頭ん中って、どうなってるのかね?きっと二手三手以上先の事を考えているんだろう。

 こんなに先読み出来るのに、何で私の思いには気が付かないんだい?

 

 まさか放置プレイ?

 

 それとも、ツアイツ様は受け専?

 

 ま、マグロって言うんだっけ?

 

 私も、もう適齢期ギリギリなんですけど……もう良いわ。今夜襲います!

 

 でもこのワイン、飲みやすいわね。勢いを付ける為にもっと飲むか……ぎぼぢわるい。

 

 ツアイツ様が慌てて運んでくれて……間に合う様に我慢する!

 

 うう……いい年こいてリバースしちゃうとは。良く濯がないとね。

 

 ああ、眠いわ……

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 お尻を撫でられる感触で目が覚めた。ツアイツ様が、お姫様だっこで運んでくている。

 ああ、その部屋はジョゼットのだよ。

 

 私は隣だよ……

 

 ツアイツ様。私のお尻を撫でましたね?では責任を取って頂きます!

 オールドオスマンには鉄拳制裁だったけど……腕を掴んで引き倒す!

 

「ツアイツ様……美味しく頂きます!」

 

 ベッドに引っ張り込んで抱き付く。慌てるツアイツ様に一言……

 

「暴れると吐きますよ?少しお話ししましょう」

 

 体を横にズラして並んで横になる。

 

「ツアイツ様は……テファに構いっきりで酷いです。私は放置プレイですか?」

 

 何か言い出そうな彼の口を人差し指で塞ぐ。

 

「元々テファの保護の見返りに私が妾になると言いました!それが何もしないって男的にどうなんですか?」

 

「いや、彼女を救う為にマチルダさんの体を求めるのは……」

 

「お黙り!理由はともかく、適齢期の美人を放っておくのが駄目だと言ってます。

私はツアイツ様以外の男に体を許すつもりはありません!なのに全然夜伽のお呼びがかからない?ツアイツ様、不能?」

 

 彼の〇〇〇(ピー)を探ってみる……なんだ、反応してるじゃない。

 

「ちょマチルダさん?」

 

「ツアイツ様……ちゃんと反応してますよ。何故、私に手を出さないのですか?」

 

 くにくにと弄りながら話し掛ける。何だろう?このシュチュはドキドキする。

 

 そうだ!これはツアイツ様の書斎に有った男の浪漫本の「プライベートレッスン・禁断の女教師編」と同じなんだわ。

 

 だから、ツアイツ様はウブな男子生徒……「お姉さんが、優しく教えてあげる」そう言って、ツアイツ様に襲い掛かる。

 

 焦らされ続けた思いを受け止めて貰います!

 

 

 

 

 

 …………結果から報告します。

 

 

 

 

 所詮、男性経験の無い私が百戦錬磨のツアイツ様に適う訳も無く。翌朝まで散々攻められてしまいました。

 

 まるで男の浪漫本「いとしのエリー・魔法学院編」の内容そのものでした。

 

 翌朝、体中がダルいのでベッドで休ませて頂いていたのですが……

 メイド長のエーファが、書類の束を抱えて部屋に入ってきて「おめでとうございます!7人目ですよ。これから、待遇が変わります。先ずは手当てが……」って説明が始まった。

 

 ツアイツ様。

 

 何故か私達の情事が知れ渡ってますが?妾って、こんなにお金貰えるの?ハーナウ家に専用の部屋まで貰える。

 でも、普通は別宅じゃないのかしら?しかも、7人目?それって、専属メイド5人の他に私と誰?まさかテファかい?

 

 ツアイツ様、姉妹丼?

 

「マチルダ様、聞いていますか?側室は初めてなんですよ。まだまだサインをしてもらう書類が……」

 

 まぁ適齢期ギリギリだけど、貰ってくれたから良しとしようかな。マダオよりも後だけは、我慢出来なかったからね!

 この後テファに襲撃され、自分の事の様に喜んで貰えた!

 

 そして……「2人でツアイツ様に、ご奉仕しようか?」は、流石にまだ言えなかった。

 



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第144話から第146話

第144話

 

 

 お留守番ルイズ!

 

 

 両親がトリスタニアに行ってしまい広大な屋敷に1人きりとなってしまった。

 エレオノールねえ様は、アカデミー。カトレアねえ様は、自分の領地に。

 

「暇だわ……」

 

 デザートのクックベリーパイをフォークでつつきながら、ポツリと零す。

 両親から、ツアイツの怪我の話は聞いた。相変わらず、色々忙しい婚約者の事を思う。

 

「ツアイツがウチから出て行って一週間も経っていないのに……なんで私暇なのー?」

 

 今月末には学院で会えるのだが、広大なヴァリエール領に1人きりでは退屈で仕方がない。

 

「でもお母様から、自分達が戻るまでは屋敷から出ては駄目だと言われているし……」

 

 フォークで突き過ぎて、クックベリーパイは既に原型を留めていない。

 

「ツアイツ風に言えば、ニート満喫中なんだけど……」

 

 御馳走様と言いながら、自室に歩いて行く。ボーっと庭に設えた東屋に行き椅子に座る。

 

「暇、暇なの……そうだわ!屋敷から出れないなら、屋敷に呼べば良いのよ」

 

 早速、親友のキュルケ・モンモン・タバサ……は、ガリアに戻ってるらしいけど、鷹便なら届くのかしら?

 イザベラ姫と仲直りしたって言っていたから、プチトロア宛で送れば良いかな?検閲されても問題無い内容なら平気でしょ!

 スラスラと手紙を認(したた)め鷹達に括り付ける。

 

「あなた達、頑張ってね!」

 

 瞬く間に視界から消えてゆく鷹達を見ながら、早く親友達と遊びたいと思う。そして、これはツアイツ宛よ。先程の三通より分厚い手紙を鷹に括り付ける。

 気のせいか、鷹も積載量を越えてますよレディ?な、目線を送るがスルーされてしまった!

 

「さぁ旦那様の所に!返事を必ず貰って来なさい」

 

 ヨタヨタしながら飛び立つ鷹……彼はこの手紙を無事に届けるが、ツアイツはガリアに発った後だった。

 息も絶え絶えだったので、受け取ったテファが双子山に挟みナデナデしたら元気に回復し、ハーナウ家に居座っている。

 

 何たって返事を貰わねば帰れないのだから!

 

 

 お留守番キュルケ

 

 

 お父様が急にハーナウ家に呼び出されて行った。

 詳しい内容は分からなかったが、何やら「またか?あのアホ姫が!」とか言っていたから、多分アンリエッタ姫が何かやらかしたから調整が必要なのだろう……

 

「旦那様も大変ね。普通なら他の女の事でワタワタするなんて、お仕置き物だけど……私は出来た妻だから、何も言わないわ」

 

 自室で寛ぐ若奥様はのんびりとしていた。

 

「しかし、暇ねぇ……」

 

 対外的にハーナウ家との婚姻を知らせてない為か、ツェルプストー夫人が嫡男を妊娠中の為だろうか?彼女を舞踏会等に招待する貴族が増えた。

 お父様も付き合い的に断れない相手には、行く様に言われているが、他のはキュルケの意思に任されている。

 とある夜以降、急激に色気を増した彼女は大人気だ!

 

「暇だからお呼ばれしようにも、同世代の子弟の紹介ばかりだから嫌なのよね。ウザいしエロい目で見るし……」

 

 机の上に、幾つもの招待状が有るのだが……火の魔法で跡形も無く燃やしてしまった。どうやら全て、不参加の様だ。

 

 

 お出掛けツアイツ

 

 

 イザベラ姫とウェールズ皇太子に手紙を認(したた)める。どちらも王族。いきなり訪問など失礼に当たるだろう。

 ガリア王国の方は、カステルモール殿が同行してくれてるのでなんとかなるか。

 しかし、戦時中のアルビオン王国はそうはいかない。最悪の場合、拘束されたりする心配も有るからね。

 

「ツアイツ殿、準備は宜しいか?」

 

 カステルモール殿が部屋まで迎えに来てくれた。エルザも一緒だ。

 

「ツアイツお兄ちゃん、早く行こうよ!」

 

 エルザ殿は、カステルモール殿の背中に貼り付いている。夫婦?いや親子として周りは見るだろうな……

 

「ええ。この鷹便を放てば完了ですから。さぁお行き……」

 

 クェ!と一鳴きして、力強く飛び立つ鷹達。

 

「イザベラ姫にですか?」

 

「ええ、先に知らせておいた方が良いかなと。それと、アルビオン王国に一報を入れておかないと……」

 

「相変わらず、気を配ってますな」

 

 これが、人間関係を円滑にするんですよ!と、話しながら庭に出る。そこには、見事な風竜と火竜達が羽を休めていた。

 

 一際大きい風竜に近づく。

 

「ブリュンヒルデ、久し振り!」

 

 ポンポンと首の付け根を叩くと、顔を擦り付けてくれる。しかし、顔と言っても子供の体位有る訳だから尻餅をついてしまう。

 ベロベロを追撃で舐めてくれるのだが……

 

「ちょ、待って……舌がザラザラでくすぐったいから……てか、カステルモール殿止めて下さい」

 

「ツアイツ殿は、相棒に気に入られたんですよ。普段は気難しいのですが……ほら、ツアイツ殿が困っているぞ」

 

 やっとじゃれるのを止めてくれた。

 

「行きは空中船だったのではないのですか?」

 

 ウチの高速船を要らないと言ったけど、まさか風竜だけでは長旅だよ?

 

「国境に船を待たせてます。大型ですから、竜達も乗せられます。プチトロアに近づいたら、相棒に乗って先に送りますから」

 

 なる程、空中空母で来てるのか……

 

「では、行きましょう!ガリアへ」

 

 ブリュンヒルデが、長い首を使い器用に僕を背中に乗せる。その後ろにカステルモール殿が、フライで飛び乗る。

 気がつけば、両親とメイドズが並んで見送り?

 

「ツアイツよ。くれぐれも、イザベラ姫と変な約束はするんじゃないぞ!」

 

「ツアイツ……テファさん達を悲しませる事をするなら、お仕置きですよ!」

 

 父上、母上……僕って、節操無しで信用がないのですか?

 

「全く不要な心配です!そんなつもりは有りませんから」

 

 無言のメイドズの視線も痛い……

 

「お土産買ってきますから!心配しないでね。ではブリュンヒルデ、お願い」

 

 ポンっと首を叩くと、一声嘶いて大空へ飛び立つ。

 

「ちちうえー!テファ達には、今日行くって言ってませんからー!宜しく伝えてくださーい」

 

 反対されそうな彼女等は、今はお出掛け中だ!説明を父上に託して、イザベラ様の下へ。もう、父上達は胡麻粒みたいに小さく見えるぞ!

 

「お前ら、気合いは十分かー?イザベラ様の下に、ソウルブラザーを送り届けるぞー!」

 

「「「ヒャッハー!ようこそ、ツアイツ殿。ガリアで花嫁が待ってますぜー!」」」

 

「ちょ?おま、おっおーい?」

 

 ブリュンヒルデの力強い羽ばたきに、振り落とされない様に、彼女の首に掴まって体制を整える。

 

「カステルモール殿?何を言ってるのですか?」

 

「いや、イザベラ姫はツアイツ殿にベタぼれでして。私達は、イザベラ姫の婿はツアイツ殿以外認めませんから。

良く本人達で話し合って下さい!では、飛ばしますからしっかり掴まって下さい」

 

「「「ヒャッハー!花婿ゲットだぜー」」」

 

「待たんか、オマエらぁー!」

 

 ツアイツが育て上げたイザベラ隊の忠誠心は、アルビオン大陸よりも高かった。

 そして、皆のアイドルとして他の誰かに取られるよりは、ツアイツとくっ付いて彼がガリアに来る方が良いと思っていた。

 

 

 

第145話

 

 

 ハーナウ家に雇われたメンヌヴィル改めてラウラさん。今日も、ハーナウ家諜報部の荒事担当として働いています。

 

「ひゃははははぁ!燃えろ、燃えちまえー!くっくっく……ひゃーはっはー!この匂いが、堪えられないんだぁ」

 

 ツアイツ暗殺にハーナウ領にやって来るレコンキスタの刺客達を片っ端から処理していく。

 最後の1人を燃やし尽くして満足したのか、やっと狂気の笑みを収めた……

 

「ラウラ殿、お疲れ様です。他に逃げ出した連中も全て処理しました」

 

 ハーナウ家諜報部の連中が、ラウラの下に集まってくる。

 

「流石は、非公開だが賞金一万エキュー……懲りない連中だ」

 

「ツアイツ様はもう居ないのにな。しかしツアイツ様にはこれまで通り秘密だ」

 

 なんとまぁ、お人好しな一団だな。

 

「坊ちゃんも恵まれているねぇ……しかし俺みたいな狂人を雇うなんて酔狂だな。あんた等だって嫌だろう?俺なんかと行動を共にしてはよ?」

 

 何だ?顔を見回して……

 

「別に、ツアイツ様が認めたなら我々にはそれで良いのです」

 

「そうですな。元々我々も似たような存在ですから。ツアイツ様に惹かれ集まった不器用な連中ですよ」

 

 はははっ!って笑い合ってるが、俺が元は白炎のメンヌヴィルだって知ったら驚くだろうな……それとも、気にしないのかね?

 あの坊ちゃんの周りには、変わった連中ばかりで退屈しないぜ。まぁ雇われた分の仕事をこなすさ。

 

「では、屋敷に戻りますか?」

 

 ラウラさんは、上手くやっているようだ……

 

 

 

 プチトロア、イザベラ執務室。

 

 

 午後の日差しが眩しい中、イザベラはボーっと椅子に座っている。

 

「イザベラ、平気?」

 

 シャルロットが、心配そうにイザベラの顔を覗き込む……

 

「ああ……エレーヌ、平気だよ。私は平気だ……普段通りにね」

 

 どうみてもやる気が無い。しかし、本人のやる気は兎も角、仕事は毎日溜る訳だから……

 

「タバサ殿、イザベラ様に構ってないで仕事して下さい!何で私まで巻き込まれているんですか?私、一介の北花壇騎士団なのに……」

 

 ブツブツと文句を言うが、目線は机の上の書類から外さないジャネット。

 

「……もうヤダ。分からないから……」

 

「ゴタゴタ言わずにサッサとやれー!今日は夕食までには帰りたいんですよ」

 

「……無理かも」

 

 美少女2人の言い合いにも何の反応も示さないイザベラ……扉を叩く音にも、ジャネットはぞんざいに答える。

 

「入ってるよー!」

 

「失礼します」

 

 ジャネットのボケは、メイドにスルーされた……

 

「イザベラ様宛てに、ツアイツ様よりお手紙が届いておりま……きゃ?」

 

「何だって?渡しな、早くしなって」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツから手紙?何だい、平気だったのかい?全く心配なんてしてないけど、一応気になってたからね……どれどれ、読むかね。

 

「お前らは部屋から出ていきな!」

 

「……ケチ」

 

「私も気になります」

 

 五月蝿い女達だね。ゆっくり読めないだろ。

 

「良いから出ていきな!内容は後で教えてやるから。ほら早くしな……」

 

 2人を追い出して、手紙の封を切る。一枚だけかい……

 

『イザベラ様カステルモール団長より、私の怪我を心配して頂いてると知り嬉しく思っています』

 

 何だい、この堅苦しい書き方は……カステルモールも適当言いやがって。勘違いするんじゃないよ。私は別に心配なんてしてないからね。

 

『先日まで意識はなかったのですが、彼が来てくれた日に回復しました。

流石に白炎のメンヌヴィルだけあり、倒したのですが左腕と左半身に酷い火傷を負ってしまいました。しかしもう大丈夫です』

 

 なっ狂人メンヌヴィルを倒したって?何だい。私には、上に立つ者には魔法は要らないとか言っておいて……自分は相当な手練れなんじゃないか。

 そうか……アイツはそんなに強いのかい。なら、私の護衛とか頼んでも平気かな?イザベラ隊隊長とか……

 

『取り急ぎ、無事を知らせようと筆を取った次第です。これから、カステルモール団長と共にイザベラ様に会いに行きます。

詳しい話はその時に。少し相談も有りますので、宜しくお願いします』

 

 全く、無事で良かったよ。これで、アイツが育ててしまった変態共の責任を取らす事が出来るね。

 

 ふふふっ!どうしてやろうかな……もう直ぐ、会いに来てくれる?

 

「もう直ぐ来るだってー?メイド、おいメイドは居るかい?呼んだら早く来な。どうしよう。

ああ、これからツアイツが来るんだ!何を着れば……いや、風呂だよ風呂の準備をしな」

 

 急に元気になったイザベラ姫に、指示を出されたメイド達がワタワタと準備を始める。

 

「おい!ドレスだけど、全部並べな。アイツから贈られたやつだよ。何だい、来るなら早く報せなよ。女には支度って物が有るんだからさ」

 

「イザベラ様、湯浴みの準備が整いました」

 

「外の2人を呼んでくれ!ああ、居たのかい。ツアイツは無事だったね。全く心配はしてなかったけどね。これから来るそうだ。

私は支度するから、溜まった仕事は終わらせておいてくれよ。じゃ頼んだよ」

 

 一方的に頼んで執務室を後にする。

 

「「ちょ無理だってー!」」

 

 2人の文句はスルーだよ。悪いが、準備しないといけないからね。

 アイツが心配しないように、私は普段の調子を取り戻さないといけないんだよ。カステルモールが要らん事を吹き込んでいたら大変だ!

 

 私は、落ち込んでなどいないのだから……でもガリアまで、わざわざ来てくれるなら……おっお礼位は、言ってやっても良いかね?

 

 急遽に用意させた湯船に浸かりながら考える。

 

「イザベラ様、此方へ」

 

 メイド達が、体を洗う準備を整え終えた。

 

「念入りに頼むよ」

 

 3人掛かりで肌の手入れをしてもらう。

 

「姫様、楽しみですわね。ツアイツ様がいらっしゃるのが」

 

「姫様、良かったですわね。ツアイツ様がご無事で」

 

「美しい姫様を見たら、ツアイツ様が喜びますわ」

 

 3人掛かりで誉められて、真っ赤になって俯いてしまう。

 

「兎に角、綺麗にしてくれよ……アイツに会っても恥ずかしく無いようにさ」

 

 デレ期を迎えたイザベラだった。

 

 

 

 残業組、美少女2人……

 

「ねえ?鷹便で手紙が来たって事はさ。ツアイツ様が来るの……早くても明後日以降じゃないかな?」

 

「……イザベラがあんなに喜んでる。それは言えない」

 

「「取り敢えず、今日は帰れないか」」

 

書類の山に埋もれて四苦八苦しているが、イザベラが元気になって良かったと思っている2人だった。

 

 

 

第146話

 

 

 ガリア王国の第一王位継承者にして、国民的アイドルであるイザベラ姫は朝からそわそわしていた。結局、昨日ツアイツは来なかった。

 

「考えてみれば、先に鷹便で報せたんだ。鷹と空中船の速度差を考えれば明日以降か……」

 

 1人政務室で筆を走らせる。結局、ジャネットとタバサが代わりに仕事をしてくれたが、一通りチェックをしなければならず……朝から机に向かい仕事中だ。

 彼女等の頑張りには感謝しているが、間違いも多い。これは、二〜三日遡ってチェックしないといけないかな?

 

 ジャネットとタバサは今日は居ない。

 

 感謝の意味と、ツアイツと会う所を見られたくない気持ちで休みを言い渡した!それと、竜騎士団にさり気なく見張る様にも言い付けである。

 もしもお父様にバレると、彼の立場が微妙になるからだ。やる気を出せば、色々と気配りも出来る。

 

 流石はイザベラ姫と言う所か……

 

「しかし……あれだね。午後一で又風呂に入って着替えておくかね……もしも今日、来るかも知れないし……」

 

 デレ期は順調みたいだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ガリアの民間で最大級の空中船だ。広い船内倉庫には風竜や火竜が寛ぎ、イザベラ隊の面々も自由な一時を過ごしている。

 ツアイツは、船医の手により火傷の治療を受けていた。自分でも出来るのだが、好意からなので素直に治療されている。

 

「ツアイツお兄ちゃんも、結構鍛えられた体だね!美味しそうだよ」

 

 何故かエルザも居る……

 

「取り敢えず、エロガキ出て行け?それとも、もっと肉体を見せ付ける方が良い?」

 

 等と冗談の遣り取りをする。

 

「ツアイツ様、終わりましたが安静にお願いします」

 

 そう言って船医は部屋から出て行った。

 

「ツアイツお兄ちゃんと少しお話したい!」

 

 エルザは真剣な、しかし不純な感じの目をしている。

 

「そう言えば、2人きりで話すのは初めてだね。良いよ、何が聞きたいのかな?」

 

 僕はベッドに腰掛けているが、彼女は正面に備え付けの椅子を移動してきて向かい合って座る。

 

「何故、ツアイツお兄ちゃんは私が吸血鬼だと知っていたのかな?」

 

 そう言えば、その辺の説明はしてなかったか……

 

「僕には、色々な情報網を持っている。父上の、ハーナウ家の諜報団の他に自分の教団の連中や……ヴァリエール公爵達の密偵とも顔見知りなんだよ」

 

「やっぱ教団って、お兄ちゃんの手足なんだね?」

 

 本当は原作知識有りなんだけど、そんな事は言われても信じないだろう……

 

「他にも何人か、吸血鬼の疑いの有る連中の情報も有るよ……日の光を嫌う君達の行動は目立つからね」

 

 そう言って、烈風の騎士姫に出て来た吸血鬼の件を臭わせる。彼女は自分以外の情報を持っている事に驚いたみたいだ!

 

「カステルモールお兄ちゃんが、あれだけ信頼していなかったら……貴方を危険と判断して殺しちゃうよ、普通は」

 

 牙を見せながら妖艶に笑う彼女を見て……

 

「ぷっ……カステルモール殿の背中に張り付いてる姿を知ってるのに……脅しても可愛いだけだよ?」

 

 彼女の望みは平穏。そして今、それを掴んでいる。そんな幸せを壊す事はしないだろう……

 

「ぶー!全然驚かないし、怖がらないね。エルザ、ツマらないよ」

 

 直ぐに表情を変えて、本当に退屈な幼女の様に足をブラブラと揺する。

 

「悪い様にはしないよ。僕は君とカステルモール殿に幸せになって欲しい。協力はするから」

 

 そう言って笑いかける……

 

「じゃ本題だよ!カステルモールお兄ちゃんのマントにさ。

エルザの刺繍が有るけど、アレって大人の趣味の方の女王様だよね?お兄ちゃんってさ……

そっち系の趣味なのかな?エルザ、頑張って言葉責めとか学んだ方が喜ぶのかなぁ……」

 

 純粋故に、彼の性癖を誤解しているのか?それとも、このまま突っ走った方が面白い?

 

「いや……カステルモール殿からは、そんな性癖とは聞いていないけど?普段の夜の夫婦生活はどうなの?」

 

 見た目幼女相手にエロ談話?

 

「普段は、ノーマルだよ。それに寝室以外では最近はシナいかな……でも強引な所もあるし、エルザが壊れちゃうかも」

 

 最近は?危険なキーワードを聞いたような……

 

「それは当人同士で良く話し合わないと駄目だよ。思い込みで性癖を決め付けるのは危険だから」

 

 これも注意しておくか。

 

「それと……野外プレイは人に見られる可能性も有るから程々にって言うか、気を付けて下さい。人の噂を消すのは大変だからね」

 

 変態幼女性欲者になっちゃいますよ!カステルモール殿が……

 

「あとね。サムエルおじちゃんがね。フィギュア?のモデルをやってくれって頼まれたんだ。あと教団のお手伝い」

 

「ふーん。それで、どうするの?」

 

 エルザは笑って「楽しそうだし、これから助けて貰う恩返しになるかな?」と言ったが……

 

 父上……幼女に何を要求してるのですか?僕も幾つかのフィギュアのポーズを思い付きましたよ!

 

「では、フィギュアのモデルをして貰おうかな……行くよ。キタキタキター!ロリっ子バンパイア爆誕!」

 

 彼女を模したミニゴーレムを二体作成する。

 

 一体目は、ゴスロリエルザ。

 

 二体目は、着物の振袖姿にしてみた。

 

 振袖は、微妙に造形がイマイチだが仕方ないだろう。着物のイメージが曖昧だからだ。これは要勉強だな。

 振袖バージョンは、貧乳美女・美少女に似合いそうだ。ミニゴーレムを操り、色々なポーズを取らせて見る。

 

 これは売れる!

 

「エルザ、この人形売って良いかな?勿論、売上の何割かは渡すからさ……」

 

 ツアイツは、新しいモデルの確保に成功!テファ、ガリア姉妹、メイドズ・ツェルプストー三人娘に続き、ロリっ子を確保した。

 

「ふっふっふ……レコンキスタが一段落したら、新作コレクションを発表だね。忙しくなるなぁ……」

 

 商魂逞しいツアイツだった。

 

「エルザ、モデルの件頼まれたのは失敗だったかも……」

 

 後悔先に立たず……ツアイツの奇態を見て、早まったかな?と心配になるエルザだった!

 

 

 

 

 

 ハーナウ家のツアイツ専属メイドのエーファ・ナディーネ・ルーツイア・シエスタ・ソフィアの5人。

 それと、何故かテファとシェフィールドさんが参加したお茶会形式のお話です。

 

 

 帝政ゲルマニアのハーナウ家。

 

 そこには、普通とは少し違う漢達の棲むお屋敷が有りました。

 幼い頃から、次期領主に仕えているメイド達。エーファ・ナディーネ・ルーツイア……途中からスカウトされたシエスタ。

 学院専属メイドとして押し掛けたソフィア。それと若奥様のテファと、自称義姉のシェフィールド。

 

 意外とバラバラな経緯の7人だが、実は仲が良く定期的なお茶会と言う情報交換を行っている。

 

 

 エーファ

 

「では、第○○○回ツアイツ様情報交換定例会を開催します。議長は私、筆頭巨乳メイド長で有りツアイツ様の初めてを頂きましたエーファが務めさせて頂きます」

 

 

 ナディーネ

 

「先輩、毎回その台詞ですよね。ツアイツ様に巨乳の良さを教えたのは私ですよ。

今の巨乳派教祖たるツアイツ様の礎を築いたのは私です。ツアイツ様の初めての性癖を形作ったのは私です」

 

 ナディーネもエーファに負けてはいない。このメンバーの中では、最古参の2人だ。

 

 

 ルーツイア

 

「しかし、常に護衛として共に居た時間が一番長いのは私だ。それにツアイツ様と野外プレイが一番多いのも……彼の性癖の幅を広めたのは私の筈だが?」

 

 この発言に、皆さんドン引きだ……

 

 

 シエスタ

 

「でも先輩方は、勤め先のハーナウ家にツアイツ様が居たのですよね?

私の場合は、ツアイツ様が自らタルブ村にお越しになり名指しで私をメイドにと望まれたのです。真の意味での専属メイドは私だけですよ」

 

 シエスタ……既に黒化を始めている。

 

 

 先輩メイドズ3人

 

「「「黙りなさい!」」」

 

 お茶会は既に波乱含みだ!

 

 

 ソフィア

 

「でも結局皆さんは雇用者と非雇用者の関係。私はツアイツ様に買われた女……つまり全てが、ツアイツ様の物なんです。重ねた年代よりも、重たい関係ですよ」

 

 

 テファ

 

「性癖?買われた?旦那様……一体このメイドハーレムは何なのですか?

しっしかし……私が一番オッパイが大きいです!このコンプレックスの塊を旦那様は何より愛して下さいます」

 

 ブルンっとIカップ99センチの凶器を揺すりながら宣言する。

 

「「「「「あははは!若奥様も言いますね?でも大差ないですよ」」」」」

 

 そう!ツアイツの夢のメイド達は皆さんご立派オッパイ。

 原作でサイトに胸革命と言わしめた彼女でも、この中では突き抜けた存在感は無い……恐るべしオッパイ屋敷。

 

 

 シェフィールド

 

「ふーん。ツアイツ様って、そこらの王族よりずっと立派な性活環境ね……ちょっと驚いたわ」

 

 

 基本的に義弟としてツアイツを捉え、3PとしてならツアイツともニャンニャンOKなシェフィールドさんは余裕の表情だ。

 ジョゼフ王から使い魔として召喚されて暗躍していた時は腫れ物扱い。

 

 当然、同性とのお茶会など有る訳が無く今回が初めての参加になる。

 

 

 シェフィールド

 

「ツアイツの幼い頃の話を聞きたいわね」

 

 

 テファ

 

「それは私も聞きたいです」

 

 出会ってまだ半年に満たない2人が、メイドズにお願いする。

 

 

 エーファ

 

「ツアイツ様の子供の頃ですか……ツアイツ様は、サムエル様がアデーレ様と宜しくする時に邪魔と言う理由で我々が一緒に寝る事になったのです」

 

 

 ナディーネ

 

「大体3歳位からです。今は頼りになるしっかりした御主人様ですが……当時は、1人では眠れない恐がりさんでした」

 

 何かを思い出す様に遠い目をする2人……

 

 

 エーファ

 

「当時はお屋敷の中は貧乳派閥の方が強く、棲み分け論も定着していませんでした。胸の大きい私達には肩身が狭い環境でしたよ」

 

 

 ナディーネ

 

「だから私達は、次期当主のツアイツ様を巨乳大好きにする為に添い寝をして胸の谷間が安心感を与える事を教え込んだの」

 

 遂に明かされたツアイツ巨乳のルーツ!皆さん、これにはビックリだ!

 

 

 ルーツイア

 

「私がお屋敷に奉公に来たのは、もう少し成長なされた時だったな。もう大人びていたが、ほんの少し前はそんなに可愛い時が有ったのか」

 

 しみじみと言う。

 

 

 シエスタ

 

「私の為に、わざわざタルブ村まで足を運んでくれた時は既に一人前の扱いでしたね。そうなんですか?ツアイツ様が子供らしかったのは五歳までなの?」

 

 転生して記憶が蘇った時は少なからず疑問をもたれていたのだ……

 

 

 ソフィア

 

「何か子供らしい事って有ったのですか?今からでは想像がつかないんですが?」

 

 

 エーファ

 

「そうですね……添い寝の時に、専用下着を着ると大層喜ばれましたよ」

 

 

 テファ

 

「専用下着とは?」

 

 

 ナディーネ

 

「私が考案した、肌触りの良い木地を使った夜着です。これを着てツアイツ様と添い寝をすると感触が良いらしく、ずっと抱き付いて離れなかったわ」

 

 

 ゴクリ……子供時代の添い寝経験が無いシエスタ・ソフィア・シェフィールドさんは興味深々だ!

 

 

 シェフィールド

 

「その専用下着って、今はどうしてるの?」

 

 代表で彼女が、そんなに興味は無いけど?的な感じで聞いてみる。

 

 

 ルーツイア

 

「あのセクシー過ぎるペティコートだな。ツアイツ様以外には同性でも見せるのが恥ずかしくて、ツアイツ様の部屋で着替えたな」

 

 ルーツイアの生着替えショー告白にビックリだ!

 

 

 テファ

 

「そっそそそ、そんな恥ずかしい事をルーツイアさんはしていたの?旦那様の前で着替えるなんて恥ずかしい」

 

 もう既に真っ赤になっている。

 

 

 ソフィア

 

「でもテファ様。ツアイツ様って衣装や小道具に凝りますよ。テファ様も馴れていただかないと……今度、採寸して新調しましょう」

 

 ソフィアの切り札はネコミミと尻尾、それにホワイトセーラー服だ!

 

 

 テファ

 

「きゅう……」

 

 

 シェフィールド

 

「あらあら……テファには刺激が強かったかしら?この中では、一番ウブですものね」

 

 

 1人の男性を巡ってのガールズトーク。それはキャイキャイと恋愛方面が多いのだが……純粋培養のテファには、刺激が強かった。

 

「だっ旦那様の為ですから、私も……その衣装着ます!」

 

 巨乳女神である現人神テファがコスプレ!一体どんな素敵衣装になるのやら……

 



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リクエスト三部作

波濤のエムさん私は生まれ変わった!

 

 トリステイン王国にも幾つかの伝説と言うか、七不思議的なお話が有ります。

 チェルノボーグ監獄には、悲劇の最後をおくった王女の幽霊が出る。

 トリスタニア王宮のワルド子爵双子説。

 モット伯、突然の改心。

 エレオノール違う意味の女王様伝説。

 烈風のカリン、実は女性だった?

 

 タルブ村の竜の羽衣と言う、村人が言うには船でもないのに空を飛ぶ変な物。

 

 そして齢三百とも言われる、タダのエロ爺……

 

 これも、そんな変態が輝くお話です。

 

 

 トリステイン王立魔法学院。

 

 ハルケギニアでも有数の伝統と格式を持つ、貴族の子弟が通う全寮制の学院だ。

 そして、そのトップたる学院長には代々優秀なメイジが歴任する……筈だ。

 

「オールドオスマン……幾ら夏期休暇で学生の殆どが居ないからと言ってもだらけ過ぎですぞ!」

 

 色々と問題を起こすツアイツからの賄賂。それは、学院長室の隅に設えた四畳半の和室。それと本棚に満載の「男の浪漫本」だ!

 オールドオスマンは、畳に寝っ転がり尻をボリボリと掻きながら本を読んでいる。

 

「五月蠅いぞ、コッパゲール君。ワシは今忙しいのじゃよ。

このハナマル幼稚園じゃが……この年で新しい性癖に目覚めようとしている快感!分かるか、ツルッパゲール君?」

 

 このエロ爺、ロリコンへシフトシェンジを考えているのか!

 

「違います。王室勅使のモット伯がみえられましたぞ!また何か問題を持ってきているのでは?」

 

 アンリエッタ姫は、何度か学院に来ては問題を起こしている。警戒するに越した事は無い。

 

「おお!同士モット殿がか?さぁこの癒やしの間にお通しするのだ」

 

 自ら卓袱台を用意し、お茶の準備を始める。ヤレヤレと溜め息をつきながらコルベールはモット伯を呼びに退出する。

 

 暫くして「おお生涯現役さん、久しぶりですな!」「これは波濤のエムさん、チクショー上級会員おめでとう!そして羨ましい……」いきなりファンクラブネームで呼び合っている。

 

「お二方?真面目にやって下さい」

 

 コルベールの髪の毛が、数本……ハラハラと空を舞う。彼は東方の魔神河童に着実に近付いていた。

 

「「炎の独身ヘビくん?先輩方に失礼ではないかね?」」

 

「なっ何故それを?」

 

「いや、炎の独身ヘビくんは秘書の物語がお好きだとか?」

 

「いやいや、ロングビルが辞めた時の悲しみときたら……デコが1センチ後退しての?」

 

 顔と、かなり後退したオデコ迄を真っ赤に染めて後退る……

 

「かっかかか関係無いですよ!別にミス・ロングビルは……それより大切な話が有るのでは?」

 

「コッパゲール殿、落ち着きなさい」

 

「ツルッパゲール君、落ち着くのじゃ」

 

 2人並んで卓袱台に座り、紅茶を啜りクッキーをかじりながら適当に窘める。

 

「ふぉ?美味いのう、このクッキーは」

 

「煮出した紅茶を練り込みミルクを多めにいれているのです。学院のメイド達にも差し入れをしていきましたぞ」

 

 ワザと?ワザとなのか?名前を間違えて呼ぶのはワザとなんだな!

 

「おっお前ら……」

 

「それで今日訪ねたのは……勿論、トリスタニアで開かれる男の浪漫本ファンクラブ!

 

「君はスク水かビキニか?紳士の装い夏・トリステイン支部討論会」へのお誘いだ。オールドオスマンにも、討論会に出席して欲しい」

 

 したり顔で何を言い出すかと思えば!

 

「ビキニ一択……と言いたい所じゃが、マイクロビキニやパレオ装備などバリエーション豊かなビキニが有利じゃろ?」

 

「はははっ!何を言うかと思えば……スク水には、新型と旧型の二種類が有りますぞ。

そしてペッタンコからバインバインまで着れる。ビキニ……それはチッパイ派をどう説得するので?」

 

「むむむむ……難問だよコレは……」

 

 真剣な表情で、何を話し合っているかと思えば……

 

「「ヌケゲール君はどっちなのだ(じゃ)?」」

 

 モット伯は、元ロリコンから少し守備範囲を広げ6歳から20歳迄を得意とする。

 対するオールドオスマンは、元チチシリフトモモ大好きお姉さん系から、かなり年齢層を下げてきている。具体的には12歳から36歳までだ!

 どちらも己の性癖にプライドを持っている、トリステイン支部が誇る三大変態だ。

 

 因みに後一人は、ワルド子爵だ。

 

 彼はオンリーロリコンキングの称号を持つライトなペドだが、見た目が幼くチッパイなら年齢を問わず食い付く強者でも有る。

 最近、吸血鬼の情報を密かに集めている。エルザを見て亜人に対する考え方を改めたのだ。

 

 そして現在、トリステイン支部長をも勤める。

 

「私は……やはり胸は母性の表れですし大きめの方が。

ああミス・ロングビル。何故、学院を辞めたのですか?てか、アンタのセクハラのせいじゃないのか?」

 

 コルベールが、オールドオスマンに泣きながら詰め寄る。何故かモット伯も渋い表情だ。

 

「オールドオスマン?貴殿はセクハラはもうしないと誓ったのでは?だから、上級会員になれないのですぞ!」

 

「いや、そのアレじゃ!まだ入会する前の話じゃって。しかもミス・ロングビルはツアイツ殿に雇われたんじゃ。だから無効じゃよ!」

 

 いまやモット伯とは、トリステイン国内で有数のフェミニストだ。そして紆余曲折を経て、ツアイツを唸らせる程の変態紳士として変貌。

 因みに彼はソフィアがフィギュアシリーズとして発売された後、再度彼女の下に訪れて詫びを入れている。

 そこで、購入したソフィアフィギュアに直筆サインを貰い、上級会員マントは彼女のネコミミメイドバージョンを注文!

 亜人達との交渉も積極的に行っている。因みに彼は、年下の(翼を持つ)彼女が出来た。

 

 お見合いや気に入ったから攫って来た訳で無く自由恋愛だった。

 

 この年は、あははうふふ!待てぇーコイツゥー!捕まえてごらんなさーい!

 

※飛翔して逃げる彼女をフライで捕まえようとしてます!

 

 と周りが目を背ける程、気を使うバカップル振りだ!

 

 ツアイツも「男の浪漫本・亜人シリーズ」を次々と出版!

 

 いまやネコミミ・シッポ・ニクキューは、ハルケギニアに受け入れられている。

 

「オールドオスマン?貴殿はセクハラが引っ掛かり上級会員昇格を止められているのですぞ!

そもそも私でさえ改心出来たのに、教育者たる貴方がその体たらく。今日はミッチリと漢道を教えて差し上げましょう!」

 

 モット伯の教育的指導が始まった!

 

 

 

 

 元気なお爺ちゃん生涯現役じゃ!

 

 

 ここは、トリステイン王国の最高学府、魔法学院の筈だ。

 なのに何故、東方の内装仕様の和室が学院長の部屋に設えてあるのだ?

 しかも本棚には、私が買えずに悩んでいた本が雑然と並んでいるし……

 全て売り払えば、末端価格でトリステイン郊外に屋敷が買える金額だ。

 

 これは、公然とした賄賂じゃないのか?

 

 本人は、生徒の手作り本だと言っているが……何故、この学院のTOPと王宮勅使の会話が私の脳の処理速度を超えているのだ?

 そもそも、この2人仕事の話をしていないのでは……コルベールの毛髪は微風(そよかぜ)にも耐えられない程、毛根にダメージを与えられた。

 

 ハラハラと数本が床に落ちる。

 

 私が、妻を貰う前に髪の毛が生き残っているか?コルベールは真剣に、親戚筋か知り合いに見合いのセッティングを頼もうと考えた。

 出来れば、ミス・ロングビルの様な知的美人が良い。オッパイが大きければ最高だが、高望みはしまいと思う。

 チッパイだって、こんな研究馬鹿に嫁いでくれるなら喜んで貰おう。

 

「いやしかし、尻は心のオアシスじゃから」

 

 何か変な声が聞こえたが、もう此処に居る必要を微塵も感じないコルベールは学院長室を出た。

 これから、親戚に手紙を送る為に……僅かに残った頭髪で、ブリミルっぽい電波を受信した!

 アイツに頼むのが最短距離だと……しかし、何故だろう?彼には二つの意味で貸しが出来ている気がする。

 

※原作ではキュルケをゲット出来たし、彼女の実家のバックアップでオストラント号も作れたからだろう。

 

 しかし脱毛と引き換えに得たカンが、彼に係ると匂いフェチを押し付けられそうなビジョンを思い浮かばせた。

 

「私は普通が良いのです……なかった事にして下さい」

 

 敬虔なブリミル教徒の彼が、ブリミル様を否定した!

 

 元白炎×炎蛇!ラウラさんとのフラグは立たなかった。

 

 この後、暫くして親戚からの見合いに全滅した彼は……数年後に教え子に手を出す事になる。

 

 この淫行教師め!

 

 それは別のお話で……

 

 

 話をオールド・オスマンとモット伯に戻す。

 

 

「黙りなさい!大体何ですか?上級会員たる私でさえ、中々ツアイツ殿と話が出来ないのに。

この学院で3ヶ月近くも一緒に居て、彼の漢道に影響を受けないなんて……アンタ少しオカシイんじゃないのか?」

 

 さらっとセクハラ好き発言にイラッときたのか、モット伯が吼える。

 

「お前、自分が親子程の年の離れたツバサっ娘とラブラブだからって言い過ぎじゃ!」

 

「ああ……私のマイエンジェル!ツアイツ殿と知り合えて、まさかこの歳で恋愛経験をさせてもらえるとは……天にも昇る気持ちだ」

 

 しかし惚気で返された!

 

「そもそも何故、波濤のエムさんは……あのロリ巨乳のツバサっ娘を口説けたのじゃ?」

 

 急に真面目な顔をするオールド・オスマン。

 

「ふっ……私と彼女との出会いは、そう!彼女の一族がトリステインの在る村からの依頼で、森の伐採の件で揉めていると訴えがあった。

たまたま知った私が、勅使として……別に人間以外と交渉してはいけないと、決まりも無いので赴いたのだ」

 

 まさか、モット伯が亜人との交渉に自ら出向くなど!

 

「お主、かわったな。昔なら考えられないぞ、貴族以外の連中の為に働くなど」

 

 ふっ、と男臭い笑みを浮かべる。

 

「全ての女性に貴賎はないのです、生涯現役さん。貴殿の悪い所、それは自分だけが楽しめば良いと思っている事ですぞ。

女性にも喜びを与えなければ、漢では無いのです。そもそも尻を触るなど、その前に踏まねばならぬステップが幾つかあるでしょう?」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 こやつ、本当に変わったのう。昔の面影が全く無い、訳でもないか。

 相変わらずロリコンだし、ツバサッ娘はロリ巨乳だし……ワシ、なんでこんなリア充に説教喰らってるの?

 

「聞いていますか?貴殿に足りないもの……それは相手を敬う事と思いやりの心。欲望丸出しだから、相手に不快感を与えるのですぞ!」

 

「女体への飽くなき渇望が有るから長生き出来るんじゃ!欲望なくして、何が人生楽しいんじゃ?」

 

 全く、ワシが長生き出来るのも内なる煩悩を精神力に昇華しているから肉体が活性化しておるのじゃ!

 尻を撫でられぬ位なら、潔く性犯罪者になるわ。

 

 こやつ、溜め息をつきよったぞ……

 

「嫌がる女性を撫でて憎しみの篭った目で見られるのと、撫でられて恥かしがるが照れながら怒るのと、どちらが良いので?」

 

「むう?それは……いやーん、マイッ○ング!の方が百倍ええのう……」

 

 ワシが撫で捲くると、黄色い歓声があがる訳じゃな?

 

「それは素晴らしいのう……しかし、そんな状況が作り出せるのか?ワシ、エロを取ったら何も残らんのじゃが?」

 

 何だ、今度は卓袱台に伏せおって……

 

「私の屋敷には、私が手を出しても構わないと言うメイドが何人かいますぞ。

先ずは女性の好感度を上げ捲ってから、自分がエロエロでしょうがない男なんだと告白するのです。

それでも愛してくれる女性なら、撫でても問題無いのです」

 

 うーむ?難しいのう……好感度か。ミス・ロングビルは最初は尻を撫でても怒らなかったんじゃが、何が悪かったのか?

 

「分かった!好感度を上げてからセクハラすれば、ええんじゃな?」

 

 しかしセクハラにはトコトン拘る。

 

「好感度が上がったら、セクハラでなくスキンシップですぞ!兎に角、女性に優しく!これに尽きますぞ、良いですね?」

 

「モチのロンじゃ!生まれ変わったワシのセクハラ人生はこれからじゃ!」

 

 どうしてもセクハラは譲らないオールド・オスマンにモット伯はヤレヤレといった感じで苦笑いを浮かべた。

 こうして少しだけオールド・オスマンのセクハラ被害が減った。彼もまた教え子や学院の使用人の女性に優しくなった。

 しかし下心が見え見えの為に、イマイチ成果は上がらなかったそうな。

 

「ワシからセクハラを取ったら、只のジジィじゃからな!生涯セクハラは止めんよ!」

 

 まだまだ先の長い、彼の辞世の句だった。

 

 

 

 

 中継トリステイン支部討論会

 

 男の浪漫本ファンクラブの集い

 

「君はスク水かビキニか?紳士の装い夏・トリステイン支部討論会」

 

 解説は私、最近は風サイコー!から一皮向けた、疾風のギトーがお送りします。

 会場は異様な熱気に包まれています。ここトリステイン魔法学院内特設リング。

 

 既に観客の興奮は最高チョー!

 

 因みに私の好みはムチムチなお嬢様キャラですので、知り合いに該当するレディが居たら、ご一報をお願いします。

 

 では、参加者の説明から始めましょう。レギュラー討論会のメンバーは……

 

 今やハルケギニアのチッパイ派では知らぬ者が居ないほどの漢!

 トリステインが誇る上級会員にして、ミスタ・ツアイツに傾倒っぷりも凄まじい閃光のワルド。

 今、漆黒のマントを翻してリングに登ったぁ!

 

「ジョゼット殿、我が勇姿を特とご覧あれ!」

 

 誰だぁジョゼットとは?情報によりますと、彼はガリアからの留学生であるミス・タバサに振られたそうです。

 ツアえもん、いえミスタ・ツアイツに泣き付いたそうですから、彼絡みの美少女でしょうか?

 会報への情報をお待ちしております。

 

 続きましては……

 

 もう一人の上級会員にしてロリコン且つ巨乳に目覚めし漢。

 トリステインで亜人の彼女をいち早くゲットし、今まさにラブラブな漢の夢の実現者、波濤のモット。

 ロリ巨乳のツバサっ娘とトリステインの空で、毎日ラブラブ追いかけっこに興じるリア充で有ります。

 彼は上級会員昇格を危ぶまれたが、不屈の闘志で条件をクリアーしたトリステイン一番のフェミニスト!

 

「全ての女性に貴賎無し!愛は奇跡を起こすのだ」

 

 流石は奇跡の変貌を遂げ、亜人の美少女を捕まえた漢!台詞一つに殺意が沸きます!

 男の浪漫本ファンクラブ会員の皆、この収録が終ったら裏口に集合だ!

 さて此処で皆さんご存知とは思いますが、この2人の説明を……

 

 レギュラー上級会員のワルドは、ロリコンのチッパイ。モットはロリコン且つ巨乳好き。

 

 この2人、ロリコンに共通の趣味を見出しているがオッパイは対極だ!

 

 そして、彼ら2人に対戦するゲスト会員は……トリステインの生きる伝説!

 歩くセクハラ爺で有り、トリステイン魔法学院の学院長を務める、オールド・オスマンです。

 因みに彼の性癖はセクハラ一筋300年。特に尻の撫でっぷりには定評が有ります。

 

「フトモモ3年シリ8年じゃ!300年に渡り培った性癖を思い知るがよい小僧たちよ!」

 

 ここでオスマン老、上級会員の2人に宣戦布告かぁ?小指を立てて挑発しています

 

 それでは残り2人の挑戦者!

 

 男の浪漫本ファンクラブ会員の中から、無作為な抽選で選らばれた漢達……炎の料理人、マルトー!

 これが料理対決なら、ブッチギリの優勝だが!今回は分が悪いかぁ?

 

 なんと中華鍋とオタマを持って入場です!

 

「料理もチチも愛情だ!」

 

 成る程、料理人の貫禄を見せ付けられるか?そして最後に、ツアイツ殿のたっての要望でコンビ参加を認められた……性剣デルフと、そのお供の青銅のギーシュ君だー!

 

 

「ちょっと待てぇー!何で僕が、オマケみたいな扱いなんだ?付属はインテリジェンスソードの方だろう?」

 

「けっ!俺っちを舐めるなよ兄ちゃん?これでも6000年は生きてるんだぜ。ビバ・オッパイ!」

 

 えー手元の情報ですと、デルフには漢力を測定する機能が備わっているミスタ・ツアイツの愛剣。

 彼からオッパイの何たるかを上書きされた……言わば、ミスタ・ツアイツの代理人!

 

 いや代理剣?どう見ても小物臭いギーシュ君の方がオマケだー!

 

「そっそんな……」

 

 さて参加者も出揃った所でぇ……トリステイン支部討論会、レディーゴー!

 

 

 さて始まりました「君はスク水かビキニか?紳士の装い夏・トリステイン支部討論会」ですが、此処でもう一度戦力比較をしてみましょう!

 

 閃光のワルド ロリコン且つチッパイ派

 

 波濤のモット ロリコン且つ巨乳派

 

 オールド・オスマン 幅広い年齢層且つ巨乳派

 

 炎の料理人マルトー 取り立てて好みが無し?

 

 デルフ&青銅のギーシュ デルフ、巨乳一択 ギーシュ、主体性無し

 

 何ともカオスなメンバーだぁ!

 

「私はスク水だな。チッパイにビキニだと?笑わせる」

 

 おーっと、先制攻撃はワルドだぁ!

 

「それは、オッパイの可能性を潰しているぞ!チッパイでもビキニの形状を変えれば似合う。例えば、帯状に胸の部分を巻くとか」

 

 流石はフェミニストモット!大きさの違う乳にビキニと言う可能性を見いだすのか?

 

「ふん!ビキニとはボディのメリハリを楽しむのが最大の目的なのじゃ!巻き付けてストンでは、ビキニではないのう」

 

 主目的でキター!これは正論だが、下心が満載だー!

 

「そう言えばシエスタが、ツアイツ様はスク水好きだって言ってたぞ」

 

 マルトーの爆弾発言キター!ミスタ・ツアイツは巨乳娘にスク水を着せるのかぁ?

 

「兄貴は言っていたぜ!はちきれんばかりの巨乳を包み込んで、健康的に泳ぎ回る美少女。ペタンもバインバインも同じ条件でも楽しみ方が有るって」

 

「ポロリも有るぜよ!」

 

 流石はデールフ!奥が深い剣だー!ギーシュ、サイテーだ!女性に優しく無いぞー!

 

「ちっ違うぞ!僕はポロリを期待していないぞ」

 

「黙れ、小僧!成る程、住み分けを提案するツアイツ殿らしい考え方だ。しかし、それでも私はスク水を愛している。チッパイにはスク水だ!」

 

 自分の主張を譲らないぞワルドー!

 

「そもそもビキニの定義とは何だ?ブラ形状の水着で乳を包み込みパンティタイプのアンダーウェアなら良いのか?」

 

 難しい話をこねくり回すなモーット!

 

「うむ。布は薄く面積を限りなく少なくするのがビキニじゃ!漢なら、真っ裸よりも僅かながらの着衣が有った方が萌えるのじゃ!」

 

 欲望だだ漏れだー!アンタ、本当に教育者か?

 

「シエスタはビキニも持ってるぞ。水玉の可愛い感じのに、お尻部分に大きなリボンが付いているヤツだ」

 

 マルトーお前、シエスタのストーカーかぁ?安産型のシエスタには、お尻にリボンのアクセントは素晴らしいぞ!

 

「兄貴ならスク水とかビキニのどっちかじゃなく、両方だぞ!オッパイには遠慮も自重もしない漢だぜ。ビバ・オッパイ!」

 

 んー、流石はミスタ・ツアイツ!全ての乳を愛せよ!

 

 さて、残念ながら放送時間の方が……あと3分を切ってしまいました。この続きは次週総集編にてお送りします。

 

 尚、スポンサーはトリステイン支部及び男の浪漫本販売ギルド。

 

 フィギュア販売ギルドとツアイツ財団の提供でお送りしました。

 

 それでは、次週をお楽しみに。

 

 合い言葉は、ビバ・オッパイ!

 



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第147話から第149話

第147話

 

 ツアイツが現れるまで……トリステイン王国内で、色を語るならグラモン!

 と女好き、女にだらしないと評判のグラモン一族だったが、今ではそれ程話題になる事もなくなってしまった。

 ツアイツからすれば、お得意様だが……そんな彼は、思わぬ来客を前に脂汗を流していた。

 久し振りに旧友2人と、青春時代のトラウマの女性が訪ねてきた。

 

 例のアンリエッタ姫の召集の途中で寄ったのだが……

 

 話の途中で、ツアイツ殿の怪我の話をしたのが自分だとバレた瞬間! 途方もないプレッシャーに襲われた……

 

 現役時代、恐怖の象徴と謳われた烈風のカリン。彼女の突然の変貌に、応接室は厳冬期に裸で外に出された気分だ……

 視界の隅に居るメイドや侍従が平気なのは、彼女が指向性の有る殺気を自分にだけ向けているからだ。

 

 何か気に障る事をしたか?虎の尾を踏む様な事はしていない筈だが?

 

「グラモン元帥?」

 

「なっ何かな?ヴァリエール夫人……」

 

 彼女の顔は能面の様だ。

 

「貴方でしたか?あの揃いも揃って、アレでナニな母娘を誑かしたのは?」

 

「いや……ちょ待って、何もしてないぞ?ただ、ご執心のゲルマニアの貴族の現状を伝えて……」

 

「黙れ!」

 

「……はい」

 

 なっ何を怒っているのだ?別に、お前のお気に入りの若いツバメに手を出してはおらんぞ?

 

「グラモンよ……お前が焚き付けたせいで、この有り様だ。アンリエッタ姫の暴走癖……分かっているだろう?」

 

「いやしかし、他国の貴族の為に国を動かすなど有り得んかったし……アンリエッタ姫の思い人はウェールズ皇太子だろう」

 

 何だ?3人共溜め息をついて……

 

「「「悪かったな。貴殿に難しい話をしてしまって……」」」

 

「それはどう言う意味だー?」

 

「もう良いでしょう。グラモン元帥。アンリエッタ姫は、暴走しています。

此度の召集……アルビオン王党派への応援の為の出兵を決める為でしょう。それと、このリストの売国奴の粛清……」

 

 机の上に投げ出された書類を読む。

 

「なっ馬鹿な……こんなに……何かの間違いではないのか?しかし、証拠が揃っているし……全てを捕まえるのは難しくないか?」

 

 祖国を売り渡す奴らがこんなにもトリステインには居るのか?この国を愛してはいないのか?

 

「会議でアンリエッタ姫が、彼らを弾劾した時点で動ける駒は……グリフォン隊とマンティコア隊、それに銃士隊だ。

我らの手勢は動かせん。バレれば警戒されるし、王都に兵を向けるなど此方が謀反の疑いが掛かる」

 

「グラモンよ。軍で信用が出来る連中を動かせるか?勿論、このリスト以外でだ!」

 

 リストをもう一度じっくりと読む。

 

「軍関係者も居るな。彼らの派閥に今接触は危険だ。そうすると、軍役に就いている我が一族位だろうか?」

 

「その者達は、男の浪漫本ファンクラブ会員か?」

 

「そうだが?何故だ?まだ初級会員ばかりたがな」

 

「彼らなら、ツアイツ殿に好意的だから信用出来るだろう。では、王宮に乗り込むぞ」

 

 一世代前に活躍した一団が再び暴れる為に、トリスタニア王宮に乗り込む!アンリエッタ姫は、知らない内に全てのお膳立てを整えて貰った。

 稀代の謀略女王の晴れ舞台はもう直ぐだ!しかし、その後に母娘共々烈風のカリンからキツいお仕置きが待っている。

 

 頑張れ、アンリエッタ姫!君の薔薇色の人生は……微妙?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大型船での航海は順調だ。何が順調かと言えば、外を見なくても良い事だ!

 高所にトラウマを抱える自分には、そとの景色は辛い。

 

「しまった!アルビオン王国って、雲より高い所にあるんだった。平気かな?でも下を見なければ……うー失敗したかも」

 

 宛てがわれた船室で悩む。結局このトラウマは治らなかった。シェフィールドさんに頼めば、消してくれるかな?

 でも、漢の本能がそれは危険と訴えている。それの他に、何か怪しい刷り込みをされそうだ、と。

 

「べっ別に高い所に行かなくたって、生きていけるもん!」

 

 可愛く言ってみたんだが……

 

「ツアイツお兄ちゃん、気持ち悪いよ。エルザ、鳥肌になったよ。ほら!」

 

 あれから彼女は懐いてくれたのか、僕の部屋に入り浸っている。これを機会に、幾つかのロリ専用のフィギュアの作成が出来た。

 彩色セットを持ってくれば良かったのだが……全部で8体の、色んなバリエーションを揃えた。

 勿論、旦那であるカステルモール殿の意見も参考にしている。特に、スク水などは素晴らしい出来映えだ!

 

「完璧だ。次の寄港地でハーナウ領の実家に送ろう。父上の意見を聞けば、更に究極へと近付く」

 

 今まで、ファンクラブからの要望でロリっ子が少ないとの意見が多かったら。

 流石の僕でも、モデルの居ないロリを妄想で賄うのには苦労したし、ミス・タバサはイザベラ様とセット販売が多かったらな。

 

「ツアイツお兄ちゃんって、本当にすっごい変態だよね。前にカステルモールお兄ちゃんが、巨乳教祖がロリの良さを教えたって言っててね。

それは無いって、突っ込みいれたんだ!でも本当に何でも逝けるなんてスゴーイ!エルザ、其処に痺れないし憧れないけどー!」

 

 人のベッドにうつ伏せに寝っ転がって、足をブラブラさせながらコッチを見ずに投げやり的に言われた……

 

「僕って怪我人だし!もう少し労って下さい」

 

「無理かもー?」

 

 即答されました。

 

 そんな話をしていると、カステルモール殿が部屋を訪ねてきました。

 

「あっカステルモールお兄ちゃん!」

 

 飛び付くエルザ、仲が宜しい事で!

 

「どうしました。まだ到着はしていないようですが?」

 

 時間的にも、もう少し掛かると聞いているけど……

 

「あまり目立つとジョゼフ王にバレます故、ここからはブリュンヒルデにて城下町の近くまで送ります。

徒歩で街に入り宿を取りましょう。今日中に連絡を入れておいて、明日イザベラ様の所までご案内します」

 

「そうですね。非公式の訪問ですから……では行きましょうか」

 

 

 

 ツンデレさんの部屋

 

 

「姫様、カステルモール様より連絡が入りました。それと手紙を言付かってます」

 

 メイドが、待ちにま……ってない連絡が来たか。

 

「ああ、ご苦労さん。あとは良いよ」

 

 メイドを下がらせる。どれどれ……

 

「イザベラ様。ご用命通り、ツアイツ殿をガリアにお連れしました。

入国に際しては細心の注意をしておりますので、ジョゼフ王の耳に入る事は有りません。

明日、竜騎士団詰所にお連れしますので、折を見てお訪ね下さい。今夜は我が屋敷にて滞在して頂きます」

 

 ツアイツが……私の為にわざわざ来てくれた。

 

 明日会える。

 

 明日まで会えないのか。

 

 カステルモールの屋敷……確か近いはずだね。

 

 そうだ!

 

 何時も驚かされっぱなしじゃ悔しいからね。今度は、私が驚かせてやるよ。

 

 

第148話

 

 ド・ゼッサール隊長の悲劇(希望)……公務を終えて帰路につく。

 最近はワルド殿のグリフォン隊がアンリエッタ姫にべったりな為、我らの被害が少なくて良い。

 折角上り詰めたマンティコア隊隊長の地位だ。あのアホ姫の我が儘で失脚したくないのが本音だ。

 

「頑張ってくれ!我らの分まで……」

 

「何を頑張るのですか?」

 

「だっ誰だ?」

 

 幾ら思考に耽っていたとは言え、気配を感じずにこんな近くまで接近を許すとは!後ろから、桃色の髪の女性が……

 

「まっまさか、カリン隊長ですか?」

 

 記憶の中に棲む鬼が目の前に居た。喉がヒリヒリと渇く……

 

「久し振りですね。元気でやっていましたか?」

 

「はっはい!」

 

「今日はお願いが有って来ました。何処か落ち着ける場所は有りますか?」

 

 現役隊長当時より、言葉使いは優しいがプレッシャーはそのままだ。

 

「では、我が屋敷で宜しいでしょうか?」

 

 カリン隊長は、珍しく笑顔で頷いてくれた。結婚して丸くなったのだろうか?

 

 屋敷に案内し、応接室に通す。

 両親を紹介したが、ヴァリエール公爵夫人になっている事は余り知られておらず、家族の驚きは酷かった……地位は人を変えるか?

 優雅に勧めた紅茶を飲む彼女は、見た目は一流の貴婦人だ。

 

 しかし、私は騙されないぞ。

 

「ド・ゼッサール隊長」

 

「はっはい」

 

「アンリエッタ姫が、有力貴族を集め会議を開くのはご存知か?」

 

 ああ、あの姫様の気紛れの為に来たのか。黙って頷く。

 

「ではアルビオン王国の内乱の件もご存知ですか?」

 

 アルビオンで、ブリミル司教が起こした反乱か。確か現状は王党派が不利らしいな。

 

「レコンキスタですね。ブリミル司教が反乱を企てるなど……」

 

「此度の緊急召集。アンリエッタ姫は、王党派に応援を……つまり派兵したいので、その話し合いです」

 

「なっ?何故その様な話になっているのですか?しかも現在不利な王党派に応援などと……下手をすればトリステイン王国にも戦火を招く恐れが!」

 

 馬鹿な!姫様は、トリステインを戦争に巻き込むつもりか?

 

「レコンキスタ……アルビオン王国を平らげたら、次はトリステイン王国ですよ。

盟主オリヴァー・クロムウェルは明言してます。我が情報網も中々確かな精度ですよ。どうせなら、他国で戦乱を収めた方が良い」

 

 カリン様は、私に何をさせたいんだ?近衛としてトリステイン王国の象徴たる3隊の1つ、マンティコア隊の隊長の私に……

 

「アンリエッタ姫は、その会議中にレコンキスタから買収された貴族の粛清を行います。

私が現役復帰したのも、その為です。他にもグラモン元帥にド・モンモランシ伯爵……それにグリフォン隊と銃士隊もです。

ド・ゼッサール隊長!

貴方の忠誠心は何処に向いていますか?私と共に、売国奴を捕まえるか?それとも、まさか既に買収されてはいませんよね?」

 

 なっ何てプレッシャーだ……下手を言うと、現役時代のトラウマが蘇って……

 

「もっ勿論、我が忠誠心はトリステイン王国に!不肖ド・ゼッサール、アンリエッタ姫の力になる事をお約束します!」

 

 やっとカリン様がプレッシャーを抑えてくれた。最早、何処にも逃げ道は無しか……安穏な生活ともオサラバ。

 また鉄の紀律の生活か始まるのか……

 

「時に、ド・ゼッサール隊長。彼処に飾ってあるフィギュアですが……まさか、貴方も男の浪漫本ファンクラブ会員なのですか?」

 

 しまった!やっと買えたエーファたんが嬉しくて飾ってしまった!エーファたんが壊される?

 

「ちっちちち違わないけど違います!これは……」

 

「私の義理の息子にも、同じ物が沢山有ります。ええもう売るほど」

 

 へー、烈風のカリンの娘を貰うのか……大変だな。きっと怒れるカリン様にフィギュアを全て壊されたのか……哀れな、同士よ!

 いつか会う事が有れば、共に素晴らしき乳について語り合おう。

 

「そのモデルのエーファの主人ですよ。分かりますか、ド・ゼッサールよ。今回の作戦が上手く行けば、彼に紹介しても良いですよ。ツアイツ殿に……」

 

「ツアイツ殿?……ツアイツ・フォン・ハーナウ殿ですってー!」

 

「そうです。彼は今、レコンキスタの刺客によって傷付き実家で療養してますが、共にレコンキスタと戦う同士。

貴方の活躍を私が伝えれば……悪い様にはしませんよ?何でも市販されていない逸品や、フィギュアの実在モデル達と会える」

 

「ヴァリエール公爵夫人、皆まで言わずとも結構です。漢ド・ゼッサール!レコンキスタには常日頃より義憤を感じていました。

しかし、立場故に沈黙を保ったましたが……その様なお話ならば、全力で当たらせて頂きます。全て私にお任せを」

 

 何てこったい、ブリミル様よ!これは私に与えられた千載一遇のチャンスだ!

 魔法衛士隊隊長とは言え、領地の無い私では俸給のみで、さほど自由になる金は少ない。

 中級会員昇格もまだまだ先かと思っていたが……こんな抜け道が有ったなんて!

 

「レコンキスタ!我が忠誠心(エーファたんに会う為に)により滅びて貰う!」

 

「それと、ワルド子爵も同様の条件でグリフォン隊として動いていますから……」

 

 なっ何だってー!ワルド子爵よ。貴様、既に上級会員の癖に私とエーファたんの恋路を邪魔するとは……

 

「分かりました。全てお任せ下さい。それと部下達にも同じ条件でお願いします。士気も高まるでしょう」

 

「では、詳細は追って連絡します。宜しく頼みますよ。ド・ゼッサール隊長」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツ殿、既にトリステイン王国の中枢にまで影響を与えていたとは……グリフォン隊とは既に仲良くしていますね。

 マンティコア隊にも、信者が居たとは……これは、売国奴を一掃した後ならば。

 

 例の作戦を進められるかしら?エレオノールと作戦の詳細を練りましょう!

 

 義息子よ。我らヴァリエール一族から逃げられませんよ。

 

 貴方の為だから……

 

 

 

第149話

 

 

 イザベラ暴走!

 

 何時も何時も私を驚かすアイツが、この国に来ている。

 

 明日には会える。

 

 明日まで会えない。

 

 色々言いたい事が有るんだ!話し合いたい事も……

 

「明日までなんて、待てるかー!メイド。出掛けるよ、支度だ。それと元素の兄弟を……ジャネットだけ呼びな。勿論、内密にだ」

 

 ここは、私の国なんだ。私の好きにするのさ。

 

 ふふふっ……

 

「何だい?その地味な服は……えっ?派手な服は目立つって?

いや、でも地味過ぎないかい?もう少し、こう華やかに……マントで隠せるからさ……」

 

 城を抜け出そうとしている意図を正確に見抜いているメイド達。最近のイザベラ姫は、言葉は悪いが使用人達に決して人気が無い訳でない。

 寧ろ、無理難題を言う貴族達を抑えている方だ。

 

 彼女の、初ミッションが始まった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大国ガリアの団長だけ有って、支給された官舎で有る屋敷も大した物だった。

 

「流石は大国ガリア……官舎でこの規模とは!」

 

「宿を取ろうとも思いましたが、大人数ですし。ツアイツ殿の護衛や目立たない事も考えて我が家にしました。たまには団員達も呼んでいますから、不自然ではないですよ」

 

 確かに夜遅くに、貴族が30人以上押し掛けては噂にもなるか……

 

「明日の段取りは?」

 

「ツアイツ殿には我が従者として、竜騎士団詰め所に同行して貰います。そこにイザベラ姫が、折を見てお訪ねになりますから……」

 

 なる程。それなら目立たないし、周りは彼らが警戒してくれる。竜騎士団団長が同行してくれるなら、疑われる心配も低い。

 

「了解しました。何から何まですみません」

 

「いえ、無理を言ってガリア迄来て貰ったのは此方ですから……では今日は此方の部屋でお休み下さい。後で、治療の水メイジを寄越しますから」

 

「其処までお世話には……僕も水メイジですから、水の秘薬だけ下さい。これも鍛錬ですから」

 

「そうですか?では、ゆっくり休んで下さい」

 

 やはり強行軍は疲れたな。少し休んだら、治療して眠ろう。いよいよ明日か。

 

 忙しくな……るか……な……

 

 

 

 ミッションスタート、イザベラ姫!

 

 

 

「と、言う訳だ!カステルモールの屋敷まで護衛を頼む」

 

 急に呼び出され、訳の解らない事をいわれて不機嫌になる。半日位、待って下さい。

 

「はい?何故でしょうか?こんな夜遅くに。危険ですから、大人しく明日を待ちましょうよ」

 

「待てるか!良いから行くよ。ほら、早くしな」

 

「ちょ、せめて他にも人員を用意しま……ってイザベラ様、待って下さい」

 

 珍しく暴走するイザベラ姫だった。イザベラが治世を始めて、力を入れているのは街の治安だ。

 勿論、貴族の横暴を抑える事も含まれている。そして国民的アイドルでも有るイザベラだ。

 

 バレれば大騒ぎだろう。

 

 メイド達が準備したのは、地味な馬車だ。しかし、主を心配する彼女達はちゃんと手を打っている。

 

 具体的には、馬車を護衛する「ツンデレプリンセス隊」「蒼い髪の乙女隊」の2隊だ!

 

 某姫と違い、彼女には言われなくてもサポートしたがる家臣に溢れていた。

 彼女が秘密で深夜にツアイツに会いに行く。それは、皆さんが知ってしまった!

 

 彼女は完璧に護衛された道をひた走っている。

 

「どうだいジャネット?我ながら中々の隠密行動だろ?朝には帰るから安心しなよ。何の問題も無いね」

 

 ご機嫌のイザベラを見て溜め息をつく……周りに護衛の気配が有る事を話すべきか?出掛けにメイドから耳打ちされた言葉。

 

「姫様ファンクラブが既にカステルモール様のお屋敷まで護衛の準備をしていますが、内密にお願いします」

 

 本人は秘密の逢い引きのつもりかも知れない。しかし、このミッションは既に50人からの護衛を投入した大作戦だ!

 

 後にファンクラブの中で「ツンデレプリンセス、深夜の逢い引き大作戦!」とツアイツに夜這いをかけたと思われてしまう。

 

 本人は最後までバレてないと信じているのだが……

 

 

 

 漸く、カステルモールの屋敷に着いた!

 

 しかし当然カステルモールにもイザベラが来るのは知らされている。知らない振りをするが……

 

「イザベラ様!こんな夜遅くに、どうなされたのですか?」

 

「ああ、カステルモールすまないね。ちょっと、アンタの客に用が有るんだ!少しだけだから、構わないね?」

 

「二階の客間に居ます。余り問題を起こさないで下さい。帰りは同行しますよ。ってイザベラ姫、聞いて下さい」

 

「二階に居るんだろ?聞いてるよ。じゃ後は頼んだよ」

 

 さっさと二階に行く姫を見ながら呟く。

 

「イザベラ様……まだ子供は早いですよ?」

 

「イザベラ様……秘密の逢い引きだと信じてるんですね」

 

 隣に、北花壇騎士団のジャネットが音も無く立っていた。

 

「あの姫が、色事で動くとはな」

 

「しかし、周りにバレたら問題ですよ?私は楽しいから良いけど」

 

 確かに、ガリアの第一王位継承権を持つイザベラ姫が、他国の一貴族と恋仲になったなど大問題だ。騒ぎ出す奴も多いだろう。

 父親がアレだし、未だ反発する地方領主も多い。

 

「大問題だな……だから?イザベラ姫が望むなら叶えるのが家臣の務め。手が無い訳ではないな。簡単なのは、ジョゼフ王に認めさせる事だ」

 

「ジョゼフ王に?」

 

「そうだ!家柄や勢力地盤を除けば、ツアイツ殿は有能だ。ガリアの統治も出来るだろう……それをジョゼフ王が認めれば、反発する輩は我々が処理すれば良い」

 

「こっ怖い考え方ですね……また粛清ですか?」

 

「まぁ本気でツアイツ殿がイザベラ様と結ばれたいと思えば……協力を申し出る連中は沢山居るぞ。大した苦労も無いだろうけどな。彼の支持者は何処にでも居るから」

 

 ツアイツ殿をガリア王に、か……それは、面白いかもしれん。

 

 あの頑張っている姫様にそれ位のご褒美が有っても良いだろう。少し真剣に考えてみるかな。

 真の漢達の国を建国出来るやもしれん。

 まぁ建前なら、イザベラ姫のアイドル大国でも構わないけどな……

 



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第150話から第152話

第150話

 

 イザベラ様、男の裸(上半身)を目撃す!

 

 

 二階の客間ってどれだい?片っ端から開ければ良いか。

 

 此処も違うねぇ……

 

 此処も違った……

 

「此処かい?」

 

 三部屋目の扉を開けた途端……裸のツアイツが居た!

 

「はにゃ?すっすまないね。覗くつもりは無かったんだよ」

 

 思わず扉を閉めてしまう。うーまさか裸で居るなんて寝る時は裸派なのかい?それは、ちょっと恥ずかしいだろう。

 

「イザベラ様?もう大丈夫ですよ。入って下さい」

 

 感動の出会いが、ぐだぐだだよ全く……

 

「ああ、入るよ……」

 

 アイツは、上半身が包帯だらけだった。

 

「アンタ、その傷……痛くないの?無理してんじゃないのかい?何だよ!そんなに酷い傷なのに、のこのこガリア迄来てさ……」

 

 何だ?視界が滲んでるよ……

 

「イザベラ様?見た目が酷いですが、大した事はないんですよ。二週間もすれば、傷跡も残らず治りますから」

 

 何を微笑んでるんだい!

 

「全治二週間ってのは、普通は重傷なんだよ!何で……そんな体で、私に会いに来たんだよ。絶対安静だろうに……」

 

 なに、勝手に手を引いて椅子に座らせるんだい。

 

 なに、勝手にお茶とか煎れて……

 

 なに、ハンカチで涙を拭いてくれてさ。

 

 なに、向かい合って座るんだい……

 

 ナニナニナニ……

 

「心配してくれたそうで。イザベラ様を久し振りに見れたので、苦労が報われた感じがしますね」

 

 なにを爽やかに笑ってるんだい。痛いんだろ?我慢してないのかい?うー、何か言いたいのに何も言えないなんて……

 

「イザベラ様?もしかして、傷跡とか見せられて怒ってます?」

 

 怒る?私が、なんで?こんなに傷付いてるのに、私の為に来てくれたアンタに?

 

「……怒ってないよ。その、アレだよ。レディに裸を見せ付けるのは、紳士としてどうなんだい?……いや、ガリア迄来てくれたのは嬉しいよ。本当だよ」

 

 くっ、アンタの顔がまともに見れないよ。無事な顔をもっと見たいのにさ。

 

「紅茶、冷めますよ?」

 

「あっああ……紅茶好きなのかい?私も好きだよ。気分が落ち着くからさ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 大の大人と年頃の娘が、扉に張り付いて中の様子を窺っている。

 

「誰?ねえ、アレ誰?」

 

「イザベラ様。初々しいですな。しかし、もっとガツンと行かないと!ツアイツ殿は、アレで結構鈍いんですよ」

 

「てか、アレがイザベラ様?ウッソー別人じゃん!何時もの腹黒さが微塵もないですよ?アレが恋する乙女かぁ……変われば変わりますね」

 

「全くですな。しかし、イザベラ様の方がツアイツ殿にベタぼれ!

これは何とかしてあげたいのですが……今夜は無理でしょう。ツアイツ殿からアプローチが有れば、或いは」

 

「子作りまで進むかも?イッタイ、何するのよ?」

 

「黙れ!下世話な想像をするな」

 

「アンタだって覗き魔じゃん!」

 

「これは見守っているから問題無いのだ!」

 

 小声で貶し合う2人。しかし目線は部屋の中から外してはいない。何処までも覗き屋根性が、据わっていた……

 

 

 

 いっぱいいっぱいイザベラ様

 

 

 

 ツアイツの煎れてくれた紅茶を飲む。ふう……大分落ち着いたね。

 

「その……なんだ。少しは心配したんだよ。無事で良かった」

 

 上目使いで見れば……何だい、その微笑みは。うー嫌な女だね私は。もっと素直に嬉しさを表現出来れば良いのだけど……

 

「有難う御座います。イザベラ様は、お変わりは有りませんか?」

 

 変わり?有るよ!アンタを心配し過ぎて大変だったんだよ。

 

「うー……変わりはないよ。普段通りさ、何の問題も無いね」

 

「そうですか。少し残念ですね?もっと悲しんでくれt」

 

「勿論、凄く心配したし悲しかった!」

 

 思わず叫んでしまった!

 

「そうですか。嬉しいです」

 

 こっコイツ、タラシだ……口説いてるよね?私、口説かれてるよね?つまり私は、コイツにとってそう言う対象に見てくれているんだよね?

 

「明日、竜騎士団詰め所に来るって言ったが……アンタは重傷だ。だから駄目だよ。明日は絶対安静だ。私がまた夜に会いに来るからさ」

 

 やっと、ビックリした顔が見れた!

 

「イザベラ様が危険です!深夜に出歩くなんて。僕の方から……」

 

 ふふん!自分の体の心配をしな、アンタはさ。

 

「心配しなくて平気さ!ここは私の国だ。それにアンタは病人だよ。

私にこれ以上、心配させたくないなら言う通りにしなよ。良いね?私が明日の夜に、アンタに会いに来るんだよ!」

 

 本当は抱き付く位はしてあげるべきだけど……怪我に響くからね。

 

「分かったね?では、明日の夜にまた来るよ」

 

 そう言って部屋の外に出る。もっと話したいけど、無事が確認出来たから今夜はこれで満足だ。

 余り長居しても、ツアイツの体調に響くからね。明日は何か見舞い品を持ってこようかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気配を遮断して中を伺っている。スキルとしては、無駄に一流なのだが……

 

「かーっ!見てられないですね。また明日、私が会いに来るとか言ってますよ」

 

「ツアイツ殿は、この後アルビオン王国に向かうのだが……今夜は、相談は無理か。

しかしツアイツ殿はナチュラルに口説いてるな。アレで口説いてないって言うなら、相手の女性が可哀想だ」

 

「えっ?墜としに入ってるんですよね?てか、ナチュラルにあの言動だと刺されますよ?

私が同じ事を言われたら、明日は結婚式でオーケーですよね?ですけど……」

 

「流石はツアイツ殿。我が主に相応しい御方だ」

 

「「こっちに来るぞ!隠れろ」」

 

 音も無く扉から離れる2人……

 

 

 

 お帰りイザベラ様

 

 

 

「ジャネット、帰るよ。カステルモール、話が有るから一緒に馬車に乗りな」

 

「「はっ!」」

 

 帰りの馬車の中で、今夜の事を考える。どうしたら、ツアイツをモノに出来るだろうか?

 

「カステルモール、ジャネット。私はツアイツが欲しい。協力してくれ」

 

 遂にイザベラ姫が、ツアイツ争奪に参戦表明をした瞬間だった!

 

 

 

第151話

 

 

 深夜にプチトロアに向かう馬車の中で密談が進む。その周りには、厳重な警護を敷いて……知らぬはイザベラ姫だけ。

 彼女の初ミッションは微妙に成功したが……内密と言う面では、完全敗北だった。

 

「カステルモール、ジャネット。私はツアイツが欲しい。協力してくれ」

 

 仕える姫から本音を相談された2人。

 

「勿論、協力させて頂きます。面白そうだから!」

 

「ツアイツ殿をガリアに迎える……それは大変喜ばしいですな」

 

 微妙にイザベラ姫の想いとは違う方向で承諾する家臣2人……

 

「しかし、独り占めは無理ですよ。既に4人の婚約者が居ますから」

 

「特にテファ殿ですが……ハーナウ家に既に居ますし、彼女のオッパイは伝説クラス……幾らイザベラ様でも勝てないですよ」

 

 初っ端から高すぎるハードルを示す2人。

 

「黙れ!婚姻なんて物は、血統と爵位が物を言うんだ。最後に結ばれても、第一夫人は譲らない」

 

 イザベラ、コメカミがヒクヒクしながらも答える。

 

「既に浮気オーケー?それは何とも……」

 

「確かにイザベラ姫の胸では、彼を独占するのは不可能でs……イタッ!車内で暴力は!」

 

「黙れ!不敬を続けるなら、この一升瓶を喰らわすよ!別に私はツアイツを独占しようとも思ってない。序でに見てくれや乳の大きさで繋ぎ留めるつもりも無い!」

 

「「確かにアバズレですし、気立ても良くない?」」

 

「死ぬか?此処で、ああん?」

 

 両手で一升瓶を構えて恫喝する。

 

「「すみませんでした」」

 

 素直に頭を下げる2人。狭い車内では逃げ場も無いから……

 

「確かに私は、他の婚約者達と違い性格も可愛くないし凄い美人でも無い。

しかし、そんな物でツアイツを物に出来るとは考えていないよ。私には私のやり方が有る。

それに、あの程度の恋敵を潰すのは簡単だ。政治的圧力・物理的な実力行使……ネタは幾らでも有るし、実行出来る駒も居る。

それが、ガリアの王女たる私の力。そして、ツアイツの野望の手助けを出来るのも私だけだ……その線で攻めるよ」

 

「ははははっ!マジですね、権力を私用で使うのも躊躇わず無駄に有能だし陰険で腹黒い……」

 

「使える物は全て使って攻めるのですか?エゲツないですよ。たかが一貴族の小娘を相手に大国の王女が全力全開なんて……」

 

 イザベラは下を向いてヒクヒクしている。

 

「何度も言わせるなよ……黙れ、黙らんかお前ら!」

 

 彼女の目は据わっている。

 

「異性との恋愛も、他国との外交も基本的には同じ。自分のカードを有効に使い、どれだけ自分に利益をもたらすかだ。

この場合は、愛情だね。ツアイツは、基本的に優しい。しかし、その一方で彼の身内に敵対するとエゲツない……

どんな手段で来るか、まるで分からない。だから私は、小娘達には手を出さない。

そして本人も気付かない内に状況を固めて、逃げ道を塞ぎ、アイツから私に求婚する様に仕向ける。なぁ?楽しい仕事だろ、お前達もさ?」

 

 その笑みは壮絶だった。うふふ、あはは、な恋愛観など微塵も無い猛禽類の笑み……

 

「そんなに凄んでも、ツアイツ様の前だとヘニャヘニャですよね?」

 

「確かに寵を受けるのに素直になれないなら、そんなアプローチも有りですよ。可愛くなりましたね、イザベラ様は……」

 

 ポンポンと肩を叩いて慰める?

 

「では、明日の夜またお待ちしております。くれぐれも内密にお願いします」

 

 そう言って、カステルモールは戻って行った。

 

「私の隠密行動は完璧だ!なぁジャネット?」

 

「……そうですね」

 

 知らぬは本人だけだった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 イザベラ様……随分と対応が、フレンドリーになってきた。もう友達と思っても良いかな?

 しかし、明日までガリアに滞在となると……もう、トリステインでの緊急召集会議は始まるだろう。

 

 頑張って下さい、義理オヤジズ!僕は僕に出来る事をしますから……

 

「ねぇ?エルザ。何でナチュラルに僕の部屋に居るのかな?」

 

「んー?暇だからー、遊んでー!」

 

 ベッドに座り思考に耽っていたのだが、エルザが僕の見舞い品を漁っているのが気になる。

 この見舞い品は、イザベラ様が帰った後にプチトロアのメイドさん達が、彼女の名前で贈ってくれた品々だ……

 つまり、イザベラ姫はちゃんとこの訪問の準備を整えて側近達の協力体制も敷いているんだ。

 これが、イザベラ様の凄い所だよね。大国ガリアを取り仕切ってるのは伊達じゃない!

 

 だから僕は他の婚約者達には言わない事も、彼女には相談出来るんだ。

 こと謀略で、同じ高さで周りを見れる人は少ないから。彼女に相談したい事は2つ……

 

 一つ目は、ロマリアへの対応。

 

 イザベラ様は、アイドルとして絶大な人気が有る。ブリミルなにそれ?って位だから、あいつ等は必ずチョッカイを掛けてくる筈だ!

 僕も新たな宗教と言われてもしょうがない程に、信者を広めてしまった貧巨乳連合の教祖だ。奴らからすれば、自分達の利権を犯す敵だね。

 だから足並みを揃えておきたい。レコンキスタが倒れたら、元とは言えブリミル教の司教が反乱を起こしたんだ。

 威信回復に躍起になるだろうし、格好の的だからね。簡単にやられるつもりはないから……

 

 2つ目は、オルレアン絡みの件だ。

 

 オルレアン夫人の治療とジョゼットの扱い。これはジョゼフ王にも関係するし、治したっきり助けたっきりで済む問題じゃない。

 ちゃんとその後の道筋まで整えないと駄目だ。それに、ジョゼットにはジュリオがコンタクトをしていた。

 此方も居なくなったのがバレたら問題だ!直ぐには疑われないが、母娘3人で幸せに暮らしていればバレる。

 偽装しないと無理だよ。

 

「エルザさん!夜中にそんなに食べると太るよ?それと、そのパイは僕も食べたいから。お茶を煎れるから待ってて……」

 

「はーい!エルザ、取り皿貰ってくるー!」

 

 トテトテと部屋の外へ走って行く。吸血鬼だけに、夜が本来の活動時間なのかな?

 懐いてくれるのは嬉しいけど、周りの事も考えて欲しい……アレか?僕は巨乳派教祖だから、絶対安心ってか?

 

「ツアイツお兄ちゃん、持ってきたよー!」

 

「はいはい。お皿並べてね……」

 

 カステルモール殿が帰る迄は付き合ってあげるかな。端から見れば、仲の良い兄妹のようだ!

 

 

 

第152話

 

 

 ド・ゼッサール隊長、部下から慕われる!

 

 マンティコア隊の隊舎にて、隊員達を集めた隊長。

 この隊舎、見回すと男の浪漫本がチラホラと置いて有ったり会報やカタログも山積みだ。

 残念ながら鋼鉄の規律は、先代隊長の引退と共に廃れていった……

 この隊舎からは、現代の漫研やアニメサークルに通じる雰囲気が有る。

 

 つまりは、ツアイツの信奉者が多いと言う訳だ。

 

「今日、皆に集まって貰ったのは、この隊の未来について……良い報告と、悪い報告が有るからだ!さぁ、どちらから聞きたい?」

 

 初っ端から、ぐだぐだな開始だが隊員達は顔を見合わせながら考えている。

 

「えー先ずは悪い方から教えて下さい」

 

 誰も何も言わないので、仕方無く副隊長が答える。

 

「悪い話か……最悪だぞ!

先代隊長の烈風のカリン様が復活した。先日、私の下に訪ねてこられた……鋼鉄の規律の実践者。

歩く環境破壊魔。泣く子も黙る伝説の女傑。最悪の使者だ……その内に、この隊舎にも来るだろう」

 

「えっ?烈風のカリンって、御伽噺の悪役じゃないの?」

 

「小さい頃に、親から良く言われたな……言う事を聞かないと、烈風のカリンがやって来るって。都市伝説だと思ってた」

 

 若い隊員は、直接会った事が無いから言いたい放題だ……そして生存中に既に伝説扱いか。しかし、年嵩の隊員達の顔色は青い。

 

「たっ隊長!何を呑気に言ってるのですか?この惨状を見たら、お仕置きっすよ」

 

「そうです。早く片付けないと……色んな意味で終わりますよ!」

 

 既に席を立ち、周りを片付け始める。

 

「落ち着け。それは十分に理解しているが、先ずは残りの話も聞いて欲しい」

 

 手を止めて隊長に集中する。

 

「良い方の話ですか?」

 

 一方が最悪なのに、それを打ち消す程の良い話が有るのか?

 

「宿敵グリフォン隊の奴らに勝つ方法が有る。何時も何時もチッパイ派の癖に、ツアイツ殿に何かと便宜を図って貰ってる奴らに……巨乳派の我らが、教祖殿に会える可能性が有るのだ!」

 

「「「おおっ!」」」

 

 皆、身を乗り出す様に話の先を促す。

 

「これからの話は、トリステイン王国と巨乳に忠誠を誓った漢達にしか話せない……誓えぬ者は退出しろ」

 

 そう言って、ド・ゼッサール隊長は隊員達を見渡した……誰一人、席を立たない。

 

 大きく頷くと、話を進める。

 

「良いか?アルビオンで話題になっているレコンキスタ……教祖を害した我らが敵。

奴らは、このトリステイン王国にも毒牙を伸ばして来た。そう!アンリエッタ姫の有力貴族の緊急召集は、売国奴の一掃だ……」

 

 突然の話に皆が動揺を隠せない。

 

「それが、ツアイツ殿の面会に繋がるのですか?直接の敵討ち的には、ならないのでは?」

 

「売国奴の捕縛ですよね?我らだけでは力不足ですよ」

 

 消極的な意見しかでないか……

 

「アンリエッタ姫は、アルビオン王党派に応援を送るつもりだろう。つまりレコンキスタに宣戦布告……」

 

 皆が息を呑む。まさかの開戦か?

 

「「「…………!」」」

 

「それに反対する連中の中に売国奴が居る。見分け方は分からぬが、既に調べはついているのだろうな。

此処まで話が進んでいるのだから……そして彼らをグリフォン隊より多く捕まえるのだ」

 

 事の重大さに、皆が黙り込む……まさか、我が国の中にも裏切り者が居るなんて!突然、ド・ゼッサール隊長が話題を変えた。

 

「時に烈風のカリン様……今はヴァリエール公爵夫人なのだが。彼女には3人の娘が居る。

年増のチッパイ、賞味期間ギリの巨乳美女。そして、今が旬の巨乳美少女だ!

彼女らの誰かと、ツアイツ殿は結婚するらしい。カリン様の義理の息子……つまりは、そう言う事だ」

 

 話し終えてニヤリと笑う。

 

「つまり、ツアイツ殿はカリン様の義理の息子。此度の作戦で活躍すれば、彼に会う為の、便宜を図ってくれると?」

 

「カリン様曰わく、市販されてないブツも有るそうだよ。しかも多数……分かったか?

この作戦には、我らマンティコア隊の未来が掛かっている!総員、気合いを入れろ。ワルド等には負けないぞ」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 ここに、信念と欲望で結束した漢達が生まれた!因みに、彼らは巨乳王女アンリエッタ姫も見るだけなら大好きだった。

 上手くすれば、巨乳王女を近くで見れるかもしれない!彼らの想像の中の未来は薔薇色だ……

 ちゃんと、アンリエッタ姫の胸も本物の巨乳になりつつ有るのだ!

 

「あー皆、その前に隊舎の片付けをするぞ!カリン様に見つかって、捨てられそうな物は隠す様にな……」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 皆が一斉に掃除を開始する。

 

「しかし、ヴァリエール三姉妹がカリン様の娘とは!誰なんですかね?ツアイツ殿のお相手は?」

 

「順当に行けば、年も近い三女だろ?巨乳美少女と聞くし。巨乳教祖のツアイツ殿ならお似合いだ」

 

 話題はツアイツの婚約者が誰なのか?で盛り上がる。

 

「いや、あの強烈のカリン様だけに売れ残りの長女を押し付けるのかも!」

 

「あの連続婚約破棄記録更新中の才女だろ?やっぱ、ツンツンより癒し系巨乳美女か美少女が良いよな!」

 

「まぁ長女なら受取拒否だな!」

 

「お前に拒否権なんてねーよ!」

 

「その前に、我々には声も掛けて貰えないか!」

 

 和やかに笑い合う隊員達。好き勝手に言っているが、カリーヌとエレオノールに知られたらミンチだぞ?

 そして、遂に緊急召集会議の当日を迎える。現王崩御以来初めてだろう、これ程の貴族達が一同に会するのは……

 集められた貴族達は、一部を除き理由を知らされていない。

 また、暴走姫の思い付きだろうとタカを括っているが……今回は、トリステイン王国の歴史に残る1日になるだろう。

 ハッピーなアンリエッタ姫が周りの者達のお陰で、その名声をハルケギニア中に広める事となる。

 国に巣くう悪徳貴族を一掃し、アルビオン王国に救いの手を差し伸べる。

 

 彼女の美貌も相まって、その噂は尾ひれを付け捲って凄い事になっていく。

 

 稀代の謀略女王の誕生は、本人が何も準備をしなかったが、着実に進んでいた!

 

「遂にこの日を迎えましたわ。私の、私による、私の為だけの、未来の為に……この手にイケメン2人をガッチリ掴んでみせますわー!」

 

 アルビオン大陸に吠えるアンリエッタ姫が居た!

 

 



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第153話から第155話

第153話

 

 

 謀略女王現る!

 

 トリスタニア王宮の大広間には、多数の有力貴族が集まっている。アンリエッタ姫による、緊急召集会議。

 またあの暴走姫が、何かやらかすのか?集まった貴族達の大体は、ヤレヤレ的な感じだ。

 

 しかし、ツアイツ絡みの連中は……仕える姫の暴走を何とか良い方向へと纏める為に。

 

 具体的には、レコンキスタに内通する連中を弾劾し始めた時に、速やかに対処する準備を整えていた。

 ヴァリエール公爵、ド・モンモランシ伯爵、グラモン元帥とその門閥貴族達……それに、ワルド(遍在)隊長、ド・ゼッサール隊長・アニエス隊長。

 

 彼らの緊張は高まるばかりだ!

 

「アンリエッタ・ド・トリステイン様のおなりです」

 

 近衛の声と共に、豪奢な扉が開きアンリエッタ姫が入ってくる。

 金のティアラに純白のドレスを纏う彼女は、まさにプリンセスに相応しい容姿だ……そして、マザリーニ枢機卿が現れた時は顔をしかめた。

 しかしその後ろに追従する仮面の女傑を見た瞬間、誰かが漏らした言葉が……けして広くない会場に響き渡る。

 

「あれは、烈風のカリンだ……」

 

 現役時代を知る連中の多くが、当時の悪夢を思い出す。数々の伝説を撒き散らした女傑を従える王女。

 これは、とんでも無い事が始まる。皆の予感は的中していた。

 アンリエッタ姫が最上段に設えた椅子に座り、集まった貴族達を見渡す。

 

 そこには、一国の王女に相応しい気品と風格が有った!性格と能力は別問題だが……

 

「今日、皆さんに集まって頂いたのは、このトリステイン王国の未来を話し合う為です!そして、それはハルケギニア全体にも関連する事。

今、トリステイン王国が直面している問題を分かる方が居るならば、この私に教えて下さいませ」

 

 突然のアンリエッタ姫の質問に、皆が問題を思い浮かべる……

 

 何時までも、空位の王座。喪に服すだけで、政に関心の無いマリアンヌ様。挙動が不審なアンリエッタ姫。最近のさばる銃士隊の連中……

 

 平民が近衛に加わるなど言語道断だ!ウザいマザリーニ枢機卿、ヤバい王族非難ばっかりだ……

 

 これを伝えるのは、マザリーニ枢機卿の仕事だろう!多くの貴族がそう思い、彼を凝視する。

 視線に込められた意味を理解出来るのか、マザリーニ枢機卿は溜め息をついた……

 

「恐れながら、アンリエッタ姫……」

 

「お分かりになりませんか?貴方方の危機意識の薄さには、空恐ろしい物を感じますわ……

私には分かります。このハルケギニアに起こっている疫災について」

 

「「「…………?」」」

 

「アンリエッタ姫、何をお考えでしょうか?」

 

 マザリーニ枢機卿が、何を言い出すか分からないアンリエッタ姫に質問する。何時もの、トンチンカンな行動とは何かが違うと感じたから……

 

「分かりませんか?今、天空の大陸で起こっている争乱を……ブリミル教の司教が、始祖の血を引く我らに弓を引いたのです!

彼らの掲げる錦の御旗は、聖地奪還と……びっ美乳教を広める事。

ブリミル教の司教が、新たな教義を広めるだけでも問題なのに、聖なる王家を害するなど……

何故、次に狙われるのはトリステイン王国だと思われないのか!

何故、その様な暴挙を見て見ぬ振りをするのか!この私は不思議でなりませんわ」

 

 この発言にヤバいと思ったのは、レコンキスタに内通する連中だ。

 彼らはアルビオン王国陥落後に、当然の様にトリステイン王国に侵攻して来るのを知っている。

 その為に手引きをし、成功の暁には其れなりのポストを用意して貰っている為に……この流れはマズい。

 

 しかし、この姫にだからどうこう出来るとも思えない。この場をやり過ごし、クロムウェル司教に連絡しようと考えた。

 

「落ち着かれよ、アンリエッタ姫……そのレコンキスタなる組織が本当に我が国に侵攻するとは限りません」

 

 リッシュモン高等法院長が、アンリエッタ姫に意見する。確かにそうだ。下手に刺激するより、様子を見るべきだろう。

 

 大半の貴族はそう考えているた……

 

「リッシュモン殿は、レコンキスタ首魁のクロムウェル司教のお考えが、お分かりになるのですか?

聖地奪還など、ハルケギニア全ての国が総力を上げないと果たせぬ夢!美乳派を広めたい彼が、アルビオン大陸だけで満足すると?何故、そう考えるのでしょうか?」

 

「そっそれは……しかし、不確かな情報で敵対するのは大問題!一度、使者を送ってみてはどうでしょうか?

アンリエッタ姫が望まれるならば、私が使者としてレコンキスタに向かっても構いませんぞ」

 

「おお、何て勇敢な!」

 

「流石はリッシュモン殿だ!」

 

「アンリエッタ姫、レコンキスタに使者を送りましょう!」

 

 口々にレコンキスタと国交を結ぼうと騒ぎ出す。

 

「……私は、そうは思いませんわ。何故、逆賊に使者を送るのですか?送るのならば、王党派に援軍を送るべきです」

 

 遂に、アンリエッタ姫の口から派兵案が出た!

 

「姫様、トリステイン王国を戦火に晒すのですか?」ゴンドランアカデミー評議会議長が諭す。

 

 この男、見た目は地味で印象が薄いのだが腹は黒い。

 

「そうですぞ!先ずは、トリステイン王国の安泰が一番。わざわざ危険に首を突っ込む必要は有りませんぞ。

アンリエッタ姫には、少し難しいかもしれませんが、国との付き合いとは、その様な物なのです」

 

 売国奴トップ2人が、アンリエッタ姫の考えを思い留める様に説得する!兎に角、この場は有耶無耶にしなければ、彼らの欲望の危機だから……

 

「貴方方には、トリステイン王国がレコンキスタに敵対しては……王党派に増援を送っては不味い事が有るのですか?売国奴としては?」

 

 アンリエッタ姫は、切り札を切った!

 

「なっ!証拠は有るのですか?」

 

「そうですぞ!いくらアンリエッタ姫とは言え酷い侮辱ですぞ」

 

「えっ?証拠?」

 

 しかし、あっさりと返された!その時、後ろに控えていた烈風のカリンが

 

「黙れ、下郎!

貴様等の薄汚い裏切りの証拠とリストだ。最も信頼する筋から調べて貰った物だ。言い逃れなど、最早不可能と思い知れ!

トリステインの膿を一掃するぞ!抵抗するなら、私が直々に相手をして差し上げよう!さぁ捕らえろ」

 

 控えていた、グリフォン・マンティコア両隊及び銃士隊。それと、グラモン元帥の手の者がリストに記載されている連中を捕まえて行く。

 刃向かえば、烈風のカリンが問答無用で殺しに来る恐怖の為か、割とすんなり捕まった。

 

 惚けているアンリエッタ姫……

 

 カリンの怒号を真後ろから聞いてしまった為に、少し漏らしてしまった。しかし、気を失わなかっただけでも大した物だ!

 連れ出される、リッシュモンが投げやりにアンリエッタ姫に話し掛ける。

 

「アンリエッタ姫よ。

何故、此だけの事が出来る器量が有りながら普段はポヤポヤだったのですか?普段からしっかりしていれば、国を売る者も少なかった筈ですぞ!」

 

 この言葉は、アンリエッタ姫の心を抉った。私のせいで国を裏切ったのかと……

 

 

 

第154話

 

 

 トリステイン王国の稀代の謀略女王、奮闘す!

 

 あれよあれよと言う間に、腐敗貴族達は捕縛されていった。何と全体の三割近くが、売国奴だった訳だ。

 アンリエッタ姫は、余りの展開に付いて行けず設えた椅子に座り込んだ。

 それを見た残された者達は、アンリエッタ姫が未だ話が有るのだろう。と思い各々が椅子に座り、アンリエッタ姫の言葉を待つ。

 

 皆が熱を帯びた目で彼女を見詰めている。

 

 歴代の王でも、此処まで鮮やかな捕縛劇は出来なかっただろう。それに、数多くの有力貴族が捕らえられ、要職にも空席が出来た。

 その席を狙うならば、アンリエッタ姫に取り入るのが最短距離だろう。

 

「アンリエッタ姫、お見事でした!まさか、リッシュモン殿が裏切り者だったとは……いやはやご慧眼恐れ入りました」

 

「全くその通り!アンリエッタ姫は稀代の女王にあらせられる」

 

「さぁ次の指示を下され!我らはアンリエッタ姫の為に働きましょう」

 

 取り入りたい貴族連中の見え透いた追従だ……

 

「ふう……」

 

 アンリエッタ姫が、溜め息をつく。

 

これは、カリンの怒号に当てられて疲れたせいと、少し漏らしてしまったお尻の辺りが冷たくて気持ち悪かったのだが……彼らはそうは思わなかった。

 

「いえ、お世辞等ではありません!」

 

「我らの本心ですぞ!」

 

 慌てる貴族達……

 

「少し休憩を挟みましょう。頭を冷やさないと」

 

 そう言って、アンリエッタは席を立った。パンツを履き替える為に……残された者達の心情はエラい事になっていた!

 アンリエッタ姫は、我らに呆れて席を外されたのだ。これは真面目に取り組まないと、売国奴の二の舞だ、と。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 兎に角、濡れたパンツを履き替えたい!

