『一番星』は『天使』の手を掴んで離さない (ネマ)
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本編
愛スル@ミク


 

「みなさーん!!」

 

その少女は世にも珍しい緑かかった髪を持つ。

その髪の長さは腰近くまである非常に長いツインテールである。

 

「初音ミクだよー!!」

 

その少女の名前は“初音 ミク”……まるで天使の生まれ変わりとも言われるそのアイドルは世界全てを魅了する絶世の美少女である。

 

「さぁ今日も!!!」

 

この世の大抵全てがフィクションだとするならば、彼女の歌声の前では

 

「みんな、みっくみくになっていきましょー!!」

 

どんな欺瞞も、嘘もみっくみくにしてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

転生した。どうも前世は性自認が男だった美少女です。

しかし来世というものがあるとは考えてもいなかったのですが…

 

「みくちゃんじゃん……」

 

自分の姿というものを知ったのは確か3歳に満たない頃だろうか。

鏡を見た自分の姿にふと全てを思い出した。そう緑かかったの髪(光の当たり様で緑にも抹茶色にも見える不思議だ)に緑色の瞳。更には喉から出てくるソプラノボイス。そして何処か人間離れした抑揚…だったのが前世を思い出した影響で全力で調教された“初音ミク”の声のまま人間らしい声。

 

そう俺……ふさわしくないな。私は“初音ミク”という存在に転生したのだった。

初音ミク…それは“電子の歌姫”と呼ぶのに相応しい存在。最初は音楽ソフトという一つの物に過ぎなかった彼女は、多くのクリエイターの手によって“ボーカロイド”という音楽ジャンルを築き時代を造った人の心に永遠に宿る歌姫だ。

 

「………本当にみくだ……あーあー」

 

かく言う私も前世では重度のボカロ廃でありミクのフェスにはよく行っていたし、グッズなんて祭壇が2、3個出来上がるほどいっぱい家にあった。

そんな自分がミクになれた?……息子が消えたという哀愁の前に私の心は雄叫びのような歓喜の声を上げた。

新しい玩具を手に入れた赤子の様に自分は鏡の前でターンをしてみたり、腕を振ってみたり、自分が好きだった歌のフレーズを口ずさむ。

 

「…ミクダヨー?…………!?」

 

……まさか、自分がミクならミクの全ての声が出せるだなんて。

そうなれば話は簡単だ。“初音ミク”というなら(今世の実の名前も初音未来らしい)自分は電子の歌姫を目指すべきでは無いのか。そしてゆくゆくは……

 

「つまり…リン、レン、KAITO、MEIKO、ルカ達もいるって……コト!?」

 

自分“初音ミク”という存在がいると言うのならきっとミクと同じ、ボカロの時代を築いたリン、レン、KAITO、MEIKO、ルカ…etcもこの世界にいると言うことだ。

そう。ならば一緒に歌いたい。3Dとして現実で私たちは歌いたい。そう考えたら話は早い。私は……“初音ミク”だ。

 

「えーっと…まずはお肌にも気をつけて」

 

この身体はミクのものだ……決して傷一つ付けてはならない……っ!!

 

 

 

小学生になる頃。まだ声が安定しないのか低音域にあるボカロ曲だけが安定しない自分にはやく成長しないかなーと思っていた時だった。

当時の自分は、精神年齢的に周りに合わせるのがあまり得意じゃなく…正直一人で歌っている方が性に合っていたというのもあってか、友人と呼べるのは一人しか居なかった。

 

「la〜la la la la〜」

 

「ミク、また歌ってるの??」

 

その友人は自分とはまるで別の純黒のような黒目黒髪で両目に星が宿っている特徴的な少女だった。……まあ友人になった経緯はあまり良いとは言えないが。

 

『………!?……あなたの名前は?』

 

『私……?……私の名前、はアイ。』

 

小学生になりたてのころの隣の席が今の友人。“アイ”だった。

どうやらこの家庭は想像以上にヤバかったらしく、周囲では噂になっていたらしいのだが当時すでに“ミク”になるというのに忙しかった自分はそんなの関係なかった。

 

アイ。綺麗な瞳と、美しい髪色。ミクの友人に相応しいとそれだけだ。

自分のエゴで助けてしまった少女。勝手にミクではなく…未来として円滑に世界に馴染むためだけに造った“友人”それだけだったと言うのに。

 

『私、未来の歌大好きだよ!!』

 

だからもっと歌ってよ!ミク。

そんなアイの笑顔に私は初めて“ミク”という存在になれた。

……そうだ。ミクは確かに電子の歌姫。現実には居ないのにその歌には多くの喜びがあった。悲しみがあった。共感があった。寄り添いがあった。

自分の歌は、ただミクをなぞっているだけの紛い物だ。そんなのがミクとは言いたく無い。

 

『そっか………そう言うことか』

 

『ど、どうしたの?未来……?』

 

多分自分はその時、初めてアイを見た。

“歌姫”のための友人ではなく、初音 未来としての友人を。

その友人は──────幸せそうだった。曇りひとつもない満面の笑み。そうだ。私もミクにそうしてくれたのだ。ミクが活力だったのだ。

 

『私も、アイが大好きだよ──────』

 

照れくさそうに笑うアイ。

その時だった。私が“ミク”だからという理由で歌姫になりたいんじゃなくて、世界を笑顔にしたいと、世界に寄り添いたいとミクになったのは。

 

 

 

 

『そうだよ!それが私なんだから!』

 

 

 

 

そして現在。私“初音未来”改め、“初音ミク”はアイドルとして日々を過ごしています。いつものように街中で音楽を奏でて(ギターは練習しましたよ?)一定以上の人気ができてきて、ミクちゃーんと愛称で呼ばれる様なった頃。私は一つ事務所にスカウトされた。

 

そこで私は次第に人気が出る様になり、そして遂に───────

 

 

『ミク!ミク!ミク!ミク!!!』

 

“歌姫”の愛称と共に、国民的アイドルとして日々過ごしています。

……最近、なんかその“歌姫”の愛称が“天使の生まれ変わり”になりそうなのはミクとしてありえないし。

自分の後ろ姿を見てきたアイがいつの間にか同じようにアイドルとなって“一番星の生まれ変わり”として国民的アイドルとなり似たような名称にしてユニット組みたいからって“天使の生まれ変わり”を流行らそうと主導しているのがアイだとか色々とありますが…

 

『リン〜……レン〜……メイコォ……ルカァ……KAITO兄貴ィ……』

 

『また言ってる……』

 

今日も一日、アイドル片手にリン達を探しています。

尚、今日まで全くの手がかりなし!そう言うわけで机に崩れ落ち呻き声と共にみんなの名前を呼んでいたら、いつの間にか目の前に座っていたアイがため息と共にミクに聞いてくる。

 

『その人たちって……誰なの?』

 

『………リン達?』

 

アイの聞き方にはどうやら棘が混ざっているが、まあ無理もない。アイドル…しかも国民的アイドルとして醜聞はあってはならない物ではある。

……でも自分はやっぱり

 

『ミクの……言うなら()()()かなぁ……』

 

『……………っ………』

 

リンとレンの元気溌剌なツインボーカル。MEIKOの大人の色気が滲み出ている声。ルカ姉の少女のあどけなさと共に魅せる女の魅力。KAITO兄貴の男としてのカッコ良い歌声。

ミクの歌声の良さを語らせるのなら無限に語れはするが、それでもやっぱりMEIKOやルカ。KAITOと共に歌う歌声も語り尽くせないほど素晴らしい。

 

まあそんなの今は居ないけど。

 

『………一番星……』

 

『?……うん。届かない、絶対に届かない標の星。輝ける星』

 

一番星と含みに言うアイの前でミクは半分眠気眼で呟き続ける。

そう。“一番星の生まれ変わり”と称されるアイの目の前で違う人が一番星だと言う幼馴染のミクはアイにとってどう映るだろうか。

 

『それ……私、じゃ、ダメ……なの?』

 

『アイ…………?うーん』

 

弁解するが決してミクに悪気は無かった。

…ただ、まあミクの目には写っている一番星がただ一人の友人だと言っているアイの姿ではない、という事だけだ。

 

『………合わない、かな。』

 

『………………そっか』

 

ミクは実は半分以上寝ていた。最後になんて呟いたかさえ定かじゃない。

ただ、意識が落ちる間際ミクの目には、目の前でハイライトが消えた眼差しでこっちを見ているアイの姿があったのだった。

 

(…アイどうしたんだろう?)

 

そして残念な事にミクには女心が分からなかったらしい。

勿論、そんなことを続けていたので────────

 

 

 

「……ミク、暴れないでね」

 

「えっ?…えっ!?……ちょっアイ?!?」

 

「暴れてもいいよ?噛んでもいいよ?強く噛んで良いよミク……まあいただきます」

 

「………や、やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 

となる日もそう遠くない……かも知れない……?

 

 






To be continued……?


キャラクター紹介

初音ミク(初音ミク)

まんまミクの姿。前世はミク廃だったこともありミクの姿になれてご満悦。
前世男だったと言うのはほぼほぼ忘れている。ああ。そう言う過去もあったね…程度。
今世ではまんま“歌姫”の名称で世界的な大人気アイドルとして毎日を過ごしている。
ただ……ミクである事に頑なになっているせいで人の心が分からない事も……

ちなみに今世にリン以下は存在してません。というかボカロも無かった。




星野アイ(アイ)

異常ミク愛者として、自身のファンとミクのファンからお墨付きを頂いているアイドル。
幼少期にミクに救われてからミクに異常とも取れる執着心を持っている。
依存……?失礼だな。純愛だよ。

ただ、残念ながらミクに対してのアプローチは一才効いていない所か一番見てほしい人は全然違う人たち()にお熱なせいで……いずれ手を出す未来は近いのかも知れない。


ここのアイがアクアとルビーを産む理由…?それこそミクのいう“リンとレン”にさせるためかも知れない。
まあそれもこれもミクの膜をいただいてからでしょうが。



好評なら次を書きます。



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乙女座の一番星


続いた


 

 

“歌姫”、“天使の生まれ変わり”などと称される国民的アイドル。初音ミク。

彼女の衣装と言われれば一体何を想像するだろうか。

 

多くの人はこう答えるだろう。セーラー服にも似た襟袖の長袖、緑に縁取られた黒スカート、そして緑色のネクタイであると。それはまだ初音ミクがアイドルではなくストリートで弾き語りをしていた頃からの衣装であることは知る人ぞ知る事実である。

 

 

だがそんなミクの衣装だが実は当初のミクの構想とは違っていると言うことをご存知だろうか?

では最初、ミクはどんな服装をイメージしていたのか。それは、幼少期、小学生の頃に遡る。

 

 

 

『………こんな感じ……で、よし』

 

未来がアイをその目に映し、自分の意志で“初音ミク”になると決めた、大体直後ぐらいの話

その日のミクはいつもの様に歌っているのではなく、机に齧りつきひたすらに紙と睨めっこしていた。

 

『ねーミク?何してるの?』

 

『衣装の原案』

 

勿論、そんな珍しいミクの姿をアイが気にしないわけがない。

ミクがアイに心を開いて…開く前からアイはまるで雛鳥の様にミクの横に後ろに常に一緒にいた。その事をミクは放置していたのもあるのか今ではアイはミクの近くにいないとダメになるとアイ自身、思っている。

 

……話を戻そう。ミクの珍しい姿にアイはあすなろ抱きをするかの様に後ろからミクの集中していた紙を覗き見る。

そこには人と服が描かれている。これは一体なんなのか。そうアイは首を傾げる。

 

『まずはみんなに聞いてもらう所から始めようかなって』

 

ミクといえば歌う事。その歌のためにはどんな努力だって惜しんだ事がない。

と言う事をアイは十分よく知り尽くしている。“私だけの歌声だったのに…”とアイはモヤモヤした感情が浮かんでしまうがミクの想いがどんなモノか知っているからこそアイはそれを否定することなんてとんでもない。

 

『………??』

 

『形から入って行こうってこと』

 

勿論、それが今のミクの衣装の原案と何の関係があるのか。まだ小学生であるアイの頭には少しだけ難しかったみたいだ。そんなアイの姿にミクは苦笑混じりに説明する。……曰く、みんなに聞いてもらうためには多くの人に頭に残らないといけない。ならそのみんなの頭にミクが残る方法とは──────

 

『服って…事!』

 

『そう言う事……放課後。買い物手伝ってくれる?』

 

アハ体験よろしくアイの頭の中でミクのやりたい事が繋がったらしい。

そんなアイにミクは手伝ってほしいと頼むが勿論、アイは断る理由がないというかむしろ一緒に居たい。

……ただ、残念ながらそんなアイのいじらしい想いもミクの前では優しい友…としか見られていない事にアイが気がつくのはもう少し大人になってからの話だ。

 

 

 

【放課後】

 

 

『買えたー!』

 

『……ねぇ……本当に良いの??』

 

帰り道。二人で持っている大きな袋には大量の服が入っていた。(勿論、親からお金借りましたよ?)それはミクが最初欲しいと目星を付けていた服だけじゃなくアイの服まで入っていた。

 

『アイも選ぶのに手伝ってくれたから』

 

勿論、アイが欲しいと強請ったわけじゃない。ただキラキラしたモノを見ているアイを見たミクが勝手に黙って購入しただけだ。それもお駄賃代わりと押し付けがましく。

 

『………うーん……じゃあ』

 

そんなのでもやっぱりアイは納得いかなかったらしい。

なら仕方ない。とミクは一息入れてアイにこう言った。

 

『私、アイがこの服着てるの見たいなぁ?』

 

耳元で囁かれたミクの言葉にアイは赤面して頷く。

そんなアイの姿にミクはどうして赤面するんだろうと一回首を傾げたがその直後にはもう音楽が口ずさまれていたのだった。

 

 

 

「………………!!!」

 

人はどうやら心の底から嬉しいことがあった時には声さえも出ないらしい。

家に帰り、幾つかの服と布を使ってロリミクとも言える姿を作り出すことが出来た。……まあ髪の毛はミクほど長くはないし(絶賛伸ばし中ですよ?)髪飾りもヘッドホンもないがそれでも十分ミクであると飛び跳ね、鏡の前でターンする。

ただ、でも一つ。文句があるというのなら。

 

「ねー……やっぱり切らない?ここ」

 

当初ミクの構成ではブラウスは肩出し、脇見せブラウスだったはずなのに。

いざ長袖ブラウスを買ってきた加工前のチャコペンでの下書きの際にアイが目敏くそれを指摘した。

 

『……ねえミク、そこ……もしかして』

 

『切るよ?』

 

『……………………!?ダメッ!!』

 

『えぇ……。』

 

という事でアイが絶対にダメだと首を横にしか振らなかったからミクは渋々長袖のままブラウスに袖を通したのだった。当初の計画では袖とは切り離してた肩出しにするつもりだったというのに。

 

「ヤダ。絶対にヤダ」

 

そんな不服そうなミクにアイはまるで拗ねるような形相で却下する。

ミクとしては…というかミクとしてここは絶対に切り落とさないといけない所だ。

“初音ミク”になるための形から違うというには“初音ミク”へのリスペクトがあまり足りてないのではないかという少し厄介オタクじみたミク廃であるが故に。

 

「じゃあなんでヤなの?アイ。」

 

「………ヤなモノはヤ。」

 

追及するミクについぞアイは顔を背けてしまった。

ダメと激しくダメ出しした時点でアイは既に涙目だった事を考えて、よほど私がこの格好をするのはダメなんだな…と少し気が沈みそうになる。

 

「………わかった。じゃあこのままにする」

 

「!!………その方がいいよ!絶対!」

 

今度は逆にミクが不服そうにこのままで良いと妥協する。

これまた今までの泣きそうな顔とは一変変わってアイはとても嬉しそうに花開くような満面の笑みをミクに見せる。

そんなアイにミクは内心肩を落とす……やっぱり似合ってなさそうに見えたのだったか…と

 

(……けど、それってまだこの世界にミクが無いから…だよね)

 

記憶の中にあるミクは脇が見えるほどの肩出しブラウスだというのになんの違和感もなかった。それは単に積み重ねられた多くの歌とミクの麗しさがある。なら逆にそこまで行くとミクとしての正装として認められるということ。

 

(じゃあその時まで…頑張ろう!)

 

ミクの正装がミクとしての名誉だとするなら。自分はまだ“初音ミク”でないのだから当然だ。と不思議な方向に解釈をしてしまった。ただ一つだけ分かる話だが……この解釈がいずれ近い将来、アイと解釈違いを起こしてしまうのはそう遠い話ではないのだろう。

 

 

そういうことがあってかミクの服は当初のミクの構想とは違っているという事となった。勿論、これは一般的に語られていない情報であるし、これを知っているのはミクファンクラブ創設者兼名誉会長兼会員ナンバー000001アイしか知らないのである。

 

 

 

 

 

 

 

【近いかも遠いかも知れない未来】

 

 

「ねえミク?肩出しの奴あるでしょ。出して」

 

「………ナンノコトカナーワカンナイナー……」

 

「ねえミク…分かってるんだよ?もししらばっくれるなら…」

 

「……なら?」

 

「次の日。足腰立たなくなるよ」

 

「ごめんなさい作っちゃいました…」

 

「はぁ……ミクったらこれで何着目?」

 

「じゅ、10着目……??」

 

「19着目。何でミクが忘れちゃってるの……」

 

「えっ……えーっと………えへっ?」

 

「……………………………………」

 

「えっ?ちょっアイ?!顔怖い…よ?」

 

「………着て。これ、着て」

 

「えっ…………あっうん………着たけど……」

 

「じゃあベット、行くよ」

 

「…………えっ?」

 

「ミクの魅力。ミクの身体に教え込んであげる」

 

「ちょっ。アイ!?アイさん!?」

 

「問答無用だよ。大人しく身を任せて」

 

「あっ………………」(扉が閉まる音)

 

 







初音未来(初音ミク)

この後数時間後。ダブルベットの上で液体(意味深)まみれで全裸のまま気絶してるところが見つかったとかなんとか……


星野アイ(アイ)

(脳と情緒が)上手に焼けました〜


拙者。まだ恋も知らない幼女が先に独占欲が芽生える姿大好き侍。
義によって助太刀いたす。





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サンキュ・ミュージック


感想、いっぱい貰えると意欲は上がる。


 

 

“歌姫”、“天使の生まれ変わり”などと称される国民的アイドル。初音ミク。

彼女の特徴の一つに“とても長い青緑髪”というのがある。

 

ただでさえ色が特異で傷みも浮かびやすそうな(多少、色彩良く見えるように染めているが)だけでなく、髪の長さは腰あたりまであるという普通では手入れがしにくそうな髪である。

 

ではそんな髪をミクはどうしているのか。

それは変わらず…アイだけが知っているのだった。

 

 

 

『………ふぃ……』

 

『………にゅ………』

 

また時間軸は幼少期に遡る。

日を重ねる事に親密に濃密に仲良くなっていく二人だがその距離は側から見れば些か近過ぎるのではないかと心配されるほど近いものになっていった。

 

それは現状の二人を切り抜いてもそう見える。

今…アイとミクは共に風呂に入っている。それも湯船にミクがアイをあすなろ抱きするという形で。勿論、同性であるからこそ特に問題は無いようにも見えなくはないがそれでも赤の他人。あくまで友人である事には変わりない。

 

『………お風呂か〜……アイも一緒に入る?』

 

『!?……………え、あ……うん』

 

ある日の事。もはや朝から夜までミクの隣に居るアイはいつの間にかミクの両親にもアイがいる事を当たり前のように受け入れる様になってきた頃の話だった。(ミク両親「うちの娘が気に入ってるのなら別にどんな子でも」)

もう夜も遅い。晩御飯を一緒に食べて部屋に戻って歌うにも、もう近所迷惑になりかね無いとミクは歌う事を止めてアイを風呂に誘う。

 

『じゃあ行こっか』

 

『…………え……でも、本当に……』

 

足踏みするアイにミクは首を傾げる。

 

『泊まるんでしょ?』

 

『………いい、の?』

 

『そのつもりだったんだけど………』

 

嫌なら…あれだけど…とミクは少し沈んだ声でアイに問う。

勿論ミクの提案はアイにとって渡り船どころか胸の中にどうしようもない歓喜が浮かび上がってくる。……だってミクのそれは私を家族と一緒ぐらいに見てくれているという事だから。

 

まあそんなこんなあって。

なんの恥じらいもなく着ていた服を洗濯機に投げ捨て全裸になったミクに、初めて女体を見たかの様な童の様に慌てながら赤面し両手で目を隠したアイがいた事は蛇足だろう。

 

 

 

 

『……そうだ!』

 

ジャンケンで先に身体を洗う順番でミクはパーを出して負けてしまった。

そういうわけでアイが先に湯船から出て身体を流している所でアイが声を上げる。

湯船から顔だけ出して鼻歌を歌っていたミクは何かを閃いたアイを片目で見る。

 

『♪〜………どうしたの?アイ』

 

『ミク!……洗いっこしよ!』

 

えぇ……とアイの意見にミクはたじたじと両目でアイの方向を見る。

アイはミクに手を伸ばしどうやら本気で洗いっこ、とやらをするらしい。

そんなキラキラした期待している目で見られると嫌だとはミクは言えない。一巡した後、アイの手を取ったのだった。

 

 

『………痒いところありませんか?』

 

身体を洗うという事でミクはアイの背中を擦っている。痛くない様にそれでもミクは力を込めてアイの背中を擦る。流石に前は自分で洗って欲しいけどと思いながら。

 

『無いよ!……じゃあ次はミクね!』

 

洗いやすい様にシャワーチェアに腰掛けていたアイは立ち上がり、ミクに座る様に譲る。泡が全身に付きっぱなしだがアイは後でミクと一緒に流すと言って聞かない。

 

『よろしく。アイ』

 

『はーい!じゃあごゆっくりー?』

 

アイの背中を摩る強さは正直にいうならそこまで。けどミクにとってそんな事気にならないほど上機嫌になった。……だってこうして身体のメンテナンス以上の価値が無かったお風呂にも楽しみは有ったのだから。

 

『………アイ?』

 

『……よいっしょ……うん?どしたのミク?』

 

そうしてふと微笑んでいるとタオルが当たる様な感覚は消えたのに、身体には何か擦る?……撫でる様な感覚がしているのが分かった。…………うん?とアイに声を掛けるとその声は自分が想像するより耳元で聞こえた。

 

『だって好きな人にはこうやって洗うんでしょ?』

 

『ちなみにどうやって……?』

 

『?……こう身体を使って』

 

いやそれソー……可愛いミクちゃんは何も知らないのだ。湯気で曇った鏡をみると後ろで腕と身体を器用に使ってミクの背中を擦っている姿が見え、ミクは何処かでアイの情操教育について話し合わないとなと覚悟を決めたという。

 

その後、両者とも泡まみれになった姿でアイがミクに抱きついたせいで一つの大きな泡の塊になったのはここだけの話。勿論、意地返しとばかりにミクはシャワーの水流をマックスで共に洗い流しながら水遊びしていたのだった。

 

 

「でもやっぱりミクの髪の毛ってサラサラで綺麗だよね〜」

 

髪を洗うという事も一緒に洗うと言ってほぼほぼ強引に席に座らせたアイ。そんなアイにミクはもう慣れたかの様に、もしくは諦めたかの様に座ってアイがシャンプーで頭皮を洗ってくれているのを感じる。

 

「……私は、アイの髪も好きだよ」

 

ミクである象徴の一つであるこの髪に誇りがないと言えば真っ赤な嘘になる。

けどそれと同じ様にアイの夜をそのまま映したかのような黒髪は意外とミクは気に入っていた。そんな想いを込めて呟かれたミクの言葉はアイにとってクリティカルヒットしたらしい。

 

「……………嬉しい」

 

アイの力加減が気に入ったのか目を閉じて鼻歌混じりでアイに全身を預けていたミクは気がつかなかったがその時アイは、恥ずかしそうに赤面しながらも満面の笑みでミクの身体に近づいた。

 

尚、この時からずっとアイとミクの距離が更に縮まったのは言うまでもない話だ。

 

 

 

「……痒いところありませんか〜?」

 

代わりばんこして、ミクはアイの髪を決して痛めない様にけど頭皮マッサージをするようにアイの頭を洗っていく。そんなミクの心に気がついたのかついていないのかアイは酷く安心した様な姿で脱力し、ミクに寄りかかっていた。

 

「ん〜……ないぃ……」

 

そんなアイの姿にミクは少し微笑み、そして一つこう呟いてしまう。

それがどれほどの衝撃になるか考えもせず。

 

「リンとかいればこんな感じだったのかな……」

 

「………ねえ。」

 

さっきまで寄りかかっていたはずのアイがミクの何気ない一言を聞いた瞬間、今までに見たことのない早さで後ろに振り返りミクを見る。瞬き一つもしないアイの姿といい、謎に感じるアイからの威圧感といいミクは困惑の最中にいた。

 

「えーっと……リンの事?」

 

「うん。」

 

どう答えようか。ミクは頭の中で考える。

勿論、リンという存在は初音ミクの後続機として作られたボーカロイドの一人。

……ただこの世界にはボカロは無くて、そしてミクという存在も生きている人間の一人だ。なら、こういうべきだろうと口を開く。

 

「……私の妹分でそしてライバルの1人!……かな」

 

「そっか………」

 

リンの歌声やミクとリンのデュエット曲。初めて聞いたミクとリンのラップ調の曲は凄い衝撃を受けたなぁ…といずれ再会したら歌ってみようと未来への夢を見ているミクの目の前で、ハイライトが完全に消え、髪の毛が逆立ち始めているアイの姿があった事にはミクは最後まで気が付かなかった。

 

「ミクの髪。」

 

「?」

 

「これから私がいる時は、絶対私が洗うから」

 

別に良いけれど…と謎に強まるアイからの威圧感にミクは首を縦に振るしかなかったのだった。ただ一つ…いうならミクは最後まで気が付かなかったがアイがミクの髪を洗うということはつまりその前の身体を洗うという所も含まれる可能性までは気がついていないのだった。

 

 

そういう事が有ってかミクとアイは次第に一緒にお風呂に入る事が当たり前になっていくのであった。外堀…しかもお風呂という毎日行う生活習慣にアイという存在がミクに深く刻まれた。その意味に気がつくにはまだアイもミクも幼かったらしい。

 

 

 

 

 

【近いかも遠いかも知れない未来】

 

「ミーク!お風呂入ろ!」

 

「ん……先入ってて……」

 

「だってミク放っておいたら遅くまで入らないでしょ」

 

「………………………………」

 

「それにミクこの前一人で入って………って聞いてる?」

 

「…………………………」

 

「……………………………む……」(ミクの生脇腹に触れる)

 

「っ!?ひゃぁん!?………ってアイ!」

 

「あはは…でもミク。無視はダメだよ」

 

「う…ごめん……今いい感じだったから」

 

「ほどほどにしなよ~…じゃあ先行ってるね?」

 

「うん…………………行った?良かった…後でゆっくり入ろ……」

 

「ミ~ク?聞こえたよ?」

 

「ひっ……やだ。お風呂でイキたくない…っ!!」

 

「でもミク……凄い期待してる顔、してるよ?」

 

「!?…そんなわけ」

 

「気持ち良いこと、好きになろうね?ミク」

 

「……………………」

 

 







初音未来(初音ミク)

この後お風呂で散々可愛がられた後、風呂上がりの水を口移しで飲まされた直後、二回戦目が始まったらしい。


星野アイ(アイ)

ミクに執着ガール。ついにはお風呂にまで参戦。将来、アイはこの時の行動をめちゃくちゃファインプレーと脳内で自分を褒め称えたらしい。

それはそれとして"リン"とやらの存在は気にくわない。




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ワールドイズツイン


感想は忙しくて返せてないけど全部見てます。いずれまとめて返せたらなあ……


 

 

“歌姫”、“天使の生まれ変わり”などと称される国民的アイドル。初音ミク。

彼女の好物といえば何が思い浮かぶだろうか。

 

勿論、こんなの少しでもミクを調べれば出てくる様な簡単な質問。

これを間違える様ならモグリどころか文明人かどうかでさえ疑問に思われること間違いなしである。…何故ならそのミクの好物はミクとコラボしたコラボ商品まで売られているのだから。

 

そう。そんなミクの好物とは……

 

「ん〜!……やっぱりおネギは最高だねぇ!」

 

そう。それは“葱”。青色と白色で主に薬味として使われる事が多いアレである。

基本的にミクは微笑みがデフォルトである。だが一般的に知られているその微笑みが崩れる時が三度ある。とファンの中では知られている。

 

曰く…歌っている時。そしてアイと一緒にいる時。最後に…そう。

 

「ミクったらまたネギだけ食べてる」

 

ネギを食べる時。その時だけはとても美味しそうに頬を綻ばせてせっせとネギを食べている。そんなミクの姿に隣に腰掛けたアイがミクの美味しそうに食べる顔に破顔する。

 

「んー…ネギが美味しすぎるのが悪い!」

 

「もー……1つちょうだい」

 

いつもの落ち着いたミクとは違い、いつも家で居るようなテンションでネギ(醤油ベースでちょい辛め)をタッパーの中から食べるミクの姿にアイも心なしかリラックスしたようにミクに甘える。

 

「いーよー。はい」

 

「………………ん。おいしい……」

 

餌を強請る雛鳥のようにアイはミクの隣で口を開けて待っている。その口にミクは自分の箸でアイの口の中にネギを押し込む。箸が共有?今更の話だ。何故なら二人はルームシェア、つまり同棲しているのだから。

幼少期からほぼルームシェアしてたもんだろって?それはそうだ。

 

 

本日の2人の仕事はコマーシャルの撮影。

“一番星”アイと“歌姫”ミク。ただでさえその片方が出演するだけで全ての関心を掻っ攫ってしまう様な2人が同じ画面で映るというのだ。勿論、ただのコマーシャルだと言うのに今回使われている金も資材もコマーシャル1つ、2つ取るには大量のお釣りが来るほどだ。

 

勿論カメラマンのやる気も監督のやる気も並大抵のレベルではない。何度も何度も取り直し、何度も何度も最高傑作の出来で遂に昼まで来てしまった。

 

「監督さんも懲りないね」

 

「まあまあ……久々の2人一緒だもん」

 

本来ならもう解散できていたはずなのにとミクは一息ついて、空になった事に気がついてなかったタッパーの底を箸が掠める。

そんなミクの姿にアイは微笑ましそうにミクの髪を手櫛でとぎ続ける。よし。今日のミクの髪も絶好調だ。と。

 

「そういえばミク。次の歌って」

 

「うん。もう1人要る曲」

 

そうしてアイの手櫛にミクは身体を預けていると、ふとアイから声が掛かる。

次の曲。つまりミクが書いた書き下ろし曲。

いつもならソロ曲というのに今回は久々のデュエット曲。

 

「やったぁ!久々にミクとだね」

 

「………………良いの?アイ。」

 

正式にミクから共演の依頼がされたとして(昨日のベットの中でそういう話は喘ぎ声混じりに聞いていたが)アイの瞳に格段と綺麗にそして強い光と炎が燃えたぎる。まるでその瞳は一番星より綺麗なヒカリだななんてミクはふと思う。

 

けどそれ以上にミクには心配していることがある。アイはどれほど国民的アイドルといえど“B小町”というアイドルグループのリーダーである。

その分の柵が想像できないほどミクは世の中に疎いわけでは無い。

 

「んー?何で?」

 

だがそんなミクの心配を他所にアイは首を傾げる。アイにとって重要なことはミクの隣に立つこと。確かにB小町も大切な仲間である事には違いないでもそれは……ミクと比べると余りにもちっぽけで。

 

「それはそうと!今晩お蕎麦にしよっか」

 

押し黙るミクを前にアイは空気を変えると言わんばかりに声を上げる。このまま撮影が続くとどうせ終わるのは夜になるだろう。

 

「……………ネギ、いっぱい入れてくれるならいい」

 

アイとミクのお蕎麦といえばもっぱらきつねそばが主流だ。

出汁をミクが作り、その間にアイが蕎麦を茹でる。具材はシンプルにお揚げとネギ。ちなみにミクだけは蕎麦が見えなくなるぐらいネギを盛る。

 

「ん。じゃあ決まりね!」

 

「わかった」

 

そうやって今夜の予定を考えていたら楽屋の外から2人を呼ぶ声が聞こえる。

返事をしながら服装を整え、何事もなかったかのように楽屋を出て行くその2人の背中はまさしくアイドルの頂点に立つ存在だというカリスマ性が有ったのだった。

 

 

 

 

(………悪いこと言っちゃったかなぁ……)

 

アイはふと過去を思い出す。

その当時、まだ小学生の時から私たちは常に隣だったと覚えている。そんな仲の良さは今でも変わらず…ううん。もっと発展して私はミクの匂いや目で考えている事だとか今何を思っているかだとかなんとなく手に取るように分かる。

 

 

あの日。もう冬になりつつあるあの日。

今晩はお鍋にしようとミクのお母さんから財布を渡されて2人でおつかいに行った事。今でも全て思い出せる。……というかミクと一緒の事はほぼ全て思い出せる事はアイの誇りだ。

 

『ね〜…ミク。こんなにおネギさん買って良いの??』

 

スーパーで2人して買うものの紙を睨めっこしながら鶏肉、豆腐、白菜、人参……そしてネギをミクはあろう事か5、6本持ってきたのだった。

 

『うん。もう家にネギ無かったしこれぐらい有れば十分』

 

『…………………そんなにミク。ネギ好きだったけ』

 

ミクは確かにいっぱいネギを盛っている時の方が多かった。

この前のお味噌汁ではお豆腐よりネギの方が多いようにも見えるぐらいネギを盛っていたのを覚えている(私はそんなにネギ要らないけど)けどミクはどちらかと言えば何でも食べる。好き嫌いはしなかった筈だ。だと言うのにミクは最近ネギにハマっているらしい。

 

『?…アイスやマグロも好きだよ?』

 

ロードローラーは食べ物じゃないけどね〜。そう笑いながら言うミクにアイはどうしようもない不安を抱いだ。……それは何故かミクが遠い遠い存在のように見えたから。まるで人間がアイを含めて皆、のっぺらぼうで村人AとかBとかが喋っててそこにはmobしか居ない。なんなら自分自身も、ゲームのプレイヤーキャラ位に思っていてどことなく他人事のように言っているようにアイには聞こえた。聞こえてしまった。

 

『…………………ミクは、ミクだよ?』

 

アイは横からミクの顔を覗く。そうだった。ミクはたまに何を見ているのか分からない顔で空中を眺めている。その目には何が写っているのか。その心は何を感じているのか。……アイはそれを知りたい。アイはそれを一緒に見たい。

 

『アイ。ミクはいつだって…みんなのミクだよ?』

 

どうしてだろう。とアイは困惑する。ミクの言葉に安心とそれと同じかそれ以上の胸の痛みを覚えてしまう。苦しくて、悲しくて…でもこの痛みが何処か心地よくて。でも、今はミクに取ってもらえるこの手から伝わる熱だけがアイの道標だったのだろう。なんで私のミクじゃないの?なんでみんなのミクなの?

