合理的配慮をされて監獄の中でお姉ちゃんにドロドロに甘やかされる話 (やきそばパン)
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合理的配慮をされて監獄の中でお姉ちゃんにドロドロに甘やかされる話

「貴官に黒金鷹勲章を授与する。今後の貴官の活躍を期待する。」

 

「クルトの奴、また授与されたってよ。それも黒金鷹勲章だってよ。」

「マジかよ。黒金鷹勲章って最高勲章じゃねぇか。まあ、確かに優秀だがな。今期大戦の勝利はあいつあってのものだが…。ちょっとくらい分けてくれたっていいだろ。」

「だよな。だからあいつ嫌われるんだよ。合理的すぎるんだよ。というかこれで何個目だよ。」

「11個目だよ。今期大戦で3個授与されたしな。普通は死んだ時に一個。今まででも最高が9個だったからな。塗り替えやがった。」

「ま、せいぜい頑張ってもらおうぜ。死なんだろうしな。」

「いや、そうとも限らないぞ。実はここだけの話な。マフディ中将が言ってるのを聞いちゃったんだがな。あいつを近々罠にかけて殺すらしいぞ。」

「マジかよ。マフディ中将って言えば、ガリアーノ帝国と通じてるって言うあのマフディ中将かよ。」

「ああ、一切証拠がないから捕まっていないけどな。」

「そりゃ、どうなるか楽しみだぜ。」

 

 

くそ。やられた。マフディ中将が俺を罠にかけるのを察知したまでは良かったが、サガ少将とハクルバ少将も一枚噛んでいたとは。思ったより俺は嫌われていたらしいな。死んでいないと言うことは何か取引に使われるのか。というかここはどこだ?多分ガリアーノ帝国の地下牢だと思うが…。

「お目覚めか。どうかなご機嫌は?」

「お前は…帝国の総大将殿か。今日はどういったご用件で?」

「そのような目で睨まないでほしいものだな。今期大戦の仲間ではないか。君は国に売られたのだよ。だから私たちが君を仲間にしてほしくて尋ねてきたのだよ。

帝国は我がカナルア王国の西に位置する国だ。今期大戦の敵でもあったが…。途中でこちら側に寝返ったから面倒臭い立ち位置だ。そもそも国が俺を売ったと言うのは離間工作か。国に俺を売る合理的理由はない。…少し脅すか。

「それは私も悲しいですね。国に売られるとは。今すぐ助けて欲しいぐらいだ。例えばそう…伯爵夫人とかにね。」

フライン総大将は驚きを顔に浮かべていた。「貴様、優しくしていればつかあがりおって。今に見ていろ。目に物を見せてやる。」

「伯爵夫人と関係を持って成り上がったから、図星を突かれて痛いのだろう。おい、どうした。この檻がなければ何もできないくせに。お前の兵もさぞ弱いのだろうな。」

フラインは顔を真っ赤にして叫んだ。

「クソが。後悔させてやる。おい、こいつをボコボコにしろ。みんかでやれ。手加減はいらない。」

やはり乗ってきた。だから駄目なんだよ。

「痛っ。やめてくれ、痛い、痛い。ごめん、ごめんなさい、私が悪かったから…謝るから、助けて。」

「ふん、ざまあみろ。このフライン様を馬鹿にしたことを悔いろ。そのまま遊んでやれ。私は帝都に行かなければならん。殺すなよ。」

そう言ってフラインは去っていった。この建物から気配がなくなった。だから

「なあ、さっきはよくもやってくれたな。大丈夫、安心しろ、楽にしてやるよ。」

なぜ俺に勝てると思ったのか。結局能力ではないところで出世したからだろう。助かったよ、牢屋の中に人を入れてくれて。これで俺は自由だ。演技にも簡単に騙されたな。さらばだ、帝国よ。さらばだ、フライン君。

 

フライン君、囮に使われてたんだね。悲しきかな、君の無能さは帝国上層部は気づいていたらしい。いや、情報部が伝えたか。建物を出てみると、そこには兵がたくさんいました。フライン君の兵かと思っていましたが違いました。帝国のでした。俺の必死の健闘虚しく捕まりました。兵は一万人ほど動員されていました。帝城を燃やして逃げ切ろうとしましたが駄目でした。燃やしても追ってきました。だから多分情報部でしょう。帝国情報部の帝城における不遇さは我が国ではよく知れた話です。ほとんど殺したのですが追ってきました。兵の無駄遣いとはこのことでしょう。主流派軍部なら諦めるはずなので、情報部に近い軍幹部も居たのでしょう。だから何なのでしょう。あともう少しだったのに。地元警察もやってきましたし、警備隊もやってきました。悲しいです。過程はともかく捕まってしまったことは事実です。情報部ということは拷問で情報を吐かせるつもりでしょう。情報部なのですから。情報を得られなければ意味がないですから。祖国の軍幹部には裏切られましたが、流石に祖国自体に裏切られたことはないでしょうし…黙秘しましょう。以上、謙虚になったクルトでした。