 

 この一念で、足早に自室に向かう。

 

「嫌だわ、良い歳なのにお漏らしなんて……」

 

 取り敢えず着替えを済ませ、落ち着いた所でヴァリエール公爵夫妻が訪ねて来た。正直な所、辛い。

 

「アンリエッタ姫、お見事でしたな。これで売国奴は一掃された。次はアルビオンの王党派への応援ですな」

 

 ああ、まだ有ったのね。でも此が本題なんだわ!ウェールズ様とツアイツ様の愛を手に入れる為に……

 

「有難う御座います。もう少し頑張らねばなりませんね。ヴァリエール公爵、カリン殿行きましょう」

 

 ヴァリエール公爵夫妻を伴って会場に向かう。アンリエッタ姫は、ただ迎えに来てくれた!位に考えていたが、彼らはそんな善意では無い。

 アンリエッタ姫に一任されているのだよ我々が!そんなジェスチャーで有り、王党派への派兵もヴァリエール公爵主体で進んでいった。

 

 アンリエッタ姫は、ニコニコと微笑むばかり……

 

 会場に向かう途中で、アンリエッタ姫に囁いた。

 

「流石はアンリエッタ姫ですね。ツアイツ殿に話したら、さぞかし感心するでしょう。

実はこの後の展開について彼から腹案を貰っているのですが、その様に進めて宜しいか?」

 

 これには、アンリエッタ姫も感激、思わず涙を浮かべる程に……

 

「やはりツアイツ様は私の師……私の行動も全てお見通しなのですね!分かりましたわ。お任せします」

 

「ははっ!」

 

 礼を取るヴァリエール公爵が、ニヤリと笑ったのには気付かなかった……

 こうしてアンリエッタ姫の稀代の謀略女王説は、トリステイン中に爆発的に広まっていった!

 他にも腐敗貴族達の領地を王家の直轄領地とし、悪質な税率を戻したりと善政をヴァリエール公爵主体で進めて行く。

 

 同時に王党派への派兵の準備を整えて行く。アンリエッタ姫を総大将とした援軍!

 

 しかし、天空のアルビオンに兵を送る為に用意出来た空中船は15隻。そして空中戦の出来る幻獣を従えた魔法衛士隊を全て投入する。

 

 総兵力は一万に届いた!

 

 タルブ村周辺に前線基地を設け、目下急ピッチで派兵準備を進めている。

 

 この一連の流れをトリステインの貴族や平民達は、アンリエッタ姫が実は相当の遣り手で有ると思い込み、酒場では彼女を褒め称える声が夜遅くまで聞こえた!

 歴代トリステイン王家の中で、最も謀略に長けた王女アンリエッタ……勘違いとは時に凄い事になる典型的な例だ。

 

 ただ、本人は相変わらず夜な夜な一人芝居に興じている。

 

 最近は、ウェールズ皇太子と子育ての件で意見が合わないらしい……彼女は、とても感性が豊かな女性なのだから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 盟主オリヴァー・クロムウェルは得体の知れない不安に駆られていた!

 

 アルビオンの反乱は順調だ。王党派は、サウスゴータまで追い込んだ。連戦連勝……毎日の様に傭兵達の数も増えている。

 総兵力は五万に届く勢いだ。これなら、策も何も無くても力押しで勝てるだろう。

 

 もう一息で、アルビオン大陸を手中に出来るのだが……嫌な報告が2つ有る。

 

 1つ目は、憎っくきハーナウ家の小倅に送った刺客からの連絡が一切無い。

 奴の首には一万エキューの懸賞金をかけた。相当数を送ったが、未だに成功しない。

 

 2つ目は、トリステイン王国が我らと戦う準備を始めている。

 アルビオンを平らげてから攻め込む予定だったのだが……間者の報告では、一万人程度だそうだ。

 

 大した脅威も感じないだろう、普通なら……しかし、何かが引っ掛かる。何かを見落として無いか?

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!サウスゴータ侵攻の準備が整いました。何時でも出発出来ます」

 

 部下が、待ちに待った報告をしてきた。いよいよだ!いよいよ、私が王となる日が来たのだ!

 

「では明朝、全軍に演説を終えたら出発だ!」

 

 レコンキスタの最後の戦いが始まった。

 

 

 

 

 忘れ去られた手紙を届ける銃士隊員達……

 

 

 トリステイン王国で、アンリエッタ姫の株がエラい事になっている最中に、漸くアルビオン大陸に上陸出来た。

 彼女等は、魔法が使えないので民間船をチャーターするしか無く随分苦労した。

 王党派の皆さんは女性に優しく、怪しい手紙を持参した彼女等を暖かく迎えてくれた。

 そして、わざわざ船を用意して送り返してくれたのだ。

 

 しかし、手紙の行方は……

 

 

 

第155話

 

 

 深夜の自室で話し合う。オッサンとロリ……

 

「エルザ、ツアイツ殿の護衛すまないね」

 

「ツアイツお兄ちゃんとの遊びは面白いよ!でも護衛要らなくないかなぁ?」

 

膝の上に座っているエルザの頭を撫でながら聞く。

 

「何故だい?」

 

「ツアイツお兄ちゃんの体……あの筋肉の付き方は戦闘を生業としてる連中の付き方だったよ!

本人の魔力も高いし……1人でメンヌヴィルと傭兵達とも渡り合ったんでしょ?かえって邪魔じゃないかなぁ?」

 

 カステルモールは考える……

 

「確か、烈風のカリンの愛弟子だったな。

武人としての雰囲気はないが、それなりの遣い手なんだろうね。前に元素の兄弟を相手に良い様に攪乱したとも聞いているし……」

 

「烈風?ああ、トリステインのオバチャンだね!」

 

 黙り込むカステルモール……

 

「それは本人の前では言わないでくれよ。まぁ会う事もないと思うが……明日の夜も忙しいから、早く寝るか」

 

 エルザを抱きかかえてベッドに向かう。

 

「発情した姫様が来るんだよね?ツアイツお兄ちゃんも大変だ」

 

「……いや、違わないけど違うぞ。それは誰にも言ってはいけないよ」

 

 子供?故に本音で話してしまう彼女に、どう説明しようか悩むカステルモールだった。

 

「そう言えば性癖について、ツアイツお兄ちゃんが良く話し合えって!

エルザ、大人の方の女王様になって言葉責めや鞭打ちしたら良いの?って聞いたらね……」

 

「なっ何でそんな話になったんだ?」

 

 思わずエルザを抱きかかえて聞き直す。

 

「うーんと、カステルモールお兄ちゃんのマントの刺繍のエルザがボンテージ?だったから……

てっきりそう言う趣味なんだと思った。でもツアイツお兄ちゃんは違うから良く話し合えって!」

 

 ツアイツ殿、有難う御座います。まさか、幼女に調教のタイミングを計られていたとは……

 

「私はノーマルだ!今夜も証明しよう」

 

 そう言ってエルザを押し倒す!

 

「キャ!」

 

 ラブラブな2人だった……

 

 

 

 翌朝、食堂で見たカステルモールはゲッソリしていたが、エルザは艶々だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「カステルモール殿。何故かお疲れですが、昨夜はイザベラ様を送って行かれたのですか?」

 

 右手だけで器用にスクランブルエッグを食べながら聞く。

 

「ははははっ!仕える姫に何か有っては一大事ですから」

 

 何故か動揺している?

 

「あの後、イザベラ様付のメイドさんが来て見舞い品を置いていきましたよ。

流石はイザベラ様だ。王族が深夜に出歩くに辺り、護衛とか準備とか全て滞りなく手配されている」

 

「ははは……イザベラ様の手腕は凄いですね。でも知らない振りをして下さい」

 

「何故ですか?」

 

 カステルモール殿は何かを考えているみたいだが……

 

「きっと誉めると、照れるから……でしょうか?」

 

「…………?随分奥ゆかしい所も有るんですね」

 

 ツンデレさんだからかな?意外な一面だね。

 

「今夜イザベラ様が来たら、これからの事を話し合いますのでカステルモール殿も同席して下さい」

 

「お断りします。いや、遠慮かな……何か有れば呼んで下さい。それまでは2人で話し合われた方が良い!」

 

 そんなに力説しなくても良いのに……

 

「分かりました。アルビオン王国に行く手段をどうにかしたいのです。ウェールズ皇太子には手紙を送ったので、そろそろ着いている筈ですが……」

 

 どうするかな?イザベラ様に頼もうか……

 

「ああ、私が相棒と送りますよ。近くまでは、両用艦隊で……それにイザベラ隊も付いてくるでしょうし」

 

 当初の予定通り、彼らは助力してくれる。しかし、イザベラ様に断りを入れないと駄目だね。

 

「有難う御座います。しかし、イザベラ様に私から頼んでみますね。流石に軍籍にある船は拙いですし……お金は私が出しますから、民間機を雇いましょう」

 

 金貨は重いから、宝石を幾つか持ってきている。捨て値でも1つ千エキューは下るまい。

 

「用意が良いですね。しかし心配は無用だと思いますよ」

 

 

 

 

 その頃のデレベラ様!

 

 

 プチトロアのイザベラ執務室。久し振りに主が元気に政務をこなしている。しかし、この2人が手伝うのは当たり前の扱いになっていた。

 

「イザベラ……ミスタ・ツアイツはどうだったの?」

 

 タバサが、書類と格闘しながら聞いてくる。

 

「ああ?元気だったよ。しかし、怪我が酷い……暫くは静養させるよ」

 

「怪我……大丈夫なの?」

 

 何だい?エレーヌ、まさかワルド子爵を振ったのはツアイツ狙いかい?

 

「エレーヌ……可哀想だが、ツアイツはペタンコは無理だよ。他のロリコンを探しな」

 

「イザベラ様、タバサ殿は純粋にツアイツ様を心配してるのですよ!嫉妬は可愛いですが……」

 

「……嫉妬?イザベラはツアイツと結婚するんでしょ?」

 

「えっ?いや、そうなんだけど……その、未だ工作が……もう少しかかるよ」

 

 やはりお子様には、ツアイツの良さは解らないか……まぁツアイツは自他共に認める巨乳好きだから、エレーヌは安全パイだ。

 

 そうだ!コイツの存在を忘れてたよ。

 

「ジャネット……言わなくても分かるな?」

 

 一応確認しておく。

 

「その、ツアイツ殿狙いかって事ですね?イザベラ様の後で良いです。彼の周りに居れば、面白い事に困らないですから」

 

 そうだった!コイツ等は、自分が楽しければ良い奴らだったよ……

 

「自重してくれよ。私は午後、昼寝をするから今日の仕事は昼までだ。さぁもう一息頑張るよ」

 

 寝不足だと、アイツとの時間に差し支えが出るし……そうだ!見舞いの品を何にするか、考えてなかったよ。

 病人だからね……何が良いんだろう?果物?お酒?んー何時も貰う方だったからね……

 

 専用デスクに座り、うんうんと仕事もせずに悩み始めたイザベラ。

 タバサとジャネットが、やれやれと仕事をサボる為に執務室を出て行っても気が付かなかった……

 

 デレ期は順調に続いている。

 



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第156話から第158話

第156話

 

 城塞都市サウスゴータ。

 

 かつて、モード大公に縁のあったロングビル……いや、マチルダ・オブ・サウスゴータの故郷はレコンキスタとの最前線として賑わっていた。

 かつての領主の館のベランダでウェールズ皇太子は、闇夜の街を見ている。

 所々で篝火が焚かれ、物々しい警戒がされているが、治安も良く住民も協力的だ。

 対レコンキスタ総司令官に任命されたウェールズ皇太子は悩んでいた。

 先程、物見の報告により明朝レコンキスタが進軍するとの報告が有った。

 

 いよいよ最終決戦だ。

 

 かの地から、大軍を動かすとなれば、4日後には接敵するだろう……負ける気はしない。

 しかし、机の上に有る二通の手紙が気になる。

 

 1つは、心の友であるツアイツ殿より送られてきた手紙だ。これは、良い事だろうし早く読みだい。

 

 もう1つは……アンリエッタ姫の直属部隊の銃士隊が、怪しい行動をしていた。何組かに分かれて、アルビオン大陸に侵入してきたのだ。

 アンリエッタ姫からの親書を携えて……

 

 確認出来ただけで3通。

 

 彼女達は、丁重に送り返した。しかし、話した所では父上の方にも届ける部隊が居るらしい……これは、読みたくない。

 私はどちらかと言えば、美味しい物は先に食べる主義だ!だから、心の友の手紙を読もう。

 

『ウェールズ様。

此度の戦ですが、良く平民を守り部隊の損傷も少なく撤退している事。流石と言わずにはいられません』

 

 ツアイツ殿の情報網の方が凄いな。正確に我らの動きを掴んでいるとは。

 

『レコンキスタの動向ですが、どうやらトリステイン王国にも魔の手を伸ばしていました。既に何人もの貴族が買収されています。

アルビオン王党派の方々はそんな誘いには乗らなかったのに……

義父上で有る、ヴァリエール公爵に売国奴のリストと証拠を渡しましたので、そちらからのレコンキスタへの増援の可能性は潰せた筈です』

 

 何故、ツアイツ殿がそんな証拠を?アレかな、昔ウチの諜報を手玉に取った連中か……国の諜報機関より有能ってどうなんだ?

 

『アンリエッタ姫次第ですが、上手くすれば王党派に応援を派兵出来るでしょう。上手く行かなければ、彼女は国内の騒動を抑えるだけで手一杯でしょうね?』

 

 アンリエッタ姫か……まさか、この手紙に?しかし、彼女にそんな政治的手腕が有るとはとても……

 少なくとも、トリステインからの裏切り者がレコンキスタに合流しないだけ有り難いかな。

 

『微力ながら、私もアルブレヒト閣下に増援の願いをします。同盟国の危機ですし、両国に利も有ります。

問題無いと思いますが、派兵には時間が掛かります』

 

 これが、前に言っていた応援を送れるかもしれない……の事だな。

 

 心の友よ……有難う、それだけで感謝し足りない位だ。

 

 私は君に何を恩返しすれば良いのだ!

 

『それと、僕はこれからガリアのイザベラ様に会ってから其方に向かいます。大した役にはならないと思いますが、ファンクラブの激励位にはなるでしょう。

皆は僕の事を知ってるとは思いますが、一応来ると言う事を伝えておいて下さい。では、会えるのを楽しみに』

 

 なっ何だと!我ら王党派の為に……この戦場に来るだと……何て漢なんだ。

 

 トリステイン王国の裏切り者を牽制し、ゲルマニア皇帝に増援を嘆願。そして、戦意高揚の為に戦場に現れるだと……何処まで突き抜けた漢なんだ!

 

 しかし、ガリアのイザベラ姫に会うとは?まさか、フィギュアのツンデレプリンセスたる彼女と良い仲なのか?

 大変だろう、この貴族社会でそのラブロマンスは……

 

 よし!恩返しには、イザベラ姫と結ばれる様に国を挙げて協力しようではないか!

 

 この戦いに勝てば、彼は英雄だからな。それ位はお安いご用だよ。さて、気分も高揚したのでアンリエッタ姫からの手紙を読もうかな……

 

 

 

 アンリエッタ姫の手紙

 

 

『ウェールズ様へ

 

私の心は、張り裂けそうですわ。愛する貴方の国の一大事。でも力の無い私には、貴方に差し伸べる事が無いのです。

自国も纏められない、哀れな姫とお笑い下さい。貴方の近くに行き、貴方を感じたい。

ラグドリアン湖の辺(ほとり)で、私の沐浴を偶然見付けてしまったウェールズ様……

かなり長い間、熱い視線を送って頂きましたわ!

私は代々トリステイン王家に伝わる決まりにより、肌を見られた相手に嫁がねばなりません。

ウェールズ様は仰いました。あと少し胸が有れば、その場で押し倒したのにと。

あの一言は、私の硝子細工のハートを砕きましたわ!

 

何て、残酷なお方……

 

そして、己の欲望に忠実な人。私は、王家のしきたりに従い貴方に嫁がねばなりません。

私の玉の肌を見たからには、ウェールズ様も男の責任を果たして頂かなければなりませんわ。

 

具体的に分かり易く言えば、婚姻ですわ!こ・ん・い・ん!

 

大切だから、二回書きました。でも、安心して下さい。

私の胸は、とある人からの指導により巨乳の階段を三段飛びで駆け上がっています!

ツアイツ様の設定によればD84との事です。もう微妙などとは言わせません!

だから、私の方には問題は有りません。問題なのは、ウェールズ様の責任の取り方だけですわ!』

 

 

 …………最近疲れているのかな?随分と捏造された、手紙の様だが?

 

 はははっ!疲れが溜まっているのだろうか。さて、これは燃やしておかねばならないな。

 

 残りも全て……ツアイツ殿が来たら、アンリエッタ姫との事は、誤解無き様に説明をせねばなるまい。

 まぁこの様な手紙1つでは、もう私は動じぬがな。父上にも、連絡を入れておくか。

 トリステインから、我が国へ謀略を仕掛けられている疑いが有ります、と。

 

 さてと、ではツアイツ殿の歓迎準備をしなければ……

 

「バリー、バリーは居るか!一大事だぞ。皆を集めて緊急会議だ!

ツアイツ殿が、戦意高揚の為に、我らが為にこの地に向かっているのだ。歓迎の準備を……」

 

 微妙にツアイツとイザベラ姫の事を勘違いをしてしまった、ウェールズ皇太子であった。

 そしてアンリエッタ姫の渾身の手紙は、ただイタい女と認識されただけだった!

 

 やはり覚醒ウェールズに単騎で挑むのは無理だったか?

 

 

 

第157話

 

 

 デレベラさん頑張る!

 

 プチトロアの執務室で、気が付けばメイドが昼食の準備が出来たと呼びに来た。

 見渡せば、シャルロットもジャネットも居ない……あれ?何時の間に、出て行ったんだろう……

 

「昼食かい?働き過ぎかね……もう午前中が終わりとは、時間が経つのが早く感じるよ」

 

 彼女も、アンリエッタ姫ばりに妄想……いや、実行可能だから妄想ではくシミュレーションか?

 

「メイド!今夜も出掛けるから準備を頼むよ。それとツアイツに見舞い品を……

何か一緒に食べれるスィーツを見繕ってくれよ。余りは皆で分けて構わないから」

 

 1人の食事を終えて、食後の紅茶を楽しんでいる。ツアイツの怪我を知ってからアルコールは断っているのだが……

 

「うう……ワインが飲みたいけど我慢だよ。ツアイツが回復する迄は」

 

 好物を断つ願掛けとは、割と古風なイザベラで有ったが、好物がアルコール……これを機に減酒を!

 

 そして2回目の深夜の逢い引きが始まる。

 

 昨夜と同じ様に、完璧に警護された道をカステルモールの屋敷まで馬車を走らせる。

 昨夜と違うのは、ジャネットの他にシャルロットが乗っている。イザベラの肩に頭を乗せて寝ているが……

 

「おい?」

 

「なんでしょう?」

 

「何故、シャルロットが乗っているんだ?」

 

 彼女を起こさない様に、視線を送りながら質問する。

 

「はぁ……昼間の執務室で、今夜も会いに行くから見舞い品が何とか。って話されていたのでバレたんですよ」

 

 溜め息をつかれたぞ!

 

「私のせいだって言うのかい?」

 

「はい。百パーセント、イザベラ様の自業自得かと……」

 

「……幸い寝ている。着いても起こさずに、馬車に置いていこう」

 

 イザベラの膝に頭を乗せて、本格的に寝入っているシャルロットを見ながら話す。

 

「子供に夜更かしは良くないんだよ」

 

 これを見たらイザベラファンクラブは、ご飯三杯はいけるだろう……シャルロットは、イザベラのスカートに涎を垂らして熟睡中だから。

 結局カステルモールの屋敷に着いたが起きず、そのまま馬車に寝かせておいた。

 

「イザベラ様、いらっしゃいませ。お待ちしておりました」

 

「うん。それでツアイツは、昨日と同じ部屋かい?」

 

 背中にエルザを貼り付けた、出迎えのカステルモールに質問する。

 

「はい。既にお待ちです。それと、ツアイツ殿が我らを交えた相談が有ると話しておりました。呼ばれる迄は近付きませんので」

 

「イザベラ姫様、ツアイツお兄ちゃんに激しい運動させちゃ駄目だよ!怪我に響くから」

 

「……頼まれなければしない。それと見舞いの品だ。直ぐにお茶と共に運んでくれよ」

 

 頼まれたら、激しい運動をするんかい!突っ込みは、仕える姫には出来なかった。いや、オヤジギャグを本音で切り返されては何も言えないぞ。

 扉の前で身嗜みをチェックし、深呼吸をする。ノックをしてから部屋に入る。

 

「今晩は、ツアイツ。体調はどうだい?」

 

 ツアイツは、ソファーに座っていたが立ち上がり近付いてきた。えーと、彼をハグすれば良いんだっけ?

 

「お待ちしておりました。さぁ此方へ」

 

 そう言ってソファーを勧める。何だい、意気地なし……

 

「昨夜は急だったから何も用意しなかったけど、今夜はガリアのスィーツを用意したよ。直ぐに持ってくるはずさ」

 

「イザベラ様のお薦めですか?」

 

 ヨシ!会話の流れは、良い感じだよ。昨夜は出来なかった、たわいない話をしているとメイドが紅茶とスィーツを運んで来た。

 

「ザッハトルテですね。どちらかと言えば、ゲルマニアのスィーツでは?」

 

「いや、ツアイツが好きだと思ってね」

 

 和やかな雰囲気が続く。

 

「それで、相談とは何なんだい?」

 

 嫌な女だね……もう少し甘い雰囲気を作りたいんだけどね。ツアイツの顔が、普段見せない厳しい顔付きに変わったね。

 私はこっちの方が好きだよ。謀略に長ける私達にはお似合いさ。

 

「ジョゼフ王からの挑戦……いよいよ大詰めです。レコンキスタは王党派に総攻撃をかけるでしょう。

トリステインから増援をとも画策しましたが……アンリエッタ姫の暴走でタイミングが危うい。だから、我が閣下にもお頼みしました」

 

 ツアイツと知り合えたのは、お父様のお陰。しかし問題もお父様か。

 

「レコンキスタはダータルネスで準備中だが、間者の報告では一両日中に侵攻を開始するよ」

 

「その情報は、知りませんでした。流石はイザベラ様。

なので、トリステインかゲルマニアの増援が来るまでの繋ぎとして……僕は、王党派に行くつもりです」

 

「なっ……」

 

 何だって!怪我人が戦場に行くだって?クソッ……普通なら止めるだろうけど……私にはツアイツが行く事の効果が理解出来てしまう。

 

 タイミングが悪いんだ。

 

 両国の増援は間に合わない。王党派の応援として、精神的な支柱としてツアイツは有効だ!

 しかし、それはオリヴァー・クロムウェルから目の敵にされているアンタの危険度が跳ね上がる。

 

「イザベラ様?」

 

「言葉は悪いが、王党派の神輿としてツアイツは有効だね……しかし危険度は高い。アンタに懸賞金がかかっているのは知ってるね?」

 

 本当なら止めるべきだが……私は、コイツの相棒になると決めたんだ。

 

「はい。戦場ともなれば、僕の首を取りに殺到しますね。それこそ、作戦も連携も関係無く……」

 

 嗚呼、コイツは自分が極上のエサだとも理解しているのか。ならば、私も覚悟を決めようかね。

 

「偽装船を用意するよ。それとイザベラ隊を付ける。カステルモールも持って行きな。変態を従えるのは、ド変態なアンタなら楽勝だろ?」

 

 笑顔で言ってやる。私はね、情で縋る他の婚約者達とは違うよ。

 

「はい。イザベラ様、有難う御座います」

 

「止めたって行くんだろ?なら出来るだけの協力はしてやるよ」

 

 序でに、私も内緒で付いて行くよ。アンタが広めたツンデレプリンセスの私だって、戦意高揚にはなる筈さ。

 替え玉はシャルロットにフェイスチェンジでやらせるし、ツンデレプリンセス隊と蒼い髪の乙女隊で周りを固めれば……暫くはバレないだろう。

 現地で騒がれても、しらばっくれるから問題無い。要はレコンキスタを殲滅すれば良い。

 

 後は、ツアイツだけに私の功績を認めて貰えば……仮にも王女を戦地に連れ出したんだ。

 

 責任は取ってくれるよね?

 

「あの……イザベラ様?凄く邪悪な笑みですけど……」

 

覚悟を決めた女は強かった!

 

 

第158話

 

 

 深夜のカステルモール邸で向かい合う美男美女。しかし話している内容は甘い物では無かった。

 

 イザベラ様……

 

 アルビオン行きを止めるかと思ったけど。彼女程有能ならば、僕と同じ考えに行き着いたんだな。

 王党派が勝つには、あと一手足りない。それを補うのに、最速で有効なのは僕なんだと。

 やはりイザベラ様は、この手の話では頼りになる。フォローも望みうる最高の物だった。

 

 しかし……

 

 あの笑みが気になる。アレは、エレエノール様やカリーヌ様の悪巧みの顔と非常に似ている。

 

「あの……イザベラ様?」

 

「何だい?泣いて縋って止めて欲しかったのかい?」

 

 ああ、ニヤニヤに変わった……気のせいだったのかな?

 

「戦争の片棒を担がせたんだ。何時か何かで、借りを返しなよ」

 

 今度は、見惚れる純粋な笑顔……短時間で3種類の笑顔を見せられるとは。

 

「希望が有れば、教えて下さい。出来るだけの事はしますから」

 

「…………良く考えておくよ。大丈夫、酷い事は頼まないからさ。ちゃんと常識の範疇だよ?」

 

 大国の王女の常識ってどうなんだろう?アンリエッタ姫の常識よりはマシかな……でも金銭感覚だって桁違いだろうし。

 

「お手柔らかにお願いします。それと、もう1つ相談が有りまして……オルレアン公の件です」

 

「シャルロットの実家だね……もう知ってるだろう?タバサは、オルレアン公の一人娘のシャルロットなんだよ」

 

 そうか、イザベラ様でもジョゼットは知らないのか。なら、オルレアン夫人を治してから話をした方が良いだろうか?

 

「はい。それで、この件はかなりリスクの高い話なんですが、話して良いですか?」

 

「粛清され、不名誉印を刻まれたシャルロットの実家か……良いよ。どちらにしても、私が聞かないと先に進まない類の相談なんだろ?話しなよ」

 

 何か、イザベラ様って話しやすいな……

 

「先ず、オルレアン夫人の治療方法ですが……手に入れています。しかし、タイミングが難しいのです」

 

「……エレーヌの母親か。確かに幽閉中だし、治療したとなるとお父様も疑うだろうね。毒を盛ったのは……」

 

 イザベラ様が悲痛な顔を……実の父親が、友人の母を害したと思ってるのかな?

 

「イザベラ様。ジョゼフ王は彼女に毒を盛ってませんよ。治療の副作用が強かったのです」

 

 自分の夫が女装癖の有る近親相姦希望者。しかも、夜な夜な爛れた宴をしているのを知れば、精神も病むよね。

 

「えっ?それは本当なのかい?」

 

「そうです。だから治療に関しては、ジョゼフ王も煩くは……」

 

 彼女は考え込んでいる。

 

「では、私がお父様に掛け合って許可を取れば治せるんだね」

 

 僕は、黙って頷く。

 

「なら、早く治してやっておくれ。あの子も喜ぶよ!」

 

 しかし、それに関連してジョゼットの話もしなければ……

 

「何だい、その顔は?治療には条件が厳しいのかい?手伝える事なら言ってほしい」

 

「その……オルレアン夫人が、回復したら確認したい事が……」

 

「確認?その口振りだと、治療に手間は掛からない。治した後に問題が有るんだね?ふう……アンタは何時もビックリ箱だよね。良いよ、聞かせてくれ」

 

 よくも此だけの会話で、予測出来るよね。

 

「ガリアの風習では、双子を忌み嫌うそうで……

セント・マルガリタ修道院でロマリアの密偵団とジュリオ助祭枢機卿が、怪しい動きをしていました。調べてみれば……シャルロット様の双子の妹、ジョゼット様が居ました。

彼女は、ロマリアの密偵団が強引に拉致しようとした所を保護しています。普段は、フェイスチェンジで顔を変えていますが、瓜二つです」

 

 イザベラ様は、長い間黙ったままだ……

 

「……………ツアイツ?」

 

「はい」

 

「その娘をどうするつもりだい?彼女は……」

 

「出来れば、親子三人幸せに暮らして欲しいですね」

 

 イザベラ様の目は真剣だ!

 

「その娘、ジョゼットと言ったかい?公表も無理だね。王族の醜聞なんだよ!アンタの身だって心配なんだ。その娘は、私に預けな。私が必ず何とかするから……」

 

 ああ、彼女はオルレアンの人達を大切に思っているんだな。だけど……

 

「イザベラ様と僕は、もう一蓮托生・呉越同舟ですから。一緒に考えましょう」

 

 ニッコリと笑い掛ける。

 

「ごえつどうしゅう?何だい、それは?」

 

「東方の諺で(共犯者として)立場の違う2人が協力して、ずっと一緒って事ですよ」

 

「!」

 

 あれ?イザベラ様、固まった?不味かったかな、一国の姫を共犯者扱いは……

 

「そっそそそ、そうかい?アンタが、まさかそう考えているなんて……まっまぁ仕方ないね!

うん。ごえつどうしゅうで良いよ。良い言葉じゃないか!これから末永く宜しく頼むよ」

 

 妙に慌ててるけど?気を使ってくれて、賛成してくれたのかな?全くイザベラ様は、口は悪いけど優しいから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 呼ぶまでは近付かないって言っていたが、今夜も扉に張り付いている2人。

 

「毎回驚かされるが、ツアイツ殿の情報網はどうなっているのだ?オルレアン夫人の件の真相……治療法に、双子の妹の存在だと!」

 

「良いわ、ツアイツ様って!ツアイツ様って波乱万丈の生き方をしてますよ。絶対に死ぬまで退屈しないわ!」

 

 扉にへばり付き、中の話を聞いている!秘密を知ってしまったら、自分達でさえ危険な内容も有ったのだが?

 

「ツアイツ様、イザベラ様にプロポーズしましたよね?よね?」

 

「ずっと一緒か……それを実現するのは難しい。しかし、あの2人が協力すれば可能だな。当然、我らも協力するしな」

 

 覗き屋2人は誓った!彼らの未来に協力する事を……

 

「しかし意外でしたね。まさか、ツアイツ様からプロポーズするとは!微妙に分かり難くかったけど……」

 

「イザベラ様が、あっさり受けた事がか?それともあっさりツアイツ殿がプロポーズした事か?」

 

「両方です。謀略系のお二方なら、もっと婉曲な方法なのかなと……」

 

「「ロマンティックでは無かったけどな(ね)」」

 

 

 

何か、息の合っている2人だった!

 



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第159話から第160話・人物紹介

第159話

 

 変な諺を用いてしまった為に、全く意図する事と違う思いが伝わってしまったツアイツ。

 イザベラは、末永くツアイツと宜しくするつもりだ……

 

「それで、話しを先に進めようか!どうする、シャルロットの件は……偽装かね?」

 

 正確に問題点を挙げてくる。

 

「偽装が一番容易で確実ですよね。お家再興とかは難しいですから、新たな身分で暮らしてもらうしか……勿論、フェイスチェンジや偽装死も含めて」

 

「ガリア貴族かゲルマニアで爵位を買うか……」

 

 流石に似ている思考に同程度の能力!話しが早いや。

 

「何をニコニコと見ているんだい?」

 

「いや、似た者同士だと話しも早いな、と」

 

 あれ?真っ赤になって下を向いたけど?変態と似た者は嫌だったかな?

 

「に、似ているかい?こんなアバズレが……」

 

何かコンプレックスでも有るのかな?

 

「イザベラ様の良さは知っているつもりです。少し言葉はストレートですが、気にする程では。それも魅力の内ですし」

 

 ツンデレの魅力は、言葉使いと態度ですよ!

 

「ふん!アンタが言うとお世辞に聞こえるけど……あっ有難う」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「かーっ!聞いた?聞きました?アバズレが魅力だって!ツアイツ様なら、どんな人でも持ち上げられますよね」

 

 カステルモールの肩をバンバン叩いて悶えるジャネット!

 

「落ち着かんか!雰囲気は甘いが、会話の内容は謀略か……本当に、どんな状況でも口説けるのだな」

 

「私も口説かれたいです。シュチュは戦場のど真ん中とかで!」

 

「それは死亡フラグだよ……ジャネットよ、自重しろ」

 

 危険な環境で愛を囁いて欲しい!物騒なジャネットを窘める。

 

「「これは手伝わなくても、勝手に何とかするかも?」」

 

 有能な2人には、障害など愛を盛り上げる為の舞台装置にしかならないと思えてしまう覗き屋達だった!

 愛で繋がった謀将など、厄介以外の何者でもなかった。感情でも衝動でもなく、着々と策略で話を自分の有利な方に持って行く連中だから……

 

 

 

 似た者、謀将ズ!

 

 

 

 プロポーズ?後なのに全く甘くない雰囲気の2人。

 

「では、偽装方面で話を進めましょう。治療に関しては、イザベラ様からジョゼフ王に伺いを立てて下さい。

ジョゼットの件はレコンキスタ殲滅後に落ち着いてから……そもそも殲滅後に僕はジョゼフ王に謁見しますから、その時の報酬でもk」

 

「ツアイツの努力の報酬が、ウチの家系のゴタゴタを収める事で無くなるのは駄目だ!」

 

 コイツは、此だけの事をした見返りをあっさり捨てる気かい?お人好し過ぎるだろ!

 

「いえ、ジョゼフ王には感謝してるんです。報酬はもう抱えきれない位貰ってますから……」

 

 何か私の知らない内に取引きしたのかな?

 

「何を貰ったんだい?私は聞いてないよ」

 

 何を綺麗な笑顔で見詰めるんだい?恥ずかしいだろ。

 

「カステルモール殿、ファンクラブの連中。ジャネット殿。シェフィールドさん。シャルロット様、ジョゼット様。

そしてイザベラ様。

ジョゼフ王が試練を与えなければ知り合う事の無かった大切な仲間。この試練は僕に取って金で買えない、人との繋がりを得れた。

感謝しても良いかな?ジョゼフ王に。有難うって言ってみようか?」

 

 うー、そんな言い方をされたら何も言えないよ。コイツ、無自覚な誑しだ!

 

「それでも何かお礼はするよ!これは、私個人の思いでもあるから……その澄ました顔をビックリさせてやる」

 

 

 

 思わず涙する覗き屋達……

 

 

 

「あんなキチガイ王に感謝とか!有難うなんて言われるジョゼフ王が想像出来ません!是非実現して欲しいですよね」

 

 小声でも興奮が最高潮のジャネットが、バンバンとカステルモール殿の背中を叩く!

 

「アレ?カステルモール殿?叩き過ぎて痛かったですか?そんな泣くほど痛く叩いてn」

 

「馬鹿者!これは感動の涙だ……ツアイツ殿と知り合えて良かったと思っているのは我々なのだ。何たる器のデカさだ!ううう……」

 

 本気で泣いてるよ。

 

「でもツアイツ様、ガリア王になるんだから報酬としては名誉も財も権力も美女も付いてくるんですよ!

これ以上ないくらい……」

 

「黙れ!お前も感動で咽び泣け!」

 

 ジャネットの頭を抑えてガクガクと振り回す。部屋の中も盛り上がっていたが、外も凄い盛り上がりだった!

 

 ジャネットは目を回してリタイアだが……

 

 

 

 更に謀略、似た者同士

 

 

 

「それと、最後に面倒なお話しが有ります」

 

「まだ有るのかい?もうお腹一杯だよ」

 

 冷えた紅茶を入れ替え、新しいケーキをイザベラ様の皿に乗せる。

 

「すっすまないね。気が利かなくて……」

 

 いや、王族におさんどんはさせられないし。ははは、と笑っておく。黙ってケーキを食べる。

 

「うん。美味しいですね」

 

 やっと恋人同士の雰囲気に……

 

「ロマリア、どうします?」

 

 取り敢えず、最大の敵をサラッとどうするか聞いてみた!

 

「ああ、潰そう。ウザいんだよ密偵団とかさ!私達はさ、ヤツらに睨まれる存在になった。

ならば、蹴散らせば良いよ。2人で力を合わせれば、10年位でブリミル教を衰退させられるだろ?」

 

「ふっふふふ……あははははは!流石はイザベラ様。

良いですね、何処までもお供します。僕が見込んだ姫の器は僕より大きかった!

ふふふふっ……あっさりブリミル教を要らないなんて……あははっ、イタタタ!傷が開いたかな?」

 

「ちょ何を体に悪い様な笑い方してるんだい?ほら、落ち着いて……背中を撫でれば良いのかい……」

 

 この姫は面白い!

 

 誰が何と言っても、この姫と足並みをそろえればロマリアなど怖くはない。先ずは、レコンキスタを潰そう!話はそれからだ。

 

 

 

 感動中の覗き屋カステルモール!

 

 

 

 ジャネットは足元で泡を吹いている……軟弱者め!今の話を聞いたか?あの2人にはレコンキスタなど前座!

 

 その先にロマリアを……ブリミル教を駆逐し、漢達の真の国を建国するのですね?

 

 オッパイ帝国が、僅か10年で完成するとは!

 

 ハルケギニア中の男の浪漫本ファンクラブ会員に上級会員として通達だ!

 教祖ツアイツは、ブリミル教を押しのけてハルケギニアにオッパイ帝国を建国する構想が有る!

 

 実現には、ツンデレアイドルも共に歩むと……忙しく、忙しくなるぞ!

 

 

 

第160話

 

 傷を負いながらも何故か笑い転げる男と、懸命に彼を気遣い体をさする女……これ何てカオス?

 

「くっくくく……イタタタ、でも……ふふふふ、いや痛い」

 

 体を労らねばならないのにこの男は。

 

「もうお黙り!」

 

 強引に口を口で塞ぐ。コレが私のファーストキスなのだが……小さい頃にエレーヌと、遊びでしたキスはノーカンだよ!

 

「んっんー、プハァ……落ち着いたかい?アンタ、病人なんだからね!大人しくしてな」

 

 ふふん!ビックリしただろ?でも、結婚を約束した男女なら良いだろ、キスくらい……あっヤバい、顔が熱いよ。

 

「いっイザベラ様……何を……」

 

「お黙り!アンタが傷に触るのも構わず笑い転げるからだよ。それと、2人だけの時はイザベラと呼びなよ、ね?」

 

 コイツが、真っ赤になるのは珍しいね。変態を公言しても恥ずかしがらない男がさ……

 

「今夜は帰るよ。偽装船や人員その他は明日の夜には発てる様に手配しとくから。私は見送りは出来ないよ(一緒に行くからさ)

キスの代金も上乗せだよ。言っとくけど、王女のファーストキスだ!高いからね」

 

 そう言って部屋を出る。まっまだ恥ずかしくて、心臓がバクバク言ってるよ!

 これは、慣れないとアイツとの夫婦生活に支障をきたすね。具体的には子作り……

 

「何を扉の外で、泡を吹いているんだい?ジャネットは……」

 

 扉の外で、うずくまるジャネットに尋ねる。

 

「いえ、部屋を覗こうとしていたので絞めておきました……」

 

 覗きかい?全く年頃の女が、恋もせず出歯亀かい……

 

「カステルモール、ご苦労!帰るから送りな。ジャネットも連れてくよ」

 

 馬車に戻れば、エレーヌが熟睡している。コイツも、最近緩んでないか?

 北花壇騎士団員が、護衛の姫を放っておいて寝転けるわ、覗きがバレて絞め落とされるわ……

 

「まぁ良いか……プチトロアに帰るよ」

 

 

 馬車は夜道を走り出した。

 

 公式ファンクラブ会員が完璧に護衛している道をひた走る……今夜の事は、カステルモール経由で知れ渡る。

 暫くはイザベラ祭りの開催だろう!

 

 勿論、アルビオン行きは伏せておくが……余りに騒がしいので、落ち着くまでプチトロアに籠もる。

 不自然ではないだろう。ちゃんと覗きで得た情報を元に対策を練っていた、主思いの部下だった。

 

 

 

 デレデレ完結イザベラ様

 

 

 先程の事を思い返す……レコンキスタへの対応。まぁ問題無いね。

 オリヴァー・クロムウェルなど所詮は小物。私とアイツの仲を取り持つ切欠作りには感謝するが、そうそうに退場しな。

 

 オルレアン夫人とエレーヌの双子の妹。ジョゼットか……

 

 お父様が、毒を盛ってないと言ってくれた。これで、心のトゲが一つ取れたよ。

 

 有難う、ツアイツ。彼女らについては、私が何とかするよ。

 偽装して適当な爵位と領地を与えれば良いかね?それともゲルマニアで爵位を買って与えるか……

 

 エレーヌもジョゼットも万が一を考えて、ツアイツから距離を取らせ私の目の届く所が良いよね。

 

 そして、ロマリアか……正直面倒だ。

 

 6000年の重みを跳ね返すのは大変だ。しかし、ちょっかいを掛けて来るならば……

 私達の幸せな未来の為に、腐れホ〇野郎の教えなど潰してしまおう。

 教皇は手強いが、お前の存在自体がブリミル教に反してるんだよ。201人の男の娘って何だい?

 美少年の群は見てみたいが、全員に女装させて悦に入ってるんだろ?

 

 馬鹿かね、コイツは!

 

 こんな教皇なら、付け入る隙は幾らでも有るね。何とかなるよ、ツアイツと2人で立ち向かえば……

 

「ふふふふ……望み得る最高の結果だったね。きききき、キスもしたし……」

 

「イザベラ様……声に出てますよ。良かったですね、ツアイツ殿と結ばれて」

 

 何故知ってる、カステルモール?

 

「まさか、貴様も覗いていないだろうね?」

 

 目を逸らした!さては、覗いていたね?

 

「まぁ良い……両用艦隊を一隻偽装するよ。最新鋭の船がいいね。お前はイザベラ隊員達と連絡を取り合い、秘密裏に港に集結させな。

当然、お前も行くんだよ。ツアイツには内緒だが、私も行くよ!質問は許さない、分かったな?」

 

「はっ!準備万端お任せを……しかし、留守の対応はどうします?確実にバレますよ」

 

 そうだった!

 

「エレーヌ、ジャネット起きな!大事な話が有るよ」

 

 2人の頬を平手で張る!良いモミジ跡だ。

 

「「ひどい(です)イザベラ(様)」」

 

「黙れ!職務怠慢で吊し上げるぞ」

 

 黙り込む2人……

 

「良くお聞き。一度しか言わないよ。明日の夜、もう今晩か……私はツアイツと共にアルビオンの王党派に行く。

これは決定事項だ。エレーヌはフェイスチェンジを掛けて私の身代わりだ。ジャネットは補佐をしな」

 

 2人共、ビックリしてるね。

 

「……それは危険」

 

「幾ら何でも無謀です!」

 

「大丈夫だよ。ツアイツと一緒なら何の問題もない。

それと、今回の件が成功すればエレーヌのお母様の治療が出来る。ガリア王女として約束する。だからエレーヌ、頼むよ」

 

 エレーヌが縋り付いてきた。

 

「本当なの?お母様が治るって……」

 

 抱き締め返してやる。背中をポンポンと叩く。

 

「本当さ。手段はツアイツが探したんだけどね。タイミング的には、レコンキスタを殲滅した後じゃないと問題が有る。

だから、私もツアイツと一緒に行くんだ。エレーヌ、協力してくれるかい?」

 

 無言で頷いている……多分泣いているんだろう。

 エレーヌ、私のお気に入りのドレスに涎は垂らすは、涙と鼻水で濡らすは……まぁ良いけどさ。

 

「イザベラ様、私には報酬はないのですか?」

 

 ん?

 

「王女たる私のラブロマンスの最中に覗きか……本来なら不敬で処罰だが、許してやるよ。

それと、私達の下で波乱万丈な人生をおくらせてやるから良いだろ?」

 

「オッケーです!サポートは任せて下さい」

 

 これで、準備は万端だ!婚前旅行が、白の国か……悪くは無いね。

 

 

 

 人物紹介(通算200話迄)

 

帝政ゲルマニア

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ

 

 我等が主人公。謎の神様によりゼロの使い魔の世界に転生した。

 

 肉体年齢15歳精神年齢39歳(15歳+24歳)

 

 男の浪漫本ファンクラブ会長にして、巨乳派教祖。

 数々の著書を執筆し、またハルケギニア唯一のフィギィアの原型師。

 土のスクエアであり水のトライアングルでもある。

 烈風のカリンにシゴかれた為にエレオノールにも認められる忍耐力を得た。

 序に、2人に(婿としてヴァリエール家入りを)狙われる程に……

 

 現在の婚約者は4人。(ルイズ・キュルケ・モンモランシそしてテファ)

 婚約者入りを狙っているのは2人。(イザベラとロングビル)

 姉として、また3Pとして狙っているのがヤンデレさん。

 レコンキスタ騒動を機に、ハルケギニアで一番有名になった貴族であり、性の伝道者。

 得意魔法は全長18mの鋼鉄製ゴーレムと各種威力のブーメラン、それと似非クレイモア。

 高所恐怖症というトラウマが有る。

 

 限界高度は30mまで。

 

 

 サムエル・フォン・ハーナウ

 

 ツアイツの父親。

 

 本人も隠し切れてない無い程のロリコンのチッパイ好きの変態である。

 金髪碧眼でガッシリとした体格。最近お腹周りが出っ張ってきた事を悩んでいる。

 

 土のトライアングル。

 

 領主として領内の盗賊討伐に参加出来る程度には腕が立つ。

 3代続いたハーナウ家の現当主。前妻とは死別し子供は居ない。

 アデーレは傘下の貴族の三女だが、自分の趣味(ロリコンでチッパイ)にドストライクで有った為、猛烈にアタックし僅か半年で後妻に迎えた行動派ロリコンである。

 貧乳教の教祖で有り、屋敷に「サムエル愛の資料館」を持つ。

 巨乳派の息子とは住み分け論にて和解し、現在は貧巨乳派連合を共同で運営している。

 

 

 アデーレ・フォン・ハーナウ

 

 ツアイツの母親。

 

 特に自分の体型について不満はないが息子の巨乳好きには微妙な感情が有る。

 金髪碧眼で儚げなスレンダー美人サイズはB76。

 

 水のライン。

 

 秘薬の調合等の治癒系統を重点に学んでいた戦闘などは無理。

 息子が自分と同じ水の系統である事を喜び自ら水魔法の治癒と秘薬の手ほどきをする。

 14歳の時に、後当主への年頭挨拶に同行にサムエルに見初められ同年に結婚。直ぐにツアイツを授かる。

 貴族に生まれた為に政略結婚自体には文句はなく夫からは大切に扱われているので幸せに感じている。

 夫の軽い浮気のメイド達には何故かスレンダー派当主に祭り上げられているが本人は知らない。

 

 最近のファッションは、ゴシックロリータが好き。

 

 テファとは、花嫁修業を施している仲良しさん。

 サムエルさんの奇態のお仕置きには、ロリータ女王様に変身する事もある。

 遠い親戚に吸血鬼が居るのでは?と疑う程に歳を取らない。

 

 

 ナディーネ

 

 巨乳同盟構成員その1

 

 ツアイツ巨乳化の諸悪の根源。栗色のボブカット、瞳の色は茶色。ロリ巨乳であった。

 

 ツアイツの6歳年上 サイズはC84→D88→E90

 

 ツアイツの乳母の娘で10歳からツアイツ専属のメイドとして奉公している。

 スレンダーな先輩メイド達からは乳について色々と陰口や軽い嫌がらせを受けているのに反発する為他の巨乳メイド達と同盟を組み中心的な立場で次期当主であるツアイツに日々、巨乳の良さを教えていた。

 巨乳関連の食事担当者である。実は、ウェールズ皇太子の2番目のお気に入り。

 

 

 エーファ

 

 巨乳同盟構成員その2

 

 腰まである黒髪、瞳の色も黒色。大和撫子的なおっとりさんである。

 

 ツアイツの12歳年上 サイズはD88→E90→F93

 

 容姿端麗ながらチッパイ当主に仕えていた為にお手つきは無く男性経験も無い。

 巨乳同盟参加もナディーネから強く頼まれた為に参加したのだか甘えてくるツアイツには息子に対する様な愛情を感じている。

 実は覚醒前のツアイツ一番の添い寝のお気に入りである。

 ツアイツの初体験の相手であり現在はツアイツ付きのメイドを取り仕切っているメイド長である。

 

 

 ルーツイア

 

 巨乳同盟構成員その3

 

 軍人系の没落貴族の三女でありサムエルが引き取ってツアイツの護衛兼メイドとしてやとった。

 金髪を肩上でショートに切り揃えた髪型に鋭い碧眼のお姉さまタイプ。

 

 ツアイツの10歳年上 サイズはD89→F93→G96

 

 当初、引き取ってくれたサムエルに淡い恋心を抱いていたがチッパイ・ロリコンをカミングアウトされどん引きしその後ツアイツに惹かれていく。

 メイド達の中で唯一のメイジ。当初は火のラインで有ったが現在はトライアングルにまで成長した。

 因みに巨乳化プログラムで一番効果が有り最大の戦闘力(G96)を誇る。ツアイツの専属警備主任をしている。

 

 

 シエスタ

 

 巨乳同盟構成員その4

 

 ツアイツが原作知識を生かしフライングゲットした原作ヒロインの1人。4番目に結ばれている原作とは違い影が薄い女の子。

 清掃全般を担当。シェフィールドさんに憧れている。同じタルブ村出身に、ソフィアとジェシカが居る。

 

 

 ソフィア

 

 巨乳同盟構成員その5で且つ学院での専属メイドさん。

 金髪ツインテールのロリ巨乳メイド。全くの作者の趣味で登場した。

 IFルートでは最初のルートヒロインを務めた。

 

 シェフィールドさんとは仲良しで、学院の寮ではツアイツの隣の部屋に一緒に住んでいる。

 黒化すると、包丁二刀流の達人で有り、シェフィールドさんから幾つかのマジックアイテムを貰っている。

 

 

 ラウラ

 

 元、白炎のメンヌヴィルであり、トリステインのアカデミー所属実験小隊の副隊長でもあった。

 彼女自身もゴンドランから、違法な水の秘薬の献体として使われた過去がある。

 そのお陰でムキムキのマッチョメンだったが、現在はシェフィールドさんの治療により元に戻った。

 ツアイツに雇われて、ハーナウ家の諜報機関で働いている。

 ツアイツには恩義を感じているので、このまま雇われ続けて良いと思っている。

 匂いフェチは本来の性癖で有り、治療後も敵を燃やしてはエクスタシーを感じているようだ。

 コルベールとの絡みは、現在予定無し。

 

 

 デルフリンガー

 

 通称デルフ。

 

 ガンダールブの相棒の筈だが、ツアイツの手により「性剣デルフリンガー」として書き換えられた。

 口癖は、ビバ・オッパイ!

 変態と言う名の紳士達からは、我らの漢度を測る装置としてしか見られていない可愛そうな子。

 

 

 ティファニア

 

 ツアイツの婚約者の一人。

 アルビオンのモード大公の一人娘だが、チッパイのエルフを匿った為に、両親は殺されてしまった。

 ウェストウッドの森の中で孤児達と隠れ住んでいた。

 しかしロングビルの願いにより、ハーナウ家に匿われている。

 現在は、孤児院にいた彼女をツアイツが見初め、配下の貴族と養子縁組をしてハーナウ家に嫁いでいる。

 過去の偽造も2重3重と用心している為、彼女がハーフエルフで有り、モード大公の娘とは調べられないだろう。

 彼を旦那様と呼び、既にゲルマニアの中ではツアイツの嫁認定されている。

 本作品最大のオッパイ(Iカップ99cm)をしており、男の浪漫本ファンクラブの中では女神扱いだ。

 

 

 ロングビル

 

 フライングて登場した正体に「マチルダ・オフ・サウスゴーダ」と「土くれのフーケ」の1人3役を持つ才女。

 現在は、ハーナウ家に雇われている。テファの後に、ツアイツに嫁ぐ気でいる可愛い年上のお姉さん。

 しかし、アルビオン大陸にダッシュ(ワルドの遍在)と渡り工作に従事するなど、諜報面で貢献している。

 

 

 メイド長(ハーナウ本家)

 

 金髪碧眼、髪型は頭の上に団子の様に纏めている。

 

 サイズはD82→D86→E90 サムエルの最初の愛人。

 

 胸の成長と共に寵愛を受けなくる。

 幼い頃から行動を共にし色々知っている為かサムエルが頭の上がらない唯一の人。性格は品行方正で自分にも他人にも厳しいが有能で他の使用人達からも慕われている。

 ちゃっかり巨乳化プログラムを実践している。

 

 

 曽祖父

 

 ハーナウ家初代の傑物。名前も決めていない以上。

 

 

 祖父

 

 ハーナウ家二代目の凡庸な人。名前も決めていない追い追い考える以上。

 

 

 神様

 

 どんな宗派の神様かも秘密。

 

 

 (元)ヴァリエール家巨乳メイドズ

 

 彼の発案した巨乳プログラムを実践し効果を体験した事により教祖のように崇めている。

 特にハーナウ家のメイド達と話す事により彼が従来の貴族と違い平民を大切にしている事も知っており好感度を上げている。

 実際に彼女等に不貞を働こうとする相手からは全て守っているので信頼度は抜群だ!

 

 

 キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー

 

 原作の奔放な雰囲気は無く、ツアイツと出会った当初は若干人見知り?な感じの可愛い女の子でサムエル的にはドストライクだったらしい。

 現在は胸の成長と共に興味を無くされた。

 ツアイツと出会い共に劇を通じ仲良くなっていくが、彼が自分と違う世界に居る事を自覚し彼の世界を見てみようと奮戦。

 結果お色気ムンムンだが貞淑な感性と見事なファッションセンスを待ち学院ではスタイルの良い娘達とグループを作っている。

 基本的にツェルプストー家関係者は巨乳プログラムは実践していない。

 尚、彼女のみ婚約者の中でツアイツとニャンニャンしている。

 

 

 ツェルプストー辺境伯

 

 ツアイツを陰ながら支える、良い大人。最近、正妻が懐妊し水のメイジの調べでは男子と分かった。

 世継ぎが出来たので、早々にキュルケとツアイツを結婚させた中々のやり手である。

 

 ツェルプストー3姉妹

 

 ヘルミーネ・イルマ・リーケの女騎士。

 ツェルプストー辺境伯の側室の娘達だが、このまま婚姻外交に使われるのはお断りと辺境軍に志願した。

 

 ツアイツとキュルケが結婚したら、共にハーナウ家に行く予定。

 

 フィギュアの売れ行きは、ガリア方面が何故か多い。

 ヘルミーネは強気のお姉さん、イルマは参謀タイプの知的美人、リーケは不思議ちゃん。

 

 

 アルブレヒト3世

 

 帝政ゲルマニアの皇帝。

 

 ツアイツの事は、あの歳にして色事に関しては、奥も幅も広い!と認めている。

 男の浪漫本ファンクラブ 上級会員。会員名は、一族幽閉のエーさんである。

 

 

トリスティン王国

 

 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール 

 

 一番原作から性格が変わってしまった。

 幼少の頃より魔法が使えない事にコンプレックスを持っていたがツアイツの写本を実践していく段階で同じ悩み(チッパイ)を持つメイド達20人と接した為に彼女らと強い絆が出来きそれだけ大人数と身分を越えた交流が有った為に変なプライドやコンプレックスを抱く事が少なく育った。

 エレオノールに苛められても女性的な部分で優位だったので然程落ち込まずにいる。

 それとカトレアと二人で居る時は、美人巨乳姉妹と持てはやされ大好きなカトレアと一緒の扱いを嬉しく感じている。

 他の使用人達はメイド達が抑え周りからは美少女であり親の権力もあり性格も社交的なので酷い悪口を言われる事は少なかった。結果メイド達と一緒に魔法がそこまで重要視されてないゲルマニアに行く事を嫌とは思ってはなく写本の作者であるツアイツの所に嫁いでも良いとさえ思っている。

 学院では巨乳に憧れる娘達とグループを作り日々巨乳の為に精進している。

 

 ツンのチッパイコンプレックスの塊なルイズでは無くなって 「ないすばでぃなるいず」 になっている。

 

 

 ヴァリエール公爵

 

 外面は厳格な貴族の中の貴族で有るが実際は恐妻家で家庭内での地位は女性陣より低い。

 妻に頭が上がらず大貴族なのに側室・妾も持てずに居る可愛そうな人。ツアイツのと友好が広まるにつれてカリーヌとエレオノールには冷たく見られているが逆にルイズとは良好な関係である。

 宿敵ツェルプストーとの和解は喜んでいるが理由に男としての同情が含まれている事を微妙に感じ取って落ち込んでいる。

 折角、見るだけは楽しみの巨乳メイドズがカリーヌの命でツアイツの元に行く事を非常に残念だが止められないでいる……哀れ。

 

 

 ヴァリエール公爵夫人(烈風のカリン)

 

 ツアイツの師匠的な存在でシゴキの様に戦闘術を叩き込む。

 宿敵ツェルプストーとの和解に尽力した事や、その後の領地経営などを見ても彼がヴァリエール家と縁を持つ事には賛成であり従来の貴族達とはどこか違う事も理解している。

 彼の発案した巨乳プログラムや演劇や脚本の才能は素直に凄いと思っているが、逆に魔法についてはまだまだ伸びしろが有るとスパルタ訓練を施しどうにかギリギリ合格ラインに達したと思っている。

 (烈風のカリン的なギリギリです。)

 ルイズのコンプレックスを払拭させた事だし彼に娘の一人を嫁がしても良いと思っているがルイズじゃなくてもOK。

 出来れば売れ残りそうなエレオノールを押し付けたいと考えている。

 彼くらいの有能で変人の方が何とかなるのでは?と、シゴキの中で感じた忍耐力なら問題ないと思っている。

 

 

 エレオノール・アルベルティーヌ・ル・ブラン・ド・ラ・ブロワ・ド・ラ・ヴァリエール 

 

 最初はゲルマニアの蛮族と思っていたが彼の従来の貴族達と違う発想や色々な才能を見る度に好感度を徐々に上方修正している。

 実際に会って会話するとその知性(転生前知識含む)と年齢にそぐわない態度(精神年齢は年上)にまるで同世代の研究者達と同じかそれ以上の相手に討論していると錯覚してしまう。

 魔法についても母のシゴキに耐えて認められた事やオリジナル魔法を考え付く発想(現世のパクリ)等たまにだが二人で会話する機会が有ると何時間も討論する事が出来る唯一の相手であり魔法学院入学前の時点での好感度はルイズと同等。

 年齢差のネックを今後どう埋めていくのか?

 

 ※ルイズとの婚約話は正式ではなくワルドと同じく口約束程度。

 

 最後の婚約破談の時にはわざわざゲルマニアより呼び寄せ夜通し愚痴を聞かせ続けた程の依存状態です。

 しかし最大の障害は年齢よりも胸である事に気付いているのか?

 IFルートでは2番目のヒロインでありデレオノールに進化した。

 

 

 カトレア・イヴェット・ラ・ボーム・ル・ブラン・ド・ラ・フォンティーヌ

 

 あまり接点はないが、姉や妹が最近彼の話ばかりする事を微笑ましく思っている。

 たまに話すと自分の事を大切に気遣ってくれている事を感じるので嫌いではないが自身の病気の事を考え深くは付き合わない様にしている。

 彼の書く物語や演劇は大好き。自分の勘では、彼に嫁ぐ事になるかもしれないと感じている。

 

 ヤンデレの素養を持つ、年上のお姉さんだ。

 

 

 モンモランシー・マルガリタ・ラ・フェール・ド・モンモランシ

 

 通称モンモン。

 

 実家の領地経営が苦しく香水等を自作し家計を助ける苦労人。

 当初は実家の建て直しのために、有能だが他国の貴族でもあるツアイツを積極的に狙っていた。

 何時の時代も男は甲斐性が無くてはいけないのだろうか。原作とちがいギーシュとは友人以上の感情は抱いていない。

 ラグドリアン湖の精霊の件を切欠に、真実の愛に目覚める。園遊会では、水の精霊の正式な交渉役として、公式に発表された。

 

 

 ド・モンモランシ伯爵

 

 親馬鹿であり、モンモランシーを溺愛している。

 当初はツアイツに対して、家臣団と共にお仕置きするつもりだったが、逆に強力なツアイツチームに粉砕された。

 今では、水も精霊の件でも借りが出来たツアイツを認めてはいる。しかし、婚前交渉は手を繋ぐまでだし、結婚式は卒業後だ!

 

 

 アンリエッタ・ド・トリスティン

 

 トリステインの華。

 

 関係者からは、暴走特急アンリエッタ号と呼ばれている、色と欲に正直な妄想姫。

 当初はウェールズ皇太子一筋だったが、最近ツアイツの事が気になっている。2人のイケメンの間で揺れ動く乙女。

 

 

 アニエス

 

 原作より早期に結成された銃士隊の隊長。

 ガチレズの脳筋だが、部下の半数を(レズ的な意味で)喰う変態である。

 ツアイツの事を早期から危険視している。アンリエッタ姫も喰おうと狙っているが、忠義心も有る。

 シェフィールドさんにお熱だ!

 

 

 ミシェル

 

 銃士隊副隊長。アニエス隊長に貞操を狙われている。

 

 

 ギーシュ・ド・クラモン

 

 原作と基本的に性格は変わらないがモンモンとのラブロマンスは無くなってしまった。頑張れ!

 ケティが登場するまで、この作品が持てば結ばれるから。しかし原作よりはちょっぴりメイジとしての力は上がっている。

 

 

 マリコルヌ・ド・グランドプレ

 

 ツアイツに餌付けされているマルッコイ人。

 

 

 ヴィリエ・ド・ロレーヌ

 

 原作では色々企んだがこの話では普通の人。タバサの事を色んな意味で気にしている。

 

 

 レイナール

 

 めがね君。ロリ大好きで、ヴィリエと一緒にワルド子爵に弟子入りしている。

 

 

 ギムリ

 

 筋肉君。一番登場が少ない。

 

 

 トリステインの変態たち

 

 ジュール・ド・モットやグリフォン隊隊員、ギトー先生もファンクラブ会員である。

 

 

ガリア大国

 

 ジョゼフ1世

 

 この作品では、実弟シャルルに女装して迫られるという同性愛で近親相姦のターゲットにされた悲劇の人。

 持ち前の能力を駆使し、粛清という名の排除をした。

 その際に、夫の痴態を目の当たりにして気が触れそうだったオルレアン夫人を治療するも

 副作用が酷く、人形とシャルロットの区別がつかなくなってしまった。

 変態に言い寄られた為か、EDとなりツアイツに回春を頼むが、同時に試練も与える。

 シェフィールドの思い人であり、彼女が順調にヤンデレ化しているのを知らない。

 男のファンクラブ上級会員であり、「蒼髭のジェイ」と偽名を使っている。

 

 原作同様に狂っているが、周りがもっと変なので印象が薄い。

 

 

 シェフィールド

 

 ジョゼフの使い魔であり、伝説の「神の頭脳ミョズニトニルン」でも有る。

 今作品一番のヤンデレで有り、ツアイツのお姉ちゃんである。

 過度の心配性で有り、ジョゼフとツアイツと気に入った仲間(ソフィア・ジェシカ等)

 以外には反応は薄いし興味も無い。

 ジョゼフと捏造ラブラブ性活を画策しており、ツアイツはガリアで王義弟?として一緒に暮らす事を夢見る乙女。

 

 烈風のカリンと渡り合える、最強の一角。

 

 

 イザベラ王女

 

 ハルケギニアで、唯一無二のトップアイドル且つ、本作品の裏ヒロイン。

 ツアイツと変態達に悩まされ続けるが、次第に染まってしまった人。

 原作と違い、シャルロットやカステルモールとは上手く付き合っている。

 

 

 タバサ(シャルロット)

 

 チッパイでロリで無口な少女。原作とは違い、イザベラとは早期に和解している。

 男の浪漫本が、洗脳効果が有ると誤解し、自分の母親に朗読させベルスランを困らせている。

 竜騎士隊の一部にファンクラブを持つ。

 

 この作品では影が薄い美少女。

 

 

 ジョゼット

 

 タバサの双子の妹。

 双子を嫌う風潮から、生まれて直ぐにセント・マルガリタ修道院に預けられた。

 髪の毛がロング以外はタバサと瓜二つ。

 ワルドの遍在達から、助けてくれたワルド(本体)に感謝している。ツアイツに餌付けされている不思議系美少女。

 

 

 バッソ・カステルモール

 

 原作と違い、シャルルに貞操を狙われていた人。また、彼の女装した姿に恋をしてしまった。

 真実を知り、東花壇騎士団を辞するも粛清時に捕まり、ジョゼフ王に詰問されるも

 〇モでない事を証明し竜騎士団団長に任命される。

 ロリ大好きな漢で有り。エルザを娶っている幸せ新婚さん。

 

 

 エルザ

 

 ロリっ子吸血鬼で有り、カステルモールの幼妻。

 サビエラ村に居たが、カステルモールが村長を騙くらかして後見人として引き取る。

 カステルモールの性癖がM男?と疑っている。

 

 

 ジャネット

 

 元素の兄弟のメンバー。

 最近はイザベラ王女付きな感じがする、白黒をベースとした派手な衣装を身に纏う美少女。

 ツアイツの事を面白いから近くに居たいと言う、アレな欲求を持っている。

 恋愛感情より好奇心と自分の欲求し従っている。

 

 

 ガリアの変態達

 

 竜騎士団・イザベラ隊・ツンデレプリンセス隊・蒼い髪の乙女隊が確認されている。彼らは共に一流の愛すべき変態で有る。

 

 

アルビオン王国

 

 

 ウェールズ・デューダー

 

 原作では、酷い扱いを受けたイケメン。

 しかし、この作品では死亡フラグはへし折れ巨乳好きの漢として国を導いている若きリーダー。

 アンリエッタ姫に言い寄られているが、覚醒した漢の本能が地雷女と看做して危機感を募らせている。

 

 

 ジェームズ1世

 

 巨乳大好きの老王。何気に、モード大公の件を後悔している。

 レコンキスタ侵攻の際に、平民を大事にする政策を採った為か国民の人気が高い。

 現在は、レコンキスタ討伐の指揮をウェールズ皇太子に譲り隠居中。

 

 

 

ロマリア連合皇国

 

 

 聖エイジス32世 ヴィットーリオ・セレヴァレ

 

 男の娘大好きな、ツアイツとはベクトルの違う変態。

 自分の欲望の為にハルケギニア中から、美少年を集め聖歌隊と言う自分だけの男の娘ハーレムを持つ若き教皇。

 原作同様に腹黒いが、彼の目的が何かは不明。大隆起とか、原作とは違う展開になります。

 

 

 ジュリオ・チェザーレ

 

 助祭枢機卿で有り、ヴィットーリォの使い魔「神の右手・ヴィンダールヴ」

 男の娘集団「聖歌隊」の指揮者も勤める。教皇の為に、男の娘になる事を受け入れた。

 ジョゼットの初恋の相手であったが、今は恨まれている。

 

 

 その他

 

 ベアトリス・イヴォンヌ・フォン・クルデンホルフ

 

 ツインテールのペッタンコちゃん。ツイアツに、妹系として売り出せば或いは!

 と言わしめた逸材だが、自身のアイドル化の為に父親から預かっている空中装甲騎士団を変態化するのに抵抗を感じている。

 しかし、肝心の空中装甲騎士団員は既に、男の浪漫本ファンクラブ会員である。

 

 この事実を知った時に、どう言う動きをするのか?イザベラ姫とは、園遊会で会ってから手紙の遣り取りをしている。

 

 



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トリステイン編アンリエッタルート第1話から第3話

トリステイン編アンリエッタルート第1話

 

 トリステイン王家、稀代の大謀略家アンリエッタ・ド・トリステイン。

 連綿と続く腐敗体制を一掃した若き王女!腐敗貴族を粛清した女傑!そして見目麗しい巨乳姫。人々の噂とは、伝播が早い。

 

 それが待ち望んでいた物だけに尾ひれが付きまくった怪しい物も数々有る。

 烈風のカリンを従えて、バッサバッサと売国奴たちを薙ぎ倒す。

 リッシュモンやゴンドランを水の魔法で吹き飛ばして決め台詞を言う。

 

 あの清楚で美しくメリハリのあるボディだが、一度怒れば片手で裏切り者をくびり殺す……

 

 途中から、烈風のカリンと混ざった様な怪物になっている?概ね、好意的な噂だ。

 実際に捕まった奴らの領地は王家直轄となり、税率も正常に戻された。

 

 国民の期待は高まるばかり……そして翌日に発表された、始祖の血を引く聖なる王家の一つ。

 アルビオン王国を救う為に、ブリミル教の司教。

 

 オリヴァー・クロムウェルを討つ!

 

 もはや、トリステイン王国の酒場では昼間から人々が彼女を称え飲み明かしている。トリステイン王国は今、時代の転換期を迎えていた。

 

 

 トリスタニア王宮のアンリエッタ姫政務室で、マザリーニ枢機卿とアンリエッタ姫が向かい合っている。

 

「アンリエッタ姫……今回の件、私は聞いていませんでした。ご説明願います」

 

 幼い頃から、このポヤポヤした姫の面倒を見ていたのだ。悪いが、アンリエッタ姫に出来る事を超えている。

 ヴァリエール一族が絡んでいるのは明白。

 あの時、動いたのはヴァリエール公爵夫妻、ド・モンモランシ伯爵、グラモン元帥とその一門。

 グリフォン・マンティコア両隊と銃士隊……有力貴族のほぼ4割近い勢力を纏め上げた手腕は、ヴァリエール公爵とて無理だろう。

 

 考えられるのは……あの男しか居ない。

 

 しかし、厳しく監視をしていたので頻繁に連絡を取り合った形跡も無い。本人も怪我で療養中と聞いている。

 しかし、何か見落としが有るのだろう……

 

「アンリエッタ姫、答えては頂けませぬか?」

 

 詰問調になるが、トリステイン王国の行く末を担う事件だ。

 

「愛……無償の愛故に……嗚呼、私はどの様にご恩を返したら良いのでしょうか?」

 

「…………?誰が誰にでしょうか?」

 

「うふふふっ。ウェールズ様に向ける愛。私に向けてくれるツアイツ様の愛。私はどちらの愛にも応えたいのです」

 

 駄目だ、この姫は妖しい秘薬でもキメてるのか?

 

「アンリエッタ姫。この国の為に、マトモにお答え下さい!

アルビオン王党派に援軍を送るのは、クロムウェル司教に……ブリミル教に、ひいてはロマリアとの関係悪化を引き起こすのですか?」

 

 アンリエッタ姫が、やっと此方を見てくれたが……

 

「お黙りなさい!

レコンキスタは、始祖の血を引く我らに敵対したのですよ。それが、ロマリアの司教で有り教皇が正式なコメントをしないと言うなら……

影で手を貸しているのはロマリアなのでしょう。私は、私の幸せの為に彼らを討つのです。マザリーニ枢機卿……貴方はどちらの味方なのでしょうか?」

 

 くっ……言われた事は正論だ!何故、教皇はクロムウェル司教を破門しないのだ?

 確かに王家に刃向かうなど、有ってはならない事。しかし、同時にブリミル教に戦を仕掛けるなど……

 

「せめて、使者をお出しになりクロムウェル司教の真意を問い質して……」

 

「お黙りなさい!クロムウェル司教の真意など……

美乳教を広めたいのでしょう?その様な怪しげな教義など、ウェールズ様に必要無いのですわ。

準備が出来次第、私もアルビオン大陸に向かいます。宜しいですね?」

 

 くっ……言っている事は間違いではないので言い返せない。

 

「せめて私も同行します」

 

 それを言うのが精一杯だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「上手く行き過ぎた感が有るが、問題無いだろう。これで、トリステイン王国が有利にアルビオン王党派と交渉出来る下地が出来た!」

 

 ヴァリエール公爵が、見渡す面々は……

 

 カリーヌ、ド・モンモランシ伯爵、グラモン元帥、ワルド隊長(政務担当遍在)それにド・ゼッサール隊長の6人だ。

 

「あなた、私も増援には同行します。アンリエッタ姫が了承した。

つまりはトリステイン王国の方針が、レコンキスタ討伐。私が本気で潰しに行ける条件は揃いました」

 

 目を輝かせている愛妻を見て思う。この最終兵器扱いの妻が全力を出せるのは、建て前が必要なのだ。

 

 今回は国が認めたのだ。思う様、環境破壊をしても問題視されないからな……

 

「カリーヌよ。よそ様の国だからな。アルビオン大陸までは壊さないでくれ……」

 

 夫として、庇い切れぬ暴挙だけは止めておく。

 

「それで、タルブ村の前線基地化は順調だが……あと5日は掛かるぞ。兵士の召集はそれから2日以降だろう」

 

 流石はグラモン元帥。軍を動かすには、時間が掛かる。しかし一週間で、ある程度格好がつく位の兵力は揃える事が出来る。

 

「先発として、我らとグリフォン隊で攪乱するか?」

 

 ある理由により、この戦争で活躍するだけ特別なご褒美の有るド・ゼッサール隊長はやる気満々だ!

 

「構わんぞ。先に空中戦力を叩いておくか?どの道、最後は歩兵が居なければ奴らを殲滅出来ないからな。船の安全を確保しよう」

 

 ワルド(政務担当遍在)隊長が追従する。

 

「確かに一理有る。それとレコンキスタの戦力を此方に向けるにも良い作戦だな。二方面展開にすれば、奴らの戦力を分断出来るし」

 

 ヴァリエール公爵は、内心では妻が単騎突入して無双すれば片が付くと思っている。

 しかし、勝つ方法も考えなければならない。妻が1人勝ちすれば、王党派は妻にだけ感謝すれば良い。

 もっと、トリステインと言う国の機関が協力したんだ!そうしなければならない。

 

 そう考えると、ガリアにはシェフィールドが。

 

 トリステインにはカリンと言う人型最終決戦兵器を抱えているだけ恵まれているのだろう……

 

「ツアイツ殿、いや義息子よ。アンリエッタ姫は暴走したが何とかなりそうだ。其方も順調か?」

 

 この会議の報告をツアイツに送り、足並みを揃えておこう。

 長かった今回の作戦だが、漸く此処まで漕ぎ着けた!

 

 成功すれば、カトレアの治療もして貰える。気を抜かず一気に攻め滅ぼしてやる。

 

 ヴァリエール公爵は、本作最初で最後の熱血をしていた!

 

 

 

 トリステイン編アンリエッタルート第2話

 

 

 タルブ村の特設前線基地。

 

 アルビオン派遣軍の第一陣が準備出来た為、アンリエッタ姫が演説を是非やりたい!と言い出した。

 マザリーニ枢機卿とヴァリエール公爵が草案を考える。しかし、アンリエッタ姫にはそんな物は関係無かった。

 

 特別に設えた壇上に登る……

 

 その手には、折角マザリーニ枢機卿が考えて考え抜いた草案は無かった。

 後にそれを未開封の状態で部屋で見付けてしまったマザリーニ枢機卿は、膝を付いて慟哭した。

 この時のアンリエッタ姫は、色々な意味で色ボケしていたので……

 

 それでも壇上に見目麗しいトリステインの花!

 

 金色の百合をあしらったティアラに純白のレースを重ねたドレス。

 手には、トリステイン王家に代々伝わる杖を持った彼女は王女と言う寄りは女王に見える……

 沢山の歓声を片手を上げるだけで抑えた様は、流石は王家のカリスマだ!

 彼女の言葉は魔法で拡声され会場全てに行き渡る。

 

「この場に集まって下さった皆さん……私はアンリエッタ・ド・トリステインです」

 

 ただ名乗っただけだが、割れんばかりの歓声が沸き起こる。そして、彼女が頷くと歓声がピタリと止まる……

 

「今回の事件で、私とこの国の為に働いてくれた御方、そしてこれから共に戦場に向かって頂ける皆さんに最高の感謝を……」

 

 アンリエッタ姫はそう言って会場の皆に頭を下げる!これには周りも驚いた!

 人気絶頂、トリステインの姫が臣下に……名もない一兵卒や平民に頭を下げたのだ!

 

 常識では考えられない異常な行動だ。

 

 しかし、敬愛する姫にお願いされちゃった彼らの興奮は最高潮!もうアンリエッタ姫の為なら何でもやります状態だ。

 これには、マザリーニ枢機卿やヴァリエール公爵も驚いた!

 

 あのアンポンリエッタ姫が、こんな掌握術を持っていたのが信じられない。誰?アレ誰?状態だ。

 

「今回、私が私の国に巣くう腐敗貴族を一掃出来たのは……全て私の為に無償の愛を注いでくれる1人の男性(ひと)の力によるものです」

 

 そんな有能な臣下が居たか?誰だ、その者は?皆が脳裏に浮かべるのは……

 

 ヴァリエール公爵?

 

 魔法衛士隊隊長ワルド子爵?

 

 それとも、銃士隊隊長アニエス殿?

 

 どれもそれらしく、また違う様に思える……

 

「思えば私は初めて彼に会った時……彼は私の最大の悩み事を解決して下さいました。

それが出会いで有り、その後も陰ながら私の力になり続けてくれたのです!」

 

 この話の後では、アニエス隊長の線は消えた。では誰だ?皆は、アンリエッタ姫の話の続きに意識を集中する。

 

「二度目にお会いした時……

あの人は、愚かな私に王族としての在り方を教えて下さいました。そして私の失態を……全て解決して下さいました。

その手際は素晴らしく、彼にお礼をしたいのに私の立場では何も出来なかったのです。当時、私は篭の鳥でしたから……」

 

 悲しそうに俯く姫に、皆が同情する。当時の姫様は、有能なのに周りの宮廷貴族が何もさせてくれなかったのだと。

 

「そんな私に彼は……決意と覚悟を教えてくれました。この日、私は生まれ変わりました」

 

 この演説を聞いていたヴァリエール公爵は焦った。これはマズい。非常にマズい展開だ!

 

 この後に、誰だと話してしまうと取り返しがつかなくなる自体に発展する。

 

 しかし止める手立てが無い。今、強引に止めれば……この演説を聞いている全員を敵に回す。

 

 畜生!誰だアレは?あのポヤポヤが、あんな演説を出来るなんて!

 

「そして私はこの国を……トリステイン王国をより良くする為に動き始めました。しかし、連綿と続くしきたりや体制は中々変わりませんでしたわ」

 

 彼女は溜め息をついた。きっと、彼女の邪魔をする連中が多かったのだろう。

 

 そいつ等も粛清だ!

 

 群集心理とは、時に危険な暴走を始める。今、彼女が誰々に邪魔をされたと言えば。その相手はリンチを受けただろう。

 そして、彼女を良く思っていなかった連中は……この雰囲気を理解した!余計な事は言えないと。

 

「そんな私に、彼は一冊の本を贈ってくれました。報われぬ行動に疲れていた私には、何よりの励みになる物でしたわ」

 

 彼女が明るい表情をする。まるで当時の事を思い出している様に……ああ、本当に嬉しかったのだな、と。

 

「真夏の夜の夢……この秋には、トリステイン王立劇場で公演されますわ」

 

 この言葉を聞いて、ある程度の事情通は相手が誰かを推測した。まさか、我らが教祖なのか?

 

「私は彼に、彼の為に生まれ変わりました!大恩有るあの人の為に……」

 

 誰かをかき抱くように両手を広げる。アンリエッタ姫は、恍惚とした表情だ!

 この時、彼女は演説中なのをわすれ暫くトリップしていたのだが……群集は、この溜めも彼女の気持ちの表れだと思った。

 

 早くアンリエッタ姫から、その名を聞きたい!

 

「私は、帝政ゲルマニアの貴族。ツアイツ・フォン・ハーナウ様に愛されています!」

 

 本人が居ればフザケルナ!と叫びたかっただろう。

 アンリエッタ姫は、持ち前の妄想力で自分が愛されていると感じていた!

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ殿?まさか、我らが教祖は巨乳姫に無償の愛を捧げていたのか?」

 

「なる程、確かにアンリエッタ姫は乳もデカい美少女だからな。納得出来るぞ!」

 

「流石はツアイツ殿だ!他国の貴族ながらトリステインの為に尽力していたとは」

 

 アンリエッタ姫が、手にした杖をかざした!群集は杖の先を見る。

 

「しかし、私にはアルビオン王国のウェールズ皇太子から求愛されているのです!

彼は星降るある夜に、ラグドリアン湖の辺(ほとり)で始祖ブリミル様に愛を誓って下さいましたわ」

 

 始祖に誓った愛は絶対だ!無償の愛とは、そう言う意味だったのか。我らが教祖も報われぬ愛に生きるとは……

 

「しかし彼は、私の為にウェールズ皇太子に啖呵を切って下さいました。

どんな手を使っても、私の気持ちを叶えてくれると……そして、その結果が今の状況ですわ」

 

 彼女の恍惚は止まらない!

 

「私はトリステイン王国とアルビオン王国の為に、ウェールズ皇太子の愛を受け入れますわ。両国が、手に手を取って繁栄する為に……」

 

 アンリエッタ姫は、国の為にウェールズ皇太子を取るのか?では、我らが教祖の気持ちは?

 この国の為に動いていたのはツアイツ殿なのでは?やり切れない気持ちが芽生える。

 

 敬愛するアンリエッタ姫の気持ちが分かるから……今、群集とアンリエッタ姫の気持ちはシンクロしていた!

 

「でも私は、ツアイツ様も愛しています!ならば、2人を夫にすれば良いのですわ。

私は私の為に、ウェールズ様とツアイツ様と結ばれたいのです!皆さん協力して下さい」

 

 アンリエッタ姫の、ぶっちゃけトークに一瞬会場が静まり返ったが……数秒後に爆発した!

 

 彼女は逆ハーレム宣言をし、群集はそれを受け入れた。

 

 

 

 トリステイン編アンリエッタルート第3話

 

 

 アンリエッタ姫が、演説で盛り上がっている頃。サウスゴータの王党派は、激しくレコンキスタに攻められていた。

 王党派の総戦力は一万五千人。それに対しレコンキスタは傭兵が中心だが五万人だ!

 

 籠城戦には三倍の戦力で当たれと言うが、まさにそれだけの戦力に差が有る。

 幾ら士気の高い王党派と言えども疲労は蓄積していく……しかし、ほぼメイジの居ないレコンキスタ軍の消耗も激しい。

 

 半日の戦闘で二千人近い傭兵が戦闘継続不可能に追いやられた。王党派の損害は殆ど無い。

 何度目かの襲撃を終えた連中が引き上げるのを見ながら、ウェールズ皇太子は悩んだ。

 

 このままではジリ貧だ!今は士気も高く兵の損耗も殆ど無い。

 

 しかし、今日1日の戦いで二割近くのメイジが丸一日以上休まないと精神力が回復しない状況だ。

 

 自分も疲れた……約二千人の傭兵にダメージを与えたが、五万人の内の二千人。

 つまりは、あと25回同じ被害を与えないと勝てないのだ……

 

「ウェールズ様……夜襲の危険も有ります。少しでもやすみましょう」

 

 バリーが心配そうに、気遣ってくれる。

 

「父上からの援軍は?連絡は無いのかバリー?」

 

 バリーは首を振る。これは、負けるかもしれない……ふとアンリエッタ姫から送られた、酷い捏造手紙を思い出す。

 勝つ為には、あと一手欲しい。

 トリステインの増援がくれば、レコンキスタは二方面に軍を展開しなければならず、此方への対応は緩くなる。

 守ってばかりではなく、攻勢に……しかしアンリエッタ姫の!

 

 あの異常な愛と偽乳を受け入れなければならないだろう。

 

 くっ……ツアイツ殿の教えを実践する為にも、ここで潔く玉砕などあり得ん!

 

「誰か!トリステイン王国に使者を送るぞ」

 

 苦渋の選択だが、滅亡よりもマシだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「カステルモール殿。偵察隊が帰ってきたみたいですね。状況はどうですか?」

 

 風竜部隊が、その高速を活かし強行偵察に行って戻ってきた。

 此方の位置がバレる危険も有るが、サウスゴータに入ってしまう前に情報が欲しかった。

 そう言うと、何人かのイザベラ隊員が操舵室に入ってきた。偵察から帰ってきた連中だ。

 

「報告!サウスゴータは完全に包囲されてます。敵軍は四万強」

 

「報告!ダータルネスの近くに、トリステイン王国軍が展開しています。その数、一万」

 

「報告!オリヴァークロムウェル、サウスゴータ北側本隊に本人を確認。本隊戦力は二万」

 

 次々と報告が入る。予定よりレコンキスタの人数が多い。それに、トリステイン王国軍がダータルネスに?

 先に退路を絶つつもりか……

 

「カステルモール殿。状況は良くはないが、悪くも有りませんね。

サウスゴータに合流するか?トリステイン王国軍に合流するか?どうしましょう」

 

 カステルモール殿も悩んでいるみたいだ。

 

「我らは少数……

故に防衛戦には向きません。当初は戦意高揚の為に王党派に合流が最善かと思いましたが……

トリステインの増援が思ったより早い。このまま其方に合流した方が有利でしょうか?」

 

 んー、まだ来ない援軍の為に王党派の士気を高め籠城戦に備えるつもりだったが……既に増援が居るなら、其方に合流した方が良いかな。

 ダータルネスを落とせれば、レコンキスタへのダメージも大きい。

 

 ウェールズ皇太子には連絡を入れれば良いか……

 

「しかし、我らはゲルマニアとガリアの混成部隊。トリステイン王国軍に合流するのは問題が……」

 

「トリステイン王国軍には、ヴァリエール公爵家の旗を確認しています」

 

 義父上が来てるなら問題は無いのかな?

 

「では、トリステイン王国軍に合流しましょう。王党派には、援軍到着の知らせを鷹便で」

 

 僕はこの判断を後悔する事になる。アンリエッタ姫を本当の意味で怖いと思った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 タルブ前線基地から続々と兵がアルビオン大陸へと上陸してきますわ。私は戦の事は疎いです。

 グラモン元帥やヴァリエール公爵が良く纏めてくれていますから平気でしょう。

 先ずは、ダータルネスを陥落させレコンキスタにダメージを与えるらしいですが……

 

 全軍で敵軍本隊に突貫した方が良いのでは?効率が悪い気がしますわ。

 

「アンリエッタ姫!お喜び下さい。

ツアイツ・フォン・ハーナウ殿が手勢を率いて姫の為に応援に駆け付けてくれました。今、中央広場に……」

 

 嗚呼、やはり私は愛されているのね。戦場にまで来て頂けるとは……

 

「直ぐに向かいますわ!失礼の無い様におもてなしして下さい。ああ戦場故、着替えも……誰か、支度を」

 

 色ボケ姫の頭の中は、戦場のロマンスで溢れていた!ツアイツ、逃げろ!

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何だ?この熱狂的な歓迎は?

 

 たかが30人程度の増援に全軍から歓迎されている様な気がするのだが……それに、アンリエッタ姫に直ぐ面会とは。

 先にヴァリエール公爵達と話をしたいのだけど……一万人と言う人の波に揉まれては、ヴァリエール公爵に会うなど不可能に近い。

 それに口々に無償の愛とか、おめでとうございます?何がめでたいのかな?

 

「ツアイツ殿ー!こっちだ、ツアイツ殿ー!」

 

 呼ばれた方を見れば、ヴァリエール公爵が両手を振っている。此方も振り替えし近くに進もうと思うが、人の波が凄い。

 そのまま、押し返されてしまう!

 

「すみません、通して下さい!ヴァリエール公爵の所まで……」

 

 ヴァリエール公爵は、何故か逃げろ?と言っている様だが?何から逃げるのだろう?その時、前方の人垣が別れて道が出来た!

 

 モーゼの十戒か?

 

 その先に、アンリエッタ姫が見える。小走りに走ってくるが……良くウェールズ皇太子の為に援軍を送るまで漕ぎ着けたられたね。

 

 愛は偉大か?

 

 その時ヴァリエール公爵の声が、言葉がハッキリと聞こえた!

 

「ツアイツ殿、逃げろ!彼女と君はデキていると捏造されている!」

 

 はぁ?そんな馬鹿な事が?と考えていたら……アンリエッタ姫が抱き付いてきて、強引にキスをされた!

 

 周りの群集の歓声が爆発した。

 



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トリステイン編アンリエッタルート第4話から第6話・おまけ

トリステイン編アンリエッタルート第4話

 

 トリステイン王国のアンリエッタ姫。

 

 ウェールズ皇太子狙いの筈の彼女が何故、僕とキスなんて……

 流石に一国の姫君を無理やり引き剥がす事も出来ず、ゆっくりと体を離す……事が出来ずに、突然のキスの後に更に抱擁された。

 外野の歓声が五月蝿い。

 

「あの……アンリエッタ姫?これは、どういう訳なんですか。僕達は、ウェールズ皇太子を籠絡する為の仲間……」

 

 彼女は、ギュッと力を込めて僕を抱き締める。出来る事なら力ずくで振り解きたい。

 

「ツアイツ様。

私、決めました!貴方の無償の愛を……受け入れますわ。そして、ウェールズ様も一緒に。3人で幸せになりましょう!」

 

 そう言って、僕の胸板に顔を擦り付ける。

 

「なっ?何を言っているのですか!僕には、そんな気持ちは有りません!それにアンリエッタ姫は、ウェールズ皇太子一筋の筈ではないのですか?」

 

 彼女の腰を掴んで引き離そうとするが!

 

「いや、離しません!ツアイツ様の無償の愛に応える迄は……私は2人共欲しいのです」

 

 何を馬鹿な事を!心底困って、周りを見渡せば……ヴァリエール公爵はアチャーと、手を額に当てている。

 イザベラ隊は殺気を漲らせ、カステルモール殿は……ああ、表情が無い。

 しかも掌を握り締め過ぎてか、血が滲んでいる……相当、頭にきてるな。

 

 しかし、その外の群集の盛り上がりは凄い。

 

 この二股女を支持するとは、どうなっているんだ?僕は呆然と立ち尽くしアンリエッタ姫は、ひたすらスリスリしている……

 周りの歓声が頭に響く。ああ、傷口が開いたかもしれないな。

 

 僕は其処で思考を放棄した……考えるのが、辛くなったから。

 暫くして漸く満足したアンリエッタ姫から解放され、一室を与えられると疲れたからと引きこもった。

 

 もう何も考えずに寝たい……しかし、ヴァリエール公爵とカステルモール殿がやって来た。

 

「ツアイツ殿、何故来たんだ!アンリエッタ姫は、君が無償の愛を捧げ続けているのを受け入れた!そう吹聴している。

デマでも嘘でも、もう走り出した噂は止められない。周りも、それが事実と思っているぞ。もうアンリエッタ姫も止まらないだろう」

 

 義父上が、何か言っているが思考が纏まらない。僕が、アレに愛を捧げている?フザケルナ!どんなデマなんだ。

 

「ツアイツ殿が呆然としている間に、王党派から使者が来たのだ。

どうしても増援が欲しいウェールズ皇太子は、アンリエッタ姫の捏造恋文を認めたぞ。今2人はアンリエッタ姫の愛を受け入れた事になっている」

 

 ウェールズ様……自分を犠牲にしてでも、勝利を掴むのですね?なら僕の為に、犠牲になって下さい。

 

「義父上、カステルモール殿……僕は、ガリアに逃げます。

レコンキスタの軍に突っ込んで……そのまま突き抜けてガリアに向かいます。

カステルモール殿、イザベラ隊を集めて下さい。タイミングは、総攻撃の時に……

ルイズには悪いと思いますが、アンリエッタ姫がウェールズ皇太子とヨロシクして落ち着いたら連絡を下さい」

 

 もはや、この地に留まれば既成事実に発展する。義父上には悪いが逃げる。

 

「それが宜しいですな。では準備をします。ヴァリエール公爵殿、ツアイツ殿はガリアで責任を持って預かります」

 

 苦虫を噛み潰した顔をしているヴァリエール公爵。しかし、アンリエッタ姫と結ばれてしまえば娘が……ルイズが、彼に嫁ぐ事は出来ない。無言で頷いた。

 

「レコンキスタよ。八つ当たりだと分かってはいるが……思いっ切りヤルぞ!」

 

 決意を新たにしていると、アニエス隊長とミシェル副隊長が訪ねて来た。

 

「ツアイツ殿……何て言うか、すまん。

アンリエッタ姫は、毎日ツアイツ殿とウェールズ皇太子との色々な妄想シュチュで一人芝居をしていたんだ。

現実と妄想が混じり合ってしまっている……しかし、そのお陰でこの状況を作り出せた。

ウェールズ皇太子が、使者をたててアンリエッタ姫の捏造恋文を受け入れたのだ。

当初の予定通り、彼だけで良いだろう……犠牲者は。お前は逃げろ!手引きはしてやる」

 

 そう言って頭を下げて立ち去った。

 

 黙って後ろに控えていたミシェル副隊長が去り際に「アニエス隊長、愛の逃避行ですか?駆け落ちするんですね?」と嬉しそうに話していたが、気にしない事にする。

 

 その後アンリエッタ姫から、再三の呼び出しやお誘いが有った。しかし、戦時中で有りウェールズ皇太子に悪いのでと断り続けた!

 勘違いされる様なシュチュは極力控えなければ危険だから……レコンキスタとの開戦が待ち遠しい。

 

 自分がこんなに好戦的だったとは。

 

 そして……憂さ晴らしに近い形で、ダータルネスは陥落した。

 元々、拠点防御の兵しか居らず傭兵は弾除けに全てサウスゴータに出払っている。

 戦勝ムードでお祭り騒ぎだが、住民も全て退去済みで散々略奪され尽くした街など居る意味が無い。

 被害も軽微だった為に直ぐ様軍を再編し、一泊してからサウスゴータを取り囲んでいるレコンキスタに進軍する。

 アイツ等を蹴散らし、義理を果たしたらガリアに逃げる!

 

 気付かれない様に慎重に行動しよう……

 

 しかしブリミルを信じていない僕に、この世界の神様は冷たかった。宛てがわれた部屋で火傷の治療をしていると、誰かがドアをノックした。

 聞き逃すような小さな音だ……「誰か居るの?」そう返事をすると、フードを被った怪しい女……

 

 昔、トリステイン魔法学院で深夜にルイズと部屋に訪ねて来た時を思い出す。

 人の部屋でキャットファイトをかました問題児、暴走特急アンリエッタ姫がそこに居ましたよ。

 

「今晩は、ツアイツ様。少しお話がしたくて来ちゃいました」

 

 舌をペロッと出して微笑む彼女は、コケティッシュで確かに可愛いのだが……僕には悪魔の微笑みに見えてしまった。

 

「アンリエッタ様。淑女が深夜に出歩くのは良くは有りませんよ。お部屋までお戻り下さい」

 

 彼女は、ニッコリ笑ってから「今夜は帰るつもりは有りませんから……構いませんわ」と、宣った!

 

 背中に冷たい汗を感じる。長い夜になりそうだ……

 

 

 

トリステイン編アンリエッタルート第5話

 

 

 深夜に部屋で美少女と二人きり……普通なら感激物の状況だが、全然嬉しくない。

 見た目は美少女でも、手を出す=人生の破綻だ。

 彼女を物に出来た事と、それに付随する厄介事を比べれば分かるだろう……

 

「ツアイツ様……まだ傷が治って無かったのですね?さぁ私が治療を。

こう見えても水のトライアングルなのですよ。さぁさぁお座りになって下さい」

 

 この女、押しが強くなってないか?

 

「いえいえ!未婚の女性が見る物では有りません。人がくる前に……って聞いてますか?」

 

 脇をかい潜って部屋の中に入ってしまった。扉を開けて騒いでいたら危険だ。

 最悪、スリープを掛けて部屋に放り込んでしまおう。

 タイミングを見計らうが、テキパキと治療の準備をしている……こうして見れば美少女なんだが。

 

 何故、暴走すると僕に被害が来るんだ?

 

「さぁ此方にお座りになって下さいませ」

 

 ポンポンとソファーを叩いている。大人しく従おう。

 

「こんなに酷い火傷……痛くはないのですか?」

 

 水の秘薬を触媒に治療魔法を掛けてくれる。中々の効果だ……でも、こんなに魔力を注ぎ込んで!これじゃ精神力が保たない筈だぞ。

 

「アンリエッタ姫。これ以上は、精神力が空に……」

 

 案の定、フラフラだが。儚げな笑顔をして……何故、五歩も下がって僕のベッドに倒れ込むんですか!

 

「アンリエッタ姫?お疲れならば、部屋へ運びますか?アンリエッタ姫?」

 

 幸せそうに寝てる……彼女なりの優しさなのか、全ては計画なのか?

 精神力を使い果たすまで治療してくれた恩は感じるが、この状況はマズい。

 そっと彼女をお姫様抱っこをして……してから思った。

 

 何処に運べば良いんだ?

 

 取り敢えず隣の部屋のベッドに寝かせ、アニエス隊長を探す。銃士隊の誰でも良い。アニエス隊長を呼んで貰おう。

 廊下を彷徨(うろつ)いていると、ミシェル副隊長を見つけた。

 

「ミシェルさん!アニエス殿は何処に居るのでしょうか?」

 

 ミシェルさんはニヤニヤしている。

 

「今は自室で休憩中ですが……女性の部屋を深夜に訪ねるのは、関心しませんよ」

 

 話している内容は理解出来るが、表情が全てを台無しにしてます!そのニヤニヤ笑いが!

 

「いえ、火急の要件なので取り次ぎをお願いしたいのですが……」

 

「はいはい。逢い引きの片棒を担がされるとは……知ってますか?

アニエス隊長はガチレズでも有るんですが、ショタでも有ったんです。

ツアイツ様だけが、彼女と普通に接する事が出来るんですよ。

片っ端から隊員に声を掛け捲る困った隊長を更生させる為に、銃士隊の風紀を改善させる為にも……

頑張って下さい!銃士隊一同、応援しています。では寝室に案内しますね」

 

 こっちはアンリエッタ姫だけで、いっぱいいっぱいなんだ!

 

「大変申し訳有りませんが……お断りします。

それと、アンリエッタ姫が彷徨(うろつ)いて疲れて倒れてます。それの対処をして欲しいのですが」

 

 ミシェルさんは驚いた顔をして「ならば、急いで隊長と相談を……さぁさぁ此方です」そう言って無理矢理連行して部屋に押し込んだ!

 

 薄暗い部屋に甘い女性の匂いが籠もっている。ベッドが膨らんでいるので、彼女が寝ているのだろう。

 

「アニエス隊長、起きて下さい。相談が有るのですが?アニエス隊長?」

 

 呼び声に反応してくれたのか、ムクリと起き上がった!彼女は全裸で寝る派なのか、掛けていたシーツがパサりと膝まで下がった。

 形の良いオッパイが露わになる。何てこったい!Cの87は有るぞ。

 

 登場当初は、Bの74位の貧乳だったのに。

 

 原作でもレズ疑惑発覚から、どんどん胸がデカくなっていった彼女だが……普段は鎧で隠れていたのか。

 彼女が寝ぼけている内に、ガン見して堪能する。

 

「いやー眼福眼福……アニエス隊長、起きてください。アンリエッタ姫の事で相談が!」

 

 後ろを向いて話し掛ける。

 

「ん……ツアイツ殿か?って、えー!お前、何故此処に居る?しかも私は裸だし……まさか夜這いか?駄目だぞ私は!」

 

 1人でテンパっている。

 

「違います。ミシェルさんに強引に部屋に押し込まれたのです。アンリエッタ姫の事で相談が……振り向いても良い?」

 

「まだ見るな!振り向いたら殺すぞ」

 

 ガサガサと着替える音がする。しかし振り向けば、シンプルなシャツにスラックス姿のラフな服装の彼女が此方を睨んでいた!

 

「良いぞ!しかし貴様、私の寝込みを襲うとは何を考えているんだ?ああ?私は男はお断りだぞ」

 

 裸を見られたせいか、薄っすらと頬を染めた彼女も可愛いと思った。ガチレズだけど……

 

「実は……困った事に、アンリエッタ姫が怪我の治療に来てくれたのですが……

精神力を使い果たして眠られているのです。空き部屋に寝かせましたがどうしたら良いか」

 

「何だと!貴様は、何もされてないな?どうするか……アンリエッタ姫の部屋に運び込むしかないだろう。

夜に居なくなったなど、バレたら警備をしていた我々も大問題だ!行くぞ」

 

 僕は投げっ放しにして、行きたくないのだが……アニエス隊長は、僕の腕を握り締め引っ張って行く。

 

 部屋を出たら、ミシェルさんが「頑張って!」とか、謎の言葉を投げかけてきやがった。

 

 アンリエッタ姫を寝かせた部屋に案内する。しかし、其処には驚きの光景が!

 何とアンリエッタ姫は、服を脱ぎ散らかして寝ている。

 

「きっ貴様、まさか最後の一線は越えてないよな?よな?」

 

 首を掴まれガクガクと揺さぶられながら詰問されるが、そんな無謀な事はしていません!

 しかし騒いでしまったせいか、アンリエッタ姫が起きてしまった。

 

 当然スッポンポンなので、オッパイが丸出しだ。Dの84か……ウエストが細い為に、胸のメリハリが強調されている。

 誰彼構わず発動してしまうバストスカウターには困ってしまうな。

 

「ツアイツ様……早くいらして。あら、アニエス隊長?ツアイツ様がお呼びになったのですか?

私の初めてを3Pで頂こうなんて……ツアイツ様が望まれるなら構いませんわ。さぁアニエス隊長もいらして」

 

 アニエス隊長が、フラフラとアンリエッタ姫に吸い寄せられていく。

 

「ちょ、待って下さい!アニエス隊長?」

 

「ツアイツ殿……すまん!私はアンリエッタ姫が好きなのだ。このチャンスを物にする為に、私の礎(いしずえ)となれ!」

 

 そう言うや否や、当て身を喰らわせやがった。

 

 しまった……此処で意識を失うのは危険なのに。膝を付いた僕に、ゆっくりと近付いてくる彼女達を見ながら意識を失った……

 

 

 

 トリステイン編アンリエッタルート最終話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 現実を受け入れたくない気分で有ります。僕は全裸に上半身が包帯だらけの格好ですが……左右に、これも全裸の美女と美少女がいます。

 お察しの通り、アニエス殿とアンリエッタ姫です。

 

 あの後、当て身を喰らい気を失っていたのですが……意識が戻ると、アニエス殿のテクニックで翻弄されているアンリエッタ姫を見てしまい……

 こうモヤモヤとムラムラが抑えられず、仕返しの気持ちも混じってしまいアニエス殿を押し倒しました。

 

 そして、散々攻められていたアンリエッタ姫も仕返しとばかりにアニエス殿に襲いかかり。2人掛かりで、イカせた後に共犯者の心理と言うか……

 共に協力して、ガチレズをノーマルに戻すと言う難関に立ち向かう戦友の心理と言うか……仲間意識というか……

 

 何故かアンリエッタ姫を可愛いと思ってしまい、彼女も頂いてしまいました。

 

 その後は明け方迄3人で楽しんでしまった。僕と言う奴は、どうして分かっていたのに目先の快楽に溺れるなんて……

 反省はしているが、後悔はもっとしています。

 

「終わった……僕のお気楽極楽転生ライフが……後は精神的、肉体的苦労の山が待っているだろう」

 

 悟りを開いた修験者の様な気持ちで起き上がる。

 

「もう、なる様にしかならないだろう。アニエス殿、起きて下さい」

 

 そう言って、アニエス殿の形の良いお尻をペシペシと叩く。

 

「んー、姫様もうお許し下さい……あっきっ貴様!夕べは良くも良い様に弄んでくれたな」

 

 やり過ぎたかな?えらい警戒されてるが……

 

「アニエス殿、僕達はもう一蓮托生です。アンリエッタ姫を色んな意味で頂いてしまった。バレたら絞首刑か、公開処刑です」

 

 未婚の王族を弄んだんだ。ただでは済まない。

 

「どっどうするんだ?確かにこのままでは問題有るな。どうしたら良いんだ?」

 

「この状況を誤魔化したら、僕はガリアに逃げる。一緒に来ますか?」

 

 共犯者だし誘っておく。

 

「きっ貴様とか?しかし……このままでは縛り首か。分かった、地獄の底まで一緒に行くぞ」

 

「では、アンリエッタ姫を着替えさせて部屋の方に。僕は、ガリア勢の所に行って準備します。

レコンキスタに攻めいる時に、奴らにダメージを与え義理を果たしたら、突き抜けてそのまま……良いですね?