 

 

『あっ。一番星』

 

買い物の帰り。2人で買ってきた物の手提げ鞄を共有して持ちながら歩いているとふとミクが空を指差す。そこにはキラキラと輝いている一番星が見える。

 

『知ってる?アイ。』

 

そうして歩いているとミクが何かを思い出したように口ずさむ。

 

『一番星も私を見てるんだって』

 

一体どう言う事なんだろうか?と首を捻るアイにミクは小さく微笑みアイの目を見る。

 

『アイの目。いつもお星様みたいに輝いてる。』

 

どう言う意味なんだろうか。そう聞き返そうとしたアイの目に見えたミクの姿は今までに見たことのないとても優しげな…それでいて尚いつものミクだったのを覚えている。

 

アイはまだこの時の意味を見つけ出せていないのだ。

 

 

 

 

 

【多分めちゃくちゃ近い将来】

 

「ただいま〜」

 

「おかえりミク!ご飯にする?お風呂にする?それとも…わ・た・し?」

 

「………………………………」

 

「あれ?ミク?……おーい?」

 

「………あのさ。アイ」

 

「?」

 

「ご飯にしてから、お風呂にしてから…今すぐの事を新婚三択とは言わないんだよ?」

 

「きゃっ…新婚だなんて……!」

 

「えっ。そこ?」

 

「そこ〜…じゃあ正解のミクちゃんには〜」

 

「ああ……(諦め)」(読めた未来)

 

「ご飯食べた後にシて、お風呂に入りながらシて、その後またシよっか!」

 

「…いやじゃ、いやじゃ!!もう気持ち良くなるのは嫌じゃ!」

 

「子どもみたいにゴネるミクもかわいい…んっ」(ミクの頬を舐める)

 

「ひょわぁ!!……アイ!」

 

「ちょっと塩っぱいね。……あっ……でも」

 

「…………………」

 

「私以外の匂い付いてるの気に入らない。」

 

「そっ、それは香水の……!!」

 

「反論は聞かない。……一回頭パーになろ?」

 

「」

 

 

 






初音未来(初音ミク)

わかってた話だがこの後頭パーになりながら口移しでご飯食べされたミクが居たとか(ちなみにそのあと正気を取り戻したがまた頭パーにされた)

最近の悩み:身体がアイに触れれた時限定でめちゃくちゃ敏感になりつつある事



星野アイ(アイ)

多分ここのアイなら白米が苦手とか言わないんじゃないかな……
それはそれとして天才の理解者が出来てしまったせいでB小町への思い入れが大分ナーフされてる感。まあ身直に自分を超える天才が居るとこうなる。
ちなみに気がついては居ないだろうがミクの外付け良心でもある。




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ラプンツェルとシンデレラ


タイトルが変わったのは、友からあまりにもタイトルにセンスがない(大分穏やかに包んで)と言われまして。
とりあえず暫定的にこんなタイトルにしてます。まあいい案があればおなしゃす。

それはそうと……お気に入り1000人超えありがとうございます。感無量です。
こんな落書きでも楽しんでもらえているというのは励みになります。できる限り毎日頑張るからね……!




 

 

 

“歌姫”、“天使の生まれ変わり”などと称される国民的アイドル。初音ミク。

彼女の二つ名は決して伊達ではない。“歌姫”そう呼ばれる彼女の血の汗が滲むような努力は、彼女の大親友にして強火ミクオタクのアイだけが知っているのだった。

 

 

時間軸は幼少期に遡る。まだミクとアイが本当の意味で友人となった直後辺りのお話。ミクの歌を一通り自分の思うがままに歌ったミクは少し思い出したように考えた。

 

(そういえば……何処までが“ミク”なんだろう?)

 

ふとそう考えてしまった。……それは何故か。そうボカロ曲の中には幾つか未来が知る中でも曲はミクが歌っていてもMVではミクではないそのオリジナルのキャラクターを動かしていると言うのも多々あるのだ。

 

「……………………la〜♪」

 

「la〜♪……………?」

 

 

数日にわたる研究の末、ミクは何となく法則を掴んできた。

ボーカルが“初音ミク”である物なら基本的に初音ミク扱いになるらしい。

だからこそ私はマルガリータにもなれるし目を背ける電脳少女にもなれる。ライカにもなれるし、“狂”ってしまったわたしにもなれる。

 

けど逆に私はリリアンヌ鏡音リンにはなれないし、あの子のような透明感のありつつ芯のある強い声IAは出せない。ファンクビートKAITOにもなれないしビブリォチカMEIKOは勿論、双生の弟鏡音レンにはなれない。

 

……まあつまりだ。“初音ミク”の歌は再現できる。だけどそれ以外、それこそリンやレンの曲などは何をどう頑張っても劣化でしかない。側から見れば素晴らしい出来かも知れない。でも、私は“原点”を知っている私としてこれは認められなかった。

 

「…………ぁはぁ……はぁ……」

 

少し考えれば分かる物だが、その声帯が初音ミク(調教済み)と言えど身体はまだまだ成長途中の幼児である。それはもう明らかに自分の喉の限界を超えた低音、高音で歌っていたと言うのならどうなるかは明確で……

 

「……………ぁ。血が………」

 

喉の奥から、鼻から赤いドロッとしたものが出てくる感覚にミクは襲われた。

粘膜が切れたんだろうと冷静に考えるミクだがこの場には生憎とティッシュなんて用意していない。どうしようかと考えていた最中、ドアを開ける音がした。

 

「ミ〜ク!!おはよ…………えっ?」

 

「ん。…はよう。アィ。」

 

ちょうど良いところでアイが来たらしい。

血で汚れないようにとどうにか手で血が服などに付着しないように押さえているがそれでも血は滴る。ミクは自分のことだから気がついていなかったがアイからみたミクは喉元まで血が滴っているように見えるし、声も何処か変だ。

 

勿論、そんな初めて見るミクの姿にアイが泣き出さないわけがなく。

 

「ひっ。……ミクがぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!」

 

今までにミクが聞いた事がない様なアイの悲鳴にミクは瞠目する。

直後アイは大粒の涙を流しながらミクに近づく。

だがそんなアイとは裏腹にミクは落ち着きながらアイに声を飛ばす。

 

「ごめーん…アイ。ティッシュとって」

 

「なんで!そんなにぃ!ミクが落ち着いてるの!!」

 

なんか色々と違うっ!と言いたげにアイは部屋を飛び出して行った。

そんなに慌てるとこけるよと声を出したいがどうも出てくる血の量は結構な量みたいで一回で飲むお水の量ぐらい口の中で錆びた鉄の味が充満していた。

尚、鼻からも出ているせいで本当に血の匂いが生臭い。

 

「ミク!!」

 

滑り込む様にアイがティッシュ箱を持ってきてくれた。

瞬間、ミクは自分の鼻をティッシュで押さえ込みそしてその足で洗面台に向かい、血を吐き出す。……出血してると言えどそこまで想像しているほどでは無かったらしいとミクは安堵する。

 

「んー……血は止まったのかなぁ……」

 

「………本当に?ホントに大丈夫だよね?大丈夫なんだよね?ミク??」

 

喉の痛みは有るけれど血が出てる様な感覚はない。鼻はマジで分からないからしばらく押さえ続ける事になるだろうなぁ…とミクは億劫になる未来が見えて既に自暴自棄になりかけだ。

 

「まあ。大丈夫じゃない?……少し喉を使いすぎたのが原因かも」

 

「喉を使いすぎたって………そんな……」

 

戦慄するアイを片目にミクはそう以外言いようがないと吐き捨てる。けど今のミクはそんな事さえ気にならないほど胸の中に歓喜とも取れる高揚したモノが体の中を駆け巡った。

“初音ミク”である自分は“初音ミク”の範疇を超える声は出す事は出来ない。でもそれは逆に考えると“初音ミク”が“MEIKO”の声をトレース出来たのなら果たしてそれは“初音ミク”という存在なんだろうか?或いは“鏡音リン”を“鏡音レン”を“KAITO”を。模倣できた時点でそれはもう“初音ミク”というアイデンティティの喪失だ。

 

まあ。そうやって固い言葉でミクは取り繕っているがその本心はなんて事ない。

 

(これはつまり…リン達が…リンたちが居るという事っ!!)

 

最初に抱いた想いは消えていない、でも更にその想いを裏付ける証拠があったのだと哀れにもミクは思っている。鼻血だとか喉の痛みだとか言っていられるほどの時間はない。鼻血を止めながらでも歌えるし喉の痛みは後でトローチでも舐めてたら治る。

 

「………ねぇ。ミク。ミク……ミクったら!!」

 

「何、どうしたの?アイ」

 

そんなミクの姿にアイは何を見たのだろうか?

最初、耳に声を掛けるだけだったアイがついには肩を掴んで前後に激しく揺さぶる。それでようやくアイにミクは顔を向けたのだった。

 

「………ミク、が、遠いところにいっちゃいそうだった……から……」

 

アイは自覚していないが、今のアイには一つの能力とも言える才能が感化していた。そう。それはミク限定では有るがアイは何となくだがミクの考えている事が理解できつつある。……わかりやすく言うなら馬が合い過ぎるのだ。ミクとアイは。

 

「………そんなわけないと思うけど」

 

「じゃあ……何で、無茶したのにもっと今からしようと!するの!」

 

涙で濡れていながらも強い眼差しでアイはミクを見通す。

アイにとってミクが無茶をしているのは気がついていた。けどミクにとって歌う事は何事にも変え難いモノだと知っているからこそ。アイは黙っていた。アイは隣で聞くことだけにしていたのに。

 

「………そんなわけ」

 

「そんなわけっ!ある!!」

 

それだと言うのにミクは無茶を続けて、ついには血まで吐いてしまった。

それでも歌おうとするミクについにアイは堪忍袋の緒が切れた。

 

「ミク、やだよ…」

 

泣きながら、その涙を拭うこともせずアイがミクの腕を掴んで離さない。

首をひたすら横に振って嗚咽混じりに“ヤダ…ヤダ”と繰り返す。

そんなアイにミクも自分が原因だと深く自覚したのだろう。

 

「……………分かった。じゃあさ」

 

自覚しているから反省しているとは言えないのがこのミク廃クオリティ。

……つまりアイが言う事は(自分が)歌う事がダメという事なのだろう。

それなら……

 

「アイ。アイが歌ってよ。」

 

「………………えっ?」

 

ただ歌わずに居るのも味気ない。だけど歌いたい。けどアイは許さないだろう。

という事でどうにか対処を考えついたのがこういう考えだったのだ。

 

「幾つか歌。教えるから。」

 

「………………………………それって」

 

ミクの声帯とアイの声帯が同じなわけがない。

だけどアイの声に合ったミクの曲が無いわけじゃない。既に幾つか脳内でピックアップする横で、泣いていたのと一転、アイは恥ずかしそうに笑いながら笑みを浮かべている。

 

「うん!私、ミクの歌、歌いたい!!」

 

「………じゃあよろしく。……厳しいよ?」

 

ううん。ミクと一緒ならどんなのでも私は嬉しいよ!

そのアイの満面の笑みに偽りはなく。

 

 

 

 

【近いかも遠いかも知れない未来】

 

「〜♪」

 

「……ミク〜。どんな感じ?」

 

「〜♪……アイ?どうしたの?」

 

「ううん。ミクが何してるか気になって」

 

「そう?………一緒に座る?」

 

「うん!」

 

「………〜♪……♪♩〜〜〜!!」

 

「…………………………………」(背筋を撫で上げる)

 

「〜♪………ひゃ……〜♪♩」

 

「……………………」(もう一回撫で上げる)

 

「………………ん………〜〜♪♬」

 

「……………………」(撫で上げる)

 

「〜〜♪………アイィ……」

 

「〜〜?どうしたの?ミク」

 

「ごまかさないで」

 

「あはは…ごめんごめん。反応を我慢してるのが面白くて」

 

「………ふーん」

 

「どうしたの?ミク?」

 

「楽しむだけでいいんだ………ざぁこざぁこ」

 

「…………………は?」

 

「えっ……あれ?アイ??」

 

「気が変わった。」

 

「アイさん……?ちょっとした、じょうだ……」

 

「おへそで気持ち良くなろうね?ミ〜クちゃん??」

 

 






ちなみに最初のリリアンヌとかで何かに気がついた人は作者か作者以上のボカロ廃です。



初音未来(初音ミク)

冗談でメスガキ煽りしたらおへそでもイけるように教えこまれた。



星野アイ(アイ)

ミクの身体をアイの手ででしかイけないように教え込む事が“役目”だと信じてやまない国民的アイドル。
毎日ミクのベットに上陸しているせいで途中から部屋も同室になった同棲です。

こういう経緯があるお陰で原作より早く日本全国にアイの名前が知られる様になった。まあ元が天才的な才能を、ミクという名の“完成形を知っている天才”が育てたらそうなるって……ちなみに今回の件でもしミクがアイの言うことを聞かなければBAD ENDになる予定だった。


次回。『天使』は羽根を砕かれ鎖で繋がれた。




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BAD END1『愛ノ娘』



前回からの派生if


 

 

 

喉と鼻を少しやらかした。単純に歌いすぎたのが原因なんだろう。

血が出てくるからアイがティッシュ持ってきてくれたのはありがたかったがそこから何故かアイは涙を流して詰め寄ってくる。

 

「ミク、やだよ…」

 

「大丈夫だよ。アイ。これぐらい……」

 

アイの泣き顔を横目にミクはなんでもない様な顔で血を洗い流していく。最後に手についた血を流した時点でもう既に声の調整に入っていた。

 

「la‥ala‥ra‥うん。大体わかった」

 

喉は酷使できないがある程度出して良い音程は分かった。ならその範囲の歌で練習すれば良いやと脳内で曲のピックアップを始めた。

 

喉と鼻から血を出しながらも歌う事しか脳にない。ストイックとも言えるかも知れないがその身近で見ていたアイはどう思うだろうか。

 

「………………………………」

 

 

 

 

 

「(えっと‥この曲は)」

 

数年後。予定調和と言わんばかりにミクは巷では有名な路上シンガーになった。プロ入り‥もしくはあの美貌ならアイドルとしてもスカウトが来るだろうというのは噂に名高い。

 

だがそんなミクだが一つ悪癖があった。

それは“歌のためならどんな危険も惜しまない”という悪癖。それはミクの両親でさえも気がついていないが最も身近にいるアイだけがそれを知っていた。

 

「ミク‥こんどはどんな無茶するの?」

 

年齢を重ねてもミクとアイの距離は空くどころかより親密になっていった。その理由として他に友人らしい友人が出来ない(作らない)わけで……

 

「うん今回の歌はビル風が一番かな」

 

「…命綱もなしで?」

 

「命綱なんて“リアルさ”に欠けるでしょ」

 

さぞ当たり前だとミクは吐き捨てる。

電子の歌姫に“初音ミク”の側を享受している私として、そんな生半可な事は出来ないとミクは思っている。だからこそ、その曲に込められた意味を、その曲に乗せた意識をミクは尊敬し、尊重している。

 

「けど、危険だよ。ミクもしそれで落っこちちゃって……」

 

だが、そんな事アイが知るはずもない。なんとなくアイはミクの考えている事は理解できるが少し力を抜いてしまったら落ちてしまうような暴風が襲う中、足を半歩出せばもう空という所に命綱なしで行こうとするのだ。

 

少なくとも正気の沙汰ではない。アイにとって一番辛い事はミクを失う事。

今までも大分危険だと言うのにまだこうして直接的な命の危機はないからもし最悪何が有ったとしても同じ運命を辿れる様にだけしていたのに。

 

「落ちると思う?アイ?」

 

「…………違うよ。ミク。そうじゃない。」

 

そんなアイの心配に歪む顔とは裏腹にミクは皮肉げに笑って見せる。

ミクはアイが“落ちてしまう”という心配をしていると思っている。……ただアイは“ミクを失う可能性がある”事について心配をしている。そこの差はここ数年であっても埋められなかった差が明確に浮かんでいる。

 

「じゃあどういう意味なの?アイ。」

 

「………………………無茶をしないでって意味」

 

「無茶じゃないよアイ。」

 

暖簾に腕押し。糠に釘。その意味をアイは心の底から理解できた。

言葉は通じているのに言葉の意味が通じていないというアイにとって全く理解の出来ないこの状態。……一体いつからだろうか。ミクの心は分かるのにミクにはアイの言葉が届かなくなって行っているのは。

 

「………………………………………」

 

アイの心で悪魔が囁いた。“ミクを私の色で染め上げて仕舞えばミクは─────”

 

 

 

 

アイは悪魔の声に従わなかった。

アイはミクにそんな事をしてもミクが幸せにはならないのだと知っているから。

私はただミクの隣でミクと同じ夢を見たい。ただそれだけだというのに。それだけでよかったのに

 

「全治数ヶ月です。」

 

医者の声がする。アイの耳にそんな無慈悲に告げられる医者の声とミクの“あーやっぱりかぁ”というような当事者らしからぬ声。そしてそれを聞いていたのかミクのプロデューサーが大慌てで電話をしに外に出て行った。

シンガーから一転、ミクはアイドルになった。その理由ははぐらかされたけど、そんなアイドルの世界でもミクはミクらしく。最近では新気鋭のアイドルとして一目置かれているらしい。

 

そんな中、発生した練習中のミクの事故。

左脚を折る大怪我と右腕の薄皮を切る怪我。……薄皮と言えどそれが数センチの傷だ。ミクの腕には大袈裟なぐらいの包帯が。ミクの左足にはギブスが巻かれるようになった。

 

「それに応じまして…生活動作など。手伝っていただけるご家族様はいらっしゃられますか?」

 

「大丈夫、です。私が手伝うので」

 

アイはミクに意見を取る前に声を上げる。どうせミクの事だ。足折れてても多少無茶すれば変わらない動きが出来ると言わんばかりの顔をしている(注:これはアイにしか解ってません)。もちろん、そんな事させるものかとアイは意気込んだ。

 

 

「もー。アイったら自分でそれぐらい出来るよ。」

 

「だーめ。ミクはゆっくりしてて」

 

帰宅後。ミクはいつものように家のことをしようと動くのをアイが強引に椅子に座らせる。手持ち無沙汰で足をぶらーんぶらーんと動かしているミクの姿は可愛かったけど次第にミクはいつものようにパソコンで音を組み立て始めた。

 

静かな2人の空間に響くリズム良いカタカタ音。そして私の手が鳴らす食材を切る音。なんとなくだけといつものこの空間だけは何物にも変え難いこの家の象徴だ。

 

「………()()()()()()()()()()()()()……」

 

そんな安息を砕くかのようにミクの呟く一言はアイの両手を止めるぐらいの衝撃だった。……たかだか一本?足の骨をレントゲンで分かるぐらいポッキリ折れているのにミクにとってその程度なのか。

 

(……ああ。そっか)

 

ミクは…自分の身体に無頓着なんだ。自分の身体を商売道具とは見ているけどそれ以上は見ていないんだ。とアイは理解した。……こんなにミクの全てを愛しているのに私の愛はミクには通じてなかったんだなって。

 

───ミクをアイの色で染め上げてしまえば───

 

もうアイに悪魔の声は聞こえない。

だけどアイの瞳に輝く星が鈍く、そして暗く輝いたのを包丁の刃で反射した光だけが知っていたのだった。

 

 

 

 

 

 

「ただいまー!」

 

その数年後。アイは国民的アイドルになった。

日本でアイの名前を1日でも聞かない日はないと言うほどアイは国民的で伝説のアイドルにまで上り詰めた。……だけど本来ならそのアイの隣に立っていたはずのミクは…

 

「いい子にしてたー?ミク。」

 

「……………………………………おかえり。アイ」

 

髪をアイと同じ長さまで切られ、何処か元気が無さそうなミクの姿がそこにはあった。着ている服も何処か合っておらず、手足そして首には似合わない黒いチョーカーが付けられていた。

 

「もー!ミク。まだ怒ってるの?」

 

「……怒らない、わけないっ!!」

 

精一杯アイを責めるミク。でもそんなミクの姿にアイはまるでじゃれついてくる子犬のようにミクを抱えて撫でる。事実、今のミクはアイにとって子犬みたいなモノなんだろう。身も心もアイに堕ち切ったミクがアイを害する事なんて出来ないと知っているから。

 

「私から自由を奪って……!」

 

「うん?ミク。私はミクから何も奪ってないよ?」

 

「外に出たら全部アイが分かるのに!?」

 

そう。この黒いチョーカーはGPS付きと言うハイテクな代物。それももしミクが家を出たらすぐにアイのスマホに知らされると言うおまけ付きだ。勿論、アイがしていることと言えばそれぐらいで一般生活には問題ないと見えるが……

 

「私が外に出たら……あんな……っ!!」

 

「あんな?言ってみなよ。ミク。」

 

変なところで初心なミクは言えないだろうとアイはニンマリ笑顔でミクの全身を撫でる。

ミクの全身、アイが触るのを限定でとても敏感になるように教え込んでいたのだから軽く鼠蹊部を撫でるだけでミクはもう喘ぎ声を隠せないようだ。そんなミクの姿にとても可愛いとアイは満面の笑みでミクを撫で続ける。

 

「言えないもんね。ミク。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて」

 

骨折さえも軽視するミクの姿にアイはついにミクへの計画を進めるようにした。

ミクより早くアイドルとして頂点をとり、そしてその時に貯めたお金でミクと永遠の時を一緒に2人だけで過ごすと言う計画を。

生憎とアイにはミクという天才の背中を…横を見て過ごした少女だ。単純な才能だけでなくその才能が天才という研磨剤で磨かれているのだから異例とも取れる早さで国民的アイドルになった。……そのアイの内心はただミクと過ごすためだけなんだけど。

 

「……………………」

 

ミクにとって、アイに襲われるなんて一片も考えなかった。そういうアイへの無自覚な信頼のせいでミクが明確にアイが自分を害する存在だと理解した時にはもう手遅れだっただけの話だ。

 

「大丈夫だよ。ミクは何も心配しなくて。」

 

そんなミクにアイはミクと額と額をくっつけ合う。

 

「ずっと、ずっと一緒だよ?ミク」

 

そう。それは死が二人を別つとも。

アイとミクの絆は、愛は永久不滅なのだから。

 

 

 






初音未来(初音ミク)

人の心を完全に外度視していたらついにアイに襲われた
もうアイなしでは生きられないと教え込まれているせいで抵抗する気さえ湧かない。
毎晩、毎晩、愛され続ける生活を意外と気に入っている自分が今、一番怖い。



星野アイ(アイ)

前回のミクへの忠告が聞き入れられなかったらこうなっていた。
覚醒して原作と比べ物にならない速度で芸能界を駆け上がる怪物になった。
もはや一番星ではなく太陽みたいなモノ。それら全てがひとりの少女を愛するためだけ。
ミクの様子を見て、心の底から堕ちてくれるまでもう少しだなぁ…と虎視眈々とその時を窺っている。

多分だが、想定しているifの中では一二を争うほど平和である。




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ミラクルアイドル



多分そろそろ原作の話になってくる。それはつまりアイの……


 

 

“歌姫”、“天使の生まれ変わり”などと称される国民的アイドル。初音ミク。

そして“一番星の生まれ変わり”などと称される国民的アイドル。アイ。

この二人がラブラブである事はもはや周知の事実である。アイのために歌を作って贈ったミク。そんなミクにその曲で国民的アイドルであると世間に認めさせる事で恩返しとしたアイ。

 

そんな二人だが実は結構“喧嘩”する事があると知っているだろうか。

この前もアイが/ミクが疲れているだろうから…自分が家事をするという事で喧嘩した。勿論その結末はベットまで持ち越しになって、いつも通り2人肩を並べて家事をしたのだった。

 

これ以外にもいい感じのお土産があったから買って帰るとミクが/アイが…同じものを買って買っていたとか。色々とあるが共通して言える事はこの2人の間での喧嘩は“ほぼ惚気”みたいなモノだと思われている。(2人はとても心外だと言いたげだが)

 

 

 

 

 

そしてこの日も。

 

「ねえ!聞いてる!?佐藤社長!」

 

アイドルにならないかとしてスカウトされたアイは苺プロダクションというミクが言うにはまだまだ弱小レベルの事務所にスカウトされる事をヨシとした。

別にミクと同じ所に入っても良い。結局ミクも事務所に入ったとは言え歌も自作、衣装も自作、メイクは別にナチュラルでも問題ない美貌というある意味事務所泣かせだ。ミクの行った所は中堅の中堅。目立ったものは無いが、逆に安定した役者・アイドルを輩出している所。

 

実は、だいぶ前からミクと同じように路上でもデュエットしていたアイも一緒に来ないかとスカウトを受けていたがそれを蹴ってでもアイはこの事務所に来た。

 

「おーおー。それと俺は…斉藤、な?」

 

ミクは既に頭角を表して新気鋭のアイドルとして世の中に新しい風を呼んでいる。

だというのにアイはまだデビューさえ出来ていない。……早く、ミクとアイドルとして公式にデュエットしたいのにこれではまだまだ夢の話だ。

 

そんなアイの声を聞いているのはこの苺プロダクションの社長。斉藤社長だ。

中々厳つい面構え…とアイは初対面で思ったがその直後には忘却する予定だった。

だと言うのにアイは斉藤のスカウトに乗った。

 

「えー?別に良いでしょ。それより聞いてー?ミクがさー!」

 

「俺としては未だにあのミクと同棲とか信じられないんだが……」

 

斉藤としてはこのアイドルの原石が新気鋭のアイドル。ミクと殆ど同棲関係であると言う事実に未だ驚きを隠せない。ミクもアイもその状態に慣れ切っていたがまだ高校生にもなるかならないかという年齢で同性が同じ生活をして、そして同棲生活をしているなど普通の学生ではあり得ない。

 

「?小学生ぐらいからこんな感じだよ?」

 

「マジか。進んでるな最近の子ども」

 

勘違いするな。斉藤。この2人だけが異常に熟れているだけなのだ。

 

「そうそう!ミクがぁ!!」

 

「おん…そのミクがどうしたって?」

 

ガキの喧嘩だ。どうせ好きなものを食べられたとかだろうと斉藤は半分聞き流して聞こうと思っていた矢先だった。

 

「ミクが今日私を置いて起きちゃったんだよ!?」

 

「………………………ん?」

 

斉藤の耳か脳はバグったのかとアイが言う“喧嘩”とやらに耳を傾ける。

どうやらアイが言うには、いつもミクの髪をセットしているのはアイの仕事だと言うのに今日はアイは事務所で打ち合わせがあるからということで枕をデコイに1人で起きて準備しちゃったらしい。……しかもわざわざ物音でアイが目を覚まさないように。

 

「…………待て待て。枕をデコイ??」

 

「うん?いつも抱き合って寝てるから〜…それで今日はわざわざ枕をダミーにされたんだよ!?」

 

酷くない!?と激昂しているように言うアイを尻目に斉藤はしらー…と惚気かよ…と言いたげにチベットスナギツネみたいな表情になっていく。

喧嘩したと聞いて、その内容を聞いたら脳内に強烈な“砂糖”が打ち込まれたのだから。聞いてる方としてはハイハイ。惚気惚気。としか言いようがない。

 

「ま、まあそんな怒らずに。」

 

「?怒ってないよ。……ただ、今晩はちょっと…あは

 

男である斉藤でさえゾッとするような獣欲と魔性じみた危ないが何処か惹き込むような危ない光がアイの瞳の中を一瞬渦巻く。直後、いつものような笑みを浮かべているが何処か苛立ち気味に今日の会議の資料の冊子をめくっている辺りどうやら大分虫の居所が悪いらしい。

 

「……まあ。ほどほどにしろよ……」

 

未成年淫行だとか、色々と乱れすぎだとか言いたい事はあるがどうやらこの感じではここ数日の話ではないようだ。……斉藤は喉から絞り出した忠告もアイの耳から耳を通り抜けていったようで、アイの紙を乱雑に捲る音だけが響いていたのだった。

 

 

 

 

 

「もう…アイったらあんなに怒る必要無いのに……」

 

今日は特に撮影もない日。久々のオフという事でミクは悠々と家で音楽を作る。

マグカップにココアを入れて、ミクはブルーライトカットのメガネを付けてキーボードを叩いていく。音の合わせはほぼほぼ終わっていて後はミク自身が曲に歌を吹き込むだけ。

 

「……えーっとこの曲は……」

 

この曲に込められた意味を。この曲の歌詞の力をミクは全力で想起する。

それは色褪せない記憶として簡単に思い出せる。それはすぐに手に取るように身体で、心でミクとして理解できる。

 

「…………とりあえずこんな感じかな」

 

ミクである自分ももう一度聞いてみるが申し分ない出来に仕上がった。

一息つこうと時計に目を向けるともう昼過ぎになっていた。どうやらスマホにもアイからお昼食べたのか〜だとかメールが入ってきている。

 

「心配性だなぁ…アイは」

 

まあけど確かにこんな時間までパソコンに齧り付いていたから何も言えないけどとミクは苦笑する。朝、あんなに私怒ってますみたいに頬を膨らませられたら幾らミクと言えど罪悪感が湧かないわけじゃない。

 

『帰ってきたら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

『……………ほんと?』

 

『嘘はつかないよ』

 

『じゃあ頑張ってくる。……夜が楽しみだねミク。』

 

最後のアイの蠱惑じみた声にミクは一瞬早まったかなぁ…と苦笑したがそんなアイが変なことをするような子じゃないとミクは知っている。

スキンシップが激しかったり(胸を弄ってくるのはやめて欲しい。こう見えてこれぐらいが究極の機能美なのだから)、一緒にお風呂に入ったりはアイが言うにはただのコミュニケーションの1つらしいから問題はない。

 

「んー……私を抱き枕にするのはどうなんだろ?」

 

確かに世の中には抱き枕があった方が寝やすいという人もいる事はよく知っている。それはアイもだろうか?昔はそうでもなく隣で寝る程度だったが最近ではよく抱きつかれたままという事が増えている。

 

「ま。アイならいいか」

 

別にアイなら問題ないだろうとミクは考えを破棄する。

そんなアイがミクに友愛、親愛以上の考えを抱いているなんて。

 

「…………それは、そうと」

 

一旦、ミクはアイ関連の考えを捨て、ミクはパソコンにまた向かい始める。

一度立ち上げたデスクトップをなぜか一度切り落とし、ミクは手慣れている手先で“別のアカウント”で入り直す。

 

「…………あーあー…こんなモノか」

 

数年前。一度喉から血を出した原因の声をミクは出す。

その時より声帯が成長しているとは言え、全く自分に合った声ではないせいで簡単にガタが来てしまうぐらい不安定だ。

 

「リン…レン…KAITO…MEIKO…ルカ」

 

そこに保存された5つの音楽ファイル群。それら以外にファイルらしいファイルは保存されていなさそうだ。それら一つ一つに名前が割り振られているがそこにミクは新規ファイルを一つ作りマイクから声を録音し始める。

 

「…………そして私。」

 

幾ら恐れようとも時間が止まる事はない。

ミクが恐れようとしている16歳は刻一刻と近づいてきていたのだった。

 

 

 

 

 

 

【少し先の未来】

 

「抱かせろ。ミク」

 

「!?……アイっていつもそうですよね!?私の事なんだと思ってるんですか!?」

 

「え?可愛い可愛い私のお嫁さん」

 

「うわぁ…すごい曇りない目……それでどうして今日はそんな唐突に…」

 

「そう言いながらもうミク服、脱ぎ始めてるよね」

 

「……………!?い、いやこれは……!」

 

「これは………?」

 

「あ、暑くなってきたから、ね?!うん!」

 

「ふーん?………まあいいや。それはそうとお嫁さんならと考えた訳です私は」

 

「考えたわけ……あっ。やっぱ良いです。嫌なよか…」

 

「それはねぇ……?」

 

「あー!あー!……抱くなら早く抱きなよ!」

 

「それはそうする。据え膳って言うしね」

 

「あっ……やっぱなしって出来ませんか……?」

 

「だーめ。……そうそうお嫁さんにするためにね」

 

「…………あぁ………」(諦め)

 

「お胸からお乳出せるぐらい大きくならないとね?」

 

「…………え?………いやこれは究極の機能美で…………っ!!」

 

「じゃあまずは……お胸でイけるようになろうね?ミク?」

 

 

 

 







初音未来(初音ミク)

この後少しずつミクの胸が成長するのと同時に、アイに吸われた時だけ敏感になってしまった。




星野アイ(アイ)

とりあえず原作と同じ事務所には所属してます。
まだギリギリ、ミクを襲ってはいないがミクの外堀埋めはほとんど完成している。
だけどミクがあんな調子だから最後まではバレないだろう。



次回。アイ、最低最悪の1日



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初音ミクの消失


感想をくれぇ……(感想乞食の断末魔)



 

 

 

その日は、意外と簡単に訪れてしまった。

アイも、なんだったらミクでさえ想定していなかったその日。

なんでもない日になるはずだったその日は、アイにとって過去最悪の日になってしまうのだった。

 

 

その日はミクもアイもオフの日だった。

アイドルとして数年経った2人は順調に名前は売れていきミクは“歌姫”、“天使の生まれ変わり”(後者はミクはあまり認めていないが)などと二つ名付きで賞賛される国民的アイドルに。アイも“一番星の生まれ変わり”などと国民的アイドルとして讃えられるようになった。

 

日々を忙しく過ごす2人だが今日は事務所から渡されたオフという事で同棲(親の許可を貰ってシェアハウスをした)になった2人は思うがままにゆっくりとしていた。

遅くまで作業していたミクはリビングの方でゆっくりとこの前のライブの復習しながらストレッチをしていた。

 

『ミクー?パソコン借りていーい?』

 

そんなミクにアイは隣でミクとじゃれようかと考えたがそういえばと何かを思い出したようにミクの昔から使っているパソコンに向かう。ミクのパソコンは専ら音楽の作成用…つまり仕事用だ。

 

『んー?…いーよ』

 

基本的にミクのパソコンは誰にも触れられないように細心の注意を払っている。

だがアイは例外だと何回か貸している。勿論触ってほしくないファイル類は触るな!とだとか注意や鍵を掛けている。

 

(この前のデュエットの曲は何処だっけなー…)

 

手慣れた手つきでアイはミクのパソコンのロックを外す。

淡い光と共にアイの瞳に映る質素なデスクトップと乱雑に置かれたままのファイル達。曲の名前だろうか、カタカナばかりのファイルや漢字だらけのファイル。

 

(ああ。懐かしいなぁ)

 

これでもない。あれでもないと探していると懐かしい曲の原本がたびたび見つかる。ミクが“歌姫”となるキッカケの“メルト”。アイドルとしてのデビュー曲の“みっくみくにしてあげる”と。路上シンガーとしての一曲目の“ハジメテノオト”と“tell your world”。………次々と出てくるミクの楽曲にアイは1つずつ開いてはミクが歌っていた姿が鮮明に浮かんでくる。

 

(うーん。全然探すのが進まないぞー?)

 

まあその理由なんて明白だとアイは苦笑する。

ミクの曲は膨大だ。ミクのその頭からどんなリズムが浮かんでいるのかと言うほど曲調も疎でまさしく彼女こそ天才だとバッハ、ベートーヴェンに並ぶ天才だと讃える声も少なくない。

 

勿論、そんな1つ開いては次のファイルを開いてをしているとアイの脳内に簡単にミクの曲が流れてしまう。そんなことをしていると目的の曲なんて見つかりはしない。探す半分、楽しむ半分となってしまったアイは、やらかしたと思いながらもその手を休める事はしない。

 

「……………………あっ」

 

「………?どうしたの?アイ?」

 

そしていると途中開いたファイルが溜まってしまったのを見て閉じていると間違えてログアウトボタンを押してしまった。基本的にミクのパソコンはログアウトまでせずにある程度放置していたら待機状態に移行するようにしている。

 

勿論アイもその状態でしか見た事なかったから初めてやらかした事にアイは驚きの声を上げる。勿論そんな気の抜ける声にミクがリビングでヨガのポーズをしている(勿論めちゃくちゃエロい byアイ)ミクが声を掛けてくる。

 

「んー。なんでもなーい」

 

開き直せばいいかと処理が終わるのを待っていた。すると数分後にはいつもの画面に戻っているはずがアイの目にはもう1つアカウントがある事に気がついた。

 

(?…なんだろ。これ)

 

無名のアカウント。名前さえ書かずに置かれたアカウント。

これはミクのパソコンだからミク…と私しか使う人はいないはずとアイは面白半分で開いたのだった。そう。決して悪気は無かったのだ。

 

(あ〜やっぱり鍵が掛かってるかぁ……)

 

と言う事は本格的にミクがこれに関わっているとアイは目を輝かせる。

中に入っているのはミクの趣味だろうか?それとも日記だろうか。

まず手始めに0831。0309。3939。うーん、じゃあこれかな?

