神竜娘と邪竜娘の妹たちに愛されすぎてる件 (りんご(仮))
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甘えん坊の神竜娘
「兄さん、もっと強く抱きしめてください」
突然だが俺の妹は妹としての距離感?というのがバグっている。そうはっきりと思えるようになったのは長きに渡る戦争が終わってからだ。邪竜ソンブルを倒して数ヶ月、エレオス大陸はすっかり平和を取り戻していた。
と言っても異形兵の残党が残っていたり山賊や盗賊がいたりと相変わらず大陸全土を見ると問題も残っているが以前のような国同士の戦争もなくなり、概ね平和になった。そんな感じだろう。
妹はつい先日、戴冠式で神竜王に即位した。妹は俺が神竜王になるべきだとか言ってくれた。けど今の時代、神竜として1番の功績を残したのは俺ではなく間違いなく妹だろう。それに関しては満場一致だった。
千年前・・・まだ邪竜だったあの頃からは想像もできない変化だ。ソンブルに謝ることがあるとすればあいつをこちら側に引き込んでしまったことくらいだろう。まあでもあいつは自分の実の父は大嫌いだったみたいだし、気にも留めてないみたいだけど・・・
そんなことを考えていたらすごく時間が経ってしまった。こうやって妹を抱きしめるのは構わないがたとえ家族だろうと恥ずかしいものは恥ずかしい。
「とりあえずもういいだろ。離れてくれリュール」
「???なぜですか?まだ抱きしめてから3分くらいしか経ってませんが」
なぜと頭にクエスチョンマークを出す妹だが・・・いや長いのよ3分は。普通ハグなんて長くても10秒から30秒くらいだろ。3分はいくらなんで長い。兄としてビシッと妹に言わなければ・・・
「リュール、あのな・・・」
「もしかして・・・兄さんはこうやって妹に抱きしめられるのは嫌・・・ですか?」
今にも泣きそうな顔をしてリュールは抱きしめたまま上目遣いでこちらを見てくる。まるで捨てられた子犬のようだ。
「グッ・・・その返しはズルいだろ」
「ふふっ、なら問題ありませんね。兄さんは妹のことが大好きですから抱きしめられるのは嫌じゃありませんもんね」
「・・・全く、それに関しては否定は別にしないが抱きつく時間にも限度というものがあるだろう」
「でもあの頃の・・・邪竜ソンブルの娘だった頃の
うん、そうだったな。確かにあの頃のリュールに家族としての愛情を教えたのは俺と母さん・・・ルミエルだけだった。と言っても母さんがあまりにもリュールを溺愛していた気がする。神竜ノ王・・・ルミエルの子は俺だけ。家族は祖父も祖母もそして父も俺が物心つく前に死んでしまった。
リュールは覚えてないかもしれないけど千年前もこうしてよくリュールを抱きしめてた気がする。俺がというよりは・・・母さんの方が多かった気がする。リュールは本質的に無理をするタイプだったからどうしても何かしらの方法でのガス抜きが必要だったから。
「兄さん・・・」
「今度はなんだ?」
「このまま頭も撫でてください。兄さんのことをもっと感じたいんです」
「・・・・」
無言で頭を撫でてやるとリュールは「兄さん、くすぐったいです」と言って頬を緩ませてとても喜んでくれる。それに関しては別にいいんだけど兄妹ってこういうものなのか?と思う時がある。
「いつも神竜として凛々しいリュールがこんなだらしない顔をしてていいのか?」
「こうやってだらしない顔をするのは兄さんと2人っきりのときだけですよ。兄に甘えるのは妹の特権ってセリーヌも言ってましたかから」
そう言いつつセリーヌ王女本人はあんまりアルフレッド王子に甘えてるところを見たことないんだよなぁ。アルフレッド王子は身体はあまり強くないしそういう意味でセリーヌ王女は兄のために強くなろうとしたわけで。
「私だって日々の業務で疲れてるんです、休みの時くらい兄さんが妹を甘やかすのは当然のことだと思います。本来なら家系図的には兄さんが次期神竜王だったんですから」
うんっ、ぐうの音も出ないわ。確かに正当にルミエルの血を受け継いでるのって俺だけだからなぁ。けど国を繋ぎ止めてこのエレオス大陸を平和に導いたのはリュールだ。それに・・・
「言っただろ?俺はリュールとみんなが作っていくこれからの世界が見たいって。神竜王にはならなかったけどリュールの望む限りは俺も力になっていくつもりだ」
だからといって頭をなでなでしてとか抱きしめてとかまたそれはそれで力になるという意味合いでは違う気がするけどリュール自身のわがままもこのレベルだと思うとすごく可愛く思えてくる。俺としては内政とか外交とかでもっと力になっていきたいという意味だったんだけどいかんせん守り人たちが有能すぎるのがなぁ。フランとクランに手伝えることはないかと尋ねたことがあるけど・・・
『神竜様たちがイチャイチャするのを見られるならどんな仕事もへっちゃらです』
『なので神竜様が休んでるときは安心してイチャイチャしててください』
『『神竜様たちがイチャイチャしてるだけでご飯3杯食べられますから!!』』
臣下が有能なのは喜ぶべきことだろうけど動機があまりにも不純すぎて頭を抱えてしまう。ヴァンドレにも聞いてみたけど動機はともかく守り人としてはあの頃に比べたら本当に優秀になったと言っていた。動機はともかくと2度言っていたけど・・・
その証拠にフランもクランも歴代でも最高レベルの実績を残してるらしい。ヴァンドレも正式に守り人引退しようかと考えているとかなんとか。
「まあとにかくもうそろそろいいだろ。リュール、いい加減離れてくれ」
「・・・」
「・・・そんな顔してもダメなものはダメだ」
心を鬼にしろ。絆されるな、妹とは言っても血の繋がりがあるわけじゃないんだ。やめろそんな目で見るな。俺の脳内がリュールを甘やかせと囁いてくるんだ。もう充分だろ。頼む・・・
「・・・わかりました。じゃあ最後にひとつだけお願いしていいですか?」
「いいだろう。それでやめてくれるなら聞いてやるよ」
もうそろそろ疲れてきたしな。そんなことを思っているとリュールはしてやったりという笑みを浮かべる。あれもしかしてこれ選択肢を間違えたのでは?
背筋が凍る音がする。なんだろう、軽い感じで引き受けたけどリュールはまるでこれを狙っていたかのような・・・
「私とキスしてください」
「却下だ!」
「なぜですか!」
えっ?どうしてみたいな顔をしてくる。リュールは千年間眠っていたせいで記憶の大半は吹っ飛んでるらしいがキスくらいの意味は覚えているだろ。
「なぜですか?って言われても普通しないからだろ」
「なぜですか。兄妹や家族、親しきもの同士でもキスするって聞きましたのに・・・」
「誰から聞いたんだろそれ」
「カゲツからです」
あの和風ハイテンション剣士がぁ!なに妹に変なことを吹き込んでるんだオルァ。カゲツの生まれの文化は少し変わっていて神竜や邪竜信仰がなかったり米を主食としたりと和といわれる独特の文化を持っている。持っているんだけど確かにキスという認識も変わってはいたが・・・
「それはカゲツの嘘だ・・・半分はだけど」
「嘘・・・なのですか?けど母さんは千年前には私の頬にキスしてたって言ってましたよ」
あんた本当に余計なことしかしないな。あんたのせいで今俺の貞操?が危ないことになってるんだけど。母さんがリュールを甘やかした置き土産は思っていたよりも大きなものになっていた。娘いなかったからって舞い上がりやがって・・・ここは兄として妹に正しい兄妹としての接し方を・・・
「リュール、あの「嫌です。兄さんがキスするまで離しません。このまま頭で兄さんの胸をグリグリして兄さんの匂いを堪能します」
うん、やめて。ナチュラルに匂い嗅ごうとするのやめて。聞いてる?リュール、待って分かったから匂いかがないで。リュールだって匂い嗅がれるの嫌でしょ!やめろ!やめろ!
