スランプ小説家と新星作家 (猫カイト)
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プロローグ第一話 コーヒーと出会いとメイドさん?

一発屋という言葉をご存じだろうか?

 

分かりやすく言うとテレビで一時は流行っていたが少したって見なくなった芸人や作家のことをいう作家として呼ばれたくないだろうNo.1の言葉だ

猪瀬はそう呼ばれている。

猪瀬《いのせ》 優也《ゆうや》

ラノベ作家である。

いや、元ラノベ作家というべきか?

猪瀬のデビュー作 『少年と愛』はそこそこ売れたがそれからはスランプに陥りいい作品を書けないでいる作家だ。

担当の編集者矢崎《やざき》が言うには

「よくあるバーンアウトシンドロームですよ!すぐいい小説がかけますよ!」

と励ましの言葉を貰ってはや2年

猪瀬は何をかいていいか分からなくなっていた。

このまま異世界物を続けていいのか、

思いきって新しいジャンルに挑戦してみるか

だがうまく行くのか?

なんて考えを延々と繰り返す不のスパイラルに入っていた。

猪瀬はそのスパイラルをダークノーエンドスパイラルと名付けた。

「ダークノーエンドスパイラルってどこのバトル漫画ですか猪瀬先生。」

担当の矢崎は腹を抱え笑いながらテーブルに突っ伏す。

「そんなに笑わなくてもいいじゃないですか!こっちにとっては死活問題なんですよ!?」

「悪かったですって、猪瀬先生コーヒーでも飲んで落ち着いて。お姉さんアイスコーヒーミルクマシマシで二つね!」

矢崎はまるでラーメンでも頼むようにおかしな言い方でアイスコーヒーを頼む。

矢崎は自他共に認める変人である。

打ち合わせにメイドカフェなんて指名してくる変人で、テンションがよく分からない人、それが周りからの矢崎の印象である。

薬物で逮捕されたと聞いても知ってる人は誰も驚かないだろう。

そんな人だから新人作家の発掘や編集をやれているのかもしれないが。

「それで次回作のアイデアすら思い付かないと。」

矢崎は突然冷静になり冷たくそう告げる。

「はい。もう引退したほうがいいんですかねー」

「そんな台詞軽々しく言わないでくださいよ!」

このテンションの変わりようがついていけないと言われる原因である。。アイスコーヒーを飲んでいるのにいきなりあつあつのお茶を口に入れられるような変化だ。

「そうだ先生、これ興味ありません?」

と矢崎は何か思い出したかのように鞄を開け一つの原稿を取り出した。

「こういうのって作家に見せていいんですか?守秘義務とか大丈夫ですか?」

「まぁまぁ、それは私と先生の仲ですしね♥️、あっ編集長には言わないでくださいね!」

矢崎は耳元でこそこそそう告げる。

彼女が美人という事もあり羨ましいと周りの視線を感じるが全然そんな事はない。

薬物常習犯ってくらいのテンションの降り幅なのだ。猪瀬はかわって欲しいとすら思っていた。

「編集長にばれたら駄目なら見せないでくださいよ。どれどれ『エルフ』?シンプルなタイトルですね。」

呆れながら猪瀬はその小説を読み始める。

「アイスコーヒーミルク多めです~」

そんな中ウェイターのメイドがアイスコーヒーを運んでくる。

「ありがとねお姉さん!所でLINEやってる?」

「打ち合わせ中にナンパしないでくださいよ。」

「ごめんなさい。デート中に他の人にうつつ抜かすなんて彼女失格ね!」

「誰が彼氏ですか!誰が!」

こんな風なノリが毎回続く。

本当に嫌になる。

「それでどうでした。面白いでしょ?」

矢崎は笑顔で爛々としながらそう告げる。

「そうですか?ストーリーはいいですが、文才は無いですね。」

猪瀬は率直な感想を矢崎さんに伝えた。

 

 

「誰の文才が無いですって!?」

隣の席の金髪少女が立ち上がり怒り心頭な顔でそう告げる。

「えっ、もしかしてこの『エルフ』作者の子!?」

矢崎さんの方を見ると笑いを堪えながらお腹を抱えている。

だから矢崎は嫌われるのである。

「どういうことよ矢崎さん!すごい人に合わせるって聞いてついてきたのに普通のおっさんじゃない!」

「誰がおっさんだ!23だ!このロリ女!」

「まぁまぁ落ち着いて、二人とも」

矢崎はこの場を納めるためにそう告げる。

笑いを堪えてなかったら百点の行動なのだが。

「説明してください矢崎さん!誰なんですかこのロリ女?」

「誰がロリ女よ!18よ!結婚だって出来るんですからね!」

「まぁまぁ、落ち着いて、こちらの方はエノーラさん、期待の新星作家さんです。そしてこちらは猪瀬さん、ベテラン作家さんです。」

「新星作家?そんな名前聞いたことないけど」

「猪瀬なんて名前聞いたことないわよ?」

二人は同時にレコードを回したみたいに同じタイミングで告げる。

「おっ、二人案外相性よかったり?」

矢崎はニヤニヤしながらそう告げる。

ムカつく顔である。

「そんなわけないです!」

「そんなわけないわ!」

また同時にそう告げる。

「ほらまたー。この仲良さなら猪瀬さんに執筆頼んで良さそうですねー」

「「は!?」」

矢崎からのありえない発言に耳を疑い、猪瀬は目を点にした。エノーラもおんなじ反応だった。

「ええ 猪瀬さんには文章力がありますし、エノーラさんにはストーリーの作り込みが凄くいい。この二つが合わされば最高じゃありません?」

「そんなカレーとケーキを合わせるみたいな理論あげないでください!」

「こんなやつが執筆者ですって!?ストーリーが台無しになるわ!」

エノーラはテーブルを叩きそう告げる。

「猪瀬さんこんなに煽られてますよ?見返したくありません?あっ猪瀬さんには無理か~」

矢崎はこれを待っていたかの用にむかつく顔でそう挑発する。

「やってやろうじゃねぇか!」

その挑発は猪瀬の逆鱗を刺激した。。

猪瀬は店を出て自転車をこぎ家に高速で向かう。

こんなに自転車を飛ばしたのはいつ以来だろう?

