next legend (ナンダム)
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プロローグ

俺達は、暗闇に堕ちた。
早々には戻ってこれないだろう。


「ねぇねぇ、彰人君って彼女いるの?」

 

「…今はいないですね。」

 

「えぇ~~嘘ぉ!?」

 

テレビ局の近くにある居酒屋。店長がいい人で、撮影が終わった後に良く飲みに来る場所だ。

…正直、帰りたい要素しか無かった。

頼んでもないはずなのに次々と運ばれてくるツマミ。多分、ディレクターの仕業だろう。

不必要にプライベートを聞き出そうとしてくる同じ会社の女子。もちろんナシだ。

 

「でもよぉ彰人、どうせお前の事だ、モテるんだろ?」

 

「正直、モテない理由が無いよね…。歌手としてテレビに出るほど人気、顔もいい、貯金もある。3拍子揃ってるじゃん!」

 

「あはは…。ありがとうございます。」

 

「あ、そうだ。ここは一つ、私を頂いてみても…?」

 

「やめときなアンタ。彰人君が困ってる。」

 

しょうもない会話が続く。

…帰ろ。

 

スマホを眺め、わざとらしく言う。

「…あぁ~。すみません、この後予定あるんでした。なんで、先に帰りますね。」

 

「え、は!?もう帰るのか!?」

 

「えぇ~~!?やだやだ帰んないでよぉ!そのままお持ち帰りしてぇ~~」

 

「セクハラですか?」

 

「違わい!切実な話なんじゃ!もう私も_」

 

「お金、置いときますね。それじゃ。」

 

勢いよくドアを閉めた。

 

☆★☆

 

店のドアを開けると、いつもの人が出迎えてくれた。

 

「…あ!彰人じゃん!」

 

「おう」

 

嗅ぎ慣れたコーヒーの香り、見慣れたカウンター。

あぁ、やっぱりここが俺の帰ってくる場所だ。

 

「お帰り彰人。飲み会どうだった?」

 

「クソつまんねぇから抜けてきた。…こはねと冬弥はどこだ?」

 

「あ、あぁ…。あの二人は今、ナカヨシしてる途中だよ。…正直、近付くの躊躇っちゃうよね。」

 

「ハッ、だから一人だったのかよ。悲しいこった。」

 

「うるさいなぁ!…もういいよ。取り敢えず、夜ご飯作りたいから手伝ってくれない?」

 

「ヤダ。俺も入ってくる。」

 

「え、ちょ、彰人!?」

 

後ろの方で怒りの声が聞こえた気がしたが、それを無視して店の奥へと戻っていった。

 

 

「うーーっす。」

 

「…彰人か。」

「あ、あきとくん!?」

 

「おうおう、元気なこった。杏は混ぜてやんなかったのか?」

 

「…これを言うと言い訳みたいになるからあまり言いたくなかったのだが。いいか?」

 

「お、おう。言ってみろ。」

 

「杏は昨日、彰人が潰してしまt」

 

「悪かった。楽しんでくれ。あと、風呂入ってくるからその後俺も参加させろ。」

 

「…彰人は、台風みたいな奴だな。」

「そ、そうだね…。あと、流石にこの耐性のままだと恥ずかしいからドア閉めて欲しかったね。」

「…。」

 

☆★☆

 

「3人とも、ご飯だよぉ!」

 

杏に号令をかけられ、渋々彰人達はリビングに戻った。

今夜はハンバーグだ。

 

「こはねぇぇ!!大丈夫だった!?彰人と冬弥に何か変態みたいな事されなかった!?」

「うん、大丈夫だったよ!二人とも、凄く優しかったから…」

「おい、あろうことかハンバーグに人参いれたバカはどこのどいつだ。」

「そんなの、杏に決まっているだろう。」

「いやマジレスしなくていいんだって。」

「そういえばさ、昨日買った映画見ない?」

「あ、そうだったね!ご飯食べ終わったら見よっか。」

「おう。冬弥も見るだろ?」

「彰人、その…。俺は、もう少しお前とベットにいたい。」

「お前結構ストレートに言うのな。…わ、分かった。」

「あれ、もしかして彰人、照れてる????」

「また昨日みたいにしてやろうか」

「ヒッ!た、助けてこはねぇ~~~!」

「彰人君、杏ちゃんをいじめちゃ駄目だよ!あと、いくら可愛いからって、程々にね!」

「納得いかねぇ…。」

 