「兄さん・・・・」
「もう!分かった、分かったから!」
「いいんですか!じゃあさっそくお願いします・・・・」
兄とは・・・男とは無力な生き物なのか。歴代でも最強クラスの強さを誇る神竜の俺が妹に言いくるめられていいように扱われるなんてそんなことをあっていいのだろうか。
「ほっぺでいいよな」
「はいっ・・・」
「・・・・・」
「兄さん?」
「分かってるって・・・」
深呼吸して息を整えるが鼓動が早くなる一方だ。いくら妹と言ってもリュールは顔は整ってるし、誰からみても美人や可愛いっていわれるくらいにはレベルが高い。だから嫌でも意識してくる。血は繋がってないから尚更だ。
「リュール、目を瞑れよ」
「はいっ・・・兄さん」
落ち着け。キスするのはほっぺだ。口と口でするわけではない。それに俺とリュールは兄妹だ。意識するな、母さんもよくやってたことだ。これは家族としては普通なんだ。
俺はそう言い聞かせてリュールの前に立つ。少し頬の紅くなってるリュール、ここでしなかったらそれこそ男としてダメだよ。俺はそっとリュールの頬にキスを・・・・
「ああああああああ!!!」
「「!!!!!!!!」」
その大声でうっかり標準が
「えっ・・・あっ・・・えっ?兄さん?えっ?えっ?えっ?」
「リュールすまんっ、これはっ・・・」
いやっ、キスする場所を間違えてしまったのも問題だがそれ以上に問題であろう爆弾がそこにいた。
「もしかして神竜様たち・・・キャーー!!!びっくりしましたよ私!ラインハルト様って意外と積極的なんですね。これはクランに・・・神竜様ファンクラブ会長に報告しないと・・・」
「ちょっ・・・えーっとすまんリュール。これは事故だ!事故なんだ」
「兄さんが私の・・・・」
とりあえずリュールは放っておこう。それよりもフランを止めないと。これがもしクランに伝わったら神竜様ファンクラブに大きく広がってしまう。最初はあの2人だっただけなのに今の神竜様ファンクラブ会員はリトスに留まらず各国にも会員がいる。つまりもし今のことがファンクラブに知られたら・・・
「早くこのことをクランに・・・ファンクラブのみんなに伝えなきゃ!」
「やめろおおおおおフラン!そんな使命感持つなぁああああああ」
俺はこの後フランを全力で止めた。何が悲しくて妹とキスしたことをエレオス大陸全土に広められないといけない。
ちなみにリュールは数日間ものすごくご機嫌で「兄さん・・・ふふふ」と言いながら度々思い出し笑いしてたらしい。幸いなことにリュールはこのことを内緒にしてくれたらしい。もしリュールが言いふらす性格だったら今頃エレオス大陸全土が血の海に沈むことになっていただろう。本当によかっ・・・
「・・・・・ぷくーっ」
俺の目の前で頬を膨らませて怒ってるもう1人の妹がいた。あっ、これ詰んだわ。母さん、まってて俺も今そっちに逝くから(白目)
本作登場人物
ラインハルト
神竜王ルミエルの実の息子でルミエルの血を引く神竜の中では唯一の生き残り。ソンブルを倒した後はソラネルで暮らすことになりリュールとヴェイルの兄になる。兵種は神竜ノ王
リュール♀
FEエンゲージの主人公。家族愛に飢えていたせいで本作ではお兄ちゃん大好きの重度なブラコンになる。いろんな人のアドバイスを元にラインハルトに甘えようとする。
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嫉妬深い邪竜娘
ーー今日も今日とて妹に抱きしめられていた。始めに言っておくが今俺を抱きしめてるのは神竜娘のリュールではない。
「・・・・」
地面につきそうなくらい長い髪、紫と黒が交互に入り組んでいて人を惹きつけるようなあどけない顔。その妹は現在、不機嫌な顔をしながら俺に抱きついて離れようともしてくれない。俺が何話してもプイッとそっぽをむく。ちなみに今日起きてからずっとなんだよなこれ。俺のもう1人の妹ことヴェイルは朝からひっついたまま離れてくれない。
正直言うわ、可愛すぎて辛い。さっきから頬を膨らませて「私、怒ってます」とアピールしてるのだがその姿が例えるなら食べ物を口に詰めたリスみたいだ。思わずそのほっぺたを指先でつつきたくなるくらいには。そんなことをしたら火に油を注ぎかねないので絶対にやらないが。
「なぁ・・・ヴェイル。そろそろ教えてくれてもいいだろ?なんでそんなに怒っているんだ?」
「・・・つーん」
これである。何回聞いてもシカトされてしまう。こうなってくると原因を解決するまで一生離れないつもりだろう。さっきから頭を撫でてやってるが一向に機嫌が良くなる気配がない。仕方ない別の方法を考えるかと手を止めて思考を巡らせようとしたら・・・
「・・・じーっ」
余計に不機嫌になった。「なんでやめるの?」と目が訴えかけてくる。依然不機嫌なことに変わりはないがどうやら頭を撫でられるのはやっぱり嫌ではないらしい。俺は再びヴェイルの頭を撫でながら考える。
「なあヴェイルはなんで怒っているんだ?」
「・・・ぷいっ」
自分で考えるしかないのか。2人の妹、リュールとヴェイルはそれぞれ特徴がある。リュールは基本的にしっかりしているけど俺と2人の時はすごく甘えん坊になる。千年前は母さんに対してですら甘えることが下手だったあの頃が懐かしい。
そしてもう1人の妹、ヴェイル。リュールが甘えん坊ならヴェイルは嫉妬深いが適当な表現だろう。一緒に旅をしていたときは全然そんなことなかったのだが家族という関係になったことでヴェイルの家族愛に対する欲が溢れかえってしまった。それがヴェイルの持つ嫉妬という感情なのだろう。
普段は大丈夫なのだがこの前、街に一緒に出かけた時に雑貨屋さんのお姉さんに可愛いという話をしてたらすごく不機嫌になった。あの時はヴェイルの機嫌直すの大変で出店の食べ物を買って「あーん」して食べさせたりして甘やかしてやったら機嫌は直ってくれた。ちなみに可愛いって言ったのはお姉さんではなくお姉さんの作ったアクセサリーでヴェイルが身につけたら可愛いんじゃないかという話をして2人で盛り上がってたのだが曲解されたらしい。とりあえずアクセサリーはヴェイルに買ってやった。やっぱりヴェイルによく似合っていて可愛い。
閑話休題
つまり今回も何かが原因でヴェイルは怒っている。さてと最近は街に出ていないので女性とは会っていない。ソラネルで動物の面倒見たりとかソラと散歩したりとかして過ごしていたくらいだ。たまに守り人たちと会うがほとんどがヴァンドレで最近フランとクランとはあまり会っていない。と言ってもこの前例の件を神竜様ファンクラブに流そうとしてたから全力で止めたけど・・・
・・・・・
まさかヴェイルお前・・・
俺は一つの可能性にたどり着いた。もしかして例の件がヴェイルにバレてしまった?いやしかしリュールは口はすごく固いし内緒にしてくれ恥ずかしいからと言ったら満面の笑みで「このことは私と兄さんだけの秘密です」と言ってくれた。だからリュールが例の件を話すなんてことはありえない。となると・・・
「ヴェイル、お前フランに何をしたんだ」
例の件について知ってるのはリュールとフランのみだ。まあフランが誰にも言ってないのが前提条件になるが・・・リュールは絶対に秘密は守るしヴェイルもリュールのことは大好きだから実の姉相手に酷いことはできない。となる考えられるのは一つしかない。
「別に何も酷いことはしてないよ」
そう言って満面の笑みを浮かべる。やっとまともにヴェイルが喋ってくれた。というより酷いことはしていないらしい。とりあえずフランの命は助かったみた・・・
「ちょーっと魔法で拘束して激辛料理を「あーん」して食べさせたらすぐにお姉ちゃんの機嫌のいい理由を吐いて・・・話してくれたよ」
さらばフラン、安らかに眠れと俺は心の中で合唱する。リトスでは唯一杖を使える人間だったが・・・うんっ、惜しいやつを無くした。仕方ない今度クランに頼んでジョブチェンジしてもらおう。と軽く現実逃避とかしたところで現実は、この状況は何も変わらないけど。
「フランがね、泣きながらお兄ちゃんがお姉ちゃんにキスしてたって教えてくれたの。ねぇお兄ちゃん、どうしてお姉ちゃんとキスしたの?私だってお兄ちゃんからキスしてもらったことないのに」
でしょうね、普通兄妹でいくら仲が良くてもキスなんてしないからな。と言ってはいそうですかで納得してくれる妹ではない。分かりやすくドス黒い邪竜らしいオーラが滲み出ていた。だからこそ分かる、次に出てくる言葉。妹はきっとこう言う。
「お姉ちゃんにキスしたなら私にキスしてくれてもいいよね。おかしくないもんね、兄妹なんだから」
こうなるからリュールとのキスも避けたかったしそもそもキスしなかったらこんなことになっていなかった。おまけにフランの叫び声でキスするところほんのちょっとずれるし。
しかし嘆いたところで俺のやったことは取り消すことはできない。キスしなかったら余計にヴェイルの機嫌を損ねるのは目に見えている。覚悟を決めるしかないか・・・
「分かった・・・ヴェイル、キスしてやる。目を瞑れ」
「うんっ。いつでもいいよ、お兄ちゃん」
そう言ってヴェイルは目を瞑る。改めて思うがキスをするのは恥ずかしい。いやっいずれ好きな人ができたらそう言うのをするんだろうけどさ。家族相手に普通は口と口のキスはしないのよ。と言ってもそんなところを言ったところでヴェイルは納得しないしここで変にほっぺにしたら「お兄ちゃんのヘタレ、意気地なし」とか言われるんだろうな。どうすりゃいいんだこれ。
「・・・・・お兄ちゃん、まだ?」
「・・・わかってる」
リュールの時は事故だったがヴェイルは違う。自分の意志でヴェイルの口にキスをしないといけない。すごく恥ずかしいしやっぱり家族・・・妹に対してキスなんて気が引けるが・・・俺は誓ったんだ。絶対にヴェイルもリュールも見捨てたりしない。1人にしない。どっちも助けると。
だから俺は家族への愛情としてそっとヴェイルに口付けした。
きっとこれでヴェイルも許してくれる・・・そう思ってヴェイルの顔を見ると想像以上に顔が真っ赤になっていた。いやっ俺の顔も赤くなっているかもしれないがヴェイルの顔はその日比ではない。まるで不意打ちを食らったかのような顔をしてた。口をパクパクさせながらヴェイルは・・・
「・・・して」
「えっ?」
「どど、どどどどうして!どうして唇にキスしたのーーーー!!!」
そう言ってヴェイルは顔を真っ赤にして涙目になりながら怒った。おかしい今回に関しては
「普通ら家族とのキスってほっぺにそっとキスでしょ!なんで唇にキスしたの!」
「えっ・・・・いやっ、えっ・・・・えっ?」
「信じられない!お兄ちゃんの・・・えっと・・・お兄ちゃんのえっち!変態!」
そう言ってヴェイルはそのまま顔を真っ赤にして走っていってしまった。ヴェイルにそう言われた瞬間俺の心が砕ける音が聞こえたのは確かだった。胃の中で濁流をおこして口から血を思いっきりはいた。俺はヴェイルの言葉を脳内の中で復唱する。
「お兄ちゃんのえっち」
「お兄ちゃんのえっち」
「お兄ちゃんのえっち」
俺はその言葉が永遠に脳内で再生され続けてその場で倒れた。ああ・・・これが死ぬ感覚なのか。千年前、ソンブルとの戦いでも感じたことがあるがこれはその比じゃない。妹に嫌われて死にたくはなかったな。ははは・・・・
待っててね母さん。すぐに会いに行くから。あっ、でもこんな早くに母さんのところに行こうとしたら怒られるんだろうなと俺は永遠の眠りにつくのだった。
その後?