初めて出版社に呼ばれたときか?

そんな事を考えながら猪瀬は自転車を漕ぐ。

 

 

急いで帰った猪瀬は早速パソコンをつける。

自分を罵倒したあの女を見返してやろうと暑くなり執筆を始める。

エノーラの『エルフ』は異世界に転生した少女マイがエルフの掟に縛られながら生きているエルフ、エルフィーを自由な世界に連れ出す。よくある異世界モノだ。

だが、独特な世界設定や掟という秘密が隠された物をうまく書けている。

だが文法はイマイチというチグハグな小説だ。

そんな小説に猪瀬は妙な感じを持っていた。

妙ななつかしさを感じていた。

少し昔に読んだことがあるような不思議な感覚に襲われていた。

だが猪瀬は挑発してきた編集やエノーラを見返すために小説を描き続ける。

 

 

 

 

「なんであの男を紹介したの?」

エノーラはチーズケーキを口に運びながら当然の疑問を編集の矢崎に投げ掛けた。

「何て言うかあなた達似てるんです。勿論顔がとかじゃありません。」

「じゃあどんな所が似てるって言うのよ?」

「完璧主義者って言うか。作品を生かしきれてないと言うか。」

矢崎は遠くを見ながらコーヒーに口をつけそう告げる。

「でも猪瀬ってやつは本を出してるんでしょ?それで生かしきれてないってどういうこと?」

「猪瀬さんは確かに本は出しました。でも結果は散々でした。文才はあるが作品にこだわり過ぎました。ハッピーとは言いきれないエンドで読者からの批判が多かった。編集長はその終わり方が気に入らず変えさせようとしました。ですけど私と猪瀬さんは違いました。」

「ふーん それでどうしたの?」

エノーラはケーキの最後の一口を食べ、聞く。

「この終わりをと変えるなら死んだ方がましだってビルから飛び降りようとしました。それで編集長がおれてそのまま出版されました。」

矢崎は大笑いしながらそう告げる。

「ふーん」

エノーラはコーヒーを飲みながら考える。

私ならどうしただろう?

延々と書き続けたのだろうか?

作家になるのは夢だ。

だが書きたくもない作品を書くのだろうか。 

「出来たぞロリ女!!」

猪瀬は扉を勢いよくあけエノーラに向かってそう叫ぶ。

「うるさいわよ!そんなに叫ばなくても分かってるわよ!見せてみなさい。」

エノーラは猪瀬の原稿が入ったパソコンを奪い読み始める。

「悔しいけど面白いわね」

エノーラは虫を潰したかのような目をしながらそう告げる。

「だろ!お前の幼稚な文よりは幾分かマシだ!?」

猪瀬は勝ち誇りそう告げる。

エノーラは悔しい顔をしながら

「2話からはこれぐらい面白く書いてやるわよ...」

エノーラは悔しそうな顔ででそう小さな声で呟く。

「2話からじゃ駄目なんです。」

矢崎はやれやれと言った顔で告げる。

「何で!?」

エノーラは驚いた顔でそう投げ掛ける。

「家の編集部は一話で判断します。面白いかどうかを」

「何でよ!最後までみて面白いかどうかを判断しなさいよ!」

エノーラは当然の疑問を矢崎に投げ掛ける。

「家の編集長は掴みでがっしりハートをつかむ作品しか使いません。だから猪瀬さんの方を使いましょう!!」

矢崎はエノーラからパソコンを奪って操作を始める。

「ちょっと何してるんですか矢崎さん!?」

「何って編集部に送っただけです。」

矢崎は笑顔でそう告げる。

「何をかってにやってんのよ!」

「だって締め切りまで時間もないしいい仕上がりなんでしょ?ならいいじゃないですかー」

矢崎は悪びれる様子もなくそう高らかにつげる。

「このくそ女!!私の処女作よ!!」

エノーラは矢崎の常識外れの行動に怒り矢崎を殴ろうとする。

当然だ。

デビュー作を知らない他人の文で提出される。

それは初めてのコンテストで先生が八割書いたのに自分の名前で提出されるようなもの屈辱である。

矢崎はよけながら電話に出る。

「はいはい 佐藤先生が来ましたか~コーヒーでも出して待たせておいてください。」

矢崎は鞄の準備を始める。

「まだ話は終わってないわよ!」

「すいません~用事出来ちゃいまして」

矢崎はそう言い走ってメイドカフェを後にする。

「ちょっ!待ちなさいよ!」

エノーラは窓から叫ぶ。

その声を無視され矢崎は走り抜けていく。

「えーとお会計2万円になります~」

メイドさんが悪そうにそう告げる。

「2万円!?なんでそんなにすんのよ!メニュー表見せなさい!」

エノーラは驚きメニュー表を見る。

「コーヒー一杯3000円!?ぼったくりじゃない!?そんなお金持ってきてないわよ!あんたある?」

エノーラの慌てた顔を目にし、猪瀬はどこか懐かしさを思い出しながら財布を確認する。

「あれ?」

本来そこにあるはずの指の感覚がない。

その代わり紙のような感覚が。

『この前の参考資料代抜いておきますね♥️』

「あの女!全部抜いて生きやがった!」

猪瀬は次あったとき絶対泣かすと思い叫ぶ。

「あんたカ、カードとかないの?」

涙目でエノーラはそう告げる。

「そんなものねぇよ!」

あったら苦労しない

「ならどうすんのよ!」

「なら皿洗いとお手伝いですねー」

メイドさんが笑いながらそう告げるが、目が笑っていない。

 

 

「似合ってますよ~」

「凄く似合ってるぞ!ロリメイド!」

「作家デビュー日初日にメイドカフェでメイドやってるって何なのよー!もうメイドカフェなんてこりごりよ!」

ギャグ漫画ならここで終わるのだろうが世の中はそんなに甘くない。

猪瀬は皿洗い、エノーラはメイドをして代金分を働いた。

終わる頃には二人とも疲れきっていた。

「おつかれさん」

「ありがと」

猪瀬はエノーラの後頭部に缶コーヒーを当てそう告げる。

最初の険悪な雰囲気はなんだったのかいうほど、仲良くなっていた。

これが矢崎の作戦なら大したもんだ。

「..あげるわよ...」

「ん?なんて?」

猪瀬はよく聞こえず聞き返す。

「あんたの方が凄いって認めてあげるっていってんの!」

エノーラは顔を赤くしながらいい放つ。

「ありがとよ、だが次の話はかかないからなエノーラ」

「……じゃなくて」

「?何か言ったか?」

猪瀬はエノーラの声が聞こえなかったので聞き返す。

「夢咲《ゆめさき》遥《はるか》よ!私の名前!」

そういい放ちエノーラもとい夢咲は走り去る。

気のせいかその顔は赤く感じた。

 

