日輪の後継者はオラリオでヒーローを目指します (日の呼吸の使い手)
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プロローグ

何となく頭に浮かんだから書いてみた。
暇つぶしにどうぞ。


 

 

 

俺の村には1人不思議な人がいる。

その人は穏やかで物静かな素朴な人だった。

 

離れの場所で炭焼きをしていて、たまにその炭を売りに来ていたりする人。花札のような耳飾りをしていて、額の痣が特徴的だった。

 

優しい人でよく遊びに行っていた。

 

腰に刀を差していることからその人が剣士だというのは何となくわかってたがこんな穏やかで物静かな人が刀を振る姿なんて想像できなかった。

 

ある日村がモンスターに襲われた。

モンスターの大群が一挙に押し寄せてきて村の誰もが慌てふためいていた時、その人はそれでも穏やかにモンスターの前へと立ち塞がった。

 

刀に手をかけ次の瞬間には、俺は目を奪われていた。

 

綺麗な剣だった。

 

モンスターの悉くを切り伏せ、それでもなお変わらないいつもの穏やかさ。

 

やがてモンスターの全てを地面へと切り伏せ、灰となって消えていくモンスターの中心に立つ彼。

 

それを見ていた俺は思わずといったように口を開いていた。

 

「……俺に剣を教えてください」

 

 

 

●●●

 

 

 

「そんじゃ先生。俺オラリオ行ってくるっす」

 

あれから数年、俺は10歳になっていた。

 

先生の教えの元、修行を積んだ俺はそれなりに強くなっていた。……多分ね。

 

先生の修行は厳しくも優しく、充実したものだった。

 

「……気をつけて行くんだよ」

「うっす!オラリオで俺はヒーローになって女の子にモテまくりになって帰ってくるっす!」

「相変わらずな様子で安心する。その様子なら心配は不要だな」

 

そう言って微笑む我が恩師。

今生の別れでは無いとはいえ少しは寂しさが浮かんでくる。

 

「ご両親に挨拶は済んだか?」

「もうバッチシ!親父から背中叩かれて今もまだ痛いっす!」

「そうか。頑張ってくるんだよ」

「うっす!じゃ、行ってきます!」

 

そう言って俺は先生に手を振りながら馬車へと乗った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

馬車に乗って幾ばくか。

手綱を握る男が声をかけてきた。

 

「……さっきの男はお兄さんか何かかい?」

「まあ兄と言っても過言じゃないほど世話になった人っすね。戦い方を教えてくれた人っす」

「そうかい。ちなみにオラリオには何しに?」

「冒険者っすね。冒険者になって女の子にモテまくりたいんすよ」

「ガッハッハッ!いいねぇ、男ならそうでなくっちゃな!」

 

高らかに笑う男と会話を弾ませ旅路を進む。

 

道中、男との会話を楽しみながらも脳裏には先生との修行の日々を思い出していた。

 

刀の振り方よりも先ず最初に教えてもらったのは"呼吸"の仕方だった。

呼吸を巧みに扱えれば実力差が離れた相手とも戦える。そんな教えの元、特訓をしていたがこの呼吸を覚えるまでが1番長かった。

 

戦うための呼吸から回復するための呼吸。ありとあらゆる呼吸法を教えてもらったが、基礎はできたと言っても先生曰くまだまだ発展途上。我ながら先生との差は毛ほども縮まった感じはしない。

 

村を出て少し離れた森で対モンスター戦もいくらかやってみたが一対一ならまだしも多対一の戦闘はまだまだだ。

何より、先生直伝の"戦いの呼吸"も俺が使うと刀を一振するだけで体力が無くなる。

 

"アレ"を連続で繰り出せる先生がどれだけバケモノなのかが身に染みたぜ…。

 

先生のその戦い方は全部で12の型から出来ていて、そのどれもが必殺級の一撃。それを連続で繰り出し何度も切りつけなきゃ倒せない相手がいたと聞いた時は驚いた。なんて言うバケモンだよそれ。

 

噂に聞く黒龍ってやつなのか。聞いてみてもはぐらかされたから答えは分からなかったが…。

 

一応、自分でも12の型全て再現出来る。威力はお粗末だけれども。しかも型の1つを繰り出すだけでバタンキューだ。

 

無理をすれば三振り目までは出来る。でもその後気絶する。実践で使うにはまだまだだ。

 

だがまあその型に頼らずとも戦えるくらいには力はついてるはず。

俺はオラリオでヒーローになってモテモテになるんだ。……まあ先生にそんなことを言った時は苦笑いされたけど。

 

そんなことを考えつつ、数時間程の時間が経った時だった。

 

「お、ボウズ見えてきたぞ。あれがオラリオだ」

「おぉ…!」

 

見えてきた城塞都市。壁に囲まれた大きな町、オラリオ。

天高く聳え立つ巨大な塔。離れていても分かるほどの活気。

 

「今どんな気持ちだ?」

「……ドキがムネムネって感じっす」

 

世界の中心オラリオ。

 

 

 

"継国縁壱"の一番弟子、"リオ・ガルシア"。ヒーロー目指して冒険者始めます。




モチベが続けば続きを書くよ。
応援して。


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1話目

継国縁壱の異世界生活までの流れ。

お労わしや兄上

お兄ちゃんとジャキンジャキン

気がついたら知らん土地(寿命で死んで異世界転移)

あるぇ?体が若返ってるぅ?

行くあてなく彷徨い腹減りバタンキュー

助けて貰った人のお家で厄介に

お家を建て自立、炭焼き職人へ

幼オリ主懐く

オリ主へ呼吸の伝授

オリ主オラリオへ、ちょっと寂しい(イマココ


 

 

 

さて、『冒険者始めます!』なんて啖呵は切ったはいいものの、俺は1つの大きな問題に直面していた。

 

「……ファミリアに入れねぇ…!」

 

そう呟きながら大通りの中の一つの脇道にてちょっとした段差に座り頭を抱える。

 

オラリオに着き、馬車のおっちゃんに笑顔で別れてからはや半日。もはや日も落ちかけてきた時間。未だにどこのファミリアに入ることが出来ていなかった。

 

着いた瞬間にギルドに直行し、『冒険者登録したいです』と言ったら職員さんが『じゃぁファミリアに入ってきてね』と言われ、意気揚揚とまた来るぜなんていうやり取りをしたというのにコレじゃ笑いものだ。

 

人伝に聞いたファミリアには大方訪問した。

でも、

 

 

 

『うちは女性のみなの、ごめんね?』

 

『ここは医療系ファミリアだがいいのか?』

 

『額に火傷の後……傷物か。他当たりな』

 

『子供か。うちは探索系ファミリアなんだ。冷やかしなら帰りな』

 

『……失せろ』

 

 

 

もう心がポッキリ。話くらい聞いてくれると思ってたがまさかほぼすべて門前払いとは。先生お墨付きの明るくてポジティブな性格な僕でも流石に凹みますですね。

 

「……こりゃあ前途多難すよ、先生」

 

そう言って触れるのは耳につけた花札のような耳飾り。

修行中に先生が御守りと評してくれた我が宝物。

 

気分が落ち込むとそれと連動して先生の手伝いで炭を焼いていた時に事故で火傷した額の火傷跡がズキズキしてくる。

当時はすごい泣いたけど、先生とおそろっちだと後々気づいて喜んだものである。

 

と、そんなことはどうでもいい。とりあえずファミリアを探さねば。せめてファミリアのことは置いておいても寝床の確保は必須だ。

 

「最悪、そこらへんで野宿。……まあ、慣れてるっちゃ慣れてるからいいけども」

 

先生と森にモンスター討伐に出た時何度か野宿の経験はある。が、好んでやりたい訳でもない。宿があるなら取りたいが、この先何があるか分からない。先生や親から貰ったお小遣いは使わなくていいならあまり使わずに節約しておきたい。

 

「腹も膨らませなきゃいけないし……あー、もうどうしよっかなー」

 

と、そんなことを呟きながら天を仰ぐように顔を上へと向けた時だった。

 

「なんや、自分ファミリア探してるんか?良かったらウチに来ーへんか?」

 

そんなセリフとともにこちらを覗き込む赤髪糸目の女が立っていた。

何よりも特徴的だったのが、驚く程に、

 

