BOM 前世で沼墜ちしたカードゲームのアニメへと転生して父親になりました (庫磨鳥)
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BOM ルールブック。
BOMのルールに関する一覧表です。
※抜けているところがあるかもしれないので、気になったらご遠慮なくお伝えください。
※本編1話投稿されています。
はじめに
『バトル・オブ・メインズ(略称:BOM)』は平行世界に実在した人物や物体、あるいは実際にあった出来事がカード化したもの。そしてメインズ、ウェポン、アーカイブのⅢ種類を基本として遊ぶ、トレーディングカードゲームである。
フィールド
※:作者の限界。
・『メインズゾーン』 中央上半分に位置する3枠、メインズを展開する場所。1枠に一体置ける。
・『ウェポンゾーン』 中央下半分に位置する3枠、メインズゾーンに存在するメインズに装備したウェポンカードを展開する場所。枚数制限は無い。
・『デッキゾーン』 右下に位置する、バトルで必要なデッキを置く場所。
・『破棄ゾーン』 右上に位置する、バトルで敗北したとき、あるいは効果によって破壊された時にカードを置く場所。基本ルールとしてカードは表にして置く。
・『ハートポイント(HP)』 左下に位置するプレイヤーの命である十枚のカードを置く場所。基本ルールとして、カードは裏にして横向きに重ねるように置く。
・『コストゾーン』 左上に位置するカードの効果を発動するさいに必要なコストを置く場所。基本ルールとして、カードは表にして横向きに置く。BOMがコストゲームと言われる所以。
用語集
・メインズ(M) メインズゾーンへと展開し、ウェポンカードを装備して、バトルし、相手のBPを削り、勝利に導く平行世界の記憶存在たち。 ※:他カードでモンスター、クリーチャーと呼称されるカード。
エクスペリメンツメインズ(EXM) エクスペリメンツによって配置されるメインズ。メインズたちが経験を得て変化した姿。
エクスペリメンツ(EXP) 自分の場に展開されている条件が揃っているメインズに重ねて展開する行ない。 ※他カードでは進化クリーチャーなどで呼称されているカード。
属性 「魔」「霊」「機」「士」「愛」の5属性存在する。
アタック(ATK) メインズ同士のバトルで必要となる数値、高いほうがバトルに勝利して、負けた方は破壊される。
ブレイクポイント(BP) 相手プレイヤーに直接攻撃が通った時に必要となる数字。この数字分相手の『HP』を上から捲り、破棄ゾーンへと送る。
メインズ同士のバトルで勝利した時、そのままBP分相手のHPをブレイクことができる。 ※:強すぎて後にナーフされた効果が普及された。
メインズ同士のバトルで勝利した時、相手BP数値分をマイナスにした分の、自身のBP分相手の『HP』をブレイクすることができる。
・ウェポン(W) ウェポンゾーンへと展開し、メインズに装備して強化するカード。
・アーカイブ(A) 1ターンに1度、手札から発動できるプレイヤーを手助けしてくれるカード。平行世界の生きてきたメインズたちの得難い記憶、決して忘れたくない光景がカードとなったもの。 ※他カードで魔法、呪文と呼称されるカード。
フラッシュ(F) 『HP』をブレイクされて捲れた時に回数制限なく発動できるアーカイブカード。
クリック(C) 条件が満たされているのであれば回数制限なく何時でも発動可能のアーカイブカード。
・スペース(S) 基本ルールとしてメインズゾーンの1枠に配置して効果が発揮されるカード。
・ カードをフィールドに配置すること。
・ カードの効果などで、回数制限を無視してできる展開のこと。
・ ウェポンカードをメインズへと装備すること。
基本ルール
・相手の『HP』をゼロにした時、勝利する。
・メインズを手札から配置できるのはフリータイム時、1ターンに1体まで(特別配置は回数に含まれない)
・ウェポンカードを手札から装備できるのはフリータイム時、1ターンにメインズ1体につき一枚まで。
・アーカイブが発動できるのは自分のターンのフリータイム時、1ターンに一枚まで。
・エクスペリメンツは自分のフリータイム時、1ターンに1度まで。
・バトルタイムにメインズが攻撃できるのは1ターンに1度である。
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カード 一覧
元ネタは作者の既存作品およびボツ作品などです
本編に八割出てきません
雰囲気を楽しんでください。
掲載されている絵は、繋がりがある絵師様が作者の作品関係で書いて貰ったものを許可を得て【BOM】のカードとして掲載させて頂いています。
掲載されている絵の作者様は敬称略で記載させていただいています。
ダークライト 暗黒が広がり続ける世界。星々たちは地上に降りて、抗うものたちの中へと宿った。 これは、延命手段でしかないと理解しながらも故郷を守るために全てを飲み込むまで止まらない暗黒に立ち向かった戦士たちの記憶である。 |
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ダークライト ソルジャー | M |
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ダークライト マジシャン | M |
ダークライト プリースト | M |
ダークライト プリステス | M |
ダークライト ガンナー | M |
ダークライト ニンジャ | M |
ダークライト シャインドッグ | M |
ダークライト ムーンキャット | M |
ダークライト パラディン | EXM |
ダークライト スターダストナイト | EXM |
ダークライト レーザーブレイド | W |
ダークライト ガードロッド | W |
ダークライト ミラーシールド | W |
ダークライト オーロラマント | W |
ダークライト プリズムアーマー | W |
ダークライト スパークシューズ | W |
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広がる闇 | A |
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スターライト ワールド | S |
ダークライト タウン | S |
シュバルツノ 幾多の平行世界を滅ぼし続けた純白の怪物たち。ある世界の神の天罰によって肉体を滅ぼされ、残った魂は封印された。 これは、封印された怪物たちが、今もなお生み出している記憶なのかもしれない。 |
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シュバルツノ | M |
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シュバルツノ | M |
シュバルツノ | M |
シュバルツノ | M |
シュバルツノ | M |
シュバルツノ | M |
シュバルツノ | M |
シュバルツノ | M |
シュバルツ・ウアシュプルング・ドラッヘ | EXM |
シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ | EXM |
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歌神姫 天上世界の代表である女神は、地上に住まう人間たちに期間中にどれだけ支持されたかで次の世代の女神を決めていた。 これは、そんな女神候補たち5名が正体を隠しながらアイドルとして頑張った記憶である。 |
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キラメキハンドマイク | W |
トキメキスタンドマイク | W |
カガヤキヘッドマイク | W |
バクハツステージマイク | W |
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グループ | A |
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パイルズ 科学技術が発展した未来世界。戦争によって戦闘兵器へと改造された元工業用ロボット兵たち。 これは、もう守るべきものが無くなった後でも、彼らがAIを成長させながら戦い続けた記憶である。 |
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ギアパイルズ | M |
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パイルズ・ビス | M |
パイルズ・ボルト | M |
アルミパイルズ | M |
メタルパイルズ | M |
カッパーパイルズ | M |
シルバーパイルズ | M |
EXM | |
EXM | |
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ロケットパイル | W |
ウォーターパイル | W |
アヴェンジャーパイル | W |
ストレンジパイル | W |
ドリルパイル | W |
バスターパイル | W |
ドライバーパイル | W |
A | |
インパクトコネクション | A |
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A |
傭兵学園 代々傭兵家系に生まれたマクシムは渋々と傭兵専門学園へと入学して、濃い同級生達と青春を謳歌する。 これは、いずれ伝説の傭兵となるマクシムたちの硝煙香る青春の記録である。 |
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アーミー・アサルトガン | W |
アーミー・スナイプガン | W |
アーミー・デュアルガン | W |
アーミー・バトルドレス | W |
アーミー・メディカルポーチ | W |
アーミー・ヘルメットデバイス | W |
アーミー・ボム | W |
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絵師:アイリ
マシンフェアリー メタバースが普及した世界では、ウイルスが自我を持ち、電子妖精としてネットの世界を自由気ままに過ごしていた。 これは、人並みあるいはそれ以上に残忍で狡猾で、そして無邪気であった電子妖精たちが世界を滅ぼすまでの記憶である。 |
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マシンフェアリー アスタリスク | M |
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マシンフェアリー アポストロフィ | M |
マシンフェアリー コロン | M |
マシンフェアリー シャープ | M |
マシンフェアリー ポイントリーダー | M |
マシンフェアリー ポイントリーダー3 | EXM |
マシンフェアリー ポイントリーダー6 | EXM |
マシンフェアリー カンマ | M |
マシンフェアリー ミサイルチャット | W |
マシンフェアリー オールファイアー | W |
マシンフェアリー ダイレクトボム | W |
マシンフェアリー ループブーメラン | W |
マシンフェアリー フェイクニードル | W |
マシンフェアリー ビーストモード | A |
マシンフェアリー ディシジョンスペース | S |
時計塔の鐘 貴女は気がついたら永遠に夜が明けない空へと来てしまいました。青い満月が見下ろす村で、幼馴染みと言葉が通じない女性と出会った貴女は、元の世界へと戻るために、どこからでも見える鐘のなる時計塔へと旅立ちました。 これは、幾万と行なわれたセッションの内のリプレイのひとつに過ぎないかもしれませんね。長文失礼しました。 |
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ハンドアウト エンドレター | W |
アリの | W |
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アイデアの音 | A |
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【時計塔の鐘 PL2】&【メアリー・エリス】
絵師:アイリ
ディファクターズ どこか欠けている子供たちが、欠陥機と烙印を押されたロボットのパイロットをしながら旅にでる。 たとえ最果てに辿り着いて何も埋まらなくたっていいじゃないか、これは |
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ディファクターズ | M |
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ディファクターズ | M |
ディファクターズ | M |
ディファクターズ | M |
ディファクターズ | M |
ディファクターズ | M |
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アサルト7 マシンガンイーグル | W |
アサルト10 ガトリングファルコン | W |
アサルト11 スナイパーオウル | W |
アサルト14 ロケットコンドル | W |
アサルト19 ランチャーホーク | W |
ディフクターズ・オープニング | M |
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絵師:ぱんつ
改宙船団 世はエイリアンとの宇宙戦争時代。宇宙地球軍は宇宙侵略者から地球を守る為に戦う。戦え改宙船団! 世界の平和は君たちに掛かっている!! これは宇宙を舞台とした戦いの記憶である! |
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ワンチャンスカノン | W |
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ワープゲート | S |
異壊物 既に崩壊が確定した世界。子供たちによる名ばかりの調査団に入れられたアカリは、化け物の襲撃の末にミストと出会い、はぐれた15人の仲間達を探す、これはそんな少女の記憶。 |
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アーマードヒーロー 人々を襲う怪物グレムリンと戦う、特撮風の変身ヒーローたちが居る世界。 これは、そんなヒーローたちが各々の信念と願いを持ち、人々のため。世界のため、そして自らのために戦い続けた記憶である。 |
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アーマードヒーロー デビル | M |
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アーマードヒーロー アンギル | M |
アーマードヒーロー ジャスティス | M |
アーマードヒーロー ナイト | M |
アーマードヒーロー カオス | M |
アーマードヒーロー アビス | M |
アーマードヒーロー キング | M |
アーマードヒーロー デビル・ダブルシックス | EXM |
アーマードヒーロー アビス≓アウターライト | EXM |
ブレイダー・スタート・フォン | W |
シックスキック | W |
カオス・スパイラル/CHAOS SPIRAL | W |
カウンタークロス | W |
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ダブルシックスチェンジ | A(C) |
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アーマードプライベートチャット | S |
P&P これは、未知の『P細胞』によって変化した少女、そして人外たちの記憶である。 |
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ギアルスパーツ | W |
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ペガサス・アイ | A(C) |
リミットアウト | A |
レインエンカウント | A(F) |
メンタルクラッシュ | A(C) |
アルテミス女学園 | S |
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絵師:紅葉崎もみじ
出展元:この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 アスクヒドラ
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絵師:ぱんつ
出展元:この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 喜渡愛奈
【
絵師:ぱんつ
出展元:出展元:この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 蝶番 野花
【
絵師:らむの牛肉
出展元:この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 白銀響生
【ペガサス・アイ】
絵師:そんなかんじ
出展元:この苦しみ溢れる世界にて、「人外に生まれ変わってよかった」 玄純酉子。
失敗作Δ 人の世の裏に人外たちが跋扈する世界。政府公認の人外を狩る人外集団が存在していた。 これは、その集団に属する高校生すみれが代々受け継がれた鈍いに苛まれながらも戦い、血の繋がらない家族と共に生きた記録である。元ネタ掲載先 |
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パラレルドッペルゾンビ | W |
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レヴォリューション・キメラ | A(C) |
【[_.
絵師:ぱんつ
出展元:失敗作Δ、黒峰すみれ。
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絵師:ぱんつ
出展元:失敗作Δ アルミリアウス
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絵師:ぱんつ
出展元:失敗作Δ 月蔵うつわ
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絵師:ぱんつ
出展元:失敗作Δ、■■(同作者様のロリちゃんというオリジナルキャラとは別の子です)
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絵師:ぱんつ
Ghostuber 幽霊などの魑魅魍魎が存在する世界。死んで百年あまり幽霊のユウは。自分の屋敷がボロボロ過ぎるのを嘆き、改築費を手に入れるためにオカルト系動画配信者になる事を決意した。 これはユウが勝手に住み着いていた怪異たちを家賃代わりにコキ使い。また罰ゲームで肝試しにやってきた青年を巻き込むなどして、チャンネル登録者百万人を目指した記憶である。 |
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妖刀怪士 昔々、優しい王様がいました。彼は島国の刀工が作り出す妖刀に心から惚れ込んでしまい。求めるだけ作らせて、手に入れて、周りに広めました。こうして大陸はあらゆる国が滅びて、不毛な大地を築くことになりました。 これは、そんなお伽噺の後を生きた妖刀によって怪士となった者たちの記憶である。 |
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やさしいおうさま | A |
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絵師:ぱんつ
0番童話 世界にして劇場、劇場にして世界。語り部と観客のみで構成されている歪な世界に、己の存在を保つために自身の物語を観客に読み聞かせするアリスは疑問を抱く。 これは、ある日を境に第三観点を得てしまったアリスが、自分たちの存在に疑問を抱き、この始まりと終わりである事を義務づけられた世界を真実を探求するまでの記憶――物語である。 |
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ガラスの | W |
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絵師様:クロノ
トゥルラヴ 八百万が当たり前のように存在する世界。色を司る女神が分裂して地上へと墜ちた。不思議な力を持つ三人の人として過ごす彼女たちは、怒れる神々に魔法少女として立ち向かう。 これは、いずれ1柱の女神に戻る運命を持つからこそ懸命に人として生きた魔法少女三人の記憶である。 |