 

 

「彼女達青春ですねー」

矢崎は影に隠れながら写真を撮る。

「ヤーちゃん良かったの?作家さんを働かせたりして」

「いいのいいのあの二人にはいいイベントだったでしょ」

矢崎は友達のメイドの椿《つばき》さんにお礼のアイスを渡す。

「あの二人いい化学反応起こすと思いません?」

「どうだろうねー 拒絶反応起こしちゃうかもよ?」

「本当はわかってるんでしょ?大御所作家のアイルさん?」

「その名前で呼ばないでってばーもう引退したんだから。」

椿はぽかぽか殴りながら呟く。

「星になるか無名のまま終わるか。頑張りどころですよ猪瀬さん」

「そのときはメイドカフェで雇ってあげようかなー」



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プロローグ第二話喜びと悲しみ

ペロッ

顔に水滴が滴る。

「分かった起きるよ...飯だろ?」

猪瀬は愛犬のライムに顔を舐められて起きる。

これはライムを飼い初めてから毎日のように起きるイベントだ。

猪瀬は慣れた手付きで餌をお皿に入れる。

「まてだぞ!」

「クゥーン」

ライムは餌を前によだれを滴し、いまかと待っている。

「食べていいぞ。良くできたな!」

「ワンッ」

愛犬は凄い勢いで餌を食べる。

「餌は逃げないって、ゆっくり食べろ。」

猪瀬は少し呆れながらライムの背をなぜる。

「さて俺も朝食にするか。」

猪瀬は早速朝食の調理を始める。

調理といってもパンをトースターで焼くだけだが。

パンが焼き上がるのを待っている間にコーヒーを入れ、ニュースを見る。

チンッ

と心地がいい音が台所に響き渡る。

「待ってたぜ。」

猪瀬はバターを塗りあつあつのパンにかぶりつく。

「ふーん 如月練太郎がまた実写化か。」

猪瀬は携帯でニュースの速報を受けそのニュースを知る。

如月練太郎 

猪瀬と同じ出版社で少し後輩の作家でストーリー小説の巨匠とも呼ばれる凄い作家だ。

「俺の作品も実写化とかしねぇかなぁ…無理か。」

猪瀬の作品は鳴かず飛ばずの作品でかたや練太郎は大ヒット。

その大きな差を噛みしめ少しブルーな気持ちになる。

「ワン!」

「俺をはげましてくれるのか?ありがとな」

ライムは俺のブルーな気持ちを察したのか俺に声をかける。

もしくはパンの耳が欲しかったのか。

猪瀬はポジティブに考え、自分を励ましてくれてると解釈した。

そんな時携帯電話が振動する。

「もしもし猪瀬先生ですか?昨日の事で電話したんですが!」

朝から元気だなと思い相槌をうつ。

「あぁ、お詫びですか?」

「お詫び?何か私悪いことしましたっけ?」

「お金抜き取って行ったことですよ!しかも無許可で!」

「あぁ、その事ですか。ごめんですって今度コーヒ豆で煮たウインナーでも奢りますから。」

それはただのコーヒーの香りがするウィンナーなのではないかと思いつつ猪瀬は電話してきた用件を訪ねる。

「それで何で電話してきたんですか。昨日のお詫びじゃないんなら僕には分かりませんよ。」

「そうでした!いやー昨日の猪瀬先生が書いたエルフなんですけどエノーラさん名義で提出したら編集長にばれて大目玉喰らっちゃいましてー」

「本当に提出しちゃったんですか!?そりゃ怒られますよ。」

猪瀬は昨日の話はジョークかと思っていたがこの人にはジョークが通じない事を忘れていた。

「でもせっかく良くできた作品なのにこのまま眠らせておくのも勿体無いので猪瀬先生名義でなら出版させるって」

「本当ですか!?でもエノーラはいい顔しないんじゃ。」

それはすごく嬉しいが元はエノーラの作品だ。

盗作と言われても可笑しくない。

「エノーラさんからの了承は受けとりました。後は猪瀬さんのOKだけです。」

「本当ですか!?なら是非!」

そういい俺は即答する。

「そうですか!ならのちほど書類などにサインなどが欲しいので後程出版社に来ていただけますか?」

「はい!」

猪瀬はすぐ返事をする。

久々の書籍化だ、嬉しくないわけがない。

だがエノーラはいや、夢咲は本当にいいのか?

デビュー作を横取りして書籍化..猪瀬は後味が悪い感じがしていた。

 

「そうですか...はいOKです。」

夢咲は矢崎からの電話を受けた。

やはりと言うか駄目だった。

そりゃそうだ。

夢咲が書き上げた作品ではない。

ストーリーの大元を考えたのは私だが書いたのは彼だ。

彼がこの作品を出すべきだ。

そう納得できればどれだけ心が楽になっただろう。

本当は猪瀬の久々の出版を祝福してあげるべきなのは分かっている、だが夢咲の心の闇がそれを許さない。

私の子供を横取りして

私が出す筈なのに

私が評価を受けるべきなのに

そんな言葉が心の中から泥水のように涌き出てくる。

そんなとき夢咲の携帯から無機質な電子音が鳴り響く、電話だった。

「もしもし夢咲です。」

夢咲は元気の無い声で電話にでる。

「夢咲か!」

夢咲は今一番聞きたくない声に驚き携帯を落としてしまう。

「夢咲であってるか!」

「えぇ、夢咲よ!!なんで電話番号知ってるのよ!」

夢咲は涙声を誤魔化すために大声で虚勢を放ち電話に出る。

「矢崎さんから聞いてさ。」

「そんな事より用件は何なのよ?用件が無いなら切るわよ」

本当はすぐに切りたい。

なぜならどす黒い心の闇が漏れ出してしまいそうだから。

「昨日矢崎さんが言ったこと覚えてるか?」

昨日矢崎が言ったこと、どれだろう?

