機動戦士ガンダム 翼を広げて (キラトマト)
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#01 鉄の翼

「せっかく世界が平和になったってのに……なんでこんなことするんだよッッッ!!!!」

 

 その日、地球に大型建造物『コロニー』、『サイド2』の第8バンチ、アイランド・イフィッシュが落とされた。それにより地球に住む通称『アースノイド』そしてサイド1,2,4に住んでいた通称『スペースノイド』のべ約30億人もの人間の命が失われた。

 

「俺たちは運良くこの『サイド7』に来ていたから助かったが他の人たちは……」

 

 丁度104期、元マーレの戦士達は偶然サイド7に来ていたのだった。

 

「クソッ……情報が錯綜してやがる……」

 

 チャンネルを変えると被害の規模や、落ちた地が変わるなどザラであった。

 

「……」

 

「……どうしたエレ────」

 

 エレンは血が滲むほど強く拳を固め、TVの画面を睨みつけていた。

 

「自分たちの仲間を皆殺しにしてまで……そうまでして戦争に勝ちたいのかよ……」

 

 コロニーを落とした者たちの名は『ジオン公国』、デギン・ザビという男を公王に据えた独裁国家である。

 

「ナナバさん……」

 

「まさか軍に入隊するなんて言わないだろうね……?」

 

「その通りです。相変わらず俺の事となるとなんでもお見通しですよね」

 

「……ちっぽけな正義感で入るつもりならやめとけよ。相手はこっちの国力の30分の1なんだ、勝てるわけねぇよ」

 

「……でも、もし勝ったとしてもその後に何も残っていなかったら意味が無いだろ? ……早く終わらせるために俺は」

 

「それに、ナナバさんがいるんだぞ? お前、残されるもんの気持ち考えたことあんのかよ」

 

「それは……でも、それでも……!」

 

「チッ……好きにしろ。だけどなぁお前……絶対生きて帰ってこいよ」

 

 ジャンはグリュックの目を真っ直ぐ見つめる。それに対しグリュックはいつものように気楽に答えるが、目は真剣だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 UC.0079 3/18

 

「既に北米のキャリフォルニアベースが占拠されている! 我々はこれ以上のジオンの進行を阻止するため、奴らと戦う!」

 

 軍に入隊したグリュックは、連邦軍の最新鋭機『セイバーフィッシュ』にてジオンの進行を阻止するため、『フォックス隊』と共にイギリスへと向かっていた。

 

「人手不足だからって新兵をこんな最新機に乗せるとはな」

 

「嫌味はよしてくださいよダリア曹長。それに相手のモビルスーツ? とやらの相手は誰も経験してないんですから、一緒ですって」

 

「あれがジオンのモビルスーツ『ザク』だ」

 

 遠くに見えたそれが単眼の人型のロボット、ザクIであった。

 

「総員!! 一斉にかかれ!!!」



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#02 モビルスーツの脅威

「チッ、避けろぉぉおお!!」

 

 左に旋回し、なんとか寸前で躱すグリュック。しかし後ろにいたセイバーフィッシュのエンジン部にザクIのマシンガンが直撃、徐々に高度を落とし地面に墜落、爆散した。

 

「バリスぅぅううう!!!」

 

「クソッタレ!! 退避だっ!!」

 

 ジオンによって散布されたミノフスキー粒子のせいでレーダーや誘導兵器が機能しない今、戦闘機でモビルスーツに勝つのは難しい、しかし……。

 

「いくら人型だからってぇっ!!」

 

 尾翼下部に取り付けられたミサイルを発射し空中で、放たれたザクのマシンガンと直撃させる。

 

「逃げるぞ!!」

 

 爆風でこちらの姿が目視できない間に母艦へと帰投したフォックス隊。

 

「……こちらフォックス隊……帰投しました」

 

 辛酸を飲んだダリア曹長は艦長であるリードに伝える。

 

「……そうか。全員生還とは……ならなかったか」

 

 しかし、今回を含めた訓練の成果からグリュック・シュバインは二等兵としては異例の最新鋭戦艦『ホワイトベース』のクルーに任命された。

 

「俺が……じ、自分がですか!?」

 

「そうだ。今連邦軍はジオンのザクに対抗しうるモビルスーツを設計、開発している」

 

「そう……なんですか」

 

(また戦争が……起きるっていうのか……?)

 

 一抹の不安を抱えたままホワイトベースへと向かうグリュック。

 

「グリュック・シュバイン曹長! ホワイトベースに着任いたしました!」

 

 異動になり、その都合で階級が上がったグリュック。

 

「こちら艦長のパオロである。リード中尉のサラミス部隊より異動になったと聞いている。我らのモビルスーツ開発計画『V作戦』に関してはもう聞いているか?」

 

「はっ! 既知であります!」

 

 自分より上の階級であるパオロに敬礼をし、新たな自分の搭乗機を見るためデッキへと向かう。

 

「これが……」

 

「TINコッドだ」

 

「え?」

 

 白と紫に彩られた戦闘機を見上げていると、ノーマルスーツに身を包んだ技術士官が声をかけてきた。

 

「おっとすまない、この機体の開発者のテム・レイだ」

 

「テムさん……もう一度この機体の名前……言ってもらっていいですか?」

 

TINコッド(ティンコッド)だ」

 

「……」

 

(何かおかしいと思わないのかな……ってまぁいい)

 

「これはまだ試作機なのだがね、これを発展させた『コア・ファイター』というものを今、開発中なんだ」

 

「コア・ファイター?」

 

「あぁ、この機体はV作戦『RX計画』の文字通り核となる機体でね、コアブロックシステムというものを採用している」

 

「へぇ……あ、その写真、もしかして息子さんですか?」

 

「お、あ、あぁ、アムロと言ってね、サイド7に住んでいる。……あいつが成長する頃には、こんな戦争は終わらせたいものだがね」

 

「そう……ですよね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 一方、その技術力と探究心を買われたアルミン・アルレルト及びハンジ・ゾエは兵器開発の為、オーガスタ研究所に研究員として入所したのであった。



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#03 ガンダム、大地に立つ!!

 宇宙世紀0079年、平和になった世界に再び戦火が広がることとなってはや9ヶ月、地球連邦軍の軍人グリュックはかつての戦友のいるサイド7へ、ホワイトベースとともに入港する。それは連邦の新型モビルスーツ開発計画、『V作戦』を開始するためであった。グリュックは友に会うため、少しの間ホワイトベースを離れたのであった。

 

「よっ、久しぶり」

 

 軍服をコートで隠して皆のいる寮のようなところに帰ったグリュック。

 

「!!」

 

「お前……!」

 

 全員彼の方を一斉に振り向く。真っ先に飛び出したのはナナバであった。

 

「もうっ! 帰ってこないかと思ったじゃないか!!」

 

「なっ、ナナバさん……。だって約束したじゃないですか。……それにナナバさんに会いたかったですし」

 

「もうっ……よく言うよ6ヶ月も放っておいたくせに」

 

「ずーっと想ってましたよ!!」

 

「……オイどうすんだよこの空気を」

 

「知らねぇよ俺に聞くな」

 

 ジャンがエレンにコソコソ話をする。2人がイチャイチャしている中、突然外から轟音が鳴り響く。

 

「なんだ!?」

 

「!?」

 

(もしかしてジオンに嗅ぎ付けられたのか……!?)

 

「クソッ! ジャン! お前が先導して逃げるんだ!! 近くにホワイトベースって新型艦がある! そこへ行けば助かる!」

 

「は、は!? お前はどうすんだよ! グリュック! おいグリュック!!!」

 

 グリュックはなんとかする、と叫んで自らの搭乗機であるTINコッドへと走っていく。

 

「クソッ、制御系の設定も済んでいないというのに!!」

 

 ザクマシンガンを放ち、破壊の限りを尽くすジオンの新型モビルスーツ『ザクII』。

 

「人が住んでいるんだぞ!? なんとも思わないのかよっ!!」

 

 居住区でミサイルを使う訳にもいかず、機関銃でなんとか応戦するグリュック。

 

「巨人の相手はっ、慣れてんだよ!!」

 

 ヒートホークをギリギリで避け、ザクの背後に陣取り、ランドセルを照準に捉える。しかし。

 

(なんで!? こんなところに民間人が!? しかも子供か!?)

 

 何かしらのファイルを抱えた子供が連邦の新型モビルスーツ『RX-78-2 ガンダム』に向かっていくのが見えたグリュック。

 

「ちっ! なら余計ここで倒す訳には行かないな!」

 

 爆発を起こすわけにはいかない、そう思い仕方なく機体を旋回し、彼はザクから距離をとる。

 

「な、なんだ!? 何故連邦の戦闘機はモビルスーツに対抗できる!?」

 

「で、デニム曹長! 連邦の新型が!」

 

 ザクのパイロット、デニム、ジーンはコクピットの中で狼狽える。

 

「なんで動いてんだよ! ガンダムは未だテスト機じゃなかったのか!?」

 

 "それ"が動いたことに対してのリアクションは、グリュックも同じであった。

 

「こいつ……動くぞ……!」

 

 V作戦のファイルを偶然拾ったアムロ・レイ少年は初搭乗にして動かしたのだ、連邦の新型モビルスーツを。頭部に備えられたバルカンを残弾がゼロになるまでザクに撃ち込むアムロ。

 

(なんだよあの戦い方!! ……もしかしてあの少年が……?)

 

「へへっ、こいつビビってやがるぜ!!」

 

 ジーンは自分より階級が上であるはずのデニムの命令を無視し、ガンダムに近寄る。

 

「う、うあああぁぁああああ!!!」

 

 ザクマシンガンを何発も打ち込まれても無傷なガンダムの装甲。しかし衝撃はコクピットに伝わっており、アムロは恐怖のまま操縦桿を思い切り引く。

 

「な、なんだぁぁああああ!?」

 

 頭部の動力パイプを引きちぎり、視界を奪うガンダム。

 

「ジーン!! クソッ、スレンダーが待っているところまで逃げられるか?!」

 

「は、はい! 補助カメラが使えますから!」

 

 デニムのザクに庇われながら、空中に退避するジーンのザク。

 

「逃がすものかぁぁああああ!!!」

 

「うああああああ!!!」

 

 ランドセルに備えられたビームサーベルを引き抜き、ザクを一刀両断。

 

(あいつ……まずいっ!!)

 

 機首を地面に刺さるように不時着させ機体を爆風避けにし、更に自分は緊急脱出したグリュックは避難民たちをホワイトベースに案内する。

 

「サイド7の地表に穴が……! 今度爆発させれば……サイド7の空気が無くなっちゃう……コクピットだけを狙えるのか……?」

 

「よ……よくもジーンを……! 殺してやる……殺してやるぞ……!!」

 

 肉弾戦に持ち込もうと飛びかかるザク、そのコクピットに寸分違わずビームサーベルを突き刺すガンダム。

 

「はぁ……はぁ……」

 

「大丈夫ですか!? ほら、急ぎましょう!!」

 

 こんなことを想定し、連邦軍のノーマルスーツには簡易式の呼吸器が数個ある。グリュックは避難民にそれを付けさせ、ホワイトベースへと辿り着いたのだった。

 

「なに……? まだ民間人が?」

 

 士官候補生であるブライト・ノアに報告するグリュック。

 

「はっ!」

 

「君にも手伝ってもらおう、今は正規のクルーがほとんどいなくなってしまったのでな」

 

「そ、そうですか……まさかパオロ艦長も……ですか?」

 

「いいや、怪我をおってはいるが一命は取り留めている」

 

 ほっと胸を撫で下ろすグリュック。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そして、ジオン公国、シャアの指揮するムサイは……。

 

「スレンダーは」

 

 シャアは艦艇で部下に問う。

 

「はっ、今サイド7を脱出し本艦へ向かっているようです」

 

「……認めたくないものだな、自分自身の……若さ故の過ちというものを」




久方ぶりにサイド7へと帰ってきたグリュック、彼は旧友と共に一時の安息を楽しむ。そして訪れる運命の日、連邦の新型モビルスーツが動く時、サイド7に悲劇が訪れる。
次回 『ガンダム、大地に立つ!!』
運命の鎖を断て、ガンダム!