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トゥルラヴ レッド | M |
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トゥルラヴ ブルー | M |
トゥルラヴ グリーン | M |
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スーパートゥルラヴ レッドマゼンタ | EXM |
スーパートゥルラヴ グリーンイエロー | EXM |
スーパートゥルラヴ シアンブルー | EXM |
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パレットシールド | W |
ロッドブラシ | W |
ローラーハンマー | W |
ミクシングフュージョン | A(C) |
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魔王吸血鬼 人間以外に魔族が蔓延るファンタジー世界。魔族の間で、くそったれな魔王決定戦が開始されてしまい。吸血鬼三姉妹長女、ゴスロリ家現当主であるウルドラはやる気が無いと無視することにした。 これは、そんな長女が人間の友達に騙されて一国一城の主になったり、敵である教会の人間と恋に落ちながら魔王へと到っちゃう記憶である。 |
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絵師:アイリ
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絵師:ぱんつ
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絵師:クロノ
異世界系 幾多の平行世界があるというのならば、別世界に移動してしまうというのは珍しくないのかもしれない。 これは異世界へと渡り、あるいは異世界で生まれ変わったものたち、あるいは異世界の住人たちの記憶たちである。 |
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リタイア・アラート | A(F) |
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I,DOOL アンドロイドがアイドル家業を担う世界。彼女たちは年間の稼ぎが目標達成金額を超えなければ活動停止、つまり死を意味する中で彼女たちは舞台に立つ。これは、自分たちは魂を宿した存在なのかを疑問に持ちながら、アイドルとして輝き続けたアンドロイドたちの記憶である。
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クリスタルチケット 1000 | W |
チョクラルスキ・ポップ 2000 | W |
ベルヌーイ・バラード 2000 | W |
フラックス・ロック 2000 | W |
デトネーション・フェスタ 2000 | W |
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生気溢れる | S |
Q.E.D's 古の悪魔たちがオーパーツ兵器であった世界。悪魔たちに魅入られた少女達は世界を征服できる力を得た。 これは、危険人物として忌み嫌われる虚無の少女、ミコがただ幸せを願っただけの普遍的な人であった事を証明するまでの記憶である。 |
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天上万劇 VRゲーム技術が発達した世界。VRオンラインゲーム『天上版劇』ではレベルカンストプレイヤーのみが参加可能な大会が存在する。 これは、勝利すれば名誉と賞金が得られ、敗北すればアカウント完全抹消と全てを失う中で、1対1の真剣勝負を是非としたものたちの記憶である。 |
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絵師:クロノ
理想怪物 人の心に怪物が宿り現実へと具現化する世界。彼らは世の中から隔離された学園へと送られて生涯を生きていく事となる。 これは、そんな怪物たちを止められる怪物「妖精の本」を宿した青年が、傷つき人として終わるかけの少女たちを救いたいと願い続けた記憶である。 |
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本編
BOMのはじまり
自分の創作活動における記念的新作短編(20話の予定)です。好きにやります。
カードゲーム系なので、かなり見づらいかもしれませんが楽しんで頂けると幸いです。
──トレーディングカードゲーム、『バトル・オブ・メインズ』。
略して『BOM』はアニメ人気によって、根強いファンを獲得したカードゲームであった。
絶対的な覇権カードゲームたちには足元にも及ばないものの、毎年全国大会が開催されるほどの地位は獲得しており、俺もまた“前世”では病で没するまで沼から抜け出せなかった一人であった。
新弾パックがでれば2箱以上は必ず剥き、全国大会にも何十回も出場した。
……好きなシリーズ構築を止められず、最終成績は全国ベスト8位一回、その他予選落ちという結果になったが……まあ悔いは無い。
そんな俺は死後、本当にどうしてか大好きな『BOM』のアニメ無印世界へと転生を果たした。
そして無印本編の舞台となる鳥巻町の山の中で途方に暮れていた。
「……腹減った」
この“世界”で使える金が無い、なんなら戸籍もないので、胃が鳴ろうが、喉が渇こうがなにも口に入れることができない。周辺に生える草とか花とかキノコとかが、やたら美味そうそうに見えてきた、マジで危ない。
「はぁ……せめて“コレ”を取ってくれるように頼んで……いや無理だったか」
働いて金を稼ぐなり、誰かに飲食を恵んで貰うなりするにしても、できない事情が俺の見た目にあった。
現在、俺の服装は白生地に黒いラインが良い感じになぞられているコート姿である。中は白地のシャツに黒のズボンと、地球で言えば厨二的コスプレ感は否めないが、この“世界”では割かし見かけるファッションであり、何か指摘されてもBOMプレイヤーですかっと言われるぐらいだろう……多分。
なので、コート姿は問題無い。問題なのは己の顔を完全に隠す“外れない白面”の方である。
もう不審者以外の言葉が見つからない。いってホビーアニメの世界だしワンチャンセーフかと思ったけど、親子連れにどん引かれた上に警察を呼ばれかけて流石にアウトだと教えられた。
“あちらの世界”の技術を正直嘗めていた。最悪石にでも打つけて壊せればいいだろうと思ったが、仮面が壊れる前に、俺の脳が弾け飛びそうだった。何度も何度も壁に向かって仮面を打ち付ける自分の姿を客観視して思い出したくない。本当に山で良かった。
食事の時以外では慣れてしまえば素顔で居るのとあまり大差はなく、仕事が完遂するまで被り続ければならないとあって、二年弱あまり長い付き合いとなった仮面の事を、この“世界”にやってくるまで、うっかり忘れてしまっていたのが敗因である。
────ぐ~~。
「……はぁ……こうなればバトルか?」
この世界はホビーアニメ特有、メインとなる玩具で勝利したほうが絶対な正義である。そしてこの世界のメイン玩具は『BOM』。
つまりは飲食店で好きに飲み喰いしたとして、BOMバトルを仕掛けて勝利すれば、全てをタダにする事が出来る世界なのだ! ……といってもアニメで実際に行なった敵役は、マナーの無い人間として主人公勢子供達が総スカン食らっていたので、本当にやりたくない。
ツケにするにしても、払える宛てが無ければ食い逃げと然程変わりないと思うし、負けたら二倍を料金を払うとか敗北したときの条件付けをしなければならないのもあるが……現在の“この世界”──第二世界でのカードパワーでは、“あちらの世界”──第一世界のカードが採用されている、自分のデッキでは、事実として負ける要素は無いに等しいので、流石にという気持ちが強い。
……最悪、人権たるデッキは二個持っている。片方を売っても問題は無く、“この世界”──第二世界ではまだ普及していないカードもあるため、食い扶持を見つけるまでの数ヶ月はホテル暮らしだってできるようになるだろう。
だが、アニメを通して、この世界での『BOM』がどういうカードなのかを深く知るからこそ、たったひとつに数万種類のカードが入っている闇鍋パックの中で俺の元へと集って来てくれたカードたちだ。自分の飯の種を理由に売りたくは無かった。
つまりは八方塞がりである。誇りはプライドでは腹は膨れないが、人の心は保ちたい……明るくなった仕事を探そう。
「──来たか」
──とはいえ、まずは“始まった本編”を確認しに行こう。
夜空に輝く星々とは違う、一筋の光が地上へと墜ちた。自分が第二世界に渡った事で時間のずれが生じるかと思ったが、得た情報通りに“主人公”がこの世界へとやってきた。
石椅子から立ち上がり。周囲を見やる。暗闇の山であるが、高性能白面は昼間と大差の無い視界を見せてくれるため何も問題無い。本当に食事をする時と外れない事以外では便利な仮面である。
「──始まるか……どうなるか」
──生まれ変わって二十二年。ようやくという気持ちと、いざ始まってしまう事による緊張感と恐怖が微妙に混ざりあいしんどくなる。最終的にどうするかは分からないが、まずは九年前の主人公の様子を見に行こうと下山を始めた。
+++
BOMアニメの物語は幾多の平行世界が絡み合い進行する。そんな中でアニメの冒頭は本編九年前のシーンから始まる。
その内容は、主人公である『
血も繋がっていない。産まれた世界も違う。それでも深い絆に結ばれる二人が親子となる尊いシーン。アニメを見て『BOM』に嵌まった身として、その瞬間を見られる事に思う所がないと言えば嘘になる。
──のだが、結論から言えば、原作通りに当星六華と当星明里は出会いを果たしていたが、原作では無かった緊急事態が発生しており、馬鹿な考えは吹き飛んだ。
「抵抗するな女! いいから、その赤ん坊をこっちによこせっ!」
「嫌よ! 例え犯罪者になったとしても貴方には渡さない!」
星の光を連想させるような青白色が散りばめられた黒髪の赤ん坊を守る為に抱き抱えるのはスーツ姿の長い黒髪の女性。間違い無く自分が知る当星親子に成る二人であったが……その二人に詰め寄って恫喝している野郎は、まったく身に覚えが無かった。
──いや、正確に言えば誰だかは知らないが、正体は判明している。彼が着ている自分とは違い黒ラインが無い白コートは、酷く見覚えがあった。
「──何をしている」
「なんだ貴様!? 即刻この場から立ち去れ!」
「それはこちらのセリフだ。なぜ“近衛”が第二世界にいる? どうしてその二人に危害を加えようとしている?」
『近衛』、俺や当星明里が産まれた第一世界に存在する職業で、簡単に言ってしまえば世界を牛耳る貴族たちに仕えるBOMプレイヤーである。アニメでの彼らの出番は第二期からで、本来であれば本編冒頭であるココに居ていい人物ではなかった。
「……なぜ第二世界の住人が近衛を知って……いやまて、その服も、それに仮面も、よく見れば
「この“儀式”に干渉するのは、いかなる理由だ? まさか上座の命令によるものか?」
「“儀式”の事も知っているのか!? 何者だ貴様!?」
「質問しているのはこちらだが?」
前世では、こんな偉そうな態度を取れる人物ではなかった筈だが。産まれた家の事情もあって舐められない事が何よりも大事と教育を受けてしまった影響で自然と、というか勝手に態度や口調が騎士とか武士とかっぽい高圧的なものとなってしまった。
時には嘆いたが、どんな相手であれ堂々とした態度でいられるのは、かなり有り難かった……完全に染まっている。
「再び問おう。近衛であるお前が何故“儀式”に干渉し、この二人に危害を加えようとしている」
そう尋ねながら、当星六華と男の間に無理矢理入り込み、距離を置かせる。
見た感じ、二人とも怪我は負っていなくて安堵する。それにしても当星明里は、この状況下でよく熟睡できるね。流石と言うべきか……。
「素性を面で隠した貴様に、教える事情は無い!」
「あ、あの、誰だかは知りませんが警察呼んでください!」
「無駄な事をするな、女ぁ!!」
「……アレに同意するのは不本意だが、この件に警察が干渉しないのは事実だ……すまない」
主人公である当星明里が、この世界に転移してきたのは事故ではなく、第一世界のくそったれな大人たちの事情故のものだ。そしてその大人たちは第二世界に多大なる影響力を持ち、警察など行政機関に裏で手を回している。よって当星明里を保護することもなければ、この近衛を捕まえる事もなく、なんなら逮捕されるのは助けを求めた当星六華のほうである可能性があるため、呼ばないのが正解であった。
──だからこそ、理由は分からないが、この変わってしまった原作に俺は介入する。
「再三問おう。お前は何れの理由でここにいる? 重大なルール違反を犯しているのではないか?」
「ふん! 元より不平等な“儀式”にルールも何もないだろう! 現に前日不審な転移が確認されている! 明らかに儀式に干渉するためのものであるに違いない転移がだ!」
しつこいと感じたのか三度目の問い掛けに近衛は答えた。……なるほどそうか、つまり、こいつがココにいるのは……俺の所為か──。
前日の不明な転移に覚えしかない。というか確実に俺の事だ。どうやら原作が変わってしまったのは、俺が転移した事で、この近衛の上司“上座の貴族”の誰かが不安を抱いた故に干渉する事を命じたようだ。
何が原作介入だばかたれ。タチの悪いマッチポンプ過ぎる。
「……そうか、お前が不正転移を行なった張本人か、ならば!」
近衛の男も不正転移したのが俺である事に気付いたようで、数歩後ろに下がると腰のケースからカードの束──『BOM』のデッキを取り出した。
「
「──馬鹿が」
止める暇なく“
自分と近衛の男の、ちょうど中心ぐらいに光の弾が生成されると、それは光の輪と変化して周囲へと広がっていく、気がつけば公園全体が光のドームによって包まれた。
「な、なにこれ? 『
「さあ、“宣誓”しろ! それともこのまま不戦敗となって、この世界から消えて無くなるかぁ!?」
戸惑う当星六華を気に掛けたいが、“既に剣は振るわれた”。このままでは不戦敗となって、この世界に居られなくなってしまう……。仕方ないとデッキケースに手を掛けた。
──本気ではない、と言えば語弊があるが、もう片方のデッキは近衛相手では流石に使えない。俺は仮面を被って、正体を隠すようになってから使うように成ったデッキを取り出した。
「その誓いと覚悟を受諾しよう──〈
同じくデッキをかざして“宣誓”を行なうと、ガラスのような半透明の板が俺と近衛の男の前に現われる。半透明の板──フィールドには幾つかの枠で区切られており、俺らは、ほぼ同時にデッキをフィールドの右端の枠にある『デッキゾーン』へと置いた。
「「──バトル!!」」
バトルの始まりを告げると、デッキが勝手に動き出して、上から十枚が横向きに『HPゾーン』へと置かれた後、最初の手札となる四枚が目の前に裏側のまま置かれる。
「先攻は私だ!」
ドロータイム |
「ドロー!」
早い者勝ち理論で、近衛が乱暴に手札を取って広げると、デッキからカードを一枚ドローした……別にいいけどね。俺も四枚の手札を確認する、悪くない。
さて、近衛のデッキはどんなのか、あんなんでも選ばれたエリートたちだ。普通に強かったりはする。この勝負、決して負けられない以上、あまり厄介なのは来て欲しくないが……。
フリータイム |
「私は【
近衛は手札からカードを一枚、中央の『メインズゾーン』へと展開した。
──すると、まるで最初から
「お、おおきい……こんなメインズ初めて見た……」
──『メインズ』。他のカードゲームで例えればモンスターやクリーチャーと呼称されるカードである。基本ルールとして1ターンに1度手札から自身の『メインズゾーン』へと召喚……もとい展開する事ができ、バトルを行なうことで相手の『HP』を削る事のできる『BOM』に必要不可欠なカードだ。
【 BP:1 ATK:1500 属:機 種類:M 【効果】 『絶倒砲台エアスト』『必倒砲台ツヴァイ』『完倒砲台ドリット』を装備している時、BP5になる |
しかし“改宙船団”か、最初期から存在する機属性で構成された初心者でも扱いやすい、パワー系シリーズだ。宇宙戦艦だけあって、好みの迫力をしている。これが“
「どうだ! 私の“主力艦”は!!」
「声を落とせ、赤ん坊が寝てるんだぞ」
「そんなの知ることか! このまま私は『アーカイブ』! 【
『アーカイブ』カード、原則1ターンに1度フリータイムの時だけ使える、他で言えば魔法や呪文と同じもの。しかし、【
「コストとして、デッキの上から五枚を『コストゾーン』へ! そして効果としてデッキから“改宙船団”と名の付いたメインズを二体、場に展開する!」
【 種類:R 【効果】 ≪コスト≫:デッキ×5 デッキから「改宙船団」と名の付いたメインズを展開する。この効果によって展開されたメインズは攻撃する事ができず、タイムエンド時に破壊される。 |
「私は【
近衛がカード名を宣言した時点で、デッキの上から五枚『コストゾーン』へと表横向きに置かれると、望んだ二体のメインズがデッキから、空いている左右のメインズゾーンへと展開された。
──フラグシップ・プルートの比べれば小型の
出たな、“改宙船団”の
「そして、そのままドローン・サテライトをコストとして破壊し、効果を発動する!」
現われて早々【
「場の【
【 BP:0 ATK:0 属:機 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:展開されているこのカードを破壊する。≪条件≫:フィールドに存在する『改宙船団ドローン・サテライト』以外の「改宙船団」と名の付いたメインズを指定する。 手札・デッキから装備条件が「改宙船団」であるウェポンカードを二枚指定したメインズに装備する。 |
「それを二体分! つまりフラグシップ・プルートに装備できる『ウェポン』の数は合計四枚だ!」
──『BOM』のカードゲームの特色をひとつ上げるならば、“ 装備”による強化ゲームである。
「見せてやろう! 地球を侵略せんと攻めてくるエイリアン共に立ち向かった宇宙戦艦のパワーを! 手札とデッキから【
フラグシップ・プルートが展開されている枠の下。『ウェポンゾーン』に4枚のカードが縦に並べられて置かれた。
【 種類:W 装備条件:改宙船団 ATK+500 |
【 種類:W 装備条件:改宙船団 ATK+500 |
【 種類:W 装備条件:改宙船団 ATK+500 |
巨大宇宙戦艦に相応しい砲塔が甲板の上に現れて、さらにフラグシップ・プルートを囲むように半透明のバリアが展開される。並行世界の地球を最期まで守り続けた戦艦本来の姿が具現化された。
「『BOMボール』によって映される立体映像とは違うが、同じ幻影の類だ。実害は無い」
「そう、なんですか……」
ゆっくりな動きで、こちらに砲身を向けてくる。実態が無い存在とはいえ身がすくむ程の迫力はある。当星六華が、当星明里を庇うように身を縮こませたのを察知して、気がつけば声を掛けていた。
すると、多少なりとも当星六華は緊張から解放されたようで良かった……だがもう少し柔らかい言い方ができなかったのだろうか俺よ。
「そして、【
【 BP:1→5 ATK:1500→3000 属性:機 種類:M 【効果】 「絶倒砲台エアスト」「必倒砲台ツヴァイ」「完倒砲台ドリット」を装備している時、BP5になる |
ATK値がメインズ同士の戦闘に必要となる数値であり、高いほうがバトルに勝利し、負けたほうは破壊されて『破棄ゾーン』へと送られる。
そして『BP』、正式名称ブレイクポイントはメインズがプレイヤーに直接攻撃をした時に効果が現れる数値であり、BP値の分だけ相手『HP』を削る。
つまり、今のフラグシップ・プルートの直接攻撃が通った場合、俺の『HP』は5枚、はんぶんも削られてしまうこととなる。
「そんな……BP5、それにATK3000のメインズなんて、プロの試合でも見たことない……!」
第二世界基準では、地球でいうところの第1期時のカードしか出回っていないであろう環境で生きてきた当星六華にとって、近衛のフラグシップ・プルートは、絶望そのものに見えているのかもしれない。
「それだけではないぞ第二世界の女ぁ! フラグシップ・プルートに装備したカードは四枚。最後のひとつである【
【 種類:W 装備条件:「改宙船団」 【効果】 このカードを装備したメインズは破壊されない。次の相手ターンのタイムエンド時、このカードは破壊される。 |
初手ターンであるため『バトルタイム』に移行はできないが、ATK値3000で破壊不可の宇宙戦艦はプレイヤーを守る最強の盾となる。きちんと対策した上で防御を固めてきた、やはり近衛だけあって中々なプレイングを行う。
「どうだ! 貴様に私のフラグシップを落とせるか? 対抗できるのか!? 降参するなら今のうちだ。すれば
「それは有り難い話だな……だが、俺がいなくなったあと、お前はとうぼ……この子とこの人をどうするつもりだ?」
「ふん、女は然るべき対処を、儀式の子は忌々しいが我らの元で時がくるまで“食事を与えるつもり”だ」
「……なに、それ……この子をなんだと思ってるの!?」
──事情はなにひとつ分からないが、近衛の言い回しからして赤ん坊をまともに育てる気は無い。それだけは分かったのだろう当星六華は怒りからか声を張り上げた。
「そもそも儀式ってなによ!? この子を何に巻き込んだのよ!?」