コーヒーはミルクマシマシに限るとかそんな事か?と心を明るくするために考えるがそれはすぐ頭から消えていった。

「どれの事よ、いちいち覚えてないわ。」

「二人が合わされば最高って話だよ!」

あぁそんなこと言っていたな。

「それがどうしたのよ?二人が合わさるなんて無理でしょ?」

「それが無理じゃないんだ!お前がストーリーを書いて俺が執筆をする。そうすりゃあいいんだ!二人で書かないか?」

「そんな提案...」

本当ははいって言いたい。

だがこんな才能が無い私が彼の足を引っ張らないかと思えてしまう。

「お前才能が無いとか思ってんだろ!」

「そ、そんなわけないじゃない!私は...」

ここで天才といい放つ事が出来ればどれだけ良かっただろうか。

「俺も才能がねぇってずっと考えた。だがあの小説を書いてから分かったんだ。小説っていうのはストーリーだけでも文才だけでも駄目なんだ。2つが完璧じゃなきゃ最高じゃねぇ。俺は一人でそれが出きるほど天才じゃない。でもお前と二人ならやれる気がするそう思えたんだ。だからやろうぜ!」

あぁ、心の闇が消えていくように感じた。

この人となら最高になれるの?

この人となら傑作が書けるそうかんじた。

「そこまで言うならOKよ!その話受けてあげようじゃない!半端な文章じゃ許さないわよ!」

素直に気持ちが伝えられたらどれほど良かっただろう。

ありがとうと、いつか言えたなら

 

「なる程~それで本はどうするんですか?」

俺は矢崎さんに電話を書けた。

「二人の合作って事で何とかなりませんか?」

我ながら無理なお願いをしたもんだ。

「元々そのつもりでしたよ~」

「え!?」

驚きの言葉に心が驚かされる。

もしかしてエスパーなのかと思えた。

「最初から二人の合作で発表するつもりでした。猪瀬さんから切り出さなければこちらから切り出すつもりでした。」

「ならどうして」

「どうしてですか...二人の絆を高める為です~

これから二人で書いて行くならそれぐらい出来なきゃ駄目ですから、合格です!」

と矢崎はクラッカーをならす。

矢崎には叶わないなと本当に心から思う。

「それでペンネームは決めてあるんですか?」

待ってましたと言わんばかりに俺は二人で決めたペンネームをいい放つ。

「二人の夢を背負うから夢咲 優也です!」

「いい名前ですねー 二人の名前からとってるんですねー本当におめでとうございます~」

また矢崎はクラッカーをならす。

「矢崎何だこのゴミは!自分で片付けろよ!」

編集長が通りかかり怒鳴りあげる。

矢崎さんは怯えた様子でクラッカーのゴミを拾い集める。

「手伝いましょうか?」

「大丈夫ですよ~では次は二人で来てくださいね~書籍化の話とかしたいので~」

「分かりました!」

俺は嬉しい顔で出版社を後にする。

 

「嘘なんだろ?」

「え?」

突然の編集長の言葉に矢崎は驚く。

「二人で書くってこっちから切り出す気なんて無かっただろ?」

「やっぱりばれちゃいましたか~」

「そりゃあ何年お前の上司やってると思ってんだ。」

やれやれと編集長は煙草を咥える。

「どうぞ、えぇ、コンビの話が出てこなかったら有耶無耶にしてましたよ。編集長がやっぱりだめとか言った~とか言って」

矢崎は編集長の煙草にライターで火をつける。

「手厳しいねぇ」

「あの二人はもうその道しか残ってなかったんです。それに気づけないようじゃ大ヒット作家になんて夢のまた夢です。編集長もそう思って許可してくれたんでしょ?」

「あぁ、あいつらはハンバーガーだからな。片方だけじゃまったく駄目だからな。」

「編集長こそ手厳しいじゃないですか~」

「そうか?まぁコンビが出来て良かったじゃねぇか」

「まだまだこれからですよ編集長、これからどんな波乱があることやら」

そういい私も煙草に火をつける。

煙草の煙が屋上から天へと高く上る。

「この煙みたいに星まで登るか、雲で消えるかそれは二人次第だな。」

「似合わないですね~」

「この野郎!」

「野郎じゃなくて女ですよー」

矢崎は編集長から逃げその場を後にする。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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第一章 一話矢崎さんとの出会いと修羅場への匂い?

「決まりませんねー。」

矢崎はアイスコーヒーを飲みながらそう呟く。

「決まらないって何が?」

メイドカフェの店長の椿が矢崎に聞き返す。

「イラストレーターですよ~ 書いてくれる人があんまり見つからないんです~面白いから引く手あまたかと思ったんですがね~」

「まぁ、その内いいイラストレーターが見つかるよー 私もあんまり見つからなかったけどいい人と巡り合えたし。」

椿のデビュー作品は変わり物の作品過ぎて誰も書きたがらなかったのだが…

「大作家さんの言葉には説得力がありますねー。でもいつになったら恋の方のいい人が見つかるんですかねー。」

「余計なお世話だよ!!私はみんなのメイドさんでいいの!。」

「ならメイドさん、このラブラブオムライスを一つ。」

「友人にやるのは辛いよー。それにこの後打ち合わせって言ってなかった?」

「あっ、忘れてた!コーヒー代はつけといて!」

矢崎はうっかり忘れていた打ち合わせに間に合うようにダッシュする。

 

「遅いわね矢崎!!こういうの大体編集が先にいるもんじゃないの?」

「まぁ、矢崎さんに常識を求める方が無理だって。」

夢咲を宥めながら猪瀬は矢崎との出会いを思い起こす。

 