必ず銃士隊の配置は近くにして下さい」

 

 そう言って、間男宜しくコソコソと部屋を出て行く。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 くっ……アンリエッタ様を色んな意味で美味しく頂いてしまった。

 しかし、アイツの言う通り純潔が尊まれるトリステインで……しかも、その国の王女といたしてしまったとなれば、バレたら口封じか。

 

 全く、あの腹黒は頼りになるな。

 

 アンリエッタ姫の貞操を頂くと言う本懐も遂げた。ならば、まだ見ぬ美女・美少女の為にも生き残るのが大切。

 幸いアンリエッタ姫とウェールズ皇太子は、この後直ぐに結ばれるのだ。

 

 だから、昨夜の事は公に出来ない。早く、アンリエッタ姫を部屋へ移動させよう。でも、もう一回位は愛を確かめておくか……

 

「姫様、頂きます!」

 

 そう断って襲い掛かる。姫様も、キャ!とか言われたが、全く嫌がってはいないし……

 これだけの美少女を手放すのは勿体無いけど、命には代えられん。

 

 

 

 

 明日への逃避と言う名の旅立ち……

 

 

 ツアイツ&アニエス

 

 2人はレコンキスタ本隊が、野営する陣地を見下ろしている。

 

「アニエス殿……朝からお盛んでしたね?何故、危険だと知っていながら」

 

「ふん!

アンリエッタ姫とニャンニャン出来るのも今日が最後だったからな。それに私に注意が向いた方がツアイツもやりやすいだろ?

それに足腰立たない様に激しくしたのだ。暫くはベッドから起きられない。だから私達も、こうして自由に動ける」

 

 何かを達成した様な男臭い笑みを向けられても……

 

「突破口は僕が切り開きます。アニエス殿の移動の足は何ですか?」

 

 馬や徒歩は足手まとい。誰かの竜に乗せて貰うしかないかな?

 

「私は馬だ。ツアイツはどうなのだ」

 

 銃士隊だからな。馬しかないか……

 

「僕も馬です。しかし、敵陣に突入し敵を蹴散らしたらカステルモール殿のブリュンヒルデに捕まえて貰います。

そして空中船に乗り込み逃走……アニエス殿は、僕の側から離れずに。ブリュンヒルデなら2人をくわえても飛べるでしょう」

 

 アニエス殿は、カラカラと笑っている。プレッシャーで頭をヤラレタカ?

 

「ふふふ……すまんすまん。まさか、ツアイツと2人で逃避行とか最初は考えられんかったぞ」

 

「僕だってアンリエッタ姫と、あーなるとは思ってませんでした!」

 

 全く、どうしてこんな事に……

 

「「では生き残る為に!」」

 

 互いの掌をハイタッチで軽く合わせる!

 

 

 

 

 

 そしてレコンキスタ襲撃へ!

 

 

 レコンキスタ本隊の野営陣地に突貫する!

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 全長18メートルの鋼鉄の巨人を錬成する。

 

「錬金!黒色火薬アックス」

 

 ゴーレム専用の全長4メートルの黒色火薬アックスを錬成しては、次々とブン投げる!

 これが僕の、対軍用の切り札だ。近代兵器の砲には劣るが、中々の威力だろう。

 着弾と共に、爆発が起こり傭兵達が右往左往している様子を確認。

 

「イサベラ隊、突撃!アニエス殿!突っ込む、はぐれないで下さい」

 

 彼女に声を掛けて馬を走らせる。その前を鋼鉄製のゴーレムを、ただ全力で走らせる。

 露払いには、これで十分。低空で火竜と風竜を駆るイサベラ隊が、片っ端から攻撃魔法を撃ち込む。

 

 奇襲は成功だ!

 

 トリステイン王国軍が、乱れた陣形に突撃を開始した。

 

「アニエス殿、手を……逃げますよ!」

 

「何処までも着いて行ってやる!」

 

 カステルモール殿がブリュンヒルデを低空で侵入させ、僕とアニエス殿を足で掴んで飛び立っていく。

 近くに居たミシェル達が、今の会話を聞いて盛り上がっている!

 

 

「アニエス隊長……本当にツアイツ殿と出来ていたんですね。恋の逃避行ですか。お幸せに……」

 

 あれだけ、アンリエッタ姫と噂されていたツアイツが、戦場で恋の逃避行。

 しかも相手は、アンリエッタ姫自らが取り立てたガチレズと噂の銃士隊の隊長。

 

 流石は、オッパイ教祖!

 

 一国の王女を振って、ガチレズを矯正して駆け落ちとは。

 

 

 

 

 半年後……

 

 

 アルビオン大陸で起こったレコンキスタの反乱は、王党派が勝利した。ダータルネス方面から進軍するトリステイン王国軍。

 別方向から進軍してきた帝政ゲルマニア軍に袋叩きに合いオリヴァー・クロムウェルは逃走するも、最後はウェールズ皇太子が率いる追撃軍に討ち取られた。

 三国は同盟を結び、アンリエッタ姫とウェールズ皇太子の正式な婚姻が発表された。

 

 その子供が、ゲルマニアの帝室に嫁ぐ約束もなされた。

 

 この遠征中に噂になったゲルマニア貴族、ツアイツ・フォン・ハーナウとのロマンスは……

 すっかり、オッパイ教祖がガチレズを口説き落としガリアに逃亡!と言う訳の分からない伝説となった。

 

 アンリエッタ姫は未練タラタラだったが、2人の婚姻の後にジョゼフ王もシェフィールドと再婚。

 何故か、シェフィールドの義弟としてツアイツもガリア王家の末席に名を連ねた……

 

 流石にアンリエッタ姫も大国ガリアとは事を構える事は出来ず、ウェールズと末永く幸せに暮らしたそうだ……

 アンリエッタ姫は、ファーストをツアイツ&アニエスで体験してしまった。

 

 しかし、当初の念願叶ってウェールズ皇太子と結ばれた。

 アルビオン王国・トリステイン王国・帝政ゲルマニアが同盟を結んだ。

 ロマリア連合皇国も、結束した三国には手を出し辛かった。

 

 ツアイツは、ガリアの王族として嫌々ながら宰相の地位に就いた。

 ジョゼフ王が、シェフィールドさんに洗脳され甘々な性活をおくり政務が滞ってしまいがちとなり、イザベラ様と共に苦労を強いられている。

 しかし、ガリアの政務に携われたお陰で、シャルロットの実家オルレアン家の復興に成功。

 

 ジョゼットは残念ながら彼女らの元には行かず、ハーナウ家の養女となりワルド子爵と結ばれた。

 

 幸せワルド計画は此処に完結。

 

 彼の喜びっぷりは凄まじく、魔法衛士隊隊長の地位を放棄、ゲルマニアに移住する。

 しかしサムエルと共に実行していた光源氏計画はバレて頓挫。

 アデーレとジョゼットは仲良くその夫をお仕置きする日々を楽しんでいる。

 其処の孤児院に集められた美少女・美幼女達は幸せに巣立っていった。

 

 キュルケ・ルイズ・モンモランシそしてテファをガリアに呼んで合同結婚式を執り行った。

 これによりガリア王国も3国同盟に参加し始祖の血を継ぐ国家はより結束を固めた。

 

 オッパイ教祖ツアイツ!

 

 大国ガリアの表の実力者で有り、ゲルマニア・トリステイン・アルビオンに太いパイプを持つ。

 彼の教義はゆっくりと、しかし確実に信者を増やしていった。

 

 

 

 ハルケギニアで現代オタク文化を広めた、性の伝道者ツアイツ!

 

 

 彼のオッパイ物語は此処から始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 トリステイン編アンリエッタルート完

 

 

 

 

 

 トリステイン編アンリエッタルート(オマケ)

 

 このバットエンドは、闇の皇子様からの結構前に募集したアンケート回答によるアイデアを元に書いたものです。

 お話の流れ的に随分経ってからの掲載ですが、何とか書けました。

 これは、アンリエッタ姫ファンの方は見ない方が良いかも知れません。

 リクエスト自体が、ツアイツとウェールズに振られてヤケになる話を希望されましたので……

 多少はアレンジを加えて、まろやかにしています。

 

 では……

 

 

 

 トリステイン王国の王女アンリエッタ姫!

 

 最終決戦時に、あれだけ周りに言いふらしていた

 

「無償の愛をアンリエッタ姫に捧げ続けていたツアイツ様」が、自ら取り立てて重用していた銃士隊のアニエス隊長と駆け落ちした!

 

 これは周りに居た銃士隊員達の話でも明らかだ。

 

「アニエス殿、手を……逃げますよ!」

 

「何処までも着いて行ってやる!」

 

 彼らは、手に手を取って風竜に掴まれて飛んでいった!文字通りの逃飛行……この台詞を大勢の者が聞いている。

 

 彼らは計画的にガリアへ逃げ延びた……つまり(アンリエッタ姫的には)信頼していた2人に裏切られた訳だ。

 しかも周りには話してないが、実は前の夜には3人で愛し合っていたのだ。

 まさか、あれだけ激しく愛を交わした翌日に捨てられるとは……アンリエッタ姫の落ち込みっぷりは酷い物だった。

 

 しかし持ち前のポディシブシンキングで、取り敢えず2人の事は頭の隅に追いやった!

 

「私には、まだウェールズ皇太子が残っていますわ!彼が、彼こそが本命。ツアイツ様は火遊びだったのです!アニエスの事など、私が野良犬に噛まれた被害者よ」

 

 気持ちを切り替え、ウェールズ皇太子の獲得へと進む。

 先ずは今回の功績を全面に押し出し、増援の件でアルビオン王党派と交渉のテーブルにつく。

 両国の安全の為に、婚姻外交を認めさせる。まだまだ諦めていないアンリエッタ姫だった。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツ殿と銃士隊の隊長がガリアに逃げ出した!

 

 調べてみれば、ガチレズのアニエス隊長と手に手を取って風竜で逃避行。

 しかし、敵前逃亡では無く敵軍に先陣切って突っ込み大混乱を引き起こしてから突き抜けたのだ。

 言わば一番槍の功績だし、彼のゴーレムの働きは目覚ましかった!

 敵の切り札の空中船三隻と傭兵部隊数千を爆発する投擲兵器で倒したのだ。

 

 しかも正規のトリステイン王国軍でも何でもない。

 

 あくまでも王党派の為に、僅かな手勢を引き連れて個人参戦してくれたのだ……そして、この戦果。

 トリステイン王国軍は、ツアイツが駆け抜けた後の混乱する敵軍を倒したに過ぎない。

 

「ウェールズ様、ツアイツ殿より鷹便が……」

 

 バリーが、残敵掃討で忙しい最中に心の友からの手紙を持ってきてくれた。

 

「有難うバリー。早速読んでみよう……」

 

 ウェールズにとって、ツアイツの謎の行動が明らかになる。

 

 

『ウェールズ様。

急ぎ筆を取ったので乱調乱文をお許し下さい。

アンリエッタ姫についてですが、ガチレズと噂の合った銃士隊のアニエス隊長を口説き落として聞いた所、私とウェールズ様とのハーレムを夢見ています。

あの御方は危険だ!とても我らが、どうこう出来る女性ではないのです。私はガリアのジョゼフ王を頼って逃げます。

彼には借りが出来るから……逆に暫くはゲルマニアには寄り付きません。

アンリエッタ姫の人気はトリステイン王国では絶大!

そんな彼女が、閣下にどんなトンデモ話を持ち掛けるか分からない。いくらアンリエッタ姫でも、大国ガリアには楯突けない筈です。

ウェールズ様も気を付けて下さい。何か有れば、この鷹で手紙のやり取りをしましょう!

状況的に、トリステイン王国には立場が弱いかも知れませんが御武運を』

 

 

 手紙を読み終わり、丁寧に畳んでしまいバリーと向き合う。

 

「やはり私のカンは正しかったのだ。アンリエッタ姫は地雷女!

踏んでしまえば折角勝ち取った勝利と、この国の未来が露と消える……バリー、どうすれば?」

 

 流石の覚醒ウェールズも頭を抱え込んだ。

 

「いやはやツアイツ殿には、返しきれない恩が出来ましたな。トリステイン王国との交渉の前に、この事実を知らせてくれるとは。

相手の思惑が分かれば簡単です。先に相手から文句の出ないお礼をすれば良いのですよウェールズ様。つまりお金を沢山払いましょう」

 

 流石は老獪なバリー!

 

 どちらにも角の立たない案を考え付く。

 

「おお!礼を先に尽くして、それ以上の要求を突っぱねるのだな?復興にお金は必要だが、国その物が傾くよりはマシだな。分かった、それで行こう」

 

 方向が決まれば、覚醒ウェールズの行動は早い。バリーを交渉役に任命し、国庫から出来うる限りの予算を捻出する。

 

 先ずトリステイン王国には、礼金として兵1人に対し10エキュー。1万人なので、10万エキュー。

 

 それに参戦してくれた貴族や王族の礼金に上乗せで50万エキュー。合計で60万エキューだ。

 

 これに特産品の風石を大量に付けて、その日にバリーが届けた。

 出迎えの貴族達の前で彼らの功績を称え、エキュー金貨や風石を積んだ船ごと渡した。

 その際に、トリステイン・ゲルマニアの両国には感謝しきれない。

 

 しかしゲルマニアにはウェールズ皇太子が、心の友と言って身分を超えて友誼を結んだツアイツ殿が、僅かな手勢を率いてレコンキスタ本隊に突貫!

 多大な被害を与え、残りの連中を信頼するトリステイン王国軍に任せ引き揚げていった。

 彼の功績を称え、ゲルマニアと事前に交渉を進めていたウェールズ皇太子とアルブレヒト閣下の御息女との婚姻を結ぶ。

 金銭的なお礼はトリステイン王国を最優先にした為に、あちらには負担をしいるがご容赦願いたい。そう言って頭を下げた。

 

 これだけ持ち上げられ、財政厳しいトリステイン王国に優先して礼金をくれるのだ。

 それに男の友情とは、素晴らしい物ではないか!いち早く、ヴァリエール公爵やマザリーニ枢機卿が賛同し条約を締結した。

 何か騒いでいたアンリエッタ姫は、カリンが実力行使で物理的に黙らせた。

 

 これにてレコンキスタ騒動は幕を閉じた。結局アンリエッタ姫は、名声を得れた。

 

 稀代の謀略王女と……

 

 しかし、その後は気の抜けた様にポヤポヤが酷くなる一方だった!

 

 これでは国が傾く。

 

 ヴァリエール公爵は、軍事クーデターを実行。3日でトリステイン王国を平定し、ヴァリエール王朝を興した。

 

 初代エレオノール女王!

 

 彼女は、国の為にガリアにて暮らしているツアイツとの婚姻外交をジョゼフ王に持ち掛ける。

 その条件は、ハルケギニアを統一しブリミル教を駆逐する事……果たしてジョゼフ王は、この条件を飲むのか?

 

 時代は急激に様変わりをしようとしている!

 

 

※エレオノール女王のハルケギニア統一物語は……続きませんから。

 



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レコンキスタ対決・実行編
第161話から第163話


第161話

 

 ガリア王国両用艦隊。

 

 空中船で有り、水上船でも有るガリア王国の主力艦隊だ。質量共にハルケギニアでトップクラスの精鋭。

 個々の能力ではアルビオン王立空軍に劣るが、数は圧倒している。

 

 原作ではレコンキスタに止めを刺した……

 

 イザベラ王女の命令で、最新鋭の戦艦が突貫工事で偽装されている。

 就役して間もない、まだ近隣諸国に御披露目をしていない船なので偽装もそれ程難しくない。

 両用艦隊総司令官クラヴィルは、偽装されていく船を見ながら溜め息をついた。

 

 巷で噂の巨乳派教祖ツアイツ・フォン・ハーナウ殿が……まさかジョゼフ王の特命を受けて暗躍していたなど。

 

 しかしイザベラ王女自らが艦隊司令部に赴き、あの黒衣の魔女が同行するならば確かなのだろう。

 理由はイザベラ王女が欲しければ、レコンキスタを殲滅せよ!

 しかし既にアルビオン王党派とトリステイン王国には布石を打っている。

 この偽装戦艦でアルビオンに乗り込むのは、駄目押しの戦果をあげる事なんだろう。

 あのツンデレ姫が、顔を染めながら嬉しそうに話していたし力になろう。

 

 軍人とは国に仕えるが、俺は王家に仕えている。何の問題も無いな……

 

 それにゲルマニア貴族のツアイツ殿とコネが出来る。即ちツェルプストー3姉妹と繋がりを持てるのだ!

 軍属として赤毛の戦女神との繋がりは大切だ。この船の舳先にも特注の飾りが付いている。

 

 船の安全を祈る女神を象った物が……

 

 これは艦隊総司令官としての俺が最後はごり押ししたが、会議は紛糾した。

 

 スタンダードに戦果を祈るヘルミーネ孃か?それとも癒やしと航海の安全を願うイルマ孃か?しかし気紛れな海と空の女神リーケ孃も捨てがたい。

 

 よって3人が絡み合う様なデザインを発注!ツアイツ殿自らが錬金してくれた逸品だ。偽装の為とは言え、コレを外すのは気が引ける。

 

「クラヴィル司令官!我らの女神像を外すとは本当ですか?」

 

 突然声を掛けられる!縦社会の海軍で、この無礼は問題だ。振り向けば、ヴィレール少尉が顔を真っ赤にして肩で息をしている。

 

「そうだ!しかし口を慎めよ、ヴィレール少尉。これはイザベラ王女からの厳命だ」

 

 しかしヴィレール少尉は黙っていない。

 

「偽装!だからこそ女神像を付けていればゲルマニア船籍と勘違いを……」

 

「黙れ!貴様、イザベラ王女の想い人の祖国に疑いが掛かる様に仕向ける気か?これは無国籍艦だ……」

 

 漸くヴィレール少尉も落ち着いたみたいだな。

 

「ツンデレ姫の想い人と言えばゲルマニアの……」

 

 ニヤリと笑ってやる。

 

「そうだ!今晩、乗船するのだよ。我らが教祖が」

 

 ヴィレール少尉は、綺麗な敬礼をする。

 

「失礼いたしましたサー!」

 

「うむ。しかし、これは機密だ。それとリュシー神官にはバレない様に。色んな意味で面倒臭いからな」

 

「サーイェッサー!」

 

 全く現金な奴よ。さて……舳先から女神像を外すなら付け替えるのはコレだ!それはそれは、立派なドリルだった!

 

「天を突くドリル……男子の逸物の象徴だ。これはこれで素晴らしい……」

 

 何処までも漢道を貫くクラヴィルだった。そんな漢達満載の海軍造船所で偽装戦艦は仕上がっていく。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 イザベラ様のご好意で、アルビオン迄の足と味方が増えました。今晩、偽装船にてアルビオン王党派に向かいます。

 そして、お姉ちゃんがナチュラルに僕のベッドに寝ています……お互い着衣の乱れは無いし、下半身に疲労感も有りません。

 

「あの?シェフィールドさん……起きて下さい」

 

 んんんっと寝返りを打つ彼女から、良い匂いがします。

 

「おはよう、ツアイツ」

 

 そう言うなり、ガバッと抱き締められて押し倒された!

 

「おおおっお姉ちゃん?」

 

「エーファから聞いたわ。ツアイツは添い寝が好きなんですってね。くすくす、少しお姉ちゃんとお話ししましょう」

 

 そう言って双子山を押し付けてくる。

 

「あっその……」

 

「ツアイツは動いちゃ駄目よ。お姉ちゃんね、少しツアイツの為に働いてきたのよ」

 

 うー胸が、胸がぁ……

 

「それはどんな?」

 

「ふふふっ。ガリア両用艦隊のクラヴィル総司令官に偽装戦艦の件を念押し。それと私が同行出来る様に工作を。クラヴィルね。

貴方が送った女神像を舳先に付けたままにしようとしたのよ。あの赤毛の三姉妹のを」

 

 赤毛の三姉妹?舳先の女神像?

 

「それって?ガリアの海賊船長って両用艦隊の総司令官なの?」

 

「あん!ツアイツは動いちゃダ・メ・よ。アレ、高かったんでしょ?」

 

 確か自分の船の安全の為に、どうしてもって頼みに来たんだよな。一万エキューとか馬鹿言ったから怒ったんだけど……

 

「いや僕が1日で作ったから、実費込み五百エキューだったよ。一万エキューとか馬鹿な事を言い出したから怒ったんだ」

 

「怒る?逆じゃないの?私が見ても立派な女神像で羨ましかったわよ」

 

 ああ……スリスリしないで……お姉ちゃん、どんどん可愛くなってる。

 

「お姉ちゃんの女神像も今度作るね。

男の浪漫本シリーズは商売としてよりは、対レコンキスタの為の布教に近いんだ。薄利多売で良いの。

転売は厳しく制限してるし、ベースが安く沢山有るから転売の意味は薄い。

買う方だって、ポイント制で昇格なのに他人から買う意味が無い。昇格には審査も有るからバレる。バレたら追放だから……」

 

 説明の最中に、ナデナデしないで!

 

「流石はツアイツね。貴方の信者を増やす作戦だから、兎に角広めるのが大切か……」

 

「うん。貴族から平民まで普及させるには、ね。これは僕らの幸せの布石だから……ブリミル教とは敵対するけど、イザベラ様と手を組んだから対抗出来るし」

 

 しまった!この状況で他の女の話はマズかったかぁ……あっあああ、胸がグニングニンと……

 

「はい、ご褒美おしまい!ツアイツ、朝食だから早く降りて来なさいね」

 

 カステルモール殿の屋敷なんだが、我が家の様な振る舞いで部屋から出て行った……

 

「朝から御馳走様でした!」

 

 シェフィールドさんの出て行った扉に向けて、取り敢えず拝んでおく。

 

 

 

第162話

 

 

 僕とシェフィールドさん。カステルモール殿とエルザちゃん。不思議な取り合わせで朝食を食べる。

 カステルモール殿もエリート集団の団長だけあり、屋敷も立派だが食事も質量共に中々だ。

 

「カステルモールお兄ちゃん、アーン!」

 

 今日はエルザちゃんが食べさせる方か。仲が宜しい事で。シェフィールドさんが、チラチラ此方を見ている。

 

 これは……して欲しいんだろうか?

 

 貴族的マナーでは有り得ないんだけどな。付け合わせのポテトをフォークで刺してシェフィールドさんの口元へ運んでみる。

 

「お姉ちゃん、アーン!」

 

 満面の笑みで食べてくれました。

 

「はいツアイツ、アーン!」

 

 うわっ!思った以上に恥ずかしいぞコレは……給仕のメイドさんが、クスクス笑っているし。結局、朝食を食べきるまでアーンを交換した。

 

 何て羞恥プレイ?

 

 夜迄は暇だ……そして僕以外は準備やら何やらで忙しい。

 

「ツアイツお兄ちゃん暇だよ!エルザと遊ぼう!」

 

 実年齢は年上なんだが、結局エルザをちゃん付けで呼ぶ様に懇願された。

 まぁ見た目幼女に僕が敬語を使っては、どんなお嬢様なんだと話題になるからね。

 エルザちゃん相手にミニゴーレムで劇を見せる、好評だったよ。

 

 暫くすると、シャルロット様とジャネット殿が訪ねてきた。

 

「ツアイツ様、こんにちは!」

 

「ミスタ・ツアイツ、こんにちは……」

 

 シャルロット様とは久し振りに会うな。

 

「シャルロット様、ジャネット殿、久し振りですね」

 

 取り敢えず貴族的作法に則り挨拶をする。

 

「私は2日程盗み見てましたよ」

 

「タバサで良い。学院に戻った時にボロがでるから……」

 

 えっと?

 

「もしかしてジャネット殿は……覗いていたの?」

 

 ニッコリと可憐な花の様な笑顔で覗きを肯定してくれました。

 

「ではミス・タバサで良いですか?」

 

 此方は、無表情で頷いてくれた。

 

「それで、今日の来訪の目的はなんでしょう?」

 

「「背中の幼女を下ろしてから!」」

 

 アレ?随分軽いんだけど?

 

「よっと!だめだろエルザちゃん、カステルモール殿以外の背中によじ登っちゃ。てか随分軽いけど?」

 

 エルザちゃんの脇の下に手を入れて持ち上げる。

 

「へへへっ!これも魔法なんだよ」

 

 高い高いな格好だが、足をぶらぶらさせて喜ぶ。ヒョイと飛び降りて部屋の外へ走って行った。

 

「ツアイツ様は子供好きなんですか?」

 

 何だろうニヤニヤだが?

 

「性的な意味で好きでは有りませんよ。それにエルザちゃんは、カステルモール殿のご内儀様ですし」

 

 何故かホッとしている?

 

「イザベラから聞いた。ミスタ・ツアイツがお母様の病を治せるって!本当なの?」

 

 流石はイザベラ様、行動が早いな。

 

「本当だよ。条件は幾つか有るし、場合によってはミス・タバサの身分を偽って別人として暮らすかも知れないけど……確実に治してみせるよ」

 

 頭に手を乗せてポンポンと叩く。彼女は、透き通った涙を流しながら僕の手を取り頬に添えた……

 

「あ、ありがとう……」

 

 取り敢えずハンカチを差し出して、手を抜いた。

 

「お礼ならイザベラ様とシェフィールドさんに……僕は大した事をしてないから」

 

 何か照れ臭いよね?お礼を言われるってさ。

 

ジャネット殿が、人の肩をバンバン叩く。結構本気で痛いんだけど。

 

「かーっ!何、何が大した事をしてないだって?ツアイツ様が一番苦労したんでしょ?

もっと恩に着せて従姉丼喰っちゃえって!何なら私も付けるから。その方が絶対楽しいから」

 

 この娘って、こんな性格だっけ?何となくムカついたので、胸をムギュっと揉んでみた。

 

「ん……Cの82いや83かな?」

 

 彼女は真っ赤になって、胸を押さえ後ずさると

 

「ツアイツ様のエッチ!イザベラ様に、有る事無い事言い触らしてやるー」

 

 そう言って走って行った……

 

「反省してないが、後悔はしている。イザベラ様、すみません」

 

 プチトロアの方に向かい頭を下げる。

 

「ミス・タバサ、何を?」

 

 僕の手を掴んで、グイグイ自分の胸に押し付けようとしている?

 

「……お礼。小さくてツマラナいかも知れないけど……」

 

「いやっ駄目だから!君はそう言う扱いをしては駄目な娘だから!」

 

 急いで手を引っ込める。危なかった……危うくアレでナニな連中を敵に回す所だった。ミス・タバサは、何やらご不満のようだ!

 

「お礼は心配しなくても大丈夫だから、ね?」

 

「でも、気が済まない」

 

 こんなに律儀な娘だったかな?

 

「じゃ貸し1つで!何か困った事が有ったら頼み事を聞いてね」

 

 初めて彼女の笑顔を見た!はにかむ様な、それでいて心の底から嬉しい感じで……彼女には、もう1つプレゼントが有るんだ。

 

 双子の妹、ジョゼットの件だ!

 

 でも未だ言わない。準備が整って、オルレアン夫人が納得してからだ。ジョゼットだって家族と暮らした方が良いだろう。

 でも引き合わせるのは、ジョゼットが会いたいと言えばだね。これは言葉は悪いが、捨てられた方に決定権があるからさ。

 

 ミス・タバサとは、余り会話は進まなかった。

 

 元々無口だし、仕方ないのかな?彼女は、暫くして帰っていった。

 

 これで原作と違い、早い段階でオルレアン一家は幸せになれるだろう。しかし不自由な生活が待っている。どうしたら良いかな?

 

 イザベラ様は任せろって言ったけど、ガリアよりゲルマニアで爵位を買って暮らした方が楽かもね。さて、夜に備え暫く眠ろうかな……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 黒衣の魔女シェフィールド……

 

 お父様が召喚した使い魔で有り、ツアイツが姉の様に慕う女。恋敵にはならないが、身内然とした立場は危険な感じがする。

 

「何ですか、イザベラ様?私を睨んで?」

 

 何故か私の政務室に座ってお茶を飲んでいる。

 

「いや、何故一緒に艦隊司令部に行ってくれたんだい?アンタはお父様から直接の手伝いを止められているだろう」

 

 この女は、お父様とツアイツ以外の為には動かない筈だ。

 

「レコンキスタ……もう要らないの。だから壊す手伝いをしてあげるわ。それにガリアにツアイツを呼ぶには貴女とも協力しないと……

知ってる?トリステインのヴァリエール一族もね、ツアイツを狙ってるの」

 

「ああ、婚約者の1人が居るんだろ?でもツアイツの身内に手を……」

 

 何だ?手を上げて言葉を遮るとは不敬な!

 

「分かってるわ。ツアイツは身内に甘い。だから私と貴女でガッチリ捕まえてしまうの。どう?手を組まない。ツアイツを半分こしましょう」

 

 ああ、この女も謀略系か……しかし悪くない。基本的に、この女はお父様狙い。ジャネットやシャルロットより頼りになるし、敵でもない。

 

「お母様と呼んでやる。しかし、ツアイツの第一夫人は誰にも譲らない」

 

 シェフィールドに向かい手を差し伸べる。

 

「それで良いわ。あの子はガリアで私達と暮らすのが幸せなのよ」

 

 艶然と微笑みを称え、ガッチリと握手する2人。この凶悪コンビに立ち向かえるのか!

 

 ヴァリエール一族よ?

 

 

 

第163話

 

 

 カステルモール殿に案内され、両用艦隊司令部まで来た。確か隠密行動だったはずですよね?しかし現実は……

 

「ようこそ、ツアイツ殿。両用艦隊総司令官クラヴィルです。いや、ガリアの海賊船長と名乗った方が分かり易いですかな?」

 

 ナイスミドルがフレンドリーに握手を求めてきた。

 

「ああ、いつぞやの女神像発注の……その節は、有難う御座いました。そして、これからアルビオン迄宜しくお願いします」

 

 握手に応じると、周りから拍手が沸き起こる。コレ本当に隠密作戦なのかな?周囲にバレバレなんだけと……

 

「ミスタ・ツアイツ!航海中の貴方の世話係のヴィレール少尉です」

 

 同世代位の男が目の前で敬礼している。

 

「此方こそ宜しくお願いします」

 

 取り敢えず、握手を求めてみるが……「はっ!感激で有ります」何だろう?両手で握って振り回された……この連中の中で、僕の位置付けってどんなの?

 

「ヴィレール少尉よ、落ち着け!さてツアイツ殿、案内しますぞ。我がガリアが誇る両用艦隊の最新鋭戦艦に」

 

 クラヴィル司令官に案内されて見た物は……

 

「天を突くドリル……何と御立派な!衝角(ラム)ですね!」

 

 舳先にドリル状の衝角を取り付けた両用戦艦を見上げる。

 

「流石はツアイツ殿!男の浪漫を理解していらっしゃる。本来この甲鉄艦は、ガリア初の装甲戦艦です。

ネームシップであり、プリンセス・イザベラ号が正式名称です。しかし、イザベラ様からどうしてもコレを改装しろとの厳命を受けましてな」

 

 イザベラ様、流石は大国を表で仕切る才女……やる事が半端ない!

 

「しかし……この船でアルビオン迄乗り付けて、あまつさえレコンキスタと戦闘などは……」

 

「流石はイザベラ様の想い人……イザベラ姫が心配ですか?

心配ご無用!この船は新造戦艦で有り他国に情報は未だ無い。つまりは無国籍艦。

しかし、このクラスの戦艦を保有できる国は限られている。どの道疑われるなら、最新鋭を用意しろ!と言われましたよ」

 

 疑わしいが証拠が無ければ、どうにでもなるか……イザベラ様はスケールが違うなぁ!

 

「クラヴィル司令官!1つ伺いたいのですが……この衝角、まさか?」

 

 クラヴィル司令官は、ニヤリと笑い

 

「ドリル回転させろー!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 見事に回転式ドリルだ!

 

「グレ〇ラガン……クラヴィル司令官、お読みになられたのですか?」

 

 天元突破グレ〇ラガン……

 

 僕が子供向け熱血小説としてアレンジしたんだ。舳先にドリルを付けた空中戦艦の熱き艦長の物語を……

 ドリルだけグレ〇ラガンで内容は、スペースシップ・ヤ〇トをハルケギニアに合わせたんだけど。

 最後に敵戦艦を下からドリルで突き破ったラスト……再現する気は無いですよね?

 

 まさか今回の戦闘では……

 

「これですな!サインをお願いします。いやツアイツ殿は、海と空の漢の気持ちを良く理解しておられる。

我らは船乗りですが、大海原にも天空にも愛を持っております!この本は素晴らしい。我が両用艦隊のバイブルです!」

 

 随分と擦り切れた本を渡された。相当、読み返してくれたんだろう……サラサラとサインをして渡す。

 

「船には男の浪漫が詰まっています!クラヴィル殿、アルビオン迄お願いします」

 

「任せて貰いましょう!出航するぞー!」

 

「「「アイアイサー!」」」

 

 随分と賑やかな隠密作戦の始まりだった。そのまま、艦橋まで案内される。流石は新造戦艦!僕も空中船は何度か乗ったが、純然たる戦艦は初めてだ。

 接舷された桟橋から、風石の力により船が上昇していく。余り外を見るとトラウマが発動するので、なるべく艦橋の中央部分により前だけを見る。

 

「どうですか?この船の乗り心地は」

 

 クラヴィル殿が気を使って話し掛けてくれた。

 

「良いですね!こう……力強さと安定感を感じます。そして先端のドリル。この船は白兵戦も想定してるのですか?」

 

 敵戦艦に突き刺して、乗り込みそうだよね?

 

「ははははっ!旗艦が特攻など最後の手段ですがね。それに、この船にはガリア最新鋭の武装を施しています。

側面に127㎜(70ポンド)単装砲30門。279㎜(300ポンド)単装砲8門。

風竜を40匹積める大容量のスペースも有ります」

 

 これって、コルベール先生のオストラント号よりも凄くね?もうジョゼフ王は、エルフと接触してる感じがする。

 

 ビダーシャルだっけ?

 

 この権力と財力と、エルフの知識・技術が合わせればエライ物が出来るよね。ヨルムンガルドとか、アイデア次第では汎用人型決戦兵器だよ。

 

「チョッとした空中要塞ですね」

 

「気に入ったかい?私の名前の船はさ?」

 

 なっ?イザベラ様……とシェフィールドさん?

 

「イザベラ様と、お姉ちゃん!不味いですよ、戦場にガリアの王女が出向いちゃ国際問題だ!」

 

 アレ?ちょっと不機嫌だぞ?

 

「ツアイツ?今、シェフィールドの事を、お姉ちゃんってナチュラルに言ったね?私の事は、イザベラと呼べってお願いしたのに様付なのに!

それに私はアンタのプロデュースしたツンデレアイドルとして行くんだ!ずっと一緒って言ったのもツアイツだよね?だから付いて行くよ」

 

 どうするんだ、どう説明しようか?ウェールズ皇太子に?まさか他国の王女を同伴で応援に来たって、正気の沙汰じゃないぞ。

 

「大丈夫だよ。替え玉も置いて来たし、周囲に護衛も多めに配している。仕事も片付けてきたから半月位なら誤魔化せる」

 

 これだから有能な姫様は……反論の余地が無い、でも何故シェフィールドさんが同行してるの?

 

「分かりました。僕も腹を括りましょう……しかし何でお姉ちゃんが一緒だったの?」

 

 何だろう……素早く目線を合わせて笑ったけど?

 

「「女には女の付き合いがあるのよ(んだよ)」」

 

 まぁ、仲良くしてくれるなら良いけどね。

 

「さぁ暫くは空の旅を楽しんで下さい。到着予定は……」

 

 クラヴィル殿が、気を利かせて話題を変えてくれた。到着まではやる事もそう無いからね。ゆっくりと船旅を楽しもう。

 



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第164話から第166話

第164話

 

 

 蒼い髪の美少女と黄昏時の空を並んで見る。地平線に沈む夕陽を眺める……色白の彼女の肌に夕陽の赤い光が映りこみ、いつもと違う感じに美しい。

 シュチュは大変宜しいのですが、体がいう事を聞きません。

 

 具体的に言うと、高所恐怖症のトラウマ発動!

 

 現在、脂汗をたらしながらイザベラ様に腕を組まれてます。

 

「綺麗だよね……プチトロアから見る夕日も好きだけどさ。こう、高い所から見るのも格別さね。ツアイツ、何で固くなってるんだい?」

 

 普段は絶対見せない、柔らかい笑顔で僕を見上げている……しかし僕の視線は地平線の遥か上を見ている。下を見ると高さを実感して駄目だから!

 

「はははは……確かに綺麗デスネ。サァ部屋に戻りまショウ?ここハ冷えマスよ……」

 

 駄目だ!言葉使いが変になってる!

 

「…………?そうかい?じゃ船内に戻ろうか。ツアイツ!脂汗かいてるけど、傷が痛むんじゃ無いだろうね?」

 

 ガッチリと腕を抱え込んで心配そうに見上げている彼女から腕を抜き取り、腰に回して船内に誘導する……

 

「大丈夫でスヨ。サァサァ中に戻りまショウ!」

 

 やはり変なイントネーションで話し掛けながら船内に入る。扉を閉めて、ホッと一息……

 

「イザベラ様。ラウンジでお茶でも飲みませんか?体が少し冷えました」

 

 彼女は、未だに様付の僕をキッと睨む。

 

「ツアイツ?戦艦に何を期待してるんだい。ラウンジなんか無いよ、この船には。

有るのは大食堂だが部下の憩いの場に我々が行っちゃ奴らが気を使う。お茶が飲みたいなら私の部屋に行くよ」

 

 再度腕を組まれて、強引に部屋に向かう。

 

「いや、しかし、拙いですよ!年頃の女性の部屋に行くなんて……」

 

 いらん噂がたってしまう!イザベラ様はニッコリと微笑んでる。

 

「何を期待してるか知らないけど、部屋にはメイドが居るんだよ。何かい?2人きりで個室に籠もりたいのかい?」

 

 完全に遊ばれている……

 

「…………お邪魔します」

 

 取り敢えず、外が見えなければそれで良い。そう思ってました。

 

「お入りよ。メイド、お茶を入れてくれ。窓際の席が良いかね?」

 

 流石は特別室!この時代の船室なのに、窓が有りやがる。しかもデカい!

 

「ん?窓が気になるのかい。普通は無いけど、コレは特注さ。内側から塞げるから戦闘中は安全だよ。さぁ座りなよ」

 

 僕のトラウマとの戦いは続く……

 

 

 

 結局、夕食を一緒にとクラヴィル殿からお誘いがかかるまで、僕の孤独な戦いは続いた。

 しかしプライドに賭けて、船乗り達とイザベラ様に高い所が怖いなどとは言えない……

 夕食後にイザベラ様に挨拶をして自室に戻る。簡単に治療を終えると、僕はベッドに潜り込んだ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 メイド達に、夜のお手入れをさせながら考える。

 

 思わず頬が緩んでしまう……こんなに楽しい時を過ごしたのは初めてだ。

 ツアイツは抱きつくと、たまに体を固くするけど……やはり傷が痛むのだろうか?

 変な言葉使いだし、相変わらず呼び捨てにはしてくれない。これは立場的な物も有るのだろう。

 

 存在が奇天烈な癖に真面目なんだよね……でも基本的に座って話すだけだから、体に負担は無いだろう。

 

「イザベラ様……」

 

 ゆらりと影から滲み出る様にシェフィールドが現れる。メイド達が一瞬怯えるが、彼女だと確認すると、また肌の手入れにうつる。

 

「なんだい!脅かさないでおくれよ」

 

 黒衣の魔女……しかし今は協力関係にある心強い味方。

 

「ツアイツですが……添い寝が好きなんですよ!知ってましたか?」

 

「なっなななな、何でアンタが知ってるんだい?」

 

 コイツ、何を上から目線でニヤリとしやがって……

 

「先日、ツアイツの専属メイド達とお茶会をしまして……何でも小さい頃から、メイド達と添い寝をして貰っていたとか。私も昨日、してみましたが……勿論、姉弟としてですよ」

 

 添い寝……若い男女が、添い寝?

 

「ちょおま、それで何故私に教えるのさ?」

 

 何だい?そのニヤニヤは……まさか、私に添い寝をさせようと?

 

「いえ。今晩も私が、護衛を兼ねて添い寝しますので……邪魔しに来ない様に忠告を……では、明日会いましょう」

 

 そう言って、闇に溶け込んでいった……

 

「まっ待て、待ちなよ……それって、どういう事なんだい?」

 

 メイド達が、期待に満ちた目で私を見ている。

 

「お前ら……私に夜這いに逝けって言うのかい?駄目だ!あのタイプは此方から逝っては周りと同格扱いになるんだ。

向こうから押し倒す位じゃないと、この先他の連中と渡り合うのが難しい。

だから……明日は昼寝をするから準備しときな。勿論、枕は2つだよ。お前達も一緒でも良い。

本当に寝るだけだし、4人掛かりでお願いすればチョロいよ!ツアイツは女には甘いからね。さて、寝るかい」

 

 まだまだ此からが勝負だ!

 

 この船に女は、私とメイド達とシェフィールドだけ……がっつく必要も無い。

 それに今迄は、王女の私が恋愛を楽しめるなんて思ってなかった。

 国の為なら、誰でも受け入れるつもりだったのに……好きなヤツが出来るってのは、楽しいね。

 

 逆に据え膳喰らったツアイツが悶々として、私を意識すれば上等だね。

 

 シェフィールドも、案外可愛いね。あんな挑発をするなんてさ!しかし謀で、後れをとるつもりはないんだよ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 夜中に目が覚める。何で僕の腕が動かないのだろう?金縛りか?なにやら昨日も嗅いだ良い匂いもするし……

 

 動く首を回して横を見る!

 

 薄暗い中に、黒い髪の毛が見える。視線を下げれば……お姉ちゃんが、気持ちよさそうに寝ていた。

 アレかな?添い寝癖がついたのかな……でも姉弟だから良いか。

 何か今日は精神的にも肉体的にも疲れたから……このまま寝てしまおう。

 

 寝ぼけていて、思考がちゃんとしていなかったのか?

 

 この選択肢を後悔したのは、翌朝になってからだ。まさかイザベラ様が、起こしに来てくれるとは思わなかったから……

 

 

 

第165話

 

 

 楽しい両用艦隊大型戦艦の旅……現在イザベラ様が、僕の部屋を訪ねて下さいました。ええ、お察しの通り今朝も添い寝しています。

 

 お姉ちゃんと……腕を組んでイザベラ様が、吐き捨てましたよ。

 

「ツアイツ?幾ら仲の良い姉弟でもさ。もう年頃なんだし、駄目だと思うんだよ。それとも何かい?その年で独り寝は出来ないのかい?」

 

 お姉ちゃんは、クスクス笑いながら部屋を出て行くし。手掛けに、イザベラ様の肩をポンと叩いて……大人の女の余裕なのか?

 

「えっと……その……すみませんでした」

 

 東方仕込みと噂される土下座を敢行する。

 

「まぁ程々にしな!我慢が出来ない位、添い寝したい訳じゃないんだろ?そんなにしたけりゃ私がしてやるよ」

 

 冗談ですよね?それに添い寝癖は、もうないのですが……

 

「ほら、身嗜みを整えたら朝食を食べに食堂へ行くよ!」

 

良かった、そんなに怒ってないみたいだ……

 

「治療をしますので、先に行って下さi」

 

「手伝うよ。ほら、早く脱ぎなよ」

 

 真っ赤になって、手伝いを申し出てくれましたが……ここは、お任せしよう!見せ付ける様に上着を脱いで包帯を外す。

 嗚呼、癖になりそうな快感……傷の方は、大分良い感じに治ってる。この様子だと、もう少し……あと一週間位で完治するかな。

 

 流石に高価な水の秘薬だ!

 

 お見舞いでくれた人には、お礼をしないとね。治療だが、イザベラ様に精神力の消耗をさせる訳にはいかない。

 水の秘薬を使い自分で治療していく……イザベラ様は、ほーとか、へーとか、感心してる。

 

 何が良かったのかな?

 

 包帯は不器用ながらも巻いてくれました。治療を終え、イザベラ様を伴い食堂へ行く。皆が行儀よく待っている。

 軍属とは言え貴族が多く、ガリアの王女が居るのだ。待たせてしまい悪い事をしたかな?

 

 彼女が席に付いてから、厳かに食事が始まる……

 

 イザベラ様もお姉ちゃんもマナーは完璧だ。この場では、アーン攻撃も無いだろう。粛々と食事を終え、歓談の時間に移る。

 

「イザベラ様、アルビオン大陸が見えるのは明朝になります。上陸先はサウスゴータで宜しいのでしょうか?」

 

「南方から侵入し、サウスゴータ近く迄着いたら先触れを出す。その前にレコンキスタと出会ったら……問答無用で潰すよ」

 

 何とも頼りがいの有るお方だ。この戦力。現代なら原子力空母が小国の内乱にチョッカイを掛ける事と同じかな?

 

「先触れ……問題無ければ私が同行しましょう。ウェールズ皇太子にも面識が有りますし、いきなりガリア勢が行くよりは刺激しないですし……」

 

 彼らも、こんな大型戦艦が増援とは思うまい。

 

「では私の相棒、ブリュンヒルデで送りましょう!何、2人を乗せても十分な速度をだせるし……なにより、我が相棒がツアイツ殿を気に入ってる。他の竜には乗せられない」

 

 確かに、ブリュンヒルデなら頼もしい。

 

「ツアイツ?全く無茶ばかり……でも、アルビオン王党派には連絡して有るんだろ?なら平気だね」

 

 イザベラ様が、決定すれば皆が従う……

 

「明日からは忙しくなるね。皆、今日は交代で良く休んどくれ!最悪、明日から戦闘になるからね」

 

「「「サーイエッサー!」」」

 

 見事な敬礼を披露し、周りに散っていく。本職は見事だな……

 

「ツアイツ、これからの事を打合せするよ。後で部屋に来なよ」

 

 そう言って先にイザベラ様は出て行った。カステルモール殿が近付いてくる。妙にニコニコしているが……

 

「ツアイツ殿、イザベラ様とは上手く行ってますか?」

 

 ニヤニヤに表情を変えて聞いてくる。

 

「上手くもなにも……全く、何を期待してるのですか?」

 

「いえいえ……あんなに楽しそうなイザベラ様は初めて見ますから。上手くいっているんだなと……では、明日まではゆっくり休んで下さい」

 

 そう意味深に言って去っていった。ポツンと食堂に残ったのだが、非番らしき乗組員達に声を掛けられた。

 彼らは、このガリアの両用艦隊の乗組員達はツンデレでロリコンでは無かった。どちらかと言えば、格好良いお姉さん系?

 

 ルーツイアやヘルミーネさんに人気が集まっている。

 

 彼らの持ち寄るフィギュアや男の浪漫本にサインをしていると結構な時間が掛かった。

 

「ツアイツ殿、ヴィレール少尉です。お見知りおきを」

 

 最後に案内係の筈の人が来た……イザベラ様がべったりだから彼の出番は無かったんだけどね。

 

「ああ、宜しくお願いします」

 

「ツアイツ殿は、何故あの様な素晴らしい女神像やフィギュアが作れるのですか?」

 

 女神像?クラヴィル殿に渡したアレの事かな……

 

「もしかして、赤毛の三姉妹の女神像?」

 

「そうです!私は特にリーケ嬢が……海と空の女神は気紛れだ!彼女の様に……」

 

 何だろう?この逝ってしまった表情の青年は……

 

「彼女は実物も不思議ちゃんですよ。今度新しいシリーズも販売を開始しますし……」

 

「ええ、知ってます。彼女には手紙で求愛しましたが、未開封で送り返されました……」

 

 確かに求婚が凄くなったけど、皆断ってるって言っていたな。

 

「彼女達は今、仕事が楽しいから結婚はしないとか言ってましたから……残念ですが、難しいかと」

 

 何か涙をながしてブツブツいってるし。凄い落ち込みようのヴィレール殿の前に、即興でフィギュアを錬金する。

 

 サービスでスク水バージョンの逸品を!

 

「これで元気を出して下さいね。では失礼します……」

 

 漢には1人になりたい時が有るはずだ。食堂を出る時に、振り返って見れば……ペロペロとフィギュアを舐めていた。

 

「アレか?舐めるだけで幸せって奴か……」

 

 無言で食堂を後にする。ガリアにも立派な紳士の素養を持った漢達が沢山いるんだな。

 ロリっ子エルザシリーズが発売されたら、今度はツェルプストー三姉妹の新しいフィギュアを考えよう。

 ガリア国内に大々的に売り出すか……でもガリアの販路はマダマダ不足気味なんだよな。

 

 そうだ!イザベラ様に相談してみよう。

 

 

 

第166話

 

 

 両用艦隊の乗組員と話していたら、結構な時間が経った。特に最後のヴィレール殿は……何だろう。

 ワルド殿やカステルモール殿に次ぐ変態の資質を垣間見た……しかし地力が足りない。

 

 変態道には、それなりの力が必要だから。

 

 頑張れヴィレール殿!さて、遅くなったがイザベラ様の部屋に行く。部屋をノックすると、専属のメイドさん達が出迎えてくれた。

 

 しかし……何故か今回この部屋に入るのは、蟻地獄に落ちる感覚が有る。

 

「ツアイツ様、どうなさいました?イザベラ様がお待ちです。さぁ此方へ」

 

 促される儘に、また窓際の席に通される。

 

「遅かったね、ツアイツ。もう昼だよ。今日の昼食は、この部屋で食べるよ。メイド、船内コックに伝えておきな!」

 

 どうやら、昼食はイザベラ様と2人切りらしい……

 

「お待たせしてすみません。船員達と話していたら、思ったより時間が掛かりまして」

 

「ああ、あいつ等もアンタと話したいだろうね。それで、両用艦隊も変態軍団にするつもりかい?これ以上、ウチの連中を変態に仕上げたら……どうやって責任を取るんだい?」

 

 ニヤニヤと僕を見上げながら聞いてくる。

 

「それは、その……でも彼等は優秀ですから、イザベラ様の迷惑に多少なっても……その……」

 

「まぁ座りな。今日はその辺をじっくりと話し合おうか……何かしらのお詫びが有るんだろ?

まさか未婚の王族の部屋を覗く変態達に育ててしまったんだし。普通なら、皆縛り首だよ?」

 

 うう……その通りだから、何も言い返せない。しかも、イザベラ様は彼等を処罰する気はない。ただ、僕を苛めて楽しんでる。

 

「出来れば、イザベラ様から何をして欲しいかを言って頂けると……出来うる限りの事はしますから」

 

 シマッタ!イザベラ様の笑顔は、してやったりの顔だ。

 

「そうかい、そうかい。それなら一つ簡単な頼みが有るんだよ。何、大した事じゃないし準備も何もいらない。それじゃ昼食後に頼むからさ」

 

 イザベラ様は、ご機嫌だ。

 

「それは何ですか?」

 

 ああ、聞くのが怖い……

 

「ん?まだ内緒!」

 

 最近見せてくれる、自然な笑顔で答えてくれた。

 

「そうですか……それで、今後の事ですが」

 

 アルビオン王党派に接触後の件を相談する。知らない内にテーブルには、紅茶や焼き菓子が並んでいる。イザベラ様は優雅に紅茶を飲んでいる。

 

「ああ、王党派だけどさ。随分マトモな軍隊だね。サウスゴータに籠城してるが士気も高ければ民衆も良く纏めている。籠城に徹すれば暫くは墜ちない。

しかも増援の王党派の諸侯軍もジェームズ王の下に集結しつつ有る。つまりは時間と犠牲を掛ければ、王党派単独でも勝てる可能性は高い」

 

 むー、確かに犠牲を強いれば勝てるか……

 

「それと、ツアイツが気に掛けているアンリエッタ姫だが……どうやら腐敗貴族の粛清は成功したみたいだね。

民衆から偉い支持を受け始めている。タルブ伯の領地に援軍を集結させつつ有るね。アンタの仕込みは大成功さ」

 

 義父上ズ、成功したのですね。

 

「それは、此方の勝率は随分上がりましたね。なら問題無いですね」

 

 ホッと一息だ!

 

「何言ってるんだい?問題だろ。全てツアイツのお陰なのに……あの姫が力を付けるんだよ。私の情報網だと、あの女は随分とアンタにお熱だ。

自分の力ではないけど、トリステイン王国を掌握した。果たして人気絶頂期の暴走姫をヴァリエール公爵達は抑えられるかね?」

 

「…………イザベラ様の心配する事とは?」

 

 アレ?随分と不機嫌何だけど?

 

「ツアイツは、アンリエッタ姫を狙ってるのかい?」

 

「ばっ馬鹿言わないで下さい!何であんな地雷女を狙わなきゃならないのですか?僕はイザベラ様の方が万倍良いです!」

 

 それは酷いです……

 

「ツアイツ……嬉しい事を言ってくれるね。しかし彼処まで尽力しといて、それは虫が良いよ。周りから見れば、アンタはアンリエッタ姫に……他国の姫の為に、アレだけの事をしたんだ。

何だい、私には変態を押し付けて勝手にアイドルプロデュース!アンリエッタ姫には随分と準備万端お優しい事で?同じ姫なのに、この違いを説明しな」

 

 だって、アレとイザベラ様を比べたら……

 

「しかし、イザベラ様と違いアンリエッタ姫の政務能力では……最悪、レコンキスタがトリステインを謀略で墜とす危険が大きかった。

あの国は末期でしたから、大改革が必要でしたので……すみませんでした」

 

 そう考えると国内がアノ状態でも平気で居た、あの母娘って凄い大物なのか?

 

「そうだね。だからこそ、これ以上あの姫様を活躍させては駄目だよ。この戦い……私とガリア勢が力を貸すから、ツアイツが活躍しなきゃ駄目だ。

アンタは、アンリエッタ姫以上に活躍し対等以上の関係で終わりを迎える。じゃないと、トリステインのアンリエッタ姫の意見が通っちまうのさ!」

 

 確かに、アンリエッタ姫の力を強くし過ぎるのは危険だ……

 

「分かりました。目立つ事は避けてきましたが、今回は前面に出ましょう。でもガリア勢にも活躍して貰いますよ」

 

 ガリアと自分とで半々で活躍しよう。

 

「話が纏まったら、ちょうどお昼だね。メイド、食事の準備を」

 

 手際良くテーブルに食事が並んでいく。パンにチキンクリームシチュー、それにサラダ。主菜はローストビーフ……味も文句無しです。

 

「さて、食事も終わったから、約束を守ってもらおうかな?」

 

 イザベラ様が、枕を抱いている。イザベラ様の後ろに控えているメイドさん達も……

 

「えっと……お昼寝ですね?では、僕はお暇しよかな……ハハハハ、では?」

 

 スススッと扉を塞ぐように1人、僕の両脇に1人づつメイドさんが!

 

「では、私とも添い寝して貰うよ!シェフィールドと添い寝しておいて、私は駄目とかは言わないよね?

大丈夫、この娘達も一緒だから問題無いよ?多分・へ・い・き・だ・よ!」

 

「「「ツアイツ様、姫様の命令ですので!」」」

 

 女性4人ににじり寄られ、添い寝をする事に……

 

「これは、拷問だよ……」

 

 やたらデカいベッドに、イザベラ様と並んで横になっている。イザベラ様は、慣れているのかスヤスヤ寝ているが……

 僕はメイドさん達が、じっと監視をしている中では眠気は無いんだけど。

 

「あの?」

 

「「「私達の事はお気になさらずに!姫様との添い寝を堪能して下さい」」」

 

無理ですから……

 



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第167話から第169話

第167話

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 現在、イザベラ様が僕の腕を枕にして寝ています。それを監視する様に並んで立っているメイドさん達……

 イザベラ様は気持ち良そうな寝息をたてています。

 しかし僕は、他の誰かに見られたら首ちょんぱな状況ですし一睡もできません。

 

 メイドさん達の呟きが僕の心を抉ります。

 

「ツアイツ様、意気地なしですわ……」

 

「据え膳喰わぬは漢の恥では……」

 

「姫様に何か不満でも?まさかアレだけの奇態を晒しているのに恥ずかしいのでしょうか?」と、僕の鋼の心臓でもひび割れてしまうお言葉……

 

「んー?おはようツアイツ。何だい、元気が無いけど……良く眠れなかったのかい?」

 

「「「姫様、ツアイツ様は一睡もしておられません。私達が居ると恥ずかしいそうです」」」

 

 なっ?その言い回しじゃ、僕がイザベラ様と2人切りで寝かせろって聞こえたぞ!

 

「ツアイツ……私は王族だよ。そんな事はツアイツが、ガリアと言う国を担う位の気持ちが無いと、私は承諾出来ないよ」

 

 ベッドの上で正座して、僕を見詰めるイザベラ様……その覚悟が有れば、頂いちゃって良いんですか?

 

「ははははは……大変有り難いお言葉ですが、考えさせて下さい」

 

 笑って誤魔化す。一瞬、それでも良いかな?って考えてしまった。

 

「その気になったら、何時でも言いなよ。ツアイツとなら一緒になっても良いからさ」

 

 綺麗な笑顔で言われてしまった。

 

「えっ……その……」

 

「今は、そんな事よりレコンキスタをどうするかだよ!さぁ治療するから、服を脱ぎなよ」

 

 ポンポンと布団を叩いて促される。見ればメイドさん達が、水の秘薬や替えの包帯を用意して待っている……

 

「あっすいません。お願いします」

 

 前回よりも、幾分マトモに包帯を巻いて貰った。

 

「眠気覚ましにお茶でも飲もうかね?」

 

 時刻は夕暮れ……特注の窓から、夕日が見える。イザベラ様は……僕の事をどう思っているのかな?

 端から見れば、可愛いアプローチだ。僕だって彼女からの好意なら喜んで受けたい。

 これからレコンキスタを始末したら、ロマリアと共に戦う仲間でもあるし僕は彼女の魅力を……イザベラ様を愛おしいと思ってしまっている。

 夕日色に顔を染める、この小さな……それでいて有能で何時も僕が困らせてしまっている姫が欲しい。

 しかし、先ずはレコンキスタ……オリヴァー・クロムウェルを倒し、ジョゼフ王の試練を達成しよう。

 

 彼女はガリアの王女。それなりの功績が無ければ、結ばれる事など有り得ない。

 

「イザベラ様……」

 

 思わず名前を呼んでしまう。

 

「ん、何だい?」

 

 彼女は、見ていた夕日から此方に視線を向けてくれる。

 

「レコンキスタを倒して、ジョゼフ王の試練を達成したら……聞いて欲しい話が有るのですが……」

 

「ん?何だい、改まって……良いよ。ツアイツのお願いなら、聞いてやるよ」

 

 貴女が欲しい……この願いでも聞いてくれますか?

 

 

 

 プリンセス・イザベラ艦橋

 

 

 イザベラ様と約束をしてから、一夜明けた。いよいよ前方にアルビオン大陸が見えた。

 

「いよいよですな。ツアイツ殿、準備は良いですか?」

 

 クラヴィル殿から念を押される。

 

「問題有りませんよ。では、カステルモール殿。お願いします」

 

「お任せ下さい。イザベラ様、宜しいですか?」

 

 イザベラ様は、不敵な笑みを浮かべている。

 

「この作戦は消化試合みたいな物さ。我らの勝ちは既に決まっている。ツアイツ、だから無理はしちゃいけないよ。

これはウェールズ皇太子宛ての親書だよ。これを読めば、今回のガリア参入の件も怪しまれないから……」

 

 何処までも、先を考えられる姫様だ。僕が行って説明すれば良いかな?って思ってたけど、親書が有れば確実だ。

 

「有難う御座います。王党派に接触出来れば、一度カステルモール殿は戻って貰います。それで宜しいですか?」

 

 イザベラ様とカステルモール殿が頷く。

 

「さぁ、お前ら気合いを入れな!我らの力を見せ付けるよ」

 

 イザベラ様の号令で作戦がスタートする……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれから幾度かの小競り合いが有ったが被害は少ない。お互い消耗戦だが、こちらは防衛側。被害は軽微だが、回復と補給が心配だ……

 

「ウェールズ様!今、ツアイツ殿が到着しましたぞ」

 

 バリーが待ちに待った報告をしてくれた。

 

「おお、ツアイツ殿が!それで?」

 

 バリーは興奮している。

 

「なんと!ツアイツ殿は、ガリアからの増援を大型戦艦とガリアの竜騎士団団長を……」

 

 ガリアから両用艦隊の大型戦艦だと?

 

「ははははは……バリー、毎回驚かされるなツアイツ殿には。直ぐに会おう、心の友に」

 

 ゲルマニアからの応援の要請だけでは無かったのか?まさかイザベラ姫から、我らの為に兵を借り入れてくれたのか……

 兎に角、この戦況を打開するには嬉しい知らせだ!

 

 館の外に出れば、ツアイツ殿が何処に居るのかなど直ぐに分かった。あの人溜まりの中か!彼を歓迎する人達の輪に私も加わる。

 

「ツアイツ殿、いや心の友よ!歓迎する。さぁツアイツ殿はお疲れだ!今夜は歓迎の宴を開くぞ!しかし今は落ち着いてくれ」

 

 彼の両手を掴み、ガッチリと握手をする。

 

「ウェールズ様、お久し振りです。お元気そうで何より」

 

 隣の武人が竜騎士団団長のカステルモール殿か……

 

「カステルモール殿もガリアからご足労頂き感謝する」

 

 此方ともガッチリ握手をする。そして、後ろの風竜を見上げる。

 

「見事な風竜ですね?浮遊大陸アルビオンでも、これだけの風竜は珍しい」

 

 ブリュンヒルデが、軽く頭を下げる。人語、理解してるのかな?

 

「さぁ立ち話も何ですから屋敷の方に……皆も持ち場に戻れ!歓迎会は今晩盛大に執り行なうぞ」ウェールズ皇太子がその場を纏め、漸く屋敷内に入る。

 

 さぁレコンキスタよ。強力な助っ人が此方には来たぞ!これからが本番だ。

 

 我らの国から、このアルビオン大陸から叩き出してやる!

 

 

 

第168話

 

 

 サウスゴータの領主の屋敷を徴用しているのか、街の高台に有る一番大きなお屋敷に通される。

 元々は応接室だったのだろうか?豪奢な室内に似つかわしくない見取り図や地図に兵の配置が書き殴って有る。

 

 ソファーを退かし大き目の机と椅子……向かいには、ウェールズ皇太子に侍従のバリーさん。

 

 それと知らない貴族が何人か……此方は僕とカステルモール殿。ウェールズ皇太子から現状を説明される。

 

「ツアイツ殿、遠路はるばるアルビオンまで来て貰い感謝する。先ずは此方の現状を説明させて欲しい……」

 

 戦況はイザベラ様の調査通りだ。

 

「分かりました。実は少し離れた所に両用艦隊の大型戦艦を待機させてるので、サウスゴータに乗り入れて宜しいですか?

その……ガリア王国のイザベラ姫も乗っておりまして」

 

 サラリと実はイザベラ様も来ています!と告白しました。あっウェールズ皇太子他、皆さん固まった?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なっ何だと?ガリアの王位継承権第一位のイザベラ姫を同行させるとは……ツアイツ殿とイザベラ姫とは、やはり噂通りなのか?

 

「ツアイツ殿、この様な最前線に女性同伴は……それとも何か他に意味が有るのですか?」

 

 まさか婚前旅行では有るまい?いや既成事実作りか?

 

「いえ……ガリアのイザベラ姫ではなく、ツンデレプリンセスとして応援にと。隠密にですが……」

 

「イザベラ姫の……ツンデレプリンセスの人気は、アルビオン国内でも高い。

我が父上も、彼女のフィギュアを揃えています。しかし……ツンデレプリンセスとして来たと言う事は、当然……」

 

「ええ、演説なりをするのでしょう。僕も激励を皆さんの前でしたいですし……兎に角、待たせてますから呼んで良いでしょうか?」

 

 そうだった。後方に待機しているんだった。

 

「ウェールズ・デューダーの名の下に、受け入れを許可します」

 

 ここは、ツアイツ殿へのお礼を兼ねて我が名の下にイザベラ姫を公式に招待しよう。

 何れツアイツ殿とイザベラ姫が共に旅をした証明は、我が名において認める。

 

「ツアイツ殿、これからが大変かもしれないが全力で応援させて貰うよ」

 

 彼の肩を叩き激励する。

 

「ちょ?応援は僕の方が……」

 

 心の友よ。同じ姫でも羨ましいぞ。

 

「カステルモール殿、イザベラ姫に受け入れ了承の旨を伝えて下さい。

さぁイザベラ姫を迎える為にレコンキスタを牽制するぞ!空軍よ気張れ!ツンデレプリンセスが来てくれるのだ」

 

 さぁこれからが本番だ!レコンキスタよ、このアルビオン大陸から叩き出してやる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 前方に城塞都市サウスゴータが見える。散発的にレコンキスタが攻撃してくるが、艦砲射撃で黙らせる。

 

「カステルモール、このままレコンキスタを潰せそうだね!ふはははは……人がまるでゴミの様だよ!」

 

「イザベラ様、まるで悪人ですよ。何て言うか……大佐?」

 

 カステルモールが言い難そうに、訳の分からないセリフを言うね。

 

「私は軍籍は無いし、普通なら総司令官じゃないのかい?」

 

「いえ……何となく、目にはご注意を」

 

「…………?まぁ良いよ、しかしウェールズ皇太子も律儀だね。直援の風竜を回してくれるとはさ!」

 

 周囲をアルビオン空軍所属の風竜が旋回し、近づくレコンキスタ側の風竜を寄せ付けない。

 両用艦隊旗艦プリンセス・イザベラ号は、悠々とサウスゴータに侵入した!

 序でにレコンキスタ側の傭兵にダメージを与えながら……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 何故だろう?ウェールズ皇太子を応援に来たのに、彼から応援するからと言われたのは……ジョゼフに課せられた試練を知ってる?

 

 まさかね……

 

 侵入してきた船を見上げる。うんデカい!アルビオン空軍旗艦のロイヤル・ソヴリンと、どっちがデカいかな?

 暫く見詰めていると、タラップに蒼い髪の少女が現れる。周りからは、凄い歓声だ!

 

 流石は、ハルケギニアで初めてのアイドル。

 

 しかし、イザベラ様は周りをキョロキョロと何かを探すように見ている……目が合った瞬間、イザベラ様が凄い笑顔で手招きをしている。

 

 何か有ったのかな?フライで近くまで行くか。

 

 彼女の傍に降り立つと「ツアイツ、私はフライが苦手だから……はい!」っと手を出された。

 

「…………はい?」

 

「ニブいね!抱っこしてウェールズ皇太子の所に運びな。私に触れられるのは、基本的にツアイツしか居ないんだから……ほらほら、早くしなよ」

 

 訳が分からないが、イザベラ様をお姫様抱っこしてフライで降りる。彼女を抱いた瞬間に、先程よりも凄い歓声!

 

 何かヤバい予感が……

 

 彼女は真っ赤になって、僕の首に両手を回して俯いている。高い所は平気な筈でしたよね?フライで慎重に飛んで、イザベラ様を丁寧に降ろす。

 

「イザベラ様、着きましたよ。もしかして、気分でも悪いのですか?」

 

 船酔いでもしたのかな?

 

「ああ、ツアイツ有難う!久し振りですね、ウェールズ殿。園遊会以来か?

今回はツアイツとお忍びで来たんだが、ツンデレプリンセスとして協力してあげるよ。感謝するんだね」

 

 パッと顔を上げて僕の手を抱きかかえながら、淀みなく話すけど……すげーフランクだ!

 

「あっああ……イザベラ姫殿下、久し振りですね。

この度は我ら王党派の為にわざわざ来て頂き感謝します。その……ツアイツ殿とは仲が宜しいのですね?」

 

 何故、敬語なんだウェールズ皇太子?

 

「ん、ああそうだよ!私達はゴエツドウシュウだからね。少し休んだら、これからの方針を打合せしようか?」

 

「ゴエツドウシュウ?何ですか、それは?」

 

 イザベラ様は答えず、さっさと屋敷の方へ歩いて行く……

 

「ほら、早く来なよ!ツアイツも一緒にさ、ほらほら」

 

 慌ててバリーさんが先導している。

 

「イザベラ様……何てフリーダムなんだ!ウェールズ殿、すみません。悪気は無いんです」

 

「はははっ!可愛いではないですか。ツアイツ殿が羨ましいですよ。戦場まで着いて来てくれるなんて……」

 

 ウェールズ殿は、何故か煤けて見えた……アンリエッタ姫の相手は大変なんだろうな。

 

 

 

第169話

 

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 高所の為か夏でも過ごし易い、ここサウスゴータの領主館の一室で対レコンキスタ会議を行っています。

 本来ならば、ゲルマニアの一貴族の跡取り息子でしかない僕が出る類の会議ではないのですが……イザベラ姫の隣で参加しています。

 

 流れ的には、我らが増援として来たので一気に本体を叩く!レコンキスタは、約五万の兵力を三カ所に配置しています。

 

 東側に本隊三万、北側に一万。そして南側に一万。東側は、平地に整然と兵を展開させている。本隊で有り、それなりに統率されている。

 

 上空には空中船が3隻。戦列艦クラスで移動力は低いが、側面に艦砲を多数搭載している。

 

 そしてレコンキスタ側のメイジの殆どが此処に配置されている。小者が自分の周りに強者を集めたがる典型だね。

 

 北側と南側は条件は同じだ。平地に兵を展開しているが、統率は悪い。ただ密集しているだけ……しかし、城からの砲撃の範囲外に居る。

 これは完全に陽動で有るが、我々も兵を分散しなければならない。

 西側は大軍を展開出来ない地形の関係と、王都ロンデイニウムとも繋がっている為に少数の偵察部隊だけだ。

 切り立った岩山に挟まれた道に兵を展開しても、最悪挟撃されたら逃げ場が無いんです。アルビオン王党派は、ロイヤル・ゾヴリンとプリンセス・イザベラの両船艦を全面に押し出して総力戦を提案した。

 寄せ集め軍など、頭を潰せば霧散する……でも残党兵が二万、国内に散らばるんだけど。

 

「ここは一気に攻め滅ぼしましょう!」

 

 王党派のモブ将軍が叫ぶ!

 

「もう我慢の限界だ。ここで一気に形勢を逆転させ、オリヴァー・クロムウェルを叩く」

 

 主戦派が有利かな?ウェールズ皇太子は、腕を組んで考えている。

 

「イザベラ様、どう思います?」

 

「コイツら平民を大切にしてる筈だよね?」

 

「そうですが……逃げ場の無い浮遊大陸で敗残兵が二万人ですよ」

 

「まぁ及第点では有るけど……ここは北側と南側を同時に攻めて殲滅。そして本隊にだよ。北側と南側を殲滅されて尚、兵を分けるなら馬鹿だ!

しかし、ゴミ虫の如く湧き出す傭兵が集まれば同じ展開だね」

 

「僕も同感です。北と南は少数の精鋭を送って殲滅。その連絡が行って動揺した本隊を主力が攻める。北と南の戦力は、そのまま敵本隊に進軍。どうですか?」

 

「良いね。それでこそツアイツだ!しかし我々は客将だからね……発言は難しいか」

 

 コソコソとイザベラ様と話す。考え方は僕と同じだ。

 

 補足すれば、一方をシェフィールドさん無双。もう一方を僕とカステルモール殿とイザベラ隊。僕は密集した敵への手立てを持っている。

 具体的に言えば、ゴーレムの専用黒色火薬アックスの大量投擲だ!残敵掃討用に各二千人位の陸上兵力を補助として付ければ問題無い。

 

 シェフィールドさんは……多分、本当の意味で殲滅させるだろうけど。

 

「なる程、確かに戦力が纏まった今ならば反攻作戦も可能だな……イザベラ姫、ツアイツ殿。何か意見は有るかな?」

 

 ウェールズ皇太子が話を振ってくれた。

 

「我々は応援だ。だから、余り作戦立案に深く関わり合うつもりはないんだけどね……確かに戦力が纏まったんだ。反攻作戦で本隊を潰すのは常套手段だね。

しかし、北と南に別れた傭兵が敗残兵としてアルビオン全土に散らばるよ。アルビオンは浮遊大陸で逃げ場が無い。そいつ等の始末は大変だろうね?」

 

 浮かれ過ぎていたのか、皆さん周りを見渡していますね。

 

「確かに、タガの外れた傭兵など強盗に早変わりだ。しかし三方同時対応は難しい。中途半端に攻めても、サウスゴータ本体に攻めいられたら……」

 

 確かに心配はそこだ。どれかを殲滅しようとして兵を集めれば、残りが手薄な部分に攻城戦を仕掛けてくる。数が多いから出来るんだ。

 

「そこは、我々を上手く使って貰えれば良いかと」

 

 会話に割り込む。

 

「上手く使えとは?」

 

「北と南の敵軍、合計二万……我々だけでどうにかしましょう。後詰めに二千人づつ配置してくれれば、残敵掃討はお任せしますから……後は、敵本隊をウェールズ殿の率いる主力軍が攻めれば宜しいかと」

 

 皆が黙り込む……

 

「失礼ながら、大型戦艦も居ますから片方は何とかなると思うが……同時進攻ともなると、戦力が乏しくはないか?」

 

 戦艦一隻、竜騎士30人だからかな?モブな将軍から批評された。

 

「お姉ちゃん、居る?」

 

 声を掛けると空間が歪み、ゆらりとシェフィールドさんが現れた。僕の後ろに立ち、首を両手で抱きかかえる。

 

「北と南……どっちが良いかな?」

 

 多分話を聞いていただろうから、端的に質問する。

 

「お姉ちゃん、北で良いわよ。本当は東側を殲滅したいけど……我慢してあげるわ」

 

 まるで二万程度の傭兵など、大した事は無いと言わんばかりだ!

 

「ツアイツ殿、その巨乳美女は誰だい?君はイザベラ姫と……アレなのに、何故また巨乳なんだい?」

 

 若干の恨み節を感じました。

 

「ある人から派遣されている僕の護衛です。国家間紛争に介入している僕の護衛……

つまりは国家の軍隊と渡り合える力を持った人。トリステインの烈風のカリンが互角と評した人ですよ……」

 

 烈風のカリン!生きる非常識に認められた女性か。ニコリと微笑む彼女からは想像がつかないだろう。

 

「しかし……」

 

 んー渋るなぁ。ならば、もう一つ手を打つかな。

 

「時に、トリステイン王国ですが……アンリエッタ姫の手腕により腐敗貴族を一掃!

現在、アルビオンに増援を送る為にタルブ伯領に前線基地を構築しているとか。ダータルネスが第一目標かな?彼処を押さえれば、レコンキスタは挟撃される」

 

 この情報には皆さん驚き、喜んだ。ウェールズ殿も……貴方にはヤバいんですよ!

 

「アンリエッタ姫……ウェールズ皇太子にご執心とか?くくくっ、それはもう手柄が欲しくて奴らの本隊に後ろから食いつくだろうね……

もしアンリエッタ姫が活躍して勝ったら、何を望むのかねぇ?」

 

 イザベラ様に良い所を取られてしまった!

 

「ツアイツ殿!これは偽りなき私の気持ちだが……私はアンリエッタ姫が苦手なのだよ。

彼女が、有る事無い事吹き込んでいるかも知れない。しかし私は、アレと結婚したくないのだ!嫌なんだ!」

 

 ウェールズ皇太子の魂の叫びが会議室に響き渡った!

 



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第170話から第172話

第170話

 

 対レコンキスタ会議!

 

 ウェールズ皇太子のぶっちゃけトークに皆が固まった……そんなに嫌なんだと!

 

「私は、私の覚醒した漢のカンを信じる。アンリエッタ姫は……このアルビオン王国にとって厄災でしかない。

言い過ぎかも知れないし、ツアイツ殿はアンリエッタ姫とも友誼を結んでいるのかも知れないが……」

 

 しどろもどろに、脂汗を滲ませながらウェールズ皇太子は独白する。

 

「「なら、益々トリステイン王国軍の来る前にレコンキスタを倒さないと、駄目じゃないですか(だろう)」」

 

 見事にイザベラ様とハモる!

 

「トリステイン王国軍には、烈風のカリンも参戦しているよ。

後方から彼女が1人ででも不意を突けば、レコンキスタ軍本隊は崩壊するかも知れないね。どうする?

レコンキスタ本隊の壊滅……この大恩をもって、婚姻外交をアンリエッタ姫が望んだら?

アンタ、その要求を跳ね返せるかい?」

 

 ニヤニヤしながら、イザベラ様がウェールズ皇太子を追い詰める。周りの家臣達も状況を考えているのか、溜め息や首を振ったりしている。まぁ無理だろうね?

 国を救った聖女の要求だし、ウェールズ殿の気持ちを考えなければ、悪い事では無いと思う人が多い。実際に婚姻してしまうと、皆さんが大変だけど……

 

「ウェールズ様、ここは我らに任せて下さい。僕自身もアンリエッタ姫に狙われる身。

互いの為に、ここは一つ……それに、あくまでも我々は王党派の補助。決戦は皆さんが行うのですから!」

 

 イザベラ様と交互に攻められてウェールズ皇太子の気持ちもぐらついているのだろう……

 しかし煮え切らない態度に、イザベラ様が不機嫌になっていく。

 

 指でテーブルをコンコンと叩き出した……ああ、イライラしているんだな。

 

「男だろ!シャキッとしな。アンリエッタ姫との婚姻を断りたいならさ!それとも何かい?実はアンリエッタ姫を気に入ってるのかい?」

 

 そしてキレた!

 

 まぁまぁとイザベラ様の肩に手を置いて宥める。しかし、この「渇!」が駄目押しになったのだろう。ウェールズ様が立ち上がった!

 

「ツアイツ殿、イザベラ姫……私も腹を括りましょう。皆も良いな?ここは彼らの提案を受け入れる。この一戦にアルビオンの未来を賭けるぞ!」

 

「「「分かりました!」」」

 

 話が決まれば行動は早い!

 

「しかし、その前に歓迎の宴を催そう!我らが心の友と、その……なんだ、えーと……」

 

 チラチラと此方を見ながら、何かを言い掛けている。

 

「何だい?言い難くそうに。一国の皇太子だろう?シャンとしな」

 

 彼女の肩に置いた手を凝視しているな。

 

「イザベラ姫とツアイツ殿は、その……アレな関係何ですか?」

 

 アレ?何だろう?

 

「ごえつどうしゅうな関係さ!」

 

 イザベラ様は呉越同舟が凄く気に入ってるみたいだ!立場の違う者が同じ環境下で協力する……確かに間違ってはいないけどね。

 何故か違う意味で捉えている気がするんだけど。ウェールズ殿も何だか分からない顔をしているし……

 

「イザベラ姫、ごえつどうしゅうとは何なのですか?聞いた事が有りませんが……」

 

「ああ、ウェールズ殿それはですね」

 

「ずっと一緒って事だよ!

さぁさぁ詳細はあんた等で決めなよ。正面決戦は王党派で勝たなければ意味は無いんだ。乗ってきた戦艦は貸してやるからさ!

周りが気にならなくなれば正面に集中出来て簡単だろ?じゃツアイツ、邪魔だから私達は部屋に戻ろうか」

 

 何か凄い事をサラッと言われた様な?皆さん固まってるし。

 

「そっそれは、おめでたい事ですね。後の打合せは我らで進めておきますので、2人でお部屋でお休み下さい。

そうでしたか……お二方が!」

 

「やはりツンデレプリンセスはツアイツ殿と……なる程、婚前旅行か」

 

「流石は巨乳派教祖はやる事が違いますな!」

 

 なっなっ何言ってるんですか!

 

「イザベラ様、ご冗談を……周りが本気にしますって!いや笑ってないで……」

 

 本当に楽しそうに笑って部屋を出て行こうとするので慌てて追いかける。

 

「流石の教祖もツンデレプリンセスには勝てないのか……」

 

「既に尻に敷かれていますな……」

 

「同じ姫でも、アレくらい有能で健気で可愛げが有れば……はぁ、彼方が羨ましい」

 

 とか、言いたい放題言われてしまってる?

 

 追いついて問い質せば「良いだろ?別に間違ってはいないんだから。それとも違うのかい?私とは一緒に居たくないとか言わないよね?」と笑顔で言われてしまったよ。

 

 ああ、確信犯だ。そして外堀が埋まっていくのを実感する。僕が彼女に告白する前に、多分状況は固まっているんだろう……

 この辺の遣り取りは上手いんだよな。

 取り敢えずイザベラ様の部屋で話しながら歓迎の宴を待つ……

 

 イザベラ様付のメイドさん達は気配が読めない。座れば直ぐに紅茶の用意がされているし……

 

「どう思う?発破を掛けたけど、あいつ等トリステイン王国軍より先に倒せるかね?」

 

 スッとお茶請けの焼き菓子が出される。

 

「大丈夫ですよ。我々は負けませんし……ヤバいなら側面からレコンキスタ本隊に攻撃を加えますから」

 

 ポリポリと焼き菓子を頂く。

 

「タイミングだが……トリステイン王国軍がダータルネスを墜とすまでは様子見だね。

出来れば彼らに逃走する傭兵の相手を押し付けたい。散らばって逃げ出すゴミ虫の処理は面倒だからね」

 

 イザベラ様も優雅……では無いが、焼き菓子を食べながら喋ってもサマになっている。やはり血筋かね?

 

「その辺の情報……タイミング良く分かりますか?」

 

「大丈夫だよ。彼女達の使い魔の鳥達は情報収集に役立つ。タイミングはバッチリさ!」

 

 えっ彼女達ってメイジだったの?

 

「メイドさんで有り、護衛も兼ねているんですね?流石ですね。ただ者では無いと思ってましたが……」

 

 もしかしたら、僕よりも強いのかも知れない。ニコニコと佇む彼女達に、一抹の恐怖を覚えた……

 

 

 

第171話

 

 

 遂にレコンキスタとの直接対決だ!

 

 トリステイン王国軍が、ダータルネスを占領しサウスゴータに向けて進軍と同時に此方も作戦開始。

 極力、傭兵共々一網打尽にする。敗軍の傭兵など、何をするかも分からないから……

 

 おはようございます、ツアイツです!

 

 昨夜の歓迎の宴は大変でした。

 暫くレコンキスタ軍と睨み合い緊張を強いられていた皆さんに、明るい話題を提供した為か……羽目を外して騒ぎ捲る事!

 何人もの連中が二日酔いでのた打ち回っているでしょう。

 

 僕は傷に響くから!と、イザベラ様が頑として酒を呑ませてくれなかったので平気ですが……

 

 イザベラ様も呑んでいなかったな。あんなにお酒が好きだったのに?不思議に思って聞いたけど教えてくれなかった。

 後でメイドさんから、僕の怪我が完治するまで禁酒していると聞いて驚いたんだ。

 怪我が完治したら一緒に呑みましょう!と誘っておきました。

 

「アレだよ!アイスワイン、アレが呑みたいね」

 

 無邪気に喜ぶ彼女のご希望はアイスワインか……極上品を仕入れておこう。

 

 翌日、中庭には人が溢れていた。既に僕らが来た事は広まっている。

 

 ウェールズ殿が、戦意高揚に一発演説をカマそう!

 

 そんな発案で始まったこの演説ですが……僕の予想以上にアイドルイザベラは凄かった。

 民衆の一角に異様な一団が……ハッピ?ハチマキ?公式ファンクラブは黒色のマントで統一していたが、彼らは原色だ。

 

 最初にウェールズ殿が演説をする。流石に慣れてるなー!

 

 

「諸君!遂に、遂に我らの反攻作戦が始まる。

これにより長かった、この戦いも終わるだろう。勿論、勝のは我々だ!

もはやレコンキスタなと風前の灯火……彼らに未来などは無い!

そして、更に我らの勝ちを決定的にする者。なんと我が心の友が、この戦場に来てくれた!

彼は、ガリアからも有志を募りゲルマニアからの援軍も約束してくれた。だが我々は、未だに彼の期待に答えていない。

何故だ?それは戦えば勝つのは分かっていたが民の犠牲が大きかったからだ!

しかし、今は違う。何の憂いもなく、レコンキスタに正義の鉄槌を下すのだ!」

 

「「「うぉー!」」」

 

 民衆は爆発した。誰も、この勝利を疑っていないのが分かる。

 

 次は僕か……この演説の後は嫌だなぁ……ウェールズ殿が僕を手招きする。壇上に進んでいく。

 昔、この光景を夢で見た。あの時は、どこぞの皇帝張りにオッパイについて語ったが……

 

 今回は真面目に行こう。皆が僕を見詰めている。深呼吸をしてから話し掛ける。

 

「貴方達、アルビオンの軍は、このアルビオン大陸と其処に生活する人々を守る為に存在している。

しかし従来の軍とは、勝利を最大の目標として敵を倒せるならば……

本来守るべき人々に危害を加えても構わないという。なんて本末転倒な話だ。しかし貴方達は違う!

今回の戦争とは……

オリヴァー・クロムウエルの、1人のブリミル教の司教が起こした全く迷惑な争いだ!

住む街を奪われ、家を壊され、大切な人を失った方も居るかもしれません。だからこそ、思って欲しい。

彼らは何故、その命を散らさなければならなかったのか?見据えて欲しい。

此処に集まる我々が、今何と立ち向かうべきなのか?この戦いは地位や名誉の為の戦いでも有るでしょう!

しかし私は言いたい。

このアルビオン大陸に生きる人々を。愛する者を守るため。皆の力を一つに纏めて、レコンキスタに挑む皆の戦いです。

立ちはだかるのは、五万の敵です。それでも、この国を守る為に、立ち上がった皆さんには心より感謝しています。

しかし戦いは苛烈を極めるでしょう。

戦えない人達は、いつか必ずこのアルビオン大陸の上で会いましょう!」

 

 話し終えて、皆を見渡す。やべっオッパイ教祖らしからぬ演説で外したかな?

 其処へスッとイザベラ様が僕の隣に並び、腕を組んで民衆に話し掛ける。

 

「ツアイツが、このオッパイ大好きの変態が難しい事を言ったけどね。彼はアンタ等の事を凄いと言っていた。

民衆を大切にする軍隊。女性に優しい国民。王家だって従来なら有り得ない対応だ。

ガリアの王女たる私が言うんだ、間違いは無い。

だからツアイツはレコンキスタの刺客に、本来なら重症で絶対安静なのに……

この馬鹿は、あんた達の為にゲルマニアとトリステインに援軍を呼び掛け、既に援軍は準備されているよ。

そして、私の所にも来たんだよ。

 

誇りに思いな!

 

この私の大切なド変態に凄いと言わせた事を。

 

気張りな!

 

この戦いは既に勝ち戦さね。後は如何に完璧に勝つかだけだ!北と南の軍勢は、私らが責任を持って潰してやる。

 

前だけ見ろ!

 

レコンキスタ本隊を潰す事だけを考えな。既に約束された勝利は……直ぐに掴めるんだよ!」

 

 そう言って僕に抱き付いた。ああ、男2人の演説はイザベラ様に喰われてしまった!

 民衆はイザベラ様を称えている。特に、あの原色の一団などオタ芸まで披露している……

 

「何て顔してるんだい?アンタはオッパイ・オッパイ言ってないと駄目なんだよ。

急に真面目ぶっても皆が知ってるんだ。ツアイツの凄い所は私が全て知っているから。それで良いだろ?」

 

 こう言われては何も言い返せない、ウェールズ殿が最後に演説を締める。

 

「ガリアのイザベラ王女とゲルマニアのツアイツ殿に感謝をしなければな。

皆、聞いたな?彼らの為にも、我らの為にもレコンキスタに勝つ!

そして、この勝利を2人に捧げよう。身分の違う2人が幸せになれる様に!

序でに私は、アンリエッタ姫との婚姻は望んでいないからな。

誤解無き様に……この戦いが終わったら、私も自らの手で伴侶を探すつもりだ!」

 

 最後に、ウェールズ殿の本音を国民にまでぶちまけて終わった……ウェールズ殿、そんなにアンリエッタ姫は嫌なんですか?

 僕も散々、アンリエッタ姫に貴方と結ばれる方法を教えたのですが……もう我々には必要ないですね。

 

 私もウェールズ殿が気に入る様な、お淑やかな巨乳美人を探しますよ。カトレア様とか、条件的には完璧なんだけどね。

 

 僕の覚醒した漢のカンが、彼女を早く誰かに嫁がせろ!って囁くんですよ。

 

 

 

第172話

 

 

 城塞都市サウスゴータ。

 

 南側の城壁に登りレコンキスタの軍勢を見る……一万弱。傭兵主体の軍勢だ。

 北側にはシェフィールドさんが単身敵と向き合っている筈だ。

 

 イザベラ様のメイドさんの使い魔がトリステイン王国軍がダータルネスを制圧し、軍を整えてサウスゴータに進軍を始めたと報告。

 到着は、3日後の朝辺りだろうか……

 

「どうしたんだい?らしくないじゃないか……そんな緊張した顔をするなんてさ」

 

 並んで立っているイザベラ様が、僕の顔を覗き込んでからかう様に言う。

 

「らしくないですか?これから戦争するんですから緊張もしますよ。まぁ負けるつもりはありませんが」

 

 ニッコリと笑いかける。内心は何千という傭兵……人間を殺めようとしているから緊張しているんだ。

 この世界に転生し魔法と言う非常識な物を知り、領地で盗賊などを討伐しているから……気持ちの整理は済んでいる。

 

「さて……これが、僕の謀の結果だ。この戦いを勝ち抜いてジョゼフ王に会うんだ」

 

「そうだね。2人でお父様に会おうか……まさかアンタと、こうなるなんて不思議だよね」

 

 そう言って手を握る。

 

「イザベラ様……僕は……」

 

 北側から物凄い破壊音が鳴り響いた!

 

「ああ、あの女派手にやってるねぇ……ここからでも火柱が見えるよ。さぁ、こっちも始めようかね」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漸くレコンキスタを潰す事が出来る。この戦いが終われば、ツアイツを我が主の下に連れて行って……

 ジョゼフ様の記憶から、シャルルを抜き取り私とのストロベリる記憶を焼き付ければ完了ね。

 

 もはや、この眼下のゴミは要らないの……だから燃やすわ。この火石の力で!

 

「凪払ってあげるわ!」

 

 そう言って、上質の火石の力を前方に向けて解放する、解放する、解放する。

 

「ふははははぁ……私とツアイツと主の幸せの為に燃え尽きろー!」

 

 気がつけば、周り一面の焼け野原だったわ。後ろに配していた、アルビオン王党派の兵達が遠巻きに此方を伺っているわね。

 

 全く、嫌な視線だわ。

 

「こっちはお終いよ。私は南側に行くから……後始末は任せたわ」

 

 最早この国には用が無い。ツアイツが心配だから、南側に急がないと……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「なぁ……」

 

 茫然と南側へ飛んでいく黒い魔女を見送る。

 

「ああ、世界は広いな……あんな規格外の人間が居るとは」

 

 視線は問い掛けた彼と同じ方向を茫然と見ている。

 

「烈風のカリン殿も、同レベルらしいが……このハルケギニアでは、女性に逆らうのは危険だな。あんなの……どうにもならないよな」

 

 あんなのを2人も相手にするレコンキスタに同情するよ。

 

「全くだ。さぁ隊列を整えて東側に進軍しよう。ここには生存者は居ないだろう」

 

 予定通り、本隊の突撃をフォローする為に進軍する。南側も気になるが、彼女が行くならツアイツ殿は安心だから。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 さて、僕も頑張ろう!

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 全長18メートルの金属製ゴーレムが、周りの大地を削りながら錬成されていく。モノアイを光らせて、排気口から排気させる。

 

「「「おおっ!」」」

 

 周りから歓声が上がる!

 

「へーツアイツ、凄いじゃないか!これ程のゴーレムは見た事がないよ。

これが、ジャネットからの報告が有ったヤツか……しかし、敵から随分と離れてないかい?」

 

 確かに、此処から走らせて攻めるのは間抜けだね。

 

「いえ、これからが本番ですよ。錬金、黒色火薬アックス!」

 

 僕のゴーレム専用、全長4メートルの黒色火薬製のアックスを錬金する。

 

「さてと……凪払え、ゴーレム!」

 

 義姉と同じような台詞を吐いて敵を攻撃する。命令されたゴーレムが、黒色火薬アックスを山なりに投擲する……着弾と共に大爆発が起こる。

 

「続けていくぞ!錬金、錬金、れーんーきーんー」

 

 次々と黒色火薬アックスを錬金し、ゴーレムが投擲!レコンキスタ陣営は火だるまだ。

 

「何てエゲツない攻撃なんだい!一方的じゃないか……しかし艦砲よりも攻撃力の高い個人魔法って。ド変態でもスクエアって事かね?」

 

 実際200キログラムの黒色火薬が炸裂してるので破壊力は凄い。

 

「……ツアイツ。もう止めな。敵がチリジリになって逃げ出したよ。おまえ等、追撃しな。1人も逃がすんじゃないよ」

 

 イザベラ様の号令で、カステルモール殿の乗ったブリュンヒルデが突撃!継いで火竜・風竜に乗ったイザベラ隊が敵に突っ込んで行く。

 それと預かっている王党派の歩兵部隊が、生存者の治療と捕縛に向かう。

 

「ツアイツ……本当に強かったんだね」

 

「ただのド変態では、イザベラ様と釣り合わないでしょうから……では、敵の治療と捕縛が終わったら東側に向かいましょう」

 

 幾ら傭兵とは言え相手が悪かったよね。僕の攻撃で半数以下にしたとは言え、ガリアの精鋭軍団を相手に一万程度じゃ適わないだろう。

 準備に時間を掛けて、勝てる迄持って行ったが……始まれば呆気ないね。

 

 まぁ、これだけ準備して苦戦してます!じゃ意味は無いけど。

 

 何千と言う敵が傷付いているのだが、イザベラ様も僕も罪悪感は無い。敵対するなら、殺るならば……やられる覚悟も出来ているのだかから。

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今まで守勢だった連中が、初めて攻撃してきた。

 

 報告を聞かなくても分かる……北側に配置した傭兵達の野営地から轟音と火柱が上がっている。

 

「あっ悪魔の劫火だ……アルビオン王党派には、悪魔が居るのか?」

 

 この漏らした一言に周りが動揺する。

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!敵には異教徒の悪魔が居るのですか?」

 

 この連中は、ブリミル教の狂信的な信者連中だ。

 

「悪魔を倒しましょう!異教徒はハルケギニアに居てはならないのです」

 

「そうだ!奴らは皆殺しだ」

 

 攻撃論が出始め、今から北側に兵士を差し向けようとした時……南側からも爆音が聞こえた!

 

「なっ?二方向からだと!」

 

 此方は、火柱こそ見えないが爆音とモウモウと立ち上る黒煙が幾筋も見える。

 

「悪魔が2人も居るのか……何故だ!何故、今まで守勢だったのだ」

 

 今までの有利な状況が一変した。二万の傭兵を瞬殺出来るなら、この本隊三万に勝てない訳が無い。

 

「皆、落ち着くんだ。体制を立て直す為にダータルネス迄、一旦撤退するぞ!」

 

 こんな悪魔に勝てるか!もっと沢山の傭兵を使い捨ての盾を雇い入れてから、攻め滅ぼしてやる。今は逃げるのが先だ!

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!王党派軍が動き出しました。大型戦艦が二隻!ロイヤル・ソヴリンと未確認の戦艦です」

 

 どうやら最後の戦いになりそうだ……

 



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第173話から第175話

第173話

 

 遂に最終決戦が始まった!

 

 アルビオン王党派は、ツアイツ達に援護され北側と南側の脅威が無くなった為に、全軍で東側本隊に突撃を開始した。

 先ずは、大型戦艦ロイヤル・ソヴリンとプリンセス・イザベラが進軍。敵空中船三隻に一斉射撃!

 

 元々アルビオン王国とは、空飛ぶ不条理な国。空中戦にこそ、その真価が有り操船技術はハルケギニアで一番だろう。

 

 そんな中で鍛えられ、王党派の旗艦に乗り込む連中だから、プリンセス・イザベラの砲撃が外れ下に展開している連中に被害を与えている中。

 曲射と直射を使い分けて、レコンキスタ陣営の空中船にダメージを与えて行く。

 

 所詮は戦艦と戦列艦……徐々に押し負かして行く。

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!こちらの戦艦が不利です。どうしますか?」

 

「ええい!我が方の火竜や風竜はどうしたのだ?あの戦艦に突撃させろ。それと傭兵共を進軍!

接近させれば、同士討ちを恐れて砲撃出来まい。密集せずに、小隊単位で行動だ」

 

 周りの将軍達が、指示を出す。戦争など門外漢だから分からんが、言ってる事は真っ当だと思う。

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!最悪を考えて、脱出の準備を……ダータルネス迄、お下がり下さい」

 

 この場で一番戦争面で期待していた、アルビオン王国を裏切った伯爵がそう言い出した。名前も思い出せないが、確かに形勢は悪そうだ。

 

「分かった!言う通りにしよう。護衛と馬車の準備を頼む……」

 

 命あっての物種だ!さっさと逃げよう。そう思いながら戦場を見れば、頼みの空中船の一隻が真ん中から爆発して墜落してゆく……

 

 なっ?何か大きな黒い物が、ぶつかった様に見えたぞ!暫く茫然と見詰めてしまう……

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!憎っくきゲルマニアの巨乳教祖。ツアイツ・フォン・ハーナウが現れました!南側から進軍してきます。ですが……」

 

 ヤツが現れただと?

 

「ですが、何だ?報告はハッキリ言え!」

 

 あの餓鬼はここで倒してしまいたい。中々発見出来なかったのは、アルビオン王党派に紛れていたのか?

 飛んで火に入る夏の虫だ!戦争のドサクサで殺してやるわ。

 

「巨大な鋼鉄製のゴーレムを操り、進軍してきます。ヤツのゴーレムから投擲される斧は、目標に当たると爆発します!此方の船もやられました」

 

 馬鹿な……人の魔法で軍艦が墜ちるだと……

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウは悪魔だ!異端認定を私がする。ヤツをヤツを殺せ!

仕留めたヤツには賞金一万エキューと、神聖アルビオン帝国の大将軍にしてやる。ヤツを殺すんだ!」

 

 最早、ここに呑気に居られない。ヤツの最後を確認出来ないが、ここに残るなど出来ようも無い。

 

「将軍ここは任せた!私は、此からの事も考えて一旦ダータルネスまで戻るぞ。時間を稼いでくれ!」

 

 悪魔め……やはりアイツは悪魔だ。新しい宗教を立ち上げた事にして異端審問にかけてやる。

 そうこう言ってる内に、もう一隻の戦列艦もやられた。最後の船も、黒煙を上げているし時間の問題だ。

 

「盟主オリヴァー・クロムウェル!馬車の準備が出来ました」

 

 やっと準備出来たか!もう駄目だ。ロマリアまで逃げよう。

 

「嗚呼、最後の戦列艦もやられた!盟主、早く乗って下さい」

 

 頼りの戦列艦は全て沈んだ。残りは地上戦力のみだ。これは逃げ出した方が良いだろう。傭兵達は動揺している。

 もはや、我がレコンキスタ軍は崩壊一歩手前だ!

 

「逃げるぞ、全力だ。それと軍資金を積んだ馬車も急がせろ。私が居れば何時でもレコンキスタは再生する!急げよ」

 

 馬車に乗り、護衛の騎士団に守られながら逃走……いや戦略的撤退だ!まだまだ死なぬよ。

 

 レコンキスタの盟主オリヴァー・クロムウェルは逃走した!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 旗艦ロイヤル・ソヴリンの艦橋から眼下に広がる地獄を見る……もはやレコンキスタ軍は崩壊した。

 後はオリヴァー・クロムウェルを捕まえるだけだ。

 

「ウェールズ様、敵の戦列艦の全滅を確認。内一隻は、ツアイツ殿のゴーレムにより破壊。これより炸裂弾により地上兵力の攻撃に移ります」

 

「そうか……3回斉射の後、地上戦力を投入。我らは敵の上空を抜けて後方に陣取る。一人も逃がさないつもりでやれ!」

 

 こんな夜盗崩れの傭兵を散らばらせては、国内の治安が悪化する。この時点で少しでも奴らを仕留めなければ……

 

 しかし、ツアイツ殿がこんなに手練れだとは!個人の魔法で戦艦が墜ちるなど考えられん。突き抜けた漢は、何処までも規格外か……

 

「炸裂弾、準備出来ました!」

 

「なるべく密集している所に撃ち込めよ。準備が出来次第、撃ち方始め!」

 

 これで、この戦いも終わりだ。

 

「よし!オリヴァー・クロムウェルを捕まえるか倒した者には賞金を出すぞ。皆、気張れよ!」

 

 バリーが近付いてきた。

 

「ウェールズ様、漸く終わりますな。この呆れた戦いが……」

 

「そうだ!ブリミル教が引き起こした戦いが、漸く終わるのだ。犠牲は大きかったが、国内の膿も出せた。これで我々の新生アルビオン王国は強固になる」

 

 バリーと笑い合う。我らの勝利は確定している。この国の未来は明るいのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 崩壊したレコンキスタ軍を追撃する王党派を見送る。これで北と南の連中は倒した。後は東側の本隊だけだ。

 

「イザベラ様は城壁の中にお戻り下さい。イザベラ隊は彼女の護衛を……

カステルモール殿はブリュルヒルデで僕と共に東側本隊に行きましょう。オリヴァー・クロムウェルの最後を確認したい。

僕が居るのが分かれば、何らかのアクションをしてきます。天敵の僕を目の前にして平静では居られないでしょうから……」

 

 この流れなら勝利は確実。しかし、オリヴァー・クロムウェルは元司教……軍人じゃないから、平気で逃げるだろう。

 差し違えとか、最後迄戦うとかはしない。だから少しでも戦場に残る様に僕がエサになる。

 

「最後まで手を抜かないんだね。良いよ、待ってるからヤツの首を持って戻ってきなよ。めかし込んで出迎えてあげるよ」

 

 レコンキスタに勝つのが、ジョゼフから与えられた試練だから……ここで気を抜かず最後まで攻めてやる!