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#04 戦闘宙域

「……よかったぁ」

 

 グリュックは心から安堵する。

 

「ここの地表が壊れちまう前にホワイトベースに乗れたのは運が良かったぜ。ったくお前も無茶するよな」

 

「え?」

 

「中から見てたんだよ、お前が戦闘機盾にして逃げてる人守ってるの」

 

 コニーがジャンの肩からひょこっと顔を出す。

 

「お前にしては上出来だ」

 

「兵長……!」

 

「チッ、今の俺は兵長じゃねぇ、ただのリヴァイだ」

 

「やっぱ兵長っすよ兵長は」

 

 ジャンがそうおどけた口調で言い放った。

 

「それよりもアルミンとハンジさんは?」

 

「それがだな……なんだっけ、おーがすた研究所? ってとこに行ったんだよ」

 

 エレンが頭を掻きながら答える。

 

「生きていく以上働くのは当然……でも少し寂しい」

 

 ミカサが少し暗い表情になる。

 

「ま、まぁ無事ってこったな。……てか機体失っちまったし……こりゃ始末書じゃすまねぇな」

 

「ん……? どうしたの?」

 

「い、いや……ちょっと……やらかしちゃってですねナナバさん」

 

「またか……」

 

「さっき言ってたけど機体ごと盾にして守ったって言ったじゃん? ……それでさ、あれ最新機だったんだよね」

 

「ふふ、そんなことかい」

 

「そんなことってっ! 軍って結構厳しんですよ……?」

 

 そうやって旧知の仲とだべっていると警報が鳴り響く。

 

「侵入者だって!?」

 

 グリュックは急いでカタパルトデッキに向かう。

 

「なんだあの派手な赤い軍服……」

 

 ヘルメットにデカイ角のようなものをつけた赤いジオンの軍服、そう、赤い彗星のシャア・アズナブルである。

 

「とりあえずあれが侵入者なんだよな?」

 

 グリュックは他の民間人や軍人とともにシャアを撃つが全く当たらない。

 

「クソッ! 逃げられたか……」

 

「出航するぞ!」

 

 ブライトがそう叫び、ホワイトベース並びにガンダムはカタパルトから出撃する。グリュックはモビルスーツデッキへと向かう。

 

「すみません! 今出られる機体はありますか!?」

 

「今出られるものとなると……これしか」

 

 今整備が完了しているのはコア・ファイターが2機のみ。

 

「今、リュウ・ホセイパイロット候補生がその1機に乗って出たところですが……」

 

「なら俺もコア・ファイターで出ます、お願いします!」

 

「……了解した。カタパルトデッキ! コア・ファイターの発進準備を!!」

 

 彼はコクピットに乗り込み、コア・ファイターの操縦桿を握る。

 

「君は戦闘経験はあるのか?」

 

 艦艇にいるブライトからそう問いかけられるグリュック。

 

「ありますよ。グリュック・シュバイン、コア・ファイター、出ますっ!」

 

 虚空の戦場に飛び立つグリュック。相手は赤のザクが1機と緑のザクが2機。

 

「相手がザクなら人間じゃないんだ……人じゃない……!」

 

 シャアの乗るザクに狙いを定めるガンダムだったが、寸前で避けられてしまう。

 

「クソぉぉおお!!」

 

 何度も何度も避けられてしまうビームライフル。

 

「スレンダー、クサカ、援護をしろ!!」

 

「し、しかし少佐! 自分はあの武器を見ていません!」

 

「当たらなければどうということはない、援護しろ!」

 

 モビルスーツ用の携行型ビーム兵器などというものはこれまでジオンには存在しなかったため、狼狽えるスレンダーにシャアが喝を入れる。

 

「後ろががら空きだぞ少年!」

 

「!?」

 

 背後のザクのマシンガンが直撃しても傷1つつかないガンダム。

 

「こ、こいつ……!」

 

 スレンダーのザクに狙いを定め、コクピットに直撃させるガンダム。

 

「やりやがった……よくやったな君!」

 

 リュウのコア・ファイターも駆け付け、ようやくジオンのモビルスーツ部隊は撤退していったのだった。



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#05 軍人と民間人

 途中、何度か襲撃はあったもののガンダムの援護もあり無事に連邦の超巨大司令部『ルナツー』へと辿り着いたホワイトベース。

 

「ワッケイン司令、これは流石に……不当な拘束ではありませんか?」

 

 ガンダムに乗っていたアムロ・レイ少年は民間人なのに連邦の兵器に乗っていたせいで独房に入れられてしまったのだ。

 

「これは規則に準じた行動だ」

 

 グリュックの抗議に取り合う隙も与えない司令。

 

「確かにそうかもしれませんが、俺たちはあの子に助けられてるんですよ! それをあんな扱いなんて……」

 

「君の言い分もよくわかる。しかしだな……」

 

 グリュックは少しため息をつき、避難民のいる部屋に向かった。

 

「すまないみんな……まだこっから降ろせなくってよ」

 

「別にいいってことよ。……それよりも、まだまだジオンの追撃は続くんじゃねぇのか?」

 

「……ここみたいな重武装の基地に攻め込んでくるとは思えないけど……もしかしたらの可能性もあるし、その時はジャン、お前に任せた」

 

「は!? また俺かよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 案の定、ジオンの特殊工作員によって仕掛けられた爆弾が作動し、ルナツーの警備が緩まってしまった。

 

「クッソ……!!」

 

 グリュックはアムロ達が入っている独房へと急いだ。

 

「鍵は……よし、さっきの爆発で壊れたんだな」

 

 彼は扉を開ける。

 

「ブライトさん! アムロ! ……よし、皆無事だな」

 

 アムロ達はグリュックの後を追って、ホワイトベースの出港、またガンダムの封印を解く作業に取り掛かった。

 

「マゼラン迎撃態勢に入る!」

 

 ワッケイン司令の乗るマゼランが出航しようとするも、港に取り付けられた爆弾によって却って道を塞いでしまう結果となってしまった。それに加え、シャア率いる3個小隊まで襲来してしまう。

 

「グズグズしてる場合じゃないでしょ司令! このままルナツーと心中はごめんですよ! グリュック・シュバイン、コア・ファイター出ます!」

 

「リュウ・ホセイ、出るぞ!」

 

 ガンダムの封印が解けるまでの間、2機のコア・ファイターで迎撃に出ることなった。

 

「赤い彗星のシャアか……その腕並み、拝見させてもらう!」

 

 グリュックはコクピットの中でそう呟き、機銃を放つ。

 

「ちっ……速さが3倍ってのは本当かよ……」

 

「グリュック後ろだ!」

 

 リュウの通信に素早く対応し、緑のザクのヒートホークを躱す。

 

「多勢に無勢ってのはこのことだな!」

 

「アムロ、行きます!」

 

 すると、カタパルトデッキからガンダムが発進する。

 

「今度はバズーカ装備か……」

 

 シャアのザクに向けて2発ハイパーバズーカを放つが、そのどちらもが避けられてしまう。そしてヒートホークを抜き、ガンダムへと迫る。バズーカはヒートホークによって砲身を焼き切られてしまい使い物にならなくなってしまう。

 

「クソッ、こんな雑魚に足取られるなんてなぁ!」

 

 ガンダムの背後を取ったザクだったが、逆手に持ったビームサーベルによってコクピットを貫かれる。そしてザクの背後を取ったグリュックのコア・ファイター。

 

「射線上から退くんだ!」

 

 そう通信で聞こえてきた直後に、ルナツーのカタパルトから大きな爆風が放たれる。

 

「何ぃ!?」

 

 コア・ファイターは急速旋回に、その場から離れる。すぐに爆風はザクを包み込み、跡形もなく消し去ってしまった。

 

「ひぇぇえええ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 そうして無事にルナツーを脱出できたホワイトベース。ワッケイン司令はサラミスに乗り換え、ホワイトベースをブライトに託した。そして重傷によって命を落としたパオロ艦長は、宇宙葬となり、暗く冷たい宇宙をさまようのであった。



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#06 地球圏へ

「……あいつ、自力で大気圏に突入できんのかよ……」

 

 大気圏突入の為にホワイトベースに着艦したグリュック。しかしガンダムとアムロは間に合わなかったのだ。そこでグリュックは呟いたのだ。

 

「進路を変える!? しかしガンダムに追従すればジオンの占領地である北米に! それに本目的地であるジャブローからはかけ離れているんですよ!」

 

「今ガンダムを見失う方が一大事だ!」

 

 ホワイトベースは北米へと舵をとり、本来の目的地であるジャブローとは真逆となった。

 

「俺たちはこんなの慣れてっけどよ、あっちにいる爺さん婆さんら、そろそろ暴動起こしそうだぞ」

 

「はぁ!? ウッソだろお前!?」

 

 グリュックは一応ブライトに報告するが彼もどうするか戸惑っている様子であった。そしてそれに追い打ちをかけるかのように攻撃を仕掛けてきたガルマ・ザビ率いるドップ編隊。

 

「第一戦闘配備! アムロはガンダムに乗り込め!」

 

「ちぃ、ブライトの奴、いつも無茶ばかり言って」

 

「そう愚痴るなってアムロ、俺だって援護する、気楽に行ってこい」

 

「気軽に言ってくれるな……。アムロ、行きます!」

 

「グリュック・シュバイン、出ます!」

 

 グリュックは地上を走るマゼラ・アタックとザクの相手をガンダムに任せ、空を飛ぶドップを狙い撃つ。

 

「当たれよクソ!!」

 

 モビルスーツよりも的が小さいため、狙うことが難しい。

 

「ミノフスキー粒子なんてものがなければなあ!!」

 

 機体を急速旋回させ、ドップの真正面にまで接近させ、ゼロ距離からミサイルを直撃させる。

 

「ドップは……大体片付いたが……アムロは!!」

 

 後方に下がったマゼラアタックとザクに集中砲火を浴びせられるガンダム。しかしそこにわずかな隙を見つけたアムロは、ザクをマゼラアタックにぶつけて撃墜、そして連携に穴が空いたマゼラアタック小隊に対しビームサーベルで滅多切りにするガンダム。

 

「アムロ!! おいアムロ!!」

 

(なんだ……ハイになってるのか?)

 

 ザクの装甲を豆腐かのように切り裂くガンダム。そして敵が全て撤退した後もビームサーベルを地面に突き刺し続ける。

 

「おい!! 返事をしろ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「おかえりアムロ」

 

 彼のお隣さんであるフラウ・ボウがそう声をかけるが無視を決め込むアムロ。それはカイたちが声をかけた時も同様であった。

 

「チェッ、気取っちゃってよ、何も戦ってんのはお前だけじゃねぇっての」

 

「そんな言い方ないだろカイさん」

 

「カイ君もハヤト君も、今はそっとしておいてやれ」

 

「グリュックさん」

 

「へっ、あいつの何が気にいったのやら」



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#07 現地調査

「北米を占領しているのはジオン公国の王、デギン・ザビの子息、ガルマ・ザビ、ほぅ、王子自ら出向いているのか、面白いな」

 

「人手不足なんだろうな」

 

「それにこいつ、ハンジさんの情報によると現地の町長の娘と婚姻関係にあるらしい」

 

「……おいコニー、これから戦うってのにそんな情報教えてどうする、ただ戦いづらくするだけだろ」

 

「すまねぇ……」

 

「……」

 

(……もし、ガルマ・ザビを戦いの中で殺したら……どうなる?)

 

「ったく、思い詰めてんじゃねぇよグリュック、相手は同胞すら虐殺した国家なんだぞ?」

 

「……でも」

 

 グリュックは夜、コア・ファイターを無断で使用し、ニューヤーク基地へと向かった。

 

「ホワイトベースに正規軍人なんてほぼ居ないからな、こんなことやっても罰なんて受けないだろ」

 

 ある種楽観的とも言える考えを持ちながら、速度をあげる。

 

「それにしてもコア・ファイターってよくこの大きさで飛べるよな……俺達の時代だったら……あれ?」

 

 グリュックはシートの後ろに人の気配を感じ、慌てて自動操縦に切りかえコクピット内を確認する。

 

「な、ナナバさん!? な、ななななんで!? いつの間に!?」

 

「あはっ、来ちゃった」

 

「じゃないですよ!! これから行くのは敵の拠点なんですよ!? 何があるか分からない!! あなたを失えば俺は……」

 

「そんな時は君が守ってくれるだろう?」

 

「そっ、それに……」

 

「なんだい?」

 

「いや……なんでもないです。って、降りますよ!」

 

 比較的離れている森林に機体を降ろし、隊服を着替えてそこから徒歩でニューヤーク基地まで向かった2人。

 

「流石にここまで来て詫びの品とか無かったら怒られるだろうからな、なんか買って帰ろうか」

 

「そうだね〜、あ! あれとかどうだろう、アムロって子、機械いじりが好きみたいだからさ、ああいうの喜ぶんじゃない?」

 

 そう言ってナナバが指差したのは少しお高めの工具用品。

 

「でもそれよりもな〜」

 

「?」

 

「やっぱブライトさんに渡さないと……」

 

「あぁ! まぁ上司だからね〜」

 

 しかしブライトの趣味嗜好なんて知らない為どうしたらいいか悩む2人。

 

「う〜ん……まぁこれでいっか」

 

 先程の工具と当たり障りの無いストレスを軽減させる薬を買った2人は、何かを食べようということでピザ屋に足を運んだ。

 

「っていうかさ……コロニー落としたのはジオンで、ここ地球なのにやけに治安良くない?」

 

「確かに……しかも見たところヒィズル────んっ、日本人っぽい人もいるから圧力って感じもしないし……」

 

「おっと、チーズが口に付いてるよ、おっちょこちょいなんだから」

 

 そう言うとナナバはグリュックの口に付いたチーズを指で絡め取り、自分の口に入れる。

 

「ぁあ……! もうナナバさん!」

 

 そうやって敵陣の真っ只中とは思えないやり取りをしていると前の椅子に1人の男性が座った。

 

「君、ここは初めてか?」

 

「え……だ、誰、ですか……?」

 

「ギルザ・ガビだ、すまない。自己紹介を忘れていたよ」

 

 訝しげに見つめていた2人だったが、自己紹介をされたことによってそれは解消される。

 

「ど、どうも……えぇ……まぁ初めてですけど……」

 

「どうだ、いい町だろう?」

 

「いい景色だと……思いますけど。あ、それと料理が美味しいです!」

 

「ふっ、そうか、料理が美味しい……か。君になら、話してもいいかもな」

 

「ん? どうしたんですか?」

 

「いや……初対面の君にだからこそ話せることというか……私には婚約者がいてな、だが私と彼女の立場上、結婚してしまうのははばかられることなんだ」

 

(え……なに急に)

 

(私に聞くな)

 

「私は彼女の為なら何もかもを投げ捨てて逃げてもいいと思っている。……しかし、私が逃げたらそれのよる不利益を被るものが大勢いるんだ」

 

 そう話しているギルザの背後の物陰に怪しく光る銃口があった。

 

「危ないっ!」

 

 グリュックは机にあった残りのピザなんてお構い無しにギルザを押し倒し、銃弾から避けさせる。そして上体を起こすと護身用に持っていた銃を撃ってきた男に撃ち返す。

 

「ジオンは宇宙に帰れ!!」

 

「待て!!」

 

(って、ジオン!?)

 

 男を追いかけようとするグリュックをギルザは引き止め、ピザで服を汚してしまったということを名目に自らの屋敷へと招いた。

 

「すまないね、偽名まで使ってしまって、改めて名乗らせて頂こう、私はガルマ・ザビだ」

 

「え……え……!?」

 

(何が……どうなってる!?)

