ジュディシアル-影の守護者達 (Eitoku Inobe)
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コルサント襲撃

38BBY、銀河共和国は静かに誰も気づく事なく自らの変革へと向かっていた。

この僅か6年後にはあの銀河史に名を残すナブー侵攻が始まり、これより16年後にはジオノーシスの戦いが勃発しクローン戦争が始まる。

それより僅か3年、つまり19年後にはクローン戦争の終焉と共に銀河共和国の名も消えてなくなる。

ある銀河の歴史では銀河の中央政府は第一銀河帝国と名を改め、銀河は新たな時代を歩んでいくことになるのだ。

またある“IFの歴史”で仮に銀河共和国と言う存在が存続したとしてもそれは今までとは大きく違ったまた別の存在である。

つまりこれから目撃する銀河のほんの僅かな場所での歴史はまだ銀河共和国が消えるなど殆どの人が考えてもいない時代の話だ。

ジュディシアル部門(Judicial department)、ジュディシアル・フォース(Judicial Forces)。

1,000年も昔の戦争以降、正規の国軍を持つことはなくなった共和国がジェダイと並んで唯一保有する共和国の安全保障、秩序を守護する存在。

彼らはジェダイ、各惑星の惑星防衛軍、警察など法執行機関らと共に銀河系の秩序を守ろうとした。

だが彼らはクローン戦争中に再誕生した共和国軍や後の帝国軍のような権限もなければ力も全くなかった。

要するに何も出来なかったのだ。

ありとあらゆる理由に雁字搦めになり思うように行動出来ず、犯人を捕まえるのにも一苦労だった。

銀河系の秩序など全く守れずこの状態を打開する為には後16年、時を待つ必要があった。

中にはこのどうすることも出来ない状況で遂には己の志を諦め、汚職や腐敗の道に進む者も多くいた。

だがこの物語はそんなどうしようもない中でも諦めず、懸命に己の職務にある使命を果たそうとしたジュディシアルの人々の物語である。

銀河系に歴史を残さないものだとしても彼らは確かに存在した。

彼らの存在は歴史に名を残さずとも更に後の時代にまで意志を繋げる役目を果たした。

これはそんな銀河系の小さく重要な物語なのだ。



-銀河共和国領 首都惑星コルサント アンダーワールド 第4521拡張地区-

コルサント・アンダーワールドは常に暗黒街である。

 

理由はもちろん幾つかある。

 

まず一つ、コルサントは上に上にと階層を積み重ね発展していったエキュメノポリス惑星だ。

 

その為下の下の階層、特にアンダーワールドでは地表の構造物が日光を遮っていた為物理的に陽の光が届かなかった。

 

そしてまた一つ、幾つかの階層ではインフラ整備が行き届いておらず唯一の灯りである人工照明も時々切れることがある。

 

こうしてアンダーワールドは銀河系最大の暗黒街となった。

 

アンダーワールドの暗闇は単なる明かりの足らなさだけでなく首都惑星としての歪みも大きく影響していた。

 

ある社会学者は『コルサントとは単なる惑星ではなくこの銀河系の縮図である』という発言をしている。

 

確かにコルサントの上層階は銀河の中心たるコア・ワールド同様発展し豊かな生活を送り続けている。

 

その反面コルサント・アンダーワールドは銀河の外縁であるアウター・リム同様、様々な闇に閉ざされ多くの人が貧困に喘ぎ、犯罪者が治安を乱し、犯罪王が行政とはまた別に地区を牛耳っている。

 

本来彼らを取り締まるはずの法執行機関は全く対処し切れていない。

 

むしろ最も身近なコルサントですらこの有様なのだからアウター・リムなど夢のまた夢だろう。

 

コルサントの歪みは不思議なことに銀河の歪みと重なって見えた。

 

その暗黒街を数名の紺色の制服の上から軽装備だが武装した集団がスピーダーに乗り込んでいた。

 

周りには同様の装備の紺色の者達がおり、他にもコルサントの警察であるコルサント保安部隊もいた。

 

この紺色の者達は銀河共和国直属の法執行機関、ジュディシアル部門(Judicial Department)メンバー(Judicial )である。

 

彼らはジュディシアル部門の中でも犯罪捜査局警備部に所属するジュディシアルであり、今回はコルサント保安部隊と共にある任務についていた。

 

「こちらフォーン、現在ターゲットを尾行中。今の所異常なし、どうぞ」

 

部隊長がコムリンクで通信を取りながらターゲットの様子をしっかり見張っていた。

 

『イスクよりフォーンへ、こちらも同様だ。だがオーレクはターゲットをダウンさせた。こちらも間もなく仕掛ける』

 

「了解、フォースが共にあることを祈る。フォーン、アウト」

 

コムリンクを切ると隣の部下に目を寄せた。

 

「どうだ、伍長。連中、動きがありそうか?」

 

チーム・フォーンに所属する“ウィルト・フォーデン”伍長は首を振った。

 

生真面目な顔に麦色の瞳、同じような髪の色を持つ彼はジュディシアル部門の青い略帽を深く被っている。

 

耳にはコムリンクがついておりこれでいつでも他と通信出来る。

 

「全く、相変わらず運転を続けています。しかしあれには…」

 

「ああ、大量の爆薬が詰め込まれている。あれを市街地で爆発させる訳にはいかん。だがもう間も無く先行したオニスが足止めしてくれる。そこで奴らを引っ捕える」

 

「了解」

 

ウィルトはスピーダーの横からブラスター・ライフルを取り出そうとした。

 

しかしすぐに部隊長から「ダメだ」と止められた。

 

「何故です?ターゲットは既に…」

 

「上層部から使用許可が降りていない。市街地で無制限に使用出来るのはブラスター・ピストルまでだ」

 

部隊長の理由を聞きウィルトはもう何度目か分からない呆れ顔を浮かべた。

 

乱暴にブラスター・ライフルから手を離し如何にも不満げな感じでため息をついた。

 

「上層部はおかしい、既にターゲットは重火器類を保有している可能性があるのにこちらはライフルすら使えないなんて。我々を殺す気ですか」

 

「そう言うな、むしろコルサントの保安部隊と合同でこれほど大規模にやれるだけマシさ。それだけでも感謝しなくっちゃあな」

 

部隊長はタバコに火をつけ吸いながらウィルトを宥めた。

 

本来勤務中にタバコを吸うのは違反なのだがもう誰も止めないし止めたところで罰なんてものは降りない。

 

なんなら勤務中のタバコなどまだマシな部類だ。

 

こないだまでのウィルトや部隊長の直属の上官は隠れて横領までやっていた。

 

すぐにバレて捕まったが割によくあることらしい。

 

なんならまだジュディシアル部門はまだマシでコルサント保安部隊などはもっと酷いそうだ。

 

「まずそれがおかしいんですよ。本来ならもっと早くに対策を打てたはず、それなのに危機が始まる直前で出動なんて……しかも合同と言っても指揮系統はほぼ別だ」

 

「勤務中のお上への愚痴は俺のタバコより悪いぞ。我々は今出来ることをやるしかない」

 

「はあ……せめてジェダイの1人でもいればまだマシだったのに」

 

結局最後は神頼みならぬジェダイ頼みである。

 

今回彼らが出動している理由は共和国情報部と元老院情報部が掴んだあるコルサントに対する大規模テロに関する情報だった。

 

アンダーワールドに潜むテロ組織が他の場所から支援物資を受け取ってコルサント・アンダーワールドで爆弾テロを行おうとしているらしい。

 

敵組織の名前や規模はまだ判明していないが少なくともアンダーワールドに根を入っている辺り決して小さくはないはずだ。

 

流石に共和国政府としても見逃す事は出来ず、ジュディシアルとコルサント保安部隊に出動を命じた。

 

現在は2つの情報部が手に入れた情報を頼りに摘発を行なっていた。

 

『オニスよりフォーンへ、ターゲットに対するアプローチを開始する』

 

部隊長のコムリンクから通信が届いた。

 

部隊長も「了解、こちらもアプローチを開始する」と応答した。

 

「上等保安士、間も無くターゲットが停止する。それと同時に我々も出るぞ」

 

ジュディシアル部門ではジュディシアル・フォースと同じく一般的な一等兵、上等兵、軍曹、曹長らを一等保安士、上等保安士、二等保安長、一等保安長と呼ぶ。

 

無論ジュディシアル内でも階級に多少の差異はある。

 

ジュディシアル・フォースではこのまま階級が上がり士官となってくると他の軍隊同様少尉、中尉、大尉など通常の名称となる。

 

しかし犯罪捜査局ではこのまま警察側の階級に移っていく事となりそこに軍事組織ジュディシアル・フォースと警察組織としてのジュディシアルの差異が見られる。

 

ちなみに伍長だけではジュディシアル部門のどこでも共通であった。

 

「了解…!」

 

部隊のメンバーはそれぞれ武装を確認しブラスター・ピストルをホルスターから抜き出した。

 

ウィルトも自身のブラスター・ピストルを手にしターゲットのコンテナ付きスピーダーを睨む。

 

「待ってろよ、テロリストども…」

 

ウィルトの決意は堅かった。

 

今日この日の為にジュディシアルに入ったような気すらしてきた。

 

奥のターゲットであるテロリストが乗り込んでいるであろうスピーダーが停止し同じようにウィルトらのスピーダーも停止する。

 

「行くぞ」

 

タバコを消してブラスター・ピストルに持ち替えた部隊長の命令でスピーダーに乗り込んでいた全員が降りてブラスター・ピストルを構えた。

 

駆け足でターゲットに近づき降りてきたスピーダーの運転手やターゲットに銃口を向ける。

 

「動くな!ジュディシアルだ!コンテナの中身を見せろ」

 

部隊長が勇気を持って真っ先にターゲットに接近した。

 

奥の方では既にチーム・オニスの隊員が同じくブラスター・ピストルを構えていた。

 

既にターゲットは包囲されている。

 

辺りは建物が多く今から切り抜けるのは無理だ。

 

連中が自棄になってコンテナの積荷を吹っ飛ばすよりも先にこちらがターゲットの脳天にブラスター弾を撃ち込むことの方が早いという自信もある。

 

何事もなくこの場の任務は終わりだ。

 

しかし彼らは目の前の状況に囚われ過ぎていた。

 

背後から迫る危険の探知がほんの僅かだが遅れてしまった。

 

ウィルトや隊員達の耳元に嫌な音が聞こえる。

 

それはスピーダーを全速力で飛ばす時の音だ。

 

しかも徐々に近づいて来ている。

 

ウィルトが振り向くとその瞬間1台のスピーダーが全速力でこちらに接近していることに気づいた。

 

相手は止まる気がまるでない。

 

「伏せろ!!」

 

ウィルトは急いで大声を上げた。

 

その瞬間だ、スピーダーは近くのまた別のスピーダーと衝突し大きく軌道がズレて思いっきり住宅街に突っ込んだ。

 

建物の1階の階層にスピーダーのほぼ半分が入りそれから数秒立たずに突っ込んだスピーダーは爆発した。

 

とてもエンジンや燃料タンクがやられただけの爆発ではない。

 

爆発は轟音を立て、周囲の人を吹っ飛ばし熱気を振り撒いた。

 

ガラスが割れて一気に人々の悲鳴が湧き上がる。

 

伏せたはずのウィルトも衝撃を喰らい暫く立てずにいた。

 

心を砕いてしまうような痛みが前身に巡ってくる。

 

完全にターゲットに一杯食わされた。

 

「隊長!!みんな!!」

 

ウィルトは大声で仲間を呼んだ。

 

爆発の煙で辺りが見え辛く状況が一気に不明瞭になった。

 

少なくとも部隊長は無事なようで「伍長!!」とウィルトの階級を呼ぶ声が響いた。

 

しかし結局のところ最悪は防げない。ターゲットの1人がコンテナから出て来たもう1人の男からブラスター・ライフルを受け取ると近くで倒れ込んでいた部隊長を射殺した。

 

頭と心臓に1発ずつ、どの種族でも即死だ。

 

他の仲間も同様の方法で殺害し遂にウィルトの方へやってきた。

 

ウィルトは痛みに耐えてブラスター・ピストルを構え引き金を引いた。

 

まず1人、青いジュディシアルのブラスター弾が部隊長を撃ったターゲットを撃ち殺しその奥の2人にも弾丸を撃ち当てた。

 

また別の方向からターゲットがブラスター・ライフルを構えてやって来たが今度は他の仲間は撃った弾丸に斃れた。

 

復帰した仲間と共に残ったターゲットを始末しウィルトは自身のコムリンクで上層部に判断を仰いだ。

 

「フォーンより本部へ…!こちらは敵の襲撃を受けて戦闘状態へ移行!既に民間人及び部隊長含めた数名が死傷者が出ている!!なおターゲットは制圧完了した!!」

 

『こちら対策本部、既に10数箇所で戦闘が勃発中。フォーンは残存戦力を再編しつつターゲットの殲滅と民間人の避難を誘導せよ、全装備の無制限使用を許可する』

 

「了解…!動ける者は避難誘導しつつ全員指定されたコムリンクに入ってくる位置に急行しろ!」

 

他に指揮官がいないため代わりにウィルトが命令出した。

 

残った仲間は少ないがそれぞれ動き始めている。

 

本当はスピーダーからブラスター・ライフルを取っておきたいのだがそんな時間はもうない。

 

ウィルトは急いでひとまず提示された第一目標に向かった。

 

近くの地下通路口を降りて現場へ急行する。

 

この間にも多くの民間人があちらこちらにバラバラに逃げ出していた。

 

「上階は既に我々が制圧しています!逃げるならこの地下通路口を使って上に!落ち着いて避難して下さい!」

 

現場に向かいながらも同時に民間人への非難も呼び掛ける。

 

我々に仕事はまず第一に民間人を守ることだ。

 

正直ウィルト自身もういっぱいいっぱいで頭がパンクしそうだがそんなことを嘆いている暇はない。

 

1人でも多くの命を救う必要がある。

 

地下通路を曲がるとそこには既に地獄が広がっていた。

 

逃げようとする民間人をブラスター・ライフルで容赦なく銃撃する2人のテロリストがいたのだ。

 

ウィルトはブラスター・ピストルを構えて確実に2人に弾丸を撃った。

 

2人は致命傷を負い地面へ倒れた。

 

「チッ!緊急事態だ!仕方がない…」

 

ウィルトは死んだ2人からブラスター・ライフルをもぎ取りブラスター・ピストルの代わりに使った。

 

『こちらコルサント保安部隊第4班!!今すぐ救援を!我々だけでは人手が足りない!!』

 

「こちら警備部フォーン、了解」

 

背後から仲間達の到着を確認しウィルトは指示を出した。

 

「上階のコルサント保安部隊の援護に向かう。付いて来てくれ」

 

「了解…!」

 

仲間を引き連れウィルトは反対側の地下通路口を使って現場へ向かった。

 

その間にもコムリンクには様々な部隊の通信が入ってくる。

 

どこも襲撃を受け戦闘が勃発しておりコルサント保安部隊もジュディシアルの部隊も大混乱に陥っていた。

 

『こちら対策本部、間も無く増援部隊が到着する。現場の全隊員は現状を維持せよ』

 

「了解…!出来ればもっと早くにしてほしかったが…!」

 