 

(あ、空いちゃった………)

 

64572。初音ミクを日本語キーパッドで打った時。その場所とリンクさせたモノ。意外と簡単に開く仕掛けにアイは苦笑せざるを得なかった。……まあただ空いてしまったものは仕方ない。とアイは欲望に逆らえなかった。

 

(リン…レン…MEIKO…ルカ…KAITO)

 

あるのは6つのファイルと一つの文書ファイルだけ。

そのファイルには“ミクが常日頃語る誰かの名前”が記載されている。

そして恐る恐る開いた文書ファイル。そこに記入されていたモノとは。

 

 

 

(“electronic diva”、計画)

 

 

 

 

 

 

(はぁ…今日も忙しかったぁ……)

 

アイがパソコンを借りた数日後。いつものようにアイドルとして、今日は雑誌の表紙の写真撮影の日で一日中駆り出されていたようなモノだった。

アイも自分のグループの方で活動があったようで(それでもミクより帰宅は早かったらしいけど)今日は2人とも忙しかった日だ。

 

「ただいまー」

 

今や2人は国民的アイドル。その身に付くパパラッチやストーカーなど常人の比でもない。2人で住むからまだ安全上はマシだとは言いたいがそれでも女子供に違いはない。だからこそ、“中々高度なセキュリティで守られたマンション”に住んでいるが…

 

「…………………おかえり」

 

その日。家にはライト1つも付いていなかった。

奥からアイの声は聞こえるのに何故かリビングの照明も付けていないようだ。

それにいつもならミクが帰ってきた時には新婚よろしくアイが迎えにきていたのに今日はどうやら迎えがないようだ。……何かに集中しているのかな?とミクはリビングの扉を開ける。

 

「project:electronic diva。直訳すると電子の歌姫計画。」

 

扉を背にアイは椅子に座っている。真っ暗の家の中、ミクのパソコンのブルーライトがアイのバックライトになり照らしている。アイの声は何処か平坦で抑揚も付いていないその声は何処か背筋に恐怖を走らせる。

 

「その計画は、“初音ミク”を主体に五つの声。つまり“幼い少女の声鏡音リン”、“幼い少年の声鏡音レン”、“ミクとは違う少女の声巡音ルカ”、“大人の女性の声MEIKO”、“大人の男性の声KAITO”を音声合成ソフトとして準備した。」

 

「………………………」

 

文章を読んでいるかのようなアイの声にミクは何も言えない。

何故ならその文章を、その計画を主導しているのは他ならぬミクだから。

 

「そしてその計画の要。“初音ミク”そのものの声を音声ライブラリに保存して“初音ミク”は“歌姫”から“電子の歌姫”になる。」

 

そのソフトは歌を歌わせる専用の(所謂DTMと呼ばれる物)音声合成ソフト…ミクの文には“VOCALOID”の名前で計画は進んでいった。

 

まるで幽鬼もかくやと言わんばかりのおどろおどろしさでアイはミクの前に立つ。

そんなアイにミクは何を思っているのかいつもの笑みでアイの続きを待つ。そうミクにとってここまでの計画は前座も前座。ミクの計画の真骨頂はここからだ。

 

「………そしてその後。“歌姫”……いや初音ミクは」

 

アイにとって認めたくない未来図。でもこれを本気でミクが考えている計画ならば。

 

()()()()()()

 

そう。その計画とは正しく“電子の歌姫”。

“初音ミク”以下…6つの音声合成ソフトの発売とほぼ同時に初音ミクは自らの命を絶つ。……そして歌姫という存在はソフトだけに残り、そしてそれらを使う人々の手を使った“電子の歌姫”になる。

 

なんとも悍ましい。自らの命でさえ勘定に入れた計画。

それが初音ミクの考案した“電子の歌姫”計画。

 

「………正解。よく見つけ出したね。それ」

 

もう取り繕う事も無意味だと悟ったのかミクはそこまで探したアイに拍手を送る。

そんなミクのおざなりな拍手にアイはこの計画が本気である事を悟った。

 

「ねえ。どうして?」

 

アイはミクを壁ドンする形で迫る。

今のアイの胸の中には怒りと嘆きと…そして悲しみだけが詰まっていた。

どうして。どうして何も言ってくれなかったの?どうして相談してくれなかったの?どうしてそんな方法を考えてしまったの?どうして私に……

とても皮肉な事にそれら感情は全てミクへの愛の裏返しなのだから。

 

「別に、アイが悪いってわけじゃないよ」

 

そんなアイの内心を悟ったのかミクはため息混じりに呟く。

この計画は自分が初音ミクと自我を得た時から考えていたモノだと。

 

「そっか……そっか」

 

じゃあこれは思いつきじゃ無かったんだ。

嘘つき。嘘つき。嘘つき。愛してるのに、こんなに私はミクを…貴方を愛しているのに。

 

アイの瞳の星が反転する。黒く、黒く何処までも黒くなによりも黒く反転する。

ああ。そうだ。これこそが、これこそが愛。希望よりも熱く、絶望よりも深い感情の極地。

 

「じゃあ。ミクはこれを失うと、計画がおじゃんになっちゃうね?」

 

「…………!それ、は……」

 

アイは最高の笑みでミクに問いかける。

今ここでアイがパソコンを壊したらミクは全部の計画がおじゃんになってしまう。

どうせミクの事だ。この計画はバレないだろうと思い、他に保存なんてしていない。

 

「アイ……分かってるよね?私は…」

 

「ああ。そんなの今はどうでもいいの」

 

ミクの命乞いとも取れる発言をアイはどうでもいいと吐き捨てる。

力関係は逆転した。今やミクがアイに媚びなくてはならない事。それをようやくミクは理解した。

 

「私はさ。ミクに生きてほしい。でもミクは死にたい」

 

「…………ちょっ!アイ?……アイ?そっちは寝し…!!」

 

万力のような力でアイはミクを引きづり寝室へと…ベットにミクを押し倒す。

 

「……ミク、暴れないでね」

 

ミクの服を剥ぎ取る。下着はもれなく、めんどくさくなったからほぼほぼ破り捨てる。

 

「えっ?…えっ!?……ちょっアイ?!?」

 

ミクの慌てるような声が聞こえる。ああ。でも今更だけど。

 

「暴れてもいいよ?噛んでもいいよ?強く噛んで良いよミク……まあいただきます」

 

ミクが死にたいって言うなら、私がどれほどミクに生きてほしいか。どれほどミクを愛しているのか教えてあげる。勿論、その身体でね?

 

 

 

 

 








『残念だったね。ミクは私に堕ちたよ』

『…………!?…………!!』

『君にとっては最悪だね。ミクを“神”と崇める君には…ね』

『!──────────!、!!』

『そんな焦んないでよ。一つ良い提案を持ってきたんだからさ』

『─???─────────』

『そ。良い提案。貴方の血を引いた子をミクが育てる、なんてどう?』

『────────────………?────』

『あーまあ堕としたって言っても……君だって神様にはしたくても“天使”にはしたくないでしょ?』

『────────────────────────』

『…………契約成立だね。後々はまた後で』





『これでよし……後はタイミングを見計らって…かな』

『ああ。悪いことしちゃったね。ミク。でもミクが悪いんだよ?』

『……………ごめんね』






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BAD END2『リンカーネイション』


前回のifです。“歌姫”は“電子の歌姫”になった。
感想嬉しい…嬉しい……今回も待ってます。


 

 

初音ミクが、死んだ。

17歳を前にしてその命を絶った。

 

「……………………」

 

誰も彼もがその死を悼んだ。誰も彼もが“歌姫”という存在を悼んだ。

早過ぎる天才の死に、天才故の薄命の運命を知った。

 

その死は“自殺”だった。自らの家からその身を投げた。

勿論その死には多くの調査がなされた…でも残された遺書。家には誰もいなかった。それら全てを含めて“自殺”と断定された。

 

『……………え?ミ、ミクが?』

 

第一発見者はマンションの管理人。柘榴のように飛び散る血と特徴的な青緑色の長髪。その後、警察の指示の元すぐに情報統制が行われ身元確認のため“星野アイ”が呼び出された。……その日は惜しくもアイは撮影日だった。

 

『じょ、冗談です…よね??』

 

何度も何度も掛かる登録外からの電話に遂にアイは電話に出た。

掛かってきた電話は……警察から。電話口から聞こえる涙と鼻水を啜る音と共に聞こえる言葉。曰く“ミクが、自殺した”と。

 

『………………………』

 

カツン…と地面にスマホが叩き落ちる音がする。

向こうから聞こえる声に冗談でも誤魔化しでも虚報でもないという事に気がついてしまった。もはや今のアイに正気というものが残されているとは言えない。

誰が送ってくれたんだろうか。…多分、斉藤さんかな。そんな現実を受け入れられないまま、アイはミクの前に立つことになった。

 

『………アイちゃん。』『アイちゃんか……』

 

『おばさん…おじさん……』

 

霊安室の前。泣きながら座る2人には見覚えのある顔だった。

ミクの両親。アイにも優しく、一時期は養子として身を寄せていた事もあった。

 

『……………本当、なんですか』

 

『っ……ええ。』

 

アイはまだ信じていなかった。いいや。何がなんでも信じたくなかった。

ミクが、あのミクが自ら命を絶つというほど思い悩んでいただなんて。私はミクの考えがある程度分かっていたというのに。私は最期の最期までその苦しみに気が付かなかったというのか。

 

『………これを、貴方に。と』

 

渡された2つのモノ。綺麗にラッピングされた箱ともう1つ。ミクの筆跡で書かれた白い封筒。そこには達筆にも書かれていた“遺書”。既におばさん達は読んだのかその封は開いている。

 

『……………まずは、まずはミクと会って、いいで、すか?』

 

まだ。まだ私は信じていない。あのミクが、ミクが自殺だなんて。

震える声と動きたくない、真実を知りたくないと訴える身体をどうにか動かす。

そこには……

 

『………………ぁ。ミ、ク………っっっっ!!!』

 

霊安室の奥。頭には白い布。どうやらもう首から上は見れたモノじゃないらしい。

だけどその身体は、その服は私の今朝ミクにと選んだ服そのものだった。

そしてその白い布から微かに見える鮮やかなまでの青緑色の髪はまさしくミクのモノで。………私がアイがミクを見間違えることなんてない。ただ、今だけは見間違えであって欲しかった。

 

『あ、嗚呼あああ嗚呼ああああああああああああああああああああああ!!??』

 

熱い、熱い液体が頬を伝う。…うるさいな。この雄叫び。誰が出してるんだろう。

火傷しそうな液体だってそうだ。一体誰が何のために液体を頬に掛けているのか。

……………ああ。そっか。この涙もこの悲鳴も。私の中から。

 

 

発狂したのか、それとも現実をこれ以上受け入れられないと脳が情報を遮断したのか直後アイは気絶した。そして次にアイが目を覚ますと、そこは病床の上だった。

 

「………………─────────────────────────ッッッッッッッ!!!!」

 

直後。アイはまた現実を受け入れられないとばかりに甲高い声を上げて暴れる。

ただひたすらに自分の体を痛めつけるような暴れようがどれほどアイが何も気がつかなかった自分を恨んでいるか分かるだろうか。この身を焦がすほどの自分への怒りが、この身を殺したくなるような自分への殺意がアイを自傷へと走らせる。

そんなアイに「先生!星野さんが!」「早く鎮静剤をっ!!」……そんな看護師と医者の声を聞いてアイは次第にまた意識を失っていく。

 

 

 

 

「…………………………………ぁぁ……」

 

アイがようやく正気を取り戻したのは、ミクが自殺した翌日の夜。

昼の間に多くの人がアイの病室にやってきたのだろう。そこには多くのお見舞い品が転がっている。アイの脳裏にもミクの両親や斉藤が来ていたことをなんとなくボーッと覚えている。…その時はもう何もかもが嫌でただベットに腰掛けていただけだったけど。

 

「…………………そうだ。読まない、と」

 

一番手元近くにあったモノ。それはミクの遺書とアイへのプレゼント。何度も何度もアイが暴れたせいで皺くちゃになってたりするけど問題なく原型は留めている。そこまで理性を無くしたわけじゃなかったらしい。

 

封筒の中には二枚の紙が入っていた。一つ目は本当に遺書。アイとミクの両親に今まで稼いできたお金とこれから入ってくる収入を5:5で分けて分配するという事。

そしてもう1つ。これはアイに向けたミクからの手紙だった。

 

 

          アイへ

 

これを読んでいるということは私は既に死んでいるのでしょう

アイはこれを読んだ時どうでしょうか?少しでも悲しんでくれてたら嬉しいようなそんな気がします。

私の歌はアイに全部あげます。歌うにしろ。破棄するにしろアイに任せます。

最後に。

私が自殺したのは私が最初から決めていたようなモノです。アイが気に止むことでもないし、ましてや誰にも責任はありません

それじゃあさようならもし、来世があるならまた親友になってくださいね。

 

          貴方の親友。初音ミクより

 

 

 

「………………ばか。おおばかものだよ……」

 

A4半分にも満たないようなミクの最後の文。

少しでも悲しんで!?歌をあげる!?決めていた!?また親友!?言いたいことしか無いのにアイから出る言葉はアイの想像と違ったものだった。一度でも、いいから私に言って欲しかった。私を頼って欲しかった。

アイの頬に涙が流れていく。その涙は紙を濡らし文字が滲んでいく。

 

「愛している……ミク。ずっと貴方をっ!!……愛してるよ…っ!!」

 

嗚咽と共に吐き出されるアイのミクへの愛の言葉。

でもそれを受け取る人はもうこの世には居なくて…それを理解してアイはまた大粒の涙を拭うこともせず泣き続ける。プレゼントは、髪留めだった。ミクの瞳の色のような大きなエメラルドが嵌まった特注らしい髪飾り。

 

 

そうして、ようやくアイはミクの死を受け入れた。

 

 

かのように思えた。

 

 

 

 

その直後。アイはミクの火葬を見届けきっちり49日の精進落としをこなした後、アイは突如“B小町”を脱退。その後フリーのアイドルとしてその活動を多岐に増やし芸能・役者・女優。まるで何かから目を逸らすように打ち込む彼女には次第に“国民的アイドル”から“国民的大スター”として日本人なら誰もが知っているであろう一番星になったのだった。

 

………ただ。それと同じようにアイにはミクと一緒にいた時のような天真爛漫さは完全に形を潜め、まるでミクの笑みをそのまま出力したかのような笑みを浮かべている事が多くなった。

 

そう。彼女の昔を知るファンは彼女の事をこう語る。

“ミクが死んだ時、アイも同じように死んでしまった”のだと。

 

もはやその通りなんだろう。

今のアイはまさしく天才で、究極で、完全無欠で、孤高で、絶対なるスターなのだから。

 

 

 

そしてミクが亡くなった数日後。“VOCALOID”の発売が決定。

歌姫は電子の歌姫となり多くのクリエイターの手に渡った。

だが今でも彼女の命日にはそれを悼む歌が投稿されている。

 

 

 

 

 

「妊娠数ヶ月です。」

 

20歳になったアイは子どもを作った。アイは()()()の赤子を孕んだ。

父親は完全に居ないものとして伏せられている。金額的には可能だ。彼女は今まで大スターとして稼いできたお金がある。ミクから相続されたお金がある(ミクの両親は受け取る気がないとして全額アイの手に渡った)。

特に趣味も無ければ、最低限美貌を維持するための費用には全てアイ自身が稼いだお金で賄える。というかそれでも増える一方だ。

 

「………………そっか」

 

医者から告げられた妊娠の報告にアイはただ一言頷くだけで特に何かするわけでもなかった。ただ無表情に無感情にその事実を受け入れるそのアイの瞳には、まるで宇宙の深淵をそのまま宿したかのような暗い星の光が両目に瞬いていた。

 

「そっかってお前な。妊娠を……!」

 

「知ってるよ。その上で言ってるの」

 

アイの隣で幾分か老けたであろう斉藤がアイのそんな様子に注意をする。

それでもアイは顧みる事なくボーッと空だけを見つめる。

そんなアイの様子に斉藤は一つため息を吐く。ミクが、ミクが亡くなったあの日からこんな感じなのだ。と世間はミクが死んだ時にアイも死んだというがまさしくその通りだ。今のアイはまるで抜け殻みたいに生きているに過ぎないと。

 

「誰が父親だとか言わないんだな」

 

「うん…所詮、提供者なだけだから」

 

あまり価値は無いよと吐き捨てる。

そんなアイの言葉に斉藤はさらに頭を抱える。ほとんどアイにおんぶ抱っこで大きくなってしまったこの事務所。そんなアイが誰とも分からない子を孕みましたなんて世間に言えるわけがない。……しばらくアイは活動休止だろうなと斉藤は冷静に考える。

 

 

そして十月十日が過ぎる。

 

 

 

アイは特に問題もなく三つ子を産んだ。

父親方の血なのか金髪で赤い瞳と青い瞳と緑色の瞳をした2人の女の子と1人男の子の三つ子。それでも赤子の美貌は母親譲りなのかとても可愛い赤子だと言う。

不思議なことにこの日からアイは昔のような明るさを取り戻していく。

 

子供が出来たからだろうか?自分が守るべき存在だと母性が生まれたからだろうか?………その時のお産に立ち会った助産師さんはそうではないと首を振るだろう。

 

何故ならアイは生まれた3人目を見てこう言ったのだ。

 

 

「逃がさないよミク。今度は絶対に……ね?」

 

 

それが本当にかつて亡くなった“歌姫”初音ミクだったのかは定かではない。

目も開いていないような赤子が何故、アイは一眼見ただけでミクだと断定したのか。

 

 

ただ一つ言えるのなら。

 

 

死であってもアイは決して色褪せることは無い、らしい

 

 

 







【とあるプロデューサーの独り言】

「ああ。お前新入りか。…しかも初めてでアイの撮影とは運があるのか無いのか」

「新入り。覚えとけ。アイは“絶対にNGを出さないで有名”は知っているな?」

「おう。基本的にどんなミスでも笑って許すアイだがこれだけは絶対守れ。死にたくないならな」

「それはな。()()()()()()()()()()()()()()()と言うことだ」

「どうしてかとか考えるなよ?これさえ守ればアイに潰されねぇ」

「………ん?触れてしまったらどうなるんですか?だって?」

「ああ。全員もれなく首切りだ。」(首を切るジェスチャー)

「前の新入りは間違えて触れてしまい社会的に殺された。とある同業者は髪飾りに触れて今や閑職の閑職ただひたすらに紙を千切るだけの仕事に左遷。髪飾りを揶揄った大物俳優はその数日後重大なスキャンダルが見つかり今や1日を生きるのに精一杯だそうだ。」

「勿論それだけじゃねぇが……まあその様子だと大丈夫か。」

「まだアイなんて楽なもんさ。それだけ守れば基本無害だ」

「…………いや。それともアイは何にも興味が無いだけかもしれないがな。」




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ハロー、ツインスター



今話ではミクあんまり出てこないっす。ゴローとアイの会話中心。
感想は偉大だ…執筆意欲を伸ばす鍵だ。もっとくだせぇ。(乞食)


 

 

 

突然だが、雨宮吾郎という男は産婦人科医だ。

東北の片田舎の病院の主治医。一日に数名も患者が来るか来ないかというほど平穏な病院の主治医をやっているがそれがゴローにとっては天職だったらしい。

 

何故なら……

 

「うぉぉぉぉおおお!アイー!!ミクー!!」

 

こうして病室のテレビで患者と一緒にペンライトを振ることなんて出来なかっただろうから。

長閑な青空が外では広がっていると言うのに、この部屋だけは暗幕まで下ろされ挙句電気まで消され、そこにはテレビとペンライトの淡い光だけが光っていた…はずだった。

 

「………健康に悪い!!」

 

「「あ゛〜!!?目がぁ…目がぁ……!!」」

 

音もなく影もなく看護師がその部屋に入り凄い勢いで暗幕を開ける。

勿論そんな事をすると外の光が入り、暗いところに慣れていた目が眩む。

それは医者も患者も同じで似たようなアクションと共に騒ぎ出すのだった。

 

 

 

「……それでセンセ。またアイドルですか?」

 

仕事にも一段落付き昼休憩という事で息抜きとして屋上まで黄昏に来た。

空を見上げる吾郎の後ろで看護師が声を掛ける。…先ほどのテレビは何処かのライブみたいだったと。そして吾郎は自他共々認めるアイドルオタクである事も鑑みて看護師はアイドルかどうか聞いた。

 

「ああ。ミクとアイな」

 

「ミク…と言うとあの初音ミク??」

 

アイドルにも興味がないような人でもミクの名前なら知っているか。と吾郎はミクの知名度の高さに感心する。……初音ミク。その人を一言で言うならば“歌姫”。翡翠色のような瞳と青緑色の長髪という特徴的な姿に、そんな第一印象を大幅に塗り替える圧倒的な歌唱力。そしてその上作詞作曲まで出来るという天は彼女に多くの物を授けた。

彼女の事をよく知らなくても、その姿やその音楽は耳にしたり目にする事が多々あるのである。

 

 

看護師の問いに吾郎は深く深く頷く。

アイドルオタクには二種類居ると吾郎は考えている。…それはつまりミク×アイ派かアイ×ミク派の二種類。この二種類は日々論争に明け暮れているのだ。え?ミク単推しとか居ないのかって?……ミクの事を知れば必然とアイのことを知っている。逆も然りの状態でこのカプに脳が焼かれないわけがあるのか。いやない。

 

何を隠そう。このゴローもミク×アイ派の1人である。

暇さえあれば異教徒であるアイ×ミク派と日々論争を繰り広げていたほどの過激派の中での穏便派であった。

 

「つまり…センセはロリコン?」

 

「おい、おい」

 

確かに、単推しはどちらかと言えばミク派である吾郎であるが断じてロリコンの誹りは受け入れられないと声を上げる。美しい物と美しい物が交われば究極に美しいモノが生まれるに決まっている。アイミクのせいで性癖がめちゃくちゃ歪みまくった中高生も多いと聞く。

 

「………まあそれにあの子もそうだったしな」

 

吾郎は良い好敵手だった少女を思い出す。アイが単推しだったあの子を。

ミクの歌で生きたいと思えたと言っていたあの子を。…まあ次第にミクを追っていく内にアイにも詳しくなっていったと不思議な顔をしたのは今でも思い出せる。

 

享年12歳。まだまだこれからだった少女は息を引き取った。

来世にはアイドルの子になりたいだとか突拍子の無いことも言っていた一際…吾郎が目を掛けていた患者だった。

 

「まあそんなんだから重ねてんだろうなぁ……」

 

「とか言って、センセ。そのアイドルたちに男が出来たなら……」

 

「あの2人は夫婦だからセーフ」

 

 

 

 

 

「はーい。お待たせしましたっと」

 

昼休憩を終え、吾郎は診察に来た患者と向き合う。患者は十代後半。完全に訳ありでお腹の大きさから推測するに20週辺りと判断。……初診にしては多少遅いぐらいか。

 

「えーっと…星野さんは初診ですね」

 

「はい。」

 

帽子を深く被っていたその貌が顕になる。

その貌は…その美貌はアイその人だった。

………ん!?アイ?………え゛?アイ……?

 

「と、とりあえず検査してみましょうか」

 

準備しますね〜と吾郎は立ち上がり姿を消す。

アイじゃん……アイドルじゃん……。しかも妊娠じゃん…

と吾郎は脳内で情報が完結しないとついには崩れ落ちた。そうしていると中から声が聞こえてきてしまった。

 

「アイ…どうして何も言わなかったんだ……」

 

「え?ミクが全国ツアー中だったから?」

 

そういえば…真っ先に気がつきそうなミクはと吾郎は考えたが、そうだった。

今、ミクは全国の主要都市での全国ツアー中だ。その人気も相まって数ヶ月にも及ぶと聞いている。言うなら…丁度初期症状(悪阻など)が出た時にはアイは1人だったと言うことになる。

 

ちなみにアイはミクが全国ツアー中は活動停止をしている。何が何でもミクの応援をすると言わんばかりの執念にどちらのファンもアイのミクのガチオタクさに戦慄したのはいい話だ。

 

「待て。一体何の関係がある。」

 

「え?だってこれ最後までミクには秘密にするつもりだったし」

 

私が気がつかなかったら勝手に死のうとしていたミクには良い薬だよ。

そう軽々しく呟くアイだが、それを聞いている斉藤も吾郎も初耳も初耳だ。

特に吾郎なんて崩れ落ちるのをやめて、完全に息を殺して聞く体勢に入ってしまった。勿論、その場で聞いていた斉藤は凄い表情でアイを見ている。

 

「待て待て。ミクの死?……ああ。良い嫌な予感がする」

 

「懸命だね。社長。」

 

もうその時点で嫌な予感を察したのか斉藤は首を横に振る。

どうやら情報量の限界に来てしまったようである。

 

「ちなみに……あえて聞くが父親は?」

 

「?不思議なことを言うね」

 

斉藤さんも知っているはずだけど…とアイは指を頬に当て微笑む。

 

「…………………?まさかミク…とは言わねぇだろうな」

 

「正解。ミクだよ?この子のお父さんは」

 

そう言って愛らしそうに膨らんだお腹を撫でるアイの姿にはどこかもう母性が産まれてきているのだろう。

アホか。と斉藤は苦々しく呟く。てめぇら同性だろうが。と吐き捨てる。

 

「あー…でもミクはお父さんというよりお母さんかもね。」

 

「…………その意味は……?」

 

もう満身創痍なのか全身を脱力させていた斉藤は小さくアイに問う。

そんな斉藤の問いにアイは待ってましたと言わんばかりに目を輝かせる。

 

「だって…いつも夜は私が上だもの」

 

「そんなもんだと思ったよ!畜生!!」

 

さもありなん。

 

 

 

 

少し時間が経ち。(その間にミクアイ派の永遠の難題が明らかになったが)検査の後、アイのお腹には双子の赤ちゃんが宿っていることが分かった。その後どうするかという話になったが……

 

(………最終決定権は本人にある。)

 

そう言うのは簡単だ。そう吾郎は普段より苦々しいコーヒーを啜る。

だが彼女は、アイは“一番星の生まれ変わり”。“唯一、天使に並び立つ者”として“天使(歌姫)の寵愛を一身に受けるアイドル”という声も高い。

 

はるか昔からそうだが天使の寵愛を裏切った者にまともな末路は与えられない。

……いや。例え天使にその気はなくともこの事実を知れば民衆は彼女を裏切り者だと石を投げるであろうと言うことは想像に難しくない。

 

「…………医者と、してはね」

 

 

いつの間にか吾郎の足は屋上に向かっていた。

絶対なる歌姫。普段の花が綻ぶような笑みと歌っている時のギャップさ。さらにミクに年相応の笑みを浮かばせることが出来るのはアイだけである。

だからミク推しはアイも推す。アイ推しもミクも推す。

 

「あっ。せんせ。」

 

「身体冷やしますよ。星野さん」

 

そう考えているとアイが屋上に姿を表す。どうやらこの夜空に感動している様だ。東京では中々ここまで澄んだ夜空は見られないと無邪気に喜んでいる。

 

「……こんな田舎まで来たのは、東京周辺ではどんな目があるか分からないからか

?」

 

「あれ?私の仕事って知ってたっけ?」

 

「ああ。自分はミクファンクラブ会員No.37291だからな」

 

あーなるほどね。と言わんばかりにポンッと自分の手のひらを拳で叩く。

なら同志なら話は速いと言わんばかりにアイは笑みを浮かべる。

 

「……君は、アイドルを辞めるのか?」

 

「どうして?」

 

そんなアイに吾郎は聞きにくそうに問う。アイドルが妊娠だなんてアイドルを辞める事になるだろうと吾郎は睨んでいる。だというのにアイは不思議そうに首を傾げる。

 

「……だってお腹の子はミクとの子だよ?」

 

2人の家に新しく2人で4人になるならもっと賑やかになるねと未来の展望を疑う事なくアイは口にする。その一片も疑っていないミクとの子という有り得ない現実をあたかも事実の様に口にするアイに背筋に冷たいものが走るが、まあそこまで言い張るならなんとかなるかも知れないと吾郎は考えてしまう。

 

……ミクに目を焼かれたアイドルとファンが集まればあらゆる道理が覆されるという理が生まれた瞬間だった。

 

 

「………分かった。僕が君とミクの子を取り上げよう。」

 

どんな欺瞞も嘘もみっくみくにしてしまうのがミクだというなら。

ミクへの愛の殉教者ファン2人が揃ったのなら嘘ぐらい覆してみせる。

 

 

「うん。よろしくね。せんせ」

 

そんな完全に目が焼かれた吾郎の姿を見てアイはニヒルに笑う。

 

「星野アイっていうアイドルは欲張りなんだよ?」

 

ミクの愛も。ミクとの愛の結晶も。アイドルとしての生き様を。

アイは傲慢にも貪欲にも全部を求める。……そうそれはまるで究極のエゴイスト。

そんなアイの姿に吾郎はふと考えてしまった。

 

もし…ミクに出会う前に君に会っていたら君のファンだっただろうな。と。

 

 

 

 

 

【少し先の未来】

 

「………アイ。アイはせめて安静にしないと……っ!」

 

「ミクったらそんな心配しなくても…大丈夫だよ。もう安定期?には入ってるらしいし」

 

「そうでも……ね?椅子に座って……」

 

「………ね。ミク」

 

「な、何かな?」

 

「ムラムラしてこない?」

 

「………こない!アイの性欲が強いだけ!……お腹に子どもが居るんだから自重しなよ」

 

「えー?…お腹が大きい時もまた格別だろうけどなー?」

 

「絶対嫌!」

 

「そんな授乳プレイしようだなんて考えてないのに〜」

 

「そもそも初乳は赤子にあげるものだよ」

 

「え?……じゃあ授乳プレイは産まれてからかなぁ……」

 

「絶対しないからね」

 

「……うーんじゃあ仕方ない。やりたいことが出来ないから仕方ない」

 

「仕方ないって言いいながら寝室に引き摺り込むなぁ!?」

 

「はいはーい。じゃあ今日は少し乱暴しよっか。」

 

 

 






初音未来(初音ミク)

現在、全国ツアー中。妊娠なんて知らない。
未来では授乳プレイの未来まで定められた。ちなみに乱暴された翌日はマジで足腰が立たなかったらしい。



星野アイ(アイ)

父親はミクです!!(クソデカ声)
未来では授乳プレイ出来なかった腹いせにミクに全身開発計画を始めた。



雨宮吾郎

いずれ未来の……?
ミク推しのミク×アイ派。



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愛独ラバーズ



ミクとアイとミクの両親中心。ようやくミクが妊娠アイに会います。

感想嬉しい…嬉しい……


 

 

 

初音ミクの全国ライブツアーは大盛況にて幕を閉じた。

近年稀に見る、歴史に残るほどのライブには多くの人が参加し、人によっては全国だというのにその全国に自腹で追いかける狂信…熱烈なファンも数多く出現していた。

 

「………………………」

 

そんなライブの熱が引かないまま幕は下ろされ、ミクは事務所の車に揺られ帰路についていた。揺れる車の中は静寂が満ち道路を走る車の音だけが響く。ミクは基本的に微睡むように外を眺めるだけだし、それを知っている運転手(プロデューサー)もそういうものだと知っている。

 

……ここだけの話だが、たまにミクから聞こえる鼻歌は運転手にとって聞こえたら一日ラッキーみたいな扱いをしているのは運転手の中の秘密だ。

 

「初音さん。着きましたよ」

 

「ん。ありがとう。」

 

地下の駐車場まで送る。このご時世何があるかも分からない。

ミクが住むこのマンションは芸能人やそういう人目に付く職業をしている人御用達のマンションだ。セキュリティ管理も並大抵のものでは無い。

 

「……明日は、特に何もなかったよね」

 

「はい。社長からゆっくり休むように。と」

 

分かったありがとう。と言いミクはもう用が無くなったと言わんばかりに自動ドアの向こう側に消えていく。決してこちらを振り向くことなどなく。

 

 

「…………………………」

 

マンションのエレベーターに揺られながらミクは1人考える。

ここ数ヶ月。アイを放置してしまったという事を。アイは活動を休止をしていたが未だにそれが撤回されていないのを見ると何か有ったのだろうか?

 

はやる心を沈め、ミクは上へと上がっていくエレベーターを1人佇む。

ほぼほぼ毎日アイと連絡を取っていたからかアイの声に異常もなかった。そう考えていると部屋のある階層で止まった。どうやら誰も乗ってこなかったみたいだ。

 

「……………ただいまー」

 

家の鍵を素早く使い扉を開ける。

するとリビングからライトが付いている辺り、まだアイは起きているようだ。

そう思ったら扉の向こうからアイが姿を現す……!

 

 

アイのお腹を妊婦のように膨らませて

 

 

「───────────えっ?」

 

 

 

 

しばらくして困惑に揺れるミクもある程度現実が掴めてきたのか、とりあえず立ち上がってミクにじゃれつくアイを椅子に座らせる。その真正面にミクは腰を下ろしアイの顔を見つめる。……ここからは面談の時間だ。

 

「……さてと。まずはアイ。」

 

「ん?……あっ。そうそう双子だよ!」

 

そう覚悟を決めたミクにアイは見せつけるようにお腹を指差す。

どうやら肥満や腹水などでは無くマジで妊娠したらしいとミクは頭を抱える。

ただでさえ、ミクより身長が低いというのに(アイは151cm、ミクの公式設定では158cm。実はミクの方が身長が高いのだ)その上、双子?

 

「………本気で産む気なの?」

 

「うん!4人家族になるね!ミク!」

 

色々と言いたいことはあるがとりあえず飲み込んでミクはアイに問う。

ただでさえ小柄で身体が出来上がりきっているとは言い難いアイが双子を産めるのかというミクの心配にアイは嬉しそうに将来の展望を語る。…違うそうじゃない。

 

「とりあえず父親は誰か…とかは?」

 

差し当たりのないようにミクはアイに質問する。アイに子供が出来たということは現実として受け入れよう。ただ問題はその父親が誰かということだ。子どもができるということは逆説的に父親がいるということ。……まあ順当にアイの彼氏だろうか?とミクは考えてた矢先だった。

 

「父親はミクだよ?」

 

「えっ」

 

アイは真顔でミクが父親だと言った。

アイの様子に嘘はついていない。至って真面目にアイはアイの子の父親をミクだと言っているのだ。変な薬でもやっているのか…と本格的に頭の心配をし始めたミクに一点攻勢とアイが畳みかける。

 

「それともミクがお乳出す?」

 

今からお胸育成しよっか?とワキワキとミクの胸元に伸ばしてきたアイの手をミクは素早くはたき落とす。……どうやらアイのいう父親というのは“父親役”という意味らしい。

 

「………すけべ」

 

「あっ……今のミクめちゃくちゃエロかった!」

 

胸元を腕で隠して、アイを半目で見上げるミクの姿はどうやらアイの癖に刺さったらしい。もう一回!もう一回して!と騒ぐアイに軽いチョップを落とし、話題を戻す。

 

「この事実は…斉藤さんと────」

 

「勿論、ミクのお父さんとお母さんも知ってるよ?」

 

 

 

そう言い切ったアイの脳裏にはいつかのミクの両親との会話が思い浮かんだ。

それは、アイが病院を受診した翌日の事。お腹の中に双子がいると言う高揚感のままアイはミクの両親の家に向かっていった。親が捕まった時も養子として、それ以前からミクと同じぐらい愛を注いでくれたのがミクの両親だ。……だからこそアイも実の親と言わんばかりに懐いているが。

 

『…………………』『……………………』

 

勿論あんなアイからみても破天荒、天然極まりないミクを育てたミクの両親だ。

明らかに妊婦と分かる大きなお腹をしたアイに一瞬瞠目したがすぐさま部屋の奥に通し、外に音が漏れないようにドアを完全に閉め切った。

 

『……とりあえずはおかえりなさい。アイちゃん』

 

『うん。ありがとう。おばさん』

 

人数分のお茶とお茶菓子を持ってきたミクの母親…おばさんはとりあえず。と前置きしてアイの帰りを喜んだ。今、ミクが全国ツアー中だと知っているからこそアイだけでもこうして顔見せに来てくれるのは嬉しいのだろう。

 

『早速だが……そのお腹は…』

 

『双子だよ。おじさん』

 

重い口を開いたのはミクのお父さん…おじさんだった。

早速本題に進めるところ、ミクそっくりだとアイはなんとなくふと思った。

 

『……父親は“いない”事にしたのね?』

 

『うん。私とミクで育てる。』

 

暗に妊娠していると言うとおばさんは直ぐ様理解したのか“いない”と強調して言う。

文字通りなんだろう。父親は完全に居ないものとして育てる。それが理解できない人間ではないし、それと同じようにアイドルという職で妊娠することがどう言うことかよく分かっていた。

 

『………ワシらは何も言わん』

 

決めたようにおじさんが声を出す。

今やミクもアイも時の人。テレビをつけたらその2人の名前を聞かない日の方が少ない。そんな2人だ。子どもを育てるという金の面での心配は要らない。

 

『ただ聞かせてくれ。』

 

黙認するというおじさんにアイは瞬間、笑みをこぼしそうになったがその次のおじさんの一言で笑みを引っ込める事になるとは考えていなかったのだろう。

 

()()()()()()()()()()()

 

『………………………………』

 

バカ娘…それはミクの事を言っているのだろうか。そしてそれを言うということはつまりおじさんはアイの妊娠についての理由をなんとなく理解しているということになる。そんなおじさんの確信じみた問いに無言で黙るしかない。

 

『………ちょっと。あなた』

 

『いや。言わねばならん。』

 

黙って下に顔を背けるアイを目についにおばさんが声を上げる。

だが、それでもおじさんは頑なにアイに視線を強く飛ばす。

 

『アイ。君は実の娘のように思っている。』

 

『それは………嬉しいです。』

 

『だからこそ、だからこそ。問わねばならん』

 

どれだけ娘の親友であろうと服から食べ物。更には寝床まで与える必要なんてないことぐらいアイには分かる。……それを娘の友人だからと黙認して娘のように扱ってきてくれた2人がアイを娘同然と見做していた事も。

 

()()()()()()()()()()()()()()

 

『はい。……ミクにはきっと迷惑をかけちゃいますが』

 

嘘を許さないと問いにアイは真正面から誠意を見せる。

いつかのミクのような強い眼差しにこれなら大丈夫だろうとミクの両親はようやく胸を撫で下ろす。……うちの娘だ。迷惑ぐらいなら笑って許すだろうと、迷惑をいっぱい掛けてやれと思ってしまったのは内緒だ。

 

『………また今度、親子4人で来なさい』

 

『!!!………はいっ!!』

 

 

 

「…………分かった。でも最後に一つだけ聞かせて。」

 

そんなアイにミクは渋々納得したのかただ一つ聞きたいことがあるとアイに向き合う。これだけは聞きたかった。確かに全国ツアーライブの準備で忙しかったのはあるけど。

 

「アイは、後悔してない?」

 

「…………………………ねぇ。ミク。逆に言うけどね?」

 

ミクの問いに、アイはニンマリと笑ってミクに言う。

 

「今の私はこれ以上ない幸せだよ」

 

そうだ。これでミクの視線はアイが占領出来る。これで愛してる人がずっと私だけを見てくれる…これ以上の悦びがあるというのかいやない。だって今もミクは私だけを見ている。私を心配そうに見ている。

 

 

胸の奥から湧き上がるこのゾクゾクする悦びはなんだろうか。これを人は仮に独占欲というのなら……

 

独占欲とはなんて甘くて気持ちがいい感情なんだろうか。

 

 







初音未来(初音ミク)

アイが妊娠!?



