俺が知ってるのと違うんだが (三世)
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#1 ケモ耳だらけの世界


 オリジナル小説は初めてなので暖かい目で見てくださると幸いです。


 

 

 

 

 

「……29993、29994 、29995、29996」

 

 

 肌を刺すような寒さの中、木刀の素振りの数を数える声が竹林の中で静かに響いていた。

 

 

「……29997、29998、29999……30000!!」

 

 

 それまでただ規則的に振り、機械的に数えるだけであった声が、30000回目にしてやっと生気を取り戻す。これだけ振れば当然とも言えるだろう。

 

 

「終わらせてやりましたよ師匠!!これで全部終わりだクソッタレ!!」

 

 

 整った顔とは裏腹に、茶の髪を持つ少女は汚い言葉遣いをして叫ぶ。すると、竹林の中をガサガサと抜け、真っ白な髪を揺らしながら騎士の姿をした女性が姿を現した。

 

 

「……本当にやったのか?30000回?」

「……やれって言ったの貴方ですよね? ぶん殴りますよ?」

「とても師匠に向ける言葉遣いじゃないな、それでも私の弟子か?」

「アンタが勝手に弟子にしたんだろうが」

「煩い、モフられたいか?」

「ひえ」

 

 

 少女の頭の上でぴょこぴょこと揺れている()()()()()()をじっと見つめながら手をワキワキと動かしている姿は、とても騎士の服には似合わない。不審者が妥当だろう。

 

 

「……残念だが、約束は約束だ……」

「修行が終わるんですよね、そうと言ってくださいお願いします」

「そんなに嫌か、私の修行は」

「冬場に6時間滝に打たせた人がよく言う」

「5時間半だ」

「変わんねえよ」

 

 

 軽口を叩きながらも腰に付けられたポーチから表紙がボロボロになった小さな本を取り出し、少女へと差し出した。

 

 

「修行を全部終わらせた子には、これを渡す決まりなんだ」

「……なんですかこれ」

「基礎技から奥義まで、全ての技が載った本だ」

「なんでこんなボロボロなんですか」

「知らん、これでも大分大切に使っている」

「えぇ……」

「それとこれも」

 

 

 腰から提げた刀を手に取り、少女の眼前へと持ってくる。

 

 

「これって……」

「妖刀『狼朽(ろく)』、初代から伝わる刀だ」

「妖刀……」

「妖刀と言ってても名前だけだがな、切れ味がいいくらいだ」

「呪われたりとかは」

「無い」

「浪漫が無いですね」

「やかましい」

 

 

 軽口を叩いてはいるものの、渡し方も受け取り方もどこか物々しい。流石に免許皆伝、何方も顔だけは真剣そのものである。

 

 

「それじゃ私は行く、また会おう」

「……騎士団の仕事ですか」

「割と大きな仕事だからな、しばらく会えないかもしれん」

「……死なないでくださいよ?」

「冗談言うな」

「だったらいいんですけど……」

 

 

 先程とは打って変わって、少女の顔には不安が浮かんでいる。どうにも信用ならないのだろう。

 

 

「……そんな顔をするな」

「どんな顔ですか」

「暗い顔だ、幸せが逃げるぞ?」

「ならいいです」

「どうして?」

「逃げた幸せは師匠に行くでしょ」

「……そうか」

 

 

 その見た目にそぐわずにキザなセリフを吐く、だがそれとは裏腹に、声色には不安が滲み出ている。

 

 

「……じゃあな、景、また会おう」

「……はい、秋さん」

 

 

 静かな竹林に風が巻き起こり、少女は目を瞑ってしまう。次の瞬間には女性は居なくなっていた。

 

 

「……原作だと、まだ生きてるはずだから」

 

 

 素振りのせいで掠れた声で、少女はそう呟いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 転生したと認識した瞬間、自分が女性になっていること、ここが俺のいた世界とは全く違う世界だと言うことに気が付いた。

 

 何せこの世界の人間、何故かみんな犬とか猫みたいな耳が頭にくっついてるんだもん、もちろん尻尾も。寧ろケモ耳が付いてない人間を見たことが無い。だからようやく喋れるようになって親に、「この耳の付いてない人っていないの?」とか聞いたら“何言ってんだこいつ”みたいな目で見られた、解せぬ。

