奈落の先に (かのん・まーれ)
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profile “オベロン”

前提として、オリ主はFGOのオベロンは知りません
というか僕のヒーローアカデミアの世界に生まれた1キャラクターであるため、ヒロアカについて、Fateについて、また他作品についてのことを彼は何一つ知りません。

FGOオベロン≠オリ主です

また、話を更新するたびにこちらの設定も追加していくので気になる方は適宜チェックしていただければと思います。


 

 

 

名前“オベロン” 藤丸 盾(ふじまる じゅん)

誕生日“8月4日”

 

性別男

 

身長…174cm

 

体重…56kg

 

血液型…???型(個性の影響により不明に)

 

好きなもの…物語、星、カイコ

 

嫌いなもの…人間、社会、『眼』

 

出身地…日本のどこか

 

出身校…保護されていたため無し!中学の卒業資格は持っているぞ

 

特技…どんな乗り物もすぐ乗れる。道具を作る

 

苦手なこと…料理(特にお菓子作り)

 

趣味…資格習得、星見、読書(歴史、物語、絵本)

 

住まい…オールマイトの家

 

家族構成…養父:オールマイト

 

マシュ・キリエライト/藤丸立香

 

性格…飄々としているようで真面目、真摯的にみえて非常に軽い。印象を抱いた直後に真逆の印象に見えてしまうなど掴みどころがなく、一貫性がない。その様はまるで童話に出てくる悪戯好きな妖精や王子を思わせる。

と思えばカッコいいもので興奮したり、かと思えば童話などを好んだりと男子高校生や少年の一面も見せる。

また、相当な毒舌でもあり発言に余計な単語を付け加えてワザと棘のあるように喋る、捻くれ男子である

 

でも根は超が8個ぐらいつくほど真面目で優しいので

結局は素直になれないだけな奴…なのかもしれない

 

 

 

属性

――――――――――――

中立・善

 

 

 

 

見た目…まんま妖精王オベロン

――――――――――――――

葉隠「制服や体操服が似合わない」

コスチュームも第二再臨の妖精王オベロンのまんま、私服はカジュアル

 

 

 

ヒーロー名…“◼︎◼︎◼︎◼︎”

――――――――――――――

決めてある、なんでその名前にしたのか

ただ、星を見上げてそれが良いと思っただけ、なのかも?

 

またはそう名乗る事が決まっていたのか

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

ステータス

―――――――――――――――――

筋力 D

耐久 E

俊敏 A

魔力 EX

幸運 C+

宝具 EX

 

 

戦闘スタイル

――――――――――――――

「戦闘はあまり得意じゃないんだけどね、踊りの方が得意かな?」

 

自身は後衛で味方にバフを与えるというスタイルが基本

指示を送り良い方へと流れを変える、事前に罠を仕掛けたり、相手の個性を封殺するなど、できることは全てやる。

 

また、近接戦闘は「あまりしない」というだけで、本当は槍や剣を用いた白兵戦こそ彼の戦闘スタイル…なのかもしれない

 

 

 

 

個性…“妖精”(暫定)

――――――――――――――

「夢のようにいろんな事ができる、それが僕さ!」

妖精っぽい事が大体できる、名前が暫定なのは自分でもきちんと個性について把握できていないから

 

実は体力を消耗しやすく、長期戦には向いていない。

短期決戦を主とするような相手にはとことん有利に立ち回れるが、爆豪のように時間が経てば経つほど強くなるような長期戦を得意とする相手には不利である。

 

似てる力としては轟が挙げられ、同じ様にMPと表現する事ができる

また、轟と比べMPの総量こそ多いものの、扱う技の消費MPも多い

 

そのためか大規模な能力の使用は彼に多大な負担と疲労をもたらす

 

そう見えないのは単に

「余裕だったね、さあ、次も頑張ろう!」

と、痩せ我慢してるだけかもしれない

 

 

 

 

 

陣地作成 EX

――――――――――――

自分の工房、陣地を作る能力。

場の状態を理解し、支配を容易くするオベロンにとって

陣地の作成をする事に場所を選ぶ必要はない

彼がいる場所こそが彼の陣地である

 

また、彼が陣地を作れた場合、光での道具作成が可能になるほか

使用魔力の減少や、効果範囲の広域化、効果の増幅などの恩恵がある

 

そして陣地作成が成功次第ようやく能力がまともに使える様になる

ただ、オベロンがいる地点が陣地になるため別にデメリットでもない

 

妖精王オベロンと比べてもランクは非常に高く、また手間もかからない特異性のあるものとしてランクはEXとなっている。

 

 

 

道具作成 A+

――――――――――

道具を作る能力。彼は実在する素材でなくとも、自分が発する魔力によって無機物に限りあらゆるもの作成が可能である。壁や槍、鍵など細かいものまで作成することができる

光を使った作成は蝶などよりも武器の作成の方が消耗が少なく、剣と槍が最も効率よく作る事ができる

ただし『三色草の霞』といった心を惑わす薬などの作成はできなくなっている。

 

光を扱い物質を作成することは妖精王オベロンの力によるもの…なのだろうか…?

 

 

騎乗 B

――――――――――

彼が乗りこなせないものはそんなにない。

ただ、ヴェスパーやブランカはいないからなのか若干本家より下がっている。無論彼はそんな生き物達知らないので関係はないのだが

取り敢えず現代にあるものは全て乗りこなすだろう

それが人間関係であろうと流行であろうと、なんでもである

 

 

 

 

 

夜の帳 A+

――――――――――

夜の訪れとともに、チームに多大な成功体験、現実逃避による戦意向上をもたらす。

彼の場合、個性や身体能力の強化を行える。

 

正確に言えば個人が持つ能力の120%、あるいはいずれ辿るであろう対象の力の最大値、潜在能力を無理に引き出して対象に投影している

 

 

 

朝の雲雀:EX

――――――――――――

朝の始まりとともに、自軍パーティに多大な精神高揚、自己評価の増大をもたらす。いっときの強制ドーピング。

対象の個性や力の底上げと上限を解除する。

しかし、それは瞬きの如き時間の間。

 

他人にやって強制筋肉痛とか出来る。

 

 

 

 

夢のおわり:A++

――――――――――――――――

末期の夢。比類なき強化をすることができる

なら、あとは彼が許すまで微睡に沈むだけ

 

強化をせずにただただ睡眠に夢に落とすだけも可能、その場合は無制限使用

やったね

 

 

 

 

 

妖精眼:A++

――――――――――――

妖精が生まれつき持つ『世界を切り替える』視界を彼は持ってしまった。

あらゆる嘘を見抜き、真実を映すこの眼は、彼に知性体が持つ悪意・短所・性質を明確に見せつけて彼を苛ませる

 

嘘を吐かれると靄が視界を覆ったり片頭痛が起こったりする

逆にめっちゃ正直だと気分がスカッとするらしい

だから嘘をつかれると死ぬほど不機嫌になる

またA++もあるせいなのか、透明化などの個性を持つものでも問題なく見ることができる

 

自分の眼がおかしいことは理解しているが、この眼の名称が何なのかは理解していない

 

現状のヒーロー社会は彼にとって酷く暗く泥のようなものに見え、心休まる世界ではない……のかも?

 

 

夏の夜の夢:C ?

――――――――――――――

 

『全ては夢まぼろし。

 ここで起きた出来事は真実に値しない―――』

世界でもっとも有名な妖精戯曲「夏の夜の夢」はそうやって幕を閉じたが、

それは転じて異聞帯にいた妖精王オベロンの性質を表していた。

 

人類史において、妖精王オベロンの言動は『何をやっても嘘』というレッテルが貼られてしまい、結果、「本当の事は(言え)無い」という呪いが刻まれてしまったのである。

 

ただし、彼においては別である。

彼はあくまで妖精王オベロンを姿を持ったもの。故にこの夢が正しく発動する事はそんなにない。

 

そのためランクはCまで下がっているが…?

 

 

 

 

 

『彼方にかざす夢の噺』 ?

――――――――――――――

 

オベロンが語る、見果てぬ楽園の数え歌。

結界と似て非なる大魔術。光に包まれた者は、秋の森を幻視する。

また、オベロンの任意で見た者を夢へと誘い現実世界での実行力を停止させることも可能。

この夢に落ちたものは無敵になる代わりに、現実世界への干渉が不可能となる。

 

 

力の大半を使うため、使用後はとんでもない倦怠感、疲労等に襲われる

ご使用は計画的に

 

その有効距離は相当広く、試験で使った市街地程度であれば容易く飲み込む

しかし距離に伴って疲労も増えるので、見える範囲がベスト

 

 

 

個性…“楽園”

その身には、ある童話が宿っている。

 

 

 

□□の□□□□

――――――――――――

 

 

 

小話

――――――――――――――

 

彼の『夏の夜の夢』はC程度なのは、妖精王オベロンとは違い言動や行動が嘘になってしまうことはそんなにないからである。話した通りに伝わるため、人とコミュニケーションをとるときは割と本音を話している。

とはいえ、普通に嘘もつくし、意味のないことも話す。素直になれないのか、相手を信用していないのか、手の内を明かしたくないのか。まあ、彼らしいと言えば彼らしい。

ただし、彼が隠したいと思ったことや、彼自身が自覚、記憶、認知していないことは彼の能力によるものか、また別の力によって阻害され認識ができなくなる

その適応範囲は“どこまでも”である

 

 

彼の保有するスキルやステータスのいくつかはランクが妖精王オベロンと一致していない。いわばこれは彼が妖精王オベロンではないことを表している。だが彼の姿は間違いなく妖精王オベロンと同一のものだが…

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

人間関係

 

オールマイト

――――――――――――――

養父、引き取ってくれた人。4年ほど共に過ごしている。

心を開いているため普段のようなムーブをわざわざしなくてすむので精神的にとても楽。だからこそ毒は吐く

 

ただ、優しさの裏返しであることはオールマイトも知っているので

 

「ははははは取り敢えずー、しっかり休んでくれないかな?ただでさえ体力に制限がかけられてるのに、いざって時に倒れたら役に立たないの…分からない?」

 

という発言も笑って受け入れる

 

 

葉隠透

――――――――――――――

「エネルギッシュなのは良い事なんだけどね」

 

振り回すのはやめてほしい。連絡先を交換したが勢いが凄まじく、こちらが承諾する前に内容が決定されることも。すごい昔の小さくて可愛いキャラのスタンプをテキスト編集して送りつけてくるらしい

 

妖精眼によって普通に見える

 

 

緑谷出久

――――――――――――――

「…まあ、自己犠牲の精神は素晴らしいと思うよ?」

 

オールマイトに言われたからサポートはするけどさ。もうちょっと、ね

 

言われなくてもサポートするようだ。

 

 

 

 

芦戸実奈

――――――――――――――

「活発なのは良いけど、過ぎるのはーーー」

 

現状は特にないが、いずれ振り回すのやめてほしい2号機になる。触角があるからか、よく分からないけど同族意識を0.3秒覚えた。

 

 

 

 

相澤

――――――――――――――

教師として、非常に高い評価をしている

それ以外はない、合理的虚偽とかいう訳わからないのはやめろ

普通に言え普通に

 

 

 

青山優雅

彼が普通の藤丸盾だった頃の、ただ1人の友人。

 

 



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はじまりはじまり
それじゃあ、物語を始めようか!


 

 

 

 

「ほーら!まだ諦めるわけにはいかないだろう!

僕達はヒーローになりたいと願いここに立っているのだから!!」

 

 

22XX年

個性と言われる力が新たに生まれ、これまでの人類史から在り方を変え超人社会となった。

個性による悪逆非道な犯罪は止まらず“敵”と言われるものたちが蔓延っていた。しかし、そんな彼らを個性を発揮し世界の秩序を守るために扱うヒーローが生まれ取り締まる事で世界はいつしか平和を取り戻し人々はヒーローを讃えていた。

 

そしてそんなヒーロー達の姿をみた子供達はこう思う。

「自分もいつかあんなヒーローになりたい」と!

 

ここは雄英高校、そんな少年少女達が集い

ヒーローとは何かを学び育つ場である

そして雄英高校では現在実戦形式での受験が行われていた。

戦闘街では各場からギミックとして『(ヴィラン)』が配置されておりそれを撃破等でポイントを取得することで合格を目指す仕組みとなっている。

しかし『敵』は各受験者達を確実に疲弊させ追い詰めその心を折りにかかる

不意打ちを行い、建物を壊し、地面を陥没させ、様々な角度から受験者達に猛攻を仕掛けていた

 

個性によっては『敵』を倒すことがそもそも困難なものもいる。そうしたものが集中したとある場所で

 

「僕らは確かに競争相手だが、目指すものはヒーローだろう?なら手を取り合っても間違いではないさ!」

 

一際異質な者がいた

第一印象は白く儚げな男性で、まるで童謡の中の王子様であるかのように見える

また背中に生えた蝶のような羽と相待ってまるで妖精のようだと彼を見た人なら誰しもが思うだろう

 

「大丈夫、僕がいて君たちがいるんだ

なーに、こんな奴困難でもなんでもないさ!」

 

彼の名はオベロン

 

「さて、ここからだ!!」

 

緑谷出久とは別の主人公である彼が

 

妖精王がヒーローになるまでの物語であり

真名封鎖”にとっての“星”を見つける物語である

 

 

 

時は遡り受験の前々日の話

 

「突然だけど僕雄英高校に入るよ」

 

ある一室で男性二人がお茶を飲みながら話を交わしていた。一人はオベロン、もう一人は細身で若干だが病弱な印象を持ってしまうような男性である

 

「え゛!?いつ決めたんだい…!?」

 

「ははは、オールマイトお茶をこぼしているよ。落ち着いて落ち着いて」

 

その男性はオールマイト、このヒーロー社会においてNo.1の称号を持ち、比肩するものなしの強さを持つヒーローである

 

あまりのオベロンの唐突な発言に動揺を隠せず口に含もうとしたお茶はコップから滝のように流れていた。

等のオベロンは笑いながら絶賛お茶びたしになったテーブルを吹いている

 

「君いきなり過ぎないかい?いや、私としては君がヒーローになるなら心強いことではあるのだが、なぜ…」

「相談しなかった、かい?」

「あぁ」

 

オールマイトから見たオベロンという少年は非常に誠実な人間であった。よく話を聞き、相手と向き合う子であり、また誰よりも前に立つリーダーのような子であった。

ヒーローに向いていると子供の頃から彼を知っているオールマイトはそう思っていた

 

だが、本人が望まないのであれば当然進めはしない。何度か将来について話した事はあったものの、オベロンの経験や事情によるものからか

「ヒーローにはならないかなぁ」

と意見を変えてこなかったのが続いていた

 

「…こういうのはなんて言うんだろうな。

本当にどうでも良いようなことなんだ。笑わないでくれるかい?」

「勿論だとも」

「優雅が西でヒーローを目指すって言うから、僕が置いてかれるのは癪だと思ったんだ」

「それが自分に合っていると考え直したからさ」

「…はっはっは!君らしいじゃないか!!」

「こら、オールマイト。笑わないって言っただろう?」

「ははは、これは嬉しくて笑ったのさ」

 

オールマイトは子供への喜びを抑えきれず大きく笑った。それに対しオベロンは複雑そうに見つめるが、嘲笑でないことも理解しているため、それ以上は何かを言う事はなかった

 

「(その本心と本音が隠れて聞こえないモノであろうと、君が何かを目指してくれるのが私は何よりも嬉しい)」

 

オールマイトは笑顔と共にオベロンの肩に手を置いてグッと握りしめる

それはまるで激励のようでオベロンも振り払うこともなく微笑を浮かべた

 

「なら、試験は頑張るしかないな?」

「勿論だとも」

 

 

 

「せっかく約束したんだ。どうせならTOPを取れるようやってやるさ!!」

 

そんなことを思い出しながらオベロンは自分の周囲に力を与えながら自分自身も『敵』を打倒し確実にその数を減らしていく

 

 

「ありがとう!」

 

突然オベロンの背後から感謝が伝えられる。

その声は確かにオベロンに響き、オベロンは確かにその見えない姿を見た

 

 

 

 

 

 

「なん、だ!?これ力が溢れて…!!」

「ほんとだ、これならいけそうかも!!」

「…貴方のお陰なの!?」

 

私達の周りを不思議な光が包み込む

 

「ははは、僕の力で元気になったのなら何よりさ、さあ皆で倒してしまおう!!」

 

まるで王子様のような彼が前線に立ち、みんなを鼓舞してから不思議と身体の中から力が湧き出てくるようだった

 

どうやらこれは彼の力であるらしく、他のみんなも同じ感覚を得ていたらしい。先の光に包まれていた全員がその力の上昇を実感しているようだった

そして彼は話しながらも『敵』を倒していた

それも私たちが苦戦しそうな相手、している相手を即座に判断して、だ。

 

 

「ありがとう!!え〜と」

そんな彼にお礼を告げようとするものの、名前がわからず私は言葉を詰まらせてしまう。

確かに競争相手ではあるもののみんなを励ましてくれて、ある意味助けてくれたのに名前もわからずお礼を言えないのは自分的に嫌だった

 

姿が見えない自分では姿でその気持ちを伝えることはできないからしっかりと伝えたいのだ

 

「…ああ、僕の名前は“オベロン”!

