自称勇者のハイラル冒険記 (放仮ごdz)
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(自称)勇者、爆誕
楽しんでいただけると幸いです。
それは運命の分かれ目。ハイラル城の地下で起きた大異変。空島から降りてきた勇者がハイラル城で行方不明の姫を目撃し、拠点の監視砦に帰還している時に起きた事件だった。
低級魔物ボコブリンの群れと、その一団の長であるボスボコブリン。異変の起きたハイラルのあちこちで当たり前に見られるようになった脅威。勇者リンクが出くわしたのはそんな脅威のひとつに襲われる金髪の年若い少女だった。
ハイラル城の地下で相対した謎のミイラから生じた瘴気に蝕まれて体力を蝕まれてしまったリンクでは多勢に無勢。素早い身のこなしで朽ちた剣を振るい、木製の鍋の蓋を盾にし的確なタイミングで振るって敵の攻撃を弾き返し、跳躍したかと思えばまるで時が止まっているかの様な集中力で手にした弓矢を三連射、見事にボコブリンたちの頭部を射ぬいてみせたリンクに、少女は感激した。
「あの、あの!勇者様ですか!?勇者様ですよね!?会えて感激です!私、矢を切らしていて…助かりまs」
「っ!」
感激のあまり一息でまくしたてる少女の背後の地面から湧き出してくる瘴気にリンクは気付き、少女を押し退けて朽ちた兵士の剣と鍋の蓋を構えるがしかし。剣を振るおうとした手は止まり、次の瞬間リンクは倒れ伏していた。
「勇者様ぁあああ!?」
慌てて駆け寄る少女が見たのは邪悪な笑みを浮かべて城の方に立ち去っていく、巫女服のような民族服を着た短い金髪の少女……少女も知るハイラルの姫であるゼルダの姿だった。
「リンク!?なんで、あんたが倒れてどうすんのよ!?」
とりあえずと監視砦までリンクに肩を貸して連れてきた少女を出迎えたのは、シーカー族の研究者である女性プルア。監視砦の避難壕のベッドに横たわるリンクに、顔を青ざめて怒っている。
「それにリンクを刺したのが姫様ってどんな冗談よ!?ああもう、これからどうすれば…リンクだけが最後の希望だったってのに…ハイラル城で何が起こったのかはホスタに聞くとして、姫様捜索はどうすれば……ハイラル城から一人で戻ってきたということは姫様は見つからなかったという事?ならやり方を変えて、天変地異が起こっている各地を……」
「…あの、こうなったのは私のせいだよ。だから、私が何とかしてみせる」
頭を抱えて考え込むプルアに、少女が決意をした顔で話しかける。焦燥しきった顔で向き直るプルア。
「なんとかって…貴方みたいな女の子に代わりが務まるわけないじゃない!リンクはね、近衛騎士でハイラルを厄災ガノンから救った勇者!どんな武器でも使いこなして、どんな壁だろうがスタミナ続く限り踏破する、類稀なる天才なのよ!?アイツの代わりなんて、誰にも勤まらない!」
「大丈夫、私も勇者だもの!」
「はあ!?」
ヒステリックに喚いた自分に臆せずに荒唐無稽なことを言い出した少女に本気で呆れるプルア。確かに歴史に勇者と呼ばれる人物は数あれど、現代で勇者と呼ばれる人物はリンク一人しかいない。この娘は何を言っているのだ?と100歳を超える研究者は首をかしげる。
「だって、私は勇者の生まれ変わりだから!」
「…はあ?」
今度こそプルアは呆れた。改めて見る。緑色のフードに、首からかけたコンパス、ブーツに一つずつ取りつけた二丁のボウガンが目立つ、金髪を三つ編みに纏めた青い瞳のハイリア人の少女。普通だ。ボウガン二丁はさすがに珍しいが、それがあってもあまりに普通すぎた。ならばとイラついていたプルアは、腹いせに悪戯する感覚で意地悪な表情を浮かべてみせた。
「…なら覚悟を問うわ。リンクにやってもらうつもりだった鳥望台でのマップ登録…あなたにできる?パラセールは貸すけど、使いこなせるのはアイツだけ。あれは言わば人間砲台。勇者だというなら耐えられるわよね?もちろん無理って言うならしなくてもいいけど…」