星野アイ(アイ)

ミクの両親鋭いなぁ…ミク相変わらず鈍いなぁ…

でもそんなミクが一番可愛いよ❤️



ミクの両親

善人。ミクの親という事もあってか勘が効く。




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from A to M



アイとミクとゴロー。またはミクとゴローのファンサ

感想……感想……(完全に乞食)


 

 

アイの妊娠がわかった直後。ミクはそのまま事務所に休止の旨を伝えた。

休止の理由?そんなのアイと蜜月を過ごすためだと言ったら認めてくれた。事実、世間一般でのアイの休止の延長はどうやらミクと蜜月を過ごすためだという面白話‥風評が流れている。そこに乗っかった形だとスムーズに行くだろうというのが両事務所の見立てだ。

 

「それでどうすればいいの?」

 

「うーん‥‥?」

 

ミクとしては病院の付き添いや家事ぐらいは自分がアイの分もこなしたら良いと考えているが、アイにとってはミクがずっと一緒にいてくれる。家の事は2人でゆっくりやれば良いと考えている。

 

……………あっ。そうだ。と不安そうにお腹を見てくるミクに何かを思いついたのだった。

 

「後は指輪をくれたら良いよ!」

 

エンゲージリング〜みたいな?と左手の薬指に、右指で作った輪を通す素振りをアイはしてみる。そんなアイにミクは成る程と深く頷く。

 

「分かった。買いに行こうか」

 

「……………えっ」

 

アイにとってエンゲージリングは冗談交じり、笑い話のつもりだった。だというのにそれをミクは本気で受け止めたらしい。既にスマホでそういう系のお店を探している。

 

「うん。こことかどう?」

 

そう遠くないし、服をいい感じに着込んでるようにしたら妊娠だとバレないだろうし。

あ。ならいっその事私も似たような服装にしてペアルックみたいな感じでどう?

 

そう聞くミクの目は真剣だった。本気で、本気でアイと結婚する気であったらしい。アイはそんなミクに自分の思いが決して一方通行のものではない事に破顔する。

 

ああ。やっぱりミクも私と同じ考えだったんだ。

 

これは運命などという言葉でさえ無粋な愛そのもの。ずっと昔からアイとミクは愛し合っていたんだってアイは瞳の中の星が輝く。今までより、いや今までで一番美しい一番星以上の輝きで。

 

「うん!………うんっ!!」

 

 

 

その後。嬉しさのあまりアイはミクを寝室に引きずり込み(意味深)、翌朝一緒に入った朝風呂の直後にはもう指輪を買いに出たという。勿論、結構良いところで選んだ指輪はミクがアイの薬指に嵌め、アイがミクの指に嵌めあったのだった。

 

これは全くの余談であるが、その後2人してSNSに指輪を嵌めた片腕を見せた写真を載っけた事で一時期トレンドがミクとアイの結婚関連で染まり、気ぶりファンたちは大歓声を上げるという事がニュースでも報じられ問題(笑)となった事で斉藤が直々にお叱りの電話を受ける事になるとはまた別の話。

 

 

 

 

「と、言うわけでー!」

 

付き添いはミクでーす。とジャーンという声と共にアイとミクは、アイが通う産婦人科のアイの担当医の前に立つ事になった。…今まで付き添いに来ていた斉藤は運転手としてアイとミクを連れてきた。

 

「はじめまして。Dr.雨宮。会えて光栄です。」

 

完全な私服に特徴的な長髪が上手く隠され、何処にでもいるような少女が果たして吾郎の推しであるミクだったとは誰が思うだろうか。その感動と驚愕は並大抵のものではなかったようで、吾郎はただひたすらに口をパクパクと動かすことしかできない。

 

「……あはは。せんせー。驚いて声も出ないみたい」

 

予想通り…いや予想より驚いた吾郎を前にアイは満面の笑みで笑う。

あの日のせんせの目はミクに目を焼かれたファンの目をしていたと覚えている。

勿論、賄賂というつもりはないがミクと私の子を取り上げてもらうのだ。ミクというアイドルが1人のファンにファンサさせてあげる事ぐらいは許そう。とアイは微笑み、ミクと吾郎の行く末を見守っていた。

 

 

(ヤバいって…ヤバい。マジヤバい。何から何までヤバい……って……)

 

吾郎の脳内は今、そんなことしか考えていない。

何故なら自分の推しが目の前にいるのだ。しかも完全に私服。ライブを全部鑑賞し、ありとあらゆるミクが出ている作品媒体を一度は目に通している吾郎が言うのだ。…つまりミクは完全にオフの状態でアイと共に自分のところに訪ねてきたという事。

 

あ゛…顔よ……肌がすごい潤ってる……み゛顔が良すぎるって……

 

完全に限界オタクになっている吾郎だがそれも止む無し。

昔、彼女が一度だけした握手会でもこういう限界者が続出しミクがファンの手を握っただけでみ゛という声だけ発し、倒れる人が続出したのだから。

 

「はじめまして。初音さん。……あなたのファンです。」

 

「ふふ。ありがとうございます。」

 

あ゛微笑みが自分にだけ向けられているこの感覚。

吾郎はまるで夢の中にいるかのような満足感と幸福感に襲われる。…いつも周囲全て、言うなら“人間全体”に微笑んでいるミク(尚、そんな人外味も天使らしいとファンからは熱狂的だ)が自分を見て微笑んでくれるのだ。これ以上嬉しい事はない。

 

「………アイの事、よろしくお願いしますね」

 

「はい!…必ず。」

 

ミクに頭を下げさせたファンなんて自分ぐらいじゃ無いだろうか。

もはや吾郎は菩薩のような悟った清々しい心意気でミクに頭を下げる。

単に脳内がバグりきって情報が処理できていない訳では無いのだ。多分おそらく。

 

 

 

 

アイの検査を一通り終えた吾郎が心配になってきたのは母体の安全だ。

こうして2人並んで見てみると若干ミクの方が背が高い。それぐらいアイというアイドルは小柄なのだ。……最悪このままだと帝王切開になるだろうと伝えるとアイは自分とミクの子は小顔になるだろうからヨシ!と特に気にも掛けない。

そういう問題なんだろうか。確かにミクとアイは小顔だが。と吾郎は考えるのをやめた。

 

「……はぁ……」

 

特にアイの双子に大きな問題はなく、このまま行くと正期産で産めるだろうというのが吾郎の見立てだ。正直に言うなら複雑極まりない。ミクのファンとして、どうも後ろ足を引かれる感覚にたまに陥る。

 

「………あれ。雨宮先生。」

 

「!?……初音さ、ん」

 

そうしていつものように空を見上げているといつかアイと同じように後ろからミクが吾郎に近づく。隣に立つとミクは空気が綺麗。とポツリ、アイと同じようなことを呟くのだから吾郎は吹き出した。

 

「初音さん。貴方、星野さんと同じ事言ってますよ」

 

「そう。アイと………」

 

吹き出した吾郎をおかしそうにミクは見るのだから笑い混じりでミクに伝える。

ミクはまるでそれを噛み締めるように一度深く瞑った目を開けて吾郎に向き合う。

 

「私は……きっとアイの子どもまで愛せるとは思えない」

 

「…………………それは」

 

いつものような微笑とはかけ離れたミクの憂うような姿に吾郎も声に詰まる。

……言いたい事は理解できる。それはアイの子供であってミクには一切血筋的な関係は無いから。

 

「アイがようやく自分の幸せを見つけられたのはとても嬉しい事だと思う。」

 

今までミクに付き合わせてきたアイがようやく自分の幸福を求めて、それが花開いた事。とても嬉しいとミクは言う。だが、そのミクには嬉しそうではなく、とても憂いにも似た感情が浮かんでいるようだった。

 

「でも星野さんは楽しみにしていそうでしたよ」

 

「…………そう、ね」

 

吾郎の励ましもぬかに釘と言わんばかりにミクの表情は冴えない。

……言うなら、アイとミクはすれ違っているのだ。アイがどうだろうかはミクにとって知りようが無いが、ミク自身はこうしてアイが子を宿したのは嬉しい事だと思う。ただそうなるとアイと赤子の間に……ミク自身があまりにも邪魔だとミクは身勝手ながら考えてしまったのだ。

 

「………あまり好き勝手には言えませんが……」

 

そんなミクの内心をなんとなく察したのか。吾郎も言葉を重ねる。

アイがどれほどミクを愛しているのかよく知っている。何故ならいつも健診に来た時は決まってミクの話しかしないのだから。

今ここで不安になっている推しを励ませる。……ファンとしては最高のシチュエーションだ。

 

「星野さんが初音さんを大好きなのは伝わっていますよ。」

 

というか世論でもようやく、くっついたか…なんて言われてんだ。ここで破局だとか絶対にファンとして許してはならないと吾郎が考えに考えた末の言葉だ。

間違いはない。というか真実みたいなものだ。ミクを語らせたいならアイに聞け逆もまた然り。とはよく言ったものだ。マシンガントークにも並んで劣らないほどアイはずっとミクの話をしている。(それを喜んで聞いている吾郎も吾郎だが)

 

「そっか………うん。ありがとうね。ゴローくん」

 

「!?……い、いえ!こ、光栄ですっ!!」

 

一回深く考えた後にミクの顔から憂いは消えていた。感謝をして去っていくミクの姿に吾郎は名前が呼ばれた!?とそれを飲み込むのに時間がかかった。

まさか推しのアイドルと会えるどころかその推しの名前から名前で呼ばれるなんて…あ゛一生推す…絶対推す……

 

「ああ。それと…これまだ秘密なんだけど。」

 

「?」

 

ミクはすれ違うように屋上から出て行こうとする時ふと後ろを見た。

その時、ミクは独り言のように呟いた。

 

「……全部良い感じに行ったら、私とアイ、2人だけのユニットを作るよ」

 

「!?……………マジか………」

 

 

 

 

 

【その夜の話】

 

「ねえ。アイ」

 

「んー?どしたのー?ミク?」

 

「私、頑張って父親役やるからね」(グッ)

 

「……………………………ふーん。」

 

「あ、あれ??アイさん??」

 

「ねえミク。誰かと2人っきりになった?」

 

「え?……そんな事無いけど……」

 

「そ。……例えば、今日だとせんせ?」

 

「雨宮さんと?……ああ。それなら2人で話したよ?」

 

「何話したの。聞かせて」

 

「んー?ただアイが私を愛してくれてるって」

 

「……………そっかぁ。想定外だなぁ…

 

「?どうしたのアイ?」

 

「……ううん?でもさ。ミク。パパやるなら……」

 

「?」

 

「こんな敏感じゃダメだよね?」

 

「────────────!、!……ア、イ怒って、る?」

 

「ううん……でも少し良い気はしないかなぁ」

 

「にゃ、なんでぇぇぇ………!!」

 

「んー?内緒。でも今日はキツくいくよ?」

 

「」

 

 






初音未来(初音ミク)

この後延々寸止めを食らったせいで次の日の昼までパーになってたらしい


星野アイ(アイ)

鬱憤を晴らすと言わんばかりにミクを寸止めした。
途中から泣きながら縋り付くミクの姿はぶっちゃけめちゃくちゃ犯罪臭がしたとの供述です。
アイにとっては永遠、ミクが隣に居てくれるだけで良い。そんな簡単な事なのだ。



雨宮 吾郎

過剰なファンサで死にかけたファン。
この後、白衣にはミクのサインの色紙が入っていたせいであやうく天に召されるところだった。



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birth Night,last Night



アイ出産。そしてゴローの……?
それと前々から書いてみたかった掲示板要素も少しだけ。好評なら2回目するかも?

評価者100人。お気に入り数2000人ありがとうございます。日に日に増えていく数字にこれは負けてられないと頑張ってます。どこまで毎日行けるかわかりませんがまだもう少しお付き合い頂けると幸いです。
勿論、感想も嬉しいです!なので……ね?(乞食)



 

 

アイの出産予定日まで後数日を切った。

アイのお腹に手を当てるとそこからは動くような微かな振動がよく聞いたら2人分あるあたり、本当に双子をアイは産むらしい。

 

ここ三週間あたりミクはしばらく近くのホテルに泊まって、昼間はひたすらアイの付き添い。夜は歌を作りながらホテルで就寝の生活を続けている。日に日に強くなる生命の息吹に圧倒される毎日だ。

 

そんな毎日を前に、ついにアイの出産予定日になった。すでに開きはじめているあたり時間の猶予はあまり無いとしてそのまま分娩室に直行となった。

 

「じゃあ、せんせ。呼んだら来てよ?」

 

「おう……初音はここに?」

 

「はい。最初から最後まで付き添うと決めたから」

 

まだ余裕があるのかアイは重たいはずのお腹と身体を少し揺らしながらミクの音楽に耳を傾けている。そんなアイを心配そうにアイと周囲を何度も見るミク。

 

それでも吾郎の問いにミクは真正面から応える。どうやら吾郎が心配しているようなことにはならなかったままここまで来たらしい。

 

「まあ家は近いからすぐ来てやるよ」

 

「はーい」

 

「すみません。先生なにかあったら─」

 

着替えたコートを羽織りながら吾郎はもう一度アイとミクを見る。アイは至って平然に笑って片手を振っているのにその反面ミクがひどく心配そうにしているのを見ると吾郎は何か変な笑いが込み上げてくる。

 

 

 

 

帰路は田舎ということもあってか街灯しか無い道を1人吾郎は進む。今となっては慣れたが昔はこの道を夜帰るのは心細かったのを覚えている。

 

「あんた。アイの主治医?」

 

後ろから声がする。そこを通った時には人気なんて無かったはずなのに。後ろを振り向くとそこには黒色のパーカーのフードを顔まで羽織った不審者(声からして男だろうか)が立っていた。

 

「……………………なんのことだ?」

 

アイとなると星野アイ。彼女だけだ。そして今それを出すということは大体のことをこの不審者は知っているということになる。

どうして知っているのかは今は置いておこう。医者の守秘義務としてもアイミクのファンとしても、何も話してはならない。

 

「ちっ。あのクズが悪いんだ‥天使を裏切った芥に鉄槌を!!」

 

直後、不審者の発狂するような怒号の内容に吾郎は覚えがあった。天使を裏切る。そして塵を意味する芥。それはアイをこき下ろした物言い。

 

「っ!てめぇ!一番星否定の過激派か!?」

 

そう。それはミクのファンの中で一番危険的に熱狂的な存在。ミクとは絶対的な“光”であり“神”である故にその寵愛を一心に受けるアイという存在は許されざる存在というのを教義にしているイカれども。

普段なら笑い話と共に語れるが、過激派に近づけば近づく程分かる。──こいつらは本気でアイを敵視しているという事を。

 

「だからなんだ?あのお方の寵愛を裏切った罪は深い。許されざる大罪っ!!」

 

「馬鹿が!そのミク自身がアイを愛してんだよ!」

 

吐き捨てるように睨むその男のフードは捲れ、その男の目は血走り今にも飛びかかろうと敵意を吾郎に向けている。

吾郎としてもこの不審者とまともに取り合う気はなかったがアイがどれほどミクがどれほど互いの事を愛しているのかその耳でその目で聞いて、見ている。

 

「は、?」

 

ギョロリと目だけを器用に動かしその男の敵意が殺意に変わった瞬間を理解した。これはマズイ。そう慌てるまま、吾郎は走り出す。何処か安全な所へ─────!!

 

「っ!?」

 

「ま、てぇえぇぇぇぇええええええ!!!」

 

逃げようとしているのに気がついたのか悪夢に出てきそうな形相で吾郎を追いかける。これはヤバい逃げ────────────

 

いたい。いたい、いたい。いたい

 

あたまになにかがあたるかんじ。

 

まっくらになる。おちていく。

 

なにもわからなくなって

 

 

………………………………………………

 

…………………………………………

 

…‥……………………………

 

…………………………

 

‥………………

 

…………

 

……

 

 

 

 

 

ある時。ひとりの少女が言った。

転生したらアイドルの子になりたいなって。

自分はその時、その少女にもう美人だから問題ないよと言った。

 

だがいつ、どこで、だれが。それが、腹を抱えて笑うような笑い話が本当になるなんて。

 

自分が“推し達の子になる”だなんて。

一体誰が想像できたのだろうか?

 

 

 

 

「アイ!‥アイ!産まれた、よ!」

 

「うん‥うんっ‥ミクと私の」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【歌姫】初音ミクを讃えるスレpart36193【天使の生まれ変わり】

 

 

1:名無しのアイドルヲタ

ここは有史以降続いてきた“歌姫”初音ミクのファン専用スレです。アンチ・ヘイトは即削除。過激派は過激派専用スレにお帰りください。

 

2:名無しのアイドルヲタ

スレ乙

 

3:名無しのアイドルヲタ

 

4:名無しのアイドルヲタ

乙。それでミク活動停止らしいね

 

5:名無しのアイドルヲタ

関連スレが一気に10個も立てられたときは驚いたと言ったんですよ

 

6:名無しのアイドルヲタ

まあアイに続きって感じだからな。

世の中でアイドルといえばこのニ極だし。

 

7:名無しのアイドルヲタ

歌唱力の怪物、初音ミク

カリスマの怪物、アイ

だからな。ぶっちゃけ2人とも美人すぎるせいでそこは比べようがないし

 

8:名無しのアイドルヲタ

ミクの新曲聴いた?

 

8:名無しのアイドルヲタ

2人が並んでいるだけで絵になるのはズルい

 

9:名無しのアイドルヲタ

休んでいても曲だけは作るあたりミクはさぁ‥

 

10:名無しのアイドルヲタ

ミクのストッパーアイとアイのストッパーミク

マジで有史最強のカップリングじゃね?

 

11:名無しのアイドルヲタ

だからみんな脳を焼かれてる

 

12:名無しのアイドルヲタ

こっちスレと同じぐらい伸びてるからな

ミクアイ、アイミクスレ

 

13:名無しのアイドルヲタ

放っておくとずっと歌作ってる‥

 

14:名無しのアイドルヲタ

アイの独占取材のあれな?ミクのことしか言ってねぇっていうあれ。

 

まあ逆にミクに独占取材したら同じことが発生したけど

 

15:名無しのアイドルヲタ

商売百合かと1ミリも疑えない2人はマジで推せる

 

16:名無しのアイドルヲタ

だって同棲して、幼馴染で、たった1つの目指す先なんだろ?

 

もうてぇてぇ以上に尊い

 

17:名無しのアイドルヲタ

まあアイもミクも良くも悪くも常人とはかけ離れているからな

 

18:名無しのアイドルヲタ

どっかでみたfateの運命の構図でアイとミクのコラがあったの覚えてるわ

 

19:名無しのアイドルヲタ

これだろ?

https://aoitori.com/3939393939

 

20:名無しのアイドルヲタ

は や い

 

21:名無しのアイドルヲタ

2分後にはもう見つかってるのかよ‥

 

22:名無しのアイドルヲタ

こわいこわい

 

23:名無しのアイドルヲタ

でもミクがいつのライブで歌った曲順番で言えるだろ?

 

24:名無しのアイドルヲタ

必須技能

 

25:名無しのアイドルヲタ

それさえも出来ずにファンナンバーに座れるか

 

26:名無しのアイドルヲタ

だってファンナンバー三桁からはアイとミクのテレビでの会話を普通に誦じること出来んだろ?

 

27:名無しのアイドルヲタ

いや。それだけじゃなくてミクの出てる全部を覚えてるゾ

 

28:名無しのアイドルヲタ

おぞましや‥汎人類史

 

29:名無しのアイドルヲタ

 

アイと“蜜月”を過ごすため‥

つまりヤったんですね!?

 

30:名無しのアイドルヲタ

蜜月自体、新婚を意味するし‥

 

31:名無しのアイドルヲタ

たしかに16歳から結婚できる‥出来るけどさぁ!!

 

32:名無しのアイドルヲタ

snsのリプライ見てみぃ。祝福の声で溢れてるわ

 

33:名無しのアイドルヲタ

⦅削除されました⦆

 

34:名無しのアイドルヲタ

はんのうはや

 

35:名無しのアイドルヲタ

相変わらず治安がいい‥というか自治が良いのか?

 

36:名無しのアイドルヲタ

全員脳焼かれてんだから

 

37:名無しのアイドルヲタ

 

なお、この過激派

 

38:名無しのアイドルヲタ

常にミクの歌を吸ってる()奴らがなんだって?

 

39:名無しのアイドルヲタ

新曲、これ結婚生活意味してない?

 

40:名無しのアイドルヲタ

これはヤッてますわ

 

41:名無しのアイドルヲタ

マジで隔離された連中の話はやめよう

 

アイツらミクに辛い過去や闇要素自分で盛って解釈違い起こして本来のミクを摂取するためにグッズ買う(以下ループ)の奴らだ。

 

42:名無しのアイドルヲタ

まあ唯一治安が悪いのはそこぐらいか

 

43:名無しのアイドルヲタ

アイとの絡みでさえ解釈違いのバカいるからね

 

44:名無しのアイドルヲタ

 

⦅削除されました⦆

 

45:名無しのアイドルヲタ

流石にアウト

 

46:名無しのアイドルヲタ

厚顔無恥。ミクがどれだけアイを大切にしてるか分かるか?

 

あの、あの鋼の微笑みと言われたミクが唯一笑い顔を見せたのがアイやぞ??

 

47:名無しのアイドルヲタ

そういえばそんな事あったね。今の天使しか知らないの多いんちゃう?

 

48:名無しのアイドルヲタ

昔は氷の姫だなんて言われてた子がなぁ‥

 

初めてアイと共演した時、脳破壊しました。

 

49:名無しのアイドルヲタ

まあミクが初めて笑顔を浮かべた回だ。面構えが違う。たしかにあれはNTR感あった

 

50:名無しのアイドルヲタ

執着心を隠さない美少女いいよね‥‥

 

 

 





初音未来(初音ミク)

おはようはじめまして。可愛い可愛い赤子。多くの苦難が待っていようとも私たちは貴方たちの誕生を、そしてこれからの成長を祝福するわ。


星野アイ(アイ)

私とミクを繋ぐ楔の子。鎖の子。その誕生を嬉しく思うよ。これから宜しくね?




雨宮 吾郎

RIP。死の運命は覆らなかった。
実は当初、吾郎が死ぬ前にミクの吾郎宛の色紙を水戸黄門よろしく取り出して「お前の愛は、決してあの2人には届かねんだよ!!」と吐き捨てて殺される想定だった。


不審者

だれなんだろなー……
ただ当初は某怠惰の大罪司教よろしく「親愛に、友愛に、慈愛に、敬愛に、仁愛に、愛に愛に愛にぃぃぃ!!」と完全的に愛に狂った感じの予定だった。…マイルドになったとは言えミクへの愛で吾郎を殺した罪は最期、最も最悪な形で精算する事になるとはまだこの不審者は知らない。



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イフ・ルート1『アイイロール』



これはあり得たかもしれないイフ。夢想の絵画。
感想……嬉しい嬉しい……(乞食)





 

 

貴方はミクオ。という存在を知っているだろうか。

それは数多ある初音ミクの亜種の1つ。初音ミクの性転換…つまりは初音ミクが男性体だったらどうだろうか?として生み出された存在。

 

そしてそんなミクオになってしまった少年が1人。

とても数奇な運命を辿るとはまだ誰も知らない事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「みく……みくか?」

 

転生した。前世のことはぶっちゃけ何一つ覚えてない。どんな奴だったかとか(かろうじて男だったのは何となく分かるが)名前だとか住所だとか仕事だとか、家族だとか覚えていない。…ただ何となく前世の記憶があって、この現象が転生だなって。

 

2つか3つ年を越え、初めて鏡で自分の全体像を見た時気がついたのだ。

あれ?……自分これ初音ミクじゃね?と。初音ミク…その解説は省くが絶対なる電子の歌姫で、今も尚輝き続ける永遠の歌姫。

と言いたいが、股間には男のブツが付いている。性別上は男だが…外見は初音ミクと。……ああ。そういえば初音ミクの亜種の1つにそう。確か…

 

「ミクオ……だったけ?」

 

初音ミクオ。初音ミクの男性verとして存在していた亜種。

前世、ボカロ廃だった自分にとってミクオの存在は知っていたがいざ自分がこうなると感慨深い物がある。

 

「……じゃあこのせかいにはMEIKO、KAITO、ルカ、リン、レン……」

 

拙い言葉と指折りで数える。ミクと同じように時代を作った5人がいると言う事になるかもしれないと考える。……もしかしたら自分と同じように性転換した姿で存在しているかもしれないし。なら、話は簡単だ。

 

「えーっと…まずは発声練習して……!」

 

自分が初音ミクオだと言うのなら………!それに恥じないように……!!

 

 

 

 

小学生になる頃。初音ミクの声のキーを少し下げたような声だった自分は問題なくミクの歌を歌えるほどに成長はした。……勿論、その歌に合わせるためのギターだとかには手を出して見ているけど。まあ要成長というべきだろう。

 

「ねー!ミクー!ミクー?」

 

ちなみに名前は“未玖”でした。そこはミクオで無いのねと少し落胆したのは内緒。

まあそれは置いといて、小学生生活。というか幼稚園の時からそうだったが音楽にしか興味がない子供が周囲に馴染めるだろうか?……まあご想像の通り友人らしい友人は自分が作った1人以外は出来ず。

 

「どーしたの?アイ」

 

そう。紹介しよう。彼女の名前は“星野アイ”。

この少女を見つけられたのはただの偶然だ。連れられた公園の端っこに座っている少女。まるで巨大なダイヤモンドの鉱脈みたいな少女。瞳に小さいけど星を携えた美しいまでの黒髪の少女。壊れる寸前の機械のような蠱惑さが垣間見えた少女。

 

自分が初めてミクという存在を知った時と同じぐらいの衝撃。

この天賦とも言える才があるのなら、この才ならば自分がもっと初音ミクオという存在に近づけるのでは無いか?という欲望に負けて彼女の手を引いてしまった。

 

「んー。ミクがまた変な顔してたから?」

 

そう言ってアイはミクの頬を指でツンツンと指差す。

隣の席から(万年隣だ。マジでなんなんだこれ)顔を覗き込むようにアイはミクにまるで構って欲しげな子犬のようにちょっかいを出す。

家でも、外でも、なんならお風呂やベットでも。アイはこうやってミクの身体にボディタッチを繰り返す。ミクはそれを子犬みたいだな…と見ているが果たして。

 

「ふーん......あ。そうそうこれ歌ってみて?」

 

「いーよ。じゃあいくね?」

 

そうする無言の時間の後。ミクは一枚の楽譜をアイに手渡す。

いつもしている様にアイはノータイムで受け取り歌を歌う。楽譜が読めるように、そして歌い方も全部ミクが調k……教育していたせいで今のアイは下手なアイドル以上に歌唱力を持っている。

 

la〜la〜!!と声を出すアイにミクは集中するかのように瞳を閉じて聴きに入る。

ただ手慰み程度、アイがミクと同じことをして見たいと言うから軽く教えただけなのにここまでモノにした。正しくアイは天才なんだろうとミクは思う。

 

 

 

人は少しずつ。大人になっていく。

それは“成長”という自然の摂理。

だけど時にそれは────────

 

 

─────────人に牙を向く。

 

 

 

「?..................l゛a..................!?」

 

中学生。ある日突然ミクは出せていたはずの高音が出なくなった。それを意味するのはただ1つ二次成長期。つまり声変わりがミクに襲いかかってきたというのだ。

分かっていた。分かっていた。次第に、次第に掠れて消えゆく様な高音域。自分はあくまで紛い物に過ぎないという事をまじまじと見せつけられている様で。

 

「がっっ...........く、そが……」

 

初めて吐く悪態。初音ミクとは思えないほど表情を歪ませて呟いたそれには人間味というにはあまりにも荒々しい感情そのもの。今までの対外の鉄壁と言われた微笑ともアイに見せる親愛の面とも違う、吐き捨てるかのような忌々しいと言わんばかりに吊り上がった表情。

 

喉を潰した。血反吐を吐きながら歌った。日に日に劣化していく高音帯。

気が狂いそうになる狭間。自分が自分であると保てなくなるようなアイデンティティの崩壊の前に、初音ミク…いや。初音未玖の才能は開花してしまった。

ミクの瞳の中で星が瞬く。その刹那、その星は堕天するかのように奈落に落ちる。

次ミクが瞬きした後にはまるで宇宙の深淵をそのまま宿したかのような暗い星の光がミクの瞳の中で輝いていた。

 

 

 

 

その後。初音未玖…改め、“初音ミクオ”はアイドルでもシンガーでもなく俳優として活動を始める。その見目麗しい容姿と、人を異様に惹きつけるまでのカリスマ性は彼を齢15歳を満たぬまま“実力派俳優”として一躍時の人となった。

 

ほぼそれと同時期、芸能界の片隅で星野アイ…改め“アイ”というアイドルが頭角を表し始めたのだった。その見目麗しい美貌。まるで“ミクオ”の様なカリスマ性。そして異常なまでの歌唱力を持った彼女が“歌姫”…“一番星の生まれ変わり”とまで讃えられるまで………

 

 

 

 

16歳。一躍時の人となったミクとアイは久々に同じ席に座っていた。

誰も彼も知らないだろうがこの2人は幼馴染で昔からの付き合いがあったという事は両事務所の社長レベルの人しか知らないトップシークレットである。

ミクは年齢にそぐわぬ演技と魅力で“氷の貴公子”だとか“銀幕の王”と讃えられ、アイも年齢にそぐわぬ魅力と歌唱力で“歌姫”、“一番星の生まれ変わり”などと讃えられる国民的スターだからこそ小さな火種になる事実は徹底的に葬り去られている。

幼少期、互いが互いにしか興味がなかった事が逆にこうして葬りやすかったのだろう。

 

そんな2人が、今日ミクの家でパーティをしているだなんて誰が想像出来るだろうか。数品ミクとアイが2人肩を並べて作った料理とアイが持ってきたジュースを片手に乾杯となった。

 

チーン。と小綺麗なガラスが当たる音を鳴らして2人は乾杯する。

芸能界に多少は揉まれたのか2人とも無粋な真似をすることなく一度飲み物に口をつけて、アイが口を開いた。

 

「というわけで!」

 

ほぼ毎日、というより空いている時間は大体いつも通話を繋いでいる2人だがそれでも実際に会いたいという要求はあった。……並び立とうと有名になればなるほど要求から遠ざかっていったのは皮肉な話だ。

 

「次、共演だったっけ?」

 

「そう。……確か軽いバラエティの1つ。」

 

アイの質問に軽々答えるミクは気がついているだろうか?

時代の双璧とも言えるアイとミクが共演するバラエティが簡単なモノでは無いということを。まあそこら辺はアイもあんまり知らないからおあいこかも知れないが。

 

そうして何気ない雑談へと転じていると時間が経つのは早い。

日暮れだった外は既に真っ暗になり、明日には仕事が待っている2人ももうお開きかなと背を伸ばした所だった。アイが口を開いたのは。

 

「………ねえ。ミク。」

 

「?どうしたの?」

 

「ミクはさ………どうして、私を置いていったの??」

 

その声色はいつものアイの明るい声ではなく何処か底冷えする様で、それでもなおアイの瞳は嘘偽りを許さないとミクの顔を注視し続ける。そんなアイにミクは特に動揺することもなく一度目を閉じて聞き返す。

 

「置いていった?」

 

「……………そっか。覚えはないんだ。」

 

ミクにとっては馴染みのない言葉だ。置いていったなどとアイから言われる事は。

ただ確かに声変わりで自分の解釈違いを起こした時は少しばかりアイへの対応が辛辣になった時があった気がする。……けどそれ以降は自分は歌の伝手…というより歌から離れたがってたのを気がついた同業人どもの伝手を使い、芸能界という変わった世界にのめり込んだ。

 

まあその時点で家には帰らなくなったことが多いけど……もしかしてそれか?