「どうも初めましてお電話した矢崎です~。」

「は、初めましてい、猪瀬です。よ、よろしくおねがいしましゅ!」

猪瀬は初めての出版社と言うこともあり凄く緊張して話をする。

矢崎はやはり慣れているのかすごく落ち着いている。

「こちらこそよろしくお願いしますねー。それで早速送って頂いた小説の話をしたいんですけど~」

「は、はい。」

猪瀬はどんな感想が帰ってくるのか凄く手が震えていた。

そんな手を見せたくないので猪瀬は机で手を隠す。

悪い評価だったらどうしようと心が心配する。

いや、初めての持ち込みなんだ。

悪い評価でもちゃんと受け入れよう。

そう思い覚悟を決め評価を聞く。

「面白いですね~『少年の旅』 主人公の少年が妹を治すために色んな所を周り旅をするって言うありふれたストーリーなのに、主人公の妹への思いや、各地で合う人達の思いや思想が伝わってきましたよ~ 本当に新人ですか?」

思ったより好印象で猪瀬の心が跳ねる。

「は、はい小説を持ち込むのは初めてです。」

「持ち込むのはって事は書いてはいたんですね?」

「はい、こ、国語の先生が才能があるから書いてみないかって言われて。」

「へぇーじゃあその才能は先生のお陰ですね。」

「は、はい先生には本当に感謝してます。よく小説を読んで批評もしてくれて…」

「凄い先生何ですね~ それで、この小説の書籍化の話何ですけど~」

「え!?書籍化!?」

猪瀬は当たり前のようにいい放たれた言葉に驚愕する。

書籍化?

本になる?本当に?

「えぇそれぐらいいい出来です。その先生に太鼓判を貰って持ち込んだじゃないんですか?」

「いえ、実は先生に内緒で持ち込んで…」

「持ち込みしたくなるほど自信作だったんでしょ?それなら当たり前ですよ~」

猪瀬は矢崎の褒めの言葉に頬が揺らぐ。

「そ、そんな自信があるわけじゃなかったんです。でも記念に一度持ち込みしてみようと...」

「なる程その小説が思ったより高評価で驚いてそんなに緊張してるって訳ですか~

ならメイドカフェでも行きません?」

「へ?」

メイドカフェ?この人は打ち合わせ中に突然メイドカフェに行こうと誘ってきたのか?

編集者ってこんなもんなのか?と驚きながらも猪瀬は同意する。

 

「お帰りなさいませご主人様~こちらの席へどうぞ~」

メイドさんは二人に向かってお辞儀をし、席へ案内する。

「メイドさん注文いいですか~一つはこのラブラブコーヒーミルクマシマシで~先生もラブラブコーヒーでいいですか?」

ラブラブコーヒー?

よく分からないが猪瀬はそれに同意する。

「は、はいそれで」

「いい店でしょ?私のお気に入りなんです。

いつも担当になった作家さんを連れてくるんです。」

「そうなんですか。編集部の意向とか?」

「いやー私の趣味ですよ~あ!新しいメイドさん!写真いいですか?」

矢崎は自分の担当になる作家の事を忘れたようにメイドさんとの写真を取ろうとする。

「いやーなかなかいいメイドさんでしたね~

先生はどのメイドさんが好みですか?」

「ど、どのって」

猪瀬はトマトのように顔を赤くする。

「軽い気持ちでいいんですよ~」

「あ、あのメイドさんです。」

猪瀬は髪の長い青髪のメイドさんを指差す。

「ほおー いい趣味ですね~どんな所が好きなんですか~」

矢崎はニヤニヤした顔をする。

「そ、そんな事より書籍化の事って何ですか?」

猪瀬は話題を逸らすために書籍化の話をする。

「あ、そうでした~ イラストレーターのお話と直すポイントを伝えようと思ったんです~」

直すポイントはよく分かるがイラストレーターの話はよく分からなかった。

持ち込んだのは先週でこんなに速く決まるわけがない。

「イラストレーターの話ですか?」

「そう。実は私の知り合いに書いてみたいって人が居まして~あ、ちゃんとした人ですよ?」

「で、その人どんな絵を書く人なんですか?」

「いつもは安藤先生の小説とかの絵を書いてる人何ですけど~」

「あ、安藤先生の!?」

あの恋愛小説で有名な安藤《あんどう》仁美《ひとみ》先生の小説の絵を書いている人。

そんな凄い人がなぜ新人の自分のイラストを書いてくれるのか気になり猪瀬は矢崎に質問する。

「な、なんで俺なんかの作品を!?」

「はいこの前『少年と恋』を見せまして~気に入ったとかなんとか言ってましたよ。」

猪瀬は自分の作品を気に入って書いて貰える。そんなに嬉しいことはないと心の中でガッツポーズをした。

「そ、それなら是非お願いしたいです!」

「それと直すポイント何ですけど~」

これが猪瀬と矢崎さんの出会いだった。

初対面でメイドカフェに連れて行く変人それが矢崎だ。

そんな人に常識を求めるのが間違っている。

と猪瀬は呆れながら夢咲を宥める。

「遅いわよ!」

「いやーすいません~ 電車が遅延してまして~」

嘘だという事が猪瀬にはわかった。矢崎とは長い付き合いなので目を見ただけで猪瀬は嘘が何となくわかるようになってしまった。

嘘だと分かったがそれを指摘すると夢咲がまた怒り出しそうなので心の奥にしまっておくことにした。

「それで呼び出した訳って何よ!?」

夢咲は切れ気味で矢崎に向かって問いかける。

「はい、イラストレーターさんの件なんですけど~誰かいい人知りませんか?」

「いい人ってそういうのは編集部が何とかするもんなんじゃないの?」

当然だ。

それは本来編集者の仕事だ。

「そうなんですけど~それが合う作家さんが見つからなくてですね~すいません~」

矢崎は謝罪をする。

矢崎の謝罪はいつも軽い。

危険があればすぐ切る安牌のような物だ。

猪瀬がそんな事を思っている中二人が考えているようなので猪瀬も考える。

考えていると一人のイラストレーターが頭をよぎった。

「いいイラストレーターさんですか...俺のデビュー作を担当した姫野《ひめの》先生なんてどうですか?」

姫野先生は猪瀬とよく進行がある先生だ。

お願いすれば多分聞いてくれるだろう。

「一番最初に思い付きましたけど姫野先生ですか~きびしいと思うですけどね~」

「何ですか?姫野先生は良くして貰ってますしお願いすれば..」

「相変わらず朴念仁ですねー。姫野先生があなたに惚れてるから良くして貰えてるんですよ。そんな先生に夢咲さんとコンビを組んで小説を書くなんて伝えたら..」

矢崎は小声でそうを呟く。

「何か言いました?」

「いえ、なんでも!とにかくきびしいかと」

「何でよ!お願いしてみましょうよ!何なら私からもお願いしてあげるわ。女性なら少しは気を良くして書いてくれるだろうし。」

「女性ってのが余計不味いんですよね~」

「そうだな、お願いしてみてよう。合ってみたかったし。」

猪瀬は姫野先生とは対面でお会いしたことがない。何でも恥ずかしいから~とかいっていつも断られるが大事なコンビ結成して初めての小説だ。

お願いすればやってくれるだろうと猪瀬は思った。

(姫野先生いつかお会いしてみたいとか言ってたけど二人で行ったらどんな顔をするやら..それも面白そうですね!)