 

 

こんなことをやらんと無理だ。そもそも1万近く動員て何だ。よほど情報が欲しいらしい。確かに祖国の情報は下手したら情報部以上に握っているが…そこまで必要なのかというのが正直な話だ。一万を速やかに展開するのにどれほどの金と労力と権力が必要か。それに自分もやりすぎたか。被害額で言えばそれ以上だ。下手したら財政的に厳しくなる。ただでさえ今期大戦が終結直後で厳しいんだ。少しでもお金を使いたくないはず。ここは独房で何もない。まさかの簡易のベッドもない。死刑する前の部屋みたいだ。これは…死刑か?おっと、誰か来たようだな。

「こんにちは。私は帝国情報部カリナ・スペンダルクと申します。私のことはカリナお姉ちゃんとでも呼んでくださいね。」

なんだこいつは。カリナお姉ちゃんと呼んでくださいだと?ふざけてるのか。そもそもカリナ・スペンダルクとは聞いたことないし、見たこともない。しかし流石に立場が上の方なはず。それか、スピード出世してよほど有能かだな。幹部は全員知っているはずだが、情報部だ…1人ぐらい知らない奴がいてもおかしくない。容姿は端麗。優しそうな笑顔だし、拷問しにきたとは考えずらい。プライドは高いことで有名な情報部だ。…おちょくって見て出て相手の出方を見るか。

「それはそれは、ふざけた話ですね。貴女にそのような呼び方をする意味が分かりません。バカなのですか?それとも、上官にこう言えと言われたのですか?だとしたら考えなしとしか言えないですね。」

そう言うと怒った表情を作り

「ふざけてなんかないよ。これは私がやりたいと思ってやってることだから。全部本気。私をバカにしてもいいけど、私は君をバカにしない。それに拷問はまだだよ。それも私じゃない。」

まさかプライドが高い情報部がバカにされてもいいと言うとは…拷問はまだと言うが、ならいつなのか?それとも油断させるための?経験から察するにこいつは知らない。いや、逆に上官なのか?少なくとも看守の態度からそこそこの地位にはいそうだ。

「私は君と仲良くなりたいの。ねえ、私のことはカリナお姉ちゃんって呼んで?」

そう言って檻の中に手を伸ばし俺の頬を撫でてきた。こいつ、警戒心がなさすぎる。俺はいつでも手を引きちぎれるのに…魔法使えることぐらいは知ってるだろうに。そもそもフラインの檻の中からの脱走も中に人が入っていたことが原因であることは知っているはずだ。まあやってもあまり意味はないが、やらないとも言えない状況だ。 

「その顔、手を伸ばしたことが意外だった?大丈夫だよ。私は君を信じてるから。君、優しいもんね。」

そう言って両手で頬を撫でてきた。これは何か魔法の発動かと少し身構えたが、そうでもないらしい。そもそもあちら側はその気になれば俺を殺せる。頬を撫でられたのなど昔お母さんに撫でられた時以来だ。お母さんは病気で早く死んでしまったが…それも9歳の頃だった。しかしこれは従っておくべきか。まずは様子見に徹するべきだ。そして相手を知る。おそらく口ぶりから察するにまた来るだろう。相手を知ることがまず何より重要だ。相手は何が好きで何が嫌いか。何に対し心を動かされるか。それはいずれ脱出を企てる際に使えるだろう。相手も相当軍を動かしたのだ。ここで懐柔されたと思わせれば、巻き返しを狙う派閥と派閥が内部争いを始めるかもしれない。

「カリナ…お姉ちゃん。」

「…!よくできました、クルト君。これからも呼ぶんだよ?私、お姉ちゃんって呼ばれたかったの。頑張ったね。よしよし」

そう言って頭を撫でてきた。これも久しぶりだった。頑張ったね、と言うが何を頑張ったのだろうか?近く言われていなかった言葉だ。それに、お姉ちゃんと呼ばれるのが好きなのか。相手との距離を縮めるのには定期的に呼ぶのが大切か。覚えておこう。

 