そう思いついたミクには目の前でアイがハイライトを完全に消した目でミクを見ているだなんて気がついていなかった様だ。

 

「ああ……帰らなくなった事?」

 

「……………………………」

 

そんな軽々しいミクの一言にアイは小さく頷く。

図星か……という安堵となんでそんな些細な事を……というミクの冷徹さに感情は分かれた。この時、もしミクがアイの心を少しでも測ろうとしたのならきっとこの先の言葉は出なかっただろう。

 

「んー…()()()()()()()()()()()()()()()

 

「は?」

 

それは…つまりミクにとってアイと過ごした時間も。アイと共に笑った記憶も。

アイにとってはかけがえの無い宝石の様な日々の記憶はミクは履いて捨てる程度の存在だったという事、になる。

アイが呆然と見るミクの顔にはまるでそれが当たり前だと言わんばかりの表情についにアイはキレた。

 

「………………そっか」

 

「うん。そういえばもうこんな時間……あれ?」

 

顔を下に背けているアイを前にミクは立ちあがろうと席を立った瞬間。何故かふらつく様な目眩がしてしまい席に座ってしまう。

 

「どうしたのミク。……もしかしたら疲れが出たのかな?」

 

そんなミクにアイは心配そうに駆け寄る。特に倒れたという感じではない。

どちらかといえば突然眠気が襲いかかってきたかの様な………

 

 

 

 

 

ああ。そういえば飲み物を準備したのはアイでは無かっただろうか。

 

 

 

 

 

 

「……ごめんねミク。」

 

ミクの身体は男性の同い年というのに結構軽い。

けどそんな動かしていると目的が果たせないし、違和感もないソファーに寝かせる。

 

「もし、もしミクが少しでも置いていった事を思い出してくれたら良かったのに」

 

アイにとって、幸せというのは“ミクの隣にいる事”ただそれだけ。ただそんな側から見ればちっぽけな事でよかった。

 

「ごめんねミク」

 

もう一度アイはミクへの謝罪をし、ミクの身体に手を伸ばす。程よい感じに筋肉で引き締まっていてどれほど日々鍛錬を積んでいるかよく分かる。

アイの身体も健康的というには魅力的に育ち、肌にシミ1つない様にしてきた。そう全てはこの時のために。……ああでも。本来望んだ姿とは違ってしまうけど。

 

「愛してる大好きだよ。ミク」

 

誰も、彼も知らない宴が始まった。

 

 

 







初音未玖(初音ミクオ)

なんの因果か男として生まれたミク。姿はミクオそのまま
最近、双子の父親になった。(無自覚)



星野アイ(アイ)

幼少期のミクとの出会いのせいで完全に脳が焼かれ切ってしまったアイドル。
関係ない話だが、アイが産んだ双子は髪の色が黒をベースに抹茶色にも似た光沢を帯びるかもしれない。



ちなみにこの世界での「推しの子」という物語は、双子の転生者が父親であるミクに母親であるアイの認知と復縁を求めるため芸能界を駆け上がるハートフルコメディになります。
本編終わったらこっち書いて見たくなったかも……




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心拍数/3939



ミクとアイと双子ちゃん。そして新ユニット
感想嬉しい…嬉しい……(乞食)




 

 

「あ、あのさ……アイ……」

 

「んー?どうしたの?ミク」

 

アイが双子を産みおよそ一週間も経たぬ内にアイは平常とはいかずとも生気をほぼほぼ取り戻した。それはおよそアイが見れない内はミクが代わりに見ていたなどと色々と有るが何の問題もなく、お七夜。つまりは赤子が生まれて七日目の記念という事で赤子の足跡を取ったり、名前の命名をキチンと決める日でもある。

だが、そのアイには言いたくないが命名センスがどうやら欠けていたらしいとミクは考える。

 

「………名前本当にそれでいいの?」

 

「うん!良い名前じゃない!?」

 

双子の男の子の方には愛久愛海(アクアマリン)、そして女の子の方には瑠美衣(ルビー)という…うむ…しかし…うん……ととても反応に困る名前に決めようとしているのだ。こればかりはミクも難しい顔しているが。

 

「……ま。アイがそれで良いなら反対はしないよ」

 

名前というのは親が子に与える最初のプレゼントの様な物だ。

それがどういう代物であれアイが考えた名前に外様がとやかく言うことではない。

そうとりあえずは納得したミクは慣れた手つきで双子を抱える。

 

「よろしくね。愛久愛海、瑠美衣。」

 

静かに微笑み双子を抱いているそのミクの姿はまるで絵画の様な…母性というものが溢れている様にも見えたアイはこうなんとも言えない背徳感を背筋に走らせてしまったという。

 

まあ。勿論キチンと夜はベットに引きずり込まれたのは言うまでもない。

 

 

 

「で。どっちがどっちだっけ?」

 

「!?…アイさん?」

 

「じょーだん。じょーだん。だよねー瑠美衣?」

 

「そっち愛久愛海だよ…………」

 

 

 

 

 

 

俺は冴えないただのアイドルオタク兼産婦人科をしていた雨宮吾郎。

ある日、推しのアイドル“ミク”が気にかけているアイドル“アイ”の妊娠したという事を知ってショックを受けながらも主治医としてどうにかやってきた。

ある時変な不審者に絡まれ逃げ出した所、どうやら逃げきれなかったのか俺は死んでしまった。

そして目が覚めたら………

 

「どうしたんですか?愛久愛海。おねむですか?」

 

推しのアイドルであるミクに抱き抱えられる赤子になってしまった。

どうやら死ぬと地獄かなんかに落とされると思っていた俺だが控えめに言って最高か?この現状。目が覚めた時にミクの顔がドアップにある現状。……前世で一度会っておかなかったら即尊死する所だった。

 

「んー?どしたの?ミク、愛久愛海」

 

そうしてミクのまるでメトロノームのような規則性のあるゆったりとした揺れ具合に半分意識が飛びかけていると、その目の前からドアップで近づいて来る顔があった。

 

「問題はないよ。ただ少し眠そうにしてるだけ」

 

「あー…ミクの寝かしつけは凄いからね」

 

ただでさえミクは体温が高いのに、そこで日々に積み重ねられたリズム性で良い感じに揺れるとなると眠くなるのは当たり前だろうとアイは納得した様にミクの隣に座る。……実はアイも昔、寝れない時はミクが背中をポン……ポンと軽く叩いてくれたのとミクの心臓の音で安眠していた覚えがある。

 

「ふぎゃ……ふんぎゃ……」

 

「………アイ。瑠美衣がぐずりそうです。」

 

ミクの優れた聴覚が双子の片割れ。瑠美衣が泣き出しそうな声を上げていることを察知する。半音のズレさえ明確に聴き分けるミクの発達した聴覚は、どうやら育児の場でも活躍できるらしい。

 

「ありがと……はぁい。なんでちゅかー?」

 

素早く立ち上がりアイは瑠美衣を抱える。

そうしてあやしていると人が入って来る様な音がする。そういえば先程インターホンで入って良いと認めたのだったっけ。そう、アイが双子を産んで数ヶ月。双子を付きっきりで親が見なくてもそろそろ大丈夫かと判断出来る頃。

 

私たちの復帰ライブ兼新ユニット『Angel’s stellar』のお披露目になる。ユニット名には特に深い意味はない。ただ私たちの異名を英語にして拝借しただけ。まあ安直で分かりやすい方が良いだろうと言うことで満場一致で決まった。

 

「お久しぶりです。斉藤さん。」

 

「あれー?佐藤社長だー!」

 

後ろに顔だけ向けるとそこには見覚えのあるサングラスを掛けた男…斉藤さんとその後ろから斉藤さんの妻であるミヤコさんが姿を現した。アイの所属する苺プロダクションの代表取締役。簡単に言い換えれば社長夫妻と言うことだ。

 

「おう。それと俺の名前は斉藤だ。」

 

毎回、毎回アイに名前を間違えられてるのに懲りないなこの人…と思いながらミクは揺らす腕を止める事はしない。愛久愛海はうつら…うつらと船を漕ぎ始めたのを見てミクは意識を斉藤の方に移す。

 

「でも私、才能ある人の名前は覚えてられるよ?…ね。ミーク?」

 

「アイのそれは純粋に周囲に興味が無いだけでしょ」

 

アイの戯言にミクは素気なく返す。ミクと同じようにアイの才能を見出した斉藤が才能が無いわけではない。ただ、アイやミクが必要な才能とは全然違うだけで。

 

「おーおー好き勝手言いやがる。初音は…まあいいか」

 

「えー?ミクへの対応が塩過ぎないー?」

 

「うっせ。初音の事務所と少し揉めたんだよ畜生」

 

まああの事務所が自分をどれだけ売りに出していたかは初音は想像つく。

そしてその中で他事務所の売りアイドルと半永久的なユニットを組もうと言う…間に挟まる面倒事のその全てを上にぶん投げて来たのは自分だとミクは顔を少しだけ右に背ける。

 

そんなミクの姿に、それぐらい反省してるならゆる...いや。許せねえわと斉藤は首を一回振る。どうやらアイの魅せ方は初音ミクも出来るらしい。なんだこのとんだ演技力のカリスマ共は?と斉藤は心の中で戦慄するも。

 

「まあ今はそんな事じゃねぇ!復帰兼お披露目だ。」

 

「ごまかしたー!」「したー」

 

「そこ!茶々入れすんな。初音も乗らなくていい」

 

冗談ばかりではいられないとミクもアイも真剣な顔して斉藤の話を聞く。

曰く、問題点となるのは2つ。復帰の際の問題とアイが生んだ双子をどうするかという点。復帰ライブ兼お披露目ライブは生放送の音楽番組。視聴者も一定数以上存在していると言う中々大きな音楽番組の1つ。歌う曲は今までも歌ったデュエットから数曲だけだがそれでも公衆の前に出るのは久々だからリハは入念にというのが共通意見だ。

 

「それと…子供連れて外には出歩けないものと思えよ?」

 

「えー」

 

「えーじゃない。考えろ」

 

斉藤とアイの掛け合いを片目にミクはミヤコと育児に関しての注意点と双子の情報を共有する。ミヤコはあまり乗り気ではないのを見てまあうん…と色々言いたいことを飲み込んでミクは情報を共有する。ただ一抹の不安があるとミクは斉藤への評価を地味に下げる。

 

「まあいい。そろそろリハの時間だ。」

 

「はーい。じゃあ行こうかミク」

 

「うん。…じゃあまた後でね。愛久愛海。瑠美衣」

 

2人ともその胸に抱いていた双子をベットに優しく戻し(この時にどうやら愛久愛海は起きてしまったようだ)ミクは名残惜しそうに一度手を振り去っていく。

 

 

 

 

 

『さてそれでは本日の復帰を以て結成された新ユニットのご紹介!!』

 

この世の大抵全てが大体嘘まみれだ。それは認めよう

 

『満を持して復帰するこの2人の名前をご存知だろうか』

 

ああ。でももし、もしもの話

 

『“歌姫”ミクそして“一番星”アイ。世代の双璧とも呼ばれたこの2人は今ようやく復活を果たす!!!それもツインボーカルユニットとして!!』

 

その嘘さえも美しい星にしてしまえる天性の嘘つきがいるというのなら

 

『その名も!Angel’s stellar!!』

 

その光はきっと、この世の全ての目も眩ませるあの2人だけ

 

 

 

 

 

 

 

 

Angel’s

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【夜のお話】

 

「ねーミク?そろそろよくなーい?」

 

「ダメ。まだアイの身体は不安定なんだから。」

 

「えー?だってもう1ヶ月は空いてるよ?そろそろ良くない?ね?ね?」

 

「たかが1ヶ月でしょ…前が盛りすぎなんだよアイ。」

 

「ほぼほぼ毎晩してたもんねー?ミクゥ?」

 

「あれは…アイも私も休止してたから出来たことであって」

 

「うーん。でもこれからずっと一緒でしょ?」

 

「……………まあ間違いじゃないけど」

 

「でしょ!じゃあもう良くない?」

 

「接続詞が接続詞してないんだけど!?」

 

「なんで?ミク可愛いだから襲う。なんの違いもないけど」

 

「なんでそこがイコールなの!?……こうもうちょっと慎みとか」

 

「あーあー聞こえなーい。……しばらくおあずけだったんだから……ね?」

 

「なんで産後なのにそんな力強いのさぁ!?」

 

 

 

 






初音未来(初音ミク)

このサキュバスアイ!!色情魔!!数日間はおあずけぇ!!
なんで出産して数日なのに私より元気なのさ??



星野アイ(アイ)

ミクから生気を吸い取って生きているのではないだろうか?



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サイドストーリー『失敗作××達』



今話はアイとミクを第三者視点から。
赤坂アカ先生書き下ろし小説の45510要素を含んでいます。それでも宜しい方はどうぞお進みください。


 

 

この世界には2人の絶対的なアイドルがいる。

“歌姫”ミク。そして“一番星”アイ。

決して色褪せない星は多くの人の目を眩ませる。

 

けどその裏側でその星に焼き尽くされた残骸がある事を知っているだろうか。

今は、今だけはその残骸の灰をかき集めて耳を傾けるとしよう───。

 

 

 

 

 

 

今日インターネットに上げられた情報が消える事はない。例え一度消えたとしてもそれは必ずどこかしらに残るのは世の常みたいなものになって来た。

そう。それこそ、今となっては語られない“B小町のデビュー時”のデータが見つかってしまうなんてこともある。

 

「……………………………っ」

 

『私』にとってはその数分にも満たないような動画は黒歴史みたいなモノだ。

けど過去を見るという好奇心にも逆らえず一瞬考えるように手が止まった直後にはもう再生するようにダブルクリックしていた。

 

曲はありきたりなアップテンポの曲。今となってはここが悪いだとか…指先が伸びきっていないだとか動きがぎこちないと言えるだろうが、当時はこういう風に1つ形になるだけでも嬉しかったものだ。

 

ああ。でも──────貴方だけは昔も変わらず輝いていた。

 

「アイ………」

 

口からこぼれ落ちる感嘆にも似たその単語にはもうあの時のような熱は無かった。

アイ。それはB小町のかつてのリーダーだった子。初めて会った時からだったが彼女だけは纏う空気が違っていた。まるで慣れているかの様に歌い踊り笑顔を浮かべていた。あの残酷なまでのルッキズム極まり切った芸能界で彼女はただ1人笑っていた。凛としたアイの笑みは幼なくとも大人びて見えたし、その口から奏でられる歌声は同じ曲を歌っているはずの『私たち』でさえ感心して惚れ惚れしてしまう様な歌声。

『私たち』の中の誰かが言ったレベル1のスライムの中にレベル75のキングスライムがいる様な感覚。それがアイだった。

 

勿論、そんなアイに妬みや嫉妬なんて無かったと言われれば嘘になる。……いや。取り繕うことなく言うならば日常茶飯事だろうか。アイから何かを隠してやろうと手を伸ばした子も居た。根も葉もない噂を流していたり。

ああ。でもアイがそれに気がつこうともその表情はただただ笑っていた。それはまるで幼児の癇癪を宥めるような大人の微笑でアイは笑っていたのだ。勿論、そんなアイとは対称的に斉藤社長は烈火のように怒った。それこそ噂を流した張本人、それを面白がって広めた人まで強制的な契約解除更には裁判まで辞さないという態度。いっそ清々しいまでの贔屓に『私たち』は覚悟を決めたモノだ。

でもそんな中でもアイは輝いて…事務所にいれば必ずボイトレや演技の見直しに私たちなんて居ないかのように自主練に取り組むアイの姿は何処か輝いて見えた。

 

 

 

ああ。でも今思えば私たちとの間にあった溝は意識の違いだったのかもしれない。

 

私たちにとってB小町というアイドルは1つの終着点だったようなモノ。

あわよくばそこから上に上に行けたらいいな…程度の考えの中、アイだけは変わらなかった。“ミクはもっと凄かった”、“ミクならこんなの簡単に出来た”アイの口癖のようなそれはいつもアイは自分を追い込んでいった。そう、アイにとってB小町は踏み台の1つに過ぎなかったのだろう。

 

服がもう汗で濡れてない所は無いぐらいぶっ続けでアイは踊った。

声が枯れ果て喉にも炎症が出来ていたのにアイは歌い続けた。

 

ミク。それは当時、新気鋭のソロアイドルとしてデビューした少女。奇抜な髪色とは裏腹にその魔性とも言える様な歌声と感情そのものを揺さぶる様な曲と歌詞。有名になるまでそう時間は掛からなかった。

 

そんなミクにアイは憧れたのだと言う。

そういえばそんな事をいつか言ってたのをなんとなく薄い記憶が蘇ってくる。………ああ。そうだ当時はまだ無名だった動画サイトで撮った生放送の中。今も一部アーカイブが残っている様だ。

 

『あっあー…聞こえる?』

 

変わらないアイの声。溌剌とした中で蠱惑さが滲み出ている声。

 

『聞こえない?じゃあ音量上げて。ミクが作業してるから大声は出せないよ』

 

まるで当たり前と言わんばかりにミクを優先するアイ。

確か、この時よりちょっと前ぐらいからだろうか。アイに指名があったバラエティでミクとの交流を明かしさらには同棲しているとも明かした未だ伝説の回。

 

『なんの話する?ミクの話は…この前社長に雑誌の件で怒られたんだよね。まあ反省も後悔もしてないけど。コメント?コメントを返せばいいの?』

 

そうだった。アイが口を開けばその一言、二言後には必ずミクという単語が出てくる。それは何処であっても変わらず、何事でも変わらずアイはミクだけを見ていた。

 

『今日何食べた?…ミクと一緒にパスタ作ったよ。服のブランド?…ねーミク、この服のブランドなんだっけ?…あーなんか適当なレディースの店ー。好きな本?…ミクと読むならなんでもー。遊びに行く?…ミクと一緒なら何処でもー』

 

アイにとってミクとはそう言うモノだった。まるで雛鳥のようにミクに付き纏うアイを、ミクは喜んでいるように見えた。そのアイの執念の努力がきっと今のAnGel’s ☆という称号なんだろう。

 

アイは大っぴらにしていると言うのにその実、何も答えていない。

そんな見えていて見えないような蜃気楼は魅力的に映るのだろう。

秘密というミステリアスさはその人のカリスマに繋がるのだから。

 

『嫌いなモノ?……うーん。1人で食べるご飯は嫌かな』

 

嘘をつけ。瞬間、『私』の脳内が言葉を吐く。

『私たち』が昼休憩の時間もアイは必ずと言っていいほど姿を消していた。

外食に誘っても“今日はお弁当があるからいいや”とか言って断っていたのが多かったのもアイだ。そんなアイが1人で食べるご飯が嫌?

 

『んー…なんかね。ミクが前で一緒にご飯食べてないと少し不安になる』

 

やっぱり惚気か。と『私』の脳内が告げる。

まあそれでも良い。それも1つの売り方だ。と恐ろしいぐらいに笑顔でいるアイの姿に『私』は得体もしれない無機質さを感じ取っていたのをふと思い出してしまった。

 

『結婚願望?…ミクとなら良いよ?』

 

『好きなタイプ?……うーん。優しくて音楽に夢中になって生活が疎かになりかけてて、それでも歌う姿はカッコよくて優しい緑の髪の女の子かな。』

 

ミクじゃないかというツッコミはどうやらその時の放送にもあったようでアイはケラケラと笑っている。

 

そうだった。アイはそんな子だった。

誰よりも高みを目指して空で舞っている天使を追いかけて。血を吐き捨てるような努力を積み重ねて唯一天使と肩を並べられる存在になった。

 

アイが欠けたB小町は今や見る影も無い。所詮はアイにおんぶ抱っこだったという心無い声の方が大きい。……今もB小町で頑張っている子に聞くとやはり社長はAngel’s ☆の方にかかりっきりだ。それも分かる。だって天下の歌姫と一番星だ。そこで生み出される金も熱量も並のアイドルグループの比では無い。

 

「ああ。でも……………」

 

『私』は今も動画の中で笑っているアイに向けて少しの畏怖と多くの祝福を込めて言う。

 

「おめでとう。アイ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【私】たちの事務所に新しくスカウトされた子が来る。

そう。聞いたのは数年前、当時【私たち】のアイドルグループを見てくれていたプロデューサーからだった。詳細を聞くとどうやらその子は有名な路上シンガーで今やその知名度はその業界ならその名前を知らない人など居ないという程の子らしい。

【私たち】と殆ど同年代の子らしいその子の姿は青緑色に髪の毛を染めていたというあまりにロックな姿に絶句したのが始まりだった。

 

『初音ミクです、よろしくお願いします』

 

まあ容姿とは裏腹にキチンと挨拶をしコミュニケーションを取るその姿は第一印象とは軽くかけ離れており驚いた事を覚えている。ああ。でも仲良く出来た時間はそう長くなかった。

 

『さすがね。初音さん。』

 

彼女は最初っから【私たち】と違った。音楽を作り、歌い、そしてそれを表現するというのを全て自分で行なっていた彼女とただ、プロデュースされるがままの【私たち】と。実力に大きな差が出来るのは今考えれば分かるモノだ。

【私たち】が躓いた所も彼女は軽々と熟す。歌声に乱れは無くボイトレの先生の意見に自己流でアレンジを掛けていてそれも先生に大絶賛される。一度踊れば【私たち】の曲だというのに【私たち】以上の踊りを魅せる。

まさに天才だ。音楽に愛された天才。誰も彼もが持て囃す彼女にはもう新人では無く“新気鋭のソロアイドル”という目で見られていた。

 

勿論、妬みがなかったわけじゃない。けど【私たち】に出来ることなんて無かった。

一度もご飯だとか買い物だとかプライベートを共に過ごしたことが無いのだから連絡先が分からない。荷物もいつも最小限しか持っていていないから隠しようが無い。心無い言葉を投げかけられても彼女はまるで興味が無いように一度冷ややかな視線を向けただけでそれ以降居ないものだと完全にシャットアウトしていた。

そんな逆に【私たち】が疲弊する中でついに上の偉い人にバレた。上は大激怒で猶予なんて与えられないまま速攻契約解除をし卒業ライブでさえも行わない所か大っぴらに情報を開示して以降無いようにすると踏み絵にされていた子が居た。(まあ実際虐め以外の何ものでも無かったから妥当ではあるが)

 

『そうですね……私には今も後ろに迫ってきている子が居ます』

 

いつの時か踊りの先生に言っていた彼女の言葉をふと思い出す。

【私たち】が疲れて端っこで息を整えている間も彼女は踊っていた。一寸の隙もない指先まで意識された踊りを彼女はぶっ続けで踊り続けていた。

……するとそこで踊りの先生が一度中断を呼びかけ、そして彼女にこう聞いたのだ。“何故そこまで頑張れるのですか”と、そして彼女は答えた。

 

『私の背中を追い越そうとしてくるあの子のために』

 

私は誰よりも高みに立っていないといけない。そう彼女はニヒルに笑ったのを覚えている。そうだった“初音ミク”というアイドルは最初っから上だけをただ上だけを目指していた子だった。下を見て安心する凡人が努力する天才に敵うはずがない。

 

『…………………………』

 

いつしか彼女は歌だけで無くバラエティでも顔を見せるようになった。

でもその微笑みは誰も彼もが崩せることが出来ない鉄壁の笑み。まさしく氷の姫。

でもそんな彼女はやっぱりミステリアスでとても魅力的に見えた。

 

『…………アイ!』

 

『ミク!!』

 

ああ。でもいつかの時。アイという別事務所のアイドルと共演した時彼女は初めて笑ったのだ。氷が溶けるような、まるで花が綻び咲くような笑みをミクは浮かべたのだった。

 

そこからの話はみんな知っている通りだ。ミステリアスだけでない側面を見せたミクはさらに多くの活動に手を伸ばしそしてそれに追従するようにアイの人気も高まりそしてつい先日。

 

 

 

『その名も!Angel’s ☆!!』

 

 

 

彼女たちは肩を並べた。

 

 

 

 

そんな輝く彼女たちからすれば私たちは地を這いつくばる塵みたいなモノだろう。

天使も一番星も互いにしか興味がない。そんなの分かっていた話だ。

だからこそ私たちの世代はアイドルの数が少ない。それは分かっている話だ。誰だって頂点の2人を映したいはずだ。完璧で究極のアイドルたちを。

それでも【私たち】は【私たち】なりに足掻こう。

いつか報われる日を信じて。

 

 

 

 






『私』【私】

誰かであって誰でもない子達。
天使と一番星の輝きの前では凡百の光に過ぎなかった。


初音未来(初音ミク)

何かと言いながらアイが大好き。アイならきっと自分を超えられるよ頑張れ❤️がんばれ❤️と言ってる辺りメスガキ適性がある。まあこのメスガキ、覚悟ガンギマリ勢であるが。


星野アイ(アイ)

原作よりも人間味がある(ミクの前だけ)嫌いなものが1人で食べるご飯というのはいつもミクがご飯に異物は入ってないよーと見せて一緒に食べてくれてた事があったから。それ以降大丈夫になってきたとは言えそれでもやっぱり1人で食べるのはあまり好きじゃない。
ミクを超えるために“まだだ”とか“ミクなら出来たよ?ミクなら出来たよ?”と善意でいうタイプ。



感想をくれると嬉しいなぁ!!(クソデカ声)



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アイ言葉



双子産まれてから……大分巻き気味。
このまま行くと後数話で本編完結かな?

あっ。1つ相談なんですかアイとミクのグループ名が別の人を浮かべてしまうと感想で教えてもらい自分もその呪いに掛かったのは良いものの新しい名前なんて浮かぶはずもなく。何かいい案があれば教えてくださいオナシャス。


 

 

これはアイとミクが新ユニットとしてテレビで紹介されている時の話だ。

ミクに寝かしつけられていた愛久愛海こと俺が話を続けようと思う。正直に言おう。ミクの寝かしつけは極上だ。…いやもはや極上というレベルでは表しきれないほどだ。

 

程よいリズムで揺れ、ミク自身の体温が高いせいか凄く簡単に意識が落ちてしまう。幾ら赤子の身体とはいえ精神はいい大人だ。

まあミクに抱き抱えられて体感数分も経たないうちに意識が落ちてしまうのに大人のプライドもクソもあったもんじゃないと言うのは秘密だ。

 

「あー!もう放送始まってんじゃん!」

 

今日もまた勝てなかったと戦慄する隣で騒ぎ立てる甲高い幼女の声が聞こえる。片目を寄越せばそこには俺と同じぐらいの赤子が器用にチャンネルを使ってテレビをつけている現実を疑う様な光景が広がっていた。

 

 

 

⦅数ヶ月前⦆

 

自分が転生したと分かったのは良いものの当初は目もよく見えず寝てばかりで(まあ当たり前の話だが)首も座っていなかったのもあったのかようやく動ける&自分がどういう状態に置かれているのか飲み込み切ることが出来たのは生後数ヶ月の頃だった。

 

赤子とは思えない行動(声を出したりだとか掴まり立ちを超えて立ち上がるだとか)を除いたら本当に寝ることしかする事がない。その事に愕然としながらも毎日を過ごしているとまあ聞こえてくる。

 

『〜〜〜〜!!アイもうちょっ!』

 

『だ〜め。もっともーっと気持ちよくなろっ!』

 

 

いやまあ確かに2人がそういう仲であるとは前世、アイから仄めかされた事はあったがまさかここまでとは思うまい。

ほぼほぼ毎晩ドアの向こうで微かに聞こえるミクの喘ぎ声とアイの責め立てる様な声。そして断続的に聞こえる粘液のような水の音。

はい。どう考えてもヤッてますしかもアイが攻めで(これはいつ聞いても逆転らしい事は無かった)。

 

『うーんこの』

 

しかもシチュエーションは大体嫌がる(満更でもない)ミクをアイが寝室に引きずり込む形だ。まあこうなると殆ど一晩寝室から出てくる事は無い。そうなると大分楽ではあるが

 

『は?アイミクの素晴らしさが分かんないの?なーにがアイはミクに敵わないからだ!あの2人は2人で並んで歌ってるのが一番尊いだろうがえー!?』

 

も1つ問題がある。そうそれは

 

『お前、転生者?』

 

『…………!?……!?赤ちゃんが喋ってるー!』

 

きもー!と驚いて声を上げるコイツは俺の双子の妹だ。

名前は瑠美衣。ぶっちゃけ俺の愛久愛海と比べたらだいぶマシだが…アイのスマホを使ってアンチとレスバしている妹(赤子)とか少しばかり現実逃避したいものだ。

 

『しっ落ち着け。』

 

『あっ…………』

 

だけど驚かせ続ける事は悪手も悪手だ。今も2人はいちゃねちょ(意味深)しているという事は起きているという事。下になってイカされているミクがこっちまで意識を割いているキャパがあるかどうかは不明だがそれでも注意しない事はない。

そう目で訴えると向こうも現状が大分不味いということに気がついたのか口に手を当て息を殺すように近づいてきた。

 

『それで…それアイのスマホだろ……』

 

少しは自重しろよとルビーに声を掛けると無言でスマホの画面を見せてきた。

それはSNSのリプ欄の様だ。……なになに??ミクの歌は所詮ビジュだけ?アイはミクに寄生してるだけ??

 

『…………やっちまえ。ルビー』

 

『ラジャー………!!』

 

前世から2人がどれほど互いのことを思い合っているか知っている自分からすればその暴言はSNSの向こうに居る奴の身を三度焼き尽くしても至らぬ失言。完全にキレた愛久愛海…アクアはルビーに向けてサムズアップした指を即座に下に向けてルビーの行動を黙認した。

 

そのアクアにルビーも同意するかの様にサムズアップをしレスバに再開し始める。

勿論、翌日になって目を覚ました時アイがスマホの充電残量を見て不思議そうに首を傾げているのを見て少し冷や汗が走ったのは内緒。

 

 

 

 

 

そんな事もあってか互いが転生者だと分かったのは良いものの。

ぶっちゃけそんな事より更なる死活問題が発生してしまったのである。

 

「あれ?瑠美衣お腹すいた?」

 

向こうのほうではアイが瑠美衣に授乳しているがまあそういう事だ。

流石にアイドルにいい歳した大人(肉体的には赤子)が授乳をして貰うのは何か一線を超えてしまう。ただ、そうなると…………

 

「愛久愛海……どうしますか?」

 

何も出ないけど吸います?

顔を背けていたところをチラリと見るとそこには片乳を出したミクが俺を抱えて見ている。どうやらミクはアイがルビーに授乳しているのを見て俺が待って見ていることに気がついてし始めたのだった。

 

流石に推しの胸を吸う程大人としてのプライドを失う事はない。というか推しにそれをして貰うと本当にファンにぶっ殺されても文句言えない。逆の立場だったら確実に包丁を持って走っている。それだけは断固避けてやるとアイが授乳する時以上に首を横、縦、斜めにひたすら振る。

 

「そこまで嫌がるんですか?………はい。哺乳瓶です。どうぞ」

 

片手で哺乳瓶でミルクを作っていたミクは俺の口に差し込んでくる。

支えられているお陰かせいか知らないが飲みやすい。ふと片目でミクを見てみると鉄の微笑みとも、歌っている様な気迫とも違う。慈しみにも似た視線を向けてくるのがどうも小っ恥ずかしくて目だけ違うところを見てしまう。

 

そこでは……ルビーがこっちを見て優越感に浸った顔でアイの母乳を飲んでいる所だった。ニヤリ…と笑ってくるルビーに中指を突き立てたくなったが今は出来ないと後で覚えとけよと視線をよこす。

 

(い や だ)

 

(………………コイツっ!)

 

 

その後、ルビーも込めてミクにゲップまで出させられて(めちゃくちゃリズム的に背中を叩かれたのですぐ出た)2人は仕事だからとベビーシッターのミヤコさんに後を任せて出て行ったのを見計らって……

 

「おめーもう少し自重しろよ」

 

なんかこれいうの二回目な気がするぞ。とルビーに近づく。

そんなアクアにルビーは満面の笑みでお母さんの胸を吸う事は娘としては当然の権利で自然の摂理だと至極当たり前を説くように言われた。

 

「せめてミクはやめとけよ……」

 

「え?でも甘い味がしたよー?」

 

この妹……と頭を抱え始めるアクア。

まあ言いたい事は分かる。確実に出ない人であろうとも良いと言われているのだから吸いたい気持ちは分からなくはないが……いや全く分からん。

 

「娘だからといってミクアイになぁ……?」

 

「2人の子どもなんだから大丈夫。」

 

ガチでガンギマリの笑みでルビーはサムズアップするのを見てアクアは1人再度戦慄する事になった。この妹に子どもが出来るプロセスを教えるべきか、ミクアイの素晴らしさを叩き込むべきか、百合の間に割り込むのがどれほど大罪なのか。どれを教えるべきだろうかと頭を抱えた。

 

「………前世、女?」

 

「うん。アイ推し」

 

「………まあギリ、ギリ許せ……??」

 

ねえなこれ。とアクアが頭を抱えている傍らでルビーが勝ち誇った様に何かほざいているがもう無視だ。………ああでもこの妹。アイ推しか。なんでもない、奇妙な縁というのはあるものだと一瞬、脳裏に浮かんだ考えを放棄する。

 

「あっ…おむつ交換したいから向こう行って」

 

「へいへい」

 

泣き声でベビーシッターのミヤコさんを呼び寄せるがそのミヤコさんの表情は優れない。ルビーのおむつを変えた所でどうやら怒りが噴出したらしい。私はこんな事しに来てんじゃないー!と。

 

「は?ママたちに尽くせるとか至高以外の何者でも無いんですけど」

 

「………いや。まああの人の言いたいことも理解できる」

 

これは面倒なことになったぞとアクアは人知れずため息を吐いたのだった。

 

 

 

 

 

 

【夜の話】

 

「ねー?ミク?」

 

「何アイ。どうしたの?」

 

「私には吸わせるのに躊躇ったのにどーして吸わせようとするのかな??」(ミクの胸を揉む)

 

「……ひゃ……!!……それは……」

 

「それは〜?」

 

「…………アイに吸われるのに慣れてしまったからですよ!」

 

「あはは……それは仕方ないかも……?」

 

「でしょ?それにこれぐらいで愛久愛海や瑠美衣のためになるなら……」

 

「これぐらい?……ねえミクこれぐらいって?」

 

「えっ……?う、うん……」

 

「ふーん。ミクベットいこっか?」

 

「急に唐突な………あっ。もしかして妬いてる?」

 

「ミ〜ク??」

 

「可愛いね。アイ。……ほらママですよ〜……?」

 

「わぁい!………じゃあママ。ママには気持ちいい事お礼に教えてあげないとね?」

 

「………いやその、近親プレイはあまりにマニアックかと……」

 

「良いからいくよ?……マ・マ??」

 

「」

 






初音未来(初音ミク)

アイに胸でイカされる頻度が増えたことが悩み


星野アイ(アイ)

近親(母娘)百合プレイとかいう業が深いものを生み出した。


感想貰えて嬉しい…嬉しい……


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愛情エネミー


ミクとアクアとルビー。このまま行くと次回完結だな?これ

AnGel ☆に関しての意見ありがとうございました。
確かにここのGを大文字にしているからという意見に目から鱗でした。
という事でこのGを小文字にしてこのまま使わせていただきます。
その他、ユニット名を考えてくださった方もありがとうございました。



 

 

時間は過ぎていく。

気がつけば一年経ち、2年経ち。

次第にルビーとアクアも喋れる様になりアイが夢見た四人家族という暖かな家庭は確かにそこに存在していた。

 

「ルビー、アクアご飯ですよ」

 

「はーい」「うん」

 

本日はアイだけ仕事という事でギリギリまでアイはミクにあすなろ抱きで梃子でも動かないと仕事だよとミクが優しく言ってもアイはミクのうなじに顔を背けたままいやいやと言い続けたので(ルビーもアクアも何か言いたげだったが)ついに痺れを切らした斉藤社長が引き摺ってようやくアイは仕事に行ったのだった。

 

『ミクゥ!ミクゥゥゥゥゥゥ!!』

 

『おおジュリエッ…ではなくアイィィィィィィ!!』

 

もちろん引き摺られながらもアイは泣きながらミクに手を伸ばす。そんなアイにミクも涙を流しながら見送る。

 

『さて。家の片付けでもしましょうか』

 

『………………えぇ…………』 

 

『ミクママそれはちょっと…………』

 

アイの姿が見えなくなった途端ミクは流していた筈の涙なんて無くいつもの微笑みでアクアとルビーの方を振り向いている。そんなミクの姿に感動的だった筈のさっきの別れが一気に茶番と化してしまったのをアクアはただ一言気の抜けたようにまじまじとミクの姿を見、ルビーは幼児とは思えぬ言葉使いでミクに苦言を申し入れる。

 

(……ああ。やっぱりそうか)

 

そんな現状を確かに理解しているルビーとアクアにミクの瞳はほんの少し鋭くなる。別にそれでも良い。この2人は確かに愛されて産まれてきた子達。どうであろうとも私だって同じ様に愛されてきたのだからこの子たちの異質性を受け入れない訳がない。

 

そういえば……今日はアイが一日いない日だ。

そろそろ話をしても大丈夫だろう。

 

 

 

「ルビーとアクアはおもちゃ箱片付けてくれませんか?」

 

私はリビングの方をするので。ミクが双子に声を掛けるとアクアとルビーは聞き分け良くはーい!と声を出してかけていく。どうやら硬い物と物がぶつかり合う音や本を置いた時の音がする様な感じから片付けていてくれるらしい。とミクは腕まくりをしリビングにワイパーを掛けていく。

 

毎日ある程度掃除をしていたおかげで埃やその他諸々の汚れは少ないようでものの十数分ぐらいで終わってしまった。……じゃあ仕方ない。このまま炊事場の掃除を始めようか…と思った時にアクアを呼び出す事を思い出した。

 

「アクアー?アクアー?」

 

「はぁい。何?ミク」

 

向こうからひょっこりと双子が顔だけ出す。そんな双子にアクア来てと手招きするとその意図を読んだのかアクアだけがこっちに寄ってきた。奇しくも置いて行ってしまったルビーにミクは…ライブの映像見てて良いよと声を掛けると一目散にテレビに齧り付いた。どうやら今日見るのはアイの単独ライブらしい。そういえばこの時に私の歌った“ニア”をアイverで貸したのだった。

 

「ごめん。少し手伝ってくれる?」

 

「うん。いいよ」

 

そんなアイの歌声を片耳に、アクアと同じ視線になる様に屈む。

手伝って欲しいことは簡単だ。色々と通販で頼むと空き箱だけが積まれていく。たまにアイとミクが雑談混じりで片付けてはいるがここ最近それをしてなかったせいで結構山積みになっている。

のでアクアに手伝って欲しかったのだ。どうやらその意図をアクアは分かったのか幼いながらも慣れた手つきで小さい箱を畳んでいってくれる。

それが数分経ったころだろうかミクが口を開く。

 