「よし行ってみますか!!なら明日お台場駅集合で早速行きましょう~」

「ええ。」

「はい!」

そんな訳で三人は明日姫野先生を訪問することを決めて編集社を後にする。 

 

「猪瀬先生がお会いしたいって…駄目よ!恥ずかしいわ!!でも折角の距離を縮めるチャンス..OKするのよ勇気を出して!」

姫野は編集からのメールにOKの返事を出す。

「当日どんな服着ようかしら!!いいのあったかな~ 下着は..まだ早いか」

姫野は恋する高校生みたいにベットに横たわりながら足をジタバタする。

明日になれば大好きな猪瀬先生を写真越しではなくリアルで合えるんだと姫野は心が踊る。

姫野はこの時修羅場を迎えることを想像していなかった。

いや、想像すること事態無理だろう。

 

 




次回作家同士の修羅場が見られるよ!


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一章第一.五話 才能とネガティブ

私は自分の名前が嫌いだった。

姫なんて自分には似合わない名前が大嫌いだった。

「そう?ピッタリじゃん!」

そうある男の子に言われるまでは

そして私の絵も嫌いだった。

凄いイラストレーターには遠く及ばない私の絵が嫌いだった。

後にこう言われるまでは

「俺は凄く好きですけどね姫野先生の絵」

そういい声で彼はそうこたえる。

   

 

私の代表的な絵と言われる安藤仁美先生の作品を書いたときも私はその絵に納得していなかった。

これで安藤先生の甘酸っぱくてビターなストーリーを表現できているのか?

そう思い何度も何度も絵を書き直した。

どれだけ頑張ろうと納得がいく作品が作れない自分がイラストレーターになんておこがましいとすら思えた。

矢崎さんは才能があると言って勝手に私の絵を持っていった。

そして安藤先生の小説にイラストを着けることが決まった。

意味が分からなかった。

才能がない自分がない私がなぜ書かせてもらえたのか分からなかった。

安藤先生や矢崎さんの優しさなのか?

いや、他にいい作家が居なくて仕方ない苦肉の策なのだろう。

とにかく私はもうイラストを描くのは止めるつもりだった。

私の絵は他人に迷惑なのだ。

そう思っていた。

あの人とあの作品に出合うまでは

 

「姫野先生いらっしゃいますか~」

ピンポーンとチャイムが鳴る

姫野はまた絵を書かせようとする矢崎が来たことを確認し、居留守をしようとした。

そんなときカチャという音が私の家に響き渡った。

「な、なんで鍵なんて持ってるんですか!?」

姫野は驚き慌てて布団に隠れる。

「いやー大家さんにちょーと頼めば貸してくれましたよ。私の美貌に感謝ですね~」

大家は矢崎に篭絡されたことに姫野は呆れ軽蔑した。

「ふ、不法侵入ですよ警察よ、呼びますよ!」

姫野は勇気をだし震えた声で脅しをかける。

「そんな怯えたヒヨコみたいな声じゃ誰もビビりませんよ~と」

矢崎は慣れた手つきでカーテンを開け、窓を開け換気する。

「それで今日のようなんですけど~」

「も、もういいです!!どうせまた私に絵を書けって言うんでしょ!?」

姫野は心からの叫びを矢崎にぶつける。

「そりゃそうですよ~才能がある人にお願いするのは当然の事じゃないですか~」

「才能があるなんて嘘つかないでください!」

「嘘なんかじゃありませんってその証拠に安藤先生の『恋のキューピッド恋をする』も売れたじゃないですか~」

「そ、それは安藤先生の力であって私の力じゃありません!絵が私じゃなくても大ヒットしてました。」

「それは分かりませんよ~ 少なくとも半分は姫野先生の絵の力だと思いますけど~」

「そ、そんなことありません!とりあえず出ていってください!」

姫野は矢崎をか弱い力で押し帰らせようとする。

「分かりました。今日は帰りますけど...よければこの小説読んでみてくださいね~」

と矢崎は一冊の原稿のコピーをおき、その場を後にする。

「まったくはた迷惑な人ですね。それにどんな小説を見せたって私はもう絵を書きたいなんて思いませんよ。」

そんな事をいいながら姫野はそのコピーに目を通す。

 

「はぁー姫野先生はもっと自信を持って欲しいんですよね~。謙虚すぎます。」

「そうだね、私も凄く才能があると思うよ。

私が現役時代なら絵を書いて欲しいぐらいだもん。」

矢崎はまたメイドカフェでコーヒーを飲んでいた。

「おっ、じゃあ現役復帰して書いてもらいます?」

「だーめ 私はもう引退したの。今はメイドさん達の生活もあるし。」

「変わりに私が店長になってあげますよ~」

「駄目駄目!ヤーちゃんが店長なんてやったらセクハラしまくってメイドさん皆止めちゃいそうだもん。」

「私をなんだと思ってるんですか?」

「痴漢常習犯?」

そんな他愛のない会話をし、コーヒーを飲む。

これが矢崎の日常だ。

そんな日常の風景にいつもと違う音楽が流れる。

「あれ?姫野先生からの電話だ。珍しいていうか初めてですね。姫野先生からの電話なんて」

矢崎は驚きながらも何かあったかな?と思いつつ電話に出る。

「す、すいません矢崎さんのケータイですか!?」

いつもと違う凄く動揺した様子で姫野は電話で大声を出す。

「うっさ!な、なんですか姫野先生?」

「この小説なんなんですか!?」

この小説?と疑問を浮かべる矢崎はそういえば姫野の部屋に小説を置いていった事を思い出す。

「あぁ、『少年と愛』ですか?すみません新人が書いたもので、駄目でしたか?」

「新人!?いや、そうじゃなくて、

私この作品に引き込まれてしまって!」

「へ?」

矢崎は電話から聞こえた声に驚き、耳を疑う。

元々駄目元に置いていった本に姫野先生が引き込まれた?