 

「ええ、ヤツを倒してジョゼフ王に会いにいきましょうか……お姉ちゃん、居る?」

 

 ゆらりと脇に立つ彼女。

 

「ツアイツも上手く行ったのね。じゃ最後に、あのゴミを潰しに行きましょうか?

嗚呼、早く壊して主様の元へ……私のバージンロードは直ぐそこなのね。お姉ちゃん、頑張るわ!」

 

 ヤバい、目がグルグルMAXだ!

 

「おっお姉ちゃん?アルビオン大陸は壊しちゃ駄目だからね?では、カステルモール殿行きましょうか……」

 

 お姉ちゃんが暴走しない様に彼女の手を繋いでブリュルヒルデに乗り込む。ブリュルヒルデが身震いしたけど我慢して下さい。

 

 直ぐに終わるから、我慢してね……

 

 

 

第174話

 

 

 南側の敵を制圧し、東側にブリュルヒルデで移動する。彼女のスピードは素晴らしく直ぐに東側のレコンキスタ軍本隊の近くまで来た。

 

「カステルモール殿、降ろして下さい。再度ゴーレムを錬金し攻撃を仕掛けます。

お姉ちゃん、程々にね。ブリュルヒルデが怯えてるから一緒に降りよう」

 

 勇猛果敢な彼女が怯える程に、ヤンデレ化し始めたシェフィールドさんを降ろそう。

 ブリュルヒルデは僕をチラ見して、恨めしそうに一声鳴いた。ゴメンね、分かってる。もう乗せないから……

 

 敵軍から200メートル程離れた所に着地。素早くゴーレムを錬金する。

 

「クリエイトゴーレム!」

 

 本日二度目の機動な戦士の物語の量産機を錬成!此処でもモノアイを光らせ排気口から排気する。無駄だけど、無駄でないこだわりだ!

 隣を見ればシェフィールドさんが何かを周りにバラ撒いている……

 

「お姉ちゃん、何を撒いたの?」

 

 話し掛ける間にも、それらがムクムクと起き上がってくる……前に貰った牙の骸骨ゴーレム達だ!

 

「ツアイツの護衛よ。ほら、早くあの敵戦艦を墜としなさいな」

 

 お姉ちゃんは50体近いゴーレムを作り出す。

 

「分かった。錬金、黒色火薬ブーメラン!」

 

 今回は飛距離が有るので、アックスで無くブーメランを錬成する。

 

「ゴーレムよ、敵を薙ぎ払え!」

 

 ブーメランをサイドスローで投擲する。てか魔法って金属がゴムの様に伸び縮みするんだけど、この辺適当だよね。

 ゴーレムは金属では有り得ない腰の捻りを見せてブーメランを投擲!

 

「外したか!錬金、錬金、れーんーきーんー!」

 

 三枚のブーメランを錬成しゴーレムに投げさせる。三度目の正直か、三回目に投げたブーメランが見事に敵戦列艦のド真ん中に命中!

 戦列艦は爆散しながら墜落する。それに合わせるかの様に、此方の大型戦艦からの攻撃も当たり、二隻目も墜ちる。

 

 流石に大型戦艦の弾幕って凄いや。一斉射撃で艦の片面の30門位が火を噴く様は圧巻だね……

 

 あっ最後の一隻も墜ちた。

 

 鋼鉄のゴーレム使いで有る僕の情報も知れ渡っていたんだろう。

 此方に物騒なセリフを言いながら突っ込んでくる傭兵達の台詞内容に、キレたお姉ちゃんがソイツ等をぶっ飛ばす!

 今度は風石の力を制御して、前方のみに力を開放……人がゴミの様に飛んでいくんだ。

 

「私のツアイツをブッ殺すとか、ひっ捕まえろとか……空を飛んで反省しなさい、愚か者め!」

 

 ヤンデレMAX状態のお姉ちゃんに手加減は無いです。

 

 僕の賞金に目が眩んだ連中は、文字通り死のフライトを敢行。怖じ気づいた連中が、漸く欲望より命が大切と気付いて逃げ出した!

 

「ふふふ……ツアイツに敵対して逃げれるつもりなんだ?お馬鹿さんね……吹っ飛びなさい」

 

 物騒な台詞の後に手を水平に振ると、風石の力が地上を伝う衝撃波となり逃げる連中を後ろから凪払った。

 

「あー、お姉ちゃん。もうその辺にしてあげて欲しいな。後は、王党派の歩兵と足並みを揃えて進軍しようよ」

 

 シェフィールドさんの手を握り締めてお願いする。お姉ちゃんの目はグルグルの黒眼のままだ。

 

「このまま手を繋いで歩いて行こうよ」

 

 ギュッと力を込めて手を握る。

 

「そうね……ツアイツに暴言吐いた連中は殺し尽くしたから良いわ……さぁオリヴァー・クロムウェルの最後を確認しに行きましょうね」

 

 優しい微笑みと共に仰(おっしゃ)った台詞は物騒この上もない物だった……シェフィールドさんは馬ゴーレムを造り出して2人で乗る。

 徒歩は流石に時間が掛かるからと……僕が前に乗り、後ろからお姉ちゃんが抱き締める様に手綱を捌く。

 

 パカパカとレコンキスタ本隊の方に走って行く。

 

 その前を敵戦列艦を倒した王党派のロイヤル・ソヴリンが地上攻撃を開始していた。炸裂弾かな?三回の一斉射撃の後に、王党派本隊が突撃を開始!

 

「お姉ちゃん……乱戦になるから、僕らは此処までだね」

 

 既に白兵戦に突入している戦場に、中遠距離戦が主体の僕らが行っても効果は薄いだろう。

 それに彼らがオリヴァー・クロムウェルを討たねば駄目だから……

 

「ちっ!あの屑の処理はアルビオンに任せてあげるわ。私の手で始末したかったけどね……」

 

 後ろから優しく抱いてくれているのに、囁く台詞は怖いんだよね。早くジョゼフ王と幸せに結ばれて欲しいな。主に僕の胃の為にも……

 暫く見詰めていれば、漸く追いついた南側攻略部隊の王党派軍が周りを囲んでいた。

 

「ツアイツ殿、我々はどうしますか?」

 

 隊長が聞いてくる。

 

「僕らの役目は此処までです。しかし隊長達は、レコンキスタ軍を追撃して武勲をたてますか?」

 

 そう言うと、暫く考え込んでから「いえ、もう十分です。それに貴方達の常識外れな戦いも見れましたから……予定通りに本隊と合流し、指示を仰ぎます」そう言って綺麗な敬礼をする。

 

 そして整列した歩兵隊を率いて戦場に向かって行った。

 

「お姉ちゃん、サウスゴータに戻ろうか?」

 

「そうね……アルビオン王党派に後は任せましょう。お姉ちゃん疲れたわ。そうだ!一緒にお風呂に入りましょうね」

 

「いや、それは駄目だから!無理だからね、無理!」

 

 何かスッキリしたお姉ちゃんが、冗談を言って僕を困らせる。

 暫くはアルビオンに滞在し、オリヴァー・クロムウェルの最後を確認したら漸くガリアに……ジョゼフ王に会える。

 長かった彼の試練はもう直ぐ終わるのだ。何とか夏休み中で終わるだろうか……

 

 パカパカと馬ゴーレムに乗りながら空を見上げる。

 

 地上三千メートルから見上げる空は、何処までも蒼く澄んでいる。僕は、僕達の帰りを待っている同じ色の髪をもつ少女を思い浮かべる。

 

 イザベラ様……

 

 原作と全然違う少女。彼女となら、これからロマリアとの戦いも勝てる……

 

「痛い!お姉ちゃん痛いよ。もしかして抓った?」

 

「ツアイツ?お姉ちゃんと2人で居る時に、他の女の事を考えていなかったかな?」

 

「違うよ。ジョゼフ王に会ったら何を言おうかなって……本当だよ」

 

 未だに彼女の目は、微ヤンデレだ。どうやって元に戻すかが問題だ!

 

 

 

第175話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 久し振りに、この挨拶で話が始まりました。先日の反攻作戦は大成功!レコンキスタ軍は事実上全滅です。

 今は、アルビオン王党派が逃げている盟主オリヴァー・クロムウェルの捜索をしています。

 あの後、ダータルネス方面に逃げ出したレコンキスタ軍は、トリステイン王国軍と遭遇。元々混乱し敗走していた連中の殆どが捕まりました。

 我らゲルマニアの増援は、アルブレヒト閣下から許可を貰ったツェルプストー辺境伯が直ぐに父上に連絡。

 準備をしていたハーナウ家とツェルプストー辺境伯家の常備軍が、直ぐにでもアルビオン大陸に上陸出来るそうです。

 鷹便で連絡が来ましたが、送った時には進軍を開始したとの記載も有るので既に上陸しているでしょう。

 何とか残敵掃討の手伝いにはゲルマニアも間に合った訳です。

 

 ガリア王国は非公式ながら、王位継承権第一位のイザベラ王女と新鋭戦艦に親衛隊が開戦前に到着。

 

 帝政ゲルマニアも開戦前に、先発隊を任されたハーナウ家が参戦。そして後続が残敵掃討の任に当たっている。

 

 トリステイン王国は、開戦には間に合わず壊走するレコンキスタ本隊と戦闘を行った。

 

 後は、盟主オリヴァー・クロムウェルをどの勢力が捕まえるかが問題だ。

 これは地の利が有り情報が集中するアルビオン王党派が有利で有り、そう仕向けている。トリステイン王国軍が捕まえると色々厄介だから。

 この内乱も終息し、各国に増援のお礼をしなければならないアルビオン王党派に花を持たせる関係でも何とか捕まえて欲しい。

 

「ツアイツ、おはよう!朝食に行こうよ。エスコートしてくれるんだろ?」

 

 最近遠慮無く、僕の部屋に入り浸るイザベラ様とメイドさん達……扉にはロックの魔法が掛かっていた筈です。

 スクエアの僕が全力で掛けたロックが……

 

「おはようございます。イザベラ様。今日のお召し物は、初めて会った時の物ですね」

 

 聞けば、メイドさん達は皆さんスクエアクラスだそうです。地味に国力を見せ付けるよね?流石は大国ガリアと言う事かな……

 多分、ジョゼフ王の息も掛かっていて今回の行動は筒抜けでしょう。

 

 まぁ良いかな。別にバレても困る内容は……添い寝位かな?

 

 ヤベッ!王妃になるシェフィールドさんと王女イザベラ様の両方と添い寝したよ?

 

「良く覚えてるね。そうだよ、その時のドレスさ。ツアイツから貰った服は、イベント時にしか着ないからね。

さぁ今日は一旦ウェールズ殿が討伐軍から戻ってくるし、トリステイン王国軍の関係者もサウスゴータに招かれるよ。

間に合えばゲルマニア勢も……ツアイツ、大変だね。皆に私の事を紹介しとくれよ」

 

 クスクスとメイドさんと共に笑いながら、先に食堂へと向かって行く。

 

「まっ待って下さい!」

 

 チクショウ!絶対に面白がってるな。しかし情報では、カリーヌ様やヴァリエール公爵……それにアンリエッタ姫自身が来ているんだ!

 ゲルマニア軍は、父上やツェルプストー辺境伯もアルビオン入りをしている。一堂に会したら僕はどうなるのかな?

 隣で僕の腕を組んで、朝からご機嫌なイザベラ様を見て溜め息をつく。

 

 やっと火傷の傷が完治したけど、また違う怪我を負いそうです。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 初めての行軍、初めての戦争……

 

 心身共に疲れ果てたアンリエッタ姫が馬車に揺られて城塞都市サウスゴータに向かっている。

 彼女はツアイツが、其処に居るのを知らないがウェールズ皇太子が討伐から一旦戻る情報は掴んでいる。

 

 そう!彼女の野望はこれからが本題なのだ。

 

 今回の増援の恩を如何に婚姻に結びつけるか……しかし実際の手伝いと言うか成果は低い。ツアイツ達に粗方持ってかれているから……

 それに未確認情報では、ゲルマニアの実家で療養中のツアイツ殿が居るかも知れない?

 

 捕縛した敵兵からの情報では、ツアイツしか作れない金属製の巨大ゴーレムが戦場に現れた!

 とか、賞金一万エキューの彼を捕まえる為に南側に展開していた軍隊が向かったが……返り討ちにあい壊滅したとか。

 物凄い英雄的な扱いを、アルビオン王党派の方々が話しているのを聞いたりとか……

 

「まさか、ツアイツ様が私とウェールズ様の為に!このアルビオン大陸にいらしてるのかしら?ならばお逢いたいですわ」

 

 何の根拠も無いが、何故か薔薇色の未来が広がっている多幸感を覚えたアンリエッタ姫。

 ヤバい水の秘薬とかキメてないですよね?そして昼過ぎにトリステイン王国軍はサウスゴータに到着した。

 当然、護衛を兼ねた烈風のカリンと援軍を束ねる実質的な立場のヴァリエール公爵がアンリエッタ姫を伴って……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 メイドさん情報によればトリステイン王国軍がたった今、到着したそうです。

 ウェールズ皇太子が不在の為、侍従のバリーさんが対応している筈だ。

 

「どうしようかな?先にヴァリエール公爵夫妻に会うべきだろう……アンリエッタ姫に今は会わない方が良い。

僕のセブンセンシスが、そう訴えている。最悪、ガリアVSトリステイン王女対決だ!」

 

 そして男として、イザベラ様を紹介する前に全てを話しておかなければならない。腹を括ってヴァリエール公爵夫妻の部屋を訪ねる。

 幾らカリーヌ様でも、いきなり殺さないよね?

 

「お久し振りです。ヴァリエール公爵、カリーヌ様。この度の国内腐敗貴族一掃とアルビオン王党派への増援、有難う御座います」

 

 にこやかに応接セットに通されて向かい合って座りいきなりお礼を言う。先ずは低姿勢で探りを入れよう。

 

「何を言っているんだ。八割以上が君の手柄だよ。トリステイン王国が風通しの良い国になったのは、全てツアイツ殿の手柄だ」

 

「そうですよ。義息子よ……今回の件については感謝しきれません」

 

 和やかな対応だ。まだバレてないな、イザベラ様の事は。

 

「それで、アンリエッタ姫のご様子は?出来れば僕が此処に居る事は秘密にして欲しいのですが……」

 

 先ずはアンリエッタ姫の件の言質を取る。

 

「ん?そうだね、疲れてはいるが普段と変わらないな。出来れば変わって欲しかったのだが……良い意味でね」

 

「マリアンヌ様と並べてアレだけ再教育したのに、余り変わらないのは有る意味大物だわ」

 

 何か有ったんだな……僕が聞いてはいけない大人の事情が。

 

「そうですか……国内の風通しが良くなったのなら成功ですね。

僕も嬉しいです。ならばアルビオン王国との婚姻外交には拘らないですよね、お二方は?」

 

 ウェールズ殿の為にも、この2人の言質を取る。彼女を野放しにするのは危険だけど、友となったウェールズ殿に押し付けるのはもう嫌だし。

 

「ああ、此処まで来れば構わないよ」

 

「そうですね。それについては、アンリエッタ姫ご自身が頑張れば良い話ですね。私達は手伝いません」

 

 ヨシ!これで覚醒したウェールズ殿なら危機は回避出来るだろう。

 

 おめでとう、ウェールズ殿。そして、これからが僕の方の本題だ……

 



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第176話から第178話

第176話

 

 レコンキスタ軍を壊滅させ、後は盟主オリヴァー・クロムウェルが見付かるの待つばかり……しかし、ガリア王国のイザベラ様と良い仲になってしまった。

 これを婚約者達の親達に説明しなければならない。

 

 そして今、ルイズの両親たるヴァリエール公爵夫妻を前にして……それを告げなければならない。

 

「ツアイツ殿もガリアの仲の良い連中を引き連れて活躍したそうですね。聞きましたよ。私も師として鼻が高い思いです」

 

「しかしツアイツ殿の特技と言うか……他国にまで力になってくれる連中が居るとは。

国や身分・立場を越えて仲良くなれる事は素晴らしいな。彼等はド・モンモランシ領にも来た連中だろ?」

 

 それだけじゃ無いんですよ。僕は出されたお茶を一口飲んでから話し出す。

 

「ははははは……そうですね。僕も彼等には感謝しています。しかし……その、余りその特技と言うか……

 仲良くなり過ぎて……その問題が有りそうな……例えば、姫……様とか……どう思いますか?」

 

 ヴァリエール公爵の目を見て問う。

 

「ああ…(アンリエッタ姫の事だな)まぁ仕方ないだろう。それは不可抗力だよ。私達は気にしないぞ。なぁカリーヌ?」

 

 ヴァリエール公爵はカリーヌ様の方を向いて同意を得ようと聞く。

 

「そうですね。アレ(アンリエッタ姫)は仕方ないでしょう。私達も気にしませんよ。

本人達の問題ですから……(どうせ、アンリエッタ姫では義息子をどうこう出来る技量は無いですしね)だから義息子も気にしないで良いですよ」

 

 そう言って微笑んでくれた。

 

「………?えっと、本当に宜しいのですか?」

 

 何だろう……何かと勘違いしてる?

 

「ええ、貴方の功績を考えれば申し訳ない位です」

 

「そうだぞ。気にしないで良いぞ」

 

 はははははっと笑い合う!

 

「良かった。そう言って貰えると助かります。流石にイザベラ様と仲良くなり過ぎてしまいまして……どうしようかと悩んでましたから」

 

 はははははっと愛想笑いをしたが……

 

「「フザけるなー!アンリエッタ姫の事でなくて、ガリアの姫を口説いてたのかー?」」

 

 ああ……文句と共に、杖を抜いたカリーヌ様が僕を魔法で窓の外に吹き飛ばす!

 盛大な音をたて硝子の破片を纏いながら外へ飛んでいく……シェフィールドさんに吹き飛ばされた連中の気持ちが分かったよ。

 そして、地面が目前に見えたので受け身の体勢を取るが……着地と同時に激痛が右半身に走る!

 

 また療養生活の始まりか……僕は痛みを忘れる為に、意識を手放した。

 

………………

 

……………

 

…………

 

………

 

……

 

「知らない天井だ?いや僕が借りていた部屋だよね……てか、体がそんなに痛くないんだけど?」

 

 起き上がって体中を触って確かめる。うん。包帯だらけだけど、痛みも少ないし、手足も指も全て有る。起き上がって部屋の外に出る……

 

 外に出ると、直ぐに控えて居た兵士の方が「ツアイツ殿、良かった。今、他の方々に連絡しますので部屋でお待ちを」そう言って走って行った。

 

 暫くして「ツアイツ、目が覚めたのかい?全く心配させるな!もう……こんな思いは二度と嫌だと言ったよね」突然扉が開いたと思ったら、イザベラ様が飛び込んできた!

 

 僕の胸の中に……

 

「イザベラ様、すみません。それで僕は……カリーヌ様に吹き飛ばされた筈でしたが。そんなに傷も無いし?」

 

 イザベラ様は僕に抱き付いたまま顔を上げてくれない。

 

「アルビオン王室付きの水メイジが掛かりっきりで治療したんだよ。あの糞ババアはシェフィールドが吹き飛ばした!

今思い出しても大変だったんだ……あんな化け物共が真っ向勝負したから。サウスゴータの城壁の二割が壊れた。

最後は私が、ガリアと全面戦争するんだな?それで本当に良いんだな?って脅して下がらせたんだよ……」

 

 何て事になっているんだ?

 

「それで、シェフィールドさんとカリーヌ様は?」

 

 まさか怪我を……

 

「ああ、あの化け物達は街を半壊させた癖にピンピンしているよ。トリステインの糞ババアはアンリエッタ姫に絞られてるよ。

シェフィールドは……良くやった!って誉めておいたよ。

ツアイツ、もうヴァリエール一族から手を引きな。結婚もまだの相手の浮気で半殺しなんてキチガイだよ、あのババア!」

 

 イザベラ様の背中をポンポンと叩いて落ち着かせる。

 

「アレがあの人たちのスキンシップなんですよ。元が普通じゃないから……大目に見てあげて下さい。

幸い傷も大した事は……有りましたが回復しましたから」

 

 ギュッと抱きしめられた。

 

「それと、義父様がそろそろサウスゴータに来るんだよ。挨拶をしたらガリアへ行こうよ。

オリヴァー・クロムウェルは捕まったよ。ゲルマニア軍が捕まえて此方に向かってるんだ」

 

 そうか……これでジョゼフ王の試練は達成した。後は、父上とツェルプストー辺境伯に説明か。まぁ此方は、どうにかなるかな……

 そう言えば、実家を出る時に2人にイザベラ様を口説いたのか?って聞かれたな。まさか本当に、こうなるとは思わなかったけど。

 

「では、ヴァリエール公爵に会いに行きましょう。誤解じゃないけど、このままの関係ではいられないし……ちゃんと話しましょう、ね?」

 

 小さい子を諭す様に話し掛ける。

 

「分かった。しかし別れろとか言ったら、考えが有るから。ツアイツも私の味方をするんだよ」

 

「ええ。僕らの事を認めて貰いましょう。彼らも身内になるんですから……」

 

 そう言って、一旦彼女を離すとサイドテーブルにしまっておいた胃薬を数錠飲み干す。

 

 昔の偉い人は言ってた。ハーレムとは作るよりも維持する方が大変だと。

 大奥の様に女性達を取り仕切る人物を育てないと破綻すると。身を持って知りました。

 

 そして、アンリエッタ姫に僕が居る事がバレた……アレ?

 

「イザベラ様、アンリエッタ姫にお会いしましたか?」

 

 彼女は凄く嫌そうな顔をした。

 

「会ったよ。あのババアの件で文句を言ったんだ。部下の責任は上司の責任でも有るからって……でも話しが通じなかった。アレは大物だね」

 

 イザベラ様を煙に巻くアンリエッタ姫?どんな会話だったのか気になるんだけど……彼女を伴いヴァリエール公爵に会いに向かった。

 

 

 

第177話

 

 

 こんにちは!ツアイツです……

 

 病み上がりなのにキリキリと胃が痛いです。そしてヴァリエール公爵が居る部屋まで来ました。

 

 すーはーすーはー!深呼吸をしていざ勝負って……

 

「ヴァリエール公爵居るかい?入るよ」

 

 先にイザベラ様が部屋にノック無しで入る。僕には出来ない芸当だ!

 

「これはイザベラ様。今度は、どの様なご用件ですかな?」

 

 ヴァリエール公爵の言葉が固い……

 

「ご無沙汰してます。ヴァリエール公爵……その、すみません」

 

「何を謝っているんだい!怪我をしたのはツアイツだろ?つまりは被害者だ。もっとビシッとしなよ。アンタは身内に甘いからこうなるんだよ」

 

 イザベラ様がバシバシと肩を叩く。

 

「義息子よ……先ずは座れ!カリーヌの事は済まなかったな。しかし、イザベラ様とその様な関係なら先に言って欲しかったぞ」

 

「その……まさかイザベラ様にお会いする迄は、自分もこうなるとは思わなかったので」

 

 実際には数回しか会ってないんだよね。

 

「まぁ私達は相性が良かったんだよ。安心おし、別にルイズ達と別れろなんて言わない。男の甲斐性だよ。だけど第一夫人は私だよ。ツアイツはガリア王家に婿入りだ!」

 

 ヴァリエール公爵も呆気に取られている。

 

「それは有難う御座います。義息子よ……後で詳しい説明をして貰うからな」

 

 ははははっ……乾いた笑いしか出来なかった。

 

「一応断りは入れたからね。私らは、これからガリアに行くから」

 

「ヴァリエール公爵、当初の予定通りレコンキスタは倒しました。

これからジョゼフ王に会ってきます。イザベラ様は心強い味方です。カトレア様の件は、ガリアから戻り次第で……」

 

 其れではと、頭を下げて退出する。次は父上とツェルプストー辺境伯か……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アンリエッタ姫の下からカリーヌが戻って来た。顔にまだ井形を浮かべて……

 

「先程イザベラ姫が来られたぞ。ツアイツ殿も一緒だ。アレはイザベラ姫がベタぼれだな。

しかし、ツアイツ殿はジョゼフ王と会う時に味方になってくれると言った。

イザベラ姫攻略も、この試練の布石かも知れんな。それが終わればカトレアの治療だそうだ」

 

 妻は黙ったままだ……

 

「しかし、ルイズが……ガリアの王女の方が本気なら……」

 

 ルイズの幸せに問題が発生するかも知れない。

 

「ルイズ達には手を出さないと言っていた。残念だが、本気になったイザベラ姫では我らでも相手になるか……ここは義息子を信じよう」

 

「分かりました。早く子供を仕込ませなければ駄目ですね」

 

 兎に角、ヴァリエール一族との繋がりを強化させよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヴァリエール公爵夫妻の部屋を辞して自室に戻る。

 

「ツアイツは甘いよ。全く……まぁそれがアンタの優しさなんだろうけど。どうする?私の部屋で休んで行くかい?」

 

「いえ、先にウェールズ殿に挨拶をしてきます。少し相談も有りまして……」

 

 相談と言う言葉に反応する!

 

「何だい?私には相談出来ない内容なのかい」

 

 少し表情に陰りが出来る。

 

「いえ……僕とウェールズ殿は、アンリエッタ姫に狙われているので彼と連携をしておきたくての相談です」

 

 イザベラ様が微妙な表情を浮かべる。

 

「あの姫様かい?何とも話していて頭が痛くなる女だね。アレは駄目だよツアイツ」

 

 同性にまでダメ出しされてますよ、アンリエッタ姫……

 

「分かってます、しかし一国の姫君です。慎重な対応が必要です」

 

 そう言ってイザベラ様と別れ、ウェールズ殿の部屋に向かう……途中で近衛兵に止められるかと思ったけどすんなり通された。

 部屋の前の衛士殿に取り次いで貰い中に入る。

 

「おお、心の友よ!良く訪ねてくれたね。此方から行こうと思っていたんだ」

 

 ウェールズ殿が、暖かく迎えてくれる。

 

「ウェールズ殿、レコンキスタ討伐成功おめでとう御座います。これでアルビオン大陸に平和が戻りましたね」

 

 ガッチリと握手をする。

 

「この勝利はツアイツ殿のお陰だ。我々はこの恩を忘れない」

 

「いえ、全ては王党派の方々の力ですよ。僕は切欠を作っただけです。この国の人々は素晴らしい!

勿論、ウェールズ殿もジェームズ王も……

僕は貧巨乳連合の教祖として、また友人としてお二人に上級会員の印で有る特製マントを贈らせて下さい」

 

 周りの方々から拍手が沸き起こる!

 

「ああ、ツアイツ殿……有難う。僕と父上はテファたんのウェディングバージョンが欲しい。

あの神乳を父上にも知らしめたい。世界には、夢が溢れているのだと……」

 

 テファのマントを2人が求めるのか……何て皮肉なんだろう。

 

「分かりました。会報でお二方の事を発表し大々的に贈呈式を行いましょう。勿論、ご迷惑でなければですが……」

 

「迷惑な物か!これは新生アルビオン王国の門出を飾る大イベントになるだろう。

皆も聞いてくれ!我らが教祖と共に新生アルビオン王国は繁栄するだろう!」

 

 周りの人々の熱狂振りが凄い。今、サラッと我らの教祖とか言わなかったかな?

 

「それと、ウェールズ殿にご相談が……アンリエッタ姫の事です」

 

 急に大問題児の話を振られウェールズ殿も意気消沈する。

 

「ツアイツ殿……私は、アンリエッタ姫の事が……」

 

「分かってます。私達は彼女に狙われる獲物……しかし、我らは肉食獣に狙われる草食動物では無いですよね?対抗する牙を持っている。違いますか?」

 

 くっくっく……邪悪な微笑みを浮かべる。

 

「おお、ツアイツ殿!確かに我らは覚醒せし漢……ならばどうします?」

 

「簡単ですよ。アンリエッタ姫が率いるトリステイン王国軍に、さっさとお礼をするのです。

何、大して活躍してないじゃないですか?金銭的なお礼でオーケーですよ。

因みに、ヴァリエール公爵夫妻にはアンリエッタ姫の助力はしない様に言質をとっています!」

 

 ウェールズ殿とバリー殿が、ハッとした顔をする。

 

「確かに要求される前に、礼を尽くしてしまえば……向こうからの要求は突っぱねられる、か」

 

 力強く頷く。

 

「しかも残敵掃討だけですから、強くは言えませんよね」

 

「バリー、直ぐに国庫から資金を……交渉は任せた!して、ツアイツ殿はどう断るので?」

 

 ニッコリと微笑む。

 

「イザベラ様と比べるまでも無いですから……さっさとガリアに向かいますよ」

 

 漢達は互いの成功を信じ、そして暫しの別れをかわした……アンリエッタ姫、ザンネーン!

 

 

 

第178話

 

 

 レコンキスタの盟主オリヴァー・クロムウェルを捕縛した父上達が、漸くサウスゴータに到着した。

 元とは言えブリミル教の司教だ……どうでるかな、ロマリアの教皇よ?

 父上とツェルプストー辺境伯はウェールズ殿と謁見してから僕の部屋に来る手筈になっています。

 

 そして……「ツアイツ、義父様遅いね?何をしてるんだい、全く……」ナチュラルにイザベラ様とメイドさん達がいらっしゃいます。

 ソファーに陣取り、後ろにメイドさん達が並んでいます。優雅に紅茶を飲んでますね。

 

 ああ、すみません。僕にまで淹れて頂いて……渡された紅茶を一気に飲んでからお願いする。

 

「あの……そろそろ戻られた方が宜しいかと」

 

 これからイザベラ様の事を話し合うのに、本人が居ては話し辛いかと……

 

「ツアイツの事だから、折衷案とか飲まされそうだからね。それに義父様には早めに会っておかないと」

 

 そんな彼女の衣装は、気合いが入っている。

 シンプルなロングドレスだが、髪の色に合わせた青色のグラデーションで胸元の淡い青から裾にかけて色が濃くなっている。

 髪飾りはダイヤモンドをあしらった銀色のティアラ、両腕に大粒のサファイアが付いた腕輪をしている。

 胸元を飾る宝石は最高純度の風石じゃないかな?

 

 多分だが正装だ……父上との対面に気合いを入れているのが分かる。

 

「凄く似合ってますが……その飾り、国宝では?」

 

 彼女はニッコリ笑って胸元の風石を弄ぶ。

 

「似合うかい?めったに付けないんだけど、今日は特別だよ」

 

 王族に正装で迎えられては、父上やツェルプストー辺境伯でも躊躇するだろう。

 全て計算している?などと考えていたら、いきなり扉が開いて父上が突撃して来た!

 

「ツアイツ!お前、出掛けにイザベラ姫とは何でもないと言いながら……こっこれはイザベラ様?」

 

 ノック無しで突っ込んで来た父上が、イザベラ様を見て固まる。

 

「義息子よ。流石に大国の姫君は無理があるぞ!もう少し自重してくれ……なっイサベラ姫か?」

 

 続いて入ってきたツェルプストー辺境伯もイザベラ様を確認して固まる。

 オッサン2人の視線が彼女を見詰めて僕の方へと移動し、またイザベラ様へと戻る。

 

 ニヤリと笑うイサベラ様……

 

「義父様、ガリアのイサベラです。末永く宜しくお願いします」

 

 そう言ってスカートの裾を摘まんで優雅に一礼する。慌てる父上!

 

「いや、その義父様?いやいやいや、それは無理が有りますぞ!ツアイツはゲルマニア貴族で有り我がハーナウ家の跡取り息子ですから」

 

 ツェルプストー辺境伯も、一般論で諭そう?とする。

 

「お初にお目にかかります、イザベラ姫。多国間の貴族同士の結婚とは準備が掛かります。

それにツアイツは、私の娘と既に結婚の儀を済ませてます。ですから……」

 

 しどろもどろに説得にかかる。そしてキッっと僕の方をシンクロして振り返ると詰問してきた。

 

「「ツアイツ!まさか節度有る関係であろうな?」」

 

 そして、取り返しのつかない関係ではないだろ?と確認するが……

 

「もっ勿論です。やましい事などしていません」

 

 イザベラ様が僕の腕を組んで言葉を遮る。胸が肘に当たってます。見下ろせば、なかなかのお宝が……

 

「義父様、安心して下さい。

貴族として他国の殿方を我が国に迎える為の協議はアルブレヒト閣下と進めるつもりです。正式な調印を結びます。私達には時間が有りますから……

ツェルプストー辺境伯。私はツアイツを独占するつもりはありません。婚約者が居る事も承知しています。それは受け入れますよ」

 

 そう言い放ってニッコリ笑う。王族に此処まで言われては黙るしかない。

 

 意気消沈してうつむくオッサンズ……気まずい空気が流れる。

 

「父上、すみません。苦労を掛けます」

 

 取り敢えず頭を下げる。本当にすみませんです。やがて顔を上げた父上とツェルプストー辺境伯。

 

「分かった。

アルブレヒト閣下には一報を入れておく。くれぐれも早まった行為はするんじゃないぞ?分かってるな!」

 

「義息子よ。

キュルケを泣かせる事だけはしないでくれよ。本人には直接説明してくれ。一旦我らはゲルマニアに帰るぞ」

 

 物凄く念を押された……何もかも諦めた様な、そんな表情をしている。父上など一気に五歳は老け込んだ感じだ。

 確かにガリアの狂王と親戚になるんだもんな。色々考える事や悩み事も有るだろう……

 

 しかしイザベラ様はご機嫌だ。いつも以上にニコニコしている。

 

「ツアイツ。これでガリアに向かう事が出来るね!さぁアンリエッタ姫が騒ぎ出す前に出掛けよう。

メイド、出発の準備を……では義父様、ツェルプストー辺境伯。失礼しますわ」

 

 そう言って、僕の腕を掴んで部屋の外に出る。それを生気の無い目で見送るオッサンズ……確かにアンリエッタ姫に見付かる前に出発しよう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 部屋を出る2人を呆然と見送る。

 

「…………おい?」

 

「ええ……流石はガリアを表で仕切る姫だけの事は有りますね」

 

 扉を見詰めながら溜め息をつく。

 

「あの調子なら、正規の手順で攻めてくるな。もう回避は不可能だろう……後はどれだけ有利な条件を上乗せするかだな」

 

「アルブレヒト閣下と対等以上に交渉出来るのは、ハルケギニアでは大国ガリアだけ、か。悪い様にはしないと言っているが……」

 

 ツアイツの部屋のソファーに座る。

 

「息子がガリアの入り婿か……ある意味では最高に孝行息子だが」

 

「貴族たる者、一夫多妻は常識だ。そして夫は、妻達を養わねばならない。それを考えれば、確かに悪い話しではないな」

 

 もうイザベラ姫と引き離すのは不可能だ。ならば、より良い条件を引き出すしかない。

 

「しかし、あの狂王ジョゼフと親戚か……大変だなサムエル殿は」

 

 ポンポンと彼の肩を叩く。

 

「お前の娘もイザベラ様が仕切るハーレムの一員なんだぞ。大変だな、派閥争いの親族は……」

 

 ポンポンと彼の肩を叩く。

 

 虚しい言い合いを続けるオッサンズであった……

 



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超女の戦い・王女の品格

対決ガリアVSトリステイン・超女の闘い

 

 

「姫様!ツアイツ様が重傷です。直ぐに医務室へ」

 

 午後の紅茶を楽しんでいた時に、メイドが血相を変えて飛び込んで来た!

 馬鹿な?レコンキスタの刺客が入り込む余地は無い筈だ。

 のほほん!としててもスクエアのアイツが怪我を負わされるなんて……持っていたカップを乱暴に置いて叫んでしまう。

 

「誰だ!ツアイツに怪我を負わせたヤツは!ああ?誰なんだい?」

 

「兎に角医務室にご案内しますので……早く、こちらです」

 

 王女だから、他国ではお淑やかにしてるつもりだったが駆け出してしまう。

 見かねたメイドが私を抱き上げてフライで窓から飛び出し、屋敷の外から一階の隅の部屋にショートカットして医務室に飛び込んだ……

 

 なっなんだい?この部屋、寒いよ!

 

 体感温度じゃなくて魂が凍え……メイドが私を庇う様に、前に立ちふさがる!馬鹿な、此処まで刺客が?

 ヒョイと覗いて見ると規格外の女が居た……

 

「くっシェフィールドと……烈風のカリン殿かい?2人共、殺気を抑えなよ。ツアイツの体に悪いだろ」

 

 烈風のカリン……初めて会うが肖像画は見たし、冗談みたいな経歴も報告書で知っている。

 ツアイツの戦闘の師匠であり、自己チューなババァだ。容赦の無い殺気を漂わせている2人を窘める。

 

 私だって相手を殺したいんだ……

 

 ツアイツの容体を確認すれば、ベッドに横たわり半身に擦り傷や打撲痕が集中している。

 何かに弾き飛ばされて、地面に擦り付けた様な傷だ。水メイジが4人掛かりで治療をしている為か、寝ているツアイツの表情は穏やかだよ。

 彼らは、2人が垂れ流す殺気にも怯む事なく治療に集中している。額に汗を滲ませながら、両手を患部に当てて魔力を注ぎ込んでいる。

 

 彼らの邪魔をしちゃ駄目だ……邪魔者の2人を医務室から追い出そう。

 

「治療の邪魔だよ。一旦外に出るよ」

 

 2人を促し退出する。幾らツアイツを害した奴らが憎いとは言え治療の邪魔はやり過ぎだよ、全く。

 でも何故睨み合ってるんだろう?

 

「お前達、ツアイツに怪我を負わせたヤツはどうした?捕まえたのかい?まだなら何故こんな所でグズグズしてるんだい!早く探しに……」

 

 シェフィールドが黙って人差し指でカリンを示す。まさかトリステイン王国のレコンキスタ派の跳ねっ返りが生き残っていて復讐を……

 

「この女がツアイツを吹き飛ばしたのよ。私の大切な義弟に怪我を負わせたわね。万死に値するわ」

 

「ふん!家族の問題に口を挟まないで頂きたいわ。義息子の浮気癖について少しお仕置きをしたのよ。他人の貴女には関係ないのよ」

 

 シェフィールドから表情が消えた!ヤバい、ヤンデレじゃない本気で殺る目だ!

 

 指さしていた掌を握り親指を突き立てて、そのまま下に向けた。

 

「殺すよババァ!」

 

「返り討ちにしてあげるわ!」

 

 シェフィールドが掌を横に振ると、外壁とともにカリンがぶっ飛んだ!そのままシェフィールドが外に飛び出して行く。

 

 浮気?

 

 まだツアイツは未婚だし、第一夫人は地位・血筋・権力共に私だろう。お前の娘の方が側室……つまり私達からすれば浮気なんだよ!

 それを私は受け入れるつもりなのに……烈風のカリン!胸も小っちゃいが度量も小っちゃいね。

 

「ふざけるな、ババァ!シェフィールド、私が許す。その勘違いババァをぶっ飛ばしな!」

 

 此方をチラリと見たシェフィールドが、グッと拳を上げた!ああ、新しいお母様は頼もしいね……

 しかし、外壁が崩れる程の圧縮した暴風を喰らってもフライで浮いているあのババァ。まるで堪えてない、服に付いた埃を払ってやがる。

 

 生きている内に伝説になるだけの事は有るね。

 

 シェフィールドの追撃の竜巻がババァを襲う!屋敷の城壁を吹き飛ばし、今度こそ有効打を与えたか?てか、街にババァを吹き飛ばしたな!

 

「ばっ馬鹿がっ!市街地に行くな、民衆にまで被害が……だっ誰か居るかい!避難勧告をだすんだよ」

 

 これは戦後の協議は揉めるだろうね。戦災より被害が大きくなりそうだよ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツが医務室に担ぎ込まれた!

 

 あの烈風のババァが犯人ね。ツアイツの容体を確認している時に、浮気癖だとかお仕置きだとか言っていたわ。

 私の大切な弟に怪我を負わせた罪は重い。しかし手持ちは風石と火石だけ……それに牙ゴーレムか、これは無意味だわ。

 

 心細いけど、他の凶悪アイテムを取りに行く暇が無い。今直ぐ殺りたいから!

 

 と思っていたらイザベラが来たわね。私達の殺気がツアイツに良くないと……そうだったわ。前もこの女の屋敷でツアイツは倒れた。

 やはりこの女は始末しよう……誰がツアイツを傷付けたって?目の前のこの女よ。

 

「この女がツアイツを吹き飛ばしたのよ。私の大切な義弟に怪我を負わせたわね。万死に値するわ」

 

 指差して教えてあげたわ……

 

「ふん!家族の問題に口を挟まないで頂きたいわ。義息子の浮気癖について少しお仕置きをしたのよ。他人の貴女には関係ないのよ」

 

 よし、殺るわ!親指を突き立てた拳を下に向ける、ツアイツの教えてくれた挑発的な仕草。

 

「殺すよババァ!」

 

 何か騒いでいたババァに風石の力をピンポイントで解放する。

 建物の外壁を突き破ってぶっ飛ばしてやったけど、直前に不自然な風の塊があの女の体を包んだ。

 ダメージは殆ど無いわね、追撃の為に接近する。

 

 途中、イザベラがエールを贈ってくれたので応える。私達の幸せの障害は、ここで潰す!

 

 残りの風石を更に練り込んで解放、これは効いたみたいだ。

 竜巻に巻き込まれ、ボロキレみたく体を揉みくちゃにしながら城壁に叩きつけてやったわ!

 

「よしっ!息の根を止めてやるわ!」

 

 更に追撃をする為に市街地に向かった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「こっこんな化け物達が市街地に……ヤバいよ、これは」

 

 血の気が無くなるとはこの事か。なっ何か私に出来る事は……暫し呆然と超獣対決を見る。

 

「あっ!シェフィールドが吹き飛ばされた。あれだけダメージを与えたと思ったのに無傷?なんてババァだ!」

 

 これは止めないとサウスゴータが崩壊するぞ。

 

「いっイザベラ様!これは一体?」

 

 侍従のバリーと、近衛兵かね?慌てて駆け付けて来たよ。そして奴らの闘いをみて呆然としている……

 

「人災ですか……しかし何故、あのお二方があの様な?」

 

「烈風のババァがツアイツに怪我を負わせたんだよ。それに怒ったシェフィールドが闘いを挑んだ。

しかし規格外の連中なだけにあの騒ぎさ……黙って見ていても終わらない。

バリー、演説で使った拡声の魔法を準備しな!私が止めるよ」

 

 もはやトリステイン軍でもアルビオン軍でも止められないだろう。

 ツアイツの男の浪漫本に有った「エヴァさん・ハルケギニア版」アレの人型最終決戦兵器だよ……

 

 暫くしてテラスに拡声器の準備が出来たので、超獣2人に向けて勧告する。

 

「止めないか、お前達!シェフィールド、もう十分だよ。

烈風のカリン!これ以上の抵抗は、ガリアとトリステインの全面戦争に発展するよ。

良いんだな?此方は開戦に躊躇しないよ!嫌なら双方手を引きな!」

 

 何故かサウスゴータ市民達や兵士達から拍手が沸き起こった!

 

 救世主?魔獸使い?嫌だよ、そんな称号は!ツンデレアイドルだけで十分さ。

 

 

 

対決ガリアVSトリステイン・王女の品格

 

 

 シェフィールドVS烈風のカリン

 

 この冗談みたいな取り組みが引き分けになった後、当然街を半壊させた責任は追求しなければならない。

 では原因は何か?アルビオン王党派の英雄で有るツアイツを害したカリンを咎め、シェフィールドから闘いを挑んだ。

 

 先に手を出したのはガリア側、しかし原因はトリステイン側。

 

 喧嘩両成敗には心情的には難しい、どう見てもトリステイン側に責任が有る。どちらも我が国の為に、王女自らが軍を派遣してくれた。

 

 これは彼女達の直接対話で決めて貰うしかない……バリーは胃を押さえながら呻いた。

 

「ツアイツ殿、早く目覚めて下さい。この様な修羅場は、老骨には身に染みますゆえ……」

 

 バリーの願いは叶うのか?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 未だに無表情なシェフィールドと応接室で向かい合わせに座っている。

 あのまま闘わせては、勝敗のつく前にアルビオン大陸が壊れたかも知れない。

 

「どうなんだい、お母様?あのままで勝てたかい?」

 

 戦力比を確認しておかないと、最悪の時に決断が鈍るからね。

 

「ああ……手強いわね、正直なところ手持ちのアイテムが少なかったわ。あのままでは負けたかしら……

でも封印しているマジックアイテム類を出せば勝てる自信は有るわ。最悪でも引き分けに持ち込めるわね」

 

 よし!あのババァはシェフィールドが抑えられる。つまり後は純粋な国力の差だね。

 

 ツアイツの病室にはアルビオンの近衛兵に守らせている。その周りには気付かれない様にイザベラ隊を配置した!

 トリステイン側からの接触は力ずくでも阻む。後は私とアンリエッタ姫との直接対決だ!

 

 でも素直に話し合いで済ますつもりは欠片も無いんでね。私は意地が悪いからさ。

 悪いがトリステイン側には、とことん泥を被って貰うよ。先ずは根回しに侍従のバリーと話をしようかね?

 

 シェフィールドに同行を求めようと思ったが……何か水晶にツアイツの寝顔が写っている。

 

「これは、何だい?ツアイツを監視してるのかい?」

 

「嗚呼、ツアイツ!

お姉ちゃんが側に居てあげなかったから、烈風のババァなんかに怪我を負わされて……今度はしっかり見守るから平気よ」

 

 何か逝ってしまった表情だよ……いや、この状態の時に話し掛けるのは私でも危険だね。放っておくか……

 近くに居た兵士にバリーの所まで案内させる。案内された部屋の中で胃を押さえて呻いてるね……幸い死傷者は出なかったが、復興費用は莫大か。

 

「バリーすまないね。私がもっと早く止められれば被害は少なかったね」

 

 先に謝っておく。破壊行為ではなく、止められなかった事を……

 

「これはイザベラ様。いえ、イザベラ様の機転がなければサウスゴータは崩壊していました。有難う御座いました」

 

 此方に悪感情は少なそうだね、ヨシヨシ。

 

「トリステイン側からは謝罪は有ったのかい?」

 

 黙って首を振るか……下手なプライドは、時には悪影響を及ぼすよ。

 

「そうかい。全く何様かね?サウスゴータの復旧費用は私が持とうじゃないか」

 

 なに、大した金額じゃないしヴァリエール一族に打ち込む楔になれば御の字さ。

 

「しかし私の一存では……もう直ぐウェールズ皇太子も戻られますので」

 

 確かに決定権は無い、か。

 

「いいんだよ。迷惑をかけたのはウチも同じだ。シェフィールドは内々だが、お父様の後妻になるんだよ。

だから醜聞はね……それに市街地の復興は民衆の為に最優先だろ?」

 

 どうする?ガリアの王妃(予定)に罪は着せられないだろ?しかも復旧費用は出すと言っている。

 

「ウェールズ皇太子……

随分とアンリエッタ姫に苦手意識を持っているんだろ?この件で貸しを作りなよ。

他国で、他の国の王族と揉めたんだよ。しかもレコンキスタの件では、大した活躍も無い。

逆に貢献したツアイツを家族間の問題とは言え怪我をさせたんだよ……」

 

 そう囁いて部屋を辞した。これでアルビオン側は私に付いたも同然だよ。

 

 さて次はアンリエッタ姫と直接対決さね。

 

 魔法は苦手だけど、外交はそうでも無いんだよ。しかし他国の王女の部屋にいきなり押し掛けられないからね。

 先に使者をたてるか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 周りの方々が、ヴァリエール夫人がツアイツ様にお仕置きをした報復に、ガリアの魔女から攻撃を受けたと騒いでいるわ……

 マザリーニ枢機卿が、イザベラ姫に使者をたてて和解しろって煩いけど。別に怪我をさせた訳でもないですし……

 

 私がツアイツ様のお見舞いに行った方が誠意が伝わりますわ!

 

 そうです。ツアイツ様のお見舞いに行きましょう。夕日が差し込む医務室に、私とツアイツ様の2人……

 見舞いに来た私にツアイツ様は感激をして、そのままベッドに引き込む……

 

 嫌ですわ!困りますわ!だって私にはウェールズ様も……嗚呼、女の幸せが極まって逝くわ!

 

「ひめ、姫様……アンリエッタ……姫……」

 

 何かしら?私の幸せな一時を邪魔する不届き者は。

 

「こほん。無礼ですわよ、マザリーニ枢機卿……女性の部屋に許可無く入室するなど……無断で入って良いのは、その2人だk」

 

「アンリエッタ姫!一大事ですぞ。

イザベラ姫から使者が来ました。先程の件について話が有ると……大丈夫ですか?ガリアの才女本人が乗り込んでくるのですぞ」

 

「くすくすくす……私には心強き殿方が付いているのです。良いでしょう!この部屋にお招き下さいな」

 

 丁度良い機会ですわ!ツアイツ様に少しばかり良くされたからと言っても、私とは積み上げた歴史が……愛の歴史が違うのです!

 思い知らせてあげますわ。

 

 うふふ、うふふふふ……

 

「アンリエッタ姫、妄想はその辺で……イザベラ姫がいらっしゃいました」

 

「あら?時が過ぎるのは早いわね……分かりました。お通し下さいな」

 

 確か竜騎士団団長のカステルモール殿でしたか?彼と三人のメイドを引き連れてきましたわね。

 こちらはマザリーニ枢機卿とアニエス隊長だけだわ。

 

 ふん!私の方が美人で胸も豊かで魔法の才が有りますわ。

 

「アンリエッタ姫かい?単刀直入に言うよ。

アンタの家臣が私の旦那に怪我を負わせた上で、お父様の側近と戦闘を始めた件で、双方の確認をしておきたくてね」

 

 あら、ガサツな姫ね……本物かしら?

 

「貴女の旦那様など私は知らないわ。何か誤解が有るのかしら?」

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ!現在、私と婚前旅行中なんだよ。知らないのかい?」

 

 可哀想な姫ね……ツアイツ様は私の為に尽力し、私の為にアルビオンまでいらしたのよ。

 

「私のツアイツ様と、貴女のツアイツ様は別の方なのね?お可哀想に……」

 

「そうかい?なら構わないよ……私は私のツアイツと結婚するからさ。アンタのツアイツは、何処に居るんだろうね?

そうそう。烈風のカリンと戦った側近だけど……実はお父様の後妻になるんだよ。私も危なかったんだよ。

互いに怪我は無かったけどさ。じゃヨロシクね!アンタのツアイツにさ」

 

 そう言って部屋を出て行ってしまわれたわ。

 

「私の勝ちね!すごすごと帰りなさいな」

 

「ちっ違いますぞ。何て事をしてしまったのですか!」

 

「そうです姫様!ツアイツ殿は1人ですよ。じゃなくて、今ガリアに喧嘩を売りましたよね?」

 

 全く五月蝿いわね。しかし世界は広いわね……まさか同姓同名のツアイツ様がいらっしゃるなんて。

 さぁお見舞いの準備をしなければ……

 

 何処までもマイペースな姫様だった。

 



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カステルモールの企み・お留守番タバサさん

カステルモールも企み・ガリア支部暗躍する

 

 緊急召集

 

 男の浪漫本ファンクラブ、中級会員以上に告ぐ。

 可能な者は本日正午までに、男の浪漫本ファンクラブ・ガリア支部まで集合せよ!

 可能な限り、業務より優先する事。

 

 ガリア支部長 バッソ・カステルモール上級会員より

 

 

 男の浪漫本ファンクラブは薄利多売だが間違いなく営利団体だ。しかし、殆どの会員は他に本職を持つ。

 通常は毎週1回、決められた時間に集まれる者だけが集まるのである。

 

 そこでファンレターの集計や、今後のリクエスト内容。昇格会員の査定等を協議しあう。しかし今回の様な緊急召集は初めてだ。

 

 現在ガリアの中級会員以上の者は……

 

 王宮組は、上級会員カステルモールを筆頭に、公式イザベラファンクラブ3隊合わせで120人だ。

 他にも国内には100人以上居るが、自分の領地に居たり平民の豪商だったりと多種多様だ。

 使い魔便や伝令を使い何とか6割以上の会員が集まった。皆、色々な噂話を仕入れていて今日の召集の内容を考えている。

 特に公式ファンクラブの中でもツアイツの為にゲルマニア迄行った連中は、様々な可能性に思い至っている。

 

 つまりはイザベラ姫と教祖ツアイツのラブなロマンスについて……

 

「なぁソウルブラザーがガリアに亡命って話は本当なのか?」

 

「いや男の浪漫本ファンクラブの本拠地移転の下見じゃないのか?」

 

「馬鹿だなお前たち。教祖ツアイツは、この地でイザベラ姫プロデュースを本格的に行うんだよ」

 

 様々な思惑や希望的意見が飛び交う。流石にイザベラ隊はツアイツが秘密裏にガリア入りしている事はバラしていない……

 本当は話したくてウズウズしているのだが。

 

 大会議室には130人からの精鋭(ド変態)が集まっている。しかし変態度=能力値で有るこの世界では、彼らはエリート集団だ!

 

 なんてイヤな世界観……

 

 そこへ本日の召集を掛けた本人、カステルモールがやって来た。彼は議長席に座り、周りを見渡す。

 

「良く集まってくれた同士諸君!今日は重大な発表が有る。しかし、この内容を話す前に確認をしなければならない」

 

 そう言って皆を見渡す。それ程の内容なのだ。独りの会員が挙手し、質問をする。

 

「同士カステルモール。それ程の内容なのか?何だ?まさか噂にある教祖ツアイツに関係が」

 

 カステルモールを手をかざし質問を遮る。

 

「まぁ待て!急がないで欲しい。先ずはこの質問に皆が答えて欲しい」

 

 一旦言葉をきる。

 

「お前ら……

ソウルブラザーと、我らが教祖ツアイツと。ブリミル教とどちらを取る?これが、この先の話し合いに参加出来る条件だ!

ツアイツ殿は言っていた、宗教とは自由で有るべきだ。しかし俺は俺の一存で、この話しは根本からそれを覆す。

どちらを信仰するか?それが条件だ。

ブリミル教を信仰する者は速やかに退出してくれ。だからと言って、これからの待遇が変わる訳ではない。

安心して欲しい。あくまでも、どちらを優先出来るか、だ!」

 

 そう言って、皆を見渡す……

 

「それはブリミル教と敵対する事か?」

 

「ヤバいだろう?始祖に刃向かうのか?」

 

 何人かの会員が続けざまに質問をするが……

 

「質問には答えられない」

 

 そう押し黙る。大会議室に沈黙が訪れたが……

 

「すまない。僕は始祖には逆らえない」

 

 そう言って若い貴族が立ち去った。それを機に何人かの貴族が退出した。

 

「残りの皆はどうする?」

 

 カステルモールが残った者達を見渡すが

 

「お前、我らを舐めてないか?少しだけ早く上級会員になったからとはいえ、志で引けはとらぬよ」

 

「そうだぜ、団長!俺達を見くびってもらっちゃ困るぜ」

 

 確かな信頼を感じる。

 

「よし!では話す前に恒例のアレをやるぞ」

 

 そう言って皆が、ディティクトマジックにロックをそこら中にかけまくる。防諜対策は毎回厳重に行う。

 ガリアは広い。故に敵対勢力や模倣しようとする同業者。ロマリア密偵団とかも居る訳だから……

 

「さて、これで落ち着いて話せるな。先ずは重大な発表が有る。我らがソウルブラザーは我が屋敷に滞在している」

 

 イザベラ隊の面々は、毎夜イザベラ姫が密会している護衛に駆り出されているから周知の事実だ。しかし他の会員達は驚いた!

 何しろレコンキスタの刺客に傷を負わされ静養中の筈だから……

 

「ツアイツ殿は重傷だった。イザベラ姫が心を痛め、是非とも様子だけでも確認したいと俺達を派遣した。

しかし、ツアイツ殿は……怪我をしてなおイザベラ姫の為にガリアまで来てくれた。イザベラ姫とは毎夜密会している」

 

 何という爆弾発言!大国の未婚の姫が、しかも正当な王位継承者が男と密会……

 

「カステルモール団長、やはりイザベラ様とソウルブラザーは……」

 

「これは問題だぞ!我らは嬉しいが、他の連中は違うかもしれない」

 

「ソウルブラザーの命に関わる問題だ!

最悪の場合、ジョゼフ王に見つかる前に逃がさねば……あの王の事だ。平気でゲルマニアと開戦するだろう」

 

 この貴族社会では、血筋や爵位が物を言う。ゲルマニア貴族のツアイツには、問題が多い。だが、カステルモールはニヤリと笑う。

 

「どうやらツアイツ殿は直接ジョゼフ王から密命を貰い、それを達成した暁にイザベラ姫と結ばれるらしい。

最大の懸念のジョゼフ王の件は片付いている。幾ら人とは違う王とは言え、娘と愛妾が肩入れしているツアイツ殿を直ぐにはどうにかしまい」

 

 ガリアの狂王と直接取引出来るのか!これならば、或いはツアイツのガリアに婿入りは現実味を帯びてきた。

 

「しかし、我々は二つの問題を解決しなければならない。一つは、幾ら王と王女が認めても黙ってはいない連中も居るだろう。

当たり前だ!イザベラ姫に婿入りとは、いずれはガリアの王になるのだ。

次代の最高権力者……狙う奴らは数知れん。先ずは我らの力を蓄えて、いずれ正式な話が出たら力添えをしようではないか!」

 

「「「おお!我らのソウルブラザーをガリアに迎え入れるぞ」」」

 

 やる事は沢山有るだろう。ドロドロの勢力闘争……しかし、やりがいは有る。

 

「なぁカステルモール団長。話は分かったが、ブリミル教の件はなんだ?別にガリアの勢力争いにブリミル教は関係が薄いぞ?」

 

「そうだな。ロマリアと言えどもお家騒動に口を挟まないだろ?」

 

 疑問が募る……

 

「そうだな。これからが本題だ!良く聞いてくれ」

 

 カステルモールは真剣な表情だ。

 

「ツアイツ殿とイザベラ姫は貧巨乳連合の教祖と、ハルケギニア初のアイドルだ!

これは、もはや宗教と変わらない信者が居る。だから、ロマリアは教皇ヴィットーリオは潰しにくるだろう。それはお二方も予測しておられた。

だからだ!

ブリミル教と対抗する為に、ツアイツ殿は……いや教祖ツアイツは、ハルケギニアにオッパイ帝国を興すつもりだ!

我ら紳士(変態)の楽園を十年計画で形にする。イザベラ姫も共に、教団のシンボルとなる事を約束していた!

我らの理想郷……ツアイツ殿をガリア王にする事は、ガリア王国が神聖オッパイ帝国になる事なのだ!」

 

「「「うぉー!我らが理想郷の為に。ハイル・オパーイ」」」

 

 ここに神聖オッパイ帝国の中核メンバーが結成された!

 

 

 

お留守番タバサさん

 

 

 イザベラ執務室

 

 最近政務を手伝わされる関係か、割と馴染んだ部屋……普段イザベラが座っている執務用の机に座っている。

 私は彼女の身代わり。フェイスチェンジで顔も変えて、胸にはタオルを巻いて誤魔化している。

 背は変えられないから、誰か来ても椅子に座って立たない。ツルペタでストンだが、悔しくはない。

 

 デカくなるとイザベラに纏わり付いている変態に興味を持たれるから。

 

 まだツルペタ好きの変態の方が数が少なくて安心の筈だ。イザベラ、無事だろうか?

 いずれミスタ・ツアイツとアルビオン王国に同行した事は公表するつもりだが、現段階ではバレない様にと身代わりを頼まれた。

 報酬はお母様の治療……それはミスタ・ツアイツが見付けたそうだ。

 

 彼って何者なんだろう?他国の貴族を洗脳しまくり、何がしたいのかと思えば趣味の友達を増やしてる?

 

 ハルケギニア中の変態の大本締めになりたいの?考えていても、手はペンを握り紙に何かを書いていた。

 

 変態、怖い

 

 ワルド様はロリコン

 

 友達も怖い

 

 色キチガイだ

 

 イザベラは好き

 

 竜騎士団も変態

 

 お母様と変態達が誰も知らない所へ行きたい

 

 

 何を書いているの?深層心理か願望か……紙の無駄遣いをしてしまった。

 

 クシャクシャと丸めてゴミ箱へ投げる!

 

 机の上は、整理整頓がなされている。決裁の済んだ書類は全て右のカゴの中に……

 これを定期的に何回かに分けて回せば、いかにもイザベラが政務をこなしている様に見えるだろう。

 

 王宮及び国内の男の浪漫本ファンクラブの連中は、カステルモール団長の仕掛けた「イザベラ祭り」で蜂の巣を突っついたみたいに盛り上がっている。

 

 だから執務室に籠もっている風にしている。

 

 カステルモール団長は「これもツアイツ殿をガリアに迎え入れる準備だなのだよ諸君!」とかファンクラブの変態を前に演説してた……

 

 既にガリア全土に、変態が溢れ出し始めた。首を振って怖い想像を消して、周りを見る。

 生真面目で几帳面な従姉姫の性格を表してか……壁には絵画等も掛かっていないし置物も無い。

 普通は高価な調度品を並べ、貴族の格を表すものだが何も無い。

 

 視線を隣に続く扉にやると……「イザベラファンクラブ本部」の看板が……

 

「……見なかった事にする」

 

 あの変態達の詰め所?イザベラ、すっかりガリアの変態達のトップだ。部屋の中には人の気配がするのは……

 

「……居るの?」

 

 思わず呟いてしまった。

 

「「「はっ!待機しております。何かご用命でしょうか?」」」

 

 あの、竜騎士団の面々。クーデレとかロリッ子とか不思議な言葉で、ミスタ・ツアイツに洗脳された連中……

 ツンデレもえー?とか言っていた連中は、全てイザベラに付いて行った。

 

「……何でもない」

 

 そう言うと、あの妖しい部屋の中に戻って行った。彼らも私が替え玉と知っていてフォローしてくれるらしいが……正直、怖くていやだ。

 

「シャルロット様、実はあの連中に興味が有るんですか?」

 

「シャルロットお姉ちゃんも、ツアイツお兄ちゃんにフィギュア作って貰いなよ。エルザも固定ファンが出来たんだよ」

 

 イザベラが補佐として付けてくれた、北花壇騎士団の同僚……元素の兄弟の一員、ジャネット。白黒の派手な服、快楽主義の変態。

 そしてカステルモール団長が、独りでお留守番出来ないから。そう言って置いていった幼女。

 

 皮膚が弱いとミスタ・ツアイツが全身スーツをプレゼントした。着ぐるみウサギ……

 

「……かわいい」

 

 膝に乗せてナデナデする。変態に囲われた私の最後の癒やし……

 

「エルザ、フィギュアってなに?」

 

 気になる単語が有ったので質問する。確か私の安全の為にイザベラを売ったのもフィギュアだったはずだ。まさか、こんな幼子のフィギュアまで?

 

 エルザはお腹のポケットからビスケットを取り出し頬張りながら

 

「前にツアイツお兄ちゃんをガリアに拉致った時、移動中に暇だからってエルザのフィギュアを作ってくれたの!

ツアイツお兄ちゃんたら、エッチだからエルザに恥ずかしいポーズとかさせるんだよ。

でも大きなお友達は喜んでくれるんだって!毎月売上の一割が貰えるから、エルザお金持ちなんだ」

 

 大きなお友達?エッチなポーズ?お金持ち?ミスタ・ツアイツは一体この子に何を?

 

「いーなーエルザちゃん!私もフィギュア作って欲しいな。で、毎月幾ら位貰えてるの?ねえねえ?お姉ちゃんに教えて!」

 

 ミス・ジャネットのあからさまな質問に、エルザは両手の指を折ながら考えてる。指で数えられる位って!まさかピンハネされてる?

 

「んーとね。5タイプあるんだ。スク水・ブルマ・ゴスロリ・ワンピ・それにボンテージ!

一体が7エキューで月産が各50体で合計250体。毎月完売で予約分を捌けないって言ってた。

だからエルザのおこずかいは175エキュー!凄いでしょ?」

 

 毎月平民の一年分以上のおこずかい?

 

「凄いじゃん!エルザちゃんお金持ちなんだ!」

 

 膝の上で可愛く「えへへへ!」とか笑ってるけど、これは大問題。

 

「旦那の稼ぎも凄いけど、将来は安泰だね。いーなー、私の妾入りはイザベラ様が許可しないだろうし……シャルロット様からも頼んで下さい」

 

「……何をどっちに?」

 

 この女、ミスタ・ツアイツの妾になりたいの?

 

「勿論、フィギュアの件ですよ!妾の件は相談するより既成事実っしょ!ツアイツ様って女性のお願いには弱そうよ。

ああ、世界を手に入れかけている男って良いわぁ……絶対退屈しないし!」

 

「そう、ガリア王になるから?」

 

 イザベラと結婚すれば、いずれ大国ガリアの王。世界に一番近い位置……

 

「違いますよ!男の浪漫本ファンクラブが、ツアイツ様の教団の信者達が……ブリミル教に取って代わるんですよ!腐れ神官共を粛正です」

 

 楽しそうだよねー?とかエルザちゃんと笑ってるけど……ブリミル教を駆逐?アレも嫌いだけど、あの変態達が正当化される教団が世界を掴む?

 

「ミスタ・ツアイツ……世界を変態に染める?でも、お母様の為に我慢する」

 

 お母様さえ治してくれるなら、ハルケギニアが変態の巣窟になっても良い。何かを得る為には、何かを失う覚悟が必要。

 それが変態帝国の設立でも構わない。基本的に変態でも、女性に優しいし紳士的では有る。

 平民にも人気が高いし、見てるだけなら危険は無い。

 

 何よりお母様の為だから……

 



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第179話から第181話

第179話

 

 

 レコンキスタの乱……

 

 後に人々がそう呼んだ、ロマリア司教オリヴァー・クロムウェルを盟主とした武装集団は壊滅した。

 盟主オリヴァー・クロムウェルには、ロマリアからブリミル教の司教ゆえ、此方で処罰をすると言う虫の良い問い合わせが来た様だが、アルビオン王党派はキッパリと断った。

 オリヴァー・クロムウェルは、始祖の血を引く王家に刃向かった罪人として処理された……

 

 アルビオン大陸でのブリミル教は地に落ちたと同義語だ。

 

 数少ない良心的な聖職者を除き、不正腐敗の認められた連中は捕縛されていく。

 僕はプリンセス・イザベラ号の甲板で沈みゆく夕日を眺めている……やっと終わった。後はジョゼフ王と対面するだけだ。

 

 甲板に寝転び空を見上げる。周りを見ると高さを確認出来るから……僕のトラウマは高所だ。

 そして高度三千メートルに有るアルビオンから徐々に高度を下げて飛んでいるが、まだ二百メートルは有るだろうか?

 

「ツアイツ、そろそろ王都リュティスが見えてきた。ヴェルサルテイル宮殿には直接行けないから……此処からは竜籠だよ」

 

 見渡せば、大分人工的な建物が増えている。あの前方に見える城塞都市が王都リュティスか……

 

「イザベラ様が同行している事がバレない様に、途中から別行動ですか?」

 

 彼女はプチトロアに居る事になっている。僕と一緒はマズいかな。クルクルと自分の蒼い髪を弄びながら、彼女は僕を見ている。

 

「メイド達はさ、お父様から送られた人材なんだよ。王族専用の護衛を兼ねているんだ。

つまり私達の行動はお父様に筒抜けだったのさ。さっき彼女達が教えてくれたよ」

 

 彼女の後ろに控えているメイドさん達を見る、確かにそうだよね。

 

「では一緒に行きましょうか。それなら今更だ。別に隠す事もないですね」

 

 イザベラ様の手を取り立ち上がる。遂に此処まで来た。前方の白亜の王城を見詰めて……高さを確認してしまい、腰が引く。

 

「ちょツアイツ、何故立ち上がったのに又座るんだい?ほら行くよ」

 

 足腰に力を入れて再度立ち上がる。眼下に見下ろすヴェルサルテイル宮殿にジョゼフ王が居る。

 

 いよいよだ!

 

 

 

 イザベラ様に案内されながら、ヴェルサルテイル宮殿の廊下を歩く。後ろにはシェフィールドさんが、前にはメイドさん達が歩いている。

 しかし、無駄にデカい廊下だ……コレだけの大理石を積み上げるだけでも大変だ。

 

 そして前方に高さ6メートル幅4メートルの両開きの扉が!

 

 前には衛士隊の方々が並んでいますね。イザベラ様を認めると、六人掛かりで扉を開ける……暗い廊下に光が射してくる。

 

 目が慣れると、巨大なホールが!

 

 扉から30メートル以上離れた場所に王座が見える。遂にジョゼフ王と対面だ!

 

「ツアイツ、惚けてないで行くよ」

 

 彼女が背中を叩いてくれる。前に一歩、部屋の中に入ると一斉に近衛兵士やら侍従やらが此方を見る。

 ここはやせ我慢でも前を向いて真っ直ぐ歩く。不機嫌そうに王座に片方の肘を付いていたジョゼフ王だが、僕を見詰めるとニヤリと笑う。

 

「これはこれは、巷で噂の巨乳派の教祖殿ではないか?歓迎するぞ、ツアイツよ。

よくぞ我が試練を乗り越えたな!しかし、シェフィールドとイザベラを籠絡するとは、俺の味方が誰もいないではないか?」

 

 そう言って豪快に笑う。まだ礼もとってないのに型破りなのは本当なんだな。ジョゼフ王の前に跪いて礼節に則った貴族的挨拶をする。

 

「お初にお目にかかります。

ゲルマニア貴族、サムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツです。お見知りおきを……それと恐れながら、彼女達のジョゼフ王を思う気持ちは本物かと存じます」

 

 そう言って顔を上げる。

 

「そうかそうか!レコンキスタの討伐ご苦労だったな。謀略だけの男かと思えば、最終決戦では自らが一万の敵を倒すとはな。恐るべき使い手よの」

 

 無言で頭を下げる。

 

「さて、俺はお前と2人きりで話がしたい。ここは周りが五月蠅くて堪らん。見栄を張らねばならぬ王族ゆえ仕方ないがな。我が執務室に招待しよう」

 

 そう言うとマントを翻してさっさと歩き出す。しかし僕は見た。あのマント……

 僕が蒼髭のジェイさんに贈った、花咲き乱れるシェフィールドさんのウェディングドレスバージョンだ。

 

 愛用しているのか?イザベラ様が心配そうに此方を見ている。安心させる様に頷いてから、ジョゼフ王の後を追う。

 王座の後ろに有る扉を潜り抜け、彼の後を小走りに追いかける。

 

 意外と足が速い。流石は虚無の加速使いか?

 

 開け広げられた扉を潜ると、こじんまり……はしてないが、10メートル四方の豪奢な執務室だ。

 窓が無いのは暗殺防止か盗聴防止か……しかし魔法の灯りが煌々と点いている。

 

「まぁ座れ」

 

 此方も豪華なソファーを勧められる。座ると体が沈み込み座り心地は最高だ……しかし、咄嗟の行動は出来ないかな。

 などと考えていると、シェフィールドさんが現れ紅茶を淹れてくれた。

 

「ここは周りの五月蝿い奴らは居ない。さて、これでゆっくりと話せるな」

 

 目の前の美丈夫を見詰める。

 

「そう睨むな。俺はお前を認めているぞ。誰よりもな。このハルケギニアで異端な漢、ツアイツ。お前は本当に何者だ?」

 

 手元のカップに目を落とし、何気ない様に聞いてくる。

 

「普通より、スケベで欲張りで自分の欲望に忠実な男ですよ」

 

「ふん、正直だな。確かにその通りだから、良く自分を理解しているとしか言えんわ」

 

 がはははっと豪快に笑う。そんなジョゼフ王を舐める様に見詰めるシェフィールドさん……想い人の前で、ヤンデレ化が徐々に始まっているのかな?

 

「ジョゼフ様、僕は与えられた試練を乗り越えて此処まで来ました。先ずは言いたい事が有ります」

 

 ふと何かを考える様に視線をさ迷わせたジョゼフ王が、僕と視線を合わせる。

 

「何だ?一介の貴族でしかないお前が、俺の挑戦に勝ったんだ。望みが有るなら言ってみろ?出来る限りの事なら聞いてやる」

 

 僕は深呼吸をして落ち着いてから、ジョゼフ王に言い放った……

 

「有難う御座います!この試練を与えてくれて……」

 

「はぁ?」

 

 ああ、この顔が見たかったんだ。何を言われたか解らない、何を言っているんだコイツは?みたいな顔が……

 

 大国ガリアのジョゼフ王にこんな顔をさせたのは、僕が初めてだろう!

 

 

 

第180話

 

 

 ガリア王ジョゼフが、何を言っているんだお前?的な顔をして、向かい合ったソファーに座っている。

 その後ろには、少し驚いた顔のシェフィールドさん……窓の無い、淡い魔法の光の中で不思議な雰囲気になる。

 

「ツアイツ、俺に礼を言ってるのか?何故だ!俺はお前に大変な試練を課した。そして、これからもう一つの問題を解決させようとしている……」

 

 クッションの効いたソファーに埋まり過ぎたので、大勢を整える。両足に力を入れて、少し前傾姿勢で座り直す。

 

「ええ、ジョゼフ王にお礼を言いました。今回の試練が無ければ、出会えなかった人達が沢山居ましたから……

シェフィールドさん、イザベラ様にファンクラブの皆にカステルモール殿……竜騎士団員に両用艦隊の連中。

数え上げれば切りがない、大切な人達との関わり合いを持てたのは全てジョゼフ王のお陰です。有難う御座いました」

 

 そう言って、もう一度頭を下げる。

 

「ふっ…くっくっく、あーっはっは……そうか、俺のお陰か?しかしその面子はお前がガリアを乗っ取る布石にも思えるぞ!」

 

 確かに国を構成する要職を兼ねる連中だ……でも面倒臭いから、国の運営は遠慮したい。謀略は苦手ではないけど、陰湿なのは嫌だし。

 

「大変申し訳有りませんが、要りませんよ国なんて!自由な趣味の時間が削られるじゃないですか。

今回の件が落ち着いたら、僕は隠居……は、立場上無理ですがノンビリしたいんです。生き急ぎましたから……この数ヶ月は」

 

 そう言ってニッコリと笑いかける。

 

「くっくっく……俺を前にその台詞か?良いのか?我が娘を娶るなら、この国が付いて来るんだぞ。大国故に問題も多い。お前に平穏は無い」

 

 ジョゼフ王はニヤリと返す。暫く2人で見つめ合う。シェフィールドさんが、ワインやらおつまみセットやらを用意し始めた。

 

 グラスは4つ……はて?残りは誰だ?手際良くテーブルにセットしていくシェフィールドさんに尋ねる。

 

「4人分ですね……後1人は誰ですか?」

 

 フォークとナイフを並べている手を止めずに応えてくれる。

 

「イザベラ様の分ですよ。ツアイツ、4人でロマリアを潰す計画を練らないと……アレは要らないわ。

だって私達には都合が悪いし、向こうにとって私達は邪魔者よ。だから六千年だか何だか知らないけど、澱んだ宗教を潰すんでしょ?」

 

 微笑みながら、ハルケギニアの成り立ちに必要だった宗教の根絶を示唆した。これには、僕もジョゼフ王も苦笑いだ。

 

「我が娘を呼ぶ前に、お前に頼みたい事が有る。俺はな……」

 

 ジョゼフ王が、初めて辛らそうな表情をする。

 

「ええ……聞いていますよ、シェフィールドさんから」

 

 思わずジョゼフ王はシェフィールドさんを睨む……余り先には知られたくない話だったんだろう。

 

「最初に聞いておいて正解でした。僕はこの試練にて幾つかの出会いをしています。

薄幸なハーフエルフと、変な水の精霊……彼女達?から2つの指輪を借り入れています。

水の指輪とアンドバリの指輪……この2つと神の頭脳ミョズニトニルンの力が有って初めて成し得る治療方法を思いつきました」

 

 一瞬でジョゼフ王の雰囲気が変わる。

 

「お前、何故ミョズニトニルンを知っている?それは俺が……」

 

「虚無の使い手ですね」

 

 ジョゼフ王の言葉を被せて結果を言う。お互い睨み合う……

 

「ハルケギニアにあって、ブリミル教と虚無神話は絶大だ!

特に魔法が苦手と言われる俺が伝説の虚無……蔑んでいた対象が彼らの信仰の原初の力。失われた神の力だとよ。笑わせるわ」

 

 苛立ちからか、体を小刻みに揺らしている……

 

「別にかびの生えた伝説など書き換えてしまえば良いだけです。

ガリアの虚無はジョゼフ王……ロマリアは教皇。では、アルビオンとトリステインは?王族では居ませんね、残り2つの国には……」

 

 ここが最後の原作知識の使い所だ。出し惜しみは無しで行く。

 

「教皇が虚無か……あやつなら狂喜乱舞だろうな。キチガイ教皇は、エルフへの侵攻を騒ぐだろう。自分はブリミルの生まれ変わりか後継者気取りでな」

 

 確かに望みうる理想は、ブリミルの再来。そして奴には、その力が有るからな。

 

「3対1で勝てるかな?それに民衆の意識を此方に持ってくれば大した問題でもないでしょう……

ここから先はイザベラ様を含めて相談ですね。さて、ジョゼフ王の悩みの解決方法ですが……」

 

 まだ話足りないみたいだが、ソファーに深くかけ直し手で先を促された。

 

「どうするんだ?ミューズを抱き込んだのもこの為か?」

 

 いや、ヤンデレさんはジョゼフ王に全て押し付けますから……

 

「トラウマ……僕も高所がどうしても怖いから分かります。

しかし、ジョゼフ王のトラウマは異常な性癖を持つ弟に襲われかけた事。この体験を打ち消すのは、普通ならそれを受け入れる事ですが……それは出来ない。

ならば、その記憶を書き換えるのです。例えば、王族の宿痾としての政権戦争……これなら受け入れられると思いませんか?」

 

「つまりは、忌まわしき記憶を……変態の記憶を普通の勢力闘争にするのか?

確かに、それなら仕方ないと思うな。それが可能なのか?人の記憶を壊すでなく書き換えるなど」

 

 ヨシ!食い付いたなジョゼフよ……実際はストロベリル記憶なんだよ。お姉ちゃんと甘々な砂糖漬けになるが良い!

 

「可能です。心配なら何件か先に実証しましょうか?

オルレアン夫人の心を治してみせましょう!又は、不治の病といわれるヴァリエール公爵の次女の治療を……」

 

 ジョゼフ王が僕の言葉を手で遮る!

 

「記憶を書き直す……そんな事が出来るのか?しかし、俺の記憶を治すと言うが信じられるのか?都合の良い記憶を植え付けないと何故言える?」

 

 流石に用心深いな。

 

「虚無の使い魔、神の頭脳ミョズニトニルンを信じられないのですか?」

 

 何時の間にか僕の後ろに回り込んだお姉ちゃんが、僕の両肩に手を置いて……多分、ジョゼフ王を見詰めているのだろう。

 

「彼女はジョゼフ王を裏切らない。それはルーンの強制力の他に貴方への愛故に……純粋な気持ちを裏切るとでも?」

 

 ジョゼフ王は黙ったままだ……

 

「ミューズを信じよう……しかし勢力闘争で負けたオルレアン夫人やシャルロットを俺はどう思うんだ?

普通なら危険の芽を摘むだろう。王家とはドロドロだそ!その思考に辿り着かないとは思えんな」

 

 記憶操作の後か……確かに書き換えられた記憶を元に考えればそうだな。序でにジョゼットの件も片付けよう。

 

「では、こうしましょう。ジョゼフ王の治療をする前にオルレアン夫人を治す。そして偽装しましょう。

粛正した事に……彼女達には、新しい名前と立場で暮らして貰う。しかし記憶では確かに処理をした事として。

なんなら念の為に、彼女達の記憶も偽りの身分を本当の事にしましょうか?」

 

 これは意地の悪い提案だ!実際はオルレアン夫人を治療したんだ、この人は……だからこの話には乗らないと思うんだけど……

 

「分かった。記憶操作を受け入れよう」

 

 やった!ヤンデレエンドは回避したぞ。僕はニンマリとジョゼフ王を見詰めた。

 

 この勝負、僕とお姉ちゃんの勝ちだ!

 

 

 

第181話

 

 

 ジョゼフ王執務室。

 

 此処で未来の家族達のささやかな宴が催されようとしていた。

 未来の王妃(予定)シェフィールドさんが、甲斐甲斐しく料理を並べていくのを神妙な顔で見ている手持ち無沙汰な男2人……

 

「俺のミューズが積極的になっているのは、お前の影響か?」

 

 取り敢えず邪魔にならない様に席を立ち部屋の隅に移動する。応接セットとはいえ、無駄にデカい。此処での食事は食べ難いのでは?

 

「いえ……(ヤンデレの)素養が有ったのでしょうか?情の深い女性ではないですか」

 

 何となく壁に2人して寄りかかり雑談する。

 

「そうか?ただ、たまに異様な雰囲気を醸し出すのだ……お前の言うヤンデレか?我が諜報によれば意味不明な単語だが、丁度あの様な状態の時に呟いたよな?」

 

 思わず、ジョゼフ王の情報収集能力に驚く!

 

「そんな驚いた顔をするな……お前の情報収集能力も大した物だろう?」

 

 僕のは原作知識だけど……目の前では、やはり食べ難いと思ったのか応接セットからメイドさんに持って来させたダイニングテーブルに料理を移動させている。

 あのメイド三人衆だ……

 

「東方の諺によれば、愛と情が深い女性の総称らしいですよ。一途な思いは、時に周りを苦しめる……

良かったですね?ジョゼフ王にしか向けられていない愛情で」

 

 最終的には、お姉ちゃんの気持ちをジョゼフ王に全てぶつけてもらい、僕は安全圏に……

 

「多分だが……お前と俺で4:6の比率だと思うぞ」

 

「何が?」

 

 思わず素で返してしまった!

 

「我がミューズの思いの矛先だ。俺もアイツは大切に思っているが、あの気持ちを全て受け止めるには、な。良かったよ。我が義弟にして婿殿よ」

 

 サラリと返された言葉は大変な物だった!

 

「あっあの……それは……」

 

 ジョゼフ王がニヤニヤと笑っている。

 

「知らないと思っていたのか?俺を甘く見たな?只ではやられんよ」

 

 ジョゼフ王はシェフィールドさんが、ヤンデレで危険な事を理解している?

 

「お父様、婿殿って私達はまだ……」

 

 振り返れば真っ赤になったイザベラ様が居た。何か手をワキワキとさせて驚いているが……

 

「ああ、イザベラよ。俺がお前達の事を知らないとでも思ったのか?

真面目で融通のきかないお前が男の事で右往左往するのは楽しかったぞ。

俺もコイツは気に入った。なら良いだろう?ガリアの王族に加えても……

俺は何もしないから、お前達で宮中を纏めろ。ただし、ロマリアの件は噛ませろ。あれは退屈しのぎに丁度良い」

 

 原作で退屈しのぎに国をチェス代わりに遊んでいたが、この世界では面白い物が多いのか……

 

「ジョゼフ王、ロマリアを潰したその先に……」

 

「ジョゼフ様、用意が出来ました」

 

 肝心な所で、お姉ちゃんから声が掛かった。ガリア王と王女と壁際で密談と言う不思議空間は終わった。各々が用意された椅子に座る。

 軽く飲む予定だが、キッチリとしたコース料理が用意されている。椅子を引いて座るのを待っているメイドさん達……

 

「まぁ良い、座れ。 話は食べながらでも良かろう」

 

 ジョゼフ王はシェフィールドさんが引いてくれた椅子に座る。

 ちょっと憮然としているが、狂王にしては大人しいと思われているのが嫌なのかな?目の前には肉料理を中心とし……いや肉料理しかない。

 精力をつけろって事かな?隣に座るイザベラ様を見れば、下を向いたままだ。

 

 シェフィールドさんは、ワインをジョゼフ王に注いでいる。

 

「イザベラ様、ワインをどうぞ。マナー違反ですが身内だけと言う事で」

 

 普通なら貴族が食卓で相手にお酒を注がない。メイドや侍従の仕事だから……

 

「いや私は良いよ。

ツアイツの傷が完治するまでは飲まないって決めてるし、最初はアレを用意してくれているんだろ?おい、果汁水を用意しておくれ」

 

 アイスワインをご所望ですね。このやり取りを面白そうに見ているジョゼフ王。彼は白ワインを飲んでいる。

 肉料理なら赤ワインかと思ったが、色々種類は有るらしい。現世はビール党だったからキンキンに冷えた生ビールが飲みたい。

 

 当然スーパード○イだ。

 

「お前ら、父親の前でイチャイチャするな……さて、話を戻すぞ。

ロマリアの対応だがどうする?俺は男の娘だか知らないがホ○国家など……攻め滅ぼしたい」

 

 割とマナーには五月蠅くないのかな?ジョゼフ王は肉を頬張りながら話し掛けてくる。

 お姉ちゃんは恍惚として、そんな彼を見詰めている。

 

 イザベラ様は……小口なのか、ナイフとフォークで肉を小さく切っている。なかなか様になっている。

 

 僕は緊張でワインばかり飲んでいる……流石に王族の食卓に饗されるワインは、味の分からない僕でも美味しいと思う。

 

「宗教には宗教を……アイドル、男の浪漫本ファンクラブ。

それに付随するフィギュアや本、演劇……売り買いだけでなく製造にも携わる人を広げていく。

産業と文化として組み込めば簡単には排除出来ないですよね。先ずは地力の強化でしょうか、表の情報戦は……」

 

 悪代官並みのニヤリ笑いを浮かべる。

 

「情報戦?おっぱい教祖のツアイツとトップアイドルのイザベラが居れば、ゆっくりと洗脳が広まるか……

お前の会報には、微妙にブリミル教排斥のニュアンスが組み込まれているな。

これが情報戦か……なる程、民意を煽るか。エゲツねーなお前?でもロマリアの威信失墜か……

くっくっく……いや、表は分かった。では裏の情報戦とは?それとも直接に武力介入か?」

 

 心底楽しそうなジョゼフ王が居る。しかもモリモリ肉を食べているが……謀略好きは根っからか?ワインばかり飲んでいたら顔が暑い……

 

「ツアイツ、病み上がりに飲み過ぎだよ?もうお止めな。おい、水を持ってきな」

 

 ワイングラスを取り上げられた……

 

「お気遣い有難う御座います……裏の情報戦はアレです。

教皇ヴィットーリオの威信を落とします。男の娘ですか……爛れてますよね?

人の事は言えた義理ではないのですが、あの性癖を禁忌な物へと誘導します。

ホモ教皇は、我等おっぱい教に……具体的に言うと、女好きな我々にホモを押し付けようとしている。

これは我が教義に忠実な者程、衝撃的でしょう?

そして民衆には非生産的な性癖を強制する教皇……子供が産まれなければ国は成り立たない。

女性は自分達を蔑ろにする教皇をどう思うか?移民、積極的に行いましょう。

人は石垣、人は城……人口とはそれだけで強力な武器で有り仕事は山ほど有ります。

別にブリミル教を拒絶はしませんよ。好きにすれば良い。安定した暮らし、良い仕事環境、娯楽も有ります。

さてどちら側に付きますかね?」

 

「しかし公然と移民は認めらんないだろう?奴らだって民は税金の元だぞ。腐れ坊主が黙っていまい?新教徒として弾圧が始まるか異端審問だぞ」

 

 かつてトリステインでも行われた新教徒狩り……タングルテールの再発はお断りだ。

 

「確かに平民達だけでは厳しいですよね。

でも手を貸せば?マトモなブリミル教の神官を抱き込めば?でも教皇の敵対勢力は要りません。

皆さん腐ってますから……マザリーニ枢機卿辺りを担ぎ上げますか?宗教なんて弾圧したら死兵となって抵抗するから面倒くさいです。

だからガス抜きと建て前をぶら下げれば良い。大国故に移民の受け入れ場所も豊富だし、そのまま国力強化だし」

 

 ね?って聞いてみる。

 

「お前、ロマリアの平民ごっそり奪う気か?」

 

 新しい家族の密談は続く……

 



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第182話から第184話

第182話

 

 

 なし崩し的に新しい家族と食卓を共にする。流石に大国ガリアの料理は素晴らしい。

 何を食べても、素材・調理・器にいたるまで僕では判別出来ない匠の技です。

 特にこの牛のステーキに何か掛かっているソースとか……マルトーさんの料理も旨いけど、これは別格だ。

 少し落ち着いたので、色んな料理に手を付ける。

 

「ツアイツ……俺を前に本気食いだな。不思議だな。本来なら敵対している筈だが、家族になろうてしている……これもお前の策略か?」

 

 肉の塊が口に入っている時に質問された。

 

「にゃんでふか?んぐんぐ、失礼しました。何でしょうか?」

 

 イザベラ様がナプキンで口を拭いてくれる。

 

「…………いや、良い。馬に蹴られそうだ」

 

 甲斐甲斐しく世話をしてくれるのは嬉しいけど、メイドさんも両脇からナプキンで僕を拭こうとしてくれていた。

 それをかい潜ってイザベラ様が拭いてくれる。父親の前で……

 

「…………?はぁ、僕もイザベラ様がこんなに佳い女性とは思ってませんでした。惚れた弱みですかね?この勝負は僕の負けです」

 

 他の婚約者達も愛しているが、一番しっくりくるのは彼女だ。辺境伯や公爵・伯爵の愛娘達……彼女達も素晴らしいが、この難局に!

 ロマリアとブリミル教六千年の重みに立ち向かうのには最高のパートナーはイザベラ様だ。

 僕のハーレムに、またお気楽極楽転生ライフを満喫する為にも彼女の協力は嬉しかった。

 

「ジョゼフ様、先ずはオルレアン夫人の治療をしましょう。そしてシャルロット様と新たな身分と偽装を……宜しいですか?」

 

 彼が洗脳される前に出来うる事は全て終わらせたい。

 

 シェフィールドさんのシナリオ本「我が主との愛の記憶vol30」を見たが凄まじい甘さだ……洗脳後は政務は無理かも知れない。

 

 そして甘々な2人に仕事を押し付ける事が出来るとも思えない。

 

「ああ、構わんよ。旧シャルル派以外の没落貴族の爵位を適当に見繕っておくか。但し、フェイスチェンジは必要だ。

蒼い髪は王家の証……お前達の立場を危うくする芽だそ。しっかり抑えておけ。

アレは、シャルロットは残念ながらお前達程の有能さは無い。付け込まれる隙も有る。

情けだけでは国を纏めるのは難しい……まぁお前は性癖で纏め上げるか?

くっくっく……ガリアが生まれ変わるな。ツアイツよ。おっぱい教をガリアの国教にしてみるか?」

 

 また無茶振りをする……

 

「時間を掛けないと無理です。少なくとも10年位は掛けるつもりです。僕もまだ学生ですし、急激な変化は揺り返しが怖いですし……

じっくり時間を掛けて勝てると思うまでは行動はしない。今回は無茶を随分して学びました」

 

 レコンキスタはアルビオン王国が主流で、僕に対しては全力じゃなかった。しかし、ロマリアは……教皇ヴィットーリオは僕とイザベラ様を必ず潰しに来る。

 僕らの存在自体がブリミル教にとって正面から喧嘩を売っているし、彼の目的の妨げになるから……謀略系の腹黒い奴らだから搦め手で来るはず。

 慎重に時間を掛けていくしかないだろう。

 

「ふん。つまらんな、慎重過ぎるぞ?まぁ良いだろう。

これからの話だからな。それで、お前はどうするんだ?一度ゲルマニアに帰るのだろう?」

 

 もうこの話はお終いとばかりに話題を変える。ジョゼフ王は目線を料理に戻しモリモリと食べ出した。

 

「ツアイツは、一旦帰るんだね。寂しくなるね。暫くガリアに滞在しなよ?観光だってしてないし、見せたい場所も有るよ」

 

 確かに慌ただしかった、僕の夏休み……まだ半月位は残っている。

 

「有難う御座います。しかし、ゆっくりも出来ないですよ。先ずはオルレアン夫人とカトレア様の治療。

それからジョゼフ王の治療をする訳ですから……あー、でもトリステイン王国には暫く行きたくないかも」

 

 アンリエッタ姫が何か言ってくるかも知れないし、学院が始まるまでは近付きたく無いし……

 

「トリステイン魔法学院か?ウィンドボナかリュティスの魔法学院に編入しろ。その方が都合が良い。

ロマリアと事を構えるなら自国かウチの方が有利だぞ。トリステインでは付け入る隙が多過ぎる。あの国は駄目だな」

 

 確かにその通りだ。他国、しかもトリステイン王国では後手に回る危険が有るか……

 

「ツアイツ、ウチに来なよ!婚約者達も連れてきて良いからさ。一緒の方が対応し易い」

 

 イザベラ様は、理にかなっているからリュティスの魔法学院に編入を勧める。

 

「少し考えさせて下さい……」

 

 来年から原作開始。つまり使い魔召喚の儀式が有る。そこで僕が居ないと……いや、そもそもサイトが召喚されるのか?

 ルイズは既に補完されている。彼女はサイトを求めるのか?使い魔は必然で選ばれる。

 主人の困難に立ち向かう力となる為に……そう僕は解釈しているんだが。

 

 仮にサイトが召喚されたとして、初期のイベントは既に無い。

 

 ギーシュと喧嘩?犬扱い、はされないだろうし僕の婚約者なんだ。近くに使い魔とは言え男を傍に置くとは考えられない。

 精々が学院で使用人扱いにするか、実家に送るか。レコンキスタは崩壊し、ジョゼフ王とは交渉出来る立場だ。

 ワルド子爵もマチルダさんも味方だし。デルフも既に彼の相棒にはならない。彼の成長の為の踏み台は既に誰も居ない。

 

 ヒロイン連中は?

 

 ルイズ、キュルケ、モンモランシー、シエスタ、アンリエッタ、テファ……これもサイトには無関心だろう。

 アンリエッタ姫以外は僕が抑えたし。ジェシカやケティ?

 絡むイベントも発生しないし、活躍しなければ見向きもされなくないかな?アイツ、もしかして僕が要らない子にした?

 

 突然黙り込んだ僕を心配そうに見詰めるイザベラ様……

 

「何だい?気になる事でも有るのかい?」

 

「いえ……この世界の歴史を変えてしまったのかな?と思いまして」

 

「「「十分変えた(ぞ・だろ・わよ)」」」

 

 三人に真顔で突っ込まれました!

 

 

 

第183話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 プチトロアの中庭に設えた東屋に座っています。四季の花々をあしらった花壇が素晴らしい。

 花に詳しくはないので、何が咲いているのか分かりませんが兎に角綺麗です。

 さて、これからシャルロット様の実家のオルレアン邸に行って夫人の治療を……

 行いたいのですが、軽く虚無った遍在を生み出すワルド殿(本体)を呼び寄せるのに時間が掛かりました。

 

 此処まで漕ぎ着けるのに4日のロス……その間はイザベラ様とガリア観光が出来たので良かったのかな?

 

 そして久し振りにワルド殿に会ってみれば……

 

「ツアイツ殿、私はタバサ殿にどの面下げて会えば良いのでしょうか?

ジョゼットとは両想いになれました。しかし、彼女は実の母と姉に会う気は無いと。その気持ちは尊重したい、しかし……」

 

 相当悩んだのか、目の下に隈を作って向かいに座って俯いている。

 真の漢と書いて変態紳士ワルド殿だが、振られた彼女でも秘密を持つのは辛いのか……妹と良い仲になったのが気まずいのか?

 それとも、実の母と姉に会わせた方が良いのか悩んでいるのか?彼は意外と優しすぎる面が有る。

 

「これはミス・ジョゼットの気持ちを優先すべきですよ。

言葉は悪いが、会う会わないは捨てられた方に決定権が有ると思います。ワルド殿は堂々とシャルロット様に会えば良い。

なんたって、ハルケギニア広しと言えども、オルレアン夫人を治せるのはシェフィールドさんとワルド殿しか居ないんですよ」

 

 そう言って彼の肩を叩く!バンバン恩を売って下さい。

 

「ではお姉ちゃん指輪渡してあげて……」

 

 ゆらりと僕の後ろに現れるシェフィールドさん。僕の首に両手を絡めてきますが……もう驚きません。

 移転出来るマジックアイテムが本気で欲しいです。

 

「ほら、大切に扱いなさいな」

 

 そう言ってアンドバリの指輪と水の指輪をワルド殿に渡す。最初よりも彼に対する態度が軟化しているかな?

 僕はワルド殿の漢力を増幅する為に男の浪漫本の新刊を渡す。2つの指輪を握り締めて本を開く。

 

 フンフンと鼻息を荒くしていくワルド殿……目に見えて、何か分からないオーラが彼を包む。

 

 端から見れば、エロ本をみて興奮している人だ!

 

「きっキタキタキター!内なる力を発現するのだー!ユビキタス・デル・ウィンデ、風は変態する」

 

 アレ?何かスペルが違う様な……そして遍在が現れる。

 

「本体、最後のスペルは良かったぞ。我は性癖に特化した遍在となった」

 

「ふっ……褒めるな分身よ。我らは全て紳士たれ、だ」

 

 僕はテーブルに突っ伏した。何故か新しい遍在殿は……武装錬金のチョーな人の様な全身タイツに仮面を付けている。

 

「ワルド殿、彼の格好は……その随分とアレな感じが……」

 

 ワルド殿と遍在殿を見つめ合って頷く。

 

「確かに我等ながら素晴らしい衣装だ!しかし、その格好でジョゼット殿を襲ったんだった……それは封印だ」

 

 不穏な台詞を聞いたよ?襲撃って報告で知っていたが、あの格好でロマリアに罪を押し付けたのか?それはジョゼット殿がロマリアを嫌うのが分かる。

 アレに襲われたなんてトラウマになってない?僕の周りはトラウマ持ちが多くないか?ワルド殿がもう一度スペルを唱えると、普通の衣装に戻った。

 

「では指輪はお渡しする。私は此処で待機ですな。ジョゼット殿の件も有るし同じ顔が2人も居るとオルレアン夫人を刺激してしまうだろう……」

 

 遍在とは言え、双子を連想させてしまうからか。

 

「ではオルレアン邸に行きましょう」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 イザベラ様から通達の有った奥様を治療して下さる方々がいらっしゃいました。

 初めてお会いしましたが、シャルロット様が奥様に読ませていたアノ本の著者……また随分と若い御仁で御座いますな。

 

 多分十代半ばかと……

 

 しかし、あの黒衣の魔女と隣国の魔法衛士隊隊長まで従えています。

 心なしかシャルロット様も普段の無表情でなく、僅かですが微笑まれている気がします。もしかして好意を抱かれているのでしょうか?

 考えれば、あの様な艶本を譲る程の仲なのですから。かなり進んだ仲に?

 

 などと考えていましたが、ちゃんとお客様を応接室にお通しして紅茶を煎れています。

 

「ミスタ・ツアイツ。お母様をお願い」

 

 ソファーに座ると直ぐにシャルロット様が懇願していますが……それは縋る様に抱き付いています。やはりお二人は?

 

「シャルロット様、落ち着いて下さい。今回の治療に関して僕は殆ど何も出来ません。ワルド殿とシェフィールドさんの力を借りなければ不可能でしたから……」

 

「ワルド様?……ありがとう。私、貴方に……」

 

「良いんだ、その事は……オルレアン夫人の治療には全身全霊協力する」

 

 何やらこちらも怪しい雰囲気で御座いますな。シャルロット様の友好関係は一体?

 

「先ずはオルレアン夫人を呼ぶ前にお話が有ります。

ジョセフ王にも了解を貰ってますが、治療法は彼女の精神を……心を蝕んでいる原因の記憶を書き換える事です。原因の記憶は教えられません。

それは……お互いに真実を知ってしまうと取り返しがつかない事になるから。しかし治る事は保証します。

そしてお二人には、新しい身分と環境で暮らして頂きます。旧オルレアン派は完全には復権を諦めてはいないでしょう。

だから偽装死をして彼らの反乱の口実を無くします。これが治療の条件です」

 

 ツアイツ様は、とてもお辛そうな顔をされています。

 奥様は正気を失っていた為に、旧オルレアン派から御輿としての利用を逃れてきました。

 しかし快癒し、シャルロット様とお暮らしになれば利用しようと動き出す。

 

「構わない。お母様が治るなら……その条件を受け入れる」

 

 シャルロット様!お仕えする姫様が覚悟を決めているなら、私は従うまでで御座います。

 

「分かった。では治療を始めましょう。オルレアン夫人の元に案内して下さい」

 

 直ぐにでも治療をして欲しいシャルロット様がツアイツ様の手をお取りになって……ちょーっと待ったー!

 あの忌まわしき旦那様の女装癖&近親相姦ホモ野郎の記憶が無くなり正気を取り戻しても、自分の娘が実の母親にエロ本を朗読させる記憶が……

 正気を取り戻しても、更なる悩みを生んでしまう。

 

「ちょ一寸お待ち下さい。ツアイツ様……少し私とお話をさせて頂けないでしょうか?出来れば、オルレアン家の機密に関わりますので2人きりで……」

 

「……ベルスラン?」

 

 シャルロット様には言えません。まさか父親だけでなく娘も変な性癖を持っている事を奥様から忘れさせて頂きたいのです、なんて……

 でなければ、また奥様は病んでしまわれます!父娘が共に変態道を歩んでいるなんて……

 

 この世に神は居ないのでしょうか?

 

 

 

第184話

 

 

 応接室にシャルロット様達を残して、老執事のベルスランさんとベランダに出た。外の景色は素晴らしい。

 手入れの行き届いた庭の先には、ラグドリアン湖が見えます。

 

 夏の日差しを浴びてキラキラと輝く湖面……不名誉印を刻まれ予算も少ないだろうに、良く手入れがなされています。

 彼の、ベルスランさんの苦労は大きいのでしょう……

 

「それで?僕にだけ話したい事とは?」

 

 ピシッとした姿勢を崩さず前に立っているベルスランさんに問う。

 

「ツアイツ様……奥様の心が病んだ本当の原因をご存知なのですね?」

 

 ああ、秘中の秘だろうオルレアン公の変態趣味の件か……

 

「知っています。知らなければ治療は出来ませんから……しかし他言はしません。この秘密は墓場まで持って行きますよ」

 

 シャルロット様が真実を知ってしまうと、彼女も病んでしまう可能性が有るからだね。

 ベルスランさんは、ベランダの手摺に両手を付いて外を見ている。何か思い詰めている感じだ。

 

 湖面からの涼しい風が2人の間を吹き抜ける……避暑地として、ここは良い環境だ。

 

「時にシャルロット様に……大量の艶本をお渡しになりましたね?何故でしょうか、理由を聞いても宜しいですか?」

 

 艶本?男の浪漫本の事か?

 

「シャルロット様が、北花壇騎士団の任務で……ジョゼフ王から僕の著者を集める様に依頼が有ったので、お渡ししましたが。それが何か?」

 

 何故、北花壇騎士団の任務内容を知っているんだ?そんな話をベラベラと教える娘じゃない筈だが……

 

「ツアイツ様……シャルロット様は、奥様に艶本を音読させて興奮される趣味が見受けられます。

正気を取り戻した奥様に、この記憶が残っていれば……その、また心が蝕まれる可能性が有ります」

 

 なっなんだってー!