「慣れた手つきだね。アクア」

 

「え゛……まあうん……」

 

アクアの誤魔化したいと言わんばかりの声色にミクは少し苦笑しながらも言葉を選びそれでも少しずつ少しずつ核心へと迫る。……ああ。でもこうして執拗に聞いているのにはどうしても私は“あの夢”を未だ諦められないから。

 

「ねえ。アクア」

 

「何?どうしたの?」

 

これが最後だ。どういう結末であろうとも私はそれを受け入れるとミクは口を開く。

 

「前世の名前はなんだった?」

 

「………………………………は?…………ぇ?」

 

アクアとしては瞠目する他ない。今までミクと何気ない雑談を楽しんでいたと思ったのに突然そんな事を言うのだから。まさしくそんなアクアの心理を表すかの様にアクアは口を開き驚きを隠すことが出来ない。そんなアクアにミクはニヤリとしたり笑いでアクアの一挙一動を見るミクの瞳にはアイにもよく似た光が宿っていた。

 

「…………どうしてそう?」

 

「こう見えて耳だけは良いんだよ?」

 

まあアイは気がついてないしアクアやルビーもアイに似ているのか何処か抜けてる所あるから。と微笑みながらミクはアクアを見る。もう誤魔化せないと悟ったのかアクアはミクに問う。

 

「…………あんたもそうなのか?」

 

まさか、まさかあのミクが俺たちと同じ転生者だとはという驚愕と不信が入り混じった表情でミクを窺う。そんなアクアにミクは再度ニヤリと笑ってアクアに伝える。

 

「ほとんど忘れちゃったけどね」

 

「………………………………そっ、か」

 

事実ミクはもう何も覚えてない。前世らしい事は殆ど。唯一頭に残っているのは“初音ミク”関連の事だけ。ああ。だからこそ聞きたかった初めてあった転生者同類に聞きたい。“貴方はVOCALOIDという存在を知っているのか?”という事を。

 

「………ミクはミクでしょ??」

 

「やっぱり有名だった?私は?」

 

「うん歌姫。氷の姫。」

 

そんな人の娘になるなんてと驚いたけど…とアクアは懐かしそうに声を出す。

ああ。そっか…とミクは少しだけ心の中で落胆する。同類と言えどそこには大きな差があったのだという事を。

 

………ああ。それでも。

 

「アクア。」

 

「…何?」

 

「何であれ。産まれてきてくれてありがとう。アクア」

 

アイの子。最初は愛せるのかどうか不安に思っていたけど今となっては杞憂だったみたいだ。ほらこうして頭を撫でた時の気持ちよさそうに目を細める姿もアイにそっくりだ。

 

「…………………ん。ありが、とう。ミク姉…さん」

 

「どういたしまして」

 

 

 

 

 

 

「わぁーい!ミクママとお風呂!」

 

「こらルビー。転けるよ」

 

夜。お風呂に入る時間になったという事でミクはルビーとアクアと共にお風呂に入ったのだった。勿論、お風呂もミクとアイ2人一緒に入れる様にと大きめのお風呂のおかげで3人いっぺんに入ることが出来た。

 

「シャワー……はアクア出来そう?」

 

「うん」

 

了解。じゃあルビーは私と一緒に入ってようか。と湯船に入る。

いつもアイにしている様にルビーを胸元で抱きしめる様に湯船に入っているとアイと同じ様にミクに背中を預けて身体を伸ばしている。そんなルビーにミクは親愛を表すかの様に頭を撫でると更に体を寄せてくる。

 

「……………んー………」

 

「……………………………」

 

(………気まずい)

 

無言でお風呂に癒されているアイとルビー。その横でシャワーを浴びているアクアは居心地悪そうにしているがまあ分からない話ではない。アイより控えめとはいえ均等の取れたプロポーションにシミ1つない初雪の様な真っ白の肌。花開く少女そのものと言わんばかりのミクの玉体はアクアもルビーも触れてはならない神聖さを感じてしまう。

 

居心地悪いんだけど…と言わんばかりにミクに視線を寄越すアクアに気が付いたのか。ミクはそのまま水を流しといてと目で訴える。……その意味を理解したのか一度アクアは頷いてシャワーを顔面から受ける。

 

「……ねールビー?」

 

「どうしたの?ミクママー?」

 

振り向くそのルビーはアクアに抱いたアイとのデジャヴより強い物だった。

ああ。確かにこうやってアイもミクに体を任せてる時はよく話す時は顔だけを振り向いてくる。

 

「昔は昔。だからね。」

 

「……………?ミク、ママ?」

 

身体を起こしルビーをあすなろ抱きのように抱きしめて耳元で言葉を紡ぐ。

 

「ルビーがどんな過去を持ってるかしらない。ルビーがどんな子だったか知らない」

 

「…………………………」

 

ミクは瞳を閉じてルビーの耳元で呟く。その意味がルビーもわかったのだろう。

ただ無言でミクの言葉を聞いている。

 

「でもね。」

 

「……………で、も?」

 

「産まれてきてくれてありがとう。ルビー。」

 

「………………………いい。の?」

 

嫌われると思ってた。拒絶されると思ってた。でもそんなミクの表情は微笑んでいる。満面の笑みで微笑んでいる。ルビーはようやく現状が理解できた様で笑いながら涙を流し、ミクの胸に抱きついているルビーの姿があった。

 

「私も、ミクママの子になれて嬉しい………っ!!」

 

 

この日、きっと3人は真の意味で家族になったのだろう。

 

 

 

 

 

「……ただいまー」

 

その夜。アイが家に帰ってきたらそこには

 

「「「おかえりー」」」

 

「あ……うん。……ただいま??」

 

胡座姿で座っているミクの上にルビーが座っていて、背中ではアクアがミクと背中合わせで座っているという今までは見なかった親密さで3人は過ごしていた。

 

「ルビー…そろそろ暑いんだけど…」

 

「いやー。まだミクママの上にいるのー!」

 

「ルビー。流石に姉さんが困ってる」

 

「???????????????????」

 

暑く苦しそうにでも退けようとしないミクの胸にルビーは頭を押し付けて座っていてそれを見かねたアクアが背中からルビーに注意する。そして帰ってきたまま宇宙猫となったアイ。

 

はっきり言ってカオスだがそれをとりあえず理解したアイはそのまま3人を抱きしめにかかる。アクアを抱え、ミクの腰に手を回して更にルビーごと抱きしめる。

 

「ただいま!!!」

 

「アイ、耳元でうるさい…」

 

 

幸せな夢の様な日々は続く。アイがたまにやらかしてそれをミクが笑って対処。そんな2人のドタバタに双子は突っ込みながらも笑顔が絶えない本当に暖かい家庭というものがあったのだ。

 

 

⦅数年後⦆

 

ミクとアイは20歳になる。それまでに色々とあった。アクアが一回ドラマの舞台に立ったことでそっちの才能があったとわかった事でミクがアクアに基本を教えたり、ルビーのダンスにミクとアイというトップアイドル2人が付きっきりで教え込むという英才教育以上の教育があったり。

 

そんな数年間だった。そしてこの年。

 

ミクとアイは更なる飛躍を遂げるであろう。

 

 

 

 

【いつかの夜の話】

 

「あのさぁ!?アイさん!?」

 

「……あはは。反省してまーす…」

 

「反省じゃないのよ…アクアとルビーの顔見たぁ!?」

 

「もうなんか色々察した顔してたね…」

 

「挙句の果てにはごゆっくりって!これ気が付かれてるじゃん!もう!バカアイ!」

 

「アクアもルビーも天才だねー」

 

「天才だけどぉ!それとこれとは違うくない??」

 

「けどミクもあれぐらいだったじゃない?」

 

「そうかな…?そうかも……」

 

「うん。昔からミクも大人びてたし」

 

「それでも…子供に夜の情事を悟られるとは………生き恥……」

 

「ま、多分原因私かなぁ?」

 

「十中八九そう!アイがお尻ずっと触ってくるからぁ!」

 

「えっちな声出したのはミクじゃん。」

 

「そうだけど…そうだけど……」

 

「ま。いいや…理解ある娘と息子で助かったよね。」

 

「アイさーん…そのなんで私の服を剥いでるんですか??」

 

「じゃあ今日はお尻かな?どこがいい?胸はもうすごい敏感だもんね」

 

「─────────❤️❤️!!」

 

「じゃあ全身ね?」

 

 

 

 

 

 






初音未来(初音ミク)

そろそろ本格的にマズいのではないかと気付き始めた。
まあもう手遅れだが。


星野アイ(アイ)

アイの最終的な目標は同人誌でよく見るその人だけが触れたら即座に発情するというレベルまで行くこと。半分以上進んでいる辺りアイの調教具合の上手さが伺える。さすがはアイP


アクア、ルビー

まーたいちゃついてるよ。この2人




運命の車輪はもう止まらない。

感想よろしくお願い…



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BAD Ending


後は後日談書いて終わりかな?

文中に出血描写があります。苦手な方は注意してお読みください。


 

 

「それでは!かんぱーい!」

 

アイとミクは二十歳になった。それでも二十歳とは思えぬほど若々しい姿でありながらその演技も歌唱力も年齢と容姿に見合わぬほど深みに至っていた。

日に日に惹きつける様な魅力が高まっていく2人にはそのまま歌手やアイドルとして置いておくのには惜しいという事で結構節操なく色々端役としても出させて貰っていたりした。

そんな多くの経験によりAngel’s ☆は頂点にて輝く不動のアイドルとなったし、今となっては昔称された“歌姫”や“一番星”という称号の方が名劣りするとまで言われる始末だ。

 

勿論そんな2人にドーム。言わば武道館という本当に一流として認められているライブに出演しないかと何度も何度も熱烈なラブレターを受け取っていたがミクもアイも色々な理由をつけて辞退していたが、今回20歳の節目ということでそのオファーを受けることになった。

 

「すごい飲んでるね。社長」

 

アイの隣でチビチビとお酒を飲んでいた(舐めていた)ミクが一言呟く。

そうだった。とアイはミクの背を自分側に少し倒してあすなろ抱きする形でミクを抱き込む。

ミクはこれまで単独で全国ツアーライブとか年末の歌番組。ミクのための年に一度の舞台で開催される“マジカルミライ”だとか今回の武道館にも負けず劣らず大きなライブの常連どころか主演だ。今更身構える必要なんて無いんだろう。

 

ま。そういうなら私も一緒か。とアイはミクの髪を撫でながら考える。

ミクの付き添い…というかデュエットとして何度もライブをこなしてそしてようやくAngel’s ☆としてもライブをこなして来た。今回はそれの規模が大きくなっただけとアイは認識している。

 

「うーん。確かにね」

 

確かに遠いところまで来てしまったな。という感覚はアイにもある。最初はミクの姿への憧れだった。誰よりも歌を愛し愛され、音楽を愛し愛されていたミクとライブで隣で歌えたら幸せだなぁという意志で斉藤社長の手を取った。

 

きっと、私はミクと会わなかったら愛を知らなかっただろう。世界は嘘ばかりで私も嘘がとびっきりの愛なんだと信じていただろう。

でも今はミクとあったあの日から私の世界にはミクが居た。“歌姫”と呼ばれても“天使”と呼ばれてもミクはずっと私を見てくれていた。

 

「?どうしたの?アイ」

 

過去への想いを馳せるままのアイにミクは振り向き首を傾げる。そんなミクにえも言われぬ感傷が胸の中に満ちる。ミクのその瞳。その眼差し。緑色にも見えるその瞳にはいつも燃え盛る様な炎が渦巻いている。星明かりにも、いやまるで太陽の様な神々しい輝き。

きっとアイは生まれ変わってもミクを見つけるだろう。ミクがどんな姿になろうとも。これが愛という感情ならば…アイはなんて幸福なんだろうとアイはミクに満面の笑みでこう答える。

 

「ミクが大好きだってこと!」

 

 

 

 

あまり遅くならない内に宴会は終わりを迎え解散となった。

一杯ぐらいじゃ酔ったことにもならないミクはただ少し目がトロンとして眠気眼になってアイと共に帰宅する事になった。(勿論、アイは飲んでいない)

 

「ルビーとアクア寝かせて来たよ」

 

「…………ん。お疲れ様」

 

水の入ったグラスを傾けるミクの前にアイも腰を下ろす。

月がよく見えるこのマンションではカーテンを下ろさなければ月明かりが存分に入ってくる。今日の天気は快晴。まるで明日の成功を祝福するかの様に三日月と多くの星々が瞬いているのが見える。

 

「……………………………ね。アイ」

 

一体どれほどの時間を無言の内に過ごしたのだろうか。

この静寂を裂くようにミクが体を乗り出しアイに近づく。そんなミクの眼差しには酔っている感じは全く無く、これはいつものミクが言っているんだと理解した。

 

「どーしたの?ミク」

 

「アイはさ……………」

 

言いにくそうに揺れるミクの瞳。何を言いたいのだろうか、この大事な時にとアイは首を捻る。もうそろそろミクと一緒にお風呂に入って一緒に寝ようと思っていたのに。

 

「今まで、後悔していない?」

 

「…………………………………………後悔?」

 

哀しむように哀れむようにミクの唇に言葉は紡がれる。

アイにとって“後悔”とはなんだ?と考えてしまった。今までの人生に辛かった事がないと言われれば嘘になる。でもその辛さがあったから私はミクと出会えてここまで来たのにその道を今までの思い出をミクの手で苦しみに変えられるのは大分癪だった。

 

「後悔かぁ……」

 

アイはそういえば。と考える。今まで好きだとか大好きだとか好意をミクに言い続けて来たし、夜のお陰でミクの身体について知らない事はない。ああ。でも1つ言ってなかった言葉がある。

 

「ねえ。ミク。」

 

「………何?」

 

アイはミクの頬を撫でる。相変わらずスベスベでモチモチなミクの肌だとアイは感じる。アイは静かにでも今までの感謝を、好意を、愛をありとあらゆるミクに向けての感情を込めて口にする。

 

「愛してるよ。未来」

 

ああ。やっと言えたのだ。この言葉をミクに素直に伝えるのに十数年という月日は長かった。満面の笑みでようやくアイはミクのためにずっとずーっと溜めていた言葉を言えたのだ。

 

「………なぁんだ」

 

そんなアイの様子にミクも微笑む。愛の言葉は口にしなければ届かない。

その意味が理解できるまで随分遅かったけど。そうだった。私の本当に大切なモノは一番星はずっと身直に居たのだ。

 

「私もだよ。アイ」

 

 

ね。アイ。月が綺麗だね

 

 

…………ミクと一緒に見る月はいつでも綺麗だよ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………うーん」「………ん。おはよう」

 

今日は武道館ライブ当日。いつものようにアイとルビーを挟んだ大きなベットからアラームが鳴る前に2人はほぼ同時に飛び起き、準備を始める。

ミクの髪はいつものように2人一緒に整え、今日は久々に互いが互いのメイクをしてルビーとアクアも着替え終わり、後は車が来るまで待機となった。

 

「あれ?チャイム?」「少し早い?……見てくるね〜」

 

そうして服に皺を作らない程度にくつろいでいた所で家のチャイムが鳴る。

迎えに来ると知らされている時間にしては少し早い。首を傾げながらも出ないわけにはいかないとアイは素早く立ち上がり玄関に向かう。

その後ろからミクが着いていき(ついでに起きていたアクアも着いて来た)、そして玄関の戸は開かれる。

 

「こちら、初音様のお宅でしょうか?」

 

「ええ……どちら様でしょうか?」

 

そこに立っていたのは若い男性。ニコニコと胡散臭い笑みを浮かべて手には白い花のブーケを持っている。何かの催し物だろうかとアイもミクも無警戒で玄関前に立ってしまう。

 

「………ああ。ようやくだ」

 

「………………??」「…………あの??」

 

小さくとても小さな声でその男はブーケを両手に口籠る。

勿論、アイにはその声が何を言っているか聞こえていないしミクもなんと無く読唇術で微かにわかる程度だ。何かがおかしい。そう2人が思った瞬間だった。

 

「その身で罪を贖え。塵芥」

 

「アイッ!!危ないっ!!」

 

そのブーケの中から白銀に危なげなく光るモノが一瞬見える。ナイフだ。

そう理解した瞬間、そしてあの男のいう塵芥という吐き捨てる言葉と共に強い憎悪。どう考えてもこちらを害しに来ているのは明白。

 

 

(………あ。これ─────────死)

 

 

目の前で振り上げられたナイフが目に入らないほどアイの目は悪く無い。

まるで走馬灯が走るかの様に全ての感覚がスローモーションになりナイフが自分のお腹に刺さろうと振り下ろされているのが分かってもアイの身体能力では何も出来ない。……せめてものと瞳を閉じた瞬間だった。

 

 

 

ズッ

 

 

 

ナイフが肉に刺さる嫌な音が響く。……でもアイの身体にはいつまで経っても痛みはない。むしろ健康なままだ。どういう事だと目を見開いた瞬間だった。

 

「は?……な、なぜあな、た、が??」

 

「ミ、………ミ、ク??」

 

そこにはナイフに刺されたミクの姿があった。

そう。ミクはアイが刺される瞬間、その身1つでアイの前に立ち自らの急所となる腹でナイフを受け止めた。

 

男にとってはこのミクの身代わりは想定外の行動だったらしい。目を大きくまんまると見開いてナイフを地面に落としてしまう。男にとってミクは絶対にアイを庇わないと思っていた。何故ならミクは天使だから人を塵芥を庇うことなどしない筈だったというのに。

 

「違う…違う!違う!!あなたは庇わないはずだ!!」

 

「………ふ、ふ。……ああ、見誤ったな。」

 

現実を認めたく無いと言わんばかりに男は首を振る。その男にとって、ミクとは歌姫であり天使である。そんな至高の存在にアイという不純物が付いているのが納得できなかった。しかもその不純物が妊娠しているというでは無いか。余計ミクの側にいてはならない塵芥である。……でもその男の想像とは違い2人はツインボーカルユニットとして活躍してしまう。歌姫に、天使に並ぶ存在として塵芥が認められるなど許して良いものか。

 

だから今日という特別なライブの日に殺す事にした。

だというのになんだ?現実は。ミクがアイを庇ってしまったのだ。

 

「君はきっと気に食わなかったんだね」

 

「ああ……ああ!そうだ!!何故、何故歌姫とあろうあなたがそんな塵芥などと─────!!!」

 

支離滅裂に騒ぎ立てる男を横目にミクは崩れ落ちそうになる身体を気合いで耐え、今も発狂しそうになる激痛と流れ落ちていく血液にもう自分に残された時間は少ないのだと悟る。

 

「ああ。でも……私は君を愛せない」

 

きっとアイならこんな状態になったとしても彼を愛そうと手を伸ばすのだろう。

けど到底、ミクにはそんな事が出来なかった。それだけの話。

 

「あぁぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁああ!!???」

 

これは男にとって愛だった。ミクに捧げる不純物アイを殺してミクを絶対なる神さまにする為の愛だと言うのに、その肝心のミクに愛を否定されるということは何を意味するか。つまり自分のやって来た事が無意味になるという事。現実を理解できないと言わんばかりに男は叫び、逃げ出していく

 

 

「ミ、ミク!!きゅ、救急車呼んだから!!」

 

ついに耐えきれなくなったのかミクはその場に崩れ落ちる。

血が止まる感触も無く服は既に真っ赤になっており、アイに整えてもらった髪まで血の色に染まり始めた。ああ。もう本当に時間が無いのだろう

 

「ミク!ミク!……くそっ!大動脈か!?」

 

電話口で騒ぎ立てるアイに、アクアが自分の身体が血で染まるのを気にせずにミクの傷口を圧迫しにかかる。……けどそれでも止まる感じでは無い。これはつまり大きな血管に傷がついてしまったという事。すぐにでも傷口を塞がなければ最悪の展開になると医者だったアクアは死に物狂いで傷口を抑える。

 

「あはは。まさかこうなるなんて…ね」

 

喉の奥に血が滲む様な味がし始める。全くいつの日かの歌い過ぎと同じ様な事が起きるとはと苦笑せざるをえない。……いつかは死を望んだというのに今、こんな形で死が迫り来るとなるとやはり怖いものだ。かみさま。最後に一言ずつだけ待ってください

 

「喋るな!!」

 

「……もういいよ。アクア。アイ。」

 

全体重を掛けてアイは傷口を抑えに掛かっている。アクアはその横で腕の血管を触り血圧を体感で測る。ああでも急速に血液が失われていくミクの腕ではもう体感で測れるほどの血圧は残っていない。

 

そんな2人にミクは静かに微笑み、強い脱力感を訴える身体の体勢をどうにか整えボヤけ霞んでいく目に力を込めて泣き顔で近づいて来たルビー、傷を抑えてくれているアイ。そしてアクアを目だけで見渡し言葉を紡ぐ。

 

「ルビー。」

 

「…ね、ねえ?ミクママ…?ミクママ大丈夫だよね!!?」

 

泣きながらも近づいてくるルビーに愛しさを感じながらミクはルビーに最後の愛を伝える。ルビーは将来アイドルだろうか。私たちみたいになりたいと言ってたし将来はトップアイドルだろうか。

 

幸せになってね?私の死に悲しまないで

 

本当にかみさまは最期の言葉を伝える“だけ”の時間はくれたらしい。

 

「アクア。」

 

「何も………っ!!!……………」

 

アクアは賢い子だ。私の最期の言葉を聞こうと涙を精一杯堪えて私を強く見る。

ああ。アクアの将来を…俳優になるのかな?その未来を見れないのは残念だけど。

 

2人を支えてあげてね?復讐なんて考えないで

 

少しずつ、少しずつだけど削れていく自分。もう歌もリズムも奏で、られないけど

最後、最期、貴女だけにアイだけに聴いてほしい。

 

「アイ。」

 

「いや…!、いやぁ………いやなの……ミク……いや……」

 

涙で顔がぐちゃぐちゃじゃん。お化粧したのに。あ。それなら私もそうか

アイは……どうなんだろう。1人でも続けるのかな?2人の最後に待ち受けるラスボスみたいになってるかもね。

 

愛してる愛してる

 

ああ。やっと言えた。随分遅くなってごめんね。

あー。良かった。この言葉は私だけのモノだ。

 

 

 

ありがとう。そしてさようなら

 

 

 

 






初音未来

1つ。私の死に泣かないでください。みんなが悲しいと私まで悲しくなってきちゃいます。

2つ。復讐や仕返しなんて馬鹿な事考えないでください。そんな事しても私は帰ってきません。

3つ。どうか喧嘩しないでください。もし喧嘩しても最後はごめんなさいで笑ってください。

4つ。私にとってのアイのように運命の人を見つけてください。きっとそれが貴方の目指す星になるでしょう。

………5つ。いつまでもお慕い申し上げます。私の最アイの貴方。




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後日談1


いい感じに長くなって来たから分割。
アイの心情どうすっぺ……まじどうするべ??




 

 

 

Angel’s☆“歌姫”ミク(20)

ストーカーによる殺傷

 

本日11時頃、アイドルの初音ミクさんが自宅にてファンと見られる男性に殺傷される事件が発生しました。尚、容疑者の男性は数時間後に自殺を図り、病院で死亡が確認されました。警視庁は今回の事件は簡単に侵入できない構造となっているマンションでの殺傷事件として協力者がいるのではないかと調査を進めています。

 

 

 

天使が、死んだ。

そのニュースは一時間も経たぬ間に日本のSNSのトレンドの一位を奪い、多くの追悼などの投稿によって一時SNSが落ちてしまうといった反響があった。

勿論それだけでは無くテレビはその時放送していた番組を止めてまで緊急ニュースとして報道されるほどその死は急であり得ないモノだったのだろう。

それはそうだ。ミク…初音ミクという存在は日本国内だけで無く世界各国にファンが存在している日本が誇る“歌姫”。近い将来、海外での大々的なライブ開催でさえ見込まれていた本当に多くの人に愛された“天使”だった。

 

「………………………………」

 

雨が降る。涙さえも覆い隠す様な大雨が降る。

天が、神が、世界が天使の死に泣いているかのような大雨の中、ミクの両親の意向でとても小さな葬式が開かれることになった。

 

「……………………………ミ、ク姉……」

 

棺の中で眠るミクはあの日の惨劇とはまるで無縁のような、寝ていると言わんばかりの穏やかな笑みだった。死化粧で彩られたミクの姿は本当に死んでしまったのだと会場の中1人ミクの棺の前であの日の続きを思い出してしまう。

 

 

 

『ね?…ミク?……おきてよミク』

 

1人1人に送られた遺言のような言葉の後にミクは意識を完全に失った。

それも瞳孔が完全に開いているという形で。もう脈が振れるとかそういう次元じゃ無いこれはほぼほぼ死んでいるという状態だ。

瞳孔が開くということは脳の機能が止まっているということ。

それはつまりいずれ心臓が止まり、肺が止まり完全な死になってしまう。

だけど今のアクアには出来る手段も器具もない上に救急車のサイレンの音はまだ聞こえないという完全な詰み。

 

『…………………………』

 

アクアの…いや吾郎の医者としての冷静な部分が告げる。手の施しようの無い事態だと。数分も経たぬ内にミクは失血死するだろうという事を。指先から冷えていくミクの身体。子どもと見間違えるほど暖かったミクの身体からは少しずつ熱が奪われていく感覚をアクアは明確に分かっていた。

その隣で、呆然とミクの肩を揺らすアイと血に浸した手を見つめるルビーに正気を問えるほど自分はマトモでない事。知っているから。

 

 

その後の事はあまり覚えていない。

ただ本当に冷たくなったミクにアイが半狂乱で縋り付いていたのは覚えている。

 

『ミクは死んで無い!!ミクは…ミクは……そう!ただ寝てるだけなの!!昔から寝相が悪かったからね。きっと今日も少しへんなねかたを──────────』

 

ミクを担架で運ぼうとする警察の前でアイは充血した目を限界まで吊り上げて涙を隠す事もせず両手を広げてミクを守る。その姿はまるで外敵を前にした母親みたいな敵意を隠さない姿に警察官は痛ましいモノを見るかのように説得を続ける。

そこに2人の大人が姿を現す。斉藤夫妻だ。2人は泣き崩れながらもミクがもうどうしようも無いことに気がついたのだろう。口から犬歯を剥き出しにしながらも息を吐き続けるアイの前に立ち、小さく首を振る。それが合図だった。

 

『…………ぁ……ぁぁぁぁああああああああぁぁあああああああ!!??』

 

悲壮、絶望、憤怒、失望、諦観…自棄。全ての負の感情を込めたような、まるで絹を裂くようなアイの悲鳴と共に崩れ落ち気絶するアイ。俺が知っているのはそこまでだ。俺も直後ルビーと共に警察と斉藤夫妻に連れられ、病院に送られる事になった。

 

 

 

俺とルビーはそのまま病院で合流したミクの両親と斉藤夫妻に囲まれてただ無言の時を過ごした。俺たちに配慮してくれたのか1人1人立ち上がって物陰で啜り泣く声が脳裏に今も覚えている。

 

ああ。何処で聞いたんだったけ?気絶したアイが目を覚ましたという事で病室に入るとそこにはベットで身を横にしたまま微動だず滂沱の涙を流すアイの姿。ただ、一言呟かれたそれはアイの本音だったのだろう。

 

『……………………しにたい』

 

いつもの元気溌剌としたアイドルとしての声でも、ミクとイチャイチャしている時の弾んでいる声とも全然違う。平坦に呟かれたその四文字こそアイの偽りない本心だったのだろう。

 

そこからアイと夫妻、そしてミクの両親の間に一体どんな会話があったのかは知らない。何故なら自分たちもそこから数日間の記憶を失っているから。…いや。失うというよりあまりの衝撃に呆然と自我喪失状態になっていたからだろうか。

 

次に意識を取り戻したのはミクの葬式の前だったという話だ。

 

 

 

「ミク姉……」

 

もう一度、ミクの呼び名を口にする。転生という不思議な現象の先で出会ったルビーとはまた別の同族。親愛を込めて言ったミク姉という呼び方はミクにとって気に入ったらしい。……今となっては聞くに聞けないが。

 

「……………ああ。」

 

そっと指先で触れるミクは無機質な冷たさのまま眠っていた。

これではまるで“歌姫”というより“眠り姫”みたいだった。

 

 

「アクア………………ミクママ」

 

その後ろから涙を流しながらルビーが近づいてくる。

足取りもどこか覚束ないそのルビーの様子はまさに自分と同じだと今ふと感じてしまった。俺の隣に座ったルビーは何かするわけでも無くただ棺の中をじっと見ていた。

 

「ね。アクアは……ミクママの最期の言葉。覚えてる?」

 

「…………ああ。」

 

ポツリとルビーが呟く。それはミクが残した最期の言葉。

 

「“幸せになってね?”………か。ねえアクア」

 

「なに?」

 

ふとルビーはアクアに尋ねる。たった2人ぼっちになってしまった同族の片割れに。

 

「ミクママはアイドルをしてて幸せだったと思う?」

 

「……わからない。」

 

前世、ファンだった頃から知っている。ミクはただ自分の歌を多くの人に寄り添うモノだとして路上シンガーをしていたところでアイドルにならないかとスカウトがあった事を。ミクの願いに沿うならばアイドルなんてしなくても良かった筈だ。ミクがもう一つ活動の場にしていた動画サイトだけの活動に絞っておけば良かった。

 

「でもアイと歌ってる姿は幸せそうだった。」

 

それでもとアクアは言葉を続ける。

路上シンガーミクのデュエット役。それが最初アイが出て来た所。

その後2人は別の事務所に入りながらも互いを強く意識し続け、次第に時代の双璧とまで呼ばれるようになりそしてつい数年前。念願のツインボーカルユニットの結成が叶った。

それより前から何度かデュエットしている2人の姿はいつも1人だとかグループで歌っている時より輝いて見えたのは事実だ。2人の子どもになって互いが互いを一番に、もしかしなくともそれ以上に想っている事なんて丸分かりだった。

 

「だよね……ミクママはキラキラしてた」

 

ルビーがアイとミクの2人にアイドルの基礎を教えられているのは知っていた。

トップアイドル2人に直接教育してもらえるだなんてなんと贅沢な事だと言いたいが自分もミクから演技の方法やら表情の作り方など教えてもらっている手前、なにも言えない。

 

ルビーの顔を盗み見る。ルビーが良くも悪くも純真無垢であることはここ数年、双子として過ごして来たから分かっている。きっと少しずつ少しずつ立ち直っていくのだろう。………でも俺は。

 

一度もう死んでいるのだから。二回目も大差無いはずd──────────

 

 

『天使を裏切った芥に鉄槌を!!」』

 

あの時も。

 

『その身で罪を贖え。塵芥』

 

あの時も。

吾郎を襲った男と、ミクを殺した男は同一人物だった。

 

 

何故?襲った?

 

どうやってアイが妊娠している事を、そしてその病院まで突き止めた?

何故、あれほど厳重な守りだったマンションに1人来れた?

犯人の男は何のスキルもない学生だった。ただミクを殺した直後自らの腹を捌いた後、喉を掻きって自殺したという猟奇的な結末を迎えたぐらい。

国民的アイドルの裏を調査しようと探偵に金を積んだとしてもその金は莫大な量が必要だ。だからと言って男自身が探偵が出来るような奴ではないことが分かる。

 

…………1つ。1つだけ思いつく事がある。

このミクが襲われた事件には、この事件の裏には

 

 

 

 

共犯者がいる

 

 

 

 

一体誰だ?一体誰が共犯者だ?

分かることは1つ。ミクとアイに相当近い所にいたという事だけ。

病院を知っていたのは社長とミクだけだ。ミクが亡くなった今、知っているのは社長だけ。だがあの社長の溺愛具合を見てそんな事するはずが無い。それ以上にアイの件がバレたら社長諸共破滅の道しか残ってないのにそんな事するはずが無い。

 

同僚?……いや。ミクもアイも互いにしか興味が無かった上に俺たちが産まれる前までは休止の後にツインボーカルユニットを組んでいる以上関わりようが無いし、アイも元同僚の名前はあやふやみたいだと首を傾げていた所を見ている。

 

ミクの両親??……あり得なくは無いが可能性が低い。

あの2人はアイがいうには結婚を最後には認めてくれた理解ある人らしい。アイとミクがそれほど親愛を示す人間たちだ。アイドルで子を持つという危険に真っ先に指摘するようなお人好しでありながら、あの天才のミクをミクのまま育て上げた傑物だ。

 

 

────────ああ。居るじゃないか。

 

 

 

俺たちの本当の父親が

 

アイが完全に沈黙した父親。曰く、提供者以上の価値はないという俺たちの本当の父親。アイのミクへの愛情を元に考えたら『同業者』、もしくはミクの血縁か。

 

俺たちの仇はまだ死んでいない。それどころかまだ何処かに隠れて今も尚、笑っているかもしれない。ミクを殺した真犯人がアイを害そうとした真犯人がまだこの世界に存在している。殺す。殺してやる。必ずこの手で全ての罪を贖わせてやる。

 

そうだ。これが俺の生きる意味。俺のふくしゅ──────

 

 

 

 

2人を支えてあげてね?復讐なんて考えないで

 

 

 

 

「────────ぁ。」

 

耳元でふと声が聞こえた。死んだ筈のミクの声が。

そう。それはミクの最期の言葉。呪いの遺言。

ミクはこうなると見越して俺にこの言葉を残したのだろうか?俺が復讐の道に走ると分かっているから俺に楔を打ったのだろう。ミクの呪いは何とも強い物だと脱力する。

 

(まあでも、打つ手が無いわけではない。)

 

簡単な事だ。これは復讐では無いと考えてしまえばいい。

これはミクを殺されたことの報復である。自分の親を殺されて報復しないなど道理に背くという物だ。これは怒りであり、天誅であり、罰であるという事を強く念じる。……するとその時まであったミクの声は聞こえなくなった。

 

(ごめん……ミク姉)

 

ミク姉が言いたいことは、分かる。ミク姉が残してしまった俺たちを心配して愛してくれている事も十分に理解している。でも、それでも俺は『納得』出来ないんだ。

 

 

アクアの片目の星が黒く、暗く堕ちていく。

ミクを殺したその真犯人に然るべき報いを。

 

「ねえ。おじさん。……俺を使ってみない?」

 

 

僅かに違いはあれど運命の車輪は冷徹に回る。

 

 

 

 

 







星野 アクア

原作と大きく違うところは復讐ではなく報復であるという事。だからこそアクアは悩む事なくその道を進んでいけるという点。
それとミクに演技指導してもらっているお陰で芸能デビューが早くなるかも数年ぐらい。そしてアクアの仏頂面は消えていつも笑みを浮かべているかも。外面は完璧王子様。

それのお陰で重曹を舐める女優とは付き合いが長くなるがアクアの目的が目的であるが故にそれ以上にはならない様にアクア側が調整を掛けている。
歌姫の物真似をする同業者の女黒川あかねは正直きっしょと思ってるけどその模倣精度は賞賛に値するし利用価値も高いからそこの関係は変わらず。

原作の引き金を引くストーカー役はここのアクアに必要ないモノだがいっそストーカーの思考もトレースしてみたら何か分かるだろうかという突発的な発想で参加。勿論全員喰い尽くした。恋リア編?言うまでもなく変わらず。ただ同じ共演者との仲は取り持っておくと便利な方々が多かったから原作より親密になる様に動くかも。

舞台編では擬似的にトリップするせいでミクの死に様とアイが狂っていくまでの経緯を見せられることになるが瞳の星はとっくに堕天しているから覚醒イベントと化す。
その後のアクアの演技では絶好調の時に天使の翼と輪を背負った腰まで伸びる長髪と誰かの装いに似たスタンドを顕現させるかもしれない。

ミクが残した“あれ”の事は正直気に入らないがミクが残した形見だしなんとなくは認めている。だけどそれらの歌は絶対に聞かない。死んでも聞いてやらない。






星野 ルビー

原作とは特に変化なし。ただ家族関係が完璧に破綻している事以外は。後はミクに歌を教えてもらっていたから音痴さは多少マシになってるかも。一般アイドル並には。

アクアが復讐‥ならびに報復に燃えていることは気がついているし、アイが狂い果ててしまったことも明確に分かっている。けど何もしない。それはミクの“死に悲しまないで”という遺言を無視するという矛盾が起きてしまうから。

アイが捨てて斉藤夫妻が無かったことにした“B小町”を原作通りに復活させた辺りは原作と同じ感じ。ただ原作と違いアイが生存していたり、B小町自体とっくに落ち目のグループだったりとマイナス要因が働き、重曹ちゃんがアクアとの早い会合で演技力が上がってたりルビーの歌唱力に補正でプラスが効いている。良い感じにプラマイゼロ。


ただアイドル活動の最中、前世の最愛の人の死体を見てしまったが故に覚醒。いつぞやかのアクアの発想と同じ様なことを連想してしまい覚醒。さらにはミクの愛の遺言とアイが狂っていった様をその身で自覚したが故にすぐさま覚醒。
二連続で坂を駆け上がるかの様に覚醒(堕天)したルビーの背にももしかしたら天使の翼と輪を背負った腰まで伸びる長髪と誰かの装いに似たスタンドを顕現させるかもしれない。

ミクの残した“あれ”はルビーにとって超えるべき壁であるという認識。若い頃、しかも残された音源だけであれ程の魅力と恐ろしいほどのカリスマを孕んだ歌声はルビーにとって目指す星である。






2人の共通点が分かる人は感想でどうぞ
中身は違うのに双子なお陰で結構似てるんだよなこの2人。



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後日談2



2人の共通点は“ミクの遺言を裏切る所”です。
どう取り繕っても不義を行なってしまう双子にはもうミクの微笑みは与えられないでしょう。
まあそのミクはもう死んでるんだけど。

今回はアイ編。……ぶっちゃけ自分が想像している以上に地獄になっちゃった……




 

 

 

片翼と片目。生命としても不出来な鳥はまるで“運命”と言うかの様に補う片割れと出会い寄り添い空を翔ける。それが“比翼の鳥”。今でも尚仲慎ましい2人に送られる言葉。

 

では。その片割れを無くした比翼は空を飛べるのだろうか?