今までこんなことはなかった。

そう驚きながらも話を続ける。

「引き込まれたってどういうことですか!?」

珍しく矢崎は動揺する。

「は、はい特にアイナって子が凄くすきになりました!」

「アイナ?少し待ってくださいね。」

アイナと言う名前を聞き、分からず原稿をみる矢崎。

アイナは二章に登場する女の子で、盲目の少女である。

その少女は目が見えないながらも芸術家になろうと奮闘する少女。

その最後は凄く悲しいものに終わる。

「このアイナのイラスト書いてみませんか!?」

彼女がここまで興奮するのは珍しいと思い、これは好機だと矢崎は勧誘する。

「か、書きたい!で、でも私なんかじゃ..」

「分かりました!なら少女と愛を一番に読ませる権利をつけます!私より先にですよ。」

「ぜひ書かせてください!」

矢崎が提示した条件は破格の物だった。

それは新しく出来たばかりのボジョレー・ヌーボーを一番最初に飲めるようなもの。

これに断れるファンは居ない。

「良かった。ついでに作者の写真とサインもつけちゃいますよー」

矢崎は二つの問題を解決し、上機嫌になったからかおまけをつける。

「あ、ありがとうございます!約束ですからね!早速書かなきゃ!」

と姫野は電話を切る。

「良かったの?作者の写真までつけるって言っちゃって?それ編集長にバレたらクビじゃないの?」

「バレなきゃいいんですよ!私の尊敬する作家さんもこう言ってました。バレなきゃ犯罪じゃないんですよって」

「クビになっても雇ってあげないからねー」

「えぇーそんな~私とつばちゃんの仲じゃないですか~」

「暑い!抱きつかないで!」

矢崎は椿にそう言われても抱き続けるほどの機嫌の良さだった。

 

そう私は『少年と愛』に惚れてしまった。

アイナだけではなく、多彩なキャラや世界観そして言葉の表現。

こんな傑作は見たことはない程だ。

どんな人がこんな小説を書いてるんだろうか?

可憐な少女を想像していた私の期待は裏切られる。いい意味で

「いっくん?そんなわけないか」

矢崎さんから送られて来た写真の人物を見てどこか私の昔の友達だったいっくんを思い出す。

私が一人ぼっちな時声をかけてくれた天使で虐められていた時には助けてくれた王子様。

そんな友達に恋をしないわけがなかった。

それから私は少しでもこの素晴らしい世界を表現できるように努力した。

そう凄く努力した。

その影響で倒れるほどだった。

「倒れるまで書くなんて馬鹿なんですか?」

目を覚ました私に矢崎さんは泣きながら呆れた声でそういい抱きつく。

「まだ書かなきゃ..」

まだ私は十分にあの世界をアイナを完璧に表現できていない。

こんな所でゆっくりしてる場合ではない。

「本当に死んじゃいますよ!」

矢崎さんは私を押さえつける。

私は書くために暴れる。

「しょうがないですね~医者さんここって電話OKでしたよね?」

といいながら矢崎さんはどこかに電話をかける。

「もしもし猪瀬先生ですか?私の友達があなたの大ファンなんですけど、倒れたのに仕事を止めようとしないんです。なんとか言ってあげてください。」

い、猪瀬先生!?

ってことは『少年と愛』の作者!?

突然の電話に私は驚き、あわてふためく。

「えー、もしもし?友達さん?しっかり休まないと駄目ですよ?」

「は、はい。しっかり休みます!」

私は推しの先生の声に逆らえるわけもなく休む。 

猪瀬先生って凄く優しいんだと思いながら私の意識は消えていく。

 

「先生大丈夫ですか!?」

「大丈夫です。ただ暴れたことで体力が無くなって寝ただけです。」

矢崎は医者のその言葉に安心する。

「これが本当に鶴の一声ですね~それにしても凄い信者ですねーあんなに暴れたのに止まるなんて彼女が出来たなんて伝えられたら死んじゃいそうですね~」

矢崎は笑い、顔を見つめる。

「むにゃむにゃ、いっくん~」

「いっくん?猪瀬先生のことかな?」

矢崎は良く分からない寝言を聞いたあと病室を後にする。

 

「まさか本当に猪瀬先生の彼女を紹介することになるとは~言霊って奴ですかねー倒れなきゃいいんですけど」

矢崎は呆れ、煙草に火をつける。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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一章第二話寝汗は大トラブる?

犬は気持ち良く寝て、鳥は囀ずるいい朝だ。

こんないい日が修羅場になるとは矢崎以外には予想できなかっただろう。

 