 

 シャルロット様も我等と同じ変態?しかも実の母親に羞恥プレイを?

 

「そっそれは本当なんですか?あのシャルロット様が?その手の知識には疎い筈ですよ!まさか……そんな変態趣味が有るなんて……」

 

 オルレアンの血とは……この王国の血を受け継ぐ名家にもそんな宿痾が……

 

「分かりました。その記憶も消す様に頼んでみます……しかし、シャルロット様がその様な性癖だったなんて……彼女の旦那になる奴も大変だなぁ」

 

 アレ?ベルスランさんが変な顔で僕を見詰めているんだけど……

 

「おそれながら、ツアイツ様はシャルロット様とお付き合いなされているのではないのでしょうか?」

 

「いえ、違います。全くの誤解です……僕はイザベラ様の方ですから間違わないで下さい」

 

 全く何でそんな勘違いをするんだ?

 

「何故、そう思ったのですか?僕達の接点は少ない筈ですし、その様な態度もとらなかった筈ですが」

 

 あらぬ誤解を生む行動はしてない。しかし彼は、僕達が付き合ってると思っている。

 

「誤解でしたら申し訳御座いませんでした。あの様な男女の艶本を贈る仲ならばてっきり……」

 

「お話はそれだけでしょうか?ならば早速オルレアン夫人の治療を始めたいのですが……」

 

 僕とシャルロット様との誤解が解けたなら、早く治療に移ろう。皆が待っているから……

 

 

 

 

 オルレアン夫人……

 

 

 ベルスランさんに案内されて彼女の私室に入る。精神が蝕まれているが、外見は普通のマダムだ。

 特にやせ細ったり、目が虚ろとか……その手の方々特有の雰囲気は無い。ただロッキングチェアーに腰掛け膝には人形を抱いている……

 

「奥様、お客様をお連れしました。治療の為にわざわざいらして下さいました」

 

 ベルスランさんが声を掛けても、此方を意識しない……ただただ人形を撫でている。僕は杖を取り出し夫人に魔法を掛ける。

 

「スリープクラウド……」

 

 僕の紡いだ魔法の霧が、彼女の顔を覆うとパタリと手を垂らして眠ってしまう。

 

「治療がし易い様に眠って頂きました。目が覚めた時には……本当の娘が誰か判別出来る筈です。シェフィールドさんお願い……」

 

 オルレアン夫人をレビテーションでベッドに寝かせると、お姉ちゃんに治療を任せる。

 

「ふふふ、任せて」

 

 彼女は、ラウラさんの時と同じ様に指輪を左右の指に一つずつ嵌めてオルレアン夫人の頬に添える。そして精神を集中し始めた……

 どれ位、時間が過ぎたのかお姉ちゃんの額に汗が浮かび上がる。オルレアン夫人の表情には変化は無い。

 

 しかし、シェフィールドさんは辛そうだ……

 

 精神力の高まりを感じた後に指輪が眩い光を発した後に砕け散った!よろけるお姉ちゃんを後ろから支える。

 

「大丈夫?ラウラさんの時と随分違うよ。オルレアン夫人に苦痛の表情は無かったけど、お姉ちゃんの方が辛そうだった……」

 

 荒い息をしているお姉ちゃんを気遣い、近くの椅子に座らせる。

 

「記憶の操作……コツは掴んだわ。これでジョゼフ王の主様の方も問題無いわ。有難う、ツアイツ。気遣ってくれて。もう大丈夫よ」

 

「お母様は本当に平気なの?病気は治ったの?」

 

 今まで無言で見守っていたシャルロット様が聞いてくる。ずっと握り締めていただろう、その細い両手が震えている……

 

「頼まれた記憶操作は2つ。両方とも問題無い。しかし、彼女はオルレアン公がジョゼフ様に普通に政権争いを挑んで粛正されたと思っている。

もしかしたら主様を恨んでいるかもしれない。それは新しい記憶を元に、どう考えているか……当人しか解らない」

 

 それでも旦那と娘の変態行為よりは心が痛まないだろう。

 

「目が覚めるまでに、あと二時間位は掛かるかな?安全の為に目が覚めるまで待機しましょう。

彼女の治療が完全であれば、その後の話をしなければならない。つまり偽装死と新たな生活について……」

 

 ここまでの処理をして初めてシャルロット様の幸せは補完される。落ち着いてからだ。

 

 ミス・ジョゼットの件は……言わない方が良いだろうし、僕が話せる事でもないから。

 

 ずっと無言で壁際に立っていたベルスランさんが「皆様、有難う御座いました。別室にお茶をご用意して有ります。少しお休みになられた方が宜しいかと」と誘ってくれたので、ベルスランさんのご好意に甘えよう。

 

 今は待つ事しか出来ないから……

 

「私はお母様の傍に居る。目が覚めた時に、一番に話をしたいから。その……あっ有難う、この恩は一生忘れない」

 

 オルレアン夫人の様子はシャルロット様に任せる事にして部屋を辞す。ここは母娘二人きりにしてあげるべきだ。

 

 感動の再会に余人は要らないのだから……

 



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第185話から第187話

第185話

 

 

 オルレアン公の屋敷でお茶を飲む、応接室からの眺めは最高です。

 遠くにラグドリアン湖が見えます。湖面からの風は夏の暑さを忘れさせてくれる清々しさを運んでくれます。

 

 オルレアン夫人の病気……

 

 記憶操作で精神を病む部分は取り除いた。新しい記憶でジョゼフ王に対して、どんな思考に落ち着くのかが心配だ。

 敵討ちとか、我が子を王位にとか……そんな考えを持ってしまったら、また処置をし直さなければならない。

 しかし表面的な会話で彼女の真意が解るのか?腹芸の出来る人だったら?

 

 これがジョゼフ王の言った王家はドロドロか……大国のトップに立てるならイチかバチかも厭わない連中だっているだろう。

 

「ツアイツ、厳しい顔をしてるわ。オルレアン夫人が王家に隔意を持ってしまうか不安なの?」

 

 そんなに不安な顔をしていたのかな?気が付けば、ずっと紅茶の入ったカップを飲まずに持ったままだ……温くなった紅茶を飲み干す。

 

「ええ。これからの事を考えてオルレアン夫人が現ガリア政府に不満を覚え行動するなら……僕らは見逃せない。

再度記憶操作をするか、最悪は粛正か……こればかりは夫を殺された彼女がどう思うか解らないから」

 

「ツアイツ殿……

貴方の彼女達を守りたい気持ちが通じれば大丈夫ですぞ。治療を施し新たな身分を用意した。

これを不満と思うなら……厳しい対処をしなければ多くの人が迷惑する。権力を握りたいから内乱など考えるなら仕方ないですがね」

 

 おう!空気の様だったワルド殿が重い事を……確かに、現ガリア政府は落ち着いている。

 まぁ善政と言って良い程に国は安定している。これを乱すなら、か。

 

「そうですね。しかし、今アレコレと悩んでも仕方ないですね」

 

 そうなったら、そうなったで割り切ろう。暫くは雑談をして時間を潰す……そして二時間が過ぎた頃に、待機していた部屋をシャルロット様が訪ねてきた。

 

「皆、ありがとう。お母様は正気に戻った。それで皆と話したいと言っている」

 

 彼女の両目は真っ赤だ。嬉し泣きか……しかし、この態度からは母親が変な思考に辿り着いた不安は感じられない。

 

「そうですか……成功ですね、おめでとう御座います。ではお話に……」

 

「ツアイツ、私達は行かないわよ。

ジョゼフ王の腹心の私や他国の魔法衛士隊隊長が行っては無用な警戒をするわ。ツアイツが話しておかしいと思ったら呼んで。再度記憶操作をしましょう」

 

 確かにシェフィールドさんはジョゼフ王の腹心……多分直接粛正に関わっている筈だ。

 

「分かりました。ではシャルロット様、行きましょう」

 

 シャルロット様と共にオルレアン夫人の部屋に向かう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 深い闇から目覚めた気持ちです。

 

 目の前に記憶よりも少し大きくなった愛娘シャルロットが居ました。

 聞けば夫が王位継承争いでジョゼフ様に挑み粛正された事で精神が病んでいたとか……あの快活だったシャルロットの変わりよう。

 あの子に苦労を掛けてしまったのね、不甲斐ない母親だわ。

 

 しかし、そんな私達の為に尽力して下さった方々が居たとは!

 

 現王家に逆らった私達の力になるのは大変な事。素直に感謝して良いのか、何か治療の報酬を求めてくるのでしょうか?

 私はもう政権争いなどしたくはありません。あの子と幸せに、静かに暮らしたいのです。

 

「お母様、失礼します」

 

 ノックと共に入って来た人物を見る。あらあら?随分と若いお方ね……シャルロットと同世代かしら、十代半ばの中々の美少年だわ。

 

「こっち……座って」

 

 あらあら?シャルロット、随分と仲が良さそうね。ほんのり赤くなって袖口を引いて椅子に座らせるなんて……

 もしかして好きな人?だから私達に力を貸してくれたのかしら……

 

「お初にお目にかかります。ゲルマニア貴族サムエル・フォン・ハーナウが長子ツアイツです」

 

 中々堂に入った態度ね。シャルロットもそんな彼を見上げているわ。

 

「先ずはお礼を言わせて下さい。有難う御座いますわ。でも何故私の治療をして下さったのでしょうか?私達の立場は微妙な筈ですわ」

 

「失礼ですが、夫人の治療については我々の未来にも関係しているので……全くの善意だけでは有りません」

 

 あらあら?我々ってシャルロットとの事かしら……私達は現王家に逆らった逆臣と知っても動じないわ。

 シャルロットも私を見ないで彼を見詰めてるし……アレかしら?嫁の実家を何とかする的な?男の甲斐性なのかしらね……

 

「オルレアン夫人。単刀直入に聞きます。ジョゼフ王に復讐をする気が有りますか?」

 

 これは……急に厳しい顔で何を聞いてくるかと思えば!政権を奪うつもりが有るのかって事かしら?

 まさかガリアを乗っ取る為にシャルロットに近付いたの?それなら私は貴方を許さない!

 

 たとえ治療して頂いたとしても……

 

「ツアイツ殿、私は静かに暮らしたいのです。出来れば今まで苦労を掛けたシャルロットと……国などもうどうでも良いのです」

 

 そう言ってシャルロットを抱き寄せる。もし彼が私達を利用しようとしてるなら、せめてこの腕で守れる様に……

 

 あらあら?凄い笑顔だわ?

 

「そうですか!それは良かった、ならば力になれます」

 

 引き籠もり宣言をした私達を笑顔で見ているわ……何故なのかしら?

 

「実際に夫人が快癒したとなれば、旧オルレアン派が接触してくるかも知れません。

そうなれば、母娘共々幸せには程遠い争いに巻き込まれるでしょう。なので申し訳ないですが、一つ提案を受けて頂きたいのです」

 

 あらあら?真面目な顔をすると凛々しさが際立つわね。これは女泣かせね……

 

「提案ですか?」

 

「そうです。

立場上ジョゼフ王も内乱の火種となるあなた方を放ってはおけない。だから新しい爵位と身分を用意しました。

フェイスチェンジで顔も変えて頂き新たな生活を送って頂きたい。そして今のあなた方は偽装死をして貰います。

つまり全くの別人として生活をして欲しいのです。新たな身分等はイザベラ様が手配して下さいました」

 

 あらあら……凄いわね、この子。イザベラ姫まで巻き込んで私達の為に尽力してくれたのね。

 益々シャルロットと怪しいわ、わざわざ爵位まで用意するって事が……嫁に欲しい訳ね。

 夫が亡くなったけど、頼もしい義理の息子が出来るのかしらね?

 

「その提案、お受け致しますわ。娘共々、宜しくお願いします」

 

 シャルロットも嬉しそうに微笑んでいる……漸く私達も幸せになれるのね。

 

 

 オルレアン夫人……

 

 

 表舞台からシャルロットと共に退場。彼女達の屋敷は不審火により全焼……使用人共々、公式に死亡を発表された。

 原因は不明だが、事故と事件の両方で調査中だ。

 

 オルレアン夫人。シャルロットとツアイツの仲を多大に誤解したまま、イザベラ姫の直轄地の一貴族となった。

 

 彼女達の幸せは、ここに補完された!

 

 

 

第186話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 オルレアン夫人の件が一段落したので、今はカトレア様の治療をする為にトリステインに向かっています。

 秘密裏に……だって公にしてアンリエッタ姫に捕まるとか嫌ですから。

 

 魔法衛士隊隊長のワルド殿も同行しているけど……国境警備もザルだから普通に入国出来ました。

 

 今は馬車にゆられてヴァリエール領内を移動しています。秋が近いせいか、畑の作物も順調に収穫に向けて育ってますね。

 

 長閑な田園風景です……

 

「ツアイツ殿、ヴァリエール公爵邸が見えましたぞ。何時見ても大きいですな」

 

 ワルド殿がノンビリと何度か訪れた屋敷の感想を言っている……

 

「確かに屋敷は見えるけど、それに向かう道も延々と見えるよね……」

 

 ヴァリエール公爵には先に手紙を出している。だからカトレア様も領地から実家に戻っている筈だしルイズも当然帰省中だ。

 

 一波乱有るかな?

 

「お姉ちゃん、冷静にね。カリーヌ様を刺激しない様に……今回は治療に来ただけだよ」

 

 隣に座るシェフィールドさんの横顔は穏やかだ。

 

「ツアイツ平気よ。最高純度の火石や風石を持ってきたし、各種マジックアイテムも用意したわ。

次に失礼な事をするなら、この領地を更地にするだけよ。今度は負けないわ」

 

 穏やかな表情だが、何か決意を秘めた瞳で見詰められました。決着をつけるつもりなのか?

 

「その……

穏便に行こうよ、向こうだってお姉ちゃんしかカトレア様の治療が出来ないんだし無茶はしないと思うよ。だから治療だけしたら帰ろうね」

 

 彼女は穏やかに頷いたが、本当に大丈夫なのだろうか……

 

 烈風VS神の頭脳!

 

 城塞都市を破壊出来る連中なんですよ。無理だ、僕には止める事は出来ない……一抹どころじゃない不安を抱えながらヴァリエール公爵邸に着いた。

 そして屋敷の前にはヴァリエール一族が全員整列しています。アカデミーに居る筈のエレオノール様まで居ますね。

 

「ご無沙汰しております。ヴァリエール公爵、カリーヌ様……

そしてエレオノール様、お久し振りです。カトレア様、治療任せて下さい。ルイズ、色々ごめんなさい」

 

 一族全てが集まっているってどんだけ?

 

「良く来てくれた婿殿。

あれからイザベラ姫より正式な申し出が有った。ルイズの立場は側室としてガリアへ嫁入りだ。トリステイン王宮への交渉も始まっている。

全く、ウチの姫とは大違いだよ。正攻法で攻めてきた。今トリステイン王宮は蜂の巣を突っついた状態だよ。

因みにウェールズ皇太子との婚姻外交は流れたらしい。アンリエッタ姫が暴れて大変だよ」

 

 げっそりと目の下に隈を作っているヴァリエール公爵。本当に大変だったんだな。

 

「ツアイツ、後でゆっくりとお話しましょ。私ね……お父様達がアルビオン大陸に行っている間、独りで寂しかったの。

お母様から出掛けちゃ駄目だって言われたから。だから手紙を出して友達を呼んだのよ。みんな来るわよ」

 

 正面から抱きつかれて、こんな台詞を言われました。みんな?モンモランシーとキュルケか?

 

「あらあら……ツアイツ君、さぁお入りになって。アルビオンでの活躍を聞きたいわ」

 

「そうね、ツアイツ。色々お話しましょうか……イロイロね」

 

 長女と次女に両腕を捕まれ連行されそうになる。

 

「ミス・カトレア、お久振りね」

 

 シェフィールドさん参戦?後ろから首に手を回し抱きしめられた……前はルイズ、左右にエレオノール様・カトレア様。後ろはお姉ちゃん。

 視界には額に井形を浮かべたカリーヌ様……

 

「あらあら……ツアイツ君、人気者ね。先ずはお家に入りましょう。さぁ早く、ここではゆっくり話も聞けないわ」

 

 相変わらずポヤポヤしているが、手は離してくれません!

 

「……取り敢えず、一旦離れましょう」

 

 エレオノール様が、そう言って手を離す。渋々周りも離れていく。僕のライフは既にレッドゾーンだ……

 

「でっではカトレア様の治療法の説明を……先ずは落ち着ける所へ行きましょう」

 

 無言でプレッシャーを掛けるヴァリエール夫妻にお願いする。一応、次女の治療に来たのだが……

 

「そうね。ツアイツがどうしてもってお願いするから……仕方なく治療するのよ。そこを弁えなさい」

 

 シェフィールドさんが、微ヤンデレ化しながら僕への対応の悪さを指摘する。そして、やっと応接室に入れた。

 ずっと無言のワルド殿も胃の辺りを押さえている。彼も聞いたんだろう。

 

 アルビオン大陸での彼女らの戦いを……広い応接室に此方は三人、向かい側にヴァリエール一族が座っている。

 顔見知りの執事さんとメイドさん達がお茶の用意をしてくれている。

 

 紅茶の芳醇な香りが室内を満たしていく……カトレア様を治療したら、さっさとルイズをガリアに攫って行こう!

 嫁の実家とは、こんなにも居辛い物なのか?

 

 世の中の夫達よ……半端ない姑・小姑が揃っているからか?修行と言う名のシゴキで、何年も家族然として暮らしていたからね。

 これも愛情の裏返しか……独り煤けていても仕方ないので話を進める。

 

「先ずはカトレア様の治療ですが……魔力の籠もった指輪を使います。

それをマジックアイテムの制御に優れたシェフィールドさんが治療に使います。尚、指輪自体は治療で内包する全ての魔力を失う為、壊れます。

借り受けている物なので、ワルド殿が遍在魔法で既にコピーを用意してくれました。此処までで、何か質問は有りませんか?」

 

 一気に話してから、ヴァリエール一族を見渡す。事前説明は大切だ!

 

「その指輪の出所は?私が研究出来るかしら?つまりその凄い指輪借りられるかしら?」

 

 ああ、研究者の目になってる。

 

「家宝と祭事用の指輪を借りてますので研究対象として貸し出すのは無理です。因みに遍在でコピー出来るのも、ハルケギニアではワルド殿だけでしょう。

それでも短期制御しか出来ないので、こうして同行して貰ってます。この指輪、漢力が最上位まで高まって初めて遍在でコピーが可能なのです」

 

 あれ?嫌な顔されたぞ!

 

「そんな力でコピーした物をちい姉様に使って平気なの?変な病気うつされない?」

 

 ルイズの言葉にワルド殿が胸をおさえてうずくまる……僕が持ち上げた後に、叩き落とされたからか?

 

「変な病気などうつらないから安心して。それに何人か既に難病で治療不可と言われた人を治しているんだ」

 

 ちゃんと実例が有ると伝える。

 

「ルイズ、良いのよ。後何年も生きられないと言われた私の為に、ツアイツ君が治療法を探してくれたの……だから、どんな事でも受け入れるわ」

 

 当人のこの一言で、治療が始まった。

 

 

 

第187話

 

 

 カトレア様の私室に皆で移動する。

 

 彼女の甘い匂いが籠もって……なくてケモノ臭がします。毎回思うのだが……この動物達も毎回移動しているのかな、カトレア様と一緒に?

 前に見た子熊が少し成長していた。扉を開けて入った時に、僕を見付けて。

 ガゥっと鳴いて嬉しそうに近寄ってくれたが、シェフィールドさんを確認すると……すまなそうな顔をして、脇を走り抜けて行ったよ。

 

 僕は抱き上げようと手を広げていたのだが……そこにチョンとウサギ達が飛び乗る!

 

 干支だから?シェフィールドさんは先程から、微ヤンデレ化している。室内の動物達に緊張が走っている。何故か救いを求める目で見詰められた……

 

「ちっ治療には動物達は……ルイズ、動物達を連れて庭で遊んであげて。さぁさぁこのお姉ちゃんが外に連れて行ってくれるからね」

 

 そう言うと、大人しく動物達が扉から出て行く。猫・犬・狐・子馬・鳥各種……

 僕を見詰めて頭を下げたり舐めたりスリスリしたり……全部が部屋を出てから両腕に抱えたウサギをルイズに渡す。

 

「避難誘導よろしくね」と言ってルイズの背中を軽く押す。

 

 ルイズは嫌々出て行ったが、動物達からは感謝の気持ちがヒシヒシと伝わってきた。

 もしかしてカトアレさん、全員(匹?)と使い魔契約してないかな?妙に僕とも意志疎通が出来るんだけど……

 

「さて、お姉ちゃん治療お願いね」

 

 カトレア様をベッドに腰掛けさせてから、治療の開始をお願いする。

 

「いいわ。

今回は、指輪の力で貴女の体を調べて悪い所を探します。そしてその部分を再生……作り替えるわ。これは痛みが発生する。耐えなさい」

 

 精神操作と違い肉体の治療には、ラウラさんの時みたいに痛みを感じるのか!カトレア様に耐えられるのか?

 

「お姉ちゃん、カトレア様に耐えられるの?ラウラさんの時は、彼女は元軍人だったから……耐性が強かったんだよ」

 

 思わず聞いてしまう。

 

「ツアイツ、他の女にも優しいわね……

多少の苦痛は和らげられる。しかし肉体再生なんて何が影響するか分からないから……生きたいのなら、耐えなさい」

 

 カトレア様が僕の手を握り締めて「お姉さん耐えるから大丈夫よ。有難う、心配してくれて……」ニッコリと微笑んでくれました。

 

「では精神集中の邪魔にならないように僕らは出ましょう」

 

 ヴァリエール夫妻やエレオノール様に外へ出る様に促す。アンドバリの指輪を見咎められても困るし……カリーヌ様の威圧感もハンパないから。

 シェフィールドさんの集中の妨げにならない様に……

 

「ツアイツは残って……他の人は出て行ってくれないかしら。精神集中の邪魔よ」

 

 カリーヌ様が何かを言い掛けたが、治療の邪魔なら仕方ないと出て行く。

 何回か深呼吸をしてからシェフィールドさんが治療を開始する。

 前回と同様に両手に一つずつの指輪を嵌めてカトレア様の頬にそえる……

 

「始めるわ」

 

 両方の指輪が淡い光を放つ……今回は長い。もう15分以上は経ったかな。

 

「見付けた!これね……では再生を開始するわ」

 

 シェフィールドさん精神力の高まりを感じる。同様にカトレア様の表情に陰りが……何かを耐えている様だ。

 しかし不用意に言葉を掛けるのは危険だから。じっと2人を見守る。

 

「くっ……つう……あ……あっ……」

 

 苦痛なのか呻きをあげまじめた。

 

「もう少しよ。我慢なさい、治療は上手くいっているわ」

 

 シェフィールドさが励ましの言葉を掛ける。しかし……美女が呻いているのって、何かエッチィです。

 病みつきになりそうな高揚感が……邪な瞳で彼女らを見詰める!

 

「うっ……くぅ……あっ……あん……あぅ……」

 

 うっすらと汗をかいて苦痛に耐えるカトレア様。僕の中の何かが覚醒した感じがする!

 

「あっ……あっ、あーっ」

 

 一際大きな声で喘いでからカトレア様がベッドに倒れ伏す。同時に指輪2つも砕け散った!

 

「お姉ちゃん、どうだったの?」

 

 此方も荒い息をしている……

 

「成功よ。もう問題無い筈……しかし、流石に疲れたわね」

 

 シェフィールドさんは何かをやり遂げた爽やかな笑顔だ。

 

「ツアイツ、お姉さん達を食い入る様に見てたわね?イケない弟くんね」

 

 気怠そうにベッドから起き上がり、色っぽく「ダメでしょ、メッ!」的な雰囲気を醸し出すカトレア様。

 

 辛かった筈なのに、観察されていたのか?

 

「いえ、そんな事は……皆さんを呼びましょう」

 

 そう言って、そそくさと部屋を出る。やはりカトレア様は苦手だ……

 僕が皆さんが待つ応接室に行って治療が無事に済んだ事を伝えると、ヴァリエール夫妻達が、カトレア様の私室に走っていった……

 暫くは家族でカトレア様の病気が治った事を喜んでもらおう!彼らと入れ違いで部屋を出たシェフィールドさんが応接室に入って来た……

 

「お姉ちゃん、お疲れ様……今回の治療は大分掛かったね。大丈夫?」

 

 ぐったりとソファーに座るシェフィールドさんを気遣う。彼女は深くソファーに座り背中を仰け反らせながら伸びをした……体を解しているのかな?

 

「ツアイツ、大丈夫よ。

でも流石に人体の一部を再生するのは疲れるわ……でも、2つの指輪の制御には大分馴れたわ。これならジョゼフ様の記憶操作もバッチリよ。

「主と使い魔、愛の記録」何巻までインストール出来るかしら?うふふふふ……」

 

 そう言って、シェフィールドさんは微ヤンデレ化し始めた。ジョゼフ王とのストロベリる記憶に思いを馳せているんだろうな……

 ジョゼフ王の言った、シェフィールドさんの思いの行方は4:6で僕にも向けられているって言ったけど……どうみても貴方の方だけだと思います。

 少なくても2:8位ですよ。思わずガリアの方向に向けて手を合わせ心の中で祈ってしまった。

 

「ジョゼフ王よ、ご愁傷様です。そして僕の幸せと安寧の礎(いしずえ)となって下さい。貴方の尊い犠牲は忘れません……」

 

 僕はガリアに、ジョゼフ王の治療に立ち会う前に修羅場が待っている。ルイズ、キュルケ……

 そしてモンモランシーにイザベラ様の事を説明し、対ロマリアに向けてガリアの魔法学院に転入する事を……彼女達への待遇。

 出来れば一緒に来て欲しい事をハッキリと伝えなければ……レコンキスタなんかより、こっちの方が難解だよね!

 



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親父達の哀歌・アルブレヒト閣下頑張る

 オヤジ達の哀歌

 

 祖国に帰る空中船の中でツェルプストー辺境伯と差し向かいに座り、出された紅茶を飲む。

 

 そして一連の騒動について考える、レコンキスタの乱。

 

 ブリミル教の司教がおこした武力による反乱軍。

 蓋を開けてみれば、最後まで我が子の掌で踊っていた美乳派なとと言う戯言を錦の御旗に掲げていた男。

 最後は逃走中に捕まえた、理由は荷馬車に積んだ金貨が重過ぎて逃走の速度が遅かったからだ。

 金と権力に固執した小者、オリヴァー・クロムウェル……愚かで哀れな男だったな。

 

「実に間抜けな司教だったな。美乳派とほざいていたが、最後は金貨を捨て切れずに捕まるとはな」

 

 向かいに座っているツェルプストー辺境伯は吐き捨てる様に言う。

 

「確かにな……無理に乳に拘るから、浅はかさが際立つ。乳の偉大さを語れる漢なら、或いは苦戦したかもしれん」

 

 自身が貧乳教祖として、また幼女愛好家のトップに君臨する漢でも苦戦すると言うのか?

 

「苦戦?お前とお前の息子がか?」

 

 何やら眉間に皺を寄せながら語り出す。

 

「美乳派……

それは貧巨乳派としても認めなければならない意義が有るんだよ。バインバイン、ペタンペタン……それはそれで素晴らしい。

しかし、乳の大小に関わらす形や肌のきめ細かさ。

造形美や全体とのバランス等、語り出せば幾らでも支持を集める事が出来ると思わないか?

特に女性ならば、現状で一番美しく魅せる手立てを構築出来るのだ。息子と2人、目からウロコが落ちる思いだったよ……」

 

 なる程、確かに真にオッパイを愛する漢だったなら簡単には勝てなかったか。

 

「だから我らの新しい教義には盛り込んだよ。今までは信者の比率は圧倒的に男が多かった。

しかしツアイツと、この教訓をもとにエステなる美容に関する新たな試みを考えているのだ。

最初は貴族の子女らに試して、徐々に広げていく。女性向けの商売だな……」

 

 これは新しい商売だな。今までも美容に関する秘薬等は有ったが、画一的な物ではないし……効果が有れば、当事者は秘匿して広まらない。

 これに、アヤツのバストアッパー神話を組み込めば……ハルケギニア中の女性の美が底上げされるな。

 

「ウチも噛ませろよ。これからアルブレヒト閣下に報告に行くのだからな。助力はしてやる。お前達はこれからが大変だからな」

 

「当然だ。我々だけでは手が足りん。それにな、もっと大きな問題も有るんだよ」

 

 未だに眉間の皺は取れない……手に持ったカップを一気に煽り、息を吐く。

 

「最近になってツアイツが何処からか1人の女性を連れてきた。今はウチの諜報部隊で働いている。

中々どうして有能だ。一国の戦闘部隊の隊長が務まる位にな……

そして他国から来るスパイ達の捕縛率が上がった。結果的に我が領地に一番スパイを送っているのは……ロマリアだ」

 

 苦々しく吐き捨てる。

 

「なっロマリアのスパイだと?それはロマリア教皇直属の密偵団か?」

 

 ロマリアと言う国は代々諜報に力を入れている。異端を探し出し処罰する為に……後はサハラ砂漠で何やら捜索をしているらしいが。

 

「捕まえた奴を尋問、いや拷問かな。

その女はラウラと言って火のトライアングルだが、荒事に馴れている。拷問も大した物だったぞ。

そして聞き出せた事は、貧巨乳派とアイドルは教皇にとって、またブリミル教にとって都合が悪いとさ」

 

「つまりブリミル教と言うか現教皇はお前たち父子と、その嫁を排斥する気か?

ホモ教皇がトチ狂いやがって!しかしブリミル教はマズいな……どうするつもりだ?」

 

 宗教戦争など双方が疲弊するだけだし、異端審問など奴らが一方的に出来るのだ。

 

「ブリミル教と敵対と言うか、現教皇と敵対する事は事前に分かっていたさ。

201人分の男の娘用の衣装をタカってきた時からな。対策は講じているよ。問題はツアイツの立場だな。

ゲルマニアの一貴族の跡取りが、隣国の次期王になるかも知れないのだ。閣下の気持ちを考えれば、面白くはないだろう?」

 

 確かに家臣が他国の、それも最大国家の次期王となれば思う所も有るだろう……

 

「イザベラ姫が親書を届ける前に、我らは閣下と謁見せねばならぬ。どうする?

アルビオン王国の件は上手くいった。しかし、ガリアの件は何の予備知識も無いはずだ……」

 

 胃を押さえる2人。

 

「くっ……しかし悩んでも仕方ないだろう。腹を割って正直に話すしかあるまい。

閣下は疑り深いから無用な画策は返って反感を買うだろう」

 

 しかしアルビオン王家からは正式な国交に加え、かなりの優遇措置を得られた。

 アルブレヒト閣下の念願の始祖の血を帝室に入れる件については……

 

「なぁ?ウチの閣下がもしトリステイン王国との政治的な問題でアンリエッタ姫と婚姻を結びたいと言ったら……どうする?」

 

 凄く嫌な顔で聞いてくる。

 

「止めるのが家臣の務めだと思うな。しかし、その件については心配なかろう?ウェールズ皇太子との謁見を思い出せ。

彼はゲルマニアと婚姻外交を結んでも良いと言っていたな。条件は巨乳でお淑やかな美少女が良いと……

アルブレヒト閣下には、該当する娘が何人か居る。帝室に始祖の血を入れる事は可能だ。

ご自身の子供にと言われればアルビオン王国には薄い血ならば、王家に連なる娘が居るらしいな。

適齢期の娘が……これに掛けるしかあるまい」

 

「確かに成果はデカいな……これを材料に交渉するしかあるまいな」

 

「「全く面倒ばかり押し付けおって……」」

 

 此処には居ない息子に愚痴の一つも言いたくなる。悩みはしても、船は順調にヴィンドボナに向かっている……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 昼夜を問わず急いだ為に割と早く着いてしまった……

 

「着いたな……」

 

「ああ、早かったな……」

 

 背中が煤けたオヤジが2人、閣下の居城を見上げている。

 ゲルマニアでも有力な貴族であり親アルブレヒト派である2人は、問題無く謁見を許された。

 勿論、援軍の報告と言う本来の目的が有るのだから取次がスムーズなのは当たり前だ。

 気持ちを落ち着けているウチにアルブレヒト閣下が謁見の間に入ってくる。

 

「ご苦労だったな!バカなブリミル教の司教の捕縛は我らゲルマニアの手柄か。連絡は既に入っているぞ」

 

 ご機嫌なアルブレヒト閣下を目の前に暗い表情のオヤジ達だった……

 

 

 

 

 忘れがちなアルブレヒト閣下頑張る!

 

 

 アルビオン王国で始まったブリミル教の司教がおこした武力反乱……

 少し前からアルビオン王国は、我が国に対して外交を持ちかけてきていた。

 内容は今までのブリミルの血を引くナンタラな高圧的な物でなく、対等な物だった……その後におこる反乱。

 直ぐさま対応したのが、ハーナウ一族だ。

 

 オリヴァー・クロムウェルは美乳派を錦の御旗とし反乱をおこした。

 それをあのオッパイ大好きな一族が黙っている訳が無かったのだ……至極普通にヤツは戦乱の中心に収まっていった。

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ……不思議な小僧だ。

 

 色事に関して言えば、精通して高々5年程度だろうにアヤツの紡ぎ出す萌えと言う世界観は凄い。

 私室に設えた特別の本棚に目をやる……豪華ガラス張り六段鍵付きの特注品だ。

 スクエアメイジの固定化を何重にも掛けた逸品。自分以外は決して触らせない特別な本棚。

 ヤツも律儀に男の浪漫本の最新刊を献上し続けている。

 

 しかも2部ずつ……

 

 後宮を持つ俺が、思わず感化されてしまう位に多岐に渡る性癖の嵐……

 ヤツは次々と他国の有力貴族と縁を結び、ハルケギニア全土に自身の趣味を広げていった。

 武力でゲルマニア一国を纏め上げきれぬ俺を嘲笑うかの様にエロで国の垣根を軽々とこえるとは……もはや完璧なオッパイ宗教だろう。

 

 しかもガリアの王女をアイドルに仕立て上げ、仕舞には口説き落としたとか……俺の信頼する密偵の報告でなければ笑い飛ばすところだ。

 しかもロマリアから警告が来ている。

 

 異端の疑い有り、か……ホモの貴様の方が余程異端だろうに。

 

 さてどうするか?アヤツをロマリアに引き渡す?バカな!何のメリットも無い。

 

 無駄にガリア・アルビオン・トリステインの反感を買うだけだ。

 もはやブリミルの直系でアヤツの影響を受けていない国家は無い……俺の打てる手立ては既にアヤツと、アヤツの紡ぎ出す世界に乗るしか無い。

 まぁ良いか……あの規格外な変態ツアイツのオヤジズが来るのだ。どんな言い訳をするかが楽しみだよ。

 

 今晩はどのシチュで夜を楽しむかを考えていると「閣下、ツェルプストー辺境伯及びハーナウ伯爵が謁見の間にて待機しております」侍従の報告が有った。

 

 さて、漸く来たか……では会いに行こうとするかな。色々な思惑、今後の展開を考えながら廊下を歩き謁見の間に向かう。

 

 部屋に入り2人を見てみれば……今にも死にそうな顔だな、アイツ等は。仕方ない。労いの声でも掛けてやるか……

 

「ご苦労だったな!バカなブリミル教の司教の捕縛は我らゲルマニアの手柄か。連絡は既に入っているぞ」

 

 取り敢えずは報告を聞こうか……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

「何だかご機嫌だな閣下は……」

 

「これからの話次第ではそうも言えないのだぞ」

 

 オヤジ2人、アイコンタクトで会話する。何時からだ?こんなスキルを身に付けたのは……

 

「アルブレヒト閣下には、ご機嫌麗しく……」

 

「社交辞令など良い!報告を聞こうか」

 

 くっ……仕方ないか……

 

「レコンキスタの乱。我らがアルビオン大陸に上陸した時点で、既に勝敗はついていました。

恐れながら、我が息子ツアイツがガリアの……イザベラ姫と、アレでして……その……」

 

 くっ、何と言えば良いのだ。懇意になっただと!

 

「アレとは何だ?お前の息子はイザベラ姫と結ばれるそうだな……信じられんな。ガリアの狂王ジョゼフが許すとも思えないのだが」

 

 既にご存知とは……流石は閣下と言う訳か。

 

「それにつきましては、イザベラ姫より直接お言葉を貰っております。正式にガリア王国として帝政ゲルマニアと外交を結び協議を進めると……」

 

 我ら2人が呑まれてしまったんだよ、あの姫に!

 

「くっくっく……良いわ。確かにツアイツはガリアのイザベラ姫の婿になるのだろう。

アヤツの功績はデカい。始祖の血を引いてないだけで見下していたヤツらを……対等な立場で外交を結ぶまでに軟化させた訳だ。

アルビオン王国とは正式に婚姻外交を結ぶぞ。ガリア王国も、イザベラ姫の配下が交渉に来るのだろう。

まぁ問題無いな、トリステイン王国は……どうでも良いな。

俺の2つの目標の内の一つであるゲルマニアの帝室に、始祖の血を入れる事が出来る。

このメリットはデカい。それと……そうだな、執務室に移動するぞ。余り公にしたくない話が有るのでな」

 

 そう言って、王座から立ち上がり自分の執務室へと行ってしまう。慌て追い掛ける……

 

 執務室に入ると、衛兵を扉の前に配置し「サイレントとロックをかけろ」そう言って自分は応接セットに座ってしまわれた。

 2人して魔法を重ね掛けをする……

 

「終わったら、まぁ座れ」

 

 先にソファーに座り、寛いでいる閣下の前に並んで座る。

 

「ロマリアの教皇から、こんな物が来たぞ」

 

 机に放り投げたのは……手紙か?恐る恐る手に取って読み始める……

 

「こっこれは……異端の疑い有り、か。脅しでしょうな」

 

「閣下に命令調で、この様な物を……これではまるで臣下に宛てた手紙ではないか!」

 

 ロマリアの教皇め……先ずは揺さぶりを掛けてきたか。

 

「閣下、これは……」

 

「相変わらず傲慢だな。俺を家臣扱いか……しかしアヤツがこれを予測してないとも思えないのだが?」

 

 何か面白そうな物を見ている様な表情なのだが……

 

「閣下。お察しの通りロマリアと言うか、現教皇及び神官達への対策は考えております」

 

 そう言って、対教皇対策を説明する。真剣に聞き入るアルブレヒト閣下……

 

「ふむ。

お前達親子の趣味を文化と産業に食い込ませる訳だな。そして正しきブリミル教を掲げるか……

確かにアルビオン王国は、反教皇の下地が出来ているか。ガリア王国はアイドルイザベラ姫が纏める。

なら我がゲルマニアはどうなのだ?ツアイツがガリアに付きっ切りは不平等だろう?

それともサムエル、貴様が我が国の漢達を纏めるのか?お前達の大好きなオッパイで」

 

 ニヤニヤと我らを見ておられるわ……

 

「恐れながら、閣下は我が息子をどうなさりたいのでしょうか?」

 

 話の流れでは、我がゲルマニアも対ロマリアな感じなのだが……

 

「貴様の息子の企みに俺も乗るぞ。これを機に始祖の血を帝室に入れ、ロマリアの力を削ぐ。

俺のもう一つの目的。オッパイ教でも何でも使って、ゲルマニアを統一するぞ!

ツアイツに目的が同じなら、こっちも手伝えと伝えろ。何もガリアでなければ出来ない事だけじゃなかろう?

ロマリアがウザいのは我らも同じだからな。良いな!ツアイツのガリア婿入りは認めてやる。ならば俺の為にも力を貸せ!」

 

 嫁の国に他の婚約者も連れ込んで、あはは・うふふ!の素敵なマスオさんハーレム付きライフを目論んでいたツアイツ。

 しかし自国のトップから、こっちの面倒も見ろと言われてしまった。しかし所属する国のトップが折衷案を提示したのだ!

 

 まだまだ楽はさせて貰えない……

 



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第188話から第190話

第188話

 

 

 応接室で、微ヤンデレ化したシェフィールドさんと向かい合わせに座っています。彼女はクネクネと不思議な動きをしています。

 多分妄想中なんだろう……僕の方はハーレム宣言をビシッとルイズ達に説明する為に……その説得方法を考えています。

 頭を抱えて悩む僕と薔薇色の甘ったるい妄想に浸る彼女……ワルド殿は微ヤンデレ化が始まって直ぐに部屋を出てしまった……

 窓の外を見れば、動物達と戯れていますね。現実逃避か?ワルド殿と動物達って似合わないです。

 

 いや本当に……

 

 でもワルド殿にとって、ヴァリエール一族は微妙に苦手意識が有るのかな。

 口約束とは言え、一度はルイズと婚約をしていた様な感じがしていたのに、有耶無耶で破棄になったし……いや婚約者だったっけ?

 

 僕のルイズに醜い肉塊がぁ!とか最初の頃は叫んでいたから、多分そうなんだろう。

 

 でも領地経営ではヴァリエール公爵と手を結んでいるのだから、まだ縁は深い筈だ。

 等と考えていたら、カトレア様を伴って皆さんが応接室にやってきました……

 微ヤンデレ化、トリップ中のシェフィールドさんの肩を揺すって現実世界に呼び戻す!

 

「お姉ちゃん、戻って来て!ヴァリエール夫妻が来たよ。早く、お願いだから……」

 

「嗚呼、ジョゼフ様そんな……まだ昼間ですよ。えっ義理弟も一緒?嫌ですわ、ジョゼフ様も好き者ですわね!体が保ちませんわ……」

 

 とか妖しい台詞を呟いていたシェフィールドさんを強引に覚醒させる。

 因みにヤンデレ化の時は、お姉ちゃんと呼ぶと此方に意識を向けてもらい易いのです。黒目がだんだんと正常に戻って来た。

 

 もう平気かな?

 

「こほん……カトレア様、快癒おめでとう御座います。それで体に違和感などは有りませんか?」

 

 シェフィールドさんの痴態を取り繕う様に話題を振る……ヴァリエール夫妻達は、何か見てはいけない物から顔を背けるような態度だったが

 

「先ずはお礼を言わせて頂こう。シェフィールド殿、感謝する。娘の、カトレアの病気は完全に治ったようだ。

お抱えの水メイジにも容態を確認させた。問題は無いそうだ……最も彼には何故、治せたのかは解らないらしいな。流石はツアイツ殿。

君が居なければカトレアは後何年も生きられなかっただろう……有難う。1人の親として、本当に感謝している」

 

 そう言って夫人と共に頭を下げてくれた。

 

「ツアイツ君、有難う。私、何か生まれ変わった感じがするわ。シェフィールドさんも感謝していますわ」

 

 カトレア様はポワポワ具合が強くなったみたいだ。

 

「ツアイツ、ちい姉様を治してくれて有難う。もう平気なのよね?」

 

 ルイズが抱き付いてきた……最近スキンシップが少なかったせいかな?良く抱き付いてくるよね。

 見上げれば、エレオノール様はハンカチで目頭を押さえている……鬼の目にも涙?いえいえ、麗しい姉妹愛ですよね。

 

「その指輪を調べられないのが残念だわ。きっとどんな病気も治せるわよ!んー勿体無いわね。本当に駄目なの?」

 

 研究者の血が騒ぐのだろうか?上目使いでお願いしてくるし、両手をワキワキと動かして残念さもアピールしてくる……

 

「指輪の件は本当に秘密でお願いします。結構危ない橋を渡ってますからバレると大変なのです……」

 

 そう言って頭を下げる。ジョゼフ王を治したら、水の精霊に返さなくてはならない。

 ド・モンモランシ家との盟約の件も有るし、水の精霊は僕の命尽きるまで待つとは言ったが、早く返した方が良い。

 勿論、保管には今後気を付ける様に提案して……

 

「じゃもう用は済んだわね?ツアイツ、さっさとガリアに帰りましょう!早くジョゼフ様に……」

 

 早くジョゼフ王とストロベリる関係になりたいお姉ちゃんが急かせてくる。もう此処に居る必要も無いと言わんばかりだ!

 

「お姉ちゃんごめん。もう少し待ってくれる?キュルケやモンモランシーも来るんだ。彼女達と話が有るから、それが終わったらで……」

 

 シェフィールドさんは一瞬嫌な顔をしたが「ああ、そうね……早く女関係を清算して帰りましょうね」清算じゃないです!

 

「いや清算じゃないですよ。

丁度良い機会ですし、ヴァリエール夫妻にもお話が有ります。僕は夏休みが明けたら……ガリアの魔法学院に転入するつもりです。

今回の件で、ロマリアとの……教皇ヴィットーリォとの関係は最悪でしょう。ブリミル教に対抗出来る、教祖とアイドル。

ここトリステイン魔法学院では対応が悪い。なのでイザベラ様と手を組みロマリアと敵対します。

勿論、負けるつもりは欠片も有りません。勝つ為にです。出来ればルイズもガリアに付いて来て欲しい」

 

 対ロマリア戦!十年計画だが、早めに行動した方が良いだろう。

 

「お父様、お母様。私はツアイツと一緒に行くわ。良いでしょ?イザベラ姫に負けるつもりは欠片も無いのよ」

 

 カリーヌ様が思わず席を立ち上がったが、こちらも正面にシェフィールドさんが立ち上がる。

 

「あら、サウスゴータの再戦をする気かしら?ツアイツを私達から奪ってガリアで囲うつもりかしら?この子は私の愛弟子で義理の息子!只では渡さないわ」

 

 能面の様なカリーヌ様……言っている事は大変嬉しいのですが、取る取らないの話ではないで……

 

「あら?前回はあのまま戦えば私が勝っていたのに……今日はそのつもりで来てるのよ此方も。大量の高純度火石で、この領地ごと焼き尽くしてくれるわ!」

 

 うわぁー、お姉ちゃん本気モードだ!

 

「「戯れ言は勝ってから言いなさい!」」

 

 神の頭脳VS烈風セカンドステージは要らないんです!

 

「お姉ちゃん、嫌いになるよ……今日は治療だけだって言ったよね?僕に嘘をついたの?」

 

 この一言は両刃の剣だ!これで止めてくれれば嬉しいが、僕への依存度が高まってしまう危険な一言……

 

「じょ冗談よ、ツアイツ。お姉ちゃん本気じゃないわ!このオバサンが常識知らずだから……つい口が滑っただけ。だから嫌いにならないで」

 

 カリーヌ様をそっちのけで僕に縋ってくる。ああ、ヤンデレさんに突き放す系は駄目だ!分かっていたけど……

 

「うん。信じてたよ、お姉ちゃん。カリーヌ様も本気じゃないですよね?ヴァリエール領が更地になる所ですよ、本気で言っていたら?」

 

 カリーヌ様も少し冷静になったみたいだが、額に井形を浮かべている。オバサン発言か?

 

「ガリアに行くと言っても今までと変わりません。元々ゲルマニアから通っていたではないですか。だから、お願いします」

 

 そう言って、人外頂上決戦を回避しルイズをガリアに連れて行く事を承諾させた。

 気になったのは、エレオノール様とカトレア様が抱き合いながら此方を見て、クスクス笑っていた事。

 

 物凄く気になりました……

 

 

 

第189話

 

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 現在カトレア様の治療が成功し、ヴァリエール家で歓待を受けています。

 カトレア様は一応様子見で、僕とシェフィールドさんがヴァリエール領に居る間は実家に留まるそうです。

 ルイズが手紙を出して呼んだキュルケとモンモランシーも、そろそろ到着の予定です。

 ルイズをガリアに呼ぶ件は了承して貰えた。キュルケはツェルプストー辺境伯に事情説明は終わっているから問題は無いだろう。

 

 モンモランシー……彼女の両親が問題だ!

 しかし、アンドバリの指輪を水の精霊に返す件を持ち出せば説得出来ると思う。現在の協力は一時的な物。

 それを恒久的な物にする為には指輪が必要。その指輪を探し出して返すのだから……

 それに現交渉役のモンモランシーだが、頻繁に水の精霊とコンタクトを取る訳でもない……多分何とかなる!

 

「ヨシ!見通しはついた。テファには、土下座で頼み込もう。一年繰り上げだが、一緒に転入しよう!

って誘えば、学園生活に興味津々な彼女なら許してくれる筈だ」

 

 勿論、エーファ達メイドズは全員連れて行く。向こうで適当な屋敷を要塞化するつもりだ。

 トリステインの郊外に買った屋敷の様に……ロマリア密偵団対策も必要だし。

 

「忙しくなるな……会報も発行再開しないと。そうだ!ガリアの販路の件も打合せが必要だし。アレ?呑気に学生生活出来るのかな?」

 

 問題は山積みだ!

 

「ツアイツ、独り言が多くなったよ?私だと手伝えない事なのかな?」

 

 しまった、今はルイズとお茶してたんだ。気が付けば、不安そうなルイズが此方を見ている。

 

「ごめんね。

僕らの幸せの為には、まだまだ問題は山積みだ。しかし全く手立てが思い付かない訳じゃないんだ。これから忙しくなるよ!

勿論、ルイズにも手伝って欲しい。貴族が商売なんて?と思うかも知れないが、市場を押さえるって事も経済戦争なんだ!

ただ魔法と剣で戦うよりも深くて難しい。その分、ロマリアやブリミル教にも十分対抗出来るんだよ」

 

 ルイズの頭の上に煙が立ち上るのが見える!

 

「経済と戦争が密接なのは分かるわ。しかし宗教って大変なんでしょ?

トリステインでも、昔新教徒狩りが有ったって聞いたわ。前教皇がリッシュモンに持ち掛けたんでしょ?」

 

 うん、正しい指摘だ。巨乳化したルイズはお馬鹿な娘に見えるが、座学は悪くないし理解力も行動力も悪くない。

 

「自国民を害さないといけない程、ブリミル教の影響は強い。なる程、六千年の積み重ねって凄いよね。

でもレコンキスタの件で教皇は下手をこいた。オリヴァー・クロムウェルをさっさと破門して公表しなかった。

あまつさえ捕らえられた彼の引き渡しをアルビオン王国に迫った……ブリミル教自体でなく、現教皇と神官達をターゲットにするんだよ」

 

 ルイズが目を閉じてじっくりと考えている。

 

「つまりブリミル教自体は排斥しないで、教皇と神官を責めるのね……確かにブリミル教の神官達は良い噂は聞かないわ。

強欲だし傲慢よね。私も嫌いだわ……でもそれは何時もの事よ。下手をこいたって、どういう事なの?」

 

「ブリミル教の成り立ちは、始祖ブリミルの子孫3王家と弟子の子孫の教皇。現在の教皇は、聖なる王家に反乱を企てた!

弟子が直系の子孫にだよ。しかも破門も公表せず、アルビオン側に助力もせず。捕まえたら寄越せと言ってきた。

これはおかしい。そしてアルビオン国内ではブリミル教の神官が企てた反乱で平民から王家まで迷惑をしている。

これは、正しい始祖ブリミルの弟子の子孫が行う行動ではない。つまり今の神官及び教皇は、正しきブリミル教の教えを伝えていない。

此処までは解るかい?」

 

 ルイズは「はい先生!」と挙手をして答える。何故、生徒と教師?

 

「そして今の教皇ヴィットーリオは男の娘と言う美少年に女装をさせて悦に入る変態だ……

しかも聖歌隊二百人全員が彼の男の娘ハーレムの構成員だ。さて、神官とは次代に教えを広めていく義務が有る。

なのに非生産的なホモ教義を周りに押し付けているし公表している。この教皇は、正しきブリミル教の教えを広めているのかな?

はい、ルイズ君!答えて下さい」

 

 ビシッとルイズを指差す。

 

「はい先生!腐れホモ野郎は氏ねば良いと思います」

 

 即答です!

 

「……個人的感情で氏ねとか言ってはいけません。しかし僕も同意見です……

さて、正解はブリミル教を信奉する神職としては失格ですね。てか僕が言うのも何だけど、コイツ等おかしい。

何で公表するかな自分がホモだって!

しかも弟子より直系子孫の方が血が濃いし立場は上だろうに。仕えた偉人の子孫と、仕えていた人の子孫……

どちらが偉いか分かるだろう。

これは民衆に対し、またブリミル教のマトモな神官達に現在の教皇はブリミル教のトップには相応しくないと思わせる事が可能だ。

だけど、それだけじゃこの六千年も染み付いた体制は変わらない。さて、どうする?」

 

 うんうんと考えるルイズ……見ていて可愛いです。

 

「でも私達には、教皇を選出する手立てはないし……ヘタに言うと異端認定されるわよ」

 

 そう!今まではそれが怖くて奴らがのさばったのだ。何でタカが弟子の子孫がえばれるんだ?

 

「ここからが、対ブリミル教のキモだよ。

先ずは皆の意識改革だ。別にブリミル教を否定する事はしない。貴族にとっても始祖ブリミルはこの社会の骨子となる部分だ。

排斥は無理じゃないけど難しいし手間が膨大だ。だから他に目を向けさせるんだよ。

巨乳派教祖の僕と、トップアイドルイザベラ姫……そしてツェルプストー3姉妹やメイドズ。

関連する男の浪漫本にフィギュアの売れ行きは好調だ。各地に生産工場を作っているよ。

彼らは、それらを買う為に僕らの工場で働く。生活の安定、どんどん増えていく娯楽の供給。

経済のサイクルの中に、僕らの計画の中に、彼らの生活が浸透していく。領内の関連工場、市場から税金が領主の元へ。

大切な財源だよね。

貴族達も自分の領地を潤す生産者と消費者は守りたい。ブリミル教に反しているからって難癖をつけても、のらりくらりかわすよ。

既に社会の一部にまでなり始めているから……それに僕らはブリミル教を受け入れている。

巨乳貧乳のオッパイ教義とは娯楽、性癖なんて個人の自由だ。少しもブリミル教に反していない。

これを弾圧するのは、教皇ヴィットーリオが我らをホモに矯正する為の言い掛かりだと民意を誘導するんだ!

オッパイ教義に染まった人々……

つまり女好きなエロいお友達は、皆さん僕らの仲間で有り教皇に隔意を抱く。誰だって趣味を否定し嫌がる物を押し付けられれば反発する。

これが、ブリミル教対策の基本方針さ。最後は、我々の都合の良い人を教皇に推薦。

神官達が政務にまで携わるのを排除する。緩やかにブリミル教は力を失っていくだろう。

序でに工作として、ロマリアからドンドン移民させるんだ。国民がいなくなれば、国力が弱まるのも早いよね」

 

 一気に話し終えて一息つく……

 

 温くなった紅茶を飲み干すと「「そんなに上手くいくのかしら?」」突然声を掛けられ、扉の方に振り返れば……キュルケとモンモランシーが立っていた!

 

 

 

第190話

 

 

 ルイズに対ロマリア方針を語っている時に、キュルケとモンモランシーが来ました。何故一緒なのかな?

 

「ツアイツ、お父様がアルビオンから戻って来てお話を聞いたわ。イザベラ姫の件もね……」

 

「ツアイツ、キュルケから詳細も聞いたわ。色々とね……」

 

 どうにもご立腹感が漂っています。取り敢えず2人をソファーに座らせ、お茶を飲ませて落ち着かせる。

 ヴァリエール邸のメイドさんは全員顔見知りだ。苦笑を噛み締めながらお茶の用意をしてくれています。

 浮気の言い訳をする夫の様な物だと思ってますね?去り際に「頑張って下さいませ」とか言われたし……

 

 僕も一息つきたかったから黙って紅茶を飲む。そして上目使いに紅茶を飲む彼女達を観察する。

 僕の隣にはルイズ、向かいにはキュルケとモンモランシー……2人は重装備、つまり正装をしている!

 

 目を伏せて優雅にお茶を飲む姿は一端のレディだ。

 

「えーっと……きょ今日は2人共、気合いの入った服装だね。何処かに寄った後かな?良く似合ってるよ」

 

 はははははっと誉めてみるが「「そうね。誰かさんに、私達の魅力を再認識させたかったからね。頑張って着飾ったわ」」と切り替えされた!

 

「そっそうなんだ!2人共魅力的だよ、とっても。勿論ルイズもだよ」

 

 キュルケはチャイナ風なタイトなドレスで髪をアップさせている。

 モンモランシーも普段のふりふりドレスではなく、ボディラインを強調するドレスを着ている。

 装飾品も見た目で分かる高価さだ……誤魔化しは不要だろう。

 因みにルイズは自宅の為にシンプルなドレスだ。学院の格好は外ではしない……皆さんメイジの証のマントは羽織ってるけどね。

 お茶を飲んで落ち着いたので、本題に入る。ロマリアの件は2人にも改めて説明が必要だが、今は後回しだ。

 

「ちょうど3人揃ったから言っておくね。

僕は夏休み明けに、ガリアの魔法学院に転入する。これは対ロマリアの、教皇ヴィットーリオ対策でも有るんだ。

僕は僕達の幸せの為にも、教皇と対立する。自業自得感も有るけど今更だ。君達にも一緒にガリアに来て欲しいんだ」

 

「勿論そのつもりよ。

お父様も許可してくれたわ。夏休み中にアルブレヒト閣下にもお伺いをたてるって。閣下もアルビオン王国との国交が円滑化した功績。

先のレコンキスタ反乱鎮圧の功績が有るから問題無いだろうって。ガリアからの外交圧力も有るんでしょ?」

 

 はい、正しく状況を理解していますキュルケさん!

 

「そうだね。僕がガリア入りの件も合わせて、イザベラ姫が交渉を開始したから。問題無いだろうね」

 

 ハルケギニアを二分する勢力で有るガリアとゲルマニア。しかし内情は、どちらも国内に不安が有る。

 だから早期に手を結べるメリットはデカい。何たって、対外的に二大勢力が手を結ぶんだ。

 

 不満分子だって躊躇する。

 

 反乱を企てても、外交が安定してれば国内だけに力を入れられるし相手側の国からの援助も見込める。

 じっくりとゲルマニア内を安定させたいアルブレヒト閣下なら、この話は悪くはないだろう。

 

「私は……一緒に行きたいけど、お父様が反対するかも。家出同然に付いて行きたいけど、私は水の精霊との交渉役だし」

 

 モンモランシーには問題が多い。彼女は自分だけ取り残されそうな不安を感じているんだろうな。

 

「モンモランシー……アンドバリの指輪、確保したよ。最も最終的に手に入れたのはシェフィールドさんだけど、譲ってくれるそうだ。

その功績でモンモランシー伯爵にお願いしよう。トリステイン王国に対してはどうするかな?

これは少し考えないと駄目だね……んーアンリエッタ姫に貸しを作るのは危険な気がするから」

 

 モンモランシーは目をウルウルとさせている。

 

「それなら平気よ。

ガリアからアンドバリの指輪を譲って貰う条件に、私のガリア入りを入れて貰えれば!水の精霊と恒久的な交渉を結べるなら安い条件だわ!」

 

 んーイマイチだろう。

 

「その条件は無理かな?現在の交渉役のモンモランシーを国外に出すのには躊躇するよ。もう少し考えよう。大丈夫、何とかするさ!」

 

 これで婚約者達のガリア同行は何とかなる。

 トリステイン王国の件は、モンモランシーには言わないがカリーヌ様がイザベラ姫及びシェフィールドさんに危害を加えようとした事をボカして交渉するかな。

 アルビオンでもイザベラ姫は公式にアンリエッタ姫に抗議したんだ。

 アンリエッタ姫自体は、トンチンカンな対応で煙に巻いたつもりでも周りの重鎮達は知っている。

 

 これを蒸し返されたくないだろう!って匂わせれば問題無いと思う。

 

 ヴァリエール公爵にお咎めを……って言っても、誰が彼を責められるのか?

 ヴァリエール公爵は、ド・モンモランシ伯爵、グラモン元帥ら有力貴族と手を組んでいる。

 ド・ゼッサール及びワルド隊長もこちら側。魔法衛士隊の内2つが味方なんだよ。

 

 王宮で彼らに楯突く連中はいないからこれも有耶無耶だろう!てか、時間を掛ければヴァリエール王朝が興せそうだよ?

 アンリエッタ姫はポヤポヤだから、必ず失策する。今までフォローしていた面々は全てこちら側だ。

 

 うわぁ……僕の目的とアンリエッタ姫の恋愛成就の為に謀を行ったけど、蓋を開ければ彼女の失脚の段取りでも有るよ。これはヴァリエール公爵次第だな。

 

「どうしたの?難しい顔して……やっぱり私がガリアへ行くのは難しいかな」

 

 しまった!モンモランシーがションボリとしてしまった。

 

「大丈夫。考え事は、アンリエッタ姫の未来の方だよ。

あの姫様……しっかりしないと失脚するぞ!ガリアとアルビオン、ゲルマニアは手を組む。

でもトリステインはどうするかな?対応を間違えば、国は傾くだろう……彼女が今度失敗したら、誰がフォローする?

自分の欲望追求に正直な姫様だけど、今度はそれじゃ駄目だ。外交センス有るのかな?」

 

 皆が顔を見回す。キュルケは苦笑いだが、ルイズとモンモランシーは不安顔だ……自分達の国の行く末の見通しが怪しいから。

 本当にトリステイン王国の行く末は……怪しいぞ!

 



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三人娘の暴走・長女と次女の思惑

三人娘の暴走!人気者は誰かしら?

 

 

 夏休み。両親がアルビオン王国へ、王党派の増援に行ってしまい留守番を強いられたルイズ……

 カリーヌから安全の為に外出禁止を言い渡されていたが、出掛けられないなら呼べば良いじゃない。

 

「肉まん無いの?じゃピザまんで!」又は「パンが無いの?ならケーキを食べれば良いじゃない!」くらいのノリで考え付いた。

 

 良いアイデアと思ってモンモランシーとキュルケに手紙を出した。暇だからウチに遊びに来ないかと……

 

 これが大正解!

 

 レコンキスタを討伐しカトレアの治療をしに来たツアイツに、久し振りに皆が会えた。その場でレコンキスタは前座。

 真の敵はロマリアの教皇と、その神官達だと教えられる。彼らに対抗する為に、夏休みが明けたらガリアの魔法学院に転入する事になったと……

 当然ルイズはツアイツに同行すると言い出し、事前に情報を掴んでいたキュルケは実家とも話をつけていた。

 唯一、モンモランシーだけが水の精霊との交渉役という大役を担っていた為に問題が有りそうだったが、何とかなりそうだ……

 ヴァリエール家のベランダでお茶を楽しむ三人。久し振りに友人達と話の花が咲く……しかし話題は自分達の婚約者の事。

 

 ツアイツ達は既にガリアへと向かった。ツアイツが居なくなったので、正装を脱いで幾分楽な服装に着替えている。

 

「イザベラ姫に良い所取られちゃったね?」

 

 幾分悔しそうな顔のルイズ。如何に公爵令嬢でも一国の王女には対抗出来ない。

 

「私は元々三番目だったし、正妻は諦めていたから構わないけどね」

 

 モンモランシーはルイズとキュルケに割り込んで来た関係上、正妻は諦めていた。

 それに貴族として格下か同列なら業腹だが、王女じゃ仕方ないかと……

 

「確かにね。私達が束になっても勝てないでしょうね。権力・財力・地位……どれをとっても無理だわ」

 

 改めて現状を確認し考え込む三人……新しい恋敵は強力だ!

 

「でもさ……それ以上に厄介なのが、ファンクラブよね」

 

 その言葉で想い浮かべるのは、黒マント集団と原色のオタファン。既にイザベラ姫の人気はガリアで収まり切らず国外にも信者が溢れている……

 

「私のね、腹違いの姉様達もファンクラブが凄いの。国内外から贈り物や結婚の申し込みが有るのよ」

 

 何と言うフィギュア効果!

 

「…………私達もさ。ツアイツに頼んでみる?」

 

 あの恥ずかしい人形が出回り、大きなお友達が量産されるのは女として考える事が多いだろう。

 しかしメリットもデカい。このままイザベラ姫と、まだ会った事が無いテファと言う神胸の娘だけが独占するのは……

 

「それに原型師はツアイツのみ。つまり完成品は別として、生身の恥ずかしいポーズや衣装を見せるのはツアイツだけ……

刺激的な衣装で二人きり……うふふっ、良くない?」

 

 三人の目線が絡み合う。

 

「「「やりましょう!」」」

 

 ガッチリと手を握りあう。

 

「でも衣装はどうするの?ちょっと考え付かないわ」

 

「そうよね……今まではツアイツが用意していたと思うの。つまり……」

 

「「「男の浪漫本ね!」」」

 

 ルイズが突然立ち上がる。

 

「お父様の書斎に沢山あるわよ。アレを見て私達の特徴に似合う衣装の挿し絵を探しましょう。

見付けたら出入りの服屋で仕立てさせるの。出来た衣装を着てツアイツにお願いしましょう!」

 

 善は急げと、ヴァリエール公爵の秘蔵書庫に乱入!秘蔵の棚を強引に開ける……有るわ有るわ、山のように男の浪漫本が。

 試しに一冊手に取って読んでみる……

 

「うわっ!こっこんなにエッチなの?

前にツアイツの屋敷に遊びに行った時に見付けたヤツと全然違うわよ。うわぁ……これは熱狂的な支持を受けるわよね」

 

 前に探した時は、本はエーファ達が、原典(18禁)を隠し写本(15禁)しか手に入れられなかった。

 しかし、ヴァリエール公爵の秘蔵本はツアイツより贈られた総てのタイトルが並んでいる。

 異変を察知してヴァリエール公爵が来てみれば、愛娘と友人達が自分のコレクションを読んでいる。

 

「「「オジサマ(お父様)?良いですよね?」」」

 

 と話し掛けてきた表情は軽蔑の白い目だ……お前達の婚約者が書いたんだぞ!と叫びたいヴァリエール公爵。

 そんな涙目の公爵を傍目に男の浪漫本を漁り、気に入った衣装を着ている挿し絵のページを切り取っていく。

 

「ねぇ?私はこの水着のシリーズが良いわ。ちょうど水メイジだし、ラグトリアン湖の水の精霊の交渉役だしピッタリだと思うの……」

 

 手に取った本は「ケンコー全裸系水泳部ウミショー」その挿し絵はツアイツから贈られた、ぶらじゃとぱんてーその物の水着?を着た女の子だ。

 

 それにソフィアが良く着ているセーラー服……

 

「ヤバくね?てかヤバいでしょ?」

 

「キワドイわ……貴女本気?」

 

 ドン引きの二人。

 

「この本によればビキニって言うらしいわ。

これにワイシャツを羽織ったりパレオを腰に巻くの……扇情的よね?これで勝負に出るわ!」

 

 男の浪漫本を握り締め、熱血の表情を浮かべるモンモランシー。瞳の奥に炎が見える気がする……

 

「モンモランシーは直球、エロモードか……」

 

「一歩間違えれば痴女ね……」

 

 酷評だった!モンモランシー涙目だ。

 

「良いのよ。ツアイツに喜んで貰えれば……貴女達はどうなのよ?」

 

 2人に吠える!

 

「私、私はコレにしますわ」

 

 何故か優雅な仕草で、本を持ち上げる……「ているず・おぶ・ですてぃにー2」その挿し絵は赤毛の長髪をツインテールにした、弓を構えた下着ばりの衣装を着た女性。

 

 ナナリーたんだ!

 

 肩と胸しか覆わない鎧にホットパンツ。やたら長い手袋に太ももまであるロングブーツ……それに腰からヒラヒラの前全開のスカート?

 確かに勝ち気なキュルケに似合いそうだ。一応、戦装束っぽいから、武門のツェルプストー家にはお似合いか?

 

「何て言うか……らしいわね、半裸蛮族をお洒落にしたみたいな?」

 

「うわっ!これで戦場に行くの?直ぐに捕まえたい殿方が溢れそうね。エロエロアーチャーね」

 

 こちらも酷評だ。特に先に評価されたモンモランシーは……例えがひどくね?

 

「最後は私ね……私はこれよ!」

 

 ルイズの手には「ぎゃらくしー・えんじぇる」ミルフィーユたん!ピンクの髪の天然さんだ。

 

 彼女は明るくお気楽、天然ボケで周囲に迷惑をかけまくる……男の浪漫本を読みながら、納得顔の2人。

 

「「なるほどねー!でもルイズだけ、可愛い衣装って何で?」」

 

 ツアイツを惹き付けるには、インパクトが弱いのではないか?

 

「いや、ポロリ担当は2人に任せようかなって……」えへへ!っと舌を出して笑っている。

 

「「フザケルなー!アンタも露出度の高い衣装を着るのよ」」

 

 そう言って、2人が片方づつのホッペを摘まんで引き伸ばす。

 

「いらぃ、いらぃよぅ……」

 

 制裁を終えた2人は、ルイズに似合う衣装を探す為に男の浪漫本を漁りだす……

 

 この少し後に新しくシリーズ化されたコスプレシリーズは「教祖ツアイツの婚約者色々バージョン!」として、そこそこのヒット商品となる。

 

 余りブレイクしなかった理由には、原型師とモデルが部屋に籠もりっきりで制作が進まない事。

 両親からの監修が入り、是正項目が多かった事があげられる。

 特にモンモランシーの水着シリーズは、貧巨乳連合教団本部のツアイツ執務室にプロトタイプ・シリアルナンバー001のみが展示されるだけの貴重な逸品だったとか……

 しかし着実に新人を世に送り出しオッパイ教団は、その勢力圏を広げていった。

 

 

 

 長女と次女の思惑……

 

 

 ヴァリエール公爵家の三姉妹は何かと話題になる事が多い。

 

 長女エレオノール。

 

 トリステイン王立魔法研究所の評議会議長であるゴンドランが失脚した今、アカデミーの実質的なトップは彼女だ。

 才女で有るが故に、自分と目線が同じであり更にタフネスな相手にしか興味が無いお姉様。

 性格は母親似で有り、胸もそっくりだ。ちっパイでツンデレな彼女は、ナイスバデーに変貌してしまったルイズの代わりを務めている?

 

 

 次女カトレア。

 

 生まれつき体が弱く、天寿を全う出来ないと言われていた。せめて美しい景色の有るラ・フォンティーヌ領で安静に暮らして欲しい。

 そんな願いで子爵として父親から領地を与えてもらった。ポワポワとして笑顔を絶やさないお姉様。

 しかし押しが強くカンが鋭い。常に沢山の動物を侍らす、ハルケギニア版ムツゴロウさんだ!

 しかし不治の病と思われていたが、ツアイツにより完治した。母親からは髪の色しか受け継いでいない、優しい巨乳さんだ!

 彼女達はカトレアの治療が終わった後で、なんとなく2人きりでお茶を飲む流れになった。

 

 エレオノールの私室で……

 

 女性の部屋とは思えない程、本やメモに埋もれた部屋。しかし整理整頓は出来ずとも清掃は行き届いている。

 設えた応接セットに腰を下ろし、先ずは治療の成功を喜び合った。

 

「カトレア、本当に良かったわね。でも貴女を治せる程の指輪か……研究したかったわ」

 

 研究者として、あの2つの指輪は諦め切れないみたいだ。

 

「ダメよ、エレオノール姉さん。ツアイツ君も私の為に、危ない橋を渡ってくれたのよ。これ以上の迷惑は掛けたくないわ」

 

 やんわりと窘める。

 

「しかし、聞けば聞く程無茶をしたわね。軍人でもないのに、レコンキスタ軍傭兵一万と戦うなんて……話を聞いてる途中で心臓が止まる位驚いたわ」

 

 ツアイツは見た目は華奢な優男だ。それに戦いを好む性格ではない。

 

「ツアイツ君……それだけ私の為に無理をしたのよ。後二〜三年しか生きられないと思っていたのにね。延命じゃなくて完治したなんて驚きだわ」

 

 そう言った後、沈黙が流れる……冷えた紅茶を入れ替えて、一息つく。

 

「ねぇ?ツアイツ……ルイズを連れてガリアに行くそうね。寂しくなるわね。まさかイザベラ姫を籠絡するって何よ!胸なのね?私には胸が足りないのね?」

 

 何処からか怒りが沸々と湧き上がってくる。何でルイズなのよ!

 

「そうね。ツアイツ君、色々と浮気してるしエッチだし……でも不思議な子。

私ね、彼から警戒されていたの。私のカンの良さに、何か秘密を嗅ぎ付けられるかも知れないって……

そう思っているみたいだったわ。そんな子が私を治療した。何故かしらね?」

 

 カップを弄びながら、独り言の様に呟く……

 

「警戒?カトレアを?何かしら?確かに隠し事の多い子だけど悪意は無いわよね?」

 

 流石に転生の秘密には辿り着かないが……

 

「エレオノール姉さん。私達が、あの子と結ばれるのにはどうしたら良いと思う?命の恩人に何か恩返しがしたいわ」

 

「今となっては無理ね。ガリアの王女と正式に結ばれるのよ。もうゴリ押しも出来ない。

ルイズの場合はイザベラ姫が受け入れたからよ。私達はどうこう出来ないわよ。

それに完治した貴女には、ヴァリエール公爵家を受け継いで欲しいわ。まだギリギリ適齢期よね、ア・ナ・タ・は!」

 

 少し、イヤかなり恨みの籠もった目でカトレアを見詰める。

 

「あらあら?長子が継ぐのが、貴族の習わしよ。私は子爵位を拝していますし……エレオノール姉さんも頑張れば旦那様を見付けられるわよ」

 

 ニコニコと微笑んでいるが、言ってる内容は酷い?

 

「ちょ、なんで私が!私の恋人は研究で良いわ。あの子よりマシな男なんて居ないじゃないこの国。

それに跡取りならお母様が頑張ってもう1人産めば良いのよ。この家の存続の為に、適当な男と結婚なんてイヤ!カトレアが継ぎなさいよ」

 

 この話を両親が聞いたら微妙だろう……なにせ、もう一人子供を作れって内容だし。

 

「エレオノール姉さん……私の考えに乗る?」

 

 ニコニコと微笑んでいるのは同じだが、何か黒く渦巻く物が見える。

 

「か、カトレアさん?何か背負ってるわよ」

 

 実はここ一番で押しが弱いエレオノール……そして怖がりな一面を持つ可愛いお姉さんだ!

 

「私ね……

ツアイツ君が良いわ。でも普通に考えれば、結ばれるのは無理よね。それこそガリア王国と戦争になるわよ。

次期ガリア王になるツアイツのお嫁さんになりたいなんて……でも私は側室やお妾さんになりたい訳じゃないの。

ツアイツ君の傍に居れば良いのよ。だからツアイツ君の教団で働くわ。恩返しを込めて……

それで男女のゴニョゴニョになっても責任を取れとは言わないわ。あの子は押しに弱く、優しいから……私はそれだけで良いのよ」

 

 聖母の微笑みで、のたまった!

 

「きっ汚いわよ!近くで恩返しの為に働く健気さを見せて、あらあら・まぁまぁ!

で男女の関係に……でも身を引くわ!って言えば、あの子は優しいから何とかするって事?

でも、それは根本的には変わらないわ、駄目よ。ツアイツに迷惑が掛かるから……」

 

 途中経過が変わっただけで、結果は同じ。ヴァリエール公爵家から男女の関係を持った娘が、ツアイツの下へ行くだけだ。

 

「エレオノール姉さん、違うわ。別に関係を公表しろなんて言ってないわ。ただ結ばれるだけで良いのよ。周りには秘めたる恋人よ」

 

 つまりアレか?ツアイツにとって、都合の良い女になる訳か……でも、とうの昔に結婚なんて諦めている。

 

 今更、他の男となんてお断りだ!

 

 なら秘密の恋人でも……良くね?仮に子供が出来ても、貴族なら御落胤なんて普通だ。

 育てる自信も有るし、お母様の養子にしてヴァリェール家を継がせても良いし。

 

「なる程ね……その案に乗るわ。でもヴァリエール公爵家の事も考えなければいけないし、私達だって直ぐには自由に動けない。なら、どうする?」

 

 聖母の微笑みを浮かべるカトレア。対するは邪悪な笑みを浮かべるエレオノール。

 

「簡単なのは、ツアイツ君の教団で働く事ね。接触は容易よ。

またはルイズが妊娠して里帰り。付き添いにくるツアイツ君……とか色々よ。何かの用事で会える機会を探せば良いの」

 

「「くすくすくす……なる程ね、色々ね」」

 

 妙に仲が良くなった2人姉妹……

 

「いっそトリステイン王国が、ガリアに併合されたりしたら……同じ国内だし良くないかしら?」

 

「あら?トリステイン王国のトップに立って、ガリアに属国化されるのも良くないかしら?」

 

 ドンドンと妖しい打ち合わせに発展していった。

 翌日、ガリアに向かうツアイツを送り出す時に妙にエレオノールとカトレアはくっ付いて妖しい笑みを浮かべていた。

 ツアイツが悪寒を感じる位に妖しい2人姉妹……

 

 ツアイツ、君は狙われている!

 



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第191話から第193話

第191話

 

 おはようございます、ツアイツです!

 

 今朝は漸くトリステイン王国に居る婚約者達を説得し終わりガリアに出発する予定です。

 流石にシェフィールドさんの我慢も限界でしょう。

 

 遂にガリア王ジョゼフの年貢の納め時!

 

 僕の安全の為にもヤンデレさんとストロベリる甘々性活を送って下さい。

 ヴァリエール夫妻に挨拶をしてルイズ達とも暫しのお別れ……新学期の始まる少し前にガリアで落ち合う約束をした。

 僕はガリアでジョゼフ王の洗脳と言う治療の立ち会いをしてから、一度ゲルマニアの実家に戻ります。

 テファとマチルダさんを説得し、皆でガリアに行く。当然、エーファ達メイドズも同行させますよ。

 

 何て濃密な夏休みなのだろうか……

 

 挨拶の時に、カトレア様とエレオノール様のねっとりとした笑顔が気になりましたが、流石にガリアの王女と良い仲になってしまったのだから追撃は無い筈だよね?

 ヴァリエール公爵邸を辞して恒例の馬ゴーレムでシェフィールドさんと二人乗りをしてガリア勢との合流場所まで向かう。

 既に内々で、僕とイザベラ様の件はジョゼフ王の許しを得ているから……それなりの護衛が付いてます。

 

 具体的に言うと、ジャネットさん……

 

 覗きに特化?した彼女は、僕では何処にいるのか不明なんですが、護衛してくれているそうです。

 パカパカとゴーレムは整備された街道を歩く。

 

 行きと同様に、長閑な田園風景だ……

 

 修行時代から通い慣れたヴァリエール邸。同然周りの農家の方も、僕を見知っている。

 作業の手を休めて僕達にお辞儀をしてくれる彼らに片手で挨拶していく……

 今思えば、素質はチートでも開花させてくれたのは間違い無くカリーヌ様の拷問(特訓)だった。

 

 無茶振りするし、我が儘で強引で……

 

 色々大変だったけど、感謝し足りないだろう。

 

「お姉ちゃん、ジョゼフ王との記憶変換ストーリーは出来ているの?」

 

 毎回後ろに乗り、抱きついているシェフィールドさんに尋ねる。

 

「完璧よ!ソフィアやジェシカにも手伝って貰ったから……幼少の頃から現在に至る迄の半世紀以上に渡る愛の遍歴。

シナリオで言えばvol.40かしらね?」

 

 シナリオ?vol.40って40冊分?

 

「お姉ちゃん……僕も人間の脳については詳しくないけどさ。そんなに大容量の記憶操作をしたら、ジョゼフ王の脳が焼き切れないかな?」

 

 シェフィールドさんの体が強張るのを感じる。

 

「脳?焼き切れる?どうかしら……誰かで実験した方が良いかしら?」

 

 何とも物騒な解決策をボソリと言いましたね?

 

「余りに大量の記憶操作は危険な気がするよ。枝葉の部分は後回しにして根幹の部分だけにしてみたらどうかな?」

 

「根幹?どんな?」

 

 ジョゼフ王が発狂したら大変だからね、安全策で行こうよ。

 

「出会いから大きなイベントを幾つか……そのジョゼフ王と結ばれた記憶や彼から告白された事。

結婚の約束をしたとか……その辺のイベントを掻い摘んで操作してみたら?

細かいのは何時でも書き換えられるでしょ。あとシャルルの記憶は綺麗に消してね。トラウマ治療を忘れたら本末転倒だよ?

でも、そうすると安定する迄はワルド殿とアンドバリの指輪が必要か……」

 

 ワルド殿をガリアに監禁するか?しかし、何かお礼を用意しないと駄目だよね。

 などと対策を練りながら話していると待ち合わせの場所に着きました。

 

「ツアイツ殿、お待ちしておりました」

 

「ツアイツ様遅いですよ、早くガリアに向かいましょう!」

 

 カステルモール殿とジャネット殿だ、ブリュンヒルデも居る。それと何人かの竜騎士団達……

 

「お出迎え有難う御座います。ではガリアに向かいましょう」

 

 そう言った途端にブリュンヒルデが僕をくわえて背中に放り投げると、カステルモール殿を掴んで飛び立った!

 

 アレか?

 

 ヤンデレ状態のシェフィールドさんを乗せた事が、そうとう嫌だったのかな?トップスピードと爆走?爆飛行?している。

 僕は彼女の首にしがみ付くだけで一杯一杯だし、カステルモール殿は何かを叫んでいる……この分なら待機している空中船につくのは直ぐだろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 突然、ブリュンヒルデが乱入するとツアイツ様を強制的に背中に乗せると主人を掴んで飛び立ったわ……

 

「あの……自分の主人は序でに足で捕まえて飛んで行ったわよ?アレ?……私達も追いましょう!」

 

 慌ててブリュンヒルデを追う……様に竜騎士団にお願いする。

 彼らはジャンケンで私とシェフィールド殿を誰が乗せるかで争っている。美少女だから誰でも乗せたがるのね?

 

 美しさは罪!

 

 何故かしら「まだ白黒の方がマシ!」とか「ヤバい相棒の制御がきかねぇ」とか聞こえたけど……心の安寧の為にスルーする事にした。

 

 本当に竜騎士団達は私の扱いが悪い!

 

 いくら私でも、乙女なんだから泣きたくなる……今度ツアイツ様に泣きながら相談しよう。

 きっと女の涙に弱いから力になってくれるハズ。そして誰が乗せるか決まったのは、それから十五分後だった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ブリュンヒルデの猛ダッシュで空中船に着いてから、床にへたり込んで一休みする。

 来た方の空を見れば……アレ?誰も追ってこないよ?

 

 幾らブリュンヒルデでも視界から居なくなる程のスピード差は無い筈なのに……振り向けば、カステルモール殿がブリュンヒルデに説教をしていた。

 ブリュンヒルデは欠伸をしたり首を振ったりして反抗している。彼女からすれば、ヤンデレさんを乗せる事自体が有り得ないんだろう!

 

 目が合うと、自慢気に胸を張っているし。きっと「どうだっ!」って感じなんだろう。

 

 軽く手を振って彼女の健闘を称える。そして船長に挨拶する為に船内に歩いて行く。

 

 でもね、ブリュンヒルデ……神の頭脳ミョズニトニルンの不条理とは、アイテム次第でどうにでもなるんだよ。

 

「お姉ちゃん、船長に挨拶に行こうか?」

 

 ゆらりと空間が歪み、シェフィールドさんが現れる。

 

「そうね、急ぐようにお願いしないといけないわね」

 

 にっこりと微笑まれた。

 

「お姉ちゃん、本当に転移魔法教えて欲しいな」

 

 主に緊急脱出用に……

 

「いいわよ。でもマーカーの設定箇所が限られるから、ツアイツでも使える物だと……常にお姉ちゃんの所に転移だけど構わないわね?」

 

 えっ?何その不条理設定!はははははっと笑って誤魔化した。

 

 つまり僕には、シェフィールドさんはマーカーを設定してるんだね?呼べば応える秘密を知ってしまいました……

 

 さて、気を取り直して!

 

 次はいよいよジョゼフ王の記憶操作だ!

 

 

 

第192話

 

 

 遂にガリアのジョゼフ王の記憶改竄まで漕ぎ着けました!

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 ガリアまで来る途中でゴタゴタが有りましたが、遂に此処まで来ました!

 現在グラントロアの一角、シェフィールドさんの私室?に招かれています。

 ここには大量のジョゼフ改造計画の書類が山積みです!メモ書きから、製本された物まで色々有りますね。

 

「シェフィールドさん、ラブストーリー決まった?」

 

 彼女は膨大な手書きの原稿に埋もれています。

 

「ツアイツ、助けて……お姉ちゃんじゃ上手く纏まらないの」

 

 確かにvol.40も書き溜めたらイベントも選び辛いよね?

 

「纏めるって……コレ全部読むの?僕が、今から?」

 

 ちょちょっと今から全部って、どれだけ時間掛かるの?

 

「お願いツアイツ!」

 

 ウルウルと上目使いで祈るポーズをされたら、読むしか有るまい。覚悟を決めて、この甘々な恋愛ストーリーを読む。

 

「ああ、コレとコレは読まなくて良いわ。あっこれもダメよ」

 

 途中幾つかの製本をお姉ちゃんが回収していく。

 

 何か表紙に……「愛、そして3人」とか「夫と義弟と花嫁と」てか危険な単語が!

 

 お姉ちゃんはにっこりと微笑んでいる。

 

「……あの、それは?」

 

「ん?」

 

 表情は変わらない。諦めて本を読み始める。手始めにvol1から手に取りページをめくる。

 

 

………………読んでる。

 

 

…………読み続ける。

 

 

………読み耐える。

 

 

……もう無理、砂糖を吐きそうだ。

 

 

「お姉ちゃん、しょっぱい物持ってきて」

 

 せめて塩気を補充したいです。

 

「ツアイツ?本を読みながら物を食べちゃ駄目よ」

 

 至極真っ当に切り替えされました!半日以上を費やし、飛ばし読みでイベントをピックアップ。

 それをお姉ちゃんに更に絞って貰い決めました!

 

「これで良いわね。完璧よ、ツアイツ有難う」

 

 お姉ちゃんは、とてもご機嫌だ!

 

「でもお姉ちゃん、全部覚えてる?コレを持ち込むとジョゼフ王も警戒するよ……」

 

「…………そうね。今晩中に覚えるわ。明日実践しましょう」

 

 胸焼けがする程の甘々ストーリーだ!

 

 これを読んだら、大抵の男は躊躇するだろう……それ位の強制的拘束力がアリアリな物語。その主人公になれるお話だから……

 

 

 そして、いよいよジョゼフ王の治療(洗脳)を開始する。

 

 

 

 

 ジョゼフ王執務室

 

 

 

 謁見の間の奥に設えられた歴代ガリア王の執務室、窓は無く分厚い石に四方を囲まれた完全防備な部屋。

 中は魔法の灯りて照らされている。

 ジョゼフ王は応接セットのソファーに座りシェフィールドさんの説明を聞いている。

 

「何人かの先行実験の結果から推察するに、記憶の削除・上書きにはそれなりの時間と痛みを伴います。

出来れば魔法で眠りについて頂いた方が効率的かと……私も主の苦痛の表情には耐えられません。ですからお願いします」

 

 そう説明し、深々と頭を下げている。つまり眠っている内に全てを書き換えたい訳だ。

 vol.40からvol.3まで内容を圧縮したけど、オルレアン夫人の時の何倍になるのかな?

 ジョゼフ王が僕を見たので、頷いた。

 

「分かった。ミューズを信じよう。起きたら新しい俺になっている訳だな」

 

 そう言って目を瞑る。

 

 僕は杖を取り出し一言断りを入れてから、ジョゼフ王にスリープクラウドの呪文を唱える。

 魔法の雲を吸ったジョゼフ王がソファーに前屈みになるのをシェフィールドさんが抱きとめた。

 

 いよいよだ……因みに部屋の外には、カステルモール殿とジャネット殿が護衛の為に居る。

 

 何となく覗き見してそうだが……そして、僕達の知らない直属の護衛も見張っている筈だ。

 

 僕はスリープクラウドを唱えたら、不審に思われない用に杖をしまい離れた席に座る。

 

「嗚呼、主様……いよいよですわ。うふふふふふ……あは、あはは、あはははは……」

 

 お姉ちゃんのテンションはマックスだ!そして不審者そのもの……隠れている直属護衛の方々が不審に思うかも!

 

「おっお姉ちゃん、落ち着いて……ほら、深呼吸してね。ほらほら……ひっひっふー・ひっひっふー」

 

 既に瞳は黒目のみでグルグルだし、不思議なオーラが立ち上っている。僕なら仕える主人に、この様な人物が近付いたら僕なら止める……

 

「ツアイツ……大丈夫よ、少し待っていてね。私達三人の幸せの為に……では、いくわよ」

 

 そう言って目を瞑り、長い精神集中に入った。もはや邪魔にならない様に見守るしかない。

 

 シェフィールドさんの集中は30分近い……

 

 全身に汗をかいている様だし、表情も苦しそうだ。しかし止められない。

 

 更に10分後……

 

「キタキタキター!ジョゼフ様、私の気持ちを受け止めて下さい!」

 

 そう呟くと、眩い光を放ち指輪が砕け散った!

 

 今までで一番の輝きだ。ジョゼフ王を胸にかき抱いたシェフィールドさんは、満足そうに彼の頭を撫でている……成功したのだろう。

 

「お姉ちゃん平気?」

 

 シェフィールドさんは……穏やかな表情だ、アレ?ヤンデレ化が治っているよ?

 

「ツアイツ、ジョゼフ様はどれ位で目を覚ますかしら?」

 

 今回は治療時間がオルレアン夫人より掛かっているから……

 

「あと一時間位だと思うよ……成功したみたいだね?」

 

「ええ、成功したわ。有難うツアイツ。ジョゼフ様が目覚めたら私達は愛欲あふれ捲りの家族よ。さぁでも今は、2人だけにしてちょうだい」

 

 アレ?不穏な台詞が聞こえたよ?

 

「じっじゃあ何か有れば呼んで下さい。客室に居ますから……」

 

 そう言って執務室を辞す。部屋の外に出るとカステルモール殿とジャネット殿が直立して待機していた。

 

「ツアイツ殿、成功したみたいですね?」

 

「ツアイツ様、上手くいきましたね?」

 

 何故か語尾が疑問系なんだけど……覗き見していたんだろうな。

 

「ええ……不穏な台詞は有りましたが成功だと思います。では客室に戻りませんか?」

 

 ガリア王の執務室前で立ち話も何だから……これで、ミッションはオールクリアーだ!

 長かったガリア編も終わってみれば大団円かな?2人を伴い客室に歩いて行く。

 

 多分、イザベラ様とお付きのメイドさん達も居るだろうけどね。

 

 

 

第193話

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 現在ガリアに軟禁されています、諸問題が解決する迄は国外移動不可だそうです。

 ジョゼフ王の洗脳は驚く位に順調でした。国内及び各国にシェフィールドさんを王妃に迎える事が通達されました。

 

 身元も不明な女性を公式に王妃に迎える……

 

 普通なら難しい事ですが、王宮内でシェフィールドさんとジョゼフ王の仲は周知の事実。

 この馬鹿ップル振りに正面から物申せば……権力で粉砕される事が明らかです。

 

 国が割れる?治世が乱れる?

 

 公式に政務については、イザベラ様が一任されました。そしてツンデレアイドルの派閥は最大!

 中央では半ばこの結婚については黙認されています。当然ですが、反対派も居ます。

 地方領主や中央から追放された貴族連中等は不満を募らせていますね。

 まだまだシャルル派閥だって生き残っている。

 しかし御輿たるオルレアン夫人やシャルロット様は公式に死亡扱い。軍関係者は僕とイザベラ様が押さえている。

 

 時間は掛かるけど、国家統一は難しくはない。ジョゼフ王はシャルル派閥の粛正の時も強権を発動した!

 

 民衆からは恐ろしい人物と、狂った王と思われている。しかし今回は、惚れた女性と一緒になりイザベラ様に国を徐々に譲る考えが有るんだ……

 そう言う噂を僕が民衆に意図的に流した。

 

 彼らはイザベラ様の善政を知っている。

 

 彼女の力が強くなり、ジョゼフが第一線から退くなら万々歳だ!そんな風に誘導した……中央の貴族が説得を諦め民衆は支持をしている。

 

 他国は色々と……特にロマリアが聖なるブリミルに連なる一族に不浄の血をナンタラ……とか言っていたが、袂を分かつ予定なのでジョゼフ王も聞き流している。

 

「純血の後継者ならイザベラとその子供が継ぐ。今更、俺の子が新たに産まれても権力争いの、災いの元だろう。だから血統が悪い方が良いんだ!」

 

 そう言って煙に巻いた。

 シェフィールドさんも我が子にガリアを継がせたいなんて思ってないから、これは理由としては一応筋が通るのかな?

 

 アルビオン王国は国交は順調です。

 

 帝政ゲルマニアはイザベラ様が主体で交渉を進めている為、こちらも問題無し!

 

 トリステイン王国は……

 

 アンリエッタ姫が騒いでいますが、王宮としては国内の有力貴族の娘が僕に嫁ぐ事になるから、そんなに反対雰囲気ではないみたいです。

 しかし先のレコンキスタの乱で民衆の支持を集めた彼女が何か仕出かさない様に注意が必要です。

 

 ロマリア……

 

 うん、表に裏にと反対されてます。結婚式にはブリミル教の司祭が必要だから揉めるでしょう。

 ジョゼフ王は後妻で有り第一線を退くから司祭は必要無し!そう公言した。

 

 もうロマリアと徹底抗戦の構えです……

 

 僕らの時は、体面を整える為に反教皇派閥から最上位の司祭を呼ぶ考えです。

 その頃には、ロマリア国内で対立させる予定だから何とかなるか……現実逃避は此処までにして、今抱えている問題に向き合う。

 

 

「ツアイツ、長々と現状説明ご苦労様だね。さて私達の問題はコレからだよ!

どうするんだい?あの気持ち悪いお父様を……まだ前の方がマシだよ」

 

 イザベラ様がご立腹です。非常に怒っていらっしゃいますね。バンバンと机を叩きながら力説しています。

 

「僕にはどうにも……

しかしイザベラ様は、お姉ちゃんと同盟を結んでいますよね?知ってますよ。結果がアレです……受け入れて下さい」

 

 彼女の目を見ずに、そう言い訳をする。

 

 ジョゼフ王……まさに馬鹿ップル的な存在です。リアルなロミオとジュリエット。又は宝塚的なオスカルとアンドレ。

 

 宣言通り政務放棄状態で、毎日が甘くて切なく頭が痛い状態だ!

 

「……知っていたのかい?確かにお母様と呼んでやるとは言ったよ。しかしあんなに魔改造するなら言っとくれ!恥ずかしいんだよ……」

 

 そう言って、真っ赤になりながら俯く。思わず「可愛いなぁ」と言って抱き付いた!

 

「ばか……私達まで馬鹿ップルにならなくても良いんだよ」

 

 僕の胸に顔を埋めながらボソッと呟く……此方も端から見れば馬鹿ップルだ!

 

「お父様、本当にあの女にメロメロだよ。危険だね、洗脳技術は……本当に封印出来たのかい?」

 

 確かに人格が変わる程に洗脳されちゃ堪らない。しかし、基本的な部分は変わらなかった。

 主に世界を自分の玩具的に思っている事。シャルルの悪夢は消えてもホモ教皇は大嫌いな事。

 

 そして悪魔的に有能だ……

 

 ただ、その思いがシェフィールドさんに向いている事で他の事を考える暇が無いだけだ……

 

「洗脳には2つの指輪が必要なんだ。

一つはラグドリアン湖の水の精霊に返したし。もう一つはテファが持ってるから。テファは兎も角、水の精霊にはちゃんと管理しろって念を押してあるよ」

 

 実際に湖の最深部に分身と言うか見張りを付けて守っているそうだ。

 

「毛色の違う単なる者……感謝しよう。願いが有れば叶えよう」

 

 返した時にそう言っていたので、しっかり管理しろって念を押した!だから平気だと思う。

 

「ツアイツはやっとゲルマニアに帰れるんだろ?

アルブレヒト閣下と交渉が終わるまではガリアから出さなかったけど、既に正式な外交を結んだから問題ないからね。

流石に2人共国を離れられないから私は残るけどさ。いや全く、今までは1人で切り盛りしていたけど2人だと楽だね。

じゃ無事に帰って来てね」

 

 暫し抱き合ってから、離れる。

 

「なるべく早く帰って来ますから……」

 

 こうしてレコンキスタ反乱終結から2ヶ月後に、漸く実家に帰る事が出来た。勿論、両用艦隊旗艦プリンセス・イザベラ号に乗ってだ!

 レコンキスタとの戦いで、この戦艦は第一線で戦った。後日、イザベラ様と僕がガリア王国の先発隊として増援に向かったと捏造した発表をしたんだ。

 お留守番の替え玉シャルロット様は大変だったらしい。

 

 彼女のトラウマは成人男子の奇態……そして通常イザベラ様の周りには変態だけ!

 

 幾ら母親の治療の為とは言え、辛かったらしい……ちゃんとオルレアン夫人が治療出来て良かった。

 因みにオルレアン夫人は、僕とシャルロット様の仲を誤解していたみたいだ。後日、僕とイザベラ様の仲を知って軽くパニクったみたいですよ?

 

 では、ゲルマニアへ……

 

 テファとマチルダさん、そしてエーファ達を迎えに行きますか!

 



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シェフィーとジョゼフの甘々日記(前篇・後編)

シェフィーとジョゼフ甘々日記(出逢い編)

 

 ツアイツから、我が主との愛の記録を捏造し……

 

 いえ、腐れホモ野郎の汚らわしい記憶を消し去る為の治療としての正しい(都合の良い)記憶を上書きする。

 そう素晴らしい提案を聞いてから、少しずつ考えて来た甘い甘い物語……

 

 

 

 私とジョゼフ様は、使い魔法召喚の儀式により初めて会った。

 急に呼び出され、キスによる契約を強制的に結ばされた……しかし、私はジョゼフ様を愛してしまった。

 

 逞しい体、素敵なお髭……型に嵌らない行動、子供の様に純真で残酷。それでいて誰にも負けない知謀の持ち主

 

 でも周りは愚鈍でツマラナい連中……そんな孤独の主従だが、大きな転機を迎える。

 

 先ずは、この出会いの記憶から修正する!

 

 私達の出会いは、想いは……契約などと言う無粋な物では無いのです!

 

 

 そう私達の理想の出逢いは……

 

 

 捏造編・私と主様の出逢い(ハート)

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あれは有る晴れた普通のどれかの日……私は綺麗な花が沢山咲くと言う山の麓の一寸したオアシスに居た。

 

 私の周りには摘んだ花で作ったお花の首飾り等が並んでおり、そこはまるで私という淑女を際立たせる花のステージと化していた!

 そのステージの中心で物思いに耽る……美女に惹かれて小鳥達が集まり、肩や膝にのり囀っている私を祝福する音楽の様に。

 

 しかし、たおやかな花には虫が寄ってくるもの。薄汚い乱暴者三人に絡まれる私……

 

「ようよう!姉ちゃん、遊んでくれよ」

 

「こんな所で花に埋もれてないでよぉ!俺達とイイ事しようぜ」

 

「ほら、こっち来いよ!」

 

 薄汚い男達は、私の手を掴んで森の中に連れ込もうとする。抵抗する私……嗚呼、無惨にも花が散らされようとする時に

 

「待て待て待てぇ!下郎共、その美しき御婦人から離れろ。臭くなるだろうがぁ」

 

 早速と駆けつけるジョゼフ様……

 

「何だとぉ?お前ら、あの貴族様をやっちまえ」

 

 汚い言葉を叫びながら襲い掛かるゴミをバッサバッサと撫で斬りにするジョゼフ様……残りは兄貴分のゴミだけ!

 

「きっ貴様、何者だぁ?」

 

「黙れ!喋ると臭いだろう」

 

 そう言って最後の乱暴者を袈裟懸けに斬る!そして刀を一振りして付いた血を払うと、カチッと鞘におさめた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 あっ!白馬の用意を忘れたわ……まぁ良いか。それにジョゼフ様は一般的な魔法が苦手。

 

 記憶の中で魔法を使っては、辻褄が合わないから刀にしたけど……意外と刀も良いわね。でもジョゼフ様って刀は使えたかしら?

 

 まぁ良いか、普通に振る程度は使える事にしておきましょう。ツアイツだって、エロ剣をそれなりに使えてたし……

 

 さて次は初めての会話ね、ここはジョゼフ様が私に一目惚れしたって事が良いわよね。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「レディ、怪我は無いですか?」

 

 刀を鞘におさめながら近付いてくる。

 

「はい……大丈夫です。その、有難う御座いました」

 

 両手で体をかき抱きながら、弱々しくお礼を言う。そんな私を凝視するジョゼフ様……

 

「そっそんなに怯えなくても大丈夫だ。俺は何もしない。その、なんだ……家まで送ろう。また襲われるかも知れないからな」

 

 そう言って私の手を掴み立たせようとする。その力強さに、思わず彼の胸に引き寄せられる……

 

「あっ……すみません」

 

 恥ずかしくて離れようとしても先程の恐怖で腰が抜けてしまい、彼に縋りつく。

 

「おい!大丈夫か?どこか怪我をしたか?」

 

「いえ、その腰が……」

 

 そう言いうと「なに?腰をどうしたのだ?」心配してくれたのだろう、その逞しい手で私の腰から尻を撫で回す。

 

「あっあの……大丈夫ですから……ただ腰が抜けただけで……」

 

 遠慮なく触り捲るジョゼフ様の手を押さえて、腰と尻を撫で回すのを止める。

 

「むっそうか……しかし、お前の手は柔らかいな」

 

 今度は手をニギニギするジョゼフ様。

 

「よし!決めたぞ。お前は今日から俺の物だ。俺の名はジョゼフ。このガリアの王だ!」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヨシ!出逢い編は、これで良いわね。

 

 恩人なのだが、見初められて拉致される。これならジョゼフ様が私に一目惚れな訳よね。

 しかもジョゼフ様を少しエッチィ様に変えるわ!

 

 そして次は、お城に連れてこられた私に襲い掛かるジョゼフ様ね……

 

「うふふふふ、あははははぁ!ここからはツアイツの男の浪漫本の出番!激しいのを……いや最初だし甘々なのが良いわね」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ジョゼフ様に連れ去られ、王宮の一室に押し込められた。呆然とする私をメイド達が風呂に入れようとする。

 

「あっあの?」

 

 突然の成り行きに付いていけない私。

 

「ジョゼフ様のご命令です。貴女を綺麗に着飾らせろと……

先ずはお風呂にて肌を磨き髪を整え、ドレスに着替えて頂きます」

 

 テキパキと私を磨いていくメイド達。私はなすがまま……気がつけば、豪華な部屋のドレッサーの前に座らされて髪を梳いて貰っている。

 

「綺麗な髪ですね。まるで黒曜石みたいに艶やかですわ」

 

 お世辞でも嬉しい。しかし、私は一体どうなってしまうの?