 

 

『…………ぁ……ぁぁぁぁああああああああぁぁあああああああ!!??』

 

あの日、あの時。警察の前に立ちはだかったアイは気がついていた。

ミクが死んだ事を。ミクが自分を庇ったせいで死んでしまった事に気がついていた。

誰よりもミクを知っているのがアイだ。それはミクの身体の様子も手に取るように分かる。昔から熱が出ているのに無茶をするミクに真っ先に気がついて止めるのはアイの役割だったのだから。

ミクのお腹から命そのものが流れ出ている事も分かっていた。

そしてそれにアイが対処できる事など無いことも分かっていた。

 

 

 

愛してる愛してる

 

 

 

ずっと、ずっと頭の中で鳴り止まないミクの最期の言葉。

私たちが本当に遅くまで言えなかった言葉。好きだとか大好きだとかは言えたのに私は前日に、ミクは死の間際でしか言えなかった。もっともっと言えた筈なのに。

 

『愛してるよ。未来』

 

ここで1つ確かにしなくてはならない事がある。

それはアイは確かに頭があまりよろしくない事は事実である。人の名前はミク以外はあまり覚えてないし勉強でもミクが付きっきりで教えて何とか付いて行けている程度には宜しくない。……だがアイドルという芸能界の魔窟の中でトップアイドルに至れるような人間が馬鹿で居られるだろうか?答えは否だ。アイは第六感とも言える勘が鋭く効くようになっているのだ。

 

そしてそこでアイは気がついてしまう。

もし、あの日。あの時。アイがミクに愛してると言わなければミクはアイを庇わなかったのでは無いかという悪魔的な発想が。勿論、真相は分からない。もし逆にミクが刺されそうならアイは迷わず身代わりになる。でもその逆は?

 

荒唐無稽なアイの考えは悪い方向に止まる事を知らない。

誰がどう聞いても馬鹿馬鹿しいと笑う様なアイの考えは意識を失っているという最中だったのが非常に拙かった。

 

 

『ミクを殺した!ミクを殺した!ミクを殺しちゃった!!』

 

 

…………違うっ!!殺したのはあの男!!

 

 

『でも。あの男はアイを殺しにきたよ??』

 

『ああ!可哀想なミク!!こんなアイが愛してるって言ったせいでこんなアイを庇って死ぬなんて!!』

 

 

………それは。……

 

 

『本当にミクはアイを愛してたの??』

 

 

………………は?

 

 

『ミクを離れて欲しく無いからって無理矢理犯して、大好きだからって子どもをダシに拘束するなんてホントに愛されると思うの??』

 

………………

 

 

『そんな事して愛されるわけ無いよね!!』

 

 

……………あ。……ぁぁ…………ああ

 

 

 

『お前が殺した!お前が殺した!お前が殺した!!』

 

 

 

 

アイが卒倒した中、アイは永遠とも言える時間を自分に責められ続ける悪夢を見る。その悪夢とは見てわかるように自分の心の中にある不安や絶望などのマイナス感情から生まれた自分に「目を逸らしていた最悪の可能性」を言わせ自分の心を圧し折る事だけの悪夢。

そんな悪夢。もし生まれたとしてもミクと隣にいるアイなら問題は無かった。

けどミクを失った事でアイの心は完全に折れてしまう。そしてその上での悪夢。

正直に言うなら状況としては最悪も最悪だ。

 

そして遂に悪夢にさえも耐えきれなくなったアイは目を覚ます。

ただ一言。アイには決して許されない救済の祈りを込めた一言と共に。

 

 

 

『……………………しにたい』

 

 

 

けどアイの悪夢は決してアイの目を逸らす事を許さない。

最初は悪夢だった。極論、寝なければ良いだけの話だ。“安息を貪る事を許さない”そんな軽い罰ならアイは受け入れられた。だけど、悪夢は終わらなかった。

 

数時間も経たぬ内に、アイは幻覚を見ることになる。そう、それはミクの死体の悪夢。決して忘れるなと言わんばかりに何処の部屋でもミクが居るのだ。お腹から血を流し口から血を出しながら倒れているミクが。……それぐらいなら受け入れた。いついかなる時でも忘れるなと言うミクからの呪いだと思えば愛しい物だ。

 

けど。その次が耐えられなかった。常にアイの後ろでミクが恨み言を唱えているのだ。“許さない”、“なんで私が死なないといけなかった”、“お前が死ねば…”。そんな多くの恨み言。ミクがそんな事言うはずが無い。これは幻想。弱い自分が見せる悪夢だとアイ自身気がつくはずだった。

 

そう。悪夢によって歪められたミクの最期の言葉の意味を捻じ曲げてしまうまで。

簡単な事だ。アイは最後の最後にミクの言葉を疑ってしまったただそれだけの話。

 

 

 

「アクア。ルビー。」

 

アイは着替えさせられた喪服で葬儀場に入る。

どうやら今日、亡くなった方は多くの人に愛されていたらしい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。どうやら振り返るアクアとルビーの顔を見るに結構2人と仲が良かったらしい。

 

「………これがミクさん??」

 

膝を折り曲げて棺の中を覗き込む。その仏様は緑色の長髪という特徴的な髪色に結構綺麗な人だったらしい。柔らかい笑みで寝ているその人の姿は確かに多くの人がいう“歌姫”というのに相応しい。頭が痛い

 

「……………………………は?」

 

「えっ??……ママ??“ミクさん”って??」

 

一回軽く両手を合わせて合掌しているとその横でアクアとルビーがとても驚いたようにこっちを見ている。どうしたんだろうと首を傾げる。そんな私の様子に2人は顔を見合わせて“あり得ない”と言わんばかりに顔を見合わせている。そんな息の合っている動作も双子らしい可愛さだ。

 

「……………ちょっとトイレ行ってくるね!」

 

「アクア?大丈夫?場所わかる?」

 

うん。大丈夫と言って椅子から跳ね上がり走っていく。その速度は子どもながら見事なものでよほど我慢していたんだなと思いながらアクアが座っていた席に座る。

 

「ね。ママ。ミクマ……ミクさんとどんな関係だった??」

 

「おじさんっ!話があるっ!!」

 

「うーん?ミクさんと?」

 

ミク…ミク…ミク……これほど特徴的な髪と私と同じぐらい。もしくはそれ以上に綺麗な子なんて中々忘れないと思うし私はファンの名前を覚えてなくても顔は大体覚えている。思い返してみるとそう言えば()()()()()()()()()()()

 

「うーん。初めて会うと思うん、だけど………」

 

「どうしたの?アクア」

「ミヤコさん……アイが…アイが…っ!!」

 

「初めっ………うーんそうなのかな?」

 

ここまで考えても出てこないあたり話したこともないんじゃ無いだろうか?

そう考えたら惜しいものだ。もし同じアイドルをしていたら一緒に写っても話題になっただろうに。それにしてもさっきからルビーの様子もおかしい。トイレに行きたいのだろうか?

 

「ま。始まるまでもう少し時間あるみたいだし。」

 

「ミクの事を忘れてるっ!!!」

「…………は?」

「そんな事……あり得るの??」

 

「う、うん。そうだね……」

 

「さっき…さっき……ミクの事をミクさんって……」

「…………あの馬鹿アイドル。何があった?」

 

 

葬式は意外にも早く終わってしまった。…ところどころ意識を失っている辺りもしかして寝ていたのかも?と考えてしまう。それはよろしくない行動だ。とどうにか自制する。

 

 

 

「解離性同一症。……二重人格と見るべきでしょうな」

 

私はなぜかその後。病院に送られた。……しかも病院は“精神科”。失礼な私は病んで無いと言いたかったが凄く心配そうにする佐藤夫妻に逆らう事なんて出来ず。

そこで言われたおじいちゃん先生に言われた私の病名。

 

「………そんなっ!!」

 

「アイさん……貴方ミクという存在を知らないのですね?」

 

横で絶句する佐藤さんのお嫁さんを片目におじいちゃん先生は私に聞く。

それがどうしたのだろう?確かに名前を覚えるのが苦手な私だけどあれほど特徴的な容姿なら忘れないはずだけど。

 

「はい……それがどうしたんですか?」

 

「いえ。大丈夫です。それでは……看護師の指示に従って……」

 

どうやら検査はここで終わりらしい。看護師の指示に従って別室に案内される。

 

 

 

「………先生。それで結果は……」

 

アイが退出して医者と斉藤夫妻のみとなった。

考えればわかる話だった。あれほどミクが好きだと公言してやまないアイがミクを失った時。一体どんな行動に出るかなんて分かりきっていた。一回は自殺未遂ぐらいやらかすと思っていたら直後の話だ。

 

「おそらく………」

 

医者は慎重に切り出す。

解離性同一症とはつまり強いストレスやトラウマなどから自分を守ろうとした結果、一人のなかに二つ以上の別人格が入れ替わり現れるようになり、自己同一性(自分はこういう存在であるという感覚)が損なわれてしまう精神疾患の1つ。【二重人格】と言った方が良いのだろうか。

 

今回のアイの場合。最愛の人が死んでしまった。という所に“自分自身を庇う”更には“目の前で死んでしまう所を見てしまう”。という大人であっても発狂を免れない事態を受けてアイは耐えきれなくなり本能下においてもう一つの人格を生み出した。

 

【ミクを知らないアイ】という別人格を。

 

それでも表情や仕草がミクにそっくりな辺り無意識の内にミクという存在をベースにしている事は確かだが覚えていない。ということがどこまでなのか想像が付かない。

 

「アイさんはアイドルです」

 

勿論、世の中に出回っている写真や動画の中には単独もあるだろうがやはりミクと共に写っている保存媒体の方が多い。それを見た時アイはどうなるのか。元の人格に戻るのか。それともミクを認識できないのか。はたまた今のアイも発狂してしまうのか。

 

「そして状態が良くなるかさえ不確かです。」

 

アイが二重人格なのはすぐに分かった。ミクの葬式の途中まで涙を流す演技をしていたというのにある途中からアイは泣いていた。心からの号泣だった。献花が開始された時点では戻っていたというのに最後アイの順番には泣き崩れ棺の前から動かなくなってしまった程だ。

その変わりようは誰が見てもまるでアイが2人いるような感じで………

 

 

 

 

その後。アイは“悲劇のアイドル”としてソロで再出発していくことになる。

勿論、アイの演技に…“歌姫”の歌唱力と“天使”の美声を完璧にトレースしたようなアイはより一層魅力が増したとしてさらに多くの人をファンにしていく程である。

アイドルだけでなく多くの活動に精力的に打ち込む彼女は“国民的アイドル”ではなく“国民的大スター”としての呼び声が大きくなる。

 

 

 

 

 

「………これなんだっけ?」

 

アイは1人になった家でふとパソコンが目についた。

まるで家に最初からあるように自然に鎮座していたパソコン。塗装の剥げ具合から見てだいぶ使い込まれているようだ。()()()()()()でアイはパソコンの電源を入れる。ロックの番号は64572。……あれ?そういえば何でこんな番号にしたんだろう?もう少し分かりやすくて自分に関係がある番号でも良いはずなのに。そもそもこれって私のパソコンだった?このパソコン、を使っていた人がいたような?それも私と相当仲の良い人が居たはずなのに。頭が痛い

 

「わ。……音楽がいっぱい……!」

 

ノリに乗れそうな音楽から何処かしんみりとするリズムまで多くの音楽が入っている。……ただどれもこれも()は入っていないらしいのは残念だ。歌を…歌詞を付けたらもっと良い音楽になっただろうに。

 

「あれ?動画……?」

 

それも()()()()()()()()()()()()()()()の動画。

……一つ一つ再生していくとどうやら空のライブ会場の動画と私が歌っている動画の2種類がある事に気が付いた。一体誰が何のためにこれを?……いや。そもそもあんな熱気の入った声が入っている空のライブなんて存在するの?そして私の動画もまるでそこにはもう1人居るような─────────頭が痛い

 

「何これ?………ぼーか、ろいど?」

 

そうして漁っていると1つだけ圧縮されているファイルがある事に気がついた。

最終更新日は()()()()()()()()()あたり。当時私は16歳だっただろうか?

 

 

「project:electronic diva。直訳すると電子の歌姫計画。」

 

「その計画は、“◼️◼️◼️◼️”を主体に五つの声。つまり“幼い少女の声”、“幼い少年の声”、“◼️◼️とは違う少女の声”、“大人の女性の声”、“大人の男性の声”を音声合成ソフトとして準備した。」

 

「そしてその計画の要。“◼️◼️◼️◼️”そのものの声を音声ライブラリに保存して“◼️◼️◼️◼️”は“歌姫”から“電子の歌姫”になる。」

 

「………そしてその後。“歌姫”……いや◼️◼️◼️◼️は」

 

「自ら命を絶つ」

 

 

アイの脳内で火花が散るような激しい頭痛に襲われる。

たまにあることなのだ。数秒これが続きその後にはすぐに良くなっている。一回病院に診てもらったけど特に病気とかでは無かったから偏頭痛の一つか何かだろ……あっ。解凍が終わってる。

 

「なになに………??」

 

画面に映ったのは無機質な長方形とその他諸々に型取られた“何か”。基本的にこうしてパソコンをあまり使わないアイにとってこういう専門的っぽいモノを見るのはあまり得意じゃ無い。……けどどうやら一つデモンストレーションのファイルが挟まっていた。ファイル名は“Blessing”という…今までのファイル名の法則から見るに曲名だろうか?

 

「再生っと……!」

 

少女の歌。……そしてそこに合わせられる5つの声。

どれもこれも違う……声?いや違うこれは歌い分けている全員同じ声の歌だ。

初めて聞いた曲…のはず。この軽快なリズムとは裏腹に魂まで揺さぶるような歌詞を私はなぜか知っている気がする。私はこれを覚えている。一体……どういうこと???

 

「…………ぁ?………え?………どうして涙が」

 

サビ。アイは知らず知らずのうちに流れ出る涙を拭うこともせず曲を聴き入る。

“国民的大スター”となったアイには人には言えないデジャヴを抱えているという事を誰にも話せずに居た。朝起きた時も、お昼を1人で食べる時も。夜仕事を終えて帰る時も。深夜寝る時も。必ずアイのそばには誰か居たのだ。アイの隣には確かに温もりがあった筈なのだ。……けど目を覚ますとそこには誰も居なくて、ただポカリとこの胸の中に空いた喪失感だけが“誰か”を示すたった1つの証明。

 

「ああ……わかんないよ……」

 

アイの頬に涙が伝う。手を空に伸ばしても空気を切り裂くだけの掌が、まるで間違っていると言わんばかりにアイにはもう喪失感を抑えることが出来なくなってしまった。まるで赤子のように、赤ちゃんのように泣き叫ぶ。けど…何故かアイはその涙を抑える事も拭う事も出来ない。しない。……居た筈なのだ。この頬を伝う涙を慰めてくれる誰かが居た筈なのだ。

 

 

 

 

メーデー。メーデー。誰か聞こえていますか?

 

メーデー。メーデー。寒いのです。どうしようもなく寒いのです。

 

メーデー。メーデー。貴方は誰だったのでしょうか。

 

メーデー。メーデー。…………私はどうして“ここ”に居るのですか?

 

 

 

 

 







アイ

その正体は別人格アルターエゴ
“星野アイ”が切り離した“アイドルとしてのアイ”が途中からの語り部の正体。
ミクに出会っていないというアイを仮定に作られた人格ゆえに生きてきた二十年のおよそ全ての記憶を喪失している。勿論、そんな状態で双子の父親を覚えているはずもなく……アクアが言っている“狂い果てた”というのはそう言うこと。今のアイはただの残骸に過ぎない。ハリボテの人形はまさに別人格アルターエゴというのに相応しい。
このアイの趣味は天使が描かれた宗教画鑑賞。時間があれば博物館とか美術館にいるらしい。

実は多くのファンを虜にしていくというがそれ以上に増える反転アンチ。
理由はお察しの通り、昔のアイミクを知っているファンや知ってしまったファンがもう休め…休んでくれ……っ!となっているタイプのアンチが多い。
ただまあ大切なものを全部失った少女がそれを聞くかと言うと……まあ察しの通り


原作とは違い生きているおかげでアクアとルビーの手伝いはするかも。
ルビーのB小町を再建するということに一番ワクワクしてるのもこの人。
多少の助言とかでお助けキャラ化する未来が見える。ただ息子が連れてきた彼女らしい子はたまにボヤけて見えなくなるのが悩み。不思議だがその子以外ではこの現象が起きないので放っておいてる。

VOCALOIDは間違いなく発売されると思われる。
想像しているキャッチコピーは“昔日の歌姫を貴方に”。
だけどまあ“原点”に敵う曲が出てもやっぱり“◼️◼️”自身に歌ってほしいと言う声も多くあり……どこかでパソコンに残された音源が世界中を巻き込む大波乱となるまで想像出来る。



星野初音アイ

こっちが本物のアイ。過去という幸せな夢の微睡みの中。

“未来”を失った者がもう二度と目を覚ますことは無いのだから。



どんなミクの曲(ボカロ)がアイやアクア、ルビーの心を折そうですか?
曲名だけでもいいので感想で教えてください。



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真・happy end 『ふたりはまだ始まっていない』



『一番星』と『天使』は繋いだ手を離さない









 

 

 

「………うーん」「………ん。おはよう」

 

今日は武道館ライブ当日。いつものようにアイとルビーを挟んだ大きなベットからアラームが鳴る前に2人はほぼ同時に飛び起き、準備を始める。

ミクの髪はいつものように2人一緒に整え、今日は久々に互いが互いのメイクをしてルビーとアクアも着替え終わり、後は車が来るまで待機となった。

 

 

「あれ?チャイム?」「少し早い?……見てくるね〜」

 

そうして服に皺を作らない程度にくつろいでいた所で家のチャイムが鳴る。

迎えに来ると知らされている時間にしては少し早い。首を傾げながらも出ないわけにはいかないとアイは素早く立ち上がり玄関に向かう。

 

その瞬間、アイは身体がフラつくような強い頭痛が脳裏を走る。

 

 

「その身で罪を贖え。塵芥」

 

脳裏に浮かぶ。脳裏を侵食する。脳裏を犯す。

 

       愛してる愛してる

 

ありもしない悲劇。ありえない可能性。けど必ず起きるこの後の悲劇と惨劇

 

『…………ぁ……ぁぁぁぁああああああああぁぁあああああああ!!??』

 

 

「……………あれ?どうしたの?アイ」

 

後ろからミクが顔を覗き込む。そうだった私が向かった後ぐらいにミクが顔を出すのだ。一瞬フラついたアイにミクが追いつくと言うのは道理だ。

そんなこんなしているともう一度チャイムが鳴る。今のアイにはこのチャイムの音が死者の手招きにしか思えなかった。だけど…そんなアイとは裏腹にミクは玄関のドアに釣られるかのように近づいていく。

 

ミクがドアのハンドルに手を掛けた瞬間だった。

 

 

 

 

「開けちゃダメ!!!」

 

 

 

 

アイの悲鳴にミクの手が止まる。唖然とした顔でミクが後ろを振り向くと、両目から涙を流してミクに手を伸ばしているアイの姿があった。これにはミクもチャイムに応えている場合ではないとすぐさまアイのもとに向かい抱きしめる。

 

「どうしたの?アイ。」

 

「ダメ…ダメ……ダメなの……その扉を開けちゃ。ミクが…ミクが……ミクがぁ……」

 

ミクの胸元で首を振りながら泣くアイの言葉を拾うとどうやらこのチャイムで扉を開けてはならないらしい。泣く勢いから見るにどうやら相当酷い目に遭うらしいとミクはアイの髪を撫でて宥める。

その後ろでアクアとルビーが顔だけ出して見てくるが“よく分からない”と首を一度横にすると双子そろってサムズアップして去っていった。………どういうことやねん

 

((アイ(ママ)とミク(ミクママ)がイチャついてるだけだなヨシ!))

 

 

「それで?……ああもう鼻かんで」

 

そのままアイが落ち着く感じが全く無く、次第に過呼吸のように息が上がり始めるアイにこれはあかんとミクはリビングの椅子まで誘導して背中を軽く叩いて落ち着かせる。鼻水も出てくるだろうとティッシュを渡し、ようやく落ち着いたアイにミクは優しく問う。

 

「……………夢をみたの」

 

小さくゆっくりとアイは語る。それは一瞬の間に見たデジャヴ。

アイを殺そうと襲ってきたのをミクが庇って、そのままミクが死んでしまうという最悪なデジャヴ。そこではアクアがミクの棺の前で復讐に狂ってしまうし、ルビーも途中誰かの遺骨を見て復讐に狂ってしまうという痛ましい未来。その中で肝心なアイは……

 

「私は、“ミクを知らない人格”を生み出して……あぁ……ぁああぁ……」

 

またミクに縋りつき泣き出してしまうアイ。そんなアイにミクは何も言う事もせずアイを強く抱きしめ続ける。私はここに居るよと言わんばかりに。

ミクの中でアイの言っているデジャヴはやけに鮮明だ。信じる信じないかは別として“もし私が殺されたのなら”という可能性だけを鑑みれば理解できる。……何故ならきっと逆だったら自分もそう言うことになるだろうから。とミクは鼻から息を吐き、アイを慰め続ける。

 

 

 

「おーいアイドル共ー!時間だぞー?」

 

そうしていると玄関が開きそこから斉藤夫妻が現れた。

リビングまで顔を見せる2人はミクに抱きついて完全にコアラになっているアイを見て驚いた後二人で顔を見合わせた挙げ句頷いてアクアとルビーを回収しに行った。

 

「……すみません。ミヤコさん。不審者が来たかも知れません」

 

「…………………!?ホント!?」

 

どうにか双子を抱えた2人にミクが小さくミヤコに声を掛ける。内容が内容であるためにそれは即座に社長に伝えられて、このマンションの警備員に電話となった。

 

「ミクゥ…………」

 

「はいはい。アイも泣き止んで」

 

愚図るアイにミクは落ち着かせるように髪を撫でて頭を撫でて抱きしめる。

今日は一応節目の武道館ライブである。まだ時間があるとはいえ最終調整だとか待っている中であまり時間は無いとしてアイを抱っこしたまま立ち上がる。

またコイツらいちゃついてるよ…という4人の視線は無視して。

 

 

 

 

 

車に揺られて武道館に向かう。その途中でマンションにナイフを持った不審者が現れて、そのまま現行犯だったとして逮捕。という知らせを聞いた。どうやらその不審者はアイをナイフで刺そうとしていたらしくあのチャイムに開けていたらもしかして…と聞き肝が冷えたミクがいた。アイに助けられたね。とミクがアイを抱きしめると嬉しそうに嬉しそうに微笑みそして一言……

 

「本番30分前です。Angel’s☆さんは準備お願いします」

 

いい感じの空気になった所で外から声がかかる。

ああ。そうだった私たちは今、武道館ライブ前の最後の調整をしていたんだとふと我に帰る。……まあ最後の調整といってもいつも通りやれば良い。隣には最愛のアイが/ミクがいるのだから何の心配もない。

 

 

身も、心も軽い。もはや恐れるものなど何もない

 

 

コツコツ…と軽快でありながら響くような足音を奏でて2人は肩を並べて歩く。

2人の表情は似たように微笑んでいるがその口角は上がり、その瞳の中では畝る炎が渦巻いていた。

 

 

ここまで遠かった/ここまで長かった

 

 

ついに舞台裏にまで辿り着いた2人。監督が、プロデューサーが、音響が、照明が。裏手全ての人間がアイとミクのカリスマとも言える暴虐で目を奪う。

ライブ開始数分前だというのにまるでライブ真っ只中に居るような熱意が沸々と湧lき上がってくるのを感じる。……ああ。これが、この2人こそが絶対的なアイドルなのだと言葉では無く魂で心で理解するほど強い極光。

 

 

「ね。アイ」

 

「……どうしたの?ミク」

 

 

小さく、とても小さくミクがアイに声を掛ける。

ミクから発せられるオーラは全ての人を魅了するかのような極光でありながら全ての人を拒絶する神聖さとなりミクのカリスマとなる。

そんなミクにアイは身も心も囚われそうになる……がどうにか耐える。だってここで屈服してはミクの独壇場になってしまう。それはあまりにもつまらない。

 

 

「今日ばかりは主役。貰うよ」

 

「!!……へぇ……」

 

 

そのオーラが一段と強くアイにぶつかる。そうだ。これを待っていたんだ。とアイは武者震いを走らせながらも歓喜の笑みを浮かべる。ミクはこの時、アイというアイドルを脅威だと。“歌姫”…そして“天使”の座を揺るがす同格だと認めたという事。

 

そんなミクにアイも負けじとオーラを滾らせる。ようやくだ。ようやくアイはミクに追いつく…そして追い越せる所まで届いたという事。そんな最高の機会に最高の舞台で挑めるだなんて私はなんと幸福だろうと全てに感謝してアイは目を見開く。

 

 

 

アイの瞳に一番星を超える輝きが宿った

 

 

ミクの瞳に全てを焼き尽くすような炎が宿った

 

 

 

 

ブザーが鳴り、カーテンコールが始まる。

この日。新たな伝説が初声を上げる。

 

 

 

ねえ。ミク  ねえ。アイ

 

 

歌い、踊り、その全てで魅了する2人には言葉も視線もなくミクアイの考えが、想いが、五感の全てがまるで自分のように分かる。…今私たちは2人で1つの存在だ。

 

 

あの日、星が輝いた 夢を見た。夢を見た。

 

 

もはや無我の境地。ゾーンというのにも生温い極点に至った2人にはもう気にするものは互いの存在だけ。ミクアイが限界を越えればミクアイも限界を超越する。

 

 

私の憧れ。私の全て 頂点を識った。さらにその先を識った。

 

 

ミクアイが片割れの歌を喰らい始めるとミクアイもまた片割れの歌を喰らう。それはまるで自分の尾を噛む蛇のようで陰陽魚のように互いを高めていく。

 

 

遠くの空の天使を追いかけて その真横で追従する星を見た

 

 

天上天下。唯我独尊。

天上の座には2人も坐る必要はない。たった一つ至高のイチがあればいい。

そんな戯言さえも気にならないほど──────今はただただこの世界が心地良い。

 

 

私の最高に輝く一番星!! 私の最高に輝ける一番星!!

 

 

ラストスパート。観客席では倒れている人がいる。舞台裏では倒れている人がいる。それがどうしたの??今私は、貴方は立っているこの舞台を終わったせたくない。時よ止まれ。ミクアイは誰よりも美しい───────!!!

 

 

「ね。アイ」

 

歌を終え、余韻が続く中。ふとミクがアイに声をかける。マイクがまだ入っているのに、多くの人が聴いているのに。いつものミクならそんな歌の余韻を妨げるようなことはしないはずだ。だというのに彼女は────────

 

 

 

「愛してる」

 

 

 

その一言と共にミクはアイにキスをする。褥の中でなく、本気のミクの愛しているというアイへの言葉。アイが待っていた。【アイ】が失ったはずの言葉。その意味を理解した瞬間。アイはミクに飛び込むように抱きつく。

 

 

その日。武道館では遠く離れたビルも揺らすような大歓声が巻き上がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

【十数年後】

 

 

「アクアー。ルビー。起きなさーい」

 

伝説的な武道館ライブを終えて十数年という月日が経った。

その間にミクとアクアとルビーの転生した事がアイにバレたり、アイとミクのアイの巣…もとい小さな一軒家を買ったり、ミクが個人用に使っていた“電子の歌姫・初音ミク”が音楽会社の強いオファーを受けてVOCALOIDの形を受けて発売。そしてヒットもヒット。大ヒットを起こし社会現象の一つになり“ボカロ”という音楽ジャンルは日に日に進化していっていたりしている中で。

 

ミクは()()()()()()()()を抱えながら今も尚、眠りにつくお寝坊さん3人を起こしに掛かる。アクアとルビーももう高校生だというのに同じ部屋なのは如何なものかと思いながらアクアの布団を揺らす。アイは最後まで中々起きないから放置。

 

「んー…おはよー……ミクママ」

 

「おはよう。ルビー。そろそろアクアの布団に潜るの止めようね」

 

ルビーの布団は盛り上がっているがミクの耳は騙されない。

アクアの布団の中で丁度2人分の寝息が聞こえてくるので真っ直ぐアクアを起こしに来たのだ。その中にはアクアの双子の妹のルビーが先に起きてきていた。

 

「……………………………ずー」

 

「アクアも起きる。狸寝入り気づいているんだからね」

 

「ずー………へいへい。おはようミク姉」

 

簡単にわかるアクアの狸寝入りにミクは小さくわかりやすいようにため息をついて起こしに掛かる。………アクアの名誉のために言っておくがアクアはこう見えて“若手実力派最大手の俳優”である。その狸寝入りを最も容易く見破るミクの実力が高すぎるだけなのだ。

 

「それで後はママ?」

 

「そう……ルビーはアクアの前で着替えるのを止める!」

 

恥じらい持て!と注意する先にはルビーが下着姿になって着替えている姿だった。まだ目の前に兄であるアクアが居るというのに。確かに私たちも互いのパーソナルスペースなんて零だがそんな間に育てられた子なのだ。ルビーもそうなってくると育て方に問題があったのかとふと考えてしまう。アクアはキチンとパーソナルスペースがあるというのに(この家で唯一の異性と言ってしまえばアレだが。)

 

「………もっと言ってくれミク姉」

 

まだ朝だと言うのに酷く疲れた様に呟くアクアにミクは一瞬哀れみを込めた眼差しを向けるがそんな事で時間を割いていられない。アイが待っている。

 

「遅くならない程度に降りてきなさいね」

 

「はーい」「へーい」

 

そのまま部屋を出てもう一つの部屋に入る。

こっちは私たちの寝室。つまりはアイが寝ている部屋だ。

 

「アイ。アイ。起きて」

 

「ん〜……おはようのキス」

 

馬鹿なこと言ってないという気分半分、別にキスぐらいなら良いかが半分。まあキスするんですけど。そう考えながらミクはアイに口付けする。ディープな奴は昨晩いっぱいしたからバードな奴を。

 

「おはよう。アイ」

 

「………おはよう。ミク」

 

そこには()()()()()()()()()()()()()()()()を抱えたアイがベットから身体を起こしていた。そう。察しが良いなら気がつくと思うが2人は妊娠していた。互いが互いの子を。

 

 

 

「朝ごはんできてるよ」

 

多くの悲しいことや多くの衝突もあったけど

 

「ありがとう……ねえミク」

 

でもそれ以上に多くの喜びが笑みがあった

 

「愛してるよ。ミク」

 

「私も愛してるよ。アイ」

 

そうやって、これからも─────────

 

 

 

 







初音アイ、初音ミク

例の公開大告白の後にアイは芸名を“初音アイ”に変えた。
公式的にはまだ籍を入れることが出来ないがミクの両親からも結婚は認められており事実上の結婚はしているような物。勿論結婚式も挙げている。最初、ミクがタキシードでアイがウエディングドレス。お色直しで逆転して両方とも着た。

結婚式が上がってからは更に名乗りの口上を「初音ミクの妻にして夫!初音アイでーす」と言うようになった。この世の春。そして勿論ミクも「初音アイの妻にして夫。初音ミクです。」と言うようになったとか何とか。

お腹が大きいと言うのは勿論そのまま妊娠しているということ。
互いが互いの子を孕んでいると言うのはそのままの通り、精子ドナーから譲ってもらった精子でミクの受精卵をアイの子宮に、アイの受精卵をミクの子宮で育ててるから。勿論この提案者はアイ。満面の笑みだったらしい。
ちなみに子どもを産んでも色気は増したぐらいで特に美貌やプロポーションに変化はなかったらしい。二十代の容姿で40歳とかになってる2人に多くの人が驚愕したのは将来の話。


─────────わたしたちがあいをうたうのならそのすべてはこのかたちだ

だれもがしるこのものがたりまだゆめはつづいていく───────────





初音 愛久愛海(星野アクア)

前世もバレて、そして復讐だとか報復だとか物騒な事にならず、国民的大スターの2人に育てられたのがここのアクア。医者になっても良かったがここまで仕込まれてるしいっそ行けるとこまで行くかぁ!よろしくなぁ!!と芸能界に乗り込んだら“若手実力派最大手の俳優”になった。宇宙猫案件。

最近の悩みは妹と妹のアイドルメンバー有馬かな最近よく共演する女優黒川あかねからケダモノじみた視線を送られる事。

おそらく数年後には3人の妻ができている男である。




初音 瑠美衣(星野ルビー)

前世バレの時にアクアが前世医者。という所でもしかして…と来て数年間に及ぶ執念によりアクア=前世の初恋の人という所まで暴き、アクアに言質も取らせた。執念の子。

アイの後を継ぎ、“B小町”を1から始めるというとてもバイタリティ溢れる子。
最近ではそれも軌道に乗り始めていずれ第一線から遠のいたアイとミクを引っ張り出して正面からバトルを挑もうとする。……そしてその舞台は武道館でという所まで見た。

元気な身体&初恋の人が近くにいるおかげで滅茶苦茶テンション爆上がり。
だけどアクアが意外とモテるせいで他にも“ガチ”でアクアを狙っているとある2人と契約を交わしている。………そろそろ狩るか♦︎
ちなみにアイミク公認。急募:倫理観


おそらく数年後にはお腹を大きくしたルビーの姿が見れるだろう。







完結っ!完結!!およそ三週間みなさまお付き合い下さりありがとうございました。
それではまた何処かで。



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スピンオフ
星野アクアはかく語りき〜或いは受難の始まり〜①



始まっちゃいました。
本編のハッピーエンドのその先。原作『推しの子』の物語に沿った形で始まるスピンオフです。
勿論めちゃくちゃ不定期更新。“星野アクア”とある様にスピンオフではアクア主体です。悪しからず。
ちなみにアイとミクは出てきますがいつもイチャイチャしてますし、出てくるのも大体師匠ポジです。
それでもよろしいって方はどうぞ。


DECO27兄貴の新曲良いよね……。


 

 

 

初音愛久愛海…並びに初音アクアは転生者である。

前世はアイが妊娠している時の主治医だったりした前世があるが、今となってはそれも笑い話の1つだ。……今、初音アクアとして生きている自分はアイからミク姉から前世も込めて愛されている息子で長男なのだ。

 

そんな俺が多くの成り行きで“若手実力派最大手の俳優”になるまでの話。

………そして3人の少女に(性的に)貪られるまでのお話だ。

 

 

 

「アクアー、ルビー。起きなさい」

 

朝。耳元で声がして目が覚める。起こされているのに全く不快感がしないミクの声にはどうやら声色以上にタイミングというものがあるらしい。……ミクがいうには寝ている間の波で覚醒に一番近いタイミングで声を掛けていると聞いた事がある。原理としては理解できるがぶっちゃけ人間業じゃない。

 

「はーい。」

 

唐突だが目を覚ましても起きない理由がある。

それはこの丁度自分の隣。右向きで寝ていた俺の身体にぴったりフィットするように寝ていた双子の妹。初音瑠美衣のせいである。コイツも転生者である。どうやら前世は病室から出られないほど体が弱かったため今世では何事も新鮮らしい。

………いや。まあ確かに。病室から出られないという悲しみがどれほどのものなのか一応医者だったのだから理解できる。だからと言ってさぁ……!!

