インクの悪魔のヒーローアカデミア (ホム竜)
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序章

単刀直入に言おう、俺は死んだ。

原因は不明、気が付いたら真っ白な空間でぽつんと1人だ。

 

何もすることがないからその場に座り、暫くぼーっとすることにした。

だけどそれも飽きてきて、そのばで屈伸をしたり、歩き回ったりする。

すると、

 

「――あ、あれ、あれれ…?なんでここに人間の魂が…」

 

突然頭上から声が聞こえる。

俺は上に顔を向けて、声がした方向を向く。

そこには、光の塊がふよふよと浮いていた。

 

――だ、誰ですか?

 

声を出そうとしたが、うまく声が出せず、思念でしか言いたいことを話せない。

 

「あー、言いたいことはこっちに聞こえてるから大丈夫だよ~」

 

――なんで声が出せない…。

 

「え、だって君、身体ないしね。声帯がないんだから声が出なくて当然さ」

 

――は、はぁ…。

 

どうやら今の俺には声帯、および身体がないみたいだ。

つまり今の俺は…どんな状態なんだ?

 

身体がないということは、つまり…、

 

「魂ってことだね」

 

――すーっ、ですよねぇ…。

 

これでドッキリという可能性は消えたなぁ…、ってことは俺マジで死んじゃったのかぁ……。

…………。

 

――……そういえばあなたの正体、まだ聞いていないですよ。

 

「ショック隠すのが下手だなぁ、佐藤 快斗くん」

 

――…なんて?

 

「あー、聞こえてないなら別にいいよ。それよりボクの正体だよね、ボクは、あー…、君たち人間が言うところの神、という立場にいるもの、なのかな?」

 

――なんで疑問形なんだし。

 

「あー、まぁそこのところは気にしないで。…さて、と、雑談はここまでにして、そろそろきになってきてたんじゃない?なんで君がこんなところにいるか」

 

……それは確かに考えていた。

なぜ死んだ身になった俺がこんなところにいるのか。

ほかの死んだ人もここに来るのか。

考えれば考えるほどわからないことが頭の中にはてなマークが溢れ出てくる。

 

「まぁ、今君が考えていること含めて話していこうか」

 

 

「まず、君の死因はなんなのか、ということについて」

 

あ、そういえば死因もわかってなかったな、これも教えてくれるのもうれしい。

 

「君の死因は、ずばり交通事故だね」

 

――……交通事故?

 

「そうそう、中々に悲惨だったよぉ?君が横断歩道歩いてるときに、猛スピードで突っ込んでくる2tトラック、だっけ?が君を跳ね飛ばして轢き逃げ。で、跳ね飛ばされた先で別の大型トラックにも轢かれて、最終的に元が人間なのかも怪しいぐらいにぐちゃぐちゃになっちゃってねぇ」

 

――いや惨すぎんだろ、何をどうやったら1回の事故で2回もトラックに轢かれなくちゃならんねん。

 

「1周回って運がいいのかな、多分」

 

――いや知らんわ。はぁ……、うん、死因はわかったよ、ありがとう。次はなんで俺がここにいるのか、説明が欲しいんだけど。

 

 こいつに会話の主導権を握らせちゃだめだ、多分あのまま喋らせてたらどんどん話がずれていって取り返しのつかないことになってた可能性がある。

ここは少しづつ俺が会話を引っ張っていく感じで……。

 

「ひどいなぁ、君は。まぁいいんだけど」

 

――そのナチュラルに心の声に入ってくんのやめてくんね?

 

「今の君に心の声も肉声も何もないと思うけど」

 

――た、確かに。

 

「っと、なんで君がいるか、だったね。うんまぁ、ぶっちゃけるとボクのミスなんだよねぇ」

 

――は?

 

「本当は1回目の衝突で終わってて、君はほんっとうにギリギリで一命を取り留める……、はずだったんだけど、ちょっとボクのミスでトラックが2台、君のほうに向かう感じになっちゃったんだよね。で、その結果がオーバーキル」

 

――……殴っていいか?

 

「いやいや、もうすでに上の方たちにぼっこぼこにされてるから、それは無理な相談かなぁ」

 

――…で、お前のミスで俺がここにいるのはわかったよ。じゃあ俺はなんでこの場に残り続けているんだ?

 

その質問をすると、自称神はその場でくるくると回りながら、「ふふふ、その質問を待っていた」と、なんとかほざいている。

 

「ふっふー、僕のミスがなければまだ生きていたであろう、君の人生を終わらせてしまったお詫びに、転生させてあげようかなと思ってね」

 

……転生?

転生ってあれか?今どきのラノベでよくあるやつ。

 

「そうそう、それのことであってるよ。君には転生してもらおうかと思ってるんだ、…あ、元の世界に転生させてくれぇってのは無しね」

 

――なんでだ?

 

「つまらな……じゃなかった、もうすでに君の世界では君は死んだことになっててお葬式もしてる。そこに死んだ君にそっくりさん、いや、もう1人の君自身が現れたとする。さて、周りはどんな反応をするでしょうか?」

 

いまこいつ、つまらないって言いかけやがったな?…ちっ、たく…。

 

――まぁ、みんな驚くだろうな。

 

「驚くどころか大混乱だよ、死んでからすぐ生き返るならまだ前例があるからいいけど、死んで火葬されて骨になって埋められて少し経ったぐらいの時期に()が現れるんだからね」

 

――うっ、そ、それは確かに。

 

「だから君はそことはまた別の世界に転生させることにした」

 

――…別の世界?

 

「そうだ。ふふ、聞いて驚け、お前を『ヒロアカ』の世界に転生させてやろう!」

 

――…ヒロアカって何?

 

「お前まじか、お前な、ヒロアカってのは――」

 

 

~~神様説明中~~

 

 

――…つまり、人間に"個性"っていう特異性を埋め込んだ地球ってことか。

 

「まぁ人間だけじゃないけど、大方そうだね」

 

――で、俺をその世界に転生させたとして、何をすればいいんだ?

 

「いや、特に何をすればいいとかはないかな。自由に生きてくれて構わないよ。ヒーローになるもよし、普通の会社員になるのも、もちろん、ヴィランになるのもね」

 

――ふぅん、で?転生だけさせるならここに呼ばなくてもいいはずなんだが。そこらへんはどういうことなんだ?

 

「それはねぇ、お詫びその2、強くて使い勝手のいい個性を宿らせてあげようかと思ってね、……あ、1つ謝らなくちゃいけないことがあったんだ」

 

――ん?なんだ、謝らなくちゃいけないことって。

 

「本当は君に自由に個性を選ばせてあげたいんだけど、あまりにも強い個性を与えちゃうと世界のバランスがおかしくなっちゃうからさ。個性はボクのほうで選ぶことになってるんだ、ごめんね?」

 

――いや、まぁ、ふざけた理由ならまだしも、まともな理由があるなら別にいいよ。

 

「あ、そう?よかったぁ。じゃあ早速だけど、君に渡す個性を選んだから発表するね?」

 

――随分と早いんだな。

 

「そりゃあ、ボク、神なんで」(ドヤァ)

 

――…あーはいはいそうね……ふっ。

 

「おいなんで鼻で笑ったし。……じゃあ発表します、君の個性は……」

 

――……。

 

「ジャン!"インク"です!」

 

――…インク?なんかこう、ずいぶん弱そうだな。

 

「おっと、ただのインクと侮ってもらっちゃあ困るよお兄さん!この個性、インクは、君が死ぬ前、最後にやってたゲーム、"Bendy and the Machine"*1をもとにボクが一から作り上げた個性だからね!」

 

――ほぉ、それは何というか、ぶっ壊れにならないか?

 

「……まぁ、何とかなるさ!」

 

こいつの顔は見えないが、きっと目をそらして冷や汗を垂らしてるんだろうなぁ。

 

「そんなことないやい!…はぁ、ま、これで君に伝えることも終わったし、転生の準備をするね」

 

――おう。……なぁ、自称神。

 

「ん?なにかな?」

 

――…もとはといえばお前のせいで死んだのかもしれないけどさ、なんだ、あー…、ありがとよ。

 

「ふふ、そう言ってもらえてくれてよかったよ、っと、準備完了だよ。」

 

――…おう。

 

 

すると、俺の足元に謎の幾何学模様が幾十にもあわさっていき、ついには光り輝き始める。

それと同時に俺の意識も少しずつ落ちようとしている。

 

「次は二度目の死で会おう、佐藤 快斗くん!」

 

――あぁ、また会おう。

 

 

俺は完全に意識を落とした。

*1
TheMeatlyによって開発されたサバイバルホラーゲーム




早くて1ヶ月に1話、遅くて3ヶ月に1話のペースで進める予定です。
調子が良ければ1週間以内に書き終えるときもありますので、これからよろしくお願いします


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中学生編
1話,中学


今回、前回よりもほんのり長いです


「神様、1人の息子を見捨てる私をお許しください...」

 

...おいおい、俺としての自我が生まれた瞬間でこれはハードモード過ぎやしませんか、神様よ。

なんで俺は()()()()()()()()()()()()()()()

なんで()()()()()()()()()()()()

これはつまり...

 

捨てられたってことでよろしいのかな?

 

......。

...あぁんのクソ野郎がぁぁぁ!!?

なんで意識覚醒した瞬間から人生ハードモードなんだよ、ふっざけんじゃねぇぞ!

...はぁ、1回落ち着こうか、クールになれ、cool...。

 

 

よし落ち着いた、とりあえず神に会う機会があったら1発ぶん殴ろう。

とりあえず自分の今の現状を確認してみよう。

えーっと、目が覚めたら、親が俺を段ボールの中に入れながら懺悔している。

そして今の俺は赤ん坊、うんダメだ、どうすることもできないな。

 

あー、これは、別れたすぐであれだが、すぐに神と顔を合わせることになりそうだ。

そうしたら神の顔を思いっきり殴ってやろう、そうしよう。

 

うぁ、やばい、意識がどんどん遠くなっていく...。

 

「...うん?お、こんな時期に捨て子とは珍しいな...っておい、眠んじゃねぇって...」

 

いやいや、赤ん坊に寝るなは...無理がある、って...。

 

 

★★★

 

 

「ん...う〜ん、...ふぅ、なんか随分懐かしいものを夢で見たな...」

 

俺は部屋に備え付けてあるベッドから起き上がり、大きく背伸びをしながら先ほど見ていた夢を思い返す。

13年と数ヶ月前のあの日、顔も名前も知らない俺の本当の親が俺を捨てた後、すぐにここ、白羽院(しらばいん)の院長である白羽 空(しらば そら)が俺を見つけ出し、院に連れて帰り、今の今までそこで暮らさせてもらってる。

 

「さて、空さんの手伝いでもしてくるか」

 

現在時刻、午前の4時。

まだ外は薄暗く、この時間で活動している人間はかなり限られてくるだろう。

さぁ、そんな時間に俺が何をするかと言えば、空院長の朝のお手伝いである。

この白羽院は俺以外にも数多くの捨て子が暮らしている。

そしてもちろん、一緒に暮らすということは共同生活をするということで...。

 

俺はベッドから起き上がり、中学の制服を着て空さんがいるであろうキッチンに向かう。

 

「やぁ空さん、朝飯の手伝いに来たよ」

「おぉ、亜久(あく)か、いつも悪いな」

 

キッチンに顔を出すと、すでに様々な食材を切ったり焼いたりと忙しなく動いてる空さんの姿があった。

全く、絶対1時間前には起きてたな?

はぁ、ほんとにいつ寝てるんだか...。

 

「全然大丈夫だよ、で?何をすればいいんだ?」

「あー、じゃあそれとそれと、あとそれを切ってくれないか?」

「オッケー」

 

明らかに普通の人だったらこなせない量の仕事量をこちらに寄越してくる空さん。

まぁ、空さん本人はこれの倍以上の量を同時にこなしているのだが。

この人、ほんとにいつか過労でぶっ倒れんじゃないかな。

 

と、こんなことを考えてる場合じゃない。

さっさと作業に取り掛からないとな。

 

 

★★★

 

 

「毎度ありがとさん、亜久。ほれ、小遣いだ」

「いつも言ってるけど、俺は小遣いが欲しくて手伝ってるわけじゃないからな?」

「わぁってるってんなもん。これは私からの気持ちってことだよ」

 

いつものごとく、小遣いを拒否する俺の手を掴み、千円札を押しつける空さん。

 

「にしてもお前は、気持ち悪いほどに大人びてやがるなぁ、いつも思うが」

「はは、そんなことないと思うけどな」

 

まぁ前年齢合わせると、余裕でおっさんって言われる年齢だからな、妥当って言っちゃえば妥当だと思う。

 

「で、今年で中3になったわけだが、どこに行くとかは決めてるのか?」

 

先ほどとは打って変わって、急に真面目な顔して真面目な話を始める空さんに、俺は若干戸惑いつつ、姿勢を正して空さんの顔を見る。

 

「いや、まだ特には。ここだ!って思うところがないんだよ」

「もうそろそろ決めとかないと色々とめんどくさいことになるからな、早めに決めとけよ?」

「あ、あぁ、わかったよ。じゃあ俺は6時ごろまで部屋にいるから、なんかあったら呼んでくれよ」

「...あいよ」

 

俺は無理やり話を切り、逃げるように部屋に戻る。

制服なのでベッドには寝転ばず、ゲーミングチェアに座り、背もたれにもたれ掛かる。

 

「はぁ、高校受験、か...」

 

ほんと、全く、憂鬱だよ。

 

 

★★★

 

 

「んじゃ、行ってきます、空さん」

「あぁ、気をつけていくんだよ、雲里(くもり)一点(ひとつ)もな」

「はぁーい!」「...うん」

 

玄関にて、俺は髪の毛が雲みたいにふわふわしている女の子、雲里と、一見なんの変哲もない様子の男の子、一点の手を繋ぎながら、空さんに見送られつつ、外に出る。

 

「亜久(にぃ)、高校どこに行くか決まってるの?」

「うぐっ...、いや、まだ決まってないけど、なんでかな?」

「先生が早く決めてくれたほうが安心できるのに~って嘆いてたから」

「ぐふぅ...」

 

普段から落ち着きを保ち、いろんな本を読んでいるせいか、難しい単語を織り交ぜて会話をしてくる一点の言葉が俺の胸に深々と突き刺さる。

俺は個性の特性上、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()はずなのだが、さすがに言葉のナイフのダメージは防ぐことができなかったようだ。

 

「お兄ちゃんなんで泣いてるのぉ?」

「弟分である僕に言い負かされたのが相当ショックだったみたいだね」

 

やめて一点、俺のライフはもうゼロだよ...。

 

 

★★★

 

 

一点と雲里を小学校に送り届けた後、俺も、折寺(おるでら)中学校に向かう。

 

「はよ、黒墨(くろすみ)

「おぉ、はよぉ」

 