「ワン!」

「分かったよ起きるよ。」

猪瀬はいつものように犬の唾と鳴き声で目を覚ます。

「そういえば今日は姫野先生にお願いしに行く日だったな!」

それに気付き猪瀬は大急ぎで支度する。

そんな中家にチャイムの音が響き渡る。

誰が来たのだろうとモニターを覗く。

そこにはよく見知った女性が見えた。

「猪瀬さーん 早く中にいれて~」

矢崎はそんな冗談を大声で叫ぶ。

「止めてください!鍵を開けるので入ってください!」

近所からの風評被害を避けるために猪瀬は急いでドアを開ける。

「二度とああいうことはしないでくださいね?」

「ああいうことって何ですか?ただ私は早く部屋の中にいれて欲しかっただけですけど?何を想像したんですか猪瀬先生?」

ニヤニヤした顔で矢崎はそう言い放つ。

この女確信犯だろと思いながらこれ以上弄ばれたくないので話題を切り替える。

「どうしたんですかこんな朝早くに?」

「いやー今日は(大変になる)猪瀬先生に朝食でも作ってあげようかと思いまして~」

「そんな悪いですよ。」

「いえいえ大丈夫です。猪瀬先生には体力付けてもらわなきゃですから!寝てる時には大量の汗をかくっていいますからお風呂にでも入っててください!」

「わ、分かりましたから押さないでください。」

矢崎は猪瀬を豊満な胸を押し付け猪瀬を押す。

猪瀬は顔を赤くしながらお風呂に向かう。

「さーて料理しますか~」

矢崎はフライパンに材料を切り分け火をつける。

そして十分熱したらご飯を入れ、納豆も入れる。

「さぁ、私特製納豆炒飯の出来上がりですよ~」

出来上がった炒飯を皿に盛る。

いい香りが部屋中に充満する。

「ワンっ!」

「貴方もご飯ですねー」

矢崎はライムのご飯用に残してあげていた野菜の切れ端をお皿に入れる。

「これじゃまるで奥さんみたいですね~」

自分で言った言葉に恥ずかしくなり顔を赤らめる矢崎。

「何を赤くなってんのよ。」

「うわっ!夢咲さんどうしてここに!?」

矢崎は驚きフライパンをシンクに落とす。

「どうしてってあんたが鍵空いてるから入れって言ったんでしょ?」

呆れた顔で夢咲は告げる。

「そ、そうでした。」

「まったくしっかりしなさいよ~」

「そうだ。矢崎さんまだ起きてないみたいですしお風呂でも入ってきたらどうですか?いい湯でしたよ~」

「そうね。寒かったしお風呂頂くわ。」

(驚かせた仕返しですよ~)

矢崎は悪い顔をしながらそう心で思う。

 

「ふぅーいい湯だなぁ。それにしても矢崎さん案外...って俺は何考えてんだ!」

猪瀬は矢崎に抱いた変な気持ちを振り払おうと心を無にしようとすると余計に頭に矢崎のイメージが溢れてくる。

いつもは毛嫌いしているのに一つのイベントでこうも変わるものだろうか。

と思っていたら声が聞こえる。

「お風呂♪お風呂~♪」

音程のいい鼻歌が聞こえてる。

(ゆ、夢咲!?)

猪瀬は驚き、湯に沈む。

(なんで夢咲が...まさか矢崎さん!?)

夢咲がお風呂に来た原因を考え、矢崎が十中八九原因だろうと思う猪瀬。

(そんな事より早く止めなきゃ!)

急ぎ猪瀬は声をかける。。

「ま、まて夢咲!」

「な、なんであんたがいるのよ!」

夢咲は当然の驚きの声をあげる。

「わ、私の裸除こうと隠れてたの!?」

「だ、だんじて違う!」

猪瀬は動揺しながらも否定する。

その動揺がもっと犯人感を出しているのだが、

そのことに気づくほど猪瀬は冷静ではなかった。

「言い訳は止めなさいよこの変態!ていうことは矢崎もぐるね!」

夢咲は矢崎ならやりかねないと思い、もっと疑いを持つ。

「そうなら声をかけないだろ!」

「そ、それもそうねいや、急に怖くなったとも考えられるわ!」

「と、とりあえずパンツをとってくれ!話はそれからだ!」

「パ、パンツをおって」

夢咲は顔を赤らめる。

勿論夢咲は男性のパンツを触った経験なんてないので凄く動揺する。

「わ、分かったわ!あなた女性にパンツを触らせて快感をえる異常性癖者ね!」

「そんな変態いてたまるか!何か履かないと出れないからだよ!」

「な、なにも...この変態!」

「しらねぇよ!」

夢咲は裸の猪瀬を想像し、もっと顔を赤らめる。

「こ、今回だけよ」

顔を赤くしながらもパンツを渡す夢咲。

「あ、ありがと?」

猪瀬はお礼を言うべきなのかよく分からない状況に困惑する。

「プークスクス、今頃大混乱でしょうね~私を脅かした罰ですよ~」

「そういう事だったのね..」

「ヒエッ!?え、閻魔様!!」

夢咲の怒った顔を見て閻魔を想像する矢崎。

御愁傷様と思った猪瀬だった。

 

「案外旨いわねこの炒飯。」

「でしょ?美味しいでしょ?得意料理なんです。」

「調子に乗らないでください!」

「は、はい~」

涙目で正座をさせられている矢崎に猪瀬はいい放つ。

「全く、危うく変態認定されてコンビ解散するところでしたよ。」

「そうよまったく。」

「そ、それよりそろそろ行きませんか?」

罰が悪くなったのか矢崎は話題を変える。

「行くってどこでしたっけ?」

「あんた忘れたの!?姫野先生に挨拶に行くんでしょ?」

「あぁ、そうだった!誰かさんのせいで大変な目にあったから忘れるところだった!」

「さぁ、早く行きましょ~」

「逃げたわね。」

「逃げたな。」

「ワン!」

 

私はしがないイラストレーター、今日は夢にまでみた猪瀬先生とお会いできるの。

こんなに最高な日は無いわ。

私はわくわくして玄関で待機する。

しばらく待機していると長らくまっていたピンポンと音がなる。

待ってました!

「姫野先生入りますねー」

矢崎さんの声だ。

つまり間違えない。

「はーい。」

と私は大喜びでドアを開ける。

そこには大尊敬する猪瀬先生の姿が..

「は、初めまして姫野でふ!」

「初めまして?でいいのかな猪瀬です。」

「は、初めまして夢咲です。」

私は早速挨拶する。

尊敬する猪瀬先生の生顔に興奮する私。

あれ?夢咲?

私は少しして夢咲さん?のことに気づく。

「今日は猪瀬先生と会うはずじゃ」

「あれ行ってませんでした?今日は二人の挨拶とお願いによったんですよ~」

二人の挨拶!?

つまり結婚挨拶!?

そこで私は倒れ気を失う。

「あちゃー、やっぱり倒れましたか~」

「「大丈夫ですか!」」

二人は心配し身体を揺する。

「結婚!?」

「何言ってるんですか店長?」

「いや、どこかで知り合いが結婚って言った気がしてね。」

「どこまで飢えてるんすか。そんなことありませんよ。」

どこかで結婚したいメイドさんが反応したのはまた別の話。

 

 

 

 

 



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