横須賀鎮守府 とある少将の日記 (朧月琥珀)
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2年目 8月1日 

夏イベ、MI/AL作戦まで後一週間です。リハビリも兼ねて書いていますのでクオリティはさほど高くないかと…


「作戦開始日時は8月8日。二正面作戦になるため、被害の規模、消費資源の予想がつかない。遠征部隊は残りの期間を全て用い、資源確保に努めること。以上だ」

 

「了解しました!」

「綾波も頑張ります!」

 

 駆逐艦娘最先任の五月雨と最高錬度の綾波が張りきって応じる。特に綾波は新たに得た力を揮える事に期待してか戦意が高揚しているように見える。

 

「大規模作戦って事は夜戦もあるんだよねっ! 提督!」

「ああ。おそらくな…だが無理は禁物だぞ」

 

 軽巡最先任の川内…台詞からも見て取れる様に無類の夜戦好きだ。

 

「ね、姉さんっ…すみません提督」

 

最高錬度の神通はその妹に当たるのだが性格はあまり似ていない。だが、夜戦における戦闘力は実際川内よりも高い。華の二水戦旗艦の経歴は伊達ではないようだ。

 

「二正面作戦か…北方方面は任しとき!」

「今度こそ…後れは取りません!」

 

 小柄な体で戦意を燃やすのは軽空母最高錬度の龍驤と最先任の祥鳳。二人ともこの作戦にかける意気込みは並大抵の物ではないだろう。

 

「大規模作戦ですか…。はぁ…また損害が出るのでしょうね…」

 

 物憂げな呟きを漏らすのは戦艦艦娘最先任の扶桑だ。

 

「それは避けられんだろう。だが、この戦い退くわけにはいかぬ」

 

 対象的に戦意を燃やすのはかつての大日本帝国海軍の象徴とも言うべき長門。今の鎮守府でも戦艦最高錬度の艦娘としてその存在感を存分に示している。

 

「姉さん…」

「うむ。今度はカタパルトも好調じゃ。前のようにはいかぬ」

 

 扶桑と長門同様に不安げな表情を浮かべる筑摩と勝気そうな表情を浮かべる利根。

 

「ゴーヤ達はまたオリョクルでち?」

「うっ…すまんな」

 

 イムヤとゴーヤのジトッとした目で見られてさすがにたじろぐ。普段から資源回収作戦《オリョールクルージング》でかなりの出撃回数を課しているから少しは休ませたいのだが、それは無理な相談だ。

 

「以上、何か質疑はあるか? それじゃ各自寮へ戻って説明を頼む。作戦開始前に全体を集めるからそれも忘れずに伝えてくれ」

 

 各々が両省の返事をして自分達が寮長を務める寮へと戻っていく。

 

「ああ、加賀、赤城…二人は残ってくれるか」

 

 最前列で黙然と今回の説明を聞いていた我が鎮守府最強の空母艦娘二人の肩が震える。

 他の艦娘達は一瞬こちらの様子を窺うも、すぐに執務室から退出していった。

 

「すまない…なんと言葉をかければいいか…」

 

 二人を呼びとめたはいいが、かけるべき言葉が思いつかない。

 

「…っ」

「赤城さん…」

 

 無言で拳を固める赤城に加賀はそっとその手を重ねる。

 赤城が動揺するのも無理もない。大本営より告げられた次期大規模作戦の名称はMI及びAL作戦…。かつての大戦で空母赤城、加賀、蒼龍、飛龍が戦没した海戦と同じ略号だ。

 艦娘はその名を持つ艦の記憶を引き継いでいる。加賀も表面上こそ冷静を装っているが、普段よりも表情が硬い。

 

「……前の事を気にするなとは言わん…。だが、この戦いでは俺は決してお前たちを沈めるような真似だけはしない」

 

 言えるのはそのような言葉だけだ。それに…

 

「お前達は最強の一航戦だ。二航戦の蒼龍に飛龍も新たな改装を受けて力を増している。慢心さえなければお前達が簡単に負けるはずがない。そう俺は信じている」

 

「提督…」

「よくそんな恥ずかしい台詞を言えますね…」

 

 強張っていた赤城の顔がクスリと微笑む。加賀もその言葉に呆れたような表情を見せるがその表情は先程よりも柔らかい物だった。

 

「分かっていますよ提督。私達は艦娘、かつての軍艦ではありません。この戦、想うところがないと言えば嘘になりますが…一航戦赤城、今度こそ最後まで戦い抜きます!」

 

 そういう赤城の言葉に迷いはない。そこにあるのは純粋な闘志。

 

「赤城…」

「私もですよ提督。それに…」

 

 赤城同様、凛とした雰囲気を纏い、加賀は微笑む。

 