廊下にてすれ違うクラスの奴らとあいさつを交わしながら教室に入り、自分の椅子に座る。

 

「あ、お、おはよ、あっくん」

「おう、はよ、出久」

 

前の席に座ってた俺の友人である緑のもじゃ髪――緑谷出久が振り返りながら挨拶をしてくるので、俺もそれに倣って返す。

 

「そういや今日、駅近くで事件あったみたいだけど、なんかあった――」

 

「それがひったくり犯が追い詰められたらしくて、怪物化の個性を使って暴れてたんだ!そこにシンリンカムイが応戦してて、あ、周りの被害とかはデステゴロとバックドラフトが抑えててね!もうほんとにかっこよくて!それにシンリンカムイの必殺技、"先制必縛(せんせいひつばく)ウルシ鎖牢(さろう)"が出たんだ!...見れなかったけどね」

「それまたどうしてだ?」

 

普通の人なら途中で話を逸らすか、少し顔を顰めるレベルの情報量を一気に話すが、亜久は特に意に返さずに疑問に思ったことを聞く。

 

「脇からMt.レディが"キャニオンカノン"でヴィランを蹴り飛ばして解決しちゃったからね」

「あー、なるほど?」

 

「あー、でも見たかったなぁ、シンリンカムイの必殺技...」

「まぁまぁ、生きてればまた見れる機会もあるだろうし、そう落ち込むなよ」

 

俺のその言葉を聞くと、出久は一瞬ボケっとした表情をした後、すぐに目を輝かせ、「うん、そうだね!」と、頷いた。

 

そのあとも普通に雑談をしていると、朝のホームルームの時間になったので、出久は「また後で話そ!」と言いながら前を向いた。

 

教室の扉から担任が入ってくる。

その手には大量の紙の束を持っている。

 

「みんなおはよう!早速だが、お前らも三年ということで、本格的に将来を考える時期だ!」

 

先生のテンションがいつになく高い。

俺はチラリと先生の様子を見つつ、コッソリと個性を発動し、個性訓練をする。

 

「今から進路希望のプリント配るが、みんな!!」

 

先生は無駄に勢いをつけて教卓に両手を置きながら続きを話す。

 

「だいたいヒーロー科志望だよね」

 

その言葉を皮切りに、周りのやつらが思い思いに個性を発動していく。

指を伸ばしたり、モノを浮かせたり、手が岩になったりと様々だ。

 

「うんうん、みんな良い個性だ。でも校内で個性発動は原則発動禁止な!」

 

しかし、今このクラスにその話を聞く人間はいない。

 

「せんせえ!!」

 

すると、俺の斜め前あたりの席から、やや怒鳴り声に近い声が響く。

 

「『みんな』とか一緒くたにすんなよ!」

 

そちらのほうに目を向けると、足を机に乗せ、いかにも調子に乗ってますといった雰囲気が漂ってくる俺の出久に次ぐ友人、爆豪 勝己(ばくごう かつき)だ。

 

「俺はこんな"没個性"共と仲良く底辺なんざ行かねーよ」

 

その言葉に没個性と罵られたクラスのみんなは一斉に勝己に反発するが、勝己は勝己でどんどん煽っていく。

どんどんヒートアップしていく中、先生がとある爆弾を落とした。

 

「あー確か爆豪は……、"雄英高"志望だったな」

 

その言葉にクラスの奴らは一瞬シンっ……と静まり返るが、徐々にざわざわと声を出し始める。

そっちに耳を傾けると、今年で偏差値が79になるらしい。

 

「そのざわざわがモブたる所以だ!」

 

勝己が勢いに乗って机の上に飛び乗ると、声高らかに言う。

 

「模試じゃA判定!俺は中学唯一の雄英圏内!あのオールマイトをも超えて俺はトップヒーローと成り!!必ずや高額納税者ランキングに名を刻むのだ!!」

 

せめてたくさんの人を助けたいとか言っとけよと思ったのは俺だけなのだろうか。

そんな心持ちじゃトップヒーローにはなれねぇよ、と俺は心の中で吐露する。

 

「あ」

 

勝己が声高らかに宣言し終え、ほかの生徒たちも盛り上がってるとき、先生の間の抜けた声が教室に広がる。

 

「そいやあ、緑谷も雄英志望だったな」

「……へぇ」

 

その言葉に出久はピクっと反応する。

そういえば雄英の名前が出てからずっと身を小さくしてたなと、俺は今更ながらに思う。

そして俺は感心して思わず言葉を漏らしていた。

 

全員が出久のほうを向き沈黙。

そして、俺、勝己を除く全員が噴き出した。

 

はああ!?緑谷あ!?無理っしょ!!

勉強できるだけじゃヒーロー科は入れねぇんだぞー!

 

と、出久をバカにするような声がクラス中から響き渡る。

 

(ちっ、好き勝手言いやがって…。)

 

俺はその様子を聞き、自分でもわかるぐらいにイライラしてる事がわかった。

しかし、出久はそれでも、みんなに押し負けないように言い返す。

 

「そっ……そんな規定もうないよ!ただ前例がないだけで…」

(よしそのまま言い返してやれ、出久!)

 

今の俺は例えるならば逆転勝ちを窺うボクサーのファンさながら。

俺もイライラと場の空気に当てられ、変なテンションになっていた。

 

だからだろう、いつの間にか勝己が出久の机の前に立っていたことに気づかなかった。

 

「こらデク!!」

 

BOOM!!!

 

 

勝己が個性”爆破”を使いながら、出久の机を叩く。

その衝撃で出久の机は真っ二つに折れ、出久も衝撃で後ろに吹き飛ぶ。

 

「どわ!?」

 

勝己がさらに出久を教室の端に追いやろうとする。

………はぁ、そろそろ止めとくか。

 

「”没個性”どころk――」

「そこまでだよ、勝己」

「あ゙ぁ!?」

 

俺は勝己の肩を、強く、強く掴んだ。




いかがでしたでしょうか。
少しずつですが、お気に入りが増えてきていて私は涙が止まりません。
こんな駄文だらけの作品にお気に入りやしおり、感想を頂けて、心臓バックバクです。
では、次の話でまたお会いしましょう。


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2話.ヴィラン

そういえば主人公の外見スペックを貼り忘れたのでここに貼っていきます。

亜久hair:背中まで伸ばした黒髪。うなじあたりで纏めてポニテにしている。
亜久face:細目の優男風。目はインクのように真っ黒。若干大人びている。
亜久body:程よく筋肉がついていて引き締まっている。
亜久height:通常時170後半

では本編をどうぞ


肩を掴まれた勝己はすごい形相でこちらを振り返る。

 

「亜久ぅ!その手を放しやがれ!」

 

いや形相だけじゃないな、手のひらから小さな爆発が起きてる。

余程イライラしているらしい。

 

「そんなカッカすんなよ、このままだとお前の頭にやかん置いた途端に水が沸いちまう」

「誰が瞬間湯沸かし器だクソがっ!!?」

 

うんうん、やっぱりこいつはいじると面白いんだよなぁ……っと、面白がってる場合じゃないな。

 

「まぁさ、ここはいったん引いてくれるか?」

「なんでてめぇの言うことなんざ聞かなきゃいけねぇんだ!?えぇおい!!」

「……な?いいだろ?」

 

なかなか引かない勝己に対して少しだけ圧をかける。

 

「……っ!……ちっ、クソが…!」

 

すると勝己は悪態をつきながら自分の席に戻っていく。

俺はそれを見送ると、尻餅をついた状態の出久のほうに振り返り、左手を差し出す。

 

「大丈夫だったか?」

「う、うん、ありがとう、あっくん…」

「おう」

 

出久は俺の手を掴んで起き上がり、自分の席に戻っていく。が、

 

「あ…」

 

出久の間の抜けた声が聞こえ、そちらのほうに顔を向けると、そこには先ほど勝己が破壊した机が鎮座していた。

 

「あー…、後で空き教室から新しい机持ってくるか」

「う、うん、そうするよ」

 

そんな話をしながら、俺たちは各々の席に戻ることにした。

 

 

★★★

 

 

「あぁぁ、疲れた…」

「あっくん、勉強はできるけどめんどくさがりだもんね」

 

今日の授業はすべて終了し、今は放課後。

クラスの奴らはその友人らと駄弁ったり、早々と帰宅したりと様々である。

 

という俺は椅子の上でグーっと体を伸ばしたり、肩を回したりと体をほぐしていた。

その前では出久が苦笑いをしながら席を立つところであった。

 

「んじゃ俺はちょっとトイレ行ってくるわ。一緒に帰りたいから待っててくれよ」

「うん、わかった」

 

と言いながら俺はそそくさと教室から出てお手洗いに向かった。

 

 

~~緑谷side~~

 

 

僕はあっくんが教室を出るのを見送りつつ、スマホをいじる。

 

(お、今朝の事件ヤフートップだ!家に帰ったらノートにまとめなきゃ)

 

今朝起きた、シンリンカムイ、Mt.レディ、デステゴロ、バックドラフトが関わっていた事件がヤフーニュースのトップに躍り出ていた。

 

僕は机に置いておいたノート、【将来の為のヒーロー分析】を鞄にしまおうとする。

しかし……、

 

「あっ」

 

何者かの手によってノートを取られてしまった。

僕はすぐに取ったであろう誰かに視線を移す、そこには……、

 

僕の幼馴染である、爆豪 勝己――かっちゃんが僕のノートを持った状態でこちらを睨みつけるように見ていた。

 

「勝己、何ソレ?」

「【将来の為の……】、マジか!?」

 

後ろにいた、いつもかっちゃんとつるんでいる不良たちが僕のノートを見て嘲笑のような笑いを飛ばしてくる。

 

「いっ良いだろ別に。返してよ!」

 

僕はかっちゃんに対してそう言うが、当たり前のように無視して、ノートを両手で挟み、そして…

 

 

BOOM!!

 

 

爆破させた。

 

「あーーー!!?……ひ、ひどい…!!」

 

僕は黒い煙を上げているノートを見ながら戦慄する。

かっちゃんは僕の様子を見て鼻を鳴らし、ノートを窓の外へ投げ捨てる。

 

「ちょ!?」

 

僕は慌てて窓の外に駆け寄ろうとするが、その前にかっちゃんが口を開く。

 

「一線級のトップヒーローは大抵、学生時代から名を残してる。俺はこの平凡な市立中学から初めて!唯一の!『雄英進学者』っつー"箔"を付けてーのさ。まー完璧主義なわけよ」

 

その言葉を聞いた僕は思わず、みみっちいと思ってしまったが、間違っても口には出さない。

口に出た瞬間、ノートが受けた爆発を、今度は僕の顔面が受け止めることになる。

 

「つーわけで、一応さ……」

 

かっちゃんは圧のある笑顔で僕の肩に手を置き、

 

「雄英受けるな、ナードくん」

 

そう、言ってきた。

 

僕は何か言い返そうとするが、言葉が出てこない。

 

(結局僕は、あっくんがいないと何も…)

 

僕の脳裏には、いつも僕がいじめられているところを颯爽と現れて助けてくれるあっくんの顔が思い浮かぶ。

 

「あ、そんなにヒーローに就きてんなら効率良い方法があるぜ。来世は個性が宿ると信じて、屋上からの――」

 

「――おい」

 

かっちゃんの言葉を遮るように、教室の外から声が聞こえた。

それは、よく僕と話してくれて、相談に乗ってくれて、助けてくれる声。

そう、

 

「あっくん…」

 

僕の一番の友達で、ヒーロー…、黒墨 亜久だ。

 

 

★★★

 

 

お手洗いから戻ってくると、出久と勝己が何やら言い争いをしていた。

いや、言い争いというよりも一方的なものだ。

 

「はぁぁ、こいつらまたか…」

 

俺は教室の扉で体を隠し、会話を盗み聞きする。

 

こいつらの喧嘩は今に始まったことではないが、何回も止める身にもなってほしいものだ。

今回も別に俺が止めてもいいのだが、いつまでたっても俺が助けてばっかりじゃ出久のためにもならないため、今回は限界まで止めないようにするつもりだった。

だが、最後の勝己の発言はいただけなかった。

あれを言い切って、尚且つ出久が窓から身投げすることがあったら、それはもう立派な自殺教唆だ。

もう雄英云々の話じゃなくなってしまう。

 

だから俺は勝己の言葉を遮り、勝己を睨みつける。

 

「あっくん…」

 

出久はまるで一筋の希望を見つけたかのような雰囲気を漂わせているが、あいつにはもうそろそろ自分で何とかしてもらうように話す必要があるな。

 

「亜久ぅ…!!」

 

一方勝己は、親の仇でも見るような目で俺を睨みつけてくる。

 

「てめぇにも文句があるんだよ俺はよぉ…!」

「ほぉ、言ってみろよ」

 

勝己の手のひらから、小爆発が連続で起きている。

俺も俺で感情が高ぶっているのか、腕や足からインクが漏れ出し、顔からも鼻から上を覆い隠すようにインクが垂れてきている。

 

「てめぇは事あるごとに俺の邪魔をしやがってよぉ、ヒーロー気取りか亜久!俺よりも弱ぇ"没個性"のモブの癖によぉ!!」

「お前は毎度毎度、度が過ぎてるんだよ、いろいろとな。それの後始末はいつも俺だしよぉ。てめぇは自分のケツも拭けねぇのか?」

「んだとぉインク野郎!!」

 

どんどんヒートアップしていく俺と勝己。

勝己の手のひらからはさらに大きな爆発音に変わり、地面は真っ黒に染まっていく。

 

「「………」」

 

お互い無言で睨み合って、一分もたたないぐらいだろうか。

 

「けっ!」

「ふん…」

 

ほぼ同時に目をそらし、帰り支度をする。

 

「…勝己」

「あぁ?」

「さっき言いかけたことは立派な自殺教唆、犯罪だ。次からは気を付けるんだな」

「わかってるわクソが!!」

 

先ほどまで一触即発な雰囲気だったが、そこはまぁ昔からの仲のためか、すんなりお互いに矛を収める。

 

「出久、帰ろう」

「う、うん、わかった」

 

俺は出久を呼び寄せ、教室から出た。

 

 

★★★

 

 

「ったくよぉ、少しは自分の意志を貫こうとは思わないのか?」

「申し訳ありません……」

 

投げ捨てられたノートを回収し、出久と下校中、俺は出久に対し説教をしていた。

 

「まぁさっきのは勝己も言い過ぎだとは俺も思ったけどよ。少しぐらいは怒ってもいいと思うぞ、俺は」

「…うん」

「あと、周りの奴らの発言なんて気にすんなよな。お前はバカまじめだから、グイっと上見てつき進めりゃいいんだよ」

「…!うん、そうだね!」

 

俺がそういう風に言うと、出久は物理的に上を見て道を進む。

 

「そういうことじゃないんだけど、まぁいいか。形から入るってのも大事だしな」

 

俺は少し苦笑いを浮かべたが、先ほどよりはいいかと考え、出久の横に並ぼうとする。

そのとき…、

 

「…!!出久っ!!」

「え…?」

 

視界の端でマンホールの穴から、何か流動的なものが出てくるところを見た。

俺は考えるよりも先に出久を押して弾き飛ばす。

 

「…!?あ、あっくん!」

 

マンホールから出てきたものは、全身がヘドロで構成された異形型の、恐らくヴィランだろう。

その推定ヴィランは、マンホールの近くにいた俺に向かって近づいてきて、そして…

 

「Mサイズの隠れ蓑…」

 

そう呟き、俺に纏わりついてくる、否、取り込もうとしてくる。

 

普通の人間なら、何もできずに取り込まれて終わりだろう。

だが、()()()()

 

「インク飛ばし!」

 

推定…いや、ヴィランの目に目掛けて手のひらに生成した多量のインクを飛ばす。

が、ヴィランはヘドロという体質を生かし、インクを腕で受け止め、弾く。

 

「ちっ」

「抵抗しないで、大丈ー夫。ただ君の体を乗っ取るだけさ。苦しいのは約45秒だけ――」

 

バコッ!