 

「あっあの……私はどうなってしまうのですか?私は……」

 

 櫛を持つ手を止めて、申し訳なさそうに

 

「貴女はジョゼフ王が見初めて連れてきたお方。私達では分かりません。

どうかジョゼフ王にお聞きになって下さい……では終わりましたので、大食堂までご案内致します」

 

 そう言うと、扉が開いて別のメイドさんが2人並んで立っている。

 

「では、ご案内致します」

 

 そう言うと、また私を何処かへ連れて行く。

 

 広い廊下……床は見た事も無い絨毯が敷き詰められている。踏むのが恐ろしい位にフカフカだ。

 それに壁には絵画が、天井には精巧な硝子のシャンデリアが連なっている。

 

 所々に置かれている壺も像も高価な感じだ。案内をしてくれたメイドさん達が、一際大きな扉の前で

 

「此方でジョゼフ様がお待ちです」と、私を部屋に案内する。

 

 中に入れば……30m位の長いテーブルの先に、先程の方が座っている。

 

「わっ私、どうすれば……」

 

 思わずオロオロしてしまうが、室内に待機していた別のメイドさんが椅子まで誘導してくれる。

 案内された椅子を前に、ジョゼフ王を見れば……王様って感じの衣装を着ているが、借り物の私と違い良く似合っている。

 

「おお!見違える程、美しいなお前は。その様な髪の色をした女は初めて見たぞ」

 

 社交辞令でも嬉しいと思った。

 

「あっありがとうございます」

 

 それから私達は初めての食事を共にした。

 

 

 

 

 シェフィーとジョゼフ甘々日記(薔薇色の未来編)

 

 

 

 初めての王族の食卓に戸惑う私をジョゼフ様は、ただ笑って見ているだけ。只でさえ広い部屋に長い机。

 そして手の届かない所にまで並べられた料理……壁際に並ぶ使用人の方々。

 

 まさに別世界……

 

 私、宮廷マナーなんて殆ど知らないのに。料理人の方が、ワインをグラスに注いでくれる……食前酒だろうけど、何やら甘口の飲みやすいお酒。

 次に前菜の器が運ばれるが、マナーばかり気になって味が全然分からない。

 

 スープが出てサラダ、主菜はお肉……

 

 気が付けば、食後の紅茶が目の前に有るし。

 

「上の空だったが、料理は全て食べたな。どうだったかな?」

 

「はっ、はい!とても美味しかったです」

 

 いきなり話し掛けられて、テンパってしまう。見上げれば、口をナプキンで拭いているジョゼフ様……

 庶民の食卓と違い話ながら食べるなんて事は無いと思い無言だったけど、違ったのかな?

 

「そうか。では後でな……」

 

 後で?ナニを?そう言うなり立ち去ってしまう……1人大食堂に残されるが、直ぐにメイドさん達が客間に誘導してくれる。

 

 そしてまたお風呂と着替え……

 

 流石にのぼせる、バスローブのままで部屋の方に移動。そこにも複数のメイドさんが手に色々な衣服を……

 

「なっ何ですか?そのフリフリな服やスケスケの下着は?」

 

 ついさっき入ったお風呂にもう一度入らされ、肌を丹念に磨かれて、のぼせた体を拭いて貰い……いざ着替えと言う時に、トンデモナイ服?が!

 

「夜伽用の衣装ですわ」

 

「さぁさぁジョゼフ様がお待ちですわ」

 

「早くお召し替えを……」

 

 急かされて着替えはしたが、トンでもなく恥ずかしい。スケスケだけど肌触りの良い下着。何だか簡単に脱げてしまいそうなフリフリなドレス。

 流石にアクセサリーは付けないが、香水を軽く吹き掛けられた。

 

「「「お似合いですわ!では此方へ」」」

 

 そう言って奥の部屋に押し込まれた……

 

「あっあの?」

 

 目の前には巨大な天蓋付きのベッド!何故かを聞こうとメイドさん達に声を掛けるも、お辞儀をしながら扉を閉める途中だった。

 

「えっ?あのっ?」

 

 私、ジョゼフ様の夜伽をしなければならないの?今日会って、これから直ぐなの?

 部屋の真ん中で立ち尽くしていると、扉が開いてジョゼフ様が入って来た……随分とラフな格好だ。

 

「おお!我がミューズよ。先程とはまた違った魅力だな。さぁ此方に来い」

 

 そう言うなり私の腕を掴み、力強く自分の方に引き寄せた!当然の様にジョゼフ様の腕の中に抱かれる……

 

「あっあの、その……」

 

 突然の事に私は抵抗出来ずに、ベッドに押し倒されてしまう。嗚呼、私の運命や如何に?

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 よっしゃー!これで私達の初めての夜が始まるわ。

 

 この流れはジョゼフ様が私を見初めて城に連れ帰り、強引にモノにした……これからが本番よ。

 次は私の虜となったジョゼフ様が、恐縮し断る私を強引に後妻にと話を進めるの……これで、出会いから初めての夜。

 

 そして結婚へ……

 

「うふっ……うふふふふふ、あーっはっはははっはー!私達の幸せは直ぐそこよー!」

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 嵐の様な官能の世界が終わった……豪奢なベッドでジョゼフ様に腕枕をされながら、並んで寝ている。何故か目から涙が……

 

「お前、泣いているのか?何故だ?俺はお前が気に入ったのだぞ」

 

 私の涙を見て、何故か焦った感じで聞いてくる。

 

「いえ……これは、その……」

 

 しかし何故かを説明する言葉は出なかった。

 

「お前、そう言えば名前を聞いていなかったな。何と言うのだ?」

 

 そうだった!まだ名前も伝えてないのに、こんな関係になるなんて……

 

「シェフィールドです」

 

 名乗ると腕枕をしている手で器用に髪を梳いてくれる。

 

「シェフィールドか……良い名前だな。

俺は自分の弟を手に掛けた。王位簒奪を企てた取り巻き達と共にな。それからは空虚感だけが心を占めていたよ。

血の繋がった相手が欲望に身を任せて襲って来たのだ……しかし俺は禍根を残さぬ為に捕らえた奴を殺した。

血塗られた王。

そんな俺が今日はどうだ?お前に一目惚れをして強引にモノにした。お前を俺を恨むか?」

 

 いきなり身の上話を聞かせられた。普通なら兄弟とは助け合うものだ。それが欲望の為に牙をむく……

 この人は誰も、誰にも信じる事が出来ないのだろうか?

 

「私は……今はまだ自分の気持ちも分かりません。しかしジョゼフ様を恨んではいません。

本当に嫌だったら、こうなる前に命を絶っていますから……」

 

 その言葉に一瞬だけピクッと反応したが……彼は深い安堵の様な溜め息をした。

 

「そうか……

そんな正直な言葉を聞いたのは久し振りだ。でも俺は短気でな。

お前が自分の気持ちを分かる前に、俺の気持ちを知って欲しいんだ」

 

 そう言うなり腕枕をしてくれていた手を使い、私を抱き寄せた。顔と顔が近い……

 

「シェフィールド……

お前は俺のモノだ!俺はお前を後妻に、このガリアの王妃に迎える。この気持ちは変わらない。お前の気持ちを変えるだけだ……」

 

 そう言って、私が返事を言う前に唇を奪われた。力強い口づけ……しかし彼の優しい気持ちが伝わってくる。

 

 息継ぎの合間に自分の素性を話した。

 

「私は東方の出身です。

ハルケギニアの貴族でも、何でもない只の娘。王妃など恐れ多い事ですわ。どうか考え直して下さい。でも、お側にはいさせて下さい」

 

 彼を独りにする事は出来ないから……

 

「そう言って何時でも俺から離れられる様にか?ガリアの王妃は嫌なのか?」

 

 ああ、彼は裏切られたくないから楔が欲しいのね……

 

「私は貴方の側に居るわ……別に王妃なんかじゃなくても。

それが信じられないならば……使い魔の契約をしましょう。

人間にした事は聞いた事がないけれども、使い魔と主人は一心同体。これほど確かな絆は無いはずですわ」

 

 考え込むジョゼフ様……

 

「俺はな……魔法が苦手なのだ。だから成功するか失敗するかも分からん。そもそも召喚すらしていないミューズに使い魔の契約など効くとも思わない」

 

 ジョゼフ様は無能王と蔑まれているのは私でも聞いた事が有る。

 

「それで……どうなろうとも私は構いません。さぁ使い魔契約の儀式を……」

 

 そう言って私達は使い魔契約の儀式を行った……そして私の額には、ルーンが刻まれる。

 

「ジョゼフ様……成功ですわ。私達は一心同体!これからずっと一緒です。もう離れる事など有りませんわ」

 

 この契約を切欠にジョゼフ様は虚無に目覚められ、簡単なコモンマジックは使える様になる……

 

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヨシ!この流れなら私が使い魔でジョゼフ様が虚無使いになるわ。序でにシャルルは抹殺し、家族の愛情も全て私に向けられる。

 身を挺して愛情を示した私にジョゼフ様はゾッコンね……

 

 最初はコレ位かしら?

 

 ツアイツも一度に沢山の書き換えは脳に負担が掛かるって言っていたし……先ずはコレ位で、暫くしたら辻褄を少しずつ合わせていく記憶操作ね!

 

「ジョゼフ様……私の全てを貴方に!ですから、貴方の全ても私だけに下さいませ」

 

 何故かシェフィールドの脳裏に変な赤白の玉を構えて「ジョゼフ王、ゲットだぜ!」と決めセリフを言うツアイツが思い浮かんだ。

 

 ヤンデレさんに捕まってしまうジョゼフ王の未来は……きっと薔薇色だと思いたい。

 



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第194話から第195話(前期最終話)

第194話

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 久し振りの我が家の私室のベッドで目が覚めました。見慣れた天蓋付きのベッド……

 もう何年も使っている、柱の模様やキズ場所も記憶している馴染み深いベッド。

 

 暗がりに馴れてきた目で見回せば、右隣にはテファとマチルダさん。左隣にはナディーネ、足元にはエーファ達が居ます。

 

 乱交ではないですよ!

 

 昨日帰宅してから、これまでの行動を……戦争に関わった事、戦後の処理それにカトレア様の治療に……タバサと母親の件は秘密だ!

 などを色々と説明して、これからの展開の話をしていたら深夜になってしまい……有耶無耶の内に雑魚寝状態となりました!

 

 僕の隣を確保したナディーネを見ながらしみじみと思う……転生して五歳で記憶が蘇り最初は、そう!

 

 原作には介入せずにルイズやサイト達、原作キャラに任せるつもりだった……

 ゲルマニアと言う原作では余り語られなかった国の、貴族の嫡男として生を受けたから。

 貴族の特権を生かして酒池肉林の、お気楽極楽転生ライフを満喫しようと考えていたんだが……しかし、蓋を開ければ結果はコレだ!

 

 原作介入どころか、原作開始前に粗方のイベントは達成してしまい残るはロマリアのみ……しかも対ロマリアの手立ても既に準備している。

 もはやこの物語の中心にドッカリと居座ってしまった……まだ原作の開始前、来年だよ春の使い魔召喚儀式は。

 ナディーネの反対側で寝ているテファが、身じろぎしながらムニャムニャ言っているので見ると……うん、デカい。

 

 仰向けでも双子山は今日もご立派に健在だ!

 

 形が崩れず聳(そびえ)え立つ双子山に、そっと毛布を掛けてあげる……思えばテファには不誠実だったな。

 幾ら助けたとは言え、婚約者となり……そして次々と婚約者を作り、最後は本妻をイサベラ様と決めてしまった。

 

 しかし笑って「構わないです。一緒に居てくれるだけで良いんです」なんて言われてしまった……

 

 胸の前で組んでいた手は震えていたが。うん、もうハーレム要員は増やしませんから。

 

 因みにマチルダさんは「ちゃんと私達に構ってくれれば良いです」とかなり拗ねていた。

 

 こちらは目尻に涙が……胸を押さえて倒れそうな、申し訳ない気持ちになりましたよ。

 彼女は復讐を諦め、盗賊家業から足を洗いハーナウ家の諜報部門で活躍してくれている……そう言えば酔って襲って来たから、返り討ちにしたんだっけ。

 翌日に能面の様なエーファが、愛人手当の申請書を持ってきたんだ。

 

 アレには焦った!

 

 だって情事が筒抜けみたいだったし……足元に固まっている残りのメイドズを見る。

 もう既に家族と同じ感覚の彼女達。先輩メイドの三人と後輩メイドの二人。

 流石にヴァリエール家から来た20人のメイドさん達には手を出していない。何人かは寿退社しましたよ。

 

 この年で本妻(予定)の他に側室4人、愛人6人か……もう十分だろう。

 

 僕の転生ライフは十分に成功した!お気楽ではなかったが、極楽な転生ライフだ。

 

 現代で暮らしていたら不可能だろう、この環境は。

 

 また眠気が襲ってきた、ボンヤリとした頭で考える……体内時計では、多分午前4時頃だろうか……室内は魔法で温度調節がある程度出来る。

 過ごしやすい適温に調整されている……無駄に、ではないが凄い技術だ。

 体はまだまだ睡眠を求めている……もう少し眠ろう。

 

 目が覚めて、これが夢でない事を祈りながら……

 

 

 

 

 二度寝から覚めると左右にテファとマチルダさんが、がっしりと僕の両腕をホールドしています。

 

 ああ、エーファ達が居ないのはメイドとしての仕事が有るからか……カーテンから差し込む日差しから判断するに、もう既に日は昇っているのだろう。

 僕がもぞもぞと動き出した為か、義理姉妹も目を覚ましたみたいだ。

 

「おはよう、ツアイツ様。まさかテファにイヤラシい事はしてませんよね?」

 

 起きがけ一番の台詞がソレですか?いえ、全くの無実です。その双子山を拝んで毛布を掛けただけですから……

 

「していません!さて、朝食が済んだら荷造りを始めましょう。

ガリアで新生活を始めますし、テファは途中からの編入だけど学院生活が始まるんだよ」

 

 さぁさぁ支度をして下さいと急かす。テファは母上からの花嫁修行で、ある程度の学業も修めている。

 彼女は努力家だから、フォローをすれば問題無いだろう……そして、彼女が求めていた沢山の人との触れ合いを。

 

 普通の生活……とは少し違うけど、楽しい日々を送る事が出来る。

 

「おはようございます、旦那さま。マチルダ姉さん、何を騒いでいるの?」

 

 ムニャムニャと目を擦りながら起き上がるテファ……低血圧かな?朝が大変弱い娘です。

 しかしブラジャーをしていないのに、その盛り上がる双子山ってどうなの?少しだけ女体の神秘を想像する、デヘヘ……

 

「さぁ私室に戻って支度をして下さい。今日の午後には出発しますからね」

 

 キリリとした真面目な顔でテファとマチルダさんを送り出す。

 入れ替わりでシエスタ・ソフィアのタルブ村コンビが、僕の着替えや洗顔用のボール等を用意してくれる。

 

 ビバ、リアルなメイドさん!

 

 ビバと言えば……ビバ、オッパイ!ヤバい、デルフをガリアに置きっぱなしにして来ちゃったよ。

 

 影薄いから、あのインテリジェンスえろソードは……転生前では絶対に有り得ない、専属メイドさんに着替えを手伝って貰い身嗜みを整える。

 

 ガリアに行けば暫くは帰れないだろう私室を見渡す……見慣れた風景、使い慣れた机……

 

 しかし、部屋の一角には作りかけのフィギュアや男の浪漫本が所狭しと溢れている。

 

「あの一角だけを切り取れば、現代の僕の部屋と変わらないな……貴族でメイジに生まれ変わったのに、何故かね?」

 

 自分は自分!

 

 転生してもスケベは変わらないって事かな。妙に感慨深げな気持ちになってしまう。

 

「まだまだコレからだ!頑張るか!」

 

 自分と自分の周りの大切な人達の幸せのために……

 

 

 

 

第195話

 

 

 ガリア王国の主都リュテュスの魔法学院。

 

 流石は始祖の血を引く子孫達の中で最大国家だけの事は有ります。

 伝統と格式(だけ)を重んじるトリステイン魔法学院との違いは……国力の違いによる潤沢な資金が有るのだろう、その建物は威風堂々としています。

 石造りの落ち着いた外観の校舎……絡み付く蔦が永い年月を経た風格を滲ませてます。

 

 これから通う事となる学院の建物をしみじみと眺めながら思う。

 

 ゲルマニアのハーナウ家を出発して2ヶ月……遂に完全な原作剥離になる、まさかの主要キャラ全員ガリア入り。

 春の使い魔召喚の儀式ってガリアの魔法学院もやるのかな?てか、虚無なルイズが呼び出す彼は本当に来るのか?

 

「ツアイツ?学院の正門前で何を考え込んでいるんだい。さっさと入るよ」

 

「ツアイツ……最近、何かトリップ癖が付いてない?本当に平気?」

 

「ツアイツ?疲れているなら今日はやめる?」

 

 いかんいかん!つい別世界にトリップして皆に心配されてしまった。これではジョゼットの事を笑えないな。

 

「だっ大丈夫だよ。ちょっと立派な建物だなぁ……って感心してただけさ。さぁ行こうか」

 

 改めて周りを見渡せば、我々は注目されている。まぁ当たり前か……

 

 

 その国の王女と他国の婚約者達を引き連れて……しかも護衛騎士団も周囲に展開している。

 

 カステルモール殿とジャネット殿は、当然の如く左右に居るしイザベラファンクラブや竜騎士団も居る。

 これは過剰防衛と取られても文句は言えなくないか?

 知らない内に出迎えに来てくれた魔法学院長の引きつった顔は、生涯忘れられないだろう。

 

「ようこそ、我が学院にいらっしゃいました。歓迎致します。さぁさぁ此方へ」

 

 学院長の案内により、学院内部に案内される。途中で窓から此方を伺う生徒達が騒ぎ出す。

 

「アレが巨乳教団の教祖と巨乳巫女達か!」

 

「我が学院にツンデレ様が!有り難や有り難や……」

 

「あの金髪ロングの娘の胸スゲェ!アレって、まさかテファたんか?本当に実在したんだ!」

 

「てかアイツが次期ガリア王なんだろ?チクショウ羨ましいぞ!モゲやがれ」

 

 一部からネットスラングらしき物が聞こえたが、殆どの生徒は僕らの素姓を知っているのだろう。

 まぁ王女が来るのだから、事前に準備やら説明が有るのが当たり前だ。

 アンリエッタ姫の時だって一時訪問でアレだった。この学院に通うとなれば、もっと厳しいだろう。

 

 応接室に案内された僕らは、そこで学院長から簡単な説明を受けてから担当教諭を紹介された。学院長も担当教諭も目の下に隈が出来ている。

 

 我々の受け入れ準備は大変だったのだろう……

 

「これから苦労を沢山掛けてしまうと思いますが、宜しくお願いします」

 

 そう頭を下げたら、偉く恐縮された。

 

「ツアイツ!王族は無闇に頭を下げないんだよ。ツアイツみたいに仲間との関係を大切にする奴には面倒な生き物なのさ……」

 

 達観した顔のイザベラ様に言われました。その後は簡単な確認事項などを取り交わし、担当教諭に案内されて教室まで来ました。

 

「ここが今日から君達のクラスになります。案内しますので自己紹介をして下さい」

 

 そう言って先に教室に入る。アレか?呼ばれたら教室に入って自己紹介の流れか。この辺は、どんな世界でも変わらないんだな。

 

 なとと考えていたら「では教室に入って下さい」と声を掛けられた。

 

 順番的には、イザベラ様・僕・ルイズ・キュルケ・モンモランシーそしてテファって並んで居る。

 貴族順位なら、王女・新参王族・公爵令嬢・辺境伯令嬢そして伯爵令嬢か……

 因みに乳並びなら、ダントツでテファ・キュルケ・ルイズ・モンモランシー・イザベラ様だろうか?

 皆さん発育が大変に宜しいので順位変動も有りかな……

 

 先ずはイザベラ様だ、威風堂々としているな。

 

「イザベラだ。まぁまさか学院に通えるとは思わなかったんだが……宜しく頼むよ」

 

 うん。生徒達も真剣に聞いている。内容はフランク過ぎる気もするが……

 

「それとコイツが私の旦那で、向こうは側室達だ。最初に言っておくが、下手なチョッカイは死を覚悟しな。

お前達も下心満載で寄ってくる連中には気をつけな。特にテファ!天然なアンタが一番心配だよ。

断っておくが、彼女達にも固有のファンクラブが有る。下手に手を出すと、彼らを敵に回すと思いな!」

 

 自身が強力無比なファンクラブを持つだけ有り、説得力が有る。

 しかし、僕らの自己紹介って必要無いかも?こうして僕らの楽しい学院生活が始まる!

 

 なんて思っていた時期が僕にも有りました。

 

 

 

 

 

「ツアイツ!この案件だが、どう思う?フィギュア制作工場の誘致が来てるよ」

 

 イザベラ様の執務室でせっせと仕事をしています。

 

「今は工場の増設は……職人の教育が追い付いてないので不可ですよ。品質を落とす事になりますよ」

 

「まぁ巨額の富を生む男の浪漫本やフィギュア関連の生産工場は信頼のおけない領地には建てられないか……」

 

「それよりも、既存のギルドとの調整が……」

 

 最近は、仲良く執務室に籠もる日々を送っています。他の婚約者達……ルイズ達は、リュテュスの魔法学院に随分と馴染んだそうだ。

 初日にイザベラ様が一発カマしたせいか、学院や両親の教育の賜物か……彼女達の学院生活は、それなりに落ち着いた物だ。

 

 彼らは貴族の子弟達。王族関係者との距離の取り方や接し方も弁えている。

 

 残念ながら僕とイザベラは……

 

 一緒か又は交代かで仕事をしているので、余り学院には顔を出せないでいる。良くて週に2日位だ。

 基本的には寮生活なのだが、一度も泊まった事はない。

 

 どうもジョゼフ王とシェフィールドさんの馬鹿ップル振りが酷くて、周りは政務は若夫婦に全てお願いね!みたいな流れだ。

 実際王宮での僕の扱いは、その方向で固まった。

 

「前は私1人で頑張ってたんだよ。

でもツアイツが来てくれたから虚無の日は休めるし、学院にも週に2日は顔をだせる。本当に感謝してるよ」

 

 彼女のお日様の様な笑顔を守る為にも頑張らないとね。実は郊外に屋敷が買ってあって婚約者達と、あはは、うふふ!

 そんな甘い甘い生活を考えていたんだけどさ。現実は何時も予想を上回るものだ……

 

 ジョゼフ王とシェフィールド王妃はラブラブで政務を完全放棄中。

 

 毎日が甘酸っぱさ満載のラブラブ振りを発揮。昨日は2人で街に買い物に繰り出し、演劇を見てから私室に籠もりっきり。

 今日は2人で朝から馬で遠乗りに出掛けた。明日からはガリア国内を視察を兼ねた旅行に行くそうだ。

 

 でも幸せな彼女の顔を見ると、ジョゼフ王に仕事をさせようとも思えない。

 

 暫くすれば落ち着くだろう……だから、今日もイザベラ様と2人で執務室で仕事中だ。

 

 

 

 最終話・ツアイツ君のお気楽極楽転生らいふ?(前編)

 

 

 

 おはようございます、ツアイツです。

 

 今日は僕の1日を紹介します、ここは王宮の中に設えた僕の部屋です。

 

 大国ガリアの政務は膨大!

 

 如何にジョゼフ王が、何もしなくても国が動く様な仕組みを作っても結局は承認するのはトップ。

 しかも承認するからには責任も発生するので、案件の裏を取ったり検証したり……中々大変なのです。

 

 折角郊外に建てた屋敷には、虚無の日にしか帰れません。その日は学院で寮生活をおくるテファ達が戻ってくるから……

 

 普段は王宮に缶詰め、毎日イザベラと仕事に忙殺されている。

 

 今日は午前中は政務。

 

 午後からは、建設中の巨乳神殿のと男の浪漫本ファンクラブ本部に顔を出して、イザベラファンクラブの会合に参加。

 夜は久しぶりに屋敷に帰れるだろう。明日は虚無の日でお休みだから、一息つけるかな。

 布団にくるまれ微睡みながらも、頭の中で大体の今日の予定を組み立てると起き上がる。

 

「おはよう、イザベラ。朝だよ」

 

 隣で気持ち良さそうに寝ているイザベラを揺する。もうイザベラを様付けでは呼んでいない。自分の奥さんに敬語を使うなと叱られたから。

 そして貴族の義務として、早く世継ぎを作らないといけない!だから毎日一緒に寝てナニかを頑張っています。

 

 昨夜も攻め過ぎて気を失う様に眠りに付いた彼女だから……

 

「うーん、もう朝なの?あっ!ツアイツの、ばか!朝は私が起こしてあげたいのに。毎晩気を失うまで激しくするから……ばか、ばかばか!」

 

 シーツを目元までたくし上げたイザベラが真っ赤になりながら文句を言う。起きがけは何時もこうだ!

 

 彼女のオデコにキスをしながら

 

「早く子供が、皆の中で一番最初に男の子を妊娠する迄、ルイズ達とニャンニャンしちゃ駄目だって言ったのはイザベラだよ」

 

 これには理由が有る。

 

 僕は次期ガリア王!

 

 しかしガリア王家の正当な血筋はイザベラ。そして次の王は、当然イザベラの子供でなければならない。僕が他の女性と作った子供では駄目なのだ!

 ガリア王家の歴史が途絶えてしまう。

 

 第一子はイザベラが!それも男子が生まれる迄は頑張らねばならない。

 

「正妻、側室に関係無く世継ぎとなる男子は私が懐妊しなくてはならない。だから私が妊娠する迄は、あんたらオアズケだよ!」

 

 そうルイズ達の前で宣言したイザベラに、周りが文句を言うかと思ったけど納得していた。多少は不満顔だったけど。

 多分この辺は現代人との習慣の違いなのか、家を守る王族・貴族の義務なのか……少し拗ね気味のイザベラを伴い食堂へ。

 

 ジョゼフ王とシェフィールドさんも既に席に着いている。ジョゼフ王は今朝もゲッソリしシェフィールドさんはツヤツヤだ。

 僕らも毎晩頑張っているのに、向こうはもっと激しいのかな?

 

「おはようございます。義父上、シェフィールドさん」

 

 シェフィールドさんを義母上と呼んだ時の顔……アレを見てはもう義母上とは呼べない。

 

「ツアイツ、私は何時までも貴女のお姉ちゃんが良いの……」

 

 物凄く落ち込んだ顔で、そう懇願された。だからシェフィールドさんかお姉ちゃんと呼ぶ。

 公式の場では仕方がないが、それでも恨めしそうな顔をされてしまう。

 

「おはよう、ツアイツ。良く眠れたみたいだな」

 

 ジョゼフ王が栄養補給の為か、朝からニンニクタップリのステーキを食べている。

 てか精力のつく物が多く食卓に並んでいる……いや、それしか並んでいない。

 

「義父上、今日のご予定は?」

 

 席につくと同時に、僕の前にも料理が並べられる。此方はサラダにパンケーキ、それに卵料理など普通だ。

 

「ツアイツ、私達は遠乗りしてきます。初めて出会った場所へ……留守を頼みますよ」

 

「ああ、あの森に行くのだな。イザベラ、ツアイツと宜しくな……」

 

 アレ?あの捏造の森って、実在する場所なの?

 

「分かりました。楽しんで来て下さい」

 

 そう言うと、お姉ちゃんは艶っぽく微笑みジョゼフ王は体が栄養素を求めているのだろう。黙々と食事を続けている。

 そんなジョゼフ王を舐める様に見詰めるお姉ちゃん。その様子を見て、胸の辺りを押さえるイザベラ。

 

 朝から砂糖を吐きそうだよね……

 

 熱々で甘々な義両親だが、お姉ちゃんの幸せそうな顔を見れば何も言えない。イザベラも最初こそ騒いだが、今は諦め切っている。

 これがヤンデレを極めたって事なんだな……下手すると被害が此方にくるから、好きにさせています。

 

 午前中の税務は問題無く終わった……

 

 政務と言っても僕の主な担当は対ロマリア絡みと、男の浪漫本絡み。つまり今迄と余り変わらない。

 それに優先度の低い物をイザベラが頼んでくる。

 但し優先度は低いとは言え数は多いし、慣れれば段々と重要な案件を振ってくるだろう。

 

 この辺は、アレな父親の為に幼い頃から政務に携わっている彼女の独壇場だ!

 

 やっぱ有能だよ、僕の奥様は……デルフは、鍔を鳴らしながらもう一本のインテリジェンスソードと話している。

 

 「地下水」

 

 イザベラが所有していたインテリジェンスナイフだ。デルフと同様に、ちょっと漢の妄想を注ぎ込んだら……良い意味で壊れた。

 今では2本で、エロ談義に花を咲かせている。

 

 日がな一日、エロトークだ……

 

「お前ら、五月蝿いんだよ。駄エロ剣がぁ!」

 

「姉さん、そりゃないぜ。俺らの出番はコレだけなのに!」

 

「姫さん、俺の出番はコレで終わりかい?」

 

 

 

 仕事を終えて2人で昼食を採る。少し休んだら、巨乳神殿の視察だ。

 

 

 

 ガリアの主都リュテュスの郊外に建設中の巨乳神殿……実は巨乳神殿とは通称で有り、本来は僕達の屋敷だ。

 

 ただ、周りは巨乳教祖の僕と婚約者達を巨乳教の教祖と巫女だと思っている。だから、僕らの集う場所は聖域だそうだ。

 そして隣には、貧巨乳連合本部が建設中だ。因みに貧乳部門本部は、ゲルマニアのウィンドボナに建設中している。

 

 此方は父上とワルドズが主体となり事業展開をしている。

 

 ワルド殿はハーナウ家に養子に入ったジョゼット殿と電撃結婚。

 

 引き止めるアンリエッタ姫以下の貴族連中を振り切り、爵位を返上してウチに来た。

 

 アンリエッタ姫は、かなりのご立腹だったらしい。何故か例の演劇の招待状が届いたが、保留にしている……行っても代理を立てる予定だ。

 

 てか、「真夏の夜の夢」って公演準備出来たのか?

 

 ワルド殿には父上が新たな爵位を用意し、帝政ゲルマニアの貴族として新たな性活を初めている。

 グリフォン隊から、家を継げない次男三男達が何人か一緒に付いて行ったそうだ……彼らは貧乳教団で働いている。

 

 ガリアからもカステルモール殿が……エルザを伴い出向中です。

 

 母上とエルザ、そしてジョゼットを擁した貧乳教団の活躍は凄まじい物が有る。

 

 アルブレヒト閣下が、自らクレームを言ってくる程に……閣下は巨乳好きだから、ゲルマニア=貧乳の聖地扱いが嫌だそうだ。

 国費で巨乳教団支部を建てるから人員(アイドル)を寄越せ!って煩いのです。

 

 ツェルプストー辺境伯が新人発掘に動いてます。

 

 そうそう!

 

 貧乳ツンデレのベアトリスちゃんが、イザベラを通じてプロデュースを申し込んで来た。

 クルデンホフ大公国も、この流れに取り残されては不味いと思ったんだろう。

 元々は商業国家であり、後ろ盾のトリステイン王国がヤバいのを感じているのだろう。

 コレを機に、男の浪漫本産業に食い込みたいんだな。彼女には、貧乳教団のアイドルとして売り出す。

 既に彼女をモデルとしたフィギュアの試作品も完成。会報に予告も載せた。

 

 一度ゲルマニアでイザベラの親善を兼ねたファンの集いを開いて、そこでデビューさせる。

 

 さてガリア王女の妹分としてデビューさせたら……トリステイン王国はどう動くかな?

 ヴァリエール公爵が、何やら暗躍を始めたんだ。

 

「暫くトリステイン王国で騒ぎが有るが、関与しないで欲しい」こう連絡が有った。

 

 つまり騒ぎはこちらで抑えるから心配するな。そしてガリアやゲルマニアからの介入は待って欲しい。

 

 そう言う事だろう……

 

 今のトリステイン王国はボロボロだ。ワルド殿が魔法衛士隊の隊長を辞し、グリフォン隊からも賛同者が同行してしまった。

 アンリエッタ姫は演劇の件で、王立劇場の関係者と揉めている。やはり準備期間が短かったのだ。

 

 無理強いしても、出来ない物は出来ないだろう……

 

 ウェールズ皇太子や僕宛てに、招待状も先走って出したからね。

 劇場関係者に叱責したけど、彼らにも言い分が有りパトロンも居るんだ。

 パトロン達の面子も丸潰れだからね。これは、かなり揉めるだろう……

 

 ヴァリエール公爵、まさかヴァリエール王朝を興すつもりかな?

 

 エレオノール様がノリノリらしいが、カトレア様も暗躍してそうで怖い……最終的には烈風のカリンが、国家相手にも力押し出来るから厄介なんだ。

 

 あのチート義母上は……

 

 

 

 最終話・ツアイツ君のお気楽極楽転生らいふ?(後編)

 

 

 こんにちは!ツアイツです。

 

 午後はイザベラと2人で新しい……実は僕達が一緒に暮らそうと買った郊外の屋敷の周りが、空前絶後の開発を遂げている区画の視察です。

 最初は郊外で長閑な場所だったのです。

 

 しかし……

 

「巨乳派教祖とその奥方様方が暮らす場所!ならば此処は巨乳の聖地となるのです。いや、しなければならないのです!」

 

「変態と言う紳士達の集い・男の浪漫本ファンクラブ本部を建てましょう!此処が新たな性癖の発信地となるのです」

 

「イザベラ公式ファンクラブ本部も建てねばなるまい。古臭い劇場などでなく、コンサート会場を!」

 

 これにより、貧巨乳派連合本部に関連施設の新築ラッシュが始まった。

 都市区画整理を近代日本で学んだ僕が、必然的に取り纏めをしなければならなくなったけど……

 

「ツアイツと私の関連施設だけで、街が出来るとは驚きだよ!」

 

 全くその通りです。この街の区画構成は……

 

 

 通称「巨乳神殿」

 

 

 これは僕達の屋敷だ。厳選された巨乳美女・美少女が暮らす館。何故か購入時の面影も無い程、改修されてしまった。

 最奥のプライベートスペース以外は、本当に神殿みたいな造りだ。

 

 

「貧巨乳連合本部」

 

 

 教祖及び教団最高幹部が常駐し、関連事業の殆どの本部を集めた。此処は関連グッズの直売所や、オークション会場も備えている。

 あとはカタログ掲載のフィギュアが、全て展示してあるスペースが有る。等身大とか問題有りで非売品のフィギュアも此処で公開している。

 ファンは実物を見て購入出来る仕組みだ。

 

 

「公式ファンクラブ本部」

 

 

 主にイザベラ隊・ツンデレプリンセス隊及び蒼い髪の乙女隊。それと竜騎士団が主体となった護衛組織本部。

 何故か、ガリア王国両用艦隊司令部も隣接している。彼らは主に僕達の護衛や、この街の警備に当たっている。

 

 

「ガリア国立図書館」

 

 

 まんま現代の漫画喫茶をパクりました。有料の個室スペースを貸し出し、男の漫画本を読めるようにしました。

 併設で喫茶コーナーも有ります。巨乳美女・美少女にメイドの格好でウェイトレスをさせてます。現代のメイド喫茶ですね。

 これは幾つかのメイド作品のコスチュームを日替わりで着せてます。

 ある程度お金が有っても、メイドまでは雇えない平民達や、そこまで裕福で無く可愛いメイドが居ない下級貴族達に大人気。

 

 現代でも定番のオムライスにケチャップで文字を書くアレ!マナーに煩い貴族達だが、マナーに煩くないお店でしか出来ないアレ!

 大好評です。最後に、最近始めたエステ関連の施設。

 

 

「美乳の館」

 

 

 これは、公開した巨乳プログラムを始め美肌効果の有るエステ関連のサービスが受けられます。

 男性ばかりを優遇しては不満が募りますから……まだ上級貴族のご婦人方がメインですが、プラン内容をランク別にしてリーズナブルなコースもご用意。

 

 メインは巨乳化コースとアンチエイジングコース。

 

 どちらも凄い反響でした。しかし、効果を実感してしまうと継続的にサービスを受けなければならなくなる……ある意味、蟻地獄の様な酷いシステム。

 これらの施設の周りには、ここで働く人々の居住スペースを割り振り、彼らの生活必需品を商う商店街も出来ています。

 

 

 そしてグルリと城壁で囲んだこの街を誰が言い始めたのか「漢達の夢と浪漫の理想郷」と言われてます。

 

 

 正式名称は未だ無いのですが……

 

 

 

 働く人達に声を掛けながら歩いて行く。

 数人の護衛しか伴わず、しかも徒歩で視察する僕達に最初は皆さん恐縮しまくりでしたが、最近は少し慣れてくれたみたいです。

 此処で建設関係で働いている人達の多くは、ロマリアからの移民達……酷い待遇だった彼らは、生活の安定を求めていました。

 どんなに酷い扱いでも、ブリミルを信じている人達も多かった。だから信仰の自由を認め、安定した仕事と生活を提供したんだ。

 

 勿論ブリミル教が悪いのでは無く、現教皇と神官達が悪いと言って……だから彼らは、まだ敬虔なブリミル教徒なのだ。

 

 宗教とは根が深いね。

 

「僕もブリミル教徒です。しかしこのままではブリミル教は悪い方向に進んでしまう。

正しきブリミル教を後世に伝える為にも、腐敗した現教皇と神官を倒さねばならないのです!僕は、教皇と真っ向から戦うつもりです」

 

 彼らにリップサービスで言った、この一言がヤバかった……

 

 どん底の生活から、住居と仕事を与え人並みの生活が出来る様にしただけだ。労働力は幾らでも欲しかったから……

 しかし彼らは、僕をブリミルの再来とか、ブリミルの導き手とか騒ぎ出した。

 お陰でロマリアでも敬虔なブリミル教徒は、殆どが不正規だがガリア王国へ移民。

 確かに悲惨な生活の中でも、ブリミル教を信仰していた彼等は教皇や神官達に不信感を持っていた。

 腐敗した彼等が、ブリミル教の神官で有る事が我慢出来なかったのだろう。

 

 しかし反発しても酷い目にあうだけ……生活が苦しいのに、反抗する気力も無かった。

 

 ただただブリミル様に祈るだけ……そんな時に、僕が現れたのだ。

 

 彼等からすれば救世主なんだろう。これでロマリアの力を削いでいるが、同時に完全に敵対した!

 

 十年計画だったが、短期決戦になりそうな予感。しかし負ける事はないだろう。

 妙に熱い視線を送り、跪いて拝み出す彼等に手を振りながら自分の屋敷へと歩いて行く。

 

「現人神だねツアイツ?巨乳神を崇めるアンタがブリミル教徒に崇められる……どうなっちゃうのかね?」

 

 巨乳神>現人神>ブリミル教徒+大きなお友達?何なんだ?このカオス図式?

 

 因みに何故か彼等ブリミル教徒にとって、貧巨乳信仰は受け入れられている。ホモなんかより、健全な事だから……

 多少苦笑い的に言われたが、彼らだって美女・美少女は大好きだ!自分達の妻や娘や恋人が綺麗になる可能性が有るなら大歓迎だそうだ。

 ロマリアに平民が居なくなるのも、そう遠い話では無いかもね。

 

 

 

 

 神殿部分を通り過ぎて、プライベートスペースへ。

 

 屋敷の正門に来た所で、着ぐるみの何かにぶつかった!

 

「ツアイツお兄ちゃん!遊びに来たよ」

 

「ツアイツ様、お久し振りです」

 

 ぶつかったのは、エルザとジョゼットだ。日の光に弱いエルザの為の特注ウサギスーツをジョゼットも着ている……

 

「2人共、お久し振りだね。君達が居るって事は旦那さん達も来てるのかい?」

 

 ヨシヨシと頭を撫でながら聞いてみる。

 

「「ツアイツ殿!お久し振りです」」

 

 風のスクエア・ロリコンコンビが出迎えてくれた、ダッシュとサードも一緒だ。

 

「カステルモール殿!出向ご苦労様です。アレ?ワルド殿、髭が……」

 

 トレードマークの髭が、綺麗に無くなっている。ワルド殿はスッキリした顎を撫でながら苦笑いだ。

 

「いやジョゼットがダッシュ達と見分けがつかないと……それに髭を剃った方が格好良いからと……」

 

 ジョゼットと2人、真っ赤になりながら説明してくれた。エルザは、カステルモール殿の背中に張り付き笑っている。

 

「はいはい。御馳走様でした。さぁ屋敷に入りましょう」

 

 屋敷の扉を開けると、吹き抜けのロビーから見える螺旋階段からルイズ達が走ってくるのが見える。

 

「そう言えば明日は虚無の日で、今日は早めに帰るっていってたね」

 

 イザベラが僕の腕を組ながら、彼女らに笑いかける。学院から帰ったばかりなのか、真新しい制服を来た婚約者達を可愛いと思う。

 

 嗚呼……幸せだな僕は。

 

 おっぱいと勢いだけで駆け抜けたこの10年……気がつけば、最大国家の次期王様だ。

 

 周りには信頼出来る趣味友達に囲まれている。

 

 美しく有能な共犯者の妻と、ひたすら愛情を向けてくれる巨乳美女・美少女婚約者達。

 

 

 僕の幸せは、此処に極わまった!

 

 

「ただいま、みんな!」

 

 

「現代人のお気楽極楽転生ライフ」ここに完結とさせて頂きます。

 

 

 最後まで、この変態おっぱい小説にお付き合い頂き本当に有難う御座います。

 

 この作品は……何となくお分かりの方も居るかも知れませんが、原作の悪役や不遇な人々を如何に輝かせるか、活躍させるか。

 それが裏のテーマでした。

 

 原作者様は敵役や悪役を本当に憎らしく表現されてます。そんな彼ら。

 具体的には、召喚され強制的に使い魔にさせられ、献身的に尽くすも報われず心中するシェフィールドさん。

 サイトの成長の踏み台としてしか、中ボスとしてしか扱われないワルド殿。

 下手したら、ヒロインのルイズより人気が高いタバサの対比として扱われるイザベラ姫。この三人の救済がしたかったんです。

 

 ぶっちゃけると、主人公側の原作キャラは殆どの二次創作でも普通に幸せなラストを迎えられるじゃないですか!

 

 この作品でもツアイツ君のハーレム要員として、一応のハッピーエンドですが……余りこの三人が幸せな二次創作は少ないです。

 それで、無いならば自分で書けば良いじゃん!それが、この作品です。

 

 プロットでは此処まで長編にする予定では無かったのですが、話に肉付けをしていくと続く続く……中々最後のイザベラ姫まで辿り着きませんでした。

 

 後半はイザベラ姫一色でしたが……しかし本人はとても楽しく書いていました。好きだから、楽しいから続けられる。

 ならば完結まで書き切ろう。毎日連載しよう。

 

 小さな目標でしたが、本当に毎日連載し完結出来て良かったと思います。

 

 

※このお話はもう少しだけ続きます。

 



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アルビオン復興期(前篇・後編)

完結後リクエスト外伝・アルビオン王国復興記(前編)

 

 お久し振りです。

 頂いた感想の中で多かったのが、アルビオン・トリステイン・ロマリアのその後についてでした。

 第一弾はアルビオン王国のその後です。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハルケギニア全土を巻き込んだ、オッパイ戦争。

 

 人々は「オリヴァー・クロムウェルの乱」と言い、ロマリアの司教が企てた一連の反乱を収めたゲルマニア貴族……

 

 いや、ハルケギニアの漢達の頂点に立つ貧巨乳連合教祖であるツアイツ・フォン・ハーナウを讃えた!

 彼の提唱する、オッパイへの情熱と素晴らしさ。

 そこには漢の夢が詰まっており、そこから派生する色々な恩恵が貴族だけでなく平民層にも広がっていた。

 

 オッパイ教を信奉する貴族や裕福層は、彼の教義の根本に有る

 

「大いなる乳の下へ集え!乳を争いの元にするべからず。全ての乳を愛せよ!」

 

 貧乳・巨乳・美乳……

 

 全てのジャンルを網羅する各種教典(漢の浪漫本)に偶像崇拝(フィギュア)と分かり易い教え。

 信者達は、自らが求め追求する性癖を謳歌した。

 そして信者達は、主に貴族や裕福層だが平民達にも優しくなる。乳は全ての女性に平等に有る。

 

 そこに貴族や平民と言う垣根は無かったから……

 

 そして一番影響を受けたのが、反乱の舞台であったアルビオン大陸で有り。そこに住む、王族・貴族・平民達だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 アルビオン王国の主都ロンディニウムのハヴィランド宮殿では、朝から大変な騒ぎになっていた。

 救国の立役者、我らが教祖ツアイツ・フォン・ハーナウが公式な使者としてガリア王国から来るのだ。

 しかも、フィギュア売上ナンバーワンのティファニア嬢と共に……

 オッパイ大好きウェールズ皇太子が陣頭指揮を執り、瞬く間に準備が整って行く。

 

「バリー!こちらの方は粗方の準備は済んだが、そっちはどうだ?」

 

「はい、準備万端整っております」

 

「そうか……いよいよだ!我が新生アルビオン王国に、ツアイツ殿を迎えられるのは……長かったな、この2ヶ月間は」

 

 主従2人、走馬灯の如くこの2ヶ月間の事が蘇る。周りからは滅亡かと囁かれたが、鮮やかな逆転劇で勝利!

 

 何故かサウスゴータの城壁と市街地に被害が出たが揉み消した……そして国その物の復興。

 多大な支援をガリアとゲルマニアから受けた。

 

 トリステインの支援は……

 

 アンリエッタ王女自らが、復興援助の指揮を執ると居残りを志願したが……いや、思い出すのも……その、何だ。

 大人の事情で検閲削除な事項が多々有ったのだ。

 

 帝政ゲルマニアとの外交は当初は難航するかと思ったが、使節団に紅髪のツェルプストー三姉妹とツアイツ殿の父上であり、貧乳教の教祖たるサムエル殿を遣わしてきた……

 父上が巨乳以外の性癖を認めたので、逆に王家に隔意を持つと思われていた者達が率先して交流を深めていった。

 私は、帝政ゲルマニアのアルブレヒト三世を義父上と呼ぶ日も近いかもしれない……

 性癖に奔放なゲルマニアのトップだけあり、彼の紹介してくれた娘達は綺麗どころが多かった。

 

 しかも美人でお淑やかで巨乳だ!

 

 お淑やかで巨乳だ!

 

 お淑やかだ!

 

 大切だから三度言った。

 

 その中でも、好みにドストライクな三人の姫達。悩む、悩むぞ!

 年上のおっとり系巨乳美女!同い年の大人しい系の巨乳美少女!年下の快活だが、素直系美幼女!

 

 ゲルマニアの女性は積極的と聞いたが、彼女達は違う。いっそ全員を……

 

「ウェールズ様。そろそろツアイツ殿が到着なされますぞ。先ふれの竜騎士が来ましたし、プリンセス・イザベラ号が見えますな」

 

 バリーの声に妄想から引き戻される。僕にも、こんなに嬉しい婚姻話が来るなんて!直ぐにでも話を進めるべきだろう。

 

 意識を周りに向ける……

 

 2人の視線の先には中庭に降り立った竜騎士と、遥か彼方の上空に浮かぶ巨大な戦艦だった。

 

 プリンセス・イザベラ号!

 

 ロイヤル・ソヴリン号と共に最終決戦を戦い抜いた両国の絆の船だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「旦那様。漸く着きましたね」

 

「テファ……良かったのかい?この国には辛い思い出しかないんだろ?」

 

プリンセス・イザベラ号の甲板で並んで白の国を見下ろしている。

 

「いえ、楽しい思い出も有りましたよ。

例えば旦那様が、白馬に跨った王子様の様に私を救いに来てくれました。今は次期王様ですよね」

 

 クスクスと笑う彼女は、自分の両親をエルフだった母親を囲った罪で粛正された悲しいハーフエルフだ。

 

「次期王様ね……ピンと来ないんだけど。今と何が違うの?」

 

 王族の義務だけがのし掛かってくる。政務や世継ぎの問題とか……

 

「そんな変わらない旦那様が大好きです」

 

 巨大な胸で腕を抱えられ思わずニヤニヤしてしまう……では、久し振りにウェールズ皇太子に会いますかね。

 

 流石は空中大陸アルビオン!

 

 プリンセス・イザベラ号の様な大型戦艦を係留出来る設備が有る。タラップから降りると、盛大な歓迎を受けた。

 まさかのジェームズ王とウェールズ皇太子自らの出迎えだ。

 

 僕の腕を掴むテファが一瞬だが、強く握り締めた……気丈にも僕を見上げて微笑む。

 

「行きましょう!旦那様」

 

 テファを伴いタラップを降りて、両王族の前へ

 

「ジェームズ王、ウェールズ皇太子。わざわざのお出迎え感謝します。今日は宜しくお願いします」

 

 そう言うなりウェールズ殿がガッシリと両手を握ってきた!

 

「ツアイツ殿!

共に王族となったからには、もはや遠慮も要らないな。心の友よ!新生アルビオン王国へようこそ。国をあげて歓迎する」

 

 両手をブンブンと振り回して歓迎してくれる。

 

「ジェームズ王、初めまして。ウェールズ様、ご無沙汰しております」

 

 母上にミッチリ仕込まれただけあり、テファの作法も様になってきている。

 

「歓迎しよう。ティファニア殿、未だ戦渦の傷も癒えぬが精一杯のお持て成しをさせて貰おう」

 

 挨拶も済んだ事だし、宮殿内に案内される。

 途中で熱狂的なテファファンが、彼女のフィギュアを片手にブンブンと両手を振り回しているのを見た。

 アルビオン王国は巨乳派が根強い。

 

 彼らにとって、テファは現人神なんだろう。

 

 普通の女性なら嫌な顔をしてしまう彼らにも、にこやかに手を振っている。

 今やイザベラと人気を二分する程の彼女のファンは、沢山居るのだろう。

 

 公式ファンクラブの申し込みも多い……代表的なグループは、隣でにこやかにエスコートしている某皇太子だが。

 

「ん?ツアイツ殿、どうなされた?私の顔に何か付いてますか?」

 

「いえ……皇太子が代表を務めるファンクラブって、何だかなー?って思いまして」

 

「…………いや、人違いでしょう。HAHAHAHA!天空のネクストキングは僕じゃナイヨ?」

 

「いや、もう少し捻りましょうよ」

 

外交的にも個人的にも、両国の友好は問題無いだろう……

 

 

 

完結後リクエスト外伝・アルビオン王国復興記(後編)

 

 

 アルビオン王国の主都ロンディニウムにある、ハヴィランド宮殿。歴史ある煌びやかな宮殿にて歓迎の宴が開かれていた。

 

 主賓は、次期ガリア王ツアイツ・フォン・ハーナウ!

 

 未だ実家の姓を名乗っているが、いずれガリアの文字が名前に入る筈だ。

 そして、未だ彼の婚約者の立場だが側室として召されるのが決定しているティファニア嬢。

 

 この2人を迎えた為に宴は深夜迄続いた。

 

 特に着飾ったティファニアのドレスが、初回限定版のフィギュアの色違いだった事をいち早く気付いたウェールズ殿の講釈が長い長い……目が完全に逝ってます。

 

 そこにジェームズ王が参戦。テファの為に用意した、ジェームズコレクションを披露!

 

 宴は前半戦、オタク会談。後半戦、ティファニアによるジェームズコレクション着せ替え披露会なった。

 伝統を重んじる始祖の直系王家が、こうも家臣達と身近に接し語り合うなんて!

 

 従来なら有り得ないだろう……しかし、このスタイルが新生アルビオン王国の基本姿勢なのだろう。

 

 この国から腐敗貴族が出る事は、かなり先だな。王家と貴族達が共に理想を語り邁進する関係は強固だ!

 

 ロマリアからの圧力も跳ね返すだろう。ひとしきりテファのファッションショーが終わってから宴はお開き。

 ジェームズ王とウェールズ殿、そして僕とテファだけが別室に集まり紅茶を振る舞われた。

 

「ティファニア殿、ジジイの道楽に突き合わせてしまい済まなかった。疲れただろう?」

 

 穏やかなジェームズ王……これが先程までステージの最先端に陣取り指揮をしていたとは思えない。

 

「いえ……突然だったので驚きましたが。あの、今日着せて貰ったドレスや貴金属ですが、本当に頂いて宜しいのですか?」

 

 都合50着以上のドレスに、数々の装飾品。どうみても国宝が混じっていました。

 

 風の指輪……アレを嵌めて来た時は目を疑った。

 

 ウェールズ殿が、彼女の金髪と白い肌に映えるから……何て言っていたが、虚無たるテファには危険な代物だ。

 これで始祖のオルゴールなんか見せて貰ったら……

 

「構わんよ。あれらが君への贖罪になるとは思っていない……」

 

 贖罪?ちょまさかジェームズ王はテファの事を?

 

「ツアイツ殿。昔話を聞いてくれぬか……

儂には弟が居った。兄弟の仲は悪くは無かったよ。儂は巨乳好き、奴は貧乳好き。何処かで聞いた関係であろう?」

 

 静かに語り出すジェームズ王。声は穏やかだが、その眼光は鋭く真っ直ぐに僕を見詰めている。

 

「まるで、僕の親子関係みたいですね……」

 

「ふふふ……ツアイツ殿とサムエル殿とか?

そうじゃな。しかし我らは分かり合えなかった。何処かで道を違えてしまった……その先は、話さずとも分かっているだろう?」

 

「父上……」

 

 ウェールズ殿も、ジェームズ王が何を言っているのかが理解出来たのだろう。

 

「ええ……種族を超えた愛が有り、時代がそれを許さなかった。

しかし今ならば、私の知る偉大な王は受け入れてくれると信じています」

 

 あれだけテファを持て成したのは、この話が有るからか?

 

「貧巨乳派教祖のツアイツ殿に信じて貰える王とは……幸せだな。ティファニア嬢。儂は……」

 

 静かに首を振るテファ……

 

「ジェームズ様。

私は今、幸せです。過去に何が有ったかも知りました。種族の違い……

私は、私を受け入れてくれた大切な人が、私の為にどれだけの努力をしてくれたかを知っています。

それでも秘密がバレてしまった。私は、大切な人に迷惑が掛かるなら……」

 

 ジェームズ王は手を上げて、テファの言葉を最後まで言わせなかった。

 

「ティファニア嬢……

儂は、過ちを繰り返す事はしない。若い君達を見て、随分と過去の儂らが愚かだったかを知ったからな。

人は分かり合える。なんと単純な事か!だが、一国の王として一度下した結果は覆す事は出来ない……

しかし、次こそは違った結果を出したいのだ。……すまなんだ。今はこれしか言えぬが……」

 

 アルビオン王国の王が、非公式でも謝罪?

 

「ジェームズ王、それは……」

 

「ツアイツ殿……

ティファニア嬢には、弟の面影が有る。そして名前も、間者が調べて来たのと同じ。少し捻った方が良いな」

 

 あれ?一本取られた感じ……

 

「兎に角だ。ティファニア嬢には幸せになって欲しい。助力は厭わぬ。例え儂に死ねと言うなら叶えよう。それ程の事をしたのだからな」

 

 またシリアスに引き戻された。

 

「ジェームズ王、死ぬとかそれがいけないと思います。テファの幸せを願うなら、彼女をそっとしておいて欲しいのです。

彼女はゲルマニアの下級貴族の娘。僕が一目惚れをして強引に物にしたんです」

 

「私もそれで幸せです……」

 

 ジェームズ王は、一粒の涙を流してから笑った。力無い笑いだったが……

 

「老人が余計な事をして、若者を困らせたみたいじゃな。今日の事は我々だけの秘密だ。

強引に物にしたと言ったが相思相愛じゃな。ウェールズよ、お前も早く伴侶を捕まえろ。なんなら例の娘達、三人共申し込むか?」

 

「ちっ父上?……いや、まぁそれも心が動きます。いっいやしかし、三人は流石にアルブレヒト三世も……」

 

 流石は老獪な王様だ。自分の息子をダシに場の雰囲気を切り替えたか……

 

「ウェールズ殿?

アルブレヒト閣下には、数多な娘が居ますよね。もしかして秘蔵っ子の三人かな?

年上おっとり美女、大人しい美少女、素直な美幼女ですよね。

彼女等を紹介するとは、アルブレヒト閣下も本気で婚姻外交を望んでいるんですね。彼女達は皆さん良い方々ですよ」

 

 アルブレヒト閣下……ウェールズ皇太子の好みを的確に突いている。本気で墜としにきたよ。

 成功すれば、ゲルマニアとアルビオンの関係は強固になる。

 

 勿論ガリアもだ……

 

 アンリエッタ姫と結ばれてトリステイン寄りになるよりは良いのかな?

 こうしてジェームズ王はテファに謝罪したが、真相は有耶無耶になった。

 後は明日、ジェームズ王とウェールズ皇太子に漢の浪漫本ファンクラブ上級会員として特製マントを授与してお終いだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 昨夜のシリアスな展開は何処へやら、漢の浪漫本ファンクラブ特設会場は……ハイテンショーン!

 

「みんなーコンニチハー!」

 

「「「ウォー!ティファニアちゃーん!」」」

 

 ナニコレ?デジャヴ?イザベラのコンサート会場に初めて来た時みたいだ……

 

「今日はー、新しい上級会員のマント授与式なんだよー!」

 

「「「ウォー!ジェームズさまー、ウェールズさまー」」」

 

「先ずはファンクラブネーム、謎のオヤジキングさんだよー!みんなー、せーの」

 

 

「「「オヤジキングさーん!」」」

 

 

 

 イザベラ……テファの事を私に匹敵するアイドル属性だから任せろって言ったけど。

 

 コレは……この教育は、やり過ぎてないか?



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ゲルマニア帝国秋葉原化計画(前篇・中編・後編)

完結後リクエスト外伝・帝政ゲルマニア・秋葉原化への道(前編)

 

 ハルケギニアでは、始祖の血を引かぬ都市国家群を纏めあげて成り立った帝政ゲルマニア。

 

 一代で登り詰めたアルブレヒト三世。

 始祖の血を引かぬ故に、閣下と呼称され他の四国家から一段低い評価を下された……

 

 突き抜けたガリア王国。

 内乱を経て国が強固に纏まったアルビオン王国。

 

 先行きの不透明なトリステイン王国。

 そして始祖の弟子の子孫達のロマリア連合皇国。

 

 ゲルマニアは国力のみで見れば、ハルケギニアで第二位の地位に居る。

 しかし、ブリミル万歳のマンセー大陸では血筋こそ尊まれていた……つい最近まで!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「認めん!俺は認めんぞ。何故だ……何故、俺のゲルマニアが!

俺の半生を費やしたゲルマニアが……貧乳教の聖地なのだ!

ああ?

ハルケギニア観光スポット第二位、ハーナウ領サムエル愛の資料館!

第八位、ヴィンドボナの貧乳神殿(漢の浪漫本ファンクラブ貧乳支部)って何だよ?

ああ、俺の国だよな?なぁ?ツェルプストー辺境伯?ハーナウ卿?」

 

 アルブレヒト三世は荒れていた!

 

 自分が作り上げた国が、勝手に聖地認定された。あまつさえ貧乳信者の聖地として。

 

「お前達の息子が所属する国が、何故アヤツの信奉する乳の……

巨乳の国にならんのだ?俺は貧乳も好きだ。しかし、巨乳はもっと大好きなんだよ!」

 

 ひたすら平伏する2人……

 

「閣下、お怒りはごもっともです。なれば、閣下が主体となり新しい神殿の建築を指揮なされてはどうかと……」

 

「我がツェルプストー一族の巨乳達をそこで働かせますので……リーケ達三人を筆頭に」

 

 アルブレヒト三世は、この提案を吟味する……

 

「俺が……俺の為の神殿か……神殿、くっくっく!お前ら、俺も対ロマリア戦に巻き込むつもりか?」

 

 神殿と言えばブリミル教……しかし今、神殿と言えば、貧乳・巨乳・美乳神殿の事を指す。

 正式名称はブリミル教に配慮して違うが、周りはそんな事はお構いなしだった。

 

「その様なつもりはありません」

 

「そうです。しかし一度流布された噂を上書きするには……」

 

「その案乗った!

しかし費用はお前らが出せよ。場所は提供してやる。それと……主祭巫女はキュルケだ。ツェルプストー一族で周りを固めろ。

サムエル!

息子に連絡して、暫くコッチに来させろ。ガリアばかりが巨乳の聖地だと!

フザケルナ!ウチはサムエルとツアイツの二枚看板の筈だ。これを期に巻き返しを図るぞ」

 

 既にアルブレヒト三世の心の中では、始祖の血を取り入れる事に対する執着は薄い。時世は、オッパイ一色になりつつある。

 ならば、ブリミルマンセー時代は最下位だったゲルマニアが……オッパイならトップを取って当たり前。

 何故なら、貧巨乳連合の教祖が2人共所属する国なのだから……

 

 ハルケギニア一番の評価を受けるに値する国でなければならない。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ツアイツのオヤジ2人……宛がわれた部屋で一休みしていた。ソファーにだらしなく座り込む……

 

「閣下があそこまで拘るとは巨乳……」

 

「全くだ!良いではないか貧乳……」

 

 国家を上げての一代イベントの責任者に名指しで指名されたのだ、プレッシャーが凄い。

 

「良かったではないか!お前の一族が巨乳神殿を任されたんだよな。俺は貧乳派だから無理だし……」

 

「確かに建設費用は持たされたが、ゲルマニア国内で閣下の派閥に明確に組み込まれた……

今更だがな。お前は良いよな。息子に、ツアイツに押し付ければお終いだろ?」

 

 未だに国内の纏まりに不安が有るゲルマニア。ここで巷で話題のオッパイダブル教祖がアルブレヒト三世の下に集う。

 これに意味が有る。

 

 閣下は、女性の好みには煩いが制限は少ない。美しければ、貧でも巨でも幼女だって喰える漢だ!

 つまり貧乳でも巨乳でも構わない。今は国内が、貧乳に傾いている。

 

 それに目を付けたアルブレヒト三世は、イチャモンを付けてツアイツを……巨乳派閥の取り込みも実行する。

 貧乳も巨乳も取り込み、国家の強化と結束を図る。

 

 序でにガリア王国の次期王たるツアイツが、ゲルマニアに入り浸たる……外交的にも意味が有る。

 

 ロマリアに配慮するより、実入りはデカい。

 

「「上手く閣下にやられたか!まぁ我らにも都合が良いから問題無いけどな……」」

 

 流石は一代で国を纏め、一族を幽閉してまで登り詰めた人物だけの事は有る。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 プリンセス・イザベラ号!

 

 最近、外遊にばかり使っている気がするガリア最新鋭大型戦艦。今回はキュルケと2人、祖国に向かっている。

 

「ツアイツ……お父様達からの急な呼び出しって何かしら?私も一緒にアルブレヒト閣下に謁見しろなんて……」

 

 甲板に並んで立って祖国を……ヴィンドボナを見下ろす。暫く見ない内に賑やかになっている。

 

「アルブレヒト閣下が、ゲルマニアが貧乳の聖地化した事にキレた……だから僕達が出張って巨乳派閥を盛り返す。

それは建て前でも有ると思うよ、アルブレヒト閣下は強かだからね。

ゲルマニアの貴族達を上手く纏める為に僕等を呼び出した……

ツェルプストーとハーナウの両家が、より親アルブレヒト閣下派閥で有る事を国内外にアピール。

序でに次期ガリア王の僕がゲルマニアに来る事が。閣下の呼び出しに応じる事に意味が有る……分かるかい?」

 

 可愛らしく指を顎に当てて考える。

 

「ウチの閣下の地場固めに利用された、かしら?」

 

「それも有るけど……

ゲルマニアとガリアの関係が蜜月なのは良い事だよね。

ただ今の僕の立場は、次期ガリア王で有り現ゲルマニア貴族……この先の関係を円滑にするにも意味が有るよ。

それにアルビオン王国とも婚姻外交を結ぶから……これで閣下の地盤は安定すると思うよ」

 

 キュルケの方を見ず、正面を向いて話す……

 

「……ツアイツは、閣下との関係を重要視してるのね。今のツアイツの立場をもってして、閣下の呼び出しに応えるんだもの」

 

 今度はキュルケの方を向いて

 

「元々僕はゲルマニアの貴族だからね。父上達の立場も有るし……僕は閣下を嫌いじゃないからね」

 

 貴族の義務、父上達の立場……そして僕にも祖国に対する愛着が有るから。キュルケがそっと手を握ってくる。

 

「僕達の祖国を一緒に繁栄させよう!」

 

「くすくすくす……そうね。私達の大切な国だもんね」

 

 さて、どうするか?ゲルマニアが、これは一番と言う特徴を持たせた方が上手く行くよね……何にしようかな?

 

 

 

完結後リクエスト外伝・帝政ゲルマニア・秋葉原化への道(中編)

 

 

 久し振りにゲルマニアの地を踏む……プリンセス・イザベラ号を降り立って迎えてくれたのは、父親達だった。

 

「ツアイツ……久し振りだな。噂は聞いてるぞ!

お前がガリアとアルビオンで派手にやったから、こっちはとばっちりだな。責任取れよ、この野郎!」

 

「サムエルも趣味に頑張り過ぎて、この様だ……ツアイツ、ゲルマニアもバランス良く発展させて欲しい」

 

 ゲルマニアは、ハーナウ領を擁するチッパイの聖地として有名だ……だって母上がいて、ジョゼットにエルザも居る。

 ハーナウ領はチッパイ好きの天国だろう。彼女達が居る限り、貧乳派達が集まるのは仕方ない事だった。

 

「久し振りに会ったのに、いきなりソレですか?

そもそもワルド殿達とカステルモール殿が居るんですから……父上を含めて上位三人が集まって何したんです?」

 

 貧乳ラブな三人が……ハルケギニアのトップ3が集うハーナウ領の発展は凄い!

 

 貧乳ラブ的な意味で!

 

 いや貧乳命と言って良い連中が、タガを外して頑張ったのだから。

 

「……いや、趣味友達が集まったら閣下がキレた。そもそも棲み分けたじゃんか!ガリアとゲルマニアで」

 

「だって僕がルイズ達を全員連れて行ったら……残りのメンバーは殆どが父上の派閥じゃないですか!

しかも父上は、ワルド殿達とカステルモール殿を誘致したじゃん!どんだけ貧乳派が集まったのさ?」

 

 2人共黙り込む……棲み分け!

 

 主要メンバーがキッチリ別れたので、各々が独自の方向性で突き進むのは必然だった。

 

「ツアイツ、義父様……今は言い争いをする時では有りません」

 

「そうだぞ!こんな所で、貧巨乳派閥の教祖がいがみ合っても仕方あるまい。先ずは、どうするかだ!」

 

 ツェルプストー辺境伯がキュルケを伴い、先に歩き出した。慌てて追い掛けるオッパイ親子。

 歩きながらでも、互いの脇腹を突っつき合ったりと微笑ましい親子喧嘩をしていたが……

 王宮内の、ツェルプストー辺境伯に割り当てられた部屋に入る。

 

 中々に豪華な室内……

 

 部屋付きメイドが、直ぐに皆の紅茶を淹れてくれる。久し振りにゲルマニア産の茶葉の香りを楽しむ……

 

「父上。アルブレヒト閣下は、僕に巨乳派連中を閣下の派閥に組み込む工作と……

ハーナウ・チッパイ一族に対抗してツェルプストー・オッパイ一族で巨乳神殿を作れって事ですよね?」

 

 閣下の腹の中は多分そうだ……配下の二大勢力が、協力関係を持ちつつ対抗意識を持たせる。自身はアルビオン王国の取り込みに腐心する。

 

「そうだな……序でに私達にも対抗意識を持たせるのだろう巨乳」

 

「全く油断無い方だ貧乳」

 

 既に父上達の中でも、デッカいのとチッチャいので棲み分けが出来てるのか?

 

「父上……僕は義父上と巨乳神殿を造り、巨乳派閥を盛り上げます。キュルケも協力頼むね。其方は、貧乳派閥の取り纏めを……それと、1つ提案が有ります」

 

 ニヤリと笑いかける……

 

「ツアイツ?協力は構わないわ。元々その為に来てるのだから……その笑いは、悪巧みの時に浮かべるヤツよ。ちょっと怖いわ……」

 

 キュルケがドン引きだ!

 

「「何だ?また企みか?」」

 

 全く失礼な三人だ!僕は皆の事を考えているのに……

 

「臣下として閣下の考えに沿うのも良いのですが……最悪、我らの仲違いや力関係のバランスを崩す事も考えているでしょう。

ガリア王国から僕がツェルプストー辺境伯の側に……巨乳派閥の取り纏めをする。

 

 なればイザベラをハーナウ伯爵の側に。彼女と……期待の大型新人のプロデュースと発表の場を与えて下さい」

 

「大型新人?貧乳っ娘か!」

 

 父上、喰い付く所が違います。

 

「此方は、キュルケを主祭巫女として祭り上げる。サムエルの側にも、か……

しかし、既に三人も居るぞ。アデーレ、ジョゼット・エルザと……これ以上の強化は、閣下の不評を買わないか?」

 

 確かに母上達は、強烈なカリスマだ!しかし、皆さん人妻なんですよ……

 

「要はガリアが、アルブレヒト閣下側だけに尽力してない事を匂わすのです。

ガリアはゲルマニアとの友好に力を入れている。でも次期トップは……

表の僕は、前に仕えていた閣下に。裏のイザベラは、僕の実家のハーナウ家に。それぞれ力添えをする。どうですか?」

 

 これなら両方に対して協力しているから、どちらの勢力にも話を通し易い。

 

「ガリア王国の表裏が、各々の側に力を貸すか。それなら……どちらかを一方的にどうこう出来ないな」

 

「しかし、ガリア王国の表裏はゲルマニアに力を貸している。対外的には友好関係を結んでいる様に見えるな」

 

 父上達は納得した様だ……

 

「ツアイツ?でも、それって私がデビューする時に対抗馬を作るって事よね。

大型新人……私、別にイザベラ様やテファみたいにアイドルになりたい訳じゃないけど、何か納得出来ないわ」

 

 巨乳派の神殿にキュルケが祭られるのを分かっているのに、対抗馬を作るのに納得出来ない、かな?

 

「だってキュルケは僕の奥様だからね。余り騒がれるのは嫌だ!

ジョゼット達だって旦那が居るし……ここは独身女性に華を持たせようよ。ツェルプストー一族の巨乳娘さんと、新人さんにさ……」

 

 こうしてゲルマニアでの漢の浪漫本ファンクラブの活動は開始された……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 さて……巨乳神殿自体の建設は問題無いだろう。しかし、巨乳の民を呼び込む事が難しい。

 

 主祭巫女キュルケ……

 

 彼女の魅力は何だ?紅い髪に褐色の肌。

 

 そして、ナイスバデー!ナイスバデー!大切だから二回言ったよ。

 

 確かにテファの胸は神がかっている。信じられない程の巨乳だ!

 しかしキュルケはサイズこそ一歩劣るが、バランスが凄い。

 そして肌を余り晒さない衣装を好むけど、デザインはボディラインを強調し何とも言えない色気が有る……

 

 フェロモンが凄いのだ!

 

 そして、ツェルプストー一族もそれに準じている……ムンムンな一族だ!

 

 彼女達の魅力を生かすのは、ジェームズ・コレクションと同じ様にファッションショー形式が良いだろう……

 ならば舞台の配置や演出効果に力を入れよう。ハルケギニアの一般的な劇場は、舞台と客席が分かれている。

 それを客席の真ん中にステージを伸ばし、そこをパリコレ宜しく歩かせる。

 後は歩き方やポーズ等を考えていけば、ハルケギニア初のファッションショーになる筈だ!

 

「キュルケ!皆を集めて特訓だ。歩き方やポーズを色々考えよう」

 

「はいはい……何か閃いたのね?最後までお付き合いしますわ。旦那様!」

 

 キュルケが僕の腕に抱き付きながら答える。さて、祖国と僕達の為に頑張りますか!

 

 

 

完結後リクエスト外伝・帝政ゲルマニア・秋葉原化への道(後編)

 

 

 ヴィンドボナ郊外に新築された巨乳神殿。時代の先端を突き進む、若き漢達の情熱と妄想の産物!

 己の性癖を具現化した建物……

 

 正式名称は「漢の浪漫本ファンクラブ・ゲルマニア支部」だが、彼らの中では巨乳神殿だ!

 

 ツアイツ監修の下、ツェルプストー辺境伯とハーナウ伯爵の領地から精鋭達を集めて、僅か2ヶ月で作り上げた漢達の夢の城……

 神殿建設の傍ら、キュルケ達ツェルプストー一族の女性達がモデル宜しく訓練に励んだ。

 準備万端整えた今日の御披露目には、ハルケギニア初となる本格的なファッションショーになるだろう……

 完成記念の御披露目には、アルブレヒト閣下を始め帝政ゲルマニアの主要な貴族達が列席!

 噂を聞きつけた、アルビオン王国のウェールズ皇太子も招待する前に問い合わせが有った。

 

 彼はアルブレヒト閣下の娘(達)と正式な婚姻を結ぶ為に、帝政ゲルマニアに国賓として招かれた。

 既に閣下とは、打ち解けた雰囲気で雑談をしている。この様子は、周りの連中も伺っている。

 対外的にも国内の貴族達にしても、ゲルマニアとアルビオンの繋がりは強固だと認識しただろう。

 

 アルブレヒト閣下の企みの1つは成功だ!

 

 後は親アルブレヒト派ではない連中と、貧乳大好きな連中への対応だ……この御披露目には、閣下に良い感情を持ってない連中や過激な貧乳派も居る。

 棲み分け論をイマイチ理解してない、困った連中だ。

 

 まさかオッパイでテロ行為は行わないと思うが……組織が大きくなれば、膿の様な連中も出てくるから注意が必要だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 いよいよ御披露目の始まりだ!

 

 先ずはアルブレヒト閣下からのお言葉を頂く。壇上に立ち、周りを見渡すように首をグルリと回す……

 

「諸君!

我が帝政ゲルマニアが、ハルケギニア中に誇るべき施設が完成した。俺は、この神殿の完成と共にアルビオン王国との婚姻外交を行う!

この会場に、アルビオン王国のウェールズ皇太子も駆け付けてくれた。アルビオン大陸は、先のブリミル司教の反乱により一時は危険な状態だった。

しかし……不死鳥の如く蘇れたのは何故だ!それは国家のトップの決断による物だ。かの国は、浮遊巨乳大陸となった。

ならば!俺の国はどうする?それは、巨乳と貧乳の棲み分けの地とするのだ!

断じて帝政ゲルマニアは、貧乳の聖地では無い。だけでは無いのだ!此処に帝政ゲルマニアは、貧乳・巨乳の棲み分けの地を宣言する」

 

 そう言って、閣下は演説を締め括った!

 

 観客の反応は凄まじい物だった。彼らはアルブレヒト閣下が貧乳派閥を蔑ろにして、自分の好きな巨乳派閥で固めるのでは?と危惧していた。

 

 しかし国家のトップが棲み分け論を宣言した。流石は貧巨乳派教祖を2人共擁する国だと!

 いがみ合う勢力を共に認め合う関係にしようと!全てのオッパイを受け入れる度量を示したアルブレヒト閣下の株は鰻登りだ!

 

 会場が割れんばかりの歓声の中、いよいよキュルケ達の御披露目が始まった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 場内に扇情的な音楽が流れる……

 

 ライトの魔法を改良したスポットライトが壇上を照らす!

 そこには肌は極端に晒さないが、体のラインを強調したデザインのドレスを着込んだキュルケが現れる!

 会場からキュルケコールが始まる。

 

 彼女はゆったりと、それでいて強烈な色気を醸し出す仕草で客席の中央に設えたステージを歩いて行く……

 

 観客は、彼女の仕草を漏らさず見ようとガブリ寄りだ!そんな観客席に、纏っていたショールを投げ入れる。

 皆の視線が集中するソレは、アルブレヒト閣下の手元へ……皆のため息が漏れる。

 

 主祭巫女キュルケ!

 

 彼女のデビューは鮮烈を極めた……その次は、ツェルプストー一族から紅い髪の三姉妹の登場だ!

 ヘルミーネ・イルマ・リーケのツェルプストー三姉妹が順番にステージに現れる。

 

 元々彼女達は、フィギュア「紅い髪の戦女神シリーズ」他で人気が合った!

 

 しかしカタログ販売のみで実物の彼女達に接する機会が無いに等しかったのだが、今回は巨乳巫女として公の場に現れた。

 その情報は事前に会報で流れていた為か、この機会に是非ともお知り合いに!

 

 そんな気持ちを持った漢達が多く詰め掛ける。

 

 ステージでは、お色気満載の彼女達のパフォーマンスに皆が釘付けだ!

 ヘルミーネ達も、それぞれのフィギュアの衣装を纏い皆の歓声を受けている。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ステージの成功を確信してから、舞台の袖から主賓の席に挨拶に行く……

 

「閣下……どうでしょうか?今回の御披露目ステージは?」

 

 満足気にステージ前の特設席に座ったアルブレヒト三世に話し掛ける。

 

「うむ!俺の国なら、やはりコレだな。皆も満足してるだろう?」

 

 周りを見渡しながら答える。貧乳派の連中もステージを見て、それなりに楽しんでいるみたいだ。。

 

「閣下……巨乳派閥の連中の取り込みは、上手く行くでしょう。彼らは、この神殿を中心に勢力を伸ばします。しかし……」

 

 棲み分け論を宣言した閣下だが、彼の理想を理解しない連中との反発が生じる可能性が有る。

 特に一部の貧乳派閥は不満そうだ。彼らは閣下の言葉を信じきれず、このまま貧乳派が粛清されるのかと危惧している……

 

「周りに居る不機嫌な連中の事か?」

 

 やはり気が付いているのか……閣下に対する小さな不満だが、纏まれば大きな不満に発展する。

 

「そうです。貧乳と巨乳は表裏一体・光と影……どちらかが欠けても、その真価は発揮されません。

それをご理解した閣下の棲み分け論宣言。流石としか言いようが有りません」

 

 しかし全ての漢達が、その崇高な志を理解しては居なかった。

 

「……だが、どうする?お前には考えが有るのだろう?俺の国、帝政ゲルマニア……お前なら、どう纏め上げる?」

 

「閣下の巨乳神殿は大成功です。ならば貧乳の方にもイベントを行い、閣下がそれを推奨する。

つまり棲み分け論を宣言したならば、次は貧乳派閥への配慮を明確にして双方の取り込みを行うのはどうでしょうか?」

 

 一方にだけ偏るから、反発が生まれる。ならば、双方楽しくやれば良い。

 

「そうだな……貴様のオヤジなら何か考えているのだろう?」

 

 ステージを見詰めているが、気持ちはその先を見据えていた。

 

「アルビオン王国、ガリア王国……国交は成功です。もう1つの国とも国交を結びませんか?」

 

「もう1つ?トリステイン王国か?あの国との外交にメリットは無いな……」

 

「違います。イザベラが仕込んでいる娘が居るのです……」

 

「トリステイン王国以外……そうか!あの商業公国か」

 

「クルテンホフのベアトリス姫殿下……中々のツンデレ妹属性かと……」

 

 ニヤリと笑うツアイツ。それを同様の笑みで返すアルブレヒト閣下……

 

 彼らの帝政ゲルマニア秋葉原化計画は、始まったばかりだった!

 



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ベアトリス姫殿下頑張る(前篇・後編)

クルデンホルフのアイドル・ベアトリス姫殿下デビューする!

 

「お兄ちゃん達ー!元気してたー?私は元気だったよー」

 

「「「ウォー!ベアトリスちゃーん」」」

 

ステージの上で千人以上の観客に応えるベアトリス姫殿下……

元祖ツンデレプリンセス・イザベラの妹分としてガリア国内で活動し今日、凱旋ライヴを祖国クルデンホルフ大公国の特設ステージにて公演。

多くのファン(大きなお友達)に迎えられた。

 

 公演は大成功だろう……

 

「ツアイツ様、公演のご成功おめでとう御座います」

 

「ツアイツ様、我が姫も中々のツンデレ振り。流石は奥様のご指導の賜物で御座いますな」

 

 何故か僕の背後に控え、僕を主と崇める……

 空中装甲騎士団の隊長達に話し掛けられる。かつて衰退するトリステイン王国から財力をもって自治権を獲得し、大公国として独立国家として認められたクルデンホルフ大公国……

 

 その防衛の要である筈の空中装甲騎士団。しかし彼らは僕を主とし、当然の様に振る舞っている。

 

「マイマスター!そろそろ公演も中盤に差し掛かります。ベアトリス妃殿下の衣装変えの間、信者達にお声をお掛け下さい」

 

 こちらは元アルビオン王国の空軍所属の竜騎兵だ。

 

「我らが王よ。ささ、こちらに……既に準備は出来ております」

 

 こっちはガリア王国の花壇騎士団だ。僕は帝政ゲルマニアの新興貴族だ。

 しかも爵位を継いでいない長子だから直属の家臣など居ない。皆父上の家臣だ。

 

 ハーナウ家は三代遡れば商人だった家系だから譜代の家臣とかは居ない。

 今の家臣団も、どちらかと言えば武より商に傾倒した連中だ。

 

 先の大戦の時は、それでも最狂の……いや、最強の護衛であったお姉ちゃんが居たから何も問題は無かった。

 

 他にもワルド殿やカステルモール殿が居てくれたから、こと安全に関しては心配しなくてよかったのだが……

 お姉ちゃんは、ガリア王国の王妃としてジョゼフ王にベッタリだ!

 

 そして、これからもベッタリでいて欲しい。

 

 ワルド殿とカステルモール殿は仕えていた国を後にして、貧乳教団のカリスマ会員としてゲルマニアのハーナウ領に行ってしまった。

 イザベラ親衛隊は、基本的にイザベラの周りから離れない。そして最近は特使として各国に飛び回る僕の護衛問題が深刻化した。

 

 僕は巨乳教団の教祖だから、貧乳派や美乳派からは選抜し辛い。

 

 心配した我が友であるウェールズ皇太子が、各国の巨乳派に声を掛けた。

 ハーナウ家に所属し僕の家臣団として、また護衛として働いても良いと言う連中を……

 

 幸いにして、漢の浪漫本ファンクラブは売上好調!財力ならかなりの物だから、家臣を養う事は出来る。

 しかし、ゲルマニアの新興貴族に家臣として仕えても構わないと言う連中は少ないと思っていた。

 実際に直接申し込みに来た連中は、実力は中々の者達だったが少なかった。

 まぁいくら次期ガリア王と言えども血統や歴史を尊ぶのが貴族だから仕方ないし、来てくれただけでも良しと思っていたよ、最初は。

 しかし実際は各国から予選を勝ち抜いた選抜メンバーだったのだ、彼らは。

 

 当然、乳に対する思い入れと実力を伴った漢達だった。しかも全員が武闘派だ!

 内政連中は、教団に雇われるから直接僕の所には来ない。そして各国から選り抜きの猛者達が……

 

 ツアイツ親衛隊と言う、最強の巨乳騎士団が生まれた。

 

 彼らは自らをボインズ・ナイツと呼称!

 

(※貧乳騎士団は有りません。ナインズ・ナイツも存在しません。念の為に……)

 

 白と金で統一された鎧とマントを装備し、黒と赤で統一したイザベラ親衛隊と双璧をなした強者だ。

 国籍を問わず集まってくれた彼らは有能だし、各国の騎士団とも交流を持っていた。

 

「ああ、そうですね。ベアトリス姫殿下が着替える間の時間にファンクラブの皆さんと交流しましょうか」

 

 そう言って彼らに先導され、漢の浪漫本ファンクラブの集いに参加する。

 ライヴやファッションショーを行う彼女達と違い、僕はサイン会や握手会が主な仕事だ。

 

 当然、新作への執筆が一番の仕事だが……

 

 こうしてクルデンホルフ大公国での興業は大成功の内に幕を閉じた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ライヴを終えたベアトリス姫殿下が休憩室に戻って来た。頬を染めて興奮醒めやらぬ感かな?

 

「お疲れ様でした、ベアトリス姫殿下。ライヴは大成功でしたね」

 

「あっお兄様!有難う御座います。

お陰様でクルデンホルフのアイドル・ベアトリスとしての自信と地位が固まった手応えを掴めましたわ。

これならトリステイン王国からの圧力にも対抗出来ますわ」

 

 以前のクルデンホルフ大公国はトリステイン王国の紐付きだった。

 空中装甲騎士団は擁していても、歩兵戦力はトリステイン王国に依存していた。

 しかしイザベラ繋がりで、ガリア王国と繋がりを持った事を宮廷貴族やアンリエッタ姫は良く思っていない。

 あの後、僕とウェールズ皇太子がアンリエッタ姫から意図的に離れてから、彼女はやさぐれてヴァリエール公爵やド・モンモランシ伯爵等の僕よりな貴族達を遠ざけ始めた。

 

 今の彼女の周りには粛正を逃れた怪しい貴族達しか居ない。

 

 義父上達も意図してか、アンリエッタ姫の傍から離れて何かしている。焦臭い感じがしていますよ、トリステイン王国は!

 そこを敏感に嗅ぎ分けたクルデンホルフ大公が、急速にガリア王国に取り入った訳なのだが……

 

 ベアトリス姫殿下も、その辺の事情を言い含められているのかな?以前よりも僕に対して、警戒をしていない。

 

 それはイザベラの教育の賜物でも有る訳だが……

 

「それは良かったですね。しかし、これからが大変ですよ。

アイドルを公言したからにはロマリアから目をつけられますからね。それにトリステイン王国の動きも怪しい」

 

「ええ、お姉様から聞いています。

アイドルとは偶像・崇拝の象徴……ブリミルを崇めるロマリアにとっては不敬にあたる。

偶像とはブリミルを自分の都合の良い様に作り替える事も出来るから。

それを崇拝させる事は……自分をブリミルとすり替える事も出来る。ですわよね?」

 

 うん、大変良く出来ました!イザベラの対ロマリア教育は成功している。

 

「そうだね。僕らはロマリアを……

今の間違ったブリミル教と戦わなければならない。それには君の協力も必要だ!共に頑張ろう」

 

「はい、お兄様!私も頑張りますわ。腐れホ○野郎を駆逐しましょう!」と尊敬の眼差しを向けて慕ってくれる。

 

 だから比較的、彼女とのコミュニケーションは上手く行っている。

 向かい合ってソファーに座り、紅茶を飲みながら雑談に花を咲かせる。ほのぼのとした雰囲気だ……

 

 そこへ巨乳騎士団の1人が訪ねて来た。

 

「すみません我が王よ。そろそろ懇親会の準備が整いましたので、ベアトリス姫殿下をエスコートして会場までお願いします」

 

「やれやれ、もうひと働きしようか?」

 

「ええ、お兄様!」

 

 特徴の有る腰まで伸びたツインテールを揺らしながらソファーから元気よく立ち上がる。

 

「ベアトリス姫殿下。私めにエスコートをする大役をお申し付け下さい」

 

 恭しくお辞儀をする。

 

「ええ、ツアイツお兄様。宜しくお願いしますわ」

 

 差し出されたその手を軽く握りながら、彼女を会場へとエスコートする。

 さて、今回集まっている観客はクルデンホルフ大公が各国に招待状を送った。故に色々な思惑の連中が居る。

 

 僕がエスコートするベアトリス姫殿下を見て、彼らはどう思うかな?

 

 

 

妹属性はハルケギニアのロリコン共の急所を直撃だ!

 

 

 クルデンホルフ大公国。

 

 かつて財力によりトリステイン王国から自治権を勝ち取った国だ。

 しかし国防のかなりの部分をトリステイン王国に依存し、かの国の貴族達にお金を貸す事により発言力を高めていた。

 しかし依存先のトリステイン王国の雲行きが怪しい。かつての大口の顧客達が粛正されたのだ。

 

 残ったのはヴァリエール公爵を始めド・モンモランシ伯爵やグラモン一族等、僕の関係者達だった。

 彼らはクルデンホルフ大公にお金を借りずとも、漢の浪漫本ファンクラブ関係の事業で財を成していた。

 

 故にクルデンホルフの影響力は低い……

 

 しかし娘がガリア王国のイザベラ王女と知り合った事を切欠にトリステイン王国を見限り、ガリア王国へと鞍替えを企んだクルデンフ大公を誰も責められはしまい。

 貴族とは、家の繁栄と存続が大切なのだから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 パーティー会場の入口に、ベアトリス姫殿下をエスコートして立つ。

 会場に居た貴族達が、一斉に僕らに注目する。かなりのプレッシャーだ。

 

 ベアトリスちゃんの様子を見れば、イザベラと共にライヴで人前に出る事に慣れたのだろう。中々の毅然とした態度だ。

 

 衛兵から「ガリア王国、ツアイツ・フォン・ハーナウ次期王!クルデンホルフ大公国、ベアトリス姫殿下の入場!」との掛け声と共に、ゆっくりと会場に入る……

 

 途端に周りを貴族連中に囲まれる。ベアトリス姫殿下には、見目の良い貴族の男達が。

 僕の周りにはクルデンホルフ大公と、その他オッサン貴族達が。ムサいオヤジ達に囲まれて嫌だ!

 

 しかし、彼らの目的は僕との繋がりを持ちたい事。

 

 ガリア王国へ太いパイプを持つベアトリス姫殿下の心象を良くする事。なので、こうなります。

 僕に取り入る為に美女・美少女を……なんてサプライズは有りません、ええ全く。

 

「ツアイツ殿?煤けているが、平気か?今夜は紹介したい連中が沢山いましてな。先ずは……」

 

 流れ作業的に紹介され、握手をして次の相手へ。彼らはクルデンホルフ大公国の主要な貴族だ。

 

「それで……ベアトリスの、娘のフィギュア化について注文が有りましてな。是非とも我が領内にて生産を行いたいので、工場建設の援助を……」

 

「それは良い!クルデンホルフとガリア、それにゲルマニア・アルビオンとも連携が……」

 

「建設場所の提供なら私が……勿論、無償です」

 

「ははははは……その件は持ち帰り、妻と協議します。教団幹部とも調整が必要ですので……」

 

 現代の政治家に似た答弁が慣れてきた気がします。

 オヤジ達との話し合いを終えて、一息つく為に室内からベランダへと出る。

 夜風に辺りながら、暫しボーっと屋敷の庭を眺める。良く手入れがされているのが、夜間でも分かる。

 屋敷から零れる照明が、庭を昼間の様に照らしているから……チラホラとボインズ・ナイツも見える。

 

 彼の装備は基本的に白と金だから、隠密作戦は不向きだが……この手の護衛には映えるな。

 

 彼らに手を振って、ベランダに出る際に貰ってきたシャンパンを煽る。これも上等な品なんだろうな。

 クルデンホルフ大公国も、取り込みに成功だろう。金の力で成り上がった国は、金の力に弱い。

 

 ウチとトリステイン王国とを比べたら、どちらを取るかは、ね。

 

 これからトリステイン貴族への借金の返済要求が始まるだろう……袂を分かつ迄に、取れる分は取るだろうから。

 

「ツアイツ様、此方でしたか?皆さんお探しですよ」

 

 呼び声に振り返れば……どこぞの貴族の令嬢だろうか?着飾った貴婦人が立っていた。

 逆光で見辛いが、令嬢には珍しく髪を短く纏めた娘だな……残念、彼女は貧乳っ子か。

 

 ん?んんん?何だ?オッパイスカウターが働かない?

 

 おかしいな……普段なら貧・巨・美乳を問わず、発動するのに?

 

「……いえ、人に酔いましてね。少し外気に当たり冷やしていた所です。失礼ながらレディは、私を探しに来たのですか?」

 

 クスクスと笑いながら、僕の隣りまで近いてくる彼女……

 

「ええ……少しお話が有りまして」

 

 微笑む彼女は確かに可愛いのだが、無性に近くに居たくない気がする。

 どんな女性に対しても紳士的に振る舞える、漢の浪漫本ファンクラブ会長の僕がだ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 クルデンホルフ大公は、娘を使いガリアとゲルマニア・アルビオン各国と協力なコネの有るツアイツを自国に招き、招待客に彼と友好的な雰囲気を見せられたのを満足していた。

 これでトリステイン王国から、緩やかに距離を取れる。あの国以外の後ろ盾を得られそうだから……そんなご機嫌の彼に、怪しい報告が入った。

 

 豪華な料理を楽しんでいた時だ。

 

「大公様、来客リストにロマリア皇国からの出席者の中にジュリオ助祭枢機卿の名前が……しかし会場内には見当たりません」

 

「何だと?ロマリアの関係者など呼んでないぞ」

 

 そもそも反ロマリア皇国を掲げるガリア王国に取り入るのだ。わざわざロマリアの関係者など呼ぶ訳がない。

 

「いえ……正規の招待状をお持ちでしたので、衛兵も不審に思わなかったそうです。彼は複数の共を連れて来ています」

 

 招いた覚えの無い、ロマリア皇国の、教皇の愛人で右腕が此処に?

 

「空中装甲騎士団と衛兵の配備を強化しろ。ツアイツ殿と娘の所に、それとなく配置するんだ。狙いは儂か娘、それとツアイツ殿しかいるまい。早くしろ!」

 

 報告に来た衛兵に指示を出し、自らも今夜の主役たる娘とツアイツを探す。

 

 娘は……ベアトリスは直ぐに見つかった。相変わらず、若い貴族が周りを囲んで居るな。

 アレなら安心か……若い貴族?誰の子弟達だ?イケメン揃いだが、全員見た事が無い。

 

 おかしいぞ!

 

 1人2人なら分かるが、今夜の招待客は身元が確かな貴族と、その長子達だ。儂の知らない若者が、あんなに居る訳が無じゃないか!

 

 

 

 ジュリオ来襲!男の娘部隊出撃指令有り。

 

 

 クルデンホルフ大公国にて催されたベアトリス姫殿下凱旋ライブ!

 

 その慰労会と言う名の、僕への取り込み工作が主な披露宴。綺麗どころは居なくて、オッサンばっかりが集まっていたのに……僕を探しに来た美少女。

 貴族の令嬢としては珍しくボーイッシュで新鮮な感じの美少女なんだが……

 

「ツアイツ様?どうなされましたか?」

 

 彼女がすり寄ってくるのを後ろに下がってかわす。ん?、な感じで首を傾げる所作は完璧な美少女だ。

 

「何故さがるのでしょうか?何か私に至らない所が有るのでしょうか?」

 

 寂し気な顔で此方を見詰める……周りを見れば、ボインズ・ナイツ達が親指を立ててエールを送っているし。

 

 お前ら空気嫁過ぎだ!

 

「いっいえ、未婚のレディとこの様な場所で2人切りは宜しく無いでしょう。誰かに勘違いされては……」

 

 やんわりと断ったのだが、その笑顔は変わらない。

 

「クスクスクス……ツアイツ様、私は敬虔なブリミル様の信者です。

最近のツアイツ様の動きは、ブリミル様を蔑ろにしてませんか?ツアイツ様はブリミル教をどうしたいのでしょうか?」

 

 ブリミル教の信者だって?クルデンホルフ大公国はトリステイン王国と同じ様にブリミル教の影響が強い。

 これはクルデンホルフ大公国の貴族の令嬢の直談判?

 

「僕も勿論ブリミル教の信者です。ハルケギニアに住む貴族の習いとして……ただ、今の教皇の教えには賛同出来ない!

彼の教義は、緩やかに人類が死滅する。次代を担う子供達を生み育てる女性達を蔑ろにする教えは、ね」

 

「それが答えなのですね?ヴィットーリオ様の崇高な理想を理解しないのですね?貴方はやはり危険な存在です」

 

 ヤバい、教皇派の信者か?笑顔を絶やさずに居る彼女は、一層不気味な……彼女?

 

 しなだれかかる様に近付いて来た彼女の手にはナイフが握られている。しかし周りは外遊中のラブロマンスにしか見えていない!

 

「チッ!君は刺客かっ?」

 

「ツアイツ様?お避けになると、ベアトリス姫殿下が危ない目に合いますよ?」

 

 彼女と睨み合う……

 

「ベアトリス姫殿下の周りには、イケメン貴族が群れていたよ。彼らが盾になるさ」

 

 彼女に取り入りたい連中が囲んでいるのだ。暴漢が襲えば彼らが助けるだろう……

 

「クスクスクス……彼女の周りには美男子ばかりが居たでしょ?皆、綺麗な顔をしてたでしょ?美少年と言うには、育ち過ぎた人達が……」

 

 ロマリア聖歌隊……201人全てが美少年で、男の娘として教皇に仕えている。

 しかし入れ替わりが激しく、ある程度成長して美少年から美青年になると教皇の寵が離れる……

 

「ヴィットーリオの元愛妾達か……君も男の娘だったのか?」

 

 睨み合いは続く……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ジュリオとツアイツが静かな戦いをしている頃、クルデンホルフ大公も娘の周りに居る連中が怪しい事に気が付いた……

 

 アレは誰だ?

 

 彼女は、イケメンに囲まれてご機嫌だ。しかし、思い出そうにも彼らが誰の関係者かも分からない。ゆっくりと娘の方に近付いて行く。

 

「ベアトリスよ。宴を楽しんでいるか?」

 

 無難に声を掛ける。

 

「はい、お父様!皆さんお話がお上手で……とても楽しんでますわ」

 

 娘は何も気付かずにご機嫌そうだ。周りの男達を見れば、皆にこやかに微笑んでいる……気持ち悪い連中だ。

 

「そうか!それは良かったな。さて、お前にも紹介したい者が居るのだ。良ければ案内したいのだが?」

 

 彼らを見ながら笑い掛ける。顔の筋肉が引きつってる感じで、上手く笑えているか分からない。

 

「お父様が、わざわざ紹介したいなんて……誰かしら?分かりましたわ。それでは皆さん、きゃ?何を……」

 

 イケメン貴族達がベアトリスを取り囲み、彼女を拘束した。

 

「やはり!お前らは何者だ?衛兵!奴らを取り囲め」

 

 会場の中と外で攻防戦が始まった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 室内が騒がしくなったのを横目で確認する。

 成る程、ベアトリスちゃんの周りを固めていたのは、ロマリアの連中か……しかし、詰めが甘いな。

 彼女を拘束したが、武器は持っていない。まぁ杖を構えているから魔法は使える連中か。

 

「ツアイツ様、ベアトリス姫殿下に危害を加えたくはないのです。分かりますよね?」

 

 こっちの美少女も、当然男か。いや教皇風に言えば、男の娘かな。

 

「そうだね。彼女を捕らえたのは流石だけど、全員が杖を構えてるけど?あの近距離で取り囲まれているのに……

馬鹿だな。漢の浪漫本ファンクラブの怖さを知りなよ。イケメンに成れなかった連中のさ」

 

「…………?何を言ってるの?」

 

 彼女が言葉を言い終わる前に、イケメンに囲まれて近付けなかった……

 格好良く無いけど、ベアトリスちゃんの信者達が群雲の如くイケメン達に襲い掛かった!

 

「なっ!ならば貴様だけでもシネ!」

 

 作戦の失敗を悟ったのか、玉砕覚悟で突っ込んで来た男の娘に、正面からヤクザキックで応戦する。

 

「きゃ!痛い……」

 

 何処までも女性らしく倒れ込む。翻るスカートの中を見てしまった……

 

「なっ?ノーパンか!貴様!そのなりで立派なブツをぶら下げやがって。男の純情がズタズタだ!」

 

「なっ?ヴィットーリオ様にしか、見せた事が無いのに!この変態、痴漢、性犯罪者!」

 

 顔を真っ赤にしながら、暴言を吐いてベランダから飛び降りた。

 

「ちょ!待て、取り消せ!貴様の方が変態だろうが!おい、待てよ」

 

 手摺りに飛びかかる様にして身を乗り出し、飛び降りたヤツに叫ぶ!しかし時既に遅く、ヤツは飛竜を巧みに操り逃げて行った。

 

「飛竜、男の娘……アイツがジュリオ助祭枢機卿か。そして虚無の使い魔か。

直接、僕を殺しに来るとは流石だが……

男の娘か。恐ろしい相手だ。ヤツの逸物を見なければ、未だに女性より女性らしいと思ってしまう自分が怖い……」

 

 男の娘……流石は平成の世に、一大ブームを巻き起こしただけの事は有るね。

 アレはうぶな奥手貴族だと、太刀打ち出来ないだろう……それに、ただ暗殺に来ただけじゃないだろうな。

 お互い謀略系だし、必ず何かを仕込みに来た筈だ……

 

 この時期に直接手を出すのは、即開戦でも可笑しくないのに……

 

 何故、自分の腹心を直接送り込んだのかな?

 

 僕がロマリアの底力と教皇の分からない謀略に恐怖を覚えていた頃、ベアトリスちゃんもイケメンに群がりリンチを加える自身のファンに恐怖していた。

 

「みっ皆さん、もうその辺でお止めになっては?なっ何故、彼らの顔だけをビンタで痛めつけるのですか?」

 

 恐怖の余り、丁寧語だ!

 

「「「イケメンは悉く滅ぶべし!」」」

 

 ベアトリスファンクラブの結束は、更に固まった!

 




明日からは新章となりますが、修正が思ったより進まず1日1話掲載となります。


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新章
新章第1話


謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第1話

 

 

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ襲撃から、時間を少し遡る……

 

 

 

 ロマリア連合皇国

 

 始祖ブリミルの弟子が興した国、ブリミル教の総本山。

 魔法至上主義のハルケギニアにおいて、唯一魔法が使えない者も神職になれれば権力の座につける国。

 金で爵位を買える帝政ゲルマニアも有るが、成金・成り上がりと周りからは一段低く見られてしまう。

 

 しかしブリミル教の神官達は違う。

 

 彼らは、大貴族達からも気を使わなければならない程の権力を持つ。

 それはトリステイン王国・アルビオン王国そしてガリア王国と始祖ブリミルの直系で有り、その血筋を引く王家や貴族達にも言える事だった……

 しかし、近年その御威光に陰りが見え始めた。

 たった1人の少年の溢れる情熱により、連綿と6000年も続いたブリミル至上主義が崩れ始めていた。

 

 そう!

 

 オッパイと言う、全ての漢達の永遠の夢と理想が詰まった双子山を声高々と唱え続けたオッパイ教祖……

 ツアイツ・フォン・ハーナウにより、ハルケギニアは変わろうとしている。

 

 それが、そこに住む人々に良いのか、悪いのかは別として……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロマリア連合皇国、宗教庁の一室。

 

 教皇ヴィットーリォは若くしてブリミル教の最高位たる教皇になった人物。

 歴代の教皇と違い清貧を心掛け、一般信者にも気さくに接する一面も有る。

 歴代教皇達に比べれば、人気の有る人物だ。

 しかし、男色を好み美少年達に女装させ侍らす性癖を持つツアイツとはベクトルの違う同等以上の変態だった!

 自分の使い魔で有り、お気に入りのジュリオと質素な造りの執務室で向かい合っている……

 

 因みにジュリオの姿はミニスカのゴスロリだ!