くだらない話だ。

だけど、これが求めていた空間なのも事実だ。

 

「…あ、そういえば」

 

おもむろに杏が切り出した。

 

「実は今日、カフェに来たお客さんが面白くてさ〜」

「…それが、どうしたんだ?」

 

「あの子…。そうだね、高校生くらいの男の子。私達を超えるような、伝説を作りたいんだって」

 

「「「…!!」」」

 

杏以外の動きが途端に止まる。

ナイフの落ちる音が、部屋に響いた。




お久しぶりです。
今回はソウイウ展開は無しで行こうと思います。
だいぶ匂わせてるけど()

こんな感じのを、ちょくちょく投稿していけたらと思います。
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設定紹介&掘り下げ集(2023/03/29追記)

小豆沢こはね(22)

…この世界線で一番病んじゃった人。

 VIVID BAD SQWADが解散された後、こはねはそのまま進学、就職まで何事もなく進む。

 しかし、就職してからが駄目だった。

 いきなり知らない環境で肩身が狭いのは勿論、同僚からのちょっかいや上司からのイジりに

 耐えきれず、精神的に疲れてしまう。ビビバスの4人や謙さんなど、昔から付き合いのあった人

 以外とはほとんど喋れず、今はこはねのお父さんにお金を支援してもらいながらビビバスの4人

 とシェアハウスをしている。

 

白石杏(23)

…悩めるカフェの若店長。

 解散した後は普通に進学し、大学を出た後は謙さんに代わり「WEEKEND GARAGE」のオ

 ーナーを務める。当初は実家暮らしでいいと思っていたが、疲れ切った3人の顔(彰人と冬弥は 

 後述)を見て居ても立っても居られなくなり、こはね達の親に直談判してシェアハウスを認めさ

 せる。今の生活に満足してはいるものの、危機感も感じている。でも、自分ではこの思いがなん

 なのか分かっていない。待ってて、必ず結論を出すから。

 

東雲彰人(23)

…テレビでの姿と現実の姿に板挟みされ続ける23歳。

 解散後も彰人は歌い続け、高校卒業を機に独立、テレビにも引っ張りだこの人気歌手になる。

 しかし、あまりにも人気になりすぎて、「伝説を作った彰人」という重圧からだんだんと心が

 病んでいってしまう。そして決め手になったのが、悪質なファン達に姉のSNS、そして姉の友達

 や他のビビバスメンバーが一斉に晒され、総攻撃を受けた事。そしてこの事件をきっかけに絵名

 が自殺未遂をし、昏睡状態になってしまった事で遂に引退発表をした。

 正直すぐにでも辞めたかったが、事務所の都合で先延ばしされている。

 

青柳冬弥(23)

…家族に助けられ、家族に殺された男。

 解散後は父親や兄の勧めから、音楽学校に入る。

 そこで音楽を学び、もう一度集まれた時、その知恵を生かす…筈だった。

 実際はそうはいかず、「遊び惚けていた恥晒し」、「青柳家の癌」と言われ、先輩や同級生から

 コテンパンにいじめられる。最初こそ耐えれていたが、遂に耐えきれなくなり、学校を中退して

 しまう。以降は音楽教室を開いて収入を得ながら生きていた所を、杏に呼び戻された。

 

石原悠馬(16)

…夜更かし上等系健康児。

 幼い頃、VIVID BAD SQWADが創った「伝説」に魅了され、伝説超えを決意する。

 …が、ゲームに出会ってしまい状況が一変、ただの引きこもりになってしまった。

 ただし歌唱力はべらぼうに高いので、今後の成長次第でとんでもない事になるだろう。

 

沢渡葵(16)

…幼い頃、悠馬と共に見た「伝説」に圧倒され、伝説超えを志す。

 悠馬とは違い才能は無く、0から始めた第2の彰人。

 才能の違いに葛藤する事もあるだろうが、なんとか頑張ってほしい。

 現在進行形で悠馬に片思い中。

 

中野彩羽(16)

…葵と同じクラスのイケイケ女子。

 葵の家に遊びにいった時に「伝説」を知り、伝説越えに協力する事になる。

 歌唱力は学年でもトップクラスに高く、中学校の文化祭でのちに語り継がれる程のライブをしたらしいが、真偽は不明。

 