 

どこからか飛んできた鞄が、ヘドロヴィランの目に当たる。

目は生き物の弱点の1つだ、それは異形型のヴィランでもそう変わらない。

ヴィランは一瞬怯み、俺はそのうちに後ろへ下がる。

 

「まったく、もし目じゃないところに当たってヘイトがお前に向いたらどうするつもりだったんだ?」

「ご、ごめ――」

「まぁ、結果的にいい具合に当たったから、今回は良しとするけどな」

 

鞄を投げた人物は出久だった。

まぁ、この状況で出久以外の一般人が投げてたら、そいつは今すぐヒーローになることをお勧めするけどな、主に状況の呑み込みの早さと判断力の早さを見て。

 

閑話休題(現実逃避はここまでにしてっと)…。

 

「さて、なんとか間合いは取れたけど、ここからどうするかな…」

「あのヘドロヴィランは体が流動的だから物理攻撃はほぼ効かない。かといって僕たちに遠距離攻撃は…なくはないけどさっきのあっくんのインク飛ばしが効かなかったことから攻撃しても意味はない。唯一目はヘドロじゃないからそこを目掛けて攻撃するのが一番有効的だけど、さすがにヴィランも棒立ちな訳ないから当たる確率は限りなく低いし、そもそも倒せるだけの遠距離武器がないブツブツ………」

 

出久が隣で策を練っているが、なかなか妙案が出てくる気配がない。

くっそ、ここは覚悟を決めて()()になるしかないのか…?

 

俺は最終手段である()()になろうか迷う。

その間もヘドロヴィランはジリジリとこちら側に詰めてくる。

 

「……覚悟を決めろ、“インクデー――」

 

俺が覚悟を決めて、インクを全身に纏おうとした瞬間……、

 

「もう大丈夫だ、少年たち!!」

 

そんな声とともにマンホールの蓋が勢いよく跳ね上がる。

マンホールから現れたのは……

 

「私が来た!」

 

存在そのものがヴィラン達の抑止力と称されている、"ナチュラルボーンヒーロー"、または"平和の象徴"である、ヒーロービルボードチャートJPランキング一位、

 

オールマイトだ。

 

「TEXAS…」

 

オールマイトが右腕を引き、ヴィランに向かって勢いよく拳を前に出す。

 

「SMASH!!!」

 

たった一発、されど一発。

オールマイトの一撃は直撃せずとも風圧だけでヴィランを吹き飛ばし、ついでに出久も巻き込まれた。




ここまでお読みいただきありがとうございます。
結構設定とかがばがばなところが多々あると思いますが、感想、評価よろしくおねがいします。


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3話.考えるより先に

勢いのままに投稿。

結構駄文が目立ったり、キャラクターの口調に違和感があったりしますが、3話もよろしくお願いします。


「っ!?おい出久、大丈夫か!?」

 

オールマイトの一撃の巻き添えを食らい、大きく吹き飛んだ出久。

俺はすぐさま出久が飛んだ場所へ走り、落下地点へと急ぐ。

そして、

 

「――…はいナイスキャッチ俺!!」

 

なんとか地面に激突する前にキャッチすることができた俺は、トンネルの壁際に出久を寝かせ、オールマイトのほうを見る。

 

「す、すまない少年、大丈夫だったかい?」

「地面にぶつかる前に捕まえたからな、今はあまりの衝撃に気絶してるだけだ。しばらくすれば目を覚ます」

「そうか。いや、ほんとに申し訳ない。いつもなら一般人が巻き込まれるようなことはしないのだが、慣れない土地と私がオフだったことが相まって遅れてしまった」

 

ナンバーワンヒーローとは思えないほど腰の低い態度をするオールマイトを見て、こういうところも彼をナンバーワンヒーローへと引き上げた理由の一つかな、とどうでもいいことを考えていた。

 

「いや、ヴィランの行動っていうのは簡単に予測できるものじゃない。ヒーローは基本的にヴィランの後手に回ることが多い、と思う。むしろ今回は被害がそんなに出なくてよかった」

「そう言ってくれると私にとっても助かるよ」

「まぁ、出久吹っ飛ばしたのは頂けないけどな」

「うぐっ、それに関してはホントにごめんね?」

「それは俺に謝るんじゃなくて、出久に謝ってくれ」

 

オールマイト相手にねちっこくて自分でも申し訳ないとは思うが、流石に俺の友人である出久を吹っ飛ばしたことは置いておくことができない。

だからオールマイトには謝ってもらう...という建前。

本音は、出久は大のオールマイトファンなため、今はいい機会だし会わせておこう、という感じだ。

 

俺はオールマイトから顔を逸らし、出久の方に歩いていく。

 

「出久、起きろ」

「......」

「おーい、出久、起きろって」

 

呼びかけたり、ほっぺを叩いたりするが起きる気配無し。

...仕方ない、最終手段だ。

 

「出久、オールマイトがお前の目の前にいるぞ」

「え、うそ!?どこどこ!?」

 

俺がオールマイトの名を口に出すと、先ほどまで起きる気配の無かった出久がすぐに目を覚ます。

 

「って、こんなところにオールマイトがいるわけないよ、なんでそんなわかるような嘘つくの、さ......」

「HAHAHAHA、ようやく目を覚ましたようだな、少年!!」

 

 

「トぁああああ!!?」

 

 

オールマイトの姿を確認した出久は一瞬の硬直の後、凄まじい勢いで後ずさる。

おいおい、そんな移動してたらズボン燃えるぞ?

 

「元気そうで何よりだ!!いやぁ悪かった!敵退治(ヴィラン退治)に巻き込むどころか私の攻撃で君を吹き飛ばしてしまった。」

 

オールマイトは先ほどの申し訳なさそうな態度ではなく、あくまでエンターテイナー風な感じで言葉を連ねていく。

おそらく出久が自分(オールマイト自身)のファンだということを即座に見抜き、ファンが一番喜ぶ態度で接しているのだろう。

俺としてはちゃんと謝ってもらいたいのだが、出久が嬉しそうなら俺は文句を挟むようなことはしない。

 

そこからも、オールマイトは豪快に笑いながら出久に倒したヴィランを見せ、ヒーローノートにサインをしていた。

出久は満足そうだ。

...てかそんなに頭振って大丈夫か?頭取れたりしないか?

 

「じゃあ私はこいつを警察に届けるので!液晶越しにまた会おう!!」

「おう、これからも頑張れよ、平和の象徴」

「HAHA、応援ありがとう少年!」

 

俺も孤児院のみんな用にサインもらったし、満足だ。

が、出久はまだ何か聞きたそうに慌てている。

 

「え!そんな...もう...?まだ...」

「プロは常に敵か時間との戦いさ。それでは今後とも...」

 

オールマイトは膝を曲げ、そして

 

「応援よろしくねええぇぇぇぇぇ

 

多く跳躍した。

瞬きし終える頃にはもう彼は遥か彼方へ跳んでいっていた。

 

「うん、よし。サインも貰ったしちょっと怖い思いもしたけど、いいこともあった。明日クラスの奴らに自慢してやろうぜ、出、久...」

 

俺はサインしてもらったノートを仕舞いながら出久がいるであろう後ろを振り返るが、そこには誰もいなかった。

俺は嫌な予感がして、オールマイトが跳んでいった方を見る。

もう点になりかけているオールマイトのおそらく足の部分がやけに肥大化している。

俺の見間違いじゃなきゃあれは...

 

「あークッソ!熱狂が過ぎるぞ出久!!」

 

俺はオールマイトが跳んでいった方に向かって走り始めるのだった。

 

 

★★★

 

 

走り始めてどれくらい経っただろうか。

俺は商店街へと近づいていた。

 

ぼんっ!!

 

 

ふと、前の方で爆破音が聞こえてくる、それも何回も。

それに合わせるように悲鳴も大きくなっていく。

 

俺は好奇心を抑えることができず、爆破音がする方を見てみる。

そこには、先ほどオールマイトが倒したはずのヘドロヴィランが暴れ回っていた。

そしてどうやらヘドロヴィランは人質をとっているらしい。

人の波を押し退け、全体が見えるところまで移動する。

 

そこで俺は見てしまった。

ヴィランに取り込まれまいと必死に抵抗し続ける少年、勝己の姿が...。

 

「!?...勝己ぃ!!」

 

俺は思わず勝己の名を叫ぶ。

ヴィランの周りには何人かヒーローが応戦しているが、戦況は芳しくないようだ。

 

(奴は流動体だ、俺が個性を使えば何とかなるがたくさんの人の目がある以上使うことは非常に難しい。一体どうすれば...)

 

俺は脳内で色々思考する。

だがなかなかいい案が思い浮かばない。

相性のいいヒーローを待つというのが最善手なのかもしれない、だがそれまで勝己が耐えられたらの話だ。

 

......。

あぁ、全くさ...、

 

「世話が焼けるよ!!」

 

俺は人波を飛び越え、ヴィランの方へ向かう。

後ろの方でヒーローだか警察が何か叫んでいるが、今は聞かないことにして走る。

ふと横を見ると、緑色のモジャモジャが...って、

 

「出久!?」

「あっくん!?」

 

俺たちはお互いに驚くが、ひとまずそれは置いとくことにし、何となく出久を前に、俺は後ろに配置付く。

 

「爆死だ」

 

ヴィランは左手を前に突き出し、爆破の準備をする。

 

「させるかよ!"インクジェット"!からのぉ、"デビルキック"!!」

 

両手を後ろに回し、インクを勢いよく噴出する。

その推進力で俺は一瞬にして出久の前に躍り出る、と同時に右足をインクで固め、思いっきりヴィランの左手を蹴り上げる。

 

「な、このクソガ――」

 

次は俺に向かって奴の右手が迫ろうとするが、それは途中で遮られることとなる。

出久がヴィランの目に向かって鞄を投げたのだ。

それのよりヴィランは少しの間怯むことになる。

 

「いいぞ出久!そのまま勝己を引き摺り出せ!」

 

俺またもや思わず叫ぶが、どうやら出久には聞こえてないようだ。

そりゃそうか、俺は対抗できる力があるから様々な戦闘方法を取れるが、出久は今の時代じゃ珍しい、個性無しだ。

やることは限られる上にタイミングも難しいだろう。

だからこそ集中しまくる必要がある。

 

「かっちゃん!!」

 

出久はヘドロを必死に掻き分けながら勝己を引き摺り出そうとする。

 

「なんで!!テメェらが!!!」

「足が勝手に!何でって...わかんないけど!!」

 

「君が助けを求める顔してた...!!!」

 

出久はおそらく怖くて、いや、確実に怖いのだろう。

涙を堪えながらそう叫ぶ。

 

(...そんな理由で飛び出してきたのかよ出久。それってよぉ...)

「さいっこうにかっこいいな!!」

 

ほんとに今日は何度目だか、俺は叫ぶ。

無個性な俺の友人はほんっとに、どんなヒーローよりもヒーローらしい奴だよ。

 

「もう少しなんだから邪魔するなぁ!!」

「やっば!?」

 

ヴィランはイラついたのか、左手を大きく広げ、出久をなぎ払おうとする。

 

(やばい、マジで一瞬こいつのこと眼中から外してた!まずい、間に合わない!!)

 

「無駄死にだ!自殺志願かよ!!」

 

後ろから複数の足音が聞こえる、おそらくヒーローだろう。

 

「今更動いたって遅いんだよヒーローがよぉ!!」

 

思わず悪態をつく俺。

 

「いや、まだ間に合うさ、少年!!」

 

横から大きな手が現れる。

俺はそっちの方に目を向けると、全身から湯気のようなものを出すオールマイトの姿が。

オールマイトは片手で俺、出久、勝己を掴み、右手は弓のように思いっきり後ろへ引く。

 

「君を諭しておいて...己が実践しないなんて!!!」

 

オールマイトは口から血反吐を吐きながらさらに叫ぶ。

 

「プロはいつだって命懸け!!!!!!」

 

十分に握られた拳をオールマイトはヴィラン、ではなく地面に向かって解き放つ。

 

「DETROIT SMASH!!!!!」

 

瞬間、辺りは風が吹き荒れ、そして雨が降ってくる。

 

「おいおいマジかよ...」

 

さすがはオールマイト、拳一つで天候を変えやがった。

 

俺はただひたすらにオールマイトの凄さを目の当たりにし、ただ呆然とオールマイトの背中を眺めていた。

 

 

★★★

 

 

その後の話をしよう。

 

オールマイトにより倒されたヘドロヴィランは警察に引き渡されたようだ。

なぜそんな確証の持てないような言い方をしたのかと言えば、その場から全力で逃げ出したからだ。

こんなことが空さんにバレでもしたら、俺はインク瓶に詰められて出荷されてしまう。

それだけは何としてでも避けたかった俺は、その場で大量のインクを体内からぶち撒き、"インクホール"*1で白羽院の目の前へとワープした。

おそらく向こう*2では出久がヒーロー達から説教を受けているだろう、許せ...。

 

で、俺は胸に若干の罪悪感を抱きながら白羽院へと入ると、そこには般若の顔をした空さんの姿が。

 

まぁ、その後のことは安易に想像できるだろう。

なぜバレたかはわからないが、危険なことをしたこと、無断で個性を使ったこと、他諸々のことを空さんに説教される事となった、それも泣きながら。

普通に怒鳴られるならまだしも、泣かれながらだと、とんでもないぐらい罪悪感を感じる。

最後の方だと、「無事で良かった」と抱きつかれてしまった。

...まぁ、これからはなるべく危険なことはしないように気をつけようと思ったよ、流石にな。

*1
インクの溜まり場から溜まり場へとワープする技

*2
商店街



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4話.受験

今回結構急ぎ足になってしまったので、文法的におかしいところがあるかもしれません。
その時は遠慮なく誤字報告してくれるとありがたいです。
それと、今回は短めでお送りいたします。


ヘドロ事件から約10ヶ月後、俺は受験を受けるために雄英の校門に立っていた。

結局俺はどんな高校に入るか決められず、出久と同じ受験先である国立雄英高等学校を受けることにしたが、結果的には良かったのかもしれない。

 

この自称神から貰った個性、これを十分に活かせる仕事はヒーロー以外ないと考えている。

ヒーローになれたら空さんにも恩返しできるしな。

 

ということで俺は、雄英の一般入試を受けることにしたのだ。

ん?内容が薄っぺらい?どういうことかわからねぇな...。

 

まぁそんなことはさておき、俺は雄英の校門を跨ぐ。

 

(へぇ、見てるだけでも結構強そうな個性宿してんのたくさんいるな)

 

俺は周りを見ながら歩いていると、

 

ドン...