お礼ならいらないさ!そしてもう一踏ん張りだ!

美しい君、君が合格することを願っているよ!!」

 

だが、そういって彼は飛んでいってしまった

 

お礼を言えないままポカーンとしている暇もないがどこかもどかしい気分になってしまう

 

まあ、そんな気分は解消するに限るから

 

「ぜーーったいにお礼言うんだから!!」

 

私は彼の背中を追うように『敵』に戦いを仕掛けるのだった。

 

 

私とずーっと目があっていた事は、一旦置いておくけどね!!

 

 

 

 

 

 

「なんでこんなに数が多いのやら…」

オベロンはそんなに戦闘向きではない自分の個性に多少むかつきながら次へ次へと『敵』倒していくものの

 

「…!!」「…!…!!」

「シュウダンデ、ナグル」

 

「(やっぱりみんなを強化したのは正解だったなぁ)というかなんか、言葉が物騒じゃないかい???」

 

『敵』はそんなオベロンを危険視したのか複数体で行動し、距離を空けないというプログラムに変わったのか距離を凄まじい勢いで詰めてくる

 

「ちょっとーーーかわいそうかな?

 

フェアリーダスト!!」

 

オベロンの周囲に鮮やかな光の粒子が満ちる。オベロンは光を振り撒くように手を薙いだ。拡散された光の勢いはまるで津波。ともすれば災害に相対できるものなどなく、何もできないまま前方にいる『敵』は押し潰され、瞬きの合間に無力化された

 

「きゃあ!」

「なんだこいつ!!」

 

 

「おや」

 

背後では多少巨大になった『敵』が同じ受験生を徒党で襲いかかっている

 

「(うーん、ちょっと面倒くさいけど)ほら、行って行って」

 

光で蝶を構成し、相手へと向かわせる

蝶は相手へとまとわりつくと徐々に光を増す。そして、輝きが限界を超えたのか、蝶は連鎖的に破裂して光を散らしていく。

その散った光一つ一つが『敵』と触れると細やかな爆発を起こし、受験者の周囲にいた『敵』達は僅かな間で物言わぬガラクタになった

 

「さんきゅー!妖精さん!!」

「助かった!!」

 

「君たちが助かったようで良かったよ!」

まあ、どうでも良かったんだけどね。ついでさ

はははとオベロンは笑い相手の掃討にかかる

 

「クラエ!」

「わぁ、危ないなぁ」

接近されれば飛んでくる拳を避け

 

「クタバレ!」

「甘い甘い」

建造物を破壊しできた落石は光の蝶で相殺し

 

「ウワアアアア」

「いやぁ、ほら…街だし」

また建造物の瓦礫を即座に利用し、光の縄で一塊にまとめる事で相手を上に叩き落とし潰す即席のトラップを作り上げた。幸い大量の瓦礫がそこら中に散らばっているためオベロンからしたらこのトラップは作りたい放題である。一つ一つの行動の隙間に罠製作を挟むことで、瓦礫による行動範囲の減少や怪我を防ぎつつ、相手の視点を罠に固定化させる役割も果たす。

そうしてオベロンは自身の撃破ポイントを伸ばしつつも、周囲も助け士気をあげ今やオベロンのいるエリアは完全にオベロンが支配していた

 

そのオベロンといえば

 

急に動きを止めたかと思えばある一定の方向を凝視し動きを止めた

 

そうして、数分が経った頃

 

「終〜〜〜了〜〜〜!!!!!!」

 

受験は終わりを告げられた

 

「あ、オベロン君!!さっきはーー」

「ああ、ごめんね。用事は後で

先に彼のところに行かせてくれるかい?」

 

それと同時にオベロンは先ほど見続けていた方向

超巨大な仮想敵が出現し、それを吹き飛ばしてみせた少年の元まで急足で向かうのだった

 

 

 

 

仮想敵の巨大な残骸の中心にて、緑谷出久は地面に這いつくばっていた。先の試験、最後に現れた超巨大なギミックからとある少女を守らんと、まだ使い慣れてない自爆と変わらない個性をフルに使い動くことすらままならない怪我を負った

 

「(くそ…くそ…くそ…!!)」

 

激痛が意識を蝕み、脳が意識を保つことを拒否しているが、実技の結果を得れなかったその悔しさ一つで彼は意識を無くすことができなかった

そんな彼の前に少年が一人立つ。緑谷出久からしたら彼は実技試験最中でも姿は見たことがなかった。

 

「凄いね!君、いやぁ僕なんかじゃあんな敵は絶対に倒せない。もう一流のヒーローみたいな事ができる人がいるとは思わなかったなぁ!」

 

「(誰、なんだ…?)」

 

なによりも今の緑谷出久からはその姿が確認できない、断てない意識ではあるが常に朦朧であるため視界をぼやけさせているためである。

 

「だが今の君はあまりにも酷い怪我だ。だから僕から少しだけ…」

「…な…んだ?」

 

彼は緑谷出久の正面に膝をつき彼に手を添える

途端緑谷出久と彼の周りに光が満ちる

その光は穏やかで見る者全ての心に安らぎを与える。あまりの充足感にその光に包まれた者達は皆、一瞬森を幻視した。

 

「光…あた…たかぃ?」

 

「なんだこの光は…」

「凄い落ち着く、まるで森の中にいるみたい」

 

その中心で妖精のような彼は微笑を浮かべる

そうして彼から眩い光が放たれ、即座に世界の景色を塗り替えた

 

「僕にできることなんて……この程度さ。

童心の君、夏の夜の後、恋は触らず、懐かしむもの」

 

全ての人間が、暖かい森に包まれる

光が差し込むその森は周囲全てに安らぎを与えた

先ほど幻視した森が今度はそこに存在していることにすら気づけないほどに

 

そうして彼の意識はだんだんとなくなっていく

自然と痛みさえ引いて、リラックスして眠りにつくような感覚になる

そして次に目を閉じた瞬間には

 

「『彼方にかざす夢の噺(ライ・ライム・グッドフェロー)』」

 

彼は安らかに寝息を立てていた

 

 

 

 

 

「これならもう大丈夫かな!任せても良いかい、リカバリーガール」

「あぁ、ここまでリラクゼーション効果が高いならこの子もこれ以上痛みに苦しむ事はなく治療できるはずだね、ありがとう」

「良いさ、僕が勝手にやったことだからね!

それに彼は凄い。ヒーローになるべきって思った、彼だけだよ動けたのは」

 

実際僕も驚いていた。

あの巨大さ、僕も頑張れば勝てる気がしなくもないのだが…少し躊躇う

相当な手数を踏むだろう

相当苦戦するだろう

相当めんどく…

まあ兎も角あれは0ポイント、どうせ何かしら加点があるにしろ事前にそんな情報が出てる中で迷いなく立ち向かえるのは正気の沙汰ではない

 

とんでもない自己犠牲の精神

それはヒーローに最も必要なモノ

 

「…その心は感服に値するよ」

 

ヒーローを目指す身としてはその勢い良すぎる心の在り方に関心を抱かずにはいられない

 

けれどーーー

 

普通、そこまでする?そんなにボロボロになるまで犠牲にする必要、本当にある?自分を犠牲にしすぎて壊れたら意味ないでしょ。救ったヤツ、社会に消費されて終わるだけじゃないか、自己犠牲なんて笑わせてくれる。気持ち悪い

 

リカバリーガールへとボサボサでボロボロで寝息を立てている少年を預け「(試験終わってるし帰るか)」などと考えているとーーー

 

「今度こそ逃さないよ」

 

肩をガシッと掴まれる、ああそういえば先ほどからなんかやけに声をかけてくる女の子がいたね

世界の視点を変え、真実を見る目のせいか認識できてしまう透明で綺麗な女の子

 

「あーそうだった。やあやあ僕はオベロン、ってさっき名乗ったって?それは失礼。では美しい君、君はーーなんて名前かな?」

「葉隠透って言うんだ、好きに呼んでよ!」

「そうかい、名は体を表すというけどまさにだね。

それじゃあトオル。分からないけどなんの用事かな?」

 

「いや、さっきは助けてくれてありがとう!!

君がいなかったらきっとみんな今より辛くて痛くて厳しかったから!!」

 

「…」

 

嘘、偽り、そんなものは一つもない

曇りのない感謝

妖精の眼がそう伝えてくる

だからこそ、滅多にないその経験になんと反応して良いのか僕自身分からなくなる。ああ、適当に話を逸らしてさっさとこの場を立ち去ろう

 

「そうかい、まあ僕としてはそんなに意識してないから気にしないでおくれよ。ライバルでもあり協力する仲間だったんだから当然のことさ!」

「でもありがとね!」

「…っ、ははは、良いってことさ!お互い受かっていると良いね!」

「うん!」

「ぁ、あぁ…それじゃあ、また出会うことがあればよろしく頼むよ!」

 

「あ!待って!!連絡先交換しよ!!」

「」

 

あまりにも、透明だ。一旦の淀みもない心に何故か苦しく感じる

普段嘘にばっか晒されて汚いモノを見続けて、それに不快感を覚えている自分ですら“嘘憑き”として生きいるからか、曇りのない心による綺麗な言葉を断る術を僕は知らなかった

 

「……勿論だとも」

 

ああ厄介だ、本当に

 

まるで星のような君が苦手だ

 

 

そうして1週間後

 

 

「合格だよ。オベロン」

「あ、そうなのかい?」

 

 

僕は自宅にてオールマイトから合格を告げられた





初投稿でした。続けて書ければと思いますので、のんびりやっていきたいと思います。とりあえずライブ感で書く癖を無くせるかどうかの戦いです、ファイッ!!!


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八木家のある1日

おまけみたいな一幕です


…その日八木家は忙しかった

それはオールマイトの後継者が自身が教師として携わる学校の受験に合格したからか、それとも

 

「…僕より忙しく慌ててどうするのさ、オールマイト。落ち着くことがまず大切じゃないかなぁ」

「だって、私の身内が高校に入るんだ…!喜びもあるが例えば学校ではどう接していくのが良いかとかいろんな心構えが必要だと考えるだけでいてもたってもいられないのだよっ…!!」

 

義息が雄英高校に合格したから喜んでいるからなのか、はたまた八木の姓を持って雄英高校に入学する事への様々な不安があるからか、とにかくバタバタとしていた

 

「…まあ色々問題はあるとは思うけど結局僕らの関係を知るのは先生方だけだ。それに他で何か問題があっても僕の方でのらりくらりと躱していくさ」

 

ハハハと爽やかに笑うオベロンに対して、オールマイトはやはり心配な事も多いのか苦い顔から表情を変えられないでいる、身振り手振りも慌ただしい。

それがまるで遥か昔の漫画にでてくる青い猫型ロボットが慌てるシーンに似てたのでオベロンは紅茶を優雅に飲むふりをして目線は一切オールマイトへ向けないようにしていた。

 

「それもそうだが…!ほら、学業のために用意するものとか…色々先生方に事情を説明することもあるだろう!?私達は!!」

「学校の準備は全て終わっているよ。必要なものは全部揃えたし、先生方への自己紹介も終えているしね」

「いつのまに…!?」

「受験が終わった時にね、簡単だったという煽りも込めて自己紹介してきたのさ」

 

煽ったのかよ、とオールマイトは顔を手で覆った。

さらに

「この際自己紹介していたのは良いが、それ印象最悪じゃないか?」

と続けて話してくいるがオベロンとしては

 

「実際のとこ本当に簡単ではあった」

 

「いくら治せるとはいえ、誰かの腕や足が甚大な怪我が入学までの過程で発生するのは最悪」

 

「ヒーローは強さが正義、一番であるという形式を用意してるから強さだけしか持っていない碌でもない自称ヒーロー共が関門を通り抜けてこの社会に放たれる、どうにかしろ」

 

という考えであるため寧ろ言うべきことを言ってやったという心情だ。相当不満だったのか若干怖れすら感じさせる雰囲気にオールマイトも後退する

 

「…だから実技試験考え直した方がいいのでは?と話し合いが起きていたのか、あれ君のせいか」

「さあ、どうかな」

 

どうやら話し合いまでには発展したらしい事実にオベロンは若干満足気に笑う。そんなオベロンを見てオールマイトも笑うしかなかった。といってもこちらの笑みは苦笑であるが

 

「とにかく今すべき事は特にないよ。オールマイトも教師として就くまで残り僅かだ。ゆっくり休みを取るのが一番じゃないかい?」

「確かにね…私も教師とか初めてだし、それに君が受かったこともあって少しはしゃいでしまっているようだ。」

「そうかい」

「あぁ、そうだとも」

 

お互いようやく目が合い、ふっと笑いを浮かべる。まあオールマイトの動きが愉快だったのでオベロンが目線を頑なに向けなかっただけだが。

オールマイトも落ち着いたのか向かいのソファに座る。オベロンが紅茶は?と問うと、貰うよと答えオベロンが紅茶を淹れる時間をゆったりと楽しんでいた

 

 

 

「…そういえば実技では相当な結果を出したそうじゃないか、当日来た受験生や見ていた先生方からの評判も非常に良かった。君が皆を導いていたと

 

撃破67、救出41の合計108P。撃破で負けているものの君は1位だ。2位と大きく差をつけての合格、流石だよ」

 

「救出?…あぁやっぱりあったのか。ヒーローの素質を図る最初の関門だからあるとは思っていたけれど」

 

「あぁヒーローとして生きる覚悟には前提として力が必要だがそれよりも誰かを助けるためのモノ、人として“ここ”が重要だ」

 

トントンとオールマイトは自身の心臓辺りを叩く

つまりは“心”が大切であると、オールマイトは遠回しに告げる。オベロンも概ね同じことを考えていたため、その通りだねと頷いた

 

「誰かを助けるために自身を犠牲にできる“自己犠牲”の心を持ったものこそ私達が求め、社会が求めるヒーローだ。そんな子達を不合格にすることなど出来ないからね」

「…まあそうでなくてはね、醜い心を持ったヒーローなんて吐き気がする」

 

とオベロンは目を逸らす。これまで数々のヒーローを見てきたこと、その多くに醜悪さがあったことを思い出し苛立ちを覚える。オールマイトも彼に共感しつつも、話題の転換としてそのオベロンが今回見せた実技試験の結果を満足げに語る