怒りを口に出しつつウィルトは今出来ることをする為に走った。

 

階段を駆け上り再び上階に向かうとやはりそこにも地獄は存在していた。

 

本来交差点であった場所では建物からテロリストがコルサント保安部隊の警官達を狙撃し破壊され炎上するスピーダーを盾にして警官達は戦っていた。

 

ちょうど本来の交差点に沿って十字に銃撃戦が続いている。

 

民間人はこんな状況では逃げることも出来ず姿勢を低くして蹲り状況が変わるのを待った。

 

彼ら彼女らはそうでなかった者達の運命をよく知っている。

 

既に銃撃戦に巻き込まれた民間人の遺体があちらこちらに散らばっていた。

 

「増援に駆けつけたぞ!」

 

「おお!」

 

喜びの声を上げた警官もすぐに狙撃され目の前で撃ち殺された。

 

ウィルトは苦々しい表情を浮かべながら助けることも出来ず「すまない」と言葉を述べるしかなかった。

 

「警官隊は上階から狙撃され身動きが取れなくなっています!」

 

同じ部隊の仲間の1人がウィルトに伝えた。

 

「分かってる!建物をひとつずつ制圧して避難経路を作る!まず一番手前からだ!」

 

この状況では増援を待っている余裕はない。

 

警官隊がこの状況を耐え続けるのにも限界はあるしこのままでは民間人にも死傷者がさらに出てしまう。

 

であれば危険を冒してでも確実に敵を潰すしかない。

 

「行くぞ!」

 

「了解!!」

 

2人の仲間を連れてウィルトは建物の中へ走り出した。

 

すると敵も建物の中から2、3人姿を表した。

 

膠着状態の中、民間人や警官に死傷者を出そうと襲撃に打って出たのだ。

 

「クソッ!」

 

ウィルトは奪ったブラスター・ライフルを構え敵を撃った。

 

テロリストが使うブラスター・ライフルは質が悪く扱い辛かったがウィルトは射撃の腕は一流だ。

 

ジュディシアル・アカデミーでも上位の成績だった。

 

質の悪いブラスター・ライフルでも殺傷能力は高くウィルトだけでテロリスト2、3人を撃ち殺した。

 

3人は一気に建物の中へ入ったが既にテロリストは待ち伏せていた。

 

ブラスター・ライフルを持ったテロリストが建物の中のソファーに隠れており3人が入ってきた瞬間一気に銃撃した。

 

3人のうち1人が銃弾の前に斃れ、ウィルトが反撃してテロリストを射殺したがもう遅かった。

 

2人は更に上階からも銃撃され急いで近くの遮蔽物に隠れた。

 

「そんなサーエグ上等保安士が!!」

 

まだ若い一等保安士は仲間を助けようと身を乗り出そうとするがウィルトは必死に止めた。

 

「よせ!今はダメだ!狙い撃ちされる!」

 

ウィルトだって仲間を助けたい気持ちは山々だが本能と理性が彼を止めた。

 

今身を乗り出せば確実に狙撃され死ぬ。

 

まずは敵を制圧することが先決だと。

 

一等保安士を止めつつ上階の敵にブラスター弾を放った。

 

防御の遅れたテロリストはもろにブラスター弾を喰らいそのまま断末魔を上げて地面へと落下した。

 

もう1人のテロリストは爆弾を起動し2人の下に投げつけようとしたがウィルトが素早くテロリストを射殺したことにより爆弾は上階で爆発した。

 

味方の放とうとした爆弾で他のテロリストが爆発に巻き込まれ負傷している。

 

一等保安士もブラスター・ピストルでテロリストを撃ち、2人ほど撃ち倒した。

 

「急げ!時間がない、このまま上階に行くぞ!!」

 

「……了解!!」

 

ウィルトの命令で一等保安士は撃たれたサーエグ上等保安士の方を見つめたが彼を助けることは諦めウィルトについて行った。

 

仲間の命よりも民間人の命を優先する必要があると彼も分かっているのだろう。

 

2階に上がると早速テロリストの手厚い歓迎を受けた。

 

曲がり角で待ち伏せし一斉にブラスター弾を放つが既に察知していた2人は冷静に対処する。

 

まずウィルトが奥のブラスター・ライフルを持つ2人のテロリストを撃ち殺し、接近して今度は近くの敵をブラスター・ピストルで確実に殺した。

 

ウィルトを前衛に一等保安士も後に続き反対側テロリストを撃ち殺した。

 

「一等保安士、拾えるようであれば敵のライフルを使え。ピストルより役に立つ」

 

一等保安士は頷き斃れたテロリストから持っていたブラスター・ライフルを取り上げた。

 

更に奥から駆けつけてきたテロリストをウィルトは2つのブラスターで撃った。

 

既に今ので9人仕留めた。

 

敵の規模と攻撃の範囲から見て恐らく2階にこれ以上の戦力はないとウィルトは考えた。

 

「3階へ行くぞ!そこが敵の狙撃地点だ!」

 

「はい!」

 

2人は近くの階段を登り急いで3階に向かった。

 

尤も既に1階前で3人、1階の戦闘で8人、今さっきの戦闘で9人射殺したのだ。

 

3階に残った戦力は少ないはず、ウィルトはそう予想していた。

 

だがその予想は間違っていた。

 

3階に上がった瞬間今回ばかりはいきなり襲撃を受けることはなかった。

 

その代わり生物とは違う敵が隊列を組んで2人に迫った。

 

通路の奥から鋼鉄の足音が聞こえてくる。

 

「伍長!何かきます!」

 

「ああ…!分かっている……ちきしょうまさか…」

 

足音と共にブラスター弾が何発も飛んできた。

 

2人は急いで通路の遮蔽物に隠れ反撃した。

 

奥からは11、12体の人が他の武装したドロイドの集団が現れた。

 

ドロイドは改造されたOOMシリーズ・バトル・ドロイドやIG-RM護衛及び執行ドロイドの混成部隊だ。

 

「伍長!バトル・ドロイドです!!」

 

「応戦しろ!全て殲滅するんだ!」

 

バトル・ドロイドの物量は色覚的な圧力があるがそれに負けてはならない。

 

幸いにもドロイドの弾丸命中率はそれほど高くなく確実に弾丸を当てれば倒せる。

 

まずウィルトは前列のOOMバトル・ドロイドを銃撃し何体か破壊した。

 

しかし全く数が減っているようには見えない。

 

むしろ倒されたバトル・ドロイドのブラスター・ライフルをIG-RMが拾って使ったことで火力の面では全く何も変わっていなかった。

 

2人は諦めずに敵を撃ち続けた。

 

「クソッ!!」

 

苛立ちを吐き捨てた瞬間ウィルトの近くをブラスター弾が掠った。

 

危うく死ぬところだったという恐怖がゆっくりとウィルトの脳裏に過ぎる。

 

「伍長!敵が!」

 

「ああ!!とにかく撃ち続けろ!」

 

重火器を持っていない以上こちらは地道に数を減らすしかない。

 

それでも2人掛かりで7体にまで数を数を減らした。

 

だがバトル・ドロイドと2人までの距離は既に半分以上縮まっておりドロイドは仲間が何体破壊されようと前進を続けた。

 

数の圧力は効力を増しだんだんウィルトの中にも焦りが出てきた。

 

「チッこの!この!!」

 

なんとかは半分以上のドロイドを破壊したがそれでも敵は前進を続けた。

 

しかも最悪なことに奥からプローブ・ドロイドのような黒い物体がバトル・ドロイドを盾にしながら迫ってきたのだ。

 

「なっなんだあれは!」

 

2人はバトル・ドロイドを牽制しつつプローブ・ドロイドも攻撃する。

 

プローブ・ドロイドは2、3体ブラスター弾を喰らって破壊されたがプローブ・ドロイドを攻撃した隙をウィルトは突かれた。

 

IG-RMの銃口が確実にウィルトの方へ向いていたのだ。

 

ウィルトは声が出なかった、されど銃口と自身の目が合い自らの死を悟った。

 

銃口からは赤いブラスター弾の色が薄ら見え始めていた。

 

半ば諦めのような気持ちが心を支配し走馬灯というべき過去の記憶が脳裏を過ぎる。

 

ウィルトが生まれた惑星タナブはコルサントに比べれば田舎の惑星だった。

 

その為何度か犯罪者集団にウィルトの家族が経営する農場が狙われたりもした。

 

そこで助けてくれたのがジュディシアルだった。

 

ジュディシアルに憧れを持ったウィルトは頑張ってジュディシアル部門に入った。

 

憧れと実態は違う。

 

ウィルトにとっての正義のジュディシアルは銀河にとっての役立たずな存在であった。

 

様々なしがらみによって行動を抑制され本来やるべきことすら出来ていない。

 

どこの惑星に行ってもジュディシアルが役に立つことは数少なかった。

 

それはテロが起きた今もそうだ。

 

本当ならこんなこと、未然に防げたかもしれないのに。

 

この青い制服(Bluecoat’s)にもっと権限と力があれば。

 

死ぬ間際までウィルトは真面目であった。

 

故に助かったのかもしれない。

 

()()()()()()()()()()()()()”。

 

「よく耐え抜いた!」

 

その一言と共に青い光弾が放たれ残ったバトル・ドロイドが全て薙ぎ倒された。

 

本来ウィルトを撃ち抜くはずの赤いブラスター弾もドロイドが倒されたことにより狙いが外れ天井に直撃した。

 

残りのプローブ・ドロイドもウィルトが攻撃する前に背後から来た男が全て撃ち倒した。

 

男はドロイドの殲滅を確認するとすぐコムリンクを開いた。

 

「こちらオールダム大尉、突入したジュディシアルの隊員と合流した。そっちも早く片付けろ」

 

『了解』

 

オールダム大尉を名乗るその人物はコムリンクを切りポケットにしまった。

 

彼はジュディシアル・フォースの青い制服を着ているが武装がウィルトらと全く違っていた。

 

しっかりアーマーを着込みブラスター・ライフルも特殊部隊用のものを使っている。

 

「ウィルト・フォーデン伍長です、助かりました」

 

「ジュディシアル・フォースの特殊作戦集団所属のハルド・オールダム大尉だ。無事で何より、だがまだ任務は終わっていない。私についてきてくれ」

 

ウィルトと一等保安士は頷きオールダム大尉に続いた。

 

「急げ、ドロイドは全て殲滅したはずだ。残り2、3人、テロリスト共を制圧する」

 

「射殺するんですか?」

 

「いや対策本部の命令で1人は生捕りにしろと言われた。“()()()()()()”」

 

ウィルトとオールダム大尉が話している間に3人は敵が狙撃していたと思われる地点まで到着していた。

 

オールダム大尉はドアの前で2人を止める。

 

大尉は自身のブラスター・ライフルをスタンモードへ切り替えブラスター・ライフルを構えた。

 

「2人はそのままでいい、生捕りは私がやる。2人は自分が生き残ることだけを考えろ」

 

ウィルトと一等保安士は頷きオールダム大尉はドアに手をかけた。

 

既にドアのロックは破壊されておりオールダム大尉はゆっくりとドアを押し出す。

 

『こっちは制圧しました』

 

再びコムリンクから人の声が聞こえた。

 

オールダム大尉は「了解だ」と言ってコムリンクを切り2人に合図を出す。

 

「突入だ」

 

その一言と共にオールダム大尉は思いっきりドアを押し出した。

 

室内に入るとと共に中にいた3人のテロリストにそれぞれ2発ずつスタンモードのブラスター弾を撃ち出す。

 

反応が遅れたテロリストはどうすることもなくブラスター弾が直撃しその場に倒れた。

 

「制圧完了、奴らを抑えろ!」

 

あまりの素早さにウィルトと一等保安士は少し行動が遅れたが「早く!」とオールダム大尉が急かし慌てて動き始めた。

 

大尉はまずスナイパー・ライフル近くに倒れたテロリストに銃口を突きつけ腕を後ろに組み手錠をかけた。

 

「2人、手錠は持っているか」

 

「もちろんです!」

 

ウィルトはもう1人の倒れたテロリストの腕をオールダム大尉と同じように手錠をかけ拘束した。

 

2人のテロリストは完全に気絶し手錠をかけられ拘束されても何もせずにただぐったりしている。

 

その間にテロリストが狙撃していた位置に1機のジュディシアル・ガンシップが現れた。

 

『こちらジェフ8、戦闘地区に兵員の展開を完了。ブライトン大佐の命令でオールダム大尉の救援に駆け付けました』

 

「ありがとうジェフ8、早速だがアーコロジーに引き渡したい連中がいる。我々は他の戦闘に合流するがジェフ8は真っ直ぐジュディシアル・アーコロジーのSOFG管理のハンガーベイまで迎え」

 

『了解しました、ハッチを開きます』

 

ジュディシアル・ガンシップのハッチが開き中にいるジュディシアル・フォースの隊員達がオールダム大尉に敬礼した。

 

大尉は倒れたテロリストを無理やり立たせるとガンシップの方へ向かった。

 

「こいつをガンシップに乗せて本部にまで連れて行く。“()()”が上手くいけば今回の事件に関する手がかりが掴めるはずだ」

 

「はい」

 

ウィルトも同じようにテロリストを立たせオールダム大尉の後に続いた。

 

大尉は後ろを見てテロリストを起きあがらせるのに苦戦している一等保安士に声をかけた。

 

「おい、急いでくれ。この地区は我々特殊任務分隊(STS)が制圧したがまだ別の地区では戦闘が勃発している。まだ危険がいっぱいだ」

 

「はっはい!」

 

一等保安士は急いでテロリストを起き上がらせたがそこにあった僅かな異変があった。

 

一等保安士やウィルトは全く気づいていなかったがオールダム大尉は見逃さなかった。

 

「おい待て!今そいつ何かを!!」

 

「えっ?」

 

一等保安士は何も気づかぬままきょとんとした表情を浮かべていたがその直後何かが引き抜かれる音がウィルトにも聞こえた。

 

スタンモードのブラスター弾で撃たれたはずのテロリストは呂律の回らぬ様子で最後はこう呟いた。

 

…Asha…Jen'ari……

 

刹那、それは起動した。

 

テロリストが引き抜いたピンが起爆剤となりテロリストの全身についていた爆弾ベストが起爆したのだ。

 

あまりの一瞬のことでオールダム大尉もウィルトも動けなかった。

 

テロリストは一等保安士を巻き込んだまま自爆したのだ。

 

熱と光がばら撒かれた後に爆発の音が遅れてやってくる。

 

爆弾の衝撃波が広がり事前に伏せれなかった2人は立たせたテロリストごとガンシップの近くまで吹き飛ばされた。

 

後数センチズレていたら地面に墜落していた。

 

「うぐっ!」

 

「チッ!!」

 

倒れた2人は起き上がり、恐る恐るゆっくりと目を開ける。

 

そこには爆発する前の光景とは全く別のものが広がっていた。

 

瓦礫や本来あったものが散らばり、爆発箇所には大穴が開き、辺りでは炎がジリジリと燃え上がっていた。

 

そこにテロリストの姿もましてや一等保安士の姿もなかった。

 

ウィルトは手が震え怒りと悲しみで慟哭の音を上げる。

 

「ううぅ…!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

 

最後の最後にテロリストによってまた1人仲間を奪われた。

 