邪竜ノ娘ことヴェイルは混乱していた。確かにキスしてと頼んだのは他でもない自分自身だったがまさか唇にキスされるとは思っていなかった。ヴェイルはフランからラインハルトがリュールにキスをしてたことを聞いた。けどキスしたとしか聞いてなくてどこにキスをしたかまでは聞いてなかった。それ故に・・・
『お姉ちゃん(のほっぺ)にキスしたなら私(のほっぺ)にキスしてくれてもいいよね。おかしくないもんね、兄妹なんだから』
『分かった・・・ヴェイル、(リュールと同じ条件で)キスしてやる。目を瞑れ』
とお互いがキスで勘違いしてしまう状況が起きてしまった。ヴェイルがあのときキスについての詳細をちゃんとフランから聞いていたら、あるいはラインハルトがヘタレてほっぺにキスしてればそれでよかったことなのに・・・
「ほっぺにされると思ってたのに私の唇に・・・あれじゃあまるでお兄ちゃんと私が・・・こ、ここここいっ」
思い出しただけでヴェイルはまた顔を真っ赤にしてベッドの上で枕に自分の顔をうずめながら足をパタパタさせる。予想外の事態にヴェイルは混乱したものの嫌かと言われたら全然そんなことなかった。けど冷静になったところでヴェイルは理解した。
つまりリュールはラインハルトと恋人同士がするようなキスをしたのだと。どうしてこんなことになってしまったのかは結局聞けずじまいではあったがキスしてもらったことを思い出すたびにヴェイルの胸は高鳴りを覚える。
「やっぱり私、お兄ちゃんのことが好きなんだ。お兄ちゃん・・・えへへ大好き」
そしてここ数日ヴェイルの機嫌もすごく良くなりその様子を見たフランはホッとして胸を撫で下ろした。そして激辛料理を食べさせられてからその辛さのあまり気絶して目を覚ました後、どう言う状況になってるのか気になったフランはソラネルに向かい、ラインハルトの様子を見に行ったら魂が抜けたようにげっそりとしていて居た堪れない気持ちになった。フランは泣きながら「神竜様ごめんなさいごめんなさい」と言いながらマスターモンクとして・・・神竜の守り人としてリカバーの杖を振りまくっていたらしい。
キャラ紹介
ラインハルト
神竜族の生き残りにしてルミエルの実の息子。力や技、防御などのステータスが高く基本ダメージを受けなかったり相手を一撃で倒したりできるが妹に対してのメンタル面は低い。こいつも大概シスコンである。
※ゲーム本編のルミエルはそもそも子どもはいない。
ヴェイル
もう1人の妹こと邪竜ノ娘。嫉妬深いが記憶は人格が入れ替わる時以外とんでないおかげである程度の良識はある。リュール同様ラインハルトに甘えるのが好きだが予想外の不意打ちやカウンターに弱い。たまにもう一つのの人格が残ってるのではないかと疑われることがある。
フラン
本作ではかなり不憫な立ち位置の子。神竜様ファンクラブの名誉会長で神竜様たちがイチャイチャするだけでそれをおかずにご飯三杯食べられると言うやべー思考の持ち主。守り人としての能力は無駄に高い。
本作は基本的にリュールとヴェイルメインで行きますが普通に他のキャラ出す予定です(今のところは)
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神竜様たちが尊すぎてつらい
今回はフラン視点の話になります。回し蹴りが得意な子
ーー神竜様たちが尊すぎてつらい。
どうも皆さん初めまして。私の名前はフラン、リトスの地で神竜様の守り人を双子の兄のクランと一緒にやっています。邪竜ソンブルが倒れて平和になって数ヶ月。守り人たちもリトスの民たちも神竜王城の復興などを目指して頑張ったり4つの国との同盟関係を進めたりしています。
そんな忙しくも楽しい毎日ですがフランはその中でも楽しみな時間があります。それは・・・
「それではお昼にしましょうか。フラン、クラン」
「聞いてくださいフラン、クラン!この前兄さんが頭を撫でてくれたんです。それにギュッと抱きしめてもくれました」
リュール様がご自身のお兄さんことラインハルト様のことを楽しく話すこの時間がフランとそしてクランの1番の楽しみの時間なのです。少し前まではソンブルとの戦争とかで大忙しだったのが信じられないくらい平和でこうしてリュール様と一緒にご飯が食べられるだけでも幸せなのに・・・
「今日も自信作って兄さんが言ってましたよ。さぁ、みんなで食べましょう」
お弁当を作ってるのがもう1人の神竜様だから。本来なら従者、紋章士の指輪を集めてた時には仲間たちが分担して担当していたけど世界が平和になってからはリュール様やヴェイル王女の料理を作ること。ラインハルト様がその役を買って出た。元々料理が得意らしいと話には聞いていたけどその腕はお城のコックと大差ない腕で基本的になんでもできるハイスペックぶり。
ラインハルト様がリュール様だけでなく私やクランの分まで用意してくれた時には申し訳なく思ったけどでもラインハルト様は・・・
『気にすんなよ。1人分作るのも複数人分作るのも手間はかからないし。それにこうやってみんなと料理を食べることをきっとあの人も望んでいたから・・・』
そう言ってラインハルト様は優しい笑顔で空を見渡していた。そうっ、ルミエル様はリュール様が目を覚ましたらずっといろんなことがしたかった。親子として過ごしたくてラインハルト様と同じ過ちは繰り返したくない。そう言っていた。もっともそのラインハルト様は実は死んではいなかったけど・・・
「今日も美味しそうなおにぎりとおかずですね」
「ふふっ・・・兄さん、今日も気合を入れて作ってますね」
「今日のおにぎりの具の中身は何かな?」
ラインハルト様は色んな国の料理を知っている。おにぎりというのはソルム王国の秘境、白の砂漠というところの料理の一つらしい。イルシオンのアイビー王女の従者にカゲツさんっていう人がいるけどなんでもその人の故郷とか。お米に塩をふって海苔で巻くというシンプルな料理だけどその中には何かしらの具材が入っている。
人を選ぶ味はあるけど私は昆布やしゃけ入りが好きでクランは梅干しとかが好きとか。
「今日のおにぎりも美味しいです。リュール様ありがとうございます」
「お礼なら兄さんに言ってください。兄さんもたまにはクランやフランと話をしたいと言ってましたよ」
「そ、そそそそんな恐れ多いです。僕がラインハルト様と・・・」
クランはラインハルト様に大きな憧れを抱いている。強さもその一つだけどラインハルト様はとにかく知識が豊富だ。とても千年間眠りについていたブランクがあるとは思えないくらいには。
「それより僕は神竜様の話を聞きたいです。最近ラインハルト様とはどんな感じですか?」
「そうですね。聞いてくださいフラン、クラン!この前兄さんが頭を撫でてくれたんです。それにギュッと抱きしめてもくれました」
「おおっ!それでそれで」
「兄さんからとても優しい匂いがしました。包まれるような安心感、あの感じは母さんと似ています。血が繋がった親子なので当たり前かもしれませんが・・・」
「それからそれから!」
「それから後は・・・ふふっ、内緒です」
「ええっ、そんなー。何が、何があったんですか!リュール様。気になりますよ!」
そう言って駄々をこねるようにクランはリュール様に問い詰めるけど満面の笑みで「絶対に教えません、私と兄さんの2人だけの秘密です」と言った。
尊すぎて口から吐血しそうになるのをなんとか抑える。そうっ、私は・・・私だけは知っている。あの日、何があったのか。私はソラネルに用事があって出向いていた帰りだった。神竜様がたまたまお休みしている日でラインハルト様と過ごすと聞いてるので様子を見に行ったら・・・・
「えへへ」
そうっ、神竜様たちが熱い口付けをしていたのです!フランの心臓も思わず高鳴りそうなくらいにそれは尊いものでした。キス待ちのリュール様にそっと口付けするラインハルト様。思い出すだけで・・・
「もぐもぐ・・・」
「ふふっ、フランはいつも以上に美味しそうに食べますね。けどおかずには手が伸びてませんが大丈夫ですか?おにぎりばかりで」
「問題ないです、だってラインハルト様がリュール様に・・・」
「フラン・・・」
「・・・ひゃいっ」
思わずポロッと漏れそうになりリュール様が笑顔で圧をかけてくる。話すな話すなと表情がそう訴えていてフランは大人しくお口チャックした。
「・・・フラン、もしかして何か知ってるのですか」
「・・・ナ、ナンノコトカナ?フランハナニモシラナイデス」
そう言うとクランはじーっと私の方を見る。私は嘘をつくのが下手だ。けどリュール様が秘密にしてることを勝手にフランが話して怒らせる方がもっと怖い。ヴェイル王女ほどでないにしろリュール様も大概嫉妬深いところはある。おそらく本人には自覚は無いと思うけど。
「まあいいです。神竜様が話したくないなら詮索はしません」
「ありがとうございますクラン、それでクラン、あとフランも・・・」
「なんですか?リュール様」
そう言ってもじもじするリュール様。その姿がすごく尊くてそれはまるで恋する乙女!みたいな感じだ。リュール様がこんな表情をする時はだいたいラインハルト様絡みくらいしかない。
「相談したいことがありまして・・・」
「任せてくださいリュール様。神竜様ファンクラブ会長として全力でサポートします。だよねフラン」
「もちろんだよクラン。神竜様ファンクラブ名誉会長としてリュール様のこと全力でサポートさせていただきます」
「ありがとうございます2人とも。というわけで次のステップに進むつもりですが・・・」
こうなることを予想していてあらかじめ私はクランと相談して次どうするかを考えていた。そうっ、名付けて「神竜様のイチャラブ大作戦」である。
リュール様は基本的にすごくしっかりしていて謙虚な人だけどああ見えてすごく甘えん坊だ。ルミエル様の話によると昔も回数こそ少なかったけどリュール様はルミエル様に甘えてたらしい。最もルミエル様の話によると甘えるのがめちゃくちゃ下手だとか。
今思えばリュール様は世間の常識というものに疎い。それは記憶を失ったからとずっとそう思ってたけどそうじゃなかった。ラインハルト様曰くリュール様は元からそんな感じだったらしい。
千年前のリュール様は感情というものを持っていなかった。楽しいこと悲しいこと嬉しいこと色んな感情が欠落していてリュール様の感情は無だったらしい。ラインハルト様が関わるようになってからそんなリュール様も少しずつ変わっていって今はリュール様はよく笑うようになった。
ラインハルト様がそれが嬉しくて嬉しくてたまらなかったらしい。そんなリュール様が初めて私たちに相談してくれた。守り人としてリュール様の悩みを解決したくて聞いたときにリュール様は言った。
『ラインハルトに・・・兄さんに甘えたいんですが甘えるって具体的にはどうしたらいいんですか?』
その時、フランとクランは神竜様の言葉に胸を撃ち抜かれた気分でした。尊すぎて感情がどうにかなりそうで・・・あの凛々しくもかっこよくてたまに見せる笑顔が素敵なリュール様が誰かに甘えたいと言っていた。あまりにも変な表情してたのを見たリュール様は
『あのっ・・・やっぱり変ですかね?今言ったことは忘れて・・・』
『変じゃないです神竜様!いいじゃないですか!リュール様に甘えられる家族にラインハルト様がいるんですから』
『兄に甘えたいなんて妹なら誰も持ってる感情です!妹代表のフランが言うんですから』
とさりげなく自分のことを思いっきり棚を上げたフランだけど神竜様がラインハルト様に甘える姿。それは是非ともこの目で見てみたかった。私は双子だからってのもあるからクランに甘えるようなことはないけど基本妹なんてそんなものだろうとフランは考える。