次の日の朝もまた来た。

「おはよう、クルト君。元気に寝れた?」

「おはよう…カリナお姉ちゃん。おかげでよく眠れたよ。」

彼女は未だに立ち位置が不明だ。昨日もベッドがないことに気づき、部下にベッドを持ってくるように頼んだ。そして明らかに今買ってきた市販のものを組み立てさせて代金を払って中に入れた。幹部なら代金などーそれもフェイクかもしれないがー払わないはずである。そもそも埃のつき具合などから察するに今買ってきたことは明白であった。どれくらいの立場の人間かは未だにわからない。

「よかった。私もよく眠れたよ。それにカリナお姉ちゃんってちゃんと呼んでくれたね。よしよし。」

また頭を撫でてきた。

「…もしかして頭撫でられるの嫌?嫌ならやめるけど。」

悲しい顔をしながら言うものだから、答えはひとつしかない。気に入られるためだ。

「いや、どちらかと言うと好きな方だよ。」

そうすると顔を笑顔にして聞いてきた。

「ということは、撫でられるの気持ちいい?嬉しい?もっと触れ合いたい?」

恥ずかしいが仕方ない。子どものような振る舞うのが好きなのではないかと言う仮説通りにまずは動こう。

「うん。撫でられるの気持ちいいし嬉しいよ。もっと触れ合いたい。」

「そうなのね!私も嬉しいわ。」

そう言って鍵を開けた。俺は一瞬理解できなかった。そして当たり前かのように中に入ってきた。なぜ?殺されるかもしれないのに。相当な胆力を持っているかバカだ。

「じゃあハグしましょう?」

脱走のチャンスでもあるが、これは罠の可能性がある。ここで脱走して失敗すれば俺を死刑にする口実となるだろう。俺を死刑にしてもあまりメリットはない。むしろ王国との関係を考えればマイナスだ。しかし一部上層部は失態を隠すため死刑を望むだろう。つまりこれは罠の可能性が高い。それか彼女が本当に考えなしかだ。俺はまだこの建物がどうなっているかもわかっていない。魔法で建物内の構造の解析を進めているが全然終わっていない。つまり今は現状把握に努めるべきだ。

「はい、ぎゅー。よしよし。今までよく頑張ったね。私は頑張ってたこと知ってるよ。そんな私からクルト君に命令があるの。」

命令…急だな。何だろう。

「クルト君、今までみんなから嫌われて辛かったでしょう。だから泣いて。これは命令だよ。私は帝国の人で、クルト君は捕虜なの。だから命令は絶対だよ?これを聞かなかったらクルト君殺されちゃうかも。だから、ね?今までよく頑張ったね。」

突然の謎の命令に戸惑ったが、少なくとも俺のー断片的かもしれないがー境遇を知っている。死刑を下す権利が彼女にあると思えないが、もしかするとお偉いさんの娘であり、可能性としては否定できない。俺は命令だから泣かなければならなかった。そう自分に言い聞かせて泣いた。殺されるかもと言った目が本気そうだったのもあって命令を聞いた。でも意外と簡単に泣けた。彼女はその間俺の頭を撫でていてくれた。慈愛の目で見ていた。俺は嬉しくなってしまった。

 

その後も拷問はされずに彼女ーカリナお姉ちゃんが来る日々が続いた。カリナお姉ちゃんは些細なことでも褒めてくれた。そして定期的に泣くことを命令した。カリナお姉ちゃんは毎回来ると独房に入り、ハグをしてきた。そして五時間ぐらいで帰っていった。俺に毎日、頭を撫でられるのは好きか?気持ちいいか?もっと触れ合いたいか?そして私が好きか?と聞いてきた。俺は最初はカリナお姉ちゃんに気に入られるために肯定していた。今もそうだと思う。で最近は心の底から肯定してしまっているような気もする。

 

カリナお姉ちゃんと会ってから1月が過ぎた。カリナお姉ちゃんから敵対心が全く感じられなかったこともあり、少し自分の話をするようになってきた。カリナお姉ちゃんも自分の話をよくしていた。俺は機密情報を避けた話をしていた。カリナお姉ちゃんもそれは喋らなくていいと言った。俺は流石に気になって、何故かと聞いたことがある。そしたらカリナお姉ちゃんは笑って

「だってクルト君も喋りたくないんでしょう?じゃあそれを避けていっぱい喋った方がお姉ちゃん嬉しいから。」

と言ってくれた。俺はある程度魔法で嘘を言っているかわかるが、カリナお姉ちゃんは本心から言ってくれているようだった。カリナお姉ちゃんは俺に嘘をつかなかった。カリナお姉ちゃんは言えないことは言えないときちんと言った。俺にもそう言った方が良いと言った。だから俺も嘘をつかないように気をつけていた。カリナお姉ちゃんはいろんなことを教えてくれた。今まで知らなかったことを教えてくれた。