・プロローグではナカヨシしてたこはねと冬弥ですが、別にカップルとかそんなんじゃないです。

 そういう気はあるかもしれませんが。割と大人な関係ですね。

・こはねちゃんは割と傷つきやすい子なので、彰人君のほうがとんでもない事をされてるように見

 えても実際はこはねちゃんの方が病んでます。まぁ、こはねちゃんもこはねちゃんで大概エグめ

 の経験してるケド…。

・謙さんは重い病気で入院しています。意識すらない。そもそもなんの病気かすら分からない。

・悠馬と葵は幼馴染です。家も近い。ニチャァ…




多分気付いたら増えてます。
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Once again, to that legend
素直に応援出来ないや。


慰めて、慰めて、慰めて。
愚かな勝ち犬は、自分の強さを忘れた。


「…っくあぁぁぁ~。」

「ちょっと、何気ぃ抜いてんのよ。もしかして、また夜遅くまでゲームしてたの?」

「うるさいなぁ。これでも健康になった方なんだぜ?」

「いい?『伝説』を作るには体が一番大事な資本なんだからね?」

「はいはい、分かってるって。」

 

昼頃のビビッドストリート。

才気溢れる若者が通る道を、二人の「次世代の才能」が歩いていた。

そして、二人がたどり着いた先は…

 

「いらっしゃい!…あ、悠馬に葵じゃん!」

「こんにちは、杏さん!」

「うっす。…あれ、彰人さんは?」

「今は仕事だよ~。飲み物何にする?」

「あ、私オレンジジュースで!」

「俺は…、ブラックで。」

「おっけー!」

 

WEEKEND GARAGEは、元々杏と謙の二人体制で経営していく方針だった。

しかし、謙が突然の病に倒れ入院してしまい、今は杏一人で経営している状況だ。

 

「…お待たせしました、オレンジジュースとブラックコーヒーです。」

「あ、こはねさん!こんにちは!」

「ひゃい!…あ、あはは、こんにちは…。」

「もう、こはね!その子達はそんなに怖くないよ!それに、なんかあったら私が守るっていつも言ってるでしょ?」

「う、うん…。」

「…。」

「…え、えっと、今日の話し合いしよっか。」

「う、うん!」

 

 

「ありがとうございましたー!」

「また来ます。あざした。」

「ん、またねー!」

 

店主に挨拶を告げ、喫茶店を去る。

辺りはすっかり暗くなっていた。

 

「家送るよ。」

「おぉ、気が利くね~。悠馬もちょっとずつオンナゴコロが理解出来てきたんじゃない?」

「理解出来てたら苦労しないよ。」

「え?」

「なんでもない。ほら、行くよ。」

「あ、ちょっと待ってよ~!」

 

夜は始まったばかり。

 

☆★☆

 

____。…もうやめてくれ。

__っと!どういう事よこれ!

_人のせいじゃないよ…。

 

 

 

 

あんたのせいだからね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

「…東雲君、大丈夫?」

「彰人、大丈夫!?なんかすっごいうなされてたけど」。

 

「…あぁ、わりぃ、大丈夫だ。」

 

どうやら悪い夢を見ていたようだ。

ここ最近頻度が高くなっている。今日は病院に行った方がいいかもしれない。

 

「…全部忘れちゃう?」

「お前らはしっかり仕事しろ。あと、俺ももうすぐライブあるし…」

「今、何時か分かってる?夜中の2時。1時間も経ってないよ?」

「私達、東雲君が寝た後、お話してたの。そしたら、いきなり呻きだしたから…。私、心配で…。」

「…そうか、ありがとな。んじゃ遠慮なく。」

 

 

「あぁ、腰いてぇ…」

「それはこっちのセリフなんだけど。というか、もう一回初めてからの方が勢い強かったよね?」

「ふふ。でも、東雲君が元気になってくれたなら、良かったかな。」

「お前らなぁ…。」

 

疲れた時は酒を飲み、友人と喋り、女を抱き、よく寝る。

これが気持ちよく生きるコツだとどこかの居酒屋で聞いた。

まぁ、どうせどこかのオヤジが流した話だろうが…。

 

「案外的を得てんのが腹立つな。」

「「?」」

「何でもねぇよ。」

 

「彰人、白石、小豆沢。朝ごはんが用意出来た。食べるぞ。」

「「「はーい」」」

 

☆★☆

 