自分たちが双子の兄妹だったことをこれほど感謝する日があっただろうか。いやっ、ない。そう断言できるくらい私たちはにやける。
ここで有る事無い事をリュール様に吹き込んでしまえばリュール様は実行するだろう。けどいきなりあまり
流石にこれくらいのことならラインハルト様もリュール様にお願いされたら拒まないだろう。リュール様以上にラインハルト様の方が良識を持っている。ラインハルト様が拒否しない程度で少しずつリュール様が甘えられるようにしなければ。
『とりあえず上目遣いで捨てられた子犬のような瞳をしてください。これでだいたいの人は落とせます』
『えーっと・・・こ、こんな感じですか?』
『!?!?!?!?!?!』
リュール様が私に言われた通りに実行した。それを私に対して・・・
やばいやばいやばい、推しが・・・神竜様が抱きついてきた。ど、どうしよう心臓バクバクしすぎて死にそう。神竜様、嬉しいんですけどやる相手が間違ってます。にしてもこれほどの効果とは・・・
こんなことされたら間違いなくラインハルト様も拒めないはず。
「ど、どうですか?フラン」
「・・・b」
私は親指を立ててそのまま倒れる。
「フラン、しっかりしてください。だれか!モンクは!モンクはいませんか!」
「リトスにモンクはフランしかいませんが・・・」
「そうだったあああああああ!フランしっかりしてください!フラン!フラン!」
私はあまりの尊さに生き絶えてしまった。推しのスキンシップは心臓に悪い。油断しないようにしないと命がいくつあっても足りない。グフっ・・・
「リュール様。フランが・・・尊死しました」
リュール様曰くこれで本当にいいのだろうかと私のせいで不安を覚えていた。あと尊死ってなんですか?とキョトンとした顔で聞いてくるリュール様もまた可愛いかった。そう言うところですよリュール様。
そうして数日経った後リュール様は満面な笑みを浮かべていて私はヴェイル王女に問い詰められて酷い目にあった。魔法で拷問された後の怒涛の激辛地獄。思い出すだけで胃が・・・
まあけど、色々あったけどリュール様がラインハルト様に甘えることに成功し、効果はなんでかは知らないけど想像以上だった。というよりリュール様にキスしろって吹き込んだの誰?おかげでいいもの見られたけどね。そんなわけで例の「神竜様イチャラブ大作戦」その2のプランを実行する時が来たようである。
「次はお風呂上がりですリュール様」
「お風呂あがり・・・ですか?」
「神竜様に髪を乾かしてもらってください!」
「髪を・・・ですか」
次のステップはこんな感じだ。湯上がりのリュール様の魅力で誘惑してラインハルト様に櫛を渡して髪を乾かしてもらうことだ。この時大事なのはラインハルト様の膝の上に乗ることだ。
クランにそれは攻めすぎなのではと聞かれたけど大丈夫。私はこ前の一件で確信した。ラインハルト様は思ってた以上にちょろいことが。キスすることよりずっと難易度が低いからラインハルト様が拒むことはないはず。むしろラインハルト様は押しに弱い傾向がまだあるから有無言わさずにそのまま座ってもいいまである。
「分かりました。今日もありがとうございますフラン、クラン。さっそく実行してみようと思います」
「できればヴェイル王女がいない時にお願いしますね」
「???わかりました」
キョトンとしながらもリュール様は頷いてくれた。さてとリュール様からどんなことが聞けるか。想像しただけでよだれが・・・じゃなくてワクワクが止まらない。
私は神竜様ファンクラブ名誉会長としてリュール様を幸せにしてみせます。フランは二度と同じ過ちをしないことを誓いながら。前回の想定外があったとすればカゲツさんが用事でリトスに来ていてリュール様に会ってたことくらいだ。今回は何もないといいけどそこだけがフランはとっても心配になるのでした。
フラン
神竜様ファンクラブ名誉会長。「神竜様イチャラブ大作戦」と称して甘える方法をリュールに教えた元凶。最近は尊いイベント起きすぎて血が足りていない。マスターモンク(リトスの貴重な杖の使える人物)のくせにすぐ尊死する。
クラン
神竜様ファンクラブ会長。本作ではあまり出番がないかもしれない。最近の議題でリトスのモンクを増やそうと考えている。
カゲツ
ソルムの白の砂漠出身、イルシオンの王城兵。手紙を渡す仕事でその日にリトスに訪れておりリュールに余計なことを吹き込んだ元凶。もちろん本人は冗談のつもりで言った。(ブシュロンとの支援会話のノリのレベルくらいで)
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神竜娘と一緒にお風呂へ入った (前)
あとはオルテンシアとかあの辺が辛すぎて見てられなかった。本家もそうなる可能性あったけど本当になってしまった世界線だから。そう見るとオルテンシアって今作ではめちゃくちゃ心が成長したキャラの一人だよなって思える。
以上が邪竜の章の感想でした。邪竜の章のキャラを本作で出すかどうかは分かりませんが四狗のマロンはめちゃくちゃ好きなキャラだったので対になる四翼のマデリーンは機会があったら出したいです。
ーーパプニングというのはいつ起きるか分からないものである。唐突に起きるからそれをパプニングというのだが例え話の一つとして以前リュールはディアマンド王子に助けられたことがある。なんでも街中で異形兵が沸いたとかなんとか。
戦場において気を引き締めてる時と油断してるときでは対応が変わってくるといことも分かる。これから戦う時の構えといきなり敵が現れるのでは対応が大きく変わる。俺はその辺を鍛えてある・・・というより誰かさんのせいでその辺やたら強くなったのだが。まあ要するにだ。
雨が降るとあらかじめ分かっていたら傘を持つに濡れないようにするし対策はできるがけどなんの前触れもなくいきなり雨が降られると対応できない。いわゆる通り雨というやつだが・・・
「いきなり強く降り出しましたね。兄さん」
「そうだな」
その通り雨に襲われておかげで俺とリュールはかなりずぶ濡れである。ヴェイルは大丈夫だろうか?今日はモーヴと行動してるらしいから心配はいらないだろうけどにしてもめちゃくちゃ強いな。通り雨とはとても思えない。
「すごく濡れてしまいました」
「そうだ・・・・な」
「・・・どうかしましたか?兄さん」
「イヤベツニナンデモ・・・ナンデモナイヨ」
そう言って俺はそっぽを向いた。リュールは気づいているのか気がついていないのか分からないが雨に濡れたせいでリュールの服は透けていた。だからなんというかラインというか・・・そのっ、くっきり見えるというか。
「なんか顔が赤いようですが・・・もしかして今の雨に濡れて!?」
「っ!いやっ、違っ。これはそのっえっととにかく大丈夫だ。問題ないから!心配するな」
「そんな真っ赤な顔で言っても説得力ありません。このままだと風邪をひきますからお風呂に入りますよ!」
「ちょっ、リュール!」
俺は有無言わされることなくリュールに手を引っ張られる。神竜だからというかなんというか理由は色々あるけどたかが雨に打たれる程度では到底風邪などひかない。というより生まれてこの方体調を崩したことなど一度もない。竜族は基本的に身体が丈夫だからな。
けど色んな意味で散々心配かけた挙げ句の果てに千年前に命を散らしてしまったことをリュールはその時の記憶がなくても気にかけてるのだろう。まあ本当に死にかけたからな、あの時は。結果的には重傷は負ったが死んだわけではないけど。
「というよりリュールも濡れてるだろ?先に入ってくれ。俺は後でも問題ない」
「ダメですそんなの!もし兄さんが本当に風邪をひいたら・・・・私はすごく悲しいです」
「あ・・・・なんかごめん」
悲しく弱い声を出しながら今にも泣きそうになるリュール。リュールは小さな言葉でもらす。もう家族を失うのは耐えられない。あんな思いをしたくないと。
「それに兄さんが風邪をひいたなんてことになったら私以上にヴェイルが悲しんで
「あ・・・うーんそれはまあうん」
ヴェイルはいい子なんだけど絶妙的にやってることが善意じゃないというか・・・別にやってることは間違ってないし理論上正しいことなんだけどまあうんっ・・・あれを見ると風邪はひきたくないって思えるよな。
「あれはそうだな・・・モーヴだからまだ良かったよな」
「そうですね・・・まだモーヴだったからよかったです」
だいぶ前の話だが風邪とは無縁そうなモーヴが体調を崩したことがあった色々理由はあるが慣れない環境や人間関係とか日々の疲れが溜まってたのだろう。それ以上にヴェイルの行動には気にかけてたらしいがそれで一気に疲れが出てモーヴは体調を崩したことがある。
一応ヴァンドレをつけてヴェイルと一緒に見舞いに行かせたことがあり俺とリュールも顔を出したことがあったがまあ地獄絵図だった。
『風邪を治すためには汗をかくのが一番だよ。さあ私が作った激辛唐辛子入り野菜スープでたくさん汗をかいて元気になってね』
『いやっ・・・あのっヴェイル様。えっとこれは流石に・・・』
『もしかして食欲なかった?こめんねモーヴ・・・』
そんな悲しい顔をしてるヴェイルに耐えられなくなったモーヴはヴェイルの作った特製スープを飲んだらしいが・・・まあお察しである。ヴァンドレも流石にヴェイル王女には口出しできなかったとか。激辛スープを飲んで苦しそうな涙が出そうな顔を浮かべてるモーヴの顔をみたヴァンドレは「歳をとっても風邪はひきたくはない」とぼやいていた。
ヴェイルの考え方自体は悪くはなかったしヴァンドレもその案自体は反対はしてなかったけどヴェイルを基準にしたのがそもそも間違いだった。辛さは想定してたもののおよそ10倍くらいだろう。ここまで来ると多分ヴェイル以外耐えられない。雑食で好き嫌いなく基本なんでも食べられる俺やリュールもきっと例外じゃない。
「まあそれはともかくリュール。一つ聞いていいか?」
「なんですか?」
「えーっとそのっ・・・」
聞いていいのかダメなのか分からないけど今、俺とリュールは脱衣所にいてリュールはおそらくなんの躊躇いもなく服を脱いでいる。浴場にはお湯は張ってあるから問題ないけどそういう問題じゃない。
「もしかして一緒に入るのか?」
「???何か問題ありますか?」
「いや問題しかないから!!!」
思わずそういうツッコミが出てしまった。なにその可愛い顔で「私、変なこと言いました」感だすの。家族だからセーフみたいなところがあるならそれは大間違いだ。親しき仲にも礼儀ありという言葉ってのがあってだな。
「とにかく俺はやっぱり後で・・・へっくし」
おっと・・・・
「兄さん、今くしゃみしませんでしたか?」
「・・・ははは、そんなまさか」
クソッ、誰だ今俺の噂してるやつ。竜族は身体がめちゃくちゃ丈夫だからウイルスもらわない限り体調を崩すなんてあり得ないんだぞ。
「行きますよ兄さん。早く脱いでください」
「自分で脱げる・・・ってリュール。見えてるから!てか少しは恥じらい持って!きゃーっ!」
〜☆〜
妹に服を脱がされて一緒に風呂入ってる。どうしてこんなことに・・・
「ふふっ、初めてですね。こうして兄さんと一緒に入るのは。時間が合う時はいつもヴェイルと入ってますが。本当は家族で・・・ヴェイルも兄さんと3人で入ろうって妹に言ったことがありますが、ヴェイルは恥ずかしがって一緒にお風呂に入ろうとしませんから」