「……ぺったんこ」

「なんや喧嘩売っとるん?」

 

おっとこれは失言が。いやしかしここまでのまな板加減は初めて見たかもしれない。そりゃ驚いて思わず口に出るのは仕方ないよね。

 

「こいつは失礼致しやした。それで、えーと……どなた?」

「……まあええわ。うちはロキ。神様や。崇めてもええで」

 

そう言って得意げにぺったんこ……もといロキは自分を親指で示しながら言った。

 

 

 

●●●

 

 

 

「──てなわけや。今日からウチのファミリアに入ることになった」

「リオっす。リオ・ガルシア。よろしくおなしゃす!」

「ま、そういうことや。よろしくしてやってや」

 

ロキに連れられてやってきた場所。

ロキ・ファミリア本拠地、『黄昏の館』。

 

そこで団長らしき金髪のちっちゃい人、他には緑髪のエルフさんに髭モジャのドワーフさん、合わせて3人の前で頭を下げた。

 

「……こんなホイホイと連れてくるもんじゃないじゃろ。ペットじゃあるまいし」

「先日、あの娘(▪▪▪)が入ってきたばかりだと言うのに……」

 

こちらの挨拶をよそにロキに呆れた様子を見せるドワーフさんとエルフさん。それにしたってエルフさん、さすがエルフ。綺麗な人だなー。

 

「まあええやん、ええやん。それに何も考え無しに連れてきた訳やないで。あの娘にも"近い歳"の子がいた方がええと思うてな。刀も自前で持っとるしそれなりの経験があると踏んでの事や」

 

隣のロキのそんな言葉を聴きながら下げていた頭を上げ前を向く。

その時ちょうど金髪の人と目が合った。

目線が合い真っ直ぐ見つめ合う。身長は同じくらい?いや、まだ金髪さんの方が高いかな?

 

「……うん、僕はいいと思うよ。彼の目はまっすぐだ。あの娘と歳が近いのもいいね。いい刺激になりそうだ。歓迎するよ、リオ」

 

そう言って手を出してくる金髪さん。

その手を見つめ、握手を求められてることに気づいて慌ててその手を握った。

 

「うっす!……ちなみに名前とかって…?」

「ああ、これは失礼。まだ自己紹介してなかったね。フィンだ。フィン・ディムナ。このファミリアの団長さ。因みに小人族(パルゥム)だ」

 

パルゥム……たしか体格が小さい種族だったっけ。団長やってるってことは大人かな?……なるほど確かに小さい。

 

「ほら2人も」

「……リヴェリアだ。リヴェリア・リヨス・アールヴ。副団長をしている」

「ガレス・ランドロックじゃ。特に役職は無いが気軽になんでも聞いとくれ」

「うっす!ご指導ご、ごべん、たつ?よろしくお願いします!」

 

礼儀は大事だ。特に挨拶。先生からも耳にタコができるほどに言われていた。故に元気よく。

 

「ガハハハハ!元気な小僧じゃわい!」

「これくらい元気なのはいいことではあるね」

「ふぅ、あの娘にも見習ってもらいたものだな」

 

好感触。

滑り出しは好調だ。良かった。第一印象悪くてケツを蹴り飛ばされファミリアには入れない。野宿でもしてろ案件はこれでなくなったとみていいか。一安心だ。

 

「よし、そんじゃ挨拶も済んだことだし早速神の恩恵(ファルナ)刻もか。着いてき」

 

そうして先導するロキの後をつけていくと着いたのはロキの自室。

ベッドにうつ伏せになれと言われたのでうつ伏せて待っていると。

 

「そんじゃ始めるで」

 

そう言ってロキは俺の腰に馬乗りになり、俺の服をめくられた。

手にしているのは少々太い針。

 

「え?まさかその針を背中にブスリっすか?」

「ん?あーちゃうちゃう。これをウチの指に刺して血を一滴背中に垂らすだけや」

「……痛くないんすね?」

「あらへんあらへん。安心しぃ」

 

痛くないなら安心だ。

俺は変に身構えることもせずロキに身を委ねるように体の力を抜いた。

 

やがて背中に感じる冷たい小さな感触。

そこから何かが広がるように背中が温かくなり、背中が光り出した。

 

「……今更聞くけどリオはなんで冒険者になりたいんや?」

「え?かっこよくないっすか?冒険者って。俺は女の子にモテたいんすよね」

「ええなぁ、男の子っぽくて。そういうのウチ好きやで」

「あ、それなら良かったっす」

 

そんな会話をしている間に背中の光は落ち着きを取り戻し、やがて何事も無かったように元へと戻った。

 

「よし終わりや。もうええで」

「あ、もう終わりっすか。思ったより早いんすね」

 

体を起こし服を整えベッドへと腰かける。

そうしてロキから渡された一枚の羊皮紙。

 

 

 

『リオ・ガルシア』

 

Lv.1

 

力  : I 0

耐久 : I 0

器用 : I 0

敏捷 : I 0

魔力 : I 0

 

《魔法》

 

《スキル》

 

 

 

 

「……何も無いんすね」

「せやな。ま、みんな最初はそんなもんや。ゼロからスタートやで。気張りや」

「うっす!頑張ります!」

 

兎にも角にも、これで冒険者の第1歩目は踏み出せた……ってことでいいんだよね?




継国縁壱大好きっ子のオリ主。
おそろっちの痣が出来て小躍り、さらに耳飾りのプレゼントで数ヶ月間にんまり笑顔が続いた。
継国縁壱の髪型を真似しようと髪を伸ばし中。現在はそれなりに伸びたが未だに髪を結べるほど伸びては無いため前髪が邪魔にならないようにヘアバンドを頭に巻いてる。
よくよく見れば赤みがかかってる黒髪で瞳は赤い。
オラリオ出発前に継国縁壱からお揃いの羽織を貰った(体が小さくてまだブカブカ)
刀はさすがに日輪刀ではないが継国縁壱から貰ったいうことでかなり大事に丁寧に扱っている。

……ダンまち世界だと継国縁壱ってどこレベルの強さなんだろうとふと疑問に思った。
負ける姿が想像出来ない。


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2話目

長くなった。疲れた。死んだ。


 

 

 

ロキ・ファミリアに入団して一夜明けた。

そんな俺は今、副団長のリヴェリアさんと共にギルドへと来ていた。……まあ正確にはもう一人いるんだが。

 

「ローズ」

「……ようこそおいでくださいました、【ロキ・ファミリア】副団長、リヴェリア・リヨス・アールヴ様。今日はどのようなご要件で」

 

知り合いなのだろうか。気軽に声をかけたリヴェリアさんに対してとても棒読みで、それこそマニュアルに書かれてそうなレベルのセリフを吐いたケモ耳を生やした赤髪のローズと呼ばれたギルド職員。

ケモ耳……可愛い。モフりたい。

 

「堅苦しい挨拶はよせ。それに言動が一致してないぞ」

「大手の派閥にはそうしろってマニュアルが言ってるんだから、仕方ないでしょう?やることやらないと減俸なのよ。げんぽー」

 

なるほど、それなら仕方ないね。……ギルド職員って大変そう。

 

「五年前、初めてこの窓口で会った時はあれほど初々しかったというのに、変わったな。その勝気な性格は昔のままではあるが」

「就職直後のことか。そんな大昔の話持ち出さないでくれる?……それで?無駄話をしに来たわけじゃないんでしょう?面倒事なら早く済ませてくれる?あんた達や【フレイヤ・ファミリア】の対応って、いちいち気を使うんだから」

 

よくよく見てみれば1度ギルドに来た時に受付してくれた……人の隣のカウンターで冒険者に対応していた人だ。

さすがオラリオ。美人さんが多いななんてことを考えてたな。

 

「ああ、冒険者登録だ。手続きをしてもらいたい」

「冒険者登録って……肝心の当人はどこにいるのよ?言っとくけど本人じゃなきゃ登録は出来ないわよ」

「ここにいる」

「……は?」

「新しい冒険者はここにいる」

 

そう言われリヴェリアさんの背中の後ろに隠れていた俺ともう1人がそそくさと前へと出た。

それを素っ頓狂に見つめるローズさん。

 

「……ちっさ。てかそっちの子は前に来てたわよね」

「あ、無事にファミリアに入ることが出来ました」

「……そ、良かったわね」

 

やった覚えててくれた。

そりゃこんな10歳の子供が1人で来てたら目立つか。それでも覚えててくれたことはちょっと嬉しい。

 

「この子達の冒険者登録を済ませたい」

「はいはい、承りました」

「2人とも、文字は書けるか?」

「……うん」

「バッチシっす」

 

そうして手渡された紙に目を通す。

名前に年齢、出身地。所属ファミリア等々事細かに書く欄がある。

 

親父からもこういうのはインパクトが大事だと言われていたから何か面白い感じに書きたいが、

 

「……待て、それは【神聖文字(ヒエログリフ)】だっ!共通語(コイネー)にしろっ!」

 

リヴェリアさんのそんな大声が聞こえてきた。

なんてことだ。俺以上にインパクトのある書き方をされた。なんだか負けた気分。

 

そんなこんなで書き終え、ローズさんへ提出。

 

「………」

 

何やら書いた書類を見て考え込んでる様子だ。

……書き漏れでもあったかな?