テロは未然に防げず部隊長は死に、民間人にも死傷者を出し挙句の果てには同じ部隊の仲間を目の前で2人も失った。

 

仲間は殺された上に本来の職務も全く果たせていなかった。

 

オールダム大尉も悔しそうな表情を浮かべ「ジェフ8、1人やられた…」とジュディシアル・ガンシップに報告した。

 

「…行くぞ」

 

オールダム大尉はウィルトの肩を軽く叩きテロリストをガンシップに乗せた。

 

嘆いている暇はまだない。

 

この後、駆けつけたジュディシアル・フォースとコルサント保安部隊の増援によってテロは鎮圧された。

 

しかしコルサント・アンダーワールドに対し仕掛けられたテロは未然に防ぐことが出来ず民間人に多くの死傷者を出した。

 

ジュディシアル並びにコルサント保安部隊の隊員にも多くの殉職者が出た。

 

アンダーワールドの拡張地区では爆発によって燃え盛る建物の煙が辺り一面に溢れ返っている。

 

そんな中、コルサントの暗黒街には虚しくサイレンの音が鳴り響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…尋問は今すぐ始めろ、きっと大佐もそう言うはずだ。今は1分1秒でも時間が惜しい」

 

「了解」

 

テロ事件がひとまず終わりオールダム大尉は部下に命令を出していた。

 

テロが起こった現場にはジュディシアル・フォースやコルサント保安部隊が駆けつけ状況証拠や戦闘の後片付けをしている。

 

不発弾はないだとか爆発物の有無や遺体の片付け。

 

それだけの人員がいようと当分終わりそうにない有様だ。

 

そんな中オールダム大尉はコンテナの上に俯いて座るウィルトの姿を目撃した。

 

彼は随分落ち込んでいる様子だ。

 

オールダム大尉も数多くの任務で仲間を失っているから気持ちはわかるつもりだ。

 

せめてもとオールダム大尉はウィルトに声をかけた。

 

「よう、フォーデン伍長…だっけ?よくやってくれた。私も1人だったら厳しかった」

 

「オールダム大尉…大尉殿のお陰で自分の命は救われました。そのことについては感謝しています」

 

「…そうか」

 

確かにあの状況下ではあの若い一等保安士よりも先にウィルトがドロイドのブラスター・ライフルで撃たれていただろう。

 

オールダム大尉がいなければ確実に致命傷を負っていた。

 

「…しかし自分以外は……」

 

「あの一等保安士については私の注意が至らなかった。悪いのは私だ」

 

「いえ、それに関しては自分も同罪です。むしろ自分は同じ部隊の仲間を3人も目の前で助けられなかった。自分の隊はどうやら自分を除いて今回の事件で“()()”してしまったようです」

 

先ほどの状況報告ではチーム・フォーンの隊員はウィルトを残して全員が殉職した。

 

その中には当然部隊長やサーエグ上等保安士やあの一等保安士も含まれている。

 

他の仲間もあの場で殺されるか他の場所に救援に向かって殉職したらしい。

 

「悔んでているのか?」

 

「はい…それと同時に怒っています。自分への至らなさと……」

 

「もう半分あるのか?」

 

ウィルトは小さく頷いた。

 

話そうかどうか迷っていたがもうこの感情は抑えきれない。

 

「今回の事件、本来なら未然に防げたはずなんです。それに最初から武器の無制限使用の許可があったらここまでの犠牲は出ていなかった」

 

「…詳しく聞かせてほしい」

 

オールダム大尉は口髭を触りながら彼に尋ねた。

 

「既に情報部は今回のことを事前に察知していた。もっと早くに我々でも保安部隊の警官でも展開して摘発していれば防げたんです。それがよく分からない隊律や法、組織的な連携とかに阻まれて今日まで遅れた。しかも役人や上層部が我々の出動に難色を示しさらに遅れたんです。しかもジェダイも派遣出来なかった」

 

「せめて全部隊が最初からブラスター・ライフルだけでも使えていたら…」とウィルトは悔んだ。

 

こんな古いテロリストの武器なんて使わずに済んだだろうし部隊長だって救えたはずだ。

 

オールダム大尉はウィルトの話を聞き唸り声を上げた。

 

「…確かにな、共和国は1,000年平和だった。だが平和な故、有事に備えるのではなく有事を遠ざける努力ばかり行なってきた。それが間違いだとは言わない、だが今の共和国は確実にそれが良くない方向に向かっていることだけは確かだ」

 

「大尉に言う訳じゃありませんが今のままでは我々は誰も守れませんし何の役にも立ちませんよ。我々は変革する必要がある」

 

ウィルトは握り拳を作りそう断言した。

 

オールダム大尉もウィルトの気持ちは痛いほど理解出来るが今彼に賛同する気はない。

 

大尉は特殊部隊のスペシャリストとしてあらゆる思想や感情を抑制しコントロールしてきた。

 

国家に忠実な、文句一つ言わない存在として与えられた任務をこなし続けてきた。

 

それ故に蓄積された不満は凝り固まり、爆発することはなくともウィルト以上に溜まっているが。

 

「君の意見は今回の事件で広く聞き入れられるかもしれないな。それでは、私も職務がある」

 

大尉はウィルトに敬礼しウィルトも敬礼を返した。

 

あの青年はまだ若いが捜査局にしては腕がいいし頭も回る。

 

あの激戦地であそこまで敵を倒し生き延びられたのは本人の実力故だろう。

 

もしかすると“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「大尉!」

 

オールダム大尉の目の前に1人の女性が立っていた。

 

彼女は大尉の直属の上官の副官であるフィップス中尉だ。

 

中尉は律儀にオールダム大尉に敬礼していた。

 

「ブライトン大佐が大尉をお呼びです。“ダガーフォース”全部隊長に召集が掛かっています」

 

「分かったすぐ行こう。それと中尉、これは私からも頼むんだが君からもひとつ推薦してほしいことがある」

 

「何でしょうか」

 

「療養中のフィポットの代わりに補充の隊員を私の分隊に1名入れたい。ただ手続きが厄介なんで大佐の権限が必要になる」

 

「一体誰です?大尉が自分からそんなこと言うなんて珍しいと思うんですが…」

 

実際珍しいことだろう。

 

オールダム大尉自身もどこか不思議な感覚を味わっていた。

 

「ジュディシアル部門犯罪捜査局警備部所属…“ウィルト・フォーデン”という隊員だ。今回の事件、きっと彼が必要になってくる」

 

 

つづく



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ケイト・ニモーディア極秘作戦

「ジュディシアル・フォースの創設期で最も有名な指揮官といえばルーン・バンジャール提督がまず一番最初に挙げられるだろう。バンジャールはジュディシアル・フォース最初期の提督の1人で新シス戦争後の統一戦役において大きな戦果を挙げた。またバンジャールの後継者達も統一戦役で大きな勝利を収め現在の銀河共和国の礎を築いたのである」
-ヴォレン・ナル共同著書 ジュディシアル・フォースの一千年の歴史より抜粋-


-銀河共和国領 首都惑星コルサント ジュディシアル・プラザ ジュディシアル・アーコロジー特殊作戦集団司令部-

コルサントの上層階、ジュディシアル・プラザという場所にジュディシアル部門の本部であるジュディシアル・アーコロジーの建物が存在していた。

 

ここだけでジュディシアル部門、ジュディシアル・フォース、犯罪捜査局、共和国保安部隊などジュディシアルに関わる組織が一挙に集められている。

 

コルサント・アンダーワールドのテロ事件から数日が過ぎウィルトは何故かジュディシアル・アーコロジーの特殊作戦集団の司令室に呼び出された。

 

普段は犯罪捜査局か保安部隊にしかいたことがない為ここはアーコロジーの中でも初めて来る場所だ。

 

2人のジュディシアル・フォースの隊員に連れられ特殊作戦司令部案内される。

 

「ブライトン大佐の執務室はこちらです。どうぞ」

 

隊員の1人がドアのパスコードキーを差し込み執務室のドアを開錠した。

 

ウィルトは隊員に頭を下げ執務室の中へ入っていった。

 

大佐の執務室は大体他のアーコロジーの部屋と作りは一緒で多くの書類や資料が棚に収まっており、室内にはテーブル型のホロプロジェクターが存在していた。

 

中にはブライトン大佐の他にテロ事件で世話になったオールダム大尉もいた。

 

ウィルトは2人に敬礼する。

 

「ウィルト・フォーデン二等保安長です」

 

「おお、来たか」

 

オールダム大尉は敬礼を軽く返した。

 

「よく来た、私がケイズ・ブライトン大佐だ。特殊作戦集団で特殊部隊の司令官をやっている」

 

「ブライトン大佐は私のように以前は特殊任務分隊など前線での戦闘経験もある司令官だ。そこらの柔な世襲制の連中とは違う」

 

ジュディシアル・フォースや惑星防衛軍関連の軍事組織に入ろうとする者はかなり限られている。

 

それは愛国心や誰かを守ろうという気持ちが好きなのか、あるいはその軍が好きなのか、食い扶持に困り稼ぎ場所を求めて来たのか、代々軍人になる家系なのか。

 

特に一番最後の一族はよく世襲軍族(Generationals)と呼ばれ軍の幹部階級に必ず何人かいるのだ。

 

例えばホルト家、タッグ家、ワーミス家、オッゼル家など。

 

だがブライトン大佐はそういう系列の人間ではなく本来はデノン生まれの中流家庭出身である。

 

そんなブライトン大佐がジュディシアル・フォースの特殊作戦集団でここまで昇進出来たのは単に経験と自らの技量によってだ。

 

数多くの戦いに参加し功績を上げてきた。

 

オールダム大尉と知り合ったのもその1つの激戦の中でだ。

 

「まあ他人より修羅場が多かっただけだ。さて、フォーデン二等保安長、まずは昇進おめでとう。伍長から二等保安長へ昇進したそうだが」

 

「ええ、テロ事件での対応を受けてだそうです。勲章も貰いましたよ、まあどれを合わせても失った仲間の埋め合わせにはならないと思いますが」

 

「それはそうだ、死者に対する埋め合わせなどこの世には存在しない。死者に対する責任を果たしても、だ」

 

オールダム大尉も深く頷いている。

 

彼も初めてブライトン大佐と出会った時同じような状況だったからウィルトの気持ちがよく分かる。

 

ブライトン大佐だって少なからず仲間や同期を失っている。

 

同室の友人が遠く離れたミッド・リムの地で戦死した、或いは訓練中同じ部隊だった同期が同じ部隊にいる中で戦死した。

 

この仕事をやっている以上は切っても切り離せない問題だ。

 

「それに君の昇進や勲章は死者に対しての評価ではなく生きている君に対しての評価だ。殉職した仲間の死を悼むのはまた別、君は優れた隊員であると評価されたのだ」

 

「だから特殊作戦集団に?私の所属はあくまで犯罪捜査局の警備部の方ですよ?」

 

「だが君の才能は圧倒的“()()()()”だ。それに我々なら多少のしがらみからは解放されるし“仇は討てるぞ”」

 

オールダム大尉はウィルトの才能を評価すると共に彼の心を動かすスイッチを見事に押した。

 

今の一言でウィルトの瞳がガラリと変わった。

 

そこへブライトン大佐が確定事項である事務的なことをウィルトに伝えた。

 

「君は本日より我々特殊作戦集団第84特殊部隊、通称“ダガーフォース”の部隊に転属となる。所属はもちろんフォールダム大尉の特殊任務分隊、そして早速最初の仕事だ」

 

ブライトン大佐は書類式のホログラムを提示しウィルトに見せた。

 

「先日のテロ事件、流石に共和国政府も事態を重く見たのか調査を進めた。2つの情報部が掴んだ情報によるとテロ組織の名前は“銀河救済団”、元々死を崇拝するカルト集団セントラル・アイソプターから派生した組織で幾つかのアウター・リムのはぐれ傭兵団と結託する事でテロ組織として拡大していったらしい」

 

「それはどの情報部の調べたものですか?」

 

「当然共和国情報部だ。連中の狙いは一貫して共和国に対する攻撃、無論我々はこの犯罪行為を許す訳にはいかん。既にテロ組織のアジトは幾つか発見した。我々に与えられた任務はこのアジトの撃滅だ。しかも我々の部隊は最も厄介な場所を割り当てられた」

 

ホログラムは今度星図に変わり、星図はある場所を映し出した。

 

そのまま星図はとある惑星に変化した。

 

「我々はケイト・ニモーディアのテロ組織アジトに襲撃をかける。ここのテロ組織アジトを強襲しその戦力を徹底的に叩き潰し可能であれば更なる情報を手に入れる」

 

ケイト・ニモーディア、コロニーズのケラー宙域に位置するこの惑星は銀河共和国領であるのだが少し特殊な位置付けとなっていた。

 

この惑星は通商連合(Trade Federation)の資産惑星、つまり植民地領域である。

 

その為あくまで管理しているのは通商連合の特にニモーディアン達であり共和国領であっても共和国の意思を通すには何十、何百、何千もの手続きが必要となるのだ。

 

しかし商売上手で強欲なニモーディアン達相手にこの面倒な手続きがそう易々と上手く通るはずがない。

 

「明日にでもテロ攻撃が再開するかもしれないこの状況で手続きを待っている暇はない。既にテロ襲撃の警戒という名目でコルベット艦を一隻ケイト・ニモーディアに展開出来る事になっている。君とオールダム大尉の分隊はコルベット艦と共にケイト・ニモーディア向かい、目標を叩き潰せ。なおジュディシアルの装備は使うことが出来ない為代わりはこちらで用意する、その為“手段は選ばんでいい”」

 

流石にジュディシアル・フォースをケイト・ニモーディアの惑星内に投入する事は出来ない為あくまで特殊任務分隊を“()()()()”として送り込むのが限界のようだ。

 

「しかしそれは共和国法に反しているのでは…?」

 

ウィルトは恐る恐るブライトン大佐に尋ねた。

 

ブライトン大佐は慣れた口調で「そうかもな」と答えた。

 

「だが我々は常に“()()()()()()”だ。違反のギリギリを通って任務をこなす、その為共和国からは容易に切り落とされる。君が今いるのはそういう組織だ、同じジュディシアルの中でも大分違うだろう?」

 

「ええ…ですが同じジュディシアルですからやってる事は変わりないと今、自分は思い直しました。我々の職務はどこも変わらず、人々を守り秩序を維持すること」

 

ブライトン大佐はウィルトの一言でニヒルな笑みを浮かべた。

 

なんだ、思った以上に芯がしっかりしていて中々折れそうにないじゃないか。

 

ハルドはいい奴を引き抜いてきた、やはり彼には人を見る才能がある。

 

この任務、必ず遂行させるだろう。

 

「そう解釈してくれると我々としても嬉しい。任務の決行は明日、既に用意は完了しているから君はゆっくり休め。以上だ、戻ってくれて構わない」

 

「はい!」

 

ウィルトは決意固く敬礼し執務室を後にした。

 

執務室のドアが完全に閉まるのを確認するとブライトン大佐は椅子に深く寄りかかった。

 

「ハルド、君はまたいい人材を拾ってきたな。彼がいるなら今回の任務も問題なさそうだ」

 

「大佐がそう思っているなら上手くいくでしょうな。しかし、私としてはひとつ気になる点が」

 