だからそれが普通なのよ。ヴェイルは嫉妬深いところはあるけど少なくともリュールよりかは家族の距離感というかその辺の良識は持っている。一緒に入るのは恥ずかしいというのはむしろ普通の感情だ。そのこともあって前回えらい目にあったけど。
というよりヴェイルがその辺の良識があるおかげで今までこういうことが回避できていたのはある意味奇跡だと思う。
「逆にリュールはなんで恥ずかしくないんだよ」
「家族だから恥ずかしくないですよ?」
「家族だからこそ色々あるたろ!」
「じゃあ兄さんは・・・今の私を見てそのっ・・・恥ずかしいとか・・・興奮してるってことですか?」
うんっ、待ってそこで恥じらうのやめて。リュールの恥じらうポイントが全く分からなくなるから。ここで肯定しても否定しての待ってるの地獄しかないの理不尽だと思う。
「・・・・」
「兄さん・・・どうして黙ってるのですか?まさかそのっ・・・」
「いやっ、違うっ。断じてそのようことはない・・・んだけどリュールはそのっ。妹ではあるけど魅力的な女性でもあるんだ。だから嫌でも意識してしまうというか」
もう自分自身何を言ってるのかよく分からない。本格的に兄妹としてきちんと線引きしておかないとそのうち取り返しのつかないことになる(
割と手遅れ)
「魅力的な女性・・・・私がですか?私は兄さんの好みってことになるんですか?」
「・・・・・・」
正直否定は出来なかった。リュールのことが異性として1人の女性として好きかと言われたら分からないが、千年前から長い間敵としてそして仲間、家族として過ごしてきたからリュールに対してはいろんな感情がある。空っぽだったあの頃のリュールにいろんなことを教えたのは俺と母さん・・・ルミエルで。
それを覚えてるのかはたまた全て思い出したのかは分からないが少なくともそういう色んな意味でリュールは俺にとっては間違いなく特別な存在であることは確かだ。
「フランやクランを始めいろんな人に容姿を褒められたりしたことがありますが兄さんにそう思われるのは何か不思議な感覚ですね。もちろん嬉しいのは間違いないのですが。やっぱり兄さんは・・・いえっ、ラインハルトは面白いです」
「リュール・・・」
「そうだ兄さん。せっかくですし身体の洗いっこしませんか?私、これでもヴェイルのお姉ちゃんなので身体を洗ってあげるのには自信があるんですよ、背中流させてください」
「いやっ・・・一人で洗える・・・」
「もしかして背中流されるの・・・嫌でしたか?」
俺は妹に対しては本当に無力なんだなと思い知らさせる。拝啓、母さん・・・神竜ラインハルト、今度こそ死ぬかもしれません。もうすぐ会えるのを楽しみにしててください。死んだ母のことを考えながら軽い現実逃避をする。
この天国とも地獄とも呼べるような空間はまだまだ続きそうである。
話の都合上分けました。今のところはリュールとヴェイル中心に出していきます。一応誰との絡みが見たいのかアンケート置いてるのでよろしければ回答をお願いします。
登場人物
ラインハルト
神竜王ルミエルの息子。リュールとは千年前からの付き合いがある。ラインハルトははっきり覚えてるがリュールはほとんど覚えてない。だが仕草とか見てると本当に覚えないよなと最近は疑ってる。剣も使えるが戦い方は実は武道メインだったりする。
リュール♀
現、神竜ノ王兼紋章士の一人。ラインハルトの義理の妹であるがたまに呼び方が昔に戻ることもある。家族として接していくうちにラインハルトとの距離感バグってしまった子。ちゃんと恥じらいはある(ラインハルトとヴェイル以外に対しては)
アンケートを作ってみました。4つの国(フィレネ、ブロディア、イルシオン、ソルム)の王城兵とかユナカみたいなその他の扱いのキャラは次のアンケートにぶち込む予定です。
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神竜娘と一緒にお風呂に入った (後)
基本投稿は遅いです。ゆるして
「兄さんの背中、大きいですね」
ちょっとしたハプニングで妹と一緒にお風呂に入ることになりその妹ことリュールは俺の背中を流してくれていた。
「こうやって兄さんの背中をいつか流してあげたいってずっと思ってたんです」
「そっか。けどできれば・・・」
「できれば?」
「・・・いやっ、なんでもないよ。にしてもリュールに背中を流してもらう日が来るなんてな」
千年前はよく母さんがリュールの背中流してたっけ?あのときのリュールは良い意味でも悪い意味でも空っぽだったからな。あの頃のリュールはどう思ってたかは知らないけどけど今のリュールを見るとなんとなく分かる。だから母さんのやってきたことは愛情を注ぐ事は決して無駄ではなかったってことだな。まあちょっとやりすぎな気もするけど
母親らしいスキルなんてなにも持ってなかったくせに変に母親らしく振る舞おうとして・・・いつも通りでいいとは思ったけど母さんはそれじゃ納得しなかったんだよな。けど今にして思うと母さんは立派にリュールの母親を出来てたと思うよ。この二人は多分俺以上に親子してたと思う。
「それにしても未来というのはどうなるか分からないものだな」
「そうですね。そういえば兄さん。聞きたいことがあるんですけどいいですか?」
「聞きたいこと?」
「はいっ・・・千年前のことです」
「・・・・・」
いつか聞いてくると思っていた。千年前のことを。ヴェイルはずっと幽閉されてたし母さんももうこの世にいない。リュールの記憶が飛んでる以上あの頃のリュールとの記憶を持ってるのは俺だけだ。
けど正直千年前の記憶は記憶で箱の中にしまったままにしてほしい。良い思い出ばかりじゃないし辛いことも・・・辛い思いもさせてしまった。
「マルスが言ってました。もし何かあったときに私に12の紋章士の呼び方を教えたのを。でもその存在をマルスは教えてくれませんでした。もし思い出したら『今のキミではとても耐えられない』と」
「・・・・・」
「その時から私にとって兄さんは・・・・ラインハルトはとても大切な存在だったんですよね。マルスは言ってました『その竜はとても強くて気高くて・・・だれよりも優しい竜だった』と『その竜が身を挺して守ってくれなかったらあの時点でエレオス大陸全土は崩壊していた』とも言ってました。改めて兄さん・・・あの時は守ってくれてありがとう・・・ござい・・・・」
そこまで言いかけてリュールの手が止まる。振り向くとリュールの瞳から涙が流れていた。
「ぐすっ・・・ダメですね・・・私は。あの時・・・母さんが死ぬ間際に教えてくれたのに。
以前、リュールには俺にしかない一面を見せることについて話した事がある。極端な甘えん坊になるのも一つだけどもう一つは弱みだ。神竜ノ王として人の上に立つものとしてのリュールは人に一切弱みをみせない。竜の守り人も王族のみんなにもだ。
リュールはその負の感情を蓄積していってその感情とソンブルの邪竜の力に取り込まれて
それほどまでにリュールは強く、そして感情で変わりやすい存在だった。自分の父親だったソンブルを千年前に手をかけたのも母さんの願いと俺の死が招いた結果だ。父親を殺すことに躊躇いは一切なかったのだろう。それがリュールの本質だから。
「兄さん・・・」
「なんだ?」
「頭・・・撫でてくれませんか?不安なんです・・・ソンブルがいなくなり平和になった今ですが・・・いつ何が起きるか分からない。あの時みたいに兄さんが消えてしまうとしたら私は・・・」
「・・・・」
俺は無言でリュールの頭を撫でる。服を着ていない分リュールの感触と体温がダイレクトで伝わってくるが今はそんなこと言ってられない。妹が苦しんでるならそれを助けるのが兄貴として・・・今の俺としての役割だ。そうだな、頭を撫でていたら一つ思い出したことがある。今はこうやってリュールの頭をよく撫でてるけど、
「リュールは覚えてないかもしれないが・・・一つ千年前のエピソードについて話そうか」
「・・・兄さん?」
「
「・・・そうなんですか?」
「ああっ・・・よく母さんがリュールの頭を撫でていてな。まあ俺は頭を撫でられるのが好きじゃなかったからな。あの頃のお前が無垢なのをいいことに割とやりたい放題やってたというか・・・」
母さんは唯一の家族であった俺のことをよく撫でていた。けど撫でられることが恥ずかしくて・・・子ども扱いされてるのが嫌で露骨に母親とのスキンシップは避けてた気がする。今なら母さんの気持ちもよく分かる。本当に親不孝だったなって。母さん・・・ルミエルより先に死んでしまった・・・まあ結果的には生きてたけど目を覚ましたときには既に母さんは命を落としたらしいから。
「それである日リュールは言ったんだよ。『ラインハルトは頭を撫でてくれないんですか?』って」
「それで撫でたんですか?今みたいに」
「・・・・まあうんっ」
結果的にリュールの頭をよく撫でてた事に関しては事実なんだが今みたいにお願いされてすぐに撫でていたわけでない。あのときの俺は異性に撫でることに関してはかなり抵抗があったくらいだ。おまけにリュールとは人間基準に換算すると歳は近かったらしいし。というより少なくとも俺がリュールの頭を撫でるのは違うだろと思う。リュールの願いを聞いた母さんがラインハルトに褒められるようなことをしたら撫でてあげると抜かしやがった。
反論しようとしたら母さんにギロッと睨まれたことを覚えている。まあそんな家族関係だったからソンブルに記憶を植え付けられた母さん見ても俺に対しては割といつもの反応だなと逆に安心したよ。まあソンブルは母さんの中にあった俺の存在の記憶は消してたみたいだけど。リュールが生きてる以上その方が都合が良かったのだろう。ちなみに俺なりのケジメってのもあって異形兵として蘇った母さんは俺がぶん殴って記憶を呼び起こさせた。
「まあでもある意味母さんのファインプレーだったよな。母さんが
本当に子どもだなと思った。褒められるようなことをすれば
『いえっ、わたしはラインハルトになでてもらいたいです』
『・・・ああそう』
『いいじゃないですかラインハルト。形はどうであれあの子は自分の意思で頑張ろうとしています』
動機はともかく確かにこれは良いきっかけだったのかもしれない。世界を救う竜を目指している。俺はリュールに出会った頃にそう言ったことがある。そして俺とリュールは一緒に旅をするようになって俺が人たちに何をしてきたのかも見てきた。だから俺が今までやってきたことを自分もやろうとおもったのだろう。
『ラインハルト、むらのもんだいをかいけつしました』
『助かったよお嬢ちゃん。ラインハルト様も良い従者を持ったね』
『別に従者ってわけじゃないんだが・・・けどそっか』
『ラインハルト。わたし、むらのためにいいことしました。あたまをなでてください』
『えっ、ここでか?今じゃなくてソラネルに戻ってでも』
『いまがいいです。ごほうびください』
村のみんなが見てるから恥ずかしいから何としても避けたかったのだけど、村のみんなもラインハルト様と期待の眼差しを向けてくる。こういう事はすごく苦手なんだけどな。
俺はリュールの頭にポンッと手を置いて撫でた。誰かの頭を撫でるなんて初めてかもしれない。リュールの髪はとてもサラサラで不思議といい匂いがした。小さい子相手ならともかく歳が近い異性にするのはかなり恥ずかしい。そもそも頭を撫でるのってのはこういう感覚なのだろうかと思ったくらいだ。
『・・・これでいいか?てかどうなんだよ。頭を撫でた事ないから上手くできてるか分からないけど』
『・・・・』
『リュール?』