「そういえば白石、昨日言っていた話の事だが…。」

「あぁ、悠馬君と葵ちゃんの事?前から知り合ってたんだけど、昨日来てくれたんだよねー!」

「へぇ、俺らを超えようってコンビか。いい度胸じゃねぇか。」

「あれ、彰人やる気じゃん?」

「…思い出しちまうよな、あの日の事。」

 

伝説を創った夜。

喉で支配し、歌で魅了し、全身で掴み、放さない。

私達はなんにでもなれると思っていた。

それぐらい達成感もあったし、本気だった。

でも今は…

 

「私はあの子達の事、素直に応援出来ないや。」

「…小豆沢。」

「何でなんだろうね。…なんだか、上手く応援出来ないの。もちろん、あの子達が駄目って訳じゃなくて…。これは、私自信の問題だよね。」

「おいおい、これからライブなんだから湿っぽい話はやめてくれよ。気分下がっちまうだろ。…ご馳走様。」

「あ、ちょっと彰人!今の言い方は…。」

「俺はずっと昔に全部言ったはずだ。…なぁこはね。お前は、どうしたいんだ?」

 

…私は!

 

 

 

ワタシハ…?

 

ドアが閉まってからも、答えはでないままだった。

私、こんなに女々しい女の子だったのかな?

頑張ってる人すら応援出来ないのかな…。

 

☆★☆

 

「…俺だって抱いた女にこんな事言いたくねぇよ、クソッ。」

 

行き場のない憤りは、空を切る形で消えていった。




どうも、ナンダムです。
そろそろR18タグを付ける時なのかもしれません。
でも大人な四人のねっとりした雰囲気出したくて…(伝われ)

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『キッカケ』が欲しいのかな。

この声を聴け。
音・音・音に、踊り狂え。
Ready Steady?


深夜、25時。

草木も眠りの準備を始める時間に、一人憂う勝ち犬がいた。

 

☆★☆

 

「…もしもし?」

「あ、瑞希?久しぶりー。」

「うん、久しぶり。…どうしたの?こんな時間に電話してきて。」

「ちょっと聞いてよ瑞希!さっきまで彰人と寝てたんだけど、あいつ酷いんだよ!?」

「はいはい落ち着いて、絵名も寝てるからさ。」

「…ふーーーん???」

「うわ、今絶対ニヤニヤしてるでしょ!」

「べぇつにぃぃぃ???…ブフッ!」

「吹いてるじゃん!…で、弟君がどうしたの?」

「そう、彰人ったら酷いの!私がもうやめてって言っても、あいつは『もう少し』ってねだってくるの!そんなの断れるわけないって分かってて!」

「あーね。じゃ、切るね~」

「待って待って!なんでそんなすぐに切ろうとするの!」

「僕は惚気話を聞くために電話してるんじゃないけど?…あ、絵名待って、後で相手するから。」

「やーい怒られてるー」

「ほんとに切るよ?」

「冗談だって。…お店に、高校生が来たんだ。昔の私達みたいな。」

「…。」

「最初は、いいきっかけになるなって思ったの。私達が、元通りになれるような。」

「…。杏、」

「でもね…。なんか、モヤモヤしてきちゃって。…今の私が、尊敬なんてされていいのかって。」

 

「…。」

「…。」

 

二人の間に、しばし沈黙が訪れた。

 

「…あ、絵名が怒ってる。あ、ちょ_」

 

電話はここで切れた。

 

☆★☆

 

朝の通学路。

夜のビビッドストリートとは対照的に、朝は非常に活気に溢れている。

 

「おはよう葵ちゃん!また歌いに来てね!」

「あ、おばさん!いつも部屋ありがと!絶対また行くから!」

 

「お、悠馬じゃねぇか!彼女と一緒に登校か?」

「ひゅー!アツいねぇ!」

「ちょ、やめ、そんなんじゃ_」

「俺と葵はそんな生半可な関係じゃない。…分かったならどいてくれないか?」

「ひぇっ…。」

 

道を通れば話しかけられ、道を曲がればからかわれる…事は無かったのだが。

とにかく、少し名前が売れるだけでこの始末だ。

 

「一体杏さん達はどうやって対処してるんだろうな…。おい、聞いてるか?」

「ふぇ!?あぁ、いや、聞いてる、聞いてるよ!あは、あはは!」

「…?」

 