「わかった、やってみるよ!鳥望台って各地で建ててたあの塔の事だよね!」
「え、ええ!?」
リンクが帰って来たときのためにと用意しておいた鳥望台に文字通りすっ飛んで行く少女。避難壕の梯子を脚力のみで駆けのぼる身体能力にプルアは舌を巻きながら慌てて追いかけると、真っ直ぐ鳥望台に入っていくところだった。
「待って待って!プルアパッドが無いと起動しない…」
「プルアパッドってなんですか?」
「…これのことよ」
やる気を出している少女に渋りながらもリンクから回収した自分の発明品である板、プルアパッドを取り出すプルア。生半可な衝撃で壊れるように作ってないが、ゼルダの手がかりも入ってるかもしれない大事な品だ。それを見ず知らずの自称勇者に渡すのは聊か憚られた。
「……もう一度聞かせて。あなたは、リンクの代わりを務める覚悟があるの?勇者ごっこじゃ、ないのよ?」
「私、決めてるの。勇者の生まれ変わりとかそうである前に……困っているみんなを助けられる勇者になるって!魔物に殺された父親みたいな人間を出したくない。…私を守って倒れたリンクさんのためにも、私が代わりを務めて見せる!」
「…自称勇者じゃなくて勇者志望、か。面白いじゃない。いいわ、パラセールとプルアパッドを貸してあげる。姫様…ゼルダ姫の手がかりはおそらく、各地の天変地異にある。あなたにはリンクの代わりにそこに行ってもらうわ。まずはあなたの覚悟、見せて」
そう言ってプルアパッドとパラセールと呼ばれる滑空する道具を手渡すプルアに、少女はそれを受け取って頷いた。
「そこの台座にプルアパッドをかざして、その奥の丸い部分に乗ればいいわ。空に行ったらプルアパッドをかざせば周辺地形が登録されるはずよ。…行く前に教えて、貴方の名前は?」
説明を終えてからの問いかけに、少女は説明通りプルアパッドを台座にかざして丸い中央部に移動しながら振り返り、輝く笑顔で答えた。
「私はリンクル!勇者リンクルだよ!いってきます!」
そう言って中央部の隙間から伸びたアームにマップ登録に必要な器具を取り付けられたリンクルは鳥望台から打ち上げられ天高く飛翔。プルアパッドをかざしてマップ登録を済ませるとパラセールを広げて大空を滑空するのをゴーグルを下ろして見上げる形で確認するプルア。
「パラセールって全体重を両手で支えてるのよ!?どんな腕力してるのよあの子……って、えっ!?」
すると滑空していたかと思えばパラセールを閉じて体勢を変えて急降下してくるリンクル。西方向に落ちているのを見たプルアは、慌てて見張り台を上りその方角を見やる。
「ボコブリンの群れに誰か襲われている…!あの子、それを見て…!?」
プルアの視線の先で、急降下してきたリンクルが地面すれすれでパラセールを展開、ボコブリンの群れの中央で仕舞って着地…する瞬間に膝を曲げて縮めた脚のブーツからボウガン二丁を取り外し、着地した瞬間跳躍して宙返り、まるで舞うようにしてボウガンの矢を乱れ撃ってボコブリンの群れを瞬く間に一掃してしまった光景に、プルアは感嘆の溜め息を漏らした。
「…下手したら弱体化している今のリンクより強いかも?まさかね」
ボウガン二丁をブーツに戻して腰を抜かしている被害者に笑顔で手を貸すその姿は間違いなく勇者だった。
これは、未来を託された勇者リンクが倒れたIF。勇者を自称する村娘Aことリンクルの伝説の一幕、というお話。
序盤リンク、弱体化激しいからこうなってもおかしくないよねって。
というわけで村娘Aの自称勇者、リンクル参戦。ゼルダ無双の彼女、のブレワイ世界版です。ブレワイリンクには妹がいたようですが、このリンクルはフィジカルおかしいだけで赤の他人です。リンクル主役のゲームを出してもいいのよ公式。
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