 

「何か問題でも?」

「……いいえ、ございませんとも。ようこそオラリオへ。これで今日からあんた達も冒険者よ」

「……」

「うっす!頑張ります!」

「元気はいいわね。……アドバイザーは……どうせ要らないわね。あんた達大派閥からすれば私達のサポートなんて」

「ああ、教育の方は我々の方でやる」

 

いえいえこれからも何かあったら来ますとも。

リヴェリアさんに不満は無いけどローズさんとも出来ればお近付きになっておきたい。

 

「これで終わり?……なら行く」

 

そう言って出ていこうとする自分と同じく駆け出し冒険者の子。

金髪にちんまりとした図体。無表情の顔をつねにしている彼女はどこか人形のような印象を受けた。

 

しかし、それを待てと止めるリヴェリアさん。

 

「待て、馬鹿者。その格好でダンジョンに行くつもりか。準備もせず迷宮に行くなど自殺行為だ」

 

その言葉に激しく首を縦に振る。全くもってその通りだ。

 

『相手を舐めてはいけないよ』

 

先生もそう言ってたもんな。

 

「──っ」

「そもそも、武器も持たずにどうする気だ。まずはお前の武器と防具を揃える」

 

その言葉に更に激しく首を振る。

……視界がぐわんぐわんしすぎて気持ち悪くなってきた。

 

「……何してるの?」

「お、お気になさらず」

 

フラフラした俺を見兼ねてローズさんがそう言った。

目が回る。

 

「……それで?ギルドの支給品、使う?」

「ああ頼む。世間知らずの駆け出しにはちょうどいい」

「冒険者入門の武器を【ロキ・ファミリア】に提供する日が来るなんて思ってもみなかったわ。……ねぇ、貴方。この子の採寸をお願い」

 

ローズさんは近くにいた職員にそう言うと金髪の子は職員に連れられて奥へと行ってしまった。

 

……俺はどうしよう。

 

「お前も防具をいくつか見繕ってもらえ。武器はその刀で十分だろ?」

「うっす!お言葉に甘えさせてもらいます!」

 

やったぜ。先生からもらった羽織はあんまり汚したくなかったからちょうど良かった。

 

そして、俺もそのまま職員に連れられ奥へと向かった。

 

 

 

●●●

 

 

 

「肩から力を抜け。呼吸が浅いぞ。今から張りつめてどうする」

 

リヴェリアさん同伴の元、準備を終えた俺たちはダンジョンへと来ていた。

初めてのダンジョン。少しワクワクしているがそれと同じようにドキドキで緊張している。

 

横を見れば張り詰めた表情の同期の金髪ちゃん。確か名前は"アイズ・ヴァレンシュタイン"だったか。

ビビっている……わけでも無さそうだが、顔はどこか少し怖い。

 

「迂闊に飛び込むな。一撃で仕留めようとはせずにまず──」

 

と、リヴェリアさんはゴブリンを目の前に戦い方のレクチャーをしてくれようとした時だった。

唐突に隣から地面を蹴る音が聞こえた。

 

気づくと隣にいたはずのアイズちゃんは前方ゴブリンへと目掛けて駆け出していた。

 

「──っ!?馬鹿者っ!」

 

慌てた様子でアイズちゃんを追おうとするリヴェリアさんだが、ゴブリンを"一撃で灰に変えた"アイズちゃんを見て動きを止めた。

 

「なっ!?」

 

凄いな。瞬く間に目の前のゴブリンが減っていく。それも全て一撃で。

 

「これが、【ステイタス】を授かったばかりの眷属が行う、最初の一撃(ファーストアタック)……!?」

「凄いっすね。周りの人もあんな感じなんすか?それだったらちょっと自分自信なくすっす…」

「……いいや、ありえん。私自身も驚いている」

 

あ、良かった。みんながあんな化け物じみた強さだったら俺村に帰るとこだった。つまりあの子が異常なんだね。理解した。

 

「……やぁああああああああっ!」

 

そんなことを思っている間にも叫びを上げて剣を振り抜くアイズちゃん。

凄い。たしかに凄いんだけど、

 

「……なんて言うか、危なっかしいな」

「分かるか?」

「え?あぁ、まあそっすね。なんて言うかこう、自分のことを考えてない戦い方?強くなろうって気持ちよりモンスターを倒したい気持ちの方が前に出てる感じ?……いや、うーん……すんません。うまい言葉があんまり出てこねっす」

「いや、いい。言いたいことは分かる」

 

あんな戦い方を先生の前でやったらどれだけ怒られるか。……いや、怒られはしないかな。先生の怒った姿なんて見た事ないし。

……ただ、悲しむんだろうなぁ。

 

と、そんなことを考えていた時だった。

 

「ギャッ」

 

いつの間にかすぐそこまでゴブリンが迫ってきていた。

 

「丁度いい。お前の実力も確かめておきたいところだった。相手をしてみろ」

「うっす」

 

リヴェリアさんにそう言われた俺は早速腰に差した刀に手をかけ、そのまま刀身をさらけ出した。

白銀に光る鋭利なそれは、ダンジョン内の僅かな光を反射している。

 

手入れは毎日欠かしてない。今日も手に馴染む。

先生とおそろいの刀。体格がまだ小さいから相対的にデカいように感じるが……、この大きさが丁度いい。

 

構え、真っ直ぐに相手を見る。

余計なことは考えない。相手のゴブリンを切ることだけに集中。

 

心は穏やかに、それでも体は臨戦状態。相反することだが先生曰くこれが出来るようになればさらに強くなるらしい。

 

さて、そんなことを思っているうちにゴブリンが飛びかかってきた。

手にした棍棒を振りかざし、こちらに振り下ろそうとしている。……が、先生の剣に比べればこんなのは遅すぎる。

 

冷静に、振り下ろされた棍棒に刀の側面を添わせ、軌道をずらす。

よろめくゴブリン。体勢を低く、よろめき倒れる先へと体を移動。

 

首……は腕が邪魔して狙いづらい。

柔らかく、それでいて急所。脇の下だな。ここに向けて刀を振る。

 

刀が肉を抵抗なく切り進む感触が手に伝わる。

 

そして、そのまま振り抜けば、

 

「ぎ……ぎゃ……ッ」

「……うん、今日は調子がいい」

 

刀に付いた血を振り抜けば地面に横たわるゴブリンは灰となって消えた。

 

「どうだったすか!?なんか悪いとこあればアドバイスください!」

「……え、あ、あぁ。なかなか良かったぞ」

 

よし、褒められた。やったね。

この調子であと数体、切っておきたいが、

 

「ギギッ」

「ギャギ」

「ギギャっ」

「ギャギャ」

 

おっと、一気に4体か。

一対一ならいいが多対一は苦手なんだよなぁ。

 

「気をつけろ。数が多ければそれだけ厄介度は増すぞ」

「うっす」

 

さて、4体のゴブリンに向かって構える。このまま迎え撃つか。

……いや、ここは。

 

「──っ」

 

動いて撹乱する。

先生から教えてもらった多人数を相手にする時のコツ。

 

 

 

『多人数を相手にする時は動くことが大事だ。止まれば囲まれる。だからこそ動き続け、囲まれないように立ち回れ。多対一は囲まれるから多対一なのだ。囲まれなければ一対一の連続に過ぎない』