 

「ああだからこそ、君のこの成績はとても素晴らしいものなんだ。力と心を示した。それはとても誇れるものなんだ。無論私も親として誇らしいよ」

「ははは、よしてくれよ“心”なんて。僕は僕にできる事をしただけさ」

「…いいやそんなことないさ(君は、君が思ってるより優しい子だよ。オベロン)」

 

皮肉混じりに自身を語った彼を、オールマイトは笑って否定してみせた。卑下することなどないと彼の『眼』からも自身の想いが伝わるように

親として一ヒーローとして、君の行動は素晴らしかったのだと

 

当のオベロンは

「(…話が面倒臭い方にそれそうな気がしてやまない、この人褒める時無限に褒めてくるし…

なにか、話が逸れそうなことはーーー)」

 

と、オールマイトへの対応を考えているのだが

 

 

 

 

 

「…ところで後継者はどうだったんだい?」

「ゴフェッ」

「わあ汚い」

 

突然の発言にオールマイトは盛大に紅茶を口から吹き出し、オベロンは大袈裟に避けてみせた。ゴホゴホとオールマイトが咽せているが、オベロンは何かを考えている。

 

「最近僕と話す時良く溢すけど、まだ介護が必要な年でもないだろうに…

ああ高齢特有の病気を若年ながらも罹っているんだろうか、それに対して不安になるなぁと思う僕なのであった」

「…口に出てるよ、オベロン」

「おや、これは失礼」

と思ってもいない謝罪をしながらオベロンは台拭きを渡した。

何度私は驚かされれば良いのかと考えるも今ものんびりと紅茶を飲む目の前の義息を見て結局無駄だろうと考えを放棄した。

 

「それで、なぜ急に…」

「いや急に気になっただけさ。後継者が誰だか知らないが今回の試験にいるって話だったじゃないか」

 

オベロンはオールマイトがどういう状態であるかをすでに知っていた。それは養子として迎え入れられてからすぐに、恐らくオベロンの『眼』の前では嘘はつけないからこそ最初に伝えられたのだろう

 

「全盛期ほどの力はない」

「いつか、死ぬ」

「だからこそ、後継者を私は探しているんだ」

 

オベロンは最初に伝えられたソレを忘れたことはなかった。

そんな事を伝えられてから数年経ったある日

そうつい最近の事である、オールマイトが上機嫌で家に帰ってきたのである。いつも笑っているオールマイトではあるものの、流石に…と思ったオベロンが何があったかを聞くと

 

『いや、何でもないさ!!』

 

と誤魔化されたのだった。

おかげでさまでオベロンは不快になり苛立ちを態度に表すことで話させた

 

『で?俺は何があったか聞いてるんだけど』

『…いやぁ、凄く強い心を持った後継者に相応しい子を見つけてね、はい…』

 

との事、さらに問い詰めれば雄英高校に行こうとしているとか、オベロン色んな情報を聞き出すことに成功したのだった

 

そして実技試験を終えた今、そんな事を思い出したオベロンは話題を変えるにはもってこいだったため急に聞き出した

 

「で?どうだったんだい?」

「あぁ、合格したよ。救出ポイントだけでいえば君を超えた。誰よりも雄英の心を動かしてみせた」

 

「ふうん、僕を超えた、ねえ」

 

 

ともすれば誰が後継者かを想像するのは彼からすれば容易い事だった。実技試験当日、雄英の教師陣の心を動かしてみせた者はそう多くはない。その中でもヒーローの本質である“自己犠牲”の精神を誰よりも持っていたものこそ後継者であり、該当する者はオベロンは1人しか浮かばなかった。

 

『SMASH!!!!!!!!』

 

彼だ、彼なら合点がいくと、オベロンは推察した。どう見ても個性慣れしていない故の怪我、あの敵を一撃で降した他とは格が違う個性の力、0ポイントでありながらも動いた行動力。そして行動には意志が伴う。恐らくは他を助けるという意志があったはずだと当時の状況を思い出し、一つ一つ並べて考える。

そこでオベロンは考察をやめてオールマイトを見る!その彼はオベロンが考え込んでしまったせいでオロオロしている。

浅く溜息をつき、紅茶を一飲みしオベロンは確信を持ってオールマイトに話す

「…まあ仲良くやるさ、継承者は彼だろう?あのでかい敵を倒したモジャッとしたすごい怪我の」

 

どうやら当たっていたようで苦笑を浮かべ、流石だねと一言。考察が当たったオベロンはやっぱりねと浅く笑った

 

「急に考え込んだと思ったら、相変わらず頭が良いんだから…ああその通りさ。仲良くしてくれると嬉しいが君との関係は伝えていないから、そこは君にお任せするさ…出来ればサポートもしてあげてほしい」

「ああ、任せておくれよ。父の頼みだ、しっかりやってみせるとも」

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば君、実技試験中は女の子とよく行動してたらしいけど友達かい?」

「ンゲフッ」

「オベロンッ!?」

「…そうとも!個性で援護をしていたら感謝をされてね、それからは友人さ!素敵な女の子でね…」

「…あ゛ぁ…でも、なんだってこんなことに。…ははははは素敵な笑顔だねオールマイトその笑顔すぐにやめて紅茶を飲むことにでも集中しててくれるかい?????」

「くっ…!………ハハハハ!すまないね…!君の取り乱す姿を見るなんて思わなくてっ…!

 

・・・あぁ、でも君のそんな姿を見れるとは何だか感慨深いなぁ…」

 

 

 

ピロン!!

『合格したよ!!オベロン君もしたよね、一緒に頑張ろうね!!!うおーー!!!』



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入学

うーん、投稿遅すぎ!!!
 


ごめんなさい、いやほんとに
忙しかったんです。ほんとに


「…やあ、トオル」

「待ってたよ!!」

 

雄英高校、校門前。

私の前に白髪長身のいかにも王子様っぽい彼がやってきた。受験の日に一緒にがんばって終わりには連絡先まで交換したオベロン君だ。

 

そもそも何故彼が私の前に来たかというと

それは昨日に彼に対し

 

『明日一緒にクラスまで行こうね!!校門で待ってるよ!!じゃおやすみ!!』

 

と少々強引だがメッセージを送り、さらに念を押すように小さくて可愛い謎の生物が「貴様を待つ」という重々しいセリフを放った、テキスト編集可能の謎のスタンプを結構な量送りつけたからである

 

途中『ちょ、ま』と返信が送られてきていた気がするが、私は満足して睡眠へと向かった

結果としては上手くいったみたいで彼はしっかりと校門前に現れて、私を探し正面までやってきた

 

「君は勢いが凄いね、トオル」

「だって新生活だよ。ワクワクするね!」

「そういうことではないんだけども…」

 

そう、私はこれから始まる夢の高校生活への憧れが止められなかった。きっと素敵な友達ができる、沢山の経験、学びを得れると思うとこのワクワクは収まらない。そして私を見てくれる人も今度はいるのがなんとも新鮮で嬉しいものだ

 

「まあ、確かに新しい経験が待っているのはとても夢のあることだとも。だけど君、元気よすぎて逆に心配なんだけど大丈夫かい?」

「大丈夫だよ…!!ふふ!」

 

とサムズアップする、そんな私を見て少し困った顔をしながら彼は笑って「そうかい」と呟いた

 

「それじゃのんびり話しながら行こうか」

「うん」

 

そうして私達は、これから私たちが学んでいく場所1-Aを目指して進むのであった

オベロンの面白おかしい話をゆったりと聞きながら

 

「それにしても…ふふっ…!」

「ん?どうしたんだい?」

「オベロン君制服似合わないね…!あははは!!」

「…」

 

オベロン君がすっごい笑顔になった、こわい

 

 

 

 

「机に足をかけるな!

雄英の先輩方や机の制作者方に申し訳ないと思わないのか!!」

「思わねーよ、てめーどこ中だ端役が!」

 

「(かっちゃんに…入試の時の怖い人!!)

 

ガラガラと私の理想の高校生活は壊れました。

しょぼしょぼとしていると

 

僕も不安になってきた、分かるとも

 

とオベロン君も困ったように笑う

扉開けて早々にこれだもんね、怖いよ怒鳴ってる人、と私の理想の高校生活に別れを告げ自分の座る席を探す

 

「んーと、あった!」

 

自分の座る席を見つけることができたのでオベロン君の席もついでに探しておく。オベロン君はモジャッとした感じの後ろで固まっていた男の子と話しているようだ

 

「あの時は素早い処置をしてくれたみたいで…!!」

「僕への感謝は不要さ。その分はリカバリーガールに。僕は自分にできることをしただけさ、君が無事で良かったとも」

 

と、どうやら受験の日の話をしているようだ。

よく見ればオベロン君が個性で眠らせていたあの子か、と記憶が蘇る。

あ、オベロン君一番後ろで私の隣だ、わーい。

 

「うわ、あの時の真っ白な王子様や…!!?」

「ん?君はーーー初めましてだね。

あの時彼と一緒にいたのかな?僕はオベロンさ、宜しくね」

 

私達が扉の近くにいるからなのかどんどん人数が増えていく。

オベロン君は手をスッとこちらへ向けると

「彼女は僕の友人さ」

とだけ彼らに伝えて私に視線を送る

きっと自己紹介の場を作ってくれたんだろうなぁとオベロン君に感謝しながらニッコリと満面の笑みを浮かべて私も答えるのだった、見えないけどね!!

 

「私の名前ははがく「お友達ごっこがしたいなら他所へ行け」わあ不審者だ」

 

まあ、おじさんっぽい芋虫に妨害されたけどね

ぬぬと寝袋から這い出てくる

その全体的になんかくたびれている風貌はまさしく不審者で本当に雄英かと疑ってしまいたい

ガラガラと崩れていった私の理想の高校生活、さっきの自己紹介で少しずつ立て直してたのに…

また崩壊した、不審者もいるの?この高校…

 

「ハイ、静かになるまで8秒かかりました

時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

「やあ、相澤じゃないか!以前はどうも、もしかして君が僕らの担任かい?」

 

「え?」

「先生」

「た、担任?」

 

「ああ、そこのオベロンの言うとおり担任の相澤消太だよろしくね」

 

その日一番の衝撃を私達は食らった。この人が“先生”であり“担任”であることは、あまりにインパクトが強く一種の(嬉しくない)サプライズなんじゃないかと思いたいほど否定したい現状がここにあった

 

その先生は寝袋の中をゴソゴソと探ったかと思うと中からジャージを取り出して一言

 

「さっそくだが、体操服着て外に出ろ」

「「「「」」」」

 

 

と私たちに伝えたのちにふらふらと教室を出ていった、そんな急に言われても誰も動けるはずもなく沈黙がこの教室を支配した

あまりに怒涛の展開すぎて誰もついていけていない。私も今声に出せるとしても「わ、わぁ…」ぐらいしか言えない

そんな中でもいつのまにか自分の席まで移動して準備を終えたのか

 

「おや、みんな固まってどうしたんだい?どうやら、先生も何かしたいみたいだし僕は先に向かっているね」

 

それじゃあね、と手を振ってオベロン君はさっさと更衣室に向かっていった

うん、そうだよね。言われたとおりにすべきだよね、すべきなんだけどーー

 

「早いよ、オベロン君!!」

 

そうして私達は急いで準備して向かうのであった

私の高校生活…本当に大丈夫かなぁ

 

 

 

 

 

 

「個性把握…テストォ!?」

 

 

「大丈夫じゃなさそう…」

「トオル、これからテストらしいけど元気はまだあるかい?ほらこれでも見て今朝の元気を取り戻して」

 

高校生活1日目、私達がすることはガイダンスや入学式、クラスメイド同士での自己紹介なんてことはなくグラウンドに出て個性把握テストなるものだそうです。

落ち込む私をオベロン君は心配してくれる、ありがとねオベロン君。でもなんでそんなニッコニコなの…

わあ光るちょうちょだ、ヒラヒラ飛んでる

 

 

「入学式は!?ガイダンスは!?」

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

どうやら先程教室でオベロン君たちと話していた女の子も私と同じように、いやクラスメイト全員が思っている疑問だっただろう

本来入学初日に行うであろうことについて質問するも本当に行わないようで

それも、『ヒーローになるため』というのが理由なのだから私たちは納得するしかない

 

雄英は“自由”な校風が売り文句であり

先生たちもまた同じだという

 

上体起こしや反復横跳びといった

最早伝統と化している体力テストは文部科学省の怠慢である、らしい

平均を取り続ける行為は合理的ではないと

 

それは確かにと納得できてしまう内容で、これから行うテストも入学式よりもガイダンスをするよりも、私たちの今を確認することは何よりも必要であると理解する

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げ何mだった」

「67m」

「じゃあ“個性”使ってやってみろ、円から出なけりゃ何してもいい、早よ」

 

そして目の前のあの怖いクラスメイトが見せた結果

 

「死ねぇ!!!」

 

ボールは爆風に乗って遙へと吹き飛んだ、「死ねぇ」は流石に怖いけど…その記録は705.2m。先程67mといった彼の記録とはかけ離れていて、個性使用時と不使用時の差がいかに大きいかがわかる。正しい自分の力をどれだけ知れていないかが結果として目に見えている。

自分の力を正しく知る必要性はいうまでもないだろう、私の個性が体力テストに大きく影響を与えるかは分からないけど、このテストは本気で挑まなきゃと強く思った

 

「705mってマジかよ!」

「なんだこれすげー面白そう!!」

 

「頑張ろうね、オベロン君!!」

「ちなみに他のクラスは入学式あるよ、トオル」

「ゥワ…」

「うーん、ダメかもしれないかな?」

 

「面白そう、ね。それにそこの男女2人、気合いはいいがテストに集中しないで話し込んで…

 

ヒーローになるための3年間、そんな腹づもりでいるのか?」

 

あ、私たちの事だ…何か嫌な予感がする

先生の雰囲気が大きく変わったのを感じる

 

「よし、トータル成績最下位のものとこのテストに真剣に望まなかったものは除籍処分としよう」

 

「はああああ!!!?」

 

クラスメイトの叫びがグラウンドに響く

苦労して入学した初日に退学にされるなんてことはあってはならない、そんな事があれば周囲からの目も痛く、自分の自信さえ折れるだろう

私を含めて大半の生徒は混乱と焦りに支配される

 

「最下位除籍って、入学初日ですよ!?