 

俺の胸あたりに何かぶつかる感覚があった。

 

「おっと...」

 

俺は周囲を見回すのをやめ、何がぶつかったか視界を下に下ろすと、女子用の制服が宙に浮いていた。

 

「???」

 

俺は一瞬、思考が停止するが、すぐに何らかの個性だと判断し、頭を下げる。

 

「悪い、よく前を見てなくてぶつかった」

「んーん!私は大丈夫だよ!」

「そうか、それは良かった。お前もヒーロー科の受験か?」

「うん、正直私の個性って戦闘向けじゃないから合格できるかわからないけど、精一杯頑張るつもり!」

 

俺は、おそらく手をブンブン回してやる気を表しているだろう目の前の生徒を見て少し和まされ、やや過剰にあった緊張がほぐれる。

てか俺緊張してたのか。

 

「なるほど。…そういえば名前を言ってなかったな、俺は黒墨 亜久だ」

「私は葉隠 透!」

「葉隠ね、うん。じゃあ葉隠、お互いまたこの雄英の門をくぐれることを願っておくよ」

「うん、そうだね!じゃあお互い頑張ろう!」

 

そう言うと、葉隠は走る、とまではいかなくとも、早歩きで雄英の中へと入っていった。

 

「さて、俺も頑張りますか!」

 

 

★★★

 

 

「まぁ、筆記は合格ラインいけただろ」

 

俺は筆記試験を無事に終え、現在は実技試験の説明を聞くための会場へ来ている。

周りを見ると先の筆記試験で冷や汗をかいてるものや、次の実技試験の説明用紙を眺めているものとさまざまである。

 

っと、前の席を見ていると出久と勝己を発見することができた。

出久は緊張でずっと下を見ており、勝己はあくまで自然体で座っている。

相変わらず勝己は物怖じしないな。

 

お、あそこの制服単体は葉隠かな?

彼女も彼女でソワソワしているのか制服が左右にゆらゆら揺れている。

 

と、周りをも見てたらもう担当のヒーローが壇上にいるな。

あれは……、プレゼントマイクか。

内容をざっくり説明すると十分間、ポイントを持ってるロボットどもを破壊しろってことらしい。

で、ロボットには4種類いるらしいが、そのうちの3体はそれぞれ、1、2、3ポイントを持ってるらしいが、最後の1体、通称ドッスンは0ポイントのお邪魔虫だと言っていた。

 

ちなみにドッスンを指摘していた真面目そうな眼鏡が、プレゼントマイクが現れた瞬間うるさくなった出久に対して、なかなかキツイ物言いをしていた。

そのせいか出久は余計緊張してしまい、見るに堪えない状態になってしまっている。

本当なら助け舟なりなんなりしてやりたいところだが、それだとあいつのためにならないからな。

それに、この10ヶ月間、あいつはあいつなりに努力してたみたいだしな。

なら、あいつが1人でどこまでできるか、見てやろうじゃないの。

 

 

★★★

 

 

説明も終わり、俺は会場へと移動していた。

同じ学校同士で手を組まれる可能性があり、勝己、出久とは会場は別である。

 

「あ、黒墨くん!」

 

俺は準備運動がてら手からインクを出していろいろしていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。

 

「お、葉隠か」

 

振り返るとそこには、校門で少しだけ話した透明少女、葉隠の姿があった。

 

「同じ会場とは運がいいな」

「そうだね!知ってる人が1人でも少し安心するよぉ」

 

やっぱり知ってる人がいるっていいね!とかなんとか葉隠が言ってきて、隣に並ぶ。

 

「どうした、隣に並んできて」

「んー、隣にいたら少しでもおこぼれ貰えないかなぁって思って」

「はは、そういうことができるほどヒーロー科は甘くないと思うぞ?」

 

そんな言葉を聞き、葉隠は目に見えるぐらいにがっかりしている。

それを見て俺はまた笑いながら、手足にインクを纏わせる。

 

葉隠には悪いが、この実技試験をやるからには一番を目指している。

誰かに合わせる、ということをしていたらいい点数が取れないだろうしな。

 

「んじゃ、お互い合格のために頑張ろう」

「うん、頑張ろう!えい、えい、おー!」

 

「ハイスタートー!!!」

 

どこからか聞こえてくるプレゼントマイクの声。

俺はその言葉が言い終わるか否か、両手を後ろに突き出し、一発。

 

「"インクジェット"!!」

 

瞬間的な加速は勝己の爆速ターボには劣るが、相手の視界を妨害することに関しては右に出る者がいないと自負している。

現に俺の後ろにいた奴らは阿鼻叫喚の嵐となっていた。

 

「さぁ、悪夢の始まりだ」

 

 

★★★

 

 

「これで、...80!!」

 

俺はインクで固めた腕をフルスイングして3pロボを破壊する。

現在、俺は絶好調でロボを破壊しまくっていた。

本当は個性をフル活用してもっと点数稼ぎをしてもいいが、流石にロボットを全部破壊するのはこの受験を受けにきている人たちに悪いからな。

それにフル活用しすぎて暴走したら雄英合格どころの話じゃなくなるしな...っと、ようやくお出ましかな。

 

俺は先ほどから地鳴りがする方向へと顔を向ける。

そこには周りのビルに負けず劣らずの大きさをした巨大ロボ、ドッスンがいた。

ドッスンは周りのビルを薙ぎ倒しながら前へと進んでくる。

 

「あの大きさなら今の状態でも何とかなりそうだな、っと...あ?」

 

俺はドッスンを頭から爪先まで見ていると、ドッスンの少し手前のところに誰かがいた。

その誰か」は、ドッスンがビルを薙ぎ倒した時に発生した瓦礫で身動きができなくなっていたのだ。

このままだとドッスンに踏まれてしまうだろう。

その結果、どうなるか。

良くて全身複雑骨折、悪くて死だろう。

 

俺は無我夢中でそのどこの誰かもわからないやつの元へ走った。

だが、今の状態じゃ到底間に合わない、かと言って"インクジェット"を使ったら急には止まれずそのまま通過してしまうだろう。

 

......。

 

しょうがない、あれを使うか。

俺は全身を力ませ、インクを全身から出す。

服にインクが染み込んで黒くなっていくが、俺は気にせずインクを出し続ける。

そして、

 

「...纏え、悪魔よ。力を寄越せ!!」

 

地面に撒き散らされたインクがひとりでに蠢き、俺に巻きつくように纏わりついてくる。

纏わりついた部分は何とも言い難いような激痛に苛まれるが、俺はそれを無視し全身に纏わりつくのを待つ。

 

「早くしろ、時間がない」

 

そう言うと、インクの纏わりつくスピードが速くなる。

そしてあっという間にインクが俺を覆うように纏わりつく。

 

「準備は整った」

 

俺はまるでクラウチングスタートのような体制になる。

足に力を込め、思いっきり前へ...!!

 

気がついたら目の前にドッスンの顔が見えた。どうやら奴もこれを破壊するために動いたようだ、どんな意図があるかは知らないが。

 

そして俺は何時ぞやのオールマイトのように拳を弓のように後ろへ弾き、このデカブツ目掛けて放った。

 

 

★★★

 

 

はい、と言うことで試験は無事終わった。

え、結局デカブツはどうなったかって?

そりゃもちろん粉々だ、完膚無きまでにボッコボコだ。

で、ドッスンの下にいたのは、なんと葉隠だったのだ。

どうやら透明だったのが相まって誰からも気付かれなかったらしい。

 

試験が終わった瞬間、インクを外し終えた俺に向かって葉隠が熱烈なハグをしてきたが、まぁしょうがないことだろう。

これまで普通に生きてきただけの中学生女子が急に私の危険に晒されたのだ、怖がるのも無理はないと思う。

 

と言うことで無事試験は終了。

あの後葉隠と連絡先を交換し、そのまま帰路を辿った俺は、予想以上に疲れていたらしくベッドに横になった瞬間眠りについてしまった。




今回もお読みいただきありがとうございます。
感想、評価、しおりなどなどをしてくださるとモチベに繋がりますので、よろしくお願いします


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5話.合否

今回はいつもの二分の一倍の内容でお送りいたします


1週間後…。

 

「そういえば今日あたりじゃないのかい?」

 

夕食を皆で食べているとき、目の前に座っていた空さんが味噌汁を飲みながらそんなことを口にする。

 

「今日?……あー、そういえばそうだな」

 

そういえば今日で雄英の一般入試を受けて1週間ほど経つ。

だいたいの入試は受けてから1週間前後で合否通知が来る、それは雄英も例外ではないだろう。

 

「亜久兄、受かってると思う?」

「あぁ、筆記は自己採点でなら全部合格ラインは越えてるし、実技試験のほうでも上位に食い込んでると思うから、合格は確実だろうな」

「お兄ちゃんすごーい!」

 

ほかの子供たちも矢継ぎ早にすごいすごいと騒ぎ立てるが、空さんの「ご飯中は騒がない」という声を聴き、皆の声量が小さくなる。

空さんは怒ると怖いからな、皆はすでに調教済みということか…、俺もだけど。

 

「ん?なんか郵便に入ったみたいだから取ってくるわ」

 

俺は玄関のほうから僅かに聞こえてきた音を聞き、席を立ち玄関のほうに向かう。

ポストの中には、1つの封筒が入っていた。

封筒には、【雄英高等学校】の一文が。

 

「!?…空さーん!」

「なんだぁ?」

 

俺は玄関から直接空さんに呼びかける。

 

「ちょっと部屋に籠るから皆が入らないようにしておいてくれ~」

「……おーぅ、わかったぁ」

 

空さんはさっきの話の流れから何が来たのかを察し、了承。

俺は封筒を持ってそのまま部屋の中に入り、備え付けの椅子に座る。

 

「…すー、はー……、よし」

 

俺は1つ深呼吸をし、封筒を開ける。

そこには円盤状のプロジェクターが入っていた。

俺はそれに備え付けてある電源ボタンを入れる。

すると、

 

『わーたーしーが……、投影された!!!』

「……オールマイト」

 

なんでオールマイトが雄英の合否通知に……、ゲスト出演か?

 

『HAHAHA!!なんで私が雄英の合否通知に出てきてるかって?それはこの私が、雄英に勤めることになったからさ。さてと、早速だが黒墨少年の合否結果を発表しよう!』

 

結果はまぁわかってはいるが、誰かに発表されるというのは無条件に緊張するもんだな、ほんとに。

 

『結果は……、合格さ、それも首席でね!筆記試験は全教科が90点台!実技試験に関しては85ポイントで二位と差をつけた結果となった!!』

 

よし!主席合格はなんだかんだでうれしいもn『だがポイントは(ヴィラン)ポイントにあらず!!』……ん?

 

『我々雄英が見ていたもう1つの基礎能力、それは救出活動(レスキュー)ポイント!君は試験時間ギリギリな状態で取り残された少女を救うために迷わず、一直線に巨大ロボットに立ち向かい、見事撃破!!少女を救い出すことにも成功した君のポイントはプラスで救出活動ポイント45ポイント!!合計で130ポイントだ!雄英史上非常に数少ない100ポイント超え!!来いよ、黒墨少年!ここが君の、ヒーローアカデミアだ!!』

 

その言葉を最後にプロジェクターは終わり、俺の部屋は再び暗くなる。

 

「合格、か……。いやわかっちゃいたけど、めっちゃ緊張したぁ!」

 

俺は背もたれに寄りかかり、息を吐く。

前世含め二度目の高校受験、なんなら今世のほうが倍難しいところを首席で合格。

本来なら飛んで喜びたいところだが……。

 

「大丈夫かね、出久」

 

心配事は出久のことだった。

あいつは勉強はできるほうではあるので、そこらへんは心配していない。

心配なのは実技のほうだ。

この10ヶ月間でどれだけ特訓したかはわからないが、やはり無個性というのは周りに対して大きなハンデを背負っていることになる。

もしかしたら0ポイントで終わってる可能性だって……。

 

「心配だな……」

 

 

★★★

 

 

合格通知開封のその日の夜中、深夜1:00。

 

「さて、もうそろそろ寝ておく(ピロン♪)…ん?誰からだ?」

 

明日の準備を終え、寝る準備をしていると、スマホからLIMEの通知音が聞こえてきた。

俺は腰かけていたベッドから立ち上がりスマホが置いてある机に向かう。

 

「んー、えーと、……お?葉隠からか、どれどれ?」

 

 

【どうだった!?】

 

 

主語も減ったくれもない内容が送られてきてた。

まぁ何を聞きたいかはわかるけどな。

 

 

【あぁ、合格だったよ】

 

 

【私も合格だった!】

 

 

返事を返したらすぐに既読が付き、さらに返信も来る。

 

 

【よかったな】

 

 

【あの時黒墨くんが助けてくれなかったら多分受かってなかったと思う、だからありがとう】

 

 

【別に、ヒーローの卵として当然のことをしただけだ】

 

 

【それでも、だよ!】

 

 

"ありがとう"。

何度言われてもうれしい言葉だ。

 

適当な理由で受けようと思った雄英受験は、結果的にはよかったのかもしれないな……。

 

 

そこから俺たちは眠くなる限界までやり取りをすることとなった。

 

 

★★★

 

 

それから何ヵ月かが経過した。

 

「じゃあ、空さん。行ってくる」

「はいはい、いってらっしゃい。……あ、亜久」

「ん?」

 

俺は空さんに背を向けながら返事をする。

 

「――楽しんできなよ」

「……あぁ、わかったよ」

 

 

 

今日から俺のヒーローアカデミアが始まる。



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入学編
6話.入学初日


遅れてしまい申し訳ないです。
Bendy and the ink Machineをプレイしてたらこんなことに……。

ということで今話もよろしくお願いします!