「黙れ! 第二世界の女に質問されることほど虫唾が走るものはない!」
「……長い感想を述べる前に、やるべき事があるんじゃないか?」
「はっ、降参する時間を与えてやったのだ。それを無駄にしたな……先行1ターン目であるため、バトルは行なえない。このままタイムエンドだ!」
タイムエンド |
「……ふぅ」
自分の番が回ってきて、思わず濁った溜息を吐いてしまった。
「どうした? 脅えているのか? それとも自分の仕出かした事に後悔しているのか?」
「どれでもないさ。ただ嫌になってな。せっかく『BOM』をやっているというのに──心からイライラしている……!」
地球では、ただのゲームとして楽しめた『BOM』。この世界に生まれ変わって実際に立体映像としてメインズが現われると、夢にまでみた環境を生きているのに、どうしてこんなバトルをしなければならないのか、最悪な気分だった。
俺が動いた結果なのか、それともアニメとは違う“自分という存在”を掛け合わせただけの似て異なる平行世界なのか……思考の坩堝に嵌まりそうに成る中で、たったひとつ理解した事があったと、未来の当星親子に一瞬だけ視線を送る。
──『BOM』で負ければ不幸になる人が居る。勝てても良いものかと言われればそうではない。そうだ。だからこそ俺は“
「例え約束された幸せが未来にあったとしても、それを壊してしまう不安に刈られたとしても!……お前たちの娯楽に黙って付き合うのはうんざりだ!」
──未来の事なんて分からないが、このバトルは勝たなければ全てが狂うと、俺はデッキに手を置いた。
ドロータイム |
「ドロー」
デッキからカードを一枚ドロー。五枚となった手札を確認すると、俺はそのまま『HPゾーン』に置いてある十枚のカードの、一番上に手をやった。
「引き続き、『ハートテイクドロー』、『HP』を一枚手札に加える」
『BOM』は基本ルールとして、後攻1ターン目から、『デッキ』からのドローの後、『HP』であるカードたちの一番を手札として引く事ができる。つまりHPを削ってドローを行なう事ができるのだ。
俺の10HP
「ふっ! なにをするかと思えば初手からいきなりハートテイクドローとは!? 手札事故でも起こしたか!」
『ハートテイクドロー』は、この世界ではバトルに負ければ失うものがある事が多いからか、割と負けが確定している中での最後の神頼み、あるいは愚かなやけっぱち行為として認識が広い。地球では余裕があれば必ずしろと言われるまで常套手段であるため、俺のように初手であるのは、かなり変な目で見られる。
ただ、今回は手札が欲しくて引いたわけではなかった。これはHPを“近衛の男よりも下にする”ために行なったものだ──この1ターンで終わらせるために。
「近衛というのは相変わらず品性もマナーもないな」
「なんだと!?」
「それに赤ん坊が寝ているというのに一向に声量を落とそうともしない。そんな奴との
『BOM』は早く終わらせるに限る。フリータイムだ」
フリータイム |
「中央のメインズゾーンに【パイルズ・ビス】を展開」
杭か
──“パイルズ”。戦争によって工業用から戦闘用へと改造された悲しきロボット兵たち。地球では改宙船団と同じく最初期から存在するテーマで、『BOM』に嵌まった俺が初めてちゃんと作ったテーマデッキでもあった。
「ふっはは! 勢い強くなにを出すかと思えば なんだその
自身のフラグシップ・プルートに比べれば、こぢんまりとして小さく可愛らしいロボットを見て近衛は嘲笑う。
──知らないなら教えてやろう。この小さなロボット兵パイルズ・ビスは、地球では一時期8000円以上の値段で取引されており、長い間禁止化を解除されなかった上に公式から永劫制限化をお達しされたぶっ壊れカードだという事を。
「【パイルズ・ビス】の効果発動。コストとして手札から三枚を『廃棄ゾーン』へと送り、デッキから「パイルズ」と名の付く“エクストラメインズ”を手札に加える」
「なに!? エクストラメインズだとぉ!?」
【パイルズ・ビス】 BP:0 ATK:0 属:機 種類:M 【効果】 〈コスト〉:手札を3枚『廃棄ゾーン』へと送る。〈制限〉:1ターンに1度のみ発動する事ができる。 デッキから「パイルズ」と名の付くEXメインズを一体、手札に加える事ができる。 |
驚く近衛を無視して、俺はプレイを続行する。
「──『パイルズ・ビス』を“エクスペリメンツ”」
デッキから加えたカードを【パイルズ・ビス】の上に重ね置くと、立体映像の【パイルズ・ビス】が光輝き、姿形を変えていく。
「──現われろ!【
光の塊は俺よりも大きな人型となり、黄金色へと輝き始める。そして生まれた靡くマントが振るわれると、黄金のロボット兵が姿を現わした。
『エクストラメインズ』。メインズが経験を得て新たなる姿へと変わる行為となる、1ターンに1度、自身のメインズゾーンに存在するメインズの上に重ねて展開ができる特殊なメインズである。つまりは進化系カード。
“パイルズ”は、そんなEXメインズを主軸に戦うテーマであり、子供だった俺はカードを重ねて豪華に成っていくロボットに、アニメではそんなに出番が無いのにも関わらず。ただただ夢中になった。
「コストとしてデッキの上から九枚をコストゾーンへと送り、効果発動。破棄ゾーンにある“パイル”と名の付いたウェポンカードをコストとしたカード
俺が支払ったコストは九枚。つまり三枚のウェポンカードを『破棄ゾーン』から、【
【 BP:0 ATK:0 属:機 種類:EXM EXP→「パイルズ」 【効果】 〈コスト〉:デッキの上からカード×3を『コストゾーン』に送る(上限9)。〈制限〉1ターン1度だけ発動できる。 『コストゾーン』に送った枚数だけ、『廃棄ゾーン』にある「パイル」と名の付いたWカードを、このカードに装備する。 |
「破棄された装備カード? そんなものは……あの
「そうだ」
地球での【パイルズ・ビス】の評価が禁止に至るまでに上がった理由。それは効果ではなく“コスト”の方であった。
三枚の3枚は決して軽くは無いが、カードを選べて『破棄ゾーン』へと送れるのが、かなり汎用性が高く、コストとしての破棄ゆえに効果無効を擦り抜けられる。それにBP0、ATK0という事もあってサーチが大変しやすく、他テーマに出張してお手軽1ターンデッキの軸になってしまったのだ。
勿論のことテーマ内での活用でも、お手軽にコンボが決められるもので……初手に来た時点で近衛の男がしたプレイングは、全て裏目となっていた。
「『破棄ゾーン』から【ドリルパイル】【ロケットパイル】【アヴェンジャーパイル】を選択し、ゴールデンパイルズに装備する!」
【ドリルパイル】 種類:W 装備条件:「パイルズ」 ATK+1000 【効果】 EXメインズに装備された場合、追加でATK+1000を得る。 |
【ロケットパイル】 種類:W 装備条件:「パイルズ」 BP+2 【効果】このカードを装備したメインズが攻撃したターンのタイムエンド時に、このカードを破壊する。 |
【アヴェンジャーパイル】 種類:W 装備条件:「パイルズ」】 ATK+500 【効果】 自身の『HP』が、相手よりも少ないときの場合、追加でBP+1を得る。 |
ウェポンカードを装備したゴールデンパイルの両腕は見た目からして強力な杭打ち機へと変わる。
【ドリルパイル】と【アヴェンジャーパイル】は条件をクリアしているため、さらにゴールデンパイルズを強化する。
【 BP:0→3 ATK:→2500 属:機 種類:EXM EX→「パイルズ」 【効果】 〈コスト〉:手札×3を『コストゾーン』に送る(上限9)。〈制限〉自分のターン1度だけ発動できる。 『コストゾーン』に送った枚数だけ、『廃棄ゾーン』にある「パイル」と名の付いたWカードを、このカードに装備する。 |
「……ふん、なにをするかと思えば! 装備三枚全て足しても、その金メッキメインズの攻撃力は2500! フラグシップ・プルートの3000に及ばないではないか!」
そう、ゴールデンパイルズは効果が強力であるが素のATK値が0と効果を発動して装備を付けた所で殴り勝ちにくいカードであった。どちらにしろ【
「最期の悪あがき、滑稽で中々面白かったぞ、ふははは!」
「──なぜ、ここで終わりだと?」
「ははは──はっ?」
──だが、ゴールデンパイルズはあくまでも中繋ぎであった。彼の役割は地球でも変わらない、自身にウェポンカードを出来るだけ装備する事だ。それが無事に成された以上、最終段階へと移行する。
「俺はアーカイブカード、【インパクトコネクション】を発動! 自身の『メインズゾーン』に“パイルズ”と名の付いたEXメインズが存在するとき、その中の一体を指定して発動することができる。手札・デッキから“パイルズ”と名の付いたEXメインズを指定したカードに重ねて特別展開する!」
「なっ!? 二重エクスペリメンツ!?……そんな馬鹿な事が!?」
正確には効果処理による特別展開であるので、エクスペリメンツではないのだが、指摘する気は無かった。
【インパクトコネクション】 種類:R 【効果】 〈条件〉:自身の『メインズゾーン』に「パイルズ」と名の付いたEXメインズが存在し、その中の一体を指定する。【制限】1ターンに1度のみ発動する事ができる。 手札・デッキから「パイルズ」と名の付いたEXメインズを指定したカードに重ねて特別展開する。 |
「──あらゆるものに研磨され、偽りから真なる将へと到った当機を見ろ! 【
ついテンションのボルテージが上がて、展開口上を語ってしまい、俺が一番五月蠅くなってしまった。
金色メッキが剥がれ落ちて、中から溢れ出るプリリアントな光が当たりを照らす、そして現われたのは自然宝石の中でもっとも堅いとされ、もっとも美しいとされる
「──綺麗」
強固な試練によって研磨されたとされるダイヤモンドの姿に、当星六華は目を奪われたようで、後ろからうっとりとしたひと言が聞こえてきた。
「ゴールデンパイルズに重ねて特別展開されたダイヤモンドパイルズには、そのまま装備が引き継がれる。これによって【
「ア、アタック3500……!? 馬鹿な!? フラグシップ・プルートを超えたというのか!? ……だ、だが、このターンは【
「そうだな。そのバリアを壊せる手段は無い──壊す必要も無い」
「な、なに?」
「──ダイヤモンドパイルズは【貫通】を持っている」
本来、メインズ同士のバトルではBPダメージを与えられないのだが、【貫通】持ちのメインズはバトルで勝利した場合、プレイヤーに攻撃した時と同じ持ち得ているBP数字分のダメージを与えることが出来る。だからバリアによって破壊できなくても、近衛の『HP』を削れる事ができる。
「そしてダイヤモンドパイルズには、もうひとつの効果が存在する。このカードは装備している“パイル”と名の付いたウェポンの数だけ相手メインズを攻撃できる。装備枚数は3。つまり三回攻撃可能だ」
「……そ、それでは……まさか、そんな!?」
──そう、無敵の不沈戦艦だからこそ、お前は次のターンを迎えることができない。
【 BP:1→4 ATK:1000→3500 属:機 種類:EXM EXP→「パイルズ」 【効果】 ≪貫通≫:相手メインズとの戦闘によって勝利した場合、BPダメージを与える。 【効果】 このカードに装備されている「パイル」と名の付いたカード1枚に付き、相手メインズに攻撃が可能。 |
「どうせ妨害手段とか入れていないんだろう?」
「う、くっ……!」
地球とは違いこの世界たちでのBOMカードは、とある事情から同カードが生産される枚数はかなり限られている。その中で便利な妨害カードはかなり高い値段で売買されているし、第一世界では位の高い貴族が独占している。そしてこういったパワー系テーマを扱うBOMプレイヤーは、ダメージが入り捲れた時に発動できる『フラッシュアーカイブ』カードを嫌い決して入れようとしない。
──そういう経験則と知識から、俺は臆する事無くこのターンで終わらせるために動けた。
「傲慢が過ぎたな。
「や、止めろ……分かった、お前の勝ちだ。第二世界で負けたとなれば私は──!?」
「……“
残り一枚の手札を相手に突き出して、宣言する。
「──バトルだ」
バトルタイム |
「【
ダイヤモンドパイルズが構えるとロケットブーストを点火し飛翔、地上から天へと伸びる七色のダイヤモンド流星は、空に鎮座する巨大宇宙戦艦の甲板へと着地し、バリアを纏った巨大な船に杭打ち機の先端を付けた。
「──ダイヤモンドバンカー・
最初の一発が撃ち込まれる。象と蟻ほどのサイズ差がありながらもダイヤモンドパイルズの杭打ち機は、バリアごとフラグシップ・プルートを揺らし、地上にまで聞こえるほどの轟音を打ち鳴らした。
近衛の男の『HP』のカードが4枚捲られて、そのまま『廃棄ゾーン』へと送られた。予想通り妨害は発動しない。『HP』が6となった事で、俺の9HPを下回り、【アヴェンジャーパイル】の追加強化条件外となった事で、ダイヤモンドパイルズのBPが1下がる。
が【 BP:4→3 ATK:1000 属:機 種類:EXM EX→「パイルズ」 【貫通】相手メインズとの戦闘によって勝利した場合、BPダメージを与える。 【効果】 このカードに装備されている「パイル」と名の付いたカード1枚に付き、相手メインズに攻撃が可能。 |
『BP』が3になったが攻撃は後二回できる。そして相手の『HP』残りは6。後は簡単な
「──
「や、やめろおおおお!!」
2発目が撃ち込まれる、巨大な船は落ちる事は無いが、そのダメージは所有者へとしっかり伝わっていた。
『HP』が3と成った。妨害札は出ない。
「終わりだ──
三発目の杭が打たれた。これによって近衛の『HP』は0となった。
俺が勝利し、近衛が敗北にてバトルが終了した。沈むことは無かった宇宙戦艦が、ゆっくりと粒子となって、跡形もなく消えていく。
「そんなバカな……私が……1ターンキル……」
膝から崩れ落ちる近衛の男は、メインズと同じく淡く光り出し粒子の粒となって崩れていく。
「この強さ、
言い切る前に近衛の男は霧散して、この世界から跡形も無く消えて言った。
「……え? 消えた……うそ、なんで?」
「不安がらなくていい、死んではいない……自分の生まれた世界に還ったんだ。いま俺たちがしていたBOMバトルは、そういうものだ」
『〈
ここ第二世界で負けた近衛は、生まれ育った俺たちの第一世界──アルカデウスへと帰っただけで、死んでは居ない……もっとも、与えられた命令を熟せずに敗北して帰ったとなれば、あの近衛の男は無職に成り下がるだろうが。
ちなみに自分の産まれた世界で負けた場合は、ランダムに無数の平行世界の何処かへと飛ばされてしまうらしい。それが人類が生きていけない世界であるならばかなり悲惨であり、『
──いざ、体験するとやはり楽しいものではないな。
「あ、あの……助けてくれてありがとうございます。それで貴方はいったい? この子の事も知っているみたいでしたけど……」
──さて、明らかに事情を把握しているであろう自分に、当星六華が問い掛けるのは当然のことで、とりあえず振り向こうとしたそのとき、体に力がふと抜ける。
「へ……ど、どうしたの!?」
────ぐぅ~~~~。
どうやら自分はうつ伏せに倒れたらしいと気付いたと同時に、腹の虫が鳴いた。
「……もしかして、空腹?」
「……丸一日動き回っててなにも食べてない」
「えぇ、困ったわね……どうしよう……」
顔は観れないが何か考えてくれている空気がする。失礼な話になるかもしれないが、アニメと同じく彼女は困っている人間を放っておけない良い人であるようだ。
「──じゃあ、家に来てなんか食べる?」
──とはいえ、まさか家に招かれるとは思わなかった……どうしてこうなった。
【BOM 豆知識】
改宙船団」テーマは、最初期の紹介時には「
月に数話単位で出して行こうと思うので楽しんで頂けたら幸いです。
すぐに[カード一覧表]と[ルールブック]を投稿しますのでそちらもよろしければ見てください。
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BOMは変化する
見てくれてありがとうございます。
今回はバトルはありませんが、楽しんで頂けると幸いです。
特定の人物でなければ外すことの出来ない白面であるが、実は鼻から下半分は取れるようになっている。食事をするための機能であるが、これを知らずに被らされたために、もしかして仕事が終わるまで飲食禁止カード化かと、あのとき感じた死の恐怖は忘れることは無いだろう。
「ずず! ずずず!! ――ごくごくごく」
「はー、本当にお腹空いていたのね」
して、きっちりと整理整頓が成されている六畳ほどの室内で、俺はカップうどんを堪能していた。
――うめ~~~。
転生して22年ぶりに食べるカップうどんはガチで美味しく箸が止まらん、熱々の麺を勢いよく啜り、舌が火傷してもお構いなしに汁を飲み干す。
「――ふぅ、沁みる……」
絶食期間は丸一日だったとはいえ、この世界に転移してきたり、山の中に潜伏したりと、とにかく動きっぱなしであった事もあり、倒れるほど極限に空腹であった。
それがいま満たされた、このカップうどんは生涯忘れることは無いだろう。
汁一滴も残さず食べきり、小さなテーブルに空容器と箸を置くと、自分の食べっぷりを見ながら、目を真ん丸にしていた、スーツ姿の女性『
「本当に助かった。命の恩人だ」
「あ、お粗末様です……むしろごめんね、女のひとり暮らしで、炊事する余裕もないからインスタントしか用意できなくて」
「卑下しないでくれ。貴方の行いは確かに俺を救ってくれた」
「大袈裟だねー」
自分でも格式張った態度であるとは思うが、地球から引き継がれたコミュ障気味な体質と礼儀と人付き合いを重んじる貴族の教育をトラウマレベルで叩き付けられた事で、どうしても砕けた態度というのが取れなくなってしまっていた。
未だ腕の中で眠る『
「訳あって山に潜伏していたのだが、なにぶん何が食べられるものか分からなかったから、手を出せなかった」
「……なんで山?」
「その、なんだ……。この世界の金も無ければ、戸籍がある身でもなくてな。まずは夜が明けるまで人目を避けようという判断になったんだ」
なんでだろうね。潜伏にしても街中で良かったのに、なにぶん警察呼ばれそうになってパニクっていた気がする……それで山に逃げるとか、完全に犯罪者ムーブ過ぎると今更ながら気付いてショックを受ける。
「……あの、落ち着いた事だし、色々と質問いい?」
「あ、ああ、分かった。言えるものであれば全て答えよう」
「じゃあまず、その仮面って外せないやつ?」
「外せない奴だ。それに……」
テーブルに置いてあった、白面の下部分がカタカタと動き出して、ひとりでに元の俺の顔へと嵌まった。
「……こうやって一定時間経過すると戻ってしまう」
「……呪われてるやつではないのよね?」
頬を引きつらせる当星六華に、怖がらなくて良いと宥める。
「ちゃんとした技術だ。この世界とは違うがな……頼まれ事が完遂するまで被る事になったのだが、訳あって、このままこちらの世界まで来る事になってしまったんだ」
しかもこうなると、三時間は外せなくなる。曰くうっかり外しっぱなしを回避するために取り付けた機能らしい。なるほど便利だ、だが機能改善を求める。
「危ない仕事でもしてたの?」
「いや、子供の家庭教師だ。ただ自分の立場からしてやんごとなき人でな。正体を隠す必要があったんだ」
――『BOM』を教えてあげてほしいと、その子の親であり、自身の立場からして絶対的な目上の存在である人からの頼み事で、当時5才であった、その子の家庭教師となった。
彼女は正に天才であり、年齢以上の知識や技術をあっという間に覚えていった。『BOM』だけでは無く、それ以外でも彼女が望むように接して居たが、それが孤独な子供にとって、癒やしであった事は目に見えていた。
――元気に……はしていないだろうな。いずれは会うつもりであるが、“アニメ原作での彼女”の境遇を考えれば、やはり危険を承知で、ひと言でも声を掛けられたら良かったが……後悔するのは後にしよう。
「あとはそうね……んー、貴方の素性……あ、話せるだけでいいわよ」
「すまない」
自分の事情に配慮してくれて、教えられる範囲でいいと当星六華から言ってくれる。不義理だという思いはあるが、自分の知るべきものを全て打ち明けるには不安要素が多いため、彼女の言葉に甘える事にする。
「……まず、遅れたが自己紹介をしよう……名をヒタキと言う」
どうするか悩んだが家名を隠すことにした。不義理であるのは承知だが、良くも悪くもアルカデウスの関係者に目立つ名前であるため、どっかで知られるような事があれば、それこそ、おおきな厄介事に彼女が巻き込まれる可能性がある事を否めなかった。
「そうね、色々あって忘れてたわ。改めまして
そうえいばアニメを通して知っていたが、彼女の名前を知るのは、今が初めてか……危なかった。
当星六華は仕事の癖なのか頭を下げた。そのさいの振動が切っ掛けとなったのか、カップうどんを準備するために、俺がしばらく抱っこした時もお眠だった赤ちゃんがついに目を覚ました。
「――あぅ?」
「あ、起きちゃった」
「…………」
「どうした?」
「たぶん、知らない大人に抱っこされていて驚いているんだと思う」
小さな体を動かさず、じっと当星六華を見つめる。思えば赤ん坊からすれば、目が覚めたら知らない場所で、見たことのない女性に抱っこされて、つるつる仮面お化けが覗き込んでいる状況だ……これは泣かれてもおかしくない。
「――あー?」
そんな俺の不安とは裏腹に、赤ちゃんは当星六華に向かって興味深そうに手を伸ばした。
「こんばんは。はじめまして、当星六華って言うの、よろしくね」
「うー、うっうっ!」
当星六華が手を優しく掴んで、笑顔で挨拶をすると、当星明里は笑顔となって答えた。さらに人差し指で優しく頬をこそばすと、キャッキャとご機嫌になる。