 

「ところで君は、銃の扱いに長けていたようだったが、何か訓練などしていたのか?」

 

「いや……別に……」

 

「はっは、大体察しは付くさ2人は────連邦軍なんだろう?」

 

「え……」

 

「まぁまぁ、緊張するな、茶でも飲め」

 

「……」

 

「毒など入っていないさ」

 

(いや……そういうことじゃなくてだな……)

 

「まぁ、君たちをどうこうしようとするわけではないさ、見ただろう? この綺麗な町を」

 

「確かに……」

 

「私はこの町が好きでね、だから恐怖政治なんてやり方で支配はしたくなかったんだ」

 

「……」

 

「ガルマ・ザビ大佐、イセリナ・エッシェンバッハ様がお待ちです」

 

 入口の扉が開いて、顔上半分をマスクで覆った謎の男がガルマを呼んだ。

 

「え……誰」

 

「私の親友さ、すまないなシャア、今行くよ。君たちは入口にあるジープでこの町を出るんだ」

 

 そう言って部屋を出ていったガルマ、そして2人は入口に備えられたジープを駆り、コア・ファイターの場所へと向かった。

 

「……来なければ、良かったな」

 

「いや……私は……そう、だな……」

 

 ナナバもそれに同意する。帰りのコア・ファイターの中は、沈黙の空気が漂っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「通信機器、反応、途絶いたしました!」

 

「……やはりそうか」

 

 ジープに備えられた位置情報を表す機械はある森林で途絶えており、ホワイトベースの居場所は未だ掴めずにいたのであった。ガルマは続けて言う。

 

「しかし……無事に帰っているといいが」

 

「え?」

 

「いや……なんでもないさ」

 

 部下の反応に、彼は髪を弄りながらそう答えるのであった。



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#08 危機! ホワイトベース

 連邦軍、ミデアのマチルダ中尉の支援を得られたホワイトベース。彼らはジオンの制空権を抜ける為、ニューヤーク市内に潜伏した。一方その頃、ジオンのガルマは親友シャアと共に前市長エッシェンバッハの開催する立食パーティーに赴いていた。

 

「……ジオン軍の総帥たるザビ家の息子に、娘はやれんか……君の父上なら、そう言うだろう」

 

 婚約者、イセリナと共に会場を出ていたガルマ。

 

「はい……わたくしには、ジオン軍も連邦軍も関係ありません。ガルマ様がガルマ様、お慕い申しております」

 

「イセリナ……」

 

 ガルマは彼女を胸に引き寄せる。

 

「たとえ父を裏切ろうとも、わたくしはガルマ様のおそばにおります」

 

「私も父とジオンを裏切る訳にはいきませんが……」

 

 イセリナは彼の胸を離れ顔を見合わせる。

 

「大丈夫、もうすぐ連邦の機密情報が手に入りそうなのです。そうすればデギン()とて、私の無理を聞きいれてくれるでしょう」

 

「ガルマ様……」

 

「それでも無理なら……私もジオンを捨てよう」

 

「ガルマ様……!」

 

「……」

 

(戦場でラブロマンスとは、ガルマらしいよ、お坊ちゃん)

 

 そんな2人を、シャアは冷ややかな目で見つめるのであった。そしてホワイトベースが市内に潜伏しているとの情報を入手したガルマ達ジオン軍は攻撃空母ガウを駆り、攻撃を仕掛けに行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「……これも全部、コロニー落としの被害だってのかよ……」

 

 市内を低空飛行していたホワイトベース。その中でグリュックは呟いた。

 

「それも同胞ごと……な」

 

 志願兵として艦に残ったジャンが続ける。

 

「僕がガンダムで出て囮になって、それでその間に海に抜けるっていうのはどうでしょう?」

 

 そうアムロがブライトに進言するが……。

 

「いや、陽動作戦に出るのも、突破口を開くのも……」

 

 ブライトが頭を抱えていると突然、前がピカッと感光する。

 

「照明弾……?」

 

「今、前に雨天野球場が見えなかったか?」

 

 ブライトの問いにオペレーターが肯定する。

 

「よし、あそこにホワイトベースを隠せ、入るはずだ」

 

「どういうこと?」

 

 その提案に操舵手のミライが疑問を漏らす。

 

「敵から身を隠すため、ホワイトベースの動きを全て停止する。その間に敵の動きを読んで突破口を────」

 

「ブライトさん! 反対します!」

 

 そんなアムロを無視し、ブライトは命令を下す。

 

「カイはガンキャノン、リュウ、ハヤトはガンタンク、グリュックはコア・ファイターで待機。まだ我々は民間人を抱えていることを忘れるな」

 

「……僕だって民間人です」

 

「各自第一戦闘配備のまま待機、物音一つ立てさせるな」

 

 そして、ジャンと同じく志願兵としてオペレーターの任を担うこととなったナナバが、グリュックのコア・ファイターのモニターに写る。そしてじゅうたん爆撃を開始したガウの擲弾がニューヤーク市内を襲う。

 

「くっ……これで当たらなきゃ、ラッキーボーイだな……」

 

「なら当たりませんよリュウさん、俺、運いいですから」

 

 リュウの軽口にグリュックが答える。

 

「このまま、見つからないといいけど……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 一方その頃、パーティー会場では戦場に飛び立ったガルマの元に向かう為、イセリナが個人用の飛行機に乗り込もうとしていた。

 

「だっ、誰か来てください! お嬢様が!!」

 

「お離し!! あなたに何がわかるっていうの!」

 

「お嬢様! 今行くのは死にに行くようなものです!」

 

「お嬢様! なりません! お父上がお呼びです!」

 

「お前たち失礼ですよ!!」

 

「お嬢様!」

 

「ダメです! わたくしには行くところがあるの! お離し! お離しったら!!」

 

 そうは言うものの、3人の力に敵うはずもなく、彼女は父の元に連れられる。

 

「ジオンの頭目の息子が、嫁に欲しいとな? ふっ」

 

 葉巻を吹かし、嘲笑する。

 

「お父様にも、わたくしを自由にする権利は無いはずよ! わたくしには、自分出自分の道を選ぶ権利が────」

 

「許さん!!」

 

 父が娘をぶったのだ。彼女は倒れ伏し涙をボロボロと流す。

 

「いいか? ジェット機のキーをイセリナに渡すんじゃない!」

 

「は、はっ! 旦那様!!」

 

「うっ……うっ……ガルマ様……」

 

 倒れ、泣きながら想い人の名を口にするイセリナ。果たしてガルマは無事に彼女の元に戻ることが出来るのか────

 

 



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#09 さよならガルマ

「あのガウ……もしかして……」

 

「? どうしたんだい?」

 

「いや……」

 

 しかし、ガウからガルマ・ザビの気配がしたなんていう突拍子もないことを言うわけにもいかず、オペレーターのナナバには少し要領を得ない回答となってしまう。するとブライトから通信が入った。

 

「ザクが3機、こちらに向かってきている。ガンダムは囮になって奴らを引き付けてくれ。ガンキャノン、タンクは残って待機、コア・ファイターは遊撃に出てくれ」

 

「了解です。コア・ファイター、出ます!!」

 

 彼は出撃し、アムロと共にシャア部隊に対峙した。

 

「MSが向こうに向かったということは……」

 

 ホワイトベースのある真反対の方向へと飛んだガンダム。シャアは何かを察知しホワイトベースを見つけた。しかし……。

 

「モビルスーツの向かった方向に木馬がある。行けるか?」

 

「向かうさ」

 

 シャアの言葉に疑問すら覚えなかったガルマはガンダムの向かった方向へと舵を取る。イセリナとの約束の為、ホワイトベースを逃す訳にはいかないのだ。

 

「何だ? 急に敵が反対方向に……」

 

 グリュックが疑問を覚えたその一瞬で、ホワイトベースの主砲、ガンキャノン、タンクの一斉射撃が開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「シャア!?」

 

 シャアに騙され、撃墜寸前となってしまったガウ。ガルマは最後の力を振り絞り急速旋回、ホワイトベースへと特攻を仕掛ける。

 

「はっはっは、君は良い親友だったが、君の父親がいけないのだよ」

 

 シャアがガウに通信で伝える。

 

「ガルマ大佐! 脱出艇でお逃げ下さい!!」

 

「クソッ! 部下を残して逃げられるものか! それではイセリナに合わせる顔がないではないか!!」

 

「死んでしまっては元も子もないと言っているんですよ!!」

 

「しかし!!」

 

 ガルマの部下は力づくで彼を脱出艇に押し込む。

 

「貴様!! 上官に対して────」

 

 そんな声が、コア・ファイターから聞いていたグリュック。異常な聴力で聞いていたのだが、それが引き金を引く指を鈍らせてしまう。

 

「出せ!! ここから出せ!!」

 

 脱出艇の窓を力いっぱい叩き続けるガルマ。そして集中砲火を受け続けながらホワイトベースへと突っ込むガウ。

 

「絶対にガルマ大佐に気付けさせるんじゃないぞ!!」

 

「奴ら、特攻を仕掛けるつもりか!? ホワイトベース、急速上昇!! 各員! 伏せろ!!」

 

 ガウは惜しくもホワイトベースから離れていき、地面と衝突、大爆発を起こした。

 

「ホワイトベースは!! ……よかった……。ってあれは!? アムロ!!」

 

 グリュックはそう言うと脱出艇のあるところへ印を放つ。ガンダムが回収した脱出艇の中には……。




脱出艇の中にいたのはザビ家の末弟、ガルマ・ザビであった。彼はホワイトベースに捕虜として捕らえられ、そして彼が死んだと思い込み復讐の念に駆られたイセリナは銃を取る。
次回『イセリナの決意』
慈愛を秘め、駆けろガンダム!


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#10 決意のイセリナ特攻

「ガルマ……ザビ……」

 

 脱出艇には、1人でガルマ・ザビが乗っていた。彼は狭い中で揺られていたからか中で気を失って倒れていた。

 

「あれはもしや……ザビ家の……」

 

「ガルマ・ザビじゃないか!!」

 

 避難民の1人が呟いた。彼は拳を強く握りしめていた。それを聞いた他の者達にもその怒りは伝搬する。

 

「マズイな……」

 

 グリュックは簡易的な食事を手に、ガルマを抱え独房まで走った。

 

「お、おいどこに行くんだよ!」

 

「お前なら分かんだろジャン!!」

 

 一方その頃、イセリナはガルマの訃報を聞きつけ、ジオンの生き残り部隊と合流、ホワイトベースへの攻撃に参加したのだった。そしてその日の夜、グリュックは1人ガルマの独房を訪れていた。

 

「ん……? ここは一体……」

 

「起きたか、随分と長く気絶してたがどうだ気分は?」

 

「お前はあの時の連邦兵……まさかここは……!」

 

「あぁ、連邦の船だ」

 

「何だと……? 私は確か……そうだ、シャアは! シャアはどうした!」

 

「シャア? あぁ、あの赤い彗星か、それは知らないが……まぁ、まだ死んではいないだろうな」

 

「……そうか、あいつは……私たちザビ家を……」

 

「ん?」

 

「いや、なんでもない、それよりも……私は何故傷を負っていないのだ? 私はザビ家の人間なのだぞ? 暴動が起こっても仕方の無いはず……」

 

「そこらへんは俺の仲間が……な」

 

 "あの"戦いを経験したジャンは不用意にガルマに暴行をはたらいたりなどはせず、避難民達を抑えていたのだ。

 

「まぁまだお前の処遇は決まってはいないが……」

 

 ────そして翌日、夜も開ける頃にイセリナの乗る機体を含む3機のガウは襲撃を開始した。

 

「各員第一戦闘配備! アムロはガンダム、リュウはガンキャノンで出撃だ!」

 

「「了解!」」

 

「ちっ……俺の出番はなしかよ……」

 

 出撃した2機のモビルスーツは先導していたガウの両翼に飛び乗り姿勢制御用のスタビライザーを引きちぎった。それを失ったガウは地面へと激突、爆発四散したのだった。続きもう1機のガウに飛び乗るガンダムだったが、そこへルッグンと呼ばれるジオンの戦闘機が現れる。

 

「戦闘機だと!? クソッ! 直ちにグリュックを出撃させろ!」

 

「了解、グリュック! コア・ファイターに乗って!」

 

 通信でそうナナバに呼びかけられた彼はすぐにコア・ファイターに搭乗、出撃した。

 

「ちっ、動きが早いな……!」

 

「何だ、連邦は戦闘機までもがバケモノだと言うのか!?」

 

「あの声は……まさか敵パイロットの声!?」

 

 生まれつきの耳の良さで敵機に乗るパイロットの声まで聞こえるようになってしまったグリュック。

 

「まさかあれに乗っているのは赤い彗星のシャアか! 通りで動きが早い!!」

 

 ミサイルでは埒が明かないと判断し、機体前部に備えられたバルカンで応戦するグリュック。

 

「チィっ!!」

 

 しかしシャアはコア・ファイターを振り切り、ホワイトベースまで近づく。

 

「クソッ!! なんであんな戦闘機まで早くなるんだよ!!」

 

 ルッグンはホワイトベースのエンジン部に狙いを定める。

 

「マズイ……!! クソッタレ!!」

 

 エンジン部を損傷し徐々に高度を失っていくホワイトベース。遂には不時着し、止まってしまう。そしてそれを好機と見たシャアはルッグンを降下させ降りるのであった。

 

「ナナバさん!! ホワイトベースの状況は!!」

 

「まだ無事だよ!! ……でも今避難民が出ていこうと……」

 

「クソッ、ならこう呼びかけてください!! 今ホワイトベースの近くにはジオンの兵士がいるって!!」

 

「っ、やってみるさ!!」

 

(ジャンだっているんだ……大事にはならないだろう……きっと)

 

 グリュックはそう自分に言い聞かせ、ガウの方に向かう。

 

「外は危険ですから!」

 

「だいたいジオンはこのホワイトベースを狙っているんだろう? なら外に出た方が安全じゃないか!!」

 

 そう言って数人の老人は荒野をずんずんと進んでいく。

 

「勧告します! 外にはジオンの兵士がいます! 今すぐ戻ってきてください!!」

 