よく分からない反応をされたが、多分眠いからだろう。

自分も眠いのだから。

_と結論を出したところで何やら後ろから物凄い音が聞こえてきた。

 

「…なんだこれ、車?」

「いや、違うよ。これは…」

 

「あ、お、い、ちゃーーん!」

「うわぁ!…もう、急に飛びついてくるとびっくりするじゃん。」

「えへへ~。おはよう、葵ちゃん!」

「おはよ、彩羽。元気?」

「うん、元気だよ!悠馬君は?」

「…眠い。」

「およよ!?元気じゃないのかーー。それなら……。ほりゃーーーー!」

「いや、何する___うぐぉお!?」

 

刹那、背中に尋常ではない衝撃が走る。

まずい、意識が刈り取られ…る事は無かった。

痛みすら感じず、むしろ体が軽くなっている。

 

「なんだこれ、どういう仕組みだ…?」

「えへへ、凄いでしょ?私の特技の一つだよ!」

「へ、へー。…おい、この子誰なんだよ。」

「中野彩羽ちゃんだよ。私と同じクラスの子で、最近よくここら辺で一緒に歌ってるの。」

「葵ちゃんは凄いんだよ!こう、フワフワってしてるだけじゃなくて、えっと、えっと…。」

「みなまで言うな。俺も十分分かっている。」

「あ、そっかー!葵ちゃんと悠馬君は仲良しさんだからねー!」

「あぁ、昔からの付き合いだ。俺が一番知っているに決まっている。」

「ちょ、悠馬、スt」

「それ本当!?私、昔の葵ちゃんの話聞きたいなー!」

「いいぞ。…あれは幼稚園の頃の話だ。葵がな_」

「ストップ、ストーーーップ!!!」

 

「…なんでビンタされたんだろうな。」

「私もなんでうにうにされたのか分かんないよ~!」

「自業自得です!」

 

☆★☆

 

「こんにちはー!」

「どうもっす。」

「おはようございます、杏さん。」

 

「…あれ?増えてるじゃん。」

 

土曜日の朝。

普段は悠馬と葵以外誰もいないような時間だが、今日はいつもより賑やかだ。

多分、二人の間で笑ってる女の子の事だろう。

葵のショートカットに白い髪色というのに対して、長い黒髪を一つに纏めている。

背はそこまで大きくなく、平均的といった感じだろう。

 

「あ、そうか。杏さんにはまだ言ってなかったもんね。自己紹介出来る?」

「はいはいはーい!中野彩羽です!趣味はお歌を歌う事!好きな食べ物はメロンパン!えと、他には、えーっと…」

「あはは!いいじゃん可愛い!この子、葵の相棒って事?」

「はい。やっっっと見つけました。」

「そっか。…大事にしてあげてね、お互い。」

「…っ!」

「…ほぇ?」

 

杏が言った瞬間、目つきが鋭くなった葵。

しかし、それに対して彩羽は何のことか良く分かっていなさそうだった。

 

「それで、今日は何の用だっけ?」

「今日は、合同練習をしようと思います。いつも練習の内容は決めてても、ライブの前日までやらないのが普通だったので。」

「へぇ~。頑張ってね!」

 

 

「あ、いや、今回は杏さん達にも見てもらおうと思って…」

「…え?」

 

☆★☆

 

「…それで、俺は今公園にいるのか。」

「はい。突然お願いする形になってしまい、申し訳ないです。」

「いや、大丈夫だ。…久しぶりに、声を出してみたいとも思っていた所だ。」

 

時刻は午前9時。

ビビッドストリートが動き出すと同時に、悠馬達も練習を始める事にした。

そしてその指南役に選ばれたのが、ご存じ杏とたまたま店に出てきた冬弥だった。

 

「彰人とこはねは?」

「彰人はもう仕事に行った。小豆沢は…。寝ているはずだ。」

「あ、冬弥もしかしてまたナカヨシした?」

「そんなことはない。それに、小豆沢はいつもこの時間は寝ているだろう?」

「…まぁ、それもそうだよね。」

「杏さん、何の話ですか?」

「あ、いや、何でもないよ。大丈夫。それじゃ、練習始めよっか!まずは声出しから_」

 

☆★☆

 

「今日は皆、よく頑張ったね!それじゃ、気を付けてかえってね!」

「夜道には気を付けるんだぞ。寄り道もしないように。では、また明日会おう。」

 