「あら可愛いね~」
「うっ! うー! うっ!」
「……泣いちゃうかなって思ってたから、びっくりしちゃった」
どうやら同じ考えであったようで、予想外の反応に当星六華も戸惑っている様子だった。
「……うー、んー!」
ともあれ問題がなさそうなら良かったと思ったら、赤ん坊のご機嫌は話に聞いた通りジェットコースターのようで、急にぐずり始めた。
「これは……多分ご飯ね」
あやしながら当星六華は直ぐに理由に思い当たったらしい。当然と言えば当然か、そういえば赤ちゃんは三時間毎にミルクを飲むとも聞いた。
「ミルク……それにオムツとか幼児品を買わないとね」
「買ってこよう。この時間に空いている店はあるか?」
当然であるが一人暮らしの当星六華の家には幼児品はないため、どこかで買ってくる必要がある。なら夜も遅いし、疲れているであろうとして、自分が買いに行くべきであると立ち上がった。
「いやいや、その格好で店に入ると怒られちゃうわよ……それにお金も無いんでしょ?」
「ぐっ」
そうだった見た目も然る事ながら無一文、買い物すら出来ない立場である事実を突き付けられて、思わず唸り声を上げてしまう。
「私が買ってくるから、しばらくこの子を見てて」
「だが、こんな深夜に、ひとり買い物に行かせるわけには」
「大丈夫よ。そんな遠くないし、いつも仕事終わりに通ってる道だから」
「……あの近衛、公園で出会った奴に狙われる可能性もある。やはり君をひとりでは行かせられない」
はっきり言って当星六華は『BOM』の腕が余りよろしくない。それ故に不遇な目にあったというのも、だから不審者もそうだが、近衛のようなBOMプレイヤーに絡まれるかもしれないと考えると、慣れた夜道とはいえ歩かせたくは無かった。
「……そっかぁ、じゃあそうね。みんなで一緒に行っちゃおうか」
「……それしかないか」
他に良い方法も思い浮かばず、見た目不審者な俺と当星明里の三人で夜の買い出しへと向かう事になった。
+++
鳥巻町は都会ではないが、地方首都ほどには発展した町である。そのため21時を回った深夜でも、やっている店は、それなりにあるらしく、歩いて15分ほどと割と近くに24時間スーパーがあった。
そして、粉ミルクとオムツ、それ以外の子供用品を買う事ができたのだが、ちょっとばかり無事とは言い辛いことが起きた。
まあ当然の如く、白面で顔を隠した白コート不審者である俺の事を店員が見逃すわけなく、非常にびびられてしまい、予め言い訳を考えていたであろう当星六華が間に挟まってくれなければ騒動になる所だった。
……しかし、BOMのイベントが終わり、そのままコスチューム姿で合流したという言い訳は、あらぬ勘違いを生んでしまったようで、店員の中では俺は家族のために夜遅くまで働くお父さんのような扱いをされてしまい、微笑ましいものを見る視線が、ひどく罪悪感を刺激した。
因みに当星六華は、嘘を吐いた手前もあるんだろうが、その様子をニコニコと見るだけであった。
「よっぽどお腹空いていたんだね~」
そして、後は家に帰るだけとなった時、むしろここまで我慢してくれたというべきか、ついに当星明里が泣き出してしまった事で、仕方なしに俺たちは店員さんに頼み込み、本来であれば夜は使用不可のサービスエリアを開放してもらい食事タイムとなった。
「……手慣れているな」
当星六華は、手際良く人肌のミルクを作り、飲ませている。子供の居ない彼女がどうして、赤ん坊のお世話に慣れているのか、アニメ原作を通して知っていたのだが、間近で見て感心したことで思わず口に出してしまった。
「学生の時にボランティアとかで何度も経験があるの……本当は子供に関わる仕事がしたかったんだけど、BOMの成績的に生活が成り立つほどの稼ぎが得られなくてね……」
そう自分の事を話す当星六華は少し悲しそうであった。アニメの時からも疑問であったが、どうして子供の世話に『BOM』の強さが関わってくるのか皆目見当が付かない。こういう世界だと納得できるかと言われれば否である。
「たくさん飲んだね。じゃあ次はゲップしようっか、はいトントントン――」
「――けぷ」
「よくできたねー」
抱き方を変えて当星明里の背中を摩る。これまでの彼女の赤ん坊に対する献身的な行為からして、本当に子供が好きなんだというのが分かる。
――だからこそ彼女は、俺の知るアニメ原作の当星六華は、その子の
「……唐突な頼み事になるが当星六華。どうかその子に名前を付けてくれないか?」
「え? でも……もしかして、名前も無いの?」
「……ああ、そうだ。だから君に付けて欲しいんだ」
――嘘を吐いた。実際には実の親から名付けられた名前は有るし、俺はそれを覚えている。だが、個人的な私情でしかないが……例え、アニメ原作とは違う展開になっても、当星六華に付けて貰いたかった。
「……そう、じゃあ、うーん。女の子で……元気で笑顔が可愛くて、出会ったとき、すごく光っていて、とても眩しくて、でも凄く落ち着く明かりみたいで……そう、この子は“明かり”みたいだった」
当星六華は、『BOM』の才能がない故に不遇な日々を送っていた。就職難を乗り越えてなんとかして入れた会社はブラックで、深夜遅くまで仕事をして、家に帰ってもご飯を食べてシャワーを浴びて寝るだけの日々を過ごしていた。
心身共に疲れ果てた夜の帰り道、ふと見上げた空に、一筋の“明かり”を彼女は見た。
「明かり、明るいに里って書いて――
「――そうか、明里か……いい名前だな」
この子もまた、六華が名付け親となり、明里という名前になった。その事がなんだか無性に嬉しかった。
「……さっきも少しばかり話したが、俺と明里は違う世界からやってきた」
そのまま流れで、話し始める。
「俺たちの世界は第一世界、またの名をアルカデウスと呼ぶ。この世界とは違う『BOM』を主体とした技術が発展しており、王族無き貴族社会であり、“
そんなアルカデウスと、ここ鳥巻町の第二世界とどういう関係になるかは省略。当星六華が気になる部分であろう、明里と俺がこの世界にやってきた理由を話しはじめる。とはいえ言える事は少ないが。
「その子は……明里は数十年の周期で行なわれる儀式の巫女として選ばれて、この世界へとやってきた。いや、面倒を見てくれる大人はおらず、衣食住すら与えられなかったのだ。放り投げられたと表現した方が正しいか」
あの近衛も、自分というイレギュラーを感知しなければ、そもそも公園に来ることはなかっただろう。
「……なによそれ。儀式が何か分からないけど、そんな理由でこの子はまったく知らない場所に、それも衣服1枚で放り出されたっていうの!?」
全くもってその通り、正気の沙汰ではない。例えそれが“アルカデウス世界そのもの”に関連する事情だったとはいえ、上座たちの所業は許されるものではない。
六華の怒り声に、明里はびっくりしたのは目をぱちくりとして硬直する。
「あ、ご、ごめんね……なんでもないよー」
「うー?」
「……もしも私か、ヒタキさんが来なかったら、この子はどうなってたの?」
「……彼女は、大事な儀式の巫女だ。しかし平民である。だから儀式に参加させないといけないが、成功はしてほしくない。そんな上座の貴族たちの想いを汲む展開になっていただろう」
元より、どうして赤ん坊単身で世界を渡らせて、明里が平民の出の子だったとしても“彼女”と比べて、生活に必要なものが用意されていなかったのか、疑問に思う視聴者は多かった。
それが第二期になって、そもそも明里は“明日を無事に迎える”事を望まれていなかったのだと発覚した時の、SNSの荒れ具合は今でも思い出せる。なんなら俺もホビーアニメでやっていい内容かと呟いたほどだ。
「そんな……」
――非道に到った理由はある。どうしようもない真実を、だけど、口にできる内容ではないと黙することしかできない。
「……ヒタキさん、貴方は、その……どういう立場の人なの? この子の味方でいいんだよね?」
「敵味方ではなく、完全な部外者だな……いや、貴族として生まれた以上、この儀式を止めなかった時点で、捨てた大人と同類――」
明里が、この世界へと送られる日は、全てを把握していた。だけど儀式そのものを止めようとはしなかった。アニメ原作を気にしてしまってと……言葉にしてしまえば、どんなものよりもタチが悪い理由で。
「――それよりももっと酷い大人なのかもしれない」
「そんなこと無い」
思わず出てしまったぼやきに、六華が直ぐに否定の言葉を口にしてくれる。
「あの公園で、貴方はずっとこの子の事を気遣っていた……そんな人が、酷い大人だなんて絶対にない」
「……こんな仮面で顔を隠している身でもか?」
「そうよ」
当星六華ははっきりと断言する。それにとても心が救われる。
「――当星六華」
「さっきも気になったけど、なんでフルネーム呼びなの?」
「……すまない。貴族の嗜みだ」
家名込みで名前を呼ばないと行けない場面が多く、遠慮している部分があったのだろう。あまりにも失礼だと思い直す……単に女性を名前で呼ぶのが恥ずかしかったというのは秘密だ。
「当星卿。当星さんか」
「六華でいいし、敬称も要らないわ」
「……なら六華」
本人から言われたら従うしかないと俺は六華の名前を呼び、彼女に向かって深々と頭を下げた。
「無茶を承知で頼む。俺にはこの子を育てられる力が無い……勿論、できる限りの事をする。……だから、明里の育ての親になってくれはしないだろうか?」
警察などの機関も裏で手を回されており、明里には頼れる大人はいない。そして俺も彼女を育てられる立場でも無い。
だから原作通りに、明里を育てられるのは現状、六華しか居ないのだ。それが結果的に彼女に幸せを与える未来があったとしても、俺が介入してしまった以上、もはや未来は分からないものと成っている。だから、俺は誠心誠意、頭を下げて懇願する。
「それはいいけど、手続きとか大丈夫なの?」
「……え?」
「いやほら、例えば市役所に行って誘拐扱いされたら困るというか……」
「……手続きに関してはこの町の市役所で問題無く行なえるはずだ……いいのか?」
あっけらかんな態度に、後になって理解が追いついていき。無意識に問い掛けてしまう。
「元からそのつもりだったしね。あんな大人たちに狙われてるってなら、放っておけないよ。ねー」
「えぃー」
「でも、どうしようかな。仕事も他の探さないとね」
――とっくの昔に、六華の中でもう決まっていた事だろう、学生ボランティアの僅かな時間であれど子育ての大変は経験しているから、命を育てるという重さも自分以上に承知しているはずだ。
「……ふっ」
それでも彼女は、責任を持って明里を育てる事を決意してくれた。俺は嬉しすぎるあまり白面の裏側で笑みを零してしまう。
「そういえばヒタキさんって、BOM詳しいのよね?」
「あ、ああ、それなりには」
「だったら――」
――なるほどそう来るかと、六華の話を聞いた俺は動揺のあまり、実は奢って貰っていた、お茶を仮面越しに飲んでしまうというお茶目さを出してしまう。
+++
――それから十日後、それまで何をしていたかは後で語るとして、結論を言えば色々な手続きを済ませて、六華と明里は晴れて、書類上親子となった。
「ほら、お父さんですよー」
「あー」
「……その、なんだ……まだ心の整理が付いていなくてだな」
「ふふっ、ごめんごめん。これからよろしくね、ヒタキさん」
「……ああ、こちらこそだ」
戸惑うことはあるが、ここまで来たら腹を括るしかないと、目の前の“新たな家”、そして“俺たちの店”に向かって、心機一転、覚悟を決めて、明里の義父として、まずは“九年間”頑張って行こうと思う。
「明里も、よろしく」
「あいー!」
「あ、こら! 仮面を引っ張らないの」
――だけど、義娘よ。面を引っ張る時はもう少し手加減してくれ。
+++
――豪華絢爛な室内にて、美しい銀髪に黒い瞳の女の子がBOMのデッキを握り締めて、窓の外を見ていた。
「――先生、どこにいるの?」
テンポ重視でやっていきます。
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再会してBOM(前半)
Twitterの検索事情によって、作品のタイトルを変更しました。
元「バトル・オブ・メインズ」
略して「ぬかてん」でこれからやっていきたいと思います。
――観測できる未来というのは、蝶の羽ばたきほどの些細な違いによって、大きく変わる。
自分という存在が干渉した場合、自身の知る
それでも、貴族として生きるために必要不可欠であり、前世唯一の縁でもあり、こんな世界でも好きであった『BOM』に触れる事は止められず。あれやこれやと周囲に惜しげもなくプレイングを教えたり、知識を口にしたりしていたら評判が立ち、あちらの方からお呼び出しが掛かり、大部分に関わる事になってしまう。
――正体を隠し、5才となる娘の家庭教師をして欲しい。
自身の家が属する派閥の管理者にして、アルカデウスを牛耳る上座の当主に頼まれて、俺は“彼女”と接する事となった。
それからの二年間。彼女が7才となるまでの日々は俺の考えを改めて、この第二世界へ行く事を決めるのに充分な時間であった。
――しかし、まさか原作主人公である『
+++
――というわけで、どうも『
どうして、そうなったのか、それは明里を正式に娘にするために市役所に寄ったさいに、自分の立場が住居不定会隠蔽戸籍無しの完全不審者である事が問題となったのだ。
六華と明里の親子登録の方は職員のほうが多少ざわついたものの、やはりアルカデウスの干渉があったのか審査もなく、その代わりと言わんばかりにバトルを挑まれたために1ターンキルを決めて、その場で登録が済んだ。
そして、そのあと俺がこの世界で存在しない人間のままでは不便だと考えたのか、六華は元から決めていたらしく、職員に幾つか質問したあと俺に婚姻届を提出した。本当に唐突だったから頭が宇宙に支配された。
最初こそ、流石にと遠慮したのだが、明里の親代わりとして一緒に面倒を見ると誓った事を理由に挙げられて、そのまま六華の勢いに押されて『当星六華』の夫という、この世界での立場を手に入れた。
――翌日、自身の戸籍登録に関する通知封筒が送られてきた時には、分かっていたとはいえ、ちょっとした恐怖を感じた。本当に仮面を被って正体を隠していなければ危なかったかと肝を冷やした。
「……ようやく、ちょっと落ち着いたわね」
「とはいえ、今日中に準備を完了させなければならない。荷物が来たら慌ただしくなるな」
「遅れるにしても、もう少し連絡欲しかったわねー」
「えぇー」
手持ち無沙汰となった事で、俺達は段ボールと荷物が取り散らかっている“店内”の外に出て休憩に入っていた。
「いやー。まさか私が“カードショップを経営”する事になるなんて、人生何が起こるか分からないわね」
「う、うー」
「そんなこと行っちゃえば、空から振ってきた赤ちゃんが娘になるなんてって話だけどね」
「あいー!」
既に店に立て掛けてある大きな看板には『BOM CardSHOP当星店』と、当星六華の店である事が分かりやすく書かれている。
そう、当星六華が明里の子育てをしながら生活のお金を稼ぐために選んだのは、BOM専門カードショップを立ち上げる事であった。店の二階は生活スペースとなっており、つまり、この建物は店であり、俺たち“家族”の新しい家であった。
――実は六華がカードショップを運営する事は原作通りであった。その理由は個人経営であれば明里の傍に居やすいこと、この世界では『BOM』は生活必需品。店舗開設は国によって推奨されており、開くとなれば支援金が出るからであった。
そして、追加の理由として個人店舗であれば仮面姿の俺でも働きやすく、BOMに詳しいからと、あの短い時間の中で色々と考えてくれたらしく、本当に彼女が居なければ明里と俺はどうなっていなか分からないなと、改めて思った。
「でも、ヒタキさんが本当に居てくれて助かったよ。やっぱりBOM強いんだね」
「カードパワーの差もありきだがな、それを言うなら六華の行動力と手際の良さのほうが凄い」
――この十日間、俺たちは店を開くための準備期間に入った。そうなると六華の動きは躊躇いなく早かった。
まず六華が今の仕事を辞めた。そのさいに六華の提出した辞表を破って辞めさせないと恫喝したブラック企業の上司をバトルで黙らせ……説得するなどした。社長とか追加で何度かバトルする事となったのは予想外だったが、そいつらも纏めて心をへし折……きちんと話し合って、今までの残業代もきっちりと回収しての円満退職となった。
そして国からの補助を受け取るために、再び市役所によってBOM課に事前に準備した書類を申請。経営に必要な筆記テストをその場で受けて余裕でクリア。学生時代にとった資格の勉強が役に立ったという、強い。
そのさいにBOMに関することは俺が行ない。何故か存在した実技試験にて職員とバトルして勝ち文句なしに認可を得る。
店舗借りるさいに不動産で、いい物件を手に入れるためにバトルをして、必要な備品を注文、BOMに勝利したらサービス且つ優先発注してくれるということでネット越しにバトルをして、勉強のために鳥巻町にある他のカードショップを見て回る中で、様々な理由で発生するバトルをした。
――本当に濃い十日間であった。
それにしても、あそこまでBOMバトルが要求されるとは、原作アニメの六華は、どうやってオープンまでにこぎ着けたのだろうか? ……もしかしたら、自分が知る以上の苦労をしたのかもしれない。それならば自分が居たことで少しでも負担が経験された事を願うばかりである。
「ついに明日オープンか……」
こうして色々あったものの無事にオープン前日まで辿り着き、俺達は荷下ろし中。あちら側のトラブルで遅れる残りの荷物を待っていた。
「なんだか嬉しそうね」
「そうか? ……そうかもな。カードショップをするの昔からの夢だったんだ。それがこんな形で叶うとなって、今日は眠れないかもしれない」
この数日間で、六華は仮面越しに俺の感情を的確に読むようになってきた。自分から隠しているつもりはないのもあるが、結構分かりやすいらしい。貴族社会で生きてきた以上、心境を隠すのは得意と思っていたのだが、どうやら違ったようだ。
「うー、うぅ――」
「あら?」
「ミルクか?」
「そうみたいね」
六華に抱っこされている明里が、突然にグズり始めた。時間を確認すれば周期的にご飯の時間だ。
「俺が待っておこう、明里のご飯ついでに少し休憩してくるといい」
「そう? じゃあお言葉に甘えて、少し休憩するわね」
俺が力仕事を担った事もあり、明里をおんぶしながら作業をしていたため、やっぱり疲れていたらしい。ありがとうとお礼を言いながら、六華たちは店の中へと入っていた。
「――ふう」
思えば六華と常に行動して、それ以外は代わりに明里の世話をしていたため、こうやって一人になる事は久しぶりだった。
なんだか奇妙な事になったが、こうなった以上は責任を持って頑張るしかない。そう思ったからこそ、無責任に別れてしまった、教え子のことを思い出す。
「――先生」
「……まさか……もう来たの……か?」
噂をすれば陰と言えばいいのか、頭に思い浮かべた時に、その声を現実で耳にするという偶然の一致に、仮面の奥底で、俺は死ぬほどびびる。
――彼女は確かに第二世界に暮らす事になる。明確な時期は分からないが小学校も、こちらの学校に通っている描写もあった。だが、今の彼女はまだ7才だ。“儀式”が始まるのは九年後だぞ。流石に早すぎる。
しかし声が下方向に視線を向ければ、そこには見覚えのある銀髪に黒目の小さな少女が立っていた。
「……久しぶりだな……ハクナ=シュバルツノ」
動揺が抜けきらず、本当に本人なのかという気持ちが先行してしまい。思わずフルネームで呼ぶと、ハクナはこくりと頷いた。
「はい、お久しぶりです……先生」
ハクナ=シュバルツノ。アルカデウス上座五家のひとつである、シュバルツノ家で生まれた貴族の子である。現当主からの頼みによって俺が二年間家庭教師としてBOMなどを教えた子であり……九年後の本編において、当星明里のライバルとなる子。
「ようやく会えました」
――貴族生まれの子供としてか、ハクナは表情を隠すのが上手い。しかし二年も多少なりとも読み取れる。俺と再会を果たしたハクナは、今にも泣きそうだ。
「元気……ではなさそうだな、すまない。どうしてここに居るのが分かった?」
「十日前に先生のダイヤモンドパイルズが見えた」
「……それからずっと、俺を探していたのか? ずっと……!」
シュバルツノ家伝統の白を強調とした衣服に似合わず、ハクナの靴は酷く汚れていた。だけど俺は店を開くために、色んな所を動き回っていたし、それ以外ではアパートの中で明里の世話をしていたんだ。見つかる筈がない。
それでも彼女は諦めず、慣れない外を毎日毎日時間の許す限りに探していたのだろう。その理由は分かっている。
「……やはり、一人なのか?」
「……与えられた家は広くて、シュバルツノ家に居た時よりも自由に動きまれるようになった……でも、自由になったぶん、広くなったぶん、先生の事を思いだして……」
ハクナはいつも通り7才とは思えないほど、しっかりとした言葉で自分の気持ちを吐露する。
――彼女は、生まれながらの天才的な“運命力”によって満場一致で“儀式の巫女”となり、シュバルツノ家の長女で生まれながら孤立した生活を決定づけられる。母親である当主との会話も手紙だけに限定されてしまうほどで、彼女に干渉できるのは必要最低限の教育を受けさせるためだけの家庭教師だけであった。
だからこそ、
「先生、私の家に来て……また、先生として色んな事を教えて……」
――そのお陰で、ハクナにとって甘えられる大人と認識された自覚はある。そして同時に、まだ7才のハクナにとって甘えられる大人が俺にしかいないのだ。
激しい後悔に襲われる。考えれば明里が転移した時点で、“儀式の相手役”であるハクナが同じ日に送られてもおかしくないとどうして気がつけなかった!