 

 とはいえ、前世でもケモ耳系のキャラは好きだった、それこそケモ耳キャラメインのソシャゲにどハマりするくらいには。だからまあ、転生した時には相当喜んだ、嬉しすぎて漏らした、黒歴史だ。

 

 だがしかし、喜びも束の間、俺は一瞬で地獄に叩き落とされることになってしまう。

 

 

『お前がけーか! よろしくな!』

 

 

 近所に住んでいた子供の甲斐(かい)(ひかる)、俺はこの子供の顔と名前を前世で知っていた。

 

 『獣の唄

 

 先程も話した“ケモ耳キャラメインのソシャゲ”に出てくるキャラクターだったのだ。それに気がついた瞬間はヤバかった、意識が飛んでいたと思う。

 

 だが、ここで一つだけ問題が発生する。

 

 柴木(しばぎ)(けい)、それが今世での俺の名前だ。

 

 見覚えがあるような無いような感じの曖昧な感じ、だが確かにいたような気もした為、俺の脳を総動員して探し出した結果

 

 柴木景は、本編開始前に死亡したキャラだった。

 

 光君のキャラストーリーで登場し、小さい頃に仲が良く、二人で騎士団に入ることを夢見ていた少女、だが悲しい事に原作開始の一年前に病気により死んでしまったということになっている。

 

 しかも死に際のセリフが酷いのだ。

 

 

『ね、光』

『……なんだ』

『ほんとは、私が……なりたかったんだけど……私は無理そうだから……』

『……ああ』

『……なってよ、天下無敵の……騎士に』

『……ああ……絶対だ』

『……ふふ、嬉しい……ありがとう……ね……だいすきだよ……ひか……る……』

 

 

 こうして、柴木景は息を引き取る。このセリフのせいで光君は本編で強さに縛られるようになってしまうのだ。

 

 いやほんと酷い、メンヘラかよ俺

 

 ちなみにこのストーリーのお陰か、光君が推しになった人達が急増した。俺は箱推しだったから無敵だったがな。

 

 

 それはさておきだ。

 

 

 つまり俺は、本編開始の一年前には死んでしまう。

 

 いやじゃ!死にとうない!また病死は嫌すぎる!! 

 

 なので健康を手に入れる為に毎日700回素振りをした。両親は嬉し泣きした。姉さんと兄さんには凄い心配された。

 

 そして素振りを初めて二ヶ月ほど経った頃、これまた知っているキャラに話し掛けられた。

 

 それが俺の師匠、大館(おおだて)(あき)だ。

 

 俺は泣いた。嬉ションしそうになったが抑えた。俺は大人なのだ。

 

 そして話してみるとこれまたびっくり、原作と全く性格が違う。原作では“少し影のある綺麗な人”って感じだったのにこの世界では“弟子入りを強要させるイカれた人”になっていた。クソが

 

 というか単純にイカれてるんだあの師匠は、何考えたらまだ五歳にも満たない子供を谷に突き落とす、俺が鍛えてなきゃ死んでたぞ。……それがあってかあの人は姉さんと兄さんに死ぬほど嫌われている……いや、彼らも少し過保護な気がするが。

 

 で、そんな大館秋だが、実は彼女もストーリーの中盤くらいで死んでいる。

 

 …死んでいるのだ

 

 ……どういう訳か、私の周りには本編で死亡した人達が異常に多い。例えば私自身、そして光君や姉さんと兄さんなども本編で死亡している。私は死神か何かか?