雄英入学初日。

 

俺は迷っていた。

高校とは思えないほど敷地の広い雄英、そして始めて来る場所ということもあり、俺はまさかの迷子になっていた。

 

「初日から遅刻はよろしくないな、非常によろしくない」

 

俺は若干焦りながら廊下を歩き回る。

幸か不幸か、今日は入学初日ってことで割と早めに家を出ていたため、時間にはまだ余裕がある。

しかし、だからと言ってゆっくりとしている時間はない。

...しょうがない、奥の手を使うか。

 

「ふーっ、起きろ、サーチャー...」

 

俺は腕をインクにし、床に撒き散らす。

床に落ちたインクは独りでに動き出し、段々と何かを形作っていく。

最終的にそれは、地面から上半身だけを覗かせた全身真っ黒な人型だけが残った。

 

「サーチャー、今から1-Aの教室を探せ」

 

3体のサーチャーはそれぞれ敬礼のポーズを取り、バラバラになって行動し始める。

 

「あとは適当にぶらついてればサーチャーが連絡を入れてくれるだろう」

 

俺はそうぼやき、廊下をぶらぶらと歩き続ける。

 

それにしてもなかなか広いな。

しかも本校だけでなく、他にも校庭や体育館、以前の受験に用いた演習場に限っては複数もあるらしい。

さすがは天下の雄英だな。

 

「君」

 

ふと前のほうで声がし、俺は意識を前方に向ける。

が、目の前には誰もいない。

念のため後ろも確認するが、やはり誰もいない。

 

「??」

「どこを見てるんだ、下だよ」

 

またもや声が聞こえ、声の言うとおりに下を見ると、そこには黄色い寝袋が転がっていた。

そしてその寝袋からは男性の顔がひょっこりと……。

 

「……ど、どうかしましたか?」

 

なんとか反応できた俺を褒めてほしい。

ギリギリ脳がフリーズする前に返事をすることができた俺は、腰を下ろしながら男性の顔を見る。

 

「なぜ1年であるお前が2年フロアにいるのかと思ってな」

 

男性はやはり寝転がりながら返答を返すが、ちょっと起き上がってほしい。

現在の状況に頭がついていけない……ってか話してる途中で飲料ゼリーを飲むんじゃねぇ!?

処理ができなくなるだろ!

 

『1-Aを、発見しました』

 

心内でツッコミを入れる俺をよそに、サーチャーが発見の報告を入れる。

 

ナイスタイミングだサーチャー!

 

「あ、あー…、急に用事を思い出しました。俺はこれで失礼します」

 

若干不自然な感じになったが、俺は適当な要件をでってあげ、その場を退散しようとする――、

 

「待て」

 

が、失敗。

呼び止められてしまった。

 

「1つ、頼みたいことがあるんだが――」

 

 

★★★

 

 

今俺は1-Aに向けて歩いている、()()()()()()()()()

もちろん荷物というのは先ほどの男性のことだ。

先ほどの男性の頼み事というのは、1-Aに行くついでに自分に事を運んでほしい、ということだったので、俺はこの男性に個性使用許可をもらい、両腕からインクを出し、男性に巻き付け、背負うように運んでいる。

ついでに運んでる途中で男性の正体について教えてもらった。

 

男性の名前は相澤 消太(あいざわ しょうた)

なんと今から向かう1-Aの担任らしい。

正直今でも信じていない。

それに、担任ということはヒーローなんだろうが、俺は見たことがない。

まぁただ俺が見逃してただけっていう可能性もあるが……。

 

「あー、言い忘れてたことが一つあったな」

「……なんですか?」

 

先ほどまで目を瞑っていたはずの相澤先生が俺のことを見ているのが見えたので、俺も相澤先生のほうをチラ見する。

 

「校内は原則、個性の使用は禁止だ」

「……次からは気を付けます」

 

……いつから見られてたのやら。

 

 

★★★ side change:相澤

 

 

教室へ向かう途中、1人の生徒を見つけた。

俺はその生徒に見覚えがあった。

今年の実技試験にて入試1位で合格した、黒墨 亜久、個性インク。

開始の合図とともに1人だけ抜け出し、そこから効率的かつ合理的にロボを発見、破壊し続け、最終的には巨大ロボを中から破壊した少年。

 

どうやら道に迷っているらしいが、まぁこの広い敷地を持つ雄英じゃ仕方ないと言えなくもない……、と考え、俺は黒墨のほうへ向かおうとするが、それより早くにあいつは、おそらく個性の延長線ともいえる力でインクの化け物を3体作り出し四方へ散開させていた。

 

個性の無断使用。

脳裏にその言葉がよぎるが、俺はそれを無視しあいつが通るであろう道の端っこで寝袋を出し、そこに寝転がった。

合理的なやり方ではなかったが、この際それはどうでもいい。

 

「君」

 

そしてキョロキョロと周りを見回しながら歩く黒墨を見つけ、俺は声をかけた。

あいつは随分戸惑った様子だったが、おそらくだが俺の今の格好を見てその反応なのだろう。

が、俺はあえてそれを無視し、話しかける。

そこから黒墨に1-Aまで運んでもらう途中、個性の無断使用について釘を刺しておく。

 

それにしてもこいつの個性……、インクを前に進む推進力に使ったり目くらましに使ったりと様々なことで用いて使っていたが、試験のラスト。

あれはいったいなんだ?

体は個性であるインクで作ってあるはずだが、()()()()()()()()……。

あれはまるで()()()()()()()()()()()()()()()()()()だった。

もし黒墨が雄英に来ずに適当な高校へ入学し、何かの拍子に個性が暴走でもしていたら……。

………。

 

「…そうならないためにも、俺たちが道を示していかないと、か……」

 

 

「――相澤先生、なんか言いました?」

「いや、ただの独り言だ、気にするな」

 

 

★★★ side change 黒墨

 

 

ちょいちょい独り言が聞こえて、それの内容を促し、流されるを繰り返すこと十分。

ようやく1-Aの扉が見えてきた、っていうか……。

 

「でかいな」

「異形個性のためのバリアフリーだ。さ、扉を開けてくれ、早よ」

「うっす」

 

俺は目の前の巨大なスライド式の扉を開ける。

そこには、これから三年間を共に暮らすであろう、おそらく1-Aの皆がいた。

その中には勝己や出久もいる。

まぁそれは合否結果が届いた次の日に教えてもらったんだけど。

……ちなみに勝己からもきていた。

いつもは暴言やらなんやらでアレだが、こういうところは本当にみみっちい。

 

で、扉は明けたはいいものの、誰一人として気付かない。

あの受験の時に出久に対して怒っていた真面目そうなメガネ君も気付かない。

てか時間大丈夫なのか?さっき予鈴なってたよな?

 

「黒墨、下ろせ」

「あ、はい」

 

小声で話しかけてくる相澤先生。

俺はその言葉に同じく小声で返答をし、相澤先生を地面に下ろす。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

たった一言。

別に怒鳴りもせずに、限りなく静かに言ったはずの言葉が教室中に広がる。

 

「ここは……、ヒーロー科だぞ」

 

(なんかいるっ!!?)

 

 

あれ、おかしいな。

皆、相澤先生の登場で静かなはずなのに、この場にいる皆のツッコミが聞こえてくる。

 

「ハイ。静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理的に欠くね」

 

(先生!!?)

 

 

あれ、また聞こえる……。

なんかものすっごい仲間外れ感を感じる。

 

って、相澤先生の寝袋の中身ってそんな感じなのね。

にしてもでけぇマフラーだな、武器にでもするのかね……拘束具?

 

「担任の相澤 消太だ、よろしくね」

 

(担任!!?)

 

 

あ、また……。

いや、もういいや。

 

「早速だが、体操服着てグラウンドに出ろ。……黒墨はここまでありがとな」

「…あ、いえ」

 

伝えたいことを端的に伝え、相澤先生はさっさと教室を出て行った。

 

さて、と…俺もこれ持って更衣室に向かいまs「あー!!」――っと?

 

「黒墨くんだぁ!同じクラスだったんだね!」

「その声は…葉隠か。良かったよ、知り合いが多いA組になれて」

「うんうん!…って、知り合いが多い?」

「そうそう、現時点で葉隠を含めて3人――」

「あっくん!」

 

葉隠と話していると、横から出久が話しかけてくる。

 

「僕、入れたよ!」

「見りゃわかるし、中学んときに聞いたよ」

「そして、僕は…、あっくん、君を超えて、最高のヒーローになる!」

 

何か覚悟を決めたかのような、否、覚悟を決めた顔つきになる出久。

どんな理由で覚悟を決めたかなんて、俺は知らない。

だが……、

 

「ふは、あぁ…。そいつは、…楽しみにしてるわ」

 

俺は無性にそれが嬉しくなった。




本当は個性把握テストのところまで書きたかったのですが、自分の多くの駄文のせいでその直前までしか書けませんでした…。

次の話で個性把握テストの部分を終わらせられるように頑張ります。

ということで次話も楽しみに待っていてください!


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7話.個性把握テスト

相澤先生の口調が安定しないなぁ。

ということで今話もよろしくおねがいします。


「お前たち遅いぞ。そんなのでヒーローになろうってのか?」

 

現在、俺たちは相澤先生に怒られている。

理由はいたって単純、グラウンドに来るのが遅かったからである。

 

「はぁ、ヒーローになるための3年間、いつまでも学生気分でいられると困るんでね。今からやる個性把握テスト、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

へぇ…。

 

「は、はあああ!?」

 

 

相澤先生の唐突のデスゲームの開催により、皆は口をあんぐりと開けて驚きの声を上げる。

 

「雄英は"自由"な校風が売り文句、そしてそれは"先生側"も然り」

 

と話す相澤先生は、手に持っていたボールを俺に投げてくる。

 

「おっと……」

「黒墨、中学の時のソフトボール投げの記録は何mだった」

「……61mです」

 

後ろのほうから、「はっ!」と鼻で笑うような声が聞こえたが、なんとなく誰だかわかるため無視。

相澤先生はチラッと声が聞こえたほうへ目を向け、すぐにこちらに目を向ける。

 

「じゃあ個性を使ってやってみろ」

 

と、お達しが出たため、まぁ、全力でやってみようかな。

幸いにも円から出なければなんでもいいらしいので、ね。

 

ではまず、ボールに一定時間で爆発するインクをいくつか付着させる。

次に腕全体にインクジェットを取り付け、勢いをつけられるようにする。

あとはインクジェットをふさがないように腕をインクで纏えば……。

 

「お、おい、あれって0pを中からぶっ壊した奴に似てないか?」

 

と、後ろからおそらく俺のことを言ってるであろう話し声が耳に入るが、さすがに今返事するわけにはいかないのでそれをまた無視する。

 

「せー……の!!!」

 

腕につけたジェットが勢いよく噴射し、ボールを持つ手が前に押し出される。

その勢いをそのままに、投げる体勢につき、ボールを押し出す。

 

ゴっ!!

 

到底ボールを投げる動作から聞こえるものではない音が、()()()()()のほうから聞こえる。

 

俺は音が聞こえたほうへ顔を向けると、ボールはインクをまき散らしながら空に向かって小さくなっていく。

しばらくして相澤先生が俺たちに見えるようにスマホの画面を見せてくる。

 

「まず自分の「最大限」を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

スマホの画面には、【991.3m】と表示されていた。

 

「991mって、ほぼ1kmじゃん!すげぇ!」

「個性思いっきり使えるんだ!さすがヒーロー科!!」

「でも、これでこの人の記録が基準になったらやばいんじゃ……」

 

個性を思いっきり使える、というこれまでの生活ではなかったことができるということに興奮していた皆だったが、どこからか聞こえてきた一言で、興奮の声がざわめきへと変わる。

 

「これはあくまで個人がどれだけ個性を使えるかのテストだ。誰かを基準にする、なんてことはしない」

 

相澤先生のその言葉にホッと息を吐く皆。

ちなみに俺も安心した。

俺のせいで皆にプレッシャーを与える、なんてことになったら罪悪感で消滅するところだった……。

 

「それにしても、最下位は除籍処分って、あまりにも理不尽よぉ……」

 

個性把握テストのデモンストレーションを終え、皆のところへ戻ってきたとき、葉隠がボソッと呟くのが聞こえた。

おいおい、そんなこと言ってると聞こえr――「自然災害…大事故…身勝手な(ヴィラン)たち…」――あ、あ~……、聞かれてた……。

 

「いつどこから来るかわからない厄災、日本は理不尽にまみれている。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー。放課後マックで談笑したかったならお生憎……」

 

相澤先生は静かに息を吐き……。

 

「これから3年間、雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。Plus Ultra(更に向こうへ)さ。全力で乗り越えて来い」

 

これが雄英からの洗礼、ってやつなのかな。

なんか、すげぇ……、年甲斐もなくワクワクしてきた!!

 

 

★★★

 

 

【第1種目:50m走】

 

「"インクジェット"!!」

「3秒56!」

「亜久!てめぇ俺のをパクんじゃねぇ!!」

「亜久くんの後ろとんでもないことになってるんだけど!?」

「黒墨、後ろのインクは自分で処理しろ」

「……はい、すいません」

 

【第2種目:握力】

 

「粘力のあるインクを生成して、強く締め上げる……」

「105kg」

「……なんかお前の個性って、エロイことにも使えそうだよな」

「黙れちび」

 

【第3種目:立ち幅跳び】

 

「起きろ、サーチャー」

「うぉ!?なんか出てきた!?」

「サーチャー、俺を運べ」

「いやいや、流石にそれは反則だろ!?」

「――という話が出ましたが、相澤先生。これはどういう判断になりますか?」

「当人の体が地面についてない、よってセーフだ。……それより、黒墨、それはどれくらい保つ」

「んー、測ったことはありませんが、おそらく無制限ですかね」

「……はぁ」

「ん?おぉ!?∞かよ!?」

「すごーい!」

 

【第4種目:反復横跳び】

 

「記録、98回」

「いや個性使わなくても化け物かよ……」

 

【第5種目:ボール投げ】

 

「相澤先生、この枠を出なければどんな方法でもいいんですよね?」

「あぁ」

「そうですか、なら…………、ロケットパーンチ!!!」

『腕が飛んだぁ!!?』

「……998.2m」

「うっわ、惜しかったな」

 

 

★★★

 

 

ダイジェスト終了。

ほかにも持久走や上体起こし、長座体前屈があったが、"インクジェット"を使ったり、体を切り離したりと、記録をそこそこ伸ばした。

まぁおそらく上位には入れただろうという考えを一度片隅に置き、先のボール投げのシーンを思い出す。

 

――SMASH!!!――

 

出久が投げたボールが空高く飛んでいく光景。

酷く腫れた右手の人差し指。

 

どんな光景であれ、出久は個性を持っていた、……否、発現したのか?

いつだ……いや、いつ頃かについてはもうおおよそ見当はついている。

おそらくだが、受験までの10ヶ月の間だろう。

もともとあったが気づいてなかった?