原作への遠慮が判断を鈍らせたのか? 本当の大馬鹿野郎だ。
「お願いです……先生」
「…………すまない、無理だ」
ひどく悩み、躊躇い、だがハッキリと否定した。まさか断わられるとは想わなかったのか、ハクナの呼吸がショックのあまりに一瞬止まる。
「……どう、してですか?」
「俺は明里、時が来たとき君とバトルする事となる儀式の巫女を育てる事となった」
「……っ!?」
感情を表にださないハクナが、今度は目を見開くほど驚いた。
「だからハクナ、いくらでも俺に会いに来ていい。いつでも連絡していい、望むなら時間を作って、どこかに遊びに行ったっていい……だが、本当にすまない、一緒には暮らせない」
自分の考えを断言すると、ハクナはしばらく顔を俯かせて動かなくなった。泣き出すか、走り出すか――いいや、彼女もまたアルカデウスの貴族である。
「――あの家にひとりは嫌です」
「……」
「だから、先生。バトルしましょう」
「……ああ、お前ならそう言ってくれると思った」
お互いがBOMのデッキを取り出す。
「『BOMボール』――来て」
ハクナの呼び出しに、衣服に取り付けられているブローチ型の端末が音声を認識すると、どこからともなく球体型のドローン群が宙に浮きながら現われた。
ドローン群、正式名『BOMボール』たちは周辺十メートル間隔ほどに展開すると『
これこそが第二世界のどこにでもいても、ひとたびバトルをすると口にすれば現われるBOM専用のシステムである……どのホビー作品にも言えることだが、カードゲームに金かけすぎである。
お互い、フィールドにデッキをセットする。“
「……私が先行」
先攻後攻は完全なる機械によるランダムで行なわれる事となり、自分フィールドのパネルに表示されたの後攻の文字。つまりハクナ方が先攻となった。不服そうなのはお互いが後攻有利なデッキ
「……私が勝利したら、一緒に暮らして」
「俺が勝ったら……気が済むまで話をしよう」
お互いの望むものを提示する。口約束でしかないが、この世界でのBOMに掲げる条件は破ってしまったら最後、社会的な全てを失うとまで言われるぐらい重いものとなっている。
こうして全ての準備が終わり、俺たちは始まりの合図を口にする。
「「バトル」」
4枚の初手札を確認する……悪いとまでは言わないが、ハクナが相手となると慎重な動きを求められると言った所だ。彼女はまだ7才であるが、儀式の巫女に選ばれるまでの運命力、そしてプレイングは、大人顔負けである。
ドロータイム |
「私の先行、ドロー……フリータイム」
ハクナは五枚となった手札を見て、直ぐに次のタイムへと移行、展開をはじめる。
フリータイム |
「【シュバルツノ
ハクナがメインズを配置すると『
そのメインズは純白の、なんと言うべき古代南米の遺跡のようなブロックにして“拘束”されている純白の人型怪物のようだった。
「コストとして手札を1枚『コストゾーン』へと送り、【シュバルツノ
【シュバルツノ BP:0 ATK;0 属:霊 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:手札×1をコストゾーンへと送る。≪制限≫:1ターンに1度 デッキから「シュバルツノ」と名の付いたメインズを『破棄ゾーン』へと送る。このカードはタイムエンド時まで『破棄ゾーン』へと送ったメインズと同名カードとして扱う。 |
「この効果による【シュバルツノ
同名扱いができる効果に、望んだものを『破棄ゾーン』へと送れるシュバルツノUの初手展開は相変わらず強い。こうなってくるとかなり厄介だ。
「手札から『アーカイブ』、【
「ハクナはデッキから条件に適するEXメインズを1枚選び『破棄ゾーン』へと送った。
【 種類:R 【効果】 ≪コスト≫:デッキ×5枚を『コストゾーン』へと送る。〈条件〉:自分フィールドに存在する「シュバルツノ」と名の付いたメインズを1体指定する。 デッキから、指定したメインズがEXP条件となるEXメインズを1枚『破棄ゾーン』へと送る。 |
「最初のターンはバトルタイムに移行できない。よって、私はこのままタイムエンド」
終わってしまえば、場に居るのはBPアタックともに0のメインズが1体だけである。だが、これは俺が教えた、ハクナの先攻定石とも呼べるとっても強い布陣である。
タイムエンド |
「俺のターン。ドロー……続けて『ハートテイクドロー』」
何時ものようにHPを9にして、初手札を6枚にする。
――ハクナのデッキ、“シュバルツノ”は、主人公のライバル枠でありながら、BOMの中でもかなり特殊な部類に入るテーマだ。まず専用のウェポンカードが存在せず、霊属性で統一されるとあって、装備による強化がしづらい。その代わりメインズ単体の火力が高いこと、そして特質なエクスペリメンツ効果を持つ。
パワー系に見えて、かなりのテクニカル系なテーマであり、相手がどう動いたのか見るのを疎かにしていると、あっという間に盤面を支配されてしまう。すでに『破棄ゾーン』に必要なカードが2枚揃っている以上、リソースを考えながら展開しないと行けない。
フリータイム |
「……フリータイム。手札から【パイルズ・ボルト】を『破棄ゾーン』へと送り、効果発動、デッキから『パイル』と名の付いたウェポンカード1枚手札に加える」
【パイルズ・ボルト】 BP:0 ATK:0 属:機 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:手札からこのカードを『破棄ゾーン』へと送る。 デッキから「パイル」と名の付いたウェポンを1枚手札に加える。 |
近衛の時に使用した【パイルズ・ビス】と似たデザインながら、図体が大きいロボット兵が描かれたカードを破棄ゾーンへと送る。そのあと効果によってデッキを確認。そのさいに、ざっとどのカードがHP墜ちしたのかを確認しながら、条件に当てはまるカードを1枚手札に加える。
「俺は【バスターパイル】を手札に加える。そして【シルバーパイルズ】を中央に配置、そして、そのままエクスペリメント――」
出したばかりのシルバーパイルズにEXメインズを重ねる。銀色の機体が剥がれ墜ちて、露わになったのは機体、杭兵器、構成する全てが
「――【
【バスターパイル】 種類:W BP+1 ATK+300 |
「……むぅ」
的確に自分に刺さるものを出されたと、ハクナは頬を小さく膨らませた。年相応の子供っぽい反応に気持ちが緩むが、このバトルに賭けているものを想いだして、俺は油断無くバトルを進行する。
「【
クリスタルパイルズの結晶性の杭突兵器の形状がバスターパイルズのものへと変化する。まだ展開できる余地はあるが、このターンで終わらせられない以上、温存するべきだな。
「――バトルだ」
バトルタイム |
「――先生がバトルタイムに移行したさい。『破棄ゾーン』に存在する【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】の効果発動」
俺のターンがバトルタイムに移行するのを待っていましたと、ハクナは動き出した。
「コストとして『HP』を2枚『コストゾーン』へと送り、配置されている“シュバルツノ”と名の付いたメインズの上に重ねてEXPを行なうことができる」
ハクナは自身のHPを二枚『コストゾーン』送り、先ほどカードの効果によって『破棄ゾーン』へと送ったEXメインズを場の【シュバルツノ
「――原罪解放、エスクペリメント」
人型の怪物を縛っていた遺跡のような枷が外れて、封印が解かれると光の塊となり姿を変える。
「――【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】を展開」
――光の塊は幾多の平行世界を滅ぼした怪物。成人男性たる俺よりも遙かに大きな純白の狼となって場に現われた。
相手ターンのバトルタイムによる特殊EXP。これが“シュバルツノ”の真骨。素の火力もさることながら、その効果も強力である。
「【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】の効果発動。このカードが自身の効果によって場にでた時、相手メインズを1体破壊する」
【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】 BP:2 ATK:2000 属:霊 種類:EXM EXP→「シュバルツノW」 【効果】 ≪コスト≫:HP×2枚を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:バトルタイムに移行した時にのみ発動できる。 このカードが墓地に存在する時、自分フィールド上の「シュバルツノ」と名のついたメインズの上に重ねてEXP扱いで配置する事ができる。その後、フィールド上に存在するメインズ1体を破壊する事ができる。 |
「……クリスタルパイルズを指定、破壊する」
白狼の怪物から口から放たれた純白のエネルギー弾が、クリスタルパイルズへと直撃し、
「――【
――しかし、中から出てきた結晶の豪腕によって土煙は払われて、無傷のクリスタルパイルズが威風堂々の立ち姿で現われた。
【 BP:2→(3) ATK:1700→(2000) 属:機 種類EXM EX→「パイル」 【効果】 ≪制限≫:1ターンに1度のみ発動する事ができる。 メインズを破壊する効果を無効にする。 装備中:【バスターパイル】 |
「……さすが先生」
クリスタルパイルズとヴォルフのATK値は同じであり、バトルをすれば同士討ちとなってお互いが破壊される。しかし、クリスタルパイルズは1ターンに1度の破壊体制効果持ちであるため、バトル後に彼だけが生き残る予定であった。
かといって、ヴォルフを出さず【シュバルツノ
「なら、俺はこのまま何もせずにタイムエンドする」
タイムエンド |
お互いの1ターンはエース級メインズを出しながらも様子見となって終わった。ハクナとプレイする時にはよく見られる光景である。
「――先生はやっぱり強い……でも、絶対に私が勝つ」
「ハクナ……」
「ひとりは寂しい……でも、私には先生しかいないから……!」
静かに燃え盛る決意をハクナは口にする。彼女が言うように、今のハクナには頼れる大人が俺しかいない。そんな中で俺は、事情があったとはいえ何も言わずに彼女の前から居なくなってしまった。
――これは、俺の所為だ。だからこそ本気で向き会わなければならない。
「――ハクナ。俺も負けられない」
明里、そして六華の事もあるが、いまここで負けてしまえばハクナの将来に多大なる影響がでる気がしてならなかった。だから家庭教師としても、彼女が信頼する大人としても、今のハクナに負けるわけには行かなかった。
「だから――全力でバトルだ」
「シュバルツノ」のテーマは初期からありますが、アニメでハクナがバトルするまでテーマの本性を隠して、一部のメインズだけお出しされたので、霊属性初心者向けカードという認識となっていました。
本来、バトルの内容は省略する予定でしたが、フルで出す事となり、前後分けました。
これから不定期更新になりますが、必ず完結まで書きたいと思うので、楽しんで頂けたら幸いです。
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再会してBOM(後半)
なにかとミスが多いと思いますが楽しんでくれるなら幸いです。気になった所があればご遠慮なくお伝えください。
お待たせしました。こんな感じですちょっとずつ進めていこうと思います。
『現在のフィールド』 |
『シュバルツノ=ハクナ』 先攻
手札2枚 HP:8
フィールド:【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】
【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】 BP:2 ATK:2000 属:霊 種類:EXM EXP→「シュバルツノW」 【効果】 ≪コスト≫:HP×2枚を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:バトルタイムに移行した時にのみ発動できる。 このカードが墓地に存在する時、自分フィールド上の「シュバルツノ」と名のついたメインズの上に重ねてEXP扱いで展開する事ができる。その後、フィールド上に存在するメインズ1体を破壊する事ができる。 |
VS
『当星ヒタキ』 後攻
手札3枚 HP:9
フィールド:【
【 BP:2→(3) ATK:1700→(2000) 属:機 種類EXM EX→「パイル」 【効果】 ≪制限≫:1ターンに1度のみ発動する事ができる。 メインズを破壊する効果を無効にする。 装備中:【バスターパイル】 |
「私のターン。ドロー」
ドロータイム |
ハクナの2ターン目へと以降、ドローによって手札が3枚となる。
『ハートテイクドロー』はせず。それも当然で“シュバルツノ”のテーマはHPをコスト要求してくる事が多いため、基本的には手札リソースを増やすよりもHPを温存する事が大事となってくる。
パワータイプに見せかけたテクニックタイプと良く言われていて、地球ではアニメの活躍や、その見た目から子供人気が高かったとされているが、勝つとなれば“シュバルツノ”というテーマはバトルの最中考える事が多く、難しかった。
しかし、7才のハクナは、そんな“シュバルツノ”を、完全にと言っても過言ではないぐらいに扱いきれていた。
フリータイム |
「【シュバルツノ
神の天罰によって肉体を滅ぼされ、魂を封印された新たな怪物が姿を現わす。
南米遺跡のような紋様が刻まれている石によって拘束されている牛の怪物が、【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】の右隣へと現われた。
「そのまま【シュバルツノ
【シュバルツノ BP:1 ATK:1000 属:霊 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:場に存在するこのカードとHP1枚を『コストゾーン』へと送る。 デッキから「シュバルツノ」と書かれたメインズを1体、自分『メインズゾーン』へと出す。その後デッキからEXメインズを1枚『破棄ゾーン』へと送る。 |
「【シュバルツノ
「……なに?」
ハクナはコストとして、効果元である【シュバルツノ
牛の怪物が消え、代わりに同じ封印処置が成されたありの怪物が場に出る。それはいいが、気になったのは『破棄ゾーン』に送ったカードが予想外のものだった。
プレイミスとは言えないものであるが、このタイミングで『破棄ゾーン』に送る意味。それを考えた上で、予想される展開が、あまりにもハクナらしくないと思ってしまったからだ。
「──先生、このバトル、本気だから」
仮面越しであるが戸惑っているのを悟られたのか、ハクナは到底7才がしていいものではない、恐ろしいほどの決意を込めた目で、俺を見て来た。
「ハクナ……」
「HP1枚を『コストゾーン』に送る事で、手札・デッキから【シュバルツノ
【シュバルツノ BP:1 ATK:1000 属:霊 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:HP×1枚を『コストゾーン』へ送る。 デッキから「シュバルツノA」を1体、自身の空いている『メインズゾーン』に特別展開する。 |
コストを支払った事で、ハクナのHPは6に成る。そしてデッキから2体目の【シュバルツノ
シュバルツノAは素でBP1持ちであるため、この場面で数を揃えて殴りに行くのは良い戦法である。しかし、今日のハクナは、絶対に俺に勝ちたいハクナは、ここで止まる気は無いのだろう。
──彼女はらしくない速攻によって、このターンで決着を付けに来た。
「──『アーカイブ』。【
【 種類:A 【効果】 自分フィールドの「シュバルツノ」と名の付いたメインズ或いは「シュバルツノ」をEXP条件としているEXメインズを1体破壊する事ができる。 【効果】 相手フィールドのメインズを1体破壊する。 |
「……クリスタルパイルズの効果発動。1ターンに1度、破壊を無効にする」
天から光の柱のようなふり注ぎ、2体のEXメインズに直撃する。クリスタルパイルの方は効果を発動して無傷、ヴォルフだけが破壊された。
「──幾つもの平行世界を滅ぼした。怪物の本気……それを見せるよ」
ハクナは、ここからが本番だと言わんばかりに、アニメのハクナと同じ決め口上を述べた。初めて聞いたが、ただただ悲しかった。
バトルタイム |
「──バトルタイムに移行した瞬間。コストとしてHPを2枚『コストゾーン』へと送り、“先ずは”『破棄ゾーン』に存在する【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】の効果発動」
【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】 BP:2 ATK:2000 属:霊 種類:EXM EXP→「シュバルツノW」 【効果】 ≪コスト≫:HP×2枚を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:バトルタイムに移行した時にのみ発動できる。 このカードが墓地に存在する時、自分フィールド上の「シュバルツノ」と名のついたメインズの上に重ねてEXP扱いで展開する事ができる。その後、フィールド上に存在するメインズ1体を破壊する事ができる。 |
「──原罪再解放、エクスペリメンツ!」
ついにハクナの『HP』は半分以下の4となり、先ほど己の『アーカイブ』で送ったヴォルフを【シュバルツノ
「場に出た事で空いてメインズを1体破壊する効果発動! クリスタルパイルズを破壊する……!」
クリスタルパイルズが破壊され、俺の場は完全ながら空きとなってしまった。しかしハクナには、まだ攻撃するつもりはないのだろう。なにせ場にはまだ、二体目の【シュバルツノ
──少々ややこしい話も混じるが、ヴォルフを含めた“シュバルツノ”たちの、『破棄ゾーン』からの効果はEXP扱いにおける展開であるため、EXPのターン1の回数制限を消費する。そのため使用したターンは、EXP可能回数のカウントを回復でもさせないかぎり再び使うこともできない、それは同じ効果を持つ“シュバルツノ”にも言える事であった。
「続けて、コストにHPを2枚支払って“もう一体”の効果を発動──」
──コストの支払いで、削りに削ってハクナの『HP』は2に。
しかし、“シュバルツノ”の中には同じ出し方をできるが、EXPではなく特別展開として出すため回数制限に引っかからないEXメインズが1体だけ存在する
「原罪解放……! 全てを白へと
──それがアニメでも、この世界でもハクナのエースであるEXメインズであった。
「残り1体の【シュバルツノ
封印された魂は解放され幾多の世界を滅ぼした怪物が復活を果たす。地球では太古から恐怖の化身、その象徴として描かれてきた純正の怪物。神々しいまでに純白に輝く竜がフィールドに現われた。
がら空きの俺のフィールドを通して竜の怪物が、頭上からこちらを睨んでくる。心なしか、いや、確実の己の主であるハクナを悲しませている存在として、怒っているようだった。
単なる気のせいではないのだろう、なにせ、この世界の『BOM』のカードであるメインズたちには、確かな意思が宿っていると明言されているのだから。
「……速攻で来るのは正直予想外だった」
「負けられない……バトルだから……!」
“シュバルツノ”が求めるコストは、大半がバトルの勝敗に直接的に関係する『HP』が主である。そのためコスト管理をしくじると負けに直結してしまう“テーマ”であった。
絶対に負けてはならない世界を治める上座の娘としての学び、あるいはその血が訴えるのかハクナは教えるまでもなく、勝つことを大事とし、安定的で慎重な動きを好む。そんなハクナが“パイルズ”というテーマに対して、『HP』を2にするという危険を犯してまで速攻を仕掛けてきた。彼女の目論見通り俺は意表を突かれたのは事実だ。
【シュバルツ・ウアシュプルング・ドラッヘ】 BP:2→4 ATK:2000→4000 属:霊 種類:EXM EXP→「シュバルツノ」 【効果】 ≪コスト≫:HP×2を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:バトルタイム中にのみ発動可能。 手札、または破棄ゾーンに存在するこのカードをEXP可能なメインズに重ねて特別展開する事ができる。この効果によって場に出たターン。タイムエンド時までBP値、ATK値の数値は2倍となり、2回攻撃ができる。 【効果】 このカードはウェポンカードを装備できない。 |
ドラッヘの効果は、分かりやすく己の素のパワーを全て2倍にして、それも2回攻撃できるという、バトルに終止符を打つに相応しい純粋なパワータイプであり、まさにここぞという時に出すに相応しいエースメインズであった。
「……行くよ先生」
ハクナの宣言に、二体の純白な怪物たちは咆哮をもって呼応する。
「【シュバルツ・ウアシュプルング・ドラッヘ】で先生に直接攻撃──〈
「……っ!」
出かかった言葉を仮面の奥で耐える。ドラッヘは口先を天に向けると大きく息を吸い始めた、公式のガイドブックでは太陽や月や星が発する光を体内に蓄積させているのだと言う。充分に溜め込まれた光は、ドラッヘの体内で物体へと変化し、ブレスとして俺に放たれた。
『BOMボール』から出力されている『
「HP4ダメージ、内容チェック──クリック無し」
しっかりとプレイ行為を宣言しながらドラッヘのBP分の枚数、『HP』のカードを4枚を捲り、内容を確認してから『破棄ゾーン』へと送る。
「続けて、もう一度ドラッヘで攻撃……!」
再び光のブレスによって視界が白に染まる。9
まだハクナのメインズゾーンには、BP2のヴォルフが存在し、攻撃を通してしまったら俺の負けになるだろう。
──だが『BOM』は、そう簡単ではない。対抗手段は場や手札以外にもあるのが、このカードゲームだ。
「……内容チェック──俺は『“フラッシュ”アーカイブ』、【リタイア・アラート】を発動! デッキから、BP値0、アタック値1000以下の機属性メインズを1体を特別展開する」
「────あ」
【リタイア・アラート】 種類:A(F)フラッシュアーカイブ。 【効果】 デッキからBP値0、ATK値1000以下の機属性メインズを1体、自分のメインズゾーンへと特別展開する。効果が発動したターン終了時、そのメインズは破壊される。 |
『フラッシュアーカイブ』、主に『フラッシュ』と呼ばれるカードは『HP』がブレイクされて捲られたさいに有った場合、回数制限無しで発動できるアーカイブカードだ。
そう、俺ががら空きでありながら余裕……ではないにしろ、焦らずにプレイを見続けていられたのは、流れを止められるカードが『HP』に有ると分かっていたからである。
俺のターン時の最初、【パイルズ・ボルト】の効果でデッキサーチをした主な理由は、望んだカードがHP落ちしていないかという確認、それと同時に“HP落ちしたカードがなんであるか”を確認するためだった。
「……俺は【ギアパイルズ】を特別展開する!」
戦況が劣勢となって、古い骨董品の機械ですらも兵器改造されるようになった末期。博物館に眠っていたのを起こされて、ちんけな杭を持たされて前線へと立つ事となった歯車式のロボットが俺のフィールドに現われた。
「っ! ……ヴォルフでギアパイルズを攻撃……!」
ハクナは少しばかり考え込んだあと、ヴォルフで【ギア・パイルズ】を攻撃し破壊。これによってハクナのメインズは全ての攻撃が終了し、俺はHPを1残す事となった。
「……タイムエンド」
本当ならこのターンで決める筈だったが防がれた。そんな気持ちが分かりやすく見て取れるぐらいに彼女らしくない長考の末に、ハクナは渋々とターンを終了させた。
タイムエンド |
ハクナのターンが終了した事で、ドラッヘのBPおよびATK値が元に戻る。
【シュバルツ・ウアシュプルング・ドラッヘ】 BP:4→2 ATK:4000→2000 属:霊 種類:EXM EXP→「シュバルツノ」 【効果】 ≪コスト≫:HP×2を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:バトルタイム中にのみ発動可能。 手札、または破棄ゾーンに存在するこのカードをEXP可能なメインズに重ねて特別展開する事ができる。この効果によって場に出たターン。タイムエンド時までBP値、ATK値の数値は2倍となり、2回攻撃ができる。 【効果】 このカードはウェポンカードを装備できない。 |
ドロータイム |
「……ドロー」
俺のターンとなり静かにデッキからカードをドローする。『ハートテイクドロー』は行なわない。
4枚となった手札を見ながら深く考える。それはプレイについてではなく、ハクナの事であった。
──ハクナは、自分のプレイスタイルから逸脱した速攻で決着を付けに来たのを除いても、らしくないプレイを幾つもした。
いつものハクナであったのならば、俺がデッキを確認して、ダイヤモンドパイルズしか展開しなかった時点で、攻撃を止められる『フラッシュ』が有ると警戒していた筈だ。それに攻撃は最初にヴォルフでしていたのならば、それならば2打点から入り、それからドラッヘの二回攻撃を行なえば、俺のHPを9、7、3と捲る枚数を少なくできた。
細かいようだが『BOM』、あるいはカードゲームでは、こういったプレイングが勝敗を分かつ場面はきっと珍しくない。俺が教え、ハクナが大事にしてきた事であった。
その理由は明白で、俺に勝ちたいから。負けたくないからという気持ちが先行し過ぎてしまったのだろう。ここに来て自分自身の成熟しきっていない子供の心がプレイに影響を与えてしまった。
二年の長い付き合いだ。表情こそ出ていないが、ハクナが己の失敗に気づき落ち込んでいる事が分かった。俺の一挙手一投足に反応して脅え始める。
生徒に、子供に、そんな顔をさせてしまっている。これは俺の所為だ──だけど、勝たなければならない。この世界では『BOM』が全てだから……!