『よくわからないです。ルミエルとはなでかたがちがいますが、いやではないです。ふしぎなかんかくです』
『・・・今日はもうソラネルに戻るからな』
それからリュールは少しずつ小さなことから人を助けたり森に出るクマを退治したりとしていった。全ては俺に頭を撫でられたいがために。ゆくゆくは頭なでなでなくても自分の意思でこういうことをしてほしいと思ったけど・・・
「頭を撫でるからはじまったんだよな。神竜としてのリュールの人生が動き出したのって」
きっとリュール自身の本質は昔も今も変わってない。昔は甘えるということをそもそも分かってなかったと思うんだけど分からないリュールなりの甘え方だったのかもしれない。母さんはベッタベタに甘やかしてたけどあまり褒めない俺から褒められるのが好きだった。
そして今のリュールは母さんを亡くして甘えられる相手がいなかったけど俺が生きていた。家族になってからは本当に二人きりのときは遠慮がなくなったと思う。けどそれも不思議なものでそんな状況なのに今の俺はそれが嫌だとは思ってないから。
「リュール、色々ありがとな」
俺はお前と出会えて良かった。そう言ってリュールが泣き止むまで頭を撫で続けた。そして俺たちは仲良くのぼせてしまった。そこからはあまり覚えてないけど目を覚ました時はヴェイルがほっぺを膨らませてたことだけは覚えていた。横にいたモーヴは両手を合わせて合掌してきて全てを察した。
うんっ、永久機関って怖いな(白目)
そしてヴェイルはこの一件でリュールは俺に甘えるのを1週間禁止と命じた。リュールはこの世の終わりの顔をしていたけどそれで許してくれるあたり実の姉には甘いよなと俺は思った。これがリュールじゃなくてフランだったときのこと考えてみろ。目のハイライトなくして「はい切腹ね」とか冗談抜きで言いかねないから。
さてとヴェイルの機嫌を直す方法考えないとなぁとぼんやりと天井を見ていた。
アンケートはもうちょっと続くんじゃ。投票してええんやで。
ちなみにのぼせたのでフランとクランの提案したことは失敗に終わってます(ただそれ以上のことをやらかしてはいるけど)
登場人物
ラインハルト
千年前のときは絶賛反抗期だった。家事スキルはこの頃の時点でルミエルより高い。世界を救う竜を目指して旅してた時に邪竜だった頃のリュールと出会う
リュール
千年前のときに欠陥品としてソンブルに捨てられた後にラインハルトと出会う。感情を表現するのが絶望的に苦手だっただけで多分喜怒哀楽はおそらくあった。この頃からラインハルトに撫でられるのが好き
ヴェイル
実は千年前にラインハルトと一度だけ会ったことあるらしい(そのエピソードを語るときは来るのだろうか)
ルミエル
ラインハルトの実の母、リュールの育ての親。今の二人きりの時に甘えん坊になるリュールを作ったのはこの人が愛情注ぎまくったせい。ただし反抗期だったラインハルトにも原因がある。
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邪竜娘と旅の思い出
いつから悪夢を見なくなったのだろう。お姉ちゃんと出会ったときから?ううんきっともっと前。ハルト・・・お兄ちゃんに出会ったときからだった。私が悪夢にうなされることがなくなったのは。
私はよく悪い夢を見ていた。私の中に巣食うもう一つの私。その私がみんなを・・・お姉ちゃんや仲間達を殺してしまう夢。エレオス大陸が崩壊してそれを喜んでいる私。それが夢だと分かっててもつらくて怖くてその度に私が保てなくなりそうで・・・・
「寝れないのか?ヴェイル」
「ハルト・・・・」
私は黒髪の青年、ハルトと旅をしていた。ハルトは
「うんっ・・・ちょっと怖い夢見ちゃって・・・ハルトこそ寝ないの?」
「あんまり寝なくても問題ないというか・・・正直不眠でも活動できるけど」
とそんなことを言っていた。数日寝なくても活動できるって本当に人間なのと疑ってしまう。まあ本当に人間じゃなかったんだけど。
「寝れないなら一緒にいるか?ほらっ見てみろ。エレオス大陸の空は今日も綺麗だな」
「・・・そうだね」
ハルトは不思議な人だった。初めて会うはずなのにどこか懐かしい匂いがして・・・とても他人とは思えない。1人では寝れない夜もハルトと一緒なら寝ることができた。ハルトが私を悪夢から・・・もう1人の自分から守ってくれるから。ハルトと一緒にいるときはもう一人の私が出てこないから。
「ごめんねハルト。今日もその・・・」
「いいよ。おいでヴェイル」
今日も・・・私はハルトと一緒のお布団に入る。一応異性だということでハルトも始めは抵抗していたけど今はもう諦めたのか受け入れてくれるようになった。
「ハルトはあったかいね」
「そうか?まあ体温は高いかもしれないけど」
そういう意味じゃないんだけどなと私は頬を膨らます。ハルトはとても鈍感だ。人を助けたりして好意を振りまくハルト。感謝としての好意は感じとれるけどハルトに向けられる異性としての好意には全く気が付かない。
興味がないのかそういうのが苦手だったり経験がないのか分からないけどハルトは無関心なことにはとことん無関心だった。だからこそ気になってしまう。
「ハルトはそのっ・・・好きな人とかいないの?」
「好きな人?」
「そうっ、好きな人。この人が気になるとかそんな感じの意味で・・・」
「・・・別にいないけど。あっでも・・・」
「でも?」
「大切な人はいたなぁ」
「大切な人?」
「ああっ・・・感情を出すことが苦手である意味世間を知らなかった奴だけど・・・一緒にいて楽しかったよ」
「・・・今はその人とあったりしないの?」
「・・・・・・・」
それを聞いてハルトは黙ってしまう。そして少ししてから話してくれた。会うべきなのか会わないべきなのか分からないとそう言っていた。今も一応生きてはいるらしいけどあることがきっかけでもうずっと会ってないらしい。ケンカしたわけではないけどそんなことを言いながらハルトは気まずそうにしていた。
それがハルトにとって好きな人なのかはわからないけどきっとハルトの中では特別なのは見ていてすぐ分かった。その人が羨ましく思ってしまう。
「ヴェイルこそ大切な人はいるのか?いやっ、好きな人だっけ?まあなんでもいいけどヴェイルの話も興味があるな」
「私には家族がいるの。パパがいて大切な人がたくさんいるけど・・・」
「けど?」
「パパはすごく悪い人なの。パパのことが嫌いとかそういうんじゃないけどでもパパのやってることが良いこととはとても思えなくて・・・」
パパは・・・邪竜ソンブルはこの世界を壊そうとしている。千年前にリトスの地にいる神竜と住んでいる人たちもろとも消そうとしたことがあった。でもそれはたった一人の竜が命を挺して阻止した。
その名前が神竜「ラインハルト」
私の憧れで世界を救う竜だった存在。私はそんなラインハルトと呼ばれる竜に一度だけ会ったことがある。グラロドンで異形兵に襲われてた私を助けてくれた。敵対関係にあるはずの私を・・・
「困ってる人を見たら助ける。たとえ邪竜だろうとな」
それはあまりにも眩しすぎた。当時ラインハルトはかなり有名な存在でエレオス大陸の各地で起こってる問題をたった一人で解決しているらしい。その力はおそらくパパをも越えていて邪竜信徒やセピア、他のみんなが恐れるほどの強さを持ってたらしい。
けどそのラインハルトは命を落とした。パパの攻撃から街を守るために体全部張って防ぎ切った。その命と引き換えに・・・・
英雄の神竜、ラインハルトは千年経った今でも有名な話だ。そういえばハルトの名前もラインハルトって入ってるけどやっぱり神竜の名前を由来にしてるのかな?
「そういえば話は変わるけどハルトの名前の由来って神竜様から来てるの?」
「・・・まあそんなところかな?」
と言って困ったようにハルトは答えた。よく聞かれるらしくハルトはこんな感じで答えてるらしい。けどハルトも人助けが大好きでその姿はあの日出会ったラインハルトと重なって見えてしまう。
「それにしても君の父は悪い人なのか。じゃあいつかヴェイルの父親に会うことがあったらビシッと言ってやるよ。それでも聞かなかったら一発ぶん殴ってやる」
「む、無理だよそんなの!絶対に。ハルト殺されちゃうよ!?」
確かにハルトは強い。人間の中でも規格外の強さを持っている。こんなに強い人間に私は今まで出会ったことない。
けどもしパパが復活して力を取り戻したらきっとラインハルトくらいの強さを持つ者じゃないと止められない。ハルトが強いと分かっていても無謀だと思ってしまうくらい。
「そうか?やってみなきゃ分からないと思うけどな。それでも強さには自信あるけどな」
うんっ、私のパパが普通なら絶対負けないだろうけどでも私のパパは破滅を導く邪竜だからきっとハルトでは止めることができない。ハルトにはできればパパにあって欲しくない。だから私の正体も知らないままでいてほしい。知ってしまったらハルトはきっと離れてしまうから。だから不安になってしまう。いつかまたひとりぼっちになるのでは?千年間孤独で過ごすことになってしまうようになるのか。怖くて怖くて・・・
「ハルト・・・ハルトはいきなり私の前からいなくならないよね?」
「うーんっ・・・いきなりいなくなることはないと思うけど・・・そうだな。もしはぐれたとしてもすぐに見つけてやる。ちゃんとお前の手を握ってやる。これでどうだ?」
「うんっ!約束っ、ハルト。わたしのお姉ちゃんが見つかるまでよろしくね」
「ああっ、必ずヴェイルのお姉ちゃんに会わせてやるからな」
ハルトと出会って私の日常は大きく変わったと言っても過言ではなかった。ハルトは変に知識が疎いというより流行とか最近の出来事とかに詳しくない傾向があるかわりに昔のことに関してはすごく詳しかったりと本当に不思議だった。
けど今なら全て納得してしまう。異質な強さに千年以上のほとんどの人が知らないようなことを知ってたり、ハルトの名前由来を聞いて苦笑いしたり・・・それは全部ハルトがラインハルトだったから・・・・
〜☆〜
懐かしい夢を見た。ハルトと出会って旅をしてた頃の夢。お姉ちゃんに会わせてあげる約束をしたりパパを一発ぶん殴ると冗談混じりに言ってたけど結果的に本当に殴ったのも事実でお姉ちゃんに会わせるというのも叶えてくれて・・・
「そりゃパパと長い因縁あったから当たり前だよね」
パパが唯一恐れた神竜。それが一緒に旅していてこんなに近くにいる人だなんて思わなかったから。どうして正体隠していたの?って聞いたときにはラインハルトが死んでることになってるってのはある意味好都合だったらしい。
お兄ちゃんは紋章士の指輪は持ってなかったけどそのかわりそれに匹敵するくらいの不思議な指輪を持っていた。名前は変幻の指輪と言って竜族が付けることによって髪や目の色を変えて竜族としてのオーラとか力を隠すことに使える効果があるらしい。
そのかわり力がセーブされるという欠点とか制約とか色々いるらしいけど・・・
「まだ夜が明けていない・・・」
夜明け前に目が覚めるなんていつぶりだろう。お兄ちゃんと出会ってからはよく寝られるようになったのに。まだお兄ちゃんは寝ているのかな?私は布団から出て枕を持ってからお兄ちゃんの部屋を訪ねる。
ノックしてもお兄ちゃんから返事はないから勝手に開けて部屋に入る。ベッドの上でお兄ちゃんは静かに寝息を立てていた。あんなに長く一緒に旅していて・・・家族になったのに思えばお兄ちゃんの寝顔を見るのは初めてだ。旅をしていた頃のお兄ちゃんは私が寝付けるまで起きててくれたり私が起きたときにはすでに目を覚ましてた。