「はへ~~。今日は一日頑張ったね!」

「うんうん、いつもより沢山練習したから、私疲れちゃった。」

「でも、この調子でいけば、もうすぐある俺たちの初舞台でも十分な実力が出せると思う。」

 

夕暮れのビビッドストリートに3人の声が響く。

今日は確かライブがあったはずなので、人も少ない。

彩羽と葵は手を繋ぎながら歩き、悠馬は当然の如く歩きスマホだ。

 

「そっか、来週…だったよね。初ライブ、楽しみだな~!」

「はえ!?で、でも私、入ったばっかりなのに…。」

 

いきなり告げられた事実に、彩羽が露骨に不安な表情を見せる。

しかし、葵は一切気にしないでと言わんばかりに

「大丈夫だって!彩羽の歌は本当に凄いんだから!」

と言う。

 

「でもぉ…。」

「心配する事は無いよ。きっと成功するから。」

「そうそう!私と彩羽のコンビなら最強!でしょ?」

「…うん、私、頑張るね!」

 

☆★☆

 

「ただいまー。」

「ただいま。」

「あ、お帰り!ケガとかない?何してきたの?」

「心配しないでこはね、何もなかったから。」

「あぁ、今日は一日、常連の高校生達の練習を手伝ってきた。」

「…そっか。」

 

最近、杏ちゃん達はよく来る二人の高校生達を気に入っているのか分からないけど、

よくかまってあげている。

…やっぱり、元に戻るための『キッカケ』が欲しいのかな。

東雲君と青柳君__彰人君と冬弥君はもう大丈夫そうだし、杏ちゃんも悩みはありそうだけど、

前を向こうとしてる。

 

…私だけなのかな。

 

「…寂しかったんだよ?」

「おい、待て、もうすぐ夕ご飯だから__」

「駄目、かな?」

「…。杏、頼み事がある。」

「それ、私も参加しても?」

「もちろん。」

「よしきた。」

 

…皆、優しいな。

 

 

 

 

この後、帰ってきた彰人にしこたま怒られる事は言うまでもない。




花粉症で死にそう、ナンダムです。
前提説明もないままとんでもないキャラが誕生してしまいました。
この先、一体どうなるのでしょうか。

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殺す勢いで

夢を語れ、追え!がこの街のStandard
ただ見ていたいだけなんてのは嘘です


ライブ当日。

街の小さなハコに、大勢の人が訪れる。

 

「緊張するね…。」

「あぁ。…でも、俺達は今日までに沢山練習をしてるし、大丈夫だろ。」

 

「うんうん、私達なら、絶対に成功するね!」

首にまだ残る痣を触りながら、彩羽は二人にそう呼びかけた。

 

☆★☆

 

最初は、軽い気持ちで始めた。

私は皆よりお歌が上手いみたいだし、何より友達と歌えるのだから。

でも、現実はそこまで甘いものでは無かった。

 

 

 

「_お前、やる気あんのか?」

「…へ?」

 

 

 

それは、彰人さんが初めて練習に参加してくれた日だった。

 

 

「ちょ、彰人!」

「お前だよ、そこの白い髪。」

ベンチに座りながら、物凄い形相で睨みつけてくる彰人さん。

あんな顔、テレビでも見た事ない…。

 

「私ですか?もちろん、やる気たっぷりです!」

「そうか。なら、もう帰れ。…ガキはいらねぇんだよ。」

「…え。」

「俺たちは遊びでやってるんじゃねぇ。…なぁ、お前、正直どうなんだよ。」

 

どうなんだよ…?

「どうって…?」

聞き返してみると、彰人さんは心底呆れたような顔をして話を続けた。

 

「本気で「伝説」目指してんのか?…もしかして、『葵がやってるから私もやる』とかいうクソみてぇな考えが動機か?」

 

葵ちゃんが目指してるから私もやる。

これは、まぎれもない事実だ。

そう。私は、葵ちゃんとなら_

「…はい。私は、葵ちゃんと全力で、「伝説」を目指すって_」

「そうか。帰れ。」

「…でも、私だって!」

「_聞こえねぇか?」

彰人さんが一瞬溜めてもう一度口を開いた途端、場の空気が一変した。

_あ、まずい。

 

「帰れぇ!帰らねぇなら殺すぞ!」

「ひぃ!_え、ちょ、きゃ!?」

「あぁ!?このぐらいでビビってんじゃねぇよ!」

 

彰人さんに胸倉を掴まれ、体が少し浮く。

_この感覚、は。

やばい、やばい…。

こわい…!