「──俺は『破棄ゾーン』に存在する。【ギアパイルズ】の効果発動。手札から“パイル”と名の付いたカードを1枚『破棄ゾーン』に送ることで、このカードをメインズゾーンへと特別展開する」
【ギアパイルズ】 BP:0 ATK:500 属:機 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:手札から「パイル」と名の付いたカードを1枚『破棄ゾーン』へと送る。≪制限≫:この効果は1ターンに1度のみ発動可能。 破棄ゾーンに存在する、このカードを通常展開扱いで自身のメインズゾーンへと展開することができる。 |
再び歯車のロボット兵が俺の場へと展開される。
通常の展開扱いであるため、メインズの展開制限を消費してしまうが、『破棄ゾーン』から展開できる。また“パイル”と名の付いたカードであるならば、メインズでもウェポンでも『破棄ゾーン』へと送れるコスト使用の使い勝手が、かなり良い。
そして個人的に、『破棄ゾーン』に存在する“パイル”の名の付いたカードの枚数を変える事なく、EXPに必要なメインズを場に出せるというのが、このカードの最もたる強みだと思っていた。
──俺の『破棄ゾーン』には現在、【リタイア・アラート】と、使用しなかったもう1枚の『フラッシュ』を除いた、“パイル”と名の付いたカードが10枚以上存在する。それが意味するのは、このバトルの決着であった。
「全てのパイルズ。その始まりであったとされる鋼鉄の機械兵。ここに立ち上がれ、エクスペリメンツ──」
躊躇わないために敢えて言った前口上は、自分でも疑うほど沈んだ声であった。俺は【ギア・パイルズ】にカードを重ねた。
「──【
古きロボット兵に、どこからか現われたパーツたちが纏わり付き、純白の竜であるドラッヘ以上の巨大なロボット兵となった。その姿も、どこか古くさく、動く度にギギギと音が鳴り、装甲表面には錆と苔が纏わり付いている。
「あ……う……」
もし、相手が前回戦った近衛の様な奴であったのならば、オンボロなロボットはと馬鹿にしていたかもしれない。でもハクナは彼の秘めたる能力を知っており、そして、何回も見てきたであろう俺がこれからするコンボを予想し、苦悶の声を漏らした。
「……パイルズ・オリジンの効果発動。コストとして『破棄ゾーン』に存在する“パイル”と名の付いたカードを5枚、『コストゾーン』へと送ることで、ターン終了時まで相手メインズ1体のアタック値を0にする」
【 BP:0 ATK:2000 属:機 種類:M EXP→「パイルズ」 【効果】 ≪コスト≫:『破棄ゾーン』に存在する「パイル」と名の付いたカードを5枚『コストゾーン』へと送る。≪条件≫:相手メインズを1体指定する。 指定したメインズのATK値をターン終了時まで0にする。 |
「“先ず”はドラッヘのアタック値を0に……続いてもう一度コストを支払ってヴォルフのアタック値も0にする!」
【シュバルツ・ウアシュプルング・ドラッヘ】と【シュバルツ・ウアシュプルング・ヴォルフ】の高いATK値が0に成る。
コスト要求が、それなりに重い割に相手のATK値を0にするだけの内容は、正直言って使いにくい部分はある。だが、この効果はターン1制限が無く、コストさえ支払えるならば、何回でも使えるという利点があった。
なにせ“パイルズ”というテーマには、相手メインズを破壊するだけで『HP』にダメージを与えられる、貫通持ちのEXメインズが存在するのだから。
「『アーカイブ』……このカードの効果によって『コストゾーン』に“パイル”と名の付いたカードが7枚以上存在する時、コストを支払わずに発動する事が出来る」
もしかしたら、俺の運命力が働いたのかもしれない。そのカードは地球では後に完全な上位互換とあるカードが現われた事で出番に恵まれなくなったカードであり、上限である3枚を揃えるのは至難の技である事から、単に数合わせのために入れていたに過ぎないカードであった。
それが今、俺の心境に、このバトルに、あまりにも適していた1枚となっていた。
「──俺は【
【 種類:A 【効果】 ≪コスト≫:HP×4 ≪条件≫:自分メインズゾーンに存在する「パイルズ」と名の付いたメインズを1体 手札・デッキから「パイルズ」と名の付いたEXメインズを1体、指定したメインズに重ねて特別展開する。 【効果】 自身の『コストゾーン』に7枚以上「パイル」と名の付いたカードが存在する場合、コストを支払わず、効果を発動してもよい。 |
「あらゆるものに研磨され、偽りから真なる将へと到った当機を見ろ……! 【
巨大なロボット兵から罅割れていきブリリアントな光が漏れ出した。その身が崩れたかと思えば、中から最も美しく頑丈だとされる鉱石の機体を手に入れたロボット兵。ダイヤモンドパイルズが現われた。
「そして、ダイヤモンドパイルズ
【 BP:1→2 ATK:1000→1500 属:機 種類:EXM EXP→「パイルズ」 【効果】 ≪貫通≫:相手メインズとの戦闘によって勝利した場合、BPダメージを与える。 【効果】 このカードに装備されている「パイル」と名の付いたカード1枚に付き、相手メインズに攻撃が可能。 装備:【アヴェンジャーパイル】 |
【アヴェンジャーパイル】 種類:W 装備可能:「パイルズ」】 ATK+500 【効果】:自身の『HP』が、相手よりも少ないときの場合、追加でBP+1を得る。 |
「──私の……負け……?」
──静かに見守るだけだったハクナは、己の敗北を悟り、ぽつりと声を漏らした。
ハクナは確かにらしくない失敗をした。だが、幾つかのリカバリー手段を残していた。
ハクナの『破棄ゾーン』にはドラッヘとヴォルフ2体のATK値を1000上げられる。【シュバルツノ
【シュバルツノ BP:1 ATK:1500 属:霊 種類:M 【効果】 ≪コスト≫:このカードを『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:このカードが『破棄ゾーン』に存在する時のみ発動できる。 「シュバルツノ」および「ウアシュプルング」と名の付いた自分メインズ全てのATK値をタイムエンド時まで1000アップさせる。 |
それが2体ともパイルズ・オリジンの効果によってATK値が0に成った事で、効果を発動しても現在、ATK値1500のダイヤモンドパイルズに勝てなくなってしまった。
それにもう1つ、ハクナが持っている手札は恐らく、条件さえ合致すれば相手のターンでも発動できる『クリックアーカイブ』である、【
【 種類:A(C) ≪クリック≫:発動条件に適した場であれば何時でも発動可能。 【効果】 ≪コスト≫:HP×1をコストゾーンへと送る。≪条件≫:相手メインズに「シュバルツノ」、または「ウアシュプルング」と名の付いた自分メインズを攻撃された時に発動可能。 攻撃されたメインズを手札に戻し、その戦闘を無効化する。戻したカードがEXメインズだった場合、そのまま『破棄ゾーン』へと送ってもよい。 |
しかし、『ウェポン』を1枚装備したダイヤモンドパイルズは、相手メインズに2回攻撃ができる。1度無効にした所で、ドラッヘとヴォルフ、どちらかが必ず残り、俺は残ったほうを攻撃してしまえば貫通効果によって、ハクナの残り2の『HP』を0にする事ができる。
2体並べなければ、コストを支払い過ぎなければ、無理に1ターンで決めようとしなければ、また違ったのかもしれないが……ハクナが持っている対策札だけでは、ダイヤモンドパイルズの攻撃を止めきれない。このバトル、俺の勝利が確定した。
「──ぐす」
「…………」
本当ならバトルを宣言するべきなのに、ハクナの目に涙が溢れ出て、プレイを止めてしまう。
──ハクナは、“儀式の巫女”に選ばれた子だ。それ故にシュバルツノ家でも、扱いが特別で、親ですら直接会うことを禁じられた立場であった。そんな彼女が交流を持てる数少ない大人が教育を与える講師であった。
俺以外にも、彼女に接する大人は居たが……“儀式の巫女”とでしかハクナに接する事は無かったという。そう、これは自惚れでも何でも無く、ただ事実としてハクナにとって頼れる大人というのは、俺しかいなかった。そんな俺がある日突然居なくなった時、どれほど辛いと感じたのだろうか? 裏切られたと思っただろうか?
「やだ……ひとりになるのは……やだよ……」
俺は、このバトルで勝ったとしてもハクナを遠ざけるつもりは全く無い。ただ話がしたいだけだ。だがハクナが欲しいのは、また俺が傍に居てくれるという保証なのだ。
──俺が第二世界に、鳥巻町に来たのはハクナのためだったとしても、勝手に居なくなってしまった俺自身が、何を言った所で信頼を得ることはできないだろう。だからすべき事は勝ってから話をするべきではなく、バトルの間にでもいいから、居なくなった理由とか語るべきだったんだ。
このバトル中、話しかけるタイミングは幾らでも合ったはずだ。なのに会話を勝利条件に設定してしまったために気がつけば勝つ事だけど優先していた己に気付いて、反吐が出そうになる。
──もう遅いかも知れないが、せめてなにも言わず居なくなった理由を話そうと思ったら、後頭部に強い衝撃を受けた。
「ろ、六華……?」
後ろを振り向けば、怒り心頭と言った感じの表情の六華が立っており、その手には商品となるBOMカードのパック箱を持っていた、しかも縦持ち……その、六華さん、それは普通にヤバイ凶器ですよ?
「バトルしてると思って様子を見ていたら、子供を泣かせるなんて……」
「いや、それは……誤解ではないが」
「どんな理由にせよ、事情にせよ泣かせたらだめでしょ! ああもう、大丈夫? ごめんねこの人、『BOM』だと全力出しちゃうみたいで」
突然の事態に、目を真ん丸にして硬直しているハクナに寄り添う六華。なにも否定できる所が無く俺は静かに項垂れた。六華に背負われた明里と目が合うが、ぷいっとそっぽ向かれた……辛い。
ちなみにバトルは続いており、心なしかメインズたちが若干気まずそうにしていた。すまん、なんにしても、もう少しだけ待ってくれ。
「あ、ごめんなさい。自己紹介がまだだったわね。私は六華、この子は明里って言うの、あなたは?」
「…………」
「彼女の名前はハクナだ。あちらの世界で俺が家庭教師をしていた子だ」
ハクナは、まだ戸惑っているのか口を開こうとはせず、俺が変わりに彼女の素性を簡単に説明する。
「そっか、あなたがヒタキさんの……じゃあヒタキさんに会いに来たのね?」
「うん……それで、一緒に住んで欲しいって『BOM』でバトルして……いました」
六華に何かしら感じ取ったのか、ハクナはゆっくりと事情を話した。
「暮らすって……家の人は何て言っているの?」
「家には私だけしか居ません……誰も居なくて……だから先生に傍に居て欲しくて」
「……ハクナは明里と同じ理由で、この世界で一人暮らしをする事になったんだ」
「また子供を……ほんと、どうなってるのよ」
もう六華の中では、アルカデウスの株はストップ安かもしれない。まあアニメでも視聴者から散々言われていたし、俺も言っていた。人としての常識を考えればアルカデウス、正確に言えば貴族たちの所業はシンプルに最低である。
「……分かったわ。だったら
「え?」
「……え?」
「あー?」
少し考えた六華は躊躇いなく、そう提案した。言われたハクナも、聞いていた俺も思わず聞き返してしまうほど驚いた。ちなみに明里は単に反応しただけである。
「ここ、今日から私たちが暮らす家なんだけど、ハクナちゃんも一緒に住まない? ここでご飯を食べてもいいし、寝ても良い、いつでも来て良いわ、もちろん強制はしないから、好きな時に自分の家に帰っていい」
「で、でも……私は儀式の……」
「私には関係ないわよ。頼れる大人がいないんでしょ? ウチに来ればヒタキさんも居るし、遠慮なんてしなくていいんだから」
「え、っとあの……」
敢えて強引な感じで話を進めて居るであろう六華、それに戸惑い答えが出せないヒタキ、そんな光景に俺は、どうしようもなく笑いそうになった。
──これが、BOMプレイヤーとして正しい事かは分からない。だけどハクナの先生として、大人として、俺はハクナの背中を押すことにした。
「──俺は、このバトルを降参する」
「先生?」
降参宣言を受け取った『BOMボール』は、俺の敗北を認証してバトルを終わらせた。メインズたちは消え去り、『BOMボール』は蜘蛛の子を散らすように、どこぞへと居なくなってしまう。
「……俺の負けだな」
──この世界では『BOM』の勝敗での約束は、かなり重い。それこそ口約束であれど守らなかったら、社会的死が待っているといっても過言ではないくらいに、だったらうん、守らないと行けないな。
「一緒に暮らすか、ハクナ」
「……いいの?」
「ああ、もちろんだ」
ハクナは俺を見て、そして確認するかのように優しく笑う六華を見て、そして遠慮がちに頷いた。
──本当に、六華には救われてばかりだな。
「うん、じゃあそうね。ハクナちゃん、お腹空いてる?」
「は、はい、ペコペコ……です」
「なら、少し早いけどお昼にしましょうか? あ、ヒタキさん」
「はい」
圧が強い名前呼びに、俺は思わず背筋を伸ばして応えた。
「ごめんなさいだけど、遅れてやってきた荷物を店に運び出すのお願いできます?」
「もちろん、任せてくれ……」
「それ終わるまで、ご飯はお預けですからねー」
「あー」
そういって、六華たち三人は店の中へと入っていった。元より俺が中へと入れる予定だったのだ、罰になっていないなと、今度こそ吹き出してしまった。
「──ありがとな、六華」
今日はできれば、ひとり寂しくお昼ご飯をしたくないと、気がつけば置き配されていた荷物を急いで店の中へといれはじめた。
+++
──それからの“9年間”、原作が開始されるまでに何があったのかは、ちょっとずつ話していこうと思う。
「──お父さん、お母さん。それじゃあ学校行ってくるね!」
「行ってらっしゃい、明里」
「あっ、ハクナお姉ちゃんからメッセージ来た……もー、そんなに心配するなら家来れば良いのに……」
ただ言えることは、この9年間、俺達は四人家族として生きてきた。
星のような白混じりの黒髪の“娘”が二階から降りてきて、相変わらず仮面を被ったまま、店番をしていた俺に満面の笑みを浮かべてくれた。
「──お父さん、行ってきます!」
「ああ、車と不審者には気を付けてな」
元気いっぱいに学校へと行く娘を見送り、俺は、これから起こるであろう原作に物思いにふける。
「────変えてみせるさ」
――前世の地球においては“シュバルツノ”シリーズは最初期のパックから存在していたカードでしたが、販売当初はデザインはいいけど、専用のウェポンカードが無く、素の火力が高い初心者用。そう思われていた。アニメにて使用者であるハクナ登場回に発売された新パックにて、テーマ本来の姿を表した。
ヒタキの『HP』には【リタイア・アラート】とは別に、もう1枚発動しなかった『フラッシュ』カードが有ります。これは効果条件が合わなかったわけではなく、こ43で負けたとしても使っては駄目という判断からです。
【 種類:A(F) 相手メインズを1体破壊する。 |
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授業参加のBOM(前編)
これは『CardSHOP当星店』がオープンして、俺、六華、明里、ハクナの四人で生活が始まって二ヶ月ほど経ったころの話。
外れない白面はともかくとして、六華の要望で
この世界では『BOM』が必需品、であるため食材が売っている店には『BOM』も必ず売っていると言われるほどであり、『BOMボール』と何処でもバトルできる設備が備わっている以上、実のところカードショップという存在は、国が支援金を出すほど増やしたがる一方で、そこまで必要性が高いわけじゃなかったりする。
そんなわけで『BOM』を専門で取り扱っているからと、舐めた営業をしていると店は直ぐに閑古鳥が鳴いてしまい寂れてしまう。厳しい業界を生き残るために、この世界のカードショップはお客を得るために、自分の店のブランド力を上げる事に奔走する事となり、気がつけば個性的な店舗や店長たちが多くなったというのが、製作インタビューで明かされた事情であった。
とまぁ、そんな訳で白面不審者である俺は早々に店のマスコットとして認識され、また『BOM』の知識も十全に発揮、原作と同じく六華の人なりの人気も合わせて、開店早々にリピーターを獲得できたりと、店の経営は直ぐに軌道に乗る事ができた。
とはいえ家族の将来を考えると、できる事をやっていきたいと思いから、店以外でも稼げるものが有ればいいなという思いはあり、六華とは良く雑談混じりに話し合っていた。
「だったら、動画投稿とかしてみる?」
何気ない提案だったとはいえ、コスパも良く始めやすい、自分の『BOM』の知識を活用できるかもしれないと、義理でも父親となった以上、家族の金銭的な負担を少しでも軽減したいという気持ちで、チャンネルを開業。
とはいえ、俺の前世の知識は『BOM』が掛け替えのないものであるこの世界では、自分の想像以上に価値があるのもかもしれない。
──考えれば考えるほど、需要はある。そんな気持ちから、バズり、再生数、登録者共に爆増、銀、あるいは金の記念品も貰えるかもと妄想が膨れ上がり、モチベになった。
──そして現在。九年間やってきた“CardSHOP当星店チャンネル”のチャンネル登録者数、9000人。収入面で言えば月々のちょっとしたお小遣いぐらいで留まっており、まだまだ銀の盾すらも届いていない。
……現実って厳しいなぁ。
+++
そうやって当星ヒタキとしての日常を過ごし、気がつけば九年の時間が経った。知識は風化することなく、しっかりと覚えており、アニメ原作に第一話となる時がついに訪れた。
「……困ったな」
そんな中で、俺は娘である『
アニメ原作第一話となる日は、実のところ授業参観の日でもあった。原作と同じく六華は急に荷物を搬送する事となって荷物待ちとなってしまい、午前中は来れなくなる。
俺が代わりにと申し出たのだが、店長だけが受け取れる品物であるためと断わられ、明里に寂しい思いさせたくないでしょと言われてしまった以上、ひとりで来たのだが……。
「なんども言うが、俺は当星明里の父親である、当星ヒタキだ。ここを通してくれ」
「こちらも何度も言いますが、仮面で顔を隠した人を学校内に入れるわけにはいきません。現在多忙なため学校関係者とも連絡が取れないため確認もできず……せめて顔を見せて頂けますか?」
──俺を知らない伝達ミスであろう新人警備員に、白面白コート姿の俺は当然の如く不審人物認定を受けて足止めを食らっていた。ここ最近、鳥巻町の人たちにも馴染まれていて、顔パスで通っていただけに完全に油断した。先生方は授業参観のためか忙しいらしく連絡が取れず、娘にメッセージを送ったが返事は無い。
「これには事情があってだな……ちょっと外そうとしてみてくれ」
「……じゃあ、失礼して……」
警備員が仮面を引っ張るが、元のからこれと言わんばかりに外れな痛い痛い痛い痛い痛い──。
「な、なるほど……外れないんですね……」
「わ、分かってくれたか……」
「仮面については分かりましたが……ですが、その、コスプレのような恰好はなんですか?」
「……正装だ!」
九年経ち、何回かクリーニングに出してもなお純白を衰えさせない
これでも格式の高い服なのだが、第二世界の価値観では、どう見たってコスプレやイベント衣装にしか見えないだろう。
警備員さんの反応的に不審人物から、対処に困る人へとシフトチェンジしてきた。そろそろ授業が始まる時間だ。
「……来ないと思ったら、なにやってんの? お父さん」
……最悪、『BOM』で決着付けたほうがいいのではと、九年間で染まったバトルマインドでデッキケースに手が伸びかけたころ、呆れかえった娘の溜息が聞こえた。
+++
「連絡があっても来る気配なかったから、もしかしてと思って見に来て正解だったよー」
「すまない。なにぶん最近は仮面パスで素通りできたからな。自分が不審人物スタイルである事を忘れる」
「せめてその白コート止めたら? 別にビシっとしなくてもいいと思うし」
「……そう思って、スーツとかカジュアルな服とか色々と試して見たんだがな。思いの外、この白面と組み合わせると、むしろ不審度が増して諦めたんだ……」
「お父さん、かわいそう」
教室までの道を引率される中、娘に同情される。もしかして電池切れとか起きて外れるかもと期待していた仮面は、九年の歳月を経っても外れる事はなかった。
「そういえばお母さん午後に来るって、お父さんも忙しいのに本当にありがとう」
「娘の晴れ舞台だからな、何よりも優先するべき事柄だ。撮影禁止でなければ、新しいカメラを買っていたものを……」
「だから禁止になったんだと思うよ?」
──出会った時は赤ん坊だった娘も、今や小学校三年生だ。アニメ原作との当星明里とは、容姿こそ同じであるが、黒を強調とした私服に、白の装飾が目立つのは俺やハクナの影響か。
「どうしたの?」
「いや……学校、楽しそうでよかった」
「……うん!」
──原作の当星明里、娘の明里、どうしても知識があるため比べてはしまうが、だからこそ別人だと断言できる。それは良いことなのかは分からないが、彼女の父親として、改めてやるべき事をやろうと静かに思い至る。
「あ、ちょっとココで待ってて」
明里のクラスである3年1組に到着すると、扉の前で止められて明里はひとりで先に教室へと入っていった。
──みんなー! 私のお父さんが店の姿のままで来てるからあんまり驚かないでねー!