いや初日じゃなくとも理不尽すぎる!」

 

「(私とオベロン君なんてほぼ指名のようなものだ…!)」

 

同じ女の子が同じように抗議するもの軽く躱される。

 

自然災害や大事故、そして敵達

突然の苦難にまみれている日本

そういったものを余さず救うのがヒーロー

 

だからこそ私たちに与えられるのは私が思い描いていたような“夢”のような高校生活ではなく

苦難あって限界を、全力を超える生活だと

“Plus Ulutra”が求められているのだと先生は語った

 

「さてデモンストレーションは終わり

こっからが本番だ」

 

ある意味激励となったその言葉に皆の顔が引き締まる。私も覚悟はできても心のどこかで大丈夫だろうか、ヒーローになる事もできないまま終わってしまはないだろうか、そんな暗い考え浮かび積もっていく

 

 

「へえ、本気だね。相澤」

 

「……ぇえ?」

 

 

ただ、普段をまだそんなによく知らない私でもわかる、この人は普段通りだ。オベロン君は今の発言に何も感じていない

「(平坦すぎる、除籍されるかもしれないのに)」

あまりにも物事に対して達観しすぎている

そんな印象を抱かざるを得ない

 

「…変わらず気楽そうだな。お前がいくら実技TOPといえども除籍は容赦なく行うぞ、オベロン」

「ああ是非そうしてくれたまえ、僕はいつだって大真面目さ。手は抜かない、このテストも結果を出して見せよう」

「「「実技TOP!?」」」

「…あいつが…!!?」

 

その言葉に皆が反応する、特に爆発頭の人

私もその事実を知るのは初めてで驚きを隠せなかった

 

「…オベロン君、あの日1位だったの…?」

「ああ、そうだとも」

 

まあ、たまたまさ

とだけオベロン君は話し、いつも通りの笑みを浮かべる。

 

そう、私は忘れていた。オベロン君はあの日周囲にいた人に援護しながら誰の手も借りずあの敵達を薙ぎ倒していたんだ

一呼吸も乱れず、汗も流さずそれが当たり前であるかのように

 

あの日一番近くにいた私だからこそ分かる、あの異常さに。

 

「成績TOPであるのならそれなりの結果は見せろよ、オベロン?」

「あぁ、約束しよう」

 

そこで先生とオベロン君の会話の応酬は終わった

両方笑って相対しているが挑発的なものともう一方はただ爽やかにいつも通りにしている

 

その何処までも在り方が変わらないオベロン君に私はゾクっと何処か寒気を感じるのだった

 

 

「では、まずは50m走だ」

 

そして今、私達の除籍がかけられた体力テストが開始された

 



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テストだね、勿論本気でやるさ!

 

『3秒04!』

 

第1種目 50m走

ついに始まった個性把握テストという名の体力測定を皆が真剣に行なっている。おそらく退学がかかっているからだろう、確かに恐ろしいことなので真剣に少しでも良い結果を出そうと望むのが正しい。

 

「(僕としては結果が良くても悪くてもどちらでも構わないし真面目にはやるけどね?…ただ)」

 

「「「「……‼︎」」」」

 

「はぁ…僕の人気にも困ったものだ。そんなに見られても何もないんだけどなぁ」

 

先程の相澤との会話によってオベロンへの注目度が大変上がってしまっている。

 

ジッと見つめられてしまっては本来のパフォーマンスもあまり出せないかもなあ

 

なんてまるで思ってもいないことを浮かべる。実技試験TOPなんていう肩書きはそんなに凄いものだろうか?とオベロンは試験当日を思い返す。

 

現れる仮想敵を撃破して

周囲で何かあれば即座に援護に入って

場合によっては周りを強化した

 

それが本当にすごいことだったのか、と疑問を浮かべる。なにせ、オベロンはそれを難しいことだとは思っていない。普通だし当然、それだけの事だったとしか思えなかった。

 

ただそれはあくまでオベロンの主観

 

あまりにも卓越したフォローによって周囲の受験者に窮地が訪れることもない。

 

自分が何かをする前に敵が撃退されている

 

その姿を見ていた受験者、教職員は「別格」と思ってしまう力を見せたのが事実だ

それゆえに最優秀。ならば注目されることもまた普通で当然なのだ

 

それを知らぬオベロンは試験の結果など頭からパッと追い払い今やるべき事をどうするかを考える

 

なにせオベロンはこのテストの結果が優れたものであることを『約束しよう』なんて発言をしているのだから。オベロンとしては頑張る以外道はない

 

ただオベロンの力は爆発的な加速ができるわけでもなければ、オールマイトのように超強力な一撃が出せるわけではない。それができる可能性は存在するかもしれないがオベロン自身も自分の力を正しく把握はできていない

故にどうすべきかを考える、鱗粉を出してどうする?蝶を出してどうする?その先をどう動くべきか、とその事に少し悩むが

 

「ま、僕にできる範囲でやろうか」

 

とりあえずできる事を真面目にやるというスタンスに落ち着きオベロンは光の蝶をささやかに羽ばたかせ、スタートラインに立った

それと同時にオベロンの隣にもう1人ラインに立つ

 

「よろしく!!」

「…あぁ、よろしく頼むよ!」

 

振る舞いから活発的だと分かる触角と桃色の肌が特徴的な女の子、芦戸三奈はずいっと手を出す。オベロンは特に変わらぬ様子でニコッと笑って握手に応じる

 

「にしても…あの試験のTOPと一緒に走るのかぁ…」

「大丈夫さ。実は…僕も緊張していてね?」

「やっぱり!凄い人でもこういう時は緊張しちゃうんだね!!」

「凄くなんてないさ、ただ機会に恵まれただけでね」

 

「はじめんぞー」 

 

遠くから相澤の声が2人に届く

 

では、話はまた後で

 

とオベロンは体勢を整え、それに合わせ少女もまた姿勢を低く、浅く呼吸を整えて走るための準備を終えた

 

 

パンッ!!!

 

と弾ける音が響いた。それと同時にオベロンも芦戸も2人ともほぼ同時に地面をかけ始める

 

 

「(…あれ、案外普通?)」

 

「さて、ここからだ!」

 

芦戸があまりにも普通なオベロンの走りに疑問を抱いた同タイミングでオベロンの身体を光が包み込んだ。瞬間オベロンは突然加速する

至って普通は瞬く間に、圧倒的へと変わる

 

「え!?」

「はやっ!?」

「なんなんだあの個性…エンジンのような加速じゃなくてもっと別の何かを利用したような急な加速だった。それよりもその前のオベロン君の身体が光った瞬間の身体能力の上がり方もそうだ…」

「…あいつ、俺と似た個性か?」

 

あまりに初速とかけ離れた現在の速さに待機していたクラスメイトも目が離せていない

 

踏み込むごとに加速は増し同時に走っていた芦戸とは既に30m近く離れていた

 

そうして、観ている者たちが瞬きを終え、次にオベロンを捉えた時すでに

 

「さぁて、タイムはどのくらいかな」

 

ゴールまで駆け抜けてタイムを告げられていた

 

オベロン 50m走

3秒72!!!

 

 

「ふむ、流石に彼のような速さが売りの個性には届かないか」

「はぁ…はぁ…ーーー君、速すぎじゃない??」

 

「まあ、あれだけ言ったからね。当然というものさ」

 

遅れてゴールに辿り着いた芦戸に微笑み、オベロンは次の種目へと向かった

 

 

 

握力測定

 

「…これは流石にダメかなあ」

「まあ、お前細いしな」

「「「(((どうみても力無さそう)))」」」

 

あからさまに細身であるオベロンを目にして赤髪でツンツンした青年、切島もといクラスメイト達は思った。

カチャッと握った音が一つ二つと鳴った時にはオベロンは器具を放し早々に辞め次の種目の準備に取り掛かった

 

「やっぱ力はそんなに出ないんだな」

「まあ、そりゃあさっきの540kgに比べたら明らかにーーーーーーはぁ!!???」

 

そんなオベロンの記録を見ようと、手放した器具にクラスメイトは集まってくる。

誰もがオベロンの見た目の非力さからそこまで高くない数値を予想していたのだが、その握力計には“118”と表示されていた

その姿に似つかわしくない数値に思わず声を荒げてしまう

 

握力

左右ともに118kg

 

「そんなに強く握ったように見えなかったんだけど」

「あの細さで出る握力じゃないだろ…」

「あんだけ足早くて、羽生えてて、力強い…どんな個性だよ…」

「オベロン君はちょうちょ出せるよ」

「ちょうちょ出せるのか」

 

速く、強く、蝶々も出せる。あまりに一貫性のないオベロンの正体不明の個性についてA組一同考えるばかりである

 

 

 

立ち幅跳び

 

「あはははははは!」

「すげえ!飛んでる!!」

「いや…何か踏み台にしてない!?」

 

オベロンは羽を広げ、地面を蹴る。その跳躍は地上からはるか上空へと飛ばす。まるで蝶のよう、いやその姿は絵本の中の妖精のように軽やかだ。

 

軽やかなのだが、それを見るクラスメイトたちはオベロンの足元を注視している。

 

どうみても飛んでなくない?

あれ、空気蹴ってない?

ーーーじゃああの羽なに?

 

空中をまるで地面かのように蹴るオベロンを見て、羽の存在意義と彼の持つ個性の不明さに頭を悩ませる。というか既に悩んでいたのを加速させていた

 

「あれあり!??」

「ありだ」

 

立ち幅跳びという競技に当てはまっているかも疑問があったがありなようだった

 

 

 

距離

130m

 

反復横跳び!

81回

 

ボール投げ!

……!

 

 

「んじゃパパッと結果発表」

 

そうしてA組一同は全種目を終了した。

あるものは満足気に、あるものは不安を募らせ

あるものはどこまでも平坦に

それぞれがそれぞれの色を表情に見せる

 

「トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明すんのは時間の無駄なんで一括開示する」

 

「…っ!!」

 

 

特にその中でも緑谷出久の不安の色は強い

彼がとれた記録らしい記録はボール投げのみ

他の種目は個性の操作の不慣れによってとれたものなどありきたりな高校一年生の記録のみ

 

他のみんなは長所を生かして記録をとっている

 

その事実が緑谷出久を襲っていた

 

「そんなに気にしなくていいさ」

「…オベロン君」

「君の強さはもうみんなに見せた、なら大丈夫だ。悩む方が馬鹿馬鹿しいと思わないかい?」

 

オベロンは結果を見るなら明らかに強者であり除席はありえない。その彼が今回の結果を通して強さを緑谷出久に語ることはある種、煽りや蔑みとも捉えられてしまうが

 

緑谷出久の心にオベロンの声はスッと入ってきた

彼を哀れむでも励ますでもない、ましてや蔑みなんてものでもない

ごく普通に思ったことを告げているだけなのだと簡単に察することができる

 

そうか、自分はやるべきことはやれたのか

 

緑谷出久は落ち着く。

 

あとは、皆

結果を待つのみーーーーー

 

「ちなみに除籍はウソな

 

君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

「「「「「「はーーーーー!!!!???」」」」」」

 

「あんなの嘘に決まってるじゃない…

ちょっと考えれば分かりますわ…」

 

ーーー衝撃の事実に一同驚きを隠せずグラウンドに叫び声が響き渡る。オベロンの一言に心構えを持った緑谷出久も衝撃によって心構えは粉々に吹き飛んだ

 

「…不快だなぁ」

「ん?オベロン君どしたの?」

「いや、誰も落ちなくて何よりだと思ってね」

 

そんな中オベロンはただ1人だけ驚きもせず、ただ無表情だ。葉隠はその様子に違和感を覚えるも、瞬きの後ではいつものオベロンが視界に映るのみで直ぐに

 

「んー、まあいっか」

 

と気にすることでもないと相澤の続く発言に耳を傾けた

驚きの最中ではあるがカリキュラム等の資料がある、緑谷は保健室行けと簡潔に伝えてスタスタと去っていく。ポカーンとするA組一同を置いて、オベロンもまたあっさりとその場を去った

 

「あ、またあいついねえ!!」

「後で聞くぞ!個性とか、当日の話とか!!」




あ、握力が118だったりするのは
8/11がオベロン実装日だったのでその裏返しです


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2日目

バーヴァン・シーはかわいい


「いねえ!」

「もしかしてもう帰った……?」

「早すぎだろ!!」

 

 ドカドカと数名の生徒が教室に入る。グラウンドから余程慌てて来たのか息切れしている者も数名。

 耳郎、切島、上鳴、瀬呂、芦戸の5名がそのまま教室を見渡しているが目当ての人物は見つからない

 

「おや」

 

 それもそのはず。探していたはずの人物は先にグラウンドから姿を消した。が、その本人は何処かへふらりと寄っていたのか誰よりも遅く現れた

 自分達の方が早く辿り着いていたのだから本人がいるわけもない。

 

「そんなに慌ててどうしたんだい?」

 

 そんな事情など知らないオベロンは怪訝な表情を浮かべた。

 

「あー!!なんでお前さっさといなくなるんだよ!」

「聞きてえことこっちは山ほどあるって!」

「ていうか、何でお前の方が教室に帰って来るの遅いんだよ!」

 

 やんや、やんやと騒騒しくなりオベロンの顔がいっそう困惑したものになる。しかし一瞥した後

 なるほどね

 と何かの納得と、溜息をひとつこぼした

 そして

 

「よし、それなら自己紹介だ!

 僕はオベロン!趣味は資格取得、そして君たちも知っての通り実技試験TOPさ!」

 

「」

「……」

「????」

 

 高らかに胸を張り自己紹介をし始めた。周囲はそのテンションの変わりようについていけずフリーズ。

 

「……これで満足かい?」

 

 あんなに堂々と……

 自己紹介始めたのに……

 急に終わって……

 

 オベロンは一仕事終わったとばかりに突然落ち着く。

 そこで二度目のフリーズ、あまりにもマイペースなオベロンにA組生徒達は振り回される

 

「「できるわけねえだろ!!?」」

「……流石に今ので納得する人いないでしょ……」

 

「そうかい?」

 

 反論も無意味、笑ってオベロンは流す

 マイペース、飄々として掴みどころのない、しかし何処か紳士的などオベロンの振る舞いに多様な印象を抱く。

 その中でも特に大きく感じたのは

 

 むかしむかしの 童話 で 見たことがある

 

 という既視感に近いもの。耳郎、芦戸、切島、瀬呂、上鳴が揃ってオベロンという人物に過去の物語を重ねた。

 

「……さて、僕も隠すことはないからね。聞きたいことがあればなんでも聞いてくれ」

 

「それなりに……あー、いやほどほどに……

 うーん、少しくらいは答えるよ!」

 

「……話す気あんのかそれ」

「勿論あるとも」

 

 オベロンはどうぞ、と促すように視線を向ける。

 それを察したのか早速皆を代表してか切島が質問を投げかけた

 

「いや、オベロンの走り見てた時みんなで話してたんだけどよ。今まで見たことないくらい不思議な個性だって話になったんだ」

 

「ふむ」

 

「そうそう。他のヤツは理解できる個性だったよな。例えば爆風で加速してるから速いとか、エンジンがついてるから速いとかいただろ?」

 

 爆豪の爆破による加速、飯田のエンジンによる初速

 瀬呂であればテープを伸ばし、自分を引っ張る形で速度を出す。これらは目に見える形で速い理屈が分かる個性だ

 

「ああ、それか」

「でもオベロンは違ったよな。エンジンがついてるわけでも爆発を起こしてるわけでもない」

「あとは空も飛んでたでしょ?なんか飛ぶにしては変だったけど……」

「だからすげえ意味分かんねえ個性だなって」

 

 しかしオベロンは謎に加速し、謎に空を飛んだ。

 視覚的に分かるものではなく、かといって砂糖のように肉体を強化しているような個性ではないと肌に感じさせた。それを見ていた者達はあまりにも理屈が分からない不明な個性に興味と疑問が尽きなかった

 

「たしかに僕は空も飛んでたし、エンジンがついてないけど速かったね。でも君たちは一つ勘違いしてるけど、爆発は起こしてたよ」

 

「この通り、僕は光でモノを作ることができてね。それをその場に合わせた形に作っているのさ」

 

 そして答え合わせ。誰かの喉がゴクリと鳴る

 オベロンが手を差し出すように前へと出す。ふわりと光が手元に集まったと思うと、手のなかに鮮やかな蝶が。

 蝶はパタパタと羽を動かし手元を離れその場を飛び始めた

 

「こんなに、くっきりと」

「なんか神秘的だな、光る蝶って」

「勿論作るだけじゃない」

 

 パチン、と乾いた音が鳴る。その音に合わせて蝶はその場で即座に散った。

 

「蝶が」

「爆発した」

 

 ただ爆発というには優しく、暖かな風が彼らに届く。

 

「勿論、触れることもできる。光ーーと称したけど実際には光じゃない。最も近い表現をするなら魔力だね。ゲームでよくあるアレさ」

 

「自分の魔力を使って、適した魔術を選ぶ。至って単純なモノだ」

 

 ほら、と蝶を再度作り飛ばす。親和性があったのか、触角があったからか蝶は芦戸の肩に止まった。

 本当だ、と芦戸も蝶を指で優しく撫で触れられることを実感する

 

「今回はその蝶と爆発を使ったんだ。理由はあの爆破していた彼と同じと言えば分かりやすいね」

 

 そう、オベロンがやっていたことは爆破による加速

 スタートに立つ前に複数の蝶を作り、トラックの各位置に配置した。あとはその蝶を地を蹴ったタイミングの足裏近くで爆破、そうすることで加速を生み出した

 

「あとは自分を強化したぐらいで、他はこのテストにおいてはやっていないよ。これで満足かい?」

 

 それだけではなく自己強化を行うことで3秒台という、速度特化の個性と同じタイムを叩き出していた

 

「強化……?」

「一時的な身体強化、個性強化みたいなものさ。僕以外に与えることもできる」

 

 パッと切島が淡い光に包まれる、突然の出来事に驚いた表情を浮かべるが、オベロンが軽く手を振ったことで切島も納得する。少し腕をぐるぐると回してみると変化に気付いたのか

「なんか身体が軽い!!」

 と感じたらしく、トンと軽く地面から飛んで表現している。

 

「それであのタイム……それだけやること多いと考えたりするの疲れないの?」

「基本的には無意識にできるからね、必要であれば考えるだけさ。だからパフォーマンスには何も影響はないね」

 

「そりゃ、実技TOPになるってもんか。

 ……こんなイケメンで強個性なんて神様は不公平だな」

「ははは、実技TOPはたまたまだよ。僕があの実技に一番適していたというだけだ」

 

 まあ、格好良いのはそうかもしれないね?