 

 俺は『獣の唄』は好きだし、出来るならばそのストーリーを生で見てみたいとも思う。……だが、だからと言って死ぬとわかっている人間を見殺しにするほど、俺は腐っていないんだ。

 

 だがまあ、光君や兄さんと姉さんが死んだのは殆ど柴木景(おれ)のせいのようなところも多々ある、ならば俺さえ生き残れば少なくとも彼らが死ぬ確率は大分下がる筈だ。

 

 問題は大館秋、彼女は三章の中盤、敵のボスに殺されてしまう。

 

 だから俺は力をつける事にした。少なくとも師匠を守れるくらいには、だ。

 

 実際前世の知識もあってか、師匠に「ここまで強くなるとは思わなかった」と言わせるまでには強くなったし、今や病気なんて知らないくらいには健康だ。なので二年前に騎士団に入れてくれと頼んだ。止められた、いつの間にか来ていた姉に。いや、本当に気付かなかった、あれって本当いつから見ていたんだろう。

 

 まあ確かに、私は当時10歳だ、騎士団に入るのは大体15歳から18歳くらいの子供らしいし、俺が入るにはまだ早いだろう。

 

 そして今年、今日この日、やっと修行が終わった。なんだ30000回素振りしろって、それなら滝に6時間打たれた方がよっぽど楽だったんだが。

 

 だがまあ、これで師匠と会うことも少なくなってしまうだろう。実際見ていて怪我しそうにも思わないが、やはり本編で死んでいる以上はどうにも安心できない。

 

 …やはり無理をしてでも騎士団に入れてもらうべきだっただろうか、どうにも心配でソワソワしてしまう。

 

 

「……大丈夫?景ちゃん」

 

 

 と、落ち着かずにいると、姉……(ゆう)姉さんが話しかけてくる。

 

 

「大丈夫だよ、姉さん」

「手震えてるよ?」

「……冬だからね」

「もう夏だよ」

 

 

 ……そうだっけ

 

 

「そうだっけ」

「……はぁ…」

「ひっ!?」

 

 

 何故か姉さんから殺意が溢れ出す。なんで!?季節間違えたのが地雷だったの!? 

 

 

「なっ……なに!?どうしたの!?」

「……ううん、なんでもない」

 

 

 その普段と変わらない笑顔が怖い

 

 

「……どうしたの、二人とも」

「あ、聞いて(よる)、あの女また景ちゃんに無茶させたんだよ?」

「え、なんで知ってるの」

「やっぱり無茶してたんだ」

 

 

 襖を開いて(よる)兄さんが入ってくる。二人とも顔がいい、この状況じゃなければいつもの如く拝んでいただろう。

 

 

「……やはり景に近付けるべきじゃなかったんだ、あの阿婆擦れ」

「口悪くない?一応私の師匠なんだけど」

「景ちゃん、普通の師匠っていうのは季節感が狂うまで修行させたりなんかしないの」

「いや確かにそうだけど」

 

 

 夕姉さんと夜兄さん、二人は双子だ。そして何故かは知らないが二人とも私に対して異常に過保護である。

 

 

「……景はまだ12歳、あの修行は無茶にも程がある」

「そうよ、景ちゃんはまだ子供なんだから」

 

 

 ……いやまあ確かにあの修行は度が過ぎているとも思うが

 

 

「は〜……お姉ちゃん心配、景ちゃんが私たちの居ない間にまた無理するんじゃないかって思うと……」

「……やめろ、考えたくもない」

「いや、そんな死ぬほどのことはしてないよね?」

 

 

 確かに谷から突き落とされたのは死んだかと思ったが、他の修行は()()命の保証くらいはしているのに。

 

 

「…そうだ!景ちゃんも騎士団に入ればいいのよ!」

「……!名案だ!そうすれば景が無理しないよう見張ることが出来る!!」

「……それが出来たら私も入ってるっての」

 

 

 先程言った通り、騎士団に入るのは大体15歳から18歳の試験を通過した人達だ。私が行ったら会場で門前払いされてしまうだろう。

 

 ちなみに二人は15歳、エリートだな。

 

 

「……つまり景は俺たちから離れたくないと……?」

「そうなの景ちゃん!?」

「……ハイ、ソウデス」

 

 

 ここで変に否定したら駄目な気がする、肯定しておこう。

 

 

「嬉しい……!景ちゃんがやっと私達の愛を受け取ってくれた……!」

「……景、安心しろ、俺たちがお前を騎士団に入れてやるからな」

 

 

 ……お? このまま行けば俺騎士団に入れるんじゃないか?