──明里のお父さんっ事は……当星店の白仮面!
──え? 本当にあの姿で来たんだ、どうして?
──すげー! プロ意識たけー! 商店街のイベントを見てからファンなんだ! サインとか書いてくれるかな!?
扉から零れ出る声に、ご近所付き合いが上手く行っている事を実感する。『BOM』に関係することで相談に乗ったり、商店街のステージイベントに出たことが功を奏しているようだ。おかげで店に来る子供たちからご当地ヒーローのような認識を持たれている事は素直に嬉しかった。
もっとも大人たちからは本当にご当地ヒーローに仕立て上げようとして、何度もステージに出されたりしていたり、破格の商談の話持ち込まれて、最近外堀を徐々に埋められていたりしているのだが……他カードショップの店長たちもヴィラン役として出たいとかノリノリで相談されて、色々とお困り中である。
「お父さん、もういいよ!」
今後、白仮面としてどうしていくのが正解なのかと黄昏れていると、明里に呼ばれて教室へと入る。
事前に娘が言ってくれた事もあって落ち着いていはいるが、俺と交流ある子はフレンドリーに、知らない子は興味深そうにと半々な反応にて迎えられた。後ろに並ぶ親たち、俺の事を初めて見るって人はちょっと驚いたが、ご近所に住んでる人、商店街関係者や、店でも顔を合わせた事もある人も多く、居心地は悪く無さそうで安心した。
「わー、本当に明里のお父さん、白仮面だったんだ。明里が強いはずだよ」
「というか、本当にいつもあの姿なんやねー」
「ボク、動画見たことあります!」
「ありがとー、お父さんにも言ってあげて、すごく喜ぶから」
明里と席が近い3人の子供たちを見て、俺は勝手ながら嬉しくなり、安堵していた。この学校で友達ができていた事もそうだが、彼女たちは原作アニメでも、当星明里の友達となり支えてくれた子たちだったから、勝手ながら、娘の明里とも仲良くなってほしかったと、どうしても思ってしまっていたからだ。
懐かしい学校のチャイムが鳴り、騒々しかった子供たちは大人しくなり、直ぐに自分の席に着いた。保護者が見ているとあってか多少の緊張も感じられる。
──この世界の親たちが最も注視するのは学校の『BOM』に対する授業が、どれだけ熱心に行なわれているからしい。そこで鳥巻小学校では授業参観には必ず、プロのBOMプレイヤーを特別講師として呼んでいた。
『BOM』としての強さが人生に関わる、この世界だとしても、当たり前と言えばそうだが職業によっては、『BOM』の腕よりも、専門の知識や技術が優先されるし、生きていける。原作アニメの当星六華がその実例だろう。しかしプロプレイヤーは違う。食えるも飢えるも『BOM』の腕次第の世界だ。
そんな彼、彼女たちの話はプロにならなくても、必ずしも子供たちの糧になるだろう……そのプロがまともであれば。
「本日、お呼び頂いたのはBOMプロプレイヤーの『
──原作通りに呼ばれたプロの名前に俺は別の意味で緊張してきた。寛二長助は負け星が続いて人気が低迷しているプロであった。その所為で卑屈になっており、子供たちに対する態度も最悪のひと言に尽きる。子供たちにプロの厳しさを教えると言えば聞こえは良いが、どう見たって八つ当たりとしか言えない態度で接するのだ。
“所詮、名門校ではない鳥巻小学校に在籍している時点でお前たちは
だが、俺はもう視聴者ではない。明里の親だ。アニメの方と同じく子供や親たちに対して高圧的な態度をとるようであれば、大人として対応しようと決めている。例えそれが寛二プロの立ち上がる切っ掛けを奪うものだとしても。
「それでは、寛二プロ! 教室にお入りください!」
アニメでも最後まで名前が分からない3年1組担任の女先生。通称
「──ああ、
そう言ってミイちゃんに花束を渡す寛二プロ。すると黄色い悲鳴に高らかな口笛が鳴り響く、教室が俺の知っている方向性とは違うざわつき方をする。
「か、寛二さん! 子供たちが見ていますので……ま、まずは自己紹介してください!!」
「すまない、承知であるのだが、どうかこの花束だけでも」
「わかりましたから! ……えっと、ありがとうございます」
先生は話が進まないと思ったのか、動揺しながらも花束を受け取った。それに満足した寛二プロは、その場で90度回転し、生徒と保護者たちの方を向くと、左手を右胸に当てて深々とお辞儀をする。
「申し遅れました。『BOM』のプロにて、恐れながら現在ランカー9の席に座らせて頂いています、『寛二長助』と申します。寛二プロでも長助先生でもお好きにお呼びください。今回はプロの目線から、厳しくも楽しいところもある『BOM』を、みなさんに教えられたらいいと思います」
「ほへー、なんかプロって凄いんだね」
「すごい! 寛二プロと言えば、ここ最近連戦連勝を重ねている、いま最も勢いがある人じゃありませんか! そんな方に教えて貰えるなんて!」
「まさか、そんな大物が来てくれますなんて、先生にアプローチしたのも合わせて意外も意外ですわ~」
────???????
生徒および保護者たちは驚きと喜びを持って寛二プロは受け入れられる。そんな中で俺は、人の事は言えないが、流石に原作に剥離し過ぎではと脳内が宇宙になる。
いや、確かに寛二プロは原作でもミイ先生に惚れ込んで、今みたいなムーブをするのだが、これは後期の話である。この世界が現実で、アニメ原作とは違う世界であるのは百も承知だ。それにしたって何があったと流石に気になって仕方が無い。
「──な」
後で聞くか、どうやって聞こうか、仮面の裏で悩んでいると寛二プロと目があったと思ったら、鬼気迫る勢いでこちらに近づいてきた。あまりの想定外に硬直していると、目の前まで来た寛二プロは、しばらく俺の顔か、白面を見つめたと思ったら、その目に涙を浮かべた。
──え、本当に怖いんだけど?
「……お、おお! 間違いなく貴方は
「え!? 嘘っ!? アレ全部!?」
まさかの視聴者だった。それも多分、ファンっぽい。あと娘、その驚き方は傷つくぞー?
「連敗が続いて、スポンサーとの話し合いも難航した時、偶然にオススメで流れてきた貴方の動画を見たんです。そこには私の悩みを解決してくれる全てがありました!」
そっかー、寛二プロが変わったのは、俺の所為だったかー。それにしても、まさか始めた動画投稿が原作を変える要因になるとは、流石に予想外が過ぎる。
「確かに
ちょっと引っかかる所はあるが、思いの外の高評価に照れてしまう……そして気付く、プロにこう言われても伸びないっていう事は、自分が思っている以上にエンタメ性が駄目なのではと。
「明里のお父さんの動画って実際どうなの? 誰か見たことある?」
「あ、ボク有りますよ……えっと、豊富な知識による戦術や効果解釈における戦法は、とても勉強になるのですが……」
「コメントを見る限りやと、無駄に長いし、テンポ悪いし、声低くて聞きづらいし、テロップも何か変だし、なんか態度がアレだし、仮面だしって散々言われてるけど、娘的はどうなん?」
「本当にそんな感じとしか言えないかなー。お父さんの動画見るよりかは、直接バトルしたり相談した方が早いしね」
止めなさい、感想の悪い部分だけを抜きとるんじゃありません。これでも勉強にはなるとか言われてるんですよ。
「白仮面様!」
「……当星ヒタキだ。ヒタキと呼んでくれ」
「失礼、ヒタキ様! 心からのお願いがあります!」
「聞こう」
ぐいぐいと詰められすぎて、“貴族スイッチ”改めて“白仮面スイッチ”を入れて対応してしまう。
「是非、私とバトルを行なってください!」
寛二プロがそう言うと盛り上がる生徒たち、賛同する保護者、先生も大変勉強になりそうですねと乗り気。明里に助けを求めるが、諦めなよと微妙な表情で語られる。
──もちろん、断われるわけなく、俺は首を縦に振るうしかなかった。
+++
教室を移動してやってきたのは、鳥巻町小学校の『BOMステージ』がある広場。長方形の立体映像エリアの中央端にあるフィールド台へと立ち、反対側に居る寛二プロと対峙する。
この世界では、呼べばどこでもやってきて立体映像付きでバトルができる『BOMボール』が存在する。そしてそれが開発される前の機械が『BOMステージ』である。
しかし学校内など、どこでも自由にバトルができない敷地内ではボールの呼び出しは制限されているためと、ステージが設置されている。
「──
流石はバトルをしながらも、エンタメ性を持ち得なければならないプロプレイヤーと言うべきか、立派な前口上に観戦者たちは拍手を鳴らす。
「詳しい説明は後でいたしましょう。今はただ至福の一時を私に頂けるようお願い申し上げます」
そう言って名前が分からない紳士がするようなお辞儀をする。どうやら教師としての仕事も、きちんとするようで、俺とのバトルを後の教材に使う予定らしい。
最近飛ぶ鳥を落とす勢いでランクを上げている寛二プロが実際にバトルをすると噂を聞きつけたらしく、気がつけば3年1組だけではなく別のクラスの生徒や担任、そのクラスの担当であった別のプロBOMプレイヤーたちもこぞって見にきている。
「お父さんがんばれー」
「……なるべく、やってみるよ」
娘の応援を受け取りながら、ケースからデッキを取り出した。念のためカードたちを開き内容を確認する。
「……思えば、プロと戦うには丁度良かったかもな」
プロの試合というのは勝利を見せながらも、エンタメとして魅せなければならない。いわばステージのようなものだと思えば、この世界に来て、ようやく出会えた“この子”たちの方がいいだろうと、“3番目”のデッキを『デッキゾーン』へと置いた。
「それでは、準備はよろしいですね!?」
「ああ、いつでも」
「「バトル!!」」
『BOMステージ』が軌道して、バトルが開始される──先攻は寛二プロとなり、手札を見る。
──あー。
ドロータイム |
「それではヒタキ様! 私から行かせて貰います! ドロー! 最初のターンであるため『ハートテイクドロー』は行なえないため、そのままフリータイムへと以降します!」
手札が5枚となった寛二プロは、テンポ良く進めていく。
フリータイム |
「私は【
寛二プロの『メインズゾーン』に……なんていうか、ライトノベルに出てくるような主人公っぽい学生服の青年が現われる。
【 BP:0 ATK:1500 属:士 種類:M |
──“傭兵学園”。アニメ原作でも
「続けて、マクシムに【アーミー・アサルトガン】を装備します!」
【アーミー・アサルトガン】 種類:W" ATK+500 |
無手だったマキシムに、アサルトライフルが装備される。
【 BP:0 ATK:1500→(2000) 属:士 種類:M 装備中:【アーミー・アサルトガン】 |
「私はこれでターンエンドです」
タイムエンド |
「先手2000の壁か」
「
『BOM』には“先手2000の壁”という用語がある。ウェポンカードの装備およびコストを支払いとした強化を持って戦っていくゲーム性の『BOM』において、メインズ同士の勝敗を分かつATKの素の数値は、高くても2000に設定される事がある。ハクナの使用する“シュバルツ”の素ATKが大体2000で固定されているのが良い証拠だ。
これによって、最初のターンにATK2000以上のメインズを場に出されると後攻プレイヤー動きを制限するだけではなく、相手のリソースを削った上で次のターンへと以降できると、俺が知る地球の最新環境でも、デッキ次第では大会上位者も念頭に入れてデッキを構築するとまで言われている概念である。
「期待に応えられるかは分からないが、自分なりにやってみようか──ドロー」
ドロータイム |
「続けて『ハートテイクドロー』」
「やはり、貴方は本物の白仮面なのですね!」
俺が後攻1ターン目で『ハートテイクドロー』を行ない、『HP』を1枚手札にすると、寛二プロが唸った。周りもざわついている。俺からしたら大袈裟な反応ではあるが、この世界に転生してきた31年。流石にこの反応も慣れたものである。
──手札を確認する。安全な動きもできるが、これなら面白いことができそうだ。せっかくのプロとのバトル、それに大事な何かを賭けているわけでもない──なら、派手にやろうか!
「フリータイム」
フリータイム |
「──中央のメインズゾーンに【
第二世界に来て、ようやく“再開”を果たした。俺が地球にて、大会出場デッキに常に採用し続けてきたメインズを場に出した。
──俺のメインズゾーンに、どこか神聖さも感じられるフリフリの衣装を着た茶髪の素朴、だけど元気で誰からも愛され系アイドルが現われた。
エレネは周囲の観客達に向かって、和やかに笑い両手を振るったあと、寛二プロたちへと向かい合った。
「「「「……あ、アイドルカードだー!」」」」
不特定多数の驚きの声に、俺は小さく“そうね”と応えた。
『学園傭兵』
“少し古い”ライトノベルを思わせる士属性オンリーのテーマ。最初期のテーマであり、士属性らしく装備を固めて相手を打倒するのを得意とするが、大器晩成型で強化カードにも、そこまで恵まれなかったために環境が変わっていく中で次第に環境が外れてしまっていく。それでもアニメの使用キャラの人気や一部界隈の大人たちの根強い支持、テーマを舞台にしたスピンオフ小説がでるなど、色々な人に愛されている有名な話。
後編は近いうちに出せると思いますので、それまでお待ちになって頂ければ幸いです。
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授業参観のBOM (後編)
応援、感想、誤字報告本当にありがとうございます。
『現在のフィールド』 |
『
手札3枚 HP:10
【 BP:0 ATK:1500→(2000) 属:士 種類:M 装備中:【アーミー・アサルトガン】 |
――『BOM』はアニメで嵌まった口であり、最初にデッキを組んだのは“パイルズ”だった。それから時が経つにつれて、新しく現われるカードたちの中で、俺は一目惚れに近しい感情を抱き、最後まで使用する事となるテーマと出会った。
それこそが“
……まあ、ちょうど思春期だったのもあって。その可愛らしい姿に惹かれた俺は人生で初めて3箱買いしたほどで、実際にバトルをしてみれば自分の感性に合致した戦い方が出来て、どんな環境でも主軸となるデッキを作り、大会にも出た。
――このアニメBOMの世界は“運命力”という、運というステータスがハッキリと実在し証明されており、それがストーリー本編にも大きく関わってくるし、数十万と種類があるらしいカードの中で、一部の人たちがテーマを統一されたデッキを作れるのは、この運命力によるものだとされている。
それは俺にも適応されており、実際に自分が始める切っ掛けとなった“パイルズ”、そしてもうひとつのテーマも前世の俺と
しかし歌神姫だけは長年探していたが“再会”する事が出来ず、無印アニメでは未登場という事もあり、もう会えないかと諦めた……のだが、初任給で買った箱の中に全て入ってきた時には、喜びとは違う感情が勝って、仮面の中で渇いた笑いを浮かべてしまった。
+++
「アイドルカード? なんといいますか、随分と意外ですねぇ」
「かわいいー! なにあれ!?」
メインズゾーンへと現われた【
それもそのはず、なにせ第二世界に来て“再会”を果たしたのだが、表だって歌神姫デッキを使うのはまだ指で数えられるほどしかなかった……。正確に言えば“こういった観客がいる場でのバトル”でだが、なにせ“歌神姫”というテーマは酷くピーキーな性能であり、イベントで行なうバトルとは実のところ相性が悪くて使うのを避けていたのだ、アイドルテーマなのに。
――そのためか、照れ屋である筈のエレネは展開時に皆に手を振るい、寛二プロを見るその表情は見て明らかにやる気に満ちあふれていた。今まですまんかった。
「歌神姫、聞いたことありませんが……明里さんは何か知って――どうしたんですか」
「ナンデモナイヨー……お父さん、本気じゃん」
明里の様子を確認すると、渋い目を細めて唇を萎めている。“娘たち”とは何回も戦っているため、明里は歌神姫がどういったテーマかを知っている故の反応だ。今でこそ対策もきちんと練られており、勝率的にはトントンであるが、明里がバトルを始めてちょっとしたあたりに……まあうん……正直すまんかった。
アイドルカード、昔は性能は二の次にそのイラストの可愛さから愛されるカードの通称だった。“健全”な思春期男子にとって付き合いがたいものではあるが、無関心では居られないもの。ただ、時代に伴い商い的な事情もあって、強さは格好良さだけに非ず、可愛さとも両立するようにパワーバランスが設計されるようになった。
特に『BOM』は若いカードゲームとあってか、それらが長所に出ている。地球の自分が知るまでの最新環境であるが、歌神姫は大会でやっていけるほどの力がある……まあ、何度も言うようだがテーマスタンスはかなりピーキーであるため、俺のような“ロマン志向”でも無ければ採用率は低かったのだが……。
「ふーむ、とても
信頼が重い。アニメ原作とは違いプロとしての成績はうなぎ登り状態らしく、現在躍進中の寛二プロ。そうなったのは勉強にはなるがつまらないという太鼓判を押されている俺の動画の影響らしく、いわば俺は恩人に当たるらしい。
色々と思うところはあるが、ファンと言ってくれるのは素直に嬉しい。なにせ九年間やってきて登録者数1万も達していない動画投稿者なもので、こういった事は初めてだった……白仮面として売り出そうとしてくる商店街の人たちも言って動画に関しては大人のスルーだし。
――なんだか悲しくなってきたので、そろそろ思考をバトルに戻そう。
「……コストとして『HP』を4枚『コストゾーン』へと送り、【
「『HP』を4枚も!?