「そう。こうやって社会は作られたんだよ。すごい、正解。王国の教育と私の教育をどちらも受けたクルト君は賢いね。えらいえらい。」

「そう?ありがとう。カリナお姉ちゃんのおかげだよ。このことは王国の教育では習わなかったから。」

「そうなの?確かに王国でこれを習うのは聞いたことないね。でもこれは大切なことだからね。私の教育を受けて良かった?」

「うん!良かったよ。カリナお姉ちゃんの教育良かったよ!」

カリナお姉ちゃんはよく俺に問いかけてきた。カリナお姉ちゃんは自分の言葉を復唱するように褒められるのが一番喜ぶのだと最近知った。

カリナお姉ちゃんはこの頃から俺にキスをするようになった。俺は嬉しくなって自分からもするとやはりカリナお姉ちゃんは喜んでくれた。

 

50日経った。最近カリナお姉ちゃんは料理を教えてくれるようになった。俺は料理などしたことがなかったため、知らないことばかりだった。でもカリナお姉ちゃんが優しく教えてくれてだんだんと作れる様になった。カリナお姉ちゃんは朝来て日が沈むと帰るようになっていた。カリナお姉ちゃんは俺が料理を作ると喜んで食べて、また喜んだ。いつも喜んでくれて、俺は料理を作ると喜んでくれると学んだ。だから、毎日朝に料理を作って待っているようにした。これができたのもカリナお姉ちゃんが欲しいものを部下に頼んだら買ってくれるよう取り計らってくれたからだ。最初にした時はサプライズをしたので驚いてくれた。すぐに泣かれてしまい自分も驚いたが、カリナお姉ちゃんは嬉しくて泣いてしまったらしい。だから毎日作っている。カリナお姉ちゃんの役に立っている実感があって嬉しい。毎朝早く起きて作るのは大変だったが、カリナお姉ちゃんの為なら、大変でも頑張りたいと思った。そしてこの時にはカリナお姉ちゃんが情報部であったことも忘れかけていた。

 

 

 カリナお姉ちゃんが険しい顔でやってきた。少しいつもより遅かったのもあり俺は驚くと同時に不安になった。

「どうしたの?カリナお姉ちゃん。なんかあったの?」

「…まずはご飯食べよっか。今日も美味しそうだね!」

カリナお姉ちゃんのことは心配だったが一緒にご飯を食べた。

「ごめんね。不安になっちゃったよね。」

そう言って頭を撫でて抱きしめてくれた。気持ちよかった。キスもしてくれて、嬉しいと同時に不安も高まってきた。

「今日ね、情報部のトップのカラール長官に呼び出されたの。それでね、いつになったら機密情報を聞き出せるのかって言われちゃったの。私は他のことで成果を挙げてたからずっと言われてなかったし強力な政治家の後ろ盾があったから何も言われてなかったけど、ついに言われちゃったの。それで今日もし聞き出せなかったら担当を変えるって言われちゃった。だから、もしかしたら今日で私と会うのは最後かもしれない。」

そんなのは嫌だった。カリナお姉ちゃんと会えなくなるくらいなら、俺には何でもする覚悟があった。だから

「カリナお姉ちゃん、機密情報が分かればいいんだよね?なら教えるよ。だからお願い。ずっと一緒にいて。カリナお姉ちゃんのこと大好きだから。」

「本当にいいの?だってそれって国を裏切ることになるよ?私もクルト君とずっと一緒にいたいけど、それは…」

カリナお姉ちゃんはやっぱり優しい。

「大丈夫だよ。俺が一番大事なのはカリナお姉ちゃんだから。全部の機密情報も渡すから、一緒にいて。」

俺は縋り付くような目で見た。カリナお姉ちゃんは俺を見て頷いた。

「クルト君、嬉しい。私もクルト君が大好きで一番大事だよ。…ねえクルト君、もっと触れ合いたくない?」

その日、初めてカリナお姉ちゃんと何も挟まずに触れ合った。そして俺は機密情報を教えた。その日は幸せで、カリナお姉ちゃんは綺麗だった。

 

カリナお姉ちゃんの役職は情報部機密取扱い室室長だった。その部署自体が機密だった。カリナお姉ちゃんが得意とするのは暗示だった。相手自身が言った言葉を相手に掛けると言うものだった。でもカリナお姉ちゃんは俺には使わなかったらしい。

「クルト君には使ってないよ?お姉ちゃん、嘘言ったことある?」 

 



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