 と付け加えてオベロンは笑う。

 周囲もお前な、と少々呆れつつも自然と口角が上がっているようだった

 

「個性の名前って何なのー?パッとこれ!っていうのは思いつかないんだけど」

「……羽もあるしやってることが妖精っぽいから、妖精じゃないかな?」

「確かに妖精っぽいよね!!」

「じゃないかって自分の個性の名前だろ……?」

「ていうか本物なの!?その羽」

「本物さ、飛ぶのは得意ではないけどね」

 

「あ、俺らオベロンの話聞いてばっかで俺らの自己紹介してねえじゃん、悪いな」

「ウチらもお互いの事知らないし、しとこっか」

 

 各々が自分の名前を話していく

 明日からのこと、他の実技試験会場のことを笑って話し合う。

 気づけば時間が経ったことを思い出す。周囲を見れば他の生徒が既に帰って行ったことに慌て、バタバタと帰宅の準備を始めた。

 

「せっかく同じクラスになったんだ。お互い手を貸して頑張ろうじゃないか、よろしく頼むよ、みんな」

 

 そうして1日目の学校生活は無事終了した

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

「……どうだった?……クラスメイトとの顔合わせ」

 

 ……オールマイトが心配そうな顔でこちらを見てくる。

 まるで思春期の子を相手にする過保護気味の保護者みたいな、なんかそういった感じの若干気持ち悪さを感じる

 

 いやまあ、年的には思春期だし保護者であるのも間違いではないのだが。そういうのを突然やられると紅茶を吹き出しそうになるからやめてほしい

 

「・・・・・何をそんな、人とコミュニケーション取るのに心配することあるかい?」

 

「ほら君、何でもそつなくこなすけど人と関わるの嫌いだろ?クラスで過ごすの辛くないかなって」

 

 ーーー納得、確かにそうだ。心配する理由も何もかも腑に落ちる。一般的な子供、同年代の青少年みたいな在り方では自覚している。周囲から好かれるような人間の役を演じているだけというのが自分である、明らかに彼と対面している今見せている自分とはちがうもの。

 

 そこから生まれる心労等を心配してるんだろうな、この人は

 

「……居心地は良いんじゃないかな

 今日色んな話をしたけど嘘をつく生徒はいなかったし、みんな真っ直ぐだ。だから大丈夫だろ」

 

「そうか、良かった……相澤君のは許してほしい。彼なりの理由があって嘘をついた」

 

「……そんなこと、分かっていたさ」

「まあ、君は見えてしまうからな」

 

「素質ある者を篩い分ける、嘘をつく必要があったかはさておいて、必要だ」

 

 この素質は単純な力だけの話ではない

 アイツは可能性と意思も素質に含めて見ている

 緑谷出久への見方を見れば分かりやすいものだ

 彼の現時点のパフォーマンスはあまりにも極端だ、破壊力は申し分ないがそれ以外が大体終わっているものの彼は可能性を示した。

 

『まだ、やれます……!!!』

 

 と、すればそれに比べて去年はというやつだ

 おそらく去年のヤツらはお遊び気分だったのだ。いざテストとなった時でもベストをつくすような心構えではなく浮かれて、ふざけて、そうして落とされたのだ。

 ……明らかに1クラス分の人数がいないとこあったからな。まあそういうことだろう

 

「あの人はソレを見抜ける人だ。教師として、ヒーローとして正しいことをしているのだし、許すも何もない。別に気にしてないさ」

 

 くっっそ不快になるから、おそらく都度気にするものだとは思うが、必要な事だと割り切ってしまえ。

 それにどうせ忘れるものだ。

 ああ、そういえばどうでも良かったな、と

 

 

 

「そうかい」

「ああ、そうだとも」

 

 カチ、カチと秒針が刻まれる音が心地よい。

 見てみれば、すでに22時になっている。オールマイトも気づいたのかスッとソファから立ち上がった

 

「そうだ。明日も早いし後始末は私がやっておくからもう寝なさい」

「ははは、オールマイトこそ疲れやすい身体してるんだし、初めての教師職で僕より明日に備えた方が良いんじゃないか?ほら僕がやっておくからさっさと寝たら?」

 

 飲み終えたティーカップやポットを持っていこうとするので手で押さえ、笑顔で牽制する。

 これは僕の仕事だぞ?と

 

 しかしオールマイトも負けじと笑顔で今もカップを引っ張っている

 

「ふふふ」

「ははは」

 

 

 

 

 

 この攻防のせいで結局寝るのは日を跨いだ

 ざけんな

 

 

 

 

 

 

 

 ―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 2日目

 登校してから僅かな時間しか経っていないが何となく慣れていた。英語とか数学とかの授業自体はまだ振り返りみたいな感じで変わり映えがしない。クラスメイトが変わって、先生も変わって、設備も変わっているのだけど、なんてあうかあまりに普通の光景に慣れを感じていた

 

 

 ちゃん

 

「ーーーちゃん」

「んえ?」

 

「三奈ちゃん?ご飯食べに行こ?」

「え?わあ!もう授業終わってた!?」

 

 あまりにも現状を普通に感じていたのか名前を呼ばれていた。どうやら授業が終わったことにすら気づかないほどボーッとしていたようだ。これと春の陽気と苦手な座学の相乗効果のせいだ。そのせいで私の意識は優しく遠くへと誘われていたんだから。……入学してからまだ数日なのに大丈夫なのだろうか私は。

 

「分かるよー、なんか雄英!!って感じの授業じゃないもんね。いつも通りの授業って感じだからねー」

「ねー、それじゃ食べに行こっか。葉隠!」

 

 

 

 

 お昼は食堂でランチラッシュによる一流のご飯が食べられる。新入生も在学生もワイワイも料理や会話を楽しんでいるようで賑わっていた。

 私たちも楽しみだねーと話しながら各々好きな料理を運んで席へと着いた。

 

「ね、この後の授業のヒーロー基礎学って何だろうね」

「うーん。ヒーローの基礎について学ぶんじゃない……!?」

「確かに……そうかも……!!

 

 ってそのまんま言っただけじゃん」

「あははー」

 

 とゆるーい会話を続けていると

 

「同伴しても良いかい?お嬢さん達」

 

「あ、オベロン」

「いいよー」

 

 オベロンがやってきた。

 トレイにはメロンが乗っていた。

 いや、メロンしか乗っていなかった

 ……メロンだけしか食べないの!!????

 

「いやあ、席がどこも空いてなくてね。知らない人が隣なのは気まずいし、中庭とか外で食べられたら良いんだけど

 

 それにしてもランチラッシュは厳しいね。メロンを持って外で食べて良いか聞いたら駄目!!って言われてしまったよ」

 

 どうやらメロンだけ持って食堂以外で食べて良いか聞いていたようで、まあうん。ダメって言われるよね。

 料理作るのが本職の人にそれはなんか若干喧嘩売ってない?

 あったかいご飯、沢山のラインナップ、そして安い

 そんな学生にとってありがたいことこの上ない提供体制に対して、メロン単品は……なかなか度胸があるというか

 さては……オベロン、ワガママだな?

 

「うーん、メロンだけ食べようとしてるからじゃない?」

 

 ほら、葉隠も同意してる。

 というか

「足りないでしょ絶対!」

 

 オベロンがほっそいの絶対これのせい

 なんか分かる、普段からこんな食生活してるんだって

 

 ……細いし白いのずっるいなぁ!!

 

「うーん、僕は足りるんだけどなぁ」

 

 と笑って気にせずモグモグと食べ始める。

 ほら見たことか先に食べ始めてた私達より食べ終わるの早いもん。あと4口で終わりじゃん

 

「で、ヒーロー基礎学の話してなかった?」

 

「うん、してたけど」

「それだけど、午後は座学じゃないから安心して。君、座学嫌いだろ?」

 

 やったぁと心の中で喜ぶ、座学よりも体を動かす方が好きだし、得意な自分にとっては何よりもありがたいものだ。

 というか分かりやすいのかな、わたし。そんなに活発そうに見える?

 

 あ、頷いてる。見えるのね

 

「さっき廊下でオールマイトに会ってね、適当に喋ってたら口を滑らせて何処かに走っていたのさ」

 

 ーーーあ、身体動かすから楽しみにしておくと良い少年!!!

 

 ……今の無しで!!じゃ!!

 

 

 

 

 

「わーたーしーがー!!」

 

「来っ」

 

「普通にドアから来た!!!」

 

 オベロンの言う通り、オールマイトがやってきた。

 でかいし画風違うし、何よりいつも画面の向こう側のヒーローが自分達の目の前にいる事に夢の様な感覚と確かな迫力がある。

 

「ヒーロー基礎学!」

「ヒーローの素地をつくる為、様々な訓練を行う科目だ!!!!単位数も最も多いぞ」

 

 座学ではないけれど、訓練、ヒーローになる為のものと聞いて自分が本当にヒーロー科に来たんだと実感する

 途端、ゴゴゴの音を立てて壁が動き出す。何事だと見てみれば

 

「入学前に送ってもらった『個性届』と『要望』に沿ってあつらえた」

 

「戦闘服!!!!」

「おおお!!!」

 

 コスチュームだ。あそこに私たちがこれからヒーローになっていく為の相棒とも言えるものが入っている

 どんなものなのか、期待に胸を膨らませる。興奮で私も「おおおー!」って叫んでしまった

 

「着替えたら順次グラウンドβに集まるんだ!!」

「はーい!!!!」

 

「格好から入るってのも大切な事だぜ、少年少女!!」

「自覚するのだ!!今日から自分は……」

 

 ヒーローなんだと!!

 

 その言葉は自然と緊張感を生んだ

 ただ嫌なものじゃなくて、自分の背中を「頑張れ」と押してくれているような。オールマイトからの鼓舞だという感覚で、不思議と笑みを浮かぶ。

確信している、この笑みは自信なんだと

 

 

 

「よし」

 

 ヒーロースーツに身を包む、自分のためにと作られた相棒

 これからヒーローになる為の第一歩を私は堂々と勢いよく飛び出した

 

「頑張ろう!!」

 

「さあ!!始めようか有精卵共!!」

 

 

 

 

 

 

 




上鳴「そういえばオベロン」
オベ「なんだい?」
上鳴「さっきゲームに個性を例えてたけどよ、MPに例えた時MPの最大ってどんぐらいなんだ?」
オベ「うーん、5000000000000ぐらい?」
上鳴「」


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ヒーロー基礎学、戦闘訓練!!

 

「良いじゃないか、皆

かっこいいぜ!!」

 

現在グラウンドにはコスチュームに着替えた生徒達が集っている。無論私も含めて。

周りを見渡せば一人一人の個性が溢れたコスチュームで

あいつはすごいラフだなぁ

あの子は…カエルっぽい?

あの子は、オールマイトに似てる!!

と、その子がどんな要望を通したのか、どんな個性を持っているのかをコスチュームから分かるのが面白くて、まるでファッションショーみたいだなと思う

 

「先生!」

 

多分飯田だったかな?飯田はエンジンがついていて、まるでスポーツカーやバイクみたいなコスチュームに身を包んている

どうやらここは入試に使った場所で、またあの市街地演習を行うのか質問している。確かにあの試験の時にここ使ったなぁとぼんやりと思い返す

 

「いいや!もうニ歩先に踏み込む!

屋内での対人戦闘訓練さ!!」

 

私たちは普段、ヒーローの活躍を屋外でしか見ない。

しかし真に賢しい敵こそ、屋内に潜み、このヒーロー飽和社会で凶悪な犯罪を起こしているらしい。

ゆえに、今回はそれを模して私たちにも屋内の戦闘をやってもらうというわけだ。

 

2vs2で

 

「基礎訓練もなしに?」

「その基礎を知るための実践さ!」

 

正直訓練なしだと怖い部分がある。ここにいる生徒のほとんどがそうだと思うけど、個性によるけれど、自分の個性を人に向けて使うなんてことは人生において少ない。いや、ないと言ってもいい。

 

私の個性も、人に向けてはとてもじゃないけど使えない

『酸』はとても危険なものなんて小学生の教科書でも載っている。だから少し不安だなぁと思う

 

「勝敗のシステムはどうなります?」

「ブッ飛ばしてもいいんスか」

「また相澤先生みたいな除籍とかあるんですか……?」

「分かれるとはどのような分かれ方をすればよろしいですか」

「水飲んでいいかい?」

 

「んんん〜〜〜聖徳太子ィィ!!」

 

生徒達からの多種の質問、その攻めの勢いにオールマイトは天を仰ぎ聖徳太子の名を叫ぶ。まあ聞き取れないよね、多いもん。

…というか1人授業に関係ないこと言ってなかった?

 

で、質問の答えとしては

この訓練の設定は敵が核兵器をアジトに隠していて

ヒーローはそれを処理しようとアジトに突入

だから、敵側は制限時間内にヒーローを捕まえるか、核兵器を守り抜く

ヒーローは、敵を捕まえるか、核兵器を回収することが勝敗の条件だそうだ。

ペアを決めるのはくじ引きで、現場だと急増チームアップも多いしそれが意図じゃない?と緑谷が付け加えていた。

 

「いいよ早くやろ!!」

 

とオールマイトがくじ引きの箱を手渡してきたのが早速引いていこうと思う。

…出来れば、強そうな人が相手は嫌だから一生に戦ってくれると嬉しいなぁと考えながら…

 

 

 

「おや、君と一緒か。よろしくね、ミナ」

「よろしく!!!!」

 

勝ち確定演出が私の前に立っていた。

Eグループを引いた私はオベロンと一緒のグループになった。

 

「一緒になること多いなぁ、もしかしたら僕たちは気が合うのかもしれないね」

「ね!がんばろう!!」

 

そういえばオベロンの衣装はさっき見てなかったなあと思い見てみれば、良い意味でこの空間に馴染んでいなくて異彩を放っている。オベロン自身が雪のような白さを持っているのに、真っ白なマントを羽織って、真っ白な衣装に身を包んでいるせいで童話の王子か?と錯覚してしまう。

靡いたマントの裏側はまるで星のように見えて目を奪われてしまう

 

「…オベロンのコスチュームなんか凄いね」

「そうかい?…まあ皆と比べると個性と合わせたものでもないから個性を強化する、なんて機能は付いていないけど

似合っているだろう?」

「うん、似合いすぎ。多分この世でオベロン以外に着こなせる人いないよ、それ」

「まあ、これ僕の個性で作ったものだし」

 

パチン、と指を鳴らすとオベロンのコスチュームが変わる

今度は青いマントを羽織って、古い王家のような衣装に身を包んだ。さっきよりも王子感が強く、蝶の羽も見えるから妖精の王子様、という印象に変わる

なんだコイツ…個性で作れるのずるいぞ…

オベロンはもう一度指を鳴らし、先ほどの白いコスチュームに戻った

 

「まあ、僕の衣装なんてどうでも良いさ

それより君さ。踊り…かな?