ブライトン大佐はオールダム大尉の方に目線を寄せながら「一体なんだ」と彼の言う気になる点を尋ねた。

 

大佐はオールダム大尉に全幅の信頼を置いている、その為彼が言う気になる点とは間違いなく重要であると思っていた。

 

「あのテロリスト達が使っているブラスターの中にナブーのCR-2ブラスター・ピストルがありました」

 

「王室保安軍の標準的な装備だな、テロリストが持っているのは珍しい。基本あの手の連中が手に出来るのはボイラー・ライフルかワスプか払い下げ品のA280程度だ」

 

「ええ、ですから余計に……あそこのブラスターの保管はかなり厳重になっていたはずですが」

 

「確かにそうだな……ではこちらでも調べてみよう、君は安心して任務に」

 

オールダム大尉は微笑みと共に敬礼しウィルトと同じように執務室を去った。

 

明日、新たな戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

-銀河共和国領 コロニーズ ケラー宙域 ケイト・ニモーディア星系 通商連合資産惑星ケイト・ニモーディア-

ジュディシアル・フォースの艦船は赤を基調とした船体色で必ずそこには白いラインが引かれている。

 

このCR70コルベット“リライアンスⅢ”も同様で外部に対し『ジュディシアル・フォースの軍艦である』ということを知らしめていた。

 

CR70コルベットはCR90コルベットよりも旧型ではあるが“リライアンスⅢ”は新しい世代の軍艦にも負けず任務を遂行していた。

 

このコルベット艦はCR90と同様に幾つかのドッキング装置がついておりそのうちの一つにサブライト・プロダクト社が開発したWTK-85A恒星間輸送船がドッキングしていた。

 

輸送船の方はあえてジュディシアル・フォースの船体カラーを施されておらず無機質な灰色の装甲が目立っていた。

 

だがこの輸送船が今回の任務でウィルトやオールダム大尉らの移動手段となる。

 

『CR70“リライアンスⅢ”よりアンノウン・トランスポートへ、まもなくドッキングを解除します。ご武運をお祈りいたします』

 

「“リライアンスⅢ”、了解した。すぐに戻るからいつでも離脱出来るよう準備を頼むぞ」

 

『お待ちしております。それでは、ドッキング解除』

 

リライアンスⅢ”とWTK-85輸送船のドッキングが解除され輸送船は2基のイオン・エンジンでケイト・ニモーディアに向かって航行を始めた。

 

この時速を維持すればケイト・ニモーディアまで15分も掛からないだろう。

 

ケイト・ニモーディアは通商連合の本部がある為当然通商連合の自衛艦隊も存在し地上には通商連合の自衛バトル・ドロイド部隊と法執行機関のパースワールド・セキュリティも存在する。

 

パースワールド・セキュリティには事前に話は通しているが問題は通商連合だ。

 

時間がなくこちら側の任務を理解しているのは自衛艦隊の一部の密入国警備部隊だけだ。

 

それ以外、特に地上のバトル・ドロイド部隊に見つかれば厄介な事になる。

 

「取り敢えず、後15分あればケイト・二モーディアに着くぞ。それまでに用意しておけ」

 

「はい」

 

「了解、なあ新入り、頼むからお前は怪我してくれんなよ?お前までいなくなったら俺と隊長の間が気まずくなる」

 

このデュロスの男、ブラス・ヴェルクァ・フラウト准尉は冗談混じりにウィルトにそう呟いた。

 

彼は元々セクター・レンジャーと呼ばれる特殊警察部隊に所属しておりオールダム大尉と出会ったのはある犯罪組織への潜入調査中のことだと本人は言っていた。

 

それからジュディシアル・フォースにスカウトされ長い間オールダム大尉の特殊任務分隊で共に戦っていた。

 

本来ならもう1人、アルツェル・フィポット一等保安長というトワイレックの男性隊員がいたはずなのだがある任務で重傷を負い今は入院中だそうだ。

 

その為ウィルトはフィポット一等保安長の代わりという事になる。

 

「おいおいそれはどういう意味だ?まるで私がパワハラ魔神みたいじゃないか」

 

「ハッハッハ、いやある面ではそうかもしれませんよ?」

 

フラウト准尉は笑い声を浮かべながらそう話した。

 

フラウト准尉はいつもスナイパー・ライフルを使用するのだが今回は潜入作戦ということでより近距離のKA74ブラスター・ライフルを持っていた。

 

一方ウィルトとオールダム大尉は彼らにとっては使い慣れたA280ブラスター・ライフルを装備しており近接武器としてDX-13ブラスター・ピストルをホルスターに入れている。

 

「全く…じゃあ作戦を説明する」

 

その一言でフラウト准尉の瞳はガラッと変わった。

 

戦う兵士の瞳、そんな感じだ。

 

「連中のアジトは橋上都市の“()()()”の部分に当たる岩山の中に作られているとされている。我々はここに潜入し手当たり次第テロリストどもを攻撃する、だが一つ重要なのはアジトに存在する司令部の存在だ。ここにあるデータバンクや僅かな情報は今後の対テロ戦のためにも必要になってくる、ここはどうしても無傷で抑えたい」

 

「つまりテロリストは皆殺しにしつつアジトは破壊するが司令部の情報だけは無傷で確保しろ、そういうとですね?」

 

「その通りだ、尤も我々の第一目標はテロリストの掃討にある為一番は連中に大打撃を与える事だと認識してくれて構わない。連中は我々に手段を選ばなかった、ならば我々も連中に手段を選ぶ必要はない」

 

「当然です」

 

目には眼を、という言葉通り彼らにはそれ相応の罰を受けてもらう必要がある。

 

無論共和国法の範囲内でだが。

 

「それとこれは他のアジトにあったものらしいが内部に簡易的なバトル・ドロイドの製造工場があったらしい。連中、ドロイドを買うだけじゃなくてコピー品まで作っている可能性がある」

 

「だとすると相当の規模ですよ」

 

「チッ!バクトイドめ、作りやすいドロイドを兵器化するからこうなるんだ」

 

ウィルトは驚き少し震えたがフラウト准尉は思いっきり苛立ちを口にした。

 

確かにバトル・ドロイドが純粋な警備に回されていることもあったがそれ以上に犯罪者やギャングの手先になっていることの方が彼らの経験では多かった。

 

「無論ここも破壊する、だが用心しておいてくれ」

 

2人は頷きオールダム大尉は「もう軌道上か」と輸送船のブリッジの方へ戻って行った。

 

輸送船はケイト・二モーディアの軌道上まで辿り着き眼前には密入国警備部隊のパトロール艦とルクレハルク級LH-3210貨物船が広がっていた。

 

ルクレハルク級のブリッジから輸送船に向けて通信が入る。

 

『こちら密入国警備隊“ラナサーク”、パスポート及び申請書類を提示して下さい』

 

「分かりました、今転送します」

 

コックピットに戻ったオールダム大尉が密入国警備部隊の相手をしている。

 

その間に2人は輸送船のビューポートからルクレハルク級の様子を眺めていた。

 

「しかしあの貨物船はいつ見ても船に見えないな、昔は本気で宇宙ステーションだと思っていた」

 

フラウト准尉はルクレハルク級を眺めながらそう呟いた。

 

確かにあのコア・シップに接続したリング状の船体はフォンドアの宇宙ステーションなどによく似ている。

 

全長も3,000メートル以上あるので余計に宇宙ステーションに見えてくるだろう。

 

「実はうちの地元にも来たことがあるんですよあの船、商業だか輸送だかの為に」

 

「出身、タナブだっけ?それならあるか。俺はまあ見ての通りデュロだからあんまりないんだわ」

 

「自分の同期にもデュロ出身のデュロスがいましたよ」

 

2人の会話はいつの間には自然と弾んでいた。

 

フラウト准尉は同郷の同族のことが気になったらしい。

 

「へえ、そいつは俺のように狙撃得意だった?」

 

「いや全然、むしろ格闘とか近接戦の方が得意そうでした」

 

フラウト准尉は苦笑を浮かべた。

 

同じデュロ出身のデュロスでも戦い方は全く正反対だった。

 

「いやまあデュロスも十人十色ってことなんだろうが…そいつの所属は?」

 

「共和国保安部隊の機動隊です、まあ一番職としては会ってそうなんですが」

 

2人が話している間に警備隊との手続きが済んだようで輸送船はケイト・ニモーディアへと突入した。

 

大気圏を越え雲間を抜けるとそこには岩山に連なる橋上都市がいくつも存在する美しい“()()()()()()”が見えてきた。

 

橋上都市の中を見てみるとそこにはどれもコルサントとは多少違うも巨大なビル街が立ち並んでいた。

 

しかもコルサント以上に洗礼された美しさや機能美を感じさせるビル街だ。

 

どれもニモーディアンの資本家達が大金を使って生み出したというのがよく伝わる。

 

上空からでもその豪勢さはよく伝わった。

 

「美しい街ですね、出来れば観光で来たかった」

 

フラウト准尉はこれから起こる任務に皮肉を込めてこの橋上都市の感想を述べた。

 

「そいつは休暇を取ってやってくれ」とコックピットから戻ってきたオールダム大尉はフラウト准尉に付け加えた。

 

「むしろ我々はこっちに行くんじゃなくてこれがついてる地味な山の方に行くんだ。しかもどうせ穴倉に籠る」

 

この手のアジトは大抵岩山を掘り進めて作られている為半ば洞窟になっている。

 

そこへ潜って戦うのだから橋上都市で優雅に寛ぐのとはまるで真逆の任務だ。

 

輸送船は静かに岩山に停泊しハッチが開いた。

 

「よし、全員行くぞ」

 

昇降ランプから3人は戦闘態勢のまま降りて周囲を警戒する。

 

見たところ敵なし、安全を確認したオールダム大尉は前進を合図し2人を引き連れて輸送船から離れた。

 

ある程度行った所でオールダム大尉は突然止まれとハンドサインを出した。

 

3人は近くの岩陰に身を潜める。

 

ウィルトは岩陰の間から何かが出てくるのを目撃した。

 

「恐らくテロリストの見張りだろう。持ってる武器は多分E-5の改造型だな、グリップに耐熱装置が付いてる」

 

早速テロリストに遭遇した。

 

テロリストは動きやすい作業着のような格好であったが顔に布を巻き気味の悪い2つの赤レンズの付いたゴーグルをかけていた。

 

「ちょうどいい、奴にアジトを案内して貰おう」

 

見張り番のテロリストは周囲を見回すとトボトボと来た道を戻り始めた。

 

3人はテロリストをよく観察しオールダム大尉の合図で見張り番の跡を付け始めた。

 

いつでも応戦出来るようにブラスター・ライフルを構えゆっくりと近づく。

 

3人のブラスターの先端にはサイレンサーがついており仮に発砲しても音はかき消される。

 

時折周囲に散開しつつ見張り番の跡を追う。

 

見張り番は少し小高い丘のところでカモフラージュ用の緑色の布を潜り中へと入った。

 

ここがアジトの出入り口だ。

 

「アジトの出入り口を発見しましたがどうしますか、突入するにしても中には十数人いますよきっと」

 

フラウト准尉が判断を仰ぐ中オールダム大尉は特殊なマイクロバイノキュラーで中の様子を覗いた。

 

確かにフラウト准尉の言う通り声明反応が10いくつある。

 

無鉄砲に突撃しては逆にこちらが蜂の巣だ。

 

「まず敵を制圧してそこからトドメを刺す。フォーデン、合図したら中にスモークを撃ち込め。それと同時に私もショック・グレネードを内部に投擲する。動けなくなった所を全員で襲撃」

 

「了解しました」

 

ウィルトはオールダム大尉からスモーク弾と発射装置を受け取り自身のA280に取り付けた。

 

その間にフラウト准尉とオールダム大尉はアジトの近くまで接近し始めた。

 

ブラスター・ライフルを構え2人がアジトに近づくまで待機する。

 

オールダム大尉とフラウト准尉は静かに素早くアジトの入り口付近に接近し遮蔽物に隠れながら出入り口ギリギリまで近づいた。

 

ポーチからショック・グレネードを取り出しウィルトに合図する。

 

その合図と共にウィルトは発射装置のトリガーに指を掛けスモーク弾を放った。

 

スモーク弾は出入り口を突っ切り、かなり奥の方で爆発し周囲に煙幕を立ち込ませた。

 

それと同時にオールダム大尉もグレネードを起動してアジトの中へ放り込む。

 

スモーク弾が視界を奪ったその隙にショック・グレネードは周囲に電撃を放ち中にいた全員を感電させた。

 

なんの対策もしていない中のテロリスト達は攻撃を喰らい痺れその場に倒れた。

 

ショック・グレネードの効果が切れるとオールダム大尉は素早くハンドサインを出した。

 

それを見たウィルトは急いで崖を滑り降り先に突入した2人に続いてテロリストのアジトへ入った。

 

先に突入した2人はショック・グレネードで倒れたテロリスト達を確実に始末する為に脳天にブラスター弾を撃ち込んでいた。

 

入りギリ範囲外だった近くの門番2人がオールダム大尉らに襲い掛かったが特殊任務分隊の精鋭2人の素早い射撃を受け即座に抹殺された。

 

「制圧完了、敵影なし」

 

「すごい、もう…」

 

「このまま一気に下まで降りるぞ、目標の司令部の前に一つ確認しておきたいところがある」

 

ウィルトが驚く間も無くオールダム大尉はブラスター・ライフルを構え動き出した。

 

一度攻撃を始めたら後は時間との勝負だ。

 

敵がこの状況に気づく前に出来る限り殲滅する。

 

3人は階段を降りてアジトの奥へと向かった。

 

階段にも武装したテロリストがいたがオールダム大尉がすぐにバイブロ=ナイフで始末した。

 

「待て、奥に敵が。10人、全員武装している」

 

オールダム大尉は3人を止め状況を報告した。

 

「ですがこの通路を通らないと噂の目標には…」

 

「ああ、それに最初から全員始末するつもりだ。だが3人で行っても銃撃戦になる、だから近接戦闘だ」

 

オールダム大尉は再びバイブロ=ナイフを取り出し手に持った。

 

その意図を理解しフラウト准尉もバトンを用意しブラスター・ピストルを引き抜いた。

 

「フォーデン、君はピストルで。確実に1人ずつ倒す」

 

「了解」

 

オールダム大尉は先行し反対側の曲がり角に飛び入った。

 

そのままゆっくりまず1人目のテロリストに近づき口を手で封じると共に喉をナイフで掻っ切った。

 

ウィルトとフラウト准尉も動き出す。

 

まず准尉がテロリストの1人を後頭部から思いっきりバトンで殴りつけて倒れた所を首の骨を折って確実に仕留めた。

 

本人は狙撃が得意とか言っていたが格闘も十分強かった。

 

オールダム大尉も再び動き出した。

 

まず近くのテロリストの首を刎ねると今度はオールダム大尉に背を向けて何か配線の調子を見ているテロリストをブラスター・ピストルで撃ち抜いた。

 

その様子を見ていた1人のテロリストがオールダム大尉にブラスター・ライフルの銃口を向けたが速やかに近くにいたウィルトに射殺された。

 

これで5人倒し残りは半分となった。

 

オールダム大尉は反対側にいるウィルトとフラウト准尉にアイサインを送りブラスター・ライフルを構えるよう指示を出した。

 