「へっ、ハッタリさ、我々は進むんだ」

 

 しかしそんな勢いはシャアの放った銃弾によってかき消される。撃たれ倒れていく数人の避難民。

 

「クソッタレぇ……!」

 

 真っ先にジャンが飛び出した。シャアが銃弾を放つよりも前に銃を撃ち、退却させるのであった。

 

「おい! 大丈夫かよ爺さん!!」

 

 しかし勧告を無視し出ていった老人たちは既に全員息絶えていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 グリュックが着いた時には既にガンダムはもう1機を落とし、イセリナが乗るガウだけがかろうじて高度を落としながら残っているという状況であった。

 

「ギャロット!!」

 

 操舵手のジオンの正規兵ギャロットは腕を負傷してしまった。代わりにイセリナが舵をとり、ガンダムへと体当たりを仕掛ける。

 

「まだ来るのか!?」

 

 ビームジャベリンを投擲、突き刺してもまだ向かってくる。

 

「モビルスーツ、ガルマ様の仇!!」

 

 地面を擦りながら、ガウはガンダムへと体当たりする。それによりガンダムは計器を一部故障、アムロはコクピットの外に出て修理する羽目となった。しかしそれは迂闊であった。死んだ兵士の銃を手に取り、外に出るイセリナ。

 

「ガルマ様の仇……」

 

「か、仇……?」

 

 アムロは困惑を声に出す。

 

「あれは……」

 

 その光景が見えたグリュック。

 

「何だあれは……軍服を着ていないようだが……?」

 

 イセリナはアムロへと銃を放つ直前で足を滑らせ、ガウから落ちてしまう。

 

「クソッ! 行くしかないじゃないかよ間に合わなくても!!」

 

 グリュックはコア・ファイターのコクピットハッチを開け、彼女に向かって機体を飛ばす。

 

 幸いにもガウは不時着の形をとっている上、コクピットが上向きとなっている。しかし身体にかかる風圧をモロに食らうため、耐G用のノーマルスーツを着ているとはいえ負担は少なくはなかった。その上イセリナはパーティーに参加した際のドレス姿のままであった。

 

「なら……!」

 

 彼女が機体に入った瞬間に急速ブレーキをかければいい。しかしそれはグリュック自身の身体に多大な負荷をかける行為。

 

「でも死なないなら……やるしかないだろ!!」

 

 予想通り、イセリナは助かった。しかしグリュックの身体に異変が訪れる。

 

「うっぷ……」

 

 不幸中の幸いか、イセリナは気絶していた為機体の外へと吐き出すグリュック。

 

「グリュックさん!?」

 

「グリュック!?」

 

 それを近くで見ていたアムロとリュウは困惑の声を漏らすのであった。そして無事ジオンの驚異が去ったということで連邦の船が避難民を引き取るのであった。



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#11 狼煙

 後日、救助されたイセリナは事情聴取を受けていた。

 

「何故君のような民間人がガウに乗っていたんだ?」

 

 ブライトは三度にわたるトラブルに胃を痛めながらも表面上は何とか取り繕っていた。

 

「……ガルマ様を、ガルマ様を返して下さい!!」

 

「だから……何度も……クソッ、もういい。グリュック、後は任せた」

 

「……は、はい」

 

 そう言って立ち去ったブライト。

 

「イセリナさん、何回も言っているじゃないですか、ガルマは生きてるって」

 

「だったら連れてきてください!! ここに!」

 

「そういう訳には……」

 

 ふとグリュックの脳裏に考えがよぎる。どうせこの艦に正規軍人なんて数えるくらいしかいないのだから別にいいのではないかと。

 

「ガルマ様ぁ……どうして……」

 

「わかった、連れてくるから」

 

 そう言ってガルマの独房へと向かい、彼を連れてきたグリュック。

 

「イセリナ……! どうして……!」

 

「だっても何もないでしょ!? あなたが心配で心配で……もう死んだのかと……だからジオンの人と一緒にガウに乗ったの……」

 

「何故そんな危険なことを……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 そして案の定、未だガルマが戦死したと誤認しているジオンのドズル・ザビ中将はガルマの仇討ち(あだうち)部隊を結成、ランバ・ラル率いるゲリラ戦を得意とする部隊でホワイトベースを奇襲することとなった。

 

「あれは……ザンジバル! ブライトさん! あれはザンジバルです!」

 

「何だと? なぜわかる!」

 

「あの大きさは絶対にそうですよ! 戦ったことがあるんです、フォックス隊にいたときに! あれは多分……ランバ・ラルのゲリラ部隊です!」

 

「……ッ、そうか。わかった、各員、第一戦闘配備! グリュック、空中戦は君が頼りだ、行けるか?」

 

「当然ですよ! ……それよりもアムロは、大丈夫でしょうか?」

 

「……グリュック、死なないでね」

 

「もちろん! ナナバさんも頼みます」

 

 グリュックはコア・ファイターで先行し、敵のモビルスーツに向かう。

 

「あの青いの……やっぱりランバ・ラルだ……。しかし見覚えのないモビルスーツだな……あれはなんだ?」

 

 そんなことを言っている余裕は無い、ジオンの新型MS『グフ』は右腕内部に備えられたヒートロッドをコア・ファイターの主翼に巻き付ける。

 

「う、うあああぁあぁあああっ!!!」

 

 機体内部に電気が流し込まれた上、それはコクピット内にも伝わる。

 

「連邦の新型戦闘機とやらはこんなものか! 他愛ないな! コズン! 木馬はそちらに任せた!!」

 

 グフのパイロット、ランバ・ラルはコクピットの中で叫ぶ。

 

「うああぁぁああ!! まだだ!!」

 

 機体後部にあるミサイルハッチを開け、発射する。しかしそれはグフの左手の指のバルカンで迎撃される。

 

「機体はいただくぞ!!」

 

「クソぉぉおおおお!!」

 

 その瞬間、2機の間に桃色の閃光が走る。

 

「このビームライフルの音は……ガンダム!?」

 

 ホワイトベースから降りてきたのだ。更にカイのガンキャノン、リュウとハヤトのガンタンクも加わり、一斉射撃になる。

 

「チッ、アコーズ、コズン! 後退するぞ!」

 

 ラルはザンジバルに後退し、追撃を防ぐためザンジバルは砲塔を一斉に放つ。そして彼らも撤退し、ホワイトベースの艦艇に戻る。

 

「……なんだなんだ?」

 

「ジオンの奴が、演説するんだってよ」

 

 ジャンが答える。

 

「ジオンが当てつけに演説するようだ。アムロもよく見ておけ」

 

「我々は一人の英雄を失った。しかし、これは敗北を意味するのか? 否! 始まりなのだ。地球連邦に比べ、我がジオンの国力は30分の1以下である。にもかかわらず今日まで戦い抜いてこられたのは何故か? 諸君! 我がジオン公国の戦争目的が正義だからだ。これは諸君らが一番知っている」

 

「……コロニー落としておいてよく言うよ」

 

「……グリュック?」

 

 拳を握りしめ、画面を睨みつけるグリュック。

 

「我々は地球を追われ、宇宙移民者にさせられた。

 

 そして、一握りのエリートらが宇宙にまで膨れ上がった地球連邦を支配して50余年、宇宙に住む我々が自由を要求して何度踏みにじられたか。ジオン公国の掲げる人類一人一人の自由のための戦いを神が見捨てるはずはない」

 

 ギレンは続ける。

 

「私の弟! 諸君らが愛してくれたガルマ・ザビは死んだ。何故だ!?」

 

「……死んでねぇよ」

 

 

 

 

 

 

 

「新しい時代の覇権を選ばれた国民が得るは、歴史の必然である。ならば、我らは襟を正し、この戦局を打開しなければならぬ。我々は過酷な宇宙空間を生活の場としながらも共に苦悩し、錬磨して今日の文化を築き上げてきた。かつて、ジオン・ダイクンは人類の革新は宇宙の民たる我々から始まると言った。しかしながら地球連邦のモグラ共は、自分たちが人類の支配権を有すると増長し我々に抗戦する。諸君の父も、子もその連邦の無思慮な抵抗の前に死んでいったのだ!」

 

「……お前らが、お前らがコロニーを……!」

 

「この悲しみも怒りも忘れてはならない! それを、ガルマは! 死をもって我々に示してくれた! 我々は今、この怒りを結集し、連邦軍に叩きつけて、初めて真の勝利を得ることができる。この勝利こそ、戦死者全てへの最大の慰めとなる。国民よ立て! 悲しみを怒りに変えて、立てよ! 国民よ! 我らジオン国国民こそ選ばれた民であることを忘れないでほしいのだ。優良種である我らこそ人類を救い得るのである。ジーク・ジオン!」

 

 演説を聞いていたジオン国民は『ジークジオン』という掛け声を続け、徐々に大きくなり、増長していく。

 

「クソッタレがっ!!」

 

 モニターに殴り掛かるグリュックを、ジャンが抑える。

 

「……俺達も……俺達も似たようなこと、してただろ?」

 

「……でも俺たちは虐殺なんて……」

 

 その時、グリュックの脳裏にレベリオ襲撃の際の光景が思い起こされる。

 

「っ……そうだよな……」

 

「俺も同じ気持ちだったが……」

 

 自分より経験のあるであろうグリュックが高ぶっているのを見て、自分の怒りが納まったブライト、そしてそんなやり取りをしている間も、『ジークジオン!!』の掛け声は続いているのであった……。



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#12 アムロ脱走

 次にラル隊の襲撃にあったのは2日後であった。そこでブライトの命令を無視しガンタンクで出撃、不利な戦闘を強いられてしまう。

 

「アムロとハヤトがガンタンクで出ました!!」

 

「何だと?!」

 

「大丈夫だって、戦果を出して帰還すればブライトさんだって認めてくれるさ」

 

「だといいけど、アムロ! 前方2キロ先に自動砲あり!!」

 

「了解! 撃つぞ!!」

 

 そのままの勢いでジオンの辺境の要塞に攻撃を加えるガンタンク。しかしザンジバルの性能に劣る地上戦艦ギャロップに変わられたランバ・ラル隊がやって来てしまった。その上ギャロップからグフとザクの3個小隊が出撃する。

 

「クソォ! ガンタンクの長距離砲は動く的に対して不利だ!」

 

 ガンタンクは両肩に備えられた砲から狙い撃つも軽快な動きで避けられていく。それを見かねたブライトはアムロに通信をかける。

 

「アムロ! 戻ってガンダムに乗れ!! 君はコア・ファイターの方に乗っているはずだ!」

 

 遅れてコア・ファイターで出撃したグリュックは、アムロに通信で呼びかける。

 

「……了解しました!」

 

 その間、カイのガンキャノンと砲塔しか動かないガンタンク、グリュックのコア・ファイターで迎撃するしかなかった。

 

「う、うああぁあ!! 電気が!!」

 

「カイ君! 焦らずに照準をグフに合わせるんだ!」

 

 しかしそんなことをつい最近モビルスーツを動かし始めた少年に言っても仕方なかった。すぐにガンダムが駆け付け、敵のザクを1機破壊することに成功する。

 

「私はガンダムで出動しろと命令をしたはずだ」

 

「しかし要塞攻略ではガンタンクが有利であって……」

 

「で、それでランバ・ラルのグフに追い詰められたよな。パイロットにはまだリュウさんが残ってるんだ。それにブライトも優秀な軍人ではないが民間人上がりの君よりは戦局は見れる」

 

 独断でジオンの占領下に行った自分のことは棚に上げたような発言をするグリュック。そして言葉だけで言えば正論であったためブライトも認めざるを得ず、アムロの方を振り返る。

 

「……ッ。とにかく、これは立派な軍規違反だ。アムロ、君は謹慎処分とさせてもらう」

 

「軍規!? ……軍人なんですか、僕達」

 

「気をつけてくれよ」

 

「……はい」

 

「ねぇグリュック、今の、言い過ぎじゃない?」

 

 近くでその問答を聞いていたナナバはグリュックに言った。

 

「……いや、まぁあんな少年に言うこととしてはどうかと思ったよ? でもあのまま増長させたらそれこそ……なぁ?」

 

「確かにねぇ……」

 

 しかしその夜、アムロはガンダムを駆り、ホワイトベースを脱走した。



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#13 急襲! ゲリラ部隊のランバ・ラル

 脱走したアムロはブライトを見返す為にジオンの鉱山基地を単独で叩いた。そして砂漠のレストランにてランバ・ラルと出会い、そしてアムロはホワイトベースへと帰還した。

 

「どんな理由があろうと罪は罪だ」

 

 独房入りを余儀なくされたアムロは抗議の声を上げる。

 

「僕の言い分だって聞いてくれてもいいじゃないですかぁ……!」

 

「聞くわけにはいかんな」

 

 あれ以上は何も言わず、ブライトはその場から立ち去る。

 

「……どうせランバ・ラルが攻めてきたらまた僕がガンダムで出ることになるんだ……!」

 

 そう言ったアムロにグリュックは近づく。

 

「自惚れるんじゃない! アムロ、お前1人でなんでも出来るだなんて思うなよ!? ガンダムがいなくたってなぁ! やれるもんなんだぜ俺は!」

 

「グリュックさん!」

 

「へっ、そこでじっくり頭冷やしとくんだな」

 

「……」

 

「リュウさん! カイさん!」

 

「……でもアムロが言ってたけど、ランバ・ラルはまた攻めてくるんだろ?」

 

 独房から離れ、3人は艦内で

 

「アイツはしつこいぞ〜? モビルスーツを失ったとなれば尚更、な」

 

 過去に戦ってきたからこその言葉である。

 

「ん? そりゃどういうことだ」

 

「アイツらは元々ゲリラ屋っつってな、限られた戦力、物資だけで俺たちの隊に何度も何度も挑んできたんだ。それこそ艦に乗り込んできたり……だから俺は思った、あの男に勝ちたい……ってな」

 

「おい、それって……」

 

「?」

 

「今回も、乗り込んでくるってことじゃねぇの?」

 