いやっ、そもそもお兄ちゃんは数日寝なくても動けるって言ってたから寝てないのかもしれないけど・・・・お兄ちゃんの寝ているところを見られるのはある意味レアなのかもしれない。平和になった今でも誰よりも寝るのが遅くてそして誰よりも起きるのが早い。
あまりのショートスリープだったからお姉ちゃんが心配してたけど体に問題はないらしい。お姉ちゃんは逆だもんね。寝ることがすごく好きだから・・・
「お兄ちゃんの寝顔・・・かわいいな」
サラサラの髪を撫でる。お兄ちゃんも・・・ハルトって名乗ってたころのお兄ちゃんもこうやって私が寝られるように撫でてくれていた。
お姉ちゃんがお兄ちゃんに頭をなでなでされるのが好きって言ってたけどその気持ちはものすごくよく分かる。私から頭を撫でてってほとんどお願いしたことないけどお兄ちゃんはよく私の頭を撫でてくれる。
今の私はかなり素直じゃないから口に出しては言わないけどそれでもお兄ちゃんは察してくれて頭を撫でてくれる。面倒な妹でごめんねって毎回思うけどそんな優しく気を遣ってくれるお兄ちゃんが大好き。
「お兄ちゃん・・・・」
私はお兄ちゃんの寝ているベッドにお邪魔する。旅をしてたときはこうして一緒の布団で寝てたっけ?あの時のお兄ちゃんは何かと理由をつけては断ろうとしてたなって。
私ね、嫉妬深いからこの前みたいに例えお姉ちゃんでも一緒にお風呂に入ったりしたら怒っちゃうからね。私はそんなの恥ずかしくてとても頼めないから一緒のお布団で今回のことは水に流してあげる。
私はギュッとお兄ちゃんの背中を抱きしめて温もりを感じる。体温が高いからじゃない、こうやってお兄ちゃんを感じられるのが好き。お兄ちゃん、大好きだよお兄ちゃん。
私はお兄ちゃんの温もりと匂いに包まれてそのまま眠りについた。
ラインハルト
変幻の指輪をつけることによって髪の色と目の色が黒に変わる。ちなみに元の色はルミエルと同じ。ゲーム本編ではヴェイルと共に行動する。
あるものを探して旅をしていた
ヴェイル
一人っきりだった頃は悪夢にうなされていたけどラインハルトと出会ってからはそれがなくなりラインハルトといるときは表の人格で保てることが多かった。嫉妬深い自覚はある。
変幻の指輪
ラインハルトの持ってる伝説のアイテム。本作同じで竜族のオーラや一部の力を封印するかわりに髪と目の色を変えることができる。これにより正体を隠して行動しており秘密裏に動くことができた。
あとがき。
アンケートありがとうございます。この感じだと一騎討ちって感じですね。次回投稿は1週間後くらいになります。今日はたまたま投稿早かった。
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フィレネ王女とのお茶会
浮遊要塞であるソラネルには度々客人が訪れてくる。かつてリュールと旅した仲間たち、それは俺にとっても少なからず交流がある人物もいる。無論全員と話したことはない。俺が正式に加入したのは母さんを倒した直後、すなわちソンブルとの決戦直前となる。故に俺はリュールたちの仲間と過ごした時間がほとんどない。
リトスの竜の守り人であるヴァンドレやクラン、フラン。ヴェイルの騎士であるモーヴとは今もそれなりと交流はある。しかしそれ以外の4ヶ国のみんなとは今現在全くと言っていいほど交流がない。故に暇な時は遊びに来てもいいといってるのだが忙しいのだろうかそんな気配はない。故に俺は大抵リュールとヴェイルがいない時は暇してるのだが・・・
「お久しぶりです、神竜様。こちらに用があったのですがリュール様が兄君にもあって行ってほしいと言われたので」
と珍しくソラネルにリトス以外の人物が来ていたのである。しかしなんというかあれだな。彼に丁寧に話されるとそれはそれで違和感しかない。
「・・・アルフレッド王子よ。そのっ・・・話しにくいなら別に前みたいに話してもらっても構わないんだが・・・」
「とんでもありません。神竜様の兄君にそのようなこと・・・・正体を知らなかったあの頃ならともかく今は・・・ってなんで神竜様、変幻の指輪なんてつけて・・・」
俺は問答無用でポケットに入れていた変幻の指輪を装備して髪の色と目の色を青から黒に変えた。すごく会話しにくいからヴェイルと旅していた時の姿にシフトしよう。
「これならどうだ?正直今まで通り話してくれた方がこちらとしては楽なんだがこの姿が話しにくそうならこっちならどうかなと思ってな。今の俺は神竜ラインハルトではなくただの一般人のハルトだ」
「・・・神竜様には敵わないな」
「そもそも俺は世間一般での正体は隠したままにしてるしな」
リュールの戴冠式は一応参加してるがリュールの兄としてでなくリュールの仲間として参加した。故に俺の正体を知ってるのはこのエレオス大陸の中でも僅かとなっている。
「わかったよ神竜様・・・じゃなくてハルト。その代わり僕のことも普通にアルフレッドでいい。立場は君の方が上なんだから」
「そうか・・・じゃあアルフレッド。聞かせてくれ、最近のフィレネはどうなんだ?もし困っていることがあったら言ってくれ。なんでも協力するよ」
「フィレネは平和そのものさ。たまに異形兵が湧くこともあるが王城兵のみんながどうにかしてくれてるよ。盗賊によって滅ぼされた街も死者への弔いを済ませて復興へと進めているよ。それに・・・」
信頼できる隠密もいるからねと言葉をこぼした。話によるとユナカがアルフレッドに正体を明かしてどんな処分でも受けると言った。それでアルフレッドがくだした処分はユナカを王国に引き入れて隠密として貢献する。それがアルフレッドの出した条件だった。
この優しいところが王子のいいところなのかもしれないなと思って話を聞く。ブシュロンもエーティエも平和になった後でも鍛錬は欠かしていないらしい。
「それは良かったよ。そうだ、ここで立ち話もあれだ。カフェに来るか?お茶くらい出すよ」
「・・・」
「どうした?アルフレッド」
「・・・ハルト。実は君に一つ相談・・・というか頼みたいことがあるんだ」
「頼みたいこと?」
そう言ってアルフレッドは真剣な顔になる。というよりそもそもある相談をしたくて直接リュールに会ってから俺に会えないかと話したらしい。そんなことしなくてもいつでも来てもいいんだがな・・・
「妹・・・セリーヌのことでだ」
「セリーヌ王女。何かあったのか?」
「いやっ・・・何があったというわけではないが最近セリーヌが頑張っていてね。兄としては嬉しい限りだが少し無理をしてるようにも思えて。臣下であるルイやクロエにも聞いてみたがどうも最近紅茶も飲んでないらしくて・・・頑張るのはいいことだが無理して倒れられもしたら僕は・・・・」
けど僕には止めることができないとアルフレッドは言った。アルフレッドは自身の虚弱体質なことを周りにほとんど話したことがない。それはきっとリュールも知らないことだろう。俺がなんで知ってるのかはこの際置いておくとしてセリーヌ王女はきっと兄が無理しないようにサポートしている。アルフレッドは次期フィレネの王になる。そんな兄を少しでもサポートできるように全力を尽くしてるのだろう。
「分かったアルフレッド。友として俺はお前の力になる」
「いいのかい?ハルト」
「言ったはずだ、困っていたら協力すると。セリーヌ王女は確か紅茶が好きだったよな。ちょうど新作の感想を聞きたいと思ってたけどリュールは最近忙しくて時間取れないしヴェイルは紅茶苦手だしな。てなわけでアルフレッド、神竜様がセリーヌとお茶会をしたいと言っておいてくれ」
流石のセリーヌ王女も神竜様のお茶会の誘いには断れないだろう。基本立場を使った権力を行使することは俺の主義に反することだがどうにかしてセリーヌ王女を休ませることができるなら権力を使ってでも休ませてやろう。
「ありがとうハルト。君は神竜様・・・リュール様と似てるね。血の繋がった兄妹ではないことは知ってるけど本当によく似てると思うよ」
「・・・そうか?」
「とにかく相談に乗ってくれてありがとう。そうだ、今度フィレネ王国にも遊びに来てくれ。ブシュロンもエーティエも君を交えて特訓したいとも言ってたしね。もちろん僕もだよ」
「ははは、お手柔らかに頼むよ」
「もちろんだ、3人がかりで行かせてもらう」
容赦のなさすぎる発言に思わず笑ってしまいそうになる。まあ3人がかりでも負けはしないから別にいいのだけどさてと今度はどんな連携を見せてくれるのか楽しみだよ。
そんなわけでセリーヌ王女とのお茶会は3日後に設定した。ルイとクロエ、そして幼なじみのエーティエを使ってでもセリーヌを説得してお茶会に参加させると言った。そこまでしないといけないなんて案外あの王女様も頑固者だなと思った
〜☆〜
ソンブルが倒れて世界は・・・エレオス大陸は平和になった。それでも戦後の事後処理やブロディアとの交易、そしてソルム遠征など色んな仕事が立て続けに舞い込んでくる。
最近は城の近くに診療所を作る計画も進んでいる。ジャンには今後こちらで活動してもらうことも視野に入れてもらうことにしながら今は故郷の島で医者の卵として勉強中。そういえばあそこの紅茶も美味しいよね。
「・・・ふぅ」
世界が平和になってから紅茶を飲む機会が極端に減ってしまった。今までは旅の合間はソラネルにいた頃は幼なじみのエーティエを始めとして色んな人と紅茶を飲んだと思う。私にとっての数少ない安らぎ。でも今はだめ、今後のフィレネのために。そしてお兄さまを支えるためにも今は多少無理してでも頑張らないと・・・・
「また書類と睨めっこですか?精が出ますね、セリーヌ様」
「エーティエ・・・・」
私が部屋で仕事をしていたらノックも無しに入ってくる。お兄さまの臣下にして大切な幼なじみのエーティエ。最近は街の見回りとかで彼女とも会う機会が減っていたことを改めて感じさせられる。
「まあそれはともかくとしてセリーヌ様。先日リトスに訪れた際にアルフレッド様が神竜様と会ってきたと」
「お兄さまが?」
「それで神竜様が是非ともセリーヌ王女とお茶会をしたいと言ってたそうよ」
「神竜様が・・・」
「神竜様の誘いです。もちろん行きますわよねセリーヌ」
誰も周りに人がいないのをいいことにいきなり呼び捨てで呼ぶエーティエ。幼なじみ同士ってのもあるし2人っきりの時に呼び捨てを許可したのは私だからそれはまあいいとして神竜様を使ってお茶会を誘うなんてお兄さまも悪い人です。
神竜様にそんなことさせるだけでなく断れない状況を作るなんて・・・
「神竜様がいるならヴェイル王女も参加するのかしら?」
「ヴェイル王女・・・そうですわね。参加するのかはわかりませんがそもそもあの方は紅茶苦手だったはず」
というより辛いものが得意で甘いものとかは逆に苦手だと昔、ヴェイル王女から聞いたことある。同じ王女として是非ともお茶会をしてみたかったのだけど・・・
「分かったわエーティエ。神竜様に誘われたのだから断るわけにも行きません。お茶会に行ってきますね」
「仕事の方はルイとクロエに振っておくのでセリーヌは安心してお茶会に行ってきてください」
「ありがとうエーティエ、そうさせてもらうわ」
けど神竜様って紅茶を作れるのか。あの頃が私がお茶を入れてましたけどもしかしたら神竜様も入れれるようになったのかもしれない。神竜様の作る紅茶はそれはそれで興味があった。けどこの時の私は失念していた。
神竜様とお茶会だと言ってたので私はてっきり・・・少なくともこの時はリュール様とお茶会をするものだとばかり思っていた。だから私はソラネルのカフェテラスに来て驚いてしまう。