 

 

「後は父様と母様に許可を貰えば……!」

「……景と騎士団に入れる!!」

 

 

バタバタと足音を響かせて襖から二人が出て行く。父と母の所に向かったのだろう。

 

 ……大丈夫かな、目が血走ってたけど

 

 二時間後、意気消沈した二人が部屋に戻ってきた。ちくせう

 

 

 

 



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#2 甲斐光という少年①

 

 

 

 

 庭園の中、厳格な雰囲気を出した老人が縁側で新聞を広げて読んでいた。周囲は静まり返っており、鳥のさえずりも聞こえないほどである。

 

 すると突如、甲高い金属音を響かせて、()()()が男の頭に直撃した。

 

 

「ガッ!?」

 

 

 老人は間の抜けた声を出し、即座に庭園の中を見回す。すると草むらの中に、ぴょこぴょこと揺れている茶色の尻尾を捉えた。老人は静かに新聞を丸め、その尻尾の持ち主のいるであろう場所へ向けて投げた。

 

 

「あ痛ァ!!」

 

 

 少し高め声が辺りに響き、茶髪の少女が現れる。それと同時に笑い声を堪えるような声も聞こえて来た。今度は黒色の尻尾が揺れている。

 

 老人は再び新聞を丸め、先程投げた場所の少し横へと投球する。が、茂みから出てきた手に掴まれてしまう。

 

 

「残念だったなヒデ爺!俺に投球は効かん!!」

 

 

 老人は即座に丸めておいた新聞を投げた。

 

 

「痛い!!」

 

 

 先程とはまた違う声が響き、草むらから黒髪の少年が姿を現した。

 

 

「……クソガキどもが、何の用だ」

「俺を弟子にして下さい!!」

「何度も言わせんな、俺は弟子を取らん」

「そこをなんとか!!」

「取らん」

「なんとか!!!」

「いい加減にしねェと魔物の餌にすんぞ」

 

 

 先程よりも少しドスの効いた声で拒否をして、再び新聞を投げる。クリーンヒットだ。

 

 

「痛あ!?」

「……光、ヒデさん普段よりイラついてる、ここは退いた方がいいよ」

「……ぬう……覚えてろよ!!次は必ず弟子にして貰うからな!!」

 

 

 茶髪の少女の言葉を聞き、少年は捨て台詞を吐きながら走り去って行き、少女もそれに追従していなくなる。

 

 

「……嵐みてェな奴らだ」

 

 

 老人の呟きは、静かになった庭園に吸い込まれ消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『獣の唄』。

 俺が大体15歳ぐらいの頃に配信が開始され、俺が死んだのが20歳だったから、少なくとも五年は続いているソシャゲである。

 

 “魔物”とかいう異形の存在と戦う騎士団に入った主人公、それを主軸として描かれるストーリーのゲーム。その最大の特徴は、登場人物の殆どがケモ耳キャラであることだ。

 

 ……といっても終盤には、背中に翼を持ち、天使を名乗る頭のイカれた集団も出てくる為、全員がケモ耳キャラという訳でも無いのだが。

 

 そしてこのゲーム、割とキャラが死ぬ。プレイアブルキャラクターだろうがモブNPCだろうが割とポンポン死ぬ。一番人気のキャラが死んだ時はやばかった、ネットでは咽び泣く声が鳴り響き、俺は三日寝込んだ。

 

 まあつまり、この世界では人気があろうがなかろうが、この世界では簡単に人が死ぬ。そこまで殺伐とした世界観でもないのになんでこんな死人が出るんですかね。

 

 ――そして

 

 

「くそ、今日こそはと思ったのに」

「悪戯してる限りは弟子にしてくれないと思うよ」

「そうでもしなきゃあの人取り合ってもくれないんだよ!」

 

 

 目の前にいる少年も、その一人である。

 

 

「やっぱり他の人に教えてもらった方がいいんじゃないの?」

「いや、俺はヒデ爺がいい」

「ふーん」

 

 

 この少年…甲斐光は、物語の序盤から登場するのにも関わらず、主人公を敵対視し続けるせいでアプリの配信から2年間ガチャに出てこない。

 

 結果だけを言うと、彼は主人公達との共闘により正式に仲間となり、そのおかげでやっと光君はガチャで引けるようになる……のだが

 

 

 その数ヵ月後に追加されたストーリーで、彼は主人公を庇って死ぬ。

 

 

 …庇って死ぬ。

 

 ………

 

 いやおかしくねぇ!?