「いや、まだわかんねぇけど、まぁその確率は高いだろうな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 翌日、またもや襲撃をかけてきたラル隊。

 

「ちぃ! 俺も出る!!」

 

「いいやグリュック、君は艦で待機だ。いつ乗り込んでくるかわからんからな。セイラはガンダムで出撃、フラウ、アムロを独房から出してくれ、ナンバーはN006だ、左舷機銃を担当させろ」

 

「は、はい!!」

 

 グリュックが外を見ると、生身の軍人が背中に着けているジェットパックでホワイトベースに近づいてくるのが見えた。

 

「クソッ!!」

 

 すぐ艦内に銃声が鳴り響く。

 

「ジャン!! 行くぞ!」

 

「ちっ……仕方ねぇ……」

 

 小銃を持って艦内で戦闘を繰り広げるラル隊とホワイトベース船員。

 

「やはり白兵なら俺たちが……!!」

 

「驕るんじゃねぇぞグリュック!!」

 

 そこに現れたランバ・ラル。

 

(他とは違う軍服……)

 

「貴様がランバ・ラルか!」

 

「むっ、その匂い……何度も戦った戦闘機乗りか!」

 

「覚えてくれているなんて感激だなぁ!! 」

 

 小型のアンカーを壁に刺し、その勢いで艦内をものすごいスピードで移動するグリュック。

 

「これでは狙いは付けられまい!!」

 

 そしてセイラの乗るガンダムはアムロに乗り換えられ、ガンダムはラルに向かってビームジャベリンを向ける。

 

「ジャン!!」

 

 グリュックはジャンを抱え、その場から退避する。穴が空いた艦から顔を覗かせるガンダム。ラルはホワイトベースの船員に覚悟を見せつけ、飛び降り、自爆した。

 

「勝ちたいって言ったのに……クソ……クソォォオオオ!!!」

 

 

 

 



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幕間 一年戦争の終わり

一年戦争編が長いgジェネって退屈ですよね


 様々なことを終え、彼らは宇宙へと再度上がった。アムロのガンダムを改修すると同時に、グリュックは『G-3ガンダム』を受領した。和平交渉をするため、デギン・ザビとレビルは宇宙にて邂逅するが、ギレンの放ったソーラレイによって全滅させられてしまう。ジオン最大の拠点、ア・バオア・クーを攻略するため、最大最後の決戦が今、始まるのであった。

 

「リュウさんが死んだのがもう1ヶ月の前か……」

 

「なんだよ、まだ日記なんて付けてたのかよ」

 

「あぁ、"存在しない"あの壁が破壊された日からずっと、な」

 

「へっ、ったくよ」

 

 2人はコクピットの中で通信していた。

 

「これが最後の出撃にならねぇことを、祈っとくぜ」

 

「あぁ、ジャン・キルシュタイン、コア・ファイター、出るぜ!!」

 

「グリュック・シュバイン、G-3ガンダム、出ます!!」

 

 既にアムロは出撃して敵最新鋭機『ジオング』と対峙していた。そして人の叫びを聞き付け、サイド2へと向かったグリュック。

 

「まさか試作型にパラシュートもどきを使わせてもらえるなんてな!!」

 

 以前ガンダムに搭載されていた耐熱フィルムでは突破後身動きが取れないという構造だったが、バリュートという後付けの装備を使いサイド2へと突入したグリュック。

 

「なんだ……? あれは……」

 

 グリュックはその目で見た。コロニーに住んでいる人を虐殺している連邦のモビルスーツを。

 

「人……か? 連邦の軍人が乗っているのか……?」

 

 そこでグリュックは前方のジムに通信をかける。

 

「そこのモビルスーツ!! 聞こえているのか!! 何をしている!!」

 

 しかし相手のパイロットは聞く耳を持たず、野蛮な宇宙人が、やコロニー落としへの恨みつらみを吐き捨てながら、虐殺を続けていた。

 

「も、モビルスーツなんだぞ!? 人を殺せるんだぞ!?」

 

 そう叫びながら、ジムの武装とメインカメラのみを正確に狙うグリュック。

 

「モビルスーツはなんとかなったが……くそっ!! ナナバさん!!」

 

「なに! 急にサイド2に行ったなんて聞いたんだけど!?」

 

「そんなことより! 早急にサイド2にホワイトベースを!」

 

「ホワイトベースはもうないよ! 今は小型の救命艇でなんとか……それよりもサイド2で何があったの!」

 

「それが……連邦が民間人を殺して回ってるんです!!」

 

 すると急に通信が途切れてしまう。グリュックはコクピットから降り、生身の軍人を気絶させていき、暴行を振るわれていた民間人を救助する。

 

「いくらジオンでも、子供に罪はないでしょうが!!」

 

 暴行を受けていた母子や夫妻なども全て救い、連邦の軍人は自分のコクピットに乗せていく。

 

「……これでいいか。それよりも、まずはナナバさん達と合流しなきゃな」

 

 G-3ガンダムはコロニーを無事抜け出し、ナナバたちが乗っているランチへと乗り移るのであった。そして後に『一年戦争』と呼ばれる大規模な総力戦が終わり、急速に力を失った地球連邦の後釜として地球連合が発足、更に遺伝子研究を発達させたニュータイプ研究所はコーディネイター技術を発展させていくのであった……。



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#14 ガンダムたち、そして

 地球連合内はコーディネイターに対し擁護的な『エゥーゴ』、コーディネイターを徹底排除する『ティターンズ』に分かれ、対立していた。エゥーゴは『Gシリーズ』の5機のガンダムを開発し、ティターンズは新機軸ムーバブルフレームを使用した3機の『ガンダムMk-2』を開発していた。

 

「あの戦争からちょっとでまたこれかよ、面の皮が厚いんだかなんだか……」

 

 ドックに並ぶ5機のガンダムを見て、グリュックは呟いた。

 

「ま、どんなに時代が進んでも人ってのはこんなもんってこった」

 

「てかアムロは?」

 

「確かニュータイプっつって軟禁状態にあるんだとよ」

 

「誰から聞いたんだ?」

 

「アルミンがさ」

 

「そういえばアルミンはオーガスタ研究所ってとこ行ったんだろ?」

 

「あぁ、そのニュータイプの研究ってのをやってるらしいんだが、まぁあんま詳しいことはわかんねぇよ。……でも、怪しいヤツらとつるんでるらしいぞ?」

 

「と言うと?」

 

「名前はわかんねぇんだが、コーディネイターの排斥ってのを進めてる組織らしい、まぁろくでもねぇ奴らってのには変わりねぇな」

 

「そうだな……」

 

(アルミンもハンジさんも……無事だといいんだが……あ!)

 

「そういや今日はあの日だろ?」

 

「は?」

 

「好きな人にチョコ渡すさ!! あの日だよあの日!! あぁ〜ナナバさん喜ぶかな〜」

 

「あぁ、そっか……」

 

「お前は誰に渡すんだよジャン!」

 

「いや……お前なぁ〜、まぁ友チョコとして104期の奴らには渡すけどな」

 

「えぇ〜本命はいねぇのかよ〜、ほら、ブライトはミライさんに渡すって言ってたしさ」

 

「えぇ!? あの艦長が!?」

 

「なんだよジャン、知らなかったのかよ。あのふたりデキてんだぜ?」

 

 そんな与太話をしていると、次第に周囲がザワザワし出す。

 

「ん? 何だ? 周りが騒がしいぞ?」

 

「ユニウスセブン? ユニウスセブンがどうしたん────だ……? 一体……」

 

 新たに製造されたコロニーがどうしたんだ、と、そう思い街頭モニターを見る。2人は絶句した。

 

「……なんで、壊れてるんだ……?」

 

 ユニウスセブンが崩壊し、そして……。

 

「お母さんっ!! イ"ヤ"ァ"ァ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!!! 

 

「おい……まずいぞ……これは……」

 

「あぁ……暴動が……起きる」

 

 叫ぶ女性を皮切りに、次第にどんどんパニックは広がっていく。その日は2月14日、バレンタイン、ティターンズの将校バスク・オムとその部下による核攻撃により、コーディネイターの住む新設コロニー『ユニウスセブン』が住人ごと破壊されたのだ。

 

「民間人……なんだぞ? ……あそこに住んでいるのは何の武装も持たない……民間人なんだぞ!!! 

 

 連邦の軍服を着たままそう叫ぶグリュック。それを見ていたコーディネイターには意外に見えただろう。連邦が連邦に怒っているのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「「リタ!!」」

 

 一方、ニュータイプとしてオーガスタ研に連れられたリタ・ベルナル。しかしハンジ、アルミンの計らいにより脱走に成功、ヨナ、ミシェルと再会するのであった。



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#15 ガンダム強奪

 血のバレンタインへの報復として、ザフトによる、地球にNジャマーと呼ばれる核制限装置を撃ち落とす『エイプリルフールクライシス』によって地球人類の大量死滅からはや1ヶ月、エゥーゴは5機のガンダムをヘリオポリスコロニーに移し、ティターンズの3機のモビルスーツをグリーンノアへと移したのであった。

 

「2箇所で同時にモビルスーツが強奪された!?」

 

 グリーンノア、そしてバスク・オムによって秘密裏に計画が進められていた『GP計画』のガンダムがジオン残党『デラーズ・フリート』によって強奪されたのだ。

 

「GP計画!? そんなの聞いてないぞ!?」

 

 狼狽えるジャンに、グリュックが答える。

 

「プラントに核攻撃をしたバスク・オムが開発してたんだってよ、それもティターンズの極一部の上層部にしか知らされてなかったそうだが」

 

「お前は誰に聞いたんだよ?」

 

「ナナバからな、なんでも引き入れられたみたいだ、半ば無理やりみたいな形でな。だから逆に情報を提供してもらってるってわけだ」

 

「そうか……」

 

「まぁとにかくだ。俺たちは今日、ヘリオポリスに運ばれる5機のGと新型艦の護衛だろ?」

 

 エゥーゴの新型、ジムIIのコクピット内で2人は会話していた。

 

「わかってるって」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 一方その頃、中立コロニー、ヘリオポリスにてキラが1人くつろいでいると彼の友人、トールとガールフレンドのミリアリアが話しかけてきた。

 

「おいおい聞いたかキラ? グリーンノアでティターンズとエゥーゴの小競り合いがあったんだってよ」

 

「え? まぁニュースで見たけど……」

 

 立て続けにそんなニュースもあり、プラントに行った古い友人のことを思い出していたキラ。思い出にふけっているキラはミリアリアの声で現実に戻る。

 

「キーラ!!」

 

「!?」

 

 ビクッと椅子から跳ね起きるキラ。

 

「あ! それよりもさ、教授がまたキラに課題? 頼んでたぜ?」

 

「えぇ〜!? またぁ〜!?」

 

 そうやって悪態を着いてしまうほど頼まれてきたのだから仕方の無いことである。キャンパスへ行くため、タクシーへと向かった3人。

 

(あっフレイ……)

 

 キラがそこに着いて初めて目に入ったのは友人と喋っているフレイ・アルスターであった。

 

「えぇ〜? サイ・アーガイルから手紙もらったの〜?」

 

「もうっ! そんなんじゃないってば〜!」

 

「おいキラ、フレイがサイから手紙もらったんだってよ」

 

「え? い、いやそんなんじゃ……」

 

「まぁまぁ、頑張りたまえよ、キラ・ヤマトくん」

 

 既にミリアリアという彼女がいるが故の余裕である。そうやってだべっていると後ろで咳払いをする軍人がいた。

 

「乗らないなら、先にいいか?」

 

「あっはい……」

 

「ごめんね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 エゥーゴの新型艦、アークエンジェルへと向かったナタル・バジルール少尉一行。

 

「まったく……気楽なものだな。何も知らない学生は」

 

 と、ナタルはため息を着く。

 

「中立ですからねここは……だから俺は反対だったんだよここにガンダムを移すなんて……」

 

 それに反論するかのようにグリュックが口を開く。

 

(何も知らない民間人が……また……)

 

「何か言ったか?」

 

「い、いえ!」

 

 しばらく経ち、無事アークエンジェルまで辿り着いた一行は、艦長に敬礼をする。

 

「地球連合軍、ナタル・バジルール少尉であります!」

 

「同じくグリュックシュバイン准尉であります!」

 

「アーノルド・ノイマン、曹長であります!」

 

「そうかそうか、遠路はるばるご苦労であったな、エンデュミオンの鷹、ふらがしょうさもそろそろ到着する頃だから、先に艦内に移ろうか」

 

「はっ!」

 

 しかし、すぐに5機のガンダムを狙う軍人たちが襲撃を開始する。

 

「このモビルスーツの起動音……連合でも、ジオンのものでもない! まさかザフトか!」

 

 言った直後、艦全体が爆風に包まれる。そして艦内にもそれは広がる。

 

「お前ら伏せろ!!!」

 

「はっ!?」

 

 グリュックはノイマンとナタルを押し倒し、自らを盾とする。

 

「ふぅ……危なかったが、なんとか生きていたな……」

 

 背中に少々破片は刺さったものの、こんなことは何度も経験しているため冷静にそれを対処するグリュック。

 

「脈はあるな……よし、ブリッジに運んで……と」

 

 彼自身はモビルスーツデッキに向かうが、そこにあったジムIIは跡形もなく消し飛んでしまっていた。

 

「クソッたれぇ!!」

 

 なら、と民間人の救助に向かうグリュックだったが、外では開発していたはずの5機の内、3機が既にザフトのものとなってしまっていた。

 

「ストライクとイージスは!! ……取られてないといいんだが……」

 

 残りの2機があった場所はすでに爆風に包まれていた。そしてそこに立ち上がる白色の巨体。

 

「ストライク……あれに乗ってるのは……どっちだ……?