「おっ、来たかセリーヌ王女。適当に空いてる席に座ってくれ」
神竜様とのお茶会がリュール様の方の神竜ではなくラインハルト様の方の神竜だったから。とんでもない不意打ちだった。私はその場で思わず髪を整えてしまう。リュール様だったら同じ女の子同士で何回もお茶会をしたことあるからそこまで気にならないが異性の殿方・・・それも私が気になってる人だったら話しは別だ。お兄さまやエーティエもそうですし確認しなかった私もですが始めにラインハルト様と言ってくれれば心構えの準備もできたと言うのに・・・
「こ、こんにちは。ラインハルト様」
緊張しすぎてものすごく堅苦しい挨拶となってしまった。フィレネの王女として常に凛とした態度・・・イルシオンのアイビー王女みたいな姿勢で臨まないといけないのにどうもラインハルト様の前だと硬くなってしまう。
「えーっとその・・・こうして会うのも久しぶりですね」
「・・・それもそうだな。というより俺はリトス以外の国の人間とはほとんど会ってないからな。よしっ、できた。リュールとヴェイルも誘えたら良かったんだけど2人とも忙しくてな」
そう言ってラインハルト様は紅茶を注いでからカップを机の上に置く。一緒に持ってきた皿の上にのってるクッキーを添えて。というよりこれラインハルト様が・・・
「まあそのなんだ。今日は楽しいお茶会だしそう緊張しなくてもいい。アルフレッドに頼まれたんだ。妹が頑張りすぎてるからなんとかしてあげたいとね」
「お兄さまが?」
「頑張るのはいいことだけどあまり家族や大切な臣下たちを心配させるなよ。まあ俺も人のことは言えないけど」
そう言って紅茶を注いだティーカップを私の前に置いてくれる。不思議な感覚。あの時、花の風車村で異形兵を逃してくれたクロエとルイのためにも私は生きてお兄さまたちと合流しないといけなかった。でも神竜様がいる先にも異形兵が突如地面から湧いてきて戦わないといけないのに・・・強くなった、剣も魔法も努力したのに突然のことすぎて頭が真っ白になってもうダメかと思った時その人が現れた。
異形兵を相手に素手でぶん殴った人。花の風車村にいたために戦いに巻き込まれてしまった人。謎が多い黒髪の青年、それが私とハルトと名乗る青年との出会い。
突然異形兵が沸いても動揺一つ見せずに敵を華麗に倒すその姿に私は目を奪われてしまった。武道は基本的に護身術代わりしておりモンクやエンチャントなどのサポート職が持つものが多いとされてるのにこの人はモンクでもなければエンチャントでもない。メインを武道で戦ってる人だと。己の拳で前衛やってる人なのだと。戦う姿はまさに只者ではないという一言に尽きた。
それがまさか歴史で死んだとされていた伝説の神竜様だとは思ってなくて・・・私はとんでもない人を好きになってしまったのだと思いすぐにその想いは心にしまうことにした。身分どうこう以前問題に住む世界も生きる世界も私たちとは根本的に違う種族。それが神竜族、数千年の時を生きるから私たちとは決して相入れることなんてないのに。こうして私と神竜様が一緒にお茶会をしてるなんて本当に夢みたいだなと思ってしまう。
「さてとセリーヌ王女、冷めないうちに飲んでくれ」
「はいっ・・・いただきます」
神竜様が淹れてくれた紅茶を一口飲む。口当たりが爽やかで清涼感が広がっていく。思わず言葉を失ってしまうほどの美味しさだった。今までたくさん紅茶を飲んできたけどここまで美味しい紅茶にあったことないかもしれない。
「すごく美味しいです!神竜様、どこの紅茶ですかこれ!!」
「先日俺がソラネルで育てていたのを収穫したものから作っている。リトスの地で古くから伝わる紅茶の一種だ。現代ではその味を知るものがいないから滅んだとされているけどね」
「それがこの紅茶・・・」
「昔、リュールと飲んだことあるけどリュールは「よく分かりません」と言ってたな」
まあリュール様は紅茶の味に疎いですもんね。それは昔の記憶がないからだと私は勝手に思ってましたが単純に昔から紅茶の味に疎かっただけらしくなんか神竜様の新たな一面を見れてすごく嬉しいなと思ったり。
「こうやって神竜様と・・・ラインハルト様とお茶会ができるなんてなんかすごく嬉しいです」
「俺もだよセリーヌ王女、これでも俺は紅茶がかなり好きなんだけど肝心のリュールは紅茶の味に疎いしヴェイルはそもそも紅茶嫌いだしな」
リトスでお茶会するならフランとクランの2人の方が楽しめるのではないか?と言ってたが恐れ多すぎてお茶会できないと断られてるらしい。あの2人らしくて想像するのも容易だ。
「まあそんなわけでこうしてお茶会を出来ることに関しては俺も嬉しいんだよ。だからもしまた何かあったら遠慮なくソラネルを訪ねてくれ。どんな些細なことでもいいから」
「ラインハルト様・・・」
私としたことがお兄さまはルイ、クロエ、エーティエだけでなくラインハルト様に心配かけてたなんて。頑張りすぎてたことが裏目に出てたなんて。
「しっかりすることも大事だけどメリハリもつけないとな。知ってるか?リュールは俺と2人っきりの時は甘えん坊になるんだぞ」
「甘えん坊・・・って神竜様がですか?」
「撫でてほしいと言われたり抱きしめてほしいとか言われたりな。最近は過激なお願い増えてきてるからまああれだけど可愛い妹だよ」
すごく意外だ。あのリュール様がラインハルト様の前では甘えん坊になることが。そもそも神竜様って誰かに甘えるような性格ではないと思うのだけどラインハルト様が嘘をつくとは思えないし・・・・
「セリーヌ王女、君も王女である前に妹なんだからたまにはアルフレッド王子とか・・・アルフレッド王子が相手だと恥ずかしいならその臣下たちでもいい。誰でもいいんだ・・・君の信頼できる人間なら。だからガス抜きくらいはしたほうがいいぞ」
「・・・・・」
確かに私は虚弱なお兄さまのために強くなろうとして王女して甘えたことが許されない環境で育ってきた。だから心を強く持ちフィレネの第一王女として務めてきた。けどもし甘えられるなら、それを許してくれるなら私は・・・
「ラインハルト様、お願いがあります」
「お願い?」
「はいっ、そのっ・・・こんなことをラインハルト様にお願いするのは変かもしれませんが・・・・私の頭を撫でてもらってもいいですか?」
私はどうしようにもない愚かな人間だ。私にはお兄さまも信頼している臣下たちもいるのにリュール様とのやりとりを聞いて思わず私もされてみたいと思ってしまった。
リュール様やヴェイル王女にとってラインハルト様は唯一甘えられる相手。彼女たちはどの種族よりも立場が上の存在。彼女たちを甘やかすことができるのは同じ種族の彼だけなのにどうしようもなく私も彼の手でなでなでされたいと思ってしまう。
「いいよ、セリーヌ王女。君がそれを望むならね」
「セリーヌ・・・と呼んでくださいラインハルト様。それでは距離を感じてしまいます」
「・・・分かったよ。セリーヌ」
どくん、どくんと鼓動が速くなる。脈を打つ速度も上がっていき胸の奥がどんどん熱を帯びて熱くなっていく。名前を呼ばれた。王女としてでなく1人の女の子として扱ってもらえる。それだけでもこの上なく幸福なのにこれ以上の幸せを求めてはいけない。そんなことをしたら私は・・・
「・・・あっ」
私は今、頭を撫でられている。ラインハルト様の手つきはまるで慣れたように小さい子どもをあやすような優しいものだ。恥ずかしくなるけどそれ以上に私の中でどうしようにもないくらい幸福感に包まれてしまう。お兄さまに撫でられてるわけでもクロエやエーティエに撫でられるのも違う。好きな人に撫でられるのがこんなに気持ちいいなんて・・・
私は思わずラインハルト様を抱きしめてしまう。ダメ、やめて私、それ以上幸福を求めないで。求めてしまったら本当に止まれなくなる。
「ラインハルト様・・・私は・・・」
「失礼、神竜殿はいるか」
「・・・・っっ!!」
私はとっさにパッと手を離して神竜様から離れる。
「おやっ、珍しい、セリーヌ殿と一緒とは。・・・神竜殿、出直した方がいいか?」
「そうだな、用件次第になるけど・・・」
「いえっ、大丈夫です。俺は何も見ていない、神竜殿はソラネルにいなかった。そう主人に伝えておきます。今のことを話したら色々大変なことになりそうなので・・・」
「あーなるほど、ヴェイルが絡んでるのね。分かった、茶会済ませたらヴェイルのところに直接寄るよ。わざわざすまないなモーヴ」
「いえっ、俺はヴェイル様の従者ですので。それでは神龍殿、セリーヌ殿、俺はこれで」
今のを見られてたのか見られてないのか。それは私には分からないけどでもまだモーヴでよかったと思う。もしこれがクロエやルイだったら一生このネタ使って私のことをおもちゃにするに違いない。クロエもルイも「絵になる」とかわけのわからないことを言うに違いないと。ってそんなことは今はどうでもいいの。まずは・・・
「すみません神竜様、いきなり抱きついてしまって」
「・・・ああっ、それは気にしなくていいよ。妹たちによく抱きつかれたから慣れたというか・・・まあびっくりはしたけど」
そう言ってラインハルト様は照れ臭そうに頬を掻いた。慣れてると口ではそう言ったのに頬はほんのり赤くなっていた。淑女として恥ずかしいことをしたと思ったのと同時に自分に抱きつかれて赤くしたラインハルト様を見てどうしようにもなくうれしくなる。
「神竜様、今日はありがとうございました。おかげでいい息抜きになりました」
「それはよかったそれと・・・」
「はいっ?」
「時間が空いたらでいい。またソラネルに遊びに来てくれ。セリーヌとのお茶会は普通に楽しかった・・・というよりちゃんとしたお茶会を楽しめたのは初めてかもしれない」
「もったいなきお言葉ですラインハルト様」
「どうする?フィレネまで送って行こうか?」
「いえっ、心配に及びません。迎えにはクロエとルイを呼んでますので」
「そっか。今日はありがとなセリーヌ。俺も楽しかった。今度フィレネ城にも顔を出すから」
「ふふっ・・・その時はフィレネ産の紅茶で歓迎してあげます」
「楽しみにしてるよ」
そう言って私とラインハルト様のお茶会はお開きになった。ついでに余ったクッキーはラインハルト様に包んでもらい王城の兵士たちと食べて感想が欲しいと言われてナチュラルに次のお茶会も続けていくと言われた気がして嬉しくなる。私は今これ以上の幸せは求めないけど・・・
でも偽ることはやめにすることにした。私はどうしようにもなく神竜ラインハルト様が好き。この気持ちに嘘をつかずにラインハルト様と接していくことを決めた。
ハルト / ラインハルト
変幻の指輪で黒髪になったときにはハルトと名乗っている。ハルトの固有スキルはどの兵種でも武道が使えるという効果がある。ハルトの時の兵種はマージナイトで魔法A+剣B+武道B。全ステータス高いせいでサンダーソードを装備させた時近距離だろうが遠距離だろうがめちゃくちゃ強いくせに戦うスタイルはあくまで武道メインである。ちなみに余談だが何故か紋章士リーフには怖がられておりなんでこんなことになってるのかはラインハルト自身分かっていない(こいつ自身の原因というわけではない)
セリーヌ
基本的に性格や物の考え方は原作通りだがどうしようにもなくラインハルトが好き。この作品でも安心できるレベルでかなりまともな部類の子。
1週間程度のペースで更新は続けていきます。
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