 

 

 

"呼吸"を整えつつ機を狙いながら間合いを気をつけつつ一定の距離を取りゴブリンの周りを動き続ける。

 

ゴブリンもゴブリンで攻撃を繰り出してくるが、バラバラの攻撃故に対処がしやすい。防御に徹し、その時まで耐える。

 

 

 

『たまには相手に隙を与えることも大事だ。隙をわざと作り誘い込め。誘い込んだ相手の動きは手に取るようにわかる。そこを迎撃すれば良い』

 

 

 

ゴブリンの位置が重なるような場所で、減速し、その間にわざと体勢を崩す。

そこを見逃さずすかさず飛び込んでくるゴブリン。

それを確認した俺はすぐさま体勢を直し刀を構えた。

 

ゴブリンは空中に身を投げ出してる。

避けられる術はない。棍棒でガードされる可能性はある。が、関係ない。それごと切ればいい。

 

先生から教えてもらった戦いの呼吸と型。

 

 

 

──スゥ……シィーーーーー……

 

 

 

イメージは太陽。

力強く踏み込み、ゴブリンに向かって刀を振った。

 

 

 

 

 

日の呼吸 参の型

 

烈日紅鏡

 

 

 

 

 

左右に振るう二連撃。

その攻撃は4体のゴブリン全てにヒット。胴と足は泣き別れ、そのまま地面に落下。地面へと落ち切る前にその体は灰となって消えた。

 

……これは、リヴェリアさんの前で中々かっこいいとこ見せれたのでは?やった──

 

「――ッ!……けほっ…けほっ…」

 

やっぱりまだ反動がすごい。この肺がボンッとなって心臓がギュッとなる感じ。慣れないな。

 

型を使うために一瞬だけ"日の呼吸"を使うくらいならまだどうとでもなるが……使いこなすにはまだまだか。

 

それに昨日今日、移動やファミリア探し、冒険者登録と忙しくて自主錬が出来てなかったこともあって身体が驚いてる節もあるか。

"常中"が出来てると言っても、先生からも呼吸は日々の積み重ねって言われてたからな。今日は帰ったらいつもより多めに自主錬しよう。

 

「……無事か?」

「あ、うっす。大丈夫っす。……こほっ」

「水飲むか?」

「あ、もらいます」

 

リヴェリアさんから手渡される水筒を口へと運ぶ。あぁ、潤う。

 

「休んでるか?」

「いや、も少し体動かしとくっす。動きの確認とか諸々しときたいんで」

「そうか。分かった」

「うっす」

 

水筒をリヴェリアさんへと返し、お辞儀を1つ。刀を手に取りまたもやゴブリンと対峙した。

 

とりあえず、実践であと1……いや、2回は日の呼吸を使っておきたい。

……まあ気絶しない程度にがんばろう。




ローズのビジュが好き(唐突)

ちなみにオリ主くんは4歳の頃から継国縁壱の元で修行を始めてます。呼吸に関して3年みっちり。それから剣を握り始め、1年後にモンスターとの実戦というなかなか濃い幼少時代です。





最後に、


リヴェリアマッマに膝枕されて耳かきしてもらいたい。


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3話目

短め。
リヴェリアがどう思ってるか気になると言われたのでそういう話にしたよ。


 

 

 

夜の時間。

夕食を終えた俺はホームの『黄昏の館』の訓練用グラウンドにて自主錬をしていた。

 

借りた米俵を担ぎ、走り込み。

その後打ち込み台にて重りをつけた木刀で素振り。

大岩を紐で括り背負いながらの腕立てやスクワットといった軽い筋トレ。

それらを全て呼吸を意識しながら行う。

 

ダンジョンではあの後、日の呼吸を使った型を2通り使ったが足腰ガクガクになりリヴェリアさんに肩を貸してもらいながら何とか帰ってきた。

 

まだまだ使いこなすまでの体が出来上がってないことを痛感した。

何とかものにしなくてはという焦りは多少あるが急ぎすぎてはいけない。一朝一夕にはいかないのは百も承知。落ち着いて地道にコツコツ頑張るしかない。

 

そうして汗もかなり流れた頃、ひと休憩をしていたら視線を感じた。

視線を感じる方を向いてみるとそこには夜でも目立つ金髪の子が立っていた。

 

アイズちゃんか。なにか用事でもあるのだろうか。そう考えていたが、やがて彼女は視線を逸らし行ってしまった。

 

「……」

 

他の人と違って年も近いから仲良くしたいんだけどなぁ。

……今度一緒に自主錬誘ってみるか!

 

そういえば神様(ロキ)の自室に明かりが点いてるな。リヴェリアさん達が話でもしてるのかな。

何話してるんだろ。

 

 

 

●●●

 

 

 

「──ちゅーわけで、アイズたんの教育係はリヴェリアがやることに決定したわけやけども。……それで?リオの方はどうやった?」

 

ロキの自室。そこに集まったフィン、ガレス、リヴェリア。彼らの議題は最近入った若い子供、アイズとリオに関することだった。

 

アイズの方針は概ね決まり、次はリオへと話の矛先が向いた。

 

「……一言で言えばそうだな……言い方が悪いがロキ。良い拾い物をした、と言えるだろうな」

「……ほう?お主がそこまで言うとはのう」

 

リヴェリアの言葉に唸るガレス。

 

「やはり、それなりに戦えていたのかい?」

「それなり、どころの騒ぎではない。戦いの基礎は体に染み付いているようだった。立ち回りも間合いの取り方も……何より剣の技量がもはや10歳のそれではない」

「はぁ、ほんまかいな?ウチもそれなりに戦えるとは思ってファミリアに誘ったけど、ぶっちゃけそんなに戦えるような雰囲気は感じへんかったで」

 

リヴェリアの言葉に疑心暗鬼なロキ。

素直で真っ直ぐ。それがリオに対するロキの印象だ。

戦う姿など想像もつかないような性格。それなのにリヴェリアという一線級の冒険者が驚くほどの戦いの素質があると聞いて信じられていない様子だった。

 

「……トータルの強さで見れば私やガレス、フィンの足元にはまるで届かないだろう。しかし、技術面に関して言えば私たちに匹敵するレベル──」

 

その時リヴェリアの脳裏に過ったのは日の呼吸を使ったリオの剣技。

 

鋭くしなやかに、そして無駄な破壊もない。舞を披露しているかのような綺麗な剣。直で見たリヴェリアが見惚れるほどのそれが頭をよぎった。

 

「──いや、もしかしたら剣の技術においては私達の上を行ってる可能性すらあるな」

「ほう、それほどか」

「……鍛え甲斐がありそうだね」

 

ガレスは感心したように髭を撫で、フィンは期待の新人に胸を膨らませ、ロキは細めを少し開きその口に不気味な笑みを浮かべた。

 

「とはいえだ。まだまだ子供。未熟な部分も大いにある。素質はあるがそれを活かしきれるほどの体躯じゃない。彼の才能を生かすも殺すも私たちの力次第といったところだろう」

「なるほどのぉ…」

「それほどのものを独学で身につけたとは考えれない。……良い師がいるんだろうね」

「くぅー!リオの師匠かぁー!ウチのファミリアに勧誘してみたいなぁ!」

 

まだ見ぬリオの師を思い浮かべワクワクが止まらないロキ。言葉には出さずとも他の三人もロキと心は一緒だった。

 

「……精神面も中々育っている。アイズのいいお手本にもなりそうだ」

「となると、アイズとセットで育てるのは有りかもしれん」

「リヴェリアに負担をかけるようでごめんやけど、大丈夫そうか?」

「ああ問題ない。リオが増えてもそこまで負担にはならないからな。何より"素直"だからな」

 

リヴェリアの一単語に力が籠ってるとこを見るに、相当アイズに胃を痛めてるのだろうなと思う3人であった。

 

「とりあえず明日からは知識を蓄えさせようと思う」

「それがいいね。技術面だけじゃなくそういうのも大切だ」

「ウチも一応明日一緒に見ることにするか」

「ワシは明日用事があるから任せるぞ」

 

こうして2人の教育の方針を固めていく4人。

窓の外を見れば自主錬に明け暮れるリオがいる。

 

……汗の量が尋常じゃないことに気づき、慌てて止めさせようと彼等は部屋を飛び出した。




やめて!エルフ特有の長寿故に年齢を気にしてる副団長さんに"その"呼び方をしてしまったら般若が目覚めてしまう!