大尉もブラスター・ピストルをホルスターにしまい、A280を構える。

 

「さて、狙いは…!」

 

オールダム大尉は自らの持っていたバイブロ=ナイフを一番遠くのテロリストに投げつけた。

 

バイブロ=ナイフは見事にテロリストの脳天に突き刺さり一撃で相手を即死させた。

 

しかも周りのテロリスト達はその様子に釘付けになっておりこちらへ向けられる注意は殆どなかった。

 

「今だ!」

 

3人は一斉にブラスター・ライフルの引き金を引き残りの3人のテロリストをまとめて射殺した。

 

声を上げる暇もなくテロリストはブラスター弾の前に斃れ見張はこれで誰もいなくなった。

 

「フラウト、ドアを開けてくれ。その間に2人で警戒を」

 

オールダム大尉はテロリストの頭に刺さったナイフを抜きフラウト准尉に命令した。

 

「了解」

 

フラウト准尉はドアの端末に特殊なソケットを差し込み無理やりドアを開錠した。

 

本来こう言う役目はウィルトの前任者がやることなのだが残念ながら現在は入院中だ。

 

ドアが開錠した瞬間、奥の通路には当然のように奥の通路にも敵テロリストが4、5人いた。

 

「なんだ!」

 

「敵だ!!」

 

テロリスト達は手に持っている武器で応戦しようとしたが既に構えていたウィルトとオールダム大尉のブラスター・ライフルが火を吹いた。

 

1人、2人と確実に敵兵を殺害し最後はフラウト准尉も加わったことにより通路の敵は始末された。

 

オールダム大尉は急いで奥の通路に飛び込みドアというドア手当たり次第にブラスター弾を撃ち込んだ。

 

もしかしたらまだ中に敵テロリストがいて待ち構えているかもしれない。

 

「なんだこいつら!!」

 

「クソッ!パースワールド・セキュリティか!?うわっ!!」

 

曲がり角から偶々テロリストがやってきたがすぐにウィルトとフラウト准尉が返り討ちにした。

 

「今ので大体31人か」

 

フラウト准尉は今まで倒してきた敵テロリストの数を口に出した。

 

このアジト、生活や訓練、武器の修理や製造、独自のハンガーベイを含めているとなるとかなり大規模なものと考えられる。

 

その為敵は多くて120人以上、少なくても90人は下回らないだろう。

 

おそらくかなりの仕事をドロイドに任せていると思うがそれでも戦闘員や整備士、パイロット、指導者を合わせればそれくらい行く。

 

そして恐らく、連中が完全に彼らに気付けば“アレ”が出てくるだろう。

 

「急がないと、このままじゃあバトル・ドロイドも出てきて手に負えないことに…!」

 

「ああ…そのことなんだが…どうやら“()()()()”らしい」

 

オールダム大尉はブラスター・ライフルを放ちながら2人にそう告げた。

 

2人が大尉に続いて大尉の入っていった部屋の中に入るとそこには驚きの光景が広がっていた。

 

やはり本当にあったのだ、“()()()()()()()()()()()()()()”。

 

「これが……連中のドロイド工場…!?」

 

施設を見るなりウィルトは動揺を隠せずにいた。

 

確かに本場のバクトイド社の工場なんかに比べればちゃちで原始的に見えるだろう。

 

しかしそれでも、所詮テロリストでしかない連中がバトル・ドロイドの製造工場を持っているのは驚きだった。

 

「普段使用しないバトル・ドロイドの保管と修理なんかもここでやってるみたいですね……テロリスト風情にしてはよく頑張った方だ」

 

奥に行ってみると使われていないスリープ状態のOOMバトル・ドロイドが静かに並んでいた。

 

「ああ、だが所詮テロリストだな。このバトル・ドロイドを見てみろ。作られてるのは確かにOOMシリーズにそっくりだが本家よりも更に作りが荒い。デッドコピーと言ってもいいだろう」

 

オールダム大尉はバトル・ドロイドを眺めながらそう呟いた。

 

製造中のバトル・ドロイドは全て若干OOMシリーズ・バトル・ドロイドに似てはいるが節々の形状が違う。

 

それにジャンク品や安物の機器を使用しているせいか1体1体造りが違っており同じ規格のものをまるで使っていない。

 

性能も悪そうだし整備性も悪そうだ。

 

バトル・ドロイドの弱点ばかり強化され逆に強みが全て消し去られている。

 

テロリストの小さな工場ではそれほど数も多く製造出来ないだろう。

 

「隊長!こっちの倉庫は武器庫っぽいです!大量の武器類があります!」

 

オールダム大尉とウィルトは奥の方に行ったフラウト准尉の下に向かった。

 

彼の言う通り、倉庫には様々なブラスター・ライフルや爆弾類が保管されている。

 

「凄い量の爆薬ですが、一体こんなの何に使うんですかね」

 

フラウト准尉は爆弾類を眺めながらそう呟いた。

 

恐らくこれもテロの為だとは思うがどこで使うものなのか詳細は定かではない。

 

「さあな、だがこれから使う場所は決まっている。よし、全部吹き飛ばすぞ」

 

「隊長…まさか…」

 

フラウト准尉は不安気な表情を浮かべ首を振っていたがオールダム大尉はその逆だった。

 

ニコニコした顔で「ああ、そのまさかだ」と断言した。

 

「一体何をやるんですか?」

 

「それは決まっているさ二等保安長、ここにある爆弾を全てこのアジトに取り付けて爆発させる。連中は連中の爆弾で壊滅してもらう、その方がこっちも弾が無駄にならなくていい」

 

オールダム大尉は武器庫の爆弾を手に取り早速バトル・ドロイドや壁の端につけ始めた。

 

「まず手始めにここを吹き飛ばす、2人も手伝ってくれ」

 

「はあああ…了解…」

 

ウィルトもフラウト大尉も武器を受け取ると同じように均等に爆弾を取り付け始めた。

 

「ここから持てるだけの爆薬を持っていくぞ。このアジト全体に爆弾を設置する」

 

爆弾を付け終わるとオールダム大尉は自らのバックに爆弾を詰め込み始めた。

 

完全にこのアジトを吹き飛ばすつもりでいる。

 

「全く、何でもかんでも吹き飛ばそうとするんだから…」

 

「ですが連中にとって相応しい罰です。アンダーワールドで爆発テロを行おうとしたんだ、自分らがその爆発に巻き込まれて死ぬことぐらい覚悟の上でやっているはず。そうでなければおかしい」

 

「だがなあ…」

 

「とにかくやるぞ、私が敵を倒す。その隙に2人は爆弾を設置しろ」

 

オールダム大尉は2人に命令しドロイド製造所を後にした。

 

それから2人は通路という通路や制圧した個室という個室に爆弾を取り付けた。

 

幸いにも敵が保有していた爆弾の数は3人掛でも持ち切れない量であり設置途中に爆弾がなくなったということはなかった。

 

その間にもオールダム大尉は目に入った敵を片っ端からブラスター・ライフルで射殺していった。

 

テロリスト達は驚くべきことにまだこちらには全く気づいていなかった。

 

しかしその割には殆どのテロリストが本来非武装であってもおかしくない奴まで全員が何かしらのブラスターや武器を持って武装しているのだ。

 

まるで何かに備えていたようだった。

 

「連中、なんか妙に武装してますね。どっかへ攻撃にでも行くつもりだったんでしょうか」

 

フラウト准尉はオールダム大尉に疑問を投げかけた。

 

大尉ほどではないがベテランの特殊部隊員であるフラウト准尉もこの疑問に気づいていたようだ。

 

「それにしては武器庫が手薄だったしバトル・ドロイドの1体も起動していない。不自然だと思わないか」

 

「確かに、それに彼らは武装していると言っても軽装備です。殆どの奴がせいぜいブラスター・ピストルしか持っていない」

 

ウィルトは斃れたテロリストの装備を一瞥しながらそう付け加えた。

 

元々普段からブラスター・ライフルを持っていそうな戦闘員もせいぜいブラスター・ライフルにコムリンクと本当にこじんまりした装備である。

 

「理由は分からんがなんとなく不気味だな。早いところ司令室を制圧するぞ」

 

「了解」

 

「了解」

 

爆弾の設置は一旦取り止め、2人はブラスター・ライフルに持ち替えた。

 

足音を立てずに今度は階段を登り上へと登った。

 

早速階段を登り切った瞬間テロリストと遭遇した為オールダム大尉が素早く撃ち殺す。

 

殺されたテロリストの奥にも2人戦闘員ががいたがこちらはウィルトとフラウト准尉が素早く始末し更に奥から来たテロリスト達も3人の早撃ちの前に全滅した。

 

「クリア」

 

オールダム大尉を先頭に再び一行は進み続ける。

 

オールダム大尉とフラウト准尉は2人とも全く足音を立てずに進み、まるで息をするかのように焦り一つない様子でテロリストを始末していった。

 

音といえばせいぜい、サイレンサーを通したブラスターの音と敵が地面に倒れる音だろう。

 

既に何人ものテロリストがその僅かな音の前に斃れていた。

 

ウィルトも出来る限り気にかけているがそれでもまだ2人の域には達していない。

 

司令室前の通路を護衛していたテロリストはようやく応戦を始めたがここまで侵入を許してしまった時点でもう遅いのだ。

 

3人の素早く正確な射撃は警備のテロリストの一斉射撃にも動じず、テロリスト達は1人ずつ始末され弾痕の穴を身体のどこかに受けた。

 

最後の1人を倒すまで2分も掛からなかっただろう。

 

倒されたテロリスト達の死体の上をジュディシアル・フォースの特殊任務分隊は進んだ。

 

「ここだ」

 

オールダム大尉は2人を近くに寄せて司令室のドアの近くに寄った。

 

大尉は爆弾を一つ受け取り数秒で爆発するようにセットしてドアの取り付けた。

 

少し離れた瞬間にドアは吹き飛び黒い煙が辺りに立ち込めた。

 

「なっなんだ!?敵襲か!?」

 

「パースワールド・セキュリティか!?それとも通商連合の連中か!?」

 

「警備員は何をしてるんだ!!」

 

中にいたアジトの幹部達で当然皆、困惑の声と怒声を上げた。

 

そこへ武装した3人の特殊任務分隊のエリート達が中に入ってきた。

 

彼ら3人、容赦なく非武装のテロリスト幹部らにブラスター弾をお見舞いした。

 

中には警備ということでブラスター・ライフルだけ背負っているテロリストもいたしブラスターを手に取って戦おうとするアジトの幹部もいたがそいつらもすぐに射殺した。

 

銃声と断末魔の叫びが室内に響き、司令室にいた7人の幹部と2人の戦闘員は一瞬のうちに全員が抹殺された。

 

「司令室を制圧完了、情報を今のうちに抜き取れ。ウィルト、お前は外の警戒を頼む」

 

「了解!!」

 

ウィルトは警備に向かい2人はその間に司令室の情報を抜き取り始めた。

 

「この身なりからしてそこらの雑兵とは全く違う、こいつら間違いなく幹部だ。だとしたらここに集まっていたのは恐らく幹部の会議の可能性がある、情報は必ず抜き取れ」

 

「了解…音声議事録なんかもきっと役に立ちますからね」

 

「ああ、その間に私は…」

 

オールダム大尉はホロテーブルに置いてあったタブレット端末を手に取った。

 

そこには会議の議題と新たな攻撃目標として“()()()()()()()()”というものが記されていた。

 

内容はこのケイト・ニモーディアの橋上都市を爆破して崩落させようという計画だった。

 

確かにこのアジトの爆弾であればこの岩山を吹き飛ばすのは無理でも橋上都市の一つを断ち切るのは容易い。

 

「なるほど…そのための爆薬か。ならば余計にここで消費しなくてはな」

 

「隊長、データの移送完了しました」

 

フラウト准尉はホロテーブルや近くのコンソールに挿していたメモリーを抜き取りバックの中にしまった。

 

これでアジトの通信記録や情報は手に入った。

 

「よくやった、フラウト。フォーデン、私のバックにある残った爆薬を全てこの場所にセットしろ。それが終わったら離脱する、任務は大成功だ」

 

「了解!」

 

ウィルトは再び爆弾を手にし司令室の至る所に設置した。

 

これから30分も経たないうちにこのアジトは木っ端微塵に爆発する。

 

テロリストの殲滅と情報の奪取は完了し彼らの任務は成功に終わったのだ。

 

戦闘から6分後、岩山からある1機の輸送船が離陸したという証言がケイト・ニモーディアに住む8歳の少年から持たされた。

 

その僅か25分後、突然ケイト・ニモーディアの橋上都市を繋ぐ巨大な岩山の方から突如何かが破裂する音が聞こえ、通商連合の調査隊とパースワールド・セキュリティが向かった。

 

岩山自体になんの問題もなかったがある丘の上が切り取られており、内部は崩落していたが一種の洞窟のように掘り進められていた。

 

何かしらの密入国者が密かに岩山を生活拠点としておりその事故ではないかと判断されたが真相は闇の中へと消えた。

 

本当のことを知っているのは事件の当事者であるウィルトとオールダム大尉、フラウト准尉の3人だけである。

 

 

つづく



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艦隊強襲

「銀河共和国の安全保障の一つとして共和国防衛連合条約(Republic Defense Coalition treaties)というものが存在していた。有事の際に条約加盟国は自らの惑星防衛軍の艦船類、兵員を提供しジュディシアル・フォース及びジェダイの下共和国防衛連合(Republic Defense Coalition)を結成し対応にあたるというものだ。この条約は度々発動し幾つかの災害や準有事の際に出撃したが共和国が終わりに近づいてくると徐々にその回数も減っていき、機能不全の状態に近づいていった」
-ナードニス・プラージ共同著書 銀河共和国の安全保障“正規軍のいない千年間”より抜粋-


-銀河共和国領 コア・ワールド ハンバリン宙域 ハンバリン星系 惑星ハンバリン軌道上 防衛艦隊司令部-

惑星ハンバリンにはハンバリン宙域防衛軍として地上軍種と宇宙軍種そしてスターファイター隊の軍種が存在していた。

 

地上軍はハンバリン惑星防衛軍として、宇宙軍はハンバリン防衛艦隊として活動し日々ハンバリンと宙域の安全を守っていた。

 

その為ジュディシアル・フォースと同様彼らも異変に気づき同じようにアジトを発見していた。

 

最初はハンバリン防衛艦隊の持つ最大級の軍艦、“フォートレス・オブ・ハンバリン”の艦隊であった。

 

不審な艦船がハンバリン本星に向かおうとしているのを阻止しそこでテロ組織の存在に勘付いたのである。

 

それから共和国情報部から情報提供を受け、ハンバリン惑星防衛軍はケイト・ニモーディアのジュディシアル・フォース同様ハンバリン内のアジトを撲滅した。

 

他にもアーゴウ、クワット、コレリア、レンディリ、ホズニアン・プライム、ライサル、ギジュー、イセノ、シャンパラなどの惑星でテロ組織のアジトは存在が存在していたが全て撲滅された。

 

やはりテロ組織では各地に構成員を展開するのが精一杯で軍隊のようにそれぞれのアジトに最規模な戦力を置くことは出来なかった。

 

しかしアジトを叩いたからとはいえイコールテロ組織の全滅ではない。

 