もしくはレアケースとしてその時期の間に個性が発現したのか……。

前者と後者なら、後者のほうが可能性としては高いだろう。

でも確か、あいつの親はどちらも超パワー系の個性ではないはずだ。

 

「勝己ではないけど、あとで問い詰めてみるのもありかな」

 

 

★★★

 

 

てことで結果発表。

結果は3位と上位に食い込むことができた。

で、相澤先生の言っていた除籍云々はウソだったらしい。

俺たちの最大限を引き出すのと、いつでもヒーローになれるようにするための心持のための合理的虚偽らしい。

これを聞いた皆は、盛大に驚いていた。

 

出久に関しては顔が歪む勢いだったということをここで言っておく。




長らくお待たせしました。
中々都合がつかずにズルズルと引きずってしまい申し訳ないです。

次の話はなるべく早めに出せるように精進いたしますので、お気に入り登録、感想を待っています。
評価もつけていただけると、モチベにつながるのでお願いします。


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8話.もう1人の転生者の影

はい、就活が忙しくて遅れてしまいました。
ごめんなさい。

で、今回も話を進めることができませんでした。
自分の語彙力が……語彙力がっ!!

ってことで今話もよろしくお願いします


個性把握テストが終わって教室へ戻り、なんやかんやあって現在は放課後。

 

「疲れた……」

「あー…、まぁお疲れさん、出久」

「あ、ありがとう、あっくん……」

 

隣ではげっそりした様子の出久が歩いている。

すると後ろからメガネ君が出久の肩を掴んでいた。

どうやら先の個性把握テストの際に怪我をしたことについて心配で聞いてきたらしい。

初めて見た時と同じ印象で、根は真面目なメガネらしい。

……委員長が似合いそうなやつだ。

 

「おーい!駅まで?ちょっと待ってー!」

 

そんなくだらない思考に陥っていた俺は、ふと後ろから女子の声が聞こえ、後ろを振り向く。

 

「君は、∞女子」

「確かに記録で∞を出してたな」

「麗日お茶子です!えっと、飯田天哉くんに黒墨亜久くん、それと緑谷…デクくん!だよね!!」

「デク!!?」

 

おっと、それは出久の蔑称……って、まぁ本人が説明するし言わなくてもいいか。

 

「でも「デク」って……「頑張れ!!」って感じで、なんか好きだ、私」

「デクです」

「出久!?」「緑谷くん!!」

 

おいおい、思わずツッコんだけどいいのかよお前は……、いやお前が幸せなら別にいいんだけど。

って、そういや聞きたいことがあったんだった。

 

「なぁ出久」

「ん?なに、あっくん」

「勝己じゃないんだけどよ、お前の個性、あれはどういうことだ?」

「!?、う、えーと、あ、あの特訓の間で個性が生えてきたみたいでさ!まだ制御は難しいけどいつか()()()()()()()()()()()よ!」

「…ふぅん、ま、別にいいけどよ」

「え?な、なにが――」

「お前が隠し事してること」

 

お前と何年の付き合いだと思ってるんだ?出久。

それにお前は嘘が下手すぎる、もう少し隠す努力をしろ。

 

「っ!!そ、それが何?」

「いや、特に。別に隠し事なんて誰でもしてることだからな。俺だってお前らに隠してることの一つや二つはあるからな」

 

主に転生関係の話だが。

 

「……そう、なんだ」

「そう。だからそう怯えた顔をすんなよ」

 

俺は笑いながら出久の肩を叩く。

が、それでも出久は警戒したような顔をやめない。

…はーぁあ。

 

「ま、これ以上詮索はしないから心配すんなよ。…じゃあな」

 

これ以上この話を続けて気まずい空気にするのは、俺が嫌だったので、早々に切り上げて出久たちから離れることにした。

 

「ま、これでなんか重大なことを隠してるのは確定なのかな」

 

出久からある程度離れたところで確認のためにボソッとつぶやく。

 

おそらく個性が生えてきたっってのは嘘。

あいつの親はどちらも身体強化系ではないからだ。

なら、……継承された個性?

個性の可能性は計り知れないから、個性を継承させることができる個性があっても不思議ではない。

ならいったい誰に渡されたのか……。

 

俺は脳をフル回転させて考える。

そして最終的に行き着いた人物は……

 

「……オールマイト?」

 

確かに出久は中学生の時にオールマイトと出会っているし、個性も身体強化、もとい超パワーと似通っている。

……だがまだ確証に至っているわけではない。

どれだけ共通点があって確信を持てると言っても、証拠がないと何も言えない。

 

「とりあえずこれに関しては保留だな……と」

「あ、黒墨くん!」

 

俺は思考から離れ、後ろを振り向く。

 

「おぉ、葉隠か」

「今から帰るところ?」

 

後ろにいたのは葉隠だった。

彼女も電車を利用するのだろうか?

 

「いや、ちょっと寄り道しようと思ってな」

「へ~、私も行っていいかな?」

「ん?別に構わないけど」

 

葉隠は俺の横に並んで歩き始める。

そこから俺たちは近くのゲームコーナーや、ス〇バに寄っててんやわんやとしていた。

 

「あー、楽しかったぁ!」

「あぁ、そうだな……ん?」

 

帰り道、葉隠と話しながら歩いていると、道端にとあるものを見つけた。

それは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

あの世界では何度も見た見覚えのあるもの。

 

「っ。これがなんでこんなところに……」

「どうしたの?」

 

鉄パイプを拾って固まっていた俺を心配してか、話しかけてくる葉隠。

俺は葉隠に見えないように鉄パイプを体で隠し、なんでもないと伝え、再び歩き始める。

また雑談を始める葉隠とは別に、俺はさっき拾った鉄パイプのことを考えていた。

 

「(この鉄パイプはBendyのやつにでてきた鉄パイプで間違いない。でもなんでこの世界にある?俺以外に転生者がいる可能性は全然あるが、俺と同じ個性を持つ転生者がいるなんて考えてもなかった。これからはそのことも視野に入れて生活していこう)」

 

こうして俺のヒーローアカデミアは不安の空気を醸し出しながら幕を開けた。

 

 

★★★

 

 

「んじゃ次の英文のうち、間違っているのは?」

『……』

「おらエヴィバディヘンズアップ、盛り上がれー!!!」

 

次の日から授業が始まったのだが、まぁペースと難易度が段違いなだけで特に変わった様子のない、普通の授業だった。

ただ英語の時間はプレゼントマイクの声が少々うるさかったが。

昼は大食堂でランチラッシュが作る一流の料理を安価で食べることができる。

一人暮らしが多い雄英生にとってはありがたい値段設定である。

 

そして午後の授業。

ヒーロー基礎学。

 

 

「わーたーしーがー!!」

 

廊下から声が聞こえる。

……そんな声量でほかのクラスには迷惑をかけないのだろうかと少し心配するんだが。

 

そして、だんだんと音が大きくなっていく。

って、どんだけ遠くから声を出してたんだ?

ほかのクラスどころか近所迷惑になるだろ絶対。

 

「普通にドアから来た!!!」

 

普通にって割にはドアが壊れそうな勢いなんだけど……って、もういいか。

俺以外のみんなはオールマイトが目の前にいるからか盛り上がっている。

出久は言わずもがな、勝己も表情は変えずとも目を輝かせている。

 

そしてそのままオールマイトは壇上に上がり、今日のヒーロー基礎学の説明を始めた。

どうやら今日は戦闘訓練をするらしい。

で、この戦闘訓練では、入学前に送っていた個性届と要望に沿って作られた戦闘服(コスチューム)を着て行うようだ。

 

……まぁ、頑張っていくかな。

 

 

★★★

 

 

「おぉ!いいじゃないか皆!かっこいいぜ!!」

 

現在、グラウンドβ。

皆、自分のコスチュームに身を包んでいる、もちろん俺もだ。

 

「黒墨ちゃんのコスチューム、まるで普段着みたいね」

「……蛙吹、だったかな?」

「梅雨ちゃんと呼んで」

 

隣から名前を出されたのでそちらを向くと、全体的にカエルっぽいコスチュームに身を包んだ少女、蛙吹梅雨がいた。

 

「それでコスチュームのことだが、まぁ普段着だな。頑丈性はピカイチだが」

 

それにプラスして背中に映写機背負ったり腰にインク瓶複数くっつけたりしてるが。

で、肝心のコスチュームだが、黒い長袖シャツにサスペンダーである。

ぶっちゃけサミー・ローレンス*1を意識して要望を出した。

 

「先生!ここは入試の演習場ですが、また市街地演習を行うのでしょうか!?」

 

ヒーローインゲニウムのようなコスチュームに身を包んだ飯田がオールマイトに対して質問を飛ばす。

 

オールマイトはそれに対し、屋内でも対人戦闘訓練をすると言っている。

で、ヴィラン側とヒーロー側の2対2の屋内戦を行うようだ。

状況設定としては、ヴィランがアジトに核兵器を隠していて、それをヒーローが処理しようとしている、というアメリカンな設定だ。

勝敗は、ヒーロー側は制限時間内にヴィラン側を捕まえるか、核兵器の回収。

ヴィラン側は制限時間まで核兵器を守るか、ヒーローを捕まえること。

ちなみに人選はくじで決めるらしい。

出久曰く、プロは他事務所と急増チームアップすることが多い云々……ということらしい。

 

で、結果。

 

「よろしくね!黒墨くん!」

「……なんかお前と一緒になること多くないか?葉隠」

 

Iチーム、葉隠と組むことになった。

……いやほんとに葉隠と一緒になることが多いな。

まぁいいんだけどさ。

*1
bendy and the ink machineのキャラクター




ってことで、ちらっとですが他の転生者の影を出してみました。
今後出てくるかは不明です(おい)
だってすべての話において行き当たりばったりですから!

ってことで次の話もお楽しみに。
※お気に入り登録、感想、評価をつけてくれるとモチベ上がります。


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9話.本領発揮

調子づいていたので少し早めに投稿。

実は割と好きな回です。
では今話もよろしくお願いします。


一回戦目、Aチーム対Dチーム。

つまり出久のチームと勝己のチームである。

 

で、結果的に言ってしまえば出久チームの勝利となった。

勝己もなかなか頑張っていたと思うが、やはりあいつの自尊心やら不純なものが纏わりついているせいか、私怨での行動になってしまい、結果ヴィラン側の勝利条件を見過ごしてしまった。

本当なら序盤のほうで両方を捕らえ、勝っていたものを、だ。

 

また出久も、勝己の熱に充てられてしまい、ヒートアップ。

攪乱して自分だけ二階に上がることもできたと思うが、まぁそれは結果論なので黙っておく。

が、最後の攻防。

出久にとっては最善の作戦だったのかもしれないが、もしあの攻撃で他のヴィランが来ていたら出久はあの怪我でどうするつもりなのだろうか」

 

『……』

 

……ん?どうしたんだ、皆黙ったりして。

 

「自分で気づいてないのか?」

「ん?」

「八百万が講評言ってる時に横からぼそぼそ話し始めてたんだぞ?」

「…………んぇ?」

 

あー、……まじか。

え、はっず。

 

「黒墨ちゃん、顔が赤いわよ?」

「ちょ、見るんじゃねぇ!」

「やっぱり黒墨ってあの二人のこと見てるよなぁ」

 

これ以上そのことに触れるんじゃねぇ……、インクの波に溺れさすぞ貴様ら!!?

 

「んっん゛!」

『!?』

「まだ授業の最中だから、ね?」

『は、はい……』

 

 

 

 

で、はい。

場所を変えて第二試合。

組み合わせはBチーム対Iチーム、つまり俺と葉隠のペアの出番だ。

それに対して相手は腕がたくさん生えたやつと、コスチュームで左半身を包んだやつ。

あいつらがどんな風に個性を使ってくるかは個性把握テストの時に見てたから、どんな感じにくるかはいくつか思いつく。

それに、俺の個性は室内で使うと無類の強さを発揮する。

んで、俺たちはヴィラン側なため、先に建物の中に入っていた。

 

「私、本気出すね!」

「ん……ん?」

 

作戦を練っている最中、後ろから声が聞こえ、適当に返事をする。

が、俺はそこで違和感を覚える。

後ろでは靴と手袋を取る葉隠の姿が……。

 

「な、なぁ、葉隠」

「?どうかした?」

「お前のコスチュームってさ……それだけ?」

「うん!これ以外は着てないよ!」

「……つまり?」

「?ん~、全裸だね」

「お、おま、ばっ、ばかか!?」

 

こいつさぁ、ほんとに、ほんっとに!

羞恥心を持ってほしいよ、ほんとに。

 

「ば、ばかって、乙女に失礼だよ!」

「この際乙女でもなんでもいいんだよ!これが終わったらコスチューム作り直してこい!多分だが髪の毛一本送ってやればそれをもとに作り直してくれるはずだから」

「……なんで髪の毛?」

「それは――」

 

『ヴィランチームは準備はいいかい?』

 

壁際につけられたスピーカーからオールマイトの声が聞こえてくる。

もう作戦タイムは終了か。

正直作戦は完璧には考えられてないが、何とかするか。

まずは……。

 

「葉隠、せめて靴は履いておけ」

「え?わ、わかった」

 

『じゃあ、屋内対人戦闘訓練、開始!!』

 

瞬間、ビル全体が氷漬けになった。

 

「わ、わ!?」

「やっぱりこうくるか」

 

おそらく左半身を隠すようなコスチュームを着たあいつの個性だろう。

とりあえず咄嗟に持ち上げた葉隠を下ろす。

 

「あ、ありがとう」

「あぁ、急に悪いな。ここで葉隠が動けなくなるのは避けたかったんだ」

「う、うん……って、黒墨くん!足が……!」

「ん?……あぁ」

 

葉隠に指摘され、自分の足元を見ると、脹脛のところまで氷漬けにされてしまっている。

それを俺は、()()()()()()()()()

 

「ちょ!?」

「安心しろ、俺は痛みを感じないし、すぐに……ほら」

 

膝から下がなくなったところからインクがあふれ出し、すぐに足の形になり元通りになる。

ついでにコスチュームの部分も直しておく。

 

「するならするって言ってよ!もう!」

「悪い悪い」

 

俺は葉隠に謝りながら索敵を開始する。

実はここまで来る間にインクを張り付けておいたのだ。

これでインクから向こう側を覗くことできる!