お願い!言わないでアイズ!

あんたが今言ってしまったら、セットにされてるオリ主はどうなっちゃうの?

副団長はまだ堪えてる。ここを耐えればダンジョンに行けるから!

次回【アイズ、リヴェリアをおばさん呼び】デュエルスタンバイ!


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4話目

リヴェリアさんみたいな家庭教師が欲しかった。


 

 

 

一夜明け、朝の自主練と朝食を済ませた俺の前に大量の本が積み重なっていた。

隣に座るのは俺の3つ歳下のアイズちゃん。そして本の傍らに立つのはリヴェリアさんと神様。

 

「なに……これ……」

 

アイズちゃんは目の前の本を目にそんなに言葉を漏らした。

 

「見て分からないか?本の山だ。今日はお前たちの基礎知識を養う。早い話……勉強だ」

「勉、強…?」

「ああ。迷宮の知識はもちろん、【スキル】や【魔法】、冒険者としての心構えを説いていく」

 

なるほど、それは確かに重要だ。

 

先生にも知識を広げられる場があるならどんどん利用するべしとも言われていたからな。これはいい機会だ。

 

「頑張ります!」

「うむ、いい返事だ」

 

とりあえず当分は目の前の本の読破を目指しながら自主錬の日々だな。こういう地道な努力が後に差を産む。多分……きっとそうさ。

 

「そんなの要らない…!戦わせて…!」

 

アイズちゃんめ。知識の重要性を理解していないな?俺もあまり良くはわからんけど。

でも、俺たち以上に生きてる先生やリヴェリアさんが言うなら重要なんだろう。

 

「馬鹿者、戦いそのものを知らずに強くなどなれるか。力を求めるというのなら、まず数ある【未知】を理解しろ」

「…………」

 

未知を理解……たしかに。

刀の振り方より呼吸が大事と言われた時も頭に?が浮かんでいたが、説明を受け、意味を理解した途端に目に見えて上達速度が上がったと自覚できたからな。やっぱり勉強大事。

 

そんなしかめっ面で無言を貫くアイズちゃんを見て神様が声をかけてきた。

 

「あはは、アイズたんは勉強嫌いなんかー?」

「うぐっ……」

「アイズ、お前には魔道士が必要とする【大木の心】が必要不可欠だ。昨日のような【スキル】に頼った戦い方ではいずれ自滅する」

 

大木の心……意味はよく分からないがちょっと待って?

え?アイズちゃんってもうスキルあるの?嘘でしょ。

……なんだか負けた気分。

 

俺がそんなことを思っていても件のアイズちゃんは眉をひそめ嫌そうな顔を崩さない。

 

「まあまあ、騙されたと思ってちょっとやってみんか?それにこんな別嬪エルフが教えてくれるなんて嬉しいやろお?」

 

たしかに(即答)

リヴェリアさんの指導ならばいつもの数十倍のやる気が出てくるというもの。

 

「ぐへへ、可愛い幼女と美人家庭教師。この組み合わせもオツやなぁ。なぁリヴェリア、メガネかけてくれへん?」

 

リヴェリアさんがメガネか……似合うな。確実に。見てみたい。

 

「何を言っているんだ貴様は」

 

かけてくれないのか。残念だ。いつか見れることを期待して今はお勉強を頑張らせてもらいましょう。

 

そうして本を手に取り早速開いてみた。

 

ふむふむ、なるほどな……分からん。専門用語が多すぎない?

 

「……の方が綺麗だった」

 

そうして本に目を通しているとなにやら横のアイズちゃんは呟いた。

よく聞こえなかった。何を言ったんだろう?

 

「……?何か言ったか?」

 

リヴェリアさんも聞こえなかったらしい。

神様も?顔だ。そうしていると、次の瞬間、アイズちゃんは衝撃的な言葉を発した。

 

「おばさんッ!」

「……………………………………………」

 

あ、空気が変わったこれ。

なんかどす黒いオーラがリヴェリアさんの背後から出てる気がする。

無表情故に怖さが増してる。

 

「ひぇ……」

 

神様も怖がってる。……神が怖がるほどの殺気ってヤバいな。

 

「……っ」

「!?!?!?」

 

あ、拳骨が落ちた。

 

「まずは、年長者に対する敬意を教える必要があるようだな。言っておくぞ。度を越した言動には制裁を加える。覚えておけ」

 

なんて殺気だ。確実にいまリヴェリアさん世界最強の冒険者になっている。誰も今のリヴェリアさんに勝てない。

アイズちゃんも神様も青ざめてる。なんてことだ、もう助からないゾ。

 

「ペンを持て。……今から言うことを全てノートと心に書きとめろ」

「……あちゃー」

 

神様、あちゃーで済むことなんですか?これは。

アイズちゃんもビビってる。こうなったら。

 

そして俺は手をピンと上げながら声を上げた。

 

「リヴェリア"お姉さん"!」

「……っ」

 

目を見開いた表情でこちらを向くリヴェリアさん。

そのまま間髪入れずに俺は言葉を続けた。

 

「少し難しい専門用語が出てきたので解説お願いしたいです」

 

そうして手にしていた本を開きリヴェリアさんへと突き出した。

 

「……ふっ、いいだろう。どこが分からないんだ?」

 

……声音に優しさが混じった。多少は機嫌を戻せたか?

その後、懇切丁寧に教えてくれたリヴェリアさん。

 

こんな美人がおばさんだって?そんな事言ったらうちの母親は山姥だよ。……なんか寒気がした。

 

 

 

●●●

 

 

 

翌日。朝食も自主錬も終え自室へと向かう途中だった。

 

「あ、おはようございます!」

「おお、リオか。相変わらず元気なやつだわい」

 

小柄な体躯の先輩冒険者、ガレスさん。

挨拶をすると気さくに手を挙げて返してくれた。

 

「なんじゃ?自主錬は終わったのか?」

「うっす。この後は昨日、リヴェリアさんに習ったことを復習する予定っす」

「真面目なやつじゃのう。アイズにも見習わせたいわい」

「いやいや、そんな……」

 

そんなことを言われると少しばかり照れる。

 

「昨日も大変だったそうじゃの。アイズがリヴェリアを怒らせたとか」

「あ、あはは……少しヒヤリしたっすけどね。まあ何とかなったっす」

「そうかそうか。……と、お?見てみぃ。フィンがアイズとやり合っとるぞ」

 

と、どこかへ視線を向けるガレスさん。

俺もそれに合わせてそちらを見てみるとそこには訓練用グラウンドにて木刀を打ち合う団長さんとアイズちゃんがいた。

いや、打ち合うと言うよりもアイズちゃんの攻撃を捌いている団長さん。

 

「……リオよ。あれを見てどう思う?」

「どう……というと?」

「アイズの動きじゃ。お主はどう見る?」

 

そのことばに顎に手を当て少し考える。

 

「……そうっすね。無駄な動きが多いかな、と」

「ふむ」

「当てることに意識を割きすぎていて直線的な動きっすね。あの攻撃なら避けるのは簡単っすね。しかも振りかぶりのモーションがデカすぎて、今から攻撃しますよって言ってるようなもんすね」

「ほう……ならばお主はアイズをどう育てる?」

「え?でもそんな、人のこと言えるほどの人じゃないっすし…」

「よいよい、細かいことは気にするでないわ」

 

そうだなぁ。いくつか思いつくが素人ながら考えつくことだしなぁ。……こうしてみると育てるってのはなかなか難しいことなんだな。

 

「……戦い方は素人っすけど、機動力と瞬発力に関しては多分かなり高いっすね。なんで、それを生かした戦い方を教える感じすかね。剣を使うのであれば恐らく……斬るよりも突き技の方が向いてる可能性があるっす。まあ、それ以前に駆け引きとかについても覚えてもらわなきゃいけないっすけど」

 

そこまで言うとガレスさんは腕を組み満足気に頷いていた。

及第点はいったかな?