彼らはまだ少なからず構成員が生存しておりまだ正体すら掴めていない指導者や多くの大幹部の指揮の下、共和国に対する攻撃を開始するだろう。

 

そうなる前にテロ組織を根まで叩く必要があるのだ。

 

その為にはまず情報が必要である。

 

対テロ戦の指揮官の1人としてブライトン大佐は副官や幾人かの幕僚達と共にハンバリンに訪れていた。

 

ハンバリン宙域防衛軍でもケイト・ニモーディアと同じようにテロ組織の情報を手に入れたそうだ。

 

2つの組織が手に入れた情報を照合し戦いを次へと進める必要があった。

 

隠密性も兼ねて情報の照合や将校同士による話し合いはハンバリン防衛艦隊の旗艦“フォートレス・オブ・ハンバリン”で行われていた。

 

「そちらが手に入れた議事録やアジトの記録ではテロリストは共和国及び構成加盟国に対する更なる攻撃を行う予定だった…つまりテロ組織銀河救済団は第二、第三のテロを行うつもりだったということですね?」

 

「はい、その通りです。現にケイト・ニモーディアに拠点を構えていた連中はケイト・ニモーディアの橋上都市を攻撃し橋を落とすつもりでした。それが実行されたら一体何万人のケイト・ニモーディアの市民が犠牲となるか、見当もつきません」

 

ハンバリン宙域艦隊の海兵部隊司令官であるライランズ大佐にブライトン大佐はケイト・ニモーディアでの事を話した。

 

オールダム大尉らは本当に良い仕事をしてくれた、おかげでテロ組織の情報をジュディシアル・フォースで山のように確保出来た。

 

一々共和国情報部と元老院情報部の遅い諜報活動を待っている暇はない。

 

「我々で得た情報ではアジトにコメナー経由でゼルトロスにいる上位の幹部が訪れるとありました。そちらで得た情報にも似たようなことが記述されていました。恐らく幹部がアジトに訪れて発破をかけるつもりだったのでしょう。新たな攻撃を実行する為に」

 

「なるほど、となると幹部の1人はゼルトロスにいるという訳ですね」

 

ハンバリン軍との話し合いで早速成果が出た。

 

アジトの指揮官程度では知り得ない情報を持っているだろう大幹部がゼルトロスにいるというのだ。

 

恐らく敵はまだゼルトロスにいるしケイト・ニモーディアとハンバリンのアジトが壊滅した事も気づいていないだろう。

 

であればチャンスはある。

 

「しかし問題は我々の軍隊では条約や権限、戦力の面から鑑みてもゼルトロスまで向かうことは不可能な事です」

 

「それに関しては我々に任せてください、既に特殊部隊を向かわせるつもりです」

 

ブライトン大佐の進言に対しハンバリン軍の面々は少々不安げな表情だった。

 

実際ジュディシアル・フォースの介入力に疑問を持たれるのは仕方ない。

 

ジュディシアル・フォースは所詮準軍事組織であり介入するとしても大抵の場合が平和維持、もしくは限定的な戦闘行為のみでそれだけやるにしても元老院で何千という手順を踏み、それ以上に何千という手間が掛かる。

 

ジュディシアル・フォースの介入が決まった時にはもう遅かったということも多かった。

 

故に同盟国の軍隊であっても不信感を持たれることはよくある。

 

仕方がないことなのだ、銀河共和国の組織である以上は。

 

「……まあ近いうちに共和国防衛連合条約も発動されるそうですし我々も動きやすくなるでしょう」

 

「あのRDCTがですか?」

 

RDCTとは共和国防衛連合条約(Republic Defense Coalition treaties)の略、共和国防衛連合(Republic Defense Coalition:RDC)という有事の際に条約加盟国の惑星防衛軍を動員して形成される多国籍軍のことだ。

 

今より大凡200年前にも共和国防衛連合は結集されある災害に派遣された。

 

今回は久々の招集となった。

 

「アンダーワールドのテロ事件と各地のテロ組織アジトの件を相当重く受け止めたようです。数十年に一度単位の演習しかないアレがまさか動き出すなんて」

 

「それだけ今回の事件が与えた影響というのは大きいのでしょうね……なるべく意識だけは今のままでいてほしいのですが」

 

ブライトン大佐はそう愚痴を溢した。

 

「ええ、ですが防衛軍及び保安軍の中にも少々不穏な動きが見られます」

 

ライランズ大佐はそう進言した。

 

彼は部下から受け取ったタブレットをブライトン大佐に見せた。

 

そこにはブライトン大佐もオールダム大尉も不安を覚えていたことが記載されていた。

 

「我が軍のアジトにナブー王室保安軍製のブラスター製兵器が確認されました。しかも21丁ほど、とても払い下げ品を買っただけの数とは思えません」

 

「実際王室保安軍はその辺かなり厳しく管理していますからね。ですが今回のテロ組織、銀河救済団はナブー製のブラスターを使っている。アンダーワールドでのテロでも同じような事例が確認されています」

 

「やはり…ですか…」と重い表情でライランズ大佐は目線を落とした。

 

惑星ナブーの王室とナブーの民を守るナブー王室保安軍、その中に“裏切り者”がいるのだ。

 

裏切り者はナブーの民を守るための武器をテロ組織に流し銀河の民を傷つける武器に変えた。

 

これは同じ軍人としても到底許し難い行為だ。

 

「この件については実はナブー王室保安軍のある士官が我々に密告しているのです。その人物は元共和国特別機動部隊の隊員だったのでその伝で」

 

「それは知りませんでした。ではこちらもジュディシアル・フォースが対処を?」

 

「ええ、この件は私の直轄の担当です。既に特殊任務分隊を送り込む手筈も整っています。ご安心ください」

 

ライランズ大佐はどこかホッとした表情を浮かべていた。

 

別の軍隊とはいえ身内に裏切り者がいると知ってはとてもではないが安心して戦えない。

 

それにブライトン大佐はケイト・ニモーディアも含めて数々の特殊作戦を成功に導いている。

 

その為他のジュディシアル・フォースの将兵よりは信頼が篤い。

 

するとライランズ大佐はナブーのことで何かを思い出したように付け加えた。

 

「それとこれはまだ確定ではないのですが一つ、あなた方に情報提供を。我々の諜報機関が情報解析中に発見したものでして…」

 

ライランズ大佐はブライトン大佐らジュディシアル・フォースの面々に確証はないが得た情報を話した。

 

それから暫くハンバリン軍とジュディシアル・フォースの話し合いは続いた。

 

だがブライトン大佐はライランズ大佐が話したある事に確信を持ち、話し合いが終わった後もずっと気にしていた。

 

司令部の部屋からジュディシアル・フォースとハンバリン軍の将校達が外に出て雑談を交わしていた。

 

ブライトン大佐はライランズ大佐と堅い握手を交わすとすぐに通信室の場所を借りた。

 

大佐は副官と共に司令部の執務室に急いだ。

 

「直ちにオールダム大尉の部隊に命令を出す、彼らの所在地は」

 

「ケイト・ニモーディアでの作戦が成功し現在は“リライアンスⅢ”と共に近くの第十八護衛艦群に合流しました。現在は旗艦のプロキュレーター級の中で待機しています」

 

「第十八……演習の為にデノンに向かっている護衛艦群か」

 

「はい」

 

デノンはブライトン大佐の生まれ故郷であり現地には共にジュディシアル・アカデミーで学びその後デノン惑星防衛軍に移籍した大佐の友人も多くいる。

 

その為ブライトン大佐はデノンに対しある程度融通が効く。

 

「丁度いい、護衛艦群にオールダム大尉と“リライアンスⅢ”もついて行かせろ。そのままハイディアン・ウェイを通過して目標地のナブーに行かせる」

 

「しかし送る部隊としては一隻多くなりますが」

 

「では“リライアンスⅢ”にはケイズ・ブライトン大佐の直属部隊がいると伝えろ。私の名前を出したらバウアール辺りがなんとかしてくれるはずだ」

 

2人は早歩きで通信室に向かっていった。

 

しかし副官の方はどうにも疑問顔だ。

 

「それとナブーの次は例の場所に行くよう命じるつもりだ。オールダム大尉らには私から直接伝える。上手くいけばこの対テロ戦、ここで決着が付くかもしれない」

 

「…しかし大佐、仮にハンバリン軍の情報が本当だとしてもあそこは…」

 

副官は思わず不安を口にした。

 

ハンバリン宙域軍が入手した情報の一つは確かにブライトン大佐が言う通り上手くいけば対テロ戦の決着がつくようなものであった。

 

彼らハンバリン軍は見つけたのだ、“()()()()()()()()()()()()()()()”。

 

銀河救済団の最高指導者、通称レンズは以前はセントラル・アイソプターの司祭的立場であった。

 

その為昔の記録は存在するのだが銀河救済団の結成とほぼ同時に姿を消し今の今まで全く見つからなかった。

 

だが情報によるとこのレンズはアウター・リムの南方、惑星サラストに身を潜めているらしい。

 

しかし問題はこのレンズが潜んでいるサラストにある。

 

サラストの方面は大セスウェナ、エリアドゥを中心とする辺境域保安軍の管轄であり残念ながらジュディシアルの介入力はここまでない。

 

以前カナという女海賊いたのだが彼女はセネックス=ジュヴェックス領域で海賊行為をしておりジュディシアルと対立した。

 

何度か逮捕に成功したのだが結局部下達の手引きで刑務所から脱走され、最終的にはジュディシアルの艦船が六隻も破壊され大セスウェナ方面へ逃げられた。

 

多額の賞金をかけたもののカナを捕まえる事はできずジュディシアルもどうすることも出来なかった。

 

そこでカナを捕らえ、治安の為少々残忍な方法で処刑したのは辺境域保安軍であった。

 

この一件でジュディシアルの介入力のなさと辺境域保安軍の名声が高まった。

 

辺境域保安軍とは一応ジュディシアル・フォースも協力関係にあるのだがスターク・ハイパースペース紛争や辺境域保安軍誕生に際して少々問題があった為関係はグレーゾーンだ。

 

故にオールダム大尉の分隊をナブーから一気にサラストに送り込んだとしても最高指導者レンズの殺害に成功するかは分からない。

 

ジュディシアルが出来るサポートは限られているし辺境域保安軍はコア・ワールドの惑星防衛軍のように全面を上げて協力してくれる可能性も低い。

 

いくらオールダム大尉の分隊が精鋭とはいえ作戦成功率は極めて低かった。

 

だがブライトン大佐はジュディシアルの“()()()()”を通じてならそれらの問題を払拭出来ると考えていた。

 

「無論辺境域保安軍には協力してもらう。個人ではあるがその為のコネクションもジュディシアル内部にはある」

 

「それは一体なんですか?あそこがそう簡単に乗ってくれるとは思えませんし余裕もないと思いますが…」

 

副官はまだその人物について思い立っていないようだった。

 

「ハルシオンの英雄、ジュディシアル・フォースの中に“ウィルハフ・ターキン”という少佐がいたはずだ。彼ならきっと我々と辺境域保安軍を取り持ってくれる」

 

ブライトン大佐は期待を込めながら通信室に急いだ。

 

 

 

 

 

 

-銀河共和国領 コロニーズ ケラー星系領域内 ジュディシアル・フォース第十八護衛艦群-

ジュディシアル・フォースの護衛艦群を形成する機動部隊と言っても戦力に様々な幅がある。

 

例えばドレッドノート級重クルーザーを旗艦としてそこから編成される部隊。

 

こちらの方が一般的でありこれらがいくつか集まると護衛艦群という単位になり護衛艦群がいくつか集まると護衛艦隊となる。

 

護衛艦群ならまだしも護衛艦隊クラスとなると旗艦にはプロキュレーター級スター・バトルクルーザーか置かれ、僚艦として二、三隻ほどプロキュレーター級が存在していた。

 

プロキュレーター級はクワット・ドライブ・ヤード社が181年ほど前に初めて開発した2,000メートル級艦船である。

 

アナクセス軍事大学校式分類法ではバトルクルーザーに分類されジュディシアル・フォース以外にも多くの惑星防衛軍が使用していた。

 

ジュディシアル・フォースはこのプロキュレーター級を何十隻か保有しており就役した年数はかなりバラバラである。

 

それこそ180年前のものもあればつい最近、2、3年前のものもある。

 

その為ずっとドック入りして出てこないプロキュレーター級もいたり常に航行しているプロキュレーター級もいたり、武装もかなりバラバラだったりした。

 

故に整備や改修など問題は絶えないがそれでもプロキュレーター級はマンデイター級を除くとジュディシアル・フォース内では最も戦闘能力のある一般的な主力艦であった。

 

そしてこの第十八護衛艦群の旗艦は最新鋭のプロキュレーター級スター・バトルクルーザーでドレッドノート級重クルーザー四隻、キャラック級軽クルーザー六隻、CR90コルベット七隻、そしてカンセラー級アサルト・クルーザー九隻を従えていた。

 

艦名は“アーバトレイター”、艦長はヴァルナー・ドナシウス大佐が務めており護衛艦群司令官はラスロ・ドリッツ少将が務めていた。

 

このラスロ・ドリッツ少将はスターク・ハイパースペース紛争にも参加したことのある歴戦の猛者だ。

 

他にも護衛艦群の幕僚としてテリナルド・スクリード少佐、乗組員にはゾーズライダー・スレイク少尉とのちの銀河史に名を残す顔ぶれも確認出来た。

 

艦列の中には“リライアンスⅢ”も加わり護衛艦群はデノンを目指して航行していた。

 

輸送船に乗り込み“アーバトレイター”に到着した分隊員達は“リライアンスⅢ”の艦長と副長と共にブリッジに訪れ艦長と司令官に挨拶した。

 

挨拶は手早く終わり“リライアンスⅢ”の面々早めに自身の艦へ戻った。

 

「我々の護衛艦群はこのままデノンに向かい現地の惑星防衛軍と上陸作戦や艦隊戦の演習を行う。君たちはどうする?」

 

「ブライトン大佐からの命令が出るまではなんとも、ですがこのまま行くなら我々はナブーに向かいます」

 

「ほう、何故ナブーへ?」とドリッツ少将は尋ねた。

 

いくら少将といえどオールダム大尉はあまり任務の内容を話したくないと考えていた。

 

たった一言で作戦が失敗する可能性すらある。

 

「秘匿義務があるのであまり言えませんがブライトン大佐なら言えるかも知れません」

 

「ああそうか、それはすまなかったな。流石特殊部隊の兵士たちだ」

 

ドリッツ少将は非礼を詫びてオールダム大尉らを称えた。

 

スターク・ハイパースペース紛争で似たような特殊任務トルーパー達と共に戦ったことのあるドリッツ少将はその性質をよく理解していた。

 

「国家とは常に我々のような兵士が守るもの、君達はそんな最も誇り高き名誉ある存在の頂点に立つ影の存在だ。本来は銀河の全てから拍手で迎えられ讃えられるはずなのだが…中々そうはいかないな。悔しいものだ」

 

「今じゃ、我々や惑星防衛軍に頼らず自衛し始める企業とかも増えてますからね…」

 

ドナシウス大佐はドリッツ少将に付け加えた。

 

少将は重く頷きため息をついた。

 