「私も…信じてますから…」



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世界線

深海棲艦という艦とも生物ともつかぬ異形の敵対勢力。

唯一解っている事は第二次世界大戦期に使用された武装と同等の火力を持ち、通常兵器では太刀打ち出来ぬ障壁装甲を持つ。

現代兵器で構成された各国海軍は討伐に討って出て、そのまま帰って来なかった。

先陣を切ったというより切らされたのは世界各地へ軍を派遣していたアメリカであった。

だが、最新鋭のイージスシステムを以ってしても敵の姿を捉えることは容易ではなかった。何せ敵は艦と名こそついているが、人身を模した形状をし、大きさも戦艦や空母といった大型艦でさえせいぜい3mにも満たない。駆逐艦に至っては大型の獣ほど。その外骨格はステルス性を帯びているのか探知可能領域に入る頃には光学測量儀によって探知出来る距離になってしまうのだ。それによって現代艦の優位性は大きく失われ、純粋な物量のぶつかり合いになった。

最も被害が甚大だったのは太平洋艦隊司令部であり、物量を武器とするアメリカが逆に物量に押し潰されるという結果に終わり、ほぼ全滅したとされていた。

辛うじて在日米軍の第七艦隊は残ってこそいるが、第二、第四、第六艦隊は壊滅。

日本海上自衛隊も領海内に侵入して来た極少数の駆逐級を相手に苦戦を強いられていた。

太平洋の制海権を日米は手離すしか無かったのである。

当然海上貿易航路を全て寸断され、世界経済は大混乱に陥った。

特に日本の混乱は説明するまでもないだろう。

エネルギーと食糧の大半を輸入に依存することは大半の国民が知るところであり、政府はその対応に追われた。

食糧は休耕田の復活、国による農畜水産物の一括買い上げと配給制への移行。エネルギーは停止中の原発の再稼動と高速増殖炉計画の再始動によって、備蓄してあったものを合わせて数年は耐え凌げると試算されていた。

国民の不安はこれにより一旦は治まったが、何処にでも騒ぎ出す馬鹿はいるものである。

自然回帰主義を唱え、原発の即時廃止、自由経済の復活、さらには在日外国人の残留人への二重国籍案件を盛り込んだ大規模な暴動を起こしたのである。これに特定の国の在日外国人が同調。各地の原発や自治体への武力攻撃を開始したのだ。

政府は即座に自衛隊へ治安出動を命令、初の治安出動で瞬く間に鎮圧された。それでも民間人を襲った武装集団による被害は完全には防ぎきれず少なくない犠牲者を出してしまった。

野党は政権への攻撃の好機と捉えたが、世論はそれに反し、政権の支持に回り、一部在留外国人犯罪者への対応を硬化させた。

即ち国外への強制退去。辛うじて残されていた日本海上空を通ってユーラシアの東端へ送り返したのだ。

その対応にブチ切れたのはその犯罪者の母国政府だった。

元より領土問題を抱えていたこともあり、宣戦布告は時間の問題だった。

太平洋は異形の手に落ちた。日米同盟は機能不全の状態にある。そう判断しのであろう。

結果的に宣戦布告はなされなかった。

宣戦布告無しに攻撃を開始しようとした解放軍は外洋に出た途端に敵機動部隊の艦載機群に襲われた。自慢の空母遼寧は直上からの爆撃を受け、甲板と艦橋、レーダー設備を損傷、浮かぶ箱舟となった。制空権を奪われた海軍は空軍へ援軍要請。沿岸部の基地から航空隊が出払ったその隙に敵飛行場からの航空攻撃を受けて母港と航空基地が大損害を被った。近海の制海権を喪い、追い詰められた独裁政権は何をトチ狂ったのか禁忌の剣を抜き放った…。

核攻撃。

まあ水上艦隊への効果はクロスロード作戦で示された通りの結果をなぞるだけとなった。碌な迎撃手段を持たない深海の艦艇は直接核の炎に晒された。しかし、それで沈没した艦船は皆無だった。

国際社会の対応は冷ややかだった。陸地で接する国家は即座に国境封鎖を実施。全ての対中支援と海外資産を凍結した。

残された陸軍戦力を以て打って出ようとした中央政府だったが、各軍区は素直にそれに従うはずがなかった。

それに乗じて自治区も反旗を翻し、支那は第二次対戦以前の内乱状態へ逆戻りした。

もっとひどかったのは半島から出た上陸船団だった。一路対馬を目指した艦隊は対馬海峡に至る前に深海棲艦の潜水艦隊の襲撃を受け、ほぼ全ての上陸部隊を失った。

それを狙いすましたように北の陸軍、海軍が動き、瞬く間に半世紀以上の分断の歴史に終止符を打った。

その後は当然ながら半島に流れ込んできた軍勢に、半島の国家は大陸の国家の版図へ飲まれた。



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