 

「概ねわしもそう思っとる。いい目をしておるな」

「え?あ、いや、そんな……」

「まあ、細かく言えばまだまだあるじゃろうが、何はともあれアイズはなかなかの原石じゃ。もちろんお主もな」

「うっす!ありがとうございます!」

 

少しばかりだろうが期待されてる。

その事実に嬉しさが込み上げてきた。

 

「どれ、わしもこのあと用事があるんじゃったわい。お主も頑張れよ」

「うっす!失礼します!」

 

肩をぽんと叩かれガレスさんは去っていった。

とりあえず俺もアイズちゃんに負けないように頑張らないと。

 

そんな想いを胸に俺もまた、意気揚揚と自室へと向かった。



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5話目

投稿頻度がおそいって?これがデフォさ。


 

 

 

ロキ・ファミリアに来て半年が経とうとしていた。

この半年間、なかなか色濃く楽しい日々で充実していたと言ってもいいだろう。

座学に関してもアイズちゃんがやる気を出してくれて、俺の元へと分からないところを聞きに来てくれたりしてそれなりに仲良くできている……と思う。

 

さて、そんな半年の成果。

今現在の自分のステイタス。

 

 

 

『リオ・ガルシア』

 

Lv.1

 

力  : E 498

耐久 : F 301

器用 : E 419

敏捷 : F 395

魔力 : I 0

 

《魔法》

 

《スキル》

 

 

 

魔法とかスキルはまだないけどそれなりに成長はできてる。……アイズちゃんは自分より200くらい数値高いっぽいけど。

まあそれでもこうして成長を数字で見れるのは嬉しいものだ。一目でわかるのは安心する。

 

力の方は毎日の自主練のおかげなのか、他と比べて伸び方がかなりなものだ。

耐久に関してはあまりモンスターからの被弾も少ないからあまり伸びてない感じか。

 

この調子でとりあえず全部の値が"D"になるように頑張りたい。

 

『おーい、リオやー。準備はまだかー?そろそろ行くぞー』

 

おっと、もうそんな時間か。扉をノックして聞こえてきた声。

 

今日のダンジョンの同伴はガレスさん。アイズちゃんとの3人パーティ。

パーティと言ってもアイズちゃんと俺の指導役としてガレスさんが着いてくる形だ。

 

慌ててそばに置いていた刀を手に取り、先生から貰ったブカブカの羽織に袖を通す。

少しばかり袖が短くなってきていて、体が成長してきていることが分かる。

 

先生みたいにこの羽織の似合う男を目指す。

そんな想いを掲げ、伸びた髪を結び、俺は部屋を出た。

 

 

 

●●●

 

 

 

「──ほい、アイズたんとリオっちのステイタス更新の結果」

 

ロキの自室に集まったフィンとリヴェリア。自身の主神から渡された2枚の紙に目を通し、感嘆の言葉を漏らした。

 

「……【魔力】を除いた熟練度、ほとんどが500オーバー。【器用】と【敏捷】に関してはアビリティ評価C……。冒険者になって半年。大した成長速度だ」

「リオの方もアイズには劣るが300オーバーだ。素質があるとは思ってたけど、ここまで行くとはね。このままいけばすごい時期に【レベルアップ】しそうだけど……」

「ファミリアにしてみれば吉報や。でも、リオっちの方は大丈夫そうやけどアイズたんに関しては手放しに喜べへんな」

 

ロキの言葉に唸る2人。

その表情は難しいものだった。

 

「それだけ肉体を酷使しているということだ。心身の制御は大分身につけているが、あの娘は己の体を顧みない」

「なまじ戦い方を身に付けただけ多少の無茶も利くようになってしまったからね。リオもアイズの無茶に巻き込まれる形で成長してる。迷宮探索を許可したのは尚早だったかもしれない」

「んな事言うても闇派閥(イヴィルス)が平気で暴れ回る時代や。あの2人にも強くなってもらわな、それはそれで困るしなぁ」

 

頭を悩ます3人。

どうにかしてアイズの無茶を辞めさせねばならないがそれのいい案が思い浮かばない。

 

「……今、アイズが下級冒険者の間でなんて呼ばれてるか知っているかい?」

「何だ?」

「笑えるよ。……【人形姫】だってさ」

「全く笑えん」

「ホンマや。うちのアイズたんは人形よりもプニプニして可愛いっちゅうに」

「そういう意味でもない」

 

呆れた声音で突っ込むリヴェリア。

眉間に皺を寄せ頭を痛そうに押えていた。

 

「……つんのめりながら走りまくってたらいつか必ずコケる。伝えたんやけどなぁ」

「リオの方で上手くフォローしてくれてるからまだ大事にはなってないだけで、このまま行くとね……」

「……今、アイズはどうしている?」

「リオっちと揃ってダンジョンにゴーや。ガレスが面倒見とる」

 

 

 

●●●

 

 

 

今日も今日とて刀を振るう。

肉の切れる感触が刀を伝って手のひらに感じる感覚はもう慣れた。

 

モンスターを倒し、魔石を採取し灰になる。既に見なれた光景だ。

しかし、強くなることはいいがあくまで命を奪い生計を立てていることを忘れてはいけない。倒したモンスターに手を合わせ感謝する。

 

そんなことをしている横でガレスさんの声が響いた。

 

「アイズ!無理をするでない!いったん戻れ!」

「……!」

 

しかし、そんな声も無視してアイズちゃんは目の前のモンスターを倒していく。

 

最近のアイズちゃんの無茶は日に日に増している。

倒すことのみだけが先行して自分の身を考えてない。防御が雑だ。

……と、あれは危ない。サポートに行こう。

 

そうして走り出し、アイズちゃんの背後から飛びかかろうとするウサギ型のモンスターに刀を振る。

 

「大丈夫?」

「………」

 

声をかけても無視される。まあ、もう慣れたもんですけどね。

 

「……全く、ほんとに倒すことしか考えておらん」

 

そんな俺たちの様子を見かねたガレスさんが近寄ってきた。

するとアイズちゃんの持つ剣にヒビが入り砕け散った。

 

「……!剣が……」

 

あんな無茶な戦い方したら剣も耐えられないか。

ここ最近の剣の消費量は凄まじい。もう少し大事に扱って欲しいものだ。

 

「やれやれ、また得物を壊しおったか。これで何本目だ?……ほれ、この剣で最後だ」

 

そう言って剣を渡すガレスさん。

その顔は少し悲しそうだった。

 

「アイズ、御主は自分の体をひっくるめて、もっと物を労われ。いつかツケを支払うことになるぞ」

「……モンスターには、勝ってる。平気」

「勝ち負けの話を言っとるんじゃないわい……まあ、いい。お主はまだ幼い。今のうちになにごとも経験しておけ。それこそ"痛い目"にもな。良いも悪いも、成功も失敗も、全て引っくるめて"経験"じゃ。多くを知れ。多くを学べ。それがおぬし自身の為になるじゃろう」

 

ガレスさんはやっぱり良いな。指導者として見るならリヴェリアさんや団長さんよりも向いてる。

分かりやすくていて踏み込みすぎない。アイズちゃんみたいな子からするとこの距離感が実はすごく良かったりする。

 

「……じゃあ、ガレス。あと少しだけ」

 

うんうん、ガレスさんの言うことならそれなりに聞いてくれる。ガレスさんが面倒見てくれる日はだいぶ安心出来る。

でも、今日のところは──

 

「ダメじゃ。今日はもう引き返すぞ」

 

やっぱり。

アイズちゃん、さすがに今日は体を酷使しすぎだ。戻らないと多分体がどっか故障する。

 

「……嘘つき」

「嘘などついとらんわ。子供が安全に失敗できるよう、しっかり見極めるのも大人の役割じゃ」

「私はガレスのこと、好きなのに……」

「はっはっはっ!わしも生意気なお主のこと好いとるぞ?両思いだな、アイズ!」

「……やっぱり、嫌い」

 

そんな会話を聴きながら魔石を回収していく俺。

うーん、やっぱりこの空気感は好きだな。

 

「魔石回収、終わりやしたー」

「おぉ、ありがとうなリオよ。では戻るとするぞ!」

 

 

 

 

 

地上へ戻る道中、アイズは唐突に口を開いた。

 