ウィルトにはなんとなくドナシウス大佐やドリッツ少将の気持ちが分かる気がする。

 

特にジュディシアル・フォースは常に日陰者だ。

 

恐らく今後も報われることはないだろうし報われるようなことがある日は今のような人々が深く傷つく事態が起こった時だ。

 

そうならないのが良いことなのだろうがそれでもやり切れない。

 

それが人である以上永続的に存在する性というものだ。

 

「せめて共和国にもっと力があって我々にももっと力があればな…すまない、愚痴が多すぎた」

 

「いえ、お構いなく」

 

「少将、大尉、ハンバリン艦隊司令部より通信です。現地に赴いているケイズ・ブライトン大佐というジュディシアル・フォースの大佐からだと」

 

スクリード少佐一向に報告した。

 

報告を受けてオールダム大尉の反応で大体察したドリッツ少将は「あそこのホロテーブルを使うといい」と3人を連れていった。

 

ブリッジの少し奥には空いていたホロテーブルが存在し分隊員の3人はそこでブライトン大佐のホログラムと対面した。

 

『大尉、それから准尉と二等保安長、よくやってくれた。君たちのお陰でケイト・ニモーディアの安全は保たれた』

 

3人はブライトン大佐に敬礼し大佐も敬礼を返した。

 

ブライトン大佐は今度はドリッツ少将に向けて『少将、コルベット艦の合流を許可して頂きありがとうございました』と例を述べた。

 

「気にするな、スターク・ハイパースペース紛争の恩に比べればな。それにこれから行くデノンは君の故郷だ」

 

後ろでウィルトはフラウト准尉に耳打ちしていた。

 

「大佐はあのスターク・ハイパースペース紛争にも参戦なされたのですか?」

 

スターク・ハイパースペース紛争、6年前に起こった紛争でありジュディシアル・フォースや辺境域保安軍が一連の紛争に関わった。

 

ここ最近に発生した軍事闘争の中では最も大規模な戦いでかなりの犠牲が出た。

 

それ故にこの戦いに参戦したというだけで軍人として一気に箔がつく。

 

「ああ…大佐はありとあらゆる戦いに特殊部隊として参戦された方だ。だから我々を正しく導いてくださる、オールダム大尉だって一度は大佐に命を救われたそうだ」

 

流石このジュディシアル・フォースで特殊部隊の大佐にまで昇進された方だ。

 

尊敬の念が湧き上がってくる。

 

『ええ…そういえば少将は辺境域保安軍とも交流がありましたね』

 

ブライトン大佐は思い出したようにドリッツ少将の経歴を呟いた。

 

少将も「ああ」と頷きつつ過去を振り返った。

 

「私は辺境域保安軍からの移籍組だったから今でも交流がある、それがどうかしたか?」

 

『いえ……今後の任務上、辺境域保安軍の管轄下に向かう可能性が高いので…』

 

「では私からも何か紹介状を書いておこうか?」

 

『お構いなく、既にこちらで人員は確保しています。その前にまず大尉達には予定通りナブーに向かって欲しい』

 

ケイト・ニモーディアでの作戦が成功し情報をジュディシアル・アーコロジーに転送した時点からナブーに向かうことは大凡決まっていた。

 

前々からナブー製の武器がテロ組織に流れていることについての疑念があった。

 

流出の調査の為にもオールダム大尉らを送り込む可能性は示唆されていた。

 

「ナブーにはやはり…」

 

『ああ、既に我々が持つ疑念は“()()”に変わった。ナブー王室保安軍の将校から我々に密告があった、保安軍内に裏切り者がいる可能性がある』

 

「裏切り者ですって!?」

 

ウィルトはあり得ないと言った声音で驚いた。

 

ナブー王室保安軍は志願兵制の規模が小さな軍組織ではあるが規律が整っており腐敗などの噂はあまり耳にしていなかった。

 

ましてやテロ組織に裏切り者がいるなど恐らくどの惑星防衛軍、惑星保安軍でもあり得ないはずだ。

 

『それを確実にこちらで逮捕しテロ組織の最高指導者の居場所を吐かせる。厳しい任務になるだろうが任せ…』

 

「どうした、何があった」

 

突如ブライトン大佐のホログラムが乱れ音声もぶつ切りになり始めた。

 

ドリッツ少将は急いで近くの通信士官に尋ねたが「妨害電波が放たれています」と報告が返ってきた。

 

「我が艦隊との通信を妨害出来る電波だと…?」

 

『どう……た……信状況………悪化して……』

 

「妨害電波が発せられています大佐。これ以上は傍受の恐れがある為通信を切らせて頂きます。君、急いで通信を」

 

「りょっ了解…!」

 

『ああ…!』

 

オールダム大尉の判断で通信が切られ辺りには不穏な空気が漂っていた。

 

それはブリッジのセンサー士官の一言で一気に爆発する。

 

「少将!ハイパースペースより正体不明の船団が接近中!数は小型艦も含めればこちらの2倍はいます!」

 

「敵か、味方か、どっちなんだ」

 

「分かりませんが全艦隊を戦闘配置につかせるよう指示を出しました」

 

ドリッツ少将が命ずる前にスクリード少佐は指示を出していた。

 

彼を深く信頼しているドリッツ少将はいいぞという念を込めて頷いた。

 

この状況下ではジュディシアル・フォースに敵意を持つ存在の可能性も十分にある。

 

例えば件のテロ組織とか。

 

「戦闘となれば数はこちらの方が不利だ、相手の艦艇の性能が分からない以上こちらが後手に回って敵を知る必要がある。全艦艇は防御陣形を構築し待機せよ」

 

「了解!各艦に次ぐ、防御陣形を構築しつつ待機。繰り返す……」

 

「正体不明船団、ジャンプアウトします!」

 

士官の報告と共にジュディシアル・フォースの護衛艦群の前に何十隻もの艦艇がジャンプアウトした。

 

ジュディシアル・フォースのように艦艇が同じカラーリングで統一されておらず、全く疎の寄せ集めの船団と言った感じだった。

 

ゴザンティ級クルーザーにスフィルナ級ハンマーヘッド・コルベット、リヴァリー・クルーザー、コロナ級武装フリゲートやDP20フリゲートなど様々な艦船で船団は構成されていた。

 

それだけではなく武装した軽貨物船やガンシップ、シャトルなど本来は艦隊戦に不向きなはずの船まで動員されている。

 

ジャンプアウトした船団は時を待たずしてジュディシアル・フォースに攻撃を開始した。

 

レーザー弾がジュディシアル・フォースの艦船に被弾するも低出力のレーザーは全て偏向シールドによって阻まれた。

 

「船団、攻撃してきました!」

 

「応戦して構わん、正当防衛だ。スターファイター隊も展開して敵を殲滅しろ!」

 

ドリッツ少将の命令によりドレッドノート級や“アーバトレイター”からスターファイター隊が発艦した。

 

Z-95ヘッドハンターやCL-1cランセット・インターセプターらが発艦し敵船団へと向かった。

 

それを察知したのか敵船団も微量ながらドロイド・スターファイターを発艦させて応戦しようとした。

 

ドロイド・スターファイターとジュディシアル・フォースのスターファイター隊がぶつかる前に艦隊同士の砲撃戦は激しさを増していた。

 

早速敵船団の何隻かの艦船が砲撃により被弾し轟沈し始めていた。

 

ジュディシアル・フォースといえど使用している艦船は全て軍用艦、敵船団とは大きな性能差があった。

 

特にプロキュレーター級“アーバトレイター”の砲撃は凄まじく、たった一度の砲撃で何隻もの敵船が被弾し撃沈に追い込まれていった。

 

だがそれでも敵船団は怯むことはなかった。

 

「敵船団、続々とハイパースペースからジャンプアウトしています」

 

「ハンガーベイからシャトルや貨物船を展開し前線に対応する数を増やしています」

 

「数を増やして対抗するつもりか」

 

乗組員らの報告では敵船団は性能差を埋める為に物量でなんとかしようとしていた。

 

こちらが捌き切れない数の艦船を送り込んで殲滅するつもりだ。

 

「敵船の殆どは無人で生命反応がありません」

 

と別の通信士官の報告しドリッツ少将はそれにあった命令を出した。

 

「では敵船の特攻に気をつけろ、無人艦船ならそれくらいやりかねんぞ」

 

このまま敵船団の攻撃を受け続けていても大したダメージにはならないが特攻は別である。

 

特にスフィルナ級の攻撃を受ければCR90やカンセラー級であれば轟沈してもおかしくない。

 

そうならないように各艦でカバーし、敵を遠ざける必要があった。

 

「しかしこれほどの無人艦船がいるとなれば艦隊の何処かに全体の司令船がいる可能性がありますね」

 

「ああ、最も通信回線を多用している有人船を探し出せ。それがきっと司令船だ」

 

アーバトレイター”の乗組員達は必死に船団の有人船から通信回線の多い船を探した。

 

スクリード少佐とドリッツ少将が考えていた司令船はすぐに見つかった。

 

ブリッジの乗組員の1人が「司令船を発見しました!」と大声で報告した。

 

「船団中央後方のリヴァリー・クルーザーです!!」

 

モニターに乗組員が示したリヴァリー・クルーザーが表示された。

 

何隻ものの船に護衛されている。

 

「やはり、頑強に護衛されていますね」

 

リヴァリー・クルーザーの周辺を見渡しながらスクリード少佐はそう呟いた。

 

この安上がりの船団はあのリヴァリー・クルーザーさえ撃破すれば船団の半数以上が機能停止に陥る。

 

特にドロイド・スターファイターなどは全く動かなくなるのだ。

 

当然敵もそれは承知であり周囲に艦艇を取り付けてしっかりと守っていた。

 

このまま護衛艦群の陣形を転換して中央突破を図ったとしても戦闘はかなり長引くだろう。

 

スクリード少佐もドリッツ少将もある程度それは認識していた。

 

「そうだな、このまま安全策を取って防御陣形のまま敵を殲滅する方が…」

 

「いや、我々を行かせてください。あの船団構成ならガンシップやスターファイターであるなら突破が可能です。ガンシップに乗った我々がクルーザー内に侵入し司令機能を制圧します」

 

オールダム大尉はドリッツ少将に進言した。

 

むしろこういう時こそ敵内部へ浸透して内側から破壊工作を行う特殊部隊の仕事だ。

 

「いくらなんでもそれは危険では?」

 

スクリード少佐はオールダム大尉らの生還を心配しそう呟いたが大尉達が退くことはなかった。

 

「危険は承知の上、我々の任務に危険を伴わないものはありません。ですがこの任務が成功すれば不要な戦闘を行わないで済むだけでなく敵船団を多く鹵獲出来ます」

 

テロ組織に更に近づけるかもしれない、オールダム大尉はメリットを幾つも付け足した。

 

最初は迷っていたドリッツ少将も軍事的合理性を優先してオールダム大尉に許可を出した。

 

「……分かった、任せたぞ。ハンガーベイ、ガンシップの中で整備の整っているものはあるか?今すぐSTSを乗せて司令船へ突入させたい」

 

『1機あります、パイロットの方は』

 

通信に出た甲板士官はドリッツ少将に尋ねた。

 

オールダム大尉は「我々で操縦します」と先に進言した。

 

「必要ない、STSが操縦して敵陣に突っ込む。全武装を万全の状態にしておいてくれ」

 

『了解!!』

 

「スターファイター隊に伝達、STSを乗せたガンシップを敵司令船まで突入させる。各隊は転送された座標までガンシップを護衛せよ。また艦内の海兵隊員は直ちに戦闘準備、STSが敵艦を制圧したのとほぼ同時に増援に出す」

 

恐らく司令船の中には生身の戦闘員も含まれているだろう。

 

司令機能が停止されたとしても残った戦闘員が一斉に襲い掛かってくる可能性がある。

 

その為即座に増援の海兵隊(Republic Marine)を送り込む必要があった。

 

危険と隣り合わせの破壊工作作戦、正に特殊任務分隊らしい戦いの始まりだ。

 

オールダム大尉は内心でそう喜んでいた。

 

 

 

 

 

 

『ガンシップLT-225、これよりテストを行う。こちらの通信は聞こえているか』

 

アーバトレイター”のブリッジからオールダム大尉らが乗り込んだジュディシアル・ガンシップに通信が届いた。

 

操縦席に座るオールダム大尉は「こちらLT-225、聞こえている」とすぐに返答した。

 

このガンシップは副操縦士も含めると本来2人のパイロットが必要なのだが砲座にウィルトとフラウト准尉を乗せたことによりオールダム大尉1人で操縦する事となった。

 

『では武装テストを行う。両砲手はこれより指示に従い砲手を動かせ。右、右、左、下、上、固定。これを3回繰り返せ』

 

「了解!」

 

砲手席にいるウィルトは言われた通り操縦桿を握ってガンシップの砲塔を動かした。

 

ガンシップの砲塔は問題なく稼働しすぐに3回繰り返し終えた。

 

「こちらもスラスターのチェック完了、いつでも行ける」

 

『LT-225、了解した。ミサイルは全て積み込んである、どんな敵が来たってこのガンシップは貴方達が操縦している限りやられないはずだ。護衛のスターファイター隊によろしく頼む』

 

「LT-225、そうであってほしいと願うよ。リパルサーリフト作動、ガンシップLT-225、出るぞ」

 

機器を操作し3人を乗せたジュディシアル・ガンシップは浮遊し“アーバトレイター”のハンガーベイから出撃した。

 

発艦と同時に加速し一気に敵陣までの道のりを進んだ。

 

「敵が来たらこちらでも応戦する。だが大半はスターファイター隊がなんとかしてくれるはずだ」

 

「なんとかしてくれなかったら我々がなんとかする、了解です」

 

フラウト准尉は冗談まじりにそう返した。

 

リヴァリー・クルーザーまではスターファイター隊が護衛してくれるそうだが奥に進めば進むほど護衛も難しくなる。

 

ウィルトは初めてガンシップの砲手席に座った。

 

ガンシップの兵員室なら乗ったことがあるが砲手席は初めてだった。

 

その為緊張し少し震えていた。

 

「ウィルト、緊張しているのか?」

 

オールダム大尉は部下の些細な異変も見逃さなかった。

 

「えっええ…!まあ…ガンシップの砲手なんて初めてなもので…」

 

「大丈夫、こんなのデカいブラスター・ライフルと一緒だ。敵が来たら狙いを定めてとにかく撃つ、あんまり変わらんよ」

 

フラウト准尉は若い後輩を落ち着かせようとウィルトに言葉をかけた。

 

ウィルトはまだ完全には近くしていなかったが自身の中には緊張だけでなく戦いの中で育まれる特異な高揚感も含まれていた。

 

まだこのような戦いの経験が少ないウィルトはこの両者の違いを把握し切れていなかった。

 

既に周囲ではジュディシアル・フォースの軍艦の攻撃で破壊されたり損傷した船が当たりを漂っており、討たれた仲間の陰から敵船団の生き残りは攻撃を行っていた。

 

そんな合間からついにガンシップを狙う敵が姿を現した。

 

「前方からドロイド・スターファイター2機、来るぞ!」

 

「了解!」

 

「任せてください!」

 

ウィルトとフラウト准尉は砲口を敵のドロイド・スターファイターへ向け、引き金を引いた。

 