『HP』が9
――うーん、すごく楽。寛二プロが分かりやすく且つエンタメ的に解説してくれるため、俺はプレイに集中すればいい。観客だけではなく対戦相手も気持ちよくバトルさせてくれる。これぞプロたる所以か。
「お父さん、ちゃんとしなよー!」
なお、娘には怠けようとしたのがバレたもよう。といっても実際お父さんが喋るよりはプロに任せたほうがいいと思うんだ。
「自分メインズゾーンの空きの数だけ、手札、またはデッキから“歌神姫”と名の付いたメインズを場に出すことができる。俺は【
【 BP:0 ATK:0 属:愛 種類:M 【効果】 このカードが相手プレイヤーに対して直接攻撃を成功させた場合、相手は自分の『HPゾーン』からカードを1枚手札に加える。(この効果によってHPが0に成った場合バトルに敗北する) 【効果】 ≪コスト≫:HP×4を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:1ターンに1度のみ発動可能。 手札、デッキから「歌神姫 エレネ」以外の「歌神姫」と名の付いたメインズを、空いている自分メインズゾーンの数だけ場に出すことができる。 |
公式ガイドブックの説明によれば、八重歯が見える笑顔が自慢の家庭的且つ野性系アイドルのウルム、そしてエメラルドヘアーで、活発天然お姉さん系アイドルのイリミが左右のメインズゾーンへと現われる。
ふたりの歌神姫もまた、エレネと同じくバトルを観戦している生徒や先生たちが居ることに嬉しそうにし、手を振ったりしてアピールする。
「また可愛いアイドルが増えた!」
「一気に三体も、流石は明里のお父さんですねぇ」
「でもアタックは0です。並みのウェポンカードでは装備したところで、寛二プロのアタック値2000には届きませんが大丈夫でしょうか?」
「……まあ、見てれば分かるよー」
手順を間違えると、かなりヤバイので手札をしっかりと確認しつつ、事前にする事をしっかりと頭の中で並べていく。
「……ウルム、イリミに【トキメキスタンドマイク】を装備!」
左右に居る、ウルムとイリミにハート模様があしらわれたスタンドマイクが装備される。ひとりだけ手ぶらとなってしまったエレネが居心地悪そうにしているが、少しだけ我慢してくれ。
「なっ」
寛二プロがモニターを見て思わずといった感じに声を出した、恐らく【トキメキスタンドマイク】を装備した、歌神姫たちのステータスを見たのだろう。
「アタック値、BP値共に変化無しの0!?」
マイクを装備した歌神姫たちであるが数値に何も変化は無く、これには寛二プロも驚いたようだ。そんなプロの驚きに俺は徐々に楽しくなっていきながらもプレイを進める。
「――『アーカイブ』、【
【 種類:A 【効果】 自分メインズゾーンに存在する「歌神姫」と名の付いたメインズを2体まで『コストゾーン』へと送ることで、送った枚数分の「歌神姫」を手札、デッキ、破棄ゾーンから自身のメインズゾーンに特別展開する。 |
「俺は【
せっかく見てくれている人が居るバトルなのに、出てきたばっかで即退場となることにウルムとイリミが、不満そうにこちらに視線を向けてくる。すまん、今回の主役は君たちではなく、気まずそうにしているエレネなんだ。
「――デッキから【
ウルムとイリミが『コストゾーン』に、そして装備されたマイクが『破棄ゾーン』へと送られ、交代で黒色ストレートヘアーをした褐色クール末っ子系アイドル、オロトと薄紫色のくせっ毛ヘヤーに眠たい目が印象のふわふわ系アイドル、アラナが場に登場する。例によって彼女たちもまたいつもよりもテンション高めだ。
ちなみにデッキに入れられている歌神姫はこれで全員だ。五種1枚ずつ。この世界での彼女たちは単体でしか存在してないのか、最初に“再会”してからは歌神姫のカードは出なくなった。それだけだとしても、誰かひとりは必ず初手札に来てくれるのだから、“運命力”というのは、やっぱりとんでもないものである。
「また新しいアイドル、明里のお父さんは随分と罪作りなかたやわ~」
「こらっ、娘が居る前でめったな事言わないの」
「ですが、いったい何の意味が?」
わざわざターン1しか使えない『アーカイブ』を使用して交代した意味が分からないとざわつく子供たち、ちらりと娘の方を見ると、全てを悟ったかのような目を向けていたのだが、気付かないふりをした。
「……俺はどうにも、魅せるというのは苦手なようだ。だけどアイドルのテーマを使っている以上、少しだけ派手にやってみせるさ」
「
――それじゃあ、歌神姫というテーマの真骨頂。遠慮無く発揮してみようか。
「コストとして『HP』を4枚、『コストゾーン』へと送り、【
「HPがたったの1に!?」
「馬鹿な! 返しのターンで負けるぞ!?」
オロトの効果コストとして『HP』が4
「――デッキの1番上からカードを5枚捲り、その中から“歌神姫”および“マイク”と名の付いたカードを全て手札に加えることができる!」
【 BP:0 ATK:0 属:愛 種類:M 【効果】 このカードが相手プレイヤーに対して直接攻撃を成功させた場合、相手は自分の『HPゾーン』からカードを1枚手札に加える。(この効果によってHPが0に成った場合バトルに敗北する) 【効果】 ≪コスト≫:HP×4を『コストゾーン』へと送る。≪制限≫:1ターンに1度のみ発動可能。 デッキの上からカードを5枚見て、その中から「歌神姫」あるいは「マイク」と名の付いたカードを全て手札に加え、それ以外のカードを『コストゾーン』へと送る。 |
「手札に加えるカードは……4枚だ!」
「
デッキから捲った5枚のカードを寛二プロに見せるように出す。すると『BOMステージ』のカメラ機能がカードを読み取って、寛二プロのフィールド台にあるモニターに表示され、誤りや不正が無い事を確認してもらう。
オロトの効果判定は“歌神姫”と“マイク”と名称指定はあるものの、カード種類指定は無く、欲しい
「エレネ、オロト、アラナの三体の歌神姫に【キラメキハンドマイク】を装備」
『ウェポン』は1ターンにメインズ1体につき1枚装備できる。そのため先ほど未装備であったエレネも含めた全員に【キラメキハンドマイク】を装備、燦めく輝ビーズ装飾が成されたハンドマイクが現われて、それを歌神姫たちが握りしめる。
「またも数値に変化がない……いったいどんな効果が……!」
流石プロと言うべきか、今までこの世界でバトルしてきた相手たちは結構、数値の変わらないマイクを持った歌神姫たちに油断を見せてきたのだが、寛二プロは数値が変わらないからこそ最大限に警戒しているようだった。
「――バトルだ」
俺は“『破棄ゾーン』と『コストゾーン』をしっかりと確認してから”バトルタイムへと移行した。
バトルタイム |
「【
「何を言っているんだ!? アタック値は0なんだぞ!?」
「いや、そもそも今なんて言った!? 直接攻撃!? 俺の聞き間違いか!?」
慣れたざわつきに、俺もまた慣れた態度で効果を説明する。
「エレネに装備された【キラメキハンドマイク】は、装備されたメインズが“歌神姫”だった場合、相手に直接攻撃をすることができる!」
「
【キラメキハンドマイク】 種類:W 【効果】 「歌神姫」と名の付いたメインズが装備している場合、相手プレイヤーに直接攻撃する事ができる。 |
エレナのマイクを通して発せられた声は、分かりやすい音波的なエフェクトとなり、相対する【
「くっ! しかし歌神姫エレネのBP値は0!
そう、直接攻撃が出来ても歌神姫たちはBPが0。本来であれば相手の『HP』は変動しない。しかし歌神姫だと少し事情が変わる。
「なら自らの手で動かしてもらおうか……“歌神姫”たちは全員が、このカードが相手プレイヤーに対して直接攻撃を成功させたとき、相手プレイヤーは自身の『HP』からカードを1枚手札に加える共通効果を持っている」
「……! なるほど……歌神姫たちは効果によって『HP』を減らしていくテーマ。それにああ! 『HP』は“捲られずに手札に加わってしまう”ため、『フラッシュアーカイブ』が発動できないというわけですね!」
「それに気付くとは流石だな」
この歌神姫の効果特性、地球でも公式発表する事態となったが、この世界でも気付かずに『フラッシュアーカイブ』を発動しようとするプレイヤーは多くて、寸前で俺が指摘すると言うのが通例だったのに、寛二プロは自分で気付いた。
正直言って歌神姫の『HP』の取り方はデメリットの方が大きい、なにせ本来では『破棄ゾーン』へと送られる筈の『HP』が手札に加えられるのだ。捲っているわけではないからカードが何だったのか把握できないし、単純に攻撃した分相手の手札が増えてしまい、返しのターンでボコボコにされる確率が高くなる。
しかし、寛二プロの言う通りメリットも確かにあって、それは正規の攻撃によって捲られた場合に発動できる『フラッシュアーカイブ』を回避できると言うものだ。おかげで歌神姫の直接攻撃を妨害できる要素が『クリックアーカイブ』だけと妨害がしづらい。
「続けてオロトとアラナでプレイヤーに直接攻撃!」
「くっ、しかしこれで全員が攻撃し終わりました! 私の『HP』はまだまだ残っていますよ!?」
歌神姫全員の攻撃を受けた事で寛二プロの『HP』は7となったが、手札が3枚も増えた。3体の歌神姫が並んでいるとはいえ、『HP』が1しか居ない俺を返しのターンで葬るのは、幾つかバーン効果があるカードを持つ、傭兵学園なら簡単な筈だ。
現状、俺は『アーカイブ』を使ってしまい、攻撃可能なメインズはおらず、“バトルタイム”でやれる事はもうない――のだが、やれる事はまだ残っている。なにせ『BOM』にはタイムエンド“間”が存在するのだから。
「――ラストタイムへと以降」
ラストタイム |
「――燦めく
歌神姫たちの
「あれ!? このターンもう『アーカイブ』使ったよね!?」
「『クリックアーカイブ』は条件さえクリアすれば、ターン回数制限無しで発動して良いカードですよ」
「いやですわ。つい最近、授業に出ましたのに何を言っていますの、まあその日はとても
「なんだとぉ!? 寝てたって言いたいの!? ……否定できないっ!」
そう、『クリックアーカイブ』は分類的に『アーカイブ』の一種であるが、発動条件さえ満たせば回数制限および誰のターン関係なく発動できる独立したカード群である。
「自身の“歌神姫”と名の付いたメインズが相手プレイヤーに直接攻撃に成功したターンのラストタイム時に発動可能――」
ライトが照らされ、ステージビームが周囲に駆け巡り、アイドルソングにしては若干勇ましいミュージックが流れる中で歌神姫たちが踊る。
【 種類:A(C) 【効果】 ≪条件≫:自分の「歌神姫」と名の付いたメインズが相手プレイヤーに直接攻撃に成功したターンのラストタイム時に移行した時のみ発動可能。 直接攻撃に成功した「歌神姫」の名の付いたメインズを1体指定する。その後、指定したカード以外の自分フィールド場のカードを全て『コストゾーン』へと送り、デッキから指定したメインズの名前がテキストに書かれている「 |
効果処理によって、まず【
「――【
少々マナーの観点からは駄目なのは承知だが、自分も場の空気にやられてかテンションが上がってしまい、勿体ぶった口上をしてしまう。
――音楽が、どこか賛美歌のようなものへと代わり、背中に天使の翼を生やしたエレネは文字通りに宙へと飛んだ。ステージは消え去り、どこからともなく差し込んだスポットライトとは違う淡い光が祝福するかのようにエレネを照らす。
「すごい綺麗……」
「おお、
すると天使の翼はエレネを覆い、まるで純白の卵のような姿となる。生徒も先生も保護者も、そして対戦相手である寛二プロも含めた全員が、この神聖な光景に目を奪われているようだった。
「――数ある可能性のひとつをいまここに、もっとも優しき女神誕生を魅よ! 【
翼が開かれて光が周囲に広がり現われたのは、“六つ”の可能性のひとつ。最後のステージを歌いきったあと女神に選ばれたことで、神々しい大人の姿となったエレネであった。
女神となった彼女が物憂げな表情をしているのは、女神となった事で大好きだったアイドルを引退せざるおえなかったこと、そしてライバルであり仲間だった歌神姫たちと、もうステージに上がれない寂しさ故だと、地球の公式ファンブックで知った時はなんとも言えない気持ちになったものだ。
「――【
「……そう、でしたか、高いコストを支払って自らの『HP』をギリギリまで削ったのも! 歌神姫たちを出して交代させたのも! 全てはこのためだったのですね!……
【 BP:0 ATK:0 属:愛 種類:M 【効果】 このカードは展開することができない。 【効果】 「歌神姫ライブ ラストアンコール」の効果で手札に加わった時に、自分メインズゾーンに存在する「歌神姫 エレネ」をデッキの1番下に戻すことでのみ特別展開することができる。 【効果】 特別展開に成功した時、『破棄ゾーン』『コストゾーン』に存在する「歌神姫」および「マイク」と名の付いたカードの数×2枚につき、相手プレイヤーは『HP』を1枚手札に加える(この効果によってHPが0に成った場合バトルに敗北する) |
「俺の『破棄ゾーン』、『コストゾーン』に存在する“歌神姫”、そして“マイク”の数は……合計15枚! よって寛二プロの『HP』7枚全てが手札となる!」
あまり1として、14÷2=7枚、寛二プロは捲らなければならず。そして彼の『HP』は7枚、つまり7-7=0となる。
「――
「……方法はどうであれ、『HP』が0となった事で、私の敗北です」
歌神の女王エレネは両手を広げて歌う。優しく暖かを感じる調べは、この空間全てに広がっていき、人の心へと届く。寛二プロはルールに従い、7枚の『HP』が手札となり、0となったことで俺の勝利が確定した。
「寛二プロが、1ターンキルされた!?」
「これはこれは、予想外の展開としか言えませんね」
――そう、これが“歌神姫”の戦い方。『HP』を対象とした高コストおよび相手にアドバンテージを与えてしまい次のターンがほぼ負けるというのならば――その前のターンで倒してしまえばいいという、1ターンキルテーマなのだ。
地球では、こんな風に上手く行くのは希であるが、これが“運命力”有りきのこの世界となると、だいぶん安定して行なえてしまうために、かなり強かったりする。とはいえ地球でもこの世界でも、妨害札にめっぽう弱いというのは変わらないのだが……この世界妨害札、やたら値段が高くて、あんまり入れている人いないんだよな……。
「明里のお父さん、やばーい!」
「あはは……相変わらずエグいよお父さん」
みんなの盛り上がりを見ると、どうやらエンタメはしっかりと届けられたみたいだと安堵する。とはいえ、寛二プロには申し訳ない事をしたな。
「なのと……なんと、これが白仮面ヒタキ様の真の実力……!」
――どうやら体を震えさせているのは感動の類いみたいで大丈夫そうだが、今度ちゃんと埋め合わせをしよう。原作アニメとは別と分かっているものの、ミイちゃん先生とは上手く行って欲しいしね。
「お父さん、勝ったね!」
ともあれ、娘には良いところを見せられたようで、俺は確かな満足を持って明里の元へと向かうのであった。
+++
それから、ちょっと寛二プロに鬼詰めされたのをミイちゃん先生に助けられたり、生徒たちに質問攻めにあったのを明里に助けられたり、商店街関係者に歌神姫でイベント出ましょうと詰め寄られるのを早めに来てくれた六華に助けられたりしながらもお昼休憩を迎えた。
「――じゃあ、ヒタキさん。プロに勝ったんだ」
「うん、1ターンキルしてたよ」
『
ちなみに、どうやって食べるのかという子供たちの視線が集中するなか、下半分だけ外れると全員が肩を落とした。これも割と見慣れた光景である。
「流石はヒタキさん、我が家の大黒柱だよ」
「とはいえ流石はプロだ。バトルの強さもそうだが場を盛り上げることに長けていた。あれは俺には無い能力だ」
「お父さんの動画、あんまり面白くないもんね」
「……娘よ。頼むからお父さん以外には、そこまで正直に生きないでくれ」
――いつもの家族のやりとり、ここまで来るのに色々とあったが、明里も六華も楽しそうな姿に気持ちが一杯になる。
九年、そうだ明里の父親となって九年の歳月が過ぎた。アニメではあっという間だった時間の流れは、俺にとって長く、掛け替えのない時間となった。
「お父さん? どうしたの?」
「ん……いや、なんでもない……明里、いま楽しいか?」
「……うん! あ、でも、ハクナお姉ちゃんの長文メッセージは、ちょっとどうにかしてほしいかな」
毎日1000文字送ってくるぐらいなら、直接電話すればいいのにと口にする文句は、分かりやすく寂しさを滲ませていた。
様々な理由が混み合って、ちょっと距離を置いてしまっている、当星家の長女――高校生となったハクナ=シュバルツノ。今は自分の屋敷で暮らしており。明里のことを避けていた。
――それは原作でもある“儀式”の事もあるだろうが、俺たち家族だけの“去年”の出来事によって、明里に顔を見せるのが気まずくなっているからだった。その時は俺も、同じように落ち込んでいたとあって、気持ちは分かるからこそ、そろそろ話をしないとな。
「まったくハクナの不器用なところ、誰に似たんでしょうね」
「どうみたってお父さんだよ」
「ちゃんと親の背中を見てくれているようで嬉しい限りだ」
他愛も無い会話をしながら、頭の中でハクナについて、“儀式”について――原作に関係する事について、考えることは沢山あるが、しっかりとやっていこうと決意を改める。
「……明里、嫌いな野菜をこっそり俺の器に入れるな」
「えー、だって苦いし……分かった、じゃあバトルして私が勝ったら食べてよ!」
「まったく、これも教育の内か、いいだろう」
「こら! ここは家じゃないんだから、ふたりともそうやって直ぐにバトルしないの!」
「「はい、ごめんなさい」」
――守ってみせるさ、俺の家族を。
+++
≪――な、どうして騎士が第二世界に!? あ、ちょっと止めなさい! わたくしは儀式を任された由緒正しき――≫
「その話をしようか、クソボール」
そんなわけで、少し早め学校を出た帰り道、本来は明里が出会い本格的に原作物語の主軸となる“儀式”を管理するために第一世界から呼び出された
“歌神姫”は次代の女神となるために、下界に降り立ち正体を隠してアイドル活動を行なう事となる。しかしながらエレネたちが降り立ったのはアイドル戦国時代、個人の活動だけでは生活すら危ういと悟った彼女たちは、女神の座を争うライバルでもある他の歌神姫たちとユニットを組むこととなった。
「薩摩系アイドル」、「苛神鬼の誤字」、「前世が武士」、「太古は戦の神だったが次代を経て歌も司るようになったタイプの女神」、「ライブ感の意味をはき違えているテーマ」、「戦乙女」、「アイドル戦国時代を勝ち抜くテーマだから当然の性能」、「初
――by歌神姫が好きで堪らない人たちの反応集――
また元にペースに戻りますので、お待ちになって頂ければ幸いです。
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