「ガレス、鎧……キツくなってきた」

「何?もうか?いや、そういえばお主の年頃は成長期か。わしらドワーフとは異なり、ヒューマンは背もグングン伸びるからのぉ。リオの方は大丈夫か?」

「いや、少しばかりキツくなって来てるっすね」

「ふむ、新調したばかりじゃが防具はさっさと変えておくか」

 

やったぜ。少しキツくて動きずらかったからな。それにしても新調したばかりなのに変えてもらえるって嬉しい半面、余計な出費をさせてしまって心が痛い。

 

「……武器も特注品(オーダーメイド)が欲しい。壊れないやつ」

下級冒険者(ひよっこ)が笑わせるわい。せめて得物を壊さない使い方を身につけてからにしろ。リオを見習え」

 

ガレスさんに唐突に名前を呼ばれ驚く。

たしかに刀を折ったことは無いが……とりあえずアイズちゃんにサムズアップを返しとこう。

 

「……。じゃあ、こんど10階層まで行かせて」

「それも駄目じゃ」

「なんで?もう10階層には2回行ってる」

「調子に乗ってオークに殺されかけたと聞いてるぞ。リオがいなかったらかなり危なかったらしいじゃないか。まずはリヴェリア達から許可を貰うんだな」

 

あの時か。

アイズちゃん戻ってこないなとか思ったから探しに行ったら血まみれでオークに囲まれてたんだよな。いやー、あれは危なかった。

背後から一気に殲滅したから何とかなったけどあの数を正面からはキツいよ。

 

「………」

 

なんか睨まれた。俺が悪いのかな?

 

「……鬼気迫っておるのは会った時から依然変わらず。最近は身も窶れおって。強くなってくれなくては困るのだが……どうしたもんかのぉ」

 

と、ガレスさんが悩ましげな声音で呟いた時だった。

 

ダンジョンに男の叫び声が響いた。

 

「「「!!」」」

 

「人の声……」

「近いっすね」

「ああ、行くぞ」

 

そう言って走り出す俺たち。

モンスターに襲われたか?

 

耳をすましてよく聞く。

足音が無数に聞こえる。いやこれは足の数が多い……昆虫系モンスターか。数は2桁は超えてる。

キラーアント辺りか。仕留め損なうと仲間を呼ぶ習性があるからな。群れに襲われたか。

 

「数は2桁超えてるっす。多分キラーアントあたり……仕留め損なって群れを呼ばれた感じだと思うっす」

「……っ。なるほどな……【怪物進呈(パス・パレード)】でもしたか」

 

そんな会話をしながら走ること数秒。

 

見えてきた。2人の冒険者が襲われてる。

予想通りキラーアント。

 

「──!」

 

それを見て飛び出すアイズちゃん。

いつもなら危なかっしい行動だが、今は考えてる暇もないか。

 

「待ていアイズ!……っ!?」

 

それにしたって驚く威力。

一撃でモンスターを葬り去ってる。ガレスさんも驚いた様子だ。

 

でも、アイズちゃんだけに任せておくと剣がいつ壊れるか分からない。

 

とりあえず俺も行くか。

アイズちゃんも冒険者さんも巻き込まないように。

 

 

 

──スゥー…………シィィィィィィィ………

 

 

 

呼吸を整え、脚を踏み込み前へと跳躍。

 

 

 

 

 

日の呼吸 陸の型

 

日暈の龍・頭舞い

 

 

 

 

 

モンスターの間を駆け抜けながら円を描くようにして切り伏せていく。

龍が進むようにイメージしながらアイズちゃん、冒険者に当てることなく的確にキラーアントの急所のみを、全て一撃で倒す。

 

「ふぅ……けふっ」

 

前に比べて日の呼吸を使ってもそこまで苦しくはなくなった。が、それでも負担はデカい。ステイタスが上がればそれなりに長く使えそうだが……いや、焦りは禁物。慌てず落ち着いて冷静に行こう。

 

魔石を切ったキラーアント達が灰となって消えていくのを確認しながら刀を鞘へと収める。

緊急事態だったから魔石を切ったが、少しもったいないな。

 

横を見ると血まみれのアイズちゃん。あっちも終わったか。

 

「……終わり」

 

うーん、剣にヒビ入ってますね。

あ、ガレスさんも頭を抑えてる。アイズちゃんのことで苦労してるんだね、みんな。




オラリオコソコソ噂話

アイズは冒険者たちの間で人形姫と呼ばれているが主人公はその明るい性格と困ってる人を助けている姿から"お日様侍"と呼ばれているよ。


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6話目

お久方ぶり?ですね。


 

 

 

雨が降ってきた。

 

ダンジョンから帰り、刀の手入れ用品の買い足しを済ませ、ホームへと戻る途中のこと。

 

雲行きが怪しいと思ってたがこれは中々な土砂降り。傘を持ってきておいて正解だった。

 

そうして歩いていると、ふと目に止まる人物がいた。

あれは、

 

「アイズちゃん?」

 

どうやら雨宿りしている様子。

 

隣にいるのは誰だろう。

褐色肌で黒髪を束ねた長身の女性。

 

ロキ・ファミリアにあんな人はいなかった。

 

褐色肌だからアマゾネス?いやいや安直すぎるか。見た目で判断は良くないね。

 

とりあえず、知り合いなのに無視はアレだから声をかけよう。

 

「こんなとこで何してるの?」

「………っ」

 

声をかけたら驚いた様子で目が合う。が、返答は無い。まだまだ壁があるなぁ。

 

「おや?これはこれはまさか今日一日で2人有名人と会うとはな。ロキ・ファミリアの"お日様侍"だな」

「うっす!なんかそういう呼ばれ方されてるみたいっすね!リオ・ガルシアっす!どうぞよろしく!」

 

そう言って頭を下げる。

悪い人じゃなさそうだ。アイズちゃんが怖い人に絡まれてるわけじゃなさそうでよかった。

 

「うむうむ。噂に違わず元気のある童だな。手前の名は"椿"。【ヘファイストス・ファミリア】の鍛冶師よ」

「ヘファイストス、と言うとあの有名な武具屋さんすよね!そこの鍛冶師さんすか!凄いっすね!」

「何も凄いことなど無いさ。それにしても、侍と言うだけあって武器はその腰に差した刀か。……ふむ、少し見せてもらっても良いか?」

「え?あ、どーぞどーぞ」

 

そう言って腰の刀を鞘ごと渡す。

それを受け取った椿さんはそのまま全体を眺め、柄を手に取り、刀を引き抜いた。

そして、刀身の全体を見るように視線を這わせ、満足気にうなづいた。

 

「……最高品質、という程のものでは無いが、しっかりと手入れが行き届いている。その手に持っているものも手入れ用品だな。手入れは童自身の手でやっているのか?」

「うっす。先生からも物は大事にしろって言われてるので。まあ、素人ながら手探りで何とかって感じっすけど…」

「うむうむ、良いな。童は良い師に出会えて、この刀は良い持ち手を得た」

 

そうして刀を見ていた目はいつの間にかこちらに向いている。

体の隅から隅まで見られるような視線。そして最後には目と目が合い視線が重なった。

 

「……折れぬ剣(▪▪▪▪)、か。童……いや、リオ。お主は何を目指す」

「え?」

 

唐突な質問。いきなりすぎて惚けた反応になってしまう。

 

何を目指す、か……強くなってどうしたいか。そんなのはもう決まってる。

 

「この世界を照らすヒーローになるっす!」

「……ふ、はははは!そうかそうか!それはいい目標だ!」

「あ、ついでにモテたいっす」

「欲望にも正直だな!リオ、手前はお主を気に入ったぞ。武具に関して何かあれば手前を訪ねてこい」

「あ、それならちゃんとした手入れ方法を教えてもらいたいっす。いいすかね?」

「ふむ、それくらいならばいつでも良い。今度ヘファイストス・ファミリアへ尋ねてこい。手前の名を出せば通してくれるだろう」

 

やったぜ。餅は餅屋。武器なら鍛冶屋。これで刀の長持ちは約束された。

後で神様にも報告しとこ。

 

「そう言えば二人は何してたんすか?」

「雨宿り……がてらに少々雑談をな。何やら武器を作って欲しいとの事だったが」

「……」

 

そういえばアイズちゃん壊れない剣欲しいとか言ってたもんな。

 

「え?作ることになったんすか?」

「いや、作らなんだ。気が進まんからな」

 

あらー、これは残念。でもまあ仕方ないか。

 

これを機会に今ある剣を大事にしてくれることを願いたい。

 

「お、雨が止んだか。ではな。ファミリアで待ってるぞ。小娘は……武器が欲しいというのなら他を当たれ」

 

そんな言葉を残し椿さんはこの場を去っていった。

残ったのはアイズちゃんと俺の2人だけ。

 

アイズちゃんはなにやら考え込んでる様子。ずっと静かだったが何を言われたのか。

とりあえず、

 

「帰ろっか」

「……」

 

 

 

 

 

ホームへ戻る道中。アイズちゃんと並んで歩いていた俺たちの間は静かなものだった。

 

最近は座学のことでよく話すようになったがそれ以外の日常会話が俺達には無い。なんと声をかければ良いのか。……これが、コミュ障……と言うやつなのか!