青いレーザー弾発射され回避される前にドロイド・スターファイターを両機とも撃破した。

 

白い爆発の中をガンシップは悠々と駆け抜ける。

 

「更に前方から3機来てるぞ!」

 

「チッ!今度ばかりは一度には無理そうだ!」

 

フラウト准尉が毒付く中後方から放たれた青いレーザー弾によってドロイド・スターファイターは3機とも撃破された。

 

「友軍の攻撃!?」

 

ウィルトが当たりを見回していると背後から1機のZ-95ヘッドハンターが横切った。

 

フラウト准尉の方向からも、オールダム大尉の頭上からも1機ずつZ-95がガンシップを横切り前方に展開される。

 

『こちら第231航空団長、バルシフト大佐だ。護衛は任せてくれ』

 

「LT-225、オールダム大尉。任せました、我々の命は231航空団に預ける」

 

『了解した、全機抜かるなよ!』

 

バルシフト大佐のZ-95と共に所属機のCL-1cランセット・インターセプターや他のZ-95ヘッドハンターが続いた。

 

迫り来るドロイド・スターファイターやシャトル級、系貨物線を次々と撃破しガンシップの通り道を作った。

 

前方から迫り来るスフィルナ級ハンマーヘッド・コルベットも2機のZ-95が素早くエンジンに振盪ミサイルを撃ち込んだことで航行不能に陥れた。

 

更にCL-1cがスフィルナ級のレーザー砲塔を速やかに破壊し接近するドロイド・スターファイターも撃破した。

 

動かなくなったスフィルナ級を避けながらガンシップは前方のリヴァリー・クルーザーに接近する。

 

『我々の火力ではあのリヴァリー・クルーザーに対して大きなダメージは与えられない、出来る支援も僅かだ』

 

バルシフト大佐は僚機と共にリヴァリー・クルーザーに接近しながらそう報告した。

 

敵船団はガンシップの動きを察知して艦列を狭めてガンシップを撃墜しようとしているが護衛艦群とスターファイター隊によってそれは阻まれていた。

 

そんなスターファイター隊でもあのリヴァリー・クルーザーにまでダメージを与えられる力はなかった。

 

「問題ありません、我々が必ずクルーザーを占拠する」

 

ガンシップを操縦しながらオールダム大尉はそう返答した。

 

バルシフト大佐も『我々も全力を尽くす!』と言葉を返し前方から接近するGR-45中型輸送船を僚機と共に破壊した。

 

ウィルトとフラウト准尉も何機かの敵機を撃墜しガンシップを守った。

 

そうこうしているうちに目標のリヴァリー・クルーザーのすぐ近くまで接近していた。

 

「突入準備に入る、全員衝撃に備えておけよ…!」

 

機器を操作しながらオールダム大尉はそう呟いた。

 

これから彼は敵艦に強行突入をかけるのだ、何か一つ間違えれば3人の命はない。

 

先行したZ-95やCL-1cがリヴァリー・クルーザーの注意を引き付けている中ガンシップは静かに前進した。

 

速過ぎずそれでいて遅過ぎないスピードでブリッジに最も近いハンガーベイに向かって航行する。

 

当然ガンシップに気づいたリヴァリー・クルーザーが対空防御としてレーザー弾はを放ってきた。

 

オールダム大尉はレーザー弾を回避しつつリヴァリー・クルーザーへ迫った。

 

即座にウィルトとフラウト准尉がレーザー砲塔に攻撃し出来る限りの攻撃を減らした。

 

「よぉし…!突っ込むぞ…!掴まってろよ…!!」

 

オールダム大尉はペダルを踏み込みハンガーベイへと一気に突入した。

 

レーザー弾が1発、ガンシップの装甲に掠り火花が出たが気にしている余裕はない。

 

ハンガーベイの偏向シールドを無理やり打ち破り、ガンシップは強制着艦する。

 

辺りのコンテナや整備ドロイドを巻き込んで破壊し、床とガンシップの装甲が擦れ合うことによって再び火花が辺りに飛び散った。

 

オールダム大尉はブレーキを踏み込みガンシップがハンガーベイの壁面と激突する前に停止させた。

 

その間にウィルトとフラウト准尉はレーザー砲でハンガーベイの中の敵兵をブラスター砲で掃討した。

 

逃げ惑うバトル・ドロイドや乗組員が撃ち倒され地面に斃れていった。

 

「ハンガーベイ制圧完了!」

 

「ブリッジに急ぐぞ!」

 

コックピットや砲手席のキャノピーを開けてブラスター・ライフルを持った男達がそれぞれ出てきた。

 

敵船団からは迎撃の為に数十体ものバトル・ドロイドがハンガーベイに投入された。

 

ブラスター・ライフルを疎に発砲し牽制しながら包囲して殲滅しようとしている。

 

言葉を交わすこともなくいつも通りと言わんばかりにフラウト准尉は自身のスナイパー・ライフルを用いて狙撃を開始した。

 

まず指揮官タイプのバトル・ドロイドを撃ち倒し、次に厄介なプローブ・ドロイドから狙撃していく。

 

その間にオールダム大尉とウィルトがガンシップの兵員室からバトル・ドロイドを銃撃した。

 

防御する素振りすら見せないバトル・ドロイド達は次々とブラスター弾を前に倒れ、数十秒も掛からず殲滅された。

 

残りのバトル・ドロイド1体をフラウト准尉が撃ち倒し、3人はブリッジまで前進を開始した。

 

ドアを抜け奥で待ち構えていたテロリストの戦闘員やバトル・ドロイドをを撃ち倒す。

 

このような艦内での近接戦は彼らの最も得意とする戦闘だ。

 

ブラスター・ライフルの青い光弾が飛ぶ度に必ず敵に命中し倒していった。

 

ウィルトも本来はジュディシアル部門の犯罪捜査局出身であるにも関わらず手慣れたように戦っていた。

 

背後から飛びかかろうとしてきた戦闘員をブラスター・ピストルで速やかに撃ち殺す。

 

その間に前方に展開していたバトル・ドロイドの1個分隊をオールダム大尉とフラウト准尉が片付けた。

 

3人が持つブラスター・ライフルは互換武器システムを導入している為ブラスター・ライフルやスナイパーライフルの入れ替えが素早く行える。

 

火力も高くバトル・ドロイドも重武装の戦闘員も平等に薙ぎ倒された。

 

ブリッジに急ぎつつクルーザー内の区画を一つづつ確実に制圧していった。

 

「ドアが閉められるぞ!」

 

オールダム大尉が声を上げた頃にはもう既に向こう側にいた戦闘員達によってブラスト・ドアが閉められてしまった。

 

取り残された戦闘員やバトル・ドロイドもいたが当然見捨てられウィルト達によって全員始末された。

 

ウィルトは試しにブラスト・ドアに向けて発砲したがブラスター弾はブラスト・ドアを破壊出来ずただドアに煤を生み出すだけだった。

 

「無理です大尉、ドアを破れません」

 

「分かった、他に通り道は」

 

「この形状のリヴァリー・クルーザーだとないですね。秘密の通路とかは改造されてあるかも知れませんが」

 

フラウト准尉はすぐに首を振った。

 

「フィポットの野郎が復帰すればこんなのすぐなんですが」

 

「いないんじゃ私がすぐやるしかないな」

 

オールダム大尉はバッグから近接反応爆弾を取り出しドアに取り付けた。

 

ハンドサインで2人を後退させある命令を出した。

 

その命令を聞いたウィルトとフラウト准尉はブラスター・ライフルに換装式のグレネード・ランチャーを装着した。

 

オールダム大尉自身も安全地帯に向かったところでスイッチを押して近接反応爆弾を起爆した。

 

ブラスト・ドアは破壊され辺りに破片が飛び散る。

 

ドアが破壊された瞬間ドアの向こう側の戦闘員やバトル・ドロイドは一斉にブラスター・ライフルの銃撃を喰らわせようとした。

 

だがそれは3人の事前の準備によって失敗に終わる。

 

ウィルトとフラウト准尉がグレネードランチャーの引き金を引きグレネードを投擲する。

 

その間にオールダム大尉もサーマル・デトネーターやインパクト・グレネードを内部に投げ付けた。

 

それぞれの爆弾が一斉に爆発し待ち伏せていたテロリストの戦闘員達は全員爆発の中に消えた。

 

爆煙がまだ消えないうちに3人はブラスター・ライフルを構えて再び前進を開始した。

 

爆発の影響で完全に体勢が崩れたこの区画の戦闘員達は後方に逃げようとしたがウィルトらに背後からブラスターで撃たれた。

 

バトル・ドロイドも足や腕が吹き飛ばされて戦闘出来る状態ではなかったがドロイド脳が生きている限り危険は付き物だ。

 

1体ずつ脳天や胴体にブラスター弾を撃ち込んでいった。

 

「制圧完了」

 

「では行くぞ」

 

ブラスター・ライフルのクーリングを済ませるとオールダム大尉は2人を先導して走り出した。

 

迫り来るバトル・ドロイドも一掃し3人を阻むものは何もなかった。

 

例え目の前から全身に爆弾を装着したバトル・ドロイドの大群が来ても。

 

「自爆ドロイドです!」

 

フラウト准尉の報告と共に5、6体のバトル・ドロイドが武器も持たずにこっちに向かって走ってきた。

 

既に准尉の報告が終わった時にはウィルトがブラスター・ピストルを引き抜いて2丁のブラスターでドロイドを銃撃し始めた。

 

ウィルトが放った早撃ちの弾丸はドロイドの頭部に直撃し機能を停止させた。

 

まずこれで2体、次にフラウト准尉が同じく2体のバトル・ドロイドを狙撃した。

 

「残り2体!」

 

「…!後方からもバトル・ドロイド1個分隊接近中!」

 

自爆ドロイドを突っ込ませている間に武装したドロイドで確実に3人を始末しようとしていた。

 

オールダム大尉は「ああ分かってる!」と言って残りの2体の頭を撃ち抜いた。

 

自爆ドロイド隊を倒した瞬間武装したバトル・ドロイド達は一斉に発砲した。

 

間一髪で3人はすぐ側の物陰に隠れ、或いはその場に伏せて銃撃をやり過ごした。

 

反撃に転じるがそう易々と殲滅は出来ない。

 

「お前ら伏せていろよ!!」

 

オールダム大尉はそう呟くと一番最初にウィルトが倒した自爆ドロイドに銃口を向けた。

 

2人が伏せたことを確認した瞬間オールダム大尉は引き金を引いた。

 

ブラスター弾がドロイドの爆弾に被弾しそのまま全身の爆発物が誘爆し爆発を起こした。

 

近くのドロイドにも誘爆し2つの爆発で接近していたバトル・ドロイド達の半数以上が吹き飛ばされた。

 

当然辺りに衝撃が撒き散らされウィルトもフラウト准尉もオールダム大尉も頭を抱えていた。

 

「ああ!!すぐ隊長は無茶する!!」

 

そう文句を垂れながらフラウト准尉は残ったバトル・ドロイドをウィルトと共に撃ち倒した。

 

ドロイドの殲滅を確認しオールダム大尉は立ち上がった。

 

「全く、せっかく可愛い後輩が倒したドロイドをあえて自爆させるなんて酷いお方だ!」

 

「でも流石の判断力です!」

 

フラウト准尉は苛立っていたがウィルトはオールダム大尉に憧れのような感情を抱いていた。

 

その様子を見てフラウト准尉はドン引きしていたが。

 

「ああ、どうも。このままブリッジまで行くぞ。恐らくあと少しだ」

 

オールダム大尉は再び走り出した。

 

非常用の階段を登って一気にブリッジの区画まで駆け上がる。

 

その途中にも戦闘員やバトル・ドロイドと遭遇したが全て打ち倒して進んだ。

 

「前方に敵!重火器持ちが1人、戦闘員が4人、バトル・ドロイドが6体!」

 

オールダム大尉の報告と共に彼は早速インパクト・グレネードを投擲した。

 

爆発の影響で1体のバトル・ドロイドが破壊され1人の戦闘員が負傷した。

 

その間に後ろから来た2人が敵陣へ銃撃しまず重火器持ちの戦闘員とバトル・ドロイド3体を撃破した。

 

戦闘員と残りのバトル・ドロイドが2人に気を取られている間にオールダム大尉はブラスター・ライフルを放ちながら再びインパクト・グレネードを投げた。

 

残りの戦闘員とバトル・ドロイドは全員始末され3人がブリッジ内部に突入した。

 

背後でブラスター・ピストルをショックモードにしたウィルトが素早く乗組員を狙撃した。

 

まず船長と思われるゴウタルの男と操舵手の人間と機器を操作していたアズメルの女が撃たれて気絶した。

 

残りの5人の乗組員のうち1人はフラウト准尉に銃床で殴られて気絶し後の乗組員はオールダム大尉の銃口の前に手を挙げた。

 

「今すぐ通信システムの全てを切れ、さもないと」

 

「わっわかりました!!」

 

そのうちの1人が急いでコンソールを操作し司令船としての機能を全て停止させた。

 

銃口を突きつけて脅すだけであっという間に要求を飲んだこの状況にオールダム大尉は拍子抜けといった思いを抱いていた。

 

テロリスト達ならもう少し粘ると思ったのだが。

 

「こちら特殊任務分隊STS、ブリッジを占拠し司令船機能を停止させた。そちらの状況はどうか」

 

『こちら“アーバトレイター”、確認されています。船団のほぼ大多数が停止しました』

 

「了解した」

 

オールダム大尉は通信を切り再び乗組員に脅しをかけた。

 

「おい、残りの友人艦船に投降を呼び掛けろ。今戦闘を停止させれば裁判で死刑じゃなくなるかもな」

 

「はっはい!!分かりました!!」

 

再びその乗組員は怯えた表情でコムリンクに向かって船団への戦闘停止を呼びかけた。

 

また呆気なく要求を飲んだこの状況に対してオールダム大尉以外も疑問を抱いていた。

 

「隊長、こいつらいくらなんでも脅しに弱すぎませんかね…?」

 

フラウト准尉は疑問に思いながらそう呟いた。

 

「とてもこいつらがコルサントであんなことをやった連中の仲間とは思えません」

 

ウィルトも素人ながらに疑問を感じていた。

 

オールダム大尉は頷きながら戦闘停止を呼び掛け終えた乗組員に再び詰め寄った。

 

「ヒィッ!わっ我々はあくまで“雇われていただけなんですぅ”!!」

 

「雇われていた?誰にだ、銀河救済団とかいう連中にか?」

 

オールダム大尉が詰め寄ることによってその乗組員は簡単に全てを話し始めた。

 

「それはどうだか分からないけど……とにかく“()()()()()()()”に言われて雇われたんです!!『持っている戦力と我々で用意した戦力を合わせてこの時間にこの場所に来る相手を襲撃しろ』って…!!まさかジュディシアル・フォースの護衛艦群だとは知らなかった!!しかもバトルクルーザー付きの!!」

 

ナブー、その一言で3人はピンと来た。

 

やはりあの平和なミッド・リムの緑の惑星には何か関係がある。

 

この一連の悲惨な事件との大きな関係が。

 

3人の次の目的地はナブー、任務は裏切り者を探すこと。

 

ナブーでの任務が、この事件に大きな進展をもたらすことになる。

 

 

つづく



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