と、思っていたのだが……、

 

「うーん、全滅かな?」

 

実際には全滅なのではないのだが、氷に覆われていてよく見えないし、音もくぐもってよく聞こえない。

 

「作戦変更かな」

「え、もう作戦を考えてたの!?」

 

少し声を震わせてながら驚く葉隠。

……はぁ。

 

「ほら」

「わっとと……、えーと、これは?」

「とりあえず胸に押し当てて」

 

こぶし大の大きさで固まったインクの塊を葉隠に渡し、指示をする。

 

「こ、こう?――わっ!?」

 

インクの塊は葉隠を覆うように膨らみ、服のようになっていく。

そして…、

 

「これで寒くないだろ」

「さ、寒くないんだけどさ、その……ぴっちりとしすぎじゃないかな?」

 

葉隠の体は寒さを守るようにインクが体を包んでいるが、体のラインがわかりやすく見えるようになってしまっていた。

 

「これ……恥ずかしいんだけど……」

「それは我慢してくれ……と、近づいてきたみたいだな」

 

耳を澄ませると、パキ、パキ……と表面の氷を砕きながら歩く足音が複数聞こえてくる。

 

「え、ど、どうしよう……!」

「おそらくあいつらがいるのは三階、なら……」

 

俺は壁に両手を当て、そして…、

 

「"cover(覆え)"」

 

俺のインクは氷を塗りつぶすが如く広がっていく。

そして、気が付けば、今いる建物の外と中が真っ黒になっていた。

ガラスにも覆われているため、外からの光もシャットアウトだ。

 

「な、なにも見えないし、地面もなんかドロッとしてて歩きづらいよぉ」

「そういうときのこいつだ」

 

続いて俺は背中に背負っていた映写機を両手で持つ。

 

「"wake up The Projectionist(目覚めろ、映写技師)"」

 

すると、映写機からインクがあふれ出し、首から下の体が作られていく。

肩にはフィルムリールが複数付き、黒い厚底ブーツを身に着ける。

そう、こいつは映写技師、英名はプロジェクショニスト。

原作では恐ろしいほどの耐久力と攻撃力を誇り、主人公を見つけると凄まじい速さで追いかけてくる、言わば中ボスと呼ばれる敵キャラだ。

 

「プロジェクショニスト、葉隠をお前の体に張り付かせ、敵を見つけ出せ。見つけた敵は痛めつけるだけでいい、絶対に殺すな」

 

そう命令すると、プロジェクトニストは液晶を一層輝かせ、葉隠を背中に張り付かせて下の階に降りていく。

その間、葉隠は茫然としていたのか、されるがままである。

 

「さて、こっちのほうもなんとかするか」

 

俺は座り、地面に手を置く。

 

「"get up Lost One(起きろ、迷い人)"」

 

そう唱えると、地面から人によく似たインクのヒューマノイドが複数体現れた。

 

「迷い人、これ(核兵器)を誰にも近づけさせるな」

 

迷い人は啓礼のポーズをし、それぞれの邪魔にならないように移動する。

 

「そんじゃまぁ、行きますか」

 

俺は壁に向かって歩いていき、壁の中に飲み込まれていった……わけではなく、壁にワープポイントを作り出し、葉隠がいるところにワープをするのだった。

 

 

★side 轟★

 

 

「どうなってやがる……!」

 

開始直後にビル全体を凍らせて、中にいるヴィラン側の人間と目標である核兵器の動きを封じたはずだ。

だが結果はどうだ、封じたと思ったら氷の上から黒色の液体が覆い隠し、あっという間に相手のフィールドとなってしまった。

 

「轟、周囲、――この階の音しか聞き取れない。ここからは慎重に動くほうがよさそうだ」

「いや、関係ねぇ。これの上からもう一回凍らせる」

「だがそれではさっきの二の舞……ん?」

「どうした」

 

意見が拮抗していたその時、障子が遠くのほうを見ている。

 

「いや、向こうのほうから妙な音が聞こえてな」

「妙な音?」

「何か大きなものがこちらに向かってきているような……、っ!?ここは一度離れるぞ、轟!」

「何があった!?」

 

俺は急に様子のおかしくなった今回の味方に状況を問おうとした。

瞬間……、

 

 

「GYUOOOOOOAAAAAAAAAAA!!!!」

 

 

暗闇の中に一筋の光が見える。

だが決して希望とかそんなものではない。

もっとこう、負の塊のような……そう。

 

絶望

 

「くっ……!」

 

俺は苦し紛れに個性を使う。

だが奴は意に介していないかのように、いや、実際に何も感じていないのだろう。

腕を振るうだけで氷の壁を破壊されてしまう。

そして気づいたら奴は俺の目の前に……。

 

左を使えば少しは怯ませることができるだろう。

だが俺は、母さん、右だけの力でプロになると決めたんだ。

あんなくそ親父の力なんか使わずに!!

 

奴はもう腕を振り上げている。

俺はそれに合わせて再度氷の壁を張ろうとする。

が、それはできずに終わった。

 

「待て、プロジェクショニスト」

 

後ろから声が聞こえる。

俺は思わず後ろを振り返る。

そこには、障子を地面に押さえつけるヴィラン側の姿があった。

 

「な!?」

「轟くん確保ー!」

「な!!?」

 

気が付けば俺の腕にはテープが巻かれていた。

テープの先を見れば、背景と同化して見づらいが、人の姿があった。

 

『ヴィランチーム、WIIIIN!!!』

 

 

★side 黒墨★

 

 

「黒墨くん、やったね!」

「あぁ、そうだな。プロジェクショニストも、おつかれ」

 

葉隠が体に付いたインクを払いながらこちらにやってくる。

プロジェクショニストもノソノソとこちらに歩いてくる。

 

「…黒墨」

「ん?おっと、悪い」

「いや、大丈夫だ」

 

俺は障子から離れ、手を差し出す。

 

「お前の個性、中々厄介だった。お前がいなかったら速攻勝負をつけてたと思う」

「嫌味にしか聞こえないな」

 

嫌味じゃないんだけどなぁ、と思いながらも手を握り返してきた障子を起こす。

 

「それにしてもさ!ビル全体を覆ったときはびっくりしたよ!」

「轟も同じようなことしただろ」

 

俺は至るところについているインクを回収しながら、葉隠の疑問に答えていく。

 

「じゃあ二回びっくりした!」

「じゃあってなんだ、じゃあって」

 

俺はビル全体のインクを回収し終わり、轟のほうに歩く。

 

「……なんだ」

「そんな目ぇすんなよ。……次戦うときはお前の全力と戦いたいな」

「っ、てめぇ!」

 

謎に激昂する轟を無視して、俺は言いたいことだけ言って、さっさと別のところにいる皆のところへ歩いていくことにした。




ってことで、主人公は轟チームと戦ってもらいました。
理由は特にないです。

障子くんの口調がわからなくて、自分でも少し違和感が……。
感想や誤字報告などで指摘してくださると幸いです。

ということで次話でまたお会いしましょう。
感想、お気に入り登録、評価をつけてくれるとモチベが上がるのでそちらもよろしくお願いします。


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10話.面倒くさい一日 ~前半~

はい、どんどん投稿頻度が遅くなってます。
まぁもとより行き当たりばったりなので突然投稿を辞める時もありますが、そのときまで楽しんで読んでくれると幸いです。

今話は少々長いです。


今朝、少しめんどくさいことに巻き込まれた。

 

「お兄ちゃん!私もオールマイトに会いたい!!」

 

朝飯を食べてるところに突っ込んでくる雲里。

俺はとっさのことに反応ができずに、勢いを抑えきれずに椅子ごと地面に倒れこんでしまった。

 

「おーい、大きな音がしたけど、どうしたぁ!?」

 

別の部屋で作業を行っている空さんの声が聞こえてくる。

俺は雲里を抱きかかえながら空さんに聞こえるように話す。

 

「雲里の勢いを止められなかっただけだから特に何でもないぃ!!」

「わかったぁ!ケガだけはすんなよぉ!!」

「おぉ!!」

 

俺は倒れた椅子を直しながら雲里を膝の上に置いて、話を聞くことにする。

 

「で、どうした?」

「私ね!今日の新聞見たの!」

「おう、そうなのか」

「うん!それでね、オールマイトがお兄ちゃんの学校にいるって書いてあったの!」

「ほうほう、なるほど」

 

あー、なんか嫌な予感がしてきたぞ?

 

「私もオールマイトに会いたい!連れてって!!」

「( '꒳' )」

 

なぁに言ってんだこの妹は。

 

「いや、無理だろ」

「やだ!会いたいの!!」

 

はい、駄々こね娘の完成だね。

はぁ~……。

 

「無理なもんは無理なの、諦めなさい」

「むぅ……ふん!」

 

雲里はそっぽを向いて俺の膝から降り、どこかへ走りに行ってしまった。

 

「……しばらくはあのままなんだよなぁ。どうやってなだめようかねぇ、ほんとに」

 

俺は学校に帰ってきてからどうしようかと、頭を悩ませることになった。

 

 

しかし、俺は知らない。

そんなことがどうでもよくなるぐらいのことが学校に着いてから待ち受けていることに。

 

 

★★★

 

 

「じゃあ行ってくるわ」

「あぁ、気を付けなよ。……はぁ、それにしても雲里のやつはどこに消えちまったんだか……」

 

あの後、俺はいつも通りに学校の準備をしていたのだが、その間に雲里はどこかに消えてしまったらしい。

多分、というか俺のせいだな。

 

「すみません、ちょっと判断ミスりました」

「ん?あぁ、亜久は気にしなくていいんだよ。雲里にも我慢ってのも覚えてもらわないといけないしね」

 

と、空さんは俺の頭を撫でてくる。

 

「やっぱり結構伸びてきたね、髪。もうそろそろ切るかい?」

「急に撫でないでくれよ、空さん。もう俺は子供じゃないんだから」

「私にとっては、お前もいつまでも子供なんだよ」

 

精神的にはもうおっさんと言われてもおかしくないので、こういうことをされると人並みに恥ずかしいのだが、空さんはそんなことお構いなしに撫でてくる。

ちょっと鬱陶しいときもあるが、まぁ、気分穏やかになれるので振り払わないでおく。

 

「ん、ほら、俺学校遅れちまうよ」

「そうだな。……よし、じゃ、今日も頑張って来いよ」

「はいよ」

さすがに時間がないと思った俺は、空さんの撫でる手を止め、学校に向かった。

 

 

★★★

 

 

で、学校の前まで着いたのだが……。

 

「なんだあれ、マスコミか?」

 

校門の前にマスコミと生徒の壁があった。

さっさと学校に入りたい生徒をどうしても取材したいマスコミによって道を阻まれ、てんやわんやとしている。

 

「あ」

「あ」

 

やっべ、マスコミの1人と目が合っちまった。

早く逃げないと……。

 

「あの、オールマイトの授業はどんな感じですか?」

「うわはっや!?」

 

すぐにその場から離れようと後ろを振り向いた瞬間、すでに後ろには先ほど目が合ったマスコミがマイクを片手に立っていた。

 

「それで、オールマイ――」

「ちょっと脇、失礼しますね!」

 

俺は素の身体能力でマスコミを避けようとした。

しかし、

 

「あのぉ、取材をお願いします!」

「待ってまじかよ!」

 

俺これでも中学じゃ陸上部にも引けを取らなかったんだぞ!

なのにこのマスコミは、そんなのお構いなしに俺の退路を塞いできやがる。

…………はぁ、大人しく取材を受けるのが吉か。

 

「ようやく取材を受ける気になりましたか」

「一個だけな、学校に遅れる」

「えぇ、わかりました。それでですね、オールマイトの授業はどんな感じですか?」

「まぁはい、オールマイトはヒーローの成り方こそ最高の一言では表しきれませんが、教師という立場を語るのならば、初心者、と評価せざるを得ませんね。たまにカンペを読んだりして話してますし」

 

そう話すと、マスコミは驚いたような表情をする。

 

「オールマイトがカンペ、ですか!?」

「えぇ。それじゃ、質問には答えたんで、行きますね」

「え?あぁはい。ありがとうございました!」

 

マスコミは約束通り一つだけ質問をして満足し、俺を開放する。

そして一瞬目を離した時には、既に別の生徒に取材を行っていた。

 

「性根逞しいなぁ」

 

俺は思わずそう呟いてしまった。

 

 

★★★

 

 

あそこから複数のマスコミに追われたが、さすがにあんな化け物フィジカルなマスコミはあいつだけだったようで、簡単に撒いた後、俺は教室に入った。

 

「あ!おはよう、黒墨くん!」

「おはよ、葉隠」

 

教室に入るとすぐに葉隠が反応してきた。

それに続いて、勝己と轟以外が反応してきたので、そっちにも挨拶をする。

 

「今朝はすごかったよな!さすがはオールマイトって感じでよ!」

 

赤髪の少年、切島が今朝の様子を話し始める。

 

「うち緊張しすぎて何言ったかわからんかった」

「さすがは平和の象徴といったところだな。影響力がすさまじい」

 

麗日、飯田もその話に混ざってくる。

よし、俺も混ざるか。

 

「俺の素のスペックに余裕でついてきたマスコミもいたな」

『そのマスコミ何者!?』

 

なぁんて話をしてるうちにチャイムが鳴り、相澤先生も来た。

もちろんその間に俺たちはちゃんと席に座っている。

教育(調教)の賜物だね!

 

「昨日の戦闘訓練お疲れ。Vと成績、見させてもらった」

 

相澤先生ははぁ、と息をついて、まず勝己に目を向ける。

 

「爆豪、お前もうガキみたいなマネするな。能力あるんだから」

「……わかってる」

 

勝己がぼそりと呟く。

そういや昨日の放課後、出久となんか話してたらしいけど、何話してたんだろう。

幼馴染の俺にも話してくれよ~。

 

「で、緑谷はまた腕ぶっ壊して一件落着か」

「っ」

「個性の制御……、いつまでも「できないから仕方ない」じゃ通させねぇぞ。俺は同じこと言うのが嫌いだ。()()さえクリアできればやれることは多い、焦れよ緑谷」

「っはい!」

 

出久も出久で、相澤先生のわかりづらい激励に元気よく返事をする。

 

「さて、HR(ホームルーム)の本題だ。急で悪いが、今日は君らに……」

 

え?また臨時テストでもするつもりか?

俺的にはいままでやった勉強内容は把握済みだから、やっても特に問題ないんだけどな。

 

周りも俺と同じ考えのものが多いのか教室の空気がざわざわとしだす。

さて、どうなんだ……?

 

「学級委員長を決めてもらう」

 

「学校っぽいの来たー!!!!」

 

あ、なんか間に安心したかのようなため息が聞こえる。

 

で、学級委員長に関してだが、俺は参加できなかった。

みんなが委員長を立候補している中、俺は相澤先生に呼び出されたのだ。

呼び出されたまま歩き続け、俺と相澤先生は応接室と書かれた部屋に通される。

中には誰もいないと思っていたが、予想に反して、スーツを着たネズミが一匹いた。

俺は不審に思ったが、相澤先生に促されて長椅子に座り込む。

 

「いやぁ、急に呼び出しちゃって悪いね、黒墨くん」

「いえ、大丈夫です。……けど、まず、その…、貴方は?」

 

俺は、俺と対面で座るスーツを着たネズミに質問する。

 

「おっと、自己紹介が遅れたね。私はこの雄英の校長の、根津さ!」

 

なんと校長だった。

へぇ、異形化の個性なのかね。

 

「で、なんで俺はここに呼ばれたんですか?」

「ふむ、それはだね、依然行った入試の実技試験と昨日行ったヒーロー基礎学に関して、君と話そうと思い、相澤くんに呼んでもらったのさ」

「はぁ、なるほど」

 

意図が読めない。

この人(ネズミ?)はどういう意図をもって俺を呼んだんだ?