 

そんな風に考えていた時だった。

 

「………あの人、私のことを剣だって言ってた」

「え?」

まだ折れてない剣(▪▪▪▪▪▪▪▪)だって……」

 

ふぅむ。まだ折れてない剣。"まだ"、ね。

なるほどその評価、表現は言い得て妙だ。

 

「リオのことは折れぬ剣って……」

 

折れぬ剣か。……つまり俺は褒められてた…!

他人からの好評価というのは嬉しいものだな。

 

「アイズちゃん」

「……何?」

「今日は帰ったら一緒に武器の手入れしよっか」

「え?」

 

そうと決まれば善は急げ。

日も落ちてきたし早めにホームへ帰ろう。

 

俺はおもむろにアイズちゃんの手を取り走り出す。

俺のは刀だけどアイズちゃんのは片手直剣だ。手入れの仕方はいつも通りで大丈夫なのかな?……ガレスさんあたりにも声をかけておこうかな?

 

 

 

●●●

 

 

 

「おお、アイズ!やっと帰ってきおったな」

 

ホームに着いたらガレスさんが入口にいた。

 

「リオと一緒だったのか。つい先程までリヴェリアと一緒に探しておったのだぞ。あまり心配を……アイズ?」

 

アイズちゃんのくらい顔を見て言葉が止まるガレスさん。

それに対して何も口を開かないアイズちゃんの代わりに俺が口を開いた。

 

「あー、ガレスさん。さっきまで椿さんって人に会っててその時色々言われたみたいで」

「なに…?椿にか?……まったく、あやつめ。面倒事しかおこさん」

「あ、知り合いっすか?」

「わしの専属の鍛冶師じゃ」

「なるほど」

 

はえー、そうなのか。

専属か……俺もそういう人欲しいな。

今は自分で手入れをしてるけどやっぱりプロに任せた方がいいと思うし、腕のいい鍛冶師を探さねばな。

 

「あ、そだ。ガレスさん。この後風呂入ったらアイズちゃんと一緒に武器の手入れしようと思うんすけど、なにぶん片手直剣の手入れなんてしたことなかったんでガレスさんに付き添ってもらいたいんすけど……」

「……ふむ。なるほど。よしわかった。一風呂浴びたら2人してわしの部屋に来い」

「うす!あざす!じゃ、失礼します!」

 

同意も取れた。さ、風呂に入ってこよう。

アイズちゃんの手をそのまま引いて風呂場へと向かった。

 

 

 

 

 

「ガレスさーん。来たっすよ」

「おお、来よったか。準備は出来とるぞ」

 

風呂で汗を流しガレスさんの部屋へ。

そこには一通りの道具とアイズちゃんの武器が並べられていた。

 

「さ、アイズちゃんやるよ」

「あ……う、うん」

 

まずは刀と同様に刃を研ぐとこからやるか。

 

と、考えるよりも先にガレスさんがテキパキとものを用意している。流石です。

 

「じゃ、武器を持ってこっち来て。刃をこう当てて、こうして──」

「こ、こう?」

「そうそう。そんな感じ」

 

拙く、恐る恐るだが存外形だけは様になっている。が……ストレートに言ってしまえば下手だな。

 

「刃先に気をつけてね」

「少し力みすぎじゃな。もっと労わってやらんか。わしの手の動きに倣え」

 

そう言ってガレスさんはアイズちゃんの後ろから覆い被さるように手を添えた。

こう見ると親子だなぁ。

 

「……ガレスの手、大きい。私の手、食べられちゃってる」

「はは、お主が小さすぎるだけじゃ。そら、もう一度だ」

「……器用とは思ってなかったけど、下手だね」

「う……」

 

俺の言葉に苦い表情が浮かぶ。ごめんね。でも事実でもある。

 

「……リオや。どうして唐突にアイズを誘ったんじゃ?」

「え?あー、まあ、たまには年上らしく教えとくべきことを教えとこうかなーって思いやして」

「ほう……」

 

俺の言葉にニヤリと笑うガレスさん。

なんだろう。ちょっとだけイラッとしてしまった。

 

そんなことはさておき俺はアイズちゃんに向けて口を開く。

 

「アイズちゃん。武器っていうのはね、こうしてしっかりと手入れをしなきゃいけないんだ」

「え…?」

「モンスターの返り血をそのままにすれば剣は錆びるし、塵の一つでも付けておけば切れ味は鈍っちゃう。頑丈そうに見えて実は繊細なんだよ。……"武器は使い手の半身"って言葉を先生から教えてもらったんだ。その半身は大切にしなきゃね」

「……それが…何?」

 

理解してないご様子のアイズちゃん。

そんな彼女の手元を指さしながら言葉を続けた。

 

「……手元の剣を見てみ?アイズちゃんが使ってた剣だよ。どこも傷だらけ。今のアイズちゃんと比べてどこが違う?……気を遣わないとすり減り続けるし、そのまま使い続けたらペッキリ折れる。アイズちゃん自身もそういうこと。椿さんに言われた言葉はアイズちゃんを剣に例えた言葉だったってことさ」

「………」

 

目をつぶりなにやら思い返している様子。これで少しばかりでもいいからアイズちゃんの危なかっしさが改善されるといいな。

 

「戦い続けてたら剣も折れる。でもしっかり手入れをやると──」

 

そうして、俺はずっと磨いてた自分の刀をアイズちゃんに見せた。

 

「ご覧の通り。傷ついた武器だってピカピカだ。折れるだけが武器の末路じゃない。こうやって何度も輝くことも出来れば、折れた破片を集めて生まれ変わらせることも出来る」

「リオ……」

「だから大事に行こ?武器もアイズちゃん自身も。別に強くなりたい思いを否定したいわけでも急ぐ気持ちも分からないわけじゃない。ただ、強くなる前にくたばっちゃうよって話。冒険者としては同期だけど戦いに関しては先輩だし、頼ってよ」

「…………………うん」

 

うんうん。分かってくれたか。やっぱりちゃんと話せばわかってくれるんだ。よかったよかった。

 

 

 

 

 

「今日のお主はちゃんと"年上"していたな」

 

アイズちゃん達との手入れ会も終わり、片付けをガレスさんと二人きりでしているとそんなことを言われた。

 

「え、そすか?」

「ああ。よかったぞ。ああいう考え方は冒険者にとっても人としても大事なものじゃ。礼を言うぞ」

「いや、そんな……」

 

気恥しいものだ。頭をポリポリかきながら頬が緩む。

 

……あ、そういえば今何時だ?

 

「あのー……今何時すかね?」

「ん?……もう10時じゃな」

 

やっべ。夜の自主錬時間がとっくに過ぎてる。不味い。これはヒジョーに不味い。いつものルーティンが崩れる。

 

「すんません!自主練あるんで、そろそろお暇しますね!」

「お、おぉ…」

 

そうしてパパパッと片付けを済ませ部屋を後にする。

えーと今日の夜の自主錬は主に足腰の筋トレだったな。

そのあと風呂はいって、座学の復習して──

 

 

 

 

 

「あやつもあやつでなかなかじゃなぁ……」

 

ガレスのそんな呟きは誰にも届かなかった。




呼吸音が違うのでは?とご指摘がありました。



素晴らしい!あなた、鬼滅の刃をよく読み込んでいますね!
理由はちゃんとあります。大丈夫です。安心して。


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