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#16 黒いガンダム、戦乱の始まり

 ストライクに乗ったコーディネイターの少年、キラ・ヤマトはそれのOSを瞬時に切り替え、ジンを撃退するのだった。

 

「ストライクに乗っていたのは……どっちですか?」

 

 グリュックはストライクから降りてきた2人の人物の顔を見合わせ問うた。

 

「あの……ぼ、僕です……」

 

 ラミアス技師の横にいる少年がおずおずと手を上げる。少し幼さを残した彼こそがストライクを動かしていた張本人、キラ・ヤマトである。

 

(この子、さっきの……民間人か?)

 

「!?」

 

 突然、ラミアス技師が倒れた。

 

「あっ……さっき撃たれたから……」

 

「撃たれた!? 君! いつかわかるか!?」

 

「それは……僕が"これ"に乗る前です。アs……ザフトの軍人に撃たれて……」

 

 グリュックがよく見ると、彼女は腕を押えて蹲っていた。

 

「確か……」

 

 彼は連邦だった時のノーマルスーツに備えられていた簡易救急具で手当をする。少し経って少年少女が2人の元に向かってくる。

 

「どうなってんだよキラ!! これ! もしかしてお前がこれ動かしてたのか?」

 

「キラっていうのか……よろしくな、キラ君」

 

 グリュックは彼に手を差し出す。

 

「あ……ど、どうも」

 

「あれ軍人さん?」

 

「そうみたいだぜ? あの服、テレビで見たことあるし」

 

「コスプレかもしんねぇだろ?」

 

「っと、勘違いしてるかもだから言っとくが俺はれっきとした地球軍の軍人だ」

 

 彼は階級章を見せた。

 

「うぉっ、本物だ……」

 

(しっかしあの新型艦はまだ発進しないのか?)

 

「あっ、大丈夫ですか?」

 

 そうこう考えていると、マリューが起き、隣で座っていたミリアリアが声をかける。彼女は上体を起こし、ストライクの方を見る。

 

「すっげぇ、モビルスーツのコクピットってこんなんなってんだ〜」

 

「なんで色変わってんだ?」

 

「バッテリーが切れたらしいぜ?」

 

 その間にストライクのコクピット内に入ったりして遊んでいたキラの友人、トールとカズイ、それを諌めるサイ、その3人に彼女は発砲する。

 

「な、何してるんですか!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 地球軍の最重要機密である『G系列』のモビルスーツに触れたという理由でキラ達は拘束されてしまった。キラ達にストライクの後付けバックパックの搬送を要請した。

 

「バッテリーパックって、どこにあるんですか?」

 

 肉体派では無いため、少し運動するだけで息切れしてしまうキラ。

 

(へぇ……バックパックを換装することで機体を変えるって訳か……いいアイデアだな)

 

 その瞬間、コロニーの中に爆風が発生する。現れたのは新型艦『アークエンジェル』だ。

 

「ホワイトベースに……似ているな」

 

(なんだこの音……)

 

 彼の耳には、そのアークエンジェル以外の飛行音が聞こえたのだ。

 

「あれは……シグーか!?」

 

 コロニー内に侵入したクルーゼのシグー、そしてそれを追うムウ・ラ・フラガのメビウス・ゼロ。

 

「地球軍の新型戦闘機が何故ここに!?」

 

 マリューが困惑している間に、アークエンジェルはシグーに対しミサイル攻撃を開始する。しかしシグーはそれを華麗に避け、ヘリオポリスの中央のシャフトが被弾、破壊される。

 

「クソォっ!!」

 

 ストライクが目に入ったクルーゼはシグーで向かう。ストライクに向けて放っても避けられると判断し、キラの友人達生身の民間人を狙い放つ。

 

「みんなが……!」

 

 狙い通りストライクに乗ったキラは友人達の盾となる。しかしシグーの攻撃はストライクには通じなかった。

 

「ほぅ……弾でも傷一つつかんか……」

 

 ランチャーストライカーを装備したストライクは飛び去るシグーに向けて固有装備の大経口ビーム砲『アグニ』を放つ。

 

「待ってそれは!!」

 

 マリューの忠告を聞く暇なんてなく放たれたそれをシグーは間一髪で避ける。が、少し掠っただけで腕を破壊されてしまった。そして行き場をなくしたビームはヘリオポリスの外壁に直撃する。

 

「あ……あ……ヘリオポリスが……」




シーシアちゃんはたった一話で僕の心に深い傷を残しました


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#17 少年たち

「なんだ!?」

 

 一方その頃、黒いガンダムMk-2に乗り戦闘をしていたグリーンノアの少年カミーユ・ビダンはヘリオポリスの外壁に空いた穴に入ってしまい、地表に激突する。

 

「ぐあああああぁああ!!!」

 

「え!?」

 

「何だと!?」

 

 そしてそれはクルーゼ、キラ双方の意識を逸らす。それを好機と見たムウは本体部のリニアガンをシグーに向けて放つが、まんまと躱されてしまう。

 

「ほぅ……先程のビーム砲、これほどの火力をモビルスーツに持たすとはな……」

 

 1度撤退したクルーゼ。そしてストライクの付近に着陸したアークエンジェルとメビウス・ゼロ、乗員が降りてくる。

 

「こちら地球連合軍第7機動艦隊大尉ムウ・ラ・フラガ。着艦許可を貰いたいんだが、艦長は?」

 

「主だった士官は皆先程の爆発に巻き込まれて……。今ここではラミアス大尉が一番の上官になります」

 

「へぇ〜、じゃあ許可、貰える?」

 

「え、えぇ……許可します」

 

「んで……あのストライクのパイロットは?」

 

 コクピットから降りてきたのは若干16歳の少年。その場にいた士官全員が驚く。

 

「襲撃を受けた際、何故か工場区にいたところを保護し、そして彼がジンを撃退しました」

 

「ジンを……!?」

 

 その場にいた者たちがまた驚く。

 

「そういえばこいつらの正規パイロットはどこだ?」

 

「襲撃の際艦長挨拶をしていたので……」

 

「……そうか」

 

 そう言うとムウはツカツカとキラの方に歩いていき、

 

「な、何ですか?」

 

「君、コーディネイターだろ?」

 

 瞬間、辺りが静寂に包まれる。

 

「……はい」

 

 キラの返答で、下士官が銃を構え始める。

 

「なんだよ! キラは敵じゃねぇよ!」

 

 トールがキラの前に立って抗議する。

 

「銃を下ろしなさい。……ここは中立国だもの、戦争が嫌で住んでいるコーディネイターがいたっておかしくないわ」

 

「……じゃあなんでそんなとこに兵器移したんだよ」

 

 グリュックの呟き、ちょうどその時、マークIIのコクピットから少年が降りてくるのであった。

 

「なんですか? あなた達は」

 

「え……」

 

 カミーユの方に銃を向ける者もいたが、エゥーゴの軍服を見て銃を下ろした。異常事態にコーディネイター騒動もどこかへ行ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「ジェリド機、発進よろし」

 

 ティターンズへと出向になったナナバは連合のアガムメノン級『トヨタマヒメ』のオペレーターとなり、デラーズ・フリートを追っていた。

 

「2号機は俺が取り戻す。ジェリド・メサ、GP01、出るぞ!」

 

 ティターンズの軍人ジェリド・メサはガンダム試作1号機の宇宙戦仕様『フルバーニアン』を駆り、ジオン残党の将校デラーズ率いるデラーズ・フリートに立ち向かったのだった。



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#18 星屑と散れ

「ライラ! 援護は任せたぞ!」

 

「言うようになったねぇジェリド!!」

 

 ガルバルディβを駆るライラ・ミラ・ライラは連合が地球連邦だった時期に学徒兵であるジェリド・メサの教官をしていたのだ。

 

「やってやるさ、着艦式壊滅をみすみす許した汚名、挽回してやる!」

 

「もう核は使えないようだけど、奴らは必ず次の作戦を実行する。その前に撃破する!」

 

 デラーズ・フリートのアナベル・ガトーは強奪したGP02『サイサリス』を改修したMLRS仕様に乗り、連邦と対峙した。

 

「へっ、ミサイル仕様に換装してきたか!」

 

 ガトーは機体背部に取り付けられた多連装ミサイルを一斉発射、フルバーニアンの僚機のジム・コマンド小隊を壊滅に追い込む。

 

「モンシア!! チィッ!」

 

『怒りで我を忘れるんじゃないよ!』

 

 しかし、学徒兵時代にライラから何度も聞かされたその教えを思い出し、背部、胸部前面のバーニアを噴射させ、動きを止める。

 

「あの新型のパイロット……急に動きが……何ぃ!?」

 

 バーニアを全て2号機に向け、急速接近するジェリド。咄嗟の判断でそのビームサーベルをビームサーベルで受け止めるガトーだったが、ライラの援護射撃により右腕を失ってしまう。しかしガトーにはまだ奥の手があった。

 

「何!? 核はもう使えなくなったんじゃねぇのかよ!!」

 

「ビームバズーカだよ! その場から離れて!!」

 

 アトミックバズと同じ位置に装備しているビームバズーカは核よりは格段に威力は落ちるものの戦艦を落とすのには十分な威力であった。

 

「南無三!!」

 

「あれは俺の船……!! クソ!!」

 

 一時は自分が盾になることも考えたジェリド、しかしあることを思い出した。

 

「そうだ……!」

 

 推進力は後の時代に作られるモビルスーツに勝るとも劣らない程あったフルバーニアンにとって、ビームに追いつくなど容易いことであった。

 

「何をやっているんだい!!」

 

 ビームバズが直撃する瞬間、フルバーニアンのコア・ファイターIIを分離させる。

 

「エリートの底力、見せてやる!!」

 

 残った下半身にビームは当たり、その爆発から間一髪で逃れたジェリド。ガルバルディのコクピット内でライラはほっと胸を撫で下ろす。彼女の機体は一旦、サイサリスのコクピット内を確認する。

 

「いない……どこだ?」

 

 しかし人という小さな物体をこの広い宙域から探し出すことは不可能に近かった。

 

「奴らの母艦を発見出来ればいいのだが……」

 

 ライラのつぶやきに、ジェリドは返す。

 

「あぁ、奴らはいつも突然現れて突然消える、これでは対処のしようがない……」

 

「あぁ、まずは帰還しよう、奴らの戦力は削ったのだからな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「カミーユ君!」

 

「あの機体は……クワトロ大尉!」

 

 趣味の悪い金色のモビルスーツがまたもやヘリオポリスの穴から入ってきていた。

 

「エゥーゴ所属、クワトロ・バジーナ大尉であります。こちらの新型艦もエゥーゴ所属のもので?」

 

「え、えぇ……」

 

「知ってるぜ? エゥーゴの創設に携わったって人だろ?」

 

 突然の来訪に戸惑いを隠せないアークエンジェルのクルー達。しかしムウは彼のことを少しながらではあるが知っていたようだ。

 

(この声……どっかで聞いたことあるような……)

 

 そんなグリュックの考えや、クワトロの挨拶を待つ暇もなく、ザフトがやってきた。

 

「あのジン……要塞攻略用の物か!?」

 

「知っているんですかクワトロ大尉」

 

「あぁ、それよりも早くアーガマと合流しなくては、こちらの艦にモビルスーツは?」

 

「あ、あります……彼がパイロットです」

 

「ほぅ……これまた実に若い」

 

「ぼ、僕はただ……」

 

 クワトロはどのような経緯で彼がストライクに乗ることになったのかも薄々感じとってはいた。

 

「今はそんなことを言っている場合では無い。少年、名前は?」

 

「キラ・ヤマトです」

 

「ならキラ君、君は君の思うようにやれ、そうすれば自ずと機体も動いてくる」

 

 少し的外れとも言えるその言葉だったが、キラの心には少し響いたようだ。キラ、カミーユ、クワトロの3人は機体に乗り、ザフトのジン2機と鹵獲されたばかりのイージスに相対した。




オリ主……いる?


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#19 刻と魔弾と赤い彗星

「キラ!? やっぱりキラか!?」

 

 イージスに乗ったアスラン、ストライクに乗ったキラ、戦場で再開した2人は接触回線で通信する。

 

「なんだよアイツ! 止まっている……?」

 

「迂闊だな」

 

 百式に乗ったクワトロはコクピット内でそう呟き、イージスにクレイバズの照準を合わせる。

 

「!?」

 

 直撃したイージスだったが、PS装甲*1により攻撃は無効化される。

 

「何故効かん! えぇいままよ!!」

 

 腰部に取り付けられたビームサーベルを手にイージスに迫る。対するイージスは片手のクローを展開、ビームサーベルを出現させる。サーベル同士が反発しあい、強烈な衝撃波が生じる。「見てるだけしかできないなんてな……」

 

 グリュックは乗機がない為、歯がゆい思いをしながら彼らの戦闘を見つめていた。

 

「近づいてくるから!!」

 

 マークIIのカミーユ機はジンのコクピット部にライフルを向ける。

 

「オロールゥ!! チィっ、ナチュラル共がぁっ!!」

 

 味方を堕とされたミゲルはオレンジのジンを駆り、カミーユ機を翻弄する。

 

「こいつ……! 運動性がダンチだ……!!」

 

 それもそのはず、パイロットのミゲル自身緑服でありながら戦場で高い戦果を上げているため、エースパイロット用にチューンナップされたジンを用意されていたのだ。

 

「こいつ!!」

 

 ミゲルはカミーユを翻弄し続け、そしてコクピットにライフルの銃口を向ける。しかし……。

 

「はぁぁああああ!!!」

 

「何ぃ!?」

 

 ソードストライカーパックに換装したストライクが対艦刀『シュベルトゲベール』をジンに向けて振りかざす。エースパイロットともあろう者が注意を1機にしか向けていなかったのだ。

 

「ミゲルゥゥウウウウウウウ!!!!」

 

 それを見ていたアスランがコクピット内で慟哭する。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

 一方、初めて自分が死ぬという危険を間近で体験したカミーユはノーマルスーツを大量の汗で濡らしていた。

 

「カミーユ君! カミーユ君!」

 

 百式はマークIIを抱えてアークエンジェルに帰投する。しかしそれと同時にヘリオポリスの亀裂がとうとう限界を迎え、崩壊していく。

 