 

 二年だぞ二年!!そんだけ待たせといて死なすか普通!?死なせるとしてももうちょっとストーリーが進んでからだろ!!数ヶ月って!!ゲーム本編じゃ一週間経ってねえぞ!?

 

 ……まあ当然というか、ネットは燃えた、それはもう大炎上、大火事である。

 

 幸いな点としては、ガチャで引いたキャラが死んだからと言って使えなくなるようなことは無かったのは良かった……いや良くは無いが、まだマシだった所だろう。使いたいと思う人がいるかは不明だが。

 

 

「――だから今日あっちの山の様子見に行くって親父が……景?聞いてんのか?」

「え?…あ、ごめん考え事してた」

「お前たまにそうなるよな、なんか悩み事でもあるのか?」

 

 

 お前の事で悩んでんだよ早死に小僧!!

 

 

「無い無い、で、何話してたの」

「西の山で魔物が大量発生してるから、騎士団に言われてヒデ爺が様子見に行くって話しだよ」

「大量発生?」

 

 

 ……大量発生?……妙だ、光君が弟子入りする前ならそのイベントはまだの筈なのだが

 

 

「そ、西の山の麓だってさ」

「ヒデさん一人で?」

「そうなんじゃないか?様子見だけらしいし」

 

 

 西の山、一人、大量発生、ここまで被ることがあるか?

 

 

「……ふーん」

 

 

 取り敢えず念の為後で見に行ってみよう、まだ死ぬとも思えないけれど。

 

 

「……お前、なんか企んでないか?」

「まさか、私は悪戯小僧の君とはちがうんだよ」

「お前こそ悪戯小僧だろうが」

 

 

 はてさてなんのことか、俺は()()()()悪戯をしたことなんてないんだけどなあ

 

 

「ほんといい性格してる、嫌がらせしてきたヤツ全員に同じことやり返すとか」

「あれは寧ろ放っといたら兄さんと姉さんが家の力使って彼ら殺しそうだったし」

 

 

 これは冗談ではない、あの二人だったらやりかねないから言っているんだ。

 

 

「……そういやあいつらはあの二人について詳しく知らないんだもんな」

「教えても嘘吐き呼ばわりされるんだもん、あの二人外ではあんなじゃないし」

「ああ…皮かぶってるもんな」

 

 

 因みに光君は一度消されかけてる。怖い

 

 

「誰も気付かないだろ、華麗な()()()があんなに妹煩悩なんて」

「基本的に他人とコミュニケーション取らないからなぁ…あの二人」

 

 

 “貴族様”、その呼び方は少し懐かしいが、前に出来てしまった距離感はもう感じなくなっている。俺が思っているより仲が良くなっているようでちょっと嬉しい。

 

 

「……そんで何企んでんだ、言えよ」

「西の山見に行こうかなって」

「……正気か?」

 

 

なんだその目は、バカにしてんのかこの野郎

 

 

「いやお前、お前の師匠の命かなんかで自分の刀持ってないだろ、素手で魔物と戦うつもりか?」

「……なんだ、そんなことか」

 

 

 ふふん、それなら見せてやろう、俺の相棒となる刀を!