 

「彰人さん、ぐるじい…」

「なんだよ、もう終わりか!?もっと、殺す勢いで来いよ!!」

「彰人、落ち着いて!」

「おい彰人、やり過ぎだ!」

 

杏さんと冬弥さんが急いで止めに入る。

しかし、彰人さんの力が強すぎて中々離してもらえない。

 

「彰人さん、彩羽を離して!」

「彰人さん、死んじゃいますって!!!マジで!」

「…。クソが、二度とツラ見せんな。」

 

「死んじゃう」の言葉に反応したのか、悠馬君の言葉でようやく離してもらえた。

首には薄く痣が出来て、意識も朦朧としてる。

 

「彩羽、大丈夫!?すぐ手当てするから!悠馬は冷やせる物、葵は…。替えの服と下着、頼める?」

「分かりました。」

「了解です。」

 

「…彰人!」

彰人さんは、そのまま去って行ってしまった。

 

 

 

「おい彰人、さっきのあれはなんだ!まさか、本当に殺す気だったのか!?」

「んなわけねぇだろ。最終最後は離すつもりだったし。」

「そういう問題ではない、あれは完全にラインを超えている!」

「じゃああいつはあのままで俺達を超えられるか?」

「…そんな話をしている訳では_」

「ハッ、お前も俺と同じ。否定しないじゃねぇか。普通あんなの即通報でもおかしくないぜ?」

「…。」

「ほら、否定出来ない。『伝説』っていうのは、ションベン絞り出して、胃の中のモン全部吐き出してもまだ足りないくらい足掻いて、きったねぇ恰好した奴が掴み取るんだよ。そうだろ?」

「そう…なのかも、な。」

「そう言う事。じゃ、しばらく飲んでくるわ。」

 

 

_彰人は変わってしまったのだろうか。

そう思うにはあまりに頼りない後ろ姿の彰人が歩いていくのを、冬弥は黙って見つめていた。

 

☆★☆

 

「彩羽」

 

__おかあ、さん?

 

 

「幸せに、生きるのよ」

 

 

__どこ?この声、おかあさんの声なのに…。

 

 

「あなたは、私の、たからも」

「おい彩羽ぁ!こっちこい!」

 

__!!

あの、人、は。

 

「…ここにいたか。さぁ、こっちにおいで?」

 

や、やだ…。来ないでよぉ…。

 

 

 

 

「…あ?」

 

 

 

 

嫌ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ

 

「あぁぁぁぁぁ!!!!」

「ちょ、彩羽!?」

「…あれ?あの人は?」

 

目が覚めると、見慣れた天井_がドアの向こうに見えた。

ここ、どこ…?

 

「ここはバックヤードだよ。普段私達が住むのに使ってる場所。意外と広いんだよ?」

 

そう言って、笑いかけてくれる杏さん。

その後も、普段は聞けないような部屋の構造、使ってる豆の種類、果てには近所のおじいさんのお手伝いをした話まで聞かせてもらった。

さっきとは打って変わって、平和な時間が30分くらい続いた。

 

しばらくすると、悠馬君と葵ちゃんも帰ってきた。

そして後ろには、初めて会う人、ビビバス最後のメンバーであるこはねさんもいた。

 

「あ、おはよう彩羽ちゃん。災難だったね。…ごめんね。彰人君、ああいう人なの。」

「でも、今回はああいう人では済みませんよ。」

 

悠馬君が、こはねさんに鋭い視線を向ける。

しかし、代わりに応えたのは杏さんだった。

 

「…本当に、ごめんなさい。大事にはしないように周りに言ってはいるんだけど…。」

「彰人君、なんでそんなに怒ったのかな…?」

「うん、そこが分からないよね。現役時代でもあんなに怒った事そうそうなかったのに。」

 

二人がうーんと考え込んでいると、「そうでもないぞ」と言いながら冬弥さんが入ってきた。

 

「あいつは自分を抑え込むのが上手な分、爆発しやすいタイプではあった。…だが、流石に今回程では無かったが。」

「うーん、考えれば考える程分からなくなっちゃうね…。」

 

少し考えた後、思い出したように冬弥さんが立ち上がった。

 

「冬弥、どこ行くの?」

「…ちょっとな。」




暴走させすぎたかも。

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