規則違反とかの話か?

でも俺はそんなことはしていない。

 

「単刀直入に言わせてもらうと、君の個性、インクという名称で抑えるのは些か無謀である、と僕は思っている」

「……と言いますと?」

「君の個性の内容は、体中からインクを生成することができる、と個性届には書かれている。だが、君のあのインクを纏う技、あれは常識から外れている。あれはまるで、()()()()()()()()()()()()()。とてもインクという言葉では表しきれないと判断した」

「…………」

 

この校長、鋭すぎないか?

確かに俺の個性の本質の中には悪魔――ベンディも入ってはいる。

だが見た目的には、一発で悪魔と判断するのは厳しいと思う。

だが、こいつは一発で正解まで持っていきやがった。

……なかなかめんどくさそうだ。

 

「そして昨日のヒーロー基礎学。君が映写機を媒体として創り出した怪物からは、凶悪なヴィラン特有の圧に似たようなものを画面越しから感じ取ることができた。それはつまり、君の個性の一部は自我があると判断したのさ」

「…………」

「さて、黒墨くん。このことをどう説明してくれるんだい?」

 

まじでやばい。(迫真)

この校長、さすが雄英の校長を務めるだけのことはあるとは思ったけど、あまりにも鋭すぎではないだろうか。

いや、正直に言ってもいいんだけど、絶対頭おかしいやつって思われるだろうし、信じてくれる可能性もあるだろうけど、それはそれでなんか危険性が高いとか何とかでどっかに閉じ込められそうだしなぁ。

うわぁ、俺どうすればいいんだ?

転生直後以来の絶体絶命じゃないか?これ。

 

「…………」

「……どうやら、話してはくれそうにないみたいだね」

「っ」

「まぁ、それでもかまわないのさ!」

「……え?」

 

なん、でだ?

 

「君からどれだけ危険な気配を感じても現状は何も起こっていない。君自身の行動を見ていてもそういう予兆というものもない。それならば少し警戒だけして、個性のことに関しては話してくれるのを待つ、というスタンスをとるつもりさ」

「なる、ほど?」

 

よくわからない。

こんな危険因子、さっさと牢屋なりなんなりにぶち込んでおいたほうがほかの生徒の安全を守れるし、犯罪を防止することもできる。

それなのになぜ?

 

「それに、危険な道に進もうとしている生徒に対して、少しでもお膳立てをしたり、安全な道を歩ませてやろうと思うのは、教師以前に大人の仕事だからね」

「そう、ですか…」

 

まだちょっとわからないが、なぜか校長の言葉が心の中にストンと落ちた。

……はぁ、こんなに生徒に寄り添ってくれる先生とかなかなかいないって、ほんとに。

 

「で、前座はこのぐらいにして、本題に入ろうか」

 

「え、今から本題なんですか!?」

 

「そうなのさ!で、これも単刀直入に聞くんだけど、この子わかるかい?」

 

校長のその言葉を皮切りに、先ほどまで俺の後ろに立っていたはずの相澤先生が応接室に入ってくる。

その手には、

 

「は?」

「あ……」

 

俺の妹である、暗天 雲里(あんてん くもり)が縮こまった猫のように大人しく首根っこをつかまれていたのだった。




そういえばお気に入り登録数が100件を超えていました!
ありがとうございます!
また現時点でUAもあと少しで1万に到達することもご報告します!
それもこれもたくさんの読者のおかげです、ありがとうございます!
これからも精進して頑張っていきますので、これからもよろしくお願いします!

と、今話についてですが、あまりに長くなりそうだったので前半と後半に分けて書くことにしました。
ということで、次話もお楽しみに待っていてください。

お気に入り登録、感想、評価などをしていただけるとモチベに繋がりますのでよろしくお願いします。


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11話.面倒くさい一日 ~後編~

遅れてしまい申し訳ないです。
就活のほうが忙しくなっており、なかなか時間を見つけられず、ずるずるとこんなに遅れてしまいました。

あまり前置きで話すと飽きてくると思うので、さっそく本編どうぞ


「……」

「……」

 

俺は今、我が義妹である雲里のことを見ている。

一方雲里は気まずいのか、俺の顔を見ずに明後日の方向を見ている。

 

「……なんでここにいるんだ?」

 

いつまでも無言のままだと何も始まらないので、俺は雲里を問いただすことにした。

しばらく雲里はだんまりを決め込んでたが、だんだんと俺からの圧に耐えられなくなってきたのか、少しずつ口を開き始める。

 

「えっと、……お兄ちゃんの頑張ってるところを見たかったから」

「なるほどな…………。で、本音は?」

オールマイトに会いたかったから

「ばかやろう」

 

そんなことで学校に来るんじゃない、とため息交じりに呟く俺を華麗にスルーした雲里は、根津校長のほうを向き、オールマイトはどこにいるか聞き出そうとしている。

 

「ネズミさん、オールマイトはどこにいるの?」

「うーん、オールマイトはね、今日は学校には来てないのさ」

「ど、どうしてぇ……、っ!――もしかして病気!?」

「オールマイトはそう簡単には病気にはならないのさ。なんてったって彼はナンバーワンヒーロー、体調管理もお手の物さ…………多分

「へぇ、そうなんだぁ」

 

おい、聞こえてるぞ校長。まぁ確かにあの人どっか抜けてるところあるから、なんとなく言いたいことはわかるけれども。

 

「で、どうすればいいんですか?一度家に連れて帰ることもできますよ?俺の個性なら一瞬ですし」

「いや、それはだめだ」

 

答えたのは後ろにいた相澤先生だった。

 

「学校の敷地内ならまだしも、学外じゃ法律違反だ。それに一度家に帰るってのも非効率、合理的じゃない」

「ならどうするんです?」

「そこに君に提案があるのさ!」

 

と、ビシッと俺を指差す校長。

だけどね、根津校長、今あなた雲里に撫でられてる状況でかっこつけてもなんも決まってないからな?

まぁそれを指摘しないのも生徒の役目、か。*1

 

「君には今日、雲里ちゃんを連れながら学校を過ごしてほしいのさ」

「……何か理由が?」

「私がオールマイトみたいなヒーローになりたいから!!……あ、です!」

「――というわけで、彼女には学校見学という名目でいろんな施設を見て回ってほしいのさ」

「……いや、俺は別にそれでもいいんですけど、授業の邪魔とかになりませんか?こいつ、悪い意味で自由気ままなんで、そこらへんが心配なんですけど」

 

今回みたいに、自分の思い通りにならないと、自分の思い通りにするために勝手な行動とかするしな。

……てかどうやって雄英に入ったんだ?たしか雄英バリアーなるものがあったはずだが……、まぁこいつの個性じゃあってないようなものだが。

 

「……ま、まぁそこは長年ともに過ごしてきた君の技量に任せるのさ!」

丸投げじゃねぇか!?

 

このネズミが……!!

 

「まぁ監視として相澤くんもつけておくから、頑張って」

「………はぁ、やります、やりますよ」

 

まぁやる以外の選択肢がないからな、ただでさえ個性のことで隠し事、もとい弱みを握られてるんだ、逆らえない……。

 

とりあえず根津校長と雲里を引き離してから、応接室を出る。

 

「……なんかすみません、相澤先生」

「まぁ、学校見学のデモンストレーションができると考えたら合理的だ。が、次は気をつけろよ」

「どう気を付ければいいかわからないですけど、わかりました」

「ほんとだよ、まったくお兄ちゃんは」

「はっ倒されたいのか、愚妹……、てかお前どうやって学校には行ってきやがった?」

 

なんか煽ってきた雲里に怒りを覚えながらも、俺は聞きたかったことを聞いてみる。

 

「ん?亜久兄のカバンの中だよ?」

「は?」

「私の個性で入ってたの」

「あー……は?」

 

こいつほんと自由気まますぎんか?

 

 

★★★

 

 

「で、こいつがいるってわけだ」

「そういうわけです」

『…………』

 

現在は昼休み。

俺は一時限目の途中から愚妹と共に教室へと戻ってきたことにより、先生を除いた教室のみんなが好奇心やら訝しげにこちらを覗いているのがわかった。

で、一時限目が終わった瞬間、みんなから質問の嵐だ。

主に女子からの質問がすごく、質問に答えているうちにあっという間に休み時間が終わってしまい、結局この昼休みの時間まで質問を待ってもらったのだ。

 

「それにしても、飯田がいなかったらすべての休み時間が潰れるところだった……、助かったよ飯田」

「いや、人を助けるのはヒーローの卵として当然のことだ」

「そうかい」

 

いやほんと、飯田様々だよ、まじで。

 

「にしても、委員長は出久になったんだな」

「う、うん。でも、いざやるとなると務まるか不安だよ」

 

出久は運んできたかつ丼には手を付けず、実際不安そうな表情をしている。

 

「ツトマル」

「大丈夫さ」

「なるようになるだろ」

「大丈夫ですね」

 

麗日、飯田、俺、愚妹が、ほぼ同時といった感じに、不安を打ち破るように発言する。

が、愚妹、お前出久のことほとんど知らんやろ。

 

「緑谷くんの、ここぞという時の胆力や判断力は、()をけん引するに値する。だから君に投票したのだ」

 

俺はその委員長決めでどんなことをしたのか知らないが、隣にいる出久が少し驚いた顔をしているため、飯田が自分に入れたことは想定外だったのだろう。

 

そのあとも話していると、飯田の家の話になる。

どうやら飯田の家系は代々ヒーローをやっているらしい。

で、飯田の兄が有名なヒーローをやっているらしい。

俺はそこまでヒーローに詳しくないが故、聞いてもよくわからなかったが、出久の早口説明のおかげで大方理解することができた。

 

「人を導く立場はまだ俺には早いのだと思う。上手の緑谷くんが就任するのが正しい!」

 

と、言ってのける飯田。

まぁどっちかというと俺は飯田のほうがすごいと思うけどな。

自分のことをよく理解していて、その人がどのような人間か自分なりに分析することができて、適材適所を選ぶことができる。

俺にはできないことだ。

 

「なんか初めて笑ったかもね、飯田くん」

「え!?そうだったのか!?笑うぞ俺は!!」

 

麗日の指摘で大層驚いている飯田を笑いながら、愚妹の口を拭いていた俺は、

 

 

ウゥーーーー――!!!

 

 

敷地内中に大きく響く警報により、意識を切り替えることになった。

 

【セキュリティ3が突破されました。生徒の皆さんはすみやかに屋外へ避難してください。繰り返します、セキュリティ――】

 

と、警報とともに流れるアナウンス。

それに伴い、食堂にいた全生徒が外に向かおうと一斉に走り出す。

 

「すみません、セキュリティ3ってなんですか?」

「校舎内にだれか侵入してきたってことだよ!三年間でこんなの初めてだ!!君らも早く!!」

 

飯田は冷静に走って逃げようとする生徒を捕まえ、何が起こったのか説明を聞いているが、なるほど、侵入者か。

これは俺たちも早く逃げないと……って、ん?

 

「どうした、雲里」

「お兄ちゃん、これって……」

 

俺の袖を掴んだ雲里は、出口とは別の方を指さす。

そこには、職員室方向へ静かに向かおうとする黒い人型が三体。

あれは俺の見間違いじゃなければ……、

 

「……行ってもいいか?」

「いいけど、お兄ちゃんが行くなら私も行く」

「……っ、…………わかった、行こう」

 

正直連れて行きたくないが、雲里はこうなると絶対に自分のしたいことを押し進めようとする。

ならばここは一緒に連れていく方が早い。

 

俺は雲里を抱き上げ、急いで職員室方向へ走る。

 

職員室へ向かう途中、職員室へと向かっていた三人組を発見。

それは、俺が入学して教室を探すときに生み出したサーチャー*2だった。

 

俺はとりあえずサーチャーを先頭に配置し、再び職員室へ。

で、そこにいたのは、全身黒いもやもやに包まれたバーテンダーが着るような服を着たやつと、至るところに手をくっつけた青年だった。

 

どうやらあいつらは職員室に用があるようだが、明らかに学校の人には見えない。

となると、侵入者ってのはあいつらのことかな?

……って、あれ?雲里はどこだ?

 

「お兄さんたちは誰?」

 

ああああああああああ!!?

 

目を離したすきに愚妹は俺の腕から個性を使って抜け出し、推定ヴィランの前に立っていた。

 

「あ?なんだこのガキ」

死柄木 弔(しがらき とむら)、どうしますか?」

「……いくらガキでも目撃者だ、殺しておこう」

 

手だらけ青年はおもむろに右手を雲里に向け、近づけていく。

その右手はダメだ。

俺はとっさの判断でサーチャーを雲里の前に出現させる。

 

「あ?なんだ、お前こいつの保護者か?」

「だったらなんだよ」

「そうか、なら、お前も殺さないとな」

「雲里は俺の後ろにいろ!サーチャー、雲里を守れ!!"インクジェット!!"」

 

俺は即座に指示をしつつ、一気に前に出る。

 

「はっ、バカかよ!」

「バカはてめぇだよ!!"デビルキック"!!」

 

俺はインクジェットで方向を曲げつつ、奴の後頭部目掛けて、インクで固めた右足で蹴りを入れる。

 

「がっ!?」

 

青年は受け身を取ることもできずに、地面に叩きつけられる。

 

「くそ……ガキがぁ…!」

「っ、死柄木 弔!もう目的は達成しました、逃げましょう!」

「くそがぁ、覚えてろよガキども!次は粉々にしてやる…!!」

 

どうやら霧の男は珍しいワープ系の個性みたいだ、体を大きく広げ、まるでワープゲートみたいになって、死柄木 弔と呼ばれた青年を呑み込むように中側に入れる。

 

俺は1歩遅れて逃げようとしていることに気づいたが、時すでに遅し。

ワープゲートは消滅し、そこからまるで何も無かったかのように静けさを取り戻した。

 

「…お兄ちゃん」

 

雲里は不安そうに俺の袖を握る。

 

「大丈夫だ、雲里。とりあえずこのことは先生に話そう」

 

と、雲里の頭を撫でながら、俺は思わず心の中で吐露する。

 

(ほんとに面倒くさい一日だ)

 

と。

*1
は???

*2
6話.入学初日を参考




補足
雲里の個性について
個性:状態変化
・体を氷、水、水蒸気のいずれかにすることが出来る。ただし周りにその影響を与えることは現在は不可能。

今話もお読み頂きありがとうございます。
改めまして遅れてしまい申し訳ないです。就活や課題などで気力やる気ともに奪われてしまい、やや放置気味になっていました。
おそらくこのようなことがしばらく続きますが、それでも待っていただければ幸いです。

ということで次話も首を長くしてお待ちください。
感想、お気に入り登録、評価をつけていただけるとモチベが上がるのでそちらの方もよろしくお願いします。


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