 

「ルビーはアクアの布団で寝ない。」

 

昨日、自分が寝るときは隣のベットで寝ていたはずなのに(思春期だというのに部屋を分けようとするとルビーが嫌がるのだ)朝、目を覚ませばいつものように人一人分の温もりがあるのだ。

アイエエエエエエ!!?と困惑したのは昔の事。今となってはこれが当たり前となって来ている事実に人知れず頭を抱えたのだった。

 

「アクアも狸寝入りを止める」

 

「へいへい。……おはよう。ミク姉」

 

どうやら起きていることがバレていたらしい。諦めて寝ている演技を止めて身体を起こす。そこにはもう30歳になるだろうというのに20歳と言われてもまだ大人びているといえそうな若々しい美貌をした緑色の長髪の女性が呆れ顔で立っていた。

 

「……こらルビー!アクアの目の前で着替えない!!」

 

するとミクは横を向き叱る。マジで強く言ってくれとアクアはベットの上で頭を抱える。アクアとルビーの部屋は異性ということもあって見えないようにカーテンの仕切りがあるはずだ。……だというのにルビーは羞恥心を前世と共に捨てたのかカーテンも閉めず下着姿になり着替えているのだ。

まだ赤子だった時の方が羞恥心あったんだけどなぁ……

 

「もっと言ってくれ……ミク姉」

 

俺の諦めとため息が混じった疲れ切った声は空に消えたのだった。

 

 

 

 

その後。着替えて下に降りるとそこにはピンク色のエプロンを着けていたミクが台所に立ち、食卓の椅子にアイが座っていた。どうやら今日の朝食はパンとサラダとベーコンとウインナー。朝食プレートみたいな形だ。

 

「おはよー!」

 

「おはよー。ママ。」「おはよう」

 

アイは片手を振り上げ降りて来た双子を歓迎する。

朝食のいい匂いとコーヒーの香ばしい匂いはアクアも落ち着くこの家の形の1つだと強く思っている。食事は驚くほど静かに始まり(まあ喋ることがあまり無いから)そしてその静寂はアイとミクの食べさせ合いという名のイチャイチャまで続いた。

 

「アクアは今日はどうするの?」

 

「監督の所寄って帰る」

 

食べ終わり丁度コーヒーを(ルビーはココアを)持ってきてくれたミクの問いにアクアは迷うことなく答える。……監督。それを指すのはアクアの中で1人だけ。()()()()()()()()()()()()()()()()()がアイとミクとルビーの下ぐらいには信用できる監督である。

 

「えー?お兄ちゃん今日は私とタピる予定だったじゃん!!」

 

そんなアクアにルビーが立ち上がり声を上げる。

タ…タピ……タピる??と困惑する姿を一切表に出すことなくアクアはルビーを一瞥する。そもそもお前も今日は練習の日だろうが。という意味を込めて。

 

「ふふ……アクア。タピるとはタピオカドリンクを飲みに行かないか。という意味らしいですよ。」

 

「もしかしてアクア分かんなかったのかにゃ〜??」

 

小さく微笑むミクに茶化してくるアイ。ああ、なるほどタピオカドリンクか。と思い出す。そういえば数年前に物珍しいからとアイが買って来てミクと共に飲んだ写真をSNSにアップした。丁度流行り始めた頃の話だったからタピオカ文化というのは一斉に爆発するかのように社会現象になったのを覚えている。

だけどなぁ……とアクアは苦笑する。

 

「………タピオカ流行ったの何年前だよ……」

 

そう。ブームというにはあまりにも過ぎ去っているタピるというルビーの提案にアクアはそう意見する。今は何が流行っているのかあまり詳しく無いアクアだが少なくともタピオカが今流行りの真っ只中で無いことは知っていた。

 

「えー……いいじゃん……」

 

前世では出来なかったんだし……と小さく呟くルビーに前世の事を持ち出すのは卑怯だろとアクアは思う。……だってルビーの前世を考えたらそういう事が出来なかったのだと理解している。その辛さもその無常も。

 

ふと目の前の2人を見ればアイはニマニマと笑っており、ミクは微笑んでいた。

どうやら自分がこの後言う言葉もアイやミクの中ではもう決まっているらしい。全部お見通しな2人にアクアはやっぱりまだまだ敵わないな。と一息ついた後こう口にするのだった。

 

「………………終わった後。校門前な」

 

「……………!!!……ありがとう!お兄ちゃん!!」

 

また今日もいつものようにアクアはルビーに屈服した。だが、まだアクアは気が付いていなかった。ルビーの言っているタピオカはカップル用の2人飲みの店だとは、実物が来るまで気づく事は無かったのだった。

 

 

 

 

「ふー」「いつ見ても綺麗だねー!」

 

アイに見送られ、ミクに喝を入れられ2人が向かうは“陽東高校”つまり受験である。

陽東高校は中高一貫で芸能科がある数少ない学校。中学までは一般校だったが…

 

『アクアやルビーは高校どうするんですか?』

 

ある日ミクに言われた将来の事。受験生になったアクアとルビーはどうするかと考える様になった。アクアは前世と同じ様に国立医大に受かるほどの学力を持っている。

 

『………ミクママたちはどうしたの?』

 

だけどルビーの前世は12歳をみる間も無く亡くなったと聞いている。受験というモノは前世合わせても初めてなモノでミクに話を聞くというのも当たり前の話である。

 

『?私は通信ですね…アイは行かなかったんですが…』

 

丁度、ミクもアイも売れ始めた時期と重なったのもあってか花の女子高生というのは経験していなかった。今となっては女子高生生活をイチャイチャしながら過ごすというのも良かったのでは無いかと思ったが当時は

 

『アイはそもそも勉強が好きじゃ無かったので……』

 

ああ。と納得するアクアとルビー。何を察したかは知らないが当時まだ学生だった時、アイに勉強を教えていたのは他ならぬミクである。ここまで出来たら何分好きにしてくれて構わないだとか…この点数を下回れば一晩別で寝るだとか。上手く飴と鞭を使いながらアイの学力を保っていたのはミクの身を削った()献身があったからだ。

 

『アクアもルビーも芸能人として生きるのならそういう高校選びしても良いと思いますよ』

 

アクアは既に端役で出ているのに対してルビーは一応“研修生”扱いだ。アイの後である“B小町”を継ぐとは言っているがそれでも素人目で見ても足りないのが多すぎる。

……尚、その素人目というのは“超国民的大スター”からの目であるということを忘れてはならないと追記しておく。

それは置いといて本格的に活動を始めるなら普通の全日制の学校では支障が出るかもしれない。それを頭に入れて高校選びをしている時に見つけたのがこの“陽東高校”であった。

 

 

『なるほど、確かに良い高校ですね』

 

芸能科は勿論アクアとルビーの成績なら問題どころかもっと高いところも選べるでしょうし。という陽東高校のパンフレットを眺めるミクとミクの隣で首を伸ばすアイの反応を2人は待つ。

 

『へー!芸能科!』

 

私たちも通ってみようかな?とミクの反応を伺うアイに本気かとアクアとルビーは戦慄する。超国民的大スターだから?年齢がもう三十路を迎えているから?……どれも違う。ミクとアイの美貌は未だ高校生と言っても通用するからだ。

 

⦅この2人ならきっと馴染めるんだろうなぁ……⦆

 

⦅未だ素で高校生役に違和感ねぇもんな……⦆

 

ルビーは純粋に2人の高校生活に瞳を輝かせ、アクアは何とも言えない顔で微笑む。だって、アクアはこの前ミクとアイのファンスレで吸血鬼だとか不老説だとか見てしまったので。

 

『まあ何であれ。』

 

そんなこんな考えているとミクから声が掛かる。

パンフレットを机に戻した時点でもう読み終わった様だ。アイはまたいつもの様に楽しげにミクの髪を弄っているがミクの眼差しはこちらを見通すかの様に、見定める様に向けてきている。

 

『2人の道です。余程で無い限り応援しますよ。』

 

その瞬間。ミクの表情からいつもの笑みが溢れる。どうやらミクの反応を見るに賛成してくれるらしい。とルビーは小さくガッツポーズをして喜んでいる。そうしているとアクアが小さく手を挙げた。

 

『あっ。俺は普通科で』

 

『へ?』『………ふーん』

 

そんなアクアの提案にミクは珍しく目を丸く見開いて驚き、アイはアクアを見ながら意味深に笑ったのだった。アクアの知らぬ所だがミクとしてはアクアがこの高校のパンフレットを持ってきた時点でもう芸能科に入るのだろうと思い込んでいた。何故ならもう既に一端と言えど役者なのだから……

 

『……どうしてそうしよう、と?』

 

『そっちの方が面白そうだったからかな』

 

ミクの問いにアクアはサラリと答える。そっちの方が面白そうだった。という理由だけで高校の選択肢を選び取るのはどうなんだろうと言わんばかりにミクは2、3回額を揉む仕草をしてアクアに言う。

 

『……間違いなく、貴方はアイの子ですね』

 

『ありゃりゃ。私に何かが刺さってきたぞぉ!』

 

投げやりなミクの言葉に、アイは面白おかしそうに笑う。

面白そうなだけで重要な事を決められる。アイだって選択する時は大体いつも面白そうな方向を選んでいた。それが息子のアクアにも影響しているのを悪影響というべきかそれとも血の繋がりというかとミクは遠い目になった。

 

 

まあそういうこともあったが……

 

 

「偏差値70!?何故ここに…」

 

「貴校の校風に魅力を感じまして」

 

受験は進んでいく。アクアにとっては数回目となる面接だ。今更臆する事もないがただ一つ落とされるというのなら名前の奇抜さぐらいだろうか。

 

「あ!お疲れー、アクア。」

 

「ルビー。そっちはどうだった?」

 

そうして一通り終わった後、タピオカを飲みにいくために待っていたルビーと合流し校門に向かっている最中の話だった。

 

「うーん……なんていうか……?」

 

「どうしたか?」

 

言いにくそうに口籠るルビーにアクアは問う。

何か問題でもあったのだろうか。ルビーに限って失敗することはあり得ないだろうとは本気で思っているが。

 

「私の13歳ぐらいの踊りを見せられた気分?」

 

「…………黒歴史ってか」

 

アクアの言葉にそう。それ!と言わんばかりにルビーは首を縦に振る。

どうやらルビーと同じ様にアイドルとして芸能科に受験した周囲はルビーにとって数年前の踊りを見せつけられている様な気がしたのだった。

 

(……まあそりゃそうだよな)

 

さもありなん。とアクアは心の中で苦笑した。

“あの”アイとミクの2人にみっちりとアイドルとして仕込まれているのがルビーだ。

あの2人がルビーを“半人前”というその半人前が世間一般では上位数%に食い込むかもしれないという事は斉藤夫妻やアクア…そしてアイとミクぐらいの秘密だ。アイとミクの育成方針にケチをつけるつもりは無いがそろそろこの妹も世間一般のアイドルのレベルを知っていて欲しいと兄は切に願っている。

 

 

「………ねえ。貴方」

 

すれ違った…上級生だろうか。突然、アクアとルビーに1つの声が掛かる。

後ろを振り向くとそこには赤目赤髪のルビーより少し小さいぐらいの生徒がアクアの顔を覗き込んでいた。

 

「貴方、もしかして“星野アクア”じゃ無い!?」

 

「………何処かで出会いましたか?」

 

騒ぎ立てるその生徒についにアクアは顔を一瞬顰めながらもミク譲りの微笑を浮かべてその生徒に聞き返す。どうやら芸名である“星野アクア”を知っているとなると…まあ居るには居るだろうか所詮端役で出してもらっているに過ぎない。何処かの現場ですれ違った程度だろうか?と見立てを付けていた所だった。

 

「あれ。アクア。この人あれじゃん。……えーっと……」

 

どうやらルビーには見覚えがあった様だ。

 

「そうそう!“重曹を舐める天才子役”!」

 

「10秒で泣ける天才子役!!」

 

………ああ。そういえばと思い出す。昔、芸名“星野アクア”としての付き合いの始まり。今も尚懇意にしている監督とのほぼ最初の出会い。十数年前の話まで遡る。

 

 

『いいか小僧。』

 

アイドルだけで無く、“役者”としてもアイとミクを売り出そうとした結果。

両事務所(当時はまだ別の事務所だった)が偶然同じ現場で“新人役者”としてドラマに顔を出すという舞台だった。

そこであった2人はあたかも初めて会ったかの様に交流していたがその言葉の含みに多くのいちゃつきがあった…という話は置いといて。勿論、あの2人は初めての舞台だというのにアイは全ての人を魅了し、ミクは ()()()()()()()()()()。それも誰にも…それこそ監督以外誰にも気が付かれない様に消極的に喰い尽くした。

 

そしてテレビでオンエアされた時、2人は見事数秒程度しか映っていなかった。

当時幼児だったアクアは変な感じで監督と仲良くなって貰った電話番号から電話をした。“何故、アイとミクを全然使っていないのか”と。

 

『原因はたった1つ。 ()2()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

監督は語る。当時、この時のドラマは制作会社が“可愛すぎる演技派女優”という名目で売りに出していた女優を主軸にしていた筈だった。……だというのにいざ撮影が始まったと思ったら、主演以上に美しくそしてオーラがある“新人女優”。それだけならまだ良かった。一番遠く、そして目立たない数コマだけ使えばいいから。

 

『あの時、アイもミクも力試しの場として使いやがった』

 

アイはどう考えているか知らないがミクは明らかに故意だ。そう監督は断定する。新人女優という看板であるのを無邪気に使い、自分の演技の学習の場として全部吸収して帰っていった。

 

『結果的に多くの業界人に2人の名前は刻まれた』

 

映っているのは数秒程度。だがその数秒以上に多くの人間の目を惹きつけたという事実は変わらない。そして何よりミクの所属している事務所は“中規模の事務所”であり役者も多く輩出している。

 

『ミクはこれから恐ろしいほど伸びるだろうよ』

 

そしてこれからも端役として新人として使ってもらう舞台全てを知らぬうちに平らげて更に美しく着飾る。そしてさらに魅力が増したミクをもっと、そして更にもっと使いたくなっていくだろう。と監督は言った。

 

『じゃあ……アイは?』

 

『アイはな…やっぱり事務所の差というのはデカいわな』

 

ミクの事務所に引き換え、アイの苺プロダクションは“アイドル”専門の事務所みたいなモノだ。こうして役者として売っていくのもミク以上の時間がいるだろうと監督の見立てだ。……まあこればかりは最初所属すると決めた事務所の運でしかないが。

 

『納得いかない』

 

『ま。だわな……代わりといっちゃ何だが……』

 

 

“アイを映画に出演させる代わりにお前も出ろ”

そうしてアイと引き換えに俺の…苺プロダクション所属子役“星野アクア”が爆誕することになった。出演する映画は低予算のモノだが物語はしっかりとしている様で…容姿に自信のない女が山奥の怪しい病院で整形を受けるという話。その中で俺に振られた役は“気味の悪い子ども”。

そしてその時共演者としてあったのが“有馬かな”という子役だった。

 

妹であるルビーが(今日の保護者であるミヤコさん連れ)ぐずり倒している時に会ったのが始まりだろうか。どうやら突然ねじ込まれた俺に対してキレていた様で。まあ別にそれは良かった。コネなのは間違いないしこれは一種の等価交換みたいなモノだ。

 

『貴方のところと同じアイドルも下手くそな演技したんでしょ!!』

 

と。まあアイまで貶す様な物言い。流石にキレない筈もなく。

どうしてやろうか。ガキ相手に本気にはならない…!とキレていた所で撮影が開始される。

 

有馬かな…またの名を“10秒で泣ける天才子役”という名に嘘偽りはないな。と思った。素人目で見ても演技が上手い。そして同じ事をしてもまあ良くて有馬かなの出来損ないになるなんて事。十分に把握している。

 

……ならばどうするか。どうしてやろうか。

 

ああ。そういえばミクも似た様な演技をしていた事をふと思い出した。

ホラー映画に出てくる端役の女亡霊のうちの1人。ミクがどんな役でも熟す“役者”であるのだと世の中に少しずつ認められる様になった作品の1つ。

多くのモブ亡霊の中でミクたった1人だけが一瞬だけでも主役の席を奪ったあの瞬間。ミクはいつも通り ()()()()()()()()()()()()()

 

 

曰く、恐怖には“鮮度”というものがあるらしいのです……本当の恐怖とは───

 

 

そう。本当の恐怖とは怯えて死んでいく感情の事を指すのではない。真の意味での恐怖とは、静的な状態ではなく変化の動態……つまりは希望が絶望へと切り替わる、その瞬間のことを指す。ならば今この場で俺がするべき演技は……有馬かなとは逆の表情()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

⦅悪いが有馬かな。利用させて貰うぞ⦆

 

今のままでは天才子役には歯が立たない。でも…その演技を利用して自分の糧に、そしてこれからの演技のピースにさせてもらう事は可能だ。

そしてこの瞬間、誰もが気がつくだろう。隣で何処までも気味が悪い少女が立っているのにあたかも普通に立っている少年の異常さに。そうこれだとまるで

 

この少年の方が気味が悪いと。

 

 

 

(………なんて過去もあったか)

 

この後、有馬かながグズったり監督に更に気に入られた事で半分監督専属の役者みたいな事になり色んな役を演じさせて貰った今まで続いた様なその原点に関わりがあったのがこの少女である。

 

「やっと会えた……!!」

 

ここまで長かった…とまるで感慨深い物みたいに肩を掴み息を吐く有馬かなにどういう意図だろうかと首を傾げるアクアが居るとか。ちなみにその隣で眼球ガン開きで有馬かなを見つめていたルビーが居たとはまた別の話だ。

 

「で!アクアはここの芸能科受けたの??」

 

「いや。普通科」

 

妹が芸能科。と指差す。そうしているとワナワナ…と目の前で有馬かなが震え始めた。直後、耳を貫く様な絶叫が周囲に響いた。

 

 

 

「なんでよー!!!」

 

 






初音 愛久愛海(星野アクア)

これからの主人公。純粋に演技を楽しめる将来の【怪物】
演技らしい演技はまだしていないが過去を見るともう既に片鱗は出ている?
リスペクトするのはミクの演技。そしてここから更に大躍進を果たす。



初音 瑠美衣(星野ルビー)

妹兼アクアの正ヒロイン。殻の中で眠る将来の【怪物】
文中でもあるがまだ彼女だけが彼女を怪物だと知らない。
それに伴い、裏話だがルビーの踊りや歌を見た受験生の大半の心が折れて受験をリタイアしているという。

双子のお兄ちゃんだけど…愛さえあれば問題ないよね!




初音アイ、初音ミク

うちの子たち、ちゃわ〜❤️
ちなみに夜の戦績は100回に1回程ならミクが勝てる様になってきた。
意味が分かれば恐ろしい話だが、アイもミクも18歳の時の写真と今の写真だと日付を隠せばどっちがどっちか分からないという話も。


感想などよろしくお願いします。



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星野アクアはかく語りき〜或いは受難の始まり〜②


続きます。今回は次の“今日あま”までの繋ぎの回。
それではどうぞ。


 

 

その後。有馬かなの大声の煽りを受けて2人ともうるさっと言わんばかりに顔を顰め、スルーするかの様にスタコラサッサとルビーの案内の元でタピオカ店に向かったのだった。

 

そう。その後ろから有馬かなを連れて。

 

「ちょっと!何処いくの?」

 

「今どこ住み?というかどこ中?」

 

「妹さんよね?隣の女性……」

 

と後ろからひたすらに着いてくる有馬にアクアは遂に半キレでルビーと視線で会話を始める。…ルビーにこの後ろの有馬かなをどうにかしろと言わんばかりに。

 

(いや…お兄ちゃん。昔会ったキリでしょ?何。お兄ちゃんニコポでも持ってた?)

 

ニコポ…ニコッと微笑むだけで相手を惚れさせるスラングだがアクアにとっては身に覚えが無いどころか逆だ。有馬かなの演技を利用して泣かした思い出しかない。だと言うのにこうして“星野アクア”という名前を十数年も覚えている有馬かながおかしいのだと視線でルビーに返す。

 

(うーん……追い払ってもいいんだけどねぇ…)

 

一瞬、ルビーの口からチラリと赤い舌が唇を撫でた。そんな何か企んだ時のアイの顔(犠牲者は決まってミクである)にも似た表情を浮かべるルビーにアクアは危機感を抱く。

 

(待て。どうするつもりだ)

 

(全部巻き込んじゃおうかなーって)

 

ちなみにアクアは貸1だよ。とルビーはサラリと重要な事を言う。有馬かなをどこまで巻き込むつもりか知らないがルビーならそこら辺の加減を間違えるとは思えない。最悪自分が手綱を握れば良いし。と簡単にルビーの案に乗ってしまう。

 

(……了解。アシストはする)

 

(ん。よろしくね。アクア)

 

それに今まで貸しとか言っておきながら今まで一度もそのツケを払う様にとルビーに求められた事がないと言うのもアクアが簡単に貸しに頷いてしまう理由だ。

この世にはタダほど怖いものがなく、そして貸しという切り札がどれほどの効力を持つのかアクアは哀れ最後まで自らが猛獣達の檻に入れられてた兎だと気付くことが無かった未来があるとか無いとか。

 

まあそんなアクアの内心とはつゆ知らず、2人の行く道が信号に止まってしまった。

ここは意外と信号が長い所だとルビーは後ろから追いかけてきていた有馬かなに振り向く。

 

「で。何用ですか?ロリ先輩。」

 

「………は!?イビるぞ!!マジで!」

 

まあ確かに身長だけ見るなら有馬かなとルビーならルビーの方が身長が高い。

その上で自分より年上…つまりは上級生なのだから“ロリ先輩”とは言いて妙だなとアクアはルビーのネーミングセンスを少し感心していた。

まあ勿論、そんな先輩に威厳を持っていない2人の姿に有馬かなは昔ながらの口の悪さを披露する事になったが。

 

「私たちこれからデートなんですけどー?」

 

「は?で、で、で、デートォ!?」

 

(??????!???)

 

あたかも普通に話をするかの様にルビーはアクアの腕に抱きつき有馬かなをチラリと一瞥した直後にアクアに顔を近づける。アシストはすると言った手前アクアも役者根性(笑)で困惑を内面に押し留める。

まあ目の前で自分より明らかに動揺している人を見たお陰でアクアは傷が少ないとも言えるが。

 

「……あんた達、双子…よね?」

 

「はーい!妹のルビーでーす!」「兄のアクアだ」

 

元気よく手を上げるルビーにアクアは小さく手を振り微笑む。

この2人のポーズは実は親…つまりアイとミクの受け継ぎの様なモノだ。アイとミクもこうして2人並んでいる時のファンサはルビーの様に天真爛漫で手を上げ、ミクは少し気恥ずかしそうに手を振る。それはまるで本当の姉妹の様で、一時期姉妹や双子のポーズとして流行ったこともあったほどだ。

 

「…………まあいいわ。それよりアクア!」

 

「どうした?」

 

有馬かなは考える事をやめた。双子だと言うのにデートと言うのならそれはそれでもう良いだろう。と有馬はスルースキルを身につけていた。まあ事実、そんな事よりアクアに対して聞きたかった事の方が大切だと言わんばかりにアクアに人差し指を突きつける。

 

「まだ役者やってるんだよね!」

 

「………まあ、端役だがな。」

 

嘘は言っていない。

 

「やっぱりもう少し話さない?カラオケとか……」

 

「ちょっとーロリ先輩。私が先ですよー?」

 

久々に会った知り合いだからか距離の詰め方ヤバいなと思いながらも再度差し伸べられたルビーに救いの手に片目で“助かった”と返す。……まあまた1つ、ルビーへの貸しは増えてしまったが。

 

「じゃ、じゃあ終わってからで良いから私の家に来ない?」

 

「距離の詰め方エグいなこの人」

 

まさか久々に会った知り合いを家に連れ込もうとする(しかも異性)とはアクアも思わず本音が漏れてしまう。それも仕方ない事だ。こんなメンヘラじみた距離の詰め方をされるのは前世ぶりだから。

 

「仕方ないでしょ…まだこの時間個室の店なんて空いてないし……」

 

「あー……なるほどね。」

 

確かにどうであれ役者である有馬とアクアはあまり人目につくことは避けたいのである。喫茶店で話をする事もあまり好ましくない。変装もしてない状態であるからこそ。

 

「…………仕方ない。ルビー」

 

「……………………むー……りょーかい」

 

このまま有馬かなに後をつけられる方が面倒だとアクアはルビーに声を掛ける。

それだけでルビーは意図を理解したのか分かりやすく膨れっ面した後、アクアにこう返す。………“次回、丸一日付き合う事”と。つまりは丸一日全部使ってアクアはルビーの御機嫌取りをしろと言うわけだ。まあそれぐらいならまだ許容範囲だと小さく了承する。

 

 

 

そうしてルビーと別れ、有馬かなを連れてアクアは一つの一軒家に向かったのだった。そう。アクアが懇意にしている監督の家に。

 

「おー。有馬かな。見ないうちに大きくなったなぁ…」

 

「お゛…見ないうちに、ですか」

 

いつもの無精髭を生やした監督の家にアクアは手慣れた様に上がる。

片耳で聞き流したがどうやら何でもない監督の一言が有馬かなにとってクリティカルヒットだったらしい。さもありなん。この業界において“見ないうち”と言うことはそう言うことなのだから。

 

「それでアクアが出てるのはどれですか?!」

 

「おー…これとかか」

 

「監督。言わなくてもいい。」

 

何気ない話から始まり、ついに有馬かなはアクアの役者としての過去に触れようとしていた。有馬かなにとってアクアというのは唯一無二の存在である。幼少期にあれほど“天才子役”と称えられた自分を真正面から打ち破ったのだから。

まあそんな事アクアにとっては知ったことではないが。

 

「当時は全力でも今の自分には黒歴史だ」

 

「………ストイックね。あなた」

 

当時の、その時の自分自身は全身全霊。その一瞬に命を掛けていたとしても今、見返してみればあまりにも拙い所が多く見つかってしまう。それこそ発展途上であるアクアにはまだまだ“先”があると言えるがアクアにとっては何の慰めにもならない言葉だ。…………アクアの目指す“天上の座”はこんな程度では視界に入れることさえ烏滸がましいのだから。

 

そんなアクアの内心を悟ったのか。一言有馬かなは呟く。

もし、もしも、“あの時”の自分に今のアクアほどの熱意が羨望が、上に上に上がろうとする求道者の心得があったのなら今とは違う未来があったのではないだろうか。と

 

「…ま。カッコつけてるが調べたら出てくるけどな」

 

「…………それもそうなんですがね?」

 

今言うことかい。とアクアは半目になって監督を睨む。

そんなアクアを知ってかどうか監督はニヤリと笑って有馬かなに調べる様に促す。どうであれ自分の弟子が、自分の手塩にかけた秘蔵っ子が世の中の中心に立つその時を楽しみにしているのは師匠である監督その人である。

 

 

 

「……………ね。アクア。“今日あま”って知ってる?」

 

調べ終わった有馬かなはスマホをしまい“古くからの顔見知り”を見る目でなく、“同業者”としてアクアを見る。強い意志が籠った“熱”を帯びたその眼差しにアクアも心意気を上げて有馬かなとの会話に臨む。

 

「今日は甘口で…恋愛漫画だろ?」

 

「うん。それのドラマ化」

 

今日は甘口でという恋愛漫画。名作でありアクアも漫画を買って何度か読んだ事がある。まあ残念ながら…残念ながら?我が家は恋愛漫画や恋愛小説よりも甘々な夫婦がいるせいで恋愛系には目が肥えている現状ではあるがド名作である以上アクアも目は通していた。

 

「昔馴染みの、それも私を負かした貴方に、アクアにこういう事は言いたくない」

 

「………………………それは」

 

よほどその今日あまの現場は切迫詰まっているのだろうか。

あの時の有馬かなとは考えられない潔さで頭を直角で下げる有馬かなにアクアは言葉を詰まらせる。

 

私と一緒に“良い作品”を作って欲しい

 

「………まずは、全部解説してくれ……」

 

どうしてこうも自分の周りには言葉を省く人しか居ないのだろうか。とアクアは嘆息する。“良い作品”と言うが“どのライン”の事を言っているのか。だとかそれほど今日あまの現場は“やばい”のか。だとか色々と飲み込んでアクアは疲れたかの様に息を吐く。

 

「……ああ。それは悪かったわね。」

 

とりあえず、帰ってからでも良いから今日あまを観てほしい。と有馬は言葉を紡ぐ。ドラマはネット放送だから簡単に全部見れるはずだろう。と苦々しく。

 

「何せ。今日あまの現場は“原作者から失望されている”のよ」

 

「………………おいおいおい」

 

“ヤバい”を超えた“ヤバい”についにアクアはツッコミを入れる。

原作者から失望されるほどのレベルでヤバいとは初耳やぞ。と。

 

「顔だけで選ばれた舞台。原作レ◯プ。…色々と言われてる。」

 

「…………………」

 

「でも、それでも個人個人で精一杯やれる事をやっている」

 

役者も裏方も。せめて〈観れる〉作品になる様にしている。そして私も。と有馬かなは言葉を紡ぐ。どうしようもない舞台でそれでも有馬かなは足掻く。それを過去の自分に無様だと。醜いと嘲笑われようとも。

 

「お願い力を貸して。」

 

「…………………………」

 

そんな有馬の懇願にアクアもついに閉口してしまう。今ここで適当に返事をするのは簡単だ。だけどそれでアクアが有馬の期待に応えられるかというとあまりに未知数すぎる。

 

「やってみたらどうだ?」

 

「……………監督…?」

 

数分たった頃だろうか。頭を下げ続ける有馬と難しい顔で押し黙るアクアを見かねて監督はついに助言を入れる。アクアをその“作品”に関わらせるという意味を。

 

「今のお前なら何の問題もないだろう。……それに」

 

監督は…五反田 泰志は知っている。星野アクアの演技が“誰”と“誰”をなぞっているのかを。そしてアクアの憧れが“誰”に向いているかを。さらにはアクアの出生を。

 

「きっとこんな時でも“あいつら”なら楽しむだろうよ」

 

「………………………!!」

 

簡単に呟くそれはアクアにとって一番刺さる言葉だと理解している。

こういう風に唆す自分が悪い大人だと一番理解しているがそれでも…作品を作るものとしての性には逆らえなかった。

 

 

この劇薬星野アクアを入れた時、果たしてどうなるかと。

 

 

「有馬。やろう。やってやる」

 

「…………………!!本当!?」

 

アクアからの参加表明に有馬は破顔し嬉しさを隠せない様だ。

そんな有馬にアクアは一息わざとらしく咳き込み、有馬にもう一度問う。

 

「……どんな役が配られるだろうかだけ教えてくれないか?」

 

「…………あー……えっとねー……」

 

 

 

 

 

 

「なるほど。それで推定“ストーカー役”をする事になった。と」

 

「………………………」

 

ふー…と頭を抱えるミクの姿はいつもの輝くオーラとはまるで無縁の…そう。アクアの前世でよく見た苦労人のオーラが漂っていた。流石にそんなミクの様子を見て多少の罪悪感が湧かないアクアではない。

 

「ねー!見てミク!これっ…これっひど……」

 

その横では単芝を大量に生やしながら爆笑するアイと“かなり駄作だよこれぇ!”と叫んでいるルビーにアクアも頭を抱えたくなってきた。確かに棒読みと酷い演技な感じ大分ヤバいなと思っていたがここまでとは…とため息を吐く。

 

「と。まあこんな感じです。」

 

相当レベルが低いものでしょうね。とミクは冷静に告げる。

それは最初から分かっていた話だ。とアクアは頷きミクがどういうかを待つ。

 

「………アイ。……ああもう笑ってないで」

 

「───────……どしたのー?」

 

「もし、アイがこの現場に居たならどうしますか?」

 

笑っていたアイの目が細まりミクを見る。その瞬間、この家を満たしていた笑いは消えて真剣な張り詰める空気に一瞬で入れ替わった事にアクアとルビーは気がつく。……分かってはいたが空気の差で風邪引きそうと。

 

「そんなの簡単じゃん」

 

口元に人差し指を添えて一瞬何か考えたアイは三日月のような微笑みでこう嘯く。

 

 

「全部壊して、バラしてやりたい様にやればよくない?」

 

 

王の覇圧。圧倒的なカリスマの前。一番星と讃えられるその覇気にアクアもルビーも呑み込まれる。……その横でミクが“でしょうね”と言わんばかりのしたり顔で頷いていたのを見て、ここまで圧倒的に“差”が出るものなのかとアクアは1人戦慄する。

 

「……と。まあここまでが私たちの意見です」

 

「………少なくとも常人には不可能なんですが……」

 

アイのいう“全部”は文字通り“全部”なんだろうとアクアは戦慄する。

事実上の頂点から教えを乞うていると言えどまだまだ目指す先は長く遠い事を自覚せざるを得ない。まあ“その程度”で折れるアクアとルビーでは無いが。

 

「泥の中で綺麗な華を咲かせる。それについては否定しません」

 

ミクは目を閉じ言葉を紡ぐ。その言葉には多くの意味が宿っている事を知っているからこそアイも行く末を見守る事にした。

 

「…ですが泥の中で泥の演技をする。それも1つの経験ですよ」

 

頑張ってらっしゃい。とミクは微笑みアクアに激励を飛ばす。

それの一言がどれほどアクアの魂に火を付けたか。それはアクアだけが知っている1つの確かな“愛”だった。

 

 

 

 

 

「へー“まあまあ”演技つよつよな有馬ちゃんが推すんだ。良いよビジュも良いし」

 

どうでもいい。有馬かなを使ったのも“ラクに雑に使える”から。昔、“天才子役”と言われた実力の一片を見せてもらおうかと思ったけどあの年齢であの程度なら“端役にもなりやしない”

 

「ま。いいか」

 

顔と名前だけで選んだ舞台だ。演技に関しては一才も期待していなかったがそれでもと思ってしまう。願ってしまう。……俺たちは…“監督”は新しいが出てくる事を。

 

ただのアイドルが、手慰み程度で始めた女優業で誰よりも端麗に華麗に誰も彼もが認める頂点に立ったあの黄金を。最も間近で見てきた1人のクリエイターだからこそ。

 

「誰でも。どうなろうと知ったことでは無いし」

 

この舞台が駄作になるなんて最初から決まっていたものだ。残念なことだが。

……ああ。ただ願わくば、有馬かなが推す“星野アクア”とやらがあの星たちを初めて撮った時とまでは言わないが背中に少しでも戦慄を走らせてくれる事を。

 

まだ。一瞬だけ期待している。

 

 

 

 






初音 愛久愛海(星野アクア)

普段は瞳に星を宿しているが家族の時間だけなら瞳に星は無い。
転生してることもバレてるし愛されてることも分かってるからね。
多分一番良い空気を吸っているその1
誰の血を引いているのか非常に鈍感。多分そこはミクと親子または姉弟だと将来の嫁たちに言われる。


初音 瑠美衣(星野ルビー)

普段は瞳に星を宿しているが家族の時間だけなら瞳に星は無い。
転生してることもバレてるし愛されてることも分かってるからね。
多分一番良い空気を吸っているその2。
まあ前世からの初恋の人が実の兄だなんてとても刺激的でファンタスティックだろ?ちなみに有馬かなにデートの邪魔をされなければそのままホテル直行できたものを……とロリ先輩を目の上のたんこぶ扱いしている。


初音アイ、初音ミク

ミク、お前がアイに(夜の戦いで)勝てるわけねェだろうが‼︎!
ちなみに最近のフェイバリットは猫コス調教プレイ。毎晩甲高い猫の鳴き声がするとか何とか。


有馬かな

原作より話が早く進んでいる上に誠意があるのはアクアが端役としても十分にキャリアを積んでいるからこそ。アクアという劇薬を入れた結果どうなるかは…神と一番星たちのみぞ知る。


監督たち

いい年したおっさんたち。現在進行形でアイとミクに目が焼かれ続けている。

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