良い意味でラフで、すごく活発的な印象だ。ダンサーみたいで、とても似合っているよ」

「でしょ!!!ありがと!」

 

オベロンからコスチュームの激褒めをいただいたのでグッと親指を立てて感謝を伝えておいた。いつものようにオベロンは笑いながら、指で視線をオールマイトの方へ誘導してくれている。どうやら次はヒーローと敵のくじ引きを行うみたいだ。

 

「オベロン!」

「ん、なんだい?」

 

どんな奴が来ても

 

「勝とうね!」

「…勿論さ!」

 

負ける気はしない!!

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

いま、最初の試合が終了した。

結果はAコンビの緑谷と麗日の勝ちで、Dコンビの爆豪と飯田の負けだった。戦闘後のビルはひどく崩壊していて、それを見ればどれほどの戦闘が行われたのかを想像するのは容易い。勝利したAコンビは緑谷が重傷で麗日は個性の影響なのか、気持ち悪そうにその場に伏せている。勝者と敗者の状態がまるで逆、試合を見たものはそんな感想を抱かずにはいられなかった。

 

結果の総評としては

 

「今戦のベストは飯田少年だけどな!!!」

 

とオールマイトは語った。

理由は八百万、曰く。

・飯田が核の争奪を想定し、相手への対策をこなしたから

・爆豪は私怨丸出しの攻撃、そして屋内での大規模攻撃

・緑谷も同じ、大規模攻撃を行っていた

・麗日は気が緩んでいたり、最後の攻撃が乱暴であったこと

 

と、すれば唯一核の争奪に尽力していた飯田がMVPであることは当然であり、Aコンビの勝ちは「訓練」だという甘えから生じた反則だという。

オールマイトもそれに納得しているため、親指を立てて「正解」と呟いた

 

 

「さすが推薦入学者らしい、かったい意見だぁ!正解するのは嬉しいねー」

 

と、オベロンも拍手をしている。

パチパチ、パチパチと空っぽのように聞こえるその拍手がクラスメイトたちの耳に酷く残る

 

「でも勝ちは勝ちさ。僕は迷わず2人に賞賛を送るよ」

「その勝ちが、反則のようなものでも?」

「本当に反則だと思うかい?」

 

キッと見つめる八百万はオベロンを睨むも、オベロンは笑顔のまま

オールマイトはそんな2人への対応に戸惑いながらも

 

「では君の総評を聞きたい、オベロン少年」

 

とオベロンに問いかけた、一つため息を入れてオベロンは話を続ける

 

「敵の敗北は『甘え』ではなく、ヒーロー側が正しく連絡を取り合っていた事だ。簡単に言えば、情報戦を制したから勝てたのさ」

 

「君も情報がいかに大事かは分かるだろう?相手の個性は何かとかね」

「ええ、情報によっては盤面を大きく動かし、相手を追い詰めるのも容易になります」

 

オベロンは「そうだね」と頷いて肯定する

 

「彼らは絶え間なく情報を共有していた。イズクに至っては攻撃されてる最中にも、だ。共有していたのは、核の位置、自分達の立ち位置、攻撃のタイミング…これで間違いないかい?」

「う、うん。デク君から今どこにいるのかとか無線でもらって、何をすべきかを考えて共有してたよ」

 

麗日もオベロンからの問いかけに頷いて肯定する

本来は聞こえていない無線の内容を違わず当てるオベロンに、自分達の戦いの内容を把握し、評価されていたことに驚き、それを上回る嬉しさを覚えていた

 

「…聞くのは酷だけどエンジン君」

「俺のことか…!?」

「君、共有できた情報…なにかある?」

 

飯田からの肯定は、なかった。視線を落として首を振る

情報が正しく共有されたものと、されなかったもの

 

「分かるかい、これが勝利したものと敗北したものの差だ」

 

あまりにもその差はでかいと八百万も目を伏せるように、認める

話を聞いているだけの他の生徒、オールマイトでさえ、そこに付け加える意見も、ましてや反論もない

 

オベロンに笑みはない

ただ淡々と事を話しているだけで、そこに何の感情もありはしない

 

「核の争奪を想定してたから対応が遅れた?

違う。彼らが何をするかを悟れなかったから、対応が遅れたからだ

そこに反則も何もない。純然たる彼らの勝利だ」

 

「では何をすべきだったか」

 

まずは、と視線をオベロンの視線は飯田へと送られる

 

「エンジン君は、核を持って逃げるべきだったんだ。あの状況になったら迷わず引く、いや…逆に近づいて取り押さえる。身動きを取れなくするのも良いね。

ーーーただ、味方と連絡が取れないのは痛手だったね。それさえなければ君は判断を間違える事はなかったはずだ。『きっと、彼らの行動には意図がある』と至っただろうね」

 

「爆発君は私怨を抑えるべき…とも言えない。あの私怨丸出しの破壊力ある一撃でヒーローを倒していたらその時点でアドバンテージだ。奇襲としては倒せなかった事以外は非の打ち所がない。

やるべきは周囲を確認する事と無線に耳を傾ける事だった。多分だけど君、短気に見えて周囲への警戒も怠らないだろ、普段は。

なら、君が指示を出せば圧勝だったはずだ」

 

「オチャコは、確かに緊張感を持っていなかったね。一番『あくまでも訓練』という意識が強いのも君だった。勝ったから良かっただけで、乱暴な攻撃であったのは否定できない。しかし、イズクの指示をよく聞いて、行動に起こしたことは評価できる。もしかして、実技試験でもこういうことあったのかい?」

 

「イズクは最も脅威になりうる敵のヘイトを1人で受け続けた。そこに関係性が元からあったとはいえ、あの爆発を一人で受け続けるのは正気じゃないよ、良い意味で。

そして、その中で指示を怠らなかったのは自分と味方なら何ができるかと何をすべきかを把握していた事に他ならない

…ただ、自分の出来ることの限界値は知っておくべきだったね。本番なら倒れたイズクは核を回収した代わりの人質になる、倒れてはいけなかった」

 

「これが僕からの総評だ」

 

「ああ、それと勘違いしないでくれ。僕は賞賛を送ると言っているだけだ。君の意見は間違っていない。『訓練』では間違いなく彼がMVPだ。限られた行動制限の中でよくやったと思える。それはオールマイトも同意してるし、正しいよ」

 

「ただ」

 

「そもそも、僕はこの『訓練』が評価できるものか、公平性があるのかどうかに疑問がある。敵が制限された動きしか許されないこと以外にも、基礎を正しく知るための授業で力を抑えて戦わなければならないなんて馬鹿げた話さ。

 

 

だから、こんな中途半端な『訓練』って意味ある?って考えるけどね」

 

オベロンの視線の先で大男がビクッと肩を振るわせる

気まずくなったのか、視線を逸らされたのを確認して、オベロンは溜息をつく。

 

 

「まあ、今回の授業でルールが敷かれてる以上、僕もそれには従うけどね」

 

そして改めてオベロンは拍手を八百万は送った。

パチパチ、パチパチと鳴るそのオベロンの拍手。それは、もう八百万には賞賛には聞こえなくて、不快に、頭の中を反響していた。

それでもオベロンは普通に笑って、次へと促す

今までのことがなかったように何も気にせず当たり前のように

 

「さ、急がないと授業が間に合わなくなるよ!」

 

「(…怒ってる…!!今度から、授業するときは他の先生方にしっかり相談してから内容を組もう…!!!)」

 

息子からの鋭利すぎる棘が生えまくった発言にオールマイトは震えていた

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「ねえ、オベロン」

「どうしたんだい…というのは聞かなくても分かるね。

なぜ、僕があんな発言をしたか、だろう?」

 

うん、と私は頷く。

私達は次に戦闘訓練を行うグループに選ばれて、現在建物の核爆弾が置いてある部屋へ向かっていた。

その途中で私はどうしてもオベロンの先程の発言がどうしても気になった。内容ではなく、なんで話したのか

そんな私を見て、オベロンは話を進める

 

「そもそもおかしいのさ、『訓練』が」

「…どういうこと?」

「…彼女、誰だっけ?

ま、良いか。彼女の発言聞いた時、確かに、と思っただろう?」

「う、うん」

 

爆豪が私怨を出して役割を放棄してたーーーなるほど

緑谷は被害が大きい攻撃を出していたーーーそれは

麗日は核爆弾がある状態ではしない方がいい攻撃をした

 

ーーー確かにそうだ

 

そう、全てに納得した。そして飯田がベストな行動を取っていたことに疑いもしなかった。

だって、『訓練』に一番忠実に励んで、役割を果たしたんだから

 

それに、オベロンは では と投げかける

 

「なんでそれがベストなんだ?」

「え?」

 

「敵は常に守ってばかりだ」

 

蝶がヒラリと舞う

 

「敵は建物に籠るだけだ」

 

また蝶が舞う

 

「ヒーローに恨みなんて敵は持たない」

 

また蝶が舞って

 

「それが現実にいる、敵の正体だと、君は納得するかい?」

 

オベロンは拳を握りしめる

 

「そんな事はない。敵は自由だよ、どこまでも」

 

宙を舞う蝶のその全てが破裂して散った。

 

「では、なんで敵が『訓練』のルールに則った行動しかとっていないんだ?」

「それは…『訓練』だから」

「…そこなのさ、改めるべき認識は。

ルール無用が敵なんだ。仮に演習でも敵にルールを与える必要はない

敵が何をしてくるか分からない、それに対応しなければならないのがヒーローだ」

 

確かにと自然と頷く

 

 

「オールマイトも優しく教えたいと思ったから今回この形式を取ったんだろうけど、僕はこの形式を意味がないものと考えるよ」

 

「相澤も恐らくは僕と同じ考えを持つはずだ、彼ならこの訓練はしない。

もっと敵側に自由を与えられるように、ビルだけではなくて広いエリアで行うはずだ。それこそ、この市街地全域…とかね?」

 

ここは狭すぎるとオベロンはため息をついて首を振る

 

「今ヒーロー達が血を流して戦っている敵はもっと自由だ。

どこまでも、気持ち悪いくらいに。なら、訓練と称するからにはそこを重視するべきだったんだ。そうしないと、僕らはきっと立ち向かう力を得られない」

 

「(…そっか)」

 

オベロンがここまで話して納得したことがある。オベロンは実際事件が起きたらどうなるか、という現実を見ている。

敵がもっと凶悪で狡猾だから犯罪が起きてるって、ちゃんと重く見ているからわざとあんな言い方で話してたんだ。

おそらく、うん。そしたら、分かるもん。納得がいく

 

 

…八百万に対して、追い詰めるように一つ一つ丁寧に、相手の論を折るようにする言い方はすっごく捻くれてたかもしれないけれど一つ分かったことがある

 

「…こんな話は、彼女にもあんな言い方でするべきではなかった。悪いとは思っている、すまないね。」

 

「うん…オベロンってさ」

 

「うん?」

 

「めちゃくちゃ真面目なんだね」

 

「…」

 

オベロンが固まった。笑みを崩さず、マイペースに掴みどころなく振る舞うオベロンが。ピタッと笑ったまま

 

「…参ったなぁ、真面目キャラで売るつもりはないんだけど」

 

たった2日、まだそれぐらいしか一緒に過ごしていないのに。オベロンは普段そんな様子を見せないってことが分かってしまう。だから今の照れた様子がなんか可笑しくて

 

「あはははは!!オベロンそんな風になるんだね!」

「…そんなに可笑しいかい?僕が照れるの。まあ、笑ってくれるだけ良いけれど」

 

頬を掻いて目を逸らす姿も可笑しくて笑ってしまった

 

……

……………

……

 

そうしてようやく私たちは指定の部屋に着く

 

「さて、改めて確認だ。ミナ、君の個性は昨日話してもらった通り『酸』で溶解液を出すことが得意で間違いはないかい?」

「うん、合ってるよ。強さは調節できるけど…ちょっと危険かも」

「わかった、そこは配慮しよう。では、僕の個性だ。この前教えた通り、僕の個性は光に似たモノで物質を構成する、あるいは僕や周囲の人の身体能力を強化する魔術のような個性」

「そうだね」

「では、相手だ。僕らは彼らの個性をあまり知らないが

赤白の彼は個性把握テストの時は主に使用していたのは氷だが、火も扱う。

だから氷と火の両方を操る個性だと僕は考える、非常に強力だ」

「よく見てるね…強力だ…!」

「もう1人は手が沢山生えていたね、それ以外は不明だ。

生やすことができるのが手だけ、だと思わない方がいいかもしれない」

「私たちはその2人から守りきらないといけないんだ…」

 

どういう感じになるのだろうか

オベロンが前衛で敵を抑え、私が核を守る…?

それともオベロンが核を守って私が前を…?

 

いや、それだとバランスが悪い

なら私とオベロン両者で前に出た方がーーー

 

「ちなみに僕は一歩も動かない」

「なるほど」

 

ーーーん?うごかない?

UGOKANAI=動かないだから

彼は部屋から一切動かないと言っている

つまり、Don't move

なるほど…

 

「なんで!!?」

 

その言葉に困惑が隠せない。この部屋が守る必要があるのは理解している。ただ自分でも「敵は自由」って言ってなかっただろうか。それなのに自分は動かない、部屋どころかここから動かない。オベロンの一転してまた一転する発言の真意を私の頭は読み取れず、ついていけそうになくてオーバーヒートしてしまいそうになる。

 

「さっきと言ってること違うじゃん!?制限がどーたらとかさ!!」

「それはそれ、これはこれだ。僕は今回はルールに従うと決めたし、僕がメインで頑張るとね、僕だけで終わってしまう。君は自分の実力を知らないままこの授業を終えるけど、それは嫌だろう?」

「あ、うん。やだ」

 

せっかくペア組んでの訓練が、私は要りませんでした。なんてことは冗談でも合って欲しくはない。無論オベロンがやろうと思えばそれが出来るのは想像できるけれど、役に立てるなら立ちたい、協力したいのだ。無力なのはごめんだ

 

「だから君がメインで動いてもらう。その間、僕はここから君へ指示や援護をする、君があのヒーロー2人を捕らえて、僕らは完全勝利するんだ」

 

やれるかい?とこちらを見つめる

轟、氷と炎を操るなんて凄いなぁと思うし、障子はすっごい握力で手が沢山あるのは厄介だ。どうにかなるかは分からない、でも真面目な彼が完全勝利と言っているなら

 

「やれるよ!!」

 

完全勝利以外の道はないんだろうね!!