「うああああぁあああ!?」

 

 ストライクはその穴に引きづり込まれるように落ちていく。

 

「ヘリオポリスが……粉々に……」

 

「……おい、住人はどうした?」

 

 ジャンが誰ともなくつぶやく。

 

「あの様子じゃ……逃げ遅れた人は……」

 

「クソッ、だから反対だったんだ! 中立のコロニーに兵器なんて!!」

 

 艦内に、グリュックの慟哭が虚しく広がる。しかしやるべきことを思い出したバジルールはストライクに通信をかける。

 

「X-105ストライク! 応答せよ! こちらアークエンジェル! X-105ストライク! キラ・ヤマト!!」

 

「今更悔やんでも仕方がないさ」

 

 そしてブリッジに戻ってきたクワトロはグリュックに語りかける。

 

「……やっぱりだ、やっぱりその声、シャア・アズナブルですよね!?」

 

「……!」

 

 

 

「」

*1
物理攻撃を一定量無効化する5機のGに搭載されている特殊な装甲



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#20 奇妙な出会い

「……シャア? まさかクワトロ大尉が……あのシャア・アズナブル?」

 

 以前からアングラ系の雑誌でそういった陰謀論などを嗜んできたカミーユが真っ先に食いついた。

 

「な、何を言ってるんだね君は」

 

「俺は戦場で、あなたの声を聞いた! 確かにあなたはシャアだ!」

 

 弾糾とも取れる言い方で、グリュックはクワトロに問う。ちょうどその時、ストライクからの返答が入る。

 

「何ぃ!? 避難船を拾ってきた!?」

 

 ナタルが大きな声で困惑する。

 

「……いいわ、許可します」

 

 しかし彼女は艦長であるマリューの許可があった為、認めざるを得なかった。

 

「フレイ……?」

 

(フレイ・アルスター……)

 

 それに乗っていたのは、連合の偉方ジョージ・アルスターの娘フレイであった。

 

「あなたサイの友達の! この艦なんなの?」

 

「えっ?」

 

「サイは? 一緒じゃないの? これザフトの艦なんでしょ!?」

 

 そう矢継ぎ早に問いかけるフレイに、キラがしどろもどろになっているとサイたち同級生がやってきた。

 

「フレイ!?」

 

「サイ!! ミリアリアも!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「あの人が? 私たちを助けてくれた!」

 

 友人たちが戻った直後、キラは自分と同年代と思われる少女に飛びつかれる。

 

「うわっ!?」

 

「あなたが助けてくれたんでしょ? 見てたよ? 私エレノア・エンストン!! よろしくね!!」

 

 彼女は趣味の折り紙で花の頭飾りを折り、キラに渡した。

 

「あの……僕達、初対面だよね?」

 

「え? そうだけど?」

 

「こらエレノア、すみませんねうちの娘がご迷惑を……」

 

(あれ……? なんでだろ? 親かな……顔似てないけど)

 

「またねキラ!!」

 

「え……あ……うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「避難民の収容、完了しました」

 

「そう、ありがとう」

 

「全く……!! 許可もなく勝手なことを……!!」

 

「つってもマリューさんが今はこの艦の艦長ですからね」

 

 少し苛立った様子のナタルを諌めるノイマン。

 

「しかし今まだ近くにはザフトの艦が! ここにいる方が危険でしょう!!」

 

「……わかってるわ。ザフト艦の位置、掴める?」

 

 調べたところ、付近のデブリやヘリオポリスの残骸が多く、位置が掴めないようだ。かと言ってここから離脱しようとエンジンを吹かせば見つかり袋叩きにされる。

 

「あの金色と黒色のモビルスーツも調整が必要っぽいしな」

 

「となると……やっぱアレ、使うしかねぇか」

 

「え?」

 

 それだけ言ってグリュックはMSデッキに急いだ。

 

「こっそりティターンズから盗んできたこいつ、そろそろ整備は済んでいるかな……っと」

 

 そこにあったのはティターンズ特有の紺青の装甲に包まれた『バーザム』であった。彼はコクピットへと飛び乗る。

 

「っと、ナイスタイミングだグリュック、ちょうど整備、終わったところだぜ」

 

 そう言うとジャンは艦艇へと戻った。グリュックは艦艇、オペレーター室に通信をかける。

 

「ティターンズから盗んできたモビルスーツが1機、こちらにあります」

 

 その時丁度、発破をかけられてやってきたキラもストライクに乗り込もうとしていた。

 

「キラ君……その……大丈夫なのか?」

 

「はい、もう、大丈夫です。だから、キラ・ヤマト! ガンダム行きます!!」

 

 修理が済んだメビウス・ゼロにもムウが乗り込み、発進する。

 

「はっ、結局俺が最後かよっと、グリュック・シュバイン! バーザム出ます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 しかしそれより前、フレイは知ってしまった。自分を助けたキラがコーディネーターだということを。

 

「あの子……コーディネーターなの?」




このオリキャラと原作の折り紙の女の子は違うキャラです。


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#21 アルテミス脱出

 何とかクルーゼ隊を撤退に追い込んだアークエンジェルはユーラシア連邦の所有する『アルテミス』へと寄港することとなった。しかし……。

 

「不当だな……」

 

 アルテミスの軍人たちは着艦早々にアークエンジェルのMSに対しデータの解析を急がせ、そして乗員をアルテミスの艦内に押し込んだのだ。

 

「こっちはティターンズですからね……殺されなかっただけマシですよ大尉」

 

 カミーユたちは食堂で待機命令を出されていた。それは元民間人のキラと、その友人も同様であった。

 

 ユーラシア連邦は同じティターンズ側の大西洋連邦と小競り合いをしているが故勘違いされやすいのだが、実は同じティターンズなのだ。

 

「はぁ……」

 

 一方グリュックはムウ、マリュー、ナタル、クワトロと共に別室で隔離されていた。

 

(どうしよっかなあのバーザム……見つかったら絶対バレるし……かと言って逃げるわけにもいかねぇしさ……)

 

「どうしたよ、ため息ばっか着いて。幸せ逃げんぞ〜?」

 

「ムウさん……だって心配じゃないですかキラ君」

 

「ダイジョブだって、機体にロック掛けとけとは言っといたからさ、酷いようにはされねぇと思うぜ?」

 

「だといいですけど……でもティターンズですよ? もしコーディネーターだって知られたら……」

 

「何? 今コーディネーターが何とかと聞こえたぞ?」

 

 すると外にいた兵士が扉の鍵を開けて彼らに銃を向けてきた。

 

(へぇ〜ラッキー)

 

 グリュックは勢いでその兵士を気絶させる。

 

「ちょっ……何やってるのあなた!!」

 

 ナタルが大声を抑えて問いかける。

 

「何って言われても……とりあえず外に出ますよ、ザフトはまだこっちを見張ってるんでしょ?」

 

「あぁ、多分な……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 一方その頃、ストライクの機密ロックを外せないことにとうとう我慢の限界を迎えたアルテミスの上官ガルシアは待機中の乗員の元に向かった。

 

「ストライクのパイロットは誰かね?」

 

 立ち上がろうとするキラの肩を抑える整備のマードック。

 

「僕ですよ」

 

 カミーユが立ち上がり、軍人たちにそう抜かした。

 

「君がガンダムMk-2の強奪犯という報告は既に入っている。それの処分についてはおいおいするとして……ほぅ、まだ出てこないか」

 

 ガルシアは薄汚い笑みを浮かべ、ミリアリアの腕を掴みあげる。

 

「キャッ!!」

 

「女性がパイロットということも珍しいが……この艦の艦長も女性だからな、なくもないだろう」

 

「いい年した大人が何やってんです!」

 

 カミーユは突然激昂しガルシアに殴り掛かる。

 

「!?」

 

 その行動に軍人、民間人ともに驚愕の表情を浮かべる。そんな行動予想していなかったガルシアは顔面にクリーンヒット、そして殴られた勢いで飛ばされてしまう。

 

「貴様!! 上官に向かって!!」

 

「だいいち僕は軍人じゃない!!」

 

 そんなカミーユの抵抗虚しく、多勢に無勢、アルテミスの軍人に殴られ蹴られてしまう。

 

「ぼ、暴力はいけない……」

 

 そしてそんな言葉が彼の口をついて出た。そして先程まで何が起きているか分からなかったキラはようやく状況を把握し、立ち上がる。

 

「もうやめてください!! あれに乗ってるのは僕ですよ!!」

 

「君みたいな少年がか? 嘘は辞めろ、こいつみたいになりたいのか?」

 

 ガルシアはカミーユの方に目を向ける。しかしそれにフレイ加わる。

 

「本当よ!! この子があのMSのパイロットよ!! だってこの子、コーディネーターだもの!!」

 

「……ほぅ、連れて行け」

 

「おい!! 何言ってんだよフレイ!!」

 

「だって!!」

 

 いくらコーディネーターとはいえストライクのデータが取れるまではそう酷い扱いはされないだろうと思っていたキラだったが、連れていかれたのはMSデッキではなかった。

 

「ストライクは強奪前に自爆した、そうだな?」

 

 ガルシアは部下にそう問いかけると、キラに銃を向ける。両肩をガッチリと固定されたキラは身動きすることが出来ない。そう、いくらコーディネーターとはいえ訓練を積んできた軍人ふたりに抑えつけられればこうなってしまうのだ。しかしガルシアが引き金を引く瞬間、その部屋の扉が勢いよく開け放たれる。

 

「何ぃ!?」

 

 侵入者に銃を向け直す暇すら与えられず、ガルシアは飛び蹴りをかまされる。キラを抑えつけていた2人の軍人はムウとマリューが既に気絶させていた。

 

「キラ君!! 大丈夫か!」

 

「え? な、なんでグリュックさんが……」

 

「俺、耳いいんだよ、あのくらいなら普通に聞き取れる、それよりももうすぐザフトのMS……いやGが来る。何故かは分からないがアルテミスの傘*1も起動してないみたいだし早く逃げんぞ!!」

 

「は、はい!! で、でもまだ友達が!!」

 

「そっちにはクワトロ大尉が行ってくれてる!! 心配するな!!」

 

 彼らはアークエンジェルへと走った。クワトロたちもそれに着いた為、急いで乗り込み、モビルスーツデッキに向かう。

 

「キラ・ヤマト、ガンダム行きます!!」

 

 ソードパックを装備したストライクは襲撃してきたブリッツを撃退し、帰還する。

 

「おつか────」

 

「ありがとうキラ!!」

 

 グリュックがキラに労いの言葉を言おうとした瞬間、誰かがキラに抱きつく。そう、エレノアである。

 

「ちょ、デッキまで来るなんて何やってるの!! 君民間人でしょ!?」

 

 そんなグリュックに彼女はべーと、舌を出す。

 

(……)

 

「……まぁよろしくやっとけよ」

 

 最近はナナバに会えない日々が続いている為、そういった事情には人一倍敏感になってしまっているのだ。

 

「ねぇねぇ!! あの時一緒にいたから聞いてたよ!! 君コーディネーターなんでしょ!?」

 

「え……うん……」

 

「実は私もコーディネーターなの!! 言ってなかったけど!!」

 

「えっ……」

 

(もしかして……僕と同じ第一世代*2……?)

*1
アルテミスの要塞にのみ搭載されている全方位レーザー防御装置。レーザー、ビーム、実体弾全てを無効化するが、外部からの攻撃のみならずアルテミス内からの攻撃も通さないため万能では無い。周囲に敵の反応を感じないと傘は閉じ、無防備な状態になる。

*2
親がナチュラルであり、母体の遺伝子を改良して生まれたコーディネーター。コーディネーター同士の子供を第二世代と言う



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#22 コーディネーター

「えっ……君も……?」

 

「そ! キラ君がコーディネーターだっていうから、言ってもいいかなって!」

 

(へぇ……キラの他にもコーディネーターが……まぁヘリオポリスからの避難民だからそうか……)

 

 避難民ともどもアークエンジェルへと戻ったクルー達。彼らは食糧難に陥り、他の選択肢も見つからなかったためユニウスセブンの残骸から補給することとなった。

 

「ユニウスセブンから補給……? そんなこと……!」

 

「誰も『やった! 水が見つかった!』って歓喜してるんじゃないんだ。俺たち生きてる人間、死んじまった人たちの分まで生きる義務がある」

 

 キラの抗議にムウが答える。

 

「俺もこればっかりは賛成だ。……まぁ、あのバスク・オムのことは許せねぇけどな」

 

 血のバレンタインと呼ばれる事件を強行し、多くのコロニー住人を殺した張本人、グリュックはどうしてもそれを許すことは出来なかった。

 

「それには私も同感だ。もっと早くにそれを察知できていれば……もしくは」

 

 そう、クワトロは後悔する。

 

「シャア……いやクワトロ大尉……」

 

 本気で悲しんでいるように見えたからか、グリュックのクワトロへの見方も変わってくる。そして目的地に着いたアークエンジェルは補給作業を開始する。

 

「元々農業コロニーだったここには、巨大な貯水槽があったんだ。それが宇宙空間の低温にさらされて氷になって、ここにあるってことさ。わかるかキラ?」

 

「それはわかるんですが……なんでエレノアがここに?」

 

「なんでって! プチモビが余ってたんだからさ! 勿体ないでしょ?」

 

 キラはストライク、その他志願兵達キラの友人はトロハチに乗って、氷を採取していたのだった。

 

「ったく、よく思いつくよあの艦長も。ユニウスセブンから物資を補給しようなんてな」

 

「仕方ないぜカズイ。こっちはザフトと、ティターンズにも追われてる身なんだからさ」

 

「確かにここで補給してるなんて思いもしないだろうけどさ……」

 

(あれは……!!)