 

 黒を基調とし、白のフリルを多様している。

 胸元の赤いリボンがワンポイントで無い胸を引き立てている、暫し愛妾の姿を見詰めてから話し出す。

 

「ジュリオよ。ツアイツ・フォン・ハーナウだが……私は奴が虚無の使い手だと考えている」

 

 唐突に語られる虚無の話……確かに自身も虚無の使い魔「神の右腕ヴィンダールヴ」で有り、仕えるヴィットーリォは虚無の使い手だ。

 

 他国で虚無の使い手の存在は確認出来ていない。それが、あの男だと教皇は言う……

 

「ツアイツ・フォン・ハーナウ……

確かにハルケギニアでは普通ではないと思いますが。何故、ヴィットーリォ様は奴が虚無だと思うのでしょうか?」

 

 確かに規格外の変態だが、虚無と思われる形跡が無い。もし虚無の使い手なら、通常の魔法は使えない。

 しかし奴は、水と土の魔法を使う。

 

「言葉が足りなかったね。ジュリオよ……私は奴か、奴の周りの人物に虚無の使い手が居ると睨んでいる。証拠はコレだよ」

 

 そう言って、執務机の引き出しから何かを取り出して置く。

 

「こっこれは……確かフィギュア、ですよね?古そうですし、少し傷んでいる様ですが……これが何でしょうか?」

 

 最近急激に広まっている、漢の浪漫本関連のグッズ。その中でも女性を模した小さな人形……フィギュアの人気は凄い。

 

 まさかヴィットーリォ様まで持っているとは!

 

 しかも微妙に壊れて汚れている……まっまさか使用済みなんですか?

 

「奴が売り出しているフィギュアに似ている。いや、その物だ!しかしコレは場違いな工芸品として過去に回収され保管された物なんですよ。

他にも何体か有りますが、無傷な物は有りません。何故、奴はコレをコレに似た物を作り出せるのでしょうか?」

 

 良かった……ヴィットーリォ様は人形プレイはしてないのですね?

 確かに、言われてみればそっくりだ。しかし女性を模した像は普通に実在する。

 

 主に美術品として……それが貴族の子女が好む様な人形サイズにした物がフィギュアだ。

 

「しかし……発想次第で誰でも作れる品物です。これが虚無と関係が有るとは思えません」

 

 確証にはならないと思う。

 

「ふむ、確かにそうです。

しかし歴代の教皇は、この人形の様な場違いな工芸品を集めてきたのですよ。その中には、用途が分かった物も有る。

しかし、再現が不可な物も多い。これは違う文化圏の物が流れ着くからだと私は思うのです」

 

 ヴィットーリォ様は、虚無の魔法「ワールドドア」で別の世界を見る事が出来る。

 

 彼の見た世界で、奴の作る物が有ると言う事か……つまり奴もヴィットーリォ様と同じ魔法が使えて、それらを模倣している、と?

 

「……つまり、奴もヴィットーリォ様と同じ虚無の魔法を使えると?」

 

「または虚無の使い手に協力して貰っているかですね。

しかし……私ですら場違いの工芸品に書かれている文字は読めません。

フィギュア……過去に場違いの工芸品と同様に違う世界から来た者が居たらしいのです。

彼らと接触した記録は残されていますが、詳細が殆ど有りません。

ですが、場違いの工芸品を見せると彼らは使い方を知っていたらしく、幾つかの品物の用途は分かったらしいです。

主に銃と呼ばれている物ですね。そして、この人形を……フィギュアと呼んだらしいのです」

 

 フィギュア……不思議な言葉だと思ったけど、そんな秘密が?

 

「まさか……ヴィットーリォ様は、奴がその異世界の人間だと?」

 

 従来のハルケギニアでは考えられない異端児だ。他の世界の住人なら有り得る話ではないのか?

 

「いえ……私もそれを疑い密偵団に調べさせました。奴は間違い無くサムエル卿の息子なのです。

彼を取り上げ育てた乳母などにも確認しています。既に五歳の頃から、奴は天才だったと……

それに貴族が出自の分からない子供を養子になどしないでしょう。異世界の人間が魔法を使えるとも思えませんしね」

 

 そう言って溜め息をつくと、椅子に深く座り直した。日頃の激務で疲れているだろう、目の下に隈が出来ている。

 そんなヴィットーリォ様の為に、お茶を入れ替える。ゲルマニア産の紅茶だ。

 

 そう言えば、コレもハーナウ家が絡んでいる商品だったかな。

 

 奴は確かに多才だ。演劇・脚本・執筆・絵画の芸術面に優れているのに、その才能を性癖へと無駄に浪費している。確か魔法もスクエアクラスの筈だ。

 先の反乱で一軍を相手に一人で戦いを挑み、それに勝利したらしい。なる程、確かに始祖ブリミルの血を引くからこそ魔法が使えるのだ……

 他の世界の人間が、魔法を使えるなど無理か。

 

「それで虚無に目覚め他の世界を覗き、これらの知識を流用していると考えた訳ですね……奴の周りは曲者揃い。

しかし、魔法の使い手ばかりですから。いや、確かヴァリエール公爵の三女が魔法の才が乏しい筈です。

確かルイズ……しかし彼女と接触したのは、奴がヴァリエール公爵とツェルプストー辺境伯との仲を取り持った以降……

それでは時期的に合わない」

 

 ツアイツの友好関係は多岐に渡るが、五歳の頃からと言えばゲルマニアの国内だけ……

 しかしゲルマニア貴族には、始祖の血は流れていないか限りなく薄い。

 

「密偵団も大分数を減らされました……これ以上、奴に裂ける人材は居ないのです。最近雇ったらしい、ラウラと言う炎を操る者に悉く倒されています」

 

 本来、ロマリアには直接武力は聖堂騎士団しか居ない。それも数は他国に比べても少ない。

 ただ、異端審判をする権利を有するからこそ少数ながら他国にプレッシャーをかけられるのだ。

 それが無ければ狂信者の集まりでしかなく、軍事的才能は低い連中だ。

 奴はガリア王国とアルビオン王国の取り込みに成功した。

 

 既に武力対抗は難しい。 ならば、やり方を変えるまでです。

 

 



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新章第2話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第2話

 

 

 帝政ゲルマニア貴族、ツアイツ・フォン・ハーナウ!

 

 ロマリア連合皇国のトップ教皇ヴィットーリォは彼が虚無の使い手か、それに近い位置に居ると睨んでいた!

 歴代教皇達が集めた場違いの工芸品に通じる知識を持ち、尚且つソレを有効利用している。

 

 奴の唱える、オッパイ大好きなお話。

 

「変態と言う名の紳士達・漢の浪漫本ファンクラブ」

 

 彼らの根幹を為す教典は場違いの工芸品か、その世界の作品を流用した物だと思うから……

 しかし歴代教皇達の集めた品々より圧倒的に多く、また内容も多岐に渡る。

 逆に考えれば、奴の考えだした品物が流れ出したと言われた方が納得する程に……

 

「ジュリオ……

もはや謀略でしか奴に対抗出来る手段は無いでしょう。先ずは奴の力となるガリア王国の切り崩しです。

あの国の狂王の粛正で逃れた王弟の忘れ形見。双子の片割れ、ジョゼットを使いましょう」

 

 シャルル殿下の双子の片割れ。悪しき因習により処分する筈が、保護され生き続けている少女。

 彼女を日の当たる舞台に登場させれば……

 

「おそれながら、ジョゼットは行方不明です」

 

 申し訳無さそうに報告するジュリオ。

 

「報告では姉であるシャルロット姫も、その母親と共に屋敷の火災に巻き込まれ死亡となっています」

 

 どちらの差し金だろうか?

 

「女性三人を亡き者とする……オッパイ教祖の考えではないでしょうね。奴は女性にだけは甘いですから。

するとジョゼフ王か……あの狂王が、娘婿の為に動いたと言うのか?」

 

 自身の楽しみにのみ興味を示す狂人が?

 

「または黒衣の魔女かと……何度も密偵団を始末してきた女ですから、それ位は容易いかと。

それに彼女は奴と姉弟の様に仲が良いは聞きます。狂人ならではの愛情表現も考えられます」

 

 ジョゼフ王の腹心をも取り込むか……

 

「私はジョゼフ王も虚無と睨んでいます。魔法の才の無い無能王。しかし現実は大国を意のままに動かしている。

それに黒衣の魔女……虚無の使い魔と考えれば、我が密偵団では荷が重い相手でしょう」

 

 ガリアの虚無はジョゼフ王。トリステインの虚無はヴァリエール公爵家の三女。私を含め、これで三人……

 

 では残りのアルビオンの虚無が、奴か奴の協力者なのか?

 

「残りの虚無の可能性はアルビオン王国ですが……ゲルマニア貴族の奴とでは接点が有りませんね。

ウェールズ皇太子とは最近友好を深めた仲……昔から協力していたとは考え辛い」

 

 それにジェームズ王も当時は石頭で、エルフと通じた実の弟を始末した程に……

 

「ジュリオ。アルビオン王国の王家の関係者で、在野に下った者が居るか調べるのです。

もしかしたら、アルビオン王家の血を引いている可能性も有ります」

 

 そう言うと一礼してジュリオは部屋を出て行った。独りになった執務室で大きく伸びをする……

 体がビキビキと音を立てながら解れていくのが分かる。特に腰周りに疲労感が有る。

 

 少し休みが必要だろうか?

 

 

※それは連日の男の娘ハーレム201人遊びの影響です。要は遊び過ぎです!

 

 

 

 しかし虚無に目覚めるには指輪と、もう一つが必要な筈です。アルビオン王国の国宝を触れる地位など……

 やはり粛正された弟とエルフに子供が居たと考えるのが自然だ。

 その子供がゲルマニアに逃れて奴の比護を受けていた……ブリミル教と敵対するエルフの血を引く者を匿っていたら?

 いや実際に居なくとも、これは異端として認定に値する罪です。

 

 しかし、それだけでは弱い。出来れば、その者を捕まえるか……作り上げるか、ですね。

 

 しかしエルフとのハーフなど探すだけでも大変です。

 

「手っ取り早いのは暗殺か……」

 

 しかしリスクが大きいし、下手に復讐と言う名で結束されたら逆効果か……

 思わず漏らした一言を一番信頼し、またお気に入りの部下は扉の外で聞いていた。

 

「暗殺……ヴィットーリォ様の為に、奴を殺す」

 

 しかし、今は未だ奴と奴の周りを調べる事が先決だ!ジュリオは廊下の奥へと消えて行った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロマリア連合皇国、聖歌隊。

 

 選りすぐりの美少年を集めて女装させた、教皇ヴィットーリォ渾身のハーレム!

 

 彼は何故か「男の娘」と言う言葉を使っていた。それこそ現代日本のオタク文化から生まれた造語を……

 聖歌隊は、年端もいかぬ美少年だけを集めている。

 嘗ては、それ程でも無かったのだが今は教皇の趣味を満たす為に生まれた、彼の為のハーレムだ。

 

 美少年は大好きでも美青年は要らない……

 

 そして育ち過ぎた者達は寵愛を受ける事久しく、聖歌隊を卒業して閑職についていた。

 彼らは閑職に追いやられても、未だにヴィットーリォ様への忠誠心は高い。

 

 ジュリオは彼らと共に、ツアイツ暗殺の計画を練る……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 トリステイン王国、トリスタニア王宮。白亜の外観を持つ歴史有る建築物だ!

 

 マザリーニ枢機卿は、この半年間の激動を考えていた。ゲルマニア貴族、ツアイツ・フォン・ハーナウの登場。

 一部のトリステイン貴族の結束、アルビオン王国でのブリミル教の司教の反乱。

 アンリエッタ姫の激変、国内の腐敗貴族の粛正。アルビオン王国への派兵。

 

 反乱鎮圧、そして戦後処理……

 

 トリステイン王国は風通しの良い国になるかと思った。

 ヴァリエール公爵を筆頭に力有る貴族がまとまり、トリステイン王国を盛り上げてくれるかと……

 しかし、マリアンヌ王妃とアンリエッタ姫が相変わらずのご様子。

 折角国を纏めたヴァリエール公爵も、彼女達に愛想を尽かして王宮から離れていった……

 アンリエッタ姫は、アルビオン王国のウェールズ皇太子とツアイツ殿に懸想していた。

 そして2人から距離を置かれた事によりヤサグレてしまい、今は彼女を持ち上げるだけの貴族達を取り巻きとしている……

 折角良くなりかけたトリステイン王国も、元通りになりそうだ。

 

 彼女の教育を私は間違えたのだろうか?

 

 一度、ヴァリエール公爵達とツアイツ殿と話し合う機会を設けるべきだろう。

 そしてロマリアからの密書……教皇ヴィットーリォの封印がなされている。

 

 トリステイン王国にとって、良くない内容だろう。しかし私も自身の信仰と枢機卿と言う立場から、教皇へは逆らえない。

 鳥の骨と蔑まれても、前トリステイン王との友誼の為に国に残って頑張ってきた訳だが……

 

 流石に今回は、どちらの国かを選ばねばならないかもしれない。

 

 トリステイン王国の為に、一番働いていた彼に世界は非情だった……

 



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新章第3話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第3話

 

 

 

 ロマリアの教皇ヴィットーリオからの密書、開封するのに躊躇うが、覚悟を決めてハサミを入れる。

 丁寧に四つ折りにされた手紙を引き出す。

 

 それを時間を掛けて読んでいくマザリーニ枢機卿……三枚に渡る手紙を読み終えて、深い苦悩を伴った溜め息をつく。

 

 手紙の内容は……

 

 1つ目は、ヴァリエール公爵の三女が虚無の可能性を秘めているのでロマリアに差し出す事。

 

 2つ目は、ツアイツ・フォン・ハーナウに異端の疑い有り。

 帝政ゲルマニア・ガリア王国と続き、トリステイン王国も彼と深い関わりが有る。よってトリステイン王国としても、彼に異端審問を受ける様に要請する事。

 

 3つ目は、アルビオン王国にて発生したブリミル教をかたる者が起こした反乱によりブリミル教の威信と信仰心が低下している。

 これらを回復する為に、聖地奪還の為に聖戦を行う。派兵協力を要請する。

 

 4つ目以降は、寄付やトリステイン国内のブリミル教関連施設の補修要請等、何時ものタカリの内容だ。

 

 

 

 ヴァリエール公爵のご息女が虚無?証拠も何も無く言われても難しい。

 

 それは適当な理由を付けてロマリアに人質として差し出せ!そう言っているのか?

 

 ミス・ルイズは公式にガリア王国の次期王に嫁ぐ事が決まっている。

 それを差し出せとは……トリステイン王国とガリア王国との仲違いが狙いか?

 

 ハルケギニアの異端児、ツアイツ・フォン・ハーナウ……確かに彼の出現により、ブリミル教の地位は下降一直線だ。

 しかし、それは現在の腐敗神官達の利権が低下しているだけでブリミル教自体に影響は少ない。

 逆に虐げられ搾取され続けた敬虔な信者達を保護し、彼らの生活を安定させている。

 

 それを彼は自身もブリミル教徒故、同胞を助ける為に……そして敬虔なブリミル教徒は、彼をブリミルの再来と崇めている。

 確かに信仰を守り、安定した生活を与えてくれる彼は現人神だろう……嘗てのロマリアでは、絶対に有り得ない安息を与えたのだから。

 

 だからマズいのだ。

 

 今、彼を異端審問にかけても世論も各国のトップも認めない。それは現教皇の力が、弱っているのを知らしめる事になりかねない。

 

 教皇自身も承知だろう……

 

 つまり、これは私がどちら側に付くのかを問いてるのだ。

 下手をすれば、トリステイン王国はガリア・ゲルマニア・アルビオンの三国と敵対する。

 国内のヴァリエール公爵派閥も敵に回るだろう。

 ド・モンモランシ伯爵やグラモン元帥、魔法衛士隊も怪しいな。

 

 聖戦……

 

 これが教皇の一番の目的だろう。不和を纏めるのに、共通の敵を作る事は有効だ。

 それに戦争とは国力を激しく消費する。特にエルフは強大で、戦力比は10倍以上……ブリミル教の教皇が聖戦を唱え、参加を呼び掛けたら?

 

 当然、指揮は教皇が自ら執るだろう。

 

 つまり敵対する勢力のすり潰しが出来て、聖地奪還と言う目的が果たせる。

 教皇ヴィットーリオとしたら、最高の筋書き……しかし、連中が素直に従うとは思えない。

 

 何のメリットも無いからだ……

 

 私ですら、沢山の命を犠牲にして聖地を奪還する事に、意味が有るのか悩んでいる。聖職者として、無益な戦争を起こす事は反対だ!

 

「だが……私には、相談する相手が居ないのだ。マリアンヌ王妃もアンリエッタ姫も、この様な話をしたらどう動くか分からない。

ヴァリエール公爵達は、ミス・ルイズの件が有るので協力はしてくれないだろう……それも引き渡しの目的なのかもしれん。

後は……ワルド隊長の伝手で、ツアイツ・フォン・ハーナウと話し合う必要が有るだろう。

腹を割ってトリステイン王国の行く末を話すしか……」

 

 背に腹は変えられぬ。己の信仰と斜陽な国の行く末に苦悩しながら、彼は筆を取った……

 トリステイン王国の事を一番考えている人物が、一番味方が少ないと言う奇妙な体勢の国。

 

 彼の苦労は続く……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 今やオッパイと言えばツアイツ!ツアイツと言えば巨乳!

 

 ハルケギニアでエロで成り上がった男は、珍しい人物からの手紙を前に悩んでいた。

 トリステイン王国の最後の良心と思っているマザリーニ枢機卿からの親書。

 ワルドズがゲルマニアに出奔した為に、マンティコア隊隊長ド・ゼッサール隊長経由で送られてきた手紙……

 

 ド・ゼッサール隊長の添え書きには

 

「ツアイツ殿、マザリーニ枢機卿は鳥の骨から鶏ガラになるまで悩み抜いて相談に来ました。どうか話を聞いてあげて下さい。彼は死にそうですから……」

 

 と、同情に溢れた内容だった。

 

 1人切りの執務室で親書を開封する。ヤバそうなら皆に知らせずに処理するつもりだ……

 

 五枚からなる手紙をじっくりと読む……聖職者だからか、元々が几帳面だからか。

 丁寧な細かい字でビッシリと書いてある文字を目で追う……苦悩に満ちた男の願いが書かれていた。

 この内容で僕に親書を送ってきた事を考えれば、彼は心情的には反教皇なのだろう……

 しかし壊れかけのトリステイン王国と、自身の信仰心に苛まれているのか。

 

 深い溜め息をついて頭を抱える……今更な異端審問認定。別に怖くもない。だから?そう突っぱねるのも可能だろう。

 

 しかし……

 

 原作でもルイズやタバサを騙したアレ。大隆起を何とかするには、聖地に有る装置が必要だ!

 しかし、聖地に装置なんて物は無い!そんな物が、有る訳ないんだよな。

 

 聖地……エルフ……

 

 確かジョゼフ王は、エルフと繋がりが有った筈だ。ビダーシャルだっけ?この世界じゃどうなのかな?

 出来ればエルフ達と敵対するつもりは無い。全く無い。

 

 しかしロマリアが、教皇が先走ってエルフと事を構えハルケギニア全土を巻き込む事もあり得る……

 あのホモ野郎には、打てる手立てが少ないからな。

 

「しかし……トリステイン王国の扱いか……義父上からは、暫くきな臭くなるけど不干渉でいてくれって言われてるんだよね……

アンリエッタ姫の扱いだけど、義父上はクーデターを起こすのかな。ヴァリエール王朝なら簡単に出来そうなんだよね」

 

 人外でバグキャラなカリーヌ様なら、大抵の障害を強引に破砕しながら進めるからな……

 一度ジョゼフ王とエルフについて話をしてから、トリステイン王国に行こう。

 マザリーニ枢機卿の思い通りにはならないかもしれないが、アンリエッタ姫は避けて通れぬ難問になってしまった。

 

「最初はウェールズ皇太子に押し付ける予定だったのに、まさか僕迄狙うとは……さて、どうするかな」

 

 出来れば彼女にも幸せになって欲しい。今の状況のアンリエッタ姫は、僕の幸せの踏み台にした感も有るから……

 



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新章第4話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第4話

 

 クルデンホルフ大公……

 

 トリステイン王国から自治権を獲得し、貴族連中にお金を貸す事で独立国家を形成している商業よりの国家だ。

 その娘のベアトリス姫殿下が、イザベラと仲良くなり妹分アイドルとしてガリアで売り出し中!

 彼女をイザベラに託すのに、クルデンホルフ大公は随分悩んだだろう。

 実際に親書の遣り取りを何度かして、非公式に会見もした。

 

 流石は独立国家のトップ。

 

 時勢を読みトリステイン王国の紐付きより、こっちを選んで娘を差し出してきた……当初は僕の側室案とかも有ったのだろう。

 しかし……彼女の胸は、大変慎ましかった。無理を悟ったクルデンホルフ大公は、イザベラに彼女を差し出した。

 

 序でにベアトリスちゃんも僕への興味は低かった……

 

 最初はハルケギニアの変態の総元締め位に思っていたんだ。お兄ちゃんと呼んで貰う迄に、相当な努力をしました!

 

 まぁそれは、それとして……

 

 クルデンホルフ大公はイザベラに頼み込んだ。

 曰く、クルデンホルフのアイドル・ベアトリスにして欲しい、と……

 彼女は僕のせいで貧乳ツンデレ率が低下している「ゼロの使い魔」の世界で、現状を打破するに足る人物。

 

 コレに妹属性を付ければ、大きなお友達が食い付くだろう!

 

 ツンデレと言えば、エレオノール様も貧乳ツンデレ+女王様だ!この2人でユニットを組めば、どうなるのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漢の浪漫本ファンクラブ特設会場。

 

 司会のギーシュ・ド・グラモンが、タキシードにデカすぎる蝶ネクタイをして会場を盛り上げる!

 顔はイケメンなのに、この手の衣装が妙に似合う男だ……

 

「会場にお集まりの皆様。今日は最近結成された新ユニットを紹介します!

 

トリステイン王国とクルデンホルフ大公国の奇跡のコラボレーション!趣味の世界の女王様&義理妹系お姫様!

ツンツンのスレンダー美女・美少女ユニット!ツンデレ・シスターズです!どうぞー!」

 

 スポットライトがステージの2人を照らす。

 

 ミニスカ・ゴスロリ系の衣装に、独特なロングツインテールのベアトリスちゃん。

 黒を基調に豪華でタイトなドレスを纏い、髪をアップで纏めているエレオノール様。手には何故か鞭を持っている……

 

「お兄ちゃん達ー!元気にしてたー?ベアトリスだよー!今日はー、私のお姉ちゃんを紹介するねー!」

 

 先輩アイドルとしてデビュー済みの彼女が、エレオノール様を紹介する。

 皆の注目がエレオノール様に集まる。彼女は堂々として睨み返した、M属性ファンに激震が走る。

 

「ふん!近寄らないでちょうだい。貴方方と話す事は何も無いわ!まぁ……どうしてもって言うなら、少し……

本当に少しだけなら、相手をしてあげても良いわ。でっでも仕方なくだから、己の立場を弁えなさいな!」

 

 腕を組んで少し斜めを向きながら喋る。表情は頬が少しだけ赤くなって……

 此方を伺いながら、鞭はピコピコと小刻みに動かしている。

 

 Mな諸君には堪らないご馳走だ。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ゴクリ……コレは、コレで良くない?元祖正統派巨乳ツンデレ・アイドルのイザベラ。清純派巨乳天然アイドルのテファ。

 お色気ユニットで売り出し中の、キュルケ&ツェルプストー・シスターズ。

 

 そして、妹系&女王様系のツンデレ成分に溢れている2人……

 

 後考えられるのは、貴族じゃない女性達をアイドルとして売り出せないだろうか?

 エーファ達やエルザはあくまでもフィギュアのモデルだから、アイドルとは微妙に違う……

 それにエルザは吸血鬼だから、昼間のライブは無理だしなー。

 

 いっそ巨乳メイドズを秋葉原な48人みたく、団体で売り出すか?

 

 それともジェシカ達、元祖魅惑の妖精さん達を……うーん。本気でスカロンさんに相談しようかな。

 

 彼女達も純粋に美人さん達だし!

 

 嫌々だったトリステイン王国行きも、こう考えれば楽しくなってきたぞ!

 こうして非公式だが、僕のトリステイン王国行きは決まった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 クルデンホルフ大公国へのベアトリスちゃん凱旋ライブの前に、ボインズ・ナイツを引き連れてヴァリエール公爵邸に向かう。

 初めての僕専属の家臣団だ!

 ガリア両用艦隊所属の高速船に乗り、一路ヴァリエール領へ……流石に非公式だから、プリンセス・イザベラ号は使えない。

 しかし、速力だけならハルケギニア一番だろう新造戦艦をイザベラから貰った。

 ルイズ達も同行したがったが、交渉の場に連れて行くのも不味いし護衛の整った場所に居て欲しかったから……

 

 交渉決裂の際に、危険な目に合うのは嫌だから。僕には魔神召喚の札も有るし。

 

 イザベラは妹分のベアトリスちゃんに付きっ切りで指導している。

 既に固有のファンクラブを持つまでになった彼女は、クルデンホルフのベアトリスとして凱旋ライブを成功させれば一流だろう……

 そんな事を考えながら、久し振りに嫁(ルイズ)の実家を訪れた。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヴァリエール公爵邸……来る度に苦労を強いられるが、決して嫌ではない。

 連絡が行き届いていたのか、ヴァリエール公爵やカリーヌ様自らが出迎えてくれた……

 

「ツアイツ殿、久し振りだな。我が義息子!まだ孫は抱けないのか?」

 

「ツアイツ殿、急な訪問ですね。直ぐにエレオノールとカトレアが帰って来ます。2人共会いたがっていましたから……」

 

 妙に歓迎ムードで迎えてくれるヴァリエール夫妻。嫁の実家では婿は大切にされるのは現代と一緒か?

 エレオノール様もカトレア様も来るのか……

 

「お久し振りです。ヴァリエール公爵、カリーヌ様。孫はイザベラが第一子を生むまでは駄目です。世継ぎ的にも立場的にも、問題が有りますから……」

 

 この辺は、ハッキリと言わないと問題になる。

 

「あら、お堅い事で……私の鍛えたツアイツだから真面目なのでしょうか?」

 

 いえ、貴女には戦闘面とメンタル面でシゴかれただけです。肉体と精神がタフになりましたが……礼儀作法や貴族の心得は、全く……

 

「ふっ。まぁ良いではないか、カリーヌよ。玄関先で立ち話も有るまい。ささ、屋敷に入ろうか」

 

 そう言って屋敷の中に招いてくれた……久し振りのヴァリエール家の滞在は、どうなるのか?

 

 先ずはマザリーニ枢機卿への対応の相談かな……

 



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新章第5話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第5話

 

 

 

 ルイズを嫁に欲しいと報告に来た以来のヴァリエール家訪問。

 何故か執事やメイドさん達から若旦那扱いなんですけど……僕はヴァリエール公爵家を継ぎませんよね?そう言う話でお互い納得済みですよね?

 

 物凄く丁寧な扱いを受けながら応接室へ。普段より壁際に並ぶメイドさんが多い様な……

 

「若旦那様、お帰りなさいませ」とか「若奥様とお帰りになられるのも、近いらしいですわ」とか……

 

「早くお世継ぎ様の世話をしたいですわね」とか?変な会話が聞こえますね、如何にも僕がヴァリエール家を継ぐ様な?

 

 いやいや勘違いですよね?ソレはソレとして……

 何時来ても豪華な調度品に囲まれているが、決して成金趣味でない品の良さが有る。

 一朝一夕では出来ない洗練された調和と言うか。

 僕の私室なんてフィギュアと漢の浪漫本だらけ……現代の引きこもり部屋みたいなものだ。

 これが貴族なりたて三代目のウチと、歴史ある名家の違いか。

 

 ソファーに座ると直ぐに紅茶を煎れてくれる。あとクックベリーパイが……

 

 ルイズの大好物のコレは、ヴァリエール家専属の料理人の物が一番美味い。

 他で何度も食べたけど、何か一味違うんだよね。ついついお代わりをしてしまう……出来れば持ち帰ってあげたい位だ。

 暫し紅茶とクックベリーパイを楽しむ……

 

「さて義息子よ。マザリーニ枢機卿から親書が来たそうだな。内容は……何が書いてあったんだ?」

 

 一息ついた所で、ヴァリエール公爵が話を持ち出す。

 マザリーニ枢機卿から親書が来た事についての相談を持ち掛けたから、内容は未だ伝えていなかった。

 

「トリステイン王国の未来について相談が有る。教皇ヴィットーリオより手紙が来たそうです。

僕に対して異端審問をする様にと……後、ルイズに虚無の可能性が有るからロマリアに差し出せ。

それと聖戦を行うので派兵要請……どれもマザリーニ枢機卿では辛い内容ですね」

 

 あの人はトリステイン王国の為に苦労をしているのに、実は権力は低い……だから改革も進められないのだろうけど。

 

「私達から娘と義息子を取り上げ様とは!アナタ?まさか穏便に済ませようとは思いませんよね?」

 

 自然な動作で立ち上がり、無表情に言い放つカリーヌ様……プレッシャーがハンパない。

 こっこれは、お姉ちゃんとガチで闘った時の顔だ!あの城塞都市を破壊した時の……

 

「まっまぁ待って下さい。マザリーニ枢機卿も反対だからこそ、僕への面会を求めたと思いますよ。妥協点を見付ける為に……」

 

 カリーヌ様が本気になったら、ヴァリエール王朝が興せるよね。主に軍事クーデターで……

 

「直ぐに教皇に断らずに、此方に妥協させようなんて……

まぁトリステイン王国が国家の体裁を保っているのも、殆ど彼の働きが大きいですからね。取り敢えずは納得しましょう」

 

 そう言って座ってくれた。取り敢えず?トリステイン王国転覆は先送りかな?

 

「それで……何時、何処で会うかですね。トリスタニアの王宮など論外ですし。

第三者の領地か、此処に呼ぶか……僕の動きは各国からの間者が調べてますから。

多分、トリステイン王国の貴族連中は知ってるでしょうね。僕が此処に来ているのを……

今回は隠密行動をしてないし、護衛も一緒に動いてるから目立つし……」

 

 僕は既にガリア王国の次期王様だから。僕の行動は、ある程度知られている筈だ……それだけマークされているんだ。

 勿論、用心はしている。

 ボインズ・ナイツの他に、ラウラさんとジャネットが陰ながら護衛してくれてる。ジャネットには、波乱万丈な生涯を約束したからね。

 危ない所、騒動が起きる所には常に傍に居て貰う。本人はそれでご機嫌だ!

 

「確かにヴァリエール領に呼ぶのもトリスタニア王宮も反対だな……トリスタニア郊外に派閥の貴族が居る。

それなりの広さの領地も有るし、信頼に値する奴だ。何者かが入れば直ぐに連絡が入る体制にしよう。

仮に跳ねっ返りが暴走しても、我々なら跳ね返せるだろう……」

 

 それなら安心だ。それなりの時間が稼げれば、この面子なら何とかなるだろうし……

 

「そうですね。それでお願いします」

 

 これで一安心かな?後はマザリーニ枢機卿への対応だが……アレ?ヴァリエール夫妻が左右から、僕の座っているソファーに近付いて……

 

「さて、ツアイツ殿……ルイズが虚無と言われた事に対しては、疑問を持たないみたいでしたが?

既に世界の半分以上を手に入れている貴方からすれば、教皇が唱える異端審問なんて笑い飛ばせる話です。

しかし虚無とは……ブリミル教徒にとっても、ハルケギニアに住む人々にとっても、軽い話では無い。

もし実在すれば、6000年振りの始祖の再来ですから」

 

「そうだ、ツアイツ殿!君程の男が、そんな問題を見逃すとも思えない。

しかし対した問題とも思っていない感じだ。君は……ルイズについて、虚無について何かを知っている。違うかな?」

 

 ヴァリエール夫妻に両肩をガッシリと掴まれて詰問される……しまった!

 確かに、虚無なんて始祖に繋がる大問題をサラッと流してしまった……

 始祖とは、虚無とは、ハルケギニアの世界では成り立ちを司る根本だった。

 

 それを……僕は……

 

「ツアイツ殿。今回の件はレコン・キスタの、ジョゼフ王の試練の時とは違う。

前は他国の貴族の関係だった。しかし今回は、既に家族の筈だ。何か有るなら話して欲しい」

 

「そうですよ。

貴方が小さい頃から我が家に来る様になってから……私達は貴方を本当の息子の様に思ってきました。

そしてルイズを娶る事により、対外的にも貴族的にも、本当の息子になった筈です。

なのに貴方は……独りで抱え込む必要は有りません。まして、トリステイン王国は私達の国。

何か出来る事が有れば、何でもするつもりですよ」

 

 大変心温まる申し出です。ヴァリエール公爵は、本気で心配してくれる気持ちが伝わってきます。

 勿論、カリーヌ様も……しっしかし、カリーヌ様に掴まれている肩が!

 

 肩が、何やら変な音を立て始めていま……す……。

 

「わっ分かりました。たがら、落ち着きましょう。お願いしますから……」

 

 漸くカリーヌ様が放してくれた肩を回す。ゴリゴリと音を立てて解れていく……カリーヌ様。

 何故、僕の事を心配してくれているのに、僕にダメージが毎回有るのですか?姿勢を正して、ヴァリエール夫妻に向き合う。

 彼らも真剣な表情で僕を見ている。確かに僕達は家族になったのだ。

 

 隠し事は許されない事だよね……

 

 全てを話す為に、本当の家族として接する為にヴァリエール夫妻と向き合う。

 

「では、何から話して良いのか分かりませんが。先ずはルイズの事について……」

 

 長い話し合いになりそうです。

 



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新章第6話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第6話

 

 

 

 ロマリア連合皇国。

 

 ハルケギニアをオッパイで統一する為の、最後の難関だ……

 当初はロマリアの国民を此方に移民させて、緩やかに衰退させてから攻略するつもりだった。

 対宗教戦とは何かの拍子で優劣がひっくり返る危険性も有るし、根強く反対勢力が生き残る場合も有る。

 地下に潜られゲリラやテロとして活動されては、為政者として最悪の相手だから……

 

 しかし教皇ヴィットーリオが先に動いた。

 

 未だに国が定まらないトリステイン王国に揺さぶりを掛けて来たのだ。トリステイン王国には、僕の……

 漢の浪漫本ファンクラブはガリア・ゲルマニア・アルビオンと違い、国家が公式に認めていないんだ。

 

 上記三国は、国のトップ達とも友好的だし国内の活動の許可を得ている。

 

 それにクルデンホルフ大公国とも根回しは済み、ベアトリス姫殿下の凱旋ライブを持って対外的にも僕達の仲間入り確定。

 残りは、トリステインとロマリアのみ。だからこそ、教皇ヴィットーリオはトリステイン王国に対して行動を起こした……と、思っている。

 

 あんな変態でも若くして宗教庁のトップに……

 

 教皇の地位を勝ち取ったヴィットーリオは謀略に長け、そして厄介なのが自身が虚無の使い手だと言う事だ。

 ブリミル教のトップが、6000年の歴史で殆ど居なかった虚無の使い手である!

 これは公表するタイミングを上手く調整すれば、此方よりの貴族連中が揺さぶられてしまうだろう。

 

 それだけハルケギニアでは、虚無とは絶大なのだ。

 

 そんな知識が有りながら、教皇ヴィットーリオがルイズを虚無の使い手と突き止めて寄越せと言ってきた。

 本来なら重大な話だが……僕は知識でルイズは虚無の使い手と知っていたので、サラッと流してしまった。

 それをヴァリエール夫妻に見咎められて……今、彼らに僕の知っている真実と原作知識を話さねばならない。

 家族と認めてくれた、実の息子と同じとまで言ってくれた、新しい家族の為に……

 

 転生者で有り、原作知識が有るんです!何て言っても彼らからすれば荒唐無稽な事だ。

 

 だから、ソレを隠しながらなんだけどね……

 事の重大さからか、ヴァリエール公爵がメイドさん達を下がらせ、サイレントやディテクト・マジックを自ら重ね掛けしてくれる。

 その間に、カリーヌ様が新しいお茶を淹れてくれた……

 

「有難う御座います。では……先ずはルイズが虚無だと言う事を驚かなかった事についてですが……

これは僕がガリア王国の次期王として、ガリア王家に伝わる記録。

そして、もう1人の虚無の使い手であるジョゼフ王と話せる機会を持てた事から分かった事です」

 

 実在する、もう1人の虚無の使い手を知っていれば新しい虚無の使い手を推測出来る。

 後で皆にも話さなければならないし、ジョゼフ王とお姉ちゃんには事後報告となるけど仕方ないよね。

 

「ジョゼフ王が虚無だと?しかし彼は、魔法が苦手の無能王と……魔法が苦手?そうか!それが共通点か」

 

「かの人物が公式の場で魔法を使った事は無いと記憶しています。

弟のシャルルに魔法の才能を全て取られた無能王と……勿論、魔法の才能と国を治める才能は別ですが。

なる程、ルイズも魔法が苦手。そして魔法が苦手な、失敗してしまう人物は殆ど聞きませんね。

それが始祖に連なる血を受け継いでいる人物が2人も……確かに異常ですね」

 

 この広いハルケギニアで、魔法が全く成功しない人物は限りなく少ない。

 単に魔法が下手くそでも、コモンやドットなら成功させられる。威力や精度は別として……

 だから彼らの共通点に気が付いた、と言う事にする……

 

「僕も幼い頃から、ルイズの爆発魔法は不思議でした。

失敗と言われながら、僕の黒色火薬ブーメランより威力が有り軌道が見えない。

スクエアの僕の渾身のゴーレムを簡単に破壊する。

普通ならオリジナルとか、新魔法とか騒がれてもおかしくないのに……

まぁ彼女は、魔法が使えない事については余り悲観的じゃないのが救いでしたが……

一部では爆殺の天使とか、破壊の妖精とか色々言われてましたけどね」

 

 原作と違い、僕がツンデレ貧乳の彼女を色々と変えてしまったから。自惚れでなければ、彼女は原作より早い段階で幸せになれた筈だ。

 

「確かにツアイツ殿が近くに居てくれたので、娘はそれ程悩んでいなかったな……幼い頃は巨乳メイドに囲まれて仲良くしていたし。

トリステイン魔法学院でも、蔑みや憐れみを受けてはいなかったと報告されている。全ては君のお陰だ」

 

「しかし、少し時期がズレていませんか?貴方がジョゼフ王と直接話せる機会を得たのは、レコン・キスタ殲滅後の筈です。

当時は未だガリア王国の内情には詳しくない筈ですよね?何故でしょう?」

 

 うっ……確かにジョゼフ王と直接話したのは、全てが終わってからだ。今更、もっと前から繋がっていました!何て言えないぞ。

 暫くの間、僕は黙り込んでしまった……それを不審そうに見詰めるヴァリエール夫妻。

 

「僕はトリステイン魔法学院で、有る本を読んでしまいました。「始祖ブリミルと、その使い魔法達」これは、オールドオスマンが収集し一般生徒には閲覧許可を出さなかった本です。

しかし僕も物書きとして、秘蔵されている書物には興味が有りましたから……こっそりと読みました。

そこには、始祖ブリミルの伝説の使い魔の記録が有りました。通常の使い魔とは、ハルケギニアに生息する動物や幻獣です。

しかし神の左手は、何とあらゆる武器を使いこなすとか!つまり人間か亜人の様に、少なくとも武器を使える両手と知性は有った訳です」

 

 原作でコルベール先生が、一発でサイトが虚無だと気付いたんだ。同じ様に気付いた事にする。

 

「なる程……始祖の記録は数が少ない?

しかし、それは使い魔の事で有り虚無の使い手の事では有りませんね。それだけでは、ルイズが虚無とは断言出来ない筈ですよ」

 

 確かに、コルベール先生はサイトに刻まれたルーンを見て虚無の使い魔に辿り着いたから……

 

「もう一つは、お姉ちゃんの存在です。

規格外の彼女に刻まれたルーンは、神の頭脳ミョズニトニルン!

つまり伝説の使い魔だからこそ、あれだけのマジック・アイテムの制御が可能だったのです。

もっともルーンの存在を指摘し、虚無の使い魔だと教えて貰ったのは随分後でした。

僕は、お姉ちゃんが虚無の使い魔だと決定付ける証言を得たのです。彼から……」

 

 そう、デルフリンガー!通称デルフ。

 

 僕が溢れる妄想で、その存在意義を書き換えてしまったインテリジェンス(エロ)ソードだ!

 実際に、お姉ちゃんが虚無の使い魔だと言質を取っている。

 

「彼?ツアイツ殿の周りで、それ程虚無や始祖に詳しい人物など……まさか、マザリーニ枢機卿かロマリアの神官とかでしょうか?」

 

「そうだな。伝統を重んじるトリステイン貴族でも、実際に虚無や始祖に詳しい人物など……まして虚無の使い魔を断定出来る人物などは、居ないでしょう」

 

 6000年も続いているのに、その根元が曖昧なブリミル教ってどうなんだろうか?

 

「ここからは他言無用でお願いします。この秘密がバレたら、僕は本当に異端審問にかけられても文句は言えません」

 

 僕の犯した罪は……

 

 

 



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新章第7話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第7話

 

 

 ヴァリエール公爵家の応接室で夫妻と向き合う。

 

 教皇ヴィットーリオが、ルイズを虚無の使い手としてロマリアに引き渡しを求めて来た……

 そして彼女が虚無で有る事を知っていた僕に、何故知っているのかを訊ねてきたんだ。

 だから僕は、彼女が伝説の虚無の使い手で有る事に気が付いた理由を説明をしている。

 筈だったが、何故か途中から僕がブリミル教徒として罪を犯した懺悔の話しをする展開に……

 

 本音は、ブリミル教など何とも思っていません!

 

 現代日本人に、純粋な宗教観を持っている人は少ないから。

 大半の人々は死ねば坊さんに通夜・告別式をしてもらい仏式の墓に入る。

 

 それは広い意味で、仏教徒なのだろう……

 

 しかし日本人って、バレンタインもクリスマスもハロウィンも、他の宗教の儀式でも何でも楽しんじゃう民族だから。

 お正月には神社に詣でるし……真摯な仏教徒や、他の宗教関係者から見れば不思議な民族ですよ。

 だからレコン・キスタと対峙していた時でも、そんなに深刻な顔をしなかった。

 

 そんな僕が如何にもな感じて俯いている……

 

 僕の様子を見詰めるヴァリエール夫妻は、不安の色をその瞳に浮かべていた。

 僕は、カリーヌ様が淹れてくれた紅茶を一口飲んでから話し始める……

 

「始祖ブリミルの時代から伝わる秘宝……

数少ない始祖の時代からの至宝です。例えばトリステイン王国に伝わる、水の指輪に始祖の祈祷書。

アルビオン王国には、風の指輪と始祖のオルゴール。

ガリア王国にも、土の指輪と始祖の香炉……ロマリアは火の指輪と、何だったかな?

3王家とロマリアには始祖に関係する品々が伝わっています。

それの他に、始祖ブリミルの時代に彼の使い魔が実際に使用していた武具が有ったとしたら……どう思いますか?」

 

 お姉ちゃんを虚無の使い魔と断定した人物の話から、今度は始祖に関係する秘宝の話……脈絡も無く、内容が飛びまくっています。

 そして今度は、今まで聞いた事もないブリミル時代の武具の話だ。ヴァリエール夫妻は戸惑っている様な、何とも言えない顔をしている。

 

「そんな武具が実在すれば、それは大変貴重な物だろうな。しかし、ブリミル時代の品物で現存する物は王家の宝物庫でも、そうは無いぞ」

 

 至極マトモな回答です。

 

「証明出来なければ、眉唾な代物として……とても誰も信用しないでしょうね」

 

 まぁ、そうですよね。

 準王家として、トリステイン王国の中枢に位置するヴァリエール公爵家ですら、始祖の関連の物は所持していないのだから……

 原作では、アンリエッタ姫が気前良くルイズにお友達だからと、水の指輪を渡してたけどさ。

 

 アレって凄いヤバい事じゃないのかな?始祖から伝わる国宝を売って路銀にしろとか、さ。

 

 不敬どころの騒ぎじゃないし、伝統と格式を守っている王家の存続の危機だ!

 

 流石はアンリエッタ姫と言う所かな。ソレはソレとして……そんな物が発見されれば、ロマリアだって黙っていないだろう。

 四大元素の指輪に、祈祷書・香炉・オルゴール……あと何だっけ?虚無の魔法に目覚めるキーアイテムは?

 

「僕はお姉ちゃんがマジック・アイテムを収集し、且つソレを使いこなしているのを知って、噂で珍しいインテリジェンスソードの存在を知り求めました。

お姉ちゃんにプレゼントする為に……そして、彼とはデルフリンガーの事ですが。

彼は、お姉ちゃんに持たれた瞬間に、彼女が神の頭脳ミョズニトニルンで有る事を指摘したのです。

お姉ちゃんも、自身が虚無の使い魔で有る事を認めました……」

 

 ここで一旦、話を止めて一息入れる。

 

 虚無の使い魔を知覚出来るインテリジェンスソードが、ルイズも虚無の使い魔の可能性が有りと認めた。

 これなら辻褄が合う筈だ。カップの紅茶を飲み干してから、ヴァリエール夫妻を見る。

 

 アレ?何だろう、胡散臭い物を見る目だけど?6000年前のブリミル時代のインテリジェンスソードだよ!大変な物ですよ!

 

「ツアイツ殿……あー何だ。君が良くウチに忘れていく、あの駄剣の事か?」

 

「全く、あのオッパイ・オッパイ騒ぐ駄剣ですか?アレが秘宝?錆だらけの汚い剣ですよ。とても始祖の秘宝とは思えません」

 

 なっ?全否定されましたよ!

 

「いえ、ちゃんと本来の姿は輝く剣です。

ちゃんと6000年前の記憶も有るし、何と魔法を吸収する能力も有るんですよ!彼は初代ガンダールヴが使用していた……」

 

 カリーヌ様が、両肩に手を置いてから優しく抱き締めてくれた。そして背中をポンポンと優しく叩いてくれる……

 

「あっあの?」

 

「ツアイツ……最近忙しかったのね?ごめんなさいね。気付いてあげられなくて……

今日はもう、ゆっくりとお休みなさいな。貴方の部屋は昔のまま残して有りますから……」

 

 ヴァリエール公爵も、僕の肩を優しく叩いて

 

「ツアイツよ。少し急ぎ過ぎたみたいだな。あのエロ剣が秘宝とは……良くカトレアの胸を見て騒いでいるんだぞ。アレはダメダメな駄剣だ」

 

 伝説の剣であるデルフリンガーが、全く要らない子になってる?

 

「ちっ違います!デルフリンガーは本当に始祖の時代の剣なんです!

僕やワルド殿、カステルモール殿の心の震え(酷い妄想)を感じると立派な剣になります。

ただ、我らの心の震えが……その、想定外の威力の為に、その、少しだけ変な剣になってしまっただけです。デルフは、本当に……」

 

 僕は一生懸命に説明した。まさか、彼の素晴らしさを僕が周りに説明する日がくるなんて!自分でもビックリだよ。

 

 でも原作のデルフリンガーは……

 

 ルイズの使い魔として召喚されるガンダールヴであるサイトを相棒と認め、真の力を発揮する伝説のインテリジェンスソードなんだ!

 素人の彼をヒーローにしたのは、間違い無くデルフリンガーのお陰だ。

 しかしヴァリエール夫妻は自業自得だが、彼の扱いが悪かった僕のせいで半信半疑……

 

 いや全く信じていません!



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新章第8話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第8話

 

 

 

 伝説の剣デルフリンガー……

 

 しかし僕は、そのブリミル時代から6000年の時を重ねたインテリジェンスソードを只のインテリジェンス(エロ)ソードにしてしまった。

 

「ツアイツ……そんなに大切な剣なのに……何故、我が家に置きっぱなしなのでしょうか?

何なら今、持って来させますよ。本当に始祖の時代の剣なのか、聞いてみましょう。

それで貴方の気が済むのなら……アナタ、あのエロ駄剣を……」

 

 カリーヌ様に言われて、ヴァリエール公爵が部屋を出て行った。カリーヌ様は僕をソファーに座らせると、新しい紅茶を淹れてくれた。

 本当に初めて見る様な慈母の微笑みで……完全に僕が疲れて、妄想に取り憑かれたと思っていませんか?

 暫くして、ヴァリエール公爵がデルフリンガーを片手に戻って来た。

 

「あっ兄さん久し振りっす!ヒデーっすよ。毎回忘れて行くなんて!知ってますかい?インテリジェンスソードは寂しいと死んじゃうんですぜ!」

 

 久し振りに有ったデルフリンガーは、何とも情けない台詞を吐いてくれました。ヴァリエール公爵から、デルフを受け取る。

 

「デルフ……ゴメン、置き去りにして。君の本当の素晴らしさをヴァリエール夫妻にも見て欲しいんだ。久し振りに、心の震えを感じて欲しい」

 

 そう言って、中段に構え妄想を解放する。

 

「兄さん、いきなりですかい?ウッヒョー!キッキター!久し振りな、この妄想がっキター!ビバ・オッパーイ」

 

 アレな台詞を吐きながら、デルフが本来の剣の姿に戻る。神々しく輝く、本来のガンダールヴの相棒。

 インテリジェンスソード、デルフリンガーだ。輝く刀身をヴァリエール夫妻に向ける。

 

「どうですか?これが、デルフリンガーの真の姿です」

 

 パチパチと拍手をしてくれる、ヴァリエール夫妻。

 

「なる程、確かに只のインテリジェンスソードでは無いですね。膨大な魔力を感じます」

 

「そうだな。ガリアの次期王となるツアイツには、お似合いの剣だな……」

 

 やっと認めて貰えた……

 

「「オッパイ最大教祖が持つに相応しい、オッパイソードだな(ですね)」」

 

「そうっす!アッシと兄さんは、心の震えで繋がっている一心同体・一蓮托生・呉越同舟な関係っす!もう置いてかないで欲しいっす」

 

 心に広がる、何とも言えない敗北感……駄目だ、ダメダメだ。全く威厳も何も無い……確かに僕の分身としか思えないオッパイ至上主義者だ。

 僕はデルフを鞘にしまい、両手を大地につけて慟哭した。

 

「本当なんですよ。デルフはお姉ちゃんが虚無の使い魔だと見抜き、ルイズが虚無の使い手で有る可能性を教えてくれたんです。

ルイズが水の指輪を嵌めて、始祖の祈祷書を開けば、虚無に覚醒しますから……」

 

 かなり重大な秘密を暴露したのですが、ヴァリエール夫妻は

 

「今日はもう遅いですから……久々の里帰りで疲れたのでしょう。明日、カトレアやエレオノールが来ますから、ゆっくり皆で話しましょう」

 

 そう言って、デルフと僕を私室に送ってくれた……

 

「おでれーた、おでれーた!

兄さん、何を凹んでいるんですかい?あの娘っ子が、虚無に目覚める方法を知ってるなんて!

今、思い出しましたぜ!確かに指輪と祈祷書ですぜ。アレ?兄さん、泣いてるんですかい?」

 

 ヴァリエール夫妻にアレな人と思われたのが、想像以上にショックだったみたいです……涙が止まりません!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ヴァリエール夫妻の寝室……

 

 仄かに照らす魔法の灯り。夫婦用のキングサイズのベッドに腰掛けながら、髪を梳く夫人を見る。

 

「さっきの話だがな……あのボロエロ剣がブリミル時代の物だとはな」

 

 夫に背を向けて髪を梳く手を止めずに答える。

 

「なる程、確かに伝説の武具を手に入れ、あの女……シェフィールドを籠絡しただけの事は有りますね。何時も何時も、想像の斜め上を行くのですから」

 

 髪を梳く手を止めて夫に向き合う。

 

「でも、あの駄剣がブリミル時代の物とは秘密ですね……

あの子は、この世界に愛されています。伝説の武具すら、彼を慕っているのですから。これが周りに知られたら……

大変な事になります。何と言っても始祖に連なる品物です。周りが黙ってはいないでしょう」

 

 そう言いながら、ベッドに近付いて行く。さり気なく体をずらして、並んで座れるスペースを空けるヴァリエール公爵……

 

「我が娘が虚無の使い手……前なら喜んだだろう。でも今は違うな。

知らない内に、ツアイツを中心とした新しい国造りを望んでいるからな。虚無など厄介事でしかない。

全く、マリアンヌ様とアンリエッタ姫の事を……何とかするつもりだったのに、厄介事は此方の予定など関係無く来るな」

 

「そうですね。国と民の為に、それに私達の為にもトリステイン王国を変える予定でしたのに……

計画を変えなければなりません。また一波乱有りますね。マダマダ孫を抱けないとは、全くルイズは何をしているのやら……」

 

 ブツブツと言いながら、ベッドに並んで横になる……

 

「明日になれば、カトレアとエレオノールが来るだろう。丁度良いからな。娘達を交えて、ヴァリエール家の将来を考えようではないか!」

 

「ふふふふ……そうですね。全く2人共、彼に興味深々ですから。暫く鬱いでいましたが、彼に会えばエレオノールも元気になるでしょう」

 

 デレオノールは健在。

 

 天然お姉さんも健在。

 

 ロマリアなど、ヴァリエール夫妻にとっては、どうでも良い些細な事だった。ルイズが虚無で無くても構わない。

 伝説の剣が、駄剣でも問題無い。彼女は既に幸せを掴んでいるのだ。それを邪魔するなら、考えが有るだけだ……

 

「まさか娘全員を盗られるとは、な……それが悔しくないのが不思議だ。ド・モンモランシ伯爵など、今でも子離れ出来ぬと言うに……」

 

「私達は、男の子を授かれなかったわ。でも、鍛えがいが有って、優しくて有能でオッパイ・オッパイ言ってる変な子なのに、不思議と嫌いになれない。

幼い頃から、既に息子として認めていたのですね。あの子は、ツアイツは私達の大切な息子です」

 

「くっくっく……最初の頃は、目の敵みたいにシゴいていたのにな。エレオノールもな。

不思議な子だな……ツアイツがブリミルの生まれ変わりと言われても、信じてしまいそうだよ。

あの子は、ハルケギニアを統一するよ。そして皆が幸せになれる世界を造るだろう……」

 

 パチンと指を鳴らして、魔法の灯りを消す。今夜は気持ち良く寝れそうだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌朝………

 

 まだ朝の早いメイドさん達も起きない様な時間。デルフリンガーの件で、枕を濡らして寝ていたツアイツを起こすメイドさんが居た。

 

「ツアイツ君、ツアイツ君起きて下さい。もう朝ですわ。ほら双子の月が綺麗ですよ」

 

 月が出ているなら、まだ夜中です!ユサユサと体を揺すりながら声を掛ける。

 

「うーん、あと五分、いや五時間……」

 

 ベタな台詞を言って寝返りをうつ。

 

「はいはい。もう五年経ちましたわ。早く起きないと添い寝しますよ?

良いのですか?そうですか……では、ツアイツ君おやすみなさい」

 

 何故かメイド服を着たカトレアが、ツアイツの寝ているベッドに潜り込んだ。それを机に立てかけられたデルフは見ていた。

 

「兄さん。その娘っ子は中々のオッパイですぜ!流石は兄さん。そこに痺れる、憧れるー!」

 

 やはり役立たずな駄剣だった。

 



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新章第9話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第9話

 

 

 

 何だか、柔らかくて良い匂いがする……まだ覚醒しきって無い、ボンヤリした頭で考える。

 これはルイズの匂いだ……あの娘は、甘いミルクの様な匂いだ。

 実際にホットミルクや甘いお菓子が大好きだし……

 

 モンモランシーは自身が調合した香水を控え目につけているし、キュルケはフェロモンの香りだ。具体的にどんなフェロモンかは秘密だけど。

 

 イザベラは、実は無臭に近い。ただ髪の毛からは、お日様の匂いがする。貴族は基本的に、風呂に毎日入れるし綺麗好きだし。

 だから体臭を余り感じないんだ。

 

 テファもルイズに似て、甘い系の匂いだよ。マチルダさんは、アダルティな香水を付けている。

 

 ジャネットは、ああ見えても北花壇騎士団。暗殺や潜入などの汚れ仕事もするから、無臭を心掛けている。

 匂いで位置がバレるとか、映画や漫画の中の話ではないのだ。

 

 因みに、お姉ちゃんもアダルティな香りです。

 

 最近はジョゼフ王とヨロシクやってますから、更にアダルティです。

 そんな自分の奥様達の匂いの記憶を思い出しながら、久し振りに嗅ぐルイズの匂いを堪能する……

 

「くんかくんか……むふー、甘い匂いだぁ……」

 

 何故かルイズがビクッとしたみたいだが薄目を開けると、見慣れたピンクの髪がボンヤリと見えた……周りもまだ真っ暗だし、多分3時過ぎだろうか?

 

「おやすみなさい……」

 

 もう少し寝かせて下さい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 メイド服を着てツアイツの部屋に忍び込んだカトレアだが、余りにナチュラルな態度のツアイツにビックリしてしまった。

 普通なら、年頃の女性がベッドに入ってきたら動揺するだろう……

 

 それを「くんかくんか……むふー、甘い匂いだぁ……」と匂いを嗅いで感想を言いながら「おやすみなさい……」って、全く動揺しないなんて!

 

「何かしら……女性として悔しいわ。でも寝ぼけていたのね。うふふ。明日の朝が楽しみだわ」

 

 そう思い直して添い寝する事にした。

 

「くすくすくす……おやすみなさい、ツアイツ君。良い夢を」

 

 朝日の中で、彼が慌てふためく彼の様子を想像しながら眠りにつく……今夜はきっと、私も良い夢が見れるでしょう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 お母様から鷹便が着た。アカデミーの実質的なトップの様な立場になってしまった為に忙しい日々。

 ツアイツもルイズもガリアに行きっぱなしで……寂しく……いっいえアレだから。

 寂しくなんて無いし、毎日が単調なのが詰まらないのよ。

 

 そんな日々を過ごしていたが、ツアイツがヴァリエール公爵家に来ると言う内容の手紙が来た!

 

 丁度鷹便が来た時は、来客の予定も有ったけどキャンセルよ。直ぐに馬車を用意させて、ヴァリエール領へ向かう……

 今からだと着くのは深夜になるかも知れないけど、朝食を一緒に食べれるから。

 やはり朝は、彼と色々な事について討論をしながらゆっくり食事をしたい。他の有象無象の連中では、退屈なんだもん。

 彼と何を話そうか考えていたら実家に着いた。どうやら半日以上、妄想してたのかしら?

 

 見慣れた屋敷を見上げながら、暫し反省したわ。

 

 レディが妄想癖が有るみたいに思われては、大変ですからね。出迎えの執事から、カトレアも既に帰っていると聞いた。

 あの子の領地も、同じ位離れているのに……時計を見れば、もう数刻で日が登る時間ね。

 

「そうだわ!何時も酔い潰れた私を寝かしてくれたのよね。

ツアイツは私の寝顔は見ているのに、私はツアイツの寝顔を見ていない。これは不公平よね……」

 

 自室の手前に有る、ツアイツの部屋に向かう為に廊下を歩いて行く。深夜の屋敷は静まり返っていた……

 

「少し怖いわね」

 

 しかし魔法の灯りが、仄かに廊下を照らしている。ドアノブに手を掛けると……

 

「あら?開くわね……では、お邪魔するわ」

 

 扉を開けたままにして、室内に入る。廊下から差し込む灯りで、ボンヤリとたが室内が確認出来きた。

 

 ツアイツは……居た!ベッドに寝ていて……「なっ?」何とツアイツは、誰かと同衾していた!

 

 シーツからはみ出ているのは、ピンク色の髪の毛。つまりはチビルイズも来ているのね?

 何よ、自分が正式に彼の側室になれるのが決まっているからって。実家に来てまで、ラブラブ振りを見せ付けるのね?

 

 妹に負けるなんて……思わず握り締めてしまった手をゆっくりと開く。はぁはぁと深呼吸をして、高ぶった気持ちを落ち着かせた……

 

「すーはー、すーはー!落ち着け、私」

 

 残念だけど、部屋に戻ろうかな。

 

「って、チョット待てや!ツアイツは1人で来てる筈よね?じゃあの桃色の髪の毛って誰なのよ?」

 

 ゆっくりとシーツを捲ると、メイド服のカトレアが居やがった……ご丁寧にムニャムニャとか、ベタな寝言まで言ってやがる!

 

「なっななななな、何でカトレアが居るのよ?」

 

 私の放つ殺気に反応したのか、カトレアが呻いた……

 

「むー、あら?姉さん……どうしたの?そんな怖い顔をして」

 

 半分寝ぼけているカトレアの頭を掴むと、部屋の外へ連れ出す。

 

「いっ痛いわ。エレオノール姉さん、本気で痛いわ」

 

 扉をそっと閉めてから、カトレアと向き合う……

 

「随分と元気になったみたいね?それに、何故メイド服を着てツアイツと寝ているのかしら?」

 

 この子とは協定を結んだ筈だ。誰にもバレないように、ツアイツと関係を持とう。

 彼に迷惑をかけずに、彼だけに認めて貰えれば良いから、と……

 

「ツアイツ君を起こしに来たんだけど、まだ寝かせてくれって頼まれたの。だから、起きてくれるまで添い寝をしようかと……」

 

 このポヤポヤ娘は、あらあらまあまあで既成事実を作るつもりだわ!

 あれだけ共同戦線を張るって言ったのに、一人だけで抜け駆けする気ね。

 しかも翌朝騒ぎ出せば、周りに認知される。何て腹黒いのかしら……でも、お母様は喜びそうな展開ね。

 強引にカトレアを押し付けようとするわ。

 

 くっ、カトレア。怖ろしい娘!

 

「そう……なら私も添い寝しても問題無いわよね?」

 

 ならば便乗する迄だわ。姉妹で私だけが遅れてなるものですか!

 

「あらあら……ツアイツ君のベッドは狭いから、私と彼が密着すればエレオノール姉さんのスペースも……

いっ痛い、痛いわ!姉さん、本気で握って……モゲます、モゲますから」

 

 彼女の耳を捻りあげる。

 

「カトレア……この私を本気にさせるなんて。後悔しても遅いわよ?アカデミーでの研鑽を思い知らせてあげる」

 

「エレオノール姉さん。

私ね、ツアイツ君に病気を治して貰ってから、体の調子が本当に良いの……昔の貧弱な坊やとは違うのよ。そう!通常の三倍なの!」

 

「何が?戯れ言は、赤く塗って角を付けてから言いなさい!

私のストレスもマックスだから……捌け口になって頂戴!てか、長女を敬う精神を叩き込むわ」

 

 

「「うふふふふ。このチャンス、どちらが物にするか勝負よ!」」

 

 

 扉一枚を挟んで、姉妹戦争が勃発していた!それをデルフはいち早く察知していた。

 娘っ子のオヤジが取りに来た時に、兄さんがオレっちが如何に素晴らしい伝説の剣かを話してくれたそうだ。

 もっとも信じられないから、実際に証拠を見せて貰う為に取りに来たのだが……

 オレっちは兄さんのお陰で、6000年も生きて退屈だった生き方を変えて貰った!

 

 何か恩返しがしたかったが、今がそうだ。あの娘っ子達から兄さんを守るぜ!

 

「兄さん、兄さん!起きて下せぇ!捻りの娘っ子の姉ちゃん達が、外で騒いでやす。何か危険だから逃げ出した方が良いっす。兄さん、早く!」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 結論から言おう……

 

 デルフのお陰で、僕は姉妹丼と言う危機的状況から逃げ出す事が出来た!しかし翌朝からデルフが居なくなってしまったのだ。

 漢力のオッパイレーダーを駆使して探したら、庭に有る池の中に沈んでいた……重石と一緒にグルグル巻きにされていたんだ。

 

 デルフは、どっちにヤラレたかを僕にも教えてくれなかった……しかしデルフのお陰で、僕はヤンデレとツンデレの義姉から逃げ出す事が出来た。

 

「有難う、デルフ!君の犠牲は忘れない。有難う、そしてさようなら……」

 

「兄さん、まだ死んでないっすよ」

 

 

 



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新章第10話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第10話

 

 

 トリステイン王国。

 

 漢の浪漫本思想が蔓延するハルケギニアにおいて、ロマリア皇国の次に普及していない国だ。

 ヴァリエール領やド・モンモランシ領など僕との縁が強い所なら良いが、先の不正貴族の粛正で王家の直轄領になった場所では……

 アンリエッタ姫と疎遠となった今では影響力が弱い。

 しかし領地経営の観点から見れば、前の極悪な税率を下げたアンリエッタ姫は領民からの支持は高い。

 故に不仲説が飛び交っている今は、漢の浪漫本ファンクラブへの活動も消極的だ。

 まぁハルケギニア全土にファンを広めているツアイツにとっては、小国の地方の領地など大した脅威ではないのだが……

 憂国の士であるマザリーニ枢機卿は、トリステイン王国の先行きに悩んでいた。

 

 腐敗貴族は一層され、国が一つに纏まった……様に見えたが、実際は王家とヴァリエール公爵の派閥に割れただけだ。

 

 王領は国全体の三割強。大してヴァリエール公爵派閥は二割弱。

 しかもヴァリエール、ド・モンモランシ、グラモンと複数の貴族からなる連盟だ。

 単純な戦力比でも兵力の投入率でも、頭が1つの此方が有利。近衛兵も常備軍も、正当な指揮権は此方だ……

 

 しかし、しかしだ。

 

 ゲルマニアの一貴族の嫡子の為に、戦力バランスは大きく傾いた。当初は良かったのだ。

 彼も協力的で、腐敗貴族の粛正の証拠集めもしていけれ。

 アンリエッタ姫も国政に興味を持ち出し、自身も活発に動き始めたのに……何か、彼らとの溝を深めたのか?

 しかも評判の宜しく無い、現教皇ヴィットーリオからの脅迫に近い親書……

 

「私は……どちらの手を握れば良いのだ?」

 

 信仰を取るなら教皇の筈だ。悩む必要も無い。しかし……それはトリステイン王国の破滅でも有る。

 あの男と敵対する……次代のガリア王で有り、アルビオン・ゲルマニアと強いパイプを持つ男と。

 最近ではクルデンホルフ大公国も、トリステイン王国と距離を取りだした。

 極論から言えば前王との友誼と約束の為に、この国に残っているのだ。

 

 彼が愛した、このトリステイン王国の存続の為に……

 

 しかし、打つ手を間違えればヴァリエール王朝かガリア王国の属国化も有り得る。

 だから、あの男の真意を確かめる為に会見を望んだ。そして今、あの男はヴァリエール公爵領に居る。

 

 既にガリアの王族なのだし、今一番有名な男。あの男の行動は、各国が諜報を駆使して掴んでいるだろう。

 

 それは当然、我が国のトップの耳にも入る訳で……

 

「マザリーニ枢機卿!

我が国に、ツアイツ様が来られているとの情報が……ルイズの実家に滞在とか。何とか話が出来ないでしょうか?」

 

 アンリエッタ姫に気に入られようと、有象無象の生き残り貴族が纏わり付いている……そんな連中の誰かから、聞いたのだろう。

 

 アンリエッタ姫……

 

 貴女はアルビオンで、ガリアのイザベラ姫に喧嘩を売ったのですぞ!それをまた、あの男にチョッカイを出すのは危険なのが何故分からないのですか?

 

「アンリエッタ姫。

ミスタ・ツアイツがヴァリエール公爵に来るのは婚姻関係を三女殿と結ばれたのですから良いでしょう。しかし、彼はガリアの次期王。

そしてアンリエッタ姫は、ガリアのイザベラ姫に喧嘩をお売りになった。ミスタ・ツアイツとの接触は控えた方が良いですな」

 

 いい加減、貴女が嫌われている事を自覚して下さい。

 

「アレは……私は喧嘩を売ってませんわ!

あの時は、あのガサツな姫がツアイツ様と結ばれるなんて考えられないでしたし……それにツアイツ様は、私に会えなくて寂しい思いを……」

 

「かの人物には、イザベラ姫の他に何人もの側室の話が有ります。寂しくはないですな」

 

 いい加減、事実を認めてくれ!貴女にも早く相手を見つけないと駄目だろう……

 

「兎に角、今ミスタ・ツアイツとの接触は問題が多すぎる。良いですな」

 

「しっ、しかし……」

 

「でもも、しかしも、有りません。ミスタ・ツアイツに会うのは禁止します。勿論、手紙もですぞ」

 

 渋々顔で部屋を出ていかれたか……

 

「全く、早く結婚相手を……それもトリステイン王国が強化される相手を探さねばならぬ、か……」

 

 しかし、そんな都合の良い相手等、このトリステイン王国に居るのか?

 アルビオン王国のウェールズ皇太子は、惜しい相手だったが……ゲルマニアから嫁を貰う話が進展してるらしい。

 これも、あの男繋がりか。全く、いっそ我が姫も貰ってくれれば良いのに……

 

 マザリーニ枢機卿の愚痴は続く。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 翌日、指定されたヴァリエール公爵派閥の貴族邸宅に向かう。そこそこ広い領地に、街が4つ。後は田園風景が続く。

 典型的なトリステイン王国の男爵領だ。

 しかし街道は整備され、街は活気に満ちている。それに私設の兵士だろうか?所々で見受けられる……

 この街には、トリステイン王国内では数少ない、あの男の関連商品が買える店が有る。

 わざわざ遠方から来て、大量に買い付けていくそうだ……故に領主の見入りは良い。

 だから領地経営も余裕を持って行えるのだ。治安も良いのだろう。その為の兵士でも有るのだな。

 

 盗賊みたいな連中からすれば、欲しい物が集まっている街だから……馬車から見る街の様子で分かる。

 

 子供達が元気に遊び、女性達に笑顔が溢れている。店には商品が溢れ、活気が有る。

 本来、これがブリミル教の聖職者として望む形ではないのか?広く領民の為に、宗教とは信徒の安全や幸せを齎すものでは無いのか?

 祈るだけで、お布施や寄付を強請るのが聖職者では無い筈だ。

 

 これを見たら、光の国とか言っているロマリアは……地獄だろう。

 

 街には孤児が溢れ、人々に活気は無い。重税に喘ぎ、商店に商品は少ない。

 見目の良い娘や子供は、直ぐに奉公にと声が掛かる……連れていかれたら、二度と帰ってこないと聞く。

 

 どちらが、正しい在り方なのだ?

 

 マザリーニ枢機卿は頭を振って、弱気な考えを弾き出す。今は、ハルケギニア最大宗派・貧巨乳教祖ツアイツ・フォン・ハーナウとの直接対話なのだから。

 ここで、トリステイン王国について良い条件を引き出さねばならない。活気ある街を抜け、ようやく貴族邸宅が見えて来た。

 門番が気付き、出迎えの準備を初めている。

 

「いよいよだな。ツアイツ・フォン・ハーナウ!貴殿の真意を教えて貰うぞ」

 

 



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新章第11話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第11話

 

 

 

 トリステイン王国を前王が亡くなってから纏めてきたのは、間違い無くマザリーニ枢機卿だろう。こうして直接会って話しをするのは初めてだ。

 

「初めてまして。ゲルマニアが貴族、サムエル・フォン・ハーナウが長子、ツアイツ・フォン・ハーナウです。お見知りおきを……」

 

 イメージよりも、更に痩せていますよ。頬も痩けているし、目の下に隈も出来てるし……これで40代とは思えない老けっ振り。

 

「こうしてお目に掛かるのは初めてですな。トリステイン王国で宰相の真似事をしているマザリーニだ」

 

 あれ?宰相だと思っていたけど、正式な役職じゃなかったんだ。あんなに大変なのに、無償奉仕なのか?

 

「お噂は、かねがね……」

 

「ふん。噂なら、其方も大概だろうに。巷で噂の巨乳派教祖!アルビオン王国、救国の英雄。そして大国ガリアの次期王が決まったそうだな」

 

 随分と調べていますね……僕も交渉相手は調べたり、原作知識を利用したりするけどさ。

 

「お陰様でと言いますか……アルビオンでは、其方も活躍したそうで。戦後の方ですがね。ウェールズ皇太子より、色々聞いていますよ」

 

 カリーヌ様とお姉ちゃん、アンリエッタ姫とイザベラのダブル頂上決戦とか。

 城塞都市を半壊させたり、ガリア王家に対して喧嘩売ったりとか……ヴァリエール公爵絡みもあるから、公にはしてないですが?

 

 ニッコリと先制のジャブを打つ。

 

「……その件については、此方も反省している。蒸し返すのは止めて頂きたいですな」

 

 一旦言葉を切り、互いに出されたお茶を飲む。尚、今回の話し合いはマザリーニ枢機卿のたっての願いで、僕と二人切りでの話し合いだ。

 良くヴァリエール夫妻が、この条件を飲んだと思う。互いに同じタイミングでカップを置く。

 

「では本題に入ろうか……貴殿はトリステイン王国をどう思っているのか、教えて頂きたい」

 

 また抽象的な言葉で切り出して来たね。どう思っている……これで、此方の思惑を探る気だな。

 

「我が側室、ルイズやモンモランシーの祖国。そして数多くの友が住む国でしょうか」

 

 国家でなく、個人との繋がりに重きを置いていると匂わせた……トリステイン王国自体の存続は、どうでも良い。其処に暮らす人達が大切だから、と。

 

「なる程。ツアイツ殿は、国を超えて友誼を結んでいる友が沢山いますからな。そう言う意味ですかな?」

 

 僕は黙って微笑む。

 

「では……ブリミル教をツアイツ殿はどう思ってますかな?」

 

 無言の返答に、直球の質問で返して来た。ブリミル教をどう思っているのか?この返答が、僕と僕の仲間達がロマリアをどう思っているのかが分かる……

 やはりマザリーニ枢機卿は、政治家ではなく宗教家の色合いが強い。時に直球は効果大だが、互いの立場と距離を計りかねる時には悪手だ。

 この質問の回答が、互いの立場を決定付ける。まだ話し合いの余地が有るかも知れない時点で、決を採る様なものだよ……

 

「それを答える前に教えて下さい。マザリーニ枢機卿にとって、ブリミル教とは何ですか?そもそもブリミル教の定義や理念を教えて下さい」

 

 権力者の為の方便でない、惰性の宗教で無い事を教えて下さい。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「それを答える前に教えて下さい。

マザリーニ枢機卿にとって、ブリミル教とは何ですか?そもそもブリミル教とは何ですか?その定義や理念を教えて下さい」

 

 何だと?

 

 ブリミル教の定義や理念……くっ、これは今のロマリアの在り方に対しての批判のつもりか?

 

「ブリミル教とは、6000年前にハルケギニアに降臨した始祖ブリミルを祀る物だ。

始祖ブリミルは、それまで幅を聞かせていた先住魔法を押しやり四系統の魔法を広めた。火・水・風・土……そして虚無。

始祖ブリミルは亡くなる前に、三人の子供と弟子に力を託した。それがロマリア・ガリア・アルビオン、そしてトリステインの祖だ。

この世界の成り立ちの礎を築いた偉人。それが始祖ブリミルで有り、彼を祀るのがブリミル教だ」

 

 これはハルケギニアに住む者ならば、誰でも知っている話だ。しかし彼は黙って聞いていた……

 

「ブリミル教は分かりました。では次にマザリーニ枢機卿にとってのブリミル教とは何でしょうか?」

 

 くっ……私にとってのブリミル教だと?

 

「私にとってのブリミル教……それは信仰の寄り所で有り私の全てだ」

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 聖職者にとって、信仰の寄り所は大切ですよね。

 

 しかし地球の宗教感で行くと、民衆が付いてくる宗教とは……必ず救済が有るんですよ。

 仏教なら極楽浄土、キリスト教なら天国。生前の善行や信仰の強さにより、死後も幸せになる為に僕らは信仰する。

 

 じゃブリミル教は?

 

 確かに魔法の祖として、貴族社会の根源が始祖ブリミルだ。つまり英雄信仰なんだと思うんだ。

 確か原作では、四つの四を集めると……つまり、虚無の担い手、虚無の使い魔、各系統の指輪と秘宝。

 これを揃えると「始祖の虚無」が、復活するんだっけ?コレってブリミル教の神官達は、どう思っているんだろう?

 

「マザリーニ枢機卿。貴方の信仰の寄り所には……其処に民衆の幸せは入っていますか?今のブリミル教を信仰すれば、幸せになれるのでしょうか?」

 

 これに、どう答えますか?聖職者の貴方なら……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 なっ?民衆の幸せだと……こやつ、一番痛い所を突いてきたな。

 確かに今のブリミル教は、貴族の権力と神官の特権を守る物になっている。そこに民衆の救済など……

 

「それは……」

 

 くっ、言葉に出来ぬ……

 

「僕は、宗教とは救済をしてこそ信仰を集められると思っています。最近のロマリアの動き……どう思いますか?」

 

 ホモ教皇が、自分の趣味に突っ走って、ショタを集めているのだよ。しかも「男の娘」なる、怪しい聖歌隊が出来た。

 彼は若い頃から有能だったのに、権力の座についてから変わってしまった……

 

「教皇ヴィットーリオ殿も頑張っている。貧民の救済や、腐敗した神官達の意識改革。それに……」

 

 配下の神官達から、総スカンを喰らっておるので遅々として進まないがな。

 

「マザリーニ枢機卿……

貴方は先の教皇選出会議でロマリアから帰国要請をされていたにも係わらず、トリステイン王国に居残った。

何故ですか?本来なら、正しきブリミル教の為に……

次期教皇と目されていた貴方は戻るべきだった!貴方が教皇になるべきだった!違いますか?」

 

 私が、私が教皇にだと?しかし、当時のトリステイン王国は崩壊寸前。

 

 私が抜けたら……

 

 ツアイツ殿、貴殿は私が教皇にならなかった為に、今のブリミル教がこうなったと言うのか?



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新章第12話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第12話

 

 

 

 教皇から親書が来た……トリステイン王国として、当然呑めない要求だ。

 

 しかし……

 

 この国の為に何とかしないといけないと思い、ツアイツ・フォン・ハーナウとの会見を持った。

 何とか譲歩を……トリステイン王国の存続の為に。しかし、彼は私にブリミル教の教皇にならなかった事が原因と言う。

 まさか宗教談義を自分の三分の一にも満たない若造に挑まれるとは……

 

 ヤツも貴族、つまり魔法を使うメイジだ。

 

 故にハルケギニアの権力の側にい居て、その恩恵にどっぷりと浸かり最大国家の次期王にまでなろうとしているのだ……

 だが、だがヤツはブリミル教と言う自身の権力の根本を利用せず、新たな宗教でのし上がった。

 

 貧巨乳連合教祖……

 

 オッパイ、オッパイ言っている、ふざけた宗教と呼ぶのも躊躇うエロを主体とした物で。

 だが、ヤツの言う民衆の幸せ……完全にブリミル教の上を行っている。

 

 いや、歴代の教皇達でも成し得なかった理想的な世界だ……

 

 その波に乗った帝政ゲルマニアとアルビオン王国、そしてガリア王国は安定した国家となった。

 我がトリステイン王国は……アンリエッタ姫との仲違いにより、取り残されている。

 しかし、国内の有力貴族の殆どが取り込まれている。討伐しようとすれば、返り討ちに合いヴァリエール王朝の誕生だ!

 

 この落ち着いて紅茶を飲む若造が、6000年も停滞していたハルケギニアを打ち壊したのだ。

 

「仮に……仮に私が教皇となっても、ブリミル教は廃れるだろう。ツアイツ殿の興した宗教により……違うか?」

 

 私とて理解していた。ゲルマニア・ガリア・アルビオンを強固に纏めて上げたヤツに、空中分解寸前のトリステインが適う訳が無い事を……

 

「それは違います。僕の、僕達の……「変態と言う名の紳士達・漢の浪漫本ファンクラブ」は、あくまで趣味の集まりです。

ブリミル教とは共存出来る筈ですよ。対立する意味も無い。性癖など誰もが持つ、当たり前の感情。

そこに宗教感など有りませんから……だからこそ、6000年も信仰され続けたブリミル教徒達にも受け入れられた。違いますか?」

 

「アレだけの信仰を……貴方を教祖と崇める、膨大な信者達を!ただの趣味友達と言うか?アレは既に宗教ではないか!」

 

 確かに国境を超えて、沢山の友が出来た。でもね……

 

「マザリーニ枢機卿……何か勘違いをしていませんか?僕達の漢の浪漫本ファンクラブとは、会員制の趣味のグッズを買ってくれるお得意様達ですよ」

 

 だって商売ですよ。薄利多売だし、当初から会員の結束を高める為に色々したけどね。そこに国家や貴族間の上下は無いし、雇用関係や侍従関係も無い。

 

「なっ?そんな詭弁を」

 

「マザリーニ枢機卿が心配している僕と教皇との確執。それは趣味と趣味の戦いです。

ただ一つ違うのは、教皇はロマリアと言う国家とブリミル教を持って戦いを挑んで来た!

しかし、僕はガリアやゲルマニアと言った国家の力は使いません。あくまでも趣味を同じくする仲間達と挑みます」

 

 その仲間こそが、僕が最初から考えていた国境を超えた趣味友達だ。強制はしない、自らの意志で共に戦ってくれる仲間達さ!

 

「ふっふははははっ!国家を超えた友情だと?個人の友好関係で、宗教国家に挑むだと?」

 

「違います!

宗教国家の総力を上げて、個人に挑んだヴィットーリオと戦うんですよ。趣味の仲間達と。

分かりますか?僕は国家権力など使わない!

ガリア王国も帝政ゲルマニアもアルビオン王国も関係無い。僕の信じる仲間達だけで十分なんです!」

 

 アレ?マザリーニ枢機卿が、机に突っ伏して唸ってるけど?

 

「まさかオッパイで世界を動かすとは!そして国家対個人か……だが言わせて欲しい。

現教皇ヴィットーリオが、ブリミル教と思わないで頂きたい!私には全く理解不能な趣味の戦いなのだな」

 

「そうです!健全な異性交遊大好き、オッパイ大好きなエロくて愉快な漢達と。

不純な同性交遊を強要する、ショタ大好きなホモの教皇。貴方なら、どちらに付きますか?」

 

 アレ?何か目と目の間を揉みながら、肩を小刻みにゆすってるけど……チョット比喩がいけなかったかな?

 

「くっくっく……そうか、オッパイ大好きと公言するか!

私は聖職者として、異性に対して厳しい規律を持って生きてきた。故に、ツアイツ殿の熱意は理解不能だが……

現教皇がロマリアにとって、ブリミル教にとって良くない事は理解させられたよ。

で?率直に聞こうか!

ツアイツ殿、これがヴィットーリオからの親書だ。どうする?私はトリステイン王国を愛している。

返答次第では敵対するやもしれぬが……勿論、勝てない事を理解した上でだよ」

 

 手渡された親書を読む。

 

 なる程、マザリーニ枢機卿にとってトリステイン王国を存続させるには辛い内容だ。

 ルイズが虚無、か……原作ではサイトを召喚し、色々と動いたからロマリアにバレたんだ。ルイズが虚無の担い手だと……

 しかし今の段階ではバレてない筈だけど。僕は彼女が原作で虚無になる道筋を全て潰して来た。

 

 ハッタリか?ロマリアが教皇にとって、ルイズを押さえる意味は……僕への牽制?それに聖戦だって!

 

 まだ大隆起の話を持ち出さないだけマシか?

 

「厄介ですね。ルイズが虚無だって?証拠は?あの娘は、只でさえ魔法が苦手なんですよ。

それを伝説の虚無の担い手と言うのは……彼女に対して酷い仕打ちだ!

それとも体の良い人質のつもりかな?少なくても、烈風のカリン様は動きが鈍くなる。

僕が異端ですか。もう権力を私的利用し過ぎてますね。

僕はブリミル教の教義に違反していない。寄付も他より多く払っていますよ。

それに聖戦……

つまり教皇ヴィットーリオは、聖戦を自ら率いて挑むつもりですね。

勝てもしないエルフに……そして徴兵した我らを使い潰す考えかな。

これは、僕に対して喧嘩を売っているとしか思えない。そうですよね?」

 

 親書を畳んで返す。渋い顔で受け取るマザリーニ枢機卿。

 

「確かに、ツアイツ殿に対しての宣戦布告ですな。で、どうするのだ?」

 

「勿論、受けてたちますよ!僕らはホモを押し付けるヤツを許さない。これから会報を通じ、各国の友に伝えます!

オッパイ大好きな漢達よ!ロマリアの教皇が、ホモを強要してきた。僕らは自分の誇れる性癖の為に戦おう!

勿論、自由参加ですよ」

 

 そんな会報を発行すれば即開戦ですから、もう少し調べたり相談したりするけどね。

 

「ツアイツ殿。私もヴィットーリオと戦いましょう。最大限協力する。だから、トリステイン王国とブリミル教の今後にについて、一考して欲しい」

 

 良し!これでマトモな次期教皇ゲットだぜ!

 

「それについては、ヴァリエール公爵夫妻も交えた話し合いが必要ですね」

 

 アンリエッタ姫とマリアンヌ王妃については……僕の一存では、決められませんから。

 



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新章第13話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第13話

 

 マザリーニ枢機卿との会談。

 

 彼が現教皇ヴィットーリオには付かない所まで、纏め上げた。しかし、トリステイン王国の扱いによっては敵対する可能性が有る。

 何故ならば、前王との友誼を頑なに守っているから……

 

 しかし、残された妻と娘が厄介なんだ。

 

 彼女達の扱いは、ヴァリエール公爵夫妻も関係する筈だ。だから僕とマザリーニ枢機卿との、2人だけの会談はコレでお終い。

 次はヴァリエール公爵夫妻を交えた話し合いだろう。ただマザリーニ枢機卿とは、少しは分かり合えたと思う。

 

 僕は彼に教皇になって、ブリミル教を纏めて欲しい。

 

 この自分勝手な強欲貴族ばかりのトリステイン王国を今日まで存続させてきたんだ。

 その努力と献身は大した物だと思う。先程よりも友好的に、互いに紅茶を飲む。

 少し余裕が出来たからか、互いの思惑を理解出来たからか、雑談なども話せる様になった。

 

 しかし話題はアンリエッタ姫やマリアンヌ王妃の事が多い。

 

「ツアイツ殿。出来れば、アンリエッタ姫を貰ってはくれぬか?序列で言えば、イザベラ姫の次でも良いのだ。

性格に多大な問題が有るやも知れん。だが見目は良いし、何より貴殿に向ける愛情は本物だ。

ヴァリエール公爵家の三女殿も輿入れするが、彼方も準王家。

どちらかが生んだ男子が、トリステイン王国を継げば、この国は安泰ではないか?」

 

 どうだ?ってな顔で、一番避けたい事を言ってくる。マザリーニ枢機卿的には理想的なんだろう。

 以前は、しがないゲルマニアの一貴族。でも今は、ガリア王家の一翼を担っている。始祖の血筋の王女を娶っても問題無い。

 

 序でと言うか、本命はガリア・ゲルマニア・アルビオンの三国連合にも参加出来る。

 

 彼の頭を悩ます問題児を押し付けられるからね。対ロマリア包囲網としては、完璧だからね。

 

「いえいえ。何度も言いますが、アンリエッタ姫の、その……彼女に手を出すのが危険な気がするのです。

地雷女と言うか、僕の苦労が跳ね上がる。奥様方も納得しないでしょう」

 

 流石に始祖直系のアンリエッタ姫を側室に迎えるのは無理だ!第二夫人とか、対外的に面倒臭い扱いになるのかな?

 

「オッパイ大好き、女性大好きを公言する貴殿がか?アンリエッタ姫は、贔屓目無しに美少女だろう。

君の言う巨乳だ!それに彼女1人位、何とでも出来るだろう貴殿なら?

なに、子供を仕込んだら後宮に押し込めておけば良いではないですか?邪魔にはならないだろう」

 

 結構辛辣な考え方をしますね。彼女の血筋の後継ぎが欲しい、と?

 

「確かに純真で一途で見目も良い。しかし僕程度では、彼女の巻き起こす騒動に対処出来ないですよ。

それはマザリーニ枢機卿が一番理解してる筈。誰か居ませんかね?アンリエッタ姫を任せられる人物が?」

 

 僕以外だと、ウェールズ皇太子かウチの閣下かな。付きっ切りなら、あの姫様を御せるのは……

 

 確か原作で、サイトはアンリエッタ姫を「昼と夜の顔を持つ女性」と評した。

 

 何だかかんだで、ルイズにベタぼれだった彼が唯一突き放せなかった……

 事実上の浮気をしたのは、アンリエッタ姫だけだ。僕と直接会った事など、それこそ数える程なのに……

 

 何故、アレだけの執着心を僕に対して持つのだろうか?

 

「王家の姫の嫁ぎ先など、外交の延長でしかあるまいに……ツアイツ殿が嫌がるなら、次点はゲルマニアのアルブレヒト殿か。

なに、愛の無い婚姻同盟など普通でしょう?条件次第なら、彼は受け入れてくれるでしょう」

 

 エゲツネー……にこやかにお茶飲んでるけどさ。黒い、真っ黒だよマザリーニ枢機卿!確かに閣下なら申し分ないだろう。

 

 しかし……

 

「少し前なら、魅力的な提案でしたね。閣下は始祖の血筋が欲しかった。しかし、今はそれ程でもないですよ。

閣下はブリミル教の世界では一段低い評価をされるのが我慢出来なかった。しかし、今はオッパイ大好きな連中からは一段高い評価を受けている。

僕と、僕の父上を擁する国家のトップですから。今、ゲルマニアは彼らの聖地なんですよ」

 

 オッパイ世界に疎いマザリーニ枢機卿には、ピンとこないかな?

 

「つまり、ウチの姫は娶る価値が低い、と?それと、サラッと聖地とか言いましたな!問題ですぞ、それは……

異端認定の理由になりやすい。ブリミル教では聖地奪還は悲願ですからな。その聖地をかたるのは……」

 

「ブリミル教の聖地って、サハラの真ん中の不毛な大地ですよね。

あの地をエルフから奪還すると、どうなるのですか?何か特別な意味が有るのでしょうか?」

 

 実際、ヴィットーリオは此処を心の拠り所とか魔法装置とか呼んでた。心の拠り所が魔法装置って何だよ?

 

「聖地か……

始祖ブリミルが、ハルケギニアに降臨なされた場所だな。そして数千年前に、エルフが住み着いた。

以後、何回か奪還しようと兵を差し向けたが惨敗。ただ歴代教皇は、聖地に並々ならぬ関心を寄せていた。

場違いな工芸品は、かの地の周辺で多く見付かる。それらを収集し調べている機関も有るらしい。

私から言わせれば、無駄に犠牲を強いる無駄な行為だ……事実、数百年も手を出していない。いや、出せないのだ」

 

 次期教皇と目されていても、教皇にならないと知らされない事実も有るんだろうな……

 しかし、マザリーニ枢機卿が聖地に執着してないのが分かったから良かった。

 

「それは戦力比が10倍と言われているから?」

 

「一般的にはそうだ。しかし、私が調べた限りでは魔法が反射されるそうだ。始祖ブリミルが広めた魔法が効かない。

それに精霊魔法は、我らの使う魔法より強力だ。この事実が広まれば、ブリミル教の威信に関わる。

だから、おいそれと聖地に、エルフに戦いを挑めないのだ」

 

 結構重大な秘密を話してくれますね。それって?

 

「あの……今のお話は、かなりヤバい情報ではないですか?お互いに」

 

 ニヤリと笑いやがった。

 

「これを聞けば、聖地奪還など夢物語と理解して頂けただろう。ヴィットーリオの聖地奪還は止めさせねばならぬ。互いの為にな」

 

「つまり真実を教えたのだから、協力しろ?」

 

 黙って微笑むのは、前回の仕返しですか?

 

「では此方からのお願いも、聞いて貰いますよ。マザリーニ枢機卿……次期教皇になって下さい!

協力は惜しみません。条件は、今の腐敗したブリミル教を正す事!民衆の為の宗教にして頂きたい」

 

 此処で言質を取っておく。彼を教皇にすれば、腐った神官共を一掃して民衆の為の宗教にする。

 

 民衆の為に腐心すれば信仰は高まる!

 

 しかし、今まで溜め込んだ財貨を民衆の為に使わねばならない。

 そして民衆に対して、慈善活動が出来る神官達は……本当の意味の聖職者とは、権力など要らないだろうから。

 

 清貧を重んじ民衆の為に尽力する、良き宗教になるんじゃないかな?

 



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新章第14話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第14話

 

 

 マザリーニ枢機卿との会談。

 

 互いに利の有る話に持って行けたので、当初よりも友好的になった。僕は彼をロマリアの教皇にする事に協力する。

 彼は正しきブリミル教の為に、現教皇ヴィットーリオと戦う。此処までは、完全に利害が一致している。

 

 残りはアンリエッタ姫とトリステイン王国についてだ。彼は前王の友誼の為に、トリステイン王国の存続を望んでいる。

 しかしヴァリエール公爵の考えはどうだろう?

 

「マザリーニ枢機卿……此処迄の話し合いは有意義でした。では、ヴァリエール公爵夫妻を交えての話し合いを始めますか?」

 

 彼にとって、危険視しているのはヴァリエール一族。既に軍事クーデターなら負け確実。

 此処で何とかしなければ、事実上のトリステイン王国の滅亡だ!

 

「ツアイツ殿……口添えはしてくれぬよな?ヴァリエール公爵は、貴殿の義理の父上。

烈風のカリン殿は魔法の師と聞く。そして娘達とも仲が良い。

レコン・キスタを頭脳一つで滅ぼした貴殿なら、何か折衷案を出せないか?」

 

 えっ?いきなりハードルが高いですよ!

 

「要はトリステイン王国と言う名を残す事と、前王の妻と娘の立場を何とかして欲しい……でしょうか?」

 

「そうだ!見返りは、私が教皇になった暁には貴殿に最大限の譲歩と、民衆の為の宗教活動を約束する」

 

 ……魅力的な提案だ。僕達の幸せな未来には、封建制度は未だ必要だ。故にブリミル教は、無くなっては困るんだよね。

 そしてマザリーニ枢機卿が率いる新生ロマリアとなら、上手く行くだろう。

 

 趣味でエロに走っているが、民衆を大切にしているのは僕らも変わりない。

 

「それは……考えは無くもないのですが……いや、しかしカリーヌ様を納得させるには。

いやいや、その要求は呑めない。しかしアンリエッタ姫に生き残りの手段は……」

 

 腹案は有る。アンリエッタ姫をトリステイン王国のアイドルとしてデビューさせる!

 そして国政を離れ、アイドル業に専念して貰う。国政は、ヴァリエール公爵が摂政として行う。

 

 要は政治に携わらすから、問題児なんだよね。アイドルとして国民に愛されて貰う(だけ)なら、皆さんの被害は少ない。

 序でに、生涯アイドル宣言とかして貰えば完璧だ!

 暫くしてから、トリステイン王国に新しい巨乳神殿を造って、そこの主祭巫女になれば良い。

 

 これならばヴァリエール公爵が国政を担い、アンリエッタ姫は実の無いアイドル活動に専念する。

 だが……アンリエッタ姫が、この案を飲むとは思えない。彼女は情に走る女性だ……

 

 それは己の欲望に忠実だからだ。

 

 大勢のファンに応える為に動くとは思えない……思考の海に沈んでいたら、目の前にカリーヌ様が居た。

 

「ツアイツ殿?黙り込んで固まっていましたが、大丈夫ですか?」

 

 アレ?ヴァリエール公爵とカリーヌ様が、目の前のソファーに座っている。

 マザリーニ枢機卿は……僕の隣に居た。

 

「えっと……そんなに固まってましたか?」

 

「何かブツブツと小声で言っていたな。アイドル・アンリエッタ姫か……なる程、良い案だな。

あの姫には夢物語の様な世界に閉じ込めておくのが良いだろう」

 

 夢……物語……物語……妄想姫……女優……

 

「それですよ!物語……彼女の真価は妄想です!アイドル、いや女優としてなら活躍出来るでしょう。

彼女は舞台の中でだけ、演劇の中でなら、その希望が叶うのです!彼女の為なら脚本を書きますよ!」

 

 アイドルは、イザベラ達と被るけど女優ならば目新しいから。

 

「「「いきなりだな。それでツアイツ殿の考えは纏まったのだな?」」」

 

「ええ!確かトリステイン王立劇場の関係者にも、迷惑をかけた筈ですよ姫様は。此処で彼らにも謝罪の意味で、今後の活躍を約束します」

 

 後の問題は……誰がアンリエッタ姫を説得するか、だ。僕は縋る様に三人を見る。

 

 ヴァリエール公爵……目を逸らした。

 

 マザリーニ枢機卿……目線すら合わせてくれない。

 

 カリーヌ様……あっ、ニッコリ笑ってくれた。やはり頼りになりますよね、我が師は!

 

「ツアイツ。マリアンヌ王妃の説得は任せて下さい。幼少の頃からの付き合いです。

どの道、夫の喪に服して国政には口をださなかったのです。貴方の邪魔はさせません」

 

「流石はカリーヌ様!では、アンリエッタ姫の方も……」

 

 ズバッと再教育して下さい!

 

「それはツアイツ殿の仕事ですよ。あのアーパー姫は、懸想した男の事しか頭に有りませんから……貴方が貴方の為にと、説得なさいな。

悲劇のヒロインの様な、そんな境遇に持って行けば……あの妄想姫なら、私って健気とか思って納得するでしょう。

ハグとキス迄は許します。でも、もし一線を超えたら……あと2人、一線を超えて貰います」

 

 凄い笑顔で、宣ったよ!僕がアンリエッタ姫を誑し込んで、言う事を聞かせろって?しかも悲劇のヒロインみたく?

 もしアンリエッタ姫の色香に負けて手を出したら……多分、エレオノール様とカトレア様も面倒を見ろって事なの?

 

「イヤイヤイヤ……それはマズいですって?ああ見えて、アンリエッタ姫は美少女ですし。何か不思議な色香が有りますよね」

 

 僕は原作キャラの、信じられない魅力を知っている。アレは殆ど会ってなくて、迷惑しか掛けられてないから拒絶出来るんだ。

 原作でも、キュルケ・タバサ・シエスタ・テファと、信じられない美女・美少女に言い寄られて……

 それでいて、ルイズにベタ惚れで一線を守りきったサイトが誑かされたんだぞ!

 

 サイトは彼女を「アンリエッタ姫の美しさは、他の美少女達と質が違う。まるで吸い込まれる様な魔性の美しさだ」と評したんだ。

 

 あのリア充モゲロな、エロエロ主人公を以てだ……僕の漢の勘は、彼女は危険と判断している。

 それは地雷女とか、痛い女とかの他に……きっと訳の分からない彼女の魅力に、負ける可能性を見出しているのだろう。

 

 だから危険と判断した!

 

「しかし……せめて2人切りで話し合いをするとかは、無しの方向で……」

 

「何を言ってるのだ?男女の密談など、2人切りが当たり前だろう。何、次の間には控えておるよ。

安心して話し合ってくれたまえ。私は君とアンリエッタ姫が結ばれた方が良いと思うがな」

 

 マザリーニ枢機卿……裏切ったな!僕を裏切りやがったな!



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新章第15話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第15話

 

 

 気が付けばヴァリエール公爵とカリーヌ様、そしてマザリーニ枢機卿との間で何かの合意に至ったみたいだ……

 ヴァリエール公爵が宰相として国政を担い、アンリエッタ姫は女優として国政を離れる。

 マザリーニ枢機卿は、現教皇ヴィットーリオと戦い次の教皇となる。

 そしてロマリアのトップとなったマザリーニ枢機卿が、民衆の為になる新しいブリミル教を推し進める……完璧だ!

 

 しかし……この話を進めるには、アンリエッタ姫を説得しなければならない。

 

 僕が、だ……正直、気が重い。

 

 気持ちを切り替える為に、一旦この応接室を離れよう。彼らに断りをいれて退出する……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 肩を落とし、溜め息をつきながら退出するツアイツ殿を見送る。

 思えば息子程の年齢の彼と、この国の行く末を担う話をするとは……

 オッパイとか、オッパイとか、ふざけた事を言う奴と思いきや、民衆の事を誰よりも考えていた。

 ブリミル教の枢機卿に対して、真っ向から宗教談義を仕掛けるとは、な。

 これで6000年の間に、澱みきったブリミル教が正されるだろう。

 

「しかし……良いのですかな?ヴァリエール王朝を興す絶好の機会でしょう。

何故、わざわざアンリエッタ姫にチャンスを与えるのだ?」

 

 現状なら、直ぐにもヴァリエール王朝は興せたろう。

 

「別に……無理をしてトリステイン王国を奪う必要が無くなりましたから。

義息子の頭の中で、マザリーニ枢機卿は必要なのでしょう。

ならば、敵対する必要は有りません。私達は、あの子の動き易い国としてトリステイン王国を変えたかったので」

 

 そう言って、優雅に紅茶を飲む。ほぅ?流石に公爵夫人となった今は、優雅ですな。

 若い娘の頃は、男装をしてヴァリエール公爵と暴れまわった貴女が……一世代前の冒険譚は、私も聞いているぞ。

 烈風の姫騎士殿と、その御一行の話をな。マリアンヌ王妃も若い頃はヤンチャでしたからな。

 

 今からでは、考えられない無茶をした、と。

 

 その中心人物達が、若いツアイツ殿のフォローに廻るとはな!まだまだ現役で、活躍出来そうな物だが?

 

「其処まで、あの若者を信頼してるのか?嘗てマンティコア隊を率いた、鉄の規律を実践した貴女が……

オッパイ、オッパイ言っている彼を、ね。昔を知る者達なら、信じられないでしょうな」

 

 現役時代、もし配下の騎士がオッパイ、オッパイ言っていたら……物理的に喋れない様にしたのではないのか?

 それが、すっかり心酔してるようだが……しかし、巨乳が大好きなツアイツ殿にとって、その……なんだ、なぁ?

 

 ヴァリエール公爵を見てから、烈風殿の胸を見る。そして再び視線を合わせて、頷き合う。

 

「……?何ですか、2人で?」

 

「「いえ、憧憬かな、と……」」

 

「確かに最初の時は、我が夫を誑かしたゲルマニアの変態貴族と思いましたよ。その性根を叩き直す為に、無理矢理弟子としたのです」

 

 何やら昔を思い出す様に天井を見上げて、思いに耽る……

 

「ヴァリエール公爵、確か彼は報告によれば女性の胸を任意で大きく出来るとか?何故、烈風殿はアレなのだ?」

 

「ばっ馬鹿な事を!それは我が家では禁句なのだ!妻と長女は巨乳化しなかったのだ。頑固な貧乳……」

 

 不穏な単語が聞こえたので見れば、夫が何やら下らないはなしを……

 

「それでですね。シゴキにシゴいたのです。

二度とオッパイとか不埒な事を言わない様に……しかし、ツアイツは私のシゴキに耐えきったのです。

彼の信念はブレなかった。思いは純粋だったのでしょう……後は、情が移ったのでしょうか?