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

モニターにそれぞれのチームとビルの内部が映し出される。

ビルの前に立つ轟、障子のBチーム

核爆弾の前で並ぶオベロン、芦戸のEチーム

それぞれのチームに今クラスメイトが注目すべき生徒がいる、そのせいか現場だけでなく、このモニタールームでさえ緊迫感が走っている

 

 

「ついにあのオベロンの戦闘が見れんのか…」

「把握テストでも凄かったけど、実技の時どうだったの?」

「凄かったよ、あの日オベロン君の周囲にいた人で怪我をした人1人もいないし。そもそも、皆それぞれ色んなエリアに別れて試験受けたでしょ?オベロン君1人でエリア制圧してたよ」

「…マジかよ」

 

「それに対しては、推薦入学の轟か…」

「轟はどうだったの?八百万…さん?」

 

「え、ええ。轟さんは…そうですね。凄まじいの一言に尽きますわ。私たちの実技では恐らく皆さんと内容が違うのですが…それでも氷の出力が、とても学生で出せる力ではなくて…あのビル一つ飲み込んでしまえるほどです」

 

「やべえな!?」

「じゃあ轟か…?」

「いや、オベロンも何するか分かんねえぞ…」

 

それぞれの話で分かる、2人の強さ。

恐らくどちらも学生で収まる強さではなく、プロヒーローに匹敵する強さ。あまりに強大な個性のぶつかり合いを見ることになる彼らの興奮は止みそうにない

 

 

その最中、オールマイトは八百万に声をかける

オベロンの先程の発言、それを聞いてから何かをひたすらに考え、思い詰め、視線を落とす彼女を教師としてプロヒーローとして放ってはおけなかった。

 

「…八百万君、先ほどの彼の発言だが…」

「ええ、分かっています。私も考えが及んでいないところがあったのは事実です。彼の話を聞いて、確かにと思う部分も多くありました。だからしっかりと見ますわ。あのように語った彼が何が出来るか、その強さを」

「そうか、君は強いな」

「いいえ、当然の事です」

 

彼女は認識を改めて、オベロンの考えを認めていた

その彼女の心強さにオールマイトも笑みを浮かべる

心配はなかったのだと、安堵し再びモニターへと視線を戻した

 

「(というかどちらかというと…あれは私へのアドバイス…か)」

 

あと数秒で戦闘が始まる

 

本人達を超えて見ている者達の緊張感が頂点へと達する

誰かが喉を鳴らす、飲み込む

拳を握りしめる

 

そして

 

屋内対人戦闘訓練第二戦が

 

 

「(…さあ、見せてみろ、オベロン。今の君の強さを…!!)」

 

 

開始された

 

 

ーーーそして、わずか数秒、凄まじい冷気によって

ビルの全てが氷漬けにされる。今も尚、メキメキと軋む音を立てて、ビルを更に包み、ビルごと巨大な氷塊へと姿を変えていく

あまりにも早く、あまりにも強い、圧倒的な力によって変化を遂げた、市街地ならぬ光景に目を疑うことしかできない。

 

「な…!?」

「やばっ…!」

 

「これは…」

「轟さんの…?!」

 

勝ち…!!?

 

あまりにも強力な個性に「反則」だと心の中で一同は思う

 

全てを凍らせては、出来ることなどもうない

抵抗など出来るはずがない、オベロン達が体力を奪われていく中で、轟達はゆっくりとビルに入り核を回収、あるいは敵を捕えるだけでこの戦闘は終わる。轟の勝利を一同が確信した

 

だが、モニターに映る真っ白な妖精の口が

嘲笑するように三日月に歪む

まるで「そんなもの?」と告げているようだ

途端氷が内側から強烈な光放ち、爆散。凄まじい音を立てて巨大な氷塊は崩落していく。その爆発の振動はモニタールームにさえ伝わる程で、威力の凄まじさを視覚だけでなく肌で感じさせた

 

「っ!うおおおお!?」

「氷が全部割れた!!」

 

ビルを注視すれば淡い光に包まれている

それは外側だけではなく、内部含めて全て

オベロンの話を聞いていたものはここで理解した

 

「おい見ろ!?ビルの周りにやべえ量の光が集まってんぞ!?」

「いや、中もだ。床も全部光でコーティングされてやがる!!」

「あんな爆発が起きてビルが壊れてないなんてどんな力だよ…」

 

その光の全て、オベロンの力によってまとっていたものであると。だからこそ光を弾けさせ氷を砕く事も容易、そもそも氷をビルに触れさせないようにする事もすら出来る

 

再び一同は思う。「反則」だと

それを見てオールマイトはつい口角を上げた

 

「(…性格悪すぎるだろう、君)」

 

それは

 

「ビルを凍らせるなんて無駄な事やめたら?」

 

と今もモニターの向こうで笑うオベロンからの挑発に他ならない

氷は全て砕け散った、再び冷却が始まり氷が張られようとも再度、粉々に。学生らしからぬ、常識はずれの力は常識はずれの力によって無力へと捩じ伏せられた。

 

反則vs反則はオベロンの勝ち、なら次の勝者は誰になるだろうか

モニタールームの熱気も上昇していく

 

「…本当に学生同士の戦いかよ…将来安泰すぎるぜ…!!有精卵共!!」

 

 

 

ビルの入り口で2人は立ち止まる

ビルの最上階で2人は笑う

 

「ーーーやりやがったな」

「やっぱりやってきたね」

 

片や、悩み

片や、笑う

 

「どうする、轟」

「じゃ、行ってくるね!」

 

そしてお互い、前を向いて

 

「2人まとめて捕まえるしかねえだろ」

「ああ、僕らの勝利を始めよう!」

 

ここに戦いが始まった

 

B vs E Start!!!!

 

 




BGMは
邪竜百年戦争オルレアン

永久凍土帝国アナスタシア or 妖精たち

妖精たち 

永続狂気帝国セプテム
のイメージ…?

FGOのBGMとヒロアカ合わなすぎて笑ってます。ヒロアカはどちらかといえば現実に近いからファンタジー要素をBGMも強く持っているFGOとはマッチしにくい…のかな
まあ、もっと細かく話を区切れば合わせやすいんでしょうけどね。それこそFGOみたいに
…楽曲コードって載せるべきですかね、タイトルだけなんですけど


ちなみに
オベロンがキレたのは、訓練があまりにも中途半端かつ
イズクがめちゃくちゃな怪我を負ったためです
実戦想定されてるとか言って、全く実戦に近いものじゃないことに追加して
そんなんだから生徒が大怪我してんだぞっていう2種類のポカでイライラしてました。

まあ怒ったといってもマジで怒ってるわけではなく
新米教師なんだからしっかりと他の教師と相談するべきだろ?
なんでしてないんだい?

っていうか軽ーいもの

あと白オベロンならきっと口挟んで余計なこと言いまくるんだろうなっていう自分の頭の中にいるオベロンエミュによるものです。解釈違いならすみません。ちなみに、黒オベロンは無視します。

八百万に対しては特に何も思っていないですね


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猛れ芦戸!努め轟!唸れ障子!どこだオベロン!

フリーレン全部読んで、ブルーアーカイブやり始めてたら時があまりにも経過しすぎてた。ほんとすいません
誤字脱字すごいかも知れないんですけどとりあえず投稿します


「…ダメだ、何も聞こえない」

「おそらく、この光だ。遮音の役割もある

俺も氷を張れない、しょうがねえよ」

 

行くぞと轟は床から手を離し、足を進める。

障子も頷いて、共に上へと向かう。

目指すはターゲットの置いてある部屋である、ここまで見ていないため自然と上の階に置いてあることを2人は理解していた。恐らくは最上階だと。そこが最も安全でセオリー通りだからだ。

 

(一手で終わらせるつもりだったんだが…)

 

轟は自身の個性、『半冷半熱』でこの戦闘は容易に終える予定だった。僅か一手のビルの全凍結、その選択肢は基本間違いではないのだろう。だがオベロンがビルの内外部すべてを覆った光によってその選択肢は潰された

 

「轟、いざという時は俺が前に立つ」

「ああ、俺は後ろからお前の援護だ。お前なら俺の氷も粉々に砕けんだろ」

 

2人は策を練り直し、また上へ上へと登っていく

だが依然として妨害はなく、既に頂上に近い場所まで轟達は来ていた。

 

「…障子、確認したいことが一つある」

「なんだ?手伝おう」

 

 

 

 

 

 

「ここは…」

「…さっきの戦いで使われた部屋と似ている」

 

このビルの恐らくは最上階の一つ下の階に辿り着いた

6階建てのビルの5階、その部屋は飯田が麗日を待っていた部屋のように無駄なものはなく、身を隠せるような柱が4本生えているだけ

 

そして

 

「やっほ、早いね」

 

部屋の真ん中にはピンクの少女、芦戸三奈がそこにいた

ただ、オベロンの姿はなく隈なく探しても、そして障子の『複製腕』を使ってもこの部屋からは3人分の呼吸音しか聞こえない。つまり

 

「お前1人か」

「そうだよ?オベロンは個性を使って探しても、この部屋にいないよ」

 

上だよ上、と人差し指を上に指して彼女は笑った。

 

(俺が索敵ができる事がバレている…か)

 

「単純に数で既に負けてると思わないのか?」

 

「ふふ、思わないね!!」

 

芦戸はただ1人で2人を待っていた。そして彼女の発言から「やはり」と彼らは同時に確信を得る。オベロンは核爆弾の部屋で目標を守っていると。そしてその部屋に通じる階段は、芦戸の後ろにある扉の向こうのみ。彼女の役割はその門番である、と。

ならば、轟と障子が選ぶ策は一つだけ。障子は轟の前に立ち、『複製腕』を広げて轟の姿を見えないようにする。それは轟の手数を見せない様にするため、その後ろの轟からは冷気が流れ、部屋を少しずつ満たしていく

 

「通してもらう」

「手加減は…しねえぞ」

 

 

「かかってこーい!!」

 

 

 

 

芦戸が瞬いた直後、前に氷塊が現れる。まるで津波のように視界を覆っていく氷塊は更に上へ横へと広く拡大していく。

 

「はやっ!「ふんっ!!」わぁっ!!」

 

咄嗟に芦戸は後ろへ飛び去り、ひとまず回避。

そして回避した先を読んで迫る障子の腕は、咄嗟にしゃがみ更に後ろへと下がることで空を切らせた。

 

「…なんかコンビネーション良くない…?

それに…地面に触れてなくても氷出せんだね…」

 

一先ずは、2人の攻撃を避けた芦戸も、轟と障子のカバーし合い少しずつこちらを追い込む戦い方に警戒を強める

 

芦戸は呼吸を整えようとスッと息を飲み込む、吐き出ーーー途端、ゾクッと芦戸の背を冷やす。

冷気は未だ収まっていない、常に出し続けられている。

 

(でも、この嫌な予感は)

 

轟から溢れる極低の冷気を肌で感じたからではなく、おそらく直感からくるものだ、告げている

 

――――動け――――

 

あまりにもシンプルかつ、優先しなければならない危険信号。障子に砕かれ、轟から離れた氷がガラガラと音を立てて壊れていく。その音が聞こえないほど思考を支配したソレに芦戸は従い横へと飛び込む。その勢いのままゴロゴロとコンクリートを転がり、器用に体制を立て直す。

 

「…やっばぁ…!!」

「…無理か…!」

 

膝をついた芦戸が地面から視線を上げれば、細く、蔦のように伸びる氷が先ほどまで芦戸がいた地点へと伸びていた。

伸び方を見れば、足へと這わせそのまま捕まえる算段だったことは容易に想像ができる

 

なにより

 

「…はは…」

 

これまでの視界を覆う巨大な氷塊、障子の回避先を読んだ攻撃によって、意識を“氷塊”と“障子”に向けさせる。そうして捕えるための氷を警戒させない

という僅か数分、ここに来るまでの間に練られたとは思えない連携に芦戸は思わず笑ってしまう。

 

「連携力高すぎでしょ…赤白くんも氷を蔦みたいに個性使えるなんて…」

 

 

 

……

…………

 

「どうする轟」

 

 

これから起こる戦闘とその対策について轟は思考を巡らせながら階段を上がっていた

きっと、芦戸は足元を追われれば飛び上がり、横へ、上へ飛び上がり、立ち位置を変えて躱していく

彼女は個性を使わずとも自分たちに劣らない、身体能力を把握テストで見せている。

そんな芦戸が周囲を巧みに動き回り回避するのに、床という支えがない状況では、必然的に捕えることは困難である、と

 

自分の手元だけを支えにして、空気中にある水分を氷結させて、操作するなんて繊細な技術を轟は持っていない

基本は氷を出すためには、地面や壁が必要になる。発生源は自分だが、氷を支えるための土台が必要だ。そこから氷を広げ巨大な氷塊、氷壁を作り上げる。

 

だが、既に手は打たれている。

ビルの外壁のみならず、内部にまでコーティングされている光。それは床や壁の役割を成しながらも轟への妨害としての役割を持っていた

 

轟が氷塊をある程度使えるのに対し、オベロンはこの光を自在に使える。高速で振動、破裂という手段で即座に氷を破壊するため、氷が広がる事がなく土台にすることはできない。支えを用意することすら出来ないのが轟の現状であった。

 

「(…厄介だ。地面を支えにすると即座に根本を壊してくる…)」

 

この戦いにおいて、轟は支えなく氷結の個性を扱うことが強いられている。普段、地面や壁という支えが当たり前にある状況とは真逆の今、出来ないことを、出来るように、不可能を可能にしなければ勝利はない

 

だから、轟は考えた

 

地面に氷を設置できない?ならば、地面を使わず、宙に浮いたままでもコントロールできるようになってしまえばいい

 

“支えは何を?”

 

(自分の身体、1番は腕か)

 

“そのリスクは?”

 

(普通とは比になんねえ程の体温低下)

 

体温が低下すればパフォーマンスは落ちる、恐らくは障子の足を引っ張るだろう。だがそれは轟自身が得意としていた氷柱、氷塊、氷壁といった大振りな個性の使い方を封じられた時点で同じこと。パフォーマンスはすでに落ちている

 

(あとは…支えが脆い事だ。支えられる重量が限られている)

 

氷を支えるのは自分自身、コンクリートの壁や地面では無い人の身で支えられる重量などたかが知れている

 

だが、やらねば勝てない

 

求められているのはこの土俵に適応した戦い方

ならば

 

「やるにきまってんだろ」

 

無論、実行に移すのみ。まずは、いつものような巨大な氷を、自身の右腕のみを支えにして出す。

 

(右腕の表面、そこを地面に見立てて氷結させるイメージだ。意識をそこだけに集中させーーー)

 

「ーーーっ!?」

 

腕全体が冷気に包まれ、急速に氷壁が出来上がる。

それは普段と変わらないイメージ通りのものだ。ただ、その結果を引き出すための自身へのダメージに、冷気によるものではない震えが、僅かにあった。

その氷壁のデカさに応じて、轟の腕だけではなく、身体までも冷気が包み込む。また突然支えられる重量を遥かに超えたためか、地面に膝をついた

 

(く、そ…!!)