 

 友人たちが呑気に会話しているさなか、キラはザフトのモビルスーツを発見してしまう。

 

「強行偵察型複座のジン……!? くそぉ……気づくなよ……?」

 

 ビームライフルの照準をそのジンに向ける。何かを探しているそぶりを見せたが、見つからないと悟ると母艦の方に向き直す。

 

(はぁ……)

 

 ほっと胸を撫で下ろすキラ。しかし……。

 

「な、なんで……気づくんだよ!」

 

 不意に出てきたカズイのトロハチ。それを発見してしまうジン。再度ジンのコクピットに照準を合わせるキラのストライク。

 

「くそ……くそぉぉ!!!」

 

 コクピットにビームが直撃したジンはしばらく宇宙空間を漂い、そして爆散した。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 無抵抗であるはずの『人』を殺した罪悪感と、極度の緊張でパイロットスーツに染み込むほど多量の汗をかくキラ。

 

「おいあれ……救命ポッド……じゃねぇか?」

 

「あぁ……そうだよ。おいキラ! キラ!!」

 

 グリュックはキラに通信をかける。

 

「あ……はいわかりました!!」

 

 気を取り直した彼はストライクでポッドを抱え、アークエンジェルに帰投する。ポッドの中にいたのは……。

 

 



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#23 宇宙の落し物

「あら〜? ここはザフトの船じゃないのですか?」

 

 そう朗らかに艦内を舞う彼女に、マリューら船員は頭を抑える。

 

「ククク……ハハハハハッ!!!」

 

 グリュックは笑いを抑えられずに爆笑してしまう。

 

「まぁさか、ザフトの歌姫が避難船にいたなんてな!!」

 

 キラと肩を組み、そう彼に話しかける。

 

「えっ?」

 

 もう、深く考えるのもバカバカしくなったのだろう、グリュックは考えを放棄して爆笑した。彼はキラを連れて

 

「どうも、地球連合所属、グリュック・シュバインだ。よろしくな、歌姫様」

 

「あら! 地球軍の軍人さんですの!? よろしくですわ♪」

 

(こりゃまぁ、無邪気な子だな)

 

 ともかく、ザフトの人間を艦内で自由にさせておくのもどうかという観点から、ラクスは一時軟禁状態になった。そして彼女の処遇をどうするかといえば……。

 

「彼女は民間人です。ですから政治利用するのは如何なものかと……」

 

「しかし、ストライクのパイロットも子供ですよ? そこになんの違いが? それに彼女はあのシーゲル・クラインの娘だ。既に民間人では無いはずです」

 

「それは……」

 

 ナタルの言葉にマリューはたじろぐ。

 

「しかし、あのような幼気な少女を利用するというのは、軍人以前に、人として失っては行けないものを犠牲にするのでは、ないのかな?」

 

「クワトロ大尉……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 そして、お互いの出自を知ったキラとエレノアは自室であんなことやこんなことが……あるはずもなく。

 

「やだ!! 艦に残るの!!」

 

「もう無茶言わない……すみませんねぇ、キラ・ヤマトくん」

 

「え、あ、はい……」

 

「ほらぁ!! キラも残って欲しいんでしょ!?」

 

「いや……でも戦争に巻き込みたくないし」

 

「ほらこの子もそう言ってるじゃないの!」

 

「む〜」

 

 エレノアは頬をぷく〜っと膨らませ抗議する。

 

「仕方ないよこればっかりは……」

 

「ごめんキラ……無茶言って」

 

「うん、また会おうよ、戦いが終わったらさ」

 

「うん! 絶対にね! 約束だよ!?」

 

 そしてそれに聞き耳を立てていたグリュックは……。

 

「青春だな……」

 

「あらぁ? 盗み聞きですの?」

 

「ら、ら、ラクスさん!?」

 

 そんな彼に声をかけたのは独房から抜け出したラクスであった。

 

「な、なんでここに!?」

 

 鍵がかかってませんでしたの、と言った彼女の後ろから大量の、色紙を持った軍人たちが殺到する。

 

「わお」

 

「ファンです! サインお願いします!」

 

「CDも全部買ってて!! 握手お願いします!!」

 

 と、矢継ぎ早にラクスは話しかけられる。

 

「どうしましょう?」

 

「どうしましょうって……そんな俺に……あ」

 

 そういえば、と彼は一年戦争時のことを思い出す。マチルダ中尉がホワイトベースに寄港した際、写真を撮った事を。

 

「ちょうどいい、誰かカメラ持ってないか!!!」

 

「あ! あります!!」

 

 何故か三脚も持っていたその男に借り、皆で写真を撮ったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

 そして、アークエンジェルには厄介な者が寄港した。そう、ジョージ・アルスター、フレイの父であり、コーディネイターの排斥派ブルーコスモスの上層部である。

 

「よぉし、あれにバレねぇようにラクスをザフトに送り届けるんぞ。キラ、頑張れ!!」

 

「結局人任せですか!?」

 

「だってさー、バーザムのコクピット狭いし? それに比べたらストライクのコクピット広いしラクスと2人乗りも出来るじゃん?」

 

「そんなぁ……」

 

 そうやって無事に彼女を送り届けたキラであった。



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#24 ブルーコスモス

 キラとラクスがコクピット内でアスランについてのことを話している内、アークエンジェル内では、ストライクの動向についててんやわんやであった。

 

「あれれぇ〜? ブルーコスモスのジョージ・アルスターさんじゃないですか〜。あ、初めまして、地球連合のグリュック・シュバインです、よろしく」

 

 モントゴメリの寄港に際し、彼はいち早くフレイ・アルスターの父、ジョージに挨拶をしていた。それはもちろん、今まさにラクスを送り届けているキラと艦内の様子を察知させないためである。

 

「おっと、君がかのモビルスーツ乗り、グリュック君だね?」

 

「はい! それよりも何故、このアークエンジェルに寄ったのでありますか?」

 

「いや……この船にだな……」

 

 しかし腹の中を隠したままのジョージ、何を隠そう、ラクス・クラインという重要な人質を入手したという情報を手に入れたからである。しかし部下の報告から、この艦にその目的の人物がいないと分かると、すぐさまにモントゴメリへと戻って行ったブルーコスモス一行であった。そしてクワトロとカミーユらアーガマもアークエンジェルを離れていった。

 

(キラ……早く帰ってこいよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ###

 

「艦長! これは立派な軍法違反です!」

 

 しか無罪放免というわけにも行かず、帰還後すぐに簡易軍事裁判が開かれることとなってしまったのであった……。そのことを知ったグリュックは急ぎ艦長室へと走った。

 

「キラ…….? キラ! 大丈夫だったか!?」

 

 彼は艦長室から出てきたキラに問いかける。

 

「だ、大丈夫ですよグリュックさん……まぁ、フラガ大尉の弁護はあまり役に立ちませんでしたけど……」

 

「あはは! そうか! それより、どうだった? 判決は」

 

「銃殺刑……になりかけたんですけど……民間人だってことで厳重注意で済みました」

 

「言っとくけど俺も心配してたんだからな?」

 

「わかってますよ、急いできてたんですから」

 

「それより! 無事に届けられたか? 歌姫は」

 

「はい!」

 

「キラ!! キラ! 良かったぁ……もうっ! 逃げたかと思ったじゃないか!!」

 

「また君か……エレノア」

 

「軍人さんはどっか行って! べー!」

 

「ちょ、生意気だな……」

 

「エレノア、言ったでしょ? 君はもうすぐこの艦を降りるって」

 

「だからだよ! それまでにキラとも〜っと仲良くなりたいんだもん!!」

 

 しかし、無情にも鳴り響くアラート。デュエイン・ハルバートン提督率いる第八艦隊との合流を目前にして3機のGによる襲撃である。

 

「キラ!! 絶対死なないでね!!」

 

「う、うん!」

 

「おいおいおいクソ!! どこまでもストライクが欲しいんだなぁアイツら! 出撃だキラ! あの子にもザフトにもモテモテだな!」

 

「だ、黙っててください!」

 

 2人は急いでブリッジへと向かい、ストライクとバーザムで出撃した。

 

「キラ・ヤマト、ガンダム行きます!」

 

「グリュック・シュバイン、バーザム出ます!」

 

「バスターとブリッツは任せて! キラはデュエルを!」

 

「は、はいわかりました!」

 

 Gに比べて機動性に劣るバーザム、しかし……。

 

「最後の手土産ありがとなカミーユ君!!」

 

『あ、あの人!! マークIIのスラスター類全部取ってる!?』

 

 それらの推進類を全てバーザムに取り付けたグリュック、殺人的な加速も過去に体験した立体機動装置のおかげで何の苦にも感じないのだ。

 

「このモビルスーツ……動きが早い!! ディアッガ! 用心してください!」

 

「先にやるべきは……バスター!!」

 

 腕に備え付けられたビームライフルを乱射、撹乱しサーベルで切りかかるバーザム

 

 バスターには近接用の装備がないため肩部に装備されたミサイルポッドで迎撃する。

 

「そんな雑多ァ!」

 

 バルカンポッドでそれはかき消されてしまう。

 

「ディアッガ! クソ!!」

 

 間一髪で放たれたブリッツのトリケロスに備えられた貫徹弾、ランダーサートが2機の間に割り入る。

 

「ちっ……前が見えねぇ……なぁ!!」

 

 ビームサーベルで切り払い、視界を回復させるグリュック。その間にブリッツはアークエンジェルへ、バスターは自軍に艦へと戻っていく。

 

「逃げる相手に用はねぇ、ブリッツ、次はお前だぞ!?」

 

 全速力で向かうバーザム。一方、キラはと言えば……。

 

「ストライク!!」

 

「ちぃっ、デュエルか!」

 

 ビームサーベルで迎撃するストライク。しかし、彼はアークエンジェルの事も気にかけている為、腕が鈍ってしまう。

 

「何をぉ!! 手を抜いているのか貴様!!!!」

 

「クソぉ……! どうしてまだ……攻めてくるんだ!」

 

 デュエルのサーベルがコクピットを貫くその瞬間……。

 

『キラ! 絶対に死なないでね!』

 

「まだ……死ねない……アークエンジェルも……落とさせないッ!!」

 

 キラの中で、何かが弾けた。

 

「なにぃっ!?」

 

 ストライクは急速上昇、そしてデュエルの脇腹をビームサーベルが捕える。そしてブリッツが向かったアークエンジェルの方へと急速接近。

 

「やらせない……!!」

 

 アーマーシュナイダーを投擲し、それはトリケロスに突き刺さる。ブリッツに蹴りを入れ、アークエンジェルから引き剥がす。追ってきたデュエルの脇腹をもう片方のアーマーシュナイダーで追撃を加える。

 

「くっそぉぉおおおお!!!」

 

 武器の振動でデュエルの内部計器が破損、コクピット内で破裂する。

 

「イザーク!? イザーク!」

 

 ブリッツはデュエルを抱え、ガモフへと帰還していった。

 

「くそぉ……痛い……痛い……痛い!!!」



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#25 ひとつきりの命

 危機を脱したアークエンジェルに下った新たな指令はアラスカ基地への降下。一方、サイ達キラの友人は除隊許可証を得、身柄の解放が伝えられるのだった。しかしその時、フレイが入隊を希望する。それにつられて全員が残り、それを知ったキラも残ることに……。そして迫るザフトの影、第八艦隊が盾となり、アークエンジェルは地球へと降りられるのか……? 

 

「キラ!? なぜ戻ってきたぁ!!」

 

「僕は……僕はアークエンジェルを落とされたくないんです!」

 

 そう言ってキラはブリッジへと向かっていってしまった。

 

「あのバカっ……大気圏突入直前だぞ!?」

 

 直後、グリュックの元に1人の少女がやってくる。

 

「ちょ、軍人さん!? 今キラの声が聞こえたんだけど!!」

 

「なんでここにいるのエレノア!?」

 

「それより! キラは!!」

 

「……戻ってきたよ」

 

「なんで!」

 

 それを聞いたエレノアは戸惑いと悲しみが混じった声色で言った。

 

「知らねぇよ……なんであいつがまた戦場に……」

 

「……そう」

 

「それよりもエレノア、お前キラのこと好きだろ」

 

「えっ……? なんでそれを……」

 

「ばっかあんな態度みてたら誰でもわかるっての」

 

「……何でライバルってわかってるのに……」

 

「ライバル……? もしかして俺にキラ取られるとか思ってる? 生憎だが俺に男色の趣味は無いし、それに俺にはナナバさんがいる」

 

「そ、そうなんだぁ……よかったぁ……」

 

「はぁ……まったく」

 

「あ! ごめんなさい軍人さん!」

 

「え? 何で?」

 

「だって今まで酷い態度とってきたし……」

 

「あ! それよりも君の両親はどうしたんだ?」

 

「えへへ〜、艦から抜け出してきたんだっ! まぁ〜、私さえ生きてたらそのうち会えるし、別にいいでしょ!」

 

 そう喋っているうちに、ストライクはデュエルとの戦闘を開始していた。

 

「ストライクぅぅうううう!!! この傷の礼だぁぁあああ!!」

 

 ビームサーベルで切りかかるも、あっさりと避けられ、そして強烈な蹴りを浴びせられたデュエル。その隙にアークエンジェルの方へと戻ろうとするキラだったが、2機の間にハルバートン提督のメネラオスが射出したシャトルが割り込む。

 

「なっ……」

 

 それを挟んでデュエルはストライクにライフルを向ける。しかしそれはストライクに難なく避けられてしまう。

 

「くそぉ……邪魔なんだよ……」

 

「だ、ダメだそのポッドには……!!」

 

「逃げ出した腰抜け兵がッ!!!」

 

 照準がポッドを捉えた。ストライクは足裏、腰裏、腰裏、背中、エールストライカー全てのスラスターを全開にしてシャトルへと向かう。

 

「やめろぉおおおおお!!!」

 

 ビームの一閃がシャトルを貫いた。悲鳴すら上げられぬまま、避難民達は宙の藻屑となった。

 

「あ……ぁ……ぁあ……」

 

『これ上げる!! これまで守ってくれて、ありがとうっ』

 

 キラの脳内に、アークエンジェルに戻る前に折り紙をくれた、エルという少女の顔が思い起こされる。

 

「あ……ぅ……ぅぁあぅ……あぁああああ!!!」



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