男子に恵まれなかった私達にとって、ツアイツは息子の様な存在になったのです。

今は本当の義息子ですが……まぁ娘達が皆、彼を気に入るとは思いませんでしたが……」

 

 そう言ってニッコリ笑って、話を終えた。鋼の規律の創始者を、あそこまで軟化させるとは!

 

 巨乳信仰……私からすれば、完全なお遊びネタなのだが。

 

 何故、民衆は彼を慕うのか?

 

 何故、貴族までもが彼に惹かれるのか?

 

 正しきブリミル教を布教せねばならない私だが……残念ながら、人を惹きつける術を持たない。

 

 オッパイか……民衆を知るには、民衆の求める物を知らねばなるまい。

 

 漢の浪漫本……読んでみるか。

 

 この後、マザリーニ枢機卿はヴァリエール公爵の伝手で漢の浪漫本を何冊か入手する。

 しかし、ヴァリエール公爵が遊び心を発揮してしまった……彼に、シスター物のジャンルを渡してしまったのだ。

 

 この先、マザリーニ枢機卿がブリミル教のシスターを見ると、始祖ブリミルに祈り出す姿が良く見られた。

 聖職者としての鋼の自制心も、針のひと突きから決壊するのは……

 

 まぁ良く有る事だから。そして遂に、今作最大の地雷姫様!

 

 アンリエッタ・ド・トリステイン!との密談の準備が整った。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 トリスタニア王宮。白亜の外観を持つ、歴史有る建築物。

 

 その一角に、アンリエッタ姫の私室が有る。最近ヴァリエール公爵が、良く王宮内に居る事が多い。

 なにやらマザリーニ枢機卿と、他の王宮貴族を交えた会合を開いているみたいです。

 私にも参加を促しますが、とても傷心な私には……

 私の愛するツアイツ様を奪ったルイズの父親に、合わせる顔はありません。

 ウェールズ皇太子も、お手紙を送ってもつれないお言葉ばかり……聞けば、ゲルマニアから姫を娶るとか。

 

 しかも三股だと、アニエス隊長が教えてくれました。

 

 少し前までは、私の周りにも情報を持ってきてくれた方々も居ましたが、最近見かけません。

 アニエス隊長は、有象無象の私に取り入りたい連中は全てマザリーニ枢機卿達が排除したので安心だと……何が安心なのでしょうか?

 私は、王宮に捕らわれた哀れな小鳥なのです。そんな悲観にくれる私宛に、ツアイツ様から手紙が来ました。

 

 どうせ、ルイズとの結婚式への招待状とかでしょう……しかし、もし私への労りや思いが書いて有るならば……

 私は王位継承権を捨てても、ツアイツ様一択で縋るしかないかも知れません。

 

 机の上に置かれた手紙……あの人の直筆でアンリエッタ姫へ、と書かれている手紙を読むのは。

 

 まだまだ時間が掛かると思いますわ。

 



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新章第16話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第16話

 

『拝啓、アンリエッタ姫。

アルビオン王国の争乱以来ですが、如何お過ごしでしょうか?

私は自身の起業した、漢の浪漫本ファンクラブを軌道に乗せる為、忙しい日々を送っております。

先日、久々にトリステイン王国のヴァリエール公爵家に行きましたが、カリーヌ様よりアンリエッタ姫がふさぎ込んでいると聞きました。

何か私に出来る事は無いでしょうか?

アンリエッタ姫の気分転換の為に、幾つか考えが有るのですが……一度、お会いしたいと思っています。

私は暫くはヴァリエール公爵の家に滞在する予定です』

 

 

 ……ツアイツ様。私の事を心配してくれていたのですね。

 

 私は、そんな貴方の気持ちも考えずにウェールズ様に手紙を送ったり。

 ヴァリエール公爵に会いたく無いからと、国政も放り投げて引き籠もっていたりと……なんと情けない姫なのでしょう。

 

 ツアイツ様が、私に会いたいなどと……夢では無いのでしょうか?

 

 私、私は……もはやツアイツ様に縋るしか出来ない、女になってしまいました。

 

「急がなきゃ!アニエス、アニエス隊長!

直ぐにアニエス隊長を呼んで下さい。嗚呼、先ずは何をしたら良いのでしょうか?お風呂?新しい衣装?

お肌を磨かなければ……そうだわ!下着、下着も新調しないと駄目だわ……」

 

 ただ会って話がしたいツアイツに対して、アンリエッタ姫は男女交際のステップを四段飛ばし位で駆け上がって行った!

 双方の思惑が真逆に進む中、アンリエッタ姫との面会はヴァリエール公爵領で催される舞踏会でと決まった。

 コレには単独でアンリエッタ姫に会いたくないツアイツの思惑と、強固に反対したツンデレと天然の姉達の力にもよる。

 

 兎に角、アウェーが嫌だったのだ!

 

 此方のホームなら、何とかなる。そう甘い考えを持っていたツアイツであった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 最近、領地の発展や国内での発言力が急上昇中のヴァリエール公爵。

 彼が催す舞踏会に出る事は、トリステイン王国の貴族達にとって重要な意味を持っていた。

 今回は、あのガリアの姫を誑し込み次期ガリア王が決まっているツアイツ・フォン・ハーナウが滞在している。

 

 是非とも懇意にしておきたい。

 

 しかも、最近ヴァリエール公爵との不仲説が囁かれていたアンリエッタ姫が招かれている。しかも、物凄く楽しみにしているのだ。

 わざわざ衣装から何から何まで、全て新調したらしい……もはやトリステイン王国の姫も、奴に誑し込まれたと思って良いだろう。

 

 遂にゲルマニアの一貴族が、ガリア・アルビオン・トリステインの始祖に連なる王家を攻略した。

 ネクストクィーン2人を誑し込み、ネクストキングは趣味でガッチリと抱え込んだ。

 

 貧巨乳派連合教祖、ツアイツ・フォン・ハーナウのハルケギニア統一は目前。

 

 元々ツアイツの評価が真っ二つに別れていた、トリステイン王国の反ツアイツ派貴族は思っていた。

 親ツアイツ派貴族は自国の姫に呆れたツアイツが、何とか友好関係を回復してくれるのだ。

 

 流石は、オッパイ教祖!

 

 ちゃんと困った姫様の事も、何とかしてくれるんだ。有り難や、有り難や……

 ツアイツにとって、レコン・キスタやロマリアの虚無コンビより怖いアンリエッタ姫と会合が開かれる。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 気合いの入った勝負ドレス!

 

 ユニコーン四頭に引かれた、王家の馬車に乗りアンリエッタ姫は妄想に耽って……はいなかった。

 

 彼女は本能で理解していた!

 

 今日を逃せば、自分の幸せは無い。ツアイツから手紙を貰い、一時期は妄想を爆発させたが……

 それはそれは、銃士隊が深夜迄処理に追われる妄想祭りだった。

 

 しかし気付いてしまった。

 

 何故アルビオン以来、彼がつれないのか……まだ三回しか会ってはいない。学園でルイズと共に、夜に私室に押し掛けた。

 演劇の件でアカデミーに来て貰った。

 

 最後はラグドリアン湖の遊園会で……

 

 彼は私の不始末を完璧に処理してくれた。そして、私の為に尽力してくれたのに……では、何故今回は?

 そうだわ!私はツアイツ様の言う通りに行動し、成功してきました。

 

 しかし、しかしです。

 

 アルビオン王国の件に関しては、私はツアイツ様に止められていた手紙を送り、相談も無しに、国内の腐敗貴族を一掃し、アルビオン王国に援軍も送った。

 でも、どれもこれもツアイツ様の指示なのに私はタイミングを独断でしてしまったの……

 

 だから、だからなのね……

 

 言う事を聞かない私に、愛想を尽かしてしまったのだわ。私の為に色々してくれたのに、肝心の私が独断専行をしてしまったから。

 ツアイツ様のお怒りが解りました……なんて愚かで浅はかな姫なのでしょう。ツアイツ様の言われた事を守れないなんて……

 

「今夜お会いしたら……誠意をもって精一杯謝りましょう。今後は必ず、ツアイツ様のご指示を守ります!」

 

 ※惜しい、アンリエッタ姫!確かに、その部分は重要だ!でも完全服従は、Mっぽい感じがしますよ?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 

 ヴァリエール公爵夫妻とエレオノール様、カトレア様とアンリエッタ姫を出迎える。王族を迎えるのですから、出迎えは当然ですね。

 僕の立ち位置が上座と言うか、ヴァリエール公爵より上になっています……成り立て王族のですから、対応の変化に戸惑います。

 

 因みにアンリエッタ姫の護衛は、グリフォン隊隊長ワルド殿以下複数名がゲルマニアのハーナウ領に行ってしまい定員割れです。

 故に先の腐敗貴族粛正の折に活躍した、ド・ゼッサール隊長率いるマンティコア隊が護衛の任に付いています。

 

「良くいらっしゃいました。アンリエッタ姫。お待ちしておりました」

 

 ユニコーンの馬車から、ド・ゼッサール隊長の手を取りながら降りてくるアンリエッタ姫に話し掛ける。突撃しても止められる様に構えていたが……

 

「ツアイツ様……ご無沙汰しておりますわ。今日は舞踏会へのお招き、有難う御座います」

 

 そう優雅に一礼して、此方を微笑んでいる。アレ?えっと、アーパープリンセスですよね?アホリエッタ姫ですよね?

 

 目の前の少女は、清楚で控え目な落ち着いた感じがしますよ。まさか、影武者か?

 

 僕は彼女の手を取り、屋敷へと招いた。

 

 周りからは、凄い拍手と羨望・嫉妬・賛美・畏敬の念が伝わってきますね。

 隣を歩く少女を見ながら、何か勝手が違う。

 

 不思議な違和感を感じていました……



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新章第17話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第17話

 

 

 トリステイン王国の由緒有る大貴族!ヴァリエール公爵家の催す舞踏会。

 

 それにガリア王国のネクストキングで有り、巷で噂の巨乳派教祖ツアイツ・フォン・ハーナウ!

 そしてトリステイン王国の華、アンリエッタ・ド・トリステインが招かれたとなれば、無駄に豪華だ。

 国内外に、その力を示さねばならないヴァリエール公爵はかなり力を入れている……

 それに長女エレオノール様、次女カトレア様も呼び出されていた。

 

 2人共、気合いの入った出で立ちだ!

 

 僕らのホーム、ヴァリエール領。此処なら暴走特急アンリエッタ姫でも、迎え撃てると思っていたが……どうにも調子が違うんだ。

 彼女は、清楚でお淑やかな美少女を完璧に演じている。

 アホのアの字も無い、まさに完璧な姫君……舞踏会で有り、主賓の僕らには沢山の貴族が群がる。

 その合間を縫って、一曲ダンスにも誘ったのだが……勿論、義理でだ!

 

 誘わないのは失礼に当たるし、不仲説とか問題有るからね。しかし、何時もの暴走特急振りはナリを潜めていた。

 彼女は常に控え目で、一歩引いている。今夜のアンリエッタ姫は、大和撫子と言って差し支えない。

 

 金のティアラに水の指輪、レースをふんだんに使った純白のドレス。肩を大胆に露出しているが、逆に肌の白さと黒髪が引き立っている。

 

 そして原作同様な巨乳だ!

 

 具体的にはB84−W59−H85と原作通りの巨乳に仕上がっている。勿論、僕のオッパイスカウターは正常に稼働しているから間違いない。

 こんな態度が出来るなら、ウェールズ皇太子落とせたんじゃないか?

 彼女は舞踏会の注目を集め捲り、多くの若き貴族達が彼女をダンスに誘っていた。

 僕は彼女と一曲踊ってから、エレオノール様とカトレア様に両脇を固められ、彼女達と何曲も踊らされた……

 その合間を縫って、ド・ゼッサール隊長以下マンティコア隊の隊員からサインや握手を求められ、持参の著書にサインとイラストを書いた。

 カリーヌ様からド・ゼッサール隊長は先の腐敗貴族の捕縛時に、随分活躍したと聞かされた。

 

 なる程、これはその時のお礼の意味も有るのか?新作の漢の浪漫本とプレミアフィギュアを贈る事を約束した。彼らは巨乳派だった事を追記しておく……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 舞踏会も終わり、招待客も殆どが帰って行く……今夜ヴァリエール公爵家に泊まるのは、アンリエッタ姫御一行だけだ。

 僕はこれからアンリエッタ姫を酔い覚ましのお茶会に招待する。

 

 2人切りで、だ……

 

 何故か例の件を説得させるのに、マザリーニ枢機卿が2人切りを強調した。曰わく、本音で話すなら余人は邪魔になると……

 

 しかし、密室で2人切りなど危険過ぎる!

 

 だから僕は、カリーヌ様にこっそり様子を伺ってくれる様に頼んだ。

 最悪、乱入するか僕を魔法で吹き飛ばして有耶無耶にしてくれと……

 

 カリーヌ様は、凄い笑顔で僕の両肩に手を置いて「任せて下さい。貴方が約束を破り、ハグとキス以上の行為に及んだら……迷わすに吹き飛ばしますから」目線を合わせながら、噛み締める様に言われた。

 

「いえ、それは無いです。アンリエッタ姫が暴走したら、彼女は傷付けられないので、僕だけを吹き飛ばして下さい!と、言う意味です」

 

 そう返したら、肩に置かれた手に力を入れて……痛いです、本気で痛いです!

 

「ツアイツ……

貴方、イザベラ姫の時も、そう言ったらしいですね。それは無い、と……しかし、しっかりとイザベラ姫は落としましたね。

普通に考えて、大国の姫を一介の他国の貴族が落とす……そんな離れ業をしておいて?前科持ちなのに信用しろ、と?」

 

 痛い所を突かれた!しかも両肩はもっと痛い。

 

「済みませんでした!善処しますから、肩が砕ける前に放して下さい。本気で痛いです」

 

 漸く力を緩めてから、カリーヌ様は軽く抱き締めてくれた。耳元で……

 

「ツアイツ……もしアンリエッタ姫に、エッチな事をしたら……エレオノールとカトレアの面倒も見て貰いますよ。

別に娶れとか言いません、しかし面倒を見て貰います。分かりますね?この意味は……」

 

 つ、つまりアンリエッタ姫に必要以上の事をしたら、エレオノール様とカトレア様も引き取れ?

 

「いやいやいや?それは無理ですよ!正式にルイズを側室として迎えるのに、その姉達までなんて……」

 

「勘違いしないで下さいね?何も公式に娶れとは言っていません。しかし、あの子達は貴方の近くに居た方が幸せだと思っています。

後は貴方の甲斐性次第です、私の娘達を幸せにして下さいな」

 

 そう言って解放してくれた……今や飛ぶ鳥を落とす勢いのヴァリエール公爵。その娘達の婿が、見付からないなんて事が有るのか?

 どちらも美人だし、娶れば出世も財産も破格なのに……そう言えば、彼女達にダンスを申し込む貴族は居なかったな。

 

 何故、何故なんだトリステイン王国の貴族達よ?

 

 

※終始ツアイツの側にべったりだったし、ツアイツが離れた時にアタックした貴族達は全滅でしたから……

 

 

「あらあら、何でしょうか?ダンスですか……済みませんが、間に合っていますので」

 

「はぁダンス?その前に知性を磨いて来なさい!少なくとも私の質問に答えられる位に……」

 

 メッタぎりであった!累々と並ぶ犠牲者達……この晩、2人に袖にされた貴族は両手では数えられない位だった。

 

 そんな娘達を見て小声で話す貴族達。

 

「ヴァリエール公爵はツアイツ殿に、ガリアの次期王を取り込む為に、娘全員を与えるつもりか?」

 

「トリステイン王国でも最大勢力のヴァリエール公爵派閥に取り入るには娘達を落とすのが早い。しかし、全く相手にされないのは何故だ?」

 

「上手くいけば寵を姉妹で得られて、ガリア王国の後宮での派閥争いに有利だからか?」

 

 とか、色々と酷い言われ様だった。

 

 カリーヌは、娘達がツアイツを好きなのを知っているから、その手助けをしてるだけなのだが……ツアイツは、ハルケギニアを統一する。

 故に、姉妹揃って嫁がせても問題無いと考えて……

 

そして、いよいよ暴走特急アンリエッタ姫との密会が始まる。



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新章第18話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第18話

 

 

 いよいよアンリエッタ姫と2人切りで会う、場所は、ヴァリエール家の応接室だ。

 かなりの広さも有り、調度品も正直高価な品々。

 此処は来客の中でも地位が高いか、ヴァリエール公爵が重要と認めた者しか通さない極めつけの豪華な応接室……

 屋敷の二階に有り、全面にはヴァリエール家自慢の広大な池を見渡せる。

 

 今夜は双子の月が、やけに大きく見える。

 

 せして水面に、その姿を映し出していた……男女の密会としてのロケーションは、バッチリだろう。

 周りには、ボインズ・ナイトとヴァリエール家直属の護衛を配している。

 

 因みに覗きのエキスパートであるジャネットが居た!僕すら気が付かなかったのに、いざ此からって時に、ひょっこりと現れた。

 

「護衛って言うか、発情したアンリエッタ姫がツアイツ様を襲ったら取り押さえろって事ですよね」と言ってから、何処かに消えた!

 

 流石は北花壇騎士団。しかも覗き特化型だ!だからこの部屋の様子を伺えるのは、限られたメンバーだ!

 

 因みに、ド・ゼッサール隊長以下のマンティコア隊は今夜の密会は教えていない。

 

 故に護衛は屋敷の周りをお願いし、臨時の駐屯地には漢の浪漫本を大量に差し入れしてきた。

 彼らは感激して屋敷の周りを警護し、疲れたら漢の浪漫本を読んで英気を養ってくれるだろう。

 お呼びした僕が先に応接室で待機し、メイドさんにアンリエッタ姫を迎えに行って貰っている。

 暫く待つと、ドアがノックされメイドさんに案内されアンリエッタ姫が現れた……

 

 憂いを秘めた表情で、俯き加減にしている。

 

「ツアイツ様……お話が有ると言われたので参りました」

 

 うっ!何だ、この保護欲を掻き立てる様な仕草は……

 

「まっ先ずは、此方に座って下さい」

 

 ソファーを勧めて、メイドさんに紅茶を淹れて貰う。テキパキと紅茶を淹れて、メイドさんが退出……2人切りとなってしまった。

 

「今日はお疲れ様でした。沢山の貴族の若者からダンスを申し込まれてましたね?流石はトリステイン王国の華。凄い人気ですね」

 

 トリステイン王国でのアンリエッタ姫の人気……それはマダマダ健在だ!

 腐敗貴族の一掃から、アルビオン王国への派兵と演説……困った姫様の本性を知っているヴァリエール公爵派閥以外の連中には、彼女は人気が有る。

 

「ツアイツ様……ごめんなさい。私を……許して下さい。貴方の言う事を守らずに、勝手をして困らせてしまった愚かな姫を……」

 

 そう言って、涙を浮かべながら此方を見ている。今にも涙が溢れて……

 

「いっ言え、そんな。僕も怪我を負い祖国に帰っていましたから……アンリエッタ姫の判断は悪くは無かった。

しかし、他の方にも……ヴァリエール公爵やワルド隊長。ド・モンモランシ伯爵やグラモン元帥に相談するべきだったと思いますよ」

 

 暴走する前に、誰かに相談するべきでしたね。

 

 報告・連絡・相談!コレ、大切です。

 

「私が悪かったのは……貴方の言う事を守らないで独走した事。あれだけ私の為に尽力してくれたのに……

最後の最後で、勝手な事をしてしまいました。本当に済みませんでした……」

 

 決壊寸前、目に貯めていた涙が流れ落ちる。見目麗しい女性の涙の破壊力は……彼女は何かに耐える様に涙を流したまま、僕を見続ける。

 

 なっ何か言わないと駄目だ。

 

「もう、謝らないで下さい。済んだ事ですし、結果オーライ……いえ、全ては上手くいきました。

アルビオン王国の反乱は鎮圧し、トリステイン王国の膿も出せた……」

 

 何とか当初の計画通りに纏められた。違うのは、アンリエッタ姫とウェールズ皇太子のラブロマンスが潰れただけ……貴女が貧乏くじを引いてしまったんですよ。

 

「アンリエッタ姫……一つ提案が有ります。トリステイン王国の先行きについてです」

 

 此処で、例の件を話す。

 

「……はい」

 

 泣き止まない……けど儚げに微笑んで、此方を見ている。

 

 くっ……紳士として、泣いている女性を放置出来ない。

 

 僕はアンリエッタ姫の隣に移動して、そっと彼女の涙を指ですくう……そして持っていたハンカチを渡した。

 アンリエッタ姫は、お礼を言ってからハンカチを受け取り……両の目の涙を拭く。

 

「アンリエッタ姫……僕は貴女にトリステイン王立劇場で女優として、僕の脚本の物語を演じて欲しいのです」

 

「……演劇、ですか?」

 

 隣に座った為に、座高の差から見上げる様に僕を見詰めるアンリエッタ姫……何か、何かが僕の中に芽生えていく……何だ?この感情は?

 

「はい。マリアンヌ王妃もアンリエッタ姫も……その、余り国政に興味が薄そうですよね?しかし、今は大変な時期です。

トリステイン王国の未来の為に、二本柱で国を動かそうと考えてました。ヴァリエール公爵を宰相として、国政と貴族の取り纏めをする。

アンリエッタ姫は王立劇場の主演女優となり、民を纏めて行く事に専念して欲しい。

マザリーニ枢機卿は……次のロマリアの教皇と成るべく、動き出します。これは我々も協力します。

今の教皇ヴィットーリオは危険だ。正しき国政を担い、民を纏め、ブリミル教を正常化して行く。

僕の、僕達の次の計画です……アンリエッタ姫?聞いていますか?」

 

 彼女は、トンと頭を僕の胸に付けると「私はツアイツ様の言う事を今度こそは守ります。女優の件も出来るだけ頑張りますわ……」随分と素直だ。

 

「ですから……何でも言うことを聞きますから……どうか……どうか私を嫌いにならないで下さい」

 

 彼女はそう言って、手を僕の胸に添えてきた……今、何て言った?小刻みに震えている彼女。しかも何でも言うこときくと言った……

 

 ヤバい、クラクラって来るよコレは。

 

「僕は……アンリエッタ姫を嫌ってはいませんよ。コレからも……僕達は、ハルケギニアの未来の為に、共に歩んで行くのですから……」

 

 そう言って彼女を軽く抱き締める。ハグはOKの筈だから……僕を見上げた彼女と目が合う……

 

 こっこれが、アンリエッタ姫の夜の顔か。

 

 原作でサイトを落としたヤツだ……僕に縋る美少女、しかもM属性?Sな気持ちがムクムクと芽生えてくるぞ。

 

 心の中で葛藤していると、彼女が目を閉じた……

 



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新章第19話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第19話

 

 

 昼と夜の顔を持つ、困った姫様アンリエッタ……昼の顔しか知らない僕は、彼女を甘く見ていた。

 

 この被虐心と保護欲を掻き立てる、弱々しい態度。何でも言う事をきくと言い、僕を見上げている。

 

 今気付いたのだが、舞踏会のドレス同様に着替えたドレスも肩を大胆に露出している……

 

 つまり、見下ろせばオッパイが……ギリギリ見えそうな……思わず抱き締める手に力を入れようとした時、視界の隅に何か動く物が?

 

 注意を其方に向けると……ジャネットが、凄い笑顔で部屋の隅に立っている。

 アンリエッタ姫の死角に居る彼女は、凄腕の覗き屋さん?

 親指を人差し指と中指の間に差し込む、下品なジェスチャーをしてから右手を上に上げる。

 

 多分、ヤッちまえゴーゴー!と言っているのだろう。

 

 そして、ベランダを指差す。何気なく其方を見ると、窓の外に浮かぶ三人の女性が見えた……思わず手に力が入り、キス待ちだったアンリエッタ姫を僕の胸に掻き抱いてしまった。

 

「あっ、ツアイツ様……」とか、艶っぽく呟きながら身じろぎをしている彼女……

 

 確かに、ジャネットが気を逸らしてくれなければヤバかった。僕は、フライで浮いているカリーヌ様を見る。

 額に井形を浮かべているが、辛うじて許容範囲内なのだろう。

 

 口をパクパクして、何かを伝えている。多分だが「早くヤル事ヤッて、言質を取れ!」だと思う。

 

 既にアンリエッタ姫からは、無条件の協力を……僕の言う事を何でもきくと言われている。

 だから、後一押し……甘い言葉を囁いてキスすれば完璧だった。ただキスなんかしたら、最後まで突っ走りそうだった!

 気を逸らせたジャネットの功績は大きい。

 

 次に、右隣に居るエレオノール様を見る。

 嗚呼、かなりお怒りだ……能面の様な表情で僕を見詰めている。目が合うと、無理やり感が漂う笑顔を僕に向けて……目がね、全然笑って無いんだ。

 

 そして、何かジェスチャーを……何だろう?何かを掴んで……力一杯、モギル?エエッ?何かって、ナニをモギルんですか?

 

 思わず目を逸らすと、左側に浮いているカトレア様と目が合った。

 此方は……何時ものポヤポヤとした笑顔だ。但し、背中に何かどす黒い物が渦巻いて見える気がします。ははは、幻覚かな?

 

 彼女も、何かジェスチャーを……何だろう?何かを捧げ持って……力一杯、握り潰す?

 エエッ?何かって、ナニを握り潰すんですか……タマですか?

 

 血の気が、滝の様に音を立てて引いて行くのが分かる……エレオノール様とカトレア様が、何の間違いか僕に好意を抱いてくれてるのかな?って漠然と思っていた。

 

 そんな彼女達に、彼女達の実家で他の女を口説いて?いれば怒るのは当たり前田のクラッカー?本気で僕の去勢を考えてませんか……

 アンリエッタ姫と、これ以上のスキンシップは僕のオスとしての機能に多大なダメージを与えられそうだ!

 

 だが、アンリエッタ姫には、駄目押しをしておかなければ……ずっと僕の胸の中で、大人しくしている。

 昼の顔の彼女なら、此処で暴走して自爆だろう!

 しかし夜の顔の彼女は、大人しくされるがままだ……彼女の耳元で囁く。

 

「アンリエッタ姫……僕は貴女を嫌いになりませんよ。僕は貴女の為に脚本を書き続けます。貴女だけの為に……」

 

 そう言って、彼女のオデコにキスをして、もう一度強く抱き締める……

 

「嗚呼……ツアイツ様……嬉しい……」とか、小声で囁く姫様。

 

 僕の視線の先には、ヤレヤレだぜ!のポーズをするジャネットが居る。彼女は本当に神出鬼没だ……

 少し首を動かし、窓の方を見るとカリーヌ様が、右手の親指と人差し指で丸を作っている

 

 ああ、これでOKなんですね?

 

 エレオノール様は、人差し指をクィックイッと曲げているから、後で来て頂戴?

 カトレア様は……自分の唇を指差してますが?自分も、ですか?

 

 確かに何か有るとヤバいから、見張っている様に頼みました。だから、夜のアンリエッタ姫に対抗出来たんだ。

 しおらしい彼女をそっと立たせて、もう一度ハグしてからメイドさんを呼んで部屋に返した。

 

「疲れた……本当に疲れた……ジャネット、有難う。夜のアンリエッタ姫は手強い。アレは昼の困ったチャンだとは思えない……ナニかが色々ヤバかった」

 

 ソファーに崩れる様に座り込んで、深く息を吐き出す。

 

「はーぁ、疲れた……」

 

 本当に、昼も夜も問題を抱える姫様だ……

 

「ツアイツ様、お疲れ様でした。しかし、凄い変わり様でしたね。アレは本当に、昼はアーパー夜は娼婦みたいです。ああ、どっちも誉め言葉じゃないですね」

 

 ジャネットが紅茶を淹れ替えてくれる。差し出すカップを受け取り、一息で飲み干した……

 ベランダの窓を開けて、覗きを終えた公爵夫人と、その御令嬢達が声を掛けながら入ってくる。

 

「義息子よ……先ずは誉めておきます。良くヤリましたね」

 

「ツアイツ……話は聞いていたケド。ナニか妖しい雰囲気でしたね?本当に、ナニかを始めそうで……思わずナニかをモギりたくなりました」

 

 未だに能面の様な表情で、ナニかをモギるを強調するエレオノール様……視線を腰回りに感じるのは何故ですか?

 

「ツアイツ君?アンリエッタ姫に、エッチな事をしそうだったのかしら?私もナニかを握り潰したくなったわ。うふふふふ……我慢出来なくなったら、私に言ってね」

 

 くっ黒い、真っ黒です。

 

「いえ……これでアンリエッタ姫を国政から離し、女優業に専念させる事が出来ます。

トリステイン王国の未来は見えた。後はロマリアと教皇ヴィットーリオですね……」

 

 長い夜の戦いは終わった。1人切りの孤独な、しかしギャラリーは多かった戦いが……

 

「取り敢えず、今夜はゆっくりと休みなさい。部屋の外に護衛を配しておきますから……」

 

 そう言って、2人の娘を連れて出て行くカリーヌ様に、少しだけ感謝した。

 寝室に護衛を配してくれるって事は、夜這い対策をしてくれたって事ですよね?兎に角、今夜はグッスリと寝よう。

 

 流石は原作で、三美姫とか何とか言われる事は有るな……正直、あのままはヤバかった。

 

 これでトリステイン王国の仕込みは完了!

 

 明日にでも、細かい打合せと対ヴィットーリオ用の会報の準備。それと、アンリエッタ姫に献上する脚本を書く……

 

 忙しくなるぞ。

 

 でも先ずはクルデンホルフ大公国で、ベアトリスちゃんの凱旋ライブの準備だ。これに成功すれば、ロマリア包囲網が完成する!

 遂にエロでハルケギニア統一まで、あと一歩だ!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 それから半月後、クルデンホルフ大公国でベアトリス姫殿下の凱旋ライブが大々的に成功する……

 クルデンホルフ大公も、公的にツアイツの漢の浪漫本ファンクラブに参加を表明!

 

 ベアトリスちゃんもイザベラ姫の妹分として、正式にデビューした!

 

 その夜の晩餐会で、ツアイツは襲撃を受ける。暴走した、「男の娘」であるジュリオによって……

 

 遂に正面から、互いの性癖を賭けて勝負にでる!

 

 ホモかエロか?ハルケギニア6000年の歴史で初めてだろう、性癖による争いは最終局面を向かえた。

 



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新章第20話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第20話

 

 

『通達……

帝政ゲルマニア貴族、ツアイツ・フォン・ハーナウをブリミル教、教皇ヴィットーリオの名により異端認定とする。

罪状は、漢の浪漫本ファンクラブなる堕落を促す教団を興し、数々の禁書を発行した事。

それを用いて、数々の敬虔なブリミル教徒をその卑猥で下劣な内容の禁書を用いて洗脳・堕落させ続けたる事。

 

フィギュアなる物を作成せし罪。

 

これは偶像崇拝を禁止するブリミル教に違反している。

アイドルなる名の女性を言葉巧みに利用し、善良な民衆を卑猥な教義に洗脳させし事。

これは始祖ブリミル以外を信仰の対象と企んだ事。これらを総合すると、始祖ブリミルを冒涜している事は明らかである!

故に、異端認定をし早急な引き渡しを要求する。

 

ロマリア連合皇国、聖エイジス32世・教皇ヴィットーリオ』

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 これをガリア王国・帝政ゲルマニア・トリステイン王国そしてクルデンホルフ大公国に公式文書として送った。

 そして各国のブリミル教の教会へも送り、各教会の責任者は、これを信徒達に公布した……

 ツアイツ・フォン・ハーナウの名前は、ハルケギニア中に広まった!

 此処までブリミル教から、ロマリアから名指しで敵対された男は居ない。

 もしもトリステイン魔法学院入学前に、この通達が公布されたなら……ツアイツの命は無かっただろう。

 この通達に対し、各国のトップの対応は様々だった。

 

 

 

 先ずは、ツアイツが所属する帝政ゲルマニアだが……

 

 ロマリアに対しては、完全な沈黙を守った。そして国内のブリミル教の教会に対して、我が国には異端認定をされる貴族は居ない。

 故に、引き渡しには応じかねる。もし強硬するならば、武力を持って応じる!

 

 

 

 トリステイン王国は、宰相であるヴァリエール公爵が……

 

 ロマリアの教皇ヴィットーリオを正当なブリミル教徒とは認めない。我々は、正当な教皇にマザリーニ枢機卿を推す。

 故に、この通達には従えない。

 そして国内のブリミル教の教会に所属する神官達に、どちら側に着くか迫り、現教皇に着く者・不正が発覚した者は追放した。

 

 

 

 アルビオン王国……

 

 ジェームズ一世とウェールズ皇太子が公式にコメントを発表した。

 

「ツアイツ殿は救国の英雄。我ら新生アルビオン王国は、ツアイツ殿を全面支援する!

我々はブリミル教の司教が起こした反乱を忘れていない!

その恩人に対して異端認定をするならば……相応の報復をさせて頂こう!」

 

「我が心の友を異端と評するならば……ホモを押し付ける貴様こそが、ハルケギニア全土の敵と私は認定する!

もはや言葉は要らぬで有ろう。我らが教祖と共に、アルビオンは戦うまでだ」

 

 多少、逝ってしまったコメントを頂いた。

 

 

 

 ガリア王国……

 

 ジョゼフ王、シェフィールド王妃のコメントが発表される。

 

「腐れホモ野郎を駆逐する。俺はホモ野郎の存在を許さない。敵対するなら受けて立たとう」

 

「私のツアイツに……大切な義弟にチョッカイかけるなら、ロマリアと言う国を地図から無くすから」

 

 と、宣戦布告とも取れるコメントだった。因みに国内に、既にブリミル教の教会は無い。

 建物は全て取り壊し、神官は強制退去。ロマリアからの移民に協力した神官のみ、ツアイツの庇護の下、滞在を許されている……

 

 

 

 クルデンホルフ大公国……

 

 ベアトリス姫殿下よりのお言葉を頂いた。

 

「私はクルデンホルフのアイドル・ベアトリスですわ!お兄様に対して失礼な腐れホモ野郎は、話し掛けないで下さい。気持ち悪いので……」

 

 ライブ会場で、ファンを前に、こう言って会場を盛り上げた。

 

 

 

 最後に、当の本人で有るツアイツ・フォン・ハーナウは、自身の発行する「変態と言う名の紳士達・漢の浪漫本ファンクラブ臨時会報」で、こうコメントをし現教皇ヴィットーリオの悪行を非難した……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 漢の浪漫本ファンクラブ・臨時会報

 

 漢の浪漫本ファンクラブ会員の皆様へ

 

 私、ツアイツ・フォン・ハーナウはブリミル教の教皇ヴィットーリオより、名指しで異端認定をされた。

 何故、彼が僕を目の敵にするのか?それは僕が、彼の望む本を書かなかったからだ。

 

 彼の望む究極のおホモ達な世界……ヴィットーリオは、自分の趣味で有る不純同性交遊の記録をブリミル教の聖典とする為に依頼して来た。

 

「教皇ヴィットーリオのドキドキ聖歌隊in男の娘201人!うはうはハーレム☆パラダイス」

 

 彼自身が書いて寄越したプロットだ。これは、始祖ブリミルを敬う為の聖歌隊を……

 彼のホモな性癖を満足させる為だけの「男の娘」の集団に作り変えた事をまとめた実話だったのだ。

 僕に諸兄ら「漢の浪漫本ファンクラブの会員達」にホモを強制的に押し付ける為の聖典を書かせる事!

 

 そんな爛れた物を僕が書く訳が無い。フザケルナ、こんな物は書けないと断った。

 

 非生産的で不毛な不純同性交遊を諸兄らに押し付ける為の本など、僕が書ける訳が無いのだ!

 彼の思想では、女性はただ単に「男の娘」を生む為に存在する物になり果てていた。

 しかも彼は重度の幼児趣味も有り、20歳を過ぎた「男の娘」には興味を無くし、放置するそうだ。

 

 何て非道で異常な男なのだろうか!僕らの教義では、女性は敬う物だ!

 

 諸兄らと共に歩み育ててきた、我らが教義。己の性癖を正しく理解し、謳歌する。

 しかし女性や社会に対しては、優しい教義なのだ。

 

 フィギュアとは!

 

 素晴らしき女神達を……その姿をフィギュアとして、永遠に留める為の物だ。

 

 アイドルとは!

 

 正に今が旬の美女・美少女を共に愛でて、明日への活力と英気を養う為の物だ。

 貴族・平民を問わず、全ての素晴らしき乳を持つ女性に優しい我らが教義!

 

 ハルケギニア全土の、漢の浪漫本ファンクラブ会員の諸兄よ!

 

 ヴィットーリオを何とかしなければ、腐れホモ野郎ばかりの恐るべき世界となってしまうだろう。

 今こそ立ち上がろう!共にブリミル教の教皇をかたる、ヴィットーリオを倒すのだ!

 

 オッパイを愛する全ての紳士達よ。僕に力をかして欲しい!

 

 ホモを駆逐し、このハルケギニア全土に平和を!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 因みに会報の隅に、トリステイン王国に滞在するマザリーニ枢機卿からの談話が載っていた……

 小さなコーナーだったが、この記事がマザリーニ枢機卿を次期教皇へと押し上げる最大の力になるのだった。

 

 



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新章第21話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第21話

 

 

 漢の浪漫本ファンクラブ・臨時会報に載った小さな記事。これは、会員達にマザリーニ枢機卿の考え方(と性癖)を正しく広める事となる。

 

 鳥の骨・鶏ガラ・トリステインを狙うロマリアの枢機卿……

 

 様々な陰口を叩かれていた、決して人気が有る訳ではない苦労人マザリーニ枢機卿。

 しかし彼は、漢の浪漫本ファンクラブ会員からの一定の支持を受ける。

 

 彼の思想(と趣味)が、正しく理解されたから……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 私、マザリーニはツアイツ殿と対談する機会を得た。

 

 私は澱み行くブリミル教の末路について、今はハルケギニアで最大の顧客を持つ貧巨乳派教祖の考えを知りたかったのだ。彼は対談の中で

 

「素晴らしき漢達が集う、我らが漢の浪漫本ファンクラブには国家間の垣根も上下関係も無い。あまつさえ貴族・平民と言う身分も関係無いのです。

乳と言う偉大な物の前には、そんな物はちっぽけな事でしかないんです。我らは同士で有り、兄弟で有り、仲間なのです」

 

 そう、言ったのだ。私は衝撃を受けた……そして信じられなかった。

 彼の立場は、巨大な権力者その物なのだ!彼が嘘を言ってないか、私は調べてみた。

 確かに数多の信者を擁する最大教義の教祖なのに、彼は既存のブリミル教関係者の様に権力を望んで居ない。

 

 何故だ?理由は簡単だった。

 

「趣味を共にする友なんです。だから上下関係など不要だし、もし上下関係が有るならば……それは友では無いですよ」

 

 嗚呼、嘗てブリミル教は権威ある宗教だった。信仰の下に平等。権威と権力は違う……

 

 我らは権力を求めたから、澱み衰退しているのだ。それを、この年若い青年に教わるとは……

 私はブリミル教の何たるか、宗教の根幹を見誤っていたのだ。

 

 彼は言った。

 

「僕達はブリミル教と共存出来ますよ。対立する意味も無い。性癖など誰もが持つ、当たり前の感情。そこに宗教感など有りませんから……

だからこそ、6000年も信仰され続けたブリミル教徒達にも受け入れられた。違いますか?」

 

 そう聞き返されて言葉に詰まってしまった……。

 

 教皇ヴィットーリオが彼を異端・異端と騒いでいる事が、滑稽に思えてならなかった。彼は自分の権力が失われるのを恐怖しているのだ。

 ヴィットーリオがロマリアのトップで有る事は、ブリミル教にとって害悪でしかない。

 私は、正しきブリミル教の為に立ち上がる事にした。

 過去の権威ある正しきブリミル教に戻し、ツアイツ殿の言う共存をする為に……対談は此処で終わっていた。

 

 此処までならば……「ああ、そうなんだ。大変だね、頑張れ!」で、終わっていただろう。

 

 しかし、立ち会っていたヴァリエール公爵の一寸お茶目心なコメントを読んで、皆が(彼の本音を)理解した。

 

「マザリーニ枢機卿は対談の後で、我らが教義を理解する為に何冊かの漢の浪漫本を求めた。そして彼も、立派な漢で有る事が分かったのだ。

何故ならば、マザリーニ枢機卿は、躊躇しながらもシスター物を一択で要求したのだ。目を合わせない様にしながら、しかし何の迷いも無かった。

彼も立派な変態紳士なのだ!ただ、少し恥ずかしがり屋なだけだったのだ……」

 

 何だ、仲間じゃないか。

 

 確かに修道女が大好きなら、ホモとは本気で敵対するよね。ならば我らも力になろう。元々は人気の無かったマザリーニ枢機卿だった。

 しかし仲間意識が高い漢の浪漫本ファンクラブ会員にとって、彼も立派な紳士と認めた事により協力をしようと思ったのだ。

 

「へー現役の枢機卿が、修道女が大好物なんだ?」

 

「なる程、確かに合理的だよね。自分の協会で働く女性達が好きなんだ。だから秘密にしてるのか」

 

「バレたから大変だ。マザリーニ枢機卿のエッチ!とか言われてるぜ」

 

「マザリーニさんも好き者だねえ……でも良い趣味してるよ。僕も修道女は大好きさ。背徳感を醸し出す所とかさ……清楚で良いよね」

 

 何時の時代も、趣味友達の結束力は強い。彼も立派な変態と言う紳士として認められたのだ。

 本人は、それを嬉しいと思うかは別問題だが……

 この会報の後、余り話をした事も無い一部の貴族達から、フレンドリーに話し掛けられたりするらしい。

 

 しかも、修道女物語とかを手渡されて、肩をポンポンと叩かれ

 

「分かってるって!大変だよな、立場上さ。でも良い趣味だよ。まぁコレはやるから、もっと素直になれって」

 

 俺達は分かってるんだぞ的に、色々くれるらしい。しかもタメ語だったりする。

 

 因みにブリミル教のシスター達からは「マザリーニ様って……そうなんだ、意外だったわ」

 

「私達を見てから、ブリミル様に祈り出すのって……まさか我慢の限界が近いのかしら?」

 

「厳格な感じだったのに……何かしら?親しみ易い一面も有るのね。ふふふっ、マザリーニ様が、ねぇ?」

 

 彼女達には、概ね好評だった。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 トリステイン王宮の一室で、マザリーニ枢機卿は頭を抱えていた……最近の彼を取り巻く環境の激変に、戸惑いを隠せなかった。

 

「何だ?何なんだ?何故、私が修道女が大好物のムッツリ枢機卿になっているんだ?しかも、躊躇無く話し掛けてくる連中は何だ?」

 

 その執務室の机の上には、同好の士を名乗る連中からの贈り物が山済みだ!

 

 断っても、断っても

 

「良いって、良いって……分かってるから!大変なんだろ?流石に現役枢機卿じゃ、この手の趣味は隠したいよな。また新作を探してくるから、楽しみにしてろって」

 

 とか、私はロマリアの枢機卿だぞ!

 

 今までトリステイン王国の宰相として、国を纏めていたんだぞ!それが……そう言って、漢の浪漫本が沢山並んでいる机に座り頭を抱えている。

 周りから見れば、エロ本の吟味に余念が無い変態としか思えない。彼の修道女好きは、本人の知らぬ間に事実として広まっていった……

 

「男の娘大好きホモ教皇ヴィットーリオVS修道女大好きムッツリ枢機卿マザリーニ!」

 

 誰もがマザリーニ枢機卿の勝利を望んでいた……

 

 そして、この後に対ロマリア計画を練る為にツアイツとヴァリエール公爵、ド・モンモランシ伯爵やグラモン元帥を交えての会議が有る。

 ツアイツはマザリーニ枢機卿の為に、とんでも無い贈り物を計画していた……

 



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新章第22話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第22話

 

 対ロマリア会議……

 

 トリステイン王国の事実上トップとして、宰相の地位に就いたヴァリエール公爵。

 

 軍事部門のトップ、グラモン元帥。有利貴族のド・モンモランシ伯爵。

 

 それに今一番トリステイン王国で旬の人、マザリーニ枢機卿……そしてオッパイ教祖の、ツアイツ・フォン・ハーナウ!

 彼らが一同に会し、ロマリア対策を話し合う席が設けられた。

 

「ヴィットーリオの布告……各国共に相手にしていない。異端認定か。笑わせるな、自身が異端のホモなのに……」

 

「しかし、布告を利用し反ツアイツ派の神官連中をロマリアに強制退去させたのはデカいな。これで国内の不穏分子が減ったな」

 

「何の問題も無く、新教皇マザリーニ殿の誕生も秒読み段階だな。おめでとう、マザリーニ枢機卿よ」

 

 トリステイン王国のトップ3の報告と、新教皇就任への道が開けた事を受けて……マザリーニ枢機卿も、喜びを?

 

「問題?問題だよ、コレは……私が修道女大好きのムッツリ枢機卿とか言われいるのをご存知か?誰のせいだと思ってるんだ?」

 

 バンバンと机を叩いて吼えるマザリーニ枢機卿。

 

 ヴァリエール公爵のお茶目心のせいかな?でも、そのお陰で王宮の貴族達と円滑な関係を築けましたよね?

 

「あれ?違うんですか?てっきり修道女が大好物だと聞いていたので……マザリーニ枢機卿にプレゼントを用意してきたんですが……」

 

 それはそれは、飛びっきりのプレゼントを……

 

「何だ、ツアイツ殿!私はムッツリでもエロでも無いのだ。純粋にブリミル教の明日を思ってだな……」

 

 額に血管を浮き上がらせて、怒り心頭なご様子……

 

「ツアイツ殿、何ですか?そのプレゼントとは?まさか漢の浪漫本の新作ですかな?修道女物の?」

 

 プレゼントに食い付く、グラモン元帥……流石は、トリステインで色と言えばグラモンですね。

 

「いえ……新刊では無くて。まぁ見て貰うのが一番かな?入って来て下さい」

 

 ツアイツが声を掛けると隣の部屋と続いているドアが開き、純白の修道女服を着た美少女達が入って来た。

 ブリミル教の修道女の服装は、黒か灰色で全体的に体のラインを隠す様な野暮ったいデザインだった。

 

 しかし彼女達の着ている服は、白を基調とし丈の短めなスカートだ。

 

 襟元や袖口に金糸で百合の刺繍をあしらった控え目な装飾。編み上げのブーツも、ポイントが高い!

 しかしブーケは着けては居なかった。顔や髪型が見えなくなるのがマイナスだから……

 

 かなり気合いの入ったデザインになっている。彼女達はクルッと回ってポーズをとる。

 すると短めなスカートが捲れ上がり、ガーターベルトで留めたオーバーニーソックスがチラリと……

 

「「「おぅ!素晴らしいではないか!」」」

 

 トップ3は歓声を上げ「なっなななな、何と破廉恥な!つつつ、ツアイツ殿?彼女達は、何なんですか?」マザリーニ枢機卿は動揺し捲りの不審者だ!

 

「彼女達はマザリーニ枢機卿が唱える、新しきブリミル教の修道女さん達です。

ヴィットーリオが、男の娘聖歌隊201人で対抗するならマザリーニ枢機卿の為に、美少女聖歌隊201人を用意しました!」

 

 彼女達は、僕達の側に残ってくれた敬虔なブリミル教の修道女達の中から、僕が選抜した美少女聖歌隊だ。

 元々ヴィットーリオは、女性達に冷たかった……まぁホモだから、仕方ないけどね。

 そんな冷遇されても信仰心の厚い彼女達に、正しきブリミル教の為にと声を掛けて結成したのが、マザリーニ聖歌隊だ!

 

「彼女達は、マザリーニ聖歌隊です。ヴィットーリオに対抗する力強い仲間達ですよ!」

 

「「「「「マザリーニ様、宜しくお願い致します」」」」」

 

 元々、清貧で信仰心が厚く礼儀正しいお嬢様達です。彼女達なら、ヴィットーリオの率いる「男の娘」にも対抗出来るだろう。

 奴らも、悔しいが見た目は美少女の集団だ!ならば、此方は本物の美少女で対抗する迄だ!

 

「ツアイツ殿!まさか彼女達をマザリーニ枢機卿に預けるのか?危険だぞ!コイツはムッツリ枢機卿だ。彼女達の貞操の危機だ」

 

「そうだぞ!いきなりハーレム201人だと?納得出来ないぞ」

 

「こんな美少女達を狼の元に送るような物だ!危険過ぎるぞ。ここは私達が……」

 

 こらこら、落ち着いて下さい。何を口走ってるんですか?良いオヤジ達が!

 

「彼女達は、敬虔なブリミル教の修道女さん達です。そう言う扱いでは有りません。あくまでも、腐れホモ軍団に対抗する為に……

正しきブリミル教の為に参加してくれたのです。分かりますね?彼女達に、何かしたら奥様方に報告します。

有る事、無い事、色々ね……では、マザリーニ枢機卿。彼女達の面倒をお願い致します」

 

 そう言って、彼女達の面倒をマザリーニ枢機卿に押し付ける。

 

「「「「「宜しくお願い致します!」」」」」

 

 声と動作を揃えてお辞儀をする美少女修道女さん!完璧です。

 基本的には、マザリーニ枢機卿に丸投げではなく我々もフォローしますけどね。

 

「あとダングルテール地方に、新しきブリミル教の神殿を建設しています。基本的に彼女達は、其処で働いて貰いますから……

過去に新教徒達が無念に散った場所。だからこそマザリーニ枢機卿が興す、新しきブリミル教の総本山にして欲しいのです。

彼らの無念も晴らして下さい」

 

 新教徒と聞いて、一瞬表情を曇らすマザリーニ枢機卿……やはりダングルテールの悲劇の、真実を知っていたのか?

 

「ダングルテール……新教徒狩り……かの地は、私には辛い場所だが……いや、だからこそ必要なのだな。

分かった、ツアイツ殿!新生ブリミル教の総本山はダングルテールにしよう」

 

 これで新しい総本山は決まった!

 

 そして、今のロマリア連合皇国は解体しようと思うんだ。宗教に国土は要らない筈だから……なまじ国土なんか持つから、権力を欲しがるんだよ。

 本来なら各国に拠点が有れば良い筈だしね……

 

 忘れていた。

 

 アニエス隊長にも、一言入れておこう。この世界の彼女は、レズでお姉様大好きな変な娘だけどさ。

 確かダングルテールの生き残りで、復讐を企んでいる筈だから……

 

 

 

 



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新章第23話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第23話

 

 

 銃士隊隊長アニエス・ド・シュヴァリエ・ミラン。

 

 ダングルテール出身で、彼女自身も新教徒の筈だ。ヴィットーリアとコルベールのお陰で生き延びた……23歳のレズなSだ。

 原作では復讐心に凝り固まっていたが、リッシュモンは既に腐敗貴族として処刑されたし、トリステイン魔法学院が襲撃されるイベントが無くなったから……

 コルベール先生との接点は無くなった。白炎のメンヌヴィルは、ラウラさんとして僕の家で働いてるから……

 

 僕が教えなければ、分からないだろう。そんな彼女だが、今は余り復讐心が無い様な気がします。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「アンリエッタ姫!マザリーニ枢機卿が、次期教皇を名乗っているそうですが?

あの変態が美少女修道女達を聖歌隊に仕立て上げて、マザリーニ聖歌隊とか、ふざけた名前を付けたとか!今城下町は凄い噂になってます」

 

 アンリエッタ姫の執務室に飛び込んできたアニエスは、礼節もそこそこに質問責めにする。

 アンリエッタ姫は書類にサインする手を止めて、アニエス隊長を見る。

 鼻息荒く肩を上下にしながら、目を血走らせているアニエス隊長にドン引きだ!

 

「……アニエス隊長。ツアイツ様の事を悪く言う事は許しませんよ。

マザリーニ枢機卿は、今まで宰相の代わりを勤めてくれていましたが、ブリミル教の為に立ち上がりました。

現教皇ヴィットーリオは、201人の「男の娘」なる女装美少年達を聖歌隊として囲っているそうです。

対抗するには、此方も聖歌隊が必要ではないですか!」

 

 最近落ち着いてきたアンリエッタ姫に諭されて、少しだけ冷静になれた……

 

「すみませんでした、アンリエッタ姫。確かに理由は分かります。201人もの美少女を用立てる事が出来るのか……あの変態を見直さなければならないな」

 

 何やら逝ってしまった表情で、両手をワキワキと動かしている……その顔は恍惚として、少し涎が垂れている。

 アンリエッタ姫は、そんなアニエス隊長を放って置いて仕事に戻る。

 

 室内には妄想に浸る女隊長と、カリカリと言うペンの音が響いていた……

 

 10分後……「はっ?ツアイツめ、巧妙な罠を……」涎を手で拭いながら、妄想を完結させて正気に戻る。

 

 正気に戻ったアニエス隊長を確認してから、アンリエッタ姫は話の続きをする。

 

「トリステイン王国は、マザリーニ枢機卿を後押しします。新しき、新生ブリミル教の神殿をダングルテールに建設してます。

マザリーニ聖歌隊は、ツアイツ様がバックアップしてハルケギニア各地で活動しますよ」

 

 ダングルテールの名前に、思わず反応する!

 

「なっ!ダングルテールですか?何故、今更あの地で……」

 

 急に怖い顔になったアニエス隊長を訝しみながら

 

「私も昔の事なので詳細は知りませんが……ダングルテールでは、過去に疫病と偽り新教徒達を虐殺した事が有る……らしいのです。

故に、かの地に神殿を築き、過去の惨劇を繰り返さない様にするそうです。

彼らの魂の鎮魂の為だそうです……詳細はマザリーニ枢機卿か、ツアイツ様に聞いて下さい」

 

 目を伏せながら淡々と話すアンリエッタ姫。知らぬ事とは言え、自国でそんな悲劇が有った事が我慢出来ないのだろう……

 

「何故?奴が……新教徒狩りを知っているんだ……まさか関係して……る訳が無いな。

奴が生まれるか、生まれてないかの昔の話だ……今更……贖罪など……」

 

 頭の中がグルグルになったアニエス隊長は、アンリエッタ姫に一礼して退出する。忘れた訳ではない、ダングルテールの悲劇。

 

「お母さん、村の皆……ヴィットーリアさん……」

 

 あの惨劇の真相を奴とマザリーニ枢機卿が知っている?何故なんだ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 マザリーニ枢機卿は、精力的にトリステイン王国各地を廻っていた。

 

 演説の為に……澱み腐敗したブリミル教を本来の正しき在り方に戻す為に、各地のブリミル教の協会に赴いている。

 

 一寸前までは嫌われ者だった彼だ!

 

 しかし、とある理由からか教会の有る領主の元に演説の許可を貰いに行くと喜んで了承してくれた。しかも領主の館に滞在まで勧められる。

 勿論、同行する彼女達も含めてだ……マザリーニ聖歌隊。

 

 今迄に類を見ない大量の美少女聖歌隊だ!残念ながら、イザベラ達原作組程の突出した美少女は居ない……それなりの娘さん達だ。

 賛美歌も、お世辞にも上手とは言えない。しかし正しきブリミル教の布教の為に努力する、そんな前向きな彼女達は確かに輝いていた……

 

 先ずはマザリーニ枢機卿が演説をする。まぁまぁな評価だろう。

 

 皆それなりに聞き入り、質問等も投げ掛けている。マザリーニ枢機卿は、それらに丁寧に応えている。

 彼は自(?)他共に認める、漢の浪漫本ファンクラブ会員。しかも、美女・美少女の為にホモと戦っている漢だ!

 

 皆なが、マザリーニ枢機卿が次期教皇になるのを望んでいるのだ!

 

 マザリーニ枢機卿の演説の後は、いよいよマザリーニ聖歌隊の出番だ!

 

 賛美歌を歌い、現教皇ヴィットーリオがホモで有り彼女達を冷遇していた事を切々と訴えて廻った。

 見目麗しい美少女達を冷遇するホモ野郎ヴィットーリオの人気は、ストップ安まで行き着いてしまう。

 少なくとも、トリステイン王国内でヴィットーリオに味方する者は居ない。

 こうしてマザリーニ枢機卿(とマザリーニ聖歌隊)のトリステイン王内の演説会は、大成功の内に終わったのだった……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 トリステイン国内での活動を終えて、久々に王都トリスタニアに帰ってきた。国内の足場固めは終わった。

 これからはトリステイン王国以外の国々を周り、最終的にはロマリアに侵攻する予定だ!

 

「大成功だな、マザリーニ枢機卿よ。良かったな!修道女大好きマザリーニ様は、各地で大絶賛だとか」

 

「全くだ!彼女達に、マザリーニ様とか呼ばれおって……貴様、何様のつもりだ?ああ?」

 

「美少女201人は絶景かな、絶景かな!全くツアイツ殿の考えには、何時も驚いてばかりだ……」

 

 トリステイン王国トップ3から、様々な世辞?を貰うマザリーニ枢機卿……彼は今、トリステイン国内で……いやハルケギニア全土で一番の有名人だ!

 

「好き勝手言ってくれるな……私は別にシスターが好きではないのだぞ!それを……」

 

 何やらブツブツと言い方始めた。更に痩せこけて、本当に鶏ガラみたいになっている……しかし、美少女201を侍らす彼には誰も同情してくれなかった。

 まぁ当たり前ですよね?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 マザリーニ聖歌隊……ハルケギニア各地から、公演の依頼が殺到している。ガリア王国こそ依頼は無かった。

 現国王ジョゼフが、余りブリミル教を良く思っていないから……

 

 しかし次期国王のツアイツは協力的に動いているから、何の問題も無い!

 

 アルビオン王国と帝政ゲルマニアからは国のトップから申し込みが有った……この二国はマザリーニ枢機卿の唱える新生ブリミル教を望んでいる。

 

 新生ブリミル教の発足は秒読みだ!

 

 本家ロマリア以外の始祖の血を引く三王家と、帝政ゲルマニア・クルデンホルフ大公国が味方に付いたのだから……

 ブリミル教6000の歴史の中で、初の修道女大好き教皇が誕生するのは間違い無いだろう!

 

 



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新章第24話

謀略教皇VS謀略教祖!趣味と趣味の闘い・第24話

 

 

 始祖ブリミルが降臨してから6000年……

 

 始祖の血を引く子孫の三王家よりも、弟子であるフォルサテのブリミル教の教皇の方が立場が上と言われてきた。

 そしてロマリア連合皇国、最後の教皇。聖エイジス32世・教皇ヴィットーリオが就任した。

 

 但し、このヴィットーリオ!歴代の教皇など及びもよらぬ変態だった。

 

 「男の娘」なる美少年女装軍団を聖歌隊として侍らす、ホモだったのだ!

 

 確かに過去の教皇にも、少年が大好きと言う奴も居た事は居た。それに文句を言える者が居なかっただけだ。

 しかし異端児ヴィットーリオの生まれた時代に、もう1人の異端児が生まれたのだった……

 

 ツアイツ・フォン・ハーナウ、現代日本からの転生者。

 

 中世ヨーロッパに近い時代で停滞しているハルケギニアに、日本のサブカルチャーを持ち込んだエロのオタクだ!

 彼の現代知識や、数々の名作のオマージュやらリスペクトやらパクリやら……

 兎に角、現代のイケない文化を純真無垢なハルケギニアに広めてしまった。

 オッパイ大好き、美女・美少女大好きのツアイツ君は、現代では苦手だった「男の娘」を布教するホモ教皇ヴィットーリオとは、相容れ無い相手。

 

 それは向こうも同様なのだが……そして遂に、女好き・男好きの性癖を!

 

 趣味と趣味の戦いの最終局面が始まった!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ロマリア連合皇国。

 

 既に心有る神官達と敬虔なブリミル教の信者達は、ツアイツの策略によりガリア王国へ移民していた……

 合法・非合法を問わず、かなりの人数が逃げ出していた。

 そして、教皇ヴィットーリオがツアイツを異端認定した事により、各国がヴィットーリオを非難。

 所謂ヴィットーリオ派閥と、汚職にまみれた神官達をロマリアに強制送還した……

 今、ロマリアには教皇直轄の「男の娘聖歌隊」と利権に塗れ現状を把握出来てない高位神官と、その取り巻き達。

 それと聖堂騎士団の連中が溢れている。

 

 彼らは未だにブリミル教を絶対と信じ、それに携わる自分達に非は無いと考えていた。

 なに、異教徒など6000年の歴史有るブリミル教の我らから見ればゴミの様な存在だ!簡単に蹴散らしてやる!

 

 そう息巻いていた……

 

 実は、これはヴィットーリオが煽動していた。

 

「我ら尊き神官達、聖堂騎士団が負ける訳が無い!これを機に、逆らう三王家を支配しよう。

彼らの領地は、切り取り御免だ!奪い取った者の領地として構わない。皆、気張れば領地持ちとして、此まで以上な生活が出来るのです!」

 

 こう宣った……目の前にぶら下げられた餌は、現状を見失わせる程デカかった……頑張れば、領主になれるのだ。皆の意気込みは凄い。

 

 それと今まで寄付・寄進と言う搾取し続けた財貨を使い傭兵を雇い入れ、彼らに貸与した。

 流石にアルビオン王国でのレコン・キスタの件も有り、さほど集まらなかった。しかし、傭兵とは金を払い続ける迄は味方だ。

 

 兵力の嵩ましには十分だろう。

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 宗教庁の一室で、教皇ヴィットーリオと向き合うジュリオ助祭枢機卿……

 

 ロマリア連合皇国に、ガリア王国を筆頭に各国が攻め始める準備をしているのを密偵団を使い、正確に把握していた。

 

「ヴィットーリオ様、折角の信徒からの寄付や寄進をあの様な傭兵達にお使いになられて……良かったのですか?」

 

 宗教庁に蓄えて有った財貨の、かなりの分を使っている。傭兵を雇い入れたり、此方に残った連中にバラ撒いたり……

 それらの連中に新たな官位を授けたりと、随分と無茶をしている。

 

「構いません。思えば、ジュリオがクルデンホルフ大公国でヤツを暗殺しようとした事。アレが最初で最後の勝てる手立てだったのかもしれませんね」

 

 穏やかな微笑みを浮かべて、愛妾を見る……今日のジュリオは、正統派修道女服を着ている。

 中々似合っているのが、流石は「男の娘」と言う事か……残念ながら肉感的な魅力は無いが、楚々とした美しさは有る。

 

「すみません。私が失敗したせいで、この様な状況に……しかし、既に私達に勝ち目は少ないでしょう。私が、再度ヤツの居場所に急襲を……」

 

 残された手段は、玉砕覚悟でヤツを殺すしか手は無いだろう。

 

「それは無駄でしょう……私は、ツアイツ・フォン・ハーナウを魂の敵と分かっていながら半ば放置していました。

もっと早く、奴が頭角を現す前に何とか出来たものを。アレの作る、ジュリオ達に着せる服が欲しいが為に……

ヤツは異常な迄の女好き。ならば我がジャスティス(趣味)とは相容れ無いのですから……」

 

 ガリアのイザベラ王女を落とす前なら。

 

 アルビオン王国でのドサクサで。

 

 トリステイン魔法学院に居る頃なら……考えれば、幾らでも奴を殺すチャンスは有ったのだ。

 

「ジュリオ……ロマリア連合皇国と言う名の国は滅びるでしょう。しかし、タダではやられません。

ヤツらの勢力を少しでも削ぐ為に、残された連中には捨て駒になって貰います。まぁ嫌がらせですね」

 

 宗教に国土は要らない……正論だ!

 

 権威で無く権力を求めだしたブリミル教は、廃れる定めだったのだ。

 

「ヴィットーリオ様……最後までお供致します。例え最後の1人となってもヴィットーリオ様をお守り致します……」

 

 そう言って頭を下げる。負けは必定……しかし最後の一兵となっても、ヴィットーリオ様の為に戦う。

 

 悲壮な迄の決意を固めた!

 

 そんな彼は、修道女服の魅力を含めて中々魅力的だ?思わず、「ゴクリ」と生唾を飲み込む……

 

「何か勘違いをしていませんか?私はサッサと逃げますよ。勿論、ジュリオや聖歌隊の皆は一緒にです。

残りの連中は、ヤツへの嫌がらせの為に最後迄戦って貰いますけどね……」

 

 あっけらかんと逃げると言う。

 

「しっしかし、私達に……ハルケギニアに逃げ場など……」

 

 私達を受け入れてくれる国は、もう無いでしょう。もはや未開拓の地に逃げるしか……

 

「ジュリオ……私は虚無の担い手ですよ。

その私をブリミル教のトップの私の趣味を理解出来ない連中が沢山居る……こんな世界に、もう興味は有りません」

 

 こんな世界……世界?まさか?

 

「ヴィットーリオ様……まさか異世界へ、お逃げになるのですか?」

 

 ジュリオの言葉に深く頷く……

 

「そうです!ワールド・ドアで覗き見た世界。

その1つに、「腐女子」なる同性愛者を支援する民族が居るのです。しかも彼女達は、BLとか攻め・受け……

萌えなる独自の言語を持つ知的種族です。彼女達なら、私達を受け入れてくれます。

そして「腐女子」の国で力を付けて……私達の「男の娘」ワールドを広めるのです!」

 

 キリリとした表情で、ヤバい事を言い出した!

 

 腐女子?腐った女子?それはゾンビみたいな連中ですか?しかしヴィットーリオ様は、その妖しい部族の国に行くつもりなのでしょう……

 

 ならば、共に逝くだけです。

 

「ヴィットーリオ様……何処までもお供致します。しかし……

かの魔法は、ヴィットーリオ様の体力と精神力を大量に消費します。もしも、使い過ぎでお体に……」

 

 確か、人1人通すだけでも大変な労力だと。

 

「有難う、ジュリオ……心配してくれるのですね。可愛い、私だけのジュリオ……私は君を手放さない。ずっとだ……

それに虚無魔法とは、精神の高ぶりで威力を増すのです。分かりますか?」

 

 歓喜の涙を流しながら、ヴィットーリオに抱き付くジュリオ……力強く抱き締めるヴィットーリオ。

 

 端から見れば、美男美女の抱擁シーンだ……両方ナニがぶら下がっているのだが……そして精神を高ぶらせる為に、ナニを始めやがった!

 

「ヴィットーリオ様……まだ、昼間ですから……やん!落ち着いて下さい」

 

 修道女服のジュリオを弄るヴィットーリオ……

 

「むほほほほー!聖歌隊の皆も呼ぶのです。今日は初の201人切りを達成しますよ……ほらほらほらほらー!」

 

「きゃ?ちょ、待って……下さい……ヴィットーリオ……さま……」

 

 爛れきったオーラを撒き散らし、精神力を高ぶらせるヴィットーリオ……彼は今、凄まじい精神の高ぶりを感じている。

 

「きっキタキタキター!ふははははー!ツアイツよ。

こんな世界はくれてやりますよ!私は、私達を受け入れてくれる世界に旅立つのです……

ユル・イル・ナウシズ・ゲーポ・シル・マリハガス・エオルー・ペオース……

さぁ私の虚無を成功させる為に、みんな刺激的なポーズで……

 

私を挑発しなさい!

 

私を高ぶらせなさい!

 

私を逝かせなさーい!

 

そして、発現したゲートを潜るのです!さぁ、早く……ハリーハリーハリー!」

 

 

 この日の夜、ハルケギニア中から敵視されたホモ教皇ヴィットーリオと愛妾ジュリオ。

 そして201人の男の娘達は異世界へと旅立った……己の趣味を理解しない民衆に見切りを付けて、「腐女子」なる不思議な呼称を持つ民族の国へ。

 その後、ハルケギニアで彼らを見た者は居ない。

 

 しかし……その夜は、禍々しいオーラが、ハルケギニア全土を覆ったそうだ。

 

 教皇ヴィットーリオは、未だにロマリア各地でマザリーニ枢機卿派に抵抗する大勢の味方を捨てて、趣味の国へと旅立った!

 彼の言う「腐女子の国」とは一体どこなんだろう?

 

 尻たく、いや知りたくはないのだが……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 同時刻、ツアイツは何やら不穏な気配を感じて眠りから覚めた……

 マザリーニ枢機卿と、趣味のディスカッションをして彼の屋敷に泊まっていたのだ。

 胸騒ぎが酷く、ベランダに出て夜風に当たる……気持ちの良い風にあたり、少しだけ落ち着いた。

 

 満天の星空に、未だに慣れない双子の月……その時、沢山の流れ星が!

 

 二百近い数だ。

 

「なっ?何て綺麗な流れ星なのに……何て禍々しいんだ……」

 

 初めて見る、素晴らしき星降る夜なのに……そして最後に、2つの巨星が絡み合う様に落ちて行った……

 

「巨星墜つ……何か……ハルケギニアから厄災の何かが……消えていった気がする。何だったんだろう?」

 

 ツアイツを包む星空は先程までの禍々しさはなく、綺麗な夜空へと変わっていた……

 まるで世界が異物を捻り出した後の様な、爽快感が有ったりした?

 



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後期最終話・おまけ話

大団円「ツアイツ君のお気楽極楽転生ライフ」完結

 

 ロマリア連合皇国……

 

 始祖ブリミル降臨以来、6000年に渡りハルケギニアの宗教を独占してきた国。

 しかし、変態ホモ野郎ヴィットーリオが教皇となってから衰退していった……同じ時期に、現代日本から転生した1人のオタク。

 彼が自身の性癖で有るオッパイ大好きの為に、ホモを駆逐したからだ……

 マザリーニ枢機卿を対抗馬とし、彼を修道女大好きの漢(変態)として持ち上げ、新しいブリミル教を興した。

 最後まで違うと言い続けたマザリーニさんも、終いには諦めていた……

 彼は聖職者として己を律していたので、修道女大好きなのは誤解だったのだ!

 

 哀れマザリーニさん……

 

※しかし、その誤解のお陰で、人間関係は潤滑になったのだから良しとしよう。

 

 

 帝政ゲルマニア・ガリア王国・アルビオン王国・トリステイン王国、そしてクルデンホルフ大公国を巻き込み、6000年の歴史を持つ宗教国家を打ち破ったのだ!

 

 聖職者が国土を持ってしまった為に、権威あるブリミル教が権力も求めてしまった。

 そして澱んで行ったのだ……彼はトリステイン王国のダングルテールに、新しいブリミル教総本山を造った。

 そして光の国と言われていたロマリアを解体。ロマリア連合皇国は、地図上から名前を消した……

 ブリミル教は、過去の栄光と権威を取り戻す為に苦労するだろう。

 

 しかしハルケギニアの誰もが、マザリーニ枢機卿が次期教皇になるのを望んだ……此処まで教皇になるのを望まれた者は居ないだろう。

 故に、誰もブリミル教の此からを心配していなかった……

 

 心配なのは、宗教庁のトップとなった教皇マザリーニの趣味で有る修道女さん達の事だ。

 彼は(誤解だが)修道女さんが大好物だと認知されている。しかし、手を出す事はイケない事だ!

 

 マザリーニ聖歌隊を持つ彼が、何時暴走して彼女達に手を出すか……酒場で新生ブリミル教を祝う酔客達の興味は、専らコレだ!

 

 賭事に迄発展した彼の性癖の暴走が、楽しみな民衆だった。

 

 権威……難しいかも知れない。しかし、民衆や貴族にまで親しみやすい教皇となれたのだ。

 

 何とかなるでしょう!

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 荒廃した大地……

 

 嘗てロマリアと呼ばれた大地に立つツアイツ。戦後処理の為に、何とか危険だからと騒ぐ周りを説得してやって来た。

 見渡す限りの、極彩色のケバケバしい建物……そして周囲には、バラックが建ち並ぶ貧民層の建物。

 

 此処まで宗教関係者と、一般信徒の格差が有るのか?

 

「光の国?コレが?アホらしい……」

 

 予想以上に荒廃し、スラム街や貧民窟が乱立する宗教により澱んだ国。

 

「結局ヴィットーリオとジュリオ、そして男の娘聖歌隊は誰一人見つかりませんでしたね……何処へ逃げ出したのかな?」

 

 独り言の様に呟く……

 

「逃げると言っても……ハルケギニアのどの国も、彼らを受け入れないでしょうね」

 

「周りは封鎖していた。だから、二百人以上が秘密裏に国外脱出は不可能なんだが……」

 

 護衛に付いて来たジャネットと、同行したマザリーニ新教皇が応えてくれる。

 ヴィットーリオは、虚無の担い手……そしてワールド・ドアが使える。最悪、別の世界へ逃げ出した可能性が有る。

 

 201人の「男の娘」を従えるイケメンか……ソレは、ソレで嫌な感じがするんだ。

 

 現代日本に行ってしまったら?敵ながら、有能だしカリスマも有るし……「男の娘」を受け入れる土壌が有る地域だったら、面倒臭い事になりそうだ。

 

「マザリーニ枢機卿……いえ、新教皇。先ずは、この国の立て直しですね。どうしますか?」

 

 周りを見回して言う……何から手を付けるか分からないから。

 

「そうですな……先ずは貧しい人達の救済でしょう。施しでは、根本的な解決にはならない……

衣食住を何とかして、後は仕事ですな。大変だが、やりがいは有る……」

 

 キリリとした表情で、中々のお言葉。

 

「マザリーニさんを素敵って慕う修道女が増えているのを知ってます?

やはり政治より宗教やってる方が、この鶏ガラなオッサンは輝くのですね。全く、こんなオヤジでも良いんですかね?」

 

 ジャネットが毒を吐く……マザリーニさんがモテモテ?しかし、そこはスルーで……

 

「僕も、漢の浪漫本ファンクラブの売り上げの殆どを寄付します。復興に使って下さい」

 

「なっ?殆どですと!それは嬉しいが、ツアイツ殿が困るだろう?君が路頭に迷うと、大変なんだぞ?」

 

 そんなに驚く事かな?

 

「今回のロマリア攻略……各国の負担は大変な額ですよね?

それに移民を受け入れてくれました……どの国も色々と大変なのに、ですよ。彼らが使ってくれた国家予算は膨大です。

だから、僕も微々たる物ですが寄付します。知ってますか?漢の浪漫本ファンクラブは営利団体……だから団体の維持運営費以外を寄付しますから」

 

「ツアイツ殿が、其処まで寄付をしてくれるなら……各国の同士達も、習うでしょうな。では、お願いします」

 

 この惨状を見てしまえば、嫌だとは言えない。事前にガリアやゲルマニアに移民してくれた人々は……まだマシな人々だったんだ。

 どうにもならない人々は、ロマリアに残されてしまったんだ……移民した人々の分まで、過酷な搾取が有っただろう。

 

「マザリーニ様……ダングルテールの総本山が完成したら。初めての結婚式は、僕達のをお願いしますね。

僕とイザベラ……

ルイズ・キュルケ・モンモランシー、それにテファとマチルダさん。全員で合同結婚式を執り行いたいと考えています」

 

 物事にはケジメが必要だからね。延び延びになっていた結婚式をやろう!

 

「なっ、何ですと?モゲろや小僧!6対1で挙式だと!ふざけるな!結婚とは神聖な儀式なんだぞ。

それを一緒になど、聞いた事が無いわ!ああ?初夜は、まさか7Pか!」

 

 首が、首を絞めないで下さい……興奮し過ぎですよ、マザリーニさん!

 

「エイッ!」

 

 ジャネットが、脇腹に拳を撃ち込む……堪らずしゃがみ込むマザリーニさん。

 

 ジャネット……もう少し、早く……

 

「ツアイツ様、私が入っていませんが?」

 

 手を振って、それは無いとジェスチャーで伝える。酸素、早く酸素を取り込まないと……

 

「はぁはぁはぁはぁ……ジャネット、もう少し早く助けて……

落ち着けオッサン!別にブリミル教を冒涜してませんよ。

本来なら、最初にイザベラと……次はルイズ、キュルケと順番に考えてました。

しかし、僕らの結婚式を取り仕切ってくれるブリミル教の神官の方が居なかったし……

まぁ異端認定されてたし。もぅ待たせるのも可哀想だし、愛情に順番も無いんです。

貴族の習いには違反するかも知れない。しかし、そこはオッパイ教祖の僕ですから……」

 

 大目に見て下さい。

 

「何処までも規格外なヤツめ……良いだろう!私自らが、結婚式を取り仕切ろう。しかし、覚えているが良い。

そこに、アンリエッタ姫とヴァリエールの売れ残りを加えてやるわ!」

 

 中指を立てて言いやがった!

 

「なっ?何を言うんですか!アンタこそ、神聖な結婚式を冒涜しやがって!その三人は危険なんだぞ」

 

「はははははっ!だからだよ、リア充め。序でに、前教皇が認定した異端認定の件は、正式に撤回してやろう。だから諦めて貰おうか!」

 

「無理っ無理だって!イザベラ達が許す訳ないし……あっ逃げ出したな」

 

 ハルケギニア全土を趣味友達と共に統一したツアイツ。新教皇として、ブリミル教を掌握したマザリーニ。

 

 権力者と宗教家は共存が難しい。しかし、この2人なら何とかなるだろう。

 40歳越えのオッサンと肉体年齢は15歳だが、精神年齢は同世代の2人……意外と馬が合うのかな?

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 ハルケギニア全土で持ち切りの話題が有る。

 

 巨乳派教祖して次期ガリア王、ツアイツ・フォン・ハーナウの合同結婚式についてだ……

 

「おい、聞いたか?噂では、始祖の血を引く王家の姫2人を同時に娶るらしいぞ?ガリアのイザベラ姫とトリステインのアンリエッタ姫だとか……」

 

「いや、俺が聞いたのはトリステイン王国の名家ヴァリエール公爵家三姉妹を同時に娶るって事だぞ!」

 

「いやいやいや……女神テファ様と義理の姉であるマチルダ様と同時に結婚するって話だろ?」

 

 凄い内容の噂話が飛び交っている。

 

「どれもこれも有り得ないだろう?しかし、新教皇マザリーニ様が結婚式の準備を進めているのは確かだ。

詳細は未だ明らかにされてはいない。しかし布告は大々的にされた……でも合同結婚式なんて、聞いた事が無いぞ」

 

 結婚とは神聖な物!

 

 ブリミル教の神官の前で、永遠の愛を誓うのだ。それが1対複数なんて聞いた事が無い……

 しかも、お相手がビッグネーム過ぎて笑い話にしかならない。普通なら信じない。

 

 しかし普通じゃないのが、ツアイツ・フォン・ハーナウなのだ!

 

 彼なら、何かトンでもない結婚式をやってくれそうだ。

 

「おい、みんな!詳細な布告が出だそ!何とツアイツ様は合同結婚式を本当にやるぞ」

 

「流石はオッパイ教祖!其処に痺れる、憧れるー!」

 

「皆が出来ない事を平気でやりやがる!チクショー、羨ましくてたまんねーぜ」

 

「7Pか……美女・美少女を侍らしやがって。くぅー何てお方なんだ!」

 

 皆がツアイツの結婚式を祝福した。やっとオッパイ教祖も落ち着くんだな、と。しかし、この話を持ち込んだ男が爆弾発言をする。

 

「しかも10Pだ!

イザベラ様・アンリエッタ様・ルイズ様・エレオノール様・カトレア様・キュルケ様・モンモランシー様そしてテファ様とマチルダ様……新婦は9人だそうだ」

 

 

「「「「なっ何だってー!」」」」

 

 

 各地で雄叫びが聞こえた……この布告を読んだ人々は明け方近くまで、その話で盛り上がったそうだ!

 何もかも規格外な結婚式……しかしハルケギニア全土で祝福ムードだ!

 

 ただ一カ所……不穏な空気を醸し出している場所が有った!

 

 ガリア王国のツアイツの私室だ。

 

 新郎ツアイツのみ、最後までイザベラ以下の嫁ズに説教されていた!しかも正座でだ。ちゃっかりメンバーに入ってる三人は何なんだ、と……

 

 しかもジャネットが参戦!「どうして、私は駄目なんですか?」と。

 

 北花壇騎士団ジャネット。他のメンバーより格下だが、何とか一緒に新婦になれた……

 

「ツアイツ様は約束なされました……波乱万丈な人生を約束すると!この合同結婚式に乱入以上な波乱万丈な人生は無いですよね?よね?」

 

 約束は約束だ……そして+1名が追加された……

 

 彼は初夜に10人切りを達成出来るのか?はたまた返り討ちに合うのか?

 

 彼の幸せの過ぎる苦労は、始まったばかりだった!

 

 

 

 

 

 

「現代人のお気楽極楽転生ライフ・ツアイツ君のサクセスおっぱいストーリー!」

 

 

 

 

 

 

 ここに二度目の完結とさせて頂きます。最後までお付き合い有難う御座いました!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 オマケ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ツアイツ君、玉砕す!」

 

 

 

 

 

 結婚式の翌日、ツアイツは疲労困憊だった。

 

 絶望的な戦力差で挑んだ初夜……五回戦迄は完璧だった。

 

 七回戦で刀折れ矢尽きた……八回戦は気力のみ。

 

 九回戦で敗退……今まで戦い退けてきた相手が回復し、そして組織的に反攻してきた。

 

 ツアイツは、なすがままの状態だ……

 

「ふーん……散々攻められたけど、こんな形なんだ」

 

「あらあら?意外と可愛いモノですわ……色も私の髪と同じ桃色なのね……」

 

「ツンツン……何かしら?ピクピクしてますわ」

 

「わぁ!近くで見たの初めてです」

 

「私達ばっかり攻められて……このイケない棒君に、お仕置きが必要かしら?」

 

「あら……賛成だわ!私達も旦那様に色々とシテあげたいですわね……」

 

「なっ何やってるんですか奥様方?たっ助けて下さいって!もう、アーッ……」

 

 ツアイツは仕返しに散々観察され、色々悪戯されてしまった。

 

 それでも彼は、生涯幸せだった……

 

 性の伝道者・ハルケギニア最高の変態教祖は、生涯をオッパイ道に捧げ彼を慕う変態達が世界中にまみれた!

 

 世は大変態時代を迎え、大いに栄えたのだった……

 数々の漢の浪漫本やフィギュアを残した彼は、始祖ブリミルとならび人々に伝承されていった……

 

 勢いとオッパイと変態達に支えられた、ツアイツ・フォン・ハーナウは80歳でその生涯を終える迄現役だったと記録されている……

 

 

 

 

 此処に本当の完結です。

 

 

************************************************

 

 

 先ずは、最後迄この変態おっぱい小説にお付き合い頂き、有難う御座いました。

 

 オッパイやらホモやら……ギャグ路線ですが、下ネタを含むしょうもない素人小説も遂に二度目の完結を迎えられました。

 レコン・キスタ攻略後、不遇で救済したかったイザベラ姫・ワルドさん・シェフィールドお姉ちゃんが幸せになってハッピーエンド……

 一度、それで終わらすつもりでした。

 

 しかし皆様からの感想にロマリアは?ハルケギニア統一しないの?ベアトリスちゃんは放置?アンリエッタ姫の扱いが酷くない?等々、色々な感想を頂きました。

 

 一度完結した物語の続きを読みたいとの希望は、多分作者的に凄い嬉しい事なんだと思います。

 

 対ロマリア編……

 

 前作の最後では、時間を掛けて国力を弱体化させる案を考えていました。しかし、それでは戦記物語になってしまう。

 この作品には血生臭い話は合いませんし……お馬鹿な話にしなければならないし……

 

 幾らホモVSエロでも、ツアイツVSヴィットーリオではイマイチだな……ワルドさんやお姉ちゃんは、もう十分に活躍しちゃったし。

 

 なのでマザリーニ枢機卿に白羽の矢が?

 

 彼は、原作では苦労人で有り嫌われ者で有り……しかし頑張ってるオッサンだったので、彼にも活躍してもらおうと思いました。

 実はマザリーニさんは、シスター大好きな人では無く宗教家らしく禁欲的で己を律する人だと思ってます。

 

 そんな人が、次第にエロに染まって……染まり切らない前に完結しましたが、メインキャラとして頑張って貰いました!

 

 此処に、この作品も本当の完結とします。

 

 

 

 

 

 

 クリスマス記念電波作品

 

 

「どうして、こうなったんだろう?」

 

 無駄に豪華な大広間、天井に煌めくシャンデリア。見慣れた此処はトリステイン魔法学院の大食堂だ。

 テーブルの上には数々の美味しそうな料理。勿論、ワインもシャンパンも沢山用意されている。

 壁面の本棚には漢の浪漫本が沢山並んでいる。

 

 まさに夢の祭典?

 

 だが、だがしかし……この会場には見渡す限りにムサい漢の群れが。綺麗どころは独りも居やしないぞ。今日は前の世界ではクリスマス。

 

 元ネタの宗教的意味合いなんて関係ねー!

 

 偉人の誕生日なんて知らねー!

 

 な恋人達の性の饗宴の筈なんだけど。

 

「何故、何故だんだ?僕はロイヤルなハーレムを築いた筈だ。なのに何故、独り者の祭典の主賓として此処にいるのかな?」

 

 僕の隣にはイザベラもルイズもキュルケもモンモンも、妻兼護衛のジャネットすら居ないんだけど。

 確かに会場の外にはボインズナイトが警備を固めてはいる。メイドは居ないが執事は居る。

 

 完全なる男祭り……

 

 思わずオッパイ教祖として眩暈がした。立食形式の会場故に壁際にしか椅子は無い。なので壁際の椅子に崩れる様に座る。

 

 ハァーと溜め息をつく。

 

 無駄にクッションの良く効いた椅子に深々と埋まって思う。何故こうなった?

 

「ツアイツ殿、嫉妬団の宴へようこそ!歓迎しよう。我ら名も無い独り者達の尊敬と嫉妬・賛美と畏敬を集めし者よ……」

 

 そこには煌めく蝶の仮面をし口に薔薇を喰わえたシャツのボタンが全開の男が立っていた……

 

「いや、お前ギーシュだろ?幾ら仮面をしても服装で分かるぞ。久し振りだな」

 

「ふはははは!私はギーシュなどと言うお洒落な紳士では無い。だが、だがな。彼の噂は知っているぞ。

何でも美しい婦人達の注目株の花咲ける美少年だが、愛する女性を教祖に奪われたそうだ……」

 

 嗚呼、モンモランシーとか呟いているが「そもそも奪ってないから!」大体最初からギーシュはモンモランシーに相手にすらされてない筈だ。

 

 でも原作では呆れられながらも二人はくっ付いたんだよな。確かにギーシュからすれば略奪愛か?

 それから暫く名も無い男と言い張るギーシュの愚痴を聞いた。

 後日、友達のギーシュの為に合コンを設定すると約束すると彼(本人)は去って言った……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 教皇ヴィットーリオが行方不明としてモヤモヤが残ったロマリアとの趣味を主張する戦いを終え、晴れてワクワクドキドキのハーレムライフを満喫する事が出来ると思ってた。

 既にハルケギニアで僕らの「変態と言う名の紳士達・漢の浪漫本ファンクラブ」に立ち向かえる程の性癖を掲げる勢力は無い……

 大国ガリアに、正妻の実家に複数の側室と転がり込んで楽しめたのも束の間。

 次期ガリア王で有り、巨大趣味組織の教祖の僕に暇など有る訳ないよね?

 しかも組織の下部構成員の中で不穏な動きが有ると報告を受けた。

 ファンクラブの上級会員の殆どが、己の性癖に合った伴侶を得ていた。

 

 ワルド殿にジョゼット。カステルモール殿にエルザ。モット伯には翼人の翼っ娘が。しかもダッシュ殿はロリっ子を集めた孤児院の院長だ。

 

 心の友で有るウェールズ殿に至っては、先程ゲルマニアとの婚姻外交が成立した。アルブレヒト閣下の提示した三人娘との合同挙式だ。

 合同挙式に関しては、僕が前例を作ったからなぁ……

 ファンクラブの上級会員ばかりが幸せな伴侶を娶ってばかりでは、下級会員は面白くは無いよね?

 だから、こうしてくすぶっている連中を一同に介して宴会を開いた筈が……

 

 ドンドンドン、パフパフパフ!

 

「嫉妬団の宴inトリステイン魔法学院☆ドキドキハーレム王ツアイツ教祖を囲む会」

 

 ドッカーン!と言う訳ワカメな魔宴となり果てていた。しかも僕以外が仮装してるって、闇討ち上等?

 

「これはこれは、巷で噂のハーレム王様では有りませんか!是非一献……」

 

 ワイン瓶片手に呂律が怪しい中年が近付いて来た。グラスを差し出すとワインを注いでくれるが……

 

「零れてます、零れてますから……」

 

 ワイングラスから零れる程に注いでくれた後に、隣にドカっと座る。妙にフサフサなカツラを被るこの男は……

 

「コルベール先生。お久し振りです。お元気でしたか?」

 

「なっ?私はコルベールなどと言う学者様では有りませんぞ!タダの独り者の寂しいオヤジですぞ」

 

 次はこの人かよ……この人の活躍を潰し彼女を奪ったのは僕なんだよね。

 隣に座り頭を垂れる姿は、哀愁の漂う冴えない中年でしかないな……

 

「ハーレム王様……私は最近良くブリミル様の啓示(電波)を受ける(受信)のです。

本来なら妖艶な美女を娶り趣味の発明を堪能出来る筈が、何かの拍子で変わってしまったと!私、私は……」

 

 うなだれた拍子にカツラがスルリと床に落ちる。記憶に有る頭部よりも更に毛が抜けて地肌見えている。苦労しているんだな、学院長がアレだし……

 

「コルベール先生。

一度ガリアの研究機関に遊びに来ませんか?学術的なお仕事を専門にされると他の生活面が疎かになるとか。

我がガリアの研究機関にはコルベール先生と志を同じくした男女が集っています。このトリステイン魔法学院よりは出逢いの機会も多いですよ」

 

 コルベール先生と話が合うとなると、専門的な会話が成り立つ女性じゃないと駄目だよね?

 

「わっ私は……でも、そのコルベールと言う学者様には良いかも知れませんな。

研究を共に出来る女性ですか……ふむふむ、ではお願いします。彼に遅咲きの花を咲かせてあげて下さい」

 

 そう頭を下げて去っていった……僕はキラリと光る頭部から目を逸らせた。

 

 この場所は辛い。宴は半ばだが、逃げよう。

 

 ベランダから飛び立とうと窓を開けようとしたら、両肩を掴まれた。

 

「「これはこれは教祖様。どちらへ行かれますかな?」」

 

 振り向けば微笑みを浮かべる地味な眼鏡と……誰かだ。眼鏡はレイナールだと思う。だけど隣は誰だっけ?

 

「えっと……レイナールと、誰だっけ?」

 

「ヴィリエだ!いっいや違うぞ。僕は至高の風メイジ、ヴィリエ殿では無い」

 

「僕も皆の人気者レイナール殿じゃない」

 

 力一杯否定しているが、どう見ても彼ら以外の何者でもないけど……

 

「あっ!教祖様、やっと見つけましたぞ。実はお願い事が……」

 

「教祖様ー!僕のお願いを聞いてー」

 

 筋肉と肥満。ギムリとマルッコリヌ?だっけ?四人に取り囲まれてしまった。皆さん目がね、ヤバい輝きをしてるんだよね。

 これは逃げないと危険かも……

 

「「「「オッパイ教祖ツアイツ!モテナイーズとか変なグループ名を付けながら、自分だけモテモテになりやがって!

嫉妬の力は無限のパワー!我らが逆恨み、その身に受けてみよ」」」」

 

 トリステイン魔法学院の脇役四人衆が手をワキワキさせながら迫ってくる!

 

「ちょ、ごめんなさい!ギムリ、首を絞めないで……マルッコリヌ、僕はカジっても食べれないから。

レイナール、無理に眼鏡を掛けさせないで。だっ誰かタスケテー!」

 

「ツアイツ……ツアイツったら。どうしたんだい?ほら……起きなよ……」

 

 イザベラの声で目が覚める。目が、覚める?今のは夢だったのか?ベッドから上半身を起こして周りを確認する。

 ガリアでの僕とイザベラの部屋だ。両手で顔を擦ると額にビッシリと脂汗をかいていた。

 

 手がベタベタだ……

 

「ツアイツ?悪い夢でも見たのかい?」

 

 イザベラが優しく背中を撫でながら聞いてくる。淡い魔法の光に照らされた寝室を見て、さっきの事が夢だと分かって安心した……

 夢に出てきた彼らは、トリステイン魔法学院の友人達だ。

 暫くご無沙汰だったし、本来原作で少なからず活躍するのだが、僕が居る為に脇役にすら成れなかった連中だ。

 

「イザベラ……新しい事業を思い付いたんだ。結婚活動を支援する、略して婚活だ!モテナイ男達を救済するんだ」

 

 夢の中だと理解しても、彼らの嫉妬に狂った目は恐ろしかった……ならば僕を恨まない様に、早く結婚相手を探させるべきだ!

 

「貴族相手の商売なら無理さね。貴族の婚姻とは、家と家の繋がりなんだ。

それを無視して相手を宛てがうのは良くないよ。貴族が結婚出来ないのは本人の資質よりもお家の事情さね。

さぁまだ少し寝れるから……

明日はトリステイン魔法学院から使者が来るんだよ。ツアイツには久し振りに旧友と会えるんだ。

寝不足の顔じゃマズいだろ。全くツアイツの発想は何時も驚くけど、今回のは駄目だね」

 

 そう言ってイザベラが額の汗を拭ってくれた。明日……トリステイン魔法学院の使者だと?

 

 確かに報告書は読んだ。使者には僕と親交の有る連中だから楽しみにしてねって……まさか、まさか正夢じゃないよね?

 隣に眠るイザベラの胸の谷間に顔を押し込んで、深呼吸をしながら心を落ち着かせる。

 甘いミルクの様な匂いを深々と吸い込んだら、先程までの自分の行動が随分と滑稽だと思う。

 

「嫉妬のパワーは無限大……まさか、ね」

 

 僕は頭を優しく撫でてくれるイザベラの手の感触を楽しみながら、深い眠りについた。

 

 

 

 

 翌日、オールドオスマンを代表にコルベール先生・モテナイーズの連中が訪れて、僕をトリステイン魔法学院主催のパーティーに招待してくれた。

 一学年の途中からガリアの魔法学院へ転入してしまったが、偉大な僕の功績を称える為に名誉学生としてパーティーに招待したい、と……

 

 でもしつこく誘う彼らの暗い目の輝きが、夢の中の連中と同じだったんだ。

 

 アレは、アレはヤバい目だった……

 

 

 

 

2人はmagical princess!「禁断の従姉妹姫」

 

 

「ツアイツ?何だい、この漢の浪漫本は?私は言った筈だよ。これは駄目だと……」

 

 ガリア王宮の一室でソファーに正座させられ絶賛説教中で有ります。

 イザベラが本気で怒ってるのは、人よりも若干広い額に浮かべた井形で分かります。

 彼女は片手にイザベラとタバサを題材にしたレズ本……

 禁断の従姉妹姫を持ち、もう片方にワインボトルを持っている。

 

 お気に入りのアイスワインだが、今は鈍器でしかない。最愛の妻に、独身時代の一寸した悪戯心がバレてしまった。

 

「でっでも、何故バレたんだ?竜騎士やイザベラ隊の連中が、そんなミスを犯す筈が……」

 

 あの本は厳重な管理体制の下、外部にバレる事は有り得ない筈だが?ワインボトルを僕の左頬にピタピタと当てながらニヤリと笑うイザベラ。

 中々に漢らしい恫喝方法だ。

 

「随分と立派な製本だね。ハードカバーに箔押しのタイトル……何処の出版所に依頼したんだい?

増刷をガリア国内の出版所に頼んだのは失敗さね。私にも独自の耳も目も有るんだよ。

さて、ツアイツが仕込んだツンデレプリンセスのツンの部分をたんと味わって貰おうかな」

 

 両手にワインボトルを握り締め、凄い笑顔で近付いてくる最愛の妻を見ながら脳挫傷は嫌だなーと……

 

「ばか、ばかばかっ!ツアイツのばかー!」

 

「グハッ!」

 

 鈍い打撃音の後に、一瞬だが目の前が真っ暗になり星がスパークした!

 

 意識が薄れる中で涙を浮かべ真っ赤になりながらワインボトルを振り回すイザベラを「可愛いなぁー」と思ってしまった。

 視界の隅でニヤニヤしているジャネットは「お前は今夜、ベッドでヒィヒィ鳴かすからな!」と誓いながら意識を手放す。

 

 王族とは、夫婦喧嘩も命懸けだなぁ……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 2人はmagical princess!

 

 「禁断の従姉妹姫 序章」

 

 私達は王家の兄弟の娘として生まれ育った。

 私のお父様は現国王の長男だが、魔法第一主義のハルケギニアでは致命的な程に魔法の才能が無かった。

 かたやシャルロットのお父様は次男だけれど、神童と言われる程に魔法の才能が豊か。

 両極端の父を持つ私達の魔法の才能も、やはり両極端。

 年下のシャルロットの方が既にコモン魔法を習得し系統魔法を習い始めた。

 私は未だ満足にコモン魔法も成功しない落ちこぼれ。

 

 ついついシャルロットに冷たく当たってしまい、周りも年下の彼女に辛く当たる私を同情と落胆の混じり合った目で見る。

 

「シャルロット、自慢かい。お前が唱えた魔法で私のスカートが捲れたよ。このイヤラシい娘が!」

 

「ちっ、違う。私はそんな事は……」

 

「じゃ、何かい?私の被害妄想だと言うのかい?ほら、どうなんだよ!」

 

「……………」

 

 両手を握り締め、歯を食いしばりながら俯くシャルロット。私は彼女のそんな姿が嫌で、更にシャルロットに辛く当たってしまう。

 

「ほら、何とかお言いよ!人形じゃないんだろ?」

 

 シャルロットを追い詰めてしまう、負のスパイラル……まるで良く出来た妹姫と、意地悪で出来の悪い姉姫が周りから見た私達だ。

 だけど、だけど本当の私達を皆は知らない。

 

 だって、だって私達は……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「イザベラ、ん……」

 

 王族故のキングサイズのベッドに2人で寝転がりながら銀の皿に盛られたフルーツをシャルロットに食べさせる。

 苺を一粒摘み、シャルロットの口元へ。

 

「シャルロットは甘えん坊さんだね、ほらお食べ」

 

 彼女は私の指ごと口の中に入れる。指先を舐めながら苺を奪い、小さな口でモグモグと食べる。

 私達は薄い純白のシルクの夜着だけを着ている。サラサラな肌触りが気持ちが良い。

 

 あとは同じく純白の下着だけ。真っ白な世界で違う色は、互いの蒼い髪だけだ。

 

「これはお返し、ん」

 

 シャルロットも同じ様に苺を摘み……口にくわえて突き出してくる。

 

「ばか……」

 

 苺を食べる為に2人の唇が重なる様に……

 

 

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

 

「うがぁー!なっなんて破廉恥な本をバラ撒きやがって!」

 

 内容を確認しなければ、どんな事になってるかが分からない。だから読み始めたけど、何て破廉恥な内容なんだい。

 こんな物を読んでた連中が私の周りに居るなんて……放り出した漢の浪漫本を見ながら考える。

 

 ツアイツ……

 

 アンタ、未だ私を口説き落としてない内から、こんな内容の本を考えていたのかい?

 幾らハルケギニアの常識を覆し捲るアンタでも、王族の姫を弄ぶなんて不敬罪で斬首される内容だよ。

 全く私がベタぼれじゃなければ、アンタとアンタの一族が……

 

 まぁもう良いか。

 

 惚れた弱みだし、もう破廉恥な本は書かないって念書を書かせれば……この問題を収束させる方法を考えていたら

 

「ちょ、テファ!アンタ何で此処に居るんだい?」

 

 真っ赤になりながら例の本をしっかりと抱えながら読む、天然ハーフエルフに気が付いた。目の前15センチまで本を近付けて熟読していた。

 

「ほっ他の方々がお茶にしましょうと……だから、わっ私が呼びに来たんです」

 

 何故か漢の浪漫本を後ろ手に持ちながら、扉へ後ずさるテファ。持ち逃げは許さないよ!

 

「ああ、お茶かい?分かったけど……その本は置いていきな」

 

 そんな本が、あの連中に知られたら大変だ!只でさえ第一子を身ごもるまでツアイツを独占してるんだ。

 あいつ等が私への意趣返しのネタを放っておく訳が無いんだから。

 

「でっでっでも……これは旦那様のお書きになった本ですし。私達も読みたいなって」

 

 ジリジリと後ずさるテファ。馬鹿な!そんな王家の醜聞を広める事が出来る訳ないだろ。

 

「駄目だ、返しなよ」

 

 テファに襲い掛かる。必死に本を取られない様にする彼女の体を弄りながら、本を奪おうとするが……

 巨大な乳が邪魔して、肝心な本に手が届かない。

 

「何だい、自慢気にこんな脂肪の塊をぶら下げやがって!揉んでやるわ」

 

 ムギュっと擬音が聞こえそうな、けしからん乳を揉みしだく。結構気持ちの良い弾力だね。

 

「ちょイザベラ様。だっ駄目です、私には……私には、そんな趣味は……無いです……から……」

 

 何だい趣味って?私はレズじゃないよ。

 

「ほらほら、本を返さないと体に言い聞かせるけど良いんだね?

本当にイヤラシい体だね、テファは。羨ましいくらいさね。ほらほらほら、気持ち良く鳴きな」

 

 執務室で美少女2人が、揉み合いっこをしている。いや一方的に弄られているだけ?

 

 そんな平和なガリア王宮の執務室だった。

 

 この後、中々呼びに行って戻らないテファを心配してルイズが執務室を訪ねた。

 何やら中から艶っぽい声が聞こえる。

 

 それに護衛の兵士が鼻血を垂らして悶えているけど……

 気持ち悪い護衛を視界の外に追いやり息を殺して、ゆっくりとドアを開ける。

 

「イザベラ様。テファが来ませんでした……か……ごっごめんない。お邪魔しました」

 

 そこには良い笑顔でテファにゴニョゴニョするイザベラが居た。そっと執務室の扉を閉めた彼女は、ダッシュでキュルケ達に報告に行った。

 

 

「みっみんな聞いて!イザベラ様とテファが「2人はmagical princess! 禁断の種と性別を超えた愛」を実践してるわ!」

 

 

 その日、ガリア王国に新たな伝説が生まれた。

 

 

「2人はmagical princess!」

 

 

 この禁断の愛の記録に、新たな1ページが刻まれた。

 

 




この作品はデビュー作であり若き日の情熱だけが込められた思い入れの有るお馬鹿作品でした。
5年も前の作品ですが、今思うと色々と考えさせられる問題作でしたが楽しかった思い出しか有りません。
思えば原作で不遇なキャラを活躍させようと考えたのが自分の二次創作小説の始まりでした。
最後まで読んで頂き有難う御座いました。


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