「轟!?ーーふんっ!!!」

 

轟の異変に気づいた障子によって氷壁は即座に叩き壊された。轟はそれに短く感謝を伝え、足元に散らばった氷を見つめる、何が足りない、何が間違っている、と答えを探るように

 

(なら)

 

と、少し深呼吸を挟んで、轟は立ち上がって冷気を手元の一点に集約させた。

 

(イメージは巨大な氷塊じゃない、芽のように伸びていく“氷の種”)

 

必要な集中力と、個性のコントロールは先ほどの倍以上に必要になる。

 

(だが、やる価値はある)

 

 

そして極小の氷を作り出す。あとは、細く伸ばすように周囲の空気を冷却していく。芽吹くように氷はスクスクと上へと伸びる。

 

(それだけで、捕らえられるかはわからない)

 

ゆえに、轟はさらに樹のように1から2、2から4と先を拡散させた。

 

(…手元があり得ねえほど冷たい、少しでも集中できなかったらすぐ壊れちまう)

 

ただ、それを轟は成し遂げる。手元にあった、たった一欠片の氷は今や薔薇の蔓のように細く長く、そして速く、ありとあらゆる方向へと拡散していく。天井まで延びた氷は光には触れず、だがまるで蔦が這うように延びていく

 

限界と悟り、轟が目を瞑るとボロボロと氷は崩れて地面へ散らばった

 

轟は今、巨大な氷を出すような大雑把なものではない、繊細で緻密な技術を荒削りだが、手にした

 

その技術は本来長い時間をかけて得るもの。

 

轟の父親であるプロヒーロー、エンデヴァーの得意とする必殺技“核灼熱拳”の技術、その一端を彼はセンスだけで瞬きの間に掴んでみせた

 

ーーーー

ーーー

 

「…ああ、こんぐらい余裕だ。次は避けらねえぞ」

 

それは嘘、まだ自由自在に操れないがこの虚勢だけでも相当な脅威となるだろう。轟は真面目な顔で氷を再び生成し始める

それを見た芦戸は冷や汗を流すも負けないという自信からか笑って体勢を整えて戦闘を再開した

 

「へぇ…ま!次はアタシの番だよ、行くぞー!!」

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

「こんなに長く、攻防が続くなんて…」

「それに芦戸は1人だ…オベロンは何してんだ!?」

 

モニタールームの盛り上がりはピークに達してから変動していない、常に試合の変化を見逃さず生徒同士、オールマイトも含めて話し合いが行われていた。

四方八方に動く芦戸に、それを蔓のように、複数方向から氷が追いかける。手元から繰り出される自在な氷に芦戸の表情も回避をとるごとに険しいものへと変わる

 

 

「三奈ちゃん凄い…!2人の攻撃をずっと避けてる!!」

 

「…それだけじゃないぞ、皆。芦戸くんの立ち位置を見てほしい」

 

オールマイトの発言にモニターを注目してみれば、芦戸の位置は部屋の中央だった。

これまで回避をメインで立ち回っていた芦戸の位置が一切後退していないこと、そして轟と障子の位置が一切前進できていない事に一同は驚愕する。

 

「それは一体なぜかな?

はい、元気よく手をあげている飯田少年!!」

「彼女は避けているのではなく、攻めているからだと俺は思います!」

「よく見てるね!さすがだ!」

 

攻めてる?と一同の頭に疑問符が浮かぶがオールマイトは親指を立てて合っていると肯定をする

 

「回避ばかりしては追い詰められるのは当たり前、でもそうならないのは攻められるタイミングで攻めていることに他ならない。よく見てみるといい」

 

モニターの向こうでは、轟が一直線に氷を出し、それを芦戸が回避。そして、轟へと走る。反応が遅れた轟とテープを取り出した芦戸の間に障子が割って入る、そして離れ再び部屋の中央を陣取る

 

「分かっただろう?集中的な轟少年狙いだ」

 

繊細に氷を制御できているのは集中できているからこそ。

集中を崩せない轟の邪魔を障子はしない、下手な動きはできない

 

対する芦戸は、1vs2ではあるものの警戒すべき対象は

目の前の障子ではなく、その後ろの轟が出す氷

 

一度氷を避けてしまえば、次に攻撃がくるまでは早くないことをこの攻防の合間に学んでいた。

 

故に、その制御に集中力の大部分を使う轟へと攻撃する

彼にある選択肢は避けるか、障子に守られるかの2択しか存在しない。

 

どれだけ障子が前に出ようと、轟を狙うことで障子に守りをさせ、轟を後ろに下がらせることで自分は立ち回りやすく、相手に前へ進ませない状況を作り出していた

 

 

「…もし、考えてやってるんだとしたら彼女、相当頭切れるぜ!!」

「凄えな芦戸!」

 

「(でも、違和感が一つある。なぜ彼女はあそこまで動き回る…?2人を追い詰めるだけならそこまで…)」

 

 

「にしても、オベロンは何をしてんだろうな…?」

「確かに…」

「光の維持で手一杯なんじゃねえか?」

「確かに、もしもあの膜が消えたら一瞬で轟の独壇場だもんな…」

 

 

 

 

芦戸と轟達が戦う中

別のモニターの向こうでは蝶がパタパタと舞っていた

その中でも特に綺麗な青い蝶が一頭。

その部屋に残る無数の蝶を置いて、ふわふわと部屋からいなくなるように何処かへと飛んでいった

 

 

 

「……待て、オベロンどこだ。核の部屋に居ねえぞ!!?」

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

「おりゃー!!!」

 

再び冷気が拡散する、だが今度はそれに臆することなく芦戸は2人へと襲いかかる。

芦戸はその合間合間に確保テープを取り出して轟へと攻撃対象を絞り、勢いよく突撃して確保を試みる。

 

そのため

「捕らえたぞ!!」

とそれを阻む、障子に捕まりそうになる事もあるものの

「まだまだー!」

 

と捕まえられそうになれば酸を出す。その酸はオベロンが出している光すら貫通しうる濃度であり、それを見た2人は警戒を強め、即座に離れる。

そうして触れられない彼女によって幾度も同じ状況が作られていた

 

「どうしたの、そんなもん!!?」

 

(コントロールが…まだ出来ねえか!)

 

なぜ、そうなったか。それを轟は理解している

 

新たに得た技術。より精密に、その意識を持って個性を扱うことで、氷塊だけでなく、多様な手段で相手へ攻撃できるようになるモノ。

だが、それは未だ発展途上にも程がある。手にしたばかりの技術は集中力を酷く削り、自分への集中的な攻撃を許す、不利な状況を生み出している大元でもあった。

 

 

(ーーなら!)

「わお!危ないね!!」

 

それを捨てる、いつか使えれば良い

 

即座に視界を塞ぐような氷壁が展開される。

笑みを浮かべた芦戸は、その場を力強く蹴り、遠く階段の手前まで回避をした。視界を上げた時には2人の姿は隠される。

 

「障子、いけるか」

「もちろんだ」

 

未だ彼らは階段の前から大きく動けていない。

時間もかなり立ってしまった。だからこそ決めるのはここ。

今しかない、とお互いに目線を合わせ、敵を見据えた

 

パラパラと散っていく氷の奥で、彼女はニッと笑った。「かかってこい」と言っているように笑みは挑発的。そして、姿勢は低く、確実に轟達の意図を察している。

 

ならば応えるしかない

 

障子の前に轟が立ち、これまでとは比じゃないほどの冷気が部屋に充満する。肌寒い、どころではなく本格的に身体は冷え芦戸も少し表情が固くなる

 

「…スゥ…」

 

一呼吸、そして

 

「っ!!!!」

「…やば!!?」

 

轟による最大出力の氷結は部屋に銀世界を作り出した。光の膜のさらに上に重ねるように氷が張られているため、無論その氷はこれまでと同様に破壊される。

 

だが、それは理解している

 

「この一瞬があれば良い…!」

 

その凍結によって生じた僅かな判断の鈍り、動きを止めてしまった芦戸を見逃す障子と轟ではなく、彼女が氷に気を取られた瞬間に障子は拘束具を持ち前へと駆け出した。

例え、反応が遅れようが本来であれば避けれるそれを彼女は避けることはできない

 

「(左右が封じられてる…!?)」

 

それはこれまで轟が出してきた氷塊、それが積み重なったもの。それが芦戸の左右の退路を塞ぐ

 

「オベロンの光は悪魔でも俺が現在進行形で出している氷を破壊するものだった…動きのある氷のみだ。

これまで出して破壊された後の氷は残り続けてる」

 

轟は何度も確認していた。まず初めの応酬。

ビルを全て凍結させたが氷が破壊された後、あの光がすでに砕けた氷を破壊することはなかった。

 

次に、自身を支えに氷を出そうとした時

一度氷結させる量を間違えた時、障子が轟を助けた後

砕かれた氷は地面に散らばったがそれが光に壊されることはなかった

 

「(オベロンの光が反応しているのは、俺から伸びている動きがある氷、俺の手元を離れた後…砕かれた後地面に散らばろうが反応することはない)」

 

それが轟が見出したオベロンが出した光の法則。

あとはそれを十分に利用するのみ。氷塊を積み重ねて退路を塞ぐ、そのために冷気で霜を作り相手の視界を悪くさせる。その時自分は責められることで意識を向けさせない

 

その攻防をいくつも繰り返し積み重なった今

 

「これで、お前を捕らえ、上にいるオベロンを捕らえて終わりだ!!!」

 

後ろの階段へと飛び退く芦戸、それを障子は追い詰める

轟も続くように個性を使い、氷を再び使い始める

 

ああ、これで終わり

 

 

「アハッ!!」

 

 

笑顔を浮かべる彼女の勝利だ

 

 

「やっちゃえ、オベロン!!!!」

 

「…なに?」

 

パタパタ、パタパタと

芦戸の手元からきらきらと光る、眩い蝶が一頭

こんなビルに居るには似合わず、それが自然的なものではなく人為的ーーー及び個性で生み出されたものだと察するのは難しくないだろう

だがそのあまりの突然さに轟と障子の2人は判断を遅らせた

 

“なんだ?”

“どこから”

“これは”

 

 

それが敗北を生む。

そう、勘違いをしてはいけない。

彼女は別に、1人で戦ってなどいない。ただ、前で戦っていただけに過ぎない。

 

彼らは、最後まで油断をせず

「これは2対2の勝負である」

そのことを頭からなくしてはいけなかった、意識を常にしておくべきだったのだ。

 

「…あははっ!」

 

飛び退いた彼女は両耳を抑えて笑う 

それがまた彼らの判断を遅らせた。

 

(何で、こいつは耳を抑えてんだ)

(何をーーー)

 

ひらひら、ひらひら

 

轟も障子もただゆっくりと舞う蝶へ意識が吸い込まれる。まるで世界が止まったように、呼吸も忘れる。緊張の中で生まれた困惑のひと時があまりにも長く感じる。

 

だが、その蝶に見惚れているようではもう遅い。

最初から部屋は満たされていた、当たり前だと思ってはいけなかった。オベロンが用意したものは最後の蝶だけではなかっただろう

 

「このビル全てを包んでいる光全てが僕の力だよ」

 

幻聴か、陽気な妖精の声が頭の中で反響した

 

ひらひら、ひらひらと

 

青い蝶がゆっくりと床へと落ちる

羽はちぎれ、力無く、チリチリと音を立てながら

ああ、これはさながら

花火のようなーーーー

 

(まずっーー!?)

「轟目を閉じっーーー!!!?」

 

「それでは、ご覧あれ!」

 

そこでようやく彼らは辿り着く、これは誰の手によるものか。

轟は後ろへと下がり、障子が轟を隠すように腕を広げるが、間に合わない。

パチンと一つ、指を鳴らしたその瞬間、聞こえてきた声も目の前の彼女の輪郭を忘れさせるほどに 爆音を 立てて 発光 した

 

「なっ!!」

「くっ…!」

 

 

 

 

 

あまりにも強い光を観測したモニターの幾つかは点滅を繰り返し、そのまま黒い画面しか映さなくなった。

甲高い音を響き渡らせているせいか建物すらも揺らしているようでカタカタとモニタールーム内の物が震える

 

「なんだ!!この音!!!!」

「目がぁ!目がぁぁああ!!!」

「閃光弾…!?いや閃光蝶…!!?」

「どうでもいいよ!!そんなこと…!やばっ!」

「…モニターを破壊するほどの光なんて…!!?」

「音凄すぎて揺れてる!!!」

「ふざけた事しやがる…!!」

 

それを見ていた物全てが耳を抑える。目を抑える。

身動きが取れなくなる、一切の行動が許されなくなる

そして、それが羽を失った一頭の蝶によって起こされた事だとした

 

 

 

 

 

 

近くにいた彼らは、当然被害はモニタールームより大きい

 

「(目開けてるはずだ…聞こえもしねえ…くそ…!)」

 

視界は白一色、開けているはずなのに情報はなく、甲高い金属音がずっと脳裏に響く。あまりの膨大な量の光と音に身体は平常ではいられなかった。

轟は事実上身動きが取れない状態に陥った

障子も同じような状態へと陥るが、なんとか頭を回転させ『複製腕』で目と耳を生やす。周囲を見渡すと既に2人の相手をしていた芦戸は見つからず、この部屋には2人しかいなかった。しかし異変はそれだけではない。

 

「轟、轟聞こえるか…!」

「…手の甲にでも書いてくれ、慌ててんのは分かった…」

 

未だ衝撃から意識を回復できずにいる轟に指で文字を書くことによって伝える

 

「俺たちは閉じ込められている」、と

 

周囲の光景は、さっきと異常なほど変わっている。

この部屋を全て満たすほどに、自分たちを取り囲んでいる

パタパタ、パタパタと自由に周囲を舞う、100はいるであろう蝶達に

 

その蝶達が自分たちを取り囲み見張るように壁に、床に、宙にいる。これは、まるで虫籠の中。好き勝手にカゴに入れられた虫達が自分達を見ている。

何として?ーーーーー無論、エサとして。

 

 

光る蝶が羽ばたく姿は幻想的で綺麗なもの。

だが、今見せられている幻想はあまりにも異様で、不気味な光景。ただ2人、世界から切り離され見張られているような恐怖に、戦意など容易くへし折られた。

 

(この全てが先程の蝶と同じ…その可能性も…)

 

あまりの危険な状態に障子も目を瞑る。

これは封じられた、と

 

轟は氷を当てるも周囲の壁に張られた光と同じように蝶に弾かれる。無駄だと悟ったのか、冷気は収まり、その場に座り込んだ

 

「すまない、轟」

「…これは…いや、相手に上手くやられた」

 

 

「動かないほうがいいよ、蝶同士がぶつかると、また眩しくなってしまうし」

 

姿は見えない。だが、声はした。誰のものかは分かりきっている。一つ、思うことがあるとするなら

 

「…オベロン」

 

「やあ、久しぶり。この戦いにおいては初めましてかな?」

「にしても…すっごい光景…自分があそこにいると思うと、うわぁぁあ…」

 

オベロンと芦戸が自分たちの頭上にいる事だろう。

自分達が本来いる場所と、位置がずれている違和感がーー

 

「そういうことか…」

「……そのための酸か、嵌められたな…」

 

彼らは理解する、彼女は自身の酸で光を溶かし、床を溶かし、2人を5階から1階へと落下させた。

だからこそ見下ろしているのだ

 

「さて、オールマイト。彼らはもう何もできない、虫籠の中の餌だ。エサに選択権はないしーーーなら、僕らの勝ちでいいかい?」

 

「あ、ああ…!!勝者Eペア!!」 

 

熱狂止まないモニタールームでは今までとは比べ物にならない歓声が響き渡る。

 

「オベロン!!」

「ああ」

 

そして、パチンと一回、気持ちの良いハイタッチの音が響いた

 

「私達の勝ち!」

「僕らの勝ちだ」

 

 

 





フリーレンとブルアカ面白いですね、ですよね、そうなんですよ
フリーレンはヒンメルとフリーレンの関係が良すぎて120回ぐらい死にましたね。いやあ命のストックがあって良かった。




あとFGOマテリアル読んでました。オベロンのやつ
あ〜ってなるんですよね。本編で語られなかった事、語られてはいたがそこまで深く掘り下げられなかったものがどんどん出てきて、「だからか」「なるほど」といった感じになっていました

そんなマテリアルについての考察で1番好きなものはオベロンが話す“君”“キミ”についてです。Xで見かけたのですがそれを見た後にストーリーを振り返ると盛りあがれます、やっほい

まあ
1番は「お前さぁ…」って感じでしたけどね!!

みんな買おうね!!FGOマテリアル面白いよ!



急いで書いたので誤字脱字あったら許して!


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