 

 

「ほれ、刀」

「え、なんで持ってんだ、脱法帯刀?」

「ちがうわ、私の事なんだと思ってんの」

「……まさか終わったのか?全部の修行が?」

「そのまさか、終わったのだよ、あの地獄が」

 

 

 『狼朽』、つい先日師匠に貰った刀だ。これで勝つる

 

 

「……マジで行くのか?」

「もちろん。あ、光は来ないでね、守れる自信ないから」

 

 

 まあまさかこのタイミングで()()()()()()なんて来ないだろうし大丈夫だろ!ガハハ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……んだ、こりゃあ」

 

 

 山の麓を覆い尽くす魔物の群れを見て、季周(きしゅう)秀永(ひでなが)は顔を顰めていた。

 

 

「騎士団の隊長格二人は必要な規模じゃねぇか、何が“全部見た”だ、ぬるい仕事しやがって」

 

 

 秀永の脳内には、依頼にやって来た騎士団の男の顔が過ぎった。男は山の中全てを見たと言っていたが、確実に虚偽の報告であろうことは秀永自身の目が物語っている。

 

 

「……ここまで多いと、騎士団が着く頃には町に着いちまうか……」

 

 

 秀永の脳裏に、悪戯好きな子供二人の顔が浮かんだ。

 

 

「……クソッタレ」

 

 

 ここで確実に減らしておかなければ町が壊滅してしまうだろう。秀永は脇に置いてあるライフルを掴み、群れの中心に向けて照準を定める。

 

 

「消し飛べ」

 

 

 轟音と共に、群れの中心で爆風が巻き起こった。

 

 

「……っと……グレイめ……強く作りすぎだ」

 

 

 魔物達は何が起こったのかも分からずにウロウロと歩き回った後、既に死んだ十数体もの死体を睨みつけている。彼らが原因とでも思っているのだろうか。

 

 

「頭の悪い魔物は処理が楽で助かる」

 

 

 彼らからすればいきなり竜巻に巻き込まれた様なものだ、困惑するのも無理はないだろう。

 

 

「それ、二発目……ッ!?」

 

 

 瞬間、突如として背中に衝撃が走り、次の瞬間には秀永は吹き飛ばされていた。

 

 

「ッ!!親玉のお出ましか……!」

 

 

 先程まで秀永の居た場所から、熊の二倍はあるであろう体を持った魔物が現れる。

 

 

「Grrrraaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

 

 目は憎悪によって泥のように濁り、肌はその目よりもどす黒く染まっている。

 ……そして何より、その爪からは、真っ赤な血がポタポタと垂れ、地面を湿らせていた。

 

 

「……テメェ、人間殺しやがったな」

 

 

 秀永は瞬時にライフルを投げ捨て、背負っていた散弾銃を魔物の親玉に向ける。

 

 

「くたばれ」

 

 

 間髪入れずに引き金を引き、魔物の体が真っ赤な炎に包まれる。普通の魔物ならば塵も残らないほどの威力である。

 

 普通の魔物ならば、であるが。

 

 

「Grrrraaaaaaaaaaa!!!!!!!」

 

 

「……なっ!?」

 

 

 少なくとも、この魔物は普通では無いのだろう。大した外傷も無く炎をかき消し、爪を振り下ろしてきた。

 

 

「こなくそ……ッ!!」

 

 

 即座に散弾銃の銃身で爪を防ぐが、衝撃は殺しきれない。そのまま麓まで吹き飛ばされてしまう。

 

 

「ッッ!!!」

 

 

 地面にぶつかり、二回ほど跳ねる。そうして着いたのは、魔物の群れの中心であった。

 

 

「……クソが」

 

 

 魔物たちは、いきなり現れた人間に対し警戒を顕にしたが、危険がないと判断したのか、ジリジリと近付いて来る。

 

 

「……光、景」

 

 

 脳裏には、二人の子供の顔が浮かぶ。こんな事になるのならば一度くらい銃の使い方を教えてやるのだったと、柄にも無いことを考えてしまう。

 

 魔物達は少しづつ近付き、血の匂いを嗅いだ瞬間、一斉に飛び掛ってきた。どうなるのかなど、分かりきったことだった。

 

 

「……悪ぃな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「「させるかァッ!!!」」

 

 

 少し高めの、二人の声が辺りに響いた。

 

 

 

 






 ちなみに登場人物の名前は全員犬種がモデルになっています。
柴木景、夜、夕→柴犬
大館秋→秋田犬
甲斐光→甲斐犬
季周秀永→紀州犬
 みたいなかんじ
 日本の犬種は六種しかいないので強制的に日本系の名前のキャラが少なくなりますね。いずれはシベリアンハスキーあたりも出せたらいいなと。



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